幻想郷の普通な物語 (メガネをかけた人喰い鬼B)
しおりを挟む

下着と魚

※口調が統一しないのは仕様です。


はろーえぶりいわん。

あ、どうもはじめまして皆様。

私、名を運星(うんせい)と申します。以後お見知り置きを。

いきなりで大変恐縮ではあるのですが、これを読んでいる皆様にひとつお願いがございます。

……いえいえ、何も借金の連帯保証人になって欲しいとか賭場で使う金を貸して欲しいとかでは決してありません。

ただ一度、一度きりでいいのでこんな私のお願いを聞いて貰えないでしょうか?

 

どうか……

 

 

「待ちなさい!」

どうかお助けえぇぇ~!!!

 

どうか、私を助けて貰えませんでしょうか?

 

「往生際が悪いわよ!博麗の巫女の下着覗いといてタダで済むと思ってんの!」

「悪気は無かったんです!ですからどうか!どうかお慈悲を~!!」

 

そうなのです。

私、博麗神社へお参りに行ったら着いた途端に転んでしまいまして……

倒れた先は彼女の足元、というか真下だったのでその拍子にスカートの中身を……その……白い、下着を……

楽園の素敵な巫女の意味を知ってしまいました。

 

「これは…邪念……!アンタ、疚しいこと考えてるんじゃないでしょうね!?忘れなさい!全て!今すぐ!未来永劫に!!」

 

紹介が遅れてしまいましたが、彼女は博麗霊夢。

この博麗神社の巫女を務めると同時に妖怪退治と異変解決のぷろふぇっしょでもある方です。

私とは……まぁ腐れ縁という関係性になるのでしょう。

お互いの両親の仲が良かったので古くからの知り合いですし。

 

「霊夢と俺の仲だろー!昔からの(よしみ)ってことで一つ頼むよ!!」

 

あ、どちらかと言えばこっちが私の素です。

何故敬語なのか……ですか?

初対面の方々相手にタメ口をきけるほど私の心臓は鋼じゃありませんからね。

 

「その好ってゆーので頼むのも何回かしらね!」

「恐らく今回で記念すべき百五十回目になるかと」

「なるかと、じゃないのよこの変態!」

 

失礼な、確かに見てしまったのは事実だが故意ではないので変態と呼ばれる筋合いは無い。

しかしどうしてこの様な事態になってしまったのでしょうか?

ここに来る途中で『何かの拍子に可愛らしい女性の下着でも見れたりしなかナー』とか考えたからだろうか?

 

※ここで解説しておこう!

本人は自覚していないが、彼は『望みが叶う程度の能力』を秘めている。

彼が宝くじ当たったらいーなとか考えたら当たるし下着が見たいと思えば見れてしまうとかいう、バトルもので出しちゃいけない能力の筆頭みてぇなヤツなのだ!

要するにメッチャ運のいいやつ。

しかし、自覚がないために過程は問わずに望み自体が叶うので不運な結果に終わることのが多いそうな。

以上、解説でした。

 

そんなこんなで逃げ回っているうちに、いつの間にか神社の隅っこの方まで追い詰められていた。

万事急須、もとい休す。

 

「もう逃げられないわよ、観念なさい」

「お許し下さいませ、神様仏様龍神様霊夢様ー」

「……許してほしい?」

 

土下座しながら首を縦に振る、アカベコもかくやというぐらいに、男にしては少し長い茶髪をこれでもかというほど振り乱す。

ここで目を涙ぐませることも忘れないのがポイントです。

 

「そうねぇ……じゃあ今日は━━━」

 

おおよそ巫女がするものとは思えない悪どい顔をしておられます。

それでもそれなりの画に見えてしまうのは、私がいよいよ末期だからでしょうか?

