ありふれない時の王者と錬成の魔王は世界最強 (ZAIA1000%)
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原作開始は突然に

早くハイスクールD×Dの方だせ?
18禁はいつ出すんだ?
D×Dの方は書いてる途中なんで。しばらくお待ちを…
18禁の方は、主人公からのヒロインへの好感度が足りないのでまだ無理です。お待ちください。
では、どうぞ。


「……よく知る天井だ」

「人ん家で何言ってるのさ……」

 起床と同時にふざけたことを言った俺に、半眼でツッコミをいれてきたのは、俺の親友、南雲ハジメだ。

 ……この時点で察している人しかいないだろうが、俺はなぜかありふれた職業で世界最強の世界にいる。

 なんか知らんが目を覚ましたら赤ん坊になっていたせいで大号泣したのは今でもいい思い出だ。

 さて、そんな俺は今高校生。ありふれ原作開始はまだである。

「……やばくね?もうすぐ遅刻じゃん……」

「だから早く起きてってさっきから言ってたのに……早く着替えなよ……畑山先生に叱られるの、嫌なんでしょ?」

 畑山先生とは、あの愛ちゃん先生である。無論俺の目の前で未だ半眼で睨みつけているハジメ(覚醒前)のヒロインである。

 まぁこの世界のスポット当てられる女なんて、大体ハジメのヒロインなんだけどね。

 チートも何もなしに転生させられた俺氏は、リアルハジメハーレムを見るために生活していると言っても過言ではない。

 最悪の場合、俺は自殺して転生先をリセマラしたかもしれない。

「……嫌って言うかさぁ……なんだろうね、見ててほっこりしてると、いきなり涙目になるから……罪悪感やばいんだよな」

「……それが理由で怒られたくなかったの?……その上僕に起こしてもらおうと、わざわざ泊まりに来るのもどうかと思うけど……」

「ま、まぁそんなことはどうだっていいんだよ!!さっさと行こうぜ!」

「そのセリフ、本当はどちらが言うべきかしっかり考えてくれない?」

 くぅ~!耳が痛いねぇ~!

 ハジメの言葉を無視して、素早く家から飛び出る俺。そして俺を追いかけてくるハジメ。

 何だろう、いつもの構図過ぎて笑える。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ハジメ視点

 突然だけど、僕の親友の話をしよう。

 名前は常盤 時王(ときわ じおう)、中々のキラキラネームだが、本人はかなり気に入っているらしい。

 僕も最初聞いたとき、時王なんてすごい名前だなぁ……って思ったけど、今ではかっこいいと思っている。

 むしろハジメなんて名前よりよっぽどいい。変わってくれないかなー……

 と、そんなことはどうでもよくて。

 説明しようと考えていたら、もう教室についてしまった。

 ……この話はまた今度にしよう。

 今は教室内をうまく切り抜けることが最優先だ。

 チラッ、と隣の親友の顔を見ると、かなり嫌そうな顔をしている。

 ……それは学校の居心地がかなり悪いことが影響しているのだが……

 とにかく教室に入ってみたらわかる。

 時王が扉を開くと、女子からはかなり黄色い声が上がる。逆に男子からは異常なまでの舌打ちと、露骨な嫌がる態度を頂戴する。

 そんな時王の後ろから僕が入ると、男子ばかりか女子までも露骨に嫌がる態度を取り始める。

 あまり気にしないようにしながら歩いていると、いきなり後ろから小突かれる。

 それでバランスを崩して転びそうになるも、時王が支えてくれて何とか踏ん張る……これがモテる男たる所以か……

「よぉキモオタ共!今日も徹夜でエロゲですかぁ?」

「ぎゃははっ!まじかウケるんだけど!マジ信じらんねー!」

 何がウケるなのか、何が信じられないのかとかいろいろ言ってやりたいことはあるが、無視して席についた時王を見て、僕も倣って席につく。

 すると明らかに不機嫌そうにこちらを恫喝するかの如く声を荒げる四人組。

 それぞれ檜山大介、斎藤良樹、近藤礼一、中野信治だ。

「おい!無視すんなよお高くとまってんじゃねぇぞ!!」

「……朝から何でそんなに元気なんだお前ら……尊敬するわ」

 絶対思ってないな、とすぐに感じ取れるような気だるげな言い方で軽くあしらうように返答する時王。

 もちろん時王が尊敬するなんて思っていないばかりか寧ろ途轍もなく軽蔑しているということを察して、さらに不機嫌そうになる四人組。

 ……よくこの状況で煽れるよね……本当、すごいよ……

 なんで僕たちの風当たりがこんなに強いのか、その理由はある二人の少女にある。

「常盤くん、おはよう!今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ。……あ、南雲くんもおはよう!」

「お、おはよう……白崎さん……」

 白崎香織。僕たち二人に対する風当たりが強い原因その1であり、やけに僕たちに(主に時王)にフレンドリーに接してくれる数少ない人である。

 明らかに僕の事忘れてたよね、と言いそうになったがそこは堪えて、オドオドとだが挨拶する。

 するとどうだろう、クラスのみんなが放っていた殺気がさらにランクアップしたではないか。

 それでもなお鉄面皮(教室に入ってからずっと無表情)を貫いている時王は本当にすごいと思う。

「……眠い」

 訂正、ただ眠たかっただけのようだ。

「せ、せめて挨拶くらい返したらどうかな……?」

 まわりの男子たちの殺意がさらにレベルアップした(恐らく白崎さんに挨拶を返さなかったからだろう)せいで、意識が軽く飛んでいくところだった。

「はぁ……おはよう、白崎」

 目に見えて面倒くさそうに挨拶した時王だが、それに対してすごく嬉しそうな笑顔を浮かべた白崎さん。

 面倒くさそうな態度に、より一層殺気を強めてきたクラスメイト達。

 ……僕の胃にこれ以上穴を開けないでくれよ……

 そんな僕の心の声なんて知らないとばかりに、新たな爆弾が投下される。

「おはよう常盤君。今日も大変ね。南雲君もおはよう」

「香織、また二人の世話を焼いているのか?全く、香織は優しいな」

「全くだぜ、そんなやる気のない奴等にいくら言っても無駄だと思うがなぁ」

 順に八重樫雫、天之河光輝、坂上龍太郎である。

 まぁ先程爆弾と言ったことからわかるだろうが、これまたクラスのトップカーストである。

 八重樫さんは女子からも男子からもモテモテ(実際男女関係なく告白されているらしい。好きな人がいると言って断っているらしいけど……チラッ←時王を盗み見る)だ。

 天之河くんもモテモテで、流石に男からは告白されていないが、女子人気がすごい。

 つい最近までは、下駄箱の中から恋文の雪崩が出来上がっていたくらいだ。

 何故最近はそれがなくなったのか?簡単だ。彼女が出来たんだよ。天之河くんに。

 思い込みが激しいタイプの人だから、告白されるだけじゃ付き合わないだろうな……なんて思ってたけど……まさかね……

 坂上くんは、僕とかなり相反する熱血キャラで、時王は少しだけ認めてるらしいけど(何があったのだろうか)僕に対する態度は、その辺の石に対してよりもかなり冷たいものになっている。

「お、おはよう……」

 後に言葉は続かせない。下手に何か言おうものなら、彼らの過激なファンに体育館裏で抹殺されてしまう。

「……おはよう。なぁ天之河、彼女はどうした?」

「ん?あぁ、恵里なら鈴と向こうで話してるけど?」

「そ、ならいいけど」

 恵里、とは中村恵里の事で、鈴、とは谷口鈴の事だ。

 先程の会話からわかる通り、天之河くんと中村さんは付き合っている。

 俗に言う僕っ娘というやつで、正直最初二人が付き合う事を知ったときはかなり意外だった。

 もっと違うタイプの娘と付き合うのかなぁ……って思ってた。

「ほら、早くお前らも席戻ったほうがいいぞ」

「あ……じゃあまた後でね」

 時王と別れるのが惜しいのか、悲しげな顔をした白崎さん。

 もうおわかりだろう。白崎さんは時王が好きだ……ろうと思う。

 ついでに言うならば八重樫さんも時王が好きだと思う。

 ていうか二人共絶対好きだ。時王のことが。

 一体全体何があったんだろうね。

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 時王side

 ……昼休み、昼食の時間だ!飯の在りかを言え!

 カバンの中です!サー!

 蓋を開けて中を確認すると、そこには我が国日本の国旗を彷彿とさせる日の丸g

「……ハジメ、今見間違いじゃなかったら、俺の弁当の中身は日の丸だったような気がするんだが……?」

「……それは君の親に言ったらどうかな?そして日の丸弁当にされるようなことをした君の生活を振り返ってみた方がいいと思うよ」

「中々の毒舌ぅ……な、なぁハジメさんや、あんたの今日の昼飯は……?」

「分けてほしいなら別の人に頼んだ方がいいよ。僕はこのゼリーで終わりだからね」

 そう言うとハジメは無情にも俺の目の前でゼリーを一気に飲み干した。

 ついでにイイ笑顔まで浮かべて。

「……こ、この薄情者!」

「君にはまだ梅干しが残ってるじゃないか」

「俺は梅干しが苦手なんだよ!!」

「なら米だけでいいじゃん」

「……それを言うか?普通」

「言う」

 あぁ無情。

 俺の親友は何故こんなにも俺に手厳しいのだ。

「ねぇ常盤くん。もしおかずが無いなら分けてあげようか?」

 白崎が俺に弁当のおかずを分けようかと話しかけてきた。

 本来なら、ハジメハーレムのヤンデレ担当かよ、ペッ!とか言う感じに軽くあしらって終わりなんだが……

「あなたが神か」

「か、神だなんて……もぉ~」

「時王、飯さえあれば何でもいいのかい?」

 ハジメが呆れている気がするが、そこは気にしない。

「おいおい常盤……香織が困ってるだろ?」

 悪いがそんな風には見えないぞ天之河。

 話しかけてきた天之河を軽く無視して、白崎から飯を分けてもらうことにする。

 その瞬間、教室の床に魔法陣が現れた。

 動揺するクラスメイト達に、いまだに教室にいた愛ちゃん先生が、「皆!教室から出て!」と叫んだが時すでに遅し。

 光はより一層輝きをまし、そして……




主人公はこの話が始まる前から原作を改変しています。
まぁその話は追々やっていきます。


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すごく趣味の悪いエヒト絵。焼き払いたい(主人公談)

説明回。
先に謝ります。
イシュタルのセリフは書くのが面倒だったのでコピペです。
本当イシュタル嫌い(ただの悪口)


「……ハジメ、いい加減目を開けたらどうだ?」

「……?」

 俺の足元でうずくまって目を固く閉じていたハジメに声をかけると、首をかしげながらゆっくりと立ち上がった。

「……ここ、何処だろう……?」

「トータs……いや、何処だろうな。ただ……ここがなんか趣味悪いところだとは思うが」

 特にこのエヒト絵とかな。

 心の中で付け足しながら、改めて周囲を確認する。

 ……やっぱこれ、原作開始のところか……

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 金色の刺繍がついた、趣味の悪い服を着た神官らしき人達の中から俺達の方にやってきた爺さんが、名乗りを上げ、頭を下げる。

 ……詐欺師だろうがアンタは。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ハジメside

 僕たちは今、イシュタルと名乗った老人に連れられて、大広間にやってきた。

 恐らく晩餐会とかを行う場所だろうと思われる。

 僕たち全員が椅子に座った所で、タイミングよくメイドがカートを押して入ってきた。

 まさかの生メイドである。

 もちろん理想を体現したかのようなメイドに男子たちの視線は釘付けだった。

 時王はどんな反応を……と思って時王の方を見てみると、なんか顔色悪くして震えていた。

 時王の視線の先を見て、僕も後悔した。

 時王の視線の先には、ハイライトを消した、深淵のような瞳で時王を見つめる白崎さんがいた。

 ご丁寧にメイドから差し出されたコップに亀裂がはしるくらいの握力で握りしめながら。

 そのくせとてもイイ笑顔だった。

 ……早くこの時間が終わればいいのに。

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 丁度いいタイミングで、イシュタルさんが話を始めた。

 だが、その語り始められた話はテンプレもテンプレ。そのくせ身勝手なものだった。

 要約すると、どうやらこの世界はトータスと呼ばれているらしく(先程時王がここの事をトータスと言っていた気がするが……)、人間族、魔人族、亜人族の三種族が存在し、人間族は北一帯を、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は巨大な樹海でひっそり生活してるらしい。

 その中の人間族と魔人族は何百年も戦争をしており、その勢力はずっと拮抗していたらしい。

 人間族は数で、魔人族は個の強さで互いを凌駕していたが、魔人族が魔物を使役することができるようになってからは人間族は滅ぶかに思われていた。

 だがそこで人間族に優しく手を差し伸べたのが……

「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 エヒト様、というのは、この世界の宗教における神の事で、その宗教はこの世界の人間族の役九十九パーセントが信仰しているらしい。

 ……はい、怪しいの確定……

 まずイシュタルさんの今の顔を見てみよう。

 恍惚として、「あぁ……エヒト様…」なんて呟いている。

 麻薬でも使ってるのかな?と疑ってしまいそうになるが、周りの従者は信託を受けれるなんて羨ましいと言わんばかりの視線を向けるばかりで、おかしいとは微塵も思っていない様子。

 時王の方を見たら、あからさまに嫌悪感を滲み出している瞳で睨みつけていた。

 わかるよその気持ち。

「ふざけないでください!この子たちを戦争だなんて危険なものに巻き込もうとしないでください!大体何ですか無理矢理連れてきて!あなた達を誘拐で訴えますよ!親御さんたちも心配しているはずです!早く帰してくださいよ!」

 愛子先生が小さな体を大きく動かして大反対する。

 だが、クラスのみんなは「愛ちゃんが頑張ってる……」程度にほっこりしているだけで、イシュタルさん(さん付けは嫌だが)に至ってはあからさまな軽蔑感を瞳の奥に湛えて(エヒト様に選ばれたのに何故喜ばない……?と言った感じ)畑山先生を睥睨して、とんでもないことを宣った。

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 知 っ て た。

 これくらいはテンプレ過ぎて大体わかってた。

 絶対そうだろうなぁーって思ってたもん。

 だが、みんなはそんな事露ほどにも考えてなかったのか信じられないと叫びだす。

 時王はうるさそうに耳をふさいでいる。

 やっぱり時王も帰れないことは察してたんだ。

「不可能って……何でですか!?喚んだのは貴方たちでしょう!?」

 愛子先生の叫びに、表面上だけ申し訳なさそうにしながら、

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

 とイシュタルさんは言ってのけた。

 まぁ普通そうだろう。最近の異世界もの小説なんて大体そんな感じだし。

 イシュタルさんの言葉に、いよいよ本格的にパニック状態に陥り始めたクラスメイト達だったが、ある一人の一言により状況が一転する。

 そう、天之河くんの一言である。

「皆、イシュタルさんに何を言っても意味は無いよ……俺は戦おうと思う。この世界の人の危機を放っておくなんてできないし、それにもし戦いを終わらせたら、元の世界に帰れるかもしれないじゃないか。元々俺たちはこの世界の人達の救済のために召喚されたんだから……そうですよね、イシュタルさん」

「えぇ……エヒト様も使命を果たした後の勇者様の頼みならば無下にすることもないでしょう」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 歯をキラリと輝かせながらサムズアップした天之河くんに、男子はやるぞぉ!的な声を上げ、女子はほとんどが熱っぽい視線で天之河くんを見ていた。

「へへっ、お前がやるなら俺もやるぜ」

「龍太郎……」

「もう……あなた達だけにやらせるわけにもいかないじゃない……」

「雫……」

「し、雫ちゃんがやるなら私もやるよ!」

「香織も……」

 全員が戦争に参加しますオーラを出したところで、イシュタルさんがみんなに向かって声をかけた。

「ありがとうございます!ではこれから国王の元まで皆様を案内させていただくので、こちらについてきてください」

 ……どうやら、まだ何かあるようだ。

 怪しすぎるよ…




ハジメ君は、原作と性格が少しばかり違うのですが、それは後々大きく関わってきますのでお楽しみに。


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ステータスプレート(タイトルもパクったとか言わない)

書いたので投稿します。
不定期に亀更新なので、根気よく(面白いと思った方は)見てくれれば嬉しいです。


 時王side

 原作通り、戦争に参加することになった。

 すごく嫌です。

 で、なんやかんやあって国王のところに行こう的な流れが出来たので、今イシュタルに連れられてロープウェイ的な魔法で下山し、聖教教会から王宮へと向かっている。

 ……みんなこの程度で騒ぐなよ……これだってただの演出みたいなもんだし。ていうかハジメの愉快な仲間たちに焼き払われるし。

 長ったらしい演出とかを説明する気は毛頭ないので割愛。

 国王的なおじさんがなんか言ってたね。おしまい。でいいと思う。

「時王、どう思う?」

「何がだ?」

「今日の事全部」

「胡散臭い面倒くさい関わりたくない。以上!」

「だーよねー!」

「「アハハハハハ!!」」

 天蓋付きのベッドのある部屋で、俺とハジメは笑い合った。

 それはもう、隣の部屋に誰かいたら説教しに来るだろうなぁというくらいに。

「もう終わってるよねこの国。もしくはこの世界」

「ほんとそれな。俺なんてイシュタルの手に国王がキスした時なんてもう絶望しすぎて白目剥いちゃったよ」

「それは誇張表現過ぎるよ時王〜」

「「あははは!!」」

 ある程度笑い合って、明日も何とか乗り切ろうぜ的な会話をしてベッドに入る。

 ……寝心地いいなぁ……でも自宅のトゥルース●ーパーの方がいいなぁ……

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 翌日。

 早速訓練とか座学とか始まった。

 

『まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

 騎士団長が訓練に付きっきりでいいのかとも思ったが(思ってない)、対外的にも対内的にも〝勇者様一行〟を半端な者に預けるわけにはいかないということらしい。

 メルド団長本人も、「むしろ面倒な雑事を副長(副団長のこと)に押し付ける理由ができて助かった!」と豪快に笑っていたくらいだから大丈夫なのだろう。もっとも、副長さんは大丈夫ではないかもしれないが……

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 非常に気楽な喋り方をするメルド。彼は豪放磊落な性格で、「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告するくらいだった』

 

 ……原作の文章を持ってきて少しだけ弄ったが、要約するとこれから例のステータスプレート事件(ハジメが馬鹿にされる事件)が始まるということだ。

 ん?さっきからお前の説明はわかりにくい?そんなに言うならありふれのアニメ見てみろよ。……見た?ならアニメの端折り方と俺の説明放棄、どっちの方がマシよ?

 ……それはさておき。

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」

 メルド団長の言葉に首をかしげる天之河。

 その疑問にしっかりと答えてあげるメルド団長優しいなぁ……と思っていたら、なんかみんなプレートに血を塗りたくり始めてた。

 説明終わるの早くね?

 流石に何もしないのは駄目だろうということで、針を指の腹に刺し、プレートに擦りつける。

 こういうのって触るだけでどうのこうのとか無いのかなぁ、って心から思う。

 お、ステータスが出てきた。

============================================

 常盤時王 17歳 レベル:1

 天職:【閲覧不可】

 筋力:15

 体力:15

 耐性:15

 敏捷:15

 魔力:15

 魔耐:15

 技能:【閲覧不可】・言語理解

============================================

 ……うっそだろお前なんだよ【閲覧不可】って。

 これじゃハジメと一緒に檜山と不愉快な仲間たちにいじめられるじゃないか。

 ……全力で抵抗しよう。

 なんか死んだ目になっていたら、ハジメが俺のところまで寄ってきた。

 どうやら俺のステータスが気になるらしい。

 それで見せてやると、少し嬉しそうな顔をしやがった。

 まさかお前俺より数字がでかいなんてこと……

============================================

 南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

 天職:錬成師

 筋力:10

 体力:10

 耐性:10

 敏捷:10

 魔力:10

 魔耐:10

 技能:錬成・言語理解

============================================

 なかった。

「……何で嬉しそうなんだよ」

「時王の数字も僕と似た感じだし……僕が特別低いわけじゃないのかなぁ……って」

「……それで、この世界の人間の平均は大体10くらいだ!まぁ異世界から来た勇者のお前らは100くらいいっててもおかしくはないな」

「……ぼ、僕たちもしかしてだけど……」

「いや明らかに微妙だろ。錬成師と【閲覧不可】だぞ?天職からして残念だろ」

「だ、だよねー……」

 メルド団長の言葉を聞いて、一気に顔色を悪くしたハジメ。

 俺はまぁ、こうなることは原作読破してるから知ってるし。

 アニメ版もしっかり見てるし、コミックスも……

 おっと、これはどうでもよかった。

 俺たちが話してるうちに、天之河のステータスがすごいすごい言われ終わったらしく、その後の数人も褒められたらしい。

 それでとうとう俺らの番になったのだが……

「よーし、次はハジメと……ジオウ……だっけ?変わった名前だな!はは!それでステータスは……あっ」

「何かを察したような反応はやめてください団長。今の俺達にはダメージがでかすぎる」

 先程までのすごいステータスと比べてかなり劣ったステータスを見たせいか、一気にテンションが下がるメルド団長。

 ……心が痛いよ。

「れ、錬成師は……まぁ、うん。鍛冶師になるやつの天職だな。鍛冶するときに便利だとか……それに時王の……なんだこれ?【閲覧不可】?これは……何ともいえん」

 物凄く微妙な顔をしながらステータスプレートを返却してきたメルド団長。

 心なしか瞳に憐憫が見られますがそれは……

「なんだよ南雲、常盤!錬成師に【閲覧不可】って!南雲なんて非戦闘職じゃねぇか!」

「【閲覧不可】とか何もわかんねぇじゃん!そんなんで戦う気かよ!!」

「錬成師ってすっげぇありきたりな天職じゃ無かったか?転移してきたくせに?」

 ……うざいなぁ……殴りたいなぁ……でも怒られるよなぁ……

 心を無にするために瞑想しようと思っていたら、俺の手の中からステータスプレートが抜き取られた。

「……ぷっ、ぎゃはははは!!オイオイ見ろよ!こいつ等ステータス低過ぎね?」

「うーわマジだ。これじゃ役立たずどころじゃねぇな!」

「お前らいらないわー。いるだけ無駄だわー、肉壁にすらならねえわー」

 ……人のやつ勝手に盗っておいて何を笑っているのだろうか。

 あまりにもムカついて殴り掛かりそうになったが、俺は良い人なのでそんなことはしなかった。

 無視に限るよアイツらなんて。

 キレてギャーギャー騒ぎ立てる檜山達を無視して、俺とハジメがお互いに哀れみ合っていると、我らが愛ちゃん先生がトテトテとこちらに歩み寄って、自分のステータスプレートを見せてきた。

「南雲君、常盤君。二人共気にすることはありませんよ! 先生だって非戦系? とかいう天職ですし、ステータスだってほとんど平均です。決して二人だけが低いわけじゃありませんからね!」

 そう言った愛ちゃん先生のステータスプレートには、こう書かれていた。

============================================

 畑山愛子 25歳 女 レベル:1

 天職:作農師

 筋力:5

 体力:10

 耐性:10

 敏捷:5

 魔力:100

 魔耐:10

 技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解

============================================

 はい原作通りの別ベクトルでチートな女神スペックの開示ありがとうございました!

 俺とハジメは微妙そうな顔(目はお互いに死んだ魚のような感じ)でお互いを見合うと、深いため息をついた。

「えっ、あれっ?どうしたんですか二人共?あれっ?あれぇ?」

 愛ちゃん先生のステータスに書かれている農業系のスキル等は、戦争時においてとても優遇されるものだろうことは一目しなくても瞭然。

 メルド団長も、愛ちゃん先生のステータスを見てかなり驚いている様子。

 ハハハッ、もしかしたら原作と違って愛ちゃん先生も弱いかもと期待したのが間違いでした。

 愛ちゃん先生のおかげでクラスの奴等からの嘲笑は無くなったが、俺達の傷は深いままだった。




主人公サイドだと、面倒くさい説明を省けるのでありがたいです。
読んでる人も、わかりきった説明を言い方変えただけで垂れ流されても嫌でしょう?


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何故俺にもこのイベントが?なんか原作にはなかったイベントまでハッピーセットだし

香織イベントのところで頭を悩ませていたら、いつの間にか雫イベントまで…
結構オリジナル要素が増えてきているので、わからないことがあればいくらでも質問ください。


 俺とハジメが無能の烙印を押されてから早二週間。

 態々檜山と不愉快な仲間たちによる俺とハジメのいじめなんて描写するつもりはないのでカット。

 ボロボロになった体を引きずりながら二人で部屋に戻り、紅茶モドキを啜ってハジメと共にお互いの不幸を嘆き合う。

「今日も檜山達がうざかったな」

「全くだよ……何で僕がこんな目に……」

 白崎とかがお前の事を好きだからじゃないかな。

 俺も白崎とのイベントを行ってしまったことはあるが、どうせハジメはハジメの方でイベント回収してるだろうから、白崎の好意は俺じゃ無くてハジメに向いているはずだ。

「……そういやハジメお前さ。最近面白い本を見つけたとか言ってたけど、どんな本よ?」

「ん?あぁ、これこれ。読んでみなよ」

 そう言ってハジメが取り出したのは、『リリアーナの秘密ダイアリー』という本だった。

「……これが図書館に?」

「うん。なんか図書館の机に置いてあったんだ」

 ハジメと俺は、戦力外通告を受けているため、訓練だけではみんなの足を引っ張るということで、せめて知識だけでもと図書館に入り浸っている。

 俺はそれ以外にも夜中に体を動かすなどしているから、ハジメよりステータスの上昇は高い。

 言い忘れていたが、リリアーナとはこの国の王女である。

 本の中身を見てみると、日ごろの愚痴とかいろいろ書いてあった。

 中々国の重鎮に対しての罵詈雑言を書いていやがる。

 女って怖い。

「……絶対王女様の忘れ物だろ。早く帰して来いよ」

「やだよ怖いもん。こんな恐ろしい人だとは思ってなかった」

 ハジメが肩を震わせながら返却を拒否する。

 確かに、みんなの前で猫被ってる状態と、この日記の中に書いてある内容がかなりギャップがでかく笑えない。

 ハジメの恐怖心もわかる気がする。

「ま、この本については追々考えていけばいいさ。今日はもう寝な。明日は迷宮に行くらしいしな」

「そうだね……と、誰か来たみたいだ」

 明日はオルクス大迷宮に行く日。

 ハジメが魔王になるための一歩を踏み出す日だ。

 それで早く寝るように勧めたのだが、いきなり部屋の扉がノックされた。

「俺が開けてくる」

 どうせ白崎、と思いながら扉を開けると、案の定白崎がいた。

「……えーっと、何の用?」

「あのね。常盤くんと南雲くんに話があるの」

「あー、取り敢えずあがりな。紅茶……モドキ淹れるから」

「ありがとう」

 原作でも明かされていた通りの煽情的な衣装に身を包んだ白崎が、女子特有の甘い香りを漂わせながら部屋に入ってくる。

 いきなりの白崎降臨に、流石のハジメもタジタジだ。

 ……ていうかハジメはわかるけど、俺にも話があるだって?

 ベッドに腰掛けながら話を伺うと、少し逡巡した後、白崎は口を開いた。

「常盤くん、南雲くん。……明日の迷宮攻略、二人には行かないで欲しいの」

「……それは僕たちが弱いから?」

 白崎の発言に、最初は呆然としていたものの、すぐにその表情を自虐的なものに変えて尋ねるハジメ。

「うぅん。違うの。……その、あのね?夢を見たの」

「夢?」

「そう。二人が背中を向けてて、いくら声をかけても振り返ってくれなくて、それで……それで……」

「それで?」

「……消えてしまうの……」

 そこまで聞くと、ハジメは俺の方を困った顔をしながら見てきた。

 どう反応すればいいのか分からない、といった顔だ。

 まぁここで何も言わないって選択肢は無いから、ハジメの代わりに白崎が安心するような事を言う。

「白崎、夢は夢だ」

「でも……!」

「そんなに不安なら……守ってくれよ。俺達のこと」

「守……る……?」

「あぁ。情けないがお前の方が俺達より全然強い。それに、お前の天職は治癒師だろ?なら俺たちが死にそうになるようなことがあっても、すぐに治してくれればいいだろ」

 原作のセリフなんて完全に覚えてるわけじゃないから、それっぽいことを言って誤魔化したが、何とかなっている気がする。

 俺の言葉を聞いて、少しの間呆然としていた白崎だったが、すぐに笑顔になってこんな事を言い出した。

「……なんか、常盤くんらしくないような気がするね」

「俺らしくない……?」

 白崎の言葉の意味がいまいち理解できなかった俺は、隣にいるハジメに目線でどういう意味か問いかける。

 だがハジメもわかっていないらしい。目があった瞬間に首を横に振られた。

「……覚えてない?私たち一回あってるんだよ?」

「いや、忘れてはいないが……」

 寧ろ忘れる方がおかしい。

 何故か知らないが俺の方にハジメが白崎の好感度を(無意識に)稼ぐイベントが来た、あの日である。

 ……回想には入らないからな?

「あの時の常盤くんって、俺一人で何でもできるって感じのオーラがすごかったからさ。なんかさっきみたいに守ってくれとか言う人じゃ無いと思ってたんだ」

「……あー?そんな感じだったか?」

「その話、聞かせてよ!」

 首をかしげる俺を押しのけ、白崎の方に身を乗り出して質問するハジメ。

 何がそこまでハジメに好奇心を持たせたのか。

「えーっと……あの時はね」

 そう言って語りだした白崎は、すごく嬉しそうな顔をしていた。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 香織side

「オイオイクソガキ!俺のこの服に何たこ焼きぶつけてくれてんだ、あぁあん!?」

「兄貴のこの服はビンテージ物で、もう生産されていない高価なモノなんだぞ!それをどう責任取るつもりだコラ!」

 不良にすごまれて、もう泣くことすらできていない男の子と、その隣で必死に頭を下げているおばあさんがいた。

 まわりの人達はただ周りで見ているだけで、特に何もしていない。

 私も足が竦みそうになっちゃったけど、何とか不良達のところまで行って、おばあさんたちを庇ってあげることにしたの。

「やめてあげてください!この子だって悪気があったわけじゃないでしょう!?」

 私がいきなり乱入してきたことで、最初はとても不機嫌そうにしていた不良達だったけど、私の事をよく見て、いきなりこんなことを言ってきたの。

「あぁあん!?なに言ってんだぁ!?調子乗ってんじゃ……よく見りゃ嬢ちゃん、結構可愛いじゃねぇか……そうだ、このガキとババアは許してやるからよ、嬢ちゃんは俺たちと一緒についてこいよ。別に殴ったりするわけじゃねぇぞ?」

「そうそう、気持ち良いこと教えてやるよ!」

 一気に下卑た目をするようになった不良達に、情けない声を出しちゃったの。

 そのまま後ずさったら、不良の一人に腕を掴まれちゃって。それで、もうだめ……って思った時に、常盤くんが来たの。

「……おい、あんた等、通行の邪魔だ警察呼ばれてぇのか」

「あぁあん!?ガキが調子乗ってんじゃねぇよ!!正義の味方気取りですかぁ!?」

「うるせ。ていうかお前らの悪行はしっかり録画してるし態々話し合う気もないからいいんだけどね」

 いきなり現れた常盤くんは、言い切った瞬間に不良の顔に飛び膝蹴りを入れて思い切り地面に後頭部から叩きつけて、呆然としてた隣にいた他の不良の鳩尾に向かって思い切り殴りつけたの。

「……て、テメェ!!」

 激昂して殴り掛かってきた他の不良の攻撃を全部躱して、顎を横から思い切り殴りつけて、倒れこんだところをさらに頭を踏みつけて、周りの他の不良に見せつけるようにしながら、こう言ったの。

「オラ、こいつ等みたいに惨めになりたくないなら、さっさとその女の手を離して、そこの婆さんに財布返してやれ……別に?お前らを相手にするくらいまだ全然余裕だが?」

 右の拳をゆっくり握ったり開いたりした常盤くんを見て顔を青ざめさせた不良の人達は、持ってた財布をおばあさんに返して、私を離したら一目散に逃げていったの。

 その後の常盤くんもすごくて、気絶してる不良の人を持ち上げると、逃げていった不良の人達の背中めがけて投げて、

「ポイ捨ては厳禁だぞ!しっかりゴミは持ち帰れ!」

 って言ったの。

 その後、いい仕事をしたなって顔して、すぐに立ち去っちゃって。

 普通の人なら見返りとか求めるだろうし、光輝くんみたいな人だとしたらあんな荒々しい戦い方しないだろうから、私は常盤くんに興味を持ったの。

 光輝くんとはまた違った強さを持った常盤くんに。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 時王side

「……って、こんな感じかな?」

「……時王そんな事あったの?」

「話すまでもなかった」

 ……実はあの不良達、まったく喧嘩慣れしていなかったのだ。

 恐らく見た目だけ不良らしくして、自分たち強いですオーラ出していただけ。

 だってかなりうたれ弱かったし。

 それにあの時は、最初ハジメのイベントだから放置しておこうと思ったんだけど、白崎が不良の前に出るとか言う謎イベントまで入ってきたから、これは好感度上昇イベントじゃないなと言う事で子供を庇いつつ、白崎から嫌われるような暴力で解決する方法を選んだんだが……

 まさかすべてが裏目に出るとは……

「……私にとって、常盤くんは憧れだったんだ。暴力で解決してるのに、何か違うところがあって」

 ないです。

 ただただあの時はフラグをたてないようにしたかっただけです。

 なんでかって?奈落落ちフラグも自動建設されるからだよ。

「……でも、今日みたいに誰かに助けてくれって、守ってくれって言える、そんな当たり前の……光輝くんにはない弱さもあって……なんていうか……変な言い方になるけど、普通の人って感じ?もあって……」

 まぁ人と違うところなんて、転生者であることくらいだし。

「だから、あの日私を守ってくれた、常盤くんを私が守るよ。そして、常盤くんの親友の、南雲くんも守る」

 なんか知らんけど、ハジメが何かに納得したかのような顔をしておられる。

 訳がわからないよ。

「ごめんね?こんな夜中に……」

「いーや?これから俺も外で鍛錬してこようかと思ってたくらいだしな。ハジメはこれから寝るつもりだったんだろうけど……」

「あー……大丈夫だよ。少し本読んでから寝るつもりだったから、全然迷惑とかじゃないから」

「……ありがとう、二人共」

 柔らかい笑みを浮かべて、白崎は部屋の外に出ていこうとした。

「そうだ、白崎」

「?どうしたの常盤くん?」

「……男の部屋にそんな恰好で来るのはお勧めしない。とだけ言っておく」

「え……?あっ!?」

 俺の一言に、最初はわからなかったのか呆然としていたが、すぐに頬を赤く染めて前を隠す白崎。

 それすら男性を魅了すると何故わからんのか、というツッコミは無しで行こう。

「はぁ……早く帰りな」

「う、うん……」

 バツが悪そうに白崎が部屋の外に出ると、ハジメが俺を睨んできた。

「……なんだよ?」

「……態々服装の事話す必要あった?」

「……檜山」

「あっ……」

 その一言ですべてを察してくれたのか、あとは何も言わなくなったハジメ。

 君のような勘のいいガキは好みだよ。

「……で、本当に鍛錬しに行くの?」

「まぁな。あくまで徒手空拳なんだが」

「そっか。じゃあ行ってらっしゃい」

「おう」

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「さ、実験を始めようか……なんてね」

 別に実験を始めるわけではなく、俺の生前好きだった仮面ライダーのセリフが言いたくなっただけだ。

 昔は王様になりたいとよく言ってたな……ソウゴくんみたいに。

 体をほぐしてから軽くエアボクシングを行う。

 俺は剣の心得があるわけではないので、素振りをしてもあまり意味は無い。

 元々素手で戦う方が性に合っている。

 まぁ魔物と戦うのだとしたら棒とかを相手の口の中にぶち込むとかそう言った戦いをするつもりだが。

「あら?常盤くん?」

「……八重樫か」

 しばらく体を動かしていたら、後ろから声をかけられた。

 ……あ、そうか。八重樫は確か原作でも夜中に特訓していたくらいだから、迷宮前だから何もしないなんてことは無いだろうし、ここにいてもおかしくはないのか。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 雫side

 明日の迷宮攻略に備えて特訓しようと外に出たら、先客がいた。

 常盤くん。私の()()()で、私の……ずっと前から好きな人だ。

 彼は多分私が昔から一緒に居たことをわかってないだろうけど。

「……こんな夜遅くに特訓?」

「お前が言うか?」

「それもそうね」

 そっけない返事、彼が私に目を合わせることもない。

 それでも、私の心の中には温かい何かがたまっていくような感じがした。

「……ねぇ、組手をしない?」

「あ?」

「せっかく二人なんだし、特訓するにしても相手がいた方がいいでしょう?」

「……はぁ……俺は剣は苦手なんだよ」

「別にあなたが剣じゃないといけないなんてこと無いわよ?」

「……ま、いいか」

 手に持っていたタオルで汗をぬぐうと、私の方に向き直ってきた。

 上半身はなんと何も着ておらず、彼の引き締まった体が月明かりでよく見えてしまう。

 惚れた男の半裸なんて刺激の強いものを見せられたせいで、顔を赤くしてしまう。

 丁度私の後ろに月があるおかげで、私の顔が良く見えていないだろうことが幸いして、彼には気づかれていないようだが。

「いつかかってきてもいいぞ?」

「嫌よ、貴方はカウンターが得意でしょう?」

 忘れるはずがない。私が彼を意識し始めたときの事件でも、彼が悪漢を仕留めた攻撃はカウンターだった。

 私が、身代金目当てで誘拐されたときに、彼一人で助けに来てくれた時の事だ。

 その時の私には、彼が白馬に乗った王子様みたいに思えた。

 当の本人からすれば、なんてことのないことだったらしいけれど。

「……思えば私を女の子として扱ってくれたのは常盤くんだけだったわよね」

「ん?どうした?」

「……なんでもないわよ」

 本当、いつもこれだ。いい加減に私と幼馴染であることを思い出してほしい。

 まぁ、私も彼が思いだすまでは、時王じゃなくて常盤くんと呼び続けるつもりだが。

「つーか何でこいつが俺の得意技を……?ま、いいか……まったく、人の得意技を使わせてくれないとか、ステータスですら差があるって言うのによ……」

「昔からあなたの方が強いでしょう?ステータスなんて数字であなたがいきなり弱体化したなんて思うつもりはないわ」

「そうは言ってもステータスは嘘をつかn……待て、昔?」

 ついうっかり言ってしまった。……彼は、思いだしてくれるだろうか……

 思いだしたら、私もすべてを打ち明けよう。……この、想いも。

「……思い出した?」

「……え、いやー?うぅん?確かに似てるやつにはあったことあるけど……あっ、そういや俺名乗っただけで名前聞いてなかったな……」

 ……そこまで思い出したならもうひと頑張りしなさいよ!あと少しでわかるところじゃない!!

「うーん……もしかして……」

 思い出して……くれた?

「いや、違うわ。アイツショートカットだったし。八重樫と顔はすっげぇ似てるけど、家庭の都合とかで髪は伸ばせないって言ってたし」

 そこまで思い出しておいてそれ!?嘘でしょう!?

 確かに昔まではお父さんも厳しくて、髪を伸ばすなんて言語道断とか言ってたから、それでやけになって、私は髪を伸ばしちゃダメなの……とか言っちゃったけど!!

「……もういいわ、行くわよ!」

「ちょっ、結局攻めて来るのかよ!?」

 太刀筋の美しさとかはどうでもいい、とにかく今はこの馬鹿に一泡食わせt

 次の瞬間、私はその場に倒れこんでいた。

「……今、何をしたの?」

「普通に攻撃を避けて背中を叩きつけただけだ。痛みが無いからわかんなかったんだろ……くそっ、これがステータスの差か……」

 悔しそうにしている彼を見て、あぁ、やっぱり変わらないなぁ……と思った。

 あの時、私を助けに来てくれた時も、銃弾が当たって、痛そうにするんじゃなくて、何で銃弾なんて当たったんだ……なんて言って悔しがってたから。

「常盤くん」

「あん?どうしたよ」

 立ち上がって声をかけると、機嫌の悪さ(ステータス差という理不尽さに嘆いているからだろう)が目に見えてわかるくらいの顔をしながらこちらを見てきた。

 それが少しだけ面白くて、少し笑いながら……

「何でもないわよ……ちゃんといつかは思い出してね?私の王子様(時王くん)♪」

 彼が後ろで何か言っているようだったけど、聞き取れなかった。

 ただ、それを聞きなおすために振り返るなんてことはできない。

 ……私の王子様(時王くん)なんて言ったのは、流石に恥ずかしかったから。

 私を照らす月明かりが優しく笑っているような気がした。




書いてて思ったこと:八重樫さんマジヒロイン。


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控えめに言って死ね

まさかの連続投稿。
この調子で行けば、主人公もチートの仲間入りができるはず!
能力はもちろんタイトル通りにオーマジオウです。


 時王side

 迷宮攻略当日。

【オルクス大迷宮】の入り口に来ているが、原作でも言われていた通り、本当に博物館見たいになっている。

 受付嬢の営業スマイルをありがたく頂戴し、迷宮内に入る。

 外の賑やかさと対照的に、迷宮内は薄暗く、雰囲気もあまりいいものではなかった。

 すると、前列のところにラットマンという魔物が現れたらしい。

 八重樫は露骨に嫌そうな顔をしている。

 まぁ人型のネズミの化け物なんていう気持ちの悪い生物だから仕方ないと思うが。

 間合いに入ったラットマンを天之河、八重樫、坂上の三人が迎撃する。その間に、白崎と特に親しい女子二人、天之河の彼女である中村恵里と坂上の未来の嫁の谷口鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。訓練通りの堅実なフォーメーションだ。

 天之河は純白に輝くバスタードソードを視認も難しい(笑)程の速度で振るって数体をまとめて葬っている。

 天之河の持つ剣はハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つで、お約束に漏れず名称は〝聖剣〟である。光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという“聖なる”というには実に嫌らしい性能を誇っている。

 まぁこの世界の奴等が崇める、“聖なる”神エヒトも嫌らしいやつだから仕方ない気もするが。

 坂上は、空手部らしく天職が〝拳士〟であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだという。龍太郎はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士のようだ。

 八重樫は、ジャパニーズサムライガールらしく〝剣士〟の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。その動きは洗練されていて、騎士団員をして感嘆させるほどであった。

 昨日は俺に攻撃を当てることすらできなかったわけだが。

 ある程度前衛の攻撃が終わると、後衛が詠唱を始めた。

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ──〝螺炎〟」」」

 三人同時に放った炎の螺旋がラットマン全員を塵のみ残して焼き払い、敵を全滅させる。

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 一階層の敵では天之河たちだけで終わってしまったせいで出番がなくなってしまった他の生徒たちに声をかけるメルド団長。

 そのお褒めの言葉に、とても嬉しそうな反応をした生徒たち。

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 続くメルド団長の言葉に、白崎達後方支援組(先程魔法を放った三人組)は顔を真っ赤に染めて反省した。

 そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調よく階層を下げて行った。

 そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。

 現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしいのだが、それは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流扱いだという。

 これは原作知識で知っているのであまり気にすることではないだろう。

 俺達は戦闘経験こそ少ないが、ほぼほぼ全員がチート持ちなので割かしあっさりと降りることができた。

 もっとも、迷宮で一番恐いのはトラップである。場合によっては致死性のトラップも数多くあるのだ。

 この点、トラップ対策として〝フェアスコープ〟というものがある。これは魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものだ。迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるから八割以上はフェアスコープで発見できる。ただし、索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要だ。

 トラップの恐ろしさは、原作をよく知る俺だからこそよくわかっている。

 誰とは言わないが檜山とか言うやつが格好つけようとしたせいで、誰とは言わないが、ハジメが奈落に落ちることになってしまうのだから。

 因みに俺はハジメの落下を如何こうする気はない。

 ハジメには覚醒して貰う必要があるしな。

 俺がクソ雑魚ナメクジである以上、エヒトとか言う駄神をムッコロスるのはハジメだからな。

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

 俺達の方を向いて、声を張り上げるメルド団長。

 さて、問題の時間まであと数分……

 因みにだが、俺とハジメは協力プレイでクリアしてきている。

 ハジメが錬成で足場を奪い(かなり魔物のそばに寄らないといけないので、毎回顔色を悪くしている)、俺が口の中に手を突っ込んで魔物を口から裂く殺し方が一番効率がいい。

 他にも、俺が一人で魔物のそばに近づき、口の中に槍(一応アーティファクト。不壊属性付き)を突っ込んで、喉を貫通させ、そのまま鋭利な部分を口内に戻し、脳天に向かって突き上げる(その時下あごは自分の手で思い切り開いておく)方法がある。

 そのどれも残虐すぎると周りの生徒からはかなり不評だが、これでもかなり優しい殺り方である。

「ハジメ、魔力は大丈夫か?」

 小休止中にハジメの様子を窺うと、弱々し気な笑みを浮かべながら大丈夫と返事された。

 無理すんなよ見たいなことを言って視線を他所に移すと、白崎と目があった。

 白崎の方は、目があったと同時に微笑み、手まで振ってきた。

 流石に何もしないほど非常識では無いので、しっかり振り返しておく。

 するとより一層嬉しそうにされた。

 ……このイベントもハジメのイベントなんだけどなぁ……

 このままじゃ俺に奈落落ちフラグが……と危惧していたら、いきなり俺の方に、粘ついた殺気のような物が……

「……嘘だろ……」

「ね、ねぇ時王……今の……」

「お前もかハジメ……」

 どうやら、俺の方にも死亡フラグが建ち始めているらしい。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 休憩から少し後、俺達は問題のニ十階層を探索していた。

 このままロックマウントが現れなきゃいいのになぁ……と思ってたら、メルド団長が、

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 といい始めた。

 ……うっそだろオイ。

 絶望中の俺を無視し、前衛組の方に飛び込み、その豪腕を振るうロックマウント。

 しかし、坂上にガードされ、何度も攻撃を無力化させられてか、今度は大声で威嚇しようとする。

 まわりの奴等は何をしようとしているのか分かっていないようなので、すごく遺憾だが俺が動くことにする。

 ロックマウントが大きく仰け反って咆哮を上げようとした瞬間、俺は直ぐに耳を塞ぎ、他の生徒の隙間を乗って駆け出し、ロックマウントの元へ向かう。

 威嚇が効いていない!?と驚愕しているように見えるロックマウントに軽くファックサインを上げて、勢いよく攻撃を仕掛け……

 ようとしたら、隣で擬態していたもう一体のロックマウントに防がれ、投げ飛ばされてしまう。

 ステータスの差か……!

 だが、相手はバカなのか、俺がまだ宙にいるにも関わらず、先程現れたばかりのロックマウントを投げつけてくる。

 迎撃しろと言う事ですね、わかります。

 どっかのルパンを彷彿とさせるダイブを繰り広げようとしたロックマウントの顔面(ノーガード)を強く蹴り上げ、天井に叩きつけた。

 しっかりロックマウントが天井に逆犬神家したのを確認すると、天之河に攻撃するように指示。

 慌ててロックマウントに攻撃をする天之河だが、ここでもう一つの問題が。

 先程見方を投げつけてきた方のロックマウントが、自力で飛んできたのである。

 もうすでに着地してしまっているので、飛んでくるロックマウントに何もできない。

 こちらのロックマウントも、ルパンを彷彿とさせるダイブを繰り広げ、白崎の方へ突っ込んでいく。

 ここで、メルド団長がロックマウントの突撃に割り込み、綺麗に一刀両断。

 恐怖してしまった白崎達(主に中村)を見て、怒りに燃える天之河。

 満を持して立ち上がったロックマウント(三匹目)に、

「よくも恵里達を……!」

 と怒りに震えながら、大技を発動。

 その結果、迷宮内の壁がかなり破壊された。

 天之河の事を潤んだ瞳で見ている中村の手を優しく握り、恵里は俺が守る……と言った直後、メルド団長に殴られた天之河。

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 当たり前の指摘を受け、うっ、と言葉を詰まらせる天之河。

 彼女の中村が慰めている最中に、白崎がグランツ鉱石(ハジメと俺にとっての地獄への片道切符)を発見してしまった。

「……綺麗……」

「あれはグランツ鉱石だな。普通に発掘されるものより大きいな……珍しい」

 グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 求婚、のくだりで白崎と、()()()八重樫がこちらをチラッと見てきたが、いったいそれはどういう事でしょうか……

「だったら!俺たちで回収しようぜ!」

 ……よしっ、逃げよう。

 流石の俺もアイツは嫌だ。

 それに、親友の落下シーンなんて見ても嬉しくない。

「ハジメ、ハジメ」

「ん?何?」

「あれ、トラップだぞ」

「うぇっ!?なんでそれが!?」

「まぁ、話を良く聞け。あのトラップはな、六十五階層までワープさせる極悪非道のトラップなんだ」

「六十五階層って……」

「ついでに最悪のオプション付きだ、なんと……」

「?お前ら何を話してるんだ?」

 俺がハジメに種明かしをしていると、メルド団長がこちらまで話を聞きにやってきt

 その瞬間、俺達の足元が強く輝きだした。

「……は嫌でち」

「時王!?口調どうしたの!?」

「まて今ジオウお前…!」

 俺の嘆きに反応するハジメとメルド団長。

 次の瞬間には、もうすでに例のあの場所……巨大なつり橋の上に転移していた。

 ほんと檜山控えめに言って死ね。

「……っ、とにかくお前たち!あの階段のところまで行け!早く!」

 俺の方を一瞬だけ見て、すぐにみんなに指示を出したメルド団長。

 だがもう遅かった。

 階段側にも通路側にも魔法陣が展開され、魔物が召喚されたのだ。

 メルド団長は、大量の魔物が出てきた階段の方ではなく、一体だけ魔物が出てきた通路側を呆然と見て、俺の方を全く見ずに質問してきた。

「なぁ、何でお前はわかったんだ?」

「えっと……何がです?」

「あれだ……アイツだ。どうしてあいつがいることが分かった!?」

「メルド団長?時王がどうしたって言うんですk」

「お前も聞いていただろう?ジオウがここに転移するときに言っていた言葉を!!……どうしてジオウは……」

 遥か先で大きな雄たけびを上げたソイツに、顔を引きつらせながら、メルド団長は叫んだ。

「どうしてジオウは、ベヒモスがここにいることを知っていた!?」

 その言葉の直後、ベヒモスがこちら側に突撃してきた。



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落ちる

連続投稿。
なんか無理矢理感が目立ちますが、一応作中では明かせないような裏設定がいろいろあるので、興味がある人はぜひ感想まで(露骨な感想稼ぎ)


時王side

突進してきたベヒモスを、咄嗟にハイリヒ王国最高戦力の人達が障壁を展開する。

「お前ら!あの骸骨…トラウムソルジャー共を蹴散らしてでも階段に向かえ!ベヒモスは俺達が片づける!」

「なっ!何を言ってるんですか!あの恐竜みたいなやつが一番やばそうじゃないですか!俺も戦います!」

「馬鹿野郎死にたいのか!アイツはかつて最強と言わしめた勇者ですら敗北した、正真正銘の化け物だぞ!?いくらお前が強いからって…っ!来るぞ!」

言い争っていたメルド団長と天之河の方に向かってベヒモスが突進してくる。

二人はなんとか咄嗟に回避できたが、他の生徒たちは衝撃波に襲われる。

そう言っている俺も衝撃波に襲われ、軽く吹き飛ばされてしまったわけだが。

「ハジメ!錬成を使ってトラウムソルジャーを橋の下まで落とせ!」

「どうやって!?」

「滑り台みたいに、地面を錬成して形を変えればいけるって!」

「…あー、もう。わかったよ!“錬成”!!」

どうにでもなれ、と言わんばかりに叫んだハジメだが、その錬成の効力は凄まじく、トラウムソルジャーを一度に複数体奈落の底へと落とした。

「俺は天之河共を連れてくるから!あとは任せたぞ!」

「わかった!僕もあとでそっちに行くよ!いい考えが思い浮かんだんだ!」

その名案が、後にハジメを絶望させることになるとは、当の本人すら気づいていないだろう。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

雫side

すでに何度かベヒモスの攻撃を受け、障壁は今にも砕け散りそうになっている。

香織たちがその場で何とか障壁の張り方を教えてもらい、何とか壊れないように修復しているが、ベヒモスの攻撃が何度かくれば、すぐに壊れてしまうだろう。

だが、それに気づいていないのか、光輝と龍太郎はメルド団長に向かって、自分たちだけが逃げるなんてできないだの、お前がやるなら俺もやるだの身勝手なことを言い続けている。

そこに、向こう側から時王くんが駆け寄ってきた。

「なっ!?時王!?」

「なんでテメェが…!?」

「と、常盤くん!?」

「今は驚いてる場合じゃねぇだろうが!」

何やらかなり苛立っているようだったが、どうしたのだろうか…って、わかりきっているか。

いつまでたっても駄々をこねて、ベヒモスと戦おうとしている光輝たちにいら立っているのだろう。

「でもっ…君はここに居ちゃいけないだろう!?早くみんなと一緒に逃げt」

「うるっせぇんだよ!!いつまで最強きどってやがんだ!」

言外に戦力がだと告げようとしていた光輝の顔面を思い切り殴りつけて怒鳴った時王くんに、みんな何が起こったのか分からないといった風に硬直する。

「…いっ、いきなり何を」

「周りが見えねぇのか!?ベヒモスみてぇな化け物相手にするよりも、もっとやるべきことがあるだろうが!向こうにいる他の奴等を見やがれ!!全く統率が取れてない。何でかわかるか!?それはリーダーがいないからだ!!天之河光輝って言う、みんなのリーダーが!!希望を与えて道を切り開く、そんな力を持ったお前がいないからみんな今にも死にそうなくらい追い詰められてたんだぞ!?それをお前自身のわがままで、勝てるかどうかすらわかんねぇような化け物に時間割いて、他の奴等に犠牲者でも出すつもりか!?」

「…常盤…ありがとう。目が覚めた。…すみませんメルド団長!俺達h」

「下がれぇー!!」

光輝の言葉を遮るように、障壁が砕け散る音と、メルド団長の悲鳴が上がる。

ベヒモスが、ついにとうとう障壁を破ったのだ。

「天之河!全員連れて逃げろ!」

「じゃあ常盤は!?」

「大丈夫だ、いいから早く!」

「時王ー!!」

「なっ、南雲!?どうして君が!?」

時王くんがベヒモスから目を離さずに光輝に答えると、後ろから南雲くんがやってきた。

なんで!?

「ナイスタイミングだハジメ!さっそくやってくれ!」

「任せて!“錬成”!!」

攻撃準備に入っていたベヒモスのすぐそばまで寄って、地面に手をあてて錬成を始めた南雲くん。

すると、ベヒモスの体が、地面に吸い込まれるように埋まっていった。

「メルド団長!“錬成”!僕がベヒモスを…“錬成”!こうやって動けないようにしておくので、トラウムソルジャーが片づけ終わっt“錬成”!たら!みんなでベヒモスに魔法を撃てるようにしてお“錬成”!いてください!」

「わ、わかった!坊主の言葉を聞いたか!!俺たちもトラウムソルジャーを片付けるぞ!」

南雲くんの必死の訴えを聞いて、メルド団長たちも他のみんなのところに向かって行った。

「俺達も行くぞ!」

「おう!」

「わかったわ!」

光輝の言葉に返事をして、階段側に走って行く。

どうしても時王くんが心配だが、それはぐっと堪えて走り去る。

お願い…どうか…死なないで。

その時の私は、この後時王があんなことになるなんて、まったく予想だにしていなかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

『王に…なりたいか?』

(…?何を言ってるんだ?お前は一体何者だ…?)

『力が欲しいか?理不尽に抗う力が。自分を襲う全てを薙ぎ払う力が』

(理不尽…?何のことだよ?)

『今わからなくても構わない。ただ、もうすぐでお前は望むはずだ。王としての力を。そして歩むはずだ。お前自身の覇道を』

(本当にお前誰だよ…ていうかさっきから何を…)

「…オウ、ジオウ!どうしたんだよ!?」

「…っ!?すまん、なんか…」

寝てた、とかそう言うわけではないが、夢を…夢のような物を見ていた気がする。

「どうでもいいけど、あまり気を抜かないでよ…っ!?“錬成”!」

回復薬を飲み干し、さらに錬成を発動するハジメ。

「わかってるさ…どうするんだ?まだまだアイツらは統率が取れてないみたいだ!魔力と回復薬は足りそうか?」

「足りないよ!ングッングッ…“錬成”!これで切れた!」

「最悪なお知らせありがとう!お前はベヒモスから離れた方がいいぞ!」

言われなくてもっ!といいながら、素早く後ろに下がったハジメ。

「グルァァァァァァアアアアアアアアアアアア!!!!!」

今まで身動きを封じてきた恨みと言わんばかりに雄叫びを上げ、兜に熱気をためていくベヒモス。

…くそっ!俺に力があれば、もう少し時間を稼げるのに…!

『欲したな?力を』

「…あぁん!?」

「どうしたのさ!!いきなり大声だして!?」

「声が聞こえるんだよさっきから!!」

『王になるための力を!お前は望んだ!ならば必要なものを与えよう!どうやら、まだ器は足りないらしいが…せめてこの場を切り抜ける程度の力を与えようか』

嬉しそうに笑う何者かの声が頭の中で響く。

力を与えようか、と言われた瞬間、俺の腰回りに何かが装着された。

『ジクウドライバー!』

「…嘘だろ?」

「時王…?何それ…?」

「グルァァァァァ…」

黒板をフォークでひっかいたような甲高い音を上げながら、兜がさらに光を増していく。

「…ジクウドライバーがあっても、ライドウォッチがねぇじゃねぇか…」

『言っただろう?切り抜ける程度の力を与えると。器の足りないお前に、本来の力の一端を与えたりなどしたら、体が木端微塵になるぞ?だから、今回はこれだけ貸してやる』

『ジカンギレード!』

俺の腰に装着されていたジクウドライバーから、ジカンギレードとサイキョーギレードが出現する。

「これって…」

『さぁ、存分に戦え!』

「じ、時王…?なんなの…それ…」

「…ま、詳しくはあとだ…なんか、行ける気がする!」

『サイキョー!』

『フィニッシュターイム!!』

サイキョーギレードをジカンギレードに合着させ、剣先を上空に向ける。

その瞬間、俺の剣からエネルギーが溢れ出し、ジオウサイキョウという文字が現れる。

文字の色はピンクではない。マゼンタだ。

「うぉおおおおおお!!」

『キング!ギリギリスラッシュ!』

思い切りベヒモスを切りつける。

その次の瞬間、ベヒモスの体が爆発四散し、途轍もない轟音と共に、橋が崩れ始める。

「…逃げるぞ!ハジメ!」

「う、うん!」

その場から急いで逃げ出そうとしたときに、それは起こった。

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「…え?」

誰かが、その光景が信じられないというように声を出す。

それはこちらのセリフだ、と言いたい。

落下していく中で、俺は確かに見た。

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次回はつなぎの回なので、あまり長くないです。
八重樫、壊れる。(ネタバレ)


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もう一人の王の目覚め

つなぎの回なので、過度な期待はしないように。
今回のラストの方で、オリジナルライダーグッズが一つ登場します。



香織side

信じられなかった。

目の前の光景が。

スローモーションのように見える。

常盤くんと、南雲くんが崖の下に落ちていく姿が。

何故か放たれた魔法が、常盤くんと南雲くんを吹き飛ばしたんだ。

一体だれが?

早く常盤くんたちを助けなきゃ。

その二つの気持ちが混ざって、ぐちゃぐちゃになって、心が壊れちゃいそうになったが、私よりも先に心が壊れた人がいた。

「え…何で…何で常盤くんが…時王くんが…?落ちて…何で…?」

「し、雫…ちゃん?」

私の心が限界を迎える前に雫ちゃんがおかしくなった。

眼は焦点が合っていないし、口元が引き攣っているせいで笑っているようにも見える。

そのままおぼつかない足取りで、先程常盤くんと南雲くんが落ちたところまで行って、しゃがみこむ。

橋の下…奈落の方を見て、涙を流し始める。

「…何で?なんで私を置いていったの?昔、約束したわよね?私と一緒に居てくれるって…それなのに…どうして?」

「し、雫?どうしt」

光輝くんが雫ちゃんの方に歩み寄ろうとすると、堰をきったように大声で叫びだした。

「どうしてよ!?まだ思い出してくれてないじゃない!まだ言えてないじゃない!誰よ!一体誰が今の魔法を撃ったの!?」

誰が魔法を撃ったの、と言う言葉が叫ばれたときに、誰かが唾を飲み込んだ音が聞こえた気がした。

「…だったのに。ずっとずっと、ずっっっっっっっと前から…」

そこまで言うと、少しばかり声を詰まらせたと思えば、泣きながら今までで一番大きな声で叫んだ。

「時王の事が…大好きだったのに!!!!!」

そこまで言うと、まるで赤ちゃんのように泣きわめき始めた雫ちゃん。

雫ちゃんは心配だし、常盤くんと南雲くんに魔法を撃った人が誰かも気になる。

けど…雫ちゃんが常盤くんの事が好きだと叫んだ時、なぜか胸の奥がズキッと痛くなったのが一番モヤモヤする。

「…っ」

光輝くんは、自然と隣にいた恵里ちゃんの肩を抱き寄せた。

実際に愛している人がいるからこそ、大事に思っていた人を失った雫ちゃんの痛みがわかるのかもしれない。

恵里ちゃんの方も、光輝くんの気持ちが沈んでいるのを感じてか抱きしめ返している。

しばらくの間、雫ちゃんが泣いているのを誰もどうすることも出来ずにいたが、ある程度時間がたつと、メルド団長が動き始めた。

「お前ら、悲しむのもわかるが、今は迷宮から脱出することを第一に考えるんだ」

「…何ですって?」

メルド団長の一言に、雫ちゃんが過剰に反応する。

「時王が落ちたのはどうでもいいことだって言うんですか?それは時王と南雲くんが、落ちこぼれって呼ばれていたから?団長はやっぱり、力のある人さえ残っていればそれでi」

目に光が無い状態でメルド団長に反抗していた雫ちゃんだったが、メルド団長が手刀を首筋にあてると、一度痙攣してすぐに気絶してしまった。

「なっ、いくら何でもこれは…」

「違うよ光輝くん。…すいません、ありがとうございました」

「いや…あのままだと本当に何をしでかすか分からなかったからな。もしかしたら、魔法を撃った犯人かもしれない、とか言ってお前らを殺したかもしれなかったし」

そこまで言われて、光輝くんもようやくメルド団長が雫ちゃんを気絶させた理由が分かったのか落ち着きを取り戻した。

「皆!今は落ち込んでいる場合じゃない!常盤と南雲の犠牲を無駄にするつもりか!俺達が生きて帰らなきゃ、アイツらも浮かばれない!」

そう言って、光輝くんは一人一人生徒を勇気づけながら、階段の方を目指していった。

トラウムソルジャーの魔法陣はいまだに稼働しているが、先程の南雲くんが使った錬成によって、陣の場所が橋の下に移動させられているため、いくらトラウムソルジャーが湧き出ても落下していくだけになっている。

緩慢な動きで全員が上の階まで歩いた。その道中に魔物と出会わなかったことが幸いして、誰一人として欠けることなく迷宮の入り口までたどり着いた。

ホルアドの町に戻ってきても、もうみんな何かをする元気はなかったのかすぐに自分の部屋に入って行った。

そう言っている私も、すぐに自分の部屋に入って、一人で涙を流したのだが。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

檜山side

「ヒ、ヒヒ…フヒヒ…アイツらが悪い、そうだよ、アイツらが悪いんだよ。俺は悪くねぇ…」

自分自身に言い聞かせるようにしながら、ひたすらアイツが悪いと言い続ける。

先程の魔法、撃ったのは俺だ。

あの時、誰かの声が、俺にこう言ってきたんだ。

『今ならお前にとって邪魔者でしかないあの二人を殺せるぞ?』

と。

悪魔の囁きだった。

昨日白崎がアイツらの部屋に入って行った光景を思い出して、良心の呵責など全くない状態で魔法を使った。

でも俺は悪くない。白崎とあんないい関係になってたアイツらが悪いんだ。

そうだ、そうに決まっている。

白崎の方より、八重樫の方が取り乱していたのが予想外だったが。

『随分やりたいようにできたらしいじゃないか?』

「…?お前はさっきの…一体何者なんだ?どこにいるんだ?」

『直接お前の脳内に声を響かせているんだが…まぁその辺を説明するつもりはない。お前にいい話を持ってきてやっただけだ』

「いい…話?」

先程の悪魔の声が脳内に響く。

いい話、というのが何かはわからないが、悪魔の言う事だ、魅力的なことに変わりはないだろう。

顔すら知らないということを頭の隅からも排除し、俺はただただ悪魔の声に従おうというつもりでいっぱいになっていた。

『そうだ。お前も見ただろう?先程お前が殺した、時王という男が使った剣を』

「あれか…」

現れた剣のオーラ的なものに、ジオウサイキョウなんて書かれていた気がする。

正直かなり趣味が悪いと思ったのは隠すつもりもないことだ。

『あの剣の力は、あの男が持っていた王の素質の中の力の一つでしかない』

「なに…?じゃあもし常盤が死んでなかったら、あれよりもすごい力が目覚めたかもしれなかったってことか…?」

だとするならこれは確かにいい知らせだ。

俺にとっての邪魔者が、より強い力を手に入れる前に排除できたということを伝えられたのだから。

『そうだ。やつには二つほど道が残されていたようだが…まぁそれは関係のない話。ここからが本題だ』

頭の中に響く声に、俺は無意識的に息を呑んだ。

『お前に、時王の力と同類の力…もう一つの王としての力を与えよう。受け取るか?受け取らないか?』

「もう一つの…王?」

『あぁ。時王は本来最高最善の王として君臨する男だった。だが、お前がその道を奪ったおかげで、お前が王になる可能性も生まれた。その力をお前が手に入れたいと願えば、すぐにでもその力を与えよう』

「…欲しい、欲しいに決まっているだろう!?それだけの力があれば…白崎も俺の物に…!」

『いいだろう、ではくれてやる。使い方は…お前が一番わかるはずだ』

その言葉が脳裏に響いた瞬間、俺の目の前に三つの黒い何かが現れた。

見ただけでわかる訳が無い…と思ったが、俺の体は自然と動いていた。

その黒い何かのボタン部分を押し、体に押し付けたのだ。

ジオウ

ジオウⅡ

グランドジオウ

全てが体の中に取り込まれた瞬間、頭に激痛が走った。

「なっ、あぁっ!?ぐ、が、があぁああああああぁっぁあぁああ!!?」

誰かが見ているとか、どういう物は何も気にせずに叫び続けた。

ひたすらに痛い、いたい、イタイ…!!

「っぁあ…ぁぁぁぁぁぁぁ…!!」

痛みがだいぶ引いてきたころ、俺の脳裏に声が響いてきた。

『祝おう!新たなる王の誕生を!アナザージオウの誕生を!!』

アナザージオウ。

俺のこの力は、どうやらアナザージオウと呼ぶらしい。

「いイ…サいこウダ…こノ力さえあレば…コの力さえアれバ…白崎も俺ノモのにィいイいいいイ!!」

何かイントネーションがおかしかった気がするが、力を手に入れた俺に、そんな些細なことはどうでもいいものでしかなかった。

…ここからが、俺の時代だ。




因みにですが、香織はちゃんと部屋に戻った後に雫ちゃん以上の発狂をしています。
それを聞きつけた中村恵里ちゃん(この作品ではオリ主がいろいろしたおかげで光輝と付き合えて、いい子になっています)と谷口鈴ちゃんがやってきたというのは余談です。

檜山side、と書いたのは、檜山が他の連中とは違うという差異を表すための演出ですので、ミスではありません。
べ、べつに檜山が嫌いすぎて下の名前覚えてないわけじゃないんだからねっ!


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別れ

 時王side

 声が聞こえる。禍々しいのに、なにか懐かしい感じがする声が。

 俺に……ベヒモスとの戦いのときに、力が欲しいかと聞いてきた声だ。

『お前の道は、覇道しか残されてはいないはずだった。だが、何故かはわからないがまだもう一つだけ道が……王道も残されている』

(何を……?覇道とか王道とかって、一体なんの事だよ……?)

『お前の真名の通り生きる道が覇道。もう一つの力……オーマフォームと呼ばれる姿を手に入れる道が王道だ。その二つが、今のお前に残っている選択肢だ』

(俺の……真名?常磐時王……ジオウ?仮面ライダーの話でもしてるのか?)

 でもおかしい。仮面ライダーはこの世界に存在しない。

 俺の前世にしか存在しなかった筈だ。

『よくわかったな。だが、半分正解と言ったところか。だが、お前の真名は常磐時王じゃない』

(常磐時王じゃ……ない?じゃあ一体なんだって言うんだよ……?)

『お前の真名、それは……』

「……おう、時王!」

「……ハジメ?」

「大丈夫?」

「大丈夫って……」

 辺りを見渡すと、そこはアニメ版でも原作版で漫画版でも描かれていた洞窟のような場所だった。

 ……そうだ、思い出した。

 俺は落ちたんだ……檜山の魔法のせいで。

 原作と違って、魔法の一斉射撃によるベヒモス討伐じゃない展開だったから、俺とハジメが奈落に落とされる可能性もなくなったと思ったんだが……

 いや、ベヒモスが倒されたからと言って檜山の俺たちに対する悪意は無くなるものか?

 つまりはそういうことだろう。

「……とにかく、錬成を使えるくらいには魔力は回復したか?」

「え……?うん。どうして?」

「ヒント1、ここはどこでしょう?」

「え?……迷宮の下の方……じゃないかな?階層まではわからないけど……」

「じゃあヒント2、迷宮に出てくるものは?」

「魔物……あっ!」

 俺のヒントでようやくわかったのか、急いで近くの壁を錬成し始めたハジメ。

「危なかった……あのまま何もしないでいたら、魔物に襲われるところだったね……」

「そ、しかも魔物は下に行けば行くほど強くなる……どこまで下がってきたのかわからない以上、魔物の強さは未知数。さらに言えば俺達はクラスメイトの中でも最弱。これが意味するものとは?」

「死……」

 顔を青褪めさせて肩を震わせるハジメ。

 ベヒモスですら恐怖の存在だったのに、それよりも強い奴がいるかも知れないということが堪らなく恐ろしいのだろう。

「取り敢えず魔物に見つからないようにするのが最優先だな。ここでずっと隠れてるわけにもいかないし……少し休んだら、移動しよう」

「そうだね……」

 ハジメがその場で寝転がったのを尻目に、先程の夢を思い出す。

 俺の……真名。

 常磐時王は偽名なのか?

 そんな馬鹿な。転生前の名前は確かに全く違うが、もし転生前の名前通り生きるとしたら、田畑を耕すだけで終わりのはずだ。

 先程のジカンギレードやサイキョーギレードなんて物が力の一端なはずがない。

 出てきても鍬とかだろう。

 じゃあ、俺の真名は……?

