白き龍を倒す旅 (アイスラッガー)
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旅人を迎える旅たちの風

モンハン4Gやってて思った事をオリジナル設定増しましでお送りします。


大砂漠を一隻の船が大陸風に吹かれて駆けていく。船底から一人のハンターがのそりと甲板へ出てきた。色白で髪の色も白。瞳はルビーのように紅蓮の輝きを持っている。

 

このハンター、元ポッケ村の専属ハンターだったが、とある古龍を求めて村を飛び出し情報量の多いバルバレへと向かってきた。

いつもはリオレウス希少種の素材で作ったSソル・Zシリーズを好んで装備し、背には得物の太刀を背負っている。

 

ポッケ村から出立して10日間。ハンターは狩猟道具や装備など荷物がある程度あったため航路は使わず。家畜用ポポ1頭買い、小さな幌突きの荷台を小型マイルームとして車輪を付け改造し、曳かせてゆっくりのんびり旅をしてきた。

G級に昇格してポッケ村を震撼させたウカムルバスを討伐してからギルドからあれこれと汚れ仕事が多くなり、ハンター生活に少し嫌気が出てきた事もあり、村に訪れるハンターでは対処出来ない緊急の場合は、村に戻るという条件を村長に約束して村から飛び出した。

村にいるのは別に構わないが、ギルドのクエスト発注ミスで上位クエストなのにG級クエストクラスの個体モンスターだったと言うことが多く。ギルドのメンツを守るため、不祥事消化クエストを受けるのが馬鹿馬鹿しく思ったのもあり、姿を眩ますことにした。

他にはウカムルバスを討伐し必要以上に伝説化、英雄視されるのが嫌になった事もある。ポッケ村の村人たちはハンターの苦悩を理解していたので快く送り出してくれたが、ギルドの一部上層部が快く思ってはないらしい。

ポッケ村村長のオババとギルドマネージャーとネコートさんの計らいで、ハンターは突然旅に出た。何処に旅に出たかまでは分からない。と誤魔化してくれている。村人たちもどっか行ったの一点張り。ギルドもポッケ村から聞き出してハンターを捜索するのを諦めるしか無かった。

 

 

 

そんな一大決心には他に理由があるが、とにかくハンターは旅人を満喫していた。

今までは狩り場へ向かうため、ネコタクで通っていた道も旅人として自力で行くと真新しく感じ、新鮮だった。

狩りのための防具も着けずに生活したのも久方ぶりでどうも落ち着かなかったが、何とかバルバレ行きの連絡船に乗り込むことができた。

 

連絡船と言っても大海原を行くわけでは無く、大砂漠の上を進む船なので、土産屋で買った砂よけのスカーフを首に巻き、しばらく船底で惰眠を貪っていたが、間もなく到着だと気がつくと待ちきれず、ツマミと酒の入ったポッケ村とっくりをもって甲板へ出てきた。

 

どうやらバルバレに着くのを待つより早く先に一杯楽しむつもりらしい。

天候は文句なしの晴天。日差しは熱いが風が吹いていて気持ちが良い。心が躍り船首に居座って吞もうと決めるとハンターは歩を進めた。

 

ところが船首には先客がいた。ウエスタンな格好をした男性が一人。ハンターは船首に歩み寄ると右手に持ったとっくりを煽りながら訪ねた。

 

 

 

 

「もうそろそろ着きそうですかね?」

「ん?ああ、もうすぐだなぁ。《バルバレ》が見えてくる。……楽しみだなァ。もしかして、ハンターさんも待ちきれなくなったのかい?」

壮年の男性は気さくに応じてくれた。

「ええ。バルバレが見えるまでコイツで楽しもうかと。よろしければ一杯やりますか?」

「おっ!こいつぁ嬉しいねぇ」

男性はとっくりの酒をを受け取ると豪快に煽った。ツマミはポポのタンの燻製だ。吹き付ける砂混じり熱風が妙に心地良い。

 

「んっ……コイツは良い酒だねぇ、ありがとう。…はっは!いや、実は俺もなんだ。船底からついつい、はい出てきちまった」

「俺は大砂漠を走る船に乗るのが始めてなんでね、何もかも新鮮で。苦労して来た甲斐があったもんですよ」

「ほう、ちなみにハンターさんはどこから?」

「ポッケ村から陸路で」

「ハッハッハ!そいつはたいしたもんだ!ここまで長かったろう」

「ええ、それなりに」

「俺はこの大砂漠の船旅は慣れているが、人でもモノでも何でも集まる、にぎやかで鮮やかなあの市場が砂海に浮き上がるのを見たくてな。こうしている間にも到着が待ちきれなくて、血がザワザワと騒ぎたてるよ。……おっと、自己紹介がまだだったな。俺はキャラバンの団長をやっていてな。仲間と一緒に、世界中を旅しているんだ」

「俺はしがないフリーランスのモンスターハンターです」

 

2人は軽く自己紹介するとがしりと堅い握手を交わす。

 

「今は、俺達のキャラバンで一緒に旅をしてくれる3人の仲間を探している。そういう事で、仲間と一緒にこのバルバレ行きの連絡船に乗り込んだってワケさ」

「なるほど」

「なんせ、バルバレは人もモノも情報すらもなんでも集まる巨大な市場だ!何かを探すには、これ以上ないほどもってこいの場所だからな! はっは!」

そう豪快に笑い飛ばして言うと団長は遠くを見つめて呟いた。

「さて…。どんな仲間に会えるだろう?共に旅する愉快な仲間に、俺の夢を託せる仲間に、会えるかなァ」

 

その顔には不安は無く希望と期待に満ちていた。その表情に自然とハンターの口角も上がる。

(俺もあの子に会えるだろうか?)

ふとそう思っていると団長は聞いてきた。

「ところで、ハンターさんはなぜバルバレに?」

「俺も貴方と似たようなものですよ。とあるモンスターを探していてハンターになったんですが、ポッケ村だとどうしても情報に限界があるので、飛び出したってわけですよ」

「なるほどな。彼処はこの前までは飛行船が通るまで陸の孤島となっていたからな。温泉があって良いところだがね。まぁバルバレは集会所もあるし、ハンターも山ほどいるからハンターさんの捜し物も大丈夫、見つかるさ」

できるできる、と頷いた団長はふと空を見上げた。

「しかしハンターさん、気にならないか?上空にいるガブラスの群れだ。さっきから奴ら、妙にザワついている」

 

 

ガブラス。塔や火山に出没し毒を吐くモンスター。ハンターも訳あって幼い頃からよく見ていたモンスターだ。上を見上げると4匹20メートル程上を飛んでいる。こいつがいる時は何かしら強力なモンスターだったりいたりするものだ。

 

しかしここは大砂漠。しかも大砲2台、バリスタ2台。おまけに船首には撃龍槍と完全装備の戦闘艦だ。しかも砂の流れも激しく、それなりに船も速度があるので、モンスターに襲われる問題は無いだろう。

 

しかしハンターは何か異変を感じていた。長年の生死をかけた戦いの中で鍛えられたハンターとしての勘が警鐘を鳴らしていた。

なにか心当たりがあるか?そうハンターが訪ねようとしたその時だった。

大きく船が揺れると同時に前方の砂海が爆発したかのように爆ぜ、乗っている船よりも二廻り大きいモンスターが現れた。

その衝撃で船が揺れ、ハンターも団長もバランスを崩す。

立っているのがやっとだった。

 

「なんだこいつは!」

「ガブラスは古龍のさきがけ…!やはり《ダレン・モーラン》だったのか…!それよりマズイぞ!船から落ちるな!しっかり踏ん張るんだ!」

 

巨大な龍は船首を横切り砂海に潜ると、船の左側後方から浮上しそのまま船に体当たりを仕掛けた。

船は大きく右に傾きハンターは転げ落ちそうになるものの、二本足で踏ん張りこらえた。

するとハンターの目の前に何かが通り過ぎた。見ると船の大砲の砲門に団長の防止が引っかかっている。何とかふらつきながらもハンターが砲台に近づき手に取ろうとするが強風に吹かれて飛んでいった。そのまま風に流され砂海に埋まるかと思いきや、モンスターの背中に引っかかっている。

「クソッ!あんなとこに!」

「収まったか?だが……なんてこった、俺の帽子が!!あの中には、大切な……!!いや、今はそれどころじゃ無い!!聞いてくれ、ハンターさん!このまま進めば、ダレン・モーランの腹でバルバレがペシャンコだ!俺は、周囲の船に救難信号をあげる!ハンターさんは、それまで時間かせぎを…、」

早口で指示を出す団長の言葉を遮りハンターが言った。

 

「待った。帽子、大切な物なんだろ?俺が取ってくる」

「なんだって?俺の帽子を取ってきてくれるってのか?!だが、いくらハンターさんでも装備も無しは危険だぞ!」

「大丈夫、太刀があれば何とかなる。こう見えても元村専属G級ハンターなんでね。それなりに修羅場は潜ってきている」

「G級?!ポッケ村のG級ハンターっていったら聴いたことがある。伝説の崩竜を討伐したって言う。……ハンターさん、アンタもしかして。……かぁ~畜生!憎いねェハンターさん!!よ~し、ならばお前さんに託そう!ヤツの腕から背中によじ登れるぞ!いいタイミングで声をかける!そのまま甲板で、待機してくれ!」

 

団長はそう言うと腰に差した小さな拳銃を抜き取ると天に向かって打ち出した。ピンクの煙が爆ぜて応援信号が空に漂う。

ダレン・モーランは船の側面にピタリとくっついて並走している。ダレン・モーランは巨体を船にぶつけ体当たりをする。船は大きく傾くが、大破することも無い。モンスターとピタリと密着したことにより腕から帽子までの道のりが出来た。

「今だハンターさん!」

その言葉と同時に腕を伝い巨大な背中に駆け上がる。

鋭利な岩のような背中の棘に引っかかていた帽子を取り、飛ばないように背中の太刀の鞘に括り付けた。太刀の名前は鬼哭斬波刀・真打。

太刀は何本も持っているが、たまたま持っていたのがこれだったのと、船底から装備を変える余裕もないので、とりあえずこれで対応するしか無い。抜刀して構えてみる。

揺れるは揺れるが、踏ん張れば普通に武器を振り回せることができる。攻撃が出来る!そう判断するとハンターは声を張り上げた。

 

「団長殿、俺は救援が来るまでこのまま暴れて怯ませる!団長殿は危ないから避難してくれ!」

そう言うと、大きく振りかぶって太刀を踏み込み切り落とす。突き、切り上げ。確実に背中の比較的手応えのある岩のような部位を切り刻んでいく。

練気が溜まると大きく腕を振るい気刃斬りをぶちかます。左右に切り刻んで大上段から振り落とし、体を回転させ遠心力を加えて大回転斬りまで繋げた。鬼哭斬波刀の刀身から紫電が弾け甲殻が砕けていく。ダレン・モーランは大きく背を仰け反らせ怯んだ。

 

「ハッハー!こいつは凄い!なんて腕前だ!う~む、我らの団に来てもらいたいものだが」

団長は船縁にしがみつきながらハンターの健闘ぶりに目を見張る。太刀使い特有の練気が大砂漠の熱風に煽られ火柱の用に天へと昇っていく。ハンターの白い髪と肌がが太陽光を反射し、雪原のように輝いて、まるで古龍を鎮める巫女のような何処か幻想的な物にも見えた。ハンターの狩りをするところは双眼鏡を使って遠目で見たことはあるが、ここまで間近で、しかも私服に武器は愛刀1本のみで狩りを行うハンターは見たことが無く興奮で体が震えた。

