それいけ、蚊蜻蛉飛行隊! (イブ_ib)
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その1

因みにまだ2話しか見てないんですが、投稿いたします。


飛行船ヤハタ

 

現在ヤハタの飛行甲板では95式艦戦が並べられて整備を行なわれている。

 

その中の1機の操縦席を点検しようと整備士が覗き込み、声を掛けた。

 

「ナエジマさん、点検するんで降りてください」

 

操縦席で眠りこけていた青年を揺り起こす。

 

「・・う〜ん、わかった、わかったから・・・」

 

 

ナエジマと呼ばれた青年は、機体から降りると、よたよたとした足どりで休憩スペースへ向かう。

 

◆◇

こじんまりとした部屋の真ん中に置いてあるテーブルを囲いながら、4人の男達が飲みながら話していた。

 

「お、起きてきたか」

 

 

「すんませんが、飲みモンをお願いします。」

 

 

ナエジマはそういいながら席に着く、それと同時にサイダーが目の前に滑り込む。

 

テーブルの真ん中に置いてある黒パンを頬張りながらサイダーで流し込む。

 

 

それなりにデカイ飛行船であれば調理スペースがあり豪華な食事にもありつけるだろうが、生憎このポンコツ飛行船を飛ばすだけで精一杯の貧乏運送会社にそんなものを入れる余裕は無い。

 

◇◆◇◆

突然だか、ここで我ら『蚊蜻蛉飛行隊』のメンバーを紹介しよう。

 

1番の若手で飛行隊1番のホープ。

 

ナエジマ

 

戦果はイマイチ。しかし回避は上手。

 

ショウキ

 

酒好き、被撃墜数ではエース。

 

コロタ

 

又の名をイジツ1の平凡男

 

ドラフ

 

隊長で1番のエース。通算撃墜数11

 

ガレド

 

『蚊』の様にしつこく敵を攻撃し、『蜻蛉』の様に一直線に進んでいく。

 

それが、蚊蜻蛉飛行隊の名前の由来である。

 

 

まぁ、辺鄙な所で何とかやっている雇われ飛行隊である。

 

◆◇◆◇◆

 

ジリリリ!ジン!ジリリリンリン!

 

今にも死にそうなベルの音が休憩スペースに鳴り、電球が切れかかっているランプが点滅をう不規則に繰り返していた。

 

『空賊の接近を確認!飛行隊出撃準備!

対空戦闘用意!』

 

しわがれた声が古いスピーカーによってこれでもかというほどの大音量で撒き散らされる。

 

「そら!エンジン回せ!」

 

1番にガレドが95式艦戦に乗り込むと、作業員達を急かす。

 

 

「発艦!」

 

ガレド機は、誘導員が出口に向けて指をビシィッ!!と指すのを確認すると、フルスロットルで飛行船から飛び出す。

 

 

それに続く様に、ショウキ、ナエジマ、コロタ、ドレフが発艦する。

 

◇◆◇◆

 

「見えた、敵は95式が3機、97式が1機」

 

この近辺の空賊のオーソドックスな組み合わせだ。

 

(散開)

 

ガレドのハンドサインを見て各自散る。

 

 

3機の95式には、95艦戦をそれぞれ1機受け持つ。97式にはガレドとナエジマが攻撃を行う。

 

 

「やっぱ単翼機は速いな。」

 

100キロ以上最高速度が離れている97式と95艦戦では直線では勝てない。

 

巴戦に持ち込めば勝機はあるのだが。

 

 

「あっ、煙噴いてる。」

 

向こうで戦っている95式のうちの1機が昇降舵をやられたのか、ゆっくりと降下している。

 

そのうち機体から少し離れたところで落下傘が広がる。

 

◆◇◆

 

「よし、そのまま・・・そのまま・・・」

 

ナエジマは照準を97式に合わせ引き金を引くが、命中せず。

 

97式はさらに高度を上げたので、それに張り着くように後を追う。

 

 

「あのバカ、あれじゃ敵の思うツボだぞ。」

 

その様子を見ていたガレドは溜息をつく。

 

ナエジマは再度、照準に97式を捉える。

 

「よし、捉えた!」

 

舌で唇を舐めながら、引き金を引こうとしたその時だった。

 

目の前から97式がフッと消えたのだ。

 

