黒子のバスケ キセキを討つ奇跡 (のなめん)
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第1Q

はじめまして、投稿はお久しぶりです。のなめんと申します。
ハーメルンで小説は読むんですが、なかなか書けないで現在書いている魔法科の投稿が全然出来ておりません。そんな折、バスケの日本代表戦を見まして、高校時代にやっていたバスケの作品を書いてみたくなって、思いつきでやってみました。こちらも不定期ですが、書いてみようと思います。よろしくお願い致します。


「ハァ、、ハァ、、」

敵わない、素直にそう思った。これが才能の差なのかと。しかし、諦めるには彼の性格は少々、いやかなり負けず嫌いが過ぎた。

「いいぜ、こいよ」

目の前で大きく手を広げて待ち構えるのは、キセキの世代のエース、青峰大輝。何度かのジャブステップの後、ゆっくりと左右にボールをつく。隙をうかがい、タイミングを見て右から抜きにかかった。しかし青峰が簡単に抜かせてくれる訳もなく、難なくついてくる。もちろんこれは予想できていたことだ。レッグスルーでボールを左手に持ち替え、その場で急停止する。一瞬開いた青峰との間は、すぐに詰められる。ならばと持ち替えた左手でそのままロールターン、再び右から抜きにかかる。それでもついてくる青峰。しかし、青峰がついてくるために足の向きを変え、1歩目を踏み出した瞬間にステップバック、またもや青峰から距離を取る。すかさずボールを持って後ろに飛ぶ。フェイダウェイショット。さすがの青峰もギリギリ追いつけない。

(決まる…!いつも通り、何本も練習してきたシュートだ)

点差は歴然、もう敗北は決しているが、意地でそのシュートを決めようとしていた。

膝を使って滑らかに飛び、手首のスナップを使って高いループのシュートを放つ。得意な形、得意なシュート。決まる、そう思ったその時……

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

「……ああ、またか」

この夢を見るのは何度目だろう。もう敗戦から1ヶ月も経ったというのに。

彼の名は来栖黎。1ヶ月前、全中2回戦にて帝光中学との試合に負け、中学バスケを引退。現在は夏休み中だが、毎日ランニングやハンドリングなどで軽く体を動かしている。いくつかの強豪校から誘いは来ているのだが、どこに進むかはまだ決めかねていた。

「軽く外走るか」

シャワーを浴び、服を着替えて家を出たその時

「よう、黎。1ヶ月ぶりだな」

見知った顔が目の前に立っていた。

「秀か、何か用か?」

渋谷秀、黎と同じ中学のバスケ部に所属していた。実力は黎に次ぐ2番手で、全国でも戦えるPGである。上背はあまりないが、クイックネスに長け、ガードに必要なスキルは一通り揃っている。加えて左利きである。

「久々に一緒にバスケやらねえか?」

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

突然の秀の誘いを受け、2人が向かったのは近所のストリートコート。黎と秀以外には誰もおらず、ドリブルの音とシューズのスキール音がよく響く。両者譲らない1on1が繰り広げられるが、やはり押しているのは黎。黎の身長が188cmなのに対し、秀が170cm。加えて黎は手足も長いので、どうしても黎が有利なのだ。10本先取で始めた勝負だが、終わってみれば10-4。最初こそ秀の緩急とクイックネスを活かしたオフェンスに苦戦したが、徐々に対応して、最後はしっかりと抑え込んだ。

「ふぅ…やっぱ敵わなねえな、黎には」

「まだまだお前には負けねえさ」

「……」

秀が急に口を閉じ、真剣な目で黎を見る。

「俺は、やっぱりお前と高校でもバスケがしたい。」

「いきなりどうしたんだ?」

「今週末、千葉の椿丘高校に練習に来るよう誘われてる。黎もぜひ連れてきてほしいって言ってた。一緒に行かないか?」

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

「椿丘高校、ねえ…」

秀への返事は保留にさせてもらい、自宅に戻った黎はインターネットで椿丘高校について調べることにした。

「へえ、結構強いとこじゃん」

インターハイやウィンターカップにも度々顔を出し、全国ベスト8まで上り詰めたことのあるチーム。現在就任6年目の若林という監督が新卒で入った年から力をつけ、最近では千葉でも1,2を争う強豪だという。

ガード、フォワード、センターにそれぞれ全国区の選手が揃っており、バランスのとれたチームと言える。

「吉永優斗、180cmのPG、スピードと技術を兼ね備え、攻守共に隙のない司令塔」

「白石雅史、185cmのSF、柔らかいシュートタッチと高い1on1能力で得点を重ねるスコアラー」

「森田康平、198cmのC、強靭な体とそれに見合わないスピードでゴール下を支える大黒柱」

インターネットで見つけた記事では、この3人がチームの中心らしい。ネット上には試合の動画も一部載っていた。

「へえ、オフェンスは文句ないし、ディフェンスもさすが全国区って感じか。…それに、いいバスケするな」

動画では惜しくも負けていた椿丘だが、それでもそこに映る選手たちは輝いて見えた。

「チームカルチャーがいいんだろうな。…行ってみるか」

黎は携帯で秀に連絡を取った。




今回はここまでにします。しばらくは熱が残ると思うので次も比較的早く上がると思います。それでは、ここまで読んで下さりありがとうございました!


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第2Q

こんばんは、のなめんです。 雨が強い地域が沢山ありますね、みなさん大丈夫でしょうか。私の住む地域は運良く雨にあっておりませんのでよかったです。皆さんのところも無事であることを祈ります。では本編です。


「よく来てくれた、椿丘高校へようこそ」

 

当日、まず2人を出迎えてくれたのは監督の若林。就任して6年、うち4度インターハイ出場という優秀な監督だ。

 

「渋谷秀です、今日はよろしくお願いします」

 

「来栖黎です、お邪魔させていただきます」

 

「ああ、よろしく頼む。今日はスカウトしてきた新1年生を集めて練習に呼んでいるんだ、他の中学の人たちも来てるから、挨拶しておくといい」

 

2人は控え室に通された。

 

 

ーーーーーーーーー

 

「あれ、もしかして来栖くんと渋谷くん?」

 

「小野か?」

 

小野陽一、178cmのSG、スピードはあまりないが、しなやかな動きと柔らかいシュートタッチは本物で、スリーポイントシュートのスペシャリストだ。直接対戦したことはないが、お互い顔と名前くらいは知っている。

 

「2人も椿丘に?」

 

「一応誘われてな、黎連れてきてみたんだ」

 

「見てみたくなってな」

 

「そうなんだ、僕はもうここに決めたよ」

 

「おいおい、いいメンツ揃ってんじゃねえか」

 

声のした方を向くと、こちらも見た事のある顔であった。

 

「海江田くん」

 

海江田遼、186cmのSF、外はあまりないが、卓越したドリブルとスピードを活かすタイプのスコアラーだ。

 

「これは来年面白くなりそうだな」

 

続々とスカウトされた新1年生が集まってくる。

 

「いて!」

 

見ると、ドアの前で頭を抑えて立っている男がいた。

 

「もしかして熊谷?」

 

熊谷和人、202cmのC、持ち前の身長でインサイドを支配するプレイヤー。

 

「結構いいメンツ集めてんのな」

 

どうやら各地から有望な選手が集められているらしい。スカウト能力も高い高校のようだ。

 

「あー、じゃあそろそろ始めるんで、こっちついてきてもらっていいかな」

 

キャプテンの吉永が黎たちを呼びに来たので、彼について行き体育館へと向かった。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

椿丘の練習は、効率的というのが1番似合うだろうか。ランメニューやフットワーク、基礎練習などはもちろん行うし、量もペースも強豪校のそれなのだが、あまり時間はかけない。そのような練習をそうそうに切り上げ、残りは実戦形式のメニューをこなす。練習中監督が指示をすることも少なく、プレーの中で選手が自分たちで話し合って課題を見つけ、改善に取り組んでいる。そのような練習のおかげもあってか、疲れはしても、とても充実した練習だと実感できた。そして

 

「よし、集合」

 

13時から始まった練習が15時で切り上げられ、監督が全員を集めて話をする。そこでその日の練習をみて監督が思ったこと、改善点を総ざらいする。そして、残った時間は自主練習に当てるらしい。

 

「高校バスケってのは、どれだけ長くやっても2年半と少しだ。その短い時間で結果を出すには、無駄なことは徹底的に排除しなければならない」

 

と若林は話す。なるほど、合理的であるし、練習環境としても悪くない。黎の中で椿丘高校に対する評価が着々と上昇していた。

 

「さて、せっかく来たんだ、うちのメンバーと試合していかないか?」

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

若林の一言で、スカウトされたメンバーと椿丘のレギュラーで試合をすることとなった。

 

椿丘 メンバー

吉永優斗 PG 180cm

重松恭弥 SG 179cm

白石雅史 SF185cm

川崎圭一 PF 190cm

森田康平 C 198cm

 

新1年生組 メンバー

渋谷秀 PG 170cm

小野陽一 SG 178cm

海江田遼 F 186cm

来栖黎 F 188cm

熊谷和人 C 202cm

 

「試合は10分1Qのみの一本勝負。レギュラーチームは負けたら新1年生のみんなに飯おごりな」

 

ニヤリと若林が告げたことで、レギュラーチームは苦笑いを漏らす。

 

「悪いけど負けられんな。じゃあ、始めよう」

 

吉永が笑って言う。しかし目は集中しており、それは他の9人も同じだった。

 

ーーーーーティップオフーーーーー

 

ジャンプボールを制したのは熊谷。ボールは秀の手に収まり、ゆっくりとボールを運ぶ。ディフェンスにつくのは吉永だ。

 

(さすが吉永さん、隙のねえディフェンスだな)

 

仕掛けるタイミングを見計らい、左右に揺さぶりをかけるが、吉永はつられない。

 

(なら…)

 

逆サイドで熊谷のスクリーンを利用してフリーになった小野にパスをさばく。小野はすかさずスリーポイントを放ち、沈めてみせた。

 

「ナイッシュ!」

 

「ナイスパスだったよ!」

 

先制は新1年生チームだ。

 

「…!来るぞ!」

 

黎が叫ぶ。ほかの4人が見ると、もうレギュラーチームはリスタートしており、速攻を仕掛けに来ていた。一瞬反応が遅れた黎以外の4人は、すぐに置き去りにされてしまう。

前を走るのは、吉永、白石、森田の3人。残り2人がその後ろを追随している。ハンドラーの吉永にチェックをかけに行くと、外で待ち構える白石へパス。白石がシュート体勢に入る。すかさず追いついてチェックに行くが、黎のブロックは届かない。

 

(おかしい、この軌道じゃ入らない…パスか!)

 

白石がニヤリと笑みを浮かべる。振り返る

と、走り込んだ森田が空中でボールをキャッチ、そのままリングへ叩き込んだ。

 

新1年生 3

レギュラー 2

 

「いきなりのスリーで主導権取りに来たみたいだけど、そうはいかねえよ」

 

目の前で白石が不敵に笑って告げる。

 

「さすが全国区っすね」

 

黎も笑って返す。簡単に勝たせてはくれなそうだ。

変わって新1年生チームのオフェンス。秀がゆっくりとボールを運ぶ。黎へのパスコースを探るが、川崎がうまくディナイでコースを塞いでいる。川崎はチーム1のディフェンダーだ。マークを外すのは容易ではない。

 

(しゃーねえな)

 

秀は黎に手でこちらに来いと合図、意図を察した黎が秀に近づき、ハンドオフをしようとする。2人が交錯する瞬間、逆に秀がスピードを上げ、ディフェンスを置き去りにする。ハンドオフフェイクだ。そのまま秀がペイントエリアに侵入、熊谷への合わせを試みるが、森田がうまくパスコースを塞いでいる。自分で行くしかないと判断した秀は、フリースローラインあたりで踏み切り、柔らかいタッチでフローターを放つ。上背のない秀がブロックをかわすために身につけたシュートだ。

 

「させん!」

 

しかし、森田がその巨体に似合わないスピードで秀との距離を一気に詰め、フローターをたたき落とす。

 

(マジかよ!)

 

フローターとは、ブロックをかわすために高いループで放つシュート。加えて、森田は直前まで熊谷をマークしていた。しかしブロックされた。森田のディフェンス力がうかがえるプレーだ。こぼれたボールを海江田がおさえ、手薄になったゴール下に侵入、ダンクを試みる。しかしこれも森田が追いつき、ダンクを阻んだ。これを吉永がおさえ、レギュラーチームの速攻になる。秀が吉永につくが、スピードに乗った吉永を止めるのは難しい。

吉永がレイアップの体勢に入ったあたりで黎が追いつくが、吉永は黎が後ろから追ってきていることに気づいており、冷静にリバースレイアップに切り替えてシュートを沈めた。

流れが掴めない新1年生チーム。逆にレギュラーチームは勢いに乗り、その差は徐々に開き始めた。そして残り2分

 

新1年生 13

レギュラー 25

 

12点差を1Qでつけられていた。レベルの違いが伺える点差だ。

 

「さて、そろそろ自分で点を取りに来たらどうだ?」

 

吉永が黎に向けて挑発を送る。黎はまだ外からのシュートを1本決めただけで、まともにオフェンスをしていない。有効な局面にパスをさばいているだけであった。

 

「そうですね、このままやられっぱなしもいやですし、取りに行きましょうか」

 

秀からバックコートでボールを受け、そのまま運んでいく。手で味方に指示を出し、アイソレーションの形をとる。黎につくのは川崎。チーム1のディフェンダーである。黎は川崎を背中に背負い、ジリジリとゴールに向けて迫る。しかし川崎がただ押し込まれているだけなわけもなく、スリーポイントラインを超えたあたりで重心を落とし、黎を押し返す。その力が背中に伝わった瞬間、つまり川崎の力が前に向いた瞬間、高速バックロールターンで川崎を振り切る。そのままリングへ向かい、ダンクの体勢。しかしやはり森田が黙っていない。川崎が抜かれたタイミングでヘルプディフェンスに動き、黎のダンクを阻みに来る。しかし黎にとってこれは予想の範囲内であり、ダンクに向かった腕を下げて腹に抱え込み、ダブルクラッチで森田をかわしてシュートを決めた。

 

「ちっ!やるな!」

 

「味方が何本もブロックされてるの見てますから!」

 

「速攻!」

 

吉永の声に合わせるようにレギュラーチームが速攻を決めようとあがってくる。しかし新1年生チームも学習し、全員が戻っている。しかし吉永はお構い無し、秀を緩急を使って抜き去り、ゴールに迫る。黎がヘルプに飛び出し、2人は同じタイミングで踏み切った。

 

「早いヘルプだ、でも俺は止められない!」

 

吉永は空中で体をひねって黎をかわし、そのままシュートを沈めようとする。しかし

 

「いいんですよ、その体勢になったらこっちの勝ちです」

 

吉永の前に熊谷があらわれ、ブロックに飛ぶ。体をひねってシュート体勢をとっている吉永は、もうパスに切り替えることが出来ない。そして無理な体勢なので202cmの熊谷のブロックを掻い潜るようなシュートも打てない。

 

「ちっ!やられた!」

 

ブロックされると分かっていてもシュートを放つしかない。案の定熊谷がボールをはたき、リバウンドを黎がおさえる。そのまま一気に駆け上がる。吉永が簡単にブロックされると思っていなかったレギュラーチームは虚をつかれ、一瞬反応が遅れてしまう。スリーポイントラインあたりで川崎が追いつくが、黎はそれを見てレッグスルーで急停止、川崎はこれに反応できず、フリーでスリーポイントを放つ。ボールは綺麗にリングの中央を射抜いた。

 

「っしゃあ!!」

 

黎が右手を突き上げる。これで連続得点、一気に5点を縮めた。

 

残り1分半

新1年生 18

レギュラー 25

 

「あたるぞ!」

 

黎の声に合わせ、新1年生チームはオールコートゾーンプレスを敷く。2-2-1だ。先頭を連携の取れる秀と黎が務め、残りの3人がぶっつけではあるが2人に合わせる。ハンドラーの吉永にダブルチームをしかけ、ボールを優に運ばせない。黎と秀、両方が優れたディフェンダーで、なおかつ連携もうまい。さすがの吉永と言えど攻めあぐねている。加えて、サイドライン側を秀が守り、コートの内側を黎が守ることで、パスコースも塞いでいる。このままでは8秒になってしまう。吉永は秀の方から強引に突破を試みる。しかし、黎が長い腕を活かして吉永の隙をつき、ボールを弾く。こぼれたボールを秀が拾い、新1年生チームの逆速攻になる。ゴール下に走り込んでいる黎に秀がバスを出す。吉永が自分のミスを取り返そうと黎に迫る。黎はここでボールを止め、反転して外の秀にリターン。フリーになった秀が落ち着いてスリーポイントを沈める。

 

「ナイッシュ!」

 

「これで4点差!」

 

差を一気に縮め、勢いに乗る新1年生チームはゾーンプレスを継続。しかし中学生の同じ手に2度もかかる椿丘レギュラー陣ではない。吉永の近くまで白石がボールをもらいに行き、すんでのところでそのパスが通る。白石がボールを運び、まず目の前の小野を左右の揺さぶりでかわす。ついで海江田を前後の揺さぶりと緩急で抜き去り、スリーポイントラインの少し手前で森田にパスフェイクを入れる。これによって白石のチェックに出ようとした熊谷がそちらにつられ、白石が完全にフリーとなる。距離のあるディープスリーだが、白石は落ち着いて決めてみせた。

 

残り45秒

新1年生 21

レギュラー 28

 

もう勝利は難しい、しかし勝負を投げるわけにはいかない。黎がリスタートしたボールを受け取り、時間を惜しむように駆け上がる。再びアイソレーションの形。黎は前後左右、そして緩急で川崎を揺さぶる。そして隙を見てステップパックでスリーポイントラインの外に出た。