「ハッハッハー!!ハンターさん!酒をごちそうして貰った礼だ、俺も援護するぞ!」

団長は甲板に揚がってきた一匹のデルクスを砂海に蹴り飛ばし、船尾にある大砲の玉を抱え砲台に詰め込み発射した。始めて会った2人は長年の付き合いがあったかのように息がぴったりだった。

 

砲撃支援を行う団長を尻目にフッと笑うハンターは、団長の援護に奮い立ち、負けまいと振り落とされないよう踏ん張り、さらに攻撃を畳みかける。

船底からは他の乗客として乗っていた別のハンターたちも大砲に玉を詰め発射し、拘束用バリスタを発射しダレン・モーランの動きを鈍らせる。その隙にハンターは大回転斬りを重ね、刀身には赤いオーラを纏わせてダレン・モーランの背中を斬り刻む。 

「せいやぁぁああ!!」

裂帛の気合いとともに大回転斬りをたたき込むと、目の前が大きく砕けた。ダレン・モーランからは体を大きく揺らし苦悶の雄叫びが上がる。

部位破壊が完了したと判断し、ハンターは太刀を鞘に納め、ダレン・モーランの背中から甲板へ飛び降りた。空中で体を捻り回転着地することで落下の衝撃を和らげる。

「ハンターさん大丈夫か?!」

「ええ、何ともありませんよ」

「そうか、良かった」

しかし喜んでもいられない。ダメージはしっかり与えたが、以前ダレン・モーランは依然バルバレに向かっているし何とか進行を逸らさなければならない。

「いい調子だ!だが、バルバレが近い!最後の手段を使おう!」

「最後の手段?」

「ダレン・モーランは、砂中から地上の音を探る、とても耳のいいモンスターだ!突然の大音量を苦手としている!ヤツが最大限に近付いた瞬間、船に備えた《銅鑼》を鳴らしてドカンとひるませてやろう!」

「分かった、それで行こう」

「だが、銅鑼の準備が完了するにはもう少しだけ、時間がかかる!準備ができたら声をかける!ハンターさんは銅鑼のスイッチの前で待機してくれ!」

「了解!」

 

ハンターが船の帆の根元に行くと巨大なスイッチがある。側にはピッケルがありこれでスイッチをぶっ叩いて起動させる仕組みだ。ただ蒸気を使い圧力をかけて起動させる大掛かりな仕組みなので団長の言ったとおりすぐ何度も使えるものでは無い。

一方ダレン・モーランは拘束用バリスタから抜け出し1度砂海に潜ったと思うと勢いよく飛び出し船の頭上を飛び越え反対側の右側へと飛び込んだ。

「凄い…な」

「ハンターさん、見たか!?ダレン・モーランのジャンプを!何ともすさまじいな!いや、見とれている場合じゃない!準備が整った!ダレン・モーランが船に攻撃してきたところを狙って銅鑼を鳴らして怯ませてくれ!」

「ああ!」

 

ハンターはチラリと進行方向を見るとバルバレの街並みがハッキリと見えている。1キロも無いだろう。これがラストチャンス、しくじれば大災害が起こるだろう。

ダレン・モーランは巨大な槍のような角を向け船の横腹を、いや、正確には先程まで背中で暴れていたハンター目掛け突っ込んできた。

どうやら怒らせたらしい。しかしハンターは動じずダレン・モーランの動きを見る。

 

100メートル。

80メートル。

40メートル。

間合いを測りタイミングを見極める。

 

「今だ! 銅鑼を鳴らしてくれ!」

接触まで後数メートルとなったところで団長が叫ぶ。ピッケルでスイッチを押すと銅鑼が轟音を立てて鳴り響く。ダレン・モーランは音に驚き、大きく後ろに仰け反りそのまま倒れ船から遠ざかっていく。勝利の歓声がドッと甲板に広がった。

 

「ハンターさん!やった!!撃退成功だ!」

団長は笑いながらハンターの肩を叩いた。

「ええ、やりましたね。団長殿、援護ありがとうございました。男惚れしましたよ」

「いや、ハンターさんの攻撃がなかったらヤバかった。G級ハンターの名は伊達じゃ無いな。ほら見ろ、バルバレから出撃した応援の船がダレン・モーランを攻撃している」

ダレン・モーランが逃げたその先に待ち構えていた複数の撃龍船に囲まれ砲撃を受けている。その光景は何とも圧巻だった。

「討伐するつもりか?」

「いや、撃退目的だろうな。討伐は厳しいかもな。もしハンターさんがあの船に乗っていたら討伐出来たと思うかい?」

「やれましたね」

団長の質問にハンターはいとも簡単に答えた。いくら巨大な龍ともいえども、血が抜ければ死んでしまう。ラオシャロンも独りで討伐したことがあるからこそ、実感できる。嘘偽りのない言葉だった。

「ハーッハッハッハ!こいつは凄いな!本当ハンターさんには驚かれっぱなしだ」

「やれないと思っても、やるしか無いのがハンターの性なので。それとこれを」

ハンターは鞘に括り付けていた帽子を外し団長に渡した。団長は帽子の中から手の平サイズの光り輝くアイテムを確認すると、帽子に入れそしてかぶった。

「本当にありがとう。もし良かったらバルバレで呑もう」

「ええ、その時はよろしくお願いします。それでは荷下ろしの準備に掛かるので俺はこれで」

「ああ、事故の無いようにな」

今だ歓声が湧き上がる甲板からひっそりと去って行く英雄の後ろ姿を団長は冷めやらぬ興奮とともに見送った。こうしてハンターたちの活躍で船は無事目的地のバルバレへと着くことが出来た。

 

 

 

船から降り立ったハンターはS・ソルZ装備に身を包みポポと小型マイルームを引き連れバルバレの空き地に拠点を作った。バルバレでは古龍の背中で太刀を振るったハンターの話題で持ちきりだった。

パンツ一丁でダレン・モーランを撃退したハンターがいる。

何でパンツ一丁なのか。誰がそんなことを言い出したのか疑問に思ったが、とりあえず私服でいるとバレて面倒なことになるのでフル装備着用した。事実に尾ひれ背びれが加わりあり得ない話になっているうえに、自分がその本人だとバレればドンドルマギルトからの監視も着いてしまう。そんなオチは嫌だった。

「長旅ご苦労さま。ゆっくり休んでくれよ」

ポポに餌と水をやり自分はバルバレの集会所へと向かっていく。

バルバレに到着する際、古龍から手厚い歓迎を受けたせいでどうやら旅人の気分からハンターの気分へと変わってしまった。どうも私服で彷徨くより、装備を装着していた方が妙に落ち着いてしまう。どうやら職業病は10日の旅では治ってくれないらしい。

バルバレの集会所へと続くメインストリートは多くのハンターと買い物客。そしてパンツ一丁の無名のハンターの話題で賑わっていた。

(さて、どうしたものか。ギルドカードを新しく作るか、今のギルドカードで素材ツアーにでも出てみるか)

ポッケ村から飛び出した際のいざこざのせいでそのうちギルドの監視も着くと思うとG3級の証明と言えるプラチナ製のギルドカードを提出するのは些か気が引ける。

(折角自由の身になったことだし、買い物しつつ観光でもするのが一番かな?)

ギルドカードは旅の際、古龍に襲われ砂海で落として無くしたので新規登録と言えば良いだろうと思いのんべんだらりと人並みの中へと歩いて行く。

 

 

そんなハンターを見守る影が一人。

 

 

「約束、覚えているみたいだね。ふふふっ待っているわハンターさん」

白いドレスの少女か呟いたが、その声は人々の営みの雑音にかき消されハンターに届くことは無かった。

 

 

 



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ハンターと我らの団

キャラバンの『我らの団』のメンバーの団長と彼の長年の相棒である加工担当。我らの団で受付嬢をやっているソフィアの、3人がギルドの集会場のテーブルでバルバレ到着した記念で打ち上げをしていた。

 

そこでの話題はやはりダレン・モーラン撃退したあのハンターの事だった。

あのときハンターの活躍を見届けたのは団長のみ。酒も入りハンターの活躍を語る団長の語りは饒舌だ。

 

「いやぁ見事だったなぁ~、彼の太刀筋は。あのデカイ甲殻を、バッサバッサ斬り捌いて破壊したと思ったら、何食わぬ顔で飛び降りて息切れ1つしていなかった。どっちがモンスターなんだって感じだったぞ」

 

先程から同じ事を3回も話しているので加工担当の無口な彼は話半分に受け流し、食事を楽しんでいる。受付嬢は何やらメモを取りながら、話を聞いている。

 

「ふんふん、なるほど。で、そのハンターさんはどちらに行かれたんですか?」

「ああ、撃退したと分かると荷下ろしの準備に掛かるからと言って戻って行ってしまった。」

「…………我らの団に誘わなかったのか」

「ハッハッハ!すまん忘れてた!!」

「…………忘れるなよ」

「でも、そのハンターさんはバルバレでハンターとして生活するつもりなんですよね。ならここでしばらく滞在すれば会えるのでは無いのでしょうか?はい。」

「さすがお嬢!そりゃそうだがな、だか問題があるんだ。」

「はい?問題ですか?」

「うむ、まず元々ハンターだったとの事だから防具つけられたら正直分からん!」

「……使っていた太刀の名前は聞いてないのか?」

「ああ。だが形状からして鉄刀の強化系だな。雷属性をもっていたな。」

「……斬波刀か。」

「かもしれんが、ハンターがアレ1本だけで戦うわけでは無いだろう。武器もクエストによっても変えるだろうしな。」

「そのハンターさんの見た目の特徴はどんな感じだったんですか?」

「う~む、色白だったな。私服で、いや、素顔をさらしてバルバレ彷徨いてくれたら1キロ先でも分かるんだがな。」

「そんな特徴的な人なんですか?」

「髪の毛も白くてだな。目は赤くて。なんだか異国のやんごとき方みたいな気品があったぞ」

「……そしてG級ハンターか。」

う~む、と3人は腕組みをする。

「よし!良いこと思いついた!相棒はこれから目に入るハンターの装備を見るんだ。もしかしたらモンスターの加工を依頼しにくるかもしれんし、彼の装備は恐らくG級装備だ。お前さんなら見極める事が出来るだろう」

「………やってみよう」

「お嬢はクエスト依頼してくるハンターを目をよく見るんだ。赤くて髪の毛が白だったら可能性は上がるな!」

「我らの団『ハンターさんを探せ!』ですね。楽しそうです。はい。」

「俺は俺で探してみるさ。」

「……何かアテでもあるのか?」

「『勘』だな!ハーッハッハッハ!」

こうして我らの団、『ハンターさんを探せ!』は始まったのだが……。

 

翌日

 

 

夜が明け日が昇るとバルバレのまた別な話題で盛り上がっていた。

 

曰く、『古龍を撃退に貢献したハンターはフリーランスで何処のキャラバンにも所属してないから引き抜くチャンス!』とのこと。

なので、どのキャラバンもハンター募集の公告を貼り付け、目の前に通るハンターにスカウトするのに躍起になっていた。

 

 

それは何故か。そもそもバルバレはキャラバンの集まりで、ハンターだけでは無く、商人の集まりでもある。例えば世界各国の名産品を扱った商人のキャラバンもあれば火山で採れる鉱石を扱ったキャラバンもある。

