イカれた日防軍技術兵が艦これ世界で暴走するお話 (ねこぽんづ)
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第1話 技術兵、死す!

時は西暦2112年。日本は日本国防軍(通称、日防軍)のクーデターにより混乱状態にあった。

だが、国の未来を憂い、誰もが暗い雰囲気を浮かべる中、1人だけバカみたいに元気な男がいた。

その男は自ら書き上げた設計図を手に、日防軍幕僚本部の廊下を駆け抜けていく。

その顔はクーデターが勃発しているという状況下では浮かべることすら憚られる、

とてもとても明るい笑顔だった。

もはや幕僚本部の誰しもが知っている、()()()()()()()()()()()

この男を説明するにはその一言で充分、否、一言欠けていた。

()()()()()()()()()()()()()()()()鹿()、というのが正しいところだろうか。

ヴァンツァーとは今や戦場の主力となっている人型機動兵器の事で、

高い機動力と汎用性がウリの、戦う場所を選ばない兵器である。

男は『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた扉をノックもせずに開ける。

その部屋は幕僚本部作戦室と呼ばれ、幕僚本部の幹部クラス、

要するにすごい偉い人が作戦指揮を執る場所である。

男は躊躇なく作戦室に入り込み、中でも一番偉い人がいるフロアへと踏み込む。

そこにいたのはクーデターの首謀者にして国防統合軍司令部参謀長官『佐々木 正雄』、

日防軍機動強襲群状況対策課長『黒井 優二』、そして謎の人物『ルカーヴ・ミナエフ』の3人。

いずれも世界の闇の部分にどっぷり浸かりきった顔である。

そんな中にバカみたいに元気な野郎が割り込んできたのだ。

 

「佐々木司令!新しいヴァンツァーの設計図が出来ました!」

「いや待て何故わざわざここまで来た。というかここまでのセキュリティはどうやって………」

「それでですね!このヴァンツァーは『107式 強盾』をベースに装甲を増設し、

さらにローラーダッシュ出力を向上させ防御力と機動力を同時に底上げしたんですよ!」

「おいまずは私の話を………」

「さらにさらに!腕部の射撃安定装置もプログラムの書き換えだけで、

なんと命中精度が40%アップする計算です!」

「だから私の話をだな………」

「しかも!なんとここまでやってもコストは『111式 春陽』より安いんですよ!

いやーここまでコスト下げんのに苦労しましたよ~」

「………」

「というわけで!佐々木司令、このヴァンツァー作る許可をいただきたいッ!」

「………アッソ。モウ好キニスレバ?」

「あざっす!」

 

色々と面倒くさくなった佐々木は投げやりな声で許可を出す。

それを聞いた男は最上級に明るい笑顔で頭を下げた後作戦室を飛び出していった。

 

「………なんかあいつが来ると色々なことがもうどうでもよくなってくるな」

「そ、そうですね………」

 

虚ろな目で投げやりに呟いた佐々木に、呆れ顔の黒井は頷く。

ついでに超合理主義者のルカーヴも便乗した。

 

「私も彼とはできる限り関りたくないものだ………」

 

合理的な理由でしか行動しないルカーヴが、唯一合理的理由がないのに嫌う相手、

それがあの男だった。

男は笑顔のまま設計図を抱えまたも廊下を駆け抜ける。

その様子を見て何かを察した職員は、とりあえず作戦室へ向け合掌した。

そんなことも構わず走る男の名は、『河志名 敬一』。

日本国防陸軍東部方面機甲整備隊第104整備技術隊に所属する技術中尉にして、

いい年こいて自分だけのヴァンツァーを作って無双するという夢を抱く37歳独身である。

 

 

 

「いやー今日はいい日だなー!一発で佐々木司令に許可貰えちゃった♪」

 

吞気にそんなことを言いながら、敬一は基地内の広場を通ってヴァンツァー格納庫へ急ぐ。

一刻も早くこの機体を創り出さねば。本能がそう叫ぶ。

早く作ってくれ!早く戦わせてくれ!設計図の中のまだ見ぬ機体がそう語りかけてくるようだ。

………つまりは重症なのである。

だからこそ、敬一は気付かなかった。足元にポイ捨てされたペットボトルがあったことに。

 

「さあいよいよ製作にとりかかるぞおぉうあぁっ!?」

 

ペットボトルを踏んで盛大につまづく。

倒れる先は、何故か置いてあったコンクリートブロック………の角。

 

「うっそおおんっ!?」

 

敬一は頭から勢い良くコンクリブロックの角に突っ込み、頭を打ち付けて死亡した。

いろいろとやらかしてきた割にはなんとも呆気ない最期である。

ポイ捨てダメ絶対。ポイ捨てしたらこの河志名 敬一(救いようのないおバカ)みたいになります。

よい子のみんなは危ないから絶対マネしないでね☆

 

そんなことはまあともかく、稀代の馬鹿野郎、河志名 敬一はこうして呆気ない最期を遂げた。

が、まさかこのヴァンツァーしか頭にないバカが異世界転生をしようなどとは、

この時誰にも予想できなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2019年4月21日。太平洋、ショートランド泊地周辺海域。

 

「ショートランド泊地、こちら第7哨戒班。定時連絡、異常ありません」

『ショートランド了解。第7哨戒班は第4哨戒班に任務を引き継ぎ、帰投してください』

「第7哨戒班了解」

 

洋上を通信電波が飛び交う。

今日の天気は晴天。海も波が穏やかだ。

空を鳥達が自由気ままに飛び、水面は青い空を映し出している。

その水面上に、4人の少女達が立っていた。

彼女達は『艦娘』と呼ばれる者達で、諸事情から人類と敵対している『深海棲艦』と戦っている。

 

「さて、哨戒任務も終わったし帰ろっか」

 

他の3人にそう言うのは、第7哨戒班のリーダー、特型駆逐艦『吹雪』である。

艦娘とは『第二次大戦時の軍艦の力を持った少女』を指すのだ。

 

「あーあ。今回も敵いなくて退屈だったっぽい~」

 

欠伸をしながらそんなことを言うのは、白露型駆逐艦『夕立』だ。

その言葉を聞いて、睦月型駆逐艦の『睦月』が窘める。

 

「夕立ちゃん、そんな物騒なこと言っちゃだめだよ」

 

そこに、陽炎型駆逐艦『不知火』も加わる。

 

「そうですよ。今の発言を司令に聞かれでもしたら座学研修5時間の刑間違いなしです」

「ざ、座学は嫌っぽいー!夕立もう静かにするっぽい!」

 

そう言って夕立は手で口を塞ぐ。夕立は座学がとっても嫌いなのだ。

不知火は表情一つ変えず呟いた。

 

「………まあ、退屈なのは同感ですが」

「本当!?」

 

口塞いで約5秒でまた喋り出す夕立である。

 

「もう夕立ちゃんったら………」

「まあまあ睦月ちゃん。夕立ちゃんだって悪気があるわけじゃないんだし」

 

吹雪は睦月をそう言って窘める。

その時、吹雪の視界にあるものが映った。

それは、海に漂っている小さい人型の生物だった。

 

「あ、あれは、妖精さん!?」

 

吹雪はそう言ってそれに近付く。他の艦娘達も後に続いた。

そこに漂っていたのは、吹雪の読み通り、妖精さんであった。

妖精さんとは、平均身長10cmで二頭身の人型生命体であり、

どういう生き物かは詳しく分かっていない。

ただ最初に艦娘が出現した時期と出現タイミングが重なっていること、

艦娘やそれに関わる人間には危害を加えない限りは心強いサポートをしてくれることから、

艦娘に関係があるともいわれているが真偽は定かではない。

艦娘達ですら妖精さんがどういう生き物か完全には把握していないのだ。

ともあれ心強い仲間である妖精さんが、どういうわけか海に1人で漂っていた。

気を失っているのか、動く様子がない。

吹雪はそっと手で妖精さんをすくい上げる。幸いまだ生きており、目立った外傷もない。

しかし、違和感もあった。見たことのない服装をしていたのだ。

緑を基調とした色の作業服で、背中に『日防軍 JAPAN DEFENSE FORCE』と書かれている。

 

「どこの妖精さんだろう?って、その前に明石さんに診てもらわないと!」

 

吹雪達はその妖精さんを連れて、ショートランド泊地へと帰還した。

 

 

 

死んだと思ったら見知らぬ部屋のベッドで目が覚めた敬一は、

全く状況が不明なのにも関わらずヴァンツァーの事しか頭になかった。

ヴァンツァーだ!ヴァンツァーを寄越せ!彼の本能がそう叫ぶのである。やはり重症である。

しかしながら体が全く動かないのでおとなしくするしかない。

早くヴァンツァーを弄りたいというのにできない生殺し状態。これが『くっころ』というヤツか。

………ま、多分違うんだろうが。

そんな時、部屋の扉が開いた。今更気付いたがこの部屋はどうも広すぎる気がする。

部屋に入ってきたのは、巨大な人だった。

 

「きょ………巨人だあっ………!」

 

某漫画風に言ってみるがその人物は生暖かい目で敬一を見た。

 

「あ、起きた?」

「野郎今のなかったことにしやがったぞ」

 

ピンク髪のその人物は敬一のネタを華麗にスルーし聞いた。

 

「まあいい。今起きたところですよ。で、ここはどこです?」

「ここは日本海軍ショートランド泊地の工廠だよ」

「は?ショートランド?だったらOCU軍の基地でしょうが。なんで日防海軍が出張ってるんです?」

 

敬一は素直に聞いた。ショートランドには確かに軍基地があったが、

その基地は日本も加盟するO.C.U.(オシアナ共同連合)の海防軍の管轄のはずだったのだ。

するとその人物は戸惑った様子で聞き返してくる。

 

「え?おーしーゆー?なんですそれ?あと日防海軍じゃなくて日本海軍ですよ?」

「はああぁぁッ!?アンタ何言ってんすか!?OCUですよ!?アンタ日本人でしょ!?」

「ま、まあ日本生まれという意味でなら間違っちゃいないけどさ………」

「なーらーわーかーるーでーしょー!?」

「いやわかんない。ていうかあなた妖精さんよね?」

「………はい?」

 

その人物は敬一に鏡を見せた。

そこには全ての女子が見惚れるイケメン技術兵(幻覚)の姿はなく、

代わりに二頭身で身長10cmの謎の人型フシギ生物がいた。

 

「なんじゃこりゃあぁぁッ!?!?」

 

敬一はとりあえず絶叫した。

そして鏡に映ったカレンダーを見て、ここは異世界だと確信した。

だってさっきまで2112年だったのがいきなり2019年だ。異世界転生じゃなきゃ何だというのだ。

あそうかわかったぞこれはなにかのまぼろしだおれはたぶんあたまぶつけてきをうしなってんだ。

………ンなわけねえだろうと、現実逃避しかけた自身の脳みそを叱責する敬一。

 

そこに追い打ちをかけるかの如く、ピンク髪が敬一をデコピンした。

無論彼女にとってはただのデコピンでも妖精さん相手なら負傷してもおかしくない威力だ。

 

「ぺしっと」

「いってえ!」

 

やはり痛かった。つまりこれは現実である。

 

「ま、変なこと言うのはちょっと気になるけど、これからうちで働いてもらうからよろしく」

 

ピンク髪はさも当然の如くそう言った。

 

「………は?」

「あなた見たところ『工廠妖精』の類なんでしょ?なら今日からでも働いてもらうわよ。

何分人手不足でねー、いやー助かるわー」

「おいおいおいおい、何言ってんだアンタ?俺が誰かわかって口きいてん………」

「新人の工廠妖精でしょ?」

「フッ、違うな。俺は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………日本国防陸軍東部方面機甲整備隊第104整備技術隊所属技官、

『河志名 敬一』技術中尉だッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああそう工廠妖精ねわかったわかった」

「オォゥイ!人の話聞いてたかこのアンポン!」

「はいはい後で聞くから」

「それぜってー聞かねえやつやんけ!」

 

渾身の自己紹介すらスルーされお怒りの敬一だが、ピンク髪はどこ吹く風と、

敬一を摘まみ上げる。

 

「ギャーてめー何しやがる降ろせー!」

「はいはい騒いでないでさっさと仕事場へ行きましょうねー。

あ、そうそう。私は工作艦『明石』。ここの責任者やってるからよろしく」

「何言ってんだ全然わかんねえぞ一から説明しろ!あと降ろせー!」

 

ギャーギャー騒ぎつつ、敬一は工廠へと連れていかれた。

こうして敬一は、異世界転生して早々に生活基盤を確保した(?)のだった。

敬一の物語は、ここから始まるのだ。………たぶん。



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第2話 技術兵、見学す!

前回までのあらすじ☆

ヴァンツァー馬鹿は滅びぬ、何度でも(異世界で)蘇るさ!


「だあああっ。つーかーれーたー」

 

夜、割り当てられた仮眠用ベッドに盛大に突っ込み、敬一はため息をついた。

明石(あの憎きピンク髪)に工廠に連れてこられた敬一は、

あの後先輩工廠妖精(先輩とは言ってない)にこってりしごかれ、

半日で工廠妖精の仕事を覚えさせられた。

あ、体が動かなかったのは単に今の体に慣れてなかったかららしい。

仕事とはいっても、そう難しいものでもなかった。

………ただ資材を言われた通りの物を言われた通りの分量で言われた通りの装置に放り込むだけ。

ただそれだけのことである。

 

「ざっけんなよぉ~。何が工廠妖精だぁ~。ただのバイトじゃあねえかよぉ~」

 

高校生のバイトじゃあるまいし、何故こんな作業に従事せねばならないんだと、

敬一は特大のため息をつく。

何より敬一をここまで打ちのめしたのが、『この世界にヴァンツァーがない』という事実だった。

技術者のような面白い仕事がない。ヴァンツァーがない。ついでに自分は下っ端。

今まで霧島重工やイグチと共同での新型ヴァンツァー開発で陣頭指揮をとっていた敬一にとって、

この職場はあまりにも窮屈で色褪せたつまらないものだったのである。

 

「あーあ、つまんねえな~。第一、工廠妖精に外出権限ないとか何なの?

一生ここで死ぬまで働けってことなの?ブラックなの?バカなの死ぬの?」

 

と、あーだこーだとうるさく愚痴を並べていると、ちょうど工廠に誰か来たようだ。

 

「すみませーん。明石さんいますかー?」

「はいはーい!」

 

明石が工廠の奥の自室からやってきた。

工廠の入り口で明石を呼んだのはセーラー服を着た中学生ぐらいの少女だ。

 

「どしたの吹雪ちゃん、こんな夜中に?」

「ちょっと艤装のことで相談があって」

「何々、もしかしてこの前載せた12.7cm連装砲A型改二のこと?」

「ええ。ちょっと砲身の動きが前より遅くなってたり、途中で引っかかったりするんですよ」

 

吹雪というその少女はどうやら装備の不具合について相談しに来たらしい。

敬一は吹雪という名前を聞いて、自身を助けた艦娘の話を思い出した。

作業の合間の休憩時間に、明石が「あなたを助けた艦娘はね、

うちの第7哨戒班で班長やってる吹雪って子なの」という話を敬一にしていたのだ。

 

「そうなの?困ったな、これ中央技術局からテストしてくれって言われてたやつなんだけどな~。

まさか不具合があったなんてどう報告すれば………?」

 

明石がそう言って、吹雪の装備を眺めつつ顔をしかめる。

吹雪もその様子を心配そうに見つめた。

しばらく敬一は傍観していたが、数分経つと気が変わり、仮眠ベッドから起き上がった。

 

「おぅい、お2人揃ってシケた面してどうしたよ?」

「あ、新入り君」

 

名前を憶えてもらえず新入り君呼ばわりで少し腹が立ったがそんなことはどうでもよかった。

 

「あ、あの時の妖精さん!もう大丈夫なんですか?」

「おうよ。で?主砲が動作不良起こしててお困りなんだろ?」

「そ、そうなんです」

「なるほど………」

 

敬一は問題のその主砲を観察し、脳内で問題の解決案をはじき出す。

この男は幸か不幸かこういった技術面においては天才的な頭脳を持っていたのである。

その天才さはあのカッチカチ冷酷合理主義者ルカーヴをして、

「ヴァンツァー馬鹿でさえなければ仲間に引き込むことも検討した」と言わしめるほどである。

 

「よし、これは俺がどうにかしてやろう」

「本当ですか!?」

「もちろん。ただーし、条件がある」

 

先程まで観察をしていた敬一はくるっと回って吹雪と明石に向き直り、言った。

 

「俺にこのショートランド泊地全域を見学させてくれ」

 

2人はそれを聞いて戸惑い、そして明石が聞いた。

 

「別にいいけど、それでいいの?」

「もちろん。それに現場のニーズに即した製品を作るためには現場を知らなきゃならんしな」

「な、なるほど………」

 

敬一は明石の問いに正論で返す。そして、吹雪に案内役を頼んだ。

 

「じゃ、吹雪には案内役やってもらおうかな」

「わかりました!駆逐艦吹雪、張り切って案内させていただきます!」

「いや、そこまでカタくなくていいから」

 

そんなこんなで、吹雪の肩に乗っかり、敬一は工廠を出た。

………つか肩に乗ってるって結構怖えなオイ。

 

 

 

最初に来たのは、艦娘達の寮だった。

 

「ここが私達艦娘が寝泊まりする寮です!」

「結構デカいな………」

 

そう呟き、敬一は巨大な寮の建物を眺めた。

一応この世界がどういう世界かは一通り明石から聞いている。

 

「ええ、このショートランド泊地には駆逐艦39名、軽巡3名、戦艦4名、空母6名の、

合計52名もの艦娘がいますから」

「それって多い方なの?」

「………横須賀や呉等に比べれば少ないです」

「やっぱりね」

 

敬一は予想通りの返答に苦笑した。

いくら艦娘が多いとはいえそれは個人の感想であり、

他の鎮守府(という基地らしい)がこれより所属艦娘が少ないという確証はない。

ましてここが日本海軍の基地だというならこんな辺境に戦力を集中させることもないだろう。

こう見えて日防軍士官学校で参謀課程も履修していた敬一には簡単に予想できることだった。

 

 

 

次に来たのは食堂だった。

 

「ここがみんなで食事をする食堂です!」

「広いなあ………」

 

食堂は広々としていて、テーブル席が多くあった。

今はちょうど夕食の時間なので艦娘が多く賑やかだ。

すると、テーブルの4人席を確保していた睦月が、吹雪を見つけて声を掛けた。

 

「吹雪ちゃーん!こっちこっちー!」

「睦月ちゃん!あ、そうだ!妖精さんも一緒にお夕飯いかがです?」

「そうだなぁ。んじゃお言葉に甘えて」

 

というわけで敬一も吹雪達と一緒に食事をとることにした。

カウンターで注文をして、吹雪は焼き魚定食、敬一は妖精さんランチを受け取り席に向かう。

夕食なのにランチとは一体………。

 

「お待たせー」

 

定食と敬一の載ったトレーを机に置き、吹雪は席に座る。

敬一はトレーから出て、卓上の空いたスペースに陣取った。

 

「「「「いただきまーす!」」」」

 

そう言って、吹雪達は夕食を食べ始める。

敬一もとりあえずチャーハンに食らいつく。

………てっぺんに爪楊枝と紙で作った旗が刺さってるのはいささか気にはなったが。

 

「あ、妖精さん。紹介しますね。私の所属してる第7哨戒班のメンバーの、

睦月ちゃんと夕立ちゃん、それから不知火ちゃんです」

 

吹雪は敬一に第7哨戒班のメンバーを紹介する。

すると夕立がいの一番に敬一に話しかけた。

 

「もしかしてあの時の妖精さんっぽい?」

「妖精さん妖精さんって呼ぶなや。俺にはちゃんとした名前があんだよ」

「じゃお名前聞かせてっぽい!」

 

夕立がそう言うので、敬一は名乗った。

 

「フッ、いーだろー教えてやる。俺の名は河志名 敬一だ。よーく覚えとけ?」

「河志名さんっぽい?」

「ぽいじゃなくて河志名っつー苗字だ」

「河志名さんっぽい!」

「だからぽいじゃなくて河志名だって。断定だから、ぽいとかそういう仮定形じゃねえから」

「すみません河志名さん、ぽいって夕立ちゃんの口癖なんです」

 

吹雪が苦笑しながらそう補足をした。

一方の夕立は何故か上機嫌に「ぽい~♪」とか言ってる。

 

「河志名さんちっちゃくてかわいいっぽい!」

「ちっさい言うな!これでも気にしてんだぞ!」

「ぽいぽ~い♪」

 

そんなこんなで、敬一達は賑やかに夕食をとったのだった。

 

 

 

「で、ここが司令部です」

 

最後に吹雪が案内したのが、赤いレンガ造りの司令部だった。

 

「………旧軍を連想するなぁ」

「旧軍?」

「いんや何でもない。で、確かここの司令官は人間なんだっけ?」

「はい!2か月前に着任した『三河 健人』少佐です。とてもいい方ですよ!」

 

そう言って吹雪は、敬一を司令官執務室まで連れて行った。

扉の前で吹雪は扉をノックし、中から「どうぞー」という声を聞いて、扉を開けた。

 

「失礼します!駆逐艦吹雪、入ります!」

「あ、いらっしゃい吹雪ちゃん」

 

その部屋にいたのは、まったく軍人に向かなそうな好青年風の男だった

優しそうではあるが押しには弱そうで、

それこそ敵の大部隊に取り囲まれたら即刻白旗を揚げかねない感じだ。

要するにへなちょこクソザコ低能友情派ガキンチョといったところだ(個人の感想です)。

まあ、こんなのが軍にいるのも無理はない。

この世界は第二次世界大戦が終結した直後に深海棲艦が出現したらしい。

それから日本は艦娘を仲間にしながら、今までずっと戦争してきたというのだ。

開戦から74年が経過した今でも、深海棲艦と人類との戦争は一進一退の様相を呈している。

 

「あれ?その妖精さんは?見慣れない服着てるけど」

「ああ、申し遅れました。私、河志名 敬一と申します」

 

吹雪の肩から降りつつ、敬一はそう名乗った。

 

「えっ?名前あるの?」

「ええ。もちろん」

「ああ、そう。とりあえずよろしくね。僕は三河 健人。日本海軍少佐だ。ここの提督だけど、

そう改まらなくてもいいよ。なんて呼んでくれても構わないし」

「そうですかでは三河司令と呼ばせていただきます。

私のことは河志名中尉とお呼びください」

「え?中尉?なんで?」

「色々あるんですよ」

 

三河の質問に、敬一は誤魔化して答えた。

 

「あ、ああそう。わかった。これからよろしくね、河志名中尉」

「ええ。こちらこそよろしく。ではこれにて失礼させていただきます」

 

そう言って敬一は吹雪の肩に乗っかった。

 

「では司令官、失礼します!」

 

吹雪は肩に敬一を乗せて、執務室を後にした。

 

「河志名さ………じゃなくて河志名中尉。どうでしたか?」

「別に河志名さんでも構わんよ。そうだねえ、あの司令官は………」

 

敬一は少し考えて、そしてこんなことをほざきやがった。

 

「………メカニック向きかな」

「はい?」

 

吹雪はどういう意味か分からず首を傾げる。

提督がなぜ整備士向きだというのか、わからなかったからだ。

 

「ああ、いや。何でもない。このまま工廠へ戻ってくれ」

「あ、じゃあ………!」

 

敬一は頭をぼりぼりと掻きながら言った。

 

「うん。あの主砲は俺がどうにかしといてやろう」

「ありがとうございます!」

 

吹雪はそう言って、工廠へと足を向けた。

この翌日、吹雪は不具合の解消された主砲を見て、大喜びすることになるのだった。

 

 

 

深夜0時44分。執務室にて。

 

「提督、失礼しますっ!!」

「うおっ!?どしたの大淀さん!?」

 

ノックもせずに扉を開け部屋に入ってきたのは、通信担当の『大淀』だった。

大淀は持ってきた紙切れを三河に渡し、言う。

 

「キスカ島守備隊からの緊急連絡です!