「時王、なんか……ここ、すっごい濡れてる……」

「おい待て誤解を招くような事は……ん?本当だ。ていうか水が流れてきてるのか……?」

 ハジメが意味深なことを言ったと思ったら、本当に床が濡れていた。

 というより、水の流れがあった。

「俺達が流された滝とは無関係の流れ……だよな。ハジメ、錬成して、水の流れを追えないか?」

「やってみるよ。“錬成”」

 ハジメが水の流れてきているほうに向かって錬成を使うと、先程よりも水の量が増えた。

「……何かあるのか?」

「血……とかじゃないといいけど」

 流石に血は無いだろうが、もし人体に害のある水だったら最悪だな。

 ハジメが恐る恐る錬成を繰り返すと、広いスペースに出た。

 そこには、

「これって……」

「神結晶……?」

 原作のハジメ御用達の、神結晶があった。

 その周りには水が溢れていた。

「と、取り敢えずハジメ、神結晶の周りに窪みを作ってくれ。もし本当にあれが神結晶なら、あの水は……」

「神水……!“錬成”」

 ハジメも神水に覚えがあったのか、すぐに錬成を使って水をためるためのスペースを作った。

「……これさえあれば……」

「しばらくは安泰だね……これで多少の無茶はできるようになったし、錬成を使って水筒でも作って探索しに行こうか?」

「そうだな。一応、二手に別れて探索しよう。今までの迷宮と同じくらいのサイズなら、二人で探索してマッピングをすぐに終えた方がいい」

「それもそうだね」

 ハジメが錬成しながら、すごく大きな水筒を二つ作る。

「はい、これ。神水も満タンにしておいたから、怪我しても大丈夫だと思うよ」

「まぁ、もし仮に中身が空になったらここまで補充しにくればいいしな。じゃあ早速探索に行ってくるよ」

「僕もすぐに出るよ。じゃあ、また」

 ハジメから水筒を受け取り、

 ハジメの作った穴から抜け出し、周囲を今一度見渡す。

 あのウサギとか狼とか熊はまだ見当たらないが……用心しておくことに越したことは無い。

 気を引き締めて、俺は探索を開始するのだった。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ハジメside

 時王と別れて、どれくらいたっただろうか。

 未だに神水を消費するような危機的状況には陥っていないが、油断はできない。

 この階層に魔物がいないと限ったわけではないのだから。

 ここが迷宮の中だと決まったわけでもないが。

 もしかしたら僕達が流された大きな滝は迷宮から迷宮の近くにある大きな洞窟につながっていて、そこには魔物が生息していないとか、そんな可能性もある。

 まぁそれは流石に希望的観測過ぎる気もするが。

 未知の恐怖に怯えながらもなんとか歩いていたら、ウサギの耳が見えた。

 全体は見えないが、アレは確かにウサギの耳だ。

 あり得る可能性としては、無害な小動物も僕達と同じくここに流されてきたか、もしくは亜人族のウサミミ系の人が流されてきたか落ちてきたか。その二つに尽きるだろう。

 ウサミミの方に近づくと、そこには中型犬サイズの、毒々しい足を持ったウサギがいた。

「──ッ!?」

 コイツは絶対魔物だ。

 そう確信した僕は、ゆっくりと後ずさるように逃げようとした。

 だが、ウサギはその耳を揺らして、何かを探すかのようなそぶりを始めた。

 もしかして……バレた……?

 一瞬で死を連想したが、それは杞憂に終わった。

 ウサギが反応していたのは、もっと別の生き物だった。

 僕のいるところと反対側の岩陰から、二つの尾をもった……狼が現れた。

 その狼は一匹だけではなく、何匹も現れた。

 その中でも一際大きな一匹が、ウサギの方に突撃した。

 すでに狼の攻撃は僕の目では負えないくらいの速度なのに、ウサギの方は危機感を覚えて逃げ出そうとするどころか、緩慢な動きでその場に飛び上がり、そのグロテスクな足を風を切るように振り下ろした。

 その瞬間、途轍もない爆音とともに地面がめくれ上がり、黄色い血を流す、首から上が無い狼の遺体が現れた。

 飛び掛かって来た狼の頭を……踏み抜いた?

 余りの現実味のなさに、口元が笑っているかのように引き攣ってしまう。

 だが、狼の方も見方がやられて黙っているわけもなく、今度は複数体で攪乱させるように縦横無尽に駆け回り、ウサギに攻撃を仕掛けた。

 だがそれでもウサギは全く動じることなく、その場で再び飛び上がり、空中でブレイクダンスを踊るかのように足を回転させ、飛び掛かって来た狼を蹴り殺す。

 勝利の決めポーズと言わんばかりに、キュッ!と可愛らしい声を出して耳を逆立てるウサギに、もう涙しか出ない。

 とにかく早く逃げなきゃ……

 そう思ったのが間違いだった。

 あまりにも逃げることに集中してしまったせいで、その場にあった石を蹴っ飛ばしてしまったのだ。

 無論先程の超戦闘を繰り広げたウサギが僕の出した音に反応しないわけもなく……

 次の瞬間には、先程までウサギがいた方からバゴンッッッ!!という音が響き、僕の体が吹き飛ばされていた。

 口元を愉快そうに歪めているウサギに、恐怖から顔を汗と鼻水で汚し、恥も外聞も捨てて叫びながら逃げる。

 親友の、時王の名前を呼びながら。

「時王!ジオウ!じおう!!どこにいるの!?助けて!!ウサギがっ!ウサギがぼくを殺そうとしてくるんだぁ!!」

 走って逃げたいのに、腰が抜けて走れない。

 ウサギはそんな僕の様子を見て、さらに愉快そうな顔をしながら、ゆっくりいたぶるように追い詰めてくる。

 そして、僕が壁際まで追い詰められたところで、恐怖を煽るためか、ゆっくりとした動きで片足を持ち上げる。

 もはやその行動は快楽殺人鬼のそれと同じだ。

 だが、そんなウサギに憤るでも反撃するでもなく、僕は泣いて許しを乞うていた。

「お願いだ!やめてくれ!!僕は君と敵対したいわけじゃない!!やめて、お願いだ、その足を下ろして、ね?お願いだからぁ……うっ、うぅう……時王!!早く来てくれぇ!!怖いよ、辛いよ、嫌だよぉ!死にたくない、死にたくなんてないぃ!!時王、ねぇ、時王!」

 支離滅裂だなんてことは、自分でも一番わかっている。

 最初は時王を頼ろうとして、その次はウサギに命乞いをして、また時王に頼ろうとする。

 でも、そんな僕の悲痛な祈りが通じたのか、ウサギは足をゆっくりと下ろs

 次の瞬間、ドパンッ!!という音と共に、僕の左肩が思い切り蹴りつけられた。

「あ……え?……っがぁあああああああああああああああああ!!!???痛い、いたい痛いイタイ痛いいたいいタいイたイぃいいいい!!?じ、じおうぅううう……痛いよぉおおお……」

 最初は感覚が麻痺したせいで痛みを感じなかったが、一瞬で感覚が戻り、ダメージが一気に襲い掛かってきた。

 ウサギのバカげた脚力のせいで、肩が壁に埋め付けられてしまっているせいで、左手で持っていた神水入りの水筒が取れず、痛みをひかせることができない。

 それどころか、ウサギが追い打ちをかけるかのように肩の蹴られた部分を壁に押し込むようにグリグリとしてくるせいで、より一層痛みを感じる。

「な、なんでぇ……?やめてくれるんじゃ……なかったのぉ……?」

 僕の言葉を聞くと、やめる気などない、と言っているかのように首を振り、僕の肩を壁に埋め付けていた足をよけ、次はここを狙うと言わんばかりに僕の顎を足でトントンし始めた。

 僕の目がどんどん絶望に染まっていくのを嗜虐的な笑みを浮かべて見ると、ウサギは足をもう一度ゆっくり構え、僕の顎めがけて蹴りつけ……

俺の親友(ハジメ)をぉおおおおおおお!!!殺そうとするんじゃねぇえええええええええ!!!!!」

 ようとしていたが、横から突撃してきた時王に殴り飛ばされ、ウサギは壁に叩きつけられた。

「ハジメ!無事……じゃないな。ってかお前……水筒が……」

「え……あ……壊れてる……?」

 気づいていなかったが、どうやら最初に吹き飛ばされたときに、水筒が僕を守って壊れたらしい。

「チッ……俺の神水を使え。ほら、かけてやるから。ウサギが起きる前に動くぞ」

 時王が水筒の蓋を開けて、僕の肩に神水をかけようとしてくれた。

 だが……

「っ!駄目だ時王!後ろ!!」

「な……アガッ!?」

 乱雑に時王の喉を蹴りつけ吹き飛ばし、不機嫌そうに肩をいからせたウサギ。

 その真紅の瞳が、僕の方を見た。

「キュイィ!」

 雄叫びを上げながら僕を蹴り殺そうとしてきた。

 もうだめだ……と思って僕は目を閉じた。

 ……だが、痛みはいつまでたっても襲ってこない。

 恐る恐る目を開けると、そこには上の方を見て、瞳を恐怖の色に染め上げて震えているウサギがいた。

 一体何が……と思った瞬間、()()()()()()()()()()()()()()

「え……?」

 目の前でグロテスクな死体を見ているにもかかわらず、僕が持った感情は恐怖ではなく、疑問だった。

 先程まで僕をひたすら恐怖させ、苦しめてきたあのウサギが、こんなあっけなく?

「グルルゥウウウウ……」

「グラァアアアア……」

 思考の渦に飲み込まれそうになった僕を現実に呼び戻したのは、二匹の化け物の唸り声だった。

 それでようやく上を見上げると、そこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「あ、あぁ……?」

 泣き叫びもしなかった。

 新たな恐怖に襲われたせいで、防衛本能からか、意識が現実から離れてしまったせいである。

 だが……

ゲホッ、ゴハァッ!……ハジメェ!逃ゲルォ!

 ウサギの強烈な蹴りを受けたせいで変な声になってしまっている時王の絶叫で、ようやく我に返る。

「う、うわぁああああああ!!!」

 現実に戻ったことで戻ってきた恐怖心から、絶叫しながら壁から勢いよく引き抜こうとする。

 が、抜けない。

「なんでぇ!?抜けないぃいいい!!?」

チッ!ハジメェ!錬成で壁に穴を開けろ!!ゲハッ、ハァ……ハァ……こいつらは俺が止める!!

 泣き叫ぶ僕に、時王は声の調子が戻っていないまま大声を出し、上にいる熊二匹に石を投げつける。

 投石してくる時王の方から殺すことに決めたのか、鬱陶し気な目をしながら時王の方に近づいて行く熊二匹。

 その目を見た瞬間、僕は心の中の大事な何かが折れた音を聞いた気がした。

「れ、“錬成”!“錬成”、“錬成”“錬成”“錬成”“錬成”“錬成”“錬成”……“錬成”!!!!“錬成”、“れん……せぇ”……うぅ……時王……時王ぅ……」

 泣き叫びながら壁を必死に錬成して、魔力が尽きると同時に全身を弛緩させる。

 涙を流しながら、僕のために命を懸けて時間を稼いでくれた親友の名前を呼び、先程僕の心を折った熊の目を思い出す。

 アレは……あの目は……僕達に対して、何の感慨も覚えていない、捕食者の目だった。

 ウサギみたいに、悪意のある目なら、いくらでも耐えれた。痛みに泣き叫ぶことはあっても、心が折れることは無かったはずだ。

 でもあの熊はなんだ?僕達に悪意を向けるとか、敵意を露わにするとかはまるでなくて、ただただ餌を見ているって感じで……僕達なんて、悪意を持つまでもないって感じだった。

「……何なんだよぉ……アイツらぁ……!!」

 目をぎゅっと閉じて、ウサギと熊に悪態を吐く。

 あまりに泣き叫んで疲れ果てていたのか、僕は直ぐに寝てしまった。

 顔にポタポタと落ちてきている水に、気づくことなく。




ハジメが恐怖心を露わにしているシーンが、書いてて一番悩んだ場所。
人は限界まで追い詰められて、その近くのどこかに頼れる人がいたら、どんな反応をするんだろうと考えて書いたつもりです。
爪熊が二匹?
数少ないオリジナル要素ですよ。察しろ。


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苦しみ

ハジメside疲れた。
なんか見にくいかもしれませんが、そこはご了承ください。


時王side

目の前の熊二匹を見据えながら、未だ痛む喉を触る。

ハジメは錬成を繰り返して、もうすでにかなり奥の方まで逃げてくれているはずだ。

後は俺がここを何とかすれば…

そう考えた瞬間、黒い方の熊が突進してきた。

危ねぇな!

ギリギリ回避できたが、喉を手ひどくやられているせいで呼吸がうまくできず、派手に運動すればすぐに酸欠に陥ってしまいそうだ。

俺に回避されたせいで、慣性のせいもあり、かなり遠くまで吹っ飛んでいく黒い熊。

それを見て呆れたように鼻で笑って、俺の方に向かってその爪を振るってきた白い熊。

そちらの方も何とか回避し、何とか逃げ出す為の隙を探る。

だが、そこでいきなり背中に激痛が走る。

ッ!!ガハッ!?

一気に肺から空気が出ていったせいで、意識がなくなりそうになる。

だが、そこで舌を思い切り噛み、何とか持ち直す。

あ”あ”…イライラするんだよ…さっきからよぉ…

先程からズキズキと鈍い痛みをひたすら放っている首をゴキッと音を鳴らし、どこぞの王蛇みたいな事を言う。

実際はそんな余裕はまるでなく、むしろそんなことをする暇があるならすぐにでもこの場から抜け出したいくらいだ。

くそっ…あの時みたいに…ベヒモスの時みたいに…ジカンギレードとサイキョーギレードさえあれば…

無い物ねだりをするように、熊を警戒しながら零す。

すると、俺の脳裏に、またあの声が響く。

『また力を欲するか。その力は、一体なんのために求められている?』

決まってんだろうが!ここの敵を皆殺しにできて、ハジメを救うことができる…あの時お前の言ってた、理不尽に抗う力ってのが必要なんだよ!!御託はいいからさっさとよこせ!!

あまりに緊迫した状況だったせいで、無駄に声を張り上げてしまった。

『ほぉ…お前の歩むべき道は、やはり覇道のようだ。…だが…素質にあふれていても、器が足りなすぎる』

あぁ!?力を貸してくれるんじゃねぇのかよ!?

とても愉快そうにしていた謎の声が、遠回しにいきなり、俺に力を貸せないなどと言い始めた。

『いやいや、完全に力を与えられないというだけだ…権限を二つほど貸し出そう。制限時間は五分。それを超えれば、お前の体が限界を迎える。だから五分以内にこの状況を打破しろ!奴等を殺すのは後にして逃げることを優先するといい!』

脳内で声が響いたかと思えば、いきなり俺の右目と右腕が痛み始めた。

あ、あぁ…?あアああアアアアアああああアアアアアああああ”あ”あ”あ”ア”ア”ア”あ”ぁ”ぁ”っあ”っぁ”あ”あ”ぁ”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!!????

俺が急に絶叫し始めたのを訝しんでか攻撃を仕掛けてこなかった熊二匹。

だがそんなことを気にすることも出来ずに、俺は叫び続けた。

少しして、痛みが治まったから、痛みを放っていた右腕を見てみると、そこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

なっ!?これって…!

『あまりモタモタしていると時間切れになるぞ?今は逃げることに集中しろ』

謎の声のおかげで我に返った。

もう一度熊の方を見ると、二匹とも俺の腕を見て警戒していた。

…もしこの腕が…オーマジオウと同じくらいの力を持ってるならっ!!

そう言うと、俺はその場に右腕を叩きつけた。

叩きつけられた瞬間、地面が爆音をあげて砂埃を上げ、熊と俺を分断させた。

今のうちに、逃げる!

自分でも信じられないくらいの速度で走っていると、いきなり軽い頭痛と共に、脳裏に何かの映像が映った。

===================================================

砂埃の煙幕をものすごい速度で黒い熊が通過し、走っていた俺の背中に直撃。

そのダメージで限界を迎えた俺は、壁に叩きつけられると同時に死亡する。

その死体を熊二匹はむさぼるように食い散らかし、オーマジオウの右腕だけが吐き捨てられる。

===================================================

その映像の意味を理解する前に、俺は走っているのをやめ、振り向くことなく横に飛ぶ。

次の瞬間、俺がさっきまで走っていた場所に黒い熊が突進してきた。

今のって…見えたって事か…?未来が…?

若干呆然としながらも、すぐに走り出す。

走りながらも、先程の未来を思い出す。

もし未来が見えてなかったら…死んでた…

最も脳裏にこびりついて離れないのは、俺の死体が食い散らかされる姿。

グロテスクなものに耐久があってよかったと非常に思う。

脇目もふらずに走り続け、必死の思いで活動拠点(ハジメと俺で神結晶を見つけた場所)に到着し、その場にへたりこむ。

とっくのとうに右腕は元の姿に戻っていて、先程のように未来が見えるような事もなくなっている。

水筒の中の神水を一気に飲み干し、倒れこむ。

「…はぁ…はぁ…何なんだよぉ…アイツ等ァ…!」

思い出すだけで辛くなる。

現実は、小説の中なんかとは比べ物にならないくらいに残酷だった。

あのウサギの蹴りの痛みを、あの熊の突進の痛みを…何より、あの熊二匹の餌を見るような、なんの感慨のない目を直に感じて、俺の心は折れそうになっていた。

「何で俺がこんな目に…?別に俺は望んでこの世界に来たわけじゃないんだぞ…?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハジメside

「う、うぅ…あぐっ!?」

目を覚まして、意識が朦朧としている状態で勢いよく起き上がったせいで、低い天井に頭をぶつけてしまう。

「あ…そうだ。僕は確か…」

思い出すのは、あのウサギや熊。

そして…

「時王…大丈夫…だよね…?ちゃんと…逃げたよね…?」

僕を生かす為に、囮になった時王。

「…ぐっ!?あぁ、肩…」

あの性悪なウサギにやられた肩が、未だに熱を持って痛みを脳に伝えてくる。

「…でも、痛みは大分ひいてる…かな?」

ウサギに蹴られたばかりの頃の痛みに比べれば、今の痛みはなんてこと無かった。

「…?あれ?切り傷とかが…治ってる…?」

肩の骨は治っていないが、何故か他の傷が治っていることに気づく。

「…もしかしてこの水…神水…?」

意識が朦朧としているまま、使い物にならなくなったままの左腕をプラプラさせながら錬成を使い、水の流れを追う。

「…あった。神結晶だ…」

最初に時王と見つけたものよりは一回り二回り小さい気がするが、神結晶があった。

「神水が溜まってる…ングッ…ングッ…っはぁ…!」

神結晶の周りの溝に神水の水たまりができていたので、犬のように這いつくばりながら溜まっていた水を飲む。

飲み終わったころには思考もクリアになっていた。

「…時王が心配だ…でも、今出ていくわけにも…」

チラリ、と自分の左腕を見る。

肩の骨は神水を飲んでも治ることは無く、すでに修復不可能な状態になってしまっていることがはっきりとわかった。

「…くそっ、何で僕が…僕と時王がこんな目に?」

ここに落ちてくる前の最後の光景を思い出す。

呆気に取られて行動することができなかったクラスメイト達。

届かない距離だとわかっているだろうに、必死に手を伸ばしていた白崎さんと八重樫さん。

もう無理だ、と諦めていたのか目を閉じていた人もいた。

ただ、そんな有象無象はもうどうでも良くて、僕の頭の中にはある一人の表情しか残っていなかった。

「…檜山…」

檜山大介。僕達の方を見て、吐き気を催すような笑顔を浮かべていた人だ。

恐らく…いや、確実に、僕たちに魔法を撃ったのは檜山だろう。

くん、はもう付けない。つけてやる義理なんてないから。

「…檜山のせいで…アイツのせいで…こんな目に…?」

いや違う。それだけじゃない。

僕の中のナニカが、まるでこの世の全てが自分の敵だと思っているような声で語りかけてくる。

お前をこんな目に遭わせたのは、別に檜山だけじゃない。檜山に攻撃させるような嫉妬心を持たせる理由になった、白崎もだろう?

白崎…さんが…?確かに僕がクラスで嫌われ者になっていたのは、白崎さんが話かけてきていたからだけど…

だろう?ならもっと視野を広げよう。クラスの人気者、天之河はどうだ?アイツはみんな仲良くなんて言っておきながら、お前には無駄に空回りした説教ばかり。そのせいで、お前を碌に知らない奴等には悪感情を持たれた状態で関わられることになった。別にお前が誰かに何かをしたわけじゃないのに。

天之河くん…言われてみれば、天之河くんは悪い人なんていないなんて言う子供みたいなふざけきったことをモットーに生きていた。その癖僕の悪人扱いを変えることは無く、いつもいつも白崎さんからのお節介に対する態度についてとか、僕が自分からそれでいいと思ってやっていたことも頭ごなしに否定してきた。何も知らないくせに。

そうだそうだ。じゃあクラスメイト達について考えてみよう。アイツらはお前を悪い奴と決めつけて、外野から露骨に嫌な態度をとり続け、お前をいじめ続けていた。

クラスメイト達…?そうだ。みんなも僕を排斥しようとしてきた。僕はただ自由にに生きたかっただけなのに。望んでもいないお節介を、ただ時王の近くにいたからという理由だけで受けてきて、そのお節介を無下にしていると勝手に憤慨されて、嫌われていた。

そうだそうだそうだ!よくわかってきたじゃないか!次はこの状況を生み出すに至った、この世界に召喚した神の事と行こうじゃないか!エヒトとか言う駄神は、自分に物事を解決する力があるくせに、人類の終焉が近づいてきたことを嘆くだけ嘆いて、無関係なお前と、その親友の時王すらも巻き込んで召喚するだけで、あとは頑張れというだけで終わりじゃないか。どうせろくな力もない愚図何だろう!なぁ?

あぁ…そうだ。そうだった。別にクラスメイト達から嫌われていたとしても、社会人になって関わりがなくなれば、僕は時王と一緒に、趣味の合間に人生を謳歌出来たのに。親友と一緒に、自分の好きな事のために生きることができたのに。それをこの世界の神は邪魔した。自分の勝手な都合で。自分で解決できることを、態々違う世界で平和に生きることのできたはずの僕たちを召喚して。挙句周りの貴族たちは僕達を英雄かといったかと思えば、ステータスが低いというだけで落ちこぼれ、無能、屑だとか罵り放題して。この世界なんか、放っておいたってかまわないのに。

ははははは!流石は俺だ!すぐに理解してくれるじゃないか!なら簡単だろう?お前がやることは、もうわかっているはずだ!

…復讐。僕を、僕と時王を苦しめた全てに対する…報復。

そうだ、それが正しい道だ!さぁ、怒りに身を委ねろ!弱い心をすて、過去と決別し、親友と自分の為に生きるんだ!!

「…復讐…報復…」

熱に浮かされたように呟く。

それこそが正しい道だと、自分に刷り込むように。

そうだ、復讐しなきゃ。僕と時王を苦しめた全てに。

そこまで考えたとき、僕の脳裏にある言葉が響いた。

『ハジメ。辛いときは泣けばいい。苦しいときは叫べばいい。でも…自分を捨てることだけは駄目だ。周りからは弱いって言われても、お前にしかない強さがある。その強さを捨てて全てを諦めても、それに意味なんてない。それだけは覚えておいてくれ』

――――ッ!

この言葉は、この世界に召喚されていじめが過激になった時に、あまりに辛くて自殺しようと考えた僕を止めたときの時王の言葉だ。

泣きじゃくって愚痴を吐いて、時王と関わっていたからいじめられたんだ、なんて事まで言っちゃったのに、時王はあくまで僕を立ち直らせるための厳しい言葉をかけてくれた。

優しい目で、俺のせいで辛い思いをしてるなら、その鬱憤を晴らしたいなら、殴っても罵っても構わない。なんて言ってきたのだ。

もう僕に時王を責めるつもりなんて残っていないし、これからもないだろう。

だからこそ、時王の願いは叶えたいのだ。

故に僕は、本来の自分を見失って復讐に走るなんてことは、するわけには行かないのだ。

「…ごめん、君も多分僕なんだろう。ならわかってくれるはずだ。もう僕にとって、時王と自分以外はどうでもいい。だけど、だからこそ時王の言葉は、守りたいんだ」

…そうかよ。でも、お前が言った通り、俺はお前だ。だからこそわかる。絶対にお前は復讐という道しか歩けない。だって、その道の先にこそ、お前の還るべき場所があるのだから。

「そうかもね。それは僕だからわかるよ。色々違うところはあるみたいだけど、同じところも多いみたいだね」

ははっ、そうだな…お前が時王の言葉をどうしても守りたいなら気をつけろよ?檜山のバカみたいに、感情を支配できていると思い込んで、復讐心に飲み込まれないようにな?

「あぁ。頑張るよ。いつまで持つかは…わからないけどね」

僕の言葉が終わっても、僕の脳裏に声は響かなくなった。

言葉に返してくれる人がいないのはかなり孤独感を与えてきたが、今は孤独が心地よい。

いつまで僕が耐えられるかはわからない。だから、僕が時王の言葉を守って生きることのできる間に、この場を切り抜ける方法を身に付けなくてはいけないのだ。

「…よしっ!やるぞ!僕は僕の強さってやつを信じるんだ!」

痛む左肩はそのままに、右腕を力強く突き上げ、宣言する。




二度目です。
読みにくくてスイマセン…


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王とは/暗闇の中で

なんか納得のいかない出来ですが、修正点が思い浮かばないので投稿します。
なにかあったら教えてください。
違和感の正体に気づけるかもしれないので。



時王side

「あれから…どれくらいたった…?」

涙の跡がついているだろう頬を拭って起き上がる。

ウサギや熊、自分を襲う痛み。そして…孤独。

それらに襲われ、単なる気の弱い一般人でしかない俺は、限界を迎えそうになっていた。

つい最近、ハジメに自分を捨てるなとか言っておきながら、俺はこのザマだ。

「…理不尽…か」

目をもう一度閉じ、思い返す。

ハジメをいたぶり、愉快そうに口元を歪めたウサギ。

俺とハジメを、そこら辺を転がっている石にすらもう少し温かい感情のこもった目を向けるだろうと思ったほどの、捕食者の目を向けてきた熊。

「…怖かった…でも、それ以上に…ッ」

ギンッ、と目を見開いて、慟哭する。

自信を縛る全てを断ち切り、粉々にするように。

「ムカつくんだよッ!俺を見下してきたアイツらがッッッ!!」

それは、身勝手な怒りだっただろう。

それは、とても傲慢な怒りだっただろう。

だが、これが俺の本質なんだ、と気づけた。

そうだ。俺は…

「下に見られることが、何かの下にいることが、たまらなく嫌なんだ…」

それがわかると、何故だか心がふっと軽くなった。

「なるほど、王の素質…ハハッ、これじゃ暴君の素質だろうに…」

自虐的な笑みを浮かべながら、自分の持っているらしい才能を否定する。

俺なんかに、王の器はなかった。だからオーマジオウの力を使った時に、すぐに体がボロボロになったんだ。

いつもなら、ボドボドとかいってふざけることができるんだが…もうそんな余裕はない。

「なぁ、聞こえてるんだろ?早く出てこいよ」

『どうかしたのか?まさかこの何もないところで、自分の身を削るような力を欲するわけでもあるまい?』

俺が虚空に呼びかけるように声を出すと、あの禍々しい声がすぐに反応してきた。

「…器が足りないって言ってたな?それはつまり、俺が王になれる心を持っていないってことなのか?」

『は…?何を言っているんだ?お前に足りない器は、文字通り体の話だ。それ以外に足りないところなどない。お前の魂の本質は、限りなく逢魔の力を持つに適している。お前は正真正銘、覇道を歩むべくして生まれた者だ。誇るといい』

「…器って…体の話だったのかよ…」

自分の中で納得していたが、それはどうやら見当違いだったらしい。

「なぁ、この世界のステータスで例えるなら、一体どれくらい数字が必要なんだ?」

『必要な器の大きさを聞きたいのか。…ふむ、お前ほどの素質なら、本来の逢魔の力を超えるだけの力を振るう事すらも可能だろう…お前に貸し出した、あの右手と右目の力をノーリスクかつ時間無制限で使えるのが、大体オール四百といったところだから…全体の力を無制限に使いこなすとなれば、やはりオール一万は確実に必要だろう』

随分必要だな…と愚痴りたくなったが、流石にそんなことを言う気にはならなかったので、納得したように装う。

「ほかに器として求められる力は?」

『魔力操作だな。逢魔の力の主なものは、やはりその時間支配能力。時間を統べるためには、自在に魔力を操る力が不足していてはならない』

「…なるほどなぁ…」

この二つの条件を聞いて、すぐに魔物を喰うことを決定する。

原作ハジメ並みのチートステータスに加えて魔力操作まで必要とされたら、魔物を喰うしかない。

なら、さっさと殺して喰えばいい。

腕くらい、例え傷ついたとしても、逢魔の力で時を戻せばすぐに傷も治る。

だから力を借りて、全ての魔物を殺せ。

そして、喰え。

「…ふぅ…殺るか」

右腕の痛みも、右目の視界も全て戻ってきている。

後は、器を手に入れるだけ。

俺は…王になる。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハジメside

痛い。辛い。暗い。

でも、自分で誓ったことを守るために、ひたすら耐え続ける。

どこかにある隙間から、何かの断末魔が聞こえてくる。

カランコロンと、何かが近くを歩く時に、石を蹴飛ばした音が聞こえてきた。

でも泣かない。叫ばない。

泣いたら、全てを諦めてしまいそうだから。

叫んだら、そのまま心の支えになっている小さな記憶も、声と一緒に出て行ってしまいそうな気がしたから。

いくらポジティブになろうとしたって、あの恐怖が完全に消え失せるはずがない。

消え失せて良いはずがない。

だってそれだけ傷つけられたから。それだけ心の中の大事なものが壊されたから。

だから耐える。

神水を飲む。水を飲むという行動が、恐怖を直に感じることが無いようになる、クッションのような役割を果たしてくれている気がしたから。

だから、限られた物だって気づいているのに飲み続ける。

時々大きく息を吸う。息を吸えば、失ってしまった大事なものが、空気と一緒に体の中に戻ってくる気がしたから。

それでも、やっぱり辛いことに変わりはなくて、怖いことに変わりはなくて、僕は何も大きく行動することができないままその場で動きを止める。

もうこんなことを何度も繰り返しているせいか、飢餓感が強くなってきた。

「なんで僕がこんな目に…?」

わかりきっている、もう随分前に解決している疑問を、ひたすら自分に与える。

こんな疑問が、この飢餓感を紛らわせられるわけではないのに。

こんな疑問があったら、時王の言葉を守る事が出来なくなってしまいそうになるのに。

何度か、目を覚ますたびに思ってしまう。

この自分への誓い(絡みついて離れない呪縛)が無ければ、もっと気楽になれるんじゃないかと。

そう思うたびに思い出す。

泣きじゃくる僕を慰めてくれた、親友の優し気な顔を。

それで何とか踏みとどまる。自分を捨てるなと。

「辛い…辛いよ…助けて…時王…」

泣いてもいい。そう言ってくれた親友に、すがるように涙を流す。

その涙は拭わない。

だって、涙を拭うために手を動かすことで、今感じている飢餓感が増えてしまうような気がしたから。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハジメside

…僕は一体何者で、何を望んでいるのだろう。

そんなことを考えるようになってきた。

僕は僕だ。僕でいないといけない。だって、それが時王の願いだから。それが僕の、僕に対する誓いだから。

だからこそ、僕は望みについて考えない。だって、僕の望みは…

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハジメside

僕が時王の言葉を守ろうと思ってから、もう四日たった。

空腹感が僕を満たして、体を鎖のように縛って離さない。

「…あぁ…どうすれば…何か…食べるもの…」

うわごとのように呟きながら、寝返りをうつ。

その時、すでに自分の意思では動かせなくなってしまっている左腕が、寝返りを阻害した。

「…この腕…邪魔だなぁ…」

もう自分の体にすら、なんの感慨も得られなくなってしまっている。

「人間の体には…必要な栄養素が…あるん…だっけ…?」

ダメだ、いけない。それだけは駄目だ。

自分が自分じゃなくなってしまう。

頭の中で響いている声が、朦朧としている意識を戻そうと躍起になっている。

でも…もう…無理だ…

「“錬成”…」

近くの地面を錬成し、刃物を作り出す。

「…ごめん…僕…ごめん…時王…」

刃物を作り出したら、自分の服を破く。

破きながら、自分や時王に謝罪する。

僕は…これから僕を捨てる。

空腹には勝てなかった。それだけだ。

破いた服の一部を口に含み、舌を噛み切らないようにする。

右手で刃物を持ち、左肩に向ける。

そのまま、刃物を振り下ろし、左腕を肩から切断する。

「ッ~~~!!…ッぁああああああ!!?」

先程まで左肩があった所から、血がボタボタと零れ落ちる。

神水を飲むために這いずり、神水のためてあるところに顔を突っ込み、ゴクゴクと飲む。

「ぷはっ!…はぁ…はぁ…」

血の流れを感じなくなったら、神水の水たまりから顔を出し、切り取った左腕を右手で掴み、目の前まで持ってくる。

「…ガブッ!グチュ…グチャッ…ゲホッゴフッ…ムシャッ、ジュルッ…グチャッ、グチャッ…うっ…うぅうう…」

涙を流しながら、自分の左腕を貪る。

しばらくの間何も食べていなかったせいで、自分の左腕がどうしても美味に感じてしまうのが悔しいやら情けないやらで涙が止まらない。

「グチョッ…ジュルジュル…ネチャ、ネッチャ…ゴクン…はぁ…はぁ…」

こうやって自分で腕を切り落として、自分で食べなければならないくらい辛い思いをしている間に、他のクラスメイト達はもっといい食事を、笑顔で食べているんだろう。

うらやましい。でも…それ以上に…

「ムカつくんだよォ…はっ、もういい。悪いな時王。僕は…いや、俺は」

口調すら変え、一人称も意識的に変える。

変わるなら、捨てるなら、徹底的にしたかった。

「この屈辱を与える理由を作った、それ以前にも屈辱を与えてきた、全てに復讐する。俺はもう、自分とお前しか信じらんねぇんだ。時王」

檜山、齋藤、近藤、中野、天之河、白崎、八重樫、坂上、谷口、中村、畑山、その他クラスの奴等…

メルド、イシュタル、リリアーナ、ランデル…何よりエヒト。

他にもたくさんいる。元居た世界にも、この世界にも。

「上等だ…俺をこんな目に遭わせてくれた借り…返させてもらおうか。利息のサービス付きでな」

口元を歪めながら、自分の敵を意識する。

顔を思い出すだけでも吐き気がする。顔を思い出すだけで視界が殺意で真っ黒に染まる。

「まずは強くならねぇと…それに、当面の食料も欲しい」

ウサギから殺すか…?いや、ウサギにやられてた、比較的雑魚だろう狼から殺そう。

勝てない敵に突っ込んでいくつもりはねぇ。復讐を完了させるまで、俺は死ねねぇ。

「時王がもしどこかで隠れて生きてるなら、一緒に行動したいが…まぁ、無理か。熊二匹相手にして生きて居られるなんて、奇跡的過ぎるもんな」

儚い幻想に身を委ねたくなった自分を、心の中で叱咤する。

そして、もう一度瞳に憎悪を込めて、隠れていた空洞から、外に出る…

のではなく、錬成を上達させるために特訓を開始する。

ここには幸いなことに、魔力を全回復させる神水がある。

それを使えば、俺は魔力を気にせず錬成の練度を上げることに専念できる。

「さぁ…復讐のための第一歩だ」




時系列がこの話の中でぐちゃぐちゃになってしまっているので解説させていただきますと、
時王sideは、ハジメが覚醒してしばらくたった後の話です。
まぁ、それだけ長い間寝てたと言う事ですな。時王は。
ハジメsideは、時間の経過を表現するために何個かに区切りましたが、読みにくくしてしまっただけな気がします…
ただ、ハジメsideの方は、原作の時間進行と同じ設定でいるつもりです。
なので、変だな、と思ったらすぐに感想ください。
追記:時王sideの時系列を書き換えました。


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錬成の魔王/時の王者

前の話のあとがきにも書きましたが、時王の目覚めた時間帯を、ハジメと同じタイミングではなく、ハジメの少し後という感じに変更させてもらいました。
より一層わかりにくくなってしまった気もしますが、お許しください。


 ハジメside

 岩陰から虎視眈々と狼の魔物を狙う。

 錬成の練度は十分高くなっている。

 だから、俺が失敗することなんて、万一にもあり得ない。

「……ふぅ……“錬成”」

 狼に気づかれないように小声で錬成を発動する。

 何度も練習したことにより、錬成の効果範囲はかなり上がっている。

 実際、狼に気づかれないように、狼の内一匹を壁の中に閉じ込めることに成功した。

「……さて、他の狼が異変に気づいてから畳みかけるか……」

 他の数匹が、ようやく一匹いなくなったことに気づく。

 それぞれが、一体何が起こったのか、というような雰囲気を醸し出しながら単独行動し始める狼ども。

「ふっ……間抜け共……“錬成”」

 狼どもを鼻で笑ってから、近づいてきた狼を壁に埋める。

 埋めたところからすぐに目を離し、次の獲物を選ぶ。

 一番近場にいた狼を狙い、先程までと同じように埋める。

 さらにもう一匹いたので埋め、その場をすぐに移動し、最後の一匹を埋める。

「よしっ、捕獲完了……“錬成”」

 錬成を使い、壁の中にいる狼どもを壁ごと移動させ、活動拠点に持っていく。

「さてっと……“錬成”」

 拠点に戻り、錬成を使って壁の中から狼の動体だけを取り出す。

「このまま窒息させるのもやぶさかではねぇが……」

 低い唸り声のような音をたてる腹を右手でこすり、満面の笑みで狼の腹に向かって言い放つ。

「錬成のし過ぎで腹減ってんだよ。待ちきれねぇや」

 それだけ言うと、錬成を使って作っておいた武器を取り出し、狼の腹に突き刺す。

 だが、刃が刺さる前に、ギィンッ!と甲高い音をたててはじかれた。

「……やっぱ、強い魔物は堅いよなぁ……だ、け、ど……」

 武器を床に置き、錬成を始める。

 武器をただのダガーから、ドリルの形状をしたものに変化させる。

 そのドリルを狼の腹にあて、取っ手部分を回転させて突き刺していく。

 断末魔は聞こえないが、痛みに苦しんでいるのはわかった。

 ある程度腹の中身をぐちゃぐちゃにしたところで、狼の動きが完全に停止した。

 そこで俺は、比較的肉の柔らかいところを引きちぎり、焼かずに洗わずに、なんの躊躇もなく食べた。

「グチョッ……ネチャネチャ……ッガァ!マズイなぁ!!食えたもんじゃねぇ……でもまぁ久々の飯だ……ングッ、ングッ……プハッ……あぁ……神水がうまく感じる……どんだけまずいんだよこの肉……俺がこんな酷いモン食ってんのに、アイツらはきっと悠々と王宮でうまい飯食って、命もあまりかけずに迷宮ちょびっと攻略して俺達の絆が以下略とか言ってんだろうなぁムカつk……ガ……ァ……?」

 文句を言いながら狼の肉を食っていると、突然俺の体に違和感が。

 首をかしげたのも束の間、すぐに全身に激痛が走り、俺はのたうち回り始めた。

「ぁああああああアアアアアアアああアアアああああああアアアアアぁあああぁァァ!!!!??」

 すぐさま神水の水たまりに顔を突っ込み、ゴクゴクと神水を飲む。

「はぁ……はぁ……ウッ!?ぁ、ァぁ、あぁああぁぁああぁあぁぁぁぁああぁぁぁあああああああぁぁあアアアアアアアああああああアアアアアああああああアアアアア!!?」

 一瞬痛みは和らいだが、すぐに先程の倍くらいの痛みが襲い掛かる。

 痛みを感じてのたうち回ると、すぐに神水を飲む。

 落ち着く間もなくすぐに体が痛みを発し、またのたうち回る。

 それを何度か繰り返したところで、ようやく痛みがこなくなった。

「はぁ……はぁ……くそっ……忘れてた……魔物の肉には、人間を爆発させて殺す毒素が……」

 やけに説明口調になりながら、神水の水たまりに顔を半分浸しながら悪態をつく。

「……あぁ……最悪だ……って、オイ待て……これって……?」

 神水の水たまりから顔を上げ、一応神水を飲んでおこうかと水たまりに顔を向けたら、そこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()

「あー……魔物を喰って生き残ったからか?だとしてもこれは変わり過ぎだろ……結構背も伸びた気がするし……」

 ボリボリと後頭部を掻きながら、ステータスプレートを取り出す。

 もしかしたらステータスも変動している可能性があったからだ。

 ============================================

 南雲ハジメ 17歳 男 レベル:8

 天職:錬成師

 筋力:100

 体力:300

 耐性:100

 敏捷:200

 魔力:300

 魔耐:300

 技能:錬成・魔力操作・胃酸強化・纏雷・言語理解

 ============================================

「なんでやねん……」

 エセ関西弁が出てしまうくらいには驚いた。

 一体どういうことだこれは。

「いろいろ言いたいことはあるが……この魔力操作ってのが一番気になるな」

 恐らく、魔物のように魔力をあやつることができるようになるのだろう。

 さっきから感じてるこの変な感覚が魔力か?

「う~ん……こうか?」

 なんとなく香ばしいポーズをとりながら魔力よ動け、と考えてみる。

 すると、自分の思った通りの方向に魔力のような物が動き始めた。

「お、おぉ?なんか変な感じだが……ん、待てよ?」

 ここで俺に電流走る。

「……やってみるか。“錬成”」

 魔力を離れたところにある壁に動かして、錬成を発動する。

 すると、壁が俺の意識したとおりに形を変えた。

「おぉっ!こりゃいい!戦闘の幅が広がるぜ!」

 まずは実践で使えるくらいに魔力操作になれるところから始めよう。と意気込み、俺は神水を入れた容器を片手に、錬成を発動したのだった。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 時王side

 堂々と迷宮内を歩き回り、ハジメを探す。

 前に俺がウサギや熊に襲われた場所は、ハジメが逃げる時に穴をふさいでしまったらしく、何も見当たらなかったのだ。

「はぁ……ハジメー!いないのかー!!」

 魔物に襲われる、とかそう言う事はまるで気にせずに大声を出す。

 だが、ハジメから返事が来ることは無く、迷宮内に俺の声が木霊するだけだった。

「ハジメ……まさかもう覚醒した後……?魔王ハジメになって、この階層から下に下りたの……?ウソン。俺まだ器を手に入れられてないのに……」

 その場でうずくまると、少し離れたところから何かの足音が聞こえた。

「……ようやくお出ましかよ、ウサギの魔物さん」

「キュ?」

 俺の言葉に、何を言っているのだろうかと首をかしげるウサギ。

 まぁ別に返事が欲しくて言ったわけじゃないから、まったく気にすることは無いのだが。

「おい、力を貸せ。あの目の奴と腕の奴だ!」

『ふん、大分傲岸不遜になって来たな。だがそれでこそ逢魔の継承者!よかろう!存分に戦え!』

 俺の脳裏に声が響くと、俺の腕と目が痛みを発し始めた。

 だが、前のように叫ぶことは無い。

 耐性ができたのだろう。痛みに。

「さーて、始めようか」

「キュ……?」

 突然変化した俺の右腕と右目を見ながら、さらに首をかしげるウサギ。

「来ないのか?ならこっちから行くぞ!」

 俺がウサギの方に向かって走り始めると、ようやく戦闘態勢に入るウサギ。

 ウサギの眼前まで迫り、オーマジオウの右腕を振るうが、縮地で回避される。

「チッ、やっぱ速度じゃかなわねぇか……なら!」

 ===================================================

 その場で動きを止める俺。

 それを好機ととらえてか、俺の背後に縮地や空力を利用して現れ、自慢の足で思い切り蹴りつけてくる。

 ===================================================

「見えたぜ……お前の未来が!」

 先程の映像の通りの時間だけその場で動きを止め、蹴りを喰らわせてくるはずの時間に合わせて後ろを向き、拳を振るう。

「キュウッ!?」

 まさか気づかれているとは思っていなかったのか、足を引っ込めることも出来ずに攻撃を受けてしまうウサギ。

 足にオーマジオウの右腕が触れた瞬間、ドパンッ!と音をたててウサギの両足が爆発四散した。

 ……衝撃波で、触れてない方の足すら消し飛ばしやがったよ……

「ギュッ!?ギュゥウウウウウウ!?」

 痛みに苦しみ、その場で悶えるウサギの脳天めがけて拳を振り下ろす。

 べチャッ!と音をたててウサギの脳が潰れ、脳漿がまき散らされる。

「……ふぅ……ッ、時間切れか……!」

 その場で溜息をつくと、腕と目が再び鈍い痛みを放ち始めた。

「早く戻ろう……神水さえあれば……一応痛みも和らぐ……!」

 ウサギの死体を引きずりながら、拠点に戻っていく。

 道中はなんとか魔物に遭遇せずに帰れたが、いい加減に痛みと空腹に耐えれそうになくなってきた。

「ゴクッ……ゴクッ……さて、さっそく食うか……」

 ウサギの頭のあった所に空いている空洞を、力任せに引き裂き、肉をとる。

 びちゃびちゃと血が滴るが、そんなことは気にしない。

「これを喰えば……俺も強く……!アムッ、ビチョッ、ネチョッ、グチョグチョ……ブチブチ……ゴクン……あー、まずっ……っと、神水神水……」

 危なく魔物の肉を食ったのに神水を飲まずにそのまま終わるところだった。

 痛みはまだ来ていないが、どうせすぐに来るので神水をためてあるところの前で待機する。

「ッ!?気やがっt……ガァアアああああああアアアアア!?」

 痛みにはなれたみたいなこと言ったけど、あれ嘘。こんなん無理だわ。

「ングッ、ゴック、ゴック……はぁ……はぁ……ウッ!?ングッ、ゴクッゴクッ……」

 痛みを和らげては直ぐに痛みが俺を襲い、癒したそばからすぐに痛みが戻ってくる。

 これは確かにストレスで髪真っ白になるわ。

 長いこと神水を飲んでは痛みに苦しんで、というのを繰り返し、ようやく痛みがひいていった。

「はぁ……やっと終わったか……っと、ステータスステータス……」

 ============================================

 常盤時王 17歳 レベル:1

 天職:■■■■の魔王

 筋力:400

 体力:400

 耐性:400

 敏捷:400

 魔力:400

 魔耐:400

 技能:逢魔時王・言語理解・魔力操作・胃酸強化・天歩[+空力][+縮地]・言語理解

 ============================================

 うーん。何とも言えない。

 いきなりステータスオール四百か。

 まぁこれはどうでもいいんだが……

 問題はこの天職。何だろうこの■の部分。

 なんの魔王なんだ?

 技能の逢魔時王ってのもよくわからんし。

「……ま、深く考えるなってことか。……つーかこれで右腕と右目が無制限使用可能か……」

 長かったような短かったような。

 まぁこれで俺はしばらくの間無双できるし、安心してハジメ捜索に乗り出せる。

 ……ま、狼と熊の肉は食っておくけど。

 ていうかさり気なくウサギの派生技能手に入れちゃったなぁ……まぁ強いことは良いことだから、全然気にしないんだけど。

「……取り敢えず、右腕の力でできることの確認とか、色々やらなきゃな」

 今一度神水を飲み、心機一転右腕を変化させる。

 強くなる。そして……王になる。本来のオーマジオウの力を持つ男……常盤ソウゴみたいな、最高最善の魔王に。




時王の異常なステータス上昇についても、しっかり裏設定があります。
まぁそのことについてはいずれ語ると思うので、気長にお待ちください。


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復讐の一歩、魔王達の反逆

連続投稿。
すぐに書いたので、変なところがあるかもしれませんが、その場合は感想で教えてください。
あ、ただの悪口はやめてくださいね。返信に困るので。



ハジメside

錬成の練度を上げ続け、狼の群れ相手に正面切って戦闘できるくらいには強くなったある日、俺の錬成に派生技能が出現した。

鉱物系鑑定。国のお抱えの錬成師でも、ほんのわずかな者しか持っていないような技能だ。

鉱物系鑑定を繰り返し、周辺の鉱物を鑑定していた時に、ある鉱物を発見した。

燃焼石。俺はこの鉱物を発見し、その概要を見たときに、あることを思いついた。

これを火薬にしたら、銃弾ができるんじゃないか?と。

それを実行するには、かなりの時間と試行錯誤が必要だろうが、錬成を繰り返せば、いつか出来上がるはずだ、とも思った。

そして、ついに完成したのだ。

俺の相棒となる兵器、大型のリボルバー式拳銃。

名づけるとしたら…ドンナーだろう。

ドイツ語で落雷を意味するその名は、この銃の最大の特徴を表している。

俺の技能、纏雷を使うことにより、弾丸の射出時に電磁加速することによって、小型のレールガンとして、ただの拳銃を軽く凌駕する火力を誇る。

銃身にここら周辺では最高の硬度を誇るタウル鉱石をふんだんに利用したことによって、簡単な事では破壊されない仕様になっている。

「…これなら、あの熊もウサギも…いやそれだけじゃねぇ!!檜山とか、天之河とか…アイツらに復讐することも出来る!!最高じゃねぇか!ドンナー!!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

「しかし…ハジメは本当にどこに行ったんだ…?」

逢魔時王の力の扱いが自由自在(笑)になってから、俺は周囲の探索を始めた。

逢魔時王の力は本当にすごくて、攻撃的なモノだけでなく、望んだものを作り出したり、別の位相から呼び寄せたり、時間を戻したり進めたり止めたりとやりたい放題。

中でも気に入っているのは、右腕で新たな空間を作ることにより、異世界系小説ではよくある、アイテムボックスを作り出すことができる力だ。

今その中には、神結晶と神水を入れてある。

神結晶の時間の流れの進みを操作して、永遠に神水を生み出すようにもしている。

それくらい逢魔の力の扱いが自由になってきたのだ。

「ハジメー!いないのかー!」

いくら大声を出しても、ハジメからの返事はない。

もしやまだ洞窟の中に…と思ったが、ハジメと別れたところをいくら探索(壁を壊したりして、錬成されたところの穴も探した)しても、まったく痕跡が見当たらなかった。

「…もしやもう覚醒イベントが終了して、俺を置いて先に下の階層へ向かったとか…?」

その可能性は十分にあり得る、と頭の片隅に置いておく。

ある程度考えをまとめ終わったら、前の曲がり角のところからいきなり魔物が飛び出してきた。

「…ッ!?テメェは…!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハジメside

「…はっ、はは…最高だ…最高じゃねぇか!オイ!俺をあれだけ見下しておいてこのザマじゃねぇかよオイ!!」

高笑いしながら、あの時コイツが俺にあぁやった様に、地面で突っ伏しているウサギの死体を踏みつける。

脳天を綺麗に打ち抜いてやったから、いくら踏んでも反応は無い。

だが…

「あああああ!気持ッちいい!!俺をいじめてきた奴等はこんな気持ちだったのかぁ!教えてくれよ檜山達ぃ!!ギャハハ!まぁ本当にあったら問答無用で話す間もなく撃ち殺すけどよ」

楽しい、自分の下にいるものを踏みつけ、嘲笑うことが。

気持ちがいい。何かの上にいることが。

最高だ。復讐を成功させることは。

昔の自分が持っていた、何かを傷つけるのは、誰かを嘲笑うのは、蹴落とすのいけないという考えはもう消えていた。

寧ろ自分から消していった。

何故か?不要だから。

前までの甘ったれた考えは、俺にとって邪魔でしかないから。

時王が肯定してくれた強さは、今の強さの障害物でしかないから。

でも気にしない。

前までは、時王の言う事を聞かずに自分を捨てたら、時王にすら捨てられると思っていた。

でもそんなことは無いだろうと思うようになった。

だって、弱かった俺の隣で笑って、笑わせてくれて、励ましてくれた優しい時王が、俺の行動を頭ごなしに否定して、拒絶するようなことは無いだろうから。

寧ろ、こういう考えの方が正しいだろう。

今までの俺は、勝手に時王の人格を決めつけ、値踏みしていただけ。

どれだけ自分の中で神格化しようとも、時王の心を見くびっていたのだ。

だから、そんなことはやめた。

俺の親友が、この程度で俺を捨てるわけがねぇ。俺を親友じゃないと手の平を返すなんてねぇ。

確信をもって言える。

だからこそ俺であれる!

「…さて、ウサギと狼はある程度殺したし…メインディッシュと行くかぁ!」

弾倉から薬きょうを排出し、新しい弾丸を装填する。

「一匹は時王にとって置きたいし…じゃあ俺は白い方の熊を殺るか。能力は未知数だが、今の俺は負ける気がしねぇ」

武器の状態が万全であることを確認し、お目当ての魔物を探す。

もしアイツらが二匹でしか行動しないなら、時王のためにとっておくことが難しくなるが…まぁ、その時はその時だ。

「さーて、何処にいるかな…お、早速発見…それも単独行動中じゃねぇか…殺そう」

それだけ言うと、俺に背を向けている白い熊の背中に、計三発銃弾を撃ち込んだ。

「グルァアアアアア!?」

「ハハッ、いいねいいねその表情、痛みに苦しむその顔がぁ…たまらなく愉快だぜ!」

さらに三発撃つが、不可視の斬撃により落とされた。

「チッ…めんどくせぇな…」

すぐさま薬莢を排出、弾丸の再装填を終え、熊の脳天に向けて二発、足止め用に両手両足に四発早撃ちする。

だが、熊はその巨体に似合わぬ高速で全弾回避し、息を荒げながらも俺の方を睨みつけてきた。

「グルゥウウウ…」

「なんだよ?卑怯者ってか?やめろよやめろよ…お前だっていきなり攻撃すんだろ?なのに、相手にはセオリー通り待ってほしいとか…何様だよ。大人しく死ねって」

銃弾を再装填しながら話しかける。

熊の方は言葉がわかっているのかいないのか、怒りで声を荒げる。

そのまま俺の方に飛び掛かって来たので、ギリギリまで引きつけ回避し、すれ違いざまに銃弾を撃ち込む。

腹部を撃たれたせいでうまく着地できずに地面に飛び込み、その場で呻きながらのそのそと動く熊。

「はっ、まったく…俺はコイツに恐怖してたってのかよ。笑えるなぁ…」

「ぐるぅ!!」

「…あん?」

熊をいたぶるように弾丸を撃ち、前の自分を嘲笑する。

すると、いきなり岩陰から何かが俺の足元に飛び掛かってきて、爪で引っ掻いてきた。

ダメージは無いが鬱陶しい。目線を下に向けると、小さい熊が敵対心を露わにしながら攻撃していた。

「うぜぇんだよ!」

「ぐらぁッ!?」

力任せに蹴り飛ばすと、血まみれで寝転がっていた熊の体にぶつかった。

「グ、グガァッ!?」

「ぐ、ぐぅ…」

ぶつかってきた熊の方を見た瞬間、いきなり心配するような表情をしながら、小さい熊を抱き上げる熊。

「…まさか…親子なのか、お前ら…」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

「熊野郎じゃねぇか!!あえて嬉しいぜ!」

「グルア…?」

おかしい、何故目の前の生き物は自分を見て恐怖しない?という表情をしている黒い熊のすぐそばまで、まるで旧友に再会したかのように駆け寄ると、右目と右腕に逢魔の力を宿す。

「会いたくて会いたくて仕方なかったぜ…?殺したくてなぁ!!」

すぐそばまで寄られてようやく何かがマズイと気づいたのか、素早くその場を離れる熊。

そのせいで、熊を的確に狙っていた俺の拳が、先程まで熊のいた地面に叩きつけられた。

その地面が、まるで爆撃を受けたかのように大きな音を上げて粉々になったのを見て、熊がその瞳に恐怖を纏わせた。

「そうだよ…その目だ!あの日俺の心を折った目が、今は逆に恐怖に染まってるじゃねぇか!いいぞ、もっと恐怖しろ!あの日俺を見下した分、いーやそれ以上に!絶望の淵へ…堕ちて行け」

サムズアップした手をひっくり返し、親指を下に向ける。

熊は、それが挑発だとわかったのか、恐怖を無視して飛び掛かって来た。

だが、あの日俺に攻撃してきたほどの速度は無く、とても弱々し気だった。

「はっ、戦う気かよ!ならせいぜい無駄にあがいてから死ねや!」

オーマジオウの拳を構え、未来を見る。

===================================================

飛び掛かって来た熊は、俺の拳が来ることを予期していたのか、いきなり進行方向を変え、壁に当たってバウンドしてから俺の背後を襲う。

回避できなかった俺は背骨が折れる音を聞いてから意識を朦朧とさせ、壁にぶつかってから動きを止めた。

まだ生きているにも関わらず、熊は俺の体を爪で引き裂き、貪り始める。

===================================================

「その浅い考えも…見えてるんだよ!全部なぁ!」

熊が進行方向を変えた瞬間、俺はその場で振り返り、バウンドして飛び掛かって来た熊の体を強く殴りつける。

強い衝撃波と共に熊の体が爆発し、その場には肉片のみがばら撒かれた。

「…死んで、俺の糧になれ。熊」

肉片を拾いながら、殺した熊に話しかけるように呟く。

戦闘中にあんなことを言ったが、心の奥底では、俺を恐怖させ、王になるための覇道を選ばせたあの熊を少しばかり尊敬していたのだ。

だから、弔う。

残っていた毛皮を、俺が殴り殺した地点に埋め、合掌する。

「じゃあな。…ありがとよ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハジメside

「親子なのか…お前ら…」

俺の言葉に答えるでも反応をしますでもなんでもなく、抱きしめ合う熊の親子。

それを見て、地球にいたころの自分を思い出す。

親からは、かなり愛情を注いでもらっていた。そんな自分を。

その明るい感情を久しぶりに思い出し、手の中の銃のグリップを握る強さを弱める。

その瞬間、俺の背後から、邪悪な声が聞こえてきた。

『何してるんだよ。早く殺せ。お前を絶望させたアイツにも、絶望を教えてやるんだよ』

「な、何を…」

『簡単だ、わかっているんだろ?どうすればあの熊が悲しむのか、苦しむのか…絶望するのか』

重く、粘ついていて…そのくせ、甘いその声に、俺の体が勝手に動き出す。

「お、おい…やめろよ、それは…それだけは…」

最初は考えたそれを、躊躇なく行おうとする体に対して、制止の言葉をかける。

だって、それをしたら、自分の中に現れてきた温かい思い出も記憶も、壊してしまう気がしたから。

過去の自分のように見てしまっていた熊を傷つけたら、自分の大事なモノすら傷つけてしまいそうだったから。

「やめろ…やめろよ…」

『本当にそう思っているのか?お前はそんなにいい奴なのか?』

「な、何を…」

『お前は自分が変わったと思ってるだろうが、それは違う。お前はお前のままだ。昔から、お前の心は綺麗じゃなかった。口では綺麗ごとをいくら言っていようが、心は真っ黒、いつでも悪意にまみれていた。現に、今もこうやって、命を奪おうとしている。体だけが動いている?違う。お前の口が、思ってもいないことを勝手に言っているだけだ』

「ち、違う!俺はそんな奴じゃない!」

『ならその引き金をひこうとしている指の動きは一体何なんだ?すぐにでもやってしまいたいと言わんばかりじゃないか。いい加減に諦めろ、そして認めろ。お前の心に光なんてない。黒一色だ』

「…そんな…事…」

甘く俺を口車に乗せようとしてくる声に対して言い返す声が、次第に小さくなる。

確かにそうだ。口では否定している。でも、心の中からは、早くやれという声がずっと聞こえてきている。

引き金が引きたくて仕方ない。今すぐにでも熊の顔を、瞳を、あの時の俺のように恐怖に染め上げたい。

「…わかった。認めるよ。俺は、最低最悪の…クズさ。殺したくて、絶望させたくて、悲しませたくて…堪らねぇ」

それだけ言うと、俺は子熊の方に弾丸を撃つ。

ドパンッ!という音が響きながら、子熊の頭が弾け飛ぶ。

子熊の血が花びらのように舞い、我が子をあやしていた大きい熊の顔や体を赤く染める。

「…は、はは…ははははははははははははははは!!最高だ!最高だよ!その顔、その目…お前の今の全てが最高だ!!」

いきなり何も言わぬ肉塊と化した子熊を見て、信じられないような顔をした熊を見て、腹を抱えて笑う。

罪悪感も、心に痛みも、何も、何も感じない。

後味の悪さ?そんなものがあると思うのか?

そうだ、俺は最低だ。

そうだ、俺は最悪だ。

それがどうした、それが俺だぞ。

そう言うように高笑いし、いまだ現実から戻ってこれていない熊の脳天を打ち抜く。

「…いいな…これ。そうだ。アイツらに復讐するときも、しっかり絶望させてからにしよう。すぐに殺すのはもったいねぇ。限界まで突き落としてから…殺そう」

鼻歌でも歌ってしまいそうなくらい気分が良くなった俺は、熊の肉を纏雷で焼いて食べた。

ある程度食べてから、神水を飲み、興奮冷めやらぬままに下に下りる階段を探す。

上には上がらない。もっと強くなって、アイツらにより強い絶望を与えられるようになりたいから。

強くなるためには強い魔物を喰うことが一番だ。

だから、下に行く。

俺を恐怖させた奴らは殺した。

もう、満足した。

時王の居場所は気になるが、時王を探すのは迷宮を攻略してからでいいと思う。

書き置き代わりにその場で錬成を使い、「俺は生きている、俺は下に行く」とだけ書いておく。

「じゃあ…会えたら会おうぜ。時王」

誰も聞いていないだろうに、その場で俺は呟いた。

もしかしたら返事があるかもしれないと…淡い期待を持ちながら。




ハジメがヤバイ(語彙力疾走)。
でもこれからの展開のために、ハジメにはこれくらいの破綻者になってもらわなければなりませんでした。
ハジメが好きという人は、申し訳ありませんでした。
後半からは丸くなる予定なので。


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失った者の大きさ

つなぎの回です短いです。
タイトルは仰々しいですが、原作で香織の回があったから挟み込みました。
絶賛迷宮の話書いてます。


三人称視点

時は遡る。

香織は、ベッドで眠る親友…雫の顔を見て悲し気な顔をする。

あの迷宮での一件から、いまだに立ち直れていない生徒はたくさんいる。

もちろん香織も立ち直れてはいなかった。

橋から落下していった時王を、それを嘆き、大好きだと叫んだ雫を見て、ようやく自分の恋心に気づいたのだ。

何故もっと早く気づかなかったのか。

なんで行動できなかったのか。

なぜ…あの時助けられなかったのか。

後悔と自責の念が自分に纏わりつき、苦しめ続ける。

未だ目を覚まさない親友も、自分の心を苦しめる要因の一つだった。

「…雫ちゃん、知ってる?」

沈んだ心を誤魔化すように言葉を紡ぐ。

すでにそのことは、何度も口にしているのだが。

それは、オルクス大迷宮から帰還した後の話。

勇者として喚ばれた二人が、橋から落下したことを伝えたときの、国王や貴族たちの反応。

死んだのが無能でよかっただの、生きる価値もない穀潰しにはちょうどいい最期だだの、好き勝手言っていた。

無論それを聞いて黙っている香織ではなく、近くにいて尚且つハジメと時王を嘲笑していた貴族の頭を、なんの躊躇もなく殴りつけ、「私の時王くんを…じゃなくて、常盤くんと南雲くんを馬鹿にするなんて許さない」と宣言してからはさぁ大変。

私の時王、のくだりで天之河が「香織…君も…」と言ったり、女子生徒からはキャーキャー黄色い声が上がったり(恋愛話には興味津々だった模様)、檜山が歯をギリッと噛み締めたり、ランデル王子が卒倒したりした挙句、勇者の中でも群を抜いて優秀な香織の機嫌を損ねるわけにはいかないということで、国王がハジメと時王を嘲笑うことは許さないと宣言。先ほどの貴族たちは全員罰を受けることになった。

それでも貴族の間でのハジメと時王の評価は変わらず、ただ香織が時王の事を好いていることだけが話題になり、事態は好転しなかった。

あの時ベヒモスの足止めをしたのは、ハジメだというのに。

ベヒモスに致命傷を与えたのは、時王だというのに。

彼らが落ちたのは、誰かが放った火球のせいだというのに。

未だに、クラスのみんなの話題は、誰が火球を撃ったのかということで持ち切りだ。

檜山達一行の誰かが怪しいだの、実は無意識下で誰かが撃っていた…だの、時王やハジメを前から悪く思っていたやつだの、言いたい放題だった。

「みんな酷いよね、言いたいだけ言って…誰も二人を理解してない。二人の事をわかってあげれてない…私しか、常盤くん…いや、時王くんのことはわからないんだよ…あ、あと南雲くんについても」

付け足すようにハジメの名前を出したのは、時王の親友だからという理由だろうか。

そこまで話すと、香織は紅茶モドキを淹れるために歩き始めたのだが…

「ん、んぅ…」

「ッ!雫ちゃん!?」

その場を動こうとした香織を止めるように、雫がうめき声を出した。

香織が駆け寄ると、雫はゆっくりと目を覚ました。

「…かお、り…?」

「う、うん!そうだよ!香織だよ!」

「…ここは…?」

頭痛がするのか、頭を抑えながら起き上がる雫。

それを心配そうに見ながら、香織は恐る恐る場所を伝える。

「ここは、王宮の私たちの部屋だよ。それよりも…体は大丈夫?」

「え、えぇ…少し怠い気がするけど…」

「まぁ、五日間も眠りっぱなしだったんだから仕方ないよ…」

「五日間…?」

香織の言葉を聞くと、何やら考え込みだした雫。

それを訝しんで香りが声をかけると、雫はハイライトの消えた瞳で香織の瞳をじっと見つめ、こう聞いてきた。

「ねぇ、時王はどうなったの?」

「…それは…」

言葉を濁す香織。

今まで一度も見たことのない親友のその瞳に気圧されたのもあり、目をそらしてしまう。

それを逃がさないとばかりに肩を掴んで、泣きそうになりながらさらに質問してくる雫。

「ねぇ…嘘、よね?時王は落ちてないわよね?この部屋から出たら、ちゃんといるのよね?南雲くんと一緒に談笑しているのかしら?だとしたら南雲くんがうらやましいわ…私も、時王と一緒に話をして、他愛のないことで笑い合って…」

「雫ちゃん…落ち着いて…」

「落ち着いて何よ。もしかして本当に落ちたの?時王が?あの魔法のせいで?ねぇ、誰があの魔法を撃ったのか、もうわかった?教えてよ、ちゃんと話をしてこなきゃ…」

「うぅん、まだ犯人はわかってないの。だから落ち着いて…?」

「落ち着いて…?ふざけないでよッ!私の気持ちなんてわからないくせに!離しなさいよ!香織もみんなも、どうせ時王がいなくなっても何とも思わなかったんでしょう!?だからこんなに落ち着いていられるのよ!犯人も碌に捜そうとしていないし!あの時ベヒモスを倒したのは時王だったのよ!?私たちを助けてくれたのは、時王なのよ!?なのに何でそんな冷静でいられるのよ!ふざけないでよ!馬鹿にしていr」

「いい加減にしてよ!ふざけてるのも馬鹿にしてるのも雫ちゃんの方でしょ!?」

支離滅裂なさけびを始めた親友に、辛抱ならなくなって怒鳴りつけた香織。

滅多に怒鳴ったりしない親友に、呆然として固まってしまう雫。

その雫を見る目には…涙が溜まっていた。

「落ち着いてる?何とも思っていない…?ふざけないでよ。何で雫ちゃんだけが心配してることになっているの?なんで雫ちゃんだけが時王くんの事を好きってことになってるの?」

「か、香織…?それに…時王くんって…」

「そうだよ。私も、私も時王くんが好き。大好き!何か文句でもあるの!?私が好きになっちゃいけないの!?私だって苦しんでるよ、今だってまだ立ち直れてなかったよ!?それでも、雫ちゃんだって苦しんでるからって、悲しんでるからって、せめて自分が元気でいなきゃって、泣きたいのも騒ぎたいのも我慢してたんだよ?なのになんで私が責められなきゃいけないの?ねぇ、何でよ!?」

「…ごめんなさい、香織。私が悪かったわ…」

「…うぅん。私だって宿に戻った時は雫ちゃんみたいな感じだったし…」

お互いの心中を吐露したところで、冷静に話を始めた。

まずは、雫が眠っていた間の話。

国王たちが時王を侮辱したのくだりで、雫が剣を手に取ってしまうハプニングもあったが、それ以外は問題なく話が進められた。

「…香織」

「なぁに?」

「私、信じるわ。時王が生きてるって。まだ落ちた先で、力強く生きてるって。南雲くんと一緒に、また帰ってきてくれるって」

「…奇遇だね。私もだよ。絶対時王くんは帰って来てくれる」

「ふふっ」

「ははっ」

「「あはははははっ」」

顔を合わせて笑い合う。

二人で心中をさらけ出し合ったせいか、心に余裕ができたのだ。

「…明日からの訓練、頑張ろうね」

「えぇ」

月明かりに照らされた部屋の中で、顔を見合わせる。

この光景を、誰も知らない。

ただ、知らない方がいいかもしれない。

ハジメがこの話を聞いたら、俺を忘れやがってと、怒り狂うだろうから。




ハジメくん、忘れられすぎ。


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錬成師の進撃/親友の足掛かり

連続投稿。
早くメインヒロイン出したぁい↑


ハジメside

歩き続けて数分くらい。やっと下に降りる階段を発見したので、一応ここにも時王に向けてのメッセージを錬成で彫っておき、下の階へ向かった。

「チッ…真っ暗じゃねぇか…この階層には緑光石が無いのか?」

下の階は光が無く、とても前が見えなかった。

苛立ち交じりに舌打ちすると、懐から緑光石のカンテラを取り出す。

暗闇の中で明かりを出すのは自殺行為だから、できればあまり使いたくはないが…

まぁこんな暗闇の中で生活している魔物がいるとしたら、きっとそいつは暗闇でも関係なく行動できる技能を持っているはずだから、そいつを喰って力を奪えば問題ない。

それまでの辛抱だ。

と、いきなり魔物が現れた。

通路の奥で何かが光ったのだ。

訝しんでドンナーを構えた瞬間、俺の左腕があった場所に括り付けておいたカンテラが、一瞬で石になった。

そればかりか、俺の左腕から徐々に石になっていった。

「ッ!石化かよッ!」

神水を飲み、石化を治す。

ドンナーを構えて、背後を取られないように壁に寄りかかる。

意識を集中し、敵の気配を探る。

「…さぁって…どうやっておびき寄せ…いや、多分向こうから来るだろうな…だとしたらどうやって攻めて来る?」

自問自答。いくら声を出そうと、敵には俺の姿はずっと見えているだろうし、居場所も知られてるだろう。

なら、考えを直接口に出してまとめた方がいい。

「…石化能力ってのは、異世界ファンタジーの作品だと…爬虫類が持っていることが多いよな…」

だとしたら、先程の石化攻撃は…蜥蜴の魔物が?