しかし、そんな多種多様のキャラバンの集まりで共通して頭を抱えているのはモンスターからの被害だ。ハンターを雇ってもそのハンターがモンスターに殺されたと言うのはよくある話。ハンター側もキャラバンに所属して旅の道中モンスターに乱入されて対応するのも面倒だと言うのが大多数。また、一部のキャラバンがハンターに無理強いをして犠牲者も出したこともあり、『キャラバン=ブラック』のイメージもあり、ただでさえハンターが少ないのに加えて中々人手が集まらない。ギルドの歴然のハンターを雇うのは契約金などの多く掛かるので手が出せない。

なので、バルバレに仕事を探して来たハンターにスカウトするのが主流となっていた。

しかし、そんな世間の中、パンツ一丁(実際は私服)で古龍を撃退したハンターが現れた。

このハンターを雇って活躍すれば信頼が出来、仕事や契約が増え、キャラバンの広告塔として宣伝できれば経済効果も期待できる。そういったこともあり、彗星の如く砂漠の大陸風に流されてきた無名の凄腕ハンターはどのキャラバンも喉から手が出るほど欲しかった。

 

これでは不味いと思ったのか受付嬢と加工担当の二人はバルバレを歩き回っていた。団長は二日酔いでダウンので役に立たない。

「……全く何やっているんだか」

「まあまあ、昨晩は上機嫌で凄く吞んでましたし。仕方ないかと。飲み過ぎを止めなかった私達の落ち度もありますから」

「まあ、そうだが。」

集会場から武具屋、雑貨屋まで見回ったが、目が赤く白い髪のハンターはいなかった。装備の観点で見ても明らかにG級装備だと思われる装備をつけているものも無く、また、クエストを求めるハンターもいなかった。

挙げ句の果てには加工担当がハンターとしてスカウトされる始末である。

 

「………見当たらないな」

「はぁ、千里眼の薬さえあれば…」

かれこれ半日近く歩き回っても手がかり無し。

ため息交じりに意気消沈に戻ると二日酔いに苦しみながらも団長が向かい側から歩いてきた。

「おう、相棒。ハンターさんは見つかったか?」

「全然いませんよ」

苦笑しながら受付嬢は答える。

「……あとは団長の勘が頼りだな」

言葉数が少ない彼にしては、何処か台詞に棘がある話し方。

「んん、ああ、それなんだがな……」

「何だ、二日酔いで当てにならないか?」

(若干加工屋のお兄さんキレてますね。)

受付嬢が二人のやり取りを見守っている。

「いや、二日酔いに効く薬だと思って飲んだら、『千里眼の薬』だったようでな、『視えるんだ』」

「「え?」」

「しかも」

団長は集会場の方を指さして言った。

「こっち歩いてきてるし」

「「ゑ?」」

 

 

 

 

 

 

話は昨晩に戻る。

ハンターは集会所へと向かって行った。プラチナ製のギルドカードを手にして。

テンガロンハットをかぶった小柄のギルドマスターにバルバレに来た事情話してバルバレギルドに置いてもらえるよう話をした。

「ほっほほ。なるほどね、大体の事情は分かったよ。そうなると君、キャラバンの一員になった方が良いねぇ」

「何故?」

「それは彼処のハンマー持った姉ちゃんに聞いた方が……おーい、銅鑼ねえちゃん!ちょっと来てくれ」

大きな銅鑼の前に立っていた女性がハンマー持って歩いてきた。

何でもギルドマスターによると銅鑼ねえちゃんはハンターのキャラバンや仲間を探す仲介役を行っているらしく、バルバレに来たばかりの何も知らないハンターに仲間を探す手伝いをしてくれるそうだ。

「教えてくれ銅鑼ねえちゃん。キャラバンに入った方が良いってのは?」

「はい。まずハンター様バルバレという街の特徴はご存じでしょうか?」

突然の問題に腕を組みながらハンターは答えた。

「ん?……そうさな、地図に載らない街。キャラバンが集まって出来た街かな?」

「その通りでございます。極端なことを言いますと、ドンドルマにこの集会所が移動して、それを目当てに多くのキャラバンが集まったらそこは『バルバレ』になってしまうんです」

「ふむ、なるほど。それとキャラバンに入った方が良い理由とは?」

「はい。ドンドルマギルド、正確にはドンドルマギルドポッケ村支局に所属していた際、ギルドの管轄が決まっておりまして、活動範囲が決まっていたりしております。ただ、バルバレはキャラバンハンターが多いので、その各キャラバンごとに合わせて支援活動範囲がかなり広くなっております。なので、色々な地方で活動する場合はキャラバンに所属し、援助を受けた方がよろしいのです」

「なるほどね。じゃあキャラバンハンターとして活動した方が良いって事か。そうさな、銅鑼ねえちゃん、オススメはあるかい?」

「そうですね、ハンター様はモンスターを探していると言うので、それなりに規模の大きい所が良いかもしれません。色々な狩り場へいける移動手段を確保しているキャラバンが良いのかもしれませんね。明日までに候補を出しておきますので、お時間頂いていてもよろしいですか?」

「ああ、お願いする」

銅鑼ねえちゃんは必要な書類を纏め銅鑼の前へと移動する。色々と設定が決まるとこの銅鑼を鳴らすのが習わしだとか。

話も纏まりハンターが銅鑼が鳴ったあと、帰りながら何処かで食事しようか考えていると、銅鑼ねえちゃんが少し頬を朱に染めて聞いてきた。

「あの、ダレン・モーランを、その……。ぱ、パンツ一丁で討伐したのはハンター様の事ですか?」

「……ダレン・モーランと交戦したのは確かだが、私服でだぞ」

ここでこれを聞かれるかとハンターは眉間にしわを寄せる。しかしフルフェイスなので銅鑼ねえちゃんには表情は見えない。

「そ、そうでしたか。変なこと伺って申し訳ございませんでした」

「いや、いい。……このことは誰にも話さないでくれ。ありもないことで周りがやかましいのは嫌いなんでね」

「はい、かしこまりました。」

「それに……パンツ一丁はさすがに無謀だろう」

「そうですよね」

ふふふと2人して笑う。気まずい空気は消え去っていた。そんな空気に安心したハンターはふとした疑問。本当にパッと心に浮いた質問を訪ねた。

「因みにそんなハンターがいたら君も軽蔑するだろう?」

この問いに収まりかけた銅鑼ねえちゃんの顔が先程よりも真っ赤に染まり。

(…………ん?しまった、セクハラか?)

その表情に疑問をハンターが覚え。ハンターの背中に冷たい物が流れるのを感じたとき、暫くの沈黙の後に銅鑼ねえちゃんは答えた。

 

「…………アリだと思います」

「無しだよ」

ため息1つ。

どうやらバルバレギルドも一癖ありそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

銅鑼を鳴らそうとする前に、銅鑼ねえちゃんに再度まともなキャラバンを紹介してもらえるよう頼みこみ。自分の性癖をうっかり暴露して動揺した銅鑼ねえちゃんは真っ赤になりながら返事をして大きなハンマーで銅鑼を鳴らそうと大きく振りかぶり、軸足をそれはもう見事に滑らせ空振りして、そのまま勢いでハンターの脇腹を叩きつけてぶっ飛ばし。「申し訳ございません!」と泣きながら謝ってきて。

それを大丈夫だからと言いながら、男の意地と根性で咽せるのを歯を食いしばり堪えて、なだめて集会所をあとにした。なんか色々と注目の的になり、疲れたハンターは賑やかな通りで食事する気持ちも起きずそのまま自分の改造マイルームに帰って回復薬Gを2杯飲んで寝た。恐るべし銅鑼ねえちゃん。もうハンターは銅鑼ねえちゃんだけで良いんじゃないかな?彼女の一打はそれ程強烈だった。

 

そして翌日。朝にシャワーを浴び、銅鑼ねえちゃんに叩き込まれて出来た黒アザに軟膏を塗り、Sソル・Zシリーズに身を固め外に出た。G級装備とは一体?と疑問も湧くが、普通に油断してればG級ハンターも下位のドスファンゴの突進でさえ当たり所が悪ければ普通に死ぬ。つまり当たり所が悪かったと言うこと。それを天然でやってのけるとはやはり銅鑼ねえちゃん恐るべし。

と、くだらないことを考えながらキャラバン見物に外に出る。

今日も天気が良く、街は祭りのような活気がある。何人か「ハンターさん!うちのキャラバンに来ないかい?」と誘ってきたが丁重に断った。と言うか進む度声が掛かる。いったいなんだと言うんだろうか?暫く散策していると後ろを距離を取って着いてくる気配がある。

(なんだ、声掛けか?)

集会所を裏からぐるりと遠回りして大砂漠へと続くメイン通りを歩いていても、まだ後ろに気配がある。

舌打ち1つ。

ハンターは理解した。どうしても自分の白い肌、白い髪。《アルビノ》と呼ばれる体質のせいで目立ってしまう。日焼けもしやすいので、それを防ぐためフル装備で外出したが、G級装備が裏目に出てしまった。

そして、昨日の出来事によって多くのキャラバンが金稼ぎのため自分の戦闘力を求めていることを理解した。

ふざけるな。憤りもあったが、哀れな気持ちが強かった。弱肉強食のこの世界。モンスターだろうが人間だろうがアイルーだろうが、厳しい自然の中与えられた能力で生き延びようと必死になって生きている。その事を忘れ、人間の作った金や権力の為に他を尊重することを忘れてしまった人間に力を貸すのは御免だった。

確かにG級装備を装備しているが、銅鑼ねえちゃんの会心の一撃でアザが出来てしまう。どんなハンターでも油断すれば死んでしまう。それを理解してないキャラバンには入るつもりは無かった。つまり銅鑼ねえちゃんなめんなよ。

怒気を少し込めて後ろを振り返る。六名ほどの男女がこちらを追っていた。

「貴様ら俺に何か用か?」

「いえ、別になにも」

「ほう?なら何故わざわざ同じように集会場の裏を通ってここの通りまで俺の後を付いてくる?」

「す、すいませんでしたぁー!!」

6人の男女が一目散に帰って行くのを見てため息1つ。まったく訳が分からない。本気で力を貸して欲しいなら逃げずに説得しに向かってくれば良いのに。

そこで、ふと思いだしたのが昨日会ったあの団長。あの人もキャラバンをやっていると言っていた。団長に相談するのも良いだろう。

そう考えて暫く道なりに歩いていると、撃龍船で出会ったウエスタンな男性を見つけた。

「団長殿、昨日はどうも」

「やはりこの声は!よう、ハンターさん!お互い無事で何よりだな」

再会に2人は固い握手をする。

「なんだか装備を身に付けるとまた違った貫禄があるな!」

「しかし、俺が声を掛けたとは言え、よく分かりましたね」

「ハッハ!まあ、1発でわかったさ。改めて、はじめまして!キャラバンの《団長》をやっている者だ!よろしくな!」

「しがないハンターだ。宜しく」

「それにしても、ロクな装備もない中あれだけの時間を持たせるとは…、正直驚いたよ」

「まあ、やれるだけをやっただけです」

「ハッハ!そうか!ところでハンターさん、仕事のアテは?」

「ギルドへ行って登録して、所属のキャラバンを探してる所です」

「……ほうほう、そいつは好都合だ」

団長はニヤリと笑うと両手を広げて言った。

「仕事ならここにあるぞ!今日から俺のキャラバンに来ないか?俺は…そうだなァ、言ってみれば、トレジャーハンター!相棒と作ったキャラバンで、とあるアイテムの謎を求めて旅をしているんだ!今は、3人の仲間を探してここバルバレに来た、ってワケだ」

