私は呪われている (ゼノアplus+)
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番外
立花響:基本設定


設定

 

主人公:立花 響

所持している聖遺物:不完全聖遺物ダインスレイフ、奏のガングニールの欠片(呪いの侵食有り)

 

 

ツヴァイウイングのライブで生き残った響に対する悪意が原作よりも強く、響の心が折れてしまった世界線。

 

度重なる学校での罵倒、イジメ、暴力、誹謗中傷、etc……人の悪意を猛烈に受け、精神の限界が来ていた響はちょっとしたことで、いつも寄り添っていてくれていた親友、小日向未来に強く当たってしまう。落ち着きを取り戻した響は未来に謝りに行こうとし、未来の場所へと向かった。そこで響が見たのは、自分の味方をしているからという理由で他の生徒にイジメを受けていた未来の姿だった。未来を助けた響は学校を抜け出し、公園のベンチで泣く。そして、今までの出来事の数々を思い出しついに響の精神は壊れてしまう。こんなことになったのは誰のせいだ、ツヴァイウイング、ライブに来なかった未来、イジメをする生徒、それを無視する教師、社会からの圧倒的な批判、家族を捨てた父親。思いついては否定する、それを繰り返した先に出した響の答えは……ノイズ。自らを絶望に追いやった元凶はノイズだと考えた響には激しい憎悪の感情が芽生えた。自分を害する人間にのみ、ノイズに向けるのと同じような殺意を放つ。未来がイジメを受けていた事を自分のせいだと思っているので、未来を害する者には一切の躊躇がない。黒いパーカーを好む。

 

生身でもダインスレイフを呼び出すことができ、ノイズも倒せる。無論生身であるため、響本人がノイズに触れると炭化する。

 

 

 

『神獣鏡や賢者の石にはめっぽう弱い』

 

 

 

不完全聖遺物:魔剣・ダインスレイフ

 

自我を持ち響の激しい憎悪の感情を感知し、封印されていた遺跡から飛んできた。ノイズを殺しつくすという目標を掲げた響に契約を問いかけ、受諾されると同時に響の胸に突き刺す(イグナイトモジュールの様に)

ダインスレイフを手にしてきた今までの人間の憎悪の感情が呪いとなって全て響を蝕むが、それらを全て取り込み呪いを完全に制御下に置いた。今までで最高の主人だと認めたダインスレイフは響の胸のガングニールの欠片を吸収、シンフォギアとしての特性も備えた。ダインスレイフの『常に血を求め戦場では皆殺し、殺したくないと抜剣しなければ所持者を殺す』というのは噂でしかなく、本人曰く「契約者の意志だったから」だそうだ。

 

見た目はGXのOPで出てきた物。

 

 

ガングニールの欠片

 

 

原作通り響の体に融合していたがダインスレイフにより取り除かれさらには吸収される。この欠片のみで響がシンフォギア を纏えたように、ダインスレイフを介してシンフォギア として装着することが可能。聖詠は原作の響のガングニールの物(法則がわからなくて作者がサボったわけではない)。見た目は通常の響ガングニールが全身黒く染まり額の部分にダインスレイフの刀身にある赤い瞳が付いている。デザインは禍々しい物へと変わりダインスレイフの侵食が進んでいることがよくわかる。基本は『呪い』のエネルギーとダインスレイフを武装とする。シンフォギアであるためフォニックゲインも力とするが、『呪い』で代用可能。曲は物騒なものに変わっている。

 



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本編
プロローグ


1話

 

 

美しい夜の街並にカラフルな異形の姿が映る。周りには真っ黒の人間のような形をした……いや、()()()()()()炭化した物質が風にさらわれて消えていった。

 

ノイズ……認定特異災害と呼ばれる、人間専用の殺戮者達は今日も人間を炭化させるために街に現れる。人や、おたまじゃくしのような形だ。そんな中、1人のジャージ姿の少女がその右手に、体とは不釣り合いなほどの大きさの、歪すぎる形をした剣を持ちノイズ達の前に現れる。顔バレするのを防ぐためか、バイザーのようなものをつけている。

 

 

「……間に合わなかった」

 

 

少女は、可視化できるほどのドス黒い憎悪の感情をノイズに向ける。その感情に反応したその剣は喜んでいるかのように淡く刀身を光らせる。

 

 

「……消えろ」

 

 

刹那、地上にいたノイズ達は切り裂かれる。少女を見ると、その手に持った剣を振り切った後のようだ。

 

もっと奥の方にいたノイズは、その音に気づき少女へ向けて走り出す。……その少女を炭化するために。

 

 

「お前らなんかが存在するから……私は!!」

 

 

少女は、剣の切っ先を迫り来るノイズ達に向けそう言う。

 

 

「やって、ダイン」

 

 

切っ先にドス黒いエネルギーが溜まり、ノイズに向けて発射される。それは俗に言うレーザーのようなもので、少女に向かってきたノイズ達を一掃した。

 

静寂……この場を支配していたであろう、カラフルなノイズ達は残らず消滅した。

 

 

「ふふ……ハァ……」

 

 

少女はその整った顔を一瞬歪ませ笑ったが、すぐに戻しため息をつく。

 

 

「帰ろうかn……ッ!?」

 

 

少女が何か言おうとしたその時、不気味な鳴き声と共に新たなノイズが多数出現した。

 

 

「出てくるなら一気に出てきてよ……まあ、より多く潰せるからいいけど」

 

 

少女はまた切っ先をノイズに向け、先ほどのようなレーザーを放とうとエネルギーを溜める。すると……

 

 

「〜〜〜♪」

 

「チッ……もう来たの?」

 

 

この地獄のような戦場で、よく聞くこの歌。少女はエネルギーのチャージを止め、人間とは思えないジャンプ力でビルの上まで飛ぶ。そしてノイズ達を見下ろせば、青く光る無数の剣が広範囲にわたってノイズを殲滅していた。

 

 

『千ノ落涙』

 

 

「……私の獲物だったのに」

 

「そう思うなら、私について来てもらいましょうか?」

 

 

少女がつぶやくと、後ろの方から声がする。振り向けば、少々過激な装いに刀を持つ有名アーティストがいる。

 

 

「風鳴翼さん……いつも言っているでしょう。私は、自分でノイズを殲滅すると」

 

「残念だけれど、不確定要素しかない貴方を放っておくほど政府は暇じゃない。今日こそ、ここで捕らえさせてもらう!……ッ!?」

 

 

翼がそういい終わり刀を構えた瞬間、翼の顔スレスレを少女が放った黒い光弾が通る。その弾は背後から翼を炭化させようと近づいてきたノイズに当たり、ノイズと共に四散する。

 

 

「貴方がいつも私に向かって言ってるじゃないですか。私が隙を見せるたびに『常在戦場』って」

 

「くっ……」

 

 

顔を赤くした翼から、激しい敵意が向けられる。当たり前だろう、防人としての誇りを持ち、座右の銘とも言える『常在戦場』が出来ていなかったのを指摘されたのだから。

 

 

『翼、落ち着け!我々は彼女と戦いに来たのではない!』

 

「司令……申し訳ありません。少々取り乱してしまいました」

 

 

おそらく翼の頭についているヘッドフォンのような機械から聞こえてくる、OTONAの声。一度あの力を見てしまった少女は、少し震えた声で聞く。

 

 

「まさかとは思いますけど、あの筋肉すごい人いないですよね?」

 

「連れてきて欲しいなら、お願いしてみるけど?」

 

「いえ、結構です!!」

 

「なっ!?待て!!」

 

 

少女は翼に背を向け跳躍、全身を黒いエネルギーで包み込み、夜の闇に溶け込むように姿を消した。

 

 

「司令、逃してしまいました。申し訳ありません」

 

『いや、今のところは問題ない。二課と敵対するそぶりはないからな。それよりもノイズの殲滅、ご苦労だった。帰投してくれ』

 

「了解」

 

 

 

〜所変わって、とある公園〜

 

 

(しつこいなぁ……)

 

 

翼から逃げ切った少女は、ベンチに座ってため息をつく。その手にあった剣は、少女が手を離すと同時に消える。剣を離し、自由になったその手でバイザーを外し、またどこかへと消す。

 

 

「帰らないとなぁ……寮に」

 

 

同室の子が寝たのを確認して勝手に抜け出してきた学生寮を思い浮かべるが、少女に帰る様子はない。

 

 

「……今日も疲れた」

 

 

数分後、少女からは寝息が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

……

 

………

 

…………

 

……………

 

 

「なんで、お前が生き残ってるんだ!!」

 

「お前なんかよりも、生きるべき人が死んだんだぞ!!」

 

「私の兄さんが死んだのに……なんであんたなんかが!!」

 

「いっつもヘラヘラして……ふざけてるのか!!

 

「この……」

 

「「「「「「人殺し!!」」」」」」

 

 

違う!私はただ……助けられて……奏さんに……

 

 

「奏?……歌姫も殺したのか!?」

 

「お前が死んでいたら、ツヴァイウイングは欠けることがなかったのに!!」

 

 

やめてよ……みんなが被害者で……しかたがなかったんだよ!!

 

 

「自分のせいだとも思わないのか!!」

 

「人情なし!!」

 

 

なんで……誰も聞いてくれないの?話し合おうよ!!

 

 

「人殺しの話なんて誰が聞くか!!」

 

「この悪魔め!!」

 

 

……話し合うのは……無理なの?……そう、無理なんだ。

 

 

そんな風に、言われ……殴られ……イジメられ……私の精神は擦れていった。

 

……ある日、私は聞いてしまった。

 

 

「なんであんなやつの味方をするのよ!!人殺しよ!!」

 

「人殺しなんかじゃない!!運が悪かっただけだけ……被害者なのに……」

 

「ふざけないで!!」

 

「キャッ!?」

 

 

私のとっての陽だまりが……唯一無二の親友が私のせいであんな奴らにイジメられていた……私はその陽だまりを助けだし、その姿を見て思わず……逃げ出してしまった。

 

公園にたどり着き、そのベンチに座る。

 

 

「なんで……なんで……ナンデ……?あの日……奏さんは必死に戦っていた。みんなを助けるために……私を……逃がすために。なのに……

 

奏さん……貴方に助けてもらった命は……否定されてるよ……もう……どうすればいいの……」

 

 

お父さんは出ていった。世間からのバッシングに、お母さんも、おばあちゃんも限界……もちろん私も……

 

 

『生きるのを諦めるな!!』

 

 

命の恩人からかけられた言葉が……私の中で繰り返される。その言葉はもう、今となってはただの呪いにしか聞こえない。

 

 

「私……呪われてるかも……」

 

 

ああ……こんな風になったのはナンデだっけ?私が……ライブに行ったから?違う……あの日にあのあの場所でライブがあったから?違う……みんなが私を悪く言うから?ちがう……ツヴァイウイングが、ちゃんとみんなを助けなかったから?ちがう……私が……生きてるから?……チガウ!!

 

ノイズが現れたから?

 

…………そうだ。アレが悪い、たとえ自然災害に登録されていても……アレは明らかに人間を殺すと言う目的がある。ふざけるな!! あんなのがいなければ、たくさんの人が死ぬことも、奏さんが死ぬこともなかったのに

 

 

アンナノガイナケレバ……私も……未来もコンナコトニナラズニスンダノニ……

 

フザケルナ!!ノイズナンテキエテシマエバイイ!!

 

イヤ……ワタシニ……ノイズヲコロスチカラガアレバ!!アイツラヲ……ミナゴロシニ……!!

 

 

シャリン………

 

 

「ふぇ?」

 

 

……その時だった。

 

 

 

『ヨォ……アンタが俺のご主人様か?』

 

 

とても大きくて、真っ黒なのに、ところどころ血のように赤い模様が入っている剣が空から飛んできて、そのつかにある大きな赤い目でこちらを見ながら語りかけてきた。

 

 

「なに……これ……?」

 

()()呼ばわりとは失礼な人間だなァ……』

 

「剣が……喋ってる!?」

 

『おう、ダインスレイフって呼ばれてるんだ。よろしくなァ……』

 

「あっ、はい!よろしくお願いします!!」

 

 

剣に向かってしっかりと挨拶をする光景は、さぞかしシュールなんだろう。

 

 

『ハッハッハ!!俺に挨拶してくる人間は久しぶりだなァ!一体何百年ぶりだァ?』

 

「えっ……え〜と」

 

『真面目に答えてくれなくていい。ただの独り言だ。……さて人間、お前は今なにを望む?』

 

「ッ……」

 

 

突然投げかけられたその言葉に、一瞬忘れかけていたこの激情が再び体を熱くする。そして、私は答える。

 

 

「力……」

 

『あァ?』

 

 

今までの事が、さらに鮮明にフラッシュバックする。そして、ノイズを倒していたあの2人の事も。

 

 

「ノイズを倒せる力が欲しい!!あんな奴らが存在するから、私は、未来は、家族は!!」

 

『……その力のために、生涯にわたって呪われる覚悟はあるかァ?』

 

 

呪われる?……呪われる、か。……そんなの、

 

 

「そんなの今更だ!!()()じゃない。私は、とっくの昔から……()()()()()から!!」

 

 

叫ぶ。喉が痛いほど大きな声で叫んだけど、なぜか人の姿が見えない。たまたま近くに人がいなかったんだろうか?

 

 

『いい覚悟だなァ……ククク……人間、お前に力を与えてやる。コレは契約だァ』

 

「けい……やく?」

 

「そうだ。お前は俺を、俺はお前を。その身朽ち果てるまで互いに()()。そして、その呪われた剣と人間の体は一つになり本当の意味でチカラが生まれる。どうだァ、簡単だろ?』

 

 

正直、よく分からない。一つになるってこととか、力が生まれる?って事も。……でも、それでも、だとしても、私は!!

 

 

「……うん、その契約をするにはどうすればいいの?」

 

『それも簡単だァ』

 

 

ダインスレイフさんがそう言うと、少し上昇してその剣の先を私に向けた。

 

 

「……え?」

 

『頑張って耐えてくれよォ、新たなご主人様ァ?』

 

 

刹那、私の胸に、ダインスレイフさんが刺さった。

 

 

「ガァァァアアァァァァアアァァァァァア!?!?!?!?」

 

 

苦しい!!痛いけど、そんなのが比べ物にならないくらいに苦しい!!……コレは、

 

 

『俺と契約した今までの人間の憎悪の感情だァ。数百年にわたって蓄積された契約者の呪い、その未熟な体で受け止めて耐えてみせろ』

 

 

体がはちきれそうだ……みんなの痛み、悲しみ、苦しみ、憎しみが、私の中に入ってくる。

 

……でも、どこか知っている。この感情は?

 

 

【化け物が!!お前らのせいで村が!!】

 

【出て行け!!せめて神の生贄にでもなってこい】

 

 

……ああ、同じだなぁ、私と。……この人も、この人もだ。

 

 

『……やるじゃねえかァ』

 

 

そうなんだ……昔から人と人は話し合う事も出来なかったんだね。

 

ダインスレイフさんは、耐えろって言った。……でも、この感情たちは耐えてばかりじゃ報われない。

 

だから私は……受け入れよう。だから、皆さんの想いを……呪いを……私に!!

 

 

『ハハッ……受け入れやがった……アイツらの呪い全て……』

 

 

とても晴れやかな気分だ。清々しくて、新しい世界が開けた感じがする。……それでも、この内に秘めた感情はとても熱い。

 

 

「……どこに行ったの、ダインスレイフさん?」

 

『お前が出てこいって念じれば出てくる。やってみろ』

 

 

じゃあ、出てきて。

 

 

『おう、出来てるじゃねえかァ』

 

「……契約出来たの?」

 

『ああ、バッチリだ。これからよろしく頼むぜ。……そういや、ご主人様の名前を聞いてなかったなァ』

 

「……言ってなかったっけ?……私は」

 

 

そう、この時から始まったんだ。

 

 

「立花響。よろしくね、ダイン」

 

『ああ、ヒビキ』

 

 

私たちの、呪われた日常が。



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呪われた撃槍

2話

 

 

「んっ……んぅ?」

 

「おはよう、未来。熟睡だったね」

 

「響?……おはよう。……また、()()たでしょ?」

 

「うっ……やっぱり分かっちゃう?」

 

 

公園で寝てしまった響は、なんとか夜が明ける前に起きて私立リディアン音楽院の学生寮に帰ることができた。

 

同室の小日向未来が寝静まってから抜け出しているはずだが、いつもバレているのが響の謎でもある。

 

 

「何してるかは聞かないけど、危ないからあんまり行かないでね」

 

「起きて早々、お説教はきついよ未来〜」

 

「自業自得でしょ!」

 

『ククク、最近だともうおなじみの光景だなァ……ヒビキ?』

 

(言わないでよダイン、分かってるんだから)

 

 

声に出さなくても会話ができる念話を使って、響とダインスレイフはいつも会話をしている。リアルで話すのと、念話で話すのを両立することもあり、マルチタスクもできるようになったのは運が良かったのだろう。

 

 

「先に行ってるね。ちょっと、気分転換してくる」

 

「……うん。遅くなっちゃダメだよ」

 

「じゃあ、また後でね」

 

 

昨夜から着ていたジャージのまま、響は出て行く。

 

 

「……相談、してくれないのかな」

 

 

 

 

『出てきて良かったのかァ?あの調子だと嬢ちゃんは……』

 

(分かってるって……ダイン、本当に感情を読み取るのが得意よね)

 

『当たり前だ。何百年人の感情を食らってきたと思ってんだァ?』

 

(ごめんごめん。……でも、気分転換したかったのは本当だよ)

 

 

相変わらず無表情の響だが、心のうちではそこそこ和やかな会話が繰り広げられているなど、通り過ぎる人には知る由もない。

 

 

「……ッ、ダイン?」

 

『アァ……夕方ごろだろうなァ。ヒビキも()()()()()()きてるじゃねえかァ。上出来だ』

 

 

何かに気づいたヒビキとダインスレイフ。

 

 

(最近多くない?)

 

『前にも言っただろ?ノイズは、所詮人間が人間を殺すために作られた《《兵器》』だって』

 

(覚えてるよ。生物じゃないから、殺すっていう表現はおかしいって教えてくれたから。……どこぞのヤツが、操ってるんだよね?)

 

『まァ……それが妥当だろうなァ……』

 

 

先史文明期まで遡る出来事をなぜ知っているのか、ダインスレイフは響に何も言わないが、響が了承しているのでお互い特に気にしない。

 

 

(それがわかってるだけ十分だよ。だって今度は……ブチ殺す相手が見つかったんだから♪)

 

『……そうだなァ(教えない方が良かったかもしれん……)』

 

 

呪われた魔剣ですらちょっと引くほどの響の言葉。

 

「帰ろっ、ちゃんと英気を養わないとなぁ♪」

 

『おう……(嬢ちゃん……すまねぇなァ……)』

 

 

魔剣がただの人間に謝ったのは初めてだろう。

 

 

 

〜時は経ち夕方〜

 

 

 

 

「次のノイズはどこだァ!!」

 

 

サイレンが鳴り止まぬ街中で、またノイズが現れる。

 

 

「消えろ!!」

 

 

響はダインスレイフを振り抜き、そのエネルギー波でノイズを一網打尽にした。

 

 

「キャー!!」

 

「ッ……子供?ダイン、一旦収めるよ」

 

 

そう言って響はダインスレイフを消し、声の主の元へ向かう。

 

 

「……どこ……いた!!」

 

 

見つけた声の主は、今まさにノイズに炭にされそうになっていた。

 

 

「……ッ!!やっぱりお願い、ダイン!!」

 

『恨むなよォ』

 

 

もう一度ダインスレイフを呼び出し、エネルギー弾を放つ。

 

 

「……ふぇ?」

 

 

ノイズは消し飛び、女の子の生存を確認。よく見れば、黒い靄が少し女の子の腕にまとわりつこうとしている。

 

 

「マズイ……届けぇぇぇ!!」

 

 

響はその人間離れした跳躍力で女の子の下まで行き、その腕を掴む。

 

 

「痛っ!?」

 

「ッ……ごめん。でもちょっと我慢してね」

 

 

少しずつ……この黒い靄、『呪い』を自分の中に吸収して行く響。ただの一般人には、この『呪い』は劇薬だ。

 

 

「……うん、もういいよ。早くシェルターに……!?」

 

 

さらに現れるノイズの群衆……

 

 

「次から次へと……こんなタイミングで……クソッ、今はダインは呼べない」

 

『その子を見捨てるっていうのはァ……?』

 

(無理、誰に監視されてるかわかんない。ついでに、見殺しは嫌)

 

『だよなァ……じゃあ、とにかく走れ』

 

「了解」

 

「死んじゃうの?」

 

「ッ……」

 

 

『生きるのを諦めるな!!』響の中で命の恩人からの言葉が響き渡る。今の自分に、命の恩人の言葉を借りる資格はあるのだろうか?響は、女の子を連れて走りながらも迷う。そして……

 

 

「死にたくなかったら、走り続けて!」

 

 

こんな言葉しか投げかけることができない自分自分自身を呪う。

 

 

『おいヒビキ、ここはァ……』

 

「何?……シェルターと逆方向じゃん。ていうか工場地帯。やらかしたかな」

 

 

目に見えるのは迫り来るノイズと工場。それでも響は女の子を連れて必死に逃げる。

 

 

「今からすることは内緒ね、約束できる?」

 

「え……う、うん」

 

「良い子だね。よッ……」

 

「うわぁ!!」

 

 

響は女の子を抱きかかえ跳躍、まだノイズの来ていない高台に逃げる。

 

 

「……すぐにノイズが来るよね。仕方ないか。ダイン、()()って使っても大丈夫なの?本当に『呪い』を撒き散らさないようにできる?」

 

『アァ?……それは問題ない。しっかり調()()したからなァ……だが確かな事は、色々バレるのと連中が本気を出して追ってくることがくらいかァ?』

 

「じゃあ、大丈夫だ」

 

「お姉ちゃん、誰とお話ししてるの?」

 

「なんでもないよ、ちょっと離れてて」

 

 

響は女の子を下ろし、ノイズが迫ってくる壁を見下ろす。

 

 

「私に応えて。……Balwisyall nescell gungnir tron」

 

 

胸から浮かぶそれを歌う。響の服が消え、胸と腰に黒いエネルギーのリングが生まれる。その後響の体に漆黒のアーマーが装着される。

 

 

「グッ……あんまり痛くないかな」

 

 

明らかに質量保存の法則を無視した量の機械が響の中に入って行ったりした気がしたが響自体にはなんの問題もなさそうだ。

 

最後に響の額の部分に、ダインスレイフが持つ悪魔のような赤い目と同じものが現れる。響はそれを無視して、いつものバイザーを装着。一瞬謎の音がし、なぜかバイザーとアーマーがつながった。

 

 

「……よし。これならいけそう」

 

「お姉ちゃん、カッコいい!!」

 

「……ふふ、じゃあ、ちょっと行ってくるね」

 

 

女の子に向けた穏やかな笑みの後、無表情に戻り屋上に上がってきたノイズを睨みつける。

 

正史と同じ場所、同じ状況で、その姿はまるで違う立花響が『ガングニール』を纏ったのはきっと、偶然ではないだろう。

 

 

「おまたせ、それじゃあやろっか。ダイン」

 

『おうよ、コイツもしっかり言うことを聞いてくれてるみたいだしなァ……』

 

 

響は先ほどまで手を繋いでいたその手に、ダインスレイフを出現させる。

 

 

「……消えろ」

 

 

響は、ノイズに向かって突撃する。

 

 

 

 

〜二課〜

 

 

「突如、ノイズとは異なる高出力エネルギーを検知!!位置特定……これは!?あの少女の反応と同じ場所です!!」

 

「波形を照合……これは、まさか!!アウフヴァッヘン波形!?……ちょっとズレてるところがあるけど、この波形はどう考えても」

 

 

【GUNGNIR】

 

 

「……ガングニールだとぉ!?」

 

「ッ!?……急行します!!」

 

「なッ……待て、翼!!……仕方あるまい、翼の援護だ!!」

 

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

 

OTONAはいつも通りだった。

 

 

 

 

〜工場地帯〜

 

 

「〜〜〜〜♪」(撃槍・ガングニール verダインスレイフ)

 

 

戦場に歌が響く。正史よりも禍々しく、しかし、芯のブレないその歌は響の纏うギアの出力をさらに上げていく。

 

 

(歌詞が浮かんでくる……耳のヘッドフォンからも曲が聞こえる。風鳴翼さんは、いつもコレで戦っているんだ……)

 

 

「そこも!!〜〜〜〜♪」

 

 

『コイツ結構なんでも出来るみたいだぞ?何が欲しい?』

 

(じゃあ、ブースターかなんか)

 

『ほらよ、完成だ』

 

(はやっ!?)

 

 

心の中で驚きながらも展開されたと同時に使用、ダインスレイフの力と、推進力でノイズをなぎ倒す。

 

 

ちなみに女の子には薄い『呪い』の膜を張ってある。生半可なノイズの攻撃では破壊されないだろう。『呪い』は万能だ。

 

 

「〜〜〜〜♪〜〜ッ、いつも思うけど来るのが遅いよね」

 

『やめて差し上げろ。俺たちと違って奴は純粋な人間なんだからなァ……』

 

 

ドォーン!!

 

 

一際大きめの緑色のノイズの左足に何かがぶつかる。

 

 

「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

 

声が聞こえてきた方を見れば、巨大な剣が空中にあった。

 

 

『蒼ノ一閃』

 

 

翼さんの放った斬撃がノイズの後ろの建物ごと破壊する。

 

 

「……せっかく、地形に気をつけながら戦ってたのに」

 

「その禍々しいギアでそんな余裕があるのね?」

 

「風鳴翼さん……貴方だってノイズ退治のベテランでしょう?もうちょっとなんとかならなかったんです?」

 

 

着地してきた翼と向かい合う響。お互いの手にはそれぞれの獲物が握られている。お互い見つめあってはいるが、響の目はバイザーで覆われていて翼からは見えない。

 

 

「「………」」

 

「とりあえず子供の救助をしてくるんで、殲滅任せますよ?……本当は私が潰したかったのに」

 

「……分かったわ。どこにいるの?」

 

「あそこです」

 

 

響が指をさした先には、黒いドーム状の膜が張られていてその中が見えない。

 

 

「あの中に……?あんなことまで……汎用性が高すぎる……」

 

「出来るんだからいいでしょう?……さてと、行きますよッ!!」

 

「なッ……待ちなさい!!」

 

 

響が先行し、『呪い』の膜を解除して女の子を抱きかかえて飛ぶ。

 

 

「お姉ちゃん!?」

 

「ちゃんと捕まっててね。すぐに安全なところn……ッ!?」

 

 

響が言い終わる前に大型の人型ノイズが迫ってくる。

 

 

(この子を抱えたままじゃ……)

 

「はあッ!!」

 

 

『天ノ逆鱗』

 

 

「早く行きなさい!!」

 

「……ありがとう」

 

 

もどかしい気持ちになりながらも響は後退していく。

 

 

(どこか、人の密集している場所は……)

 

『ヒビキ、10時の方向』

 

「ん?……光?……装甲車!」

 

 

おそらくどこかの部隊だろう。風鳴翼の援護かどうかは知らないがちょうどいい。響は再度跳躍し、そこに向かう。

 

 

ドォン!!

 

 

「なんだッ!?隊長、空から女の子がッ!!」

 

「なに?……ッ!?『ルサンチマン』……」

 

 

『ルサンチマン』……主に弱者が強者に対して恨みや憎悪などの感情を持つことを言うその言葉は、隊長と呼ばれた男から響に向けて言われた。

 

 

「ルサンチマン?……全く、私にぴったりじゃん。この子の救助を!!ほら、助かったよ?」

 

「お姉ちゃん……行っちゃうの?」

 

「……私のこと、あんまり人に言っちゃダメだよ?」

 

「……うん。……またね、お姉ちゃん!!」

 

「……またね。生きるのを諦めちゃダメだよ」

 

(あの日、私にかけられた呪いの言葉を貴方にもあげる。だから、生きてよね)

 

 

女の子が大人に連れられるのを見届けて、響は先ほどの場所を見る。

 

 

「……行くか」

 

「止まれ!!貴様には捕縛命令が出ている!!」

 

 

声の方を向けば、銃を構えた戦闘員が大量にいた。

 

 

「……はぁ。……邪魔」

 

(ダイン)

 

『あいよォ……』

 

 

響の声とともに、響の体から黒い霧状のもやが出てくる。

 

 

「ッ!?各員警戒!!」

 

「……どいて」

 

『ヒビキ、歌ってねェから出力が下がっていってるぞ?』

 

(別に……風鳴翼さんとか、筋肉の人とか、あの忍者じゃなかったら問題ない)

 

 

「やめなさい!!」

 

「……終わったんですか?」

 

 

少しずつ下がっていく戦闘員を見ていると、今度は背後から翼がスラスターで空から降りてきた。

 

 

「ええ、あとは貴方の確保のみよ」

 

「……ここで戦る気なんですか?ぱっと見、民間人もいますよね」

 

「貴方がおとなしくしてくれたら、そんな必要もないわ」

 

「チッ……もう帰りたいんですけど」

 

「無理ね。さあ、武装を解除しなさい。貴方には、聞きたいことが沢山ある!!」

 

 

 

翼は先ほどよりも鋭い目つきでこちらを見てくる。

 

 

「……」

 

(どうするべきだと思う?)

 

『いいんじゃねェかァ?あの化け物男でも、『呪い』さえ浴びせてしまえば無力化は出来るしなァ……』

 

 

ダインスレイフの呪いにも種類がある。正史では、破壊衝動が増すと言うものだが、今言った無力化するための『呪い』は脳組織を侵し精神を破壊するためのものだ。無論、響は人間で実証済み。

 

 

「……分かった。但し条件がある」

 

「なに?」

 

「お互い暴力は無しにしましょう。私はコレがなくても力を使える。その事を十分理解してください」

 

「ッ……分かったわ」

 

「私たちは対等な関係、手錠は無しです。()()()ますよ」

 

 

響がそう言うと、目に見えてスーツの男の数が減った。

 

 

「じゃあ、先に解除しますね」

 

 

響はギアを解除する。それに対して翼は……

 

 

「リディアンの……制服ッ!?」

 

「……それも把握してなかったの?」

 

 

正史で立花響の鞄から情報を得ていたあたりでこうなのはお察しだろう。いつもジャージでバイザーをしていたのだから。

 

 

「……早く行きましょうよ。時間は有限です」

 

「え……ええ……」

 

 

 

〜リディアン〜

 

 

「……中央棟。気づかなかった」

 

「こっちよ。緒川さん」

 

「お二人とも、どうぞこちらへ」

 

(いや、こちらへって……壁じゃん)

 

 

響がいつも忍者と呼ぶ、緒川がある端末をかざすと壁……扉が開きエレベーターが姿をあらわす。

 

3人はエレベーターに乗り込み地下へと降りていく。もちろんバイザーは被ったままだ。

 

 

「別に、身バレしてないとは思ってないんで外せと言われたら外しますよ。人と目を合わせるのが嫌いだからこのバイザーを付けてるだけなんで」

 

「別に良いわ。聖遺物由来の波形も検出されていないし」

 

(……波形?)

 

『俺たち、聖遺物が起動すると特殊なエネルギーが出る。大方、それを感知するものでも作ってるんだろうなァ……』

 

(へぇ……)

 

「へんな模様ですね。まるで大昔の壁画みたい」

 

「「……」」

 

(無視……いや、自分も思ってるけど口には出せないってところかな)

 

 

微妙な空気が流れていると、エレベーターが止まる。どうやら目的の階層に着いたようだ。……扉が開く。

 

 

(さてと……どうしようかな。人間相手は面倒くさい。これなら丸一日ノイズの相手をしていた方がマシだよ)

 

 

心の中で身構える響。しかし……

 

 

パーン!パパーン!パチパチパチパチ……

 

 

「……は?」

 

『ククッ……ハッハッハッハッ!!これだから人間は面白い。最近はこう言うのも好みだァ。実にバカらしい』

 

 

ダインスレイフが何か言っているが響はガン無視。

 

 

「ようこそ!!人類守護の砦、特異災害対策機動部二課へ!!」

 

「……はぁ」

 

「あはは……」

 

 

どうやらこの2人はなんとなく予想できたらしい。響が筋肉の人と呼ぶ、風鳴弦十郎もいる。

 

 

「さあさあ、お近づきの印にツーショット写真でも……」

 

「ッ!!」パチン……

 

(ダイン!!この人……)

 

『アァ……油断するなよヒビキ……コイツは良くねェ……』

 

「あら……お気に召さなかったかしら?」

 

「……突然触れられたら流石に警戒します。弾いたことは……すいません」

 

 

色々凄い女の人にそう言いながら上を見ると、『熱烈歓迎!立花響さま☆』の文字。用意がよすぎる。

 

 

「……プライバシーもあったもんじゃない」

 

「ハッハッハッ、我々二課は調査程度お手の物なのさ」

 

 

杖から花を出しながら、弦十郎は言う。見た目と行動のギャップがおかしい。

 

 

「んふふ……♪」

 

 

櫻井了子が響の鞄を持ってくる。

 

 

「……いつのまに」

 

(しかも、他の職員はもうそれぞれ楽しんでるし……)

 

『この嬉々とした感情たちには腹がたつがァ……なかなか面白そうな連中じゃねえかァ』

 

「さて、落ち着いたところで自己紹介をしよう。俺は風鳴弦十郎、ここの責任者だ!」

 

 

ニカッと笑う巨漢。

 

 

「そして私は、できる女と評判の櫻井了子。よろしくね♪」

 

 

ウインクをするセクハラ魔人(仮認定)

 

 

「……よろしくする気はないですが、どうも」

 

 

私が嫌いな、無駄に責任感の強そうなタイプの人たちだ。




『ルサンチマン』がわかる響。まさか学があるのか!?


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少女は譲歩する

3話

 

 

「……よろしくする気はないですが、どうも」

 

「ハッハッ、こいつは手厳しい」

 

 

特異災害対策機動部二課……通称、二課に来た響はなぜか熱烈な歓迎を受けていた。

 

 

「……単刀直入に聞きます。風鳴翼さんが言っていた()()とはなんですか?ノイズと戦える代物という事はもちろん分かっています」

 

「シンフォギアシステム。それは……」

 

 

櫻井了子からの一通りの説明を受けた響は、若干の謎を抱く。

 

 

「私、ガングニールなんていう聖遺物持ってないんですけど」

 

「そこなんだ。我々も、シンフォギアとして機能する聖遺物は管理しているはずなんだが……」

 

「まあ、そこは貴方方が管理ミスしただけなんでどうでもいいです」

 

「……」

 

 

バッサリと切り捨てた響だが、弦十郎は、元は一般人である響に正論をいわれ返す言葉もなくなっている。

 

 

「とりあえず聞きたい事は聞けたんで、次はそちらの番です。3つまで答えてあげます」

 

「3つか……なかなか難しいな」

 

「ああ、勘違いしないでくださいね。貴方で1つ、櫻井さんで1つ、風鳴翼さんで1つです」

 

「ぬぅ……」

 

 

割と好条件かと思った弦十郎だが、上げて落とす戦法を使った響によって一蹴される。

 

 

「じゃあ私から良いかしら?」

 

「櫻井さん……どうぞ」

 

「貴女が持っていた剣状の聖遺物、見せてもらえないかしら?研究者としては気になっててね〜」

 

「……」

 

『俺は許可するぜェ』

 

「……じゃあ、どうぞ」

 

 

手を突き出し、一瞬にしてダインスレイフを出現させた響。

 

 

「「「ッ!?!?」」」

 

「……あぁ、まあそうですよね」

 

 

弦十郎は非戦闘員の前に立ち、了子はその後ろに、翼はいつでもギアを纏えるように待機していて緒川に限っては、拳銃を構えている。……完全に警戒されている。

 

 

「それはっ……知らないわ、こんな聖遺物」

 

「なっ……了子君でもわからないのか……?」

 

「正確には、この聖遺物から発生しているアウフヴァッヘン波形の波形パターンを解析できない、ということね。……こんなこと初めてだわ」

 

『当たり前だァ……人間の積もりに積もった『呪い』を解析できるわけがねェんだよ』

 

(ダインにとってはなんちゃら波形って『呪い』でどうにかなるの……?)

 

 

シンフォギアシステムなど、異端技術において他の追随を許していない櫻井了子がいうほどの聖遺物。……一体なんなのだろうか……一体なんなのだろうか!(迫真)

 

 

「……とりあえず、収めて良いですか?この子が機嫌を損ねてここが地獄になっても知りませんよ?」

 

「ッ……それは、どういうこと?」

 

「……貴女の質問にはもう答えました。次は?」

 

「では、私が」

 

「風鳴翼さん、どうぞ」

 

 

職員達は警戒を解きまたパーティーを楽しんでいる。響の想像よりも精神がタフである。

 

 

「なぜ奏の……いえ、ガングニールを纏えるの?」

 

「……それは私も知りたいんですけど、う〜ん」

 

 

真顔で悩み始める響は、他者から見ると違和感しかない。

 

 

『前、シンフォギアを纏ったこいつらに助けられたって言ってたよなァ?……確か、槍を持ったアイドルの片割れが近くにいた』

 

(うん、天羽奏さん。ダインも知っている通り、私の中で生き続ける呪い。あの言葉を投げかけてくれた、私の……)

 

『あーやめやめ、ヒビキはその話になると長ぇんだよ。奏ってヤツがガングニールを纏ってたんだろ?だったら話が早いじゃねえか。大方、ソイツのギアの破片がお前の体の中に入ったんだろ?……まァ、今は俺が吸収したけどなァ』

 

(……その発想はなかった)

 

 

響は目を開ける。

 

 

「……私は2年前のあのライブの被害者です」

 

「「「「「「ッ!?!?!?」」」」」」

 

『コイツら、感情が豊か過ぎんだろ』

 

 

響の爆弾発言に場の空気が凍る。

 

 

「貴女も……あの場に」

 

「私が逃げようとした時、目の前にノイズが現れて死にかけ。その時天羽奏さんが来てノイズを倒してくれた」

 

「……あの時の少女か。確か……ノイズの攻撃を受け続けていた奏のギアは……ッ!?」

 

「そう、攻撃の勢いに耐えきれず破片として後ろにいた私に降り注いだんです。ここまで言えば、もう良いでしょう」

 

 

ヒビキは言い終わると、近くにあった紙コップにお茶を注ぎ自分を落ち着かせるように飲む。

 

 

「響ちゃんの体の中には……奏ちゃんのガングニールの破片が入っている、響ちゃんと融合しているのね。だからギアを纏えた。……奏ちゃんの、置き土産ね」

 

「ッ……奏……」

 

「……すまない、我々が至らないばかりに君に辛い思いをさせてしまった」

 

「辛いのはあの惨劇を生き残ってしまった全員です。私は……もうその感情の矛先を手に入れたので」

 

「……ノイズか」

 

 

弦十郎は、今までの響の戦闘においての発言などを頭で再生していた。『お前らのせいで私は』『消えろ』『駆逐してやる』

 

幾度も聞いてきたその言葉達に、弦十郎は響の想いの強さを知る。

 

 

「ふぅ……最後の質問に行きましょう。風鳴……弦十郎さんでしたっけ?どうぞ」

 

「……」

 

 

全員の、『何を聞くんだ?』という視線を一身に受ける弦十郎。少し経ってから、口を開いた。

 

 

「君の目的を聞かせてほしい」

 

「……ノイズの殲滅。アイツらを駆逐しきるまで、この内に秘める激情は収まることを知らないから。アイツらを潰せるなら、私は……進んで悪魔にでも魂を売ってやる」

 

「……そうか」

 

「叔父様!!良いのですか、この子は!!」

 

「翼」

 

「ッ……申し訳ありません(あんなの……出会ったばかりの頃の奏とッ!!)」

 

 

翼はこの空間から出て行く。流石に、今の翼の心境では耐えられない。

 

 

「身内がすまない」

 

「……甘いんですね」

 

「性分なんでな!!」

 

「……ふふ……そうですか」

 

『ヒビキ、お前笑ってるぞ』

 

(ッ……笑ってない。私が、こんなことで笑うわけがない)

 

『……そうかァ』

 

 

一瞬だが、響の顔が綻ぶ。その瞬間を、弦十郎は見逃さなかった。

 

 

(根は優しい子なんだろう。先の戦闘時にも、子供を守り続けていたらしいしな。……我々は、そんな子供をこうしてしまったのか。……不甲斐なさすぎる)

 

「質問には答えたので、帰っていいですか?もうとっくの昔に門限すぎてるんですが?」

 

「ダーメ♪さっきの話で貴女の体に聖遺物が入ってることがわかったし、メディカルチェックは受けてもらうわよ〜!!」

 

「……えぇ」

 

『今は、あの女に露骨な反抗をしないほうがいい。アイツからは……とんでもねェほどの()()()を感じる』

 

(……分かったよダイン)

 

「じゃあ……お願いします」

 

「あら?意外と素直じゃない♪じゃあ、そのためにも……」

 

「?」

 

「とりあえず、脱いで貰いましょうか?」

 

 

とても、渋々了承しました。みたいな顔をしている響を見て素直と認識できるのは櫻井了子しかいないだろう。

そして、了子と響も出て行く。響の顔は、テレビじゃお見せできないような顔になっている。

 

 

「司令……あの子の経歴や身辺調査をしたほうがよろしいかと。……危険すぎます」

 

「……そうだな。緒川、任せる」

 

「了解しました」

 

 

緒川も続いて出て行く。

 

 

「……響君がもしノイズを殲滅しきったら、彼女には一体何が残るのだろうか。いや……残っているものがあればいいのだが」

 

「「「「「「……」」」」」」

 

 

弦十郎の疑問に、残った職員達も言葉が出ない。皆が片付けを始めるまでに、少し時間がかかった。

 

 

 

 

〜2時間ほど経ち〜

 

 

「……ただいま〜」

 

「あっ、おかえり響。今日はいつにも増して遅かったじゃない。どうしたの?」

 

「ちょっと……ね。学校の許可は貰ってるから、門限は大丈夫だったんだけど……疲れた〜」

 

 

あの後、体のいたるところを調べ尽くされた(医療的な意味で)響は、機密に関する諸々の注意を聞いて寮に戻ってきた。

 

 

「学校の許可が降りるくらいなんだから重要なことなんだろうけど、電話くらいしてほしかったな〜」

 

「それは……ごめん、未来」

 

「ふふっ、良いよ。響が出かけてるのはいつもの事だし。でも……今日はノイズの警報があったけど、大丈夫だったの?」

 

「ッ……大丈夫だったよ。その……見ちゃっただけで」

 

 

痛いところをつかれた響だが、事実を織り交ぜながら誤魔化す。この場合の響の『見ちゃった』は、人が炭化する瞬間を見た、となる。

 

 

「響、ご飯食べれる?」

 

「……シャワーだけ浴びて寝るよ」

 

 

そう言ってのそのそと響はバスルームに向かう。

 

 

「響……最近、『へいきへっちゃら』って言わなくなったね」

 

 

未来の言葉は誰にも届く事なく、消えていった。

 

その後はもちろん、2人で無意識にイチャイチャしながら寝た。

 

 

『……俺も変わったねェ。人間を気にかけるようになるとはなァ』

 

 

 

 

〜翌日〜

 

 

「面倒だなぁ……」

 

「もう!響、いつも赤点ギリギリに点数調節してるから先生怒ってたよ?」

 

「だって、高得点とったら目立つじゃん」

 

「こら〜!!……全く、せっかく勉強できるのに」

 

 

翌日、学校の小テストがあった響は目立ちたくないという理由で点数調整をしていた。……どうして立花響が、点数調整をできるほど頭がいいのか、ダインスレイフ以外に知るものはいない。

 

 

「ビッキー、ヒナ」

 

「「……ん?」」

 

 

声の方を向くと3人ほどのクラスメイトがいた。

 

 

(いつも真顔で面白みのない私とつるんでくれる優しい人達。……でも、私の中で優勢順位は下だ)

 

「これから『ふらわー』に行かない?」

 

「……フラワー?お花屋さん?」

 

「いえ、駅前のお好み焼き屋さんです。美味しいと評判ですよ!」

 

(安藤さん達がおススメならきっと美味しいんだろうなぁ……)

 

 

しかし、そうは問屋が卸さない。今日の響は、昨日了子から受けたメディカルチェックの結果を聞かねばならないからだ。

 

 

「……ごめん、今日は大切な用事があるんだ。今度、場所を教えてよ」

 

「また呼び出し?点数調整で先生から呼び出しだなんて、アニメみたいな生き方してるわね」

 

「あはは……返す言葉がないな〜」

 

「じゃあ行こっか。またねビッキー!」

 

「うん、またね」

 

 

未来を含めた4人が教室を出て行く。

 

 

「……わざわざ来なくても、1人で行けます」

 

「貴方なら、逃げると思ったのだけど?」

 

 

響がカバンの中身を片付けながら口に出す。その相手は、4人が出ていった後に教室に入ってきた風鳴翼だ。

 

 

「……変に逃げたら追ってくるでしょう。知ってます?闇の中から突然忍者が来るのって恐怖でしかないんですよ?」

 

 

以前、ノイズを殲滅し帰ろうとした時に、緒川が追って来た時のことだ。幸いにも曇っていたため、影縫いを使われることなく逃げ切ったが。

 

 

「……行きましょうか」

 

(露骨に目を逸らしたなこの人)

 

 

響は翼についていき、エレベーターで降りる。

 

 

(よくよく考えたら、私エレベーターの起動に必要なこの端末持ってなかったなぁ)

 

 

地下にある二課に到着し、今回の目的地である了子がいる場所に向かう。

 

 

「「………」」

 

 

一切の会話がないこの2人は、まず会話をする気もないのだろう。すれ違う職員も、2人の圧が怖いようで避けながら通っている。

 

そして(おそらく医務室であろう)部屋に入った響は、了子から説明を聞く。

 

 

「異常でしかない。この一言に尽きるわ」

 

「……はぁ」

 

 

いつもおちゃらけていそうな雰囲気の了子が真面目な顔と声のトーンで言うその一言。響は興味なさそうに返す。

 

 

「全身の、人間である部分が未知のエネルギーに侵されている。それなのに、響ちゃんの意識にはなんの支障もなく発作なども見られない。影響があるとすれば、普段ノイズとの戦闘時に見ている生身でのあの身体能力くらいかしらね」

 

「……身体能力に関してあれでも低いのでは?ここの人おかしいですし、貴方や風鳴翼さんもなんでしょう」

 

「あれはこの2人だけよ。私達は一般人レベル、翼ちゃんは剣の達人だけどね」

 

((何かとても失礼なことを言われたな))

 

 

緒川と弦十郎は心の中で密かに思うが、話の腰を折るようなことはしない。

 

 

「で?今は特に問題なさそうですし、帰っていいですか?」

 

「まだダメよ。響ちゃんの体については大方、貴方の所持している聖遺物のせいなんでしょうね。……でも、もっと重要なことがあるわ」

 

「「「「「「……?」」」」」」

 

 

了子を除く、この部屋にいる全ての人が了子の言葉を待つ。

 

 

「響ちゃんの体から、ガングニールの欠片は検出されなかったわ。……正直、どうして響ちゃんがガングニールを纏えるのかわからないわ」

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

「……まあそうでしょうね」

 

 

響以外は驚きを隠せない。ダインスレイフがガングニールの欠片を吸収しているのを響は知っているため、驚くことはない。

 

 

「理由を知っているの!?」

 

「……はい。ちょっと離れててくださいね。……ッ」

 

 

響はダインスレイフを出現させ右手に持つ。

 

 

『ん?……出番にはまだ時間があるがァ?』

 

(ガングニールのこと言っていいよね?……答えは聞いてないけど)

 

『じゃあ確認取らなくていいじゃねえか……まあ、いいんだがなァ』

 

「……この子が吸収しましたよ。契約時に邪魔だったんで」

 

「……ッ、契約というのは?」

 

「それは……」

 

 

響が言葉を切って、何かを待つと同時に……

 

 

ブー!!ブー!!

