ORB-DARK-CHRONICLE (とりっぷ)
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その力は何のために
場所はどこだっただろうか。草木が生い茂る森の中、褐色の少女を抱えた青年と、それに続く初老の男性が必死に走っていた。二人の険しい表情から何かから必死に逃げているであろうことがうかがえる。
「いたぞ!こっちだ!」
「クソッ」
遠くから聞こえてくる声に青年は思わず悪態をつく。このままではいずれ追いつかれる。しかし現状を打開するにしても手が足りない。それでも走る速度を落とすわけにはいかず少女を抱えながら青年は走る。
「君はその子を連れて先に行ってくれ!このままでは我々二人とも追いつかれておしまいだ!」
「悪いがそれはできない。依頼主に死なれてはただ働きになる」
「だがここで彼らに捕まって死んでしまうよりはマシだろう」
確かに男性の言うとおりだ。彼を囮として使えばいくらか時間は稼げる。その間に逃げ切れる可能性はゼロではない。
「それに、貨幣ではないが払えるものはある。これだ」
「それは……」
立ち止まり、男性が差し出したのはリングのようなものに持ち手がついたアイテム。彼らが追われている理由のうちの一つだった。
「だがこれは誰にも使わせるわけにはいかないものだとお前自身が言っていただろう」
「確かにその通りだ。しかし君ならいいだろう。この力を悪いようには使うまい」
「どうだかな。オレは自分のために力を使うぞ。今までとやることを変えるつもりはない」
「それでいい。君は君の思うようにすればいい」
言葉を交わし終えた男性は、リングを青年に押し付けるように渡し、後ろを振り返る。
「行きなさい!!!」
吠えるように、力の限り荒げた声に青年は静かに頷くとそのまま走り出す。
息を切らせながら走る彼の前に飛行機のような乗り物が見えてきた。それが彼らのゴール。あれに乗って飛び出せれば勝ちである。
しかしそうは問屋が卸さないらしい。突如後方から巨大な何かの咆哮が聞こえた。
それは、絶望の呼び声。
それは、巨大なるもの。
それは、人では太刀打ちできないもの。
「怪獣兵器…! 奴ら、それまで出してきたか!」
青年のいら立ちを他所に大地が揺れる。そしてはるか後方に現れたるは巨大な獣。
しかし、しかしだ。今彼はそれと戦う力を持っている。そう、先ほど手に入れたリングだ。
このまま走っていてもあの怪獣からは逃げられない。ならばと彼はリングを天に掲げ、紫色の輝きが彼を包んだ。そしてーーー
◆◆◆
「おいトルテ、ゲームばっかやってないで少しはやることやれ」
「ええ、やることって何よザイトー。目的地の星につくまでまだ時間あるんでしょー?」
褐色の少女、トルテ。リングを手にした青年、ザイトは宇宙船を走らせていた。彼らが出会ってどれほどの時がたったのだろうか。少なくともこうして打ち解ける程度の時間は経過しているようだった。
「お前は本当に自分の過去を見つける気あるのか?」
目的地にはある程度自動で向かうのか、操縦席に座りながら操縦桿からは手を放して本を読んでいる。しかし話かけたためか今は後ろのスペースでなにやら画面とにらめっこしている褐色の少女に向けられていた。エメラルドグリーンとも水色ともつかない淡い色の髪に白いワンピースを着ている彼女はだらしなく体を大の字にして彼の問いに答える。
「ないよ。だってボク今の暮らし好きだもん」
なんてふざけた返答にザイトは少し眉を動かすが、そんなものどこ吹く風といった様子で彼女は話をつづけた。
「なーんて嘘だよ。ボクだってなんであんなところで薬漬けにされてなきゃいけないのか知りたいし、そうなる前のボクは一体どこで何をしていたのかなんて気になるに決まってるよ」
「だったら普段から少しは思い出す努力をしろ。手がかりなんてないも同然なんだ」
そんな軽口をたたきあう二人を他所に、時間は着々と過ぎていった。
「そろそろ着く。仕事の準備を始めておけ」
「はいはーい。仕入れた特殊金属を依頼主に渡すんだよね?」
「そうだ。分かっていると思うがこれは非合法、というより独占されているものを横流しするものだ。当然邪魔される可能性もある」
「もちろん。ボクだってこの仕事の手伝い初めてそれなりに経ってるんだし少しは慣れてきてるって」
「………」
ザイトの心配をよそにトルテはとん、と軽く自身の胸を拳で叩いて自信をアピールする。その様子を眺めている彼からすると何とも頭の痛い返しだった。目を覚ました彼女は記憶を失っており何に対しても怯えているような子供であったのだがいつの間にこんなにやんちゃになってしまったのか。それともこれが彼女の元々の性格なのか、生憎とそれは誰にも分らない。
しかし今はそれでいいのだろう。彼女がそれを理解するのはこれからだ。そもそも自分が何者であるかなど記憶があったところでわかるものではないのだから。
「とりあえず準備してきたよー」
目的地が見えてきたころ、トルテの報告がザイトにと届く。
「いいか、今回の仕事はこれを渡して終わりじゃない。俺たちはあくまで仲介役に渡すだけだ」
「分かってるってば。すごい念の入れようだよね」
「まあな。運び屋と仕事はそこまで、その後は輸送船の護衛だ。はっきり言ってその間が一番妨害の可能性が高い」
「うん」
淡々とこれからの動きを説明していくザイトの言葉にトルテは頷く。彼らは中継の中継に過ぎないのだ。それほど重要なものなためか、彼らとしても特殊な金属ということ以外詳しいことは知りえない。
それでもこの依頼を受けたのは単純に払いがよかったの一言に尽きる。
「よし、それじゃあ行くぞ」
「りょーかい!」
彼らの宇宙船、かつて地球で開発されたというペンドラゴンの名を持つ船の改造船である。とある事情から格安だったのだが今その話ははいいだろう。
黒と銀に塗られたそれがたどり着いた惑星は生命のいない荒野のような星だった。生命のいない、というよりは絶滅したが正しいのだろう。生物の痕跡がないわけではない。荒れ果てた陰気な場所だった。
「人目にはつかないが、こんなところだとはな。お前は物を準備できたら中で待機していろ」
「わかったよー」
彼らに運ばせたのは必要分のほんの一部だろうが、それでもそれなりの量ではあった。動力を備えた台車で中から運ばれてきたのはもともと輸送船であったスペースペンドラゴンの最大積載量ギリギリの鉄塊である。コンテナの中にぎっしりだ。
これのせいで船のどこかが不調をきたしていなければいいのだがなどと考えているところに、どこからともなく黒服の異星人が複数人現れた。今回の取引相手だろう。
「依頼されていたものだ。確かめてくれ」