「!?!!!??!」

 

 

すると背後から急に97式が現れ、右翼を撃ち抜く。

 

複葉機だった為、弾は貫通し墜落は免れた。

 

 

 

 

わたわたしている内に97式がぐっと、ヤハタの方に向かっていく。

 

 

ヤハタから雀の涙ほどの対空砲が撃ち出される。

 

それを余裕綽々といった様子で交わし、下に回り込む。

 

そこで2、3回旋回すると、気が済んだ様子で95式と95艦戦の戦いの中に向けて閃光弾を撃つ。

 

 

「あ、敵が離れてく。」

 

残りの95式と97式がヤハタから離れていく。

 

向こうが離れていったら、こちらもわざわざ追いかける理由も無いのでヤハタへ帰還する。

 

 

◆◇◆◇◆

 

「バカやろ」

 

ガレドは呆れ顔でナエジマの頭を小突く。

 

 

「あれはどう見ても木の葉落としの動きだったろ」

 

「すんません、つい落とす事に集中しちゃって・・・」

 

「・・・はぁ、ともかくだ。2機を相手にしているのに木の葉落としを仕掛けてきた理由はわかるか?」

 

「そりゃ、期待性能差があったから・・・」

 

 

「それもあるが、奴が背後に回ったとき奴は確実にお前を仕留める事も出来た、それをしなかったという理由はわかるか?」

 

 

「・・・はぁ、なんでしょう」

 

「おちょくられてんだよ!」

 

ガレドはテーブルを手で叩きながら叫ぶ。

 

「お前は一つの事に集中して周りが見えなくなることがある!そこ気を付けろ!」

 

 

「うぃっす」

 

ナエジマはすっかり小さくなってしまった。

 

◆◇◆◇◆

ヤハタ艦橋

 

「やれやれ、命拾いしましたね。」

 

八の字眉に細長い顔、鋭い目、出っ歯気味の歯。

 

パーツから見れば絶対に敵サイドの見た目の30代男性が、白紙の被害報告書を見ていた。

 

この飛行船は既に前の町で荷を降ろしていた為、荷が空と分かった空賊は、さっさと退散したのだった。

 

因みにこの男は飛行船ヤハタの艦長、タデムであった。

 

 

先代から引き継いだこの飛行船、イジツの辺境にとってポンコツでも大事な大型輸送手段である、落とすわけにはいかない。

 

「しかし、空賊にあそこまで接近されるのも面白くありませんねぇ、96艦戦でいいのがないか探してみましょうかねぇ・・・」

 

 

辺境の地でもイケスカの出来事の影響がこちらにまで及んでおり、空賊風情が流れた隼を保有しているとの情報が流れていた。

 

 

そんな時、艦橋に1人の年寄りが入ってきた。

 

 

「おぉう、今回も何とか撃退できたな」

 

「えぇ、何とか・・ねぇ」

 

この爺さんの名はヨネゾウ

(自称永遠の75歳)

曰くユーハングの生き残りという謎の爺さん。

 

どう見ても90は越してるだろうに、先程の様に出撃の合図をだしたり、電探技師をやっていたらしく、電探員もしている。

 

 

「まぁ仕事も無事終わったんだ、これでも一杯」

 

そういうとヨネゾウは湯呑みに入ったどぶろくを渡す。

 

 

「はぁ・・・、早く街に帰ってウイスキーを買って飲みたいですねぇ・・・」

 

 

そういうと、タデムはどぶろくをちびりと飲んだ。



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その2

「本日の仕事は、次の空の駅で待っている客人を別の街に送る事だ」

 

ガレドは壁に貼り付けた作戦の描いてある紙を指し示した。

 

「使用機体は白菊、操縦はショウキ、後方機銃はドラフ。他3人は白菊を三角形の形で護衛する。」

 

「「「「「了解」」」」」

 

 

◆◇◆◇◆◇

空の駅

 

白菊の最終点検をショウキとドラフが行なっていた。

 

「しかし、今回の客はどんな人なんですかね?」

 

「何でもここいらでも名のある人らしくてな、なんでも自宅にプールがあるそうだ」

 

「はぁ?!そりゃまた何つー・・・、金持ち・・・」

 

 