「トレジャーハンターですか」

「ああ、そして探している1人目は料理人!旅にうまいメシは欠かせない。酒があれば、なお最高だ。2人目が、商人!いつでもどこでも物資を確保できるやり手の商人がいいなァ。そして最後の1人が、ハンターだ!旅には危険がつきものだろう?キャラバンを守ってくれる腕の立つハンターを探していた。そこで、連絡船の中で出会ったのがお前さんだったというわけさ」

「なるほど、そうだったんですね」

「ああ!お前さんは、たった1人でバルバレを救うきっかけを作ってくれた。その度胸を、技術を見せてもらったよ。どうだ、こいつはもう運命だな!俺たちのキャラバンに、《我らの団》に来てくれないか?」

団長の答えに少し考えてハンターは言った。

「質問良いですか?」

「ああ、何でも聞いてくれ」

「俺はあるモンスターを捜している。しかしそいつは手がかり無し。雲を掴むような話だ。……そいつを捜すのに協力して貰えるだろうか」

もう20年もの年月追いかけてきた夢。誰にも理解されることの無かった自身の出生。それを目の前の団長に打ち明けても大丈夫なのは先日の出会いによって理解していた。しかしどうしても不安はある。

しかしその不安は杞憂に終わった。

「ハッハ!なんだ、そんなことか。勿論だとも!こっちだって雲を掴むような話だ。それに目的があって良いじゃないか!俺たちとハンターさんならできるできる!」

初めて会った時のように豪快に笑って答えた。この人は本気でやれると言っている、ならば。

「フッ、ならば貴方のキャラバンハンターとして腕を振るいましょう。宜しくお願いします」

「よしきた!そう来ると思っていたぞ!そうと決まりゃあ、入団試験といくか!」

「受けましょう」

話は決まった。迷うことは無い。

 

 

場所は変わって我らの団。変わった名前だが、これが正式名称とのこと。団長の他に旅団の看板娘の受付嬢と、団長の相棒の加工担当に挨拶をして入団試験を受ける説明を受けていた。

説明は受付嬢。

「はい、皆さんお静かに~。それでは入団試験ですね。ハンターさん宜しくお願いします」

「『お嬢』宜しく頼む」

団長や加工担当は名前では無く、お嬢と呼んでいる。めがねを掛け知的な雰囲気を持つ受付嬢。お嬢と呼ぶのが抵抗がなかった。ハンターもそれに習った。

「はい。入団試験はこんがり肉1個と、回復薬グレートの納品です。手段は問いません」

「そうか、簡単だな。リオレウスでも狩ってこいと言われるかと思ったが。……ん?待て、手段は問わないと言ったな。クエスト行かなくても俺の荷台から持ってこれるが?」

入団試験と言われるから覚悟をしていたが、思ったよりも簡単な試験。試験というかハンターの入門テストのような物だが。だが、ハンターは気がついた。何故なら狩猟、採取、運搬、納品。ハンターとして基本的な仕事だが基本ほど大切な物は無い。基本が大切に出来ない奴ほどミスを犯す。1つのミスが命取りなのがハンターと言う職業だ。恐らく団長殿もそれを理解しているのだろう。

「もう既に試験は終わってましたね。まぁ、ハンターさんの実力はもう誰が見てもただ者じゃ無いと分かるのでやらなくても良いんですが、団長どうしますか?」

「ハッハ!そうだな、折角だから現場で調達してくれ。ここのフィールドに慣れるついでだ。ピッケルや虫網を持って素材ツアーがてら行ってきてくれ。お嬢、ハンターさんならリオレウスでも襲っても大丈夫だ。一緒に行って来れば良いさ」

「本当ですか!ハンターさん、宜しくお願いしますね!」

「分かりました。直ぐに準備して行ってきます。それと、加工担当さんお願いが」

「……うむ、必要な物があるなら何でも行ってくれ」

「太刀を何本か研ぎ直して欲しいのですが」

「うむ、お安い御用だ。任せてくれ」

「ありがとうございます。それじゃあお嬢、準備しようか。」

「はい、それでは出発に向けて準備、準備~♪」

 

さて、何事も無く無事終われば良いのだが。

 



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入団試験と素材ツアー

日本語って難しい。妄想を文章にするのは大変だなと実感する日々。


ハンターとお嬢は平原遺跡のベースキャンプにいた。

「さて、入団試験を終わらせるついでに、ここのフィールドを一周して下見をしようと思う。お嬢、付いてくるのだろう?」

「ええ、勿論ですよハンターさん!」

元気な笑顔で返事をするお嬢。バルバレから遺跡平原まで来る間、ネコタクでハンターは彼女と話をした。どうやらモンスターが好きなようで他のハンターなどから狩ったモンスターの特徴や様子など聴いては自分なりに纏めているのだそうだ。フィールドに出て色々と調べてみたかったそうで、それが思わぬ形で叶ったので喜んでいた。

ハンターとしては危険なのでベースキャンプで待機をして貰いたいのだが、彼女の情熱に押され一緒にフィールドに出るのを許可した。

彼女の背中には荷物の入ったリュックが大きく膨らんでいる。それを背負ってモンスターが跋扈するフィールドに出るのだろうか?ハンターはそれが気になって聞いてみた。

「お嬢、あんたその背中には何が入っているんだ?」

「あっ、これですか?ピッケルや虫網とか入ってます。はい」

「置いていけ」

太刀を背中に装備しながら言った。今日の太刀は龍刀【紅蓮】G。ポッケ村の鍛冶屋が開発したG級1発生産で作った太刀。試し切りを兼ねて持ってきた。

「えっ、採取するには必要ですけど?」

「そうだが、ピッケル虫網は1本あればいい。もし、大型モンスターに出会ったら逃げるのに邪魔だ」

君はハンターではないしな。そう言ってハンターは歩き出す。お嬢はリュックをテントの中に放り込むとハンターの側に駆け寄った。

「えっ~と、下位の素材ツアーなので大型モンスターは出ないと思いますが」

その一言を聞くとハンターは歩みを止め、お嬢に向かって振り返り、指を指しながら強調するように言った。

「良いか、覚えておけ。大自然に一歩足を踏み入れたら、人間のルールは通用しないんだ。モンスターが、『このハンターは下位の素材ツアーに来てるから襲うのは辞めよう』とか気を遣うわけじゃあないからな」

真剣な口調にお嬢は口を閉ざしてしまう。

「勿論、ギルドが万全を尽くして作った環境だから安全だと思うが、大自然は人類の味方という訳ではない。ふとしたきっかけで牙を剥く。油断は命取りになるぞ」

「油断大敵ですね、分かりました気を引き締めて行きます。はい」

「よろしい。さあ、行こうか。まずは……そうだな、こんがり肉から用意しようか」

2人は肩を並べてベースキャンプをあとにした。

 

 

遺跡平原。

名前から分かるように遺跡があちこちに埋もれている。

ベースキャンプから続く坂道を下って行くと、エリア1と呼ばれる少し開けた場所に着いた。

フィールドの特徴は瓦礫と岩石に囲まれたような形状をしており、枯草が黄金色に輝いている。辺りの風景を見渡すと遠くに白い岩肌の山脈が連なっているのが分かる。日差しは温かく優しいが、自然の厳しさを物語っているような大地。時々ベースキャンプ方面へ風が吹いており、草が舞う風景には何処か一抹の寂しさを感じる。

モンスターはアプトノス3頭。親子なのだろうか、大きめの個体2頭と幼体1頭が仲良く草を食べている。

 

「アプトノス、いましたね」

「ああ、肉はあいつらから頂くとしよう」

ハンターは周りを見渡しゆっくりと歩いて距離を縮める。するとハンターの存在を気がついて身の危険を感じたのか。慌ただしく逃げていった。

「ハンターさん、逃げてしまいます!追いかけましょう!」

お嬢が言うがハンターはどこ吹く風。

「まぁ待て。よく周りを見な、ここにはアオキノコと薬草。それに蜂の巣まである。ここで既に依頼の半分は達成だ。それをやってからだな」

少し歩いて薬草何本かを採取し、瓶を取り出す。右手で軽く潰し、瓶の中に入れキノコの生えている場所に移動する。アオキノコを引きちぎり、薬草を入れた瓶の中へ入れ、蓋を閉め強くしっかりと振る。すると、振った衝撃により中でアオキノコが砕け水分が多く出る。これをまた暫く振ると緑色の液体ができた。

「調合成功。これにハチミツ入れて混ぜればグレートの完成だな」

「凄いですね、あっという間にグレート☆御三家見つけちゃいました」

「ん、なんだって?」

感心しているお嬢の言葉に違和感を感じるハンター。

「薬草、アオキノコ、ハチミツの3つを私はグレート☆御三家と呼んでます」

「良いなそれ。俺も使わせて貰うとしよう」

彼女に初めて会った時、知的な雰囲気を持っていたので落ち着いてて博識な女性だと思っていたが、実際話してみると、中々アグレッシブな女性だった。

モンスターに対する知識と愛情は凄まじく、ハンターも思わず舌を巻いた。

回復薬が出来たので、ハチミツを回収しようと蜂の巣に近づきお嬢に声を掛ける。

「さて、お嬢。ハチミツを採取するが見ての通り蜂が飛んでいる。こういった場合如何するか知ってるか?」

「そうですね。……以前別のハンターさんから聞きましたが、煙で燻して蜂を弱らせその隙に採ると聞きましたが」

「まあ、間違ってはいないな」

「あ、でもハンターさんの装備なら全身しっかりと守っているので、問題ないかと」

「そうなんだけれども、まあ見とけ」

ハンターはそう言うと、剥ぎ取りナイフを手に持ち蜂の巣に切れ込みを入れ、蜜を回復薬の入った瓶に垂らしていく。怒った蜂はハンターを襲うが、ハンターは剥ぎ取りナイフの柄に空いてある穴に指を通し、ガンアクションのように高速回転させ、襲ってくる蜂を全て叩き落とした。

ハチミツ回収に掛かった時間は僅か10秒ほど。蜂の巣から離れ瓶をよく振りながらお嬢の元へと行く。

お嬢は滑らかな動作でハチミツを回収したハンターに驚きを隠せない。

「ハンターさん、凄いですね」

「まあ、これが出来ると短時間で回収できるから一気に楽になる。煙でやるのも良いが、燻す時間が掛かるのと、煙のせいでモンスターが寄ってきたりもするから俺はこうやっているな」

ハンターは調合し終わったグレートをお嬢に渡す。

「なるほど、そうですか」

「さて、次はこんがり肉だな。さてアプトノスを追いかけるか」

「はい!」

2人はのんびり歩いてアプトノスが逃げた隣のエリアへと向かって行った。

 

 

場所は変わってエリア3。アプトノス1頭をひと太刀で討伐し、剥ぎ取りも済ませ、高級肉焼きセットを使って焼いていた。ここは段差もエリアの端に少ししかなく、広々とした平地となっており、ハンターからすればモンスターと真っ向勝負するに適した地形だ。

