ツツジを嫁にするまで (呉蘭も良い)
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一話

思いつき投稿。
楽しんで頂けたら幸いです。
元々ポケモンの小説書きたかったので、ポケマスが配信されて結構楽しんでいるので書いてみました。



『ポケモンは好きですか?』

そういう問いをされたら『まぁ嫌いじゃないです』程度の曖昧に濁した返答を俺は()()だろう。

 

子供の頃から身近にあったポケットモンスターというゲーム、あるいはアニメは幼心をガッチリ掴み、周りに知らない人など存在しない程の認知度を誇る。

最早テレビゲームやアニメーションの枠を越えた一つの文化とさえ言える程の大きな存在だ。

そんなものが嫌いなわけ、決してない。

 

が、だ。

 

少年から青年へ、そして大人になるにつれ、ポケットモンスターというゲームの複雑さに諦めに似た心境を抱くようになった。

 

歳を重ねるにつれアニメやゲームから徐々に離れていったということもあるが、ポケモンに関しては逆に深みに嵌まったが故に離れる決心をしたとも言えた。

 

ポケモンのゲームの目的は、ざっくり簡単に言ってしまえばバトルして勝つ事これに限る。

しかしそれこそがポケモンというゲームの最大の難易度と言える。

 

時代が進み、インターネット環境が当たり前になった現代社会ではポケモンバトルは簡単に見知らぬ誰かと勝負する事が可能になった。

そしてそれは熾烈な争いへと激化して、弱者を淘汰して行く事になった。

 

ストーリーモードで使っていたポケモン達、いわゆる旅パはギャグにもならない扱いになり、勝てる可能性なぞほぼない。

というか旅パで勝てるってどんな確率のどんなパーティーなのか聞いてみたいレベル。

 

なのでバトルに勝つ為の強いポケモンを用意しないといけなくなった。

しかしこれがポケモンの面白い要素であると同時に苦痛になる。

 

強いポケモンとはすなわち、ポケモンのタイプから始まり、種族値、個体値、努力値、特性、性格、技範囲、持ち物相性、これらがどれだけどう優れているかによる。

 

バトルに勝ちたいと思い、これらを初めて調べた時は頭が痛くなったものだ。

 

種族値は固定されてるのでともかく、個体値を厳選しないといけないと知った時は嫌気が差した。

更にそこから性格も合わせなくてはならず、場合によっては特性も夢特性でなくてはならなかったり、めざめるパワーのタイプを理想にする為粘ったり……etc.etc.。

 

出た結論は『俺には無理だ』だった。

 

大人になり、バトルで勝つ為に調べた強いポケモンを用意する方法は大人になって理解したからこそ絶望した。

そんな作業をする根気もなければ時間もない。

 

そもそも好きだから使ってた旅パのポケモンを外し、バトルで勝つ為の好きでもないポケモンにそこまでの時間を使いたいなど全く思わない。

 

結局、俺のポケモンに対する愛はその程度だったのだ。

そして勝てないゲームを続ける奴なんていない。

俺はゆっくりとポケモンから手を引いて行った。

 

とは言え、やはりポケモン自体が嫌いになる訳でもなく、動画投稿サイトなんかでバトルの実況動画を見たり、不遇ポケモンを使用して勝つ事を目指す動画を見るのは好きだった。

 

そして自分でもパーティー構築考えたり、好きなポケモンの技構築を考えたりするのはそれなりに楽しかった。

まぁ当然実際に行うとなれば面倒が過ぎるので、妄想だけで済ましていたが。

 

しかしそんな妄想をしていたら、ポケモンの知識だけは増えて行く。

本物の廃人様達には確実に及ばないものの、一般的には詳しい部類には俺は入るらしい。

 

だからポケモンの話を誰かとしているとたまに聞かれるのだ。

『ポケモンが好きなのか?』と。

そしてそれが上記の反応になるの()()()

 

……これまでが過去形、そしてここからが現在形だ。

 

俺は今、学校の講堂で校長の話を聞いている。

4月になり、新入生を歓迎する入学式にて俺は迎える側の在校生としてここにいる。

 

大人としての自分語りをしといて、何故そんな事になっているのかと言うと、俺はいわゆる“転生”という奴をしたようなのだ。

 

それも、何故かポケモンの世界に。

 

いや、ホント訳ワカメだよね。

産まれてこのかた未だにわかんないからね。

10年も経つのにまだ夢見心地の時があるからね。

 

まぁ、ここが現実だって重々承知してますが。

俺にとってここは現実だってよーくわかってますがね?

【自分だけの現実】(パーソナルリアリティー)は強固ですよ、えぇ。

超能力が目覚める兆しは一向にないけどな!

俺にサイキッカーの才能はないらしい。

 

まぁとにもかくにも、俺はこの世界で生きて行く事になった。

 

最初の頃、ってか赤ちゃんだった頃はこの世界でポケモンの知識を活かしたら無双出来んじゃね?とか思ったりもしたけど、廃人でもない俺が中途半端な知識でそんなにイキったら凄く恥ずかしい事に気付き、程々にこの世界を楽しむことにした。

 

ってか、現実で廃人プレイの厳選作業とか出来ないしね!

同種ポケモンの卵を沢山集めて孵化させまくって、いらない奴を逃がしたりしたら間違いなくヤバい奴認定だし、個体値の計測とか出来ないし、そんな事に協力する奴も財力もない。

 

そしてそもそも、俺はポケモンバトルで最強になりたいなんて夢はない。

そんな夢を持っていたら、俺は前世でもっと頑張っていた。

 

だから今回の人生では、ひたすら自分の好きなポケモンと戯れようと思う。

後、前世ではチェリンボだったので、進化してチェリムになって可愛い奥さんを貰いたい。

 

大丈夫、候補なら隣にいる。

このポケモンスクールで出会った幼なじみだ。

まぁ10才だから幼なじみと言っても、同学年全員が幼なじみだけども。

 

だがそれでも、低学年の頃から成績1、2位を争ってきて交流も深く毎日切磋琢磨している仲だ。

相手はまだ恋愛とかに興味はないかもしれないけど、憎からず俺の事をそこそこ良い相手と想っている、と思いたい。

 

前世も合わせたら確実におっさんな俺が、10才のロリを狙って良いのか?だと?

 

問題ない!

重要なのは俺が10才で、非常に可愛い幼なじみが隣にいるという現実だ!

それにチェリンボうんぬんは将来的な話だ。

 

将来彼女は間違いなく美人になるし、結構な大物にもなるだろう。

そういう意味では俺も彼女と釣り合うようにそれなりの人物にはならないといけないだろう。

 

何せ彼女は今年からジムリーダーの代理になるのだから。

 

そんな事を考えていたら、校長が締めの言葉を話した。

 

「皆さん、ポケモンは好きですか? その気持ちが強い程、ポケモンも皆さんの事が好きになり、強くなって行きます。 どうかその事を忘れないで、彼らを大切にして上げて下さい。」

 

校長はそう締めくくり、壇上を去って行った。

 

改めて思う。

『俺はポケモンが好きか?』

そして隣の彼女に問う。

 

「なぁ()()()、ポケモンは好きか?」

 

「ソースケ? 何ですか今更、当然好きですわ!」

 

2つに纏めたお団子頭で勝ち気なお嬢様な彼女は、俺の問いに対して当然のように即断で答える。

それがなんとも可笑しくて、俺も笑って答える。

 

「だよな! 俺も好きだ、ポケモン!」

 

俺の答えに腰のベルトについたボール(相棒)が嬉しそうに揺れる。

 

ここはホウエン地方カナズミシティ。

ここが、今の俺が生きる世界だ。

 

 




チェリンボ=さくらんぼポケモン=経験0のレベル1
つまり、そういう事だ。


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二話

RSE=ルビー、サファイア、エメラルド
ORAS=オメガルビー、アルファサファイア


俺が現在住むホウエン地方とは2つの世界観がある。

まぁ簡単に言ってRSE(第3世代)の時空かORAS(第6世代)の時空か、だ。

 

何が違うのかと言われたら、まぁ色々と違うのだけど、一番の違いは何と言ってもメガシンカ出来るか出来ないかだろう。

 

俺はXY(第6世代)の頃にはもう離れ気味だったので、メガシンカについてはほぼ知識しかないから詳しい設定なんかはよくわからないけども、ここがORASの時空だというのは理解している。

 

いや、メガシンカを目の当たりにしたとかではない。

もっと純粋にRSE時空ではありえない事が起きたのだ。

 

カナズミシティを南下した場所にあるトウカの森で、俺は現在の相棒であるモンメンと出会い、ゲットしたのだ。

 

これはRSE時空ではありえない。

何故ならモンメンとはブラックホワイト(第5世代)から登場した、俺の好きなポケモンだったのだから。

まぁモンメンが好きと言うか、進化先のエルフーンを愛用してたのだ。

 

取り敢えずこの世界がゲーム準拠の世界かどうかを置いていても、モンメンがトウカの森に出現した時点で少なくともRSE時空ではないことは確定だろう。

 

とは言え、この世界がどの時空であろうと正直どうでも良いんだけどね。

 

モンメンと出会ったのは嬉しい事だけども、だからと言って俺の目標がぶれる事はないのだ。

 

適度に遊びつつ、ツツジを嫁にしたい。

その為にある程度の立ち位置が欲しい。

 

マグマ団だとかアクア団だとか、メガシンカうんぬんは一先ず置いといて、俺は俺の将来についての方が重要だ。

あそこらへんはこの世界の主人公によろしく頼む。

 

未だにセンリがトウカシティのジムリーダーになってないから、ストーリー的な事は進んでないんじゃないかな。多分。

 

だから俺は今日も今日とて、ツツジと切磋琢磨(イチャイチャ)しようと思う。

……まぁやるべきことなんて特にないからだけども。

 

ポケモンスクールに通ってるんだから授業とかあるのが一般的なのだが、……なんだ、あれだ。

 

優秀なせいで授業なんざとっくに免除された。

 

ちょっと軽く自慢みたいになっちゃったが、これはまぁ仕方ない事なんだ。

 

そもそもポケモンスクールの目的は、生徒にポケモントレーナーの資格試験を合格させる事にある。

これが俺からしたら本当に簡単だったのだ。

 

試験は筆記と実技の2種類で、筆記の方は基本的な単一タイプの相性問題から始まり、特性の問題だったり、技タイプの問題だったりした。

少し難しいと感じた問題でさえ、『○○の習性とはどんなものか答えよ』的な記述問題だった。

 

俺の時はグラエナだったので、適当に『出会えばよく威嚇する。』と答えたら正解扱いだった。

あれは習性ではなく特性ではないか?と思ったが、正解ならまぁそれで良い。

 

実技の方は更に簡単で、試験の為に用意された初心者向けのポケモンに指示を出して技を出すだけ。

こんなんボールから出して顔合わせの時によろしくとコミュニケーションを取ったら、大体向こうもよろしくしてくれる。

 

俺はその試験ではジグザグマを支給されたので、よろしくした後に“たいあたり”と“なきごえ”と“しっぽをふる”を指示したら、完璧にこなしてくれて一発で即合格だった。

 

……何でこの試験で落ちる奴がいるのかわからん。

スクールでも最初に習うのはポケモンとのコミュニケーションだろうが。

 

そんな訳で資格条件の10才でトレーナー資格を得た俺は、……いや、俺とツツジはトレーナースクールの授業を免除されたのだ。

 

本来ならここで授業の免除などではなく、卒業扱いでジムバッチ集めの旅に出たりもするらしいが、別にポケモンリーグを目指したり、チャンピオンを目指している訳でもない俺は適当にダラダラとスクール生を続ける事にしたのだ。

 

ツツジも残ってるしな。

 

彼女の場合は俺とは違い、現ジムリーダー(校長先生)の孫として元々後を継ぐ事を期待されているのだ。

だからトレーナー資格を得た現在は、後々の事を考えジムリーダーになる為の必要な勉強をしようとこの街に残っているし、実際ジムリーダーの代理として少しずつ仕事もしているようだ。

 

しかも本人がかなり真面目ちゃんで委員長気質な所があるので、未だに嬉々として簡単でつまらん授業によく参加する。

 

さすがの俺もそれはノーサンキューだ。

元々が知っている知識どころか、授業自体が物足りない場なのでとてもじゃないが、義務でもない限り参加したいとは思わない。

 

旅にも出ず、授業にも参加しない、なのに在籍はしている。

俺はこのスクールにとって持て余し気味の存在だろう。

 

でもだからこそ、彼女は俺によく絡んでくれる。

 

「ちょっとソースケ! またサボりですの?」

 

ほーら来た。

 

「よぉツツジ。 今日は授業は良いのか?」

 

俺が校庭にあるポケモンバトル用のコートの外れの方でモンメンと日向ぼっこをしていると、勝ち気なお嬢様はやって来てくれた。

ここに居ると彼女が良く俺を見つけてくれるし、たまに生徒の誰かとポケモンバトルが出来るから、結構好きな場所だ。

 

「今日は午前中にお爺様からジムリーダーの心得を学んでいたので、今から授業に参加しようと思っていた所ですの。」

 

「成る程、俺は見ての通りモンメンと精神統一して心を鍛えている最中だ。」

 

芝生で寝ころがっているだけとも言う。

いやー、春先で梅雨前のこの時期にしか出来ないから貴重な時間だ。

暑過ぎず寒過ぎず、ぽかぽかする日差しが気持ち良い。

 

「やっぱりサボりじゃないですの!」

 

「いやいやそんな事はない。 トレーナー足るもの精神は鍛えないといけないし、ポケモンのケアは大事だよ? ほら見てみな、モンメンのこの喜んだ表情を。」

 

「……いえ、あの。 モフモフ過ぎて表情がわからないのですが?」

 

「ほら、きちんと良く観るんだ。」

 

俺は隣に居るモンメンをモフッと鷲掴みし、ツツジに投げつける。

そして彼女もモフッと受け止めモンメンを見つめる。

 

「う、う~ん。……確かに、喜んでいるような、いや、いないような……わかりませんわ。」

 

うん、まぁ目元しか見えないからね。

普段一緒にいないとそらわからんか。

 

因みにこの投げられるという行為が、実はうちのモンメンは好きだったりする。

キャッチボール的な行動を遊びか何かと思っている節があるので、一度ツツジとモンメンキャッチボールをしたらめっちゃ喜んでいた。

 

「い、いえ、そんな事よりも! 残り一時限だけとはいえ授業に参加致しましますわよソースケ!」

 

「えぇ~。……じゃあ何時も通り、俺がバトルで負けたら連れて行かれるとしよう。」

 

俺はそう宣言して、どっこらせっと立ち上がる。

 

「むぅ、今日こそは勝ちますわ。」

 

彼女もバトルを了承し、モンメンを投げ返した後にバトルコートに向かって歩いて行く。

 

俺とツツジの実力はほぼ互角だ。

が、最近は俺が圧倒的に勝ち越している。

 

トレーナー資格を得て一番変わる事は()()()()()()()()()()()()()()事だ。

 

資格を持たない者は、基本的にポケモンバトルが許されない。

許可される場合は、保護者や責任者が存在してる場できちんとポケモンリーグに申請されたポケモンを貸し出されてバトルする事になる。

 

まぁ要は今まではスクールから支給されたポケモンでのバトルをしていたのだ。

 

しかしトレーナー資格を得た俺は早速自分のポケモンをゲットし可愛がって育てている。

だがツツジは未だに自身のポケモンを所持していない。

まぁ忙しい彼女の事なので、ゲットしに行く時間もないし、カナズミシティ近辺に出現するポケモンは大体スクールで所有しているので態々捕まえに行く必要性があまりなかったのだ。

 

更に言えば彼女は近い将来ジムリーダーとなり、岩タイプ専門職としてポケモンバトルをして行く。

これは校長が岩専門だからそれを受け継ぐのだが、彼女も満更ではなさそうなのだ。

 

つまり、ツツジはスクールから支給された岩タイプのポケモンで、俺のモンメンに挑む事になる。

 

……言っちゃ悪いが、負ける気しないんだよなぁ。

 



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三話

俺達はバトルコートの両端にお互いに立ち、空気感が合った瞬間にバトルを開始した。

 

「やろうか、モンメン!」

 

「お願いしますわ! ノズパス!」

 

俺が出したのは相棒であるモンメン。

というかモンメン以外はまだゲットした事はない。

 

そしてツツジが出したのはゲームでも彼女の相棒枠であるノズパス。

この世界ではスクールからの支給ポケモンで別に相棒ではないみたいだが。

 

しかしまぁこの時点で完全に俺の有利対面なのだ。

モンメンはくさ・フェアリータイプ、対してノズパスは岩タイプ。

そしてどちらも高い火力を出せるポケモンではない。

そうなると大体がじわじわと長期戦染みたバトルとなる訳だが、それはタイプ相性の良い俺が絶対的に有利なのだ。

 

「モンメン、“やどりぎのタネ”。」

 

「ノズパス、相手の技を避けてから“たいあたり”!」

 

そう、この世界は当然『避けろピカチュウ!』が存在する世界なのだ。

現実なのだから当たり前だ。

この世界でポケモンとは数字ではない。

 

ゲームの様に技は4つまでと決まってないし、技に命中率なんてないし、ターン制の様に技を一度ずつ出し合うなんて事もない。

 

全てトレーナーの腕次第でどうとでもなる。

 

良く鍛えられたポケモンなら、4つ以上の技を覚えて使う事は出来るし、命中率の低い技でも必中させる事が出来るし、次々と畳み掛けるように技を繰り出す事も出来る。

勿論生半可な腕では不可能だが。

 

だからモンメンの“やどりぎのタネ”を避けて“たいあたり”をしてきたノズパスを、こちらが避ける事も可能なのだ。

ゲームなら命中率100だから避けるなんて普通なら出来ないけどね。

 

「距離を取って、広範囲に“しびれこな”だ。」

 

俺の指示に従ってモンメンが“しびれごな”を突っ込んで来たノズパスのいる辺りに撒き散らす。

流石にこれを避ける事は出来なかったので、ノズパスは麻痺状態になった。

 

「くっ、ノズパス! お返ししますわよ、“でんじは”!」

 

「む、避けれるかモンメン!?」

 

ノズパスから放たれた“でんじは”をモンメンは必死に躱そうとしたが、広範囲に“しびれごな”を放った後の僅かな硬直時間のせいで、モンメンも避けられずに麻痺状態になってしまった。

 

この技を出した後の硬直時間を俺は『技硬直』と呼んでいるが、これはポケモンの技が強力な物程硬直時間が長い気がする。

未だに全ての技を確認した訳でもないので、どこまでがそうなのかまだ良くわかってないがな。

 

「仕方ない、もう一度“やどりぎのタネ”だ。」

 

「避けなさいノズパス!」

 

ツツジがノズパスに再び避ける様に指示するが、今度は痺れでノズパスの動きが悪いので“やどりぎのタネ”が直撃した。

こうなったらもう俺の勝ちだ。

 

「不味いですわね、……こうなったら勝負に出ますわよ! ノズパス、“いわおとし”ですわ!」

 

「耐えろよモンメン!」

 

麻痺のおかげでやどりぎが入ったのは良いが、モンメンも麻痺状態なので無理に避けようとして技が直撃するよりかは、耐える覚悟をしてぶつかる方がまだ良いだろう。

こういったわずかな差でも地味にダメージ量が違ったりするから、バトルではトレーナーの腕が本当に試されて面白いわ。

 

そしてモンメンはノズパスの“いわおとし”を受けきったが、そこまでのダメージは入らず、割と元気に俺の指示を待ってる。

やどりぎの効果もあって僅かながら回復もしているので、これで落とされる事はないだろう。

 

「よし、切り返しの“メガドレイン”!」

 

「まだまだ! “がんせきふうじ”からの“いわおとし”ですわ!」

 

ポケモンの技同士には相性があって、相性の良い技同士ならほぼ同時に使用する事が出来る。

有名所で言えば、“からにこもってこうそくスピン”だったり“まるくなってころがる”とかだろうか。

 

そして“がんせきふうじ”と“いわおとし”も相性が良い。

“がんせきふうじ”で対象のポケモンの周りを囲み、“いわおとし”でぶっ潰すみたいな感じだ。

 

これがまともに直撃すると大ダメージだわ、動きのスピードが鈍くなるわ、行動が起こせなくなるだわで、大変嫌な攻撃だ。

ゲーム的に言うと、きゅうしょにあたりやすく、すばやさを一段階下げ、ひるみやすい、みたいな感じだ。

うん、普通にチート技だな。

 

「モンメン! 相手が技を繰り出す前に吸い付くしてやれ!」

 

「ノズパス! 耐えて下さい、そして決めるつもりで全力で!」

 

俺の指示にモンメンが全力でノズパスを吸いに掛かり、ノズパスはツツジの指示で吸われながらも全力を出そうと技へと取り掛かる。

 

そしてノズパスの目が僅かに光り、ガンガンガンガンと“がんせきふうじ”の岩がモンメンを囲み始めた時に、ノズパスは力尽きた。

 

俺の勝利だ。

 

「……ふぅ、お疲れ良くやったモンメン。」

 

「……はぁ。 お疲れ様ですわノズパス。 また負けてしまいましたわね。」

 

結局、“メガドレイン”一発で勝負が決まったんじゃねーの?

的な終わり方をしたが、別にそうではない。

 

初っぱなから“メガドレイン”を繰り出した所で避けられる可能性は結構高いし、地味に“やどりぎのタネ”が良い仕事をしている。

それにノズパスが“しびれごな”で痺れて動きが鈍った所に、体力を少しずつ削る“やどりぎのタネ”が当たったので、ノズパスは後々の為に技を避けて戦局を有利にするという長期戦の構えが不可能になったのだ。

だから“メガドレイン”の直撃を許したので、このような結果になった。

 

そもそもの麻痺とやどりぎがなかったら、まだまだバトルは長引いていただろう。

まぁ最初に言った通り、タイプ相性はこちらが良いので長期戦では有利だけどな。

 

とは言え___

 

「最後のコンボが決まっていたら、中々危なかったな。」

 

「むぅ、あれさえ決まれば勝算はまだありましたのに。」

 

ツツジの言うとおり、あのコンボが決まれば流石に一撃でモンメンが沈むとは思わないが、それなりに危険な状況ではあっただろう。

 

有利タイプでありながら、今回の様な際どい勝負になるのだから彼女とバトルするのは面白い。

 

しかし勝ちは勝ちだ。

 

「さて、残念ながら今回も俺の勝ちなので授業には参加しない。……よって、ツツジにも罰ゲームとして一緒にサボって貰おうかな?」

 

「なっ!? な、何故ですの?」

 

「いやなに、俺が負けた場合の罰ゲームはしっかりあるのに、君には何のリスクもないなんて不公平じゃないか。」

 

バトルにはリスクが付き物なのだよ。

本来ならおこづかいな所を、授業のサボりで済むのだから安いものじゃないか。

それにいつも忙しく大変なツツジには良い休息になるだろう。

 

「むむむ、……授業への参加は当然の義務であって、決して罰ゲームなどでは無いのですが。」

 

「まぁ良いじゃないか。 お互いのポケモンも疲れているだろうし、先ずはポケモンセンターへ行って休ませようぜ。」

 

スクールにある簡易回復装置を使うのも良いが、あれはあくまでも簡易なので、しっかりと回復させてくれるポケセンの方がポケモンにとっては良い。

 

折角トレーナー資格を取って、無料でポケセンの本格的な回復装置を利用出来るのだから使わない手はない。

それにポケセンにいるラッキーの“いやしのはどう”はポケモンが喜ぶのだ。

体力の回復だけではなく、精神的にも気持ちが良いらしい。

 

「……はぁ。 先生方には申し訳ありませんが、今回はソースケに従いますわ。」

 

「はは、今回()じゃなくて、今回()だろう?」

 

「むぅ、いずれ毎日ソースケを授業に連れだって見せますわ!」

 

「それは楽しみだ。」

 

「馬鹿にして! 絶対ですわよ!」

 

こうして今日も俺はツツジと共に街へと繰り出し、ポケセンの後にショップなんかを見回りつつ放課後デートを楽しむのだった。

 



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四話

モンメンを進化させよう。

 

そう思い立ったのは、いつもの如くツツジと切磋琢磨(イチャイチャ)している時に、モンメンが“コットンガード”を覚えたからだ。

 

この技は非常に優秀で、なんと自身の防御力を3段階も上昇させる技なのだ。

なのでバトルの時に初っぱなでこの技を使ったら、ツツジには最早俺を倒せる火力を出すのは不可能になる。

プラス“あまえる”で相手の攻撃力をがくっと下げ、“やどりぎのタネ”のコンボでスリップダメージを与えながらこちらが回復すると無敵状態になる。

彼女が良く使うノズパスやイシツブテは基本的に物理技しかないからな。

 

今まで俺がモンメンを進化させて来なかったのも、この技を覚えるのを待っていたからとも言える。

進化したエルフーンだと、独力では覚えてくれないからな。

 

しかしこの世界でも積み技が絶対的な優秀さを見せるかと言えば、前世程ではないとしか言えない。

 

何度でも言うが、この世界は数字ではない。

 

優秀な積み技、“つるぎのまい”や“りゅうのまい”、“ちょうのまい”や“めいそう”などなど、前世でのバトル環境でも使われていたこれらの技は、一度使用してしまえば必ず1段階あるいは2段階上昇していたが、この世界だと()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

つまり、技として全て完了したならそれ相応の効果が出るが、普通なら技が完成する前に相手に攻撃されて中断されてしまうのだ。

 

例えば“つるぎのまい”をしている最中に相手の攻撃を受けて、中断されてしまい1段階、あるいはそれ以下しか攻撃力が上がらないとかも普通にある。

 

まぁそもそも積み技、というか補助技自体が()()()()()()()()()()()ではないので、なんの為の技か知らずに使わない人の方が多い。

 

効果がわかりやすい補助技なら使ってくるがね。

“でんじは”や“どくどく”、“おにび”なんかがそうだろう。

 

しかしそんな状況の中で、何故俺がわざわざ“コットンガード”を覚えるのを待っていたかと言うと、それはモンメンの特性にある。

 

【いたずらごころ】

 

この特性は補助技を優先的に使用する特性だ。

これによって、モンメンは補助技ならば相手が動ききる前に技を完成させてくれる。

 

まぁデメリットも少しはあるが、メリットの方が圧倒的に多いので、うちのモンメンも例に漏れず補助技主体の技構成をしている。

 

面白いのは“コットンガード”を使用した時、ただでさえ目元と手の葉っぱしか見えないモンメンが、完全に綿毛に覆われてただの毛玉になるのだ。

それもバスケットボールサイズの毛玉だ。

 

今まで“たいあたり”なんかをされた時は、ドフッ、くらいの音はしていたが、“コットンガード”を使用したら完全に、モフッ、なのだ。

“たいあたり”した時のイシツブテのなんとも言えないあの微妙そうな顔は笑えた。

 

まぁとにもかくにも、これで俺のモンメンは進化する準備が出来たと言える。

 

だから平日のこの暇な時間を使って、ちょっとムロタウンの石の洞窟まで出張り、【たいようのいし】を 掘って来ようかと画策している。

 

ゲーム的には出来ない事ではあるのだが、この世界では自身で採掘が可能だし、石の洞窟は名前の通り石関連なら大体何でも出てくる。

 

本来ならソルロックから(倒して)貰った方が良いのだが、場所が場所なのであそこは行きたくない。

 

……流星の滝は、ちょっとなぁ。

ボーマンダやサザンドラなんかが野生で飛び出す危険性があるとか地獄かよ。

いくらうちのモンメンがフェアリータイプを有しているからと言って、あれらと野生でバトルとか考えたくない。

だって野生ならトレーナーへの直接攻撃(ダイレクトアタック)もあるんだぜ?

……嫌過ぎる。

 

それに奥に行くなら“なみのり”とかも必要になるし、まかり間違って何かしらのイベントとかがあっても非常に困る。

 

よって安全性を考慮したら石の洞窟一択になる。

まぁ一発で掘れるなんて思ってないし、別に今すぐ堀り当てる必要もないので、ここ暫くの目標、暇潰しに近い感覚だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で数日後カナズミシティから南下しトウカの森を抜け、ハギ老人に頼んで船を出して貰い、数時間掛けて石の洞窟へとやって来た。

 

ゲームではものの数分で完了するのだが実際移動するとなるとめっちゃ大変だわ。

つるはしとかの採掘道具も持って来てるから荷物重いし。

 

早朝から行動を開始してもう昼前だからな。

帰りの事も考えたら採掘時間足りねーぞこれ。

うーむ、今度しっかりと外泊も考えて計画しないと。

 

それにしても___

 

「……本当に付いて来るの?」

 

「当然ですわ!」

 

来ちゃったんだよなー、ツツジ。

 

俺が石の洞窟で採掘する為の準備をしている所を発見した彼女は、何故か自身も一緒に行くと言いだし、マジで付いて来ちゃった。

 

まぁ良いんだけどね?

これもデートの一種だ、うん。

 

「それにしても思ってたより暗いな。」

 

「ですわね。 こんな懐中電灯だけで大丈夫でしょうか?」

 

俺達は洞窟の入口前で中を照らしてみたが、思ってたよりも中は暗かった。

俺が用意した懐中電灯は3つで、2つは前世で言う所の軍用ライトみたいな強い光を出すタイプの奴で、1つはベルトに付け提げれる360度全域に光るタイプの夜釣りとかで使用する電灯だ。

 

……まぁ、多分なんとかなるだろう。

 

「よし、今から中に入るけど、ポケモンは常に外に出しとけよ?」

 

「野生ポケモンの奇襲警戒ですわね? わかっていますわよ。」

 

そうは言うが、彼女はきっとわかってない。

頭では教科書通りの理屈を理解しているのだろうが、試合経験ではなく、実戦経験の少ない彼女は野生の在り方を理解していないだろう。

 

俺だってトウカの森に行って恐ろしい思いをし学んだ事なんだ。

普段カナズミシティから出ない彼女に野生の怖さがわかるとは思えない。

 

とは言え、石の洞窟はそこまで強いポケモンが出現する場所ではない。

群れで襲われるとかでもない限り、通常のバトルなら俺達に問題が起こる事はないだろう。

けど一応は少し脅しておこう。

 

「本当に気を付けろよ? ズバットがいきなり首に噛みついて来る事だってあるんだからな。」

 

「えっ!? き、気を付けますわ。」

 

俺はコクりと頷いてからボールからポケモンを出す。

 

「よし、警戒頼むぞモンメン。」

 

「お願いしますわ、ノズパス。」

 

そして俺達は慎重に洞窟の中へと入って行った。

 

そして歩く事数分、未だに野生ポケモンと遭遇しないまま進んでいると、少し明るい広間の様な場所が見えて来た。

 

「……何か、先が明るいですわね。」

 

「誰かいるのかもな。」

 

広間に入りそこに居たのは、非常にわかりやすい格好をした、所謂ゲームのやまおとこの風貌をしたおっさんが居た。

 

「おや? こんな所に年端の行かぬ少年少女が来るとは珍しい。 お嬢さん方、ここへは何をしにやって来たのかね?」

 

「あ、どうも。 ここへは採掘をしに、俺が【たいようのいし】が欲しかったもので。」

 

「私は付き添いですわ。」

 

俺達がそう答えるとおっさんは『成る程、成る程』と頷き、大きな笑みでアドバイスをくれた。

 

「うむ、それなら地下2階の奥へと行くと良い。 奥の突き当たりに亀裂があるので、そこを掘ると出てくる可能性があるぞ? 以前そこで出土した報告を聞いた事がある。」

 

奥か、結構時間掛かるかもなー。

 

「ありがとうございます。 早速行ってみようと思い出ます。」

 

「うむ、頑張れよ。……と言いたいが、すまんが君達を少し試させてくれんか?」

 

はて?

一体何の事だろうか?

 

「試すとは、何を試すのですの?」

 

「いやなに、疑って申し訳ないのだが、君達のポケモンバトルの実力を試したい。 石の洞窟は比較的安全ではあるが、それでも危険が無い訳ではないからね。」

 

成る程、この人めっちゃ親切だな。

 

「そういう事でしたら私が相手しますわ。」

 

「よし、では手加減はせんぞお嬢さん!」

 

こうして石の洞窟での最初のポケモンバトルは、野生のポケモン相手ではなく親切なおっさんとのバトルへと相成った。

 



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五話

「これで仕留めますわよ! ノズパス、“がんせきふうじ”!」

 

バトル開始から数分、トレーナーとしての実力もポケモンの実力も、相手のおっさんとイシツブテのコンビよりも上だったツツジ達はほぼ無傷で楽々とバトルに勝利した。

 

「はっはっはっ! これは敵わん! いや、実力を疑って悪かった。 これなら地下に行っても問題無いだろう。……なんて、負けた私が言うのも烏滸がましいな!」

 

「いえ、ご心配ありがとうございますの。」

 

「うむ。 私に勝利したお嬢さんには、おこづかいと特別にこの“フラッシュ”のわざマシンをやろう。」

 

なぬ?

“フラッシュ”とな?

 

「まぁ! わざマシンなんて貴重なもの、よろしいのですか?」

 

「なに問題ないさ。 それはコピー品だからな。 私はまだまだ“フラッシュ”のコピー品を持っているのだ。」

 

「コピー品だとしても、ありがたいですわ。」

 

う、うーん。

正直“フラッシュ”は使い道が……。

 

いや、敵の目の前で閃光弾みたいに強烈に光ったら、某大佐みたいに『眼がっ、眼がぁぁぁ!!、』みたいにならないかな?

 

ゲーム的にはバトルで命中率を1段階下げるだけの技だったけど、何せ時代によっては世にも貴重な秘伝の技なのだ。

この世界ならば確定ひるみを取れる様なチート技の可能性がワンチャン___

 

「お嬢さん方、天井を見ると良い。 あの天井で光ってるのが“フラッシュ”を使っている私のケーシィだ。」

 

あ、この広間が地味に小明るいのはそういう事だったのか。

……この優しく淡い感じの光、チート技は無理そうですね。

 

「洞窟の奥へと進んで行くのなら、ポケモンに“フラッシュ”を覚えさせると良いぞ。 懐中電灯よりも視界が開け周囲の確認が取りやすいからな。」

 

「成る程、それは便利ですの。」

 

「ありがとうございます。……しかし残念ながらわざマシンを使う為の機械を持って来ていないので、ここでポケモンに覚えさせるのは、無理みたいです。」

 

「ふむ、そうか。 生憎私も持って来ていないので、どうやら今すぐ使うのは無理だな。 では今日の所はこのまま懐中電灯で進むしかないか。 あまり無理をせず気を付けて進むのだぞ?」

 

……まぁ、ありがたい話ではあるのだが、仮に使えたとしても別に“フラッシュ”を覚えさせたいとは思わないな。

洞窟だと便利ではあるけどね。

 

……この世界でもひでん要員とか必要になるのかなぁ?