 

「打たすか!」

 

川崎が早い反応を見せ、シュートチェックに行く。しかし次の瞬間、しまったという表情になる。そう、黎はシュート体勢に入っていなければ、ボールを持ってもいない。ヘジテーションで川崎を騙してみせた。そのままペネトレイトし、エルボーあたりでプルアップジャンパーの体勢に入る。それを見て森田がブロックに飛ぶ。

 

「何本も連続でやらすか!」

 

ただ高さに任せるだけでなく、シュートコースをうまく塞いだいいブロックだ。

 

「これじゃシュートはできないですね、でも…」

 

ボールはブロックに伸ばした手の横を通る。つまりリングにまっすぐ向かっていない。

 

「パスはできます、しょっぱなにやられたプレーのお返しです」

 

ボールはジャンプしている熊谷の手に収まり、そのまま熊谷がアリウープを叩き込む。

 

残り30秒

新1年生 23

レギュラー 28

 

みたび新1年生チームはオールコートゾーンプレスであたるが、吉永が今度はボールをしっかりキープ。時間をじっくりと使う。

 

「くそっ!」

 

焦ってスティールを狙いに来た秀をかわし、フロントコートに侵入。これで24秒全て使い切れば勝利が確定する。

 

「1回くらい出し抜せてもらいますよ!」

 

黎が吉永にあたっている後ろから秀が再び吉永に迫る。今度はボールをティップすることに成功する。

 

「速攻!!」

 

黎がルーズボールをおさえ、前を向くと、海江田が前を走っている。海江田にボールを託す。パスを受け取った海江田がトップスピードであがるが、吉永が追いついてくる。海江田はクロスオーバーやロール、ヘジテーションで吉永を揺さぶるが、抜くことができない。

 

「ヘイ!!」

 

そこへ、黎が走り込み、ゴールへ向けて指を指す。意図を理解した海江田は、リングに向けて柔らかくボールを放り投げる。そのボールを黎が空中でキャッチし、そのまま腕を一回転させてウィンドミルでアリウープを叩き込む。

 

『おおおおおお!!』

 

試合を見ていた人たちから歓声があがる。しかし反撃もここまで、このゴールを最後に、両チームのスコアが動くことは無かった。

 

試合終了

新1年生 25

レギュラー 28

 

「お疲れさん、レギュラーチームは後でダッシュな」

 

勝ったとはいえ、ギリギリだったレギュラーチームに、若林はダッシュを命じた。そして新1年生チームに向き直る。

 

「いいものを見せてもらった。やはり君たちは優秀な選手だ。君たちさえよければ、椿丘に入って同じ仲間として全国の頂点を目指してほしい。」

 

ーーーーーーーーー

 

「黎、どうするんだ?」

 

帰り道、秀が黎に尋ねる。

 

「…行こうと思う」

 

「ほんとか!」

 

黎の答えに秀が嬉しげな反応を示す。

 

「先輩たちのレベルは想像以上に高かったし、練習の雰囲気もいい。監督もよかったし、いい環境だと思うんだ。」

 




前回が少し見にくいかと思いましたので、今回すこしスペースを広めに取ってみました。今後はこれでいこうかと思います。では続きはまたいつか。ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


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第3Q

少し間が空いてしまいました、言い訳をさせてください。先日、私の大好きなバンド、BUMP OF CHICKENのライブに行きまして、その関係で書く時間がなかったのです。いやー、BUMP最高でした。みなさんも是非聴いてみてください。ちなみに近々またライブに行くので次も少し間が空くかも()


春、それは出会いと別れの季節。

黎と秀も、故郷である山梨、そして家族と友人にしばしの別れを告げ、千葉の椿丘高校へと入学を果たす。

 

「よう、黎。同じクラスみたいだな」

 

入学式を終え、自分のクラスに向かうと、既に秀が教室に入っており、黎に声をかける。

 

「お、秀か。こっち(クラス)でもよろしく頼むな」

 

夏に一緒に練習に参加した他の1年生はどうやら違うクラスのようだ。とはいえ黎も秀も明るく社交的なタイプ、2人が友達作りに困るということはない。既に何人か友人を作ったようだ。そこへ

 

「あの、来栖黎くんですか?」

 

1人の女子が声をかける。地毛なのか、染めているのか、薄い茶色の髪の毛をハーフアップで束ねた、顔立ちの整った女の子である。

 

「ん?ああ、そうだよ、君は?」

 

「私は橋本綾菜、よろしくね。来栖くんはバスケットやるんだよね?」

 

「あ、ああ。なんで知ってるんだ?」

 

「私中学バスケ部だったの。それで中学の来栖くんのプレイをみたことがあって。まさか同じ高校になるとは思わなかった。」

 

と、どこか嬉しそうに話す橋本。

 

「そうなのか、高校でもバスケを?」

 

椿丘には女子のバスケ部もあり、男子程ではないが強豪である。

 

「ううん、私そんなに上手じゃないし、マネージャーをやるつもり。だから同じ部活だね、よろしくね」

 

「そうなのか、こちらこそよろしくな」

 

早速バスケ部仲間がクラスにできた瞬間だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

入学式の後のホームルームとはほとんど顔合わせのようなもので、午前中のうちに終わってしまう。よって午後からは1年生は自由時間であり、帰宅する生徒、早速友人と遊びに行く生徒など様々である。黎たちはもちろん部活へと向かった。椿丘バスケ部では入学式後の部活が正式な新入生との顔合わせである。

 

「おお、結構いっぱいいるな」

 

黎と秀、そして橋本が体育館につくと、そこにはもうたくさんの新入部員がいた。ざっと見たところ40人以上はいるだろうか。

 

「さすが強豪って感じだな」

 

秀がニヤリとしながら呟く。

 

「マネージャーもいるみたいだな」

 

黎の指さした方向を見ると、1年生と思しき女子が先輩マネージャーと談笑している。

 

「あ、ほんとだ。じゃあ私はあっちに行ってくるね」

 

「ああ、後でな、橋本さん」

 

「綾菜でいいよ。じゃ、またね〜」

手を振りながらそう告げるとパタパタと女性陣の方へ小走りで向かう。

 

「………なあ黎」

 

橋本との距離が離れてから秀が橋本の方を見ながら言う

 

「あの子、かわいくね?」

 

ニヤつきながら言う秀に、苦笑を漏らしながら答える。

 

「ああ、そうだな。最後のバイバイは不覚にもちょっとドキッとした」

 

やはり年頃の男、かわいい女の子と仲良くできて悪い気がするはずがない。

 

「なんかあの子も黎のこと意識してそうじゃなかったか?」

 

冷やかすように秀が黎に言うが、黎は動じない。

 

「いやいや、まだ会って初日だぜ?ただあの子がみんなに愛想がいいだけだろ」

 

他愛もない話をしていると、去年の夏に聞いた声が体育館に響く。

 

「お待たせ、1年生集まってくれ!」

 

キャプテンである吉永の声だった。その声で、まばらに散らばっていた1年生がすぐに1箇所に整列する。

 

「よし、集合が早くて助かる。えー、まずは椿丘高校バスケ部へようこそ。主将の吉永だ、よろしく。」

 

「副主将の森田だ、みんなよく来てくれた」

 

「3年マネージャーの澤木桃子です、よろしくね」

 

吉永に続いて森田、そしてマネージャーの澤木も1年生に挨拶する。澤木は10人が10人かわいいと認めるような容姿で、1年生たちから小さく歓声があがる。

 

「俺たちの目標は言うまでもなく、日本一、全国の頂点だ。もちろん簡単に成し遂げられるものではない。そのための練習は厳しいし、ベンチに入れるのは力を認められた者だけだ。しかし、逆に言えば1年生でも力を示せばどんどん試合に出られる。君たちが少しでも早くチームに慣れ、共に戦えるようになるのを楽しみに待っているよ、頑張ってくれ。以上だ。」

 

しかし、吉永の言葉にすぐに顔を引き締める。

 

「じゃあそっちの人から、自己紹介をしてくれ。名前と身長、ポジションを言ってくれればいい。」

 

そして、1年生の自己紹介が始まった。

 

「178cm、SG、小野陽一です」

 

「186cm、F、海江田遼です」

 

「202cm、Cの熊谷和人です」

 

夏に顔を合わせた面々ももちろん入学しており、自己紹介を済ませていく。やはり3人とも全国でも名が知られており、自己紹介の後に少し周囲がざわついた。

 

「170cm、PG、渋谷秀です」

 

「188cm、ポジションは…えーっとFをやってる事が多かったですけど、特に決まってはいませんでした、来栖黎です」

 

2人の自己紹介を聞き、周囲のざわつきが増す。絶対無敵の帝光中、そしてキセキの世代に対抗した来栖と、その参謀の渋谷。この名ももちろん全国で有名になっていた。

 

「よし、次はマネージャーか」

 

「「はい」」

 

その声を受け、2人の女子が前に出る。

 

「五十嵐涼子です。中学時代もマネージャーをしていました。よろしくお願いします。」

 

「橋本綾菜です。中学時代はプレイヤーでしたが、ここではマネージャーとしてチームを支えたいと思います、よろしくお願いします。」

 

2人とも容姿はレベルが高いと言って差し支えない。五十嵐は橋本とは少し雰囲気の違う、黒く長い髪とスラッとした体つきが特徴的な、かわいいというよりは美人に近いというタイプだ。

 

新入生は部員が46人、マネージャーが2人であった。3年生が部員18人、マネージャー1人。2年生が部員19人である。このうち、一軍に入れるのは25人。そしてベンチ入りできるのが15人だ。全員が共に戦う仲間であり、凌ぎを削るライバルでもある。入部したその日から、レギュラー争いは始まっているのだ。早速1年生は二軍の練習に参加することとなった。

 

「あ、来栖、渋谷、小野、海江田、熊谷の5人は一軍に混ざってくれ」

 

吉永の指示で、去年椿丘に来た5人は一軍と練習することとなった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

椿丘の設備は充実している。男子バスケ部だけでコートが3面使えるのに加え、ウエイト機材などを揃えたトレーニングルームに、室内プールまでついている。椿丘の選手たちは、この設備を存分に使い、各々のレベルアップを図る。

 

「ハア、ハア…いやー、やっぱりきついね」

 

小野が苦笑しながら呟く。椿丘の練習は効率的であり、昭和のバスケ部のようなひたすら走らされるようなことは無い。しかし、その分練習の密度はとても濃い。限られた時間の中で、選手たちは全力を尽くす。まだランメニューが残っているから体力を温存しよう、ということにならず、一つ一つの練習に全員が全力で取り組む。すべての練習が試合終盤、残り2分であるかのような緊張感で行われる。結果、椿丘の練習はいたずらにランメニューやサーキットトレーニングをこなすよりも疲れる。その分、得られる充実感も一入だ。

 

「おー、やってるな」

 

そこに、一人の男が現れる。椿丘バスケ部の監督であり、若くして椿丘バスケ部の名を全国に轟かせた名将、若林だ。

 

「「「こんちわっす!!!!」」」

 

それを見て全員が挨拶をする。しかし2、3年生はプレーを止めることはなく、若林の方を向いて頭を下げたのは1年生だけであった。

 

「ああ、いいからいいから、練習しな。次集まった時に改めて挨拶させてもらう」

 

なるほど、練習の腰を折るようなことはしないらしい。その後もしばらく練習が続き、ひと段落ついたところで吉永が集合をかける。

 

「よし、まずは自己紹介だな。監督の若林だ、椿丘バスケ部へようこそ。あ、君たちは改めて自己紹介する必要は無いぞ、さっきしてもらった時にデータを写真付きで貰っているからな」

 

「いつのまに…」

 

1年生から驚きが漏れる。見ると、澤木が1年生の方を向いてニコニコと手を振っている。どうやら彼女がデータをまとめ、若林に送ったらしい。若林は手に持ったタブレット端末をスワイプしながら、満足げに頷いた。

 

「うん、今年もイキのよさそうな1年生が多く入ってくれて嬉しい限りだ。一緒に全国の頂点を目指して頑張ろう。以上だ、練習に戻ってくれ」

 

(ずいぶんあっさりしてるんだな)

 

黎がそう思うのも無理のない、実に簡潔な挨拶だった。これも効率を重視する若林の方針なのだろうか。その後も練習は続いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「よし、今日はこれまで、お疲れさん」

 

若林の一言で練習は終了。張り詰めていた空気が緩む。

 

「今日は20時までなー」

 

続けて若林が時間を告げる。1年生には何のことか分からない。

 

「あの、20時までっていうのは…?」

 

秀が吉永に尋ねる。

 

「ああ、今日は20時までは体育館とトレーニングルームを空けておいてもらえるってことだ。」

 

「なるほど、残って練習していっていいってことですね」

 

1年生にもこれで合点が行った。2、3年生は各々の自主練のために散らばっていく。例えば、吉永はコートの隅でボールを2つ使ったハンドリング練習、白石と重松はスリーポイントのシューティング、森田はトレーニングルームで筋トレ、川崎は走り込みで下半身を鍛えている。各自、自分の特性や役割にあった自主トレを行っている。1年生の大半は疲れてあまり動けないようで、厳しい練習の後でもすぐに自主トレに向かう先輩たちを見て驚いている。しかし、やはり5人は動く。

 

「吉永さん、お邪魔していいですか?」

 

秀が吉永と同じハンドリングメニューをこなしに行き

 

「白石さん、重松さん、混ぜていただけませんか?」

 

小野が2人と共にシュートを打ち込み

 

「俺はウエイト行ってくるよ」

 

熊谷が体を鍛えるためトレーニングルームへ向かい

 

「来栖、付き合えよ」

 

「お、やるか海江田」

 

黎と海江田が1on1を始める。

 

「まじかよ…」

 

「よく動けるな…」

 

そんな5人の姿に他の1年生は驚愕を覚える。

一軍の方が人数も少なく、レベルも高いため練習はしんどい。そのはずなのに5人は先輩に混ざって自主トレに励んでいる。その光景に、自分たちと5人との差を実感した。

 

「負けねえ…」

 

しかし、逆に闘志を燃やしている者も少なからずいた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

8点先取の1on1、ゆっくりとボールをつくのは黎。左右にボールをつき、時に目線でフェイクをいれて海江田を揺さぶる。隙がなかなかないと見るや、黎はその場から大きく後ろにステップバック、スリーポイントラインより1メートルほど手前からディープスリーを放つ。海江田はドライブに備えていたため反応が遅れる。ブロックは間に合わず、黎のシュートはリングを射抜く。

 

「だーーーくそ!それ入るのずるいだろ!」

 

海江田が文句を言う。事実、188cmの黎のステップバックディープスリーは厄介なことこの上ないだろう。外のシュートを苦手としている海江田にはできない芸当である。

 

「はは、まあどれだけ練習したか分からないからな」

 

「いいぜ、取り返してやるよ」

 

代わって海江田のオフェンス。海江田の武器はスピードだ。最高速度は黎よりも速い。何度かのジャブステップの後、1歩で黎に並び、2つ目のドリブルで抜き去る。

 

「はええなくそ!」

 

黎が悪態をつきながら回り込もうとする。しかしそれを見て海江田は逆方向にステップバック、一気に距離をとる。海江田は外はないが、ミドルレンジのシュートは苦にしない。海江田の上体があがる。打たれると思った黎はブロックに飛ぶ。しかし海江田は飛んでいない。黎も得意とするヘジテーションで黎を今度こそ完全に振り切り、ワンハンドダンクをお見舞いした。

 

「はええな、やっぱ」

黎が対戦した中では、"あの男"の次に速いかもしれない。

 

「まあそれが俺の取り柄だからな、次ももらうぜ」

 

ニヤリと笑う海江田。次は黎のオフェンスだ。

 

海江田からボールを受け取るとすかさずスリーポイントの体勢に入る。海江田が反応したのを見て、そこから一気にダックイン。しかし海江田もついてきており、フリースローラインのあたりで回り込まれる。ここで黎は高速でバックビハインドを複数回入れた。海江田の動きが一瞬止まったところで、ギャロップステップの要領で海江田の横を抜き去り、スタンディングレイアップを決めた。

 

「…シェイク&ベイクか」

 

シェイク&ベイク、NBAで活躍した、ジャマール・クロフォードが得意としていた技だ。独特のリズムと緩急で繰り出されるこの技は、来るとわかっていても止めるのが難しい。

 

「…でかいのに技も多彩なの勘弁してくんねえかな」

 

海江田が悪態をつくのも無理はない。ステップバックディープスリーに、シェイク&ベイク、どちらも単体でも充分恐ろしい技であるのに、両方を、しかも188cmの選手がやってくるとなれば、文句のひとつも言いたくなるであろう。

 

「これが俺のスタイルだからな」

 

相手に合わせて多彩な技の中から有効なものを選択し、高い精度でそれを沈める。これが黎の武器のひとつだ。

 

「厄介なことで」

 

再び海江田のオフェンス。まず右から抜きにかかる。黎がついてきたのを確認し、ロールターンで左へ、これにも黎が反応する。ここで海江田はロールを中断、再び右から仕掛けた。

 

(速いし早いな。単純なスピードに加えて、ディフェンスへの反応やそこからの判断も早い。でも!)

