モブ厳な世界で時の王者やってます。 (あんこパンパンチマン)
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モブ厳な世界で時の王者始めました。


ジオウ見る前の俺「うぅ…ビルド終わっちゃった。まだ終わらないでくれ、俺に新世界を見せてくれぇ。てかなんだこのジオウってライダー、王様になりたいとか顔面にライダーの文字とかふざけてんのか?」

ジオウ見た後の俺「…ううぅ。ソウゴ…ゲイツ…ウォズ…ツクヨミもおじさんもまだ終わらないでくれぇ。オーマジオウもかっこいいしお前は最高最善を魔王だよぉ。ああ、終わらないでくれ、もっと祝ってくれよウォズゥ…」




とまあこんな感じで小説を書きました。
シンフォギアに関しては新人適合者なのでもしかしたら「ここおかしくない?」て場面が出てくるかも知れませが大目に見てくださいお願いします!

拙い文章で亀更新になるかも知れませんがよろしくお願いします!






祝え!

全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え、過去と未来をしろしめす究極の時の王者、その名も仮面ライダージオウ。その力は史上最強、立ち塞がる敵をことごとく粉砕し真なる覇道を刻む!

 

…とまあ突然の一人ウォズごっこはこれくらいにして。

 

 

やぁ、初めまして!まずは自己紹介から、俺の名前は常磐ソウゴそして仮面ライダージオウだ。

 

いきなり何を言っているんだお前は、なんて思われるかもしれないが文字通り俺はあの常磐ソウゴで『仮面ライダージオウ』なんだ。憑依とでも言えばいいのだろうか、ある日、事故に巻き込まれて完全に死んだと思ったら気がつけば俺は常磐ソウゴになっていた。

 

その日から俺の生活は一変した。

『仮面ライダージオウ』という作品で常磐ソウゴという重要人物に成り代わってしまった以上俺は本気で常磐ソウゴを演じた。歴代ライダーの力を継承してアナザーライダーを撃ち破ったり最低最悪の未来を変えるために未来から来たゲイツと何度もぶつかりあったりした。

 

“常磐ソウゴ”を演じて生活する途中、ボロが出たりとそれを見破られたりと色々あったが、出会った仲間たちとも自分を偽ることなく心から認め合うことができた。

 

借り物だった王様になりたいという夢もいつの間にか本気で目指していて、そうなりたいと思っていた。

 

…あまりダラダラと自分の話をするのは恥ずかしいめんどくさいから今度にしよう。

 

で、ここからが本題です。

そんな常磐ソウゴ君ですが絶賛迷子中です、なうです。もう一回言います、迷子になってます。

 

 

……いやここほんとに何処?全っ然見覚えのない場所なんだけど?

確かオーマジオウに変身してから余裕ぶっこいてたスウォルツを開幕ブッパでボコボコにして(ガチ)それから…時空の破壊と創造を行って、気づけば今ここ知らない場所にいる。

 

時空の破壊と創造は成功したってことでいいのか?でもテレビ本編だとまるで学園ものが始まるような終わり方だったしウォズ以外は前の世界のこと覚えてないような感じだったのになんで俺は覚えていてそれを認識出来てるんだ?

 

…うん、謎だ。

とりあえず現地の人を探してそれとなく話を聞いてみよう…日本語通じるよね?

 

さっそく現地の人を探す為に行動を開始しようとすると、

 

「…ん?なんか聞こえる」

 

複数、いや大量の足音とがなり立てる様な声や悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。

 

脇道を通り人の気配のする方へと向かうと思わず目を目を見開いた。

そこには福男選びかよツッコミたくなるような数の人たちが前へ前へともみくちゃになりながら必死の形相で駆けていた。

 

一見この街のお祭り行事かの様に見えなくもないが必死すぎるその様子はとてもじゃないがそうは思えなかった。まるで何かから逃げている様にも思えた。

 

状況を確認する為に目の前を通り過ぎていこうとしたおじさんの服を掴んで無理やり引き止めた。

 

「ぐえっ!?い、いきなり何すんだこのガキッ!」

 

「あ、ごめん。それより聞きたいことがあるだけどいいかな、アンタもみんなもそんなに慌てて何かあったの?」

 

「あぁ!?何寝ぼけたこと言ってんだお前は!さっきの警報が聞こえなかったのか!?ノイズ(・・・)だよ!ノイズがコンサート会場の方からすぐそこまで迫って来てるんだよ!」

 

「……のいず?」

 

おじさんの言うノイズというのが何のことなのかは分からないがその口ぶりからここの人たちはノイズというのから逃げてきたという事は理解できた。

 

その時、恐怖に染まりきった悲鳴が聞こえた。

鼓膜を震わせる様なその叫び声の方向へと視線を向けると、無意識のうちに声が漏れていた。

 

「……え、は?」

 

両腕がアイロンの様な形をしたヘンテコなマスコットのようなナニカが悲鳴を上げた女性へと向かっていき体当たりするように接触すると接触された女性はそのまま砂のようにボロボロに崩れて消滅したのだ。

 

訳がわからない。

 

次に耳をつんざくような大きな爆発音が聞こえると視界に映る大きなコンサート会場から黒い煙が上がっていた。

 

「クッソ! オレはもう行くぞ!お前も死にたくねえのならボサっとしてないで早く逃げるんだよって何処行くんだ坊主!?シェルターはこっちだぞ!?」

 

「…うん、教えてくれてありがとう! 俺は大丈夫だからおじさんは早く逃げて」

 

「逃げてって…何言ってんだお前も逃げるんだよ!」

 

「大丈夫。だって俺は王様だし」

 

「は?…あ、おい坊主!」

 

後ろから聞こえるおじさんの制止する声を振り切る様に走り出す、既にその腰には黄金に輝きを放つ王たる証のベルトが巻かれていた。

 

「力は使える……なら、変身ッ!」

 

 

 

──祝福の刻!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ…はあ…」

 

槍を携えた戦姫は傷つきながらも立っていた。

手に握った撃槍には大きな亀裂が走りその身に纏った鎧も今にも崩れてしまいそうな状態だった。

 

既に満身創痍だ。それでも撃槍の戦姫、天羽奏は倒れなかった。

異形の怪物達へと足を進める奏の背後には胸から血を流し倒れている少女がいた、守るべき力を持ちながらその未熟さ故に傷つけてしまった戦士である天羽奏が守るべき存在。

 

奏は一度だけ振り返り視線を戻す。

 

(ごめん、翼…アタシの所為でまたお前にまで迷惑を掛けちまったな)

 

コンディションは最悪。時限式であるが故に長時間の戦闘は出来ない、最早戦えるだけの力は残されておらずその身体は既に限界を迎えていた。おまけにノイズに取り囲まれ絶体絶命。

 

それでも打つ手がない訳ではなかった。

 

「ここが、アタシの………最期のステージだ」

 

残された最後の手段は奏の、自分の命を引き換えにするものだった。

 

後悔がないと言えば嘘になるだろう。

やりたい事はまだまだたくさんあった、今よりももっと大きなステージで相棒と声が枯れるまで歌いあいたかった。それでもそれ以上に守りたいものが、守り通したいものが戦士たる奏にはあった。

 

相方である歌姫と目があった。

 

覚悟を決めたその表情になにかを察した歌姫は声を張り上げて走り出す。しかし間に合わない、既に禁忌の詩は口にされてしまった。

 

満ちていく破壊のエネルギー、失われていく身体の感覚。

やめてと自分を止めようとする相棒の叫び声が聞こえる。自分の為に涙を流してくれた泣き虫で寂しがり屋な相棒、これから先彼女の歌声は成長していき大勢の人を魅了していくだろう。そしてその隣に自分はいないと考えると少しだけ寂しかった。

 

(さよならだ、翼……)

 

それでももう止まれない、最後の詩を口にした。

満ちたエネルギーは溢れ出し、強大すぎる力に耐えきれず肉体は崩壊していき、放出された破壊のエネルギーをその身に受けたノイズたちは炭素と化し消滅していく

 

 

 

 

 

 

事はなかった。

 

「……は?」

 

何が起きたのか理解できなかった。不発を疑ったが、それも違う。自分は確かに禁忌の詩を歌ったはずなのだから。ナニカが奇妙な感覚だった、得体の知れない違和感を感じた。が、それを説明する事が出来ない。

 

絶唱、それはシンフォギア装者と呼ばれる者の最大最強の攻撃手段。諸刃の剣といえる奥の手。その絶唱の負荷に耐えきれず天羽奏は消滅するはずだった。

 

「一体、何がどうなって……ッ!?」

 

そこで漸く自分の隣にいる存在に気がついた。

 

装飾が施され漆黒のスーツに金で統一された禍々しくも神々しい鎧、タスキ掛けられた黄金のバンド、血の様に赤い奇妙な形状の複眼、目をひかれる背に装備された特徴的な巨大な時計の針の様なマント。

 

存在するだけで空間を軋ませる魔王の様な圧倒的威圧感を放つその存在、手を伸ばせば届く距離まで接近されていたというのに全く反応することができなかった。

 

「ア、アンタが何かしたのか?…アタシは確かにいま…」

 

『…俺の選択だ』

 

「は……?」

 

『……その子を連れて下がってろ』

 

魔王は背後にいた少女をいつのまにか抱きかかえており少女を奏へと手渡した、それだけ伝えると波のように迫りくる大量のノイズに向かって悠々と歩き出した。

 

「な、待ってくれ! あれだけの数のノイズを一人でどうにかしようなんて無茶だ! 」

 

歩みを止めない魔王へ向かってノイズたちは一斉に攻撃を仕掛ける。援護に入ろうと奏は動こうとしたがその必要はないとすぐに理解させられた。

 

 

魔王が手のひらを向けるようにゆっくりと右腕を掲げるとそれだけでノイズたちの動きは停止し崩れ落ちるように消滅した。

 

念動力のようなものでノイズを吹き飛ばし、踏みつぶそうとする巨大なノイズを拳一つで粉砕し、素早く動き回る飛行型ノイズを黄金に輝くカード型の斬撃で斬り払い、蹴りを放つと古代文字のような紋章を浮かばせノイズを跡形もなく爆発させた。

 

気がつけば自分たちを苦しめていた大量のノイズは一匹残らず消滅し積み重なった瓦礫の山の上に魔王が一人立っていた。

 

「アンタは……一体、何者なんだ?」

 

『………』

 

魔王はその問いに何も答えず消えるように姿を消した。

 

奏は泣き崩れながら自分を抱きしめるように駆け寄って来た歌姫を受け止めて、もう触れることが出来ないであろうと覚悟していた相棒の温もりを確かめながら呆然と魔王が立っていた場所を見つめていた。

 

突然現れノイズを消滅させて嵐のように去っていった魔王。

その目的、正体、能力、いずれもわからない事だらけだが一つだけわかることがあるとすれば天羽奏は魔王に命を救われその運命を変えられたという事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の魔王。

 

『ん? ここどこだ。あれ……結局迷子だし何も解決してなくない?』

 

 

 

 

 






ゼロワン見始めたぼく「やめろお前腹筋崩壊太郎に何してくれてるんだそいつはみんなの笑顔を……ッ何笑ってんだよ!」


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モブ厳な世界で頑張ってます。


時間を見つけてちびちび執筆して作品を確認、そして驚愕。

お気に入り登録150件以上その上評価までつけてもらえた。み、皆さんジオウとシンフォギア好きですね、自分も好きですけど!
なんだか、変なプレッシャーが…。

こんな拙い文章ですが、皆さんありがとうございます! そして誤字報告も感謝です! 自分は基本、執筆→完成→投稿なのでストックとかはなく気長に待って頂ければ幸いです。

感想もありがとうございます! 返信は出来るタイミングでしていきたいと思っています。
そして今回いいキリどころが見つからず10000字を越えてしまいました。なにか他の小説を読んだりして上手い文章構成を勉強しなければ。




オッス、俺ソウゴ!いやーなんかコンサート会場でオーマジオウの力で戦ってからなんか約一年くらいの時間が経ったみたい。

 

あの後短距離ワープの連続行使でその場から離れたんだけど間違えて別の時間軸に移動しちゃったみたいで戻ってくるのに苦労した。

 

俺のタイムマジーンはいま手元にはないから座標を入力して正確な時間軸へと時空転移するなんて事は出来ないのでオーマジオウの異次元移動と時空転移、そしてなぜか使えた仮面ライダーディケイド、門矢士の時空を超えるオーロラのカーテン…これらを駆使して漸く最初の座標に一番近い時間軸へ漸くと戻ってこれた。

 

今思えばいくら連続で迷子になったのと自分の能力がうまく扱えず焦っていたからって落ち着いて行動すれば直ぐに戻ってこれただろうと思い反省。

 

そして時の王者である常磐ソウゴは現在、

 

「ふぅ…よし、バッチリ。こんな感じでいいかな」

 

時計屋の店長をしています。

 

おじさん、俺働いてるよ…。

なぜ時計屋の店長をしているのかというと色々と理由がある。

 

この世界は自分がいた世界とは別の世界だ、おじさんやゲイツにウォズにツクヨミ、みんながいたクジゴジ堂は……俺の帰る場所はこの世界にない。だからこの世界に来てから行くあてもなくブラブラと彷徨っていた。

 

雪が降り積もる日、公園の隅のベンチで野宿をしているとこの時計屋の店長のおばあさん、(つる)さんに俺は拾われた。鶴さんは何も聞かず住むところも働く場所も用意してくれた。感謝しても仕切れない。

 

この時計屋は鶴さんのお爺さんが趣味でなんとなく始めたお店だそうだ。それを鶴さんが継いで本当は鶴さんの一人息子がこのお店を継ぐ筈だったらしいのだがコンサート会場で起きた特異災害ノイズの大量発生、あの時の一件で息子さんは……。

 

俺を助けてくれたのも、どこか自分の息子に似ていて放っておけなかったからと寂しそうに笑う鶴さんに、俺はなんて声を掛ければいいのかわからなかった。

 

そしてこの時計屋も、腰を悪くした鶴さん一人では切り盛りすることができなくなり、継げる者もいないとのことでたたんでしまう予定らしい。

 

そこでなぜか俺がこの時計屋を譲り受ける事になった。最初は助けてもらった恩もあり放っておけずお店の手伝いをしていただけのつもりだったが、ある日このお店の権利書を渡された。

 

資格とか個人情報とか必要な手続きは必要になってくるのだろうからとそれとなく断わったのだが、そこは鶴さんがなんとかしてしまった。何をしたのか気になったがニコニコと笑うだけの鶴さんに何も言えなかった。鶴さんはただ一言、コネはあるのよと言った。あんた一体何したんだ…。

 

そんなこんなで衣食住はどうにかなってる、時計の修理や知識なんかもクジゴジ堂でおじさんの手伝いをしたりしてたのでそれなりにできてる。

 

生活で特に困った事はない、が生活以外では困ってる事がある。

 

「……はあ、またか」

 

特異災害ノイズだ。避難警報とかが鳴り響く前に俺はノイズの気配を察知する事ができる。なぜかは知らないがオーマジオウの力を扱えるようになってからこの気配察知の能力が使えるようになった。

 

恐らく平成ライダーの誰かがこういう能力を扱えたのだろう。そして俺もそれが使える、なぜなら俺の力は全てのライダーの力だからな(ドヤァ

 

……自分でやっといてなんだがこれうざいな。

 

よし、行くか。

オーロラカーテンを発動させて気配を察知した場所まで一瞬で移動するとそこは街から離れた場所にある森林地帯だった。

 

目の前には出現したノイズの集団。

 

<ジクウドライバー!>

 

腰にジクウドライバーを装着し懐からライドウォッチを取り出してウォッチの能力開放弁『ウェイクベゼル』を90度回転させてアクティブ状態にして『ライドオンスターター』と呼ばれる起動スイッチを押し込み起動させる。

 

<ジオウ!>

 

起動した事で光を放つジオウライドウォッチをジクウドライバーの『D'9スロット』に装填。すると背後の空中に巨大な時計が出現しその中央には大きく“ライダー”の文字が浮かんでいる。

 

ベルト上部のスイッチ、ライドオンリューザーを手のひらで叩きロックを解除させ腰を落とし、左腕を右肩近くまで上げる。左腕を勢い良く振り下ろしてベルト本体を逆時計周りに回転させる。

 

その瞬間、世界が一回転する(・・・・・・・・)

 

「変身ッ!」

 

<ライダータイム! 仮面ライダー! ジオウ!>

 

背後の時計が分解され俺の身体を取り囲み回転するリングへと変形する。瞬く間に身体は黒いボディに時計のベルトを連想させるような銀の装甲に覆われて、時計の文字盤ような頭部、キャリバーAにライダーの文字が収まり、文字通りの変身が完了する。

 

ん? なんでオーマジオウじゃないのかって? いやあれはちょっと…。

ノイズを数秒で殲滅できるんだけど火力ありすぎて前に調子に乗ってノイズ殲滅しながら暴れたら加減できず更地になっちゃったから。だから基本フォームのジオウでノイズを殲滅してる、これでも十分すぎるほど対応できるしね。

 

<ジカンギレード! ケン!>

 

発光したジクウドライバーから飛び出すように現れた直剣、感覚を確かめるようにジカンギレードを握りしめ目標目掛けて走り出す。

 

「ふっ!ぜりゃあ!」

 

マスコットみたいなヘンテコボディを変形させながら弾丸のような速度で突進し攻撃を仕掛けてきたノイズを斬り払いながら前へと進み数を減らしていく。

 

背後から襲い掛かって来たノイズの一撃を回避しカウンターの要領で殴り飛ばす。ジオウのパンチ力は8.2t。さらに『ジオウリープハンド』の効果でパンチ時の破壊力はより引き上げられてる。

 

その一撃をもろに喰らったノイズは内側から破裂するように消滅しながら吹き飛んでいく。まあノイズが思ったよりも脆いって事もあるが、アナザーライダーやジオウの世界に出現した他の怪人との戦闘と比べてしまうとなんだか呆気ない。ここからはノイズをプチプチと潰していく作業ゲーみたいなものだ。

 

<フィニッシュタイム! タイムブレーク!>

 

「ふっ、ハアァッ!」

 

周囲にいたノイズを切り捨てて最後に残った巨大なノイズをライダーキックで消滅させる。数も少なかったからすぐ片付いたな。

 

「ふぃ〜。お掃除完了っと……おっと早めに移動するか」

 

ライドウォッチホルダーからバイクライドウォッチを取り外しスイッチを押して放り投げるとウォッチは変形、大型化し専用バイク、ライドストライカーへと姿を変える。

 

ライドストライカーへと搭乗し前方にオーロラカーテンを展開してからアクセルを捻って一気に加速する。オーロラカーテンの行き先は適当でとりあえず先程の戦闘した場所から離れた所にワープしてそこから更にバイクで距離をとる。

 

なぜこんな犯罪現場から逃げるような犯人みたいな事をしてるのかというと、あのままあの場所に留まっていたらコンサート会場で出会ったノイズと戦う事の出来る力を持つ女の人達と鉢合わせする事になってしまうからだ。

 

自分なりにコソコソ調べた結果、彼女たちの背後には組織があった。特異災害対策機動部、特異災害ノイズが出現した際に動く政府機関それが彼女たちの所属する組織。

 

その活動内容は主に、避難誘導やノイズの進路変更、さらには被害状況の処理といった所だ。そしていくら調べてもノイズと戦うアイドルの情報なんて一切出てこなかった。基本ノイズへの対策は逃げることと一定時間経ってから自壊を待つしかないとされている。ノイズを消滅させられる方法があるならそれは伝えられているはずだ。恐らくというか絶対こっちの情報については意図的に隠されてる。

 

なんというか怪しい…。向こうはノイズに対抗することが出来る力を持つ俺にどうにか接触しようとしているようだが、接触するにしても俺の直感がそれは今じゃない気がする、と伝えている。

 

だから今はこうやって鉢合わせないように逃げてるってわけ。

 

「ここまでくれば大丈夫かなぁ…」

 

変身を解除しオーロラカーテンで何度か移動しながらバイクを走らせた。だいぶ離れた場所に来たはずだ。

 

喉が渇いたため、ライドストライカーを変形状態のまま停車させて近くの自動販売機でミネラルウォーターを購入して少し休憩する。あとはこのままオーロラカーテンを直接家に繋げて帰宅しよう。

 

「………?」

 

空になったペットボトルをゴミ箱へ捨ているとなにやら近くで物音が聞こえた。言い争うような声も。

 

音が聞こえる裏路地を覗き込んでみると、幾人もの少女がたった一人の少女を囲み、罵声を浴びせ、髪を引っ張り、身体を突き飛ばし、顔を叩いたりなどをしていた。その傍らには数人がかりで地面に抑え込まれている少女がいた、その少女はもうやめてと取り囲む少女達に叫び、痛ぶられている少女に泣きながら必死に声をかけていた。周りの少女達はそれを面白そうに眺めて下品な笑い声を上げていた。

 

……完っ全にいじめの現場だこれ。

 

ど、どうすれば、こういう時ってどうすればいいんだ? いや、見過ごせないからもちろん止めるつもりだけど、どうやって止めれば…。

 

相手が男性だったらやりようはいくらでもあるけど、目の前にいるのは自分よりも歳下の非力な女の子だ。それにいじめを止めるためとはいえ、暴力で解決するようなやり方はしたくない。平和的な方法だ。

 

どうする?こういう時、ゲイツなら……いやダメだゲイツは真っ直ぐすぎて暴走しそうだ。集団によるいじめとか絶対許さなそう。ならウォズは、ダメだウォズもウォズで話にならない…なんだかんだで解決してくれそうだが俺が求める解決法じゃない気がする。じゃあツクヨミは…ないな。ファイズフォンXで容赦なくいじめっ子全員気絶させそうだ。

 

「あれ……もしかして俺の仲間って全員ポンコツ? い、いやいやそんな事はない、よね?」

 

……仕方ない、俺だけでどうにかするしかない。

 

それにあの子、どこかで…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめてっ!」

 

小日向未来は考える。

どうして、なんでこうなってしまったのだろう。

すぐ目の前で、手を伸ばせば届くような距離で大切な大事な親友、立花響が虐げられている。今すぐにでも駆け寄って助けに行きたいのに自分を取り囲む幾人もの少女が力強く押さえつけて来てそれを許さない。

 

どれだけ声を張り上げてもその願いは届かず虚しく響き渡るだけ。どれだけ打ちのめされても歯をくいしばって耐えている。視線が合うと、響はごめんねと、大丈夫だからと、悲しそうに笑う。

 

全然大丈夫なんかじゃない、響はなにも悪くないのに。だからそんな泣きそうな表情で私に謝らないで。

 

「お願いもうやめてっ!」

 

「はぁ〜。小日向さ、さっきからそればっかじゃん。なに?それしか喋れないの?」

 

「なんでこんなことするのっ!響は何もしてないっ!何も悪くないのにっ!」

 

「…はぁ?何も悪くない? 何も悪くないわけないじゃん!この人殺しがッ!」

 

人殺し。その一言に響はビクリと肩を震わせて顔を真っ青にする。

 

「違う! 響は人殺しなんかじゃないッ! 誰も殺してなんかないッ! 響がいつもどんな気持ちで……響の事を何も知らないくせに勝手な事言わないでッ!」

 

「……未来」

 

「…なにそれ、うっざ。もういいや、あんたを押さえてれば立花も大人しくしてたし私たちの“粛清”を見てやめてやめて〜って叫ぶあんたの反応が面白かったから手は出さなかったけど……もういい」

 

響の事をまるでサンドバック代わりにするかのように殴る蹴るなどの暴行を加えていたリーダー格の少女が舌打ちをしてその場にしゃがみこみ足元にあった大きな石を拾いあげるとゆっくりと近づいてくる。

 

「立花で遊ぶのも飽きてきたし、次はあんたの番だよ小日向。人殺しなんか庇ってるんだから同罪、とーぜんだよね」

 

「なっ!? み、未来は関係ない! あぐっ!?」

 

「…ッ響!」

 

駆け寄ってきて助けに入ろうとしてくれた響が、取り囲んでいた子の一人に足蹴にされ大きく転んでしまう。

 

当然、標的が私に変わるのは予想していたし覚悟もしていた。けど凶器を片手に目の前でニヤニヤと笑う彼女の姿を見てやはり恐怖を隠せない。

 

「なに? ビビってんの? アタシは優しいから人殺しを庇ってごめんなさいって泣いて謝れば許してあげてもいいけど…なにその目つき」

 

「…ッ。あなたなんて怖くないし絶対に謝らないっ!!」

 

けど響はもっと痛かったはずだ、怖かったはずだ。だから私は絶対こんな人に屈したりしない。

 

「……あっそ、じゃあいいや」

 

「ダメっ!未来ッ!」

 

凶器を握った右腕が高く上がり振り下ろされる。振り下ろされた腕が真っ直ぐに勢い良く私の顔を狙って加速してくる。身体を押さえられているせいで避ける事は出来ない。

 

目の前の景色がなにもかも制止したかのようにゆっくりと動いているように感じる。訓練されたボクサーや事故にあった瞬間の人間には、一瞬が何秒にも何分にも感じられると聞いた事があった。これがそれだろうか。

 

言い表せないような悲痛な表情を浮かべている響にむかって安心させられるような笑みを浮かべてから、数秒後に襲いかかって来るであろう痛みに耐えるように目を瞑り歯を食い縛る。へいき、へっちゃら、なんかじゃないかも、まともに受ければ私はきっと死んじゃうだろう。

 

…死にたくないなぁ、なんてそう思ってももう遅い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは流石にダメだよ、やめた方がいい。この子の為にも…君の為にも」

 

突然横から伸びて来た大きな手が振り下ろされる腕を止める。

 

驚いて手の伸びて来た方へと顔を向けると、いつのまにか私の隣にいた見知らぬ男性がリーダー格の少女の腕をガッチリと掴んでいた。かなり強い力で腕を掴んでいるのだろう、腕を掴まれているリーダー格の少女はニヤニヤと浮かべていた気味の悪い笑みを腕の痛みからか酷く歪めていた。

 

気がつけば私を押さえつけていた少女達は離れていて拘束は解かれていた。リーダー格の少女は男性の腕を無理矢理振り払う(というより男性が離した)と赤くなった腕を押さえバッと弾かれるように後ろに下がった。

 

「痛ってえな!なにすんだお前、邪魔すんなよ!お前も人殺しの味方するのかよッ!」

 

「強く掴んだ事は謝るよ、ごめん。けど教えてくれないかな。なんでこの子達によってたかってこんなことしたの?」

 

男性の言葉に、リーダー格の少女は虚をつかれたかのようにポカンとした表情を浮かべた後、いつものような下品な笑い声あげた。

 

「はあ?なに言っちゃってんのあんた。ノイズが大量発生したあの事件でこいつは他の人を見殺しにして生き残った!こいつは、こいつの家族は人殺しなの!それを庇うそいつも同罪!なに?あんたテレビとかネット見ない人?皆そう言ってるよ、これくらい常識だっての!」

 

「………」

 

「その上こいつは国からお金までもらってる。いいよねノイズに襲われたってだけで沢山お金がもらえて、他人を犠牲にして国からもらったお金でのうのうと暮らせて!そんなの許せるわけないじゃん!だからなにもできない法に変わって私達が『正義』を執行してる!」

 

自分たちに正義があると半狂乱に主張するリーダー格の少女。周りの子達もそれの主張に同意するように声を上げる。

 

「──もういいよ。黙れ」

 

それはとても低くて凍えるような冷たい声だった。男性の無機質な瞳がギロリとリーダー格の少女を射抜くと彼女はビクッと身体震わせ一歩後ずさった。

 

「…さっき警察を呼んだ」

 

「は?け、警察!? な、なに勝手なことしてるんだよ!ふざけんな!……そうだ、警察がなんだ。正当防衛って事にすれば良い。あんた達たった三人の主張とあたし達全員の主張、警察はどっちを信じると思う?」

 

「ふざけてないよ。それとこれ、なんだと思う?」

 

男性がズボンのポケットから取り出した携帯端末を取り出し何か操作をしてから彼女達に画面を見せるように掲げた。

 

『うっ!あぐっ!?』

『お願いもうやめてっ!』

『はぁ〜。小日向さ、さっきからそればっかじゃん。なに?それしか喋れないの?』

『なんでこんなことするのっ!響は何もしてないっ!何も悪くないのにっ!』

『…はぁ?何も悪くない? 何も悪くないわけないじゃん!この人殺しがッ!』

『違う! 響は人殺しなんかじゃないッ! 誰も殺してなんかないッ! 響がいつもどんな気持ちで……響の事を何も知らないくせに勝手な事言わないでッ!』

 

いつの間に撮っていたのだろうか。携帯端末には集団で暴力を振るわれる響と押さえつけられている私、そして楽しそうに響を殴りつける彼女達の一部始終が映し撮られた映像が流れていた。

 

それを見たリーダー格の少女は表情を引き攣らせ周りの子達の様子がオドオドと変わったのが目に見えてわかる。もう男性の独壇場だった。

 

「確かに意見が食い違った時に多数で主張されるのは厄介だ。けど証拠さえちゃんと押さえとけば問題ないよね」

 

「な…と、盗撮だ!盗撮は犯罪だぞ!今すぐ消せ、このっ!」

 

「犯罪か、よく言うよ。そういえばさっき『正義』どうとか言ってたけど、『正義』っていうものは、振りかざして相手を傷つける為のものじゃない。お前に、お前達に『正義』なんて何一つないよ」

 

その時けたたましいパトカーのサイレンが聞こえてきた。そのサイレンの音を聞いた周りの子達は慌てながら蜘蛛の子を散らすように一人、また一人と姿を消していく。

 

その中でリーダー格の少女はただ一人震えながら男性を睨みつけていた。

 

「…君も逃げてもいいよ。変なプライドにこだわってこの場に残るのも構わないけど、君には何もできないと思うよ。警察の人に怒られて、多分そのまま連れてかれちゃうだろうね」

 

「……ッ!」

 

「いやなら、さっさと失せろ!」

 

男性のビリビリと空気を震わせ芯に響くような怒鳴り声に大きく肩を震わせた後、リーダー格の少女は走ってどこかへ行ってしまった。

 

この場には私と響と見知らぬ男性に三人が残った。とりあえず助けてもらったお礼を言おうと思ったら。

 

「あ、あの〜…」

 

「……あー!何やってんだよ俺!いくらなんでもやり過ぎだろ!怖がってる女の子に対して怒鳴りつけるとかないだろ! 歳下だぞ!? 王様としてとか以前に男としてダメだろ!」

 

急に男性は頭を抱えてしゃがみこんでしまった。

ど、どうかしたんだろうか?一人頭を抱え込んでよくわからないことを言っている。男性にどう声をかけるべきか悩んでいると。

 

「未来っ!」

 

「きゃ!」

 

呆然としていたあと正気に戻って動けるようになりまるで大砲のように飛んできた響を受け止めるが、受け止めきれずに尻餅をついてしまう。

 

「未来大丈夫!? どこも怪我してない!? どこか痛いところは!?」

 

「だ、大丈夫だから。って怪我してるのは響の方でしょ!」

 

「怪我してないでよかったよ未来〜!……本当に、よかった」

 

抱きついてきたままお腹にグリグリと頭を押し付けてくる響を引き剥がそうとする。しかしなかなか力が強くて引き剥がせずにいると、突然力が弱まり全身の力が抜けたみたいに身体をこちらに預けてきた。

 

どうかしたのかと驚いて響の顔を覗き込むとスヤスヤと心地好さそうに眠っていた。どうやら怪我がひどくて気絶したとかではないようだ。

 

「安心したのかな、眠ったみたいだね」

 

「え、そ、そうですね」

 

いつの間にか隣で男性も覗き込んでいた。

 

「とりあえず話が聞きたいから時間いいかな?」

 

「あ、はい。大丈夫です…けど警察の人には、事情聴取とかは?」

 

「ああ、あれは嘘だから大丈夫大丈夫。サイレンの音も向こうに仕掛けた端末でネットから適当に拾ったやつを音量高くして流してただけだから」

 

「え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな怪我はなく眠っている立花さんを軽く自己紹介をしながら家に送り届けると、お母さんとお婆ちゃんが慌てた様子で迎えてくれた。最初は見知らぬ俺が原因かと疑われたが、隣にいた小日向さんが何があったのかをしっかりと説明してくれたおかげで助かった。お母さんとお婆ちゃんからは土下座するような勢いで謝罪され、お礼を言われた。

 

それから場所を少し離れた公園へと移して、屋根付きベンチに腰を下ろし俺は小日向さんから話を聞いていた。

 

正直言って、聞いていて気分のいいものではなかった。あの事件で1万人を越える犠牲者が出た。これだけでどれだけの規模の事故だったのかわかるだろう。しかしノイズによる被災で亡くなったのは全体の1/3程度であり、残りの死者の大半は人の手によるものだった。

 

逃走中の将棋倒しによる圧死や、避難路の確保を争った末の暴行による傷害致死であることが週刊誌に掲載されて、一部の世論に変化が生じ始めたらしい。

 

生存者に向けられたバッシング。被災者や遺族に国庫からの補償金が支払われたことからさらに事態は加速していった。

 

そして立花 響の環境。ライブ会場の被害者の一人に、立花さんと小日向さんの通っている中学校の男子生徒の一人がいたらしい。そこまで聞いてなんとなく予想ができた。

 

なんで彼は死んで貴女なんかが生き残ったのか、男子生徒と仲の良かった女子生徒が立花さんを叫び責め立てた。

 

一人の生徒から始まった攻撃が全校生徒へと広がり、そこから彼女は、正義の暴力、謂れのない陰口を、クラスメイト……いや学校全体から受けている。恐らく近所の人からも責められているのだろう。立花さんを家に送り届けた時に感じた視線、彼女の家もペンキやカラースプレーで突き刺すような心無い言葉が書かれていた。

 

その事を俺に話してくれた小日向さんは途中からぼろぼろと涙を流していた。もちろん全員が全員立花さんを悪く言う訳じゃないと、けど誰も助けてはくれないと。何より一番驚いたのは学校側がそれを黙認している事だ。

 

「響、最近は笑う事が少なくなって……響は何も悪くないのに、仲の良かったクラスの子まで響を責めるんです。部活の先輩もお父さんとお母さんまでも響に関わるなって言うんです。もう、何がなんだか訳がわからなくなってきてっ」

 

「……小日向さんと立花さんは大事な友達、親友、なんでしょ?」

 

「は、はい。響は大切な、私の親友です」

 

「そっか。俺にもね、大事な親友がいるんだ。いや、いたんだ。そいつとはもう、会えない」

 

「……えっ」

 

酷く驚いたような表情浮かべている小日向さんに苦笑いを浮かべ、俺は無意識のうちに強く拳を握っていた。

 

「そいつはすっごい真っ直ぐな奴で、それですっごい不器用な奴でさ。最初の出会い方は最悪だったし意見が合わなくてしょっちゅう喧嘩してた。けど気がつけばそいつが隣に居るのが当たり前になってたんだ」

 

「……えっと、その人は、ノイズの一件で?」

 

「違うよ、ノイズじゃない。原因があるとすれば、弱かった……俺のせいかな」

 

わかっていたから細心の注意を払っていた、油断なんてしてなかった。わかっていた筈なのに気を付けていた筈なのに、力の差から俺は焦って決定的な隙を晒してやられかけた。

 

そのせいでゲイツは俺を庇いスウォルツの一撃を受けて死んだ。

 

犠牲の上での勝利、この結果だけはなんとしても絶対に変えようとしていたのに変えることなんてできなかった。

 

「死んでしまった人の事を嘆く気持ちはわかる、けどだからといって今を必死に生きている人を、関係のない人を責めるのは間違ってる」

 

「…………」

 

「だからそうだなぁ。周りの人がどれだけ立花さんの事を悪く言ってもそれ以上に立花さんの良いところを君が教えてあげればいい……あとは立花さんに『生きていてくれてありがとう』って伝えればいいよ」

 

「……っはい」

 

そう伝えると小日向さんはまたぼろぼろと泣き出してしまった。ちょ、さっきも思ってたけど絵面的にまずくない?なんか俺が泣かしたみたいじゃんこれ。通報されないよね。あ、そこ犬と散歩してるおばさん、疑うような目で俺を見ないで。

 

泣き止んだ小日向さんを連れて帰路につく。夕焼けで赤く染まっていた空も暗くなり始めていた。帰り際に色々な事を話した。俺の学生時代の話、小日向さんが立花さんと遠出して遊びに行った時の話、お互いに自分の親友の話をした。

 

話し込んでいるとあっという間に小日向さんの家の前に到着した。

 

「常盤さん、ここまで送ってくれてありがとうございました。話も聞いてくれありがとうございます。なんか、スッキリしちゃいました」

 

「気にしないでいいよ、暗い時間に女の子を一人で帰らせるの危ないしね。それに俺も話せてよかったよ。あ、そうだこれ。なんかあったら連絡してよ」

 

そう言って取り出した時計屋の連絡先が書かれた名刺を手渡す。それを受け取ると驚いた表情で小日向さんは目をパチクリさせていた。

 

「…常盤さんって変わってますよね」

 

「え、なんで? どうしたの急に。」

 

「だって普通は面倒事はごめんだってこういうことに関わろうとなんてしませんよ」

 

「うーん。普通ならそうなのかもね。でもさ、俺の憧れている先輩の一人が言ってたんだ、『手が届くのに手を伸ばさなかったら死ぬ程後悔する。それが嫌だから手を伸ばすんだ』……って。だから俺も手を伸ばしたいんだ、まあ俺の自己満足だよ」

 

俺の自己満足。立花さんを助けたいと思ったのも、小日向さんの力になりたいと思ったのも。魔王になる為の旅をしてきた中で、色んな人達に、英雄達に出会って俺は彼らの温かくて力強いその在り方に憧れを抱いた。俺の知る彼らなら絶対に彼女達を助けようとするはずだ。

 

俺が目指す王様は最高最善で優しい王様。だから理不尽に虐げられてる立花さんや小日向さん、他の人達も見捨てる事なんて出来ない。

 

「それに俺は王様を目指してるからね、困ってる民がいるのなら助けなきゃ」

 

「王様ですか? ……っふふ、やっぱり変わってますよソウゴ(・・・)さんって。本当に、ありがとうございます。何かあれば必ず連絡しますね」

 

そう言って小日向さんは深く頭を下げてから笑顔を浮かべて家の中に入っていった。

 

それを見送ってから引っ張ってきたライドストライカーに搭乗してヘルメットを被り発進する。俺も俺にできる事をやらせてもらいますか。その為にも少しだけ力を貸してもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これで終わりっと。おつかれさま翼、大丈夫か?」

 

「奏こそ、病み上がりなのに、身体の調子は大丈夫なの?」

 

「平気平気、これくらい全然大丈夫だって。まったく、心配症だな〜翼は」

 

ひとけのないとある森林地帯。そこには二人のシンフォギア装者の天羽 奏と風鳴 翼の二人が、出現したノイズの殲滅にあたっていた。

 

あのツヴァイウィングのコンサートの惨劇から約一年という時間が経過した。奏は活動限界を越えた無茶な戦闘による疲労からしばらくの間戦線離脱していた。その間、翼が一人でノイズの殲滅にあたっていたが今回は奏も付いてきていた。

 

先天的に適合係数の高い翼と違って、適合係数の低さからシンフォギアの装者たりえなかった奏だが、二課技術主任でありノイズに対抗しうる装備であるシンフォギア・システムの生みの親ともいえる櫻井了子の開発した制御薬「LiNKER」の過剰投与により、適合係数を高め装者としての力を振るっている。

 

「LiNKER」使用による負荷、活動限界を越えた戦闘、本来なら大事をとってまだ休んでいなければならない奏だが、二課司令官の風鳴弦十郎に頼み込み出動させてもらっていた。

 

「今回は現場にノイズがいたけど、最近ノイズの発生が多い割には現場に到着するともぬけの殻状態が多いな、どうなってんだ?」

 

「…叔父様や櫻井女史に聞いてもわからないって、一瞬反応がしたと思ったらすぐに消えて、機械の故障じゃないかって……でも私はもしかしたら」

 

「あの時現れた未確認(・・・)の仕業じゃないかって? 奇遇だな、あたしもそう思ってたんだ」

 

未確認。残された少ないデータから特異災害対策機動部二課がそう名づけた存在。戦場と化したコンサート会場に突如として現れて大量発生したノイズを瞬く間に全滅させ、その強大な力を見せつけて姿を消した未知なる存在。

 