……いつものことだから見慣れてしまったとかは言わないお約束。

 

「ん~♪相変わらず上手いもんねぇ~♪」

「それはどーも、はぁ……」

 

所あんまり変わらずここは博麗神社。

私は許してもらう条件として、料理を振る舞うことになりました。

無論、茶色ばかりで鮮やかさに欠ける男飯ではなく、私なりに彼女の栄養バランスを考慮した川魚定食です。

何せ普段は人里で料亭を営んでいますから、料理の腕だけは人に自慢できます。

しかしながら私もそこまで金銭的に余裕があるかと聞かれれば、今度は首を傾げざるを得ません。

たまたま店の材料が余っていて本当に良かった、いや本当に。

 

にゃによー(何よー)はらひにごひほうふるろがひょんらにふはん(私にご馳走するのがそんなに不満)?」

「そんなじゃねーですよ!それと口のモノ飲み込んでから話しなさい、仮にも女の子でしょうに」

「んっ、仮にもって何よ仮にもって?」

 

同年代の男を力で捩じ伏せる女がどこにいる、とは決して言わないし言えません。

いや、怖いということも無くはないですけど、人前ではぶっきらぼうに振る舞っていても魚の骨を綺麗に取っているあたり、やっぱり繊細なんだなぁと思うわけです。

自分の料理を食べて顔を綻ばせる姿とか、年頃の女の子そのものですしね。

 

「そういや、アンタは食べないの?」

「食べる食べない以前に材料がもうねぇのだよ。あーあ、空から食材でも降ってこないかしらー」

「ちょっ……!」

 

ベチンベチベチベチベチベチベチ!

 

んなこと考えていたら、屋根に水っぽい何かが打ち付けられたような音が響いた。

雨……にしては一ヶ所に集中している。

木に溜まってた雨水……も最近は3日連続で日本晴れなので除外。

ではこの音は一体なんなのでしょうか?

 

「少し見てくる」

「どーぞご自由に」

 

縁側に置いてきた靴を履きなおして外へ様子を見ようとした時、ふと違和感に気付いた。

水っぽい音がしたにも関わらず、靴も地面も一切濡れてはいなかったのです。

いや、よく見れば地面には水滴のような斑点がちらほらと。

現場と思われる屋根の上に視線を向けてみましょう。

 

「……アユ?」

 

そこにはとびきり活きのいいアユが五~六匹、屋根の上で跳びはねていたではありませんか。

水っぽい音も地面の水滴もこれが原因のようだ。

しかし何故アユがこんなところに?

ナンデ?アユナンデ?

 

「で、なんだったの?」

「アユが、屋根で、跳ねてた」

「はぁ……やっぱりか……」

「あり?」

 

霊夢は頭を抱え、呆れたように溜め息をついた。

想像してた反応と違いはしますが、昔っからこーゆーとこがあるので許してやってください。

こんなでも私の昔馴染みなもので。

 

「おーい!ここらに魚が落ちて…こな…か……った……」

 

突然、襖がバタンと開けられた。

その先には、私や霊夢より一回り幼い容姿をした少女が佇んでいました。

腕に付けている丸と三角の飾りも気にはなるが、何よりも印象的なのが頭に携えた二本の立派な角。

次いで目に入るのが頭の大きなリボンと四角の飾り。

見た目の割には片手に瓢箪を持っていて、顔も赤く酒臭い。

まぁ妖怪か何かでしょう、幻想郷(ここ)では珍しくもなんともありません。

 

「萃香じゃない、何しに来たのよ?」

「れ、れ……」

「れ?」

「霊夢が男を引っ掛けてきた~!!?」




うんせーのせってー その1

話し方が統一しないのは、キャラがあやふやなまま成長してしまったので『キャラが統一しないキャラ』が定着してしまったから。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アユの塩焼きって川で食べるイメージ

あーゆーレディ?


「霊夢が男を引っ掛けてきた~!!?」

 

幼い体躯に立派な角を携えた、瓢箪をもって見るからに酔っ払っている『萃香』と呼ばれた少女は、元よりパッチリしていた目を大きく見開いて驚愕に染まっていた。

口もあんぐりとまではいかないまでも、塞がらないといった様子。

 

「霊夢さん、説明ぷりーず」

「その位自分で聞きなさい。ついでに誤解も解いてきて」

「俺が言って信じてくれるかね?」

「話せばわかるわよ。じゃ、よろしくー」

 

話せばわかるって、どーゆーこっちゃ?