海のないイジツでは、水源は雨か地下水から確保するしかなく、バケツ一杯の水の方が同じ重さの純金よりも価値があったりする地域すらあるのだ。

その為、水を湛える事の出来るプールを自家用で持っていることは富の象徴であったりする。

 

 

「燃料も向こう持ちだしな」

 

そう言いショウキは白菊をトントンと叩く。

 

「コイツが前に純粋なガソリンを満タンに入れたのっていつでしたっけ?」

 

「さぁな、だけどいつもよりかはマトモに飛ぶだろう」

 

いつもは安物のアルコール燃料、酷い時は松根油を入れて飛んでいるのだ。

 

◆◇◆◇◆◇

 

予定時刻ピッタリに飛行場に高級車が入って来た。

 

「皆さん、彼が今回護衛を依頼された、

テッパチ産業の代表取締役社長の、ショーシャさんです。」

 

「皆さん宜しく」

 

タデムの説明と共に、

髪はオールバック、黒いスーツにエナメルの靴。全体的に黒い感じの、だがそんなに悪い感じのしない男が現れた。

 

 

「ほぉー、立派なもんだのぉ」

 

ヨネゾウも思わず感嘆の声を漏らす。

 

 

 

「では、ショーシャさん、お乗りください」

 

「うん、失礼するよ」

 

ショーシャはタラップで白菊に乗り込む。

 

この白菊は改造されており、客席はキャノピーから胴体付近まで防弾仕様にしており、席もパイロット様のものとは比べ物にならないほどフカフカだ。

オマケに防音仕様でもある。

 

過去に別の飛行隊が用心護衛任務を行なっていた時、空賊の襲撃を受け不時着しパイロットと後方銃者は無事だったが、用心だけ胸を撃ち抜かれた即死だった事があった。

 

そんな事があった場合シャレにならない為、防弾には力を入れているのだ。

 

◆◇◆◇◆◇

 

200㎞と鈍足ながら渓谷を抜け、広い荒野を飛ぶ。

 

〈ここら辺はマンドリン空団の空域に近い、注意しろ〉

 

〈了解〉

 

 

「空賊か、人の物を奪う事でしか生きる事の出来ない哀れな集団・・・」

 

通信を聞き、ショーシャが呟く。

 

「・・まぁ、空賊として飛んでいるのを誇りとしている奴らもいるんですがねぇ」

 

「飛ぶなら好きに飛べばいい、しかし人に迷惑をかける『賊』とついている時点で罪人だ。とやかく言える立場では無い。」

 

まぁたしかにそうだが。

ショウキは頭を掻く様に飛行機に手を擦り付ける。

 

「・・・そうだ、ショーシャさんはなんで俺達の飛行隊に依頼したんですか?」

 

いくらここが辺境の地といっても、蚊蜻蛉飛行隊よりも良い機体を持っているところはごまんとある。

 

「なぁに、金持ちの気まぐれだよ。あまり気にしないでくれたまえ」

 

そう言ってはぐらかされてしまった。

 

 

◇◆◇◆◇

今回は幸い空賊の襲撃を受ける事は無かった。

 

 

「これが今回の特別報酬ですこれからも宜しく頼みますますよぉ」

 

タデムが完全に悪者の笑みを浮かべながら、各隊員にそれなりの厚みのある給料袋を渡す。

 

ナエジマは中を覗き、タデムと同じ笑みを浮かべる。

 

 

その後彼らは夜の街へ出向き、翌朝には給料を使い切ってしまい後悔することとなるのであるのだが・・・。



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その3

 

 

「95式なんてのもオススメですよ、ミスタータデム」

 

「最近じゃ空賊でも隼2型を使ってるというのに、すこし古いんじゃないですかねぇ」

 

「しかし、離着陸の距離も短く、最終型であれば隼を追っかけるのも楽だと思うのですが」

 

「イケスカの出来事で此方にも性能の良い機体が流れているのではないんですかねぇ・・・?」

 

 

商人が悩みながら商品の載っているページをめくる。

 

「これなんか如何ですか?」

 

 

「ほぅ、96艦戦ですか」

 

 

◆◇◆◇◆

 

「おらぁ、お前ら!もっと腰入れて働け!」

 

現在、蚊蜻蛉飛行隊はヤハタの積込作業を手伝っていた。

 