戦艦棲姫3隻を含む敵の大規模艦隊がショートランド泊地へ向け侵攻中、

詳細は不明ですが、戦艦棲姫のほか、最低でも戦艦50隻、正規空母70隻、重巡90隻、

駆逐艦150隻が確認されているそうです!」

「なっ………!?」

 

あまりの数の多さに、三河は絶句した。

確認されている数は最低でも360隻。ショートランド泊地に所属している艦娘の約7倍だ。

ましてここに戦艦棲姫3隻が入るのだ、かなりのどころではない、

質と量をどちらもあわせ持ったとんでもない規模の艦隊がここを目指していることになる。

 

「たっ、直ちに大本営に救援を要請!あと幹部組を集めてくれ!」

「了解しました!」

 

大淀は走って執務室を飛び出し、通信室へと向かった。

幹部組とはショートランド泊地所属の各部隊の部隊長クラスのことだ。

三河は地図を広げ、敵への対処法を考える。敵は1分1秒たりとも待ってはくれないのだ。

 

「(だが何故ここを狙うんだ?ここに大きな戦力がないのはあっちもわかってるはず………)」

 

三河はそう疑問に思ったが、すぐに頭を切り替えた。原因の追究など、後でいくらでもできる。

それよりも、大本営からの増援はいつどれぐらい来るか、敵はいつ来るのか、それが問題だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一次ショートランド攻防戦まで、あと8日。

そして………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァンツァー馬鹿がいろいろとやらかすまで、あと1日。

ここから、艦娘達の人生は、おかしな方向へと曲がっていくことになる。

河志名 敬一(ある1人のイカれた日防軍技術兵)によって………。




次回予告☆

敵の大部隊の侵攻を前にあわただしくなるショートランド泊地。
しかし艦娘達は戦闘開始前から最悪の状況に追い込まれていく。
勝機のない絶望的な防衛戦。
そう誰しもが諦めていた時、1人のバカ野郎が立ち上がる!
果たして艦娘達は、工廠妖精達はこの男の無茶振りに耐えられるのか?
明石の胃袋はこの男の『趣味』に耐えられるのか!?

次回『技術兵、暴走す!』

ヴァンツァー馬鹿に振り回される艦娘達の未来はどっちだ!?



<用語説明>
メカニック

ヴァンツァーパイロットはいくつかの職種に分けられる。
その1つが、本稿にて説明するメカニックである。
メカニックは前衛、後衛を問わない支援職で、戦闘地域にて損傷した味方機を修理する職種だ。
本作では艦娘の艤装も現地で修理できるが艦娘本人の怪我は修復できない設定となっている。


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第3話 技術兵、暴走す!

前回までのあらすじ☆

泊地って、意外と狭い。(あくまで個人の感想です)


翌朝、大本営から送られてきたファックスを読んで、三河は思わず怒鳴り声をあげた。

 

「なんでだよ、くそっ!!」

 

そう叫び、書類を投げ捨てる。

その通達書には、大本営並びに各鎮守府及び泊地、警備府からの増援出動は困難という旨の、

要するに増援はないから自力でどうにかしろという内容が淡々と述べられていた。

三河は頭を抱えて椅子に座る。

 

「僕達は、ショートランド泊地は、見捨てられたのか………!」

 

そんな時、扉がノックされた。

 

「………どうぞ」

「失礼します。提督、今のは………」

 

入ってきたのは大淀だった。どうやらさっきの怒鳴り声を聞かれていたらしい。

 

「………ああ。増援は来ない。大本営はここを見捨てる気だ」

「やはり、ですか………」

 

大淀も悲しそうに俯く。艦隊運用を学んだ大淀なら、今の状況を打破する手段がないことぐらい、

考えずとも理解できた。理解できてしまったのだ。

 

「………大淀さん。幹部組を再度招集してくれ」

「提督………」

 

大淀が顔を上げる。その顔は驚きの表情で、悲しみが混じっていた。

大淀はこの男が何を考えているか、理解できてしまったのだ。

 

「僕はここに残る。けどみんなはそうはいかない。

みんなをここから逃がすためにも、幹部組の子たちに手伝ってもらわないといけないからね」

「提督………。わかりました、直ちに呼集をかけます」

「頼むよ………」

 

大淀は軽く頭を下げ、執務室を出て大急ぎで通信室へと戻っていった。

ここの全艦娘を逃がすとなると、時間的余裕はほとんどない。急がないと手遅れになるのだ。

そして、その一部始終を見ていた者がいた。

その人物、仲間内から『弱気妖精』と呼ばれている工廠妖精は、大急ぎで工廠へと引き返した。

 

 

 

第一次ショートランド攻防戦まで、あと7日。

 

 

 

敬一が工廠の仮眠室からドック整備場広場へ出勤すると、そこでは工廠妖精達が集まっていた。

 

「おい嘘だろ!?増援が来ないなんて!?」

「本当だよ!今朝提督が大淀さんにその話をしてたのを聞いたんだ」

「嘘だろオイ!?このままじゃこんなボロ泊地半日経たずにひねり潰されちまうよ!」

「もうダメだ。上は俺達下っ端を何とも思っちゃいないんだ。俺達このまま死ぬんだ………」

「嫌だあっ!俺まだ死にたくねえよおっ!!」

 

何やら騒がしいと思ったら、増援がどうとか言ってる。

 

「おぉい一体どうしたんだぁ、どいつもこいつもシケた面並べて?」

 

すると弱気妖精が敬一に事情を話す。

 

「1時くらいに幹部組が招集されたのは知ってる?」

「ああ。深海棲艦の大艦隊が攻めてるって話だろ?」

「それを迎撃するために増援が必要だったんだが、大本営が増援出動を拒否したらしいんだ」

 

悲壮な顔でそう言う弱気妖精に、表情一つ変えずに敬一は聞いた。

 

「ふーん。あっそ。で?」

「でって、あっちはこっちの7倍の量なんだぞ!?しかも戦艦棲姫までいるんだぞ!?」

「だから何よ?」

 

敬一のその言葉に、工廠妖精達は言葉を失う。

誰もが、敬一の正気を疑った。中には正気じゃないから落ち着いてられるんだと思う者もいた。

………ちなみに前者はともかく後者はある意味正解である。

そんな工廠妖精達に、敬一は問いかけた。

 

「つーかさ、お前ら恥ずかしくないの?」

「えっ?」

 

いきなり敬一の口から飛び出した言葉に、工廠妖精達は驚き、固まる。

そんな様子などお構いなく、敬一は続けた。

 

「そんなガキみてえに泣き喚きやがってさ、どうなのそれ?見苦しいと思わない?

つーか俺達がまずすべきは自らの未来を憂う事じゃなくて、使える兵器を製造することだろ?

お前ら工廠妖精だろ?何やってんだよ?仕事しろよ、あくしろよ。

いやいっそ作るか新兵器。よし作ろうお前ら手伝え」

 

そう言うと、工廠妖精の長、『班長妖精』が前に出て言った。

 

「いや待て。新兵器なんて作ってる暇なんかないんだ。

そんなことより装備開発を回した方が………」

「そんな産廃(ペンギン)量産してなんになるってんだ?」

「っ………!」

 

敬一に指摘されて、班長妖精は反論できなかった。

工廠での装備開発は艦娘用の装備を開発することを指す。

専用の装置に資材を放り込み、ボタンを押せばはい完成。要はただのガチャだ。

そして装備開発には失敗もあり、失敗するとペンギンのような謎生物が生まれる。

この工廠にある装置は精度が低く、失敗ばかりするのだ。

 

「なあ班長さんよ。あんた何か勘違いしてねえか?

俺は産廃量産より新兵器開発の方が早くて高い効果を出せるつってんだ。

そんな目算すら出来ねえのか?ならその肩書き捨てちまえよ」

 

そう言うと、敬一は全ての工廠妖精へ向け大声で言い放った。

 

「俺が言いてえのは!バカみてえに喚き散らして!新兵器開発という妙案を蹴って!

使えもしねえ愚策に逃げ込もうとしてるお前ら自身が!恥ずかしくねえのかと聞いてんだ!

装備開発なんて資材食うくせにロクなもん出しやしねえ!

にもかかわらずだ!お前らはそれを何十回何百回も回してるし回そうとしてる!

お前らは何か、ソシャゲのガチャに大金つぎ込む廃課金者か!

違うだろうが!お前らは誇り高き日本海軍の一技術職軍人だろうが!

だったら高校生のバイトみてえなことしてねえで技術職としての仕事をしろよ!

兵器を設計し開発し整備し!その製品に責任と誇りを持てよ!

もう一度聞くぞ、お前ら今の自分が恥ずかしくねえのか!

先祖に!子孫に!家族に!友人に!艦娘達に!自分達を信じてくださる国民様に!

 

恥ずかしいとは、思わないのかッ!!!

 

そう言われた途端、工廠妖精達は雷に打たれたかのように、はっとした顔を上げる。

そうだ。自分達は確かに今まで工廠妖精として誇れる仕事をしてなかったじゃないか。

 

「いいかお前ら!選択肢は2つだ!

新兵器を開発し実戦投入してショートランドを守った英雄として称えられるか!

このまま何もせずにあのふやけたパンみてえな情けねえ優男と心中するか!2つに1つだ!

誇りを取り戻し、栄光を手にしたいやつは手ェ挙げろ!」

 

そう敬一が大声で言うと、全員が挙手をした。

 

「あんたの言うとおりだ!誇りを忘れたまま死にたかねえ!」

「どうせこのままじゃ死ぬんだ、あんたに賭けるぜ!」

「ちょうど今の仕事に飽きてたところなんだ、やってやるよ!」

「泊地がダメになるかどうかなんだ!やってみる価値ありますぜ!」

「新入りだけにいい思いはさせませんよ!俺も!」

 

敬一はそれを見て満足げに頷き、宣った。

 

「よおし!ではこれより!我々ショートランド泊地工廠妖精は!

新型兵器『ヴァンツァー』の開発を開始するッ!以後は俺の指示に従うように!」

「「「「「「サーイエッサー!!」」」」」」

 

工廠妖精達の声が、工廠じゅうに響き渡る。

これが、この世界におけるヴァンツァー開発の始まりである。

同時に、河志名 敬一のとんでもない武勇伝の始まりでもあった。

 

 

 

一方、食堂に集められた艦娘は、幹部組からの突然の泊地離脱命令に反発していた。

吹雪も、幹部組に食ってかかった1人である。

 

「どうしてですか!?どうして司令官を置いて私達だけ逃げなきゃならないんですか!?」

「だーかーらー!その司令の命令なのよ!私だって司令置いて逃げたくないわ!」

 

そう答えるのは幹部組の1人で、第1哨戒班旗艦の陽炎型駆逐艦『陽炎』である。

しかし陽炎の答えにも、吹雪達は納得しなかった。

 

「そんなの納得できませんよ!」

 

そう言って、吹雪は司令官執務室へと走っていく。

それを見た他の艦娘達も、その後に続いた。

 

「あ、ちょ、ちょっと待って!」

 

陽炎達幹部組もまた、その後を追った。

 

 

 

執務室へたどり着いた吹雪はノックもせずに扉を開けて執務室に入り込んだ。

 

「司令官!」

「ふぇぁあっ!?な、ナニゴト!?」

 

いきなり突撃してきた吹雪と、その後を追って執務室になだれ込んできた大量の艦娘に驚き、

三河の声は思わず裏返った。

 

「司令官!1人で残るなんて言い出さないでください!私達も最後まで一緒に戦います!」

「ふ、吹雪ちゃん!?で、でも………」

「でもじゃありません!私達はショートランド泊地所属、三河少佐麾下の艦娘なんです!

司令官だけ置いて逃げたら私達はどうやって生きていけばいいというんですか!?」

 

吹雪の後ろから、「その通りです!」とか「最後までお供します!」といった声が聞こえた。

その艦娘達の言葉に、三河は思わず目に涙を浮かべる。

 

「み、みんな………すまない………!」

 

三河は涙を拭い、シャキッとした表情に切り替えて、大声で言った。

 

「よし、みんなの気持ちはわかった!すまないが、一緒に戦ってくれるか!?」

「「「「「「はいっ!!」」」」」」

 

艦娘達は皆、三河の呼びかけに大声で答える。

ショートランド泊地は撤退から徹底抗戦へと方針転換し、

まだ見ぬ深海棲艦の大部隊に対抗すべく、用意を始めた。

 

 

 

明石が少し席を外し、戻ってくると、

何故か工廠は活気付き、工廠妖精達がせわしなく動き回っていた。

そして彼らを仕切っていたのは、あの敬一だった。

 

「ちょっと、新入り君!」

「なんだぉ!?」

 

明石は敬一に聞いた。

 

「ねえこれ何やってんの?装備開発回せって指示出したはずだけど?」

「新兵器作ってます」

「はあ?」

 

明石は思わず声を上げた。

こんな状況下に新兵器開発である。どうせロクなものが出来ないに違いない。

 

「ねえ、そんなことより頼んだ仕事の方を………」

 

しかしそんな明石の言葉を遮り、敬一は大声で言い放った。

 

「うるせえ黙ってろピンキーニート!こっちは泊地の命運にかかわる作業をしてるンだァ!」

 

そう言って、敬一は手にしていた設計図を見せる。

それを読み、明石は最初疑問符を浮かべたが、だんだん内容を理解していくうちに、

その顔色が変わる。

 

「こ、これって………!?」

「これでわかったか!?こっちは忙しいんだ!わかったら黙って空いてる倉庫を貸しな!」

「え、ええ!第5倉庫が空いてるから使って!資材は調達しとく!」

「おうありがてえ!そっちは頼んだァ!」

 

明石は先程とはうって変わり、新兵器開発に協力してくれるようになった。

すでに図面が出来ているならあとは作るだけ。

作ってから不具合が出ても工廠妖精達の技術力ならカバーできる。

何より、これは明石も知らなかったが、この設計図通りにいけば不具合は起きない。

何故ならば、この設計図通りに作ったものが、日防軍に納入されていたからだ。

そんな正規品の設計図にちょっとした工夫をしたのがこの設計図である。

敬一はこの設計に絶対の自信を持っていた。

あとはこれが完成するまでに6日。微調整に1日。ギリギリ間に合うかどうか。

いや、間に合わせるのだ。急げ敬一。全ての同族(ヴァンツァー馬鹿)が待っている。

 

「俺達は止まらねえ。止まるわけにはいかねえ………!」

 

艦娘達のためにも、三河のためにも、この妖精達のためにも、そして自身のためにも。

敬一はますます暴走していくのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァンツァー実戦投入まで、あと7日。




次回予告☆

始まっちゃったヴァンツァー開発!
着々と開発が進む中、遂に深海棲艦大部隊との攻防戦が幕を上げる。
出撃しては負傷して戻ってくる艦娘達、圧倒的物量を前に突破される防衛ライン。
戦闘は早々に、ショートランド泊地の正面海域での決戦にもつれこんでいく。
果たして艦娘達は生き残ることができるのか。
急げ敬一!ヴァンツァーの力を求める者達が君のヴァンツァーを待っている!

次回『技術兵、出撃す!』

ヴァンツァー作ったからには乗らなくっちゃね♪



<用語説明>
ヴァンツァー

今更だが解説しよう。ヴァンツァーとは人型の機動兵器であり、敬一のいた世界での主力兵器だ。
正式名称は『ヴァンダー・パンツァー』。
『MULS-P』規格により他社製のパーツでも自由に組み換え、取り付けが可能で汎用性に富む。
市街地などの遮蔽物のある場所では戦車より優位だが、平野部での正面からの撃ち合いでは、
依然として戦車が有利である。
また、戦闘ヘリもまたヴァンツァーにとっては脅威となりうる。
そのためヴァンツァーは対空戦闘能力も高く設計されている。
敬一はこのヴァンツァーをこよなく愛するが故に日防軍に入隊した。


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第4話 技術兵、出撃す!

前回までのあらすじ☆

そうだ!ヴァンツァーだ!我らにはそれが必要だ!


2019年4月29日午前0時10分。

ショートランド泊地北東約100マイル。深海棲艦第3任務部隊合流地点。

 

「川内より各艦。状況知らせ」

 

盗聴防止のために繋いだ有線通信で、川内型軽巡『川内』が他の艦娘に聞いた。

岩陰に隠れて敵部隊の様子を窺っていた川内は、すでに最低でも駆逐艦50隻、重巡30隻、

戦艦及び正規空母数十隻を確認していた。

 

『神通、異常なし』

『那珂ちゃんも同じく~☆』

『綾波、異常ありません』

『敷波、右に同じく~』

『叢雲、異常なし。全艦配置についたわ』

 

最後に叢雲が確認をして報告した。それを聞き、川内はニッと笑みを浮かべる。

彼女達はショートランド泊地所属の『夜戦遊撃戦隊』と呼ばれる、夜戦に特化した部隊だ。

 

「よし、じゃあここからは無線を封鎖するよ。とにかく敵の戦力を削ぐこと。

戦闘続行が無理そうだったら各自判断で離脱、一目散に泊地に戻ってね。

………じゃ、行きますか!」

『『『了解!』』』

 

岩陰に隠れていた艦娘達が電話線を切り捨て、一斉に飛び出す。

とはいってもまだ探照灯は点けない。素早く、しかし静かに忍び寄っていく。

敵味方共に電探の性能は低く、加えてこの辺りは岩が多い。電探はほぼ使い物にならない。

こういう場合、目視による索敵が主になる。

しかし夜は暗いため索敵が難しく、加えて今の天候は曇り。月明りすらないのだ。

だからかなりの至近距離まで、川内達は接近できた。

 

「よし、今!」

 

川内は敵艦隊にできる限り近付き、探照灯を照射する。

いきなり横合いから眩しい光を当てられ、深海棲艦達は動揺する。

しかしその隙を見逃すような艦娘が相手なのではない。

川内達は怯んだ深海棲艦に対し容赦なく魚雷を放ち主砲をブッ放した。

砲撃は密集していた敵駆逐艦に突き刺さり、一度に数隻もの駆逐艦を鉄屑に変換する。

そして魚雷は容赦なく敵の足元で起爆し、多くの深海棲艦を水しぶきと共に消し去る。

 

「やっぱいいよねぇ、夜戦はあァッ!」

 

夜戦を至上の喜びとする川内は敵艦を次々と沈めながら満面の笑顔でそう言い放つ。

神通達も負けてはいない。撃沈数で言えばどの艦娘も川内と同じぐらいは沈めていた。

やがて敵駆逐艦を40隻ぐらい挽肉にしてやったところで、敵部隊も態勢を立て直してきた。

連携攻撃をし始め、徐々に数の暴力で川内達を追い詰めていく。遂には被弾も出始めた。

そして何より、弾薬も足りなかった。

 

『きゃっ!す、すみません、綾波撤退します』

『あー、こちら敷波。アタシも撤退するよ。弾がもうない』

『くっ………神通、後退します』

 

神通、綾波、敷波が弾薬欠乏や被弾で離脱し始める。

川内、那珂、叢雲で殿をするが、那珂と叢雲も被弾し、大破してしまった。

 

『きゃあっ!ちょ、ちょっとピンチ~。那珂ちゃん後退するね~』

 

那珂は引き際を悟り離脱する。しかし叢雲は一向に引かない。

 

「叢雲!あんたも逃げて!もう大破じゃんか!」

『何言ってんのよ!私はまだ戦える!』

「そんなボロボロな状態で戦えるわけないじゃん!さっさと引け!旗艦命令!」

『くっ………わかったわ。叢雲、離脱します………』

 

叢雲も渋々引き下がり、戦闘海域から離脱していく。

しかしかく言う川内も先程被弾し、中破していた。

艤装も服もボロボロで、川内自身も至る所から血を流している。

だが、多くの同胞を屠られた深海棲艦が黙って見逃すはずもなかった。

 

「ふっ、いいじゃん………なかなか燃える展開じゃん………!」

 

自身を包囲した深海棲艦相手に、川内は手負いにもかかわらず無双した。

この川内はそれだけの実力を兼ね備えていたのである。

しかし川内は優秀ではあっても無敵ではない。

やがて被弾し、遂には大破してしまった。しかし敵に包囲されていて撤退は出来ない。

そんな時、いきなり深海棲艦が攻撃しなくなった。

川内はいきなりの変化を訝しむ。

すると、敵艦が下がり、敵艦隊の中から一際大きな深海棲艦が現れる。

紛れもなくそれは、戦艦棲姫だった。

 

「ははっ………いいねえ………いいじゃん………!」

 

川内は絶望的な状況ながらも不敵に笑って、魚雷を1本取り、クナイのように逆手持ちする。

 

「さあ………夜戦しよ………!」

 

 

 

第一次ショートランド攻防戦において、日本海軍は夜戦遊撃戦隊による先制攻撃を敢行。

深海棲艦に駆逐艦49隻、重巡21隻、戦艦9隻の轟沈と空母17隻の戦列離脱という損害を与えた。

しかしながら、日本海軍側も損害は小さくはなかった………。

 

 

 

2019年4月29日午前5時30分。

ショートランド泊地北東約50マイル。ショートランド泊地第1防衛ライン。

 

「うわぁっ!しょ、消火ポンプが故障!?」

『飛鷹、これ以上はマズい!撤退すべきだ!』

 

敵戦艦部隊の猛攻を前に、第1防衛ライン担当の第3空母強襲戦隊及び第1、第2哨戒班は、

かなりの劣勢に追い込まれていた。すでに大破者9名、中破者3名を出している。

 

「くっ、仕方ないわね………。ショートランド泊地、こちら第1防衛ライン!

敵の攻撃の前に手も足も出ず!損害拡大につき防衛ラインを放棄します!」

『ショートランド泊地了解。防衛部隊は直ちに撤収してください!』

 

 

 

午前5時34分。第1防衛ライン、陥落。

 

 

 

2019年4月29日午前7時50分。

ショートランド泊地北東約25マイル。ショートランド泊地第2防衛ライン。

こちらも同じく、敵部隊の猛攻撃になす術がなかった。

 

「きゃっ!やられました、艦載機発着艦困難です!」

『こっちも甲板やられた!翔鶴姉ぇ、そろそろ撤退した方がいいよ!』

「で、でも………」

『私達だけならまだしも、他の子達もほとんど大破してる!これ以上は無駄だよ!』

 

第2空母強襲戦隊の翔鶴型空母『翔鶴』は、妹の『瑞鶴』の言葉で気付いた。

すでにほとんどが大破しており、他もすべて中破していた。

 

「………そうね。ショートランド泊地!こちら第2防衛ライン!

翔鶴及び瑞鶴が大破!艦載機運用は不能!駆逐艦もほとんどが大破!

戦闘続行不可能、第2防衛ラインを放棄します!」

『ショートランド泊地了解!撤収してください!敵がもうすぐそこまで来てます!』

「了解………きゃあっ!」

 

逃がさないとばかりに翔鶴に砲撃が殺到する。

 

『翔鶴姉ぇっ!!』

 

砲撃によって出来たいくつもの水柱に、瑞鶴は突っ込んでいった。

 

 

 

午前8時10分。第2防衛ライン、陥落。

 

 

 

そして、遂にこの時が来てしまった。

2019年4月29日午前11時30分。

ショートランド泊地正面海域。ショートランド泊地最終防衛ライン。

日本海軍側は第1空母強襲戦隊、戦艦打撃戦隊及び、第5、第6、第7哨戒班の計22隻。

これに対し深海棲艦側は第1、第2、第3任務部隊の残存艦を再編した部隊で、計181隻。

双方には約8倍もの戦力差があった。

しかしながら、ここで屈するわけにはいかない。

艦娘達は所定の位置に展開し、敵部隊を待つ。

 

『ショートランド泊地提督、三河 健人より艦隊各艦に達する。

現在、敵艦隊は南進を進め、当泊地へと侵攻してきている。

我が方の戦力が22名なのに対し敵部隊は181隻。戦艦27隻、空母34隻が含まれる大部隊だ。

だが、我々は屈するわけにはいかない!

深海棲艦のこれ以上の侵攻を阻止するため、我々はここで敵部隊を迎撃する!

全員、必ず敵部隊を退け、そして生きて戻ってきてほしい!