ハンターは頃合いを見て肉を肉焼きセットから離す。

肉はしっかり火が通っており、表面はパリッとキツネ色になって滲み出た脂が滴り落ち非常に食欲をそそる。

「上手に焼けました~♪」

お嬢は拍手しながらお決まりの台詞を言った。

「ほれ、熱いうちに食べな。もう一つ焼いてそれを納品するから」

ハンターはこんがり肉をお嬢に差し出すと、生肉をセットに設置して火をつけ焼き始める。

「良いんですか?それでは頂きますね。」

そう言ってこんがり肉に齧りつく。溢れ出る肉の旨みが口の中に広がる。獣臭さも無く食べやすい。

「どうだ?」

「おいひいれす」

「だろ?結構イケるよな」

性能良いんだよ、この焼肉セットは。そう言うとハンターは肉をぐるぐる回しながら肉をあぶり、熱を通していく。

お嬢はハンターを見ながら肉を食べながら観察する。

一つ一つの動作が洗練されており、無駄がない。自分の状況を瞬時に判断し効率よく動き目標を達成していく。G級ハンターの実績もそうだが、並み居るハンターとは何かが根本的に違ってみえた。

「よし、肉も焼けたしベースキャンプに1度戻っても良いが、お嬢は如何する?」

「もう少し見て回りましょう!」

「了解」

腹も膨れたところでエリア2へと赴くふたり。ここのエリアは蔦で出来た二重床となっており、蔦はハンターが跳んでも抜けることは無い。

「面白いな、ここでモンスターと戦うには地形を利用しない手はないな」

「何でもモンスターにダメージを与えて怯ませると蔦に絡まって隙が出来るとか」

「だが逆に足下からの攻撃も注意しなければならないな。牙獣種にとっては有利な場所だな」

「キノコや虫も採れますし、ねぐらとなってるみたいです」

「弱って休む場所でもありそうだな」

虫網を振るうと光虫や雷光虫が採れた。採取も一通りしてエリア4へと歩を進める。

 

今までとは打って変わって赤茶色の段差の多い広大なエリアへと出る。

「ジャギィが三匹いるな。お嬢、ちょっと待ってろ」

ハンターは石ころを2個拾い、まず山なりに一石投じた。石ころが地に音を立てて落ちると、その音に気がついて3体のジャギィがハンターを認識。吠えて威嚇行動をとる。しかしその隙にハンターは足を一歩踏み込み、胸を張り、振りかぶって全力で石ころを投げつけた。石は風を切り裂き弾丸の如く真っ直ぐ向かい、ジャギィの眉間に強く当たった。頭を大きく仰け反らせ2、3歩後ろに下がり正面を向くジャギィの目の前には、既に全力疾走で間合いを詰めたハンターが。

ハンターは腰の入った右アッパーをジャギィの下顎に叩き込みかち上げ意識を刈り取ると、右から飛びかかってきたジャギィの首筋に右足の回し蹴りをお見舞いする。喰らったジャギィは横に吹っ飛び3体目の仲間に激しくぶつかるものの、ジャギィ達は素早く体制も立て直す。しかし2体は段差を利用して大きく跳躍して放ったキックに再度吹っ飛ばされ意識を失った。

「武器使わないのですか?」

「下手に下っ端殺して群れを刺激してもな。後々同族の縄張り争いが起こって他のハンターに討伐依頼が出るのが目に見えたし」

格闘技だけでモンスターを倒したハンターに驚愕するお嬢。待ってろと言われたときは討伐するものだと思いきや、手加減をするためにまさかの素手。

(やはり、何か違ってます)

戦い方も採取の仕方も型破りだ。しかし、どのハンターよりもこの世界を愛しているように思えた。

ジャギィを殺して身の安全を守るだけで終わらせるのではなく、生態環境を必要以上に乱さないように意識だけ刈り取り命までは取らなかった。

お嬢は思い返せば今まで見てきたハンターで目的のモンスターを討伐した後の影響を考えていたハンターはいなかった。

報酬を貰い、手柄を自慢していたものだ。そしてそれを祝福していたのは他でもない、ギルドの受付嬢である自分たち。

よく村人や商人の家畜がモンスターに襲われたとか依頼が絶えないのは手柄や素材を求めたハンターが必要以上にモンスターを討伐しモンスターの勢力を乱しているからではないのだろうか?

自分達がやってきたことは間違っていたのだろうか。お嬢は不安になりハンターに聞いた。

「ハンターさん、私達ギルドの人間はクエストとしてモンスター討伐をハンターさんに依頼します。ハンターさん達はお金を稼ぐため、手柄を立てるためモンスターを狩ります。でも、それのせいで別のモンスターを刺激して新たに人々に被害を誘発させているのであれば、私達は間接的に人々を傷つけているのではないのでしょうか?」

お嬢の質問に暫く黙ってハンターは言った。

「そうとも言えるね。」

「なら私達ギルドのあり方はどうすれば良いのでしょう?」

お嬢の表情に暗い影が落ちる。ハンターは自分の腰に手を当て優しく語った。

「ギルドあり方とかの話じゃなくてもっと根本的な部分だと思うよ」

哲学みたいな事を言うけどね。と一言添えてさらにハンターは続けた。

「人は。いや、人に限らず生き物は何かを壊して生きている。何かを壊して得たら、逆に壊され奪われる。それの繰り返し、巡り巡って還ってくる。それだけのことだと思うよ。因果応報の言葉で済ませてしまうことになるけどね。気にしていても解決にはならないしな。結果的には傷つけているかもしれないけど、実際に目の前に困っている人がいて、ハンターに依頼している訳だろう?『モンスターを喰ってみたい』みたいな馬鹿げた依頼もあるけどさ、人の生活や森の生態系に被害を出しているモンスターを狩って提供しているし。だからさ、お嬢の仕事は間接的になるけど、誰かしら救ってきた訳だから、その事に自信持って胸張って仕事すれば良いさ」

あんまり深く考えんなよ。そう言って軽くお嬢の肩を叩いて次のエリアに向かって進んでいくその姿がなんだか大きく見えて。

「そうですね!うだうだ考えるの辞めます!はい」

「そうそう、受付嬢は笑顔が一番だぜ」

そんなハンターさんを旅団の看板娘として支えてみせると決意するのだった。

 

 

ふたりは移動して、遺跡平原の頂上。エリア5に来ていた。ここは山と山の間に巨体な部分岩石が挟まって出来た場所で、リオス科の巣があり、卵まであった。

「ハンターさん、卵が3つありますね!」

「そうだな。卵は納品すると薬として使われるみたいだな」

「風邪に効くそうです。ハンターさんは飲んだことありますか?」

「昔は病弱だったからな、色々と薬は飲んでいたからもしかしたらあるかもな」

「そうですか。あっ、この卵温かいです。なんだか産まれそうですね」

お嬢の一言でハンターには緊張が走る。

「なん……だって?」

「音がしますよ、これはもしかして貴重な孵化が見れるかもしれませんね!」

卵が産まれる?……餌は巣の周りにはない。となると親は餌を持って帰ってくるはず。

「お嬢、それは不味いな。そら、親が帰ってくるぜ」

遠くの空から風を切る音が微かに聞こえてきた。お嬢も理解したらしい、ハンターは手首をつかんで立たせ岩陰に隠れ息を殺す。

すると大きな影が2つ。バサバサと翼を羽ばたかせ巣に戻ってきたのは、空の王者リオレウスと陸の女王リオレイア。最早素材ツアーではなくなってしまった。

「そんな!どうして素材ツアーに?」

「だからさ、最初に言ったでしょ。モンスターには人間の都合なんて関係ないさ」

リオ夫婦は卵を注視していてこちらには気がついていない。隙を突いて閃光玉を投げ逃げることは簡単だ。

「お嬢、逃げるか」

小声でお嬢に話しかける。手には閃光玉。

「逃げません」

「えっ?」

はい、と返事を貰ったら閃光玉を投げるつもりが、当てが外れた。

「すいませんハンターさん。馬鹿な事だと思いますが、もう少し観察させて貰っても良いですか?」

お嬢は何やらメモ帳に書き込んでいる。見つかれば危険な状況に自分が陥ると言うのにメモを執ることに全力を尽くしている。元々ハンターと一緒に来た理由はフィールドのモンスターなど観察して纏めるため。それにリオ夫婦が目の前にいる光景はハンターでない限り中々見られない。

「怖くないのかい?」

「ハンターさんがいるので怖くありません」

キッパリと言われてハンターは思わずニヤリと笑う。ならば期待に応えなくてはなるまい。

「それじゃあ、依頼変更。『素材ツアー』から『我らの団・看板娘の護衛』に変更する。お嬢、それで良いかい?」

「はい。お願いしますハンターさん」

「報酬は、そうさね。……君の書いたメモ帳を見せて貰うとしようか」

「ありがとうございます!」

「それじゃあ観察、観察」

暫く観察していると卵にヒビが入り中から幼体が出てきた。

ピーピーと鳴きながらエサを求める幼体に対してリオレイアはモンスターの肉を与えていく。

ハンターも始めて見る光景に固唾を吞む。

「可愛いですね」

お嬢は目を輝かせている。

だが、何時までもここにいるわけには行かない。

お嬢が少し足をずらした瞬間、落ちていた小さな骨を踏み鳴らしてしまった。

2体の飛竜がこちらを見て咆吼する。

ハンターはすかさず岩陰から飛び出し、閃光玉を投げつける。2頭が怯んだその隙に、お嬢を抱え坂を滑り落ちていく。

何とか急いで咆吼が轟く頂上から麓まで来たが相手には翼があり、ひとっ飛びで追いつかれる距離。

「お嬢、走るぞ!」

「分かりました!」

ハンターは全力疾走すればベースキャンプまで数分とかからないが、お嬢はそうもいかない。エリア3まで走った所で、巨体な影が1つ。空の王者が怒りの火焔を口元から溢れさせながら行く手を阻んだ。

どうやら生きて帰すつもりは無いらしい。

遮るものも無い平地での決闘。いつもはハンターにとっては好条件だが、今回はお嬢を守らなければならない。お嬢は息を切らせて体力も落ちている。むしろ、よくここまで付いて来れたほどだ。

「こうなったら仕方が無い、奴を倒して帰るぞ。お嬢は回復薬を飲んでエリアの端にある遺跡で隠れてくれ」

ハンターは多めに持ってた回復薬をお嬢に渡して飲ませる。

太刀を鞘から引き抜き、構えてリオレウスと相対する。

リオレウスもハンターを先に殺すつもりのようで狙いを定める。お嬢はエリア2に続く道にある遺跡の柱まで走り身を隠す。

これで1対1。準備は整った。

「ゴアアァァアアア!!!」

「かかってこいやぁー!!」

互いに守るべき者のため負けられない戦いが始まった。

 

 

お嬢は柱に隠れてハンターの戦いぶりを見ていた。

リオレウスは上空に舞い上がり業火球を連射するが、ハンターは確実に躱していく。大味な技では仕留められないと判るや、急降下してハンターに襲いにかかる。アギトを開いて噛み砕こうとするが、ハンターは落ち着いてすれ違い様に右に移動斬りをしながらレウスの翼を切りつける。銀色の装備は傷つくことなく太陽の光を反射し輝いている。ハンターの兜の奥にある紅蓮の瞳が殺気で染まる。