 

それでも黎は追いすがる。しかし構わず海江田はドライブを継続、黎を引き連れるようにペイントエリアに侵入し、そのまま踏み切った。

 

「させねえよ!」

 

黎もほぼ同時に踏み切り、海江田についていく。

 

(そのままダンクやレイアップに行けば間違いなく止められる、なら)

 

海江田は1度ボールを下げ、リングの反対側へ回り込む。ダブルクラッチの体勢だ。

 

「そうくるだろうよ!」

 

しかし黎はこれも読み切っている。海江田の後にぴったりと張り付き、楽にシュートを許さない。これを見て海江田は黎の手を超えるように大きく山なりのループを描くバックシュートを放つ。ボールは黎のブロックを超え、リングへと向かっていく。

 

(マジか、あの体勢から俺を超えるシュートを)

 

しかしこのシュートはリングに弾かれる。海江田のオフェンスは失敗だ。

 

「あーーやっぱ無理かー!」

 

「でもやられたと思ったぜ。よくあそこからあのシュートが打てたな」

 

「とっさにやったからもう1回できるかと言われたらわかんねえけどな」

 

次は黎のオフェンス。現在5-2で黎がリードしており、スリーポイントを決めれば黎の勝ちだ。海江田はスリーポイントを1番に警戒する。数瞬の沈黙の後、黎は再びステップバック、スリーポイントの体勢だ。しかし警戒していた海江田がこれを許さない。ステップバックで開いた距離をすぐにつめ、シュートチェックに向かう。しかしこれが黎の罠だ。1番警戒していたことを目の前でやられそうになると、ディフェンスはフェイクにつられやすくなる。上体の浮いた海江田の横を抜き去り、再びスリーポイントの体勢。

 

「させっか!!」

 

しかし海江田の武器はスピードだ。体勢を立て直し、斜め後ろにいる黎のチェックに向かう。しかし黎は今日何度も海江田の速さを目の当たりにしている。黎ほどの選手が、そのスピードに備えていないわけがなかった。

 

「!?」

 

黎はもう一度ステップバック、海江田は体勢を崩され、反応できない。完全にフリーの状態でスリーポイントを放つ。これを確実に決め、この1on1は黎の勝利となった。

 

「負けたか、いやつええわお前、参った」

 

「お前もな、俺が対戦した中で2番目に速かったよ」

 

2人の勝負を見ていた上級生は

 

「すげえのが入ってきたな」

 

「こりゃ俺らもうかうかしてると一軍外されちまうぞ」

 

さらに練習に熱が入り、1年生は

 

「同学年にあいつらがいるんだ、勉強させてもらおうぜ」

 

「俺らの代、期待できるんじゃね?」

 

「いつか追いついて、いや、追い抜いてやる」

 

期待に胸を脹らます者、対抗心を燃やす者様々だった。




シェイク&ベイクかっこいいですよね、私の一番好きなドリブルムーブです。見たことない人はYouTubeで見てみてください、惚れますあれは。
では、ここまで見てくださりありがとうございました。


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第4Q

おそらくもう誰も覚えてないであろうシリーズ、はーじまーるよー


今日も今日とて椿丘バスケ部は練習に励む。黎たちが入部して3週間ほどがたった。当初46人いた新入部員はこの2週間で25人にまで減った。練習についてこられなくなった者、周りとの差に絶望した者、やめた理由は様々だ。強豪校では例年よくあることであるので、監督の若林も、選手達も気にしてはいられない。辞めていった部員の分も、必死に練習するのだった。

 

「よし、今日は《あれ》やるぞー」

 

若林の一言で先輩たちは苦い顔をする。1年生には察しがつかないので、若林が補足説明をする。

 

「普段の練習ではランメニューやフットワークの練習を最小限にして、お前らに少しでも実践的な練習を多くしてもらってる。でもそれだけでは拮抗した試合の終盤、1番体力を試される時間帯に失速しかねない。実力があるのにスタミナ切れで負けるのはもったいないからな。今日はひたすら走り込む日だ。」

 

「うちがあれだけランメニューが少ないのに終盤走り負けないのは、いつもの練習の緊張感に加えてこのトレーニングがあるからなんだよ」

 

若林に続けて吉永が続ける。

 

「それで、どのくらい走るんですか?」

 

秀が恐る恐るというように若林に尋ねる。

 

「うむ、まずはスポーツテストでやるような20mシャトルランだ。普通の満点は125回だが、うちでは170回を目指してもらう。まだメニューは続くので無理はするな、自分のできるところまでいけばやめていい。じゃあ全員並べ」

 

若林の号令で、選手が全員スタートラインについた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

「はぁ…はぁ…」

 

さすがは椿丘バスケ部に入った選手達と言うべきか、125回は1人を除いて全員クリアした。間に合わなかったのは斎藤弘樹。1年生で、椿丘バスケ部唯一の初心者、高校からバスケを始めた者だ。しかし、130回、140回と進むごとに少しずつ脱落者が出始める。150回を越えようとしたところで二軍の選手は全員脱落。一軍の選手は流石というべきか多数残っており、25人中15人が最後まで脱落しなかった。1年生の中で残ったのは黎と秀だけであった。

 

「ふう…なかなかヘビーだな」

 

つぶやく黎に白石がからかうように言う。

 

「ははっ、そりゃこないだまで中学生だったんだもんな。」

 

「よく平気ですね、先輩たち」

 

「平気ではないさ、まあ、慣れる事だな」

 

白石の言うとおり、慣れるしかない。普段基礎メニューを最低限しかやっていない分、この練習についていけるような体力を付けなければ、試合終盤に走り負けてしまうだろう。

 

「よし、休憩後はマラソンな」

 

若林からさらなるメニューが告げられる。学校周辺の山道などを通る10キロほどの道を2周、計20キロのマラソンだ。特にタイムにノルマはないが、秒単位で記録されており、次回以降それを更新するのが目標となる。ここでもやはり1軍の選手たちが抜きん出る。1番早かったのは川崎だ、チーム1のディフェンダーなだけあり、足腰の強さとスタミナは相当なものだった。ついで吉永や白石といったスタメン達。こちらもさすがの一言だ。

マラソン後はトレーニングルームに移り筋力トレーニング。各々必要な筋力をポジション、役割ごとに若林が分け、自分にあったトレーニングを行う。そして最後に室内プールで水中ウォーキング。足腰に負担がかかりにくく、それでいて疲れるトレーニングで、1日の終わりにはもってこいであった。

 

「おし、今日はここまで。自主練やってもいいけど無理はしないこと。休むこともトレーニングの一環だからな」

 

今日ばかりは自主練をするメンバーも少ない。主力メンバーを除くとほとんど疲れきって体力も残っていないという感じだ。

 

「あ、それと練習試合の申し込みが来たから受けておいたぞ、相手は誠凛高校だ」

 

続けて若林が練習試合の予定を告げた。

 

「誠凛…?」

 

「知ってるのか、来栖?」

 

「ええ、一応。名門校ではありませんが、知り合いが行ったとこですね」

 

白石の質問に答える黎に、続けて吉永が尋ねる。

 

「知り合い?チームメイトだったやつか?」

 

「いえ、帝光の知り合いです。幻のシックスマンと呼ばれた選手、黒子テツヤ」

 

黎の言葉に一同驚きを隠せない。

 

「幻のシックスマン…実在したのか。パス回しに特化したプレイヤーで、全中3連覇の立役者」

 

「ええ、森田さん。でもやつはその性質上、周りが強くないと真価を発揮できません。どんなチームに入ったのか、楽しみですね」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

そして練習試合の日、誠凛高校のメンバーを椿丘高校に招き、試合の準備を始める。

 

「よう、あんたが来栖か?」

 

「ああ、あんたは?」

 

アップ中の黎のもとに一人の男が歩み寄る。赤い髪の大柄な男だ。190センチほどあるだろうか。

 

「火神大我だ。よろしくな」

 

「へえ…お前が黒子の新しい光か」

 

一目見て察する。こいつは誠凛の中でも飛び抜けていると。体格、表情、そして纏っているオーラがほかの選手とは別格だった。

 

「キセキの世代に唯一対抗できた男、なんだろ?つまりはキセキの世代には及ばなかったわけだ」

 

「……何が言いたい?そんな安い挑発をしに来たのか?」

 

「俺たちは黄瀬に勝った。だからそれより下のお前にも勝つ。俺と、こいつで」

 

そう言って火神はいつの間にか隣にいた黒子を指さしながら言う。その言葉に黎は驚きを隠せなかった。

 

「黄瀬に勝っただと?」

 

「はい、僕達は先日、黄瀬くんのいる海常高校との練習試合に勝ちました」

 

「ふぅん…じゃあ少しは期待しておくよ、火神クン。俺も全力でお前を倒す」

 

「「集合!!!」」

 

若林と、誠凛の監督である相田リコが集合をかける。

 

「スタートだが……渋谷、小野、海江田、来栖、熊谷でいく」

 

「ん?……え!?」

 

秀が5人を代表して驚きの声をあげる。若林はスターティングを一軍入りしている1年生5人で固めると言ったのだ。

 

「実戦でどれほどやれるのか見てみたい。夏の大会に向けて、1年生の実力もしっかり確かめておきたいんだ、それとも不満か?」

 

「いえ!そんなことは!」

 

「じゃあ思いっきりやってこい」

 

「「「「「はい!!!」」」」」

 

「ヤバくなったらいつでも代わるからよ」

 

白石に茶化されながら、5人はコートへと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

「なんの真似だ?」

 

誠凛高校主将、日向が椿丘のスターターを見ながら顔をしかめる。

 

「随分と舐められたものね…!」

 

ベンチでリコも静かに怒っているようだ。どうやら舐められていると感じているらしい。

 

「すぐにスタメン引きずり出してやる!」

 

「まあまあそう邪険にしないで、お手柔らかにお願いしますよ」

 

熱くなる誠凛サイドとは対照的に、黎たちは初陣にしては落ち着いていた。それもそのはず、5人とも全国等の大きな舞台も経験済み、無名校相手の練習試合であがってしまうようなメンタルではなかった。

 

「というか、俺たちのこともあまり舐めないでいただきたい。1年でも全国区の強豪の一軍メンバーがであることには変わりない、油断してると吉永さん立ちを引きずり出す前に終わりますよ」

 

最後に相手への挑発も忘れない、既に戦いは始まっていた。

 

椿丘高校スターター

PG 渋谷 秀 170cm

SG 小野 陽一 178cm

SF 海江田 遼 185cm

PF 来栖 黎 188cm

C 熊谷 和人 202cm

 

誠凛高校スターター

PG伊月俊 174cm

SG日向順平 178cm

PF火神大我 190cm

C水戸部凛之助 186cm

??黒子テツヤ 168cm

 

ジャンパーは熊谷と火神。身長差もあるので熊谷が勝つかと思われたが、制したのは火神だった。

 

「なに!?」

 

「へえ…」

 

熊谷が驚きの声をあげ、黎が感心したように呟く。ボールは伊月の手に渡り、誠凛のオフェンスでスタートだ。直後、伊月が何も無いところにパスを出した。

 

「え?そこには何も…」

 

小野が呟いた直後、ボールが突如方向を変え、小野の裏からゴール下へカットインしていた日向の手元へ向かった。

 

「これがキセキの世代幻のシックスマンのパスか!」

 

「ナイスパス!」

 

日向がレイアップの体制に入る。その時だった。

 

「知ってるよ、黒子。お前のそのパスは」

 

黎がブロックに飛び、日向のレイアップを叩き落とす。こぼれたボールを秀が拾い、椿丘の速攻になる。

 

「走れ海江田!」

 

「もう走ってらあ!」

 

秀から海江田へ縦パスが通り、そのままレイアップへ向かうが

 

「させっかよ!」

 

戻ってきた火神がブロックに飛ぶ。高さもタイミングも申し分ないブロックだ。

 

「ちっ、先取点は俺が決めようと思ってたのに、よっ!」

 

海江田はボールを下ろし、コーナーに走り込んでいた黎へパスをさばいた。

 

「ブロックしたのにもうあそこまで!?」

 

リコがベンチから驚きの声をあげる。リコの言うとおり、黎は先程ブロックに飛んでいる。しかし速攻の先頭を走っていて海江田のパスに走り込んで間に合わせた。トランジションの速さが伺える。

 

「ナイス海江田、先取点だ」

 

黎のスリーポイントがリングの中心を綺麗に射抜き、椿丘が先制した。

 

椿丘3-0誠凛

 

「黒子のスタイルはよく知ってる。そうホイホイパス通して決めさせられると思うなよ」

 

ディフェンスに戻りながら、黎は改めて黒子に告げた。

 

〜試合開始前〜

 

「え?俺が火神につくのか?」

 

「ああ、黒子にはシュートがないからディフェンスはつかなくていい、俺は全員のヘルプに回るから、火神はお前に任すよ海江田。それとも、自信が無いか?」

 

「言ってくれんじゃねえか、入部してから、毎日のようにお前と1on1やってんだ。止めてやるよ火神の1人や2人」

 

〜〜〜

 

黒子のパスを警戒するため、あえて黎は誰のマークにもつかず中を固めていた。だからこそ日向のレイアップをブロックできたのだ。

 

「さあ、こい誠凛。海常を、黄瀬を破った実力見せてもらおう」

 

 




お久しぶりです、書く意志はあったんです。時間がなかっただけで…


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第5Q

こんないつあげるかわからんようなものに感想をくれた方がいまして、そんなんされたら書きたくなるやん!!!てことで書きました。


先制したのは椿丘。それも黒子ののパスを封じてからの得点だ。誠凛に与えるダメージはただのワンゴールというだけではない。

 

「黒子のパスを一発で攻略されるなんて…」

 

日向を中心に、誠凛サイドに動揺が走る。

 

「ボールくれ、いや、ください」

 

その空気を振り払うように火神がボールを要求。伊月からボールを受け取り攻め上がる。

 

「悪いが俺がやりたいのはお前じゃねえ、とっとと倒してあいつと勝負だ」

 

マークにつく海江田とヘルプポジションにいる黎を交互に見ながら火神が言う。

 

「まあまあそう言わずに、案外いい運動になるかもしれねえぜ?」

 

海江田がニヤリとしながら返す。

 

「けっ、止めてから言ってみろよ」

 

ゆっくりとボールをつく火神。直後いきなり加速し、右から海江田を抜きにかかる。

 

(はええ、が、俺や来栖のが断然速いね!)

 

普段黎と1on1をしている海江田にとって、火神のスピードはそこまで脅威ではなかった。…スピードは。

 

(チッ!こいつ俺がコースに入ろうとお構い無しかよ!)

 

火神は海江田にコースを塞がれてもそれをものともせずフィジカルで抜きにかかった。

 

「行かすかよ!」

 

海江田がさらに深く回り込んで火神を止めようとした時、火神は急停止して左にロールターン。そのままワンハンドダンクを決めた。

 

「こんなもんかよ、準備運動にもならねえぜ」

 

そう挑発し、火神は自陣へと戻っていった。

 

「ドンマイ海江田、取り返していこうぜ」

 

秀が火神に声をかける。

 

「へへ、そうでなくちゃ面白くねえ」

 

海江田はニヤリと笑い、オフェンスへと向かった。

 

秀がボールを運んで上がっていく。ハーフラインを超えたところで黎にパスをさばいた。マークにつくのは火神。

 

「こいよ、来栖!」

 

「あいにくだが勝負はまだお預けだ火神」

 

そう言うと、リング付近にボールを放り投げる。

 

(何やってんだ?シュートにしちゃ軌道がおかしい…まさか!?)

 

「っしゃあ!」

 

ボールは走り込んだ海江田に渡り、そのままアリウープダンクをお見舞いした。

 

「神出鬼没の黒子が出ている以上、低いパスはいきなりカットされる恐れがあるからな、高い位置で回してればそのリスクも回避できる。実質常に誰かがノーマークなのと同じだ」

 

高さのある黎が秀に変わってパスを出し、同時に火神がマークにつくことで火神を外へ誘う。残された海江田の高さに対抗できるのは水戸部だが、その水戸部を熊谷が抑えてブロックに行かせない動き、クリアアウトで封じる。そうすればあとは高い位置にボールを放って海江田がそれを決めるだけ、高さの利をいかし、黒子のスティールも封じる一石二鳥のオフェンスパターンだ。

 

椿丘5-2誠凛

 

「くそ、こんな形で黒子対策をしてくるとは」

 

「来栖くんは相手に合わせて最適な攻め方、守り方を考えて実践してきます。やっかいですね」

 

伊月が毒づき、黒子が同調する。基本スペックは全て並以下である黒子の、唯一にして最大の武器であるミスディレクションを封殺する攻めは、黎の考えたものだった。

 

「オフェンスにおける黒子の弱点は、自分で点を取れないからあけておいても怖くないところ。ディフェンスはそのサイズとフィジカル。これをつかない手はないでしょ」

 

相手の弱点をせめるのは勝負の基本だ。続く誠凛のオフェンスは日向のスリーポイントが外れ、点差はそのまま椿丘のオフェンスになる。再び黎がボールを持ち、先程のように海江田へ合わせようとする。

 

「くそ!」

 

あわてて日向が外から海江田のカットインについていく。しかし、ここでフリーになった小野を黎は見逃さない。

 

「ナイスパス!」

 

「しまった!」

 

日向が気づいた頃にはボールは小野の手に収まっていた。フリーの小野が確実に3ポイントを沈める。

 

椿丘8-2誠凛

 

「ドンマイ、1本取り返そう!」

 

伊月が味方を鼓舞し、ボールを運んでくる。

 

「くれ!」

 

ボールを受けたのは火神。一度海江田から点を奪っていることもあり、リズムを取り戻すためにもエースに託した形だ。

 

「下がっただと…?」

 

海江田のディフェンスを見た日向が怪訝な声をあげる。

 

(こいつに外があるか確かめる、ないならいくらでもやりようはあるんだ)

 

火神に外のシュートはないと読んだ海江田は距離をとって守っていた。外があるならあるで、序盤にそれを知れるならそれでいいと思っていた。

 

(あと、こいつさっき強引に右から来たよな…試してみるか)

 

加えて海江田は火神の右側に立ち、右からのドライブを封じる構えだ。

 

「チッ!」

 

仕方なく左からのドライブを試みる火神。しかし海江田を抜き去るには至らない。

 

(こいつ、右と左でドライブのキレが全然違う。これなら止められる!)

