のほほんさんですよろしくおねがいします (エルゴ)
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のほほんさんですよろしくおねがいします
よくわからんC級ホラーになってしまいました。
「はいこれで終わり! 今日はなかなかいい動きしてたわよ? いい調子ね」
「ありがとうございました!」
IS学園アリーナ。ここ最近すっかり恒例となっている放課後の特訓が終わる。
「じゃあ私は残した仕事片付けて帰るから、明日も頑張りましょう!」
「はい!」
さっさと着替えて帰路につく。楯無さんから受ける特訓は日に日に厳しさを増しているが確実に強くなれていることを実感できる。身体はクタクタだが心は達成感で満たされていた。
「とりあえず飯食うかー」
授業・訓練・休息の繰り返しにもすっかり慣れた。入学した当初は戸惑うことも多かったが、今ではすっかり日常として受け入れられている。ことあるごとにトラブルが起きているのは困りものだが、充実した日々を過ごせていると言えるだろう。
そんなことを考えながら食堂に向かっていると、前方に見慣れたブロンドを束ねた後ろ姿を見つけた。
「シャルじゃないか、飯はもう食べたのか?」
「あぁ……一夏、うんもう食べたよ僕は」
一見普段通りだが、どことなく様子がおかしい。雰囲気というか何というか、とにかく違和感を覚えた。
「どうした? 調子悪そうだけど」
「なんでもないよ、ただ
「のほほんさん? なんで急にのほほんさんの話を」
「僕は大丈夫だって、そこに
そこ?いまここにいるのは俺とシャルだけのはずだ。辺りを見渡しても誰もいないしそれと様子が変なことは何の関係があるんだ?
やはり熱でもあるのかもしれない、そう考えて彼女に目を向ける。
「シャル、のほほんさんなんてどこにも──シャル? どこいった?」
彼女はいつの間にか姿を消していた。部屋に戻ったのだろうか。本当に体調が悪かったのかもしれないし、急ぎの用があったのかもしれない。後でラウラに様子を聞いてみればいいか。なんて軽い考えで移動を再開する。
(そういえば、シャルものほほんさんって呼ぶようになったんだな。いつの間に仲良くなったんだろ)
今思えば、すぐにでも探し出して詳しく話を聞くべきだったのだ。そうしていれば、こんなことには──
食堂。もう少し早い時間なら生徒で賑わっていただろうが、今日は訓練で遅くなったためまばらに人がいる程度だ。日替わりの定食を受け取り、適当な席を探す。すると窓際に見慣れた長い銀髪を見つけた。
「お、ラウラ。シャル見なかったか?」
「シャルロットか? いや、私がここに来たときはいなかったぞ」
「そっかー……入れ違いかな?」
やはり部屋に戻ったのだろう。少し心配だがまあ大丈夫だと結論づける。
「用があったのなら私から伝えておこう。代わりに一緒の席に着け」
「別に大した用じゃないから大丈夫だ。まあ座らせてもらうよ」
「うむ、これこそ夫婦円満の秘訣だな」
「まだ言ってたのか……」
ラウラはいつも通りみたいだ。しかし何だって俺を嫁扱いするのだろう。やはり前に言っていた副官の影響か──「そういえば」「ん?」
「さっき、鈴が向こうにいたな、声をかける前に何か呟きながらどこかへ行ってしまったが」
「鈴が? なんて言ってたんだ?」
「はっきり聞こえなかったが、確か……
「…え?」
まて、今ラウラは何と言った?鈴まで「のほほんさんがいる」だと?あいつものほほんさんなんて呼び方じゃなかったはずだ。
「なんで、あいつまで?」
「“あいつまで”? なんのことだか知らんが…まあ別におかしくないだろう」
「は?」
「だって───
食事を終え、自室へ戻る。頭にはラウラの言葉が残っていた。
(三人とものほほんさんがいる、だって?)
