妖怪専門探偵日誌 (インドレント)
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第壱-0話 事件の始まりとプロローグ

.妖怪の小説を書くのはこれが初めての為お手柔らかにお願いします。基本的には皆さんが知っている様なメジャーな妖怪を出すつもりですが、分からなかったらすみません。


これは妖怪や幽霊などの存在を信じている人々が少なくなりつつあるこの世の中で、妖怪が起こす事件専門で探偵業務を行う男の話である。

 

ある日の朝、高校二年生の秋暮 連夜(あきくれ れんや)は同級生の男と二人で話しながら登校していた。

「そういえば、お前あの噂知ってるか?」

ふと、唐突にそんな話を彼に投げかけてくるのは同じクラスの宝条 朋也(ほうじょう ともなり)である。朋也は高校二年のクラス換えで一緒になった友人である。朋也とは出会ってからまだ二〜三ヶ月しか経っていないが人懐っこい性格で噂好き、しかもその話が面白いのでよく一緒にいた。ちなみに部活は水泳部。

「噂?どんな噂だ?」

連夜はまた面白い話が聞けそうだと内心わくわくしながら聞き返した。

「ここ一ヶ月くらい前から橋の補修工事で学校に行く道が変わっただろ?それでさ、最近は使われなくなってた昔の川沿いの道をこうして通ってるわけだよな?」

朋也の言うとおり、高校に行く途中には川が流れていて昔は学校に行くには川を迂回して学校に行っていたらしい。だが時間がかかり不便であるとして二十年程前に橋が出来た。橋が出来てからはその道をわざわざ通る人はいなくなった。朋也は続ける。

「でさ、この道の途中には一本のでかい松の木があるの分かるか?その松の木についての噂なんだけどさ。昼間はただのでかい松の木なんだけど、夜になると木から音が聞こえてくるんだとさ。」

「音?どんな音だよ。」

「確か、カラカラカラ、いやガラガラガラだったかな?」

「もしかして、噂って木から音が鳴るっていうだけか?」

連夜が少しガッカリしたような呆れたような顔で聞くと

「いや、実は違う噂もあってな。これは最近、俺の部活の先輩が見たらしいんだけど」

そう言うと朋也は話始めた。

「その日先輩は珍しく図書館で勉強してたらしくて、帰りが遅くなったんだってさ。んで、あの川沿いの道を帰ってたら松の木の方から音が聞こえてきたんだと。何だ、今の音って思って松の木の方を見たら木の根元のあたりに何かあるのに気づいたらしいんだ。少し近づいてみたらそれは桶みたいな何かでその中に光るものが入ってたんだってさ。ただな、そこで先輩はそれを不気味に感じてそのまま帰ったらしくて、その中に何があったのかははっきりと分からないらしいんだ。」

「なるほど。音だけの時と、桶みたいなものが置かれてる時があるのか。でも結局その光る何かっていうのは分からないままなんだな。」そう連夜が言うと、朋也はニヤッといたずらっぽく笑い、

「あぁ、光るものが何なのかは分からない。だから俺は今夜、いやその桶みたいなものが出るまで何回でもあの木に行ってみようと思う。そして、俺はその光る何かの正体を突き止めてみせる。」

連夜はまた始まったと頭を抱える。実は朋也は噂に曖昧な部分があるとその部分が分かるまで調査するという一種の癖のようなものがあった。事実何度もその調査に付き合わされている。

「もしかして、俺も一緒に行かなきゃならんのか?」

連夜が尋ねる。すると

「いや、今回は俺は一人で調査をする。その方が不思議な現象が起きやすくなるだろうからな。」

連夜はホッと胸を撫で下ろす。そして

「もし何か分かった時は俺にも教えてくれよ。期待して待ってるぜ。」

「おうよ。何か分かったらお前に朝一番に教えるぜ。」

そんな話をしながら学校に着く。そして授業を終え、帰る支度をした連夜は朋也に頑張れよと一言言ってから帰路につく。

そして、それが生きている朋也を見た最後だった。

次の日、松の木の下で多量の血液と左足首だけを残して朋也は消えた。警察も事件にしては何故左足首だけを残したのかが分からなかった。そして、もう一つの謎は足首の傷口がまるで食いちぎられたようになっている事である。もしこれが事件ではないとすると、朋也は松の木の下で人を食べるような「ナニカ」に左足首だけを残して喰われたという説明が当てはまる。結果的に警察はこの件を事故と判断した。だが、連夜はただの事故にしては奇妙であり、事故ならどんな事故なのか、一体何が起きたのかが知りたかった。しかし、どう調べればいいのかと思案しながらインターネットを調べているとある単語が目に入ってきた。

「妖怪専門探偵…?」

連夜はこんなに科学技術が進んだ現代日本で妖怪を信じる人がまだいるのかと思いながら、妖怪専門とはいえ探偵であるなら何かの参考になるのではないかとも思い、迷った末連絡する事にした。

そして、これが妖怪専門探偵 岳川 滋人との出会いだった。

 




読んでくださりありがとうございました。少し妖怪に詳しい方ならこの話だけで何の妖怪か分かるかもしれませんね。昔から妖怪の類が好きだったので文章を書いていて楽しかったです。夜に投稿したので、文章がめちゃくちゃかもしれませんがご了承下さい。更新は気分次第なので早かったり、遅かったりすると思いますが気長に待っていただければ幸いです。


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第壱-1話 邂逅と松の木の怪

妖怪の事を書くのは楽しいですが、やっぱり人物のセリフなどまだまだ勉強する事だらけだと早くも感じております(笑)プロローグをまだ読んでいない方はまず、そちらから読むことをお勧めします。


事件から2日後の朝、連夜はインターネットで調べた探偵の住所へ赴いた。そこは住宅街の中にありながら、人通りが多い訳ではなく静かな場所だった。

「この家か…」

住所の場所にあったのは和風の屋敷と言った感じであった。イメージとしては神社の神主が住んでいそうな感じだなと連夜は思った。木製の表札には「岳川」と書いてあり、表札の左側にインターホンが設置してあった。連夜は恐る恐るインターホンを鳴らした。少ししてから

「はい。どちら様でしょう?」

と男の声が聞こえてきた。声色からして若い人なのだと感じた。

「突然すみません。自分、秋暮連夜と言います。こちらが妖怪専門の探偵の方の家だと聞いたのですが…。」

数秒、間が空いて、

「なるほど。少しお待ちください。」

と返答があり、インターホンが切られた。その後玄関の引き戸がガラガラと音を立てて開いた。中から出てきたのは二十代前半のような顔立ちで優しげな雰囲気漂う細身の男だった。男は微笑みながら

「事件解決の依頼かな?まぁ話は家の中で。どうぞ、上がって。」

連夜は石が敷かれた玄関から家に入り、長めの廊下の手前の部屋に案内される。

その部屋は畳敷きの和室で外からの日の光が薄く入ってきており、部屋の中心には大きめのテーブルが置かれている。

「少し待っていてくれ。お茶を淹れてくる。あ、それともコーヒー、紅茶の方がいいかな?アイスとホット、どっちかな?」

「あ…、じゃあコーヒーをアイスでお願いします…。」

部屋の風雅な雰囲気に飲まれかけていた連夜は我に返り、そう答えた。しばらくしてアイスコーヒーとミルク入れ、スティックシュガーの器をお盆に入れて持ってきた。

「はい、アイスコーヒーね。ミルクと砂糖は自分で好きな量入れてくれ。流石に君の味の好みまでは分からないからね。」

笑いながらそう言うと、連夜の前にアイスコーヒーとミルク、砂糖を自分の前にはコップに入った冷たい緑茶を置いた。

「さて、じゃあ話を聞く前に改めて名乗らせてもらおうかな。私の名前は岳川滋人。年齢は三十代前半とだけ言っておこう。少し昔まで陰陽師みたいなことをしててね。その後、訳あって今やってる様な仕事をする事になったんだ。基本的には陰陽師の時にやっていたような仕事、依頼者の仕事の運勢や住居の吉凶を占ったりなんだけど、たまに今日みたいな依頼、つまり妖怪の仕業としか思えない事件、事故の解決をする事もある。…長くなってしまったね。では本題だね。話を聞こう、一体どんな事があったのかな?」

連夜は三十代前半でこの見た目なのかと少し驚きつつ、朋也から聞いた噂話、そして朋也の遺体についての話をした。一通り話を聞いた岳川は一口、お茶を飲んでから

「なるほど。話は分かった。辛かっただろうね。君もまさか友人がそんな事に巻き込まれるとは思わなかっただろうし、友人自身も思わなかっただろう。話を聞く限り、確かにそれは人がやった事件というよりは妖怪が起こしたような奇妙な事件だね。じゃあ、次はその松の木まで案内してくれるかな?」

「分かりました。…あの、ちなみにそういう事件の解決ってどうするんですか?」

「説得をするのさ。君達の言い分もわかるが出来れば人間に危害を及ぼさないでもらえないかみたいな感じにね。ただ、私が説得が苦手っていうのもあるけど、聞き分けがいい妖怪ばかりじゃないからね。もし、説得が失敗して襲いかかってくる様なら残念だけど滅したり、封印する事になるけどね。」

なんか、さらっと怖い事を言った気がするが聞き分けがいい奴と良くない奴がいるのは妖怪も人間も同じなのだと思った。

「じゃあ、現場に行くための準備をするからちょっと待っててね。十五分くらいで終わるから。」

そう言って、部屋を出て行った。出て行ってから十分くらい経った時お経の様な声が聞こえてきた。お経が止んで少ししてから鞄を持った岳川が来た。

「さっきのお経みたいなのは?」

「あぁ、外出先での無事を祈ってたんだ。外に出る前にはいつもやってるんだ。」

なるほど、こういう仕事をしてるからか。やっぱり徹底してるなと感心した連夜は岳川を現場である松の木へ案内するのだった。

 

 

「へぇ、これがその松の木か。随分大きいね。二、三十メートルくらいはあるんじゃないかな。いつからここにあるのかな?」

「ええと、樹木自体の正確な年月は分かりませんけど、確か違う県からある程度の大きさのものをここに移してきたらしくて。それが百年くらい前らしいです。」

「移してきた?どこの県からか分かるかな?」

と、会話をしながら木の周囲を調べていた岳川はふと草むらの中に何かが落ちているのに気づいた。それは時間が経ち、雨風に晒されボロボロになった一枚の紙。文字が書かれているが掠れていてほとんど読めない。ただ、かろうじて読めた部分には「封」の文字。周囲をよく見ると所々に細かくなった紙の破片が数切れ落ちていた。(ここには数枚の封印の札が貼ってあったのだろう…。つまり、ここには封印を施す必要があった"ナニカ"がいるのか…。それは一体…?)

「そこまでは覚えてませんけど…。この地域の歴史資料館に行けば分かると思います。行きますか?」

「もちろん、ちょっと気になる事が増えたからね。」

「分かりました、案内します。こっちです。」

資料館に向かいながら岳川は考える。(もしかしたら、今回の事件だけでは終わらないかもしれない。私の説得を聞いてくれればいいのだが…。)

そんな岳川の嫌な予感は残念ながら当たってしまうことになる。

 

 

 

現在までの犠牲者: 一人

 

 




読んでいただきありがとうございます。グダグダな文章ですが最後までお付き合いいただければ幸いです。


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第壱-2話 古い資料と過去の封印

この作品に出てくる場所や年号、建築物の名前、歴史などは全てフィクションです。ただし、出てくる妖怪が全てフィクションであるとは言い切りませんのであしからず…。


岳川は連夜の案内で資料館へと赴いた。扉には小さな鈴がついており、開けるとチリンと鳴った。資料館内へ入ると中には人がほとんどおらず、受付の老爺が一人だけいる状況であった。この資料館は小規模ながらこの地域の歴史資料はもちろん、周囲から掘り出された物も展示されていた。岳川はあの樹木が一体何処から移されてきたのか、何のために移されてきたのかが知りたかった。少し見渡すと「この地域の歴史」というコーナーを見つけた。そこで岳川は

1896年 和歌山県より松の木を贈呈される。以後、海南神社の管理下に置かれる。

という記述を目にした。

「連夜君、この海南神社っていうのは何処にあるのかな?」

「申し訳ないですが、自分も聞いたことがなくて…」

そうか…、と岳川が悩んでいると

「何かありましたかな?」

と受付の老爺が話しかけてきた。そこで岳川は

「すみませんが、この海南神社という場所は何処にあるのですかね?少し見てみたくて。」

「海南神社…。あぁ、それは松の木がある通りにあった神社の名前です」

「あったとは?もう今は無くなったのですか?」

「ええ、確か十年ほど前に最後の神主が老衰で亡くなって、子供もおらずそのまま神社は廃れてしまいまして。だからといって神社を壊して良いものかと悩んでいたのです。ですが二年ほど前に町長がもし何かが起こったら新しく神社を建てる事にしようと決意して取り壊して住居を建てました。まぁ、結局何も起きませんでしたがね。」

岳川は小さくなるほど、と呟くと続けて老爺に質問しました。

「神社にあった資料などはこちらにあるのですか?」

「ええ、もちろん取ってあります。こちらです。」

そう言って老爺は案内を始めた。受付は大丈夫なのかと聞いたが、人が来る事もほとんど無いし、だれかくれば扉の鈴が鳴るから大丈夫だと答えた。

話している内に資料の前に着いた。その中の神主の記録の資料を手にとってみても良いかと尋ねた。老爺は汚したり、破いたりしないようにと言った上で岳川に渡した。その資料は仕事をするためのメモの様なものでその中の1896年の欄に達筆な文字でこう書かれていた。

 