 

火神の止め方が分かった海江田。引き続き右ドライブを防ぐディフェンスをする。

 

(くそっ!こいつ、俺が左のドリブルが得意じゃねえことを見抜いて!)

 

「あれ、大口叩いてこんなもんか?準備運動が足りねんじゃねえのか?」

 

「っせえ!そこをどきやがれ!」

 

火神は挑発に乗ってしまい、フィジカルで強引に右から抜きにかかる。しかし海江田は右を封じていたため、完璧にドライブのコースに入っている。

 

「オフェンスチャージング!」

 

結果、海江田がうまくテイクチャージをし、またしても誠凛のオフェンスは失敗に終わる。

 

「俺が毎日1on1やってんのは来栖だぜ?あんま舐めてかかると来栖とやるより先に俺が潰すぞお前のこと」

 

立ち上がりながらニヤリと海江田が告げる。火神は何も言い返せなかった。

 

続く椿丘のオフェンス。ボールを運ぶのは黎だ。

 

(流れはうちにきてる。ここで火神から点を取れば、一気に優位に立てるな…)

 

味方に指示を出し、アイソレーションの形をとる。

 

「ついにやる気になりやがったか」

 

「ああ、一気にこのクオーターはいただくぜ」

 

ゆっくりとボールをつき、隙を伺う。

 

(なるほど、確かにいいディフェンスをする。加えてこいつを抜いても黒子がスティール狙ってくんだもんな…なら)

 

黎は一瞬動きを止め、ゴールの方を見る。外のある黎なら、フェイクには十分だ。反応した火神の横をクロスオーバーで通り過ぎる。

 

「なにっ!?」

 

侮っていた訳では無い。しかし火神は完璧に抜かれてしまった。

 

(黒子が絶対ヘルプに来るはず、スティールされたら流れを取り切れない。それなら…)

 

黎は後ろ手にボールをつきながら急停止、その後目の前に黒子の手が現れた。

 

「…どうも」

 

「相変わらず突然現れるな、黒子!」

 

スティールを狙ってくるタイミングを読み切り、そのタイミングで停止することでスティールされるのを防いだ。奇襲を封じてしまえば、黒子のディフェンスに苦戦する黎ではない。ロールターンで黒子を一瞬で抜き去った。そのままゴールへ迫るが、ここで火神が追いついてくる。

 

「行かせっかよ!!」

 

(黒子をかわすために止まった一瞬で追いついてきたか、まあでも)

 

「予想はしてたけどな!」

 

黎は再び急停止し、高速でバックビハインドを繰り返す。その動きに惑わされ、火神の動きが止まってしまう。そのままギャロップステップで火神もかわし、スタンディングレイアップの体制に入る。得意のシェイク&ベイクだ。

 

「……!!」

 

しかしここで水戸部がヘルプに間に合い、ブロックに飛んできた。うまく黎とリングの間に入り、コースを塞いでいる。

 

「無駄だ!」

 

だが、黎もただブロックされるのを待つ訳もなく、ゴールに背を向けて背中を水戸部にぶつける。ここで審判の笛がなった。しかし黎はこれでは止まらない。ゴールを背負ったまま、水戸部の手の上を行くループのバックシュートを放ち、決めてみせた。

 

「ディフェンスプッシング!バスケットカウント、ワンスロー!」

 

 

「「おおおおおおお!!!」」

 

「3人かわしてバスカンで決めやがった」

 

「見せつけてくれるな」

 

椿丘ベンチが盛り上がり、白石と森田が感心した声を上げる。対照的に、誠凛側は言葉が出なかった。

 

「黒子くんのスティールをかわして火神くんを2回もあっさり抜いた。水戸部くんのブロックもものともしてない…」

 

このゴールは誠凛に相当なダメージを与えた。エースである火神が抜かれ、黒子のスティールもかわされてしまい、インサイドの要である水戸部もとめられなかった事実は、誠凛に重くのしかかる。

黎はフリースローも落ち着いて沈めた。

 

椿丘11-2誠凛

 

一気に9点もの差をつけられ、流れも椿丘に傾いている。次のオフェンスを落とし、差が2桁になるようなら、もうこのクオーターは完全に椿丘のものとなる。

 

「悔しいけど、今の俺じゃお前も抜けねえか…」

 

ボールを受けた火神は何も無い空間にパス。それを黒子が弾き、海江田を抜いた火神へリターンパスを出す。

 

「連携で抜きに来たか!」

 

海江田は完全に虚をつかれてついていけていない。火神は好機と見てダンクの体制に入った。

 

「あめえよ!!」

 

しかし黎がこれを許さない。ヘルプに備えていたためタイミングも完璧であり、火神のダンクをたたき落とした。

 

「アウトオブバウンズ、誠凛ボール」

 

ボールはラインを割り、再び誠凛ボールでスタート。しかしここでリコはタイムアウトを要求した。

 

「火神くん、聞いてください」

 

リコにタイムアウトを取るよう求めたのは黒子だった。

 

「海江田くんと来栖くんのディフェンスを、僕と火神くんだけで突破するのは相当厳しいです。なぜなら…」

 

「フィニッシャーが火神だと分かっているら、単純な2対2ではない。火神をダブルチーム気味にマークしていればいい」

 

黒子がベンチで説明している時、同様の説明が椿丘ベンチでも行われていた。黒子にシュートがない以上、どんなにボールを回しても最後は火神が決めに来るのが分かっている。分かっていれば止めやすくなるということだ。

 

「だから火神くん、ここからは…」

 

ーーーーーーーーーー

 

タイムアウト明け、誠凛のオフェンス。ボールをつくのは火神だ。海江田を左右に揺さぶり、少しズレができたところで黒子にボールを託しカットイン。リターンを受け取ってシュート体制に入る。

 

「何度やっても同じだ!」

 

すかさず黎がヘルプに来て火神を止める。

 

「いや、同じじゃねえよ」

 

しかしここからは先程とは違った。火神はもう一度黒子にリターン。そして黒子は逆サイドにボールをさばいた。

 

「スイッチ!」

 

逆サイドでは伊月が日向にスクリーンをかけている。スイッチし、秀が日向の、小野が伊月のマークにつく。ボールを受けたのは日向だった。

 

「うて、日向!!」

 

秀と日向では8センチの身長差がある。秀のブロックは間に合わず、日向がスリーポイントを決めた。

 

椿丘11-5誠凛

 

〜〜タイムアウト中〜〜

 

「ここからは…僕と火神くんでボールを回して、先輩たちに点をとってもらいましょう」

 

火神と黒子で黎を引き付け、ヘルプのいない状況から伊月たちに点を取らせる。これが黒子と火神の作戦だった。火神としては悔しい決断だが、このまま海江田と黎のディフェンスに無策で突っ込んでも勝つことは出来ないと察したからこそこの作戦に乗った。

 

「おもしれえ、こっからが本番か」

 

「来栖くん、僕達は来栖くんに勝てなくても、誠凛は負けません」

 

黒子が改めて黎に、椿丘に宣戦布告した。

しかし誠凛にはもうひとつ問題がある。

 

「ナイス熊谷!」

 

黒子対策の上を通すパスが黎から海江田に通り、ヘルプに来た水戸部に合わせて熊谷にパス。熊谷のダンクが決まった。そう、誠凛には点をとることより、椿丘を止めることの方が難しいのだ。

 

 

第1Q残り3分

椿丘26-誠凛15

 

点は取れても、やはり椿丘のオフェンスを止められない誠凛。差はまた徐々に開き始めていた。このタイミングで黒子が一時離脱。土田が代わりに投入された。

 

「そろそろ俺も目立っとかないと、な!」

 

(低い、めちゃくちゃ止めづらいぞこれ…!)

 

伊月の真横を、重心を極限まで落として高速でダックイン。170cmの秀がさらに沈みこんでドライブしてくる。秀が自分より大きな相手を抜くために習得したドライブだ。伊月は反応しても追いつけない。あっさり抜き去ってしまった。

 

「くそ!」

 

土田がヘルプに向かうが、スピードに乗った秀は簡単には止められない。左右に振り、再び低姿勢からのダックインで抜き去りそのままリングへ向かう。水戸部がさらにヘルプに出てこようとした。

 

「よっと!」

 

ここで秀はビハインドパスフェイクをした。水戸部が来るタイミングで熊谷へパスを出す素振りを見せると、水戸部はそれを警戒してヘルプに出られなかった。そのままフリーでレイアップを決める。

 

「ただのチビだと侮ってると、足元すくっちゃいますよ」

 

そう言って得意げにディフェンスに戻る秀。

続く誠凛のオフェンス。

 

「高い!」

 

ローポストで面をとった水戸部が伊月からボールをもらい、熊谷をかわすためにフックシュートを放つが、熊谷はこれをブロックした。

 

「俺をかわすためにフックやステップシュートをしてこられたのは、何も初めてじゃない。むしろ俺に高さで劣る相手は大抵やってくるんだ、予想外じゃない」

 

「速攻!」

 

こぼれたボールを秀が拾い、椿丘の速攻になる。海江田と黎が先頭を走っており、火神以外は追いつけない。完全に2対1の形だ。

 

「止めてやる!!」

 

「1人じゃ無理だ」

 

黎がエルボーあたりでジャンプショットの体制に入る。火神はブロックに飛ぶしかない。そうなると海江田があく。黎は落ち着いて海江田にパスをさばき、海江田が難なくレイアップを決める。

 

椿丘30-15誠凛

 

既に15点の差がついていた。オフェンスでは黒子抜きで点をとるには日向のスリーくらいしか方法がなく、ディフェンスでは椿丘を止められない。残り2分、誠凛は日向が連続でスリーを決めて追いすがるが、やはり椿丘も同じように得点を重ねた。

 

第1Q終了

椿丘36-21誠凛

 

1年生しかいないメンバーに15点のリードをつけられた誠凛の空気は暗かった。

 

「日向くんでいくしかないわ」

 

誠凛ベンチが第2Qに向けて決めた方針は、日向で点をとること。現在の椿丘相手に1番勝率が高いのは日向だ。小野は優秀なシューターでり、現にこの試合でもスリーを3/3で決めているが、ディフェンスやスピードは得意としていない。ここで攻めるしかないと結論づけた。

 

「水戸部くん、土田くん、日向くんのサポートをお願い。伊月くんはいいとこでパス回してあげて。火神くん、あなたにも隙があれば点をとってもらうから、しっかり準備しててね」

 

第2Q開始、誠凛は意地を見せたいところだ。

 

 




正直あの時の誠凛が海常に勝つのだいぶ無理があると思うんですよね…w
椿丘の1年たち強いんだぞ〜ってことでこういう展開にさせてもらいました。
1年の力的には
黎>海江田=秀>熊谷>小野ってイメージで書いてます

では、またいつか


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第6Q

お久しぶりもお久しぶりです。リハビリがてら書きました。


第2Q、やはり誠凛は日向で攻めるつもりのようだ。黒子は温存し、第1Qの最後と同じメンバーで臨んでいる。椿丘も同じメンバーだ。

最初のオフェンスは椿丘。ボールを持っているのは海江田だ。マークにつくのは土田。しかし土田では海江田を止めるには荷が重い。クロスオーバーであっさり抜かれてしまい、海江田の今日何度目かのペネトレイト。ここで水戸部が立ちはだかった。

 

(ならパスするだけだ…へえ)

 

海江田が熊谷の方に視線をやると、パスコースに日向が回り込んでいた。空いた小野には土田がマークについている。

 

(ローテーションが早くなってるな、ひとりじゃ止められないからチームディフェンスでってことか)

 

誠凛のメンバーは椿丘のメンバーとの1on1ではかなわない。よってディフェンスローテーションを早くし、チームディフェンスで守りきるしかないのだ。第2Qはその意識が高まり、全員で足を動かしてディフェンスをしている。海江田は水戸部のブロックを掻い潜るフローターを放つが、リングに弾かれてしまう。

 

「チッ!リバウンド!」

 

しかしリバウンドとなれば俄然有利なのは椿丘だ。202cmの熊谷がインサイドにおり、さらに水戸部はブロックに飛んでしまっている。しかし

 

(く…この人、俺を飛ばせないことだけに!)

 

日向は熊谷に対してフロントボックスアウトをしていた。リングから背を向け、熊谷に向き合ってのボックスアウト、自分がリバウンドを取れなくなる代わりに、自分のマークマンを封殺するボックスアウトだ。

 

「土田っ!!」

 

そこに飛び込んだのは土田。小野のマークをしていた土田が飛び込み、ディフェンスリバウンドをもぎ取った。

 

「ナイスリバン土田!速攻行くぞ!」

 

ボールを伊月が受け取り、誠凛の速攻になる。しかし椿丘の戻りも早い。黎と秀が最初に戻り、残りの3人もすぐに戻った。誠凛のファストブレイクは失敗に終わる。

 

「オッケー!1本きっちり取ろう!」

 

伊月が落ち着かせ、ハーフコートオフェンスに切り替える。日向に土田と水戸部のダブルスクリーンをかける。フリーになった日向がボールを受け取り、スリーポイントの体制に入る。

 

「させっか!」

 

しかしスイッチした黎が追いつき、スリーポイントを阻む。ボールはラインを割り、再び誠凛ボールになる。

 

「小野になら勝てると思って日向さんで攻めようって?甘いですよ」

 

〜〜〜インターバル中〜〜〜

 

「第2Q、誠凛は日向で攻めてくるだろう。」

 

そう言うのは若林。

 

「誠凛としては来栖と熊谷のいるところからは攻めたくないだろう。渋谷も平面のディフェンスは中々のものだ。こうなったら残りは日向しかない。土田に来栖がついてヘルプ意識を高めていこう」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

小野が狙われることは椿丘としては想定の範囲内。警戒しておけばさほど怖いオフェンスではなかった。誠凛のスローインでリスタートになる。しかし、誠凛のオフェンスパターンはこれだけではなかった。

 

「スクリーン!」

 

次は日向がハンドラーとなり、伊月が小野にスクリーンをかける。秀と小野がスイッチし、日向のマークが秀になった所で日向がスリーポイントの体勢。第1Qでも見られた高さのミスマッチを活かした攻め方だ。これが決まり、第2Q最初の得点は誠凛となる。

 

「ナイス日向!」

 

「おうよ!」

 

喜びを露わにする誠凛メンバー。しかしやはり問題はディフェンスだ。

 

「こい、来栖!」

 

ボールをつくのは黎。ロッカーモーションで左右に火神を揺さぶり、隙ができたところでステップバック、スリーポイントの体勢に入る。

 

「させねえ!!」

 

「!?」

 

しかし、振り切られたはずの火神のシュートチェックが間に合った。ブロックはできなかったが、黎のシュートはリングに弾かれる。

 

「リバウンド!」

 

ここでも水戸部がフロントボックスアウトで熊谷を封殺、土田がリバウンドを抑えて誠凛ボールになる。伊月が速攻を狙うが、セーフティを取っていた秀とシュートを撃った黎が戻っており、ファストブレイクでの得点はできない。誠凛は次の手を打った。

 

「スクリーン!」

 

先ほどと同じく日向がボールマンとなり、次は火神がスクリーンをかける。海江田と小野がマークチェンジし、火神対小野の構図ができあがる。ここで火神にボールが渡った。

 

「よっしゃ、いくぜ!」

 

火神は小野を抜き去り、ペイントエリアに侵入。ここで黎がヘルプに出る。しかし、その黎に次は水戸部がスクリーンをかけ、黎のマークをはがすと、火神はレイアップの体勢に入った。

 

「させん!」

 

熊谷がブロックに飛ぶが、火神はダブルクラッチで熊谷をかわし、ボールをリングに沈めた。

 

椿丘36-26誠凛

 

一気に10点差まで追い上げた誠凛、さらに勢いに乗りたいところだが、依然としてディフェンスは不利なままだ。

 

(こういうチームは調子づかせると厄介だ、なら…)

 

「黎!」

 

秀から黎にボールが渡り、ほかの4人は逆サイドに寄る。アイソレーションだ。

 

「次も止めてやる!来いよ来栖!」

 

「1本外させたくらいで威勢がいいな火神、やってみろよ」

 

沈黙の後、右から一気に抜きにかかる。火神が付いてきているのを確認してから急停止、ステップバックを散々見せられてきた火神にはそれだけで十分なフェイクになる。火神の動きが止まった瞬間に逆方向へクロスオーバー、火神を一気に抜き去った。そのままペイントエリアに侵入し、シュートモーションに入る。

 

「打たせねえ!!」

 

しかしここで火神が後ろからブロックに飛んできた。火神のサイズとスピード、そして跳躍力があればこそのブロックだ。

 

「相変わらずたけえな、でももう慣れたわ」

 

黎はシュートは打たず、両手で真後ろにパスをさばいた。そこにはいつの間にか秀が待ち受けている。

 

「ナイスパス!」

 

「しまった!」

 

伊月が気づいた頃にはボールは秀の手に収まり、フリーの秀が確実にスリーポイントを沈めた。

 

「1on1だけがバスケじゃねえ、こっちには点をとる手段なんざいくらでもあるんだ」

 

黎の1on1で来ると決めつけていた誠凛メンバー全体への挑発とも取れる発言。あくまで黎は強気な姿勢を崩さない。

 

「上等だ、いくぞ!!」

 

日向がそれに応えるように誠凛メンバーを鼓舞し、攻めあがってくる。

次のボールマンは伊月、スクリーナーは水戸部だった。秀と熊谷、PGとCでのスイッチはできれば避けたい椿丘側、秀はマークを交換せずにファイトオーバーで付いていく。しかしこれは伊月も想定の範囲内だった。もう1度スクリーンをかけ、今度は秀も引っかかる。これでスイッチしてしまえば高さとスピードのミスマッチが2箇所できあがる。そこに

 

「スイッチするな!ドロップでいい!」

 

黎が熊谷に指示を出した。ドロップ、つまりそのままマークを交換するスイッチではなく、後に下がってハンドラーを待ち構える守り方だ。スリーポイントやロングツーを狙われやすくなるが、その分ペネトレイトを防ぐことが出来る。外を得意としていない伊月には有効なディフェンスだ。伊月が攻めあぐね、時間が出来たところで秀が伊月の、熊谷が水戸部のマークに戻る。このスクリーンオフェンスは失敗だ。

 

「くそっ!」

 

ショットクロックが迫ってきたため、伊月が苦し紛れのスリーポイントを放つが、リングに嫌われてしまう。こぼれたボールを黎が抑え、椿丘の速攻だ。

 

「海江田!!」

 

黎から海江田にロングパスが通り、海江田のワンマン速攻になる。そのままレイアップを沈めようとしたその時。

 

「何度もやらすかよ!!」

 

火神のチェイスダウンブロックが決まった。リバウンドを戻ってきた伊月が抑え、速攻は失敗に終わる。

 

(ここに来て動きのキレが増してきたな…)

 

黎の危惧は当たっていた。火神のエンジンもかかってきており、次の誠凛のオフェンスでは火神が海江田を振り切り、黎のヘルプが来る前にミドルシュートを沈めた。

 

「へえ、なるほどね」

 

それを見ていた黎がポツリとつぶやく。そして海江田に告げた。

 

「次からマーク代わろうか、俺があいつを抑える」

 

続く椿丘のオフェンス。ボールマンは黎だ。今度は椿丘もスクリーンオフェンスに打って出る。火神に秀がスクリーンをかけた。小さい選手が大きい選手にスクリーンをかける、いわゆるインバートスクリーンだ。

スイッチしてしまえば伊月と黎のミスマッチができあがる。しかしファイトオーバーでついて行くには秀と黎の連携は隙が無さすぎるため、簡単に置いていかれてしまう。やむなくスイッチを選択した。

 

(俺にこいつを止められるのか…?火神でもついていくのがやっとの相手を…?)