ザイトの言葉に彼らはただ小さく頷くとそのままコンテナの扉を開け、中身に機械を向け、鉄塊をスキャンする。
「不純物許容範囲、特に水増ししているということはないな。いいだろう、成立だ」
「そんなせこいことはしない」
黒服の言葉にザイトは少しムッとしたように言葉を返す。どうやら変に勘繰られたことが不服らしい。
相も変わらず黒服の男たちは表情を変えないが、どこからか取り出したトランクケースをこちらに差し出してきた。どうやらこれの中身が今回の報酬らしい。
「確かに受け取った」
トランクを受け取り中身を確認したザイトは相手を見据えて一言だけつぶやく。これで完全に取引成立である。
その瞬間だった。それの飛来を感知したのは。
『ザイト、この星に何か近づいてる!』
「なに?」
『これは、円盤生物…!』
黒服の男たちもざわつき始める。どうやら間違いないらしい。
『数は二機、到着は……早い、後一分ほど! これじゃあ逃げ切れない。ここで迎撃するしかないよ!』
「どこかでつけられたか情報を嗅ぎつけられたか。まあいい、とにかく今は!」
報酬をもってすぐさまペンドラゴンに乗り込んだザイトはすでに準備を終えているトルテを横目に操縦席へと滑り込む。
「円盤生物とやらの種類は!?」
「そんなのボクが知るわけない!」
「この船のデータベースには!?」
「カメラで捉えてからじゃないと照らし合わせられない!」
発進準備をしながらうだうだしていると、青白い光弾が空から放たれ、黒服の男たちが急いで運んでいたコンテナに直撃し、爆発した。やはり目的は取引の妨害と。
「俺たちを殺す気か……!」
「やっぱりー!!?」
トルテの慌てたような声をしり目にザイトはペンドラゴンを離陸させる。それと同時にもう一つ宇宙船が離陸を始めた。おそらく黒服たちのものだろう。
「円盤生物は2機と言っていたな」
「うん、だからあいつらに相手させてるうちにっていうのは無理だと思う」
実際ただ雇われていただけのザイトの優先度は低いはずだ。しかしそれでも確実を期すためにわざわざ2機も用意してきたのだ。よほど奪われたくないものだったのか。分かってはいたことだがどおりで報酬もそこそこのはずだ。
「それよりも来るよ!」
トルテの言葉とともにそれは現れた。円盤形の生物兵器。趣味が悪いこの上ないものだとザイトは考える。
瞬間、青白い光弾が連続でペンドラゴンへと放たれた。この星にとどまっているわけにもいかない。右へ左へ機体を動かしながら空を目指す。しかし宇宙に出ても追跡は止まらなそうだ。ペンドラゴンより一足早く宇宙へ飛んだ黒服たちの宇宙船もあの円盤生物にまだ追い掛け回されているらしい。もしあいつ等が撃墜されればもう1機もこちらへ来るだろう。そうなる前にこのうっとうしい円盤を破壊しなければ。
腕はともかく飛行性能は相手の方が上らしい。後ろにつかれて引きはがせない。先手を取られてしまったのが非常にまずかった。
「トルテ! 船を任せるぞ」
「んー! 行ってらっしゃい!」
そう言って操縦桿のコントロールがザイトの席のものからトルテの席の下へと移り変わる。シートベルトを外し席を立った彼は懐からあのリング、オーブリングNEOを取り出し、掲げる。するとあの時と同じように彼の身体は紫色の光に包まれペンドラゴンの中から円盤生物へと一直線に向かっていった。
接触した光と円盤生物。大きく火花を散らした円盤生物はそのまま勢いをなくし光とともに地面へと墜落する。大きな地響きを上げながら落ちた円盤生物と、舞い降りるように地面に着地した光はそのまま人型へと変化し、その全貌をあらわにした。
黒と銀の身体に、青く光る胸の輝き。その姿は、ウルトラマンオーブに酷似していた。しかしその肉体に赤はなく、黒く染まっている。オーブダーク。そのさらに亜種。オーブダークツヴァイ。それがこの姿の名だった。
『円盤生物の識別名ヒット! 出るもんだねえ。というわけであれはロベルガー。人型に変形するから気を付けて!』
追跡を一旦振り切れたからか少し余裕のあるトルテの声が響く。それと同時に、彼女の言う通り人型へと変形した先ほどの円盤生物、ロベルガーが姿を現す。オーブダークツヴァイはその姿を見据えると構え、戦闘を開始した。
ちなみにオーブダークツヴァイ本文でもありますが、言ってしまえばオーブダークの複眼やカラータイマーの色をすべてオーブオリジンの通常色にしただけです。
彼らのこれからの旅をよろしくお願いいたします。
次回未定!!!!!!!!
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似て非なる力
ザイトの変身するオーブダークと円盤生物ロベルガーが対峙する。先に動いたのはロベルガーだった。オーブダークへ向けて手のひらから投げるように連続で光弾を放つ。オーブダークはそれをかわしながら距離を詰めていく。数は多いが決して捌けない数ではなかった。
しかし近づかれていることを認識したロベルガーは光弾を放つ速度をさらに上げてきた。
徐々に対応しきれなくなったオーブダークはやがて格闘戦の入る前に光弾の直撃を受けてしまった。
「ザイト!」
トルテが声を張り上げるが、後は芋ずる式だった。一撃を受け体制を崩したところにもう一発、さらにもう一発と次々に光弾が直撃していく。そして地面へと着弾したものあり、やがてオーブダークの姿は土煙の中へと消えていく。
呼吸を置かず真上へ巨大な影が飛び上がった。オーブダークだ。空中で静止した彼を追撃するようにロベルガーがさらに光弾を放つ。空得あがったことで逃げる範囲が増えた彼は自在に飛び回りながら光弾をかわしていく。
しかしこれでは距離を詰めることはできない。こうしてずっと避け続けるのも限度がある。それまでに打開策が必要だろう。
合間をみてはオーブダークからも紫色の鋭利な光弾を放ち牽制をする。しかしどうも効果はあまりない様で事態の打開には至っていない。かわす、弾く、かわす、弾く。何度が繰り返しているうちに、ついにロベルガーの光弾がオーブダークを捉えた。
苦しそうな声を上げ、オーブダークは墜落していく。
「もう!」
そこで少し距離をとった場所でペンドラゴンから戦況を眺めていたトルテが動いた。戦闘補助用のAIを起動し、レーダーを照射する。もともとスペースペンドラゴンとは複数人で操縦するのが前提の大型輸送船だ。そのうえ対怪獣戦闘も想定されているために複数人でのコントロールが必須なのである。それを補助AIで補っているのが今の状態である。
「ワイバーンミサイル!行くよ!!」
ロックオンしたロベルガーに対してペンドラゴンから無数のミサイルが放たれる。放たれたミサイルはそのまま複数の軌道を描きながら完全に不意を突いた状態のロベルガーへと着弾する。