嫌な予感がする。急いでみんなの様子を確認しないと。
「一夏さん?」
背後から突然自分を呼ぶ声。気を張っていたため勢いよく振り返る。そこには鮮やかな金髪をロールした女子が立っていた。
「セシリア……! シャルと鈴見なかったか!?」
「シャルロットさんと鈴さんですか?わたくしは見ていませんが…どうかしましたの?」
セシリアは二人を見かけていないようだ。この分じゃ様子も知らなそうだし…。そうだ、のほほんさんはどうだろう。
「そうか…じゃあ、のほほんさんは?」
「布仏さん、ですか? そちらでしたら……」
「知ってるのか!?」
「ええ、布仏さんは──
「……え?」
彼女が
何か恐ろしいことが起きていることに気がつく。
「……セシリア、そこには、誰もいないぞ……?」
「一夏さんたら、おかしなことをおっしゃいますわね? のほほんさんがいらっしゃるでしょう?」
「何言ってんだよ……どうしたんだよセシリア!」
見えて当然の様に振る舞う彼女。少しずつ、少しずつ背筋が冷たくなる。ほんの数時間前まで普通に過ごしていた彼女が、得体の知れないナニカに感じる。
「っっごめん!」
「一夏さん?」
思わずこの場から逃げ出してしまう。一体何が起きている? とにかく、他のみんなを探さなければ。大急ぎで箒に連絡を取る。
「箒! 今何してる? いやどこにいる!?」
『急にどうした一夏? 今は…剣道場に忘れ物をして丁度目の前にいるところだが』
よかった。まだ箒は大丈夫らしい。一刻も早く合流しないと。
「わかった! 今行くからそこにいてくれ!」
『おい一夏!? せめて事情を「ごめん切る!」おi』
急げ、早くしないと箒までおかしくなってしまう。
「箒ぃ!!」
「うわぁっ!?なんだ一夏か脅かすな!!」
「箒! 無事か? お前は大丈夫だよな!?」
「ええい離れろ! そして事情を説明しろ!」
「あっすまん実は……」
幼なじみの無事を確認できた嬉しさで近づき過ぎてしまった。とりあえず、ここまであったことを説明する。しかし、こんなこと信じてくれるだろうか。
「──何を言っているんだお前は?」
「まぁ、そうなるよな」
「みんなが揃って“のほほんさんがいる”だと? 聞き間違いじゃないのか? それとも私を脅かそうとしているのか?」
やっぱり信じてくれないようだ。目つきが険しくなる。これは完全に疑っているときの目だ。
「本当にそう言ってたんだって! 信じてくれよ?」
「わかったわかった、きっとお前は疲れているんだ。もう帰って休め、私も帰る」
「おい箒!? 待ってくれ!」
結局信じてもらえず、箒はさっさと部屋に戻ってしまった。
(あれはなんだったんだ? のほほんさんに直接聞くべきか?)
共通している発言からして、のほほんさんに関係があるのは間違いないだろう。しかし、いつも笑っていてのんびりとした彼女を思い浮かべると、謎の悪寒が全身を包む。
(うーん……信じてくれそうな誰か……そうだ!)
楯無さんだ、信じてくれるかは微妙だが、生徒会長たるあの人なら専用機持ちの状態を把握しているかもしれないし、同じ生徒会メンバーののほほんさんのことも知っているだろう。仕事を残してると言っていたし、生徒会室に行けば会えるかもしれない。そうと決まれば急いで彼女の元へ向かう。
(……ん?)
一瞬視界の隅に何か見えた気がした。虫でも入ってきたのだろうか?いや今はそんなことを気にしている暇ではない。さっさと生徒会室に行かないと。
「楯無さん! 簪も!」
簪もいたか! 簪なら幼なじみでもあるし、何かわかるかもしれない。
「一夏?」
「一夏くん? どうしたの慌てて」
「いやそれが──」
着いて早々、不思議がる楯無さんに事態を説明する。箒は信じてくれなかったが、彼女ならどうだ……?
「なるほどね、みんなが急に“のほほんさんがいる”と言い出したと」
「ふぅん……」
「そうなんです! たぶんのほほんさん本人が関係してて……楯無さんなら何かわかるかもと」
いつもの揶揄うような笑みを収め、真剣な面持ちで考える楯無さん。よかった、これなら大丈夫か。
「そうねぇ……のほほんさんがいる……それってそんなにおかしいことかしら?」
「確かに……何もおかしくない」
「え?」
何を言っている?これは、まさか──
「っっっ!!」
駄目だった。楯無さんまで、おかしくなっていた。誰か、他に誰かいないか……! 生徒会室を飛び出して必死に誰かを探し回る内、ある場所が見えた。
「職員室!ここなら……!」
ここなら、千冬姉がいるかもしれない。普段は近寄り難いこの場所が何よりありがたく思える。着いて早々に、息を荒げたままドアに手をかける。
「失礼します! 千冬姉は「学校では織斑先生だ馬鹿者」っ織斑先生! 大変なんだ! みんな急におかしくなっちまったんだ!」
「……何?」
本日三度目の説明。今度こそ、今度こそ無事であってくれ。
「……つまり、なんだ。何人も急に妙なことを言い出したと」
「そうなんだよ!それで……」
「事情はわかった。明日にでも確認を取ろう。今日は休め」
「本当か!? 嘘じゃないよな!?」
やっと信じてくれる人がいた。僅かにでも希望が見えたことで少し安心する。
「ああ、それとこれは明日渡す予定だったが……来週末までの書類だ、無くすなよ」
「あっ……わかった。ありがとう。頼むぞ千冬姉!」
「だから学校では織斑先生と……ほら早く帰れ」
「はい……」
やはり千冬姉は頼もしいな。また姉に頼ってしまった自分が情けなくなるが今回は事態が事態だけに強引に納得させる。
(ところでこれ何書いてんだ?)