……いずれはトロピウス先生を捕まえに行こう。

 

こうして優しいおっさんと別れた俺とツツジは再び暗闇の通路を順調に進み始めた。

 

途中野生のポケモンと遭遇してバトルになる事もあったが、洞窟の中が慣れて来た俺達はこちらも問題なく処理する事が出来た。

それに、野生だからと言って必ずバトルになる事はない。

穏やかな性格をしているポケモンならこちらを結構スルーしてくるし、手を振ったら振り返してくるマクノシタなんかもいた。

 

「あら? ここから下に降りるのでしょうか?」

 

「おっ、そうみたいだな。」

 

そうこうして進んでいる内に、俺達は地下へと降りる梯子まで到着した。

 

ここまで来るのにおおよそ40分。

ここから地下1階そして地下2階の奥まで行くとなると、帰りを考えたら採掘時間は1時間あるかないか、って所か。

……中々ハードだぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途中途中で休憩を挟みつつ、俺達は時間を掛けてようやく地下2階の奥までやって来た。

 

その最中で結構強い野生のポケモンとバトルになったりもしたので、用意していたキズぐすりや各種状態異常回復系アイテムもそれなりに消費している。

 

残りはキズぐすり5個、いいキズぐすりが2個、どくけしが2個にまひなおしとやけどなおしが3個ずつだ。

 

こおりなおし?

……そんなもの、ないよ。

 

まぁ無理をしなければまだ余裕はある。

とは言え、現実足るこの世界ではキズぐすりを使用したからといって、その場で即回復なんてしない。

こちらも、徐々にゆっくりと回復していく。

まぁ30分もあれば効果は充分に発揮するので、前世基準だと異常な回復アイテムではある。

 

それでも連続使用は推奨されてないがね。

これらのアイテムはあくまでも薬品なので、多量の服用はあまり身体には良くない。

前世と同様に、薬が転じて毒になるようなものだ。

 

だから本来は自然に存在するきのみなんかの方が好ましい。

 

しかしきのみは意外と所有するのが難しい。

フレンドリーショップに売っている訳でもないし、生物(なまもの)であるきのみは長く放っておくと腐ってしまうのだ。

俺もオレンの実とモモンの実を少しずつしか保有していない。

 

……ちなみに、ゲームではお世話になるあなぬけのヒモというチートアイテムはこの世界には存在しない。

 

そらそうだ。

使用したら出口まで飛ぶとか、そんなんある訳ねぇ。

いや、ポケモンというファンタジーな世界なんだから、あって欲しかったんだけどね?

この世界はどこか地味に厳しい所がある。

アルセウス仕事しろよ。

 

「さて、早速やるか。」

 

「私が周りを警戒しておくので、ご心配なさらずにどうぞ。」

 

ありがとナス!

 

俺は軍手にヘルメットのヒョウタスタイルで壁の亀裂に向かってつるはしを頭上から振り下ろした。

そしてカーン!と甲高い音を鳴らせ、反動でつるはしが頭上へと返って来る。

 

……凄く、手が痺れる。

痛……くはないが、こう、腕全体がビリビリっとする。

ぬぅ、やってやるさ!

 

それから俺は一心不乱につるはしを振るい、壁の亀裂をガシガシと掘った。

そして息が大きく乱れた頃に、他とは違う色をした石がコロッと転がって出て来た。

 

「ハァハァ、……っ、はぁ。 お、おぉ? これは___」

 

「あら、【リーフのいし】ですわね。 一先ずおめでとうございます。」

 

緑色のそれは、ツツジの言う通り【リーフのいし】だった。

【たいようのいし】と同じく進化の石ではあるのだが、これじゃないんだよ。

いや、逆に考えれば早速同系統の進化の石が出土したので、幸先は良いのか?

 

「まだ時間に余裕はあるな。 もう一回掘ってみるか。」

 

「それでしたら私も一度経験として発掘作業をしてみたいのですが、よろしいですか?」

 

「マジで? いやまぁ良いんだけど、結構な重労働なんだがマジでやるのか?」

 

「大マジですわ。」

 

マジか。

俺は被っていたヘルメットをツツジに被せ、軍手を付けさせつるはしを渡した。

 

「危ないから慎重にな。」

 

「了解しましたわ!」

 

彼女はそう言って、思いっきりつるはしを振りかぶり全力で亀裂へと叩きつける。

 

全然了解していない!

見ているこっちはたまったものじゃない!

 

と、俺がハラハラしていたらものの数分で勢いが収まり、5分も立てば息が完全に上がっていた。

 

「ハァ!ハァ! っぐ、ぐぬぬ!」

 

「あんなに全力でやるから……。」

 

「むぅ~!……はっ!」

 

彼女は何かを思い立ち、ベルトからボールを取り出した。

 

「イシツブテ! 私の代わりにここを掘って下さいな!」

 

汚ねぇ!

いや賢いんだが、何か釈然としないぞこれ!

 

「……自分で掘りたいんじゃなかったのか?」

 

「私のポケモンが掘ったなら、私が掘ったのと同義ですわ!」

 

うんまぁ、そうなんだけども。

実際つるはしを握って振るう腕があるのは、俺達二人の手持ちじゃイシツブテくらいしかいない。

つまり、この荒業が可能なのはツツジだけというのが何とも汚いじゃないか。

 

俺は恨めしい想いでイシツブテを見ていたが、そんなもの気にせずにガンガン堀り進めるイシツブテは様々な石を出土した。

 

【ほのおのいし】【やみのいし】【かわらずのいし】

 

「よ、良かったな。」

 

「良くやりましたわイシツブテ!」

 

く、悔しい!

俺と同じぐらいの発掘時間でここまで出土させるとは、やるなイシツブテ!

だがまだ目的の【たいようのいし】が出てないので負けではないのだよ!

最終的に目標を達成した奴が勝者なのだ!

それまでに出土した物の数など、たいした意味など持たん!

 

くっそ~!と、俺が奮起し再び発掘しようかと思っていたら、遠くから2匹のポケモンがこちらの方へと結構なスピードでやって来る。

 

どうやらこちらから見て手前側の方が、奥側のポケモンに襲われていて逃げている様だ。

 

懐中電灯では薄暗い洞窟の中、手前のポケモンはこちらの光に気付きこちらを頼るかの様に駆け寄って来た。

 

そこで俺は驚愕した。

 

それはどのような世界観でも、ホウエン地方では野生で見られないポケモン。

 

「メ、メレシー!?」

 

()()ポケモンメレシー。

流石は石の洞窟、石関連なら何でもあるんだなぁ。(白目)

 




トロピウスとは、ゲームにおいて大事な技枠4つに、“いあいぎり”“いわくだき”“かいりき”“そらをとぶ”の秘伝の技4つが修まる達人先生なのである!


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六話

2話連続投稿。
今日見た人は前の話を見て下さい。


「メレシー?……初めて見ますが、可愛いポケモンですわね。」

 

そりゃそうだ。

メレシーとはXY(第6世代)で登場する、幻のポケモンディアンシーの前身であるポケモンだ。

決してホウエン地方で出現するポケモンじゃない。

 

「って、感心している場合じゃない! そいつを追って来ているポケモンが来るぞ!」

 

 

俺がそう叫んで、お互いに警戒してる中現れたのは暗闇ポケモンのヤミラミだった。

 

だが、このヤミラミは尋常じゃない雰囲気を醸し出している。

 

左額から右顎に掛けて大きい傷痕があるし、この洞窟で見かけた様な通常の個体よりも一回り大きい気がする。

間違いなく強い。

 

メレシーは俺達が居る場所から数メートル離れた所で俺達を観察していたが、こいつが現れた瞬間に泣いて俺達の後ろへと避難し逃げて来た。

 

くっそ、こんなヤバそうな奴押し付けるなよな!

 

「むっ、良くわかりませんが、とにかくこのヤミラミを追い払えば良いのですわね? それならばイシツブテ、お願いします!」

 

ツツジはそう張り切ってイシツブテをけしかけるが、先制したヤミラミの“シャドーボール”をまともに喰らい、イシツブテは一撃で撃沈した。

 

「……は? えっ、う、嘘。 イ、イシツブテ?」

 

「馬鹿! 呆けるな!」

 

ツツジは一撃で葬られたイシツブテに呆然としているが、ヤミラミは止まってくれない。

続けざまに放たれた“シャドーボールが”今度はツツジ本人へと向かう。

 

不味い!

と思った時には既に遅く、今度はツツジのそばで彼女を守っていたノズパスが彼女を庇い“シャドーボール”が直撃し崩れ落ちる。

 

「ノズパス!?」

 

仕方がない。

本来なら両ポケモンとも【がんじょう】の特性を持っていて、決して一撃で沈むポケモンではないのだが、ここまで来る間に僅かばかりのダメージを負っていて万全の体力ではなかったのだ。

 

……ほんの僅かなダメージならと、キズぐすりを温存していたのが裏目に出た。

 

「落ち着けツツジ! 君は今すぐ戦闘不能になった2匹をボールに戻し、ここから撤退する準備をしてくれ! このヤミラミは俺が相手をする!」

 

「は、はいっ!」

 

ヤバいヤバいヤバいヤバい!

これは滅茶苦茶危険な状況だ。

 

「くっ! 頼むモンメン“ようせいのかぜ”だ!」

 

モンメンが自然に覚える唯一のフェアリータイプの特殊攻撃技だが、如何せん威力が低い。

 

フェアリータイプの技はヤミラミに対する効果抜群のタイプなのだが、このヤミラミは“ようせいのかぜ”をまともに喰らってもピンピンしてやがる。

 

「クソが、マジかよ。」

 

どう考えても石の洞窟に居て良いレベルじゃないぞ畜生!

 

モンメンはフェアリータイプを有しているので、本来ならばあく・ゴーストタイプのヤミラミとはそこまで相性は悪くない。

というかどちらかと言うと有利だ。

 

しかし、まさか、こんな所でモンメンの特性である【いたずらごころ】のデメリットを喰らう事になるとは!

 

【いたずらごころ】は()()()()()()()()()()()()()()んだ!

 

補助技を優先して使う【いたずらごころ】だが、あくタイプはその特性を無効化する。

よって、補助技メインの技構成をしているモンメンはほぼ役に立たない。

攻撃技なんて、一応で残しておいた今使った“ようせいのかぜ”と“メガドレイン”から発展した“ギガドレイン”くらいしか存在しない。

 

石の洞窟程度ならと慢心して挑んだが、まさかここで火力不足を喰らうとは……。

ここまでの階層はこれだけでどうとでもなるポケモンばかりだったのに、まさかこんな化け物がいるなんてな。

 

……笑えないぜ。

 

俺が戦慄し冷や汗を掻いていると、件のヤミラミが“シャドークロー”を放って来た。

 

流石野生、物理技だとか特殊技だとか関係ねぇな!

でもこれなら___

 

「モンメン! “コットンガード”!」

 

【いたずらごころ】の補助技があくタイプに対して効果無しとは言え、相手にかける技ではなく自身にかける技ならば特性は発動してくれる。

 

故にヤミラミの物理技である“シャドークロー”を受ける前に、こちらは対物理である防御力を3段階上昇させられる。

 

よって、ヤミラミの“シャドークロー”はモフッと音を立ててモンメンに対して特にダメージを負わす事が出来なかった。

 

「よしっ! こっちは“ギガドレイン”を喰らわしてやれ!」

 

ヤミラミはムキになって連続して“シャドークロー”をモンメンに叩きつけるが、モンメンはそれを無視してヤミラミから体力を吸い始める。

 

悪くない展開だ。

と、俺が思い始めた時に“ギガドレイン”を軽く喰らい警戒したヤミラミはモンメンから飛び退いて、“シャドーボール”へと攻撃手段を変え出した。

 

ちっ!

賢いじゃないか、この野郎!

 

「避けろモンメン!」

 

俺の指示に“ギガドレイン”を中断したモンメンはヤミラミから放たれる“シャドーボール”を避け始める。

 

……じり貧。

 

このままでは勝てない。

俺がそう思った時にツツジから声が掛けられる。

 

「撤退準備、完了しましたわ!」

 

「よしっ、逃げるぞ!」

 

俺はツツジの側まで駆け寄り、リュック等の荷物を背負い、地面に置いてあったつるはしを拾って、ヤミラミに向かって投げる。

 

当然、ゴーストタイプを有するヤミラミには意味なんてない。

一種の威嚇に近い行為だ。

 

が、ヤミラミは飛んで来たつるはしを“シャドークロー”で迎撃して撃ち落とし、完全に破壊して逆に俺達に対して恐怖心を掻き立ててくれた。

 

マジでヤバいぞコイツ!

 

「くっそ! モンメン“ようせいのかぜ”だ! ツツジ、今のうちにヤミラミの脇を抜けよう!」

 

「わ、わかりましたわ!」

 

俺とツツジはモンメンがヤミラミを抑えている間にその横を走り抜け、戦闘から脱出しようとする。

 

モンメンも“ようせいのかぜ”を放ちながらゆっくりとヤミラミを迂回し、ある程度俺達が離れた段階で技を中止し、俺達を追いかけて来た。

 

「順路は覚えているかツツジ!?」

 

「す、すみません! 詳しくは覚えておりません!」

 

俺達は走りながら会話をし、ヤミラミから逃げる。

だが、奴は俺達を逃がしてはくれなかった。

 

ぬるりと嫌な影が俺達へとじわじわ詰め寄り、俺達を捉えた瞬間に影からヤミラミが這いずり、腕を振りかぶる。

 

「不味っ___」

 

ヤミラミの攻撃目標は俺で、今この瞬間に攻撃されようとした時に、モンメンが俺を庇ってくれた。

 

モンメンは未だに“コットンガード”の効果が切れてないので、大したダメージは入らなかったが、一瞬死ぬかと思った。

 

「助かったモンメン!……今のは、“かげうち”か。」

 

優秀な技ばかり使いやがって!

 

俺達は尚も走り続ける。

出口への順路など、最早わからない。

 

だが人間の足とポケモンの足、いくらヤミラミが鈍足な方だとは言え、俺達よりかは明らかに速い。

俺達は何度も何度も捕捉されてはヤミラミから追撃される。

 

「何でこんなにも執拗に追いかけて来るんだ!」

 

通常、餌を追いかけるとかでもない限り、野生のポケモンはここまで執着はしないのだが。

 

と、考えながらも何度目かの追撃でヤミラミはモンメンに“おにび”を放って、モンメンが火傷状態になってしまった。

 

「最悪だ。 これじゃモンメンの体力がじわじわ削れてしまう!」

 

物理技を使わないので、物理攻撃力が半減になってしまうのは別に構わないが、外に出しぱっなしのこの状況じゃ、火傷ダメージのせいで、長くは保たない。

どこかでやけどなおしとキズぐすりを使用したい。

 

「あれっ! 梯子ではありませんか!?」

 

「でかした! 上の階に逃げるぞ!」

 

俺とツツジは発見した梯子を急いで登り、地下一階へと避難する。

ヤミラミもそれを追おうと梯子を登り始めたが、俺がそれを許さず、モンメンに指示を出して上から“ようせいのかぜ”を叩きつける。

 

ダメージ目的ではなく妨害目的で放ったこの技は見事に嵌まり、ヤミラミは梯子の途中で落ちて行き、諦めたのか姿を眩ませた。

 

「ふぅぅぅ。……一先ず、危機は去った。」

 

「こ、怖かったですわ。」

 

俺とツツジは安心感からか、壁にもつれ込み座り込んで一息ついた。

 

とにかく、先ずはポケモンを回復させないと。

そう思った俺がモンメンにやけどなおしとキズぐすりを使用したら、ツツジが声を掛けて来た。

 

「あ、申し訳ありませんが、私にもキズぐすりを使用させて下さいな。」

 

「? イシツブテとノズパスは瀕死状態だから、キズぐすりではどうにもならないぞ?」

 

「いえ、そうではなく、()()()に使いたいんですの。」

 

……洞窟の中だから薄暗く気づかなかったが、ツツジはメレシーを胸に抱えていたのだ。

 

ようやくわかった。

何故ヤミラミが執拗に俺達を襲うのかの理由が。

 

()()()()()()()!」

 

暗闇ポケモンヤミラミ。

その食生は()()()()()()事だ。

 

……俺達の受難は未だに終わりそうにない。

 



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七話

「どういう事ですの?」

 

「どうもこうも、ヤミラミはそいつを狙っているんだよ。」

 

「それは、最初に出会った時からそうだったじゃありませんか。」

 

「いや俺が言いたいのは、執拗に追いかけて来た理由さ。 ヤミラミはな、そいつを食べる為に追いかけて来ている。」

 

ツツジは俺の言葉に目を開いて驚き、メレシーを見つめる。

 

「まさか、……本当に?」

 

「知らないのか? ヤミラミは宝石を食べるんだ。 そしてそいつは宝石ポケモン。……まさに格好の餌だ。」

 

「そういう、事ですか。」

 

そしてこの事実に1つの選択肢が生まれる。

 

「どうするんだ、ツツジ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

メレシーを咄嗟に助けたのは彼女だ。

故に彼女に選択をして貰いたい。

 

逃がして助かるか、助けてまた襲われるかを。

 

「……ここでこの子を逃がしたら、きっとこの子はヤミラミに食べられてしまいますわよね。」

 

「……多分な。 絶対って事はないけど、あの強さのヤミラミだ。 まず間違いなく、殺られると思う。」

 

「……ですわよね。」

 

沈黙が場を支配する。

助けたい気持ちがあるのはわかる。

けど、俺達の危険と天秤に掛けて良いのかを迷っているのだろう。

 

「残念だが迷っている時間はない。……正直、何時またヤミラミが来るのかわからない状況だ。 決断は早めに頼む。」

 

「……はい。 ですが、その……。」

 

……まぁ流石に酷か。

仕方がない、ここは少しだけ助け船を出そう。

 

「……メレシーはな、いわ・フェアリータイプのポケモンで、攻撃能力は高くないが、防御能力には秀でているポケモンなんだ。」

 

「? ソースケ?」

 

「まぁ聞け。 こいつはホウエン地方では確認された事のないポケモンで、本来は遠くの地方の1地域でしか未だに発見はされてないらしい。」

 

「はぁ、そうなんですの。」

 

俺の語りにツツジは呆けた返事をする。

 

「まぁつまり何が言いたいかと言うとだな、ホウエン地方で初めて発見されたこのメレシー、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「っ! あ、いえですが、……その、この子を助けたらまたあのヤミラミが___」

 

「君の決めた事ならどう選択しようと俺は反対しない。……ただし余計な心配で君の気持ちを鈍らせるな。 いざという時は俺が必ずどうにかするから。」

 

……多分、きっと、メイビー。

 

「……クスッ、頼もしいですわね。」

 

言葉だけならな!

 

思い詰めていたツツジの顔にようやく笑顔が戻り、俺も少し安心する。

 

そして彼女はリュックから新品のモンスターボールを取り出し、手の平の上でメレシーにそれを見せながら問う。

 

「私と来る気はありますか?」

 

そう言われたメレシーは、待ってましたと言わんばかりに喜んで自らボールへと吸い込まれて行った。

 

「メレシー、ゲットしましたわ!」

 

「おめでとう、こんな時に何だけどお似合いのポケモンだ。」

 

いやホント、ノズパスやらイシツブテなんかのゴツいポケモンより可愛らしいメレシーの方が似合ってるぞ。

 

「さて、早速で悪いが休憩は終わりだ。 これからもヤミラミの襲撃があるかもしれないから、さっさとこの洞窟を出よう。」

 

「ですわね。 メレシーをゲットしたとは言え、どんな技を覚えているのかもわからないこの状況では、戦力にはなりえませんし。」

 

流石に俺もそれは知らない。

野生のメレシーをゲットした時に覚えている技とか記憶にねぇわ。

ってかそんなん知ってる変態なんているのか?

 

とにかく現状は未だに良くない。

まともに戦えるポケモンはモンメン一匹だけだし、そのモンメンもヤミラミに対しての有効手段はなく、既に今日だけで何度もキズぐすりや状態異常回復薬を使用しているので、コンディションは下がる一方だ。

 

……けどあの発言をした手前、どうにかしなくちゃな。

 

「道中野生のポケモンが襲って来ても、全部無視して逃げるぞ。 今はこの洞窟の脱出を最優先にしよう。」

 

「わかりましたの。」

 

俺とツツジは疲れた身体に鞭を打って立ち上がり、再び警戒を強めながら出口を目指す。

 

不確かな記憶を頼りにしながらも地下1階を歩いていると、俺達の行く手を阻むように道の先から目をギラギラさせたヤミラミが現れた。

 

「出たぞ! 走れ!」

 

俺達はあいつが現れた瞬間に再び走って逃げ始める。

 

「モンメン! “かげうち”警戒! “コットンガード”は絶やすなよ!」

 

モンメンが俺の指示に反応し、再びモコモコの毛玉状態を維持しながら殿を務める。

 

だがヤミラミは俺達の様子をジッと見つめるだけで何もしてこない。

そして数分もしないうちに俺達はヤミラミを振り切り、再び一息ついた。

 

……おかしい。

急に何もしなくなったのが、不気味過ぎる。

 

「……また、ここが何処なのかわからなくなってしまいましたわね。」

 

「……そこまで広くない洞窟だ。 ぐるぐる回っているだけでもいずれは上に登れる梯子を見つけて、出口まで行けるさ。」

 

気休めだ。

本来ならば迷子になった所で問題のある場所ではないが、この状況では痛手だ。

 

俺達が少し気落ちしながらもまた道を歩き始めたら、再びヤミラミが暗闇から現れる。

 

「またか! 逃げるぞ!」

 

俺がそう叫んで反転し走ろうとしたら、何故か身体が動かなかった。

 

「ソースケ! どうしたんですの!?」

 

ま、さか。

 

「……“くろいまなざし”だ。」

 

きっと、先程もこの技を繰り出そうとしていたのだろう。

この技を喰らうと、()()()()()()()()()()()

 

完全に、してやられた。

 

「……逃げろツツジ。 洞窟を脱出し、ムロタウンへ行って助けを呼んで来てくれ。」

 

「出来ません!」

 

「行け! ヤミラミの狙いはメレシーだ! 俺は残っても大事にはならない!」

 

「だとしても嫌ですわ!」

 

最早絶対絶命のピンチで、追い詰められた俺はせめてツツジだけでも逃げて欲しく、声を荒げて彼女に逃げるように叫ぶ。

 

だが俺達の都合などお構い無しにヤミラミは嬉々として攻撃を始める。

 

「畜生! 迎撃するぞモンメン!」

 

「戦いますわよ! メレシー!」

 

逃げろと言っているのに、戦力になるか怪しいメレシーを出してまで、ツツジは徹底抗戦の構えを見せる。

 

クソが!

どうにかしなくちゃ行けないけど、どうしろってんだ!

 

「モンメン! “シャドーボール”を避けて“ギガドレイン”だ!」

 

「メレシー! とにかく貴方の全力で攻撃して下さい!」

 

もう何度目になるかわからないヤミラミの“シャドーボール”を避けて、モンメンは“ギガドレイン”を放つが少ししか効いてない。

 

逆にヤミラミは技を避けられる事を嫌がり、“ギガドレイン”を受けきる事で、その技の最中を狙い“シャドーボール”を叩きこんできやがった。

 

ここで決着をつける気だ。

今の一撃でモンメンも多量のダメージを喰らい、持たせておいたオレンの実を使用している。

 

……“シャドーボール”一発でモンメンの体力を半分以上は持って行ったって事か。

特殊防御力は決して低くはないのに。

 

だがヤミラミがモンメンに集中している横から、メレシーがサイコパワーで浮かび上がらせた岩をヤミラミへと直撃させる。

 

今のは___

 

「“げんしのちから”か! 良いぞ! 運良く能力も上昇している!」

 

“げんしのちから”は技の威力は高くないが、10%の確率で、攻撃、防御、特殊攻撃、特殊防御、素早さの能力全てを1段階上昇させる追加効果がある。

 

勝ちの目が出て来た!

 

「ツツジ! “げんしのちから”の連打だ! メレシーの能力を上昇させる事でヤミラミを上回るぞ!」

 

「はい!」

 

申し訳ないが、ここは野生。

お前みたいな化け物相手に、2対1を卑怯なんて言ってくれるなよ!

 

「よし、モンメン! “ようせいのかぜ”で徹底的にヤミラミの邪魔をしてやれ!」

 

「メレシー! ヤミラミがモンメンの相手をしている隙に“げんしのちから”を叩き込んで下さい!」

 

俺達が見つけた僅かな希望。

運さえ良ければ、あるいは時間をかけて何度も“げんしのちから”を使用したら、俺達はきっと勝てる。

 

……そう、思った。

 

ヤミラミが“ようせいのかぜ”に抗いながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()までは。

 

“あくのはどう”あくタイプの特殊攻撃技で、その威力は“シャドーボール”と同等だが、追加効果がやっかいだ。

技を喰らった相手を20%の確率でひるませる。

 

ここに来てまだこんな技があったのか!?

 

ヤミラミのこの技は“ようせいのかぜ”を出し続けているモンメンを確実に捕らえ、モンメンを打ち倒す。

 

「モンメン!」

 

タイプ相性的に得意のタイプだったので、なんとかモンメンはギリギリ耐えたが、地面から顔を上げた時にはヤミラミに怯んでいて行動が出来そうになかった。

 

「撃ち抜いて下さいメレシー! “げんしのちから”!」

 

ツツジが慌ててメレシーに指示を出して技を放つが、ヤミラミはそれを軽く避ける。

そして返す刀で今度はメレシーに向かって“シャドーボール”を放ち、追撃に“シャドークロー”まで叩きつけた。

 

「メレシー!」

 

ツツジの叫び声が洞窟に響く。

最早モンメンもメレシーも戦闘不能になる一歩手前。

動きは鈍く、次の技を避ける事など出来そうにない。

 

俺はモンメンを胸にかかえ、メレシーの側で顔を青ざめさせるツツジを背に隠し、必死に状況の打開をすべく頭を回転させる。

 

だが地獄の死神よろしく、ヤミラミはそんな俺を嘲笑うかの如く、両手にオーラを溜めて全員まとめて吹っ飛ばすべく“あくのはどう”の準備をしている。

 

逃げる事は出来ない、戦う事も出来ない、助けを求める事も出来ない。

どうしようもない状況で、俺が“あくのはどう”を喰らう覚悟を決めた時に、救いの声は聞こえた。

 

「メタグロス、“バレットパンチ”。」

 

突如現れた鈍い鋼色をした色違いのメタグロスが、ヤミラミをぶっ飛ばす。

 

……驚いた。

それは心底驚いた。

 

「何とか、無事だったようだね。」

 

そう声をかけて来たのは、洞窟の中で場違いである綺麗なスーツを身に着けた薄い水色の髪をしたイケメン御曹司。

 

……あえて言おう。

こんな事、良い意味で大誤算だ!

 



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八話

俺達はその人の事を良く知っている。

何せ彼は俺達の通うスクールの伝説的なOBで、特別優秀な成績を修める俺とツツジは何度も顔を合わせているし、バトルを教示して貰った事が何度もある。

 

そうでなくともこのホウエン地方で一番の有名人だし、ポケモンの知識が有るならば知らない訳がない。

 

「……ダイゴ、さん? 何でここに?」

 

石の洞窟(ここ)は僕の庭みたいなものだよ?」

 

俺が唖然としながらそう呟くと、彼は笑ってそう答えた。

 

「なんてね。 実は君達が中々石の洞窟から戻って来ないものだから、心配したハギ老人がカナズミの君達の両親に報告に来たんだ。」

 

……そういえば、とっくに約束の時間は過ぎているのか。

 

「それでたまたまその事を知った僕が、様子を見に来たと言う訳さ。」

 

「……それは、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんわ。」

 

「そんな事ないさ。 それよりも君達はとんだ貧乏くじを引いたみたいだね。 ここでは稀に見る強さのヤミラミに狙われるなんて。……ほら、僕のメタグロスの技を受けても立ち上がって来るヤミラミなんて野生ではそうはいないよ?」

 

ダイゴさんの言う通り、ヤミラミへと目を向ければ奴はメタグロスの“バレットパンチ”を受けて尚も闘争心を剥き出しにして立ち上がって来た。

 

だが、何と言うか、もう心配はしていない。

あそこまでの化け物っぷりを披露したヤミラミだが、ダイゴさんのメタグロスとは比べ物にはないないからだ。

 

生物として、圧倒的に“格”が違う。

 

600族うんぬんではなく、そこに至るまでの次元が違うのだ。

 

「中々面白いヤミラミだね。 フヨウなんかが喜びそうなポケモンだ。」

 

えっ、このヤミラミは四天王が目をつけるレベルの化け物なの?

 

改めてとんでもない奴を相手にしてたんだなぁ、なんて思っていたら、僅か数秒で決着はついた。

 

「メタグロス、“コメットパンチ”。」

 

ダイゴさんがそう指示を出したら、バコン!という音を鳴らし、今度こそメタグロスがヤミラミを沈めた。

 

……強過ぎる。

 

俺達がスクールでこの人相手にバトルをさせて貰った時は、もの凄く手加減していた事が良くわかる。

しかもあの時はメタグロス(相棒)ではなく、ココドラだったし。

 

……これが、最強のトレーナー(チャンピオン)か。

 

『結局、僕が一番強くて凄いんだよね。』

有名なダイゴの自己紹介文だが、 前世と違い全くギャグとは思えない。

 

カッコいいじゃないか。

 

「……凄いですわ。」

 

ただし、ツツジが頬を染めて目を輝かせていなかったらね!

 

畜生!

何か全部持って行かれた!

 

いや命の恩人だし、滅茶苦茶助かったんだけど、……何かこう、……何かこう!

 

俺が心の中のモヤモヤに葛藤していたら、ダイゴさんが話しかけて来た。

 

「さて、色々と……本当に色々と聞きたい事が今出来たけど、先ずは僕達の街(カナズミシティー)へ帰ろうか。」

 

ダイゴさんの目線はツツジの隣に居るメレシーへと釘付けになっている。

……聞きたい事、多いだろうね。

俺だって聞きたいくらいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カナズミシティーへの帰路中、俺達はハギ老人の船の上にいる。

ダイゴさんは来る時は自身の手持ちのエアームドで飛んで来たらしいが、帰りは一緒に帰る為に俺達と同行している。

まぁエアームドで三人は運べないからね。

 

と言うのは建前で、俺達はダイゴさんからそれはもう質問責めにされた。

まぁ何と言ってもメレシーの事だ。

 

自身の庭宣言する程に石の洞窟に足繁く通っていても、今回初めて見たらしいからな。

 

「う~ん、これはもう一度隅々まで探索する必要があるなぁ。 いや、それにしても羨ましい。」

 

ダイゴさんはそんな事を言いながらツツジからメレシーを預り、額にある大きな宝石を丁寧に磨いている。

メレシーも凄く嬉しそうだ。

 

「……メレシーのポケリフレは宝石磨きみたいだな。 君も鉱石の磨き方を勉強した方が良いんじゃないか?」

 

「……ですわね。主人は私である筈ですのに何故か敗北感が……。」

 

もし出会う順番が逆なら100%ダイゴさんに懐いてたなこれ。

 

「しかし今回は本当に君達は災難と同時に大手柄だったね。 メレシーの発見は学術的にも凄い事だよ? オダマキ博士なんかも驚くんじゃないかな?」

 

「まぁ偶然ですけどね。」

 

「そのせいでヤミラミにも襲われる事になりましたし。」

 

プラマイで言ったらマイナスな気がする。

ダイゴさんが来なかったらヤバかったし。

 

「ツツジさん、このメレシーはホウエンで初めて発見された存在だ。 悪いが時々は観察や研究の目的で何度か借りる事があるかもしれない。……了承してくれないかな?」

 

「……まぁ、無理のない範囲で時々でしたら。」

 

「心配しなくとも、基本は石の洞窟の探索や研究になる筈さ。 何故メレシーが石の洞窟に現れたかの研究が第一だろうね。」

 

……研究、か。

 

その時、ふと変な事を思いついた。

 

メレシーとは幻のポケモンであるディアンシーの前身と言われていて、ディアンシーはメレシーの突然変異と言われている。

 

ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

例えば、食生なんかはどうだろう?

このメレシーにダイヤばかりを与え、額の宝石が完全にダイヤになったならば、ディアンシーの専用技である“ダイヤストーム”を覚え、そこからディアンシーに成るなんてあり得るのではないか?

 

特定の技を覚えてからレベルアップすると、進化するなどの条件はポケモン世界だとあり得る事だ。

俺の好きなポケモンであるアマージョが良い例だろう。

 

ポケモンの世界とは関係ないが、かの有名なモンスターハンターの世界での亜種とかは、住んでいる場所の環境や食生での変質は良くある設定だった筈だ。

 

……とは言え、 常にダイヤを餌として与えるなんて、一体いくら金が掛かるのだろうか。

エンゲル係数半端じゃねぇぞ。

カビゴンより餌代かかるんじゃね?

 

……でも、思いついちゃったから言わずには居られない。

 

「……あの、ダイゴさん___」

 

俺はダイゴさんにメレシーの食生による変質変化の考えを話した。

 

「成る程、それは面白い! いや、どうしてそれを思いつかなかったんだろう。……成る程、食生か。」

 

うん、うん。

と、ダイゴさんはしきりに頷き目を輝かせている。

 

「ツツジさん! 是非その実験をして欲しい。 メレシーの餌を毎日毎食ダイヤにして欲しい。」

 

「えっ!? あの、ダイヤは流石に……。」

 

「あぁ、そうだね。 何、僕がスポンサーに成ろう! そうだな、……うん、一年。 一年、毎食メレシーにダイヤを与えて、その変化をレポートしてくれないかい?」

 

「は、はぁ? わかりましたの?」

 

「うん! これは面白いぞ。 オダマキ博士にも協力して貰おう。」

 

……とんとん拍子に話が進んでしまった。

でもメレシーが人工的にディアンシーに変化したら凄いぞ。

俺も柄にも無くちょっと興奮している。

 

「それにしても、ソースケ君は良くもまぁメレシーやディアンシーの生態系なんかを詳しく知っていたね?」

 

「えっ!?……あ、あぁ~、あれですよ、俺も男の子ですからね? 伝説のポケモンや幻のポケモンなんかは好きで、良く調べていたんですよ!」

 

うん、嘘じゃないぞ。

伝説や幻なんかの中二病あふれるワードは嫌いじゃないからな!