先手はレウスが取ったが、振り返る隙を見てハンターは怒濤の連撃を繰り出す。

レウスの頭部に踏み込み、突き、切り上げ。練気を確実に練っていく。レウスは巨体を旋回させて、尻尾を使いなぎ払おうとするが、ハンターは腹部に潜り込み更に足下にダメージを与えていく。

大きな翼を羽ばたかせ空に飛び、風圧でハンターを押さえ込み、毒のある足の爪で切り裂こうとするが、スルリと避けられ大地を裂いた。

レウスはちっぽけな人間を中々仕留められない苛つきで怒号を轟かす。

ハンターはその隙を見逃さない。閃光玉を投げつけ、空に滞空していた空の王者を叩き落とし、溜めた練気を解放、刀身に纏わせ頭部に鬼刃斬りを叩き込み大回転斬りまで繋げた。

刀身が白く発光する龍刀【紅蓮】Gを更に振るい。左足を狙って刻む。レウスは閃光玉による墜落の混乱から体制を立て直すものの、左足のダメージが蓄積、再び転倒する。龍属性を表す赤黒い稲妻がレウスの甲殻を吹き飛ばし、鋭い切れ味を誇る刃は肉を絶つ。赤い練気は太刀を振るう度、空に軌跡を描き大回転斬りを叩き込む度に大地に広がる枯れ草が、練気を帯びた剣圧によって金粉のように舞った。

この戦いの主導権はハンターにあった。全長約17メートルほどある飛竜はハンターの猛攻により、翼膜は破れ、頭部の雄々しい甲殻ははじけ飛び、空の王者は再び空に舞い上がることはなく。最後は尻尾を切り飛ばされ、力なく地に伏した。

 

「ハンターさん!大丈夫ですか?!」

お嬢はハンターに駆け寄り様子を見る。息も荒げることもなく、傷1つ受けていなかった。

「ああ。だがリオレイアが来る前にさっさとベースキャンプに戻ろう」

ハンターは剥ぎ取りすること無く。2人はベースキャンプに向かって再び走り出した。

 

 

ベースキャンプに着いて回復薬Gとこんがり肉を赤い箱に納品して、バルバレへと帰路につく。

 

ネコタクに乗ってバルバレへと向かう2人。向かい合って話していた。

「あの残ったリオレイアとかどうなるのでしょうか?」

「明日には討伐隊が出るだろうな。1度ギルドに寄って報告しないとな」

「そうですね」

暫く沈黙した後、ハンターが言った。

「緊急クエストでリオレイアがでたら言ってくれ。俺が行く」

「それは構いませんが、ハンターさんが行かなくても他にハンターが狩りに行くんじゃないですか?」

「いや、俺が行かなきゃならない。今日産まれた子供を見届けなければならないからな」

「それはつまり……」

「他のハンターが殺されるより、あるいはジャギィとかに喰われるより俺がこの手で始末した方が良い。あいつらの父親を殺したのは俺だ。俺がけりをつける」

「分かりました。すぐ報告しますね」

「頼む」

再び2人は沈黙する。お嬢は話題を変えようと切り出した。

「ハンターさんはその技術を誰に教わったのですか?」

今回のテストは大型モンスターの乱入というイレギュラーの対処があったが、難なく対処してしまった。ここまでハンターのお手本となるほどに仕事をされてしまうと誰しもその仕事ぶりに溜息を零さずにはいられない。その技術、強さはどこから手に入れたのか気になってお嬢は聞いてみた。

 

「俺には師匠はいないよ。全部独学。強いて言うならば、この大自然が師匠だな」

「自然、ですか?」

「ああ。モンスターは狩りをするのに練習なんてしないだろ?産まれてからある一定まで育でたら親は子供を放置する。モンスター達はこの自然界は幼くても自分の力で生きれない奴は死ぬだけだと分かっているんだよな。厳しいけどそれがこの世界の暗黙のルールだからな」

弱肉強食の世界。子供が弱いと分かったら見捨てるし、時には殺す。そうやって優れた血を遺して種を後世に遺していく。

「そうやって生きてきた奴を相手にするんだ。ましてモンスター同士の縄張り争いとかで生き残ってきた百戦錬磨のバケモノだ。人間が人間に教わった所で大自然の摂理が育てた生き物を相手に勝てるわけがない。だから俺は色々とモンスターの動きを自分の目で見て真似てさ。盗める技術は自分の物にしてそれを武器に戦ってきた」

自分の力に満足することなく、更に上を目指し鍛え上げてきた。それこそ小型モンスターを素手で倒せるほどに。元々体が病弱体質だったハンターは、誰よりも運動神経や身体能力も劣っていた。しかし、それを理由に諦めて努力することを辞めたくはなかった。

「努力してきたんですね」

お嬢は微笑んだ。

「ハンターは楽なんて出来ないさ」

ネコタクの荷台から遠くを見つめながら言った。

「私がハンターさんを支えます!我らの団がハンターさんを助けて見せます!だから是非来て下さい!」

「そういえば入団テストだったな。合格で良いかい?」

「はい!勿論ですとも!これから宜しくお願いしますね、ハンターさん!」

「ああ、宜しく頼む」

日が傾いてきている。バルバレに着く頃には月が輝くのだろう。俺はまた明日も生き残るためにモンスターを殺すのだろう。そう思いながらハンターは夕暮れを眺めていた。



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緊急クエスト・リオレイア討伐

バルバレに戻ったハンターとお嬢は真っ先にギルドへ向かって素材ツアーにてリオレウスとリオレイアが乱入したこと。ハンターがリオレウスを討伐したことを報告した。ギルドマスターはハンター達に不手際があった事を詫び、ハンターからの情報を纏め、遺跡平原でのリオレイア討伐を緊急クエストとしてハンターを募集した。

 

「取りあえず報告も終わりましたし、私達は団長の元に戻りましょうか」

少し疲れた表情でお嬢は言った。

「ああ、そうしよう」

2人はキャラバンに戻って団長に回復薬Gとこんがり肉を渡した。

「うむ、お疲れさん!はっは!楽勝だったろう!」

「それがですね」

お嬢は遺跡平原での出来事を話した。

「そうか、リオレウスが。だがお嬢、俺は言ったろう?『ハンターさんがいるならリオレウスが襲っても大丈夫』と」

「はい!安心して戦いを見ていました」

団長の言葉に笑顔で応えた。

「はっは!だろ?さてハンターさん。テスト合格だ!ようこそ、我らの団へ!お前さんの冒険を歓迎しよう!」

「改めて宜しくお願いします。自分はこれから乱入してきたリオレイアを討伐しに行きたいと思います」

「お? なんだなんだ?さっそくクエストへ行きたいって?はっは! お前さんも言うねェ~。だったら、ネコ太郎を連れて行ってくれ!お前さんの狩りをサポートしてくれる《オトモアイルー》だ!」

「オトモですか?自分一人でも大丈夫ですが」

「まあ、そうだろうが。色々あってな、前使えていたハンターが俺の知人でね。任務で出てて、我らの団に置いて行かれたんだ。アイツ、ここん所イジケていたからな。きっと喜んで、狩りをサポートしてくれるだろう。マイハウスでお前さんを待っているぞ!行ってやってくれ!」

「マイハウスですね、分かりました」

「お前さんのマイハウスもクエスト行っている間に我らの団の敷地に移動してあるからな、引っ越しの心配は無い」

「そうですか、では連れて行くとします」

ハンターはマイハウスに行く前に加工場へと向かった。

「……来たか。任された武器は研ぎ直しておいたぞ」

「ありがとうございます」

「礼を言うのはこっちさ。G級1発生産の武器。非常に面白い作りだった。勉強になった」

「そうですか、これからリオレイアを討伐に向かいます」

「……そうか。気を付けて行ってこい」

ハンターは太刀を数本預かりマイハウスへと向かう。中には一匹のドングリメイルを装備したアイルが何やら呟いていた。

「1匹でいるのがサビシくて…、バルバレに到着してから今の今まで、泣きながら遺跡平原を走り回っていたというのは仮の姿…。フ…ッ!我らの団へようこそニャ!新しいハンター君!ボクは、かのユウメイな筆頭オトモ!」

なんだこいつ?そう思いながらもハンターは入り口でハンターに気づかないで口上を述べるアイルーをじっと見る。ハンターは今まで独りで狩りをしてきた。オトモアイルーは雇ったことはない。そもそも大回転斬りを多用するので仲間もろとも斬ってしまう恐れがあるので、他のハンターと狩りに行ったことは無かったし、オトモも同様な理由で雇わなかった。

 

「一流ハンターのみを認め、一流ハンターのみにオトモする、コ…えーっと、ココ、コウ…、」

難しい言葉を使おうとして出てこないのだろう。ハンターが助け船を出した。

「孤高一星か?」

「そう。それニャ!【孤高一星】のオトモアイルーニャ!」

口上が決まり胸を張るアイルー。ハンターは取りあえず拍手をした。

「ニャー、決まったニャ!これでハンターさんが来てもかっこよく自己紹介が出来る……ニャ?」

ハンターにようやっと気づいたのだろう。アイルーの顔が朱に染まっていく。

「…………もしかして、我らの団のハンターさんかニャ?」

「そうだ」

「もしかして聞いていたかニャ?」

「そうだ」

「いつから……」

「『一匹でいるのが~』の所から」

「ニャー!!最初からニャ!」

羞恥心でドッタンバッタン暴れ始めるアイルー。それをなだめるのに暫く時間がかかったのは言うまでもまい。

 

「んで、君が団長殿の言っていたアイルーか」

「ニャ」

「俺のオトモをしてくれるのか?」

「むしろお願いしますニャ」

「おいおい。さっきまでの威勢はどうした?」

「すいません調子に乗りました」

ハンターはベットに腰掛けアイルーと話をしていた。アイルーは先程の威勢は地平の彼方へ墜ちたのか、正座をして萎れている。

「ではかの有名な『孤高一星』の筆頭オトモ様、これから一緒にクエストに行くぞ」

「ニャガハッ!……それを弄るのは辞めて欲しいニャ~」

もう僕のライフはゼロニャ……。そう言って力なくアイルーは横になる。その様子に溜息を吐くハンター。これからリオレイアの討伐なのだ。やる気が無いなら帰って欲しい。

「ほら、シャキッとしろ。それとも俺じゃ不服か?」

「ニャ~。そんなことはにゃいけど、ジャギィ5頭の討伐とかだったら行きたくにゃいニャ」

この言葉にカチンと来た。ジャギィ5頭で苦しめられている人だっているのだ。戦い忘れた誰がために戦うのが仕事であり誇りのはず。仕事を舐めた態度に腹が立った。

なんだてめぇ……!燃やすぞ

「ピッ……!!」

つい、本心を晒してしまった。

アイルーは顔を真っ青にして震えている。ハンターはやってしまったことは仕方が無いと、開き直って言葉を続ける。

「ワレェ、舐めたこと言ってんなよ。世の中にはジャギィ5頭でも困ってる人がいるんだよ。そんな弱者のために戦うのが俺らやろ。それにこれから俺はリオレイアを討伐しに行くんだよ。俺の舎弟なるならさっさと準備して付いて来やがれ」

「んにゃぴ!かしこまりましたニャ!」

「次仕事を舐めたこと言ったら大砂漠のミイラにしてやるからな」

「ニャっす!」

ブルブルと震えながら準備するアイルーを見て、こいつ本当に使えるのか?不安に思いながらもベットから立ち上がり、マイハウスを出た。

 

 