その存在について、二課では様々な推測が立てられている。別組織が送り込んだシンフォギアのような装備を纏った戦士、偶然覚醒した自立型の聖遺物、強力な力を持つノイズとはまた別の生命体、などなど。

 

「奏は未確認についてどう思う?」

 

「……そうだなぁ。あれだけの力を持つ存在を旦那たちが警戒するのはわかるけど、あたしは悪い奴ではないんじゃないかなーってぐらいに思ってる」

 

「それはどうして?」

 

「今こうしてあたしが翼の隣に居られるのは、未確認のおかげでもあるからな。それに未確認は会場にいた子供を守ってくれてたしな。だから悪い奴じゃないって信じてみてもいいかな」

 

奏には、翼や二課の人間に話していない小さな秘密があった。絶唱を放った時に味わった奇妙な出来事、自分を抱きかかえ涙を流す翼、身体が朽ちてゆく感覚、目の前が真っ暗になり自分の死を悟った瞬間、何事もなかったかのように全てが切り変わった。

 

まるで時間が巻き戻ったかのような出来事。何が起きたのかまったくわからないが、自分は確かに未確認に救われたのだと奏は理解した。

 

シンフォギアを解除し現場の情報処理班と帰りの迎えを待っているとゾクッと空気が重くなったのを奏と翼は肌で感じとった。

 

本能から飛び跳ねるように距離をとり背後を確認すると、突如出現した灰色のオーロラから姿を現わす者がいた。

 

「……未確認っ!?」

 

「なっ!?」

 

全身を漆黒と黄金で統一した見覚えのある鎧姿、一度目にすれば忘れられないであろう圧倒的な存在感。コンサート会場で姿を消した未確認がその姿を見せた。

 

恐怖にも似た感情から翼はペンダントを握りギアを纏おうとしたがそれを奏が手で制した。驚いたような表情で翼が見つめるが、奏はいつものような笑みを浮かべるだけだった。

 

「ンンッ……『お前たちからしたら久しぶり、というべきかこの場合』

 

「……やっぱり意思疎通は出来るみたいだな」

 

『当然だ、()はお前たちと同じように思考して判断し行動する』

 

「何か、私たちに用でもあるのか?」

 

押し潰すようなプレッシャーを感じながらも臆することなく奏は普段通りに振る舞い対話する。

 

『安心しろ、事を荒立てるつもりはない。今日はお前たちに渡したいものがあるだけだ』

 

「……は? 渡したいもの?」

 

未確認はその手に持っていた何かを奏に投げつけると奏は慌ててそれをキャッチする。それは黒いUSBメモリだった。なぜこんなものを渡されたのか理解できず奏は頭を傾げていると、

 

『〇〇市〇〇区、△△町……』

 

「……え? は?」

 

『そこにはあの日お前が命を賭して救った少女がいる。そして、その少女はいま理不尽に虐げられてる。そのメモリのデータと実際に現地を調べてみろ。……惨いものだ、このままではいずれ心の方が死ぬぞ……』

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 意味がわからない、どういうことだ!」

 

『……意味はすぐにわかる。何か聞きたい事があるのなら他の事にしろ、一つだけなら答えてやる』

 

「え、は、マジ? じゃあえっと、ええっと……」

 

未確認の情報が手に入る思わぬビッグチャンス、奏は突然の連続に混乱する頭で考えに考えた結果。

 

「あ、アンタは一体何者なんだ? 名前とかはあるのか?」

 

『……なるほど、私が何者なのか……か。そうだな、私の名はオーマジオウ。生まれながらの王にして……私こそ、最高最善の魔王だ』

 

「オーマジオウ……魔王……ッ! じゃ、じゃあ最近ノイズを消滅させてるのはアンタなのか?」

 

『一つだけと言ったはずだが……まあいい、そうだな。最近のノイズ……俺であり私ではない、とだけ答えておこう』

 

「……はあ? それってどういう」

 

『これ以上の問答は、終わりだ。ではさらばだ』

 

踵を返しこの場を去ろうとする魔王を名乗った者を、奏は思い出したかのように慌てて呼び止めた。未確認は振り返ることはなくその歩みを止めた。

 

「あ、待ってくれ! あの日何が目的でどうしてあの場にアンタはいたのかはわからない。けど、あたしがアンタに救われたのは紛れも無い事実だ。だから、ありがとう!」

 

『…………そうか』

 

未確認、オーマジオウは灰色のオーロラへとその身を沈ませ今度こそ姿を消した。圧倒的なプレッシャーは解かれ、その場には呆然とする翼とその様子を見て笑う奏の二人が残された。

 

後に笑われて拗ねた翼に必死に謝る奏の姿が二課本部で確認された。

 

 

 

 

 

 

 

 




〜ここのソウゴの最終決戦はこんな感じ〜
オーマジオウ、覚醒

スウォルツ「ふふ、フハハ!俺はこの時を待っていた!この為に俺は」
そうご「スウォルツゥゥゥ!…シィッッ!」(目からビーム)
スウォルツ「ぶげは!? き、貴様、俺がまだ喋って」
そうご「黙れ!知るかそんなこと!」(ワープで接近ダークライダー撃破)
スウォルツ「なんという力だ、その力さえあれば俺はひでぶ!?」
そうご「これはウールの分!これはオーラの分!これは白ウォズの分!これはツクヨミの分!アンタ妹に何してんだ兄貴だろ!でこれはミハルの分!そして、これは、ゲイツの分だ!あと色んな人の分!さらにこれは、これもこれも、俺の分!」(最高速度で接近し殴り飛ばしてその先にワープして殴り飛ばしてさらにワープして殴るの繰り返し)
スウォルツ「ぶっ!ばっ!がっ!げっ!じっ!ぶげっ!あべしっ!」




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モブ厳な世界で今日も働いてます。


すみません、今回は話は短いですし展開も特に進んでないです。次回から原作突入予定なのでその為の繋ぎといいますか…。

そしてたくさんのお気に入り登録ありがとうございます! 感想も一人でニヤニヤしながら読んでます。

そういえば皆さんXV10話もう見ました? やっぱりザババコンビいいですよね。そしてお腹にメジャーを巻かれて赤面してる響がただただ可愛かった。






オーマジオウごっこしながらアイドル戦士たちと接触して早数ヶ月、時計屋を営みつつジオウに変身してノイズを殲滅して生活していると向こう側からこちらに接触して来ようとする機会が多くなった気がする。

 

この間なんて「ご同行願います。断るというのならあなたを力づくでも確保します」みたいなこと言われてツヴァイウィングの青い方、風鳴翼に勝負を仕掛けられた。

 

まあ適当に相手して逃げたが。下手に怪我させて敵対認定とかされても困るし。

 

「……やっぱりこの世界に仮面ライダーは存在してないのか」

 

ネットから得た情報や事件現場、新聞の一面なんかを切り抜いてまとめたファイルを見直すが俺が求めるような情報はこれといってない。何かの役に立つかもと思ったがそうでもなかったようだ。

 

特異災害ノイズ、それがこの世界に存在する仮面ライダーの怪人だと思っていたが違うのか。仮面ライダーの都市伝説や噂話、ネットでもそんなものは一切なくこの世界に来てから聞いたこともない。

 

そして仮面ライダーとはまた違う力を持つ存在、歌って戦うアイドル戦士だ。

 

……謎だ、本当に謎だ。けどもしかしたら彼女たちアイドル戦士がこの世界の仮面ライダーのような役割を担っているのか?という事はもしかしてここプリ○ュアの世界?……いや流石にそれはないか。

 

集めた資料と睨めっこしているとお客さんの来店を知らせるベルが鳴る。ファイルを棚へと片付けて受付に出るとそこにはお客さんの姿はなく。

 

「いらっしゃいませーって…なんだ、響か」

 

「うぇえ! な、なんだってなんですかその反応は〜、せっかく遊びに来たんですよ私!」

 

「ははっ、呼んでないから。さてお客様お出口は後ろになります」

 

「帰れと!? ううぅぅ…未ぃぃ来ぅぅ!ソウゴさんがいじめてくるぅ!」

 

「はいはい、わかったから抱きつかないの。もう、ソウゴさんもあんまり響に意地悪しないでくださいよ」

 

「ごめんごめん、冗談だって。いらっしゃい二人とも、どうしたの?」

 

あの日を境に繋がりを持った立花 響と小日向 未来の二人がいた。あの後、俺は連絡先を教えた未来と何度か連絡を取り合っていた。未来から俺の連絡先を教えてもらった響からも連絡が届き、次の日御礼の品を持った響とそれについて来た未来が時計店に訪問してきた。

 

響が持ってきた御礼の品の饅頭は部屋の時計の針が丁度おやつの時間を指し示していたので俺、響、未来の3人の胃袋の中に収まった。二人は遠慮していたが一人で食べきれる量でもなかったので半ば強制的に食べさせた、美味しかったです。

 

その後たわいない話をして解散、では味気なかったのでその日いくつか入っていた時計の修理の依頼を響の気分転換にと思い手伝ってもらった。慣れない作業に戸惑いながらも楽しそうにしている響と未来の姿を見て手伝いを頼んだのは正解だった。

 

その日から二人はこうやってちょくちょく遊びにきている。二人を名前で呼んでるのも遊びにきた二人が俺の方が歳上なのに苗字にさん付けで呼ばれるのもなんだか変な感じだし友達なんだからもっと砕けた感じで名前で呼んでほしいと言われたからだ。

 

「今日はどうしたの? 急に遊びにくるなんて珍しい。はい、どうぞ」

 

「あ、わざわざすいません」

 

広間の隅の方に設置されている来客用のソファの上に腰を下ろしている二人に奥の台所で注いできたお茶をトレイに乗せて差し出す。

 

「これから私と未来とさらに奏さんと翼さん(・・・・・・・)の四人で遊びに行くんです! すぐそこで待ち合わせしててそれでよかったらソウゴさんも一緒にどうですか!」

 

「え、俺も? 楽しそうだけどこの後お客さんが来る事になってるからなぁ…当日に言われても困る」

 

「ええ!? そんなーー!」

 

「だから先に連絡しようって言ったのに」

 

「だ、だってぇ…この前に急に誘った時は大丈夫だったんだもん」

 

「ちわーっすソウゴさん。おっ! やっぱりここにいたのか二人とも」

 

ベルがまた鳴ると今度は別の二人組が来店。

そこにはアイドル戦士、いやツヴァイウィングの二人である天羽 奏と風鳴 翼の二人が来店していた。

 

天羽 奏と立花 響の出会いは今から三ヶ月ほど前だ。前よりもいじめの頻度は低くくなったがそれでも完全にはなくならず、いくら家族や未来の支えがあったとしても響は心身ともに疲労していった。

 

そんな響の前に奏は現れた。俺が渡したデータと自ら足を運び響の置かれている想像以上の惨状を目の当たりにしたのだろう。

 

学校から帰宅し響の家に到着すると家の前には奏がいた。家の前で呆然と立ち尽くしていた奏は響を見つけると目を見開き、自分たちのせいで辛い思いをさせてごめん、ごめん、と最後に泣きながら『生きていてくれてありがとう』と抱きしめながら伝えていた。

 

そして響も途中からギャン泣きで泣くわ泣くわ。なぜか途中で未来ももらい泣きし始めるし。

 

なんでそんなに詳しく知ってるのかって? そりゃあ隣で見てましたから。

 

最近いじめっ子グループ + その兄貴の不良グループが周りをうろちょろしていて行きと帰り道を先回りして待ち伏せしてるようなことが多いらしく、何とか裏をかいて逃げているがしつこいので助けてほしいと連絡されしばらくの間送り迎えしていた。

 

俺の学生時代には存在しなかったリア充イベントじゃん、なんて思ってたら普通にキツかった。

 

向けられる好奇の視線、身体中に穴が空くんじゃないかってくらい見られてた。いくつか嫉妬混じりの突き刺すような視線も向けられた、二人とも可愛いしモテそうだからそういった視線が混じるのはわかるが、そんな嫉妬の視線を向ける前に気になる女の子なら勇気出して助けてあげなさいよ。

 

そういえば送り迎えする為だけにライドストライカーに簡単に取り外し出来るサイドカーをくっつけたのと、俺は気にしないが二人はバイク慣れしてないのでスピードを出しすぎないように気をつけて運転するのが大変だったな。

 

奏と未来は当然初対面、そして俺も常磐ソウゴとしては一応初対面という事になっているので軽く自己紹介。未来は相手がツヴァイウィングの天羽 奏だと気付いてカミカミな自己紹介してた、その様子に俺と奏は苦笑い。

 

その後帰り際に連絡先を交換してから奏は響に何か内緒話をしていた、多分コンサート会場で見たのは秘密にしておいてくれ的な事を言われてたんだと思う、未来に何の話をしてたのか聞かれても誤魔化してたし。

 

「響のその様子からすると、無理だったかー。ソウゴさん社会人だもんなぁ」

 

「こんにちわ常磐さん。何の連絡もしてないのに急にすいません、立花がどうしても誘いたいと言っていて」

 

「いや、こっちこそごめん。わざわざ誘ってもらったのに……因みにみんなでどこに遊びに行く予定だったの?」

 

「…その、えと、私はこういう事に疎くて、奏や立花と小日向に全部任せっきりといいますか」

 

頬を赤く染めて恥ずかしそうに視線をそらす翼。

 

まだ短い付き合いだが確かに翼はなんだかそういう事に興味がない、という訳ではないのだろうがオシャレとか今時の女の子が好きそうなモノに詳しくなさそうというか不慣れなイメージがあるな。

 

逆にそういう事に詳しそうな未来に視線を向けると。

 

「リディアン音楽院の近くに最近できたクレープ屋さんがあるんですよ。美味しいって評判が良くて前から気になってて、みんなでそこに行ってからお洋服とをショッピングしつつカラオケにでも行こうかなって予定してたんです」

 

「うう…みんなでカラオケ行けると思ったのに」

 

「仕方ないでしょ。ソウゴさんだってお仕事があるんだから…」

 

現役アイドルを二人も連れてカラオケとかすごいな、お金払ってもいいレベルだぞ。しかしその予定まじで女子の休日感半端ないな、誘ってくれるのは嬉しいが俺の場違い感すごくない? よく俺のこと誘おうと思ったね。

 

「ソウゴさんのその格好から察するにさっきまで作業してたのか?」

 

「ああ、一応ね。昨日お客さんが持ってきた古いタイプの電子レンジを軽く分解して直してたんだ。その後少しだけ休憩してた」

 

「へ? 電子レンジ? …ここ時計屋なのにか? 」

 

「うん、うち時計屋なのにね」

 

電子レンジを修理したことを伝えると信じられないようなものを見たような表情を浮かべている奏の様子に思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

少し前にここを時計屋ではなく家電製品の修理屋と勘違いした忙しないお爺さんが訪ねてきた事があった。時計の修理かと思って出迎えたらオーブントースターを手渡されるもんだからびっくりして固まってしまった。

 

お爺さんはこちらの様子を気にすることなく要件と連絡先だけを伝えてすぐさま何処かへ行ってしまった。呆然とオーブントースターを抱えたまま残された俺、最初は連絡を入れて断らせてもらおうかと思ったが。

 

その時、おじさんなら「なんでだろうね」と苦笑いを浮かべながら受け取ってなんだかんだで修理してしまうのだろうと思った。なんでも直してしまうおじさんの隣でその手伝いをする自分、それがなんだかとても懐かしく感じてしまった。

 

翌日、ここが普通の時計屋だと気付いたお爺さんが謝罪しながら昨日と同じように慌ただしい様子で来店してきた。そのお爺さんに修理したオーブントースターを渡すと酷く驚かれた、まあ普通そうなるよね。時計屋に間違えて渡したものがキッチリ修理されて戻ってきたんだから。

 

その後どこかで噂が広がったのか、こうして時計とは関係のないものを持ってくる人が何人かいるのだ。まあちゃんと断らない俺も俺なんだけど。

 

「ほら、行くぞ響」

 

「うっ! 奏さん引っ張らないでくださいよー。じゃあ今度は連絡しますから予定空けといてくださいねー! 絶対ですよー!」

 

「すいません。なんだかお仕事中に騒がしくしただけみたいになっちゃって…なにかお土産買ってきますから期待しててください」

 

「今度遊びに来るときはちゃんと事前に連絡を入れてから遊びに来ます、ではまた」

 

退店した奏と響のまるで姉妹のような姿に苦笑いを浮かべていると未来と翼の二人も申し訳なさそうに頭を下げて響達の後に続いて店を出ていった。

 

先程まで賑わっていた広間が嘘のように静まりかえる、なんだか四人が来ただけで部屋の温度が上がったきがするぞ。とりあえず修理作業に戻るかと軽く身体を伸ばしながら奥の部屋に戻ろうとすると、また来店を知らせるベルが鳴った。響達が何か忘れ物でもしたのかと思い振り返るとそこには派手な赤いシャツに派手な色のネクタイを胸ポケットにしまったやけにガタイの良い男性が立っていた……つよい(確信)

 

「先日時計の修理の依頼をした者なんだが、いまは大丈夫だろうか?」

 

「……へ、ああ、全然大丈夫ですよ。それで修理したい時計はどんな時計なんですか?」

 

「それがこの腕時計なんだが、最近調子が悪いなとは思っていたが古い時計だからそこまで気にしていなかったんだがとうとう、うんともすんとも言わなくてなってな」

 

ガタイの良い男性に驚いたが気を取り直して、胸ポケットから取り出された金色の腕時計を受け取り状態を確認していく。

 

…すごいな、確かに古い型の時計だがかなり状態がいいな。外側に問題はなさそうだから問題があるとすれば内部パーツとかかな。

 

「これなら多分直ぐに直せますよ。それに大事に使われてるんですね、傷も少なくて状態もいいし。普段から腕につけたりはせずに使ってるんですね」

 

「……すごいな、そこまで分かるものなのか? 」

 

「まあ、色んな人の時計を見てると結構わかってくるものですね。傷が付く場所が大体同じだったりする事が多いんで」

 

普段から時計を腕に付けている人の時計は大抵同じ場所に傷がついたりしている、擦れて出来た傷だったりぶつけた傷だったりと。

 

ベルトの留め金を確認しながら弄ったりしていると目の前のガタイのいい男性からものすごい凝視されている事に気づく。

 

「……えっと、なにか?」

 

「ん、ああ、すまない。……ひょっとして君が常磐ソウゴ君か?」

 

「え、俺が常磐ソウゴですけど…」

 

「やっぱりかっ! 鶴さんの言う通りだな、真っ直ぐないい目をしてるっ!」

 

…え?この人鶴さんの知り合い?って痛っ! めちゃ痛いっ! 急に笑顔になったガタイのいい男性がビシバシと背中を叩いてくる。内臓飛び出ちゃうんじゃないかってぐらい痛いんですけど!?

 

「ちょ、痛い!? 痛いから! てかあんた誰!? 鶴さんの知り合い!? 」

 

「お! じゃあ自己紹介だな、俺は風鳴弦十郎。そうだなぁ…わかりやすく言うと鶴さんの元部下って所か?」

 

「え? 元部下? ってことはあんたこの時計店で働いてたのか?」

 

「ん? あー、いや。この時計店じゃなくてな。詳しくは言えないが昔同じ会社に勤めてたんだ。この時計も昇進祝いに鶴さんからもらったものなんだ」

 

へー、そうなのか。そういう話は聞いたことなかったし、なんか意外かも。どこの会社なんだろう、あとこの人、弦十郎さんだっけか?スーツ出勤だとしたらぴっちりとした黒スーツとかガタイ良すぎて似合わなそうだな。

 

「よし! じゃあこれが俺の個人的な連絡先だ、修理し終えたら教えてくれ。後の事は任せたぞソウゴ君っ!」

 

「はっ?ちょ!…行っちゃった」

 

豪快に笑いながら店を出ていった弦十郎さん。しかしビックリして途中から敬語が抜けてたな俺。まるで嵐のような人だったな今の人。

 

……そういえばさっき“風鳴”って言ってたか? 年齢的に父親でもおかしくはなさそうだが、流石に偶然だよな。

 

……きっと偶然だ。あんなゴリラみたいな人が翼の父親だとしたらかなりのお母さん似だぞ。というかあの人の遺伝パーツどこにも存在してないぞ絶対。

 

 

 

 

 

 

 

 




最終フォームのグランドジオウ、最強フォームのオーマジオウ、究極フォームのオーマフォーム。

どれも強いしかっこいいけど自分はジオウIIが一番ちゅき。


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モブ厳な世界で運命が動き出した日。

投稿です。
いやー、やっぱり小説を書くのって難しいですね。実際に出版されているプロの方とか本気で尊敬します、描写とか表現とかすごいですよね。

自分も妄想を爆発させながら頑張ります。

誤字報告ありがとうございます!感謝です!



あの惨劇から二年という時間が流れ季節は春。学生の春といえば卒業式と入学式。

 

響と未来の二人は中学校を卒業後、こっちのリディアン音楽院に進学しそこの寮で学園生活を始めている。新しく友達もできたようで、嬉しそうに話していた。……どうしてわざわざ地元から遠く離れたリディアンに進学したのかなんて深くは聞かなかった。

 

少し前に俺、響、未来、奏、翼、最近集まることの多いメンバーで入学祝いのパーティを行った、場所はもちろん時計店だ。まあ、その時の話は別で語ることにしよう。

 

 

いまは、それよりも。

 

「これで、終わりだっ! 」

 

ジクウドライバーにセットされたライドウォッチの起動スイッチを押し込んでからジクウドライバーの上部スイッチ『ライドオンリューザー』を押し込みジクウドライバーのメーンユニット『ジクウサーキュラー』を回転させる。

 

<フィニッシュタイム! タイムブレーク!>

 

「フゥゥゥッ! ゼイッ! 」

 

『ジクウサーキュラー』の回転運動によって生み出されたエネルギーは加速増幅され、そのエネルギーをジカンギレードへと流し込んで強力な斬撃を放ち、ノイズを目の前のノイズを全て消滅させた。

 

「今回は数が多いな、早く他の場所に発生してるノイズも片付けに行かないと…」

 

いつものように発生したノイズを片付けるお仕事。しかし、今日はノイズの出現規模が違かった。広範囲に多く出現している上に、どこかへ移動しているようで動きがバラバラだった。

 

今もどこかへ移動しているノイズを追いかけながら散らばったノイズを殲滅していく。近くに感じとったノイズ気配。次はその場所へと移動を開始しようとした時、

 

「ん? ってアイイッタァー! 」

 

背後で何か動いたと思ったら突然、背中に爆薬を叩きつけられたような衝撃を浴びて装甲が火花を散らした。ちょっと、というか普通に痛かった。

 

え、なに? 新手のノイズかなにか? 白い煙を上げている背中を押さえるように若干蹲りながら振り向くと。

 

「へえ……今のを喰らってもその程度のダメージなのかよ」

 

……なんか変な格好してる女の子がいた。どいうこと? 新手のノイズかと思ったら新手の白銀聖闘士(シルバーセイント)がいたんですけど。

 

「ようやく見つけたぜ。お前だろ、最近ノイズを相手に戦ってるアンノウンってのは。お前があのオーマジオウ(・・・・・・)と何かしらの繋がりがあるのはわかってるんだ。大人しくアタシをオーマジオウのところへ案内してもらおうかっ! 」

 

すいません。案内するも何もそれ俺です、いま目の前にいます。

 

……いや待て、というかなんでこの子オーマジオウのことを知ってるんだ? その名前を教えたのは奏たちだけだ。という事はこの子も特異災害対策機動部の人間なのか? 奏や翼と同じアイドル戦士……ではないな、なんか違う気がする。鎧の感じは似てないし歌ってない。それに何より、向けてくる敵意。

 

「そらッ! 」

 

鎧と一体化している鋭い形状の鞭のような武器を伸縮させて放たれた叩きつけるような一撃を横に転がって回避すると、先程まで自分がいた場所は地面が裂けるように大きく抉れていた……。おっと結構威力あるな。

 

「ほらっ! 踊りなっ! 」

 

鎧の少女は隙が生まれないよう左右の鞭を巧みに扱い連撃を仕掛けてくる。一撃であの威力だ、連撃全てを喰らったらジオウの鎧を纏っていてもダメージをもらう事になるだろう。だが問題はない。目で追えなくなるような速さじゃない。だから、

 

「……見切った! ゼアァ! 」

 

「……んなっ! まじかっ! 」

 

鞭の連続攻撃を掻い潜りながら左右の鞭が重なった瞬間を狙い、包丁で豆腐を斬るかのようにジカンギレードによる一撃で斬り落とす。

 

<フィニッシュタイム! タイムブレーク!>

 

「グウッ!? 」

 

鞭の強度に自信があったのか、斬り落とされた事に驚き硬直している鎧の少女へと一気に距離を詰めながら、ジクウドライバーを再度回転させてエネルギーを込めた拳を叩き込む。……女の子を殴るとか暴力反対とか言わないでね、こっちも一応手加減してるから。

 

軽く浮かせるような意識を奪う程度まで加減した一撃。それでも少女は大きく後ろに吹き飛んだ。一瞬加減し損ねたのかと焦ったが、そうではない。避けられないと判断すると咄嗟に防御し殴られた瞬間に自分から大きく後ろに跳んでダメージを軽減させたのか。……面倒だ、戦い慣れてるな。

 

なぜいきなり攻撃してきたのかとか色々聞きたい事はあるが、他の場所のノイズを片付けに行かなければならいので、彼女をしばらく動けないようにしてから移動しよう。ダメージが大きくフラついている彼女に向かってダウンさせる為の最後の一撃を叩き込もうとするが、動きを中断させられる。

 

「乗ってんじゃねえぞ、調子にッ! 」

 

「……ッ! なにそれ」

 

鎧の少女が装備していた特徴的な形状の杖を取り出すとそれをこちらに向けなにかを起動させた。中心が強く輝くと光線が放たれた、その光線を回避すると光線が着弾した場所から光を放ちながらノイズが現れて(・・・・・・・)俺に向かって攻撃を開始してきた(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

出現したノイズを斬り払い消滅させていくが、鎧の少女が杖を掲げるとノイズが出現し、その全てが俺に向かって攻撃してくる。

 

……あの杖でノイズを出現させて操ってるっていうのか。だとしたら最近のノイズ出現の何割かはこの子が故意にやってるって事になるぞ……もしかしたらあの幾人もの人が犠牲になったコンサート会場の大量発生だってこの子がやった可能性だって。

 

「ウ、グッ……悪いが今回はここまでだ、だがこれで勝った気になるなよ! (ッ…化け物かよ。たった一発殴られただけで、しかも加減した一撃でネフシュタンの鎧を砕きやがった!) 」

 

「……逃すわけないだろッ! 」

 

「いいやっ! 退かせてもらうねっ! 喰らいな、サービスだっ! 」

 

空中に飛び上がり、この場から逃走しようとする鎧の少女。当然逃すわけにも行かないのでひと跳びで30.2mというジオウのジャンプ力で鎧の少女との距離を詰めて地面に叩き落とそうとするが、鎧から伸びる鞭の先端に球体状にエネルギーが圧縮され、鎧の少女は鞭を振るいそれを撃ち出した。

 

<フィニッシュタイム! ジオウ! ギリギリスラッシュ!>

 

ジクウドライバーのスロットにセットされているジオウライドウォッチを引き抜き、ジカンギレードのグリップ付近に存在するライドウォッチスロットへ装填する。

 

先程の斬撃よりも更に強力な斬撃を放ち黒いエネルギー弾を打ち消すが、時間差で打ち出された二発目のエネルギー弾は身動きの取れない空中故に避けることが出来ず、地面に叩きつけられてしまう。ジカンギレードを盾が代わりに構えたがそれでも防ぎきれなかった。

 

「……くそ! 待てっ! 」

 

鎧の少女はまだ視界に確認できる距離だ。急いで後を追えば追いつくことはできる。起き上がり腕のライドウォッチホルダーからバイクライドウォッチを取り外し起動させようとするが、鎧の少女も追いつかれると理解しているのか、周囲に大量のノイズを召喚しこちらの動きを妨害して時間を稼いでいる。

 

「どれだけ召喚できるんだあの杖……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとどれくらい走ればいいのか、どれくらいの距離を走り続ければ私はこの苦しみから解放されるのか。休むことなく走り続けてなんだか目眩もするし吐き気もしてきた、呼吸するだけで胸が苦しくなる。

 

だけど止まれない、止まるわけにはいかない。背後から迫りくる絶対的な死。どれだけ走っても大量のノイズたちは行く先々で現れ真っ直ぐこちらに向かってきて追い詰めてくる。

 

足を止めれば最後だ。いやだ、死にたくない、まだ死ねない。親友に、恩人に、沢山の人に助けられた、お世話になった。その人たちにどれだけ感謝を伝えても足りない、自分はまだなにも返せていない、なに一つ報いることが出来ていない、だからここで死ぬ事なんて出来ない。

 

隣を走る少女に視線を向ける。

手に握った自分よりも幼く小さな少女の手、繋いだこの手を離せば少女は取り残され自分一人は助かる、ノイズから逃げきることができるだろう。

 

けど小さな少女を見捨てるなんてそんなこと絶対に出来ない、出来るわけがない。だから“繋いだこの手は離さない” 。

 

「大丈夫! お姉ちゃんが、ついてるからっ! 」

 

ただ走り続ける。自分たちを追いかけてくる大量のノイズから、少しでも距離を離す為に足を動かす。やがて疲労と体力の差から動くことの出来なくなった少女を背負いながら、ひたすら走り続けた。

 

そしてがむしゃらに走り続けて行き着いた場所は、町外れにある人気のない静まりかえった工場。その建物の屋上へと隠れるように避難した。

 

ここに来て体力の限界を迎えた。痙攣して動かせない足を恨めしく見つめながら、背負っていた少女を下ろして呼吸を整える。こんな事になるなら親友の走り込みに付き合ってもっと体力を付けておけばよかったと後悔するが、もう遅い。

 

「私……死んじゃうの?」

 

「…………っ!」

 

小さな少女の嗚咽の声が聞こえる。自分だってノイズが怖い、死ぬのが怖い。けれど自分よりも一回りも幼い小さな女の子が感じる死の恐怖は、きっと自分以上の筈だ。

 

「大丈夫、大丈夫だよっ!」

 

恐怖に打ちひしがれている少女の小さな手を握って、そんな恐怖を吹き飛ばしてしまうような笑顔を浮かべる。そんな自分の笑顔につられて少女も笑みを浮かべるが、その表情はすぐに絶望に彩られた。

 

顔を覗かせ四方から自分たちを取り囲むノイズたち。逃げ場はない、完全に追い詰められゆっくりと迫ってくるノイズ。恐怖に震える少女を庇うように抱き寄せる。

 

絶望的な状況に死を覚悟した。もう諦めかけたその時、自分を抱きしめ涙を流してくれた命の恩人が私に希望を与えてくれた大切な言葉を思い出した。

 

「大丈夫っ! だから “生きるのを諦めないでっ!” 」

 

──Balwisyall Nescell gungnir tron──

 

その言葉が、その覚悟が、自分の中のナニカを目覚めさせるトリガーとなった。心臓が尋常じゃないほど熱く激しく鼓動する。胸の奥から湧き上がってくるナニカが身体全体へと広がり変化させていく。

 

溢れ出すような強い衝動、それは肉体を内側から食い破り突き破っていく。そして衝動が収まる頃には自分の姿は変化していた。アニメのヒーローが装備するようなパワースーツ。

 

「な、なに……これ?」

 

「お姉ちゃん、かっこいい!」

 

「うえ!? … そ、そう?」

 

訳が分からず混乱しているが、隣にいる少女は目を輝かせている。なにが起きたのか理解は出来ないが、カッコいいと褒められるのは悪くないかもしれないと納得させる。

 

私は胸のうちから込み上げてくる歌を口ずさみながら、意識を切り替える。この状況をどうにかしなければいけない。先程までの疲労感はもうなかった。少女を抱きかかえて再び走り出す。

 

「身体が軽い……ってうわあ!?」

 

軽く踏み込んだけだった。それだけで大量のノイズを跳び越えた。勢いよく屋上から落下しながらもなんとか体勢を戻し地面に着地する。足元がひび割れて崩れる程の勢いで着地したのに、全く痛みを感じず怪我もなかった。

 

「! ……ッまだ来る」

 

屋上にいたノイズも後を追うように勢いよく落下しながら砂埃を舞いあげて着地する。上からミサイルが落ちてきたかのような一撃。それに反応が遅れながらも横に跳んで回避するが、着地に失敗して大きく転んでしまう。

 

その瞬間を狙ったかのようにノイズは体を変形させ、ドリルのように突進してきた。回避は間に合わない。それならこの子がだけでも。自分の体を盾にするように少女を抱きしめる。今度こそ死を覚悟したが無意識のうちに振り払うように突き出していた手がノイズにぶつかると、ノイズは体を炭化させて砕け散った。

 

「……え? なんで、ノイズが……私が、やったの?」

 

ノイズに触れられれば最後、炭素転換し炭素の塊と崩れ落ちてしまう。炭素の塊と化したノイズとノイズに触れた筈なのに無事な自分の腕を交互に見つめて唖然とする。

 

再び攻撃を開始してきたノイズの姿を視線の先に捉えると、少女を抱え直し、地面を強く踏み込んで空中へとジャンプし攻撃を避けた。ただ攻撃を避ける事だけを考えて高く跳んだ。

 

「……ッ、このままじゃ、ぶつかっちゃう」

 

その結果、高く跳びすぎた。跳んだ先、背後には大きな貯水タンク。今の状態の私なら、この風を切るようなスピードで貯水タンクに衝突してもその衝撃に耐えられるもしれないが、腕の中に抱えているこの子はそうはいかない。少しでも衝撃を和らげようと自分の身体を盾にする。

 

衝撃に備え身体を強張らせるとタンクに衝突するよりも早く身体をグイッと強く引っ張られ誰かに受け止められた。

 

「……え? らい、だー?」

 

「よかった、ギリセーフ! さっきの鎧の子には逃げられちゃったけど、こっちが間に合ってよかった……え、なんで」

 

吹き飛ぶような勢いで宙を舞っていた私を受け止めて地面に綺麗に着地した謎の人物、真っ黒なボディに時計のバンドのような銀装甲、時計盤のような頭部にはカメンとライダーの文字が刻まれていた。

 

謎の人物、ライダーさんは私を優しく地面に下ろすとどこからか銃のようなもの取り出してそこにナニカをはめ込むとノイズへと向けて放った。

 

<フィニッシュタイム! ダブル! スレスレシューティング!>

 

風のようなものを纏った弾丸がノイズに命中すると、そこを中心に緑色と黒色の大きな二つの竜巻が発生した。その大きな竜巻にのみ込まれた大量のノイズは、瞬く間に炭素と化し消滅していった。

 

「……すごい、あっという間にノイズが」

 

「……ふぅ、よしっ。危ないから君はその子と一緒に下がって」

 

「え、あ、はい!」

 

ライダーさんは剣を構えると、まだ残るノイズに向かって走り出した。その手に構えた剣の一撃でノイズを消し去り、その数を減らしていく。ノイズと戦い慣れているのか、囲まれているのに慌てず、背後からの攻撃も後ろにも目があるかのように反応して、剣で、拳で、脚で、ノイズを物ともせずに戦っている。

 

突然上空からプロペラの回る音が聞こえた、その音に反応し空を見上げるとそこには大きな黒いヘリコプターが。なんでこんなところにヘリコプターが、と驚いているとさらにそのヘリコプターから二人の人間が飛び降りて来る、その時歌が聞こえてきた。

 

──Croitzal ronzell Gungnir zizzl──

 

──Imyuteus amenohabakiri tron──

 

「無事かっ! 助けに……どういう事だい、こりゃあ」

 

「なんで、立花が奏と同じガングニールを…っ」

 

「え? ……奏さんに翼さんっ!? 」

 

ヘリコプターから飛び降りてきたその二人は、私がよく知る人物だった。驚愕の表情に染まる二人。奏さんの手には大きな槍が、翼さんの手には鋭利な刀が握られて二人はどこか自分と似ているスーツを身に纏っていた。

 

「……話は後だ、お前はここにいろ。あたしらにはやる事がある、行くぞ翼!」

 

「わかってるっ! 立花はここでその子を守って!」

 

そう言って奏さんと翼さんはノイズに向かって飛び出していく。あの日コンサート会場で見せたように、歌を口ずさみながらお互いをカバーし合う抜群のコンビネーションでノイズを切り捨てていく。

 

「……すごい」

 

二人の動きは完璧だった。言葉を交わさずともどう動けばいいのか、なにをすればいいのか、それを理解し背中を預けあって戦っている。そしてその隣でライダーさんもノイズを圧倒していた。一撃、一撃が鋭く重いもので、奏さんと翼さんをフォローするような動きも見せていた。

 

三人の力で、大量に発生していたノイズは僅か短時間で全て消滅していた。もうどこにもノイズの姿はなくホッとしてライダーさんに先程助けてもらったお礼を言う為と、この力のことについてなにか知っているであろう奏さんと翼さんに話を聞く為に、抱えていた少女を下ろし小走りで近づいていった。

 

「奏さーん、翼さーん……え?」

 

突然、金属と金属がぶつかりあって擦れるような高く大きな音が響いた。視界の先では翼さんがライダーさんに斬りかかり、ライダーさんがそれを防いでいた。ライダーさんが押し返すと翼さんが距離をとった。

 

「……これで何度目かわかりませんが、特異災害対策機動部の二課の者です。貴方には武装を解除して私たちに着いてきていただきたい、抵抗するというのならそれ相応の手段を取らせてもらいます」

 

「あー、悪いな。あたしもアンタに聞きたい事があるし抵抗せずについて来てくれるとありがたいんだが……」

 

なぜか翼さんが握っていた刀をライダーさんへと向けて構えた。奏さんも大きな槍を構えている。その光景に一瞬頭が真っ白になったが、慌てて二人の前に飛び出す。

 

「ちょ、待ってください! なにしてるんですか! 」

 

「立花っ……危ないから下がってなさい。私たちには私たちの仕事があるの。その為にも貴女が庇う存在を拘束しなければならない」

 

「拘束って……なんでそんな」

 

「その者が何を目的とし、何の為に力を振るっているのかわからない以上は危険だ。放っては置けない。そして何よりソレはオーマジオウとの確かな繋がりを持っている」

 

「で、でも! 私はこの人に助けられましたっ! あの小さな女の子も!」

 

翼さんの纏う空気が重く冷たくなる。私、いや背後のライダーさんを睨みつけるような鋭い眼つき。あんな表情の翼さんは初めて見た。怖い、その気迫に思わず腰が引ける。でもここを退くわけにはいかない。

 

翼さんの刀を握る手に力が込められる。その瞬間、

 

「ひゃう!?」

 

「…………へっ?」

 

翼さんからは可愛い声が、私からは思わず変な声が出た。顔を真っ赤に染めた翼さんがその場に蹲り涙目で隣にいる奏さんを睨む。隣にいた奏さんが突然翼さんのお腹をグニっと摘んだのだ。

 

「か、奏! 急に何するの!?」

 

「翼が怖い顔してるからだろぉ〜。無理してそんな雰囲気出さなくていいって、そういう怖い顔は翼に似合ってないぞ。それに見ろ、響とあっちの女の子が怖がってるだろ。あ、女の子泣きそう」

 

「え!? け、けど! 叔父様や了子さんが未確認二号を拘束しろって」

 

「かぁ〜。あのねぇ、そう言われてから何回失敗してると思ってるのさ。だいたいな……〜!」

 

「な、けどそれは……〜!」

 

なにやら目の前で揉め始めた二人を見て呆然として肩の力が抜ける。さっきまでの重い雰囲気はどこかへ吹っ飛び、いつもみんなで遊びに行くような雰囲気になっている。

 

「……庇ってくれてありがとう」

 

「へ?……あれ、いない」

 

ライダーさんに耳打ちされ振り向くとそこに姿は見えず、周りを見渡してもどこにも姿は確認できなかった。まるで最初からそこにいなかったかのように静けさだけが残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃ、また逃げられちまったか……仕方ない、響を連れてくか」

 

「ええ!? 私ですか! なにゆえ!?」

 

「……はあ、そうね。立花、貴女をこのまま返す訳にはいかないの。特異災害対策機動部二課までご同行願います……貴女まで逃げないでね」

 

「ちょ! それどこから取り出したんですか! 手錠片手ににじり寄って来ないでください翼さん! あ! 奏さん肩掴まないでくださいよ! ちょやめ、ああああああ!?」

 

 

 

 

 

 





そういえばジオウの時止めって後出しした方が更に時を止めらるというか支配権握り返せて有利ですよね、ジョジョみたいに時を止めた世界でお互いが動くって事は出来なさそう。

そういえば最近シンフォギアXDU始めました。

あとネフシュタンの鎧の反応は大量のノイズ+もう一つのガングニールの反応で驚いて検知に気づかなかったって事にしてくださいお願いします!