1896年 和歌山から松の木の贈呈。次のことを守るべし。一つ、この年から封印の札を貼り、半年から一年に一回、貼り替えること。注:札が崩れ始める、札に黒い焦げが出てきた場合は半年に満たなくとも貼り替えるべし。二つ、現在、札は一枚であるが樹木から音が聞こえ始め、それが三日連続で続く場合、札を貼り替え、数を一枚増やすべし。三つ、樹木の根元に何か置いてあっても絶対に近づくべからず。

 

「これは…。」

何か異様なモノがいるのは確かなようだ。岳川は正体に近づきながら、このモノは説得に応じることすらないかもしれないと、気を引き締め直した。

「あの…、そろそろ資料館を閉めなければならないのですが。」

どうやら、岳川が資料を読んでいる内に夕方、それも日が大分落ちてきていたようだ。今日はこれにて失礼しようと資料館を出る。

資料館から出ると連夜が聞いてきてた。

「探偵さん。どんな奴がやったか分かりましたか?」

「予想しているものはいくつかある。ただはっきり分かってからの方が良い。」

「何故ですか?」

「封印の術式をするにもはっきり分かった後の方が曖昧な時より封印出来る時間が長くなるからね。それに滅した後のためにもね。」

「滅した後…ですか?」

「君は妖怪が何かの要因で滅した後どうなると思う?」

「幽霊みたいに成仏するとかですか?」

「もちろんそういう奴もいる。でもね、大概の妖怪は細かい粒子みたいになってその場に残るんだよ。死ぬっていうのとは違うんだ。」

「そうなんですか!?知らなかったです。」

「あぁ、君も聞いたことがあるだろうあの言葉。あれは本当に良く妖怪のことを表してると思うよ。」

「言葉?それって…?」

「聞いたことないかい。『お化けは死なない』ってやつ。その言葉の通り、死なずに残るのさ。そして時間が経つとまたその粒子が集まって妖怪が生まれるって訳だよ。そしてね、封印の術式を施す際にどんな妖怪か詳しく知ってから札を作ると粒子が集まるまでの時間を長くしたり、集まりを遅くしたりできるってことさ。」

何か凄い話を聞いている気がすると思いながら帰路につく。岳川はこの町のビジネスホテルにでも泊まるという。そして連夜と岳川が別れる際に岳川は少し連夜を引き留めた。

「すまないが、髪の毛を一本貰えるかな。」

「か、髪の毛ですか。分かりました。」

そういうと連夜は自分の髪の毛を一本抜き、岳川に渡した。

「ありがとう。安心してくれ。悪用する訳ではないから。…よし、出来た。じゃあ、これをあげよう。自分のそばに置きなさい。」

そういうと岳川は連夜の髪の毛を入れた粘土の人形のようなものを渡した。

「これは?」

「ヒトガタさ。君の身代わりってとこかな。今回の妖怪はあの松の木に近づかない限り襲わないと思うけど。念のためにね。じゃあまた明日。」

そういうと岳川はビジネスホテルの方へ行った。連夜もヒトガタを落とさないように、帰路に着いた。

 

 

ビジネスホテルに着いた岳川は(この様子だと、明日には解決出来るな。…まぁ今回は初めから説得が出来そうにないから滅する方向で行くけど。さて…。)

一通り情報を整理してから岳川は窓の方へ向かい、少し窓を開けた。手には一枚の紙。印を結ぶとその紙は鳥の形になって飛んでいった。同じものを後二体飛ばすと窓を閉めた。(鳥型の式神。あの樹木の見張り番だ。もし誰かが襲われても逃げれる位には時間稼ぎが出来る…筈だ。ただ神社の資料を読んだ限りでは普通のモノよりたちが悪いかもしれない。そうなったらあの式神では時間稼ぎすら…。祈るしかないか。)

こうして岳川は式神数体を木の見張りにつかせ、明日の調査、解決のための力を溜めるために風呂で身体を清め、祈りの経を読んでから寝床についた。…自分の考えたような悪いことが起こらないように願いながら。

 

 

しかし、その願いは叶わなかった。次の日、松の木の下で女性の遺体が見つかった。今度は全身があったがこの事件も奇妙であった。被害者は頭に傷跡があったことから殴られたのではと思われていたが、調べると首の骨も折れている事が分かり、どうやら高い所から落ちたらしい。松の木の上の方には被害者の靴が片方だけ引っかかっていた。なのでこの木の上から自殺したのかと考えられるが妙なことがある。被害者が木に登った形跡がない。指紋はもちろん、爪の中からも木の繊維は出てこなかった。前の事件のように説明するなら「被害者の身体が突然木の上まで上がり頭から落ちた」ということになる。警察が捜査したが、結局自殺という事になった。

ちなみにこれは死因には関係はないがその遺体の近くには何故か細かくビリビリになった「紙」が散らばっていたという。

 

 

 

現在までの犠牲者: 二人

 

 




読んでいただきありがとうございます。さて二人目の犠牲者が出ましたね。どんな妖怪の仕業なのでしょう。では読者の中の妖怪好きな方にヒントでも。ヒントは「和歌山県」と「松の木」です。分かっちゃうかな。それではまた。


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第壱-3話 怪異と妖怪専門探偵

今回は少し長いです。1.5倍ぐらいあります。ご了承ください。


第二の事件が起きた日、連夜は岳川の泊まっているホテルに急いだ。

「岳川さん。今日の事件、聞きましたか?」

「ああ、聞いたよ。嫌な予感が当たるとは。見張りの式神も飛ばしていたんだが…今はもう反応がない。つまりやられた。」

少ししてから連夜が問う

「でも、今回の遺体は全身があるんですよね?じゃあ、朋也を死なせた奴とは違う奴なんですかね?」

その問いに岳川ははっきりと

「いや、同じ奴だよ。」

「何でそんなにはっきりと断言出来るんですか?」

「人間もそうだけれど妖怪には妖怪の『テリトリー』があるんだよね。家の中とか海みたいに広い場所なら複数の妖怪がいる事はよくあるけど、今回は松の木っていう狭い場所だ。なら、そこにいる妖怪は一種類だけだ。」

そこまで聞いて連夜は

「素人な考えかもしれませんけど、人を食べたり、落としたりする妖怪って相当な数がいると思うんですけど。今回の事件の犯人…って言うか妖怪は分かるものですか?」

「確かに人を喰う、高い所から落とす妖怪は結構いるね。でも今回の事件の肝は『和歌山県から移された松の木』に出たってことさ。」

「移ってくる前場所が重要だったってことですか?」

「あぁ、君の友達が聞いた噂と実際に起こった事柄をまとめると一致する妖怪がいるんだ。」

「えっ、じゃあもう妖怪の正体が分かったんですか。」

驚きながら連夜が尋ねると

「ああ、検討はついてる。決着は今夜だ。」

そういうと昼間の内にと夜の準備のために松の木に急いだ。

 

 

松の木の前まで着くと岳川は根元の方に何かを描いている。後ろからちらっと見てみると複雑な星の形を地面に描いていた。描き終えるとその図形に経を唱え、空を九字に切った。

「これで良し。準備は出来たよ。じゃあ夜まで待とう。君はどうする?無理にこの決着に付き合う事は無いんだよ?」

「…いや、自分も付き合います。朋也の命を奪った奴を見たいし、それにこんな事を言うのはどうかと思うんですけど、妖怪ってモノを見てみたいって気持ちも少し…。」

「なるほどね。分かった、けどくれぐれも気をつけてくれ。じゃあ一緒に待つかい?」

「いえ、一度家に帰って夕飯食べてから行きます。」

「了解。じゃあ九時ごろに木の近くはどうだろう。」

「分かりました。」

「あ、後これを持っていてくれ。」

そう言って渡されたのは一枚の紙。連夜からするとなんだか分からないが持っておく事にした。

 

 

夕飯を終え、自分の部屋に戻って出かける支度をしていた時、ふと枕元に置いていた人形に気づく。これはどうするべきかと悩んだがまぁ、お守りみたいなものかと貰った紙と一緒に持っていく事にした。

 

 

連夜が木の近くに着いたとき岳川はまだ来ていなかった。携帯を見ると時刻は八時四十分少し前。少し早く着き過ぎたか?と思いながら待っていると隣にある松の木が目に入る。改めて見るとどこから見ても少し大きめの松の木である。ここに妖怪がいるとは見た感じでは分からない。九時まで残り十分という頃、何処からか音が聞こえてきた。

何処から鳴っているのかと周囲を見回すとその音は隣の松の木の上の方から聞こえてくる。「カラ…カラ…カラカラカラ」と徐々に音が大きくなってきた気がする。やがて「ガラガラガラ…ガラガラガラ」と音が変わってきた。突然の音に驚き、動けなくなっていた連夜はそこでふと木の上の方をゆっくり見上げた。(木の上の所に…『ナニカ』いる…いや、いる、というよりある?しかも一つじゃなくていくつも…。)そこまで分かった所で音が変わる。それは噂では聞いたことがない音だった。「ギィ…ギィ…ギィ」まるで古くなったブランコに乗ったときに繋ぎの部分が軋んでいるような音だと思った。次の瞬間「ギィィィ!」と大きくなったと感じると同時に何かがこっちに向かってきた。連夜は襲われると感じ、身構えた。するとポケットの中から岳川から貰った紙が飛び出してきた。向かってきたものは紙に当たり、バチンッと弾かれる。連夜の目の前に出てきた紙は形を変えて鳥の姿になる。渡された紙は式神だった。鳥型の式神であるが、見張りの時が鳩のような形に対して、この式神は猛禽類のような形をしていた。次に連夜は向かってきたものは何だったのかと前の方を恐る恐る見ると桶のような形の物が木の上から吊られていた。…さっきまで木の上にあんなものはなかった。じゃあ、あれが妖怪の正体で朋也を襲ったものか?様子を伺っていると上の方から太めの綱が凄い速さで式神に向かってきた。式神がその綱をヒラリと躱すと桶のようなものが上から次々と落ちてきて式神に綱を落としてきた。初めはヒラヒラと躱していたが徐々に当たり始めてきた。当たる度にビリビリと欠けていく。そんな光景を呆然として見ていると一つの桶が連夜の方へ向かってきた。式神はその桶の動きに気づいたが綱が動きを変え、式神を連夜の元へ行かせないように妨害を始めた。その桶は連夜の二メートル程前まで来ると、桶の中が見えるか見えないかと言う角度で止まった。桶の中には何か光るものがあるのが分かる。(足が…勝手に桶の方へ…!)慌てて周りを見ると岳川が向こうの方から走って向かってきている。連夜は助かったと安心したが岳川とはまだ距離があり、自分が思った以上に桶へ向かう足が速い。連夜の抵抗虚しく、目の前まで足が着いてしまう。すると桶が連夜の顔まで浮かんだ。そこで連夜は桶の中身を理解した。桶の中には何もなく、ただ小さな光があるだけであった。ふっと光が消え、代わりに桶の内側から無数の歯が生えてきてゆっくりと顔の方に向かってくる。もうだめだと諦めた時、一際大きな音でバンッとポケットから音が鳴った。

瞬間、桶が顔から離れて行き、身体から力がふっと抜けた。そこに岳川が着き、身体は無事かと聞いてくる。連夜は震えながらも頷き

「何で妖怪が離れたんでしょう…?」

と聞いた。岳川は

「私が言った通り、ヒトガタは持っていたようだね。念のために作っておいて良かった。」

と言われて、ポケットを探ると貰ったヒトガタが粉々になっていた。

「君の身代わりになったのさ。」

落ち着きが戻ってきた連夜は知りたかったことであり、最も重要なことを聞く。

「岳川さん。あれは一体何ですか…?」

岳川は一呼吸おき、

「あれは、『釣瓶落とし』さ。しかも、たちが悪い奴だ。」

「釣瓶落とし?」

「ああ、実は県によって姿が違ってね。でもその話は落ち着いてからだ。まずはこいつをなんとかしなくちゃ」

そういうと岳川は懐から一枚の札と小刀を取り出した。そして釣瓶落としに向かって

「一応聞いておくよ。今日から心を入れ替えて人を襲わないって誓うなら今回はただ封印だけにするけどどうかな?」

それを聞くと釣瓶落としは「ギィギィギィギィ」と音を立てた。

「あれは何か言ってるんですか?」

「いや、あれは笑ってるんだよ。そんなことするわけないだろみたいな感じでね。やっぱり説得には応じないか。」

そういうと札を投げた。札が当たった瞬間、釣瓶落としの動きが止まった。

「麻痺みたいものでね。まぁ、こいつくらいの大きさなら早くに解けてしまうけど、この隙に」

小刀を鞘から抜き、九字を切りながら向かって行く。少ししてからまた動き始めた釣瓶落としは綱を四方から落としてくる。岳川はその綱を切っていくが、隙あらば桶が岳川を喰らわんとして襲いかかってくる。しばらく切り合って相手が消耗してきたとみた岳川は小刀を懐にしまった。それを好機と思ったのか釣瓶落としは綱を落としてくる。それをヒラリヒラリと躱していく岳川だが途中か躱し方が変わった。よく見ると今、岳川がいる場所は昼間に何やら星型の図形を描いていた場所。すると岳川が地面に描いた図形の通りに躱し始めた。その躱し方でしばらく躱していると釣瓶落としの動きが止まり始め、綱の先からボロボロと崩れていく。綱がどんどん短くなり、やがて綱がほとんど崩れた頃に岳川は木に向かい、

『臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前』

と九字を切った。すると、ビシッという音とともに釣瓶落としが次々に砕け散るように崩れ始めた。やがて崩れが収まって来た頃、樹木に封印の札を五枚貼り、最後に改めて今回の犠牲者への祈りを捧げて今回の事件の決着となった。岳川は連夜に向かい