「やった!」
しかし爆炎の中からお返しと言わんばかりに光弾が飛んでくる。ダメージはあったかもしれないが、どうやらこちらを認識させてしまったらしい。しかしそれは流石に分かっていたことだ。
「わっと」
すぐさま回避行動をとる。幸いにも光弾が当たることはなかった。そして少しでもこちらに気を向けてくれたならそれだけで御の字だ。なぜならその隙に、
『ダークオリジウムソーサー!』
その刹那の隙に体制を立て直したオーブダークから放たれた光輪は見事にロベルガーの片腕を切断して見せた。光輪の後を追うようにロベルガーの懐に潜り込んだオーブダークはそのまま強烈なボディブローを放つ。
あれは円盤生物だ。痛覚ぐらいはあるだろう。殴られた場所を残った右腕で押さえながら後ろへ数歩下がる。さらに続けてオーブダークの回し蹴りが炸裂した。その勢いのまま後方に吹き飛ばされるロベルガーは地面を転がる。
ロベルガーは片腕にもかかわらずすぐに体制を立て直すとお返しと言わんばかりに光弾が飛んでくる。しかし片手を失った分脅威であった連射性能は大幅に劣化している。油断さえしなければヘマをすることもないだろう。避け、腕で弾く。その中の一発を反射するようにはじき返し、ロベルガーに命中させる。
ロベルガーが怯んだ瞬間勝負が決まった。
間髪入れずに胸の前で腕を十字に組む。
それはウルトラマンにおける必殺の一撃への構えである。そしてその技の名は、
『ダークオリジウム光線!』
放たれたそれが直撃し、瞬間ロベルガーの動きは止まり爆発した。
敵を倒したのだ。そのことを確かに確認したオーブダークゆっくりと構えを解きその場に佇みながら再び光の粒子となりペンドラゴンへと帰還していく。
「お疲れさまー!かっこよかったよ!」
ペンドラゴンの中で元の姿に戻ったザイトにトルテはいつもと変わらぬ調子で声を投げかける。
「お世辞はいい」
「えー。ホントのことなのに」
「それよりもさっさと離脱するぞ。こんなところにいつまでもいるわけにはいかない」
「はいはーい。そういうならさっさと座ってね」
軽口を叩きあいながら二人はテキパキと準備を進める。この辺妙に息の合っている二人なのであった。
準備を終えたペンドラゴンは追手が来る前に間に空域を離脱し、無事に危機を脱した。
「ふう、とりあえず一件落着かな」
そう言ってトルテは席を立つ。もう大丈夫だ。後は勝手に設定した目的地まで行ってくれる。
「で、傷は大丈夫なの?」
「問題ない」
そう言いながら近づいてくるトルテにザイトはそっけなく答える。傷というのは言うまでもなく先ほどの戦闘で受けたものだ。あれだけ攻撃を受けたのだ無傷ということはあり得ない。
「まあ、そうならいいけどターミナルにつくまでには傷薬くらい塗っといてねー」
そう言ってトルテはそのままコックピットを後にする。自分の部屋に戻ったのだろう。気を抜くのは早い気もしなくないが、実際に追手は振り切ったようなので小言は言わないでおく。
トルテが言っていたターミナルというのは惑星間航行における駅である。高速道路のサービスエリアなどを考えるとわかりやすいかもしれない。それは普通の惑星にある施設であったり、または人工的に作られた小惑星であったり様々だ。彼らはその無数にあるターミナルのうちの一つに向かっているということになる。
そんなトルテを見送ったザイトは懐からオーブリングNEOを取り出し眺める。この力は、望んだわけでも狙った訳でもなく偶然この手に収まった代物だ。模倣であり贋作。どこまで行っても真の意味でのウルトラマンにはなれない。
「………」
この力で自分は何をするのか。それすら見えないまま力を振るい続けている。今現在自分がこの力を持っていることを知っている人間はほとんどいない。それは彼がむやみやたらに力を行使してないことに起伏する。そもそもウルトラマンの力が必要になるような場面はあまりなく、そういった場面には大抵ウルトラマンがやってくるものだ。
考えても仕方がない。彼は途中で考えることをやめるとそのまま目を閉じ仮眠をとることにした。
「ザイト―、もうすぐ着くよー!」
どれほど時がっただろうか、彼はいつの間にやら戻ってきていたトルテに体をゆすられ起こされる。どうやら本格的に寝入ってしまっていたようだどうやら変身しての戦闘が思いのほか堪えたらしい。
「ん、あぁ」
気を抜けた返事をしながら彼は意識を覚醒させる。確かに目的地であるターミナルまであと5分ほどの距離だった。
そしてそれからは何事もなくターミナルの入口へとたどり着き、さっと手続きを船を所定の場所へと止めた。
「やったー! 久しぶりにのんびり買い物ができるぞー!!」
などとはしゃぐトルテを横目にザイトは買うものの整理を頭の中で始める。燃料や生活必需品である。
とはいえ買い物は武骨なザイトと行動を共にしているトルテにとっては数少ない娯楽の一つだろう。嬉しそうにターミナルの繁華街へと消えていった。
まあ事前に買うものの分担はしてあるので特に問題はない。必要なことをこなしたなら後は好きにしていいだろう。
しばらくして買い物を終えたらしいトルテがペンドラゴンに荷物を置きに戻ってくる。
「ただいまー」
先にささっと買い物を終えているらしいザイトに向けて声を上げる。
「早かったな」
「うん、ちょっと面白いもの見つけてさ」
「面白いもの?」
「これだ!」
じゃーん、と袋の中から取り出したのは、クッションほどの大きさのぬいぐるみ。そのぬいぐるみはあるものを模し、デフォルメされたものだった。
「これは―――」
「そう!これ、ウルトラマンオーブのやつ!2個も買っちゃった!」
嬉々としてそんなことを語るトルテにザイトは小さくため息をつく。確かに彼女の持つ金を彼女がどう使おうが自由だが、何もそんなことに使わなくともと思う。1つならまだいいが、なぜ2つも買ったのか。
「ふっふっふー。なぜ2つ買ったか気になるかね?」
「まったく」
「それは、片方を塗るためだよ!!」
ザイトの返答は見事にスルーされる。この自由さというかいつも以上にテンションが高いのはそのぬいぐるみを買ったが故だろか。
「そそ、ウルトラマンオーブってザイトが変身してる力の本当の持ち主の姿でしょ?それでこの赤い部分を黒く塗ればザイトの変身したカッコに早変わりってこと!ボク頭いい!」
「………」
ツッコむのは早々に諦めたザイトであった。代わりに買ってきた荷物の整理を始める。次の補給がいつになるかわからない以上備蓄は相当大事なことだ。
えへんとひとしきり威張ったトルテはぬいぐるみを壁際に置き、ザイトの手伝いを始める。
彼らの旅はまだまだ序章だ。
やだ、ザイトさんもしかしてそんなに強くない……?