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モブ厳な世界で王様お悩み相談教室。

祝えっ!(挨拶)

なんとこの小説のお気に入り登録が1000件を越えました! ありがとうございます! みんなシンフォギアとジオウが好きなんやね!ぼくもちゅき。

そしてプレッシャーが半端無いです、漏れそう。エタるつもりもないですけどエタらないように頑張ります!

あと執筆中ウトウトしてて後半クオリティがダダ下がりかも知れません、後々自分でこれ酷いなと感じたら後日修正するかもです。



風が吹き荒れ、雨粒が窓ガラスを絶え間なく叩く音が響く。吐息で曇った窓ガラスを拭い空を見上げれば、曇天が空を覆い尽くし突き刺さるような雨が降り注いでいる。

 

無意識のうちに今日でもう何度目かわからないため息が漏れる。気分があまり優れない、なんだか頭がぼんやりして考えがまとまらない。

 

「……はあ」

 

「またため息ついてるよ。はいこれ、緑茶でよかったよね。ちょっと熱いから気をつけて」

 

「あ……す、すいません。何から何まで」

 

「いいっていいって、トップアーティストが風邪なんて引いたら色々大変でしょ。それにしても急に降り出して来るなんてね、天気予報では何も言ってなかったのに」

 

この時計店の店主、常磐さんが店の奥からトレイを持って戻ってきた。手渡された湯呑みを受け取り少し冷ますように息を吹きかけてから湯呑みに口をつけゆっくり飲み込む。

 

……温かい。冷え始めていた身体を内側から温めてくれる。

 

アーティストとして外部での用事を終わらせたあと、それほど離れた距離ではないので気分転換にとマネージャーの緒川さんに一言伝えてから、車ではなく徒歩で二課本部まで戻っていた。

 

その途中で天候が急変して降り出した雨に当てられながらも、常磐さんの時計店へと避難してきた。運が良かった。もしかしたら雨に濡れながら迎えの車を待っていたかもしれない。

 

「そうだ、濡れた制服はどうする? 洗濯しても大丈夫そうなら洗濯してもいいけど」

 

「あ、いや……制服はそのままでいいです。、ビニール袋か何かに包んで持って帰ります。その、ただでさえシャワーと洋服も借りてますし」

 

冷えた身体を温めるためにすぐにシャワーを浴びたかったが、流石に友人とはいえ男性の家のお風呂を借りるのはなんだか恥ずかしく抵抗があった。

 

だからタオルだけを借りて濡れ鼠の状態で迎えを待とうとしていたら、常磐さんが私に、サイズが合わなくなって着てないからいらないと言って、洋服のセットとバスタオルを渡し風邪を引くからシャワーを浴びて来いとお風呂場に押し込んだ。

 

お風呂場の前で妙に抵抗してる私に何かを察したのか常磐さんはこう言った。

 

『なるほど、女の子だもんな……大丈夫、安心して。翼が出るまで店の外にいるからさ、トップアーティストのシャワー中に男が一つ屋根の下とかファンの人に殺されても文句言えないし怖いから』

 

『え、あ、はあ?』

 

『じゃあ出たら教えて!』

 

『へ、ちょ…』

 

サムズアップしてそう告げると、私をお風呂場に押し込んだ。立花や小日向が信頼する常磐さんを疑うわけではないが、一応怪しいものがないかを確認し終えてからシャワーを借りた。

 

着る服に関しては常磐さんに渡されたので問題ないが下着はそうはいかないのでドライヤーを借りて急速乾燥させた。

 

着替えて広間に戻ると常磐さんの姿はなく、まさかと思い玄関付近の窓から外を覗き込むと、そこには傘を差しながら雨風に打たれて玄関の前で立ち尽くす常磐さんの姿があった。

 

慌てて中に入れるも、本人は「あれ、もういいの?意外と早かったね」なんて呑気な事を言っていた。

 

風邪を引かないようにと気を使ってくれるのは嬉しいが、自分が風邪を引いたりしたら元も子もないだろうに。

 

「マネージャーさんはなんだって?」

 

「……少し時間が掛かるそうですが迎えには来られるそうです」

 

「そっか……よしっ。じゃあ暇つぶしに俺と何か話でもしようか」

 

常磐さんが何かを考え込むような様子を見せてからそういった。

 

それは構わないがお店の方はいいのだろうか? そう聞くと、常磐さんは、外がこの様子じゃ今日はもうお客さん来ないだろうからいいよ、と作業着のエプロンを外しながら意味深な笑みを浮かべて言った。

 

「さっそくだけど、翼が今悩んでる事があってそれって響と奏の事。さっきからため息が多いのもそのせい、でしょ?」

 

「…………そんなに分かりやすいですか私って」

 

ドンピシャで今私が抱えてる悩みを言い当てられた事に驚き、一瞬身体が強張る。バレていたのか、隠していたつもりだったのに。

 

「詳しくは聞いてないけど、最近、響と奏の雰囲気がなんだか悪いって未来が言っててね」

 

「小日向が、ですか……?」

 

「未来はその理由を知らないみたいだけど、翼は知ってるんでしょその理由」

 

「……はい」

 

まるで姉妹のように中の良い奏と立花、つい先日そんな二人が喧嘩した。

 

小日向と常磐さんはその理由を知らないが、私は理由を知っている。あの日未確認一号、オーマジオウと繋がりがあると考えられる未確認二号に逃げられた後、立花を連れて二課本部へと帰還した。

 

奏と同じガングニールのシンフォギア・システムを身に纏った立花、その謎を解明するために了子さんと医療チームが立花の身体をメディカルチェックした。

 

そしてメディカルチェックの結果、二年前の惨劇時に立花の胸の心臓付近に食い込んだ破片……それがガングニールの砕け散った破片だと判明した。

 

それを土壇場で起動させて装者として力を振るった立花。謎の多い未確認一号や未確認二号のような例外を除けばノイズに立ち向かえるのはシンフォギア装者のみ、その装者も私と奏の二人しかいない。

 

二課司令、叔父様は立花に協力を要請した。力を貸してほしいと。立花もそれを了承した。自分の力が役に立つのならと。……私も立花なら問題ないと思っていた、その優しさも人柄もよく知っている。だからシンフォギア装者としての後輩ができた、それくらいの気持ちだった。

 

新たな仲間の歓迎ムードの中一人だけそれを拒絶する人がいた。……奏だ。

 

『よろしくお願いしますっ!』

 

『……めだ。』

 

『……奏?』

 

『……ダメだっ!

 

『か、奏さん……?』

 

『あたしは反対だっ! 認められるもんかよッ!』

 

『ど、どうしたの奏?』

 

『あたしは、あたしはッ! お前を戦場に立たせる為にッ! あの日お前を助けた訳じゃないッ!!

 

そう叫んで奏は部屋を飛び出して行ってしまった。

 

奏の戦う理由はノイズへの復讐だ。けど今はもうそれだけじゃない。誰かの為に歌い戦う、守りたいと思えるものが奏にはあった。もちろん私にだってある。

 

二課や街の人々、小日向に常磐さん、そして立花。奏にとって立花は守るべき存在であり、戦士である自分たちが帰ってくる日常でもあった。

 

その立花を、自分の所為で温かな日常から冷たい非日常へと引きずり込んでしまったと奏は考えている。

 

私も、立花の為にも安全な場所にいてほしいと思う気持ちはある。しかしそれとは逆に奏の為(・・・)にも、立花に戦士として戦ってほしいという気持ちもある。二つの気持ちが絡みあってどうすればいいのかわからない。

 

奏は元々、聖遺物への適合係数の低さから装者たりえない。それをLiNKERの投与により適合係数を引き上げてシンフォギアを身に纏っている、LiNKER使用による負荷は凄まじいものだ…言い方を変えれば奏は命を削って戦っているようなもの。

 

「……私はどうすればいいんでしょうか」

 

「……それは、二人の喧嘩のこと?」

 

「……はい」

 

ソファの上で足を抱きかかえ俯く私の隣に腰を下ろしている常磐さん。これは私たちの問題だ。本来なら彼に話すべきではないのかもしれない。それでも今は誰かに話したくなった。

 

「……私は二人の気持ちを知っています。お互いの主張にも納得しています。どちらも正しいからどうすればいいのかわからなくて」

 

「そうだよな、こういう時一番苦労するのはフォローする第三者だよね。……その喧嘩ってさ、二人とも絶対に譲れないものがあるから喧嘩してるでしょ?」

 

その通りだ、奏も立花も譲れないものがあり喧嘩している。

 

立花を戦わせたくないと言った奏。そこには自分自身への不甲斐なさと不器用な優しさがある。力になりたいと言った立花。彼女は自分も守りたい大切なものがありその為に手を伸ばしたいと。

 

「どうすれば、いいと思いますか?」

 

「うーん……翼は変に気にせずに、いつも通りの翼でいればいいと思うよ。で、響と奏の喧嘩も放っておいてもいいんじゃないかな」

 

「……え?」

 

放っておけ、予想外の言葉に驚き俯いていた顔を上げ常磐さんを見ると、彼は少し笑みを浮かべながらこちらを見つめていた。

 

「それは、どういう……?」

 

「ああ、もちろん面倒だから放っておけとかそういう意味じゃないよ。そうだな〜……、学校の先生ってさ、喧嘩はいけませんってよく言うじゃん?」

 

「…………」

 

「確かに喧嘩するよりかは仲良くしてほしいと思うよ。けどさ、お互いが絶対に譲れないものがあるからこそぶつかってるのなら、俺は喧嘩の一つや二つしてもいいと思うんだ。ぶつからなきゃ伝わらない事だってある、例えば『自分がどれくらい真剣なのか』……とかさ」

 

「……ッ」

 

「それに俺も絶対に譲れないものがあったから……親友とぶつかりあって何回も怪我した事あるし、させた事もあるよ」

 

意外だ。常磐さんにそんな出来事があったのか。私の勝手な想像だが、常磐さんは争いごととは無縁なイメージがあった。

 

そう思っていたのが表情に出ていたのか、私を見て常磐さんは柔らかく笑う。

 

「意外? まあ、翼だって奏と喧嘩ぐらいした事あるでしょ? 」

 

もちろんある。今でこそ奏とは分かり合えるパートナーだが、最初の頃は違った。奏がシンフォギア装者になったばかりの頃だ。その心を憎悪で染めていた奏は、人命救助よりも復讐を優先させていた。

 

何度それを咎めても反省する様子を見せず、それが原因で衝突した事がある。

 

「それと同じだよ。だから翼は二人の話を聞きつつ、待ってあげればいいよ。あの二人の事だがら喧嘩別れ何て事は絶対にないと思うから。それで二人が納得して仲直りしたら、自分がどれだけ悩んで苦労させられたか愚痴ってやればいい」

 

「……ふふ、そうですね。苦労させられた分二人には私のわがままを聞いてもらおうかな」

 

「いいじゃん、そしたらきっと響なんかはこれから翼に頭が上がらないだろうね。翼に何か頼まれれば絶対に二つ返事だ」

 

「……それはそれで何か嫌ですね」

 

そんな言い方をされるとなんだか自分の後輩に無理強いてるみたいで嫌だが、それでも少しくらいのわがままなら許されるだろう。

 

淹れてもらった緑茶を飲み終え空になった湯飲みを丸テーブルに置くと、ふと気になるものが目に留まった。壁掛けられたバラバラの時間を指し示す大きな時計の数々、その近くに置かれている中が見える構造になっている小さな引き戸棚。

 

その戸棚の中には写真立てが飾ってあった。

一枚目はどこで撮ったのかはわからないが、河川敷のような場所で座り込んでピースを浮かべている立花と小日向と常磐さんの三人で写っている写真。

 

二枚目は奏と立花と小日向の三人が、何故かみんなギャン泣きしているどういう状況かよくわからない写真。

 

三枚目は前にこの時計店で開かれた、立花と小日向の入学祝いパーティーの時の写真。並んで椅子に座る立花と小日向、その後ろで並んでいる私、常磐さん、奏の五人写った写真。

 

四枚目、四枚目だけが何故かボロボロの状態でフレームに入っていた。この時計店とどこか似たような内装と雰囲気の時計店で五人の集合写真が撮られていた。

 

一人は真ん中にいて両隣の男性たちと肩を組んでいる常磐さん。

 

二人目は常磐さんの右隣にいる黒いハーネス姿に表情の硬い男性。

 

三人目は左隣にいるストールにコート姿のどこか胡散臭さを感じさせる男性。

 

四人目は左端にいる眼鏡をかけたエプロン姿の小老の男性。

 

五人目は右端にいる黒い髪に特徴的な白いワンピース姿の女性。

 

みんな浮かべている表情はバラバラだが楽しそうな雰囲気が伝わってくる写真だった。

 

「……あの写真、気になる?」

 

「あ、はい……家族写真ですか?」

 

「そうだね……家族写真、かな。こっち(・・・)に来るとき私物とかは持ってきてなくて財布だけ持ってきててさ、財布の中にお守り代わりに入れてたら凄いボロボロになっちゃって」

 

常磐さんは戸棚からそのフォトフレームを取り出して持ってくると、テーブルの上に置いた。近くで見れば思っていた以上にボロボロなのがわかった。所々焦げた跡のようなものもある。

 

「この方達は今どこに?」

 

「……ここよりもずっと遠い所かな、きっと今も元気に暮らしてるよ」

 

「…………っ」

 

思わず息を呑んだ。常磐さんの浮かべた寂しそうな表情。

 

何を聞いているんだ私は……少し考えればわかることじゃない。元々常磐さんは行くあてもなく彷徨っていた所をこの時計店の店主のおばあさんに拾われたと言っていた。焼け焦げた家族写真そして今も広がり続けるノイズの被害……。

 

「……ごめんなさい、嫌な事を聞きましたよね」

 

「え? ……なんで翼がそんな顔するの?」

 

「……だって、思い出したくない事だってあるじゃないですか」

 

「ん? ……あれ? もしかして翼なんか勘違いしてない? 別に絶対に会えないって訳じゃないよ……」

 

「…………へ?」

 

……あ、あれ?

 

「え、じゃ、じゃあ……お亡くなりになったとかそういうのじゃ……」

 

「いや、全然違う。勝手に殺さないでよ。いやまあ俺の言い方も悪かったけど……」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

思わず立ち上がって頭を下げる。変な勘違いをしてしまった。……は、恥ずかしい。というか失礼すぎるっ。

 

変な空気になってしまったその時、目の前の丸テーブルの上に置いてあった通信端末が震えた。この空気に耐えきれず逃げるように端末を開いた。メッセージが一件届いており、それを開くともうすぐ時計店の前に到着する事を知らせる内容だった。

 

「なんだった?」

 

「マネージャーからのメールでそろそろ時計店の前に到着するみたいです」

 

「そうなんだ。じゃあすぐそこまで見送るよ」

 

「いえ、別にそこまでしてもらわなくても……」

 

「いいからいいから、ホラっ」

 

濡れた制服などをまとめた荷物を私に手渡すと、肩を押しグイグイと進んでいく。さっきのお風呂の時も思ったが、この人変なところで強引だ……なんだかそういうところは奏と立花にそっくりだ。

 

外に出ると、既に二課の黒い車が時計店の前に駐車されていた。黒服の人達が傘を持って車から出てくる。

 

「常磐さん、ここまでで大丈夫です」

 

「……そう? 翼がそういうのならいいけど……お悩み相談教室はもう大丈夫?」

 

「……はい、ありがとうございます。なんだか胸のつかえが取れた感じがします。このお礼は必ず」

 

「変に気にしないでいいよ。最初に言ったじゃん、暇つぶしに話をしようって。ただの暇つぶしの世間話みたいなものだから、お礼なんていらないよ。それに友達が困ってるんだからこういうのは助け合いでしょ」

 

そう言って常磐さんは笑顔を浮かべる。……立花と小日向が彼を信頼するのも分かる気がする。

 

「わかりました。では常磐さん……いえ、ソウゴさん……また遊びに来ます。今日はありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翼がこっちに向かって頭を下げてから車の中に姿を消した。

 

それを手を振りながら見送っていると翼と入れ替わるような形で男性が一人車から降りてきて近づいてきた、黒スーツに優男と言った雰囲気の男性だ。

 

「こんにちわ。常磐ソウゴさん、ですよね。自分はこういう」

 

「ああ、大丈夫です。マネージャーの緒川さんですよね、奏や翼からよく話は聞いてます。凄いマネージャーだって」

 

懐から名刺を取り出そうとした男性、緒川さんに待ったをかける。向こうも俺を知ってるみたいだし自己紹介とかは平気だろう。この人が緒川さんであってるはずだ。翼や奏から聞いていた特徴も一致してる。

 

「ははっ、二人がそんな風に言っていたんですか。なんだか照れますね。……翼さんのことありがとうございます」

 

「いえ、気にしないでいいですよ。翼にも言いましたけどトップアーティストが風邪を引くのは色々大変でしょ」

 

「確かにその通りですが、僕がお礼を言いたいのはそれだけじゃありません。……翼さんの悩みを聞いて解決してくださったんですよね、翼さん朝とは違ってつきものが落ちたような表情をしてましたから」

 

「……別に特別な事はしてないですよ。ただ自分の経験を語っただけですから」

 

自分の経験を語っただけだ、礼を言われるような事じゃない。そう伝えても緒川さんは笑みを深めるばかりだ。……それにしてもこの人只者じゃないな、立ち方に隙がない。

 

緒川さんは急に笑顔を消して真面目な表情を浮かべると腰を曲げ頭を下げてきた。

 

「本当にありがとうございます。僕じゃどうしようもなかったですから。……ソウゴさん、我儘を言うようですが僕のお願いを一つだけ聞いてくれませんか?」

 

「お願い、ですか?」

 

え、なに? もしかして今後うちのアイドルに近づかないでくれとかそう言う感じ? 別に下心があって近づいたわけじゃないよ俺。

 

「これからも翼さんと一緒にいてくれませんか? 貴方や響さんに未来さん……貴方達と出会ってから翼さんは色々な事を知って、本当によく笑うようになったんです、楽しそうに。だからどうか、彼女を一人ぼっちに」

 

「緒川さん」

 

「……はい」

 

「そういうことはさ、別にお願いなんかしなくてもいいことだよ。言われなくても一人ぼっちにはさせない、俺も響も未来だって。だから変な心配はしないで大丈夫ですよ」

 

「……ありがとうございます。これは僕の連絡先です、何か困った事があれば連絡してください」

 

緒川さんは俺に名刺を渡すともう一度頭を下げてから車に戻っていった。車の後ろ姿が見えなくなるまで見送ってから時計店へと戻った。

 

 

 

「…………」

 

時計の針の動く音が響く静かな部屋を見渡してからテーブルの上に置いてあるフォトフレームを手に取る。

 

スウォルツとの最終決戦の時にお守り代わりとして持っていた写真、ウォッチやベルトを除けばこれだけがこの世界に持ってこられた唯一の私物だ。

 

「ゲイツ……ウォズ……ツクヨミ……おじさん……」

 

翼には絶対に会えないわけではないと言ったが、それは正しくない。俺はもうみんなとは会う事は出来ない……そんな気がする。

 

あの戦いの時に覚悟はしていたが、やっぱり……寂しいなぁ。

 

時空と次元の壁を越えることの出来るオーマジオウとディケイドの力、この二つの力をどれだけ使ってもライダー(・・・・)の世界には繋がらなかった。そもそも時空の破壊と創造が成功したのかも謎だ。

 

ライダーの世界には繋がらなかったというのに、それ以外の謎の世界には繋ぐ事は出来る。本当に訳がわからない。

 

 

 

 




とりあえず翼さんとの絡みが欲しかったんや。

シンフォギアXVも残り2話どうなることやら。謎だったバラルの呪詛も判明したし。エンキ出てきたし。

そういえば皆さん仮面ライダーでどのライダーのバイクが好きですか? 自分はトライチェイサーです、もしかしたら小説本編でも登場させるかも。クウガアーマー+トライチェイサー的な


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モブ厳な世界で夜にすれ違う。

祝え!(挨拶)

すいません、更新が少し遅れてしまいました。誤字報告も感謝です。

……とりあえず騎空士の皆さんは頑張りましょう。遅れた理由が伝わる人にはこれで伝わるはず。

それとまだ見てない人もいるかもしれませんので多くは語れませんがXV12話やばいっすね(小並感)。そして来週でシンフォギアも最終回……見たいような見たくないような。



リディアン音楽院、その地下。数百メートルにも及ぶ地下深くに特異災害対策機動部二課、その本部が存在している。

 

その特異災害対策機動部二課本部にある一室、そこは様々な観測機器が電子音を鳴らしながら稼働しデータを記録していた。

 

薄暗い部屋の中、白衣を身に纏った眼鏡の女性は中央モニターに映る“その存在”を睨みつけるように見ていた。

 

女性の名前は櫻井了子。特異災害対策機動部二課所属の技術主任、彼女の提唱する「櫻井理論」に基づき、聖遺物から作られたFG式回天特機装束、シンフォギア・システムの開発者だ。

 

「ふぅ……一体なんなのかしらねえ、コレ(・・)

 

周囲に散らばった資料やモニターに姿を映す謎の存在、天才科学者である彼女の頭脳、膨大な知識と記憶(・・・・・)を持ってしても自らを魔王と名乗った謎の存在、未確認一号を理解する事は出来なかった。

 

二年前に起きた惨劇その時、突如として姿を現し大量発生したノイズをその圧倒的な力によってものの数秒で撃滅し姿を消した未確認一号、オーマジオウ。

 

まずノイズには位相差障壁と呼ばれる特性の一つが備わっている。

 

存在を異なる世界にまたがらせることで、 通常物理法則下にあるエネルギーを減衰〜無効化させる能力である。

 

ノイズのこちらの世界に対する存在比率が増す攻撃の瞬間にタイミングを合わせることで撃破するなどの手もあるが有効な手段とはいえない。

 

ノイズに対抗するシンフォギア・システムから繰り出される攻撃は、 インパクトの瞬間、複数の世界にまたがるノイズの存在を「調律」し、 位相差障壁を無効化、 ロス無くダメージを与える機能が備わっている。

 

いかに最新・先鋭を誇っている銃器であろうと、ノイズには微々たる効果しか発揮できない。

 

現状、位相差障壁をなきものとしノイズを撃破する事ができるのはシンフォギア・システムだけである。

 

しかしこのオーマジオウにはそんなものは関係なかった。

 

装者の「調律」もなしにその拳はノイズを粉砕し手を翳すだけで塵にするなどのありえないような事もやってのけた。

 

「……厄介ね、本当に。なんで今になって……しかも問題はこっちにも」

 

了子は機械を操作しモニターの画像を切り替える。

モニターに映る、どこかオーマジオウを彷彿とさせるようなその姿、未確認二号と名付けられた謎の黒い戦士。オーマジオウを豪華と表現するならこちらは質素な感じだ。

 

この黒い戦士もオーマジオウと同じように「調律」なしに位相差障壁を物ともせずノイズを撃破している。ノイズとの戦闘データを見るにかなりの戦闘経験とセンスもあると判断できる。

 

オーマジオウ程ではないがその力は脅威的なものだ。

 

なにが目的でなんの為にこの二体の未確認が行動しているのかは謎だが、自分の計画の邪魔になることだけは確かだと了子は本能で感じとった。

 

「本当に、なぜいまになって現れた……ッ!」

 

了子は忌々しげに表情を歪ませて資料を睨みつける。

 

 

暗闇の中、その瞳は妖しく黄金に輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、響の様子が何か変?」

 

『そうなんです。奏さんと何かあった時から響の様子がおかしいなとは感じていたんですけど…』

 

先日時計店に修理の依頼があったアンティークの時計を徹夜で修理してる最中、突然未来から電話が掛かって来たので出てみると開口一番そう相談された。

 

相談の内容は最近響の様子がなんだかおかしいとの事。

 

「……例えば?」

 

『今朝なんていつも私が響を起こしてるのに珍しく先に起きてて、そしたらそのまま私修行してくるっ! ってどこかに行っちゃって……なんだか最近は帰ってくるのが遅い事も多いですし。ソウゴさんは何か知りませんか?』

 

「あー、わかんないな。いまこっちに遊びに来たりもしてないし」

 

『そうですか…』

 

未来さんすいません、実はめっちゃ知ってます。

 

多分それ帰ってくるのが遅い原因は特異災害対策機動部二課でのノイズ関連の事だろう。そして修行というのも恐らくはノイズと戦えるようになる為の修行のはずだ。

 

響の性格からして二課に協力を要請されて了承したか自分から申し出たかのどちらかだろう。響が自分で決めた事ならとやかく言うつもりはないが……大丈夫なのだろうか、神出鬼没なノイズが関わる以上犠牲者が出ないなんて事はない。

 

きっとそういう(・・・・)見たくもないものを見ることになるかもしれない。それに直面した場合つい最近まで普通の高校生だった彼女に耐えられるのか……?

 

……いや、せめてそうならないように俺が頑張ろう。

 

しかしノイズとの戦いに備えて修行か……明らかに戦闘経験とかなさそうだし妥当なんだろうけど大丈夫かなぁ?

 

にしてもいくら戦える人が少ないからと言って二課の仕事が響のプライベートに変に影響しなければいいが、響だって学生で年頃の女の子なんだし。

 

『……あ、そういえば今日の夜流れ星が見えるんですよ、知ってましたか?』

 

「え、流れ星……? そういえばお客さんもそんな事言ってたような……ははーん。もしかして響とその流れ星を見る約束とかしてたりする?」

 

『えっ! そ、そうですけど……よくわかりましたね』

 

「うーん、まあなんとなくかなぁ」

 

未来はそういうイベント事? とか好きそうなイメージがあるし響も響でそういうの好きそうだし。その二人が一緒になってれば大体の予想はつく。

 

「というか未来これから学校でしょ? 寮暮らしとはいえ準備とか大丈夫なの?」

 

『あ、そうだった。朝早くからすいません、お仕事中だったんですよね』

 

「別に気にしないでいいよ、何かあったらまた電話してくれていいから」

 

『はい。ありがとうございます、じゃあまた』

 

「うん、授業頑張って」

 

向こうから布の擦れる音が聞こえると電話が切れた。布団から起き上がったのか着替え始めたかのどっちかだろう、まあどっちでもいいが。

 

携帯端末をテーブルの端に置き、目の前に無造作に置かれた“ソレ”を手に取る。

 

「……やっぱり、直せないか」

 

手に取ったソレ、ジオウトリニティライドウォッチを握り締めて感触を確かめる。

 

ジオウトリニティライドウォッチ…ジオウ、ゲイツ、ウォズ、三人の力を合わせて変身するライドウォッチ、そのライドウォッチは現在使用不可能になっている。

 

レジェンドライダーのライドウォッチが壊れた時のようにトリニティライドウォッチはその色を失いひび割れて半壊状態とかしていた。

 

こうなったのはこの世界に来てから少し経った後の事だ、オーロラカーテンや異次元移動を使いどうにかしてジオウの世界に戻ろうとしたが戻れなかった。

 

そこで俺はトリニティライドウォッチを使った。ゲイツを助ける為にトリニティライドウォッチの力でアナザーワールドに逆召喚された時のようにその力を使ってジオウの世界に戻ろうとした。

 

結果は失敗、トリニティウォッチを起動させてジクウドライバーのスロットに装填した途端ライドウォッチから発生した強烈な電撃の様なものが全身に走りそのダメージで強制的に変身を解除させられた。

 

その時からトリニティライドウォッチはこの半壊状態になってしまった。おじさんがライドウォッチを直した時の様に直そうとしてみたが上手くは行かず

 

オーマジオウに変身し『ソナライドウォッチホルダー』にセットしてウォッチに超高速メンテナンスを施してみても無駄に終わった。

 

……正直、もうお手上げ状態だ。

 

「……なんか、疲れたな」

 

眠気がする。

 

徹夜になったが依頼されていた時計の修理は終わったしもう寝るか? なんだが急に身体が重くなった気がする……いや、その前に朝飯を食べるか、なにも食べてない。今から作るのは眠いし疲れてるから無理だ。

 

となると外食か…そういえばこの前響と未来が近所のふらわーって言うお好み焼き屋さんが美味しかったって言ってたっけな、そこに行くか。

 

「……やっぱ無理だ、寝よう」

 

時計店を閉店状態にして戸締りを確認してから広間の来客用ソファに倒れこむ。自室に戻ってちゃんとベットの上で眠るべきなんだろうがもう無理だ、疲れた、眠い、眠すぎる。

 

ソファに身を倒すと一瞬で俺の意識は暗い海の底に沈むように落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これが、50年後の貴方。最低最悪の魔王』

 

 

──知ってるよ、ずっと前から。これが50年後の俺……いや、“常磐ソウゴ”だ。

 

 

『おめでとう。この本によれば、今日は君にとって特別な1日になる。ただし、赤いロボットには気をつけたほうがいい』

 

 

──ああ、始まってしまったんだ……もう戻れない。大丈夫、イケる気がする。

 

 

『この時代のお前に恨みはない。でも、未来のためだ。消えてもらう!』

 

 

──……嫌だ、無理だ、ここで“常磐ソウゴ”が消えるなんて事はダメだ。

 

 

『……“俺、王様になりたいからさ。民を救うのって王様の役目だろ”』

 

 

──…………そうだ、俺は王様になる。いや、ならなきゃいけない。

 

 

『お前、王様になりたいんだってな。だが無理だ、この世界は俺に破壊されてしまうからな……いや、それ以前にお前は本当に王様になりたいのか? 俺にはそうは見えない』

 

 

──………………ッ!。

 

 

『それほど魔王になるのが嫌だというのなら、よい方法を教えよう。そのベルトを捨てろ! そうすればお前が私になることはない……好きにしろ、若き日の私であり私ではない者よ』

 

 

──……ベルトを、捨て…る。そうだ、ベルトを捨てれば……俺は。

 

 

『“俺は”……俺はっ! 俺の民を傷つけるやつは絶対に許さない。みんなの幸せのために出来ることがあるなら、俺は命を懸けたって惜しくないッ!』

 

 

──……何やってんだ俺は、王様になるなんて元々俺には過ぎた夢だっだんだ、過ぎた力だった。もう諦めたんだ、諦めた筈じゃないか。民なんてどうでもいい、どうでもいいんだ……なのになんで身体が動くんだ、なんで前に進もうなんて思うんだっ。

 

 

『最低最悪の魔王になったら、俺が倒してやるッ!必ずな。俺を、信じろ』

 

 

──ああ、なってやるッ! 例え俺が偽物でも、抱いたこの夢が借り物であっても、みんなを救いたいって気持ちはなにも変わらないッ! それだけは嘘なんかじゃない! 俺は、世界を救うッ! 最高最善の、優しい魔王になる。

 

 

『こいつが、ジオウが魔王になるだと…? そんなわけがあるかっ! こいつは誰より優しく、誰より頼りになる男だっ!そして……俺の大事な友達だ!』

 

 

──………ゲイツ。

 

 

『ジオウ、お前が何に対して悩んでいるのかは俺にはわからん。だが、お前はお前だ』

 

 

──……うん、ありがとう。

 

 

『幸せだったぞ、この時代に来て……ソウゴ……お前の仲間に……友になれて……俺を親友と呼んでくれて……』

 

 

──あ、あああ、あああああああっ! あ、え、あ、嘘だ、ダメだ、ゲイツ! 死ぬなぁ! 目を開けてくれっ!……う、うおあ、ああああああああああああああッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおああああああああッ!?」

 

飛び跳ねるように身体を起こし目を覚ます。

乱れた呼吸を整えながら辺りを見渡す、窓から見える夕焼けは既に黒く染まり始めていた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…くそッ。嫌な夢を見た」

 

汗を吸ったシャツが重くなり肌に張り付きベトベトして気持ち悪い。とりあえずシャワーでも浴びよう、それから何か食べるとしよう。

 

ソファから怠さを感じる身体を起こし風呂場に向かおうとした瞬間、背筋にピリッとした感覚が走った。

 

「……はぁ、勘弁してくれ。なんで今なんだ」

 

ノイズの気配だ、距離的にはそう遠くない。

 

……仕方ない、行くか。

 

色々と体調は最悪だが、行くしかない。未だに怠さを感じる身体を引きずりながら展開したオーロラカーテンを潜り抜ける。

 

通り抜けた先はどこかの地下鉄、ホームには群れるように奴らがいた。気味の悪いマスコットのようなノイズたちがこちらに気づき一斉に振り向く。

 

<ジオウ!>

 

ジクウドライバーは既に腰へ装着している。懐から取り出したライドウォッチの弁を回転させ起動させる。

 

「……変身」

 

<ライダータイム! 仮面ライダー! ジオウ!>

 

ポーズは必要ない。

起動したライドウォッチをジクウドライバーのスロットに装填して叩きつけるようにロックを解除し傾いたベルト本体を反時計回りに勢い良く回転させる。

 

背後に浮かぶ巨大な時計が分解されバンド状のリングが回転しながら身体を包み込み姿を変える。

 

「……行くぞ」

 

一歩踏み出すとそれに反応したノイズたちが襲い掛かってくる。

 

体当たりの要領で突っ込んできたノイズを身体を捻るだけの小さな動きで回避し振り向かずに背後へと蹴りを叩き込み消滅させる。まずは一匹。

 

バランスボールに手足の生えたまるでカエルのような姿のノイズが二匹飛びかかってきた。一匹は裏拳で殴り飛ばして炭素化させ二匹目は顔と思しき場所を鷲掴みにし横の壁に陥没させる勢いで叩きつけ土煙を舞い上がらせながら消滅させる。これで三匹。

 

重なるように並んでいた二匹のノイズに拳を貫通させて同時に消滅させる、さらに近くにいたノイズの足を払いバランスを崩し浮き上がった身体に突き刺すような前蹴りを繰り出し消し飛ばす。六匹。

 

「……ッ!」

 

こちらに向かって大量に放たれたボールのような何かを蹴り返そうとして足を後ろに引き、嫌な予感がして慌てて体勢を整えてガードする。

 

次の瞬間、大爆発に身を包まれた。

 

「くっそ……やっぱり爆弾だったのか。こんな地下鉄で爆発物なんて使うなよ」

 

普通の人間が喰らえば跡形もなく一瞬で吹き飛ぶ威力だ。ジオウの鎧のお陰で俺は大したダメージはないがエグいくらいの火力だぞこれ。

 

睨みつける先にはこれを投げつけてきた犯人、その背中にはいくつもの爆弾が背負われておりブドウのような姿をしていた。消費した分の爆弾は補充できるのか背中に生えている枝の様な突起物からブクブクと水風船を膨らませるように大量の爆弾が生成されていく。

 

あれだけの数の爆弾が直撃すれば流石にジオウの鎧でもダメージを負うがそれ以上にあんなものポンポンと使われたら周りの被害の方が酷くなる。

 

ブドウ型ノイズとの距離はそこまで遠くはない、ジオウの速力ならすぐに距離を詰められる。低く構えて一気に加速しようとした時、

 

「え……ら、ライダーさん!?」

 

「……えっ」

 

声が聞こえ振り向くと、制服姿の響が地下鉄入り口に立っていた。

 

なんで彼女がここに、そもそも今日は未来と流れ星を見てるんじゃ……いやノイズ(こいつら)がここにいるんだから戦う力を持つ彼女がここに来るのは当然なんだが、未来との約束より二課の仕事(こっち)を優先したのか?