 

 

 

「アイツらを殲滅してからですね、じゃ、そういうことで」

 

「響ちゃんッ!?」

 

 

響は部屋を出て司令室まで走り、昨日チラッと見えていた緊急用エレベーターを拝借する。

 

 

「……これ、お借りしますね」

 

 

突然の出来事に固まっていた職員たちだが、すぐに動き出した。

 

 

医療室では……

 

 

「翼!!」

 

「出動します!!」

 

(響君は、まるでノイズが出現するのを分かっていたようだ。……一体どうやって)

 

 

 

〜リディアンの近く〜

 

 

 

 

 

「……消えろ」

 

 

バイザーを被り、右手にダインスレイフを持ちノイズを殲滅する。いつも通りの行動をとる響はとても冷静だった。

 

その時、複数のノイズが融合し、巨大な黄緑色のノイズになった。

 

 

「……デカイだけだ」

 

 

ノイズは咆哮するも響は怯まない。響は、切っ先に『呪い』のエネルギーを集め跳躍する。

 

ノイズは背中の方からブーメランのような物を射出するも全てダインスレイフに弾かれる。

 

 

「ノイズ如きが……私を炭化できると思うなァァァァァ!!」

 

 

シンフォギアを纏っていない響は、ノイズに触れれば炭化してしまうがその隙を見せない。それどころか、シンフォギアなど必要ないと言わんばかりにノイズを倒している。

 

響の叫びと同時にダインスレイフのエネルギーをためレーザーを打ち出そうとする。……が、

 

 

「はあ!!」

 

『千ノ落涙』

 

「ッ……!!邪魔してくれる!!」

 

 

この一撃で決めようと思っていた響だが、横から現れた翼の広範囲攻撃によって後退せざるを得ない。

 

 

「邪魔をしないで!!コイツは……私の獲物だ!!」

 

「ノイズの殲滅は私の任務。貴方こそ、邪魔をしないでほしいわね」

 

「「……」」

 

 

ノイズが目の前にいるというのに、2人ともお互いを牽制する。

 

 

「ガァァァァァァ!!」

 

「「うるさいッ!!」」

 

『千ノ落涙』

 

 

哀れノイズ。最悪のタイミングで、俺を無視するなと言わんばかりの咆哮をしてしまったノイズは翼の剣と響のレーザーによって消滅した。

 

 

「……所属はしませんが最低限の手伝いはしてあげます。護国災害派遣法でしたっけ?どうせ、私の存在自体が法に引っかかるんでしょうし。それで妥協してください」

 

「……出来ない相談だわ。私は、引きずってでも貴女を連れて帰り話を聞かないといけない」

 

「……私は、自分に害をなす人間にも容赦しません。それでも戦りますか?」

 

「「……」」

 

 

無言は肯定。少しの沈黙の後、響はダインスレイフに『呪い』を纏わせ、翼は両足のブレードを展開させ剣を構える。

 

「参る!!」「潰す!!」

 

 

2人が叫びお互いに突進しようとしたその時……

 

 

ズドォォン!!

 

 

「「ッ!?」」

 

 

響と翼がぶつかるはずだった場所に()()()が降ってきた。

 

 

「全く、元気なのはいいがもう少し弁えろ!!」

 

 

2人がいた道路を砕いたソレ……風鳴弦十郎は、両腕を2人に向けながらそう言う。

 

 

「……化け物」

 

『全くだなァ……今までこんなやつ見たことがない』

 

「司令……立花響には、聞かなければいけない事が沢山あります」

 

「彼女は、彼女なりの最大限の譲歩をしてくれた。これ以上は、響君の気持ちを優先するべきだと思う」

 

 

弦十郎は響を横目に見ながら翼にそう言う。

 

 

「……話が早いですね。じゃあ、今日は帰らせてもらいます」

 

「立花響君」

 

「……まだなんかあるんですか?」

 

「頼りたくなったり、1人ではどうにもできない事があったらいつでも二課に来るといい。俺たちはいつでも君を待っている。君用の端末を渡しておこう」

 

 

弦十郎は笑顔で響にそう言い、二課用の端末を渡す。

 

 

「……コレは受け取っておきます。……ですが、ノイズの殲滅は私がします。風鳴翼さんには、救助を主にさせてください。先ほどのことから分かるように、ノイズの感知は私の方が上なのですから」

 

 

そう言い終わると、響は『呪い』を纏い、闇夜に姿を消した。

 

 

「叔父様……私は……」

 

「翼、帰るぞ。……今日は休め」

 

「いえ、仕事がありますので」

 

「……そうか」

 

 

この世界のOTONAは、少し間が悪い。




〜二課の了子の研究室〜


(おかしい……あれは封印されていたはず……)


コーヒーを飲みながら、その部屋の主である櫻井了子……いや、フィーネは考える。もちろん、立花響と彼女が持つ聖遺物についてだ。


(呪われし魔剣ダインスレイフ、一度鞘から抜かれれば犠牲者の血を啜るまで鞘に収まらないと言われたあの危険物。剣から放たれる『呪い』は相手を蝕み、破壊衝動に襲われるという……)


先史文明期の巫女であるフィーネは、当然その存在を知っていた。アウフヴァッヘン波形を未知のエネルギーのせいで解析できなかったことも気づいた理由の一つだろう。


(切っ先が欠けているから、完全聖遺物ではなかったが十分危険だ。今まで観測されていたエネルギーはおそらくダインスレイフ由来の『呪い』だろう。私や、弦十郎のような強靭な精神にも作用するのかは分からないが野放しにしておくのは不味い……いや、飼い慣らそうとして逆に喉元に噛み付かれるのも不味い……暫くは様子見が妥当か。クリスを早めに出すのも手だな)


「フフフ…」


フィーネは不気味に笑いながら、コレからの事を考えていた。


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陽だまりは守られるばかりではない

皆さま初めましての方は初めまして。私の他作品を知っている方は、投稿もうちょっと待ってくださいなんでもしますから(なんでもするとは言ってない)

なんと……なななんと!!この作品が日間ランキングに載ることが出来ました!!皆さまの応援のおかげです!!本当にありがとうございます!!これからもぼちぼち、私の気分の赴くままに投稿していくのでよろしくお願いします!!

毎話コメントをしてくださるISEMEN様、話の誤字を訂正してくださっているexvs.next様、ありがとうございます!!


さて、今回は戦闘描写はありません。まぁ……毎度戦闘らしい戦闘はしてないんですけど……


4話

 

 

「……一度本気で風鳴翼さんと戦ってみるべきだと思うんだ」

 

『……突然何を言いだすかと思えば、どうしたァ?ノイズについてのレポートで頭がイかれたかァ?』

 

 

緑色の大型ノイズを倒してから早くも2週間、他人(未来以外の全員)と関わることを出来るだけ避けていた響は突拍子もなくそう言った。ちなみにダインスレイフの言うレポートとは、学校の課題だ。自由課題形式だったこともあり響はひたすらノイズについての考察を書きなぐった。途中から憎悪で無我夢中に書いていたのか、多少の字の汚さが見える。

『感情を持たない』『人間だけを炭化する』『一定時間経つと自壊する』などの点から、ノイズは生物ではなく人間を殺すためだけに作られた兵器なのかもしれない。感情を持たないのは人工物だから、人間だけを炭化するのは地球環境に影響しないから、自壊するのはそのエネルギーが長くは持たないから。など自分なりの考察も含め、かなり真実に近づいた内容と言えるだろう。……政府がもし見たとしても一考の余地がある内容だ。しかし……

ダインスレイフから聞いたことも含め、事実を書いただけなのだが提出先の先生からは、「真面目に考えてきなさい!!」と一蹴された。解せぬ……by響

 

現在、寮の自室にいるのだが未来の姿はない。買い物に出かけているようだった。

 

 

「違うんだよダイン。最近、私がノイズと戦ってると露骨に邪魔してくるじゃん?だからさ、一度『呪い』の恐怖を植え付けて完膚無きまでに叩き潰せば良いと思うんだ。そうしたら、邪魔しなくなるでしょ」

 

『……いや、国から危険人物だと見られて捕縛なり殺害なりされるだろうよォ』

 

 

この2週間、ノイズの発生件数も飛躍的に増え公欠することが多くなった。未来には何事かと心配されているが、長期型のボランティアだと言ってある。教職員に対しては二課からもらった端末を見せれば一発だ。職権乱用だとか言ってはいけない、仕事じゃないからだ。

そして、度々戦場で後からやってくる翼は以前に比べると救助活動をしている。響からの言葉がちゃんと弦十郎に届いたからだろう。先ほど響が言った『露骨に邪魔してくる』というのは間違いであり、2人の『自分が倒す』という意識で偶々攻撃や行動が重なるだけなのだ。ある意味、相性はバッチリだと言える。

 

 

「……だよねぇ、面倒臭いなぁ〜。……ねぇ、ノイズって結局なんなの?」

 

『アァ?前にも言っただろ。ただの兵器だァアイツらは』

 

「それは覚えてるよ。でもさ……兵器だったら閉まっておくべき場所があるはずだと思わない?」

 

『……まァ、ないとおかしいがなァ(バレたかァ……?』

 

「やっぱり。しかもさ、普通自分たちで作った兵器が自分たちの元に現れて炭化させていくなんてことあるわけがない。閉まっておいたのに勝手に出てくる訳もない」

 

『……結局、何が言いたいんだァ?』

 

「ノイズを収納してる倉庫のシャッターの鍵ってないの?」

 

『ッ!?(鋭い……)さァな。少なくとも俺の記憶の中の人間にはそういうものを知っているヤツはいなかったなァ……』

 

 

響が思いついたソレは、紛れもなくソロモンの杖とバビロニアの宝物庫なのだがダインスレイフは、響が知ってもろくな事にならないと知らないふりをする。

 

 

「むぅ〜。そっかぁ……割といい線行ってたと思ったんだけな〜」

 

『……(コイツの発言、心臓に悪いなァ……いや、俺に心臓はねえがァ。……アァ、肝が冷えるだったか?……冷える肝も持ってねぇなァ)』

 

 

響は渾身の仮説をダインスレイフに言うが、その真偽がわからないためふてくされる。

 

 

「あ〜あ、早く未来帰ってこないかな〜」

 

 

1人の時か、未来がいる時は、響はとても饒舌だ。

 

 

 

 

〜さらに2週間〜

 

 

 

 

「響……最近疲れてない?」

 

「ふぇ?……ううん、疲れてないよ?」

 

「そう……レポートはちゃんと書いたの?もう3回はやり直しされてたでしょ?」

 

「ちゃんと提出したよ〜。すごい妥協したけど」

 

 

響と二課の邂逅から早くも一ヶ月。ある日の響と未来は寮の自室でくつろいでいた。ちなみに響は、未来に膝枕してもらっている。

 

 

「もう……気持ちはわかるけど。そんなにだらけていいの?」

 

「いいんだよ〜。特にやることもないんだし」

 

 

実を言うと、二課の端末に定例ミーティングのお誘いが来ているのだが、響は敢えて()()してから無視した。

 

 

「響……」

 

「なに?」

 

「流れ星を見に行く約束、忘れてないよね?」

 

「もちろん!私が未来との約束を忘れるわけがないじゃ〜ん」

 

「……そうだよね。絶対見ようね」

 

「もう……なんか最近の未来、変だよ?」

 

「なんでもないよ」

 

 

そして仲良く2人は、一緒に寝た。……しかし、響はまた起きる。

 

 

(……やっぱり、眠くならないなぁ)

 

『まァ……俺と融合してるしなァ……お前は既に人間を超えてんだよ』

 

(……そっか)

 

 

響はダインスレイフからの返答を聞いて、少し寂しい気持ちになりながらもその表情は少し笑っている。ベッドから降りカーテンを開けて外を見る。……未来が実は起きている事に気づかず。

 

 

「明日も……ノイズが来るんだよね」

 

『おう……ヒビキも遂にそこまでになったかァ……俺は嬉しいぜェ』

 

「明日は全部任せよう。あの人も、私がいるよりは戦いやすいだろうし」

 

「……(戦う?ノイズと……?それにあの人って?……響)」

 

「未来に……嘘はつきたくないんだけどなぁ……ねぇ?」

 

「……ッ!?(起きてることばれたのかな……)」

 

 

響がどこかに向かって呼びかけると、空中に一本の剣が現れる。

 

 

「……(なに……あれ?)」

 

『だったら素直に話せばいいだろうがよォ……嬢ちゃんなら分かってくれるさ(まァ、その嬢ちゃんが起きてるから意味ねえんだけどなァ……)』

 

 

流石ダインスレイフ、ここまで計算済みであったらしい。

 

 

「……(剣が……喋ってる!?嬢ちゃんって私のことかな……?)」

 

「ダイン、未来が起きてくるかもしれないし……」

 

『大丈夫だ……先に、少し暗示をかけてある。もちろん、後遺症も何もないからなァ?……だからそんな目で見るな(そんな便利な能力備わってないけどなァ)』

 

「……(あの剣にはバレてる……でも黙っててくれてるし……優しい剣なのかな?)」

 

 

剣が優しいと言う発想が出るあたり、未来もなかなかに独特な感性をしているのだろう。「八千八声 啼いて血を吐くホトトギス」なんて言葉を一期1話から繰り出せる事が理由だろう(※作者の偏見です。どうでもいいけど作者は393派です)

 

 

「……無理だよ今更。それに……未来は知らなくていい世界だ。ダインにはわからないかもしれないけど」

 

『……そうさなァ。でもなァヒビキ、俺に……だけじゃねェ。全員にだ。人間同士が分かり合えなかったことは歴史も証明しているんだよォ』

 

「それも分かってる。経験が証明してるから」

 

「ふふっ……」『ハッハッハ……』

 

 

1人と一振りは笑う。しかし、その笑いは本音ではない。

 

 

「……(響……どうして……)」

 

『ヒビキ、もう寝ろ』

 

「だから、眠くないんだって」

 

 

先ほどと矛盾した発言をするダインスレイフに、響は呆れながら言う。

 

 

『だとしてもだ。いくら人間より強いって言っても、そのベースは人間なんだからなァ……俺が無理矢理眠らせてやるよォ』

 

「……分かったよ」

 

「……ッ!!(響が上がってきちゃう!!)

 

 

未来は寝返りを打ったようにし、壁の方を向く。

 

 

「じゃあダイン、おやすみ」

 

『あァ……いい夢みろよォ』

 

「ダインが寝させてくれるのにいい夢を見れるわけ……が……zzz」

 

『……コイツ早いな』

 

 

ダインスレイフは、響の眠りの深さに驚愕。流石の響でも、ここ最近の戦闘の多さで疲労が溜まっていたのだろう。

 

 

「……(もう寝たのかな?)」

 

『ヒビキは朝まで起きねェから安心しな嬢ちゃん。……いや、こんな変な剣の言うことは信じられねェなァ……』

 

「……(やっぱりバレてるよぉ……起きたほうがいいのかな?)」

 

 

響がダインスレイフを戻す前に寝てしまったため、ダインスレイフは部屋に残ったままだ。勝手に出てこれるのだから、勝手に戻ることもできるが……

 

 

『まァ……嬢ちゃんが話したくねェってんなら別にいいさァ……今なら聞きたいことに答えてやるぜェ?聞きたいだろ、ヒビキの事』

 

 

それは悪魔からのささやき。その声に耳を傾けてしまえば、引き込まれてしまいそうだ。……しかし未来は、

 

 

「……教えて下さい。響が隠し事したくないなら、私が先に知っておけば隠し事じゃ無くなるから!!」

 

 

ベッドから降りてダインスレイフに向かってそう言う。

 

 

『クククッ……ヒビキといい嬢ちゃんといいあの連中といい、最近の人間は面白いのが増えたなァ……教えてやるよォ、ヒビキの軌跡を』

 

 

ダインスレイフがそういうと、黒い靄が滲み出てきてミクの方に向かう。

 

 

「え……な、なに?」

 

『それは俺が見たヒビキとの【想い出】だァ……【転送複写】という技術らしいが前の契約者がちっこい女に教えてもらっていたのをパクって改造したものだ』

 

「全くわからないけど……これで分かるんですよね?」

 

『アァ……怖いかァ?』

 

「……やります!」

 

 

ダインスレイフの挑発するような言葉に未来は覚悟を決める。そして、未来の体に黒い靄が入り込んでいった。

 

 

《消えろ……》《お前らなんかがいるから私は!!》

 

「響……こんなに……」

 

《私の獲物だ!!》《邪魔をするな!!》《ノイズごときがァ!!》

 

「私……気づいてあげられなかった……」

 

 

ダインスレイフと出会ってからの響の【想い出】が頭の中で再生される。響がノイズと戦う時、必ずと言っていいほど炭素が舞っていた。その光景に苦い顔をする響の顔を見て、未来は気づく。

 

 

「響はずっと……こんなに……戦ってたんですか?」

 

『アァ……でもこれはヒビキが望んだことだァ……自分の意思で、死ぬかもしれない戦場で戦っている』

 

 

未来の瞳からは、涙が零れおちる。

 

 

《死にたくなかったら走り続けて!!》

 

「ッ!!」

 

《生きるのを諦めちゃダメだよ》《……ありがとう》

 

 

今未来の頭に流れているのは、響が初めてガングニールを纏ったときのこと。

 

 

「ふふっ……」

 

 

涙を流しながらも、未来は少し笑ってしまう。

 

 

『アァ?何がおかしい?』

 

「いえ……変わっちゃったなって……思ったんですけど……やっぱり、昔の優しい響のままだって思って……」

 

 

ノイズと戦う響から、女の子を助けるシーンを見て未来はそう言う。

 

 

《呪うだけの私に……未来を守れるかな、ダイン》

 

《今までの奴は、守るなんて考えもしていなかったぞ。もし、ヒビキがやって見せたら、人類初だなァ……》

 

《……そっか》

 

「響……」

 

 

涙が収まり、改めて感慨深くその【想い出】を見る。

 

 

『まァ……そんな所かァ?どうだァ……親友のそんな姿を見てどう思う?ちなみに、俺と融合したことで、ヒビキは既に純粋な人間を辞めている』

 

「えっ……」

 

 

ダインスレイフからの爆弾発言。そりゃあ、親友が人間じゃない、みたいな事を言われては仕方がないだろう。

 

 

『怖いか?いつも隣で寝てる奴がビルより高く飛び、車より早く走る。なんなら手を振るっただけで人間を呪い殺せる。側から見ればただの悪魔だなァ……』

 

「……」

 

 

黙ってしまった未来の頭に、ある場面が再生される。

 

 

《アイツらを駆逐しきるまで、この内に秘める激情は収まることを知らないから。アイツらを潰せるなら、私は……進んで悪魔にでも魂を売ってやる》

 

「……人間です」

 

『……ほぅ?』

 

「他の人や……世間の言葉なんてどうでもいい!!1人でも……私だけでも信じていれば……響は人間です!!私の大切な、大好きな親友です!!」

 

 

未来の心からの絶叫。雰囲気を壊すようで悪いが、ダインスレイフはちゃんと『呪い』の膜で防音もしている。万が一、未来が耐えられなくて叫んでしまった時のために。

 

 

『……嬢ちゃん、いい奴だなァ。全く、俺のご主人様はモテモテじゃねぇかァ……』

 

「……えっ?」

 

『悪いなァ……最初は、【想い出】を見せるだけだったんだが、ちょっと調子に乗って意地悪くしちまった。存分に恨んで、呪ってくれて構わねぇよォ……』

 

「……いえ、それよりも、いつも響を守ってくれてありがとうございます」

 

『……ハッ?』

 

 

未来からの予想外の返答に、思わずダインスレイフも呆けてしまう。

 

 

「ダインスレイフ?さんがいなければ響は死んでいたかもしれないんです……」

 

『逆に言えば、俺がいたからヒビキはノイズに突っ込むようになったんだがなァ……』

 

「だとしても、です」

 

『……だとしても、か。フッ……いいじゃねェかァ嬢ちゃん。良いものを聞かせてもらったんだから、お礼をしないとなァ……』

 

 

ダインスレイフは、その柄にある目を細めながら言う。

 

 

「お礼……?」

 

『アァ……これをやるよォ……』

 

 

ダインスレイフから、黒い靄がにじみ出てきて固形の球体となる。

 

 

「これは……何ですか?」

 

『さァな』

 

「えっ!?」

 

 

無責任なダインスレイフの言葉に驚きを隠せない未来。

 

 

『適当に作っただけだからなァ……俺にもどういう効果があるかは知らん。だがァ……嬢ちゃんの不利益にはなりはしねェよォ。せいぜい、『呪い』がかからないよう祈ってなァ……』

 

「……じゃあ、これはダインスレイフさんからの『祝福』ですね」

 

『……ハッ?』

 

 

この数分の間に2回目のダインスレイフの呆けた声。この剣、感情豊かだな……by作者☆

 

 

「せっかくのお礼ですから。『呪い』より『祝福』のほうが良いと思うんですけど……ダメでした?」

 

『……』

 

 

何も発さないダインスレイフ。目も閉じて何かを考えているようだ。

 

 

「ダインスレイフさん……?」

 

『……フッ、フフッ……フッハッハッハッハッハッ!!『祝福』かァ!!そんな解釈をされたのは初めてだァ!!ダメでした?だとォ?……大いに結構ッ!!たしかに、『呪い』ととるか『祝福』ととるかは人間次第だなァ!!』

 

「……キャッ、なっ、なに?」

 

 

ダインスレイフの大きな独り言が終わると、真っ黒だった球体は突如、()()光を発しその球体を白く染め上げる。

 

 

「……暖かいですね。この光は」

 

『……アァ、なるほど、これがヒビキの言っていた陽だまりかァ。喜べ嬢ちゃん、ソレは確実に嬢ちゃんを守る『呪い(祝福)』になった!!そして『呪い(祝福)』続けてくれ!!それが、俺やヒビキの力になってくれるからなァ!!』

 

 

最近のダインスレイフは気分が良い。ヒビキの変化、未来の存在、二課の人間の性格。ずっと昔よりも、人間の感情の質が上がっていることに喜びを感じている。『誰かのために』という事が少なかった昔がひどかったのだ。

 

 

「はい!!」

 

『良い返事だァ……さて、じゃあひとまず……』

 

「はい?」

 

『もう寝なさい』

 

「……えっ?私まだ……ダインスレイフさんと……話た……zzz」

 

『すまんなァ……』

 

 

問答無用で未来を深い眠りへと送りベッドに戻したダインスレイフは、まだ響の元に戻る事なくその場に浮遊し続ける。

 

 

『……()()()っていうのは、こういう感情なのかァ?なかなか悪くねェなァ……クックックッ……これでは呪われた魔剣ダインスレイフは名前負けだなァ。次の契約者様はいつになることやら……いや、ずっとこのままでも良いかも……なんてなァ……』

 

 

先程響が開けたカーテンから覗く月明かりを眺めながら、ダインスレイフは言う。

そしていつのまにかその姿はなく、夜は更けていったのだった……




〜夜明け〜


「……んっ、ん?」


朝5時ごろ、ダインスレイフに強制的に眠らされた響は目を覚ました。


「ふぁ〜あぁ……ん。ダイン、出てこい」


寝起きで多少頭が回っていなかった響だが、昨日の状況を思い出すにはそう時間もかからなかった。


『……』

「ダイン、よくも昨日……って、寝てる?」

『……』


ベッドから降りて右手にいつも通りダインを出した響は、その目が閉じられている事に気づく。


「……ダインも寝るんだ(そういえば今まで私が寝てる間にダインが何してたかなんて知らなかったなぁ〜)」


ダインスレイフの今までに類を見ない行動に驚愕する響だが、こういう一面もあったのかと感心もしている。響は、ダインスレイフを起こさないように収め、朝の散歩に向かう。ちなみに、もちろん寮としては早朝の外出は許していないので抜け出している。いつもの黒いパーカーだ。


「……今日行かない代わりに、ノイズの出現時間くらい教えてやるか」


響は持ってきた二課の端末を手に取り、弦十郎へメールを作成し始めたのだった。


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それぞれの想い

今回は不作です。人によって、好き嫌いがはっきり分かれる話になっております。不快に思われたらすいません。


そろそろ試験週間に入るので投稿頻度が圧倒的に下がります。ご了承ください。


5話

 

 

〜二課、司令室〜

 

 

「今朝、響君から連絡があった。『今夜のノイズは任せる。せいぜい被害が出ないようにしなさい』とのことだ。これで、彼女のノイズ感知する能力が半日以上でも作用することがわかったな……」

 

「末恐ろしいわね……一体、ノイズの何を感知しているのかしら?……いえ、分からないことをずっと考えていても仕方がないわね。研究者としては、気になるところではあるのだけれど」

 

 

弦十郎と了子、オペレーター達は、今朝に響から起きられてきたメールを見ていた。

 

 

「今まで、ノイズの出現ポイントに僕たちより先についていた理由がわかりましたね。……それよりも」

 

「ああ、今夜は響君がいない。つまるところ翼だけでノイズを対処することになる。問題ないとは思うが……」

 

「万が一の事を考え、響ちゃんに出撃を要請するべきね。もちろん、報酬を考えとかないと」

 

「致し方なし……か……翼には備えておけと伝えてくれ。当たり障りのないようにな」

 

「了解しました」

 

 

そして、二課はいつも通り自分の仕事に戻っていく。

 

 

(……なぜ分かる?これでは我々の優位性が……立花響の捕獲は諦めた方がいいか?……いや、完全聖遺物であるネフシュタンならば出来るはずだ。クリスに連絡しておかなくてはな……)

 

 

ただ1人、とある計画の修正を考えているが……

 

 

 

〜夕方、リディアン〜

 

 

「未来〜そろそろ行こっか〜」

 

「響……うん、見逃したくないしね」

 

 

響と未来は、その日の学業を終え流れ星を見にいく準備をしていた。

 

 

「……あの、響」

 

「ん〜、どうしたの未来?」

 

「……ううん、なんでもない」

 

「そう?変な未来」

 

 

何か言いたげな未来だが、何も言わない。その時……

 

 

ビービーb……ブチッ……

 

 

「響……今のは……?(多分、ダインスレイフさんが見せてくれた記憶にあった『二課』ってところの……)」

 

「なんでもないよ未来。じゃあ、行こう」

 

 

響の声のトーンはいつもより低めだった。

 

 

「……うん」

 

 

 

少し経って、2人は流れ星を見る予定の場所へ着いた。

 

 

 

 

「わぁ〜!見て未来、星空だよ〜」

 

「流れ星はまだみたいね……ねぇ響……」

 

 

神妙な顔をした未来は響に問いかける。

 

 

「どうしたの未来?」

 

「お願いがあるんだけど……」

 

「未来のお願いならなんでも聞いちゃうよ!」

 

「……響が行かなきゃ行けないところに行ってきて欲しいの」

 

「……え?」

 

 

とても楽しそうな響の顔が一瞬にして曇る。

 

 

「今もどこかで、炭素になってる人がいるんじゃない?」

 

「……分からないよ。でも、私達にはどうにも出来ないよ未来」

 

「出来るでしょ。響なら」

 

「ッ!?……なんの……事?」

 

 

未来の言葉は、響を動揺させるには十分だった。今まで隠し通せていたと思っていたのだから当たり前だろう。

 

 

「ノイズの所に行ってるんだよね?……倒すために」

 

「……今日の未来なんかおかしいよ?体調が悪いんだったら寮に帰r……「響!!」……ッ」

 

 

言葉を遮ってまで、響のことを呼ぶ未来。その顔はとても辛そうだ。

 

 

「響が行かないと、生きるのを諦めちゃう人がいるかもしれないの……」

 

「ッ!!……それは……でもッ」

 

 

すでに他人の事を想わなくなった響だが、その内にはかすかに残っている。

 

 

「響にしかできない事……やってきて欲しい!!」

 

「未来……」

 

 

響は俯く。自分が行く必要はあるのか、翼がいるではないか。

色んな言い訳が頭の中に思い浮かんでは消えていく。

 

そして……

 

 

「……それが未来の望み?」

 

「……うん」

 

「そっか、じゃあ行ってこないとね。未来はちゃんと帰ってるんだよ?」

 

「…… うん」

 

「じゃあ、行ってきます」

 

「行ってらっしゃい!!」

 

 

未来からの言葉を聞いて響は走る。目指すは、翼のいる場所。

 

 

「……響と一緒に、流れ星見たかったなぁ」

 

 

未来は響のいなくなったそこでつぶやく。

 

 

「ダインスレイフさん、教えてくれてありがとうございました。響に……貴方の『祝福』がありますように……あっ、流れ星……」

 

 

未来が願った時、ちょうど流れ星が見えたらしいが、真実は本人のみぞ知る。

 

 

 

〜響side〜

 

 

「ダイン……どうして未来にばれちゃったのかな?」

 

『知るかよォ……まァ……ヒビキの事は嬢ちゃんが一番分かってる。……って事じゃねェのかァ?(俺が言ったことバレて無さそうだなァ……)』

 

 

未来と別れた響は、ダインスレイフに尋ねるがろくな答えを言わない。しかし響は……

 

 

「ふふっ……未来に理解されてるって、嬉しいなぁ〜。今日は張り切っていこうかな」

 

『頼むから使いすぎるなよォ……(なるほど、こういう場合に『チョロい』って使うのかァ……最近の言葉は難しい)』

 

 

未来が絡むとチョロい響を見てダインスレイフは思う。

 

 

『%#¥*;%@』

 

「……ノイズ?こんな所に、ダイン」

 

 

いつもの人型やオタマジャクシ型などが現れるが、響の敵ではない。すれ違いざまにダインスレイフで切りつけ倒していく。

 

 

「ふっ!!……あっ、ブドウの奴」

 

『#¥@%**-%%』

 

 

紫色で、頭に球体をつけているノイズ(以下はブドウノイズと呼称)正史で、響が仕留め損ねた個体だった。響の姿を確認した途端に、逃げていく。少なくとも野生のノイズの行動ではない。

 

 

「……ッ、逃げるなッ!!」

 

 

エネルギー弾を連射する響だが、ブドウノイズは当たる直前に頭の球体を落とし爆発させて視界を悪くし照準を逸らさせる。

 

 

「……面倒くさい。当たらないなら……太くすればいい」

 

 

響はその場で止まり、エネルギーを貯めてレーザーとして打ち出す。

 

 

「……チッ、外したか。んっ?流れ星……?」

 

 

響が放ったレーザーはブドウノイズを倒すことはなかったが、代わりに空まで届き雲を穿った。そして、その間からのぞいたのは……

 

 

アッメッノハッバキリ〜♪

 

『天ノ逆鱗』

 

 

世にも珍しい、空から巨大な剣が降ってくるという状況。その剣は響が倒し損ねたブドウノイズを切り裂き倒す。

 

 

「風鳴翼……」

 

 

その巨大な剣の柄に立っていた女性、風鳴翼は倒したブドウノイズの方を一瞥してから響に向き直る。

 

 

「立花響……今日は遅かったわね」

 

「……来る予定は無かったんですけどね。あまりにも処理が遅く見てられなかったので」

 

「……ッ、そういう割には、貴方もノイズの逃走を許していたみたいだけれど?」

 

「「……あ゛あ゛?」」

 

 

響はともかく、翼はこんなドスの利いた声は出さないだろう。アイドルとしても、SAKIMORIとしても……

 

 

「おいおい……あたしのことも見てくれよ」

 

「「ッ!!」」

 

 

2人とは別の声が聞こえる。月明かりに照らされて露わになったその姿は……

 

 

「ネフシュタンの……鎧……」

 

「……えっ、趣味悪ッ!?」

 

『……あれも立派な聖遺物だから油断すんなよォ』

 

 

真っ白い鎧に肩部アーマーがゴツく、バイザーで顔がわからないようになっている女がそこにいた。

 

 

(あれで聖遺物?先史文明の人の感性はちょっと理解できないなぁ……)

 

『……気にしたら負けだヒビキ』

 

 

未知の存在が目の前にいるのにこんな悠長な会話ができるあたり流石だろう。

 

 

「へぇ……じゃあアンタ、この鎧の出自を知ってんだ?……テメェは後で引っ叩くからな、人が気にしていることを言ってくれやがって」

 

 

鎧の女は、翼に向けて挑発じみた言葉を言った後に響を睨みつける。

 

 

「げっ……聞こえてた」

 

『……俺は知らねェからなァ』

 

「……2年前、私の不始末で奪われたものを忘れるものか」

 

「……2年前?」

 

「なによりも、私の不手際で奪われた命を忘れるものか!!」

 

「……奪われた……命?……風鳴翼さん、どういうこと?」

 

 

翼の言葉に反応する響。翼に聞くことにより理解しようとする響だが、胸の奥では分かっている。

 

 

「ッ……あとで説明するわ。でも、今は奴を捕らえる!!」

 

「後で……?ふざけないでよ、今ッ、ここでッ、説明しろよ!!風鳴翼ァ!!()()()()()には、どういう意味があったのか、説明しろよ!!」

 

 

響は叫び、その視線で翼を射殺さんとばかりに睨みつける。

 

 

「教えてやれよ。あたしはまっててやるからさぁ」

 

 

鎧の女は余裕そうな表情で言い、その手に持っている杖のようなものを下げる。

 

 

「……完全聖遺物ネフシュタン。私の天羽々斬、奏のガングニールのシンフォギアに続き、ノイズへと対抗手段としての起動実験は2年前のライブ会場の地下で行われた」

 

「起動実験……?ライブ中に……?」

 

「立花もおそらく聞いているでしょう、聖遺物の起動には相応のフォニックゲインが必要だということを」

 

 

翼は、鎧の女に剣を向け構えたまま語り出す。

 

 

「それになんの関係が?……ッ!?!?」

 

「理解した?」

 

「……ふざ……けるな。だったら、あの時会場に来ていた客は全て……」

 

 

響は少しずつ、分かっていたはずの事実を口にしていく。理解したくないのに、頭は理解してしまっている。

 

 

「そう。ツヴァイウイングのライブはネフシュタンの鎧を起動させるための実験の一部。私たちの歌と、観客の歌を合わせればネフシュタンの鎧を起動させるだけのフォニックゲインが集まる筈。だから……」

 

「だからって……だからってッ!!何も知らずに実験に付き合わされた挙句、殆どの人が死んだんだよ……しかもその産物が、訳も分からないこんな奴らに奪われるだなんて……」

 

「……いちいち失礼な奴だな」

 

「私たちだって、ノイズの出現は予想していなかった!!それでも……助けられなかった……奏も……いなくなった……」

 

「そんなの、ただの言い訳だ。自分の心を守るための逃げ口だ!!」

 

「ッ!!それは……私に、剣として育てられた私に心なんて必要ない!!」

 

「だったら、純粋に命令をこなすだけの人形の方がお似合いだ!!……それすら出来ないんだったら、意味のない剣なんか捨てちまえ。せいぜい、()()の歌姫が関の山だ」

 

「なっ……」

 

 

響と翼の長いようで短い論争、そして言い切った響の吐き捨てるような一言に翼の心は……刀身は折れた。

 

 

「私は……私の剣は……奏……私は……」

 

「……」

 

 

もう響は翼のことなど見ていない。完全に眼中から離れた。

 

 

「お話は済んだか?なら、そろそろ行かせてもらうぜ?」

 

 

鎧の女は、2人の話が終わったのを確認しこちらの番だと言わんばかりに構える。

 

 

「……何が目的か知らないけど、もうどうでもいい。帰っていい?」

 

「……はぁ?」

 

 

響はもうどうでもよくなった。使えると思っていた二課は、あのライブの事件の核心に関わっている。しかも響を含めた観客を利用して、だ。少しはマシだと思っていた弦十郎も、これで好感度はマイナスに振り切ってしまうだろう。裏切られた、とまでは響は思っていない。せいぜい、未来以外への人間不信が大幅に加速しただけだ。

 

 

「どうでもいい。お前だって、別にノイズじゃないし。親友の頼みだからここに来たけど、ノイズは殲滅したしもう目的は果たしたんだよね」

 

 

視線をあげ夜空を見上げながら喋る響は、側から見れば放心しているようにも見える。

 

 

「つれねぇこと言うなよな。私の目的は、お前を引っ捕らえることなんだからなぁ。そんなにノイズがご所望ならコイツらを相手してもらおうか」

 

 

鎧の女がそう言うと、手に持っていた杖状のものを掲げた。すると、緑色の閃光が走り、あたりにノイズが現れた。いつもの人型やオタマジャクシ、頭がアイスクリームのような種類もいる。

 

 

『『『『『『%¥#@¥¥#』』』』』』』

 

「殺すんじゃねえぞ」

 

「……今日は、ロクなことがないと思ってたけど最高の日かもしれないなぁ」

 

『ヒビキ、少しこっちにも流せ。お前の容量じゃ入りきらねェ』

 

 

突然現れ、命令を受けたノイズを見て響の口元は歪む。そして、いつのまにか増幅していた『呪い』は周囲に溢れ空気を侵食していた。ダインスレイフはすかさず響に呼びかけるが、聞こえた風でもない。

 

 

「まさか、ノイズを操る道具があるなんて……あれがあったら、ノイズを潰し放題じゃんか」

 

『オイ、ヒビキ?……チッ、聞こえてねェかァ。仕方ない、好きにやらせるかァ』

 

「私今すごく気分がいい……だからコレも使ってあげる。……Balwisyall nescell gungnir tron」

 

 

聖詠を歌いガングニールを纏う響。狂喜に満ちた響に対して『聖』詠というのはおかしい気もする。

 

 

「アハハッ♪」

 

 

響が笑い声を上げるとともに、額にある悪魔の目が開き響自身の目も大きく開かれる、狂気の目だ。バイザーが出現していないのは響が必要と思ってないからだろう。

 

 

『あーあァ……自我の中に『呪い』による『破壊衝動』を自分で植え付けやがった。こりゃあ、あのオッさんが来るまで止められねェかもなァ。破壊衝動に塗りつぶされてんなら楽なのに、自我がある分タチが悪い』

 

 

「クフフフフフッ♪あぁ……気分がいい……いや、気持ちいいなぁ……♪力も湧いてくるし、ノイズを壊したくてたまらないッ!!」

 

「うっわ、暴走?しやがった……」

 

 

明らかにイってる内容のセリフと目に、鎧の女も引いている。

 

 

「それは……奏のガングニール……そんな禍々しいものじゃない……」

 

「……風鳴翼、まだそんな意思が残ってたの?クフフッ……邪魔だよ、どいてろ」

 

「ガッ……!?」

 

 

どす黒いガングニールを見て、放心していた翼は立ち上がろうとする。しかし、狂気に包まれている響は笑いながら翼を蹴り飛ばす。元々の怪力にギアの出力が加わった蹴りは、翼を森の奥まで吹っ飛ばした。

 

 

「おいおい……仲間じゃねぇのかよ?」

 

「仲間……?クフフッ……笑わせないでよ。他人なんて信用に値しない、信じられるのは自分とこの力だけ。あとは……陽だまる場所で迎えてくれるあの娘がいてくれればそれでいいの♪」

 

「ッ……あたしには、そんなのいねぇよ!!行けッ、ノイズ共!!」

 

「クフフッ、ガラクタ共……ぶち壊してやる」

 

 

狂気の笑みを浮かべた響は、ノイズの集団に向かって跳躍した。

 