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スクランブル
「ねえねえザイト!あそこでちょっとお茶しない?」
次の日、繁華街を歩いていたザイトに隣のトルテはふと喫茶店を指さす。
「ちょうど小腹もすいてきたし、寄って行こう!」
「お、おい!」
そのまま有無を言わさず彼女はザイトの腕をつかむと引きずり込む様に店の中へと向かっていった。拒否権など、初めからないのである。
『Leiria』と書かれた看板を通り過ぎ、扉を開ける。店内は普通の喫茶店のようだ。
「いらっしゃいませー!」
と、可愛らしいソプラノトーンの声が響く。これは明らかに子供のものだ。何気なく声のした方へ顔を向けるとそこにはトぴょこんとアホ毛が二本生えた茶髪の少女が一人。トルテよりも幼いだろう。しかしそれよりも目を引くのは彼女から生えている狐のような尻尾だ。アクセサリーではなさそうなところを見ると人間寄りの獣人なのだろう。そこは気にするところではない。
「え?何々?君ここで働いてるの?ちっちゃいのにえらいね!」
などと言いながら少女の下へ向かっていくのは当然トルテだ。どうやら愛らしいこの少女に見惚れたらしい。
「え?あの?はい。一応、このお店のお手伝いをさせてもらってます」
詰め寄ってくるトルテに若干困惑しながらも少女は律義に答える。というか年不相応の仕事をしているのはお前も一緒だろうなどというツッコみは余計めんどくさくなるだけなのでしないが吉である。
「おい、冷やかしに来たなら帰るぞ」
「ちょっと待ってって!」
適当に空いているテーブル席に座ったザイトを追うようにトルテも彼の向かいに座る。そしてすぐさまメニューを取り出し楽しそうにそれを眺め始めた。
「んーと、やっぱりこういうの見るのも楽しいよねー。ザイトは何にする?」
「ラテ。ノンシュガーのな」
「いつも通りってことね。じゃあボクはっと……決めた!」
そう言ってトルテは軽く手を上げながら店員を呼ぶ。少ししてやってきたのは先ほどの少女だ。
「ノンシュガーのラテと、後ココアと、梨のパイ!」
「分かりました。少々お待ちください」
「はーい!」
特に特筆することもなく注文を終えたトルテとザイトは厨房へ消えていく少女を見送ると、視線を窓の外へと向けた。惑星ではない小さなターミナルであるここはすべてが人工物であり、空を眺めても宇宙が広がっているだけである。宇宙を旅する彼らにとっては見慣れた風景だ。むしろ青空を見ることの方が少ないといえる。
「ねえザイト。ウルトラマンオーブってさ、どんな人なのかな?」
「どうした突然に」
「だってザイトの力の元になったウルトラマンでしょ?気になるじゃんぬいぐるみだって買っちゃったし」
ぬいぐるみがどう関係してくるかは知らないが、と前置きもせずにザイトは軽く質問に答える。
「さあな。オレも会ったことはないからな。詳しいことは知らん」
「そうなんだ。やっぱり同じ力の持ち主だからザイトと似てたりするのかな」
「それはないだろう」
「……どうして?」
ウルトラマンオーブの変身者と彼が似ているのか、という質問をザイトは強く否定する。会ったことはないという割にはっきりと否定したザイトの言葉に違和感を覚えたトルテは少しどもりながらもさらに問いを投げる。
「オレは彼の力のを模したものを盗んだに過ぎない。彼は正しく戦士の頂に挑戦し、その意思とやらに認められたのだろう。すべて俺がやらなかったことだ。似ているはずがない」
「そうかなあ……」
若干納得いかないように首をかしげるトルテだったが、話をつづける前に注文した料理が運ばれてきた。
「お待たせしました!ノンシュガーラテとココアと梨のパイになります。注文は以上でお揃いですか?」
「うん!」
「では何かあったらまたお呼びください」
そう言って少女は席を離れる。昔からこういったことをしていたのだろうか。ずいぶん慣れたものだった。
「おいしそうー!いただきまーす!」
そう言ってトルテはパイを口に運ぶ。
「んー!おいしー!やっぱり甘いものはいいね」
嬉しそうに言うトルテを眺めながらザイトも運ばれてきたラテで喉を潤す。きめ細やかなブレンドでザイトは思わず驚く。かなり好みの味と言っていい。意外なめぐりあわせに思わずこの店を選んだトルテにうっかり感謝しそうになってしまうほどだった。
「でさ、話の続きなんだけね。ボクはウルトラマンを見たことないからよく知らないんだけどそれでもいえることがあるよ」
「言えること?」
「うん。少なくともボクを助けてくれたのはウルトラマンじゃなくてザイトだったってこと。その事実だけは絶対に変わらないよ」
まっすぐにザイトの目を見つめてトルテは言う。それが偽りのないトルテの本心だった。
「だから自分をあんまり過小評価しないで。少なくともボクはザイトのこと尊敬してるし凄いと思ってる」
「……、そうか」
そんなトルテの言葉にザイトは一呼吸おいて小さく頷く。
少し恥ずかし気にザイトはラテを口に運ぼうとカップに手を付けた瞬間にそれは起こった。
「……警報!?」
赤いサイレンの輝きと共にけたたましい警告音があたり一面に鳴り響く。唐突な事態にザイトとトルテの顔がこわばる。ほかの客と違って無駄に慌てないのは普段から危険と隣り合わせの仕事をしているからだろう。
「ザイト、これ」
「まだわからない。誤報の可能性も残っているはずだ」
ウエイトレスの少女が慌てた様子で厨房の奥へと消えていく。状況の確認をしに行ったのだろう。彼女、もしくはこの店を仕切っている大人から話を訊くのが一番早そうだ。
それまでに少しでも情報を得ようと店の外を見る。慌てた様子の旅人たちの姿がちらほら見えるだけで火事や事故のような気配は見られない。
「何か……」
トルテが何か言おうとした瞬間に追い打ちをかけるようにあたりに響いたのはビーム兵器の発砲音。この施設の防衛設備だ。つまるところここは何者かに責められていることを意味する。
「攻め込まれてる?」
困惑したようにトルテが言う。確かにおかしな話だ。ここは辺境の小さな施設。襲ったところで収穫は少ない。労力に見合った報酬があるとは思えないのだ。
「そうみたいだな。だが、誰が何の目的で?」
そんなトルテの思考を肯定するようにザイトも小さく首をかしげる。そうこうしているうちに防衛設備を破壊されたらしくビームの発射音とほぼ同じ距離から爆発音が聞こえてくる。
「不思議そうな顔してるね」
不意に聞こえてきた声にザイトはそちらに意識を向ける。厨房の方にいた黒髪の女性だ。
「そうだな。ここが攻められる理由がわかない」
「そうだねえ」
焦っている様子を見せずあっけからんとしている女性にザイトは若干警戒しながらも言葉を返す。
しかしそれすらもどこ吹く風といった様子の女性にウエイトレスの少女が慌てて制止しにやってくる。
「に、ニュイさん。お客さんですよ」
「ん、そだね。ま、いいじゃない?」
「……」
特に悪びれる様子もないニュイと呼ばれた女性に少女は小さくため息をついた。
「でさ、提案があるんだけど。ここの防衛、賊に突破されそうなわけ」
「……雇いたいと?」
「そ。これは私じゃなくてここの管理者の意思。どする?」
「……」
女性の言葉にザイトは思案する。これは信用に足る依頼か。
「迷うのはいいけどあんまり時間ないわよ。他のあなたたちと同じ人種はもう了承して準備しているところ。緊急だしなるべく早くね」
「ザイト」
女性が言い終わると同時にトルテが彼の名を呼ぶ。ザイトは少し思案した後、答えを返した。
「いいだろう。不明瞭なところはあるが事は一刻を争う」
「そゆこと。話が早くて助かるわー!」
臆面もなく笑うニュイと呼ばれていた女性を一瞥したザイトはペンドラゴンへ向かうべく席を立った。
「トルテ、予定変更だ。いいな?」
「ま、しょうがないか」
「今回お代はつけとくからまた次きたときにでもよろしくねー」
店を出ていく背中にニュイが気の抜けた声を向ける。
「あの、ニュイさん、本当によかったんですか……?」
「まあね。そこはココアが考えるところじゃないから平気。私に任せな」
その背中を見送った少女、ココアが不安げにニュイと言葉を交わす。遠くで聞こえる爆発音と銃声が、より鮮明に聞こえた気がした。
感想、評価お待ちしています!
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陰謀の影
ややこしいことしてすみませんでした!