最後に、各々の持つ高名に恥じぬ健闘を期待して、訓示とする!』

 

三河の演説に、艦娘達の士気も高まる。

数で負けていてもこちらは士気と練度で勝っているのだ。

もう敵部隊が見えるようになってきていた。

まるで水平線を埋め尽くさんばかりに押し寄せる深海棲艦の群れは、敢えて最大射程で発砲せず、

命中確率の高い距離まで近付いてから攻撃しようとしていた。

やがて、双方の戦艦クラスが有効射程に入った時、両軍は同時に発砲した。

まるでそれは開戦の狼煙の如く、戦闘開始を全ての艦娘と深海棲艦とに知らしめる。

そして放たれた砲弾は相手側にて炸裂する。

深海側の砲弾はすべて外れ、対して艦娘側の砲撃は2割が命中した。

砲撃の直撃を受けた深海棲艦は、ある者はバラバラに砕け散り、ある者は炎を吐いて沈み、

またある者は被弾しながらも何とか耐えていた。

深海棲艦達は数に任せて侵攻してくるが、その頭上に艦娘の艦載機が飛来する。

第1空母強襲戦隊所属の『赤城』と『加賀』が放った艦載機達だ。

艦載機達は対空砲火を潜り抜け、抱えた爆弾を投下する。

その爆弾はつい先日、ある工廠妖精によって考案、製造されたものだ。

爆弾は一定高度に達すると中から大量の小爆弾をバラ撒いた。

俗に言う『クラスター爆弾』というものだ。

大量の爆弾が深海棲艦に殺到する。

直撃を受けた敵艦隊は怯んだ。が、それだけだった。小爆弾の威力が小さすぎたのだ。

とはいえ炎上する深海棲艦もいたのでまるっきり無駄というわけではなかったが。

やがて戦闘は、正面海域での乱戦、近距離での砲雷撃戦に突入していくのであった。

 

一方、ショートランド泊地工廠第5倉庫では、工廠妖精達がせわしなく動き回っていた。

 

「武器のセットアップ作業急げ!」

「COMの最終調整、1番から4番機までのチェック完了!」

「5、6番機急げ!敵は待っちゃくれないぞ!」

 

工廠妖精達が機体の最終調整をやっているところに、敬一は5人の妖精を連れてやってきた。

この5人は元々は経験の浅い新人の艦載機妖精で、敬一が自作したシミュレーターを使い、

何とか第1線で戦えるヴァンツァーパイロットにしたのだ。

敬一は班長妖精に大声で聞く。

 

「おやっさん、状況はどうだ!?」

「おお、河志名!1番機から4番機は最終調整が済んだが、5、6番機がまだだ!」

「急いでくれよ!」

「わかってる!って、その格好、お前も戦うのか!?」

 

班長妖精は敬一の服装を見て驚いた。

敬一が着ていたのがヴァンツァーパイロット用の戦闘服だったからだ。

ちなみにこのパイロット用戦闘服はU.S.N.(ニューコンチネント合衆国)という国のものをモチーフにしている。

OCUの敵国であるUSNのものを日防軍技術兵の敬一が作るのも本来なら憚られたが、

生憎ここは異世界。OCUもUSNもない。

ならカッコイイやつを好きに作ったっていいじゃん、ということである。

 

「班長!5番機と6番機、最終調整終わりましたっ!」

「よおし!河志名、準備完了だ!」

「ありがとおやっさん!『特機小隊』、出るぞ!」

「「「「「サーイエッサー!!」」」」」

 

そして敬一とパイロット妖精達はそれぞれの機体に乗り込んでいく。

コクピットのコンソールに光が灯り、機体が起動を開始する。

同時に各機のカメラアイも輝きだす。

 

「どけぇ!ヴァンツァーが通るぞ!」

 

班長妖精がそう言って、工廠妖精達を通り道から退避させる。

起動したヴァンツァー達が、ハンガーから離れ、倉庫内を歩いて、搬入口へと向かった。

 

 

 

外では戦況が悪化していた。

すでに半数近くの艦娘が大破して泊地に戻ってきている。

もはや戦闘は泊地から見えるところで起こっていた。

 

「電、大丈夫よ!雷が付いてるから!もうちょっと我慢して!」

「は、はいなのです………」

 

大破し重傷を負った特型駆逐艦『電』を、同じく特型駆逐艦『雷』が担いで運んできた。

しかし、戦闘に参加していた深海棲艦の戦艦がその2人を見つけ発砲する。

砲弾は2人の近くに当たり、電と雷を吹っ飛ばした。

 

「きゃあ!?」

「なのです!?」

 

そんな様子を見ていた妖精達は悔しがった。

 

「くそったれが!」

 

しかしそう言っても解決しない。

そして今までなら悔しがるだけで何もできなかっただろう。そう、()()()なら。

後ろの倉庫の搬入口から、大きな機影が独特な足音と共にぬっと姿を現す。

振り向いた妖精達はそれを見て、「頼んだぞーっ!」と声を上げる。

その機体、ダークグリーンで肩に日の丸と『日防軍』というマーキングの入った、

『107式LW 強盾軽量型』は、それに答えるかのように、ローラーダッシュで一気に飛び出す。

その後を追って、2機の『107式 強盾』と、同じく2機の『109式 炎陽』が出撃していった。

 

そう、彼ら(妖精達)はもう、無力ではない。

もう、黙って守られるだけの存在ではない。

 

 

 

彼らには、『ヴァンツァー(誰かのために戦う力)』がある。




次回予告☆

遂にその姿を戦場に現した人型機動兵器、ヴァンツァー。
元の機体より相当小さくなってるが戦闘能力は健在なその兵器は、
劣勢な艦娘達を助け、深海棲艦に次々と襲い掛かる。
果たして、敬一達はショートランド泊地を救うことができるのか。
ヴァンツァーの戦闘力は、深海棲艦に通用するのか。
そしてヴァンツァーは、持たざる者の力となることができるのか………。

次回『技術兵、奮闘す!』

ゲームとかで無双してると飽きてきたりするよね。



<用語説明>
107式LW 強盾軽量型

イグチ製ヴァンツァー『107式 強盾』の機動力強化プランの一つとして設計されていた機体。
ジェネレーターをそのままに機体全体の装甲をそぎ落とし、軽量化により機動力向上を試みた。
そのため余剰出力をローラーダッシュに振ることができ、結果として機動力が大幅に向上した。
余剰エネルギーが多いので近接格闘に強いが、前衛なら一通りはこなせる機体である。
その優秀な機体性能から、日防軍の一部部隊で採用されていた。



107式 強盾

イグチ製ヴァンツァー。汎用型だが中でも射撃能力は高く設計されている。
日防軍やOCU軍に制式採用されていたが、次世代型の『110式 陣陽』が開発されたため、
主力機の座を譲ることとなった。しかし機体性能の高さから今も多くの部隊で運用されている。
本機の基本フレームは汎用性が高く、後のイグチ製ヴァンツァーにも応用されている。



109式 炎陽

霧島重工製ヴァンツァー。高出力型で後方支援向きの機体。
強盾と同じく日防軍及びOCU軍で採用されている。後方支援機としては現役。
長く運用されていることから、霧島重工製ヴァンツァーの性能の高さを示す機体として名高い。


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第5話 技術兵、奮闘す!

前回までのあらすじ☆

さあ行こう ヴァンツァー乗って 戦場へ


泊地の倉庫から飛び出したヴァンツァー5機とは別に、

『イグチ5式』ライフルを携えた強盾が1機、倉庫の屋上に登っていた。

 

「シール3よりシール1。配置着きました」

『シール1了解』

 

そう無線で短いやり取りがされる。

一方で海岸に向かって真っ直ぐ突っ走っていた強盾軽量型のコクピットで、

シール1こと敬一は怪しげな笑みを抑えられないでいた。

 

「ふっ。ふふふっ。ふーあははははははははァッ!」

 

オープンチャンネルの無線から聞こえるその不気味な笑い声に、

艦娘達は動揺しても妖精達は動じない。

敬一の頭がいかにおかしいかは身をもって体験済みだからだ。

そんなことなど知らぬかのように、敬一は笑いながら言う。

 

「よーやくこの日が来たぞ野郎どもォ!念願の!ヴァンツァーで!戦う日が!

どれほど待ち遠しかったことかァー!!」

 

そう叫び、強盾軽量型は遂に岸壁から飛び出し、海にダイブする。

本来のヴァンツァーならこれでお亡くなり確定だろう。しかしこの機体は違う。

敬一はこの世界の戦闘に合わせ、ヴァンツァーという枠組みそのものにも手を加えた。

変更点は2つ。妖精さんが乗るため人間の腰ぐらいまで小型化された機体であるということ、

そして、ホバー脚を使わずとも洋上で浮くことができるということだ。

前者は単に敬一が乗り回したかったからというだけである。

後者は、敬一が艦娘の艤装に着想を得て発明した、『概念航行』を実装したためである。

せっかくの人型機動兵器なのに、深海棲艦と近距離で殴り合えないなんてつまんない。

そう思った敬一は、艦娘が洋上を航行するのに使っている原理を応用した。

その原理は『装置に別のものの概念を付与して使う』という方式である。

艦娘達が履いている靴も、船に働く浮力と、スクリューによる推進力が、

『概念』として付与されているのだ。

それを応用すれば何とかなるんじゃね?

という無謀な試みの結果完成したのが、『概念航行システム』である。

これを搭載することにより従来と全く変わらない状態でありながら、

洋上でも戦闘できるようになったのだ。

とはいえホバー脚の方が洋上移動力は高いので、そういった意味ではそちらも重宝される。

いずれにしろこの概念航行のおかげで、飛び込んだ強盾軽量型は浮上し、水面に浮いた。

 

「さすが俺!概念航行システムの設計も完璧だ!」

 

そう自画自賛する敬一。もはや頭がおかしいどころじゃない。重症だ。

同じように水面に後続の4機も降りてくる。

 

「さあーって。シール1より全機。命令内容はごくごくシンプルだァ………」

 

そう言って、敬一はヴァンツァー全機に大声で命じた。

 

「片っ端からブッ殺せィッ!!」

『『『『『サーイエッサー!』』』』』

 

超絶物騒な命令一下、ヴァンツァー各機が散開し、深海棲艦に襲い掛かった。

真っ先に深海棲艦を物言わぬ鉄屑にしたのは敬一だった。

強盾軽量型を急発進させ、前方の敵陣に考えなしに突っ込んでいく。

いきなりの突撃に驚いた深海棲艦達は、相手にしていた手負いの艦娘達を放っておき、

まずヴァンツァーにより編成された敬一達『特機小隊』に狙いを定める。

最初は深海棲艦の、ともすれば艦娘の誰もが、

妖精さんが気まぐれで作った玩具だろうと高を括っていた。

しかし実際は違った。強盾軽量型は深海棲艦の弾幕を掻い潜り、深海棲艦の戦艦ル級に肉薄する。

そしてル級の顔面めがけてパイルバンカー『プレスニードル』を突き刺した。

強盾軽量型の有り余るほどの余剰エネルギーから生み出されるそのパワーは、

ル級の顔面を貫き、跡形もなく粉砕する。

ル級()()()()()が飛び散り、深海棲艦達は混乱した。

何故こんなものがこの世に存在しているのか。

何故こんなものがここにいるのか。

何故こんなものが深海棲艦に有効打を与えられるのか。

そういう疑問が深海棲艦達の脳裏を駆け巡ったが、その頃には突撃してきた強盾軽量型によって、

駆逐イ級3隻がル級の後を追っていた。

さらに勢いをそのままに、強盾軽量型は突進を続ける。

進行方向のものは、強盾軽量型のショットガン『ジリーノ』によって鉄屑と化されていく。

攻撃力の高さと射程の長さが特徴のジリーノは命中率の低さから扱いの難しい武器とされたが、

敬一は完璧に使いこなす。敬一はヴァンツァーの整備開発だけでなく操縦も天才的なのだ。

それこそあの超カッチカチ冷酷頑固合理主義者ルカーヴをして、

「ヴァンツァー馬鹿でなければ(ry」と言わしめたほどにだ。

他の機体も負けていない。前衛の強盾2機はマシンガン『クローニク』で弾幕を張り、

シールド『SP06-SD』を構えて後ろの艦娘達を守りながら戦っている。

炎陽2機は、片方は両肩のミサイル『マジックボックス2B』で前衛を支援し、

もう片方はバックパック(BP)『リペア』で大破した艦娘の艤装を修復している。

そして戦艦クラスや空母クラスを優先して狙撃しているのが、先程屋上に陣取った強盾である。

イグチ5式以外の全ての武器が何故か海外製品を敬一がパクったものだが、

前述(4話要参照)の通りここは異世界。OCUもUSNもECも大漢中もザーフトラもアフリカもない。

そして製造元のディアブルアビオニクスもジェイドメタルライマンもイグチも霧島重工もトローもレオノーラエンタープライズもセンダーもないのだ。

だから怒られないし何作ったっていいだろう。というのが敬一の考えである。

敬一にとってこの異世界は素晴らしい天国だったのである。

何作っても怒られない。自分でヴァンツァーを好きに乗り回せる。

おまけに深海棲艦(いけにえ)もいるから、実戦データも採り放題。最高かよ、艦これ!

そんなわけで、敬一はなおも突進を続ける。

深海棲艦は1匹残らず皆殺し。その方が部下達の経験値にもなるし、実戦データも採れるし。

………と、ここまで考えてふと思った。

これ突進して無双しちゃったらデータ採れなくない?と。

しょうがないから一旦突撃を止めて、とりあえず射程内の深海棲艦をジリーノで挽肉にしていく。

当然だが狙った場所にちゃんと当たった。

 

「………データ採りって意外と退屈なのね」

 

そう呟きながら、敬一はデータ収集に勤しむのだった。

 

 

 

最終防衛ラインで深海棲艦に包囲されていた吹雪達第7哨戒班は、

突然目の前の深海棲艦が謎の攻撃を受け爆発したのに驚いた。

 

「えっ!?な、何!?」

 

見ると泊地の方向から噴進弾のような何か(マジックボックス2Bミサイル)が、深海棲艦めがけて次々と飛来していた。

それに続いて、見たことのない人型機動兵器が5機、深海棲艦を蹴散らしながらやって来る。

なかでも1機、ショットガン(ジリーノ)を持った機体は異常なまでに高い戦闘力で、

深海棲艦を一方的に蹂躙していく。

他の機体もほとんど負けておらず、深海棲艦の攻撃は全く効いていないように見える。

それでいて人型兵器の方の攻撃は深海棲艦の戦艦クラスの装甲さえも易々と貫通し、

艦種に関係なく次々とスクラップに変換していく。

 

「あ、あれは一体………?」

「す、すごい、戦艦が一撃で………」

「どうなってるっぽい………?」

「一体どこの部隊ですか、あれは………?」

 

吹雪達は口々にそう言う。それぐらいに驚異的な戦闘力をその部隊は持っていたのだ。

やがて吹雪達を包囲し、正面海域を埋め尽くさんばかりに展開していた大量の深海棲艦は、

そのほとんどがあの部隊に駆逐され、海面に浮かぶ鉄屑と化していた。

吹雪ら艦娘達は、後にその人型機動兵器の名を知ることになる。

その名は『ヴァンツァー』。

異世界からの転生者、河志名 敬一の作り上げし、人型機動兵器である。

 

 

 

もうほとんどの深海棲艦を殲滅したところで、いよいよ親玉が姿を現した。

巨大な艤装を引き連れた人型の深海棲艦。間違いない、『戦艦棲姫』だ。

しかも艦娘達はその数に驚く。なんと戦艦棲姫が3隻もいるのだ。

ただでさえ1隻でも脅威だというのに、それが3隻。

聞いてはいたが、いざそれを目の当たりにすると、艦娘達の恐怖心が呼び覚まされる。

そしてそれはヴァンツァーに乗っていた新人パイロット妖精も同じだった。

 

『あ、あれが戦艦棲姫………!』

『でけえ………』

『か、勝てるのか、俺達………!?』

 

ヴァンツァーパイロット達ですら無線でそう呟く。

無理もない。もとはこの世界での常識をわきまえた新人ピッカピカの艦載機妖精だったのだ。

怯える部下の様子を見て、敬一は無線で言う。

 

「シール1より各機。このボスキャラ3匹は俺に任せてお前らは雑魚を掃討してろ」

『し、しかし!』

「命令だ。なんかあったら呼ぶ」

『………了解です』

 

そう言って、部下の強盾と炎陽は別の敵を狙いに行く。

一方敬一はまたもや機体を急発進させ、戦艦棲姫に突撃する。

先ずは一番近くにいた戦艦棲姫に近付き、ジリーノを連発で叩き込んでいく。

5発も叩き込めば、戦艦棲姫は全身が穴だらけになっていた。

仲間を一瞬でやられたところを見て、他の戦艦棲姫は警戒する。

2隻の戦艦棲姫はタイミングを合わせて主砲を斉射する。

深海16インチ砲弾が強盾軽量型めがけ殺到し、爆発する。

それを見て、戦艦棲姫達は警戒を解いた。

どれだけ強力な艦娘だろうとあれの直撃を受ければひとたまりもない。

そして妖精さんが作ったものなら艦娘より防御力は低いと考えたのだ。

………しかし、その予想はすぐさま裏切られることになる。

片方の戦艦棲姫の脇腹のあたりから、グシャッ、というグロテスクな音が聞こえる。

戦艦棲姫は恐る恐る自身の脇腹を見る。

その音を出した張本人は、自身の脇腹を深々と突き刺したプレスニードルと、

それを装備した()()()強盾軽量型だった。

敬一が作ったヴァンツァーは、装甲を落とした強盾軽量型ですら、

戦艦棲姫による砲撃の直撃を受けてもビクともしない防御力を有していた。

プレスニードルから打ち込まれた杭は、脇腹から刺さり、戦艦棲姫の心臓を貫通していた。

戦艦棲姫は血を吐く。そこで初めてもう片方の戦艦棲姫が強盾軽量型に気付いた。

戦艦棲姫はすぐさま主砲を向けようとする。

が、それよりも早く、ジリーノの銃口が戦艦棲姫の口にねじ込まれた。

 

「ジ・エンド」

 

そう呟き、敬一は躊躇なく引き金を引く。

ジリーノから放たれた散弾は、戦艦棲姫の顎から上を消し飛ばした。

戦艦棲姫()()()()()は、力なくその場に倒れた。

深海棲艦が誇る3隻もの戦艦棲姫が、たった1機のヴァンツァーの前に屈した瞬間であった。

 

「戦艦棲姫っつっても呆気ないもんだな」

 

コクピットで敬一はそう呟く。その頃には残敵も全て部下のヴァンツァーに掃討されていた。

 

 

 

斯くして、第一次ショートランド攻防戦は日本海軍の勝利に終わった。

深海棲艦側は本作戦に投入した360隻のうち、戦列離脱した空母17隻を除いた全て、

合計343隻を失い、太平洋方面の深海棲艦はその戦力を大幅に低下させることとなる。

何よりも痛手となったのが、戦艦棲姫3隻の喪失であったとされ、以後しばらくの間、

西太平洋方面は極端なまでに深海棲艦の目撃報告が減少したという。

それに対し、日本海軍側は大破者41名、中破者9名、小破者2名を出しはしたが、

奇跡的に轟沈者はいなかった。

そしてこの第一次ショートランド攻防戦をきっかけに、日本は、そして世界は、

ある新型兵器の存在を知ることとなる。

 

人型機動兵器『ヴァンツァー』。

 

MULS-P規格によりパーツ組み換え可能な機構を持ち、高性能なCOMによって制御され、

戦場を高い機動力で駆け回るその兵器は、戦う場所を選ばない。

山岳だろうが森林だろうが市街地だろうが洋上だろうがお構いなし。

高い戦術機動性、戦略機動性と、艦娘以上の装甲、そして強大な攻撃力。

ヴァンツァーは新たな兵器体系として、世界中から注目されることとなる。

もっとも、深海棲艦によって各種物流や情報のやり取りが断絶された現在では、

世界中がヴァンツァーを知るまでにかなりの時間を要することになるのだが、

そんなことはヴァンツァーをこの世界にもたらした河志名 敬一の知るところではない。

敬一はただ、ヴァンツァーを作り、乗り回す。そのためだけに動くのだ。

 

イカれた日防軍技術兵とヴァンツァーの物語は、まだ始まったばかりだ………。




次回予告☆

第一次ショートランド攻防戦の翌日、敬一達工廠妖精はヴァンツァーの本格量産に入っていた。
そんな中、大本営から広報部の艦娘がやってくるという知らせが届く。
回復しきっていない艦娘達、せわしなく動き回る妖精達、
そして新型の人型機動兵器『ヴァンツァー』。
果たして敬一はヴァンツァーをどうするつもりなのか。
敬一のヴァンツァーに対する思いが語られる………多分。

次回『技術兵、語りだす!』

自分の趣味について語ってると時間は早く流れる。



<用語説明>
アサルト

ヴァンツァーパイロットの職種の1つ。主に前衛での中近距離戦闘を担当する。
運用する機体は汎用型のヴァンツァーであることが多い。
敬一の職種もアサルト。



ガンナー

ヴァンツァーパイロットの職種の1つ。主に後衛での狙撃支援を担当する。
運用する機体は射撃精度の高いヴァンツァーであることが多い。



ランチャー

ヴァンツァーパイロットの職種の1つ。主に後衛での重火器による支援を担当する。
運用する機体は支援型のヴァンツァーであることが多い。


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第6話 技術兵、語りだす!

前回までのあらすじ☆

だがそれでも、勝ったのは我々(ヴァンツァー部隊)だ!


雲一つない青空、元気に飛び回る鳥達、どこまでも続く青い海。

………そして鳴り響く銃声と深海棲艦の断末魔。

 

「ザッコwww」

 

コクピットでそう笑いながら、敬一は最後の駆逐イ級をジリーノで挽肉にした。

2019年7月30日午前10時10分、ショートランド泊地北東約13マイルでの出来事である。

第一次ショートランド攻防戦の後、敬一達はヴァンツァーの本格量産へ向け準備を進めていた。

そんなクソ忙しいところに、深海棲艦出没の報を受け、三河から出動を要請されたのだ。

敬一は正しくは日本国防陸軍東部方面機甲整備隊第104整備技術隊の技術中尉なので、

三河に従う理由もなかった。が、ここで下手に逆らえばヴァンツァー量産の夢も潰えるので、

仕方なく出動したのだ。

現在、ショートランド泊地には敬一達特機小隊(後に名称を変更する予定だが)以外に、

すぐさま動員できる戦力が存在しないのである。

なので敬一はいつも以上に攻撃的なのだ。もっとも、ヴァンツァー乗ってる時はいつもそうだが。

 

「よおし皆殺しにしたなァ?さっさと帰るぞォ」

 

怠そうな声でそう言うと、シール2が報告してきた。

 

『隊長、何か妙です』

「どしたァ?」

『敵艦の装甲が堅くなってる気がするんです』

「んじゃサンプル採っとけ」

『了解』

 

敬一の指示で、シール2は敵艦の残骸から装甲材をいくつか採り、持ち帰った。

 

 

 

敬一達が帰投した頃、司令官執務室では三河が大本営からの電話に出ていた。

 

「しょ、ショートランド泊地にですか!?」

 

三河は思わず大声を出してしまう。

電話の相手である『駒田 勘次郎』中将はそんな様子に笑って言う。

 

『そう大袈裟に驚くことでもないだろう?広報部の艦娘が1人取材に行くだけだ』

「………何の取材に、ですか?」

『決まっているだろう?ショートランド泊地は所属艦娘52名。にもかかわらず、だ。

侵攻部隊は360隻もいて、その内343隻を撃沈したんだろう?

どんな魔法を使えばそんな戦果が出せるか、誰だって知りたくもなるさ。

噂によると未確認の人型兵器がいたそうじゃないか?