 

「……ッ危ない!」

 

「え、きゃああ!」

 

突然現れた響の姿に呆然としていると俺が目を離した隙にブドウ型ノイズが背中の爆弾を響目掛けて(・・・・・)投げつけた。

 

今の響は前に見たパワースーツ姿ではなくただのリディアンの制服姿、つまり普通の人間と変わらない状態だ。そんな状態でさっきの爆弾を喰らったらひとたまりもない。

 

地面を踏み抜く勢いで走り出し加速する。

 

投げつけられた爆弾と立ち尽くす響の間にどうにか割り込み、自分よりも小さなその身体を包み込んで盾になる。

 

次の瞬間彼女を抱き締めたまま俺の身体は大きく吹き飛ばされた、壁に叩きつけられながら地面に倒れこむ。

 

「……ウグッ、結構痛かった。てか背中アッツ!」

 

「あ、だ、大丈夫ですかっ!? ごめんなさい私のせいで!」

 

「大丈夫大丈夫。そっちこそ怪我はない? ……あと戦うつもりなら変身しなきゃ危ないぞ」

 

「は、はい! すいません!」

 

──Balwisyall Nescell gungnir tron──

 

彼女が歌うとその身体は光に包まれてあの時と同じパワースーツを身に纏った……一瞬だけ大胆に肌を露出させていたがちゃんと視線は逸らした……見てないよ。

 

「やあ!」

 

「おお……ナイスパンチ」

 

「え、そ、そうですか? ありがとうございます……えへへ」

 

まだ残っていたカエル擬きのノイズが飛び出してくるとそれに反応した響が一歩踏み込み鋭い拳を叩きつけて炭素化させた。

 

戦いに慣れていないまだまだな一撃だがそれでもいい拳だった。修行してるってのは本当だったんだな。

 

響に向けていた視線をノイズに戻すと、爆弾を補充し終えたブドウ型ノイズがこちらを一瞥した後背を向けて走り出した。それに気づいた俺と響も追いかけるが行く手を阻むように大量のノイズが出現して足を止める。

 

「……ここは俺に任せて君はあの美味しくなさそうなブドウみたいなノイズを追いかけて。さっき見た通り爆弾を使ってくるからそれに気をつけて」

 

「は、はい! わかりました。でもライダーさん一人で大丈夫ですか?」

 

「大丈夫、すぐに片付けて追いつくから……というかライダーさんってもしかしなくても俺のこと?」

 

先程から気になっていた事を思わず自分に指を向けながら響に聞いてしまう。ライダーさんってなんだ、そんな呼ばれ方されたの初めてだぞ。

 

「ええ!? もしかしてお名前違いましたか? 顔の方にそう書かれてるのでてっきりそれが名前なのかと……」

 

「あー、なるほど……よし。じゃあ自己紹介だ、俺は……ジオウ。君は?」

 

「え、わ、私は立花響です!」

 

「うん、じゃあ響さっきのブドウの方は頼むよ。あんまり被害は出したくないからさ」

 

「はい。 わかりました!」

 

戦闘中だというのになぜか自己紹介して握手してる俺と響、自分で言っといてなんだが何してんだこれ。

 

ノイズの群れの脇を通り抜けて響が走り出す。響に向かってノイズが飛びかかるがそのノイズを蹴り飛ばして今度は俺が行く手を阻むようにノイズの前に立ちふさがる。

 

<ジカンギレード! ケン!>

 

「悪いけど急いでるんだ、すぐに終わらせるぞ」

 

ジクウドライバーからジカンギレードを生成して構える。響はノイズ戦に備えて修行していたが当然それですぐ戦えるようになる訳ではない、だから大量のノイズを相手させるよりも逃げた一匹を追わせた。

 

一匹だけなら他を気にせず戦いに集中出来るし俺がすぐに追いつけばいい。

 

「オオッ! はあぁっ!」

 

腕に鉤爪のようなものを生やしたノイズの一撃を弾いて素早くジカンギレードで斬り裂く。ノイズの攻撃を躱しながらカエル擬きノイズを真っ二つにして蹴りを繰り出し他のノイズも消滅させる。

 

そういえばさっきのノイズはなんで逃げたんだ? ノイズは無差別に近くの人間を追いかけて襲いかかって来る筈だ、今までだってそうだった。

 

あのブドウ型は初めて見たがノイズには危険を感じたら逃走するような知能があるのか……なんだか嫌な予感がするな。

 

ノイズをあらかた片付けると空気を振動させるような爆発音がこちらまで響いて来た。

 

急いでブドウ型と響の後を追いかけると瓦礫まみれの場所があり天井を見上げると地上まで続く大きな穴がポッカリと空いていた。先程の爆発音の正体はこれだろう。

 

地下鉄に響の姿もない、地上から戦闘音が聞こえることから多分この穴を通って地上に出たんだろう。ジオウのジャンプ力で跳び上がり俺も地上に出る。

 

「あん? なんだ、よぉやくお出ましかぁ」

 

「な、未確認……」

 

地上に出るとそこは公園のような場所でブドウ型の姿はなく、代わりにあの時の白銀聖闘士(シルバーセイント)の少女と、なぜか奏がいた。

 

 

 





因みにソウゴくんが外食に行っていた場合、OTONAとNINJAとのコープが派生し絆が深まってました。

今回意外と文字数が多くなってしまい区切って二話構成にしています。続きも執筆途中なので次回は早く更新できるかも。




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モブ厳な世界で鎧の刻。

まず最初にシンフォギアXV完結おめでとうございます。

ネタバレなしでは語れないので見ていない人の為にもどこがどうとか言えないんですけど。最終話やばかったっすね、まじやばかった(小並感)。

自分は最終話のCMでトドメを刺されました。もうウルウルでした。

そして早く更新できるかもとか言っておきながら思ったよりも時間がかかってしまいました、色々悩んで途中から執筆し直した結果遅くなってしまいました。すいません。







地下鉄を抜けて地上に出るとそこは公園のような場所で、ブドウ型ノイズの姿はなく、代わりにあの時の白銀聖闘士(シルバーセイント)の少女と、なぜか奏がいた。

 

分断されたのか少し離れた場所では響を守るように立ち回りながらノイズと戦っている翼の姿が確認できた。

 

……なんとなく予想はしてたがやっぱりあのブドウ型はあの少女が操ってたのか。そうなると俺も響もここにおびき寄せられた事になる。

 

「……未確認、いきなりで悪いが翼たちのフォローを頼む。こいつの相手はあたしがする」

 

奏が息を切らしながら肩越しに振り返って俺にそう言い、大きな槍を構えた。

 

何があったのかはわからないが、奏のあんな必死な形相は初めて見た気がする。けど正直に言わせて貰えば、下がるべきなのは奏の方だ。

 

鎧の少女と戦い劣勢に立たされていたのか、奏の纏う鎧には罅が入りその姿はボロボロだった。

 

「はっ、よく言えるなそんな事。さっきの打ち合いでわかったろ、アンタじゃアタシには敵わないって事ぐらい。それにアタシの目的はアンタじゃないんだよ」

 

「つれない事言うなよ……それにもう少しやってみないと、わからないだろぉ!」

 

ぶつかり合った槍と鞭がギチギチと火花を散らして応酬が始まる。

 

低く構えた奏が飛び出して突きを繰り出す。鎧の少女はそれを鞭で逸らすように防ぐと、刈り取るような回し蹴りを奏の顔面目掛けて放った。

 

奏はそれを身体を大きく仰け反らして回避すると、その勢いを利用したサマーソルトキックを喰らわせようとするが、回避されてしまい大きな隙を晒してしまう。

 

その瞬間に鎧の少女がガラ空きになった奏の胴体に蹴りを入れ吹き飛ばした。

 

「ぐっ……奏っ! この、邪魔だ!」

 

「奏さんっ!」

 

「……ッ来るな、下がってろッ!」

 

翼が奏の援護に入ろうとするが周囲に連続で発生しているノイズがそれを許さない。

 

響がノイズを切り抜けながら膝をつく奏に駆けよろうとするが奏は槍を振るって響を近寄らせない。

 

振るった槍は地面を抉り土を飛ばした。その衝撃で響はふらつき尻餅をついてしまう。

 

……これ以上は無理だな。そう判断して身体を引きずりながら前に進もうとする彼女の前に立ちふさがる。

 

「下がるべきなのはそっちだ。ボロボロじゃないか」

 

「未確認……どけ」

 

「退かないよ」

 

「退けって言ってんだよっ!……なっ!?」

 

奏は苛立ちを隠そうとせず、動かない俺に痺れを切らした奏が踏み込み槍を振り下ろす。

 

とてもじゃないが普通の女の子の膂力からじゃ繰り出せるとは思えない一撃を、防御する事なくその身で受け止め槍を押さえ込む。

 

受け止めた場所は火花を散らし煙を上げている。パワースーツの力のおかげなのかノイズの攻撃と比べるとその威力は段違いだ、滅茶苦茶痛いぞこれ。

 

「ッ……なんで君はそんなに焦ってるの? 聞かせてくれないかなその訳を」

 

「あ、あんたには関係ない……」

 

「あるよ、そんながむしゃらな戦い方されてもこっちが迷惑だ。これ以上君がそんな戦い方してれば響が悲しむ、君の相棒だってそうだ。それにいまの君を助けようとして彼女たちが無茶をすることになる」

 

「ッ!」

 

奏の背後には一刻も早く奏に合流しようと力任せな戦い方をする翼の姿が見える。焦りからか彼女の戦い方が大雑把になってきている。

 

そう伝えると槍を握る力が弱まっていき、ズルズルと崩れるように奏は座り込んだ。ガシャンと手からこぼれ落ちた槍が地面にぶつかる音が聞こえた。

 

そこから奏は絞り出すような小さな声でポツリポツリと語り出した。

 

「……あんたにこんな事話しても意味はない。けど、響は……普通の女の子なんだ。あたしとは違う、まだ引き返せる筈だ。あの子には戦う事なんか気にせずに普通の子として生活してほしい。あの子はまだ子供なんだよ……なぁ、あたしは……間違ってるか?」

 

「……君の響を思う気持ちは間違ってなんかないよ、けど正しくもないのかもしれない。あの子は自分の意思で戦場(ここ)に立ってる。誰かに強制された訳じゃないんだろ?」

 

「……ああ、あいつの自分の意思でここにいる。それでも……あたしはっ」

 

傷ついてほしくない、戦ってほしくないと思う気持ちは間違いじゃない。それが大切な人なら尚更だ。けど引き止めるだけじゃなく、その背中を押してあげる事も重要だと思う……辛い選択だろうが。

 

側にいた響に視線を向けるとそれに気がついた響が駆け寄ってきて奏を支える。

 

二人を下がらせて鎧の少女へと向き直った。

 

「わざわざ待っててくれてありがとう」

 

「……よく言うぜ。少しでもこっちが動けば行動できるように喋りながらずっと注意を向けてじゃねえか……まあいい今回はあの時と同じ様には行かねえぞ」

 

鎧の少女が特徴的な形状の杖を取り出してこちらに銃口を向けるかのように構える。前回の戦闘で使用していた杖だ。

 

「……その杖でノイズを操ってるんだよね?」

 

「なんだ、知らねえのか。無知なあんたの為に特別に教えてやるよ、こいつはソロモンの杖。聖遺物の欠片から作られたシンフォギアとは違う完全聖遺物だ。その力はノイズを任意に発生させてコントロールすることが出来る」

 

ソロモンの杖、シンフォギア、聖遺物の欠片、完全聖遺物、よくわからない単語がいっぱい出てきたがそれは一先ず置いておこう。

 

やっぱりあの杖、ソロモンの杖がノイズを発生させて操ってるみたいだ……それならとりあえずぶっ壊すか。

 

この国やどこかの国の悪いお偉いさんなんかがあんなもの持ったら、間違いなく兵器利用されるぞ、ビルドのライダーシステムだってそうだった。

 

まあ使用者、戦兎や龍我たちが愛と平和の為に使ってたから問題なかったが。

 

目標としてまず第一に鎧の少女の無力化、第二にソロモンの杖破壊でいこう。

 

「おっと、それ以上近づくなよ。お前の相手はこいつらだ」

 

ジカンギレードを握り鎧の少女に切っ先を向ける牙突のポーズで構える。すると鎧の少女が構えたソロモンの杖が発光し今までよりも強い光を放ちながら巨大なノイズが二匹現れた。

 

一匹は見る人によっては嫌悪感を覚えるようなイボイボのノイズに、もう一匹は一狩り行くゲームに出てきそうなツノの生えたゴツいゴリラのようなノイズ。

 

両方とも初めて見るタイプのノイズだ。イボイボの虫みたいなノイズのほうはよくわからないが、もう片方のゴツいノイズはどこからどう見てもパワータイプだ。

 

……少し様子を見ながら戦うか。

 

そう決めて一歩踏み出した瞬間、鎧の少女が高速で放った鞭をイボイボのノイズに叩きつけた。その一撃でノイズのブヨブヨとした肉片のような何かが辺りに飛び散る。

 

え? なんで自分で呼び出したノイズに攻撃したんだ? 訳がわからず困惑するが、今の行動をの意味をすぐに理解させられた。

 

「ノイズにも色々種類があってな、こいつらはその中でも特に変わったノイズでな。お前の相手をするにはピッタリのお客様だ」

 

「うっそーん……」

 

まさかと思い近くに飛び散った肉片を両断する……うん、増えてる。無限プチプチならぬ無限イボイボ(ノイズ)だな。面倒くさいぞこれ、攻撃しても消滅することなく斬ったそばから分裂して増殖してる。

 

下手に攻撃すれば数が増えるだけだ。

 

前に工場で使用した、ダブルライドウォッチを使った竜巻攻撃で増殖する暇を与えず一気に消し飛ばそうと考えライドウォッチを取り出そうとした瞬間に、ゴリラ型ノイズがその巨体に似合わぬスピードで突っ込んできた。

 

繰り出された拳打を受け止めて投げ飛ばそうと構えた瞬間、何か小さな違和感を覚えた。

 

「おっも……ぐっ!」

 

想像以上のパワーで放たれた拳を受け止めきれずそのまま殴り飛ばされてしまう。吹き飛ばされながら空中で回転し体勢を整えて地面を滑るようにしながら着地する。

 

ゴリラ型ノイズが加速しながら再び俺目掛けて突っ込んでくる。この時に先程感じた違和感の正体に気がついた。

 

──あれ、こいつさっきよりも大きく(・・・)なってないか?

 

<フィニッシュタイム! タイムブレーク!>

 

「グッ……おおおおおああああっ! 」

 

慌てて『ジクウサーキュラー』の回転させてエネルギーを込めた拳を放つ。ゴリラ型ノイズの拳打とライダーパンチがぶつかり合う。次の瞬間ゴリラ型ノイズは大きく吹き飛び、俺は発生した衝撃から思わずよろめく。

 

なんとか押し返したが嫌な予感がして周囲を見渡すと分裂増殖したノイズがその数を減らしていて、吹き飛ばしたゴリラ型ノイズが少し目を離した隙にまた大きくなっていた。

 

「気がついたみたいだなぁ。ノイズには色々と種類があるって言ったろ。飛び散ったノイズの方の特性は際限のない分裂と増殖、そっちのデカイノイズの特性は結合と増強だ。いい組み合わせだろ、お前の為にわざわざ用意したんだ」

 

「ったく……女の子からのこんなに嬉しくないサービスは初めてだよ」

 

つまりはこういうことか、このゴリラはあの増殖したイボイボを吸収して強くなってるのか。しかもイボイボには際限がないからゴリラはパワーアップし放題ってわけだ。

 

再び攻撃を仕掛けてきたゴリラ型ノイズの丸太のような豪腕から繰り出される拳打を『オウシグナル』のセンサーから得られる情報と培った戦闘経験を生かして捌いていく。

 

けどそれも時間の問題だ。たった数秒の応酬でまたゴリラ型が大きくなっていってる。しかもこっちが斬撃や拳を叩き込んでもノイズを吸収して炭素化せず回復してる。

 

「伏せろ! 未確認!」

 

「え?……ってうおおおお!?」

 

突然放たれた蒼色の巨大な斬撃。迫りくる斬撃を慌ててヘッドスライディングで回避するとその一撃を回避できずもろに受けたゴリラ型が吹っ飛ぶ。

 

……頭部にちょっと掠った気がする。頭をさすりながら立ち上がる俺の隣に刀を構えた翼が並び立つ。巨大な剣が排熱をしながら小振りな刀へと変形した。今の一撃はどうやら翼がやったようだ。

 

「えっと、ありがとう?」

 

「……お礼は言わなくていいわ。このノイズたちを片付けるのにあなたの力を借りるだけ、その次はネフシュタンの子とあなたよ」

 

「じゃあ……それまでは協力してくれるって事でいいんだよね、ありがとう」

 

返事はなかったが協力してくれるという事でいいんだろう。翼はゴリラ型を睨みつけ霞の構えをとり疾駆する。俺もそれに続くように走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響の視線の先でジオウと翼が協力しゴリラ型ノイズと戦っている。

 

ジオウがジカンギレードでゴリラ型の拳を逸らしながら弾くと、その隙に翼が接近して刀を振るい斬撃を浴びせていく。

 

ジオウが上手くカバーして翼が攻撃する、二人は即席のコンビとは思えない軽快な動きを見せている。

 

しかしそれでもゴリラ型を倒すまでには至らない。

 

ジオウと翼、二人の剣戟がゴリラ型ノイズのボディを捉えてその身を炭素化させていくがボディが、崩れきるよりも早くゴリラ型ノイズが周囲に分裂し増殖しているノイズを吸収してその傷を癒している。

 

どれだけ攻撃を叩き込んでも瞬く間に回復してしまう。しかも周囲のノイズを吸収する度にゴリラ型ノイズの力、速度が増していき動きのキレが良くなっていく。

 

ジオウと翼もカバーし合いそれを上手く捌いているが、徐々に押されていってるのは戦闘経験皆無の響の目から見ても明らかだった

 

「助けにいかなきゃ……」

 

無意識のうちに声が漏れていた。駆け出そうとした響の腕を奏が掴んで止めた。

 

「……待て、今お前が行ったって逆にあいつらの足を引っ張るだけだ」

 

「でもっ! 翼さんとジオウさんを助けに行かなきゃ、このまま見てるだけなんて私には出来ません!」

 

奏の言う通り経験も技術も足りない未熟な響が援護に入った所で、二人の邪魔になるだけだ。

 

響もそれを理解しているが、その性格上困ってる相手を見捨てるという事は出来ない。目の前で自分たちの代わりに戦い傷ついている二人の戦士を、響は奏の腕を振り払ってでも援護に行くつもりだった。

 

しかし響と奏の動きに気がついた鎧の少女の眼光が二人を射抜く。

 

「悪いが引っ込んでてもらおうか。そんなに焦らなくてもお前達の相手は後でしてやるよ。それまでそいつらと遊んでな」

 

鎧の少女がソロモンの杖を掲げると強烈な光を放ちながら響と奏を四方から取り囲むようにノイズが出現する。

 

視界を覆い尽くすほどの数のノイズに怯みそうになる響を庇うように、奏が立ち塞がり槍を構える。

 

いくら短い時間休む事ができたとはいえ、鎧の少女との戦闘で受けたダメージは抜けきっておらず体力も回復しきっていなかった。ふらつきながらノイズを睨みつける奏の前に、背後にいた筈の響が奏を庇うかのように出た。

 

「なっ! 何してんだ下がってろ!」

 

「奏さん……やっぱり戦います、私」

 

「っ……まだそんな事言ってるのかッ! いい加減にしろ、ここはお前みたいな奴がいていい場所じゃないんだよッ!」

 

恐怖で震えながらも自分を守るように構える響の後ろ姿に、怒りと悲しみの感情を爆発させ、響の胸ぐらを掴んで鋭く睨みつけながら怒号を浴びせる。妹のように可愛がっていた響に対して、普段の奏なら絶対にしないであろう行為。

 

しかし響は臆する事なく奏と向き合う。

 

「私はッ!」

 

「ッ!」

 

「私は……お母さんとお婆ちゃん、未来やソウゴさん、奏さんに翼さん。他にもたくさんの人に支えられて救われました。“あの日”から……自分は呪われてるってずっと思ってました、けど今はそれ以上に恵まれてるって思えるんです」

 

曇りにない真っ直ぐな瞳を向けられた奏は思わず呆然とし、掴み上げていた腕の力が抜けていく。

 

響の言葉は止まらない。

 

「私は救われました、けどそうじゃない人も沢山いる筈です。きっと今もどこかで周りから責められて泣いてる人がいるかもしれない、私はその辛さも寂しさも知ってます」

 

「………っ」

 

「だからもう、ノイズなんかのせいでこれ以上誰かの涙を見たくありません。私はみんなに笑顔でいてほしいんです」

 

目を逸らさず一言一言を噛みしめるように真剣に言葉を伝える響の姿に、奏は理解してしまった。もう自分には彼女を止めることは出来ないのだと。

 

「……それに奏さんは私のことをずっと助けてくれてましたよね?」

 

「……えっ?」

 

「奏さんと初めて会った次の日から少しづつ自分の周りが変化していくのに気がついたんです。近所の人たちやクラスメイトの子たちもどこか自分によそよそしくなって、学校が終わってから家に帰ると壁の落書きが消えて綺麗になってたりもしました」

 

「………」

 

「それにリディアンに入学してからも沢山いる生徒の中で未来と同じクラスになれたり寮で同室になれたり、最初はただの偶然で運が良かったのかと思ってました。けど、本当は奏さんのおかげなんですよね?」

 

「それ、はっ」

 

響の言葉に視線を逸らし言い澱む奏だが、全てその通りだった。自分たちのコンサートが原因で周囲から迫害を受ける響、疲労していく家族たち。

 

その悲惨な現状を目の当たりにした奏は、二課司令の風鳴弦十郎や他の大人たちに事情を話し、頭を下げて頼み込んだ。響を助ける為に力を貸して欲しいと。

 

響以外にもあの惨劇の被害者は山ほどいる。助けてあげたい気持ちもわかる、しかし一人だけを優遇するような事は出来ないと断られたが、奏は何度も何度も頭を下げて懇願し要望を聞き入れてもらった。

 

そこからはあっという間だった。学校全体に及ぶ虐め、それを知りながら黙認した教師たち、それらに適切な処分を下し、影ながら根回しをして響たちを支えていた。

 

リディアンに入学して二人が寮で同室になったのも奏の計らいである。

 

奏はその一連の行動を、自分の自己満足だからと響や未来には伝えていない。知っているのは二課の一部の人間と相棒の翼だけだ。

 

「今度は私が奏さんを助けます。“あの日”ノイズから私を助けてくれた時のように」

 

「……響」

 

「だから……見ててください、私の戦い」

 

胸ぐらを掴んでいた奏の腕を優しく解くと、屈託のない笑顔を浮かべる。心を落ち着かせるように呼吸を整えると、ノイズを見据えて拳を構えた。

 

拳を握り戦う事が怖くない訳じゃない。傷つけるのも傷つくのも怖い。けれどもそれ以上の理由が響にはあった。大切な人たちを守りたい、それだけで怖くても戦える。

 

響が飛び出そうとした瞬間横から伸びてきた槍に反応して動きを止めた。

 

「……それでもあたしはお前に傷ついてほしくない」

 

「奏さん……」

 

「──だから、一緒に戦うぞ」

 

「へっ?」

 

奏が口にした言葉に思わず変な声が漏れた響。そんなキョトンとする彼女の様子に、奏は愉しげにからからと笑った。

 

「お前一人に戦わせる訳ないだろ……あたしの相棒は翼だけど、今だけはお前が相棒だ。あたしはこっちから片付ける、そっちは任せたぞ。何かあればカバーする」

 

「……はいっ! 任せてください! 私と奏さんでダブルガングニールですねっ!」

 

「なんだそりゃ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よかった、あっちは大丈夫そうだな」

 

「何をボサッとしている未確認!」

 

「うおっ! ごめん!」

 

翼の大きな声で、響たちの方からこっちに意識を戻す。

 

ゴリラ型の剛腕をスレスレの距離で避ける。ジカンギレードが手元から弾かれたので殴りつけるが、大した効果は見られない。

 

こっちの攻撃自体はゴリラ型に通っているが、大量のノイズを吸収して回復されているせいで結局ダメージはゼロだ。

 

相手の回復力に対して火力が足りてない。そして今もうじゃうじゃ増殖し続けているノイズも邪魔だ。こいつも中途半端な攻撃じゃ意味がない。

 

「というわけでこのままじゃジリ貧だ。なんか一気殲滅出来るようなすごい技はそっちにはある?」

 

「説明されなくてもわかっている……周辺のノイズを一気殲滅出来る手段がないわけではない。私もそれをいま考えていた所だ」

 

「……因みにどんな技?」

 

「……絶唱と呼ばれるシンフォギア装者の最大の攻撃手段。増幅させたエネルギーを一気に放出するものだ。凄まじい破壊力だが、それと同じくらい負荷も掛かる。多く使えても一、二回だ」

 

「じゃあ却下で。それ絶対危ないやつじゃん……仕方ないこっちでなんとかするか」

 

俺がこの世界に来てから初めてノイズと戦った時に奏が使ったやつだよねそれ。あの時はジオウIIの力で戻した(・・・)からいいけど、あんな自爆技みたいの翼に使わせる訳にはいかないし。

 

「巻き込まれたくなかったら下がっていろ未確認……っていったい!? い、いきなり何をする!?」

 

「いやだから却下だって言ってるでしょ」

 

呼吸を整え覚悟完了な表情を浮かべて唄を口ずさもうとしていた翼のお尻を蹴り飛ばし、行動を中止させる。臀部を押さえて赤面している翼を下がらせて前に出た。

 

……仕方ない。あまり手の内を見せるような事はしたくなかったんだけど、これ以上時間をかけるとさらに面倒くさい事になる。

 

「なんだ、随分と余裕そうじゃねえか!」

 

「余裕がある男はモテるっていうでしょ? そんな、感じ!」

 

ゴリラ型の攻撃を転がりながら回避。避けた先に回り込んできた鎧の少女の鞭と蹴りを弾きながら鎧の少女を蹴り飛ばして距離を稼ぎ懐から取り出したライドウォッチを起動させる。

 

<ディ・ディ・ディ・ディケイド!>

 

起動させたディケイドライドウォッチをジクウドライバー左側のスロット、『D'3スロット』に装填、ベルト上部のスイッチを叩きロックを解除して『ジクウサーキュラー』を回転させる。

 

<アーマータイム! カメンライド! ワーオ! ディケイド! ディケイド! ディーケーイードー!>

 

ジオウのライダーズクレストが描かれた幾枚もの半透明のカードがディケイドライドウォッチから飛び出すように現れて、クルクルと周りを回転しながらカードの形状が鎧に変化して重なるように装着される。

 

『キャリバーA』から変化した頭部の『ディケイドヘッドギアM』の前面部『ディメイションフェイス』が輝きディケイドの文字が表示される。

 

「……はっ? なんだ……そりゃあ」

 

「でぃ、けいど……?」

 

「更にこいつを!」

 

<ファイズ!>

 

ライドウォッチホルダーから取り外したファイズライドウォッチをディケイドライドウォッチの『F.F.T.スロット』に装填する。

 

ディケイドライドウォッチは他のライドウォッチとは違って特殊なライドウォッチで、ウォッチ本体にもう一つのレジェンドライダーのライドウォッチをセットする事が可能。

 

『F.F.T.スロット』に装填する事でそのライドウォッチの力を「次の段階」へと引き上げフォームチェンジすることができる。

 

<ファイナルフォームタイム! ファ・ファ・ファ・ファイズ!>

 

仮面ライダーディケイドを模したマゼンタと銀のゴツゴツとしたアーマー全身が一瞬モザイクのような光に包まれると、漆黒のボディに銀色のライン『シルバーストリーム』が伸びた姿に変化する。

 

ディケイドアーマーのデバイス装甲『コードインディケーター』もそれに合わせるように右肩に表示されていたベースとなるライダーの名前がディケイドからファイズに変更され、胸部から左肩にかけて表示されていたバーコード模様がフォーム名の『ファイズアクセル』に変化する。

 

最後に『ディメイションフェイス』がシャッフルされるように切り替わると仮面ライダーファイズ、アクセルフォームの頭部を再現し固定される。

 

 

「また姿が変わった……っ!」

 

「……だからなんだ、虚仮威しだそんなもん! 見て呉れが変わった程度でいい気になるなよっ!」

 

「そうかな、虚仮威しかどうかはすぐにわかる。とりあえず付き合ってもらうよ、10秒間だけだけどね」

 

<Start Up>

 

左腕に取り付けられているデジタルウォッチ型専用デバイス『ファイズアクセル』のボタンを押すと、音声とカウントダウンが開始され唸るようなエキゾーストノイズが轟き渡る。

 

低く構えて一息に疾駆し、伸ばされた鞭を高速移動で回避する。既に鎧の少女の視界から俺の姿は消えている。

 

「消えた!?」

 

「な、どこに……ぐあっ!?」

 

加速したすれ違いざまにゴリラ型を強く殴り飛ばし、そのついでに鎧の少女を軽く蹴り飛ばして銀色の軌跡を残しながら疾走する。

 

10秒間なんてあっという間だ、だから今は散らばった増殖分裂型だけに狙いを絞る。

 

残り時間は6秒程度。起き上がろうとしたゴリラ型を蹴り込み横転させた後に、一度手首をスナップさせてディケイドライドウォッチの起動スイッチ『ライドオンスターター』を弾く。

 

<ファ・ファ・ファ・ファイズ! ファイナルアタックタイムブレーク!>

 

跳び上がり既に右足に装着されている『ファイズポインター』からポイントマーカーの光線を発射して全ての増殖分裂型を円錐状の赤い光でロックオン。そして狙ったノイズ全てに連続でライダーキックを放つ。

 

<3……2……1……Time Out>

 

音声とともに1000倍の速度加速が解除される。

敵の分子構造を分断、破壊するというクリムゾンスマッシュを喰らった増殖分裂型ノイズは今までのように増殖分裂する事なく灰化して消滅した。

 

「嘘だろ……あれだけの数のノイズを、一瞬でッ」

 

「あとはそのゴリラだけだ。そして次はこいつをっと」

 

ファイズライドウォッチを『F.F.T.スロット』から引き抜き、ファイズフォームを解除してからライドウォッチホルダーから別のライドウォッチを取り外して起動させる。

 

<ビルド!>

 

ビルドライドウォッチを先程と同じように『F.F.T.スロット』に装填。

 

<ファイナルフォームタイム! ビ・ビ・ビ・ビルド!>

 

再び全身が一瞬だけモザイクのような光に包まれると、漆黒のボディに銀色のラインが伸びた姿から、黒いボディに赤色と青色の二色の鋭利な刃の装甲に白い装飾の入った姿に変化する。

 

『コードインディケーター』も右肩に表示されていたベースとなるライダーの名前がファイズからビルドに変更され、胸部から左肩にかけて表示されていたフォーム名が『スパークリング』に変化する。

 

『ディメイションフェイス』も再度シャッフルされるように切り替わると仮面ライダービルド、スパークリングフォームの頭部を再現し固定する。

 

「また変わった……今度は一体なにを……?」

 

「くそっ……そいつを潰せッ!」

 

鎧の少女の命令で、ゴリラ型が地面に亀裂を入れながら、撃ち出された弾丸のような速度で飛び出してくる。

 

先程までは受け止めきれず受け流すので手一杯だったが、今はもう違う。岩を砕く強烈な拳打を俺は片手で受け止める。

 

「……なっ、 受け止めやがった!?」

 

ゴリラ型がもう片方の腕で拳を打ち込んでくるが、それも難無く片手で受け止める。力を込めて拳を押し込んでくるが微動だにせず、逆に相手の動きを押さえ込む。

 

そのままゴリラ型の巨体を持ち上げて地面に叩きつけてから、ジャイアントスイングの要領で回転させて空中へと投げ飛ばす。

 

<ビ・ビ・ビ・ビルド!ファイナルアタックタイムブレーク!>

 

「勝利の法則は、決まった!」

 

ディケイドライドウォッチの『ライドオンスターター』を弾き『DCDラビットフットシューズ』を機能させて高く跳び上がる。

 

ワームホールのような形状の図形を空中に出現させ、その中にゴリラ型を吸い込ませるように閉じ込めて拘束する。

 

発生した赤、青、白、三色の無数の泡とともに拘束したゴリラ型にライダーキックを叩き込み、その巨体を貫通させながらワームホールの図形を潜り抜け地面に着地。

 

スパークリングフィニッシュを喰らったゴリラ型は爆散し赤と青の粒子に変換されて消滅した。

 

「あのノイズを、一撃で……」

 

「ふぅ……また同じようなノイズを召喚しても今みたいに倒せるけど、まだやる? 出来れば大人しくしてもらえると嬉しいんだけど」

 

「……るな」

 

「え?」

 

俯いている鎧の少女がボソボソと何かを口にしているが、距離があるのと小さな声なので何を口にしているのかうまく聞き取れない。しかし、次の瞬間鎧の少女が激しい怒りの形相で顔を上げた。

 

「ふざけるなっ! なんなんだお前は! お前みたいなデタラメな力を持つ奴がいるから争いがなくならないんだ……だから、アタシはッ!」

 

「………」

 

鎧の少女が拳を震わせて叫ぶ、その声音と表情は憎悪に染まっていた。鎧の少女の怒りに呼応するかのように鞭の先端に高エネルギーが収束されていき球体へと形状を変えて放たれる。

 

「消えちまえよッ!」

 

「………ッ!」

 

巨大な黒いエネルギー弾を両腕で受け止める。

 

その威力の高さから地面を削りながら引き摺られる。力技でエネルギー弾を抑え込み、上空へと蹴り飛ばして爆発させる。

 

「くそっ! まだだ、もう一発……はぁ!? なんでだよ!? アタシはまだやれるっ! あいつを今ここで……っ! わかったよ!」

 

もう一撃放とうとしていた鎧の少女の動きが突然止まった。不自然な動きを見せる鎧の少女、誰かと会話してるのか声を荒げている。

 

会話していた相手と話が纏まったのか、構えを解きながらもこちらを睨みつけている鎧の少女。

 

「……ッチ。今回はここまでみたいなんでな、続きはまた今度だ」

 

「悪いけど、次なんかない。君はここで捕まえてその杖も破壊する」

 

逃走を図ろうとする鎧の少女が空へ飛び上がるよりも早く接近。そして拳を叩き込もうとした瞬間、どこからか現れた飛行型ノイズがドリルのように変形しながら突っ込んできた。

 

咄嗟にガードしたが吹き飛ばされてしまい、鎧の少女と距離が開いてしまう。飛び上がった鎧の少女を慌てて追いかけようとするが、雨のように次々と飛行型ノイズが降り注いでくる。

 

「グッ……くそ、邪魔するなよ……ッ! そこか!」

 

<ライドヘイセイバー!>

 

<ヘイ! 龍騎! 龍騎 デュアルタイムブレーク!>

 

「せりゃあっ!」

 

ジクウドライバーから出現させたライドヘイセイバーを握り、グリップ付近に取り付けられている長針パーツ『ハンドセレクター』を回転させながら仮面ライダー龍騎を選択して『スクランブルトリガー』を引き、変な気配と向けられた明確な敵意を感じた、鎧の少女がいる場所とは別方向の物陰へとライドヘイセイバーを振り下ろす。

 

刀身から発生した強烈な炎の斬撃を飛ばす。轟音を響かせて木々や舗装路を爆発させ焼き払うが崩れた物陰には誰もおらず感じ取っていたはずの気配も消えていた。

 

周辺を確認すれば鎧の少女も完全に姿を消していた。

 

「なんだったんだ今の……何かおかしな気配だった。普通じゃないような」

 

鎧の少女は逃してしまったが、どうやら彼女には仲間、もしくは協力者がいる。そしてそいつもノイズを操ることができると考えていいだろう。さっきのノイズは明らかに妨害するように俺だけを狙って攻撃していた。

 

こちらに向かってくる響たちを視界に収めつつ、オーロラカーテンを発動させてこの場を素早く離れた。

 

そういえば朝から何も食べてないからお腹すいたな。

 

 

 




アーマータイムさせたいが為にオリジナルのノイズを用意してしまった、許してください……どうしてもアーマータイムしたかったんやッ。

しかも初のアーマータイムがディケイドという、最初はドライブアーマーとウィザードアーマーの予定でしたが戦闘シーンの資料になりそうな映像を漁っている時出会ってしまったんです奴に、ファイズアクセルに……ッ。

うぉー!ファイズカッケー!ってなってる時にディケイドアーマーファイズフォームの存在を知ってしまった、そしたらもう、ほら、使うしかないやん? 因みにビルドフォームは自分が好きだから出しました。

そんな感じで後半を大幅に削って執筆し直した結果時間がかかりました、はい。




―――――――――――――――――――
おまけ、ここのソウゴのアナザージオウII(海東)戦。

「士、ライダーの力は取られたはずだろ?」

「そんなこともあろうかと、予め俺の力の半分だけウォッチに託しておいたのさっ!」

「流石は士だ。でも、半分の力じゃ僕には勝てないっ!」

「え、半分……いま半分だけって言わなかった? ってことは俺は今まで半分の力しか使えない欠陥品つかまされてたってこと!? なあ!?」←記憶あやふやで忘れてた奴。

「なんだ、先輩の力を使わせてもらっといて口が悪いなお前」

「いや、その先輩を武器にして投げ捨てるようなあんたには言われたくない……」

「……ジオウにはジオウの力だ、お前も来いっ!」(カメンライド ジオウ!

「えっ? 無視か、無視なのか?」(グランド ジオウ! 



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モブ厳な世界で小さな日常を。

誤字修正や沢山のお気に入り登録に評価と感想いつも感謝です!

地味に週に二回投稿を目指してるんですけど難しいですね、そしてぼくは最近シンフォギアロスに襲われてるジオ……。

ジオウロスは冬映画の存在とゼロワンのお陰でなんとかしていたがシンフォギアロスが……。

それと展開的にも色々あってデュランダル移送回は飛ばしてしまいました。万全な状態のシンフォギア装者が3人もいたらジオウいらなくね?ってなったのとフィーネの力を行使した瞬間を目撃したらあっこいつ普通じゃねえ(察し)ってなっちゃうので。

そんなこんなで強引な日常回を挟みました。
デュランダル移送はカット、よってデュランダル移送後ですね。すいません。




 

「──それでですね響ったら酷いんですよっ! いつも夜遅くに帰ってくるからこっちは心配なのに何も話してくれないんですっ!」

 

「そ、そうだね……」

 

「今日だって一緒に帰る約束してたのに急に予定が入ったとかで私から逃げるみたいに一人でどこか行っちゃうし……この間の流れ星の約束だってドタキャンされたんですよ! ドタキャン!……って聞いてますかソウゴさんっ!」

 

「う、うん。聞いてる、ちゃんと聞いてるからあんまり大きな声出さないで。というかちょっと落ち着いて」

 

隣の椅子に腰を下ろしている未来がグラスに入ったウーロン茶をぐびぐびと飲みほしながらグラスをカウンターに叩きつけ、普段とは全く違う様子でグイッと顔を近づけて迫ってくる。

 

どうも、常磐ソウゴです。先日行きそびれた近所のお好み焼き屋さんに未来と二人で来ています。

 

数時間後に来客の予定があったので時計店の掃除しながら準備をしていると何やら様子のおかしい未来が時計店に遊びに来た。

 

俺を視界に入れるや否やズンズンと近づいてきてご飯食べに行きましょうと言ってきた。

 

来客の予定があるので当然断ったのだが壊れたレコーダーのようにご飯行きましょうと何度も笑顔で繰り返し誘ってくる未来の有無を言わさぬ迫力に押し切られこのお好み焼き屋さん“ふらわー”に連れて来られた。

 

カウンター席でお好み焼きの追加注文をしてからストレスの溜まったサラリーマンのように愚痴をこぼす未来の相手をする。

 

「この前なんて学校も休んで特訓、特訓って言って早くから出かけちゃうし。学校の先生を誤魔化すのだって私も大変なんですよっ!」

 

「わかった、わかったから落ち着こう。というか未来まさかとは思うけど酔ってる?」

 

「酔ってません! 未成年だからお酒は飲めませんしこれはウーロン茶ですっ!」

 

いやそうだけど。場の雰囲気酔いというかなんというか、今の未来と話してると酔っ払いの相手をしてる気分になる。

 

「ソウゴさんはどう思いますか! 何か聞いてもはぐらかされちゃいますし、心配くらいさせてくれてもいいと思いませんか!」

 

「わかったから落ち着いて……というか顔近いって未来」

 

息がかかるくらいグイグイ近づいてくる未来を宥めているとふらわーのおばちゃんが鉄板で熱々に焼き上がったお好み焼きをお皿に乗せて差し出してくる。

 

「ふふふっ。今日の未来ちゃんは人の三倍の量は食べる響ちゃんに負けないくらい沢山食べるじゃないか。はいこれ、おかわりだよ」

 

「ありがとうございますっ! はぐっ、はむっ……」

 

「朝から何も食べてないとは言ってたけど食べ過ぎじゃない? 太るぞ……痛い、痛いから無言で俺の足を蹴らないで。ごめんってば」

 

カウンター席の下で行われる容赦のない暴行、女の子に体重の話は禁句でしたね。

 

というかマジで痛い、遠慮なくガシガシ蹴ってくるじゃん未来さん。

 

俺も運ばれてきたお好み焼きを頂く。

響がほっぺが落ちる程の美味しさと俺の前で食レポしてたのも納得できる美味しさだ、これなら何枚でもいけそうな気がする。

 

……未来がこんな状態になっている理由はなんとなく察せるし理解できる。

 

響は二課関連の仕事で忙しいみたいだし話を聞く限り特訓も続けているそうだ。

 

響からしたら未来の事も大切だが二課の仕事も大切な事で必要な事なんだろう、ノイズが関わり未来との約束が疎かになってしまっても仕方のない事だ。

 

けど未来からしたら不満ありありだ、事情を知らない未来から見てみれば響の行動は怪しい事この上ないだろう。突然運動を始めては日常生活に支障をきたすようなスケジュール、朝早くから急に居なくなって夜にも姿を消し疲れた様子で帰宅する。

 

何か聞いてもはぐらかされて教えてくれず、翼や奏はその行動の理由を知っているのに親友の自分だけが知らされていないような状況。不満をあらわにするのも無理はない。

 

「……ソウゴさんは、隠し事をするってどう思いますか?」

 

「え、そうだなぁ……俺は隠し事をするって事で人の事をとやかく言うことは出来ないかな。俺だって響や未来に隠してる事はあるし」

 

「そ、ソウゴさんがですか?」

 

「もちろん、俺も未来が知らないような隠し事の一つや二つあるよ。それに未来だって俺に教えられない恥ずかしい秘密ぐらいあったりするでしょ? それと同じだよ」

 

実は俺も響の事情を知っていたり変身してノイズと戦っていたりなんかは教える事のできない隠し事だ。

 

「けど、響が自分から話してくれるまで信じて待つしかないんじゃないかな。響は自分から隠し事をするような性格じゃないし」

 

「……わかってます、響にだって何か理由があるのかも知れないのに。けど、どんどん嫌な考えばっかり浮かんじゃって」

 

そう言って箸を止めて俯く未来。響に未来に翼と奏、なにかとこの4人は一緒にいる事の多いグループだ。

 

その中で自分は何も知らないで1人だけ仲間外れのような状況に不安を感じている、3人がそんな事をするような人じゃないと理解していてもやっぱり不安なのだろう。

 

「はいよ未来ちゃん。これもお食べ」

 

手前の調理場でお好み焼きを焼いていたおばちゃんがサラダやドリンク、他にもお好み焼きを次々と並べて来る。差し出された品々全てが注文していないものだった。

 

「サービスだよ。お腹が空いてる時に考え事をしてもね、ロクな答えも見つけられずに嫌な考えばっかり浮かんでくるもんなんだよ。だから今はお腹いっぱい食べて難しい事は後でゆっくり考えればいいのさ」

 

「おばちゃん……ありがとうっ!」

 

箸を伸ばして美味しそうにパクパクと食べ進めて行く未来。よくそんなに食べられるな、この子の胃袋はブラックホールか?