「お疲れ様。怖い体験をさせてしまったね。すまない、もう少し早くに来ていれば。」

「その事は気にしてないので大丈夫です。…あの妖怪はどうなったんですか?ボロボロになってましたけど」

「あぁ、前に妖怪は粒子みたいなものって言っただろう?簡単に言うと、最初の小刀の攻撃で粒子の結合みたいなものを柔らかくして、大分柔らかくなったところで、禹歩を使って先端から粒子をバラバラに崩壊させたんだ。最後の九字切りは見た通り、とどめだよ。ここまでやってから封印すれば次に復活するまで相当時間がかかるからね。」

改めて元陰陽師は伊達ではないと思いながら連夜は

「今回何でこんな妖怪が出てきたんでしょうか?」

と尋ねる。それに対し

「もちろん何故そうなったのかも分かっている。だけどその話は明日にでもゆっくりしようか。今夜は帰ろう。もう事件は終わったんだ。」

「分かりました。」

返事をする連夜。何故この妖怪が今になって出てきたのか。その答えは明日ゆっくり聞くとして、今夜はもう犠牲者が出ないことを心の底から喜びながら帰路についた。




読んでいただきありがとうございます。まさかこんなに長くなるとは思いませんでした。次話は何故今になって釣瓶落としが出てきたのかが分かります。お楽しみに、では。


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第壱-4話 事件の真相と戻った平穏

今回が壱話のラストです。まさか数日で出来たことに自分で驚きを隠せません。


次の日、連夜は岳川の屋敷へと向かった。屋敷の前に着き、インターホンを鳴らす。少ししてから「はい」と岳川が出る。

「連夜です。昨日の話の続きを聞きに来ました。」

「おお、今開けるよ。」

しばらくして、玄関の引き戸が開き、上がるように言われる。

前と同じ部屋へ通され、

「飲み物は何がいいかな?アイス?ホット?」

「前と同じアイスコーヒーで。」

そう頼むと前と同じセットが出てきた。

一息ついてから連夜が話を聞く

「じゃあ、聞きます。何故今になって妖怪がでてきたのでしょう?」

「やっぱりね。聞いてくると思ったよ。少し長くなるよ。恐らく百年くらい前にこの町に松の木が贈られた理由は封印のためだったのだろう。当時の和歌山県としては初めはよそに贈るなんてつもりはなかったとは思うけどね。当時の和歌山県の中で釣瓶落としの被害があったのかもしれない。それで県内の該当する樹木を封印する事になったんだが、予想していたより該当する数が多くて和歌山県の霊能者だけじゃ何本かは見る事が出来ないものが出てしまう。もちろん該当するとされたもの全てに釣瓶落としがあるわけではないにしても万が一ということもある。そこで、別の県の信頼できる者に事情を説明し、預かってもらうという考えに至った。その中に海南神社の神主と知り合いの者が居たのだろう。相談を持ちかけた。神主は悩んだが覚悟を決めて請け負うことにした。他にも何本かは違う県にあるのかもしれないが、怪しい事件の話は聞かないから何の変哲も無いただの松の木だったのかもしれない。そしてこの町に贈られた松の木は運悪く『ホンモノ』だったってわけだよ。そこからは資料にあった通りだよ。封印の札を貼り、何か異常があれば貼り直しといった処置を続けた。それこそ命か尽きるまでね。しかし神主が亡くなり、貼り替える者が居なくなった封印の札は時間経過とともにボロボロに朽ち果ててしまった。ただ、ここで運が良かったのは新しい道が出来たことでその道を通る者が居なくなったことだ。しかし時は過ぎ、今から一月前に工事が行われ始めた。その影響で今まで使われていなかったこちらの道が再び使われ始めることになる。今まで人の気配など無かった道に人の気配が出始めた。この状況を釣瓶落としはこのように考えただろう。

『気付いたら昔みたいに目の前を餌が通り始めた。厄介だった封印も無くなった。…長い間何も喰えなかったから腹が減った。まずは腹ごしらえからだな。』と。

そう思い出した頃に件の先輩が通りかかった。釣瓶落としは音を鳴らしてこっちに興味を引かせて根元にある光る桶まで来てもらい、覗き込んだのを見計らって上に持ち上げて木の上の方でゆっくり喰おうと思っていた。しかし、ギリギリのところで先輩に逃げられてしまった。なら次に来る獲物は逃がさないようにしよう。どうやって逃がさないようにするか。そして釣瓶落としは思いつく。…そうだ、光を使って催眠状態にして身体の自由を奪ってから食べよう。こうして朋也君は光に誘われてそのまま…。

第一の被害者の場合も酷いが第二の被害者の場合はもっと酷い。まず第一の被害者を食べた釣瓶落としは後二、三日は食べなくても大丈夫になった。その上で夜になったら光る桶を根元に置いておく。ほとんど人は気づかないか、怪しくて寄らなかったのかもしれない。ただこの女性は寄ってしまった。食べなくてもいい場合にかかった餌はどうするか。一回限りの遊び道具になる。何故一回限りかそれは桶で上まで上げた後叩き落とすのが遊びだからね。普通の釣瓶落としはここまで露骨に待機しないから、今回の奴がたちが悪かったのさ。」

静かに話を聞いていたが、正直背筋がゾッとしている。朋也が喰われた時もショックだったが、第二の被害者は遊びだったとは。

「まぁ今回の奴は説得出来ないから滅してから封印したけど、邪悪な奴じゃない限り説得から入るよ。あっそうだ君にあれ渡さなきゃ。」

そういうと部屋を出て行き数分で戻ってきた。手にはお守りを持っている。

「妖怪にあってるからね。多分、一年くらいこの世のものではない奴の姿が若干見えやすくなるかもしれないからお守りだよ。」

全ての事情を説明された連夜は時計を見ながら

「さて、そろそろ行きます。」

「あぁ、また何かあったら連絡かここに来なさい。じゃあ、気を付けて」

「はい。今回は本当にありがとうございました。でもできればあまり会わない方が嬉しいような。」

笑いながら言ってから彼はある場所へ向かう。

 

その場所は墓場だった。数多くある墓石。その中の一つに花と線香を供える。

「無事終わったぞ。これで安心して成仏できるな。…もう成仏してるかもしれないがな。ま、ゆっくり眠ってくれや。」

それだけ言うと彼は帰路についた。これから先の人生を。妖怪に会ったことがあるという体験とともに彼は生きて行く。

 

 

 

 

 

今回の妖怪解説

〔釣瓶落とし〕

和歌山県海南市黒江に伝わる元禄年間の妖怪譚。古い松の大木の根元にある釣瓶を通行人が覗くと光る物があり、小判かと思って手を伸ばすと釣瓶の中へ引き込まれて木の上へ引き上げられ、木の上に住む釣瓶落としに脅かされたり、そのまま食い殺されたり、地面に叩きつけられて命を落としたという。




堂々の第壱話完結です。読んでいただきありがとうございます。今回の妖怪は釣瓶落としでした。県によっては大きな顔が落ちてくるなどのパターンがあり、「ゲゲゲの鬼太郎」では大きな顔の姿で登場しているのでそっちだったら分かるという方もいるのではないでしょうか。さて自分は今、無事終われたことに感動してます。これからも気力と気分が続く限りは書きます。今のところ気分が乗ってるのでもしかしたらすぐに次回の話が投稿出来るかもですが。まぁ気分次第なんで結局は不定期って事でご容赦ください。何かリクエストの妖怪がいれば感想の欄に書いていただければ、すぐに出すという訳にはいきませんが後々登場させると思います。


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裏壱話 捕食遊戯

もしかしたら、壱話に出た犠牲者がどうなったのか知りたいという少々コアな方がいるかもと思い、書きます。自分は文章力がないのであまりグロくはないはずです。


第一の犠牲者 宝条 朋也の場合

連夜と別れた後、夕飯を食べ、食後の散歩に行くと言って家を出た朋也。もちろん、散歩というのは建前で松の木の噂について調べたかったからである。時刻は午後八時半。内心ではそこにはどんな真実があるのだろうというワクワク感と連夜に今夜、調査するとは言ったが今夜の内に出るのだろうかという不安感が入り混じっていた。

ひとまず、松の木付近をウロウロしていたが三十分経っても変化はない。わずかにこの道を通っている通行人がこちらをチラチラ見ているが気にしないように努めた。やがて通行人の気配が消え始めた頃に喉の渇きを覚えた朋也は飲み物を買いに少し先にある自販機へ向かった。(もしかしたら出てくるまで長期戦になるかもなぁ。ってか今夜出るかも分からないし、もう少ししたら帰っちまおうかな。)と薄っすらと帰宅する考えが浮かび始めたが(いや、連夜に真実が分かったらすぐに教えるって言っちまったからな。自分が一度吐いた言葉には責任を持つもんだよな。)と自身を奮い立たせ、松の木の方に戻るとさっきとは雰囲気が違う気がする。ふと、どこからか音がし始めた。見渡すが周囲に人はいない、朋也一人だった。なのに徐々に音が大きくなってきている。大きくなり始めた頃に朋也はこの音が松の木から聞こえてくるものだと気付く。「カラカラ…カラカラ…カラカラカラ」。音がはっきりと聞こえた時朋也はこれが噂の音かと好奇心半分恐怖半分の感情だった。「ガラガラガラ…ガラガラガラ…ガラガラガラガラ…」と音が変わってきた。朋也が木のどの辺りから鳴っているのかと思い、上を見上げると何かが木の上にある。その何かはスルスルと木から下がってきた。よく見ると中身が光っている。これが先輩が見た光る桶か、と中身の確認の為に足を踏み出そうとするが足が動かず、光に見入ってしまう。先程は動かなかった足が桶に向かい動いた時、朋也は恐怖でいっぱいだった。(先輩が言っていた意味が分かった。確かにこれは嫌な予感しかしない、でも足が止まらない…。)

桶の前まで来た時、フワッと桶が浮かび上がり頭の方から被さってきた。瞬間、桶は上に上がり木の上の方まで来た時、朋也は痛みを感じた。頬が痛い、耳元ではグチャグチャという気味の悪い音がする。続いて指先、肩、脇腹に痛みを感じ、そこで気付いた。(もしかして、俺喰われてる…?いや、でも何に?鳥?まず動物なのか分か…)そこで朋也は何も考える事すら出来ない程の激痛に声を上げそうになる。が、叫んでも声が出ない。少ししてからその理由が分かる。自分の舌がない。「グチャグチャ…ブチッブチブチブチッ…バキッボリボリッゴリッ…ゴリゴリゴリップチッグチッグチョグチャグチャ…」朋也が最期に聞いたのは少しずつ自分が食べられていく音だった。

 

 

第二の犠牲者 立川 史の場合

立川 史(たちかわ ふみ)は仕事終わりにその道を通っていた。最近この道で人が死ぬ事件が起こったらしい。犯人はまだ捕まっておらず襲われた理由も不明だそうだ。そういえば最近オカルト好きの同僚が言っていた噂もこの辺りだったような。確か、松の木から不思議な音が聞こえるんだったか。…まぁそんなものはどこかの家の音が聞こえただけだったに違いないが。そう結論付けながら件の松の木を通る。すると「カラカラカラ…」と聞こえた気がして、松の木の方は振り返る。耳を澄ましてみるが音は聞こえない。気のせいかと向き直ろうとした時、松の木の下に何かがあるのに気付く。近づいてみるとそれは桶だった。誰かの落とし物か?と中を覗いていると桶が顔に被さって史を持ち上げながら木の上へ上がっていった。何が起こったのか分からなかった。まず、何故桶が被さってきたのか、桶が自分を持ち上げる事が出来るのか、そして何故桶が木の上まで浮かび上がったのか。混乱していると周囲から「ギイ…ギイ…ギイ」と聞こえてきた。それも一つではなくいくつもいるようだ。その内何かが足に絡み付いてきて史の足を木の枝に引っ掛けた。もちろん枝だけでその重さを支えられる訳もなくパキパキと音がする。すると顔に被さっていた桶が取れる。足を見ると右足だけが枝に引っかかっている。周りを見渡してみると桶がいくつも並んでいた。まるで史が落ちるのを今か今かと待ち望んでいるようだった。意味が分からなかった。何でこんな状況になっているのか。混乱し、絶句しているこの瞬間にも枝は音をあげている。そして史が自身が今いる場所の高さを理解した時、枝は重さに耐えられず折れた。叫ぼうにも落ちている勢いで口が開かず、木の上からは「ギイギイギイギイィ!」という音が聞こえる。その音が桶から出ていると分かった瞬間、史の頭が地面にぶつかった。その衝撃で首の骨は折れ、頭は割れてしまっている。その様子を見て桶たちは木の上でまた笑うのであった。




今回は壱話の犠牲者たちが犠牲になった詳細を書きました。ご気分が悪くはならなかったでしょうか?もしかしたら詳しく知りたいという方がいるのかと思い、書きましたがどうでしょう。妖怪は時に遊びで命を奪う場合もありますので読書の皆様もお気をつけください。それでは、今回も読んでいただきありがとうございました。


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第弐-0話 舞と蛇

早速、弐話目です。今度はどんな奴でしょうか。


愛媛県のとある町。夕方に差し掛かる頃、一人の女性が道を歩いていた。服装は着物に帯を巻いているというような和装。綺麗な着物と反比例して、女性の顔は浮かない表情である。彼女の名前は帯元 夢子(おびもと ゆめこ)。某商社で事務の仕事をしている二十代後半の女性で趣味は日本舞踊。この日は習い事としてやっている日本舞踊の稽古の日だった。日本舞踊を踊る事は楽しい。だが、今日は少し気に食わない、というよりは複雑な気分になる事があった。もちろん日本舞踊の稽古は彼女一人だけしかいないなんて事は無く、他にも稽古をしている人がいる。その中に淵森 蓮子(ふちもり れんこ)という同年代の女性がいた。この女性、踊りは真剣にやっているし、そこそこ顔も良いのだが、少々周りを見下し気味な所があった。聞いた話では彼女の家はそれなりにお金持ちであり、現在はマンションに一人暮らししている。稽古に来る際もいつも違う着物、違う帯で家にまだあるらしい。そして稽古に来るたびに