「じゃあ…壁伝いに上から来るんじゃ…」

その瞬間、俺の髪が重たくなった。

石になっているのだ。

「チッ!予想通りじゃねぇか!」

ドパンッ!とドンナーを撃ち、蜥蜴の脳天をぶち抜く。

何の抵抗もなく物言わぬ死体と化した蜥蜴を、纏雷で焼いてその場で食う。

今すぐにでも明暗関係なく周囲が見えるようになりたかったのだ。

「おぉっ…見える見える…ここはこんな構造になってたのか…」

ステータスプレートを見ると、新たに三つ技能が追加されていた。

「…夜目に気配探知…なるほど、ここの魔物のスキルにしては弱い気がするが、この階層だったら必須スキルだな…にしても…石化()()…俺も敵を石化させれるようになるわけじゃないのか…」

石化の邪眼!とかやってみたかったのだが…まぁこれであの石化攻撃も無効化できるようになったわけだし、いいか。

「よしっ、下に行く階段を探し…あ、弾丸ねぇじゃん」

ドンナーに弾を装填しようと思ったら、もうすでに弾丸が底をつきていた。

「作るの結構大変なんだが…まぁいいか」

白い熊の毛皮をかぶせてある、錬成で作られた大きな棚の形状をしたカバンの引き出しを開き、タウル鉱石を取り出して、設計図を見ながら弾丸を作り始める。

前は何百発か作ったから…もう少し個数を増やしてみるか。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

熊を殺して喰ってからしばらくたった。

歩き続けていたら、白い熊の死体と、壁に彫られたハジメのメッセージを発見した。

「…この熊を喰え、俺は下に向かった…って、もう覚醒してたのかアイツ」

もしかしたら死んでいるかもしれないと危惧していた自分が情けなく感じる。

まぁそれはそれとして…

「下に降りる階段なんてまだ見つけてないんだが…」

そうだ、俺が下に降りる未来を見ればいいんだ。

それで階段の場所を発見すればいい。

「よしっ、それじゃあ早速…」

未来を見ようとしたら、狼の群れが襲い掛かってきた。

もうお前らからは纏雷をありがたく頂戴した後なんだが…

「いらねぇんだよ今更ぁ!」

右腕をオーマジオウの腕に変え、狼を一匹一匹殺していく。

最終回のソウゴくんみたいだな俺。

全員を爆殺させた後、すぐさま未来を見て、階段のある方へ歩き始める。

「道中で何か出てくることもないみたいだし、安心だな」

結構フラグ感満載な事を言ったが、結局何も出てこなかった。

「ん?ここにもなんか書いてある…」

書いてある、というより彫ってあるなのだが、そこはどうでもいい。

階段のすぐ近くの壁に、ハジメが錬成で彫ったのだろう字があった。

「…ここから先に俺はいる。何があるかわからないから気をつけろ…ね」

無用な心配だといいたくなったが、親友の忠告なのでしっかり頭の片隅に入れておく。

「さ、確か下の階は真っ暗だっけなぁ…バジリスクを喰って夜目ゲットしなくちゃ…」

まぁ未来を見ながら移動すれば、暗かろうと明るかろうと関係ないのだが。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハジメside

「もう一階層下に下がったのはいいが…」

視界に入ったものを片っ端から鑑定していたら、とんでもないものを見つけた。

=====================================

フラム鉱石

艶のある黒い鉱石。熱を加えると融解しタール状になる。融解温度は摂氏50度ほどで、タール状のときに摂氏100度で発火する。その熱は摂氏3000度に達する。燃焼時間はタール量による。

=====================================

少し足を動かすと、タール状の何かがチャプチャプと音をたてる。

どうやら床一面にフラム鉱石(液体)が流れているらしい。

「…火気厳禁ですか…」

冷や汗を流しながら、少し試してみたいことがあったから試してみる。

「“錬成”…おっ、成功か!」

やってみたことは単純、ただただそこらに流れているフラム鉱石(液体)を錬成で動かせないかという事だ。

それは見事に成功し、フラム鉱石(液体)は俺のまとめたい方向に溜まっていった。

「…あとはこれを…”“錬成”」

溜めておいたフラム鉱石を、神水の時にやったように床に窪みを作って入れる。

「…これを詰めて手榴弾にするなんて悪くねぇな…ま、まずはここの魔物を何とかしてからだ…って、なんだアイツ?」

錬成を繰り返しながら移動し、フラム鉱石を集めていくと、床の上でビチビチを跳ねているサメのような何かを見つけた。

「…気配探知に引っ掛からなかった…なるほど、コイツはフラム鉱石の水たまりから奇襲を仕掛けてくるようになってたのか?」

前もって冷静にフラム鉱石という不確定要素を排除しておいて正解だった。

火気厳禁の階だから、逆に火を噴く敵が出てくるかと思ったが…なるほど、俺の行動を制限しながら気配探知に火かからずに奇襲を仕掛けてくるタイプの敵だったのか。

「ま、関係ないがな。死ね」

ドパンッ!とドンナーで打ち抜く。

少し抵抗はあったが、すぐに弾丸はサメの体を貫通し、その巨体を死体に変えた。

「…サメって一応食用の生き物だった気がするし…少しはうまいといいが…」

恐らくここにいる魔物は全部このサメと同じ状況に陥っているだろうと高をくくり、サメを喰らう。

「…普通だな。まぁあの熊とか狼とかよりかマシだが…」

まぁ文句は言えない。

っと、技能の確認技能の確認…

===========================================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:24

天職:錬成師

筋力:450

体力:550

耐性:400

敏捷:550

魔力:500

魔耐:500

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・夜目・気配感知・気配遮断・石化耐性・言語理解

============================================

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

下に来たのはいいが…

なるほど、確かに前は見えない。

だが、俺が見ている未来は前が見えるようにされている。

これをうまく使えば、余裕でここを攻略でき…

「早速お出ましか」

右腕をオーマジオウにして、蜥蜴の攻撃に構える。

見えた未来では、左から攻撃してくるらしい。

「5、4、3、2、1…そこっ!」

見えた未来の秒数に合わせ、左の壁を殴りつける。

べチャッ!と何かが潰れる感触があった。

「…よしっ!クリーンヒット!」

潰れた蜥蜴を喰い、すぐに移動する。

ここに残っている義理も何もないからな。

下の階に行くと、なぜかフラム鉱石が無かった。

なるほど、ハジメが回収したのか。

ビチビチと床の上で跳ねているサメをオーマジオウの腕で殴りつけ、纏雷で焼いて食べる。

「…多分今までの魔物で一番うまいなコイツ…まぁサメは日本でも食えるもの扱いだった気がするけどさぁ…」

何か釈然としないが、まぁいいだろう。

「ていうかハジメどこまで行ったんだ?もしかしてもうユエと遭遇して、サソリモドキをムッ殺した後とか…」

未来を見ようにも、俺にかかわる未来しか俺は練度不足で見ることができない。

「ま、そこは要練習と言う事で」

サメの体を残らず貪り、気配遮断を使ってから、下の階に降りる。

ここから先は、しばらく原作ではダイジェスト扱いだったからな…気を引き締めていこう。




短くてすみません。
多分すぐ続きだすので待っててください。


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姫の絶望/遅れてきた希望

さらに連続投稿。
休みだからね、仕方ないね。
文章は少なめだね。しょうがないね。



ハジメside。

俺が目を覚ましたところから数えて大体五十階層目。

ここに来るまでにいろいろな事があった。

毒を使うカエルとか、麻痺させてくる餓とか。

他にもたくさんの殺意強めな魔物が俺を襲い、行く手を阻んできた。

まぁ途中のトレントみたいなやつには、旨いものを食わせてもらったが。

あの木の実はちゃんと時王のためにとって置いてある。

「と、感傷に浸っている場合じゃねぇな…」

目の前の巨大な扉を見上げながら、愛銃のドンナーを構える。

両隣に巨人の像がある荘厳な扉からは、今までとは違った異様な雰囲気が醸し出されていた。

「…さながらパンドラの箱、だな…」

焼夷手榴弾を大量に持ち、扉に投げつける。

錬成を使って無理矢理扉を開けても良かったが、明らかに隣の巨人が動き出しそうな気配があったのでやめておいた。

爆炎を上げながら、扉が融解していく。

心なしか隣の巨人が泣いているような感じがした。

「さてさて…どんな希望が入ってるんだ…ん?」

ぐちゃぐちゃに融けた扉を通り抜け、部屋に入ると、謎のエフェクトと共に奥にある四角い何かが回転し始めた。

「…長いな。コイツも手榴弾で消し飛ばすか?」

俺はゲームでも長いエフェクトが嫌いなタイプなんだ。

こういった無駄なエフェクトはいらないんだが…

イライラしたので手榴弾を投げつけようと構えた瞬間、正方形の何かは回転を止め、こちらに一つの面を見せてきた。

その一面から金色の線がなくなり、中心に金髪の少女が現れ…

たのを確認した瞬間、俺は踵を返して扉の外へ向かった。

「え…?ま、待って…!」

「うるせぇ、怪しい奴にはついていくなって俺の親友に言われたんだよ」

嘘である。

ただただ面倒臭そうだった。

見た目は美少女のようだが、いつ姿が変貌して襲い掛かってくるかわからない。

別に人型の生き物を殺すことに抵抗があるわけじゃない。

寧ろ人型をしたクラスメイト達を殺したくて仕方ない。

「お願い…ゲホッ、ゲホッ…待って…私を助けて…!!」

「怪しすぎるわドアホ。絶対お前魔物だろ」

「違っ…私はここに封印されただけっ…」

「ふーん、封印された、とか…封印されるような危険人物じゃねぇか。余計に助ける気無くすぞ」

「違うの!私…私…裏切られただけ!」

少女のその言葉を聞いたときに、俺は足を止めてしまった。

足を止めた俺に、少女はチャンスと思ってか話を始めた。

「私、吸血鬼なの!すごい力持ってて、それで力を恐れられたせいで裏切られて、でも力のせいで死なないから、封印することにされて…」

「…そうかよ」

再び足を動かして部屋から出ようとした俺に、少女は話を必死に続けた。

「ま、待って!私は本当に裏切られただけなのっ、すごい力も持ってるのっ…だから、ここから脱出するのも手伝えると思うし、それに…」

「うるせぇんだよさっきから!!!」

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!!

銃声を三発響かせ、吸血鬼の方を睨みつける。

「え…」

呆然としている吸血鬼の方にズカズカと肩をいからせながら近寄り、その脳天にドンナーの銃口を押し当てる。

吸血鬼が呆然としていたのは、俺が吸血鬼の頬をかすめるように弾丸を撃ったからだろう。

「…調子のってんじゃねぇよ。裏切られた?それは確かに残念だったな。でもそれは俺に関係することじゃねぇんだ。わかるだろ?俺も裏切られて落とされたんだ。親友と一緒にな。だからお前が裏切られて辛いって気持ち、わかるさ」

「な、なr」

「でもなぁ!!俺は!お前と違って昔から虐げられてきたんだ!昔は力なんてなかったんだ!!お前と違って、何か理由があって裏切られたわけじゃねぇんだよ!!!それになぁ!お前は今どうしようとしていた?いきなり現れた俺に頼って、楽してこの状況から抜け出そうとしただろ!?それが一番ムカつくんだよ!どうして同じ裏切られたヤツが!俺と違って苦しまねぇで!心も折らねぇで!腕を自分で食う事もなくて!そのくせ助かろうとしやがって!!なぁ、魔物に襲われたか?親友を失いそうになったか?なぁ、答えろよ…答えろよ!!!」

「…わ、私は…」

俺の剣幕に気圧されてか、何も言えなくなった吸血鬼。

「チッ…もっと言ってやろうと思ったが…まぁいいか。じゃあな、本当に助かりたかったら、自分でそこから抜け出せるだろ。せいぜいがんばれ」

ドンナーを右太腿のホルダーにしまい、部屋を後にする。

背後から吸血鬼が何かを言っていた気がするが、それはもうどうでもいい。

下に降りよう。そして、最後の階まで行ったら、時王を探しに行こう。

俺が助けようと思うのは、俺を助けてくれた親友だけだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side。

ステータスの上昇に伴い、俺は左腕と左目にも逢魔の力を宿すことができるようになった。

そのおかげである程度迷宮攻略が楽になり、つい先ほど四十九階層(俺がいた場所から数えて)をクリアした。

「よし、この下がユエがいるはずの階層なのだが…どうせいないだろうな。ハジメが助け出してるだろうし」

あぁー、せめてサソリとサイクロプスの肉は食っておきたかった(ステータス上昇的な意味で)と思いながら、五十階層に入る。

「…本当に何もないのな」

周囲を見渡しながら…ついでに未来も見ながら探索をする。

ユエの封印部屋はどこかな…あ、あった。

「…ん?扉が融けてる…?隣の巨人もまだ石像のままだし…」

扉跡地に手を当てると、いきなり巨人が動きだした。

「あ?うぜぇな…まぁステータスの足しになってくれるし良いんだがよ…」

雄叫びを上げながらポーズをとろうとしたサイクロプスを殴りつけ、下半身を消し飛ばす。

もう一匹の方が俺の方を見て、信じられない…みたいな目をしているが無視。

そのままもう一匹も殴りつける。

若干抵抗があった気がするが、すんなり拳は入った。

「確か目が弱点だったはず…よし」

それだけ言うと、二匹の巨人の目に右腕と左腕でそれぞれ殴りつけ、巨人を殺害。

肉を貪ると、すぐに扉跡地に目を向ける。

「…もしかしてハジメお手製の焼夷手榴弾?まじかー…だからハジメは巨人に攻撃しなかったのか。もったいねぇ」

後頭部を掻きながら奥へ進む。

何故かアニメで出てきたエフェクトが始まったが、そこには目を向けず先へ進む。

すると、回転していた立方体が動きを止め、そこからユエが顔をのぞかせて…

「は?」

「…っ、あなたは…だれ…?」

信じられない光景につい声を出してしまった俺に、おびえたように声をかけてきたのは…

原作のメインヒロイン、アレーティアことユエだった。




ハジメとユエが原作通りになるなんて一言も言ってません。
許せない、と思った方はすいません。
ハジメのヒロインは時王のヒロイン決定なので…
因みに、この作品のハジメが今まで酷い奴だったのは、全てここで裏切りというワードに反応してユエを救出する展開を粉々にするためです。
そのために、吸血鬼のお姫様には少し絶望してもらいました。
批判は覚悟してますが、できるだけ控えていただければなぁ…と。


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教えられた異常/救われる姫

なんか書きたいなぁと思う展開が沢山あり過ぎる上に、どれか一つの展開を利用したら、他の展開が使用できなくなるやらで悩み過ぎた結果、変な出来栄えになりました。
あ、あまり気にせず読んでいただきたいですね…



時王side

「…俺は時王、常盤時王だ。…何でこんなところに居るんだ?」

「私…裏切られて…それで…」

そこまで言うと、急に俯いてしまうユエ(仮)。

ハジメが助け出していない以上、名前はまだユエになっていないんだろう。

「…め…さ…」

「あ?」

「ごめん…なさい…頼ろうとして…助けてもらおうとして…ごめん、なさい…」

突然泣きながら謝りだしたユエ(仮)に、面食らって何も言えなくなる。

「…どうしたんだよ、急に泣き出したりして…」

努めて冷静に質問すると、泣きながらユエ(仮)は話始めた。

「…かなり前に、ここに人が来たの…白い髪で、左腕が無い男の人…」

「…ハジメか」

ハジメがここに来ていない可能性を考慮し始めていた俺は、ユエ(仮)の言葉で考えをすぐに改めることになった。

「…その人が、自分も裏切られたって…それで、自分は死に物狂いでここまで来たのに、何で襲われることもなくここにいた私が助けてもらおうとしているのかって…飛び道具で殺されそうにもなって…」

それだけ言うと、また泣き始めたユエ(仮)。

なるほど…俗に言う原作改変というやつだね?

飛び道具はドンナーかな?

しかしどうしたものか…ハジメが原作と裏切りに対する反応が違う以上、俺が話しかけるのも危険かもしれん。

お前と一緒に居たせいで奈落に落ちることになったんだー!とか。

「取り敢えずコイツをこっから出してからだな」

「…え?」

右腕に逢魔の力をためて、勢いよくユエ(仮)が封印されている立方体を殴りつける。

すると、まるで豆腐を箸で崩すが如く立方体が粉々になり、ユエ(仮)が解放された。

ペタン、とその場にへたり込み、呆然としているユエ(仮)を抱き上げ、その場を素早く立ち去る。

流石に魔力が枯渇しているユエ(仮)を抱えながらサソリモドキと戦闘するつもりはない。

「お前に何があったとか、そう言うのは正直どうでもいい…だが、俺は王だ。目の前に苦しんでいる民がいるなら助けてやるのが筋だろ」

適当なことを言いながら、ユエ(仮)を別空間(結界のような物)に閉じ込めた。

「そこに居れば安心だから」

「安…心?」

「もうすぐ来るはず…」

俺がそう言った瞬間、タイミングを考えて出てきたと思うような感じでサソリモドキが飛び出してきた。

「先制の針は無し、か…ありがたいね」

両手をオーマジオウのソレに変えて、右目左目にも逢魔の力を宿す。

未来を見て、過去を改変する、その力を。

「さぁ来な!殺して食ってやる!」

俺の言葉に反応してか、サソリモドキは一本目の尻尾を振るってきた。

それを片手で受け止め、握りつぶす。

原作ではかなり硬い外殻を持っていると言われていたが、オーマジオウの前には無力のようだ。

声にならない叫びをあげながらのたうち回るサソリモドキを左腕で殴りつけ、殻をバキバキにし、生身の部分をグチャグチャにする。

「どうした!!こいつを取り返すんじゃねぇのか!!」

高笑いしながらサソリモドキを肉塊にしていく。

最初はピクピクと動いていたサソリモドキも、何度か殴ればすぐに力尽きた。

「…あれ?本当のオーマジオウってワンパンでミラーワールドのモンスターを爆殺していたような気が…だとしたらコイツどんだけ生命力あるんだよ…」

死体を亜空間に収納し、ユエ(仮)の方へ向き直る。

「ほら、終わったぞ」

「今の…すごかった…」

「そうか。そりゃよかった」

何が良かったなのか自分でもわからないが、そこは気にせずに行く。

「…さて、取り敢えず…」

右腕だけオーマジオウの腕にして、虚空に穴を作り、手探りであるものを探す。

「お、あった…」

「?」

不思議そうな顔をしているユエ(仮)に、あるものを手渡す。

「ほら、これ。服無いだろ?」

「…時王のエッチ…」

釈然としないものを感じながら、ユエ(仮)に背を向ける。

背後から聞こえる衣擦れの音を極力意識しないようにしながら、考えをまとめる。

ハジメは一度ここに来たうえで、ユエ(仮)にトラウマ(笑)を植え付けて出ていった。

それはかなり前(まぁユエ(仮)に時間間隔なんてないからあてにならないんだが)の事らしい。

アイツはライフルを作らなかったばかりかユエを連れて行かず金剛の技能すら手に入れていない状態で百階層まで向かっていると。

…死んだなアイツ。

「…着替え、終わった」

「ん?あぁ、わかった」

ユエ(仮)の声が聞こえたので振り返る。

「…さて、色々聞きたいことはあるが…まず移動しようか」

「…ん」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハジメside

ドンナーを撃つ。

敵は死ぬ。

ドンナーを撃つ。

敵は死ぬ。

ドンナーを…

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!ムカつくんだよお前らぁ!!!」

数で俺を圧倒してくる敵の脳天を寸分狂わず撃ち抜き続ける。

だが、敵の数は減らないばかりか、むしろ増えて言っている気がする。

「くそっ…おら!手榴弾だ!味わえ!!」

天歩で上空まで行き、焼夷手榴弾を大量に落としていく。

すると、敵の体が融解していき、数だけあった敵が一度に消滅した。

着地せず、安全なところまで移動してから一息つく。

「くそっ、弾丸を無駄にしたな…フラム鉱石も有限だし、大事に使わねぇと…」

弾丸を作り出しながら愚痴る。

「しかし…あの花は一体何だったんだ?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

「それで…まずは名前を聞かせてもらおうか」

「…名前、付けて」

「…その心は?」

未だ瞳から警戒心を抜かないユエ(仮)に名前を聞くと、原作通り名前を付けるように言われた。

一応理由を聞くと、こんなことを言ってきた。

「…もう前の名前いらない。時王のつけた名前がいい」

原作通り過ぎてなんだかなぁ…

「じゃあ、アレーティア」

「…え?」

「ごめん嘘」

少しふざけたくなって、ユエの旧名で呼んでしまった。

「じゃあユエ、なんてどうだ?」

「…ユエ?」

「あぁ」

「どうして?」

「んー。ユエってさ、俺の故郷で月って意味なんだ。なんか、お前を最初に見たときに目に入った金髪が、月明かりにそっくりでさ。それで…ユエ。どうだ?」

「…いい名前。ユエ、ユエ、ユエ…時王がつけてくれた名前、時王、私を助けてくれた人、私を守ってくれた人…」

何やらブツブツ言いだしたユエを尻目に、今ここにいない親友を思い出す。

アイツもしかしてヒュドラと戦ってるとかじゃないよな?

死ぬぞ、アイツ化け物だし。

「私の時王、時王は私の…時王、時王時王時王時王時王時王時王時王時王…」

「ゆ、ユエさん?どうしました?」

なんか壊れてきたのでユエの方に意識を戻す。

目に光なかったし…一体何が…

「時王」

「アッ、ハイ」

「…だぁいすき♡」

「…お前、好感度って知ってる?」

すごくいい笑顔で言ってきたユエに、俺は瞠目するのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハジメside

「オラァ!いい加減に出てこいよ陰湿植物野郎!うざってぇんだよ逃げ隠れしてよぉ!」

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

ドンナーを乱射しながら、森の中に隠れているだろう植物型の魔物を探す。

最初は魔物の方から出てきて、俺に変な胞子を浴びせてきたのだが、俺の異常な耐性に怯え、逃げ出した挙句森の中の植物に擬態したのだ。

「出て来ねぇならあぶりだしてやる…」

焼夷手榴弾を手に持ち、森の中にばら撒く。

投げられた焼夷手榴弾は、地面に触れてバウンドした瞬間にタールをまき散らし、周囲を炎の海に帰る。

すると、木の陰から植物型の魔物が、声にならない叫びをあげながら逃げ出してきた。

「はっ、遅いんだよ出てくるのがぁ!」

ドパンッ!

必死の形相で逃げる植物型の魔物の脳天を、躊躇なく撃ち抜く。

「さて…こいつは植物型の魔物…つまり野菜ってことだ」

不足していたビタミンを補充しようと、倒れこんでいる植物型の魔物を食べる。

野菜は生で食べる派の俺は、珍しく纏雷で焼かずに食べた。

「…ングッ…こ、こいつ…」

一口食った後、俺は拳を握り震えた。

その理由は単純だ。

何故なら…

「見た目植物なのに、中身ちゃんと肉じゃねぇか!!!」

ドパンッ!

あまりに苛立ちすぎて、死体撃ちしてしまった。

「はぁ…はぁ…焼けばよかった…」

後悔しながら、植物型の魔物を食いつくす。

あまり美味くない上に、野菜ですらない。

食べる気が全く起きないが、喰わないといつ食事ができるのか分からないのでしっかり全部食べる。

この先の見えない奈落の底では、贅沢なんて言ってられないのだ。

「…あー…時王が居たら、なんて言うんだろうな…」

今ここにいない親友の事を考える。

もしこの場に時王が居れば、アイツの事だ。俺と一緒に、野菜じゃねぇのかよ!!って突っ込むだろうな。

「あー、駄目だ駄目だ。甘ったれた妄想に浸ったら、心が鈍る…しっかり研ぎ澄まさねぇと…」

鋭さを失ってしまいそうになった心を、もう一度復讐心という名の砥石で研ぐ。

檜山の俺達を落とした時の顔…

天之河の俺達と他の連中の扱いの差…

白崎のお節介とその被害…

いじめに対して何もせず、自分は良い教師になりたいとかほざいていた畑山…

俺達を勝手に召喚しておいて、自分の言う事を聞かないとなると、軽蔑心を露わにし始めたイシュタル…

訓練のときに顔を出しても、俺と時王は視界に映らないものにしていたリリアーナとランデル…

何より俺と時王をこんな目に遭わせるに至ったこのクソったれた世界に召喚させやがったエヒト…

他にもいる、他にも思い浮かべられる…

俺はそいつらをどうしたい?

殺したい。

そいつらを殺した後、お前はどうしたい?

帰りたい。

帰る?どこへ?

故郷へ、俺の家へ。

一人で?一人で帰るのか?

時王…親友と一緒に。

俺は結局、何を望んでいる?

復讐と、親友と一緒の帰還…そして、親友との…平和な日常だ!!!

なら邪魔するものは?

殺す!

障害物は?

物なら壊す!生き物なら殺す!

理不尽や困難は?

関係ねぇ!行く手を阻むなら俺の敵だ!有象無象に変わりはねぇ!!

「殺す、殺して食う。強くなって復讐して、時王と一緒に帰って…二人で一緒にバカやって、笑いあって…そんな日常を手に入れる」

ドンナーを上に向け、祝砲と言わんばかりに引き金を引く。

ドパンッ!という乾いた音が、俺の心を綺麗に、だがどす黒く染めた気がした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

「それでユエ、お前は吸血鬼なんだよな?」

「んっ」

俺が名前を呼んだ瞬間に、デフォルトの無表情から一気に表情を明るくし、笑顔で肯定してきた。

「…じゃあ、お前はしばらく魔物の肉が食えねぇから、俺の血でも吸うのか?」

「…いいの?」

目をウルウルさせて質問してくるユエ。

だが何だろう。奈落に落ちてから、性欲とかそう言ったものが彼果てている気がする。

実際、ユエは胸元がばっちり見えているにも関わらず、我がマイサンは立ち上がらなかった。

まさか…いや、それは無いはず…

「じゃあ…いいぞ?」

「え…?いいの…?」

肩を露出させた俺に、瞳を輝かせつつも遠慮がちに聞いてきたユエ。

前までの俺なら、ええんやで(ニッコリ)とか答えたんだろうけど、今は普通に答えた。

「あぁ。腹減ってんだろ?本当に吸血鬼なんだとしたら、もう三百年以上ここに閉じ込められて飲まず食わずだったらしいし」

「…じゃ、じゃあ…いただきます…」

力強く俺を抱きしめ、首筋を噛んだユエ。

…前までは注射で泣いてたような俺が、噛まれて泣かないレベルになったか…

「んっ…ちゅっ…レロッ…じゅるじゅる…」

「…」

ユエの飲み方が、原作で明かされていたようなただ吸うだけの飲み方ではなく、時々傷口から流れてくる血を舐めたり、キスするように軽く唇を触れさせて吸ったりと…何というか、官能的だった。

耳元で聞こえるユエの甘く蕩けた吐息や、啜る音、舐める音が艶めかしいことこの上なく、俺に物凄い背徳感を与えるばかりか、背筋をゾクゾクさせた。

「ッはぁ…ごちそうさま…」

トロン…とした目で俺の目を覗き込みながらユエの言ったご馳走様に、俺はノックアウトされるかと思った。




感想でもありましたが、ハジメに心をボコボコにされたユエは、時王に完全依存しているヤンデレなので、もしウサミミの未来が見える居乳少女や、ドMの竜人族や、日本産のヤンデレクラスのアイドルやお姉さま系妄想型ヤンデレサムライガールやチョロイン王女様等に遭遇したら、最大出力の最上級魔法(全属性)を連射した挙句、オリジナルの魔法で次元ごと消滅させようとするでしょうね。
だがそれがいい(ヤンデレ好き)


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恋病少女達二ヨル悪夢ノ蹂躙

注意、今回はかなり三人称がふざけています。
それでもいいという人はゆっくりしていってね!


三人称視点

時王がサソリを氷川さんの豆腐の如く粉々にしたのと同日、光輝たち勇者組はオルクス大迷宮に来ていた。

ハジメと時王の死という巨大な事件のせいで大半の生徒は心を折ってしまったが、光輝たちは諦めず、訓練を続けて迷宮に再挑戦しに来たのだ。

「クンカクンカ…スー…ハー…はぁ、はぁ…時王くんの匂い…時王くんの温もり…」

「香織、なに私の時王の服の匂いを嗅いで下半身に手を向けているの?迷宮内よ。もう少し考えて行動しなさい」

「シズシズ、目がやばいよ?あとその着てるワイシャツ常盤くんのじゃ…」

時王の制服に顔をうずめながら空いた手で下半身をまさぐろうとしていた香織に、雫がキリッとしながら注意をする。

だが、雫の目には嫉妬の二文字しか書かれていないばかりか、そんな雫も時王のワイシャツに身を包み、今すぐにでも自分の想い人の物を汚す親友…いや、敵を切り落とそうと剣に手を伸ばしている。

それを見た鈴は、おびえながらもなんとか窘めようとした。

「…愛はあそこまで人を狂わせるんだな…そんな俺も、とっくの昔に恵里のせいで狂っちゃったよ」

「えへへ…僕も天之河くんが好きすぎて、狂っちゃった♡」

「…団長、俺、帰っていいっすか?」

「落ち着け龍太郎。俺も気持ちは同じだ」

ヤンデレ、ヤンデレ、バカップル、ちみっこ…そんなキャラの大渋滞に放置された一般召喚勇者坂上龍太郎は、涙目で帰りたがっていた。

かつての根性論は、その辺の養豚場の「豚の餌ぁ~~~~!!」にしたらしい。

そんなカオスの後ろを歩いているのは、小物感満載の我らが笑いの王(笑)檜山大介と不愉快な仲間たちである。

「チッ…常盤め…」

「お、おい…檜山?大丈夫か?最近おかしいぞ…?」

「…うるせぇ、俺は王だぞ…」

「な、なんだって?」

「チッ…なんでもねぇよ…」

碌に笑えるギャグを作れなくて苦悩しているのか(棒読み)目元に酷い隈が出来ている笑いの王(笑)。

さて、王(笑)は放置して、前の勇者一行に話を戻そう。

「カオリン、大丈夫だよ!」

「クンカクンカ…何が?スーハー…」

匂いを嗅ぐのを徹底してやめずに、鈴に質問する香織。

「もし仮に常盤くんが死んでいたとしたら、エリリンの降霊術で侍らせちゃえばいいんだもん!」

「えへへ…天之河くん…昨日は気持ちよかったn…ちょ、ちょっと鈴、なんてことを…」

なんてことをはこちらのセリフだ、といいたくなるが、そこは読者の皆さんも抑えていただきたい。

恍惚とした表情で、昨晩の天之河との交わりを思い出していた恵里は、いきなり爆弾発言しやがったちみっこに向かって遅れながらも注意した。

恵里は恐れていたのである。

この服の匂いですらイってしまいそうになっている痴女(ヤンデレ)が、死んでいたら的なデリカシー皆無発言で怒らないはずがない、と。

だが、その予想はいい意味で裏切られる。

「降霊術で…私の物に?…万が一にも、時王くんが私以外の人に目を向けたとして、万が一、億が一、兆が一にも他の女…いや、他の虫に取られたとしたら…その時は…ふふっ、魂まで私のモノ…えへへ…」

訂正、時王にとっては悪い意味だった模様。

舌なめずりしながらハイライトを消したクラスの女神()は、だらしなく口元を歪め、妄想世界へ行ってしまった。

「…ウソン」

まさか自分の発言でこんなことになるとは思っていなかったちみっこ鈴は、涙を流しながらつぶやいた。

「…恵里、今日もその…帰ったら…」

「うふふ、もちろん…いーっぱい愛し合おうねぇ?」

「団長、こいつ等殴っていいですか?」

「ダメだ、落ち着け龍太郎」

メルド団長の歯を食いしばる音と、龍太郎の拳をガンガンぶつける…まるで二十一歳のあの男のような動きによって奏でられた音が、やけに迷宮内に響いたのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ある程度進むと、六十五階層に到達した。

「みんな気を付けろ!何があるかわからん!」

振り返りながらみんなに忠告するメルド団長。

流石に香織や雫も匂いを嗅ぐのをやめ、武器を構え始めた。

広間に到着すると、いきなり床に赤黒い魔法陣が現れた。

みんなが忘れもしない、あの魔法陣である。

「…これは…アイツの…!!」

無意識のうちに隣にいた恵里を力強く抱きしめた光輝に恍惚とした表情で抱きしめ返す恵里。

魔法陣を瞳に移した瞬間、ハイライトを消し去り、武器を構え詠唱を開始し始めた少女二人。

すると、魔法陣の輝きが段々と強くなっていって、そして…

「グゥルルルゥァ!!」

ベヒモスが現れた。

「お前ら!逃げるぞ!!」

「いえ!戦います!俺達はもうあの時の弱いままじゃn」

光輝が別の作品なら主人公やってそうなくらいかっこいいセリフを言おうとしている最中に、二つの影がベヒモスのすぐそばまで特攻した。

「…”爆光殺”」

「”絶殺”」

白崎香織(執着+自傷型ヤンデレ)と、八重樫雫(妄想+独占型ヤンデレ)である。

香織が使ったオリジナル魔法、爆光殺は、相手も自分も殺す技。

フレンドリーファイア?なにそれおいしいの?というような全方位無差別攻撃魔法で、光で出来たガラスの破片を爆風で吹き飛ばし、相手にあてる技。

この技の特殊性は、その光で出来たガラスにある。

なんとこのガラス、内臓のみを傷つけるのだ。

防御してもすべてを貫通し、攻撃範囲にいる生物全ての内臓を襲う魔法だ。

絶殺は、雫が編み出した剣技。

名前の通り、相手を絶対に殺す技で、命中精度は1%である。

命中精度、というのはこの場合、相手を殺せる場所に攻撃するという意味での命中精度である。

別に攻撃そのものは当てられるが、天性の洞察力でみつけた相手の弱点に、確実に寸分の狂いもなく当てるというのがかなり難しく、場合によっては相手に防がれ、カウンターすら喰らいかねない危険な技である。

だが、今回は成功したらしく、ベヒモスは断末魔すら上げず死んでいった。

ゴホッゴホッと血を吐きながら、腹部を擦る香織。

「ゲホッ…ふふ、まーた傷ついちゃったー…ねーえ、時王くん。私、怪我しちゃったよ?慰めて?」

虚空を見ながら言う香織の顔は、本来なら苦痛に歪んでいるはずなのに、とてもいい笑顔だった。

「…ねぇ、時王。どうだった?今の技…すごいでしょ?キャッ、頭撫でるなら、ちゃんと先にいってよ…あ、やめてなんて言ってないじゃない…もっと撫でて?」

剣を懐にしまい、見えない時王に頭を撫でてもらう妄想をしながら一人で壁に話しかける雫。

正直言って怖い。

「はは…二人だけで十分だったみたいだね…」

「そうだねぇ…天之河くん、こっちみて?」

「ん?どうしたんだ恵里…」

「んっ」

チュッ…と、いきなり光輝の唇に自分の唇を重ねた恵里。

なんとこいつ等、迷宮の中でラブコメを始めようとしているのである。

「…もうやだ帰りたい」

「…帰ろう、俺達だけで」

後には、その光景を見て嘆く龍太郎とメルド団長の声だけが響いた。




光輝×恵里流行らせこら!
そんな気持ちで作りました。
タグに原作死亡キャラ生存が書きたいのですが、それを書くと他のタグがなくなることになるので…どうすればいいんでしょうか?
あと、香織と雫のヤンデレタイプに不満があるなら、どんなキャラがいいのか教えてください。作者が読んで、それも悪くないなぁ…って思うんで。
え?作品に反映?
流石にヤンデレのタイプまでは譲れません。
ごめんなさい。


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親友との会合=姫のトラウマ

タイトル詐欺感が否めない今日この頃。
最近ヤンデレが読者の皆さんに許容して貰えてうれしかったです。
思いのほか好評で…この調子で正妻戦争まで持って行けそうですね。


時王side

「なぁユエ」

「なぁに?」

「別に俺に背負われる必要はないんじゃないのか?」

「なんで…?」

「なんでって…」

ユエ救出からしばらくたって、俺達は下の階を目指して歩いていた。

正確には、俺がユエを背負って歩いていた、だ。

言い淀む俺に、ユエは何を勘違いしてか急にブツブツと呟き始めた。

「……………」

「え?どうしたユエ?」

「なんで…?どうして?時王は私の事嫌いになったの?嘘でしょ?背負うのも嫌なくらい、もう近くに居たくないくらい嫌いになっちゃったの?ねぇ時王!私の何がいけなかったの!?教えてよ!直すから!時王好みの女になるから!だからお願い、捨てないで!捨てないd」

「あーあーわかったわかった!俺が悪かったから許せ!負ぶっててやるから!!」

「ほんと…?ぐすっ…私の事、嫌いになってない…?」

「なってないなってない。ならないから安心しろ」

「本当?」

「あぁ」

「じゃあ愛してるって言って?」

「ヴェッ!?」

いきなりダークサイドに堕ちたユエが、ねぇ時王のくだりで俺の首を力強く締め上げてきたので、ユエの細腕をパンパンとタップして降参の意を示しながら、背負うのをやめないことを伝えた。

すると、今度は愛してると言え、だなんて言ってきた。

別に言うこと自体に問題は無いのだが、何か俺の危機探知センサー的な第六感にビンビン来ているのだ。

恐怖が。

「言えないの…?」

「い、言える言える!愛してるぞー!ユエ!可愛いな!ずっと一緒だからな!」

「…えへへ…ずっと一緒、ずっと一緒…」

原作のユエよりも何かがおかしい気がするこの世界のユエさんに、俺は苦笑いするしかなかった。

まぁ可愛いからいいか。

ただこんなことになった理由のハジメ。アイツは一発殴ろう。

そんなことを考えながら歩いていると、ある階層に到着した。

「…なんだここ、焼け野原じゃねぇか」

「肉の焼けた匂い…草木も少し残ってる…これって」

「十中八九俺の親友…ハジメの仕業だな。くそっ、ここのアルラウネは食っておきたかったんだが…まぁ俺はハジメよりステータスの上昇率高いしいいか」

「?よくわからないけど、いいの?」

「あぁ、というかハジメが無事にたどり着いてきてることをしれて良かった…ってとこかな?」

頬を掻きながらこの階層から降りる階段を探す。

思いのほかすぐに見つかった階段から、下に降りる。

次の階層もハジメに荒らされていた。

その次の階層も、そのまた次の階層も。

ハジメに蹂躙されつくしていた階層をただ悠然と歩いていると、ついにとうとうハジメの魔の手に侵されていない階層に到着した。

「…さて、ここには一体何が…」

ドパンッ!

俺が草むら(この階層も草が生い茂っている場所だった)を歩き回っていると、いきなり銃声が聞こえてきた。

「お前がここの主か!殺して食って…なっ…時、王?」

草陰から現れたのは、白髪に片腕の香ばしい姿をした少年…俺の親友、南雲ハジメその人だった。

「…ハジメ…ここにいたのか…」

「おいおいおいおいおいおい!まじかほんと久しぶりだなぁ!」

嬉しそうに駆け寄ってきたハジメに片手をあげる。

ハイタッチだ。

それを見て、ハジメも意図を理解したのか、手を叩き合わせてきた。

パンッと乾いたいい音が響き、俺たちの再会を祝福した。

「まさかこんな先に進んでいるとはなぁ…」

「それはこっちのセリフだっつーの。俺よりも後に来たくせに、もう追いついてきてんじゃねぇか…」

「まぁお前が魔物をほとんど狩りつくしたからだろうな。楽だったぜ」

「あー、夢中になり過ぎててお前の分残してなかったなー、失敗失敗」

笑い合う俺達の方を見て、小刻みに震えていたユエ。

それを見つけた俺は、何があったのか質問する。

「どうした?顔色悪いぞ?」

「…こ、この人…」

「あ?…コイツ確か五十階層にいた…なんだよ、助けたのか?」

「まぁな」

どうやらハジメに怯えていたらしい。

ユエを見ると、急に不機嫌そうに俺の方を向いて質問してきたハジメ。

どうかしたのだろうか?

「…こいつは俺達と違って、自力じゃなくて他力本願で助かったことになるんだぞ?それでいいのかよ」

「??」

「だーかーらー…なんで俺達は苦労して、コイツは碌に苦労せずに俺達と同じ結果を得られてるんだよ」

「…あー、そゆこと」

どうやら、これが原作との違いその2の様子。

その1はユエの態度ね。

ハジメは原作と違ってユエの助けてコールに怒りを覚えたらしい。

それでユエがあんな初対面の俺にごめんなさいとか言い出すようになるくらいの何かをして放置して先に下の階層に向かったと。

なんだかなぁ…

「で?結局どういう事なんだよ」

どうやって説明しろと?原作通りにしたかっただけなんですが…

だって、いくら下心を持とうと、助ける前の俺は、ユエ=ハジメヒロインという公式が離れなかったわけだから、助けてもハジメにしかいいことなくね?って思ってたし…

「まぁ、強いて言うなら…」

「?」

「俺は王だからな。民が助けを求めているなら、助けてやらなくちゃ」

「…なんだそりゃ?力を手に入れた弊害か?」

「弊害て…まぁいいけどよ。お、そうだ、俺の力見せてやるから、ここの魔物は俺に殺らせろよ?」

「オイオイ…俺もコイツの紹介をしたかったんだが…」

そう言いながら右太腿のホルダーにしまってある大型リボルバー式拳銃を撫でるハジメ。

「悪い悪い。でもよ、俺も見てほしいんだよ…な?」

「はぁー…ったく、しょうがねぇなぁ!」

口ではそう言いつつも、とても嬉しそうに笑ったハジメ。

「じゃあユエ、ちょっと降りてくれるか?」

「…ん」

渋々とだが、俺の背中から降りたユエ。

「じゃ、早速ボス探しからだな…」

両目に逢魔の力を宿し、ボスに遭遇する未来を見る。

===================================================

俺がハジメたちが小さく見えるくらいのところを不用心に歩いていたら、いきなり右の草むらから巨大な蛇が現れ、俺を食いちぎろうとしてきた。

咄嗟に防御するも、牙がかなり鋭く、脇腹に穴が開いてしまった。

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~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハジメside

「なるほど、そこか」

親友が何かに納得したような声を出したかと思えば、悠然と歩きだし、右腕を趣味の悪い金色の腕に変えた。

「な、なんじゃありゃ…」

自分の親友の力に絶句する。

もしかして、さっき言ってた王がなんとかってやつも、あの力に関わってるのか?

「10…9…8…7…」

何かをカウントし始めた時王。

「い、一体何を?」

まるで何かを待っているかのように、急に立ち止まった時王。

「3…2…1…!!!!」

数え終わった瞬間、時王は拳を思い切り振り抜いた。

すると、()()()()()()()()()()()()()()()()()巨大な蛇が自ら時王の右拳に突進していき、頭から爆散した。

「…い、今のは…」

「終わったぜ。ハジメ」

ボタボタと地面に落下していく蛇の肉を無造作につかみ、噛みちぎりながらこちらに笑顔を向けた時王に、俺は復讐完遂の成功率がかなり上昇したことを感じ、笑みをこぼした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

「ほら、蛇肉だ。まずいぞ」

「まずいのかよ…まぁいいや」

俺の手渡した蛇肉を纏雷で焼き、大きな塊のまま口に突っ込んだハジメ。

わ、ワイルドだなぁ…

「あ、ユエ。お前腹減ったか?」

「…ん。飲む」

俺の質問に、血を飲むという答えで肯定してきた。

「んっ…ちゅっ…チュバッ…んくっ、んく…」

「…まさかとは思うが…ここに来るまでずっとそれやってたのか?」

「そのまさかだ」

やけに淫猥な血の飲み方をしているユエを見て、若干引き気味に質問してくるハジメ。

「…ごちそーさまでした」

「おう、お粗末様っと…」

「顔色悪いぞ時王」

余裕ぶって返事をした俺に、ハジメは半眼で言ってきた。

「…あのさ、俺数えてなかったんだけど…ここって俺たちが落ちたところから数えて何階層目?」

「…九十九階層だ」

ハジメに質問すると、次で最後の階層だということを告げられた。

「なぁハジメ、ここから出たらどうする?」

「アイツらを殺す…ッ!」

…ん?

原作通り、俺は帰りたい的なセリフが来るかと思ったら、なんかいきなり殺気をまき散らし始めたハジメ。

アイツらって?

「アイツら?」

「檜山、近藤、中野、齋藤、天之河、坂上、白崎、八重樫、谷口、中村、清水、園部、菅原、宮崎、相川、仁村、玉井…あぁ、他にもいる、俺達を無能と罵ったやつが、俺達を嘲笑ったやつが、孤立させた奴が!!畑山、アイツは良い教師になるとか言いながら、俺たちのいじめを見なかったことにしてやがった!!イシュタル!!あのクソジジイ絶対殺す!!露骨に無能とか言いやがってあのクソ狸が!リリアーナ、アイツは訓練に顔を出して、他のクラスメイトには親し気にしてやがったくせに、俺達は無視しやがった!!俺たちが無能だったから!!ほかにもいる、いるとも!何も俺達にしてくれなかった奴らが!俺達を害してくれた奴らが!!何よりもエヒトだ!俺達がこんな目に遭ってきたのも、全部エヒトが俺達を召喚したからだろうが!!だから殺す!クラスメイトも!教師も!王国の奴等も!何よりこの世界の神も!!!それを邪魔するやつも殺す!生きていようが死んでいようが唾吐いてやる!!これは復讐だ!これは俺の聖戦だ!!それを完遂させて、俺は帰るんだ…お前と!故郷に!日本に!家に!」

殺意をばら撒きながら早口でまくし立てたハジメに怯えているユエをそっと抱きしめ撫でながら、ハジメの方をよく見る。

眼に光は無く、どす黒く濁っていた。

原作ではクラスの奴等には無関心で行くつもりのはずだったハジメが、なんかいろいろダークになっている…

は、話をそらさねば。

「あ、あぁ…そ、そういやハジメ、左腕どうした?ウサギに蹴られただけだったはずだが…」

「…あぁ、これか?これは…自分で切った」

「…なに?」

淀んだ瞳のまま、俺の方を見て、すぐに左腕に視線を移し、自嘲気味に笑ったハジメ。

「肩の骨が粉々になって欠損したせいで、治らなかったんだよ、神水でも。それに腹も減ってたから…」

「…ま、まさかお前…」

恐る恐る聞くと、ハジメは再び殺気を溢れさせた。

「そうだよ…この腕は俺が自分で食ったんだよ!!その時の屈辱も!痛みも!苦しみも!全部アイツらへの復讐心を忘れないようにするための感覚だ!!アイツらどうせ、俺が空腹で苦しんで、肩の痛みに耐えきれなくなって腕を切って自分で食ってる時に、王宮で豪華な料理を食って、俺達無能の事は忘れて楽しんでやがったんだろうよ!!!そう思ったらもう耐え切れねぇ、アイツらを殺すだけじゃ済まさねぇ!アイツらの大事な物も、大事な者も全部奪って絶望させてから殺してやる!!」

話を逸らせませんでした。

ドンナーがミシミシ言うくらい力強く握りしめられているのを見て、ユエはさらに恐怖心を煽られたのか、肩が小刻みに震えだした。

それをより強く抱きしめ、落ち着かせようとする。

「…お前はどうしても復讐したいのか?」

「当たり前だ!!今まで俺達をいじめてきたんだぞ!?檜山は俺達を落としたんだぞ!?許せるかよ、許せるわけねぇだろ!!無能って罵られて、はいそうですかで許せる訳ないだろうが!!俺は聖人君主じゃねぇんだよ!!いじめてきた奴等を、俺をここまで苦しめたやつを…何もおとがめなしで許すわけねぇだろうが!!!!」

「…」

ハジメの悲痛な叫びに、俺は…

「…それもそうだな」

笑顔で答えた。

「…否定…しないのか?」

「しねぇよ。お前の怒りも当たり前だし。何よりそれがお前の選んだ道だ。否定はしねぇよ。…さすがにやばすぎたら止めるが」

「…そう、か…ははっ、時王はやっぱりそう言うやつだもんな…」

俺の答えに、急に笑い出したハジメ。

そんなにかな?

というか俺もあまりハジメの事言えないんだよな。

俺が力を手に入れようとした理由、下に見られたくない、この世の全てを見下してやる…だもんな。

目指すのが最高最善の王でも、思考は最低最悪だから…

「なぁハジメ」

「ん?」

「もし日本に帰るならさ。ユエも…コイツも連れてっていいかな?」

「あ?」

「え?」

俺がハジメに、現在進行形で抱きしめているユエの処遇について訊くと、ハジメとユエから同時に聞き返された。

「いや、さ?こいつはもうここに居場所が無いわけだし…だから、俺達が連れてってもいいかなぁって」

「…いいの?」

「…はぁ…好きにしろよ」

ハジメは、俺とユエの頼みに対して、曖昧に肯定した。

「…ていうか、ユエの考え聞いてなかったな…ユエ、お前はどうしたい?」

「…私の居場所は時王の隣。時王の居場所は私の隣。依然、変わりなく」

どっかの帝王みたいな言葉で、俺達と一緒に故郷に帰ることを肯定したユエに、自然と笑ってしまう。

「…さて、次で多分最後の階層だろうから…ハジメ、錬成で安全地帯作れるか?」

「ん?あぁ、わかった…“錬成”」

壁に触れることなく錬成を発動し、壁に大きなスペースを作ったハジメ。

さて、迫る第一の最終決戦に備えるとするか。




ハジメに恐怖しているせいで、ユエはセリフが少なくなってしまっています。
それも仕方ないと思いますよ。
孤独で辛い状況で現れた、自分を助けてくれるかもしれない男に、いきなり怒鳴りつけられながら飛び道具(銃)で攻撃されて、そのまま放置されたんですから。
俺なら舌を噛み切るでしょうね。


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二重の罠/逢魔降臨/予想外の異常

ウォズが登場しますが、なんかもう登場のさせ方が前から決めていたものの、自分でも不服ですね。
やっぱり男書くより美少女のヤンデレ書いてた方が楽しいってはっきりわかんですね。


時王side

ハジメの武器の準備も終え(シュラーゲンを作成させた。なんかハジメの錬成力が高すぎて、サソリモドキの体から採れた素材を最大活用して、対物レールライフルガトリングなんていう子供がクレヨンで落書きした武器の設定みたいに滅茶苦茶なものが出来上がった)、俺の力でドンナーとシュラーゲンの弾丸を無限に生成したので(オーマジオウの、全てを創造する力を使用)、百階層に挑むことになった。

余談だが、ここまで来てユエさん、出番なしである。

魔法の使用は一度もなかったのだ。

「さてさて…ここが百階層だが…」

「なるほど、あの扉が俺たちの希望の扉というわけか…」

「…でも、絶対何かいる…」

順にハジメ、俺、ユエだ。

俺は最初から逢魔の力をフル活用(両手両足までできるようになった。クウガ一話のグローイングみたいだ)して階段を降り、ハジメはドンナーを構え、ユエは手を前に突き出し、いつでも魔法を撃てるように準備していた。

「…来るっ!」

「お得意の未来視か!了解した!」

「…」

俺の言葉に呼応するように、ハジメとユエが俺の見ている方向にドンナーと手を向けた。

すると、そこに巨大な赤黒い魔法陣が現れた。

「…ついにヒュドラのお出ましか!着地狩りしてやる…!」

「でかいのが来るな…シュラーゲンでいくか」

ドンナーをホルダーにしまい、ハジメはシュラーゲンを構える。

俺はいつでも突撃できるようにググッと体を屈め、右拳を引き絞っている

ユエも言葉には出していないが、手に濃密な魔力を集めている。

そして、そいつは現れた。

原作でも見た、あの凶悪な姿が。

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

その鳴き声を聞いた瞬間、俺は白い頭の方を狙って飛び出し、全力で殴りつけた。

盾役の頭が助けようとする間も与えずに撲殺し、ヒュドラの回復能力を奪い、隙を作る。

それを見逃さずに、シュラーゲンを撃つハジメ。

電磁加速された無数の凶弾が、ヒュドラの体と頭を穿つ。

息も絶え絶えになったヒュドラの頭上から、巨大な蒼い炎の塊が落下していく。

「“蒼天”!」

ユエの魔法だ。

ユエの魔法が、ヒュドラに止めを刺した。

「やっ…た…!」

ペタン…とへたりこみながらユエが嬉しそうに言う。

ハジメも勝利したと確信してか力を抜く。

俺は原作を知っているから気を抜かずに、現れるだろう銀色の頭を撲殺する気でいたのだが…

見えた未来のせいで、硬直するしかなかった。

===================================================

炎の中から、人の姿をした何かが歩いてくる。

炎を抜け出した時に見えたその姿は、銀髪に青い目をした、西洋人形のような美男子だった。

その美男子は、呆然としているユエとハジメに向かって、その手のひらから極光を放ち、それを交わすことができずに受けた二人は…

===================================================

「こ、こいつは…?」

予期せぬ事態が訪れることに驚愕し、少し固まってしまうも、すぐに気を取り直して動き出す。

あの男が極光を放つ前に殺す!!

「おぉおおおおおおおおぁあああああ!!」

絶叫しながら炎から出てきた男に殴りつける。

回避できずに殴り飛ばされた男は、壁にぶつかってようやく動きを止めた。

「…ハジメ!ユエ!急いで離れろ!…ってユエは動けねぇのか…よっと…」

ハジメとゆえに忠告し、動けないユエを負ぶって、男が吹き飛んでいった壁から遠ざかる。

「お、おい…アイツはなんだ?」

「わからねぇ…だが…」

それだけ言って言葉を切る。

砂埃の中から、男が悠然と進んでくるのが見えたからだ。

故に素早く血を吸うように言い、男の方を睥睨しながら、俺の予想を伝える。

「アイツは恐らくヒュドラだ。さっきのヒュドラの首は本当は六つじゃなくて七つだったんだ。その七つ目の首は俺の未来で見えてた。でも、いきなり人型のアイツが現れた…正直、俺も訳がわからねぇ…」

「チッ…不確定要素にあふれた、はっきり言って迷惑な魔物ってわけか!」

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

俺の言葉を聞くと、すぐさまドンナーを男に向かって撃ったハジメ。

だが、男の歩みは止まらなかった。

「頑丈すぎんだろ…傷一つついてねぇとか…」

ドンナーをさらに三発撃ち、空薬莢を排出し、すぐさま再装填するハジメ。

警戒しながら銀髪の男の方を見るが、今度は何もすることなくその場で止まったままだった。

「ユエ、血はもう大丈夫か?」

「ん…敵が迫ってきてる以上、贅沢はできない…」

一応ユエに確認を取っておく。

もう少し飲んでおきたかったらしいが、流石に自重したらしい。

『我は…オルクス大迷宮の最後の守護者にして…解放者達の英知の結晶である…』

脳裏に直接響くような声で、銀髪の男が厳かに告げる。

「解放者?何言ってやがるんだ?ここは反逆者の住処だろうが」

『反逆者、とも呼ばれている…だが、本当は違う。この迷宮を作ったオスカー・オルクス様も、他の迷宮を作った皆様も…狂った神による仕組まれた惨劇からの解放を掲げて戦った、栄光ある戦士たちなのだ』

…それは知っている。

だがお前は知らない。

本当なら、ただのヒュドラの頭のはずだろうに…

『この迷宮は、全迷宮の中でも一番戦闘力を必要とされている迷宮…他の全迷宮を攻略してから訪れるべき場所…なのになぜ、お前らのような者がいる?』

「…聞いてもわかんねぇだろ?俺達の味わった苦しみも…屈辱も。お前はただの人工物なんじゃねぇか」

『ふむ…なら言葉は不要。我を倒し、この扉の先に進む資格を手に入れるか…ここで死ぬかだ』

それだけ言うと、銀髪の男は俺…ではなく俺の隣にいるユエに殴り掛かった。

だが、隣にいた俺に、オーマジオウの腕でラリアットを喰らい、吹き飛ばされる。

『ぎ、ギッギッギギギ…深刻な破損…修復…完了』

一気に機械的な声を出した銀髪の男に薄気味悪さを感じつつも、ユエを抱きかかえる。

恐らく奴は、後衛向きのユエを先に潰すことにしたんだろう。

確かに合理的で、テストなら百点貰えそうな戦略だ。

「だが無意味だ。俺がいる以上、ユエに攻撃は届かねぇ」

それだけ言うと、操り人形のような変な動きをしている銀髪の男に殴りつける。

左によるジャブ(普通の人間で言う会心の一撃レベルの威力)の連打。

そして渾身の右ストレート。

壁に思い切り叩きつけられた銀髪の男は、ガクガクと痙攣してから、いきなり姿を消した。

「っ!…ハジメ!五秒後に左側に発砲!全弾撃ちきれ!」

「お、おう!」

俺の言葉に反応し、五秒数えたと同時、左側に向けてドンナーを乱射したハジメ。

すると、突然現れた銀髪の男がドンナーの凶弾に連続して襲われ、威力により吹き飛ばされた。

「ユエ!最上級を当ててやれ!」

「んっ!“蒼天”!」

ユエの放った最上級魔法で、銀髪の男を限界まで追い込む。

だがそれだけでは終わらせない。

炎を逢魔の力で消し飛ばし、銀髪の男をさらに殴りつける。

「終、わ、り、だぁああああああ!!!」

全力で振るわれたオーマジオウの腕を交わすことなく受けた銀髪の男は、ついに動きを停止させた。

「…よっしゃー!!やったぜハジメ!ユエ!」

「あぁ!これでここから出られる!」

「んっ!」

『いいや、まだ終わらんよ』

俺達が笑顔で喜び合っていると、今度は別の声が辺り一帯に響いた。

その声は、とても聞き覚えのある声だった。

その声は、俺に力を与えた声だった。

その声は、よく俺の脳裏に響いていた。

「…ま、まさか…」

嫌な予感がしたので後ろに振り向くと、銀髪の男がゆらり…と立ち上がっていた。

『ちょうどいい依り代もあるわけだし…最後の試練を行おうか常盤時王…いや、ここは真名で呼ぶべきかな?』

それだけ言うと、愉快そうに口元を歪めた銀髪の男…いや、銀髪の男だった何者か。

『なぁ、逢魔時王』

「あ…?」

俺の脳裏でよく響いていた声が告げた名前に、俺は思考を停止させた。

いや、させてしまった。

その次の瞬間、鐘が響くような低い音が鳴り響き、銀髪の男だったモノの腰回りに何かが装着された。

金色の、何かが。

まるで操られるように腕を”何か”の前で交差させ、銀髪の男だったモノは告げた。

『変身』

その瞬間、地面に亀裂がはしり、溶岩のような物が円周型の溝を流れ始めた。

それも束の間、すぐに銀髪の男だった者の周囲を巨大な金色の…腕時計のバンドのような物が回転し始め、凶悪な声が聞こえ始めた。

『祝福の時!最低!最悪!最大!最強王!逢魔時王ゥ!!!!!!』

ライダーの文字が銀髪の男だった物…いや、オーマジオウの顔に張り付くと、金色のオーラが俺達を苛んだ。

「ぐぁっ…!」

「うぉっ!?」

「んっ…!!」

俺達が衝撃に耐えるために目を閉じ、目を開けたときには、隣に黒い服を着た男が現れていた。

その男はとても見覚えがあって、それで…

「祝え!時空を超え、過去と未来をしろしめす究極の時の王者!! その名もオーマジオウ!!その力を継ぐ資格を持つ者に、試練を与える瞬間である!」

傲慢に、不敵に、突然召喚された玉座に腰掛け見下すようなポーズをとったオーマジオウの隣で、歯車が無数に点在する本を持った()()()が祝福する。

「突然現れてわけわかんねぇこと言いやがって…俺の邪魔をするなら敵だ!敵は…殺す!!」

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

六連発で撃たれた弾丸が、オーマジオウを襲う。

だが…

「外道!」

弾丸の射線上に現れたウォズが、ドンナーの凶弾をすべてマフラーで跳ね返し、ハジメに打ち返す。

「お前ごときが、我が魔王による試練を妨害するなど烏滸がましいにもほどがある!」

怒りを露わにしたウォズの圧に、流石のハジメも後ずさった。

『ウォズ、別に何をされようと関係ない。お前はただ、新たな王の誕生を祝う準備をするか、もしくは我の勝利を祝う準備をするか…まぁどちらにせよ、すぐに祝福できるようにしておけばいい』

それだけ言うと、オーマジオウは玉座から立ち上がり、こちらに向かって歩いてきた。

「ならば我が魔王…存分に戦われよ」

恭しく頭をさげ、オーマジオウを送り出すウォズ。

俺は直ぐに両手両足両目に逢魔の力を宿し、構える。

『さて…全員でかかってこい、数がいくらあろうと、関係なからな』

傲慢に告げたオーマジオウに、俺とハジメは直ぐに駆け出した。




ウォズ語録を調べるために、この話はジオウの録画を見ながら書きました。
いやー、奥野さんの成長がすごくてびっくり。
最後の祝福の時なんて、どっかの食うか食われるかの世界の読モみたいなシャウトでしたね。
あ、この話に出てきたオーマジオウ…敵の方のオーマジオウの変身音は、原作と違い最高最善最大最強王ではなく、最低最悪最大最強王にしました。
なんかそっちの方がしっくり来たんですよね。


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祝福の時

大事な回のはずなのに、つなぎの回程度の量しかございません。
お許しください。


時王side

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

ハジメの出した銃声が響く。

オーマジオウはドンナーの凶弾をものともせず消滅させ、勢いに任せてハジメを殴りつけた。

ゴシャァッ!!という音と共にハジメが吹き飛ばされる。

俺は、ハジメを攻撃するために隙を作ったオーマジオウの腹部を思い切り殴りつけた。

『ふん…本来の力の1%にも満たないその腕の攻撃で…我がやられるとでも思ったか!』

俺の攻撃ではびくともせず、俺の頭を掴み、ハジメの吹き飛ばされた方向へ投げ飛ばした。

「“緋槍”!」

オーマジオウに向かって、ユエが連続して魔法を射出する。

だが、その攻撃も消滅させられてしまう。

『どうした!こんなものか!?』

「なめるなぁああああああ!!!」

瞬間移動したかのようにオーマジオウの眼前まで迫った俺が、全力の連打を喰らわせる。

『効かないと…言っているだろう!』

それでもダメージは全く入らず、俺は顔面を殴りつけられてしまう。

だが、これも計画通りだ。

「それは…想定内なんだよ…!」

『なに?』

「現代兵器…甘く見るんじゃねぇぞ!!」

俺に意識を集中させていたオーマジオウの体に向かって、ハジメがシュラーゲンの銃口を押し当て、最大出力で撃ち始めた。

『グゥッ!?なるほど…中々効くなぁ…だが無駄だ!』

オーマジオウは若干よろめくも、すぐに体勢を整え、ハジメを殴り飛ばした。

「ガァッ!!」

「“蒼天”!!」

ハジメを殴り飛ばしたオーマジオウに、先程までシュラーゲンで攻撃されていたところを狙ってユエの最上級魔法がぶつけられた。

『いくら同じところを攻撃しようと…無駄だ!』

そう言うと、オーマジオウはユエに向かって金色のオーラを放った。

それを喰らったユエは、抵抗することなく吹き飛ばされ、壁に打ち付けられた。

『…さて、そろそろ終わりにしようか…』

それだけ言うと、オーマジオウはハジメとユエの方に手を伸ばし、極光を放った。

グゴォオンッ!!という爆音とともに、ハジメとユエが極光に襲われた。

「ハジメ!!ユエ!!」

急いで二人の方へ駆けよると、ハジメは右目から血を流していて、ユエは再生は始まっていたものの、皮膚は焼けただれ、すぐには回復しないだろう事が分かった。

ハジメとユエに神水を浴びせて、傷の治りを早くさせようとする。

やはりそう簡単には治らず、二人が苦しんでいることに変わりはなかった。

「…」

オーマジオウを睨みつけ、ゆっくりと立ち上がる。

訝し気に俺を睥睨してくるオーマジオウを無視して、俺は俯きながら歩く。

一歩一歩、ゆっくりと。

そして思い出す。

怒りを、苦しみを、痛みを…全てを。

ハジメと同じだ。

ただ、俺の復讐相手はコイツだけで十分だ。

俺に淡い期待をさせるだけさせて。

順調に器を用意していた俺の前にしゃしゃり出て、いきなり理不尽に蹂躙し始めて…大事なものを奪おうとした。

檜山とか、エヒトとか。そいつらはもうどうでもいい。

ただ…こいつだけは殺さなきゃだめだ。俺の手で、俺自身の手で。

「すぅ…ウォオオオオオオオオオァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

叫ぶ。

怒りに身を任せるために。

今この時は、不要な理性を捨てるために。

ゴォン…と、鐘の音が響いた。

腹部に重みを感じたので見てみれば、そこには目の前のオーマジオウと同じベルトが装着されていた。

使い方は、もう知っている。

だから…

「変身!」

『祝福の時!!』

地面を流れる溶岩の熱が、俺の怒りを表しているかの様だった。

『最高!』

響く声が俺の復讐心を助長させた。

『最善!』

俺を見るオーマジオウの目は見えないはずなのに、驚愕に染まっている気がした。

『最大!』

俺の視界を覆うように、金色の腕時計のバンドのような何かが高速回転している。

『最強王!』

バンドが消え、目線が少し高くなったような気がした。どうやら変身が終わりに近づいているらしい。

『オーマジオウゥ!!』

俺が変身した瞬間、周囲に何か途轍もない波動が放たれた気がした。

事実、目の前のオーマジオウは後ずさりし、その後ろにいたウォズの方もよろめいていた。

壁前面に亀裂がはしり、バキバキと音をたてていた。

『ウォズ、さっきお前は俺が変身したら祝うように言われていたな?』

「あ、あぁ…?」

俺の言葉に、訝し気な反応を返すウォズ。

だが、ウォズが理解しているかどうかは関係ない。

だから、俺はそのまま告げる。

『ウォズ、祝え』

「は?」

『祝えと言っている』

そこまで言って、ようやくわかったのか、ウォズは声を張り上げた。

「祝え!新たなる王の誕生を!真名の通り、本来持つべき力の全てを手にした、逢魔時王の最後の姿である!」

ウォズが祝福した瞬間、オーマジオウがこちらを睨みつけながら激高した。

『ふざけるな!本来ならこの力はジクウドライバー無しでは手に入れられないはず…何故お前がその力を…!』

『忘れたか?最初にお前が俺に力を貸した時…ジカンギレードとサイキョーギレードを俺に貸した時に、ジクウドライバーを媒体として武器を貸し出したことを』

『なっ!』

ようやく思い出したのか、愕然としだしたオーマジオウ。

『そして…なんだろうな、思い出した?なのか?今の俺の力の使い方が、わかる…俺の力は…全てのライダーの力だ』

そう言った瞬間、オーマジオウの体の中からライドウォッチが大量に出てきて、俺の体の中に取り込まれていった。

取り込んだ時にも、再び途轍もないエネルギーを発する。

『力を手に入れたところで、我が負けると決まったわけではない!』

そう言うと、俺の方へ走りだしたオーマジオウ。

それを睥睨し、カウンター代わりに拳を振るう俺。

金色のオーラが纏われ、殴りつけられたオーマジオウが爆発する。

『グゥッ…まだだ!』

今度はオーマジオウが俺の体を金色のオーラを纏わせて殴りつけてくる。

それを左腕で受け止め、右腕で殴りつける。

金色のオーラを纏った拳が、オーマジオウの鎧に罅をいれる。

『終わりだ』

『終焉の時』

オーマジオウを蹴り飛ばし、ベルトのボタンを押して、必殺技を発動する。

『逢魔時王必殺撃』

その場で跳躍し、オーマジオウの方へ構える。

オーマジオウを囲むように、キックの文字が並ぶ。

その場から逃げ出そうと試みているが、キックの文字に阻まれ身動きが取れない。

そのままオーマジオウへ飛び蹴りを喰らわせる。

キックの文字がオーマジオウにぶつかりながら俺の足の裏に集まっていく。

全ての文字が俺の足裏に集まった所で、オーマジオウを全力で蹴りつける。

プラズマがオーマジオウの体に何度か現れると、断末魔を残させることすらなく爆散させた。

「はぁ…はぁ…やった…ぞ」

変身解除しながら、俺はその場に倒れこむのだった。




ウォズの出番はこれで終了です。
まぁ偶に前書きで何かを語ってもらう予定ではいますが。


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伝えられた真実/ライダー×ライダー

ウォズ「祝え!連続投稿されたこの作品を!新たな話が世に広められた瞬間である!」


時王side

「ん、ん…」

呻きながら目を覚ます。

周囲を見渡すと、どうやら高級感溢れる羽毛ベッドで睡眠していたようだ。

隣で眠る吸血姫(全裸)を見て、溜息を一つ。

「…よし、ユエが起きたら、先にシャワー浴びてこいよって言ってやろう…」

いきなりのこの状況に混乱して、なんか訳の分からない悪戯をしてしまいそうになる。

気を取り直して、再度周囲を見渡すと、入り口付近の扉に寄りかかって寝ているハジメが寝ていた。

「…一体何が…」

「ようやくお目覚めかな?我が魔王」

「っ、お前は…!」

突然隣から声をかけられたのでそちらを見ると、ウォズがいた。

「おっと、そんなに警戒しないでくれ。別に私は君に危害を加えるつもりはない」

「…その言葉が信じられるとでも?俺がオーマジオウを殺したんだぞ?かたき討ちの可能性だって…」

「もしその気があるなら、君が不用心に寝ている間に殺すことも出来たんだよ?それでも私は君に傷一つつけてない…そればかりか、君をこの寝心地のいいベッドに寝かせておいたじゃないか」

何故お前がこれの寝心地を知ってるんだ、というツッコミは確かにあったが、それは言わないことにした。

「…なんで俺とユエをベッドに寝かせて、ハジメは壁に立てかけただけにしたんだ?」

「その子…ユエ、だったかな?その子が君にかなりの好意を抱いていることは前々から知っていたからね、嫌悪感の方を向けている相手のハジメは、壁に立てかけておくのが得策だとおもったんだが…余計なお世話だったかな?」

「…ありがと」

俺は肯定の意を感謝で示した。

「…さて、君にいろいろ話しておかなくちゃいけないことがあるから…場所を変えようか」

「…二人に聞かれちゃまずいのか」

「…君の継承したオーマジオウの力と…君自身、逢魔時王の話さ」

「…わかった、移動しよう」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

俺達が外に出て向かったのは、俺達がヒュドラや銀髪の男…そしてオーマジオウと戦った場所だ。

「さて、まずは何から話そうか…やはり、君自身の話、逢魔時王の話が気になるかな?」

「わかってるならそれを話せばいいだろ?」

「おっと、つれないな…まぁいいだろう…まず、君はこの世界の人間ではないね?」

「そりゃ異世界召喚されてんだからな」

「そう言う意味じゃない」

まるで吟遊詩人が旅の道中で歌うかのように、愉快そうに話を進める。

体の動かし方は白ウォズの如く、その見た目は黒ウォズの如くだ。

「君は、本当の意味でのこの世界の住民ではない…なぜなら君は」

「転生者だから、ってか?」

「ご名答」

俺自身も忘れていたが、俺はこの世界…ありふれ世界に転生してきた。

俗に言う神様転生…()()()()、死んだと思ったら次の瞬間には赤子になっていた、という風に。

「君はこの世界に転生してきた。何故だかわかるかい?」

「さぁ?神様とかとお話してから来たんじゃねぇのか?俺の記憶に残っていないだけで」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「あ?」

訳が分からなかった。

俺が、神様転生したわけでも何でもないと言われて、理解することができなかった。

「…じゃあ、一体どうやって?」

「それが、君の真名…逢魔時王と関わってくる。君は、元の世界で生まれた時から、君自身の魂に直接この名前が刻まれていた」

「魂ぃ?」

いきなりオカルティックな話をされ始めた。

まぁ転生して、さらに異世界に召喚された…なんて、より一層オカルティックな現象を味わった俺が今更どうこう言うのもおかしい話だが。

「本来、普通の魂は、死んだ後は輪廻転生したりといわれている。実際それは正しくてね。私も輪廻転生して移動していった我が魔王の力を持つ者に、何度も忠誠を誓ってきた」

「…本来ってことは、俺は例外ってことか?」

「その通り、君は例外だったんだ。君の魂は、あまりにも強大で、強力だった」

なんだかわけのわからないスケールで物事が進んでいる気がしなくもないが、まぁそれは置いておこう。

要するに、俺の凄さは魂にあった、と言う事だろうか。

「何故なら、誰も意図していないのに、誰かがやったわけじゃないのに、君の魂には刻まれていたから…逢魔時王の名が」

「その名前があったら何だって言うんだよ」

「わかっていないようだね…君の魂にその名が刻まれていた、と言う事は…君が本来この力を持つのに相応しいと、逢魔の力が直々に認めたのと同じなんだ」

「まるで逢魔の力に意思があるみたいじゃないか」

直々に認めた、だなんて、まるで逢魔の力が生きているみたいじゃないか。

だが、それをウォズは…

「その通りだとも」

容易く肯定した。

「逢魔の力に生命力を与えたのは、別の位相に存在する我が魔王…常盤ソウゴその人さ」

…別の位相にはいるんですね、ソウゴくん。

ゲイツとかもいるのだろうか…

「私も本来はその位相にいるべきだからね…もうじき戻らなくてはならないから、話を戻そう」

長くしているのはお前の話し方のせいじゃないのか、と言いたくなったが、それは無かったことにしておく。

「君は、逢魔の力を振るえるようになるために、この世界に来るようになった。他の世界では、この力に目覚めることができないから」

「…なるほどね…」

スケールがでかい気がする。

なんだろう、ずっと一般人だと思っていて、つい最近になって生まれながらの王だのみんなは民だの言いだすようになって…

魂レベルだったんですね、俺の変化。

「そして…最後の話だ」

そう言うと、ウォズは何かを取り出し、腰に当てた。

『ビヨンドライバー!』

「…まさかとは思うが…」

「そのまさかさ。オーマジオウの力を受け継いだんだ…実際に戦闘で使って、慣れてもらおうと思ってね」

『ウォズ!』

ウォズミライドウォッチを構えたウォズが、不敵に笑う。

「あぁ、それと、変身のための感覚もここで掴んでもらうよ」

「なんだよその鬼畜仕様…」

取り敢えずベルトよ出ろー!と念じてみる。

すると、ゴォンッ!と鐘が響くような重低音が聞こえてきた。

「お、出た」

「…前の我が魔王は、ベルトを出すのにも一苦労だったというのに…まぁいい、始めようか」

『アクション!』

ウォズの背後に近未来的な映像風の何かが映し出され、ウォズを囲むように蛍光色の線が走っている。

「ふぅー…変身!」

俺はオーマドライバーの前で手を交差させ、変身する。

「変身」

『投影!フューチャータイム!』

『祝福の時!』

『スゴイ!ジダイ!ミライ!』

『最高!最善!最大!最強王!』

『仮面ライダーウォズ!ウォォズ!』

『オーマジオウゥ!!』

甲高い声とデスボイスの言い争いに耳が壊れそうになったが、平然と、威風堂々と構える。

すると、ウォズがジカンデスピアのヤリスギモードので攻撃してきた。

『やぁっ!』

『無駄だ』

『ビルド』

虚空を押すように手を突き出し、フルボトルバスターを召喚する。

『フルフルマッチでーす!』

『っ、それは…』

『フルフルマッチブレイク!』

エネルギー砲を躱すことができずに受けてしまうウォズ。

だが、何とか耐えたのか構え直してこちらに向き直ってきた。

『ふむ…なら、お得意のコレで行こうか』

『シノビ!』

『アクション!』

シノビミライドウォッチをベルトに接合させ、フォームチェンジしてくる。

『投影!フューチャータイム!』

『速度は、私随一だよ』

『誰じゃ?俺じゃ?忍者!フューチャリングシノビ!シノビ!!』

『カマシスギ!』

ジカンデスピアを鎌の形状に変えて攻撃してくるウォズの攻撃を、鎧武のライダークレストから火縄大橙DJ銃を召喚して防ぐ。

スクラッチして、ツマミを早いに調節。

再度スクラッチすることで必殺技待機に入り、ガトリングを撃つ。

ウォズの体がエネルギー弾の雨に襲われる。

だが…

『君は、いつから私が移動していないと錯覚していたんだい?』

急に俺の後ろに現れた俺を、背後から切りつけてきた。

ダメージは無いが、驚きが強い。

『…あぁ、そうか…変わり身か…』

『ご明察…さて、畳みかけようか』

『ギンガ!』

ノックバックされた俺に見せつけるように、ウォズは新しいウォッチを手に取った。

『アクション!』

先程までとは違う待機音が響き、惑星が周囲に浮かぶ。

『投影!ファイナリータイム!ギンギンギラギラギャラクシー!宇宙の彼方のファンタジー!ウォズギンガファイナリー!ファイナリー!!』

姿を変えたウォズが、俺に向かって突撃してくる。

『宇宙なら、コイツの力か?』

フォーゼのライダークレストを押し、バリズンソードを召喚。

スラッシュモードに変更させ、コズミックスイッチを挿入し、必殺待機。

『ライダー超銀河フィニッシュ!!』

直接ウォズギンガファイナリーに斬りかかる。

だが、ウォズに重力球を生成されて防がれ、さらには吹き飛ばされてしまう。

『チッ…一筋縄じゃいかねぇか…』

『そう簡単には、やられないよ?』

なら…とオーズのライダークレストを押し、メダガブリューを召喚する。

メダガブリューと一緒に、一万を超えるセルメダルを召喚、食わせる。

『ガブッ…ガブッ…ガブッ…ガブッ…ガブッ…ガブッ…ガブッ…ゴックン』

全部のセルメダルを食い終えたのを確認すると、メダガブリューをバズーカモードにし、ウォズに照準を向ける。

『プ・ト・ティラーノ・ヒッサ~ツ!! 』

途轍もないエネルギーが集まっていき、俺の手にすら振動を感じさせる。

『ストレインドゥーム!』

トリガーをひき、ウォズに破壊光線を喰らわせる。

『くっ…ぁあああ!!』

流石に防御しきれずに吹き飛ばされたウォズ。

変身解除され、床に突っ伏す。

「はぁ…はぁ…さすがだ…その力も…君が扱うのが素晴らしい…」

「…なんだろうな、お前に言われると嬉しいよ」

変身解除しながら、息切れしながら答える。

原作の人から認められると、嬉しいもんだな。

「…これで、安心して元の世界に戻れるよ…では我が魔王…ご武運を…」

「おう…そっちこそ、元気でな」

光の粒子になって消えていったウォズに、聞こえていないだろうが声をかける。

「…はぁ、疲れた…」

確か風呂があったはずだし、のんびり入るとするか。




ウォズ、退場。
一緒に行動すると思っていた人、ごめんなさい。
それを期待していた人、ごめんなさい。
展開的に…一緒に行動するのは…無理でした…
本当に…ごめんなさい…


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風呂場乱入ヒロイン(ヤンデレ属性持ち)/親友の煩悩

ウォズ「この話は、我が魔王と吸血鬼の姫の話…だが、つなぎの話らしいね…短めだが、許してくれたまえ…おっと、これはまだ先の話、だったかな?」


時王side

「ふぅ…気持ちいいな…」

オルクスの住処にある、巨大な風呂を貸し切りして疲れをとる。

「ハジメとユエはおきたのか…?」

肩までつかりながら(水圧で心臓が圧迫されて体に良くないらしいが、体は丈夫なので心配なし)、親友と…原作ヒロインについて考える。

「ま、今はこの時を楽しむとしましょうか…」

面倒くさいことを考えるのはやめだやめ、と言う事で、再び大きく息を吐き、力を抜く。

すると、風呂場の扉がガラガラと開く音が聞こえてきた。

「ん?ハジメか?」

「ふふ、わ、た、し♡」

ビシッ…と、俺の動きが固まった。

まさかのユエ乱入である。

「ちょ、ちょっと待って?なんでいきなり入ってきてるの?」

「…起きたらいきなり…時王がいなかったから…」

そう言いながら、風呂に入って俺の体に密着してきたユエ。

や、柔らかい…!どことはいわないけど…!!