そのあたりじぃーっくりと、話してもらいたいものだな?』

 

駒田は若干高圧的にそう言う。

この駒田中将は大本営では広報部と軍令部を司る重鎮であり、その権力を振るった横暴が、

大本営内部ではしばしば問題視されていた。

しかし横暴でも誰も文句を言わないのは、ひとえに駒田が憲兵部にもコネがあるからである。

今回もまた、自身に都合のいい情報だけ吸い取ってショートランドを切り捨てるつもりだろう。

三河は駒田とはそりが合わず、度々対立していたのだ。

 

「………わかりました。しかし戦果についてはともかく、

人型兵器についてはご満足のいく答えをご用意できるかは保証しかねますが」

『わかった。では明日、そちらに向かわせよう。取材の結果が今から楽しみだ』

 

そう言って駒田は電話を切った。

三河は苛立ちながらも、駒田の言葉について考える。

噂によると未確認の人型兵器もいたそうじゃないか。この言葉に違和感を覚えた。

噂?どこでの噂だ?目撃者はショートランド所属の艦娘だけのはず。

その艦娘達にも状況確認のため口外はしないよう頼んだ。ならどこから漏れたのか。

 

「まさか………」

 

駒田が命じて、あの戦闘を誰かに遠くから監視させていたのではないか。

その疑惑が三河の脳裏をかすめた。

三河はすぐさま執務室を出て、工廠へと向かった。

 

 

 

吹雪達第7哨戒班は、入渠施設の待合所で入渠の順番待ちをしていた。

第7哨戒班は比較的ダメージが少なく、後回しにされたのだ。

ちなみに吹雪と睦月が小破、夕立と不知火が中破している。

そんな時、夕立が誰にともなく言った。

 

「にしてもあのロボット、一体何だったっぽい~?」

 

その言葉に、待合所の誰しもが反応する。

無理もない。自分達がほとんど手も足も出なかった数の敵を、ものの数分で殲滅したのだ。

誰だってその素性を知りたくもなる。

 

「とても戦闘能力の高い部隊でしたね。しかも連携も取れていました」

 

そういうのは、第1空母強襲戦隊所属の正規空母『加賀』だ。

その顔はいつものようなキリっとした凛々しさはなく、かなりやつれているように見えた。

 

「もしあの部隊がもっと早く来てくれていたら、瑞鶴は、瑞鶴は………っ」

 

やつれている理由はこれだ。

加賀は第2空母強襲戦隊の正規空母『瑞鶴』の教育係も務めていた。

互いの性格から、よく加賀と瑞鶴は口喧嘩ばかりしていたが、

内心では互いに実力を認めあい、尊敬しあう仲だったことは公然の秘密であった。

そんな後輩が第2防衛ラインでの戦闘で消息を絶った時、加賀は通信室に殴りこんで、

大淀に10回も確認させたらしい。

 

「加賀さん………」

 

同じく第1空母強襲戦隊の正規空母で加賀の相棒『赤城』が加賀に寄り添う。

加賀は涙を堪えつつ自らを責める。

 

「いや、私が悪いのよ。私にもっと力があれば、瑞鶴を助け出すことだっててきたのに………」

「思い上がりも甚だしいわね」

「ええ、そうね。私は一航戦の名に甘んじて慢心していたのかもしれない………」

「いやそう言う意味じゃなくて」

「ああ、ごめんなさい瑞鶴。私のせいで貴女は………っ!」

勝手に殺すなバカ一航戦!!!

「えっ?」

 

加賀は俯いていた顔を上げる。

そこにはいつものように口喧嘩モードの正規空母『瑞鶴』がいた。

 

「え?瑞鶴?えっ?」

「ちょっと何よ。人が折角生還報告してやってんのよ。少しは喜んだらどうなのクソバカ一航戦」

 

そう言ってもいつもみたいに言い返してこない加賀に、瑞鶴はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「あ、もしかして加賀パイセン感動のあまり声も出ないんスか~?」

 

と、バカにした口調で煽ってみる。

すると加賀はいつもの言動からは想像もつかないような行動に出る。

泣きじゃくりながら瑞鶴に抱きついたのだ。

 

「うわああああん、瑞鶴うううぅぅぅっ!!!」

「ぐへぁ!ちょ、待って加賀先輩今あばら折れてん………」

「ごめんなさい瑞鶴!貴女を助けてあげられなくて!」

「その前に離れてあばら折れてあだだだだだ!」

「これからは一航戦の名に恥じない活躍をして見せるわ!

だから3年2ヶ月前に勝手に食べたプリン10倍にして返しなさいよ!」

「いつまで引きずってんスかってあだだだだだ!」

「あのプリンだけは特別だったのよ!赤城さんに譲ってもらった大事な1個なのよ!

ここは譲れませんっ!」

「器のちっせえ空母だなオゥイ!」

 

待合所に瑞鶴渾身のツッコミが響き渡った。

 

 

 

三河は強盾軽量型に乗った敬一にイグチ5式で顔面を殴られ、盛大に尻餅をつく。

その三河に、敬一はスピーカー越しに言った。

 

「冗談じゃありませんよ、もう1回言ってみてください。なんですって?」

 

鼻血を軍服の袖で拭いながら、三河は頼んだ。

 

「ヴァンツァー開発を中止して今ある機体と設備を全て破棄してくれ」

 

すると今度は強盾軽量型が左手に握りしめたマシンガン『レオソシアルSD』が火を噴く。

銃弾は1発だけ放たれ、三河の頭の横をかすめた。

 

「おたく………どういう意味かわかって言ってます、それ?」

「わ、わかってるよ。君達の努力の結晶を全て破棄しろって言っていることぐらい」

「じゃ私がどんな返答をするか当然お分かりですよね?」

 

敬一は物凄く冷たい口調でそう聞く。

その時にはすでにレオソシアルSDは安全装置が外れており、三河の眉間に照準されていた。

しかしそれしきのことで屈するほど、三河の意思は弱くなかった。

 

「でも!そうしなきゃならないんだ!そうしなきゃあの子達が………」

「あの子達が、何です?」

「………あの子達が、危害を加えられるかもしれない」

「ほぉう?具体的に誰が誰をいつどうすると仰る?」

「そ、それは………」

 

敬一の質問に、三河は答えに窮した。

危害が及ぶかもしれないというのは三河の確信に近い()()()予感に過ぎない。

そんなもので敬一を説得できるはずもないし、かといって説得できなければ、

待っているのは自分の死と、艦娘達に迫る魔の手。

 

「………わからない」

「そっすか」

「………だけど、誰がそうしようとしているかは見当が付く」

「というと?」

「大本営に広報部と軍令部を束ねる駒田という中将がいる。おそらく彼だ」

「何故駒田中将がヴァンツァーがあるってだけで艦娘達を害すると思われたので?」

「今朝駒田から広報部の艦娘1人がここに取材に来るって電話があって、

その時、駒田が言ったんだ。『噂によると未確認の人型兵器もいたそうじゃないか』って。

艦娘達にはヴァンツァーのことは口外しないよう言ってあるから、

あの子達から漏れたっていうのは考えにくい。

となると駒田が誰か監視要員を送っていたことになると思って………」

「で、ここが監視されている以上ヘタな真似をすれば何かされるだろうし、

かといってそっくりそのままヴァンツァーをくれてやるのも都合が悪い、と?」

「………ああ」

 

敬一はあからさまに腹を立てていた。イラついた声で敬一は三河に聞いた。

 

「………それしきのことでヴァンツァーをすべて破棄しろと?割に合いませんよ少佐」

「君にとってはそうだろうね。でもね、僕にとっては名前と運用用途しかわからない、

得体の知れない鉄の塊なんかより艦娘達の方がずっとずっと大事なんだよ!」

「その大事な艦娘を戦地に叩き出しといてどの口がそれを言いますか?」

 

そう指摘して、敬一の強盾軽量型はレオソシアルSDの銃口を下ろす。

そして三河に背を向けた。

 

「帰ってください。あなたが何と言おうと、ここ(第5倉庫)は私のシマです」

「………」

 

三河はそうきっぱり言う敬一に何も言えず、立ち去るしかなかった。

 

 

 

三河が立ち去った後、第5倉庫は気まずい状態になっていた。

ヴァンツァー開発を主導し、ショートランド泊地を救った敬一か。

ショートランド泊地の未来のために、艦娘達のために頭を下げた三河か。

どちらに付けばよいか、判断がつかなかったのだ。

 

「な、なあ河志名………」

 

班長妖精がそう声をかけた。その班長妖精に、敬一は作業をしながらこう言い放つ。

 

「おやっさん。俺はあんたらに頭下げて協力してくれって言うつもりはない。

あんたらのことはあんたら自身で決めてくれ」

 

敬一は、工廠妖精達が何故気まずくなっていたのかを察していたのだ。

平時ではありえない現象である。

 

「………じゃあ1つ聞いていいか?」

「なんだ?」

 

班長妖精は、敬一にこう問うた。

 

「なんでお前さんはそこまでヴァンツァーにこだわるんだ?」

 

そう言われて、敬一は初めて手を止めた。

しばしの逡巡の後、敬一は第5倉庫の隅にあった休憩用の椅子に腰かける。

 

「………皆になら話してもいいかな」

 

敬一がそう言う。それを聞いた工廠妖精達は作業を止め、その休憩スペースに集まった。

 

「まず、この話をするうえで留意してもらいたい点が2つある。

1つは、この話を一切他言しないこと。

もう1つは、俺が異世界から来た転生者だという前提で話を聞いてほしいってことだ」

 

そう前置いて、敬一は全員の顔を見る。意外と驚く者はいなかった。

まあここまで頭がイカれてればねえ、とでも言わんがばかりである。

 

「なんか皆の視線が痛いがまあいいか。あれは2097年のある夏の日の事だった………」

 

 

 

2097年7月21日。この日、大学4年生だった敬一は何の当てもなく街中を歩いていた。

大学4年生になっても未だに就職先を考えていなかった敬一が両親に、

「今から3週間以内に就職を決めるか家を追い出されて野垂れ死ぬかどっちか選べ」と、

それこそ鬼のような形相で睨まれてから約30分後のことである。

なりたい職業といっても敬一はただ楽してだらりとした生活が送りたいので、

なりたい職業などありはしないのだ。そんな時、事件は起きた。

いきなり大きな銃声が鳴り響いたと思ったら、建物の陰からヴァンツァーが出てきたのだ。

それも1機2機ではなく、少なくとも10機以上。

そのヴァンツァー達は辺り構わずマシンガンを乱射しだした。

落ちてくる薬莢と銃撃の雨が市民を襲う。

 

「じょ、冗談じゃねえよ………!」

 

顔を真っ青にしてそう呟きながら敬一は逃げ出す。

しかしその途中で、逃げ遅れて地面に座り込んで泣いている子供を見つけた敬一は、

立ち止まって悩んだ後、その子供のところへ走る。

子供は5、6歳ぐらいで、よく見ると近くに瓦礫の下敷きになった女性の遺体が見える。

敬一はともかくその子供を抱えて逃げようとした。その時である。

先程まで街中を攻撃していたヴァンツァーの1機が敬一達を見つけてしまった。

そのヴァンツァーは容赦なくマシンガンを向け、銃撃しようとする。

敬一は子供を守るように覆いかぶさり、目をぎゅっと閉じる。

もうおしまいだ。そう思った時、ドスンッ、という重い音が聞こえた。

目を開き、先程ヴァンツァーがいたところを見てみる。

そこには、自分達を銃撃しようとしたヴァンツァーと、それにタックルをかます、

ダークグリーンに日の丸のヴァンツァーがいた。

 

「日防軍………!?」

 

敬一は目を見開く。そこにいたのは日防軍所属の強盾だった。

もっとも、強盾は当時はまだ制式化される前で、

初期ロットの試作機が実験的に配備されていただけなのだが。

その強盾は敵ヴァンツァーにマシンガン『日西90MF』を発砲し、瞬く間にハチの巣にする。

そして敵機の沈黙を確認すると、こちらを向いた。

 

『おい坊主』

 

そう呼ばれて、敬一はビクッと体を震わせる。

最初に感じたのは恐怖心。その次の瞬間には恐怖心は消えて安堵に変わっていた。

日防軍兵士が国民にため口を使うことはあまりない。

しかしこの場合、あの強盾のパイロットの喋り方が敬一を安心させたのは事実だ。

 

『そこの子供を連れて避難しろ。仕事の邪魔だ』

「は、はい!」

 

敬一は子供を連れてその場を走って後にした。

この事件がきっかけとなり、敬一は日防軍のヴァンツァーに憧れ、日防軍入隊。

日防軍ヴァンツァーへの憧れは、いつしかヴァンツァーそのものへの愛に変わっていった。

 

 

 

「………そうして今に至る、というわけだ」

 

敬一はそこまで話し、工廠妖精達に言う。

 

「俺は、ヴァンツァーはただの兵器だとは思っちゃいない。

ヴァンツァーは俺にとっての希望の星なんだ。

戦場で機動性を生かして走り回り、その攻撃力をもって迅速適確に敵を排除し、

味方部隊の士気を高める、他の兵器では真似ができないような凄いものなんだ。

そんなヴァンツァーの開発をこんな所で打ち切りたくはない。

技術兵としても、俺個人としてもな。

だから駒田とやらにも技術を渡して大丈夫だと判断出来ない限りは、

そいつにヴァンツァーを預ける気はない」

「じゃ、じゃあ………?」

 

弱気妖精が聞くと、敬一は缶コーヒーを一口啜って言った。

 

「………ま、駒田とやらにはちょっとした()()を受けてもらうとしましょ」

 

 

 

三河が執務室に戻ってしばらく後、唐突に扉がノックされた。

 

「………どうぞー」

「失礼します」

 

入ってきたのは、明石だった。

 

「あ、明石さん。どうしたんだい?」

「提督に話があって来ました」

「話?僕にかい?」

 

明石は意味ありげに頷いた。

その顔を見て、三河は何か嫌な予感を察知したのだった。

 

 

 

翌朝。ショートランド泊地に、ある艦娘がやってきた。

 

「ここですかぁ。今ウワサのショートランド泊地って」

 

その艦娘はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「スクープのニオイがプンプンしますね!これはこれは、いい取材になるといいな♪」

 

一見吞気そうに見えるその艦娘は、ショートランド泊地の指示で港湾施設に入る。

………駒田中将の密命を帯びて。




次回予告☆

ども、大本営広報部の艦娘Aですぅ!具体的に誰かって?それは言えませんねぇ。
なぜなら次回出てくるからなんです!あ、言っちゃった。テヘッ☆
そんなことはさておき、次回はいよいよ私がショートランド泊地を徹底取材!
三河少佐が見せたくなさそうにしている工廠を覗いたらトンデモナイものが!
バレる秘密!出てきた謎の工廠妖精!いやぁ記事にするのが楽しみです!
どうする三河提督!ショートランド泊地の運命やぁいかに!

次回『技術兵、恐縮です!』

声真似担当の河志名 敬一がお送りしました。


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第7話 技術兵、恐縮です!

前回までのあらすじ☆

「あ、もしもし?オレオレ、オレ(駒田)だけど?
ちょっと職場(大本営)の書類(と興味)なくしちゃったからさあ、取材受けてくんね?」


港湾施設の『艤装準備所』と呼ばれるところで艤装を降ろし、

大本営広報部の艦娘は出迎えてくれた三河にビシッと敬礼して名乗った。

 

「ども、恐縮です!大本営広報部メディア情報課の『青葉』ですぅ!

本日はよろしくお願いします!」

 

元気いっぱいにそう自己紹介した青葉に、三河も敬礼する。

 

「ショートランド泊地提督の三河 健人少佐だ。ようこそショートランドへ。

………ま、特に何もない場所だけどね」

「またまたぁ。そんなこと言っちゃって、

ホントは何かスゴイ秘密兵器でもあるんじゃないですかぁ?」

 

青葉がそう言って茶化す。

経験の浅い三河には、彼女が本気で言っているのか冗談で言っているのか、区別がつかなかった。

 

「………まあ、立ち話も難だし、早速案内させてもらうよ」

「はいっ!青葉、徹底的に取材しちゃいますよぉ!」

 

最初からハイテンションな青葉を連れて、

三河は港湾施設を出てショートランド泊地を案内し始めた。

 

 

 

第5倉庫では、工廠妖精達がいつもよりさらに忙しそうに動き回っていた。

 

「オラ急げ急げ!提督が時間を稼いでる間に片付け済ませとけよぉ!」

 

班長妖精がそう怒鳴り声をあげる。

工廠妖精達は、ハンガーとは別の、研究開発スペースというところを片付けていた。

そこに散らかってる書類は、ほとんどが超が付くほどの極秘資料なため、

例え大本営の艦娘でも見せられないのだ。

そんな時、青葉に悟られぬよう哨戒任務から戻ってきた敬一は、班長妖精に聞いた。

 

「よお、おやっさん。進捗は?」

「あと1分で最低限は整えられるって感じだな」

「じゃ間に合うか」

 

すると弱気妖精がやってきた。

 

「あ、あのぅ」

「何だ?」

「えっと、昨日回収した敵艦の装甲サンプルの結果が出まして」

「うん、それで?」

「えっとですね………」

 

すると弱気妖精は手元の資料を見ながら報告する。

 

 

 

「せっかくだから司令官さんにインタビューしてみてもよろしいでしょうか!」

「………どうぞ」

 

移動し始めて早々にそう言われ、三河は青葉に質問攻めにされる。

 

「ありがとうございます!ではでは、三河少佐はいつこちらに着任されたんですかぁ?」

「2ヶ月前です」

「けっこー最近ですねぇ。軍に入られたのは?」

「2ヶ月前です」

「あ、入隊してすぐに着任されたんですねぇ。志願入隊ですか?それとも徴兵で?」

「後者です」

「ご実家はどちらに?」

「神奈川です」

「ご家族はお元気ですか?」

「全員消し飛びましたよ、大本営直轄の艦娘が撃った誤射でね」

「あーそうでしたかぁ。ご愁傷様ですぅ」

 

顔色1つ変えずインタビューする青葉と答える三河。どちらも目は笑っていない。

 

「ここでの暮らしには慣れましたか?」

「ええ。艦娘の皆のおかげで毎日楽しく過ごしてますよ」

「艦娘がどうやって建造されるか知った時、どう思われました?」

 

そう聞かれ、三河は立ち止まる。

 

「………クソみたいなシステムだと思いましたよ」

「そうですかぁ」

 

三河は率直に感想を述べた。三河は艦娘建造の()を知っていたのだ。

そしてそれを見抜いた青葉もまた、その()の方法で建造された艦娘だった。

その後も各施設の案内の合間にいくつか質問をされたが、

特に深い意味のある質問はなかったのでここでは特記しない。

ただ1つわかったのは、この青葉は人をイラつかせる天才だということだけだった。

 

 

 

三河が青葉の相手をしていた頃、第5倉庫では緊急の報告会が行われていた。

 

「今回の主題は昨今の敵艦の装甲強度及び耐久性についてです。お手元の資料をご覧ください」

 

弱気妖精が司会となってそう促す。集まった工廠妖精達は促されるまま資料を見た。

そこには敵艦の装甲サンプルの写真とグラフ、説明文が事細かく記載されていた。

 

「資料の写真にあるサンプルは、左が従来の駆逐イ級のもの、右が昨日の駆逐イ級のものです。

ご覧の通り外見上、あまり変化はありません。ただし解析の結果、材質に差異が認められました。

従来の装甲材はごく一般的な深海製装甲鉄鋼でしたが、

昨日のものは深海製のチタン合金セラミック複合材を用いた複合装甲であると思われます。

また、装甲面積自体にも差異が認められ、従来の装甲が25cm装甲だったのに対し、

昨日のものは30cm装甲に変更されています。

このことから、深海棲艦は各艦艇の総合的な防御力向上を図っているものと思われます」

 

すると1人の妖精が手を挙げる。パイロット妖精の1人、シール4だ。

 

「その装甲をぶち抜くためにクローニクを何発叩き込めばいい?」

「命中箇所にもよりますが、クローニクの通常弾であれば3発叩き込めば貫通できるかと」

「従来のは何発だった?」

「1発で貫通しました」

「………」

 

その言葉に、シール4は黙り込む。

敵の防御力が単純計算で3倍になっているのだ、無理もない。

 

「とりあえず時間も押しているので後は各自で資料をご確認ください。

以上で報告会を終了します」

 

そこで報告会は終わり、解散となった。

しかしながら、研究開発スペースはざわついた空気のままだった。

椅子に座ったまま、敬一は資料を睨み、不敵に笑みを浮かべる。

 

「………上等じゃないの」

 

 

 

その数十分後、工廠以外のすべてを案内し終えた三河は、

そこで青葉にお引き取り願おうと思った。

が、そうは問屋が卸さない。青葉はやはりこう聞いてきた。

 

「あれぇ?工廠は見せて下さらないんですか?」

 

やはり来たか。内心冷や汗を流しながら、三河は答える。

 

「実はちょっと今工廠はいろいろと立て込んでて、見られるような状況じゃないんです」

「いろいろと立て込んでるんですかぁ。何で立て込んでるんですか?」

「それはちょっとコメントは控えさせてもらおうかな、と」

「ふ~ん………そうですかぁ」

 

そう言うと青葉はいきなり走り出す。目的地は当然工廠だ。

三河も慌てて後を追った。

 

「あ、ちょっと!待てぇっ!」

 

三河がそう言うが、普通この場合待てと言われて待つ輩はいないだろう。

その時、三河は青葉を追いかけながらある違和感を感じた。

どうもあの青葉の身体能力が()()()()のだ。

確かに艦娘の身体能力は生身の人間の比ではない。しかしそれは艤装を装備した時の話だ。

艤装を装備していなければ艦娘はただの少女に過ぎない。

にもかかわらず、あの青葉は信じられない速さでショートランド泊地を駆け抜けていく。

運動にはある程度自信のあった三河もまったく追いつけない。

 

「な、なんだってんだ………!?」

 

三河が追いついたころには、青葉が重い工廠の自動扉を()()()開けた後だった。

青葉はにんまりと怪しげな笑みを浮かべ、呟く。

 

「………青葉、見ちゃいました♪」

 

三河も恐る恐る中を見る。もしあのヴァンツァーや関連施設を見られていたらと思うと、

冷や汗が止まらなくなる。が、その予想はすぐさま裏切られた。

 

「………へっ?」

 

三河は思わずそんな間抜けた声を出してしまう。

そこに鎮座していたのは、確かに腰ぐらいまでのサイズの人型の機械だった。

が、見た目がまったくヴァンツァーのような兵器らしさを見せなかったのである。

黄色のボディ、無防備なコクピット、両腕の作業用アーム、各所に彩られたトラテープ。

………どう見ても作業用である。ヴァンツァーなのかこれ?と言わなかった三河を褒めてほしい。

三河も青葉も知らなかったが、その機体は作業用WAW『ライラス』。

元はイグチが開発した作業用機で、どう見ても戦闘向きではない。

ちなみにWAWというのはヴァンツァーの先祖のようなものだ。

青葉が怪しげな笑みを浮かべ、三河が呆然としていると、そこにもう1機のライラスが現れた。

 

「お、三河少佐お疲れ様です。そこの方は?」

 

コクピットからひょっこり顔を出したのは敬一だった。

なんでお前こんな時に出てきちゃってんのーッ!?と、三河は心の中で絶叫する。

そんな三河の考えなぞよそに、青葉が早速敬一に取材する。

 

「ども、大本営広報部の青葉です!ちょっと取材いいでしょーか!?」

「あ、いいっすよ?」

 

何勝手に許可しちゃってんのーッ!?三河の心の悲鳴が音もなく鳴り響いた。

 

 

 

「こちらがヴァンツァーを開発、格納整備している第5倉庫になります」

 

敬一に案内され、青葉は目を輝かせながら第5倉庫に入ってきた。

その後ろを放心状態の三河が続く。口から魂が出てきてるところを幻視した者もいただろう。

 

「あの!ヴァンツァーって、今乗ってるその黄色いのもそうなんですか?」

「いえ、これは作業用WAWのライラスといいます。WAWってのはヴァンツァーの先祖ですね」

「作業用機ってことですね!これがあれば工廠妖精さん達も整備が楽になりそうですね!」

「ええ。できればこれを量産して各鎮守府に配備させたいと考えております」

 

その発言を聞いても三河はもう動じない。

もうどうにでもなれ~。とでも思っていることだろう。佐々木参謀長の気持ちがよくわかる。

 

「そうなんですか!じゃあこちらのヴァンツァーも量産して各鎮守府に………」

「いや、ないっすねそれは」

 

青葉の言葉を即答で切り捨てる敬一は、逆に青葉に聞いた。

 

「青葉さん。あなた、ここに並ぶヴァンツァー達を見てどう思われます?」

 

青葉は頭上に疑問符を浮かべ、答えた。

 

「兵器ですよね?」

「何のための?」

「そりゃ深海棲艦を殲滅するためのでしょう」

「殲滅した後は?」

 

敬一は先程までとはうって変わり、鋭い目つきでそう聞いた。

青葉はその変貌ぶりに内心驚きつつも舌舐めずりして答える。

 

「国防のために配備しますかね?」

「それならいいんですが、本当にそうですかね?」

「………というと?」

 

青葉が敬一に問う。そこには先程までのような好奇心旺盛な少女はいない。

今この場にいるのはようやく正気に戻った提督(三河)と、ヴァンツァーに情熱を注ぐ技術兵(敬一)

そして、感情のこもらぬ冷たい笑みを浮かべた艦娘(青葉)だけだった。

場を冷たく、暗く、重苦しい空気が包む。そんな中、敬一は言った。

 

「大本営は今回の第一次ショートランド攻防戦の際、増援を一切送りませんでした」

「どこも戦力的に切迫してましたからね」

「本当にそうですかね?なら何故今あなたはここに取材に来ているんですかね?

