生えてた時雨の性事情 (白魔術師)
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遠征からの帰還
生えてますか?
いいえ、生えてないです
「あーつーいー!!」
そう叫んだのは、この遠征艦隊の旗艦、白露。振り返れば、その額には大量の汗が滲んでいる。
白露、村雨、五月雨、そして僕、時雨。この艦隊はとある遠征からの帰還中だった。遠征の内容は簡単で、会敵も一切なし。平和に終わって、資源も調達して、現在鎮守府近海。潜んでいるかもしれない潜水艦は怖いけれど、それでも、ここまで何もないと、やはり気は緩みだす。
「はいはい。白露ちゃん、まだ遠征中です。ちゃんと警戒して」
そんな彼女をなだめるのは、彼女の隣で並走する村雨。村雨自身も汗だくなのに、他者を窘める余裕のある彼女はこの4人の中で一番大人だ。
「わかってるよ。でも……うう……暑い、汗気持ち悪い、服ぬぎたいい……。あ、海上なんだから別に脱いでも」
「だめですよ?」
「痛い痛い! アイアンクローはやめて!」
白露はもうちょっと大人になったほうがいいんじゃないかな。
「私以外、服の色が黒ですもんね……この日差しだと余計に暑そうです」
「ああ、五月雨だけ服の色、白だよね……」
さらに言えば袖がない。白い綺麗な脇が丸見えだ。思わず目をそらしてしまう。
「? どうかしました、時雨?」
「いや、なんでもないよ」
「時雨ちゃん、鎮守府ってまだかしら。白露ちゃんが本当に脱ぎそう」
「村雨だって本当は脱ぎたいくせに……嘘ですごめんなさい!」
「村雨、白露の顔がつぶれちゃいますよ……」
「もうすぐだと思うよ、村雨……あ、ほら。見えてきた」
水平線に見えてきたのは鎮守府。僕たち艦娘の本拠地だ。
◇
「お帰り。皆おつかれさま」
鎮守府港に到着した僕達遠征部隊を出迎えたのは、白い軍服に身を包んだ提督だった。いつもなら執務室に成果を報告に行ってようやく顔を合わせるのに,こんなところで待っているなんて珍しい.
「提督がこんなとこにいるなんて珍しいね……さぼり?」
陸に上がりながら、白露がきょとんとした顔で提督に尋ねる。村雨が「直球すぎるでしょ」と呆れたように突っ込んだ。
「さぼりじゃないさ。ただの気分転換。執務室にこもりっぱなしだと疲れるんだ。それに、たまには君たちを出迎えてもいいだろ? 遠征結果はどうだった?」
「大成功だよ! あと、白露がいっちばーん活躍したよ!」
「ははっ。そうかそうか」
誇らしげな白露の頭を提督が、えらいえらいとなでる。なでられている彼女の顔はまさに、若き提督に恋する乙女――ではない。父親、もしくは兄にほめられて嬉しいといった顔だ。最も、提督は白露の家族ではないのだけれど。ふと横をみれば、村雨が白露の事を羨ましそうに見ている.
「……村雨もなでられたいの?」
「ち、違うわよ」
そうはいっても視線は提督に向いている。いつも大人ぶっている彼女は、白露程素直にはなれないらしい。
「私はなでられたいかなー……」
一方、五月雨は遠慮がちにも、本音を口にする。提督はそれを聞き逃さず、間髪入れずに五月雨の頭もわしゃわしゃとなではじめる。
なでられながら気持ちよさそうに目を細めている二人はさながら猫――いや、犬だろうか。どっちだろう。今度夕立と多摩さんをそれぞれ撫でて比較してみよう。
結局提督は執務室に戻ることなく、僕たちが遠征で持ち帰った資源のチェックや、艤装の解除まで付き添っていた。
……やはり、さぼりなのでは?
ようやく身軽になると、提督は「白露、時雨、村雨、五月雨。君たちの今日の仕事は終わりだ.あとは自由にしていていいぞ」と告げた。
「ほんと!? よーしみんな、間宮に行こう!」
唐突な白露の提案に、村雨は「さーんせーい」といい、五月雨も「いいですね」と即答する。しかし、僕時雨はというと。
「あれ、時雨はいかないの」
「ちょっとお手洗いにね……先行っててよ」
「わかった。……時雨も海の上ですませちゃえばいいのに」
「よーし間宮行く前にちょっと話そうか?」
「白露ちゃん……!」
白露への提督と、赤面した村雨による説教を背に、僕は一人、とある場所へと向かう。
ドッグの中のトイレの前を通り過ぎて、建物も通り抜けてその裏側へ。ここは鎮守府の敷地でも,ほとんど誰も来ないところだ.