 

「あ~、成る程。 ふふっ、じゃあ君はどんな伝説や幻が好きなんだい?」

 

「あ~、……ビ、ビリジオン? セレビィやシェイミなんかも気になります。」

 

岩タイプのスペシャリストになるツツジに対抗して、と言うか、俺は前世から割りと草タイプが好きなので、この世界では草タイプのスペシャリストに成るべく努力をしていたりする。

 

ついでにホウエン地方には有名な草のスペシャリストが存在しない所も狙い所だと思った。

 

他にも、カプ・ブルルやカミツルギも草タイプだが、まだ世に出回っている名前ではないので割愛した。

 

「成る程ね、君は草タイプが好きなんだね?」

 

「好きです。」

 

ホント好きなんだよなぁ。

最初、モンメンに出会う前はキノココを捕まえる為にトウカの森に入ったしね。

まぁ、モンメンに出会ったから即シフトチェンジしたけど。

 

他にも、今でもキモリが欲しかったりする。

メガシンカさせてメガジュカインを愛でたい。

俺が最初にポケモンのゲームやった時の相棒はジュカインだったしね。

メガシンカして、初めて草タイプにドラゴンタイプが付与された時はちょっと感動したぞ。

 

なんて、俺が草タイプの魅力を話していたらダイゴさんも鋼タイプの魅力を語りだし、そこにツツジも参戦して岩タイプの魅力を語る。

しかも奴らは近しい性質のタイプだから、岩・鋼連合が出来上がり、鉱石が如何に魅力的か語るのだ。

 

……く、草だって魅力あるわい!

弱点5つあるけどな!

 

そんな熱い語り合いならぬ“語り愛”をしていたら、いつの間にかカナズミシティーへと到着していた。

 

そして大きく目立つデボンコーポレーションが見えたので、ダイゴさんが別れの挨拶をする。

 

「今日の所は僕はここで離れるけど、君達は真っ直ぐ家に帰るんだよ?」

 

本日はお世話になりました、と俺とツツジが頭を下げるとダイゴさんは、ふと何かに気づいたように俺に話しかける。

 

「そうだ、忘れていたなソースケ君。……これを君に。」

 

そう言ってダイゴさんは俺に【たいようのいし】を渡した。

 

「あ、これは___」

 

「何、冒険に報酬は付き物だろう?……今日の君の頑張りを称えて、さ。」

 

ダイゴさんはそう言って、俺へとウィンクをし爽やかに去って行った。

 

……やっぱ、超カッコいいぜあの人。

 

俺が呆然とダイゴさんを見送っていると、今度はツツジが話しかけて来た。

 

「……えっと、ソースケ。……その、今日は色々ありましたが、……あの……その……。」

 

ツツジは顔を俯かせて、しどろもどろに話す。

 

「えっと、今日は、……かっ、カッコ良かったですわ!」

 

そう言って、彼女は顔を真っ赤にさせて走り去って行った。

 

……………。

…………。

………。

……。

…。

 

お、おぅ。

 

何だ。

今日はホント色々災難だったが、【たいようのいし】は貰えるし、ツツジにはメレシーという相棒が出来たし、俺はカッコ良かったと言って貰えたし___

 

洞窟デートって最高だな!

 




誤字報告ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。


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九話

誤字報告ありがとうございます。
いや、ホント、後から確認したら出るわ出るわ。
これからも頑張りますのでよろしくお願いします。


洞窟デートをしたあの日、俺が浮かれながら家に帰ると鬼の形相をした母ちゃんが居間で待っていて、死ぬ程怒られた。

そして現実へと引き戻され、凄くへこんだ。

 

普段そこまで我が儘も言わずに子供らしくやんちゃもしない俺は、あまり怒られた経験がない。

まぁ前世の記憶があるので、普通の子供とは違ったからな。

 

今まで言った事のある我が儘なんて、ミナモシティのデパートに行ってわざマシンが買いたいだの、モンスターボールを10個買ったら付いてくるプレミアボールが欲しいだのだったからな。

 

……だってプレミアボールお洒落だし。

 

まぁどちらも叶わなかったけど。

親父、デボンの社員の癖して給料そこまで良い訳じゃないらしいからなぁ。

でも一応は一般家庭よりは貰っているのかな?

母ちゃんは専業主婦だし。

 

それは一旦置いといて。

 

何にせよ、これは俺だけの問題じゃない。

ツツジだって俺のせいで家族に叱られている筈だ。

 

そう思った俺は、彼女の両親と祖父である校長先生に翌日謝罪しに行ったのだ。

 

誠心誠意、申し訳ありませんと頭を下げると彼等は俺の事を快く赦してくれて、これからもツツジの事をよろしく頼むと逆にお願いされた。

 

何でも、今まで箱入りで優等生だった彼女が、こんなやんちゃを仕出かすのが少し嬉しいらしい。

 

……どうして俺の両親とは態度が違うのだろうか?

俺だってこういう反応になってもおかしくないだろうが。

 

そう思って後日母ちゃんに聞いてみると、『あんたは今までやらかしてないだけで、いつかこうなるとは思っていた。』と、言われた。

……信用ねぇな俺。

 

まぁ暫くは大人しくしておこう。

特別何かをする予定もなければ、何かが欲しいみたいな願望もないしな。

 

だって欲しい物は手に入ったし!

 

「ここに取り出しますは【たいようのいし】!」

 

「待っていましたわ!」

 

今はあの日から1週間たったスクールの放課後。

メレシー関連の色々なゴタゴタを片付けるのに非常に時間が掛かって面倒臭かった。

まぁオダマキ博士と知り合いになれたのは良かったけどね。

 

だから今日、スクールのグラウンドにて俺とツツジはようやくモンメンを進化させる事が出来るのだ。

 

意外とポケモンの進化を目にする機会はない。

そういう事で俺もツツジも結構ワクワクしてる。

 

ちなみに、あの日を境に俺とツツジの間に甘酸っぱい空気が流れる……なんて事はない。

割りと直ぐにいつもの空気になった。

 

……もっとフラグが立つイベントがあっても良かったんだけどなぁ。

幼なじみは負けフラグ、なんて言葉があるくらいだ。

フラグやイベントは何度あってもウェルカムなんだが。

 

まぁ良いさ、これだってイベントみたいなものだ。

 

「さぁモンメン! 今こそ進化する時だ!」

 

そう大袈裟に煽ったけど、やる事は【たいようのいし】をモンメンに渡すだけ。

 

……だよね?

ゲームで【たいようのいし】を使用するって、こういう事で良いんだよね?

間違っていたら超恥ずかしいんだけど?

進化の石の正しい使用方法とかあったりするのん?

 

俺が別の意味でドキドキしていたら、【たいようのいし】を持ったモンメンが光輝き始めた。

 

俺がその光景にほっと一安心していたら、隣のツツジが興奮し始めた。

 

「これが進化! 凄い光景ですわね!」

 

自分より興奮している人を見ると、逆に冷静になる法則。

ツツジとは逆に俺は静かにその光景を眺めた。

 

そして一際輝いた後、メェ~!と言う可愛い鳴き声と共にモンメン___いや、エルフーンが姿を現した。

 

「やったなエルフーン!」

 

「おめでとうございますわ!」

 

頭と胸元のモコモコは相変わらずだが、茶色の顔と胴体が今度は良く見える。

表情がモンメンの頃よりもはっきりしていて、笑った顔がめっちゃ可愛いぞ!

 

「この、更に可愛くなったな! この、この!」

 

「私にもモフモフさせて下さいな!」

 

俺がエルフーンを全体的にモフモフしたのを見て、ツツジもそれに参加する。

エルフーンも俺達二人にモフモフされるのを喜び、嬉しそうに顔を緩ませている。

 

そこから更にテンションの上がった俺とツツジは、エルフーンに“コットンガード”を使用させて、全身モフモフにしてから久々にモンメンキャッチボールならぬ、エルフーンキャッチボールをした。

 

……ただ、モンメンと違いエルフーンは少し重いわ。

何度か続けたら結構疲れたぞ。

 

「さて喜ぶのもそこそこに、そろそろバトルの方の確認もしないとな。」

 

進化してステータスが上がり純粋に強くなる。

……なんて事、やっぱりこの世界はないんだよなぁ。

 

数値じゃ表せないが、ステータス的なものが上がるのは事実なんだが、進化したら()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

だからバトルでの動き方や技の出し方、ちょっとした回避方法なんかも前とは変えないといけない。

こういった微調整をする事も、暫く大人しくする為の理由の一環だったりする。

 

「では、私とメレシーでお相手致しますわ。」

 

「ふふふ、進化したエルフーンに勝てると思うなよ?」

 

そう言ってお互いが不遜な笑みを浮かべながら、バトルコートへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツツジの協力もあり、バトルは何の問題もなく終わった。

まぁ今回はバトルと言うよりも、エルフーンの動作チェックが主だったので、真面目に戦ってキチンと決着をつけた訳ではない。

 

それでもエルフーンの強さを存分に示せたのではないかと思う。

モンメンの頃とは異なり、1つ1つの技のキレがかなり向上していた。

 

モンメンの頃を良く知るツツジだからこそ、この違いに驚いていたんじゃないかな?

 

「ふふふ、いくらメレシーを得たからと言って、そう簡単には勝たせてやらんよ?」

 

「む、……まぁ、ここは意地を張っても仕方ありませんし、正直に申しますと、タイプ相性が不利ですのでどうしても火力不足が目に付きますわね。……()()()()ですが。」

 

むぅ、そう言われると俺も閉口するしかない。

いくら進化したとは言え、エルフーンは超火力の出せるポケモンではない。

メレシーレベルの防御能力を有しているポケモンを相手にしたら、攻撃技だけではまともには勝てない。

補助技でじわりじわりと追い詰める様な戦い方にどうしてもなる。

 

ま、勝てばよかろうなのだぁー、ってとある究極生命体も言っていたから良いんだけどね。

そもそもこの戦闘(害悪)スタイル嫌いじゃないし。

 

「……ソースケ、私、……傲慢な事に、自分の事を強いと思っておりましたわ。」

 

「……は? いや、うん。 別に間違ってないんじゃないの? 少なくとも弱いって事はないだろ。」

 

「いいえ、弱いですわ。」

 

ツツジの言葉に俺は眉を寄せるが、彼女はそのまま言葉を続ける。

 

「この前の石の洞窟での時、私は野生のヤミラミ相手に何も出来ませんでしたわ。」

 

「……それは、俺だって殆ど何も出来なかったよ。 ひたすら逃げてただけだ。」

 

……どうにかする宣言しといて、どうにも出来なかったしな。

 

「そんな事ありませんわ。 確かにヤミラミが強くて逃げるばかりでしたけど、貴方はキチンと指示を出し、方針を決めていましたわ。……私はただ状況に流されるだけでしたし。」

 

いや、俺も結構流れに身を任せていた感じなのだが。

 

「知った気でいましたわ。……スクールで習ったから大丈夫、ポケモンバトルなら負けない、野生と言っても怖くない。……全部、知ったかぶり。」

 

ツツジは反省しているのだ。

あの日、何も出来なかった反省。

……他人事じゃないなぁ。

俺も反省しなきゃな。

 

「……私はジムリーダーになる予定ですわ。」

 

「そうだな。 皆知ってる。」

 

「はい。 ですので、このままでは良くありませんの。」

 

うん。

……うん?

 

「私、自分を鍛える為に、()()()()()()()()()()()。」

 

「……は?……いや、は? はぁ!?」

 

「スクールが夏休みに入ったら、ホウエン地方のジムバッジを集める旅に出ようと思っていますの。」

 

な、なんだってぇー!!!

 

「つきましてはソースケ、貴方も一緒に行きませんか?」

 

「お、俺もか!?」

 

「お互い、今回の事で井の中の蛙だと言う事は痛感した筈ですわ。 どうでしょう? 夏休み、私とホウエン地方を回りませんか?」

 

【朗報?】今年の夏休みの自由研究、ジムバッジ集め【マジか】

 



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十話

待て待て待て待て、いや、待てぃ!

マジか、いや、マジでか!?

 

「し、正気かツツジ!? 夏休み中にジムバッジ集め!? いや、うん、強さが必要なのはわかるよ? でもだからって、それはちょっと……マジか、いやだがいくら何でもそれはちょっと無謀じゃないか?」

 

「正気ですの。……大いにマジですの。」

 

……おいおい、マジかよ。

 

いや、……うん。

いやいや、……うん。

 

アリかナシかで言うと、そりゃアリだよ?

夏休み中に2人で旅行とか、そりゃあナイスイベントよ?

 

でもジムバッジ集め?

いやぁ~、それは現実的じゃないでしょ。

 

でも本人やる気だしなぁ。

 

「……仮に、仮に行くとしても、トクサネやルネはどうするつもりよ?」

 

あそこ等は言ってしまえば離島だよ?

“そらをとぶ”や“なみのり”を使えないと、そもそも行く事すら不可能だよ?

 

いやまぁ調べてないから俺も詳しくは知らないし、多分定期便とかはあるかも知れないけども。

 

「多分なんとかなりますわ!」

 

行き当たりばったりか!

そんなんだから野生に対して準備が足りなくなるんだぞ!

 

……いや、だからこそ旅に出る必要があるのか。

 

「っ~!……わかった、俺も行くよ。 でも、もっと事前準備や計画はキチンと立てよう。」

 

「ソースケ! 頼りにしてますわ!」

 

満面の笑みを浮かべてツツジは喜ぶが、フォローする身としては笑えないんだよこん畜生。

 

「それで?……前提条件として、親御さんの了承は得ているのか?」

 

俺も母ちゃんにこの話を切り出さないといけないのかと思うと気が重いわ。

 

「あ、それなら大丈夫ですわ。 ()()()()()()()()()()()()()許可を得てますから。」

 

何でだよ!?

親御さんの俺の評価、変に高くねぇか!?

 

おいっ、娘の旅路に男が付いて行って良いのかこれ!

親父さんは娘が心配じゃねぇのか!?

俺だったら娘の旅に男が同行とか100%拒否するぞ!?

 

~っ!!!

もう良いや!

 

親御さん公認の旅路とか、ポジティブに考えれば親御さん公認のカップルみたいなもんだろ! 多分!

 

「……まぁ、わかった。 でもポケモンはどうするつもりよ? 流石にメレシーだけじゃ旅をするのは厳しいぞ?……スクールから正式にノズパスやイシツブテを貰うつもりか?」

 

「う~ん、……そう、ですわね。……決して、あのノズパスやイシツブテが嫌いな訳ではありませが……出来ればメレシーの様に自分でポケモンをゲットしたいですわね。」

 

俺はその言葉に、額に手を当てて頭痛を抑える。

 

こいつ、お嬢様らしく我が儘だぞ畜生。

 

「そう言うソースケだって、エルフーンしか手持ちは居ないではありませんか。……貴方も他に欲しいポケモンとかおりませんの?」

 

……俺の欲しいポケモン、か___

 

「そりゃあんた……俺だって、リーフィアやドレディア、アマージョなんかを仲間に欲しいさ。」

 

「……全て、可愛らしい見た目をしたポケモンですわね。」

 

「いやいや、カッコいいポケモンだって好きだぞ? ジュカインやダーテング、ゴーゴートなんかも良いよね。」

 

……そう発言して気がついた。

俺も十分我が儘じゃん。

 

「ま、まぁとにかく、旅に出る前に、最低でも後一匹は手持ちの仲間が欲しいな。」

 

「ですわね。」

 

ツツジは俺の言葉にう~ん、と唸って仲間にしたいポケモンの事を考える。

 

そして俺も考える。

ホウエン地方には最優秀と言える草タイプのポケモンが存在する。

 

キノガッサ。

 

草・格闘タイプのポケモンで、優秀な物理攻撃力を有するポケモンだ。

そしてカナズミシティーの直ぐ近くのトウカの森に存在するので仲間にしやすいと言える。

 

しかもその本領は“キノコのほうし”という技だ。

 

この技を喰らえば100%()()()()()()()、という害悪技と恐れられる技を持っている。

 

俺が最初にキノココをゲットしようと思った理由はそこにある。

 

ゲームですら対策必須と言われたこの技を、この世界で使えたならばどれほど強力なのか興味があった。

 

ま、色々あって実際に喰らった事がある。

ヤミラミ同様俺のトラウマランキングに入るレベルのヤバさだった。

……トウカの森の最深部は滅茶苦茶ヤバいぞ。

 

おかげでキノココを仲間にするのを一旦中断している程だ。

 

他にも、カナズミシティーを北に進み、流星の滝を越えた114番道路に出現するハスボーなんかも魅力はある。

 

草タイプのスペシャリストになりたい俺からしたら、水・草タイプのこいつは、炎タイプ殺しとして非常に気になる存在ではある。

他の弱点タイプと違って、炎タイプだけは本当に対策が厳しいからな。

 

全体的に均一の取れた能力値で、特に突出した強さの無いハスボーの最終進化系であるルンパッパだが、技範囲が非常に優れている。

悪く言えば器用貧乏だが、良く言えばどんな場面でも任せられると言える。

 

……だが、But、しかし、……なんと言うか、ルンパッパは見た目がちょっと……。

 

ハスブレロまでは目力があったりやる気を感じて、まだカッコいいと言える範囲なのに、ルンパッパになった瞬間急に能天気な見た目の頭の悪そうな感じになっちゃったからなぁ。

 

嫌いとは言わないが、欲しいとは思わなくなってしまった。

 

……まぁいずれは炎タイプ対策に絶対仲間にするけども。

 

けどこう考えると仲間にしたいポケモンって中々思いつかないものだ。

 

「まぁポケモンの事は保留にしておくとしても、他にも考えなきゃいけない事は多いわな。」

 

「例えば何ですの?」

 

いや、君の提案なんだから君がメインで考えなきゃ。

 

「旅をするにあたって、食料や水の確保、寝床の安全保障なんかはどうするつもりなんだ?」

 

常に街のベッドで寝れるとは限らないぞ。

 

「あっ、……そう、ですわね。」

 

「他にも、移動手段は? 経路は? 道具は? 経費は?……決めなきゃいけない事、考えなきゃいけない事、ホント沢山あるぞ。」

 

「さささっ、流石ソースケ! 頼りになりますわね!」

 

嬉しい事を言ってくれてるが、目が泳いでいるぞ。

 

「ま、幸い夏休みまで時間はある。 これらは追々決めて行けば良いとして、……やっぱ、自転車と“ひみつのちから”の技マシンを入手するのが先決かな。」

 

「自転車はわかりますが、“ひみつのちから”? 何ですのそれ?」

 

まぁ知らないか。

ゲームでもマイナーな部類の技だが、この世界ではとんでもなく有能な技だ。

 

何せこの技を特定の場所で使用すると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

これだけで夜営の問題は一気に解決する。

旅をするならば、他の秘伝の技よりも重要だと俺は思っている。

 

俺はその事をツツジに話した。

 

「はぁ~、成る程。……それにしても、本当にポケモンの技と言うか、ポケモン全てがやっぱり謎に包まれていますわね。」

 

それな。

大体何でも困ったらサイコパワーで説明しちゃうしな!

 

「それで、その“ひみつのちから”は()()()()()()()()()()?」

 

…………。

 

「さぁ?」

 

「わかりませんの!?」

 

いや知らねぇよ。

売ってるものじゃねぇし。

ストーリーの何処でどうやって手に入ったかなんて覚えてねぇよ。

 

「何故わからない物をそんな堂々と自信ありげに話せるのですか!?」

 

まぁ簡単に言うと、識ってるけど知らないからだろうなぁ。

 

「探せばどうにかなるだろ、多分。」

 

「……そんな適当な。」

 

大雑把に目標だけ決めて、他はアバウトな君に言われたくないぞ!

 

「それよりも問題は自転車だ。」

 

1台100万円だぞ?

親に頼める値段じゃねぇぞ。

 

この世界の自転車は、前世よりもハイスペックに出来ている。

キチンと整備された道を走る訳ではないので、パンクは基よりチェーンの脱輪やフレームの歪みなんかも起こらない超頑丈。

そして坂道なんかでも負荷は低いし、乗り手次第ではスピードもかなり出る。

 

……それでも100万は高けぇよ。

 

俺がどうするべきか頭を悩ますと、天使(ツツジ)の一声が___

 

「私の家にあるものを借りますか? 確かお父様がお使いになっていたものが1台あった筈です。」

 

「良いのか? それはもの凄く助かるが、1台しかないなら君はどうするんだ?」

 

あ、もしかして2人乗り?

いや~、旅で自転車の2人乗りは疲れそうだが、それはそれで悪くないかもなぁ。

 

「私は新品を買いますわよ?」

 

……こいつ悪魔かよ。

何だこの格差社会。

 

「あ、でも私、自転車に乗った事がありませんの。 ソースケ、よろしかったら乗り方を教えてくれませんか?」

 

「……仕方ねぇな。」

 

なんて、ちょっとぶっきらぼうに答えたが、内心はデレッデレだった。

 

だって幼なじみと初めての自転車うんぬんとか、何か少女マンガでありそうな展開だもの!

もう旅なんかよりもこんな毎日で良いんじゃないかな!?

 



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十一話

二話連続投稿。
今気づいた人は前の話を読んで下さい。

そして日間ランキング入りに驚きました。
皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。



それからかなりの日数を掛けてツツジと話し合い、夏休みの計画を綿密に詰めていく。

 

いや~、それにしても母ちゃんは強敵でしたね。

『お前またやらかすのか』みたいな目で見られた時は、必死に弁解しましたよ。

最終的にツツジからの要請だからと話したら、渋々了承してくれた。

 

……でもお小遣いは毎月通り3千円。

せめて前借り含めて1万円は欲しかった。

親父のボーナスも出るんだから、もうちょい渡してくれても良くないですかね?

 

仕方ないので、母ちゃんがいない所で親父に直談判をしたら、1万円を内緒でくれる事を約束した。

 

親父、you know(有能)(貴方は(わか)っている)。

 

そして着々と準備は進んで行く。

 

ツツジは俺のおかげで自転車に乗れる様になったし、“ひみつのちから”のわざマシンは普通に見つかってエルフーンに覚えさせる事が出来た。

 

実は“ひみつのちから”だが、これはスクールの学生の間で流行っていたのだ。

 

そりゃそうだ。

秘密基地なんて、この年頃の生徒が一番喜ぶ遊びじゃないか。

 

だからこの技のわざマシンを持っている生徒にお願いして、俺も使用させて貰う事が出来たのだ。

 

俺達の計画は順調に進んでいる。

 

しかし、一部変更した事もある。

 

それはジムバッジ集めの事だ。

 

カナズミジムのストーンバッジを除いても、残り7つのバッジを夏休みの間だけで集めるのはどう考えても厳しいのだ。

 

だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

具体的には東ホウエンと言える場所にある、ヒワマキ、トクサネ、ルネを夏休みに回し、西ホウエンと言えるトウカ、ムロ、キンセツ、フエンは週末や公休日を利用して挑戦する事にした。

 

……だから俺達は今、ムロジムのジムリーダーであるトウキを目の前にしている。

 

「おっ! 君達が石の洞窟でメレシーを発見したツツジとソースケか! 石の洞窟が目立ったおかげでムロタウンも活性化して、君達には感謝感謝だ!」

 

わっはっは、と笑うトウキは爽やかな好青年だ。

 

「それで? 今日はジムへの挑戦か?」

 

……訂正、バトルを前にして目が笑っていない。

ここら辺が一流トレーナーの在り方なのかもしれない。

 

トウキの態度を見て、真面目に対応をするツツジが自分がジムリーダーへと挑戦する理由を話す。

 

「___ですので、私は次期ジムリーダーへと相応しくなる為に、貴方との本気のバトルを望みますわ!」

 

「成る程! 普通ならジムバッジを1つも持っていない君を相手に全力なんて出せないが、そういう事なら協力するさ!」

 

この世界のジム戦の基本は、ジムバッジの所得数によってジムリーダーが難易度を変える。

 

俺達は1つも___いや、ストーンバッジを持っている事にしたとしても1つしか所有していないので、普通はそれ相応に手加減する事になる。

 

しかしツツジの次期ジムリーダーという立場が、彼を本気にしてくれた。

 

ツツジとトウキがバトルする直前の雰囲気になったので、俺はバトルコートから離れて観戦する態勢を取る。

 

普通なら観戦席へと移動しないといけないのだが、そこはそれ、ツツジの付き添いだから許されている。

……多分な。

誰も何も言わないから大丈夫でしょ。

 

「ルールは1対1で良いな? 君はまだ1匹しかポケモンを所持していないみたいだし、平等にエース対決といこうか!」

 

「了解しましたわ!」

 

……そしてバトルが始まる。

 

「やりますわよ、メレシー!」

 

「戦いの時間だ、カイリキー!」

 

あれ、()()()()()

トウキだったらマクノシタ___いや、本気ならばハリテヤマだと思っていたな。

ゲームに思考を引っ張られ過ぎたかな?

 

「先ずは“からてチョップ”だ。」

 

先制はトウキ。

様子見がてらの技で、ツツジの出方を伺っている。

 

「メレシー“リフレクター”。」

 

その対応としてツツジはメレシーにその場で“リフレクター”の壁を張らせ、楽々とカイリキーの攻撃を受ける。

 

物理攻撃のダメージを半減する“リフレクター”を張ったら、メレシーには全くダメージが入らない。

この一手はツツジが有利になる。

ま、当然これが普通の物理アタッカーならばの話だ。

 

「やるな! だがその壁ごと割ってやれカイリキー! “かわらわり”だ!」

 

「む、仕方ありませんわね、メレシー“ロックカットでかくばる”のですわ!」

 

何!?

そうか、“ロックカット”と“かくばる”は相性の良い技どうしなのか!

 

いつの間にこんな連結技が使える様になったんだ。

あの日から鍛え直す為にも何度もバトルしたと言うのに、俺には見せてくれなかった技じゃないか。

 

“ロックカット”は素早さを2段階上昇させ、“かくばる”は物理攻撃力を1段階上昇させる。

これを同時にされたらたまったもんじゃない!

 

だがカイリキーが直ぐそこまで迫り、“リフレクター”ごとメレシーを叩いた。

これによってメレシーの積み技は中断されたが、多少とは言え確実に能力は上昇した。

 

安全には積み技を使えないと判断したツツジは、今だからこの技を使用した訳だな。

 

それにしても素早さの上昇が美味しい。

 

この世界におけるゲームで言う素早さというステータスの概念は3つの能力に細分化されている。

と、俺は考えている。

 

1つ目は運動速度。

例えば反復横飛び等がそうだが、瞬発力や敏捷力と呼ばれる能力がそれにあたる。

敵が背後に回った時に咄嗟に振り向ける速さだったり、こちらから攻撃する時に一瞬で敵の懐に入れる様な小回りの効く速さを指す。

 

2つ目は機動速度。

これは直線的な加速力の事だ。

例えば100mを何秒で走り抜けるか、とかがそれだ。

 

そして3つ目、反応速度。

俺はこれが一番重要だと思っている。

これはトレーナーが指示を出した時にどれだけ速く反応するかの速度を指す。

これが速ければ速い程、技を出したり技を避けたりが出来るからだ。

 

ゲームで言う素早さとは、これらを統括した能力だと俺は思う。

 

だから、マッハを越えるスピードで空を飛べるカイリューやガブリアスよりも、ジュカインの方が速いのがあり得るのだ。

 

語りだしたらキリがないが、ここでツツジの素早さ上昇の話に戻すと、今回の“ロックカット”で統括された全ての素早さが上昇したと言える。

 

だから、素早さの上昇はゲーム同様非常に美味しい。

 

まぁ速くなったからと言って、必ずバトルで勝てる訳じゃないが___

 

「ここからは私達が先手を取って行きますわよ! メレシー、“げんしのちから”!」

 

おいおい、欲張りだな。

これの追加効果で更に能力が上昇したら、殆ど詰みじゃないか。

 

だが素早さの上昇したメレシーならば、ツツジの言う通り先手が取りやすく、主導権を握りやすい。

大したダメージを与える事は出来ないけど、カイリキーの攻撃を避けながら“げんしのちから”でゆっくりごり押せるし、火力が必要な場面では急所狙いの“ストーンエッジ”も使える。

ここで“かくばる”で物理攻撃力を上昇させた意味が出て来る訳だな。

 

……何か性格の悪い戦い方になってないか?

誰のせいだ?

 

……どう考えても俺のせいですね、すみません。

 

「まだまだぁ! カイリキー“ビルドアップ”だぁ!」

 

トウキさんは熱血バトルに夢中になってるが、これはツツジの勝ちだろ。

 

俺がそう思った10分後、危なげなくメレシーがカイリキーを仕留め、勝負はツツジの勝ちで終わった。

 

「驚いた! 本気でやったつもりだったが、まだ君を侮っていたのかもしれないな。 まるで冷静に獲物を仕留める狩人(ハンター)の様に強かったぜ!」

 

「ありがとうございますの。 私はまだまだ強くなりますわ! 今回のバトルも良い経験として精進を怠らないつもりですわ。」

 

「あぁ! その意気だ! 俺ももっと強くなる様に努力しないとな!」

 

ツツジとトウキの間にトレーナーとしての熱血が共感して、非常に良い空気が流れる。

 

うん、めでたしめでたし。

これにてムロジム戦は終了だ。

 

「それじゃ、次はソースケの番だな!」

 

……何でやねん(白目)。

 




感想にて、皆さん意外とルンパッパ大好きで驚きました。
誤解がないよう明言すると、作者もルンパッパ大好きです。
草タイプにしては珍しくバトルで使えるポケモンですしね(笑)。

ですがルンパッパを始め、キノガッサもナットレイも、とあるカイオーガを探しに行く小説で進化前ポケモンが使われているので、なるべくパクりにならない様に自重するつもりです。
そこの所をご了承下さい。


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十二話

前話の後書きにて、ルンパッパとキノガッサとナットレイは自重すると言いました。
が、自重はするが、出さないとは言ってない。
メインでは使いませんが、いずれは出てきます。

言い訳するなら、あいつら強過ぎて出したら無双しちゃうんだよ。



改めて言うが、別に俺は最強のトレーナー(チャンピオン)なんて目指していない。

バトル自体は面白いし好きではあるが、ポケモンリーグとか割りとどうでも良いのだ。

……だから、バッジを求めてジム戦をする理由なんてない。

 

俺は今日ツツジに付いて来ただけだ。

というかそもそも()()()()()()()()()()であって、俺はあくまでフォロー役なんだよ!

 

……なのにどうしてこうなった?

 

さぁ、君もゼンリョクバトルだ! みたいなこの雰囲気。

ここはアローラか?

 

まぁ仕方ない、この空気をぶち壊すのは流石に出来ないし、やるしかねぇか。

 

「やろうか、エルフーン。」

 

「行くぞ! ()()()()()!」

 

あれぇー!?

あんた、いやこれあんた!

やっぱりこっちが本命のエースだよねぇ!?

 

だって明らかにこれカイリキーより百戦錬磨感出てるもの!

 

逆でしょ!?

普通ツツジにこっち出すべきだろ!?

 

くっそ、ハリテヤマなら先ず警戒すべきは___

 

「先手必勝“ねこだまし”!」

 

ですよね!

 

「エルフーン!()()()!」

 

技でも何でもないが、実際これが一番有効なんだ。

本当なら“まもる”を使えたら良かったんだけど、残念ながらまだ覚えてない。

 

“ねこだまし”は威力こそ低いが、厄介な事に先制技で確実に相手を怯ませるから面倒だ。

 

この世界で怯みは前世よりも凶悪だ。

ターンバトルではないこの世界では、一度怯むと5~10秒はポケモンが動けなくなってしまう。

 

そしてそれだけの時間があれば、1つや2つ、トレーナーとポケモンの力量次第で技を放てる。

 

だから先制技で避け辛い“ねこだまし”は敢えて何もせずに覚悟して技を受けて、なるべく怯み時間を短く済ませた方が良い。

そうすれば怯み時間は3~4秒で済む。

 

避けようとしたり迎撃しようとして失敗して、むざむざと10秒怯みましたー、なんて事になったらそれだけで決着に至ることもあり得る。

 

いや、マジで汚いわ。

アルセウス仕事しろよ、改善を要求する。

 

「良い判断だ! しかし、今のうちに“ビルドアップ”だハリテヤマ!」

 

流石は一流トレーナー僅か3~4秒の怯みでも技を繰り出してきたか。

しかも積み技、確実に殺しに来てますねこれ。

 

ま、問題ねぇけど!

物理アタッカーじゃ相性が最悪でもない限りエルフーンにゃ勝てんよ!

 

「エルフーン、“コットンガード”。」

 

ボフッと言う音と共に、エルフーンがモコモコになり物理防御力が3段階上昇する。

 

「何っ!不味い、ハリテヤマ___」

 

「エルフーン、“あまえる”。」

 

「___“あてみなげ” っ! しまった!」

 

これぞツツジを完封した害悪コンボよ。

物理メインのポケモンじゃどうにもならんよ。

 

特性の【いたずらごころ】で補助技の出が速い所に、わざわざ後攻技となる“あてみなげ”を使ってくれたのだ。

2段階___ビルドアップ分を差し引いて実質1段階物理攻撃力が下がったハリテヤマはエルフーンに大したダメージを与えられない。

 

「くっ! 距離を取ってもう一回“ビルドアップ”だ!」

 

「だったら“しびれごな”を喰らわしてやれ。」

 

積み技の邪魔?

しないしない。

 

相手が攻撃喰らう覚悟で積み技使うなら、存分に命中率に不安のある補助技を叩きこめば良いんだよ。

 

ハリテヤマが筋肉をグッと脹らませて能力を上昇させてる間に、エルフーンが“しびれごな”を撒く。

 

「次は麻痺か! 動けるかハリテヤマ!? 行くぞ! “インファイト”!」

 

ハリテヤマは麻痺のせいで動きが鈍く、遅くなっている。

ゲームの様に素早さ半減とはいかないがな。

 

まぁこのスピードならエルフーンに避けるよう指示も出せるが___

 

「エルフーン、耐えて“やどりぎのタネ”。」

 

ハリテヤマがエルフーンのモコモコを連打している最中に“やどりぎのタネ”を植え付ける。

 

「そして初御披露目と行こう、“どくどく”!」

 

何度も言うが、この世界はゲームじゃない。

だから、()()()()()()()なんてこともあるのだ。

 

当たり前だ。

麻痺してたら毒にならない?

現実でそんなことはないんだよ。

 

「……君は悪魔か?……降参だ。」

 

麻痺になり、やどりぎを植え付けられ、猛毒状態になったハリテヤマを見て、トウキは勝ち目無しと判断し降参した。

 

ただし、現時点ではハリテヤマよりもエルフーンの方がダメージは喰らってるけどな。

面白いよな、ダメージが殆ど無い方が敗けを認めるんだから。

 

「……つくづく、ポケモンバトルは攻撃技が全てじゃないって、思い知らされたな。」

 

トウキはハリテヤマをボールに戻しながらそう呟く。

 

「今回は相性の問題でしょう。 うちのエルフーンは対物理に強いですから。」

 

「成る程、ちなみに君だったら俺のハリテヤマをこれからどうする?」

 

……あれ?