いまいち説明になってないような気がするのだ。

なんにせよ、言葉にしなきゃ伝わらないので話してみましょう。

片や妖怪、片や普通の人間、死ななきゃいいけど。

神社向かってパンパンと手を合わせ、殺されませんようにと強く願う。

今は手持ちが無くお賽銭が出来ないので届くかどうかはわからないが、この際無いよりはマシだと自分に言い聞かせる。

 

……お賽銭って後払いできるかな?

 

「あのー……」

「……はっ!ん?あ?あぁ。この私に何の用だ、人間」

「用と言いますか、何か誤解されているようなので訂正したいと思いまして。あ、申し遅れました。私、運星と申します」

「誤解ねぇ…じゃあ何か、この私が間違っているとでも?」

「いや、間違ってるから訂正に来たのですが」

「くくっ……人間風情にしては馬鹿正直なヤツだ。だが……」

 

萃香(?)がそう前置きをすると、急に背筋に寒気が走った。

野生の勘か意図してか、首は否応なしにその原因へと向いた。

今の私の状況を説明するには『蛇に睨まれた蛙』という言葉が最適でしょう。

そんな私を尻目に、妖怪萃香は不適に嗤う。

 

「この私が山の四天王、鬼の萃香と知ってのことか?」

「…なんですと?」

 

鬼?ONI?

鬼ってあの鬼?英語でいうところのオーガ?

何時だったか、霊夢から聞いたことがある。

曰く「その昔、妖怪が住む妖怪の山の中でも頂点に立つ種族があった。それこそが鬼であり、その中でも飛び抜けて強い力を持つ者を『山の四天王』と呼び怖れられた」とかどうとか。

今はそのほとんどが地下にいるそうだが、まぁ妖怪の頂点の種族で四天王なんて呼ばれてる常識はずれに常識なんて通用しないだろうと。

そっと考えることを地平線の彼方へ誘った私、こと運星はそんなことを思いながらも必死に言葉を選んでいます。

 

「霊夢とは腐れ縁なんですよ。今日は料理を振る舞っていただけで」

「だそうだが、どうなんだ霊夢ー?」

「まぁ、だいたいソイツの言った通りよ」

 

萃香さんは顔を再びこちらへ向けると、今度はジーっとこちらを睨み付けてきた。

怖い、なにこの幼女ちっこいのに怖い。

「殺されそうになったらどうか命だけでもお助け下さいお願いします何でもしますから」という長文を視線に込めて霊夢に放つが、当の宛先はいつの間にか食卓に戻って味噌汁を啜っていた。

くそぅ、借りにも当事者なのに全部こっちに放り投げやがったな。

 

「…嘘はついてないようだな。もしついていたら、塵殺していたところだ」

「塵殺!?」

 

可愛らしい笑顔を浮かべながら私が塵と化す平行世界を語る少女萃香、私はどうやらまた一人頭の上がらない人が増えたようです。

と、話が一段落ついたところで重要なことに気がついたのです。

 

「「そうだ、アユ!」」

 

被ってしまって一瞬ヒヤッとしたのはどうかご内密に。

 

「アユどこ行った?」

「あ、それなら確かそこに…」

 

私は縁側に置いてあるタライを指差しました。

我々が話してる間に霊夢がアユをタライに入れてくれたのです。

おおかた不言実行を見せて後で分けて貰おうという魂胆でしょう。

しかし中身を見るとまだ元気に泳いでいて、新鮮で美味しそうなアユだと考えてしまう私は生粋の料理人だと自負したい。

 

「そうだ、これ幾つか譲ってやるよ。誤解した詫びってことでさ」

「いえいえ、お気持ちはう「美味しそうなアユね、大根おろしもいいけどやっぱりアユは塩焼きが一番よね♪」…ありがたく受け取っておきます…」

 

それにしてもこの紅白巫女、やけに食い意地はってることで。

こないだの一品抜きダイエットに失敗して少し体重増えたことをお忘れなのでしょうか?