小麦粉の袋を肩に担いでナエジマは小言を漏らす。

 

「なんだってパイロットの俺がこんな日雇い労働者紛いのことを・・・」

 

 

「ごちゃごちゃ吐かすな!昼になったら飯が出るんだ!文句言わずに働け!」

 

積み込みのリーダーの怒鳴り声に疲れ切った体に鞭を打って働く。

 

ウウ〜・・・・

 

ウウ〜・・・・

 

 

 

遠くからサイレンの音が鳴る。

昼だ。

 

「飯だ飯だ」

 

「ほら一列に並べ」

 

沢山の労働者が弁当の配給に並ぶ。

 

 

紙で出来た弁当箱を太腿に乗せ、そこらの丁度いい岩に座る。

 

「さて、弁当の中を拝見と行きますかね。」

 

ナエジマは手を擦りながら蓋をあける。

 

 

「おっ!寿司だ!」

 

ナエジマが喜んで食べ始めた寿司のネタは、河童巻き、干瓢巻き、納豆巻きそして、稲荷というものであった。

 

海の無いイジツにとって、寿司といえばこのネタという一般的な認識になっている。

(勿論金持ちは魚のネタも食べる時がある)

 

◆◇◆◇◆

 

『ヤハタ浮上致します、乗務員は着座、及び手摺にお掴まりください』

 

ヨネゾウのしわがれた声と共に飛行船が浮上する。

 

渓谷を通り抜け隣町まで向かうヤハタから空を見ながら、ナエジマとコロタが話していた。

 

「ここからデンコウ閃団の空域にギリギリ入るんでしたっけ?」

 

「そうだな」

 

デンコウ閃団、イジツの辺境では1番勢力の強い空賊だ。なんでもイケスカの動乱後流れて来た戦闘機を買い集めて戦力を増強しているそうだ。

 

「最近でも他所の飛行船が落とされた様ですしね、怖いですよ」

 

「んん、まぁあれはマンドリン空団の仕業らしいがな、なんでもあいつらはただ落とすだけで荷物を奪取しようとしないからな」

 

「空賊の考えていることはわからん」

 

「ほんと」

 

◆◇◆◇◆◇

 

目的地

シューテル

 

「んんんー何事もなくでよかった」

 

「何を笑ってるんだ、お前も荷下ろしを手伝うんだよ。」

 

ナエジマは再度荷下ろしを手伝う事となった。

 

◆◇夜

 

荷下ろしが終わり、下蜻蛉飛行隊には飛行船から降りて遊ぶ事が許可された。

 

「おい、ナエジマ飲みに行かねぇのかよ?」

 

「ドラフさんすみません、この街の知り合いに顔見せてくるんです」

 

「おぉ、そうか。気を付けてな」

 

 

シューテル自警団基地

 

倉庫に97式が並んでいる中、奥の倉庫から光が漏れている。

 

「ここか、こんな時間までやってんのか」

 

扉を開けるとそこにはみょうちきりんな機体が置いてあった。

 

機体はごく普通の雷電だが、機体の至る所がモザイクがかかったかの様になっている。恐らく墜落している雷電からヒッペ剥がしたか、自分で叩き出したのだろう。

 

「なんつーカオスな・・・」

 

その機体の雷電も剥ぎ付きだらけでプロペラも少々歪んだ三枚となっている、恐らく落ちた一式陸攻のエンジンをくすねてきたのだろう。

 

「おい、来たぞ!ミサキ!」

 

怒鳴る様にして呼ぶと、奥の方からミサキと呼ばれた女性が現れた。

 

「待っていたよ、そちらのお仕事大変そうだね、聞いたよ?テッパチ産業の社長さんを運んだんだって?」

 

「わざわざこんな飛行隊を選ぶなんてな、変わった社長もいるもんだよ」

 

「それを君がいうのか」

 

2人して笑った後、いよいよこの奇妙な雷電について切り出す。

 

「ところでこの雷電はどうしたんだ?」

 

「これはね!コイツは私が密かに組み立てて来た雷電だよ。そしてこれを見てご覧よ!」

 

言うや否や胴体側面のマークを指差す。

 

そこには緑の機体に白く縁取られた赤い丸が描いてあった。

 

「これがどうした?」

 