〜二課、司令室〜


「ネフシュタン……だとぉ……!?」

「来ないと言っていたはずの響ちゃんまで……今日は予想外のケースが多すぎるわ!!」

「現場に急行する!!なんとしてもネフシュタンの鎧を確保するんだ!!」


弦十郎と了子は車で現場に、オペレーター達は翼のサポートに、それぞれ付いていた。


〜少し経って〜


「翼ッ!?……くっ、響君には伝えるべきでは無かったか」


弦十郎と了子は、車で移動しながら端末で戦闘を見ていた。


「響ちゃんにとっては、地雷だったわね……翼ちゃんもムキになってるし……」


響と翼が言い争っている様子が画面に写っている。そして……


「ッ!?了子君、これはっ」

「暴走!?……いえッ、少し違うわ。でも、早く止めないとマズイことになる……響ちゃんの精神が壊れるかもしれない」

「了子君、急ぐぞ!!」

「ええ、飛ばすわよ!!(マズイな……アレは私が思っていたより良くない存在だ。クリスには荷が重い……早くネフシュタンの鎧を回収しなくては)」


響、翼、ネフシュタンの女、弦十郎、そして了子。それぞれの想いは一体何をなすのか……それは、誰にも分からない。


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呪槍・ガングニール

6話

 

 

 

『私は進んで地獄に落ちてやるッ!!』

 

『私は進んで悪魔にでもなってやる』

 

 

(似ても似つかないのに……あの2人がどうしても重なる……)

 

 

壮大な海の中で、沈み込んでいくのは天羽々斬を纏った姿の風鳴翼。その中で、翼は2人の少女の姿重なって見えていた。

 

 

『そんな剣捨てちまえよ。せいぜい『歌姫』が関の山だ』

 

 

(ッ!!……奏のいない私には、歌姫だってこなせる自信がない。私は、己を剣と鍛えた……それでも、奏のガングニールを纏うあの子には敵わない。それどころか……)

 

 

ツヴァイウイングのライブから始まった悲劇の連鎖。今までのことを思い出していく中で翼は己の醜態に目をそらす。

 

 

「……」

 

「ッ、奏!!」

 

 

突如として翼の目の前に現れたのは、かつての親友にして戦友である天羽奏。

 

 

「翼がもっと強ければ、あたしは助かったかもしれない」

 

「ッ!?!?奏……ぐぅ!?」

 

 

奏が言葉を発すると、奏の体から出た黒い靄が翼の首を絞め上げる。

 

 

「あたしはもっと翼と歌いたかった。翼……どうしてこうなったんだ?」

 

「がっ……そ、それは……ああぁぁああッ!!」

 

 

黒い靄はさらに翼の体を蝕む。少しでも気を抜けば、取り込まれてしまいそうになる。

 

 

「なあ翼、どうして何も言ってくれないんだ。翼はあたしと歌っていたくはなかったのか?」

 

「そん……な……こと……」

 

「翼、今のお前は片翼だけで飛べるのか?最近は、あたしが助けたあの子がノイズをぶち殺してる。まるで昔のあたしだ」

 

「ッ……それでも……奏は変わってくれたじゃな……ぐぅぅッ!!」

 

 

奏の体から出ていた黒い靄は全て出きった。そして少しずつ翼の体を侵食し始める。

 

 

「あっ……あぁ……(壊したい……今すぐにでも何か……そうだ、目の前にいるじゃない……)はッ!?……私は今何を……ぐッ!!」

 

 

翼の心に芽生えたのは、『破壊衝動』必死にそれに抵抗している翼に余裕はない。そんな時、奏がスッと翼から離れていく。

 

 

「奏ッ……いかッ……うぐッ!!……ないでッ!!」

 

「……」

 

「かなでぇぇぇぇ!!……」

 

 

翼は必死に奏に向かって手を伸ばすも、その手は届かない。ついで現れたのは、翼にとっては因縁とも言える少女。

 

 

「……あーあ、行っちゃった」

 

「立花……響……」

 

 

いつのまにか体を蝕んでいたはずの黒い靄が消えている。そしてあたりの風景はツヴァイウイングのライブ会場に変わっていた。

 

 

「覚えてます?ここでの出来事」

 

「忘れるわけがないでしょう!!だってここで……奏は……」

 

「そうですよね。忘れるわけないですよね、ここでどれだけの人が死んだのか……」

 

「……ええ」

 

響は普段からは想像もできないような大袈裟な動きをしながら言う。

 

 

「では、見てみましょう。お二人が戦っている間、観客がどんな事になっていたのかをね」

 

「どういう……こと?」

 

 

翼が問いかけると同時に、あたりの風景が変わる。

 

 

『ノイズだぁぁぁ!!』

 

「ッ!?」

 

 

翼の目に映るのは多くの人々が、大量発生したノイズ達から逃げる光景。

 

 

「これはッ!?」

 

「私が前にたまたま出会った生存者の記憶。公園でブツブツと何かを呪うように呟いてたからちょっと貰ってきたんです」

 

「貰った?……立花響、貴女は一体」

 

「ほら、みてくださいよ」

 

『邪魔だどけよ!!』『死にたくないんだぁ!!』『痛っ……ちょっとやめてッ!!』

 

 

人が溢れかえった通路では、他人を顧みず自分が助かろうと人を殴り、足蹴にし、我先にと進もうとしている。

 

 

「うそっ……そんなっ」

 

「嘘でもないんでもない、事実です。だって、人の大切な記憶ですよ?」

 

 

ノイズは来ていない。そのほとんどがステージの上で戦っている翼や奏に集中しているからだ。だと言うのに……

 

 

「なんで……人同士が……」

 

「どうでもいいからですよ」

 

「なにッ?」

 

「自分が助かるためには他のことを気にしてられない。たとえそれが、今まで接してきた人だとしても」

 

「立花響……?」

 

響は悲しそうな目で遠くを見つめる。その瞳に何を写しているのかは翼には分からない。

 

 

「分かりました?貴女が守った命は、同じ時に奪われていくんです。同じ人間にねぇ?」

 

 

ねっとりと翼の心に絡みつく言い方。認識して、理解してしまった翼は目を見開く。

 

 

「では……私たちが守った命は……」

 

 

また景色が変わる。

 

 

『人殺し!!』『お前のせいで会社の契約は打ち切られた、どうしてくれる!!』『あなた……私はもう……』

 

『なんで……俺は……生き残ったんだぞ……生きる事が、生き残る事が悪い事だってのか!!』

 

 

「守った命も否定されるの……ノイズの次は人に……」

 

「そう!貴女が守れなかった命を悔やんでも、貴女が守った命がどうなったかは知らないでしょう。あーあぁ、さぞ苦しいでしょうねぇ!だって、私も苦しかったのだから!!」

 

 

これまでにないほど顔を歪め叫ぶ響、思わず翼は一歩下がってしまう。

 

 

「なに引いちゃってるんですか?目を逸らさないでくださいよ。これは貴女が……貴女方が知るべき罪なんですから」

 

「罪……」

 

「なにかを手に入れるためにはなにかを手放す事が必要なんです。……よく考えろ、風鳴翼。お前が何を選び何を捨てるのか、私は見ている」

 

「何を選び……何を捨てるのか……」

 

 

そこまで言うと響の姿は少しずつ消えていった。

 

 

「……私に、何かを捨てる覚悟があるの?」

 

 

翼の問いに答えるものはいない、かもしれない……

 

 

 

〜響〜

 

 

 

「クフフッ♪足りないよぉ!!」

 

「だったら持ってけッ、出血大サービスだ!!」

 

 

『NIRVANA GEDON』

 

 

大量のノイズを切り裂いているとたまに飛んでくるネフシュタンのエネルギー弾。

 

 

「クフフッ、大サービスなんだったら、貴女の血を見せてッ!!」

 

 

それすらも、『呪い』を纏わせたダインスレイフの斬撃には及ばず切り裂かれ爆発した。

 

 

「狂ってやがるッ!!はぁッ!!」

 

「ノイズを操る奴に言われたくはないよッ!!」

 

 

さらに増えていくノイズに、それらを巻き込みながらも、ノイズとともに鞭状の刃で響に攻撃を仕掛けていくネフシュタンの女。響は刃を弾きながらも周りのノイズを切り裂き、エネルギーで潰している。

 

 

「そんなでかい得物じゃあ、近づかれたらどうすんだ!!」

 

「ッ!?」

 

 

響が近づいた時にはもうネフシュタンが懐まで迫り、エネルギーを溜めていた。

 

 

「チェックメイトだッ!!」

 

「……お前だよ♪」

 

 

 

ネフシュタンの『NIRVANA GEDON』が発射される直前、響の顔が狂喜に歪む。

 

 

「ごはッ!?」

 

「アハッ♪……弾けてぶっ飛べッ!!」

 

 

ネフシュタンが再生するのは先の戦闘で確認していた響は、意識を刈り取ることに集中しその腹を左腕で殴る。()()ガングニールとしての推進力を加えアームドギアを生成するはずのエネルギーをパイルバンカーの要領で射出しているため、響の予想以上にネフシュタンは吹っ飛んだ。

 

 

「……これ、意外と使えるかも。いい拾い物をしちゃったなぁ♪……あの女も寝てるし、クフフッ♪ノイズ……ノイズノイズノイズゥゥゥゥ!!」

 

 

そこからは瞬く間にノイズを殲滅した響。ガングニールの力も合わせたため瞬殺である。

 

 

「クフフッ♪それじゃあその棒ッ切れを貰っちゃおうかな♪」

 

「ぐッ……バケモノめ……ぐあッ!?(ネフシュタンの再生が体にも……)」

 

「まだ意識があったの?……風鳴翼といい貴女といい、しぶといなぁ……」

 

 

木に寄りかかって苦しんでいるネフシュタンに近づいた響は、笑いながら話しかける。

 

 

「だてに……完全聖遺物なんて纏っちゃいねえんだよ。……クソッ、どうしてこんなキチガイなんかに……うぐっ」

 

「苦しそうだねぇ♪さあ、早く頂戴?」

 

「チッ……お前なんかに渡すくらいなr……ッ!?体がッ、動かない!?」

 

「ッ……私も……どうなって……ッ!!」

 

 

突如体が動かなくなった2人、ネフシュタンが辺りを見回すと……

 

 

「……ッ、剣!?」

 

「……しつこいなぁ」

 

「……」

 

 

『影縫い』

 

 

いつのまにか目が覚め、響達に近づいてきていた翼は真剣な表情で響達を見つめる。

 

 

「立花響……貴女は私が止めるわ。ネフシュタンの鎧も返してもらう」

 

「何を言いだすかと思いきや、随分と欲張るじゃねえか。さっきポッキリ折れたように見えたんだけどなぁ?」

 

「止めるって言われても、私はいつも通りですよぉ?クフフッ♪」

 

「私が守れなかった命と目をそらしてきた命に報いる為にも、月が出ている間に終わらせましょうッ!!」

 

「何をッ……まさかッ、唄うのか!?」

 

「唄う……?……ッ、アレか」

 

 

響の脳裏に浮かんだのは2年前のライブで天羽奏が歌った命がけの歌。

 

 

『ヒビキ!!流石のお前でもアレはヤバい!!今すぐに『呪い』を上に広げろ!!』

 

「ダイン……?」

 

「防人の歌、聴きなさいッ!!……Gatrandis babel ziggurat edenal 」

 

 

ダインスレイフの謎の忠告に戸惑っている間に翼は歌い始める。

 

 

『いいから早くしろ!!死ぬぞッ!!』

 

「ッ……分かったよ」

 

「Emustolronzen fine el baral zizzl……」

 

 

響は渋々、動かすことのできず握りしめたままの手から『呪い』を出し、響の上に展開することで月の光を遮り影を無くす。影がなくなったことで剣が抜け、響が動けるようになる。

 

 

「……動ける。ありがとダイン♪」

 

『アァ……それよりも早く離脱しろ』

 

「え、嫌だ」

 

『ハァ!?』

 

 

せっかく自由になったのに素っ頓狂なことを言いだす響。

 

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal……」

 

「……ふざけるなよッ!!」

 

「Emustolronzen fine el……ぐうッ!?」

 

 

響は叫びながら翼の喉にエネルギー弾を放つ。

 

 

『……お前の破壊衝動は取り除いてやったから、好きにしなァ』

 

 

この魔剣、優秀である。

 

 

「……思い出すと恥ずかしい。まあ、今は関係ない。風鳴翼さん、何馬鹿なことやってんの?」

 

「ゲホッ……ゲホッ……馬鹿……ですって?」

 

「守れなかった命?目をそらした命?そんなの関係ないでしょ、何を理由つけて死のうとしてんの?」

 

 

響の心底馬鹿にするような目に翼も唖然とする。

 

 

「私が……死のうとしている?」

 

「崇高な考えで自分を犠牲に、あの趣味が悪いのを倒そうとしてるんだろうけど私が……いや、被害者である()()がそんなの許さないッ!!生きるのを諦めるなッ!!」

 

「ッ!!その言葉は……奏の……」

 

「これは『呪い』だ。私からお前に向けての……だから生き続けろ。……今のお前はもう、簡単に死んではいけないのだから」

 

「……もちろん。もとよりそのつもりだわ」

 

 

翼に向けて怒鳴りあげる響に対して、翼は至極冷静に響に言葉を発する。そして、響から黒い靄が出てきて翼の中に入り込む。これにより、翼は呪われた。響の言ったことを守らなければ、その『呪い』が体を蝕んでいくだろう。

 

 

「チッ……興が削がれた。あとはあの棒っ切れを回収さえすれば……ッ!!……いない。逃げられた……」

 

 

響が翼に詰め寄っている間に、ネフシュタンの女は逃げたようだ。『影縫い』に使われた剣も木の近くに転がっている。

 

 

「……これを返しておいて。もう、二課にはなんの協力もしないし興味もない。二課でなくとも政府や国が無理矢理来ても叩き潰すし、続くようなら命は保証しないし私は米国や欧州に行く。そう伝えて。それじゃあ、さっき言ったことちゃんと守ってよね」

 

 

響は以前に二課から貰った端末を翼に渡す。

 

 

「立花響……私は、貴女に謝りたい……」

 

「……謝って何になるの?そして、私は謝罪を受け入れない。受け入れても、受け入れなくてもどうにもならない。その程度で私の激情をどうにかできると思わないで」

 

「……それでも……私h……ッ」

 

「ッ……お迎えかな。また戦場で。会いたくないけど」

 

「……ええ。また戦場で会いましょう」

 

 

車の音が聞こえた響は、翼に一言告げ去って行った。

 

 

「……あの時聞こえた低い声は誰だったのかしら。……いつかお礼が言いたいわ」

 

 

“低い声”それが誰のことを言うのか、それは本人にしか分からない。

 

 

「翼ッ、大丈夫かッ!!」

 

「……はい、叔父様(今は休もう、罪深き私たちの居場所で……)」

 

 

 

〜響side〜

 

 

『良かったのかァ?あんな優しい言葉をかけてよォ……お前のストレス、マッハじゃねえの?』

 

「さっき、羞恥心で死にたくなるほど暴れたからもういいよ。ノイズもあんなに始末できたし、殺したくなる相手も誰かわかったし」

 

『……ヒビキ、溜め込んだ分は今のうちに吐き出しとけよォ。嬢ちゃんはそういうのはすぐに気付くからなァ……』

 

 

ダインスレイフの言葉に、響は立ち止まった。よく見ればその体を震わせている。

 

 

「………………」

 

『周りにゃ誰もいねェよォ……さっき、過剰に増幅した『呪い』もあるからなァ……さァ遠慮すんなァ?』

 

「…………クソがぁぁぁぁぁぁ!!!!ふざけんなッ!!何が防人の歌だ、なんだよ防人ってッ!!技術的なこと雑魚の私にボロッカスにやられてたくせに。全然守れてないじゃん!!目覚めてきたと思いきや突然変なこと言い出すし!!」

 

 

突然感情のままに叫び出す響。ダインスレイフの優しさが振り切れている。呪われた魔剣とはなんだったのか?

 

『……それはヒビキのせいだぞ』

 

「え?」

 

『あの青いの蹴り飛ばした時に無意識に『呪い』が付与してあったんだよ。多分それで、夢の中でその『呪い』に勝ったんじゃねェかァ?(……確実に折れてたから夢ヒビキがどっか行った後手伝ったけどなァ。俺最近、人間のフォローしかしてねェ……)』

 

「………私、無駄に他人の精神強化しちゃった?」

 

『そういうことだなァ……まァ、悪いことはねェしいいんじゃねェのかァ?』

 

「……未来まだ起きてるかなぁ(遠い目)」

 

 

その後、速攻で部屋に帰り同居人に甘えてみっくみくになった少女がいたとかいないとか。



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とある少女の逆さ鱗

7話

 

 

「……ふむ」

 

 

彼女たちがアジトとしている豪華な屋敷の一部屋で、フィーネは考える。

 

 

(クリスの失敗は予想通り、でもあの子の戦闘力に関しては全くの予想外。……立花響、呪われし魔剣ダインスレイフをその身に宿した第1号融合症例であり、おそらく私の計画最大の壁)

 

 

フィーネは思い出す。櫻井了子として現場に向かっていたときにに見た映像の事を。

 

 

(二課の連中は立花響の暴走やネフシュタンにばかり関心が行っていたようだが、最も重要な事はただ一つ。自我を保ちながらの暴走。ガングニールの欠片程度には、完全に近い聖遺物に打ち勝って暴走させるほどの力はない。だとすれば……自らに暴走のための種……破壊衝動を植え付けたとみるのが妥当だろう)

 

 

フィーネはワインを飲み、装置に繋がれて気絶しているクリスの方をみる。

 

 

(クリスはなかなかの戦果だな。ダインスレイフを相手取るのは、たとえネフシュタンがあっても得策ではないことが分かっただけで僥倖。この前の検査で融合症例というデータも得ることが出来た。計画はスムーズにいっていると見ていいだろう。このままいけば、思っていたよりも早くカ・ディンギルも完成するだろうしな。……立花響に気づかれなければ)

 

 

フィーネはため息をつ、グラスをテーブルに置きクリスの方へ近づく。

 

 

(あそこまでのノイズへの執着、ソロモンの杖を前にした時の反応。そして、暴走しているが自我を保っているため歌えるはずの状況で歌わずにあの戦闘力。いや……シンフォギアの方が奏でられなかったのか?……どちらにせよ確実に私と敵対し大きな障害となる。デュランダルの奪取の時に出て来なければいいが……)

 

 

フィーネは装置の制御システムの方へ行き、起動させる。

 

 

「あああぁぁあぁああぁぁぁあぁ!!………はぁ………はぁ………フィー……ネ?」

 

「今のでネフシュタンの侵食は抑えられたわ。少し休んだら食事にしましょう」

 

「……ああ……フィーネ、なんか機嫌がいい?」

 

「そうかしら?……そう見えるのなら、そうかもしれないわね」

 

 

実際に口角が上がっているためクリスからはそう見えたが、実際は狂喜の笑みを浮かべているだけである。

 

 

(人と人は分かり合えない、みたいな目をしてるあの子が、バラルの呪詛から解放されて分かり合えるようになったらどんな感情を抱くのかしら。歓喜のあまり泣く?悲しんで泣く?怒り狂う?もしかしたら絶望して壊れるかもしれない。あぁ……見てみたい……見てみたいわッ)

 

 

ロクでもない事を考えているのを、クリスは悟る事はない。目的のためにフィーネに従う、ただそれだけである。

 

 

 

 

〜響side〜

 

 

 

 

物騒な女から物騒な想いを向けられている響は、現在自室にいた。

 

 

「響、それでどうなったの?」

 

「ん〜、何が〜?」

 

「昨日の事。少しは教えてくれてもいいんじゃない?それとも、私に知られたくない事?」

 

「……」

 

 

未来に膝枕されている響は、未来からの尋問にあっている。顔を固定されているため逃げ出すこともできない。

 

 

「……ノイズは殲滅したし、特に被害はないんじゃないかな〜。……どうでもいいけど」ボソッ

 

「そう……響も怪我はない?」

 

「うん。雑魚しかいなかったし」

 

 

暗に、翼やクリスの事も雑魚と言っているがもちろん分かっててのことなので響に悪気はない。響からすればそうなのだろうが。

 

 

「良かった……響が無事で」

 

「……ありがとう未来。でもなんで手を離してくれないのかな?」

 

「逃げちゃうかもしれないでしょ?」

 

「や、やだなー。未来から逃げるだなんてそんな……」

 

「ン?」

 

「いえ……すいません」

 

 

少し手に力が入ったのは気のせいだろうか?そして何故だか一瞬未来の目のハイライトも消えた気がする。……いやきっと気のせいだろう。

 

 

『……自業自得だから俺から何も言わねェ』

 

(くっ……正論者め……)

 

「はぁ……今日は何もないんでしょ?」

 

「う〜ん……ない!」

 

「だったら、この前行きそびれたふらわーに行かない?あそこのお好み焼き、すごく美味しかったんだよ!!」

 

「ほほぅ……それは楽しみだな〜 うん、行こう」

 

 

今、未来にできる響への最大限の労い……それは響とともにいる事。未来と一緒にいるときだけが、彼女にとって安らぐ時間だ。例え、未来が響に笑いかけようと怒ろうと、響にとってはその時間こそが至福の時である。未来はそれが分かっているからこそ、こうして響が戦っていない時には響を連れ回している。

 

ちなみに響はふらわーでお好み焼きを3枚食べた。全て自分で作って、である。

 

 

 

 

〜二課side〜

 

 

 

 

「響くんとの協力関係が切れた……か」

 

「司令、どうしました?」

 

 

翼から受け取った、響の端末を手にしながら弦十郎は呟く。オペレーターの1人である藤尭(未婚)は弦十郎にコーヒーを渡しながら尋ねた。

 

 

「ああ、ありがとう。いやな、我々が出来ることとは何だろうかと思ったんだ」

 

「司令が相談とは、なかなか切羽詰まっているようですね。……響ちゃんの事ですか」

 

「……少女1人救えずに、このざまさ。普段から我々の好き勝手を支えてくれている広木防衛大臣に顔向けできん。翼もまだ本調子ではないしな」

 

 

少し、下を向きながら源十郎はさらに呟く。

 

 

「もう、そんな辛気臭い顔で会わないでくださいよ?好き勝手している組織のトップがそんな顔でどうするんですか?」

 

 

現に今、広木防衛大臣は政府へ二課の信頼性を説明しに行っている。二課という組織がここまで来れたのも、ひとえに広木防衛大臣のおかげだろう。

 

 

「ふっ……そうだな。我々は、我々にしかできないことを為すのみだ。そうと決まれば早速、新作の映画でも……」

 

 

ブーブーブー

 

 

「ん?通信……政府からだと?はい、こちら得意災害対策機動部二課司令、風鳴弦十郎です」

 

「おう、挨拶は省略させてもらうぜ。早速本題だ」

 

「何かあったのですか?斯波田さん?」

 

 

斯波田と呼ばれたその男は、いつも食べている蕎麦を食べておらず、極めて真剣な表情だ。

 

 

「広木防衛大臣が暗殺された。帰る途中を狙われたらしい。護衛も含めて全員が殺されている」

 

「「「「「「なッ!?」」」」」」

 

 

全員……緒川と了子がいないが、その場にいた全員が事の重大さに驚き絶句した。

 

 

「これだけじゃねぇってんだから、驚くのはまだ早い」

 

「まさか……他の者も?」

 

「ああ、まあ重要人物では無いんだが……政府役人直属のエージェント共が8人が意識不明の重体だ」

 

「一体なぜ……?」

 

 

弦十郎からの問いに斯波田は一旦目を瞑ってから答える。

 

 

「広木防衛大臣の方はわからねぇが、エージェントの方はお前達もよく知っている人物の仕業だ」

 

「ッ……まさか、ネフシュタンの少女が!?」

 

「いや……立花響だ」

 

「響くん……だと!?斯波田さん……一体何があったんですか!!」

 

 

弦十郎は思わず声を荒げる。先ほどまで話題の中心にいた少女が、政府の人間を襲ったのだから当然だろう。

 

 

「落ち着け。こっちも大騒ぎなんだよ……その計画を考えたバカ野郎の処理や、情報操作、件の立花響への対策も考えなくてはならねぇんだ」

 

「バカ野郎……?では、襲ったのは響くんではなく……」

 

「先に手を出したのは政府の一部の人間だ。二課と協力関係が切れた今ならチャンスだと思ったらしい。彼女の事は政府全体が知っているはずだったんだがなぁ……手を出すべきでは無いとも忠告していたんだがな」

 

「なるほど……こちらでも、急ぎ対応に当たります。彼女の現在地は?」

 

「さっき言ったバカ野郎の屋敷だ。ご丁寧に……倒した奴らのうち1人を引っ張ってきてな。しかもソイツは四肢欠損と来たもんだ」

 

「……もう少し、詳しく説明していただきたい(この事は翼に伝えるべきではないな)」

 

「勿論だ。そもそもの発端は……」

 

 

 

遡る事、約3時間前。お好み焼き屋ふらわーで昼食を食べた響と未来が街を歩いていると、柄の悪そうな大人数人に絡まれた。これが悲劇の始まりだった。その大人達にとって……

 

 

「そこのお嬢ちゃん達可愛いねぇ……金は俺ら持ちでいいから遊ぼうぜぇ?」

 

「……ひ、響?」

 

 

1人の男が響達に声をかけた。響は即座に未来の前に立ち、守るような姿勢をとる。

 

 

「……ナンパなら別の人にしてくれません?生憎私たちは忙しいので」

 

「連れねぇこというなよなぁ?良いところ知ってるからさ」

 

「そうそう!今時こんなことなかなか無いぜ?」

 

 

ケラケラと笑いながら話す男達を前に、響は言った。

 

 

「そうですね。こんなご時世に、乙女2人を誘うために4人も待ち伏せさせてる大人なんていないですね」

 

「……何?」

 

「……なんのこと?俺らはただ嬢ちゃん達と遊びたくて……」

 

「私に触れるなッ!!」

 

「ッ!?……いってぇ」

 

 

手を伸ばした男の手を叩く響。ダインスレイフと契約して体の隅々をダインスレイフと融合し強化した力は、男の手を腫れさせるには十分だった。

 

 

「おい嬢ちゃん……これは少しおいたがすぎるんじゃねえか?」

 

「ヒッ……」

 

「……(ダイン、この場合は?)」

 

『逃げることをお勧めするぜェ……流石に、嬢ちゃんがいる状況じゃ何もできん』

 

(了解)

 

「未来、ちょっと我慢してね」

 

「えっ?ひび……きゃっ!?」

 

 

響は、未来をお姫様抱っこの要領で抱き思いっきり走った。

 

 

「なっ!?待てやこのアマ!!」

 

「人様に怪我させておいて、良い度胸じゃねぇか!!」

 

「ひ、響!!あの人たち追ってきてる!!」

 

「黙ってて。舌噛むよ?」

 

 

未来に対して珍しく厳しい口調で話す響。それほど余裕がない事の表れだ。

 

 

(アイツら、ただのチンピラじゃ無いよね?)

 

『だろうなァ…… 乱雑な口調だが、どこか警戒していて何よりも隙が無かった。お前に叩かれることも考慮してたんじゃねェのかァ?』

 

「クソッ、早すぎんだろ!!」

 

「第1フェーズに失敗した。第2フェーズへ移行する。至急準備に取りかかれ」

 

「いや……丸聞こえだし……とりあえず部屋に戻ればなんとかなるかな」

 

 

そこから鬼ごっこが始まった。単純な走力では、未来を抱えているはずの響にも勝てない男達は、隠れていた黒服達と共に奇襲を仕掛けてくる。響は難なく躱しているのでそのたびに男達の焦りは募っていく。何よりも、両陣営、一般人に危害が及ばないように配慮しているのか接触事故も何もない。その分……通報もされないので警官が駆けつけることもないのだが。そして、約10ほど続けた後、響は寮の敷地に到着した。

 

 

「ふぅ……未来大丈夫?」

 

「……うっ……うん。ちょっと不味いかな〜」

 

 

どうやら男達の奇襲を躱す時の響の動きで酔ってしまったらしい。その顔は青ざめていて今にも決壊しそうだ。

 

 

「未来ごめん……」

 

「仕方なかったから大丈夫……うっ」

 

 

説得力がないが、追っ手から逃れるためには仕方がない事なのを未来も理解している。

 

 

「見つけたッ!!手間かけさせやがって!!」

 

「チッ……もう来たの……未来、出来るだけ早く安藤さん達の部屋に行って。私はこいつらと少しオハナシがあるから」

 

「で、でも……」

 

「大丈夫、私はノイズを倒せるんだから、今更人間程度に遅れはとらないし。何よりも……」

 

「何よりも……?」

 

「未来を巻き込んだんだ……この世で最も残酷な地獄を見せてやる……」

 

「……気をつけてね」

 

「ありがとう未来」

 

「……(私はまた……何もできないの?)」

 

 

未来は寮の建物の方へ走っていった。響はそれを見届けると、息を整えながら歩いてきた男達の方を向く。

 

 

「オイオイ嬢ちゃん。鬼ごっこは終わりか?」

 

「……足りないんだったらまだやってあげるよ」

 

「なッ!?クソッ……ターゲットがそっちへ向かった。先回りしろッ!!」

 

 

響はまた走り出し、山の方へ向かった。男達も通信機のようなもので連絡を取りながら響を追いかけて行った。

 

 

 

 

〜少し経って〜

 

 

「……ここら辺でいいか」

 

「はぁ……はぁ……お前……何がしたい?」

 

「何って……遊びたいんでしょ?遊んであげるよ」

 

「このクソガキッ、なめやがって!!」

 

「そういうのもういいから、いつも通りやればいい」

 

「……フッ、バレていたか。ならば仕方ない」

 

 

その場にいた2人に続いて、6名ほど男が増えた。手にはアサルトライフルや拳銃、ナイフなど、明らかに一般人が持っていない得物を持っている。

 

 

「狙いは私。大方、二課と手を切った私を捉えて子飼いにしたいんだろうけど……」

 

「そこまでわかっているのなら、大人しく来てもらおう。悪いようにはしない」

 

 

口調が変わった男もポケットから拳銃を取り出し構えている。

 

 

「……誰が行くかッ」

 

「そうか……ならば……無理矢理にでも連れて行かせてもらう!!」

 

 

銃を構えていた者が一斉に射撃を始める。しかし響は……

 

 

「この程度……」

 

「なにッ!?」

 

 

両手を左右に広げ、手のひらから『呪い』を放出し弾を地面に落とす。

 

 

「たとえ人間でも……私の邪魔をし、未来を傷つけようと言うのなら……お前らは私にとってただの雑音だッ!!」

 

「がっ!?」

 

「ウソだろ……」

 

 

響の叫びと共に、地面から飛び出してきたのは黒い靄で形取られた腕。それは1人の黒服の首元を掴み……全身へと侵食を始めた。

 

 

「あぁ………ああ……あぅ」

 

「一体何がッ!?」

 

 

倒れこむ黒服。その目はまるで廃人のようだ。一度に大量の呪いを浴びたストレスなのか髪も白くなり、顔も真っ青だ。

 

 

「次はお前……」

 

「ヒィ!?やめ……」

 

 

倒れた男から比較的近くにいた黒服に向けて『呪い』のエネルギー弾を放つ。その弾は黒服の頭に当たり、先ほどの黒服と同じように倒れた。

 

 

「貴様……我々に手を出してただで済むと……うっ……」

 

「逆に聞くけど……私に手を出してタダで済むと思ったの?」

 

 

また1人、『呪い』によってその意識は奪われた。

 

 

「このガキッ!!」

 

「多少欠損があっても問題ない!!行くぞッ!!」

 

「……うるさいッ」

 

「「「がぁ……!?」」」

 

 

手に拳銃と刃物を持って襲いかかってきた3人。別々の方向からの包囲攻撃だ。しかし、響には通用しない。響は右足を少し上げ、地面を思いっきり踏みつける。すると、響が踏みつけた地面を中心に『呪い』が360度に広がっていった。その『呪い』が黒服達の足に触れた瞬間、全身に『呪い』が侵食した。

 

 

「ちょっと強めにやっちゃったから、もしかしたら戻ってこれないかもね。……まあ、どうでもいいけど」

 

 

この一撃で3人の脳はほぼ使い物にならなくった。死んではいないが、植物状態のようになるだろう。人間としては死んだも同然の状況だ。

 

 

「ひぃぃ!!お、俺は逃げるからなッ!!」

 

「なっ……おい待てッ!!」

 

 

私服姿の男が1人逃げ出した。政府所属というエリート達がこうもあっさり、少女1人にやられしかもその力が未知のものだというのだから当たり前だろう。

 

 

「逃がさないッ!!」

 

 

響はダインスレイフを右手に出し、その切っ先に『呪い』のエネルギーを貯める。

 

 

「ッ!!おいッ、避けろ!!」

 

「えっ?」

 

 

逃げていた男が振り返った時にはもう遅い。響はいつもノイズを倒しているように、ダインスレイフを男に向けて突き出しレーザーを放出した。

 

 

「ぎゃあああっぁぁあああ!!!!!!俺の足がぁぁ!!」

 

 

ダインスレイフから打ち出されたレーザーは、逃げていた男の両足を打ち抜き消滅させた。足がなくなった男は血だまりに身を沈め激痛に悶えている。

 

 

「……未来を……未来を巻き込んだんだから、まともに生きて帰れるとは思わないでよね」

 

「このッ……悪魔がッ!!」

 

「……んっ?」

 

 

響は、何かが入り込む感覚に襲われた。

 

 

「貴様のような悪魔が……ノイズを殺す力があるだと……当たり前だろうなぁ!!なぜその力を国のために使わない!!その力があれば我が国は何者からも侵略されず、なんなら侵略することだってできる。何体も何体も、どれだけ出現するのか分からないノイズよりも、70億程度の人々を支配できるだろうがッ!!」

 

「……」

 

 

男は叫ぶ。この集団は、所謂風鳴機関からの恩恵を受けていた者達の集まりだ。風鳴訃堂の考えに賛同する者は多い。しかし、この者達はただの風鳴機関の人間とは違う。夷狄から祖国を守るだけでなくあわよくば他国を侵略しようという、過激派とも言うべき思想を持った者達の集まりだ。

 

 

「侮るなよ小娘!!その力はお前なんぞにあっていいものじゃない!!我等こそが、持つにふさわしい力だ!!」

 

「……」

 

 

血だまりに沈み、激痛に耐えながらもひたすらに叫ぶ男の声を響は聞いていない。響は今、未知の感覚に浸っている。

 

 

『ヒビキ……それが憎悪だァ……人間から直接摂取するのはどうだァ?なかなか悪い感覚じゃねェだろ?』

 

「……(いや、不味い。こんな人の感情なんてゴミにも等しい。()()()()がこんな味だなんて……ダインの中の人達の方が純粋で濃くて良かった。しかも共感できるし)」

 

『マァ、そうだろうなァ……(不味い、ねェ……ヒビキは憎悪を味覚で感じるタイプかァ。マシな方だなァ……少なくとも快楽じゃなくて良かったぜェ)』

 

 

憎悪を直接人間から得る。普段は自分で増幅するか、ダインに溜め込まれたものを使うしかなかった響にとって、この行為は未知の物。初めての摂取は悪いものだったようだが、ある意味、感情を取り込むこの行為は決していいものじゃない。精神異常者などの憎悪を取り込むと脳が壊れるかもしれないからだ。

 

 

「……興味ない」

 

「……いま……なんと……?」

 

「だから、興味ないって言ってんの。あと、うるさい」

 

「がぁッ!?」

 

 

響が伸ばした腕から、『呪い』が伸びて男を侵食した。

 

 

「自分の憎悪を浴びた気分はどう?……聞こえてないや」

 

「……」

 

 

響は、今摂取した男の憎悪を『呪い』へと変換して男に返した。もっとも、ただの憎悪ではなく『呪い』として強化されているのでタダではすまなかったようだが。

 

 

「さてと……残るはお前1人だけ……でも安心して。他のやつらのようになったりはしないから」

 

「な……にをさせるつもりだ……?」

 

「……簡単だよ。お前のご主人様の居場所へ案内してもらう。ただの雑音ごときに拒否権なんかないから素直に案内した方が身のためなんじゃない?……お前がどうなろうと知ったことじゃないけど」

 

 

響は最後の1人の方向へと向き、告げる。男は少しだけ迷うが……

 

 

「たとえ無様を晒そうとも……我々は政府の精鋭……決して漏らすことはしない!!」

 

「ふぅーん……そんなこと言うんだ。……えいッ」

 

「ぐぅぅッ!?」

 

 

男の言葉に目を細めた響はダインスレイフを振るい、『呪い』ではなくただの斬撃で男の左腕を切り落とした。男は激痛に悶えるが、他の者とは違って叫び声を上げずに耐えている。

 

 

「……別にいいんだよ?日本政府が血の海に沈んでも。貴方が喋らなかったせいで、この襲撃に全く関わりのない官僚達がコイツらと同じ目に合うことになるだけだから(……コイツ、自分から政府所属だって言った。バカなの?)」

 

『止めてやれヒビキ。人間らしい誇りを備えた奴じゃねェかァ……お前を標的にした事は運が悪かったと思うぜェ……』

 

(ふん……知らないよそんな事。未来を巻き込んだんだ。それだけで万死に値する)

 

「ぐぅ……はぁ……はぁ……クソッ……(正直、あの豚の下っ端だから従ってきたが……もともとその思想も気に食わなかった……コイツを利用すれば祖国の害悪を取り除けるか?)……少し考えさせてくれ。武器も捨ておこう」

 

 

激痛はまだ続いている、それでも冷静に物事を考える胆力はさすが政府のエリートだろう。配属先がおかしいだけだ。

 

 

「ダメに決まってるじゃん。時間稼ぎのつもり?」

 

「……分かった。案内しよう」

 

「……止血だけしてあげる。道中で騒ぎになっても困るし」

 

「はっ?一体何を……ぁがッ!?」

 

 

男には何が起こったか分からなかった。突然目の前に響が現れたと思ったら、残った肩の部分に何かをされた。さらなる激痛が走るが……

 

 

「嘘だろ……本当に止血を……」

 

「さぁ……早く案内して」

 

「……あぁ(最悪刺し違えてでも……いや、無理か)」

 

 

男は諦めたのか、響の言う通りに襲撃を命じた主犯格の元へと向かった。止血したとしても激痛な事には変わりはない。男は、いっそ気絶したいと思いながらも歩みを止めなかった。

 

 

(……帰ったら未来になんて説明しよう。ストレートに全員半殺しにしましたって言う?……ないなぁ)

 

(よくよく考えれば立花響は、私たちを全滅させるまで一歩も動かなかった……逆さ鱗に触れてしまった、という事か。あぁ……生きて帰れたら辞職して農家になろう……)

 

 

脅した少女、脅された男、2人とも心の中でため息をつきこれからの事を考えるのだった。もちろん、そんな状況ではないのだが……




あくまで、二次創作なので日本政府が悪い人だけではありません。そして作者は別に反日でもありません。今話の目的はあくまで響の、未来に対する思いのレベルを表現しました。


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処罰は行わねばならない

なんと……ハーメルンに歌の歌詞の掲載が可能になりました!!シンフォギアの二次創作を書いている方々にとっては朗報なのではないでしょうか?他の方の作品が、この歌詞の掲載が可能になった事でどのようになるのかすごく楽しみです!!