「準備オーケー。いつでも飛べるよ!」
ペンドラゴンのコックピットでトルテが準備を終えたことを隣の座るザイトに声をかける。備蓄が入っている場所は一時的にパージしてここに置いていく。勝って戻れば何事もなく回収できるだろう。
「よし、飛ぶぞ」
格納庫から勢いよく宇宙に飛び出したペンドラゴンは、そのまま一目散に戦場へと向かっていく。
ターミナルから数キロほど離れている戦場は一言でいえば混沌としていた。すでに壊滅状態のターミナルの警備兵と自分たちよりも早く出ていた味方の傭兵たち。
賊と味方を識別するコードはすでに送られているが、お互いに統率がとれていなさすぎる。寄せ集めが右往左往している状態だ。
「思ってたよりひどいな」
「こんなの味方の流れ弾に当たりかねないし、ボクたちの攻撃も同じ。困ったなあ」
ザイトとトルテが感想を口々に告げる。しかしいつまでも傍観をしているわけにもいかない。雇われたからにはきっちり仕事をしなければ。申し訳ないが自分の身は自分で守ってもらうほかない。
「標準ロック、ワイバーンミサイル発射!」
ザイトの操縦で捉えた複数の敵の戦闘機に向けてトルテがミサイルを発射する。そのミサイル群は次々と戦闘機を捉え、破壊する。
「よし、命中!」
小さくガッツポーズをするトルテとに対して、少し神妙な顔をしているザイト。何か不満があるのだろうかと彼女がザイトの方を見る。
「どうかした?」
「いや、こんな戦力いったいどこから持ってきたのかと思ってな」
「うーん、何かがバックにいるかもってこと?それはどうだろう」
「いや、まだ違和感程度で何もなければそれでいい。こいつらを片づければそれておしまいだ」
そんな会話をしながらも攻撃の手は全く緩めない。緩めはしないが苛烈とも言い難い。敵だけではなく味方の攻撃もこちらを掠めかねいのだ。攻撃ばかりに集中もしていられない。しかし戦況的にはこちらが巻き返してきているようだった。このまま戦えばとりあえずは勝てるだろう。
「おーし、とりあえずこいつら倒せばいいわけだよね!」
「目下の所はな」
途中で考えるのが面倒になってきたのかトルテは宣言するように声を張り上げると、ザイトはそれに小さく言葉を返した。
しばらく同じような戦闘が続く。敵の数が減っており、このままいけば先ほどの読みの通り戦いはこちらの勝利で終わるだろう。
「ザイト!これ見て!」
「これは、」
不意にトルテに呼ばれたザイトは彼女の促すままにレーダを確認する。そこには戦闘機とは一線を画す円盤の反応があった。
「怪獣兵器かもしれない。一応ペンドラゴンのデータベースにアクセスしておけ。場合によっては変身する」
「分かった。もうすぐ目視できる距離だと思う」
少しして正体が見えてくる。味方を蹴散らしながら迫ってくるそれは、黄金に輝いていた。
「データと照合、ヒット!あれは宇宙竜ナース、円盤型と龍の姿を持つ侵略兵器みたい。あれに巻き付かれたらこの船はアウトだと思って」
「了解した。そうなったら変身する。だがそうなる前に倒すぞ」
情報を確認した二人はそのままナースを見据え、突撃していった。
こちらの存在に気づいたナースはとぐろを巻いた円盤型の姿から龍の姿に変わる。名前は竜、ドラゴンだがこのシルエットは龍に近いだろう。
「クソ、すばしっこい!ペンドラゴンじゃ厳しいかも!」
トルテが悪態をつく。その蛇のような胴体は何とも捉えがたい上に何かと素早くトリッキーな動きをする。
「文句を言う前に手を動かせ!」
「動かしてる!何か考えないと!」
「だったらこいつをここから誘導するぞ!操縦をそっちに移す!」
「了解、任せて!」
言葉を交わした二人の目の前の操縦桿のコントロールが切り替わる。どうやら変身せずに倒すというのは難しそうだ。
「2時方向にあるデブリ群の中に突っ込む!」
「ガッテン!」
ザイトはミサイルをナースに向けてばらまく。当たりはしないが牽制にはなるだろう。そして牽制こそが目的だ。
「よし、食いついてきた!」
トルテがペンドラゴンを最大加速させてナースに捕まるのを防ぎながら誘導する。
しかしデブリ帯に入ってからが問題だ。障害物が多いこの場所ではスピードは出せない。何より細いナースの方がペンドラゴンよりもずっと有利だ。
「ザイト、いつでもいいよ!っていうかもうヤバい捕まる!」
トルテの叫びを背に、席を立ったザイトはそのままオーブリングNEOを構えオーブダーク・ツヴァイへと変身した。ここなら戦闘になってもあまり目立たずに済む。ウルトラマンの似姿をした存在など噂になれば厄介だ。宇宙は広いため情報の拡散にはそれなりに時間はかかるがそれでも進んで目立とうとは思わない。自分は中堅の傭兵で十分だ。
そんな考えの下彼はこうして人目を気にして変身しているのだ。しかし気づいているだろうか。本当にそう思っているのならそもそもこんな力、必要ないのである。
『シェア!』
オーブダークが近くのデブリに着地したと同時に光弾を手のひらから発射する。ペンドラゴンに狙いを定めていたナースには不意を突く形となりこちらの攻撃は命中する。これであの龍の標的はこっちへと移行するだろう。彼は構え敵の出方を見極める。
蛇行しながらこちらに向かってくるナースにオーブダークは光弾を更に放つ。
しかしその不規則に動く細い胴体を捉えるのは難しく接近を許してしまう。そのまま横なぎに払われた尻尾の攻撃を腹に受け、吹っ飛ばされる。
『―――ッ!?』
どうにか体制を立て直しながら追撃に備えオーブダークだがナースは再び宙へ舞い上がりオーブダークと距離をとってしまった。これではこちらから中々手が出せない。
「ザイト、どうするの!?」
少し離れている場所で待機しているペンドラゴンから声が届く。確かにこれを繰り返されてしまったらたまったものではない。打開策が必要だ。
トルテの問いに答えずにオーブダークはナースを見据える。ただ突っ立っているわけではない。移動しながら、けん制の光弾を放ちながらだ。
それをするりと避けながらナースは再びオーブダークへと向かう。
『ダークオリジウムソーサー!』
接触する直前、彼はリング状の光輪を放ち、光輪はナースを切り裂くべく向かっていく。
しかしこの攻撃は当たらずにかわされ、ナースはそのままオーブダークへと巻き付いた。
「ザイト!」
『来るな!』
それを見ていたトルテが慌てて行動を開始しようとする。しかしザイトがそれを制止した。何か策はあるのだろうか。彼を信じトルテはそのまま動くことはしなかった。
それが正解だということに気づいたのはそのすぐ後の出来事を見てからだ。
先ほどはなったダークオリジウムソーサーがまるでブーメランのように弧を描きオーブダークへと向かっていく。
「これって…!」
オーブダークへと戻ってきたそれは正確にナースの胴体を分断する。拘束が緩んだオーブダーク二つに分かれたナースを掴み、それを同じ方向へひとまとめにぶん投げた。そして
『ダークスペリオン光線ッ!!』
放つ光線はオリジウム光線とはまた別のもの。オリジナルのオーブがウルトラマンとティガの力を使って放つ技。一部ではあるが、オーブダークもその力を引き出せるのだ。