 

伊月の迷いを黎は見逃さない。左右に高速で振り、伊月の体勢が崩れた瞬間にもはや十八番であるステップバック、シュート体制に入った。

 

「させねえ!」

 

そこへ火神が飛び込んでくる。伊月が振り切られることを予測していた火神は、いつでもヘルプに出られるよう備えてあった。

 

「あめえよ!」

 

だが、備えていたのは火神だけではなかった。火神がヘルプに来ることを読んでいた黎はシュートモーションから秀へパスをさばく。その後カットインで伊月と火神を振り切り秀からボールをもらい直した。そして確実にミドルレンジを沈める。続く誠凛のオフェンス。

 

「きたな、来栖…!」

 

ボールを受けた火神の前に立ちはだかるのは黎。今日初めて真っ向から火神のディフェンスにつく。

 

(ぶち抜いて一気に流れを取りに行ってやる!)

 

勢いよく右へとドライブする火神。当然黎はついてくる。左右に揺さぶりをかけるが、簡単には釣られない黎。

 

(平面で抜くのは厳しいか、なら!)

 

火神は1度ボールを伊月に戻し、ハイポストでポジションをとった。ポストアップした火神にボールが再度渡り、再び黎がディフェンスにつく。

 

(サイズとパワーは俺の方が上なはずだ、ならそこをつくしかねえ!)

 

黎を背中に背負い、パワードリブルでジリジリと黎を押し込む火神。火神の予想通り、パワーでは火神が黎を上回っていた。

 

(これならいける!)

 

「食らえ来栖!!」

 

ローポストまで押し込み、スピンムーブからダンクの体勢。しかし

 

(な!?届かねえ…!?)

 

火神のダンクがリングに届くことは無かった。火神のダンクは空を切り、そのまま着地してしまったことでトラベリングになる。

 

「火神がダンクミス…?」

 

日向を始め誠凛メンバーに動揺が走る。ここで黎が口を開いた。

 

「俺がただ押し込まれてるだけだと思ったか?ポストアップしたお前がゴール下でフィニッシュに来ることは読めてたんだよ、だからその瞬間までは大人しく押されといてやった。最後の一押しだけ抵抗する力を強めて、お前が想定してた距離に届かないようにしたのさ」

 

(確かに最後だけ押し込む感触が違った、こいつ、マジで最初からそこまで考えてやがったのかよ…!)

 

唖然とするしかない火神。黎から得点を奪い、流れを持ってこようとした矢先のターンオーバーは逆に椿丘に流れをもたらした。オフェンスでは元々有利だった椿丘は、その後も順調に得点を重ねる。誠凛もスクリーンオフェンスで追いすがるが、やはり椿丘ほどの安定性はない。スリーポイントの数が誠凛の方が多いため大差をつけられてはいないが、内容は椿丘が完全に試合を支配していた。第2Q残り3分で黒子が投入されたことでオフェンス強化に繋がり、なんとかついて行っている誠凛。そして前半終了を迎えた。

 

第2Q終了

 

椿丘55-誠凛44

 

椿丘side

 

「11点差か、よし、お前達の力はよくわかった。悪くない内容だったぞ、ご苦労さん。後半からはスタメンも使っていくからそのつもりでな」

 

若林が試合に出ていた5人を労い、後半以降は吉永たちも起用することを告げる。これを受けて吉永や白石を始めとする主力メンバーはアップを始めた。

 

誠凛side

 

「今吉永君たちがアップをしているってことは、おそらく後半から出てくるわ、うちはどちらにしろディフェンスでは不利だから、ガンガン攻めていきましょう」

 

「相手を止められないならそれより点を取るしかねえ、後半はもっと走ってくぞ!」

 

リコ指示に日向が同調し、誠凛の後半の方針が決まった。

 

試合はいよいよ後半戦に移る。




不定期更新とは書いてますがガチの不定期ですね
実は就職活動をしてまして、無事第1志望の企業から内定をいただき、NBAを見ていたらこれを書きたくなったので書いた、という流れになります。次もいつかあげます、いつか


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第7Q

お久しぶりです。もう多くは語りません、書くモチベが湧いたので書きます。


第3Q開始。椿丘はメンバーを吉永、重松、白石、川崎、森田のスターティングに戻し、誠凛は伊月、日向、火神、水戸部、黒子、こちらもベストメンバーだ。

最初のオフェンスは誠凛。伊月がゆっくりとボールをつく。その時

 

(!?いきなりこんなハードなディフェンスを…!!)

 

スリーポイントラインから2メートル程の場所から吉永が伊月に強烈なプレスをかける。その圧力に伊月はボールをキープするのに精一杯になってしまっている。慌てて日向がボールをもらいに行くが、パスすら中々さばけない。

 

「くそ!!」

 

結局伊月はボールを失い、吉永のワンマン速攻となる。悠々とレイアップを決めた。

 

「気を抜いてると一気にいただくぞ」

 

吉永が挑発するように伊月に言う。伊月には言い返す言葉もなかった。第3Qの序盤からこのようなハードなディフェンスをしてくることは無いとタカをくくっていた。その隙を完全につかれてしまった。

 

(よし…、集中しなおしだ)

 

伊月が気持ちをあらたにボールを運ぼうとしたが、再び驚くこととなった。

 

(今度は前から!?)

 

吉永がバックコートから伊月にプレッシャーをかけてくる。こうなるとゆっくりボールを運んでまずは1本、という流れに持っていくのは不可能だ。このディフェンスを突破しないことには何も始まらない。しかし

 

(隙がない…俺にこの人を抜けるのか…?)

 

吉永は全国でもトップクラスのPG、当然ディフェンスも全国クラスだ。秀も優れたディフェンダーではあるが、吉永はさらにその上を行く。伊月は左右の揺さぶり、スピンムーブ、緩急の揺さぶりと色々試すが、どうしても吉永を抜くことが出来ない。8秒バイオレーションにならぬよう強引に抜きに行ったところを吉永にカットされ、またもや吉永のワンマン速攻となる。

 

椿丘 59

誠凛 44

 

一気に15点差となった。しかし吉永が手を緩めることはない。再びバックコートから伊月にプレッシャーをかける。今度は火神がボールをもらいにバックコートまで戻った。

 

「へい!!」

 

なんとが火神へとパスが通り、ボールをフロントコートまで持っていくことに成功する。しかし、誠凛の大抵の攻撃は司令塔である伊月から始まる。その伊月が中々ボールを持てない状況では、誠凛もオフェンスのリズムを掴めない。ここは流れを変えるために火神の1on1を選択、アイソレーションの形をとった。

 

「いいのか?そこは一番の鬼門だぞ?」

 

それを見て白石が笑っている。火神のマークについているのは川崎だ。チーム1のディフェンダーであり、その対人ディフェンス能力は黎と比較しても同等以上、全国でも彼以上のディフェンダーはそういない。

火神は右へ左へと大きくも速い動きで川崎を揺さぶるが、川崎は火神からピッタリついて離れない。ならばと次は身体をぶつけ、フィジカルを活かして抜きにかかるが、川崎を押し込むことは出来ない。川崎はガードからセンターまで守ることのできるプレイヤーだ。パワー勝負に持ち込まれようとも簡単に負けることは無い。火神の打つ手がなくなった。

 

「火神くん!」

 

1人の力では。

黒子の声を受け、火神は黒子にボールを託し、2人で川崎を抜きにかかる。黒子のリターンを受けた火神がゴールに迫るが、椿丘のインサイドにはもう1人超えなければならない関門がある。

 

「いかせん!」

 

森田が完璧なタイミングでヘルプに来た。ダンクに向かおうとしていた火神だが、これではダンクはできない。ストップジャンパーに切り替えたが、ここで川崎も追いついてきた。2人のプレッシャーを受けながら、急停止からのジャンパーを決めるのは難しく、火神のシュートはリングに嫌われてしまう。リバウンドを抑えたのは森田だった。

 

「速攻!」

 

誠凛メンバーが振り返ると、吉永、白石、重松は既にスタートしていた。慌てて伊月、日向、黒子が追いすがるが、追いつくことはできない。そして、最前線を走る吉永に森田から矢のようなパスが通る。

 

「ナイスパス!」

 

またも吉永のレイアップで得点。完全に椿丘のペースだ。堅守速攻。吉永が相手のガードを、川崎がエースを、森田がインサイドを封殺することで相手のオフェンスのリズムを崩し、カウンターの速攻を決める。これが椿丘の王道パターンである。バックコート陣の異常に早いトランジョンに加え、森田はゴール下から前を走る味方への、所謂タッチダウンパスを得意としている。このふたつが合わさって、椿丘のファストブレイクは全国でも屈指の速さと威力を誇っている。それがこの試合でもいかんなく発揮された。次のポゼッションでも吉永は伊月にバックコートからプレッシャーをかける。今度は黒子のスクリーンでかわし、日向へとパスを通した。しかし重松も吉永程ではないにしろ優れたディフェンダーである。得点能力に長けてはいないが、スリーポイントとディフェンスでチームを支える選手、3&Dと呼ばれるタイプのプレイヤーだ。日向も中々重松を振り切れない。椿丘メンバーの中で一番ディフェンスが苦手なのが白石であるが、その白石は現在誰にもマッチアップせずフリーの状態。黎たちがやったように黒子が出ているあいだは彼を放置しほかの選手のヘルプに備えるという形をとっている。

 

「くそ!」

 

日向は攻め手を欠き、無理なスリーポイントを選択せざるを得なかった。これが外れ、リバウンドを森田が抑える。となると再び椿丘の速攻となる。しかし誠凛も学習しており、伊月がセーフティとして既に戻っている。良い速攻対策だ。

 

通常なら。

 

「お構い無しかよ!?」

 

火神が驚くのも無理はない。吉永は森田からタッチダウンパスを受け、伊月の待つフロントコートへ一気に駆け抜けていった。伊月と1on1の形になるが、スピードに乗った吉永は伊月では止められない。ダブルクロスオーバーであっさりと抜かれ、吉永早くも8得点目。点差も19となった。そう、椿丘のファストブレイクの本当の怖さはここだ。ただ速いだけではなく破壊力も抜群、セーフティを1人用意した程度なら吉永が個の力で打開してしまう。防ぐには複数人がセーフティとして待機するか、吉永を1人で止めることのできる選手を用意するかだが、前者はあまりにも弱気すぎる立ち回りであるし、後者も難しい。スピードに乗った吉永を止められる選手などそういはしない。オフェンスリバウンドを確保しようにもゴール下には森田という絶対的な柱がいる。この布陣からの堅守速攻はシンプルながら強力、生半可な策では全て返り討ちにあってしまう。

 

「ここまで手ごわいの、椿丘レギュラー陣」

 

誠凛ベンチでリコが悔しそうに呟く。事実現在の誠凛にこの状況をひっくり返せるだけの策も力も残っていない。唯一の頼みの綱は黒子と火神、2人の1年生だけであった。続く誠凛のオフェンス、プレッシャーを受ける伊月に今度は水戸部がスリーポイントラインの外までボールをもらいにいく。パスを受けた水戸部は誰もいない場所にボールを放つ。次の瞬間ボールは火神の手に渡った。黒子がミスディレクションを活かし、パスの軌道を変えたのだ。川崎は完全に虚をつかれた。いくら川崎とはいえ、予想だにしないところからいきなりマークマンにパスが通れば、対応は遅れてしまう。火神が川崎を抜き去ってゴール下に侵入した。森田がヘルプにくるが、火神は落ち着いて水戸部にパスをさばいた。通常ならこれにも反応する森田だが、水戸部が外に出ていた狙いはここにあった。アウトサイドから長い距離のヘルプに来たため、マークマンである水戸部を気にする余裕は森田にはなかった。水戸部がパスを受け、落ち着いてジャンプショットを沈めた。誠凛の後半初得点である。

 

「よし!反撃開始だ!!」

 

日向がチームを鼓舞するように声を上げる。そして誠凛メンバーは椿丘の速攻に備えて全員素早く自陣に戻った。

 

「OK、1本きっちりいこう」

 

それを見て吉永は狙いを速攻からハーフコートオフェンスに切り替える。ゆっくりとボールをついてあがっていき、白石にパスをさばく。マークにつくのは火神だ。

 

「さて、俺もそろそろいいとこ見せとくか」

 

ニヤリと笑い、白石はドリブルを開始。まずは右から抜きにかかる。火神がついてきたのを確認して、クロスオーバーで左へ。これに火神はついてきた。ならばと次は後ろへステップバック、火神も負けじと追いすがった。

 

(こいつ、来栖と比べると数段遅い、これなら止められる!!)

 

火神がそう思った次の瞬間、白石は火神の横をロールターンで抜き去っていった。そのままジャンプショットを沈める。

 

「おせえと思って油断してただろ?スピードだけじゃバスケはできねえんだよ」

 

白石の強みは動きのスムーズさだ。通常前後左右にドリブルムーブをすれば、方向転換や動作の切り替えの際に一瞬の硬直が生じる。例えば前にドライブしている時にステップバックをしようとすれば、1度動作のためができる。しかし白石にはこのため、硬直がほとんどない。まるでダンスでも踊っているかのようなしなやかでスムーズな動き。これがスピードをそれほど得意としていない白石がそれでも全国トップレベルのチームでエースを張っていられる所以だった。

 

椿丘 65

誠凛 46

 

点差は変わらず19。誠凛としてはギリギリもいいところだった。その後も誠凛は黒子を軸とした奇策を弄することでしか点が取れないのに対し、椿丘の攻め手はいくらでもある。吉永や白石の1on1を止めようとダブルチームやゾーンディフェンスを試しても、重松を加えたバックコート陣は全員スリーポイントが打てるため外から簡単に射抜かれ、インサイドでは森田が水戸部を圧倒。点差が開くのに時間はかからなかった。

 

第3Q終了

椿丘88

誠凛56

 

見せつけられた圧倒的な力の差。海常に勝って自信と勢いをつけて望んだこの試合で、誠凛はその勝利が相手の油断に漬け込み、黒子という飛び道具で半ば騙し討ちのように手にした勝利であることを痛感していた。対する椿丘ベンチの雰囲気はいい。しかし弛緩しているわけでもなく、第4Qに向けての選手の士気は高い。

 

「よし、次ちょっと試してみようか」

 

若林が試したいこと、それは現在のスタメン陣に黎を混ぜることだ。若林が考えているパターンは主に2つ。1つ目は重松のポジションに黎を投入し、吉永と2人でゲームメイクをさせつつ攻撃力を高める布陣。エースである白石はそのままに、さらに火力を高めていく布陣だ。バスケIQも高い黎を吉永と共にゲームメイクにあてることで、吉永の負担も減らすことができる。もう1つは白石の代わりに黎を使うもの。攻撃力は前者より劣るが、ディフェンスを苦手とする白石に代わって黎が出ることで椿丘の守備はさらに盤石なものとなる。今回誠凛を相手に若林が選択したのは1つ目、重松の代わりに黎を配置する布陣だった。

 

「不慣れなポジションだとは思うが、行けるな?来栖」

 

「はい、やってみます」

 

若林の指示に頷く黎。いよいよ試合は最終Qへと突入していく、

 

ーーーーーーーーーー

 

 

若林の起用は、満足のいくものとなっていた。吉永のゲームメイクに黎が合わせる形で椿丘のオフェンスは進行しており、2人のパスワークと試合運びに隙はない。加えて椿丘は白石と黎のダブルエースとも言える状態であり、この2人を同時に止めるのは今の誠凛には不可能に近い。火神が黎につけば白石を止められず、白石につけば黎が止まらない。その2人に人数を割けば空いたスペースを吉永に好き放題暴れられてしまう。完全に八方塞がりの状態だった。オフェンスでも依然として黒子を使った絡め手以外ではほとんど点が取れておらず力の差を見せつけられていた。

 

残り3分

椿丘 115

誠凛 66

 

もう誰の目にも勝敗は明らか、あとは時間を使って確実に価値を拾う、所謂ガベージタイムに入っていた。しかし火神はまだ戦意を失っていなかった。果敢に黎に1on1を挑んでくる。そしてその動きのキレは増す一方であった。

 

(こいつ、いつまで空中にいやがる!)