熱された壁に寄りかかる。夏の日差しが熱い。僕は何も言わなかったけれど、本音で言えば汗が気持ち悪くて脱ぎたかった。
脱ぐ、脱がないで思い出したけれど、そういえば以前、白露と村雨が水着を買いに行こうって言ってたな。きっと露出の高いビキニをたくさん試着しては、あーだこーだと長い買い物をするんだろう……僕も色々と試着させられるのは間違いない。
嫌だといえばうそになるけれど、でもやっぱり、間違いなく。
「絶対疲れる……」
ずりずりと地面にへたりこむ。今日も今日とて、白露の遠慮のない爆弾発言や、そして扇情的な五月雨の白い脇。別にそれくらいで理性は飛ばないけど、それでも抑える理性は必要だ。
僕は白露型駆逐艦、時雨.一般的な駆逐艦の艦娘。ただ、ほかの艦娘よりも被弾率が低かったり、ちょっと運が良い。「時雨」という艦の強運を引き継いだんだろうと、誰かが言っていた。
けれど、もう一つ僕には他の娘と違う点がある。
「男に戻りたい……」
それは僕が、元々は男だったということだ。
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時雨になった日
つまりタマをとった理由
僕が艦娘の適正があると言われたのは、12歳の時だった。
ある日孤児院に軍の人がやってきて、女子だけを集めて艦娘適性検査を行った。
思春期真っ盛りだった僕は友達と一緒にその様子を覗いてやろうとしたけど、悪ガキの行動はお見通しだったらしくすぐにつかまってしまった。さらに罰として――きっとあの女性軍人がふざけていたんだろうけど――僕たちは受かるはずもない艦娘検査を受けさせられる羽目になった。
その時にどんな検査をされたのかは思い出したくない。ただ、その後僕達は女子に対してとても優しくなったことは述べておく。
検査が終わり、放心した僕達に対して、女性軍人は笑いながら一人一人に「艦娘適正なし!」と告げていった。そしてついに僕の番になったとき、同じように「艦娘適正……」と言いかけて、悪い笑顔をしていた彼女の表情は一変した。真剣な顔で僕の検査結果と僕の顔を見比べ、極悪非道な検査をした白衣の人達と何かを話した後、何も言われずに僕達は解放された。
彼女の明らかな不審な行動は皆分かったらしく「お前艦娘適性あったんじゃね?」「元々顔が女っぽいしな」「時々可愛いとすら思うしな」等と口々に言われた。そのたびに「まさか」と答え、後者の内容を言った数名を殴り飛ばしながら過ごして、数日後に僕は再び呼び出された。
「単刀直入に言おう。君には艦娘適性がある」
応接室の椅子に僕が座ってすぐに、目の前に座っている女性軍人はそう言った。呆然としていると、彼女は話を続けた。
「初めて見たよ、適性がある少年は。女性ですら、適性があるのは10万人に1人。だが、男性に関しては1000万人に1人いるかどうかだ。そんな確率であるし、後で述べる問題もあるから、男性に対しての検査は行われてないんだがな」
どうやら僕は、そんな奇跡を見事に引き当てたらしい。しかし。
「……僕にどうしろっていうんですか?」
「軍としては艦娘になってほしい。艦娘になれる人材はただでさえ貴重だ。事実、この孤児院で艦娘適性があったのは君だけだ。だが、君の場合その、少々問題があって、その……」
何かを言いにくそうにしている彼女にイラつき、「はっきりいってください」と言うと、彼女は少し赤面しながら、諦めたようにこう言った。
「艦娘適性は男性にもでることはある。だが、艦娘……娘になれるのは女性だけだ。つまりその……もう、分かるだろ?」
――ああ、なるほど。
「つまりキンタマを取れってことですか?」
「とっ……!? 君は直球だな……そういうことだ。最も、玉をとるだけじゃない。君の体全体に外科的に、そして遺伝子レベルでも女性化の処置を施すから、完全に女性になる。勿論、任期が終われば男性の体に戻ることも可能だ。……多分」