直撃したダークスペリオン光線はナースをそのまま爆発させる。塵となったナースを見届けたオーブダークは光の粒子となり、ペンドラゴンの中へと戻っていった。
「やったね!ナイスザイト!」
いえーい、とハイタッチを求めてくるトルテを軽くスルーしたザイトはそのまま操縦席へと戻る。
「もー、ノリ悪いなあ」
「戻るぞ。向こうがどうなっているのか気になるからな」
そう言ってザイトは船のコントロールを自分の席のものへと戻す。そうして戻った先で見たのは、こちらの勝利の光景だった。切り札であったナースが敗北したのだ。勝ち目はないと引き下がったのだろう。残存していた敵もいそいそと撤退していく。
「一件落着、かな?」
「とりあえずはな」
とりあえず目の前の脅威は去ってくれたようだ。それを確認した彼らはそのままターミナルへと向かっていった。
◆◆◆
「どういうことだ!こんなこと聞いてねーぞ!!」
どこかの場所、ザイトたちのいる場所からそれなりに離れているだろうか、先ほどターミナルを襲っていたらしき族の長の男が青年に詰め寄る。
「ん?何が?」
とぼけたように黒髪に白いメッシュが特徴的な青年は言う。
「しらばっくれんな!!あの巨人だ!ありゃウルトラマンじゃねーか!あんなのいるなんて話げちげーって言ってんだよ!」
「話も何もオレはアンタらにあそこの情報を与えたでしょ?金目のものがあるって。ほんで防衛設備の情報と怪獣兵器まで与えた。あのウルトラマンらしき巨人はあのターミナルの防衛設備じゃないしこっちに聞かれても困る。というかさ、あそこまでしてやったのにあんなさびれたターミナル一つ落とせないってどうよ?」
「て、テメェ!言わせておけば!!」
青年の言葉に激昂した男は青年の胸ぐらをつかみ、そのまま殴りかかろうとする。瞬間、青年の持っていた筒状の道具から黒いエネルギー弾が放たれ、それが男の胸を貫いた。
「ガッ!?」
「あーあ、別に殺す気なかったのに。ま、先に手を出してきたのそっちだし、弱っちいの悪いね」
そのまま地面に倒れこんで絶命した男を一瞥した青年はどこからか通信用の端末を取り出し、その電源を入れた。
「ハロー、こちらディズ。大方終わったって」
『そうか。ご苦労。ではデータを』
「もうそっちに送ってる最中。生憎オーブダーク・ツヴァイの戦闘データは少量しか採れなかったよ」
『データ自体はあるんだな?なら構わない。泳がせているうちはいくらでもチャンスはあるんだからな』
「そういうことで。あ、そうだ。あんたに貰ったこれ、使うチャンスなかったわ。また次回かな」
『そうか。それの戦闘データも欲しいことには変わりない。チャンスがあれば存分に使ってくれ』
「はいよ」
その言葉と共に青年、ディズは通信を切る。
「さてと、新しいおもちゃは上々。これからが楽しみだ」
不敵な笑みを浮かべ、ディズはその場を後にした。
新キャラ登場!でも本格的に物語に絡むのはまだ先の模様……。
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新たな依頼
報酬をもらったザイトとトルテはペンドラゴンの中でこのターミナルを出発する準備を始めていた。
「いやー、思わぬ収穫だったね。しばらく仕事しなくてもいいかも」
「まあだいぶ余裕はできたな」
「でもなんであいつらあんなに武装が整ってたんだろう」
「気にはなるが別にそう言うならず者がいないわけじゃない。この施設に何かしらあって奴らを雇った連中が装備を提供するなんてこともないわけじゃないからな」
確かに妙ではあったが、この辺りは辺境だ。はっきり言ってしまえば治安が悪い。武器の流通なども盛んである。それなりに金を出せばそういうこともあるのだろう。荷物を整理しながらそんなことを話していた二人は船に手を振っている人物がいることに気づく。知っている人物だった。
「あれ? あの人ってカフェの」
そう、ニュイと呼ばれていた女性だ。
「どうしたんだろ。ちょっと話してくるね」
「……」
そう言って外に出ていくトルテを見送ったザイトはまた厄介ごとでも持ってきたのかと小さくため息をついた。
そうしてしばらく話していたトルテが戻ってくる。どうやら予想は見事に的中してしまっていたらしい、まったくもって理不尽なのだがそうなってしまった以上話を聞くほかない。
「なんか、トートルターミナルまでの護衛を頼みたいんだって」
「トートルというとここから少し距離があるな」
「うん、確か惑星内のターミナルで結構大きなところなんだよね」
「なんだってそんなところに」
「元々お店はそこにあってここしばらく頼まれてここで営業してたんだって。で、こんなことがあったから一旦戻りたいそう」
「なるほどな……」
筋は通っているように思える。詳しくは本人から直接訊くしかないだろう。できれば無視をしたいという気持ちを抑え彼はとりあえず話を聞くことにする。
「まぁトートルまで行きたいってのは本当なんだけどその前に本命の依頼があるわけで」
場所を変えた先で、などと本人は宣った。大方予想していたことではあったがこの女は厄介事を持ってくるプロフェッショナルか。それとも一応話は聞いてやるかと思っている自分がお人よしなのか。
「メルスって惑星は知ってる?」
「確か、だいぶ前じゃ観光惑星として人気だった惑星だったな」
そしてそんなことはどこ吹く風といった様子でニュイは話し始める。
「そ。私の故郷なんだけどさ、実は今観光どころじゃなくてヤバいんだよね」
「具体的に言え。何がヤバい?」
「……まあそれくらいはいいか。他言無用ね」
そう言ってひと呼吸おいたニュイは、話を続けた。
「侵略用途に使われる植物が星に寄生して、それの対処で手を焼いてるの。すでに根付いてしまった場所をすぐに隔離してどうにかそれ以上の侵攻を防いでる状態」
「……そうか。だが何故俺に?」
「侵略とは言うけど誰が放ったものでもないの。あれは何かしらの事情で破棄されたものが運悪くそこに流れ着いて定着した」
何という確率だろうか。事故にしたってあまりにもタチが悪い。しかしその言葉はザイトの質問の答えになっているわけではない。なので彼は改めて強く言葉を紡いだ。
「もう一度訊く。何故俺だ」
ザイトの言葉にニュイは小さくため息をつくと話を続けた。
「この前の襲撃、君が一番の立役者でしょ。どうやったかは知らないけどあんな装備であの龍みたいなロボットを破壊した。私はその奥の手に期待してる。内容は詮索しないけどやれる?」
「やれるかは実物を見てみないと分からないな」
「まぁそうよね。諸々の詳しい話はメルスについてからでいい?勿論その後に断ってもらっても構わない」
「いいだろう。あの子はどうする?見たところ出身地が同じには見えないが」
ザイトの言うあの子とはココアの事だ。ザイトやトルテと同じタイプのポピュラーな人型であるニュイと人の要素が強いとは言え獣人であるココアが同じ惑星出身でない可能性が高い。ならば今回の件とは関係ないのではないか。しかしその質問にニュイはあっけからんと答えた。
「あの子は大丈夫。確かにあなたの言う通りなんだけど、他に行くアテもないしね。大きな声じゃ言えないけど孤児なのよ、あの子。たまたま私が引き取ることになって今に至るってね。私も本当は腰を落ち着かせたいんだけどこの件が終わらないとそうも言ってられなくて」
