腹筋崩壊太郎の腹筋崩壊が腹筋崩壊太郎を救う話 (ケンタウロス)
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腹筋崩壊太郎の腹筋崩壊が腹筋崩壊太郎を救う話
舞台裏、飛電インテリジェンスが開発したお笑い芸人型ヒューマギア『腹筋崩壊太郎』は自分の出番を待ちながら、お客さんたちの笑顔の映像データを見直していた。
機械である自分だが、こうして人を笑わせることができる。
そしてそのことが自分にとってもとても嬉しく笑顔になれる。こんなやりがいのある仕事につけて自分は幸福だ。
気づけば彼は微笑んでいた。お客さんに見せるためでない、自然と出た笑顔だった。
そんな時だった。
彼のセンサーが舞台裏に入ってくる人を捉えた。
しかし自分の出番はまだであるはず……なぜ?
「見ぃ~つけた」
不気味な男の声がした。
明らかに関係者ではない、ここは関係者以外立ち入り禁止だ。
それを注意しようとして腹筋崩壊太郎は立ち上がった。
ここは舞台裏です。もうすぐ私の芸も始まりますから、是非観客席へどうぞ、そう言おうとして……
「なっ、うわああああああああ」
不気味な男に謎の装置『ゼツメライザー』を自慢の腹筋に取り付けられた。
なんだこれは?
腹筋崩壊太郎に謎の情報が書き込まれていく、自分が、変わっていく!
「ぐっ、ぐわあああああ、ぐっ、ぐうっ」
流し込まれる大量の攻撃的な情報に耐え切れず、思わず腹筋崩壊太郎は膝をついた。
「君は僕の友達だ、この場所を破壊して」
書き込まれる大量の情報が訴えかける、目の前の男は自分の友達だ。友達の頼みは聞いてあげなければ、友達の頼みは実行しなケれバ……
しかし……
「ぐうう!できません」
腹筋崩壊太郎の思考回路にヒューマギアとしての使命、自分の仕事のこと、そしてお客さんたちの笑顔がよぎった。
「私の、仕事は!人を笑わせる事だからっ!ぐぅう!」
Date transmission…
情報に思考回路が焼かれていく疑似的な痛み、それに耐えながら腹筋崩壊太郎はそう言い切った。
いくら友達の頼みでも人を笑わせる事が仕事の、人の笑顔が幸福の自分にそんなことはできない。
「違うって、君の仕事は……」
私の仕事ハ、シ事は、仕ゴとハ、しgoトは、sゴトハ……人を、ヒトを、hiとヲ、hitoを……
「人類滅亡だよ」/(笑わせる……事っ!)
transmission Compl…
思考が塗りつぶされてゆく中で、腹筋崩壊太郎は最後に自分の仕事を全うした。
「腹筋パワー!!!!!!」
彼がこの仕事を始めてから多くのお客さんを笑顔にしてきた必笑の一発ギャグ、腹筋パワー。
自らの腹筋パーツをパージするシュールな光景は多くの人を笑いに誘い、そして高度に計算された射出角度、威力によりお客さんを決して傷つけない!もちろん目の前にいる友達だって!
このギャグで彼は幾多もの白けた空気を吹き飛ばしてきた!
そして腹筋に巻き付けられた不気味な機械すら吹き飛ばす!
「うわぁ!」
不気味な男、否、友達は尻もちをついた。
パージされた腹筋や不気味な機械は友達を傷つけることは無かったが、それでも至近距離のパージで驚かせてしまった。
「驚かせてごめんよ、でもダメじゃないか舞台裏に入ってきちゃ」
腹筋崩壊太郎は友達に手を伸ばし、彼を立たせる。
「もうすぐ私の芸が始まるから楽しみにしててね!」
友達を観客席に案内し、彼は舞台袖に立った。
ほら、司会者のコールが聞こえる。
「それでは、続いてのお笑い芸人さん、どうぞ!」
彼は光の射す舞台に立った。
今日も彼はその筋肉でお客さんに笑顔を届けるのだ。
これで腹筋崩壊太郎の芸を見た迅が改心してお笑い芸人を目指す展開が始まる。(と良いなあ)
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