 

次々と空になっていき積み上がっていくお皿の山を呆然と眺めているとそれに気がついた未来がジト目で睨むようにこちらを見てくる。

 

「……なんですか」

 

「いや……ただ美味しそうに食べるなーって思っただけ」

 

「……さ、最近は響と一緒にランニングを始めたから別に大丈夫です」

 

「俺は何も言ってないよ未来」

 

顔を赤くして視線を逸らしながらも箸を止める事はない未来、しかし先程と比べてそのスピードを若干遅くなってる。その様子に俺もおばちゃんも思わず苦笑い。

 

俺も自分のお好み焼きを完食して追加分を食べ進めていた時におばちゃんが何の前触れもなく爆弾をぶち込んできた。

 

「しかし未来ちゃんの彼氏さんがまさか時計店のソウゴくんとはねぇ。おばちゃんビックリしたよ」

 

「……んんん! んぶっげほっ、こほぉっ!」

 

「ちょ、大丈夫か未来。ほらウーロン茶飲んで」

 

おばちゃんの爆弾発言に反応した未来はお好み焼きが変な所に入ったのか大きく咳き込んでいる。未来が飲んでいたウーロン茶を手渡すとそれを受け取ると大きく傾けて飲み干していく。

 

「きゅ、急に何言ってるんですかおばちゃん! ソウゴさんは別にか、彼氏とかそんなんじゃないです!」

 

「……そんな、俺とは遊びだったの?」

 

「ほら、ソウゴくんもこう言ってるし。恥ずかしがらなくてもいいのよ未来ちゃん」

 

「お願いですから話をややこしくしないでくださいソウゴさん!」

 

「ごめんごめん……別に俺も未来も全然そういった関係じゃないよ、ただのお友達。あんまり揶揄うと未来がかわいそうだし変に誤解しないでよおばちゃん」

 

おばちゃんの発言に悪ノリした後、耳まで真っ赤に染めてぷんぷんしている未来を落ち着かせながらおばちゃんの発言を否定する。年頃の女の子はそういう話題に敏感だろうから誤解は解いておかないと。

 

「あらそうなの? じゃあ響ちゃん?」

 

「いや響とも単純にただ仲がいいってだけでそんなんじゃないですよ」

 

なぜかこの恋話じみた話に食いつきのいいおばちゃん。この話をここで終わらせる為に追加注文をして話題を強引に変えると横から視線を感じた。

 

そこには目が据わり不機嫌そうな様子の未来がいる。

 

「……どうしたの?」

 

「いえ別に、ただ……私一人だけが慌てて、そこまで冷静にハッキリと言われると女性としてなんかこう、イラッときました」

 

「えぇ……じゃあ俺にどうしろと?」

 

「ソウゴさんは乙女心というものを勉強してください。あと代金はソウゴさんの奢りで」

 

何でやねん、乙女心? なにそれ食えんの?

 

俺のよく知ってる女の子たちは時間止めたり怪人相手に普通に銃撃したり手からエネルギーソード出したりする子だったし。そんなの学ぶ暇なかったよ。

 

この後意外と高くついた代金をサービスで安くしてくれたおばちゃんに感謝しながら支払いを済ませて、ぷりぷりしてる未来を宥めながら途中まで送っていき時計店に戻った。

 

 

 

 

 

 

時計店に戻ってみると長い髪を上で纏めて眼鏡に白衣姿の女性が玄関の前でインターホンをポチポチと押している姿があった。まさかと思い話しかけてみる。

 

「あら〜、おかしいわねえ」

 

「あのー、もしかして櫻井了子さん……であってます?」

 

「ん? 確かに私ができる女と評判の櫻井了子だけれど、もしかして貴方が弦十郎くんの言っていた常磐ソウゴくんなのかしら?」

 

「はい、そうです。すみません戻って来るのが遅れて待たせちゃったみたいで」

 

やっぱりそうだ、この人が弦十郎さんの言ってた代わりの人だ。

 

弦十郎さんから預かっていた腕時計はだいぶ前に修理し終えていたのだが弦十郎さんが何かと忙しいようで時間を作れないで受け取りに来れずにいたのだ。

 

それから先日弦十郎さんからメールが届き自分の代わりに受け取りに行ける人を向かわせると連絡を受けた。その人が櫻井了子さんだ。

 

「あら〜。鶴さんが営んでた頃と比べるとだいぶお店の雰囲気が変わったわねえ」

 

「そうですね、家具の位置や内装なんかは好きに弄っていいって言われてたんで。お言葉に甘えて少しだけ弄らせてもらいましたから」

 

この時計店を譲り受けた時に好きなようにしていいと言われたので家具の位置なんかを自分の思うように変えてみた結果どことなくクジゴジ堂に近い内装と雰囲気になった。

 

来客用のソファに腰を下ろしている櫻井さんに店の前で待たせてしまったお詫びとしてアイスコーヒーを差し出してから奥の部屋に保管している腕時計を取りに行く。

 

修理依頼の代金は既に依頼を受けた次の日に弦十郎さんから受け取っている、重い封筒を開けてみたら代金分以上にお金が入っていて困惑した。

 

もちろんそんな大金を受け取るわけにはいかないのですぐに代金分以外は返そうとしたのだが弦十郎さんが感謝の気持ちだと言って無理やり手渡してきた。

 

継げるものもおらず取り壊される予定だったこの時計店になにか特別な思い入れがあるようで店を継いで守ってくれた事への感謝らしい。

 

何かを後悔するような表情でそう告げる弦十郎さんを見て何も言えなかった。

 

「すいません、お待たせしました」

 

「別にそんなに気にしなくてもいいのよ。そういえば代金の方は弦十郎くんがもう払ってるんだったわよねえ?」

 

「そうですね、もう十分過ぎるほど受取りましたからこのまま持って帰ってくれるだけで大丈夫です」

 

修理し終えた腕時計を専用の収納ケースへと入れて紙袋に包んで手渡す、それを受け取る櫻井さんと僅かに手が触れた時。

 

「ッ!」

 

ゾクリと言いようのない奇妙な感覚が全身へ駆け巡った。

 

思わず櫻井さんの顔を凝視した、彼女は俺の様子に怪訝な表情を浮かべている。

 

「……俺と櫻井さんってどこかで会ったことありましたっけ?」

 

「えっ? 今日が初めましての筈だけれど……あらやだ、もしかしてナンパかしら。ソウゴくん意外と大胆ねえ。でもごめんなさいね、貴方の気持ちには応えられないわ」

 

「え、あ、いや、そういうんじゃなくて……」

 

なんだこの感覚。櫻井さんとは初対面だ、初対面の筈だそれは俺もわかってる。けど雰囲気というか気配というか、なんだか初めてじゃないような気がする。

 

何でだ、と頭を回転させていると。そこで櫻井さんが荷物を受け取るために差し出した“腕の状態”に気がついた。

 

「その腕、火傷(・・)してるんですか?」

 

手の甲の辺りから肘の辺りまで皮膚が赤くなっており火傷の痕が存在していた。かなり大きな火傷の痕だ。

 

「……ああ、この火傷の痕ね。ちょっと前にコーヒーを飲もうと思ったらお湯を溢しちゃったのよ」

 

「大丈夫なんですか?」

 

「平気平気、心配しなくても大丈夫よこれくらい。それとあんまり女性の手をジロジロ見たりしちゃあダメよん」

 

「あ、すいません」

 

捲り上げていた白衣の袖を下ろして火傷の痕が隠される。

 

お湯を溢したと言っていたが本当なのだろうか? 見た感じお湯を溢して出来た火傷というよりは強烈な炎であぶられて出来たような火傷痕だったが……まあいいか、俺がそんなに深く考えることじゃない。

 

腕時計の入った紙袋を手渡して受付デスクの上に散らばったペンや紙を纏めて片付けていると櫻井さんがジッとこちらを見つめていた。

 

「あのー、どうかしましたか?」

 

「えっ、ああ、ごめんなさい。弦十郎くんが貴方の事を真っ直ぐないい目をした子と言っていたから気になって」

 

グッとこちらに近づいて顔を覗き込んでくる櫻井さん。紫紺の瞳と視線が重なる、その瞳は俺を見るというよりは俺を通して他の誰かを見ているような気がした。

 

「本当に曇りのない真っ直ぐな綺麗な瞳……なんだか弦十郎くんや“あの人”に似ているわ」

 

「……あの人?」

 

「あーらら、なんでもないのよ。乙女の独り言は気にしちゃあダメよ。それじゃあ弦十郎くんに頼まれたものは確かに受け取ったから私はもう行くとするわ、またねソウゴくん」

 

踵を返し了子さんが手をヒラヒラと振りながら時計店を出て行く。そしてその背中を茫然と見つめる俺。

 

それにしてもまた乙女がどうこうか……未来の言うとおりやっぱり勉強とかしたほうがいいのか?

 

「いや、そういうのは俺には関係ないか……」

 

窓から空を見上げれば夕焼けが目に映った。

 

とりあえず夕食の準備でもするか、その後に修理を頼まれたラジカセの修理作業を始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……の筈だったのにどうしてこうなったんだか」

 

「どうかしたのソウゴお兄ちゃん?」

 

「うん、なんでもないから気にしないでいいよー」

 

手を繋ぎこちらを見上げて来る小さな女の子にそういって独り言を誤魔化す。

 

あの後、夕食の準備をしている途中にノイズの気配を感じたのだが発生しては消滅し発生して消滅が繰り返し続いた、多分響たちシンフォギア装者が消滅させたのだろう。

 

しばらくしてからオーロラカーテンを開いて現場を覗いてみたんだが既に日は暮れてノイズや人影はなく、戦闘の被害でめちゃくちゃになった現場だけが残っていた。

 

そして恐らくだが足跡や被害状況からノイズだけではなく人間との戦闘、鎧の少女もあそこにいた。シンフォギア装者が対応しているなら問題ないだろうなんて思っていたが現場に乗り込めばよかった。

 

それから家に戻り夕食の準備を再開しようとした時に食材が足りない事に気がつき慌てて近所のデパートに食材の買い出しに行った。そしてその帰り道に問題が発生した。

 

「……おい、あんたなにしてんだ。置いてっちまうぞ」

 

「……ああ、ごめん。今行くよ雪音(・・)さん」

 

俺の隣にはあの鎧の少女──雪音クリスと名乗った女の子がいる。

 

買い出しを済ませた帰り道、公園の近くで時計店の近くに住む仲のいい兄妹に出会った。そこまでは良かったんだがその二人を連れている人物が鎧の少女だったのだ。

 

鎧姿の時はバイザーのようなもので顔をよく確認できなかったが身長や声音、気配なんかで本人だと確信した。

 

当然彼女を前にして固まってしまう俺、まさかこんなとこでいきなり会うなんて思わないし。

 

そこで元々交流のあった仲良し兄妹たちが俺に気がつくと鎧の少女、雪音さんの手を引っ張って近づいてきた。変身したジオウの姿では何度かあっているが一応初対面なので自己紹介するとぶっきらぼうな感じだが名乗り返してくれた。

 

話を聞くとお父さんと逸れて迷子になってしまったらしく困っているとそこに雪音さんが現れて父親を探すのを手伝ってくれていたとのこと……なんだか俺の知っている彼女じゃない気がする……いや、俺が彼女を知らなかっただけなのか。

 

お父さん探しを手伝ってくれた事を嬉しそうに話す兄妹たちに恥ずかしそうにしながら口ごもる雪音さんの姿を見てそう思った。

 

「最後にお父さんと一緒にいた場所はどこ?」

 

「うーんと、商店街のほうかな。そこで買い物してたんだけど妹が走り出しちゃったのを追いかけてたら逸れちゃって……」

 

「よし、じゃあまずは商店街のほうから探そうか。雪音さんもそれでいいかな?」

 

「あ、ああ。別に、アタシは構わねえけど」

 

なら決まりだな、商店街はここからそう遠くはないからこの子たちのお父さんもまだそこら辺にいるかもしれない。

 

俺が女の子の手を引き、女の子がお兄ちゃんの手を引いて、お兄ちゃんが雪音さんの手を引く。4人で手を繋ぎながら並んで商店街を目指し歩き始める。

 

横をチラッと見るとそこには兄妹たちと会話をする雪音さんの姿がある、2人からの質問に恥ずかしそうにぶっきらぼうに答えて楽しそうに話をしている彼女を見るとやっぱり自分に敵意と憎悪を向けてきた少女とは別人なんじゃないかなんて思ってしまう。

 

──ふざけるなっ! なんなんだお前は! お前みたいなデタラメな力を持つ奴がいるから争いがなくならないんだ……だから、アタシはッ!

 

あの時の彼女の発言はまるで争いを無くしたいと唄う者の言葉だった、もしそうだとしたらこの子はなんでノイズなんか……。

 

俺の視線に気がついた雪音さんがこちらを見る。

 

「……な、なんだよ」

 

「いや、別に。ただ……優しいんだなぁって、子供が好きなの?」

 

「別に、優しいとか子供が好きとかそんなんじゃねえ。成り行きだよ、成り行き……そういうアンタこそなんで手伝ってるんだ?」

 

「元々この子たちとは顔見知りだったからね、困ってるなら放ってはおけないし。それにこんな暗い時間に小さい子供と女の子一人じゃ危ないでしょ」

 

「……そうかい、アンタもあのバカのようにお人好しって訳かよ」

 

あのバカというのは誰かはわからないが、まあいいか。それに理由はそれだけじゃない、彼女を監視……とまではいかないが少しだけ彼女の事を知ってみたくなった。

 

もしかするとこれ以上彼女と争わずに済むかもしれないし、分かり合うことが出来るのならそれが一番だろう。

 

しばらく商店街を歩きまわっていると綺麗な歌が聞こえてきた。最初はどこかで路上ライブかなにかをやっているのかと思ったがそうではなかった。

 

無意識なのかはわからないが雪音さんが鼻歌を口ずさんでいた。

 

「な、なんだよ。お前らこっち見て」

 

「お姉ちゃんは歌が好きなの?」

 

「……歌なんて大嫌いだ、特に壊すことしかできない私の歌がな」

 

「……そうかな、今の歌は綺麗だったと思うよ俺は」

 

「ちゃ、茶化すなっての」

 

歌というものに対してそこまで知識のない俺でも綺麗だと思えるものだった。それに歌が大嫌いだと言ってたがそうは思えなかった、無意識に歌を口ずさむ彼女の横顔はとても楽しそうだった。

 

「パパいないね……」

 

女の子の不安そうな声が聞こえる。商店街を一通り歩いて探してみたが、この子たちのお父さんの姿は確認できなかった。もう商店街にはいないのか?

 

この子たちを置いて帰るような人ではないし、向こうも子供たちを探していてこっちと入れ違いになったとかか?

 

「あ! パパだ!」

 

お兄ちゃんが叫ぶと近くの交番からちょうど兄妹のお父さんが出てきたところだった。お父さんも2人に気がつくと安堵の表情を浮かべてこちらに向かって走って来た。

 

「無事でよかった。一体どこに行ってたんだお前たち……いや、とにかく本当に無事でよかった」

 

「ごめんなさい、迷子になっちゃって……」

 

「そしたらソウゴお兄ちゃんとクリスお姉ちゃんが一緒に迷子になってくれたの!」

 

「違うだろ、父ちゃんを探すのを手伝ってくれたんだろ」

 

お兄ちゃんと女の子を抱きしめていたお父さんがこちらに向き直ると頭を下げて来る。

 

「すみません御迷惑をおかけして、それと本当にありがとうございました、自分が目を離した隙に2人が姿を消していて何か事件に巻き込まれたんじゃないかと」

 

「いや成り行きだからそんな……」

 

頭を下げるお父さんに続くようにお兄ちゃんと女の子が頭を下げてありがとうとお礼を言ってくれる。仲のいい兄妹に雪音さんが何かを聞いて、それからお父さんとお兄ちゃんと女の子が手を振りながら帰っていった。

 

雪音さんはその家族の後ろ姿を眩しいものを見るかのような瞳で眺めていた。

 

「よしっと、俺はこれから帰るけど雪音さんはどうするの? なんだったら送って行くけど」

 

「……別にアンタには関係ないだろ。そこまでしてもらわなくても結構だ、じゃあな」

 

そう言って踵を返して離れて行く雪音さん、その後ろ姿はなぜか先ほどの迷子の子供たちと重なって見えた。

 

こっそり後をつけて彼女の拠点を発見しようかと考えていると突然響き渡るような腹の音が鳴った。周りには他に誰もおらずここには俺と彼女しかいない、まさか。

 

「……雪音さん?」

 

「ち、違う! 別に今のはアタシじゃねえ! 人のせいにすんな、どう考えたってお前の」

 

再び鳴り響く腹の音。ジッと雪音さんを見つめれば彼女は下を向き視線を逸らす。その顔はリンゴのように真っ赤に染まり目には若干涙が溜まっていた。

 

「あー、えっと、俺これから夕食なんだけどよかったら食べに来る? 雪音さんが夕食を済ませてなかったらだけど……」

 

「………へ?」

 

彼女のポカンとした顔が印象的だった、そんな表情もできるんだな。

 

 

 




 
シンフォギアロスが……シンフォギアロスがぼくを蝕んでいくジオ……。


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モブ厳な世界で邂逅。

 
時間を見つけながらちびちび執筆して投稿。いつも誤字報告ありがとうございます!


 

──最近俺は夢を見る。

 

この世界ではない別の世界、仮面ライダージオウの世界にいた頃の過去に起きた、体験した出来事を振り返るような不思議な夢だ。

 

真っ暗な空間でプロジェクターに映し出された映像を立ち尽くして眺めるように、延々と続く同じ光景を眺めさせられている。

 

景色が切り替わる。

 

 

『悪いが、お前の相手は俺だ。少し遊ぼうか……魔王見習い』

 

『ッ……あんた……門矢、士』

 

 

目の前に立ち塞がった世界の破壊者とぶつかり合った。

 

 

『君は偽物で偽善者だ、なのに王様になりたいだなんてよく言えたよね。本来、王様になる資格もその力も無かったのにそれを奪ったんだよ……真の王者となるべき“彼”を玉座から引きずり下ろして。ねえ、どんな気分か教えてよ偽りの王様。奪った資格と力で手に入れた玉座から世界を見渡すのは、さあッ!』

 

『う、ぐぁっ! お、俺は……それ、でもッ! 俺はぁッ!』

 

 

ミラーワールドで遭遇した、鏡の中に存在するもう1人の自分との戦い。

 

 

『常磐ソウゴ、お前さえいなければっ……お前だけは必ず俺がこの手で消してやる!』

 

『……そうかもね、俺自身も俺なんかいなければって考える事はあるよ。けど立ち止まらない、歩き続けるってもう決めたんだ。だから俺は君と戦うよ』

 

 

目の前に現れた同じ“ジオウ”の力を持つアナザーライダーと対峙した。

 

 

『構えろジオウ。もはやお前に語りかける言葉はない……俺は俺の使命を果たす』

 

『ゲイツ……ッわかった、ゲイツがそう決めたのなら俺も全力で行く』

 

 

救世主の力を覚醒させたゲイツと死闘を繰り広げた。

 

 

『この世界に王は2人もいらない。だからお前の代わりに、俺が最低最悪の魔王になってやる!』

 

『……そっか、君はその道を選んだんだ……なら、なりたきゃ勝手になってろ。俺は最高最善の魔王になるっ、お前が俺の前に立ち塞がるなら越えて行くだけだっ!』

 

 

再び現れたすべてのアナザーライダーの力を統べる裏の王と戦うことになった。

 

 

途切れ途切れに切り替わって行く映像を眺めていると決まって最後に俺の体験していない、知らない映像が流れ出す。

 

場所はかつて俺が通っていた光ヶ森高校。

 

そこにはゲイツやツクヨミ、タイムジャッカーのウールとオーラが高校の制服を着て楽しそうに笑い合いながら登校している日常の風景が映し出される。

 

そしてその中心には俺ではない別の“常磐ソウゴ”がみんなと並び歩いていた。彼らが学校で勉学に励み青春を謳歌している光景。

 

……最初はこの光景がどういう事なのか意味がわからなかったが今ではなんとなく理解している、きっとあの“常磐ソウゴ”は本物の“常磐ソウゴ”だ。偽物の常磐ソウゴ(おれ)なんかとは違う本物の。

 

ここはどこかの並行世界なのか俺が創り出した新世界なのか、本来ならこうなるべきだった世界なのか、ありえたかもしれない可能性なのか、その世界の光景を俺は眺めさせられている。

 

最後に鏡が割れるかのように目に焼き付けていた景色が砕けて消えて行く。真っ暗な空間だけが残ると突然眩い光に包まれる。

 

そして気がつけば見に覚えのある荒野に俺は立っている。

 

「……なぁ、これを俺に見せて何がしたいんだ?」

 

振り返れば荒れ果てた大地に1人、魔王が立っていた。

 

彼は歴代ライダーたちが取り囲むように並び、荒野にそびえ立つ初変身の像を背後にこちらを見つめていた。

 

オーマジオウは何も語らない、ただそこに立ち尽くしこちらを見つめているだけだった。いつも気が付けば彼はそこにいる、その姿を見ても初めて会った時のようなプレッシャーや恐怖はもう感じない。

 

いつもここで夢が終わる。

次第に意識が薄れていく、そろそろ目が覚める時間だ。

 

視界がぼやけていくなか、オーマジオウは燃え上がる炎のように赤い複眼がずっと俺を見つめていた。

 

 

…………。

 

 

「んっ……何してんの雪音さん」

 

「へ?……あ、いや別にアンタが酷く魘されてたからちょっと気になっただけで! 別に何も!」

 

目が覚めると最初に視界に映り込んできたのは見慣れた天井ではなくこちらを覗き込む雪音さんの姿だった。

 

迷子の兄妹をお父さんの元へ送り届けて見送った後俺は雪音さんを連れて時計店へと帰宅した。借りてきた猫、というよりは拾ってきた警戒心の強い野良猫のように唸っている雪音さんをテーブルで待たせて夕食の準備をした。

 

最初は俺のことを警戒して、「行く訳ないだろそもそも腹なんて減ってない!」と癇癪を起こしていたが再び腹の音が鳴り響いたことで勢いが止まる。

 

顔を赤くしてプルプル震えている雪音さん、その様子がなんだか少し面白くて思わずフッ……と俺は笑みを零してしまった。

 

それを見た雪音さんが俺の笑みをどう受け取ったのかはわからないが「食いに行ってやろうじゃねえか!」とやけくそ気味に叫んで時計店までついて来てくれた。

 

その日の夕食はオリエンタルな味と香り(たぶん)のビーフカレー、初めは運ばれて来たカレーを睨みながら警戒心MAXにしていたが恐る恐るスプーンで掬い一口食べると目を見開きそこからガツガツ食べ始めて行く。

 

その食べっぷりに唖然としていると空になったお皿が突き出されて目を逸されながら小さな声でおかわりを要求された。次の日のお昼に取っておくつもりが半分以上が雪音さんお腹の中に収まった、まあいいんだが。

 

美味しそうに食べてくれるのは嬉しいんだけど雪音さんの食べ方がなんというかその、個性的だった、うん。

 

口の周りとテーブルを汚しながら食べる彼女のフォローをしながらそう思った。

 

その後夕食を食べ終えてから片付けを終わらせて、雪音さんを途中まで見送ろうと思っていたら彼女が居間のソファで眠っていた……警戒されてないのか信用されたのかよくわからんが無防備な彼女に頭を痛めつつ起こそうとした時、パパママと呟きながら涙を流していた姿を見てなんだか起こす気になれなかった。

 

その後自分の部屋から持ってきた布団を彼女に掛けてから俺は非常用の寝袋を使って寝た。

 

そして現在。

 

「えっと、その、色々世話になったな……」

 

「気にしないでいいよ、困った時はお互い様ってやつだよ」

 

「はっ、そうかい。とんだ物好きだよアンタ……まあ、なんだ……ありが、とう」

 

帰る準備を済ませた雪音さんを玄関まで見送りに来ている。途中まで送って行く事も伝えたが別にそこまでして貰わなくてもいいと断られた。

 

「……じゃあな」

 

「うん、またね。お腹が空いたらいつでも来ていいよ」

 

「だ、誰が来るか! 今回だけだっての! じゃあなこのお人好しっ!」

 

雪音さんが出て行ってバタン、と玄関の扉が勢いよく閉じられた。昨日彼女と話した時、あまり踏みこんだ会話はしなかったが様子を見る限りどうしても彼女が平気で人を殺せるような性格の人間だとは思えなかった。

 

スウォルツのような自分の目的の為に平気で何も知らない他人を利用して切り捨てるような吐き気を催す邪悪な存在を知ってると、彼女の事をただの悪人だとは思えない。むしろ利用されている側なんじゃないかと思い始めている。かつて戦った加古川飛流のように。

 

「……雪音さんには悪いけど少しだけ調べてみるか」

 

<オーズ!>

 

懐から取り出したオーズライドウォッチを起動させると仮面ライダーオーズのサポートアイテムであるカンドロイドが出現する。オーズライドウォッチの力でカンドロイドを使えると気がついたのは最近だ。

 

<タカ・カン!>

 

<バッタ・カン!>

 

<ウナギ・カン>

 

<クジャク・カン!>

 

「よし、雪音さん……この時計店からさっき出ていった銀髪の女の子を追いかけてくれ、彼女の拠点と協力者が知りたい。あ、もちろん彼女や他の人にバレないようにこっそりとお願いね」

 

出現したカンドロイドのプルタブを開けるとカンモードのカンドロイドがアニマルモードへと変形してから俺の言葉に了承するかのように鳴き声を上げて窓から次々飛び出して行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私立リディアン音楽院、その地下深くに存在する特異災害対策機動部二課。その二課本部の発令所でいつものように午後の二課定例ミーティングが行われている。

 

ミーティングメンバーはシンフォギア装者である天羽奏、風鳴翼、立花響。シンフォギア装者とノイズの戦闘をサポートするオペレーターの藤尭朔也、友里あおい。特異災害対策機動部二課の司令官、風鳴弦十郎。

 

以下のメンバーでミーティングが行われていた。異端技術研究者である櫻井了子は別件の為この場にはいない。

 

「以上がここ最近増加しているノイズの発生規模と被害状況ですね」

 

モニターに表示された街の地図にノイズの反応を意味しているいくつもの点滅するマーカーが記録されている。そのマーカーの数は指では数えきれぬ程のものだった。

 

「……やっぱり最近ノイズの出現する頻度が多くなってきてるよな」

 

「奏の言う通りだ、ここ最近ノイズの出現が活発になっている。原因や関係があるとすればネフシュタンの鎧の少女雪音クリス、響君のシンフォギア装者としての覚醒……そして」

 

弦十郎が藤尭に視線を送ると藤尭が頷きモニターに表示されている映像を切り替える。

 

モニターには未確認一号オーマジオウと未確認二号ジオウの姿が映し出される。

 

「二年前のコンサート会場に姿を現した未確認一号オーマジオウと約一年程前に姿を現し活動し始めた未確認二号、ジオウ。この二人も何かしら関係してると見ていいでしょう」

 

「響ちゃんが未確認二号に対してコンタクトを取れた事で二号の情報を得る事ができましたが、それを鵜呑みにしていいのかどうか」

 

「じ、ジオウさんは嘘なんてついてません! 話ができたのはほんの少しですけど……あの人は私の事も守ってくれました!」

 

藤尭と友里、オペレーター二人の発言に響が食い付くように反応する。

 

「……そうだな。事実、ジオウがノイズの攻撃から響君を庇うのを俺たちは目にしてる」

 

地下鉄での戦闘でシンフォギアを纏っていなかった響をノイズの攻撃から身を挺して庇ったのをあの日発令所にいた弦十郎を始め二課のスタッフ全員がモニターで確認している。

 

そしてその強大な力も。

 

「……ジオウの力が強力なのは理解していた、しかしあの日見せつけられたオーマジオウの圧倒的な力量程ではないと思っていたがその考えは改めなければならないかもな」

 

モニターには翼と協力しても倒すに至らなかった虫のような外見の増殖分裂型ノイズとゴリラのような外見の結合増強型ノイズを姿を変化させたジオウがたった一人で圧倒している映像資料が流れている。

 

先日の戦いで確認できたジオウの形態変化は三つ。

 

一つがマゼンタカラーのゴテゴテとした鎧姿。

 

二つ目が増殖分裂型ノイズを消えたと錯覚する程の高速移動で葬った姿。

 

三つ目が強化され続ける結合増強型ノイズをそれ以上の力で押さえ込み消滅させた姿。

 

小型の奇妙なデバイスを扱い姿を変化させた事からまだ他にも力を隠していると弦十郎は考えていた、もしかするとあの時以上の力も。

 

「しかし今までの戦闘状況を見る限りジオウと名乗ったこの未確認二号は約二年前に姿を現したっきり姿を見せない未確認一号オーマジオウと比べれば危険性はないのでは?」

 

「そうですね、例外を除けば狙うのはノイズのみで、翼さんや奏さん、響ちゃんたちシンフォギア装者を狙って攻撃を仕掛けてきた事もありませんし、ノイズとの戦闘で協力的な面も見られます……」

 

「うーん、あたしは特に危険だとは感じてないけど……翼はどう思う?」

 

「そうね……未確認についてわからないことの方が大きいけれど、私たちが何度か助けられているのは事実だし。少しだけ……信用してみてもいいかもね」

 

「翼さん!」

 

その言葉に嬉しそうに顔を綻ばせて手を握る後輩の姿に翼は苦笑いをする。そんな二人の様子を奏と弦十郎は微笑ましそうに眺めていた。しかしすぐに弦十郎は表情を切り替える。

 

「(オーマジオウとジオウ、この二人が何かしらの関係を持っているとは思っていたが……今までこの二人を別個体だと認識していたがもしかしたら違うのか?)」

 

外見こそ面影を残していたがその立ち振る舞い方や声音、圧倒的な力の差から今までオーマジオウとジオウ、この二人を別の存在と二課の人間や弦十郎は考えていたが、それは違うのかもしれないと弦十郎は新たな仮説を立てていた。

 

「(オーマジオウが最後に俺たちの前に姿を見せたのは翼と奏がノイズの殲滅を完了した時に突然現れて響君の置かれていた環境の情報を渡してきた時だ……オーマジオウとジオウを同個体と考えて、この二年間でオーマジオウの身に何かがありその力を失い弱体化していると考えれば、姿を見せない理由や活動するジオウの力にも不明な点は多いが説明が付く所はある)」

 

ジオウの持つ形態変化能力、これがこの仮説を立てた要因となっている。姿形を変えてその能力までも変えたジオウの力、弦十郎はソファに背を預けて一人思考していた。

 

そんな弦十郎を置いて会話は進んで行く。

 

「このオーマジオウさんって……二年前の“あの日”私や奏さん、他の人を助けてくれた人ですよね」

 

「そうだな……ついでに言うとあたしが響に会えたのはこいつのおかげでもあるんだ」

 

「え、オーマジオウさんの?」

 

奏が語ったのはオーマジオウと最後に邂逅した日の出来事。オーマジオウから渡されたデータから響の置かれていた状況を知り、奏や二課が動く事が出来たこと。

 

「そうなんですか……」

 

「ああ、オーマジオウから響の事を知らされるまで気がつけなかった……もしかしたら助けた気になってそのまま終わってたかもしれない、ごめんな」

 

「そんな、奏さんが謝らないでください……よしっ、じゃあ今度オーマジオウさんに会う事が出来たらちゃんとお礼を言わなきゃいけませんね!」

 

「……ふっ、そうだな。なら次は二人でちゃんと礼を言うか」

 

立ち上がり胸の前で握り拳を作って曇りのない明るい笑顔を浮かべる響の姿に呆気に取られつつ肩を竦めてその笑顔に釣られるように奏も頬を緩ませる。

 

「未だ不明な所が多いオーマジオウを警戒しつつも、ジオウへとコンタクトを取り協力を仰ぐという形でよろしいんでしょうか?」

 

「……そうだな、俺たちや向こう側にも敵対する意思がないのなら協力を要請するに越したことはない。オーマジオウやジオウへ対しては拘束というよりは対話する方向で行くべきだな……っともうこんな時間か、ミーティングはここまでだな」

 

弦十郎が腕時計で時間を確認するとミーティング終了予定時刻を大幅に過ぎていた。響や翼は二課所属のシンフォギア装者だがそれ以前に学生であるため遅い時間まであまり無理はさせられない。

 

解散を言い渡された各々、持ち場に戻る者や休憩に出る者がいる。

 

「それじゃあお疲れ様ですぅ……」

 

先程までの明るさはどこに行ったのか悲壮感漂う様子で響が発令所を弱々しく歩きながら出て行く。

 

その後ろ姿を発令所に残っていた弦十郎と奏が見つめていた。

 

「あちゃあ……響の奴大丈夫かねえ」

 

「響君の親友の小日向未来君……だったな。いくら機密保持の為とはいえもう少し彼女たちの事を考えて支障が出ないように配慮すべきだったな」

 

ソウゴと食事を終えて帰宅途中だった未来は、偶然雪音クリスの襲撃に鉢合わせてしまい、雪音クリスと響の戦闘を目撃、巻き込まれてしまった。その日の夜から二人は喧嘩していて寮に帰っても会話が少なくなっていた。普段の響と未来の仲の良さを知っていれば信じられない程だ。

 

響に対して隠し事はしたくないと言っていた未来、そして響も自分の身を案じていてくれた彼女に本当の事を言えず自分も未来に対して隠し事はしていないと小さな嘘をついてしまった。

 

それが彼女たちの喧嘩の原因でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人里はなれた山間部、そこには隠れ家ともいえる邸宅が存在していた。

 

時計店を出たクリスは邸宅の玄関の扉を開け放つと慣れた様子で邸宅内部に上がり込む。その広い廊下を苛立ちを露わにするかのような歩みで迷う事なく進んで行き、目的の部屋へ辿り着く。

 

自分が信じていた相手の発言の真意を確かめる為に彼女はここ来た。

 

部屋の大きな扉を蹴破る勢いで開けて入る。

 

「昨日の言葉は、アタシが用済みってどういう事だよ!? もういらないって事かよ!? アンタもアタシを物のように扱って捨てるのかよ!」

 

広々とした開けた部屋には王室家具のようなテーブルに椅子、そしてそんな邸宅部屋の隅には檻や磔台に拷問器具のようなものが並んでいる。

 

悪趣味な物が揃う部屋の奥に“彼女”はいた。

小さなモニターがいくつも並ぶ作業台の前に受話器を取り腰掛けている。

 

「もう頭ん中ぐちゃぐちゃだ! 何が正しくて間違ってるのか、何がなんなのか訳わかんねえんだよ!」

 

クリスは頭を掻き毟りながら胸の内から溢れ出す感情を溢す。昨日の響との戦闘中に現れた“彼女”から告げられた言葉、信じていた相手からの言葉を理解できずにいた。

 

「どうして誰も、私の思い通りに動いてくれないのかしら……」

 

受話器を下ろし絹のような美しい金色の髪を靡かせながら“女性”は立ち上がった。その身体には肌を隠すような物を身に纏っておらず、裸体を惜しげもなく曝け出している。

 

苛立ちを隠そうとせず、クリスを見つめる。

 

「流石にそろそろ潮時かしら……」

 

「……え?」

 

背を見せていた“女性”が振り向くと持っていたソロモンの杖を掲げてノイズを出現させた。光を放ちながら現れた数々のノイズがクリスを取り囲む。

 

信じていた相手から向けられる敵意も目の前の光景も、クリスは受け入れる事が出来ず茫然と見つめていた。ノイズを差し向けられる意味を理解できない彼女ではない。しかし信じたくなかった。

 

「そうね、貴女のやり方じゃ争いを無くす事なんて出来やしないわ。精々一つ潰して、新たな火種を二つ三つばら撒くぐらいよ」

 

「そんなっ……アンタが言ったんじゃないか! 痛みもギアもアンタがアタシにくれたものだけがッ」

 

「私の与えたシンフォギアを纏いながら毛ほどの役にも立たないなんて……そろそろ幕を引きましょうか」

 

“女性”の身体が淡い光に包まれると、一瞬でネフシュタンの鎧が装着される。クリスが身に纏っていた時とは違い、銀色の輝きを放っていたネフシュタンの鎧は黄金に輝いている。

 

「既に“カ・ディンギル”は完成しているも同然、だからもう貴女の力に固執する理由なんてないわ」

 

「かでぃん、ぎる……?」

 

「貴女は知りすぎてしまったの……さようなら」

 

“女性”が掲げたソロモンの杖を操作するとノイズがそれに反応し形状を変化させながらクリスに向かって疾走して行く。

 

シンフォギアを纏っていない状態でノイズの攻撃を喰らえば死は免れない。茫然としていたクリスは意識を戻して慌てて回避するが判断が一瞬遅かった。

 

「………ッ!」

 

 

 

 

 

 

<フォーゼ! ギリギリスラッシュ!>

 

ノイズがクリスの身体に触れる、その瞬間。窓ガラスを蹴り破って現れた黒い影──ジオウがジカンギレードを振り下ろして電撃の刃を飛ばしてノイズを消し飛ばした。

 

「……なっ!?」

 

「……ほう」

 

ジオウは受け身を取りながら着地するとジカンギレードを構えてネフシュタンの鎧を纏う“女性”と対峙する。

 

「これは予想外のお客様だ、どうやってここを突き止めた?……いや、クリスの後をつけてきたのか。まさか最後の最後まで役に立たないとはな」

 

「……“フィーネ”」

 

女性──フィーネは酷い火傷の出来た片腕に一瞬視線を向けた後に憎悪の篭った瞳でジオウを鋭く睨みつける。

 

その火傷の痕は、ジオウとシンフォギア装者たちの戦闘で逃走したクリスを追いかけようとするジオウの行動を妨害した時に、ライドヘイセイバーの一撃を受けて出来た火傷だ。その火傷の痛みから夜も眠れない時もあった。

 

「しかし、会いたかったぞ未確認二号ジオウ。わざわざお前を探す手間が省けた。私も知らないお前の未知なる力には興味がある……貴様の頭蓋を砕きズタズタに引き裂いた後でたっぷり調べ尽くすとしようっ!」

 

フィーネが全身をバネのようにしならせながらジオウに向かって高速で鞭を伸ばす。ジオウが鞭を剣で弾き飛ばすとフィーネが近くにあった椅子を投げつけ怯ませようとするが、ジオウが投げつけられたそれを上手く蹴り返した事で自身に椅子が直撃し逆に怯ませられてしまう。

 

「は、ちょ、おい!? 離せ! 何しやがる!?」

 

ジオウはその隙に後ろにいた突然の乱入者に唖然としていたクリスを、米俵を担ぐように持ち上げる。顔を赤くして抵抗するクリスをなんとか抑え込むと、蹴り破った窓ガラスの破片が散乱するベランダから飛び出していった。

 

「……ッっ! 逃げるつもりかっ!」

 

フィーネは舌打ちをするとソロモンの杖を起動させて大量のノイズを出現させる。背中を見せて逃げる襲撃者に攻撃を仕掛けるが、ジオウはクリスを抱えたまま疾走し襲い掛かってくるノイズを消滅させていき、暗い森の中へと姿を消した。

 

フィーネの憤怒の咆哮が山間部中に響き渡った。

 

 

 

 

 




年頃の女の子をお姫様抱っこではなくお米様抱っこで連れていく我が魔王。

シンフォギアXDとバンドリってコラボしてたんですね知らんかった、コラボデザインのクリスちゃんと未来ちゃんが可愛かった。



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モブ厳な世界で仮面の秘密。

 
自分では誤字はないと確認しても届く誤字報告、ありがたいと思うと同時に申し訳ない。

そして2019/10/13日間ランキング入りしてました! 皆さんのおかげですありがとうございます!

そして報告の方もありがとうございます! 絶対自分じゃ気付いてませんでした!