それも傷一つない綺麗な状態で。戦力的に切迫しているなら、

あなたがここに来た事実とつじつまが合わない。

何故ならば、あなた程の能力を持った艦娘が前線に引っ張り出されないはずがないからだ」

 

そう言って、敬一はライラスの右手で器用に握っていたデジカメを見せる。

青葉が工廠めがけて疾走しているところだった。

 

「艤装なしでこれだけの身体能力、並みの艦娘ではありますまい。

ここまで優秀なら戦力的に切迫している各鎮守府の提督が応援を要請しないはずはない。

にもかかわらずあなたは()()()()()()()かのように今ここにいる。

ええ当然ですよね、何故なら文字通り()()()()()()()のですから。

となると各鎮守府には援軍を送る余力があったことになる。

にもかかわらず援軍の出動は困難だという通達があった。明らかな虚偽通達だ。

それも人の命がかかってるような時にこんな悪質な行為が平然と行われているんです。

青葉さん、頭脳明晰なあなたなら私が何を言いたいかは理解できますよね?」

「………」

 

青葉は黙ったまま何も答えない。敬一もそれを見越していたらしく、

答えを待たずに言い放った。

 

「あなた方大本営は信用ならない。そう言ってるんですよ、私は。

そんな連中にどうしてこんな新兵器を、

既存の兵器体系を揺るがしかねない技術を明け渡さなければならないのですかね?

そこが少々私には理解に苦しむところでしてね、大本営側のあなたのご意見をお聞きするために、

()()()()()()()()()()()()()()

「………すべて計算づくだったと?」

 

青葉はようやく口を開いた。

 

「ええ。あなたが三河少佐を振り切ってここまで来ることも、

ヴァンツァーやWAWをちらつかせればあなたが飛びつくことも、すべて計画通りでした。

さて本題に入りましょうか。青葉さん、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「………」

 

しばらくその空間を沈黙が支配した。

無論これまでの間に、起動済みの強盾に乗ったパイロット妖精達が、

万が一の時に備えて配置を完了している。

やがて青葉が、重い沈黙を破った。

 

「………素晴らしいの一言です」

 

続けて、こんな驚くべき言葉を放った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「………はいぃ?」

 

その答えは敬一にすら予想外なものだった。

青葉は恐ろしいまでに冷たい薄ら笑いを浮かべた。

 

「私はね、妖精さん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




次回予告☆

遂に本性を現した艦娘、青葉。
日本が憎くてしょうがないと言う彼女の言葉に、敬一は艦娘建造の裏の闇を知る。
1人の謎の艦娘の前に、敬一や三河、そしてショートランドの艦娘達は翻弄される。
果たして敬一は青葉の真意を推し量ることができるのか。
三河はショートランドの艦娘達を守り切れるのか。
転生者技術兵、新米提督、謎の艦娘の3つが絡むとき、物語はあらぬ方向へ捻じ曲がる。

次回『技術兵、交渉す!』

青葉の闇の深さに、敬一はヴァンツァー愛を貫き通せるのか。


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第8話 技術兵、交渉す!

前回までのあらすじ☆

ども、遂に本性現した青葉です!意味ありげなセリフを吐きまくりました!恐縮です!


「私はね、妖精さん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

青葉はそれこそ場を凍てつかせるような冷たい笑顔でそう言う。

その時、敬一は青葉の一人称が『私』に変わっていることに気付いた。

そんな青葉は敬一に聞いた。

 

「妖精さん。艦娘ってどうやって増えると思います?」

「確か建造ないしドロップで増備可能という話だったと思いますが」

「ええ()()()()()そうですね」

「………というと?」

「艦娘の建造には裏のやり方があるんですよ。

例えば適性のある少女を民間から徴兵して艤装と適合させたり、とかね。

ですよね三河少佐?ここの艦娘、6割方民間からの徴兵登用組でしょう?」

 

そう聞かれた三河は唇を噛みつつも頷く。三河自身民間から徴兵された提督である。

だから同じく徴兵された艦娘はどうも放っておけないのだ。

そのためショートランド泊地ではそういった徴兵組にも配慮している。

 

「………そうですか。で、それのどこが裏なんです?」

「まあそう思うでしょうね。実際これもまだ()()()ですし。

この方法がマニュアルに載ってないのは単に大本営が公言を避けているからってだけです。

けど、裏の方法はもう1つあるんですよ。なんだと思います?」

「建造担当の工廠妖精に対する賄賂とかですかね?」

「残念ながらハズレです。正解は()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()んです」

 

青葉の言葉に、敬一はいまいちしっくりこなかった。

このもう1つの方法とやらが前述の徴兵方式と何が違うのかわからなかったからだ。

 

「何が違うのかわからないって顔してますね。

じゃあ詳しく説明するためにまず艦娘と艤装についてお話ししましょうか。

艦娘にはそれぞれ艤装との同調率、シンクロ率に個体差があるんですよ。

これが俗に言う『練度』というやつですね。

艤装を使い込めば使い込むほど艦娘と艤装が同調していく。

何故なら艤装が艦娘の性質を学習するからなんです。

艦娘本人にもやはり個人差、個体差はありますからね。

それを艤装側が学習し、それに合わせる形で同調する。これが艦娘と艤装の関係です。

ま、そんなこと知ってるのはごく一握りですがね」

 

青葉がそう説明していくうちに、三河は顔を青くする。

そして三河は少し震えた声で聞いた。

 

「じゃ、じゃあ艦娘は艤装が本体だとでもいうのか!?」

「まあ見方を変えればそうなりますねぇ。でも艦娘本人がいなければタダの鉄屑ですから、

艦娘本人も艤装と対等な位置にありますよ、()()()()()()ね」

 

三河の質問にそう答えた青葉は、再び敬一に話しかけた。

 

「さて、これで艦娘と艤装の関係についてはご理解いただけましたか?」

「ええ」

「ならよかった。ではこの裏の方法がどういう点で裏なのか、お教えしましょう」

 

そう言うと青葉は、近くにあった鋼材の塊を持ち上げる。

すると鋼材に緑色の光が走り、鋼材が()()した。

みるみるうちに鋼材は形を変え、5秒でそれは青葉の艤装の形になっていた。

それを見ていた敬一と三河は、驚愕を隠せない。

 

「どうです?スゴイでしょう?」

 

自慢げに笑う青葉。しかしその笑顔はやはり絶艇零度に近い冷たさを持っている。

 

「艤装なんてものは正直艦娘という運用システム上ではただの外装にすぎません。

それでも艤装が艦娘本人と対等なのはその中に核となるメインコアブロックがあるからです。

じゃあそれを艦娘本人に内包したらどうなるか、やってみたくありません?

少なくともこの国にはそんなことを考え、そして実行したゴミクズが大勢いたんですよ」

「………なるほどね、それで身体改造というわけですか」

 

敬一は今の青葉の言葉で納得した。

艤装側にあるコアブロック。そして艦娘本人へのコアブロックの内包。

この2つの言葉から導き出された答え、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ザッツライト!艦娘と艤装の同調率とはすなわち艦娘本人とコアブロックの同調率なんです。

ならコアブロックを艦娘本人に埋め込んで一体化させ、

内蔵したコアブロックと本人の脳神経を接続させたらどうなるか。

その答えがこれですよ。艤装はもはや力をアウトプットするための装置に過ぎないんです。

そして艤装の設計図はコアブロックに刻み込まれてます。あとはちょっと力を流し込んでやれば、

即席で艤装を作り上げることも、それで戦闘することも可能なんです。

これが、裏の方法で建造された艦娘の力です。

けどこれには1つ問題がありました。被験体の確保をどうするかです。

軍にすでにいる艦娘を被験体にはできませんでした。手続きが面倒ですからね。

新たに建造するという案も一応実行されましたが手術が失敗しましてね。

後でわかったらしいですが本来の方法で建造、ドロップした艦娘に、

人間の医学的な医療行為はかえって逆効果なんだそうですよ。何故かは知りませんが。

そこで大本営お抱えの研究機関は人間の少女を拉致して被験体にしました。

そうして生まれたのが今ここにいる『青葉』なんですよ」

 

青葉の言葉は、その笑顔と相まってその空間を凍てつかせるのには十分すぎた。

敬一も三河も悪寒を感じずにはいられない。青葉の笑みはそれだけ不気味だった。

 

「私は元々千葉県に住んでました。

けど15年前、深海棲艦の奇襲攻撃によって千葉県のいくつかの都市が空爆され、

十数万人もの死者を出しました。

その中に私の家族は全員含まれてました。ああ、表向きには私も含まれてましたね。

家族を1人残らず奪われ身寄りのなかった私はある日黒服の男達に拉致されました。

車に押し込まれ目隠しをされ、気付けばそこは海軍の極秘研究所。

私はそこで人体実験の被験体にされました。

毎日毎日が苦痛の日々。手術の合間の休憩時間にも隣の部屋から悲鳴が絶えず聞こえるんです。

気が狂いそうになったそんなある日のことです。もう被験体が私含め10名程になった頃、

遂に私の地獄は終わりました。

白衣の男の1人が言ったんです。『成功だ』ってね。それはもうすごい喜びっぷりでしたよ。

私は鏡を見ました。そこに写ってたのは()ではなく()()でした。

見た瞬間、私の中にはいろんな感情がごちゃ混ぜに湧いてきました。

私が私でなくなった悲しさ。人を散々苦しめといて成功例を前に歓喜に湧く研究者への怒り。

そして何もかもが信じられなくなった時の万物への憎しみ。

私はそれらの感情に任せて暴れました。幸い力はあったのでね。

白衣の研究者達も、そこらに転がる被験体の死体も、もがき苦しむ他の被験体も、

何もかもが私を憎しみへと駆り立てる。

だから、みんなみーんな、殺しちゃいました。

でもちっとも心は晴れません。なんでだと思います?」

 

敬一にそう問いかける青葉。その顔はやはり不気味な笑みを浮かべたままピクリとも動かない。

その不気味な笑顔が敬一と三河に恐怖心を煽るが、

三河はともかく、敬一はその程度で動じるほどの常識人ではなかった。

 

「日本国が存続していたから」

「ピンポーン!大正解です!あなた話がわかりますねえ。

いいですよぉ、嫌いじゃありませんよぉ、そういう人。

私をこんなにした研究者は全員殺しましたが、それを指示し容認した連中はまだ死んでません。

そんな奴に限って法的な制裁ができない相手なんですから、日本そのものが腐ってる。

根底から、何もかもが、腐ってるんですよ。

国民は何も考えずにのうのうと惰眠を貪り、何もしようとしない。

政治家は人を搾取し、使い捨てることしか考えない。

軍人は自身の利益と保身、階級章の星の数にしか興味がない。

艦娘は国のためと言っておいて平気で仕事をサボる。結果が15年前の千葉大空襲ですよ。

だから私は今のこの国が憎くて憎くてしょうがないんです」

 

敬一の答えを聞いてよき理解者を得たかのように笑う青葉はそう語った。

それを聞き、三河は顔を真っ青にしている。敬一も顔を顰めていた。

そして敬一の脳はその話の信憑性を精査していた。

 

「(さてその話が本当かどうか。

本当だとすればあの無茶苦茶な力も説明がつくし、あの狂気的な目にも納得だ。

だがそれが本当ならどうしてこの青葉は生きているんだ?

普通なら処分されてしかるべきなのにそれを受けていない。バックに大物がいるのか?

ならその大物は一体何者だ?今の日本をよく思わない人間か、あるいは無能か………)」

 

そう考えた時、青葉が敬一達に聞いた。

 

「さて。私のことは結構お話ししましたが、この情報料はサービスしときます。

その上で、1つお聞きします。………私と取引しませんか?」

「取引?」

「ええ。私はあなた方が不利にならないように報告を行い記事を書きます。

その代わりにあなた方の戦力、特にヴァンツァーによる戦力を提供していただきたい」

「断ったら?」

「お互い共倒れです。それはあなた方にとっても好ましくないでしょうし、

私も()()()()()もそれを望みません。どうです?悪い話じゃないと思いますが」

 

青葉はそう言って敬一と三河に近付いた。

三河は滝のように汗を流し、敬一はその脳で何事かを計算している。

 

「………こちらにメリットは?」

「ヴァンツァー開発の全面支援とショートランド泊地の政治的安全、ではご不満ですか?

ちなみに私の雇い主は各方面に人脈がありますし、同じ志を持つ者も大勢います。

ですが如何せん決定打がない状態でしてねぇ」

「それでヴァンツァー戦力が欲しいと?」

「ええ」

 

青葉の提示したメリットは確かに敬一には魅力的だった。

が、しかし、それでも懸念する要素がないでもない。

 

「………3つ条件がある」

「聞きましょう」

「1つ、ヴァンツァーを国民相手に使用しないこと。

2つ、国民に傷を付けないこと。

3つ、この資料を駒田中将に届け、その中身を見た駒田中将の反応を報告すること」

 

そう言って、敬一のライラスは封筒に入った資料を渡す。

 

「わかりました。その条件飲みましょう」

「ちょっと、河志名中尉!?」

 

三河は驚いた様子で固まっていたが、ようやく敬一に声を掛ける。

 

「三河少佐、何かご不満が?」

「あるだろう!こんなところでそんな取引に応じたりしたら………」

「どうもなりませんよ。むしろ好都合だ」

「この青葉の言葉が本当かどうかもわからないんだぞ!」

「嘘言ってる証拠もない。まして嘘をつく理由もない」

「でも………」

「三河少佐。あなたが優先したいのは自身の潔白ですか?それともここの艦娘達の安全ですか?」

「………後者だ」

「なら応じても構いませんよね?」

「ああ………」

「結構」

 

敬一の説得に三河も折れる。敬一は青葉に向き直り言った。

 

「ではショートランド泊地はその取引に応じましょう」

「ありがとうございます。私の雇い主も喜ぶでしょう」

「………ちなみにその雇い主ですが、どれぐらいの地位の方なんで?」

 

敬一はそう聞いた。が、青葉は答えなかった。

その代わりにこんなことを言いだす。

 

「あ、あとこれは個人的なお願いなんですが、ここの川内さんに会わせてもらえません?」

「どうぞ」

 

三河は意外とあっさり承諾した。

ここまで来たらもうどうにでもなれ、という精神である。

 

 

 

入渠施設の病室の1つで入院していた川内は、突然の来訪者にいい顔をしなかった。

 

「川内さーん!おっひさしぶりですぅ!」

 

先程までとは別人のように、いつもの『青葉』に戻った青葉はそう言うが、

川内は目も合わせずに言った。

 

「………帰って」

「もー。つれないですねぇ。少しばかり話聞いてくれたっていいじゃないですかぁ」

 

すると川内は声を荒げた。

 

「うるさい!お前が()()()()で私に何をしたか忘れたなんて言わせない!」

「ああ、あれですか。まだ引きずってんですかぁ、あれはただの事故ですよ」

「うるさいうるさい!とっとと出てけ!二度と来んな!」

 

そんな感じで、青葉は入室1分で追い出されてしまった。

その様子を見ていた敬一がその川内にも興味を持ったことは争われない。

 

 

 

「色々ありましたが、お世話になりました!これでいい記事書けそうです!」

 

そう元気いっぱいにお辞儀する青葉。見送りに来た三河は引き攣った笑顔で応える。

青葉はそのまま大本営へ帰っていく。まるで第5倉庫でのことがなかったかのように。

 

「………どうなるんだ、この先?」

 

三河はそう天を仰いで呟く。

何がどうなっているのかわからないまま、1日が過ぎたようだった。

 

 

 

第5倉庫ではすでに新たな兵器の開発が始まっていた。

無論作られているのはヴァンツァーパーツやヴァンツァー用の武器、さらには新型の弾薬などだ。

敬一が設計図を引いていくたび、工廠妖精達の開発意欲は掻き立てられ、

そのすさまじい情熱をもって瞬く間に新兵器を製造していく。

かなり高度な技術を要するヴァンツァー用アクチュエーターも製造ラインを自動化したので、

今までのように敬一が作る必要がなくなったというのもあってか、

敬一は今まで以上に速く大量の設計図を描き上げていく。

そんな作業をしながら、敬一は脳裏では全く別のことを考えていた。

 

「(さて、今日は交渉としては敗北だったな。最初から最後まで青葉のペースに乗せられてた。

やっぱあの青葉、只者じゃねえな。にしても、あれのバックにいるのはいったい何者なんだ?)」

 

そんな疑問符を浮かべながらも、設計図を引く敬一の手に、設計に狂いはない。

そんなところもまた、敬一が天才と言われる所以だった。

 

 

 

『………ということがあった次第です』

 

電話越しに青葉は、彼女の雇い主にショートランド泊地でのことを説明した。

 

「なるほど。ヴァンツァーを開発し実戦投入した工廠妖精、か」

『結構頭の切れる人でしたよ。さすがの私も脳みそフル回転でした。

もしかしたら雇い主が何者なのか、感付いてたかもしれません』

「それはすごいな。是非とも一度会ってみたいものだ」

『なら頃合いを見てお連れしますよ』

「ああ。ところでもう1つの任務の方はどうなっている?」

『特に問題はありませんでした。佐世保鎮守府の連中は自分達がいかに危険な状況にあるか、

理解できていないようです』

「そうか、わかった。引き続き情報取集を頼む」

『了解です。では』

 

そうして雇い主は電話を切った。

その人物は紅茶を一口飲むと、部屋の窓から外を見て、そして呟く。

 

「ヴァンツァーを作った技術兵、か。河志名中尉じゃないといいが………」

 

その人物のその割とマジで切実な願いは、

無慈悲な現実とヴァンツァー愛によって砕かれるのだった。

 

 

 

同時刻、第5倉庫で敬一は特大のくしゃみをしたそうな。




次回予告☆

最近暴走してない感のある敬一。ストレス溜まって遂にヴァンツァー同士での演習を始める。
そこから好奇心旺盛な艦娘や腕自慢な艦娘までもが参加しだしてもう大変。
そんな中、三河のデスクに魔の手(法外な額の請求書)が迫る。
果たして三河はとんでもない額の請求を支払いきれるのか。
三河の胃袋は敬一達の久しぶりの暴走に耐えられるのか。
………頼むからもう勘弁してくれぇ。

次回『技術兵、演習す!』

『2019年度版三河提督の手記』より一部抜粋。


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第9話 技術兵、演習す!

前回までのあらすじ☆

「私はこの時、愚かにもまだあの大馬鹿者の存在に気付かなかったのである」
ニチボー文庫出版『RE.ゼロから始めた暗躍生活』より一部抜粋。


2019年8月1日。

 

「しっつれいしまーす!青葉、ただいま帰還しましたぁ!」

 

広報部長室に入り、青葉はそう宣った。

駒田はその青葉に報告を求める。

 

「ああ、おかえり。どうだった?」

「面白いところでしたよ?あと、例の人型機動兵器、『ヴァンツァー』というそうで、

いろんな機体がありました!あとヴァンツァーの開発者からこんなものいただいちゃいました♪」

 

そう言って、青葉は敬一から渡された封筒を駒田に渡す。

 

「ふむ。ご苦労様。では早速中身を………」

 

駒田が封筒を開ける。すると中には設計図のようなものが入っていた。

が、ところどころ黒く塗りつぶされた箇所があった。

駒田はそれを見て、どういう意味か見抜いた。

この黒塗りの部分以外は既存の技術で作れる。

逆を言えば黒い部分は現状作れないブラックボックスであるということだ。

 

「みいいいいいいいかああああああああわああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!」

 

これが三河のせいであると思った駒田はそう叫んだ。

 

 

 

奇しくも同時刻、ショートランド泊地司令官執務室。

 

「なんじゃああああこりゃあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!?」

 

三河も叫んでいた。

原因は三河に送り付けられた法外な額の請求書である。

なんでも、工廠妖精達がヴァンツァー開発に資材をつぎ込み過ぎたため資材が足りなくなり、

明石が勝手に購入したのだという。

その書類にある金額は、見たくないぐらいにバカ高い額である。

一旦心を落ち着かせた三河は、内線電話でこれをしでかした明石と敬一を呼び出すことにした。

 

 

 

同刻、ショートランド泊地工廠第5倉庫。

 

「だあああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!」

 

その敬一まで叫んでいた。流行ってるのか?

 

「昨日の青葉の話のせいでメッチャイライラするぅ!

おい!ヴァンツァー同士で演習すんぞ!」

「おいおい河志名!いきなり何言ってんだ!?」

「うっせえ!やるっつったらやるんだ!せっかく2隊あんだからよ!」

 

ちなみにあの青葉とのやりとりはライラスに搭載されたボイスレコーダーに残っている。

それはそうと、ここまでの短時間で、ショートランド泊地のヴァンツァー戦力は増強されていた。

特機小隊は『第1機動隊』に改名、他に『第2機動隊』が編成を完了し、

現在『第3機動隊』の編成に取り掛かっているところである。

ちなみに編成計画では、第12機動隊までの編成を予定している。

 

「せっかくヴァンツァーがあんだぞ!?ヴァンツァー同士で戦わせてみたくなんない!?」

「なんねえよ!何考えてんだよバカかお前!」

「バカじゃねえっつの!ヴァンツァー専門の技術兵だっつの!ヴァンツァー愛好家だっつの!」

「あーそうだこいつ元からバカだった!ヴァンツァー馬鹿だった!略してヴァカだ!」

「何上手いこと言ってんだよ!どーでもいーから始めんぞ演習!」

「待て止めろ勝手なことすんじゃねえ!」

 

敬一は班長妖精の制止を振り切り、強盾軽量型に乗り込み、第5倉庫を飛び出した。

それにつられて、面白がったパイロット妖精達も次々と発進していく。

 

「あーもうなんでうちはこうバカばっかりなんだよぉ!」

 

班長妖精が涙目でそう叫ぶ。次の瞬間、内線電話が鳴り響いた。

その5秒後に、司令官執務室で三河の叫び声が再び空気を震わせたそうな。

 

 

 

洋上に躍り出たヴァンツァー達は、先ず通信で演習のルールなどを定める。

 

「よおしまずはルール決めだ!使用するのは実弾!相手をとにかく撃ちまくること!」

 

それを聞いて、シール2が質問する。

 

『隊長、まさか我々同士で実弾で撃ち合うんですか!?』

「バーカ。ンなわけねえだろ。天才技術兵な俺様はこういう時のためにあるものを用意した!」

 

そう大声で言い放った敬一は、あるボタンを押した。

すると第5倉庫から12機のヴァンツァー『シケイダⅡ』が現れる。ただし、全て無人機だ。

シケイダⅡは世界初のヴァンツァーと呼ばれる機体『シケイダ』の後継機で、

現在はE.C.イギリスのセンダー社で製造されている。

その外観と、旧式であるにもかかわらず高い性能を発揮することから、

今でも高い人気を誇るベストセラー機体だ。

ちなみにこの時、第5倉庫ではヴァンツァーが勝手に動き出してかなりの大騒ぎだったという。

 

「あの機体を標的にする。無人機だから存分に撃っていいぞ!さあ始めィッ!」

『『『『『サーイエッサー!』』』』』

 

敬一の号令の下、双方のヴァンツァーが一斉に動き出す。

最初に攻撃を始めたのは第2機動隊の炎陽だ。

マジックボックス2Bミサイルを放ち、シケイダⅡを攻撃する。

が、ここでシケイダⅡ部隊はパイロット妖精達にとって思いもよらぬ行動に出る。

右手に装備したマシンガン『アールアッソ―』でミサイルを迎撃したのだ。

12機のシケイダⅡの連携で、先制攻撃のミサイルは全て叩き落される。

 

『な、なんだと!?』

『こいつら手強いぞ!本当に無人機なのか!?』

『ミサイルを撃ち落とすなんて、なんて奴らだ!』

 

パイロット妖精達は深海棲艦以上に強い無人シケイダⅡ部隊を前に、気持ちを引き締める。

こいつらは深海棲艦とは違い、最初から対ヴァンツァー戦闘を想定している。

機体性能では確実に第1、第2機動隊のヴァンツァーが勝っている。

だが、戦術面ではシケイダⅡ部隊が1枚も2枚も上手なのだ。

ミサイルを全て叩き落したところで、今度はシケイダⅡ部隊がパイロット妖精達に襲い掛かる。

シケイダⅡの左手のショットガン『ゲイル』の銃口が、有人ヴァンツァーを睨んだ。

 

 

 

その頃、司令官執務室では、明石が三河から説教されていた。

 

「だいたい、なんでこんなに資材を消費するんだ!?