8話

 

 

「こ、ここだ……」

 

「ふぅーん……趣味の悪い屋敷だねぇ……」

 

 

響による蹂躙から数刻経ち、脅されて命令した上司の下まで案内させられた男はこの後どうなるのかと不安になっていた。

 

 

「もういいだろ……正直意識を保つのも精一杯なんだ」

 

「あっ、そうだった。うーん……もう一仕事頑張ってもらうよ」

 

「えぇ……」

 

 

無駄に豪勢な屋敷の前で、響の死刑宣告のような言葉に男は絶望する。

 

 

「今から御役所様の所に行ってこの事を報告してもらおうかな。その後はどうぞご自由に」

 

「はぁ……?それだけでいいのか?」

 

「なに?不満なの?」

 

 

少し不機嫌そうな声音で響は言う。

 

 

「いや……滅相もない。……後ろからぐさりとか無いよな?」

 

「チッ……早く行け」

 

「……ああ」

 

 

男は新たな目的地に向かう。未だ激痛が走るその腕に悶えながらも、行かねば同僚達と同じ運命が待っているからだ。

 

 

『解放してよかったのかァ……?アイツも、()()なんだろ?』

 

「本音を言えば私の手で潰してやりたいけど……先に私に手を出したらどうなるかどこぞののバカにしっかりと学習させてやらないといけないし、何より……」

 

『何より……?』

 

 

響はダインスレイフからの問いに少し間を空けてから口元を歪ませて答える。

 

 

「主犯格だっていうことを忘れて自分から捕まりに行ってるのに気づかないのさぞかし滑稽だなぁ……って」

 

『……お前、性格悪くなったなァ』

 

「なんか言った?」

 

『いや、なんでもねェよ……(これ俺のせいかァ?)』

 

 

このことがきっかけで、政府に今回の事件が露見するという事態が発生した。そして、男は政府で情報を吐いた後安らかな顔で気絶。国営病院の隔離病棟で治療と拘束、そして尋問を同時に受けることになる。もちろん、響の知るところではないが。

 

響は男を見送ると、屋敷の方を振り返り……扉を蹴破った。

 

 

「……お邪魔しま〜す。うっわ……中までこんなに豪華……」

 

『昔の契約者が出向いた屋敷にもあったなァ……いかにもクソ野郎がいる屋敷っていうのはいつの時代にもあんのかァ……』

 

 

大きなシャンデリアに絵画、ところどころに金の装飾がなされている内装に、思わず口に出してしまった響。

 

 

「ここの主人を出して。10分以内に連れてこないと……ね?」

 

 

人の姿が見えない空間に、響は少し大きめの声で語りかける。すると、どこからか物音が聞こえてきた。おそらく隠れていた者が呼びに行ったのだろう、と響は判断しその場で待つ。6分ほど待つと、大きな階段より1人の肥満体型の男が出てきた。

 

 

「貴方が今回の主犯?」

 

「立花……響……」

 

 

男は驚いたように響の名前を呼ぶ。

 

 

「全く……自己紹介もできないんだ……そう、私が立花響。お前が捕らえるはずだったただの高校生だよ」

 

「くっ……奴らめ……しくじりやがったのか!!護国の恥さらしどもめ……」

 

 

男は悔しそうに、先ほど響が倒した男たちを貶す。

 

 

「ねぇ……なんでわたしだけを狙わないの?一般人まで巻き込んで何がしたいの?」

 

「はんッ!!一般人だと?我々が護るべきは国だ。国がなければ民も存在し得ない。国のために死ねるのなら本望だろう?」

 

 

まだ、私欲のためと言いださないあたりマシだがそれでも響は不機嫌そうにしている。

 

 

「国ためなら……人をも殺すの?ノイズみたいに?」

 

「ノイズゥ?知ったことか、あの忌々しき突起物がまともに動かないから人が死ぬだけのことだ。……あぁ、そういえば貴様、2年前のツヴァイウィングのライブ会場に居たんだったなぁ……」

 

『おい、ヒビキ聞くなッ!!』

 

「……」

 

「風鳴の血を宿す防人があのザマだ。それと……天羽奏もなぁ……護国の鬼となることも叶わずに死にゆくなど……全く持って役に立たない連中だ」

 

「……」

 

 

男は饒舌に、なおかつ響の反応など見ずにただただ喋り続ける。

 

 

「護国の役にも立てなかった女共のせいで貴様も被害を被ったのだろう?そして手に入れたそのチカラ……突起物なんぞではなく我々とともに護国のために尽くそうではないか」

 

「……12874人」

 

「……あぁ?」

 

「この数字が何か分かる?」

 

「……知らんな」

 

 

男は興味がなさそうに吐き捨てる。それを見た響は『呪い』を可視化させながら少しづつ放出する。

 

 

「……死者、行方不明者合わせて12874人、これがあの日に失った命の数。なんで覚えてないの……」

 

「覚えて何になる? まさか一人一人に冥福を祈れとでも?……時間の無駄だ」

 

『ヒビキ、聞くだけ無駄だァ。早く処理しろ!!』

 

「ダインは黙ってて。……護国護国って、そんなに国だけが大事?この国にはそんなのしかいないの?」

 

 

響は憤怒に顔を歪ませ、震えながら聞く。

 

 

「知ったことか。腑抜けた政府の奴らなんぞはなぁ。奴らが行動しないからこそ、我々が成し遂げるしかないではないか。護国をッ!!」

 

 

両腕を広げ天を仰ぎながら叫ぶ男。その顔は響とは違った方向に歪んでいる。

 

 

「こんな奴が……未来まで巻き込んで、知ったことかだなんて……あぁ……時間の無駄だったじゃん。……イっちゃえ」

 

 

響の全身から出ていた『呪い』が幾つにも枝分かれして様々な方向に向かって行き……ナニカを穿った。

 

 

「なッ!?我が精鋭部隊がッ!!」

 

「……なんで最近ロクなことがないんだろう。出て来るんだったらノイズだけにしてよ……本当にもぅ……ふざけやがってッ」

 

 

黒服の男たちが10人単位で転がる。全員等しく響の『呪い』によって意識を刈り取られた者たちだ。

 

 

「何故……何故理解できない!!その力は、我らが国のために振るわれるべきものであろう!!」

 

「さっきの奴とおんなじ事言って……語彙力ないの?」

 

「ヒッ、ヒィィィ!!!!」

 

 

さっきまでの威勢のいい態度は一体どこへ行ったのか、男は腰を抜かし己の運命を悟っている。

 

 

『ヒビキ……落ち着け』

 

「落ち着いてるよ……もう激情がどっか行っちゃった。未来、ちゃんと部屋まで行けたかなぁ……もし未来に何かあったら私、コイツら殺してたかも」

 

 

響もそんな男の様子を見て興味をなくしたのか、地面のタイルをダインスレイフで一枚ずつ剥がして遊んでいる。

 

 

『ヒビキ……?できれば俺をこんな事に使わないで欲しいんだがァ……』

 

「あっ、確かに。じゃあ……こうしよ」

 

 

響は『呪い』を器用に使ってまたタイルを剥がし始めた。もはや、第3、第4の腕のようなレベルの練度である。

 

 

「な、何が目的だ……?わざわざ私の屋敷まで来たのだ……何か目的があってのことだろう!?」

 

「……目的ねぇ。もうすぐ、果たされるからそこでおとなしくしてれば?」

 

「……私はこのような場所で終わる人間ではない!!まだ、護国は果たされていないのだ!!」

 

「うるさいなぁ……んっ、来た」

 

「はぁ……?貴様いったい何を……「響くんッ!!」ヒィ!?」

 

 

響が何かに気づき扉があったはずの場所から外を見る。すると……

 

 

「待ってましたよ、風鳴弦十郎さん。きっとあなたが来ると思っていました」

 

 

赤いシャツを着た、筋骨隆々の男……二課の司令である風鳴弦十郎がやってきた。後ろには、政府の特殊部隊と思われる人員までいる。

 

 

「響くん……剣を納めてくれないか?俺は君と戦いに来たわけじゃない」

 

「それは、展開次第です。私には……コイツの処理もありますから。風鳴翼さんは来なかったんですか?……いや、今私と対面させるのは得策ではないですね」

 

「そういうことだ。だからこそ、俺がここまで出張ってきたんだからな」

 

 

響と翼、そしてネフシュタンの少女との三つ巴とも言える戦いで、翼は響からトラウマ級の精神的ダメージを受けた。回復こそし、本人も乗り越えたと言って聞かないが本能的な部分では分からない。弦十郎は、それを危惧して翼を呼ばなかったのだ。

 

 

「そういえば、私が送った黒服さんの1人は無事到着しました?」

 

「ああ、状況をひとしきり伝えた後気絶し治療と拘束を受けたと情報が入ってきた。全く……厄介なことをしてくれたな?」

 

「仕方ないじゃないですか。私1人だったらまだ気絶で済ませますけど……未来も……私の親友も巻き込まれましたから。腕の一本や2本……それから普通の生活くらいは覚悟してもらわないと」

 

 

男の末路を聞き、少し機嫌がよさそうに喋る響。ただし……その声には、明確な怒気がこもっていた。

 

 

「大体の事の顛末は聞いている。……だからこそ響くん、君に政府からの言伝を伝える」

 

「ええ、それを待っていました」

 

 

弦十郎は少し響に近づき、喋り出す。

 

 

「今回の事件は明らかに我々政府に問題があった。これからは役人全体によく言い聞かせておく。情報は粗方抜き出し、原因も把握したので今回の主犯である()()()の処遇を一任する。表には公表されない内容のため、好きにするといい。というのが、分かりやすく俺がまとめた内容だ」

 

「……わぁ〜お。思ってたより破格ですね」

 

「正直なところ、俺もそう思う。上層部は君の扱いになかなか揉めたようだ。その結果が……」

 

「放置して安寧を得ようというわけですか。ついでに用済みの役人の始末も任せると。……調子がいいですねぇ。私的には願ったり叶ったりですけど」

 

 

下手に突っついてさらなる被害を生むよりも当たり障りのない位置から監視するだけに留めたようだ。しかも、主犯の扱いを響に委ねることによって政府の手間を一つ減らし、政府の膿を一つ間接的に排除する……響にとっては好条件の内容のようだ。

 

 

「……二課としても、君とは良好な関係を築いていきたいと思っているのだが」

 

 

弦十郎は少し遠慮気味に響に言うが……

 

 

「却下です。そういうのはあの剣に任せればいい……それで、貴方はどうするんですか?」

 

「ああ、伝えることは伝えたからなぁ……此処は一課に任せるとしよう。ただし、君の行いを見届けさせてもらおう」

 

「……コイツの処理ですか。そうですね、見てもらいましょう」

 

「ヒィ……!!」

 

 

弦十郎は腕を組み、響にそう言った。響も了承し、腰を抜かしている男を睨みつける。男は悲鳴をあげながら、這うように後退していく。

 

 

「この人なんか、護国護国ってうるさいんですけど……なんか知りません?」

 

「護国……?まさか……すまない響くん、もしかするとウチの家系が一枚噛んでいるかもしれん……いや、確実に関わりがあるだろう」

 

「家系というと……風鳴?」

 

「ああ、少しややこしい事情があってな……二課にもう一度所属することを考えてくれるなら、答えようと思うが……もちろん君はそんなこと興味ないだろう?」

 

「ええ、私はコイツさえ壊せればそれでいいので(……二課に関わりはなさそう。別にどうでもいいけど)」

 

 

弦十郎は眉間を抑えながら憔悴した顔で話している。よほどの大事があったのだろう。

 

 

「わ、私をどうするつもりだ……?」

 

「ん〜?うーん……あっ、実験台になってもらう」

 

「実験台……だと?」

 

 

響は、男からの問いに狂気の笑顔で答えた。

 

 

「強いて言うなら……技をね。私のはじめての、ちゃんとした技。ノイズにも通用するものだから、運が悪かったら死ぬかもね」

 

「ヒッ……ヒィィ!!!!」

 

 

明るい声で放たれる死刑宣告に、男の恐怖心は限界を迎えた。いつのまに治ったのか、男は屋敷の奥に向かって走り出す。

 

 

「さぁ!!綺麗な花を咲かせようじゃないか……ダインッ!!」

 

 

響の握るダインスレイフより、普段より遥かに大きくドス黒い『呪い』が溢れる。

 

 

『任せなァヒビキ。俺としても、嬢ちゃんを巻き込むのは良くねェからなァ……俺の分も持ってけェ……』

 

「未来を巻き込んだんだ……処罰は行わねばならない!!」

 

「むっ……これは……全員退避だッ!!巻き込まれるぞッ!!」

 

 

響は叫ぶと、床に向けてダインスレイフを突き刺す。すると……『呪い』が床から広がり逃げる男を凌ぐスピードで追いかける。『呪い』の広がり方を見た弦十郎は、特殊部隊の面々と共に外へ退避した。

 

 

「いやだいやだいやだいやだぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!!」

 

「イっちゃえ♪」

 

 

『PETASITES JAPONCUS 』

 

 

「ぎゃあぁぁぁぁあぁぁあ!!!!」

 

 

男に追いついた『呪い』は、足元から全身へ駆け上り……男をその内側へ取り込んでいく。

 

 

「だれか……たすけ……t」

 

 

男が完全に『呪い』に取り込まれるとその『呪い』の蕾のような形をとり、まるで花が開花するかのように……爆ぜた。

 

 

「クフフッ……♪ アッハッハッハッハッ!!良いねぇ!!最高だよダインッ!!また一つノイズを殲滅する楽しみが増えたよ!!」

 

『……そりゃア、良かったなァ』

 

「一体……何が……」

 

 

『呪い』の爆心地とも言えるその場所は、ドス黒い靄がかかりよく見えない。しかし弦十郎は、響の声やその身に纏う雰囲気より()()が成功したのだと悟った。

 

 

「おっと……結果も最後までちゃんと見ないとねぇ……?」

 

 

少しずつ靄がダインスレイフに戻っていく。響が意図的に戻しているこの『呪い』は、一度ダインスレイフの中に戻して仕舞えば再使用が可能なのだ。

 

靄がその場から消えるのを確認した響は、改めてその場所を見つめる。そこにいた……いや、あったと言う方が正しいだろう。そこにあったのは……

 

 

「あーあ、あれじゃ戻っては来れないね」

 

「……これほどとは」

 

 

髪が白く染まり、皮膚も蒼白、その目は焦点があっておらず口からは唾液が垂れている。明らかに異常な状態だ。逆に、あれだけの衝撃を受けて五体満足であることが奇跡だと言える。この男の意識はもう現世には帰ってこれないだろう、そう弦十郎が思ってしまうほど、響の『呪い』の出力は凄まじかった。

 

 

「……んふぅ。んじゃ、私帰るんで後片付けはお任せしますよ」

 

「なッ……いや、引き止めるべきではない……か。響くん、その内二課の地下深くにある完全聖遺物『デュランダル』を輸送する手はずになっている。もしかすると、このあいだのネフシュタンの少女が現れるかもしれない。参戦するのであれば……翼を頼む」

 

 

弦十郎は、玄関から出ようとする響に向かってまだ決定されたばかりである重要機密を話す。単に心強い増援が欲しいだけなのか、響や翼の関係を案じているのか……風鳴弦十郎の人となりを知る者ならば答えはすぐに導き出されるだろう。

 

 

「……あんな事があったのに私にそれを頼むんですかぁ?意味がわかりません」

 

「フッ……今は分からなくてもいつかわかる時がくるさ。それを提示してやるのも、大人の務めだ」

 

「……馬鹿みたい。その甘さは、いつか足元を掬われますよ」

 

「性分だからなッ!!掬われないよう鍛錬もしてきた……映画でなッ!!」

 

 

腕を組み、ドヤ顔で弦十郎は言い放つ。響は困惑しながらも、興味がなさそうに返す。

 

 

「映画……?ふん……勝手にしてください」

 

「またなッ、響くん」

 

「ッ……」

 

 

響は何も返さない。また会おうという気がないからだ。そのまま……響は走り去って行ってしまった。

 

 

「反応はしてくれた……それだけでも、一つ進歩だろう」

 

 

昔、救えなかったバルベルデの少女の事を思い浮かべながら弦十郎は独りごちる。

 

 

「響くん……君が歩むのは修羅の道か……それとも……」

 

 

弦十郎の言葉は……少女には、届かない。




「未来未來ミクみくみくみくみくみくぅーーーーーー!!!無事でよがっだ〜〜!!!」

「えっ……ちょっ……響?……きゃっ!?」


寮の自室に戻った響は、一足先に創世、詩織、弓美の部屋から戻っていた未来に向かって飛びついた。その勢いで共に倒れてしまった未来は……驚きながらも、響を抱きしめ返した。


「響が無事で……本当に良かった……」

「みぃ〜ぐぅ〜〜!!!!」




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天下の往来独り占め作戦

とある親切な読者様に教えていただいて、歌詞掲載のガイドラインを確認した所、少々禁止行為に当たりそうな箇所がありましたので修正しました。

それではお楽しみください。


9話

 

 

〜小日向未来〜

 

 

私を陽だまりと呼ぶ親友……立花響は、私といる時以外いつも影が差しているようだ。いつからだったかな……響が、普段より私といる時間が多くなったのは……

 

 

「ねぇ未来……明日なんだけど……」

 

「どうしたの響?」

 

 

最近、怖い人たちに絡まれた私達を響は一人で迎え撃った。私には、ダインスレイフさんのような力はない。友達の部屋に逃げることしかできなかった私は……いつも響の背中を見ていた。

 

 

()()……行ってくる。今度は午前中からだから、あんまり遅くならないと思うけど……晩御飯はいいや」

 

「……そっか、響にしかできない事だもんね」

 

 

ウソだ……行かないでほしい。どうして自ら死ぬかもしれない現場に飛び込ぶの……?いや……分かってる。響がどれだけノイズを憎んでるか私なんかじゃ測りきれないってことは…… 私はまた、響の背中を見送ることしかできないのだろうか……こんな自分が、たまに許せなくなる。

 

 

「うん……もぅ未来!!そんな辛気臭い顔しないの。今までだって大丈夫だったでしょ?いつも通りパパッとやってくるだけだよ」

 

「そ、そうだよね。響は強いもんね!!響のいるところにノイズなし、みたいな」

 

「あははっ!!確かにその通りかも!!」

 

 

あぁ……私が響を気にかけないといけないのに、何故か私が心配されている。今は偶々、誤魔化せたけど……

 

 

「ノイズだってなんだってぶっ飛ばしてくる。そして、未来のいるこの部屋に帰ってこれることがいつも嬉しいんだ。だから……今日は一緒にいてくれる?」

 

 

ッ……そうだ。確かあれは中学二年生の時、私が響と一緒にいるからってイジメられてた時だ。あの時は響が助けてくれた。その後も……何回も何回も……そしてそのうち、いじめられなくなったんだ。響の方が、私よりもずっとひどいことを言われて、されてきたのに……気づいたら、響にも私にもそういうのがなくなっていた。そして、次第にそういう人達が学校に来なくなった。

 

 

『響ッ!!どこ行くの?』

 

『ちょっとね……ねぇ未来、私さ……未来と同じ時間を過ごせることが嬉しいんだ。だから……これからも一緒に居てくれる?』

 

 

中学の時にも同じ……少し儚げな表情で、まるで叶わない願いを望むような声で……響は私に言った。そっか……イジメの主犯達をどうにかしていたのは……響だったんだ。私と一緒にいるために……

 

 

「『もちろん!!今日も……これからも……私たちはずっと一緒だからッ!!』」

 

 

一緒にいたいと思うのは響だけじゃない!!私だって……でも……私だけは……あの頃から変わっていない。

 

 

 

 

〜翌日〜

 

 

 

 

「ノイズが出るであろう場所はわかる。でも……」

 

『ちと……遠すぎるなァ……』

 

 

いつもの真っ黒なパーカーに長いズボンを履いている響はいつも通りバイザーを付けて、全く車通りのない高速道路を見つめている。

 

 

「ねぇダイン、()()ってあの棒で操られてるノイズを対象に取れるの?人為的の出現したノイズを察知するとか、正直意味がわからないんだけど……」

 

『さァな……最近『呪い』の扱いの練度が上がっているから言うがァ……俺の中にある、『ノイズを恨む奴ら』の『呪い』が震える時にその方向に行けばノイズが出現って言う仕組みだァ。お前の場合、個人でもそれが可能なんだろうよ』

 

「いや答えになってないし、それが聞きたかったんじゃないんだけど……まあいいや」

 

 

ダインスレイフもはぐらかしているつもりは無いのだろうが、いまいち響には伝わっていない。

 

 

「ネットのマップで調べたけど……だいたい薬品工場あたりだね。いつも周囲には気をつけて戦ってるけど……あの白いコスプレ女と風鳴翼さんの流れ弾で大爆発が起きる未来が見える……」

 

『確かになァ……だがァ、今回あの女が出てくるんだったら目的はおそらく……アイツが言っていたデュランダルだろう。それがぶっ壊れるようなことはしねェさァ』

 

 

いつも以上に施設や建物に気をつけて戦わなければいけないことに響は面倒臭さを感じる。つい先日、翼の『天ノ逆鱗』を目にした響ならそう思うのも当然だ。地面に大きすぎる切れ込みができたのを見たのだから。

 

 

「うぇぇ……面倒だなぁ……なんか移動に優れたこと出来ないの?」

 

『アァ?俺がそんなに万能に見えるかァ?』

 

「見える」

 

『そんなにストレートに言われてもなァ……『呪い』を羽っぽくやれば飛べるんじゃねェかァ?』

 

「絶対適当に言ってる……あっ、出来た」

 

『ウソだろヒビキ!?』

 

 

投げやりなダインスレイフの言葉を信じていない響は、疑いながらも背中に『呪い』を定着させる。真っ黒な羽のようになったその『呪い』を操り響がはためかせると……体が浮いた。流石のダインスレイフもできるわけがないと思っていたようで、珍しく大声を上げて驚く。

 

 

「おぉ〜、私飛んでる。仕組みとか全然わかんないけど、これなら早いし飛んでるノイズにも攻撃が当てやすい。……じゃあ行きますか」

 

『契約した時から歴代最高の適正だとは思っていたがァこんな簡単にするとは思っていなかったなァ……まさか』

 

「ん……?どうしたのダイン」

 

 

ダインスレイフは喋らない。聞こえてはいるのだろうが、何をしているのか響にはわからない。

 

 

「ダイン?」

 

『すまねェ。少し確認することがあったんだァ……(まさか、昔に空を飛べる聖遺物を持ってた契約者を無意識に再現するとは思わねェよ……そういやアイツ、なんだって『イカロスの翼』なんて持っていやがったんだァ?)』

 

 

ダインスレイフは昔の契約者を思い出す。他の聖遺物を持ち、破壊衝動を打ち破って戦争で圧倒的な力を見せた契約者の一人を。

 

 

『最高速度はどのくらいだァ?』

 

「……今くらいが限界かな?思ったより消費が激しいから」

 

『無茶すんなよォ……(飛べるだけかァ……まだマシ……いや十分すぎる)』

 

「ん?……あの場所か。降りよっと」

 

 

薬品工場に到着した響は、一つの建物の上に降り立った。

 

 

「……あとは待つだけ。ダイン、今回の優先順位は?最善じゃなくて、私にとって最も利があるように動くんだったらどうすればいい?」

 

『……デュランダル奪取のために出てきたノイズの殲滅だなァ。鎧の女を優先してもいいがァ……この前みたいにノイズごと……なんてのがあり得る』

 

「分かった。あの棒を奪えばいいんだね?」

 

『……俺に聞く意味あったかァ?最初から決めていたクセによォ……』

 

 

冷静な判断を無視する響に、ダインスレイフは少し声を荒げる。

 

 

「いやいや、参考になったよ。あの棒を奪えなかった時のための保険案は欲しかったから」

 

『だとしても……保険かよォ……』

 

 

少し落ち込んでいるようだ。聞こえてくるその声は少し弱々しい。

 

 

「ふふふ……こんな時間にここまで来たんだから、成果だけは持って帰らなくちゃね」

 

 

響は、にやけ顔で二課本部の方を見つめる。黒い翼をはためかせながら笑うのその姿は、まるで堕天使のようだ。

 

ちなみに現在、午前4時50分。作戦開始まで後10分である。聖遺物との融合により睡眠を取る必要が薄れてきた響はこの時間でも余裕で起きていられる。

 

 

「うーん……早くこないかなぁ……」

 

 

 

 

〜二課side〜

 

 

 

 

「作戦開始はもうすぐね翼ちゃん♪調子はどう?」

 

「問題ありません。いつでも行けます」

 

「病み上がりなんだから、無理しちゃダメよ?」

 

「無理などしていません。私の体に異常がないことは櫻井女史が一番よく分かっているのでは?」

 

「そうなのよねぇ〜……そこが一番謎なのだけれど、今はお仕事に集中しましょうか♪」

 

 

サクリストD、完全聖遺物デュランダルが入ったアタッシュケースを持った了子は、ヘルメットを被った翼と話していた。

 

 

『2人とも準備は出来てるな?』

 

「ええ、いつでも行けるわ。弦十郎君」

 

「問題ありません司令」

 

「うむ。では作戦開始だ!!」

 

「もう!『天下の往来独り占め作戦』だって言ってるでしょ!!」

 

「……翼、病み上がりは無理はしないように」

 

 

通信機越しに弦十郎のため息が聞こえる。司令的にはあまり好ましく無いようだ。なんとも締まらない感じで始まったが、了子と翼は真面目な雰囲気でそれぞれの車両に乗り込んだ。了子は車で、翼はバイクで、封鎖した高速道路を駆け抜ける。

 

 

「ッ!!道が崩れてッ!!」

 

 

翼は了子の車両の左斜め後ろを走行している。しかし、突如として道路の左側が崩れ落ちた。

 

 

「翼ちゃん、避けて!!」

 

「くっ……Imyuteus amenohabakiri tron」

 

 

了子はすぐにハンドルを切り難を逃れる。反応できなかったSPの車両が落ち、爆発してしまったが翼はすぐにギアを身に纏いバイクを乗り捨て了子の車両に飛び移る。

 

 

「翼ちゃん、私のドラテクは凶暴よ!!」

 

「重々承知しています!!」

 

 

そんな時、マンホールから水が溢れSPの車両を吹き飛ばす。

 

 

「まさかッ……地下に敵がッ!?」

 

『ああ!!ノイズは下水道を使って攻撃している!!』

 

「ぶつかるッ……」

 

 

了子は、弾き飛ばされた車両がこちらに向かってきているのを確認しギリギリでハンドルを切った。

 

 

「くっ……櫻井女史、もう少し余裕をもって……へぶっ」

 

 

了子の車両が、飛来物を避けた先にゴミのバケツがありぶつかった衝撃で飛んできたビニール袋が翼の顔に張り付いた。

 

 

「弦十郎君、ちょっと不味いんじゃない?この先の薬品工場で爆発でも起きたら……」

 

『分かっている!!敵の手腕から……ノイズがデュランダルを傷つけないように制御されていると見える!!』

 

「チッ……」

 

『狙いがデュランダルなら、敢えて危険区域に飛び込むことで敵の攻撃を封じるという算段だ!!』

 

 

上空のヘリよりダイレクトで指令を飛ばす弦十郎。その言葉にはどこか自身が感じられる。

 

 

「勝算は?」

 

 

了子の当然の疑問に対する弦十郎の答えは……

 

 

『思いつきが数字で語れるものかよッ!!』

 

 

その後、マンホールより飛び出してきたノイズにSPの車両が破壊されていく。SPたちは間一髪で車から飛び降り難を逃れているが、乗り捨てられた車両は建造物にぶつかり大爆発を起こす。その様子にノイズも手が出せないでいる。

 

 

「司令、狙い通りです!!はッ!!」

 

 

翼も、了子の車両の上からできる限りの攻撃を行い近づけまいとしている。

 

 

「ッ!!ネフシュタンの鎧……」

 

 

別の建物の上では、ネフシュタンの鎧を纏う雪音クリスが待ち構えている。時を同じくして……

 

 

「やっと来た……クフフ……」

 

「立花響……」

 

 

街中を散歩するかのような自然体で歩いてやってきた響。いつかの夜に三つ巴で戦った3人が集結した。

 

 

「避けきれない……翼ちゃんッ!!きゃッ!?」

 

「櫻井女史!?……間一髪」

 

 

車両は横転し、了子とデュランダルは投げ出されるが無事なようだ。

 

 

「悪いが今回の目的は立花響……お前じゃねぇ。どいてな」

 

「別に私はデュランダルなんてどうでもいい。ノイズのいるところに私あり。私のいるところにノイズなし。そして……私の邪魔をする雑音は排除しなくちゃならない」

 

「ッ……体が震える……武者震いなのかそれとも……私が立花に恐怖しているのか……それでも……この切っ先に迷いはない!!」

 

「……青春してるところ悪いんだけど……翼ちゃんはこっちの護衛をお願いするわ。響ちゃんはノイズの殲滅。適材適所ってやつよ〜」

 

 

3人が睨み合っている中で、了子はデュランダルのケースを傍らに言う。

 

 

「言われなくても分かってる。私に命令するなッ」

 

「チッ……やっぱ先にコイツからか……後悔するんじゃねぇぞ!!」

 

 

響が、ノイズを倒しながらクリスに肉薄していく。クリスも『ソロモンの杖』でさらにノイズを増やし、自らも切り込んでいった。

 

 

「櫻井女史……ここは一旦この場を立花に預けて、私たちだけでも行きますか?」

 

「いいえ、移動手段なしでは流石に無謀よ。響ちゃんがネフシュタンの子とノイズを撃退するのを大人しく待ったほうがよさそうね……」

 

「承知しました。では……はぁッ!!全力で護衛させていただきます」

 

 

了子の車両も横転していて今すぐ動かせる状態ではない。翼は了子を守るように立ち、今なおデュランダル狙っているノイズ向けて剣を構えている。

 

 

「Balwisyall nescell gungnir tron……本気で相手をしてやる」

 

「はんッ……あたしとノイズの攻撃を受けきれなかったからだろ?てめぇみたいに大きな力を持つ奴がいるから……戦争は無くならないんだよ!!」

 

 

『NIRVANA GEDON』

 

 

「それはもう見た……ブチ抜いてやるッ」

 

 

響は左腕を引いてパワージャッキを引き絞る。そして……

 

 

「はぁッ!!」

 

「なんだとッ!?うぐッ……」

 

 

思い切りふり抜かれた響の左腕は、クリスが放ったエネルギー弾にあたり弾け飛んだ。さらに威力が高すぎるせいか、響の前方にいたノイズも消し飛びクリスも風圧で動けないでいる。

 

 

「怯んだその一瞬が命取り……鎧が治るんだったら……『痛み』を直接打ち込むッ!!」

 

 

脚部のパワージャッキが絞られ、弾かれたと同時に響はクリスの認識を超える速度で突進し、その腹に両手で撃ち込んだ。

 

 

「みえn……がぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 

吹っ飛ばされたクリスは建物の壁までぶっ飛んだ。

 

 

「ぐッ……コイツ……体に直接衝撃を……あの剣を使うまでもねぇってのか……うぐぁ!!」

 

 

砕かれた腹部のパーツが修復されていき侵食に顔を歪めるクリス。

 

 

「クソッ……(早く決めねぇと体がもたない……) 仕方ねぇ……これでどうだッ!!」

 

『『『%/*#@¥%*£※』』』

 

「大型が三体……しかもちっこい雑魚まで……これは流石に難しいかな……ダイン」

 

 

クリスは不利だと悟ったのか、ソロモンの杖で緑色の巨大な人型ノイズを二体、怪獣のような黄色の大型ノイズを一体、そして先ほどを超える量のノイズを呼び出した。流石の響もこの量はきついのか、ダインスレイフを呼び出した。

 

 

「あの子……目的を忘れてないでしょうね……」

 

「櫻井女史、何かありましたか?」

 

「なんでもないわ〜、やっぱり響ちゃんの戦闘は見応えがあるな〜っと思ってねぇ」

 

「……否定はしませんが、同意も出来ません」

 

 

何かをつぶやいた了子に翼は問いかけるが、了子はうまくはぐらかしたようだ。

 

 

「ダインやるよ……絶対に〜離さない この握った手は〜♪」(呪槍・ガングニール)

 

「ぐぅ……今更シンフォギアを纏ったところでぇぇ!!」

 

「こんなにほら……頼もしいんだ……キミの作る温もりは〜♪」

 

クリスの鞭の刃での攻撃を響はダインスレイフで弾く。そして脚部のパワージャッキで大型ノイズの元に飛んだ。

 

 

「優しい心なんて……使えはしないッ!!」

 

 

人型の真上まで来た響はもう一度パワージャッキで真下の緑の大型ノイズに向けて加速。『呪い』を纏わせたダインスレイフで切り裂き消滅させた。

 

 

「今……わかる〜♪共鳴するCurse chains!!」

 

 

『CURSE CHAINS』

 

 

『……思い浮かんだ歌詞をそのまま技として採用するのは安直じゃねェかァ?』

 

 

響が足を片足を踏み込むともう一体の人型ノイズの足元から『呪い』で形作られた鎖が現れ、ノイズを拘束した。技名に関してはダインスレイフは不満のようだが……

 

 

「あの巨体を一瞬でッ!?」

 

「ぐっとぐっとみなぎってく……とめどなく溢れていく〜♪」

 

 

響がそう歌うのと同時に、ダインスレイフと響の体から大量の『呪い』が溢れ出しあたりの小型ノイズを破壊していった。

 

 

「交わし合いたい言葉が……キミと共に……さぁ!!(ダインッ!!)」

 

『フッ……かましてやろうじゃねェかァ!!』

 

「何か来るッ……仕方ねぇ!!」

 

 

響はダインスレイフに呼びかけてさらに力を解放する。目標は残り一体となった怪獣型の大型ノイズだ。その様子にクリスも警戒の色を強め少し下がった。

 

 

「『ぶっ飛べッ!!この激情をォォォォォォォ!!!!』」

 

 

『HEPATICA』

 

 

周りを一切気にしない、ダインスレイフと響の同調によって放たれる極太のレーザー。それは響の直線上にあるものを全て飲み込み消し飛ばしていく。怪獣型の大型ノイズも拘束されていた大型ノイズも小型のノイズ達も、全てが響達の一撃のもとに消え果てた。

 

 

「なんて威力なの……翼ちゃん……なんていうかその、良かったわね……」

 

「……これが、欠けらではない聖遺物のポテンシャル。何という圧倒的な力……私はアレに挑んていたのか……」

 

「あっぶねぇ……あんなの食らったらいくらネフシュタンでも……」

 

 

響達の圧倒的な破壊力の砲撃の前に唖然とする一同。よく見れば建物にも大きな穴が空いており、どう見ても本来の役割を果たせるようには見えない。そんな時……

 

 

ビー!!ビー!!ビー!!フシュー……

 

 

「ッ!?櫻井女史ッ!!デュランダルが……」

 

「えッ……まさか……響ちゃんの歌で起動したというのッ!?」

 

 

まだまだ戦いは始まったばかりだ……



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暴走と『呪い』

10話

 

 

ビー!!ビー!!ビー!!フシュー……

 

 

 

「ッ!?櫻井女史ッ!!デュランダルが……」

 

「えッ……まさか……響ちゃんの歌で起動したというのッ!?」

 

 

 

了子のそばにあった長方形のケースが自動で開き、その中身が飛び出てきた。サクリストD、デュランダルと呼ばれる完全聖遺物は響の歌によって目覚め、響とダインスレイフの放つ砲撃のフォニックゲインによって完全に起動したのだ。

 

 

「はぁ……はぁ……ダイン……大丈夫?」

 

『アァ……にしても結構『呪い』を使ったじゃねェかァ……お前も消耗が激しいしなァ……』

 

「これくらい……問題ない……ここの施設は問題しかなさそうだけどね」

 

 

響が向いた先には、砲撃のよって削り取られてしまった無残な跡が。薬品工場の端が見えるレベルにまで、くっきりと大穴が空いてしまっている。

 

 

「……アレがデュランダル。完全聖遺物って割には折れてるし石っぽいなぁ……ダインよりカッコ良くない」

 

『アレはまだ基底状態だからなァ……ていうかお前……俺の刀身をカッコイイと思ってたのかァ……(最近の人間に詳しいわけじゃねェがァ……女としてはどうなんだろうなァ……?)』

 

 

ダインスレイフが一抹の不安を覚えている中で、響はデュランダルを眺めて呟く。

 

 

「アレも……私のチカラに……」

 

『ッ……ヒビキ、聖遺物を同時に使用するのは勧めれねェなァ……前の契約者が一度暴走を起こして国が一つ滅びかけたんだよォ……お前のガングニールは、俺の一部として調教してるから大丈夫だがなァ……』

 

「ふぅ〜ん……ダメ?」

 

『そんな物欲しそうな声で言われてもなァ……どうするのかはお前が決めればいい……だがお前は、ソロモンの杖を奪うって決めていただろう?』

 

「……確かに。取り敢えずダインが止めさせたいってことは分かったけど」

 

『お前なァ……』

 

 

ダインスレイフの忠告もあまり意味をなしていないようだ。そして……

 

 

「あのノイズを操る棒切れ、『ソロモンの杖』っていうのね。……後で説明してもらおうかダイン?」

 

『げッ……やらかしたなァ……俺の馬鹿野郎……』

 

「アレがデュランダルか……もらってくぜ……」

 

 

響によるダインスレイフへの尋問が決まった瞬間だが、その合間に目的のモノを見つけたクリスは、デュランダルに向かって飛びつく、しかし……

 

 

「デュランダルは渡さない!!」

 

「チッ……そういえばいたんだったなぁ!!」

 

 

了子の近く、つまりデュランダル付近にいた翼がそれを許すはずもなく、クリスに斬りかかる。クリスも気づき刃の鞭にて応戦。そのまま戦場を変えていった。

 

 

「あらら……翼ちゃん行っちゃったわね……それにしても、まさか響ちゃんの歌で起動するなんて。まだ基底状態のままだと言っても……もしかしたら」

 

 

デュランダルを見上げている了子は少しだけにやけると、その()()()を叶えてくれそうな人物を探す。

 

 

「見つけた……響ちゃ〜ん、ちょっとい〜い?」

 

「……なんですか櫻井了子さん?」

 

「あらやだ他人行儀ねぇ……もうちょっとフランクでイイのよ♪裸も見た仲なんだし♪」

 

「ふざけたこと言ってると、その頭に乗ってる団子ぶち抜きますよ?それと裸になったのは検査のためであって、しかも貴女が剥いだんじゃないですか。それよりも要件を。私は早くアレに加わりたいんですよ」

 

 

響は早口で、吐き捨てるように了子に告げる。その頰には若干赤みが見えるが……

 

 

「辛辣ねぇ……まぁいいわ。あのサクリストD……デュランダルって言った方がわかりやすいわね。浮いちゃってて私じゃ届かないのよ〜。穴が空いちゃってるけど、納めないよりはましだからこのケースに収納したいの。取ってきてくれないかしら?」

 

「なんで私が……風鳴翼さんにやらせればいいじゃないですか……」

 

「戦闘中だし、戦ってる人が途中で変われば嫌でも何かあるって思われちゃうでしょ?」

 

「……一理はある」

 

 

了子のお願いをどうしても聞きたくはないらしいが、最もなその説得に響も聞く耳を持つ。時折デュランダルを取ろうと了子が必死にジャンプしてその豊満な胸が揺れ、また響が赤面するということがあったが……

 

 

「……仕方ない……貸し一つですよ」

 

「えぇ……お願いね」

 

 

すでにデュランダルに目線を向けていた響は、了子が狂喜に顔を歪ませていたことに気付くはずもない。しかし……響が持つダインスレイフの『目』は剣の柄にあり、それは了子の方を向いている。つまり……

 

 

「よッ……と」

 

『ッ!!ヒビキィ!!今すぐ触るのをやめr……チッ……間に合わなかったかァ……』

 

 

響が少しだけジャンプし、ダインスレイフが叫ぶ途中でデュランダルを左手で持ってしまった……

 

刹那、世界が止まる。

 

 

「えっ……」

 

「デュランダルがッ!?」

 

「チィ……やられた……」

 

「ウフフ……」

 

 

着地した響の手に握られたデュランダルは、金色に輝き、完全聖遺物として覚醒した。しかし響は……

 

 

「ぐぅぅぅうぅぅぅぅぅっぅううぅっぅ!?!?!?(胸が……裂けそう……!!ダインの時とはまた違う……これは……)」

 

 

ーーコワセーー

 

 

謎の声が響に語りかける。

 

 

『ヒビキ?おい……ヒビキ!!』

 

 

ーーコワセ……コワセ……コワセッ!!!!ーー

 

 

響の抵抗は……なかった。

 

 

「……アハッ♪」

 

 

響の体は黒く染まり、誰が見ても明らかな形で暴走している。

 

 

『クソッ……コイツ、一回自分から破壊衝動を受け入れやがったからガードが緩くなったのかよォ……思いっきりやらせるしか……ッ!?このエネルギーはッ……』

 

 

突如としてデュランダルからあふれ出ていた金色に輝くエネルギー が響を包み込む。

 

 

『ハァ……ひさびさに使うか……何千年ぶりだァ?全く……デュランダルのエネルギー様様だなァ……』

 

 

「立花を止めなくては……しかし……」

 

「オイオイ……なんかこっち向いてねぇか?」

 

 

クリスと翼の方向を向いた響。その顔はどこかにやけている。

 

 

「ッ!?早く退避しないと……!!」

 

「クソッ……今回もここまでかよ!!おい人気者ッ、一旦お預けだッ!!」

 

 

クリスと翼が逃げる中、逃がさないと言わんばかりに表情を歪めた響はデュランダルとダインスレイフを()()()()()

 

 

『響のヤツ……振り下ろすんじゃなくて振り切るつもりかよ……クソッ……術式どうだったか……?』

 

 

ダインスレイフが何か準備をしているが、今の響には聞こえていない。

 

 

「アアァァァァァァァアアアァァァアアァ!!!!!!!!」

 

『間に合ったァ!!術式展開……CODE:Mardurk……【ADVENT】!!』

 

 

ダインスレイフが叫ぶと同時に、響の動きが止まる。心なしかデュランダルの輝きも淡くなっているようだ。

 

 

「…………」

 

「……何も……起きない?」

 

「どうなってやがる……フィーネ……?」

 

 

クリスはある方向を向くと……すぐにその場から立ち去った。

 

 

「翼ちゃん……大丈夫だった!?」

 

「櫻井女史!!護衛の任をさし置き戦闘に入って申し訳ありません……」

 

「どっちも無事だったからいいのよ……それよりも今は……」

 

 

2人が響の方を向く。黒く染まった体は、いつものシンフォギアをまとった姿に戻っているのが確認できる。響は両腕と首が下がり、その場で立ち尽くしている。もちろんデュランダルとダインスレイフは手にしたままだ。

 

 

「…………」

 

「ッ……こちらを向いた」

 

「年貢の納め時ってやつかしらね……」

 

 

ゆっくりと響は、翼と了子の元へと歩く。俯いていてその顔は見えないが……暴走時の時の表情とはまるで違っている。響の歩みが2人から2メートルほど離れたところで止まった時……

 

 

『……ふむ』

 

「「ッ!?!?」」

 

「櫻井女史……聞き取れましたか?」

 

「……いえ、発声しているのは分かったけど……なんて言ったのかまでは……(まさか……いや……2年前までただの一般人だった少女がまさか……)」

 

 

響?が口を開いたが……2人には聞き取れていない。

 

 

『……聞き取れていない?術式に失敗したか……?久しぶりだからなぁ……まぁいいか。取り敢えず……』

 

「ッ!!櫻井女史、下がってください!!」

 

「いいえ……翼ちゃん見て……」

 

「えっ?」

 

 

響?がデュランダルを空に向ける。するとデュランダルが金色に輝き出し……

 

 

『取り敢えずこれで眠ってろ。コイツは()()主人だ』

 

 

響?がつぶやいた言葉と同時に、デュランダルより空に向けてエネルギーが放出された。

 

 

「まさか……デュランダルのエネルギーを逃して……」

 

 

数十秒の後、デュランダルより放たれていたエネルギーは少しずつ消え去っていった。

 

 

『……後は任せた……風鳴翼、コイツの事よろしく頼む』

 

「その声は……ッ……立花ッ!!」

 

 

一瞬だけ、翼はその声を認識できたようだが突然倒れ込んだ響を支えることに意識が向き聞くことが出来なかった。

 

 

「……気絶してるだけみたい。取り敢えず、デュランダルも無事ですし弦十郎君に連絡して回収班を呼んでもらいましょうか」

 

『…………無事かッ2人ともッ!?』

 

「「きゃあッ!?」」

 

 

後に、通信機から流れるとてつもなく大きな音に驚いた2人の女性が、とある司令室で赤いシャツを着た大男を叱りつけるという現場をその組織に所属している大多数の人間が目撃したが……皆が温かい目で見ていたようだ。

 

 

『フゥ……今日は良い仕事したなァ……ヒビキもツバサもデュランダルも無事で万々歳だ。まァ……俺のナニカが吹っ飛んだけどなァ……フッハッハッハッハッ!!たまにはこういうのも悪くねェなァ!!……疲れた、寝るか』。

 

 

〜???〜

 

 

「……ここは?」

 

 

意識が戻った響は、その目を開くとよく分からない場所にいた。少し暗い……薄気味悪い雲がかかった荒れ果てた大地。所々に武器の残骸や人間の死体が見える。

 

 

「ダイン…………来ない。『呪い』も……使えない」

 

 

荒廃した大地で立ち尽くす響は力も使えずダインスレイフも反応しない。少し不安になった響は警戒をしながら歩き出す。

 

 

「戦った後……血の匂いもするしそんなに時間も立ってないのかな……それよりも私はなんでこんな所に?確か……デュランダルを握って……ッ」

 

 

……また暴走したのか。口に出しそうになった言葉を飲み込み心の中で反芻する。その表情には少し嫌悪が見える。

 

 

「全く……あの厚化粧覚えてろよ……貸し一つで絞り取ってやる……」

 

 

了子の表情を見ていなかった響は、まだただ頼まれただけと思っている。ぶつくさ文句を言っていた時……

 

 

「ッ……誰!?」

 

 

ナニカの気配に気づいた響は、あたりを見回す。

 

 

「俺に気づけるってんなら多少は出来るじゃねえか」

 

「……上かッ」

 

 

聞こえてきた声の方向……空を見上げると、真っ白な翼を生やした男が空中にいた。ゆっくりと降下してきたその男は、響の前まで来ると……ドカッと胡座を書いて座った。

 

 

「まあ座れや。立ち話もなんだしな」

 

「はっ……ッ!?」

 

 

突如として景色が変わる。戦が終わった後の荒野のような場所から、あまり衛生面は良くなさそうな家の部屋の一室にいた響はさらに警戒の色を強めた。

 

 

「オイオイ人様の家でそんなに……いや、これが普通か?」

 

「普通でしょ」

 

 

そうか普通か……と笑いながら椅子を差し出してくる男に毒気を抜かれたのか、響も椅子を受け取り座った。

 

 

「おっと、自己紹介がまだだったな……俺はラース。魔剣ダインスレイフの契約者()()()男だ」

 

「だった?……私は、響」

 

「ヒビキ?珍しい名前だなぁ……黒髪ってのもだ」

 

「逆に言うけど、私からすれば紅い髪に半裸で翼を生やしてる貴方の方がおかしい」

 

「ハッハッハッ!!違いねぇ!!ヒビキはなかなか良い所をついてくるじゃねえか!!」

 

 

そう……この男、半裸なのだ。かのZENRAよりはましだが、それでも上半身は丸出し。下はしっかりしているが、背中からは艶のある……というかテッカテカの翼が見える。邪魔なのか今は上半身に巻いているようだが。