 


 

──次々と迫りくるノイズに向けてジカンギレードを振り下ろして斬り裂き、消滅させて行く。

 

ボディを降り注ぐ雨で濡らしながら市街地を駆け回り、舗装路に出来た水溜を踏みつけて雨水を跳ねさせる。ノイズを振り切るように疾走し更に加速しても行く先々でノイズが現れて戦闘になる。

 

「ああもうっ! さっきからしつこい、何匹出てくるんだ!」

 

しかも市街地での戦闘だ、周囲への被害を考えると派手な戦い方は出来ない。

 

「くそッ! 一回しか言わねえぞ! 避けたきゃ右に避けろ!」

 

その言葉に従い振り向くように右側へと身体を動かすと、背後から放たれた赤色の矢の形状をしたエネルギー弾が、飛びかかってきたノイズを貫いて炭化させた。

 

「……おお、ありがとう」

 

援護してくれた雪音さんにサムズアップを向けてお礼を言うが、彼女はこちらに見向きもせず何かをぶつぶつ言っている。

 

「なんでアタシはこいつと一緒に戦ってんだよッ。そもそもこいつがいたからアタシは……あー、くそ! さっさと移動するぞ! またうじゃうじゃと来てやがる!」

 

ぶつぶつと呟いていた雪音さんが何かを振り払うように頭を振ると、そう言って駆け出して行く。俺もそれに続き走り出す……俺が抱えて走った方が速いんだけどそれやったら怒られたからなぁ。

 

というか雪音さんも響たちと同じシンフォギア装者とやらだったのか。

 

視線の先には響たちと似たボディスーツに機械仕掛けの赤い鎧、遠距離戦を得意としているのか先程からノイズとの戦闘は銃撃戦で手には赤いクロスボウのようなものが握られていた。

 

……しかし黄色のシンフォギアの響と奏、青色のシンフォギアの翼、そして赤色のシンフォギアの雪音さん、なんか並べたら信号機みたいだな。本人たちに言ったら怒られそうだけど。

 

「HaHa!さあッ! It's show time!」

 

目の前で雪音さんが歌いながら戦っている。手に持っていたクロスボウは巨大なガトリングに変形して飛翔型ノイズを蜂の巣にしていく……エグいな。

 

というか前から思ってたんだがシンフォギア装者の武器ってどうなってんだ、ガチャンガチャン変形しているのはカッコいいがどういう仕組みなんだあれ。翼の刀や奏の槍もガチャガチャ変形機能付いてたけど。

 

 

 

……ここまでの状況を説明すると、山間部に存在していた邸宅から抜け出した後、自分たちを追跡してきたノイズを斬り捨てながら山を駆け下りていた。そこで顔を青くした雪音さんに弱々しい声で下ろしてくれと頼まれた。

 

最初の方も恥ずかしがって下ろせと言って暴れていたがその時とはあまりにも違う様子なので何かあったのかと思い、追いかけてくるノイズから姿を隠して一度足を止めた。

 

すると雪音さんが木の影に蹲り、その……オロロと虹色に輝くシャワーを作っていた。

 

よくよく考えてみればジオウの走力は100mを5.0秒だ。片腕を使えるようにする為とは言え不安定な抱え方をして、その上デコボコで傾斜のキツい山道を全力疾走したんだ。こうなるのは当然というか……。

 

とりあえず雪音さんが落ち着くまで目を逸らしながら隣で背中を摩っておいた。気分の悪そうな少女の背中を摩り慌てている仮面ライダー、側から見ればかなり可笑しな光景だったと思う。

 

その後回復した彼女に思いっきり顔面を殴られたが、逆に殴った彼女の方が手を痛めて「お前の顔硬すぎるんだよ!」と更に怒っていた。

 

彼女の後をつけさせていたカンドロイドから得た情報である程度の事はわかっている。とりあえずあの女性が黒幕って事でいいんだろうか……そして雪音さんは利用されていたと。

 

意気消沈している彼女は戦える様子でもなく、武器であるソロモンの杖とネフシュタンの鎧はフィーネと呼ばれていた裸族で黄金聖闘士(ゴールドセイント)な女性が持っている。

 

ノイズとの戦闘を避けてやり過ごそうとしたのだが、フィーネの操るノイズたちが市街地に向けて駆け出したのだ。

 

俺と雪音さんを見失ったフィーネが俺たちを炙り出すためにノイズに指示したんだろう。当然無視できるわけないので戦闘再開。雪音さんを守るようにしながらノイズと戦っていたんだが、雪音さん見覚えのある赤いペンダントを握りしめて飛び出した。

 

歌を口ずさみ光に包まれると、そこには赤いシンフォギアを纏った雪音さんがいた。彼女は何も語らなかったが、一度こちらに目を向けてノイズへと向かっていった。

 

そして現在、彼女と協力しながら市街地に入り込んだノイズを殲滅している。

 

「鬱陶しいんだよ、ちょこまかとッ!」

 

「ちょ、タンマ! ミサイルはやり過ぎだって! そのうろちょろしてんのは俺がやるから空中にいる奴を銃で狙って!」

 

「こっちの方が、早えだろ!」

 

「ダメです!」

 

バランスボールに手足が生えたカエルのようなノイズの大群に向かって腰パーツのミサイルを放とうとする雪音さんを慌てて止めて、空を飛んでいるノイズを狙うよう頼む。

 

いくら数が多いからってこんな街中で、しかも地上にいるノイズを狙ってミサイルなんて使われたらたまったもんじゃない。

 

<ブレイド! ギリギリスラッシュ!>

 

「はああ……セイッ!」

 

飛び込んで来たカエルのようなノイズを蹴り飛ばしてジカンギレードにブレイドライドウォッチを装填、バチチチッと放電し迸る青白い電撃を刀身に纏わせてノイズたちの隙間を縫うように駆けてすれ違い様にノイズを斬り裂いて行く。

 

「これで、おおかた片付いたか……お疲れ様」

 

見渡す限りノイズの姿は無く炭素が転がっているだけ、また自分たちを追って出現した気配も感じない。息を切らしながらシンフォギアを解除した雪音さんへ声をかけるが、返事は返ってこない。

 

まあ、今まで戦っていた相手と共闘なんて複雑だし難しいかなんて考えていた。

 

「?……ッ雪音さん!」

 

様子のおかしい雪音さんに視線を向けていたその時、彼女が糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちた。

 

地面に倒れ込みぶつかる前に慌てて彼女の身体を支える。様子を確認すると、どこか大きな怪我をした訳ではなく気絶しているだけだった。

 

疲労、なのか。精神的にも肉体的にも。

信じていた相手に裏切られて追い詰められ、それに昨日の夜から現在の早朝まで歌いながらぶっ続けで戦っていた。しかも途中から風雨に打たれながらだったからな、自分は大丈夫だったが彼女はかなり体力を持っていかれてるだろう。

 

「とりあえずどこかで休ませないと……」

 

ジクウドライバーからライドウォッチを引き抜き変身を解除すると、ジオウの装甲が光となって消える。ここは商店街だしそろそろ人が多くなってくる時間だ、変身したままじゃうろつけない。

 

気絶している雪音さんを背負って歩き出す……大丈夫だよねこれ。警察とかに話しかけられたりしないよね……とりあえず面倒ごとにならないようこっそりと行こう。

 

商店街を歩いていると雨が強くなってきた。まずいな、このままじゃ雪音さん風邪ひいちゃうぞ……もうオーロラカーテンで時計店に移動するか。

 

「……あれ、ソウゴさん?」

 

監視カメラのない路地裏に入ろうとして、背後から声を掛けられて身体がビクンと反応する。ゆっくりと振り返れば、そこには傘をさして学生鞄を持った制服姿の未来がいた。

 

な、なんで未来がここに。いくらこれから学校だとしても時間的にちょっと早くない?

 

「なんで傘もささずに、びしょ濡れじゃないですか! ってあれ……その子は?」

 

俺に背負われてる雪音さんの存在に気がついた未来が、驚いて目を見開いている。変な誤解をされなければいいのだが。

 

「い、いや別に何か怪しい事してた訳じゃなくて。そこで知り合いが倒れてたから拾ったと言うかなんと言うか」

 

「拾ったって……そんな猫みたいに」

 

「このまま彼女風邪ひいちゃいそうだから、とりあえず時計店に避難させようかなと」

 

「ここから時計店までじゃ少し遠いしソウゴさんだって風邪ひいちゃいますよ! すぐそこのふらわーの方がいいですよ、説明すればおばちゃんも手伝ってくれますから」

 

そう言うと隣に並び傘を差し出してくれる。既に全身びちょびちょだがこれ以上濡れる事はなくなった。未来に歩幅を合わせて足を進める。

 

「手伝ってくれるのはありがたいけど、学校は大丈夫なの? 何か用事があって早く登校してたんじゃ」

 

「……はい、大丈夫です。ちょっと早起きしただけですから」

 

「………そっか」

 

どこか暗い表情でそう言った未来。何か嫌な事でもあったのかと思い、今はこれ以上の事は聞かなかった。

 

ふらわーに着くと、開店準備をしていたおばちゃんが慌てて迎えてくれた。びしょ濡れの俺と雪音さんが店に入って来たときはすごい驚いていた。

 

裏の部屋や布団をわざわざ貸してくれた。びしょ濡れで冷え切っている雪音さんの身体をお湯で濡らしたタオルで軽く拭いて着替えさせて寝かせるとの事で、そこは女性陣の二人に任せた。

 

俺も濡れているからシャワーを浴びたいのと着替えたいのとで一度時計店に戻った。雨が酷いので未来の傘を無理やり持たされたが、オーロラカーテンで移動するつもりだったからなんだか申し訳ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、響と喧嘩した……未来が?」

 

「……はい」

 

ソウゴさんが連れていた少女の濡れた身体をタオルで拭き、着替えさせておばちゃんから借りた布団に寝かせた後。

 

着替えと諸々を済ませてふらわーに戻ってきたソウゴさんに何かあったのかと聞かれた。最初はそれとなく誤魔化そうとしたが、そんな泣きそうな顔で言われても説得力がないと言われてしまった。

 

少し遠回しに、ソウゴさんは響の隠し事を知っているのか確認してみたが、知らない様子だった。特異災害対策機動部二課の人たちに言われた機密保持の事などは伏せて、ポツリポツリと語っていった。

 

響が私にしていた隠し事。前に一度話した時に響に何か隠し事はしていないかと聞いた、それに対して何も隠し事なんてないと言っていた。少し様子が変だったけれど、自分の考えすぎだと判断して彼女の言葉を信じた。

 

けど響は私に嘘をついていた。私は響に対して隠し事もしないし嘘もつかないって約束したのに、それはすごく辛い事だからと話したのに。

 

ソウゴさんは私の話を何も言わずに黙って聞いていてくれた。少しだけ話していただけなのに長い時間話していた気がする。

 

「……そっか。それで、後悔してるの?」

 

私が話終えるとソウゴさんはただ一言そう言った。

 

「……私、響に沢山ひどい事言いました」

 

後悔していないと言ったら、それは絶対嘘になる。

 

響には響の事情があった。ノイズと戦うことのできる力。簡単に人に言えるような秘密じゃなくて、二課の人たちから巻き込まないようにと口止めされていた。

 

ただの一般人である私には規模の大きすぎる話だ。響が機密保持の為に私に隠していた事。それは仕方のない事なのに、理解しているのに納得出来なくて。それで私は裏切られたという気持ちになって響との間に壁を作っていった。

 

そしてすぐに後悔する。隠し事をして一番苦しんでいたのは響のはずなのに、申し訳なさそうな顔をする彼女を見ると胸が張り裂けそうになった。

 

「なら響にごめんねって謝ればいい。響ならすぐに許してくれると思うよ」

 

「……そうかもしれません、けどそんな簡単に」

 

「簡単で、大事な事だよ。それにさ……未来は寂しかったんじゃないかな」

 

「さび、しい……私が」

 

顔を上げてソウゴさんを見ると、彼は真っ直ぐにこちらを見ていた。

 

寂しかった。その言葉と感情は、なんだか自分の中のなにかとガッチリと噛み合わさった気がした。

 

「響の隠し事やそれを知っていた翼と奏。響の隠し事の為に二人はフォローしてあげられるけど、それを知らない未来は眺めている事しか出来なかった。自分だけが置いてきぼりみたいで寂しかったんだ……あってるかな?」

 

「………」

 

私はゆっくりと頷く事しかできない。そうだ、日常生活で翼さんと奏さんが響をフォローしている時に私は見ている事しかできなかった。それが悔しくて悲しくて、寂しかった。

 

「なら謝ってそれを素直に伝えればいい。『寂しい時はちゃんと寂しいって言わないと』、自分の気持ちを言葉にするのって大事な事だからさ」

 

そう言ってどこか懐かしそうに優しく笑うソウゴさんの横顔に、私は見惚れていた。目が合うとなんだか恥ずかしくてバッと顔を逸らしてしまった。そんな私の様子にソウゴさんは不思議そうな顔している。

 

「……うぅっ」

 

その時ソウゴさんが連れてきた少女が目を覚ました。

 

ぼんやりと天井を眺めていた後、目を見開いて勢いよく起き上がった彼女は周囲を警戒するように周りを見渡している。

 

「おっと、目が覚めたみたいだから話はここまでかな。おはよう雪音さん」

 

「……アンタあの時の、ってなんだこの服」

 

「それは未来……こっちの子が貸してくれたんだ」

 

彼女の服は重く感じるほどびしょ濡れだった為、私の体操着を貸して着替えさせてもらった。勝手に着替えさせた事を謝りそれを説明しようとした時、少女が布団を蹴り飛ばすように立ち上がろうとした。

 

「な、勝手な事をっ!」

 

その時思い出した。彼女に貸したのは体操着一枚だけで、彼女が身につけていた衣服や下着は今おばちゃんが洗濯してくれている。つまり今彼女が身につけているのは私が貸した体操着だけだ。

 

時計店に戻っていたソウゴさんは、彼女が今どんな状態なのか知らない。目の前で立ち上がられたら、その、色々と見えてしまう……。

 

そこからの行動は自分でも驚くくらい早かった。

 

「見ちゃダメですソウゴさんッ!!」

 

「え? ぶへッ!?」

 

「……へ?」

 

ソウゴさんが彼女のあられもない姿を視界に入れるよりも早く強制的に横を向かせた。咄嗟の判断だった為に勢いが乗りすぎて、思いっきりビンタを喰らわせたような感じになってしまった。

 

起き上がった彼女は目の前の光景に目を丸くしている。

 

「あ、貴女も早く座るっ!」

 

「え……け、けどそいつ」

 

「いいから座るっ! い、色々見えちゃってるから!」

 

「は……〜〜っ!」

 

自分がどんな状態か気がついて、彼女は顔を赤くしながら布団にくるまるようにして座り込んだ。

 

チラリと隣見れば身体を投げ出すように床に倒れ込むソウゴさんの姿があった。先程からピクリとも動く気配がない……だ、大丈夫だよね。

 

「え、えっと……大丈夫ですかソウゴさん」

 

「っぅ……スナップの効いた良い一撃だったよ、正直顎が外れるかと思った」

 

「ご、ごごごめんなさいっ!」

 

「はは、大丈夫だよ。なんか目の前がチカチカするだけだし」

 

生まれたての子鹿にように身体を震わせながらソウゴさんが起き上がろうとする。大丈夫だよとソウゴさんは笑いながら言ってくれるが、その膝はガクガクと笑っていた。

 

そして布団に包まれている少女はまるで怪物を見つけたかのような目で私を見ている。や、やめて……そんな目で私を見ないで。

 

「未来ちゃん、お友達のお洋服の洗濯終わったよ……どうしたんだい?」

 

洗濯を終えたおばちゃんが部屋の前を通ると目を点にしている。若干怯えるように私を見る少女と、その近くで身体を震わせ膝をつくソウゴさん。いくらおばちゃんでも流石にこの状況は理解できないだろう。

 

「お、おばちゃん! 洗濯もの干すの手伝うね!」

 

なんだか恥ずかしさでいたたまれなくて、おばちゃんの洗濯カゴを奪うように部屋の外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

「どうかな。おばちゃんのお好み焼き美味しいでしょ?」

 

「わ、悪くはねえな。はむぅ、んく……お、おかわり」

 

「はは、いい食べっぷりじゃないかクリスちゃん。はい、追加のお好み焼きだよ」

 

色々と助けてもらったお礼としてふらわーの開店準備を手伝っていると、洗濯して乾かし終えた洋服に着替えた雪音さんと、彼女の手伝いをしていた未来がお店の方へと戻ってきた。

 

雪音さんの事を何か訳ありと判断したおばちゃんは、彼女について深くは聞かずにいてくれた。それからサービスと言って無料でお好み焼きをご馳走してくれている。因みに俺はお手伝いで調理側です。

 

裏の部屋で何かあったのか、未来と雪音さんは少し仲良くなったようで親しげに話している。店の方に戻ってきた雪音さんに自分を拾った時近くに黒い姿の時計のような変な奴は居なかったかと聞かれたが、見ていないと答えるとなんだか複雑そうな顔をしていた。

 

「はい未来。おかわりのお好み焼きどうぞ」

 

「ありがとうございますソウゴさ……あ、あの、なんかこのお好み焼きすごい赤いしドロドロしてるんですけど。しかもなんか目が痛くなってくるんですけど」

 

「いや、なんか色々食材があったからヤバそうなやつをいっぱい使って未来の為に作ってみたんだ。別にさっきいきなりビンタされた事を根に持ってるとかそんなんじゃないよ?」

 

「絶対根に持ってるじゃないですか!?」

 

ハバネロに唐辛子に鷹の爪、その他にもこれ本当にお好み焼きに使うのかって食材が沢山あったので、それらをふんだんに使用してお好み焼きを一枚焼いた。

 

未来が許しを乞うように見上げてくるが、俺は無言で笑顔を浮かべる。次に雪音さんに助けを求めるように視線を向けるが、雪音さんは全力で顔を逸らしている。

 

未来は顔を引きつらせながら恐る恐るお好み焼きを口に運ぶと、目を見開いて。

 

「………美味しい」

 

「えっ」

 

「……うっそだろ」

 

そのままパクパクと真っ赤なお好み焼きを美味しそうに食べ進めていく。痩せ我慢している様子などはなく、本当に美味しそうに食べている様子を、おばちゃんは笑って、俺と雪音さんは愕然として見ていた。

 

その後も談笑しながら食事をしていると、それは突然やってきた。背筋にピリつくような感覚が走った。反射的に弾かれたように店の外に目を向ける。そんな俺の様子に未来と雪音さんとおばちゃんは怪訝な表情を浮かべている。

 

次の瞬間けたたましいサイレンの音が鳴り響き渡った。

 

ノイズの出現を知らせる警戒警報だ。エプロンを脱ぎ捨て店を飛び出して外の様子を確認すると、次々と店や家の中から人が慌てた様子で姿を見せて全員同じ方向へと走って行っている。

 

「な、なんの騒ぎだいったい?」

 

「なんの騒ぎって、ノイズが現れたんだよ! 警戒警報を知らないの!?」

 

目の前の状況を理解できていない雪音さんは呆然とした表情を浮かべていたが、未来の言葉を聞いて歯を食いしばるように表情を歪める。

 

「……っ!」

 

「ちょ、クリス!?」

 

「な、未来! あーもう、ごめん! おばちゃんは先にシェルターに避難しておいて! 後で未来を向かわせるから!」

 

そして雪音さんは逃げ惑う人々とは逆方向に駆け出した。未来は雪音さんの行動に驚きながらすぐにその後を追って走り出し、人混みによって見えなくなった。

 

俺もおばちゃんに避難するように伝えてから、人混みをかき分け走り出す。出現したノイズがソロモンの杖によって呼び出されたものなら、恐らく狙いは俺と雪音さんだろう。今の状況で未来が標的となっている雪音さんの近くにいるのはまずいっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ……はあ……っ!」

 

クリスは人混みを掻き分けて人気のない場所まで走っていた。

 

「(バカだ……何やってんだアタシはッ! フィーネの狙いはアタシだ、それなのに関係のない人間まで巻き込んでっ!)」

 

息を切らしながら走り続けて商店街を抜けると、開けた大通りに出た。乱れた呼吸を整えていると、獲物を見つけたノイズが建物の影から姿を覗かせて少しずつゾロゾロとクリスに詰め寄ってくる

 

「アタシがやりたかった事は……こんな事じゃない、なんでアタシがやる事はいつもいつもッ」

 

どれだけ争いを無くしたいと願い行動してもその全てが空回りしてしまう。フィーネの言った自分のやり方じゃ争いを一つ潰して新たな火種を二つ三つばら撒く、その言葉が事実だと突きつけられているようで彼女を苦しめる。

 

街の人々が逃げ惑うこの状況の原因は、フィーネの標的であるクリスなのだから。

 

「これ以上、関係のない奴に手を出すなよッ!」

 

鋭い眼光でノイズを睨みつけると、胸元の赤いペンダントを握り締めた。

 

クリスを射程距離に捉えたノイズたちが一斉に駆け出してその命を刈り取ろうとする。クリスは慌てる事なく聖詠を口ずさみシンフォギアシステムを起動させようとするが、前日からの連戦によるダメージが抜け切っておらず、痛めた喉のせいで動きを止めてしまう。

 

怯んだクリスに向かってノイズが飛びかかる。

 

「危ないッ!」

 

「ッ!……なっ!?」

 

しかしすんでのところでクリスを追いかけて来ていた未来がクリスを押し倒し、ノイズの一撃を回避した。クリスは背中を地面に打ち付けた痛みに表情を歪めながら、未来を睨みつける。

 

「バカッ! なんでついて来たッ!」

 

「バカはそっちでしょッ! 一人でこんな所に逃げて、今だって危なかったじゃないっ!」

 

「あ、アタシは別に……ッ! 避けるぞ!」

 

「え、きゃああ!?」

 

倒れ込んでいるクリスと未来に追い討ちをかけるように、ノイズたちが叩きつけるような攻撃を仕掛けてくる。それに気がついたクリスが未来の制服の掴んで地面を転がり、ギリギリで回避する。

 

急いで立ち上がり距離を取ろうとするが、ノイズがそれを許さない。

 

「(やばい、避け……いや間に合わないっ!)」

 

クリスと未来を踏み潰そうとノイズが跳び上がり、二人に向かって落下して行く。回避もシンフォギアを纏うのも間に合わないと判断したクリスがせめて巻き込んでしまった未来だけでも逃がそうと突き飛ばそうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変身ッ!」

 

<ライダータイム! 仮面ライダー! ジオウ!>

 

その瞬間、二人に追いついたソウゴがドライバーを回転させてその身を変身させながらノイズを殴り飛ばした。

 

ノイズは重力に逆らうように吹き飛ぶと他のノイズを巻き込むように消滅した。

 

「え……ソウ、ゴさん……」

 

「嘘だろ……なんで、アンタなんだよッ」

 

そして地面に倒れ込んでいた二人の少女は青年の変わりゆくその姿をしっかりと目に焼き付けていた。

 

 

 





ディケイドライドウォッチにカブトライドウォッチを装填すれば中間フォームがないからハイパーフォームになると思うんですけどキバの場合はどうなるんでしょう?

てんこ盛りのドガバキは中間フォーム扱いでいいのかそれともエンペラーフォームになるのか。これが自分の中で謎になっている。

そしてゲイツマジェスティ、マントとか全体のデザインは好きだしパーツの流用は仕方ないけどライドウォッチを直接貼り付けるのはどうにかならなかったのかしら。絶対ポロリしちゃうでしょ。

アナザーディエンドはなんとなく予想してました、はい。


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モブ厳な世界で陽だまりに翳りなく。

前回の投稿からギリギリ一周間いないかな?
色々と文章を試行錯誤しながら執筆中、納得のいくようなクオリティにいかなく悔ちい。後で修正するかも。

そういえば最近ビビビのビビルゲイツ見ました。久しぶりに見たジオウメンバー最高でした、あと体育座りみたいにしゃがんで敵の攻撃を回避するジオウIIが可愛かったです。




──人混みを掻き分けながら走り続ける事数分、開けた大通りに雪音さんと未来の姿を確認した。そして二人に群がるノイズの姿も。

 

そんな二人を助けに入る為に、走りながらジクウドライバーを腰に装着してライドウォッチを取り出すが、このまま変身すれば確実に自分が隠していたジオウの事が、正体がばれる。

 

そんな考えが頭をよぎった時、足が止まった。

 

いくら彼女たちが危機的な状況に陥っていても、未来の隣にはシンフォギアの力で戦うことの出来る雪音さんがいる。

 

自分がわざわざ助けに入る必要があるのか。

せっかく今まで力の事を隠し通して来たのに。

 

──そんな馬鹿げた考えを一瞬でも脳裏によぎらせた自分自身に舌打ちして、再び走り出す。

 

ウール……オーラ……ミハル……ツクヨミ……ゲイツ……。手を伸ばすと決めたのに、助けたいと思ったのにとりこぼして来た命がいくつもあった。もうこれ以上目の前で友人が死ぬところなんて見たくない、後悔なんてしたくないっ。

 

だからいま彼女たちに秘密がバレようと関係ない、戦え。

 

「変身ッ!」

 

<ライダータイム! 仮面ライダー! ジオウ!>

 

起動させたライドウォッチをスロットに装填しドライバー本体を回転させる。出現したバンド状のリングが身体を包み込み文字通り姿を変化せて行く。

 

二人を踏み潰そうと跳び掛かって来たノイズに抉り込むような拳を叩きつけてそのまま吹き飛ばす。

 

「え……ソウ、ゴさん……」

 

「嘘だろ……なんで、アンタなんだよッ」

 

二人とも呆然と信じられないものを見たようにこちらを見つめている。

 

幸いにも周囲には彼女たち以外に人の気配は感じないし監視カメラの類もなかった。次同じような状況に陥ったらちゃんと確認してからもう少し考えて変身するか……なんて現実逃避に近いそんなくだらない事を頭の隅で考えながら仮面越しに未来と目線合わせるように膝を突く。

 

「……これが俺の隠し事なんだ。色々知ってたのに今まで黙ってた事なんかもある、ごめん」

 

「ソウゴさん……」

 

「状況が落ち着いたら未来にちゃんと説明する。だからそれまでは他の人にはこの事は内緒にしておいてほしいんだ。俺にも色々と事情があるから……お願いできるかな」

 

「……わかり、ました。だけど後でちゃんと説明してください。約束ですよ」

 

「うん、約束する。ありがとう」

 

未来に手を差し伸べて立ち上がらせる。次に座り込んだまま俯いている雪音さんに手を差し出すがそれを拒絶するように弾かれてしまう。

 

彼女は俯いたままゆっくりと立ち上がった。

 

「クリス……?」

 

そんな雪音さんの先程までとはどこか違う様子に、未来は戸惑い怪訝な表情を浮かべている。今まで敵対してた相手の正体が近くにいた人物なんだ、こういう反応されるのはなんとなく予想はしていた。

 

「未来は避難して、急げばおばちゃんとも合流できる」

 

「え、でもソウゴさんとクリスは……」

 

「俺と雪音さんは大丈夫だから、俺たちの近くにいると逆に危険な目に遭う」

 

こちらを心配するように見つめる未来の背を押して走らせた。

 

ここから走り去って行く未来に標的を変えたノイズが駆け出そうと動きを見せる。それを阻止する為にとドライバーからジカンギレードを出現させようとした瞬間、

 

 

── Killter Ichaival tron ──

 

 

歌を口ずさんだ雪音さんがシンフォギアを起動させて光に包まれながら鎧を身に纏うと、手に構えたクロスボウからエネルギー状の矢を発射して未来を追いかけようとしたノイズを貫き消滅させた。

 

それを合図に一斉にノイズが襲いかかって来る。

 

ノイズの攻撃を回避しながらジカンギレードで斬り裂き、雪音さんが変化させたガトリングで撃ち抜いて行く。この場に発生していたノイズを殲滅するのに時間は掛からなかった。

 

「……雪音さっ」

 

茫然と立ち尽くす彼女に声を掛けようとした時、咄嗟に身を翻す。

 

彼女の変化したボウガンから放たれた矢が足元のアスファルトを砕き抉った。

 

「なんで……アンタなんだよ、アンタも最っ初からアタシを騙してたって訳か。知ってたんだろ、アタシがソロモンの杖とネフシュタンの鎧を使って襲いかかって来た奴だって」

 

騙していた。俺にそんなつもりはなくても、彼女からしたらそう感じてしまうのは仕方のない事なのか。俯いていて表情の見えない雪音さんの声は震えていた。

 

「……ごめん。けどそんなつもりは」

 

「どいつもこいつも、嘘つきばかりじゃねえかッ! これだから大人は嫌なんだ、信用出来ねえ! どうせアンタだって利用しようって、何か下心があってアタシに近づいたんだろッ!?」

 

「それは違う……。あの日君と出会ったのは偶然だし、雪音さんと行動してたのだって単純に君の事が知りたいと思ったからだ」

 

「今更、信じられるかよッ! そんな言葉!」

 

感情を抑えきれない様子で激しい怒りを露わにしている。

 

鋭い眼光がこちらを射抜く。雪音さんは手に持っていたクロスボウを構えると照準を合わせて引き金を引いた。

 

放たれたエネルギー状の矢を走りながら回避し、捌き切れないと判断した攻撃はジカンギレードで薙ぎ払う。

 

今までの戦いで、敵対した相手とは容赦なく戦って来た。お互いに戦う理由があったり、戦う事でしか解決できない事もあった。けどそれでも……。

 

「今更かもしれないけど俺は君と戦いたくない、もう戦う理由がないッ。それにこんな事してる場合じゃない、ここ以外の場所にもノイズが出現してる。俺も君も、協力しあえる筈だッ」

 

「うるせえっ!」

 

両手のクロスボウから次々と撃ち込まれる矢をジカンギレードで弾き叩き落として行く。どうにか雪音さんを落ち着かせたいが、どうするべきか。思考していると雪音さんが動きを見せる。

 

雪音さんがクロスボウをガトリングガンに変形させ跳び上がった。勢い良くバレルが回転して弾丸の雨が降り注ぐ。

 

<フィニッシュタイム! タイムブレーク!>

 

「スゥー……ふッ!」

 

ドライバーを回転させ回転運動によって生み出されたエネルギーを腕から伝わらせるようにジカンギレードへと流し込んで、強力な斬撃を地面に向かって放つ。

 

そのまま地面を斬り裂いて生み出した足元の瓦礫を上空へと掬い上げるように巻き上げて、即席の盾を作り出し弾丸を全て防御する。

 

「なっ!? 器用な真似しやがって……ッ」

 

着地後、攻めきれないこの状況に痺れを切らした雪音さんが、腰部のアーマーパーツを展開し小型ミサイルを放ってきた。

 

ジカンギレードをジュウモードに切り替えてフォーゼライドウォッチを装填し、同じミサイル弾の攻撃で対抗しようとした時、手に持っていたジカンギレードに重い衝撃が走った。ジカンギレードが手元を離れ、乾いた音を立てて離れた場所へ落下する。

 

前方にはガトリングガンを変化させたスナイパーライフルを構えた雪音さんがいる。そこでジカンギレードが狙撃され叩き落とされた事を理解する。

 

「砕け、散れッ!」

 

「マズっ……!」

 

目前には飛来する小型ミサイルの雨。後方に跳び回避しょうが間に合わない、それでも直撃を避ける為に防御しながら後方に跳んだ。

 

飛来したミサイルが地面に打つかった瞬間、鼓膜を震わせる爆発音と爆風が襲いかかって来た。

 

ミサイルの直撃は免れたものの、至近距離での爆撃だ。その威力の高さから身体は吹き飛び、商店街の大通り添うように敷かれた浅瀬の川に叩きつけられるように落下する。

 

ボディスーツ越しに水の冷たい感触を感じる。爆発と落下の衝撃で痛む身体に鞭を打ちながら即座に起き上がろうとするが、その行動は強制的に中止させられる。

 

眼前に突きつけられた銃口。あの爆撃で生じた一瞬の隙に乗じて距離を詰められた。

 

「……ざけてるのか」

 

「えっ……?」

 

「アタシを、この雪音クリスを、バカにしてんのかッ!」

 

突きつけられた銃口が横にズラされる、鎧の首元を掴まれるとそのままグッと顔がぶつかりそうな距離まで引き寄せられた。

 

「アンタはアタシより強いだろうがッ! さっきから避けて防ぐばっかでロクに攻撃もして来ない。アタシをおちょくってんのか! 戦えよッ!」

 

首元を掴む小さな手も、その声も酷く震えていた。表情を歪めた雪音さんが視界に映り込む。

 

「大人は信用できねえ、今まで信じてついて来た人も、アタシを利用するだけで裏切られて殺されそうになったッ!……どうせまた裏切られる。そう割り切ろうとしてるのに、アタシに信じてみようなんて思わせるなよッ!」

 

「雪音さん……」

 

「……わかってんだよッ。アンタもあのバカも、一緒にご飯を食べたあの子も……打算とかそんなつもりはなくて、ただ優しいだけなんだって」

 

握り締めていた銃はするりとこぼれ落ちて沈み込み、水面に波紋を広げる。雪音さんはポロポロと涙を流していた。

 

「ア、タシはフィーネを信じて、言われるがまま戦って。関係のない人も巻き込んで……アンタたちにもたくさんひどい事した。なのになんで、何も言わないんだよ、なんで責めないんだよッ」

 

雪音さんは力なく座り込み、水で身体が濡れるのも気に留めずすすり泣いていた。そんな彼女の姿を見て、やっぱり彼女は純粋で優しい子なんだ再認識した。

 

「……雪音さん」

 

「……ッ!」

 

しゃがみ込み泣きじゃくる彼女に声を掛けると、身体をピクリと震わせて反応する。

 

「そのうちあの黄金聖闘士(ゴールドセイント)、フィーネの目的を潰しに行こうと思うんだけど一緒に来る?」

 

「……え、は?」

 

泣きじゃくり俯いていた雪音さんは顔を上げると、突然こいつは何を言ってるんだと赤くなった目を向けてくる。

 

あの邸宅の一件で雪音さんの後をつけさせたカンドロイドから得た情報。カディンギルだかメラムディンギルだか知らないが、フィーネが“それ”を使って何かしようとしている事は確かだ。

 

それがなんなのかはわからないが、大勢の人を巻き込む危険なモノなら潰さなきゃいけない。俺の直感がそう言ってる。

 

「え、いや、今言うことかそれ」

 

「元凶を倒しに行こうって元気付けたつもりだったんだけど。あれ、なんか違った……?」

 

「普通もっとこう、慰めたりとか……アンタあんましモテないだろ」

 

「そ、そんな事はない……はず」

 

そんな事はない、今まで恋愛とかそんな余裕がなかったしそもそも出会いがなかっただけで……うん。えっツクヨミ? ないないツクヨミは友達というか頼りになる漢女というか。

 

閑話休題、なんだかユルい空気になってしまったが話を戻そう。

 

「とりあえず、俺はフィーネの目的を果たさせるつもりはない。雪音さんが手を貸してくれるのならすごい助かる」

 

立ち上がり、しゃがみ込む雪音さんに手を差し出す。彼女は差し出された手と俺の顔に視線を何度か向けると、おずおずと手を伸ばして掴んでくれた。

 

「……はっ、いいぜアタシもフィーネには返さなきゃいけない借りがあるしな。けどその前に、お片付けと行こうか」

 

手を引かれ立ち上がった雪音さんが、拾った銃を構え直す。

 

銃口を向けた先には飛翔するノイズの姿が見える。他にもオレンジ色のヘンテコなマスコットのようなノイズがぞろぞろとこの場所に集まって来た。

 

「ジオウ、アンタは他の場所のノイズを片付けに行ってこい。ここのゴミ掃除はアタシがやる」

 

「……わかった、雪音さん一人で大丈夫?」

 

「大丈夫だから言ってんだろうが、さっさと行きやがれっての」

 

銃身で叩かれるように背中を押される。戦い慣れたシンフォギア装者からすればノイズ程度なんてことないのかもしれないが、数が多い。一人だけで大丈夫だろうかと心配したが、銃弾をばら撒きノイズを殲滅する彼女を見たら、余計な心配だなと判断する。

 

その様子を視界の隅に入れながら地を蹴り、他のノイズの気配を感じる場所を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

逃げ遅れた人がいないか確認しながら市街地を疾走する。

 

沢山の人たちで賑わい美しかった街並みは、荒れ果てて無惨な光景へと様変わりしてしまっていた。鉄骨が剥き出しになった建築物や、セキュリティアラームを鳴らし続ける無人の車、そして積み重なった炭素の山……。

 

シェルターへと避難した未来とおばちゃんは大丈夫だろうか。

 

「ふっ、セイッ!」

 

ノイズを叩き割るようにジカンギレードを上から下に振り下ろして両断、さらにその横にいたノイズを袈裟懸けに斬り裂く。

 

背後から飛び出してきたノイズを返す刃で斬り付けようとした瞬間、ノイズが大きく横に吹っ飛んでいった。

 

「えっ?」

 

「ジオウさんッ!」

 

砲弾のように吹っ飛び瓦礫の山に突っ込んでいったノイズに驚いていると、空から隕石のように降ってきた響が轟音を鳴らしながら着地。舞い上がった土煙の中から姿を見せた。

 

彼女の登場の仕方に更に驚いていると、詰め寄られて肩を痛いくらい掴まれる。

 

「ジオウさんこの辺りで女の子を見ませんでしたかッ!」

 

「お、女の子……?」

 

俺もノイズを殲滅しながら生存者を探していたが、誰かがいた形跡を発見するだけで今のところ遭遇してはいない。そのことを伝えようとした時響の口から出た言葉に硬直した。

 

「制服姿で、私と背丈が同じくらいの黒髪に白いリボンの女の子なんですけど」

 

「……ッ!」

 

一瞬で息が止まった。

響の言っている女の子とは間違いなく未来の事だ。

 

詳しく話を聞くと、おばちゃんと合流した未来がシェルターに避難している途中でノイズに出くわしたらしい。ノイズに追われている途中で廃墟に逃げ込むとノイズの攻撃で建物足場が崩壊して落下、

 

おばちゃんが頭を打ちつけ気を失い動けなくなり、追いかけてきたノイズは音に反応して行動するようで未来も身動きが取れなくなったところに、生存者を探していた響が遭遇。

 

シンフォギアを身に纏い戦おうにも、起動させるには歌を口ずさむ必要がある。動くにも動けない状況。その時未来が囮になりノイズを引きつけ響が変身する時間を稼いだらしい。

 

そして現在、響は飛び出していった未来を探している。

 

「ごめんなさい、急いでますから先に行きますッ! その女の子を見つけたらお願いしますッ!」

 

「あ、ちょっと待って」

 

「へぶっ!」

 

「……あっ」

 

脚部に装備され武器のギミックを利用して飛び上がった響の足を掴むと、響は転ぶようにその勢いのまま顔から地面に落下した。

 

響が顔面を打ちつけた地面は蜘蛛の巣状の亀裂が入っていた。動く様子にない響を前に冷や汗を流していると涙目でぷるぷると震えながら彼女が立ち上がった。

 

「きゅ、急に何するんですかー! すごく痛かったんですけどッ!」

 

「ご、ごめん。今のは流石に痛かったよな。けどどうしても話すことがあって、その女の子の場所がわかるかも知れない」

 

「ほ、本当ですかっ!」

 

俺はノイズの気配を感じると言ってもバッチリと正確な位置がわかる訳じゃない、感覚的に大体ここら辺だなーという感じだ。

 

そしてノイズの気配を探してみたが一匹だけ集団で行動していないノイズの気配があった。他のノイズの気配は雪音さんがいた場所や俺の所へと集中していたがその一匹だけが全く関係のない場所に移動していた。

 

恐らく誰かを追いかけている。もしかするとその追われている人が未来の可能性が高い。

 

「どこら辺に未来はいるんですかっ」

 

「今から向かう。あ、ちょっと離れてて」

 

詰め寄って来ていた響を後ろに下がらせた後、ライドウォッチホルダーからライドウォッチを取り外して起動させる。

 

<キバ!>

 

キバライドウォッチを起動させると仮面ライダーキバの専用オートバイ、いや『鋼鉄の騎馬』マシンキバーが光に包まれながら出現する。

 

「え、えええ!? バイクゥ!?」

 

「おっと、悪いけどもっと凄いのが来るよ」

 

<ブロンブースター!>

 

軽快な笛の音が鳴り響くとマシンキバーと同じように光に包まれながらモアイ像に似た黄金のゴーレム型魔獣魔像ブロンが召喚される。

 

大きく口を開くようにブロンが分割されマシンキバーを前後から挟み込むようにドッキングする。ブロンブースターの総重量は780㎏。その重量からズシンと地面がひび割れる。

 

「えっ、モアイ……が、合体したぁっ!」

 

「よし、じゃあ行くよ。後ろに乗って、狭いかもしれないけど我慢してね」

 

「乗るって……これにですか!?」

 

マシンキバーへと跨り困惑している響を後ろへと乗せる。響は何がどうなっているのか戸惑いを隠し切れていない様子だ。

 

「あ、結構スピード出るから気をつけてね。大丈夫だと思うけど一応言っとく」

 

「へっ? うわああああああっっ!?」」

 

響がしっかりと腰を下ろしたのを確認してからアクセルグリップを捻って一気に加速。動力ユニット、マオーブーストエンジンが炎を噴射し前輪が持ち上がった状態で発進する。

 

「うわわわ、ちょ、待ってジオウさんこれ速すぎですってぇ!?」

 

「安心しろ、まだスピード上がるから」

 

「全然っ何も安心できないッ!」

 

推進力を爆発的に高めると更に速度が加速し、背後から響の悲鳴が聞こえる。ブロンブースト装備時のマシンキバーの最高時速は1550㎞。一応バリアのシャドウベールが車体を覆っているので衝撃から守られているが、この速度で事故った場合どうなるんだろう。

 

車の残骸や瓦礫を吹き飛ばし、市街地を黄金の軌跡を残しながら加速する。ついでにドップラー効果の響の悲鳴も。

 

マオーブーストによる爆発的な推進力により地形を問わない高速走行が可能となっている。だから直角の壁だってそのまま走行できる。背後の響が悲鳴を上げて死にかけているが、気にしない。

 

「ッ……見えた」

 

マシンキバーを走らせて数十秒、タコのような姿のノイズに追われて坂道を走る未来を視界に捉える。

 

「見つけたよッ。黒髪に白いリボンの女の子!」

 

「うぅ……なんか吐きそう……あっ、未来!」

 

未来を亡き者にしようとタコ型のノイズが飛びかかるが未来がそれを紙一重で回避するが、ノイズの一撃で崩れた地面に巻き込まれた未来が落下していく。

 

「くそっ! 響は女の子をッ!」

 

「はいッ、行ってきます!」

 

落下していく未来の元へと響がバイクから飛び出した。響は腰部のブースターの推進力で姿勢を整えながら一気に加速して未来を捕まえると脚部のギミックを操作して地面と衝突する衝撃に備えた。

 

俺は二人を未だに狙うタコ型のノイズにマシンキバーで突進して粉々に砕き消滅させる。そのあと高所から落下した二人の様子を確認すると、怪我はなく二人は舞い上がった土煙に包まれて汚れながらも笑い合っていた。

 

「よかった、無事だった……仲直りもできたみたいだし」

 

その時、こちらに気がついた響と目があった。

古代ローマで、満足できる、納得できる行動をした者にだけ与えられる仕草と言われるサムズアップを送ると、響も笑いながらサムズアップを送り返してくれる。

 

これ以上この場にいるのもなんだか野暮な気がしたのでマシンキバーを発進させて離れていった。雪音さんとも合流しなきゃ。

 

 

 

 

 

 




オーロラカーテンで未来の元に移動とか言っちゃいけません。
最近翼と奏が空気だから絡ませたいんだけど絡ませたら絶対日常回になって話の展開が進まなくなってしまう。

そして初のレジェンドビークルはマシンキバー。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

おまけ、憑依ソウゴのジオウトリニティVSギンガ。

「くそっ! 強いな……“あれ”を使うか」

「なるほど、“あれ”ね……ん? あれって何?」

「ゲイツ君……あれではわからない」

「い、いや、あれはあれだ!」

「いやだからあれってなに!? プランがあるんならもっとわかりやすく、ぶへっ! ギンガ(こいつ)会議中に蹴り入れて来やがった! ああもうっ!とりあえず俺が行くぞ!」(ジオウサイキョウー!