「あれ?みなさん前回も同じ着物、着てませんでしたかぁ?たまには新しい着物で来れば良いじゃないですかぁ。」

と言ってのけるのである。新しい着物を着て来れるのならばそうするところだが着物が高くて買えず今着ている着物しか無いし、他の人達も同じくらいで、あってももう一着くらいだった。彼女は確かに気に食わない性格であるが、それ以上に羨ましい気持ちもあった。もちろん彼女がそんな気持ちを知っている訳は無いのだがそんな気も知らずに自由に振舞っている彼女を見ると見下されている感が強まって余計に気に食わない人に思えた。

それに加えて今日見た光景が頭をよぎり、ますます落ち込む。

二ヶ月程前、日本舞踊の稽古を終え帰路についていた夢子は夕飯を買うためコンビニに行った。そこで「坂本」という男と会った。坂本はコンビニの店員で笑う顔が素敵な男だった。少しして稽古終わりになるとそのコンビニで夕飯を買いに行き、坂本に会うのが楽しみになっていた。つまり夢子は坂本に恋をした。いつか時期がきたら告白しようと想いを胸に秘めつつ過ごしていた。もちろん今日もそのコンビニに行った、だが今日は坂本の姿が見えず体調でも崩したのかと心配していた。コンビニから少し行った場所で私服の坂本を見かけた。誰かを待っている様子だったので友達との待ち合わせかなと思っていた。すると後ろから蓮子がやってきて坂本に話しかけた。しばらくその場で話してから二人は腕を組んで何処かへ行ってしまった。まさか坂本と蓮子が恋人同士だったとは…。憎いというよりは少し切なくなってしまった。顔も良くてお金もある。新しい着物も沢山あるし欲しければ買える。その上あんなに良い男も寄ってくる。もちろん坂本の全てを知っているわけではないが、表面的には自分が会った男性の中でトップクラスに良い人だった。そんな考えが頭の中でぐるぐる回りながら帰路についていた。家に帰り、着物の帯を解きながら考える、考えてしまう。(もしあのスペックが自分にあったら良かった。そうすれば着物も愛する人も手に入れられたかもしれないのに)と。

その夜は風呂に入り、夕飯を食べて早めに寝ることにした。寝れば嫌な事やこんな考えが浮かぶ事はないと信じて。

 

 

 

次の日、坂本は自宅で遺体となって発見された。ただ、その死に方は奇妙であり、殺人というよりは事故であった。何故なら彼は蛇に噛まれて布団の上で死んでいた。だが不思議なのは彼の自宅は恋人の蓮子が住んでいるマンションと同じであり、防犯システムは完璧な上に彼の部屋は十階だった。こんな高さに蛇がいるとは考えられないし、他の住人に飼っている人もいない。ではその蛇は何処から入ったのか。そしてその蛇は何処へ行ったのか。

 

 

 

 

今回の事件の犠牲者: 一人




早速弐話です。さてこの事件はどのように解決するのか。まだ犠牲者は増えてしまうのか。文章力はない方なのであまり期待せず待っていて下さい。今回も読んでいただきありがとうございました。


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第弐-0.5話 探偵と同居人達

今回の話は探偵が今回の事件を知るきっかけと同居している社員?達の話です。


さて、みなさんは探偵というものは人が単独でやっているものだと思っているだろうか?おそらく単独でやっている人もいるだろうが、探偵社などの組織になると人数が増えてくる。しかしごく稀に探偵の知り合いや昔助けたりした人が家に居着いた結果、探偵社のような組織でもないのに人数が増える事がある。それは特殊な在り方だが探偵社員であることに変わりはない。実は妖怪専門の探偵もそんな人材の集まり方をした一つである。

「おーい、誰か新聞知らないか?」

岳川には毎朝の確認作業のようなものがある。それは新聞を読んでそれが妖怪絡みかどうかを考える事だ。

「新聞?さっきまで読んでたけど、今誰が持ってるかまでは分からないな。」

最初に反応したのは細身の長身で黒い髪の一部を赤く染めた若い男。

名前を「因幡 直正」(いなば なおまさ)という。歳は22歳。

「おお、シビトか。お前が新聞なんて珍しいな。何読んでたんだ。」

「テレビ欄」

基本的にこの屋敷では岳川以外の関係者の事は本名ではなく、あだ名で呼びあっている。

「テレビ欄って…たまには普通の記事も読んどけよ。」

「そんな事言ったって、長い文章読むの得意じゃねぇもん、俺。」

そんな事を言い合っていると、

「あぁ、新聞だったらヅカが見てましたよ、先生。」

後ろから話してきたのは、眼鏡をかけ身長は小さめ、茶髪のショートヘアの女。名前を「沖田 那古」(おきた なこ)、あだ名は『トウビ』。歳は28歳。

「トウビか。君はもう読んだのかい?」

「はい、既に。私が見た所、気になる事件が一つありました。」

「…なるほど。ヅカが見てるんだったね、分かった。ありがとう。」

そう言って家の中でヅカを探す。

しばらく探すとテーブルに新聞を広げながら読んでいる。ヅカを見つけた。

「ヅカ。新聞読み終わりそうか?読み終わるとこなら次、私に貸してくれ。」

ヅカ、本名は「鳥山 九十九」(とりやま つくも)。金髪で小太り、見た目はヤンキーみたいだが人を見かけで判断してはいけない事が身に染みて分かるほど優しく礼儀正しい。歳は24歳。

「岳川さん。はい、今読み終わった所です。どうぞ。」

「ありがとう。何か興味深い記事は有ったかな?」

「そうですね…、やはり子供や赤子関係の事件でしょうか。まだ生まれて間もなく、外の世界へ踏み出してもいないような赤子の命が奪われるのはとても心が痛みます。」

「全くもってその通りだ。私は結婚はしていないし、子供もいないがそれが人の道から外れた行為であると断言するよ。…話し込んでしまったね。新聞ありがとう。」

そして新聞を手に自室へ帰る岳川。

 

 

 

新聞を開き読んでいると、ある記事に目が止まる。

「マンションの十階で男性が死亡。死因は毒ヘビか?」

記事によるとマンションの十階で男性が死亡していた。身体についた咬み傷から蛇であると分かったが、防犯設備も万全なマンションで何処から蛇が入ったのか、また何処から出ていったのかが謎であるという。しかも詳しく咬み傷を調べると蛇の大きさが四メートル近い事が分かった。そんな大きな蛇が入る隙間が何処かにあるのか。結局、この事件は蛇による事故という事になったらしい。

「この事件は妖怪絡みかもしれないな…。」

そう考えると岳川は今、家にいる社員達に自分の部屋に来るように伝えた。数分後家にいた社員が集まってきた。

「さて、この事件を見てほしい。恐らくこの事件は妖怪絡みだと思っている。トウビ、君が気になってた事件もこれかな?」

「はい。周りの事件と比べて不可思議でしたから。」

「確かに。ただ蛇に噛まれただけにしては奇妙ですね。これは妖怪の可能性が高いのでは?岳川さん。」

「でもよ、もし普通の蛇だったらどうするんだ?実は周りの住人の中に隠して飼ってる奴が居たりとか。」

そうシビトが聞く。それに対し岳川は

「確かにその可能性も無くはないだろう。しかしね、もし普通の蛇だったら私達が少し恥ずかしいだけで済むだろうが、妖怪の仕業だったら被害が広がるかもしれない。…そして、妖怪事件の被害の大きさは君達が一番知っているだろう…?だから被害が広がる前に突き止める必要がある。みんな、各自聞き込み等の調査をしてくれ。被害者の交友関係もね。」

そうして、社員達は気を引き締めて各自調査へ向かう。岳川も調査の準備をしてから屋敷を出た。

 

 

 

 

この探偵社にいる社員は全員が過去にそれぞれ違う妖怪事件被害に遭っている。しかも、各事件での犠牲者は親兄弟、親族のみではなく、隣人、村そのものが消えた事件もあった。そんな中でただ一人生き残り、生きる希望を失わなかった人達を岳川が引き取り、社員にしたのである。自分達が被害に遭っているからこそ被害者の気持ちが分かり、支え合って調査が出来る。もし社員との関係性を言葉にするなら社員と雇用主と言うより、第二の家族のようだと思っているし、思われるように努力していきたい。…もし各事件が起きて間もない頃に私が早くに気付いて向かえていれば彼らが孤独になる事もなかったのだから。




読んでいただきありがとうございます。いつか社員達の物語もやりたいですね。ただ言えるのは犠牲者の数が二桁から三、四桁になる事件ばかりなので書いていると鬱りそうだなって事ですね。では、また次回お会いしましょう。


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第弐-1話 調査と侵入経路

自分が初めて見た野生の蛇は小学校の時に見たヤマカガシです。詳しい人ならもしかしたら、この話で、どんな妖怪か分かるかも知れません。


「すみません。私、このマンションで起こった事件を調査しているものなのですが、このマンションの住民の方でしょうか?」

岳川はマンション近くまで来るとマンションから出てくる人に聞き込みをする。

「いえ、違いますけど…。」

「そうでしたか。足を止めさせてしまい申し訳ありません。」

やはり、奇妙な事件があったせいか住民の方も警戒しているように見える。ただ、岳川は被害者を増やさないためにも事件の事を詳しく知らなくてはならない。そう気を新たにすると聞き込みと出来れば部屋を見せてもらえないかという頼みを続けた。

何件かに断られた後、一人の主婦の方が協力してくれると申し出てくれた。

「ここです。」

その部屋は7階であったが奇遇にも被害者の住んでいた部屋の位置と同じであった。

「少しお聞きしてもいいですか?このマンションの部屋の作りは全部屋同じなのですか?」

「そうですね。両方の角部屋以外は同じになってます。」

そう言うと部屋の鍵を開けて中に入れてくれた。

「窓の鍵は…二重になってるんですね。ガラスは強化ガラス。しかも中々の厚さがある。これはすごい。」

窓の鍵はツメで閉まるような作りだったが、そのツメをロックする鍵も付いている。ガラスは強化ガラスで厚みがあり、そう簡単に割れるとは思えない。

「天井にあるこれは?」

「換気扇ですね。これはエアコンと一体になっていて涼しい風を出しながら部屋の換気が出来るものです。」

上には大きめのホールなどの天井にありそうなエアコン兼換気扇があった。蛇はここを通ったのではと思ったが、風を出す口は横には広めだが縦は狭く、二センチ程の隙間が何本も有る形だった。

「水道管の中はどうなっているか分かりますか?」

「確か水道業者の方の話だとネズミが上がって来ないような仕掛けはもちろん、水道管の途中に細かい金網がいくつか張ってあるそうです。」

その話が本当ならここからも上がってこれないだろう。ネズミが上がって来れない仕掛けならともかく張ってあるいくつもの金網を通るのは無理そうだ。…まあ、これらの話はもしも本当の蛇だったらの話なので妖怪の可能性が高まった事になる。

協力してくれた方にお礼を言ってマンションを後にする。

「ブーン…ブーン…」

懐で携帯が震える。そういえばマナーモードにしていた。出るとトウビからだった。

「先生、トウビです。被害者の友達から聞いたんですが、どうやら被害者は彼女がいたらしくて事件が起こった日も一緒にいたそうです。…話を聞く価値はあると思います。どうやら同じマンションの最上階の十一階に住んでるらしいです。情報は以上です。私はこれから聞き込み調査の続きをするのでこれで失礼します。」

「そうか分かった。情報の共有ありがとう、トウビ。」

そう言って電話を切る。そして今度はマンションの最上階で被害者の彼女を待つ事にした。

最上階の部屋は留守だった。少し待つと買い物袋を持って帰ってきた。

「すみません。私このマンションで起こった事件を調査している者ですが。…被害者の彼女の方ですよね?お話、良いですか?」

「…はい。どうぞ散らかってますけど。」

岳川はてっきり拒否されるかと思ったので内心驚いたがそれを顔には出さないように努めた。

「まず、今回はご愁傷様でした。心中お察し致します。」

「…いえ、もう慣れましたから。それでお話とは何ですか?」

岳川は何処か違和感を覚えたが話を聞いた

「彼と最後に会ったのは?」

「事件の前日の夜、十時頃です。」

「その時彼の様子に変化はありましたか?」

「いえ、いつも通りです。少しお酒を飲みながら話してました。」

「彼が誰かに恨まれるような心当たりは?」

「そんなことは絶対に無いです!!…彼は優しくて良い人でしたから、友達もたくさんいましたし、誰かから好意を向けられたり、信用されるならともかく、恨まれるなんて事は無いです…。」

(ふむ、聞いている限りだと被害者の男性は相当周りからの信頼がありそうだな。…それにしてもこの部屋少し暑いな。)岳川がハンカチで自身の額の汗を拭う。

「あ、暑かったですか。すみません。買い物から帰ったら少し寝るつもりだったのでエアコンは消してたんです。」

「寝るときはエアコンを消すんですか?」

「えぇ、彼が言っていたんです。寝るときはエアコンを消してから寝ないと風邪を引きやすくなるって。代わりに寝る前にはコップ一杯でも良いから水は飲んだ方が良いって。それで…。」

「なるほど。風邪予防にって事ですか。」

「はい。どうやら彼、小さい頃は身体が弱かったらしくて、それで健康に気を使ってましたね。」

 

「今日はお話ありがとうございました。おかげで調査が進みそうです。」

「こちらこそ。彼の死には謎が多いんです。どうかその謎を突き止めてください。お願いします。」

「はい、任せて下さい。…あ、そうだこれ、差し上げます。」

「?…これは?」

「お守りです。元気になるようにと」

「ありがとうございます。…あの、また何か思い出したら連絡しますので連絡先だけ良いですか?」

「あ、はい。…こちらです。」

そう言って自分のメモ帳に連絡先を書き、渡した。

「ありがとうございます。では何かありましたら連絡します。」

「はい。では」

そして岳川は帰路についた。家に戻ると他の社員達も帰ってきており話し合った。しかし、結論が出る事はなく、また明日聞き込み調査などで追加の情報を集めることになった。

 

 

 

 

その夜、淵森蓮子が眠っていると何かが自分の身体の上に乗っている気がした。薄目を開けると身体の上に蛇が乗っていてこちらを見ていた。蓮子はすぐ起き上がり逃げようとしたが、予想以上に蛇の動きが速く身体に巻きつかれてしまった。蛇はスルスルと首の方まで巻き付いて首まで辿り着くと徐々に締め付けはじめた。どうやらここで彼女を絞め殺す気らしい。徐々に強くなる締め付けに意識が薄くなっていき、ついには意識を失ってしまった。意識を失う直前に見たものは蛇の怪しげな眼の光だった。

 

 

 

 

 

現在までの犠牲者: 二人…?