これアドバイス求められている?

普通逆じゃね?

 

「んー、まぁトウキさんのハリテヤマ、真っ向勝負に強そうなのをヒシヒシと感じたんで、俺だったら搦め手だったりサブウェポンになる技が欲しいですかね? “アイアンヘッド”や“どくづき”とかの技があったら流石にヤバかったと思います。」

 

うん、“どくづき”は特にヤベェな。

エルフーンの4倍弱点だ、下手したら一撃もあり得る。

 

「オーケー、その事、良く覚えておく。」

 

適当な発言だから真面目に捉えなくても良いのに。

 

そう俺とトウキさんがバトルを振り返りながら話していると、ツツジもこちらへとやって来た。

 

「……やっぱり、どう見ても性格の悪い戦い方ですわ。 外から観ていて確信しましたわ。」

 

「人聞きの悪い事言うなよ。 せめて立ち回りが上手いと言ってくれ。」

 

くそぅ、やっぱ害悪スタイルは評判悪いな。

 

「ハハハ! でもジムリーダーの俺が言うのも何だが、ソースケの戦い方は勉強になったぜ!」

 

……ありがたい発言だが、性格の悪いうんぬんを否定してくれないので、トウキさんも内心ツツジに賛同してるでしょ。

 

あんたらなぁ、【いたずらごころ】のエルフーンに真っ正面から殴り合えとでも言いたいのか?

エルフーンの良さ全否定の戦闘とか嫌だぞ俺。

 

「さてと俺に勝った証として、このナックルバッジを2人には進呈しよう。」

 

……まぁ貰える物は貰っておこう。

この世界じゃバッジを所有したところで特典がある訳じゃないけど、だからって拒否する理由にもならんし。

 

「ありがとうございます。」

 

「ありがとうございますの。」

 

「あぁ、2人ならいつでもムロジムに来てくれていいぜ! またバトルしよう! 次は負けないぜ?」

 

トウキはやっぱり爽やかな青年だ。

俺だったらあんな害悪プレイされたら出禁ものだぞ。

 

……自分でも性格悪いってわかってるんだよなぁ。

 

「次までに、“アイアンヘッド“も”どくづき”も覚えておくぜ。」

 

俺にニヤリと笑ったトウキはリベンジする気満々だった。

 

成る程、ジムリーダーが再戦する度に強くなるのはこういう訳か。

……んな訳ねぇか。

 

暫くはムロジムに来ない事を(俺だけ)心に決めて、俺とツツジ無事に最初のジム戦を終えるのだった。



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十三話

二話連続投稿。
この話から気づいた人は前の話を読んで下さい。



初めてのジム戦に勝って浮かれた俺達は翌週末、直ぐにトウカジムへと挑戦する事にした。

 

まぁ多少は浮かれても良いじゃないか。

ただのジム戦じゃなくて、本気のジムリーダーとの戦いに勝ったんだから。

 

ただ1つトウキは確かに本気だったが、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

トウキはツツジから俺へと連戦した様に、あのレベルの強さのポケモンをキチンと複数所持している。

つまり、ポケモンリーグ公認の6対6のバトルなら俺達は絶対に勝てないのだ。

 

そこの所は勘違いしない様に、俺もツツジもなるべく自身を諌めている。

 

……けどまぁ、次のジムには行っても良いよね?

 

ってな訳で俺達はトウカシティーのトウカジムに来た訳だけど___

 

「申し訳ありません。 只今ジムリーダーは所用でジョウト地方に出ておりまして、1ヶ月は戻らない予定なのです。」

 

「……そう、ですの。 わかりましたわ。 でしたらまた1月後に訪問させて頂きます。」

 

「大変申し訳ありません。 1月後にお待ちしております。」

 

残念、居なかった。

 

まぁそうだよな。

ジムリーダーだって人間だもの。

プライベートな時間だってそりゃあるよな。

 

行きなり訪問して即ジム戦、ってな方が普通はおかしいのか。

これからは先に手紙でも出して、いついつに訪問します的な事を約束した方が良いな。

 

それにしても、センリの前のトウカジムのジムリーダーってどんな人なんだろ?

ノーマル使いの婆さんとは聞いた事あるけど、それ以外の情報は知らないんだよな。

 

まぁいずれにしろ、今日の所は帰るしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなでカナズミシティーへと帰って来たが、予定がぽっかり空いて、昼前だと言うのにやる事がなくなった。

 

今からキンセツジムに行く訳にも行かんし、ってかキンセツシティーは自転車で移動しても1日は掛かるから行けないし。

 

特にやる事もない俺とツツジはカナズミの広場のベンチでぽけーっとただ座っている。

 

「……あ、そろそろメレシーにご飯をあげる時間ですわ。」

 

広場にある公共用の時計を見て、ツツジがメレシーに餌を与える為にバッグをごそごそし始める。

 

「? あら? 残りこれだけでしたの?」

 

俺もエルフーンに餌をあげなきゃと思い、自分のバッグからポケモンフーズを取り出していたら、彼女がそう呟いた。

 

俺が視線を向けると、彼女の手には指先程度の大きさをした青紫色のダイヤが3粒だけ乗っていた。

 

……人工ダイヤとは言え、一体あれだけでいくらになるんだろう?

なんて俺が邪な想像をしていると、彼女はボールからメレシーを出してダイヤを1粒与える。

 

俺が提案したとは言え、何度見ても贅沢な奴だと思ってしまう。

いやまぁ、一食で指先程度の大きさの物を1粒だと思えば、燃費は良いのかもしれんが。

 

俺がエルフーンにポケモンフーズを与えながら、ちょっと複雑な心境でメレシーを見ていると、ツツジが今日これからについての提案を出した。

 

「ソースケ、私はこれからデボンコーポレーションに行って、メレシーの為にダイヤを受け取りに行こうと思いますが、貴方も一緒に行きませんか?」

 

「あ~、まぁ、暇だし行こうかな。」

 

ぶっちゃけ親父の職場だし、息子の俺はあまり顔を出さない方が良いんだろうけど、……マジで暇だし付いて行こう。

 

そうしてポケモンに食事をあげ終えた俺達は、この街で一番大きいビルのデボンコーポレーション本社に出向いた。

 

そしてビルの扉を潜り、一番最初に迎えられる受付にてツツジが慣れた口調で要件を話す。

受付の人もツツジとは顔見知りで、いつもの要件ね、と言わんばかりにさっさと手続きをして、俺達は2階の研究施設へと通される。

 

「後は研究資料としてメレシーの写真を取って、ちょっとした検査をしたら食事用のダイヤを貰って、終わりですわ。」

 

2階への移動中、ツツジは俺にそう説明した。

 

「ふーん、結構楽なんだな。」

 

「私は楽ですが、メレシーは少々気疲れしてしまうみたいですわね。」

 

そりゃそうか。

当事者はそれなりに大変か。

 

2階の研究施設に着き、ツツジが研究員にメレシーを預ける。

 

30分程の検査時間を再びぼけーっと待っていると、奥からざわざわと興奮した話し声が聞こえて来る。

 

……何かあったのか?

 

俺とツツジが怪訝な表情で奥を眺めていると、顔を紅潮させた研究員が小走りに俺達の所へとやって来た。

 

「ツツジさん! 凄いですよ、メレシーの宝石が確かに変化し始めています!」

 

その言葉に俺達は目を見開きポカンとしてしまう。

 

「……えっと、先週までの検査の時のように、僅かな違いで誤差の範囲、とかではなく?」

 

「その誤差の範囲を、確かに越えた数値が出たんです!」

 

研究員は興奮しながら○○のどの値がどう越えて、変化している等を早口で説明したが、……全く意味がわからない。

専門知識は勘弁してくれ。

 

「あぁ~、すいません! これを見た方が速いですね。 こっちは1ヶ月前の初めて検査した時の写真で、こっちが今日検査して撮った写真です。」

 

そう言われて、俺達は2つの写真を見比べる。

 

……成る程、若干だが、確かにメレシーの宝石が()()()()()()()()()()

 

「……全然、気づきませんでしたわ。」

 

「いや、この違いは見比べないと無理でしょ。」

 

間違い探しよりも難易度高いぞ?

言われて初めて、気づく奴だこれ。

 

俺達がそんな風にメレシーの変化に驚いていると、ダンダンダンダン、と誰かが___ダイゴさんが走ってここまで来た。

 

「ハァハァ! メ、メレシーが変化し始めてるって、ハァ、本当か!?」

 

慌て過ぎだろ御曹司。

報告を聞いて急いで来たな?

 

「本当ですダイゴ様! これを見て下さい!」

 

ダイゴさんは研究員から、俺達には良くわからない何か色々な数値が記載されている紙と、先程まで俺達が見ていた写真を奪い取るかの様に受け取り、穴があくんじゃないかと思う程に眉間に力を入れて紙を凝視する。

 

「……成る程……成る程。……うん、実際にメレシーを見せてくれ、検査が終わったならここに連れて来てくれ。」

 

研究員はダイゴさんの言葉にはいと答えて、奥に行ったと思ったら1分もしない内にメレシーを連れて戻って来た。

 

「あぁ、本当だ。 メレシーの額の宝石が確かに変化している!」

 

ダイゴさんはメレシーを見た瞬間にそう判断した。

 

……いや、やっぱ俺はわっかんねぇや。

 

「……うーん、言われて見れば、確かに最初の頃よりかは色が付いた様な?」

 

……実は君もわかってないだろツツジ。

 

「あぁ、間違いないさ! 僕の好きなバイオレットダイヤの色に近付いている!」

 

お前の趣味か!?

何で餌のダイヤが青紫色なんだろうって、ずっと疑問に思ってたけど、これお前の趣味で選んだな!?

 

いや綺麗なんだけど!

良いのかこれ!?

 

……いや、良いのか。

考えたらこの人スポンサーだったわ。

スポンサーの意向には従わないとな。

 

「素晴らしい成果だよツツジさん! そして良くぞ提案してくれたソースケ君!」

 

「「あ、はい。」」

 

俺とツツジはダイゴさんのテンションに軽く引きながら、声を揃えて返事をする。

 

「報酬を! そうだ、何か欲しい物はないかい? 君達に報酬を渡そう!」

 

「えっ!? い、いえ、ダイゴさんにはお世話になっておりますし、報酬なんて、そんな……。」

 

ツツジはそう言って、ダイゴさんからの報酬を固辞しようとするが、俺は1つ頼みたい事を思いついた。

 

「……ダイゴさん、何でも良いんですか?」

 

「あぁ! 到底無茶な物でもない限り、何でも構わない!」

 

そうか___

 

「……なら、【ツメのカセキ】と【ねっこのカセキ】なんて、貰えませんかね?」

 

こんな機会だ、貰えるものは貰っておこう。

 




って事で、手持ち2匹目はカセキポケモンだ。
お揃いのポケモンとか、使わない訳ないだろ?
予想された方も、オススメしてくれた方もありがとうございます。
主人公は先ずはリリーラをゲットするぜ。


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十四話

俺の我が儘はそう簡単には通らず、俺達は化石を貰う事は出来なかった。

 

が、リリーラとアノプスのタマゴは貰ったぜ!

化石を貰うよりも嬉しい!

 

流石ダイゴえもん!

俺達に出来ない事を平然とやってのける!

そこに痺れる!憧れるぅ!!

 

いやぁ~、流石大誤算と言われるだけの事はある。

 

何でも、化石自体は貴重な物だからおいそれと渡す事は出来ないらしいが、()()()()()()()()()()()()()()()()俺達に託しても良いと言ってくれて、ダイゴさんの手持ちのユレイドルとアーマルドのタマゴを頂いたのだ。

 

何でタマゴを所持していたかは知らんけど!

どんな状況ならその2匹のタマゴを持て余すんだよ?

 

ダンバルのタマゴも持て余し気味とか言ってたな。

……メタグロス、良いよなぁ。

まぁ俺は草のスペシャリスト目指してるから、寧ろ対策する側ではあるけれど。

 

それにしてもあの人ホンマ神ですわ。

アルセウス?

そんなニートな(働かない)神は知らん。

 

そういう訳で、俺とツツジはダイゴ神に感謝を捧げつつ、ポケモンのタマゴの孵化方法について調べて、一生懸命タマゴの世話をしている。

 

調べた結果、特別変わった孵化方法は必要なかった。

大事にしながら人肌レベルで暖めつつ、適度な振動を___要は歩けって感じだ。

 

だから最近の俺達のブームは、タマゴを抱きつつお散歩デートをする事だ。

デートをしている意識があるのは俺だけだってのが、悲しい現実だがな。

 

だがまぁお揃いのカセキポケモンが本当に手に入るとか、これ完全にフラグだろ。

いずれはユレイドルとアーマルドでダブルバトルの大会とか出ようかな?

 

アーマルドは物理アタッカーとして優秀だし、ユレイドルは防御や補助に優れているから、相性良いぜこれ。

 

でもしかし、ツツジはこれでメレシーが防御、アノプス___後にアーマルドがアタッカーとして補完取れるから良いが、俺はエルフーンも後のユレイドルも攻撃能力が乏しいぞ?

 

俺が望んだ事ではあるが、そろそろ普通にアタッカーが欲しいんだよなぁ。

両刀型ジュカインとかやっぱ必要かもなぁ。

技枠が4つと決まってないから、この世界だと普通に両刀型だって強いし。

 

折角()()()()()()()()()()んだから、オダマキ博士に聞いてみようかな?

 

何故ミシロタウンまで来たのかと言うと、それはお散歩デートがてらメレシーの経過報告をする為だ。

メレシーの人工変異計画はオダマキ博士も一枚噛んでいるからな。

 

本来ならオダマキ博士がカナズミシティーを訪れるべきなんだが、そこは俺達のタマゴ孵化うんぬんの為にも、立候補して自分で報告に来た訳だ。

 

「やぁ、良く来てくれたね! ソースケ君、ツツジさん!」

 

「オダマキ博士、こんにちは。」

 

「お久しぶりですわ。」

 

俺達は彼の研究所に入り、彼へと面会を果たし挨拶をする。

 

「経過報告は聞いているよ。 早速で悪いが、実際に見せてくれないかな?」

 

オダマキ博士がワクワク顔をしながらそう言うので、ツツジはコクりと頷いてメレシーをボールから出す。

 

「ほぅ! 成る程! 実際に見て観ると、確かに変化が起こっている!」

 

だから何でわかるんだよ?

やっぱわからねぇぞ俺。

大体はいつも一緒に居るからか?

全然変わってる様には見えねぇ。

 

「……わかりますの?」

 

「わかるさ! 宝石の色で判断するんじゃない、輝き方で判断するのさ。 メレシーの額の宝石がダイヤモンドの性質に近付くと、輝き具合が違うのさ!」

 

はぁ~、成る程。

メレシーの額の宝石は、確かにダイヤモンドではない。

()()()()()()()()()()()()()使()()()()()、だからダイヤを与える事にしたんだったな、そう言えば。

 

……俺が発案しといて、わかってないとか恥ずかしいなこれ。

 

いやしかし、言い訳するなら普段ダイヤとか見ないから輝き方とか知らないんだよ。

ダイヤ見慣れている10才児とか普通いないだろ?

 

そんな風に俺達とオダマキ博士が話をしていたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がやって来た。

 

……まさか、じゃ、ないよな。

あれは確実に___

 

「お父さん、今日も家にお弁当忘れてたよ?」

 

「あぁ、すまない()()()。 いつも届けてくれてありがとう。」

 

ハルカちゃん来たぁー!!!

ですよね!

やっぱハルカちゃんだよね!

 

ホウエン(この)地方の女主人公!

俺達と同年代で、めっちゃ可愛いな!

 

……いやいや、浮気じゃないよ?

あれだよ、憧れのアイドル的なあれだよ?

めっちゃ印象に残ってる女主人公なだけだから。

 

「あっ!? このポケモン初めて見る! 可愛い!」

 

ハルカちゃんはそう言ってキラキラした目でメレシーを観察するが、そんな君が可愛いぞ!

 

……誤解がない様に明言しよう。

RSE世代ならハルカファンは多い筈だ。

 

そうだろ?

 

俺だってそうなだけだ。

嫁がツツジでファンがハルカちゃんだ。

何も問題ない筈だ。

 

第一俺は、ユウキ(仮)×ハルカ押しだからな!

 

仮に彼等のイチャイチャを見せつけられた所で、末永く爆発して欲しいと思うだけだ!

 

「こら、ハルカ! そのメレシーはツツジさんのポケモンなんだ。 勝手にジロジロ見るものじゃないよ。」

 

オダマキ博士がそうハルカちゃんを窘めるが、別に良いんじゃないかな?

メレシーだって多少見られるなんて、慣れたもんでしょ。

 

「あ、いえ、私は別に構いませんわよ?」

 

「へぇ~! 貴女がこの子のトレーナーさん?……羨ましいなぁ。 もっと見ても良いかな?」

 

「はい。 メレシーが嫌がらなければ、存分に愛でて下さって構いませんわ。」

 

オダマキ博士が少し申し訳なさそうにしながら、ツツジにお礼を言うが、ハルカちゃんはそんなのを無視してメレシーを愛でる。

 

……良い光景だ……尊い。

 

そしてメレシーを好きなだけ愛でたハルカちゃんが、オダマキ博士に可愛いおねだりをする。

 

「お父さん、やっぱり私も自分のポケモンが欲しいよ!……だめ?」

 

「……ハルカ。……駄目じゃないが___」

 

「お願い! 彼女だって私とそう年齢は変わらないのに、自分のポケモンを持ってるじゃない!」

 

オダマキ博士はハルカちゃんの攻勢に困っている。

 

あげてやれば良いじゃないか!

アチャモか? アチャモだろ? アチャモを渡せよ!

おら、あくしろよ、もっと加速しろ!

加速するアチャモを渡すんだ!

 

「ハルカさん……でしたわね? 私は___私とここにいるソースケは、キチンとトレーナー資格を得てポケモンを所持していますわ。……貴女は資格を持っていますの?」

 

ばっか、正論やめろぉ!

未来のチャンピオン候補にそんなん心配いらねぇよ!

 

「……まだ持ってない。」

 

「でしたら、先ずは資格を得る勉強をするべきですわ。 大丈夫です。 私達でも受かりましたし、ハルカさんだってすぐ受かりますわ!」

 

「……そうかな?」

 

えぇ!と、ツツジは笑顔でハルカちゃんを応援し、一先ずは騒ぎが収まる。

オダマキ博士の露骨な安堵が印象的だ。

 

「私、今年で10才だから試験を受けるのは初めてなんだけど、……試験ってやっぱり難しい?」

 

なんて、ちょっとした不安を感じながらハルカちゃんはツツジに試験の事について質問する。

 

……成る程、ハルカちゃんは俺達の1つ下か。

 

……………。

…………。

………。

……。

…。

 

じゃあ来年から原作スタートなのかなーとか、そろそろ悪の組織が活発化するのかなーとか、置いといて___

 

俺は改めてツツジとハルカちゃんを遠巻きに眺める。

 

……なんて、残酷な現実なんだ。

 

ハルカちゃんは俺達の1つ下の年齢だが、ほんのりと、だが確かに、明確に、膨らみが存在する。

だがツツジは、ツツジには、……岩タイプのスペシャリストらしくストーンとした現実がある。

 

も、問題ないさ!

俺達はこれから大人になるんだ!

まだ希望はあるさ!

 

俺は流れそうになる涙を堪えて、熱くなる目頭を押さえてツツジを応援するのだった。

 



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十五話

リリーラとアノプスは中々孵らなかった。

ゲームだと大体のタマゴが1万歩以内に孵るけど、この世界じゃそうはいかない。

 

そりゃそうだ。

1万歩なんて数時間で歩ける数だ。

現実であるこの世界では、タマゴが出来て即孵化なんて事あり得る訳がない。

アニポケだって、長々とタマゴ持ってたろ?

 

でも最近じゃコロっと動く時があるから、順調に孵化の準備は進んでいるみたいだ。

 

待ち遠しいぜリリーラ。

どんな性格の子かな?

特性は何かな?

やっぱり【きゅうばん】かな?

【よびみず】だったら嬉しいけどなー。

 

そんな事ばかり考える。

 

ちなみに、うちのエルフーンはのんきな性格をしている。

防御に補正が掛かるのか、とゲームでなら考えるんだが、この世界では性格による補正が入ってるのかどうか正直わからん。

 

だって、同一の種族の同一な個体値を持つ同一な力量(レベル)のポケモンなんて存在しないし。

仮に居たとしても見つけられない。

比べようがないから、補正が入ってるのかどうか調べられない。

そこに努力値の補正まで考えたら、検討のしようもない。

 

だから、性格による得意不得意があるんじゃないかな?

程度の参考になるかもしれないって感じの心持ちだ。

 

でもまぁポケモンの知識持ちとしては気になるよね。

性格の一致はバトルの重要な要素だったし。

 

と言っても、この世界だとポケモンのスペックは確かに重要な要素ではあるが、それ以上にトレーナーの立ち回りや指示能力の方が遥かに重要視されている。

何よりも50レベルのフラットバトルなんてルールもないから、力量(レベル)を上げて物理で殴れが横行している。

そもそもこの世界はレベルの概念がないから、レベル100が上限かどうかもわかんねぇし。

 

あっ、でも個体値と努力値は明確に存在しますよ。

当然数値で計れるものじゃないけど、バトルの才能の有る無しは確かに存在するし、どんな訓練を施すかで能力の上昇の仕方が変わる。

だから、ポケモンの目利きや訓練方法もトレーナーの腕と言える所だな。

 

……何だろう、遠い何処かに『使えないな』とか言って、捕まえたポケモンを逃がす奴がいそうだ。

お前、俺の代わりに前世に行った方が良いんじゃねぇの?

お前だったら廃人様になれるよきっと。

 

……ミラクル交換で個体値逆Vのトサキントとか掴まされたら良いのに。

 

俺は個体値や性格なんかに縛られずに好きなポケモンと一緒にやってくぜ。

 

……言ってしまえば草ポケ統一の旅パな訳だが、そう聞くとすげぇ弱そうだな俺。

ま、それについてはこれから証明するしかないか。

 

ゲームなら、タイプ相性補完を考えながらパーティーを組まないといけないけど、この世界ならトレーナーの腕次第で統一パでも十分戦えるからな。

 

でもゲーム同様、一貫して弱点が出来るけども。

 

俺の場合は、やっぱり炎タイプだな。

他にも氷や毒、飛行に虫も弱いけど、それらは全く対処が出来ないって程じゃない。

現段階ではキツイが、将来的にはどうにかなる予定だ。

 

けど炎はキツイ。

何か炎タイプのポケモンってやたら火力が高いポケモンばっかな気がするんだよ。

こっちが耐久型だとしても、がっつり燃やされる未来しか見えない。

具体的にはメガニウム。

 

炎だからか?

そんなに草を燃やしたいのか?

自然破壊反対!

 

ってか草・炎タイプのポケモンがいないのが悪いんだ。

燃えている草の見た目をしたポケモンなんてロマンあるじゃん。

焚き火ポケモンとか居てくれても良いじゃん。

ゲーフリさん、私は待ってますよ。

……この世界ゲーフリ関係ねぇけど。

とは言え、ニートな(働かない)神には頼れないし。

 

だからリリーラさん、はよ孵っておくれ。

ユレイドルに進化して、炎タイプ(あいつら)ぶっ飛ばそうぜ。

 

そう思いつつ、俺はタマゴを抱いて()()()()()()()()()

勿論、フエンタウンの温泉だ。

 

何で温泉かって?

そりゃタマゴの為よ。

 

ツツジとの泊まり掛けのデートがてら、温泉に入ってタマゴを暖めている訳よ。

 

……温泉卵にはならないから大丈夫だよ。

そういうのはキチンと調べた。

寧ろ、孵化の促進効果もあって良いらしい。

 

まぁついでにツツジはジム戦もやって行く。

いや、ツツジにとってはそれがメインで他がついでか。

 

……俺はやらんぞ。

何が楽しくて炎タイプのスペシャリストと戦わねばならんのだ。

エルフーンのモフモフが燃えちゃったらどうすんのさ。

 

ジムリーダーのアスナは確かに可愛い女の子で魅力のあるキャラだとは思うが、だからってバトルするのは別の話だし。

リリーラが孵っていたら、考えても良かったけどね。

 

何て事を考えながら、俺はポケモンセンターの宿泊施設の自分の部屋へと戻って寝た。

 

ツツジとは部屋が別だ。

ま、そこはね?

男と女だから、一応は仕方ないよね?

 

本番は夏休みだから。

一緒のテントでのお休みイベントは未来に取って置くさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょんちょん。

ん~、何だ?

 

俺は目を閉じたまま顔の周りを手で振り払って、また眠りつく。

 

……ちょんちょん。

……またか、何だってんだ?

 

仕方なく目を開けて周りを確認すると___

 

「プィ~。」

 

「……あ、おはようございます。……じゃねぇ! リ、リリーラ!?」

 

眠気が一気に飛んだ俺は、ベッドから跳ね起き、目の前のリリーラをマジマジと見つめる。

 

い、何時孵化したんだ!?

ってか俺のリリーラだよな?

今何時だ?……早朝か。

くっそ、何で気付かなかったんだ畜生!

そうか、昨日のあれがフラグだったんだな!?

 

俺は驚きと感動で声が出ず、非常に混乱していた。

そんな俺に懐く様に、リリーラは触手を伸ばして俺をちょんちょん突っついたり、ペシペシと軽く叩いたりする。

 

「お、おぉ! そうだ俺が親だぞ! 可愛いな畜生!」

 

俺が感動に打ち震えていると、外からドタドタと騒がしい音が聞こえて来る。

そしてどんどんその音が近付いて来ると、俺の部屋のドアがドンドン叩かれる。

 

『ソースケ! 私ですの! ツツジですの! か、孵りましたの! アノプスが孵っていましたの!』

 

俺はその言葉を聞いて、すぐにドアを開けた。

 

「俺も孵ったぞツツジ! リリーラが孵った!」

 

「まぁ! きっと同時期に孵ったのですわね!」

 

俺は驚くツツジを部屋に入れ、彼女が抱きかかえるアノプスを見る。

よく抱っこ出来たなそれ。

怪我しそうだぞ。

 

「それよりも、先ずはご飯をあげなきゃ。 えっと、離乳食的な物は必要ない、よな?」

 

「ですわね。 すぐに普通の食事を与えてもよろしかった筈ですわ。」

 

よしよし。

じゃあ、と思ってポケモンフーズを取り出そうとしたけれど、孵って初めての食事だ、多少贅沢にきのみを___オレンの実をあげよう。

 

エルフーンもそうだが、基本的にはポケモンはきのみが好きだ。

きのみは簡単には手に入らないから、そう毎度毎度与える事は出来ないが、こんな時は良いだろう。

 

俺がオレンの実をリリーラとアノプスに渡したら、2匹は嬉しそうにオレンの実を食べる。

 

「……超可愛い。」

 

「……ですわね。」

 

くっ、これが親になるって事なのか。

俺は心を鬼にして、この子をバトルに参加させる事が出来るだろうか?

 

俺とツツジがニマニマしながら可愛い2匹を眺めていたら、コンコンと部屋のドアをノックされた。

 

俺が不思議に思い、ドアを開けるとそこにはポケモンセンターのジョーイさんが居て___

 

「朝早くに申し訳ありません。……先程、このフロアから騒がしい物音が聞こえましたので、少し伺いに参ったのですが。」

 

……あ~。

チラッとツツジを見ると、目を泳がせながら冷や汗を掻いていた。

 

俺とツツジはジョーイさんに丁寧に謝罪して、今朝タマゴが孵ったので慌てていた旨を話す。

 

ジョーイさんは成る程と納得した上で、孵ったばかりの子を一度ポケモンセンターに預けて健康診断させる事を勧めた。

親馬鹿になった俺達はその提案を即座に受け入れ、ジョーイさんに2匹を預けるのだった。

 

今日の予定?

2匹の面倒を見る事ですよ!

……ジム戦? 知りませんね。

 




前話にて、ダイゴさんに厳選厨の疑いがかけられてしまった。
そんな設定は決してない。
決してないが、感想でも言われた通り、ダイゴさん厳選厨でも違和感がまるでない。
ですので、ここは敢えて明言せず皆様のご想像にお任せします。

ヒント
原作にてストーリー終了後にダイゴの家に行くと、ダンバルが貰えます。
そして公式でもダイゴの色違いダンバルが配布されましたね。


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十六話

二話連続投稿。
この話から気付いた人は前の話をお読み下さい。



俺とツツジはカナズミシティーへと帰っていない。

リリーラとアノプスが孵ったので、フエンタウンの滞在を1日伸ばす事にしたのだ。

当然、それぞれの親へは連絡済みだ。

 

孵ったから帰ってないのだ。

……すいません。

 

冗談はともかく、ポケモンセンターでの健康診断は無事に終わった。

2匹とも大変元気との事で、午前中には俺達の手元に戻って来たのだ。

 

その際に、2匹の特性も判明した。

アノプスは普通に【カブトアーマー】だったが、リリーラは何と嬉しい事に夢特性の【よびみず】だったのだ。

 

……というか、正確には【きゅうばん】ではない事が発覚したのだ。

だから多分【よびみず】ではないかと推測されている。

 

流石ダイゴ神やでぇ。

ここまで用意周到だったのか!

 

俺は改めてダイゴ神へと感謝を捧げつつ、リリーラを大切にする決意をするのだった。

 

そして今はフエンタウンのちょっとした公園で、エルフーンとメレシー、リリーラとアノプスを放して遊ばせている。

 

エルフーンとメレシーがお兄さんぶって___メレシーは性別不詳だからお姉さんぶってるのかもわからないが、とにかく年上ぶってリリーラとアノプスの面倒を見ている。

 

何だこの癒される光景。

ここは天国かな?

俺とツツジはニヤニヤが止まらないぞ?

 

「あ、フエンジムはどうしましょうか……。」

 

ツツジが本来の予定に気付きそう呟く。

 

「もう良いんじゃねぇの? こっちの方がよっぽど大切だし。」

 

「それは確かに。……いえ、ですが、手紙を出して約束してしまいましたし。」

 

俺達はトウカジムの二の舞を踏まない為にも、今回は事前に手紙を送り、アスナと約束を取り付けている。

本当は午前中に伺う予定だったのだが……。

 

……流石に約束を破るのは駄目か。

 

俺は渋々、フエンジムに行く事を了承した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待っていたぞ、挑戦者よ! 私こそがこのフエンタウンのジムリーダーであるアスナだ!」

 

俺達がジムを訪れると、アスナはそう言って決めポーズを取り、俺達を歓迎してくれた。

いや、しかし___

 

うわぁ、すっげぇナイスボディ。

それがアスナを見て真っ先に浮かんだ想いだ。

 

出る所は大きく出て、引っ込む所は綺麗に引っ込んでいる。

足はスラッと長いし、顔は端正に整っている。

見目麗しいとはこの事だ。

 

ま、足に関してはツツジも負けてないがな。

彼女のカラータイツは眩しいからな!

 

それにしても、わかってはいたが、アスナは大胆にお腹を出すファッションをしていて、……何か、えっちぃな。

ありがとうございます!

 

何故か彼女に感謝せざるを得ない。

きっと、俺が男だからだろう。

 

「……何を見てますの、ソースケ?」

 

俺がアスナのおへそをチラチラ見ていたら、ツツジにシラッとした目をされてそう問われた。

 

「……や、別に。 どんなポケモンを使うのかな?って、ベルトのボール見てただけだし。」

 

……俺の声は、決して震えてなんかいないぞ。

 

「ふーん、そうですの。……ふぅ~ん。」

 

な、何だよぅ!

仕方ないじゃん!

文句ならあんな格好しているアスナに言えよな!

 

これが嫉妬ならまだ嬉しいが、ただの軽蔑だったらキツイぞ畜生。

それもこれも、アスナのおへそのせいだ!

 

俺がアスナに責任転嫁をしている間に、ツツジは今回の挑戦理由をアスナに説明し、本気バトルのお願いをしている。

 

「成る程ね、わかるわかる。 私もおじいちゃんが四天王だったからさぁ、プレッシャーとか凄いんだよね。……私も今年からジムリーダーだから、ちゃんとしたジムリーダーってどうすれば良いのか、未だに悩むしさぁ___」

 

……おい、大物2世の愚痴大会じゃねぇんだぞ。

何共感しあってるのあんたら。

バトル前の馴れ合いは好ましくないぞ。

そういうのは終ってからにしろ。

 

ツツジは俺にはあんな視線を送った癖に、俺のシラッとした目は無視して一頻りアスナと『私達大変だよね』トークをしている。

 

……知らねぇよ。

だったら断れっつーの。

 

俺がいい加減呆れて、エルフーンとリリーラを出して戯れていたら、40分経ってようやくバトルをする事に至ったらしい。

……このまま帰っても良かったのに。

 

今回のバトルもトウキの時と同様に1対1のエースバトルだ。

当たり前だが、孵ったばかりのアノプスは使わない。

俺と一緒に見学だ。

 

リリーラとアノプスにとっては初めて見るポケモンバトルなので、良い経験になるだろう。

それにこれでバトルに対して消極的になる様なら、バトルはしない方が良いしな。

 

俺個人の考えだが、例え6Vで、性格が一致していて、良特性だったとしても、本人がやりたくないならさせるべきじゃないと思っている。

 

甘やかし?

良いんだよ。

こんなのはやりたい奴だけやれば良いんだ。

バトルは二の次、優先すべきは愛でる事だ。

 

ま、当の2匹はこれから始まるバトルにワクワクしている雰囲気だがな。

 

「行きますわよ! メレシー!」

 

「行くよ! コータス!」

 

お、やっぱりコータスか。

……どこぞのアプリゲームの様に、不当に弱くないと良いが。

 

「メレシー! “ひかりのかべ”!」

 

「コータス! “かえんほうしゃ”!」

 

コータスは非常に遅いポケモンで、一般的には鈍足にあたるメレシーよりも技が後だしになってしまう。

 

だから先にメレシーが“ひかりのかべ”を展開し、特殊攻撃の威力を半減されたのが痛い。

これでは特殊攻撃の“かえんほうしゃ”でダメージは___

 

!?

 

嘘だろおい?

軽くではあるが、きっちりダメージが入っている!

タイプも岩と炎だぞ!?

 

ツツジが最初に有利になったなと思ったがこれでは___いや、逆にここで“ひかりのかべ”を張れて助かったのか。

 

「……“ひかりのかべ”。 やるねツツジさん!」

 

「アスナさんのコータスもお見事ですわ!」

 

「私のコータスは特殊技の訓練を毎日しているからね! まだまだ行くよ! “ねっぷう”!」

 

成る程、特攻に努力値を振っている訳か!