 

 

「……私を呼んだのは貴方?」

 

「そうさ。今代のダインスレイフの契約者ってのが気になってな。あぁ……俺の意識があるのはダインスレイフ本人も知らないさ。アイツは割と良い加減でたまに抜けてやがるからな」

 

「ふぅーん(ダインって昔から変わってないのね)」

 

 

今の説明では大事な部分が何一つわかっていないのだが、響はダインの情報に少し呆れていた。

 

 

「で、大昔の人が、私に何の用?お前には相応しくないからダインとの契約を解除しろ……みたいな?」

 

「バカ言ってんじゃねえ。アイツが認めた人間が相応しくないわけがないだろ。逆だよ逆……見込みがあるから呼んだんだよ」

 

「……いやもっと意味がわからないんだけど」

 

 

はぁ……。と呆れるようにため息を吐きながら首を横に降るラース。その様子に響も少しイラっときたらしい。

 

 

「『呪い』には自我があるって言ったら、理解出来るか?」

 

「自我……?う〜ん……あぁ、今のラースさんみたいな事?」

 

「正解!!……と言っても、全部が全部自我を持ってるわけじゃねえ。特に強い意志の持つ主が、たまにこうやって死んだ後も『呪い』として生き続けるのさ。他にも何人かいるぞ」

 

「へぇ……」

 

 

お気楽な感じで、喋るラースは響の反応を見て少し不機嫌になる。

 

 

「もうちょっと反応しろよなぁ〜。つまんねぇし」

 

「そんな事私に求めないでよ……」

 

「まあいいか。本当のことを言えばな、お前俺の翼を再現しただろ?」

 

「俺の……かどうかは知らないけど、翼なら確かに作った」

 

「だろぉ?俺的に、仮にも『イカロスの翼』を再現して使ってんだ。あの程度の飛行で許せるかってんだ」

 

「はぁ……」

 

 

大げさに翼を動かして、いかにも気に入らん。と言った感じを出すラースに響は首をかしげる。

 

 

「だからな、今から空中戦で俺と戦ってもらうぜ」

 

「……は?」



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立花響という少女

11話

 

 

「かれこれ6時間……響ちゃんの体には異常は見られないのに、なかなか目を覚まさないわね……あぁ、もちろん彼女の異常な状態の体を基準としてるわよ?」

 

「分かっている。精神的なものか……それとも……」

 

 

響や未来の通うリディアンの地下にある特異災害対策機動部二課のメディカルルームで、弦十郎と了子は眠っている少女について話していた。

 

 

「前にこの子を見たとき、ほとんどわからなかったのが悔しくてちょっと頑張ってみたのだけれど……未知のエネルギーだけを透過させて響ちゃんの体をスキャニングしてみたわ」

 

「……毎度毎度了子くんの腕には驚かされるな。それで結果は?」

 

「これを見て」

 

 

了子が壁のスクリーンにスキャニングした響のデータを大量に映し出す。

 

 

「……すまない。説明してくれ」

 

「ええ、まずはこれ。響ちゃんの体全体のスキャニング画像。全身の体細胞の約72%が聖遺物と融合しているわ」

 

「ッッ!?!?……そんなことが。つまり、彼女は人間か聖遺物で言えば……聖遺物よりとでも言うのか……」

 

「そうなるわね。幸い脳には侵食してないけど……心臓を始めとして肺や胃などの臓器に関しては軒並み融合しているわ。残りの28%は……頭に……あら、下腹部?彼女、思ったより乙女なのね♪」

 

「……聞かなかったことにするが、それでも問題だろう」

 

 

了子が途中からにやけながら説明していたが、弦十郎は触れることがない。紳士的である。少なくとも、眠っている少女の体を残すことなくスキャニングするような女よりかは圧倒的に。

 

 

「えぇ……もしかしたら響ちゃん。食欲がないかもしれないわね。……というか、食事を摂る必要があるのかしら?それだけじゃないけども、()()()()()()()()()()()を必要としないかもしれないわ」

 

「……どういうことだ?」

 

 

了子の推論に弦十郎は首をかしげる。

 

 

「さっき言った通り、彼女は体の大部分が聖遺物と融合している。体を動かすエネルギーをもしかしたら聖遺物と同じように摂取できるかもしれないわ。それこそ、響ちゃんがいつも使っている()()()とか……」

 

「フォニックゲインでも……ということか!!」

 

「そうなっちゃうのよねぇ……脳とかは無事だから、必要なことはまだあるでしょうけどね。今言ったのは私の推論だからあんまり受け止めすぎないでちょうだいね?そうじゃない可能性だってあるわけだし」

 

「だが、そういう可能性の方が多いんだろう?」

 

「まぁ……ね」

 

 

弦十郎の問いに、歯切れ悪く答えた了子。その反応だけで、弦十郎には十分のようだ。

 

 

「あともう一つあったわ。詳しくは翼ちゃんのギアの映像を見てもらった通りだけど、響ちゃんが暴走した時の不可解な言動、謎の言語は何も分からなかったわ」

 

「なんだと?」

 

「事例がないのよ。二課のデータベースにも、弦十郎君と緒川君が極秘裏に見せてくれた風鳴機関の資料にも、全く載っていないわ。私たちの知らない未知の聖遺物、その能力……響ちゃんこそ、聖遺物研究の真のブラックボックスみたいよ」

 

「……それについては追い追い響君に聞いていくしかないだろう。とにかく今は、休ませてやらねばな」

 

「ええ、この子だって疲れてるでしょうし」

 

 

説明を終え了子はデータの片付けを、弦十郎は眠っている響を見ていると……メディカルルームの扉が開き、緒川が入ってきた。

 

 

「司令……ただいま戻りました」

 

「緒川か。お前にしては随分と時間がかかったな。何かあったのか?」

 

「いえ……先程ようやく、響さんの身辺調査が終わったので」

 

「ちょっと、緒川君真面目にやったのよね?こんなに時間がかかるなんてどういうこと?」

 

 

了子は緒川の能力を疑っていないため、遅くなった事に疑問を感じているようだ。。

 

 

「真面目にやりましたって!!それも、隠密班総動員で……それでもこんなに時間がかかってしまったのは、()()()()()()()()()です」

 

「何も……」

 

「なさすぎた……?」

 

 

2人は緒川の言うことの意味が分からなかったのか、言葉を反芻している。

 

 

「えぇ……僕だけの調査に自信がなくなって、途中から人を呼んで照らし合わせを行ったんです。……良い結果は得られませんでしたが」

 

「ふむ……聞こうじゃないか。了子君も意見を聞かせてくれ」

 

「もちろん……響ちゃんに関しては謎が多すぎるものね」

 

 

緒川は先程の了子と同じように、壁のスクリーンに資料を映し出していく。

 

 

「立花響、15歳で9月13日生まれO型。家族構成は、母、父、祖母。祖父はすでに他界していて、父親は2年前のライブ後の生存者に対する世間のバッシングや会社内での諍いなどに耐えきれず家を出て行ったそうです」

 

「……こう言う言い方が良くないのは知っているが、()()()()か?」

 

 

一般的な家庭だが、ライブの生存者には稀にある家庭内の問題。大まかに見れば、響の身辺はありふれたものとなっている。弦十郎はそこに目をつけた。それに対する緒川の答えは……

 

 

「……はい。全員で調べた結果を照らし合わせましたが、全て同じ結果となりました」

 

「海外へ渡航経験や、何処かの遺跡に行った事もないと言うのか?」

 

「まず、飛行機に乗った記録はありませんでした。恐らく、遺跡などもないでしょう」

 

「ますます分からないわね……彼女が聖遺物を所持している理由が。まさか、()()()()()()()()()()()()わけではないでしょうし」

 

 

了子の言うまさかとは、本当にその()()()なのだが、まさかであるからこそ、信じる要因にはなり得なかった。

 

 

「ライブの生存者の家族。補助金の使用も問題は無かったのだろうな?」

 

「はい、問題ありません」

 

 

ライブの生存者に対する、政府から出る補助金。その補助金でさえも、生存者を攻撃する材料となっていたものの一つでもある。

 

 

「「「……」」」

 

 

何も分からない。了子の調査でも、緒川の調査でも、響のことは分からない。その事実に3人は言葉を失っている。

 

 

「……少し聞いてれば、随分と勝手に調べてくれたようですね」

 

「「「ッ!?」」」

 

 

そんな時、ベッドでは目を覚ました響が3人の方を向いていた。

 

 

「起きていたのか……響君」

 

「櫻井さんが説明し始めた頃に目を覚ましましたけどね」

 

「あらら……じゃあ全部聞かれちゃったか〜」

 

 

検査衣を直しながら言う響に、了子はいたずらがバレた時のような反応をする。

 

 

「最近はあまり睡眠を必要としません。食べ物は食べなくても体は動きますが脳が働かないので食べるようにしてます。……これで十分ですか?」

 

「ふむふむ……っと、ええ……ありがとうね」

 

「貸しにしときますね」

 

「……後から言うのは反則じゃない?」

 

「知りません」

 

 

感謝されたと言うことは益になる情報ということ。それは決してタダで与えられる情報ではない。

 

 

「じゃあ、私は帰ります。同居人が待ってるんで、服返してもらっても良いですか?」

 

「待ってくれ響君!!君は……良いのか?」

 

「何がです?……ノイズを潰して回ることですか?二課に所属せずに世界から狙われることですか?体の殆どを聖遺物と融合させることですか?」

 

「全てだ!!分かっているのならどうして……どうして誰かに頼ろうとしない!!我々は大人だ……限度はあるが、君の力にだってなれるはずだ!!」

 

 

弦十郎の叫びは、響には効かない。何故なら……

 

 

「以前に言いました。協力もしないし興味もないと……あぁ、薬品工場の被害については櫻井さんにつけといて下さい。貸しを一つ返してもらいましょう」

 

「えッ!?ちょ、ちょっと待って響ちゃん。流石にあの規模の被害を私1人のお給料じゃ……」

 

「あッ?」

 

「……承りました」

 

 

響の目力に負けた三十路付近の女性は悲しそうに預金を確認しに行った。

 

 

「了子さんを出て行かせたのは何のためですか?」

 

「出て行かせた……?」

 

 

了子がメディカルルームから出て行った後、男性2人が見ていないうちにいつもの服装に着替えた響は、緒川から質問を受ける。弦十郎は気づいていなかったようだが……

 

 

「別に……さっき言ったことは本当です。ただこれだけは言っておきます。あの人が私の害になるようなことをしたと私が判断した時、躊躇なく殺します」

 

 

響の目に本気さを感じたのか、弦十郎のは警戒の色を強める。

 

 

「何故だ?」

 

「初めて会った頃から、ナニカがあると思っていました。さっきだって、デュランダルの回収を私にさせましたし」

 

「……確実性のある証拠ではないな。だが、我々でも調べてみよう。ここだけの話だが、彼女は聖遺物についていささか詳しすぎるからな。我々も気になっていた」

 

「……どうぞご勝手に」

 

 

そう言って響も部屋から出て行く。

 

 

「緒川、2日の休暇を与える。十分に休息を取ってからもう一度了子君を……」

 

「いえ、半日あれば休めますから。それよりも司令……重要な案件が……」

 

「むっ……どうした?」

 

 

緒川が先ほどよりも険しい顔をしている。弦十郎は響の内容よりも重要なことなのかと身構えながら聞こうとするが……緒川は眼鏡をかけた。

 

 

「予定されていた月末の翼さんのライブですが……現在の翼さんのコンディションからして開催可能……司令、どうされました?」

 

「……いや、なんでもない。そうだな……」

 

 

張り詰めていた空気が崩れ落ちた気がした。

 

 

 

 

〜響〜

 

 

 

 

「ダイン……出ては来るけど反応がない……寝てるのかな?」

 

 

一瞬だけダインスレイフを出し、呼びかけるが響の声に応えない。剣の柄を見れば瞳も閉じている。

 

 

「……お昼過ぎか、思ったより早く終わった。こんな所にもいたくないし早く帰ろう」

 

 

響は少し急ぎ足で通路を歩く。そのまま数分歩いた後……

 

 

「……迷った」

 

 

二課の通路は、同じような扉や壁、曲がり角が続いているため迷いやすい。職員ですら迷う者がいるレベルでだ。端末さえあれば地図が表示されるためスムーズにいくことができるのだが、響は端末を二課に返しているためそれがない。迷うのは必然のことであった。

 

 

「司令室まで行ければ……あのエレベーターでとっとと帰れるんだけど……」

 

 

響が言っているのは、司令室に設置されている緊急時用のエレベーターである。外への近道になっているが、Gなどによる負荷が凄まじいため職員は弦十郎を除いて使わない。

 

 

「ッ……立花。何をしているの?」

 

「風鳴翼さん……」

 

 

少しうろうろしていると、出会ったのは私服姿の翼だ。

 

 

「いえ……ちょっと迷っただけです。すぐに帰ります」

 

「強がるんじゃないわ。貴女、地図を持ってないでしょう?だったら無理」

 

「はぁ……この施設、不合理すぎる……」

 

 

翼でさえ、地図なしでは迷うらしい二課の施設に響が呆れるのも仕方がない。

 

 

「……連れて行ってあげる」

 

「はッ?良いですよ別に。地図だけ写真撮らせてください。借りにしときますんで」

 

「なっ……人の好意をなんだと思って……」

 

 

吐き捨てるような響の一言に絶句する翼。翼に対して好印象がない響はこれが普通なのである。

 

 

「それに、二課は公には公開されていない組織……おいそれと情報漏洩の危険がある行為は出来ないわ。黙ってついて来なさい」

 

「チッ……仕方ないか。……じゃあ……おね……がい……します」

 

「人に物を頼むのにそれだけ嫌そうな顔をする人は初めて見たわ……(これはチャンスかもしれない)」

 

 

翼は響の言葉にまたも呆れる。そして、2人は無言で歩き始める。響が2回目に二課に来た時のように翼が前で響が後ろからついていく形だ。

 

……2分ほど歩いた。翼は急に立ち止まるとある部屋に入った。

 

 

「ちょっと入って」

 

「……なるほど、それが狙いですか」

 

 

響はその扉に書かれている文字を見て翼の狙いを見抜き、部屋に入っていく。ただ広いだけの空間に見えるこの場所は、看板にこう書かれている。

 

 

『トレーニングルーム』

 

 

と……

 

 

「寝起きの運動にはちょうど良いでしょう?貸しはこれで無しにしてもらうわ」

 

「良いですよ……私も試したいことがあったので」

 

「……Imyuteus amenohabakiri tron」

 

 

以外にも乗り気な響きを横目に、翼が聖詠を歌いギアを纏う。対して響は、ダインスレイフを出すこともガングニール纏うこともしない。ただ、いつものバイザーのみを顔につけた。

 

 

「早く貴女も武装を出しなさい」

 

「……」

 

「立花……?」

 

 

翼の呼びかけに反応しない響は、目を閉じている。

 

 

「……(蝋を変形させた時のように繊細に……でも素早く……『呪い』を固形化させる)……ッ!!」

 

「ッ!?……翼……?」

 

 

響は意識を集中させ、背中から生えてくるように『呪い』で羽を形成した。

 

 

「……出来た。アイツにしごかれたのは無駄じゃないってことね」

 

 

形成された羽からは、黒い羽が舞っている。それらは本当の羽のように宙を舞い、地面に当たれば消えずにその場に残る。薬品工場で形成した『翼の形をしたモノ』ではない、まさに飛ぶために完成されたモノ。

 

 

「私の前で『翼』を出すのか!!……参る!!」(絶刀・天羽々斬)

 

「次は強度……ふッ」

 

 

翼はギアから流れる伴奏を聴きながら響に突撃する。対する響も翼に向けて走り出した。

 

 

「はぁッ!!」

 

「まずは一本……」

 

 

翼の袈裟斬りの剣を右の羽で受け止めた響は、もう片方の羽で手元を狙い剣を翼の手から弾き飛ばした。

 

翼はすぐに下がり、脚部のパーツから新たな剣の柄を取り出し刀を形成した。

 

 

「たかだか一本ッ!!」

 

「だから効かないッt…ッ!?」

 

 

『逆羅利』

 

 

翼が新たな剣を出すのを見て響はもう一度弾き飛ばそうとした。しかし……翼の脚部ブレードを意識していなかったため、展開したことに驚いて隙を作ってしまった。翼はそれを見逃さず逆立ちの体制を取ると回り出す。

 

 

「危なッ……だったらッ!!」

 

「ッ……飛んだ!?」

 

 

響は翼から距離を取るとその羽を大きく広げ飛行を始めた。

 

 

「スピードも上がったし、『呪い』を固定したから消費も少ない。上々かな……」

 

「遠距離だからってッ!!」

 

 

『千ノ落涙』

 

 

翼は己の剣を掲げ上空より剣の雨が降り注がせる。響は右腕を突き出し『呪い』で透けるほど薄い膜を作って防いだ。

 

 

「なるほど……面制圧……出来るかな?」

 

 

さらに響が腕を翳す。すると大きく広がる羽より、鋭く尖った形の『呪い』の弾丸が滲み出てくる。

 

 

「……発射」

 

「くッ……まさか私の千ノ落涙を真似てッ!?……でも……今が好機ッ!!せいやぁぁ!!」

 

 

『蒼ノ一閃』

 

 

翼は剣を巨大化させ迫ってくる弾丸を全て斬りふせ爆散させる。さらに、自ら放った『蒼ノ一閃』で爆散した『呪い』に隠れて一気に距離を詰めた。

 

 

「貰ったッ!!」

 

「いつのまにッ……きゃッ!!」

 

 

翼の声で後ろを振り向いた響は、跳躍しすぐ後ろまで迫ってきている翼の剣を羽で防御しようとするが……間に合わず衝撃をその身に受け、そのまま響はバランスを崩し墜落した。

 

 

「はぁ……はぁ……どうだ……?」

 

 

一瞬の攻防に見た目以上に神経を使った翼は、着地した後、息も絶え絶えに墜ちた響を確認する。

 

 

「ふぅ……やるじゃん」

 

「まだ……駄目なのね」

 

 

煙が晴れ、響の姿が露わになる。片翼が根本より切られて無くなっているが健在だ。

 

 

「この前とは大違い……でも貴女は今のたった一瞬に意識を張り詰めすぎて限界、違う?」

 

「ええ、これ以上はちょっと厳しいわ。……あなたとは違ってね」

 

 

翼の額から汗が滴る。

 

 

「全く……どれだけ私に一撃入れたかったのか……まだやります?片方残ってるから一撃は受け止めてあげますよ」

 

 

どこまでも余裕そうな響の声色に、翼は笑みを浮かべながら答える。その表情はどこか晴れやかだ。

 

 

「……敵わない。そう考えていた……でも、この一撃で押し切らせてもらう!!」

 

 

翼が跳躍した。一本の剣を投げその刀身を巨大化させる。

 

 

「これが私の……今の全力ッ!!」

 

 

『天ノ逆鱗』

 

 

「形状の変化は……出来る。ハァァァ!!!!」

 

 

響が残っていた方の羽を腕に巻きつけ思いっきり翼の剣に向けて殴る。

 

剣の切っ先と拳の先がぶつかり凄まじい衝撃波が起こっているが、翼と響にそんなことを気にする余裕はない。

 

 

「世の飛沫と……果てよォォォォォォォ!!!!」

 

「……見えたッ!!」

 

 

翼の剣が響の拳を押し切ろうとしたその時、バイザーによって見えないが響は目を見開いた。

 

 

ミシッ……ミシミシッ……

 

 

「ッ!!……剣がッ!?」

 

「これで……終わりッ!!!!」

 

 

パキンッ

 

 

「くっ……」

 

 

響の拳は『天ノ逆鱗』を打ち砕いた。翼は悔しそうにしながらも綺麗に床に着地。そして変身が解けた。

 

 

「悔しい……でも……何故だか清々しい気分だわ……」

 

「私の勝ち……もういいでsy……ッ!?」

 

 

響が翼の元に近づき勝利宣言を告げている途中……響の片翼も、翼の剣と同じように亀裂が入り砕けてしまった。

 

 

「……引き分けのようね」

 

「……みたいですねぇ。満足しました?」

 

 

響は、砕け散った『呪い』の残骸を見つめながら翼に聞く。

 

 

「ええ……ありがとう立花」

 

「……はッ?何がです?」

 

「貴女のおかげで、大切なことに気づくことができた。そして、それが私を成長させてくれたから」

 

「……そんな覚えはないですね。気のせいですよ」

 

「貴女にその気がなくても……感謝しているわ」

 

「……あっそ」

 

 

翼に純粋な笑顔でお礼を言われた響は、そっぽを向いてしまう。今までの態度で忘れがちだが、()()()2年前までは、未来の影響でツヴァイウィングのファンだったのだ。何も思わないわけがない。

 

 

(……ダインが寝てて良かった。こんな顔を見られたくない)

 

「……それじゃ、私は行きますね。さっきここに来る途中エレベーターが見えてたので道は覚えています」

 

「……わざと誘いに乗っていたということ?可愛くないわね」

 

 

響は翼の言葉を背に、足早にトレーニングルームを出て行った。

 

 

「私は……立花に、奏を求めていたのかもしれない。でも……それじゃあダメね。あの子はあの子、奏は奏、同じな訳がないもの。……そういえば私は立花の事を殆ど知らない。まずは、立花を知るところから始めましょうか」

 

 

独り言をつぶやく翼は、とても晴れやかな笑顔だ。『覚悟』が決まった……とでもいうのだろうか……

 

 

「……トレーニングルームの惨状、どう説明したらいいのか」

 

 

ふり返ると無惨にも所々破壊されている床に斬撃跡がついた壁、その殆どは翼の技によってついたモノだ。

 

それに気づいた翼は、すぐにしかめっ面になってしまったようだが……



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響いてくミライ

さてと……絶賛スランプ中であります。思ったより筆が乗らない……期末試験も終わり、ポケモンの育成もひと段落つき、さぁ再開しようじゃないかと言う時に、なぜか気分にならないのです。

さらに言ってしまえば、私もそろそろ受験生になるので受験勉強を始めて行こうかと思い始めています。もうすでに受験勉強を始めている人も多いので、遊んでばかりの私に言う資格はない気もしますがね……

と言うことでして、私の他の作品を知ってくださっている方はご存知だと思いますが、全く投稿をしていません。おそらくですが、この小説も現在よりも少しずつ投稿頻度が下がると思います。私自身も、もっと書いていたいと言う気持ちですが、ご理解のほどよろしくお願いします。

ps,今回は少し短いです。


12話

 

 

「だからな、今から空中戦で俺と戦ってもらうぜ」

 

「……は?」

 

 

とある不恰好な家で、響はその家の主である『イカロスの羽』の所有者のラースにそう告げられる。

 

 

「いや、そんな『コイツ何言ってんの?バカなの?死ぬの?』みたいな顔すんなよ……」

 

「流れが唐突すぎるでしょ……」

 

 

呆れながら答える響。ラースはそんな響を見て少々不貞腐れている。

 

 

「いいからやるぞ〜、この俺が直々に教えてやるってんだ。感謝しろよな〜」

 

「その傲慢さは身を滅ぼすよ?」

 

「はんッ、その傲慢さで身を滅ぼしたからよく知ってるよ」

 

「……?………………あぁ、なるほど」

 

 

響の忠告に、吐き捨てるように答えたラース。響は一瞬なんのことかわからなかったが、ギリシア神話におけるイーカロスを思い出し、納得した。

 

蝋で作ったこの羽さえあれば太陽にも届く。そんな傲慢さを抱えたイーカロスは太陽に近づきすぎて蝋を溶かされ墜落死した。ならば『イカロスの羽』との融合症例(仮)であるラースはどうなのか。その影響は勿論あったのだろう……聖遺物にはそれだけの力があるのだから。

 

 

「ごめんなさい。軽々しく言っていいことじゃなかった……」

 

「おう、そう思うのなら行くぞ」

 

「なッ……セコい……」

 

「そうでもしねぇとこの先生き残れないぞ」

 

「……チッ」

 

 

自分の失言を素直に謝罪する響だが、ラースにとってはなんてことはない様子だ。それどころか口実が出来ていた。

 

 

「……でも空中戦って言っても私、今羽を形成できないんだけど。ここじゃ『呪い』を使えないし」

 

「だろうな〜」

 

 

ウンウンと、当たり前と言わんばかりに頷くラース。心なしか彼の翼もはためく。

 

 

「じゃあ、作るしかないよなぁ?」

 

「…………は?」

 

 

ニィッと笑ったラースはすぐに家の倉庫らしき場所へ向かっていった。

 

 

「……なんなのアイツ。早く未来のところに帰りたいってのに(ニ課の連中とはまた違う感じがする……)」

 

「じゃあとっとと始めようぜヒビキ。時間は有限だからなぁ」

 

 

戻ってきたラースが所持していたのは大量の白い固体……蝋だった。

 

 

「……それは?」

 

 

懐疑的な視線をラースに向ける響。なんとなくだが、何をさせられるのか察したようだ。

 

 

「蝋だよ。これで羽を作ってもらう。お手本は俺だ」

 

「普通に嫌なんだけど」

 

「まあまあそう言うなって。たまにはダインスレイフの奴を驚かせるのも良いだろ?自分が知らないうちに契約者のレベルが突然上がってるんだぜ?」

 

「……なるほど」

 

 

全てを見透かしたようなダインスレイフに一泡吹かせる。なかなかに悪くないと思った響は少し悩み……

 

 

「……分かった。どうすればいいの?」

 

「おっ、急にやる気じゃねえか。じゃあまずは……」

 

 

 

……………

 

…………

 

………

 

……

 

 

 

 

「………………ふぁ〜。んんっ……ん?私、寝てた?」

 

 

響が目を開けると、そこは公園。かつて、ダインスレイフと響が出会った場所だ。

 

 

「時間は……そんなに経ってないね。久しぶりに自分から寝たのか。……そんな時に見る夢がラースとの特訓とか、なんとも夢見が悪い」

 

 

ベンチに座っている響は体を伸ばしほぐす。

 

 

「……さてと」

 

 

一息入れた響は、右手を開きその手に『呪い』を集める。

 

 

『CURSE CHAINS』

 

 

「ヒィィ!?…………あぅ」

 

「ふん……私の体は安くない。未来専用だからね」

 

 

響が開いた手を握ると、近くから男性の悲鳴が聞こえた。どうやら響が寝入っているのを見て襲おうとしたらしい。ただの鎖ならば縛られるだけで済んだであろうが、これは『呪い』の鎖。一般人なら精神に異常をきたしてもおかしくない代物だ。

 

 

「帰ろっかな。この時期でも夜は寒い……し……寒くない?」

 

 

響は右手で左手を触る。その後は額、足を触った。

 

 

「……帰ったらすぐにお風呂に入ろう」

 

 

少しだけ沈痛な顔をした響は、ラースより習った羽を形成し帰るべき『家』へと飛び去っていった。

 

 

 

〜寮〜

 

 

 

「ただいま〜」

 

「響、おかえりなさい!!……って服が煤だらけじゃない、どうしたの?」

 

「いやーちょっとヤンチャしすぎちゃって……アハハ……」

 

「もう……今度一緒に服を買いに行こう?」

 

「うん」

 

「お風呂溜まってるから、先に入ってて」

 

「りょーかーい(なんだか、お母さんみたいだな未来)」

 

 

手を洗いうがいをする。着替えを取り出し、風呂に入る。日常的な動作が響にはなぜか嬉しく思えた。

 

 

「シャワー……あったかくないなぁ」

 

 

先ほど感じた違和感。夜風の吹く公園で、寒さを感じなかった。手を洗った時もうがいをした時も、液体の感触はあったのに温度は感じられなかった。

 

 

「響〜入っていい?」

 

「ッ……いいよ」

 

 

響は何もなかったかのように未来に言葉に対応する。その顔は少し引きつっていたが。

 

 

「お邪魔しま〜す。あれ、まだ浸かってなかったの?」

 

「……ちょうど洗い終わったから浸かろうと思ってたところだよ」

 

 

響の声のトーンは少し下がっている。それに気づいたのか、未来は眉をひそめて響に聞いた。

 

 

「何かあったの?」

 

「え……?」

 

「寂しそうな声してる」

 

「そ、そんなことないよ未k……ひゃう!?みみみ、未来///」

 

 

突然響は未来に抱きつかれた。裸の状態でだ。ゆえに……()()()()()()()()

 

 

「バカ……いっつもじゃない。寂しそうな顔して、寂しそうな声をして、それでも私には相談してくれないの?」

 

「…………でも、これは私の問題で……未来には、関係ないことだから」

 

「関係あるもんッ!!」

 

「ッ……私は未来を巻き込みたくない……」

 

 

響は未来の肩を掴み離す。

 

 

「体が冷えちゃうからとりあえず湯船に浸かろう?……ちゃんと待ってるから」

 

「……うん」

 

 

響は先に湯船に浸かり、未来が体を洗い終わるのを待っていた。

 

 

「……(お風呂があったかくないって変な感じだなぁ。液体を触っている感覚はあるのに……温度を感じないなんてね)

 

「お待たせ響」

 

「さてと……私としてはあんまり()()()()に関わるべきじゃないと思うんだ、未来はね」

 

「どうして……?」

 

 

響は多少、明るい様子で未来に切り出した。

 

 

「普通の子だもん。変な世界にかかわらないで生きて欲しい」

 

「ッ……そんなこと「それに……」……?」

 

「不用意にこっち側と関わって未来に何かあったら……私は耐えられない……嫌だよ……これ以上失うのは……」

 

「……」

 

 

未来の言葉を遮ってまで言うほど、響の想いは強い。中学二年生の頃より積み上げられた想いの塊なのだから尚更だ。そんな響に思わず言葉が出なくなる未来だったが、少しの沈黙の後……

 

 

「私だって……」

 

「……?」

 

 

震える声で未来は呟く。顔を下に向けているから表情は分からない。

 

 

「私だって………響がいなくなるのは嫌!!私の知らないところで……勝手に傷つかないでよ!!……ボロボロになって帰ってくる響を見るのは……もういやだよぉ……」

 

「ッ!!……あ……えと……ごめん」

 

 

顔をあげた未来は、泣いている。純粋に響を想い泣いている。響はそんな未来に言葉を紡ぐことができない。出てもせいぜい、ありきたりな言葉だけだった。

 

 

「……それでも、私には譲れない想いがある」

 

「……うん」

 

「これだけは、この想いだけは……未来に言われたってやめるわけにはいかない……だって……この想いこそ、私が私であることの象徴だから」

 

「うん……」

 

 

響は少し黙った後、自らの胸の内を語る。未来は黙って聞いているが、その目にはまだ涙が溜まったままだ。

 

 

「分かって欲しいとは言わないよ。でも一つだけ知っておいて欲しいのは……」

 

「ほしい……のは……?」

 

 

響は、少し間おいて話し出す。

 

 

「私は……未来のおかげで今の私がある。未来がいなかったら……きっと私、耐えられなかった……」

 

「響……」

 

 

2人も入ると少し窮屈な浴槽で、響は今度は自分から未来を抱きしめる。

 

 

「私はずっと未来と一緒にいたい。はぐらかしちゃう感じになるけど、未来はどう?」

 

「……バカ。昨日も言ったじゃない。私達はずっと一緒だよ!!」

 

「……ありがとう未来。()()()()()()()()()()()()()()。でも……未来はノイズを倒す私を怖がっちゃうかなって……それが怖かったんだ。本当に……ありがどぉ……」

 

「響……うん。()()()()()()()()()()()()()。そして……どういたしまして!!」

 

 

お互いに強く抱きしめ合う。響は涙を流しながら、未来は笑みを浮かべながら……ただ……2人の体から滲んでくる黒い靄がお互いの体に入っていったことは、抱き合っている本人たちには気づかなかった。

 

何秒……何分……何十分抱き合っていただろうか。実際には10秒ちょっとしか経っていないのに、響にはまるで永遠のように感じていた。

 

 

「のぼせちゃうからあがろっか……未来?えっ、ちょ、のぼせてる!?みくぅぅぅ!?!?」

 

 

響が知る由も無いが、未来は自分から響に抱きついたことを思い出し赤面。その後の響とのやりとりでもさらに赤面。トドメに響から抱きつかれたことで、嬉しさや恥ずかしさ、その他の感情もろもろ合わせてバタンキューしていたのだ。

 

その後、体を拭いたり服を着せたり、介抱したりして響は未来をベッドに寝かせた。

 

 

「まさかのぼせてるとはね……気づくのが早くてよかった」

 

 

響は寝ている未来の横に座り未来の顔を眺める。

 

 

「それにしても……()()()()()()()()()()()()()()()()か……」

 

 

今日は何度も見せた沈痛な顔をして響は独りごちる。

 

 

「あぁーあ……私、どこまで行くのかな……」

 

 

天井を見つめ、さらに響は言う。その様子はどこか生気が感じられない。

 

 

「あんなに寝てたのに、今日はまだ眠いや。多分、当分寝なくて済むようになるけどね。……寝よう。おやすみ未来」

 

 

響も横になり布団に入る。そして……

 

 

チュッ……

 

 

「今はまだ、これで我慢してほしいな。いつか、絶対迎えに行くから」

 

 

響は未来の額にキスをして、寝入った。その顔は紅潮している。

 

 

「……バカ」




私の中で、この小説の未来の立ち位置が迷走している……


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響く感情、覚悟の翼、雪舞う信念

投稿頻度は下がるといったな……?あれは嘘ではない。

ちょっとした休憩時間とかに少しずつ書いていたものがたまたま1話分完成したので投稿することにしました。もちろん勉強はしっかりしているのでご心配なさらず。


そういえば少し前にテレビで放送されたFNS歌謡祭での水樹奈々さんと蒼井翔太さんのMETANOIAは良かったですね。最近になってようやく録画したものを見たのですが、目をつぶりながら聞くとどうしても翼とカリオストロが頭に浮かびます。一体どうしてだろう……一体どうしてだろう!!(迫真)


13話

 

 

『1年◯組 立花響さん。至急、職員室に来てください』

 

 

「……ビッキー呼ばれてるよ?」

 

「響……何かしたの?」

 

「いや……学校では特に変なことしてないはず……?まぁ、行ってくるよ」

 

 

昼休み中に唐突に放送で呼び出された響は、未来といつもの3人組に一言告げ職員室に向かった。

 

 

『……んぁ?……アァ……久々によく寝た気がするぜェ』

 

(おはようダイン。随分と寝てたね?)

 

『ヒビキか。ちと、力を使いすぎたからかもなァ……(誰のせいだと思ってんのか。……いや、覚えてないのかァ?)』

 

(お疲れ様、ありがとうダイン。お陰で堕ちずに済んだ)

 

『気にするなご主人様』

 

 

2人が会話しているうちに、響は職員室に到着した。

 

 

「失礼します。1年◯組の立花です」

 

「あっ、立花さん。あなた宛に荷物が届いていましたよ。差出人は……風鳴弦十郎さん?風鳴翼さんの親戚かしら……ハンコはある?」

 

「持ってます。……ここですね(あの人が私に?……そういえば二課の端末返したから連絡手段がないのか。いつ返したかもう覚えてないけど)」

 

 

取りに帰るのが面倒くさい。それだけの理由で、基本的な小物をいつも持ち歩いている響はすぐにハンコを取り出し印を押す。

 

 

「邪魔だったら放課後まで預かっておくけどどうしますか?」

 

「いえ、そんなに大きくないんで持っていきます。ありがとうございました」

 

 

お礼を言い、職員室から出て行く響。人差し指でバランスを取り荷物の箱をくるくる回しながら歩いている。確実に強化された肉体の無駄遣いである。

 

 

「驚くほど軽いんだけどこれ。本当になんか入ってんの?」

 

『開けたらどうだァ?』

 

「いや、流石に今は……ううむ……やっぱり開けよう」

 

 

ダインスレイフの言葉で、ちょっと悩んだ響は開けることにした。教室に向かうための棟の途中にある椅子に座った響は多少雑に開封していく。

 

 

「これは……チケット?一体なんの……風鳴翼のライブだって?」

 

 

正史において、絶唱を歌い重傷を負った翼は月末に予定されていたライブの中止を余儀なくされていた。この世界では、あと少しで翼が絶唱を歌い切ると言う時に響が強引に中断させたため、健康体である翼はライブを予定通りに行うことができた。そして響は、ライブチケットとともに封入されていたもう一つのものを手に取った。

 

 

「もう一つ……手紙?……風鳴翼さんからか。ツヴァイウイングのライブの被害者に対してこのチケットを送ってくるとか、トラウマをがっつり抉りにくる作戦かな?……滅ぼしてやろうかあの女」

 

『まぁまぁ響。一旦、手紙の内容を読もうぜェ?この前ツバサに送った『呪い』に反応はなかったんだろォ?』

 

「……そうだけど。分かったよダイン」

 

 

齢16歳の少女とは思えない声音をしていた響は、ダインスレイフの言葉で再び落ち着いた。

 

 

「なになに……」

 

【立花響様へ

 

先日は手合わせありがとう。貴女のおかげで大切なことに気づくことが出来たわ。お礼……と言うには貴女に対して面目が立たない。でも、一緒に送ったチケットに悪意がないことだけは理解してほしい。

本題だけど、貴女に私のライブを見に来て欲しいの。絶唱を歌い損ねたあの日に、貴女に言われたことを私は忘れない。償い続けるために、まずはライブを成功させる。歌姫として……一度、防守ることを辞める。シンフォギアも緒川さんに預けておくわ。覚悟を示すために。

 

私の歌を、貴女に聞いて欲しい。

 

 

ただの歌女 風鳴翼より】

 

 

『ハッハッハッ!!良いねェ……こういう熱いのもなかなかだァ……そうだろ響?』

 

「…………」

 

『アァ……?響?』

 

 

黙りこくる響に対してダインスレイフは問いかける。

 

 

「こんな……」

 

 

響はつぶやき始める。

 

 

「こんな書き方されたら……断れないじゃんか……バカな歌姫め」

 

『響……』

 

 

ダインスレイフは予想していた……響は、さらに憎悪をドス黒く燃やすと。しかしどうだろうか。手紙を読んだ響は広角をあげ、いつもの狂気が宿る笑みではなく年相応の笑顔をしている。それはそれで、いつも響を心配しているダインスレイフとしては良い結果なのだが……ダインスレイフには予想外だったのだろう。

 

 

「しかもご丁寧に関係者席のチケットが2枚。はぁ……未来も誘うしかないか。あの日のライブに行けなかったの、悔しそうにしてたもんな。あの日は行かなくて正解だったけど」

 

『用意がいいねェ……俺の記憶では、一度も二課の連中に嬢ちゃんの事を伝えてなかったと思うが……』

 

「私の身辺調査はすでにされてるから交友関係を把握されている程度ではもう驚かないよ。部屋に帰ったら誘おう」

 

『それがいい。まァ……その前に一仕事ありそうだがなァ』

 

「やっぱり……?はぁ……最近多いんだけど……」

 

『流石の響でも、もうバテたかァ?』

 

「バカ言わないでよ。多いってだけで、殺る気までは失せてない」

 

『その意気だぜェご主人様』

 

 

幸いにも人がいないため、響はこうして口に出して喋っている。

 

 

「さてと……戻ろっかダイン。未来が待ってるだろうし」

 

『……あの三人娘達も勘定に入れてやれよ響』

 

 

寝起きでも、ダインスレイフのツッコミのキレは保たれているようだ。

 

 

 

〜とある屋敷〜

 

 

 

「デュランダルが起動したおかげであたしは折檻されなかったのは分かってる。あのキチガイの捕獲はもういいのか?」

 

「ええ、計画はしっかり進んでいるわ。でもどうしたの?ソロモンの杖なんて持ち出して」

 

 

豪勢な屋敷を背景に、雪音クリスは湖を眺めながらフィーネに問う。フィーネはいつもと変わらない声音だ。

 

 

「これはフィーネに返す。……今度こそ、あのキチガイに教えてやるんだ。力は争いを産むってな」

 

「今、無駄な喧嘩をしてる暇はない。分かっているのか?」

 

「ッ……分かってる。でも、あんなキチガイなんかよりあたしの方が優秀だってことを見せてやる!!あたし以外に力を持つ奴は全部捻り潰す。私の目的だからな……こんな物に頼りはしねぇ!!」

 

 

口調の変わったフィーネに、クリスは一瞬物怖じしたが手に持っているソロモンの杖を投げ渡すと、ネフシュタンの鎧を纏って飛び出していった。

 

 

「……そろそろ用済みね。私の手でヤツを下すのは些か面倒……うふふ、立花響。貴女にクリスの処理を任せましょう。もちろん……お膳立てもしてあげるわ」

 

 

ソロモンの杖を撫でながら、フィーネは口元を歪ませ言う。クリスの末路を想像したフィーネは、笑みを抑えきれないようだ。

 

 

「そういえば、月末には風鳴翼のライブがあったわね。クリスの処理のついでに、()()が起動出来るかも試してみましょうか。ギリギリまでアメリカから搾り取った甲斐があったというもの。必要はないと思っていたけれど、人生、何が役に立つか分からないわね。……うふふ♪」

 

 

『人生』という言葉がこれほど似合う人間はいないであろう、フィーネは屋敷へと歩く。厳重に保管された物を取りに行くために……それがなんであるのか、クリスにも知らされていないソレはただただ使われるために時を待っている。

 

 

 

 

〜放課後〜

 

 

 

「緒川さん?」

 

「はい。どうされました?」

 

 

なんで出てくるの……?と、響は自分で呼んだのにもかかわらず額を押さえ唸った。誰も居ないはずのこの場所でシュタッと現れた緒川は眼鏡を外している。

 

 

「今からノイズ共の排除に行きます。あの人には伝えないでください」

 

「翼さんですか?」

 

「……レッスン忙しいでしょうし」

 

 

顔を背け少し小さい声で話す響。その頰は少し紅潮しているが、緒川には見えない。

 

 

「響さん……分かりました。司令には僕から伝えておきます。……その、本当に二課には所属しないんですか?言い方は悪いですけど、聖遺物を持ち、奏者でもある響さんは高待遇を得ることができますよ」

 

「分かってて聞くなんて酷いじゃないですか。……待遇云々じゃないんですよ。協力もしない、仲間にもならない。共闘するのであればそれはお互いが違う正義を握りしめて、同じ敵を見ている時だけ……それに私の()()は正義じゃありませんから。……ただの個人的な……『感情』です」

 

 

緒川の言葉は、普通の人にとっては魅力的。だが、響にとってはただの枷にしかならない。

 

 

「私が動くのは、自分の為か親友のため、そして家族のためだけです。私に……誰とも知らない他人の手を掴む余裕はありませんから」

 

「分かりました。……でも、1人で抱えきれなくて苦しい時はいつでも連絡してください。司令の言葉を借りれば、僕たちは『大人』ですから。そうだ……翼さんに何か伝言はありますか?」

 

「伝言……そうですねぇ……じゃあ一言だけ」

 

 

響は緒川の方へ振り返りあくどい笑みで告げる。

 

 

「期待はしない」

 

 

そう言うと、響は跳躍しノイズが出現するであろう方向へ駆け出した。

 

 

「あはは……響さんらしいですね。さて……もしもし司令ですか?はい……おそらく◯◯町の方かと。……ええ、避難指示をお願いします。それと、翼さんには伝えるな、と響さんが。……はい、僕もすぐに戻ります」

 

 

弦十郎に電話をした緒川は、忍法を使ってその場から消えた。

 

 

 

〜さらに少し経って〜

 

 

 

「コイツで……最後ッ!!」

 

『ナイスだァ響。もう当たりに反応はねェよ』

 

 