先ほど手渡された封筒から書類を取り出して目を通す。他の人に見られたらまずい内容かもしれないが、今なら誰もいないし問題ないだろう。
「どれど……れ……えっ……!?」
のほほんさんはいますのほほんさんはいます、よろしくおねがいします。のほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいます、よろしくおねがいします。のほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますよろしくおねがいします。のほほんさんですよろしくおねがいします。のほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいます、よろしくおねがいします。のほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんです。のほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんですのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいます、よろしくおねがいします。のほほんさんはいますのほほんさんはいますののほほんさんはいますのほほんさんです。のほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんです。のほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいますよろしくおねがいします。のほほんさんはいますのほほんさんはいますのほほんさんはいます
「うわぁぁぁぁっっっ!!??」
どうすればいい?当てもなく逃げ回りながら、必死に思考を巡らせる。そうだもう一度、もう一度箒に連絡しよう。箒ならまだ大丈夫のはず。藁にもすがるような気分で、震える手で電話をかける。
「くそっ! 早く出てくれっ!」
さっきのことがあってか、なかなか繋がらない。また視界に何かが通る。いやそんなこと気にしている場合じゃない。早く、早く繋が──った!
「箒! 無事か!?」
「ああ…一夏か…。私は…大丈夫だ…」
「箒? どうした?おい!?」
様子がおかしい、まさか、そんな、箒まで──
「丁度今、布仏が来ていてな…
「のほほんさんが!? 箒? 箒ぃっ!?」
「ああ…
「あっ…ああああ…」
箒まで、箒までもがおかしくなってしまった。もう駄目なのか?のほほんさんとは一体何なんだ? 誰か教えてくれよ──
「知りたーい? おりむー?」
「のほほん、さん……?」
「そうだよー」
そして、のほほんさんがいた。何故ここに、箒とるんじゃなかったのか。いつもならいるだけで雰囲気が穏やかになる彼女だが、今目の前にいるそれは冷たく恐ろしいものに感じる。
「なぁ、これは……のほほんさんの仕業なのか? なんで、どうしてこんなことを?」
「んー。まぁーあ、そう言われると、私がやったことになるのかなー?理由はぁー、もっと私を見てほしかったから?わかんないや!」
意味がわからない。そもそもなんでこんなことができる? ISを使っても、こんなことできはしない。一体どうやって?
「どうやったか、知りたそうだねぇー?」
「っ!?」
なぜわかる? 心が読めるとでも言うのか。疑問は次々増えていく。
「わかるよー、おりむーの考えてることはね、ただの予想だけど」
「なら、どうやって」
「うーん……私が
「は?」
それは答えになっているのか。くそっまた何かが視界に映る。まさかこれものほほんさんの仕業か?
「あ、
「やっぱり、そうなのかよっ……!?」
「でも大丈夫、おりむーもすぐに、みんなと一緒になれるから」
「何を言って「ね、みんな?」え?」
瞬間、のほほんさんが声をかけた先、俺の背後に幾つもの気配。ああ、これは──
「みんなっ……」
もうどうにもならないという絶望。少しずつ暗転する視界の中で、何度も目に映っていた何かが俺を見ていた。
(そうか……これが……のほほんさんか)
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「わああっっ!? 何? 何? 一夏?」
「あれ? シャル? なんでここに?」
目が覚めた俺は食堂にいた。今は昼休みか? さっきのは夢か? えっと……どんな夢だったっけ?
「もうびっくりしたよ、一夏ったら急に叫ぶんだから」
「ごめんごめん、なんか悪い夢を見てた気がして」
「疲れてるんじゃない? でも大丈夫だよ、なんだって────のほほんさんがいるんだから」
「っ……? ああ、そうだよなのほほんさんがいるもんな」
一瞬シャルの言葉に違和感を感じるが、すぐに引っ込む。確かにのほほんさんはいる。何もおかしくないじゃないか。
「やっぱり疲れてるのかな俺? 最近無理してたかな?」
「大丈夫? おりむー?」
「……! のほほんさん?」
「はいはーい、
「いやあちょっと、今日は無茶しないようにするさ、のほほんさんもいるしな!」
「それがいいよー。
いつも通りの、他愛のない会話。そんな日常を楽しんでいると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
「おっともう時間か、じゃあ先に行ってるけど、のほほんさんも遅れるなよ?」
「はぁーい、私もすぐ行くねー」
見送るのほほんさんを背後に感じながら食堂を出る。もう悪夢を見たことすら、忘れていた。
「うふふ、うふふふふふふふ。やっぱり、みんな一緒がいいよね、おりむー」
「
のほほんさんはいます、よろしくおねがいします。
のほほんさんでした。
「のほほんさんですよろしくおねがいします」は“Ikr_4185”作「SCP-040-JP」(http://ja.scp-wiki.net/scp-040-jp)に基づきます。
この作品は、クリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0非移植ライセンス
(http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/deed.ja)の元に提供されています。
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