やさしさの裏側に (カズマ・アーリアン)
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抱える思い
あたしには二人の幼なじみがいる。
1人は、あたしの大切な人──上条 恭介。
バイオリンがとても得意で綺麗な音色……なんだけど、事故で腕を怪我して、入院しちゃって。
今はまだその音色は聞けない。…怪我自体は治ってるけれど、長い間体を動かしていなかったから、リハビリが必要なんだって。
1人は、あたしの頼れる相談相手兼悪友で、恭介の大親友──
そういえば、タケシってあのポケモンのタケシ?……そうだとしたら、女として、色々、負けた…。
本人はいつも否定してるけど、あんなにお節介な人を見たことない。わたしも何度か助けられたし。
あいつがいなかったら、恭介のお見舞いに毎度クラシックのCDばかり持っていってたんじゃないか、って思ったり。…今はやってないからね!?今は…音楽関係のいろんな本、持って行ってる。作曲家の伝記とか、洸がどこからか持ってきた、何か(多分クラシックだと思うけど…)の楽譜とか。…ホントにどっから持ってきたのよ…。
恭介の怪我はあたしが治した。自分の魂と引き換えにして。後悔はしていない。でも──いつ死ぬかも分からない戦いに身を置き続けるのは……辛い。……誰か……助け……
「おーい、さやか!……どうしたボーッとして。なんか変なもんでも食ったか?」
不意に声をかけられる。──洸の声だ。
いつもこういう時に限って、洸は声をかけてくる。
「……ごめん、考え事してた。何かあった時に限って人を気に掛けるなんて、やっぱりお母さんみたいなところあるよね、洸って」
「おいおい、お母さんってなんだよ?せめてお父さんにしてくれ。ま、いつも活発なやつが黙ってたら、誰だって気になるだろう?それより、今日も行くのか?」
「もちろん!行かないわけないでしょ!」
治ったとはいえ、長い入院生活で気が滅入ってるみたいだから、少しでも恭介の傍にいて、癒してあげたい。
……洸と話していると、すぐいつもの調子に戻る。こういうところで、助かってるんだって思う。
「いつものことながら、通い妻かってんだよなぁ……。あまり恭介のことばっか気にしすぎて、成績落としてんじゃねーぞ。小テスト、散々だったらしいじゃんか?」
「うっさいわね、さやかちゃんは本気出せばいい点数だって取れるのよ!…って、誰から聞いたの、その話!」
「鹿目さん。小テスト戻ってきたとき、ひどい顔だったって言ってた」
「うう、まどかぁ……。なんでったって、こいつに言っちゃうのよぉ…。……ってひどい顔って何よ!」
「俺が知るわけないだろ」
ため息をつきながら洸が言う。
洸のテストの点数は高い。恭介も病室で、よく洸の授業?を受けていた。
……高確率であたしも巻き込まれたが。
教え方はとてもうまいのだが、あたしに対しては少しスパルタ気味なのかも?結構みっちり教えてくるから。
これまでの経験(中1の頃、定期テストの度に、教えてもらいに自宅まで押し掛けた)で、あたしに覚えこませるやり方は身に付いたのだろう。
あたしへの勉強会はクラスでも有名らしく、テストでいい点数を取ると、「結城君に教えてもらったの?」は鉄板。
「くうぅ……。まどかめぇ……」
「あんまり鹿目さんに当たるなよ、さやか。……取り敢えず、行くぞ。恭介にノート渡すついでに教えてやるから」
「待って、それだけは勘弁して!!お願い!ちゃんと勉強するからー!!」
「駄・目・だ!…ったく、いつもそれだな?何度言われようとやるもんはやる。覚悟しとけ」
「そんなぁ……」
これから恭介の病室で勉強会……?き、気まずいよぉ……。
恭介の病室のドアを洸がノックし、
「よ、調子はどうだ?」
と洸が入る。
あたしも、
「やっほ、恭介」
と続いた。
「洸!それにさやかも!いらっしゃい。今日は2人揃って来たんだ」
「まあな。さやかが小テスト散々だったって言うから、お前にノートを渡すついでに教えてやろうと思ってな」
「なんで今言うのー!!」
「ふふっ、なるほどね。点数落ちちゃったら仕方ないよ。さやか、頑張って」
「うそー!?援護なし!?」
「病室で騒ぐな、アホ」
「あうっ」
おでこにパチンってデコピンを食らった。
少し痛い。…赤くなってないといいなぁ。
……でも、いきなり攻撃とか、理不尽。
「なにすんのよ!痛いじゃない!」
「…もう一発…いくか?」
「すいませんでした」
「分かればよし」
「あははははっ!相変わらず弱いねぇ、さやかは」
「確かにな!もう少し耐性つけたほうがいいんじゃね?」
「うう……」
「……やりすぎたな、わりぃ。反応がいいからつい、な」
「ごめん、笑いすぎちゃったね。本当にごめん」
「だったら最初からやらないでよっ」
出会ったころから、洸に対しては弱いあたし。
まるで親に叱られる子供の様で、心外だとも思うが、いまさら言ったところでどうしようもない。…だって、母ってあだ名があるくらいだし、今更だよ。
でも、あんまり弱いのも考え物かなぁ……。
目の前で楽しそうに話してる幼なじみ2人を見てると、心の中に温かいものが広がるけど、
でも、あたしは恭介が笑っていられる光景を見るために戦いへの道を選んだんだ。──だから、
まだ少し痛いおでこをさすりながら、あたしが願うのはよくないのかなとも思ったけど、こんな時間がずっと続くようにって祈った。
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変わらない思い
僕には2人の幼馴染がいる。
目の前で勉強会をしているこの二人──美樹さやかと結城洸。