「捨てられたのかと思った…もう私はいらないのかと思った…」

「…さすがにそれはねぇよ」

真剣な声音で言ってきたユエの頭を撫でながら、しっかり不安をなくそうとする。

すると、ユエが俺の顔を覗き込みながら、質問してきた。

「本当?」

「あぁ。本当だ」

俺の答えを聞くと、安心したように身を委ねてきたユエ。

しばらくの間抱きしめ合っていると、いきなりユエが不安げな声でこんなことを質問してきた。

「ねぇ、時王…」

「ん?どうした?」

「…私の事、好き?」

「当たり前だろ。それがどうかしたのか?」

好きか嫌いなら、迷いなく好きな方だと答える。

原作と違いユエがハジメに好意を持っていない以上、その好意が俺に来ていることもあるのだ。

「…その好きって…どういう意味?」

「どういうって…普通に」

「女として、好き?」

…非常に困る質問…

なんだろうか、魔物を食って、オーマジオウの力を使えるようになってからというもの、恋愛感情とか性欲とかそう言ったものがなくなってきているのだ。

例えるなら…オーズ終盤で、火野くんが魚を食いながら、砂の味しかしないって言った時みたいな感じ?

感覚がなんかこう…変になってるんだよ。

「…やっぱり、嫌い?」

中々答えずにいたせいで、不安げに…涙声で嫌いかと質問されてしまった。

「嫌いではないんだが…」

「…私は、時王の事…大好き。男として。LOVEって意味で」

「なんでお前が英語を…?」

異世界で英語が通じるのは、前々から疑問だったことだ。

っと、これはどうでもいいことか。

「と、とにかく…お前がいくら俺に好意を持とうと、俺がそう言った感情を持てない以上なんとも…」

「どうして?私に魅力がないから?」

「いやそうではなく…」

ずい、と身を乗り出して聞いてくるユエの全身を改めて見てみる。

月明かりのように美しい金髪。

神が直接手掛けた美術作品と言っても過言ではないほどの端正な顔立ち。

原作では描かれていなかった、瞳の奥に見えるハート。

とても巨大とは言えないが、そこそこにある胸。

細身の体は、不健康というわけではなく、むしろ健康的なみずみずしさがある。

プリンッとしてハリのある尻は、照明の月に照らされて魅惑的な光を反射していた。

総じていうならば、もし俺が前までの俺なら押し倒していただろうレベルだった。

「ユエは十分魅力的だ。そこは勘違いしなくていい」

「…本当?」

俺の言葉に、いまだに不安が払拭しきれないのかこちらに質問してくるユエ。

「…わかった。じゃあいい…行動で示そうか」

「行動…?きゃっ」

ユエの細身の体を抱き上げ、浴槽の淵に腰掛け、ユエの体に手を伸ばして、そして…

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハジメside

「…き、気まずい…」

目を覚ましたら見知らぬ部屋の中にいたので探索してみれば、風呂を見つけた。

ある程度建物内は探索し終えていたので風呂に入ろうとしたら、風呂場からあの吸血鬼の嬌声と、親友の吸血鬼を激しく責めあげる声が。

なんと俺は、意図せず親友と吸血鬼の行為中の風呂場に来てしまっていたのだ。

未だに聞こえる吸血鬼の喘ぎ声と、親友のいじらしく責める声。

ユエのここ、こんなに濡れてる…と聞こえたくだりで、俺は聞き耳を立てるのをやめ、すぐさま脱衣所から外に出た。

「…あ、あれは不可抗力…」

なんだかんだ言って、俺は思春期の男なのだということを意識させられた。

親友の行為に聞き耳たてるとは…なんだろう、あとで土下座しておこう。

あの吸血鬼に下げるつもりは毛頭ないが。

…吸血鬼の声に集中していたのは、否定しないが。

「…そうだ、工房の鍵さがそう。それで道中にトイレがあったら寄ってしまう可能性があるが、それは仕方ない話だ仕方ない話」

ブツブツと言いながら、その場を高速移動する。

…俺は最低だ!と熊の親を絶望させたときに言ったが、今このタイミングでも使うことになるとは思いもしなかった。

この後、色々スッキリゲッソリしたのは言うまでもあるまい。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

汚してしまった風呂場の床をお湯で洗う。

「はぁ…はぁ…時王♡…」

蕩けた表情をしながら俺の方を見て、甘えた声を出すユエ。

「…なんか…その、いきなりやりすぎたな…すまん」

ユエに信じてもらうためとは言え(言い訳)、いきなり襲う(性的な意味で)のは流石にダメだったと思う。

「んーん。むしろ…嬉しかった♡…また、シよ?」

嬉しそうに口元を歪めながら、次の行為について言ってくるユエ。

なんだろう、よく一度関係を持ったら情が湧くというが、わかる気がする。

「…ユエ」

「ん?なぁーに♡?」

「…俺も好きだぞ、ユエの事」

「!?嬉しいっ…♡」

床に寝込みながら、とても嬉しそうに笑顔になったユエを見て、エヒトに乗っ取られないようにしなきゃな…と誓うのだった。




後で活動報告で、ありふれの18禁作るか募集取ります。
ハイスクールD×Dはヒロインと仲良くできてないのでまだ無理ですが、こっちはもうユエと致したので、そのシーンを書けばいけると思います。
しばらくユエとの行為ばかり続くとは思いますが、ご了承ください。


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神代の力/覇道を征く者

遅れましたね。
まぁユエとの交わり(意味深)を書く時はパソコンじゃなくてスマホでやっているので仕方ないです。
一応進捗はまぁまぁなんですが、しばらくかかりそうですね…
こっちの通常の方の小説の問題は、どうやってシアをヤンデレ堕ちさせるかですね。
駄龍をドM+ヤンデレにする方も大変ですが…


時王side

「…んで、ハジメは何を見つけたんだ?」

「骨」

「それは…説明じゃない…」

「うるせぇ」

ユエと一晩愛し合った(あの風呂場の後も色々あってベッドで改めてすることになった)後、なぜか申し訳なさ気な表情のハジメに謝られてから、何かを発見した旨を伝えられた。

どうやら骨…オスカーさんの死体を発見したらしい。

「そこでこの指輪…なんだろうな、なんかの鍵?になってるんだが…まぁそれが手に入ったんだ」

「ふーん…で、何かあったのか?」

「それが…まぁ実際聞いてもらった方が早いな」

「聞いてもらった方が?」

まぁ大体わかってるんだけどね?

どうせオスカーさんのお話の件でしょうに。

まぁ俺が知っているわけないから、話合わせるためにも一応そのイベント回収するけどさぁ…

「ここだ」

ある程度歩くと、ハジメがある部屋の前で立ち止まり、扉を開いた。

そこには椅子と、その椅子に座る白骨死体があった。

「…あれ?毛が残ってる…?」

どうやら原作よりもオスカーさんは毛根が強かったらしい(すっとぼけ)。

ハジメに誘導されて、ユエと一緒に(手を繋ぎながら)死体の前まで行くと、いきなり足元にあった魔法陣が輝きだし、原作で書かれていたように、俺の脳裏に今までの奈落での光景が走馬灯のように…

流れた()()()()()

全く別の…なにかが俺の脳裏を侵食していった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

【ようやくお目覚めかな?】

「…ようやく?俺はずっと目を覚ましていたつもりだがな」

【違う】

姿が見えないのに、()()は確実にそこにいる。

そんな不気味な()()は、訝しんでいる俺等どうでもいいように語り続ける。

【お前の力が目覚めたことに対してだ。私の与えた、その力に対してだ】

「…逢魔時王か」

【わかっているなら話は早いな…今からお前に、完全に力を継承させる】

「あ?もう継承は終わったんじゃ…」

【今までの継承者が受け継いできた記憶、その他諸々すらお前の力として必要なものだ。受け取れ】

その言葉と同時に、俺の意識は混濁し始めた。

何百人、何千人もの記憶が、俺を満たす。

【…終わったな。これで完全に本来の王に継承できた…王位を返還できた、と言うべきか】

「…どういうことだよ」

【私の力…すなわち逢魔の力は、お前の魂のためにあった。ようやくその器が完成し、お前に返還された】

「…俺の魂って、最近できたんじゃなかったのかよ?」

こういうオカルティックな話は限りなく不得手なのだが、他人事ではないのでしっかり聞いておく。

【最近できたことに変わりはないが…お前の魂が出来たから逢魔の力が与えられたわけじゃないんだ】

「…えーっとそれは…」

スケールがでかすぎてわからなくなってきた。

え?俺の魂が出来て、その魂が逢魔の力を受け止められるほどの凄さがあったから力が宿ったんじゃなかったの?

【お前の魂は、逢魔の力を継承するために創られたのだ。故に、この力のあるべき場所はお前の魂でしかなく、前までのオーマジオウでは最低最悪の王にしかなれなかった】

「…頭が痛くなってきた」

【それはそうだろうな、いきなり数千単位の記憶を継承すれば、頭痛もあるだろう】

「違うそうじゃない」

なんだかわけのわからない話になって来たな…

あまり重たい話をされても、俺にはとても理解できないんだが…

【まぁいい…とにかく、この力は正真正銘お前のものだ。存分に振るえ】

「…ま、いいかそれで」

【もう粗方説明は終えたし…必要な戦闘技能などはすべて記憶と共に送った…変身前でも負けが無いように、今までの継承者たちの力全てをお前の…ステータス?とやらに加算しておいた。これで大丈夫だろう】

最後の方でとんでもないことを伝えられた気がしたのは果たして俺だけなのだろうか…

そう思っていると、次第に周囲が光に包まれて行ってそして…

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

「試練を乗り越え、よくたどり着いた…私はオスカー・オルクス。ここに来る前に戦っただろう銀髪の彼から聞いているだろう?解放者の一人だ」

目を覚ますと、ホログラムのような感じで、黒髪で長髪の男が話していた。

どうやら、先程の見えない何かとの話の時間は経過していないらしい。

「…あぁ、色々聞きたい事はあるだろうけど、僕はただの記録映像…意思は存在しないから、受け答えは不可能だよ?そこは注意してくれ」

それだけ言うと、()()()()はエヒトの悪行についてと、自分たちの武勇伝(笑)を語り始めた。

まぁそこは原作と変わりなかったので、全カット。

「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」

それだけ言うと、俺の頭が再びズキズキと痛みを放った。

これで記録映像は終わりのはず…

だったが、オスカーは消えず、話を続けた。

「それと、この映像を見ている中に、ジオウという名の男がいるだろう。何故知っている、などの質問は受け付けないよ?残念ながら記録映像だし、僕もジオウについてはほんの一端を垣間見たかもしれないってだけだからね…」

あまりにも驚愕したせいで、先に映像を見ていただろうハジメの方を見てしまう。

だが、ハジメもこんなことは最初に見た時は無かったと言いたげに目を見開いていた。

「ジオウ…いや、オーマジオウか。彼には僕達が神に対して反逆する為の力を集めている時に出会った」

感傷に浸るかのように瞳を閉じながら語るオスカーに、俺は驚愕したまま硬直していた。

「彼は、私たちに未来を見せてくれた。神との戦いの未来…そして、君が僕の迷宮を訪れるという未来。その二つの未来をね。それで僕は、この記録映像を流すにあたって、逢魔の力っていうのを持っている者が訪れた時に映像が流れるように細工をしておいたんだ」

何という無駄な技術力…というツッコミが脳裏をかすめたが、言わずに黙っておく。

オスカーは話を続けた。

「そこまでして伝えたい事…それは君に関係することなんだ。…君が王として生きていくつもりなら、この世界の神を殺す必要がある…ってね」

神殺しを強要するつもりはないんじゃなかったか。

「君の力があれば、世界を越えることは容易い。だが、エヒトは君のその世界を越える力を封じたんだ。…敢えて君の闘争心を駆り立てるために言うなれば…傲慢にも、王たる君の力を封じ、君の上にたって、嘲笑っている。そしてエヒトは、君すら…王すらただの駒に過ぎないと見下している…という感じかな?」

…エヒトが…俺を…見下している?

俺は王だぞ?

全ての頂点なんだ。

理不尽だろうと何だろうと薙ぎ払える、強大な王なんだ。

それが…駒?

「…ふざけやがって」

「…時王?」

隣で震えながら俺を見るユエを安心させるように頭を撫でながら、殺意を込めて上を見る。

「…さて、これを聞いた君は一体どうするかな?神の駒として見下され続けるか…それとも神を殺し、真に頂点として君臨するか。選ぶのは君自身だ。王として…進みたい道を選びたまえ」

それだけ言うと、オスカーは消えていった。

「…いいだろう…オスカー・オルクス」

「じ、時王?どうしt」

「ハジメ、ユエ…俺は神を殺す。復讐じゃない。王による処刑だ」

「…構わねぇよ。お前のやりたいようにやれ。俺はお前に付いていく。その道中に復讐を果たす。それだけだ」

「私の居場所が時王の隣で、時王の居場所が私の隣。それに変わりはない。一生一緒、死んでも一緒。…逃がさないから」

ハジメとユエが、肯定的な返事をくれた。

だから、俺は俺らしく生きようと思う。

「帰ろう、俺達の故郷へ。神を…エヒトを殺して、あの日常を手に入れよう。…ま、その日常に一人増えるけど、な?」

「…あぁ!」

「んっ!」

しばらくの間、お互いに笑い合い、和気藹々とした雰囲気が周囲を満たした。

「…そういや、オスカーからなんかもらってたな」

一応確認がてらステータスプレートを見る。

そこには、とても前見た時からは考えられないような内容が書かれていた。

===================================================

逢魔時王 17歳 レベル:ムテキ

天職:最高最善故に最低最悪の魔王

筋力:99999999999999999999E+20

体力:99999999999999999999E+20

耐性:99999999999999999999E+20

敏捷:99999999999999999999E+20

魔力:99999999999999999999E+20

魔耐:99999999999999999999E+20

技能:逢魔時王[+時間操作][+昭和、平成、令和ライダー][+変身][+超回復][+創造][+破壊][+玉座召喚][+ライドウォッチ生成][+次元移動][+空間移動]・言語理解・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・念話・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・生成魔法

===================================================

「…時王?これって…」

「…まさかこんなインフレが…」

ハジメとユエが俺のステータスプレートを見てはなった言葉が、なぜか妙に俺の心に突き刺さる。

「…ま、まぁ強いことは良いことだろ」

「E+20ってなに?」

「E+ってのは…まぁ桁を追加するってことだ。だから…99999999999999999999にあとニ十桁追加ってことだな」

「…時王、人間?」

「かろうじてな」

色々言いたいことはあるが、まぁ言わなくていいか。

「なんだろうな…時王が強すぎて、俺が霞んで見える…」

「仕方ないだろ、俺は王だぞ?」

「それ、理由になってない…」

落ち込んでいるハジメを元気づけようとするも、ユエに冷たく突っ込まれてしまった。

「…そ、そうだ!オスカーの死体を片付けなきゃな!」

「…畑の肥料でいいだろ」

「ん、ハジメにしては良いことを言う」

…原作通りこいつ等は慈悲がなかった。

まぁ俺も肥料でいいかなぁとは思っているけども。

結局この後、オスカーはしっかり埋葬した。




主人公ここまで来てもいまだに不明な点が多いというね。
まぁ逢魔時王だしね、仕方ないね。
そして前の話で主人公、ヤンデレに手を出してしまうという…(死亡フラグ)


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地下からの脱出=ウサギとの遭遇

今回は結構やらかした感が作者的に否めないので、ご注意を。
ハジメさんマジ外道。


時王side

オスカーの記録映像を見てから数か月…くらい?

オーマジオウのせいで見えなくなったハジメの右目や、ハジメが自分で食べたせいで無くなった左腕を原作通り義眼と義手という形で復活させ(俺が時間を戻しても元には戻るが、左腕は弱かったころのままになってしまうとのことでやめた)、原作通りに大量の兵器を作り、戦闘技術も向上させた。

衣類はユエが俺達の分を作ってくれたので、大量にある。

ハジメは原作通りの黒コートで、俺はソウゴの服の色を黒と金に変えた服装だ。

ユエのセンスに脱帽した瞬間でもあった。

因みに、ユエも原作と同じ服を着ている。

原作との違いと言えば、神結晶だろうか。

俺の逢魔の力のおかげで、半永久的に神水を生成できるようにしているので、神水の扱いが原作よりも贅沢になっている。

まぁいくら飲んでも尽きないのだから仕方ない。

「…じゃあそろそろ脱出しようか」

「そうだな」

ハジメとユエと一緒に、脱出用の魔法陣に乗る。

足元から光を放ち始めたところで、ユエが俺の腕にしがみついてきた。

「ん?どうしたユエ」

「…時王は私の、私は時王の。そうでしょ?」

「?まぁな。それがどうしt」

「いや…これからなんか残念なウサギとか駄龍とか女回復師とか女剣士とか王女とか…色んな悪い虫が時王に引っ付いてきそうな気がしたから…」

「…」

ダラダラと汗を流しながら、ユエの光を失った瞳から目をそらす。

なんだろう、原作ハジメヒロインだから大丈夫だとは思うが、万が一、億が一の確率で俺のヒロインになろうとしてきたりしたら…

チラッとユエの方に視線を戻す。

「ふふ、ふふふ…時王は私の…もう何度も愛し合ってる…好きだって言ってくれてる…今だって私と腕を組んでくれてる…愛してる時王、時王愛してる、好き好き好き好き好き…」

目から光がないばかりか、背中から黒いオーラが出ているような気もする。

ハジメの方に視線を移すと、俺の視線を回避するかのように目をそらした。

お、オンドゥルルラギッタンデスカー!!

しかしここでタイミングよく魔法陣が今まで以上に光を放ち始めた。

「…ハジメ、ユエ」

「あん?」

「ん?」

「敵は多い、神だって敵だ。それでも…構わねぇか?」

「…はっ、何言ってんだ…俺はとっくの昔に敵か敵じゃ無いか関係なく殺すって決めてるんだよ。どれだけいようと変わらねぇな」

「…例えどれだけ敵がいても…私には時王がいるから」

「…そうだよな、今更聞くまでもなかったか。…なんとしてでも故郷に帰る。それだけだ」

「あぁ!」

「んっ!」

二人の力強い返事と同時に、魔法陣が今までで一番の輝きを見せ、俺達は地上へ転移した…

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

「なんでやねん」

俺の隣で、エセ関西弁でツッコミを入れたハジメに、激しく同意する。

地上に出るかと思ったのに、いまだに俺達の眼前に広がるのは岩、岩、岩…

原作で知っていたが、実際自分が同じ立場に立つと、すごく嫌な感じだ。

「…ま、まぁここはあくまで隠れ家だからなぁ…見える場所には転移しないだろう」

「…それもそうだよなぁ…はぁ…」

溜息をつきながら、光の見える方まで歩いていくハジメ。

それに、俺とユエはゆっくりとついていく。

少しの間無言で歩き続けると、ついにとうとう洞窟の中から出れた。

光が俺達の視界を塗りつぶす。

新鮮な空気が、肺を満たす。

「…青空って…こんな感じだったっけか…」

空を見上げながら、ハジメが言う。

それに同意するように、俺は何も言わず頷く。

「…よっしゃぁああああああ!!!出たぁああああああ!!!」

しばらくの間無言を貫いていた俺だが、流石にこの感動を抑えきれず、隣にいたユエを抱きかかえて小躍りし始めた。

あまりにテンションが上がり過ぎて、石に躓き倒れこんでも、笑い続けていた。

「あー…腹痛ぇ…」

「ふふっ…時王、喜びすぎ」

「まったく…まぁ気持ちはわからんでもないがな」

二人に微笑まし気な瞳で見られるも、俺は気にせず笑顔でいた。

…が、そんな俺達の明るい雰囲気に、無粋な邪魔者が乱入してきた。

「グルァァァ…」

魔物の大群が、俺達の周囲を取り囲みながら、威嚇してくる。

それに剣呑な雰囲気を醸し出す俺とハジメ。

「せっかく人が気分よく笑ってたってのによぉ…」

「…邪魔してくれてんじゃねぇよ、雑魚共が」

俺が腕に金色のオーラを溜め、ハジメがドンナーとシュラークを構える。

「ユエ、ここは確か魔力消費が以上のはずだからな…お前は待機だ」

「…で、でも、普段の十倍くらい魔力を使えば…」

「適材適所だ、守られてろ」

それだけ言うと、俺とハジメはその場を一瞬で離脱し、近くにいた魔物をそれぞれ一撃で抹殺する。

極めて自然な流れで死体と化した自分の仲間を呆然と見やる魔物たち。

だがその隙を逃さない俺達ではなく、その数瞬の間にさらに数十匹殺す。

それでようやく俺達に対して意識を戻してくるが、もう遅い。

咆哮をあげようとした魔物たちは、一瞬で俺の拳とハジメの凶弾に苛まれ、命を落とした。

「…大体何秒くらいだ?」

「さぁ…ていうか電磁加速いらなかったな」

「俺とか触れる前に頭爆散しやがったぞ?衝撃波だけで倒すとか…アニメの強キャラかよ」

「それ自分で言うか?」

ハジメと戦闘の感想を言い合っていると、頬を膨らませて不機嫌そうにしているユエが視界に映った。

「…どうした」

「むぅ…私…出番なし」

「ここは魔力分解が働いてるから仕方ねぇだろ」

「それ言ったらハジメの武器だって魔法使ってる」

「どうやら外の魔物相手なら、纏雷はいらなそうだが」

「…むぅ~!!」

ユエの言葉に俺とハジメでマジレスしていたら、さらに頬を膨らませて不機嫌さを増されてしまった。

「あーもう、次戦わせてやるからいいだろ?」

「…いい。どうせ私なんて、役立たず」

不機嫌そうにしたまま言ったユエに、過剰に反応するハジメ。

役立たず、という言葉がハジメの心の闇に触れてしまったらしい。

「役立たず…?ふざけんなよ?俺は前までこういった周囲の状態関係なしで役立たずの無能だったんだぞ?どこに行っても使えないと罵倒されてきたんだぞ?それなのになんだよ、お前はただ今回魔法が仕えない場所だから戦闘を控えてただけじゃねぇか、ここから出ればお前は役立つじゃねぇか。前までの俺と違って、他のところなら優秀じゃねぇかオイ。いいよな強い奴は。いいよな魔法使える奴は。贅沢なことで悩んで機嫌悪くすんじゃねぇよ」

「…ごめんなさい…」

「ハジメぇ…ユエ泣いちゃったじゃないか」

「…チッ…」

威圧を発動しながらドスの利いた声でユエにドンナーの銃口を向けながら言ったハジメを窘める。

舌打ちをして、すぐに宝物庫からあるものを取り出す。

魔力駆動二輪。

通称バイク。

「乗らねぇのか?」

「ん?さすがに三人乗りは無理だろ。だから俺は…」

ハジメの魔力駆動二輪の隣に、俺は玉座を召喚する。

ジオウ本編で、未来のソウゴ…逢魔時王が座っていた玉座だ。

「これで移動する」

「…動くのかよ、それ」

「お前のそれよりも早く移動できる」

「…そうかよ」

どことなく残念そうなハジメ。

「…そうだ、こんどサイドカーつけてくれよ。そしたら乗れるだろ?」

「…おう!」

フォローすると、先程とは対照的に明るくなったハジメ。

俺の膝の上にユエを乗せ、玉座を宙に浮かせる。

座り心地は中々よく、人をダメにするソファーに通じる何かを感じた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

しばらくの間移動していたところで、後ろの方から声が聞こえるようになってきた。

「…ユエ、聞こえるか?」

「ん…女?泣いてる声…?」

「ハジメ、気配探知に反応は?」

「もちろんあるぜ…こいつ、魔物に追われてやがる…」

…どうやらあの残念ウサギが来ているらしい。

結構移動してからこのイベント来たんだな…

「だずげでぐだざーい!!」

「うわきた」

「…何だあのウサミミ女」

「…後ろに魔物付き…」

涙と鼻水で顔を汚しながら、こちらに大声で駆け寄ってきたウサミミ少女を鬱陶し気に見る俺達。

「…見なかったことにするか」

「…ハジメもたまにはいいことを言う」

「あ?」

「落ち着けハジメ、今はここを脱することだけ考えよう」

「ちょ、えっ?み、見捨てるつもりですかぁ!?逃がしませんよ!!ようやく見つけたんですからぁあああああ危ないぃ!?も、もう少しで噛まれるところだっt…って待ってくださーい!!」

あまりに喚き散らしているウサミミに、ハジメが不快そうに眉をひそめる。

だが、ようやく見つけた、の言葉に反応を見せる。

「…もしかして…アイツも時王と同じ力が…?」

「さぁな?俺自身逢魔の力に関してはよくわかっていない」

「…一応話だけでも聞いてみる?」

「いや…魔物に追われてるやつを助けるなんて…自分にはなかった救いを誰かに与えるのは遺憾だ。さっさと行こう」

ウサミミ少女に対して少しばかり関心を寄せたハジメだったが、すぐに魔力駆動二輪の速度を上げた。

「ちょっ、ほ、本当に待ってくださいよぉ~!助けてくださいぃ~!!」

「…」

「え、あれっ?止まってくれない…?あのー!?本当に死にそうなんですけどぉー!!」

「…」

「お願いしますぅ~!!このままじゃ魔物にt」

「うるせぇんだよ!!!」

ドパンッ!!ドパンッ!!ドパンッ!!

泣きながら俺達の方に声をかけてきていたウサギに、ハジメの堪忍袋の緒が切れた。

連続して撃たれたドンナーの凶弾は、ウサミミ少女を追いかけまわす魔物…

ではなく、ウサミミ少女に向けて撃たれた。

「…ぇ?」

ウサミミ少女は、自分の頬を掠めて飛んでいった銃弾の方を呆然と見つめた。

そこに、舌打ちをしながらハジメが魔力駆動二輪…バイクから降りて威圧を発動しながら歩いて行った。

ウサミミ少女の前で立ち止まると、ウサミミ少女の額にドンナーの銃口を当て、ユエにキレている時のように言葉を発した。

「さっきから何なんだよテメェ。魔物に追いかけまわされただけで誰かに頼ってんじゃねぇよ。少しは死にかけてみろよ肩でも粉々にされてみろよもっと苦しんで見ろよ!!泣いて助けを乞う余裕があるくらいなら自分で何とかしろよ!!」

「…あ、え」

「ムカつくんだよお前みたいなやつが!!あの金髪吸血鬼も同じだ!何助けを求めてんだよ!!よりにもよって俺に!魔物に襲われて見下されて…状況も絶望的だったところから抜け出してきた俺に!お前みたいなまだ何とかできそうな状況にいる奴が!絶望してないやつが!!何楽しようとしてるんだよ!!」

「ぐ、グルァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

ウサミミ少女に怒鳴りつけていたハジメに、恐怖心を打ち消すために声を張り上げながら、俺を無視するなとでも言いたげに噛み殺そうとした頭が二つあるティラノサウルスみたいな魔物。

「…あ?」

ドパンッ!!ドパンッ!!ドパンッ!!

そんな勇気を出して襲い掛かってきた魔物を鬱陶し気に睥睨し、なんの感慨もなしにドンナーの残っていた三発の銃弾を綺麗に頭、頭、心臓を狙って撃ち抜いたハジメ。

「チッ…雑魚が」

ハジメという新たな恐怖に遭遇したせいで、先程までとは別のベクトルでウサミミ少女が泣き始めたのを見計らって玉座ごと移動する。

「まぁまぁハジメ、落ち着けって」

「…でもよ」

「でもじゃねぇ、そしてさり気なくユエの事貶すな。半泣きじゃねぇか」

「…ぐすっ」

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!こういうのがムカつくってのによぉ!!」

俺の膝の上で涙を流しているユエの頭を撫でながら、ハジメに軽く注意する。

ハジメは頭を掻きむしりながらドンナーの銃弾を入れ替え、ユエの方を睨みつけた。

ここで、完全に空気になっていたウサミミ少女が俺の方に話かけてきた。

「あ、あの…」

「ん?あぁ、ハジメか?アイツの事はまぁ…気にしないでやってくれ」

「い、いえ…ありがとうございました。助けていただいて…」

「…助けたのは俺じゃなくて、一応ハジメのはずだが?」

「そうじゃなく…あのままじゃ、あのハジメって人に殺されそうでしたから…それで、助けてもらったって…」

オドオドしながら俺にはにかんだウサミミ少女の言い分に、なるほどと納得してしまう。

あのままじゃアイツ、確かにコイツの脳天ぶち抜いてただろうな…

「ま、魔物からは助けなかったし…気にすんな」

「…ありがとうございます」

顔を赤く染めながら俯いたウサミミ少女に、なぜか殺意の籠った瞳を向けているユエの頭を撫でながら、魔力消費の異常なこのライセン大峡谷で怒りのままに纏雷をまき散らしているハジメを注意する。

「…取り敢えず…このウサギの話も聞きたいところだし、連れてくか」

「んだよ、助けるってのかよ?」

「お前が言うか?」

「…チッ」

舌打ちしながらバイクの方まで歩いていったハジメ。

それを尻目に、玉座をベンチサイズまで巨大化させ、ウサミミ少女も座れるようにする。

「ほら、座れ」

「…いいんですか?」

「構わねぇよ、ハルツィナ樹海まで送ればいいか?」

「はい…お願いします」

原作のあの明るさは何処へやら、ウサミミを萎れさせながら俺の隣に腰掛けたウサミミ少女。

「…ハジメー、ハルツィナ樹海ってどっち方向だっけ?」

「忘れたのかよ…あっちだ」

「りょーかい」

玉座の進行方向をハジメの指さした方向にし、移動させる。

「す、すごいです…動いてます…!!」

「まぁな、そう言う技能?だ」

一応派生技能として描かれているからいいとは思うが…なんでジオウのあのバイクじゃないんだろうか。

玉座の方が豪華そうだからだろうか。

動く椅子には初めて座ったのだろう、落ち込んでいたところから立ち直り、すごいすごいと笑顔を見せるウサミミ少女。

「…そういや、まだ名前聞いてなかったな。なんて言うんだ?」

「あ、私はシア…シア・ハウリアって言います。兎人族ハウリアの族長の娘です」

…やっぱ名前は原作通りか。

「そうか、俺は常盤時王…あぁいや、逢魔時王だ」

「おうま…じおう?変わった名前ですね」

「そうか?」

俺の名前を聞くと、不思議そうな顔をしたシアに、軽く笑いながら答える。

「私はユエ…時王が名前を付けてくれた」

なんか胸を張りながら名乗ったユエに、シアが驚いた顔をした。

「…娘さんなんですか…似てないですね」

「…私、娘じゃない…まず、私の方が年上…」

「えっでもユエさんはどう見ても幼じょ」

言い切る前に、ユエがシアの頭を殴りつけた。

ゴンッと鈍い音がシアの頭から聞こえた。

「痛いですぅ…」

「…当然の報い」

心底不機嫌そうに告げたユエに苦笑いする。

お子様扱いは不服だったらしい。

「…そう言えば、何で最初は見捨てようとしたんですか?」

「あん?」

話をそらそうと考えたのか、あの時の俺達の行動について問うてくるシア。

なんで見捨てようとしたか?

そりゃ原作通りだったらハジメがなんだかんだあって助けるはずだったし、二人が反対しているあの状況で俺が助けに行こうなんて言ったら不自然だったし…

「こんな美少女が助けを求めていたのに無視してどこかに行こうとするなんて…信じられませんでしたよ」

「お前自分に対する自信半端じゃないな」

原作でもこういうキャラだったような気がするが、実際に会ってみたらどうだろう。結構ムカつく。

ハジメが殺気怒鳴りつけたのもわからなくもない…かもしれん。

「あのなぁ…ハジメも言ってたが、初対面の奴を親切心で助けるようなことはもうしないんだ。俺だって酷い目に遭わされてきたクチだからな」

「…は、はぁ…」

先程のハジメの威圧を思い出したのか、若干震え気味になるシア。

「ま、アイツはあんだけ怒ってたが…ユエにも何度か怒ってるが、それでも殺すような真似はしなかったし、適当に俺が言いくるめておくから大丈夫だろ」

「…ありがとうございます…」

「…で、何でお前樹海じゃなくてここにいたんだ?兎人族は隠密とかの方が得意だから、視界の開けたところに居ないと聞いたんだが…」

嘘ではない。

実際図書館的なところで亜人族について調べてみたところ、種族的性質がまとめられているページにそうやって書いてあったのだ。

「…あなた達を探していたんです」

「…それはどうして?」

俺の膝の上で、ユエが尋ねる。

先程の見つけた発言と言い、気になるところがあるのだろう。

「…これは、私があなた達を探していた理由につながるんですが…」

そう言ってシアが語りだしたのは、原作でも聞いたあの話だった。

端的に言えば、自分という魔物の力を持って生まれた…いわゆる忌み子がハウリア族に生まれ、それが他の種族の奴等にバレたらまずいと隠して生きてきたが、生まれて十六年たってバレてしまい、北の山岳地帯まで逃げようかと画策したものの帝国兵に大多数が捕まり、樹海の中で隠れて生きているという事らしい。

いつの間にか玉座に座り込んでいたハジメが、その話を聞いて目を閉じていた。

助ける…なんて選択肢はコイツにないだろうし、他の事を考えているんだろう。

「私の未来を見る力さえなければ、私の魔力を操るこの力さえなければこんなことにはならなかったのかもしれません…だから、私は貴方たちが私たちを救ってくれるという未来を見て、助けを乞いに来たんです」

「…で?」

冷たく告げるハジメに、一瞬言葉を続けることを躊躇うも、すぐにキッと瞳を鋭くして俺達の方に向き直り頭を下げるシア。

「お願いします!都合のいいことを言っている自覚はあります、貴方たちのような壮絶な思いをしてきたなんて傲慢なことを言うつもりはありません!ですが!!私たちにはもうこれしかないんです!!助けて下さい!!私ならどうなっても構いません!!なのでどうか、どうか私の一族だけでも!!お助けください!!」

涙で玉座を濡らしながら、自分の体を好きにしても構わないから一族を救ってほしいと告げたシアに、ハジメは同情するかのような優しい瞳で、シアの方に手を置き、優しく声をかけた。

「…大変だったんだな。お前も…」

あれ?もしかしてこれって助けるパターン…?

「お前らも、俺達とは別ベクトルだが、壮絶な過去があったんだな…」

「…うっ、ひぐっ…」

極めて優し気な声で話し続けるハジメに、今までの苦しみを思い出し、さらに涙を流すシア。

そこにハジメは、俺の方にアイコンタクトを取り、ニッコリ笑ってこういった。

「…だが断る」

「…え…?」

先程までの優し気な雰囲気を霧散させ、シアの絶望した目を愉悦、と言わんばかりのゲス顔で眺めるハジメ。

「俺の一番好きなことを知ってるか?…そう言う絶望した顔だよ」

「…ぁ、ぅ…?」

「可哀そう?同情した?そう思ってる風に思ったろ?残念だがそれは無い。お前らが…見ず知らずの他人でしかないお前らがどうなろうと、俺は何の興味もねぇ」

光のない目でハジメを見つめるシア。

何を言っているのか理解しきれていないのか、口元は笑っているように歪んでいた。

「だから…勝手に死んでろ、滅びてろ。恨むなら…狙われる原因になったお前自身を恨めばいいさ。せいぜい死ぬまでは…お前のせいでいなくなっていった同胞の泣き顔でも思い出して罪悪感にまみれてろ」

それだけ言うと、なんの関心もなくなったという風にシアから離れて、もはやキングサイズのベッドのようになっている玉座に寝転がるハジメ。

シアの方を見れば、大声で泣いていた。

膝の上のユエが、汚い、流石ハジメきたないとか言ってた。

「…さすがに言い過ぎなんじゃねぇの?」

「知らね。アイツの人生だ。…それと、さっきのは純粋に俺が楽しみたかっただけだ」

「…ハジメなんか荒みすぎじゃね?」

「…そうだな。俺は…あの熊の前で、アイツの子供を殺した時から…生物の絶望する姿に喜びを得るようになっちまってんだ」

マジで何があったんだろうハジメ。

割かし本気で自分の親友の現状を不安に思いながら、シアの方に向く。

「…なぁ」

「…なん、ですか…?」

「…アイツはあぁ言ってたが…いや、アイツがあんなことしたからな。助けてやるよ」

「…え?」

「え?」

「あ?」

俺の言葉に、三者三葉の反応を見せてきた。

俺の膝の上から降ろされたユエと、起き上がって俺の方を文句ありげに睨みつけてきているハジメをスルーして、シアに話かける。

「俺は王だからな…生きている以上、俺の敵でない以上…民は守ろうじゃねぇか」

まぁ仮に敵対するようなら瞬殺だが。

「…いいん、ですか…?あの人も言ってましたけど…私の自業自得なんですよ…?」

「ばーか、そんなわけあるか。…それに、もし仮にお前が生まれてきたことが罪だって言うなら…生きることが背負うべき罰だ。そう言ってる人がいたしな」

別にここは食うか食われるかの世界ではないが、実際そんなところに居たことがあるから一概にそうではないと言い切れない。

「…本当に…ありがとう…ございます…っ!!」

今度は先ほどまでと違い、喜びで涙を流すシアを、俺は優しく抱きしめ頭をなでてやるのだった。

…その時、背後から濃密な殺気を感じたが、そこは気にしないようにしたい。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

「落ち着いたか?」

「…はい、ありがとうございました…」

泣き止んでしばらくたったので、シアの様子を窺うと、笑顔で感謝を伝えてきた。

「ならよかった」

「あっ…」

抱きしめるのをやめ、玉座(?)に寝転がる。

そこにすかさずユエが飛びついてきて、俺の体にスリスリと自分の体を寄せてきた。

何故だか、マーキングという言葉が脳裏に浮かんだ。

空を仰いでいると、シアが俺の顔を覗き込むようにしてきた。

「…どうかしたのか?」

緩慢な動作で起き上がる。

すると、数瞬躊躇うような素振りを見せると、シアは民族衣装のような露出度の高い服をはだけさせた。

「…おい、何やってるんだ?」

「…た、助けてもらう以上…何かお返しをしなくてはと思いまして…私にできることなんて、私の初めてを捧げるしか…」

「調子に乗るな、ウサミミ」

顔を赤くしながら胸元を強調してきた姿はとても煽情的だったが、俺の隣から聞こえてきた底冷えするような声に、俺とシアの顔が蒼白になる。

「…ゆ、ユエ?」

震えながらユエの方を見ると、その瞳からハイライトが消え、背後からは黒いオーラが出ていた。

「…時王を誘惑しようとしないで…時王には私がいる、時王は私にメロメロだから」

なんか言葉が支離滅裂な気もするが…まぁメロメロ、と言うのもあながち間違いではないから訂正する気はないが。

「残念ウサギ、例えあなたにウサミミがあろうと…私の虜でしかない時王には無意味。諦めてそこらへんの男に股でも開けばいい」

「なんかいきなり口悪くないですかねユエさん」

落ち着いて、という風にユエの頭をポンポンと軽く叩くが、目の光は消えず、シアに対して放たれる殺意は強いままだった。

しばし呆然としていたシアだったが、ユエの言葉に女として譲れないものでもあったのか、震えながら…されど怒っている風に言い放った。

否、言い放ってしまった。

ユエに対しての…禁句を。

「…さ、さっきから失礼ですね!!虜とか言ってますけど、そんなのできないような幼児体系じゃないですかこのぺったんこ!!平地!まな板!断崖絶壁!いやいっそクレーt」

「死ね、“蒼天”」

禁句をまくし立てるように言い連ねたシアに、最上級魔法を容赦なく向けるユエ。

原作のように、殺傷能力低めの魔法を使うとかそう言う優しさは無いらしい。

流石にマズイと思った俺は、何とか時間を制御して魔法を消し去り、シアと玉座の危機を救った。

死ぬかと思った…という風におびえているシアを一瞥すると、俺の方に身を乗り出して、ハイライトがオフのままこう質問してきた。

「…時王」

「ハイ」

「おっきい方が…好き?」

…これは、どう答えるべきなんだろう。

空に浮かぶ雲の数を数えながら、しばし現実逃避をしてから答えた。

「…個人的に小さい方が好きだが…本能的には大きいのも好きだ、な」

「どちらかと言えば?」

「小さい方」

間違ってはいない。

万乳引力なるものが働いているせいで、本能的に興味を持ってしまうが、実際俺は小さい方が好きだ。

ハジメの父さんがよく俺にゲームのキャラの原案を訪ねてきたときも、ロリキャラしか答えてこなかったくらいだし。

俺の答えを聞いて、若干複雑そうにしているユエ。

まぁ小さい方がすき、と言われても、自分が小さいことを暗に告げられたことに変わりはないのだから、それも仕方ないのだろうが…

これは多分、二人きりになったら搾られるな。

空を再び仰ぎながら、これから来るだろうユエとの情事に若干の期待と不安を感じるのだった。




主人公は、金髪ロリが大好きです。
なので、好み的な意味でも、ユエと相性抜群なんですね。
それを知った時の他ヒロイン…どうなるんでしょうか(震え声)
シアをどうやってヤンデレ化させるか考えた結果、時王以外の誰か、もしくは何かの減少で落として、時王が爆上げする方向にしました。
陳腐ですが、それしか思いつきませんでした。
まぁもしかしたら路線変更もあり得るので、続きをお楽しみに。


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恋病少女達ハ帝王スラモ恐レサセル

最後がうまくまとめられなかったんで変かもしれません…


三人称視点

時王が真の力に目覚め、ユエと一線を越えている間、光輝たち一行は迷宮攻略を中断し、王国まで戻っていた。

疲労がたまった、というわけではない。

もしそうだとしたら、ただ宿で休めばいいだけの事だ。

ならばなぜ?

それはヘルシャー帝国から勇者一行に会いに使者が来るからだ。

この中途半端なタイミングにも理由がある。

まぁ端的に言えば、召喚されたことがヘルシャー帝国に伝わるのに時間がかかったという事なのだが。

伝わって、それに対しての返事が来るよりも先に迷宮攻略に乗り出してしまったのがこの意味不明なタイミングになってしまったことの一員になっている。

馬車の中で帝国について伝えられた光輝たちだったが、実際話をちゃんと聞いていたのは鈴と龍太郎だけだ。

なぜなら…

「ねぇ光輝くん♡」

「ん?どうした恵里?」

「えへへ…なんでもなーい」

「…可愛い奴っ」

あるバカップルは、最近彼女側に対して、いい加減に名前で呼んでくれと彼氏側から要望があったことで名前呼びが始まったことにより、名前を呼んでは何でもないといい、それに彼氏側がひたすら喜びを表に出すというループが続いていた。

「スンスン…ど、どうしよう…時王くんの匂いが薄くなってきちゃった…」

香織は、時王のワイシャツの匂いをひたすら嗅ぎ続けていたものの、匂いが薄くなってきたと涙を流していた。

因みにだが、このワイシャツを時王が最後に来たのは、この異世界に来る前である。

さらに言えば洗濯もされていたため…本来なら洗剤の匂いしかしないはずなのだが…

香織はそれをこの三日間、時王の匂いがすると言ってエクスタシーしていた。

…恐ろしい。

「…」

雫の方は、ひたすら無言で本を書いていた。

内容は、時王と雫のひたすらディープな官能小説だ。

どのプレイも、雫が受けだった。

となりの鈴がチラリと覗いて、顔を真っ赤にしてすぐに目をそらし、再び覗き見るという現象がずっと続いていた。

余談だが、この本は雫が地球にいる頃から書かれており、雫の夜のお供でもあった。

偶に時王のあられもない姿を描いた(幼馴染と言う事で、昔よく一緒に入った風呂の時の姿を回想し、それを今の時王の姿に脳内で成長させて書いている)挿絵があるのが雫のこの本に対する情熱を体現している。

「…お前ら聞いているのか?」

粗方説明し終えたところで半眼で光輝たちを睥睨したメルド団長。

それに対し、心外だと言わんばかりに全員が答える。

「もちろんですよ、俺の恵里の可愛さについて教えていてくれたんですね?残念ですが、恵里の事は俺の方がよく知ってますよ」

「こ、光輝くん…僕も光輝くんの事、誰よりも知ってるよ」

「いや違う」

一瞬桃色空間を消滅させてメルド団長の方に向くも、すぐに桃色空間を再構築した光輝たちに、龍太郎がジーザスと言って頭を抱える。

「聞いてましたよ…私の時王くんを寝取ろうとする女がいるってことでしょう?わかってます、わかってますよ…大丈夫…時王くんは私が大好きで、私も時王くんが大好き…そして相思相愛の二人はめでたく再開し、愛を語り合って夜を共に過ごし、時王くんの方からおもむろに婚約指輪を私に向けてこういうんですよね?『香織…お前を愛してる…一生じゃない、永遠に…一緒に居よう』…って!!きゃー!時王くーん!!」

「…どこをどう聞いたらそう言うことになるんだ?」

最初は背後から般若のスタ●ドを出し、ハイライトをオフにしていた香織だが、次第に頬を染め、しまいには意味不明なことを言って手に持っている時王のワイシャツに頬擦りし始めた。

「わかっています。時王と私の将来設計に関しての懸念事項についてですよね?大丈夫ですよ。時王と私なら…永遠の愛を誓い合った私たちなら、どんな困難でも乗り越えられます。お互いがお互いを支え、求め…二人は魂まで濃密に融け合い、絡め合い…」

なんか艶めかしいことを言い始めた雫からメルド団長は目をそらし、オウキュウ二ツイタゾー…と死んだ目でいって、馬車から降りた。

王宮内に向かおうとすると、奥から一人の少年が駆け寄ってきた。

ランデル王子である。

犬の尻尾を幻視してしまうような勢いで光輝たちの方まで駆け寄ると、瞳を輝かせながら香織に声をかけた。

「香織! よく帰った! 待ちわびたぞ!」

香織以外にも人がいるというにも関わらず、ランデル王子は香織にしか目を向けなかった。

大体察することができるだろうが、ランデル王子は香織が好きだ。

だが…

「時王くん…子供は何人がいい?…え?しばらくは二人きりで生活したい?もぉ…私も♡」

虚空に向けて話かけている香織。

メルド団長の言葉がトリガーとなって、いつもの(!?)妄想モードに入ってしまったのだ。

いくら話かけても、ひたすら何もない右隣の空間にしか意識を向けない香織に、若干涙目になるランデル王子。

そこに遅れてリリアーナ王女がやってきた。

「ランデル…その…か、香織が困っているでしょう?いい加減にやめなさい」

トリップしている香織を複雑そうな目で見ながら、ランデルの叶わぬ恋を諦めるように言うリリアーナ。

まぁこんなヤンデレが時王以外を好きになるなんてないだろうし。

「香織、その…弟が申し訳ありませんでしたわ」

「…え?なに?どうしたの?ねぇ時王くん、何かあった?」

一瞬リリアーナに意識を向けるも、すぐに虚空に見えているのだろう時王に話かける香織。

すると、今度は「私しか見てなかったなんて…もぉ~、好きっ」なんていいながら虚空に腕を組むようなポーズを取り始めた。

もはや末期である。

因みに雫は「何言ってるのかしら…時王はここにいるのに」なんていいながら、自分の左隣の虚空に話かけていた。

そんな二人にかなりドン引いている龍太郎と鈴。

病的なまでに愛している人がいるから気持ちがわかるのか、強く生きろ、という風な視線を向ける恵里と光輝。

今日の晩飯なにかなぁと現実逃避し始めたメルド団長。

カオスとはこのようなことを言うのだろうか。

「と、とにかく今日はもう休んでください。帝国の人が来るにはまだまだ日数がかかりますから…」

笑顔を崩さないようにしながら、光輝たちを王宮に入るように促すリリアーナ。

それに対して素直に王宮に入るも、雫と香織は早く迷宮に行って時王と会いたいと思うのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

三人称視点

三日後、ついに使者が現れた。

「使者殿、よく参られた。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう」

「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」

「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」

「はい」

国王に言われて前に出る光輝。

「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。失礼ですが、本当に六十五層を突破したので? 確か、あそこにはベヒモスという化物が出ると記憶しておりますが…」

光輝に若干訝し気な視線を向け、品定めするように睥睨する使者。

それに若干たじろぐも、別に後ろめたいことがあるわけでもないのですぐに堂々と背筋を伸ばした光輝。

「えっと、ではお話しましょうか? どのように倒したかとか、あっ、六十六層のマップを見せるとかどうでしょう?」

「いえいえ。それよりももっといい確かめる方法がありますので…」

「そ、それは一体…?」

薄気味悪さを感じながら光輝が質問すると、その使者はニヤニヤしながらこういった。

「私の護衛の一人と戦ってもらえればそれで充分…なに、模擬戦闘ならば勇者様の実力もすぐに把握できます」

「俺は構いませんが…」

アイコンタクトで後ろにいるイシュタルに確認をとる。

すると、イシュタルは無言でうなずき、目に物を見せてやれと言わんばかりの反応を見せた。

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三人称視点

対戦相手は、実に平凡な男だった。

もしこの男を雑多の中から探し出せと言われたら、不可能だ、と言って投げ出してしまうくらいに没個性な顔立ちをしている男だった。

その男は、刃引きしている大型の剣を構えることなくだらりと脱力しながら光輝の方に視線だけを向けていた。

光輝はその姿になめられていると感じ激昂した。

一度度肝を抜いてやれば真面目になるだろうと思い、縮地で距離を詰めて聖剣を全力で振るう。

だが、次の瞬間に吹き飛ばされていたのは光輝の方だった。

「…い、今のは…?」

「なんだ?今のが分からなかったのか…これでベヒモスを倒したってのか?」

とても見た目には似つかわしくない乱暴な言葉に驚愕する光輝。

そして、すぐになめていたのは自分の方だと反省し、頭を下げる。

「すいませんでした。もう一度お願いします」

「チッ…戦場に次なんてないんだがな…」

不機嫌そうに言いながらも、大剣を自然体に構える。

光輝が再び縮地で踏み込み、常人ならば目で追う事が出来ない速度で剣を振るう。

だが、男はひたすら最小限の動きだけで回避し、時々光輝の動きを阻害するように剣を叩きつけるだけで、疲れた様子も驚いた様子も見せない。

「…お前、戦いに身を置いてからどれくらいたつんだ?」

「え…大体二か月ちょっとですけど…」

「その前は一体何をしてたんだ?」

「学生ですけど…」

「…それが今や神の使徒、ねぇ…」

イシュタル達教会の人間を不機嫌そうに見やると、光輝の方に向き直り、大剣を思い切り振るって壁際まで吹き飛ばした。

「構えろ勇者(ド三流)戦闘経験()の違いを教えてやる。俺を殺す気で対応しねぇと…死ぬぞ?」

それだけ言うと、言葉に反応できていない光輝の眼前まで迫り、男は大剣を振るった。

そこまでされてようやく反応できたのか、聖剣で受け止めようとするも力負けし、壁に叩きつけられる光輝。

「がふっ…」

「どうした?その力は、その聖剣は、勇者の名は…飾りか?」

スパンッと、空を斬る音が聞こえたと同時、再び光輝は大剣に叩かれていた。

もしこれに刃がついていれば真っ二つだっただろう。

そのことに冷や汗を流しながらも、自分に殺気を向けてくる男に対して、ようやく殺す気で剣を構えた光輝。

「なんだよ、そう言う顔もできるんじゃねぇか…もっと早く来いよ」

「何を…」

「ま、わかんねぇならいい…さて、俺はマジで殺す気で行くからな…せいぜい、死ぬなよ?」

今度は大剣で攻撃するでもなく、純粋に光輝の鳩尾に膝蹴りをいれた。

意識を飛ばしそうになり、その場に崩れ落ちた光輝に、大剣を振り上げる。

だが、次の瞬間男の方が吹き飛んだ。

「“限界突破”…はぁ…はぁ…死んでも恨まないでくださいね…?」

純白のオーラを放ちながら闘争心剥き出しで告げた光輝に、狂気的なまでの笑みを浮かべる男。

「おいおい、まだ手数あるんじゃねぇか…もっと早く出せよ!」

それだけ言うと、再び光輝の眼前に迫った。

だが、今度は光輝の方が素早く聖剣を振るい、男の方をノックバックする。

「行きます!“天翔…」

「そこらへんにしておきなさい光輝」

迷宮でもめったに使わないレベルの一撃を、聖剣に打ちあったせいで手が痺れて動けない状態になっている男にくらわせようとした光輝の眼前に迫り、縮地を発動した光輝以上の速度で剣を振るった雫。

先程までずっと時王の手袋(指ぬきグローブ。攻撃力に補正がかかるもので、王宮から支給されたのだが、結局何度か装備しただけで使われることは無かった)の匂いを嗅いでいた雫だが、光輝が壁に叩きつけられた時の石礫のせいで手袋が破れてしまい、ただいまストレスマックスである。

「護衛の人も…まったく、私の時王の手袋がビリビリじゃない…」

悩まし気に溜息をつきながら剣を肩でトントンする姿は、もはや刀を持った死神を幻視させた。

「…何者だ?そっちの勇者よりも何倍も強いだろ」

「私は…八重樫雫です。今はいませんが…常盤時王の嫁です」

雫の醸し出している強者の雰囲気を感じ、冷や汗を流しながら何者か尋ねた男に、さらりと嘘をついた雫。

その言葉を聞いて平常でいられるはずのない奴が一人いた。

「え?何言ってるの雫ちゃん、時王くんは私の旦那さまだよ?」

般若の面をつけた阿修羅像を背後に幻視させながらゆっくりと歩いてきたのは香織。

その香織の言葉に、背後に赤いメンポに『♦(恋敵)♦、♦殺♦』と大きく書かれた仮面をつけているニンジャを幻視させながら怒りを露わにした雫。

心なしか後ろのニンジャが『Wasshoi!』と言っているようにも聞こえる。

「お、落ち着いてくだされ…それと、お戯れが過ぎたのでは?ガハルド殿」

「…チッ、やっぱりバレてたか」

誰にも聞こえないように悪態をつくと、右耳に付けていたイヤリングを外した。

すると、先程までの異常なほど平凡な姿から、四十代くらいの野性味あふれる男の姿に変わった。

それに、周りの人間はみんな一斉に驚愕…

しなかった。

もう少し反応があるだろうと思っていたガハルドは、どうしたのだろうかと閉じていた目を開いた。

否、開いてしまった。

「雫ちゃんはいい加減にした方がいいんじゃないかなぁ、かなぁ?」

「それはこっちのセリフよ、彼女面して私の時王を汚さないでくれる?」

先程よりも濃密な殺気を放ちながらお互いの得物を強く握りしめ合っている二人。

ガハルドは、目を見開いたまま、周りの人間と同じように硬直してしまった。

「…私、雫ちゃんの事、親友だと思ってる」

「えぇ、私もよ香織」

「「…だけど」」

ニッコリと笑いあい、数瞬間を開けて再び殺気をたぎらせる。

「「ここは流石に譲れない」」

次の瞬間、雫の剣と香織の杖が交差し…

「ストップ、ストーップ!!落ち着いてよ二人共!!」

ようとしたところに、鈴が乱入した。

「どいて鈴ちゃん!アイツ殺せない!」

もはや親友をアイツ呼ばわりしている香織。

「どきなさいよ、じゃないとアナタも一緒に斬るわよ?」

居合斬りの構えに入り、冷たく鈴を睨みつける雫。

結局、何とか鈴が二人を和解させてこの第一次正妻戦争を冷戦状態にさせたのだが…

しばらく後、お互いだけが敵というわけではないということを知り、先程以上の争いが始まるのだが…それはまだ先の話…

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

三人称視点

結局、ガハルド達は直ぐに帰っていった。

その時に、光輝たちを勇者として認めるとの言葉ももらったので(ガハルドは実は、ヘルシャー帝国の帝王だったのだ)、王国側としては上々の結果だった。

帰る時に、雫と香織の事をチラッと見てから、光輝の方に、あることを質問していた。

「…なぁ、時王って何者だ?」

「時王…ですか?」

「あぁ…あの二人があれだけ言うもんだからな…気になっちまってよ」

「…常盤…あぁ、時王の事です。で、常盤ですけど…南雲、という男と一緒に、ベヒモスから俺達を守って落ちていきました。…恐らくもう…」

悔しそうに拳を握る光輝。

因みに、彼の中では、時王とハジメはクラスメイトのために死んでいったのであって、誰かの魔法のせいで死んだというわけではないことになっている。

「なるほど…好きなやつが死んでってことか…」

神妙な面持ちで顎に手を当てるガハルド。

彼の目には、今の香織と雫は、自ら精神を病ませることによって限界を回避しようとしているように見えている。

小声で、最も危ういのはアイツらかもしれないな…と正しいことを若干ずれた思いで言っていた。




第一次正妻戦争と作中で言いましたが、これはまだ戦争というにはほど遠いいです。
もし仮に本気の争いを始めたら…ウッ、アタマガ


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ハウリアとの遭遇/帝国兵惨殺

ウォズ「しばらく私の出番がなかった?…なるほど…君たちは私のいた世界線と違う世界線のストーリーを見ていたんだね。…まぁいい、今回の話、楽しんでくれたまえ」


時王side

「あの、ジオウさん」

「あん?」

寝転がりながら、俺の腹の上でひたすら深呼吸を繰り返しているユエの頭を撫でていると、シアが俺に話かけてきた。

さっきまでずっと黙ってたのに…一体何だって言うんだい?

「今更なんですけど…この…椅子?ベッド?は一体…それにユエさんもジオウさんも…あの人も魔法を使ってましたよね?ここでは使えないはずなのに」

「あー、いいか説明しても」

誰に確認するというわけでもないが口に出してから、起き上がってシアの方に目を合わせながら教える。

自分たちの特異性や、この峡谷の性質について。

「…えっと…じゃあ三人とも魔力の直接操作ができるという事…ですか?」

「ま、そう言う事だな…固有魔法も使えるが…」

自分のではないからなぁ…と心の中で付け足す。

オーマジオウは俺の力だが、纏雷とかは俺固有の力じゃない。

「…そう、なんですか…ぐすっ」

「どうしたよ、また泣き出したりなんかして」

頬擦りしてくるユエを優しく抱きしめながら質問する。

ていうかシアに魔法使ってから一度も喋ってねぇなコイツ。

「いえ…なんというか…一人じゃないってわかったら…嬉しくって…」

…なるほど、コイツは今まで魔力の直接操作とか固有魔法とかのせいで苦しんできて、孤独感を感じてきたから…

同じ力を持つ俺達がいることを知って、ようやくこの疎外感から解放されたってことか。

ユエの方を見ると、複雑そうな顔をしていた。

まぁユエも同じ力を持った奴がいなかったわけだし、仕方ないか。

二人の違いはやっぱり、愛してくれた家族がいたかどうかだろうな。

まぁ一応ユエにも愛してくれた家族はいたんだが(原作知識)…まぁ今は俺が愛してるし、俺も愛されてるし…いいか。

若干自己中心的思想が固定されつつあることを危惧しつつ、ユエの頭を撫でる。

それに小さく反応すると、先程よりも強く俺を抱きしめてきたユエ。

「…仲いいですね、お二人は…」

「どうしてそれでお前が不機嫌になるんだ?」

「…知りません!」

何やら不機嫌そうに俺達の方を半眼で睨みつけてきていたシアに話かけると、逆ギレして顔を背けられてしまった。

「…そういやハジメ、気配探知に集団の反応はあったか?」

「あ?ねぇけど…どうした?」

「いや…ハウリア族って、同じ族の奴を家族って思ってるんだろ?ましてや族長の娘だ、ただの家族なんて考えだけじゃ言い表せねぇくらいだろう」

「…それで?」

「いや、きっと集団でシアを探して徘徊してるだろうから…気配探知に反応があれば、それがハウリアってことで良しだと」

「なるほど…ちょっと待ってろ、気配探知に魔力操作を合わせて、効果範囲を増やしてみる」

そう言うと、目をゆっくりと閉じて、一ミリも動かなくなったハジメ。

「………いた」

「お、どの辺だ?」

「このまま真っすぐだが…もし仮にこのウサギの家族まで助けるんだとしたら…急いだほうがいいぞ」

「あ?どういうこったよ」

「…魔物数匹に襲われてる。アイツら戦えないタイプの種族だろ?このままじゃ全滅だな」

「先に言えよそういうの!!」

それだけ叫ぶと、あるライダーのライドウォッチを作り出し、絵柄をあわせてボタンを押す。

俺の能力、ライドウォッチ生成で作ったライドウォッチは、上のボタンを押すことでそのライダーの力を使えるようになる性質を持っている。

まぁオーマジオウに変身していたらライドウォッチは必要ないのだが。

『カブト』

「クロックアップ」

カブトライドウォッチを使い、クロックアップを発動する。

加速するのは俺ではなく、俺達の乗っている玉座だ。

次の瞬間、先程とは比べ物にならないくらいの速度で移動を始めた玉座。

余りの風圧に耐え切れず、後ろに倒れそうになってしまったシアを腕で受け止め、そのまま走らせる。

ここでもしハウリア族を全滅させようものなら、この後のイベントがほとんど消滅してしまう。

善意ではなく打算で行動している俺を、シアが潤んだ瞳で熱っぽく見ていたことに、その時は気づけなかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

しばらく(数秒程度)たったところで、ある魔物が俺達の視界に入ってきた。

「…何だアレ?」

「ハ、ハイベリア…」

ワイバーンのような魔物を見て、シアが戦慄した。

強い魔物なのだろうか。

じゃあちょっと俺の実験台になってもらおう。

「ハジメ、後ろから援護…まぁ一応だから、そんな気を張らなくていい」

「了解」

「ユエは…」

そこまで言いかけて少し逡巡する。

ハジメがドンナーで援護してくれるなら、別にユエに何かしてもらう必要はないなと。

それで固まってしまった俺に、瞳を潤わせ始めたユエ。

心なしかぐすんと言っているのも聞こえる。

まぁ迷宮から出てずっと戦闘に参加していないから、いい加減に自分が役立たずなのではと思い始めているのだろう。

な、なんか適当な役職…

「ゆ、ユエは終わったあと俺を癒してほしいなぁ~、なんて…」

「ん!わかった!」

苦し紛れに言うと、笑顔で了承してきたユエ。

い、一件落着…だろうか。

「さ、行こうか」

それだけ言うと、玉座を飛び降り、空中に魔力で足場を作りながらハイベリアと呼ばれた魔物を殴りつけていく。

あまり力を入れると何も残らないので、力を程よく抜きながら殴りつけていく。

途中俺が対応しきれなくなりそうになるたびに、ハジメがピンポイントで射撃してくれるから非常に力量調節の練習がはかどる。

何も考えなければ援護なんていらないのだが、流石に力を振り回すだけではスマートではないということで考えながら戦うことにしている。

うまい具合に調節しながら戦う事数秒。

完全に魔物を掃討し終えたので、悠然と着地する。

「あ、貴方は…?」

「あー、それについては…」

「みんな~!!」

「「「「「「「「「「シア!?」」」」」」」」」」

頬を掻きながらどうやって説明しようかと考えていると、玉座から身を乗り出して、俺の近くにいる兎人族たちに手を振っているシアが現れた。

お、見なくても玉座の操作できたな。

この調子で自由度上げていこう。

そんなことを考えていたら、玉座が停止して(止めたのは俺だ。しっかり停止も触れずとも操作できた)シアが玉座から飛び降りて兎人の方まで駆け寄っていった。

その後ろを走って、ユエが俺に抱き着いてきた。

「おー、ユエ。ありがとな」

「ん…お疲れ様」

耳元で甘くささやかれて、ほんの少しイケナイ気持ちになってしまうが、何とか俺の脆弱な理性で耐える。

「さて、と…ハジメ」

「ん?どうかしたか?」

玉座から降りて、ゆっくりとこちら側に歩み寄っていたハジメに声をかける。

案の定俺が何で話かけたのかはわかっていない様子。

「いや、さっきの俺の戦闘…どうだった?無駄な動きとか…なんかこう、改善するべきところはあったか?」

「あー…なかったとは思うが…やっぱり力を抜きすぎると、集団相手なら囲まれることもあるからな…今回は力を抜かずに、一撃で全員吹っ飛ばした方が一番合理的だった気がするぞ」

「やっぱりか…力の調整実験は、もっといい相手を見つけてからの方がよさそうだな」

ハジメの感想を聞き、自分でも反省してみる。

ただなぁ…うまく調節して戦うのにあった相手…いるか?