「……戦争がおわったら、じゃないんですね」
「……言うな」
少しの間、僕達の間を気まずい沈黙が支配した。この空気の中、多分という言葉の意味を質問してもいいだろうか。
「……君は、艦娘になる気はあるか?」
先に沈黙を破ったのは彼女の方だった。その言葉に僕はしばしの間考える。
僕達が孤児になったのは深海棲艦のせいだ。だからその原因に復讐――とはいかないまでも、やり返してやりたいという気持ちはある。けれどその前に――。
「艦娘って給料とか出るんですか?」
この孤児院の経営は苦しい。僕たちの食事は何とか出せているけれど、本当はそれすら厳しいらしい。先日も怪しげな男たちが経営者と何か話していた。この孤児院潰れれば僕達に行き場所はない。最悪の場合、借金の片に使われるだろう。悲惨な結末は想像に難くない。
僕には、性別よりも、深海棲艦云々よりも、明日を生きられるかどうかのほうが重要だった。
「破格なほどに出るぞ。貴重な人材でありかつ、最前線で戦う者達だ。退役したあと働く必要がないくらいに出る。……だが、大事なのは給料じゃない。君に戦う意思と、命を捧げる確固たる理由があるかどうかだ」
「孤児院の皆のためにお金を稼ぐのは……戦う理由になりますか?」
「十分だとも」
女性軍人のその答えに対し、僕の返事は一つしかなかった。十二年間男として過ごしてきたことに未練がないわけじゃない。既に男としての性への欲求だって存在している。
だけど僕の、そして皆の場所を守れることに比べれば些細な事だった。
「なります」
そうして僕は艦娘「時雨」となった。
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時雨の難儀な日常 朝①
駆逐艦娘、時雨の朝は早い。
「いっちばんに早起きするのは三文の徳だよ!」と主張する少女に叩き起こされるからだ。
「おっきろー時雨!」
朗らかな声とともに、くるまっていた夏布団をはぎ取られる。
「今日の任務は午後からなんだから、もうちょっと寝かせてくれてもいいじゃないか……」
叩き起こされた僕は、犯人――白露を恨めし気に見て文句を言う。
枕元の時計を見ると、時刻は午前6時。起きるのに健康的な時間とはいえ、夜型の生活をしている僕には早すぎる時間だ。
「時雨も早く寝ればいいじゃん。そしたら、白露の次に起きても眠くないよ」
「白露は寝るのが早すぎるんだよ」
白露は大体10時前に――早い時は9時には寝ている。時には机で寝落ちているところを僕がベッドに運ぶこともある。彼女は活発な子だから、夜になるとエネルギー切れになるのだろう。
それに、僕が遅く寝ているのは、やむを得ない個人的な事情がある。
「時雨、起きてよー」
「起きてるけど」
「体を起こさない限りは、起きてるって言えないよ!」
白露の言う通り、僕はまだ布団に横たわったままだ。なぜなら眠いから。できれば二度寝したいから。最も、白露がそれを許してくれたことは1度もない。これは彼女へのささやかな抵抗だ。
僕を不満げにのぞき込む白露は、まだ寝巻のままだ。せめて洗顔して、髪を整えてから起こしてくれればいいのに。そうすれば僕の睡眠時間が多少伸びる。
というか、僕を起こす必要性はあるのだろうか。甚だ疑問だ。
毎朝女子に起こされる生活というと、きっと同年代の男子は羨ましがるだろう。しかも白露は美少女だ。孤児院の友人に言ったら、間違いなく代わってくれと言われるだろう。ぜひとも変わってほしい。そして幻滅してほしい。
「いい加減、起きろー!」
「うわ。揺さぶらないでよ」
ついに白露が実力行使に出た。僕の脇腹に両手を置いて、体全体を使ってぐわんぐわんと揺らしてくる。ここまでの流れは、多少差はあるけれど毎朝恒例だ。
何が何でも僕を起こそうとしてくる白露も、それに対抗する僕も、そして白露の寝間着の、胸のあたりがダイナミックに揺れることも。
……あれ?