 

「どうせならここで塩焼きにします?」

「おっ、いいねぇ!アンタらの話しも肴に一杯やろうかね!」

 

ということで、鬼の萃香さんと食事を共にすることに。

私がアユの下準備をしながら火の番をしていると、ふいに霊夢が横に腰掛けた。

…魚の生臭さで女の子の匂いとか全然わからん。

 

「どした?」

「別に、手伝うことあるか聞きに来ただけ」

「…そう言って取り分奪われる未来が見えたんだが?」

「…覗き魔

「一本献上するのでチャラにしてくれ!いや、してくださいお願いします!」

「で?私は何を手伝えばいいのかしら?」

「台所の調味料よろしく」

「ん」

 

『そんなの分かってたわよ』と言わんばかりにノータイムで塩諸々を取り出す霊夢さんマジ幼なじみ。

先ほどまでは風が強くて外で焼けるか怪しいところだったが、現在は肌を撫でる程度でむしろ心地よい。

一通り串を指し終えて、あとはしばらく見守るだけとなり、軽く日が傾いた中、二人で焚き火を囲んでいた。

愚にもつかない無駄話をしているうちに、話題は先ほどの出来事へ。

 

「つかアンタ!腐れ縁ってなによ腐れ縁って!説明するにしてももっと他の言い方あったでしょう!?」

「良いだろ腐れ縁!縁側が腐るくらい長い付き合いって意味だぞ!別に悪いことないぞ腐れ縁ー!!」

「アンタが言うとなんかこう…響きがバカにしてんのよ!」

「理不尽!霊夢さんすっごく理不尽!」

 

「はぁ…今日もいい月見酒が飲めそうだ」

 

萃香さんは私たちを優しい目で見守りながら、そう(こぼ)しました。

独り言にしてはやけに大きいそれは、私と霊夢の耳に確かに入った。

 

しかし、本当の意味を知るのはまだ先のお話。




うんせーのせってー その2
霊夢から妖怪のことに関して(主に酔ってる時の自慢話として)聞かされてるので、他の一般人よりは知識がある。
しかしあるだけ、対処方法とか聞いても出来ないもの。


『今宵は月が綺麗だね』


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

運はいいほうです

実は言霊の妖怪かなんかだったりしないよね、運星くん?


 人里。

 妖怪や魔法使いやその他諸々など粒揃いな幻想郷において、ここは人間の最も多く住む場所だ。

 人間に害をなす妖怪等はもれなく博麗の巫女にボコにされるということで幻想郷の中でもかなり安全な場所でもある。

 ここにはそれなりの数の人間が軒を連ね、商いや農耕に勤しんでいる。

 

 かく言う私も、ここ人里では料亭なんぞをやっておりまして、ありがたいことにそれなりに繁盛しております。

 一応は高級料理を出すということですので、無論一人でやっているわけではなく、さりとてそこまで大きなものでもないので、十人程の従業員で、うれしくも日々忙しなく店を回している次第です。

 料亭といっても、お座敷があったりだとか高級な料理を出したりするわけでもないので私としては食堂のほうが馴染みますが、名前に関してはここの大家さんが決められたことですし、あまり気にすることでもないので今度顔を見かけたらそれとなく言ってみましょう。

 ━━っと、お客様が参られましたので、この辺で失礼いたします。

 

「いらっしゃいませ。ようこそ、料亭『しろほし』へ」

 

 いつも通り少しだけ笑みを浮かべながら、私こと運星は本日も汗水流して働きたいと思います。

 

 

 ……一方その頃、博麗神社では……

 

 

「おっすー、遊びに来たぜ」

 