「えっと…ジオウ殿でよろしかったかな?」

話が終わったのか、俺の方に声をかけてきた兎人。

原作ではカムと呼ばれていたが…この世界では一体どうなんだろうか。

「あぁ、えーっと…」

「おっと、申し遅れましたな…私は、カムと申します。ハウリア族の族長を務めさせてもらっております」

どうやら原作通りでよかったらしい。

「なるほど、カムか。…敬語じゃなくて構わない。むしろ、敬語は苦手だからやめてもらいたいんだが…」

「いえいえそう言うわけには…この度はシアのみならず、我々までも窮地を救っていただいたのですから…しかも脱出まで手助けしていただけると…もうなんとお礼を言うべきか…」

「あー…まぁそこは気にしなくていい。ただ…そうだな、ある場所に案内してもらいたい」

頭を下げるカムに、若干ペースが崩されそうになるも、ある要求をつきつける。

元々原作でもするべきだったことなので、この依頼イベントは回収しておきたい。

…べ、別に忘れていたとかじゃない。断じて。

「ある場所、ですか?」

「あぁ…俺達は今、大迷宮の攻略を目的としている」

「ならば樹海まで案内すればよい…と?」

「いや違う。俺達が案内してほしいところは、樹海の奥地にある大樹までだ」

「は、はぁ…?」

よくわかっていないようなので、軽くカムに説明してやると、完全に理解したわけではないが取り敢えずわかったという反応をされた。

まぁ別にカムが理解していないと困るわけでもないので全然問題はない。

とにかく今は樹海に向かおうということで、その場を離脱し、樹海に向けて歩き始めた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

ある程度歩くと、シアが俺に不安そうに質問してきた。

「あの、ジオウさん…」

「ん?どうした?」

「…帝国兵と戦うことになったら…その、ジオウさんは…大丈夫、なんですか?」

「何が?」

本当にシアが何を言っているのか大体もわからなかったのでさらに質問する。

帝国兵より俺の方が弱いと言いたいのだろうか。

「その…今までと違って、相手は人間なんですよ?同じ種族なのに…殺せるんですか?」

「…お前は俺がビビって、約束破って願えるとでも思っているのか?」

「い、いえ…そう言うわけではなくて…」

「ならいいじゃねぇか。別に俺がどう思うとしても、お前に害さえなかったらそれはお前が考慮する問題じゃない」

「ですが…」

「いいんだよ、別に。それに…」

あの正体不明の何かから色んな記憶や力を与えられた時に、まともな感性なんて無くなっちまったよ。

そう言おうと思ったが、言わずに抑えておいた。

言って何があるというわけでもないし、何よりこれはコイツに関係のない話だから。

階段状の崖を上ると、複数の人影があった。

「おいおい…まさか本当に生き残りが来るなんて思わなかったぜ…隊長さまさまだなオイ」

帝国兵。

カーキ色の軍服のような物に身を包み、歴戦という雰囲気を醸し出している彼らは、相当の手誰なのだろうことが見て取れた。

「お、あれって隊長が欲しがってた白い髪の兎人じゃねぇっすか?」

「本当だな…アイツを隊長に渡したら、昇格間違いなし…中々俺もツキがまわってきたじゃねぇか」

「それに他の女も上玉ぞろいじゃないですか…ねぇ小隊長、少し蔵俺達にも味見させてくだせぇよ!」

「…ったく…俺の分も取っておけよ?」

「ひゃっほぅ!流石小隊長、話が分かる人だ!!」

現れたのが、戦闘能力を持たない兎人族と言う事もあってか、戦闘態勢を取らずに下卑た瞳で女兎人を品定めしているだけだった。

しばらくの間、思い思いの事を言いながら捕らぬ狸の皮算用で馬鹿笑いしていた帝国兵たちだったが、ようやく俺とハジメの存在に気づいたのか、怪訝そうになる。

先程小隊長と呼ばれていた男が前に出て、俺に話かけてきた。

「お前、人間か?」

「あぁ、そうだが」

「何で峡谷から…?いや、その裕福そうな身なりと言い…奴隷商か。なるほど…一体どこで情報掴んできたんだ?商魂逞しいのは感心するが、あまり張り切りすぎると命を落とすぞ。…ってなわけでそいつら置いてとっとと帰れ。身の程知らずのボンボn」

言い切る前に、そいつは死んだ。

俺の拳が、小隊長と呼ばれた男の頭を消し飛ばしたのだ。

先程まで頭のあった所から血を流している小隊長の死体を見て、帝国兵たちは一瞬硬直するも、すぐさま殺気を俺に向けてきた。

「どうかしたのか?俺は俺を見下し、馬鹿にしてきた奴を軽く叩いただけだが?」

「テメェッ…ん?」

俺の言葉に顔を真っ赤にした帝国兵だったが、俺の隣に視線を移すと、すぐさま下卑た顔に戻る。

因みに、俺の隣にいるのはユエだ。

「中々別嬪な嬢ちゃん連れてんじゃねぇか…いいだろう、そいつを目の前で犯して他の奴隷商にうっぱらってからお前を殺してやるよ」

「おいおい、俺達にもヤらせてくれるんだろぉ?」

「そうだよなぁ、あんな上玉目の前でヤッてるところ見せられるだけじゃ満足できねぇって」

好き勝手言っている帝国兵に、俺は流石に我慢の限界が来た。

ハジメがなら敵だな、殺そうという風にドンナーに手をかけたのを見ながら、俺は小隊長のしたいを踏みつけながら前にでて、ファックサインを作る。

「調子乗り過ぎだぞクソ野郎共」

ゴォン…と、荘厳な鐘の音が響く。

俺の腹部に、金色のベルトが出現する。

「…変身」

『祝福の時!最高!最善!最大!最強王!オーマジオウゥ!!!』

変身を終えた瞬間、オーラが帝国兵だけでなく、背後にいた兎人族すらも苛んだが、そこは気にしないようにしよう。

『覚悟はいいな蛆虫共。王を愚弄した罪…その身で贖え』

『オーズ』

いきなり姿が変わった俺に驚愕している帝国兵を無視して、オーズのライダーズクレストからメダジャリバーとオースキャナー、そして三枚のセルメダルを召喚する。

メダルをメダジャリバーに挿入し、レバーを倒す。

そして、オースキャナーでメダルを読み込む。

『トリプル…スキャニングチャージ!!』

音声がなったと同時に、メダジャリバーを横薙ぎに振るう、

すると、帝国兵たちの体が、景色と一緒にズレた。

それも束の間、すぐに景色が戻り、帝国兵たちは爆散した。

周囲には帝国兵の肉片が散らばり、異臭を放っていた。

変身解除して、ユエの方に戻る。

「…やっぱり、人間相手にはオーバーキルだったな…」

「お疲れ様」

先程の戦闘…というより蹂躙か。それを思い出しながら、ライダーの力がどういった時に必要かを考える。

恐らく俺の知るこの世界の人間相手に、オーマジオウの力を出す必要はなさそうだ。

あまりこの力について知られたくもないし…基本徒手空拳だけで終わらせることにしよう。

俺を労ってくれたユエの頭を撫でながら、ハウリアたちに案内を続けるように視線で促す。

だが、ハウリア族の奴等は固まっているばかりで、俺の視線にすら気づいていない様子だった。

「…?どうした?早く案内して欲しいんだが…」

「…あ、あぁ…申し訳ありません、少し圧倒されていまして…」

「…まぁ、しょうがないだろうな」

少なくとも空間が斬れるところなんて見たことないだろう。これから先見ることもないだろう。

その後、しばらくの間硬直していた兎人たちを待ってから移動することになった。

あまりに復帰が遅くて、ハジメがドンナーで威嚇射撃したのは言うまでもあるまい。




この作品のユエは、時々幼児退行します。
ご了承ください。
…え?作者の趣味だろ?
べ、別に大人びてる系のキャラが自分にだけ甘々な一面を見せてくる系にすごく興奮するタイプだなんてこと、ないんだからねっ!
そして皆さん、気づいたでしょうか。
シアがもうすでに堕ちt…おっと、誰かが来たようだ。


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同類の過去を知る←ウサギは何を思う

どうも、ついさっきまでどっかのスカイブルーさんのせいで人狼に無残な姿にされていたひま次郎です。
今回は長いかも知れないので、辛抱強く読んでください。



時王side

先程の帝国兵たちの所持していた大型の馬車を強奪したので、俺達は玉座(キングサイズベッドレベル)に乗って移動し、馬車の方にハウリア族の連中をのせて移動していた。

「…なぁ時王」

「どうしたハジメ?」

俺の横でドンナーの整備をしていたハジメが、いきなり俺に話かけてきた。

「…さっき、どうだった?」

「どうって…わかんねぇんだけど」

「だからさ…人殺してみて、どう思った?」

「あぁ…」

ハジメに言われて、先程の自分について考える。

怒りに身を任せてとは言え、見知らぬ男達を惨殺したのだ、少しくらいは心に揺らぎがあったような気が…

あれ?全くない。

寧ろ…楽しかった?

「…別に何とも思わなかったな」

「…無理してるんじゃねぇよな?」

「いや…別にそう言う意味じゃなくてさ…」

一瞬、言うべきか否か逡巡するも、ハジメならいいかと言う事で伝える。

「…何とも思わなかったって言うよりも俺は…殺すのが、楽しかったんだ」

「…時王、お前」

「あぁ…そう言う事だな。俺はどうやら、お前の事をどうこう言えるような人間じゃなかったってことらしい」

自虐的に笑う。

ハジメに言えないことだが、殺しに快楽を覚えていたハジメを、俺は実は心の中で若干、ほんの少しだけだが…否定的に思っていた。

人としての道を踏み外した、とまで思った。

同時に、それは仕方ないと思っていた。

だって、ハジメは原作で外道になるかならないかのところでユエと出会い、人としての最低限のラインを確立できたのだから。

それを、アイツは自分の手で撥ね退けた。

だからこそ、ハジメに原作のような心は無いのだろう。

「俺はさ、時王。多分、人でも躊躇なく殺せる。ていうかムカついただけで銃を撃つことはできる。いや…撃ちたくなる」

「…お前らしいな」

「まぁな…だから、その…なんだろうな、お前が気に病む必要は…」

「…ありがとな、ハジメ。やっぱ、お前は最高の親友だよ」

なんとか俺を励まそうとしてくれているハジメに、笑いかける。

ハジメは、俺に言わんとしていることが通じたと一安心していた。

脱力しながらため息をつき、再び作業に戻ったハジメから視線をそらし、もう一度寝転がろうとしたとき、今度はシアが俺に話かけてきた。

「あの、ジオウさん」

「シアか、どうした?」

シアの方を向いて尋ねると、言うべきか言わざるべきかと迷った様子を見せつつ、すぐに俺の方を真っすぐに見つめてこう聞いてきた。

「あ、あのっ!教えていただけませんか?ジオウさんの事や…ユエさん、ハジメさんの事を」

「…俺達の事は粗話しただろ?別にもうほとんど隠してることなんてないと思うが…」

「い、いえ…そうじゃなくて、その…何で三人は奈落?というところに居たのか…とか、色々」

「…どうして?」

今度はユエが質問する。

まぁそうだろうな。大体察しはつくけど。

「その…あなた達は、初めて出会えた同類なんです。固有魔法も使えて、魔力の直接操作もできて…だからこそ、知りたいんです。別に知ってどうする…とかじゃなくて、純粋に知りたくて…」

「…構わねぇか、ハジメ?ユエ?」

「…ま、お前が話すなら俺も話すか。こういう時に言葉にしておいて、恨みを薄れさせねぇようにしときてぇし」

「私も問題ない。…悪い虫予備軍に、しっかり現実を教える必要もある」

二人の了承も得れたので話すことにする。

未来を見たところ、まだまだ時間もかかりそうだから大丈夫だろう。

「…俺とハジメは、個々とは違う異世界から召喚されたんだ」

「エヒトとか言うクズのせいで、な。王国の奴等は、俺達の迷惑とかそう言うところは何も考えねぇで召喚するだけして、今まで武器なんて握ったことのない俺達に戦いを強いてきたんだ」

俺の言葉に、若干食い気味にハジメが続ける。

エヒトとか言うクズ、の発言に、シアは神をも恐れない豪胆な人なのかと驚愕に目を見開いていた。

「異世界から召喚された俺達は、みんな等しくレベル一の状態からこの世界のトップクラス…のはずだったんだが、俺とハジメだけ、平均とほとんど一緒だったんだ」

「その結果、前々から俺達を目の敵にしてたやつらがこぞって調子に乗って、俺達をいじめて嘲笑ってきた。ツイタあだ名が…無能だった」

「え…?お二人が、無能?嘘でしょう?」

「…残念ながら嘘じゃない。俺達だって最初は嘘だろと思ったさ。でも…な?」

「現実は非常だった。それだけだ」

怒りのオーラを滲み出しながら、腕を組んで告げたハジメに、槌苦笑いを浮かべてしまう。

こいつ、いじめられたとこの屈辱を鮮明に思い出してるんだろうなぁ。

俺はもうアイツらには興味なんてないが。何とも思わない。

ていうかクラスメイトの名前を全部忘れたくらいだからな。

まぁさすがに原作主要キャラと、サブ主人公のコウスケ・E・アビスゲートだけは覚えてるが。

え?檜山?ダレダロウボクソンナヒトシラナイ…

「んで、ある日…俺達はオルクス大迷宮に挑むことになったんだ。その時、二十…何階層だっけか?その辺で、ひや…ひ…ひ…まぁそんな奴がふざけたせいで、いきなりトラップが発動して、俺達は六十五階層まで飛ばされたんだ」

「そうそう…そして時王、檜山だ」

「あー!檜山か!何で覚えてんだ?」

「あ?決まってんだろ…最優先抹殺対象だからだろ」

名前が中々出てこなかったので言わずに進めたら、ハジメが態々教えてくれた。

ただ、その目は光を失っていたが。

「その六十五階層で飛ばされたところが、ちょうど橋だったんだ。全員を統率させて、団長が俺達を脱出させようとしたんだが…そこで、いきなり橋の両端に魔法陣が展開されたんだ」

「その魔法陣からは、方や大量のトラウムソルジャー。もう片方は…ベヒモスが現れた」

「ベヒモス?ベヒモスって、あの…」

「あぁ、過去にいたとされる勇者ですら敗走した相手だ」

それを聞き、再び驚愕するシア。

仕方ないことだろう。無能と呼ばれていた時期に、いきなり最強クラスの敵に遭遇したというのだから。

「ベヒモス相手に、流石にチート勇者共も歯が立たなかった。だが…」

「そこで時王が、ベヒモス相手にとんでもねぇ攻撃ぶちかまして、ベヒモスを一撃で殺しやがったんだ」

「じ、ジオウさんが?」

「あぁ」

『ジオウ』

無能時代のはずなのに、という風にこちらを見てきたシアに返事をしながら、ジオウライドウォッチを生成し、上のボタンを押す。

すると、俺のもう片方の手に、ジカンギレードが召喚された。

『ジカンギレード!!』

「うわっ!?喋ったっ!?」

ジカンギレードの音声にウサミミをビクッとさせて後ずさったシアを軽く笑いながら、ライドウォッチとジカンギレードを別空間にストックする。

別に消滅させて、もう一度創り出しても問題は無いのだが、別空間から取り出した方が圧倒的に楽だからだ。

「さっきの剣と、もう一つの剣を組み合わせて放った必殺技が、チート勇者の攻撃を無傷で受けきったベヒモスをワンパンしたんだ」

「す、すっごいですね…」

ウサミミをわさわさと動かしながら俺の方を見てくるシア。

その続きを話そうとしたところで、ハジメが先に言葉を続けた。

「…その後、避難しようとしていた勇者共の方に俺達が向かった時だった。いきなり俺達の方に魔法が放たれて、俺達は橋から突き落とされたんだ」

「…え?」

「別に俺達の後ろに何かがいたわけじゃない。本当に何もなかったのに…アイツは俺達を狙って、ただ魔法を撃ちやがった。落ちてく俺達を見て、あの野郎どんな顔してたと思う?…嗤ってたよ。愉快そうにな」

威圧を放ちながら教えたハジメに、同調するように頷く。

名前はもう覚えていないが、奴の顔は一生忘れない。

本当にムカついた。

「そ、そんな事が…」

「それで、奈落に落ちて目が覚めたところで、神結晶を発見して、神水片手に探索を始めたんだが…」

「ハジメが魔物に遭遇、その絶叫を聞いて俺が助けに入るも時すでに遅し。ウサギに肩を修復不可能なくらいバキバキにされて壁に埋め付けられていやがった」

「その殴り飛ばされたウサギの方は、すぐに復帰して時王の喉仏を蹴り上げやがった。そのまま俺の方を向いて、顎を吹っ飛ばそうと足をゆっくりと構えた瞬間だった」

「…あの熊が現れた」

「う、ウサギ?熊?それってそんなに恐ろしい魔物だったんですか?」

ベヒモスなんて言う強そうな魔物の名前から一転、そこら辺に居そうな人畜無害の可愛らしいウサギと、狂暴ではあるがあまり脅威を感じない熊が話に出てきたのだ。

その上そいつらに死ぬ間際まで追い詰められた、なんて聞いても信じられないだろう。

疑うようなシアの声に若干苛立った様子を見せつつも、宝物庫からある二つのプレートを取り出したハジメ。

「これは、俺が迷宮を探索しながら出会った魔物についてまとめたものだ」

「…こ、これが…ウサギと熊?なんかこう…全然思ってたのと違いますぅ…」

禍々しい見た目に慄いたシアに、ようやくわかったかという風にフンと鼻から息を吐いたハジメ。

「熊は二匹居てな…どっちも固有魔法の構成は一緒だったが、攻撃方法がまるで違った」

爪攻撃の固有魔法を持ちながら、途轍もない速度で飛んできたあの熊を俺は今でも忘れない。

「その熊に心を折られた俺は、時王が囮になってくれたおかげで何とか逃げることができた。…錬成を続けてたどり着いたところには、もう一つ神結晶があったんだ。そこから流れていた神水で体力を回復させた俺は、神結晶のある場所でひたすら苦悩した」

一度言葉を切り、深呼吸してから話を続ける。

「最初は、なんだろうな…復讐に生きろって、なんか俺の中の俺?みたいなやつが語りかけてきたんだけどさ…時王の言葉を思い出して、何とか踏みとどまったんだ」

「…俺の、言葉?」

「そ、『辛いときは泣けばいい。苦しいときは叫べばいい。でも…自分を捨てることだけは駄目だ。周りからは弱いって言われても、お前にしかない強さがある。その強さを捨てて全てを諦めても、それに意味なんてない。それだけは覚えておいてくれ』…俺がこの世界に来てからのいじめに耐え切れなくなって、自殺しようとしたときにお前が言った言葉だ」

「そうだったな…そんなこともあった」

「あの時のお前の言葉とか、態度とかにさ…すごく、救われたんだ。だから、だから俺は俺を捨てるわけにはいかないって、何とか復讐心を抑え込んでたんだが…」

「な、何があったんですか…?」

瞑目して俺の腕の中からピクリとも動かずに聞いているユエと対照的に、ウサミミを興味津々…だけど怖いっ、と言っているかのようにみょんみょん動かしながら質問したシア。

そのシアに、すごくどす黒い笑みを浮かべてハジメは舌なめずりしながら答えた。

「飢餓感に負けたんだよ、俺は。なんだかんだ、欲望は抑えられなかったんだ…だから、俺はあるものを食って自分を捨てた」

「…えっ、えっと…それってもしかして…」

最初は意味がわからなかったのか小首をかしげたシアだったが、すぐに意味を理解したのか顔面を蒼白にした。

「そうだよ…もうそこにあるだけで、治ることもなかったからな…左腕を自分で切り落として、自分で食ったんだよ」

「うっ…」

笑みを浮かべたまま、自分で自分を食べたと告げたハジメに、口元を抑えて俯いたシア。

ユエも、気分を悪そうにしていた。

俺?原作よりも酷い堕ち方したなぁとしか。

カニバリズム系のアニメなんて、ネットにゴロゴロ転がってんだから、今更ねぇ…?

まぁ最初はハジメに戦々恐々としていたけど。

その後も、ハジメの不幸話が続き、ユエのところの話になった。

「最初、私のところに来たのはハジメだった」

思い出したせいか、恐怖に身を震わせているユエを優しく抱きしめる。

すると、緊張がほぐれたのか力を抜き、俺にしな垂れかかってきた。

「…ハジメに、最初私は助けてといった。シアみたいに」

「私みたいに…ですか」

「うん…私は、家族に、国に裏切られて…奈落の底に封印されてたの」

家族に裏切られた、と聞いたときに、シアは目を見開いた。

大方、自分と共通点が多いユエを、自分と同じ境遇だったのだろうと勝手に思い込んでいたらしい。

だが、それは違った。ユエとシアには大きな相違点がある。

…家族から愛されていたかどうかだ。

まぁ原作を知っている俺からすれば、ユエもしっかり家族から愛されていたのだが…それはまた別のお話。

異質な存在でしかない自分を家族だと言って守ってくれるような人も、ユエはシアと違っていなかったのだ。

それどころか、その家族のせいで、孤独なところに一人封印されていたのである。

どちらが恵まれていたか、と聞かれれば、俺は迷わずシアの名を答えるだろう。

「ずっとずっと…三百年くらい封印されていた時に、ハジメが私のいるところまで来たの」

「それで、ハジメさんが助けたんですか?」

「違う」

信じられない、という風に質問したシアに、食い気味に返事をしたユエ。

そんなに?

「ハジメはむしろ、私の心に深い傷を残した…」

「チッ…アレはお前がムカついたから」

「ムカついたってそんな万能な言葉じゃねぇからな?」

流石に恋人…いや、いっそ嫁?に、ムカついたという理由でトラウマを植え付けてくれた親友に冷たくツッコむ。

まぁハジメが原作とまったく違うことをしたせいで、なんかユエが病んじゃってるからね、仕方ないね。

…たまに、愛が重いと感じることもある。

「私が傷ついて、絶望しきったところに現れたのが…時王」

「そ、そんなタイミングよかったっけ?」

「よかったの」

「いや、でもお前ハジメが出てってからかなり後にって」

「よ か っ た の」

「アッ、ハイ」

やっぱり吸血姫には敵わなかったよ…

「封印を解いて、私を安全なところに優しく置いて…襲い掛かってきたサソリの魔物を、圧倒的な力でねじ伏せた」

「サソリの魔物?」

ハジメが訝し気に俺に質問してくる。

あ、そう言えば説明してなかったような気がする。

「あぁ、どうやらユエが何らかの理由で封印から逃れた場合に、ユエを捕まえるか…もしくは殺すかするための魔物が用意されてたんだよ」

「ん?もしかしてそれって前に俺にくれた素材の元になった魔物か?」

「…やっぱ説明したよなぁ…?」

なんか話がつながっていない気がするが、その辺は別に気にするほどの事ではないだろう。

「魔物を倒した後、何も着てなかった私に服を着せてくれて…名前も付けてくれた。血も吸わせてくれた…すごく、優しくしてくれた」

頬を緩めながら言ったユエを、()()()うらやましそうに眺めているシアにこれまた何故か恐怖を感じた。

その後も、俺達が交互に語り部を担当し、俺達の現在に至るまでの話を伝えた。

すると…

「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎまずぅ~、ジオウさんもハジメさんもユエさんもがわいぞうですぅ~。そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて……うぅ~、自分がなざけないですぅ~」

「…まぁ話をまとめたら一番俺が苦労していない気もするがな…」

力の使い過ぎで寝込んでいただけの俺は、とてもじゃないが苦労したとは言えなかった。

だが、シアはそんなことないと言って、涙をぬぐい、高らかに言った。

「ジオウさん!ハジメさん! ユエさん! 私、決めました! 三人の旅に着いていきます! これからは、このシア・ハウリアが陰に日向に三人を助けて差し上げます! 遠慮なんて必要ありませんよ。私達はたった四人の仲間。共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」

「図々しいぞウザウサギ」

「調子に乗るな、そして何より…時王に唾つけようとしないで」

「…多分そう言う意図はないだろうよユエさん…まぁ、お前が打算まみれだってことはわかるが」

俺達三人に冷たく言い放たれたせいで、ダメージを受けたように倒れるシア。

ここが玉座じゃなかったら痛そうだなぁと思っていると、シアが俺達を涙目で見てきた。

「そ、そんな酷い言い草ないでしょう!?私はただ旅について行って、三人の手助けをしようと」

「別にその助けは無用だ」

「…だから私の時王の気を引こうとしないで。どうせ旅の途中に何処とは言わないけど無駄に育ったそのソレで時王を誘惑する気でしょ」

「…シア、お前はただ旅の仲間が欲しいだけだろ」

取り付く島もなくあしらったハジメと、なんかズレたことを言っているユエに苦笑いしながら、俺は原作のハジメが言っていたことを言った。

すると、ギクッ、ギクッ、と何故か二回図星をつかれたかのような反応を見せたシア。

え?俺以外に正解無いじゃん。なのになぜ?

「…ま、お前が好き勝手言うのは別に止める気はないが…さすがに連れていくつもりはないぞ?脆弱なお前を守りながら戦うのも問題はないが、面倒臭いからな。…ついでに、お前に利用されてるみたいで気に食わねぇ。俺は王だぞ?」

ものっさ傲慢なことを言うと、シアから視線を外す。

俺の方に何も言ってこないことから、もう何かを言うつもりは無いのだろうと判断したからだ。

「なぁハジメ、ここの大樹が仮に本当の迷宮じゃなかったら…どこだと思う?」

「…そんな未来が見えたのか?」

「いやそうじゃなくてさ…可能性さ可能性。お前なら大樹以外のどこに迷宮を設置する?」

「俺なら…」

それだけ言うと、考え込んでその場から動かなくなってしまったハジメ。

…あれ?まさかここまで真剣になるとは…暇つぶし程度の軽い質問だったのに。

「別にそんな悩まなくていいぞ?軽い暇つぶしみてぇなもんだし」

「…もし迷宮を設置するなら…俺はここの地下にするな」

「…その心は?」

俺の制止を無視して、自分の考えを伝えてきたハジメに、その意図を尋ねる。

どうして地下?

「いや、地下って言っても、そう簡単に地面に穴を開けて入れるようにはしない。亜人族の集落のどこかに地下に通じる穴があって、亜人族の奴等からその地下に入るまでの信頼を手に入れるのが最初の困難にすれば…この世界の連中からすれば、かなりの難問になるだろうよ」

「…お前、ジグ●ウになれるぞ」

S●Wシリーズの中に、協力すれば簡単な内容だが、協力できないような奴等にやらせることで難易度を以上にあげるやつがあった気がする。

「で、迷宮内にも亜人と協力しないといけない仕掛けを用意しておくんだ。魔物の強さは奈落クラスでな?」

「お前悪魔かよ」

ハジメ作、ぼくのかんがえたさいきょうのめいきゅうに若干引き気味になるも、実に合理的だと感嘆する。

差別意識の高い人間にそれをやらせるのは中々の難題だろう。

その上、単純に戦うだけでも死を覚悟するような奈落の魔物クラスを設置とか、とても人道的とは思えない。

俺もそういう事考えたけど。

それから数時間後、ようやく樹海が見えてきた。

「それでは、ジオウ殿、ハジメ殿、ユエ殿。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。皆様を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

「あぁ。やっぱり、大樹が一番怪しいからな」

一応確認のためにハジメを見る。

無言で肯定された。

カムたちは、周囲の兎人と確認し合いながら、森の入り口まで迫って行った。

「…ジオウ殿、その…その玉座?は目立ってしまうので、その…」

「あぁ、わかった」

そう言うと、全員を玉座から降ろし、俺も降りた後で、消滅させる。

確かにこんなものが浮遊してたら目立つよな。

「それと、気配も出来る限り消していただきたい。立ち入りは禁じられて無いのですが…如何せん我々はお尋ね者、さらに言うなればあなた方もここでは本来なら招かれざる客…フェアベルゲンの者に見つかったりしたら…」

「そっちも大丈夫だ。俺達は隠密もできる」

それだけ言うと、ハジメと俺は気配遮断を発動し、ユエは周囲の魔力と自分の気配をできる限り同一化させることにより極限まで気配を薄めた。

「これは、また…流石ですな…ただ、その…ジオウ殿とハジメ殿、できればユエ殿くらいにしていただきたい…」

「ん?…これでいいか?」

「…えぇ…にしてもすごいですなぁ…一応我々は、隠密と索敵に秀でている種族なのですが…こうもあっさりと凌駕されてしまうとは!」

…そう言えばこんな会話原作でもあったなぁ…

そんなどうでもいいことを考えながら、ユエの方を見る。

先程からずっと俺を見ていたらしく、ようやく気付いてくれたという風な反応をしていた。

その表情は、褒めて、と雄弁に語っていた。

それも仕方ないか。先ほどのユエの気配の消し方…実は俺達も今知ったばかり。

どうやら、長い間練習したらしい。

よくやった、という代わりに頭を撫でてやると、嬉しそうに破顔した。

「では、行きましょうか」

カムが俺達の前に立ち、先導するように歩き始める。

その間どうでもいいことを考えてしまった。

…もしここで気配を殺すのをやめたら…いや、むしろ威圧とかで気配を強くしたらどうなるんだろう、と。

流石にそんなことをするような気はないが、結構気になる。

俺の威圧とハジメの威圧は、結構違うらしい。

「…魔物か」

ある程度歩くと、魔物の気配を感じた。

その数、およそ三匹。

ナイフを手に取り、警戒するカムたちを片手で制しながら、その辺の石ころを拾い上げる。

そして、気配を感じるところに向けて石を投擲する。

その時に、いつもの攻撃するときに出る金色のオーラを出しておくのも忘れない。

ビュゴッと空を切る音が聞こえたかと思えば、断末魔を上げることなく木から魔物が落ちてきた。

「…オールクリーンヒット、それにヘッドショット…我ながら上々の出来と言える」

「さすが」

死体を見ながら、俺を笑って賞賛したハジメに、ハンドシグナルで返事をした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハジメside

森に入ってからは、現れる魔物はすべて時王が殺していった。

まぁ俺の義手のギミックを使っても構わなかったが…まぁ俺のは一々時王の創造って能力で作ったりしないと量産できないからな。

そうして歩いている事数時間。

突然今までとは比べ物にならない(俺達からすれば鼻で笑えるレベル)の殺気が俺達を囲んだ。

カム達はその殺気を放ってきた相手を察してか、顔色を悪くさせた。

俺もユエも面倒くさそうな顔をしている。

時王は、まるで分っていたという風に平然としていた。

「お前たち…何故人間と一緒に居る!種族と族名を名乗れ!」

トラの耳と尾を付けた、筋骨隆々の亜人が、俺達の前に現れ、武器を向けてきた。




一つ言っておかねばならないことですが、時王はよく原作では原作知識ではとか言っていますが、実はもう原作をあまり覚えていません。
これも全て、檜山大介(仮名)ってやつの仕業なんだ(作者の首の折れる音)。


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嫉妬?/神の胎動(トゴキデイナラシモレダ)

内容がおかしくなってきたので初投稿です。
前半はふざけて、後半は少し危険なかおりを漂わせておきました。
まぁあまり脅威は無いですがね。今のところは。
それと、質問に多かったハジメのヒロインですが、これを言えばほとんどわかってしまうのでしょうが…ブルックの町辺りで出てきます。
はい答えでましたー(投げやり)。
批判は聞きませんからね?あのキャラ作者的にヒロインやってもらいたいですもん。



ハジメside

俺達の方を忌々し気に見たかと思えば、信じられないものを見るような目でカム達の方を見た虎亜人。

まぁ人間はこいつ等にとっては本来ならば嫌悪の象徴だからな。

多少は目をつぶってやろう。

もし俺か時王に攻撃しようものならここら一帯焼け野原にしてやるが。

「あ、あの…私たちは」

弁明を考えたのか、冷や汗を流しながら口を開いたカムだったが、その言葉が言い切られる前に、虎亜人がシア・ハウリアに気づいた。

「…白髪の兎人…さては貴様らハウリアだな?亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員k」

面倒くさくなりそうだったので、ドンナーで威嚇射撃でもしようかとホルダーに手を伸ばしたが、それよりも早く時王が投石した。

ビュゴッ!!と空を裂く音がなったかと思えば、次の瞬間にはバキバキメキメキと木がへし折れる音が聞こえてきた。

「次は当てる」

「い、今のは…」

時王が威圧を放ちながら告げると、虎亜人は顔を青ざめさせながら声を漏らす。

だが、時王はそれに答えることなく、石を手に持ち一方的に話を始めた。

「こいつ等…ハウリア族は俺達が護衛する代わりに、案内を担当してもらってるんだ」

「それがどうした…?」

「ん?わかんねぇか。こいつ等を守るのは、こいつ等に俺が支払うべき正当な対価なんだ。王として、約束を破るわけにはいかないんでな」

王?と不思議そうにつぶやいた後、すぐに時王の方を睨みつけ、声を出そうとした虎亜人。

だが、それよりも早く時王が口を開いた。

「…で?どうする?このまま大人しく帰るって言うなら止めはしない。だが…もし敵対するというなら、隠れているやつも、ついでにお前ら全員の家族も友人も…まとめて殺してやろう」

…時王ならできるだろうが、本気で殺る気なのだろうか。

アイツの事だ、大方脅すだけ脅してこの亜人たちの上の存在に自分たちの脅威を伝えさせるために戻らせて、道中邪魔が入らないようにするつもりだろう。

最大限譲歩しつつ、尚且つ自分たちが利益を被ることのできる方法を提示した時王を、虎亜人は…

一笑した。

「…はっ、いくら強かろうと、いくら隠れている者を見つけることができても、一斉にかかれば対応しきれまい。石も無限にあるわけではないだろう?」

「そうか…」

「だからさっさと諦めて降ふk」

「なら見せしめに五人殺すか」

虎亜人は、時王の言葉を聞いて、一瞬呆けた。

理解できなかったんだろう。

だが、次の瞬間には、その顔が後悔と恐怖に染まった。

なんの感慨もなく時王が手を振るったら、いきなり時王と話していた虎亜人の後ろに控えていた亜人の内五人の首が地面にボトッと落ちた。

「なっ…」

「わかったか?お前らじゃ相手にならないってことが」

時王がそう言っても、固まったまま動かない虎亜人。

少し間を開けて、再び時王が口を開いた。

「…無言は否定と言う事で進めようか。追加で三人、その次の追加は後ろの木の陰にいる二人、その後は俺の前にいるお前以外全員だ。…仲間をこれ以上死なせたくないなら、賢明な判断をするべきだと推奨させてもらおう」

それだけ言うと、もう一度手を横に薙ごうとした時王。

それを見て、慌てて返事をした虎亜人。

「ま、待ってくれ!わかった、わかったから!!」

虎亜人の制止で、手の動きを止め、続きを促すように目線を向けた時王に、さらに慌てながら返答する虎亜人。

「わ、我々は…敵対せず、フェアベルゲンに帰還させてもらいたい…」

その言葉に動揺を見せるも、時王の方を見て、それが正しいと反応する他の亜人たちを睥睨した後、早く行けという風に首を動かした時王。

だが、虎亜人は帰るのではなく、時王に質問した。

「…ひ、一つ聞かせてもらってもいいだろうか」

「…別にいいが」

「…ここには、一体なんの目的で来た…?」

「…ここの深部にある、大樹に用がある」

「は…?」

時王の言葉に、混乱した虎亜人。

まぁ仕方ないだろうな。

本当の大迷宮について知らないだろうこいつ等は、大樹を自分たちの集落の近くにある名所か何かと思っているに違いない。

「どうして大樹を目指しているかわからない、と言いたそうだな…ハジメ、いいか?」

「構わねぇよ」

俺に許可を取ってから、虎亜人に話始めた時王。

「…そこに、大樹の下に本当の大迷宮の入り口があるかもしれないからな。そのためにハウリアを案内人に頼んだ」

「な、何を言っているんだ?ここがもうすでに大迷宮の一つ、ハルツィナ樹海だぞ?一度足を踏み入れれば最後、亜人以外は脱出できない」

「それはあり得ないな。もしここが本当に大迷宮なのだとしたら、あまりにも魔物は弱いし難易度は低い」

「ど、どういう…」

さらに混乱したように言う虎亜人。

それに、説明する気力を失いつつあるのか、投げやりに告げる時王。

「わからねぇなら、お前らの村長にでも聞いてみりゃいいだろ。ここで待っててやるから。そうだな…解放者、オスカー・オルクスの試練を攻略した者が現れた、とでも伝えておけ」

「…………信用できん、一人に伝えさせに行かせて、我々が見張るというのは構わないか?」

「あぁ、問題ねぇよ」

熟考した後、虎亜人は重々しく口を開いた。

時王の軽い返事に、虎亜人は背後の亜人に村まで行くように伝え、再び時王に視線を向けた。

「…こっから結構かかるだろうな…ま、気長に待つとしようか」

それだけ言って、その場に玉座を作り出した時王。

それに何も言わずに乗り込む俺とユエ。

ユエは素早く時王の腕の中に入り込み、『おやつの時間にする…』なんて言って、時王の首筋に歯を当てた。

時王は抵抗するでもなく、寧ろ自分から首を出し、血を吸いやすくした。

「…んっ、じゅるっ…ちゅっ、ちゅぱっ…」

艶めかしく、蕩けた表情で時王の首筋から流れる血を舐め、吸い、味わっているユエを見て、若干前かがみになる亜人たち。

それは虎の亜人たちだけでなく、ハウリアの男衆もだった。

しばらくの間時王を抱きしめながら血を飲んでいたユエは、ようやく口を離し、時王の方に向き直った。

「…うまかったか?」

「ん…とっても」

じゅるり…と舌なめずりしながら言ったユエを、優しそうな顔をしながら撫で始めた時王。

ただいちゃついてるだけの光景だったが、如何せんいちゃついているのが現実離れした美男(時王はなんか知らんが奈落に落ちる前より物凄くかっこよくなっていた。元々イケメンだったのに)美女だったからか、一枚の絵画のように見えた。

だが、そこに突撃した者がいた。

それは…

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

シアside

…何でこうなっているんでしょう。

さっきまで、私たちは他の種族の人達に殺されそうになっていたはずです。

ですが…

「まったく、最近一段と甘えてくるようになったなぁ…ユエは」

「ん…時王の依存性が高いのが悪い…」

「なんだそりゃ」

なんでジオウさんとユエさんがいちゃいちゃし始めてるんですかねぇ!?

「ちょっと!」

「あん?」

「…」

玉座に乗り、ジオウさんとユエさんに声をかけました。

すると、ジオウさんは何もわかっていないような反応を見せ、ユエさんは深淵の如き目で睨みつけてきました。

いつもの私なら、怖がって後ずさってしまうでしょうが…

今は全く恐怖を感じません。今ユエさんに持っている感情は…怒り?

いやこれは…嫉妬?

「どうした?いきなり声を荒げたりなんかして」

「どうしたじゃないですっ!」

「??」

全身で不機嫌を表す私に、訳が分からないという風に首を傾げたジオウさん。

そんなジオウさんをチラリと一瞥し、私の方に再び深淵の如き瞳を向けたユエさん。

限りなく無言だった。

「…あぁ、なるほど。そう言う事か」

しばらくの間見つめていると、ようやくわかったのか笑顔になったジオウさん。

もう、遅いですよ!

「俺の血をユエが飲んだのがおかしいってことだろ?言ってなかったか?ユエが吸血鬼だって」

「違います!!」

「え、違う…?」

思いのほかわかっていなかったです。

私が言いたかったのは、ジオウさんとユエさんが付き合ってるわけでもないのに恋人みたいな事してることがおかしいってことですよ!!道中は言うタイミング逃しましたけど、今度こそ教えてくださいね!!どういうことですか!!

それを伝えようとすると、タイミング悪くジオウさんにハジメさんが声をかけました。

「あ、そういや時王」

「ん?なにかあったのか?」

「お前の作ったライドウォッチってやつ?あれって俺も使えるのか?」

「あー、これも教えてなかったっけか」

ライドウォッチ?一体なんでしょう…?

ってそうじゃなくて!!

「あのジオウさん私の質問に答えt」

「悪いなシア、ちょっと待ってくれ。本当なら先に話しかけてきたお前の方に反応するべきなんだろうが…ハジメの質問がすごく重要な事すぎた」

ならなんで話忘れてたんですか!?と言いそうになったが、私はできるウサギなので、グッとこらえました。

「で、ハジメ。お前がライドウォッチを使えるかどうかについてだが…ほら、これ」

ハジメさんの方を見ながら懐をあさり、何か黒い物をジオウさんはハジメさんに投げ渡しました。

「…なんだこれ?」

「ブランクライドウォッチ」

「…時王、それ説明になってないと思う」

あんまりな説明をしたジオウさんに、ユエさんがようやく普通の表情に戻って冷静なツッコミをしました。

本当に説明になってませんでしたね。なんかこう…名前だけじゃなくて、渡した物の性質とか能力とかそういうものを紹介するべきだったのではないでしょうか…

「はぁ…ハジメ、お前ならわかってくれるだろ?」

「……………駄目だわかんね」

すごく長い間考え込んでから、お手上げだという風に両手を挙げて告げたハジメさんに苦笑いしながら説明を始めたジオウさん。

「これ…ブランクライドウォッチってのは…ライドウォッチと違って、なんのライダー…いや、なんの力もない状態でな。これを持てば…まぁもしお前に才能とか資格とかそう言ったものがあれば、お前に合った力が手に入るってもんだ」

「…それはつまり?」

「ま、平たく言えば、そのブランクライドウォッチを普通のライドウォッチにすることができれば、お前も他のライドウォッチを使えるってことだ」

「おー…なられんs」

「錬成を使おうとしているところ悪いが、そういう反則技は無しだぞ」

「…チッ。まぁ気長に待つか」

悪態をつきながら、ブランクライドウォッチを手の中で転がし始めたハジメさん(駄洒落にあらず)を尻目に、話が終わったと思い、話かけようとしましたが…

「…時王」

「何かあったかユエ?」

ユエさんに遮られてしまいました。

「…私も欲しい。そのブランクライドウォッチ」

「…まぁいいけど…本当に力が手に入るとは限らねぇからな?」

「ん、問題ない」

ジオウさんの言葉に頷いてから、ポケットにブランクライドウォッチを仕舞ったユエさん。

今度こそ話を…

そう思った矢先、先程集落に向かって行った虎の亜人さん(名前は知らないです)が戻ってきました。

…つ、ついてないですぅ…

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

「…以外と早かったな」

誰に言うわけでもなく、一人で意味もなく感想を漏らす。

原作だと一時間くらいかかってから戻ってくることになっていたらしいが…ま、早いに越したことはないか。

「…ふむ、お前さんたちが問題の人間族かい?名前は?」

「時王、逢魔時王。旧名は常盤時王だが…まぁ時王であることに変わりはないからな。時王と呼んで構わない。そしてコイツがハジメ。南雲ハジメと…ユエだ。…で?あんたの名前は?」

適当に自己紹介すると、周りの亜人が、長老様になんて口の利き方を…!と怒りに震えていたが無視。

そんな怒れる亜人たちを片手で制しながら名乗り出た老人。

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。〝解放者〟とは何処で知った?」

「オスカー・オルクスの残した大迷宮、オルクス大迷宮の奈落の底の最深部に遭った記録映像からだ」

まぁ俺は元々知っていたがな!(ドヤ顔)

若干いい気になっていると、老人(態々名前で呼ぶのが面倒くさい)は驚いたように目を見開いて、俺に質問してきた。

「…奈落の底?聞き覚えが無いが…証明できるものはあるか?」

「…うーん…ハジメ、ヘルプ」

「任された…そうだな、オスカーの死体の指についてたあの指輪でいいだろ」

そう言うと、宝物庫から指輪を取り出し、俺の方に投げ渡してきたハジメ。

それを老人に渡すと、さらに驚いた表情をした。

「…これは…なるほど。どうやら話は本当らしい…他にも色々気になるところはあるが……よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

その言葉に、猛烈な抗議をし始めた虎亜人たち。

抗議したいのは俺もだ。

何が悲しくてせっかくの案内人共々休憩しなければならないのか。

俺は別に大迷宮さえ攻略できればここに用なんてないんだが…

「何を勝手に決めようとしてくれてるんだ?俺達は別に、大樹にさえ行くことができればいいんだが…」

「いや、それは残念ながら無理な話だ」

「「…は?」」

一気に殺気を滾らせたハジメと俺に、かなり後ずさりながらも冷や汗を流して困惑しながら告げる老人。

その言葉は、とても衝撃的だった。

さらに言うなら、原作でもそんな設定があった気がした。

「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で、霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは十日後だ。……亜人族なら誰でも知っているはずだが……」

老人のその言葉を聞いた瞬間、俺とハジメはゆっくりとカムの方を向いた。

「…やっべ忘れてた」

なんかものすごく素の口調になりながら言ったカムに、俺は石を握りしめ、ハジメはドンナーに手をかけた。

それを見て慌てだしたカムは…

「あっ、いや…そんな大樹に行ったのはすごく昔のことで、忘れていたといいますかなんといいますか…最近なんてシアの事もありましたし…ね?そりゃ覚えてないですよ…」

「「…で?」」

「…えぇいなんでシアもお前らも教えてくれなかったのだ!!周期について何故誰も触れなかった!!」

「なっ、お父様何こっちに責任押し付けようとしてるんですか!?私たちは悪くないですよ!!」

「そうだ!汚い!流石族長きたない!!」

「あんな自信満々に進んでいったから、てっきり周期今なのかなって思いましたもん!大体族長のせいです!!」

「うるさいうるさいうるさーい!!お前らも一緒に説教を受けろ折檻を受けろ死ぬときは一緒だろう家族だもの!!」

「何勝手に心中させようとしてるんですか族長一人で犠牲になればいいでしょうに!!」

「あの二人相手にそんなこと言うか普通!!ジオウ殿なんて投石だけで魔物の脳天吹き飛ばしていたんだぞ!?」

「知WらWなWいWでWすWよW自分で蒔いた種でしょう!?」

「…ハジメ、やっちまえ」

「イエッサー」

俺の言葉に端的に答え、カムの方へズカズカと歩み寄ったハジメ。

そして、なんの躊躇もなくカムのウサミミをむんずと掴むと、ニッコリ笑ってから纏雷を発動した。

バリバリバリィッ!!と音をたてながらカムを感電させる。

「アバババババババババババババババッ!?」

ドサッと地面に倒れ、ビクンッビクンッと痙攣するだけになったカムを他の兎人たちがおびえながら眺めているところに、これまたニッコリと笑ってハジメはこういった。

「…次はお前らがこうなる番だ」

「…皆ァ!逃げルォ!」

「嫌だぁ!死にたくなぁい!死にたくなぁい!」

「ハジメたま許してぇ~!ウサミミ壊れちゃーう!」

その地獄絵図を尻目に老人たちの方を見ると、すごく呆れた顔をしていた。

流石に同情もしないか。

結局ハジメによる纏雷制裁は、全員が黒焦げになるまで続いた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

???side

「…いい加減にこの力も扱えるようになってきた…か?」

【ソレ】は自分の体を舐めまわすように見ながら独り言ちた。

【ソレ】は自分の腹部につけてある物からあるものを外し、姿をもとの喪に戻した。

「ふむ…最初の時のようなこともない。中々無理矢理手に入れたが…数百年、数千年と時を越えれば、ここまで使いこなせるようにはなるか」

そう言いながら、()()()()()()()()()を歩く少年。

一枚の鏡に手を当て、愉快そうに笑みを浮かべたその少年の鏡に映った姿は…

「態々この体を手に入れるのにも時間をかけたが…リターンは最高、ただ神として君臨するだけの力を遥かに凌駕するモノを手に入れられた…なぁ、()()()()?」

()()()()()()()()()()()姿()()()()

「鏡の世界に存在した()()の存在を見つけ出し、世界を渡り続けて封印した…そして、その力を支配できるようにすらなった…」

奇術師のように、大げさな動きで自分を賞賛する。

「映るだけの、オリジナルを真似るだけのお前にスポットを当てた私に感謝してほしいな…なんて、冗談だがね」

壁に寄りかかり、鏡に映る自分を見て抑えきれないという風に破顔する。

「オリジナルはどんな顔をするだろうか…あのイレギュラーは、私のこの世界を争うとしているゴミは、一体どんな顔をするだろうか」

楽しそうに、目の前にあるプレゼントの箱を開けたくてうずうずしている子供のように告げた【ソレ】。

その正体は…

「私は神、エヒトルジュエ…創造神たる私を喜ばせるほどの余興に…はたしてヤツは成りえるだろうかね?」

トータスの狂った神、エヒトだった。




まさかの初エヒト。
しかもさらりと真名を明かす始末…
この話で、エヒトがオーマジオウの力を封じることのできた理由が分かったと思います。
分かっていない人がいると信じて、何も言いませんが。
次回もお楽しみに!


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勝訴

今回はかなり原作ブレイクできたと思います。
…まぁハウリアの魔改造イベントは逃れることなんてできないんですがね…
因みに、アルフレリックを老人と呼んでいるのは、主人公が成人姿のエルフ=百歳越えと考えているからです。
え?ユエ?
考えてみましょう、いきなり自分が病的なまでに愛している人からババア扱いされたヤンデレの末路を。
ね?駄目でしょう?



時王side

亜人達に先導されながら移動する。

霧がいい加減にうざくなて来た頃、ようやく到着した。

「これはフェアドレン水晶というものでな。これで囲んだところには、霧や魔物が来なくなるんだ。フェアベルゲン周辺の集落もこの水晶で囲ってある。…まぁ魔物の方は比較的だが」

「ほー…」

老人の言葉を聞いて、フェアドレン水晶を興味ありげに睥睨したハジメ。

コイツ絶対盗んでいくつもりだな?

フェアドレン水晶で囲まれているところに入ると、そこは…

「おぉ…」

「綺麗…」

「中々いいじゃねぇか」

自然と街並みが見事に一体化した、もはや一種の芸術品とすら言っていいくらいの美しい景色が広がっていた。

「んんっ…気に入ってもらえたかな?」

どうやら無意識的に固まってしまっていた俺達を、わざとらしく咳払いして正気に戻した老人。

うーむ。やっぱりこういう大自然的な風景はいいな。

「あぁ。自然と一体化している…いいところだな。ここは」

「すごく…綺麗。空気もおいしい」

「日の光もいい味を出している。最高だと思うぞ」

「そ、そうか…」

俺達の純粋な評価に、まさかそんな正直に言ってくるとは思っていなかったのだろう、若干どもって答えた老人。

それを気にすることなく先に進む。

さっきまで固まっていたのは俺達の方なのだが。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

老人に連れて来られてきた場所で、俺達は老人と向き合って会話していた。

「…試練に神代魔法、そして狂った神の遊戯…そんなことがあるとは…」

「ま、信じられないだろうな」

一言一句誤魔化すようなことはせずにありのままを伝えた。

すると、少しの間考え込むように顎に手を当てるも、すぐに向き直って信じる旨を伝えてきた。

「そう簡単に信じてもらえるとはな…やっぱり、神がどうだろうと関係ないってか?」

「まぁそうだな。この世界は亜人に優しくない。それは変わらない事実だ。そんな自分たちを救おうとしないばかりか迫害することを勧める始末…そんな神に好印象を持って信心深くなるわけないだろう?」

「…それもそうか」

次は、老人の方が口伝について説明してくれた。

まぁそれは原作通りだった気がする(原作について覚えていることがほとんどないんだが)。

その話を聞き終え、ひと段落していたところで、下の階から怒声が聞こえてきた。

因みに、俺達は建物の最上階にいる。

老人と顔を見合わせてから急いで下の階に向かうと、地に伏せて涙目になっているシアと、拳を振り抜いた後のように残心している熊の亜人がいた。

その熊の亜人は、俺の方を見るなり、不機嫌そうに威圧をまき散らしながら(俺達からすればそよ風程度)こちらに近づいてきた。

「…何のつもりだ?」

俺にではなく、俺の後ろにいた老人に話かけた熊亜人。

「…口伝に従っただけだ。何一つ問題あるまい」

「貴様っ…そんな眉唾物の話を信じて、この国に悪影響を与えるだろう人間を招き入れたというのか!!口伝等、建国以来一度も施行されてないだろう!!」

「なら、これが最初の施行と言う事だな」

激昂しながら怒鳴る熊亜人に、飄々と答える老人。

まるで駄々をこねる子供を窘める親みたいだ…と思ったのは内緒だ。

「こんな…こんな貧弱そうな小僧共が敵対してはならない強者だと…?」

「そうだ。現にこの者達の話を伝えてきた者によれば、五人殺されたらしいじゃないか。その殺された者もかなりの精鋭だったらしい。そんな力を持っている時点で資格があると思うべきでは?」

「ならなおさらだ!!五人も同胞を殺したんだぞ!?」

「なぁ、同胞とか言ったけどさ」

「あぁ!?」

キレている熊亜人に話かけると、メンチをきられた。

ちょっとイライラするなぁ…

「虎の亜人でも、熊の亜人であるお前にとっては同胞なのか?」

「当たり前だろう!!」

「じゃあハウリアは?」

「…なに?」

「同じ亜人だろう?何が悪いんだ?」

「それはっ…こいつらが忌み子をかくまっていたからで…」

「いやその理屈はおかしい」

「…どういうことだ?」

わからないのか、冷静になって質問してきた熊亜人。

それに、俺は心底丁寧に解説してやる。

「忌み子と言ったな?」

「あぁ」

「まぁ魔物の力を持っているのは確かに忌むべき存在なのかもしれない。だが…」

「だが?」

「そんな忌むべき存在だったシアを、ハウリア族の奴等は家族と呼んで愛した。だから匿った…違うか?」

「そうです」

俺の言葉に返事をしたカム。

それを一瞥し、熊亜人の方に向き直る。

「…ハウリアも、お前らは忌み子のシアが生まれるまでは同胞として手を取り合い、助け合ってきたわけだろう?」

「ま、まぁそうだが…」

「じゃあその同胞が家族と呼ぶ子を、お前らの勝手な都合で忌み子扱いして殺そうとして、挙句家族として愛情を注いでいたことが罪だと喚き、その元同胞すらも殺そうとした…だろ?」

「い、いや…それは…」

「それともあれか?お前らはハウリア以外の種族でも、生まれてきた子供に何かがあったら、その子供を愛してきた親も、兄弟、姉妹も、友人も恋人も…全部殺すというわけか?」

「そ、そんな事…」

「ないってか?でもおかしいな。お前らが普通にやってきたことを、少し生まれながら違うところがあるだけの子にやっただけで罪だって言って殺そうとしているじゃないか」

「…ぐっ、ぐぅ…」

「それでなんだ?同胞の家族の娘を殴ったのか?いいご身分だな。お前はあれか?他の同胞の子供も殴って来たのか?ん?」

「…」

完全に沈黙したのを確認し、シアの方に歩み寄る。

頬が赤紫色に変色しているのが痛々しい。

優しく手を頬にそえ、時を戻す。

傷が一瞬で消滅し、シアの肌を若干若返らせた。

「…もう痛くないか?」

「…………………ふぇっ!?あっ…はいぃ…///」

長い間呆けてから、顔を真っ赤にして目をそらして答えたシアの頭をポンポンと手のひらで優しく叩き、再び熊亜人の方を向く。

「…で?何か言う事はあるか?」

「…確かにお前の言う事は…正しい…」

「だろ?」

「だ、だが…」

「あれか?生理的に受け入れられないってか?」

「…い、いや…」

「図星か。なら例え話をしようか」

「た、たとえ話…?」

「そ、もし仮にお前に新しく女の子が生まれたとしよう。だが、その子の顔はとても醜悪だった。見るものすべてが不快感を覚えるような…な?」

「うむ…?」

「そんな子供が生きているのが許せないと、他の長老が言ったとしよう」

「う、む?」

「お前にとっては見た目は酷くとも、可愛い娘。だが周りの奴等は醜悪なお前の娘を殺そうとする…それをお前ならどうする?」

「もちろん匿うし、なんなら戦ってでも娘を守るに決まっているだろう」

「それをハウリア族とシアに置き換えて考えてみようか」

そう言うと、苦々し気な顔をした熊亜人。

どうやらわかってくれたらしい。

やれやれ、人に説明するというのも大変だなぁ…

果たして他の長老たちもこれでわかってくれただろうか…

「…お前の言いたいことはわかった。それと…ハウリアたちの味わってきた辛さも、なんとなくだがわかった…」

そう言うと、カムの方に俯きながら歩いて行った熊亜人。

ハウリアたちは何が起こるのだろうと戦々恐々として一か所に固まった。

そんなハウリアを無視して、熊亜人は…

「すまなかったッ!!」

大きな声で謝罪して、ハウリアたちに向かって土下座をした。

「…え?」

状況が把握しきれないのか、間抜けな声を出したカム。

他のハウリアもみんな同じような反応をしていた。

「私は…いや、我々は!一方的にシア・ハウリアを忌み子とし迫害したばかりか!ともに過ごしてきた同胞たちであるハウリア族の皆すらも反逆の意志ありと勝手にみなし!殺意を向けてきた!!とても許されることで無いことはわかっている!お前たちの苦しみを理解したなんていうつもりはない!!だが!謝罪させてほしい!!すまなかった!!」

頭を下げ、謝罪し始めた熊亜人に、周りの亜人たちはとても驚いていた。

ようやく状況を理解したのか、慌てて頭を上げるように告げたカム。

「そ、そんなおやめください!隠してきた私たちが悪かったのです!」

「…いや、そんな…」

お互いがお互いに謝り合うという不毛な争いをしているカムと虎亜人。

しばらくの間はハジメも俺も静観していたが、途中であまりにも長すぎてストレスが溜まってきた。

「…なぁもういいんじゃないか?お互いに許し合っているみたいだし」

「いえっ、ですから私どもの方が…」

「そんなこと…」

「いや話聞けや」

俺の言葉を無視して、謝り続ける二人。

いい加減に…キレても…いいよね?

流石に攻撃してやろうかと思ったが、俺よりも早くハジメが動いた。

ドパンッ!!と乾いた大きな音が響いて、二人の口論(という名の謝り合い)を途切れさせた。

何事?とハジメの方を同時に見た二人。

それに、こめかみに青筋を浮かべながらドンナーを上に向けたまま硬直しているハジメ。

その口元は笑っているように歪んでいたが、その癖怒気が溢れていた。

「…お ま え ら」

「「アイエッ!?」」

「イ い カ げ ん 二 シ ろ ヨ ?」

「「アッ、ハイ」」

待たされたストレスが、奈落で小さくなってしまったハジメの器から零れたのだろう。

全身から赤黒い瘴気が漏れ出ていた。

ハジメの殺気で、ようやく話を終えた二人。

まったく…長かったな。

「…その…勝手に言ってしまったが…こ、こいつらを…ハウリア達を…見逃してやっては…」

「…構わんよ。私も一人の娘を持つ身…何故子を思う気持ちをわかってやれなかったかと疑問なくらいだ」

「僕も問題ないよ。彼の例えがあまりにもわかりやすすぎてね…想像からの絶望、余裕だったよ」

「儂もいいぞ。聞いてようやくわかる事と言うのもあるんだなと思ったわ。…何より、他ならぬジンが言ったのだからな」

「私も構わない」

「ッ…かたじけない…ッ」

全員に色よい返事をもらい、涙を流しながら頭を下げた熊亜人。

もはや我がことのように感じているように見えた。

そんな熊亜人の姿に胸をうたれたのか、涙を流しているものまでいるハウリア族達。

しばらくの間感動的な空気に包まれていたが、老人…いやもう面倒くせぇ。アルフレリックが咳払いして話を進めた。

「…それでは…逢魔時王及び南雲ハジメ、ユエの、資格を持つ三人の滞在を許可し…忌み子を匿っていた罪を問われていたハウリア族達の罪は帳消し。並びにシア・ハウリアは忌み子ではなく、他の兎人族と同じく同胞として扱うことにする…そして、資格者である逢魔時王、南雲ハジメ、ユエの三人を真なる大迷宮の可能性が高いとされる大樹への案内をハウリア族が担当することとする。以上で問題ないか?」

「あぁ。…お前らはいいか?」

「はい…ありがとうございます…本当に…ありがとうございます…ッ!」

俺の言葉に、涙を流しながら答えたカム。

窮地を脱することができたのが嬉しかったようだ。

「ジオウさん!」

「うぉっ…どうしたシア?いきなり飛び掛かってきたりなんかしやがって…」

これまた涙で顔を濡らしながら、俺に突進してきたシアを受け止めながら、殺気のせいで来ているコートの端の部分が浮き始めているユエを目線で落ち着かせようと奮闘する。

あっ、待ってユエさん魔法使おうとしないで?

そんな思いを込めてユエに視線を送ると、何かを納得したように、嬉しそうな顔をして舌なめずりし始めたユエ。

…絶対何か勘違いしてますよね?まぁいいけど。

諦めも肝心だと思いながら、いまだ俺に抱き着いているシアを引っぺがし、話を聞く。

一体何用だってばよ。

「いえっ…そのっ…重ね重ね、ありがとうございます…っ」

「…おう、どういたしまして」

気にするな、と言おうと思ったが、ここは素直に受け止めておくべき場面だということに気づいたので、しっかり返事をする。

しばらく俺の胸元に顔をうずめていたシアも、すぐに顔を上げて(ついでに俺の服で顔を拭いて)笑顔になった。

俺は、泣いている間(というよりも俺の胸元に顔をうずめている間)に、再び目の色を消して、最上級魔法を発動しようとしたユエが何とか落ち着いたことしか頭に無いんだが。

「…じゃあ、お前さんたちを泊める場所まで案内しよう」

ついでにハウリア族全員もそこに宿泊するといい…と言って、アルフレリックが部屋から出た。

有難くついて行った宿は…何というか、その…ツリーハウスだった。

中々いい感じだと思ったが、そんな狭い小屋に全員入るかと不安になった。

まぁ実際は見た目に反して中身が広かったからよかったのだが。

「…じゃ、寝ようか」

「あぁ。明日はどうする?」

「…霧の中の戦闘訓練でもする?」

「あー…視界が悪い場所での戦闘は俺の能力で簡単になっているが…まぁ、やっておくに越したことは無いか」

「それもそうだなぁ…俺はブランクライドウォッチをライドウォッチにするための何かを掴んでおくのも必要だろうしな」

それだけ話合うと、俺達は二人と一人で寝ることにした。

もちろん俺とユエが二人で、ハジメが一人だ。

…その晩、隣のベッドにハジメがいるにも関わらず、ユエが求めてきたのはいい思い出だ。




まさかの熊亜人生存ルート(まぁ原作でも死にかけただけで死んではいないのですが…)。
熊亜人が襲ってくるというイベントが無い状態での魔改造…ウサギたちの末路が目に見えm(首が転がる音)


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侵略→歴史消去→強さの渇望

今回、途中が少し不快な気持ちにさせてしまう可能性がある内容なので、そう言ったものが苦手な方は少し飛ばして読んでください。



時王side

俺達がフェアベルゲンに滞在してから九日…

大樹の霧が晴れる周期が明日に迫った日の夜の事だった。

夜も遅く、眠ろうとしていた俺達の部屋の外…いや、小屋の外から爆音が聞こえてきた。

祭りか?と寝ぼけ眼を擦りながらそとに出ると、フェアベルゲンの集落が焼け野原になっていた。

涙を流しながら両親を探す子供や、瓦礫の下敷きになって動けなくなっている老人。

さらに悲惨な者は、体が火だるまになりながら悶えている者もいた。

…一体、何が起こった?

素早く部屋の中にユエとハジメがいるかを確認する。

二人は無傷でそこにいて、外の世紀末的な光景を見て呆然としていた。

…若干、ハジメが嬉しそうにしていた気もするのだが…

そこまで考えて、あることを思い出した。

…ハウリア達は?

原作と違い(違う気がする)、迫害されることもなくなったため、力を手に入れようとしなかったために…

今、彼らは原作のような隠密能力を生かした戦闘も回避も潜伏も不可能のはずだ。

シアも、原作と違い、力を手に入れるために戦闘訓練を受けるということをしなかったから…

それを悟った瞬間、俺はすぐさま外に飛び出した。

何があったかは関係ない。…ただ、守るといった奴くらい守らなくてはと思ったのだ。

暴力的な火柱が星空を凄惨に染めている夜の町を走りながら、万が一の時は時間を消すことを考えた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

三人称視点

事態は、時王が目を覚ます数時間前に遡る。

集落の周りを見回りしていた亜人たちが、なぜか森の中に入り込んでいた帝国兵の一団に遭遇したのが事の発端だった。

「…チッ、ハズレか…おいお前!死にたくなかったら亜人共の集落の場所か…もしくは白髪の小僧二人と金髪の女の三人組の場所を教えろ!」

「…っ、貴様ら…!!」

遭遇した瞬間、ハズレと悪態をつかれた亜人は、怒りのままに…されど冷静に帝国兵に攻撃を仕掛けた。

「んだよ、死にたいらしいな…後衛!魔法詠唱!前衛で畳かけるぞ!」

「「「「「「了解!!」」」」」」

持ち前の身体能力を生かして飛び掛かって来た亜人。

その速度はとても常人では視認することも困難だったが、帝国兵たちは慌てることも怯えることもなく攻撃の速度を殺し、そのまま手に持った刃を亜人の腹部に突き刺した。

「ぐぁっ…!?」

よろけたところに後衛の火球×3が放たれ、亜人は一瞬で炭と化した。

それにさらに怒りを覚えた亜人たちは、今度は真正面から行くのではなく攪乱してから攻撃する方法に転換、しかし、相手は帝国兵の中でも精鋭中の精鋭と呼ばれるレベルの者達(ただし時王が一瞬で殺した奴等の方が精鋭)だった。

瞬間的に狙いと攻撃してくる位置を予測し、それにあった最適な戦闘隊形をとる。

だがそれだけで対処しきれるような者達ではなかった亜人たち。

最初の狙いを急遽変更し、素早く別陣形での攻撃に転換。

それに合わせてさらに帝国兵が…

そんなハイレベルな戦いを繰り広げていたが、流石に魔法を使う相手には分が悪く、亜人たちが敗走する形になってしまった。

何とか集落に逃げ帰った亜人たちだが、それは大きなミスだった。

帝国兵たちが、亜人たちに対して、魔法を受けた相手の居場所を知ることのできるアーティファクトを使って魔法

を発動していたのである。

それにより、迷うことなく亜人たちの集落の居場所に向かって、先程の帝国兵たちの数とは比べ物にならないくらいの帝国兵がやってきた。

そのせいで、時王が起きた頃には集落は焼け野原になっていたのである。

さて、その帝国兵の一団…いや、軍が攻め込んできたときの事だ。

ハウリア族は、帝国兵の攻め込んできている所の近くにいたのだ。

その結果、帝国兵が挨拶代わりに放った火矢にあたり、沢山の男が死んでしまった。

「て、帝国兵だぁあああああああ!!!」

「て、敵襲!敵襲ぅー!!」

絶叫が集落内を満たした。

敵襲を知らせる声で、戦える亜人たちが前に出てきたが、その全員はつい先ほどまで眠っていたり、ハウリア族への謝罪の会という名の宴で酒を浴びるように飲んでいた者達。

とてもまともに戦えるわけもなく、帝国兵たちの攻撃に次々と屠られていった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

三人称視点

(逃げなきゃ、逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ!!!!)

周囲から聞こえてくる他の人達の泣き声や絶叫に心を痛ませながらも、自分を追ってきていた人たちがまだついてきていることを知り、さらに逃げるシア。

心の中で、ひたすら逃げることを考えようと絶叫するも、あまり効果はなかったようで、時折聞こえてくる声にビクッと震えたりしている。

(一体どうして!?)

目を覚ました時には、すでに帝国兵が自分たちを襲ってきたのだ。

そう思うのは無理はないだろう。

困惑しているような表情のまま、自問自答しているシア。

まぁ自答はあまり出来ていないから、思い浮かぶ疑問をひたすら心の中で叫んでいるだけなのだろうが。

靴を履かずに走っていたせいで、足に肉刺ができ、それが潰れて痛みが熱のように感じられている。

だが、止まったりしたら死よりも辛い凌辱が自分を襲うだろうから、と歯を食いしばって逃げ続けるシア。

ある程度逃げたところで、追手はいなくなった。

(諦…めた…?)