読んでいただきありがとうございます。いやー蛇怖いですねぇ。まあ自分は爬虫類は全般好きですけど。さてもしかしたら妖怪好きの方ならなんの妖怪か分かったのではないかと。ちなみにこの妖怪を調べた時に自分が思った感想は「こういうのに当てはめる動物は日本も外国も同じなんだなぁ」です。ではまた次回。


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第弐-2話 蛇の謎と微弱な妖気

記念すべき十話目の投稿です。さて、話は一気に進みます。多分次回でこの事件も終わるかな?


その夜、岳川は警察からの電話で目を覚ました。

「もしもし。夜分遅くにすみません。警察なんですけれども、こちら岳川滋人さんのお電話でしょうか?」

「はい、そうですが。どうかされましたか?」

「あなた、淵森蓮子という女性を知ってますよね?」

「はい知ってます。彼女が何か。」

「詳しい事は高森病院で話します。来ていただけますか?」

「!?分かりました。すぐ向かいます。」

(まさか彼女が襲われるとは。しかし病院という事はまだ死んではいないということか。)そう考えると急いで病院へ向かった。

病院のロビーでは警察の人が二人待っていた。四十代くらいの男と二十代くらいの男だった。上司と部下という関係のようだ。

「お電話いただいた岳川です。一体彼女に何が。」

すると四十代くらいの男が名乗る。

「わざわざ来ていただきありがとうございます。私、捜査一課の信濃と言います。実は淵森蓮子が部屋の中で倒れているのが発見されまして。ただ今回は隣人の対応が良かった。何でも、夜寝ていたら何かに窓を叩かれるような音がしたので目が覚めたらしくて。それでベランダに出てみましたが何もおらず気のせいかと思い、部屋に戻ろうとしたら隣から物音と苦しげな声が聞こえてきて、すぐに救急車と警察に電話をしたそうです。その隣人の迅速な行動のお陰で彼女は一命は取り留めたらしいです。」

「そうですか。生きてるんですね。良かった。…ところで何故私の連絡を?」

「部屋を調べたらあなたの連絡先が書かれた紙が有りまして。それにこんなものも。」

そう言って懐から連絡先が書かれた紙とお守りを出した。しかしお守りは内側から破裂したように大きく穴が開いていた。…どうやら彼女を襲ったものは少なくとも妖気の様なものを纏っているらしい。

「ちなみにこのお守りはあなたが彼女に渡したのですか?」

「はい。昼間に渡しました。その時はお守りに穴は開いてませんでしたけど。」

「なるほど。いやね、まぁ私もこんな歳ですから妖怪やら幽霊やらは信じてはいないんですけど。神様ってのはいると思うんですよ。運良く助かったのも神様のお陰かなってこのお守りを見て思ったもんで。あなたもそう思いません?」

「えぇ、私も神様はいると思いますよ。」

少し場の空気が緩んだところで信濃は

「じゃあ、あなたと彼女の関係等について少し話していただけませんか?」

「はい。協力させていただきます」

そして岳川はこの事件を追うに至った経緯を信濃に説明した。…もちろん妖怪絡みなどとは言えるわけがなく、「自分は探偵であり、例の事件が起こったマンションには知り合いがいて、蛇が入ったなら何処から入ってきたのか調べてくれないかと頼まれた。ただ被害者は亡くなっているので、直前まで会っていたであろう彼女に彼はどのような部屋の状態で寝ていたのか聞きに行った。連絡先はその時に渡して、励ます意味も込めてお守りも一緒に渡した。」と説明した。

「なるほどね。確かに蛇が入ってきた所が分からないと不安だよな。了解しました。こんな夜遅くにお呼び立てしてすみません。こちらから聞きたい事は以上です。ご協力感謝します。」

岳川が帰路につこうとすると部下の刑事がやってきて

「信濃さん!被害者が意識を取り戻しました。」

「そうか!よし、意識を取り戻したばかりだからな、本格的に聞くのは日が昇ってからにするが、少しだけでも聞こう。」

そう言って二人は病室に消えていった。岳川も話を聞きたかったが大勢で押しかけるのはどうなのかと思い、ロビーで待っていた。十五分くらいで病室から二人が戻ってきた。岳川が声をかける

「信濃さん。彼女はなんと言っていたのですか。教えてください。」

岳川がそう言って頭を下げると信濃は少し悩んでから

「…いいだろう。あんたは我々に協力してくれたからな。彼女は混乱していた。まぁ突然だったようだから当然かもしれないが、ずっとある事を繰り返し言っていたよ。…大蛇が巻き付いてきて私の首を絞めたってな。そんな隙間は何処にもないはずなのにな。事件なのか事故なのか、ますます分からないよな。」

そう言うと信濃はパトカーに向かって行った。すると乗る前に

「そう言えば、妙な事を言ってたな。」

「妙な事…ですか?」

「あぁ、確かに蛇なんだが日本の蛇じゃないんじゃないかってな。普通の蛇にしては平らだった気がするってさ。俺はそこまで蛇に詳しくないが海外にはそんな蛇がいるのか?…まぁあんたも気をつけなよ。」

そう言って去って行った。(普通の蛇にしては平らだった?これは重要なヒントなのかもしれない。)そう思いながら、岳川も帰路につく。

次の日の昼、岳川は蓮子が行っていた日本舞踊の教室へ情報を聞きに行った。普段は夕方にやっているらしいが今日は休日なので昼間に繰り上げしての稽古だそうだ。岳川は尋ねる

「最後に彼女に会ったのはいつですか?」

「あの、例のマンションの事件が起こる前日の稽古の時ですね。あの子は稽古には休まず来ていたので。」

「彼女は普段どんな人ですか?」

「…稽古には真面目に打ち込んでました。ただ少し周りを見下すような発言があったのも事実です。それにお金持ちらしくて何着も着物を持っているようでした。」

「そうですか。…この中で例の事件で亡くなったのが彼女の彼氏であったと事件前に知っていた方はいますか?」

ほとんどがあの事件があってから知ったようだったが一人だけ、

「あの…私、事件前に彼氏が居たことを知っていました。」

「あなた、お名前は?」

「帯元夢子と言います。」

(何だ?この人から僅かにだけど妖気みたいなものを感じるぞ…。)

「少し手を握ってもらっていいですか?」

「えっ、…こうですか?」

(この感じ、この人は生きてる普通の人間だな。しかしだったら何だこの感じは?)

「質問に戻ります。いつ彼女に彼氏がいると知ったのですか?」

「事件前日の稽古終わりです。どうやら待ち合わせをしていたようで男性の方に彼女が向かっていき、その後腕を組んで歩いていました。」

「ちなみに男性の方と面識は?」

「…面識というか。私、稽古が終わると夕食をコンビニで買うんですがそのコンビニにいる店員さんとしては知ってます。笑顔が素敵な優しい店員さんでした…。個人的には結構好みのタイプでしたね。まあ、その稽古終わりまでは、まさかあの二人が付き合っているとは思いませんでしたけどね。」

(纏っている妖気が微妙ではあるが強くなった…?もしかして、今回の事件で本当に狙われていたのは最初の被害者である彼ではなくて彼女の方だったとしたら。…蛇…女…彼氏。分かったぞ。今回の妖怪は一体何か。…ただだとすると少しばかり厄介だな。今度は蓮子さんの半生についてもう少し調べる必要があるな。)

 

 

「みなさんご協力ありがとうございました。ですが、もしかしたら人がいる前では話さないようなこともあるかもしれませんのでこちらの紙に住所と住居の部屋番号を書いていただきたいのです。安心して下さい。悪用はしません。その住所を頼りに私が家に赴きますのでその際に何か言えなかったような事があれば仰ってください。」

そう言うと岳川は全員の前に一枚ずつ紙とペンを置いた。全員、渋々といった感じではあるが記入してくれた。

「ありがとうございます。ではみなさん長い間時間をとってしまい申し訳ありません。これで失礼させていただきます。」

 

 

 

岳川は一度自宅に戻ると淵森蓮子についての情報を集めた。そしてある程度情報が集まったのち、夕方になってから家を出て一人の人物の家へと向かう。この情報を伝えるために、そして妖怪を退治するために。家に着きインターホンを鳴らす。ピンポーンと軽快な音ともに誰かが出てくる。

「はい。…あなたは昼間の探偵さん?」

「はい。岳川です。…中で少しお話聞かせてもらえませんかね。」

 

 




読んでいただきありがとうございます。良いところで切りますよ。実は感想をくれた方で今回の妖怪の正体が分かったという人がいらっしゃいました。凄いですね。…少しヒント与えすぎたかな?笑。そんなこんなで投稿した話が十話になりました。これからも頑張りたいですね。では、また次回お会いしましょう。


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第弐-3話 嫉妬の夢と蓮の真実

第弐話も最終となりました。ここまで何の妖怪か分からなかった人もこれで分かります。ではどうぞ。


「それでお話とは?」

女性は岳川を部屋へ通すとお茶を淹れ、テーブルに置いた。

「…実は昼間、あなた方にお会いした時には言わなかったことがあります。私自身のことなのですが、…あなたは妖怪や幽霊の類を信じていますか?」

「妖怪や幽霊ですか?まぁ、多少は信じてますかね…。」

「妖怪と人間は元々違う波長の存在です。たまに見たり、驚かされる程度で良い、何なら生涯の中で一度も会わなくて良い存在です。ただ何かの拍子に妖怪と人間、双方の波長が合わさった結果何らかの被害を被る事があります。精神的であれ、物理的であれ。人間サイドからすれば交通事故みたいに、突発的にね。そう言う事件を『妖怪事件』と言います。」

「えぇと、それが何か…?」

そこまで話すとお茶を一口飲んでから続ける。

「私はその妖怪事件、専門の探偵なのです。…そしてそんな私が動いているという事はつまり…」

「この事件は妖怪が起こした妖怪事件だと?」

「そういう事です。」

「えっ…いや、あの…よく分からないんですが?あの二人の事件は妖怪の仕業?じゃあ、あの二人が襲われたのは事故みたいなものだと?そう言う事ですか?」

「いや。今回は明確にあの二人が狙われていました。それは間違いないでしょう。」

「稽古に来ていたみなさんにも同じ説明をしたんですか?それでみなさん納得されたんですか?私は何がなんだか分かりませんよ…?」

「納得されないのも分かりますし、混乱するのも無理もありません。ただ、この話は最初から貴方にしか、しないつもりでした。」

「えっ?…どう言う事ですか?わたしにしか話さないって?」

「妖怪というのは何も木や海の中から自然発生するようなものばかりではありません。人間からも生まれます。例えばゾンビとかですかね。あれは人間の死体が動いてますから。こんな感じに人間の身体の一部などから生まれる妖怪もいます。ただ人間の身体の一部などとは違うものを核として生まれる妖怪もいます。」

「人間の身体の一部以外から生まれるもの?」

「心。人間の感情からです。人間の念とも言いますかね。そして今回の妖怪はこのタイプです。」

「感情…?もしそうだとしたら一体誰の感情から生まれたと…、えっもしかして…」

「そうです。今回の妖怪は貴方の感情を核にいて生まれたのです。帯元夢子さん。」

事実を聞き、呆然とする夢子。確かに蓮子に対しては少しイラッと来ることはあったがそれだけで?我に帰り岳川に問う。

「待って下さい。確かに蓮子に対しては少しイラッとした感情を抱いた事があるのは認めます。でもそんな一瞬の少しの感情で生まれるものなのですか?普通ならもう少し長く思った感情で生まれるのでは?」

「確かにそこまで一瞬の感情だと生まれる事はほとんどないでしょう。でも貴方自身が気づいているかは分からないが、もっと大きな感情があります。今回はそれが妖怪化したようです。」

「もっと大きな感情?」

「嫉妬です。…昼間の話を聞く感じだと、いつも違う着物を着てくる蓮子さんに対して憎たらしく思っていたようですが、それ以上に色々な着物を着て来れる蓮子さんを羨み、嫉妬したのでしょう。」

「嫉妬…?私が蓮子に嫉妬していたと?…確かに色々な着物を着て来れるのには羨ましさはありますが。…だったら何で今頃になって妖怪になったのですか?それが理由ならもっと早くに妖怪化しているのでは?」

「それは貴方の感情を妖怪化させるための決定的な出来事が起きたからですよ。」

「決定的な出来事?」

「彼女の彼氏が坂本さんだと知ってしまった時です。…昼間に貴方、事件が起きる前に坂本さんと蓮子さんが会っているのを見たと言っていましたね?そして坂本さんについても詳しく。…笑顔が素敵な男性だった、好みのタイプだったってね。私が思うに夢子さん、貴方は坂本さんに恋をしていたのでは?」