 黒いとんがり帽子にエプロン、私が持っているものより少しモノが良い箒、黄色い房々(ふさふさ)(この間本人に言ったら怒られた為、心の中だけに留めておく)な髪の毛。

 アイツとはどっこいどっこいなほど見た顔が、そこに立っていた。

 

「あぁ魔理沙、いらっしゃい」

「お邪魔するぜ」

 

 縁側に揃って腰を掛ける。

 いつも通り魔理沙が左、私が右だ。

 

「珍しく昨日は来なかったじゃない。何かあったの?」

 

 魔理沙は基本的に2~3日に一度くらいの頻度で遊びにくる。

 何か急用があったという話も聞いていないので、いつも通りの頻度であれば昨日くらいに遊びに来ていたはずなのだが。

 

「あー……別に何かあった訳じゃないんだ。ただ、近くまで来たところでアイツが見えたから……な?」

「そういうこと」

 

 アイツ、とは運星のことだ。

 魔理沙は運星があまり得意ではないらしい。

 といっても性格があわないだとか、ひたすら反りがあわないわけではない、むしろ話してる分にはとても仲良さげな二人なのだ。

 ただ、以前に運星がなにを思ったのか、ずっこけた拍子に魔理沙の上に覆い被さり、あろうことか魔理沙の胸元に顔を埋めるという好色漢紛いな事件があったため、それ以来近寄るのを躊躇しているようだ。

 一応両者ともそれなりに長い付き合いになるので、体質のことは魔理沙も知ってはいるはずなのだが、やはり近寄りがたいのは変わらないようだ。

 私はともかく、魔理沙の考えも当然だろう。

 というか、それが普通だ。

 

「そういや、今日は見せたいものがあるんだよ」

「なに? またとんでもないガラクタやらキノコやらじゃないでしょうね?」

「違うって。これなんだがな」

 

 魔理沙が手にしていたのは、今朝の新聞だった。

 なんとなくこの先の内容は察せたが、面倒になりそうなので黙っておく。

 

「これこれ! 『博麗神社に嫌がらせ!? 博麗の巫女への宣戦布告か!』だってよ!」

「……はぁ」

 

 新聞の内容はこうだった。

 

「『先日、何者かが博麗神社上空から魚を落とすという事件があった。犯人は未だ不明だが、上空ということと博麗神社という点から妖怪の仕業とされている。妖怪の中には、人間を擁護する博麗の巫女に対し不満をもっている者も少なくなく、それに向けた宣戦布告として今回のような嫌がらせじみた行為を行ったものと思われる』……だとさ」

「あの文屋、鳥目で物事も見えてないんじゃないかしら? 宣戦布告にしては地味にも程があるわよ、あんなの」

「どういうことだ?」

 

 私は事の詳細を魔理沙に話した。

 無論、追いかけ回した云々の話は省略して。

 途中で料理の話しが出てきた時に、滅茶苦茶身を乗り出して話を聞いていたのは恐らく気のせいではないだろう。

 運星自身のことは苦手でも、運星の振る舞う料理はそれを覆すほどの魅力なのだ。

 

「魚かー! あーあー変に考えずに帰らなきゃよかったなー! 私のバカ!」

 

 結局、新聞の話題は運星へと移る。

 

「長い付き合いなんだし、いい加減慣れなさいって」

「でも新聞には、お前がアイツのこと追っかけ回してたって書いてあるぜ?」

「……やっぱり一回とっちめておこうかしら」

 

 そんな事を話している内に、空腹が気になり始める時間となっていた。

 そろそろお昼に、と思って腰を上げると、鳥居の向こうから階段を登ってくる人影があった。

 こんな時間に神社に来る人物など、私の知るなかでは一人しかいない。

 

「げっ……」

「やっぱりアンタも来たのね」

「うん、来たよー。あ、魔理沙! なんか久しぶり。最近あんまり会ってなかったような気がするよ」

「そうか? 私はあんまりそんな感じはしないんだがな」

 