 

レイアップに向かった火神をブロックしようと飛んだ黎だが、先に落ち始めたのはあとから飛んだ黎の方だった。火神体をひねって黎をかわし、レイアップを沈める。

 

「まだ終わってねえぞ!!」

 

火神は黎を挑発。試合には負けても、一矢報いて終わろうと意気込んでいた。それに応えるように黎も攻め上がる。今日何度も見せたステップバック、そこからのドライブにも火神はもう慣れている。そこから急停止するも、火神も合わせて停止、距離を詰めてくる。今度はその詰めてくる瞬間を狙い打った。左手でドライブを仕掛けると見せ、シャムゴッドで逆をついて右から抜き去る。前に出ようと姿勢が前傾になっていた火神は、左からのドライブに備えるのが精一杯で、そこからの切り返しには対応出来なかった。そのまま黎のダンクが炸裂する。そこからはお互いの矛が牙を剥き続けた。火神は空中戦で、黎は多彩な技と緩急で得点を繰り返し、試合終了を向かえる。

 

試合終了

椿丘 125

誠凛 74

 

(勝ちはしたが、終盤の火神は最初と比べても別人のようだった。試合の中でこんなにも早く成長してるのか…)

 

(結果俺たちから74点も取ったんだ、あのオフェンスは鍛えれば相当な脅威になる)

 

黎は火神の成長速度に、吉永は自分たちから74点とった誠凛のオフェンス力にそれぞれ脅威を感じていた。今後、自分たちを脅かす存在になるだろうと、理屈ではなく確信があった。

 

その後は両チームが相手の監督に挨拶。

 

「まだまだ若いし荒削り、改善点が多いとはいえ黒子と火神のオフェンスは磨けば相当なものになるだろう。あとは周りがいかにこの2人を活かしてやるか、ただ頼るだけじゃなく活かす戦いをするためには、他のメンバーのレベルアップも不可欠だ。特に伊月と日向のバックコート陣がより脅威になれば、火神も中で動きやすくなるだろうな。例えば…」

 

「今回私は椿丘のみなさんにアドバイスできるような立場にはないと思っています。うちの子たちもみなさんと戦えたことがいい刺激になりましたので、みなさんもそうだと嬉しいと思います。いつか必ずリベンジさせてください、ありがとうございました」

 

と言ってもリコが椿丘のメンバーに何かアドバイスをすることはなく、若林のサービスのようなものであった。

 

「つくづく粋な先生だよな」

 

「監督というより1人のバスケ好きとして、あのチームがもっと強くなったらどうなるのか見たくなったんだろう。俺も興味が湧いてきたよ」

 

白石の言葉に吉永が続ける。誠凛ほど見ていて楽しいチームは珍しいだろう。より強くなった誠凛とまた戦いたいと、椿丘メンバーは思っていた。




遅くなりました、またいつか上げます(n回目)


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第8Q

8話目です、どうぞ。椿丘の新しい選手が何人か出てくるのであとがきで軽く紹介します。


スキール音が椿丘バスケ部の体育館に響く。誠凛高校に勝利し、夏のインターハイ予選に向けて勢いをつけた椿丘メンバーは今日も厳しい練習で己を鍛えていた。

 

「ストップ!吉永、来栖、ちょっとこい」

 

誠凛との試合以降、若林は頻繁に練習を止め、吉永と黎を呼んで話をするようになっていた。それまでゲームメイクを担当してこなかった黎に吉永と組んでカードをやらせようという構想がある程度形になりそうであることを誠凛戦で確認できたことで、ガードとしての考え方、ゲームのコントロールの仕方を黎に伝授していた。その甲斐あってか、黎もガードとしての役回りをどんどん覚えていき、吉永とのコンビガードは全国でも通用するだろうという確信が若林に芽生えつつあった。

 

「よし、じゃあゲームやるぞ。チームはこっちで決めさせてもらった」

 

若林が決めたチームは以下の通り

 

チームA

PG 吉永優斗 3年

SG 加藤慎也 2年

SF 江角鷹也 2年

PF 川崎圭一 3年

C 熊谷和人 1年

 

チームB

PG 来栖黎 1年

SG 重松恭弥 3年

SF 白石雅史 3年

PF 三宅太一 2年

C 森田康平 3年

 

若林の狙いは黎と吉永をぶつけること。全国トップレベルのガードがチームにいることをフルに活かし、身をもって経験を積ませようという狙いだった。ジャンプボールはなく、チームAのボールでスタート。1Q10分の2Q制で始まった。

ゆっくりとボールをつく吉永。黎がプレッシャーをかけ、スティールの隙を伺うが、吉永にその隙はない。プレッシャーに動じず、落ち着いてパスコースを探す。吉永は一度加藤にパスをさばいた。加藤はSGではあるが、中に切り込んでの得点が得意なスラッシャータイプだ。スリーポイントも打てるが、重松や小野ほどの精度はない。吉永はパスをさばいたあと中にカットイン。黎がバンプでそれを阻むが、それを受けてもう一度外にでてボールをもらい直す。Vカットと呼ばれるボールのもらい方だ。連動するように川崎が黎にスクリーンをかける。それを受けて吉永は川崎の方とギリギリ接触しない位置をドリブルで通る。これはブラッシングと呼ばれる動きで、自分とスクリーナーの間をディフェンスがファイトオーバーでついてくるのを防ぐための動きだ。黎は川崎の後ろを通るしかない。それを見て吉永は黎が川崎の後ろに回った瞬間にステップバック、スリーポイントの体制に入る。川崎のマークであった三宅が慌ててチェックに行くが、吉永のスリーポイントはフェイクだった。三宅を抜くと同時に彼を背中に背負う、所謂ジェイルで封殺し、吉永と川崎対黎という2対1ができあがる。スピードに乗った吉永はそのままリングへアタック、黎が付いていくが、それを受けて吉永は川崎にビハインドパスを出した。フリーの川崎が確実にジャンプショットを沈める。先制点はチームAだ。

 

「うめえ…、簡単に2対1を作る技術と、プレッシャーの中でも適切な判断をする冷静さ、このプレーだけで吉永さんの凄さを再認識させられるぜ」

 

コートの外で見ていた秀がつぶやく。同じガードとして盗めるものは盗もうと、秀は吉永の一挙手一投足を見逃すまいとしていた。

次は黎の番である。吉永はこのゲームでもバックコートからプレッシャーをかけてきた。黎はそれに動じることなく、吉永に背を向け、ボールと吉永の間に常に自分の体を置きながらジリジリと前進していく。これなら簡単にはボールを失わないし、無理にスティールを狙ってくれば逆をついて抜くことができる。吉永もここで無理をすることはなく、黎はそのままフロントコートへ侵入した。その後、黎はトップから右サイドにいた重松にハンドサインでスクリーンを要求。それを受けて重松がスクリーンへ向かい、それを察した吉永が重松の位置を確認しようと目線を黎から逸らした瞬間、逆をついて急加速、ドライブに打って出る。一瞬反応が遅れた吉永だが、簡単には抜かせてくれない。黎はそのまま後ろ手にスクリーンに来ていた重松にボールを預け、ゴール下へとカットイン。追いかける吉永だが、ここで森田のスクリーンがかけられる。フリーになった黎はそのまま右コーナーへ走り込み、そこへ重松からパスが通る。スイッチした熊谷が追いかけてくるが、黎は落ち着いてシュートフェイクで熊谷をかわす。それを見越してか、江角がヘルプに来て黎のドライブを阻むが、それはつまり白石がフリーになるということだ。アウトサイドで待つ白石へのパスを考えた黎だが、さすがというべきか、川崎が既に白石のマークに付いていた。ディフェンスローテーションが非常に早い。川崎は対人ディフェンスもチームディフェンスも一流だった。ここで黎は迷わずシュートを選択。クイックリリースで放たれたボールは2、3度リングをはね、その内側を通った。

 

「なるほど、悪くない」

 

試合を見ていた若林が満足げに頷く。若林と吉永、そして秀は黎の意図にすぐに気づいた。直前に熊谷をかわし、川崎が外の白石のマークについたということは、インサイドで森田の高さに対抗できる選手がいなくなったということだ。打ったシュートが入ればそれでいい。そして外れてもリバウンド勝負で森田が九分九厘勝つ。いわば保険付きのミドルジャンパーだった。

 

「短期間でさらにバスケIQをあげたな」

 

スイッチしたことでその森田をマークしていた吉永も、自分が同じ状況になったらそうすると考えていた。自分と同じ判断ができるようになった黎を見て吉永はニヤリと笑った。

その後も吉永と黎のガード対決は白熱した。単純な1on1なら黎に分があるが、試合の組み立て方、味方の活かし方はやはり吉永が数段上。元々スコアラーである黎は基本的にフィニッシュは自分でというオフェンスパターンが多く、チームBの得点の多くは黎のものであるが、対してチームAは全員が満遍なく点をとっていた。

 

第1Q終了

チームA 26

チームB 22

 

僅かにチームAがリードしていた。これが吉永と黎との司令塔としての力の差から来るものであることは明らかだった。黎は水分補給をしながら、これからの試合運びに思いを巡らせる。

 

「はい、来栖くん、タオルどうぞ」

 

そこへマネージャーである橋本がタオルを持ってやってきた。

 

「ああ、ありがとな」

 

「来栖くんすごいよね、慣れないガードのポジションであの吉永さんと互角に渡り合うなんて」

 

「いや、互角なんてもんじゃないさ。点差は4点でも、ガードとして、司令塔としての力の差は明白だよ。俺は自分が点を取りやすくするために味方を動かしているのに対し、吉永は味方を活かすために味方を動かしてるんだ。内容では完敗さ」

 

橋本の賞賛にそう返した黎。実際これは黎の本音だ。

 

「いや、そうでもないぞ」

 

そこに若林が歩いてきて黎の言葉を否定する。

 

「司令塔にとって一番大事なことはなにか。味方にまんべんなく点を取らすこと?自分を殺して黒子役に徹すること?そうじゃない、チームを勝たせる方向にゲームを持っていくことだ。その為に自分が何点取ろうが味方が何点取ろうが関係ない。最終的にチームを勝たせることが出来ていればそれでいいんだ。その観点から見ればその差はたった4点。悲観することでもないさ」

 

若林の言葉に納得する黎。そしてその言葉で黎の肩の荷も軽くなった。

 

「お前に吉永と同じことをしろと言ってるんじゃない。お前はお前のやり方で試合を動かしていけばいい。強いてアドバイスするとすれば、ガードの仕事はボールを持っていない時にもできる、とだけ言っておこう」

 

そう言って離れていく若林。あとは自分で答えを見つけろということだろう。

 

「……なるほどな、ちょっと試してみるか」

 

黎の中でひとつ答えが見つかった。あとは通用するか実践で試してみればいい。

 

「後半も頑張ってね、来栖くん」

 

「ああ、ありがとう、やるだけやってみるよ」

 

ニコッと笑う橋本にタオルを預け、シューズを裏を手のひらで擦りながらコートに向かった。

 

第2Q開始、ボールはチームBからだ。黎はトップからすぐに白石にボールをさばいた。その足でそのまま白石のマークをしている江角にスクリーンをかけにいく。しかしスクリーンをセットすることはなく、セットするふりをして中にカットイン。ゴーストスクリーンだ。1度中に入り、再度外でボールをもらい直す。次は何をしてくるかとチームAが警戒を強める。その瞬間、白石がディフェンスの裏を抜ける動き、バックドアで江角を振り切った。黎はそこに向けてパスをさばく。ボールを受け取った白石はそのままミドルジャンパーを沈める。

 

「ナイッシュ、白石さん!」

 

「いいパスだったぜ!」

 

黎と白石が互いを労う。続くチームAのオフェンスは江角のスリーポイントが外れ、2点差でチームBのオフェンスだ。黎は今度は重松にボールをあずけ、そのままハイポストへポストアップ。吉永とのサイズの差を活かす。ボールを受けた黎はシュートフェイクの後、ローポストの森田へパスし、ゴール下へカットイン。ハイローと呼ばれるインサイドでの連携プレーである。それを受けて森田は黎へパスをするふりをした。完全に黎にボールが渡ると思っていた熊谷を振り切り、森田がターンアラウンドジャンパーを決めた。

 

「引力の活かし方が分かってきたか」

 

「引力…?」

 

コートの外で試合を見ていた若林の言葉に橋本が反応する。

 

「優れたスコアラーやシューターは、いるだけでディフェンスの警戒の対象だ。その選手がボールを持てば、いや持とうとするだけで注目が集まり、他の選手は動きやすくなる。パスをさばかずとも味方を活かすことができるだけの引力をあいつは持ってるんだよ」

 

「なるほど…」

 

その後も黎はコートを動き回り、味方が動きやすい状況を作り出した。それを嫌って黎のマークが緩くなれば、即座に点を取りに行く。両方を止め切るのは不可能だった。

 

試合終了

チームA 42

チームB 42

 

結局同点で決着つかずとなった。しかし、黎にとってはこの上なく収穫の大きいゲームとなったことは間違いない。司令塔としてのレベルを上げることが出来た。

 

「よし、今日はここまで。夏の予選はすぐそこだからな、時間を無駄にしないように心がけて、万全の状態で予選を迎えよう」

 

「「「ありがとうございました!!!」」」

 

その日の練習はこれで終了。そして各々日常となっている自主練習へ向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「出たぞ、県大会の組み合わせ。」

 

昨年インターハイに出場した椿丘は地区大会は免除、県大会への出場は確定している。その組み合わせが発表された。若林が全員分用意された組み合わせのプリントを配る。椿丘はAブロックの第一シード、昨年の県大会優勝校のポジションであり、2回戦からのスタートだ。

 

「初戦は川田高校と倉安高校の勝った方だな」

 

組み合わせを確認して吉永が言う。どちらもインターハイに出場したことはなく、大型新人が入ったというニュースも聞かない。十中八九問題ない相手だ。

 

「今年の要注意校は、相葉学院、豊明大付属、三和の3校。相葉学院は言うまでもなくうちのライバル校、豊明大付属は全体的にサイズがあり、腰の座ったバスケをする古豪、三和は2年生エース佐久間を中心に最近力をつけてきた高校だな」

 

白石が今年の注目校を整理する。

 

「相葉は当たるとしたら決勝、豊明は準決勝、三和はベスト8ですか」

 

組み合わせを確認し、黎が配られたプリントにチェックをつける。

 

「決勝準決勝のこともいいが、まずは目の前の一勝を確実に取りに行くぞ、どっちが勝ち上がってきても全力でかかる。俺たちに負けは許されないんだからな」

 

吉永がチームを締める。波乱万丈の夏の予選が、始まろうとしていた。

 

 




SG 加藤慎也 2年生 177cm
スリーポイントの精度は小野や重松に劣るものの、中に切り込んでのシュートやそこからのパスを得意としている2年生の正SG。ディフェンスも苦手とはしていない。

SF 江角鷹也 2年生 183cm
椿丘の2年生の中でのエース。中外両方で点を取ることができ、スピードも申し分ない。ディフェンスは得意としていないが、オフェンス力だけならスタメン陣にも匹敵する。

PF 三宅太一 2年生 187cm
パワープレイよりもミドルジャンパーやステップシュートといったテクニカルなオフェンスを得意としている。ディフェンスも申し分ない。


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第9Q

ユニホームを渡される時って色んな考えが頭をめぐりますよね。
今回で椿丘のベンチメンバーを全員出すので、あとがきに軽くデータを載せておきます。


夏の予選を間近に控え、椿丘バスケ部の練習は日に日に激しさを増す。特に吉永をはじめとした3年生の気合いの入りようは凄まじいものがあった。

 

「ディフェンス!足動かせ!!」

 

「リバウンド!ポジション渡すなよ!!」

 

それに触発され、1.2年生の士気も高まる。椿丘バスケ部の状態は最高に近かった。

 

「よし、今日はここまで。このあとユニホーム配るぞ」

 

若林の言葉で空気が少しピリつく。ユニホームを配る、つまりベンチ入りできるメンバーが発表されるのだ。一軍選手25人に対し、ベンチ入りの席は15個。一軍を勝ち取ったメンバーからも溢れる選手がいる。

 

「4番、吉永」

 

「はい!」

 

若林がまずキャプテンの吉永の名前を呼び、吉永がそれに応える。澤木が吉永にユニホームを手渡した。

 

「頑張ってね、吉永くん」

 

「いや、少し違うな。澤木も一緒に頑張るんだ、一緒に戦ってくれよ」

 

澤木のエールに吉永もエールで返す。澤木は少しはにかんだ表情を見せた後、笑って大きく頷いた。

 

「5番、森田」

 

「はい!」

 

大きく太い声で応える森田、その姿はさすがの頼もしさだ。

 

「6番、重松」

 

「はい!」

 

普段物腰の柔らかい重松も、覚悟を持った声で応えた。

 

「7番、白石」

 

「…はい!」

 

エースナンバーを渡された白石。本人にとっては少し意外だったろうか。

 

「…この番号に恥じない活躍を期待してるぞ」

 

「!!……はい!!」

 

澤木からユニホームを受け取る際、若林が白石に告げる。それを受けて白石も活躍を誓った。

 

(来栖じゃなくて俺に7番を預けてくれたんだ、生半可なプレーはできねえ!!)