彼女らは彼女らで中々複雑な事情を抱えているようだ。この豪胆さはそういった経験からくるものなのだろうか。なんにしてもまずはメルスについて現状を確認してからだ。そしてもう一つ。
「お前の依頼を受ける際にお前の言う俺の奥の手を決して口外しないならメルスに行こう。それを承諾できないならこの話はこれで終わりだ」
「もちろん、他言無用ってことでそこは信頼してもらって構わないわ」
ザイトの顔をまっすぐ見つめてニュイは宣言する。ならばそのことについては問題ないだろう。ウルトラマンの力を持つということはそれだけで余計なことに巻き込まれる可能性をずっと引き上げてくれる。そんな面倒ごとはご免被るのだ。
「ならいい。それで、いつ出発する?」
「んー準備ができ次第だから早くて今日、遅くとも明日かな」
「なら明日だ。大事なら俺達にも準備がある」
「りょーかい。じゃあ今日はこれで」
そう言って彼らはその場を離れることにした。
ペンドラゴンに戻ったザイトにトルテは少し心配そうに声をかける。
「ねえザイト、あの依頼本当に受けて平気だったの?」
「なんだ?お前は乗り気だったように見えたが、気でも変わったのか?」
「だってザイトこういう内容が不透明なやつ渋るかなって」
「確かに。だが今回はそうも言っていられなくてな」
「というと?」
トルテの質問に少し間をおいてザイトは答えた。
「…少し予感があってな」
「予感?」
「杞憂ならそれでいい」
それだけ話すとザイトはこれ以上このことについて口を閉ざす。そうして二人はペンドラゴンに戻り明日のために準備を始める。
この胸のざわめきは何か。ハッキリと言える心当たりはない。しかし思えば一つ、あるかもしれない。オーブリングNEO。この神秘を模した力が何かを自分に訴えかけようとしているのか。
などと思ってはみたものの、結局は自分の勝手な憶測でしかないのでそれをトルテに言うつもりはない。
「ふーん、変なの」
そんなザイトの態度が気になったトルテであったがとりあえずこれ以上追及するのはやめておく。お互いわずかな疑問を残しながら出発の準備を進めていった。
◆◆◆
次の日。一隻の宇宙船がターミナルを後にする。ザイトたちのペンドラゴンだ。店の設備は向こうの借り物だったらしく彼女らが持ち込んだのは私服などの最低限の私物のみで後は手ぶらだった。なのでもともと貨物船でもあるペンドラゴンなら搭乗員が2人増えた程度十分に賄えるのだった。
旅路に関しては大きな危険はない。一応彼女らの護衛として役割も兼ねているがはっきり言って表向き用の依頼でそんなものは飾りでしかない。
搭乗員が増えたため人員に余裕が増えたトルテはココアとなにやら話始める。実際目的地は設定してあるので自力で操縦しなければならない部分はあまりないので問題はない。それに見張りはザイトとニュイの二人でやっているので人では足りている。
「ねえ、ココアちゃんはニュイさんとどうやって出会ったの?」
不意にトルテがココアに質問を投げかける。ココアはト現在トルテの部屋にいる。部屋といっても激しく飛行することもあるペンドラゴンだ。小物などはほぼ無いといっていい。ベッドに腰かけて話している状態だ。
「それは……。ニュイさんは、ある人に紹介されたんです」
トルテの持ち前の明るさがそうさせるのか、ココアはすでにある程度トルテに気を許しているようだった。特に嫌がる様子を見せることもなく自然に話を始めた。
「ある人って?」
「わたしの命の恩人です。もともとわたしは宇宙を旅してる旅団の中で暮らしてたんです。でも、宇宙海賊に襲われてしまって……」
そこまで言ってココアの顔が曇る。トルテはすぐに自らの過ちに気づいた。デリケートな問題に非常に軽率に首を突っ込んでしまったのだ。トルテはすぐに隣の少女の頭を撫で、落ち着かせてやる。
「ごめんね。ボクが無神経だったよ」
「いえ、いいんです。自分の中じゃもう整理をつけてるつもりだったので…」
うつむきながらされるがままのココアを見ながらトルテは思う。ああ、彼女はなんて強いのだろうと。ここまで聞けばわかる。彼女の仲間は、両親はすでにもうこの世界にはいない。そうして最終的に預けられた先がニュイの下だったのだろう。それまでにどれだけ暮らす場所を変えてきたかわからないが、この幼い少女はそれを整理をつけているつもりだと言ったのだ。それが強いと言わずしてなんだというのか。
「キミは、強いね」
そのことをトルテは改めて口に出す。その言葉が少しでもこの小さな少女にのしかかるものを軽くできると信じて。
「そんなこと、ないです…」
「辛気臭いのはおしまい!!」
そこまで話した瞬間、トルテはずっと気になっていた少女の何とも触り心地が良さそうな尻尾に飛びつく。
「ひゃう!?」
「うーん! やっぱりモフモフ!」
ココアの尻尾を軽く抱きしめながらトルテは表情を緩ませ何とも幸せモードになってしまった。
「これはザイトには一生かかっても味わえない感覚!」
ココア自体尻尾に触られること自体は慣れているのか最初こそ驚いたものの、それ以降は特に嫌がるそぶりも見せず少し恥ずかしそうにトルテの行為を受け入れていた。
そしてトルテの言葉を聞いてココアふと疑問を口にする。
「失礼だったらごめんなさい。トルテさんは、あの人とどうやって出会ったんですか?」
「ザイトと? うーんそうだなあ」
先ほどと同じことをしていることに若干うしろめたさを感じつつもココアは質問を投げかける。その質問に特に気にする様子もなくトルテは普段と変わらぬ様子でかつての出来事を話し始める。
それはまさにザイトがこの少女を助け出した直後の話だった。
というわけで次回二人の出会いのお話になります。
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出会いと、それから
時は遡る。ペンドラゴンとは違う小さな宇宙船の中でザイトはレーダーをしきりに確認しながら操縦桿を握っていた。後ろの椅子に寝かせられている褐色の少女は、後にザイトがトルテと呼ぶようになる少女だった。ボロボロの毛布を上からかぶせられており、寝息を立てている。どうやら呼吸は安定しているようだ。
「………」
脅威が去ったことを確認したザイトは肩の力を抜く。一応目的は達したのだが、依頼主は生死不明になってしまった。死んでいる可能性が高い。依頼主に引き渡すことはできない。ゆえにこの少女の今後を考えなければならないのだ。
後ろの少女に視線を送る。こうなってくると事情に触れずに引き渡す、というのは難しい。しかしこの少女のことをザイトはあまりにも知らない。必要ないと思っていたからだ。
さて、これからどう身を振るべきか。奪われたこの少女を取り返すために奴らが動き出すのはほぼ間違いないだろう。この少女をどう扱うにしてもしばらく辺境で身を潜める必要がある。
「さて、」
ザイトの思考は堂々巡りを繰り返す。そもそもにおいては内側から自分を手引きした依頼主が少女と一緒に行方をくらます手伝いまでが依頼だったはずだ。しかし依頼主はすでにいない。依頼は達成できなかったといっていい。しかしこの少女を放置することもできない。ので、とりあえずは自分が依頼主の代わりに安全な引き取り手が見つかるまでは自分が面倒を見るしかないだろう。