そして次手もいやらしい。

 

“ねっぷう”はフィールドに対する全体攻撃だ。

これ系統の技を避けるのはかなり難しい。

鈍足なメレシーで避けるのはまず無理だろう。

 

着実に詰みに来てるな。

 

「メレシー! “いわなだれ”!」

 

……うーわ。

 

コータスよりも先手を取ったメレシーが、“いわなだれ”をコータスにぶち当て()()()()

コータスはそのせいで“ねっぷう”を撃てない。

 

いくらコータスの物理防御が高くて、抜群技でもあまりダメージは入らないにしても___

……これは酷い。

ってか30%の怯みを引いたメレシーも凄い。

 

……ツツジ___いや、ツツジさん、何処でそんな性格の悪い技覚えたんですか?

 

「コータス! しっかりして!」

 

アスナが悲鳴に近い叫び声をあげる。

……気持ちは痛い程わかる。

ヤミラミの“あくのはどう”でモンメンが怯んだ時は、そんな感じだったよ俺も。

 

「今のうちですわよメレシー! “ロックカットでかくばる”!」

 

コータスが“いわなだれ”でがっつりと怯んでいるうちに、メレシーは悠々と積み技で能力を上昇させる。

 

ツツジさんの十八番、入りましたー。

そしてメレシーの能力が上昇仕切ると同時にツツジが攻勢に移る。

 

「行きますわよ! “ストーンエッジ”!」

 

コータスは怯みから立ち直りはしたが、これを避けられそうにない。

コータスが遅いのはもとより、速くなったメレシーの技を避けるのは厳しい。

 

「くっ! 耐えてコータス!」

 

「仕留めなさいメレシー!」

 

メレシーが全力で地面を叩き付け、ドゴン!という轟音を鳴らし、コータスの真下から尖った岩石を突起させる。

 

その際に起こる土煙で僅かに視界が妨げられたが、………結果は___

 

土煙が晴れて行く中、非常に傷付き今にも倒れそうなフラフラしたコータスが居るが、確かに、まだ目に光を宿して立っている。

 

「コータス、良く耐えたわ! お返しするよ! “オーバーヒート”!」

 

「!? 嘘、耐えましたの!? くっ、メレシー避けっ___今度は私達が耐えますわよ!」

 

メレシーは全力の“ストーンエッジ”を打ち終えたばかりで、まだ技硬直中の為に俊敏には動けそうにない。

その事を悟ったツツジは唇を噛み締めて、メレシーに耐える様に頼む。

 

「行っけぇぇぇ!!!」

 

アスナの暑い、熱い掛け声と共に、コータスが全力の“オーバーヒート”を放つ。

 

こちらもブオォン!という轟音を鳴り響かせながら、とんでもない火炎がメレシーを襲う。

 

……おいおい、これメレシー溶けるんじゃねぇの?

 

そう思う程の熱量がバトルコートを包み込む。

観戦している俺達にまで、もの凄い熱気が伝わるからな。

 

この“オーバーヒート”を放ったコータスは、後ろ足も前足も曲げて、地面に膝を着く。

まさにぶっ倒れる前の瞬間って感じだ。

 

「行けますわよね! メレシー!」

 

未だに燃え盛る火炎の中に、ツツジがそう叫ぶ。

 

「後もう一押しですわ! 僅か少し!……お願いしますわ、“がんせきふうじ”!」

 

「気合いは認めるけど、流石に___」

 

アスナが勝ちを確信し、ツツジに話かけた時に、それは起きた。

 

「ッッッ~! シィ~!!!」

 

火炎の中からメレシーの鳴き声が聞こえ、そこから岩石が飛んで来る。

 

「っ! 嘘!?」

 

「メレシー!」

 

その“がんせきふうじ”は見事コータスに当たり、コータスは沈んだ。

 

……。

 

沈黙が場を支配する。

 

「…私達の、勝ちですわ。」

 

「……あっ、うん。……負けた。」

 

悔しいとか、悲しいとかではなく、純粋に驚いたアスナはそう呟くのだった。

 



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十七話

アスナは強かった。

普通ならアスナはツツジに惨敗してもおかしくなかった。

弱点タイプのスペシャリストと戦って、惜しい所まで持っていける時点で、彼女は凄い。

 

勝負に“たられば”は無いとは言え、もしも“いわなだれ”でコータスが怯んでいなければ、……どうなっていただろうか。

 

……詮無き事ではある。

何れにしろ、今回勝ったのはツツジだ。

 

「……私が未熟だった。 うん、私は未熟だけど、それ以上にツツジさんが強かった。」

 

バトルが終わり、呆然としていたアスナが立ち直りそう呟く。

 

「凄かったよ貴女とメレシー。 コータスの“オーバーヒート”を耐えたのも凄いけど、それを耐えると信じて炎の中にいるメレシーに指示を出す貴女も、炎の中にいながらコータスに技を当てたメレシーも。」

 

「確信があった訳ではありませんが、メレシーなら耐えてくれると信じていたので……。 それに、最後の“がんせきふうじ”も運良く当たったに過ぎませんわ。」

 

ツツジとアスナはお互いのポケモンをジムにある簡易回復装置で回復させながら、そのまま和やかに感想戦に入る。

 

「どうだった? お前達もやってみたいか?」

 

俺はこの激しいバトルを観戦した、孵ったばかりの2匹にそう尋ねた。

 

そしたら2匹とも興奮しながらコクコク頷いたので、空いたバトルコートを借りて少し手解きする事にした。

 

「よしエルフーン、お前は攻撃を受ける事と避ける事だけする様にな。……さて二人とも、まずはお前達がどんな技を使えるのか教えてくれ。 何しても良いぞ、エルフーンに向かって攻撃だ。」

 

俺がそう言うとエルフーンは仕方ねぇな、と言わんばかりに仁王立ちする。

そして2匹がこの可愛いサンドバッグに向かってそれぞれ攻撃を開始した。

 

まずはリリーラが___なんだろう? これは、“しぼりとる”? それとも“からみつく”かな?

触手でエルフーンをグルグル巻いて圧をかけようとしている。

エルフーンはただ擽ったそうにしているだけだ。

……“くすぐる”じゃ、ないよな?

 

お次はアノプス。

先ずは身体に水を纏ってエルフーンにたいあたりする。

が、全く威力は出ない。

エルフーンにモフっと受け止められた。

今のは“アクアジェット”か。

良い技覚えさせるぜダイゴ神。

 

他にもリリーラは“メガドレイン”や“ようかいえき”を使い、アノプスは“れんぞくぎり”や“メタルクロー”を使用出来た。

 

ただ2匹とも孵ったばかりで当然弱い。

ぶっちゃけ、エルフーンにじゃれている様にしか見えない。

 

エルフーンも避けるそぶりは見せず、ずっとどや顔で仁王立ちしている。

 

「フンス!」

 

……いや、フンス!じゃないよお前。

これじゃ訓練のくの字にすらならないよ。

 

次は補助技でも見るか、と思ったらツツジ達が話終えてこっちに来た。

 

「随分と可愛い光景ですわね。」

 

「ふふ、バトルした後に見ると和むね。」

 

やっぱじゃれてる様にしかみえませんよね。

 

「一応本人達はバトルのつもりらしいぜ。 2人のバトルを観て、自分達もやってみたいんだってさ。」

 

「成る程、将来()楽しみですわね。」

 

今は可愛いですわね。

 

「それで、どうした? そろそろ帰るのか?」

 

「え、……ソースケは戦わないのですか?」

 

「……戦う必要があるんですか?」

 

無いよ。

まるで無い。

 

「おいおいツツジ、俺はバッジに興味ないって言ったじゃないか。」

 

「えぇ、ですが、……本当にやりませんの?」

 

「何でそんなにやって欲しいんだよ?」

 

あのどや顔エルフーンが燃やされる所なんか見たくないんだけどなぁ。

 

ツツジは神妙な顔で俺に近づき、こっそり耳打ちする。

 

「実は、アスナさんにソースケの事を優秀な草のスペシャリストと紹介してしまいまして……。それで、その、アスナさんが草タイプには負けないと豪語するものですから、……ソースケならアスナさんに勝てると、つい言ってしまいまして……。」

 

「勝てる訳ねぇだろ。 せめてリリーラがユレイドルまで進化しないと勝負にすらならねぇよ。」

 

「……本当ですの?……本気ですの?」

 

うっ。

ツツジが真っ直ぐ俺の目を見つめる。

それに俺がたじろぐと、俺達の会話が聞こえていたのだろうアスナが会話に参加する。

 

「いいよいいよ、ツツジさん。 私も流石に草タイプには負けないから。 わかりきった勝負は勝負じゃないしね。」

 

……成る程、実にわかりやすい挑発だ。

こんな挑発に乗らない事は簡単だ。

 

けどな、もう自分に対する言い訳は出来てしまったんだ。

 

ツツジが俺に期待している。

草タイプが馬鹿にされてる。

それになんだかんが、俺もカチーンと来たぞこの野郎。

 

「わかった。……本気でやろうか。」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺にだってな、自重してる事はあるんだ。

けどな、仕方ないよな?

相手は強いし、弱点タイプだし、馬鹿にされたし。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「やろうか、エルフーン。」

 

「行くよ! バクーダ!」

 

……どんなポケモンでも関係ない。

炎タイプの時点で本当は勝ち目がないんだもの。

俺のやる事は変わらないさ。

 

「エルフーン、“くさぶえ”。」

 

「!? 不味っ___寝るな! バクーダ!」

 

お、ラッキー。

一発目から睡眠状態になるとは。

“くさぶえ”は技が当たったとしても眠らない事があるからな。

そういう意味では命中率が低いって事なんだろうな。

 

「続いて“ゆめくい”。」

 

「バクーダ! 起きてっ!」

 

エルフーンの“ゆめくい”にバクーダは強く魘されるが、アスナの声に反応して目を覚ます。

 

「良かった! バクーダ、“ドわすれ”!」

 

エルフーンの“ゆめくい”の威力を見て、特殊攻撃技を警戒したアスナは、特殊防御力を2段階上昇させる“ドわすれ”をバクーダに指示した。

 

……お疲れ様でしたー。

 

「それじゃ、“アンコール”。」

 

この技は()()使()()()()()()()()使()()()()()()

……つまり、バクーダを“ドわすれ”で縛った。

バクーダは暫くの間、おおよそ2・3回はずっと“ドわすれ”しか出来ない。

 

普通の6対6のバトルや3対3のバトルなら、手持ちと交換するなりしてこの縛りから解放されるが、1対1だと対処のしようがない。

 

……害悪スタイルの俺でもなぁ、自重してる事はあるんだよ。

 

「……あ、“アンコール”。」

 

顔を真っ青にさせてアスナがこの害悪さに気付く。

 

「エルフーン、“どくどく”。」

 

バクーダが再び“ドわすれ”してる所に今度は猛毒を叩きこむ。

 

そして___

 

パン、パン、パン、パン。

 

「あ、それ! “アンコール”! “アンコール”!」

 

俺とエルフーンは手拍子しながらバクーダにひたすら“アンコール”をした。

 

……アスナが泣いて降参するまでずっとやったのは反省している。

 

「……悪魔ですわ。」

 

泣いているアスナを横目に、ツツジは俺をゴミを見る目で非難する。

 

「……正直、すまんかったとは思っている。……けど、他に勝ち方なんて無いんだよ。 まともにやっちゃエルフーンじゃ勝ち目がない。」

 

「それで補助技(嫌がらせ)のオンパレードですか。」

 

忍耐論者でござるからな!VV(ブイブイ)

 

……すいません、嘘です。

でも忍耐論理とか受けループとか好きだぜ。

 

そんなこんなでアスナを泣かせてしまった俺は、気まずい状況でヒートバッジを貰ったのだった。

 

「貴方はいつか絶対ぶっ飛ばす!」

 

一頻り泣いた後、ヒートバッジを授与する時にアスナは俺にそう宣言した。

 

……勘弁してくれ。



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十八話

二話連続投稿。
この話から気付いた人は前の話を読んで下さい。


俺の評価を大きく下げたジム戦を終え、俺とツツジは翌日にフエンタウンを去った。

 

……やっぱり炎タイプは鬼門だったぜ。

 

アスナのおへそを見ていたらツツジにシラッとした目で見られ、バトルをしたらゴミを見る目で見られ、しまいには本人に目の敵にされたからなぁ。

 

……良い思い出が___いや、ここに来るまではツツジとの自転車デートが……疲れたけど楽しかったし、温泉は気持ち良かったし、何よりリリーラが孵ったからプラマイで言えばプラスだな。

 

また来たいが、アスナに見つかったら絡まれるかもしれないから、暫くは来れないな。

 

元四天王とかいうアスナのお祖父様、お孫さんを泣かせてしまったのは申し訳ありませんが、どうか私を恨まないで下さい。

 

俺はえんとつやまのロープウェイに乗りながら、フエンタウンに向かって、ナムナムと念を送るのだった。

元四天王とかいう化け物にまで目を付けられたくないからな。

 

「それで、帰りはどうする? キンセツシティに寄ろうか?」

 

今回の俺達のお泊まりデートの目的は、温泉にてタマゴを暖める事とジム戦だったので、フエンタウンに来る時は通り道のキンセツシティをスルーして来たのだ。

 

けどタマゴは無事孵ったし、ジム戦も(一応)勝ったし、本来予定してた日数は過ぎているしで、今からキンセツシティで更にお泊まり&ジム戦しても良い気がしてきた訳だ。

 

「う~ん、それも良いですわね。……いえしかし、スクールを何日も休む訳には……う~ん。」

 

ぶっちゃけ俺はスクールなんてどうでも良いんだけどな。

ツツジがそこに居るからまだ通っているだけだし。

ってか、平日はスクールに通うなんて彼女が言うから週末のスケジュールが最近は大変なんだし。

 

実際にフエンタウンを1泊2日で計画してたのも無茶だったと思い知らされたばっかだ。

自転車は確かに楽だけど、流石に丸1日ぶっ通しは疲れたわ。

 

帰りは楽したい。

キンセツシティをクッションにしてもっと悠々と帰りたい。

 

「今週はもうジム戦ウィークで良いんじゃないか?……カナズミにどうしても帰りたいなら良いけどさ。」

 

「……ソースケもジムで戦うのでしたら、キンセツシティで滞留しても良いですわよ。」

 

「……君ね、俺が戦ったらゴミを見る目で見といて良く言うよ。」

 

確かにやり過ぎたとは思いますますよ?

害悪スタイルに批判が殺到するのは、よ~くわかる。

俺だって前世で経験あるからね。

天恵キッスのまひるみ戦法には泣かされたよそりゃ。

 

わかっててやってるよ。

けど、批判されて傷つかない訳じゃないんだぜ?

 

まぁそれでもやるけど。

好きなポケモンで勝つ為なら、俺はやる。

 

でも戦う必要がないなら戦わなくても良いと思うな俺は。

 

「確かにアレは酷かったですわ。 ソースケの戦い方はきっと大多数のトレーナーの敵でしょう。……毎度相手をしている私も、ソースケを倒すべく考えを巡らせておりますわ。」

 

害悪ですいません。

 

「ですが貴方の戦い方はともかく、……貴方は、___貴方自身は、普段の姿よりもバトルをしている時の方がカッコいいですし、私は好きですわよ?」

 

……………。

…………。

………。

……。

…。

 

「……やる。 ジム戦やるよ。」

 

結局、男ってのは単純なんだ。

好きな女の子にカッコいいとか好きとか言われたら、何だってやろうって思っちゃうんだよ。

 

待ってろテッセン、俺の害悪スタイルが再び火を吹くぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳でキンセツシティに来た俺達は、一先ずポケセンで宿泊手続きをした後に、早速キンセツジムへとやって来たのだ。

 

別に今日戦うつもりじゃない。

いってしまえば予約を入れに来たのだ。

明日戦えませんかー?って感じにな。

 

トウカジムの一件はホント約束の大切さを教えてくれました。

それで今はツツジがテッセンと交渉している。

 

テッセンの見た目は丸々太った気の良いおっさんって感じだ。

髪の毛は___あれはそういうヘアースタイルって事なのか?

モヒカンと言えばモヒカンかな?

その割りに髭はビッシリモッサリしてるけど。

 

……確か、曖昧な記憶だが、この人この見た目で、若くて綺麗なエリートトレーナーの奥さんがいるんだよな。

 

いや、ニコニコ笑ってすっごい良い人そうなのは伝わってくるけど、……大変失礼だが、マジか。

現実ってわっかんなぇなぁ。

 

俺がうーむと考えていたら、ジムトレーナーが慌ててテッセンの所へとやって来た。

 

「テ、テッセンさん! またあいつが暴れ始めました!」

 

「わっはっはぁ。……またか、全く、本人はいたずらのつもりなんだろうがなぁ___」

 

困ったものだ、という雰囲気を出してテッセンはツツジに断りを入れて席を外す。

 

こんなイベント気にならない訳ないじゃないか。

 

俺はツツジにばれない様にこっそりテッセンの後をつけて、何が起こったのかを確認する。

 

そしたら、バトルコートの所で()()()()()()()()()()()()

 

「そうかロトムか!」

 

あ、やべつい大きな声出ちゃった。

 

「ん? 君は確か、ソースケ君。 ついて来てしまったのか、いや構わないさ、わっはっは!」

 

「す、すいません。」

 

「君の言う通り、あのなまいきなロトムが暴れて危ないから、下がっていなさい。」

 

俺は素直に下がれば良い所、つい自分から提案を出してしまった。

 

「手伝いましょうか? 俺ならあいつを抑えられますよ?」

 

「ほほぅ? では頼んでみようか。」

 

テッセンは俺の言葉にニヤリと笑って、了承する。

 

……何でこんな事を提案したのか。

ま、試したくなったのだ。

【よびみず】のリリーラであるならば、ウォッシュロトムを完封出来るんじゃないか、とな。

 

まだリリーラを鍛えて日が浅い。

ってか、キンセツに来る途中で少し野生とバトルさせた程度だ。

だからリリーラはあくまで水受け要員。

エルフーンできっちり詰めれば良い。

 

俺はバトルコートにリリーラとエルフーンを出して、指示を出す。

 

「エルフーン、“ギガドレイン”。 リリーラは水技が来たら吸ってくれ!……電気技は頑張って耐えろ。」

 

……効果いまひとつだし、多分大丈夫。

ロトムの力量次第じゃちょっとアレだが。

 

ちなみに、補助技は今回はなるべく使わないつもりだ。

テッセンが見てるしな。

補助技メインなのがバレるのは後日のジム戦の事考えれば良くないし。

 

さて、どうなるかとバトルコートを観察すると、案の定ロトムはエルフーンに対して水技___“ハイドロポンプ”を放ち、見事にリリーラに吸われていた。

 

ナイスナイス!

 

はぁ!?

ってな感じで驚くロトムを他所に、エルフーンがロトムに“ギガドレイン”をぶち当て、体力を吸う。

 

ロトムは慌てて、更に“ハイドロポンプ”を放つが、それも全てリリーラに吸われる。

 

【よびみず】リリーラ来ましたわー。

これミクリ戦勝ったな。

 

なんて事を考えいると、エルフーンがロトムの体力を吸いきり、ロトムは目を回して倒れた。

 

「うむ、お見事! わっはっは! これだけで十分バッジを与えるに足る強さを見れたぞ!」

 

「ありがとうございます。 けど、ツツジから聞いていると思いますが、俺達はテッセンさんと本気でバトルをしたいんですよ。」

 

「うむうむ、聞いておる。 強いジムリーダーを目指しているとな! だがソースケ君は違うのだろう?」

 

せやな。

 

「ま、成り行きと言いますか、……幼なじみに負けない為にも強くありたいとは思ってます。」

 

「わっはっは! 成る程成る程!」

 

若干ニヤニヤしてるから、俺の惚れた腫れたは見抜かれてるな。

くっそ恥ずかしいわ。

 

「ふーむ、しかしツツジ君とはともかく、君とただ全力でバトルするだけってのは面白くないな。」

 

「……そうですかね?」

 

「うむ、……!」

 

テッセンは何かを思いつき、指パッチンした。

……何か色々元気なおっさんだな。

 

「ソースケ君! 君あのロトムを貰う気はないかね!?」

 

「え?」

 

「そうだ、君は草タイプの専門なんだろう? あの子をカットロトムとして使う気はないかね? そして2日後、カットロトムを使ってバトルするってのはどうだ!?」

 

「いいいいい、良いんですか!?」

 

マジで!

欲しい欲しい!

カットロトム来たー!!!

 

俺このおっさん大好きだ!




3匹目
カットロトムだ。
やったねアタッカーだよ!
(ただしプレイスタイルは未だ未知数)


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十九話

改めて俺達はテッセンのおやっさんと話し合い、俺とツツジは2日後にジム戦をする事を約束した。

 

そして俺はおやっさんからカットロトムが入ったボールを受け取り、こいつをよろしく頼むとお願いされた。

 

物理的に太っ腹なおやっさんは精神的にも太っ腹で、ロトムが宿る芝刈機ごと俺に譲るとの事だ。

鋼タイプに続いて電気タイプも大好きになったぞ俺。

 

「これでソースケは3匹目ですか。 先を越されましたわね。」

 

「別に勝負じゃないんだし、気にする事はないだろ。」

 

岩タイプには優秀なポケモンが多いから焦る必要はないと思うぞ。

それに今の所、ツツジは水の一貫がキツイから、受け要員として俺はサニーゴをオススメしたい。

何より可愛いし。

 

見た目を気にしない場合はツボツボが最高だぞ。

圧倒的耐久によるスーパー害悪タイムとか出来るぞ。

 

……それは完全に俺の趣味だな。

 

ま、彼女のポケモンについては彼女自身が考えれば良いさ。

俺は自分のポケモンについて考えなくちゃな。

 

俺はモンスターボールからロトムを出して挨拶する。

 

「よ、さっき振りだな。」

 

ロトムはボールから出てキョロキョロした後に、俺を見てあぁん?とガンを飛ばしてくる。

 

……成る程、随分となまいきな奴だ。

 

「今から俺がお前の主人になるが、良いか?」

 

俺がそう言うと、ロトムは悩んだ末に渋々頷いた。

一応は俺に倒されたから仕方なくって事なんだろうな。

ゲーム的に言うと、なつき度が低いって事だろう。

これから仲良くするしかないか。

 

しかしジム戦は2日後だ、悠長にコミュニケーションを取っている暇はない。

絶体に勝ちたいとまでは思わないが、おやっさんに恥ずかしい所は見せたくない。

預けて良かったと思わせる様なバトルをしないとな。

 

その為にはロトムに俺を信頼して貰いたい。

細かい立ち回りは仕方ないにしても、指示を出したらちゃんと言う事を聞く程度には信頼関係を結びたいものだ。

 

何はともあれ、先ずは実戦あるのみだ

 

俺はツツジと別れて、キンセツシティの外でロトムと共にバトルをする事にしてみた。

そして野生のポケモンや、外にいたトレーナーと何度かバトルをした。

 

ちなみに、キンセツシティに来る時はこの外のトレーナー達の事は無視して自転車で走り抜けている。

 

「あ!今目があったy___」

 

まぁ、こんな感じで話かけられても無視して、すぃーっと通り抜けたのだ。

ツツジは若干申し訳なさそうにしてたかな?

 

それはさておき___

 

バトルをして判明したのは、ロトムが俺のスタイルに合致しているって事だった。

 

種族としてのイタズラ好きなだけでなく、元がゴーストタイプを有しているので、害悪(嫌がらせ)戦法には持ってこいだ。

しかも期待していた高威力の技も使える。

 

……強いて問題があるとするなら、こいつ草技は“リーフストーム”しか使えない事かな。

 

見た目も草タイプ感無いけど、実際中身も草タイプ感無いわ。

ま、全然気にならないけど。

可愛いポケモンはそれだけで赦せる。

カットロトム可愛いじゃん。

 

そして、今日1日だけでも結構仲良くなれたと思う。

俺の戦法が本人にもツボなのか、バトルに協力的だ。

……何よりこいつ、エルフーンに懐きやがった。

 

そりゃ【いたずらごころ】のエルフーンだ。

イタズラっ子のロトムには憧れだよなぁ。

 

今では『流石っす先輩!』と言わんばかりにエルフーンの太鼓持ちをして、エルフーンが補助技(嫌がらせ)だけでバトルに勝った時は、キラッキラした目でそれを見てたからな。

 

……大丈夫。

害悪度は増したが、ちゃんと火力は手に入れた。

重要なのは火力を出せるという選択肢が増えた事だ。

 

……色んな意味で、戦術の幅は広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで2日が経ち、ジム戦の日がやって来た。

今はツツジがおやっさんと戦っている。

 

岩・フェアリータイプと電気の単一タイプ。

お互いが弱点になり得ないので、戦いは拮抗している。

 

そういう時は相手の弱点タイプの技で攻めるのが基本だ。

 

しかしメレシーは攻撃力が低いので、タイプ不一致の地面技を使った所で大きいダメージは期待出来ない。

それに、おやっさんの使うライボルトは中々素早いので攻撃を当てるのも一苦労だ。

 

ではライボルトの方が有利なのかと言えば、そうとも言えない。

ライボルトはメレシーに対して4倍弱点である鋼技の“アイアンテール”を使えるが、ライボルトは物理攻撃力が高くないので、タイプ不一致ということもあり“アイアンテール”の威力がしょっぱいのだ。

そこにツツジが、メレシーに物理技のダメージを半減する“リフレクター”を使わせたので、メレシーの耐久力と合わせて、中々打点にはなり得ない状況になっている。

 

それでも押しているのはどちらか、と言えばライボルトかな。

 

“アイアンテール”も全くダメージが入らない訳ではないし、特殊攻撃力には目を見張る物があるので、ちょくちょくタイプ一致の特殊電気技を放ち、ダメージレース的にはライボルトが有利って感じだな。

俺の所感では。

 

俺だったら補助技使ってどうにか自分を有利にしようと動くが、さてツツジはどうするか。

 

「メレシー! “トリックルーム”ですわ!」

 

お、動いて来たな。

 

“トリックルーム”は特殊な空間を作り出す事で、素早さを逆転させる事が出来る。

これでメレシーの方がライボルトよりも早くから動ける。

 

「わっはっは! これは厄介な! ライボルトよこうなったら仕留めに行くぞ!“じゅうでんしながらとぎすます”!」

 

……おいおい、おやっさんそんな事出来るのかよ。

 

“じゅうでん”は自身の特殊防御力を1段階上げながら、次に使用する電気技の威力を2倍にする補助技で、“とぎすます”は次に使用する攻撃技を必ず急所に当てる補助技だ。

 

こんな技を同時に使用された後に、ライボルトの高い特殊攻撃力から放たれる、高威力特殊電気技の“かみなり”とか喰らったらいくらメレシーでも確実にダウンするわ。

“ひかりのかべ”を今から張っても無駄じゃないかこれ?

 

「メレシー! “ストーンエッジ”!」

 

最大打点の急所狙いか、確かにもうこれしかないかもな。

 

しかし運悪く、メレシーの“ストーンエッジ”は外れてしまう。

 

……()()()? 本当に?

 

おやっさんのライボルトは連結技で動いてないんだぞ?

ツツジが動いてもいない的を外してしまう様な訓練を、メレシーにしてるのか?

……そんな訳ない。

何か、おかしい。

 

「わっはっは! 残念だったなツツジ君! 準備が済んだなライボルト! “かみなり”だ!」

 

()()()()()()()()()()()()()!メレシー“()()()()”!」

 

“じだんだ”か!

成る程、考えたなツツジ!

“じだんだ”は前の技が()()()()()()()威力が2倍になる物理地面技だ!

 

わざとなのか、偶然なのかは知らないが、“ストーンエッジ”を適当な狙いで打った理由はその為か!

 

そしてトリックルーム下、同時に指示を出した場合、先に動くのは遅いメレシー。

 

ムキー!とプンスカ怒ったメレシーが何度もバトルコートの地面を叩きグラグラと揺らす。

ライボルトはその揺れに耐えられず、地面に身体を叩きつけられ、そのまま沈んだ。

 

「……わっはっは! いや、まさか! こんな奥の手が有ったとはな! 負けたわい!」

 

「最後の最後は賭けでしたわ。 本当にテッセンさんはお強かったですわ。」

 

「うむ、うむ。 最後の“ストーンエッジ”はわざと外したのかね?」

 

「あ、いえ、狙いをつけずに指示は出しましたが、本来は技を外す練習とかしておりませんし。……運が良かったですわ。」

 

技が外れて運が良いとはこれ如何に。

ポケモンバトルはホント面白いぜ。

 

……さて、次は俺だ。

 



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二十話

バトルコートからツツジが身を引き、代わりに俺が前に出る。

 

「お願いします。」

 

「わっはっは! あのロトムを何処まで御しきれるか見せて貰おう!」

 

「はい! やろうか、ロトム!」

 

「頼むぞ、ジバコイル!」

 

ジ、ジバコイルか~。

ロトムじゃ打点ねぇぞ。

おやっさん実は性格悪くねぇか?

 

仕方ない、ちょっとは自重しようかと考えてたが、やっぱり害悪(いつもの)で行くしかないか。

 

「ロトム! “あやしいひかり”!」

 

「ジバコイル、“シグナルビ___むむっ!?」

 

いきなり危ねぇ!

“シグナルビーム”は虫タイプの特殊攻撃技だ。

カットロトムには効果抜群だし、ジバコイルは特殊攻撃力が高いから、まともに喰らえば一撃もありえたぞ!

しかもそのジバコイル多分【アナライズ】だろ?

攻撃するのが後攻の場合は技の威力が上がる特性の奴!

 

ロトムが先に動いて“あやしいひかり”でジバコイルを混乱させ、自傷させる事が出来たから良いものの、ちょっと容赦なさすぎないかおやっさん!

 

「くっ、“かげぶんしん”だ!」

 

「シャキっとせいジバコイル! “シグナルビーム”!」

 

俺が指示を出したらロトムはブゥン!と自身と同じ姿をした分身を多数生み出し、イェーイ!と言わんばかりにニヤニヤしてコートの中を走り回る。

そこにおやっさんの指示を受けたジバコイルが今度はちゃんと動いて“シグナルビーム”を放つが、ロトムの本体に当たる事はなかった。

 

よし、よし。

一撃貰えば負けと思って慎重に動かないとな。

 

「まだまだ、好きなだけ遊べ! 思いっ切り“かげぶんしん”で翻弄するんだ!」

 

「甘いわ! ジバコイル、“ロックオン”!」

 

不味っ!

“ロックオン”は次の攻撃技を必ず当てる技だ!

“かげぶんしん”の意味がない!

 

だがもう遅い、俺の指示でロトムは更に分身を増やして遊ぶが、ジバコイルはそれを意に介さず、冷静に本体を狙う。

 

「“みがわり”だぁ!!!」

 

「今だ、“シグナルビーム”!」

 

……だが、何も起こらない。

ゴスっと、ジバコイルが自身を自傷するだけだった。

 

「ぐぬぬ!」

 

よっしゃ、ナイス混乱!

混乱の状態異常は長く続く。

軽く3~5分は混乱し続ける。

問題はいつ混乱するかわからないから、運要素が強い為、作戦には組み込み辛い所だな。

でも今回は実に良い所で引いてくれた。

しかも身代わりも張れたし、これは行けるぞ。

 

「ロトム、“おにび”!」

 

「ぬぅ! “マジックコート”だ!」

 

くっそ、やっぱ持ってたか!

もしかしたらとは思っていたが!

 

“マジックコート”は変化技を跳ね返す技だ。

だからロトムが放った“おにび”がジバコイルに当たってロトムに跳ね返って来る。

 

だがここで“みがわり”が活きて来る。

あの時は“シグナルビーム”の攻撃を受ける為に身代わりを出したが、予想外にも身代わりが残ったので、ロトムは“おにび”で火傷状態にはならない。

 

ちなみに、この世界では身代わり人形が出て来る事はない。

“かげぶんしん”同様に、自身の分身を作り出すだけだ。

しかも“かげぶんしん”とは違い動かない分身を。

 

では何故そんなものが身代わりとして役に立つのか?

答えはヘイト集中能力とでも言うべき、脅威的な技吸収能力にある。

この能力のせいで、大抵の技は基本的に身代わりに集まるのだ。

 

……恐ろしいぞ?

サンドバッグを集中して叩いてる奴の横から、こっちは狙い打ち出来るんだからな。

 

ただし個人的な所感だが、体力の4分の1を使うのは結構リスキーだと思っている。

前世と違って体力ゲージとかないし、数値で1さえ残ればポケモンが全力で動いてくれる訳じゃない。

傷付き疲れたら、ポケモンだってパフォーマンスが落ちるからな。

 

ダメージ感覚ガバリアスはギャグじゃねぇぞ。

この世界じゃ笑えない。

弱いトレーナーじゃなくて、悪いトレーナーと言われかねんからな。

 

話を戻して今はバトルだ。

 

残った身代わりのおかげで、“マジックコート”で“おにび”が跳ね返って来ても火傷にならないから、俺達は何度だってノーリスクで“おにび”チャレンジが出来る。

 

「ロトム、“おにび”だ! しつこく、何度だって、絶対に火傷させるまで、“おにび”だ!」

 

鋼タイプは燃やしてなんぼじゃー!

ジバコイルが混乱して自傷ダメージ引いて火傷になるまでひたすら“おにび”するんだ!

 

「むぅ!……致し方なし、ジバコイルあの身代わりを壊す事を優先するぞ!」

 

流石おやっさん賢いな。

俺がしつこく火傷を狙ってるのを知り、このまま“マジックコート”を続けてもいずれ混乱する事を察し、早めの損切りとして身代わりを壊す事を選んだか。

 

ですがここで問題です___

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

ずらっと広がるのは無数のロトム分身。

どれも全く同じポーズで動かず、どれが身代わりか見分けがつかない。

 

本体のロトムがジバコイルに“おにび”を当てて火傷状態にすると同時にジバコイルが“シグナルビーム”を放つが、結果は外れ。

 

「……っ! 厄介な!」

 

“みがわり”と“かげぶんしん”は連動する。

同じ分身同士、どれがどれかわからなくする能力がある。

本体が好き勝手やっても、身代わりが技を集めて多数の分身で身代わりをフォローする。

 

ゲーム同様最低な事をしてます。

すまんなおやっさん。

だが手心は加えんぞ!