「わからないのかい?!コイツはユーハング人が持って来たオリジナルの機体の一部さ!見つけられたのが奇跡だね!」

 

他にもオリジナルの部分があるぞ!と興奮して捲し立てる様に説明していく。

 

「わかったわかった、わかった。凄いと言うことは十分にわかった。それでこれは飛べるのかよ?」

 

「勿論!この前自警団の皆んなと飛んでみたんだけど、ぶっちぎりの性能だったよ」

 

 

「ミサキ、誰かいるのか?」

 

「あ、おやっさん」

 

「親父さんお邪魔してます。」

 

現れたのは60半ばになろうと思われる男性であった。名はカイネスでユーハング人とイジツ人のハーフらしい。

 

「そういえばおやっさん、今日の昼に何人か来てたけどなんかあったの?」

 

「いや、大したことはない。それよりも夜も遅いぞ。そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」

 

時計は既に10時半を過ぎていた。

 

「それもそうっすね。それじゃ自分はこの辺で」

 

◆◇

ナエジマが飛行船に向かっている時、

ミサキが何故か追いかけて来た。

 

「ナエジマ、ちょっといいか?」

 

「え?どうしたの?」

 

「おやっさんの事なんだけど・・」

 

◆◇◆◇

 

何でも怪しい男達がおやっさんの元に訪れる様になったのはここ1年前からの事らしい。

 

男達が訪れる度におやっさんは追い払うも数週間もすればまた「心変わりしましたか?」なんて言ってまたやって来る。

 

「正直私は心配でたまらないんだよ、どうすればいいかわかる?」

 

「そんな事、急に言われたって・・・空賊みたいな奴らなのか?」

 

「いや、身なりは黒いスーツで立派だったな。空賊みたいに不法者みたいな感じでは無かった。おやっさんもお前は知らなくていいってだけしか言わないし・・・」

 

 

「わかった、兎に角その奴らについて他の街に行った時に聞いてみるよ。そっちも自警団に話して警戒してもらえよ」

 

「あぁ、それは既に手を打ってる。」

 

「なら安心だ」

 

その日は夜も遅いと言う事で、お開きという事となった。

 

◆◇◆◇◆

翌日

「おい!この街にいるカイネスっつう整備士を連れて来やがれ!」

 

管制塔を無視して強行着陸した99式双発軽爆撃機から降りて来た男は、空に向けて2、3発38式を撃って叫んだ。

 

「カイネスさんにどういう要件で来やがった!悪党め!」

 

銃を構えた自警団達と町長はトラックを盾に男に応じていたが、後ろから現れたおやっさんが肩を叩いた。

 

「町長、大丈夫だ。私がいこう」

 

「カイネスさん、駄目だ。奴の目的を聞くまでは貴方を奴に合わす事はできない。」

 

「そうだよおやっさん!殺されちゃうよ!」

 

「ミサキは黙ってろ!」

 

一喝すると男の前に出る。

 

「さぁ来たぞ!要件は何だ!まさか顔を見に来ただけではあるまい!」

 

「俺のはマンドリン空団三番隊隊長ガッツァー・モトマツだ、単刀直入に言う。

貴様の所にユーハング人の忘形見があるな?」

 

「ハハハ・・・突然やって来て何を言い出したと思えば・・。こんな辺鄙な街にそんな物があるわけ無いだろう!さぁ要件はそれだけか?さっさと帰るんだな」

 

「いいのかそんな事言って?素直に出さなきゃ俺達の仲間がシューテルを襲って灰塵と化すぜ?」

 

「ふん、脅すならもうちっとマシな脅しをするんだな!帰れ帰れ!帰っておっかさんの乳でも吸ってな!」

 

「ほぉーう、分かった。そっちがその気なら俺だってその気だからな。おい!野郎ども出るぞ!」

 

そう言うと99式軽爆撃機は飛び立ってしまった。

 

すぐさま町長とミサキがカイネスに駆け寄る。

 

「町長、交渉決裂だ。済まなかったな」

 

「いいんだ。ユーハング人の忘形見なんて無いものを出すなんて出来ないからな」

 

「どうするんだよおやっさん。マンドリン空団と事を構えるなんて!」

 

「なんの為の自警団だ!やって来たら返り討ちにすればいい!それだけの話だ!」

 