筆頭アイルーは、新しいご主人。我らの団ハンターに付いて集会所に来ていた。受付で手続きをする中、自分のメンタルを立て直すのに精一杯だった。

『燃やすぞ』の一言とリオレイア討伐。これ狩りの最中、不幸な事故に見せかけ自分を殺しに来ている(確信)。そう思えて仕方が無かった。

しかし遺跡平原まで来るとメンタルもある程度回復し、さっきの情けない姿はここで晴らすしか無いと、腹をくくった。

「ボスはどういった立ち回りをなさいますかニャ?」

「ボス?なんだそれ。ヤクザじゃないんだからそんな言い方しなくて良いよ」

いやさっきのキレ方は人の道踏み外してましたニャ、と思うアイルー。

「まず、頭を潰していくから、君は足下とか攻撃すれば良いんじゃないか?俺の攻撃に巻きこまれないように気を付けてくれれば良いよ」

つまり、巻きこんで殺しに来るのですね。分かりニャす。

なんだかアイルーは物騒な考え方をしているが、ハンターは気付くことは無い。

「命懸けて戦って見せますニャ」

「えっ?うん。まあ、気を付けて」

こうしてアイルーの命がけの戦いは始まった。

 

ハンターより先に進んで行くアイルー。先にリオレイアをみつけ、一番槍を頂こうと張り切っていた。

エリア3に入ると、リオレウスの真新しい死体を見つけた。戻ってハンターに報告する。

「ボス!リオレウスがあっちで死んでいるのニャ!」

これは異常事態である。クエストが始まってすぐ空の王者が何者かに倒されている。尻尾は切られ、頭も翼もボロボロ。何かヤバい奴がこの遺跡平原にいる証拠だと思った。

「ん?ああ、それ俺がさっき殺した」

【悲報】ヤバい奴がいた。

絶句しているアイルーにハンターは説明した。

「さっきお嬢と素材ツアー行ってさ、リオス夫婦に出くわして逃げたんだけど、レウスは怒って俺たちを逃がす気は無かったらしく、仕方なく……ね」

「ニャ、にゃるほど」

何でお嬢と素材ツアー行っているのか?何で素材ツアーでリオス夫婦と出会うのか、なんで山菜採りのついでと言わんばかりにサクッと討伐しているのか、聞きたいことが山ほどあったがオトモは怖くて聞きだせない。ミイラにされるのは嫌だった。

 

「んで、残ったレイアが暴れたり、怒りで上位個体の強さになる前に潰そうと思ったわけ。レイアは復讐相手見つけて怒り狂って来るだろうから気張って行けよ」

「ニャ!」

取りあえず何もかもレイアにぶつけてしまおう。そう思いエリア3へ着く。

すると、大きな影がハンターとアイルーを包む。

一人と一匹はその場を離れ大きく間合いを取る。

レイアが大地に降り立つ。目は血走り、口元からだらだらと火焔が漏れる。

 

「ウニャニャニャァァアア!!」

「おい!」

アイルーは駆け出しレイアに肉薄するが、

「ガアアァァァアアア!!!」

怒りの咆吼でハンターの元へ吹き飛ばされてしまう。

「おい、大丈夫か?慌てんなよ」

「にゃ、全身が痺れたニャ」

「そりゃそうだろ。うるせぇ声で鳴くからな。さて仕切り直しだ、行くぞ!」

ハンターの声と同時にレイアは突進してきた。アイルーは敵の左側に回り込むように回避行動をとる。ハンターは抜刀。構えてスゥと息を吸い込むと、下腹に力を込め闘志と殺意を剥き出しに吠えた。

か か っ て こ い や ぁ !!

(ニ゜ァ゛ーー!!レイアより怖いのニャ!!!)

白銀の鬼が後ろにいた。前門のレイア、後門の組長(ボス)。ケツに氷柱を突っ込まれたような気分だった。

 

しかし狩りが始まるとハンターからの指示は的確で、防具にかすり傷すら付かない。

ハンターがレイアの前方に立ち引きつけ、アイルーが足下を攻撃し。突進の動きを見せればハンターは知らせアイルーが回避する。

「ニャニャニャ!」

連撃がレイアの左足を襲う。

「やるな!!」

バランスを崩し転倒した隙にハンターが頭部の甲殻を破壊する。

アイルーは更に背中を追撃、ダメージを確実に与えていく。

レイアは立ち上がりハンターに向けてブレスを放つ。業火はハンターに真っ直ぐ向かう。何故か回避もしないで突っ立っている。間に合わない。

「ボスゥ!!」

アイルーは叫んだ。このままだと直撃だ。しかしハンターは避けなかった。

練気を解放、横に構えガードの型を取る。太刀に纏わせた練気は業火を瞬間受け止め、それに合わせて手首を返し一閃。火球は2つに裂かれ彼方へと吹き飛んだ。

練気が煌々と輝く刀身。その太刀を更に踏み込み横一門になぎ払い、続いて大上段からたたき落とし返す刀でダメ押しにと下段から振り上げた。

レイアは大きく仰け反り。数歩下がると上空へ逃げた。風に乗りエリア移動をする。

 

 

「ボス、今のは何なのニャ?」

レイアがエリア移動したので、アイルーは聞いた。

ガード不能の太刀で攻撃を防ぐのは聞いたことが無い。下手に防げば刀身は折れてしまう。

「太刀は攻撃が当たると練気が溜まる。その特性を活かして相手の攻撃を受け強力なカウンターが出来ないか最近試していたんだが、どうやら上手くいったな」

「にゃ、にゃんて方ニャ」

そもそも太刀は鬼刃斬りが出来るようになるのに時間がかかる。太刀の奥義、鬼刃大回転斬りを使えないハンターも多い。それなのにハンターはガード不可を逆にカウンターという形で克服し更に火力を引き出した。

「しかし、まだ改良の余地はありそうだな。今のままだと、練気が強すぎて腕にダメージが少しある。ある程度練気をセーブできるようにならないと実践では余り使えないな」

太刀を納め、兜の口元を開け回復薬を一口飲む。

「さて、もう大分弱っているだろう。終わらせよう」

「ニャ!」

 

気か付くとアイルーが持っていたハンターへの恐怖心は無くなっていた。

変わりに畏敬の念を持っていた。

実践で戦い方を修正して、どんどん更新していく姿に心を打たれた。

今まで自分の力に満足して誇示しようとしていた。アイルーの前使えていたハンターは。筆頭ランサーと言ってギルドでも名の通ったハンターだった。実力もトップクラスなのだが、新しいご主人はそれの更に上をいっている。しかしこの人は満足せず更に上を求めている。仕事に、勝ち残って生きることに一再の妥協は無い。だからボスはさっき生意気な事を言ったことに対して怒ったのだろう。

この人から学ぶべきは多い。

 

「ボス、僕勘張るニャ」

「だからボスって何だよ」

ハンターは苦笑する。

「ボスはボスにゃ。僕の慕うべき人にゃ」

「そうかい、勝手にしな。……行くぞ」

月明かり照らす道をハンターとオトモは戦いを終わらせるべく歩いて行く。

 

 

 

 

エリア2。二重床の特徴のあるエリアで、レイアと再戦する。

蔦が燃やされる前にハンターはカウンター主体の猛攻を仕掛ける。カウンターで噛み付きや尻尾の毒を用いたサマーソルトなど全てはじき返した。練気はハンターの龍刀に呼応し黒の瘴気と赤の雷電を纏い甲殻を弾き飛ばし切りつける。アイルーは小柄な体を活かして背中に飛び乗り棘を破壊する。怯んだレイアは蔦に絡まり動けない。鬼刃大回転斬りをお見舞いするとアイルーが尻尾に向かって跳躍。武器を振り下ろすと、ブツリと鈍い手応えとともに尻尾が斬り落ちた。

「尻尾切り落としたニャー!」

「いいセンスだ!」

蔦から解放されたレイアは死力を尽くして突進する。ハンターの太刀の輝きが紅蓮から深い蒼に変わる。そして太刀を身を守る様に構え渾身のカウンターを放つ。

「ぜえああああ!!!」

ハンターがレイアの首元を狙い踏み込み横一門に斬りつけ、上下に切り落とし、切り上げる。鮮血が飛び散りハンターを赤く濡らす。レイアは小さく唸ると事切れた。

 

「終わったな」

太刀を納刀し、レイアを見下ろす。アイルーには何処か寂しそうに聞こえた。

「ボス、……後は帰るだけですニャ」

アイルーがそう言うとハンターは遺跡平原の頂上にある竜の巣を見つめ言った。

「いや、まだやるべき事が残っている」

 

 

 

 

ハンターは頂上に登り飛竜の巣へとたどり着いた。アイルーは先にベースキャンプに行かせた。一緒に付いてきて貰うのには抵抗があった。ハンターは産まれたばかりの子供が気になり向かったのだった。

(気にしてどうする?育てるとでも思っているのか?)

そう自分に問いかけるも、体は進む。そして兜の下で悲しく嗤うだけ。

(分かっているだろうに、残酷な結末しか無いことを)

そこには無残にも食い殺された飛竜の子供の亡骸があった。エリアの端に何か気配がある。伺うとジャギィ3頭がこちらを狙っている。

すぐさま太刀を引き抜き、一閃。悲鳴を出すこと無く胴と首が離れた。殺したジャキィをよく見ると新しい傷がある。

「そうか、……昼間殴り飛ばしたやつらか」

全ては繋がっていた。ハンターはお嬢に言った。『全ては巡る。因果応報』と。

その言葉を改めてハンターに突きつけたのは大自然だった。

兜を脱いで、天を仰ぐ。満天の星空が輝き月がこちらを見下ろしている。白い髪と肌が月光を浴び薄く輝いていた。

冷えた風がハンターの火照った体を冷やしていく。

紅蓮の瞳から一筋の涙が溢れた。

ジャギィのやったことは間違いでは無い。生きるために正しいことだ。分かっていた、分かっていたとも。しかしハンターはジャギィを切り捨てることでそれを否定した。食い殺したことは悪だと断じて殺してしまった。

そもそもリオ夫婦を殺したのは紛れもない自分。あの2頭を殺さなければ子供も喰われることは無かったはずだ。気にしても仕方が無いと自分に言い聞かせても、やはり悔しかった。

ハンターの脳裏にとある言葉が蘇った。

『人間が、この世界を自然をましてや命をコントロールしようなどとおこがましいとは思わないかい?』

かつて一緒に暮らした白いドレスの少女は幼い頃のハンターに語った言葉。

「全くその通りだよ」

ハンターはそう呟くと再び返り血に濡れた兜を装着する。泣いてはいられない。泣く権利など無いのだ。

飛竜の巣に支給品の松明を投げ込み、燃やす。夜が明ける頃には死骸は骨と化しているだろう。せめて弔いになればと焼くことにした。後ろを振り返りベースキャンプに向かうハンター。途中で花を採取してレウスとレイヤに供える。

昼間は生命が満ちあふれた平地も、月明かりに照らされる遺跡平原は死の荒野に見えた。

 

ベースキャンプに戻りアイルーと合流する。アイルーはハンターの異変を勘づいたのか、何も聞かなかった。

帰りは意外にも集会所の上位の受付嬢が迎えに来た。

「何で君がここにいるんだ?」

「ハンター様、お迎えにあがりました。」

ふふふ、と笑うのに対しハンターは戸惑い気味だ。

「頼んでないのだけれど」

「まあ、つれないお方。ギルドマスターの要望で私がハンター様の送迎に参りました。こう見えても撃龍船から飛行船、暴走ポポ車まで何でも乗りこなせますよ。ギルドクエストの際、ちゃーんと私が送り迎えしてあげますからね、ふふふ」