響の目の前にいた最後のノイズを切り裂き、戦闘は終了した。クリスのようなイレギュラーが起こることなく、少し前のようなただノイズを狩るだけの戦闘だった。

 

 

「なんか、歯ごたえがない」

 

『そういうなってなァ……いつもより楽に終わったんだから良いじゃねぇかァ……』

 

「そうだけど……最近は色々あったから……ッ!?……ダイン?」

 

『アァ……しかも学校の方だなァ……』

 

「未来は……分からない。すぐに向かうよ!!」

 

『おうよォ……コレは前座ってことかァ』

 

 

響が感じ取った気配は一つ、しかもリディアン音楽院に近い。未来を心配し、響は急いで学校の方へと駆ける。羽を形成しないのは、まだ日が出ているため人に見られやすいということを考慮してのことだ。今更な気もするが……

 

 

「あの……ネフシュタン?の女だろうね。何のために出てきたのか知らないけど、未来に危害が及ぶようなら……ぶっ殺してやる」

 

『おそらく目的はお前だろう。何処にいるか分からねェから学校に行けば出てくるとでも思ったんじゃねェかァ?』

 

「なるほどね……ッ、そろそろ学校」

 

 

ダインとの会話に集中していたためか、そろそろ学校に到着することに気づいていなかった響は一度立ち止まり辺りを見回す。その時……

 

 

「あれ……?響、何してるの?」

 

 

おそらく買い物終わりだろう。少し大きめの袋を持って、寮の方向へ向かう未来と出会った。

 

 

「ッ!?未来……走って部屋に戻ってッ!!……チッ、こっちに来てる」

 

「なんで……ッ!!」

 

「見つけたぞ……キチガイ野郎ッ!!」

 

 

響はすぐに逃げるよう未来に叫ぶがすでに遅い。森の方から飛び出してきたクリスは、響の姿を確認すると技を放つ。

 

 

『NIRVANA GEDON』

 

 

「響、危ないッ!!」

 

「未来!?来ちゃダメだッ!!」

 

「なッ!?一般人がいたのか!!」

 

 

未来は響に手を伸ばし、響は即座に『呪い』の膜を未来の周辺に張る。クリスは未来の存在に気づいてギリギリでエネルギー弾を空に逸らした。

 

 

「「「………」」」

 

 

一瞬の出来事が終わった後、場を支配したのは沈黙。聞こえてくるのは風の音だけ。

 

 

「……おい、そこのお前」

 

「……私?」

 

「下がってて未来。危ないから」

 

 

クリスは恐る恐る未来に話しかけた。響はそんなクリスを警戒してか未来の前に立っている。

 

 

「……悪かった。巻き込んじまってよ」

 

「えっ……いえ……響が守ってくれたので大丈夫です」

 

「んじゃ、続きやるか。おいキチガイ女、人気がない場所に行くぞ」

 

「……分かった」

 

『コイツ、嬢ちゃんがいることに気づいて攻撃を逸らしたんだからよォ……多少は情状酌量の余地あるからなァ?』

 

(……了解)

 

 

ひとしきり未来に謝罪したクリスは、響に戦闘する場所の変更を問う。了承した響は、クリスについていこうとするが……

 

 

「響ッ!!」

 

「未来……?どうしたの?」

 

「……ちゃんと帰ってきてね?」

 

「……ふふ、もちろん!!」

 

 

未来の心配そうな声が響に届く。それに対して響は笑って答えた。

 

 

「用事は済んだか?さっさと戦るぞ」

 

「……行ってきます」

 

 

響とクリスは林の奥の方へと駆けて行った。その場に立ち尽くしている未来は小声で呟く。

 

 

「行ってらっしゃい」

 

 

未来は2人が駆けて行った林を少しの間見つめた後、寮に向かって歩き出した。しかし……

 

 

「響さんの同室の小日向未来さんですね?すいません……事情はちゃんと説明しますので、特異災害対策機動部二課まで御同行お願いします」

 

「……え?」

 

 

一応、聖遺物関連は国の重要機密事項に当たる。クリスの纏うネフシュタンの鎧や響の力などを目撃してしまった未来は、諸々の書類などにサインするため、何処からか現れたNINJAに手錠をされドナドナされていくのであった。



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自分自身の力で……

今回は戦闘描写がほとんどですが、私、戦闘描写は得意ではないので読みにくいかもしれません。


14話

 

 

「ここらでいいだろ」

 

 

林の奥の方、少し開けた場所へ来た響とクリスは改めてお互いに向き直る。

 

 

「……お前、口調ほど根から悪い人間ではないんだね」

 

「なっ!?……言ってくれるじゃねえか」

 

 

響のつぶやきが聞こえていたらしいクリスは、赤面しながら構える。わざわざ一般人を気にするような発言、態度、行動に、ダインスレイフからの助言も合わせて少しばかり評価を見直したようだ。

 

 

「未来が無事だったからって容赦はしない。私にとってお前はただの雑音なのだから」

 

「今日こそは……今日こそはその自信、打ち砕いてやる!!」

 

 

響はダインスレイフを、クリスは刃の鞭を取り出し真正面から殴り合う。

 

 

「オラァ!!」

 

「むッ!!」

 

 

クリスが先手を取って右手の鞭で響を攻撃する。それに反応した響はダインスレイフで防御するが、その刀身に鞭が巻きつく。

 

 

「甘ぇ!!」

 

 

クリスは左の鞭で追撃。ダインスレイフが使えない状況で響はさらなる防御を行う。

 

 

「こっちのセリフ」

 

 

『CURSE CHAINS』

 

 

右足で地面を踏みしめた響は、迫り来る鞭の真下より『呪い』の鎖を出現させ鞭を絡め取った。

 

 

「チッ……だが、これでお前は動けない。ご自慢の剣が使えねぇとなりゃあこっちのもんだ」

 

「確かに、ダインは私の主兵装……でも、いつまでもダインにばかり頼っているわけじゃない!!」

 

 

響は背中の右側だけに羽を形成。『呪い』の銃弾を打ち込む。

 

 

「なにッ!?……くッ」

 

 

響の遠距離攻撃を確認したクリスは致し方なしとばかりに鞭を手元に戻し、目の前で高速回転させ弾を防いだ。

 

 

『……今のはァ。響、どういうことか後で説明させるからなァ。覚悟しておけ?』

 

「……はい」

 

 

ダインスレイフは響の完成された羽を見たことがない。しかも形成方法が特殊だからだ。少しばかり語気が強い気がしたダインスレイフに、響は正直に言うしかないと、少し後悔しながら返事をした。

 

 

「変な芸当しやがって……これでもくらいなッ!!」

 

 

『NIRVANA GEDON』

 

 

「頑なにその技ばかり……もう見飽きた!!」

 

 

ダインスレイフを横に振り切り、エネルギー弾を切り裂いた響だが、次の瞬間……

 

 

「だったら……持ってけダブルだッ!!」

 

「ッ!!」

 

 

エネルギー弾の向こうからさらにもう一発、もう片方の鞭から生成されたエネルギー弾が響に向けて飛来する。流石の響でもこれには驚き反応が遅れてしまう。

 

 

「ぐぅ……っ!?」

 

「やったッ!?」

 

 

戦闘が始まって最初の被弾は響となった。しかし、その一瞬に気を緩めてしまったクリスは……

 

 

「小賢しいッ!!」

 

「なっ……がぁ!?」

 

 

叫び声をあげた響の方から飛んできた物が直撃したクリスは少し仰け反る。油断したところへの直撃に、実際のダメージ以上に衝撃を感じたようだ。

 

 

「なにが……石!?」

 

 

クリスに直撃した飛来物、その正体は少し小さめのただの石だった。しかし侮ることなかれ、『呪い』を纏い強化された石だ。その威力はクリスが実際に体験し、すでにクリスの脳内に刻まれている。

 

 

ブォンッ!!

 

 

クリスの二連発の技によってできた煙がかき消された。響がダインスレイフを振り消しとばしたのだ。その姿を現した響は、少し傷ついている。

 

 

「たかだか石ころ一つでそんなに驚く必要はないんじゃない?こっちは殺意マシマシの一撃食らったってのに」

 

 

なんてことはない、そのような態度で喋り出した響の目は、完全にクリスを敵として認識している。

 

 

「見飽きた技ってのにしっかりダメージ受けてる奴が言う言葉じゃねぇなぁ」

 

 

対するクリスも、冷静になってみればそこまでのダメージは無かったようで、すでに体制を立て直している。

 

 

「ノイズは出さないの?お得意の……『ソロモンの杖』ってヤツで」

 

「ご期待に背くようで悪いが、あんなもん持って来ちゃいねぇ。あたしの力だけで十分だと証明してやるのさ」

 

「ふぅーん……その鎧はお前自身の力だって言い切るわけだ。なるほどなるほど」

 

「……なにが言いたい?」

 

 

煽るような響の言動に眉を寄せ質問するクリス。

 

 

「二課が保有していた聖遺物を奪って、身につけて、戦って、負けて、それはお前の力なの?」

 

「ッ……それは……お前こそ、その剣はお前の力だって言い切れるのかよ」

 

「言えるね」

 

「ッ!!」

 

 

言い切った。クリスは、反撃したと思っていたが、自信満々に発言した響に驚いている。

 

 

「ダインは私の力だ。それはお互いが認め、尊重し合っている。だからこそ、私は負けない……いや、勝つ」

 

「お互いが認めるだと……まるで聖遺物に意思がある、みてぇなこというじゃねえか。……クソッ、だったら見せてやるよ。あたしの力をな!!ぶっ飛べ、アーマーパージだッ!!」

 

「ッ……悪あがきをッ……」

 

 

やけくそのように叫んだクリスのネフシュタンの鎧が弾け飛んで行く。思っていたより大量の破片が散らばるのを見て、響は後ろに大きく跳躍。攻撃を躱した。

 

 

「自爆みたいなコレがお前の力だとでも……ッ!?」

 

 

クリスに向かって恨み言を言う響は、膜のようなものに包まれたクリスの姿を目にして驚く。

 

 

「Killter Ichaival tron」(魔弓・イチイバル)

 

「聖……詠……まさか、シンフォギアッ!?」

 

 

激しい音楽とともにクリスの体には、赤い装甲が纏われていく。

 

その頃、某司令部では……

 

 

「新たなアウフヴァッヘン波形を感知……波形パターン照合完了……ッ!?過去のデータと一致しましたッ!!付近の監視カメラをモニターします!!」

 

 

『Ichii-Ball』

 

 

「イチイバルだとぉ!?」

 

 

呆気にとられる二課職員達……OTONAはいつも通りのようだ。

 

 

〜場面は戻って、響達へ〜

 

 

「歌わせたな……」

 

「……はぁ?」

 

「あたしに……この、雪音クリスに、歌を歌わせたなッ!!……あたしは歌が大っ嫌いだッ!!」

 

 

響の知らないシンフォギア、『イチイバル』を纏うクリスはその顔を憎悪に歪めながらも奏でられた音楽を歌い上げる。

 

 

「傷ごとエグれば〜忘れられるってことだろ〜?」

 

 

クリスは右腕の籠手のような部分からクロスボウ型のアームドギアを形成し響に向けて発射した。一つのクロスボウに発射機構が5つ付いているため5連射している。

 

 

「チッ……遠距離武器か」

 

 

響は少し恨めしそうに呟き左手をかざして『呪い』の盾を形成。……するが、

 

 

パキッ……

 

 

「この威力……流石はシンフォギアかッ!!」

 

 

4発目で呆気なく砕け散った盾を横目に、響は5発目を躱す。

 

 

「イイ子ちゃんな正義なんて……剥がし……てやろうかぁ!!」

 

 

クリスは左腕のアームドギアも取り出し、両手のアームドギアを二門のガトリングに変化させた。

 

 

「……マジ?」

 

「HaHa‼︎さ〜あ〜It’s show time‼︎火山のような殺伐Rain‼︎」

 

 

二門のガトリングが二丁。その圧倒的な光景に見た響は思わず懐疑的な声を上げる。クリスがサビを歌い始めると同時に、計四門のガトリングは回転を始め……その火力を証明し始めた。

 

 

『BILLION MAIDEN』

 

 

「さ〜あ〜!!お前らの……全部全部全部全部全……部!!否定してやる……」

 

「待て待て待て……それは聞いてないッ!!くッ!?」

 

 

右から横へ、薙ぎ払うようなガトリングの雨に響は防戦一方。あくまで生身である響は、1発銃弾を食らうだけで大ダメージを避けられないため防御と回避に集中している。

 

 

「そう……否定してやるゥゥゥゥゥ!!!!」

 

 

『MEGA DETH PARTY』

 

 

 

「Balwisyall nescell gungnir tron……ガントレットにエネルギーを込めて……打ち込むッ!!」

 

 

クリスが歌い切ると同時に、腰部の小型追尾ミサイルが射出され響に襲いかかる。しかし、響はすぐに聖詠を歌いガングニールの破壊力を持って全てのミサイルを潰した。

 

 

「ハァ……ハァ……チッ……だったら今度はさらにデカイのをッ……」

 

「流石に今のは……危なかった」

 

 

ガトリングやミサイルによる制圧射撃は響の体力を大幅に削った。

 

 

「歌うほど体力はない……だったら……ダインッ!!」

 

『あいよォ……全く、効率は悪いんだから短期決戦でやれ』

 

「了解」(私トイウ音響キソノ先二Off Vocal)

 

 

響の体から『呪い』が放出されもう一度体の中に入っていく。しかし、よく見ればそれらはただ響の中に戻るのではなく、ガングニールの装甲に吸い込まれていく。

 

 

「ブチ抜くッ!!」

 

「コイツッ……ギアで加速をッ!?オラァ!!」

 

 

大地を蹴り、響はクリスに向かって弾丸のようなスピードで突き進む。それに驚いたクリスも、負けじとガトリングで応戦。

 

 

「甘いッ!!」

 

 

両足のパワージャッキを使い、姿勢を低くしさらに加速。真上を通り過ぎる弾丸の雨を避けさらにクリスへと近づく。

 

 

「歌っていないのに……どこからこの力を……がぁ……ッ!?」

 

 

クリスは反応できずにぶっ飛ばされる。ダインを収納した響のハンマーパーツの破壊力も含めた最速、最高の打撃がクリスの腹へと突き刺さった。

 

 

「う……おぇ……クソッ……やってくれるじゃねえか!!次はこっちからいくぞッ!!」

 

 

両手のアームドギアをクロスボウに変え、態勢を立て直したクリスが響に肉薄し射撃をする。広範囲にわたるエネルギーの矢に響は……

 

 

「もう……お前の攻撃は効かない」

 

「ッ!?」

 

 

響はまた左手を翳し盾を形成。しかしその形は最初のものとは違って少し角度が付いている。

 

 

「弾いた……いや、逸らされたのかッ」

 

 

そう……もともと受け止めるだけの強度がある盾で矢を無理やり響の左右へと逸らした。それにより響の後ろに広がっていた多くの木は爆発霧散する。

 

 

「ふッ!!」

 

「こっちだって打撃はもうお見通しなんだy……ッ!?」

 

 

響は盾を展開したまま、クリスに殴りかかろうとした……クリスもすでにそれに対する防御姿勢を取っていたが、急に響の右手に出現したダインスレイフの上段から斬りかかられ反応できずにアームドギアを破壊される。

 

 

「出し入れ自由ってか……反則にもほどがあるだろ……」

 

「だったら、得意分野で相手してあげよう」

 

 

響はダインスレイフをもう一度収納し、両翼を形成。右手の指を銃の形にし一言呟く。

 

 

「FIRE」

 

「ッ!!こっちだってなぁ!!」

 

 

響は両翼から放たれる『呪い』の銃弾で、クリスはガトリングの銃弾で打ち合う。

拮抗しているかに見えたその撃ち合いはすぐに訪れた。

 

 

「足元がお留守」

 

「はッ…何を言って……おわっ!?」

 

 

『CURSE CHAIN』

 

 

最初と同じように右足を大地に踏み、鎖でクリスの足を拘束しそのままコケさせた。

 

 

「これで……終わりッ!!」

 

 

高く跳躍した響は両手でダインスレイフを持ちクリスに突き刺そうとギアのブースターを用いて加速しながら迫る。

 

 

「くッ……(ここで終わるのかっ……パパ……ママ)」

 

 

そして、響の一撃が、伏しているクリスの体に突き刺さった。

 

 

『『『『『『ッ!?!?!?』』』』』』

 

 

近くの防犯カメラでモニターしている二課の職員達はその光景に驚く。このカメラの角度から見れば確実のクリスの胴体にダインスレイフが突き刺さっているように見えるからだ。女性職員の中には思わず悲鳴を上げてしまう者も。

 

そして……少しの静寂の後……

 

 

「…………なんで」

 

「殺す理由がない。それに、恩を仇で返すほど落ちぶれたつもりもないよ」

 

「……恩?」

 

 

クリスの体を穿ったと思われていたダインスレイフの刀身は、その右の地面に突き刺さっている。

 

 

「未来に当たりそうだった攻撃を逸らしてくれた恩」

 

「……ハァ?お前、その程度のことであたしを」

 

「馬鹿か、お前にとってはそれだけでも、私にとっては全てを犠牲にしてでも失いたくないんだ。それだけの価値はある」

 

「……そうかよ。ていうかどけッ。あたしの負けでいいから」

 

「はいはい」

 

 

ダインスレイフを収め、クリスの上から退く響。クリスも起き上がって体についている土や汚れを払う。

 

 

「……どうする?二課に身柄を引き渡したほうがいい?」

 

「バカ言え。ネフシュタンを回収して帰る。フィーネのヤツに啖呵切って来た手前、折檻が酷いだろうけどな」

 

「フィーネ……なるほど、お前の上司か」

 

『ッ!?…………(フィーネ……だと?)』

 

「あっ……チッ、忘れろ」

 

「無理、もう完全に覚えた」

 

 

先ほどまで激戦を繰り広げていたとは思えないこの2人の、友人のような会話に突っ込んでくれる者は誰もいない。

 

 

「命令もしていないのに勝手に飛び出して、そしてまさか負けてくるなんて……貴女には失望したわクリス。」

 

「「ッ!!」」

 

 

突如、辺りに響く声。2人は声の主に方向を見る。

 

 

「フィーネッ!!」

 

「アイツが……」

 

『……(アイツ、生きていたのかァ?』

 

 

2人が向いた方には、全体的に黒い格好をして、サングラスをつけた金髪の女の姿。その手にはソロモンの杖も握られている。

 

 

「ッ……でも、こんな奴がいなくても、戦争の火種くらいあたし1人で消してみせる!!そうすれば、フィーネの言った通り争いのない世界が生まれるんだろ!!」

 

 

必死に弁明するように叫ぶクリス。そんなクリスに対して、フィーネは……

 

 

「はぁ……もう貴女に用はないわ」

 

「ッ!?……どういう意味だよッ!!」

 

 

呆れたような声でフィーネは言う。そして開いた右手から青い光がほとばしり……辺り一帯に散らばっていたネフシュタンの破片が全て粒子となって収束され消えた。

 

 

「……ふふ」

 

「……あ?」

 

 

フィーネは響を一瞥した後少しソロモンの杖を傾けて、待機させておいたであろう飛行型ノイズを響たちに向けて突進させた。

 

 

「今更ノイズ程度……」

 

 

響はダインスレイフをノイズに向け撃ち落とした……が、その間にフィーネはどこかへ消えてしまった。

 

 

「まてよフィーネ……フィーネェェェ!!!!」

 

 

クリスはフィーネの名をl叫びながら追いかけるように跳躍し去った。その場には響だけが取り残されてしまう。

 

 

「……二課の人、見てますよね。ちょっとお邪魔させてください。私と同室の子が二課の機密保護の説明を受けているでしょうから」

 

『あ……あぁ……許可しよう。迎えを向かわせる。緒川、頼んだ』

 

 

近くのスピーカーから聞こえて来たのは弦十郎の声。緒川に呼びかけたことから近くにいるであろうことも、響には推察できた。

 

 

「ダイン、説教はあとね」

 

『……覚えているのならいい(正直……それどころじゃねェしよォ……)』

 

「……(フィーネは確実に櫻井了子で間違いない。髪型、体型、声……二課に来ていないというのなら断定。ついさっき戻って来たとか抜かすのあれば即座に殺す。……でも先に未来を逃がさないとな)」

 

 

未来が二課に連れていかれたことに気づいていた響だが、今は別のことをに重きを置いているようだ。

 

 

「さあ、どの選択肢がヒットしても……お前に逃げ場はない。フィーネ……絶対に、私がッ!!」



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全ては少女の思い通りに……

皆様長らくお待たせいたしました。数多くの模試が終わり、英検も終わり、とりあえず落ち着いた日々が続いていたので書き上げることができました。

しかし先に申しておきましょう。クリスファンの人、本当にごめんなさい。

確実にやりすぎました。反省しています。……でも後悔はしていません。イエス深夜テンション!!目覚めた頃には、書き上げた内容を思い出して羞恥で悶絶している作者の姿を思い浮かべてください。傑作ですね。


さて、次の更新もまたいつになるのかわかりません。気長にお待ちください。

ps,弦十郎さんとかみたいにカッコいいセリフって、どうやったら思いつくんでしょうかねぇ……


15話

 

 

「未来ッ!!」

 

「響……?」

 

 

リディアンの地下にある二課本部で、大人たちに見守られながら響と未来は再会を果たした。決してシチュエーション的にも、未来の気分的にも笑顔になるはずではないのだが、未来に会えた、それだけで響は笑顔になる。周りの大人たちは、響の普通の少女のような笑みに少し惚けているようだが……割愛しよう。

 

 

「んんッ!!……響くん、せっかくの再会に水を差すようで悪いが、未来くんに関して少し話がある」

 

 

弦十郎は勇気を持って響に話しかけた。特定の個人に対してのみ、このような顔をする事を理解した弦十郎は響に話しかける事を少し迷った。下手に割って入っては、機嫌を損ねてしまうのかと思ったのだ。……だがしかしそこは流石OTONA。仕事をしっかりこなす。

 

 

「……何ですか?」

 

 

響の声音が少し低くなる。弦十郎の予想通り未来との触れ合いを邪魔されたからだろう。無論、わざわざ弦十郎の口から未来に関する事を言われるのだ。そういう意味でも、響が身構えてしまうのも仕方ないだろう。

 

 

「……その、未来くんを我々二課の外部協力者という立ち位置に据えたいと考えている。協力者といっても、有事の際の一般人の避難誘導などが主な仕事だ。二課への出入りの自由や、連絡端末の所持を認められるため、結果的に共闘関係にある響くんとの連携も取りやすくなる」

 

「……なるほど。私が多少は納得するであろう案を提示して、体よく私とのコネクションを作ろうという魂胆ですか」

 

「ッ!!……完全に違う、とは言い切れん。俺たちは所詮、役人……お上の命令には逆らえないからな」

 

「ふん……やっぱり」

 

「ちょ、ちょっと響ッ」

 

 

弦十郎の提案に、刺々しく反応した響。そんな様子を見て未来は響に言おうとするが……

 

 

「未来」

 

「ッ……私は納得して……」

 

「……」

 

「……書類にサインしてくるね」

 

 

響の語気は強い。それこそ、未来が思わず空気に耐えられず離れようと思うぐらいには。だがそれこそ響の、未来のことを心配する気持ちの大きさなのだが……少し過剰に見える。

 

 

「ほかの奴らが逃げてるのに、未来だけ避難誘導?……先に言っておきますが、私の行動原理の最上位には未来の存在があります。ほかの人間を気にかけている余裕はない」

 

「ッ……だが、二課の保護下にいる方が君も安心しt「出来ませんね」………」

 

 

弦十郎の言葉を遮ってまでいう響。

 

 

「私は二課を安全だとは思いません。だからってこの世界に絶対的な安寧があるとも思いません。だからこそ……だからこそッ!!私の手に届く範囲にいてほしいッ!!」

 

 

先ほどの少女のような笑みとは打って変わって、顔を歪めて叫ぶ。二課の職員たちには、もはやこちらの方が見慣れているのではないだろうか。

 

 

「これからこの街は荒れる。そして、その中心にいるのは私や二課、そしてフィーネとかいうあの年増でしょう。……一体どこに安全があるというんですかッ!!」

 

「完璧に安全な場所は確かにない。だがな響くん、……君は、未来くんの意思を無視してまで、彼女を自分の世界に閉じこめたいのか?」

 

「……は?」

 

「未来くんは、自分が響くんの力になれるならなんでもやりたいと言っていた。もちろんボイスレコーダーにも録音してあるから後で聴くといい。君は、そんな未来くんの気持ちを踏みにじるのか?」

 

「……」

 

『……嬢ちゃんなら言いかねないだろうなァ』

 

 

汚い。響は素直にそう思った。そして同時に、これが大人のやり方なのかとも。恐らく、未来は本当に言ったのだろう。響も、ダインスレイフもそこには納得する。弦十郎の表情も少し重くなった。

 

 

「すまん……言い方が悪かった。そこまで追い込むつもりでは……」

 

「分かっています。政府はともかく、貴方の言葉からは責任や迷い、後悔の感情が感じられる。事実、私こそ納得しました。確かに……未来なら言うだろうと」

 

 

響は少し、呆れながら言う。

 

 

「では……」

 

「……不本意ながら、了承しましょう。でも!!」

 

 

響は大声をあげると同時に、ダインスレイフを出現させ弦十郎の喉元に突きつける。

 

 

「……」

 

「未来に何かあったら……覚悟してください。私の力は、対人間に特化していますからたとえ貴方でもただではすみません。

 

「ああ」

 

 

弦十郎の返事の後、重苦しい雰囲気だった2人の間の空気が霧散する。

 

 

「ところで、櫻井了子は居ないんですか?」

 

「……昨晩から帰ってきていないな。誰か、了子君を見たか?」

 

 

弦十郎が職員達に問いかけるも、誰も答えない。どうやら知らないようだ。

 

 

「へぇ……なるほどなるほど。分かりました」

 

「響くん……まさか」

 

「私の獲物は決まりました。クフフ……少し泳がせておきましょうか。ソロモンの杖を持って現れるまで」

 

 

響は少しにやけながら独り言を呟く。

 

 

「……それまでの間に、我々が介入した場合は?」

 

「証拠でも掴めたんですかぁ?……そうですねぇ、拷問には付き合ってあげますよ。私の能力的に得意なんで」

 

 

拷問、と聞いた瞬間に弦十郎の目が細くなる。

 

 

「拷問……する気なのか?」

 

「いえいえ、ソロモンの杖を素直に渡してくれたら、一撃でぶっ殺すだけに済ませますとも。あの惨劇が例えあのババァによって起こされたものだとしても、私の目的はあくまでノイズですから」

 

「……そうか(数年前まで一般市民だった子に、こんなことを言わせてしまっているのか。……俺は、俺たちは)」

 

 

弦十郎は心を震わせる。如何にかしてこの少女を救う方法はないのかと……

 

 

「……まぁ、私からはこれくらいですかねぇ。んじゃ、失礼しますよ。未来も連れてって良いですか?」

 

「ああ、時間をとらせてすまなかった」

 

「いえいえ、規則ですから。それじゃ」

 

 

響はそう言うと普通に扉から出て行った。

 

 

「響ちゃん……本当に未来ちゃんを大切に思っているんだな」

 

「そうね……それが逆に災いしないと良いのだけれど……」

 

 

藤堯と友里は、少女達を見てため息をついた。

 

 

 

 

〜響と未来の部屋〜

 

 

 

 

「ただいま〜」

 

「お帰りなさい響。ただいま」

 

「おかえり未来〜」

 

 

二課から帰ってきた響と未来。先ほどの弦十郎と響との間にあった険悪な雰囲気が無いためか未来も怯えている様子はない。

 

 

「ふぅー。二課はどうだった未来?悪いところじゃなかったでしょ?」

 

「うん。弦十郎さんや友里さん、ほかの職員の人も良い人だった」

 

「そうなんだよねぇ……チッ、国の機関の癖に無駄にお人好しだから余計にやりにくい」

 

 

響は未来の意見に同意しながらも小声で悪態をつく。

 

 

「こーら、あんまり悪く言わないの。あの人たちは、響のことも本気で心配してたんだよ?」

 

「……私を?」

 

 

未来の言葉に、響は訝しげな視線を送る。

 

 

「体調の変化とか、学校での生活とか、すっごく心配してた。特に弦十郎さん」

 

「……私の親か何かなのあの人」

 

 

呆れたような声で弦十郎の顔を思い出した響。

 

 

「まあ、そういうわけで、私もこれから少しでも響に協力できると思う」

 

「……絶対に自分を優先してよ未来。未来まで失ったら私、ダメになっちゃう」

 

「わかってるよ響。だから響も絶対帰ってきてよね?」

 

「うん。約束だよ」

 

『……俺に口があればなァ。コーヒーって奴を味わいたいぜェ、確か苦いんだろ?』

 

 

ダインスレイフもダインスレイフで色々苦労しているようだ。

 

 

「……ん?未来、ちょっと出てくる」

 

「また……ノイズ?」

 

「多分」

 

「はぁ……響、今日はなにが食べたい?」

 

「未来の一番得意な料理がいい」

 

「分かった。期待しててね?」

 

 

嬉しそうな笑顔で、未来は響に問いかけた。

 

 

「うん、行ってきます」

 

「いってらっしゃい、響」

 

 

響は外に出た。先ほど感知したノイズの出現場所に向かって跳躍して向かう。

 

 

「ダイン、ノイズ共なんかおかしくない?」

 

『アァ……無作為に人間を襲ってねぇなァ。もしかしたらソロモンの杖で操っているのかもなァ』

 

 

響が感知したノイズは、少数。しかもその数が減る速度もおかしい。街の人々ノイズに騒いでいないし気づいている風でもない。と、なると……

 

 

「狙いがちゃんとある?……でも今日戦ったあのコスプレ女はフィーネっていうババァに捨てられてるし、どういうこと?」

 

『……そのフィーネが、用済みだからとあの白髪のを消しにかかってるんじゃねぇかァ?』

 

「……なるほど。まあ、最優先はノイズの殲滅で」

 

『おうよォ……』

 

 

響はさらにスピードを上げる。もちろん、憎きノイズを蹂躙するために……

 

 

 

〜街中の路地裏〜

 

 

 

 

「クソッ……しつけぇんだよテメェら!!」

 

 

夜の路地裏に高い声と銃撃音が響き渡る。あたりは暗い。それにも関わらず異彩を示し続けるのは……半透明ではないノイズ達だ。

 

 

「オラァ!!ちょせぇぇぇぇぇ!!」

 

 

ガラの悪い態度で叫び続ける少女、雪音クリスは彼女の唯一の武器であるイチイバルのシンフォギアを持ってその障害を消滅させていく。

 

 

「ハァ……ハァ……なんだってんだ。どうして……フィーネ!!」

 

 

いつから戦い続けているのだろうか。クリスの体力はすでに限界を迎えそうだ。

 

 

『『『『『『%/#¥#¥%£&$€〆※』』』』』』

 

「なッ……どんだけ……いやがる」

 

 

さらにその数を増やしたノイズ。クリスの悲痛な叫びなど、関係ないとばかしにさらにクリスに向かってその体を差し向ける。

 

 

「haha!!さ〜!あ〜!it’s show……がッ……声が……」

 

 

戦闘の疲れからか歌うことすらままならないクリス。彼女の歌がシャウトを効かせなければいけないのも原因の一つだ。喉に負担がかかりやすい。

 

感情を持たないノイズだが、いまが好機とばかりにクリスに向かって突撃してくる。

 

 

「ぐっ……こんなところで……」

 

 

クリスは歌えなくてもアームドギアを構えて引き金を引こうとする。

 

クリスが撃つかノイズがクリスにたどり着くか、何方かが早いのか……という時に空から黒い靄が降りてくる。

 

 

「……ノイズ如きに防戦一方、私とそこそこやり合った奴とは思えないね」

 

「ッ……その声は……」

 

『『『『『『%¥#¥#*€£$#§#¥』』』』』』

 

「うるさい、消え失せろゴミ屑共」

 

 

黒い靄……『呪い』はノイズ達を包み込んでいく。そして少しずつ小さくなっていった。

 

 

「ふん……」

 

 

『呪い』を操る人間……響が手を握ると同時に、ノイズを包んだ『呪い』完全に小さくなりきり消えていった。

 

 

「立花響……どうして……」

 

「どうして?……ノイズあるところに私あり……覚えておけばいい」

 

 

響は少し不機嫌そうに、クリスからの問いに答える。

 

 

「……あたしのことなんかほっとけよ。フィーネにも捨てられたあたしには……もう出来ることなんて」

 

「……」

 

「笑えよ。今まで散々、戦争を無くすためだの平和のためだのほざいてきて、出来なくなったら無様に行き流れてるだけのあたしをな」

 

 

イチイバルを装備したままのクリスは、コンクリの地面に座り込み独白する。響は、クリスに背を向けなにも言わずに話を聞いている。

 

 

「……あたしは一体なんのためにここまで来ちまったんだろうな。テメェにも勝てない……天羽々斬女にも勝てない、ノイズにすら膝をつくあたしは誰にも認められることはなかったてか。傑作じゃねえか」

 

「……とりあえず、ギアを解除して。二課にもバレる」

 

「……ああ」

 

 

クリスは響の言うことに素直に従いギアを解除した。

 

 

「私は、別にお前の境遇なんか知ったことじゃない。関係だって、慰めるようなものじゃなくてお互いに戦意無き敵対関係だ」

 

「…………」

 

 

今度は響の番、とでも言うようにクリスは黙って響の話を聞いている。

 

 

「無駄に知り合いだったら、相手のことからの反応が怖くて本音なんて出せない。でもただの敵ならそんなことは気にしなくて良い」

 

「……何が言いてぇんだよ?」

 

「お前も他者からの悪意を一身に受けたことがある。違う?」

 

「……ああ、あるさ。ガキの頃から何度もな」

 

 

クリスは思い出す。バルベルデ共和国にいた頃の自分の境遇を。

 

 

「その悪意は本物だったでしょう?ねっとりと自分に絡みついて、どこまでも己を否定し存在価値などないかのように接してくる。その証明は、暴言でも暴力でもなんでもありだ」

 

「……」ギリッ

 

 

クリスは思い出す。他の子供達と共に鎖に繋がれ、ろくでもない扱いを受けたことを。

 

 

「そうしたら、次は自分がそいつらに悪意を向ける番。どうして自分が、自分が何をした。お前らの一方的な蹂躙のせいでどれだけ自分が苦しい思いをしたか」

 

「……ッ!!」

 

 

クリスは思い出す。毎日のように暴力に怯え、その中で大人達への悪意を募らせるだけだった日々を。

 

 

「でも自分には何も出来ない。何故かって?力がないからだ。アイツらに、自分たちの苦しみを思い知らせてやるだけの力が。毎日毎日、悪意に震えながら、自分の無力さを『呪う』日々」

 

「…………ッ!!」

 

「でも今は違うだろう!!」

 

「ッ!?」

 

 

響は拳を強く握りしめ叫ぶ。そんな響を、クリスは体を震わせながら見つめる。

 

 

「今の私には力がある。今のお前には力がある。今度は私たちが思い知らせる番だ。いつまでも恐怖に怯えているだけのか弱い少女ではないことを、奴らに教えてやるんだ。さあ雪音クリス。お前に嘘偽りを吐き、自分を無価値と吐き捨て、己の力を認めなかったクソ野郎は誰だ?」

 

「…………フィーネだ」

 

 

クリスは思い出す。フィーネに拾われてからの日々を。ソロモンの杖を起動させるために毎日嫌いな歌を歌わされ、ネフシュタンの鎧に耐えるために電撃を浴びせられ、甘美な言葉で自身を欺いていたことを。

 

 

「そうだ、フィーネだ。奴は傷心のお前に優しい言葉をささやき、利用するだけ利用して捨てるようなクソババァだ。そんな奴にお前が出来る……いや、思い知らせることができる行為はなんだ?」

 

「…………力を、示すこと。フィーネ自身に……あたしの力を。でも、あたしはフィーネに……だなんて」

 

 

クリスは思い出す。そんな毎日ですら、自身の目的のためだと己を偽り続け、フィーネに恐怖しながら過ごしていた日々を。

 

 

「今までは自分にとって唯一の理解者だったから、なんの疑いもせずに信じてきたんだろう?でも今はどう?『雪音クリス』にとって『フィーネ』は『味方』なのか、『敵』なのか」

 

「……わから……ない」

 

「分からない?だったら直接聞いてしまえばいい。あたしはアンタにとってなんなのかって」

 

 

響はクリスに近寄り耳元で囁く。その様子は、今までフィーネがクリスに甘美な言葉を囁いていた時と同じようだ。

 

 

「それでも答えてくれないなら、いっそ『敵』っていう関係を築いた方が、嘘偽りなく、自分に正直に、遠慮無く『想い』を伝えられるんじゃないの?」

 

 

悪魔の囁きだ。だが、すでに己の激情に身を任せてしまっているクリスにはそんなことは分からない。クリスの中では、すでにフィーネに対する決意が固まってしまっていた。

 

 

「…………ああ、礼を言うぜキチガイ女。やっと分かった。あたしのやるべき事。……戦争の火種は、フィーネだ」

 

(そう……それでいい)

 

 

クリスは嗤う。想像しただけで笑みが溢れるほどに。

 

響は嗤う。1人の少女がこんなにも純粋に何かを呪っている事に。

 

 

「立花響だ。私はキチガイじゃないよ。コスプレ女」

 

「雪音クリスだ。あたしの名前、その頭に叩きこんどきな」

 

「……分かったよ雪音クリス。じゃあ、早速行こうじゃないか」

 

「ああ、もちろんそのつ……もr……」

 

 

突然クリスが地面に全身を投げ出し……倒れた。

 

 

「ん……気絶?」

 

『過労だろうよォ……。あとストレスだ。脳が耐えきれねェよ』

 

「はッ!?今なの?一番良いタイミングで!?」

 

 

ダインスレイフの分析に響は叫ぶ。当たり前だろう、響にとっては一番美味しい展開まで持っていけていたはずなのだから。

 

 

『にしても……お前……悪女の才能があるんじゃねえかァ?歴代最低の女みたいだったぞお前ェ……』

 

「なんのことかわからないねダイン。私はただ、コイツの深層心理を引き出してあげただけだよ。自分に正直に生きるっていうのはすごく開放的で良いことだよ?」

 

『未来の嬢ちゃん、こんなので良かったんだろうかァ……』

 

 

ダインスレイフが声だけで黄昏ているのがわかる。

 

 

「クフフ……それにしても美味しかったなぁ、コイツの感情。こんなにも純粋でドス黒い感情はないね。最高のディナーだったよ。さてと……こんな良いものを提供してくれたお礼に、多少の世話は焼いてやろうかねぇ。未来も会いたいだろうし。くふふふふふふ……」

 

 

響はさらに嗤う。これから訪れるであろう展開が、彼女の思い通りになる事を想像したからだ。

 

物語は、最悪の形で進んでいるのかもしれない……




すまんやりすぎた……反省はしている。


後悔はしていないッ!!