そう言われ、夢子は自分の中の坂本さんへの想いを思い出した。(確かに恋をしていた、好みのタイプで、素敵な男性だった。告白しようと何度も決心したが彼を前にすると本当にこんな私で良いのか、彼からすれば人に笑顔で挨拶をしたりするのは当然の事でそんな理由で告白されたら迷惑なのではないか、と言う思いがあり、言うに言えなかった。そしてあの夜、彼と一緒に歩く蓮子を見た…。)

「稽古が終わった後、貴方は夕食を買いに坂本さんがいるコンビニに行った。しかし、そこで彼とは会えずにコンビニを出て少しした後、待ち合わせをしている彼に会った。そこに蓮子さんがやってきて彼と一緒に何処かへ行ってしまった。…貴方はそこで悟った。彼は蓮子さんと付き合っていたのか、とね。突然の事にショックを受けた貴方は心の整理もつかないまま、ふらふらと家に帰った。」

(確かに私は彼に告白しなかった。告白しなかったし、その勇気もなかったのだから横から彼女らの事を言う事は出来ない。…でも、突然の事でショックを受けた私は呆然としながらも、色々考えながら家まで帰り、我に返ったのは家の前だった。)

「家に入り、買ってきたものを置いてひとまず着物から部屋着に着替えようとした。でもあの光景は頭の中に残ってしまい、どうしても考えてしまう。…そこで貴方は考えてしまった。それは人間、誰もが考えるであろう事でありながら、これまでの彼、彼女への想いが詰まったささやかで、何処か愛らしくて、そして絶対に叶わない悲しき願い。」

(着物を脱ぎながら、忘れようとした。でもどうしてもあの二人の笑顔が、腕を組んで歩いて行った光景がフラッシュバックしてきて、そしたらいつものあの自信に溢れた蓮子の顔まで出てきて、ちょっと憎らしいと思いながら、それ以上にこう考えてしまった。願ってしまった。今まで、思っていたような思いよりもずっと強い想い…)

「その願いとは…」

(そう、それは…)

『私も彼女みたいにお金持ちで自信に溢れていたら、幸せだったのに…!』

その瞬間、部屋に強烈な妖気が発せられた。その発生源は着物を掛けてあるハンガーからだった。夢子は驚き、

「一体何が起こったんですか?」

「どうやら、事件の事を思い出させている内に貴方にその時の感情も思い出させてしまったようですね、申し訳ない。…あれが今回の事件の妖怪ですよ。」

「着物が妖怪って事ですか?」

「いえ、違います。妖怪は着物の方ではなく…一緒に掛かっている帯の方です!」

ハンガーから帯がスルスルと落ちて行く。全て床に落ちたところで、それはまるで蛇が頭をもたげるようにして岳川の方を見ている。よく見ると帯の模様が光って、蛇の眼のようになっており、とぐろを巻いている。

「…岳川さん。あれは何ですか?」

「あれの名は『蛇帯』(じゃたい)。愛する者を他の女性に取られるなどした女性が付けていた帯はその嫉妬を受けて毒蛇になると言われています。そして毒蛇になった帯はその男の方から襲い、次に女性を襲うとね。…おっと。」

岳川が説明していると蛇が突進してきた。それを岳川は躱す。蛇はそのまま壁にぶつかるかと思いきや、壁に当たる事なく岳川の方へカーブしてきた。岳川は式神を出して対応する。蛇は動きを止めて式神を攻撃するが近距離を攻められているので攻撃しにくいらしい。すると蛇が天井まで上がったかと思うとそのまま式神に向かって突進してきた。当たった式神は粉々になった。式神に気を取られた隙を突いて岳川が札で動きを止める。

動けない間に岳川は夢子に蓮子について調べた情報を見せる。

「これは…?」

「淵森蓮子の半生についての情報だよ。読んでもらえば分かるけど、今の彼女はお金持ちではない。普通の女性だよ。彼女が高校生の頃に父親の会社が潰れて、彼女も母親も働いて家計を助けてた。その甲斐あって父親は仕事が見つかり、それなりの暮らしが出来てた。その後、故郷を離れ、必死に働いてお金を貯めては育ててもらった分として両親に毎月お金を送っていたそうだ。でも、今年に入って両親が相次いで亡くなってね。その時、彼女は何のために生きてるのか分からなくなってしまったらしい。…彼女を訪ねた時に慣れていると言っていたのはこれが理由だったんだ。そんな時、彼と出会った。彼と彼女は高校の時の同級生で元気がない彼女を見た彼が理由を聞いて、相談に乗っている内に恋人になったようだ。彼の励ましの一環が日本舞踊だったわけだよ。その甲斐あって元気を取り戻し、彼女は現在のようになったって事だよ。…つまり彼女はお金持ちの偉ぶったお嬢様ではなかったんだ。彼女は働いて、友達といる時間も削って働いて、…一度生きる希望を無くすも再び立ち上がろうと歯をくいしばって努力する苦労人のただの女の子だったのさ。

…夢子さん、これでも貴方は彼女の事を自分から好きな人を奪っていった悪女だと思うのかい?」

「…そんな、まさかそんな過去があったなんて。私、知らなかった…。もし、知ってたら私は彼女の事を憎たらしいなんて思わなかった。…岳川さん、私はもう彼女の事を悪くは思いません。彼女の良い部分を見つけて行こうと思います。…もう嫉妬なんて…しません!」

その瞬間、蛇の身体から靄のようなモノが抜けて行く。

「これは…?」

「夢子さんと蛇帯との精神的な繋がりが今、消えました。人の感情から生まれた妖怪はその人との精神的な繋がりを消さない限り、結構強いんです。でも、一度繋がりを消してしまえば弱体化するんです。」

そういうと、岳川は一枚の何も書かれていない札を取り出し、それを蛇帯に貼った。すると蛇帯の身体から出ていた靄が札に吸い込まれていき、札が剥がれる頃にはただの帯に戻っていた。

「何をしたのですか?」

「妖怪としての蛇帯の力の全てをこの札に封印しました。これでこの帯は普通の帯になりました。これでもう蛇帯になる事は無いでしょう。」

「…私はどうすれば良いのでしょう。」

「警察に言ってもいたずらだと思われるだろうしなぁ。…私としては彼女と仲良くしてもらえればそれで良いんだけど。まぁまずは彼女に謝ることからだね。」

「はい。分かりました。…今回はご迷惑をおかけしました。」

「大丈夫ですよ。ただ、嫉妬はほどほどに。ではこれで失礼します。」

「ありがとうございました。」

 

 

 

その後夢子さんがどのような会話を彼女としたのかは分からない。しかし、数日後に届いた手紙によると仲良く旅行などに行く仲にまでなったらしい。仲良き事は良いことだが…私は幽霊よりも女性同士の打ち解けの早さが怖いかもしれない。

 

 

今回の妖怪

〈蛇帯〉

中国の晋代の民俗風物誌『博物志』からの引用として、「人帯を敷いて眠ると蛇の夢を見る」と述べられており、日本でも愛媛県などの俗信で、枕元に帯を置いて寝ると蛇の夢を見るといわれている。また嫉妬する女の三重の帯が七重に回る毒蛇にもなるという伝承もある。

 

第弐話 終




読んでいただきありがとうございました。第弐話も無事終われました。いやー嫉妬怖いですね。外国での嫉妬は七つの大罪に入れられており、嫉妬を象徴する悪魔として、レヴィアタン、もしくはリヴァイアサンが当てられています。リヴァイアサンも蛇の部類なので日本でも外国でも嫉妬は蛇って事なんですね。次回はいつになるか分かりませんが気長に待っていてください。では、また次回お会いしましょう。


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第参-0話 軟派男と女

堂々の参話目です。…実は今回の妖怪、自分の中でも結構好きな妖怪です。では、どうぞ。


ある山の中、「宇和島 茂」(うわしま しげる)は同僚の「城辺 現」(しろのべ げん)と共に釣りに来ていた。この山に来たきっかけは城辺の一言だった。宇和島は会社の中でも目立つような存在ではなく、仕事がとても出来たりするわけでもないような普通の地味な社員だった。一方で城辺はそこまで仕事が出来るわけではないが明るい、誰にでも話しかけるような奴だった。初めて会った時はこの人、苦手だなと感じたが、趣味の話をしていて城辺は釣りが趣味だと知ってからは、休日によく行動を共にするようになった。そんな城辺がつい先日

「なぁ、宇和島。お前、南木山って行った事あるか?」

「南木山?行った事ないな、どこだそれ?」

「この町から山一つ越えたとこにあるんだけど、そこの山の中に湖?沼?…どっちか忘れたけどそこで魚が釣れるんだと。今度の休みに行ってみないか?」

「いいな。行ってみるか。じゃあ、休日に各自、車で。待ち合わせは現地か?」

「いや、一回違うところで集まろうぜ。昼飯とか買わなきゃいけないし。」

「了解。じゃあ、あとで連絡するって事で。あー、休日楽しみだな。」

「俺もだ。その為にも仕事やらなきゃな。」

そんなこんなで、釣りをしに来た宇和島達。カーナビに山の場所を設定し、走る。しばらくして、山に入る道の前まで着いた。そこで停車するとエンジンを止めて車から降りる。

「ここからは歩きだな。」

「みたいだな。…何回か山の中の釣り場にも行ったけど、この釣り場に着くまでが疲れるよな。」

「そう言うなって。そこまで楽しんでこそだろ?…ま、疲れるのは認めるけどな。」

そんな事を言いながら山の中へと入って行く。取り留めのない話をしながらしばらく歩く。大分、山の中に入ってきたところで目の前に大きめの沼が現れた。

「ここか。思ってたより大分、大きいな。」

「あぁ、今日は案外釣りにはいい天気だからな。よし早速釣るか。」

確かに空は暗めの曇り空だが、釣りをするには良い天気だ。そう思うと宇和島も釣りの準備をし始めた。釣り糸を垂らし、釣れるまでは話をして合間を潰す。

「なぁ、宇和島。お前、丸山さんの事どう思う?」

「丸山さんって。うちの会社の後輩のか?…いや、どうも思わないけど?」

「実は俺狙ってみようかなって思うんだよね。」

「はぁ?お前確か一月前くらいに同期の立川さんと付き合ってるって言ってなかったか?まさか別れたのか?」

「いや、別れてないよ。ただね、飽きたんだよ。だから狙ってみよっかなって。」

「お前…相変わらず女癖悪いなぁ…。」

そう、宇和島は未だに一つだけ城辺に対し、苦手なところがあった。それは女癖の悪いことだった。気に入った女性がいれば今、誰かと付き合っていようがその女性の方にも行く。今まで見てきただけで軽く二桁の人数の女性と付き合って、別れてを繰り返している。

「しょうがねぇだろ。多分俺は惚れやすく、冷めやすいんだよ。…まぁ、俺はこんな性格でも幸せだから良いんだよ。」

そんな話をしながら釣りをしていた。時が経ち、時刻も夕方過ぎになり、周りが薄暗くなってきた。

「暗くなってきたな。時間も良いくらいだし、そろそろ帰るか。」

「そうだな。帰るか。…あー、結構楽しかったわ。」

そう言って釣りの用具を片付けて来た道を下って行った。下っている途中、城辺が声を上げる。

「おい、あそこに女が立ってないか?」

見ると山の中に一軒の山小屋が建っていて、その前に女がこちらに背中を向けて立っていた。

「何してるんだ?山小屋の人かな?」

「そうなのかな?…後ろ姿だけ見る限り美人そうだな。」

「おいおい…、まぁ、日が沈んできてるし、そろそろ家に入るところだろ。俺らも帰ろうぜ。」

「…俺、あの人ナンパしてくるわ。」

「おいおいおい、流石にそれはどうなんだよ。顔も分からない様な女性だぞ?やめた方がいいって。」

二人が言い合っているとその女性が少しこちらに振り向いた。それは横顔だけだったが、結構な美人だった。

「ほら、結構美人じゃん。お前は帰ってていいから、俺は行ってくる。もしかしたらロマンスが始まるかも知れないからな。」

「…分かったよ。俺はもう知らないからな。本当に帰っちまうぞ。」

そう言って、宇和島は車へ向かい先に帰った。流石の城辺でもあそこまでとは思わなかったし、本当に帰ってしまったと分かれば少しは反省すると思ったからである。

 

 

しかし、次の日から城辺は会社にも来なくなり、携帯も繋がらない。

心配になった宇和島はあの山小屋があったところまで行ってみた。すると、山小屋の前に城辺の釣り用具がそのまま置かれていた。携帯も近くに落ちていた鞄から発見されたのでそこに何か残してないかと漁ったが何も無かった。他にも何か落ちていないかと探していて気づいた。何故か太めの釣り針が何本か落ちていた。(何だ?こんなところで釣りでもしようと思ったのか?でもこんな水もないところでか?)