 

「ぐぬぬ! “ほうでん”だ!」

 

成る程、フィールドに対する範囲攻撃に切り替えたか。

確かにそれなら身代わりも分身も関係なく全部同時に攻撃出来る。

しかし残念、いくら高威力の技でもカットロトムの場合は電気技自体が4分の1までダメージが軽減される。

それじゃ身代わりは壊せないぞ。

 

「今のうちに“どろかけ”もするんだ!」

 

ジバコイルが“ほうでん”をしている間にロトムが地面技の“どろかけ”をする。

ジバコイルがいくら地面タイプが4倍弱点とは言え、“どろかけ”ではダメージは期待出来ない。

しかし“どろかけ”は命中率を下げてくれる。

言ってしまえば目潰しだ。

 

この世界がいくら命中率ガバガバの世界観だとしても、目潰しを喰らえばそりゃ命中率は落ちるさ。

 

それに、()()高威力の攻撃技は使いたくないしな。

 

「……何と姑息な、……いや、褒め言葉だがね。」

 

いや、わかってる。

すまんなおやっさん。

 

「……ジバコイル、“ロックオン”。」

 

それしかない。

……それ以外、やる事がない。

 

最早おやっさんの打つ手は、“ロックオン”して“シグナルビーム”で身代わりを確実に壊し、その後に再び“ロックオン”して本体に“シグナルビーム”を当てる。

これをしなくては勝てない。

 

しかし___

 

ゴスっと、再びジバコイルは自身を傷つける。

更に火傷でダメージもじわじわ重ねる。

俺の目から見ても、ジバコイルは確実に弱っている。

ゲーム的に言っても、体力ゲージ3分の1以下だろう。

 

「これでラスト! ロトム、“たたりめ”!」

 

「ジバコイル! “ミラーコート”!」

 

……やっぱり持っていたか。

特殊攻撃技を喰らった時に、倍の威力で跳ね返す“ミラーコート”。

 

身代わりを張っているので、大丈夫だとは思うのだが、今まで使って来る人がいなかったので、この世界でも大丈夫なのかはわからない。

……わからないから、ずっと警戒していた。

 

ロトムは高威力の特殊攻撃技が使えるからな。

確実に落とせる圏内に入るまでは怖くて使えなかった。

 

……けど、状態異常の相手に対して威力が2倍になる“たたりめ”なら、もうジバコイルは落とせる。

 

俺の予想通りロトムの“たたりめ”を喰らったジバコイルは静かに沈んだ。

 

「……わっ___笑えないなぁ。 全く、君にロトムを預けたのは正解だったわい。 ここまで凶悪な相性だとはな!」

 

わっはっは!

と、おやっさんは結局笑ったが、本当に申し訳ない。

 

「ロトムの奴も実にイキイキとバトルをしておったわい。 これからも奴をよろしく頼むぞソースケ君!」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

「うむ! 実に見事なバトルだった!」

 

おやっさんは大きく笑いながら、俺とツツジにダイナモバッジを授与するのだった。

 

久しぶりに、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 



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二十一話

一応は二話連続投稿。
12時回っているけど、今気付いた人は前の話をお読み下さい。

そしてこの話を持ちまして、タグに“害悪系主人公”と“働かないアルセウス”を追加しました。



夏休みまで後2週間を切った。

 

夏休みの自由研究である、ホウエン地方ジム巡り計画の準備はほぼほぼ済んでいる。

後もう少しでツツジと2人で長い旅が始まると思うと、期待で胸が膨らむ所存だ。

……ツツジの胸も(物理的に)膨らんでくれたら嬉しいな。

 

それはさておき___

ムロ・フエン・キンセツと夏休み前に西ホウエンのジムリーダー達とは無事にジム戦を終え、残す所はトウカジムだけになった。

 

だがそれも今日でミッション完了だ。

長い所用でジムを空けていたジムリーダーがトウカジムに帰って来たと聞いたのだ。

早速約束を取り付けた俺達は、今日トウカジムへとやって来た。

 

……何故か、目の前にはセンリも居るが。

 

あっれ~?

パパン、何でいるのん?

 

もしかして、ここのジムリーダーが行っていたジョウト地方への所用って、そういう事?

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

マジかよ。

俺はセンリに良いイメージ無いんだよなぁ。

 

あっ、前世のゲームでね?

子供の時にやったルビーで、こいつのケッキングがやたら強くて大変だったイメージが強い。

最初に挑む時は“まもる”使えないし。

 

そもそもノーマルタイプが基本面倒なイメージが強いんだよな。

リサイクルカビゴン、輝石ラッキー、輝石ポリ2……。

 

そしてアカネのミルタンク。

 

“ころがる”“ころがる”“ミルクのみ”……うっ、頭が。

 

俺が苦い思い出に苛まれている間に、いつも通りツツジが本気のジム戦を相手にお願いする。

 

お願いする相手はチヨコさんという、歳を重ねたお婆さん。

一応はこの人がまだトウカジムのジムリーダーだ。

 

しかし本人曰く、もう本気でバトルをする体力が無いとの事だ。

だから自分の後を継がす為にセンリをスカウトして来たとか。

 

成る程なぁ。

確かに本人が言う通り、もうそんな体力はないのかも知れない。

今もカクレオンがお婆さんの隣で静かに佇み、何かがあった時にフォローしようと控えている。

 

この人が凄く上品な人なので、隣のカクレオンがまるで老執事に見えて、何か凄く似合う。

 

ポケモンとのこういう関係は羨ましい。

お互いに信頼し合っているのが良くわかる。

この人のバトルの強さはわからないが、この2人の関係を見るだけでも、この人がジムリーダーとして相応しい人だって事は良くわかる。

 

……引退したらどうすんのかな?

この人がスクールで教鞭取るなら授業に参加しても良いかな。

ポケモンとのコミュニケーション授業とかやって欲しいわ。

 

そんな事を考えていたら、センリが提案を出して来た。

 

「私は自分がジムリーダーに相応しいかはまだわからないが、バトルには自信がある。……どうだろう? チヨコさんの代わりと言っては何だが、私とバトルをしないか? 私も君も次期ジムリーダーとして手合わせをするというのは、悪くない提案だと思うが。」

 

「そういう事でしたら、是非ともお願い致しますわ。」

 

お願い致しちゃうか~。

まだ“まもる”を覚えてないからケッキング相手はキツイんだけどなぁ。

この世界でも、“まもる”さえ覚えれば完封とは言わずとも大分楽に戦えるだろうになぁ。

まぁケッキングの相手をツツジがするなら、俺は別の相手かも知れないけど。

 

「私のケッキングは強いぞ、何せ子供の頃から長年連れ添い、【()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

……………。

…………。

………。

……。

…。

 

……は?

 

はぁぁぁ!?!?!?

いや、待て、はぁ!?

おいっ、おまっ、うっそだろ!?

ちょ、ケ、ケッキングがなまけない!?

まさかのシュッキングゥゥゥ!?

 

あ、あり得ねぇ!?

ふざけんな!

 

働けアルセウス!!!

 

おまっ、お前がなまけてるせいで、働いたら駄目な奴が働いちゃってるじゃねぇか!!!

ざけんなよマジで!

 

ケッキングの総合種族値はグラードンやカイオーガと同じで670だぞ!?

あれか!?

ホウエン地方の新しい伝説ポケモンか!?

 

レジギガスなんて目じゃありませんねってか?

やかましいわ!

 

……こんなんどないせいっちゅぅねん。

 

『強さを追い求める男』が、センリのキャッチフレーズだけど、いくら何でも追い求め過ぎだろ……。

 

「ほら、普通のケッキングならボールから出たら寝そべる所、私のケッキングはピシッと立っているだろう?」

 

センリは自慢する様にボールからケッキング___いやもうこれシュッキングを出して、笑って俺達に見せる。

 

……わ、笑えねぇ。

いや引きつった笑いならしてるかも。

 

そして俺は、気付きたくもない物に気付いてしまう。

 

センリのシュッキングはまるでネクタイをするかの様に、()()()()()()()()()()()()

 

多分持ち物だ。

 

この世界はポケモンに持ち物を持たせる事が許されているが、基本はきのみばかりだ。

何故なら、前世で持たせていた様な優秀な持ち物が中々見つからないからだ。

 

だから普段は俺もポケモンにはきのみを持たせている。

最近はツツジと色々な所に出回っているので、少しは所持しているきのみも増えて来た所だ。

 

しかしセンリのシュッキングが持っているあれは、もしや___

 

「あの、センリ、さん。……その、もしや、シュッ___ケッキングの首に着けられている物って“いのちのたま”、ですか?」

 

「驚いた、良くわかったな!」

 

……驚いたのは、俺だ。

シュッキングに“いのちのたま”とかアンタ___

 

「へぇ、それが。……知識としては識っていましたが、初めて見ますわね。 ですが、それを着ける事を良くそのケッキングは了承しましたわね?」

 

当たり前の話だが、ポケモンは生物だ。

だから基本的には自分が傷つく事を嫌う。

 

戦っている時でさえそうだ。

仮に全力でパンチをした所で、それは自分の拳が傷つかない範囲での全力だ。

 

ポケモンの技には強力な技が多いが、中には強力だが反動で自分もダメージを喰らう技がある。

 

そういう技はポケモンは使いたがらない。

それこそ、命の危機レベルじゃないと使わない事さえある。

そういう反動技を使わせる事が出来るのも、トレーナーとポケモンの信頼関係ありきと言える。

 

だから、攻撃力が上がる代わりに自身にダメージを蓄積する“いのちのたま”を持ち物として了承させるのは、かなり凄い事と言える。

 

だからツツジは驚いているのだが___

 

「ははは。 うーん、これから戦うから言うのはどうかと思ったが、よし、ヒントとして教えよう。 実は私のケッキングは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

……………。

…………。

………。

……。

…。

 

は、は、働けアルセウス!!!

 

そんなん、おまっ、【ちからずく】じゃねぇか!?

“いのちのたま”持ちでも問題無いってそれしかねぇぞ!?

 

はぁ!?

おまっ、珠持ち【ちからずく】のシュッキングゥゥゥ!?

 

最早改造ポケモンレベルじゃねぇか!?

 

お前が相手して負けろバーカ!

 

どうなってんねんこの世界。(白目)

 




シュッキング(ケッキング)♂
トレーナー センリ
性格 いじっぱり
特性 ちからずく
持ち物 いのちのたま

覚えてる攻撃技

ほのおのパンチ
れいとうパンチ
かみなりパンチ
ばくれつパンチ
ダストシュート
いわなだれ
じゃれつく
のしかかり
なしくずし
ふいうち
カウンター
じたばた
からげんき
ギガインパクト

覚えてる補助技

あくび
なまける
ドわすれ
ビルドアップ
ちょうはつ



……自分で設定したけど、酷いなこれ。

もしかしたら明日、いやもう今日の金曜日は投稿出来ないかもしれないので、ご了承下さい。


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二十二話

何とか投稿出来ました。
ちょっと無理やり感がありますが、ご了承下さい。



「……センリさん、無理です。 俺達では1対1で貴方のケッキングには勝てない。」

 

「ソースケ!?」

 

ツツジが俺の言葉に驚くが、事実だ。

どう考えても、どんな戦術を構築しても、勝ちの目がまるで見えない。

 

「……私のケッキングを見て、力の差を感じたのかな?」

 

「はい。 ですので、俺とツツジの連戦って事で頼めませんか?」

 

「ほぅ、君達2人ががりなら私のケッキングに勝てると?」

 

「……可能性はあるかと。」

 

ほんの僅かな可能性だが。

 

「わかった! そこまで言うならやってみよう!」

 

センリは俺の提案を了承して、バトルコートへと移動する。

何とか提案が通った事にほっとして、俺もバトルコートへ向かおうとしたらツツジが話掛けて来た。

 

「……何故こんな提案を? 確かにあのケッキングが強いのはヒシヒシと伝わって来ましたが、だからと言って連戦なんて……。 あのケッキングはそこまでですの?」

 

「そこまでだ。……ダイゴさんのメタグロスを覚えているか?」

 

えぇ、とツツジは頷く。

だったらわかんねぇかな?

 

「あのケッキング、恐らくはあのメタグロス以上だぞ。」

 

最低でも絶対にあのメタグロス並みだ。

そもそも【ちからずく】と“いのちのたま”のコンボの時点で強力過ぎるんだ。

仮にケッキングの力量(レベル)が低かったとしても、それでもなお超火力待ったなしだからな。

メタグロスをメガシンカさせて、ようやく勝負になるかって所だろう。

 

タイマン性能は伝説に匹敵すると考えて良い。

……この世界の伝説がどこまでヤバいかわからないけど。

 

「……チャンピオンクラス、ですか。 願ったり叶ったりですわね。」

 

言葉こそ強気だが、ツツジの声は震えている。

しかしその顔には闘争心が現れているので、きっと武者震いって奴なんだろう。

 

そして俺達はセンリの待つバトルコートに着いた。

 

「最初は俺が行く。 俺のバトルを見ながら戦い方を考えておいてくれ。」

 

「……了解しましたわ。」

 

……もしも、1対1のバトルだったならば、俺はエルフーンにワンチャンを賭けていただろう。

アンコール縛りや睡眠嵌めの可能性に賭けて。

 

……望みは酷く薄いけどな。

 

“くさぶえ”は当たったとしても眠る可能性が高くはないし、“アンコール”はそもそも期待出来ない。

 

補助技を“アンコール”で縛るのは確かに強力だけど、そもそも補助技は自身を有利にする為に使うので、()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()

 

ボーマンダを所持している時に、態々(わざわざ)野生のポチエナ相手に“りゅうのまい”や“はねやすめ”を使う必要はあるか?

 

……そんな必要ない。

適当に殴れば、それで一撃だ。

 

シュッキングとエルフーンの間にそこまでの差があるとは思わないが、補助技を使う必要が無い程度には差があるのは事実だ。

だから“アンコール”縛りには期待出来ない。

 

だからここは___ボソボソ

 

「___化け物退治だ。 やろうか、ロトム!」

 

「お前の出番だ、ケッキング!」

 

俺はロトムに賭ける。

 

「ケッキング、“ほのおのパンチ”!」

 

持っていたか、予想していたさ!

 

「頼むぞ、ロトム!」

 

俺は指示を出さない。

()()()()()()()()()()

 

シュッキングがセンリの指示で拳に炎を宿し、ロトムとの距離を一瞬で詰めて“ほのおのパンチ”を繰り出す。

ロトムはそれを喰らいながらもシュッキングに対して“おにび”を当てる。

 

「良くやった!」

 

「倒れない!? それに火傷?……“おにび”か!?」

 

ロトムがシュッキングの超火力“ほのおのパンチ”を喰らっても戦闘不能にならない秘密は、俺が持たせておいた“オッカの実”にある。

この実は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

フエンタウンの近くに生えていたのを確保しといて良かった!

 

そして俺は運が良い。

“ほのおのパンチ”だからロトムは耐える事が出来たが、これが“れいとうパンチ”なら一撃で沈んでいた。

この最初の指示に関しては本当に賭けだった。

 

「さぁ、逃げろロトム! 鬼ごっこだ! 捕まるなよ!」

 

「むっ!? 追えケッキング! “ほのおのパンチ”で今度こそ沈めろ!」

 

火傷になり物理攻撃力が半減になったとは言え、次に“ほのおのパンチ”を喰らえば今度こそロトムは沈むだろう。

 

だから逃げろ。

喰らうな。

お前にはまだ仕事が残っている!

 

「ロトム!」

 

「当てろ、ケッキング!」

 

迫るシュッキングに対して、ロトムが目をキランと光らせ逃げる。

 

そして僅かに、本当にギリギリで、“ほのおのパンチ”が掠る程度でロトムは逃げ切った。

 

「良いぞ! 最高だ!」

 

「む!?……ケッキング!? “いのちのたま”が___」

 

ロトムは逃げながらも“トリック”を成功させてくれた。

“トリック”はお互いの持ち物を交換する技だ。

 

奪わせて貰ったぞ、“いのちのたま”!

これにセンリは動揺している!

 

「今だロトム! “でんじは”!」

 

「しまっ___!?」

 

センリが動揺してシュッキングに指示を出す前に、ロトムはシュッキングに“でんじは”を当てて麻痺させる。

 

「くっ! そうか君は補助技使いか! ケッキング、“ちょうはつ”!」

 

くそ、やっぱり持ってたか!

……これでもう、補助技は使えない。

 

“ちょうはつ”を持っている可能性は考えていた。

この化け物シュッキングの弱点は、補助技くらいだからな。

それ以外ならほとんど真正面から全てを叩き潰せるのだ。

このシュッキングを育てたセンリが、そこを補わない訳がない。

 

だから俺は、前もってロトムに指示を出していた。

俺の言葉で補助技を使うのがばれない様に、先にロトムに技を出す順番を指示しておいた。

 

……だがそれもお仕舞い。

俺の戦い方はこれで何も出来なくなった。

 

「……でも悪あがきぐらいはするさ! ロトム、“イカサマ”!」

 

「ケッキング、“からげんき”!」

 

シュッキングが麻痺しているので、素早さ関係は逆転する。

先に動いたロトムが()()()()()()()()()()()()()()()()()、ダメージを与える。

 

“イカサマ”は相手が火傷でも関係ない。

相手の本来の攻撃力でダメージ計算される。

しかも今のロトムは“いのちのたま”を持っている。

それなりにダメージは入る。

 

……だが、当然シュッキングは倒れない。

体力も物理防御力も高いシュッキングだ。

いくら火傷ダメージを負っていても、“イカサマ”では倒れない。

 

それでも、体力の半分以上は持っていけたと思う。

 

シュッキングの高威力“からげんき”を喰らい、倒れるロトムに俺は感謝の念を送る。

 

……良くぞここまでやってくれた。

お前のおかげで、可能性は作れたぞ。

 

ポケモンには、“バトンタッチ”と言う技がある。

その技は簡単に言って、自身の状態を後続に託すという技だ。

例えば自身の上昇した能力を託す、とかな。

 

……俺はポケモンじゃないので“バトンタッチ”は使えないが、それでも、後続に有利な状況を作る事が出来る。

 

これがトレーナー同士の____

 

「“バトンタッチ”だ。 ツツジ、後は頼む。」

 

「任されましたわ!」

 

俺はツツジとハイタッチして後を託す。

 

火傷にはした。

麻痺もさせた。

道具も奪った。

体力だって削った。

 

シュッキングの戦力は確かに削れている筈だ。

起点は、確かに作ったぞ。

 

「……強い。 君は確かに強かったよソースケ君!」

 

「私達だって負けられませんわよ! 行きますわよメレシー!」

 

……これだけの状況を作っても、それでもなお戦況は五分五分と言って良い。

それだけ、あのシュッキングは化け物なのだ。

 

……ここからは何も出来ないのが歯がゆい。

 

「メレシー! “リフレクター”!」

 

「ケッキング、“からげんき”!」

 

メレシーとシュッキングの素早さはほぼ同速。

本来なら圧倒的にシュッキングが速いのだが、ここで麻痺が活きて来る。

シュッキングの素早さを抑えつつ、麻痺る可能性があるからな。

 

そして先手を制したのはメレシー。

“リフレクター”を張り、シュッキングの“からげんき”ダメージを半減に抑える。

そもそもシュッキングはメレシーに対して高い打点がないからな。

これは良いぞ。

 

「む、……仕方ない。 ここは一旦落ち着くとしよう。 “なまける”。」

 

持ってるよな~。

クソが。

体力を半分も回復する技だ。

そりゃ持ってない訳ないよな。

 

……でもさ、【なまけ】が無くなったんだから、その技は使えなくても良くないかな?

あぁ、ロトムの“イカサマ”ダメージが消えて行く。

 

「メレシー、“スキルスワップ”ですわ!」

 

“スキルスワップ”?

この期に及んで?

 

シュッキングには火傷をさせたので、普通の物理技はもう火力がそこまで出ないぞ?

実際“からげんき”が最大打点の筈だ。

 

今更【ちからずく】の特性と【クリアボディ】の特性を変えて何になる?

寧ろシュッキングの能力が落ちなくなるので、欠点だと思うが?

 

……何だ?

何がしたい?

何を狙っている?

 

「メレシー、“げんしのちから”!」

 

「ケッキング、“からげんき”だ!」

 

メレシーにもシュッキングにも大したダメージは入らない。

まぁ、シュッキングの方がダメージは大きいかな?

 

いや、それでも何故“げんしのちから”?

確かにシュッキングは特殊防御力が高くはないので、攻めるならそこが良いかも知れないが。

 

態々“スキルスワップ”する程か?

10%の能力上昇機会を捨ててまで、“げんしのちから”の火力を上げて攻める必要はあるのか?

 

……やっぱりおかしい。

ツツジはそこまで馬鹿じゃない。

 

「ここまで来たら我慢比べだな! 先に相手を落とすぞケッキング! “からげんき”!」

 

「っっっ、で___メレシー“げんしのちから”!」

 

再びメレシーが“げんしのちから”を叩きつけ、“からげんき”を喰らう。

 

……ツツジは何かに迷っている。

何かを躊躇っている。

 

しかしツツジが迷っている間にも、戦況は進んでいる。

シュッキングには確かにダメージが蓄積されているし、メレシーにもダメージが入っている。

 

いくら効果いまひとつで、物理ダメージ半減の“リフレクター”を張っているとしても、何度もシュッキングの馬鹿げた火力の“からげんき”を喰らえばそりゃダメージは溜まる。

 

……俺はつい、ツツジに声を掛けてしまう。

本来はバトル中に声を掛けるのはマナー違反なんだが、すまんセンリ。

 

「ツツジ! 何に迷っているのか知らないけど、とにかく全力でやれ! じゃないとあのシュ___ケッキングには勝てないぞ!」

 

「ソースケ、……そうですわね。 とにかく全力で行ってみなくては!」

 

ツツジは何かの覚悟を決めて、指示を出す。

 

「ははは! よし、全力で来い!」

 

「はい! 行きますわよ、メレシー___いえ、()()()()()()! “ダイヤストーム”!」

 

はぁ!?

おまっ、そんなの狙ってたのか!

 

ツツジからそう指示を受けたメレシーは、グワッと光に包まれ、無理矢理、いや、【ちからずく】でディアンシーに変異し、“ダイヤストーム”を放つ。

 

「シィィィ!!!」

 

「出来ると思いましたわ! 元よりメレシーは既に条件を満たしていると思ってました! 宝石は既にダイヤになっておりましたし、強さも申し分ない。 後はきっかけさえ、それこそ【ちからずく】でならもしかしたらと!」

 

うっそだろお前!?

そんな、そんな屁理屈ありか!?

 

俺が口をあんぐり空けて驚いていると、“ダイヤストーム”で舞い上がった土煙の中から、シュッキングが現れる。

 

……マジっすか。

これに耐えるのかよ。

どう考えても“ダイヤストーム”で決まる空気だったじゃないか。

 

そんな事お構い無しにセンリは告げる。

 

「驚いた! それは進化かい!? いや変異?……どちらにしても、まさかバトル中に狙ってそんな事が出来るなんてな!」

 

……いや、驚いたのは俺とツツジ。

やっぱシュッキングって化け物だわ。

 

「くっ、まだですわ! ディアンシー! もう一度“ダイヤストーム”!」

 

ツツジの攻撃宣言に、センリはニッと笑う。

 

「ケッキング、“ふいうち”!」

 

俺は前世のポケモンバトルでの、ある言葉を思いだす。

 

『真の強者は、“ふいうち”を外さない。』

 

……成る程、これは強者だ。

 

終わったと思った。

折角メレシーからディアンシーに変異したけど、そのせいで、ディアンシーの体力は削れている。

変異するのに、体力を多少使っている。

“ふいうち”は耐えきれない。

 

が___

 

シュッキングは麻痺で動けなかった。

 

ロ、ロトムさーん!!!

アンタやっぱり良くやったよ!

 

シュッキングは動けない所に“ダイヤストーム”を喰らい、今度こそ沈んだ。

 




ちなみに、センリはちょっと手加減しています。
“あくび”使って来てないしね。
タイマンでは害悪技を使わないトレーナーの鑑。


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二十三話

……勝った。

……未だに、信じられん。

あの化け物(シュッキング)に、俺達は本当に勝ったんだ。

 

っ~!

やってやったぜこん畜生!!!

ポケモンの性能の差が戦力の決定的な差ではないんだよ!

赤い人の言葉は間違ってなかったぞ!

 

俺があまりの喜びにグッとガッツポーズを決めていると、ツツジがタッタッタと走って来て、ガバッと俺に抱きついた。

 

「やりましたわソースケ! 私達、勝ちましたの!」

 

おおぉぉお、お、おぅ。

え、ちょっ、ツ、ツツジさん!?

……あ、何か良い香りが。

 

混乱の極致の俺を余所に、ツツジはパッと離れ嬉しそうな笑顔を見せて、俺を褒める。

 

「貴方のおかげですわ! 貴方がケッキングを苦しめたおかげで、私が仕留める事が出来たんですの!」

 

「あ~………や、うん。……まぁ、センリさんの手加減ありきだけどな。」

 

ツツジの褒め言葉で、俺は逆に冷静になった。

 

今回は確かに勝った。

勝ちはした。

 

が___

 

それはあくまでセンリが受けて立つ側だから、何とか勝てたに過ぎない。

 

もしも初手が“れいとうパンチ”だったら?

ロトムは耐えられず一撃で落ちて、何も出来ずに終わった。

 

もしも“おにび”を当てられ火傷状態の時に、逃げるロトムを追わずにその場で“ビルドアップ”なんかをして火力回復に努めたら?

“トリック”は成功したとしても、その後が厳しくなる。

 

そもそも初手が“ちょうはつ”だったら?

シュッキングの最大の弱点は補助技だ。

もし初めから“ちょうはつ”をされてたらその時点で詰んでた。

 

他にも色々、センリが安定して勝つ事が出来た場面は多々ある。

 

これらは結果論ではある。

だがこれだけの勝ち筋があるのに、それに至ってないのは偶然ではなく必然だろう。

 

センリは確かに全力だったのだろうが、それは受けて立つ側の全力で、挑戦者としての全力ではなかった。

何が何でも勝ちたいという様な、俺達の様な気迫は感じなかった。

 

それこそ、相手がダイゴさんクラスならもっと違う戦い方になった筈だ。

 

その証拠に、俺達相手にセンリはたった2度しか、補助技を指示していない。

……“ちょうはつ”と“なまける”のみ。

 

2連戦で補助技がたった2回。

自身を有利にする為に存在する補助技をたった2回。

俺達相手にはそれだけで十分と判断したのだろう。

 

それだけで、格の違いがわかるってもんだ。

結果的には俺達が勝ったが、その判断が間違っていたとは思えない。

 

それだけの“差”は確かにあった。

 

ちなみにシュッキングが他の補助技を持っていない、なんて可能性は0だ。

こんな化け物を育てた人物が、補助技を覚えさせないなんてある訳ない。

 

本来ならこの人は連結技だって使えた筈だ。

俺の予想が正しいなら、“なまけながらドわすれ”や“なまけながらちょうはつ”、そして最悪の可能性として“なまけながらあくび”なんて出来た筈だ。

 

……やっぱり、1対1ではどうやっても勝てない。

ってか今回勝てたのも、本当に運が良かった。

 

勝ちはしたが、それでもなお戦慄が止まらない俺を余所に、センリは目を瞑りながら負けの余韻を楽しんでいる。

 

……これじゃどっちが勝者かわかんねぇや。

 

「……本当に、本当に、良いバトルだった。……負けたと言うのに、こんなに心が踊ったバトルは実に久しぶりだ。」

 

センリはニッコリと、穏やかに笑ってそう呟く。

そして自重する様な苦笑いに変わり、俺達に申し訳なさそうに謝る。

 

「すまない、ソースケ君、ツツジさん。 私は君達を侮っていた。……いや、舐めていた。 私の息子とそう年齢の変わらない子供が相手だと、君達を格下だと軽んじていた。 次期ジムリーダーとは言え、たかが子供相手の2連戦だと思い上がってしまった。」

 

……いえ、事実格下です。

 

「何が『バトルには自信がある』だ。……私にあったのは、自信ではなく過信だった。 慢心だった。 ただの油断だった。」

 

いえ、えっと……あのシュッキングを所持しときながら油断も慢心も無かったら、それこそ勝ち目0なんですが。

 

「何と烏滸がましい事か、何と恥ずべき事か。……こんな有り様で、私にジムリーダーが勤まる筈がない。……もう一度、最初からケッキング(こいつ)と自身を鍛え直したい気分だ。」

 

「いやいやいやいや!!! センリさんはジムリーダーに十分相応しいですよ!?」

 

アンタが駄目なら誰がOKなんだ!?

その強さの一点だけでも十分相応しいぞ!

 

「その通りですわ、センリさん。 私達も結局は1対1では貴方に勝てるすべはございませんし。」

 

「勝てる勝てないの問題ではなく、私の心持ちの問題なんだが……。」

 

えぇ~、この人ストイック過ぎない?

こんなパパンに育てられたら、そりゃ主人公は強くなるよ。

 

「……そうですわね。 わかりました。 センリさん、勝者として貴方に我が儘を言っても良いでしょうか?」

 

「何を___」

 

「私、貴方のケッキングに1対1で勝てる様になりたいので、貴方にはトウカジム(ここ)で、ジムリーダーとして、私の挑戦を待っていて欲しいですわ。」

 

……うっわ、目標デカ過ぎ。

 

センリは最初ポカンとしたが、次第に笑いが込み上げて来たのか、声を大きくして笑った。

 

「くくく。……ふぅ、了承した。 君の挑戦はいつでも大歓迎だ。……勿論、ソースケ君もな。」

 

あ、いえ、私は結構です。

誰があんな化け物を2度も相手にするかってんだ。

ロトムさんが可哀想だろ。

俺は(自分の)ポケモンには傷付いて欲しくない、愛のある優しいトレーナーなんだぞ。

 

俺は絶対に、2度と、確実に、あのシュッキングと再びバトルなんてしない事を心に誓った。

 

そして俺達はセンリとのバトルが見事だったという理由でバランスバッジを授与されたのだった。

 

……センリがジムリーダーになったら確実にバランスブレイカーなんだけどなぁ。

ホントにこの名前のバッジで良いの?

チートバッジでも良いと思うよ俺は。

 

そんなこんなで俺とツツジはトウカジムから帰る時間を迎えた。

今はトウカジムの前で、センリが見送りをしてくれている。

 

「それでは道中気を付けて帰るように。」

 

「お気遣いありがとうございますの。」

 

ははは、アンタのシュッキングよりヤバい奴なんていないから問題ないぜ。

 

「私は来月から正式にジムリーダーに任命されるだろう。 それ以降なら、先程も言った様にいつでも私を訪ねてくれ。」

 

「はい。 自分の腕が上がったと確信しましたら、訪ねさせて頂きますわ。」

 

「私もそれまでに腕を磨いておくよ。」

 

それ以上はやめてけれ。(白目)

 

「あぁそうだ、ツツジさん。 私は来月に備えて、一度ジョウトに帰るのだけど、……もし興味があるなら、ヨーギラスなんて欲しかったりしないかい?」

 

「まぁ! 興味ありますわ! ヨーギラスを頂けるのですか!?」

 

「それは良かった。 私の知り合いが里親を探していてね。 少々いじっぱりな子だが、バトル向きの強い子だと聞いた。 岩タイプのツツジさんなら或いはと思ってね。 では来月ヨーギラスも連れて来るので、再びここを訪れてくれ。」

 

「はい! 必ず! ありがとうございますわ!」

 

なん……だと……。

ヨーギラスって事は、将来はバンギラスゥ!?

種族値の暴力!!!

 

センリさんアンタねぇ!

自分が670族(ケッキング)使ってるからって、人に600族(バンギラス)与えるなよな!

お前将来は俺が相手しなきゃいけないんだぞ!?

 

畜生!

“おきみやげ”された気分だ!

俺の物理攻撃力(たいりょく)特殊攻撃力(せいしん)が、ガクッと下がった気がした。

 




感想にて、シュッキングが化け物過ぎて、この世界の四天王などの強さのインフレを心配されたので、少し説明をします。
このシュッキングは紛れもなくこの作品の最強格の一匹です。
他のトレーナーが弱い訳ではなく、こいつが純粋に化け物となる様に設定しました。

が___

じゃあ四天王は弱いのか?
と言われると非常に困る。
この作品の目的が最強のトレーナーを目指す事ではなく、嫁を落とすまでの話ですので、正直四天王とか出す予定ないし、強さの設定とかしていないのです。

けども___

流石に弱く設定したくはないので、このシュッキングを基本に立ち向かえそうなポケモンを設定しました。
(本編に出るかは未知数だが)

サマヨール♀
トレーナー フヨウ
性格 のんき
特性 おみとおし
持ち物 しんかのきせき

覚えている攻撃技
ほのおのパンチ
れいとうパンチ
かみなりパンチ
シャドーパンチ
きあいパンチ
かわらわり
かげうち
おいうち
ふいうち
しっぺがえし
すてみタックル

覚えている補助技
にらみつける
かなしばり
おにび
あやしいひかり
のろい
くろいまなざし
どくどく
ちょうはつ
いちゃもん
さしおさえ
みちづれ
ふういん
おきみやげ
スキルスワップ
トリックルーム
いたみわけ
よこどり

……これならやれるでしょう。
火傷にするのが前提条件ですが、これならシュッキングと対等に戦えると思います。
後は“ふいうち”さえ警戒すればいけるかな。

ちなみにホウエン最強四天王のゲンジの場合、相棒がボーマンダなので、どう考えても“れいとうパンチ”で一撃だった。
すまんなゲンジ。



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二十四話

一応、二話連続投稿。
0時越えたけど、今気付いた人は前の話を読んで下さい。


俺の今世における最大の難敵であるシュッキングとのバトルを無事に終え、俺達は何とかカナズミシティへと帰って来る事が出来た。

 

……来年、あのシュッキングと戦う事になるかもしれないユウキ君やハルカちゃんの苦難を考えるとマジで同情せざるを得ない。

 

センリは、『来年でトレーナー資格を得る息子に負けない様に修行しないとなぁ』なんて笑って言っていたので、最低でも原作ゲーム以上の、俺達以上の難易度だろう。

 

……俺達のせいかはわからんが、すまんな頑張れ。

 

ちなみに、センリの息子がユウキ君であるのは確定した。

『私の息子のユウキが来年にはホウエン地方に来るので、君達とは良い友人になるだろう』って言ってたからな。

 

そして、『私の息子なんだ、カナズミジムに挑戦する時は全力で相手をしてやってくれ』とも言ってた。

 

……H×Hのジンかな?