さやかはとても優しい子だ。
交通事故で入院している僕のところにほぼ毎日来てくれる。……テスト前とかは来ないけど、たぶん、洸のところで勉強してるのかな。
洸も優しい。話していると、母親と話してるみたいな感じだけれど。
親友としてとても信頼してるけど、僕はそれ以上の信頼も寄せているような気がする。…彼に悪い気はするんだけどね。
そんな彼が特別視してるのが──さやか。
その思われてる当の本人は全く気づいてないみたいだけど。
「ほら、もう解けるだろ。そのページさえ終われば今日は大丈夫だから」
「くっ、…………すみません。わかりません」
「おいおい、分かってなかったんかよ。…前から言ってんだろ。分からなかったら、聞けって。変な意地張るのはやめとけ」
「で、でも……」
さやかは理数系がとても苦手だ。
──僕自身、さやかが理数系でいい点数を取っているのを見たのは数えるほどしかなくて、そのすべてに洸が関わっている。
さやかがいい点数だったときは、「洸に教えてもらったのか?」って聞いてくる人が大半だったからね。…それだけ洸の頭がいいってことなんだろうけど。
「──分からないことは悪いことじゃない。諺に『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』というのがあるんだ。──知らないことを人に聞くときの恥ずかしさよりも、聞かないで知らぬまま過ごすことの方が恥ずかしいから、 知らないということを恥ずかしがったりしないで、素直に聞いて学べって意味があるんだ」
「へぇ、そんなことわざがあるんだ。──いつもすごいよねー、豆知識が。まあ、とりあえず実践してみるよ。……ってなわけで教えて?」
「はいはい、どれ?……ああ、これか。この問題は……」
洸の知識量は凄い。知識の収集や、膨大な知識をを記憶してるっていうのも凄いけれど、それを実際に言って聞かせられることが一番すごいと思う。
──でもまあ、頼られて随分と嬉しそうだな、洸。やっぱり
これまで、大分洸のことを見てきたけれど、さやかといる時が一番優しい顔をしてる。
そういう人がいるって、羨ましい。……でも、なんで2人は付き合わないだろう?
……もしかしてさやかには好きな人がいて、洸はその人とさやかの幸せのために自分の心を封じ込めている…?──洸なら、有り得るね。
……そしたらその相手は……まさか僕?そんな訳…あるかも。
洸が入れる隙間がないってことは、それだけ長く、強く思ってるって事だ。そうなると洸と同じくらい、さやかと一緒にいた人物……僕じゃん。…それは(洸にとって)まずい……。
確かにさやかのことは好きだ。……でも、あくまでそれは友人として。──あまり、恋愛について考えてる訳じゃないけれど。
それに、洸が秘めたさやかへの思いを聞いちゃったから、さやかのことは
「──よし、こんなもんで大丈夫だろ。お、もうこんな時間か…。恭介、すまねえな。長々と」
「結構、長い時間やってたけど、別に気にしないで。怪我が治ったとはいっても、ちょっと暇してたから。それより、もう帰るの?」
「……うう、頭の中を数式が回ってるぅ……」
「数式抜け落ちてるよりかはマシだ。……そろそろ帰るか。これ以上やるとこれまでの事、忘れちまいそうだし、コイツはグロッキーだが、今から帰るぐらいで丁度夕飯も出来てるだろうしな」
「確かに、あまり詰め込みすぎるとね…。さやか、ゆっくり休むといいよ。…おっと、洸は少し待ってもらっていい?2人きりで話したいことがあるんだ」
もし、さっき思ったことが本当だとしたら……僕はハッキリ言わなきゃいけないから。…せめて違ってるとそんなこと気にしないんだけど。
「俺と?分かった。おい、さやか。エントランスで待っててくれるか?」
「ええ!?いいよ、そんなに暗くないから1人でも帰れるし」
「でも、外は暗いし、1人はやめておいた方がいいんじゃない?洸と一緒なら、僕も安心できるし、何かあった時に対処できるからね」
「おい、人をなんだと思ってるんだよ、全く。ま、不審者がいないとも限らんし、一緒の方が何かと楽だろ」
もっともらしいことを言ったけれど、僕的には早くくっついてほしいから、ちょっとだけ嘘ついてしまった。
悪いとは思うけど、後悔はない。
「うーん、2人が言うならそうするよ。そしたらウチと、洸の家に連絡入れておくね。…それじゃあね、恭介。早く腕を治すこと!」
「さやかは無茶言うなぁ…、また来てね」
そういい、さやかが病室から出ていった。
……ここからが本番…だね。
「……で?どうしたんだよ、急に呼び止めて」
「洸。君が告白しないのは、さやかに僕がいるから…。そうだよね?」
「…ああ。そうだな。だから俺はさやかに言わない。これからも」
「それじゃあ、君は幸せになるのかい!?」
「俺は!…俺はお前たちの幸せを望んでる…。…それでいいんだよ」
…ああ、いつもそうだ。いつも君は……自分を犠牲にする。
僕はそんなこと望んでないのに。洸に幸せになって欲しいのに。
「──そっか。ごめんね。呼び止めて」
「おう。…リハビリ、頑張れよ。みんな待ってるからな」
「うん。出来る限り、頑張るよ……またね」
「ああ。またな」
そう言って洸は、病室を出ていった。
……結局、何も言えなかった。僕から言ったところで、きっともう、聞いてくれないだろう。
もし、彼の自己犠牲的な考えを変えることが出来るのは……さやか。君しかいないかもしれない。
だから、救ってくれないか。誰かのために、自分を犠牲にしようとする、心優しい
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