ヴァンツァー一個小隊運用するのにこんなに必要なのか!?」

 

三河は消費した資材のリストを叩きながらそう怒鳴る。

いつもは艦娘に対して優しい三河もこの時ばかりは激怒していた。

無理もない。資材がなければ今も入渠待ちをしている艦娘達を治すことはできない。

そのまままたここが襲撃されれば誰かが死ぬのだ。

明石は頭を下げたままその説教を聞いている。

 

「こんなに資材を消費するならなんで僕にもっと早く言ってくれなかったんだ!

言ってくれれば他の鎮守府に掛け合って融通してもらえるのに!」

 

三河はそう言って、頭を抱えて椅子に座った。

ちなみに日本海軍には『資材移転制度』という制度がある。

これは他の鎮守府から物資を融通してもらったり、

逆に財政難の鎮守府を助けることもできるというシステムだ。

三河は資材が底をつきかけたということを知った時点で、

これを使って他の鎮守府に応援を要請していた。

 

「ともかく、これ以上資材をヴァンツァー開発には回せないよ」

「は、はぁ。河志名中尉にもそう言っときます」

「というかそもそもなんで河志名中尉が来ないんだ?」

 

三河がそう聞くと、明石は「さ、さあ?」と首を傾げざるを得ない。

その時、外で銃声が鳴り響いた。次いで爆発音。

何事かと思い、三河は外を見てみる。

そこでは、どういうわけか24機ものヴァンツァーが入り乱れ、銃撃戦を始めていた。

 

「はあああああぁぁぁぁっ!?」

 

三河は、思わず叫んだ。本日3度目の絶叫である。

 

 

 

その絶叫の元凶は、洋上で強盾軽量型を乗り回し、シケイダⅡと銃撃戦を展開していた。

 

「アーッハハハハハァッ!これだこれェッ!

これこそヴァンツァーの輝ける最高のシチュエーション!

ヴァンツァー同士での近距離戦闘(殴り合い)!最ッ高だぜええェッ!」

 

頭のネジがすっ飛んだ敬一は、強盾軽量型を巧みに操りながら、そう満面の笑みで言う。

無線は繋がっておりその言葉は駄々洩れだったが、妖精達は特に何とも思わない。

この男の頭が手の施しようがないほどに重症なのは今に始まったことではない。

そのことが工廠妖精のみならず、ショートランド泊地の全ての妖精の共通認識となっていたのだ。

何より、シケイダⅡ部隊の強さに気を取られている者の方が圧倒的に多かった。

もっとも、どういうわけかシケイダⅡ部隊はそれに一瞬ドン引きしたようなそぶりを見せたが。

その間にも敬一はジリーノを乱発していく。もとより狙って撃っていない。

この無人機のプログラムを組んだ敬一は狙って撃っても当たらないということよく知っている。

なぜなら、このシケイダⅡは敬一が新開発したあるシステムのテストベッドも兼ねているからだ。

そのシステムとは、データリンクシステムとレーザー検知システムのことだ。

データリンクについては実は既存のヴァンツァーにも搭載されているが、

この新システムは次世代型のデータリンクシステムで、部隊長機に搭載された親機が、

必要に応じて所属機の子機に攻撃目標の指示をしたりできるのだ。

これにより重複攻撃が防止され、より効率的な攻撃が可能となっている。

レーザー検知システムは、ヴァンツァーが目標に照準を合わせる際に照射するレーザーを、

レーザー検知器で察知し、パイロットに知らせるというものだ。

この2つによって、シケイダⅡ部隊は無人機にあるまじき高い迎撃、回避性能を有している。

 

「(いやあ、新技術のテスト機と戦えるなんていつ振りだろ?

新技術搭載機との近距離戦、ここまで胸アツな戦闘はそうそうないなあ!)」

 

敬一はそう舌なめずりして、強盾軽量型の性能を最大限に引き出す。

それでも互角なのだから、前述の新システムがどれだけ有効かよくわかる。

ちなみにレーザー検知システムは似たようなものをUSN軍は制式採用していたが、

日防軍にはないので新システムということにしておく。

ともあれ、敬一はシケイダⅡの相手をしながら、脳裏ではすでに新たな機体を設計している。

思いついたらところ構わず即座に脳裏で設計図を引く。

紙媒体の設計図面など、作業を指示するための道具に過ぎない。

敬一の脳には数百種類のヴァンツァー設計図が収められている。

日防軍での呼び名は『関っちゃいけないヴァンツァー馬鹿』、

そして、『ヴァンツァー専門人間データバンク』。

ヴァンツァーについて喋らせたらもう終わりの見えないエンドレス講座まっしぐら。

その変態的なヴァンツァー愛に、耐えられる人間はおそらく地球上には存在しないだろう。

自由奔放、猪突猛進、ヴァンツァーのためなら国家さえも敵に回し、

ヴァンツァー愛の邪魔をするものには徹底的に叩き潰して見せしめにするか、

ヴァンツァー愛を説いて洗脳するかのどちらか。

鬼よ悪魔よというか魔王よと罵られ蔑まれても全っ然気にしない。

ヴァンツァーがあるから。敬一の存在理由はその一言で完結する。

それほどまでの変態性をもっと別の方向に有効活用しておけば、

あの超カッチカチ冷酷頑固合理主義厨二病ヒマジナリーナンバー野郎ルカーヴも、

喜んで仲間に引き込んだことだろう。

その河志名 敬一技術中尉は、かの佐々木参謀長に『一番顔を見たくない男』とすら言わしめた。

そこまで言われるほどの変態性を併せ持つ敬一は、ここに新たな決意を表した。

 

「ヴァンツァー王に、俺はなるッ!!」

 

某少年漫画風なセリフを言い放ち、満面の笑顔で敬一は強盾軽量型を突撃させた。

 

 

 

そして演習に参加したのは、ヴァンツァーだけではなかった。

 

「お!面白そうなことやってんじゃん!」

 

そう言ったのは、第1哨戒班の陽炎だ。

岸壁から演習の様子を見ていた陽炎は、ニヤリと笑みを浮かべるや否や、

艤装準備所で自身の艤装を装着する。

 

「ちょ、陽炎!?何やってんの!?」

 

そう陽炎を見咎めたのは第2哨戒班の特型駆逐艦『曙』である。

 

「あ、ぼのぼのじゃん!今からちょっと演習に乱入してくる!」

「はあ!?何言ってんのよアンタ!?つかぼのぼの言うな!」

 

曙は怒りつつも陽炎を止めようとした。が、陽炎はさも愉快そうに発進していった。

 

「………何よ、もう」

 

そう呟いてると、演習を見て乱入しようと思った艦娘数名が艤装準備所にやってきた。

 

「あ、ぼのぼの~!」

 

そう声をかけたのは同じ第2哨戒班の特型駆逐艦『漣』だった。

後ろに同じく第2哨戒班所属で特型駆逐艦の『朧』と『潮』もいる。

 

「アンタらまで行こうっての!?あとぼのぼの言うなぁ!」

「いいじゃん!楽しそうだし!」

 

そう言うのは第1哨戒班の特型駆逐艦『天霧』だ。

 

「ちょっとちょっと!何ノリノリで行こうとしてんのよ!バレたらタダじゃ済まないのよ!」

「そこはホラ、お前が黙っててくれればいい話だろ?な?」

 

そう言って、天霧達も出撃していった。

しばらくして、曙は1人叫ぶ。

 

「あー、もう!わかったわよ!もうどうなっても知らない!」

 

そして曙も艤装を装着し、演習に乱入していった。

 

 

 

「いやアレ何やってんの!?ナニやっちゃってんの!?バカなの!?

つかあの数いつの間に作ったの!?なんか知らないやつ混じってんだけど!?

そしてなんで第1と第2の哨戒班も参加してんのォ!?」

 

司令官執務室では、三河が驚いて大声でそう言う。

が、同時に納得もした。そらあれだけ作りゃ資材スッカラカンになるわな。

そして敬一のことだ、資材の残りなぞ気にもせずに量産し続けたに違いない。

 

「………もぉヤダ。勘弁して」

 

三河はその場に泣き崩れた。

敬一の暴走っぷりを前に、今自分がやってることが心底アホらしくなってきたのである。

というか、考えてもみてほしい。

自分は残業までして資金繰りをしてるのに、目の前のバカは何も考えずその苦労をぶち壊しては、

大量の人型機動兵器を量産してはしゃいでいるのだ。

しかもそれが現状のショートランド泊地の防衛力に直結するのだから怒るに怒れない。

大破者から入渠させるという判断が裏目に出てしまい、現在まともに部隊編成が完了してるのは、

第1、第2、第7哨戒班のみなのだ。これだけでは到底ショートランド泊地は守れない。

こんな状況下で、あそこまで晴れ晴れとした笑顔を浮かべてるのは敬一だけである。

なぜそこまで気楽に生きられるのか、三河は不思議で仕方なかった。

 

「て、提督!そんな泣かないでくださいよ!これあげますから元気出してくださいって!」

「ん?」

 

三河は明石から某喋る緑色の球体を受け取った。

 

『ハロー三河。ハロー三河』

「なんだよぉ………結構普通のハ○じゃねえか………」

「私が作りました!」

「もしかして資材が全滅したのってまさか………」

 

三河が明石を見ると、明石は途端に動揺したような様子を見せた。

 

「あ、いやこれはですね、ちゃんと私がちょっといろいろアレしまして、アハハ………」

 

そう言って苦笑いで誤魔化そうとする明石。

三河は事情を察した。資材が全滅したのは敬一だけのせいではなかったのだ。

 

ハ○作ってる暇があったら仕事しなさーいッ!!

 

三河は怒鳴り声をあげた。

その怒鳴り声は、ショートランド泊地全域に響き渡ったとさ。

 

 

 

その頃、ショートランド泊地正面海域、水中にて。

 

『………目標確認』

 

水中を泳ぐ物体のコクピットで、ある妖精がそう呟く。

その妖精はコントロールレバーを動かして、先程まで深海に身を潜めていた乗機を動かす。

そしてその後ろを、同じ形の兵器達が続く。

その物体は、紛れもなく『ヴァンツァー』だった。

怪しげな影が、ショートランド泊地に忍び寄っていた………。




次回予告☆

演習どころか大乱闘を始めたヴァンツァー達と艦娘達。
その様子を水面下で見ながら、怪しげな影がショートランド泊地に上陸する。
その姿は紛れもなくヴァンツァーだった。
謎のヴァンツァーはショートランド泊地にいきなり攻撃を仕掛ける。
果たして敬一は、三河はショートランド泊地を守れるのか。
謎のヴァンツァーの正体は一体………。

次回『技術兵、迎撃す!』

ガスマスク男の名前なんざ一々覚えとらん。by敬一。


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第10話 技術兵、迎撃す!

大っ変お待たせしました!
今後もこんな感じで期間を空けることになるかもしれませんが、
生暖かく見守って下されば幸いです。



前回までのあらすじ☆

三河少佐の胃潰瘍が発覚するのは、そう遠くない未来のことだった。


早速かつ今更だが、ショートランド泊地正面海域は混沌の様相を呈していた。

艦娘、無人機、有人機が入り乱れ、三つ巴の戦いが繰り広げられていたのだ。

投入戦力は以下の通り。

 

艦娘側

 

第1哨戒班

駆逐艦 陽炎(改、Lv65)

駆逐艦 天霧(改、Lv60)

駆逐艦 時雨(改二、Lv60)

駆逐艦 朝霜(改、Lv60)

 

第2哨戒班

駆逐艦 朧(改、Lv60)

駆逐艦 曙(改、Lv60)

駆逐艦 漣(改、Lv60)

駆逐艦 潮(改、Lv59)

 

無人機側

 

シケイダⅡ部隊

アサルト シケイダⅡ(12機、Lv60)

 

有人機側

 

第1機動隊

アサルト 107式LW 強盾軽量型(敬一搭乗、1機、Lv???)

アサルト 107式 強盾(2機、Lv45)

ガンナー 107式 強盾(1機、Lv45)

ランチャー 109式 炎陽(1機、Lv45)

メカニック 109式 炎陽(1機、Lv45)

 

第2機動隊

アサルト 107式甲 強盾甲型(1機、Lv40)

アサルト 107式 強盾(2機、Lv35)

ランチャー 109式 炎陽(3機、Lv35)

 

この総数32名が大乱闘を繰り広げていた。

乱入当初、艦娘達はヴァンツァー達の不意を突くことで優位に立てたが、

体勢を立て直したヴァンツァー、主にシケイダⅡ部隊により苦戦を強いられていた。

 

「くぅっ!中々やるわね!」

「ああ、ここまで手強いとは正直思ってなかったぜ!」

 

陽炎と天霧が互いにカバーしあいながら会話する。

ショートランド泊地に所属する駆逐艦娘の中で、この2人はトップクラスの実力者だ。

この2人は過去に難攻不落と言われた鉄底海峡(アイアンボトムサウンド)にて消息を絶った味方部隊を救出に向かい、

孤立していた味方部隊を見事に誰1人脱落させることなく救出した猛者だ。

そんな陽炎や天霧をここまで苦戦させたのは、おそらくシケイダⅡ部隊のみであろう。

その頃、敬一は強盾軽量型を操りながら、なんと1人で第2哨戒班4名と互角の戦闘をしていた。

強盾軽量型の足元を、曙が放った砲弾が掠める。

 

「おぉっと!やるねえ、お嬢さん方!」

 

そう言いながら、お返しとばかりにジリーノを発砲する。

放たれた散弾は一部が曙の肩を掠めた。

 

「くっ、なんなのよこいつ!他のより全然手ごわい!」

「ぼのぼのと潮ちゃんは左から回り込んで!アタシと漣ちゃんで引き付ける!」

「ぼのぼの言うなー!」

 

曙が間髪入れずにそう返すが、それでも第2哨戒班の連携は崩れない。

長年この編成でやってきたからこその連携が、敬一の強盾軽量型に襲い掛かる。

一方、時雨と朝霜は、第1機動隊、第2機動隊のヴァンツァーを相手取っていた。

 

『くっ!やはり強い………!』

『シール4、チェックシックス!』

『ぐぁっ!被弾した、くそっ!』

『シャーク2!右から回れ、挟み撃ちにするぞ!』

『了解!』

 

駆逐艦娘ならではの機動力を生かした戦術に、ヴァンツァー達は翻弄されつつも連携を崩さない。

しかし、ヴァンツァー側が被弾しているのに対し、時雨と朝霜は無傷だ。

 

「なんだよー、新兵器だって聞いて期待してたのによー。

全然動きがなってねえじゃねえか。時雨、そっちはどうだー?」

 

朝霜は改二になったばかりの時雨に聞く。この戦闘が改二改装後初の戦闘である。

 

「艤装の方はいい感じだよ。ただ、ちょっと練習相手が弱くて物足りないけどね」

 

そう言いながら、時雨は背後から迫る強盾の右腕を連装砲で砲撃した。

強盾はヴァンツァーならではの装甲で耐えたが、一旦体勢を立て直そうと後退する。

 

「しっかし、聞いてたほど強くないね。ただ装甲が固いのとすばしっこいだけ。

機体性能にパイロットが頼ってるって感じかな?」

「あ、それあたいも感じた。なんか機体が全力出せてねえみたいな?」

 

朝霜がそう言った時、朝霜目掛けて散弾が飛んできた。

朝霜は間一髪のところで全弾回避すると、その散弾を放った主を見る。

そこには、第2哨戒班の4人を全員大破状態にしてきた敬一の強盾軽量型がいた。

 

「ヒャッハー!さっきのよりか腕のよさそうなやつだなァ!」

 

敬一が世紀末な雄叫びをあげつつ機体を増速させる。

強盾軽量型が朝霜と時雨に襲い掛かろうとする。が、その時、泊地の方から爆発音がした。

 

「あァン!?なんだァ何が起こったァッ!?」

 

そちらを見てみると、ミサイルが数発泊地に着弾したらしい。

しかし爆発の規模から見て、敬一達のマジックボックス2Bではなさそうだった。

すると、泊地に謎の人影が8機上陸した。否、敬一にとっては謎でもない。

何故ならあれは、敬一が()()()見たことがあるものだったからだ。

 

「あれは、大漢中の『奇兵0型』じゃねえか………!?」

 

敬一は思わずそう言う。あの機体は、前世での日本の仮想敵国の1つでもあった、

『大漢中人民共和国』で製造された特殊作戦用機体で、

短時間での水中行動も可能なヴァンツァーなのだ。

それが敬一達のヴァンツァーと同じぐらいのサイズで、

泊地に上陸し無差別に破壊活動をしている。

敬一はそれを察知するや否や泊地へすっ飛んでいく。

そして洋上から上陸した奇兵0型へ向け、ジリーノを連射しながら叫んだ。

 

「コラァ!(そのヴァンツァー)降りろォ!免許持ってんのかァッ!」

 

 

 

一方、司令官執務室では、三河がヴァンツァーが襲ってきたという事実に混乱していた。

 

「はぁ!?何よ今度は!?遂に演習に飽き足らずテロ行為にまで手ェ染めたの!?」

「落ち着いてくださいよ提督!アレうちが作ったやつじゃありませんから!」

 

明石がそう三河に言ったその時、執務室の壁をぶち破って、角飾りを付けた奇兵0型が突入した。

 

「うわぁ!こっち来たァ!?」

 

明石があからさまに驚愕していると、

奇兵0型は装備したナックル『フィアーナックル』で明石を殴りつけた。

 

「ぐふぅっ………!」

「明石!」

 

奇兵0型は明石を投げ飛ばす。投げ飛ばされた明石は全く微動だにせず、

そのまま力なく床に横たわっている。

 

「明石!くっ………」

 

三河は明石に呼びかけたが、結果は同じだった。

そして奇兵0型が三河に迫る。

万事休す、そう思った時、さらにもう1機ヴァンツァーが突入してきた。敬一の強盾軽量型だ。

 

「コラァ!ナニ人んち勝手に荒らしとんじゃボケェ!ブチ○すぞワレェ!」

 

言ってることがもはやガラの悪いヤクザである。が、そんなことは些細なことだった。

奇兵0型は強盾軽量型に向き直る。そしてそのパイロットがスピーカーで喋った。

 

「貴様………日防軍の河志名技術中尉だな?」

「ほぉう俺を知ってるとは。そういうお前はアレだな!アレ!えっと………アレだ………」

 

敬一はしばし考えた後、見当違いな答えを出した。

 

「ああアレだ!グローブ・プラスチックナイ!」

「『グルーブ・プローブヌイ』だ」

「ああ、そうそう、そんな感じの名前だったな」

 

敬一はそう相槌を打つ。グルーブはかの謎の人物ルカーヴの部下で、

とてもとても冴えない、いつもガスマスク被ってる野郎だ。

 

「お前がいるたァ驚いた」

「どうでもいい。私の抹殺目標は貴様だけだ」

「何故に?俺になんか恨みでもあんの?」

 

そう言うと、グルーブは無感情に言う。

 

「恨みなどない。貴様がいるとルカーヴ様の計画に支障が………あっ」

「へえ~。ルカーヴが来てんの?で、今度はナニしようとしてんだ?」

 

敬一がそう言うと、あからさまにグルーブは動揺する。

 

「い、いや。ルカーヴ様はこの世界には来てはいない」

「ウソこけ。じゃあお前さんが俺を狙う理由ないやんけ」

「それは………あ、あれだ。ルカーヴ様は世界の垣根を超えて念話をすることができるのだ」

「じゃあ今やってみろよ。ああ、無線機とか使われるとアレだからヴァンツァー降りろよ?

あとパイロットスーツの無線機も外せ」

「わかった。よく見ておけよ」

 

そう言ってグルーブは奇兵0型から降りて無線機を外す。そして念話(の演技)をした。

 

「あ、もしもしルカーヴ様。今目の前にあの河志名がってギャアァッ!」

 

その演技をさせることが、敬一の狙いだった。

敬一は生身のグルーブをジリーノで挽肉にしたのである。

 

「うっわコイツほんとにやりやがったよ。頭イカれてんじゃねえの?」

「「お前が言うな!!」」

 

三河といつの間にか意識を取り戻していた明石にそうツッコミを受けた敬一は、

そのツッコミを気にも留めず、奇兵0型を引きずって第5倉庫へと運んだ。

その頃には外で暴れていた他の奇兵0型も、艦娘達とヴァンツァー部隊によって撃破されていた。

 

 

 

ちなみに敬一が奇兵0型を鹵獲した理由は、単にバラして解析しようと思ったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、某所。

 

「そうか、遂にルカーヴが動いたか………」

『ええ。ショートランド泊地がヴァンツァー部隊の襲撃を受けたそうです』

 

ある男が、紅茶を飲みながらあの広報部の青葉と電話をしている。

 

「で、結果は?」

『ショートランドは健在、死傷者なし。襲撃側は特殊作戦用ヴァンツァー8機を喪失、

うち1機が無傷で鹵獲されてます』

「ほう?それはすごいな。並大抵のことではあるまい。

襲撃側は全員あの『イマジナリーナンバー』だったのだろう?」

 

イマジナリーナンバーとは、敬一の前世の世界にいた人造人間のことである。

 

『そのようですね。鹵獲をやったのは例の技術兵のようです』

「その技術兵はパイロットとしても有能、ということか。味方に引き込めて幸いだった」

『そうですね。やはりあの技術と戦力は魅力的です。

しかしショートランドではヴァンツァーによる部隊の編成を急いでいるとのことですが、

資材がどうも足りていないようです。あと、パイロットの教育も間に合っていないとか』

「それは問題だな。わかった。横須賀鎮守府の支給資材量を90%カットして、

ショートランド泊地に回すとしよう。引き続き頼む」

『了解です。では』

 

そこで電話は切れる。男は受話器を置くと、呟いた。

 

「………なんだろ、嫌な予感しかしないな。まるであの河志名が来る時みたいな感覚だ」

 

そう呟き、男はまた別の場所に電話をかけた。

 

「私だ。会計部の喜多島部長を呼び出してくれ」




次回予告☆

ども、最後の方にも出てきた広報部の青葉ですぅ!
いやぁなんだかんだあっていろんな人が出てきましたね!
そういうワケなんで、次回は登場人物紹介とかその他もろもろの設定回になります!
ちょうど10話ですし、ちょっと立ち止まって設定を振り返ってみます!