親父ってのは、息子への信頼感というか、期待感が中々大きいものらしい。

 

それはさておき___

 

今回のジム戦は俺達にとんでもない成果を与えてくれた。

 

それはシュッキングに勝った自信だとか、ツツジがヨーギラスを貰う約束をしたとかでは無い。

 

当然、メレシーがディアンシーへと変異を起こした事だ。

 

正直言って、マジかよ、って感想だ。

 

そりゃまぁ発案者としては、やったぜ!とは思うけど、半信半疑だったのは事実なので、ウッソだろ!?って気持ちの方が強い。

 

しかも変異したディアンシーはダイゴ神から支給されていた、青紫色のダイヤのディアンシーだ。

 

……色違いってレベルじゃねぞ。

 

これで完全に原作を無視したので、ここが前世とは無関係な別の世界線だというのは、(ほとん)ど確定した。

……まぁシュッキングの時点で確定してるけど。

 

とにもかくにも、俺達はこの事をダイゴ神に報告しないといけないので、今日はもう遅いから解散したが、翌日の朝一番に報告する為にデボンコーポレーションに向かう事を約束をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これがディアンシー! す、凄いよツツジさん!」

 

今は昼前。

ポケモンリーグへの挑戦者を完膚(かんぷ)無きまでにぶっ潰して現れたダイゴ神が、ディアンシーを見てそう言って感動している。

 

……けどこの神やっている事かなり酷いんだけどな。

 

俺達が朝方に連絡した時には、『今日は挑戦者がいるから午後からしか時間が取れそうにない』とか言ってた癖に、メレシーがディアンシーに変異した事を告げた途端に、『1時間でデボンに向かうから待っていてくれ』なんて頼んで、マジで1時間以内で来たからな?

 

話によれば四天王戦をカットして、即挑戦者と戦い、メタグロスをメガシンカさせて全抜きして来たとか何とか……。

 

……挑戦者、可哀想。

確実にトラウマもんだろ。

ってか、メガシンカ出来たんですね。

 

それにホウエンのポケモンリーグがある場所とカナズミシティは、ホウエン地方の西と東で端と端なのだ。

これを1時間以内で飛んで来た時点でこの神ヤバい。

 

どんなスピードで“そらをとぶ”して来たんだろうか?

ポケモンのスペック同様、この神の身体スペックも滅茶苦茶やべぇぞ。

 

「驚くべき成果だ、素晴らしい成果だ、驚異的な成果だ!……ツツジさん、これは世界的な大発見だよ! そしてソースケ君! 本当に見事な発案だった!」

 

「「あ、はい。」」

 

……正直、テンション高過ぎて怖い。

 

「……それにしても、何て美しい色をしたダイヤなんだろう。 人工ダイヤどころか、天然ダイヤですら目じゃない。 これがポケモンによって精製されたダイヤの美しさなのか。」

 

神はうっとりしながらそう呟く。

 

「あの、えぇっと、……ディアンシーが“ダイヤストーム”で生み出したダイヤがここにあるのですが、……その、要りますでしょうか?」

 

「要るさ!!! 是非とも僕に譲ってくれ!いや、売ってくれ!」

 

あ、いえ、タダで譲ります。

と、ツツジはダイゴ神にディアンシーが生み出した青紫色のダイヤを手渡す。

 

「ありがとう! ツツジさん! こんな、こんなっ!……こんなに嬉しいのはメタグロスが進化して以来だよ!!!」

 

えぇ~、いや、確かに凄い事だけど、アンタのメタグロスの進化と一緒にしていいのかこれ?

メタグロスが泣いても擁護出来ないぞ。

 

「それにしても、ディアンシーの変異を目の当たりにしたセンリ君が羨ましいなぁ~。」

 

……あぁ~、あの時ね。

それに関しては殆ど偶然と言うか、無理矢理と言うか、ホント【ちからずく】だったからなぁ。

 

あ、特性に関しては元に戻ってます。

 

ディアンシーは【クリアボディ】に戻ったし、ケッキングは【ちからずく】のままだ。

……ちなみに、俺がロトムに奪わせた“いのちのたま”もキチンと返したぞ。

 

……いやまぁ、欲しかったんだけどね?

“いのちのたま”。

 

けど我が宗教では“いのちのたま”は認められてないからさぁ。

……いや、俺、忍耐論者じゃないけど。

 

けど、俺の戦法じゃ使える場面は限られているので惜しくは無いのも事実だ。

 

そして、トウカジムで発した“ダイヤストーム”のダイヤモンドは、センリのジムリーダー就任祝いとして、そのまま置いて来た。

……いくらでも、それを利用してトウカジムを発展させてくれてえぇんやで?

 

……多分、ダイゴ神なら良い値で買うだろう。

 

「本当に素晴らしい成果だ。……だけど、これを世間に発表する訳にはいかないのが、非常に残念でならない。」

 

……当然だな。

ダイヤモンドを産み出すディアンシーを、人工的に変異___いや、最早進化だな。……進化させる事が出来るなんて発表したらメレシーの乱獲に繋がりかねないし、ツツジ本人が悪い奴等から狙われかねない。

 

……本当に残念だが、この研究成果は世間に公表出来ない。

 

まぁダイヤを与え続ける事なんて、普通は不可能だけど。

 

こうして、ダイゴ神が現れた後にオダマキ博士が来て、ディアンシーが本物と認定されてから、ツツジはちょっとした注意を受けた。

 

「ツツジさん、大変申し訳ないが、これからはそのディアンシーを表に出す事はなるべく控えてくれないだろうか? ディアンシーが目立ち過ぎると良い事はないからね。」

 

……あぁ~、確かにそれはそうだ。

犯罪者ホイホイのポケモンだからなぁ。

 

……だけど、ディアンシーって使えるとなると、それなりに強いからなぁ。

 

「……わかりました。 多少は控えますが、ディアンシーは私のエースですので、完全に隠すのは無理ですが、よろしいですか?」

 

ダイゴ神もオダマキ博士も、それは仕方ないとして納得し、これからのディアンシーの処遇が決まった。

 

そして実験の続きとして、これからはディアンシーに普通のポケモンフーズを与える事になり、これによってディアンシーのダイヤが変化するのかどうかの実験が今度は開始されるのだった。

 

……今までダイヤを食べてたのに、急にポケモンフーズに変更されたディアンシーがちょっと可哀想だ。

 

ってかこれで、メレシーに退化したら残念過ぎるぞ。

 

なんて事を考えながら俺はディアンシーについて考察する。

 

俺個人の感想としては、ディアンシーの存在は驚異だ。

もし、このディアンシーがメガシンカする事になれば、俺の天敵になりかねないからだ。

 

何故なら、メガディアンシーの特性は【マジックミラー】だからだ。

 

この特性は、“マジックコート”で跳ね返せる補助技を()()跳ね返し続ける特性だからな。

……俺との相性が、酷く悪い。

 

まだメガシンカに必要な“キーストーン”だったり、“ディアンシナイト”だったりを手に入れてないので、考え過ぎと言われればそれまでなのだが、……将来的に考えれば、対策必須のポケモンになるかもしれない。

 

……流石、俺の嫁(仮)だ。

 




ポケマスにて、最近ツツジを手に入れた私。
そしてホームのポケセンにて、ツツジのセリフを聞くと___

『カントーを基本に各地に存在するイシツブテ。 私は子供の頃からイシツブテをゴローニャに育てるのが小さい頃からの目標』

的な事を(省略)、公式のセリフで用意されてました。

……俺、イシツブテをクビにしちゃったよ。

って事でアンケートします。


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二十五話

アンケートありがとうございました。
この話を持ちまして終了します。

以外とイシツブテ人気なくてワロタ。
ノーマル、アローラ合わせてもウツロイドさん以下じゃないか。

しかしアンケートの結果で好きにして良いとの事ですので、これからも好きにさせて頂きます。


さて、ディアンシー変異の一件でのゴタゴタも無事終わらせ、俺達は待ちに待った、夏休みドキドキ2人旅へと、遂に旅立つ事が出来たのだ。

 

昨日のスクールの終業式からドキがムネムネだったぜ。

 

覚悟は良いか?

俺は出来てる。

 

……か、わからん。

 

何の覚悟かって?

そりゃアンタ、下手したら俺の息子がチェリンボからチェリムに進化するなんて事があるかもしれないだろうが。

 

10歳でそれはない?

 

馬鹿野郎!

この世界舐めんな!

 

トレーナー資格を得れる10歳からは一応この世界では成人扱いだぞ!

何があっても___()()があっても、この世界じゃ同意さえあれば犯罪ではなくおめでとうなんだよ!

 

前世の戦国時代以上に倫理観ぶっ壊れてるからな?

 

“きんのたま”を性別関係無く、上げちゃうおじさんが居るくらいだからな。

 

俺がネットで調べた(漁った)結果、中には可愛いポケモンと致しちゃう、物凄い闇も存在するんだぞ?

 

……流石の俺でもそれはねぇよ。

 

とにもかくにも、ツツジさえその気になれば、ゴールは目前なのだ。

2人旅を了承してる時点でツツジからはそれなりの好意を得ていると信じている。

 

これを機に可能な限りグッと距離を縮めたいものだ。

 

……まぁ目的はジム巡りなんですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして旅を始めて3日目、俺達は119番道路に居る。

 

初日はシダケタウン、2日目はキンセツシティでポケセンに泊まり、当たり前だが何も無い。

 

俺が、早目早目に宿を取る事を推奨したからだ。

 

流石に疲れる旅をしたくはないので、休める所で休んだ結果だ。

それぞれの街を観光デート出来たので、それも中々悪くなかった。

 

しかし今日は違うぞ。

遂に、野宿する出番が来たのだ。

 

「これが秘密基地ですか。 確かにソースケの言う通り、一晩過ごすには安全でピッタリですわね。」

 

俺はエルフーンに“ひみつのちから”を使用させ、大きい岩の中に秘密基地を作った。

 

ムフフ、これで外からは察する事が出来ない2人だけの秘密空間の出来上がりだ。

 

無理矢理なんてのは絶対ないが、俺が胸と別の所を膨らませるのは仕方がないのではないだろうか?

何せ俺は()だからな。

 

今はウッキウキで寝る前の準備をしている。

 

シャワーは無いし、トイレも無い。

食事もインスタントで簡素だが、それでもポケセンに泊まるよりか遥かに楽しい。

 

俺達は濡れタオルで身体を拭いた後に、それぞれパジャマに着替えて秘密基地内で張ったテントの中に2人で横になった。

 

ムフゥ! フゥ!

 

……くっそ、今までで一番の緊張だ。

何もしないと考えたとしても、眠れる気なんてまるでしない。

 

そんな興奮をしている俺を余所に、ツツジは静かに横になっている。

 

ど、どうしよう?

もう寝てるのかな?

い、イタズラぐらいなら赦されるかな?

 

そんな事を考え、息も身体も震えているが、俺は行動なんて起こせる筈もなく、眼だけが昼間以上にカッと開いているだけだった。

 

そんな状況で俺がビクビクしていてら、急に手をギュッと握られた。

 

「……まだ、起きていますかソースケ?」

 

いきなり握られた手に、俺が困惑し焦って声も出ない時に、ツツジにそう問われ、俺は緊張で声すらも震わせていた。

 

「お、おぉ、おぅ。 お、起きてる。」

 

「……緊張、していますか?」

 

「えっ!?___」

 

「私も、少し緊張していますの。」

 

ツ、ツツツツツツ、ツツジさん!?

も、もしかして、そ、その、良いのか!?

 

「街のベッドではなく、外での野宿。 いくらここが安全とはいえ、やはり初めての経験ですので、少し緊張が……。」

 

あ、あぁ、そういう。

 

「その、よければこうやって、手を繋いでいて良いでしょうか?」

 

は、恥ずかしい。

何て恥ずかしい想像をしていたんだ俺は!

 

そりゃそうだよなぁ!

普通はそういう考えになるよなぁ!

 

クソが!

ここは男気を魅せる所だ!

この場の雰囲気に乗せられの!

 

俺はガバッと半身を翻し、ツツジに馬乗りになる。

 

……そして、非常に驚いて声も出せずにいるツツジと暗闇の中で確かに目を合わせる。

 

何秒見つめ合っていたかはわからない。

 

だが、ツツジが多少の落ち着きを見せた時に、俺はツツジの額に唇を落とし、体勢を元に戻す。

 

「……心配するな。 俺が隣に居る以上、君は絶対に安全だ。……約束する。」

 

……………。

…………。

………。

……。

…。

 

……ぬぉぉぉ~!!!

は、恥ずかしい!

くっそ恥ずかしい!

 

俺の台詞の後の沈黙が本当に痛い!

 

何か喋ってくれ!

静寂が俺の胸をグサグサ刺してくる!

 

俺が羞恥で悶えていても、ツツジは何も言わない。

 

……だが、暫くするとツツジが俺の側にスッと寄り、肩と肩がピッタリと合う状態までくっつき、指と指を絡ませ___所謂、恋人繋ぎをしてから彼女は就寝した。

 

……これは、どう読めば良いんだ?

女心ってどうすれば読めるんだ?

 

教えてくれ、サーナイト。

ゼロは俺に何も教えてくれない。

 

……ウィングゼロに搭乗した事ねぇけど。

 

……その日は結局、一睡も出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おはよう。」

 

「お、おぉ、おはようございますの!」

 

早朝、結局眠れなかった俺はツツジが目覚める前に彼女から離れ、朝の支度を先に済ませ彼女へと挨拶をした。

 

ツツジは昨晩を思い出してか、顔を真っ赤にして慌てて俺への挨拶をしたら、そそくさと隠れる様に準備を始める。

 

……脈アリで、良いんだよな?

 

恥ずかしいだけとかじゃないよな?

これで幼なじみ認定されたら辛過ぎるぞ。

 

俺は徹夜明けの鈍い頭でそう考える。

 

……まだまだ、旅は始まったばかり。

チャンスはきっとまだある。

 

モーションを掛ければきっとこの旅で行ける所まで行ける筈だ!

 

俺は徹夜明けのテンションのせいもあり、朝から非常にハイテンションだった。

 

朝ご飯を食べ秘密基地を出ても、それは続く。

 

……きっと今ならシュッキングにさえ勝てるという謎の自信もある。

 

僅かに、ツツジとのギクシャクした瞬間もあるが、それさえもポジティブに良しと考えている。

 

そしてハイテンションのままヒワマキシティを目指している時に、俺はあるポケモンを発見する。

 

「あ、あれは、先生!? トロピウス先生じゃないか!?」

 

「えっ?……ト、トロピウス先生?」

 

「知らないのか!? トロピウス先生だぞ!?」

 

ツツジは俺に、えぇ~?と言う反応をする。

 

「いえトロピウスは知っていますが、……先生とは?」

 

「あぁ、先生はな、過去に秘伝と言われた技8つの内、5つも覚える事が出来る達人先生なんだ!」

 

「あ~……成る程。 そういう___」

 

「うん。 捕まえよう。」

 

「えぇ!? 何故ですの!?」

 

……何を驚いているんだ?

ホウエン地方の陸を旅するならトロピウス。

常識じゃないか。

 

ちなみに海ならフローゼルだ。

あ、でも、フローゼルはバトルでも使える。

 

……らしいぞ?

 

フローゼルは厨ポケ、らしいからな。

俺はわっかんないけど。

 

驚くツツジを余所に、俺は先生へと突貫してモンスターボールを投げる。

 

「バトル無視で!?」

 

ははは、問題無いさ。

先生は基本おだやかな習性をしているポケモンなんだ。

 

俺は先生が無事ゲット出来たのを見て、うん、と頷く。

 

「お、おめでとうございます?……い、いえしかし、良いのですか? トロピウスはあまりバトル向きではないような___」

 

「君ね、何でもかんでもバトルに結びつけるのは辞めなよ。 先生は旅のお供のペット枠だよ。」

 

「は、はぁ? その様なものですか。」

 

これで旅は楽だぞ~。

ヒワマキシティのジムはひこうタイプの専門だから、“そらをとぶ”は覚えさせてくれる筈だ。

 

センリからヨーギラスを貰う為にも一度はカナズミ、トウカに顔を出さざるを得ないので、帰りは楽チンだ!

 

……俺はこの時頭をやられていた。

 

そんな事になったら、野宿チャンスが来ない事を忘れていた。

 

それに、トロピウスは身体が大きいのでそれなりに餌を食べる。

……我が家のポケモンの餌代は母ちゃんが出してる。

カナズミに帰った時に怒られる事が確定したのだった。

 




酒を飲んで酔ってる時じゃないと、こんな話書けんぞ。
素面なら、ってか酔ってても、ぬわぁぁぁ!!!
ってなるからな。

暫くはこれでツツジとのイチャイチャは勘弁してくれ。

ちなみにトロピウス先生はペット枠なのでバトルはしません。


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二十六話

トロピウス先生を捕まえて舞い上がった俺は、ツツジに少し呆れられつつもヒワマキシティへと無事たどり着いた。

 

ちなみに、天気研究所も通りがかったが、特に用事はないのでスルーした。

……確かゲームではポワルンが貰えるんだっけ?

ゲームでも使った事無いし、今世でも使う予定皆無なので興味はあまりないけど。

 

そしてヒワマキシティに着いて思ったのは、シティとは名ばかりのすげぇ田舎な所だってことだ。

 

……何と言うか、限界集落?

とにかく自然に囲まれた場所で、ポツポツと木の家があり、近代的な建物はポケセンとフレンドリィショップのみ、みたいな感じだ。

 

うーん、嫌いじゃない。

草ポケ使いとしては自然溢れる環境は決して悪くない。

 

「……何も、ありませんわね。」

 

そう言われると否定のしようがないがな!

 

今はポケセンでチェックインした後に、軽く街を観光している所だ。

ツツジの言う通り、何も無いから観るものも無いけど。

 

「……さっさと明日のジム戦予約しに行くか。」

 

俺達は早速ヒワマキジムへと向かったのだった。

そこで俺はふと、原作ゲームの事を思い出す。

 

確か、ヒワマキジムの前はカクレオンが居るせいで、入れなかったような?

そしてデボンスコープがないとそれを見破る事が出来ないので、ダイゴ神から頂くイベントがあったような___

 

いやいや、別に原作主人公のプレイをしている訳じゃないので俺達に関係はないか。

 

なんて思ってジムへと通じる橋を渡ったら、何も無い所でコンと何かにぶつかり、俺達は前に進む事が出来なくなった。

 

回り込めば、と言うか、隙間的なものを見つければ進む事は別に出来るのだが、この不可解なものをどうにかしたいのは人の性だろう。

ツツジはパントマイムでもしてるかのように、ペタペタと何かを触っている。

 

「な、なんですのこれ?」

 

……うん、やっぱカクレオンだよね。

こんな時期からお前のお気に入りスポットだったのか?

 

非常に迷惑だぞこの野郎。

デボンスコープ探して来いってか?

 

誰がそんな面倒な事をするものか。

ダイゴ神に頼めば一発なのだが、何でもかんでも頼るのは良くないし、折角ここまで来といてカナズミシティにとんぼ帰りは嫌だぞ。

ダイゴ神をヒワマキシティに呼びつけるなんて失礼な事もしたくないしな。

 

「……ツツジ、ちょっと離れてろ。 エルフーン!」

 

俺はボールからエルフーンを出し、何も無い様に見える空間に向かって指示を出す。

 

「ここら辺に向かって“どくどく”。」

 

エルフーンは不思議そうな顔をしたが、一応は俺の指示なので的確に技を出す。

そしたら、何も無い様に見える空間で“どくどく”が見事に当たり、無色透明だったカクレオンが紫色になって姿を現した。

 

「カ、カクレオン!? こんなに近付いてもわからないものなのですか!?」

 

ツツジは謎の物体Xの正体がカクレオンだと判明し驚いている。

 

俺はこのカクレオンと交渉しないとな。

 

「さて、急にすまんな。 お前がちょっと邪魔だったのでな?」

 

カクレオンが俺に向かって非常に怒っている。

うん、まぁ悪いとは思う。

 

「まぁ落ち着け。 ここにモモンの実がある。 お前が少し退いてくれるなら、これをあげよう。」

 

モモンの実は解毒効果がある。

猛毒状態になったカクレオンからしたら、喉から手が出る程欲しいだろう。

 

カクレオンは少し悩んだ末に、スッと身を退いた。

 

「ありがとう。……ほら、ツツジ行こう。」

 

「え、えぇ。」

 

俺はカクレオンにモモンの実を渡して、困惑するツツジの手を引いてジムに向かった。

 

「良くもまぁ、こちらから仕掛けたのにも拘わらずバトルへと発展しませんでしたわね?」

 

「君ね、だから何でもかんでもバトルに繋げるのは止めなよ。ポケモンは賢い種が多いんだ。話せばわかる奴は多いよ。」

 

まぁ、今回俺がやったのは脅しみたいなもんだが。

でもそれも、賢いからこそわかる事だしね。

 

ツツジはあまり納得はしてない様だ。

バトルしてないだけで、俺がしてるのは暴力を使った脅しだからな。

それなら戦った方が良いのではないか?的な考えだろう。

 

俺はただ互いに大きな損はない選択をしただけなんだがなぁ。

 

そういう事がありながらも無事にヒワマキジムに到着し、明日の予約を取り付けた俺達は夏休み初めてのジム戦という事で気合いを入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そしてまたしても、橋の前にカクレオンが居て通れない。

 

「……またですか。」

 

「おいこら、カクレオン。 また“どくどく”放つぞこの野郎。」

 

俺が少しイラッとしながらそう脅すと、またスッとカクレオンが退いて通る事が出来た。

 

本当に、この場所がお気に入りなんだな。

これじゃヒワマキジムに用事がある人は大変だ。

 

ジムトレーナーはどうしてるんだ?

まさか皆デボンスコープ持ちなのか?

それとも俺みたいに裏技じみた脅しでもしてるのかな?

 

……いや待てよ、このジムは飛行タイプ専門だから基本的には皆“そらをとぶ”が出来るので、橋を通る奴はあまりいないのかもしれんな。

 

もしや誰も、ここがカクレオンの常駐場所とは知らないのでは?

これは今後の為にも知らせた方が良いのだろうか?

 

「知っているよ? あのカクレオンをどうにかしてジムまで辿り着くのも、1つの試練なのさ。」

 

「……そっすか。」

 

俺は軽く悩んだ末に、ヒワマキジムリーダーのナギさんにカクレオンの事を報告したら、そう返答された。

 

……あれわざとなんだ。

 

「成る程、その様な試練の方法が!」

 

納得しないでツツジさん。

ジムの試練って普通そうじゃない。

 

何だ、君もジムの前に岩に擬態したゴローンとか置いて『これをどうにか突破するのもジムの試練』とか言うつもりじゃないだろうな?

 

スクールを卒業して、ホウエン地方で1番最初に挑む可能性が高いジムが、そんなクソ仕様だと挑戦出来る奴減り過ぎてある意味大変だぞ。

 

“いわくだき”必須ってレベルじゃない。

下手したら君に挑む前にゴローンで詰む奴が出るぞ。

 

いくら何でもジムバッジ1つも持ってないルーキー相手にそれは可哀想だろ。

将来の同級生、延いては後輩諸君の憂いを何としても改善せねば。

 

カナズミには強化されたツツジ、トウカにはチートのセンリ、キンセツには経験豊富なテッセンのおやっさん。

……カナズミ近辺からジム攻略を目指す若人の良心はムロのトウキさんしかいないかもしれない。

フエンのアスナは火力信者だし、手加減下手そうだから消し炭にされかねないしな。

 

トウキさんなら、トウキさんならっ、きっと適切なレベルで戦ってくれる!

……多分。

 

少なくとも、このままだとツツジは初手からアーマルドやバンギラス、ディアンシーがあり得るからなぁ。

手持ちを出すなら。

 

……挑戦者可哀想。

俺の様なツツジメタみたいなタイプじゃないとキッツイぞこれ。

 

かと言って、トクサネやルネは熟練者じゃないと使えない“なみのり”や“そらをとぶ”がないと行く事も出来ないし、ヒワマキも今のナギさんの発言でわかる通り、挑戦者に配慮するタイプじゃ決してない。

 

仮にトクサネやルネを定期便なんかの船で行った所で易々とは攻略出来ないだろうしなぁ。

特にルネは。

 

……ホウエン地方のジムはいつから魔境になったんだ?

 

……ま、まぁ皆、本来ならそれ相応に手加減してくれるだろ、きっと。

 

問題は将来より今だ。

 

今日はヒワマキジムへの挑戦だ。

挑戦者へ配慮しないタイプの人への挑戦だ。

 

ジムリーダーのナギさんは超美人。

超が付くレベルの美しい人。

 

……だけど、何と言うか、残念美人。

どこか、電波なんだよな、この人。

 

『風が私にもっと輝けと囁いている。』

を地で言いそうな人なんだ。

 

いや、言ってないんだけど。

 

とにかく、見惚れる程美しいけど、マイペース過ぎて対応に困るタイプの人だ。

バトルではそうならない様にしないといけない。

 

……さっきから、俺がナギさんに見惚れる度に、ツツジの目線が痛いしさ。

 



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二十七話

ヒワマキジムの初戦、ナギさん対ツツジは3分とかからず決着がついた。

 

ツツジが岩タイプのスペシャリストだと聞いたナギさんは水タイプを有するペリッパーを繰り出して来たのだ。

そしてそのペリッパーは特性【あめふらし】で、ボールから出てバトルと認識した瞬間にポツポツとフィールドに雨を降らせる。

 

これは不味い。

 

俺がそう思ってツツジを見ると、ツツジもそう思ったのか顔を強張らせながらディアンシーをボールから出す。

 

ディアンシーをあまり表に出すなと警告されてから、ツツジは最近アノプスを良く育てていた。

そしてようやくアーマルドに進化し、ツツジは今回のジム戦ではアーマルドを本当は使おうと考えていた。

 

……しかし、アーマルドではペリッパーに勝てない。

 

そう判断したのであろうツツジはエースであるディアンシーに賭けたのだ。

 

だがそれでも、圧倒的に不利だった。

 

お互いがお互いにタイプ一致で相手の弱点を突ける対面だが、ディアンシーもアーマルドも、ペリッパーより遅いので先に弱点を突かれやすいのだ。

 

ならばやる事は1つで、ペリッパーの攻撃を避けるか耐えるかをして、一撃で葬る他ない。

 

しかし天候雨でペリッパーの水技は威力が上昇しているので、耐えるという選択はほぼほぼ無い。

物理攻撃力に優れたアーマルドだが、防御力は物理も特殊も然程高くない。

更に言うなら素早さもディアンシー以下のアーマルドでは技を避けるという選択も辛い。

 

もしもアーマルドの攻撃が先に届くのならば、一撃の可能性は高いが、先に届く可能性があまりにも低過ぎる。

 

だからディアンシーなのだが、ディアンシーだって遅いポケモンなのだ。

 

……言ってしまえば、仕方なくディアンシー。

アーマルドよりかは勝ちの目がギリギリある程度の選択だ。

ディアンシーなら持ち前の防御力で何とか一撃程度なら水技を耐えてくれる可能性もあるからな。

 

……だがやはり、勝てなかった。

 

先手は当然ペリッパー。

ナギさんが“ハイドロポンプ”を指示し、ツツジがそれを避けて“ストーンエッジ”をするよう指示した。

 

しかしディアンシーはペリッパーの“ハイドロポンプ”を避ける事が出来ずに半身を撃ち抜かれ効果抜群でダメージを喰らう。

それでも一応はそこで倒れずに返す刀でペリッパーに“ストーンエッジ”を当て、大きいダメージを与えるが、……残念ながら一撃では倒せなかった。

 

そしてナギさんがペリッパーに“はねやすめ”を指示した時にツツジは詰んだ。

 

“はねやすめ”はポケモンの体力を半分回復させる良い技だが、それだけではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

それによって岩タイプが弱点でなくなったペリッパーは、次のディアンシーの“ストーンエッジ”も余裕で耐えて、最後に避けられないよう“なみのり”をして、フィールド全体を水で覆い勝利を飾った。

 

……本来なら、岩タイプと飛行タイプなら、岩タイプが有利なのだ。

だが、実際に不利を喰らったのはツツジだった。

 

これだから、ポケモンバトルは面白い。

 

敗北を喫したツツジはナギさんに笑顔で感謝を述べ、晴れやかにコートから出る。

 

……悔しくない訳じゃないだろうが、完全なる力負けで笑うしかないって感じなのかもしれない。

 

そこにナギさんがやって来て、ツツジにアドバイスを送る。

 

「貴女の力量は確かに高いわ。 だけど、貴女は弱点タイプに対する対策がとても甘いと思う。」

 

……確かに。

思い返してみれば、ツツジは真っ向から弱点タイプを突かれた事は極少ない。

それ故なのかもしれない。

 

「恐らくはそのディアンシーのせいもあるでしょうね。 貴女のディアンシー、そうとう硬いわね。 まさか私のペリッパーの雨天時における“ハイドロポンプ”で落ちないとは思わなかったわ。……きっと、並の効果抜群では致命傷にもならないのでしょうね。 けど、それ故に貴女はディアンシーの硬さに甘えているとも言えるわ。」

 

「……はい。」

 

ツツジはナギさんの言葉を真摯に受け止めている。

 

「私は飛行タイプの専門、恐らく私の他の手持ちポケモンでは、貴女のディアンシーに勝てる子はそうはいない。……それでも、どの子も一応は弱点タイプのポケモンとも戦えるように考えて訓練しているつもり。……貴女も岩タイプのスペシャリストを名乗るなら、弱点タイプとも戦える様に考えておくべきだわ。」

 

「はい!」

 

「そう、例えば高い所で全身に風を感じたりすると良い考えが___」

 

「あ、それは結構ですわ。」

 

……締まらないなぁ。

折角格好良かったのに。

 

……さてツツジの弱点タイプに対する甘さは、俺のせいでもあるだろう。

 

俺が真正面から草技を使ってダメージを与えるタイプのスタイルではないせいで、弱点タイプに対するダメージの通らなさなら熟知していても、弱点タイプで攻撃される事の厄介さを強く理解していなかったかもしれない。

 

……俺のせいであるならば、せめて敵討ちくらいはしたいものだ。

 

「お願いします。」

 

俺はバトルコートに立ち、ナギさんとバトルをする準備をした。

 

「うん、こちらこそよろしく。」

 

出て来るであろうポケモンはチルタリスの一点読み。

俺が草ポケ使いであるのは知っているので、草タイプに滅法強いチルタリスを選ばない筈はない。

それに、ナギさんのエースだしな。

 

「やろうか、ユレイドル。」

 

「行っておいで、チルタリス。」

 

……来たな、チルタリス。

俺もリリーラからユレイドルに進化したとはいえ、正直まだ不安はあるが___

 

「……ユレイドル、また岩タイプね。 なら、チルタリス()()()()()!」

 

メ、メガシンカァァァ!?

まっ、マジかよ!?

大丈夫か俺の作戦?

いや、ユレイドルを信じよう!

 

そして一瞬にしてチルタリスは強い光に包まれた後に、殻を破るかの如く姿を変貌させて現れる。

 

これがメガシンカポケモンか!

成る程、強い威圧感を感じる!

 

でも、多分大丈夫!

勝てる可能性はまだ0じゃない!

 

ユレイドルは非常に遅いポケモンだ。

だがその分耐久性は悪くない。

だからこそ使える技がある。

 

「チルタリス___」

 

「……ユレイドル!___」

 

「“れいとうビーム”」

 

「っ! “ミラーコート”!」

 

以前、テッセンのおやっさんが使おうとした“ミラーコート”は喰らったダメージを倍にして返す技だ。

ただし、特殊技のみ。

 

どんな技が来るかわかっていた訳ではない。

ただ、チルタリスなら強い特殊技がある可能性は高いと思っていた。

 

元々俺のユレイドルは体力が上がる様に訓練している(HPに努力値を振っている)

だから“こうごうせい”や“ねをはる”等の回復技も覚えさせていて、強い特殊技に対して“ミラーコート”を使える様に頑張っていた。

 

例え効果抜群の技でも、タイプ一致じゃないならユレイドルならきっと耐える。

 

それでもメガシンカしたチルタリスの“れいとうビーム”は物凄い威力でユレイドルにダメージを与える。

 

だがユレイドルは確かに耐えた。

 

そして、“れいとうビーム”直後のチルタリスへと“ミラーコート”を叩き込み、一撃で沈めてみせた。

 

相手が強いからこそ、勝てる。

……こんな方法も、ちゃんとあるんだぜツツジ。

 



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二十八話

「……あれだけ偉そうな事言っといて()()とはね。……ツツジさん、これが油断したトレーナーの末路よ。」

 

ナギさんは自嘲する様な苦笑いを浮かべた後にチルタリスをボールへと戻す。

 

「……“ミラーコート”か、その技は知っているけれどユレイドルが使えるとは知らなかったわ。」

 

……そりゃ、そういう事もあるだろう。

ジムリーダーだって人間だ。

全てのポケモンの、全ての事実を知っている訳じゃない。

 

寧ろ前世の知識がある分、俺の方が詳しいなんて事もそりゃある。

 

だが、俺だって当然知らない事は多くある。

 

俺は___

 

809種全てのポケモンの名前を言えない。

どのポケモンがどのタイプか完全にはわからない。

全てのポケモンの種族値がどうなってるか知らない。

どのポケモンがどんな技を覚えるか全部は知らない。

全ての技とその効果は知らない。

 

他にもまだまだ沢山ある。

俺が前世で強者(廃人)になれなかった理由が。

 

俺が知っているのは精々、前世で有名所だったポケモンやレートで良く使われていた強いポケモン、俺が元々好きだったポケモンに関する事くらいだ。

 

前世の知識という圧倒的なアドバンテージを持っている俺でも、その程度なのだ。

 

それを、前世以下の情報量のこの世界で何でもかんでも知ってる方が寧ろ恐ろしい。

 

……そういう意味では、前世の知識という本来ならあり得ない情報を持っている俺が、戦い方以上に害悪なのかもしれない。

 

……ま、だからどうこうだって話ではないが。

 

結局俺がやってるのは、相手の意識外から横殴りしているだけなので、強い弱いや油断うんぬん以前に全方位に全て対応されたら何も出来ないんだよな。

 

だからきっと、俺と同等以上の知識を持っている人が現れたら、俺は絶対に勝てないだろう。

 

ただでさえシュッキングの様な圧倒的な暴力には手も足も出ないのだ。

そこに種族値や覚える技、ポケモンの型なんかも考慮されたら無理ゲー過ぎる。

 

だから、ナギさんだけじゃなく今まで戦った全てのトレーナーには申し訳ないが、俺は初見殺しの存在なので、あまり俺への負けは気にしないで欲しいと思う。

今回の件で言えば、ユレイドルが“ミラーコート”を覚えるというのが知られていたらそれなりにキツかった。

 

将来的に考えれば、俺の戦い方は知られれば知られる程、対策されて詰んで行くからな。

結局俺は強いトレーナーではなく、面倒なトレーナーなんだろう。

 

俺はナギさんからフェザーバッジを受け取りながらそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……気持ちが良いですわね。」

 

俺達はジム戦終了後にヒワマキシティを後にして、今はトロピウスの背に乗り、ミナモシティへと向かって空を旅している。

ヒワマキジムで予定通り“そらをとぶ”を覚えさせて頂けたからな。

 

トロピウスの“そらをとぶ”は結構ゆったりだ。

スピードを出せばどうなるかわからないが、子供とはいえ2人乗りだし慣れないうちに危ない事をしたくないので、今はこれで良いだろう。

ま、ツツジと密着してる時間が長いのも悪くないからな。

 

とはいえ___

 

「本当にヒワマキシティに残らなくて良かったのか? リベンジとか考えてなかったのかよ?」

 

「まぁ、そうですわね。……リベンジは当然考えておりますが、正直、今再びナギさんと戦っても勝てるビジョンが見えませんわ。」

 

……まぁ、水タイプに対する弱点は一朝一夕でどうにかなる問題ではないわな。

 

「元より、このジム巡りは強くなる為のものであって、バッジ集めではありませんので、そこまで拘っていないですし。 何も今すぐナギさんにリベンジしたいとは思っていませんわ。」

 

「……そっか。 けどよ、ルネジムのミクリさんは水タイプのスペシャリストだぜ? 仮にこのままジム巡りを続けても、やっぱ先行きキツイんじゃないか? 更に言えば、ミクリさんは間違いなくチャンピオン級だぞ。」

 

エメラルドでもそれは証明されてるし、この世界ではコンテストの実績の方が目立ってはいるが、ダイゴ神が自分と並ぶ実力者って明言してたからな。

 

「……確かに、それは問題ですわね。……ですが、どうすれば良いのか私にはわからないのです。」

 

ツツジは俺にそう弱音を溢す。

 

「ナギさんのペリッパーもそうですが、今の私では水タイプに対してどう対処すれば良いのかまるでわかりませんわ。……アーマルドは勿論、いずれ預かるヨーギラスも当然、今回の事でディアンシーも頼れないとなれば、どうやって対策すれば良いのか……正直、困っていますの。」

 

……確かに、その3匹ではかなりキツイ。

ペリッパーだけならば、ヨーギラスをバンギラスへと育ててから特性を考慮した上で種族値の暴力を振るえば、攻略するのは可能かもしれない。

けれど根本的な水タイプへの対策にはなり得ない。

 

「……やっぱ、1番楽なのは水受けポケモンを加入する事だよなぁ。」

 

俺はついボソッとそう溢してしまった。

 

「水受けポケモンですの?……例えば、オムスターやカブトプスみたいな?」

 

「うん。 水タイプとか、水タイプに対して強いタイプを有するポケモン。 君の言う、岩・水タイプなら他にもサニーゴやアバゴーラ、……えぇっと後は、アバゴーラみたいに亀みたいな奴……そう! ガメノデス、だっけ? そんな奴。……他には……ジーランス? とかもいたっけ?……とにかく、そんな奴らがいたら水タイプ対策には繋がると思う。」

 

まぁ、俺の持つ【よびみず】ユレイドルがいたら一発なのだが。

 

俺は気にしないが、どうなんだろ?