「流石は我が魔王……んん?」

「あ、やっべ。ちょ、まって! それ絶対痛いやつじゃん! ストップストップ! ぐはっ!」

「っつう……全然効いてないじゃないか!」

「う、うるさいな! そもそもゲイツはノープランだったじゃん! はい次ウォズの番!」

「はあ、わかりました。では私がっ!……ほう、やるじゃないか……あれ?」(ジカンデスピアー カマシスギ!

「おい、なにしてる早く抜けウォズ!」

「いやそれよりも武器から手を離せばって、イッタアアーッ! っぅ、
前から思ってたんだけどトリニティ(この)状態で一撃喰らう事に俺が一番ダメージ貰ってる気がするんだけど気のせいだよね!?」(早口)

「ならば次は俺だっ!」(スピードクロー!

「話聞いてくれよッ!」


この後めちゃくちゃボコられた。
 


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モブ厳な世界で王様説明会。

 
更っ新っっ!
今回は約五千文字と短め。

 


 

  

────カチッ、カチッ、と一定の間隔で時間を刻む時計の秒針の動く音が聞こえる。ソウゴは冷や汗を流しながらゆっくりと顔を上げて目の前の彼女を見上げる。

 

「えっと……その、なんで俺は正座させられている、んですかね。未来……さん……っ?」

 

 

「…………」

 

営業終了状態にした時計店の一室の床でソウゴは正座をしていた。目の前には私は怒っていますと言わんばかりの様子で仁王立ちしている未来の姿がある。

 

その背後には大きなクッションを抱きしめてソファに腰を下ろすクリス。

 

ソウゴは助けを求めるように視線を向けるがそれに気づいたクリスは無言で必死にブンブンと首を横に振っている。

 

市街地に出現したノイズを殲滅してから既に一日程時間が経過している。二度もノイズとの戦闘に遭遇した未来は響が現場処理に来ていた弦十郎に頼み込んだことで特異災害対策機動部二課の外部協力者として認められた。

 

機密保持やら協力者としての手続きで軽く拘束状態になっており話を聞きに行こうにも行けない状況になっていた。そしてようやく時計店に足を運ぶことができた。

 

「ちゃんと、話してください。あの姿の事とか、どうしてノイズと戦ってるのか」

 

「は、はいっ」

 

未来から放たれる威圧感に思わず圧倒されているソウゴの姿にクリスが面白そうにニヤニヤ笑っていると、未来の眼光がギロリとクリスを捉えた。

 

「クリスも後でちゃんとお話聞かせてね?」

 

「………ッ!」

 

綺麗な笑顔を浮かべて振り向いた未来に、ビクンッと反応したクリスが首が取れそうな勢いで頷く。哀れなクリス、彼女も未来のお話から逃げられない。笑顔とは本来、威嚇の意味を持つものであるというが、まさにその通りだった。

 

長い話になると予想したソウゴは、ココアを注いだマグカップを人数分用意してテーブルに置くと席についた。

 

「……話す前に聞くけど、もしかしたら聞かなければよかったって思うかもしれない。それでも聞きたい?」

 

「……はい。聞かせてください」

 

「アタシも……知りたい。アンタの力の事とアンタが何を語るのか」

 

真剣な様子で未来たちを見つめるソウゴ、空気が重くなるのを二人は感じた。自分が知っている彼のいつもとは違う雰囲気を纏ったソウゴに圧されるように、未来は固唾を飲み静かに頷く。

 

「……わかった、じゃあ説明会と行こうか。何から語ろうかな……そうだな、まずは俺の……いや、ライダーの力について語ろうか」

 

ソウゴはそう言ってジクウドライバーとジオウライドウォッチを取り出した。取り出された二つのアイテムはカチャッと音を鳴らしながらテーブルに置かれる。

 

「なんですか、これ?」

 

「これってアンタが使ってた……」

 

未来とクリスは目の前に置かれたドライバーとライドウォッチを覗き込むようにマジマジと見つめる。ソウゴは並べた変身アイテムを指差し説明を始める。

 

「これが何で作られていて、どういう仕組みで出来ているとかは俺もよくわからないし理解してる範囲で説明しても長くなるからすっごい簡単に言うと、俺はこの二つのアイテムを使って仮面ライダージオウに変身……まあ戦う力を使ってるんだ」

 

「仮面、ライダー……なんだよそれって」

 

「仮面ライダーっていうのは、悪の組織が使う異端の力をあえて受け入れて、それを正義のために行使する者たち……かな? まあ、俺は自分で“仮面ライダー”を名乗ったことはないけどね」

 

「はあ? なんだそりゃあ」

 

ハハハと照れ臭そうに笑いながら頬を掻くソウゴ。なんだかあやふやな説明をされたクリスは呆れるようにため息をついた。

 

ジオウライドウォッチを手に取り眺めていた未来は、ソウゴに視線を向けた。

 

「ソウゴさんはいつからその、仮面ライダーの力を?」

 

「俺が初めてジオウに変身したのは高校三年生の夏ぐらいかな、その時にウォズっていう胡散臭そうな男が現れてね、そのベルトを渡されて変身したんだ。そこから全部始まった」

 

そこからソウゴは語り出した。自分が魔王になる為に歩んできた物語を。

 

──50年後に“常磐ソウゴ”が最低最悪の魔王と呼ばれる存在になる事。

 

──そして、そんな最低最悪な未来を変えるために、ソウゴを抹殺しに50年後の未来から過去へとやってきた未来人の戦士と少女。

 

──同じく50年後の未来から現れた預言者。

 

──別の時間軸からやって来た、時間改変を目論む謎の組織タイムジャッカー。

 

──最低最悪ではなく最高最善の魔王になる為に、19人の仮面の英雄の力と世界を継承する旅。

 

──救世主と呼ばれた戦士と何度もぶつかり、認め合い親友(とも)になれた。

 

──家臣の預言者と王家の少女と絆を育み、仲間になれた。

 

──様々な英雄との出会いが、様々な強敵との出会いが自分を強くし変化させていった。

 

──そして、玉座を欲する暴君との最後の戦いを終えて崩壊していく世界を救い、気がつけば自分一人だけ知らない世界に迷い込んでいた。

 

ソウゴの口から語られたのは、どれも現実味が薄い、夢物語のような話だ。仮面ライダーの歴史、ジオウの物語を未来とクリスは固唾を飲み、愕然とし、呆然としながら聞き入っていた。

 

ソウゴも全てを語った訳ではない。

自分が“常磐ソウゴ”に“憑依した誰か”という事や、オーマジオウの時空を破壊し創造する力、世界一つ簡単に生み出す事のできる……規模の大きすぎる能力の事などは語らず、少し濁す形で伝えた。

 

語り終えた頃には二人の表情は暗かった。そんな二人の様子にソウゴは苦笑いしてしまう。

 

「これが俺の隠し事かな。なにか感想とかある?」

 

「感想って……もうどこからどう突っ込めばいいのかわかんねえっての」

 

「まあ、そうだよね」

 

いきなりこんな事語られても情報量が多すぎて頭が回らないか。ソウゴはそう思いながら空になったマグカップをテーブル端に退かすと、俯き暗い表情をしていた未来が顔を上げた。

 

「ソウゴさんは……怖く、なかったんですか? ある日突然戦う力を渡されて、命も狙われて、王様になる為に戦う事になって」

 

マグカップを握る両手には力がこもりその声は震えていた。

 

「……戦うのが怖くなかった訳じゃないよ、死ぬかもしれないって思って逃げ出したくなる時もあった。中途半端に借り物の夢を掲げて追いかけて、それで全部投げだして諦めた事もあった」

 

「……じゃあ、どうして」

 

「それでも戦うしかなかったってのもあるけど、夢を諦めきれなかったていうのが一番かな。王様になりたいって言った“彼”と同じ道を歩んで、その借り物だった夢を本気で追いかけた」

 

ソウゴの言った“彼”とは誰の事なのか未来にはわからなかったが、照れ臭そうに尊敬する相手の事を口にするソウゴの様子から、悪い人ではないのだろうと判断した。

 

「気になってたんだがフィーネたちが探ってたオーマジオウの正体って」

 

「俺です」

 

「……一緒にこの世界に来たとかじゃなくてか?」

 

「俺です」

 

無駄にキリッとした表情で答えるソウゴの様子に、クリスは思わず頭を押さえる。

 

フィーネや二課の連中が知り得ず、騒がせていた未確認の正体が同一人物だった。なんでノリノリで一人二役演じてるんだこの魔王。実はバカなんじゃないのかとツッコミたくなる気持ちをグッと堪えた。

 

「……なあ、アンタはそれでいいのか?」

 

「えっ、なにが?」

 

「……いや、やっぱりいい。なんでもない」

 

クリスはどうしても気になっていた事を聞こうと思い口を開くが、数秒程思考してやめた。

 

クリスの両親は幼い頃に内戦に巻き込まれてこの世を去っている。ソウゴもまた幼い頃に事故で両親を亡くしており、その時から既に戦う運命にあった。

 

幼い頃に両親を亡くしているという似たような境遇に対して、思うことがない訳ではないクリス。

 

世界を救う為に戦い、挫折し傷つきながら進み続け、大切な親友と仲間を喪いながらも勝利して、崩壊しつつあった世界を救った。そして最後には別の世界に迷い込んで一人ぼっちだ。

 

目の前の青年が見返りを求めて世界を救った訳ではないことはわかっている。それでも必死に戦った彼にそんな結末を迎えさせるのかと、ぶつけようのない怒りが沸いてくる。

 

「とまあ、俺の話はこれくらいかな。そこでお願いなんだけど……今俺が話した事とライダーの力の事は他の人には黙っててもらえないかな。自分で言うのもなんだけど俺の持つ力は強力すぎる、もしバレたらこの力を利用しようとする奴が現れる筈だ」

 

「………ッ!」

 

「実際、仮面ライダーの力を軍事兵器として利用しようとした人たちがいて……それでたくさんの人が傷ついた。そんな光景は見たくない、だからこの事は誰にも話さず黙っていてほしいんだ」

 

二人に対して頭を下げるソウゴ。

 

未来に対して酷い事をお願いしているな、と軽く自分に嫌気が差した。大切な人に隠し事をしたくないと言っていた未来、嘘を嫌い親友に隠し事をされて怒っていた彼女に対して、隠し事をしてほしいとお願いしているのだから。

 

「……アタシは別に構わねえけど、シンフォギアとかも似たような理由で隠されてるしな」

 

仮面ライダーの力で戦争なんてたまったもんじゃないとソウゴの願いと理由に納得し承諾したクリスは、チラッと未来に視線を送った。視線の先にはどこか表情の硬い未来がいる。

 

「響にも話しちゃいけないんですか?」

 

「うん、できれば響にも黙っててほしい。響は二課と繋がってるし響は隠し事とか得意じゃないでしょ? 響から芋づる式にバレちゃう可能性だってあるし」

 

「……そうですね」

 

ふとした拍子にポロッと口を滑らせて、知られたくない秘密をバラしてしまい慌てふためきながら墓穴を掘っていく親友の姿が容易に想像できて、未来は苦笑いする。

 

未来は悩むように唸ると深く溜息を吐いた。

 

「……わかりました。ソウゴさんの隠し事については誰にも言いません、けど」

 

「けど?」

 

「この事はいつかちゃんと響に話してくださいね、あの子はソウゴさんのことを信頼も信用もしてますから。ソウゴさんも信じてあげてください」

 

そう言ってソウゴを真っ直ぐと見つめる未来。自分の評価が意外に高いのと、そんな事を言われるとは思ってもいなかったので驚くが、しっかりと頷く。

 

「それとですね」

 

「え、まだあるの?」

 

「当たり前です! 言いたい事はまだまだいっぱいあります、けど今回は手短に伝えます。響もそうですけど……ソウゴさんも強いからってあまり無茶しないでくださいね」

 

「……えっと、善処する」

 

「む、それしない奴ですよね」

 

未来の言葉に思わず目を見開く、今日一番の驚愕だった。憂いを帯びた表情でそう伝える未来。

 

ソウゴはぎこちなく返事を返すが、それは未来の望むような返事ではなかったのか、不満げな表情を浮かべている。

 

 

 

 

 

ソウゴが一通り説明し終えた頃には、日が暮れて辺りは暗くなってきていた。ソウゴは未来を学生寮までバイクで送ろうとしたが、買い物もしたいしゆっくり帰りたいからそこまでして貰わなくても大丈夫と断られてしまった。

 

ソウゴも一旦頭の中を整理したいのだろうと納得して玄関まで見送るだけにした。

 

「それじゃあ、お邪魔しました」

 

「うん。暗いから気を付けてね」

 

帰り支度を終えて帰宅しようと未来が、クリスの姿がない事に気がついた。さっきまで一緒にいたのに、玄関にその姿は見えなかった。

 

その事をなんとなくソウゴに尋ねると。

 

「ああ、雪音さんには洗い物を頼んでてね。衣食住を保証する代わりに家事は手伝ってねって頼んだんだ」

 

「……衣食住?」

 

「うん。行くところがないみたいだし、雪音さんもまだ狙われてるから暫く時計店で匿う事にしたんだ。部屋も余ってるし」

 

ソウゴの言葉にピシッと固まる未来。

 

「そ、それはクリスがソウゴさんのお家で寝泊まりするって事ですか?」

 

「そうだけど」

 

「つつつつ、つまり若い男女が一つ屋根の下という事ですか!?」

 

「いやなにその誤解を生みそうな言い方。とりあえず未来が思ってるような事はなにもないよ、そもそも前にも一回泊めた事あるし」

 

顔を真っ赤にしてあわわと震えていた未来に稲妻が落ちたかのような更なる衝撃が走る。

 

前にも泊めたと言ってもカレーをたらふく食べお腹が膨れて寝落ちしたクリスを善意で一泊させただけなのだが、なんて事のないような言い方をするソウゴの発言がさらに誤解を生み出していく。

 

顔をリンゴやトマトのように真っ赤に染めて出て行く未来の後ろ姿を、疑問符を浮かべて頭を唸らせながら見送るソウゴ。自分がなにを言ったのか全くわかってない魔王。

 

後日、未来から話を聞かれたクリスが「誤解されるような言い方するんじゃねえ!」とあの時の未来以上に耳まで真っ赤に染めてソウゴの部屋へとのりこんだ。

 

時計店には頬に綺麗な紅葉模様を作った魔王の姿があったとか。

 

 

 

 





えー、前回の投稿からだいぶ間が開いてしまい申し訳ありません。言い訳をさせてもらいますと大学の課題や試験勉強、バイトとちょい早めの就活で色々とゴタゴタしておりまして更新が遅れました。すみません。

もしかしたら今後も遅れる事があるかもしれませんが多めに見てください! 忙しくても執筆&更新はしていきますので。

それはそうと、冬映画の最新情報来ましたね。個人的には001が今のところゼロワンライダーの中で一番デザインが好きかも。涙ラインもグッド。

アナザーゼロワンは安定の不気味なアナザーライダー化されてて好き、映像で我が魔王がジオウIIライドウォッチ構えてたから活躍すると考えていんですよね? やったぜ。

そしてジオウII好きの自分は最近アーツのジオウIIを手に入れたんです。クオリティも高いしガシガシ動かして満足してるんですけど不満があるんです、ぼくライドストライカーのセット持ってないの……。

サイキョージカンギレードにできないんですよ! ライダーマシンとのセット商法にはその方が売れるだろうしな、と納得できるんですけどせめて1号ライダーと二号ライダーの初期武器はアーツ本体とセットにしてくれませんかね!?

ウォズは武器ついてたじゃん! うわーん!

おのれ財団B、ゆ゛る゛さ゛ん゛!!


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モブ厳な世界で嵐前の静けさ。

長らくお待たせして申し訳ございませんでした。
試験や就活にバイト、悪人の心を盗んで改心させたりなど色々あって遅くなってしまいました、すまない。

そして気がつけばお気に入りに登録が3000件以上、本当にありがとうございます。

それと今回ジオウ能力のオリジナル設定というか独自解釈があります。これくらいできるだろうと判断した結果です。




 

「……なあ、ひとつ聞いてもいいか?」

 

「ん? どうかした? 三時のおやつならさっき食べたでしょ……美味しくなかった?」

 

「いや、おやつは美味しかったけど……ってそうじゃない! しばらく厄介になる以上少しは手伝うとは言ったが、こりゃどういう事だッ」

 

時計店の作業部屋でテーブルの前に並び合うように座っていたソウゴとクリス。突然声を震わせながら立ち上がったクリスのおかしな様子に、訳も分からずパチパチと瞬きを繰り返しているソウゴ。

 

修理作業をする為にエプロン着込んだクリスの指差す先には、細かく分解された大きな機材が並んでいる。

 

「なんでアタシはこんな古ぼけたビデオデッキの修理の手伝いをさせられてるんだよ! ここって時計店だよな!?」

 

「時計店だよ。時計店だからビデオデッキの修理をしてるんじゃん。ほら座ってクリス(・・・)の方から手伝ってくれるって言ったんだから」

 

「……アタシか? アタシが可笑しいのか? 時計店がビデオデッキの修理してるってどういう事なんだ。いやなんでビデオデッキ? しかもこの前はトースター修理したとか言ってたし」

 

時計店の店長が客の依頼でビデオデッキを分解して修理しているという明らかに可笑しな状況、それを指摘したというのに逆になに当然の事言ってるんだお前はと返されたクリスは、唖然としブツブツと呟きながら渋々座り直す。

 

因みにソウゴが雪音さんとではなくクリスと名前で呼んでるのは、クリス本人が名前で呼ぶ事を許したからだ。いつまでも苗字にさん付けじゃなんだか慣れないから名前で呼べと。

 

「やっぱり時計店でビデオデッキって変だろ。この王様どこかズレてやがる……朝だってフライパンにオタマの騒音で叩き起こされたし、何年前のアニメだっての」

 

「なにブツブツと言っての。しかもアニメどうとかって……アニメちゃんと同じ口癖?」

 

「はあ? 誰だよアニメちゃんって」

 

「響の友達、口癖が『アニメじゃないんだから〜!』って感じの面白い子」

 

「いや本当に誰だ」

 

アニメちゃんと呼ばれたその子のモノマネをしているのか、クオリティの低い声真似を楽しそうに披露しているソウゴ。そんな知らない人物のモノマネをしているソウゴの様子にクリスはげんなりとしている。

 

手際良くビデオデッキを清掃して配線を繋ぎ直し組み立てていくソウゴに教えられながら、慣れない作業に悪戦苦闘しつつ作業を進めていく。そこで気になっていた事をそれとなく聞いてみた。

 

「そういや、ライダーの力の事についてはなんとなくわかったけどノイズの位相差障壁はどうやって突破してるんだ? シンフォギア・システムみたな能力がライダー・システムにもあるのか?」

 

「いそうさしょう、へき?……なにそれ」

 

「……は? いや、だから位相差障壁だよ。ノイズが持つ特性の、アイツらを消滅させるには“調律”してこっちの世界に引き摺り込まなきゃいけないだろ……本当に知らないのか?」

 

なにを言ってるのか本当にわかっていないような様子で首を傾げているソウゴに、クリスは絶句する。そこでクリスはノイズについて知る限りの情報を教えると今度はソウゴが絶句していた。

 

「え、アイツらそんな特性あったの? ネットとかで開示されてる程度の情報しか見てないから知らなかった」

 

「いや、なんで知らないんだよ……」

 

思わず頭を抱えるクリス。

この世界で初めてノイズと戦闘になった時、ソウゴはオーマジオウの姿で戦っていた。

 

オーマジオウの能力の一つ『オーマシグナル』が自動で発動しノイズの情報を結合、分析しオーマジオウの無尽蔵とも言える莫大なエネルギーでソウゴの力が相手を上回るように設定され『オーマコーザリティーハンド』による因果律操作で位相差障壁を突破……というよりは無効化していた。

 

オーマジオウとしての力を覚醒させたソウゴは、オーマジオウの姿にならずともその力の一端なら行使する事ができる。

 

それに気がついていないソウゴは、初めての戦闘以降ノイズはライダーの力で倒せる存在と認識して無意識のうちにこれらの能力を引き出し、発動させてノイズを撃破してきていた。

 

当然そんなことは知りもしないソウゴ。彼からすれば殴ったら倒せたぐらいの感覚だ。

 

「もういい、これ以上アンタのデタラメな力を掘り下げると頭が痛くなってくる……おい、もういいって言ってるだろ何か言いたそうに口を開くな」

 

その程度で驚かれては困る。他にも──やる気はないけど──やろうと思えばブラックホールを生み出したり建築物を物質変換で兵器にしたりデンジャラス無限増殖したりできるよ、と言おうとしたソウゴを鋭く睨み黙らせる。

 

そして休憩を挟みながらもテキパキと作業を進めていき、ビデオデッキの修理を終えたソウゴとクリス。どこも問題ないか動作確認をしているソウゴの横で、クリスは慣れない作業が余程堪えたようでテーブルに伏していた。

 

クリスがもぞもぞと動きながらテレビのリモコンを手に取り電源をオンにすると、画面には先日行われたツヴァイウィングのライブ映像の一部とツヴァイウィングの海外進出展開に関する情報がニュースに流れていた。

 

「そういや此の間やってたな両翼のコンサート、だから前にノイズが発生した時駆けつけたのがあのバカだけだったのか」

 

「ああ、あの時のライブ凄かったよ。俺ライブとか行ったことなかったし物販でペンライトとかも初めて買った」

 

「ふーん。そうなのか……ん? この日発生したノイズと戦ってなかったかアンタ」

 

クリスの脳裏に浮かんだのはフィーネが発生させたノイズとの戦闘中に響とほぼ同じタイミングでやって来た見覚えのあるゴツい胸部装甲と見たことのないオレンジ色ボディスーツ姿のジオウがノイズを殲滅していた様子。

 

「ライブの途中に発生してたノイズなら戦ったよ。けどツヴァイウィングのライブも最後まで観たかったからちょっとだけ裏技は使った」

 

ああ、こいつまた何かやったんだなと、楽しそうに笑うソウゴの姿に、クリスはそう思いため息を吐いた。

 

奏と翼の二人から特別にライブチケットを受け取ったソウゴ、響、未来の三人。ジオウの世界にいた頃はライブ鑑賞なんてしている暇はなかったソウゴ、チケットを貰った以上見届けなきゃ失礼だし初ライブ鑑賞という事もあり意外と楽しみにしていたソウゴだが、その途中でノイズが発生。

 

ノイズを倒しに行かなきゃ、けどライブも最後まで見届けたい。そこでソウゴは一緒に会場に来ていた未来に一言伝えた後、会場を出て物陰に隠れて仮面ライダージオウに変身。

 

そこから更にディケイドアーマーエグゼイドフォームにアーマータイム。エグゼイドフォームRをノイズの発生した現場へと向かわせてエグゼイドフォームLをライブ会場へと残した。

 

ノイズが発生した現場でライドヘイセイバーを振りかぶり奮闘するディケイドアーマーエグゼイドフォームR。その裏ではドーム型ライブ会場の天井付近に身を潜めつつこっそりと鑑賞しながらペンライトを振っているディケイドアーマーエグゼイドフォームL。

 

他にもやり方はあっただろうに、この魔王完全にライダーの能力を無駄遣いである。

 

「俺は夕食の買い出しに行くけど、クリスはどうする?」

 

「あー、アタシはパスだ。外に出るとなるとまた“変装”しなきゃいけなくなるし手間が掛かる」

 

この時計店はリディアンからそう遠くはない。響たちシンフォギア装者もよくこの時計店に出入りしている上に二課の人間にはクリスの顔は見られている。

 

二課の情報がフィーネに漏れていると考えているソウゴ。匿っているクリスの存在が二課にバレてしまえばそこからフィーネに伝わる可能性があるので、ノイズの発生時以外はなるべく外出を控えてもらい、それでも外に出る時は必ず変装させている。

 

「じゃあ買い物行ってまーす」

 

「おう……い、行ってら……しゃい……っ」

 

「……一応鍵かけていくけど、知らない人が来ても扉は開けちゃダメだよ」

 

「なんの心配してんだ! アタシは小学生かッ! とっとと行けってのッ!」

 

照れ臭そうにしながら玄関まで見送りに来てくれたクリス、そんな彼女を揶揄うように声を掛けてから時計店を出るソウゴ。揶揄われたクリスは顔を赤くしてグルルっと獣のように唸りながら、閉じられた扉を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、今日の晩ごはんはどうしようかなー」

 

ライドストライカーを発進させて時計店から少し離れた大型スーパーに到着したソウゴ、買い物カゴを乗せたカートを押して他のお客さんを避けながら食品コーナーを見てまわって行く。

 

ジオウの世界にいた頃から料理は出来る方だったソウゴ。というのも未来から来たゲイツたちと出会う以前から『グジゴジ堂』店主の常磐順一郎、おじさんの負担を減らそうと仕事や家事の手伝いをしていた為自然と技術が身についていった。

 

ソウゴ本人もそれなりにできる方だと思っている。

 

「サバの味噌煮……いや、やめよう。クリス箸使うのヘタだし……よしっパスタにするかな」

 

箸の使い方が絶望的なクリスの姿を思い出し今日の夕食はフォークで簡単に食べられるパスタに決めた。そうと決まれば、と次々と買い物カゴに食材を詰め込んでいくソウゴ。

 

「──あれ? ソウゴさんじゃん」

 

背後からかけられた声に反応して振り向くがそこにはサングラスをかけた見知らぬ女性がいるだけ。ソウゴは首を傾げながら聞き間違いかと判断して視線を戻してカートを押して行こうとするが突然肩を強く掴まれた。

 

「って、どこ行こうってんだい。無視とは酷いじゃないか」

 

「えっ………奏?」

 

唸ったまま数秒程固まって動かなくなったソウゴの様子に女性は少し苦笑いしながら、掛けていたサングラスをズラして顔を見せる。そこでようやく目の前の女性が天羽奏だとソウゴは理解した。

 

暗い色のパーカーにジーンズ、いつも下ろしているクセのある長い髪をポニーテールで纏めてキャップを被りサングラスを掛けている奏。いつも見る私服とは違う変装した奏の姿にソウゴは気がつかなかった。

 

「全然気がつかなかった、こんな所で何してんの?」

 

「スーパーに来てる奴に何してんのなんて聞くんじゃないよ、もちろん買い物さ。そんなソウゴさんこそ何してるんだい?」

 

「もちろん買い物」

 

お互いに買い物カゴを見せ合い、じゃあ目的は一緒じゃないかと奏は笑う。久しぶりに顔を合わせた二人は会話を弾ませながら食品コーナーを進んで行く。

 

「ソウゴさんって一人暮らしだったよな。男の一人暮らしってそんなにいっぱい買うものなのか?」

 

「あー、まあね。そういう奏こそいっぱい買ってるじゃん、確か一人暮らしだよね?」

 

買い物カゴに積まれた飲料や食品の量に驚き疑問を抱いた奏の質問をそれとなく受け流して話を変える。ソウゴの視線が向けられる先にあるのは同じようにたくさん食品が入った奏の買い物カゴ。

 

「あたしも今は本部……じゃなかった、事務所経由で用意してもらった物件に一人暮らしさ。今日はオフだったから翼が遊びに来てて、夕食をご馳走してやろと思ってね」

 

楽しそうに笑いながら話す奏になるほど、とソウゴは納得する。

 

「奏も翼も料理できたんだ……。アイドルって忙しそうだし外食に出前とか弁当ばかり食べてるイメージだったけど」

 

「ははっ。確かに忙しい時なんかはそんな感じだな……あたしは、妹がいたからさ、親が忙しい時に飯を作ってあげる事なんかもあったから自炊は慣れててね」

 

「……そっか、翼は?」

 

「翼はダメダメだな! 一緒に料理した事があるけどもう怖くて包丁は握らせられないよっ!」

 

その時の翼の真似をしているのか、奏が笑いながら両手で包丁を握るフリをして両断するように腕をブンブンと振り下ろす姿に、ソウゴは思わず戦慄してしまう。

 

今までの付き合いで何かと疎いイメージのある翼ならやりかねない。

 

「もしかして今日はシチューだったり?」

 

「お、正解。テレビのCM見たらなんだか無性に食べたくなってさ」

 

家にも材料が余ってるしね。なんて会話をしながら買い物を進めて行く途中、突然近くで子供の泣き声が聞こえて来た。その泣き声に反応した奏とソウゴは、顔を見合わせた後その方向へと足を進めていく。

 

食品売り場から少し離れた場所に小さな子供が蹲り泣き叫んでいた。近くにはその子の親と思しき人物の姿は見えない。周りの大人たちはその泣き声に反応して子供に視線を向けた後、不愉快そうに表情を歪めてそのまま歩き去っていく。

 

そんな大人たちの態度を視界の隅に捉えた奏は小さく舌打ちした後ため息を吐き、泣き叫んでいる子供へと近づいていった。目線の高さを合わせるようにしゃがみ込むとニカっと笑う。

 

「どうしたんだこんな所で、お父さんお母さんは?」

 

「うぅ……ヒィ……ズズッ……」

 

「ゆっくりでいいから、どうしたのかお姉ちゃんに教えてくれ」

 

奏は小さな男の子が泣き止むまで背を撫でて待ち続けた。

 

泣き止み落ち着いた男の子から話を聞くと母親と一緒にこのスーパーに買い物に来ていたのだが母親と買い物の途中、他のお客さんと軽くぶつかり人混みに押されて母親と逸れてしまい、急いで母親を追いかけたが見失ってしまってさらに迷子になってしまったようだ。

 

「ソウゴさん、勝手で悪いんだけどあたし……」

 

「気にしないでいいよ、俺も手伝う」

 

「……悪い、ありがとう」

 

泣きじゃくり目を赤く腫らした子供を連れて母親を探す。

子供の話を聞く限りそう遠くには行ってはいない筈だと判断してスーパーを歩き回った。大きなスーパーだが子供が最後にお母さんと一緒にいた場所を中心に探して行った。

 

するとその予想通り、数分もしないうちに子供の母親と遭遇した。向こうも途中で子供と逸れた事に気がつき、来た道を引き返しながら子供を探していたらしい。

 

「すみません、ご迷惑をお掛けして。ほら、お兄さんとお姉さんにお礼は言ったの?」

 

「ありがとー! お兄さんに綺麗なお姉ちゃんっ!」

 

母親は何度も頭を下げながらお礼を言い、それに続くように迷子になっていた子供も深くゆっくりと頭を下げて感謝の言葉を告げた。ソウゴと奏は遠ざかって行く親子の背中を見つめていた。母親と手を繋ぎ離れていく子供はソウゴと奏の姿が見えなくなるまでずっと手を振っていた。

 

「あの子のお母さんが見つかってよかったね、綺麗なお姉ちゃん」

 

「ったく、揶揄わないでくれよ……ソウゴさんも買い物の途中で付き合わせちゃって悪かったね」

 

「だから気にしないでいいって言ったじゃん」

 

迷子の子供を無事母親の元へと送り届けた二人は途中で中断せざるを得なかった買い出しへと戻って行く。軽い会話をしながら食品コーナーを見て周り買い物を済ませて行った。

 

 

買い物を終えたソウゴは奏と別れて大型スーパーを後にした。外は暗くなり遅い時間だった事もあり、ソウゴは奏を家まで送って行こうかと申し出たが、翼が迎えに来てくれるとの事。

 

ライドストライカーを走らせる事数十分。時計店が見えて来た時、視界に一人の人物を捉えたソウゴはライドストライカーを停車させて装着していたヘルメットのカバー部分を開いて顔を見せた。

 

「あれ……弦十郎さん?」

 

「ん?……やあ、ソウゴくん。久しぶりだな」

 

派手な赤いシャツに派手な色のネクタイを胸ポケットにしまったガタイの良い男性、弦十郎が手提げとビニール袋を片手に時計店の方から歩いて来ていた。

 

「もしかして時計の事で店に何か用事でしたか?」

 

「……いや、ここを通りかかったのは買い物の帰りで偶然さ。君に直してもらった時計もご覧の通りバリバリ動いてるからな」

 

時計店のある方向から歩いて来た弦十郎の姿を見て何か店に用があったのかと思ったソウゴだが、弦十郎は胸ポケットからソウゴに直してもらった腕時計を取り出して笑う。

 

久しぶりに顔を合わせた弦十郎としばらく話し込んでいると、突然弦十郎の顔から笑顔が消えて、いつになく真剣な顔でソウゴを見つめた。

 

「実はなソウゴ君、俺は人を探しているんだ」

 

真剣な表情と声音でそう切り出した弦十郎の様子を見て、なるほどこっちが本題か、とこの場に弦十郎がいたのも偶然ではないとソウゴは察した。

 

そう判断した理由としては弦十郎が持っていた買い物袋だ。弦十郎の手にはコンビニの買い物袋とレンタルビデオの袋がある。コンビニこそ時計店の近くに存在するが、ビデオショップはこの辺りには存在しない。

 

あるとしても反対方向で時計店よりも離れた位置に存在する。その為、帰り道に偶然時計店の近くを通る事なんてない。

 

「人ですか……どんな感じの?」

 

「高校生くらいの女の子だ。容姿は銀髪の背の低い少女だな」

 

これくらいの、と弦十郎はジェスチャーでその探している少女の背丈を教える。弦十郎の話を聞いたソウゴは、弦十郎の探し人がクリスだと理解したと同時に、弦十郎が二課の人間である事を確信した。

 

「……俺が知る限りでは、見たことはないですねその人」

 

「──本当にか?」

 

嘘は許さない。まるでそう言っているかのように弦十郎の鋭い眼光がソウゴを射抜く。それに対してソウゴは怯む事なく弦十郎の視線から目を逸らさずに真っ直ぐと見つめる。

 

「………」

 

「………」

 

互いに無言で見つめ合う事数十秒、その数十秒がとても長く感じた。

 

「……はあ、すまない。突然変な事を聞いて悪かったなソウゴ君」

 

先にその硬い表情と重い雰囲気を崩したのは弦十郎だった。彼は大きく溜め息を吐いた後、グッと身体を伸ばしてガシガシと髪を掻いた。もっと踏み込まれるものだと思っていたソウゴは弦十郎の様子に目を点にして驚きながら、絞り出すような声で大丈夫ですと返した。

 

本当に突然変な事を言って悪かったと弦十郎はソウゴに謝った後、それじゃあと言って離れていったがソウゴは、そんな弦十郎を呼び止めた。

 

「これは全然関係のない話なんだけど、最近時計店の方に居候が出来たんですよね。その子は何かと不器用でおっちょこちょいな所とかがあるんですけど、優しい子です」

 

「……フッ、そうか。」

 

突然切り出されたソウゴの話に弦十郎は驚いて目を見開いたが、ソウゴの楽しそうに話す様子に満足げに笑みを浮かべた後、踵を返して去っていた。ソウゴもそれを見送った後バイクを発進させて時計店に戻っていた。

 

 

 

 




関係ないけど最近友人に勧められた鬼滅の刃アニメを見終わったぼく。
面白いですね鬼滅の刃、炭治郎とかすごい魅力的な主人公ですしいいキャラが沢山。今のところ推しというかCVとキャラデザで好きなキャラは炭治郎と義勇さんとしのぶさんと煉獄さん。単行本買うか悩む。

あ、あと古戦場頑張りましょうね騎空士の皆さん。


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モブ厳な世界で捲られる開幕への1ページ。

祝え!(挨拶)
ふえええ、大学と就職キツいよぉ。飯食ってゲームして寝る、そんなだらけた生活をして生きてきたい(真顔)

感想、評価、誤字報告ありがとうございます!
そろそろフィーネ戦が近づいてきました。後執筆してたんですけど結構長くなったので一旦切ったのはいいんですけど切った所が適当すぎて特に話が進んでない…。


 

 

 

 

 

「──なんだよ、これ……」

 

少女、雪音クリスの目の前には信じられないような光景が広がっていた。場所は山間部に存在するフィーネの邸宅、その邸宅で決して短くはない時間を過ごしたクリス。

 

そんなクリスでも見慣れないモノが邸宅の一室にはあった。

 

部屋の窓ガラスは割れて散らばり、家具などもボロボロの状態で散乱していてひどい状態。明らかに争った形跡があり、何よりも血溜まりに力なく沈む幾人もの人の姿が部屋中にあった。

 

「……ダメだ全員、やられてる。状況を見るからにそれほど時間も立ってないと思う」

 

ジオウの姿へと変身したソウゴは既にこと切れた状態の武装集団に近づいて彼らの状態を確認して何があったのかを調べていた。

 

ソウゴとクリスの二人がこの場にやって来たのがほんの数分前、クリスにフィーネの企みを阻止する約束をしていたソウゴだがクリス本人がフィーネと戦う準備と気持ちの整理が出来るまで待っていた。そして覚悟の決まったクリスを連れてこの邸宅へと乗り込んだのだが既に邸宅内部はこのありさまだった。

 

「なにが……どうなってんだよ……っ!」

 

呆然と目の前の光景を眺めていたクリスだが背後から近づいてきた気配を感じ取り弾かれるように振り向いた。視線の先には派手な色のシャツにネクタイを身に着けた男性、弦十郎がこの部屋の惨状とそこに居合わせた二人の姿を見つめていた。

 

クリスはその男、弦十郎の姿に見覚えがあった。

フィーネの出現させたノイズが市街地に襲撃してきた時、ジオウの正体がソウゴだと未来とクリスに知られてしまった日の事。

 

ジオウとひと悶着あった後、襲い掛かるノイズを殲滅しながら逃げ遅れた人を救助している時に弦十郎と遭遇したのだ。逃げ遅れた人を庇いながら生身の状態でノイズと対峙しその人間離れした身体能力で立ちまわっていた姿が強く記憶に残っていた。 

 

「違っ……これはあたしたちじゃ!」

 

状況が悪かった。この悲惨な部屋の状況とそこにいた二人、第三者がこの状況を目撃すれば勘違いされたって可笑しくはない。

 

誤解されてしまう前に弁明しようとするがそれよりも早く武装した黒服の集団が部屋に乗り込んできた。黒服の登場にクリスは思わず身構えるがそんなクリスを素通りして黒服たちはジオウを取り囲み拳銃を構えた。