 

「8番、川崎」

 

「はい!」

 

落ち着いていつつも芯のある声で返す川崎。

 

「9番、江角」

 

「はい!」

 

2年生スコアラーの江角が9番を受け取った。

 

「10番、鈴本」

 

「はい!」

 

2年生PGの鈴本、巧みなパスワークを得意とし、味方を活かすタイプの正統派ガードだ。

 

「11番、三宅」

 

「はい!」

 

テクニカルなプレーを得意とするPFの三宅、こちらもメンバー入りした。

 

「12番、加藤」

 

「はい!」

 

スラッシャータイプのSGである加藤もユニホームを獲得。

 

「13番、吉田」

 

「はい!」

 

2年生Cの吉田。森田ほどではないが頼れるCだ。

 

「14番、小野」

 

「…は、はい!」

 

まさか選ばれるとは思っていなかったのだろう、驚いた様子で返事をした小野。

 

「15番、渋谷」

 

「はい!」

 

喜びを隠しきれない様子の秀。表情には出さないが、黎には秀が飛び上がるほど喜んでいるのがよく分かった。

 

「16番、海江田」

 

「はい!」

 

ユニホームを受け取り、軽くガッツポーズをしている海江田。

 

「17番、熊谷」

 

「はい!」

 

1年生とは言え、チーム1の長身センターだ。選ばれても不思議ではないだろう。

 

「そして、18番、来栖」

 

「はい!」

 

黎もユニホームを澤木から手渡される。

 

「期待してる」

 

「ええ、応えられるよう全力を尽くします」

 

ふと橋本の方を見ると、こちらに向けてガッツポーズをしていた。

 

(頑張ってね、来栖くん!)

 

それに軽く手を上げて応え、元の場所に戻る。

 

「以上のメンバーで夏の予選を戦う。選ばれたものは選ばれなかったものの思いも背負って戦うことをくれぐれも忘れないように。また選ばれなかったものも最後まで共に戦ってほしい。以上、ユニホームを貰ってない3年生だけ残れ、あとは解散」

 

「「「ありがとうございました!!!」」」

 

解散の合図を受け、ユニホームを貰えなかった3年生以外は素早く支度を済ませる。

 

「自主練組もちょっと外出てろ」

 

白石の言葉に全員従う。これから何が行われるのか、分からないものなどいなかった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「まずは、2年と少しの間、お疲れ様と言わせてくれ。お前達は出場の機会に恵まれなくても、日々自分を磨いて、さらにチームのために献身的に動いてくれた。俺はそんなお前達を心から尊敬しているし、誇りに思う」

 

3年生18人のうち、ユニホームを貰えなかった13人に向け、若林が言葉を紡ぐ。

 

「あいつらが戦えるのは、お前達の存在があるからだ。ここから全国の舞台まで、あと少しだけ俺たちに力を貸してほしい」

 

そう言って深々と頭を下げる若林。3年生たちは悔し涙を流しながらも、大きく頷いた。

 

「「「はい!!」」」

 

ーーーーーーーーーー

 

「…負けられねえよな」

 

「うん、このユニホームを着る意味、改めて身にしみるよ」

 

白石と重松の言葉だ。若林と3年生の様子を外から見ていた主力メンバーたちは、覚悟を新たにする。

 

「あいつらの分まで、なんとしても全国制覇を成し遂げるんだ」

 

吉永の言葉に、そこいいた全員が頷いた。

 

ーーーーーーーーーー

 

そして、椿丘バスケ部の予選が幕を開ける。椿丘の初戦の相手は倉安高校となった。

 

「さて、いよいよ予選の開幕だ。お前達準備はいいな?」

 

「「「はい!」」」

 

控え室で若林の言葉に力強く返す椿丘メンバー。その士気は高く、むしろ試合を待ちわびていた節すらあった。

 

「よし、まずは初戦、きっちりとってこい。スタートは吉永、来栖、白石、川崎、森田でいく」

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

「時間だ、いくぞ!」

 

吉永の声に続き、メンバーは試合へと向かう。

 

ーーーーーーーーーー

 

「出てきたぞ!椿丘だ!」

 

「インターハイ常連の千葉の王者だ!今年はスーパールーキーの来栖も入ってさらに盤石か!?」

 

「今日はこれを見に来たんだ!」

 

 

 

「…初戦だってのに随分客が来てるんだな」

 

「それだけ注目されてるってことさ、恥ずかしいプレーは出来ないぞ」

 

白石の苦笑混じりのつぶやきに吉永も笑って返す。椿丘メンバーに緊張はない。大して対戦相手である倉安高校は完全に飲まれてしまっていた。

 

「両チーム礼!」

 

『よろしくお願いします!!』

 

椿丘メンバー

#4 吉永 PG 180cm

#5 森田 C 198cm

#7 白石 SF 185cm

#8 川崎 PF 190cm

#18 来栖 SG 188cm

 

倉安メンバー

#4 高橋 PG 174cm

#5 下田 SG 175cm

#6 岡本 SF 181cm

#7 阿部 PF 184cm

#8 古賀 C 188cm

 

ジャンプボールを制したのはやはり森田。相手のCである古賀とは10cm差、確実にボールを吉永のもとへ弾いた。

 

「いくぞ!」

 

ボールが吉永の手に渡る頃には、もう黎と白石は走り出していた。吉永から白石へ、白石から黎へとパスが通り、黎がフリーでレイアップを決める。

 

「よし!いいぞ来栖!」

 

「ナイスパスでしたよ白石さん!」

 

続く倉安のオフェンス。吉永は高橋にバックコートからプレッシャーをかける。吉永ほどの選手のプレッシャーに慣れていない高橋はすぐにボールを失ってしまい、吉永のスティールを許した。そのまま吉永がレイアップを決める。

 

「よし!ナイス吉永!」

 

「このままいくぞ!」

 

次の倉安のオフェンスも吉永はバックコートからあたる。高橋はボールをキープするのに精一杯で、とてもフロントコートまでボールを運べそうにない。

 

「くそ!高橋!」

 

それを見て下田がボールをもらいに行く。高橋は逃げるようにボールを下田へと放った。

 

「もらい!」

 

しかし黎がそれをカット、そのまま1人で持ち込み、今度はダンクで決めた。

 

『おおおおおおおお!!』

 

「あっという間だ!開始30もたたずに一気に6点!」

 

「これは今年も椿丘で決まりだろ!」

 

観客も黎のダンクで一気に盛り上がる。試合は完全に椿丘のペースで進んでいく。

 

 

「いくぜ」

 

白石が右へドライブ、岡本も必死についていく。これを受けてクロスオーバーで左へ、反応した岡本を見て白石はそのままもう一度右へロールターン。白石のスムーズな動きに岡本は完全に置き去りにされてしまう。そのままペネトレイトし、レイアップの体制。

 

「打たせねえ!」

 

古賀がヘルプに来るが、ここで白石は跳躍と同時に体を回転させ、古賀をかわした。そのままレイアップを沈める。

 

 

 

「くそっ!ビクともしねえ!」

 

ローポストでポジションをとっていた森田を古賀が押し返そうとするが、逆にどんどん押し込まれてしまう。ボールをうけた森田はパワードリブルでジリジリと古賀を押し込み、古賀の上からダンクをお見舞した。

 

(隙がねえ…抜けるわけねえ…)

川崎のディフェンスに、倉安のエースである岡本はほとんど身動きが取れず、満足にドリブルもすることができない。ディナイも激しい中なんとかボールを貰ってもまともに攻められず、エースの沈黙によって攻撃のリズムも生まれない。

 

(速すぎる!止められるわけねえ!)

 

吉永のドライブに高橋はほぼ反応できず、あっさりと抜かれてしまう。古賀のヘルプを受けるが、吉永はティアドロップでブロックをかわしてシュートを沈めた。

 

 

「すいません、俺らも負けられないんで」

 

黎のステップバックスリー、シェイクアンドベイクをはじめとした多彩な技に倉安の選手は全く対応出来ない。文字通り椿丘が倉安を蹂躙していた。

 

第1Q終了

椿丘 48

倉安 6

 

圧倒的と言うほかなかった。オフェンスディフェンスともに倉安は椿丘に全く歯が立たない。最初は盛り上がっていた観客たちも途中からは倉安を同情の眼差しで見るようになっていた。

 

「よし、仕上がりは問題ないな。次からどんどんメンバー変えてくからな。第2Qは渋谷、重松、江角、三宅、熊谷でいく」

 

 

第2Qも椿丘の優位は揺るがなかった。秀が吉永と同じように前線からプレッシャーをかけ、高橋はまともにボールを運べない。下田にボールを託しても重松を突破できない。オフェンスでも秀の低重心の高速ドライブからのアシストを中心として、江角がドライブで、重松がスリーで躍動し、インサイドは熊谷と三宅が支配していた。

 

 

第2Q終了

椿丘 89

倉安 15

 

第3Qはメンバーを入れ替えながら戦っていた。しかし、海江田と小野の出番が来ることはなかった。ベンチで2人はうずうずしながら試合を眺めている。

 

「悪いな、1年生であるお前達のデータをほかの高校に取らせたくないんだ。より高い舞台でデビューしてもらうからな」

 

「でも来栖や渋谷たちは出てるじゃないですか〜」

 

海江田が軽く抗議する。もちろん本気で言っている訳ではなく、ちょっとした冗談だ。

 

「来栖と渋谷は既に広く名が知れ渡っているし、熊谷の武器は高さとパワーというシンプルなものだからな。隠すようなことではない。でも海江田のスピードや小野のシュートレンジの広さは初見なら対応に手こずるだろう。まだ隠しておきたいのさ」

 

がより詳しく2人に説明する。もともと試合に出たい思いはありつつも、若林の采配に不満はなかった2人はその後もベンチで応援に徹した。

 

第4Qは再びメンバーをスタメンに戻して臨んだ。吉永と黎がスピードで、白石が緩急とテクニックで、川崎と森田が高さとパワーで倉安を蹂躙し、終わってみれば吉永24得点12アシスト7スティール。黎32得点8アシスト5スティール。白石29得点6リバウンド3アシスト。川崎10得点11リバウンド8スティール。森田18得点16リバウンドと、大暴れの結果となった。

 

試合終了

椿丘178

倉安 30

 

下馬評通り椿丘の圧勝で終わった。倉安のメンバーも勝てるとは思っていなかったが、ここまで圧倒的な差で負けるとは思っておらず、屈辱的な気分になっていた。

 

「ありがとう、お前達の分まで優勝してくるよ」

 

吉永が高橋に握手を求める。

 

「…ああ、頑張ってくれ」

 

勝ったものは負けたものの想いも背負って戦う。常勝と言われ、数々の勝利を得てきた椿丘メンバーも、それを忘れることは無かった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

相葉学院と里崎高校との試合、椿丘のライバル校である相葉学院の初陣もまた、盤石なものだった。

 

司令塔でキャプテンである4番、島村雄也の緻密なゲームメイクで試合の流れを終始離すことなく、エースである7番、能登優馬を初めとしてスコアラー陣が躍動、終盤には主力メンバーを温存して盤石な体制だった。

 

「ま、順当な結果だな」

 

観客席から観戦していた椿丘メンバー。白石が試合を見ながらつぶやく。現在第4Q終盤、相葉学院はベンチメンバーを出しての試合運びとなっていた。

 

「アイツでけえな」

 

黎の視線の先には、18番、モリス・ブラウンがいた。中学までアメリカにおり、両親の都合で日本に来た1年生で、身長は205cmと県内最高身長を誇る。

 

「モリス・ブラウンか…見たとこパワーも相当だろうな。スピードも遅くはなさそうって感じか。インサイドでの支配力はやばそうだぜ」

 

「あれだけタッパがあってスタメンじゃないってことは、テクニックなどはまだそこまでついてないっことか?」

 

「だと思う、見たとこシュートレンジもそこまで広いわけではなさそうだし、純粋なセンターって感じなのかもね」

 

白石、川崎、重松もモリスのプレーを分析する。現にモリスはローポストでボールを受け、相手を押し込んでゴール下のシュートやダンクという得点パターンがほとんどだった。

 

「あいつの相手をするのは骨が折れそうだ。まだ1年でそこまでうまさが身についてなさそうなのが救いだな、ゴールから遠くでプレーさせればどうにかなるか?」

 

マッチアップすることを想定して森田が対処法を考える。

 

試合終了

相葉学院 166

里崎 42

 

 

「いずれにせよ決勝まで行かないとあいつらとは戦えないんだ。ひとつずつ確実にいくぞ」

 

席を立ちながら吉永が言う。その声を受けて、椿丘メンバーは2試合目の準備へと向かった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

椿丘はその後も順調に勝ち進み、ついにベスト16へと駒を進めた。相手は前評判通り三和高校となった。試合前夜、椿丘メンバーは三和の試合ビデオを見ながらミーティングを行っていた。

 

「佐久間は去年からさらに一皮剥けてるな」

 

吉永がビデオから視線を外さずにつぶやく。画面の中では2年生エースである佐久間が中外両方で躍動し、得点を量産していた。

 

「去年は外は得意とはしてなかったもんな。さらに面倒になってやがる」

 

去年よりもやっかいになっていると語る白石。白石自身ディフェンスは得意としていないため、相手をするのは骨が折れそうだ。

 

「チーム全体としても完成度をあげてきているよ、ガード陣も経験を積んでさらに成長してる」

 

「インサイドも要注意だな、センター2枚の体制で中を支配しに来てる。」

 

重松と森田が自分たちのポジションの観点から相手を分析する。

 

「センター2枚で来るなら川崎で相手するにはちょっと不利か?川崎は佐久間にあてて吉田や熊谷も出すのもありか」

 

「一応インサイドも守れるとは思う、佐久間のマークもできるが、素直に来栖を当てていつも通りのメンバーでもいけるとは思うぞ」

 

白石の懸念に川崎が自身の見解を述べる。

 

「メンバーは今夜もう一度考えて明日発表する。全員スタートで出られるように準備しておいてくれ、明日も勝つぞ」

 

若林が話をまとめ、解散となった。明日はいよいよ三和高校との試合となる。

 




椿丘メンバーについて簡単にまとめておきます

#4吉永優斗 3年 pg 180cm
攻守共に隙のない、全国トップクラスのポイントガード。椿丘の柱とも言える選手。

#5森田康平 3年 c 198cm
持ち前の高さとパワー、またそれに似合わぬスピードでインサイドを支配するプレイヤー。椿丘のインサイドの要。

#6川崎圭一 3年 pf 190cm
椿丘のディフェンスの要と言える選手。対人、チームディフェンスともに全国トップクラスであり、ガードからセンターまで満遍なく守ることができる。得点面も苦手という訳ではなく、スリーポイント以外ならそつなくこなす。

#7白石雅史 3年 sf 185cm
椿丘のエース。中外両方で得点できる選手である。スピードはそこまであるわけではないが、動きのスムーズさとしなやかさはチーム1で、それを生かしたオフェンスで躍動する。得点能力は全国トップクラスだご、ディフェンスは苦手としている。

#8重松恭弥 3年 sg 179cm
椿丘の正シューティングガード。ドライブで切り込んでのオフェンスはあまり行わないが、吉永と連携してのパスワークと高精度のスリーポイントで攻撃に貢献する。ディフェンスも川崎ほどではないにしろ得意であり、いわゆる3&Dと呼ばれる選手。

#9江角鷹也 2年 sf 183cm
白石程ではないが、椿丘の2年生の中でトップのオフェンス能力を誇る。白石と同様中外両方で得点できる選手であり、スピードは白石よりも速い。ディフェンスも苦手とはしていない。

#10鈴本誠一 2年 pg 175cm
2年生の司令塔、万能型の吉永のプレイスタイルに憧れており、目標としている。得意としているのはパスワークで、得点よりもアシストが得意である。パス能力は吉永と比較しても劣らない。

#11三宅太一 2年 pf 187cm
インサイドプレイヤーではあるが、パワーよりもテクニックを活かしたプレーが得意。シュートレンジも広く、ストレッチ4と呼ばれるタイプのプレイヤーである。

#12加藤慎也 2年 sg 177cm
sgではあるが、シューターというより切り込んでのフィニッシュやアシストが得意なスラッシャータイプ。ペネトレイトしてディフェンスを引き付け、センターや外にいるシューターにパスを捌くのが得意な形。

#13吉田優吾 2年 c 192cm
長身でパワーもある、森田程ではないがインサイドで頼りになるプレイヤー。加えて視野も広く、パスセンスもあるため中からボールをさばくオフェンスパターンも得意としている。

#14小野陽一 1年 sg 178cm
スリーポイントのスペシャリストであり、シュート力だけなら椿丘の中でもトップクラス。シュートレンジも広く、クイックリリースやタフショットも得意としている。スピードやディフェンスは得意としていない。

#15渋谷秀 1年 pg 170cm
中学時代の黎の相棒。上背はないが、クイックネスとテクニックに長けており、全国で見ても能力の高いガードである。吉永ほどではないが万能型であり、得点もアシストもバランスよくこなす。

#16海江田遼 1年 sf 185cm
黎のライバル的な関係。スリーポイントは苦手だが、ミッドレンジでのオフェンス能力は相当であり、スピードも黎に匹敵するフォワード。黎と毎日のように1on1をしていることもあり、ディフェンス能力も日に日に向上している。

#17熊谷和人 c 202cm
椿丘1の長身を誇るセンター。オフェンスディフェンスともにゴールの近くであれば圧倒的な支配力を誇る反面、スピードもテクニックもある訳では無いため、ゴールから遠いところだと影響力を発揮できない。

#18来栖黎 sf 188cm
本物語の主人公。キセキの世代に及ばなかったものの全中時代に彼らと対等に渡り合えた唯一の選手。オフェンスディフェンスともに得意であり、相手の弱点に合わせた戦術を考えるなど、バスケIQも高い。スピードや緩急に加え、多彩な技の中から有効なものを選択して高精度で沈めるというオフェンスを得意としており、1対1で 彼を止められるプレイヤーはそういない。なかでもステップバックスリーとシェイク&ベイクが得意技である。


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第10Q

不 定 期 更 新 ! !