次回『設定集 Part.1』

あ、今回は声真似とかじゃないですよ?


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設定集 Part.1

前回までのあらすじ☆

運悪く頭をぶつけて死んだヴァンツァー一筋の日防軍技術兵『河志名 敬一』は、
気が付くと艦これの世界で妖精になっていた。
成り行きでショートランド泊地に勤務することになるが、ヴァンツァーがない生活に耐えかね、
遂に工廠妖精達を洗脳説得しヴァンツァーを独自開発してしまう。
その結果ショートランドに侵攻した深海棲艦の大部隊は撃破され泊地は守られたが、
息つく暇もなく広報部から訳アリ艦娘青葉がやってきたり、
演習中にグルーブ率いる大漢中ヴァンツァーズが襲来してきたりと大忙し。
果たして三河提督の胃に安息の時は訪れるのだろうか………。


<登場人物>

 

日本国防軍

 

名前:河志名 敬一

所属:日本国防陸軍東部方面機甲整備隊第104整備技術隊

 

本作主人公。人間だったが妖精となる。階級は技術中尉。

大が付くほどのヴァンツァー愛好家。ヴァンツァーが好きすぎて日防軍に入隊したほど。

天才的頭脳の持ち主で、日防軍士官学校技術士官課程、参謀課程、特殊作戦課程を首席で修了。

いくつもの新型ヴァンツァーの開発案を考案しては、上層部に上申しまくっていた。

操縦の腕も確かであり、職種はアサルト。乗機は107式LW 強盾軽量型。

頭脳面では天才であるもののかなりの問題児で、

ヴァンツァー及びその周辺機器以外は製造しようとしない。

さらに空気を読まず、自由気ままで気分屋な性格も災いし、周囲からは疎まれていた。

日防軍クーデターの際は敬一の開発案に唯一耳を(渋々)傾けていた佐々木の側についていた。

 

 

名前:佐々木 正雄

所属:日本国防統合軍司令部

 

敬一の(かなり上の)元上司。クーデターを起こし、堕落した日本を変えようとしたらしい。

表向きは相応の威厳を持った偉いさんだが、敬一によく振り回されており、

たった一度、ほんの出来心で敬一の話を聞いたが最後、よく絡まれるようになった。

 

 

名前:黒井 優二

所属:日本国防統合軍機動強襲群状況対策課

 

佐々木の右腕。メッチャ優秀。ただし人付き合いは苦手。職種はアサルト。乗機は111式 春陽。

ちなみに日防軍内の腐女子勢から「ホントは佐々木参謀長の愛人なんじゃないか」と、

あらぬ嫌疑をかけられているが、当の本人はきっぱりと否定している。

 

 

 

日本海軍ショートランド泊地

 

名前:三河 健人

所属:日本海軍ショートランド泊地司令部

 

ショートランド泊地提督。階級は少佐。ツッコミ役。

元はただの一般市民だったが2か月前に提督適性を有しているとわかり徴兵され、

ショートランドへと配属される。

実家は神奈川にあったが3年前の誤射事件で吹き飛ばされ、家族全員が死亡している。

心優しい好青年で、艦娘達のことをいつもよく考えて判断しており、

最前線であるにも関わらず三河着任後の轟沈者数は現時点(第10話時点)で1人も出ていない。

余談だが、死亡した三河の両親は海軍艤装庁第4艤装技術研究所の幹部研究員だったという。

 

 

名前:大淀

所属:日本海軍ショートランド泊地司令部

 

ショートランド泊地提督秘書艦兼通信担当。

元人間だが徴用され艦娘となる。以前の姓も『大淀』。

新米提督である三河を支え、作戦中の艦娘達に適確な指示を出すなど有能。

性格面でも良い秘書艦であり、ショートランドの艦娘達には三河同様慕われている。

が、実は中学2年生のある時期が思い出したくない黒歴史と化しており、

今でもその悪夢にうなされるという。

どういう黒歴史かはここでは子細を記すのを控えるが、当時の彼女の異名は、

『ジャスティスアイ大淀(自称)』などである。

 

 

名前:明石

所属:日本海軍ショートランド泊地工廠

 

ショートランド泊地工廠長。元人間で大淀とは中学時代の同級生。

大淀と同じく徴用され艦娘となっており、以前の姓も『明石』。

好奇心旺盛かつ頭脳明晰であり、工業系の大学を出ただけあって技術系の知識は豊富。

実際、敬一が見せたヴァンツァーの図面を数秒見ただけで理解している。

大淀とは中学時代からの親友であり、同じ苦しみを味わう仲間で、

やはり明石も中学2年生の時の悪夢にうなされるという。

当時の彼女の異名は『レヴォリューション明石(自称)』。なお、中学2年生のある時期、

「私の魔の右腕が疼くぅ~」と虚偽の申し立てをして保健室に頻繁に出入りしていたとされる。

 

 

名前:陽炎

所属:日本海軍ショートランド泊地第1哨戒班

 

ショートランド泊地第1哨戒班旗艦。元人間。幹部組の1人。

同班所属の天霧と共に鉄底海峡を潜り抜けた猛者。

その実力は折り紙付きで、無人のシケイダⅡとも渡り合えるほど。

 

 

名前:天霧

所属:日本海軍ショートランド泊地第1哨戒班

 

ショートランド泊地第1哨戒班班員。元人間だが、自ら志願して艦娘となった。

同班所属の陽炎と共に鉄底海峡を潜り抜けた猛者。

その実力は折り紙付きで、無人のシケイダⅡとも渡り合えるほど。

 

 

名前:時雨

所属:日本海軍ショートランド泊地第1哨戒班

 

ショートランド泊地第1哨戒班班員。元から艦娘。

改二改装したばかりだが、改装後の戦闘能力はすこぶる高く、

第1機動隊のヴァンツァーを翻弄するほど。

 

 

名前:朝霜

所属:日本海軍ショートランド泊地第1哨戒班

 

ショートランド泊地第1哨戒班班員。元から艦娘。

時雨とは同期で、以前からよくコンビを組んでいた。

戦闘能力はかなり高く、第1機動隊のヴァンツァーを翻弄している。

 

 

名前:

所属:日本海軍ショートランド泊地第2哨戒班

 

ショートランド泊地第2哨戒班旗艦。元から艦娘。

第2哨戒班のまとめ役で、瞬間判断力と仲間を考慮した戦術に定評がある。

過去に駆逐艦娘の教官を務めていたこともあるらしい。

 

 

名前:

所属:日本海軍ショートランド泊地第2哨戒班

 

ショートランド泊地第2哨戒班班員。元人間で、潮と共に日本海軍に徴用された。

かつて横須賀の精鋭艦娘に名を連ねていたが問題行動を起こしショートランドへ配属される。

第2哨戒班で一番の精鋭であり、よく前衛を担当する。

 

 

名前:

所属:日本海軍ショートランド泊地第2哨戒班

 

ショートランド泊地第2哨戒班班員。元から艦娘。

射撃に自信があり、海軍戦技競技会において射撃、砲撃部門で数度優秀賞を授与されている。

第2哨戒班では後衛を担当することが多いが、前衛での立ち回りもできる。

 

 

名前:

所属:日本海軍ショートランド泊地第2哨戒班

 

ショートランド泊地第2哨戒班班員。元人間。曙と共に徴用される。

かつて横須賀鎮守府にいたが、問題行動を起こした曙共々ショートランドへ配属される。

その性格に反し第2哨戒班では前衛担当。本人は自覚していないが、かなり優秀。

 

 

名前:吹雪

所属:日本海軍ショートランド泊地第7哨戒班

 

ショートランド泊地第7哨戒班旗艦。元から艦娘。敬一を保護した艦娘である。

洋上を漂流していたところを第2哨戒班に保護され、ショートランド配属となった過去を持つ。

漂流する以前の記憶がなく、その為なぜ漂流していたかはいまだに不明。

かなり優秀な艦娘であり、曙の見解では「将来的には横須賀の精鋭でやっていける」とのこと。

 

 

名前:睦月

所属:日本海軍ショートランド泊地第7哨戒班

 

ショートランド泊地第7哨戒班班員。元人間。

元呉鎮守府所属で、そこの同期入隊の駆逐艦『如月』とは親友と呼べる間柄だったが、

数年前の作戦で如月が轟沈して以来、どういうわけかよく海を眺めて放心するようになった。

 

 

名前:夕立

所属:日本海軍ショートランド泊地第7哨戒班

 

ショートランド泊地第7哨戒班班員。元人間だが、志願して艦娘となる。

気分屋でムードメーカーだが、人間だった頃はいじめを受けていた。

艦娘になりショートランドに配属されて、現在は楽しい日々を送っている。

 

 

名前:不知火

所属:日本海軍ショートランド泊地第7哨戒班

 

ショートランド泊地第7哨戒班班員。元人間。2年前の『佐世保第2艦隊事件』唯一の生き残り。

いつもポケットにかつての同僚の形見であるボールペンを忍ばせている。

第7哨戒班では一番多く実戦を経験している。

 

 

名前:川内

所属:日本海軍ショートランド泊地夜戦遊撃戦隊

 

ショートランド泊地夜戦遊撃戦隊旗艦。元から艦娘。夜戦馬鹿。幹部組の1人。

最低でも1週間に1回夜戦をやらないと禁断症状を引き起こすらしいが真偽のほどは定かでない。

広報部の訳アリ青葉とは面識があるらしいが………?

 

 

名前:神通

所属:日本海軍ショートランド泊地夜戦遊撃戦隊

 

ショートランド泊地夜戦遊撃戦隊隊員。元人間。

暴走しがちな川内を支える副官的な艦娘で、他の艦娘達からの信頼も厚い。

大湊警備府の給糧艦『間宮』とは同期入隊で仲が良く、今でも手紙を送り合う仲だという。

 

 

名前:那珂

所属:日本海軍ショートランド泊地夜戦遊撃戦隊

 

ショートランド泊地夜戦遊撃戦隊隊員。元から艦娘。

隊のムードメーカー。戦争が終わったらアイドルになりたいと考えている。

料理の腕もよく、間宮や伊良湖のいないショートランド泊地における炊飯担当の1人でもある。

 

 

名前:綾波

所属:日本海軍ショートランド泊地夜戦遊撃戦隊

 

ショートランド泊地夜戦遊撃戦隊隊員。元人間。

まだ着任して間もないが、夜戦において天才的な能力を見せたため、

川内にスカウトされ、夜戦遊撃戦隊へと抜擢されている。

 

 

名前:敷波

所属:日本海軍ショートランド泊地夜戦遊撃戦隊

 

ショートランド泊地夜戦遊撃戦隊隊員。元人間。

綾波とは同期入隊だが天才的な能力はなく、努力して強くなった。

その普段の態度からは想像もつかないほどの訓練時間を経て、現在は夜戦遊撃戦隊に所属。

 

 

名前:叢雲

所属:日本海軍ショートランド泊地夜戦遊撃戦隊

 

ショートランド泊地夜戦遊撃戦隊隊員。元から艦娘。

ショートランドに来たのはつい半月前だが、それ以前の経歴が一切不明という謎の艦娘。

戦闘能力は川内達にも劣らないが、自身の被害も顧みず戦果拡張を優先しようとする節がある。

 

 

名前:赤城

所属:日本海軍ショートランド泊地第1空母強襲戦隊

 

ショートランド泊地第1空母強襲戦隊旗艦。元人間。ボーキの墓場。幹部組の1人。

たくさん食べてたくさん働く。性格もよく、多くの艦娘に憧れの目を向けられている。

入隊以後、約50年間ずっとショートランド泊地にいる最古参艦娘でもある。

 

 

名前:加賀

所属:日本海軍ショートランド泊地第1空母強襲戦隊

 

ショートランド泊地第1空母強襲戦隊隊員。元人間。ボーキの死神。

いっぱい食べていっぱい働く。冷静沈着でクールな印象を与える。

瑞鶴とは口喧嘩してばかりだが、その実、瑞鶴の身を案じている。

 

 

名前:翔鶴

所属:日本海軍ショートランド泊地第2空母強襲戦隊

 

ショートランド泊地第2空母強襲戦隊旗艦。元から艦娘。

基本的に運が悪いが、そんな運のない生活で培われた家事のスキルは一流。

ショートランドにおける炊飯担当のリーダーでもあり、赤城も翔鶴にだけは頭が上がらない。

 

 

名前:瑞鶴

所属:日本海軍ショートランド泊地第2空母強襲戦隊

 

ショートランド泊地第2空母強襲戦隊隊員。元から艦娘。

基本的に運がよく、くじ引きではハズレくじを引いたことがないが、

彼女の実力は必ずしも運の良さに依存しているわけでもなく、技能面でも優秀だという。

 

 

名前:飛鷹

所属:日本海軍ショートランド泊地第3空母強襲戦隊

 

ショートランド泊地第3空母強襲戦隊旗艦。元人間。

基本に忠実で、堅実な戦術に定評があり、安定した戦果を挙げている。

以前はある飲食店の従業員だったこともあり、炊飯担当に名を連ねている。

 

 

名前:隼鷹

所属:日本海軍ショートランド泊地第3空母強襲戦隊

 

ショートランド泊地第3空母強襲戦隊隊員。元人間。

飛鷹とは対照的に大胆な戦術を好み、飛鷹が防御、隼鷹が攻撃という分担が出来上がっている。

炊飯担当ではないが、隼鷹の作る焼き鳥はその旨さと香ばしさに定評がある。

 

 

名前:工廠妖精の皆

所属:日本海軍ショートランド泊地工廠

 

言わずと知れた工廠妖精達。縁の下の力持ち。いっぱい湧いている。

それぞれ個性があり、班長妖精や弱気妖精などもいるが、

共通して技術に対する好奇心が強く、敬一に洗脳説得されたのもあって、

現在はヴァンツァーに興味津々である。

 

 

 

日本海軍大本営

 

名前:駒田 勘次郎

所属:日本海軍大本営広報部

 

大本営広報部部長、大本営軍令部部長。階級は中将。豚野郎。

自らの権力と憲兵部とのコネを乱用した横暴が多くみられる軍人の屑。

 

 

名前:青葉

所属:日本海軍大本営広報部メディア情報課

 

大本営広報部メディア情報課特別取材員。元人間。

15年前の千葉大空襲で家族を失い、海軍艤装庁直下の研究所で人体実験の被験体にされ、

その実験が奇跡的に成功した結果がこの青葉。

広報部に属するが、『雇い主』と呼ばれる別の人間の指示で動いている。

その戦闘力は未知数だが、凄まじい強さであると思われる。

ショートランド泊地夜戦遊撃戦隊の川内とは面識があるようだが………?

 

 

名前:喜多島

所属:日本海軍大本営会計部

 

大本営会計部部長。階級は中将。意外に転生者であり、元日防軍海田基地司令。

クーデターの際にどちらの派閥に付くか決めあぐねた結果、ルカーヴに基地ごと消された。

今でも責任の伴う決断はできないため、実際は『雇い主』の言いなりである。

 

 

その他

 

名前:雇い主

所属:???

 

広報部の青葉や、会計部の喜多島を操る謎の人物。

ある目的のために密かに大勢の同志を集め、軍事行動の準備をしているとみられる。

各方面に人脈があり、事実ショートランドへの資材支給量が増加している。

敬一のことを知っているらしいが会いたくないと切に祈っている。

 

 

 

<用語集>

 

 

日防軍

 

正式名称『日本国防軍』。英名『JAPAN DEFENSE FORCE』。

敬一の古巣であり、自衛隊を前身とする国防組織。

原則は専守防衛だが、かなり幅広い活動展開も出来るようになっている。

 

 

日本海軍

 

太平洋戦争終戦直後に発足した国防組織。主に艦娘を運用する。

連合国軍によって軍隊を解体された日本の、今唯一の盾。

 

 

海軍艤装庁

 

海軍省の直下機関。主に艦娘の艤装などに関する技術開発や、

整備点検マニュアルの作成を主な業務とする。

 

 

O.C.U

正式名称『オシアナ共同連合』。日本も加盟する経済圏の1つ

巨大な経済圏であり、ニューコンチネント合衆国、略称U.S.N.とは敵対関係にある。

 

 

ショートランド泊地

 

その名の通りショートランドにある泊地。司令は三河 健人。

駆逐艦39名、軽巡3名、戦艦4名、正規空母4名、軽空母2名、計52名の艦娘を有する。

 

 

千葉大空襲

 

15年前の大規模空襲。厳重だったはずの絶対防空圏に深海棲艦の艦載機が侵入し、

多くの都市を空爆、死者十数万人を出すという大虐殺を行った。

この後、横須賀鎮守府の提督と直属の艦娘数名が更迭されている。

 

 

神奈川誤射事件

 

3年前の誤射事件。東京湾内である特殊任務についていた大本営直轄の艦娘が、

神奈川県のある住宅地を誤って攻撃、死者数百人を出した不祥事。

当時東京湾内の巡回警備を行っていた横須賀鎮守府所属のある軽巡艦娘がこれを発見し、

制止したものの大本営艦娘の攻撃を受け轟沈している。

目撃者の証言や神奈川県警の鑑識作業の結果、誤射ではなく故意の精密爆撃だと判断されたが、

大本営軍令部により黙殺されている。

 

 

佐世保第2艦隊事件

 

2年前に発生した未解決事件。当時の佐世保鎮守府第2艦隊の艦娘が全員消息を絶ち、

そのほとんどが佐世保鎮守府第2艦隊宿舎にて変死体で発見されている。

唯一第2艦隊第4偵察隊の駆逐艦娘1名がロッカーの中から生存している状態で発見されたが、

それ以外に生存者はおらず、他全員の遺体が発見されている。

どれも複数の刃物で切られ殺害されており、凶器は全て遺体のうち数体が手に握っていた。

生存した駆逐艦娘はPTSDを発症し事情聴取が出来ず、

現在はショートランド泊地にて経過観察を行っているという。

 

 

中二病

 

厨二病とも書く。発症原因、治療法共に未だ未解明な難病。

症状として、人が失笑するような異名(?)を自ら嬉々として名乗る、

ありもしないのに魔眼がどうとか、魔の右腕がどうとか言い出す、などが挙げられる。

日本海軍の艦娘にも数名過去に発症したものがおり、代表例に挙げられる艦娘として

ショートランド泊地で秘書艦を務めるおおよd(文章が不自然に途切れている)




次回予告☆

グルーブらの襲撃から1週間が経ち、ショートランド泊地はヴァンツァー開発で賑わっていた。
そんな中、三河は新たな艦娘の建造を決意、俗にいう『空母レシピ』を2回回す。
その建造によって着任した艦娘は、三河の予想の斜め上を行く艦娘だった。
一方、パトロール中の第2哨戒班がある暗号無線をキャッチする。
持ち帰り敬一が解析したところ、なんとOCU陸防軍の救難信号だった。
果たして建造で着任した艦娘とは。救難信号を出したのはいったい誰なのか………。

次回『技術兵、狂喜乱舞す!』

待望のエースパイロット、現る。


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第11話 技術兵、狂喜乱舞す!

前回までのあらすじ☆

奇兵0型、ゲットだぜ!


ショートランドを東に進むと、そこには数多くの島々が存在している。

ソロモン諸島やサモア諸島などが、比較的名の知れたところだろう。

そしてその島々の多くが、現在は無人島と化している。無論深海棲艦の脅威があるためだ。

これらの脅威を可及的速やかに排除し、南太平洋を奪還することが、

当初からショートランド泊地に与えられている至上命題でもある。

しかしながら、その奪還は遅々として進んでいない。

理由は2つ。1つが、前任のショートランド提督があまりにも無能だったこと。

もう1つが、現在のショートランド泊地が、その課題に戦力を回せるほどの余裕がないことだ。

それ故に、現在未だに無人島となっている島は数多い。

そのうちの1つ、名前すら忘れ去られたある無人島に、1人の妖精がいた。

何故いるのか、と問われると、それは本人でさえわからない。

何せ死んだと思ったらいつの間にかこの島に漂着していたのだから。

所持品を見てみたが、ポケットに入っている愛用の葉巻と、半壊した無線機だけ。

その妖精は、とりあえず見つけた小屋を仮拠点とし、無線機をいじっていた。

 

「………これでよしっと」

 

妖精は無線機から救難信号を自動発信させた。

これで電池が持つ限りは救難信号を出し続けられるだろう。

見たところ送信用の基板は無傷らしいが、受信用の部分が壊滅的に壊れているらしい。

妖精はため息をついた。

 

「はあ………なんでこうなったんだ?