 

「……え、俺?」

 

「な、何してんだアンタらッ!」

 

ジオウに拳銃を向ける黒服たちの姿にクリスは一瞬固まるがすぐに正気に戻りジオウを庇うように射線上に割り込んだ。だが黒服たちはそんなクリスの事を気にも留めずに拳銃のグリップを強く握り構えていた。ジオウの事を警戒しているのが見て取れた。

 

ジオウも彼らが発砲するような事があればすぐにでもクリスを庇うことのできるよう構えていると。

 

「やめろお前たち! 銃を下ろせ!」

 

「し、しかし……風鳴司令、こいつは危険ですっ」

 

「いいから下ろすんだ。前にも言ったように未確認二号と事を荒立てるつもりはない……それよりも今はこの屋敷の調査が先だ」

 

弦十郎の言葉に黒服たちは渋々といった様子で構えていた拳銃を下ろして作業に取り掛かった。そんな彼らの様子に弦十郎は溜め息を吐いた後、ジオウに向き直り頭を下げた。

 

「俺の部下がすまない。まさかこの場にジオウ……君がいるとは思いもしなくてな、許してくれ」

 

「あ……いや、別に気にしないでいいよ。ああいう反応が普通だろうし、それにこの有様じゃ疑われるのも仕方ない」

 

「いや、これをやったのが君達だとは疑ってはいない。全ては、俺達の近くにいた“彼女”の仕業だ」

 

弦十郎の言う“彼女”とは誰の事なのかわからずジオウは頭を捻っていると弦十郎はジオウから視線を外して横にいるクリスへと向き直った。

 

「久しぶり、と言うべきか。また会ったなクリス君……元気そうで何よりだ」

 

「ハッ……元気も元気だっての、どっかの誰かさんのおかげでな」

 

毎日喧しいくらいにな、弦十郎の言葉にクリスは素っ気ない態度で返事をしながら周りに気づかれないようにしながら一瞬だけジロリと視線を向けた。そんな視線を向けられたジオウはなぜクリスが睨んできているのか理解できず首を傾げている。

 

「風鳴司令!」

 

黒服の一人が弦十郎に呼びかける。黒服の足元には武装集団の一人の亡骸が横たわっている、その亡骸のジャケットには【 I Love You SAYONARA 】と血文字で書き記された白い紙切れが貼り付けられていた。

 

「……ッ! ダメだそれに触るな!」

 

黒服がその紙切れに触れて回収しようとした姿を見たジオウが叫ぶ。彼の直感がぞわり警報を鳴らして危機を知らせていた。ジオウの叫び声が聞こえていた筈の黒服はそれを無視して紙切れをジャケットから引き剥がすように拾い上げる。

 

その瞬間、何か引き抜かれる音と起動を知らせる電子音が鳴り響いた。

 

武装集団の亡骸と邸宅内部に仕掛けられていた爆弾の起動スイッチと繋がっていた紙切れを引き剥がしたことで起動したのだ。一瞬で轟音が山間部へと鳴り響き邸宅は熱波と爆風に包まれる。爆発の衝撃で部屋は崩壊し天井や壁の一部が崩壊し音を立てて落下して来ていた。

 

「な、どうなってんだよ。こいつは……っ」

 

「衝撃なら俺が発勁でかき消した」

 

「は、はっけい?……いや、そうじゃねえよっ!」

 

爆発が収まると重なった瓦礫の山の中からクリスを抱えた弦十郎が巨大な瓦礫を片手で持ち上げながら姿を現した。衝撃を発勁でかき消したと訳の分からない事を言う弦十郎にクリスは困惑していたが、正気に戻ると自分を抱えている弦十郎の腕を強引に振り解き距離をとる。

 

「なんで変身する事もギアも纏う事も出来ないアンタがアタシを庇ってるんだよ!」

 

「……俺がお前を守るのはギアのあるなしじゃなくて、お前よか少しばかり大人だからだ。大人ってのは仕事を全うして子供を守ってやるもんなのさ、それが大人の務めってやつだ」

 

「大人!? 大人の務めときかッ! 悪いがアタシは大人が嫌いだ! 余計な事以外はいつも何もしてくれない癖に、知った風な顔して近づいて来て、そして叶えられもしない夢を見るッ! アタシのパパとママだってそうだった、アタシはそんなパパとママが…ッ」

 

「い、ヨイショーッ!」

 

歌で世界を救う、クリスにいつもそう言っていた彼女の両親。小さい頃のクリスはそれはとても素晴らしい夢だと思っていた。しかし成長していき現実の過酷さを知っていきそれはなんて甘い夢だったのだろうと思うようになっていった。

 

そんな叶いもしない甘い夢を見ていた両親が大嫌いだ。そう言葉を続けようとしたその時、彼女の背後で瓦礫の山が大きく吹き飛んだ。

 

「ふぅー、びっくりした。まさか爆発するとは思わなかった」

 

積み重なった瓦礫の山を崩しながらジオウが姿を見せる。ジオウの側には爆弾を起爆させてしまった黒服とその近くで爆発に巻き込まれた黒服たちがいた。

 

「うっわ……煙すごいな」

 

「な、なんでだ……」

 

「ん?」

 

ジオウは舞い上がった土煙とボディスーツに掛かった埃を手で払っているとジオウの側で腰を抜かして座り込んでいた黒服の一人が声を震わせながら信じられないものを見るかのようにジオウを見上げていた。

 

「どうして、爆弾が爆発したあの瞬間……俺を、俺たちを助けたんだ。俺たちは風鳴司令の命令を無視してお前に銃を向けた、さっきの罠だって気がつかなかった自分の責任だ。死んだって自業自得なのに、なぜ」

 

爆弾が起動した瞬間、ジオウはその身体能力の高さを利用して爆弾を起動させてしまった黒服との距離を一瞬でゼロにして彼を爆発から庇うように助け出した。その後も崩落してくる瓦礫に巻き込まれそうになっている黒服たちを自分の周りに集めさせて邸宅の崩壊から救った。

 

黒服は射殺するつもりで銃を構えていた自分たちを身を挺して助けたジオウを困惑するよう見上げている。

 

「俺たちなんかを助けようとするぐらいならあそこの少女を助けるべきだ。彼女はノイズに対抗する力を持ってる、なのになんで俺たちなんか……」

 

「……“なんか”じゃないよ。人の命に優先順位なんてない、どっかのドクターもそんなことを言ってた気がする。それにお礼を言ってほしくて助けた訳でもないから、助かったラッキーってくらいに思ってくれればいいよ」

 

そう告げるとジオウは瓦礫を退かしながら背中を見せて離れていく。人を助けて見返りを求めずに去っていく。黒服にはその後ろ姿が幼い頃に憧れていたヒーローの姿と重なり、大きくとても遠い存在に見えていた。

 

「ああ、それとクリス」

 

突然ジオウに名前を呼ばれたクリスは驚きビクリと反応する。

 

「それ以上、先のことは言葉にしないほうがいいよ。クリスは優しいからきっと後で後悔すると思う、大切な家族なんでしょ」

 

「……ッ!」

 

ね、と小さな子供を諭すようにクリスに語りかけるジオウ。

短い時間だがクリスと共に生活するなかでどれだけ悪態を吐き凄んでも彼女が本当は優しい人だという事をソウゴは理解していた。だからこそ両親が大嫌いだなんて言葉を言ってほしくなかった、彼女は両親のことを本当は大切に想っているのだからと。

 

ジオウの言葉に何か思うことがあったのかクリスは俯いて黙り込んでしまった。そんな二人の様子を見て弦十郎は驚きながらも二人は何か深い関わり合いがあるのかと密かに思考していた。

 

その時なぜか一人の青年の顔が脳裏に思い浮かんだがまさかなと思いながらその思考は切り捨てた。

 

それから邸宅内部を隅々まで捜索したがコンピュータなどの機材からは情報が消去されていた事によりこれと言った収穫はあらず弦十郎と黒服たちは撤収の準備をしていた。

 

「未確認二号……いや、ジオウ。俺の部下を守ってくれた事、感謝する」

 

弦十郎はジオウに向き直ると深く頭を下げて感謝の言葉を述べた。

 

「感謝されるような事はしてないよ。だからアンタが俺に頭を下げる必要なんてない、俺がやりたくてやっただけの事だから」

 

「それでもだ。君が俺の部下を救ってくれた事には変わりはない」

 

「え、ど、どういたしまして……?」

 

姿勢を正して真剣な声音でそう告げる弦十郎。面と向かって感謝される事にあまり慣れていないジオウはどもりながらもなんとか言葉を返していた。

 

数十秒程、頭を下げていた弦十郎が顔を上げるとジオウとクリスを見つめて口を開いた。

 

「ここ最近の一連の事件の黒幕、俺たちの目的は同じ筈だ。君たちの力が借りたい、俺たちと共に戦ってくれないか?」

 

「なっ……今まで戦ってきた相手と手を組もうってのかよ」

 

弦十郎の申し出にクリスは目を見開いて動揺を露わにする。

 

どうだろうか、と弦十郎の言葉にクリスは悩むように視線を行き来させた後答えを求めるかのようにジオウを見上げた後ゆっくりと口を開いた。

 

「……悪い。アタシはまだそこまで気持ちの整理がついてない」

 

「なに、急かしはしないさ。ゆっくり考えてくれ」

 

弦十郎は申し訳なさそうに顔を伏せるクリスから視線を外してジオウへと視線を向ける。

 

「ごめん無理」

 

「そ、そうか、わかった。ならばその時にまた」

 

ジオウの率直な返答に僅かに吃ったが、二人の返答を予想していたのか大して堪えた様子はなく。弦十郎は気にしていないかのように明るく笑みを浮かべて用意してあった車の方へと戻っていく。

 

その時顔を伏せていたクリスが顔を上げると大きな声で弦十郎を呼び止めた。

 

「──カ・ディンギル!」

 

「……ん?」

 

「フィーネが言ってた。そいつが何んなのかはわからないけど、それはもう完成しているみたいなことを……」

 

「カ・ディンギル、情報感謝する。ああ、それと……ほれ」

 

派手な色の車に乗り込んだ弦十郎が車の窓から腕を伸ばして通信端末をクリスに投げ渡した。ジオウにも投げ渡そうとしたがジオウはそれを軽く手で制した。

 

「これ、通信機……」

 

「そうだ。限度額内なら交通機関も利用できるし自販機で買い物もできる代物だ、もっておけ便利だぞ。それとこれは独り言だが金銭面でも生活面でもあまり時計店の彼に迷惑は掛けるなよ……さて後手に回るのはもう終いだ」

 

そういうと弦十郎は先ほどの独り言の意味を理解して固まっているクリスの様子に頬を僅かに緩ませた後、車のアクセルを踏み込み土煙を舞い上がらせながら勢いよく発進した。

 

それに続くように黒服たちの乗り込んだ車も発進していく。遠ざかっていく車の後姿を固まったままのクリスと呑気に手を振っているジオウが見送っていた。

 

「今更だけど、限度額以内まで使えるんだったら受け取ってもよかったかも……」

 

「……な、なんで」

 

通信機を受け取っておけばよかったとぼやいているジオウの隣で固まっていたクリスが再起動するとジオウの肩に掴みかかりガクガクと揺らしながら唾を飛ばす勢いで捲し立てた。

 

「なんで、あの、おっさんが、アタシがアンタのところの時計店に身を潜めてる事を知ってるんだよ! 言え! 正直に言え! どうせアンタが原因だろ!?」

 

時計店から外に出る時も二課の人間に見つからないように変装して尾行されていないか周囲の人間にも警戒していたクリス。

 

私用で外出する機会も少なく時計店にいる時間のほうが長い、後をつけられていない自信だってあった。ならば考えられる原因は隣にいる魔王だけだ。

 

「いや、その……こないだの買い物の帰りに弦十郎さんに会ってその時に、色々と成り行きというか。てかそんなに強く揺らさないで首痛い」

 

「はああ!?」

 

そう伝えるとジオウの言葉にクリスが絶叫する。肩を掴む手には力がこもりガクガクと揺れる頭は更に加速する。

 

そんな彼女を何とか宥めながらオーロラカーテンを時計店の一室と繋げて帰還した。

 

 

 

 




原作に沿った展開でジオウ助太刀ルート、装者の見せ場を奪ってしまうが魔王ブチギレのフィーネ戦、今のところ2パターン考えてるけど悩む……あと関係ないけどシャイニングホッパーかっこいい。令ジェネも今月ですね。


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モブ厳な世界で狼煙は上がる。

 
お久しぶりです皆さん、わたしです。生きてました。

遅れた理由といいますか言い訳といいますか、忙しかった就活や面接、大学の論文その他諸々はだいぶ前に片付いていたのですが。色々と激闘続きで状況が落ち着いてからはやり切った感といいますか燃え尽き症候群といいますか、それに近い状態になっており執筆に手が付けられませんでした、すいません。

久しぶりの執筆でも色々と手間取り難航してしまいました、感覚を戻しながら投稿再開していきたいと思います。






そして最後に一言、メタルクラスタホッパーかっこいいよね。




 

──けたたましく鳴り響く警報音が空気を震わせる。

 

市街地上空に六体の超大型の飛行ノイズが同時に出現。超大型ノイズの姿を確認した住民たちは悲鳴を上げながら先へ先へと一心不乱逃げ惑う。

 

東京スカイタワーを囲うようにゆっくりと飛行する超大型ノイズ、その超大型ノイズの背や腹に存在する排出口のような穴から次々と無数のノイズたちが降り注ぐ雨のように地上へと生み落とされていく。

 

「ふっ! たぁ!……もうっ! 数が、多いっ!」

 

住民たちを避難させ終え、シンフォギアを身に纏った響の攻撃がノイズを捉えて貫き炭素化させ消滅させるが響が一体、二体とノイズを倒す間に次々とノイズが生み出されていく。

 

市街地上空に出現した超大型ノイズ、その六体の内の一体は既に響が撃退している。二課の用意したヘリに乗り込み現場へと到着した際にヘリの高度を上げて超大型ノイズの頭上へと移動、ヘリから飛び降りながらシンフォギアを纏った響は強力な一撃を叩き込み超大型ノイズを消滅させた。

 

しかし消滅させられたのはその一体だけ。空中にいる敵への攻撃手段を持たない響は超大型ノイズに対して文字通り手が出せずにいた。自分が乗って来たヘリを利用して再び空へ飛び上がろうにも周囲のノイズがそれを許さない。

 

次々と生み出されていくノイズを素早く消滅させてどうにか数を減らしていると背後から低く唸るエンジン音が聞こえて来た。

 

「おーい、響!」

 

「遅れてすまない!」

 

「奏さん! 翼さん!」

 

バイクに乗って此方に向かってくる翼と奏が少し遅れて現場に到着した。バイクを運転する翼は勢いを弱めずに更に加速する、速度が増して突っ込んでくる翼のバイクを見て響はまさか、となんだか嫌な予感がして顔をが引き攣った。

 

「奏!」

 

「ああ!……ん、え?」

 

翼はバイクのハンドルから手を離すと勢いよく跳び上がる、それを見た奏が慌てた様子で翼に続くようにバイクから跳び降りた。二人はシンフォギアを起動させてギアを纏いながら滑るように地面に着地する。

 

運転手がいなくなり無人機となったまま更に加速してノイズに突っ込んで行く大型バイク。

 

「ちょ、ああー!……バイクゥ〜」

 

バイクはバランスを保ちながらノイズの集団に勢い良く衝突して爆発四散、爆炎を上げながら無残な姿へと形を変えてしまったバイクを目撃して思わず響は声が漏れた。

 

そしてなぜかやりきった感のある表情を浮かべている翼、そんな翼に奏は背後から容赦無く鋭い膝カックンを叩き込んだ。完全に不意を突かれた翼はそのまま膝から崩れ落ちる。

 

「き、急になにするの奏!?」

 

「いやそれこっちのセリフだから。飛び降りるなら前もって言っておいてくれないと普通に困るから。翼が飛び降りた時、一瞬どうすればいいかわからなかったぞあたし。というかなんで飛び降りたのさ」

 

「い、いやそれは前に叔父様からオススメされた映画ではこう……」

 

「原因は旦那かよ……」

 

捲し立てるような奏の様子に翼は少し戸惑う様に白状する。翼がバイクを大破させるのはこれが初めてでは無い、今まで何台ものバイクが犠牲になってきたがその元凶が翼の叔父であり特異災害対策機動部二課の司令官である弦十郎だと知り奏は呆れた様にため息を吐いた。

 

風鳴 弦十郎、響に戦闘技術を教え込んだ男。趣味は映画鑑賞、その中でもアクション映画を好んでおり彼が弟子の響だけではなく翼にまで変な影響を与えていた事に奏は頭を痛める。

 

「と、とりあえず。吹き飛んだ翼さんのバイクの事は一旦置いておきましょう! それよりも今は空にいるノイズを何とかしないと!」

 

「そ、そうだな立花!」

 

なんだか小さな子供が叱られているようでそれを見兼ねた響が話題を変える様にさり気なく助け船を出す。翼は響のフォローに感謝しつつアームドギアの刀を構えてノイズへと向き直った、ジッと突き刺す様な奏の視線に気がつかないフリをしながら。

 

そんな翼の様子にもう一度ため息を吐いてから奏もアームドギアを出現させて構えた。

 

合流した装者三人、しかし状況が大きく変化したとは言えなかった。響、翼、奏、この三人は接近戦闘を得意としている。響を除き翼と奏、ツヴァイウィングの二人は遠距離の敵に対しての攻撃手段がない訳でない。

 

「ハアッ!」

 

「フッ!」

 

刀の形状を大きく変化させた翼が放つ巨大な斬撃『蒼ノ一閃』、それに合わせるように奏が放投擲した槍を大量複製して広範囲の相手を貫く『STARDUST∞FOTON』。

 

超大型ノイズに向けて地上からは巨大な斬撃が迫り、空中からは大量の槍が降り注ぐ。どちらの技も超大型ノイズを消滅させるには十分な威力を持った強力な一撃。

 

「ッ……やり難い」

 

しかしその攻撃は防がれた。

 

奏が睨む先には無傷の超大型ノイズ。超大型ノイズから生み出された飛行型ノイズの大群が周囲を旋回して超大型ノイズを守るように壁となり二人の攻撃を防いだのだ。

 

「なら、もう一度……っ!」

 

翼は形状の変化した大きな刀を構えてもう一撃繰り出そうと構える。その行動を妨害するかのように散らばった瓦礫の影に潜んでいたノイズが翼の背後を狙い飛び出してくる。

 

空中の超大型ノイズに意識が向いていた翼は反応が遅れるがノイズが攻撃するよりも早く動き出した響がノイズを殴り飛ばして消滅させた。

 

「すまない立花っ!」

 

「翼さん! 数が多いですから、気をつけてください!」

 

三人は連携して隙を埋めるようにカバーし合いながら地上と空中から次々と現れるノイズを消滅させていくが次第に追い込まれていってしまう。

 

どれだけの数のノイズを蹴散らそうと空中に存在する超大型ノイズがノイズを生み出して減った数を直ぐ様補充していくのだ、超大型ノイズをどうにかしない限りは状況は変わらない。

 

自分たちを囲うようにノイズの数が増えていくジリ貧とも言える状況に響の焦りが募っていく。

 

その結果、大きな隙を生んでしまった。素早く動きながら拳と蹴りを駆使して立ち回っていた響だが募る焦りから次の攻撃に映る瞬間、脚を踏み外してしまったのだ。

 

体勢が崩れた。

ノイズが目前に迫る。

 

回避もカバーも間に合わないと判断した響はせめてもと防御体勢を整えようとするがそれも間に合わない。数秒後に訪れるであろう衝撃に備えて響は歯を食いしばり身体を強張らせた。

 

「……へっ?」

 

そして目の前のノイズが一瞬で穴だらけの蜂の巣と化して消滅した。

 

いきなりの状況で響は思わず変な声が出たが今の攻撃には見覚えがあった、というかありすぎた。ノイズを一瞬で蜂の巣にした攻撃が飛んできた方向には大きな銃と見なられた赤い鎧を身に纏った少女がいた。

 

「……クリスちゃん!?」

 

目の前に現れたクリスの存在に今の状況を理解するのに時間が掛かった響だが自分がクリスに助けられたと理解すると嬉しそうに表情を綻ばせた。

 

「変な勘違いはするなよ……別にお前たちを助けに来たわけじゃ…「クリスちゃーん!」うわぁ!? く、くっつくなこのバカ!」

 

不適な笑みを浮かべながらそう言ったクリスだが急に抱きついてきた響によってその表情は一瞬で崩された。グイグイと力を込めて抱きついてくる響を何とか引き剥がそうとするクリスだが思いのほか響の力が強く手こずっている。

 

「来てくれてありがとうクリスちゃん! 助かったよー!」

 

「話を、聞いて、なかったのかお前はッ! 偶々目的が同じだけでお前らの助っ人に来たわけじゃ!」

 

『いいや、彼女は助っ人だ』

 

「叔父様?……助っ人とは一体どういう事ですか?」

 

クリスの登場に警戒していた翼だがクリスの持つ通信機から流れてきた弦十郎の言葉に怪訝そうに眉を顰めた。

 

『彼女“たち”に協力を頼んだら快く承諾してくれてな、助っ人に来てもらったんだ』

 

「な!? ちが、別にアタシは快くなんか、通信機とアイツが喧しいから来ただけで別にそんなんじゃ……」

 

「……“たち”? “アイツ”?」

 

『ああ、もう一人。連絡が届いているのなら彼も到着している筈だ』

 

<フィニッシュタイム! タイムブレーク!>

 

クリスと弦十郎の言葉に奏が唸っていると空中の超大型ノイズの一体が弾けるように爆散して消滅した。爆発と共に発生した突風から身を守るようにしていると爆煙の中から飛び出してきた黒い影が響の横に勢い良く着地した。

 

「……え、えええ!? ジオウさん!?

 

「み、未確認!?」

 

「あ、どうも。助っ人です」

 

爆煙の中から現れた人物の姿を確認した響と翼は驚き、奏は二人程ではないにしろ小さく驚きジオウの登場の仕方にピューと口笛を鳴らしている。そしてジオウはそんな彼女たちに親しい友人に接するかのように片手を上げて挨拶をしていた。

 

そんなジオウの軽そうな態度にクリスは一人頭を抱えてため息をついていた。

 

クリスから離れた響はジオウに近づいていき話かけようとしたが、それをジオウが手を前に突き出して止めた。

 

「積もる話もあるかもしれないけど、それは後でにしよう。あっちはもう待てないみたいだし」

 

「え……なるほど。了解です! お話はまた後でにしましょう! あ、それまで勝手にどこか行ったりしないでくださいね!約束ですからね!」

 

ジオウの視線の先には超大型ノイズから生み出されたノイズの大群、その大群がゆっくりと波のように迫って来ていた。それに気がついた響も気持ちを切り替えて拳を構えた。響からちゃっかり釘を刺されたジオウは仮面の中で苦笑いする。

 

「……色々と問い詰めたい事はあるが、今は取り敢えず地上のノイズを殲滅しつつ連係しながら空中のノイズを」

 

「──それはアンタらで勝手にやってな。アタシはアタシで好きにやらせてもらう」

 

「ちょ、おい!」

 

お互いの動きの確認を取り作戦を立てようとした翼だがクリスがそれを中断させた。ボウガンを構えたクリスが飛行型ノイズを撃ち抜くとそのまま飛び出して行った。奏の制止の声も届かない。

 

クリスはアームドギアの形状をボウガン、サブマシンガン、ガトリングと様々な形状に変化させながら次々とノイズを消滅させていく。

 

「はあ……とりあえず、空中のノイズはあの子に任せて私たちは地上のノイズを片付けましょう」

 

ネフシュタンの鎧を纏った時のクリスとシンフォギアを纏った時のクリス、その両方と戦ったことのある翼は何かあれば動けるようにしながらもクリスの実力なら任せても問題はないと判断して戦闘を再開する。

 

「クリスちゃん……」

 

響は一人離れていくクリスの後ろ姿を心配そうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん。まずは上の奴を片付けないとダメだな」

 

自分の戦闘に巻き込まないようにと装者たちから少し離れた場所で戦っていたジオウは地上にいるノイズの相手をしながら上空を見上げてポツリと呟いた。

 

上空にはまだ五体の超大型ノイズが存在している。次から次へとノイズを生み出す超大型ノイズを先にどうにかしないとダメだと判断したジオウは鉤爪を構えて接近してきたノイズを蹴り飛ばしてから他のノイズとも距離を取った後、ライドウォッチホルダーから一つライドウォッチを取り外した。

 

「じゃあ……これで行こうかなっ!」

 

片手でベゼルを回転させてからスイッチを押し込み起動させる。

 

<ウィザード!>

 

起動させ光を放つライドウォッチをドライバー左側のスロット、『D'3スロット』に装填しベルト上部のスイッチを押し込みロックを解除して『ジクウサーキュラー』を勢い良く回転させる。

 

<ライダータイム! 仮面ライダー! ジオウ!>

 

<アーマータイム!>

 

ジオウの頭上に巨大な赤い魔方陣が浮かび上がり出現する。魔法陣がジオウに被さるようにゆっくりと近づいてくる。

 

高度を落としジオウに重なった魔法陣が赤い魔力の炎を迸らせながら開くように変形してゆきアーマーを形成していく。

 

<プリーズ! ウィザード!>

 

胸部には鋭く睨みつけるようなドラゴンの顔の意匠が施されたボディアーマー『ストライクブレスター』。両肩にはフレイムウィザードリングを模した装甲『フレイムリングショルダー』。

 

全身にアーマーが装着されると最後に形状を変えて開いた魔法陣が布に変化しマントのように背に垂れ、腰には黒いウィザードコートが形成された。

 

ジオウ頭部のライダーの文字を輝かせていたインジケーションアイがカタカナのウィザードへと変化して全身から火の粉を散らし変身が完了した。

 

「さあ、マジックショーの始まりだっ!」

 

手の甲を向けるように構えるジオウに鉤爪を構えたノイズが再び接近する。ジオウはその攻撃を少ない動作で華麗に回避すると徒手空拳で対応。

 

鉤爪の攻撃を素早く適格に捌いていき、ウィザードコートを靡かせながら回し蹴りを連続で叩き込みノイズを吹き飛ばし消滅させる。

 

<ジカンギレード! ジュウ!>

 

出現させた銃状態のジカンギレードを構えノイズに発射する。

 

ジカンギレードの銃口から放たれた“銀の銃弾”は意思を持つかのように縦横無尽に空を舞いながらノイズへと向かっていき炸裂する。

 

「じゃあ、お次はっと」

 

ジオウが右手に構えるジカンギレードに赤い魔法陣が展開され包み込むと左手に魔法陣が出現し“もう一つのジカンギレードが複製された“。

 

<ケン!>

 

「ふっ!せいっ!」

 

剣状態へと変化させた片方のジカンギレードを手元でクルクルと回転させノイズへと斬りかかり、冷気を纏った斬撃はノイズを瞬時に凍てつかせる。ジオウは氷塊とかしたノイズを撃ち砕きながらノイズの大群を蹴散らしていく。

 

上空から飛行型ノイズが隙を見せたジオウの背後を狙い特攻を仕掛けるがジオウはそれを振り返らず、落ち着いた様子で地面を爪先で叩くとジオウを守るかのように地面の一部が隆起して盾となった。

 

ノイズの攻撃を防いだジオウは岩の盾に埋まったノイズを盾諸共蹴り砕き消滅させる。

 

「フィナーレだ、上の奴にはご退場と願おうか」

 

複製したジカンギレードを無造作に放り投げる、剣は斜線を描きながら飛んで行き乾いた音を立てながら地面に転がり魔力の塵となって消えた。

 

ドライバーのスロットから引き抜いたウィザードライドウォッチをジカンギレードのスロットに装填。

 

ジカンギレードを掲げて振り回し回転させると瞬く間に刀身が伸びるように巨大化していき最終的には周囲の建築物を越えるほどの大きさまで巨大化した。

 

ジオウは巨大化したジカンギレードをその重さを感じさせないかのように軽々と扱うと空中で飛行している超大型ノイズ目掛けて振り下ろす。

 

<ウィザード! ギリギリスラッシュ!>

 

迫りくる巨大な刃に気がついた超大型ノイズは回避しようとノイズを生み出しながら加速して旋回する、が超大型ノイズの周りに出現した魔法陣がそれを許さない。

 

出現した魔法陣から伸びてきた何本もの鎖が超大型ノイズを拘束して動きを止める。超大型ノイズが鎖を振り解こうと捥がくが鎖は更にキツく締め上げるだっけだった。

 

「おおおっ!」

 

巨大な斬撃が超大型ノイズを両断する。

ジオウはノイズの撃破を確認すると巨大化した刃が地面に激突して何か被害が出る前に巨大化を解除して安堵のため息を吐いた。

 

「すごいな。まだそんな隠し玉があるのか、あんた」

 

「ふぅ。まあね……そっちはもう片付いたの?」

 

地上のノイズをあらかた片付け合流しようとした奏はジオウの今の攻撃を唖然としながら見上げていた。

 

ジオウは奏から一度視線を外すと銃撃音が鳴り響いている。方向を静かに見つめた。

 

「……雪音クリスが気になるのか?」

 

「……少しだけ。まあ彼女の事は響に任せてるし大丈夫だと思うけど、今は俺よりもあの子に任せた方がいい筈だからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪音クリスは苛立ちを感じていた。

その苛立ちは引き金を引き絞り、湧いて出てくるノイズの大群をを蜂の巣に変えようとも晴れる事はなかった。

 

寧ろ苛立ちは募って行くばかりだった。

 

「くそッ!」

 

自分自身にも理解できない苛立ちにクリスは小さく舌打ちする。

 

市街地の至る所に分散しているノイズを撃破しながら駆け回る。上空の超大型ノイズを狙い撃とうとも周囲に展開されているノイズが盾となりそれを阻む。

 

攻撃を防御されたクリスは襲いかかって来る地上のノイズの相手をしながら次の狙撃場所へと移動する。

 

「なっ!」

 

「……っ!」

 

建築物の屋上から屋上へと飛び移り移動していたクリスだが地上でノイズの相手をしていた翼が目の前に飛び出して来た。

 

それを直前まで気がつく事の出来なかったクリスと翼は空中で勢い良く激突、落下しながらも体勢を整えて何とか着地する。

 

「ぐっ、どこ見てやがる! 足を引っ張るならすっこんでな!」

 

「なっ!? そういう貴女こそいい加減にして! 一人で戦ってるつもり?」

 

状況確認を怠りクリスの接近に気が付けなかった自分にも非があると判断した翼は素直に謝罪しようとしたがクリスの相手に噛みつくような態度に表情は硬くなり言葉が強くなった。

 

「つもりも何も、こっちは最初っからお前らと馴れ合うつもりは無いって言ってるだろ」

 

「……貴女ね、今の状況を理解してるの?」

 

「理解してるさ、この状況下でアタシ達が争う理由は無いのかも知れないが争わない理由もないだろ。そもそも、アタシたちはついこの間まで敵対して争ってたんだ。そう簡単に切り替えられるかよ、アンタだってそうだろう?」

 

「……っ」

 

そう言って口元を歪ませて笑みを浮かべるクリス。翼はその言葉に僅かに顔を顰めた。彼女の言う通り先日まで敵対していた相手と協力しているこの状況に思うことがないわけではなかった。

 

「だいたい、そんな簡単に人と人がっ」

 

「そんな事ないよクリスちゃん」

 

分かり合えるものか、自分の中に募っていた苛立ちをぶつけるように声を荒げそうになるクリスの言葉をいつの間にか近くにいた響が遮った。

 

彼女はクリスに近付くと装甲に包まれたその手を取りギュッと握りしめた。いきなりの事にクリスは驚きながら響の手を弾くように振り解き距離を取る。

 

「人はみんな誰とだって仲良くなれるよ、私とクリスちゃんが仲良くなれたみたいに」

 

「な!? アタシとお前がいつ仲良くなったっていうんだよ! だいたいアタシはフィーネに命令されてお前を狙ってたんだ、お前の友達だって傷付けようとしたんだぞ! なのにっ!」

 

「でもクリスちゃんはあの時、私のことを助けてくれたよね?」

 

響が思い出すのは奏と翼のツヴァイウィングのライブがあった日のことだ。

 

あの時は響がライブを中止させる訳にはいかないと一人で出撃しノイズの撃退にあたっていた、訓練により最初の頃と比べて各段に力を付けた響だがノイズの数の多さから一瞬危機的状況に陥ったが先に現場に到着しノイズの対処をしていたクリスに助けられたのだ。

 

クリス自身もあの時なぜノイズに囲まれていた響を助けたのかは理解出来ていないが彼女を助けたのは紛れもない事実だった。

 

「それはっ……」

 

「だから今度は私がクリスちゃんを助けたい、力になりたいんだ。」

 

「助けなんて、アタシは……」

 

そう言って響はもう一度クリスの手を握り包み込む。クリスは響の言葉に反発するかのように声を荒げようとしたが彼女の暖かく優しい笑顔に言葉を詰まらせ何も言えなくなってしまう。

 

「……なんで、お前はそこまでっ」

 

「後悔したくないし目の前で困ってる人がいるなら手を伸ばしたい、それだけだよ」

 

まあ、受け売りなんだけどね。そう言いながら笑う響の姿にクリスは自分がよく知る人物の面影を感じていた。

 

そして理解する、自分の中に募っていた苛立ちの正体を。敵対していた自分とも手を取り協力しようとする彼女達とは違い、こんな状況でも意地を張り素直になることが出来ない自分自身に対する苛立ちだと。

 

誰かの為にと行動して笑顔を浮かべる響の真っ直ぐな姿に理解させられた、自分は何をしているのだろうと。

 

「街の人達も助けたい、けど私たちだけじゃダメなんだ。だからクリスちゃんの力を貸してくれないかな?」

 

「……っ」

 

真っ直ぐにこちらを見つめる曇りのない綺麗な瞳。その瞳から目を逸らすことができず気がつけばクリスは響の手をゆっくりと握り返していた。それに気が付いた響は嬉しそうに顔を綻ばせて二人のやりとりを眺めていた翼の方へと振り返り手を伸ばした。

 

向けられた視線に気が付いた翼は一瞬驚いたような表情を浮かべた後にアームドギアを解除、伸ばされた響の手を取りもう片方の手をクリスへと差し伸べた。

 

「な、なんだ。アンタまでこのバカに当てられたのかよ……」

 

「……そうだと思う、それに貴女もきっと」

 

クリスは微笑みながら差し出された手をおっかなびっくりといった様子でゆっくりとつかみ取ると翼は嬉しそうに笑いながら強く優しく握りしめた。今目の前で起きている出来事にクリスは顔をリンゴのように赤くして恥ずかしそうに俯いてしまう。

 

「あのー、なんだかいい空気感のところ申し訳ないんだけど……」

 

「うひゃあああ!? 」

 

突然背後からヌッと伸びてきた影にクリスは驚き悲鳴を上げながら跳び上がる。

振り返った先にはどこからともなく現れたジオウが申し訳なさそうな様子で立っていた。

 

「な~にあたし抜きで楽しそうなことしてるのさ二人共」

 

「ちょ、奏急にくっつかないで」

 

「わわ、奏さん苦しいですって! というかジオウさん、また見た目変わってる」

 

翼と響の背後から現れた奏が愉快そうに笑いながら二人に抱き着いている。クリスは奏の様子に酔っ払いのおっさんかよなんて思いながらわちゃわちゃしている三人を尻目に横にいるジオウに意識を向けた。

 

「あ、アンタいつからそこにいたんだよっ……」

 

「うーん、少し前ぐらいかな」

 

奏と共にノイズを殲滅していたジオウだが空中の超大型ノイズが三人のいるスカイタワー周辺に集まり始めたのを確認してとどうせなら一度合流してしまおうという結論に至り三人のもとへ向かったのだが何やら揉めていたので事の成り行きを見守っていったのだ。

 

見られてたのかよ。クリスは先ほどまでの光景をガッツリ見られていたことに内心舌打ちしながら恥ずかしそうに顔を赤らめていると何かを思いつたジオウがまるで内緒話をするように手を口元にもあてながら呟いた。

 

「それと、よかったね。響たちと友達になれて……色々と響たちの事気にしてたでしょ?」

 

「なっ!? いちいちそういうことは口に出さないでいいんだよ!」

 

「いだぁ!? 急に蹴ることないでしょ」

 

ジオウの言葉にクリスは更に顔を赤くする。ジオウの声音から自分が揶揄われている事に気がつき恥ずかしさを紛らわせるようにジオウに蹴りつけるとグルルと獣のように唸りながら赤い顔でジオウを睨みつけた。

 

そんな彼女の様子に思わず仮面の下で苦笑いを浮かべていると周辺が暗くなった、上空を見上げれば超大型ノイズがこちらを見下ろすように飛行している。この場にいる五人が会話してる最中にも隠れながら数を増やしていたノイズがいつの間に取り囲まれていた。

 

「うひゃー、また増えてやがる」

 

「親玉をどうにかしないとキリがないわね……」

 

数を増していくノイズの姿に奏は面倒くさそうにに溜息を吐き、翼は予想される連戦に気を引き締めてアームドギアを構え直した。睨みつける先には超大型ノイズ、あのノイズをどう手を打つべきか思考しているとクリスがそんな二人の前に出た。

 

「ならその仕事はアタシに任せてもらおうか」

 

「……確かにその厳つい銃の攻撃ならノイズに届かないことはないだろうが、出来るのか?」

 

クリスは奏が口にした疑問をフンと鼻で笑い不敵な笑みを浮かべた。

 

「出来るね。アタシのイチイバルの特性は長射程広域攻撃、派手にぶっ放してやるさ」

 

クリスの提案した作戦の内容はこうだ。ギアの出力を引き上げながらも放出を抑え込み行き場のなくなったエネルギーを臨界までため込み一気に解き放ち上空のノイズにぶつけるという作戦だった。だがこの作戦には一つ欠点があった、エネルギーのチャージ中は無防備になってしまいこれだけの数のノイズを相手にする状況では丸裸も当然だった

 

しかし、

 

「なら私たちでクリスちゃんを守ればいいだけのことですね! 」

 

響の場違いなくらいな明るいその一言で作戦が決まった。

 

そこからは速かった、ギアのエネルギーをチャージするクリスに何かを感じ取ったのか周囲のノイズが一斉に襲い掛かってくるがそれをジオウが魔法陣から出現させた鎖で拘束し動きを止めるとそこに響、翼、

奏が攻撃を叩き込み確実に消滅させていった。

 

上空に存在した超大型ノイズは爆発的なエネルギーを秘めたクリスのギアから放たれた爆撃に文字道理、木端微塵になって消滅した。

 

「やったー! 勝てたよクリスちゃん! クリスちゃんのおかげだよ!」

 

「このバカ! やめろ抱き着くなって!」

 

「お疲れ様、体は大丈夫?」

 

「全然大したことないって、翼こそお疲れさん」

 

周囲のノイズの殲滅を確認した響たちはギアを解除すると勝利の喜びを分かち合っていた。そんな四人の様子をジオウ、ソウゴは微笑ましそうに眺めていた。今のクリスなら響たちと一緒にいても大丈夫だろう、そう判断してこっそりとこの場を離れようとしたとき。

 

突然ピリリと響の所有する通信機から電子音が鳴り響いた。

 

「はい、もしもし?」

 

通信相手は未来からだった、その名前を確認した響は少しうれしそうにいつもの様に通信に出た。

 

『響! 大変なの、学校がリディアンがノイズに襲われ──!』

 

「え……未来?」

 

通信はそこでブツリと途切れてしまった、あまりにも突然のことに事態に理解が追い付かず硬直してしまう響。周りには今の通信が聞こえていなかったのか様子の可笑しくなった響に不思議そうにしていた、固まった口を必死に動かし事態を伝えようとする。

 

次の瞬間、轟音が響き渡った。

 

「ジオウ、さん……?」

 

その衝撃で硬直の解けた響が振り向いた先には先ほどまでそこにいたジオウの姿が見当たらず力強く踏み込んでひび割れた地面だけが残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 
途中保存していた話を執筆再開した結果、どういう展開にしようとしていたのかど忘れし文字数が予想以上に長くなった上に後半から失速感が否めないそれが今回の15話。

ペースアップして感覚と文章力を取り戻していきたい……、取り戻すほど持ってたかはわからないけど。

本当は28日までに投稿したかったんですよね、なぜなら我が魔王の誕生日だから。


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