「「「オォーー!!空賊なんて怖くねぇ!」」」

 

自警団団長が声を張り上げ、団員もそれに続き大声を張り上げる。

 

「面白そうですねぇ我々蚊蜻蛉飛行隊も1枚噛ませてほしいですねぇ」

 

「勿論だ、手勢は多い方が良い。全町民に通達!これよりは街は第一級警戒体制に移る!」

 

街の中心にある蔵の武器庫から99式小銃や、11年式軽機関銃を持ち出し三脚を立てて敵機に備える。

 

蚊蜻蛉飛行隊や自警団の戦闘機も暖機運転を開始し、街は物々しい雰囲気に包まれていった。

 

 

 



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その4

「大変な事になったな」

 

「いやだな、空賊かよ。」

 

「さぁ、エンジンを回せ回せ!」

 

「弾を持って来い!」

 

飛行船ヤハタもてんてこまいで飛行機の整備を行っていた。

 

「新品の弾?それ」

 

「いや、拾った奴を詰め直した奴。」

 

「今回金入ったら新品の弾欲しいな」

 

「お前の葬式代にならない様に気をつけるんだな」

 

◆◇◆◇◆

 

「おやっさん、私も雷電で出ます!」

 

「お前は下で避難誘導をしてろ!」

 

「何で!」

 

「お前が雷電なんてまともに扱える訳ないだろ!」

 

「・・・ッ!」

 

ミサキは街へ走っていってしまう。

その様子を見てカイネスは呟く。

 

「あれだけは奴等に渡してはならんのだ」

 

◆◇◆◇

2式戦闘機が3機、1式戦闘機が6機。

機体にはマンドリンをイメージしたマークにそれぞれのパーソナルマークが付いている。

 

「シューテルの自警団は97式が12機、

数は多いが機体性能差はこちらが有利だ。」

 

「部隊長、シューテルにユーハングの忘形見があるってモトマツ隊長が言ってましたけど何でしょうね?」

 

「さぁな、それと飛行船があった様だからほかに飛行隊がいるかもしれない、抜かるなよ」

 

「「「「「「「「「応ッ!!」」」」」」」」

 

 

◆◇◆◇◆

シューテルに向かう途中の監視員の双眼鏡にマンドリン空団の機体を捕らえた。

 

「見えました!北西よりにぃしぃろぉ・・・10機!10機の戦闘機です!」

 

『双発機はいるか?!』

 

「いません!」

 

『じゃあそいつらは囮が二波が来るって事か!』

 

「自警団が3機、蚊蜻蛉が全機、そちらに向かわせろ。残りは爆撃機に備える。」

 

自警団団長が受話器を下げると飛行帽を手に取り機体には駆け込む。

 

◆◇

 

『蚊蜻蛉飛行隊全機発艦!シューテル上空で自警団3機と合流せよ!』

 

「なんで3機なんだよ!12機いるんだろ?!」

 

ナエジマが文句をぶつくさ言いながら95艦戦に乗り込み発艦する。

 

◆◇◆

 

「敵機確認・・・えぇと、95式艦上戦闘機5機と97式が3機か・・・囮には囮か」

 

マンドリン空団の部隊長が確認すると、交戦の合図を各機に出すと、一気に降下し攻撃に移る。

 

それを確認したガレドは無線に叫ぶ。

 

『上空に敵機だ!』

 

97式六機が上空から襲い掛かる。

機銃の雨の中蚊蜻蛉と自警団は散開し、格闘戦に移る。

 

『1機につき2機で相手をしろ!』

 

『自警団の意地見せたれ!』

 

『マンドリン空団舐めんなよ!』

 

空戦で戦闘機が入り乱れ、まるでユスリカの様だ。

 

◆◇◆◇◆

 

『コロタが落とされたぞ!』

 

「また落とされてやがんの!」

 

ナエジマは尾翼がズタスダになって落ちていく95式を見ながら前を見る。

 

 

「複葉機のくせにちょこまか・・グベッ!」

 

『ナエジマ機!97式一機撃墜!』

 

コックピットが鮮血に染まり落ちていく。

 

◆◇◆◇

シューテル飛行場

レーダーサイト

 

『団長!奴らをまだ抑えこめているぞ。いいぞ!』

 