荒く息を吐きながら、改めて周囲を見渡す。

昔よく遊んだ広場に、死体が転がっている。

首と胴体が離れているもの、脳天に矢が刺さっているもの…中には、同じ女として同情するような…無理矢理犯されて死んでいるものもあった。

それを見て、こらえきれず嘔吐する。

ゲホッゲホッとむせてから、涙で顔を汚しながらも歩き出す。

足の痛みは、もう麻痺してきていた。

(今は…みんなを…同じハウリア族(家族)の皆を、同じ亜人族の皆を…私を助けてくれたあの人…達を探しましょう…)

そう考え、泣きわめきたい気持ちを抑えて歩き始めたシア。

だが、その足取りはまるで幽鬼のようでおぼつかなく、夢遊病者の様だった。

なんの計画性もなく歩いていたシアだが、足に何かがぶつかったことで足を止めた。

「え………ひっ!?」

足元にぶつかったソレが何かを認識して、悲鳴をあげそうになる。

だが悲鳴をあげたりなんてしたら帝国兵に居場所がバレてしまうと思ったからと、何とか口元をふさいで堪えた。

(嘘……………)

転がっていたモノ、それは…

「パル、くん…………?」

自分の事を、シアお姉ちゃんと呼んで笑顔を向けてきてくれた少年。

花が好きで、よく自分に花を摘んでくれた少年。

そんな少年の、生首だった。

「な、なんで…そんな…」

心が折れそうになったが、なんとか堪えて立ち上がる。

恐らく、これも帝国兵の仕業だろう。

フラフラと歩き始めたところで、再びシアを絶望が襲う。

「あ、あれって…」

曲がり角の先から覗いているウサミミを見つけ、逸る気持ちを抑え、ゆっくりと用心深く近づいて行く。

そこには…

「オラッオラッ…おいおい、コイツもうへばってますぜ?」

「ったく、つまんねぇなぁ…ま、まだ死んでねぇしいいだろ。ていうかお前早くしろよ。次は俺の番だぞ」

「そう言いながら口をさっきからずっと占拠してるのボスじゃないですかぁ!」

「そう言いながらお前もう一人の方使い続けてるだろうが!憎いぞ!!」

下卑た表情で愉快そうに自分の友人の…ラナとミナの二人を犯している帝国兵達がいた。

「…な、なん…」

「…あ、おい!あれってあの噂の兎人じゃねぇか!?」

「っ!?しまっ…」

「見つけた亜人は早い者勝ちだしなぁ…俺達でいただくとしようぜ!」

旧知の仲の二人がレイプされているところを目撃したせいで硬直していたシアの背後から、別の帝国兵の声が聞こえてきた。

「に、にげっ…」

逃げようとしたシアだが、魔法が足に当たり、転んでしまった。

「あ?コイツ前に隊長が言ってたやつじゃね?」

「オイオイまじかよ最高じゃねぇか!こいつ等と一緒に犯してやろうぜ!」

「ふざけんなよ!こいつは俺達が先に見つけてたんだぞ!!」

「まぁまぁ、もめるのは最初だけですって」

「でもよぉ…ま、先にコイツ脱がせるか」

少しの間もめた帝国兵達だったが、すぐにシアの方に意識を戻し、服に手をかけた。

抵抗しようとしたものの、帝国兵達に服を剥ぎ取られ、全裸にされてしまったシア。

「い、いやぁ!離してぇ!!」

「暴れんなって!…オラッ!」

泣き叫びながら抵抗するシアの顔を殴り、抵抗をなくさせようとした帝国兵。

そのズボンにはテントが張られていた。

しばらくの間抵抗していたものの、体力が尽きたせいで動けなくなってしまったシアに、帝国兵の一人は、もう我慢できねぇといいながらそそり立ったイチモツをだし、シアの秘部に押し付け…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようとした瞬間、ベチャッとトマトが潰れるような音をたてて頭が破裂した。

「…なっ…」

一瞬で物言わぬ屍と化した帝国兵を蹴り飛ばしたのは、先程までその場にいなかったはずの時王だった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

音速…いや、もはや光速で移動しながらシアたちを探していたら、とんでもない場面に遭遇した。

危うく薄い本のような状況に陥るところだったが、それを帝国兵一人とか言うどうでもいい犠牲で防ぐことができた。

全裸のシアに、俺の上着を無言で着せてやってから、ライドウォッチを2つ創り出す。

『電王』

『ファイズ』

ボタンを押し、デンカメンソードとファイズブラスター(武器)を両手に召喚する。

いきなり武器が現れてか驚いて硬直している帝国兵達を脅すように、デンカメンソードを地面に突き刺し、ファイズブラスターの143のボタンを押す。

『Blade Mode』

剣の状態に変化したファイズブラスターを地面に刺し、デンカメンソードを手に持ち、レバーを四回引く。

『ウラロッド』

『キンアックス』

『リュウガン』

『モモソード』

必殺技待機音を奏で始めたデンカメンソードを片手で持ち、地面に刺してあったファイズブラスターブレードモードを逆手持ちする。

デンカメンソードを持っている右手の小指でファイズブラスターブレードモードのエンターキーを押して、さらに必殺待機。

『Exceed Charge』

赤く発行し始めたファイズブラスターブレードモードの刃部分と、自分たちの足元に迫ってきている線路を見ておののく帝国兵達。

だがそれを気にせずに、俺は線路に飛び乗り、何かに後押しされるかのように動き始めた。

「死体も残らず死ね。逢魔鉄道555(スリーファイズ)斬り!」

ファイズの武器も一緒につかっているのに、電車斬りだけでは味気ない気もしたので、ファイズ要素と俺の力…オーマジオウ要素も入れておいた。

それに加え、ネーミングは雑にした。

良太郎のネーミングセンスばりにダサくつける方が、何というか…かっこいい気がしたからだ。

だから555でスリーファイズなんて無理のある読み方をするようにしたのだ。

別にどっかの銀河鉄道を意識しているつもりはない。断じて。

俺の斬撃をうけた帝国兵達は、一瞬で塵になった。

ついでにその余波で近くに感じていた帝国兵の反応も消滅させた。

「…大丈夫…じゃ、なさそうだな」

確認がてら大丈夫かと聞こうと思ったが、流石にそれは必要ないということで、シアの傷を時間を戻すことで治し、手を取って起き上がらせる。

「…あの、ジオウさん…」

「…何も言わなくていい。今は…」

悲痛な面持ちで何か言おうとしたシアの言葉を遮り、抱きしめる。

驚いたのか、ビクッと震えたシアだったが、すぐに抱きしめ返してきた。

それを安心させるように頭を撫でながら、優しく話しかける。

「今は、泣くといい。辛かっただろ?苦しかっただろ?…安心しろよ、何があっても守ってやる」

「………うっ、ひぐっ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!どうしてっ…どうしてぇ…パルくんもラナさんも、ミナさんも…他にもいっぱい!!みんな、みんなが…どうしてぇ…!?」

堰を切ったように泣き出したシアを、無言で撫で続ける。

そりゃぁこうなるだろう。

いきなりこんな地獄絵図を味わうことになるなんて、誰も思ってなかっただろうし。

俺もそうだったし。

何より…

チラリと、床で気絶している二人の兎人に目を向ける。

全身がぬるぬるした気持ち悪い白濁とした液体に汚されていた。

…明らかに、ねぇ…

良く知る友人がそんな目に遭わされているところに遭遇したシアの気持ちは…とてもだが、想像できる範疇を越えている。

しばらくの間泣いていたシアだが、落ち着いてきたのか俺の胸元から顔を離した。

「…ありがとうございました…」

「気にすんな。俺にできるようなことなんて、これだけしかないんだから」

「…そんな、こと…」

そう言いながら俯いたシア。

ま、この現状を好転させるいい方法はあるんだがな。

一応シアに確認とっとかないと…

「なぁ、シア」

「…はい…?」

「この状況をなんとかできるなら…なんとかしたいか?」

「…どういう、ことですか…?」

俺の言葉に、訳が分からないと首を傾げたシアの目を見ながら、話し続ける。

「…俺は、時間を自由に操る力を持っているんだ」

「………………………っ!?もしかして…!」

「あぁ、こうなる前…そうだな、ざっと九日前くらいに戻そう。もちろん、お前の…ついでにハウリア族全員の記憶を残したまま、な」

「戻してください!」

俺の説明に、食い気味に反応したシア。

それに対して、落ち着けという風に手で制しながら念話でハジメにも話をつける。

いい返事をもらったので、早速この俺達にとって悪い歴史を()()()()()()()()()()

手を上に向けて、金色のオーラを溜めた瞬間、景色が剥がれt

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

「ここがお前たちの泊まる予定のスペーs」

「なっ!?い、いったい何が!?」

「…どうかしたのか?」

いきなり声を荒げたカムに、驚いたように目を丸くしながら質問したアルフレリック。

それに、どうしたもこうしたもあるかという風に答えたカム。

「何を言っているんだ!!だってさっきまでは帝国兵に襲われていて、私はもう死んd」

「落ち着けカム、説明してやるから…アルフレリックもな」

カムを…というより全員を落ち着かせながら説明する。

俺の説明を聞いて、信じられないというような反応を見せる面々。

ハジメとユエも、流石に今回の俺のやったことには驚かずにはいられなかったらしく、事態が呑み込み切れないというような反応をしていた。

「…ま、無理に信じろとは言わねぇよ…わかることはただ一つ。九日後に帝国兵が襲ってくるってことだけだ。その後は…ハウリア達が一番覚えてるんじゃないのか?」

それを聞くと、恐怖に震えだしたハウリア達。

何があったのかを、その怯えているハウリア達から察したアルフレリックは、俺の方を見て、目でどうすればいい?と聞いてきた…ような気がした。

だから、俺はしっかり答えてやることにした。

「…お前ら、どうしたい?」

「…え?」

「このまま、九日後に来る帝国兵に、前みたいに好き勝手されたいか?」

「そ、そんなわけないでしょう!?」

「…言っておくが、俺も確かに俺かハジメかユエ…それと、依頼主のお前らは守るが、他を守る気はないぞ?」

「なっ…」

「驚くか?別にメリットデメリットで考えたら簡単な話だろ?」

「…ですが…」

俺の言葉に、理性ではわかっていても本能的には良くないと思っているような反応を見せたカムを誘導するように声をかける。

「…まぁわかるさ。ようやく和解したんだもんな。守って欲しいよなぁ…じゃあどうすればいいと思う?」

「どうすれば…って」

「簡単だろ、お前らが強くなれ」

「っ、無理ですよ…そんな事。私たちは最弱種族の兎人族ですよ?そんなのが…最強種の熊人族でも勝てないような帝国兵に敵うわけ…」

「…チッ」

自嘲気味に言ったカムに、舌打ちして威圧を発動したハジメ。

…あーあ、怒らせちゃった。

「ふざけてんじゃねぇよ。何やる前から諦めてんだ?あ”ぁ”?」

「ひっ…し、しかし…」

「しかし、じゃねぇよ。このウサギ…シアには話したがよ。俺だって無能って呼ばれてたんだぜ?もちろん時王も。それでも、ここまで強くなった。奈落から這い上がってこれた。そうだろ?」

「む、無能?そんなまさか…」

「そのまさかだ。最弱で、弱くて…非戦闘職だったからな。余計に無能扱いに拍車がかかってたよ。時王なんて、天職が閲覧不可になってたんだぜ?」

「…そ、それなのに…」

「そうだ、それなのに強くなった。時王なんて自分から魔王を名乗りだしたレベルだ」

「ハジメ、さり気なく俺の事馬鹿にしてないか?」

「…俺だって、錬成の力を使ってドンナーとかシュラークとか…そう言う武器をたくさん作ることができた」

俺から目をそらしながら言ったハジメをジトッと睨みつける。

だが、ハジメは冷や汗を流すだけでどこ吹く風だったので、諦めてカム達の方を見ることにした。

「お前らは、地力で言えば俺達の初期ステータスよりも何倍も強いだろ?さらに言うなら、俺達と違って戦闘向きの技能だってあるはずだ」

「…隠密と、索敵…?」

「そう、それだ」

「その二つを鍛えて、さらに戦闘に対しての苦手意識などの克服、ステータスの向上さえすれば…お前らは最強の種族にすらなれる」

俺とハジメの太鼓判を受け、やる気を漲らせ始めたハウリア達。

「…さて、最後に聞くぞ…どうしたい?」

俺の質問に、ハウリア達は、当然の如く答えた。

「…強く、なりたい…」

「帝国兵も…いや、帝国兵だけじゃない、ほかの襲い掛かってくる人達も…」

「皆を守れて、戦えるように…」

「「「「「「強くなりたい!!!」」」」」」

ハウリア族全員の声に、頷き、アルフレリックの方を見る。

「そういう事だから…そうだな、こいつ等を強くするための特訓をしたい。だから…この宿に泊まらず、野宿することにしたいから…この集落を囲っているフェアドレン水晶の一部を何個かもらっていいか?」

「………構わないぞ」

少し考え込んでから答えたアルフレリックに感謝の言葉を告げ、外に出る。

…さて、ウサギ共の調教を始めようか。

「…駄肉ウサギ、貴方の調ky…特訓は私が担当する」

「う、駄肉ウサギってなんですか!ていうかさっき調教っていいかけましたよねぇ!?」

「…知らない。別に時王を狙う悪い虫を駆除しようなんて思ってない…思ってない」

「悪い虫ってなんですか!!駆除って…し、失礼ですねぇ!!」

「…その、仲いいのはいいんだけどさ」

「「よくない!!(よくないですぅ!!)」」

やけに息ピッタリで答えてきた二人に、呆れながらため息をつく。

「はぁ…ユエ、あのさ」

「ん、なに?」

「…死なない程度にしろよ?さすがに殺したらもう一度時間を戻す必要がある」

「…まあ、頑張る…ただ、不慮の事故はつきもの…」

「おまっ…もし殺したりしたら、しばらく構ってあげn」

「え…いや…なんで?どうして?何がいけないの?私がいけないの?悪かったの?なんで構わないなんてひどいこと言うの?ねぇ、どうして?答えて時王、答えて!!ねぇ!!私が嫌いになったの!?ごめんなさい、謝るから!だからっ、嫌いにならないで!捨てないd」

「落ち着け落ち着け…俺が悪かったから」

構ってあげないと言ったら、さすがに自重するだろうかと思ったが、襲う以上に精神的ダメージを与えていたらしく、目から一瞬で光が失せてしまった。

ユエの頭を撫でながらなだめて、何とか落ち着かせることができたが…

うん、この構ってあげないって言葉はもう使わないようにしよう。

遠い目をしながら、俺は堅く誓うのだった。




確かに今回の内容がこんなになったのは、私が和解ルートを選んだのが原因だ。
…だが私は謝らない。

そう言えば、R18版が音沙汰なかったでしたよね。
…データまた吹っ飛んだんで、かなり先になります。
なんのための数千字だったのか。
しかも、自動保存が何故かなかったせいで、最初から書き直しという始末。
うっそだろお前(涙目)


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魔改造/ウサミミ少女と吸血姫

本日最後の投稿。
作者の学校の都合(宿泊研修)により、しばらく更新ストップしますが、作者は死んでいないので大丈夫です。
エタることもないはず…です。
もしエタることになっても生存報告は必ずしたいと思いますので。



時王side

特訓開始から数時間たったんだが…

「うっ、うぅぅぅ…すまない、すまないぃ…」

ナイフが体に刺さった状態で息絶えている魔物に、涙を流し嗚咽しながら謝罪する兎人。

それは、まるで…なんだろう、一時の劇場に身を任せて親友を殺してしまった後かの様だった。

「ぐぁっ!?…がはっ、ふぅ、はぁ…こ、これが…名もなき彼を殺した、私に対する罰というわけか…」

カムは、ネズミのような魔物に体当たりをされて、涙ながらに死を受け入れようとしていた。

こっそり時間を戻して回復させておいたから問題はないが…

うん。原作通りの気がする。

ただ、少し違うところがあった。

それは、女兎人族の方である。

「…」

女兎人たちは、皆一様に無言でハジメから支給されたナイフを振るい、魔物を殲滅していた。

中には、もうすでに自分の隠密能力を活かして陰から攻撃したり、おびき寄せて複数人で殺したりと、かなりの高等テクニックを披露していた。

その目に光は無く、狂気に憑りつかれているようだった。

…まぁ、ね?レイプされたときの記憶があるわけだし…多少はね?

もう一度、カム達男兎人の方を見る。

彼らは、いまだに涙ながらに刃を振るい、時折攻撃を喰らっては自嘲気味に笑い、慰め合っていた。

それを黙ってみて居られるような俺達ではない。

「「いい加減にしろお前ら!!」」

「ど、どうしましたか…?」

いきなり声を荒げた俺達に、訳が分からないというように尋ねてくるカム。

そんなカムの方にズカズカと歩み寄り、ハジメがカムのウサミミを掴んだ。

「…」

「えっと…その…一体何g」

「“纏雷”」

「アババババババババババババッ!?」

いきなり目の前で族長が電撃を喰らって気絶したのを見て、恐怖に慄いている他の男兎人たち。

「…お前らさぁ…恥ずかしくないの?」

「は、恥ずかしい…?」

俺の言葉の意味が分からなかったのか、首を傾げた男兎人。

そんな男兎人たちに、女兎人の方を見るように伝える。

「見ろ、アイツらを」

「…なっ」

女兎人たちの方を見て、驚愕していた。

まぁしょうがないわな。自分たちと同じく温厚なはずの奴らが、魔物をひたすら無言で狩り続けてるのを見たらそうなるだろう。

「アイツらは、もう二度とあんなことにならないようにするために必死になって殺している。胸の内じゃ怖いんだろう、罪悪感もあるんだろう…それでも、アイツらは殺してる。それに比べてお前らはなんだ?魔物一匹殺すのにすら躊躇して泣きわめいて…気づいてないと思ったか?お前ら虫とか花とか避けて歩いてるだろ」

「そ、それは…」

「ま、いきなり自分で自分を変えれるなんて思っちゃいねぇさ。俺もハジメも、とんでもない状況に追い詰められた李、とんでもない事実を伝えられたりしなきゃ変われなかった…」

「な、なら…」

「だから」

それだけ言うと、ハジメと目を合わせ、頷き合う。

「「今から俺達がお前らを殺す。殺されたくなかったら逃げろ。道中出てくる魔物も自分たちで殺せ。俺達のどっちかにかすり傷でもつければ合格、合格しなかったら飯は無し…もしくは、その辺の魔物を食うかだ」」

「「「「「…は?」」」」」

「あぁ、魔物食べる時は言えよ?渡さなきゃいけないものがあるからな」

「え、いやその…」

「じゃ、数えるぞー…五、四、三、ニ…」

「に、逃げろぉおおおおお!!」

理解しきれていなかったようだが、俺達がカウントを始めたからか、その場を素早く離脱し逃げた。

「…零。行くぞハジメ。死体はちゃんと俺の方に渡せよ?」

「あぁ、わかってるって」

それだけ言うと、それぞれ別方向にゆっくりと歩き始めた。

…ユエに殺すなと言った手前あれだが、そうでもしないとアイツらは変わらないだろう。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ユエside

「とぉりゃぁあああああああですぅ!!」

背後から聞こえてきた声に、緩慢な動作で反応しながら、魔法を二個同時発動する。

時王に殺傷能力が高いやつと、火属性の魔法を制限されてるから、使える魔法はかなり少ない。

あまりワンパターンだと見切られる可能性だってあるから、火属性も許してほしかったが…

「“凍柩”、“嵐帝”」

駄肉ウサギを凍らせ、突風で氷を砕きながら吹き飛ばす。

あわよくば凍死しないだろうかと思ったが、相手はかなりしぶとかった。

「ぴくちっ、うぅぅぅぅ…死ぬかと思いました…」

「…チッ、死ねばよかったのに」

「い、今死ねばよかったっていいましたぁ!!なんでそんな当たりが厳しいんですか!!」

「…わからない?あなたが…時王の悪い虫だから」

「じ、ジオウさんは今関係ないでしょう!?」

「大あり。私の時王に手を出そうとした罪は…駄肉ウサギの命程度では償えない」

「ちょっ、いいすぎじゃないですかね!?」

「…“水糸”…“雷撃”」

騒ぎ立てる駄肉ウサギの周囲を、細い糸状にした水で包囲し、雷撃で攻撃する。

見えない水の糸が電気を通し、高圧電線(時王が教えてくれた。時王の世界にあるものらしい)となる。

それに触れる度、駄肉ウサギがビリビリと感電し、絶叫する。

まぁ死なない程度に抑えてあるから問題はないはずだけど…

「…う、うぅ…わ、私だって魔法を…!!」

「…適正、あるの?」

「わ、わかりません…けど、いけるはずです!!えーい!“嵐帝”!!」

あざとい動きで私の方に手を突き出してきた駄肉ウサギだったが、魔法は発動しなかった。

そればかりか、魔力が手に集まっただけで、何もなかった。

「あれぇ…?風の魔法は私にあわないんですかねぇ?」

「…駄肉ウサギ、いいこと教えてあげる」

「いいこと?…ていうか駄肉ウサギはやめてくださいよぉ~…」

涙目になりながら訴えてきたが、しっかりと無視。

そのまま、率直に駄肉ウサギの魔力の特徴を教える。

「駄肉ウサギの魔力は、多分遠距離に行かない」

「えぇっ!?」

「…その分、体を魔力が移動する速度が異常…私よりも、ハジメよりも早い…」

「じ、ジオウさんよりは遅いんですね…」

「…駄肉ウサギは、時王のステータスを見たことが無いからそんなことが言えるだけ」

そう言いながら、時王のステータスを思い出す。

まるで、子供の妄想。

まるで、語彙力のない大人による強者の説明。

もはや、神の領域…いや、それ以上?

「…とにかく、駄肉ウサギは身体強化向きだと思う」

「し、身体強化?」

「そう。魔力の循環が異常に早いから、身体強化の適正率が高い…はず」

「…でも身体強化ってどうやってやれば…」

「…強くなりたい、って思ったらいいんじゃない?」

私は身体強化向きじゃないから、よくわからないけど。

…あ、そう言えば前に時王が…

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『知ってるか?魔力をこう…手に集めた状態で拳を振るうと…』

ズガァンッッ!!!

『こうやって、硬い石でも粉々にすることができる。ユエの攻撃力不足もこれで補えるんじゃ…え?無理?』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みたいなことを言っていた気がする。

「シa…駄肉ウサギ、魔力を右手にだけ集中させてみて」

「あっ!今シアって言いかけましたよね!!言いかけましたよね!!私の名前言おうとしまs」

「うるさい、“風刃”」

「わわっ!?あ、危ないじゃないですかぁ!…それで、右手に集中させる?」

「ん。やってみて」

私が促すと、右手をむぅ~、と言いながら凝視し始めた駄肉ウサギ。

別にさっき名前を言いかけたりなんかしてない。

少し間が空いて、駄肉ウサギの右腕に魔力が集まっていった。

最初は微量だった物が段々増えていく。

次第にそれは色がついて、目に見えるようになってきた。

「お、おぉぉぉぉ…ですぅ…」

「それってキャラ付けの語尾だったの?」

「なっ、違いますぅ!!失礼ですね!!」

ギャーギャー騒ぎながらも、手に魔力を集めるのはやめていない様子に、少しばかり感心する。

私でも一部に集め続けるのを続けるのには若干集中がいるのに…ムカつく。

しばらく抗議の声を聞き流していると、駄肉ウサギの右手の魔力の色がさらに濃くなり、空気が振動し始めた。

「…すごい」

「えーっとユエさん、これってどうすれば…?」

「…勢いよく地面を殴りつけてみて?」

「地面を…?えいっ!」

私の言葉に、首をかしげてから腕を地面に叩きつけた。

次の瞬間、私は()()()()()

「え…?」

「わっ、わわっ…!?」

尻餅をつきながら周囲を見渡すと、シアの殴った所を中心として大きなクレーターが出来ていた。

…もしかして、今ので私のいた場所まで壊したの…?

自分でも魔法の同時発動でようやくできるようなレベルの破壊行為を容易く行われたせいで、プライドに傷がつく。

…このウサギ、生きて返さない…

「す、すごかったですぅ…我ながら…こ、この感覚をうまくつかむことができればユエさんにも勝てる…そしてジオウさんについて行くことだって…」

「そんな事、許すと思う?」

そう言いながら、時王に練習するように言われていた完全無詠唱による魔法発動を行う。

同時に三つの異なる属性の魔法を放たれたせいで、反応しきれずダメージを受けたシア。

「なっ、いきなりすぎません!?」

「知らない…!」

風刃を複数の方向から放つ。

これも時王にするように言われていた練習で出来るようになったことで、魔力の操作を極めることで、自分から遠く離れたところから魔法を連続して放ち続けることができるようになったのだ。

「わっ!?ちょっ…なんか攻撃が苛烈すぎません!?」

「無駄口叩く余裕あるの…?」

大量の水を上空から流し、それを氷魔法で凍らせ、風の槌で砕き、破片を全方向に散らす。

それでもウサギは傷がつかないばかりか、攻撃を見切って身体強化された腕で壊したりしている。

偶に私の方に跳ね返してくるのがムカつく。

さらに攻撃の手を激しくする。

地面を隆起させて足場を奪いながら、水で目に見えないレベルの細さの糸を張り巡らせ、そこに電流を流す。

だが、駄肉ウサギは目に魔力を溜めて視力を上昇させて、水の包囲網を紙一重で回避し続け、私の方に迫ってきた。

だが、それはトラップだ。

「いつから私が火属性を使わないと錯覚していた…の?」

「しまっ!?」

地面から大量の火柱が出現し、駄肉ウサギを焼肉ウサギにせんと襲い掛かる。

時王から使うなって言われてた?…記憶にない。

「ど、どぉりゃぁぁあああああああああですぅ!!」

真っ黒こげになる…その直前に、駄肉ウサギは真横に伸ばし、その場で高速回転し始めた。

回転し始めると、その場に突風が吹き荒れ始めた。

火柱が強風にあおられて攻撃の手を緩め、ウサギを死の包囲網から脱出できるようにしてしまう。

「あ、危なかったですぅ…こ、殺す気ですかぁ!?」

「当たり前でしょ?」

私怒ってます、という風にあざとく声を荒げたウサギに、時王にアドバイスをもらって作ったオリジナル魔法を発動する。

この技を作るときは確か…

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『全属性の魔法を組み合わせたら、威力もすごくなるんじゃないか?』

『…前にやったけど、うまくいかなかった…』

『うーん…あ、そうだ。俺の故郷にある話なんだがな?魔法に限らずだが、その技を使うときに制約を加えると強くなるって話がある』

『制約?』

『そ、制約と誓約…制限することで、念はさらに強くなる…まぁこの場合は魔法だけどさ』

『…やってみる』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

私がこの技にかけた制約はただ一つ。

単純でかつ、私が最も殺意を抱ける相手の持つ条件…!

「全属性複合魔力砲、マスタースパーク(私の時王に手を出すな害虫)!」

それは、時王に好意を寄せる悪い虫にしか使わないという事…!

私の放った七色の魔力砲に、一瞬呆けた駄肉ウサギだったが、直撃する寸前、たった一瞬しか見えなかったが…

()()()()()()()()()()()()()()()

「わっしょぉおおおおおおおおおおい!!ですぅ!!」

裂帛の気合と共に聞こえてきた雄叫びが私の耳をキーンとさせた瞬間、私の全属性複合魔力砲(マスタースパーク)の勢いが弱まった。

まさか、と思いながらウサギの方を見ると、何とウサギは()()()()()()()()()()()()()()()()

「う、嘘…」

「ぉおおおおおおおおおおおおぁああああああああああああ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!ですぅ!!」

さらに気合を込めて叫んだかと思えば、ウサギの…いやシアの拳の力が強まり、私の全属性複合魔力砲(マスタースパーク)が押し返されてきた。

「で、でたらめウサギ…」

冷や汗が頬を伝うのを感じながらも、万が一のために、自分の方に戻ってくるマスタースパークを迎撃するためのマスタースパークを用意…

あ、無理だ。この魔法は、時王とつけ狙う蛆虫にしか使えないんだった…

どうしよう!?

この魔法は、全ての属性の魔法が対象の体を同時に襲う。

体が様々な責め苦に襲われるという事…燃やされながら凍り、強風にさらされながら雷撃を受け、土石流に直撃しながら水流に流され、極光に苛まれながら闇に精神もむしばまれる…そんな凶悪な魔法を生身で受けたりしたら、いくら私でも再生できる自信がない。

流石にそれはマズイと思い、回避の準備をする。

いや、すぐにその場を離脱する。

離脱した次の瞬間、マスタースパークは私のいた場所を破壊し、その先の森林すらも消滅させた。

「…はぁ、はぁ…い、今のはちょっと…死ぬかと思いました…」

破壊の跡がちょうどシアの前で止まっており、当の本人であるシアは、荒く息を吐いているだけでダメージは何処にも見られなかった。

「…強すぎ」

「ゆ、ユエさん…もしかしてあれって、奥の手ですか…?」

「…奥の手その1。ちゃんと他もある」

嘘ではない。

ただ、そのほかの魔法は完成していない。

時王の手を借りて練習しようとすると、どうしても時王に甘えるだけ甘えて終わってしまうのだ。

「ユエさん、勝負しませんか?」

「勝負?」

「そうです。私が十日間の内にユエさんに傷をつけれたら勝ち、傷をつけれなかったら私の負け」

「…それで?」

「…私が勝ったら、私を旅に連れて行くように言ってもらえませんか?」

「…は?」

「ですから、私がジオウさんに旅について行きたいと頼むときに、連れて行こうと言って欲しいんです」

「…そんな大きな報酬に敵う対価が、負けた時に支払えると…?」

「…そうですね、もし私が負けたら………ユエさんが喜ぶような私のできることってなんでしょう?」

「…ならそのウサミミと尻尾をもらう」

「ヴェッ!?」

「それで交渉成立…異論はなし、駄肉ウサギ…いや、シアの意見は求めない」

「い、いいですけどぉ…あっ!今シアって!」

「…認めてやってもいい。力だけは…でも、連れていくかどうかは、期間中に勝てたら決める」

それだけ言って顔を背けると、シアは嬉しそうに声を張り上げた。

…この戦い、負けるわけにはいかない…

勝って、シアのウサミミと尻尾を奪って…装飾品に加工して、時王にウサミミモフモフプレイをしてもらう…最高。

いくらすごい身体強化の適正を持っていても、私に勝つことはない…そう思って油断していたのを、私は後悔することになるなんて…その時は微塵も思っていなかった。




ユエさんのオリジナル魔法は、どっかの普通の魔法使いの恋符を思い浮かべてくれるといいです。
もちろん、MMD版。
制約と誓約のネタは、ハンター×ハンターで調べると出てくるはずです。
多分。
女兎人族の目は、とある魔術の禁書目録の方のシスターズ…10032の目が参考ですな。
あ”-、禁書の小説も書きたい…
でもこれ以上はなー…読者様方が許してくれないだろうしなー(露骨な視線)。
それとそらカラー(遠回しすぎて意味不明)さん、今回はアイワナしませんでしたよ。


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姫の敗北/兎人達(アマゾンズ)

今日のゼロワンも面白かったですね(挨拶)。
ユエのイメージになったキャラがゆかりん(じゅうはっさい)だったことに驚き。
いやまぁありふれについていろいろネットサーフィンしていた(それもたった数分)ときに見つけただけなんですがね。
はい、研修旅行から帰ってきた当日に投稿せず、内容を一回ほとんど消去したりして残念な出来のまま出した男ひま次郎です。
今回は、タイトルからわかる通り、少しだけ終盤の方で食人描写があるのでお気をつけてください。
ついでに、鷹山仁信者の方も見るのを勧めません。
僕も鷹山仁信者なので、この話を見返すことはできません。



三人称視点

「ウェイッ!ヴェイ!!ウェェェェェェイッッ!!ですぅ!!」

オンドゥルな叫びをあげながら戦槌を振り回すウサミミ少女、シア。

その攻撃を回避しながら、七色の極光を様々な方向、場所から撃ちだす金髪の吸血姫、ユエ。

二人の攻防は、周囲の地形を変えながら行われていた。

特訓九日目…帝国兵が攻め込んでくる当日だ。

「ウェイ!ウェイ!ウェイッ!!ですぅ!!」

「…その最後につけるですぅは、私の集中力を切らせる作戦?」

「なっ、違いますぅ!私の口癖ですぅ!!」

仲良さげに会話をしているが、お互いの殺意が具現化したような猛攻は互いに止めていないばかりか、その勢いを強めてすらいた。

「…“風神”、“雷神”」

ユエが、数百年前の大魔導士が開発した魔法を発動する。

その瞬間、右に暴風、左に雷の雨が現れ、シアを襲った。

だが、シアは裂帛の気合と共に戦槌を振るい、その両方を消し飛ばした。

「オラオラオラオラオラァ!ですぅ!」

連打(ラッシュ)の速さ比べ?…いい度胸」

不敵に笑った後、水の弾丸を一分間に七千発の勢いで連射し始めたユエ。

もはや何でもありである。

因みにだが、この水の弾丸、音速レベルの勢いで放たれているため、喰らったら体に風穴があく。

だが、音速()()で臆するようなシアではない。

目に魔力を移動させて攻撃を見切り、その全てを戦槌で散らしていった。

「なら…“風刃”、“石礫”、“極光”、“恐慌化”」

四つの魔法を同時に発動したユエ。

風刃と極光は言わずもがな。石礫はそのままの意味。

ただ、恐慌化は名前と違う能力が一つある。

この魔法は、相手を恐慌させる能力を持っている…だが、それだけではない。

恐慌させた相手のステータスを異常に減少させることが出来るのだ。

「どりゃどりゃどりゃぁああああああ!!!ですぅ!!」

頑なに語尾を固定しながら戦槌を振るい、魔法の全てを打ち消していくシア。

乱雑に振るっているかのように見える戦槌だが、その軌道は極めて合理的なものであり、たった十日だけでここまでできるようになったシアの才能は、師を担当しているユエですら舌を巻くものだった。

「そろそろ…私の奥の手ッ!見てもらいますよぉ!!」

「奥の手…?」

連続かつ同時に最上級魔法を乱発しながら、訝し気な顔をしたユエ。

これは時王が思っていることだが、ユエは時の王者であり本来のオーマジオウすらも越えるスペックを持つ自分の血を飲み続けたから、魔力の量が原作よりも異常になったのだろう。

そのせいで、最上級魔法を使っても魔力切れを起こさないばかりか、最上級魔法以外なら二十四時間年中無休で撃ち続けても微動だにしないレベルになっていた。

閑話休題。

シアは、戦槌を振るうのをやめ、ギチギチと音が聞こえてくるくらいに体をねじり、構えた。

その瞬間、魔力が爆発的なまでに戦槌に集中し、攻撃に転じていないにも関わらず、ユエに物理的な圧を与えていた。

これはマズイと感じたユエは、マスタースパークの魔法陣(本来なら不要だが、これから使う技を発動するには必要)を複数展開し、時王から手渡された()()()()にエネルギーを集中させた。

「全属性複合…極限魔力砲(ルナティックラストスペル)!」

ユエの手の構えた先に浮かぶもの…八卦路がエネルギー満タンだと言うように振動し始めた。

それと同時に、シアの方も攻撃のためを終え、戦槌を勢いよく振るった。

「ウェェェェェェェェェイッッッ!!ですぅッッ!!」

「ファイナルマスタースパーク…!!」

シアの戦槌から衝撃波が放たれ、それを向かい撃たんとばかりに八卦路から極光が放たれた。

八卦路の周りからは、赤や青などの星が円を描くように発射されていった。

シアは、再度衝撃波を喰らわせようということで構えを取り、ユエはもう一度攻撃される前に殺すという風に流す魔力の量を増やした。

星を消し飛ばし、一瞬はファイナルマスタースパークすら押し返しかけた衝撃波だったが、すぐに消滅してしまった。

だが、その隙間を埋めるように、再び先程レベルの衝撃波が、今度は二回ユエの方に向かって行った。

一撃目がファイナルマスタースパークと拮抗し、二撃目がファイナルマスタースパークを押し戻した。

押し戻されたファイナルマスタースパークと、八卦路から再び放たれたファイナルマスタースパークが衝突し、その時のエネルギーで、ユエの八卦路が粉々に砕け散った。

砕け散った瞬間、ファイナルマスタースパークが消滅し、それを好機と見たシアがユエに突撃した。

戦槌を使わず、身体強化のみでタックルしたシアの攻撃は、ユエに血を吐かせるまであった。

「…ま、負けた…?」

「…………………やったぁあああああああああああああああああああ!!!!ですぅ!ユエさんに!!勝ちましたぁ!!!」

呆然と呟いたユエを見て、感極まって叫んだシア。

ぴょんぴょんと跳ねながら自分の勝利を讃えているシアに、ユエの堪忍袋の緒が切れた。

「うざい、“凍柩”」

キレたユエの魔法に、氷漬けにされたシア。

その表情は笑顔のまま固まっており、見る人が見れば、一種の芸術品にすら見えた。

しばらく凍結しているシアを見て留飲を下げたユエは、シアを解凍し、温風を当ててやった。

九日間も一緒に戦い、極め合ってきた仲だ、ほんのすこーしくらいは優しさを見せる。

…時王の事に関してなら、容赦しないだろうが。

「ぴくちっ…う~、なんで凍らせてきたんですかぁ~…まぁ、それはもういいです。それよりもユエさん!」

「………なに?」

「もぉ~、『なに』じゃないですよぉ~!私を旅に連れて行くように、一緒に頼んでくれるんですよね?」

「……………なんの事?」

「あっ!誤魔化した!誤魔化しましたよ今!!わざとらしく間まで開けて!!」

スヒュー…スヒュー…と、お世辞にも上手とは言えない口笛までセットで誤魔化そうとしたユエに、シアは誰もいないところを見ながら、まるで訴えるかのように声を張り上げた。

無理矢理誤魔化そうとしていたユエだが、すぐに観念し、ものすごく嫌そうな顔をしながらも了承の意を告げる。

「………………わかった、ちゃんと一緒に頼む」

何故愛しの時王と一緒に行動することを許可したのか。それはユエのプライドが関係していた。

ユエが異常なまでに依存している時王は、どんな小さな約束であろうとも守っていた。

どんな小さなものでも、である。

その姿を見てユエは、時王の最愛の女(パートナー)である以上、約束を守らないなんて時王のポリシーに反するだろうことはできない…と思った。

実際、こんな口約束は直ぐになかったものにしても良かった。

だが、この約束の内容を決定したのはユエ本人だし、態々反論をシャットアウトして賭けを成立させたのもユエだ。

そんな約束をなかったものにする?そんなことをしたら、ユエのプライドは一瞬で亡き者になるだろう。

それをユエ自身が許すはずもなく。

「ぃやったぁあああああああああああああああああああ!!!!!!ですぅ!やりました!やりましたよぉ!!母様見てましたか!?私やりましたよぉ!!」

豊かな双丘をブルンブルン揺らしながら、まるでどこかの宇宙が来たと叫んでいる高校生のようなポーズをとって、亡き母に涙を流しながら報告しているシアを、殺意をありったけ込めた瞳で睥睨するユエ。

その目線がシアの胸元に固定されているのは、触れてはいけない事実である。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

「ジオウさーん!」

ハジメと一緒に玉座に腰掛けていると、遠くからシアが駆け寄ってきた。

その表情は喜色満面で、見ているこっちも笑顔になりそうなレベルだった。

だが、その隣を歩くユエはすごく不機嫌そうだ。

「…どうかしたのか?」

何かいいことでもあったのか、何か嫌な事でもあったのか、その二つの意味を込めて質問する。

すると、シアの方がすっごくいい笑顔で俺に自慢してきた。

「ふふふ…なんと!私は…ユエさんに勝ったんです!!」

「そうか、おめでとう」

「あ、あれっ?すごく反応が薄い…?」

何故か残念そうなシアを尻目に、もはやあるのかどうかすらわからない原作知識からいろいろ絞りだす。

確か原作でもシアが勝つことになっていた…はず。

だから別に何もおかしいところは無い。大方ユエが油断したとかそこら辺だろう。

「…で?どうだったんだ?」

未だに「あれぇ~?」なんていっているシアを無視して、ユエに質問する。

すると、少しの間考え込むような素振りを見せた後、すぐに俺の方に向き直り、端的に述べた。

「…前話した通りの身体強化特攻だった」

「ほぉー…俺達みたいに、他の魔法は使えないってこと?」

「ん…でも、驚くべきはその才能の方…」

「お前が言うか天才吸血姫…」

俺とかハジメみたいに、生まれつきの才能が有るわけでもない奴等の前でそんな才能を持っておきながら「自分よりもすごい奴がいる、悔しい…」みたいなことを言うのをやめていただきたい。

「んで?才能がすごいってどういうこったよ?」

「…私が言ったことを1とすると、シアは…一瞬で、大体100くらいの結果で返してきて、次に300を欲しがる」

「は?」

「体内での魔力の循環も、無意識レベルで最も最適なものを選んでた」

「…は?」

「そして一番なのは、魔力の成長力」

「…どういうことだ?」

なんかシアが物凄い奴だってことが分かったが、魔力の成長力がすごいっていうのは流石によくわからなかった。

「…シアは、一度魔力を使い切ったら、回復するときには魔力の最大値が元の二倍になってる」

「なんだよそれ…」

「でも、後半からは成長力が弱まってきていたから…多分、今まで魔力を使い切ったことがなかったから子の才能に気づけなかっただけ」

「…参考までに聞くけど、身体強化するときの魔力消費って、普通に魔法使うのと比べて…」

「圧倒的に少ない。そのくせシアは私の九割くらい魔力を持ってる」

それだけ聞くと、俺は無性に何かに当たり散らしたくなった。

まず、シアは原作ではそんなに強くなかった…はずだ。

そんな魔力なんて持ってなかっただろうし、そんな成長力もなかったはず…

いや、カム達が()()()()()くらいだし…あり得るのか?

考え込んでいると、シアが俺の服の裾を掴んできた。

それでシアの方を見ると、決意を固めているのが容易に看破できるような瞳で俺の目を覗き込んできた。

「…ジオウさん!私を…旅に連れて行ってください!!」

「いや普通にダメだけど」

「そ、即答!?」

なんかショックを受けているシアを放置し、すぐにハジメの元まで戻ろうとしたところで、再びシアに服の裾を掴まれた。

「…ダメだって言ったんだが…」

「ま、まだです!この時のために私は…!ユエさん!お願いします!!」

「チッ」

「え、ユエどうした?」

苦虫をくさやとかドリアンとかその類の物と一緒にミキサーにかけ、ドロッドロの液体にしたものを飲んだような顔をしながら舌打ちしたユエに、普通に質問する。

何があったんだ?

「…………………………時王」

「お、おう?」

「…………………………つ、連れて行こう…?」

「お前に一体何があったって言うんだ?」

今すぐにでも死にたい、と言っているような表情のまま、可愛らしく小首をかしげながら言ったユエに、結構恐怖を感じながら質問する。

いやもう本当に何があったんですかねぇ?

いやまぁ大体察してるけどさ?

「…あぁ、勝負の時に賭けでもしたのか?」

「…そう…目先の欲に気を取られて…不覚をとった」

過去に戻る事さえできればッ!というような目で苦々し気に告げたユエから目をそらし、シアの方を見る。

「…そこまでしてついてきたいのか?」

「は、はいっ!」

「……どうしてだ?」

「え?」

「だから、どうして俺達にそこまでしてついてきたいのか聞いているんだが」

「そ、それはぁ…そのぉ…」

煮え切らない態度をとるシアに、本格的に首をかしげる。

今回のはマジでわからない。

ていうかわかったらとんでもないことが起こるような…そんな気がする。

どうしようかと考えているところで、俺達のところまでハウリア達がやってきた。

「お、帰ったか」

「と、父様!?みんなも…」

「あぁ、指示通り狩ってきた」

「あ、れ?と、父様…?」

久々に再会した父親の雰囲気が違うことに、首を傾げたシア。

…こいつ等に何が起こったのかを知ったら、シアはどんな反応をするだろうか。

「…?あぁ、シアか」

「えっ、ちょっ、本当にどうしたんですか?一体何が…?」

混乱した様子で、自分を視界にすら入れない父親をいぶかしむシアに、少しばかり罪悪感を持つ。

すまんな。本当に。

「あ、あのなシア、その…」

「失礼します」

シアに謝ろうと思って話しかけようとしたが、横から現れたパル少年に妨害された。

本人は意図していないんだろうが…タイミング良すぎだろ。

「ど、どうした?」

「いや…ちょっと不吉なもんが見えたんで」

「不吉なもの?」

「と、父様!?な、なにをしてるんですかぁ!!?」

パルから話を聞こうとしたら、今度はシアに妨害された。

一体何が起こったってんだよ…

「どうしたんだシア?」

「と、父様が、父様が…魔物の肉を…?」

信じられないものを見るような目で言葉を漏らしたシアに、生のまま魔物の肉を貪っていたカムが、さも当然かのように告げた。

「殺したもん食って何が悪い?」

「なんか父様が野生的ですぅ!?」

驚愕して声を荒げたシアを無視して、カムは生肉を貪りながら、魔物の有精卵を俺が渡したあるものを使って器用に叩き割り、殻を片手で割ってから飲み干した。

「え、今のは…?」

「?ハイベリアの卵だが?さっき巣を荒らしてきたばかりでな…いいものが手に入った」

「す、巣を荒らして来たぁ…?どういうことですか…?」

冷や汗を流しながら質問したシアに、まるで幼い子供に当たり前を説くかのように答えるカム。

「俺達はもう、あの程度の魔物にやられるようなことは無いんだ。ただの…飯でしかない」

「あの程度!?ただの飯!?本当に何が起こって…」

「なぁシア。お前に言わなきゃいけないことがあるんだ」

もはや涙目にすらなっているシアに、本当に申し訳なく思いながら声をかける。

ようやく反応してくれたシアに、落ち着くように言ってから話始める。

「…こいつ等を強くするために、俺とハジメでかなり追い込んだんだ。その結果…」

「魔物の肉を食って上昇したステータスだけじゃ満足いかなくなって、時王に力を与えてくれって頼み込んだわけだ。そしたら…」

俺とハジメの言葉に、喉をごくりと鳴らしてから続きを促したシア。

かなり戦々恐々と言った感じだったが、大丈夫だろうか。

「…俺はこのライドウォッチに関係する力を渡したんだよ」

『アマゾンアルファ』

「な、なんですかこれ…?」

俺が亜空間から取り出したライドウォッチ、それは本来なら存在しないはずの(バンダイが作っていない的な意味で)ものだった。

「アマゾンアルファ…特殊能力とかはあまりないが、喰うか喰われるかの世界を生き抜いてきた力だからな。こいつ等にちょうどいいと思ってな」

アマゾンオメガとアマゾンネオ、ついでにネオアルファは渡さなかった。

カムにアマゾンアルファを渡した後、残り二つを誰に渡すかって聞かれても、別に他の奴等に渡す理由(族長とかリーダー的な何かをしているとか、他の奴等と違う何かを持っているわけでもないという意味)が無いからな…

「…で、このライドウォッチにある力の本当の所持者…鷹山仁が作成に携わったもの…アマゾン細胞をこいつ等全員に与えて、その上でアマゾンアルファのアマゾンズドライバーをカムに渡したんだ」

「そ、そのアマゾン細胞って…?」

「…ま、端的に言えば…アマゾンってやつになる細胞なんだが…その、な?元々この細胞のせいでアマゾンに覚醒すると…タンパク質って言ってもわかんねぇよなぁ…ま、人の…生き物の体を作ってる物質なんだけどよ?それを異常に欲しがるようになる」

「そ、それってつまり…」

色々察してしまったような顔をしているシアに、もうどうにでもなれと思いながら話す。

「…今のアイツら、人間の肉が大好物なんだよ。ついでに魔物の肉」

「…うぷっ」

俺の言葉を聞くと、色々想像してしまったのか、その場で嘔吐し始めたシア。

それを見たカムは、シアの方まで行き、吐瀉物を手に持ち、俺達が作った拠点にある畑まで行った。

「え、と、父様?いったいなにを…?」

「吐く時は畑で吐け…肥料になる」

吐瀉物そのものは肥料になりえないような気がするのは果たして俺だけだろうか。

本編の内容をあまり覚えていない俺はそう思うしかなかった。

「…そういやパル、お前なんか見えたって言ってたな。何が見えたんだ?」

「帝国兵の一団の物と思われる馬車…前を歩いていたやつが帝国兵の鎧を着ていたんで間違いないです」

「もう、か…?いや、あの時の侵略は、この攻め込んできた奴等が集落の場所を伝えたってのが理由だったのか…?だとしたら…」

だとしたら、ここで帝国兵達を抹殺しておけば、集落に攻め込まれることもないってことか。

「お前ら、話は聞いていたな?」

「帝国兵がいるってことだろう?わかってるさ…お前ら、殺ることはわかるな?」

俺の声かけに、ニヒルな笑みを浮かべながら答え、後ろに控えていたハウリア族達に勝鬨を上げさせたカム。

兎人たちの勝鬨は、とてもおどろおどろしいものだった。

「ハジメ、ついて行った方がよさそうじゃねぇか?」

「ん?アイツらなら負けることもないだろ?」

「いやそうじゃなくてさぁ…あんな調子じゃ、無駄に樹海から外にでて囲まれて殺されたりしそうだろ?」

「あー、残党がいるかもしれないってか。やりかねないな…カム以外は同じ魔物の肉ばっか食ってて、ステータスの上昇も悪いだろうし…カムはあれがあるし、奈落の魔物の肉も食ってるからともかく、他の奴等は…魔法への耐性がどんなもんかわからねぇからなぁ…ついて行くか」

ひそひそと小声で相談し合って、気配遮断を使って追いかけようとすると、シアに掴まれた。

えっ!?気配遮断してるんですけど!?

「ま、待ってください!!まだ説明が足りません!!なんであんな…あんな…あんな狂気を感じる感じになったんですかぁ!?」

「……アイツら…特に男衆な?アイツら中々殺すことになれなかったからよぉ…俺達が殺して復活させて、飯も与えず魔物を殺すことだけ強要し続けたら…な?自分強くなりたいとか言って野性的になったんだよ」

「なぁにしてくれてんですかぁ!?人の親に何してくれてんですかぁ!!」

「…いや、それに関しては本当に申し訳なかったと思っている。だがな?ハジメに任せたりしたら…バーサーカーになってたぞ?それよかマシだろ?」

「どっちもどっちですぅ!!」

「…あ、そうだ。シア。お前の母親って…モナって名前か?」

「え?そうですけど…どうして知ってるんですか?」

「いや、カムが言ってたんだよ。奈落産の魔物の肉食わせてやった後、悶えてから」

あの時の光景は今でも覚えている。

いっそ狂気すら感じるくらい笑いながら、大の字になってこういっていたのだ。

『俺はまだそっちに行っちゃだめとか…厳しいのは変わらないなぁ…モーナーさーーん!』

なんかもうアマゾンズシーズン2最終回の仁さんみたいだったカム(衣服も仁さんそっくり)に、実を言うと少し感動した。

なんでかはわからない。ただなんだろう…リアルで見ると、感動したのだ。

「そ、そんなことが…?」

「ま、あまり気にしないでやれ…ただまぁ、カムだけ劣化版ハジメって感じだな。本当に強い」

「ほ、他の人達も…?」

「まさか。カムが一際力を欲したからなぁ…俺達がここまで強くなれた理由でもある、奈落の魔物を食わせてやっただけだ」

それを聞くと、眉間を揉みながら若干諦観を込めて溜息をしたシア。

「…もういいです。父様達が自分から望んだなら仕方ないでしょう…どっかの誰かさんが殺そうとしたのは目をつぶることにします!!」

「どこの誰だろうな、そいつは」

ハジメがどこ吹く風、という感じに目をそらしながら呟くと、魔力を全身に滾らせながら睨みつけたシア。

し、シアの方も闘争心が強くなってる…?

「…は、早くアイツらを追いかけようぜ?な?」

「…わかりました。行きましょう」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

三人称視点

帝国兵の一団のリーダーは、まるでそこにいてはいけない何者かを見てしまったかのような顔をして座り込んでいた。

帝国兵達の置かれている状況を実際にトータスの住民に説明したら、一体どんな違法薬物をキメたんだ?というような顔をされること間違いなしだろう。

だが、実際にそれは起こっていた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということが。

「い、一体なんなんだ…何の冗談だこれは!?」

これは悪い夢だと呟きながら震えている部下を一瞥し、再び自分の前で幽鬼の如く俯きながらもあり得ないくらいの威圧を放っている兎人を見る。

その兎人の周囲にいる兎人も、男兎人は歴戦の戦士を思わせるような圧を放っている者や、狂気を感じる笑みを浮かべている者が、女兎人はみな一様に光を失った瞳を瞬きもすることなくこちらに向けているといった風に、帝国兵達の知るような兎人はそこに一人としていなかった。

「冗談…?そんなわけないだろ?これが現実だよ」

それだけ言うと、帝国兵の前で一際威圧を放っていた兎人…カムは、時王から渡されていたアマゾンズドライバーを腰に巻きつけ、アクセラーグリップと呼ばれる部分を回し、帝国兵を睨みつけながら…されど口角を上げながらつぶやいた。

「…アマゾン」

『ALPHA』

『BLOOD・AND・WILD!!W・W・W・WILD!!』

その言葉に呼応するかのように、ベルトの目のような部分が緑色に発光し、カムの立っていた場所から赤色の波動が吹き出た。

その衝撃波と熱気に吹き飛ばされた帝国兵達。

彼らが体勢を整え、カムの方を見た時には…

カムの姿は、真紅の鎧に身を包まれ、緑色の目をしている…アマゾンアルファの姿に変わっていた。

「う、うわぁぁぁぁぁあああああああ!?」

いきなり姿が変わったカムに、恐怖を抑えきれなくなったのか逃げ出した帝国兵。

その帝国兵の元まで一瞬で駆け寄ったカムは、貫手で帝国兵の腹部に風穴を開け、手が刺さった状態で思い切り腕を横に振るい、裂傷を作って殺した。

殺された仲間を見て、他の帝国兵達も逃げ出そうとしたが…

「「「「「「「「「「アマゾンッ!」」」」」」」」」」

自分たちを囲んでいた兎人たちが一斉に姿を変え、自分たちの方に歩み寄ってきたせいで動きを止めた。

「く、来るなっ…来るんじゃない…!」

帝国兵のリーダーが恐怖に慄きながらも、剣先を近寄ってくる兎人たち(アマゾンズ)の方に向けて振り、近づけまいと抵抗していた。

だが、それを無駄な抵抗だというように、剣を掴み、そのままへし折った。

「そ、そんな…」

終始無言のまま襲い来る兎人たち(アマゾンズ)に、いっそ諦観のような物を感じながら抵抗をやめた帝国兵達。

そして、兎人たち(アマゾンズ)の手が帝国兵の体に振り下ろされる…その瞬間だった。

バズンッッッ!!

という轟音と共に、その場にいた全員が()()()

帝国兵はもちろんの事、兎人たち(アマゾンズ)も訳が分からないという風に困惑していた。

「全く…何してるんですか皆さん。趣味悪すぎです」

「…シア?どうしてここに…」

「どうして?わかりませんか?父様達が下手に暴走しないように止めに来たんですよ」

「止めに来た?シア、お前はこいつ等を殺さないで生かしておけと言いたいのか?」

「いえ別に?この人たちが死んだところで関係ないですし…いやむしろ死んだ方がマシ?ですけど」

「「「「「し、辛辣!?」」」」」

何を言ってるんだこの帝国兵達は。自分たちは兎人をどれだけ虐げても構わないくせに、自分たちがそうやって少しでも暴言を吐かれたらすぐに被害者面か。というような目で帝国兵達を軽蔑するように一瞥したシアは、再びカム達の方を向き、私怒ってます、という風に言葉を続けた。

「私が止めに来たのは、父様達が本格的に道を踏み外すのを防ぐためですよ」

「道を踏み外す…?」

ちょっと何言ってるかわからない、という風に変身解除までして首を傾げたカム。

その陰からコソコソと逃げ出そうとしている帝国兵達。

だが、その動きは一瞬で止められた。

ドパンッ!

『Blaster Mode』

ズガァンッ!

「なぁーに逃げようとしてんだお前ら。しっかりそこで正座してろ」

ドンナーとフォトンバスターの威嚇射撃に脅され、動きを止めざるを得なくなった帝国兵。

因みに、一番攻撃の近くにいた帝国兵の股間辺りが濡れているのは触れてはいけないことである。

「本ッ当にわからないんですか!?」

「あぁ…俺の目的は人間を一匹残らず潰すことだからな。望み通り生きて何が悪いって言うんだ?」

「そこからすでに道踏み外してんでしょうが!なに殺意の波動に飲み込まれちゃってるんですかぁ!?」

帝国兵達の方に殺気を向けながら告げたカムに、憤慨しながら言ったシア。

だが、それでもカムは考えを変えようとしなかった。

「…あのですね?やり方は違えど、殺すことに執着するなんて…もはや帝国兵と同レベルですよ?向こうは殺さずに残しておくことを考えるだけいくばくかマシかもしれませんが…いや、帝国兵の方は殺さずに犯すし…どっちもどっちですね」

「俺達が…アレと一緒?」

「そうです。逆にそれ以外の何で例えればいいんですか?」

シアの辛辣な一言に、俯き方を震わせたカム。

言い過ぎた?と少し不安そうになったシア。

だが、その心配は杞憂だったらしい。

「…本当、ナナさんそっくりだなぁ…シアは」

「か、母様そっくりって…ていうかさん付け?」

「ん?あぁ、なんだろうな。敬意…か?そんなもんだ」

それだけ言って先程殺した帝国兵の死体を手に持ち、その場で食い始めたカム。

それを見て、帝国兵とシアが情けない声を出す。

「…どうしたシア?意外とうまいぞ?」

「ひっ…な、何でいきなり食べ始めたんですかぁ…?」

「?ジオウから何も言われてないのか?変身するためには、人とか魔物とか…そいつらの肉を食べるか、卵をそのまま食うかしないとダメなんだ」

「えぇ…」

若干、いやかなりドン引いているシアを無視して、帝国兵の死体を貪り続けるカム。

喰い終わると、口元に付着した血を拭いシアの方を見たカム。

その表情はとても優し気な笑みだった。

対するシアは、引き攣ったような笑みだったが。




帰って来て早々書いたせいか(言い訳)、長くて薄っぺらい物しか書けませんでしたね。
三連休中は毎日投稿したかったのですが…早速無理でした。
次回…今日か明日には出したい…

追記:ありふれ原作の小説の方に、シアの母親の名前が出ていたのを最近になって発見したので修正しました。
なろうに投稿されているほうで出ていなかったから、他のところでも明かされないんだろうと勝手に名前を決めてしまった僕を許してください。


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かつての忌み子は闇に堕ちる(ヤンデレ化する)

どうも、タイトルは覚えていませんが、貴方がもしアニメのキャラクターと結婚するとしたら誰が一番似合っているか、という診断で野獣先輩がと出てきた男、ひま次郎です。
因みに、ひま次郎をパソコンに打ち込むとき、どうしてもひまジオウになってしまうのが今の悩みです。
…僕は、野獣先輩女の子説を信仰してないので、あの診断結果は無きものとして扱います。
余談ですが、他の診断では何があってもSAOのアスナが出てきました。
(つまり作者は)キリトかなーやっぱW
因みに、僕の好きな東方のキャラとの相性診断では、魔理沙とかフランとか…金髪キャラしか出ませんでした。
個人的にはこころとか映姫とか依姫とかが好きなんですがね。



時王side

結局、帝国兵達は全員殺…いや、ハウリア達の飯になった。

言い方を綺麗にするって大事なことだと思うんだ。うん。

そもそもハウリア回は、原作だとギャグ回じゃなかったか?

なんでこんなディープでヘビーなんだ?

そんなことを考えながら、俺は明日に控えた大樹攻略に備えていた。

「ハジメ、他に足りないものは?」

「ドンナー、シュラークの弾丸を今の総量の半分くらい増やしてくれ。念には念を入れておきたい。それと、容器を新しく作ったから、神水も入れておきたい」

「?神水は俺がいつでも取り出すから大丈夫だろ?」

「一応な。もしフェアスコープなんて俺達には無いんだ。もしトラップにかかったりして別行動せざるを得なくなったら大変だろ?」

「…それもそうか」

ハジメの言葉に反応しながら、亜空間の扉を開き、神水を容器に向かって入れる。

大量の神水が容器に詰められ、その容器をハジメが回収した。

「あ、ついでにこれにも神水を入れといてくれ」

「…なんだこれ?」

「奥歯に仕込める様にしてある…まぁなんだ?もし奇襲されたときの保険みたいなやつだ」

「なるほど…ほい、これはまぁ十個あればいいだろ?」

「まぁな」

再びハジメに手渡し、宝物庫に収納させる。

「そうだハジメ、頼んどいたアレ、できてるか?」

「アレ?…あぁ、これか。ほら」

「お、サンキュ」

ハジメから手渡されたのは、大きなハンマー…原作で言うところの、ドリュッケンである。

ただまぁ、これからコイツを魔改造していくんだけどね?

まずはハイパームテキライドウォッチを創り、能力を発動。

そのまま創造の能力で俺に物に力を付与させる系の能力を与え、その能力を使って、ドリュッケンに、ハイパームテキの固有能力である『当たり判定自動調整』を付与。

これで、多少攻撃を外しても、当たったということにできる。

ついでに多段ヒットも可能にしておこう。

あとは…ま、防御貫通とかそう言った能力を創って付与すりゃいいか。

「なぁハジメ、ギミックの方は頼んどいた通りになってるか?」

「もちろんだとも。可動式にしたことで持ち運びにも困らず、しかも小型の状態は弾丸も射出できるようになってて、さらに」

「いやその説明はいいよ俺が頼んだ者の通りになってるんだとしたらわかってんだから」

「…そうか」

「なんかすまんな…ただま、本当にこれじゃロマン兵器だなぁ…」

「名前、どうするんだ?」

「…ガシャコンドリュッケン(ツヴァイ)とか?」

「な、長くないか?それにツヴァイってお前…これ普通に一個しか作ってねぇんだから、(アイン)とかじゃないのか?」

「…ほら、ただのガシャコンバグバイザーより、檀正宗の使ってたガシャコンバグバイザー(ツヴァイ)の方が強かったじゃねぇか。クリティカルクルセイドとか」

「いや知らねぇし」

ハジメにライダーの話が通じないことを忘れていた。

少しばかりショックを受けながらも、ドリュッケンでよくね?という会話をして名前をドリュッケンに固定。

能力がエグゼイドだったからガシャコンは外せないなぁと思ってたんだが…まぁ今度自分で作ろう。

創造で俺に錬成を付与すれば行ける…はず。

「時王、終わった?」

「ん?ユエ?何かあったのか?」

「ただ会いたくなっただけ」

「…可愛い奴め」

俺の近くまで寄ってきて、頬を擦りつけてきたユエを抱きしめ、頭を撫でる。

すると、嬉しそうに目を細め、より一層体を俺に預けてきた。

「…お前ら何でそんなすぐにいちゃつくことが出来るんだ…?」

呆然と呟いたハジメに苦笑いしてから、外に出る旨を伝える。

少しばかり風にあたりたくなったのだ。

地球じゃ全く持たなかった考えだが、やはりこうも自然を感じられる場所に居たら、風にあたりたいと思えたりするのだろう。

「…ユエ、ついてきてもやる事なんてないぞ?本当に…風を感じたかっただけだしな」

「時王のいる場所が私の居場所…だから来ただけ」

「…そうか」

それだけ言って、再び景色の方に視線を移す。

作業に集中していて気が付かなかったが、周囲は満点の星空になっていた。

満月。月までは地球と変わりなく、まるでこの世界、トータスは、地球の生き写しのような物なのでは?と感じさせられた。

ユエの方を見ると、月明かりに照らされて金色の髪が艶やかに光っていて、とても幻想的だった。

見惚れていると、ユエが俺の視線に気づいたのか、嬉しそうに口角を上げながら小首をかしげて聞いてきた。

「…見惚れてた?」

「あぁ、ずっとな」

愉快そうに言ったユエに、正直に告げる。

すると、嬉しそうに頬を赤く染めて笑みをこぼした。

「…ね、時王」

「ん?どうした?」

「…月が、綺麗」

「……………」

ユエの言葉に、オスカー・オルクスの隠れ家での出来事を思い出す。

確かアレは…

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『ユエ、俺達の故郷だとな?どちらかがどちらかを誘うときに、月が綺麗だって言う風習があったんだ』

隠れ家の天井に見えた月のような物を見ながら、今夜もシよ?と言ってきたユエに教えてみた。

するとユエは、

『どうして態々そんな遠回しに言うの?』

と訊いてきた。

『さぁな。俺達…日本人ってのは、恥ずかしがり屋だったんだろ。そういうのが堂々と言えるほどの奴等じゃなかったんだろうってことだ』

『ふーん…』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ああやって教えた後だ、意味が解らず天然で言っているわけではないだろう。

だとしたら…?

「…まさかユエ、お前…」

「ん…最近ご無沙汰してた」

「め、迷宮内でハジメが一人寂しく錬成してる間に三日間ずっとヤッたりした上での発言かそれは…」

その後、ハジメにめちゃくちゃ説教されたのはいい思い出だ。

「…時王は、いや?」

「そうじゃなくてさぁ…さすがにする場所ないだろ?」

「…私たち、まだ外でヤッた事ない」

「まさかの青姦?」

ユエがいつになくヤリたそうにしているし、俺も確かにそういうのをしてもいいかなぁとは思ってるし…

いいか。

「…せめてもう少し離れたところでやろうな?」

「んっ!」

笑顔で返事をしたユエの手を握り、森の奥まで向かった。

でもまさか、この選択が後に有んなひげきをもたらすとは、とても思っていなかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

シアside

「…本当に行く気か?シア」

「はい。私はもう…決めたんです」

「そうか…」

父様の顔をしっかりと見ながら、本心を告げる。

変わり果ててしまった父様に、ジオウさん達について行くことを告げたのだ。

反対してきたが、私の気持ちを伝えると、渋々とだが頷いてくれた。

「いいんですか!?」

「…構わない。お前の後悔の無いように生きろ」

「…ッ!ありがとうございます!!」

涙を流しながら、父様に頭を下げる。

父様は、溜息をついてから、優し気な声音で私にこういってきました。

「行ってこい、早く自分の想いをぶつけて来るんだ」

「はいッ!」

父様に言われて、急いでジオウさんがハジメさんと一緒に作業をしている場所まで走る。

途中転びそうになってしまったけれど、初速を失わずに到着できた。

扉を勢いよく開き、大声でジオウさんの名を呼ぶ。

「ジオウさん!!」

「うぉっ!?…時王はここにいねぇよ」

「え?」

私の声に肩をビクッと震わせて、すぐにジオウさんがここにいないことを伝えてきたハジメさんに、間の抜けた声を出してしまいました。

それを見て、大きくため息をついてから、森の方に行ったと思うぞ、と言ってきたので、ありがたく探しに行くことにしました。

「どこですかねぇ…むむむ…あっ、そうだ!!」

森の中を探し続けていると、あることを思いついた。

これはユエさんが教えてくれた技法で…

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『時王が言ってたやつだけど…魔力を薄く広げていくことで、索敵することが出来るようになるらしい。時王はそれを円って呼んでる』

『え、円?」

『名前の由来は知らない…でも、気配探知とかを持たないならこれが一番有効だと思う。やってみて?』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「うぅぅぅぅ…“円”ッ!」

魔力の薄い膜を体の周りに作り、それを周囲に広げていく。

広げていくと、二人の魔力を感じた。

なるほど、確かにこれは索敵につかえる。

「ていうか何であんな遠くに…?」

不思議に思いながらも、反応があったところまで向かう。

近くに行くにつれ、声が聞こえてきた。

規則的に水音まで聞こえる…一体何が起こっているのだろうか?

特に意味もなく、草むらからこっそりのぞく。

するとそこでは…

「じおう…っ!いいのぉ…!!」

「ゆ、ユエ…俺もうそろそろ…ッ!」

「うん…来て…!」

()()()()()()()()()()()()()()()

「…え…?」

全身から力が抜けていく。

景色の色が薄く、剥がれていく。

なンで?

ジオウさんとユエさんがそんな関係だなんて聞いてないんですけど?

どウしテ?

私の初恋の人(ジオウさん)が、友達だと思っていた人(ユエさん)に取られてるんですか?

おカシい。

あの泥棒猫(ユエさん)は、私の運命の相手(ジオウさん)に引っ付いていただけでしたよね?本当は、ジオウさんは嫌がっていたんでしたよね?優し気な顔の下では、ユエさんに微塵も好意なんて向けてませんでしたよね?

アりエナい。

なのに、え?ジオウさんが、どうしてユエさんと?相手なら、私がいるじゃないですか。どうして?

こレはワるイゆメ。

そう、悪い夢だ。きっと、ユエさんが私みたいな魅力的な女が現れて、ジオウさんを取られることを恐れて、恐慌化の魔法とかを眠っている私につかったんだ。そうだ、そうに決まってる。

ユめなラさめテ?

あぁ、まったく。性格悪いなぁユエさんは。そんなに取られたくないなら、私に会う前に唾つけておけばよかったものを。きっと、私というライバル…いや、ライバルじゃないですね。越えられない壁ってやつですか?それに出会って、ようやく行動を始めたんでしょう。

サめテ?

そうじゃなきゃおかしいですよ。ならなんでジオウさんはユエさんにあんな優しい目を向けてるんですか?どうして舌を絡めてるんですか?口と口がつながっていいのも、下半身がつながっていいのも、全部全部私だけじゃないですか。

サめてヨ。

こんな夢に幻惑させられてるようじゃ、ジオウさんに旅に連れて行ってもらえないでしょうね。だからさっさとこの夢から覚めて、本当にジオウさんに会って話をしないと。

…アれ?

起きたらまず、何を話そう。連れて行ってくださいって、ずっと頼み込む?でもそれはユエさんが口添えしておいてくれたし…でもあの女狐、あの言葉は嘘だったとか言って私を引き離そうとさせますよ。じゃあやっぱり、告白するべきですかね?

オかシいナ…

ちゃんと、言わなきゃ…本当にこの夢みたいになったら、きっと私は生きていけないから。

ナんデダろウ?

好きですって…ちゃんと…言わなく、ちゃ…あれ?おかしい…これは夢なのに…なんで?なんで私は…

「涙が止まらないんでしょう…?」

ぽろぽろと、私の頬を伝って涙が落ちていく。

じわっと地面を濡らしていく涙は、止まることなく私の足元に落ちていった。

「夢なんですよ?夢なのに、泣く必要なんて…」

自分に言い訳するように、涙を拭いながら呟く。

おかしい、なんで涙が止まらないの?

「じおう…大好き…っ!」

「…あぁ、俺も大好きだぞ、ユエ」

二人のその言葉が聞こえた瞬間、私の心は折れた。

涙を拭うのもやめ、その場を離れた。

フラフラとおぼつかない足取りで、みんなのいるところに戻る。

…ふふ、ふふふ…ジオウさん。

私は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

し つ こ い 女 で す か ら ね ?

諦 め ま せ ん か ら 。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

「…外でヤるのも、中々悪くない、でしょ?」

「…まぁな。偶にはいいんじゃねぇの?」

「…本当は?」

「すっげぇよかった」

「嬉しい…っ」

服を着終わり、賢者の時しながら、ユエの頭を撫でる。

なんかシている間にその辺の草むらから音が聞こえた気がするが、一体何だったんだろうか。

魔物だとしたら、何で襲ってこなかったんだろうか。

あ、ハジメか…隠れ家にいた時も、時々俺達がシているところにうっかり入ってきたことだってあったし。

今回もそんな感じだろう。

「…じゃ、そろそろ戻るか」

「んっ」

返事をしてすぐに俺の手を握ってきたユエに、自然と口元が緩む。

結構離れたところまで来てたから、歩く距離も長い。

森の中から出ると、ハジメが近くで待っていた。

その表情は決して明るい物とは言えず、困惑しているかのような表情だった。

「…どうしたハジメ?」

「…なぁお前ら、シアに何かしたのか?」

「はぁ?どういうこったよ」

「…見てみろ、アイツを」

ハジメに言われて、シアの方を見る。

シアは、なぜか髪がボサボサになっていて、目も虚ろで焦点があっておらず、ひたすらブツブツと何かを呟いては、時折口角を上げたりと…なんか狂気に満ちていた。

「し、シアー?どうしたんだー…?」

俺が声をかけると、いきなり呟くのも動きも止め、グリンッと俺の方に首を回し、真顔でじっと見つめてきた。

「え、いや、本当に何があったんだよ」

「…何があった?わかりませんか?」

「…………………ダメだわかんね」

「わかりませんか…そーですか、わかりませんかぁ…」

ワカラナイと伝えたら、再び俯いて何かを言いだしかと思ったら、バッと音が聞こえるくらいの速度で俺の顔に目を合わせ、ニッコリ微笑んでから、ユエの方を向いて、またニッコリ微笑んだ。

え、本当に何があったの?

そう思った瞬間。

「んっ」

「んむっ!?」

なんのモーションもなく、突然俺の唇を奪ったシア。

しかも、ただキスするだけでは飽き足らず、舌までねじ込んできた。

あまりにもいきなり行動過ぎて反応できず、しばらくの間されるがままだった。

数秒経ってようやく反応し、シアを引っぺがす。

「…いっ、いきなり何してんだお前!?」

「いきなり…?そんなことないですよぉ…」

満面の笑みで告げたシアに、若干うすら寒さを感じた。

ていうかそんなことないってどういうこったよ。

まるでそういう流れが出来ていた、みたいな…

「だってジオウさん、さっきまでユエさんとお楽しみだったじゃないですかぁ」

「なぁっ!?おまっ、見てたのか!?」

俺の反応を見て、「あれは夢じゃなかったんですね…」とか呟いてから、鬼気迫る表情でこちらを見てきたシア。

もう正直に言おう。怖い。

「…ジオウさん」

「ハイ」

「…知ってますか?ウサギは寂しいと死んじゃうんですよ?」

「いやそれを俺にどうしろと」

「そりゃあ決まってるじゃないですかぁ…私とも、シてください」

堂々と爆弾発言してくれやがったシアに、俺は数秒間硬直してしまった。

い、一体コイツ何考えてるんだ…?

「それと、私も旅に連れてってもらいますからね?まぁそれはユエさんも口添えしてくれましたし良いとは思うんですけど」

「い、いやいやいやいや…話の進行が速いんだよちゃんと段階踏めよ、な?そもそもお前なに自分の親がいるところでどこの馬の骨とも知らんやつに股開く話してんだよ」

「ジオウ、俺は別にお前ならシアを渡しても…」

「今お前が話に乱入してくるんじゃない。面倒臭いことになる」

場の空気を読むことなく発言したカムを適当にあしらう。

「…ジオウさん、私が何でついて行きたいのか、って前に聞きましたよね?」

「ま、前って程でもないが…まぁな?」

「…ここまでやっても、わかりませんか?」

「…え…っと…」

やっべわかんねぇ。

だってシアはハジメハーレムの一人ですし…

だとするならば俺に執着する理由も何もないんですが…

「好きだからですよ。ジオウさんが…だぁいすきです」

「……………………………は?」

シアの言葉の意味を飲み込み切れず、聞き返してしまった。

え、だって、え?そんなフラグたてるような事あったか?

「聞こえませんでしたか?…好きなんですよ、ジオウさんが。愛してます」

「ダメだ聞き間違いとかじゃなかったマジなやつだ」

俺は正直言って絶望した。

なんでかって?そりゃお前…

俺に好意を持っているやつに、俺が他の女とシてるところ見られたってことだからな!?

どこの伊●誠だよ俺は!!

スクールなデイズの世界の男と同じ境遇にいるのでは?と考えている俺に、これまたノーモーションで抱き着いてきたシア。

「し、シアさん?一体なにを…?」

「ジ、オ、ウ、さん?これからは…私だけ見てくださいね?」

耳元でささやかれたせいで、バイノーラル音声のように感じた。

「…何言ってるの?時王は私の」

「……何ですか?ユエさん。現にジオウさんは抵抗なんてしてないじゃないですか」

「それは違う。時王は本当は嫌がってる」

「まっさかぁ…あまりふざけたこと言ってたら、コロシマスヨ?」

「…いい度胸、相手してあげる…」

二人の威圧力に吹き飛ばされそうになるその他のハウリア達。

カムは威圧に向かって威圧を放ってその場を一歩も動いていなかった。

「…お、お前ら…お、落ち着けって」

「「少し黙ってて」」

「アッ、ハイ」

「じ、時王が立ったまま気絶してる!?大丈夫かお前!?」

修羅場と化した俺達の活動拠点が、俺が意識を取り戻すころには更地になっていたのはどうでもいい話である。




前書きでどうでもいいことを書いたので、ここで今回の話についてを。
シアをどうやってヤンデレ化させるかと考えた結果、かの有名なヤンデレ作品、SchoolDaysのやり口の一つ、『主人公に好意を寄せているキャラが、他のキャラとよろしくやっている(意味深)ところに遭遇する』を使うことにしました。
原作では元気っこだったので、こういう落とし方が一番手っ取り早いかなって。
でもまぁ、アニメの方で、香織がハジメに抱き着いたときには後ろの方で闇を放っていましたし…
余談ですが、作者は最近、空白を開けてから続きを書くという技法にハマっています。
まぁ、その空白が長くなってしまっているのは申し訳ないところなのですが…


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世界の全てが血色に溶けても/それでも前に進む

前までやっていたくせに、最近はすっかりご無沙汰しているコレ。
「タイトルを全く関係のない(今回は少しだけ関係ある)、ネタ一筋の物にする」を久しぶりにやりました。
小説書いている時に、裏動画サイトようとぅべなる場所で、貴方へのおすすめで流れてきた曲の歌詞にある言葉を少し変えただけなのですが、わかる人はいるでしょうか。
どちらも似たような(面白さは全く別)アニメなので、わかった人はぜひ感想欄まで(露骨な感想稼ぎ)



時王side

あの二人の戦いが終わり、今日はようやく周期の日。

大樹の下に向かっている最中も、俺の両腕を取り合っていたユエとシアに、歩きにくいということで離れてもらった結果、二人が同時に闇堕ちしてくれやがったので、結局玉座に乗って移動することになった。

甘ったるい声俺に頬擦りしてくる二人に、律義に反応をすること数分、大樹の下まで到着したのだが…

「なんだこれ?めっちゃ普通に枯れてんじゃん」

「…だな、本当にハズレだったのか?」

「…一応大樹の周辺も探索してみる?」

「それが一番だろ」

それだけ話すと、玉座から降りて大樹の表面や近くを探索する。

原作だとどの辺にあったんだっけ?

ていうかここの探索って、今は意味なかったような気が…

「時王、これ…」

「ん?」

近くにいたユエに呼ばれて見に行くと、何かが書かれている石板があった。

そこには、オルクスの扉と同じような文様が描かれていた。

「なるほど…これは面倒くさい奴だな…」

「どうするの?」

「…もう少し探索しておきたいな。もしかしたら見落としてるものもあるかもしれないし…」

そう言いながら石板に顔を近づけ、見逃したりしてないだろうかと目を皿にして探す。

すると、オルクスの指輪に書かれている模様と同じものが描かれている窪みが、石板の後ろ側にあった。

他の窪みにも模様が描かれていたが…これは他の迷宮の物か?