と思い、拾おうと触れた時、バチッと強めの静電気の様な刺激が走った。一度自分の手を見て何事もない事を確認してから再び、針に触れた。今度は普通に触る事が出来た。それはまるでマグロを釣る時の鉤を一回り太くした様な鉤だった。(こんなの持ってたかな?いつの間にあいつこんなの買ったんだ?)と考えていたが、肝心の城辺がいない事を思い出し、その付近を探した。しかし、見つかる事は無く、城辺は行方不明になった。警察も山の中を探したらしいが見つからなかったそうだ。

宇和島は何であの時あいつを置いて行ったんだと後悔した。その時の光景を思い出していると違和感がある。…山の中で着物を着る物だろうか?そう考えたとき背筋がゾッとした。もしかしてあの女は会ってはいけない様な存在だったのではないか。

…だとしたら、城辺はこの山のどこかにいるのではないか。いわゆる一種の神隠し的なものになっているのではないか。だとしたら誰かに相談するべきなのでは?ここまで考えて、宇和島は冷静になった。待て待て、こんな話誰が信じる?神隠しなんて伝説の中だけの話…のはずだ。そう考え、インターネットの検索エンジンに「妖怪 神隠し」と打った。出て来たのは大体が伝説、民話だった。当たり前だ。そりゃそうだよなと思い、閉じようと思った宇和島の目にこんな記事が入って来た。「妖怪事件専門の探偵」。少し考えた後、宇和島は賭けてみるかと車に乗り込み、ホームページに載っていた住所へと向かった。

 

 

 

 

ここまでの犠牲者: 一人




読んでいただきありがとうございます。自分、この妖怪好きなんですよね。まぁ一位ってほどではないんですが。七位くらいかな?さて、今回の妖怪、分かりますかね?では、また次回お会いしましょう。


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第参-1話 探偵と魔の山

さて、今更ながらこの小説は例えるなら、「残酷性がある、地獄堂霊界通信」だと思いながら読んでください。それを踏まえて、どうぞ。


宇和島はホームページに載っていた住所の場所へ着いた。そこは和風の屋敷だった。表札の近くにあるインターホンを鳴らす。ピンポーンという軽い音とともに

「はい。どちら様でしょうか?」

「すみません。こちらが妖怪専門の探偵さんの事務所でしょうか?予約とかしてませんけど、話を聞いてもらえませんか?」

「お待ちください。今迎えます。」

そう言って、少ししてから玄関の引き戸がカラカラと音を立てて開く。

「お急ぎの様ですね。どうぞ、中へ。」

家の中へ入り、廊下を抜けて手前の部屋へと通される。

「家の中も和風なんですね。」

「ええ、こういう仕事なのでイメージと合うんじゃないかと。それに私自身が和風の感じが好きなので。お飲み物は?」

「温かいほうじ茶で。」

岳川が台所へ行き、少ししてからほうじ茶を二つ持って戻って来た。

一つを自分側、もう一つを宇和島の側に置き、

「さて、はじめまして。私が妖怪専門の探偵、岳川滋人です。…世間話の様な自己紹介は抜きで話を聞きましょう。」

そう言って岳川は話を促す。そして宇和島は山の中であった事、その時の状況、見つけたものなど細かく話す。

「なるほど。それは奇妙な事件ですね。妖怪事件の可能性は充分にあります。…それにしても貴方は同僚がいなくなった時、よく神隠しの可能性が浮かびましたね?」

「自分、祖父母の家が田舎の方で。子供の頃など近くの山などに入る時、よく言われてました。「あんまり、山の奥に行くと神隠しにあって戻って来られなくなる」って。今思えば心配だったから何でしょうけどそのおかげか他の人よりそういうモノは信じていますから。」

「なるほど。そういう事でしたか。貴方のお祖父様、お祖母様は貴方へ良い教育をなさっていた様ですね。…さて、お話は分かりました。まず、私はその山へ行ってみます。貴方はどうしますか?付いて来ますか?」

「ええ、車でそこまで案内します。」

「分かりました。では早速行きましょう。」

そして、宇和島の先導の元、山へと向かう。山への歩きの道の前で車を停車させて、宇和島が案内しようとすると、

「宇和島さん。貴方はここで帰った方がいい。」

「えっ、何でですか?」

「貴方の話を聞いて、思ったんです。その女が少し貴方達の方を見たのなら、もしかしたら再び、やって来るのを待ち構えているのではないかって。…当たってしまった。山の中から貴方の方へと注がれている視線があります。」

「ですけど、女は一人だけでした。一人だけなら足止めなどの対抗策があるのでは?…それともそれが出来ない程相手がヤバイと?」

「確かにその女は強いとは思いますが、一人なら足止めが出来ます。貴方の事を守りながらでもね。」

「なら、どうして…?」

「…ここが、『魔の山』だからです。」

「魔の山ですか?それは一体…?」

「…魔の山。まぁ言葉通りの意味何ですが。この山には貴方達が見た女とは別の妖怪、魔物の類が多くいます。この全てが襲い掛かってきた場合、貴方を守れる自身が無いのです。なので、貴方はこれを持って車で待っていて貰えますか?」

そう言うと、懐から数枚の札とお守り、小さめの水晶玉を渡した。

「いいですか。この札とお守りは持っていてください。水晶玉は車のフロントガラスに置いておいてください。…一応これも。」

そう言って渡したのは赤みがかった札を数枚。

「この札はフロントガラスにはもちろん、車の全てのガラスに内側から貼ってください。もしガラスに貼り終わって余っていた場合は助手席や後ろの席にも貼ってください。貼り終わったら助手席以外のカギを閉めてください。そして、これが大切ですが、誰が来ても開けてはいけません。それが私の姿でもです。本物の私だったら助手席から乗ることが出来ます。しかし、偽物なら札のおかげで入ることも触ることも出来ないので、どうにかして貴方に開けさせようとします。絶対に開けない様にお願いします。」

「…分かりました。こんな素人の願いじゃ無駄かもしれませんが、車の中で無事を祈っています。」

そう言って宇和島は車の中へと戻り、札を貼っていく。

岳川は一人、山の中へと入る。山の中へ入るにつれて視線が多くなっていく。まずは女を見つけなくてはと入っていく。しばらく行くと、道から外れた場所に山小屋が見える。(あれが話にあった山小屋だな。)そう思い、近づいていく。山小屋の見た目は立派だったのだが中は無人で椅子とテーブルがあるだけのシンプルな作りだった。

外に出て、小屋の裏へ周ってみる。すると、そこには古い井戸があった。木の蓋はそばに落ちていて、井戸の口が開いている。

中を覗くと冷気が登ってきている。中々深い井戸らしく、底が見えない。瞬間、冷気とは違う寒気に襲われる。(これは…妖気。しかも…明らかな悪意がある妖気が下から上がって来る!)急いで木の蓋をして、九字を切る。ガンッと何かが木の蓋に当たり、木の蓋が少し浮く。しかし、岳川の九字で蓋が外れる事はなかった。その後何回かガンッガンッと聞こえてきたが、外れる事は無い。(何とか間に合ったか。ギリギリだったな。)岳川が安心していると山の中から何かが出てきた。それは大きな猿であった。(ただの猿がこんなに大きい筈が無い。それにそんな猿がいたとしても、妖気を纏っているわけが無い。となると…)

「お前は何だ。」

岳川が問うと猿は

「ヒッヒッヒ、俺か?俺は狒々だ。どうにも山の中が騒がしいから他のヤツらに聞いてみれば妙な人間が前に来た人間と一緒に来ていると聞いた。…一目で分かった。お前のことだ。何もんだ?」

「…探偵だ。昔は陰陽師の様な事をやっていた。」

「陰陽師か。こんな時代にもまだいたんだな。陰陽師なら分かるだろう。ここは魔の山だ。人が入るところじゃ無い。」

「そうはいかないんだ。一緒に来た人間の友人がこの山で行方不明になっているからな。」

「ヒッヒッヒ。陰陽師ってのは時代が変わっても人間の味方だな。…でもな、山には山の掟があるんだよ。妖怪にも横の繋がりってもんがあるんだ。仲間達を売る事は出来ないし、傷つけられれば傷つけ返すってもんよ。…さて、改めて問うぞ。山から出て行く気は?」

「残念ながら、無いね。」

「なら、侵入者とみなすぜ!」

そう言うと狒々は風を呼んだ。すると周りの風が渦を巻く様に集まってきて狒々と岳川を包んだ。狒々は飛び上がるとその風を使って縦横無尽な動きをしてくる。

「雷符!」

狒々に向かって雷を纏った札を投げる。しかしそれをヒラリと躱すと、素早く岳川の背後に回り爪で切り裂いてきた。紙一重で爪を避けると上に向かって札を投げた。

「落雷符!」

札から雷が落ちて来る。狒々は躱す事が出来ず、雷に当たる。

「グアアアアアッ!?」

狒々の動きが止まる。岳川は近づいて札を貼ろうとする。しかし、狒々が其処をついて、爪で引っ掻いてきた。岳川は躱しきれず、服が爪の形に破れる。破れた服から見える肌からは血が少し垂れていた。

「陰陽師だけあって結構やるな。だがな、意外と俺はタフなんだよ。元が野生動物だからな。」

その様子を見てこれはまだ続くかもしれないなと思いつつ、相手の次の動きを見る。…戦いはまだ続く。

 

 

今までの犠牲者: 一人

 

 




読んでいただきありがとうございます。言える事は一つです。自分がいつ、話に出てくる妖怪は毎話一体だけだと言った…?って事です。さて、探偵対狒々。どうなるんでしょうね。では、また次回お会いしましょう。


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第参-2話 狒々と井戸の妖

久しぶりの投稿です。少し遅れました。久しぶりに書いた所為なのか元々だったのか、文章がくどくなりました。ご了承ください。


しばらく戦いが続き、岳川はある事に気付く。それを確かめる為に、

「昇風符!」

空中に狒々が来たのを狙い、下から狒々の顎に向けて風の札を当てる。

「グオ…!?」

狒々が打ち上げられたのに合わせて、

「落雷符!今度は三枚だ。」

落雷の符を三枚飛ばして、狒々に当てる。

「グオアアアア!?」

多少は効いたようだが、それでも決定的なダメージにはならない。

「…三枚同時か、考えたな。だが、俺はまだ元気だぜ!」

そう言うと周りの風に乗って上に上がり、風の刃を飛ばしてきた。

「ぐっ…!」

風の刃を躱しながら自分の予測が正しい事を確かめる。(やはりだ。普通のやつなら落雷を三枚食らってあんなに元気でいられるはずがない。つまり、あいつは外側の皮が異常に硬いのか。…という事はやつの皮の中にダメージを与える事が出来れば…。)

そう考えると、岳川は懐から何本かの小刀と多量のクナイのようなものを取り出した。まず、岳川は全ての小刀の柄を外し、鉄製の部分をむき出しにする。クナイは鉄製で柄はなく、その一つ一つに銅線のようなものが巻かれている。(まずは奴を地面に落とさなければ。)

「昇風符!」

再び、狒々に向かって風の札を飛ばす。が、

「同じような手に掛かるかよ!」

空中でその札をスッと躱す。…すると躱した後ろには岳川がいた。

「何だと!?どうやってここまで来た!」

「簡単だ。今お前に投げた札を地面にも貼ってその風で上がっただけだ。妖怪に効く様にするため、強めの風で良かったよ。…そして!」

岳川は狒々の背中に柄を外した小刀を深く刺す。その後、

「豪風符!」

強い風の札で地面に落とす。落とした先にはクナイが剣山の様に並べてあった。風に押されて受け身を取る事も出来ない狒々はそのままクナイの山に突っ込んでいった。

「グアアアアア!?イテェェェ!何だこれは!」

未だ風に押されている狒々にクナイが刺さっていく。更に

「落雷符!」

「へっ。さっきの雷の札か。効かなかったのを忘れたのか?」

「今度は違うぞ。この雷はお前の背中に刺さっている小刀に落ちていく。つまり、お前は小刀越しに内側を雷に打たれる!」

「何だと!そんな、まさか…!?」

狒々が理解するより前に雷が小刀に落ちる。

「グアアアアアアッ!?内側が!焼けていく…!グオアアアァァァ!」

「さてと、これ以上時間をかけるわけにはいかないんでな。一気に行かせてもらうぞ。」

そう言うと、残りの小刀を投げる。背中に刺さった小刀はズブズブと奥に刺さっていく。

「そのクナイが銅線のおかげで磁石の役割をしてくれている。こうすれば、小刀が深く入ってくれるからな。」

「グオオオ!…くそ、風が俺の身体を押さえつけてやがる。だが、こんな風、振り払って仕舞えば…!」

「その前に決着だ。…『落雷符三連』だ!」

その落雷も身体に刺さった小刀越しに狒々の体内に雷を伝える。

落雷が収まった時には狒々はぐったりとしていた。身体の所々から黒煙が上がっている様子を見れば体内を焼かれたのは明白。それでも生きているのだからタフというのは嘘ではない様だ。

「負けたか…。だが、俺は何も教えないぜ。言っただろ?山の仲間は売らないってな。」

「…分かったよ。そんなになっても売らないって言うならお前の覚悟は本物だな。ところで、お前はずっとこの山に住んでいたのか?」

「嗚呼、生まれも育ちもこの山だよ。元々はただのニホンザルだ。」

「他の妖怪もそうなのか?」

「大体はそうだな。…ただ、たまに例外がいるけどな。」

バキッ

そんな音が聞こえ、後ろを振り返ると井戸の蓋が壊れていた。真ん中から真っ二つになった様でそのまま井戸の中に落ちていく。

「おい。陰陽師。井戸の中のあいつは例外、元々この山にいた奴じゃない。元は人間らしい。それがどうやら同じ人間に殺されてあの井戸に…。妖怪になった後も人間に恨みがあるらしくてな。…気をつけろ。」

すると、井戸の中から赤い煙が出てきた。それは形を変えて、骨の形になっていく。半分が煙、半分が骸骨と言った風貌だ。

「この山の妖怪の中で唯一、同じ妖怪にも危害を加える奴でな。少し困ってる。…一応あいつも山の仲間だから心苦しいが、あいつを滅して貰えないだろうか。」

「…分かった。その代わり仲間の情報じゃなくていいから、情報を提供してくれ。」

「…分かった。約束しよう。」

狒々に約束させると井戸から出てきたモノと向かい合う。冷たい、凄まじい妖気だ。

「さて、こいつは難敵だな…。だが、事件解決の為だ。やるしかないな。」

岳川はそう言うと、護りの札を貼り、戦いの準備を整えた。

 

 

 

今回の妖怪

〈狒々〉

狒々、狒狒、比々(ひひ)は、日本に伝わる妖怪。サルを大型化したような姿をしており、老いたサルがこの妖怪になるともいう。話によっては風雲を起こしてその中を飛び回り、人を投げたり引き裂く妖怪とされる。