レーダー員が喜んでいると、また別のレーダー員が報告する。

 

「!!、やはりか!『南東より9機の機影確認!』」

 

『第6観測所!何か見えるか?!』

 

『来た!双発機1機!単発機5機』

 

『あのモトマツとか言うやつが乗ってるやつか!自警団全力出撃!!』

 

自警団の97式が飛んで行く様子をミサキは眺めていた。

 

「どうするどうするどうする。97式8機で双発機と1式を相手できるの?!あああ雷電は!」

 

「ミサキ!雷電に乗ろうだなんて思っていねぇだろうな!」

 

「だって!自警団の戦力でマンドリン空団に太刀打ちできると思う?!」

 

「ガキは余計な心配しなくていいんだ!」

 

「・・・ッ!もう我慢出来ない!」

 

「あっ!コラ!」

 

エナーシャハンドルを回してエンジンをかけと、すぐさまコックピットに乗り込みスロットル全開にする。

 

「ああああッーー!この野郎!ミサキ待てっー!」

 

カイネスは飛び立った雷電を見届ける事しか出来なかった。

 

◆◇◆◇◆

一方その頃・・・

マンドリン空団は1式2機を除き全部落としたが、蚊蜻蛉飛行隊はコロタに続き、ナエジマが落とされていた。

 

『ドラフさんすいません!』

 

自警団のトラックに回収されたナエジマとコロタは申し訳なさそうに謝罪している。

 

『ハハハハ、飯抜きな』

 

◆◇◆◇

99式軽爆撃機がいる本命の方は自警団が

苦戦していた。

 

「畜生、奴らは零戦使ってやがる!イケスカ土産か!」

 

苦戦している自警団を見てモトマツは嘲笑っている。

 

「はははは!!大人しく置き土産を渡せばよかったものを。はぁ、これでようやくあの人に土産を渡せる。」

 

 

何か安心した様でモトマツはシューテルの街を見る、自警団は現在零戦と交戦しており、此方には1機もついて来ていない。

 

(勝ったようなもんだ。)

 

勝ち誇った顔をしてスキットルに手を出す、すると街の方から何か飛んで来た。

 

「なんだ?まぁ1機出た所で・・・あれは雷電だ!」

 

「来るぞ!対空戦闘用意!」

 

◆◇◆◇

 

(この雷電には20ミリ機関砲が主翼に四つ、おまけに紫電のガンポットをくっつけているから計6つ!)

 

ミサキは雷電の得意とする速度で一撃離脱を仕掛ける。

 

600キロで99式軽爆に接近し照準に捕らえた瞬間6つの機関砲から火を噴く。

 

前方斜め上から侵入した雷電は機体前方を舐めるように命中する。

 

機首部に20ミリが命中しズタズタになった爆撃機はゆっくりと下降し始める。

 

雷電は再度上昇した後、捻って再度99式の主翼根本に狙いを定める。

 

ダダダダダダ!!

 

機関砲は根元に命中して炎上した後に

爆発、墜落した。

 

『おい!モトマツ隊長がやられた!!』

 

『退却だ!退却』

 

『逃げろ!作戦は失敗した!』

 

逃げるマンドリン空団を見て自警団は歓声を上げる。

 

「やったぞ!マンドリン空団を倒した!」

 

「あれ、ミサキの雷電か?」

 

「だとしたらカイネス怒るぞ。」

 

 

◆◇◆◇◆

 

全機着地後カイネスは雷電に駆け寄るなり、防風をこじ開けるとミサキを引き摺り出すと2、3発拳骨をおみまいした。

 

「なんでお前は・・・、お前って奴は!」

 

「おやっさんすみません・・」

 

「もう誰も失いたくないんだよ・・」

 

◆◇◆◇

蚊蜻蛉飛行隊は2機撃墜されたが、軽傷

で済んだ。

 

「結局俺たちいいとこ無しだね。」

 

「金は入ったから言うことなしだけどね」

 

「そんで結局ユーハングの忘形見とはなんのことだったのだろうか」

 

「カイネスとやらが言ってただろ?無いって」

 

「しかし、火のない所に煙は立たぬと言うだろ?」

 

「後で聞いてみようかな」

 

「おいやめとけって・・・」

 

 

 

 

 

 



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