白露の寝間着——ちなみに僕とおそろいの水色だ――その胸のあたりが、服の上からでもわかるほどに揺れている。
そしてよくみると、白露の胸部――その膨らみの先っぽに、もう一段、指先程のふくらみがあることに気づく。気づいてしまう。
「……白露。もしかして、またブラつけずに寝たの?」
唐突な質問に、白露は思わず揺らすのを止める。そして目をぱちくりさせながら答えた。
「だって蒸れるんだもん。それに最近、締め付けられて苦しいし」
「それでもつけなよ……将来垂れるよ?」
それに締め付けられてって……もしかしてまた大きくなったんじゃないだろうな。村雨に相談しないと。
いや、そんなことは問題じゃない。
問題なのは、元男の僕の、すぐ目の前にノーブラの少女がいることだ。
そしてそんな彼女の、たわわな胸が、薄い布を隔てて、すぐ目の前にあることだ。
「村雨みたいなこと言って……話そらさずに、起きろー!」
白露の揺さぶりが再開。視界が揺れる。そして白露の胸もたゆんたゆんと揺れる。揺れる。揺れ……。
「わかった! 起きるから!」
理性が飛ぶ前に、がばりと身を起こす。
こんな絡め手を使ってくるなんて、全く白露は油断ならない。あまりに無防備すぎる。
「さ、早く着替えて、散歩でもしよ」
人の気もしらないで、起こすことに成功した白露は嬉しそうだ。
……なんだか日ごろから我慢していることが馬鹿らしくなってきた。
「……時雨?」
うん、たまにはいいだろう。僕は十分我慢してきた。これは白露が悪いんだから。
「急に黙ってどうしたの? え、ちょ」
思い知れ、日ごろの恨み。
村雨にならって、アイアンクローをかました。
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時雨の難儀な日常 朝②
目覚ましの音で、ぱちりと目を覚ます。
音を止めて時計を見れば、時刻は7時。良い時間だ。先ほどの眠さもしっかり取れている。白露をK.Oした甲斐があった。
そんな彼女はまだ床に伸びている。
まさかアイアンクローで気絶するとは思わなかった。そしてまだ気絶しているとも思わなかった。村雨には、いくらやられても気絶したことがないのに。
僕に才能があるのか、村雨の加減の仕方がうまいのか。どっちだろう。
とりあえず、彼女が寝ている位置は、僕がベッドから降りるには邪魔なので起こすことにした。
「白露、そろそろ起きて」
ベッドの上から手を伸ばして、揺さぶると彼女はようやく、うめき声をあげながら目を覚ました。
初めはぼうっとしていたけれど、状況を把握したのか、やがて僕の方に不服そうな顔を向けた。
「……時雨、いくらなんでも酷いよ」
「……ごめん」
やりすぎたのは認めざるを得ない。酷いのはお互いさまだと思うけれど。
「うっ。まだ頭痛い。しかも、変な夢みたし……」
「変な夢?」
白露は痛む頭(というか顔)をさすりながら答える。
「えっと……あたしが、あたしの前で正座させられて説教される夢。ちゃんとブラはしろとか、もっと警戒心もてとか……他にも長々と……」
「白露が自分に説教……」
想像するとシュールな光景だ。
それに、白露が他人を正座させて説教するというのも、想像がつかない。
「そうだ……説教してくるあたしの他に村雨もいたや。大きな……何かの残骸かな? それに座って私たちを見下ろしてた。そして笑いながら……『あんまり無防備だと、いつか時雨に食べられちゃうよ』って言ってた。
……え? 時雨、あたしを食べるの!?」
白露が尻を床につけたまま、一気に後退る。
「食べないよ」
本当にどんな夢をみてるんだ。
警戒を解かない白露を引っ張りながら部屋を出て、廊下の洗面所へと向かう。
朝の洗顔と化粧水は美容において大切だ。それをやるかやらないかで、将来の肌が変わるという。かくいう僕も毎日やっている。たとえ将来男に戻るとしても、損はないだろう。
洗面所にはやはり先客がいた。
「おはよう、村雨」
「あら。おはよう、時雨ちゃん、白露ちゃん。珍しいね。いつも、もっと早いんじゃない?」
「ああ……それは」
「……時雨に襲われたから」
なんで白露は爆弾発言ばかりするのだろう。
ほらみろ。村雨がわざとらしく口に手を当てて驚いている。
「そ、そうなんだ……ふふ。ついに大人の階段、登っちゃったのね……」
「上ってない。上ってないから」
「そんなこと言ってー。白露ちゃん、どっちが誘ったの?」
これ幸いと村雨がいじり始める。悪い笑顔だ。が、当の白露はきょとんとしている。