死んで気付いたら無人島、ついでに俺の体も小さくなってるし」

 

前世が人間だった彼は疑問符を浮かべつつ、とりあえず小屋を出た。

 

「まずは状況の把握からだな。………でも丸腰だしなぁ。

ヴァンツァーがあればいいんだがな。ゼニスか、いや強盾でもいい。

とにかくあのデバイスがついてねえやつならなんでもいいか」

 

そうぼやき、妖精は島の探索を開始した。

 

 

 

奇兵0型の集団に襲撃を受けた1週間後の、8月8日。

ショートランド泊地は、支給された物資の多さに賑わっていた。

襲撃の後、ショートランド泊地に月一の物資支給があったのだが、

その支給される量がいつもの数倍だったのだ。

おかげで艦娘達の入渠は完了し、ヴァンツァー開発は滞りなく進んでいる。

そんな中、提督である三河は、ある決断を下した。

 

「建造するか」

 

三河はこの数日のうちにあることを学んだ。

『現在のショートランド泊地は航空戦力が弱い』ということである。

ショートランド泊地には現在正規空母4名、軽空母2名が所属しているが、

他の鎮守府や泊地と比べると少ない方であった。

そこで、三河は建造をしようと思い至ったのである。

三河は工廠へと向かった。

 

 

 

工廠と一口に言っても、ヴァンツァー開発に使われているのは第5倉庫のみで、

他の施設は他の鎮守府の工廠と同じように機能していた。

三河がやってきたのはその中の建造ドックだ。

 

「あ、提督!」

 

ひょっこり奥から顔を出したのは明石だ。

 

「お、明石。怪我はもういいのか?」

「ええ、おかげさまで。で、何の御用ですか?」

「いやあ、ちょっと建造しようかと」

「なるほど!わかりました、こちらへ」

 

明石がそう言って、三河を案内した。

 

 

 

一方、第5倉庫では敬一が出来上がったばかりの機体を見上げて怪しげな笑みを浮かべていた。

 

「ぐへへへへへ………」

 

そこに班長妖精がやって来る。

 

「なにしてんだ河志名?」

「何っておやっさん、見てわかるだろう?こいつを眺めてンだよ」

 

敬一が見上げていたのは、俗にいう『グレンブルー』で塗装された新型のヴァンツァーだ。

機体名は『ゼニスAG』。2112年にジェイドメタル・ライマンが発売したゼニスHW2をベースに、

機動力と射撃性能を大幅に増強させ、COMをオリジナルの『SC-JD110』に換装、

これにより格闘機顔負けの機動力を発揮しながらの超精密射撃が可能となった機体だ。

しかし、それ故にパイロットに高い技能を求められる癖の強い機体にもなっているが、

乗りこなしさえすれば強盾軽量型さえも凌ぐ高い戦闘力を発揮するに違いない。

しかもこの機体にはある新機能が搭載されていた。『潜航機能』である。

概念航行システムによって水面上の走行こそ可能だったが、

敬一が今まで作ってきたヴァンツァーは水面下での行動ができなかった。

そこで敬一はこのゼニスAGに、鹵獲した奇兵0型の技術を応用した装甲を搭載。

さらに装甲表面に音波を反射しにくい特殊コーティングを施すことによって、

ソナーに見つかりにくくなり、潜水して密かに狙撃点に移動、

射撃するという戦術も取れるようになった。

 

「素晴らしいとは思わんかね?」

「確かに、そうだな」

「だろう?」

 

そうして、2人の妖精はゼニスAGを満足げに眺めるのだった。

 

 

 

「さて、どれぐらい使うかな………」

 

三河は資材表を見ながら思案していた。

艦娘を建造するには4種類の資材が必要となる。燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイト。この4つだ。

これらをどれぐらいつぎ込むかで、どのような艦娘が建造されるかが大まかに決まるという。

これを世の提督達はレシピと呼び、ネットなどで情報交換をしていたりするのだ。

 

「………よし、とりあえず無難なレシピで回すか」

 

三河はとりあえず空母が出やすい無難なレシピを回すことにした。

資材表に『300/300/600/600』と記入し、担当の工廠妖精に渡す。

これは燃料300、弾薬300、鋼材600、ボーキサイト600を投入するという意味である。

工廠妖精達がいかにもつまらなさそうに資材を建造用の装置に放り投げていく。

最後に点灯した建造開始スイッチを三河が押す。すると建造が始まる。あとは待つだけだ。

 

「もう1人建造しとくか」

 

そう言って、三河は資材表に記入し工廠妖精に渡す。

隣の装置にまた同じ数の資材を放り込み、三河はまた同じようなスイッチを押す。

こちらも同様に建造が始まった。

 

「さて、建造終わるまでどれぐらいかな………?」

 

建造が始まると、装置に建造完了までの時間が表示される。

この時間で、建造される艦娘があらかた絞り込めるのだ。

見ると、先に建造を始めた方は『06:30:00』と表示された。

 

「6時間半?えっ誰だ?」

 

三河は困惑した。色々ありすぎて自分自身忘れそうになるが、

三河は2か月前に着任したばかりの新米提督なのである。

だからこの時間を見て、誰が出てくるのかわからなかった。

三河はもう片方を見てみる。そちらは時間がべらぼうに長かった。

表示されているのは『99:99:99』という数字である。三河は目を疑った。

 

「………うん?」

 

三河は目をこすり再度表示を見る。『99:99:97』になっていた。

 

「まじか………」

 

無論そこまでは流石に待てない。

あの大部隊を退け、西太平洋方面の敵戦力を大きく削りはしたものの、

未だに深海棲艦の脅威は消えていない。最近はもう哨戒班の索敵圏内にまで出没し始めている。

その都度ヴァンツァーが出動しているが、やはり航空戦力も拡充を図りたいところだ。

ヴァンツァーとて強力であっても万能ではない。空飛ぶ相手を墜とすには、

やはり航空戦力がなければ厳しいのだ。

そのためには、あまり悠長に待ってられない。

三河は、俗にバーナーと呼ばれる高速建造材を使用するよう工廠妖精に頼んだ。

工廠妖精達が高速建造材を持って来て、まず先に建造を始めた方の装置を丸ごと炙る。

これ本当に大丈夫かと、いつも不安に思う三河だが、妖精さんに任せとけばいいかと思い直す。

やがて炙り終わると、表示が『00:00:00』になっており、開放スイッチが点灯する。

スイッチを押すと、装置中央の扉が開き、中から艤装を付けた新たな艦娘が出てきた。

 

「水上機母艦、秋津洲よ!」

 

その艦娘は開口一番そう名乗った。三河は秋津洲を見て、呆然とした。

秋津洲の名は、それこそ新米の三河でさえ知っている。

艦娘の中でも特段に発見例が少なく、その全てがドロップ例で、建造例は未だにない、

かなり珍しい艦娘だという。

それが目の前で、建造装置の中から出てきたのだ。

 

「ん?提督、どうかしたかも?」

「………いえ、その。ホントに秋津洲さんでよろしいんですよね?」

「そうかも!あたしが秋津洲よ!」

「そ、そうですか………あれ?そのでっかいのは?」

 

三河が指さしたのは、秋津洲が持っているでかい飛行艇のような何かであった。

 

「この子は大艇ちゃん!一緒に覚えてほしいかも!」

「は、はあ………」

 

三河は困惑した。今まで発見された秋津洲の初期装備は全て高角砲と機銃だけで、

大艇ちゃんこと二式大艇は付いてこなかった。

改装すれば二式大艇もできるが、最初から持参はしていない。

それが、目の前の秋津洲は建造で出てきた上に二式大艇まで持ってきたのだ。

敬一といい、秋津洲といい、どうもこの泊地は世の中の常識が通じなくなってきているようだ。

 

「まあ、とりあえずよろしく。僕は三河。このショートランド泊地で提督をしている」

「三河提督っていうのね!こちらこそよろしくかも!」

 

三河はとりあえず秋津洲と握手をした。

続いて、後に建造を始めた方の装置を工廠妖精は高速建造材で炙った。

やはりこちらも、表示が『00:00:00』になる。

三河がスイッチを押すと、同じように扉が開いた。

そしてそこから、全く見たことのない艦娘が姿を現す。

髪型は黒のショートカットで瞳は赤色。古鷹型のようなセーラー服を着て、

その上から見慣れぬ部隊章の軍服を羽織っている。

艤装も、甲板のような板を左上腕に装着し、右手にはボウガンを装備、

背中に背負っている艤装にはこれまた見慣れない箱型の兵装が付いている。

三河達が啞然としていると、その艦娘はボウガンを左手に持ち替え、

右手で日本海軍式でない敬礼をして名乗った。

 

「OCU海防軍総海部所属、制海艦『モント』です!」

 

 

 

同刻、いつも通り第2哨戒班はショートランド泊地周辺海域をパトロールしていた。

 

「今日も海は平和だね。よきかな、よきかな」

 

索敵をしつつ、敵襲の気配がない穏やかな海を眺めて、朧がそう言う。

 

「敵影が見えず電探音探にも何も映らず、波が穏やかなだけでしょ。それも自分の見える範囲で。

今でもどこかで艦娘と深海棲艦が殺しあってる。平和とは言えないでしょ」

「お?ぼのたん敵襲ないからってご機嫌斜め?」

「黙れ漣。処すぞ」

「サーセンwww」

 

いつも通り漣が曙をからかっていたその時、潮が何かに気付き足を止める。

 

「あれ………?」

「ん?どしたの潮ちゃん?」

「いや、今何か聞こえたような………?」

 

それを聞き、他の3人も足を止める。

確かに、何かモールス信号のようなものが聞き取れる。

が、暗号化してあるらしく、朧達では解読できなかった。

しばらくすると、その信号も途絶えてしまった。

 

「途絶えたね………」

「一応記録はしたけど………。とりあえず泊地に戻ろう」

 

そうして、第2哨戒班はその旨を泊地に連絡し、一旦帰投していった。

その頃、離れたところにある無人島の1つに砲撃が着弾したことを、彼女達は知らなかった。

 

 

 

「なるほど、つまり河志名中尉は事故死して、気付いたらその姿になってたと」

「ま、つまるところはそうだ」

 

建造されたばかりのモントは、三河達との挨拶を済ませた後、

明石の案内でヴァンツァーを作っている敬一のもとへやってきたのだ。

 

「にしても、まさか『日防軍の鬼才』がこんなところにいたとは驚きです」

「こっちも驚いたよ。アロルデシュ・クーデターで現地に派遣された制海艦が、

まさか艦娘としてこの世界に来るとはねえ」

 

敬一の言葉で、モントは当時のことを思い出す。

アロルデシュ・クーデター。

2102年にOCU加盟国の1つ、『アロルデシュ人民共和国』で勃発したこのクーデターは、

昨今のOCU領内で起きた紛争の中でも特にすさまじいものだった。

OCU発展の陰で貧困に苦しみ、ろくな援助も受けられなかったアロルデシュは、

それ以前も治安がすこぶる悪く、さながらスラム化していた。

そんな窮状を嘆き、貧困から脱することを夢見て、アロルデシュ軍が一斉蜂起。

これがアロルデシュ・クーデターが起きた経緯である。

もっとも、これは表の筋書きであり実態はまるで違うのだが、それは今問題ではない。

アロルデシュ陸軍『ヴェン・マッカージェ』中佐を指導者とした革命軍は瞬く間に、

OCU施設や政府施設を占拠、アロルデシュの独立を宣言するに至る。

これに対しOCU軍は大部隊を派遣、鎮圧に乗り出すも失敗。

派遣部隊は、制海艦モントを残しほとんどが壊滅した。

しかし、勃発時国内に駐留していたOCU部隊のうち、いくつかの部隊は制圧を免れており、

そのうちの1つ、OCU海防軍第31上陸機動大隊『マディ・オッターズ』に属するある小隊が、

国際的密輸組織『バーグ運輸』と手を組んで革命軍を撃破。

その後、クーデターは終息していくことになるのだが、終結後も結局治安は悪く、

治安維持のためにOCU各国から部隊が派遣されていた。

日防軍からも部隊が派遣されたが、そのうちいくつかが暴動の鎮圧に失敗し全滅している。

 

「あれは酷かったですよ。なんたって終わった後も治安がひどかったですもんね」

「俺も治安維持任務で派遣されたがね、国中がスラム街みたく酷ェことになってたよ。

あんなもん見たら、OCUなんて枠組みがホントに正しいのかさえ疑問に思えるだろうさ。

何より、あそこから戻った日防軍兵士に浮かれた顔してる奴は1人もいやしなかったよ」

 

そんな話をしていた時、第5倉庫に朧が艤装を持ってやってきた。

 

「河志名中尉、頼み事してもいい?」

「用件だけなら聞いてやる」

 

敬一がそう言うと、朧は艤装を降ろす。

 

「これの中に暗号化されたモールス信号が記録されてるから、解読できないかと思って」

「大淀に頼めばいいだろうに」

「その大淀さんでも解読できなかったから頼んでるんです」

「………はあ、わかったよ」

「ありがとう」

 

敬一はライラスに乗ってきて、艤装を持ち上げ、研究開発スペースへと運んだ。

残った朧は、先程から気になっていたモントに尋ねる。

 

「ところであなたは?」

「ああ、すみません。OCU海防軍の制海艦モントです」

「お、OCU?」

「ええ。といってもこの世界ではこの肩書は意味を成さないみたいなので気にしないでください」

「は、はい」

 

朧がそう答えた。その直後、研究開発スペースから敬一が飛び出してきた。

 

「あ、河志名中尉、どうでした?」

 

朧がそう聞くのも構わず、敬一はライラスから強盾軽量型に乗り換え、

ローラーダッシュで走り去っていった。

 

「な、なんだったんだ………?」

 

朧は戸惑いそう呟いた。

 

 

 

有無を言わさず執務室の扉が蹴り飛ばされたら、そこにいたのが三河でなくともビビっただろう。

執務室に強盾軽量型に乗ったまま突入してきた敬一に、三河は椅子からずり落ちた状態で聞いた。

 

「え?な、何?どしたん?」

「三河少佐、直ちに部隊出動の許可を願いたい」

「は?」

 

敬一は器用に強盾軽量型の左手に持たせていた書類を三河に渡し、説明する。

 

「先程第2哨戒班が持ち帰った暗号通信です。これはOCU陸防軍が使用している救難信号で、

これが確認された少し後、この信号が途絶えています。

つまりOCU関係者がこの近辺にいて、かつ何者かの襲撃を受けている可能性が高い。

一刻も早く救援部隊を派遣すべきです。許可を願いたい」

「え?いや、でもそんな余裕は………」

 

ない、と言おうとした時、敬一は強盾軽量型の右手に装備されたジリーノの銃口を、

三河の眉間に突きつけた。

 

「オーケー理解した。許可しよう」

「ありがとうございます」

 

そして敬一はすぐさま身を翻し、工廠へと戻っていった。

 

 

 

モントの艦載機の1つ『PCV-02FVa ストームマスター』は、

ヴァンツァーを複数輸送できる垂直離着陸可能な輸送機として知られていた。

そんなストームマスターが2機、ショートランド泊地の滑走路に並んでいる。

横では第1機動隊、第2機動隊のヴァンツァーが列をなし、ストームマスターに搭載されていく。

 

「いいかお前らァ!今回は救助任務だ!OCU関係者を発見した場合速やかに保護しろ!

つかOCU関係者以外でも民間人ないし味方がいたら救助しろ!」

『『『サーイエッサー!』』』

 

敬一が無線でそう伝える。敬一がここまで救助にこだわるのには理由があった。

なぜOCUの暗号無線を使えたのか、それが気になったからである。

部外者は知り得ないはずの軍用暗号無線を使ってるのがもしOCU関係者であればそれでよし、

部外者が運用しているならその暗号無線をどこで習得したか聞き出さねばならない。

でなければ最悪こちらの通信さえ盗聴の恐れがあるのだ。

そう考えている間にも搭載が完了し、ストームマスターが離陸していく。

なお、今回は第1、第2機動隊のヴァンツァーの他に、ゼニスAGも積み込んでいる。

救助した後についでに実地テストを行うためだ。

しかしこの時、まさかこのヴァンツァー馬鹿の判断が役に立つことになろうとは、

敬一自身ですら思ってもみなかったのである。

 

 

 

最近の艤装というのは便利なもので、件の救援信号の発信場所の逆探知もしてあった。

そのため、敬一達はまっすぐにその島にたどり着くことができたと言えよう。

上空から見てみると、そう大きくはない無人島があった。

建造物らしきものは見当たらず、海岸に小屋らしきものが1つ見えたが、

それも最近砲撃を受けたのか爆発の痕があり、炎上している。

そして近海には、深海棲艦の部隊が展開していた。

 

「あいつらがいたんじゃ救助どころじゃねえや。着陸させろ!」

 

敬一の命令一下、ストームマスターは無人島に着陸し、ハッチを開放する。

そこから第1、第2機動隊のヴァンツァーが発進していった。

敬一はすぐさま敵編成を確認する。

 

「敵は駆逐艦が8隻、軽巡が4隻、戦艦が2隻か。どうってこたあねえな」

 

相手がそれほど強くないと踏んだ敬一は真っ先に突撃する。

ジリーノの照準を定め、まずは前衛の駆逐イ級に発砲した。

が、しかし、駆逐イ級はその散弾を装甲で防いだ。

 

「なにィ!?」

 

お返しとばかりにイ級が発砲。砲弾は強盾軽量型には当たらなかったが、

後続で続いていた第2機動隊の強盾に命中、左腕を吹き飛ばした。

 

「チッ、こいつらかなり強化されてやがる!各機散開!敵弾は盾で防ぐか避けろ!」

 

敬一の指示を受け、隊列を組んでいた他のヴァンツァーが散開する。

第1機動隊の強盾が、イ級へ向けクローニクを連射した。

クローニクに装填されている実包は、ジリーノとは違い徹甲弾仕様だ。

さしものイ級も徹甲弾には弱く、明らかにダメージが入っていると見える。

しかし数発程度では沈まなかった。後衛の炎陽がそこにマジックボックスを発射する。

マジックボックスミサイルはイ級に命中し、今度こそイ級を撃沈した。

 

「こんな硬ェのがあと13体もいるのか。やっぱジリーノの実包も改良しなきゃな」

 

そう言いつつ、プレスニードルで軽巡へ級を攻撃する。

プレスニードルはへ級の装甲を貫通したが、撃沈まではいかなかった。

敬一はへ級が体勢を整える前に装甲にできた穴にジリーノをねじ込み、散弾を叩き込む。

へ級はその攻撃に耐え切れず、轟沈した。

 

「よし、まったく攻撃が利かねえってわけでもなさそうだな」

 

敬一は他の機体の様子も見てみる。

いつもより手こずってはいるが、大体優勢だった。

特にシール3が装備するイグチ5式ライフルの徹甲弾は、相変わらず敵を一撃で撃破していた。

その時、レーダーに反応が出る。敵の増援だ。駆逐艦12隻、軽巡4隻、戦艦4隻の艦隊だった。

 

「おいおいマジかよ、どんだけ部隊を寄越してんだ!?まさか救援信号をキャッチしたのか?」

 

敬一はそうぼやく。といっても、暗号無線を解読されたとは思っていない。

深海棲艦がOCUの暗号無線を傍受できるなら、

ストームマスターに敬一達が乗ってる時点で待ち伏せをかけてくるはずだからだ。

それをしてこない上に、ストームマスターが着陸する隙すらあったのだから、

暗号解読はされてないと踏んだ。

となると、単に謎の通信をキャッチして、確認しに来たという方がしっくりくる。

しかし、それにしても数が多い。

 

「(連中、何か知ってやがるな………?)」

 

そう感付いた敬一だったが、捕虜をとるつもりはなかった。

理由は単純。言葉が通じないからだ。

とりあえず、敬一は手近な深海棲艦にジリーノを牽制で撃ち込みつつ突撃していった。

 

 

 

一方、無人島からその戦闘を見ていた妖精がいた。

ここに漂着し、救難信号を出した本人である。

 

「これまたドンパチやってやがるな………」

 

妖精はそう呟き、とりあえず仮拠点へと戻る。

探索を始めて数時間。無人島に住む野生動物と戯れていたらあっという間に時が流れたのだ。

ともあれ、半ば存在自体忘れそうになっていた仮拠点に向かう。

着いた頃にはすでに小屋は炎上していた。

 

「おいおい、勘弁してくれよ………ん?」

 

妖精はぼやいたが、次の瞬間には少し離れたところに着陸している輸送機を見つけた。

機体に描かれたマークはOCU海防軍のものだ。

 

「海軍か………」

 

妖精はその輸送機、ストームマスターに忍び込む。目当てはヴァンツァーだ。

これぐらいの規模の輸送機なら、ヴァンツァーを積んでるかもしれないと考えたのだ。

実際、格納庫には青色のゼニスがあった。右手にはイグチ5式、左手にゲイルが装備されている。

 

「ビンゴ!いいもんあるじゃねえか!」

 

妖精はすぐさまゼニスに乗り込む。コンソールに出てきた表示を見て、妖精は笑みを浮かべた。

 

「『ゼニスAG』か。へえ、なるほど。こりゃかなり手の込んだ改修がされてんだな」

 

そして起動手順をすべてクリアし、ゼニスAGが動き出す。

するとそれに気付いた整備員妖精が駆け寄ってきた。

妖精はスピーカーをオンにして告げる。

 

「ちょっとばかし借りてくぜ」

「貸せるかよ!」

 

整備員妖精がそう怒鳴るが、お構いなしに妖精はゼニスAGを発進させた。

足元で「待って、止まれぇ!デュワアアアア!」という悲鳴が聞こえたが気にしない。

………いや、あとで謝っておこう。妖精はそう思った。

ともかく、ゼニスAGに乗って、その妖精は戦場へと向かうのだった。

 

 

 

洋上では、ヴァンツァー側がやや押され気味になっていた。

いくらヴァンツァーが優秀でも、数の暴力にはやや弱い。

以前のショートランド攻防戦の時は敵が弱かったからよかったものの、

今回はその時の敵とは格が違う。威力も防御力も桁違いだ。

辛うじてイグチ5式の徹甲弾で一撃撃沈できる程度で、

駆逐艦1隻の撃沈にクローニクの徹甲弾だと十数発、マジックボックスで2発を要するのだ。

それが軽巡、戦艦ともなるとそれどころじゃ済まなくなる。

イグチ5式でも急所に当たらない限り一撃では撃沈できなくなってくる。

そのため、押され気味になっていたのだ。

 

「チッ。シャーク4、シャーク5は一旦下がれ!シャーク6、敵軽巡に攻撃!」

『イエッサー!』

 

敬一が指揮を執ることで体勢を立て直しつつあるが、それでも押され気味なことに変わりはない。

そんな時、敵の戦艦ル級のうち1隻が、頭部を撃ち抜かれ爆沈した。

 

「なんだ!?何が起こった!?」

 

敬一がそう言うと、シール2が何かに気付く。

 

『隊長、あれを!』

 

シール2が指す方向から、1機のヴァンツァーが強盾以上の速度で接近してきた。

IFFは味方。機種はゼニスAGだ。

 

「ゼニスAGだと!?誰が動かしてる!?」

 

敬一がそう怒鳴った。ゼニスAGは強盾軽量型の近くまで来た。

 

『お前がこの部隊の指揮官か?』

「ああ。日防軍の河志名 敬一だ。そっちは?」

『俺か?そうだな………まあ、後で名乗る。今はまず敵を倒すのが先じゃないか?』

「確かに。おたく、職種は?」

『ガンナーだ』

「よし。じゃあ後衛で………」

『いや、前衛でやらせてもらおう。そっちの方が性に合ってるしな』

「わかった」

 

そうやり取りして、ゼニスAGと強盾軽量型は敵陣へ突撃する。

その後ろに、他のヴァンツァーも続く。

最初に発砲したのはゼニスAGの方だった。

素早く、無理も無駄もない機動で距離を詰め、イグチ5式の最大射程に入った途端に発砲。

なんと初弾で戦艦ル級の頭部を吹き飛ばした。

その後も次々と敵艦の急所にイグチ5式の徹甲弾を叩き込んでいく。

すべて一撃で敵艦を撃沈していた。

敬一も負けていない。最大速度で強盾軽量型を突っ込ませ、敵艦にプレスニードルを突き刺す。

それでも撃破できなければ0距離でジリーノを叩き込む。

ゼニスAGと強盾軽量型。どちらも1隻づつ確実に、かつ素早く屠っていく。

 

『す、すごい………!』

『俺達も負けてられないな、攻撃開始!』

 

他のヴァンツァー達も負けじと敵を攻撃する。

複数機で連携(リンク)攻撃し、1隻1隻を確実に仕留めていった。

 

 

 

やがて敵が全滅すると、敬一は全機にストームマスターに乗るよう指示を出し、

ゼニスAGにもストームマスターに乗ってもらった。

無人島を離陸し、ショートランド泊地へと針路をとる。

飛行中、ヴァンツァーから降りた敬一は、ゼニスAGを降りた妖精と対面する。

金髪で、左腕に特徴的な傷跡がある、飄々とした雰囲気のその妖精に、敬一は問う。

 

「で、おたくはどこのどちら様だ?」

 

すると少し考えて、妖精は名乗った。

 

「元OCU陸防軍所属、『グレン・デュバル』だ」

 

それを聞いて、敬一は3秒ほど固まる。

そして3秒後、何故か大喜びした。いや大喜びどころではない、狂喜乱舞した。

グレン・デュバルといえば、あのグレン・デュバルである。

かつて第2次ハフマン紛争でUSN軍の捕虜になりながらも生還し、

その後紛争終結まで戦った、あのグレン・デュバルだ。

青色のカラーリングの狙撃機をよく運用し、その操縦技術は神がかっていたという。

終結後はどういうわけか敵味方無差別に殲滅戦をしでかし一躍テロリストになってしまったが、

それはすべて、ある悪の科学者によって操られていたからということで決着がついている。

何より敬一がリスペクトしているのはその操縦技術と本人持ち前の性格で、

OCU軍内にはグレンのファンが相当数存在するというほど、人として立派な人間でもあるのだ。

その男気ある人柄に惚れたOCU軍人の何と多いことか。

 

「うおおおおおお!マジっすか!?あのグレン・デュバル大尉ですか!!

うおっしゃあああああ!!ちょっとサインください!あと握手も!」

「え?あ、ああ。別に構わないが?」

「あざっす!!」

 

グレンは差し出された油性ペンで敬一のスマホにサインを書きながら、シール2に聞いた。

 

「こいつなんでこんなに喜んでるんだ?」

「ああ気にしないでください。元より頭のおかしい人なので」

「そ、そうか………」

 

リスペクトされる理由に心当たりがないグレンは、とりあえず握手もしておいた。

こうして、日防軍きっての天才(変態)技術兵と、元OCUの天才(イケメン)パイロットは出会ったのだった。

 

「あ、そうだ。火ないか?ライターなくしちまったみたいでな」




次回についてのアンケートは12月1日で締め切らせていただきました。
ご協力ありがとうございました!

次回予告☆

敬一達がグレンを連れ帰還した翌日、三河がとんでもない企画を打ち出した。
題して『大演習!河志名中尉VSショートランド全艦娘52名!』。
題名にある通りショートランドの全ての艦娘を相手にすることになった敬一は、
さらに敬一は演習弾のみ、艦娘は実弾使用というハンデまでつけられる。
果たして敬一は生き残ることができるか。
日防軍の天才と、ショートランドの精鋭達。果たしてどちらが勝者となるのか………。

次回『技術兵、跳躍す!』

その姿に、全工廠妖精が泣いた。


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