遅くなりました、、、


三和高校との準々決勝を前に、椿丘メンバーは控え室でミーティングを行っていた。

 

「スタートだが、吉永、重松、来栖、森田、熊谷でいく」

 

若林がスターティング5を告げる。攻撃型のチームである三和が相手ということもあり、バックコートをディフェンスのできる3人で固め、ツーセンター対策にチーム1の長身である2人を当てる。川崎をインサイドに据えるパターンも考えたが、まずは純粋に高さで対抗しようという考えとなった。

 

「熊谷は公式戦では初スタメンで緊張もあるだろう、4人がしっかりサポートしてやれ。熊谷も、お前の武器である高さを存分に活かして戦ってこい」

 

「「「はい!!!」」」

 

「今日の相手は今までとは違う。少しの油断で足元すくわれるからな、気ぃ張っていくぞ!」

 

「「おう!」」

 

若林の指示と吉永のチームを引き締める言葉でミーティングは終了となり、メンバーはコートへと向かう。

 

「来栖くん!」

 

「橋本か」

 

試合へ向かう黎を橋本が呼び止める。

 

「今日は責任重大だね」

 

「ああ、向こうのエースとのマッチアップだからな」

 

「来栖くんなら勝てるよ、応援してるから頑張ってね!」

 

「ああ、ありがとう。勝ってくるよ」

 

エールをくれた橋本に笑って応え、コートへと足を向ける。

 

「…綾菜ちゃん、やっぱり来栖くんのこと好きなの?」

 

「え!?ど、どうして??」

 

それを見ていたもう1人の1年生マネージャー、五十嵐が黎の去った後からかうように橋本に言う。

 

「だって来栖くんにだけ見てて態度違うもん、その反応、やっぱり好きなの?」

 

「うーん…どうなんだろう…憧れ、が近いのかな」

 

ニヤニヤとしている五十嵐に若干悩みながら答える橋本。

 

「初めて来栖くんのプレーを見た時さ、かっこいいと思うと同時に住む世界が違うな、追いつけないなと思っちゃったから、プロの選手とかに抱く憧れに近いものなのかも」

 

そんな話をされているとは知る由もない黎の背中を、橋本はゆっくりと見送った。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「出てきたぞ!!千葉の王者椿丘だ!!!」

 

「今大会全て100点ゲームで圧勝!今日も期待してるからな!!」

 

椿丘の入場で観客のボルテージも上がる。

 

「対するは千葉の新星、三和高校!」

 

「エースの佐久間を中心に去年より力をつけてきた新鋭だ!王者椿丘を食らうか!?」

 

観客が期待しているのは椿丘だけではない。近年着実に力をつけ、千葉の王座争いに加わった三和に期待を寄せる観客もたくさんいた。

 

「向こうも落ち着いてるな」

 

「うん、、のまれてる感じじゃなさそうだね」

 

吉永と重松が三和ベンチを見据えて話す。今までの対戦相手は自分たちを相手にするのに恐れがあったり、雰囲気にのまれていたりしたが、三和にそれはない。今までのようにはいかないことを改めて察した。

 

 

 

「割と俺たちの応援もいるんだな」

 

「番狂わせを期待してる奴らもいるってとこだ」

 

場所は変わって三和高校ベンチ。キャプテンでセンターある木元と副キャプテンでガードの中島だ。こちらも王者を相手にする前ではあるが、非常に落ち着いている。

 

「今日はちょっと骨が折れそうだ、初っ端から飛ばしていきましょう」

 

エースである佐久間が待ちきれないという様子で試合開始を待つ。これまでの試合でも全て攻め勝ってきた三和だ。今回も点の取り合いを望む。

 

「今日も頼むぜ、インサイド陣」

 

「はい、中の主導権は絶対渡しません」

 

sgの吉野が2年生でツインタワーの一角である長田の背中を叩き、長田もうなずいて応えた。

 

「両チーム整列!」

 

「時間だ、行くぞ」

 

「よし、今日も攻め勝つぞ」

 

2人のキャプテンの言葉に続き、両軍の選手がセンターサークルへ向かう。

 

「「お願いします!!!」」

 

椿丘スターター

#4 吉永優斗 180cm pg

#5 森田康平 190cm pf

#8 重松恭弥 179cm sg

#17 熊谷和人 202cm c

#18 来栖黎 188cm sf

 

三和スターター

#4 木元 匠 197cm c 3年

#5 中島 凛 179cm pg 3年

#6 吉野 淳也 178cm sg 3年

#7 佐久間 翔也 184cm sf 2年

#8 長田 裕史 196cm pf 2年

 

シャンプボールは熊谷と木元。高さで勝る熊谷がボールを弾き、吉永がボールを抑えて椿丘ボールでスタートだ。

 

「よし、1本!」

 

速攻にはいかず、ハーフコートで確実に先取点を狙う動き。椿丘は吉永、重松、黎のバックコート陣だ。ゲームメイクが1番しやすい布陣といえよう。吉永は1度重松にパスをさばくと、中へとカットイン。熊谷と森田のダブルスクリーンを利用して左コーナーへと走り込む。誰もが重松から吉永へのスキップパスを予想したが、ここで黎がハイポストにシールし、重松からボールを受けた。

 

「こいよルーキー、千葉のてっぺんはそう容易くねえぞ」

 

佐久間が黎を挑発するように言う。

 

「わかってますよ、それと勝負はお預けです。まずは、ここだ!」

 

スクリーンのあとローポストでポジションを取っていた熊谷へとパスが通る。ゴール下での熊谷の支配力は相当なものだ。高さを活かしてゴール下のシュートを決めた。

 

「よし!いいぞ熊谷!」

 

吉永も重松も黎も、最初は熊谷でいこうと考えていた。公式戦初スタメン、しかも相手は強豪校ということで、まずは熊谷の緊張をとろうと思っていたのだ。

 

「よし!」

 

ベンチで若林も満足げに頷く。大事な試合の入り、まずは問題なく先取点を取れた。

 

「構うか!攻めてくぞ!」

中島がボールを運んでくる。三和はあくまでも点の取り合いを望んでいる。吉永もプレッシャーをかけるが、中島はそれで簡単にボールを失うようなガードではない。ハーフラインを超え、フロントコートに侵入してくる。1度中を経由し、ボールが佐久間に渡った。

 

「さて、初っ端から飛ばしていこうか」

 

「お手柔らかに頼みますよ」

 

睨み合う両エース、いきなりのエース対決が見れるかと、観客も湧いた。

 

「来るか!?エース対決!」

 

「いけ佐久間!千葉の厳しさを教えてやれ!」

 

盛り上がる会場をよそに、向かい合うふたりを静寂が包む。目線や身体でのフェイクの後、佐久間は不意にスリーポイントを放った。

 

(くそ、いきなりかよ!)

 

ボールはリングの中央を綺麗に射抜いた。

 

「きたああああああ!!!」

 

「エース対決はまず佐久間が1本!」

 

 

「おいおい寝てんのか?警戒してくれねえと困るぜ」

 

「今ので目が覚めましたよ、もうさせません」

 

佐久間の皮肉を受け流し、次は椿丘のオフェンスだ。

 

「来栖、大丈夫か?点を取られた直後のオフェンスで止められては流れを一気に持ってかれるぞ」

 

「大丈夫です、ボールください」

 

吉永が心配して黎に声をかけるが、その時の黎の表情は真剣そのもの、自分に任せてほしいとの答えだった。

 

「よし、やり返してこい」

 

吉永がフロントコートまでボールを運んだあと、黎にボールを託す。黎はスリーポイントラインの外側でゆっくりとボールをついている。左右に揺さぶりをかけた後、得意のステップバックで佐久間から距離をとり、スリーポイントを放った。

 

(こいつ、スリーポイントラインからさらにステップバックしてくんのかよ!)

 

佐久間が心の中で毒づく。ボールはリングの中心を綺麗に射抜いた。

 

「そちらも目が覚めましたか?次もやりますよ」

 

最後に相手への挑発も忘れない。完全にやられたことをやり返した。

 

「…ったく、生意気なルーキーだ」

 

続く三和のオフェンスも、佐久間へとボールが渡る。

 

佐久間はクロスオーバー、スピンムーブと色々試すが、なかなか黎を振り切れない。ここで佐久間は強引に右へドライブ、黎と身体が接触するが、そのまま突っ込んでくる。黎が押し込まれないよう踏ん張ったところで、レッグスルーを使って急停止、後に体重がかかっている黎は反応できない。落ち着いてミドルジャンパーを決めた。

 

「両者譲らねえ!!」

 

「序盤からガンガンやりあってるぜ!」

 

黎と佐久間の点の取り合いに観客のボルテージも最高峰だ。続く黎のオフェンス。黎は揺さぶりの後、宣言通りステップバック、これに佐久間もついてくる。

 

「連続でさせるかよ!」

 

「そりゃ次もやるって言ったんですからついてきてもらわないと困りますよ!」

 

黎は佐久間がついてきたのを確認して逆をついてドライブ、佐久間もすぐにコースへ入るが、黎はここで佐久間と身体をぶつけてすぐにもう一度ステップバック、後ろへ下がっているとこにさらに黎の体で押された佐久間は倒れないように踏ん張るのが精一杯で、とてもステップバックについていけない。再び黎のスリーが決まった。

 

椿丘 8

三和 5

 

「…俺と同じやり方で点取りやがった」

 

佐久間に出来ることは自分にも出来るという言外のアピール。さらに佐久間はツーポイントだったのに対し黎はスリーポイントだ。取られたもの以上のことをやり返した。続く三和のオフェンス。ボールはまたしても佐久間に渡る。

 

「あいにくうちのオフェンスは俺だけじゃねえ、うちのもうひとつのうりは…」

 

佐久間はローポストに陣取る木元にパスをさばいた。

 

「インサイドだ」

 

ボールを受けた木元は熊谷を背中に背負い、ジリジリと押し込んでいく。熊谷もただ押されているだけではなく、踏ん張って木元を押し返している。

 

「キャプテンのオフェンスはこっからだ」

 

木元は右へスピンムーブ、熊谷が反応したところでそれを中断し、左へターンしながらフックシュートを放った。これが決まり、三和もインサイドから得点をあげる。

 

「木元匠、抜群のパワーはもちろん、最近はああいう細かいプレーにも磨きがかかってきたいいセンターだ。熊谷がどこまでくらいつけるか」

 

ベンチで若林が呟きながら試合を見つめる。若林がこの試合で熊谷を起用した最大の理由が、木元に熊谷をぶつけるためであった。

 

「ドンマイ!1本取り返すぞ!」

 

吉永がボールを運んでいく。中島がディフェンスについているが、吉永は左右の揺さぶりを高速で繰り返し、中島の体制が崩れたところをスピードで抜き去る。ヘルプに来た木元を確認し、熊谷にバウンズパスを出した。

 

「いけ!熊谷!」

 

「遅い!!」

 

ボールを受けた熊谷がダンクに向かうが、木元が追いつきダンクを阻んだ。熊谷は決して速い選手ではない。木元はパワーに加えてスピードも兼ね備えたセンターであるため、熊谷のダンクに追いつくことが出来た。

 

「ナイスブロック、キャプテン!速攻!」

 

佐久間がボールを確保し駆け上がる。そこに黎が立ちふさがった。

 

「っと、やっぱ簡単には点取らせてくれねえな」

 

「最初に1本決めたとはいえ熊谷もまだ緊張してるみたいなんでね、解れるまでは俺達が踏ん張るしかないっすね」

 

「あいにく俺らはそれを待ってやるほどお人好しじゃないんでな、よっと!」

 

佐久間はスリーポイントラインの外からゴールに向かってふわりとボールを投げた。その先には

 

「木元だ!!」

 

先程ダンクを阻んだ木元が既に走り込んでいた。熊谷と一番違うのはスピードだ。熊谷では木元に追いつけない。

 

「一気に主導権いただきだ!」

 

木元がボールをリングに叩き込もうとした時、

 

「させん!!」

 

それを阻んだのは森田。森田は木元同様スピードもパワーも兼ね備えている。熊谷には追いつけなくとも森田ならば可能だ。

 

「ナイスだ森田!やり返すぞ!」

 

こぼれたボールを拾った吉永が攻め上がっていく。スピードに乗り、自身のマークマンである中嶋をあっさりと抜き去り、ゴール下へと侵入、長田がヘルプに来るが、吉永は構わずシュート体制に入る。長田のブロックを超える高いループのフローターを放ち、沈めた。

 

「フォローは俺達がしてやる、ガンガン攻めてけよ」

 

自陣へと戻る際、熊谷に声をかけることも忘れない。熊谷がブロックされての速攻を森田が防ぎ、吉永がカウンターを決めた。この事実は熊谷にとってとても大きい。

 

「頼りになる先輩たちだな、あの人たちが一緒に戦ってくれんだ、何も怖いものはないよな?」

 

黎も熊谷に声をかける。試合開始からまだ動きが硬かった熊谷も、落ち着きを取り戻したようだ。

 

「ああ、俺は俺のできることをやるよ」

 

「頼むぜ、あと木元さんのシュートなんだがな…」

 

ーー

 

続く三和のオフェンス、ボールはまたしても木元へと渡る。

 

(こいつ、また重くなった…!?)

 

熊谷の緊張がほぐれたことで身体に入っていた余計な力が抜け、さらにパワーが増した。木元は熊谷をほとんど押し込めなくなっていた。

 

(だがスピードは俺の方が上だ、パワーだけじゃ勝てないのさ1年坊主!!)

 

木元得意のスピンムーブからのフックシュート、熊谷ではこれは追いつけない。

 

「追いつく必要は無い」

 

黎のつぶやきと同時に、熊谷が僅かに木元のシュートに触れた。そのままアウトオブバウンズになる。

 

「お前…なぜ…?」

 

「来栖からアドバイスをもらったんです」

 

「なに…?」

 

ーーー

 

「木元さんのシュートなんだが、スピンムーブしてからゴールから遠い手でフック、あれに追いつくのは至難の業だ。でもフックは打点が低い、リリースに追いつけなくてもゴールのあいだに手を伸ばせばお前なら届くはずだ」

 

熊谷のスピードではボールを放つ瞬間に追いつく事は出来ない。しかし熊谷の高さなら低い打点から放たれたボールに触れることは可能だ。黎の授けた木元のフックシュート対策だった。三和側のスローインになる。ボールを受けた木元が再度ローポストで熊谷に挑む。熊谷を背負いながら左右の揺さぶりを繰り返し、スピンムーブからフェイダウェイの体制に入る。熊谷が反応したのを見てシュートを中断、ピポットを使って熊谷をかわし、再度シュートを放つ。

 

「させない!」

 

しかし熊谷のブロックが間に合った。こぼれたボールは黎が抑え、椿丘の速攻となる。

 

ーーー

 

「飛ばなくていいことが分かったんだ」

 

観客席、椿丘と三和の試合を観戦していた相葉学院の選手たちが熊谷が急に木元に対応し始めたことについて語っている。

 

「 これまで熊谷は木元の高さに対抗するには自分も飛ばなければならないと思ってた、でもあのフックのブロックでそうじゃないことが分かったんだ。さっきのフェイダウェイにしても、打点が下がるのなら自分は木元が飛ぶのを待ってからでもブロックできる、できなくても充分プレッシャーをかけることが出来ると思ったんだな」

 

そう話すのはキャプテンでpgの島村雄也。

 

「今の一連のプレーだけでよくそこまで分かったな」

 

副キャプテンであり、sgの東祥平が感心したように言う。

 

「伊達にガードやってねえって、まあ、あの高さは脅威だが、俺ら相手に出てくるかはわからないけどな」

 

「ああ、うちのセンターの横野は木元よりスピードもパワーも上だ。熊谷じゃパワーではいい勝負しても平面の勝負ではお話にならない」

 

「森田に勝つために鍛えてきたからな、1年生に負けるわけには行かない」

 

エースの能登優馬とセンターの横野拓也も続いて話す。

 

「……」

 

そして、モリス・ブラウンは何を言うでもなく速攻に走る黎を静かに見ていた。

 

ーーー

 

駆け上がる黎の前に立つのは佐久間。2回連続で攻撃を防がれての速攻など、決められれば流れを一気に持っていかれてしまう。

 

「止めてやる、来いよ来栖」

 

「じゃあ行きますよ」

 

まず右へ、佐久間が反応したのを見て左へ、これにも佐久間はついてきた。一度様子を見るように左手でボールをついた黎だったが、そこから身体の左側にあるボールを右手でコントロールし、そのまま佐久間を抜き去った。

 

「くそ!シャムゴッドか!」

 

シャムゴッドクロスオーバー、進行方向とは逆の手でポールをコントロールし、ディフェンスの逆をつくテクニックだ。左へ進むことを意識させての急な切り返しに、佐久間は反応出来なかった。そのままペイントエリア突き進む黎のもとに吉野がヘルプに来る。ここで黎は高速でバックビハインドを繰り返し、吉野の動きが止まったのを見てギャロップステップで抜き去り、レイアップを沈めた。得意のシェイクアンドベイクだ。

 

椿丘 12

三和 7

 

「さあ、このクォーター一気にいただきますよ」

 

挑発するように黎が三和メンバーに告げた。




次も必ず書きます…


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