「大人の階段? 何のこと? 時雨にアイアンクローされたんだよ」
一瞬、僕と村雨の間に気まずい沈黙が流れた。
「……村雨。白露、わかってないよ」
「……そうね」
やっぱり、もうちょっと性知識をつけてもらうべきだろうか。
[newpage]
◇
朝の洗顔を終えれば、僕たちは部屋に戻って艦娘の服に着替える。そして、艦娘としての1日が始まる。
それはすなわち、元男の僕にとっての難儀な日常が幕をあけるということだ。
「やっぱ、ブラきつい……」後ろにいる白露がつぶやく。
「今度買いにいかないとね」と背を向けたまま返す。
最初の関門は、着替えだ。
着替えは当然、自分たちの部屋で行う。つまり、白露と一緒に着替える。
元男の僕は当然、目に入らないように着替えるけれど、これが案外難しい。
もちろん、最初は背を向けて着替え始める。けれど、何かを取ってなんて言われることは多々あるし、そもそも白露は女性同士で着替えていると思っているのだから、動き回って僕の視界に平気で入ってくる。もちろん半裸で。時には裸で。
もっとも、視覚上の刺激だけならまだいいのだけれど。
白露のほうに耳を傾けていると、ため息が聞こえた。
「なんで大きくなるんだろ。邪魔なだけなのに」
「白露。それ、人によっては嫌味になるからね」
まあ、気持ちはわからなくはないけれど。そう思いながら、自分の胸にある、2つの膨らみを見下ろす。
艦娘――すなわち女性となった僕の体は当然、女性として成長している。胸は白露ほどではないけれど、それでも膨らんでいる。そして、今はブラの下で見えないけれど、胸の先っぽには乳首がぷっくりと膨れている。
自分の体が女性になっていくことには慣れたけど、激しい運動のたびに胸が揺れることには未だ慣れない。
「ねえ、もしかして時雨も大きくなってない?」
自分の胸を見下ろしていたことに気づかれたのか、白露が訪ねてくる。
「まさか」
まだ、ちょっときついだけだ。
「ほんとかなー」
白露のじとりとした視線を感じる。彼女には背を向けているから、僕の胸は見えないはずだけれど。
「ほんとだよ……って、ちょっ!」
突然後ろから抱き着かれる。もちろん、白露だ。さらには、その手をブラの中に入れられてしまう。
完全に油断した!
僕が危惧していたのはこういう状況だ。男子と違って、女子はスキンシップが圧倒的に多い。なぜかくっつこうとする。そして白露は、特にその傾向が強い。
「ほらーやっぱり、時雨も大きくなってるよね?」
白露が変態親父みたいなことを言っているが、僕の脳内はそれどころじゃない。
白露はまだブラをつけていなかったらしい。僕の背中に、直接白露のおっぱいが当たっている。二つの突起物の感触と、柔らかい脂肪の感触が背中から伝わってくる。
そして僕の胸は、白露のきれいな手に弄られている。きれいな指が僕の胸の膨らみの上をはい回る。妙に触るのが上手い。
「し、白露……やめっ……!」
女性同士なら問題ないのかもしれない。
けれど、女性の体をしていても、僕の精神は男だ。
こんなことをされて、理性が保てるはずがない。
「ふふ。さっきのアイアンクローの恨み、思い知れ!」
白露にはやめるつもりがない。むしろ、楽しみはじめている。性知識がないがゆえに、こういうことに躊躇いがないからたちが悪い。
あ、やばい。理性が——。
「――いい加減にっ……しろ!」
白露の左手を自分の左手で掴む。そのまま体を右にずらし、肘でみぞおちに一発かます。白露のうめき声が聞こえる。だが、それには構わず、すぐさま左手でつかんだままの手を、右手に持ち替える。体を落として、白露の左脇の下から体を抜く。
僕に艦娘になる道を提示した女性軍人。彼女直伝の痴漢撃退法だ。こうすると手首関節が決まって、相手は激痛で動けなくなる。まさか同室の仲間に使うとは思っていなかったけれど。
「痛い痛い! ギブ! ギブ! 時雨、悪かったから!」
効果てきめん。もう涙目になっている。
さて、どうしてくれようか。嗜虐趣味はないけれど、朝からすでに2つの狼藉、易々と許すわけにはいかない。
あ、そうだ。
「ねえ白露。今日、任務終わったら間宮おごってくれるかい?」
「ちょ! それはなくない!? っていだだだだ!」
「返事、は?」
「わかった! わかったからぁ!」
取引成立。今日のおやつはパフェで決まりだ。
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