 もちろん嘘である。

 なるべく悟られない程度に誤魔化してはみたが……

 

「前の事もあったから避けられてるんじゃないかって思ってたんだけど……まだ怒ってる?」

 

 流石にこれで騙されるほど馬鹿ではなかった。

 今この時だけは馬鹿でいてくれたほうが幾分かマシだった。

 

「怒ってる」

「ですよねー……何かお詫びさせていただけないでしょうか?」

「そうだな、じゃあ責任取って付き合って貰おうか?」

「言葉が足らないよねー? ()()()()()()()付き合って貰うだよねー?」

「なんだ、男のクセして二言か?」

「やだー! 死にたくなーい! この世の全てが白菜に見えたりとか左手だけ不定期に肥大化とかしたくなーい!」

 

 なお、これら全てに(実証実験済み)がつくが、同時に改善されているとは言っていない。

 魚を白菜と見間違えた時は本当に心配されて、早々に暖簾(のれん)を下ろすのはもう勘弁だと本人が言っていたが、関係ない。

 乙女の清き身体は高いのだ。

 

「まぁそれは冗談として……そんじゃあ、その手に持ってるモノを出して貰おうか?」

「乙女がそんな言葉使うんじゃありません。ほら、中身はお弁当」

「……? 霊夢とお前ので2つは分かるが、なんで弁当は3つもあるんだ?」

「お昼だし、こっちで誰かお客様が来てるようだったらいるかなーって。魔理沙に会えたらお詫びもしなきゃだし」

 

 コイツの飯は文句なしに旨いし、お詫びするという気持ちは評価できるが、それだとなんだか私が食べ物で簡単に釣れる軽い女と思われているようで癪だ。

 癪だったので、箒で一発殴っておいた。

 

いってぇ──!! うごごご……せ、せめて竿の部分はやめて竿は!!」

「ふん! ……私は寛容だから、これと弁当で許してやるぜ」

「殴るなら殴るって言って欲しかった……お弁当崩れちゃうでしょうが」

「おう! これからは一言断ってから殴るぜ!」

 

 案の定弁当は寄っていて、その事で霊夢と魔理沙はそれはそれは壮絶な弾幕勝負を繰り広げ、その後は疲れた二人にお茶を淹れました。

 とても綺麗で美しくはあるのですが、お弁当を食べる気分にはなれないのは何故でしょうか? 

 きっと、稀にこちれへ流れ弾が飛んでくるせいでしょう。

 

「そういや、アンタはなんで来たのよ? 店は?」

「大家さんが少し用があるからって、今日は朝の内だけ。それで暇だったし遊びに来た」

 

 帰り際に河童のにとりさんと会ったので、おおよそ工事か改装でしょう。

 きゅうりを使った料理を物凄く美味しそうに食べてくれる姿はなんとも癒されると言いますか、料理人冥利に尽きると言うものです。

 

 さて、後れ馳せながら今回の食事はこれ! 

 

「ナスの煮浸し、副菜にきゅうりの漬物でございます」

 

 うん、しっかりと味が染みていて、美味しく仕上がっています。

 休みになるのは前々から聞いていたので、皆さんも煮浸しを作る際には予め準備しておくとよいでしょう。

 急拵(きゅうごしら)えではあまり味が染み込まず、美味しいものが作りづらくなってしまいます。

 

「なぁ……」

「うん?」

「……昼間から煮浸しって重くないか?」

「………………」

 

 あっ。

 

「何か言いなさいよ、ほら」

「えぇと……その……

 

 

それじゃあ二人ともまたね! 

 

 後日、博麗の巫女に宣戦布告した妖怪が退治されたという報道がされたという。




うんせーのせってー その3

普段から注文受けたものを作っていくことが多いので、たまに気分で時間帯にあわない料理作っちゃうことがある。
でも食べたいなら仕方ないよね。

あ、この作品は少々飯テロも含んでるから夜中に読むのはオススメしないぜ!(遅い)


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。