ふと自身の懐にしまってあるオーブリングNEOへ意識を向ける。この少女と、この力と、あの研究所。いったいどんなつながりがあるのか見当もつかないが無関係と言ことはあり得ないだろう。
「ん……」
しばらくして件の少女が目を覚ます。状況を理解できていないのか、意識がまだはっきりしていないのかうつろな目で辺りを見渡す。
「目が覚めたか?」
ザイトの言葉に少女は前の席に座る彼の方へ視線を向ける。言葉というよりは単純に音に反応しただけの様だった。
「だれ…?」
絞り出すような声で呟かれたそれは、ザイトに向けられたものだ。
さて、どう説明したものかとザイトは悩み始める。ずっと意識がない状態で培養液のようなよく分からない液体で満たされている場所に閉じ込められていた彼女がどこまで状況を把握しているのか見当もつかない。
「オレはザイトだ。自分の名前は分かるか?」
なのでザイトは一番最初に名前から始めることにした。自分の名前を憶えているかどうかは大きい。
「なま……え?」
たどたどしく帰ってくる言葉にザイトは黙って答えを待つ。この少女にも時間が必要だ。
「わか、らない」
「そうか。何か覚えていることはあるか?」
「おぼえてること」
ザイトの言葉に少女は言葉を往復するように答える。
「…………」
先ほどよりも長い沈黙がこの場を流れる。
「トルテ」
「?」
少女の口からぽつりと発せられた単語にザイトは首をかしげる。唐突な言葉だったが、それはザイトにも聞き覚えがあった。トルテというのは依頼主から聞いていたこの少女の名前である。
「自分の名前は思い出したのか?」
「名前……」
どうやら無自覚だったらしい。だが何も思い出せないよりはずっといい。名前というのは大事なものだ。それだけで自身のアイデンティティ足りうる力を持っている。
「とりあえず今はゆっくり休め」
自分の状況を知る時間が必要だろう。そう思ったザイトはトルテに語り掛ける。正直何を言えば彼女が安心するのかなどわからない。なにせ記憶のない相手との会話などしたことがないのだ。しかもこうして最大限気を遣わなければならず、正解は存在しないといっていい。
それでもやらなければならず、それ以外の選択肢もない。
「わかり、ました……」
どうすればいいのかわからない。それはトルテとしても同じだろう。ここから放り出されてしまえば彼女は生きていくことはできない。少し間抜けな言い回しをするとまるで人見知り同士の探り合いの様だった。
再び少女が瞳を閉じたのを確認したザイトも緊張の糸が切れたのか疲れを自覚した瞬間一気に眠気が襲ってきた。
◆◆◆
一夜が過ぎた。今は宇宙を漂っているため昼夜の概念はないのだが、睡眠をとり、起きたという意味ではそう表現できるだろう。先に起きたのはザイトだ。トルテは起きる前と同じように眠っている。
目の前に見えるのは小さな人工物だ。ここに向かうように設定していたので特に驚くようなことはなくザイトは小さく頷いた。
「さて……」
たどり着いたのは無人の小さな中継基地のような場所だった。彼の船以外に止まっている船はない。ここはもう使われていないようだ。
「なるほど、一時的な隠れ家にはもってこいというわけか」
そう。ここはもともと依頼主とともに訪れるはずだった場所だ。元々ここに身を隠すつもりで脱出艇の目標をこの場所に設定指定のだろう。
ライトを手に船から降りた彼は中の設備が生きていないか確認するために歩き出す。
通電していないドアに手をかけ、ゆっくりと開ける。明かりのない部屋は真っ暗であり頼りになるのは手に持っているライトだけだ。
どこかに動力源があるはずだ。そう考えた彼は部屋を見渡しながら先に進む。
「あったな」
放置された動力を発見する。幸い動力の中身もそのままのようだった。これなら壊れていなければ動くだろう。あまり見ないタイプだったが適当にスイッチをいじりながら動作を確認していく。と、そのうちの一つを触った瞬間、それが作動した。真っ暗だった施設内に明かりがともる。
「よし」
このターミナルは電源が動いていなくても人間が普通に活動できる作りになっていたのは幸いだった。気温は低いし酸素も薄いがこれなら真空で活動できない生物でも問題ない。
見通しが良くなった施設をザイトは確認して回る。先んじてある程度の物資が用意されていたのは不幸中の幸いだ。しかしここまで用意周到だとあの男は自身がここにたどり着けるとは思っていなかったように思える。
ある程度探索していくと、先ほど着陸した格納庫とは別の場所にさらに大きな格納庫があることに気づいた。
「これは……」
扉を開けた先に見えてきたのは一隻の宇宙船だった。武装されているが大きさからして貨物船だろうか。円盤型とは違う見慣れないフォルムと外観に興味を惹かれ外観を見渡しながら入り口を探す。
少し探せば入り口はすぐに見つかった。施設と同じでこの船もまだ生きているようだ。彼を認識した扉がひとりでに開く。そのまま中へと入ったコクピットや貨物室、いくつかの個室を確認した彼は生活に必要な設備が一通り揃っていることに気づく。
逃げるための準備は彼の思っていた以上にしっかりとされていた。本来は彼が使うものではないが持ち主はもういない。ならありがたく使わせてもらってもばちは当たらないだろう。
一通り船を確認したザイトは入ってきた扉から外に出る。と、そこで外に出てきていたらしいトルテが自分が出てくるのを待っていた。
「お前」
そもそも船で休んでいろと指示していたはずだが、確かに出るなとは言っていない。
「…………」
何とも不安そうな表情でこちらを見るトルテに彼はなんとなく事情を察する。要は見捨てられてしまうと思ったのだろう。彼女は今右も左もわからない状態だ。そんな状況で一人置き去りにされれば不安にあるもも無理はないだろう。
しかしザイトも彼女の不安を取り除くすべを持っているわけではない。そもそも無垢な少女の相手自体あまりしたことがないのだ。その上記憶喪失とくれば適切な対応などわかるはずがない。
「一緒に来るか?」
ザイトの短い言葉にトルテは黙ってうなづく。親鳥にくっつく雛鳥、とまでは言わないが現状彼女が頼れる唯一の人物が彼であることには違いない。
とりあえずどこかの星で身寄りのない子供を引き取る場所を探して、彼女がその場所を気に入ればそこに預ければいい。そんなことを考えながらザイトは探索を再開した。
大した会話もなく一通りの探索を終えた二人は少ない荷物を元乗っていた船から逃走用に用意していた船へと移し替える。出発する準備を終えたザイトはトルテに向き直り、ある言葉を告げた。
「しばらくはオレと一緒にいるしかないだろうが、お前の生末はお前が決めるべきだ。今のうちに考えておけ」
「……」
ザイトの言葉にトルテは黙ってうなづく。それを確認したザイトは操縦席へと向かい、離陸の準備に取り掛かった。
これが、2人の出会いであり、誰も予想していなかった冒険の始まりだった。
次はもっと早く投稿したい!!!!
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