ポケモン被りとかツツジは気にするのかね?

ま、【よびみず】ユレイドル自体が結構希少なのだが。

 

「……成る程。 やはり今は勝てない、という事ですわね?」

 

……そうかもしれない。

 

ポケモンバトルに絶対は無い。

……とはいえ、現状ではキツイのが事実だろう。

 

けど___

 

「……あんまりさ、強い事に拘り過ぎるなよ。……そりゃ、ジムリーダーは強くてナンボみたいな所はあるけど……き、君には俺が付いてる。……君が駄目な時は、俺が補う。……ゆっくり強くなれば良い。 今は2人で頑張ろう。」

 

トロピウスの背中で密着しながら、俺はツツジを後ろから、あすなろ抱きする様に、ギュッと抱きしめた。

 

「……ソースケ。」

 

……ツツジの顔は見えないが、彼女は俺に身体を預け俺の手をギュッと握る。

 

 

……俺も、強くならなくちゃな。

相手を横殴りするだけじゃなく、もっと自分の強みに磨きをかけなくちゃ。

 

俺が好んで使う害悪戦法の本質は、()()()()()()()()()()()()()

 

それこそ“まひるみ”戦法の様に、行動そのものをさせないとか。

複数催眠の様に、相手の手持ちポケモンを殆ど眠らせるなど。

 

ポケモンの体力を削り落として勝つというより、何もさせずに降参させて勝つのが、害悪戦法の在り方だ。

 

……けれど、このままじゃ足りない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

きっとある。

もっとある。

 

相手のマウントを取って、一方的にボコボコにする方法はまだまだある筈だ。

 

……しかも、それだけでも駄目。

 

もっと真正面から戦える様になる、サブウェポンも必要だ。

補助技が封じられました、で詰むようじゃ駄目だ。

 

真正面から戦っても、強いトレーナーにならなくちゃな。

 

今回使用した“ミラーコート”も結局は奇襲の類い。

害悪技と言われれば否定など出来ない。

それこそ、今までの横殴りに相応しい技だからな。

 

……最強なんて目指していない。

 

目指していないが___

 

強くなる事に、これ以上の理由はいらないよな?

 

好きな女の為に、俺は強くなるぞ。

 



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二十九話

ミナモシティは相当大きな街だ。

 

目当てのデパートは勿論、船乗り場や美術館、コンテスト会場やトレーナーファンクラブなんてものもある。

観光するなら1番楽しい街かもしれない。

 

だから今日は久々にポケモンバトルから離れて、ツツジと楽しいデートが出来る。

 

……と、思っていた。

 

「色々な技マシンが置いてありますわね。」

 

現在俺達はミナモデパートの4Fにある技マシン売場で、様々な技マシンを物色している。

 

……いやまぁ、ここに来るつもりはあったよ?

 

でも全然バトルから離れていない!

寧ろバトルと直結してるよ!

 

原作なんぞより多種多様な技マシンがあって楽しいよ?

 

けどね、初っぱなから()()じゃなくても良いと思うの俺!

 

デパートなんだから他のフロアで色々ショッピングとか出来るじゃん!

なんならウィンドウショッピングでも良いよ俺!

 

最初に来るのが技マシン売場って、バトル脳過ぎないか君?

 

……まぁ、欲しい技マシン___ってかぶっちゃけ“まもる”はずっと欲しかったから良いんだけどさ。

 

しっかし高いのよ技マシンって。

値段がね?

“まもる”でも1万円するのよ。

“ギガインパクト”なんて5万円するからね?

 

“ギガインパクト”が買えないのは勿論___まぁ、買うつもりも無いが、“まもる”でさえ手を出したら親父と交渉して何とか折角手に入れた1万円も即パーよ。

 

……すっごく欲しいけど躊躇っちゃうわ。

 

この世界では技マシンは使いきりタイプじゃなくて、何度でも使えるのだ。

だから意外と、何かしらの施設で使わせて頂く事は結構ある。

 

例えばヒワマキジムで“そらをとぶ”を使わせて頂いたり、スクールでもちょくちょくと使わせて貰った事は何度もある。

 

だから“まもる”に1万円を使うのは正直勿体ない。

……勿体ないんだが___

 

じゃあ何故今まで“まもる”の技マシンを使えなかったかと言うと、……“まもる”が圧倒的に人気が無いからだ。

 

この世界の“まもる”は、前世程の滅茶苦茶優れている性能を発揮しないのだ。

 

前世ならコマンド1つポチーで大体何でも即守ってくれる“まもる”だが、今世では指示しないとポケモンは“まもる”を使ってくれない。

 

つまり、技の出の速さならもの凄く速い“まもる”なんだが、トレーナーの指示が遅れたら何の効果も無い事になる。

 

しかもゲームでZ技のダメージが4分の1貫通する様に、この世界でも高威力過ぎる技のダメージはきっちり貫通するのが人気の無い理由の1つなのだ。

 

……そりゃまぁ何でもかんでも守れたら実際はチート技の1つなのかもしれんが。

 

だからこそ殆どの施設で“まもる”の技マシンを見ない。

 

欲しい。

物凄く欲しい。

“まもる”があったら俺の戦い方にも幅が出る。

 

真正面から戦える強さは必要だと思うが、だからといって害悪戦法を止めるつもりはサラサラ無いし、“まもる”は俺の戦法に実にフィットする。

 

……けどなぁ。

10歳児にとって1万円ってすっごい大金なのよ。

これだけで半年はやってけるレベルの金額なの。

 

前世なら___ってか大人基準ならば大金だけども給料の一部、レベルの金でしかないが、子供にとっては1年に1度見るか見ないかのレベルなのが万札だからさぁ。

 

……正直キツイ。

 

買っても後悔しそうだし、買わなくても後悔しそう。

 

俺はガラスケースの中にある技マシンの前で、本気で頭を抱えて悩んでいた。

 

……まぁ他者から見たら変態だ。

だからツツジにも変な目で声を掛けられた。

 

「……何をそんなに悩んでいるのですの?」

 

「……いや、まぁ、……“まもる”が欲しいな、って思ってさ。」

 

“まもる”が欲しい。

けどそしたら今度はセットで“みがわり”も欲しい。

だけどそんなの完全に予算オーバー。

予算オーバーどころか財布の中身オーバー。

 

けど、“まもる”って“みがわり”とセットな所もあるじゃん?

今の所“みがわり”覚えているのロトムだけだし。

全員に覚えさせたい。

 

けど“みがわり”も“まもる”同様人気ねぇし。

やっぱ自分で自分の体力削る技って人気ねぇよのよな。

 

「? でしたら買えばよろしいのでは?」

 

簡単に言ってくれるな!

そんな即決出来る値段かよ!?

 

……あー、そう言えばツツジはお嬢様だったな。

多分このくらいのレベルなら問題ないのか。

 

「君ね……いや、ホント、1万円って大金だからね? そんな簡単に決断とか出来ないから。」

 

「そ、そうですか。」

 

俺の変な迫力に押されてツツジは納得する。

 

あぁ~、でも本当にどうしよう。

“そらをとぶ”が出来る様になったから、ミナモシティに来るのはそこまで難しい話ではなくなったのだ。

今が駄目ならまた今度って考えも出来なくは無いのだが、今すぐ使える技が目の前にあるのにそれを放って置くのも、なんだかなぁ~。

 

やっぱり俺が、う~んう~ん、と悩んでいたら、ツツジが何かを閃いて俺に提案をする。

 

「! それでしたら()()を売って、資金の足しに致しませんか?」

 

彼女はチラッと自身のバッグから、どこか見覚えのある宝石を俺に見せてそう言う。

 

お、おまっ!ディ、ディアンシーのダイヤじゃねぇか!? 隠せ!

 

俺が慌てて小声で叫ぶが、ツツジは自分の提案を良案だと思っているのか、俺の焦りに素知らぬ顔をする。

 

()()に関しては元々貴方の提案ですし、貴方の報酬として、売値をそのままそっくり貴方にお渡しして私は構いませんわよ?」

 

私は無限に生み出せますし、とツツジはそう呟く。

 

……確かに。

いやしかし、……良い、のか?

 

でも、どうなんだ?

()()は、どれ程の値が付くんだ?

 

俺は少し考え、ディアンシーのダイヤにどれ程の値が付くかの好奇心が抑えられずに、ツツジの提案を了承した。

 

「良いか、査定だけだ。……ちょっと査定して貰うだけ。 このダイヤの値段が気になったから、見て貰うだけだ。……そこまで高くなかったら、……まぁ、お小遣いとして売ってから俺が貰うよ。」

 

「わかりましたわ。」

 

……こんな宣言しといて何だが、あまり高い値段が付かない方が俺にとって良いような___

 

「申し訳ありません、()()を売りたいのですが、査定をお願い出来ませんか?」

 

「はい! お買い取りですね?……こちらはガラス……ではありませ___えっ、……え!? しょ、少々お待ち下さい! 私では判断出来かねますので、今すぐ担当者をお呼び致します!」

 

……これ、不味いパターンでは?

 

買い取りカウンターにてツツジが店員に声を掛けたら、店員が軽く検分した後に驚愕顔をしてダッシュで裏に行ったぞ。

 

きんのたまが普通に売買出来る世界なのであるいはと思ったが、流石にダイヤは駄目か。

これでも自重して、1番小さい親指の先程度の大きさのダイヤを出したのだが。

 

俺がやっちゃったなぁー、と思いながら諦めモードで待っていたら、急ぎ足で先程の店員と身分が高そうな人物が現れて、俺達はデパートの裏の個室へと通された。

 

……もうこの時点でお小遣い無理やん。

10万以下の値段なら売ろうと思ってたのに。

 

そこで俺達は色々説明を受けたが、……まぁ良くわからん。

カラットがどうやら純度がどうやら言われても、悪いけどそんな知識無いのだ。

 

とにかく査定していた人がめっちゃ驚いていたので、かなりの品という事なんだろう。

 

「お恥ずかしい事に、この様なダイヤモンドを今まで見た事がありません。……失礼ながら、何処でこれを入手されたので?」

 

あ、このボールに入ってます。

って言えたら凄い楽。

 

「申し訳ありません、守秘義務がございますので……。」

 

今はツツジが対応しているが、俺は今までこんな経験が無いので酷く緊張していて、対応出来るツツジが凄く大人に見える。

……精神年齢では俺が激しくおっさんな筈なのに。

 

「左様でございますか。……しかし、う~む。……見た事の無い美しいダイヤ、しかし綺麗にカットされている訳ではなく、アクセサリーとして加工されている訳でもない。 だがこの大きさ。……そして希少であるのも事実。」

 

……すいません、今に限っては実は希少じゃないんです。

これよりデカイのがバッグにあるんです。

それこそ拳大サイズが。

……いや、世界的に考えれば希少なのかもしれないが。

 

「……大変申し訳ありません。 私の権限では100万円までしか値が付けられません。……それでもよろしければ、喜んで買い取らせて頂きますが___」

 

その言葉にツツジが俺をチラッと見たので、俺はその値段に怖くなり凄い勢いで顔を横に振る。

 

「……ありがたいお話ですが、私共もこのダイヤの正当な価値がわからないので、査定をお願いしに参った次第です。……良き勉強にはなりましたが、今日はここで___」

 

「左様でございますか。 非常に残念ではございますが、私も良い経験をさせて頂きましたので、ご感謝を。……また機会がございますれば当店をご利用下さいませ。」

 

その言葉を皮切りに俺達は深々と頭を下げて、俺はツツジの手を引きながら逃げる様にデパートを後にした。

 

そして外に出て取り敢えずの一安心を得た俺は、ドキドキする心臓を押さえながら、一応気になったのでダイゴ神へと連絡し、今の話をした。

 

『ははは。 確かにディアンシーのダイヤならそういう事になるかもね。 でも君達は良い鑑定士に出会ったね。 下手な所ならもっと低く見積られて騙されていたかもしれない。 親指の先程の大きさだっけ? それならオークションにでもかければ500万円以上は行くかも知れないよ?』

 

……うせやん。(白目)

 

『お金が必要なら僕が買い取ろうか? あのダイヤならいくらあっても嬉しいからね。』

 

いや、アンタには拳大の大きさの奴を数個渡しただろ。

……なんてツッコミも出来ずに、俺はただただ呆然とした。

 

後にツツジから呆れられながら、『いずれ通る道ですわよ?』なんて言われた。

 

……これだからボンボンは。

普通こんな道通らねぇよ!

 




感想にて、ツツジ視点の話が読みたいやら、主人公の手持ちポケモンのスペックが知りたいなど、前にありました。

非常に嬉しい要望なのですが、この作品は思いつきで書いてる作品なので、そんなに設定とか考えていないのですよ。
プロットとか無いし。
だからエルフーンの使用した技の数とかかなり多いかも。

いつもその時のノリと勢いで書いてるので、何時矛盾が起こるかわからないハラハラ作品なのです。
なるべく矛盾がない様に努力しますが。

ですので、ツツジ視点とか主人公のポケモンスペックやらは、やりたいとは思いますが、何時になるかわかりません。
一応は、取り敢えず、まずは完結させたいので、その後から考えてみます。


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三十話

ミナモシティの観光を終えた翌日、俺達はカナズミシティに1度帰還を果たしていた。

 

何故そのまま“そらをとぶ”を使いトクサネシティに向かわなかったかと言うと、それはまだトロピウス先生の“そらをとぶ”の練度が低いからだ。

 

……仮に海のど真ん中で先生が疲れ果てたら俺達は海に真っ逆さまだぞ?

最悪、トクサネじゃなくて送り火山へと(魂のみが)直行だった可能性だってあるんだよ。

……それかサメハダーの餌。

 

この世界じゃ毎年数件、そういった“なみのり”や“そらをとぶ”での遭難事故や海難事故はあるのだ。

特に酷いもので言うと、間違って地方外に出てしまった後にそのまま行方不明___恐らく死んだと思われる事もある。

 

まぁそういう事故を減らす為にも、ポケモンレンジャーが海も空も警戒しているんだけどね。

前世で言う所の海上保安庁的な?

……まぁ詳しくは良くわからんが、とにかくそんな感じだ。

 

じゃあ定期便で行けば良いじゃん。

それなら安全じゃん?

って事に普通ならなるんだが、別にトロピウス先生の練度の不安だけでカナズミシティに戻った訳じゃないんだ。

 

まぁ諸々の用事があるってのも事実だが、そろそろセンリからヨーギラスを貰える時期なのだ。

だから一旦帰って来たってのが、1番の理由だ。

 

それにしても、先生は“そらをとぶ”の練度が低いとはいえ、それでもミナモシティからカナズミシティまで、僅か半日で移動出来るのは素晴らしいな。

 

途中途中何度も休憩を挟んだが、夕暮れには実家の前まで着いてるのだから頼もしいぜ。

……これはもう自転車とはおさらばだな。

移動中に必要な様々な道具も要らなくなるので、荷物が軽くなり更に移動スピードは伸びる事だろう。

 

……まぁ、流石にいつかのダイゴ神みたいに1時間でサイユウーカナズミ間を飛ぶのは無理だが。

そしてやっぱり、もうツツジとのお泊まりキャンプも無理だな。

 

……これからもよろしく先生。

でも俺の自業自得とはいえ、ちょっと悔しいです。

 

ちなみに、ミナモを出る前にしっかりと“まもる”の技マシンは買いました。

……なんだかんだで必要なんだよ。

けど、買った後に残った残金が千円を切って少し泣いたのは秘密だ。

……多分ツツジにはバレてないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……さて、ここで問題です。

ジム巡りというまぁまぁ厳しい旅に出た息子が、実家に帰って来た時に待っているものは何でしょう?

 

それは両親からの温かい愛情。

 

……じゃ、ないんだよなぁ。

 

答えは、新しいポケモンを捕まえた事への説教です。

 

俺は予想通り___いや、予想以上にトロピウス先生を捕まえた事を母ちゃんに叱られた。

 

最初は温かく迎えて頂けたのだが、トロピウス先生の話を始めた辺りから母ちゃんの形相が険しくなり、最終的には般若になった。

 

……まぁ、是非もない。

 

エルフーンやユレイドルまでは、『おめでとう』と一緒に喜んでくれた母ちゃんだが、ロトム辺りで複雑そうな感じになってたからな。

 

俺が必死に弁解を繰り返し、ロトムに庭の草刈りを頼めるという事で何とか納得して貰ったからな。

 

言ってしまえば、母ちゃんにとっては3匹のペットだ。

この3匹も、家庭内カーストは母ちゃんがトップである事を認識しているので、かなり母ちゃんには従順だし。

……あのロトムでさえ家ではイタズラを控えているからな。

 

けどトロピウス先生はそんな事ないからなぁ。

俺がバトルで使う訳でもないし、特に役に立つという訳ではない。

強いて言うなら便利な移動手段のペットだ。

しかも大食い。

トロピウス先生だけで他の3匹分の餌を必要とするし。

 

……そりゃ、まぁ……うん。

ごめんなさい。

 

悪気は無いのだ。

悪気は無いが、あの時は現実が見えてなかった。

 

まさか俺のポケモンの餌代として、お小遣いが月に千円まで減らされるとは思わなかった。

 

……終わった。

月に千円とか、どうしろってんだ。

焼け石に水だが、こんな事なら“まもる”を買わない方が良かったかもしれん。

 

……ディアンシーのダイヤ、売ってた方が良かったかなぁ。

いや、今からでもダイゴ神に買い取って貰おうか?

 

まさかこんな歳から金策を考える羽目になるとは思わなかったぞ。

この草のソースケの目をもってしても(ry___

 

……まぁ冗談はともかく___冗談ではないが一応はともかく、マジで、本当に、真剣に、何かお金を得る手段を考えなくちゃいけない。

 

この世界じゃ10歳で成人とはいえ、別に子供じゃなくなる訳じゃないんだよ。

前世的に言えば日本の女の子は16歳で一応結婚出来るけど、だからってそれで大人の仲間入りする訳じゃないだろ?

……つまりそういう事なんだ。

 

俺は成人してるけど、別に大人な訳じゃないんだ。

 

……まぁバイトくらいなら出来るけども、そしたらツツジと旅が出来なくなる。

でもこのままじゃ旅を続ける資金も危ない。

 

ポケセンで格安宿泊出来るとはいえ、最低限の飲食料を考えたらこのままじゃかなりヤバい。

 

旅の再開は1週間後だ。

それまでにどうにかせねばならん。

 

俺は頭の中で必死に金策を巡らせながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

……あ~、何度食べてもめっちゃ旨い。

 

……………。

…………。

………。

……。

…。

 

あっ、これがあるじゃん。

 

!?

 

いや何で今まで気づかなかったんだ俺!?

そうだよ、これ売れるじゃん!

トロピウスの果実という、そこそこレアな果実は絶対に売れるじゃん!

 

市場に出回らないという事は無いが、それなりにレアなのは事実だ。

逆に言えば、ある程度は市場に出回っているので、美味しい上にレアという事は周知の事実なんだ!

 

幸いにも俺のトロピウス先生は【しゅうかく】型のトロピウス。

1週間もあれば生え揃うのだ。

 

これは使える!

トロピウス先生の顎から自分でもぎ取る実演販売をすれば、絶対にうけるぞこれ!

 

俺とツツジがちょくちょく食べていたせいで、今は残り5本しか生えていないが、明日はこの5本を売ってみよう。

 

【しゅうかく】型のトロピウスがレアなのは事実だが、本気の農家の人はキチンとそういうトロピウスを育てているので、スーパーなどではトロピウスの果実は少数ではあるが売られている。

 

俺はこれを思い立った翌日に、スーパーでトロピウスの果実の値段を調べて、もぎ取り実演販売を人が集まる場所でやってみた。

 

そして売れた。

自分でもぎ取るというのがうけたのか、1つ当たり千円という高額での販売にもかかわらず、僅か1時間で完売し、俺は5千円の資金を調達する事に成功したのだった。

 

ウハウハだ!

そう、俺は非常にウハウハではあるのだが、その分ちょっと大変な事もあった。

 

トロピウス先生が、自分の果実が全部無くなった事で少し不機嫌になったのだ。

……まぁ不機嫌と言うか、『お前これの代わりに甘いもん喰わせろよ』って感じなのだ。

 

仕方がないので手持ちのオレンの実とモモンの実を全て献上したのだが、先生的には全然足りないらしく、俺は先生とカナズミ近辺にある全ての木の実が生えてる場所を巡った。

そしてかなりの量のきのみを喰い荒らし、先生はようやく満足してくれた。

 

いやまぁ、まだ野生にそれなりに残っているだろうとはいえ、結構食べたよ先生。

きのみは天候や四季関係なく生えるけど、それも3ヶ月周期なのだ。

ゲームの様に1日で数個生えてくる訳じゃなく、3ヶ月に1度数十個___多分おおよそ50前後生える感じだ。

 

今日は1日で色んな所を巡って、先生自らが選んだ選りすぐりを10個以上は食べたからね。

……大分申し訳ない事をしたかもしれない。

普段はポケモンフーズでも満足してくれるのに、今日はちょっと我が儘だったな。

多分こういう事をするから全ての果実を取った所で、1週間で【しゅうかく】出来る様になるのだろう。

 

いやしかし割に合わんな。

きのみをあんだけ食べる必要があるとは。

 

それもこれも、きのみが簡単に収穫出来ないせいだ。

一応はポケモン世界なんだから、それ相応にしろよ。

働けアルセウス。

 



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三十一話

カナズミシティに戻って来てから1週間、ツツジはセンリから念願のヨーギラスをしっかりと授かったので、俺達はジム巡りの旅を再開しトクサネシティへと向かったのだった。

 

ちなみにヨーギラスを頂く際に、センリへと弱点タイプの対処法のアドバイスを求めたら、『弱点を突かれる前に敵を倒せ』と言うありがたい?言葉を頂いた。

……まぁこれは意訳だが、要約するとそういう脳筋的な対処法が良いよって話だった。

 

……そりゃな、シュッキング級だったらそりゃそうなるよ。

広い技範囲に圧倒的な種族値でそれが可能だろうよ?

 

けど普通は無理だからね?

そんな簡単には出来ないからね?

だからアドバイス求めてるんだよ?

 

しかしまぁ、ノーマルタイプの弱点は基本的には格闘タイプのみなので、センリからしてみれば弱点への対処なんてあまり深く考えずに済むのかもしれないな。

ましてや特性【ちからずく】で持ち物が命の珠のぶっ壊れシュッキングを所持していたら、それだけで大多数のポケモンの対処が可能だろうよ。

 

羨ましい妬ましい以前に頭おかしいとしか思えないわ、やっぱり。

 

こういう所だぞ、アルセウス。

色々とツッコミ所があるこの世界だが、駄目なものは駄目としっかり線引きするべきだぞ。

お前なら出来る筈だ。

 

……とはいえ、今回はツツジがこの世界の曖昧な線引きのおかげで恩恵を受けたがな。

ディアンシーがシュッキングから“じゃれつく”を教えて貰ったのだ。

 

俺はあまり詳しく覚えてないが、ディアンシーって確か“じゃれつく”は覚えなかったと思うのだが?

 

“ダイヤストーム”という岩タイプ物理攻撃の強力な専用技を覚えるディアンシーだが、フェアリータイプの強い物理攻撃技は覚えないからこそ微妙扱いされ、レートでは滅多に見ないポケモンだった筈だ。

 

折角のフェアリータイプが殆ど無駄、みたいな扱いだったと思う。

これでは物理アタッカーとして使い辛い的な感じで。

 

じゃあ両刀で使うか?となると、それもまた微妙だし、折角の耐久性能が勿体ないしで、とにかく何か惜しいみたいな立ち位置がディアンシーだったのだ。

 

けど“じゃれつく”を覚えるなら、もう物理アタッカーとして結構やっていけるのだ。

 

メインの物理技として“ダイヤストーム”と“じゃれつく”を使い、後はサブウェポンさえあれば中々硬い物理アタッカーの出来上がりだ。

 

この世界じゃ技枠の制限無いし、トリル展開も可能だし、積み技も狙えるし、壁も貼れるし……えっ、やだ、普通に有能。

 

そりゃまぁ幻ポケモン枠だし、普通に考えれば強いのは当たり前かもしれんが、ここまで厄介になる可能性は考慮してなかったわ。

しかもメガシンカっていうパワーアップイベントもまだ残しているんでしょ?

 

……あれ?

俺は勝てるのかコレに?

ヤバくないか?

これめっちゃヤバくないか?

 

……おかしい。

ヨーギラスゲットのイベントの筈が、純粋なパワーアップイベントだったでござる。

 

……俺も、強くならなくちゃ。(震え声)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とにもかくにもまぁ、俺達はトクサネシティへと無事にたどり着いた。

トロピウス先生では海を飛ぶのがまだ怖かったので、普通にミナモシティで定期便を使ったがな。

 

ただまぁトクサネに着いたからと言って、今回は俺がいつも通りの行動をした訳ではない。

 

ポケセンにチェックインした後にツツジとは別行動をして、彼女はトクサネジムへとジム戦の予約をしに、俺は砂浜にしんじゅを探しに来ていた。

 

……何故しんじゅを探すかって?

そりゃアンタ、売って資金にする為よ。

 

いやだって、トロピウス先生の果実を売って得た資金だけじゃまだ心許ないからさぁ。

だから俺は目をギラギラさせながら、トクサネシティの砂浜を隅々まで練り歩いた。

 

その際に砂浜にいるトレーナーに声を掛けられてポケモンバトルへと発展する事もあったけど、彼等は基本が水タイプのポケモンを使用するので俺の敵ではなく、ほぼ一蹴する事が出来た。

 

防御で言えばユレイドルが素晴らしいけど、攻撃性能はロトムがかなり良いね。

電気タイプで大体のポケモンに弱点が突けたし、いざとなれば“リーフストーム”で一撃だからね。

ホント、水タイプを有するポケモン相手には頼りになるわ。

 

まぁ最近はバトルでエルフーンを使用する機会が減ったが、俺のエースが誰かと問われたらそれはエルフーンなんだよな。

 

さっきも中々強そうなトレーナーとバトルした際にエルフーンを使用したら、最終的には何もさせずに毒ダメージとやどりぎスリップで勝っちゃったからな。

 

いや~、久々に気持ちの良い害悪プレイをした。

けど、多分あの人エリートトレーナーだよな?

……何かゴメンな。

 

ちなみにエリートトレーナーとは、企業からスポンサーとして資金を援助して貰っているトレーナーの事を指す。

まぁ別称プロトレーナーと言えば話は早いだろうか?

 

これは別にジムバッジをコンプリートしてなくてもなれる。

まぁ殆どの人はコンプリートしてるだろうけど。

 

ポケモンリーグとは別に催される地域のバトル大会等で良い成績を修めた人が、企業から声を掛けられて契約してそうなるのだ。

 

逆に言えば、ジムバッジをコンプリートしていても声を掛けられなければプロには至れない。

 

ポケモンバトルで飯を食って行くとは、つまりそういう事だ。

彼等は生活が掛かっているので、そう簡単にはバトルで負けられない、負けてはいけない。

当然野良バトルでも。

 

……ホントすんません。

 

言い訳するなら、俺程度に負けるのはプロとしてまだ努力する余地が残っていると思いますよ?

後は相性がね?

俺のポケモンと相性が悪かったから、今回は運が悪かったって事で___

 

俺はエリートトレーナーから、そこそこ良い金額のおこづかいをありがたく頂いた。

 

あ、でも1番ありがたかったのはおぼっちゃんの人ね?

どんだけ金があるのかわからんけど、バトルで勝ったら6千円貰えた時はマジでビビった。

しかも弱いし。

 

この砂浜で集めた数少ないしんじゅ類を売り、バトルして勝ったお金を足したら、旅の資金を確保しつつ今度は“みがわり”の技マシンが買えるな。

 

ぐふふ。

次のバトルではみがまもアンコしても良いかな?

 

俺は臨時収入にウキウキしながらポケセンへと帰った。

そしてポケセンに到着すると、既にツツジが待っていて明日のジム戦の事を簡単に説明された。

 

「明日はダブルバトルをする事になりましたわ。」

 

ダブルかぁ~、やっぱりな。

トクサネシティのフウラン兄妹と言えばダブルバトルが印象にあるからなぁ。

 

「彼等の話では、『自分達との本気バトルならそれが1番良い』との事です。 2人で1人のジムリーダーですので、最も強いのはダブルバトルらしいですわ。」

 

ツツジの言では、1人でも戦えないという事はないらしいが、それでは他のジムリーダーに劣るので本気ならばダブルとの事だ。

 

「……それにしても、わかってはいた事ですが、まさか私よりも幼い人物達がジムリーダーとは……。 侮るつもりはありませんが、……それでも、センリさんが私達を侮ってしまった理由が、理解出来なくはありませんわ。」

 

……あぁ、まぁ、なぁ。

言ってしまえば、スクールの後輩相手に舐めずに本気で全力で格上に挑むかの様にバトル出来るか?

って気持ちだろうか?

……うん、まぁ、わかる。

 

けどまぁそれでも相手はジムリーダーだ。

舐めた瞬間にこちらが殺られるのは目に見えてる。

気は引き締めないとな。

 

「さぁソースケ。 ダブルバトルの練習をしますわよ! 付け焼き刃になるとはいえ、私達にはダブルバトルの経験があまりにもありませんので、少しでも練習しませんと!」

 

「ん?……いや、うん。……うん?……それ俺は必要か? 別に君個人だけでも良いんじゃないか? 別に俺は自分でダブル用の構想とか考えるけど___」

 

「?……あぁ! 勘違いしてますのね? 明日は1人でダブルバトルをするのではなく、2人でダブルバトルしますわよ?」

 

えっ……なんだとぉ!?

 

「おまっ、はぁ!? 俺達は別にコンビネーションの練習とかしてないじゃないか!?」

 

「だから練習するのではありませんか。」

 

「アホかぁ!? そんなんホントに付け焼き刃じゃねぇか! まだ自分1人で戦った方が勝率あるぞ!」

 

しかもあの双子ダブルバトルの専門家プラス、テレパシー染みた事がお互いに出来るらしいのでコンビネーションは世界でも有数なんだぞ!?

 

ガンダムXならカテゴリーFだ!

この世界では紛れもなく本物だけど!

 

……ヤバい。

結構ヤバい。

 

勝てる確率が0とは言わんが、慣れない事して挑むのは良くない。

 

結局どうするべきかわからないまま、俺はツツジに連れられて再び砂浜へとやって来てダブルバトルの特訓をする事になった。

 

そして試してみてわかったが、俺とツツジのコンビネーションはそこまで悪くないと思う。

 

悪くないと思う、が___

 

……これで勝てたら苦労しない。

 

何か奇策がいるかもしれない。

俺がそう思い悩んでいる時に、天の声はやって来る。

 

「やぁ、奇遇だね。 トクサネに居るって事は、君達はジムバトルへと挑戦しに来たって事なのかな?」

 

「おやダイゴさん、奇遇ですわね? 仰る通り、私達は明日のジムバトルに向けてダブルバトルの特訓中ですの。」

 

ダ、ダイゴ神!?

そ、そうか!

トクサネにはダイゴ神の家があったな!

なんたる幸運!

 

「ダ、ダイゴし___ん、んぅ! ダイゴさん! 不躾で大変失礼ですが! 俺達とダブルバトルをして頂けないでしょうか!? お願いします!」

 

「ははは、勿論良いよ。 けど、僕がダブルバトルの特訓相手になるかな?……こう言っちゃ何だけど、フウとランはダブルバトルに関しては僕以上だと思うよ?」

 

そんな風に謙遜しつつもダイゴ神は『だからといって、負けるとは言わないけどね?』と不敵に笑った。

 

そうしてダイゴ神が俺達の相手をしてくれる事になった。



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