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少女達の邂逅


「もしもし……未来?」

『響?……大丈夫、もう終わったの?』

「うん、余裕だった。それでさ、お客様が1名いるから窓の鍵を開けておいてくれない?」

「え……いいけど、お客様がいるのに……窓?」

「今日、未来に攻撃しかけた白い鎧の女だよ」

「…………あぁ!!あの子のことね。分かったよ響。あんまり遅くならないでね?」

「うん!!」


16話

 

 

〜二課〜

 

 

響がクリスの元に現れる少し前、二課の本部では職員達が慌ただしく動いていた。

 

 

「◯◯町にノイズの反応あり!!少数ながらも、速いスピードで移動しています!!」

 

「なんだとッ!?誰か翼を呼んでこい!!くッ……響君が帰ったばかりだというのに……なんていうタイミングだ」

 

 

藤堯からの報告を受けすぐさま司令は指示を飛ばす。あまりにも唐突なことであったため、弦十郎が焦っているのが分かる。ノイズの出現を見逃すような立花響ではないという事を失念しているからだ。

 

 

「……ッ!?ノイズの反応についで、アウフヴァッヘン波形……この形は……イチイバルの反応も捉えました!!おそらく交戦しているものだと思われます!!」

 

「イチイバル……雪音クリス君が……何故!?」

 

 

その疑問は最もだ。彼女は自らノイズを使役していたのだから。今更ノイズに襲われる道理がない。

 

 

「イチイバルの反応が、薄くなっていく!?司令、これは……」

 

「おそらく……苦戦しているのだろうな。翼はまだか!!」

 

「先ほどから連絡をとっているのですが……あっ、今レッスン中です!!」

 

「ッ……緒川に連絡し「司令ッ!!ノイズの反応……ロストしました。ついでイチイバルもロスト」……倒したのか……?」

 

 

友里と翼について話したいた弦十郎は、藤堯からの報告に再度唖然とした。

 

 

「いえ……ほんの一瞬ですが、別のエネルギー反応がありました。おそらく……」

 

「響君、か……」

 

 

未知のエネルギー反応が有ればだいたい響の能力である。それが今の二課の認識だ。国の組織としてはどうか、というような判断だが仕方がない。異端技術の最先端である櫻井了子でさえ響の力を理解できていないのだから、世界中どこを探したって響きの力を理解できるような人間は表舞台にはいない。

 

 

「調査隊を送れ。おそらく塵すらも残ってないだろうが、出向かなければお上様が煩いからな。それと、翼への連絡も無しだ」

 

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

 

二課の連携速度は速い。司令官が優秀な上、よく訓練されているエリートの職員たち。さらに拍車をかけているのは、ここ最近起こっているノイズ以外の異端技術による事件の数々によって鍛えられた実戦経験に基づく精神力の賜物だろう。普通、無い方がいいのだが……

 

 

 

 

〜リディアン音楽院寮〜

 

 

コンコン

 

 

夜の寮舎に小さく響く音。それに気付いたであろう部屋の主、小日向未来は、笑顔を浮かべて窓を開けた。

 

 

「お帰りなさい響」

 

「ただいま。先にコイツを入れるから少し避けてくれる?」

 

「あ、うん」

 

 

未来は少しだけ後ろに移動した。

 

 

「よいしょっと……コイツ、ちっこい癖に重たそうなものぶら下げやがって……世の女性が見たら泣くレベルだよ」

 

 

響きの手によって室内に放り込まれたのは、銀髪の少女、雪音クリス。割とひどい扱いだがもともと響は、彼女に対する興味など持ち合わせてはいない。しかも数時間前まで戦っていた間柄だ。特に問題はない。

 

 

「ちょっと響、女性には優しくしなきゃ」

 

「いいよ別に、さっきまで殺し合ってたんだから」

 

「ッ……それは、そうだけど……」

 

 

響から告げられる事実に思わず顔をしかめてしまう未来。

 

 

「あ……ごめん。そういうつもりじゃ……」

 

「ううん、いいの。私だってもう一般人じゃないから。さあ、この子の服を着替えさせましょう。ずぶ濡れじゃない。響も濡れてるし……寒くなかったの?」

 

「うっ……それは、大丈夫だった。……ていうか多分、ソイツ私達と同い年か少し上だと思う」

 

「…………え?」

 

 

新たな衝撃の事実に驚かされながらも、気を失っているクリスの世話をする2人。服を脱がせ身体を拭きサイズ的ブカブカなようなキツキツのような響のジャージを着せ、普段誰も寝ていない2段ベッドの下に寝かせる。

 

 

「ふぅ……あとはコイツが目覚めるのを待つだけ。全く、お姫様かっての」

 

「まあまあ、少し前までは響だってよく人助けしてたじゃない?久しぶりってことで、ね?」

 

「……まあ、未来がそういうのなら」

 

 

多少の愚痴を言いながらも2人はテーブルの方へ向かう。

 

 

「「いただきます」」

 

 

いつも通り向かい合って座る2人は、少し遅めの夕食をとり始める。今日は肉じゃがだ。

 

 

「ん〜、今日のご飯も美味しい。流石未来だね」

 

「良かった〜。少し煮込みすぎたかなって思ってたの」

 

「柔らかくて食べやすいよ」

 

 

そうして2人が食事を続けていると……

 

 

「ッ……こ……こは?」

 

「……やっとお目覚めかな、お姫様?」

 

「立花……響?それと……」

 

 

目を覚ましたクリスは、声の方向を見て響がいることを確認した。

 

 

「小日向未来っていいます。あの時はありがとう」

 

「……あの時?」

 

「お前が、一般人がいるって攻撃を逸らした相手だよ」

 

「……ああ、あの時のやつか。悪かったな……その、巻き込んで……」

 

「ううん。気にしてないから大丈夫」

 

「……そうか」

 

 

少し重い雰囲気となってしまった部屋だが、とある現象でそんな空気も霧散する。

 

グゥ〜

 

 

「ッ!?!?」

 

 

茹でダコのように顔を赤くしたクリス。今の今まで何も食べていなかった上に戦闘での疲労、そして響と未来が食べている夕飯の匂いがダイレクトにクリスの鼻を刺激していた。

 

 

「ふふっ……ちょっと待ってて。すぐに用意するから」

 

「図々しいにも程があるお腹だね〜?クフフ……」

 

「……るせぇ。……あたしの服じゃない?」

 

「私のだよ。お前が来てたやつはずぶ濡れだったから洗濯してる。朝までには乾くから、感謝して待ってろ」

 

「……あぁ」

 

「ところで、倒れる前のこと覚えてる?」

 

「ッ!!そうだ、あたしh……いッ!?」

 

 

響の言葉で何かを思い出したらしいクリスは、勢いよく立ち上がろうとして頭を2段ベッドの天井でぶつけた。響は悶えているクリスを少しの間眺めてから言う。

 

 

「今日は泊まっていけばいい。未来もその方が嬉しいみたいだし、お前だって体調が悪くてフィーネに負けました、なんて言い訳したくないだろ?」

 

「……そうだな。その、ありがと……な」

 

 

クリスは照れ臭そうに響に礼を言った。……しかし悪魔には聞こえない。

 

 

「んん?なんだって……いやー私聞こえなかったなー。ちょっともう言ってよ。いや、言え」

 

「ああん!?やっぱりテメェはキチg……いってぇ!?」

 

 

響の煽りが予想以上だったのか、クリスの煽り耐性がなさ過ぎるのか、クリスはまた頭をぶつけてしまった。

 

 

「ふっ……ベッドから出ればいいものを……んにゃ!?」

 

「こ〜ら、あんまり苛めないの。ほら、クリス?も来て一緒に食べましょう?」

 

 

ダインスレイフとの契約で肉体が強化されている響は、今し方くらった未来のチョップに痛みはない。しかし衝撃は消えないわけで、ばたりと床に倒れた。もちろん、未来だからこそするオーバーリアクションだが。

 

 

「……小日向だったな。その、食っていいのか?」

 

「そのつもりで作ったから。クリスが食べてくれないと余っちゃうの。だからクリスに食べて欲しい。ダメ……かな?」

 

「……分かったよ」

 

 

流石のクリスでも、未来の視線には耐えきれなかったようだ。

 

 

「むぐむぐ……御馳走でした!!私、先にお風呂入ってくるね〜」

 

「え……ふふ、行ってらっしゃい響」

 

 

いつのまにか復活していた響は、夕飯を食べ終えると颯爽と風呂に向かっていった。

 

 

「……なんだアイツ?」

 

「いいから、食べましょ?」

 

「いただきます」

 

 

実際は2つしかない席を開けるために響が気を使っただけなのだが……クリスは気づかない。

 

 

「ッ……」

 

「どう?」

 

「………ッ!!」

 

 

少々……いやとても食べ方だ汚いが、一口食べた後は勢いよく食べ始めるクリス。

 

 

「ふふ……そんなに勢いよく食べたら喉に詰まるよ……」

 

「むぐッ!?ッ〜〜!!」

 

「ああ!!ほらクリス、水飲んで!!」

 

 

案の定であった。

 

 

「……ぷはぁ。……めちゃくちゃ美味ぇ。こんなの、いつぶり……だろうな」

 

 

黄昏れながらクリスは呟く。それから十数分かけて食べ切ったクリスは、懐かしい一言を口に出した。

 

 

「ごちそう……さまでした」

 

「はい、お粗末様でした」

 

 

ピピピピ……

 

 

「あっ、洗濯出来たみたい。干してくるから、適当に寛いでて」

 

「え、あ、おい……なんなんだ」

 

 

洗濯機の方へ走って行ったらしい未来を見ながらクリスは呟く。

 

 

「なんでここまでする?あたしは、何も返せないのに。アイツらのことだって、傷つけようとしたのに……」

 

「だったら手伝って」

 

「ッ!?……立花響」

 

 

風呂上がりで頬を赤く染めた響は、タオルで頭を拭きながらクリスに話しかけた。

 

 

「別に、未来は何かお返しが欲しいなんて思っちゃいないよ。自分の手の届く範囲に助けられる人がいるなら助ける。全く……いつかのただのバカな私みたいだ」

 

 

タオルを首にかけながら台所に向かう響。どうやら皿を洗おうとしているらしい。クリスから響の顔は見えないが、声音からいい表情はしていないだろうということが窺える。

 

 

「あ、あたしも……やる」

 

「んじゃ、よろしく」

 

 

台所に立った2人は黙々と皿を洗い、拭き、乾燥機に入れる。

 

 

「あたしの事……二課に言ったのか?」

 

「いや?私、別に二課に所属してるわけじゃないし。報告義務なんてないね。未来は特別協力者っていう立場だけど」

 

「……そうか」

 

 

皿洗いを終えテーブルに戻ると、未来が微笑ましそうに2人を見ていた。

 

 

「……なんだよ?」

 

「響が私以外の人と親しそうに話してるの、久しぶりだな〜って思って」

 

「そう?…………確かに」

 

「お前、どんな生活してんの?」

 

 

見られていることに気づいたクリスは未来に尋ねられるが、予想外の言葉で返された。

 

 

「ああ未来、お風呂いいよ。後は乾かすだけだから」

 

「分かった。あっ、クリスも一緒に入ろ?」

 

「なッ!?なんであたしが!!……ひっ」

 

(未来がせっかく誘ってくれてるのに邪険に返すとは……いい度胸じゃないか白髪ロリ巨乳さんよォ……?羨ましい……)

 

『響、口調が俺みたいになってるぞ?というか、言えないからって俺に向かって言うんじゃねェ』

 

 

ヒトを殺せそうな目線をクリスに送る響。クリスが小さく悲鳴を上げるが未来は気づかない。

 

「わ……分かったから。い、一緒に入ればいいんだろ?」

 

「じゃあ早速行きましょ?」

 

「お、おい。って手を引くなッ!!」

 

「……未来も、変な奴気にいっちゃって。……はぁ、今更じゃん」

 

 

クリスの手を引きトコトコと風呂場に向かう未来。そんな彼女を横目に響はカーテンを開け夜空を見る。

 

 

「ねぇダイン。もしかして私……変わった?」

 

『そうさなァ……変わったのかァ変えられたのかァ……少なくとも、悪い方向には進んじゃいねェ。強いて言うなら……お前、コミュ症治ってきたよなァ……』

 

「……ダインって私のこと、コミュ症だと思ってたの?」

 

 

1人だからこそ、声を出してダインスレイフと会話をしている。

 

 

『まァな。それよりもだァ響、わざわざ1人きりの時間を作ったってことはァ……忘れていないようだなァ?』

 

「もちろん。で、アレの何がいけなかったの?」

 

 

アレ、と言うのは、二課のトレーニングルームでの翼との模擬戦、及びネフシュタンの鎧を纏ったクリスとの戦闘で使った『呪い』の羽のことだ。ダインスレイフは知らないが、『呪い』の一部となっているラースとの修行で手に入れた力でもある。

 

 

『お前、あの翼をどうやって形成している?』

 

「え、普通に『呪い』で作ってるけど?」

 

『そう言うことじゃねェ。『呪い』に何をして作っているかという問題だよォ』

 

「う〜ん、感覚的な問題だけど……まず『呪い』がどういうものか改めて【解析】する必要があると思ったんだ」

 

『おう』

 

「だから、内側のさらに内側……それこそ、人間では見えないレベルまで【分解】した」

 

『……アァ』

 

「そこからは簡単で、分解した『呪い』に私の考える……いや、感じる『羽』もしくは『翼』っていうものの形に【再構築】して作ってる」

 

『なるほどなァ……

 

(錬金術における必要事項をクリアした上で、無意識で【錬成陣】まで展開して【錬金術】で擬似的に『イカロスの羽』を再現してるっていうのかァ?ありえねェ……ていうか世界中の錬金術師共が発狂しそうだなァ)』

 

「だから特に問題はないと思うんだけど……?

 

(ごめんダイン。ラースから錬金術について学んだし、あの世界時間の経過が遅いらしいから1年分修行して来たんだ……流石に起きたら6時間ちょっとしか立ってなかったのには驚いたけどね)」

 

 

2人……人?の会話には色々とかくしごとが含まれている。しかしこれは互いを信じていないからではなく、信じているからこそ言わない方がいいという判断をしている。

 

 

『問題大有りだバカ。緊急事態以外ではあの方法で絶対にアレを使うな。詳しくは言わないが、使い過ぎると死ぬぞォ』

 

「……そうなの?私、一応ダインと契約して体も強くなってるし大丈夫だと思うんだけど……

 

(錬金のエネルギーはいつもより多めに『呪い』を焼却してるから私自身には影響ないんだよなぁ……ていうか、自分の大切な何かを焼却するわが無いじゃん。そんなことしてノイズへの『呪い』まで焼却したら本末転倒だし。錬金術を使ったら自分の全部が吹っ飛びました。なんて錬金術師いるわけもないし)」

 

 

どこかの未来の誰かさんのHPが0になりそうな響の胸中だが、ツッコミを入れる者はまだいない。

 

 

『肉体的な強さでどうにかなるもんじゃねェ。いいから絶対に使うんじゃねェぞ』

 

「……了解。ノイズみたいな雑魚との戦闘じゃ使わないよ」

 

『……それならいい』

 

 

一応、2人の間で結論は出たようだ。そんな時、風呂場の方からも声が聞こえてくる。

 

 

「クリス、髪を乾かすからじっとしてて」

 

「それくらいあたし1人でできる!!ッッこっち来んな未来!!」

 

 

もう風呂から上がるような時間が経ったのか、2人は心の中で驚き声を発さずに会話を始める。

 

 

(ダイン、話はもういいの?)

 

『アァ、充分だ。お前も不審に思われねェ程度に誤魔化せよォ……』

 

(もちろん……それにしても随分とまぁ仲良くなっちゃって。いつの間にか呼び捨てだし)

 

 

響は少しばかり……割と嫉妬の感情に駆られながらも就寝準備に向かった。

 

 

(いざとなったら、ガングニールを焼却してしまえばいいか。決戦用錬金術を使うにはちょうどいい火力が出そう)

 




〜風呂〜


「何も言わねぇんだな。あたしの体を見て……」

「ん〜、その大きなものが羨ましいくらいかな?」

「なりたくてなったわけじゃねえから諦めな。……そうか」


背中を流してもらっているクリスはその背中の電撃痕を気にしていたが、何も言わない未来の言葉を聞いて思わず笑ってしまったようだ。


「はじめて笑った……」

「あぁ?」

「クリスがウチに来てから初めてだな〜って思って」

「……そうかよ。あたしだって、人前で笑うのは久しぶりだ」

「どうして?友達と遊んだりしなかったの?」

「……友達いねぇんだ。地球の裏側で両親を殺されたあたしは、ずっと1人で生きてきたからな。生きることに必死で、友達なんて……作ってる暇なんかなかった」

「……その、ごめんなさい」

「別にいい。まず話すら聞かなかった奴もいるからな」

「あぁ……響には、後でちゃんと言っておくから……」


重い話をしていたのに、響の話になった瞬間、重苦しかった空気が霧散した。


「ねぇクリス」

「なんだ?」

「私と友達になって欲しい」

「はぁ……?別に、同情ならいらねぇ」

「同情じゃない!!私がクリスと友達になりたいと思ったから!!」

「お、おう……(急にテンションが上がったなコイツ)」

「で、ダメ……かな?」

「うぐッ……はぁ、分かった。だが勘違いするんじゃねぇ、仕方なくだからな!!(この上目使いは卑怯だろ……)」


未来の上目使いはシンフォギア奏者でさえ圧倒するらしい。


「「へくちっ!!」」

「「…………」」

「お風呂……はいろっか」

「……そうだな」




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素直じゃねえのな

17話

 

 

「雪音クリスは?」

 

「相当疲れてたらしくすぐ寝ちゃった」

 

「そう……ねぇ、未来。ここに風鳴翼のライブの関係者席チケットが2枚あるんだけど……行かない?」

 

 

学校の鞄から、昼休みに受け取った小包を開ける響。

 

 

「関係者席のチケット!?……そういえば弦十郎さんって」

 

「叔父だってさ。でもこれは本人から直接もらった」

 

 

スッとチケットを取り出し未来に見せた。

 

 

「響……あ、そういえばいつ?」

 

「明日」

 

「明日!?」

 

 

響はなんでもなさそうに言うが、未来はいくらなんでも急すぎる言葉に驚いた。

 

 

「何か予定あった?」

 

「ないけど……関係者席なんでしょ?私が行っても大丈夫なのかなぁって」

 

「二課の特別協力員になったんだから全くもって関係者だよ?」

 

 

その通りである。だが、今日その立場になった未来からすればただ書類を書いただけなので実感が薄いのだ。

 

 

「……確かに。……うん、響が誘ってくれたことは嬉しいけど、今回はいいかな」

 

「……そう」

 

 

目に見えて落ち込む響。さらに未来は……

 

 

「でも、代わりにクリスを連れて行ってあげて」

 

「え……なんでアイツ?」

 

「歌、大好きみたいだから」

 

「はぁ……?でもアイツ確か……」

 

 

響はネフシュタンを纏い、イチイバルも纏った時のクリスの発言、『あたしは歌が大嫌いだ』と言っていたのを思い出し、顔を顰める。

 

 

「さっきお風呂に入っていた時、無意識そうだったけど鼻歌を歌ってたの。それもすごく楽しそうに」

 

「……ふぅん。無自覚ねぇ……まぁいっか。了解、引き摺ってでもアイツを連れてくよ」

 

「な、仲良くね?」

 

 

 

 

〜翌日〜

 

 

「……で、なんでアタシはこんな所に来てんだ?」

 

「今の聞いてなかった?」

 

「聞いてたから、余計わかんねぇよ!!」

 

 

ショッピングモールへと来た響とクリス。響はどうやら前書きの内容をクリスに伝えたらしい。だが、クリスには伝わらなかったようだ。

 

 

「そんなドレスじゃ目立つから、わざわざ……わざわざ!!私が昼から買い物に付き合ってあげているのにその言い草は、なかなか挑発的じゃない?精神に異常をきたす程の『呪い』でも打ち込んでやろうか?」

 

「いちいち言動が怖いんだよ!!アタシは別にこの服で問題ねぇ!!大体アタシはなぁ、今日フィーネの屋敷に行く予定だったんだぞ!!」

 

「あっそう。じゃあ行けばいいんじゃない?そうなったら私、帰って未来に、服もいらないと言って颯爽とどっかに逃げて行った恩知らずとして伝えないといけないんだけど……まあ仕方ないよね〜」

 

「うぐッ!?……それは」

 

 

脅しである。完全にクリスは黙った。しかし本日はよく喋る響であるが仕方がない。響にとってクリスは初めて出会った、極上の『呪い』を自ら宿す人間。さらに今日は風鳴翼のライブだということもあってテンションが高いのだ。

 

 

「冗談。さっさと買いに行くよ。私は服とかよく分かんないから店員に選ばせるけど、覚悟しといて」

 

「お前……女としてそれはどうなんだよ……ていうか覚悟?」

 

 

クリスにもブーメランだが境遇が境遇なので割愛。

作者にはファッションのセンスがないので分からないが、女友達曰く「一度店員に聞いて30分ほど着せ替え人形になってた」らしいのでそういう事なのだろう。

 

 

 

 

 

〜数時間後〜

 

 

 

 

「……逆に目立つかも?」

 

「きゃあ〜〜!!お客様、すごくお似合いです!!あ、でもこっちも良いかも!!」

 

「これで良い!!だからもうこっちくんなぁ!!」

 

 

1時間ほど響がクリスを服屋に放逐し、同じような状況だったので1時間おきに様子を見に来てまだこれだ。今クリスが試着している服は所謂、【雪音クリスanother】というアプリ版のイベントで並行世界のクリスが着ていた私服だ。(決して作者が私服を考えれなかったわけではない)

いったい何着の着たのだろうか。響はその光景にゾッとしながらも一度クリスを店員から引っこ抜き尋ねた。

 

 

「会計は私が。いくらですか?」

 

「ああ、ええと……×××円になります。あら……貴方もなかなか……ちょっと試着して行きまs……「いいです」……あっはい」

 

 

会計を終え、クリスを連れて店を出た響とクリス。買った服はそのまま着ている。

 

 

「なんか落ちつかねぇ……その、視線が……」

 

「気のせいだよ。堂々としてろ(……そりゃあ目立つだろうね。こんな美少女が街中にいたら)」

 

 

いろんなところから注目を浴びているクリス。何故かその視線は男性が多い。いったい何故だろうか?……いったい何故だろうか!!

 

 

「もうお昼過ぎてるし……体質的に食べられないものは?」

 

「そんなもん気にして生きる余裕なんてなかったから、なんでもいい」

 

「あっそう、じゃあ適当に買ってくるからそこら辺で待ってて」

 

「おう」

 

 

数分後、本当に適当に響が一階の食料品売り場から選んだパンを持ってクリスがいた場所に戻ってきた。しかし……

 

 

「いいから行こうぜ。俺たちがもっといい場所に連れて行ってあげるからさ」

 

「そうそう。君も絶対楽しいと思うし!!」

 

「うっせぇ!!あたしは行かねぇって言ってんだろ!!しつこいんだよテメェら!!」

 

(ナンパされてる……)

 

 

響はそう思うと同時に、クリスのもとに駆け寄りクリスをナンパしていた男2人に話しかけた。

 

 

「あの、私の連れなんでやめてもらえます?」

 

「……お前」

 

「ああ?……って、君もすごい可愛いじゃん。この子の連れ?だったら一緒に遊ぼうぜ!!」

 

「話聞いてます?今日はこの後予定あるんで。失礼します」

 

 

声のトーンの変わらない、まるで機械音声のような感情のない声で言う響。そのままクリスの手を引き連れて行こうとするが……

 

 

「ちょっと待てよ。せっかく俺たちが誘ってあげてるのにその態度はなんなの?もうちょっと嬉しそうにしてもいいんじゃない?」

 

「ッ……私に触るな」

 

「いってッ……あーあお前、出しちゃったね?」

 

(面倒……ノイズの相手をしてる方が楽だな。さっさと終わらせよう)

 

「そっちに構ってる暇はない。さっさと他のやつでも探しに行けば?」

 

「この女……調子に乗って!!」

 

「私がここで、悲鳴をあげたらどうなるんだろうね」

 

「ッ!?」

 

 

ここはショッピングモールの一階。食料品売り場の近くとあって客は大きい。少しでも騒ぎが起きればすぐに警備員が来るだろう。

 

 

(……あきらかにナンパされてるのが見えてるのに、他の人は誰も何もしないんだ。……あの時と一緒)

 

 

他の客の視線が響達に向いている。しかし、皆が見て見ぬ振りだ。

 

 

「おい、こんな奴らもうほっといて行こうぜ」

 

「……チッ。分かったよ」

 

 

そう言って男2人組は去っていった。

 

 

「……だっさ」

 

「お、おい、お前なんで……」

 

「さっさと行くよ。無駄な時間だった。あ、コレ適当に食べて」

 

「え、あ、おいちょっと……って、あんぱん?」

 

 

そして、少し早足でライブ会場までの道のりを歩く。

 

 

「お前、飯は?」

 

「別に食べなくても問題無い」

 

「……聖遺物との融合、か」

 

「分かってるならいちいち言わないでよ。自分で望んだ結果だから後悔もないし」

 

 

響の言葉を聞いてクリスの顔が強張る。だが響はなんともなさそうだ。

 

 

数十分ほど歩いた2人は、ライブ会場へと到着した。受付でチケットを見せると係員が驚いた様子で関係者席へ案内してくれた。随分と待遇がいい。

 

 

「……驚く程あっけなく通してくれるんだな」

 

「私たちは一応、日本で唯一ノイズに対抗できる存在。邪険に扱って機嫌を損ねて別の国に行っちゃいました、とか冗談にもならないから当たり前だよ」

 

 

途中で二課らしき人間もちらほらといたから、おそらく雪音クリスに警戒をしているんだろう。響はそんなことを考えながら目を瞑って開演を待っている。

 

 

「…………ッ」

 

「どうした?」

 

「……少しお手洗いに行ってくる。二課っぽい人が来たら、立花響を敵に回したいのか?って言えば大丈夫だから」

 

「お前やっぱ怖いわ」

 

 

ピクッと響の眉が動き、目を開けた響はクリスに一言告げてから席を立った。

 

 

(ダイン……なんか散らばって出てくる?)

 

『そのようだなァ……目的を持った感じの出現の仕方じゃなねェ』

 

(……無粋なババァだよ全く)

 

 

どうやらノイズの出現を感知したらしい。響は人の波をスルスルと通り抜け、人目につかないところから大きく跳躍しライブ会場で一番高いところへと登った。

 

 

「今日は……風鳴翼の、本当の絶唱の日だ。私はそんな彼女の覚悟を知りたい……なのに……お前はいつも邪魔をする!!ライブの日も!!流星群の日も!!今日も!!……出てきた瞬間に終わらせてやるよ木偶人形」

 

 

響は空に向かって吠える。そして右腕にダインスレイフを出現させ空に向ける。

 

 

『BLOOMED METEOR』

 

 

切先から放たれた『呪い』のエネルギーは響の前方の街の至る所、その上空に飛んでいった。

 

 

「…………戻ろうかダイン」

 

『あァ……』

 

 

それを尻目に、響はダインスレイフを納め観客席に戻る。

 

 

「遅かったじゃねえか」

 

「混んでてね。もうすぐ始まるから席に着け」

 

 

ぶっきらぼうに返す響。しかしクリスは特に気にしていないようだ。

 

程なくして会場の全ての電気が消える。ステージ前方に照明が集中し、翼が出てきた。会場は音もなくすべての人間が、ライブが始まるのを待っている。

 

 

(……聞かせてもらいましょうか。貴女の歌を)

 

 

「…………」

 

 

不意に響と翼の目があった。翼は響とクリスの姿を見て目を細めるが、すぐに前を向いた。

 

 

(それでいい。今はただ……歌って。どうしようもないゴミ処理だけは私がやるから)

 

 

前奏が始まった。クリスは少し眉を潜めながら聞き始めているがその口元は笑っている。

 

 

『〜〜〜♪』(FLIGHT FEATHERS)

 

 

「Deja -vuみたいなカンカク 制裁みたいなプラトニック 

 

 かさね合うメモリー 届いて wishing」

 

 

(…………………あぁ……やっぱり好きだなぁ……この人の歌。嫌いにはなれないや)

 

 

翼の歌を聴きながら、響は思う。辺りを見渡せば青いペンライトが至る所で振られていて2年前の光景を思い出させた。

 

 

(今の私はあの頃と違って力がある……だから)

 

「……?」

 

 

響は翼の歌に耳を傾けながら右腕を肩の高さまで上げた。クリスが怪訝な目で響を見る。

 

 

(………消え失せろ)

 

 

人差し指を伸ばし、手首を曲げて腕を下ろさずてだけを下に向けた。

 

 

『…………全滅だ。流石だぜェ響』

 

(当たり前だよ……私がノイズを逃すわけないじゃん)

 

 

響が行ったことは単純だ。予めノイズが出現するであろう座標の上空に『呪い』を待機させておき、ノイズが出たと同時に全てを破壊し尽くしただけだ。一瞬現れて一瞬で消えたノイズに、二課本部は今頃大パニックだろう。まあこういうことは誰のせいなのか分かっているだろうが。

 

 

「多分それだけの 物語なんだ信じて My road」

 

 

曲が終わった。クリスに至っては頭を揺らしてリズムをとっている。

 

 

「……お前、なんで泣いてんだ?」

 

「へ……?あれ……私、泣いて……?」

 

 

クリスが響を見るとその瞳からツーっと涙の筋が出来ていた。なんだかんだ言って響はツヴァイウィングのファンだ。当時のライブでは本当に心躍ったし、事件後のリハビリだってツヴァイウィングの曲を聞いたから頑張れた。響の変化はその後に起こったことであり、その根本までは変わっていないのだ。今の響は、心の底の底から感動している。

 

 

「……ごめん、見ないで」

 

「わあったよ」

 

 

響の声にクリスは手をひらひらと振りながら翼の方を見た。どうやら海外進出のことについて話しているようだ。

 

 

(……明日にでも出ていこう。世話になったけど、あたしは……フィーネに)

 

 

クリスは翼を見ながら己の決意を新たにした。

 

 

「……んじゃ、帰ろうかクリス。もう用はないから」

 

「あぁ?まだアイツの話は終わってないぞ?」

 

 

どうやら涙が止まったらしい響は落ち着いた声でクリスに告げた。

 

 

「興味ない。私は風鳴翼の歌を聞きにきただけだからね……ゴミ処理もいい感じに出来たし」

 

「素直じゃねえのな」

 

「お互い様」

 

 

軽口を叩き合いながら2人は会場を後にする。どこかの町では、所々で炭素の塊が発見され一時期大騒ぎになったとかなってないとか。しかし、人的被害は全くなかったらしい。

 

 

(次に会うのはいつかな。戦場の歌も楽しみにしてるよ翼さん)




〜???〜


「素晴らしい!!天羽奏がいない中でここまでフォニックゲイン……やはり正規適合者は逸材か」


とある空間で虹色に輝くソレを見ながらその女は叫ぶ。


「さて……あとはデュランダルのみ。これについては問題無い。懸念材料の立花響さえ封じてしまえば残りの奏者はたわいもない。ようやく……ようやくこれで……ッ!!」


両腕を広げて喜びをあらわにする女。


「もう一度……会うために……エンキ……※※※※※※様」


決戦の時は近い


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決戦までのカウントダウン

18話

 

 

自然豊かな山の多い場所。誰も来ないようなその場所には大きな屋敷が一軒建っていた。1人で住むにはもったいないくらいの屋敷や大きな湖。そこでは、長い金髪に金の瞳を持つ女性が水面を眺めていた。

 

 

(何故だ……何故ノイズの発生地点を探ることが出来る?大まかな地域ならばバビロニアの宝物庫による空間の歪みを察知することで分かるかもしれないが……まさか、個体全ての真上にエネルギーを待機させておくことなど……いや、実際に出来ているのだから解析するしかない)

 

 

整った顔をしかめながら思考する女性……フィーネは、先日の風鳴翼のライブで出現させたノイズが一瞬で全滅させられたことに対しての考察を行なっていた。犯人はもちろん響だ。

 

 

「さて……折角の客だ。目覚めたばかりで寝坊助なこの代物を試すとしよう」

 

 

フィーネは手元に掌サイズの卵のようなものを出現させると、天に掲げた。刹那、彼女を中心に宇宙のような、星々の輝きが想起されるような景色が広がっていった。一本だけ整備された道を通っていた一台のトラックはなす術もなく飲み込まれていく。ひとしきりその空間が広がると、一瞬にしてその全てが消える。残ったのは雄大な自然と、運転手を失い制御の効かなくなったトラックだけだった。

 

 

 

 

 

「で、どっちなの?」

 

「う、うるせぇ!!ちょっと黙ってろ!!舌噛むだろ!?」

 

「はぁ……?なに、怖いの?」

 

「そんなわけねえだろうが!!あたしが……この程度のことで怖いだと!!」

 

 

口論をしている2人、響とクリス。現在は昼前でまだまだ人通りの多いが、構うことなくクリスは大声で叫んでいる。それもそのはず、2人は今空中に居るからである。と言っても、響がいつもの羽を生成しクリスを片手で抱えて飛んでいるだけなのだが。

 

 

「じゃあ早く答えてよ。あのババァの屋敷はどっち?」

 

「コイツ……まあいい。えっと……あっちだ」

 

「了解」

 

『響お前……もう少し手加減してやれよォ……』

 

 

流石に片手だけで掴まれていると言うのも恐ろしいクリスは戦々恐々としながら響の指示に従う。ダインスレイフもそんな響の雑な扱いに流石に諌めようとしているが、効果は無いだろう。

 

余談だが、響が現在生成している羽は初期の頃に生成した模造品。ダインスレイフは響がラースと出会っている事を知らない為、そしてダインスレイフから錬金術による羽の生成を止められているためやむなく初期の物を使用している。そのため出力が低い。出力が低いとっても【呪い】を束ねた響印。高速で飛行する響とクリスは無言だ。響は話そうとしないため、クリスはこみ上げてくるアレを耐えるため。

 

そのまま飛行すること10分ほど、2人は目的地に到着した。優雅に着地して響はクリスを離した。すぐさまクリスが湖のほうに駆け寄ってナニカを口から放出していたが彼女のプライドの為に敢えて言及はしないでおこう。

 

 

「…………雰囲気が変」

 

『アァ……空間の歪みに血の香り……何かあったなァ……』

 

 

響は辺りを見渡す。融合によって強化された視力は、しっかりとソレを捉えた。

 

 

「死体……見た目的にアメリカ人?武装してるし、まさかババァを狙って……いや、そうなら倒れてるのはババァのはず。つまり……逃げたか」

 

『そう考えるのが妥当だろうなァ……それにしてもアイツ、一体なにが目的で…』

 

「何か言った?」

 

『いや、なんでもねぇよォ……』

 

 

アサルトライフルを持った何人もの外国人男性が出血多量で死んでいる。見た目的には何かで腹を貫かれたようだ。

 

 

「屋敷を調べ……いや、意味無いよね」

 

『恐らく、証拠を残すような真似はしないだろうなァ……』

 

「ハズレか……時間の無駄だったね。……ッ」

 

『響』

 

「うん。また面倒な……」

 

 

眉をピクッとさせた響が舗装された道路を見た。今はまだ何も見えないが、響とダインスレイフには分かっているようだ。

 

 

「帰ろう。ついでだしクリスは保護してもらう。そろそろ寮長にバレそうだったし」

 

『それがいい。クリスに挨拶は?』

 

「一応していこっか」

 

 

響はいまだに湖に向かって俯いているクリスの元へ近づくと、話しかけた。

 

 

「大丈夫?」

 

「ああ?これが大丈夫に見えんのかよ……うっ」

 

「私、もう行くから」

 

「ああそうかよ……ってはあ!?」

 

 

急な言葉にクリスは叫ぶ。

 

 

「お前……いいのかよ」

 

「別に、もう終わってるし。後は適当に保護してもらいな」

 

 

ひらひらと手を振りながら響はまた羽を出し、飛ぶ。しかしクリスがそれを止めた。

 

 

「ちょっと待て!!」

 

「……なに?」

 

「いや、その……感謝してる。色々な……アイツにも言っておいてくれ!!」

 

「りょーかい。んじゃ、またね」

 

 

短い返事とともに響はクリスに背を向けてその場を去って行った。

 

 

「……なんだったんだ?それに保護って。まあいいか、とりあえずフィーネのところに行かねえと」

 

 

響を見送ったクリスは、 意を決して屋敷の中に踏み込む。道中にも男の死体がいくつもあってクリスは顔を顰めるが、それがフィーネのやったことと認識してさらに進む。やがて、いつも食事を取ったり電撃を浴びていた場所まで来るとクリスは立ち止まる。

 

 

「いねぇ……アイツ、まさかフィーネが居ないのを知ってたからとっとと帰ったのか?」

 

 

傷ひとつないテーブルを触りながら呟いていると、1人でに後ろのドアが開いた。いや、誰かに開けられた。

 

 

「ッ……誰だ!!」

 

 

クリスはすぐに戦闘態勢を取る。シンフォギアの赤いクリスタルを手に取りいつでも纏えるようにしている。

 

カツン…カツン…と少しずつ靴の音が聞こえ、明るい場所になってようやく認識できたその人間は……

 

 

「風鳴弦十郎……!!」

 

「道中、アメリカ人らしき死体が何人分もあったが……」

 

「ッ!!違う!!私じゃない!!」

 

 

弦十郎は硬い表情のままクリスに言う。クリスは感情のままに否定するが、弦十郎の背後から黒服にサングラスを付け、拳銃を手に持つ男たちが何人も入ってきた。

 

 

「安心しろ。誰もお前がやったとは思っていない」

 

 

弦十郎は肩の力を抜くと、黒服達と共に部屋を捜索し始めた。クリスは警戒を解かないままそれを眺めている。

 

 

「司令、こんなものが……」

 

「ん?」

 

 

1人の黒服が何か見つけたのか、弦十郎を呼び出した。弦十郎が近づいてみると『I love you』の文字。黒服はその紙を無造作に引き剥がすと、一本の線が反応した。

 

 

「チッ!!」

 

 

刹那、大爆発が空間を支配する。天井に仕掛けられた爆弾が爆発したのだ。瓦礫が降り注ぎ煙が充満する中で、弦十郎は颯爽とクリスの元まで駆けつけその身を守る。衝撃は発勁でかき消しているためなにも問題はない。

 

この後、クリスと弦十郎の間で一悶着あったが殆ど正史と変わらない。ただ一つ違うのは、クリスに渡した二課用の通信機の数は2つだったと言うことだろう。誰宛の物かは言うまでもない。

 

 

 

〜響〜

 

 

 

「ちょうど良い時に出てきてくれる」

 

 

現在、普段から利用している公園のベンチに座っている響は、また新しく出現しようとしているノイズを感知していた。

 

 

『鬱憤ばらしにはちょうど良いなァ……』

 

「うん。でも数が少ない」

 

『大体10体か。張り合いがねェ』

 

「ちょっと未来に連絡する」

 

 

響は携帯を取り出して授業中だろう未来にメールを打った。内容は『ノイズが出るからいざとなったら二課に逃げて』というような内容だ。必要な部分を切り取ってこれなので本文はもっと長い。響は例の如く先生に許可を貰っているので授業をサボっているが、授業に関してはもう熟知している範囲なので問題は無い。

 

 

「…………うん、行こっか」

 

『あァ』

 

 

『呪い』の羽を広げて一気に飛び立つ響。高度を上げれば地上にいる他人が見ても大きな鳥にしか見えないはずなのでそうしている。

 

 

響が現場に到着すると、すでにノイズは出現していた。まるで空を飛ぶ戦艦と言えるほど巨大なノイズ10体が東京スカイタワーを中心に円を描いて飛行している。位相差障壁によるこの世界への存在比率を変えて……つまり通常攻撃の効かない透明な状態になって。ただでさえ雲のない空色に透明なノイズが合わさると見えるかどうかも怪しい状態。一般大衆はまだノイズに気づいていない。

 

 

「私が近づいても何もしてこない……どうして?」

 

『さァな。デカすぎて雑魚どもみたいな突撃が出来ないとかだと笑っちまうけどなァ……』

 

「まあ飛んでるだけならただの的。とりあえず二体は潰すよ」

 

『任せとけェ』

 

 

響は空中でダインスレイフを呼び出すと天に掲げた。全身から溢れる『呪い』がダインスレイフの切っ先へと収束していきいつでも発射できる状態へとなった。

 

 

「消えろ……ッ!!」

 

 

一旦腕を引いた響はすぐにノイズに向かって切っ先を突き出す。ダインスレイフから放たれるレーザーの如きエネルギーはノイズを貫いて爆散させ、さらに貫通してもう一体消しとばした。

 

それを皮切りに動きを見せるのは8体となったノイズ達。奴らは自身の腹にあたる部分をスライドさせ中身を露出させると、大漁の小型ノイズを地上に向かってばら撒き始めた。

 

 

「なっ……アイツら、攻撃用じゃなくて雑魚を収容する母艦みたいなやつってこと?」

 

『どうやらそうらしいなァ。奴らを優先させれば地上の人間が炭素へと変えられ、地上のを優先すればさらなるノイズが地上へと降り注ぐ。八方塞がりと言っても過言じゃねェ』

 

「冷静に言わないでよ……どうにかならないの?」

 

 

会話をしながらも攻撃の手は緩めない。大混乱となった地上へと向けて羽から、ダインスレイフから、左手から『呪い』をひたすらに乱射して地上のノイズだけを器用に粉砕していく。

 

 

『俺達だけなら無理だなァ。人間の死を犠牲にデカいのを優先するしかねェ……』

 

「そんなのッ……認めてたまるか!!」

 

 

響はノイズへの憎悪をさらに募らせ全身から吹き出る『呪い』を増幅。これまで以上に熾烈な攻撃を仕掛ける。そんな時……

 

 

「よく言ったわ立花!!」

 

「ッ……風鳴翼さん」

 

『千ノ落涙』

 

 

 

響の周りから青く輝く剣が大量に地上のノイズへと降り注ぐ。アメノハバキリの技だ。地上を見ると、バイクの先端に刃を展開し、切り裂きながら走る翼の姿が見える。

 

 

「はぁッ!!」

 

『逆羅利』

 

 

そのままの勢いでバイクから飛び降りた翼は脚部の刃を展開し逆立ちで回転。周りのノイズを駆逐する。制御を失ったバイクもノイズの集団へと突っ込みノイズごと爆散した。それを見た響は翼の元へと降下した。

 

 

「珍しく早い到着で何よりです」

 

「司令がこうなることを予測して先に出撃を命じたの。それで立花、カ・ディンギルという言葉に聞き覚えは?」

 

「カ・ディンギル……?(ダイン?)」

 

『……知らないなァ。が、今の言葉に直訳すれば【塔】を意味する』

 

「何かの塔、ということだけです」

 

「そう……立花が知らないならそうなのね」

 

「謎に信頼度を上げないでください。ノイズの破壊が出来る以外は普通の高校生です」

 

「『…………』」

 

 

翼とダインスレイフがあり得ないものを見るような目で響を見る。直接は言わないが、どう見ても違うだろ、と言いたげな目だった。

 

 

「ま、まあ今は良いわ。それより立花。状況を教えて」

 

「空のデカいのが小型ノイズをばら撒いてます。アレを潰さないと恐らく無限に湧いてきますね」

 

 

響と翼は己に群がってくるノイズ達を吹き飛ばしながら会話する。

 

 

「そう……生憎私は遠距離攻撃に向かない。空を飛べる貴女に任せるしかないわ。頼める?」

 

「はっ……私を誰だと思ってるんですか?ノイズの駆逐は専門ですからねッ!!」

 

 

ダインスレイフを振り切り刃状の『呪い』をばら撒く響。翼からの問いかけに不敵に笑う。

 

 

「それならガングニールは纏ないさい。万が一があるわ」

 

「嫌ですよ。アレだって遠距離には向かないじゃないですか。武器出ませんし」

 

 

実際には響がガングニール本来の槍を必要としてないだけなのだが……そんなこと響の知ったことではない。飛行している小型ノイズの突撃を躱して殲滅している響は、少し面倒そうな顔をしてから飛び立った。

 

 

「いいから聖詠を詠う!!」

 

「うへぇ……仕方ないですね。Balwisyall nescell gungnir tron」(呪槍・ガングニール )

 

 

 

空へと駆けながら響はガングニールを展開。バイザーを装着し、いつも通り悪魔の如き瞳を額から露出させた。ちなみにこの場合のバイザーは太陽光が直接目に入るのを遮断する役目があって便利だ。

 

 

「しゃらくさいッ!!」

 

 

両腕を広げて放つ全方位攻撃。響の周りを飛び回る小型飛行ノイズは逃げても逃げても広がり続ける『呪い』から逃げきれず、侵食されて消えていく。そのまま左腕のハンマーパーツを開いた響は黒いエネルギーを貯めて母艦型ノイズへと腕を突き出す。ダインスレイフのレーザーのようなスピードで飛び出したガングニールの一撃はたやすく一体の母艦型ノイズを砕いた。

 

 

「あー……意外と使える?」

 

『ガングニールが泣くぞ響』

 

 

「切り捨て御免ッ!!」(絶刀・アメノハバキリ)

 

 

地上の翼も、範囲攻撃を巧みに利用して地上のノイズを切り捨てていく。母艦型ノイズから降ってくるノイズを確認するたびにその落下地点へと駆け抜けていち早く処理。動きっぱなしの翼は少しづつ体力を切らしている。

 

 

「はぁ……はぁ……キリが無いッ!!」

 

「私もちょっと消費がキツいです」

 

 

息を切らし始めた翼の元にゆっくり降下してきた響。よく見れば額に汗を掻いている。

 

 

「とりあえず3体までは減らします……おらァ!!」

 

 

両手でダインスレイフを持った響がありったけの『呪い』を詰め込んだ一撃を放つ。2体のノイズが直列に並んだ瞬間を狙っていたため纏めて消滅させた。そのまま響はダインスレイフを天に掲げ色んな方向に向けて『呪い』を撃ち出した。

 

 

『BLOOMED METEOR』

 

 

今回は前日のように時間差で落とすようなことはせずに直ぐに地上へ向けて降り注がせた。しかも1発1発全てが弾けさらに多くの流星となってノイズを広範囲に殲滅していった。

 

 

「ちょっとあの、私を本気でキレさせてくれません?そしたらもうちょっとは戦えるんで」

 

「無茶言わないで!?貴女を怒らせるとか……死んでしまうわ」

 

 

響の突飛な発言に翼は両腕を掴みながら体を震わせる。憎悪による『呪い』の増幅をしたいだけなのだが、翼はそれを分からないのでただただ響が変なことを言っているだけだ。

 

 

「はっ!!お前らしくねえな!!」

 

「誰だ!!」

 

「……やっと来た」

 

『流石に……遅いなァ……』

 

 

2人では無い声が聞こえたと同時に響く銃声。翼は姿が見えないことに警戒し、響は誰か分かっているため疲れた声で言う。

 

 

「あたし様だッ!!」

 

 

ビルの上で、赤い装甲を纏い両腕に大きなガトリングを二丁持ちながら不敵に笑う少女、雪音クリスが満を持して現れた。

 

 

「遅いんだよクリス!!もっと早く来れただろうがッ!!」

 

 

響の『呪い』が少し回復した。



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2度と迷わない

キリが悪いので今回は短め。


19話 

 

 

「せっかく来てやったのに開口一番それかよ!?」

 

「当たり前だ。あのババァが屋敷に居ないんだからお前がノイズのところに来るのは分かってた。もうちょっと早く来れると思ってたんだけどなぁ……?」

 

「ぐぅ……渋滞のせいで時間がかかったんだ!!」

 

「シンフォギア奏者が渋滞に巻き込まれるってなにさ」

 

 

ドヤ顔で登場したクリスを若干キレた様子で追及する響。しかし、その怒りで『呪い』が少しずつ増えて行っているのでもっとガッツリ責めきれないのが響にとって面倒な部分だろう。

 

 

『……俺の契約者って感情が豊かじゃねェと向いてないなァ……』

 

 

ダインスレイフの声は響にも届かないが、誰かに聞いてほしい愚痴のような口調だった。

 

 

「立花……彼女は……一体?」

 

『助っ人だ。翼、クリス君と響君の2人と協力してノイズを殲滅してくれ』

 

「ッ…司令。助っ人、というのは分かりましたが……しかし彼女は!!」

 

 

今まで何度も敵対していた雪音クリスをそう簡単に信じることはできない。口には出さなかったがそういうニュアンスが含まれている。

 

 

「はん、あたしはあたしで勝手にやらせて貰うぜ。仲良しこよしはてめぇらだけでやってな」

 

「……ねぇクリス。食費、光熱費、水道代、宿代、未来と2人きりの時間代……忘れてないよね?」

 

「げっ……」

 

 

スッと、目から光を消した響がクリスに問い掛けた。若干おかしなものが混ざっている気もするがきっと気のせいだろう。面倒だというような声を上げたクリスが響を見て一歩引く。

 

 

「……大丈夫そうですね」

 

『そうだろう?』

 

 

2人のやりとりを見て、翼は少し不満ながらも納得。とりあえず敵対する事はないだろうと考えを改めた。

 

 

「後にしろ!!ああ、それとほらよ。あの赤いシャツのおっさんからだ」

 

「なにこれ……ああ」

 

 

クリスから投げ渡されたものを響は受け取る。未来やクリスも受け取った二課の通信機だ。一時期は響ももらっていたので、その形や手触りを少し懐かしみながら懐へと納めた。そして、弦十郎と話しているであろう翼の方を向いて翼越しに本部へ告げる。

 

 

「『しつこいですね』って言ったら『性分だからな』って返されるのは分かっているので敢えて言いません。都合の良いクレジットカードとして使わせて貰います」

 

『構わない。何かあればいつでも連絡してきてくれ。出来る限り力になろう』

 

「……ふっ」

 

 

自信たっぷりの声が聞こえる。これほど気持ちの良い人間は久しぶりだ、と響とダインスレイフは考えるが今はその時ではない。すぐに眉間にシワを寄せ空を飛ぶノイズを見上げた。

 

 

「クリス、お前の武器でアレを潰せる?」

 

「当然ッ」

 

 

ニヤリとしながら答えるクリス。どうやら虚言ではないらしい。

 

 

「そう。じゃあ私が地上のゴミ共を片付ける。翼さんはクリスのカバーに入って下さい。そろそろ限界でしょう?」

 

「え、ええ……任せて。それより立花、今私のこと……」

 

「はぁ?……あっ……ほら、さっさと動くッ!!」

 

 

簡易的に指示をした響だが、いつのまにか翼のことをフルネームではなく名前で呼んでいたことに気付いた。少し気まずくなった響だが、急に後ろを向くと地上に蔓延るノイズへと掛けて行った。どうやら気恥ずかかったらしい。

 

 

「立花……認められた、ということで良いのかしら……」

 

「アンタの歌を聴いてアイツ、泣いてた」

 

「ッ……そう……あの子の心に何かを残せたのなら、歌って良かったわ」

 

「まぁ……あたしも、良かったと思う」

 

 

残された2人は話す。だが、その雰囲気は戦っていた時のような険悪なものではない。

 

 

「ありがとう。私の歌を聴いてくれて」

 

「ッ!?……うっせ。さてと、いっちょやるかッ!!アイツにこれ以上デカい顔されるのも気に食わねぇ!!」

 

「ええ。あの子の前で、みっともない所は見せられないわッ!!」

 

 

響は意図していない、彼女の嘘偽りない本音が翼とクリスという2人を繋いだ事を。2人にはとある共通点がある。それは響によって『呪い』を撃ち込まれたことだ。トラウマを抉るような『呪い』を乗り越えた2人に宿っているのはすでに単純な『呪い』ではない。試練を乗り越えた2人へ贈る響とダインスレイフからの『祝い』だ。

 

 

「「ッ!!」」

 

「なに……これは?」

 

「力が湧いてくるみてぇなこの感覚……だけど」

 

「「暖かい!!」」

 

 

その言葉を皮切りに2人は動き出す。

 

 

「後ろは任せなさい。貴女には指一本触れさせないッ!!」

 

「デカブツは任せな!!あたしの本気を見せてやるッ!!」(繋いだ手だけが紡ぐもの)

 

 

イチイバルの伴奏が始まりクリスが歌う。背中のパーツが拡張され肥大化する。それはまるでなにかの発射台のようだ。続くように腰のアーマーが展開。小型のミサイルが大量に収納されているのが見える。腕のアームドギアの形状をも変化させながらクリスはさらに歌う。

 

 

ーーー立花響からは失いかけた命を

   小日向未来からは人の優しさを

   風鳴翼からは歌の楽しさを

   風鳴弦十郎からは大人の在り方を

   フィーネからはイチイバルをーーー

 

(いろんな人からいろんなものを貰って、あたしは何を返せるんだろう。特にフィーネだ。例えあたしを裏切っていたとしても、フィーネはずっと私を育ててくれた。フィーネがくれたイチイバルが無かったらあたしはアイツらと出会えなかった。でも……あたしはフィーネに何が出来る?)