「ハジメー、オルクスの指輪持ってるかー?」

「ん?これか?ほら」

「お、ありがとよ」

木の幹を調べていたハジメから、指輪を投げ渡してもらい、その指輪を窪みに嵌める。

すると、石板が淡く輝きだし、文字が浮かび上がってきた。

「…四つの証、再生の力…紡がれた絆の道標ぇ?」

「…四つの証ってことは…オルクス大迷宮以外の迷宮も攻略しなくちゃいけないって事?」

「再生の証はユエの事か?」

「いやー?それは無いだろ」

「どうして?」

「あ?なんでって…もし仮にお前の再生能力が無きゃこの迷宮に入れないんだとしたら、他の奴等はお前って言う限られた存在を探す必要があるわけだろ?それはちょっとおかしいんじゃねぇのか?」

「でもよ、ユエ以外にも再生能力を持ってるやつってのは居るんじゃねぇのか?」

「…じゃあお前はあれか?もし俺達がユエに出会ってなかったら、この迷宮を攻略するために態々何年も再生能力を持って生まれてくるやつを待たなきゃいけないのか?」

「…なるほどなぁ…じゃあ再生に関する神代魔法が必要って事か…」

すごく面倒くさそうに言ったハジメから目をそらし、石板の他の文字に目を向ける。

原作の記憶がもはやもう無に帰している俺としては、最後の条件、紡がれた絆の道標がわけわからないのである。

「どうしたんですかジオウさん。そんな困った顔して」

「…いや、どうしてもこの紡がれた絆の道標がわけわかんなくてよ」

「これって…人間が亜人にここまで案内してもらう事じゃないですかね?この世界では私たちみたいに道を訪ねて尋ねられた方が案内するなんてありえない事ですし…」

「なるほど…」

すごく筋の通った解説をしてもらった。

なるほど、確かにそうだ。

この世界の奴等に、亜人と協力しろなんて言っても、「やーだねー、そんなのしたくないよーだ」とか言われて拒否されて終わりだろう。

「はぁ~、面倒くせぇな。いっそこの木の時間を戻して無理矢理攻略するか…?」

「いや、それはまずいだろ」

「どうしてだよ?」

ハジメの制止に、若干不機嫌になりながら質問する。

別に今攻略しようと後で攻略しようと同じ気もするんだが…

「どうしてって…お前さ、他の迷宮攻略しないといけないような迷宮だぞ?他のところとは比べ物にならないに決まってる。だとしたら…お前はともかく、俺達が攻略しきれねぇ。最悪死ぬかもしれん」

「なるほど…じゃあ難易度的にもこいつは後回しってことか…」

まぁ確かに、オルクス大迷宮と違って面倒くさい制約付きなのだ。圧倒的に難しいのだろう。

ならやめておくのが一番、だな。

「…さて、これが分かったならここにはもうしばらく要は無い…さっさと違う迷宮を攻略することにしよう」

「だな」

「ん」

「私もついて行きますからね!」

「…お前マジで来るのか」

「当たり前じゃないですか!」

嫌悪感を滲み出させたハジメの言葉を飄々と受け流し、笑顔で答えたシアに苦笑いしてから、ハウリア達…いや、アマゾンズに別れを告げる。

「…じゃあ俺達はもう行くよ。また戻ってきたとき、よろしくな?」

「あぁ…本当はついて行きたいところだが、俺達は…フェアベルゲンを守らなくちゃいけねぇ。人間なら誰だって殺す。だが…同じ亜人は、何があっても殺したくないんだ。どんなやつでも。もちろん殺させたくない。だから…」

「いいんだって、わかってんだから…じゃあ、()()、な」

「…おう!」

拳を突き合わせて、お互いに口角を上げながら背を向け、振り向くことなく別れた。

背後から泣き声とかが聞こえた気もしたが、これ以上の言葉はいらないだろう。

だって、言いたいことがあるなら、次の機会に言えばいいから。

ここで言いたいことを全部言って、また会った時には言うことなし、なんて…な?

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

「んでシア、ここまでついてこさせてあれだが…本当にいいのか?また会うとか、次の機会がどうのとか言ったり考えたりして置いてあれだが…帰ってこれないかも知れねぇんだぞ?」

「いいんです。私が今一番一緒に居たい人は、ジオウさんだけですから」

「…敵は強い、お前の想定している以上に。それでもいいのか?」

「敵なんて、このジオウさんからもらった…ガシャコンドリュッケン(ツヴァイ)…でしたっけ?それで一撃ですぅ!」

「…それはドリュッケンでいいだろって話だったよなぁ時王」

「…何の事だかさっぱり」

呆れたような顔をしながらこちらを見てくるハジメから目をそらし、吹けない口笛を吹こうとする。

音はうまく出なかった。

もう一度シアの方に目を合わせる。

「…こっから先は、目をそらしたくなるような戦いだってあるはずだ。俺とハジメは、最悪人の肉でも食うくらいの覚悟はしてある。実際ハジメは自分の腕食ったわけだからな」

「大丈夫ですよ、たとえ血で血を洗って血で拭うような戦いがあろうが何だろうが、乗り越えて見せます。いえ…乗り越えられます。貴方と一緒なら」

「…時間を戻せばいいとはいえ、四肢欠損だってあり得る。どんな苦痛を伴ったとしても、自分の目的のためなら死なない程度に死ぬことだって必要なんだ、それでも…」

「言っておくべきことはそれだけですか?ジオウさん。それなら…私を怖気づかせるなんて無理ですよ」

俺の言葉を遮って自信満々に告げたシアに、溜息をついてからハジメとユエの方を見て、無言の許可をもらってから、シアに背を向け、森の出口の方に歩き始める。

そのまま振り返ることなく、少し笑いながら告げた。

「…とっとと来い。俺達の移動速度は速いからな…身体強化だけじゃ、追いつけねぇかもしれねぇぞ?」

「ッ!はいっ!」

嬉しそうに声を張り上げてから俺の背中に飛びついてきたシアにユエが俺の腕を掴みながら不機嫌そうにしたり、その光景を見ているハジメが腹部を抑えて「い、胃が…」と言っているのを見て、仲間が多いってのも悪くないな、と思った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

ハジメの出した魔力駆動二輪に取りつけたサイドカーに座り込みながら、俺の前に座っているユエの頭を撫でる。

すると、俺の後ろの方に乗り込んでいるシアが「私も構ってください~」などと言いながら抱き着いてきたので、そちらの頭にも手を伸ばし、撫でる。

「なんだそのハーレムムーブ、王様ってのはすごいなぁ…」

「その嫌味、俺からしたらただの誉め言葉だぜ?」

「へいへい…さて、スピード出るからな?舌噛むなよ!」

ハジメが魔力駆動二輪を走らせると、俺はあることに気づいた。

「…ハジメ、これ全く揺れねぇじゃん。なんで舌噛むなって言ったんだ?」

「…そ、そこに触れるなよ…」

「あ、ロマンか。男の」

ハジメの言葉と態度から、一瞬で禁忌に触れていることに気づいた俺は、瞬時に話をそらした。

「…そうだ、ライセン大峡谷行くじゃねぇか」

「なっ!?聞いてないんですけど!?」

「…わかった、謝るから耳元で叫ぶのやめてくれないか?」

キーンとしてきた耳を押さえながらシアの方を見る。

その目は、雄弁に「何で黙っていたんですか!」と言っていた。

「…ま、お前がついて来るって言ってからこの話をする機会がなかったからなんだがな」

「本当にそれだけ…ですよね?」

「当たり前だろ…ほかになんの理由がいるって言うんだ?」

それだけ言うと、黙って後部座席に腰掛けたシア。

だが、俺の背中から離れようとはしなかった。

「そうだハジメ、今向かってる町ってどんな感じだっけ?」

「んー…まぁ国って言うほどでもないがそれなりに大きくて賑わっている所らしいぞ?」

「ほー、そりゃ飯も期待できそうだ」

「だな…素材換金のついでに、うまい飯が食える宿屋でも探すか」

「そりゃあいい。地元民の言葉ってのは中々馬鹿にできないからな」

それだけ言うと、亜空間からあるものを取り出す。

そのあるものを、一瞬の隙を狙ってシアの首元につける。

「な、なんですかコレ?」

「首輪」

端的に答えた俺に、俯いてプルプル震え始めたシア。

怒らせたか?と思いながら反応を待っていると、いきなり顔を勢いよく上げてこちらを見てきた。

その顔は、怒りに染まって…

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…ど、どうした…?」

「こ、この首輪って…これは、そのぉ…」

「…?」

「私は一生ジオウさんの奴隷(所有物)って言う…遠回しなプロポーズですよね?」

「…」

じおう は かんがえること を やめた !

「……もういいんじゃないかなそういう事で(プロポーズって事で)

「本当ですか!?」

良いわけない、でしょ?

シアの方を向いていた俺の肩、ビシッと音が鳴りそうなくらい力強くつかんできたユエ。

その圧力は、俺すら恐怖するレベルだった。

ハジメも怖がっているのか、魔力駆動二輪の運転が荒くなってきている。

時王は私の、私一人の…結婚も私だけ、ずっと一緒に居るのも私だけ、私だけが時王の所有物なの。ね?じ、お、う?

「あ、いや、y」

「まっさかぁ…私だけに決まってるじゃないですかぁ…まったく、三百年も生きてたら耄碌しますよね?さっきの戯言はそういう事ですよね?今ならまだ許してあげますから…訂正したほうがいいですよ?このd

「おいやめろそれ以上は口が汚すぎる」

未来を見てこれから言おうとしていたシアの言葉の汚さを一瞬で知った俺は、全力で制止した。

それと一緒に、ユエの方もしっかりなだめておく。

何とか二人共落ち着いてはくれたが、俺の胃とハジメの胃が限界を迎えそうになっていた。

「なぁ、ハジメ…」

「なんだ…?」

「…町について、金を手に入れたら…腹痛に効く薬を売ってそうなところ探そうぜ?」

「…賛成」

お互いに腹部を抑えながら、早く町に到着して欲しいと願うのだった。




今回は短め(作者的には長め)。
ヤンデレに愛されたい人生だった…(ただし二次元に限る)
どうでもいいことパートⅡですが、ただし二次元に限るの元ネタを知っている人って何人いるんでしょうね。
ほとんどの人は、ただしイケメンに限るしか知らないでしょうし…


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過去編 剣士病化について(前編)

ブルックの街に行く前に、過去編その1。さらに前編。
今回は、途中の部分に淫夢要素があるので、そういうのは無理ですって人は今回の話は読まない方がいいです。
あくまで覚えておいて欲しいことは、雫が幼稚園児のころからすでに時王の事が好きで、病化するまえはただイチャコラしていただけって事だけです。
次回、過去編の後編では、誘拐された雫を時王がかっこよく助けて終わり。
ヤンデレ描写…がんばります!


三人称視点

これは、時王がありふれ世界で幼稚園児だったころの事と、小学生だったころの事である。

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時王side

暇だ。すっごく暇だ。

気づいたら転生していた系男子の俺は、苦行の幼稚園入園前を過ごしてきた。

ようやく解放か…と思ったら、幼稚園も中々苦行だった。

さっさと小学生に…

いや、この調子で行くと小学校も苦行だぞ?

いやだなぁ…俺も年長だから、来年には苦行だろう事が待っているという事なんだよなぁ…

「母さん、俺小学校行きたくないんだけど」

「それは駄目よ。小学校はぎむきょーいくって言って…何だったかしら?」

「はは、幸恵。義務教育って言うのはな?教育の義務の事だ」

「まぁ!そうだったわね!さすが和仁さん!」

…今の二人がこの世界での俺の両親だ。

常盤幸恵と、常盤和仁。

先程の会話からわかる通り…少し、いやかなり馬鹿だ。両親に言うのはあれだけど。

「…義務教育は、中学生までは学校に通わせなきゃいけないっていう、親の義務だよ」

「義務…?あ、権利みたいなやつね?」

「違うよ、権利と義務は全く別だよ」

「そうだぞ。時王の言うとおりだ。義務って言うのは…真面目さってやつだ」

「まぁ!そうなのね!」

「それは違うよ」

何故か子供の俺が親に向かって、子供に何かを教えるみたいな感じになっているのはもう気にすることを止めたことだ。

「ていうか、俺そろそろ幼稚園行かなきゃじゃない?」

「そうだったわね!あら?もう行く時間過ぎてるわ」

「そいつぁ大変だ!僕が車で送って行こう!」

…因みにこのくだり、かれこれ数か月やっている。

入園初日にやらかしたことで、意図せず俺は遅刻の常習犯扱いである。

教師側のブラックリストともいう。

この後、何とか車で送ってもらったが、間違って高速道路に入ってしまったりとしたせいで、結局昼飯時に幼稚園についた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

「…じおうくーん、あーそぼ!」

「…うん、何して遊ぶ?」

「かくれんぼー!」

「隠れる場所一つしかないけどどうするつもりだい?」

「えー?だいじょうぶだよー」

「そっか、じゃあ俺が鬼やるからね?100!(百の階乗)を俺が一から計算している間に隠れてね?」

「はーい!」

昼食を終えてすぐに遊ぼうと寄ってきた少女…名前?知らないな、そんなもの。

その名も知らぬ少女と遊ぶため、取り敢えず百の階乗を画用紙に書いて計算開始。

答えは知っているが、律義に計算してあげるのが優しさである。

だいたい三十秒くらいで書き終わったので、どこかなー?とか適当なこと言いながら迷いなく俺達の今いる部屋の隠れられる唯一の場所に向かう。

因みに、うちの幼稚園は制服とかないので、お互い私服で、少女の方は女の子らしくスカートを穿いていたが…

うん、しっかりめくれて見えてる。

何が、とは言わないけど。

くまのプリントされてるやつがばっちり見えてる。

…何この状況。ねぎまかな?

「みーつけた」

「わー、みつかっちゃったー!」

「じゃあ次はそっちが鬼ね?」

「うん!」

俺に満面の笑みで返事をした後、その場で目を覆い、数字を数え始める少女。

どうでもいい話だが、この子はまだ俺の影響で素数しか数えられないので、29までしかカウントしないから、カウントが早い。

「じおうくーん!どこー!」

答えませんよ、答えて何の得があるんですか(正論)。

そういうわけなので、スネーク的な隠密を行う。

無言で近くにあったダンボールの中に入り込み、コソコソと移動する。

因みにだが、このダンボールには俺が事前に覗き穴を開けておいたので、少女の行動はこちらには筒抜けだ。

というわけで少女の視界に入らないように移動すること数分、いきなり少女の動きが硬直した。

や、ヤバイ…か?

この状況に陥った時はマズイ。この後、俺が最も嫌いな事、「窘めるような説教」が待っているのだ。早急に何とかしなくては。

「ひぐっ、ぐすっ…じおうくんがいなくなっちゃったぁあああああああ!!」

「落ち着け!!落ち着いて!?落ち着こうよ頼むから!!ほら、いるぞ!俺はここにいるからなー!?」

「ひぅっ、えっぐ…じおうくん…?」

「そうだぞー…よしよーし、いなくなったりしないからなー」

少女を抱き寄せながら、頭を撫でる。

すると、すぐに泣き止み、(俺の服で)涙を拭って、二パーと笑ってこういった。

「じおうくんみーつけた!」

「…見つかっちゃった」

…子守りって、大変なんだなぁ…

ベビーシッターとか言う仕事をしている人たちを、心の底から尊敬した一日だった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

三人称視点

「ただいまー!」

背後を歩く母親を押しのけて扉を開けた少女。

何を隠そうこの少女、先程時王と遊んでいた(遊ばれていた)少女なのだ。

「今日も元気いっぱいね。前から聞こうと思っていたけれど、何かいいことあったの?」

「うん!じおうくんといっぱい遊んだの!」

「じおう…?」

そう言って顎に手を当てた母親。

母親は、必死にじおうという少年についての記憶を掘り起こす。

そして、すぐに思い出す。

(そうだわ、じおうくん…時王くん。名簿に書いてあったわね…あのキラキラネームの…)

思い出した後の感想は、お世辞にも時王が良く思うような思い出し方ではなかった。

(なぜか両親に似合わず賢かったのよね…前に一回話した事あるじゃない)

この話した事あるというのは、幼稚園の中で迷子になっていた時に時王が颯爽と現れて道案内したばかりか、通っている幼稚園での生活について述べてきた事を言っている。

またその時の演劇で主役を演じた時王は、とても幼稚園児とは思えない演技力と表情で観客を魅了していた。

親の中には、普通に泣いている人が沢山いたとかいたとか…

「それでね!じおうくんがいなくなったとおもってないてたら、じおうくんがなぐさめてくれたんだよ!!」

「あ、あらそうなの?」

(き、聞いてなかったけど…え?泣き止ませた?本当に幼稚園児?)

平然と俺SUGEEEE!を行っていた時王に内心驚愕する母親。

それを知らずに話を進める少女の顔は、とても明るいものだった。

「…そ、そんな事があったのね…これからも、仲良くしてもらうのよ?雫」

「うん!私じおうくんだいすきなの!」

「な、なんだとぉ!?」

「あ、あなた!?いきなり二階の部屋から隠し通路使って降りてきてまで驚愕しないで!?」

雫と呼ばれた少女の父親が、いきなりジャパニーズシノビのように回転扉的なものを使って一階に降りてきた。

そう、この少女、若き日の八重樫雫である。

「雫!!い、今のはどういう意味だ!?」

「?どういういみって?」

「い、今の好きっていうのは…どういう意味なんだ!?」

「んー…なんだろ、かおりちゃんへの好きと違ってー…けっこん?したいって感じかn」

「よしソイツ殺そう」

「落ち着いてみんな気持ちは同じよ」

雫の言葉に、両親はバーサーカーになりそうになった。

いや、ただのバーサーカーではない。これは…親バ(ーサー)カ(ー)である。

「なんでそんなおこるの?じおうくんは、かっこよくてやさしくて…あたまもよくて…お父さんがしょうらいもしかりにけっこんするとしたらこのじょうけんはかならずいるっていってたじょうけんぜんぶそろってるよ?」

「だ、だが…ぐぬぬぅ…おのれ時王ぅううううううううううう!!!」

夜の街に、我が娘を思う父親の声が響いた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

なんだかんだで小学生になった。

あの少女とは未だに交流がある。

小学生になってからも、俺に懐いている様子は全く変わらなかったばかりか…余計にかかわってきているような気すらする。

美少女だからいいんだけどさ?

因みに、今の俺は小学3年生。

只今登校中である。

「…で、なんで俺に引っ付いて来るんだ?」

「いいじゃん!」

俺の腕に引っ付いている少女(名前はまだ知らない。自己紹介の日は、呪いか?と思うくらい風を引いていたため、こいつの自己紹介を聞いていないからだ)を鬱陶し気に見つつも、まぁ別にいいかと思いながら放置する。

「おっ、見ろよ見ろよ!またアイツらいちゃいちゃしてるゾ」

「見ないですよ、見てなんの得があるんですか(暴論)」

「あの二人を見てると、なぜか頭にきますよ!」

「人前でイチャコラするのはやめちくり~」

「だ、駄目だよひでくん。馬鹿になんてしたら…」

「別に問題ないんだにょ」

「でもステラな人だし…お母さん知らない人を馬鹿にしちゃダメだって言ってたよ?」

「だいちは良い子すぎるんだにょ」

…(すごく汚い)ギャラリーが来てしまったので、隣の少女に、離れるように声をかけた。

すると…

「?なんで離れるの?」

「いやお前…俺と付き合ってるって勘違いされるのは嫌だろ?」

「?全然?」

…どうやらこの子は、無自覚で元陰キャボッチ童貞を勘違いさせて殺す才能があるらしい。

癖になってるのか?男(を社会的に)消して歩くの。

「はぁ…ま、どうでもいいか。早く行こうぜ。遅刻しちまう」

「うんっ!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

「じゃあお前ら、気を付けて帰れよー」

形式上、全員を気遣うような言葉を言いながら教卓に突っ伏した担任教師を横目に、帰宅の準備を終えた俺はそのまま教室を出ようと…

したが、背後から抱き着いてきた少女に歩みを止められた。

「…なんのようだ?」

「一緒に帰ろ!」

「…お前、えーっと…あいつ、なんだっけ?か…か…かお…?まぁいいや、そいつと一緒に帰らなくてもいいのかよ?」

「うん!行きも帰りも時王と一緒だって、随分前に説明してあるから!」

「あ、そう…」

すっごく良い笑顔で答えてきた少女に毒気を抜かれた俺は、諦めて一緒に帰ることにした。

校舎から出て、朝の奴等+αにからかわれるというイベントを回収してから、二人で誰もいない路地を歩いている。

「…アイツら毎日飽きないなぁ…一回黙らしてやろうか(平然を攻撃的な事を口にする人間の屑)」

「でもあの中の三人は空手習ってるらしいよ?」

「…俺だって強いんだぜ?一応鍛えてるし」

鍛えてると言っても、転生特典がない上に、ここがどんな世界かもわからない以上、油断は禁物だということで全身を虐げているだけなのだが…

この小学校にいる奴等がもうすでに汚い(直球)からなぁ…

この前なんて、平野先生が「がわ”い”い”な”ぁ”だい”ぢく”ん”!」って言いながらハンディカムで隠し撮りしてたしなぁ…うちの学校ホモしかいないのかよ(愕然)。

あ、俺はノンケです。(嘘じゃ)ないです。

俺が虚空に向けて身の潔白を証明しようとしていると、少女にくいくいと引っ張られた。

一体何事でしょうか?

「どうした?」

「あれ…」

「…あぁ、捨て猫か」

残念ながら犬派なので、猫ちゃーんとか言うことは無い。

ケモ耳でもそうだ。秋刀魚の祭りのたびに秋刀魚を口元で加えてるあの子も嫌いではないが、改が2になったら犬耳らしきものが出てくる止まない雨は無いが持論のあの子の方が好きとか、そういう感じに。

でも、ウサミミかなぁ~やっぱW。

いやそうじゃなくて。

「どうするんだ?まさか連れ帰るわけじゃないだろう?」

「…でもぉ…」

「……言っておくが俺は無理だからな?アレルギー持ちだし」

動物は基本触れません。

転生前は触り放題だったんですがねぇ…

「むぅ~~~!!!時王くんのバカァッ!」

「え?あっ、ちょっ、オイ!?」

涙を目元にためて、捨て台詞をはいて走っていた少女。

…なんで俺が怒られたんだろうか。

そんな泣くくらいなら、自分の親にも頼めばいいだろうに。

走って追いかけたらすぐに追いついてしまうので、視界から離れないレベルの距離を置きながら追いかける。

落ち着いたと思ったら声をかけよう。

そう思って後ろの方を歩いていると、いきなり少女の隣に大きい車が止まり、扉が開くと同時に少女を車内に引きずり込んだ。

「…誘拐犯…かよ」

一瞬硬直して、すぐに走り出す。

追いつけるだなんて思わないが、向かう先で大体の潜伏先を特定する。

最悪の場合、あの少女の親に頼んで、携帯のGPSでも使えばいい。

アイツはいつも電源つけっぱなしだったはずだからな。

…あ、やっべ。俺はアイツの親知らねぇ…

冷や汗を流しながら、俺は無心で走り続けるのだった。

 




前書きで言うべきだったのですが、最近の投稿ペースが遅いのは、俺がようつべでヤンデレASMRを聞くことが出来るとようやく学習したからです。
最ッ高ですね。ヤンデレASMR。
耳が幸せ。心も幸せ。
ヤンデレ女子に溺愛されたい人生だった(ただし二次元に限る)。


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過去編 剣士病化について(後編)

いやぁ、このサイトで初投稿した小説の方の話数突破記念で始めたこの過去編ですが、後半が少し出来が悪い(前半も中々悪い)し、書く速度も普通の内容を書くのに比べて格段に落ちてしまっているので、今書いている光輝と恵里の恋愛話はまた次の記念の時の投稿になりそうです。


時王side

途中信号の多いところを通ってくれたおかげで、小学生スペックでも全然追跡できた。

後は撲滅。誘拐犯に慈悲は無い。今夜の夕食は栄養豊富な人肉ハンバーグだぞ喜べマモル(モグラアマゾン)

五円玉がお前を救ってくれるはずだ。

「…いくら敵の本拠地らしきところの入り口にいるからって、少し気が動転しすぎだろ俺…まったく、さっさと終わらせて、帰るとするか」

手に持っているのは、ここに来る前に遭遇してしまった黒服の男から奪ってきた銃2丁に変えの弾丸。

子供なのに何持ってるんだ、とかそう言った言葉は受け付けない。今回は非常に緊急事態だからな。

声を出さないようにしながらドアノブを捻る。

不用心にも鍵はかかっていなかったため、難なく入ることが出来た。

馬鹿どもが。ちゃんと家の鍵を閉めた事すらないのかアイツらは。

音をたてないようにしながら扉の中に入る…なんてことはせず、扉をわざと蹴りつけ音をたてた。

「っ!?て、テメェ何者だ!?」

「人に名前を聞く時は自分から名乗れ低能」

ドパンッ!

入り口で待機していた恐らく下っ端であろう黒服の男をヘッドショット。

殺してすぐにソイツの所持品を漁り、銃2丁にナイフ。変えの弾丸も手に入れた。

「…見張りが一人しかいねぇってことは…小規模なんだろうな。きっと」

前世の経験(訳あってこういった奴等の抗争には何度か巻き込まれた事がある)から、今回の奴等がこの先面倒になってこないだろう事を察する。

いやぁ、一人殺っておいてこの発言。人としてどうかと思うよ我ながら。

銃声を聞きつけてか、人が駆け寄ってくる音が聞こえてきた。

さて、片っ端から潰していくか。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

「…死屍累々って、こういう状況を言うのか」

死体の山の上で、返り血を浴びながら平然と告げる。

黒服の男達から、銃とかナイフとかいろいろ強奪して、本格的に少女探しに出る。

弾丸は余りあるので、無駄に壁に撃ちながら、大声を出す。

「おーい!他に誰かいないのかぁー!もうお仲間さんは死んじまってんぞぉー!」

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

銃を乱射しながら歩いていると、不意に下の方から声のような物が聞こえてきた。

声の正体を悟った瞬間、俺は下の階への階段を降りた。

下の階は、廊下が長く、部屋も沢山あったが、電気がついている部屋が一つしかなく、どこにあの少女がいるかどうかは直ぐに察することが出来た。

唯一電気がついている部屋の、半開きになっている扉を蹴り飛ばし、銃を構える。

しかし、銃は必要なかったらしい。

「じ、じおうくん…ッ!」

「…あ?他の奴等はもういないのか?」

「ぜ、全員出ていったよ…?」

「そっか、じゃお前を解放して…あ、鍵がねぇな」

「か、鍵ならさっき出ていった人が…そこのテーブルに置いて行ったよ?」

「お、んじゃあそいつをもらって…」

ドパンッ!

テーブルの上にあるカギを取ろうとした瞬間、俺の腹部にいきなり焼けるような痛みが襲い掛かってきた。

「…い、生き残りが居たってのか…やられた」

「…トイレに行ってるうちにガキが侵入してくるなんてなぁ…お友達が心配だったのか?」

軽薄そうな笑みを浮かべながら、俺の頭を掴み持ち上げ、軽口を叩いた男の顔に唾を吐きつけ、中指をたてる。

「なっ、テメェ何しやがr」

「うるせぇバーカ!なぁに調子乗ったこと言ってんだタコ!能無し種無しの●●●野郎がかっこつけようとしてんじゃねぇよ!」

「…調子乗ってるのはお前だろ」

俺の煽りに、表情をスッと消して銃口を俺の額に押し当ててきた男。

そんな俺を見て、ひっ、と恐怖したような声をだした少女。

本来なら、少女を安心させてやりたいが、そんな余裕はないので…

「残念、俺のこれは平常運転だ」

ドパンッ!

銃を撃たれる前に、男の腹部に銃を押し付け撃った。

「っがぁ!?なっ、何でガキが…?」

「うるせ、人の事見下してんじゃねぇよ」

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

腹部を抑え、俺を落とした男の額に銃を当て、三発撃つ。

動かなくなったかどうかを確認するためにさらに数発。

弾を入れ替えて、さらに数発撃つ。

そこまでやって満足して、鍵で少女の入っている牢の扉を開ける。

「…時王くん!」

泣きながら抱き着いて来ようとした少女を受け入れようと手を広げたが…耐え切れずに倒れる。

しゅっ、出血多量か…ちくせう。

「じ、時王くん!?」

「…あー、まって、ゆすらないで?余裕そうに見えて俺すっごく死にそう」

「えぇっ!?」

「…くそっ、撃たれるなんて…普段の俺なら避けれたのによぉ…」

言い訳である。さらに言うなら普段の俺、ではなく前世の俺、である。

そんな俺の言葉を真に受けたのか、私のせい…?とか言いながら再び泣き出しそうになる少女。

「…おいおい、泣くなよ…助けた甲斐がないだろ?」

冗談交じりに無理して笑う。

だが、少女の顔は晴れなかった。

寧ろ、涙が零れてきて、俺の方が泣きそうになった(目に涙が入って痛いとかそういう意味で)。

「…やべぇ、俺もう無理だわ…寝る」

「ね、寝るって…死なないでよ!ねぇ!」

「だいじょぶだいじょぶ…ちょーっと寝るだけだから…」

それだけ言うと、俺の意識は暗転した。

意識が消える前に、少女が俺に何かしてきたような気がしたが…それは一体何だったのだろうか。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

雫side

眠っている(眠っているだけ…だよね?)時王くんを、ゆっくり私の膝の上から降ろし、立ち上がる。

「…お父さんとお母さんに、電話しなきゃ…」

連れて来られるときに盗られていた携帯電話を手に取り、家に電話をかける。

3コール目で、ゆったりとした声でお母さんが電話に出た。

「どうしたの雫?中々帰ってこないから心配して…」

「助けてお母さん!私誘拐されてっ、時王くんが助けてくれてっ、でも時王くんが銃で撃たれちゃって死にそうで…助けて!」

「…………と、とにかく救急車を呼んでおきなさい。私が電話しても、雫が何処にいるかわからないから。雫が今いる場所に救急車を呼ばなきゃいけないわ。それと、警察も呼びなさい。私たちも今から向かうわ」

「うん!」

電話を切り、学校で教えられた119と110に電話をかける。

しっかり外がどんなところか確認してから電話をかけた。

その時、足元に沢山人が倒れていたから、その事もちゃんと連絡しておいた。

「…待っててね時王くん、もうすぐ救急車が来るはずだから…」

もちろん返事はなかった。

ただ、息をしているのはわかったし、さっき救急箱にあるものを使って止血(お父さんに剣道と一緒に教えられているもしもの時のための技術。これがなかったら時王くんは…考えたくない)しておいたから、いくらか安心だとは思うけど…

やっぱり心配。

もう一度時王くんの顔を見る。

私の家の道場にいる光輝くんとは、また少し違った格好良さがある顔。

「…好きだよ、時王くん…助けてくれて、ありがとう」

理想の王子様が来る、なんて昔持っていた妄想だった。

だけど…彼は、私の理想みたいな人だった。

困ったら助けてくれて、優しく笑いかけてくれて、格好良くて、背も高くて…あげていたらキリがないくらい。

でも、同時に不安になる。

こんないい人、皆が放っておくわけ…ない。

時王が皆に認められるくらいすごい人だっていうのはわかるけど…他の人には盗られたくない…

渡すわけには行かない。

だって、時王くんは…一生私の王子様だから。

結局この後やってきた救急車に乗せられて時王くんが連れていかれて、私は警察の人に事情聴取された。

私は、時王くんが困らないように、私を連れ去っていった人たちがいきなり喧嘩を始めて、殺し合い始めたって言っておいた。

時王くんって、こうやって誤魔化しそうだと思ったし。

因みに、時王くんもそうやって答えて誤魔化したらしい。

ふふ、やっぱり時王くんをわかっているのは私だ。

今も昔もこれから先も、私。

私だけで…十分。

そんな私は今小学六年生。時王くんは隣の町に引っ越しちゃったけど…私の記憶の中には、時王くんがしっかりと色鮮やかに残っている。

時王くんの言葉は一言一句覚えている。

時王くんの服も、引っ越しするって聞いて、少しだけもらっちゃった。

時王くんのお父さんとお母さんに頼んだら、古着をいっぱいもらえっちゃった。

「はぁ…はぁ…時王くん…好きぃ♡」

一心不乱に下半身をまさぐりながら、時王くんの服の匂いを嗅ぐ。

感じるようになってから、毎日シている。

時王くんに、いつかシてもらえるのを期待しながら。

行為を終えると、ティッシュで汚れたところを吹き、服を着直して、時王くんの写真の方を見る。

部屋には、可愛いぬいぐるみと、時王くんの服、そして時王くんの写真がいたるところにある。

その写真の一枚を手に取り、ベッドに寝転がる。

写真をじっとみながら、にへら、と表情を崩す。

「…格好いいなぁ時王くん…早く会いたい」

もう家庭設計も出来ている。

子供は…時王くんが好きなだけ。

私は専業主婦で、いつも甲斐甲斐しく仕事から帰ってくる時王くんを迎えて、そして…

「はっ、いけないいけない…このままじゃもう一回シちゃうところだったわ…」

伸ばすな、と言われていた髪も、必死に頼み込んだら伸ばしていいと言われた。

今は頑張ってポニーテールを目指している。

前に、時王くんがポニーテールが好きって言っていたから。

だから、時王くんの理想の女目指して、髪を伸ばす。

家事とかもできるようになったら、時王くんの家を特定して、会いに行こう。

…あ、もう特定してた。

忘れてたわ…ついこの間時王くんの部屋に監視カメラ仕掛けてきたばっかりなのに。

後でしっかり映像を確認しなくちゃ。

この後も、映像の過激さに自然と手が下の方に伸びてしまい、ティッシュ箱を二つも消費してしまったのは言うまでもあるまい。




今回の作者の感想。
結局、時王も雫もサイコパスやなって。お似合いなんやなって。
作者的に、雫が一番好きなキャラなので、一番壊れた感じにしました。
ティッシュ箱2つ…一晩中シ続けたんでしょう。出がいいんですよ。きっとね。
あ、何がとか言いませんから。ナニがとか。


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ブルックの町

遅れたので初投稿です。
そして次回も初投稿です(先手)。
やばいですね。このままじゃブルックの町の一日だけで三話書くことになってしまいそうです。
やばいですね(他のキャラが闇堕ちする系のゲームの腹ペコキャラ風)。



時王side

町の入り口付近にて、俺達は少々面倒くさいことになっていた。

「…な、なんだこのステータス…俺の目がどうかしちまってるのか?」

俺とハジメは、元々この世界で自分たちを偽ったりして生きていくような真似はしないということに決めている。

だから、ステータスプレートも隠蔽せずにすべての情報を見せてやろう…と思ったのだが、如何せんこの世界の連中が俺達と比べるとかなり弱くなるのだ。

メルド団長がこの世界でも強い方らしく、それでも300くらいだったから…ハジメの10000超えは、一般人でしかない検問の男からすれば…魔王の襲来と言った感じだろう。

「そ、そっちのあんたのは…?」

検問の男が、更なる禁忌に触れようとしてきた。

だから、俺は爽やかな笑みでステータスプレートを差し出し、本当の数値を見せた。

その瞬間、検問の男は、通っていいと一言言って、休憩所らしき場所にトボトボと歩いて行った。

残念、これは見間違いとか寝不足のせいとかじゃないんだよなぁ…ま、強く生きてね?

町に入ると、俺達は久しぶりの人混みに圧倒された。

国と呼ばれるほどの大きなところじゃないにせよ、その活気はすさまじく、筆舌にしがたい、といった感じだった。

「…取り敢えず、冒険者ギルド的な場所に向かおうか」

「そうだな。早めに漢方薬局的なところで胃薬を買いたいが…そのためにも金が欲しいしな」

胃薬。

それさえあれば、絶賛ストレスで荒れまくっている俺達の胃袋に平穏が訪れることになる…

「ユエさん、さも当然のように私のジオウさんの腕につかまろうとしませんでくれません?」

「私の?何を言っているの?時王は私にしか好きだって言っていない。だから…時王は私の。私は時王の。それだけ」

「まさかぁ!ジオウさんは、私()()のジオウさんですから」

「面白くもない冗談ばかり言っていると…死ぬことになる」

「ユエさん、ブーメランって知ってます?」

「ふふ、ふふふ…」

「あは、あははははは…」

「「死ね」」

「落ち着けお前ら」

少し目を離していただけでこの有様である。

魔力を溢れさせてきた二人を何とか落ち着かせて、少し早歩きでギルド的なところを目指す。

道中も、ユエとシアが喧嘩をし始めそうになり、それを落ち着かせている間に町の連中から奇異な目で見られたりと、散々だった。

ギルドに到着し、扉を開ける。

中は思った以上に清潔感に溢れていて、よく異世界物で見るような荒々しい酒場感はなかった。

見知らぬ四人組の登場に、中にいた冒険者たちが一斉にこちらを見てきた。

俺とハジメを強いかどうか品定めするような目を向けた後、俺の隣にいるユエとシアを見て、ほぅ…と声を漏らした冒険者たち。

まぁそれを一々気に留めているわけにもいかないので、無視して受付嬢がいるであろう場所まで向かう。

カウンターには、非常に恰幅のいい笑顔が素敵なおばちゃんがいた。

確か…キャサリンだっけ?

「残念だったねぇ受付嬢が美人じゃなくて。特にそっちの眼帯付けてる方の兄ちゃん」

「は、はて何のことやら」

「時王?まさか…浮気、とか…言わない?」

「言わない」

「ジオウさぁん…私がいるじゃないですかぁ…」

「それは悪いけど肯定できないかなぁ…主にユエとかユエとかユエとかがいるし」

もしこの場でシアの言葉を肯定なんてしたら…

ブルックの町が、ブルックの町跡地になるだろう。

いや、もしくは…トータスが、トータス跡地になるかもしれん。

「あ、あー…その、なんだ?素材の買取りをしてもらいに来たのだが…」

もう悟りを開こうとすらしていた俺の隣で、冷や汗を流しながらも話を進めようとしたハジメ。

ナイス。

「買取かい?じゃあステータスプレートを出してくれるかい?」

「え、素材の買取りにステータスプレートが必要なのか?」

おばちゃんの言葉に、遥か彼方まで去っていこうとしていた俺の意識を一瞬で蘇生させ、質問する。

原作での描写を覚えていない以上、小さなことでも質問していかなければならないのだ。

俺の質問に、「おや?」と意外そうな顔をしたおばちゃん。

その意外そうな顔をそのままに、俺達に説明を始める。

「あんた達冒険者じゃなかったのかい?ステータスプレートは別になくてもいいけど、冒険者だと分かれば、買取が一割増になるんだよ」

「なるほど…そんな事が」

「ほかにも、ギルドと連携している宿屋とか薬屋とか…そういう店でも冒険者ってのは恩恵を受けることが出来る」

「ほぉー…なぁハジメ、冒険者ってのも悪くないんじゃないか?」

「かもな…なぁ、登録には一体いくらかかるんだ?」

「一人千ルタだね」

一ルタ=一円なので、千円登録費に必要らしい。

…結構無料で登録させてくれる世界とかもあるんだけどねぇ…

ま、これがこの世界のルールなら仕方ない。傍若無人にふるまうだけが王ではないのだ。

「じゃあ登録させてもらおうか。生憎持ち合わせがないんで、これから出す魔物の素材の査定額から差っ引いてくれて構わない」

「そんな可愛い子二人連れて無一文なんて情けないね。査定額少し割り増ししてあげるから、その子らに不自由な思いさせるんじゃないよ」

おばちゃんがやけにかっこいい。

これができる女というやつだろうか。

そんな事を考えながら、俺はハジメと一緒にステータスプレートを差し出した。

「あ、そうだ。こいつ等のステータスプレートも一緒に発行してやってくれ」

「はいよ…ってなんだいこの数字」

俺達のステータスプレートに目を通した瞬間、一気に訝し気な目になって睨みつけてきたおばちゃん。

大方俺達がステータスを偽っていると思ったのだろう。

「別に嘘じゃない。逆に聞くが、どうしてここで俺達が態々ステータスを偽る必要がある?」

「…そ、それは…」

「ま、怪しむのも無理は無いだろうな…とにかく、俺達がこの町を如何こうとか、そういうつもりは無いってだけ言っとく」

「………はぁ…そうかい。深くは追及しないことにするよ」

眉間を揉みほぐしながら言ったおばちゃんの胃痛を心配しつつ(同じく胃がキリキリするタイプの人間としての心配である)登録を待つ。

流石に俺は鬼じゃないので、ユエとシアのステータスプレートは発行させないことにした。

その理由を聞かれたので、「俺達と同じものをもう二回みたいなら止めないけど…いいのか?」を言ったら素直に引き下がってくれた。

登録を終え、おばちゃんからいろいろ話を聞かせてもらったところで魔物の素材を差し出す。

流石に奈落の魔物の素材を出すわけにもいかず、親切心から唯一まともな素材である、樹海の魔物の素材を差し出した。

それでも驚いた表情をされたのだが。

「…なるほど、そこの子の案内かい?」

「…まぁそんなところだな。できる限り質のいいものだけ出したんだが…どうだ?」

「ま、かなりの値はつくだろうけど…いいのかい?もう少し中心地にあるギルドなら、もっと高く買い取ってくれるだろうけど…」

「それじゃあ登録費はどうなるんだ?言っておくが借金はあまりしたくないタイプだぞ」

「…なるほどね。わかったよ。大体…四十八万七千ルタってとこだね」

おばちゃんから金を受け取り、亜空間に収納する。

出来る限り周りの奴等には見られないようにしておいた。

もしこれで便利屋的な仕事を任せられたりしたら、俺はこの町を元の状態にとどめることが出来ない自信がある。

「…そうだ。門番の男から、ここで上質な地図がもらえると聞いたんだが…」

「あぁ、ちょっと待っといで…ほい」

それだけ言うと、カウンターの奥を少し漁ってから、かなり精巧で、とても見やすい地図を差し出してきた。

「いいのか?これくらい上質なものなら金をとってもいいと思うんだが…」

「いいんだよ。私の天職は書士だからね…これくらい落書きみたいなもんよ」

…俺達に驚愕していたが、本来驚愕されるべきはこのおばちゃんの方なのではないだろうか。

「ま、タダでもらえるならありがたくもらっていくけどよ…」

「ああ。…そうそう、金があるんだから、上質な宿に泊まった方がいいよ。ここの治安が悪いってわけじゃなくて、そこの二人のせいでバカをやらかすやつが出るだろうからね」

「…それもそうだな。そうさせてもらうよ」

おばちゃんに軽く会釈してから外に出る。

…さて、早速この地図に頼るとするかな。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハジメside

「ここか…」

時王の先導で向かっていた宿に到着した。

看板には、マサカの宿と書いてあった。

一体何に驚いているのだろうか。

「いらっしゃいませー!」

宿の扉を開くと、奥から少女の声が聞こえてきた。

恐らくここの宿を経営している人の娘だろう。

…まぁこれで俺達より年上って言われたら素直に謝罪しよう。心の中で。

「ご宿泊でしょうか?それともお食事だけですか?」

「宿泊だ。この地図を見てきたんだが…記載通りで大丈夫か?」

「あぁ、キャサリンさんの紹介ですね。書いてある通りで大丈夫ですよ。それで何泊でしょうか?」

時王と受付の少女の会話を聞き、遠い目をする。

あのおばちゃん、キャサリンって名前だったのかぁ…

なんだろう、なぜかショックだ。

それは時王も同じだったらしく、少し肩が強張っていた。

「…そうだな、取り敢えず一泊で頼む。食事と風呂も一緒に頼もう」

「お風呂は十五分百ルタです。今のところこのお時間が空いていますが…」

「じゃあ二時間で」

「えぇっ!?二時間もッ!?」

時王が二時間と言った瞬間に瞳を怪し気に輝かせた少女。

それに何やら不穏な雰囲気を感じ取ったのか少しばかり訝し気な目をする時王。

「え、え~っと…部屋はどうしますか?二人部屋二つと四人部屋一つがありますが…」

頬を染めながら好奇心にあふれた目を向けながら時王に質問した少女。

それに対して時王は、少し間を開けてから答えた。

「…四人部屋で」

「よっ!?四人でッ!?」

「お前絶対誤解してるだろ」

ついにとうとう本性を現した(?)少女に、時王が呆れ気味にツッコむ。

まぁしょうがないか?この世界の奴で風呂を態々二時間も入るやつはいないだろうし。

「四人部屋は駄目。二人部屋二つ」

「よっしざまぁ!!」

「振られてやんのこの勘違い野郎!」

「ばーかばーーか!」

時王と少女の間に割り込んで言葉を放ったユエに、宿屋の他の客が嬉しそうに言う。

どうやら、二人部屋二つというのが男と女で分けるものと勘違いしたらしい。

だが、その喜びも一瞬で終わり、絶望に変わる事になった。

「私と時王で二人部屋。他はいらない」

「なっ!?何彼女面して時王さんの隣に居座ろうとしてるんですかぁ!?」

「?言っている意味が分からない。時王の隣は私の専用席」

「専用席って言葉ってトータスにもあるんだな」

「おい時王現実から目を背けようとすんな」

死んだ魚のような目をしながら天井のシミの数を数え始めた時王を現実に引き戻す。

だが、その間にあのヤンデレ二人はやらかしてしまった。

「ふんっ!ユエさん程度じゃ時王さんは満足させれませんよ!そんな貧相な体じゃ!!」

「…死にたいの?所詮駄肉。胸にしか栄養が行かない雑種風情が調子に乗ったこと言わないで?」

「調子に乗ったことぉ?事実を言って何が悪いんですかぁ?」

「…時王は私以外の女を抱かない。何でそれがわからないの?」

「うーわ、身の程知らずはこれだから…時王さんが首輪をつけてくれたのは私だけなんですよ?つまり、「俺の奴隷()はシアだけだ」って言ったようなものなんです」

「身の程知らずはどっち?未だに一晩も愛されてないシアが、時王の奴隷()になれるわけないでしょ?」

「…」

「…」

「「死ね/死んでください」」

「いややめろよお前ら店の中だぞ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

攻撃を仕掛けた二人の間に、時間を停止させて割り込んで、攻撃を亜空間に取り込んだ。

時間を動かした瞬間、いきなり攻撃の手ごたえがなくなったことに驚愕している表情を見せた二人の脳天を殴る。

「っ!?」

「痛っ!?ですぅ!?」

頭を押さえてしゃがみこんだ二人を放置し、店の少女に話かける。

「…二人部屋二つだ」

「私の勝ち、今晩も時王は私と」

「まっさかぁ!私との時間を取ろうとしてくれて」

「男部屋女部屋だろうが」

「「そんな!?」」

万一にもあり得ないと思っていたのか、すごく驚いた顔をした二人。

いやこの流れでどちらか選べって…最悪俺後ろから殺られるぞ…?

「いや時王。俺は一人がいいから、お前ら三人で二人部屋使ってくれ」

「なっ!?」

「「ナイスジョブ/ナイスですぅ!」」

「さっ、三人で!?」

ハジメの一言に、一瞬で復活した二人と、その言葉を聞いて顔をより一層赤くした少女をみて、俺はもうすべてを諦めた。

ただ、ハジメを今度中二キャラ的な弄りをしてやることを決めて。

この後、少女があの手この手で俺達の情事を覗こうとしてきたり、ユエとシアが部屋で争ったりしたのは言うまでもあるまい。




最近デュエルマスターズに再びハマりました。
ですが、金が異常にありません。
なんでだろうなぁと思ったら、最近中古でDX系のおもちゃを買いあさっていたなぁと気づきました。
おのれ財団B!


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似たもの同士/もう一人の王の暗躍

ドンッ!(迫真)
読者(イメージ)「おいゴルァ!降りろ、最新話を出す気持ってんのかオイ、あ”ぁ”?」
作者「…(呆然)」
読者「おいゴルァ、早く(最新話を)早く見せろ」
作者「…(モタモタしながら最新話を投稿中)」
読者の総意「あくしろよ」
作者「…(投稿完了)」
読者「チッ(投稿と同時に作品を読みだす)」
読者「よし作者クルルァついてこい」
作者(クルルァ…?)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
作者「最新話の感想、書いてください」
読者「やだよ(即答)」
作者「オナシャス!」
読者「お前それでも(投稿遅れた事)謝ってんのかよ(正論)」
作者「オナシャス、感想を…」
読者「やだっつってんだろ」
作者「オナシャス…」
読者「取り敢えず土下座しろよお前…あくしろよ」
作者(正座)
読者「お前何人待たせると思ってんだよ」
作者「すいません」
読者「どう落とし前つけんだよ」
作者「オナシャス、センセンシャル(食い気味)」
読者「(感想)書いてほしんだよなぁ」
作者「はい」
読者「じゃあ、初投稿にしろよ」
作者「初投稿?」
読者「初投稿だよ、初投稿兄貴の真似すんだよ。あくしろよ。オイ、書かねぇぞ?」
作者「(初投稿に)すれば書いていただけるんですか」
読者「おう考えてやるよ。(書くとは言ってない)あくしろよ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
…ということで初投稿です。
勝手に読者の総意を決めさせてもらったあげく、無駄なトークで553字も使いました許してください何でもしますから(何でもするとは言ってない)
取り敢えず今回の話、どうぞ。



ハジメside

「…なんだアレ」

錬成作業をいったん中止し、夜の空気を浴びようかと部屋から出ると、俺の部屋の隣…時王の泊まっている部屋に、木箱が入り込もうとしていた。

…いやス●ークかよ。

「どこの誰だ?お前は…」

溜息をつきながら木箱をひょいと持ち上げると、中から興奮した雰囲気の受付少女…確か、名前はソーナ・マサカだったか。なるほど、確かに『そんなまさか』だな、この状況。

「なっ!?この私の完璧な隠密が…!?」

「それで回避できるのは赤外線レーザーとかだろうが」

俺の言葉の意味は解っていないらしく、せきがいせん?れーざー?とか言いながら首をかしげていた。

「…はぁ、このまま放置してたら時王の部屋に侵入するだろうし…かといって何するといっても…義手も調整が必要だし、生身の方だと加減の練習してねぇし…しょうがねぇ。俺の部屋こい」

「まっ!?まさか私とっ!?」

「阿保か。珍しい物見せてやるよ」

ソーナ・マサカの発言を軽く鼻で笑ってから自分の部屋に向かう。

扉を開け、入るように促す。

俺の言った『珍しい物』というのがかなり気になるらしく、目を輝かせていた。

「ほい」

「わわわっ!?…こ、これは…?」

「ドンナー…俺特製の武器だ」

この世界には存在しない特殊な物であるドンナーを、興味津々と言った感じに眺めまわしているソーナ・マサカを尻目に、机の上で整備していたシュラークを手に取り、ソーナ・マサカに渡す。

…面倒くさいしソーナでいいか。

「こ、これまた変わった形の…こ、こんな小さいもので戦えるんですか?」

小さいもの、という言葉に一瞬疑問を覚えたが、すぐに納得する。

この世界に銃なんて存在しない。なら、ドンナーとシュラークがかなり大型だということがわからなくて然るべきである。

それに、剣とか弓とか…そう言ったこの世界での常識的な武器は、ドンナーより大きいものがほとんどだからなぁ…

大きい剣とかはロマンがある。

前に時王の使っていた…なんだっけか、メダガブリューとか呼んでいた気がする。そのメダガブリューも大きい斧…戦斧だったからな。すっごくかっこよかった。

しかもバズーカにも変形して…変形も男のロマンだ。いつかドンナーとシュラークも変形できるようにしたい。

「サイズは問題ない。この銃の力さえあれば、大抵の魔物は屠れる。それに、火力不足はコイツが補ってくれるしな」

そう言いながら、宝物庫からシュラーゲンを取り出し、手渡す。

「ず、ずっしりしてますね…この形状には何か意味があるんですか?」

「あぁ。この隙間のところに弾丸…そうだな、矢みたいなもんだ。それを大量に装填して、この引き金を引くと、さっき説明したドンナーとかシュラークとかの比にならないような威力で弾丸が射出、しかもそれが一分間に千発も打てるようになっている。ただまぁ、素材不足のせいで機関銃みたいになっているのが少し残念なところなんだが…」

機関銃、というのが理解できていないらしく、頭を押さえてうまく情報を飲みこもうとしているソーナを見ながら、あの戦いを思い出す。

実は最初のころのシュラーゲンは、ガトリングタイプだったのだ。だが…オーマジオウ(時王じゃない方)の懐で連射したりしたときの無理がたたって、一時は全体が粉々に砕け散ったのだ。

何とか素材を集めて作り直したが、どうしても戻せないくらい粉々になってしまったところがあり、今の機関銃のようなタイプ(それでも電磁加速されているので一分間に千発撃つことが出来る。だがその分衝撃が強いので、一度使った後はしばらく肩が痺れる)になったのだ。

「一分間に千発ってことは…十分で一万!?」

「単純計算だとな。だが、一度使った後銃身を冷却したりしないといけないからな…もし冷却せずに使ったら、あまりの熱にこれそのものが融けちまう」

「と、融ける…そんなに熱くなるんですか…」

冷却はまぁ、時王が担当してくれるからな。一瞬で冷えている時間まで戻してくれる。

だが、時王と別れて行動している時は一苦労だ。

自然冷却だから、とても時間がかかる。その分威力も申し分ないから構わないんだが…

「ほかにはオルカンとかか」

宝物庫からオルカン(核弾道ミサイルを発射するランチャー。時王の協力で、核融合を起こす寸前で時間を停止しているものを中に入れ、着弾と同時に核融合を起こすように設定している)渡す。

しっかりミサイルを抜いておいたうえでだ。

「…こ、これは?」

「…黒い雨を降らせる面制圧用の兵器」

面制圧を意識して作ったかなり非人道的な武器だ。これはあまり使うつもりは無い。

…まぁ迷宮の魔物相手なら使ってもいいだろう。

「コイツは他の武器と違って、電磁加速せずに最高火力を出すことが出来るんだ」

「電磁加速?」

「あー…」

言うべきか否か迷う。

つい製作者魂が燃え上がって熱弁してしまいそうになったが、冷静に考えればこんな一般人に兵器を見せびらかしても意味なんてない。

寧ろ俺の説明を、万一にもいないとは思うが俺レベルの錬成師に伝えられたら…面倒くさい敵が生まれることになる。

やばいな…これは…

「まぁ聞いてもわからないと思うのでいいです…それにしてもすごいですね!私、珍しいものと男女の営みを見ることが大好きなんです!」

「前者はともかく後者はまずいだろ。宿屋の店員としてだけじゃなくて一人の人間として」

人間をやめているといっても過言ではない俺が言ってどうするんだ、という感じだが。

「い、いいじゃないですか…くっ、いつかあの三人の痴態をこの目で…!」

「…やめておいた方がいいと思うんだがなぁ…」

趣味が合う者(珍しいものが好きという意味)として、親近感がわいた俺は、柄にもなく本気で心配する。

…なんだろうな。本気で心配したり、助け合ったりするのは時王だけって決めたはずなんだが…

「ま、いいや。今度また何か見せてやるよ」

「あ、明日とかは…って、そうでした。明日にはもう…」

少し残念そうにしているソーナに、俺の心の奥底にある、自慢したいという気持ちがくすぐられる。

「…そうだな。時王に一日伸ばしてもらえないか聞いてみるか」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

考えれば、きっと営業用なのだろうと言える。

だが、それなのに俺は、柄にもなく全く関係のない奴のために自分の意思を曲げたのだ。

…なるほど、確かにこりゃ町のアイドルやるわ。

飯を食ってる時の時王との会話を思い出しながら、心の中で苦笑いする。

嬉しそうに笑っているソーナを見ながら、俺は自然に口元を緩ませてしまったのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

三人称視点

「なぁ、主人公になってみたくねぇか?」

「おっ、お前どこから!?」

虚空からいきなり現れ、就寝しようとしていた少年、清水幸利に向かって突飛な話を始めた少年…檜山。

本来なら清水のいる王宮にはいないはずの檜山が現れ混乱している様子の清水だが、その全てを無視して話を進めた檜山。

「そんなのはどうでもいいんだよ。それで?主人公ってのになってみたくないか?」

「…お前に何ができるってんだよ」

話を進めないとダメだということに気づいた清水は、渋々といった様子で聞き返した。

「何ができる?おいおいおいおい…俺は王だぞ?できないことがあるわけないだろ?」

「王ぅ?本当にどうしたんだよお前…」

道化師のように大仰な手振りで嗤った檜山に、ついに気が狂ったか、というような目を向けながら質問した清水。

「狂ってねぇよ。そうだな…俺には資格があった。そして手に入れた…その力の一部を使って、お前を選んだんだ」

「選んだ…?」

選んだという言葉に反応して嬉しそうな表情をした清水を見て、想定通りと口元を歪めた檜山。

実は檜山は、清水に声をかける前に未来を見て、清水の承認欲求の高さを知っていたのだ。

故に主人公という言葉を選び、選んだという言葉を使ったのだ。

その思惑は成功し、清水が話に興味を持つようになった。

この機を逃すわけには行かないという風に、檜山は言葉を繋げる。

「そうさ。俺の手に入れた強大な力が…お前が一番だと選んだんだ」

「俺が…一番…」

「俺が今から渡そうとしている力は、お前が受け取って然るべきなんだ…それで?受け取らないか?」

「受け取るに決まってるだろ!?早く寄越せよその力ってやつを!!」

「はははははは!そういうと思ってたぜ!ほら、受け取れ!」

ディケイドォ…

虚空から現れた黒いライドウォッチ…アナザーウォッチのボタン部分を押し、清水の腹部に押し込んだ。

なんの抵抗もなくアナザーウォッチが埋め込まれた瞬間、清水の体の周りに黒いオーラが現れ、数枚のカード状の何かが顔の部分にささり、体が形成された。

『こ、これは…』

変わり果てた自分の姿を見て、嬉しそうに声を震わせた清水。

「戻ろうと思えばその姿から戻ることも出来る…それに、コイツは俺の持っている力の中でも随一の力を持っているんだ。お前だけが自在に操れるその力、うまく使えよ?」

『…この力を渡して、俺に何を望むんだ?』

「察しがいいなぁ…俺の要望はただ一つ…って言っても、この力を受け取った瞬間、これは要求する必要なんてないんだが…」

『なんだよ」

話している途中に姿を戻して、普通の声に戻って質問した清水。

それに対し檜山は、軽い調子で答えた。

「俺を王として崇め、王として出した命令をこなしてくれればいい」

「なっ…!?」

檜山の言葉を聞いて、清水は絶句した。

なんだこの要望は、奴隷になれと言っているようなものではないか。

そんな考えが湧いたが、なぜか一瞬で消え失せた。

「…あぁ、安心しろよ。俺がお前にキツい命令をする気はない。王として崇めろって言うのは俺の力に関係してるからそういう言い方をしただけで…実際は、俺のやることに協力しろってだけだ。それさえ終わればその力はお前が好きに使うといい」

「…やりたいことって?」

「白崎を俺の物にしたい」

清水は思った。それは俺に態々力を与えてまで達成させることなのだろうかと。

実は清水は…いや、清水どころかクラスの人間全員に共通することだが、香織と雫の異常なまでの時王への依存を知っているのだ。

時王の泊まっていた部屋の鍵を破壊し、時王の生活必需品を全て私物化している(これの匂いを嗅ぐと幸せになれるんだよ、との事)だけでなく、時王の匂いがすると言ってその場にしゃがみ込んだ時には、随分前に抜け落ちたらしい時王の髪の毛一本が握られていたことすらあった。

そのレベルの奴相手に好意を向ける奴がいるだろうか、いやいない。

そう思っている清水からすれば、今の檜山は自殺志願者のように見えた。

「…ま、まぁそれが願いって言うならいいんじゃねぇの?手伝うよ」

「ありがとよ。じゃあ早速頼みたいことがあるんだが…」

「なんだ?」

「急がなくていいが、強力な魔物の軍勢を作り上げてほしいんだ」

「魔物の軍?」

「そう、それでこの国に危機をもたらし、俺と清水で魔物を撃退する。そうすれば俺達の地位はあがる…その後、上がった地位を利用して第二計画に移動する」

「第二…計画?」

「それは魔物を利用したマッチポンプ作戦を終えてからだ」

「…ま、いいけどよ」

その作戦で地位を向上させる人間の中に自分を入れてくれている檜山の株が、清水の中で上昇した。

それもちゃんと檜山が計算した結果でわかっている事なのだが。

「それと、魔物の軍を作るなら王国から離れたところでやって欲しい」

「どうしてだ?」

「そりゃ国の近くでやって、冒険者に見つかりでもしたら大変だろ」

「それもそうか…わかった。何とか国を離れる用事を見つけてみる」

「その意気だ。じゃあ俺はもう戻るとするよ…期待してるぜ?」

オーロラカーテンを作り、その場を移動した檜山。

オーロラカーテンが消えた頃には、檜山の姿もその場から消えていた。

部屋には、これからの自分の栄光を想像して笑う清水だけが残った。

この後、行動に移したことにより地獄を見るのだが…それはまだ先の話である。




現在のハジメからのソーナへの好感度:気が合う奴…少し気になるヤツ?かもしれない
現在のソーナからハジメへの好感度:不思議なものをいっぱい持ってるかっこいい人(厨二好き)


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事件/恋する宿娘

遅れました(気軽な挨拶)
前回みたいな前置きはしないので、どうぞ。
今回の内容については、後書きで。


時王side

昨日はすごかった(遠い目)

俺の両隣ですやすやと眠っている二人を見て、辟易する。

別に好かれることは悪いこととは思わない。

複数人からの好意だろうと、難なく受け止めてやろうとすら思っていた。

だが現状はどうだろうか。

相手の気持ちを碌にわかってやることが出来ず、挙句俺の事を好いてくれている二人を無駄に争わせてすらいる。

昨日なんて、俺の取り合いをしながら事を致したのだ。

シアは結局氷漬けにされて何もしてこなかった…これなかった?のだが。

「おーい時王。入るぞ」

「ハジメか。いいぞ」

ユエとシアに服を着せ(時間操作で触れずに服を着させた。自分で着せたりしたら、もっと時間かかっちゃうからな)ハジメを部屋に入れる。

ハジメは部屋に入った瞬間に眉を顰め、ゴミ箱に入っているものを見て何かに気づいたかのような顔をした後、呆れが混じった表情でこちらを見てきた。

「…まさか二人相手にしたのか?」

「馬鹿か。ユエとしかしてねぇ。シアは凍らされてたからな」

「…昨日感じたあの魔力、やっぱりこいつ等だったのか…」

「ま、まぁ他の宿泊客は気づいてなかったみたいだし…」

「こっちの事も考えてくれよ…結局義手に追加ギミック二つしか入んなかっただろうが」

「だからそんなごっつくなったのか…バランス大丈夫なのか?」

「問題ないな。むしろ前までの奴だと右腕の方が重くて傾いていたくらいだった」

「…軽量化重視だったもんな…」

ハジメの義手を最初に作った時の事を思い出す。

あの時は、戦闘に支障をきたさないように、軽いものを作ろうと必死だった。

なんだかんだ言って作ることに成功したのだが、どうしてもハジメは軽さに違和感を感じていたらしい。

「でも今でバランスいいんだったら、これ以上弄ったら…」

「大丈夫だって。その辺もちゃんと考えてある…それより、言わなきゃいけないことがあってな」

「?」

ハジメが態々俺の部屋にまで足を運んで言わないといけないくらい深刻な事ってなんだ?

兵器を弄り過ぎて材料が無くなったから、別の世界線から素材を集めてこいって事か?

それくらい念話で十分だと思うが…

「この宿、あと数日泊まりたいんだが…」

「…?兵器の改造に時間がかかりそうなのか?それなら時間を停めときゃ…」

「いやそうじゃなくてだな…なんつーか…もう少しここに泊まりてぇんだ。駄目か?」

「別にいいぞ?俺の方がお前によく我が儘きいてもらってるからな」

「…ありがとよ。早速延長伝えてくるわ」

「それくらい俺が…ってもう行っちまった。一体なんだって言うn」

「あれは…」

「どう考えても…」

「「恋(ですねぇ)」」

「起きてたのかお前ら」

俺の言葉を遮って、二人で息ピッタリに考えを伝えてきたユエとシア。

こいつ等やっぱり仲いいよなぁ…俺がいるからあんなに殺伐としてるのかなぁ…申し訳ないなぁ…

「あの顔は恋をしてる…のに気づいていない顔」

「えぇ。きっと初恋ですね。今のところ気になるヤツ、程度の認識なんでしょうが…甘いですね。そのままなら、相手によっては他人にとられちゃいます」

「…アイツが恋、ねぇ…」

復讐心と殺意(あとはロマン)で出来ているような人間(?)になってしまった親友の恋路は、是が非でも応援したい…だが、出歯亀は駄目だろう。

ふーむ…相手がわからない以上、俺ができることなんてほとんどないし…

「適当に用事作って、ハジメとハジメの初恋相手だけの環境を作るとするか」

「それが一番。もしかしたら相手からも気になられている…かも?」

「性格がかなりあれですけど、ジオウさんと並んでいなかったらハジメさんって普通にイケメンですからね。…あ、私はジオウさん一筋ですよ?」

「別に時王は貴方の想いなんていらない…」

「あ”ぁ”?何言ってんですかぁ?」

「何言ってる、はこっちのセリフ…」

「落ち着けお前ら。取り敢えずハジメの様子見に行くぞ」

「「ん/はーい」」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハジメside

時王から了承を得て、一階のカウンターまで来た。

俺がついた時はまだソーナは居なかった。

…いや待て、何で俺はソーナ目当てみたいなことを考えたんだ?

別に宿の延長を伝える相手がソーナじゃないとダメってわけでもねぇのに…

モヤモヤとした感情を抱えながら、手に持っている硬貨を握りしめる。

少し待つと、カウンターの奥から駆け足で誰かが近寄ってくる音が聞こえた。

「すいませーん!少し準備に手間取っちゃって…って、昨日の」

「約束通り、宿の延長を伝えにな…」

「じゃあ、昨日みたいな珍しいものも…?」

「あぁ、もちろん。作ってるところも見せてやるよ」

「やったぁ!!」

俺の言葉に、嬉しそうに飛び上がったソーナ。

現代兵器が好きな女子…ミリタリー系か。

いつかこいつ、CQCとか使いだしそうだな。

昨日なんて木箱に隠れて行動してたくらいだし。

…あ、スネー●知らねぇのか。

「取り敢えず延長は一日だけでいい」

「あ、わかりました。料金は宿を出る時でいいですよ」

そういうとソーナは、カウンターの上に記録用紙のような物を置き、羽ペンを走らせ始めた。

鼻歌を歌いながら字を書いているソーナは、窓から差し込んできている朝日も相まってとても綺麗に…

今何考えてたんだ俺!?俺らしくなさすぎないか!?

昨日少し意識してしまったのがまだ影響しているのか、変なことを考えてしまっている。

このままでは戦闘にも支障をきたすかも知れないな…しょうがない。兵器開発の前に、久しぶりに復讐心を研ぎ澄ましておくか。

「終わりました!早速朝食にしますか?」

笑顔で俺に質問してきたソーナに、ありがたく朝食を受け取る旨を伝えて飯を食うスペースに移動する。

朝食が少し時間はかかるができたての物が出せると伝えられたので、少し待つことにした。

やっぱり出来たてが一番。

飯を待っている間に、俺の不調…ていうか異常について考える。

…やっぱりおかしいよなぁ…話の合う奴だからって、態々あんなに気にかけることなんてねぇのにな…

それに、さっきまでもすっごく変な事考えてたし…何で俺はアイツを見て綺麗だ、って思ったんだ?

もうそんな感性は残ってねぇはずなのに…ソーナの何が俺の何に引っ掛かってるんだ…?

はっきり言えばまだ初対面と言っても過言ではないレベル。

それなのに、何かあれば時王以外は切り捨てる気満々の俺が、ソーナの心配をしたり、あろうことかソーナの悲しむ顔を見て自分の予定を変更させるまでしたのだ。

まるでソーナに何か特別な感情を抱いているような…

「おーいハジメ?寝てんのか?」

「ぅおっ!?時王!?」

「おう、俺だ。それでどうしたんだ?目を閉じながら呻き続けやがって」

「……実は……いや、なんでもねぇ」

明るく挨拶してきた時王に、一瞬自分の不思議な感情について話すべきか否か迷ったが、話さないことにした。

どうせ時王に話したところでお前がやりたいようにやれって言って終わりだろうから。

アイツのそういうところは普段ならありがたいが、こうして第三者の意見を求めている時には非常に困るのだ。

「……ま、取り敢えず飯にしようぜ?腹が減ってはなんとやら。今日は事実上休日だからな。この町をウロチョロしてみるよ」

「そうか。なんか美味そうなもので持ち帰りが出来るようなやつがあったら土産にしてくれねぇか?」

「わかってるって。お前は装備の調整とかで忙しいんだろ?」

「まぁ、な」

話を深堀することなく話題を変えてくれた時王に感謝しつつ、土産を頼む。

王宮では高級料理しか食べれなかったのだ。せっかくなら庶民的な飯も食いたい。

もし出店的なものがあれば頼む、という意味で言ったのだが…恐らく時王は、普通の飯屋で注文したものを亜空間に仕舞って持ってくるんだろうなぁ…

時王はそういうことを平然とするような奴だからな。日本にいた時だって…

「おまたせしましたー!宿屋の気まぐれモーニングセット、一人前でーす!…あ、おはようございます。追加で三人前…でしょうか?」

「あぁ、ハジメと…コイツと同じものを頼むよ…いいよな?」

「ん。それでいい」

「うわぁ…!おいしそうですね!」

「かしこまりました!」

食事を持ってきたソーナに、時王が注文する。

ユエは感情の起伏が無い瞳で時王の方を凝視しつつ言葉を発し、シアは目を輝かせながら俺の飯を見つめていた。

出来たて、という言葉が放つ魔力は、どうやら日本もトータスも関係ないらしい。

まぁこいつ等がこれが出来たてだってことを知ってるわけがないのだが。

見た目でわかるか?

そんなことを考えながら、時王に断っておいてから先に飯を食う。

うん、おいしい。

やはり値が張る宿屋の飯はおいしいな。これが後三回は食べられると思うと心が躍る。

食べ終わると、俺は素早く作業を終えるために、時王たちが食べている最中だったが席を立ち、部屋に戻ることにした。

去り際に見た時王達が、なぜか目を輝かせながらサムズアップしていたのだが…どういう意味だったんだろうか。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハジメside

「んで、これが義手のギミック…そうだな、無難にサバイバルと呼んでおこう」

「さばいばる?」

「そう。このギミックは、もし仮に無人島に何も持たずにつれていかれたとしても生き抜けるような物で出来ている。例えばろ過機能…飲めないくらい汚い水を、綺麗にする機能とかな」

「でも、義手のギミックとしてつけるなら…取り出したりするのに時間がかかるんじゃ」

「その辺も問題ない。魔力を流せばこいつは思い通りに動く」

「魔力を流す…?そんなことが実際にできるんですか?」

「そりゃ魔力の直接そうs…」

ソーナに義手のギミックを見せているところで、使いづらくないかみたいなことを聞かれたので、本能の赴くままに説明してやろうと思ったら、危うく自分の秘密をばらしてしまうところだった。

いや、ほとんどバラしていた。

「そ、それよりも…この銃、コイツは俺じゃなくて時王の装備として頼まれてて作ったものなんだが…この黒い方がシックサル。白い方がミトスだ」

「?どういう意味なんですか?」

「シックサルが運命で、ミトスが神話って意味…だったはずだ」

あまり深くは覚えていない。ドイツ語は時王と一緒に中二病していた時にネットで調べただけだからな…

まぁドイツ語を知ってるやつなんてこの世界にいるわけじゃねぇし、人の目を気にする必要もないだろ。

意味を聞いて感心しているソーナから目を離し、違う兵器を開発し始める。

今作っている物は時王のではなく、俺の物で、盾を作ろうと思っている。

ヒュドラとの戦いの時から、防御面を考慮した装備が必要だと考えていたのだが…如何せん攻撃力の方ばかりに目を向け、自分が受けるダメージの方を意識していなかったので、そう言った防御系の兵器がなかったのだ。

サイズはどうしようか、最初から大きいものだと、宝物庫に入れておく必要があるし…宝物庫から取り出すのにはタイムラグがあるからな…攻撃速度が速い敵がいたら面倒だ。

やはり小型化、軽量化は必須…?