読んでいただきありがとうございます。くどかったですよね。自分でもそう思います。投稿が遅くなった事は申し訳ありません。今更、スマホ版のpu◯gにハマってしまいまして笑。今後、遅れた場合もまた、やってるんだなー程度に考えて下さい。さて、今回新しく出た妖怪。…まぁ、分かりますよね?次回はもう少し早く投稿出来るといいなぁ。なんて考えながら、ではまた次回お会いしましょう。


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第参-3話 赤い煙と新たな謎

お久しぶりです。久々の投稿です。もう話を忘れているかもしれませんが、早速どうぞ。


自身に護りの符を貼る。前もってこうしておけば生半可な攻撃には動じなくなる。護符が効果を発揮すると同時に妖怪はこちらに気づいたようでこちらに向かってきている。

「さて…煙のような身体ならこれでどうだ。『烈風符』!」

狒々に使ったものより真っ直ぐ強風が吹く符を使う。が、妖怪は風の軌道から逸れると口から赤い煙の塊を吐き出した。岳川はそれをギリギリの所で躱すが肩口に少し掠ってしまう。途端に焼けるようなジリジリとした痛みが走る。掠った部分を見るとまるで蝋の様に白く固まっている。その痛みに怯んでいると妖怪が間合いを詰めてくる。躱そうと身体を動かすが妖怪の動きの速さの方が勝り、首を掴まれてしまう。思ったより妖怪の力は強く、岳川の身体が宙に浮き始める。どうやら先程の赤い煙をぶつけるつもりなのだろう、口に煙が溜まり始める。やられる訳にはいかないと岳川は妖怪の胸元に符を貼り、

『烈風符!』

瞬間、妖怪の胸に穴が開く。どうやら符の強風で煙の身体を飛ばすことができた様だ。力が緩んだ隙に頭、腕と符を貼り、妖怪から離れてから

『烈風符・二連!』

符の力を解放する。符は妖怪の頭と腕を吹き飛ばすことに成功しており、下半分だけが浮かんでいる状態である。

「ここまですればどうだ…?」

すると、散り散りになった妖怪の身体が集まって再生し始めた。

「こうなったら、封印するしかない…!」

岳川は封印の符を用意すると完全に再生するまで待つ。妖怪が再生し終わった所を狙って

『豪風符!』

豪風で井戸の方へと飛ばす。井戸の上まで飛ばしたところで、上に符を飛ばし、

『落雷符!』

落雷の符で落とそうとする。が、落雷の符が解放されることはなかった。解放の直前、妖怪の赤い煙が符に当たり、符が蝋の様に固まってしまったからである。もう一度落雷符を飛ばそうとするが妖怪は岳川に興味を無くしたのか最後に煙の塊を岳川に吐き、森の奥へと消えていった。煙の塊を躱し、追おうとしたが狒々からの連戦の疲労で走る程の体力が無くなっていた。

「ハァ…ハァ…、逃がしたか…!ハァ…戦い詰めで体力が持たん…。」

そう言うと岳川は自身に回復の符を貼り、地面に仰向けになった。

「おい、陰陽師。お前、凄いな。まさかあいつを退けるとは。」

「退けたんじゃ無い。多分、興味を無くして勝手にどっか行ったんだ。あのまま戦っていたらどうなってたかは分からないさ。…それよりも、これで約束通り情報を教えてくれるのか?」

「あぁ、約束は守る。だが最初に言ったように仲間のことは言わないぞ。それでもいいか?」

「構わない。関係ありそうな事ならな。」

「分かった。…ここからずっと山の中に入ると古びた社がある。その中には一つの箱があるんだが、…実は昔、この山の妖怪達は全てそこに封印されたんだ。もちろん俺もな。」

「何!?封印されてた?じゃあなんで今、山の中がこんな事になってるんだ。自力で出たのか?」

「いや、その封印は強くてな。自力では出られないようになってた。…確かあれは一、二ヶ月くらい前だったか。深夜にこの山に入った奴がいてな。肝試しか何かに来た奴だろうと思ってたんだが、そいつ社に来て箱を開けると妖怪の封印を全部解いて行きやがったんだ。」

「はぁ?なんて事してやがんだよ。一体どんな奴だ?」

「それがな、そいつ顔には黒っぽい布被ってて見えなかったんだよ。服装も黒一色の袴でな、どちらかと言うとお前と同じ陰陽師の気配がした。」

「陰陽師だと?だとしたらどんな目的があってそんな事を…。」

「そういや、そいつ封印を解いた時に言ってたな。『せっかく封印を解いたんだ。妖怪は妖怪らしく世の中に理不尽と混沌を起こしてくれ。』

ってな。ずいぶん物騒な奴だと思ったからよく覚えてるよ。」

(まさか今の世の中に本物の陰陽師の仲間がいたとは。だが、どうやらそいつとは相容れない関係になりそうだな。…この世の中の混沌を望むような奴がいる。この事は強く頭に入れておこう。もしかしたら何処かで会ってしまうかもしれないからな。)

「狒々、情報の提供感謝する。これは重大な情報だ。」

「役立ったようで何よりだ。…これからどうするんだ?」

「もう少し休んだら山の中に入る。仕事の続きをしなくては。」

「そうか。…出来ればあまり仲間を傷つけないでくれ。じゃあな。」

そう言い残すと狒々は山の奥へ消えていった。

 

 

 

今回手に入れた謎の人物の情報。岳川はこの人物とは忘れられない程、長い付き合いになる事などこの時は知らなかった。

 

 

 

〈今回の妖怪〉

狂骨

白髪の生えた骸骨姿で白い衣を纏った幽霊のような妖怪。平成以降の妖怪関連の文献では、井戸に捨てられた骸骨が強い怨念により死霊化したもの、または井戸に落ちて死んだ人間が化けたものであり、井戸から現れることによって自分の捨てられた場所を知らせる、または井戸を使った者に祟るなどと述べられている。




お読みいただきありがとうございます。お久しぶりです。前に投稿してから一ヶ月程経ちました。リアルが忙しかったので投稿出来ずにいました。ちなみに作中の狂骨の赤い煙の描写は5期のアニメ鬼太郎に登場した狂骨を参考にしています。恐らく調べていただくと画像が出ますのでこんな姿かと思っていただければ。ではまた次回お会いしましょう。


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第参-4話 社と車中の怪

お久しぶりです。投稿が遅れて申し訳ないです。最近、怪談朗読や怪談蒐集にハマりました。そんな日々を過ごしているせいか最近自分の部屋でラップ音がします。では本編をどうぞ。


岳川は狒々の話にあった社を目指して山の中へと進んで行く。しばらくして目の前に岳川の首くらいまでの高さの小さな社が現れた。所々古くなって欠けたりしているが社としては十分だった。社には小さな鳥居と扉が付いていて開けると中には木の箱が一つ置かれていた。箱の隣には注連縄が一本落ちていて元々箱に巻かれていたが切り取られたような跡がある。岳川は箱を慎重に持ってみる。

「ん?中に何か入ってる…?少し重いな。」

恐る恐る開けてみると中には破かれた封印の符と握り拳より二回り程大きなガラスの球が四つ入っていた。

(このガラス球…普通のガラス球じゃ無いな。恐らくこのガラス球は妖怪を封じ込める事に秀でている呪具の類だ。そしてこれは球が四つである事に意味がある物だな…。そこまでは分かるがその意味は一体…?ん?球に何か彫られてるな。)

手にした球には小さな文字で『東』と彫られていた。まさか、と思い他の三つを見てみるとそれぞれ『北』『南』『西』と彫ってあった。

「そうか…!これはそれぞれを東西南北に置いておき、それぞれの場所を線で結んだ時の範囲の内側にいる妖怪を封じ込める物なんだ…。だからこの山の妖怪を封じた奴は全てを封じ込める事が出来たと言うことか。となると…」

岳川は自身が居る方角を確かめ、地図を開くと

「これは前もって準備をしておいた方が良いな。出来れば早めの方がいい。…人数も必要だし、宇和島さんが心配だ。一度車まで戻るか。」

そう思い車の方角へと下山する事にした。

岳川が車に戻るとその周りの地面が何か鋭く細い物で削られたような跡が無数に残っていた。山の中へ行く前に貼っていった符もほとんど黒く焦げたようになっていた。岳川は急いで車の中へ入ると

「宇和島さん!無事ですか!」

と声をかけた。宇和島は後部席で丸まっていた。どうやら気を失っているらしい。

「宇和島さん!しっかりしてください。一体何があったのですか。」

そう言って起こすと少しずつ宇和島の目が開いてきた。

「…岳川さん?……岳川さん!よかった、戻ってきてくれたんですね。」

岳川をその前に確認するとすぐに起き上がってきた。

「不安な思いをさせてしまい申し訳ありません。それで私が山に入っている間に何が?」

「はい。岳川さんが山に入ってからしばらくは何もなく普通だったんです。でも急に雨が降ってきて…」

「雨ですか?」

「はい。ザーって感じで。窓の外を見るまでは結構降ってきてるけど岳川さん大丈夫かなと思ってたんです。ただ窓の外を見てみると妙なんですよ。雨が降ってる音は聞こえるのに雨粒が見えないんですよ。目に見えない位細い雨がたくさん降ってるのかなと思って地面を見たんです。そしたら地面は濡れてなくて、でも音は聞こえる。なんだこれって呆然としましたよ。そしたら後ろからパチンッと音がして。びっくりして後ろを見たんです。でも何もいなくて気のせいかと思ったんです。そしたら次は目の前でパチンッって音が鳴って、よく見たら窓とかドアに貼ってる札から聞こえてたんですよ。安全だとは分かってましたけど、やっぱり心配になってしまって。助手席や後部座席にも札は貼ったので後部座席に移動したんです。それからもたまにパチンッと音がしてましたが頻度が高くなかったのでそこは安心しました。そしたら山の中から十人位の人が出てきて車の周りに集まってきたんです。初めは何か聞きたいことでもあるのかなと思ってたんですが車を囲んで集まり出した辺りからパチンッパチンッと音が連続して鳴るようになって、それでこの人達はこの世のモノでは無いんだと思ったんです。車を囲んで少しした時にその中の一人が何かぶつぶつと呟き始めたんです。何を話してるんだと思ったら違う人もぶつぶつ呟き始めて一人、また一人と増えていって最後には車を囲んで全員がぶつぶつ話し始めたんです。…頭がおかしくなりそうでした。正直、叫んで逃げたい気分だった。外から雨の音は聞こえるし、パチンパチンッと音は聞こえる、さらには車を囲んでの話し声ですから」

「それは、大変な体験をさせてしまったようで申し訳ないです。恐らくその集団はこの山の霊気に釣られた浮遊霊の集まりでしょうね。恐らく山に入ろうとしている人にちょっかいをかけたかっただけだと思います。ただ、私が戻って来た時にはそんなモノはいなかったのです。その後に何かあったのですか。」

「はい、その後その集団は居なくなりました。…ただ私はその後の出来事を生涯忘れないでしょう。」

「一体何が…?」

「…しばらくその集団にちょっかいをかけられていたんですがある時、ピタッと声が止んだんです。雨の音も札から発せられる音も全て。周りを見るとその集団は居なくなっていました。何が起きたのかと思っていると山の中から岳川さんが出て来たんです。私は岳川さんが追い払ってくれたんだと思ったんです。でも、様子がおかしくて真面目な顔で私の顔をじっと見てるんです。そして車まで来ると『宇和島さん。開けてください。』って言ったんです。思わず開けそうになりましたが山に入る前を思い出して、「鍵は開いているのでどうぞ」と言ったんです。でも、その岳川さんは変わらず『宇和島さん。開けてください。』しか言わなくてあ、この人偽物だって分かったんです。その後、私は黙ってたんですが相手は開けてください、開けてくださいって言ってました。やっぱり自分では開けられないんだなって思ってたらその人いきなり私に向かって笑ったんです。えっなんでって思ったんですけど妙に不思議な笑顔で思わず愛想笑いしちゃったんです。そしたら全身がグニャって粘土みたいになったかと思ったら綺麗な女の人になったんです。ただ、その女の人私の方を見るなり目を見開いて『開けろ!』って言いながら来たんです。でも、札のせいで触ることが出来ない。そしたらその女の人の髪の毛がブワッって逆立って一つ一つが意思を持ってるみたいに車にぶつけて来たんです。その瞬間車の中の札が一斉にバチバチバチバチッてすごい音がしたんです。札のおかげで車の周りに壁があるみたいな感じに守られてましたけど、ぶつけて来てるのは本当に髪の毛なのかって思うような音がするんです。ガンッガンッガキンみたいな感じの金属みたいな音が。音が激しくなるにつれて札の色がだんだん黒くなってきてこれはまずいんじゃないかと思ってたんです。もう全ての札が黒くなってダメだって時にフロントガラスに置いてた水晶がパリンって割れたんです。そしたらその女も音も聞こえなくなったので安心しました。でも油断は出来ないと思ってお守りを握りしめてたんですがいつの間にか寝てしまって今に至るわけです。」

「なるほど。やはり私の姿で来ましたか。警告しておいてよかったです。…こちらの状況も大詰めといったところです。ただその為には人手がいる。今日は一度、帰って今後のことを話しましょう。よろしいですか?」

「はい。…岳川さん、引き続き調査よろしくお願いします。」

そう言って、岳川と宇和島は山を後にした。宇和島と別れた岳川は仲間たちに連絡を入れた。しばらくすれば集まるだろう。(恐らく準備には時間がかかるが準備が終われば決着は早いだろう。…つまりこの事件も終わりが近いってことだ。だが気は緩めない。油断すればこちらがやられるからな。)

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。前書きで書いた通り怪談の書物や怪談朗読の動画、怪談のDVDにハマっております。恐らく蒐集家としてはまだまだでしょうが、最近集めたり聞いたりしているうちに家に人の気配やラップ音がし始めております。喜ぶべきなのかどうなのか。ではまた次回お会いしましょう。


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