 

 

歌いながらふと周りを見渡せば、漆黒のエネルギーの奔流が吹き荒れ、蒼き斬撃が飛ぶ。チャージ中のクリスにノイズを近づけさせないような攻撃に思わずクリスは笑いが溢れた。

 

 

(戦争は嫌いだ。でも……誰かが守ってくれて、こうやって頼られて……悪い気はしねぇな)

 

 

ついに目を瞑ったクリス。その直後チャージが終わったのかクリスの背中に巨大なミサイルが4機出現した。

 

 

「嗚呼ッ……二度と…二度と!!迷わないッ!!」

 

『MEGA DETH QUARTET』

 

 

展開した全部装から放たれたミサイルとガトリングの雨は空中を飛行する小型ノイズを木っ端微塵にしていく。ついに発射された大型ミサイルは残り3体となった大型ノイズへ向けて1、1、2ずつで票的へ突き進む。途中それに気づいた小型ノイズ達が邪魔を試みるも、全く違う方向から飛んでくる大量の『呪い』の弾丸や空からミサイルだけを器用に避けて降り注ぐ『千ノ落涙』によって壊滅した。

 

 

「「「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」

 

 

奏者3人の想いが一つになった瞬間、3体の大型ノイズに同時にミサイルが命中しその体を炭素へと変えていった。殲滅完了だ。

 

それを見届けた3人は一か所に集まった。翼は走って、響は飛んで来たのだ。

 

 

「やるじゃん」

 

「よくやってくれたわ」

 

「お、おう……ったりめぇだ!!」

 

 

響と翼からの素直な賛辞に思わず強がってしまったクリスだが、拗れていたはずの関係を思い出し、気に障ったのではないかと少し眉を潜めた。しかし2人はなんて事はないという表情だ。

 

 

「さて……んじゃ、私は帰りますね。もう用はありません。クリスはまだ宿が無いんだったらウチに来い」

 

「もういい。仕方ねぇからコイツらのとこに行くからな」

 

「それはありがたいけど……立花、私達に何かしたかしら?」

 

「え、特に何も?」

 

「ああ!そういやそうだったぜ。急にこう……体が熱くなってよ、力が湧いてくるような感覚になった。あんな変なことが出来るのはお前しかいねぇだろ」

 

「……いや、知らない」

 

『…………なるほどなァ。やるじゃねぇかァ』

 

 

響には身に覚えが無いようだが、ダインスレイフは理解した。だとしても響には伝えないらしい。

 

 

「あー疲れた……」

 

 

響が寮に向かって歩く。いつもなら『呪い』を使って帰る響だが、どうやら歩いて帰るほどに『呪い』を消費したようだ。

 

と、その時……

 

 

「『ッ!?!?』」

 

 

ガバッと、勢い良く響が別の方向を向いた。

 

 

「……どうしたんだ?」

 

「立花?」

 

 

翼とクリスは、側から見れば変な動きをしている響に問いかける。そしてその瞬間響が動いた。

 

 

「未来ッ!!」

 

『ッ、仕方ねェ……俺もちょっと出すかァ』

 

 

響の背中に現れる錬成陣。そして完成したのは、錬金術を用いて作った『イーカロスの羽』だ。ダインスレイフからストップがかかっていたものだが、2人だけが知る危機にダインスレイフも使用を許可した。

 

そのまま、先程までとは比べられない勢いで飛び出した響は真っ直ぐ空を駆けた。

 

 

「……いや、結局なんなんだよ」

 

「あの方向……ッ、まさかリディアン?」

 

「あぁ?」

 

「本部……本部?応答して下さい……ダメね。急ぎましょう!!もしかしたら二課が、学校が襲われているかもしれない!!」

 

「んなッ!?早く言え、行くぞ!!」

 

「ええ!!」

 

 

響を追うように2人も走る。翼のバイクはすでに爆散しているため2人とも走っての移動だ。

 

 

 

「未来……無事でいて……」



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コスモス

20話

 

 

それは突然現れた。半透明だが、この世界に生きる誰もが知っている災厄。

 

 

ノイズである。

 

 

「落ち着いて!!シェルターはこっちです!!落ち着いて避難してください!!」

 

 

彼らに対抗する手段はない。触れられれば人間の体は炭素へと変換され死亡する。自然災害と認識されるヤツらは人間の身を目標とし、壁も障害物も全てを擦り抜けて人を炭素に変える。

 

リディアンに現れたノイズ達は、やはり見境なく人間を襲っている。その中でも、二課の協力員となっている未来は懸命に生徒達を逃そうを声を張っている。外では一課の隊員達がノイズへ向けて攻撃し時間を稼いでいるがやはりただの人間。ノイズへの射撃は一向にダメージを与えることができずただその身を穿たれるのみだ。

 

 

「こっちは終わった……私も早く行かなきゃ!!」

 

 

手に持つ携帯には響からのメールが来ていた。『ノイズが出るから二課本部に逃げて』と言う趣旨の内容だったが、昔の響に似たのか正義感に富んだ未来は先に生徒達を逃すことを優先したのだ。

 

しかし、無情にもヤツらは来る。校舎の壁を擦り抜けた3体のノイズが未来を発見。突撃してきた。

 

 

「危ないッ!!」

 

「きゃっ!?」

 

 

間一髪、廊下から飛びついてきた男性……緒川慎二によってノイズの攻撃を躱した。

 

 

「緒川さん!?」

 

「大丈夫のようですね……でも、次上手く行く保証はありませんよ。さあ早く!!」

 

「ッ、はい!!」

 

 

2人は教員室がある中央棟まで走る。そこまで行けば二課本部へと通じるエレベーターシャフトがあるからだ。しかし、そんな2人を逃すノイズではない。体勢を立て直しさらに追撃を仕掛けてきた。

 

 

「未来さんッ!!」

 

「えっ……」

 

 

元々陸上部で走ることには自信のある未来だが、後ろから迫ってくるノイズを避け切る事は難しい。緒川の声で後ろを振り向くと、すでに未来の背中に触れるか、という距離までノイズが迫っていた。

 

ギャリィンッ!!

 

 

「「ッ!?」」

 

 

その瞬間に、金属音のような音と共に未来の体から出てきた白い膜が未来からノイズを弾き消滅させる。

 

 

「これは……一体……」

 

「これって……あの時の?」

 

 

以前、響が寝ていた時に会話をした魔剣ダインスレイフ。彼は未来に『呪い』を凝縮した球体を渡した。その後の流れで白く染まってしまったが、未来のピンチに反応したのだ。その膜は、少しずつ形を変えていき、小さな球体になった。

 

 

「ダインスレイフさん……ありがとうございます……行きましょう!!」

 

「え、ええ…」

 

 

そのまま未来の中へと戻っていった球体。未来はダインスレイフに感謝しながら、本部へのエレベーターに乗ったのだった。地下で待ち受ける……最悪の敵がいるとも知らずに……

 

 

 

〜十数分後、響〜

 

 

「どこ……どこにいるの未来ッ!!」

 

 

最高速で飛行しいち早くリディアンに駆けつけた響は、未だ炭化させる人間を探し続けていたノイズ達を瞬殺。先ほどの疲労などまるで感じさせないような気迫で未来を探していた。

 

走り回っていれば嫌でも見えてくる炭素の山に響は少し目を細めるが、そんなことはもはや気にしていられない。たった1人の親友がこの山に紛れていない事を切に祈りながら、自分の記憶を頼りに二課へのエレベーターシャフトへと駆け抜ける。

 

そして……

 

 

「案外遅かったな、ガングニール」

 

「……貴様……フィーネッ!!」

 

 

校舎へと辿り着くと上から降ってくる声。黄金の鎧を纏った美女……フィーネの姿がそこにあった。

 

 

『…………チッ』

 

「未来は何処だッ!!」

 

「あの小娘か……ふっ、私の知ったことではないな」

 

 

煽るようなフィーネの言葉が、響を更に苛立たせる。

 

 

「未来に……未来に何かあったら……私は貴様を許さない……」

 

「許さない?ハッ!!笑わせてくれる……消耗した今のお前に何ができるというのだ?」

 

 

フィーネの言う通り、先の戦闘で響は馬鹿にならないほどの消耗をしている。今はダインスレイフが補助をしているため多少持ってはいるが、本当なら今すぐ体を休めなければいけない。『呪い』の行使は、響が思っている以上に負担がかかるからだ。もはや雑魚としか見ていないノイズとの戦闘では、響の……ダインスレイフを扱う者の弱点とも言える『継戦能力』の無さを自覚することはできなかったのだ。

 

 

『……ラースのバカはそれに気付かず、自分をかのイカロスのように全能だと思って逝ったんだっけなァ……クソッ、嫌なことを思い出す』

 

「出来るさ……今の私なら」

 

「魔剣ダインスレイフは万能ではない。一度鞘から抜かれれば血を吸うまで鞘に収まることはない……故に魔剣。限界を超えた貴様が使えばその対価は……クククッ、分からないほど阿呆ではないだろう?小賢しく私の邪魔をしてきた貴様ならなあ?」

 

 

ダインスレイフを握る響の右手が強く握られる。そんなことはわかっている、と顔に憤怒の表情を浮かべながら響は構え直した。

 

 

「ダイン……初めてだけど、使うよ」

 

『……仕方ねェ、そうでもしないと止まらねェもんなァ……お前も……()()()も。アア、俺が許可する』

 

「フィーネ……貴様はここで……殺すッ!!ばっk……「させるか」……なッ!?」

 

 

響がダインスレイフを天に突き上げ、何かを叫ぼうとしたと同時に……目の前が闇で染まった。

 

 

「そうだな……私は少し舐めていたのかもしれない。計画の副需品に過ぎないシンフォギアはともかく、不完全とはいえその身に宿すのはダインスレイフ……万が一にも私の計画が崩されてはたまらん」

 

 

得意げに、しかし憎しげにフィーネは言う。響は、戯言を聞く暇はないと攻撃を仕掛けようとするがフィーネの纏う雰囲気が変わったことに気づき動きを止めた。

 

 

「だから私は……貴様を排除しよう……顕現せよ【コスモス】ッ!!5000年の研鑽……その集大成を貴様と言う個に刻みつけるッ!!無限とも言える世界で余生を過ごすといい……立花響ッ!!」

 

 

そして、銀河の様な柄をした卵が響の目の前に現れ……弾けた。

 

 

「ダイン……ッ!!」

 

『響ッ!?』

 

 

フィーネが見たのは、響と彼女の手から離れる魔剣が闇へと飲み込まれていく姿だった。

 

 

「ふふふ……ふははははははは!!!!」

 

「そん……な……立花ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ウソ……だろ……」

 

 

高笑いするフィーネに聞こえてくるのは聞き慣れた2人の声。翼とクリスだ。

 

 

「クククッ……やっと来たか……シンフォギア。お前達の信じる者は……消えたぞ?」

 

「「ッ……許さないッ!!」」

 

 

フィーネの煽りに、目の前で消えた少女を見てしまった翼とクリスは……憤怒の表情を浮かべながら()()()()()ドス黒い『呪い』を纏って攻撃を始めた。

 

 

そして……世界から立花響とダインスレイフが消失した。

 

 

 

 

 

 

〜響〜

 

 

 

 

「…………ここは?」

 

 

ただ広いだけの空間の中で、響は目覚めた。キョロキョロと周りを見渡して少し惚けている。

 

 

「確か私……ッ!!ダインッ!!……契約は……切れてない、大丈夫。『呪い』は……使える。錬金術も……うん」

 

 

薄れゆく意識の中でダインスレイフを手放してしまったことを思い出した響は、両手から『呪い』を吹き出させたり、『イーカロスの羽』が使えることを確認し安堵した。

 

 

「あのババァ……なにしたの?あの街にこんな場所は無かった。それに……」

 

 

不審に思いながら響は空を見上げた。美しい……なんとなくだが、響はそう思った。いつも眺めていたあの星空に近い。しかし、何故か星一つ一つがはっきり見えて、距離が近いように感じる。

 

 

「アイツが作った空間……大きな宇宙。それに比べて私は……なんて小さい存在なのか……なぁんて、似合わないことは言わない方がいいね」

 

 

立ち止まっていても仕方がない、そう考えた響は警戒しつつ少しずつ前に歩き出した。

 

 

そのまま歩くこと数分、全くと言っても良いほど変わらない景色に響は立ち止まった。

 

 

「…………キリがない。だったら、ッ!!」

 

 

掌に『呪い』を纏わせ地面を触る。すると『呪い』が360度に広がり始めた。目を瞑って何かを感じ取っている響は10秒ほどで手を離す。

 

 

「いつまで経っても端につかない。本当にここ、なに?」

 

 

立ち上がって天を仰いだ響はため息をひとつ吐き……眉を潜めた。

 

 

「Balwisyall nescell gungnir tron」

 

 

突然聖詠を唱え全身にガングニールを纏った。腰を下げ右腕を引く、一度もしたことがない構えのようなものをしながら響はバイザー越しにある一点を見つめている。

 

 

『『『『『『%%*¥z%#』』』』』』

 

「ノイズッ!!」

 

 

空間が歪み、現れた地上型ノイズに顔を歪ませた響は思い切り地面を踏み込みノイズへと突っ込んだ。

 

 

「はぁっ!!」

 

 

最前列の一体を殴り飛ばし後ろにいたノイズ達を巻き添えにして消滅させる。そのまま垂直にジャンプした響は両腕のハンマーパーツを思い切り伸ばして落下のタイミングで地面に叩きつけた。

 

 

「消えろ……ッ!!」

 

 

衝撃波が次々とノイズを消滅させていく。2、3体残ったようだが、すぐさま響が掌から『呪い』の弾丸を射出し風穴を開けた。

 

 

「炭化してない?」

 

 

ノイズを倒し切った響は改めて辺りを見渡し、倒したノイズが炭素になってないことに気づいた。それどころかチリ一つ残っておらず、響が破壊した地面の陥没だけが残っている。響はノイズの気配が残ってないことを確認してシンフォギアを解いた。その瞬間……

 

 

「ッ……意識が……」

 

 

急に眠気が響を襲い瞬く間にその場に崩れ落ちた。

 

 

 

 

……き

 

………び……き

 

…………ひびき……

 

………もう……ひびき!!

 

 

 

「ッ!!(未来の声!?)」

 

 

聞き覚えのある声に響の意識が覚醒し体を起こした。

 

 

「……私の部屋?」

 

「全く……早く起きてよ響。今日は買い物に行くんでしょ?」

 

「未来、何を言って……?」

 

 

いつも自分が寝ているベッドで目を覚ました響は、キッチンへと歩く未来の姿を見て目を開く。

 

 

(さっきの空間は?リディアンは?そもそもなんでウチに……?)

 

 

全く状況が分からない。響は目の前の光景に疑問を抱き思考を続ける。しかし、

 

 

「響……ぼうっとしてどうしたの?熱でもある?」

 

「ッ……何でもないよ未来。ちょっと寝ぼけてるだけ」

 

「そう。体調が悪かったらすぐ言ってね?」

 

「うん(いつもの未来……特に違和感はない)」

 

 

普段の未来と変わらない様子で話しかけてくる彼女に思考を中断し、2段ベッドから降りる。不審な点しか見当たらないが何も行動しないよりはマシだと思ったからだ。

 

 

「ほら、ご飯出来たから食べよう?」

 

「りょうか〜い」

 

 

2人はいつも通りに椅子に座り向かい合う。一汁三菜が守られた健康的な食事を前に未来らしい、と思った響は少し笑いながら返事をした。

 

 

「それじゃあ……」

 

「うん」

 

「「いただきます」」

 

 

グサッ

 

 

「…………は?」

 

 

 

不快な音が聞こえ、響が目を見開いた。

 

 

「あぅ……ひ……びき……?」

 

「あぁ………ぁぁあぁ……あぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

響の目に映るのは、突然現れたオレンジの人型ノイズが未来の胸を後ろから穿ったこと。そこを中心として少しずつ未来の体が黒く染まる。ノイズの能力である炭素変換だ。

 

 

「…………ひ、びき」

 

「あ……………え、み……く……?」

 

 

ありえない、信じられない、そんな感情が響を支配する。しかしそれを自覚するにはもう遅い。伸ばされた未来の手を響が掴んだ瞬間……未来が完全に炭素の塵と化した。

 

 

『#%@:&$€〒}%@%#¥』

 

「……あーあ、きひっ……アァァァァ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!!!!」

 

 

悟ったような目をした響は突然壊れたように叫んだ。人の言葉すら発することができないほどの怒りと悲しみ、そして何よりの憎悪を込めて。

 

そして、壊した。

 

 

「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!!!」

 

 

 

目の前のノイズが消滅した。未来と過ごした部屋が消滅した。寮が、リディアンが、町が、人が、市が、県が、国が……

 

 

……世界が、響から放たれた『スベテキエテシマエバイイ』という個人単位ではありえないほどの【オモイノチカラ】が彼女の否定する全てを消滅させた。

 

世界と呼べるものはない。何もないただの()()……ひとしきりその身を滾らせる憎悪を放出した響は自我を取り戻し、もう一度未来の死を認識して叫んだ。何度繰り返しただろうか。放出してもまた滾る憎悪に身を任せた響は体と脳の限界が来たのかその場で気を失った。

 

 

彼女の心の支えとも言える一振りの剣は……側にいない。




ラストスパート……なお投稿頻度(受験生)


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抜剣 ダインスレイフ

お久しぶりです。作者です。受験に無事成功し、ウマ娘にどハマりし、オンライン授業に嫌気がさしながらバイトをしている作者です。久しぶりすぎて響の口調を忘れたりキャラ崩壊が凄いし展開が急だったりしますがブランクが空きすぎているという悲しい現実を噛み締めています。

グレ響「ここの私、私よりひどい有様じゃん」

作者「え、エレクライトの話します???」

グレ響「……作者アンタ、モスラの登場でテンション上がってた時代で止まってるのにニワカ晒すだけだよ?」


だまらっしゃい


21話

 

 

 

『バカか私はッ!!』

 

 

覚醒。

 

 

「ふざけるなふざけるな!!貴様に未来の何がわかる……未来は……未来はお前が軽々しく再現して良いような存在じゃないんだ。フィーネェ……!!

 

 

幾億の時が経っただろうか、すでに理性のカケラも残っていなかったはずの響は何も無い空間で突如まともな事を言い出した。

 

 

「…………ふぅ。落ち着いた」

 

 

一つ言えることがあるとすれば、額に青筋を浮かべながら言うセリフとしては最も相応しく無いということだ。

 

 

「帰って来いダインッ!!」

 

 

響が叫ぶ。そのまま数十秒経つがダインスレイフは響の元に来ない。

 

 

「……やっぱりダメか」

 

 

しょげたように肩を落とすと、すぐに気を取り直し探索を始める。

 

 

「よりによって『抜剣』の隙を狙われるなんて思ってなかった。やっぱり未完成品を無理矢理使おうとしたのが不味かったかも」

 

 

独り言を呟きながら地面をさすっている。やがて何かに何かに気づいたのか手を口元に持っていきブツブツと呟き始めた。

 

 

「あのババァ、確かコスモスとか言ってた……錬金術においてのコスモス……マクロコスモスとミクロコスモスの照応?マクロコスモスとは大きな世界、つまりこの場合はこの空間。ではミクロコスモスとは?小さな世界、つまりここで言う人間……私。この二つは互いに対となるものだから……どちらかが消えた時点でもう片方も消滅、もしくは崩壊する可能性がある。面倒なものを……」

 

 

空間の崩壊に伴い響が死ぬ。響が死ねば空間が崩壊する。仮説に過ぎないが、響が空間の破壊を躊躇するには充分な理由だ。

 

 

考える

考える

考える

 

折角の機会だ。響はひたすら思考を続けている。どうせ自ら動かなければこの空間からは出れないのだ。焦っても無駄なのである。

 

 

(単純な力押し……ダメ。多分私も死ぬ。

『呪い』で逆に乗っ取る?無理、この空間に感情は干渉できない。

ダインが居ないんじゃラースにも会えないし……最後の手段を切るのは本当にここ……?)

 

 

響の顔がさらに険しくなる。

 

 

(幸い、さっきの憂さ晴らしで色々回復した。あのはた迷惑な()ももう現れなくなった。後は……私が覚悟を決めるだけ。いや、覚悟なんて……2年前のあの日に決めてる。じゃあ踏み切れない私には何が残ってる?

 

 

人でありたいという甘えだ)

 

 

響は拳を強く握り噛み締める。

 

 

(ミクロコスモスが人間である立花響を指定している。()()じゃなければ良いんでしょ?簡単じゃん。もう半分も人間の部分なんてないんだし、別に良いよ)

 

 

響はその場で全身に力を込め始めた。漏れ出た『呪い』は可視化され響に纏わりつく。

 

 

「あがっ!?ぐぅぅぅぅぅ!!!!」

 

(脳が、拒絶する……!!)

 

 

ピキピキと嫌な音が走り、響の全身に黒い紋章が浮かび上がる。欠けている部分があったのだが、『呪い』が纏わり付いていくと同時に少しずつ完成していく。

 

 

(先に、脳さえ……浸食してしまえば……あっ)

 

 

突然、『呪い』の全てが霧散した。

 

 

「……………………」

 

 

響の顔から表情が抜け落ちる。そして突如首を曲げる、手首を回すなどまるで体の調子を確かめているかのような動きをし始めた。

 

 

「やってしまえば、どうってことはないらしい。ああ、もう味覚も無いんだろうね。嗅覚もかな?まあいっか。どうでも良いや。さあて、矮小な人間なんてもういないよ世界。今ここにいるのは、新たに誕生した……そうだね。自立型完全聖遺物ヒビキとでも呼ぼっかな」

 

 

無表情ながらもどこか達観したような顔で上空を見上げていると、世界から破砕音が聞こえ始めた。

 

 

パリンッ

 

 

響が言い切ると同時に世界に亀裂が走る。

 

 

「立証成功。私の仮説はどうやら正しかったらしいね」

 

 

パキンッ!!

 

 

晴れた。久々に見える青空に響は何も感じなかった。ただ青いな、と言うのが感想だ。聖遺物との融合率が100%になった響は、コスモスより人間と認識されなくなった。つまり、対となるミクロコスモスが消滅したことでマクロコスモスも存在が維持できなくなり自然消滅したのだ。その代償は、どうやらとても重かったらしい。

 

 

「なっ!?立花響だと!!貴様、どうやってコスモスから抜け出したと言うのだ!?」

 

「た、ち……ばな……?」

 

「うぅ………」

 

 

声に気づいた響が振り返ると、クリスの頭を踏みつけながらこちらを見ているフィーネ、そして地面に倒れ伏している翼とクリスの姿があった。

 

 

「フィーネ………殺す」

 

「ッ!?」

 

 

響は懐から一枚の紙を取り出すと、空中に放り投げ錬成陣を展開した。これは四大元素(アリストテレス)を探究開発した結果、響が最も効率よく錬金術の行使をする手段となっている触媒用錬成陣である。

 

 

「トライアングル……いや、ペンタゴンでいいか。展開」

 

四大元素(アリストテレス)だと!?チィッ!!」

 

 

フィーネはクリスを蹴り飛ばすとネフシュタンの鎧の鞭で地面を叩き土煙を起こした。響はそのまま5角形に展開した緑の錬成陣から竜巻を発生させ土煙を払いながらフィーネに攻撃を仕掛けた。

 

 

「くぅッ!!」

 

『ASGARD』

 

 

避けきれないと判断したフィーネは鞭を回転させバリアを張ってなんとか防いだ。

 

 

「馬鹿なッ、たかが15年しか生きていない若造が……何故このような威力の錬金術を扱える!?……あの紙切れ、まさか触媒用の錬成陣をあらかじめ用意していたとでも言うのか……l

 

「殺す……殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…………殺すッ!!」

 

 

刹那、表情の変わった響から『呪い』が吹き出した。

 

 

「ダインスレイフ」

 

『うぉぉぉぉ!?!?体が勝手に動きやがる!?』

 

 

呟きに応じたのか、空からダインスレイフが響めがけて飛んでくる。とてつもなく情けない声をあげているが響にしか聴こえていない。

 

 

「ダインスレイフを呼び戻したのか……数百キロは離れていたはず……立花響……どこまでも私の邪魔をッ!!」

 

「雪音、しっかりしろ雪音!!」

 

「うるせぇよ……起きてる」

 

 

フィーネが響を憎々しげに見つめている中、衝撃で意識が覚醒した翼がクリスを起こし2人で響を見る。そして、衝撃の光景が起こった。

 

 

『なっ!?響、お前……最後の一線まで越えやがったのかァ!!』

 

 

 

「ダインスレイフ 抜剣」

 

 

 

「「「えっ…………」」」

 

 

3人は目を見開いた。フィーネは思わず両腕の鞭から手を離し、クリスは地べたに這いつくばり、翼はクリスを介抱しながら。当たり前だ、空中より飛来したダインスレイフの刀身が両腕を広げた響の胸に突き刺さったからだ。

 

 

「『呪い』を纏う……今までの私なら耐えられるか分からなかったけど……今なら出来るよねダイン」

 

『……アァ。だけどお前、()()()()()()()()()()()()?』

 

「当たり前じゃん。こうするしかなかったの。ほら、とっととやるよ相棒」

 

『クソッ、響……力の使い方を誤ったら、オレがお前を殺すからなァ!!』

 

「ふふ……よろしく」

 

 

響は両手でダインスレイフを持つと、さらに深くまで胸を貫いていく。柄の辺りまでダインスレイフを押し込むと、柄の瞳が妖しく光り刀身が割れた。

 

 

「折れた、いや……パージしたとでも!!」

 

 

響の額に、ガングニールを纏った時のような瞳が現れる。響の服は光の粒子となり代わりに執事服のようなインナーに身を包み、全身に分解されたダインスレイフのパーツが纏わり付いた。

 

足先から膝にかけて赤く光る古代文字が描かれた鎧が。

 

腰部はガングニールを模した赤黒いブースターに最低限前を隠す布が。

 

胸部にはダインスレイフの柄にあった瞳を中心に薄い鎧が。

 

左腕には籠手として肘まで覆うような分厚いアーマーに脚部と同じ古代文字が描かれている。

 

右腕には左腕と同じような籠手は装着されず、恐らくダインスレイフが完全聖遺物ではないからだろう。インナーのままだ。

 

響がいつもつけているバイザーはいつのまにか取り出され顔の左半分を隠すような仮面へと変形した。それはまるで王冠をつけた怪物のようだ。

 

 

『「ファウストローブ ダインスレイフ」』

 

 

変身が完了した響とダインスレイフがそう宣言した。体からは溢れんばかりの『呪い』が可視化されており全身に刻まれた古代文字がゆっくりと点滅している。

 

 

「私達に剣を抜かせたこと」『末代まで後悔させてやらねェとなァ?』



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鞘など無い、しかし抜かれた魔剣は止められない

半年もお待たせして申し訳ありませんでした。


22話

 

 

時は少し遡る。響がリディアンに到着する10分ほど前の事、二課本部へのエレベーターに乗り地下へと到着した2人は待ち構えていたフィーネに出会う。

 

 

「待っていたぞ小日向未来、緒川」

 

「貴女はッ!?」

 

「了子……さん?」

 

「了子はもう死んだ。ここにいるのは、5000年を生きるフィーネだ」

 

 

フィーネはその身に纏うネフシュタンの鞭で緒川を縛り上げた。

 

 

「ぐぅっ……!!」

 

「緒川さん!!」

 

「未来……さん、にげ…て…」

 

 

緒川は締め付けられながらも未来に声をかけるが、彼女は一般人。足がすくんで動けない。しかし覚悟を決めたのか動き出そうとする未来にフィーネが声をかけた。

 

 

「辞めておけ。たかが人間がどうにか出来るものではない。それに……貴様には後ほど役に立ってもらうぞ」

 

「役に立つって……」

 

「なに……ただの保険だ。科学者らしくいうなれば、0,1%を考慮するということだ」

 

「何を、言って……」

 

 

動けない未来に近寄ったフィーネは、右手の指で未来の唇に触れる。矮小な存在、ペットに対する感情を感じているのだろう。

 

 

「立花響」

 

「ッ!!」

 

「ヤツは異常だ。完全に封じ込める手段があるとは言えその身に宿すは呪われし魔剣ダインスレイフ。負の感情を糧とするヤツらは本当に底が見えない。いや、底などあるのか?人間が、争いが、感情がある限りヤツらは止まることはないだろう。今までの契約者のようにな。『イーカロスの翼』を行使したラース、『ゴルゴンの瞳』を宿したクイン、『ヌアザの剣』を吸収したクラウン……その全てを、間接的に私が処してきた。だから手折る!!絶望に絶望を重ね、0,1%を0に変える!!」

 

「ぐあっ!!」

 

 

フィーネの感情がこもった語りに鞭の締め付けが強くなり緒川さんがさらに悲鳴を上げた。

 

 

「フン……まあいい、貴様らの相手をしているほど私も暇ではないのでな」

 

「あぁ!!」

 

 

緒川が壁に叩きつけられ地面を転がる。フィーネはその横を歩いて通る間に、未来が緒川の元へ駆け寄った。

 

 

「そこまでにしてもらおうか、了子」

 

「ッ!!」

 

 

爆発。フィーネ前方の天井が突如崩れ去り、土煙の中から人影が現れた。

 

 

「私をまだ……その名でよぶか……!!」

 

「おうとも!!」

 

 

二課司令風鳴弦十郎、又の名を世界最強の人間OTONAである。

 

 

「そうか、響君の力はダインスレイフというのか」

 

「今更知ったところで、貴様には何も出来まい!!」

 

「女に手をあげる主義ではないんだけどな……一汗かいた後に話を聞かせてもらう!!」

 

「チッ……!!」

 

 

フィーネが鞭を向けるが弦十郎は軽い動きで躱し拳を突き出した。フィーネはもう片方の鞭でガードするとそのまま後方へ飛び懐からソロモンの杖を取り出した。

 

 

「人外がッ……なれど、人の身であるなれば!!」

 

「させるかッ!!」

 

「なっ……ぐぅっ!?」

 

 

ノイズを召喚しようとした瞬間に床を粉砕した弦十郎は砕かれた残骸を蹴り飛ばしフィーネの手に直撃させた。それによりソロモンの杖は天井に刺さってしまった。

 

 

「このっ……!!」

 

 

恨めしそうに弦十郎を見れば、すでに目の前まで踏み込んできていた。

 

 

「弦十郎君!!」

 

「むっ!?があっ!?」

 

 

フィーネは咄嗟に櫻井了子の口調で弦十郎を呼び攻撃を躊躇させると、鞭の刃で腹を貫いた。

 

 

「油断大敵、相変わらず甘いなぁ?」

 

「……性分…だからなぁ…」

 

 

夥しい量の血を吐いた弦十郎は、貫かれた腹を押さえながらフィーネに話しかけた。

 

 

「ククク……アッハハハハ!!!私は甘くないぞ風鳴弦十郎。消化試合だと多少舐めていたが……5000年の時を経てようやく我が想いが届くのだ。ここからは本気だ。ではな」

 

 

倒れ伏した弦十郎に声をかけ、横を通り過ぎていくフィーネ。その顔は笑顔に歪んでいる。

 

 

「ッ……響も頑張ってるのに……行かせません!!」

 

「小娘が……私に歯向かうのか?」

 

「未来君、ダメだ!!…ぐぅ……」

 

 

いつのまにかフィーネの前方で両腕を広げていた未来が立ち塞がるが、フィーネは嘲笑う。

 

 

「ッ……!!」

 

「チッ……多少痛い目を見れば大人しくなるだろう。生きていればの話だがなァ!!」

 

 

『NIRVANA GEDON』

 

 

「未来君ッ!!」

 

「響なら……響なら……逃げないっ!!」

 

 

完全聖遺物から放たれるエネルギーの球体が未来を襲い爆発。通路は煙で何も見えなくなってしまった。先程から気絶している緒川、負傷で動けない弦十郎は助けに行けない。

 

 

「……消し飛んだか。まあ良い、コスモスさえあれば立花響を封殺できる。他の2人は遊びにもならん……鎌倉の介入には遅すぎる。そして風鳴弦十郎は手負い……ククク……順調すぎて欠伸が出るわ!!」

 

 

高笑いしながら立ち去ったフィーネは気づかなかった。煙の中から生じる一筋の白い光に。

 

そしてこの時のフィーネはまだ知らない。この高笑いが、後に憤怒と驚愕、そして恐怖に塗りつぶされることになろうとは………

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファウストローブ ダインスレイフ……!!」

 

「ファウストローブ……?ッ!!パヴァリアの玩具か!!なぜ貴様が……」

 

 

外装としてダインスレイフを纏った響は、倒れている翼とクリスを一瞥すると左腕を突き出した。

 

 

「薬品工場の時の貸し……お前が死ぬことで返せ」

 

「何を言って……ッ!?」

 

 

鮮血が宙を舞う。

 

 

「ぐぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 

地面に大量の血液を垂れ流したフィーネは、左腕を切り取られた事を認識するのに数十秒の時間を要し痛みに悶絶して膝をついた。

 

 

「うーん……触媒としてはなかなかいい代物。でも腕自体は普通の人間と変わらないなぁ……?」

 

 

呑気な響の声を聞いたフィーネは射殺す様な視線で響を睨みつけるが……自らの左腕を興味深そうに眺めているその姿に一瞬恐怖を覚えた。

 

 

「貴様……今何を……がぁ!?」

 

 

ピキピキピキ……と肩から金色の粒子が生えてきた。ネフシュタンの鎧を人体と融合させた事で肉体すら修復しようとしているのだ。

 

 

「ああ……でもまあこんな状況だし要らないよね。四大元素の発動くらいなら触媒に事足りてるし。ん?あれ、どうしたの年増、そんな苦しそうな顔して。ただ左腕もいだだけじゃん?()()()()()しでかして無傷で済むと思ってたの?はは、おもしろ」

 

「は、破綻している……!!これがダインスレイフの力だとでもいうのか!?」

 

 

ぽいっと左腕を投げ捨てた響は何も感じていないかのような視線でフィーネを見ている。

 

 

「速く動いただけじゃん、何驚いてるの?ダインスレイフだったらどういう性質なのか……5000年も生きてりゃ知ってるでしょババァ」

 

「ああ、しかし立花響……貴様、抜剣と言ったな?ダインスレイフを抜く……それがどういうことを表すか知らぬわけではない!!」

 

「一度鞘から抜かれれば必ず誰かを死に追いやり、その一閃は的をあやまたず、決して癒えぬ傷を残す……お前が死ぬだけの話だよ。それに、癒えぬ傷って言ってもどうせその聖遺物がどうとでもするじゃん」

 

「……ッ!!そうか、そういうことか立花響!!貴様、人を捨てたか!?」

 

 

激痛に苛まれながらも思考をやめなかったフィーネはついに正解へと辿り着いた。以前より調べていた聖遺物との融合率、感情がないかのような今の言動、人間が出せば必ず反応があるだろう速度……あらゆる証拠を並べた結果、フィーネがそう判断するのに時間はかからなかった。

 

 

「人である立花響が消滅すれば、対としてあったコスモスも自然消滅する……!!だからとて、自ら人を捨てるなど……気でも触れたのか」

 

「随分と好き勝手に言ってくれる。でもその通り、だけどこうして抜剣の決心がついた。ありがとうフィーネ……人を辞めたからここまで強くなれた」

 

 

いくらダインスレイフへの適性があろうと人間は脆く儚い。高密度の『呪い』は契約者を蝕み侵蝕していく。侵蝕を錬金術における再構築と解釈すれば……等価交換により()()()()立花響としての意識を失わずに済んだ。2年前の契約時に響の胸を刀身が貫いた時は『契約』であったため出血はしなかった。しかし今回は違う、生の刃をその身に受ければ当然、心臓にも刃は到達し致死量の出血は免れない。しかし響は何事もなかったかのように耐え、あまつさえファウストローブとして力を纏った。全身余すところなく聖遺物へと置き換わったからである。しかもフォニックゲイン製の聖遺物ではなく、錬金術と『呪い』の合作……エネルギーとしてフォニックゲインを必要としないその体は凄まじく自由度が高い。

 

 

「さあ、約束の時だよ、フィーネ……今度こそお前だけは殺す。そのためにも……おい、起きろ……へぇ?まだ嫌なんだ。そんな気力が残ってたとはね」

 

「誰に向かって……」

 

 

響は目を瞑り両手を自分の胸に当てて独り言を呟き始めた。

 

 

「お前の本来の姿を使ってやる。いいから黙って私に従ってよ。じゃなきゃ……ね?…………うん、良い子だね()()()()()()

 

「なに……?」

 

 

響がその名を呼ぶと同時に、胸元から黒く輝く光が溢れ槍の形を形成し始めた。

 

 

「呪槍・ガングニール……私にとっての呪槍、そして今から……お前にとっては聖槍ロンギヌスとなる必殺の槍。まずは手始め」

 

 

なんでもないように響が槍を振るう。音は無い、むしろ音すら置き去りにしたかのような無音状態にフィーネは構えた。しかし何も起こらない。

 

 

「今何をした!?」

 

「さてね」

 

 

自分が認識していないだけでまた体を切断されたかもしれない、そうしてフィーネは自身を見たが何も変化はなく左腕の再生がピキピキと進むだけだ。

 

 

「とりあえず、お前の絶望を啜りたい」

 

「私の……絶望……?まさかッ!?」

 

 

バッとフィーネが振り返った。背後にはカ・ディンギルがあり、自分の希望となる存在と言えばそれしかない。しかし原型をとどめている巨大な塔の存在に安堵しもう一度響の方を見ようとして異音に気づいた。

 

ゴゴゴ、という地鳴り音。どうやら先程から続いていたらしいソレを何故自分は聞き取れなかったのか、フィーネは大量の冷や汗を流しながら考えた……しかし分からない。だが、理由がわからなくともたった一つだけ理解できたことがあった。

 

 

「嘘だ……」

 

「嘘じゃない、これが現実……5000年生きてるんでしょ?夢見がちな少女でもあるまいし、そろそろ現実見ようよ」

 

「いいや、嘘だ、嘘に決まってる……そうでなければ悪い夢だ……ハハッ……何故だ、何故この時代なのだ!!ダインスレイフッ!!!!」

 

 

フィーネが半狂乱で叫ぶ。血走った目で響を睨みつけていた。

 

刹那、カ・ディンギルが崩壊を始めた。

 

 

「『良い絶望、良い【呪い】、良い感情、それら全てが我が糧となる』」

 

 

フィーネが自らが生み出してしまったも同義の圧倒的な理不尽の権化は、最悪な形で今存在を歴史に刻み始めた。



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