いや、あまりに小さいと、範囲攻撃を受け止めきれない…なら、状況に応じて展開するタイプのものを作ろう。

防御面を次第に増やしていき、最終的には球状に変形…いい感じだ。

ついでに、球状の時は魔力を通すことで銃口が幾つか出てくるように設計しよう。防御しながら攻撃…何というか、そそるものがある。

「ソーナ!」

「はーい!…すいません、お母さんに呼ばれたんで…」

「あぁ、勝手に進めるがいいか?」

「はい、出来上がったものを見るだけでも満足ですから!」

そういうや否や部屋を出ていったソーナ。

少しばかり表情が名残惜し気だったな…よし。この装備は後で作り始めよう。

今は時王の装備の調整に時間を割くとしよう。

まずはシックサルの方。

こっちのギミックを何度か使ってみて、不具合が無いかを確認、不具合を発見次第すぐに調整…だな。

シックサルは、ドンナーやシュラークと同じ形状にしているが…弾丸装填方法が違う。

弾を撃ち終えた状態でトリガーを引くと、シリンダー部分自動で移動し、空薬莢を排出する。

この時ただトリガーを引いただけでは空薬莢を排出するだけだが、魔力を通しながらトリガーを引けば、宝物庫に自動接続し、弾丸が直接シリンダーに送られる。

シリンダーが元の場所に戻った時には、生成魔法によってシリンダーに付与されている俺の錬成が、シリンダーと銃身を固定させる…耐久も使いやすさもドンナーと段違いだ。

ミトスの方も同じ作りにしてある。色の違いは使用した鉱石の違い。魔力伝導率がこちらの方が上だ。

因みに、シックサルの方が耐久値と火力(サイズが一回り大きいため、炸薬量が増えている)が高い。ただ、魔力伝導率が劣るから…一番の理想的な動きは、ミトスで先制、敵を威嚇し、行動を制限したところで本命のシックサルによる攻撃…なのだが、この戦法は迷宮の最下層付近じゃなきゃ使わないだろうな。

ミトスの方が炸薬量が少ないとはいえ、地上の魔物相手なら一撃必殺…態々策を練るまでもない。

最悪時王の場合は素手で殴った方が威力もあるのだ。もしそのまま殴ってもだめなら、オーマジオウになるだろうし。

ただまぁ、かなり自慢の出来だ。ドンナーにもこの装填方式を採用したいくらいだが…せっかく練習に練習を重ねてできるようになった高速装填、あまり使うことなくお役御免はちょっとあれだろう。

それに、俺が今こうして日の光を浴びて居られているのも、ドンナーの力あってこそ。思い入れが半端ではないのだ。

よく日本にも使いにくい旧式を重んじる人が良くいたが、その気持ちがわかる気がする。

…というより下が騒がしいな。迷惑な客でも来たのか?

迷宮で復讐を誓った時を思い出し、少しばかり殺気が強まっていた俺は、感傷に浸っているところを邪魔してきた(一方的にそう思った)一階の迷惑客を、少しばかり威圧しておこうと思ったのだ。

何があっても大丈夫、という確固たる自信を持ちながら一階に向かう。

するとそこでは、数人の男たちがソーナやソーナの両親、そして一般の利用客に刃を向け、金を奪い取ろうとしていた。

「…何だお前?」

「それはこっちのセリフなんだが…何してんだ?」

緊迫した雰囲気をあえて無視して問いかける。

すると、最初に俺に声をかけてきた肌が黒い(日焼けだろう)男が舌打ちをしてから黒いプレートを見せつけてきた。

冒険者か?

「随分余裕そうだなぁ!これを見てその態度を貫けるか?俺達は黒の冒険者だぞ!!」

「…それがどうした」

別に冒険者としての実力があろうがあるまいが、奈落を這い上がってきた俺達と比べ物にはならないだろう。

事実俺が少し威圧をにじませただけで冷や汗を流しながら全員後ずさっていた。

「…な、舐めやがって…殺してやる!」

「…それは敵ってことで構わねぇな?」

一応確認をとる。

ここが宿屋の中じゃなく森の中だとかならば敵かどうか確認する前に威嚇代わりに数人殺すが、ここは市街地。もしここでなにも聞かずに攻撃して、本当はアイツらに殺意はなかったとかだったとしたら面倒くさいことになる。

警備兵達の戦闘力はそれほどでもないだろうが、数が多い。大人数を敵に回すのはまだ早いのだ。

ましてや時王がいないこの状況で俺が事を荒立てたりなんかして時王に被害をもたらしたりなんかしたら大変だ。殺されちまう。

…ユエとシアに。

「あ”ぁ”!?ふざけやがって…所詮雑魚なのによぉ!」

ドパンッ!!

声を荒げてこちらに近づいてきたので、言い終わると同時に発砲した。

今回撃ったのはミトス。時王に渡す前の威力確認だ。

まぁ人体なんて脆いものじゃ確認も何もないんだが。

取り敢えず、人一人は簡単に殺せた。

着弾の衝撃で弾けた冒険者の脳みそが周囲にまき散らされた。

弾丸は冒険者の脳天を撃ち抜くだけでは飽き足らず、店内の壁をぶち破って外に出ていった。

なるほど。壁を貫通するレベルの威力はある、か。

「…な、なにしやがt」

ドパンッ!!

一般客の首元に刃を突きつけていた男が声を荒げようとしたので、言い切る前に発砲。

今度はシックサルである。

ミトスと違って威力が高かったためか、頭だけではなく鎖骨のあたりまで吹き飛ばした。

崩れ落ちてビクビク痙攣している死体を踏みつけ、威圧する。

「…次にこいつ等と一緒になりたいやつは誰だ?」

「黒を馬鹿にすんじゃねぇぞ!“雷撃”!」

俺に向かって魔法を向けてきた冒険者の方を見ないまま魔法の核を撃ち抜く。

シックサルから放たれた弾丸はドンナーやシュラークと違い、魔法の核を撃ち抜いても止まることなく冒険者の頭を吹き飛ばした。

「…やっぱ炸薬量を上げただけでも違うな。魔力伝導率もミトスほどではないがドンナーとかシュラークとかよりは高いし」

手に握った二丁の銃を見ながら、時王に胸を張って渡せるものが出来たと笑顔になる。

「…大丈夫だったか?」

宝物庫にシックサルもミトスも収納し、床に座り込んでしまっていたソーナの手を取り立ち上がらせ、一応安否を確認する。

…やっぱどうかしてんな俺。他の奴なら時王以外は絶対心配しねぇのに。

「…ぁっ、はい…」

「…人が殺されることろは初めて見たか?」

「………はい…」

そりゃそうか、と思いながら他の客の方を見る。

俺のやったことがただの虐殺ではなく、襲われている(と思われた)一般人たちを救った正当な行為だったことを主張する為である。

ひとしきり大丈夫そうなことを確認し、この宿の店長…ソーナの父に質問する。

「…さっきの奴等、何だったんだ?」

「わ、わかっていなかったのに攻撃したのか…彼らは最近新聞に取り上げられている元冒険者の強盗団でね…この宿みたいに、少しばかり盛況していて、警備兵がいないような店を狙って金品を強奪していく…そんな連中だよ。彼らはその中の一団…黒猫のメンバーだったようだね。装備に猫の目が描かれている」

「…なんか面倒くさくなりそうな気がしてならねぇんだが…」

「?あぁ、他のメンバーに狙われるんじゃないかって?大丈夫さ。彼らは一応一団になっているだけで、元々一緒に冒険者グループとして活動していた人意外とは基本的に会話が出来ない…コミュニケーション能力の低さが原因で、誰かがやられたところで関係ないってスタンスをとっているからね」

…コミュ障なのか、冒険者って。

まぁ俺も人の事を言えた義理ではないな。時王と初めて会った時…初めて会話した時、俺はどもり過ぎてて…“それ”が見えたせいで終わってしまった黄色いレインコートのジョージィの兄の日本語吹き替え版みたいな喋り方になってたからな…時王も「結局、あの時なんて言ってたんだ?」って言ってきたし…

いや今は関係ないな。うん。

「動くなぁ!」

「っ…離してください…!」

「…まだいたのか」

ソーナを羽交い絞めにして、剣でいつでも首を斬り落とせるようにしている男を見て、宝物庫からシックサルとミトスを取り出そうとしたが…

「動くなって言ってるだろ…!殺されてもいいのか!?あぁ!?」

「…チッ」

舌打ちをして、宝物庫から取り出すのをやめる。

これが他の客なら何のためらいもなく撃てるってのに…どうしてアイツの時は躊躇しちまうんだ…?

「てめぇか?アイツらを殺したのは」

「それがどうした」

「…一体どんな手を使った?アイツらはそんな簡単にやられるような奴等じゃなかったはずだが」

「さぁな、俺が何をしたのか知りたいってんだったら…自分の体ででも試してみればいいじゃねぇか」

「チッ…ふざけやがって…どんな技を使ったか知らねぇが、人質がいる状態じゃ何もできねぇだろ?」

「…」

「はっ…おい!そこのお前!眼帯野郎の隣にいるお前だ!店主だろ?さっさと金目の物を持ってこい!」

「も、持ってくればソーナを…その子を解放していただけるんですか…?」

「うるせぇ!さっさともってこい!」

「は、はい!」

「その必要はない」

「し、しかし…」

「何ふざけたこと言ってんだ眼帯野郎…こいつがどうなっても…」

「どうなることもねぇよ」

ドパンッ!!ドパンッ!!

男が顔を真っ赤にしながらソーナの首筋に傷をつけたところで、右大腿部のホルスターにあるドンナーを抜き、一瞬のすきもなく発砲。

一発目で顔を消し飛ばせ、崩れ落ちていく体にダメ押すようにもう一発。

ビチャッと何かが潰れたような音をたてて地面に倒れた瞬間、硬直していたソーナが気絶して倒れこんだ。

崩れ落ちる前に賭けより、抱き留める。

…いや待て、なんで抱き留めた!?

咄嗟の行動に、腕の中のソーナを優しく抱き留めながら内心狂乱する。

咄嗟に抱き留めるくらい、俺の中でソーナという存在は大きくなっているってことか?

しかし何故?コイツに感じたものと言えば親近感くらい…いやいや、変心した今、親近感を得ることすらおかしいことなのでは?

混乱している俺を知ってか知らずか、ソーナの父親が俺の元まで来て、ソーナの顔を覗き込んだ。

「…け、怪我はしてないな…」

「首元は軽く斬りつけられた程度みたいだしな…よかったじゃねぇか、一生モノの傷が無くて」

「…重ね重ね、ありがとうございました」

「いや、いいんだ…とにかく、この子をベッドにでも連れて行ってやれ…このまま床で寝かせるつもりか?」

「そ、そうでしたね…」

俺からソーナを受け取り、急いでカウンターの奥に連れて行った。

仮眠室でもあるのだろうか。

「…間に合ってよかった、か?でもな…」

「かっこよかったじゃねぇかハジメ」

「うっひゃぁ!?…じ、時王か…驚かすんじゃねぇよ…」

「いやー、男でしたねぇ」

「ん…ハジメ、男前」

「でもまぁジオウさんの方が男前ですがね!」

「…駄肉ウサギのくせに、私よりも先に時王のポイントを稼ごうなんて…いい度胸」

「ねぇ人が知らないところで勝手にポイント制度始めないでくれる?」

…いきなり話しかけられたかと思えば、隣の二人がいきなり喧嘩を始めた。

なんなんだこいつ等。

「…まぁ、頑張れ」

「いやハジメ見てないで助けようぜ」

「…痴話喧嘩は苦手分野だ」

「そう言わず何とかぁ!!」

「…時王」

「…どうしたユエ」

「私の事、好き?」

「いやもちろんすk」

「ジオウさん、今なんて言おうとしてました?」

「………」

「今、態々中断させる必要あった?また氷漬けにされたい?」

「はっ、同じ手で勝てるとでも?知ってますか?兎闘士(トジント)に同じ技は二度通用しないんですよ?」

「いい度胸、魔法も弾幕もパワーだって…教えてあげる」

「「表出ろ」」

「やめて!?そんなキャラをかなぐり捨ててまで喧嘩しないで!?」

「時王、強く生きろよ」

「ハジメ…!?」

親友の悲痛な声を背に受け、無言で上の階へ向かった。

後ろから時王の心が折れる音が聞こえたが、それは無かったことにしておこう。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ソーナside

「ん、んぅ…」

「ソーナ!」

「…お父さん?お母さんも…どうして…?」

「覚えてないのか?気絶してたんだよ」

「気絶…そう言えば、私…うっ」

「「ソーナ!?」」

気絶する前に見た光景を思い出し、吐き気を催した。

私のすぐ隣で辺りに散らばった肉塊、脳漿…崩れ落ちた体からは悪臭を放つ液体が流れ出て、死体はびくびくと痙攣していた。

「…はぁ、はぁ…大丈夫。ちょっと思い出しちゃって…」

「…ソーナには少し刺激が強かったかもね…他に何か変なところはある?」

「………んーん、大丈夫」

心配そうに尋ねてきたお母さんに、弱々しくが笑顔で返す。

大丈夫と言ったが、お父さんもお母さんも表情は明るくならなかった。

寧ろ無理しているんじゃないかという風に、余計に暗い表情になった。

「大丈夫、本当に大丈夫だから!ちょっと刺激的過ぎただけ!だから安心して!ね?」

「……ソーナがそういうなら、そういう事にしておきましょうか」

溜息をつきながら立ち上がったお母さん。

「ソーナはもう少し休んでおきなさい。仕事の手伝いも、しばらく休んでいいわ」

「…ありがと」

「いいの。さ、行くわよ」

「いや、ソーナがまだ心p」

「い、く、わ、よ」

「…はい」

お母さんに首元を掴まれて引きずられていったお父さん。

静かに扉が閉められ、部屋には私一人だけになった。

「…あの時…気絶しかけてる時…私、誰かに受け止められたような…」

余り思い出したくないが、あの時の光景を思い出す。

あの時は…ハジメさんがドンナーを取り出して…引き金を引いたら一瞬で私を掴んでた男の人が死んで…それを見て崩れ落ちた私を…優しく抱き留めて…

「…あの時の温かい、包まれるような優しい感じ…ハジメさんだったんだぁ…///」

頬が熱くなるのを感じる。

それもそうだろう。命の危機を颯爽と救われ、挙句崩れ落ちそうなところを抱きかかえられ、その上あのビジュアル…私の理想そのものだった。

あんな風に助けられたら、意識せざるを得ない…

「あぅぅ…カウンターでどんな顔すればいいの…?」

枕に顔をうずめて足をジタバタさせる。

脳裏に焼き付いたハジメさんの顔が、私の心を乱し続ける。

「ぅぅぅぅ…///最初に見た時からかっこいい人だとは思ってたけどぉ…まさかあんな…あんな私の夢見てた助け方するなんてぇ…///ず、ずるい…」

…今日は、しばらく寝れなさそうだ。

悶々としている心を鎮めようと音をあまりたてないように暴れながら、私はなんとなくそう思うのだった。




今回の内容の一番頭を悩ませたところは、やはりハジメがソーナを人質にしていた男を射殺するシーンですね。
原作通り「え、いいのか?助かるわ」ってさせるのは、この作品のかなり変貌しているハジメに合ってないと思ったのは言わずもがな。
しかし、いいのか?なしに銃を撃つだけではソーナがハジメに惚れるようなことが無くなってしまう…
そういう事で、なぜかハジメがソーナを気にしているようなことを何度か書いておいて、撃つときにすぐに撃たず躊躇してもあまり違和感が無いようにしました。
あの違和感はこれだったんですね~(目を逸らす)

現在のハジメからソーナへの好感度:なぜか異常に気にしてしまう奴。頭からアイツが離れない。
現在のソーナからハジメへの好感度:理想を体現している、初恋の人。頭からあの人を離れさせたくない。


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再会の約束/ライセン大峡谷

久しぶりに某最強を目指す刃な牙のOPを聞いていたんですが、イントロから先の記憶がないんですよねぇ…
一体何が…
あ、ゼロワンの映画情報、また出ましたね。
楽しみです。


時王side

「…いいのか?別にもう少しここにいたって…」

「いいんだ。あんまりのんびりしてもいられない…俺達の目的は二つ。大迷宮を攻略して神を殺すこと。そして…日本に戻る事だけだ」

「…まぁ、お前がそれでいいならそれでいいんだけどよ」

ハジメからライセン大峡谷の探索に向かおうと言われたので、一応確認しておきたかったことを確認した。

ハジメがあの受付嬢の…ソーナだっけ?に少なからず好意を寄せているのは一目しなくても瞭然。

その癖なんの進展もなしに命がけのたびに逆戻りってのはあれじゃないか?と思ったんだが…

ハジメの目は確固たる意志を示していたし、俺自身あまりこの町に残りたいとは思えてなかったので(クリスタベルとか言う化け物の店に立ち寄ってしまった)あまり強く引き留めるようなことはしなかったのだが。

「…それと、昨日あんな感じになって渡せてなかったけど…これ」

「おぉ!銃じゃん!出来てたのか!!」

「あぁ。黒い方がシックサル。白い方がミトスだ」

「…えーっと、シックサルが運命で、ミトスが…神話?だっけ?」

「そう。お前に合ってる言葉を俺の数少ないボキャブラリーの中から探して決めたんだ」

「運命はともかく、神話は俺に合っているのかどうかよくわからねぇけどな」

「…いや、あれだ。神を殺す話、略して神話ってことで」

「なるほど」

神(を殺す)話か。いい言葉だ。

「使い方はまぁ…後でいいだろ。さっさと行こうぜ?」

「…あぁ。そうだな」

楽しそうに談笑していたユエとシアに声をかけ、部屋を出る。

一階のカウンターの前に行くと、奥の方から今行きまーすと声が聞こえてきた。

その声が聞こえた時、ハジメの表情が少し歪められたのを俺は見逃さなかった。

「すいませーん…っ!?」

手を拭きながら(皿洗いの手伝いでもしていたのだろう)こちらを見たソーナは、ハジメを視界に入れた瞬間に頬を真っ赤に染めた。

…ま、まさか…?

女の勘、というやつに頼るために俺の右隣にいたユエの方を見る。

俺の視線に気づいたユエは、視線で「あれは恋する乙女の顔」と言ってきた。

やはりか…!!

やったねハジメ、初恋成功しそうだよ。

心の中で祝福していると、ハジメが無言が続いていたこの状況を打破した。

「…えっと、チェックアウトに来たんだが…」

「ぁっ、はい…ご宿泊ありがとうございました…」

宿を出ていくことを告げたら、ソーナは露骨に悲しそうな顔をした。

その表情を見て、ハジメも暗い表情になった。

………あぁぁああああああ!!もう見てられねぇ!!

「…しばらくはこれないけど、またこの町に戻ってくるつもりだから…その時もここに泊めてもらっていいか?」

「…は、ハジメさんも来ますか?」

上目遣いで訪ねてきたソーナ。

うん、これはもう確定ですね。

「…おい、答えてやれ」

「えっ…あー、まぁ。うん…また、泊めてもらいたいな」

「っ!はい!!またのお越しをお待ちしております!!」

表情を明るいものに一転させ、元気に言い放ったソーナ。

朝食を食べていた一般の女性客が、「ソーナちゃん頑張って」みたいな暖かい目をしていた。

皆からも応援されているわけだし、後は俺の親友の鈍感野郎に自主的に想いに気づいてもらうだけだ。

…まぁもし本当にまずいなと思ったら俺もフォローに入ろう。

仮にも恋愛マスター(自称)だからな!

異世界の美少女二人から好意を寄せられるレベルだ!

…ほかに俺に好意を寄せてきた奴なんていなかったが。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

「…さて、こっからは本当に気を引き締めてかないとな」

「ハジメ…まだやる気だしてなかったのか」

「すまんすまん…もう大丈夫だ」

瞳を殺意に染め、ドンナーを構えたハジメに、久しぶりに戻ったな…と少しばかり懐かしさを感じた。

「…それでシア、未来視の調子はどうだ?」

「えぇ!ばっちりですよぉ!前までは一回で行動不能になっていましたが…三回目までは使えます!!」

「ならよし。ユエ、この間渡したアレの調子はどうだ?」

「ん。ベストコンディション」

「よし」

シックサルとミトスを手慰みにガンスピンしながら、周囲を見渡す。

魔力放出を最大限広げながら、迷宮の入り口らしきものを探索する。

中々抵抗がすごいな…いつもよりも広がり難い…

ハジメも俺に倣って魔力を放出させていた。

「…どうだハジメ、見つかったか?」

「いや…見当たらないな。隠蔽されているかもしれねぇ」

「…だったらこの岩肌全部ぶっ壊せばいいんじゃないですか?」

「…もしそれで大迷宮の入り口が見つかったとしても、そこが一般の人まで入れるようになって、これから私たちと敵対することになる人まで力を手に入れることになったら面倒」

「あー…私としたことが…」

「まぁまだ決まってない未来がわかるわけでもあるまいし、気にすることじゃねぇさ…ハジメ、あの魔力二輪駆動…シュタイフ?出してもらえねぇかな」

「玉座じゃなくていいのか?」

「あっちだと魔力分解の影響がシュタイフよりも強くなる」

「なるほど。魔力で構成されてるわけだし…」

納得した表情をして、宝物庫からシュタイフを取り出したハジメ。

サイドカーをつけてもらい、運転してもらう。

まぁ最悪俺でも運転はできるが、バイクは見る方が楽しいから態々運転させてもらおうとは思わない。

移動を開始して数分。

襲ってくる敵は基本的に俺が相手していた。

まぁ俺がシックサルとミトスを使って戦う練習をしておきたいって言って自分からやってるんだけどね。

「…今のどうだ?」

「…少しずれてましたね」

「チッ…じゃあこれでどうだ!」

「むむ…さっきよりはいいですが…まだまだですね」

シアの魔力による視力の強化の練習もかねて、俺が狙ったところに寸分違わず当てられるかの確認をしてもらっている。

最初はビギナーズラック的なもので綺麗にあたったが、その次からは惜しいところにしか行かなくなってしまった。

「……日が暮れてきたし、そろそろ野宿しねぇか?」

「ちょっと待ってくれないかハジメ。あと一匹なんだ…」

ドパンッ!!

乾いた炸裂音が響き、敵の頭部が吹き飛んだ。

「シア!どうだった!?」

「完璧でした!クリーンヒット!」

「よっしゃ!!この調子で頑張るか!…っと、野宿か。テントなんて持ってねぇけど?」

「錬成で岩屋に加工すればいいだろ」

「魔力分解を忘れたのかお前」

「…まぁなんとかなるだろ」

目を逸らしてシュタイフを宝物庫に収納して岩肌に手を当てたハジメ。

紅いスパークが迸るが、空気中に出た瞬間消滅する。

やはり魔力分解が…

「チッ…クソがぁあ!!」

ミシッ!!と音が鳴るくらい力強く岩肌を握ったハジメ。

その声が大きくなっていくにつれ、魔力放出量も増えていった。

そしてついに、岩壁がグニャリと歪み、姿を変え始めた。

しばらくの間グネグネ蠢いていた岩壁は、屋根のような物が出来上がった所で動きを止め、綺麗な形になった。

「…どうだ!!」

「…お疲れさん」

労いの言葉をかけながら神水を手渡す。

それを一気に飲み干し、ファイト一発な飲み物を飲んだ後のような反応を見せたハジメを尻目に、完成した岩屋の内部を確認する。

「…おぉ…随分造形の手が凝ってるじゃねぇか…もしかして結構余裕だった?」

「まさか…今はもう神水のおかげで元気だが、飲む前までは死ぬかと思ってたくらいだぞ…」

未だ顔が青い状態で返答してきたハジメ。

神水を飲んでもそんな様子になるくらい辛かったんだろうが、やはり内装がかなりこだわりを感じられる。

自分が苦しまない道を選ぶのではなく、自分が満足いくようなものを作る道を選んだんだろうか。

「ベッドはまぁ、時王の玉座でいいか?」

「おう。最近複数個作れるようになったんだ」

「そりゃありがたいな…同じベッドでお楽しみなんかされてたら寝不足になっちまう」

「…俺がそこまで無節操だと思ってんのか?」

「いや、ユエとかシアとか…やりかねないな、と」

「…」

ハジメの言葉を聞いて、ユエとシアの方を見る。俺達とは離れたところで、室内がどんな感じか確認していた。

その目は、例えるなら獲物を狙う捕食者のような感じだった。

「…ハジメ、耳栓でも錬成しておいた方がいいぞ」

「まずやらない努力をしようぜ」

「やだよ。態々断る理由もないし…シアの方は、ユエに殺されそうだから断ってるけど」

「…もう気にせず二人共抱けばいいじゃねぇの?」

「致している最中に喧嘩なんてされたら一生立ち上がれなくなる自信がある」

「それは…そうか」

死んだ目で告げると、若干引きながらも理解を示してくれたハジメ。

深く追求しようとしないところがありがたい。

「…まぁ気にしたら終わりってやつだな、うん。頑張れよ」

「…おう」

「……あ、そうだ。シックサルとミトスはどうだった?使いやすかったか?」

「あぁ。最高だったよ。リロードの速さも予想以上だし。…どうやって宝物庫に直接接続できるようにしたんだ?」

「生成魔法の練習中にちょっとな…宝物庫の原理を調べといて正解だった、って感じか?」

指の宝物庫を見ながら懐かしむような表情をしたハジメ。

すごいなぁ…俺ならそんな事やろうと思わねぇし、思ったとしても成功するまでやり遂げるような精神力もない。

ハジメを心の中で称賛しつつ、俺はユエとシアをどうするかという目下最大の問題を頭の片隅に放り投げるのであった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

なんだかんだあって飯も終わり、俺とハジメは外に出ていた。

「…結局こうやって歩いて探した方が効率いいよな」

「そうだな」

もしかしたら移動中に見落としていたかもしれないということで、俺達二人だけで探索に乗り出したのだ。

「そういやハジメ。俺ずっと前から気になってたことがあるんだけど」

「ん?」

「魔物っていつ眠るんだろうな」

「…あー。迷宮の魔物はどのタイミングでも活動してたからな…地上なら時間の感覚もあるだろうし、寝てる魔物だっていてもおかしくはない、か…だったらしばらくは昼間寝て夜間に活動したほうがいいか?」

「昼夜逆転はトラウマが…」

「寝坊とかねぇんだからいいだろ?」

「でもよぉ…」

泣き言言ってたらハジメに苦笑いされた。

いやしかし、これは日本にいた時の経験が…

まぁ詳しく語るほどの事でもないからいいんだけどさぁ…

「というより、アイツら放置でよかったのか?」

「大丈夫だろ。ユエがかなり嫌がってたけど、すぐ戻るって言っておいたし」

「…いいならいいが…」

何かを恐れているような目をしたハジメに首をかしげるが、すぐに何でもないという風に手を振ってきたので考えることを止める。

ある程度歩くと、変なものが視界に映った。

「…なぁハジメ、さっきの壁のところに文字が見えたんだが…」

「いやそれをすぐに言おうぜ」

数歩戻って壁を見る。

足元には岩石が沢山散らばっていて、岩肌には銃痕のような物があった。

どうやら俺が魔物を殺した時の弾丸が、勢い余って壁を破壊したらしい。

「…っと、文字文字…あった」

「…これか。この…何というか…アレな感じの」

「あぁ…これは迷宮確定だな」

「確かになぁ…でもなぁ…もうこの迷宮放置でよくないか?」

「ハジメ、現実から逃げようとするな」

「だけどよ…こんな…こんなふざけた文章書くような奴だぞ?碌な迷宮なはずがねぇ」

「それは極めて同感」

目尻をヒクヒクさせながら踵をかえそうとしたハジメの肩を掴みながら壁に書かれている字を見る。

そこには、【おいでませ!ミレディ・ライセンのドキワク☆大迷宮へ♪】と書かれていた。

…原作知識(と言ってもほとんど残っていない)が告げていた。

この迷宮はやばいところだと。

主に精神的な意味で。

「…取り敢えずアイツらを呼びに行くか」

「そうだな…そしてそのままブルックに戻ろう」

「落ち着けハジメ、明らかに面倒くさい雰囲気を出していると言ってそれが俺達が妥協していい理由にはならない」

ハジメの肩を揺さぶり、正気に戻らせようとする。

ハジメの目は死んだままで、明らかに面倒事は避けて通りたいという感じを醸し出していた。

「関わり合いになりたくないのは俺も同じだ。だがな。こんなところで妥協してたら…アイツらに復讐するなんてできないぞ!?」

「っ………だな。ありがとな時王…大事なことを忘れるところだった」

俺の言葉を聞いて、衝撃を受けた表情をしたハジメ。

次の瞬間には、瞳をどす黒く染めて迷宮の方を向いた。

「…例えどんな奴が相手でも、どんな場所が戦場になろうと…やることは一つ。殺すだけ…それだけだったな」

それだけ言って、ハジメはホルスターからドンナーを取り出して発砲した。

書かれていた文字を吹き飛ばし、壁の奥底にめり込んだ銃弾は、そのまま奥の方へ飛んで行って…

「…なぁハジメ、俺の勘違いじゃなかったら…」

「あぁ。どうやらあの壁が迷宮に直接つながっているらしいな…取り敢えず、俺は他に何かないか探しておくから、お前はあの二人を連れてこい」

「了解。先に入るとかやめろよ?」

「わかってるさ」

それだけ言うと、ハジメは迷宮の入り口(だろう場所)付近の探索を開始し、俺は拠点についた、という結果だけ残して時間を飛ばした。

この後、起こしたユエとシアにベッドに引きずり込まれたのは言うまでもあるまい。




最近知り合いが東方projectにハマったと言ってきたので、好きな曲はなんだ、と聞いたときの会話
「U.N.オーエンは彼女なのか?かなー、やっぱ」
「あー。いい曲だよなぁ…俺はやっぱりクレイジーバックダンサーズかなぁ…」
「…ん?」
「妖々夢の広有射怪鳥事もいいよなぁ…でもサニーミルクの紅霧異変とかもいいよなぁ…あ、パンデモニックプラネットもいいゾ…」
「自分知ってますアピールかそれは」
「別に?好きな曲言ってただけだし」
「…俺みたいなにわかに語るなよ…最近知ったばっかりなんだからさぁ…」
「…貴様、キャノンボールか(某埼玉に飛ぶ映画風)」
「そうだよ(便乗)」
「…俺キャノンボール二回もデータ飛んだんだけど」
「え、何それは(困惑)」
「まずうちさぁ…紅魔郷、あんだけど…やってみない?」
「あぁ、いいっすねぇ」
こんなことがありました。

因みに、データが二回失われたのは事実です。
それ以来僕はキャノンボールをやっていません。今日も一人寂しく紅魔郷とか鬼形獣とかやります。楽しい。


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攻略開始/一時的な別れ/少し早い決戦

あのあとがきいらなかったなぁと思ったので消しました。
まぁどうせこの後明かされる設定の予定だったんで、問題はないです。


時王side

「連れてきたぞ…」

「…何でそんなにゲッソリしてるんだ?」

「何も聞くな…」

やけに疲れ切っている俺と、悔しそうに歯噛みしているシア、そして異常にツヤツヤしているユエを見て、ハジメは何かを察したような顔をした。

そのまま何もなかったかのように、入り口らしき場所の仕掛けなどを発見したと話してきた。

「…この壁が動いた瞬間奥の魔法陣が連動して作動して、俺達が向こう側に言った瞬間無音で矢が飛んでくる、か…」

「どうする?陣を破壊しておくか?」

「そうだな。ついでに矢も回収しておこう。魔法陣が再生する仕組みになってたりしたら面倒だ」

俺の言葉に了解、と短く答えて壁に手を当てたハジメ。

次の瞬間には魔力が大量に放出された。

見ているだけでもわかるくらい魔力が分解されていた。

苦悶の表情で魔力を放出し続けていたハジメは、手ごたえを感じたのか手を壁から離し、こちらに向き直った。

「…終わったぞ」

「お疲れさん」

労いの言葉をかけながら神水を手渡す。

手に取るや否や神水を飲みほしたハジメは、口元を拭いながら俺に向かってあることを伝えてきた。

「…ここの壁…拠点のときよりも魔力分解が強かった…そういう意味でも、ここが本当の大迷宮だって可能性は高いな」

「そうか…ユエ」

「?」

「どうやら魔法が本格的に使えないらしい。だから武器を貸しておこうと思ってな」

「どんな武器?」

「うーん…軽い武器の方がいいだろ?」

「遠距離攻撃ができる武器がいい」

「…だったら…」

ユエの要望に照らし合わせてなんのライダーの力を渡すべきか考える。

あまり重たいものだと、ユエが持ち運べないし…かといって軽すぎると弱くなってしまう…

「じゃあ、これはどうだ?」

『ダブル』

「…これなに?」

「スカルマグナム…銃だな」

「銃って…ハジメのドンナーとか、時王のシックサルみたいな?」

「まぁ分類は同じだが…ドンナーとかシックサルとかと違って、こっちはモードチェンジがあったり、ガイアメモリって言う…こういうやつの力を弾丸にしたりも出来る。それに、リロードもいらないんだ」

スカルガイアメモリを取り出しながら説明する。

するとユエは不思議そうにしながら俺に質問してきた。

「ならなんでこっちを使ってないの?」

「あー…スカルマグナムじゃ火力が高すぎてな…精密射撃の練習が出来ねぇんだ。それに、ハジメに武器を作ってもらいたかったしな」

俺の説明で納得してくれたのか、深く追求することなくガンスピンを始めた。

…何でいきなりガンスピンし始めた?

「…取り敢えず行こうぜ。早く行って早く攻略してぇ」

「それもそうだな」

ハジメに返事をして、壁を押す。

すると、何の抵抗もなしに扉が開いた。

一応警戒したが、ハジメに説明されていたトラップは無かった。

「大丈夫そうだ、入っていいぞ」

俺の言葉を聞いて、三人もゆっくり入ってきた。

各々周囲を見渡し、迷宮のつくりを確認する。

「…普通の洞窟だな。見飽きた」

「ん…同感」

「私は新鮮ですけどね…空気があまりいいとは言えませんけど」

「俺達は嫌ってくらい地下にいたからな…日の光を浴びない生活ってのは、中々精神的に来るんだ」

俺とユエの言葉に答えたシアに、ハジメが補足するように答えた。

「…矢を回収しておこうと思ったが…崖になってるのか」

「あぁ…まぁ陣は破壊してあるんだ。それで十分だろ」

「…念には念を入れておきたかったが…仕方ないか。行こうぜ」

「ん」

「はい!」

すぐにその場を移動し始めた俺達。

しばらくの間は魔物と遭遇することなく探索を続けていたが…

「…ハジメ、ユエ、シア。三秒後、上から何かが来る」

「「「了解/ん/了解ですぅ!」」」

俺の予知に反応して一瞬でいた場所から退避した三人。

その二秒後、上から…タライが落ちてきた。

「…何で?」

「ば、バラエティーかよ…」

俺とハジメが呆れたような反応をしながらタライの落ちたところを見ると、タライの底に何かが書かれていた。

【痛かった?ねぇ痛かったでしょ?ぷぷぷ~、当たってやんのぉ~】

「…な、なんだこれ」

「ここの迷宮の創設者…碌な人間じゃない」

「そ、そうみたいですねぇ…」

口元をヒクつかせながら反応したユエとシア。

「…まぁ、俺の予知もあるし、トラップは大丈夫だろ」

「そうだな…で、次は何が来る?」

「………床が傾く」

「は?」

「床が後一分後に傾くな…魔力が分解されるからあまり使いたくないが…玉座でも出すか」

俺の説明がわかっていないらしいハジメを無視して玉座を召喚する。

玉座を維持させているだけでもかなり魔力が持っていかれている感じはあるが、全然余裕だ。

「…早く乗れハジメ。床が傾いた後もトラップ続きだからな」

「……あ、おう…」

よくわかっていない様子だったが、取り敢えずハジメも玉座に乗ってくれた。

ユエとシアは先に乗っていたので、ハジメが乗った瞬間に移動を開始した。

すると、そこでちょうど一分たったのか床が傾いた。

「…ほ、本当に傾きやがった…」

「な?言っただろ?玉座だしといて正解だったな…あ、変なの流れてきた」

「油…ですね。この先に何かあるのでしょうか?」

「落ちた先に虫が沢山いる、とかじゃない?」

「さっきの文章を書くような奴だからな、やりかねないだろ」

そんな会話をしながら先に進んでいると、いきなり床が無いところに出た。

夜目のおかげで底が良く見えたが、それを少しばかり後悔した。

「…ハジメ…は大丈夫か。少なくともユエとシアはあまり見ることをお勧めしない」

「…も、もう見ちゃいましたぁ…」

「これは、中々…」

「さっきの油と見事に合わさってまぁ…最悪だな」

玉座の下に広がっていた光景は、黒いサソリが床一面でギチギチと音をたてながら蠢いているものだった。

油がサソリの体にかかり、その油のついたサソリが他のサソリと体が擦り合わされることによって別のサソリまで油がつき、他のサソリをさらに油っぽくさせていたせいで…

パッと見た感じ、台所のGの大群に見えた。

「…時王、あれ」

「ん?あれって…うわ、性格悪っ」

ユエに言われて天井を見てみると、そこにはやけにキラキラした文字でこう書かれていた。

【彼らに致死性の毒はありません】

【でも麻痺はします】

【存分に可愛いこの子達との添い寝を堪能して下さい、プギャー!!】

プギャーのところがやたらデコレーションされているのが非常に腹立たしかった。

相手にしたら駄目だ、面倒くさいことになる。

その結論に至った俺は、無言で玉座を移動させた。

横穴を抜け、玉座をしまう。

そこにあるだけで魔力を食うのだ。万が一の時のために魔力は取っておきたいので、足元が平坦になっているこの場所では玉座は使わないことにした。

「…さーて、ハジメ。あの奥の部屋に入ったら天井が落ちて来るんだが…錬成できそうか?」

「…魔力分解率が高すぎる。俺と時王が入る程度の穴しかあけれねぇ」

「了解。だったら俺が天井壊した方がいいな」

右手に金色のオーラを纏わせて先に進む。

俺達の会話が聞こえていたのか、ユエもシアも俺の前も隣も歩かなかった。

「さて、ちょっと待ってろ」

三人に制止の言葉をかけ、俺一人で部屋に入る。

「落ちてきたか」

ゆっくりと迫るように落ちてきた天井相手に、拳のオーラをさらに力強くさせて迎え撃つ準備をする。

限界まで溜められたところで、ちょうど俺の眼前に天井が迫ってきていた。

この距離なら、確実に粉々にできる。

「オラァ!!」

右腕を思い切り振り上げると、一瞬鼓膜が破れたかのようにすら錯覚するレベルの爆音とともに天井が粉々になった。

それだけでは収まらず、部屋の壁すらも亀裂がはしり砕け散った。

「…やっべ」

俺が弱々しく呟いたころには、もうすでにハジメたちの姿は見えなくなっていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハジメside

「時、王…?時王!?時王!じおう!!」

時王のいた部屋が粉塵となって俺達の視界を防ぎ切ったところでユエが半狂乱になって時王のいたところめがけて走って行った。

それに続くようにシアも時王のいたところに走って行った。

別に走るまでもないだろうし、ただ粉が舞っているだけなのだから問題は無いだろう…そう思っていたが…

「…う、そ…どうして?ねぇ、なんで!?どうして!?どうして、どうして時王がいないの!?」

「ジオウさん…?一体、どこに…?どうして…?」

ユエとシアの涙ぐんだ声を聞いて、異常な事態に気づく。

ほんの少し、ほんの少しの間だけ姿が見えなくなっただけで、時王が消えたのだ。

時王が何か企んでいるのか?いやそれは無い。アイツがそんなことをするはずがないし、する理由もない。

じゃあトラップ?だとしたらアイツは未来を見て回避できるはず。

…でも、もしかしたら未来を見るだけでは回避しきれないようなトラップがあった…?

「っ、警戒態勢だ!時王が対処しきれないような何かがあったんだったら…俺達にはどうしようもない!とにかく今は何があっても大丈夫なように警戒するしかない!!」

「「でもっ!!/ですがっ!!」」

「そうやって迷ってる間に俺達まで何かにやられたらどうする!!俺達が万全の状態にならなきゃ時王を探すことも何にもできねぇだろ!!」

俺の言葉を聞いて、悔し気に唇を噛み締めつつもこちらに寄ってきた二人。

二人を魔眼で確認して、何か異常なところが無いか確認する。

この魔力分解が強い迷宮の中で魔力を使用するトラップなんて仕掛けてこないだろうが、念には念を入れるべきだと考えたからだ。

結局異常は見当たらなかった。

なら時王がやられたのは物理的なトラップ…か。

「…取り敢えず通路に戻ろう。そこはトラップが無かったはずだ」

ここの迷宮は跡形もなく現代兵器で崩壊させることを決定しつつ、俺は壁際に寄っていったのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

…変な感覚だ。

下へ下へと落ちているはずなのに、なぜか上に上っているような…強いて言うならば、重力が逆転しているような感覚。

その感覚に身を任せ、そのまま下へと向かう。

…ん?

どうして俺は寝てるんだ?

「…あぁ、さっきは…」

粉塵でハジメたちと分断されたときの光景を思い出す。

あの後、砕ききれていなかったところがあったらしく、俺の後頭部に瓦礫があたり、当たりどころが悪かったのか気絶してしまったのだ。

…いや待て、何で俺は落ちている?

「…もしかしてさっきのサソリ地獄か?いやだなぁ…油でギットギトじゃねぇか」

まぁもしもの時は化け物じみたステータスに物を言わせて時間と空間を支配すればいいだけだから気にするようなことは無いか。

ある程度流れに身を任せて落下していくと、地面が見えてきた。

どうやらここは先ほどのサソリ地獄とは違うところのようだ。

しっかりと着地して周囲を見渡すと、そこには大量のゴーレムと、中心に鎮座する巨大な鎧(恐らくそれもゴーレム)があった。

「…魔力反応はあのデカブツから、か…大方アイツが母体みたいなもんなんだろうな」

《ご名答~♪見事正解した君にはぁ~…なぁ~んにもあっげませぇ~ん☆》

「…ミレディ・ライセンか」

表情は無いが、動きからニマニマしているところを想像させてきた巨大ゴーレムに、大して反応を見せることなく淡々と名前を確認する。

《おぉっ!またまた正解~!すごいねぇ~》

「…下手にキャラ作りしなくてもいいぞ?それとも、死んだ家庭教師が恋しいのか?」

《っ…ズカズカと人の心に入り込む発言をするなぁ君は》

淡々とした表情を見せておきながら内心かなり苛立っていた俺は、原作知識から絞り出した情報を使ってミレディを逆に傷つけてやろうとしたのだが、どうやら成功したらしい。

「そりゃそうだろ。どうせこれからお前と戦うんだろ?だったら怒らせて冷静さを奪っておくことは定石だと思うな」

《……そんなに死にたいなら、試練とかそんなの関係なしに…本気で行かせてもらうよ?お仲間もいないで大丈夫かなぁ~?》

「これから殺す相手を気遣うのか?とても昔に処刑人をやっていたやつとは思えないな」

《…………死ね》

低い声でミレディが呟いた瞬間、俺の頭上から重力球が落下してきた。

それだけではなく、固まっていたゴーレムが全て動き出し、こちらに投擲攻撃や自爆特攻などをしてきた。

《…さすがにこれだけやれば死んだでしょ。せいぜい自分の発言を後悔することだ…ね…?》

「それはフラグだろ」

粉塵の中立ち上がり、出現させたベルトの前で手を交差させる。

『祝福の時!!』

その声が轟いた瞬間、粉塵が全て吹き飛ばされ、床にはマグマが迸り、俺の周囲を金色のバンドのような物が回転し始めた。

《っ…この力、もしかして…》

『最高!!最善!!』

余りに強大な力に、迷宮そのものが振動し始める。

壁は崩れ有象無象のゴーレムたちは衝撃波に粉々にされていった。

『最大!!最強王!!!』

振動が収まってきたころには、俺の前身は金と黒の鎧に包まれていた。

『オーマジオウゥ!!!』

言い終わったところで、今までで一番大きい衝撃波が、もはや色すら伴って周囲を蹂躙した。

ミレディすらもその衝撃に押されていた。

『行くぞミレディ・ライセン。王を愚弄した罪、その身で贖ってもらおうか』

《…じゃあ私は、さっきまでの言葉全部…謝って、撤回してもらうよ!!》

言い終わるのと、俺の金と黒の魔弾とミレディの重力球が衝突するのはほとんど同時だった。




次回をお楽しみに!
…R18版も、頑張って書いているのでお楽しみに(小声)


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微かな不穏/予期せぬ事態

最近投稿する予定のない他作品の二次創作ばかり書いているせいで、投稿が遅れました(挨拶じみた言い訳)
いっそのこと思い付き短編集とか銘打って投稿しちゃいましょうかね…
え?R18?
…知らない子ですね(誤字脱字を修正しつつ目を逸らす)


ハジメside

時王がいなくなって数分、俺達は今までにないくらいの警戒態勢で攻略を進めていた。

本当は泣きわめきたいんだろうユエとシアも、目に殺意を滾らせながら慎重に進んでいた。

「…しかし妙だな」

「えぇ…何故急にトラップが作動しなくなったんでしょう」

「今まで感じてた浮遊感もない…前までは何かに動かされてる感じがあったのに…」

時王が消えてから、一階もトラップが作動しなくなった。

その上、動いている感じがしていた床も、今は固定されているような感じがあった。

…まるで、動かしていたやつに何らかの深刻な不具合があったかのように。

もしかしたら、時王はこの何らかの不具合に寄って予期せずやられたのかも知れない。

だとしたら…

「…もしこの状況を起こした何かがあるんだとしたら…警戒も無駄、か?」

「…でも、心構えくらいはしておいた方がいいと思う…魔物が出ないとはいえ、即死系トラップがいきなり現れた時に対処できるかできないかはその時の心構えが大事だから…」

「そうですね…」

あくまで警戒心を緩めないユエとシアに、内心舌を巻く。

それと同時に、自分の思考の浅はかさを知らされた気になった。

この中で一番冷静なのは俺だと思っていたが、どうやらそれは違ったらしい。

普段なら絶対に言わないだろう警戒をやめるという発言をしてしまうくらい、俺はかなり動揺していたらしい。

「………奥の方から魔力を感じる…?ここじゃ魔法は使えないはずなんだが…」

「この魔力分解が強力なところで魔法が使えるくらい魔力が膨大なのは…」

「ジオウさんだけ…!」

それを言い終わるや否や、シアは駆け出そうとした。

だが、ユエが首元を掴んだせいでシアの動きは止まることとなった。

「な、何するんですか!?」

「…ここにトラップが無いとは限らない…要警戒。もしかしたら、あの奥には私たちを時王がいると錯覚させるトラップがあるだけかもしれない」

「そうだな…時王に限らず、この迷宮で無理やりにでも魔力を使おうとするやつはたくさんいるだろう…実際ユエもそうだったな」

「む…それは迷宮の外の話…」

「峡谷内で起きたってことについては何の違いもないがな。ほら、さっさと行って確認s…うおっ!?」

少しばかり無駄口をたたいてから歩き出そうとした瞬間、途轍もない衝撃波が俺達を襲った。

その衝撃波は、金と黒が混ざった荘厳で禍々しいオーラを伴っていた。

その二色から俺達が連想できる人なんて、アイツしかいなかった。

「…どうやら本当に時王がいるみてぇだな」

「ん…この波動は間違いない…」

「で、ですがこの辺にトラップが無いとは…」

「そうだ。だから…すっごく疲れるが、確実な方法を使う」

それだけ言って、俺は二人の前に立ち、床に手を当てて魔力を放出し始めた。

案の定途轍もない抵抗があったが、より強く魔力を流すことでその抵抗を無い物としていった。

魔力が底を尽きそうになったら、神水を飲んだ。

そうやって魔力を通し続けた結果、かなりの距離のトラップの有無を確認できた。

「……おかしいな、トラップが…ない?」

「もしかしたら、時王が迷宮の主と戦ってる…かもしれないから?」

「じゃ、じゃあ迷宮のラスボスみたいな奴が今までトラップとかを即席で用意していたんですかぁ!?」

「…その可能性もある、な…」

だとしたら大丈夫だろう、と時王の下をめがけて走り出す。

…幾度も俺達を苛む衝撃波に、時王の安否を不安に思いながら。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

ミレディの重力操作により、俺の体が一瞬だけ動いた。

だが、瞬時に発動した時間操作の()()派生技能、時空操作を発動して回避。

一瞬で背後に回って、ミレディの背中を殴りつける。

軽いジャブ程度の攻撃だったが、ミレディの体を貫通するほどの攻撃だった。

《嘘でしょっ!?アザンチウムの装甲を!?》

『驚いてる余裕はないと思うがな』

至近距離から中距離に移動し、背後に平成20ライダーすべてのライダーズクレストを出現させる。

その後、ベルトの前で手を交差させた。

『グランドジオウの時!!オール20タイムブレイク!!!』

本来の能力には存在しないはずの攻撃を平然と行う。

ベルトからの音声が終わった瞬間、ミレディに向かってライダーズクレストから歴代ライダーの最終フォームが半透明の姿で現れ、必殺技を喰らわせようとした。

《こ、魂魄魔法!?》

『それが何かは知らないが、取り敢えず違うとだけ言っておこう』

驚愕したように後ずさったミレディに、全二十の必殺技が叩き込まれる。

アルティメットフォーム、シャイニングアギト、龍騎サバイブ、ブラスターフォーム、キングフォーム、装甲響鬼(アームドヒビキ)、ハイパーフォーム、超クライマックスフォーム、ドガバキエンペラーフォーム、最強コンプリートフォーム、サイクロンジョーカーゴールドエクストリーム、ロストブレイズ、コズミックステイツ、インフィニティドラゴンゴールド、極アームズ、タイプトライドロン、ムゲン魂、ムテキゲーマー、ジーニアス、グランドジオウ…

全てのライダーの攻撃を一斉に受けたミレディは、音すら消え失せるレベルのエネルギーに消し飛ばされた…

はずだったが。

『いや~、危なかったよぉ…さっきのはオーバーキル過ぎない?』

やれやれだぜ、という風に肩をすくめながら首を振る姿はかなり腹立たしかったが、それ以上に驚愕していた。

…な、何で…何でアイツが変身しているんだ!?

『ブラックホール!!ブラックホール!!レボリューション!!!フハハハハハ!』

『驚いた?ねぇねぇ驚いた!?この力は…君がくれたんだよ♪…じゃあ、行っくよ~☆』

エボルトフェーズ4に変身したミレディは、一瞬で俺の眼前に迫り、殴りつけてきた。

なんの抵抗もなく吹き飛ばされた俺は、壁にぶつかってようやく我を取り戻した。

『…俺が渡した?初対面なんだがなぁ…一体どうして』

『んふふ、わかんないかぁ~…ま、どうでもいいよね!』

『Are you ready?』

愉快そうにしながら必殺技待機にはいったミレディに、遅れながらも迎え撃つ準備をする。

『All Zector Combine』

カブトのライダーズクレストから飛び出てきた止まり木…パーフェクトゼクターを手に取り、ガンモードにする。

そのままミレディに向かってパーフェクトゼクターを構え、トリガーを引く。

『MAXIMUM、HYPER、CYCLONE』

『ブラックホールフィニッシュ!!Ciao~♪』

俺に向かって飛び蹴りしてきたミレディの姿が、パーフェクトゼクターから発せられたエネルギーによって見えなくなった。

だが、手ごたえはあった。

強いて言うなら…「やったか」という奴だ。

『すごいねぇ…今のは死ぬかと思ったよぉ…』

『オーバーオーバーザエボリューション!!』

衝撃波によって舞っていた砂埃の陰から声が聞こえた。

やはりフラグだったか。

邪悪な哄笑が響く中、ミレディはこちらに悠然と歩み寄って来ていた。

『いやぁ…攻撃の時に発生するブラックホールが無かったら死んでたかもねぇ…ま、どうでもいいことか』

『…今ので仕留めきれなかったか。原子レベルに分解する技だったんだが…』

『もぉ、そんな危険な技使うなんてぇ~』

イライラする動きをしながら告げたミレディは無視して、ライダーズクレストからライダーを直接召喚する。

ファイナルベントをナイトに発動したシザース、暴走して青羽を殺そうとしていたビルド、敗者にふさわしいエンディングを見せようとしたエグゼイド、バリアを張れない距離で銃を乱射しようとしているギャレン、アップグレードしたコマンダーを斬りつけようとしているアクセルアップグレード、黒ミッチ、相手は死ぬ(リボルケイン)等が一斉にミレディを襲ったが、全てをブラックホールに埋葬され、挙句そのままブラックホールを俺にぶつけてきた。

『チッ…』

黒と金の波動でブラックホールの進路を変え、壁にぶつけさせながらもさらにライダーズクレストからライダーを召喚する。

…ていうかこれそのままエボルトの力を使えば…って、ん?

『エボルトが召喚できない?』

『だーかーらー。その力は私にくれてるんだから使えないの』

やれやれ、と肩をすくめながら言ったミレディに、訝し気な視線を向ける。

どうやら本当に俺が渡した…っておかしいだろ。初対面だぞ初対面。なのになぜ?

『一体何があって…』

「時王!!」

『…ハジメ?』

困惑していた俺に声をかけてきたハジメの方を見ると、ユエとシアが飛びついてきた。

俺の目の前にいるミレディ(エボルト)は眼中にないらしい。

『あらら、お仲間さん?』

「聞きたいのはこっちだ。お前がこの迷宮のボスか?」

『そうだよ!私がこの迷宮のボス!ミレディちゃんでっす!』

「…なるほど、この人をふっ飛ばせばいいんですね?」

「簡単なお仕事…」

武器を構え、好戦的な眼差しでミレディを睨みつけた三人。

だが、それに待ったをかける。

『待て、コイツは一筋縄じゃ行きそうにない…実際、俺の技を受けきったんだからな』

「「「なっ」」」

『…お前らじゃダメージどころか鬱陶しさすら与えられねぇだろうからな…俺の援助を頼む』

「…勝てるのか?もし無理なんだったら俺が…」

『ハジメ』

心配するように俺に言ってきたハジメの言葉を遮る。

そのまま、視線を合わせてハジメに、そしてユエとシアに告げる。

『任せとけ』

先程まで攻撃が効かなかったのは、俺が直接戦わなかったからだ(言い訳)。

実際、ミレディのブラックホールも、俺がオーラをぶつけたら動きを変えたじゃないか。

『…ある程度攻撃して、隙さえ作れば…力を取り戻すことだってできる』

『できるかなぁ?さっきまで軽くあしらわれてたくせに?』

『安心しろ、吹っ切れた俺は強い。日本にいた時からそうだった』

それだけ言うと、ミレディの眼前にクロックアップを使用して迫り、殴りつける。

殴りつける時に、いつもの金色オーラを出現させるのも忘れていない。

『ぐっ…パワーが、上がった?』

『油断してていいのか?』

「まったくその通りだ」

俺の言葉に続くように、ハジメが左腕に装着させた()()()()を構えながら同意してきた。

見慣れないものを見たせいで硬直したミレディだったが、それは失敗だった。

次の瞬間には、電磁加速された巨大な鉄杭が連射され、ミレディを襲った。

ガトリングパイルバンカー(電磁加速式)…ハジメが作っていた、怪物兵器である。

ハジメにかかる衝撃も凄まじいはずが、それを防ぐために生成魔法によって付与された、俺オリジナルの魔法によって使用者にかかる負担をゼロにしているため、ハジメは微動だにしない。

大量の鉄杭を受けつつも、すぐにブラックホールを展開し、攻撃を全て吸い込んだミレディを、頭上からシアのドリュッケンが襲う。

「もらったぁあああですぅ!!」

『なんのぉ!』

シアの攻撃が直撃するのを避け、かなりの距離避けたはずのミレディが、着地と同時に崩れ落ちた。

『がふっ…な、なんで…』

「当たり判定自動調節…この攻撃が狙いを外れることはありません」

『そ、そんな事が…』

「油断禁物」

『ICEAGE MAXIMUMDRIVE』

アイスエイジのT2ガイアメモリをスカルマグナムに装填し、ミレディの足元に向かって放ったユエ。

ミレディは回避することなく攻撃を受け、凍り付いた。

「やっちまえ時王!」

『おう!』

『終焉の時!!』

ハジメに返事をして、ベルトの前で手を交差させる。

次の瞬間、俺の全身が金と黒、そして紅のオーラに包まれた。

『逢魔時王必殺撃!!!』

飛び上がった瞬間、氷漬けになっているミレディの周囲に「キック」の文字が現れ、それが一つになり、俺の攻撃進路に固定された。

凍てついたまま動かないミレディに、俺の蹴りが直撃した。

その衝撃で氷が砕けたミレディだったが、攻撃のエネルギーにより消滅した。

「…さて、これでライドウォッチが生成できるはずだが…」

『エボルト』

しっかりライドウォッチが生成出来るようになったのを確認した後、ハジメたちの方を向き、サムズアップ。

終わったぞ、という意味を込めたのが、理解してもらえたらしい。

三人とも返事をするかのようにサムズアップを返してきた。

「…これで、終わったか…何というか、驚いたな」

「だろうな…ミレディから感じたあの雰囲気、時王と同じ…ライダーの力だった。同じ系統の力を持ってる奴がいて驚かねぇはずないよな」

頷きながら左腕に付けていたガトリングパイルバンカーを外したハジメ。

「…奥の方から魔力をほんの微弱にだが感じる部屋がある…多分そこが出口だろ。さっさと神代魔法貰ってブルックに帰ろうぜ」

「そうだな」

ハジメの言葉に賛同し、ハジメの指さした場所に向かって歩いていく。

この時はまだ、あの後あんな事になるなんて考えてすらいなかった。




今回の区切りはかなり雑になってしまった感じはありますが、よほどの事がない限り修正しないと思います。
ミレディが病ミレディになるのを期待していた人、まだです。
まだその時ではありません…(訳:もう少し後になったら書くからもう少し待って)
それと、今回久しぶりにオリジナル能力を使わせました。オーマジオウから放たれるグランドジオウの必殺…恐ろしや。

無駄な報告になりますが、グリスパーフェクトキングダムが届きました。
いやー、仮面ライダーグリス本編は劇場に見に行けなかったので、ようやく見れて満足です。
かっこよかったですねぇ…
僕は赤羽派です。黄羽も青羽もいいですけどね。


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しぶとい奴/ブルックの町再び

遅れます(謝罪の意、無し)
追記:アンケの内容がおかしかったので直しました。許してください。


時王side

「…」

ミレディを抹消し、迷宮の最奥の部屋に到達した俺達は、部屋の中の光景に硬直していた。

「あれれ~?どうしたの~?感動の再会だよ?」

相変わらずのうざい声で俺の周りをウロチョロしてくる小型ゴーレムに、悪い意味で現実に戻される。

…なんで、なんでこいつは…

「なんでお前は生きてんだ!?ミレディ・ライセン!!」

「え~?何その失礼な発言~…ていうかぁ…いつから私が死んだと錯覚していた?」

ぷくく、という風に口元を抑えるようなポーズをとりながら笑っていたミレディは、最後の言葉を言うときだけマジトーンで決めポーズまで取りやがった。

端的に言えば、かなり腹立たしい。

一瞬だけハジメたちを横目で見てみれば、そちらもそちらでかなり苛立っていた。

そりゃね、もはや神敵レベルのウザさだもんね。

「…まぁいい、生きていようが生きていなかろうが関係ないからな。さっさと神代魔法と珍しい鉱石とかその他雑貨寄越せ」

「え、なんか君の連れの白髪に眼帯の厨二くん…性格悪くない?」

「うるせぇ。もう一回ぶっ殺されてぇか?あぁ?」

かなり理不尽な言動のハジメから目を逸らし、部屋を見渡す。

うーむ、俺の中のかすかな原作知識が語っている。

この部屋は、何か俺達に屈辱感を与える仕掛けがあったはずだと。

「…うぅ~、わかったよぉ…はい、重力魔法ー!」

何故か言い方がどっかの猫型ロボット…いや、青狸に寄せられていたがそこはスルー。

どうやらおれたちは重力操作系の能力を与えられたらしい。

…別にそんなの無くてもニュートン魂とかサゴーゾとかあるし…

い、いやきっと重力魔法にしかできないことがあるんだ。あるに違いない。

「うーん、そこの金髪の子と君以外は適正ないねー。それはもうこっちがドン引きするくらいに」

「ん?俺って魔法の適正低いはずだけど」

「時王、適正がほとんどなかった俺ですら生成魔法は適性抜群だったんだ。きっとお前に合った能力なんだろ」

「そうなのか…?」

首をかしげながらも親友の言う事が正しいだろうと思考をストップして別の事を考える。

特にこの能力を組み込んだ戦闘についてとか。

もしこれが仮にニュートン魂とかサゴーゾとかよりも使い勝手がいいのだとしたら、実践使用だってある。

まぁ変身してない状態なら、ライダーの力をつくために一々ライドウォッチを押す必要があるし、すぐに使えるのならば重力魔法を重宝するだろう。

「……そこの金髪の君、胸に重力かけても大きくはならないよ」

「……」

「やめてそんな深淵みたいな目でこっち見ないで」

すごくショックを受けたような目でミレディを見詰めているユエの頭を慰めるように撫でつつ、話を進める。

「で、他に何か俺達の役に立ちそうなものは?」

「え、君もカツアゲする気かい…?」

「いや、オスカーは快くくれたがな…と」

快くくれたというのは少しばかり語弊がある気もするが、あながち間違いではないからよし。

「えぇ…しょうがないなぁ…でも鉱石とかくらいしか渡せるものなんてないよ?」

「俺が錬成師だからな。鉱石だけでも十分だ」

「へいへい。あと攻略の証にこれもね☆」

相変わらずのムカつく動作と共に、俺達の手の中にオスカーの指輪のような物が投げ渡された。

「…これで二個目、か」

「後少なくとも二個は必要だが…まぁ全部の迷宮を手当たり次第に調べていくわけだし、別に構わないか」

攻略の証を亜空間と宝物庫にそれぞれしまい込んで、俺達は迷宮を後にしようとして…

気づいた。

「…なぁ、これってショートカットとかないのか?」

「え?ショートカット?…あぁ、攻略後のアレね?これは私もわかってないけど…本当はここから離れたところの岩陰に魔法陣が用意してあったんだけど、馬鹿みたいな魔力のせいで地形とか魔法陣とか変えられちゃってね?君たちが来る前に見てみたけど…何か家みたいな感じにされてたよ?」

「「「……」」」

俺とユエとシアは、ミレディの言葉ですべてを察した。

そのまま無言でハジメの方を見ると、その動きに合わせてハジメは俺達から目を逸らした。

「…な、なぁハジメ。俺の考えが間違ってなければ、転移先の陣を消滅させたのはその、お前なんじゃないかと」

「…や、やっちまったな!たははー!」

極めて棒読みで乾いた笑みを浮かべたハジメ。

どうやら予想外だったらしい。

「お困りのようだね!ならば私がもっといいショートカットを教えてあげよう!」

「……怪しいが聞かせてもらおうか」

むふふ、という笑い声を出しながら俺達を見てきたミレディから話を聞こうとする。

だが、次の瞬間にはそれを後悔することになった。

「えいっ☆」

「「「「は?」」」」

キラッ☆のような言い方をしながら突如として現れたロープをミレディが引っ張った瞬間、俺達の足元が抜け落ち、水が降ってきた。

その水量のすさまじさは、まるで壁が迫ってきているような感覚を覚えさせた。

だが、それよりも俺とハジメはあることに憤慨した。

この部屋の白さ、時折見られる変な凹凸。

これはまるで、まるで…

「「トイレじゃねぇか!!ふざけんな!!」」

「汚物は水洗だ~!なんてね♪」

叫んだ俺達を嘲笑うように手を振ってきたミレディに、怒りのままに俺達はあるものを投げつけた。

「…え?なにこれ」

「焼夷手榴弾」

「戦兎が美空に渡した自爆装置」

俺達が流される前に言った言葉の意味を最初は理解できてなかったのか硬直していたが、俺達がいなくなる瞬間見えた光景には、俺の自爆装置の爆発に巻き込まれ、それと一緒に爆発したハジメの焼夷手榴弾に焼かれているミレディの姿があった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時王side

「…まさかこんなことになるとはな…」

水の吹き出す勢いに乗せられて地面の上に叩きつけられた俺は、状況を確認しようと立ち上がった。

「…川…か。どの辺の川かはわからないが、そこはあまり問題じゃない、か?」

張り付いてきている服を見て、あることに気づく。

「う、うわぁ…流されてる最中にどっかに引っ掛かったのか?ボロボロじゃん…」

せっかくユエに作ってもらった最終回ソウゴくんの服(金と黒にカラーチェンジしたもの)がもはや服としての機能を成しているのか分からないくらいに破けてしまっているのを見て意気消沈。

しかたない。また新しいのを作ってもらおう。

そんなことを考えながら、俺は空から降ってきたユエをお姫様抱っこで受け止めた。

「大丈夫か?」

「…ん、問題ない………かぷっ」

いつも通りの無表情で返事をしてきたかと思えば、なんの脈絡もなしに首筋に歯を立ててきた。

どうやら空腹らしい。

「ちゅっ、じゅる…じゅる…」

「…この体温が下がった状態での吸血は中々来るものがあるな」

ただでさえ下がっていた体温を下げられ、俺は少しめまいがしていた。

「ごちそーさま…時王、服が」

「ん?あぁ、どっかに引っ掛かったみたいでな…また新しいの作ってもらっていいか?」

「…ん」

快く了承をいただけたので、ユエを下す。

そのまま次に降ってくるだろうハジメを待つ。

ハジメは受け止めなくても大丈夫だってわかってるので、着地点を作っておく。

すると、俺のすぐ隣にハジメが綺麗な二点着地を決めた。

「ここは…?」

「多分、迷宮の道中で見つけたあの川じゃないか?」

「…川なんてあったか?」

「あったぞ」

頭を振って水を適当にはらったハジメに話かけると、訝し気な目をされた。

だが、俺の記憶には川が残っていたので、その旨を伝えると分かってもらえた。

「…あれ?シアは?」

「あん?…そういやいないな…」

一応未来を見てみると、流されてくるのが見えた。

ただ、その映像の中のシアから力を感じられない。

…まるで、水死体のような…

「ちっ」

舌打ちして飛び込み、これからシアが来ると見えた場所まで向かう。

そこで少し待つと、シアが流れてきた。

シアの体を掴み、岸まで泳ぐ。

「おい、シア!しっかりしろ!」

いくら揺さぶっても、シアの様子は変わらなかった。

だが、脈はあった。

「まぁ死んでたとしても問題は無いんだがな。時間を戻せばいいだけの話」

シアの時間を逢魔の力で戻す。

一番健康だった時間へと。

「…ん、あ、あれ?ここは?」

「迷宮へ向かってた道中にあった川だ」

「あ、あれ?川なんてありましたっけ?」

「あったんだ」

有無を言わさぬ語調で告げると、少し声を詰まらせながらも色よい返事をしてきたシア。

それでいい。

「…さて、全員揃ったことだし移動開始とするか」

「いや待て。迷宮攻略に乗り出す前に作った拠点に忘れ物がないか確認しておかないとダメだろ」

「…それって俺の能力使えばよくね?」

「…それもそうか」

冷静に返事をした俺に、納得した表情を見せたハジメは何もなかったように宝物庫からバイクを取り出した。

因みに、忘れ物は無かった。

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時王side

「さて、帰って来たな…ブルックに」

「その言葉…日本ってところに帰ってから言うんじゃないの?」

「まぁジオウさんがいいと思う使い方をすればいいんじゃないですかね」

検問を終えて、町に入った俺達は、すぐにマサカの宿へ向かった。

ハジメの要望が、あの宿に数日泊まっていきたいだったからである。

「…すまねぇな。我が儘きかせちまって」

「いいって事よ。むしろ傍若無人にふるまう方がお前には似合うと思うぜ?」

「なんだよそれ」

不機嫌そうな顔で言いつつも、声は笑っていたハジメ。

どうやら気にするのはやめにしてくれたらしい。

「…私と初めて会った時もあれくらいいい態度をとってくれればよかったんですがねぇ」

「…ん、極めて同感…思い出すだけで怖い」

「言われてるぞハジメ」

「知らないな」

持ち前のスルースキルを発動し、シアとユエからの非難の目を回避したハジメは、迷うことなくマサカの宿へ向かっていた。

そうしてマサカの宿に到着した俺達は、宿の前で怪しい男を発見した。

どうにも様子がおかしかったのだ。目は虚ろだったし、唾液を垂らしながらブツブツと虚ろな目で何かを呟き続けながら宿の前でうずくまっていたのだ。

「…どうするハジメ」

「…こいつがソーナに何か悪影響があるようなら今すぐ殺してやってもいいが…ただの変なやつだったとしたら死体が入り口に転がっている宿とか言う悪評がこの宿についちまうかもしれないからな…放置しておこう」

真っ先にソーナを気にかけるような発言をしたハジメ。バレないように顔を隠しながら笑みを浮かべる。

何だよハジメさん。青春してんじゃねぇか。

目を逸らした先では、ユエとシアもニヤニヤしてハジメを見ていた。

当の本人は俺達のこの態度に気づいていないらしく、表情を崩すこともなく宿に入っていった。

「いらっしゃいませー!…って、あ」

「よ、また来たぜ」

「は、ハジメさん…来てくれたんですね…」

俺達が隣にいるにもかかわらず、ソーナの方はハジメしか見ていなかった。

これはどう考えても、ね。露骨すぎて呆れますよ。

さて肝心なハジメは…

「あぁ、約束したからな」

優し気な瞳で返答した。

…変心して以来、俺以外に全く向けられてこなかった瞳だ。

「……今回は何泊にしますか?」

「そうだな…一日…い、いや。武器の調整とかもあるし、数日間いてもいいだろうな。うん。時王もいいだろ?」

「あぁ。構わないぞ」

言いたいことはいろいろあったのだろう。だが、ソーナはそれを飲み込んで事務的な話をした。

最初ハジメが一日と言った瞬間、ソーナが目に見えて悲し気な表情をしたため、ハジメは自分の意見を物凄い速度で変えた。

これまたいつものハジメならあり得ないことだ。

…うん。さっさと結婚しろよお前ら。

その後も事務的な会話が続いた。

俺達はいまだにソーナの意識の中に入っていないらしく、会話は全てハジメに向けられていた。

「…時王さん、部屋もわかったことですし先に行きませんか?」

「ん、このままいたら二人の邪魔になる…かも?」

「そうだな。ハジメ、先に行ってるぞ」

「ん?わかった」

ハジメに一言言って、俺達はその場を後にした。

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ハジメside

手続きを終え、ソーナと少しばかり雑談をしたので部屋に戻ることにしようとしたとき、ソーナに呼び止められてしまった。

一体どうしたんだ?時王と違って俺は服が破れてたりなんてしないんだが…

「あの…その…」

言いたいことはあるが、中々言い出しにくい、といった感じである。

これがもし時王以外の奴だったら即ドンナーなんだが…なんだろうか、ソーナは待ってていいと思ってしまう。

「あ、あの…もしよろしければ………私と!デートしてもらっていいですか!!」

少したって意を決し多様な表情で叫んだソーナに俺は硬直してしまった。

で、デート?ソーナは今デートって言ったのか?

聞き間違いかと思ったが、周りの奴等は俺達を生暖かい目で見ていた…恐らく、初々しいカップルのように見えているのだろう。

別に付き合って居たりはしないが…と、これはどうでもよかった。

俺の方を見ることなく頭を下げ続けているソーナに、すぐにでも答えねばと気持ちをせかされてテンパってしまう。

え、これってどうやって返事すべきなんだ!?

自称恋愛マスターの時王と違い、女性とこういったことが今まで一度もなかった俺は、どうするべきかまるで分らなかった。

それで…

「あ、あぁ。俺なんかでよければ…?」

「っ!本当ですか!やったぁ!!」

何故か疑問文で答えた俺の言葉を聞き、嬉しそうにその場で飛び跳ね始めたソーナ。

その様子から、心の底から俺とのデートを喜んでいることが察せられた。

「じゃ、じゃあ!明日中心部の噴水前で!」

「お、おう…」

押され気味になりながらも返事をした。

その返事を聞くや否や、ソーナはくるくる踊りながらカウンターを後にした。

「……ハジメさん…いや、ハジメ君」

「おぁっ!?え、えーっと」

呆然としていた俺に、ソーナの両親が話しかけに来た。

…あれ?俺って相手の親がいるところでデートに誘われたのか!?

再びフリーズしかけていた俺に、二人は明るい表情で告げてきた。

「ソーナを…家の娘を…不束者だが、よろしく頼む」

「あの子、とってもいい子だから…大事にしてあげてくださいね?」

「え、あ、はい」

突然まるで結婚前に挨拶に行った後かのようなことを言われたのだが、俺はテンパりまくっていたせいか、敬語で肯定の返事をしてしまった。

そのまま夢遊病者のようにおぼつかない足取りで呆然と部屋まで歩いて行った俺は、一息ついてようやく思った。

「…どうしてこうなった!?」




次回、(非リアが書く)デート回。
期待値、0。

現在のハジメからソーナへの好感度:すっごく気になるあの子。でも恋をしたことなんてないからこれが恋かなんてわからない。デートに誘われて、実はかなり嬉しい。
現在のソーナからハジメへの好感度:彼の事しか眼中にない。恋を知らないはずだが、これが恋だと自覚できるレベルで好き。デートの最期で告白する気満々。


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