「そうかい、なら頼む」

荷台に載って暫くすると、アイルーは疲れからか寝てしまっている。

「お疲れさん、ありがとう」

そう言って、ハンターは操縦する受付嬢の横へ座る。

「何かギルドから俺に用でもあるのか?」

「まずは感謝を。リオレイアの討伐ありがとうございました」

「礼を言われる事はしていない」

恨まれることしかやってない。心の中で自傷する。

「それだけか?」

「ハンター様にお願いが」

「何だ」

少し困ったような顔をする受付嬢。何だろう言いにくい事なのか。

「集会所のクエストも受けて頂けると有り難いです」

「そんなことか?勿論構わないがハンターはそこそこいるだろう?」

「そうなのですが、G級ハンターはハンター様独りのみです」

「そうなのか?!他にいないのか」

「腕の立つハンター様は大老殿へ向かわれてバルバレの所属では無いのです」

「ドンドルマは馬鹿しかいないのか」

ハンターは呆れた。どうして戦力をそこまで集めてしまうのか。まあ、古龍が街を襲うからという理由はあるが、いつもハンターが呼ばれて対処していたように思う。何度ポッケ村とドンドルマを往復したことか。それだけG級ハンターがいたならもう少し楽ができたはずだが。

「分かったやれるだけやるから、任せてくれ」

「ありがとうございます。心強いです」

 

 

(やっぱりニャ!だだものでは無いと思っていたけどG級ハンターだったとは驚きだニャ)

アイルーは寝ていなかった。狸寝入りもとい、猫寝入りをしてハンターの様子をうかがっていた。

(これは面白くニャってきたにゃ。僕の野望も叶えられるニャー)

内心ほくそ笑む。まずはハンターの元で修行あるのみ。

そうして野望に向かって計画を立てる。

そうこうしてるうちに集会所に着いた。

「おい。寝たふりしてないでさっさと降りろ」

「ヌッ!!」

「あら、寝てなかったのですか?」

ハンターはひらりと荷台から降りる。アイルーは心臓が止まるかと思った。なぜバレた、やはりただ者ではない。これで何度も大型モンスターをやり過ごしてきたと言うのに。ハンターはアイルーに顔をズズイと近づけて低い声で言った。

俺を騙せると思うなよ?

にゃーん(ひ よ こ)

怖くて変な声が出た。

「なんてな、冗談だ。さて帰ってしっかり寝よう。じゃあなジョーイちゃん」

「ジョーイちゃん?」

「上位の受付嬢じゃ呼ぶのも書くのも面倒だからな。ジョーイちゃんと呼ばせて貰うわ」

「はあ、若干メタな発言があったかと思いますが、おやすみなさいませ、ハンター様アイルー様」

「おやすみなのにゃ」

「ああ。おっ、そうだ。送迎乗り心地良かったぜ。また頼む」

「はい。ハンター様お任せ下さい」

東の空も微かに明るくなってきた。夜が明けるまでもう少し、ハンター達は我らの団へ戻っていった。



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バルバレの依頼

ジンオウガ亜種の玉が出ず更新が遅れました。


我らの団へ入団してもう一週間。この間ハンターは何をしていたかというと、ケルビの角の採取とキノコ取りと、ジャギィ3頭の討伐のみ。集会所の方からも依頼は無い。ぶっちゃけ暇だった。

お嬢が纏めた非常に癖のあるイラスト付きのモンスター帳を貸して貰い、バルバレに出るモンスターの予習をしたり。またハンターもモンスターの行動や攻撃のパターンを纏めた書類があったのでお嬢に見せたりして充実していた日々だったが、それでも暇だった。

 

「…ん?どうした、シケた顔して」

S・ソルZシリーズはフルフェイスなので表情は見えないはずだが、ハンターに覇気が無いのを気付いた団長はそう言ってきた。

「いえ、依頼が来ないので少し退屈しておりました」

それを聴いた団長はいつものように豪快に笑い飛ばして言った。

「ほう? ギルドが簡単な依頼しかよこさないって?はっは!いいかお前さん、仕事ってのは自分から取りに行くモンだぞ。」

「まあ、そうですが」

「いーや、分かってないな。まぁ仕方が無いかもしれんが、村専属ハンターは村人から依頼が沢山あったろうが、もうそうじゃない。キャラバンハンターは自分から依頼を見つけて、ギルドを通してクエストをやる。資金とか大きい有名なキャラバンとかなら依頼が来るだろうが、あいにくウチは目立ったことはしていないからな。待っているだけでは依頼は来ないぞ」

その一言にハッとするハンター。勝手に仕事が来るだろうと思っていたが、ここは多くのハンターが集まるバルバレ。古龍の襲来などの余程の問題が起こらない限り緊急クエストが来るはずが無かった。

「まあ、そんなこともあろうかと、お前さんがいない間にこんなチラシをバラまいてみた」

団長は1枚のチラシをハンターに渡した。

 

 じんそく かいけつ

 おなやみ そうだん

 

 ゆうしゅうなる 我らの団ハンターが

 あなたのもとへと いちもくさんに 

 かけつけます

 

 

チラシにはそう文章が書いてあり。ハンターのイラストなのだろうか、まつげの長く、瞳は大きくキラキラしてある人の顔が描いてあった。

 

「この絵は?」

「ああ。お嬢が描いたお前さんの似顔絵だ」

「凄ぇ、全く似てねぇ」

 

もう、別人じゃないか。髪の毛黒いし。何一つ特徴が一致していなかった。そもそもお嬢に素顔を見せたことがない。せめていつも装備しているS・ソルZ装備の方が分かりやすいと思うが。

 

「これでお前さんにクエストを依頼しようとする奴が現れるはずだ」

「……だと良いのですが」

何もしないよりマシだがすこし不安だった。

しかし大通りを通る人々達は我らの団を注目しているようだ。

 

「さて…どれどれ?依頼人は現れたかな?」

団長が当たりを見渡すと、少し離れた所にアイルーが屋台を開いていてこちらを手招きしている。

 

「お!いたぞ!あれは…屋台の料理人だ!さっそくのチラシ効果がお出ましだな!」

「マジかよ……」

効果早すぎじゃないか?イラストを見つめそう思う。しかし依頼ならば引き受けて信頼と実績を積み上げていくしか無い。ハンターは気持ちを切り替えて新しい依頼主の元へ行く。

 

「よしよし、まずは裸で語り合ってこい!」

「了解!」

団長の激励を背にハンターは駆け足で向かった。

 

「…ム?オマエがチラシのハンターニャルか?フム。どれどれニャル」

屋台の料理人をしているアイルーは手元のチラシとハンターを見比べる。

「ムウ。似顔絵見ても装備で顔が分からないニャル。これは新手のサギニャルか」

詐欺扱いされた。

「すまないな。だが、間違いなく俺は我らの団のハンターだ。困りごとなら力になろう。キノコの採取から古龍の討伐まで何でも引き受けよう」

ハンターは胸を叩いて言った。

「まあいいニャル。オマエさまに頼みがあるニャル。私、タル配達をしている知り合いが荷物を届けるのを待ってたニャル。でも、《クンチュウ》というムシのソシにあって、未だに、荷物が届かぬ思いニャルよ」

「なる程、クンチュウの討伐か。俺に任せてくれ」

「…おお、その態度はやる気があるという顔ニャルね。ありがたやニャル、ありがたやニャル。私、『行く手を阻むクンチュウを狩れ』という依頼を

ギルドに出しておいたニャルよ。では、銀色のハンターよ、よろしく頼んだニャル」

「ああ」

依頼を契約したので、お嬢の元へハンターは向かう。団長がやり取りを遠目で視ていたのだろう。話しかけてきた。

 

 

「どうだ?屋台のネコの介と裸で語り合ったか?」

「そうですね、モンスターの被害に逢っているとのことでした。これから討伐に向かいます」

「よーし、進もうじゃないか、優秀なる我らの団ハンター!依頼人がお前さんを待ってるぞ!」

「では、行ってきます」

 

 

「あ、ハンターさん、聞いてください。先ほど、お鍋をかぶった料理長さんから依頼がありました」「ああ、そのクエストを受注したい」

「ふふ、ハンターさんじゃなきゃ駄目ですよ。『銀色のハンターを指名ニャル』だそうです。指名ですって。まあすてき。」

お嬢はうふふ、と笑って手を合わせた

「光栄な事だ。……所でお嬢。『クンチュウ』って何だ?」

「クンチュウは丸くなってコロコロ転がるムシです。甲殻は固くどんな武器も弾くのですが、弾いた衝撃でひっくり返るので、柔らかい腹部を攻撃すれば倒せます」

「なる程な。参考になった、それじゃ行ってくる」

「はい。気をつけていってらっしゃい」

 

筆頭オトモを引き連れ遺跡平原まで行く。

「ボス着きましたニャ」

「おう」

オトモが恭しく先回りして安全を確保する。だからボスじゃないって。

それを苦笑して見守っているのは上位の受付嬢ことジョーイちゃん。今日も狩場まで送って貰った。彼女曰く『ちゃーんと私が送りますからね』とのことだ。

何気なくこの前『別に無理に送らなくても良いよ。受付嬢の仕事もあるだろう?』と気を遣ってハンターが言ったら、『好きでやっているので、大丈夫ですよ。受付嬢は代わりがいますが、ハンター様をちゃーんと遅れるのは私独りだけですので』と譲らなかった。

本当に有り難い事なのだが、日に日に受付嬢に憧れを持っている他の男性ハンター達の嫉妬と怨念の籠もった目線が集会所に訪れる度突き刺さる。

別に狙ってないから。

むしろハンターは逆にいつ死ぬか分からない仕事に就いていて色恋沙汰に興味を持てるのが不思議だった。

 

さて、ハンター達は支給品を受け取り、携帯食料を食べて腹を満たし遺跡平原を進んでいく。大型モンスターもいないのでエリア7に着いた。ここは高低差の激しい崖があるのが特徴で、そこそこ発掘ポイントもある。シンと静まるエリアに耳を澄ませると何かが転がる音がする。

目の前から大樽より一回り小さい黄色のアルマジロのようなものがハンターに向けて転がってきた。

ハンターは回転回避で飛び越えるように回避する。

転がってきた物体はエリアの壁にぶつかりひっくり返って藻掻いている。どうやらこれが目的のクンチュウのようだった。

ハンターは太刀の柄に手を掛ける。するとアイルーが言った。

「ボス!ここは僕がやるニャ!」

「あっはい。どうぞ」

先日のリオレイアの一件から何となく気合いが入っているアイルー。先日のキノコ取りもジャギィ3頭討伐もこいつが全て片づけた。

「ニャ!ニャ!ンニャー!」

気合いを込めて武器を振るう。緑色の体液がクンチュウから飛び出し絶命した。

「おー。やるねぇ」

地面から這い出てきた他のクンチュウをアイルーは追撃する。ハンターはこっそり崖を登りクンチュウを見つけると崖下のアイルー目掛けて蹴った。

「フシャー!やったニャ!……フッ、次に行kぐえッ!」

蹴ったクンチュウは勢いよく転がり、勝ち誇ったアイルーにぶつかった。

「油断するな。『勝ち誇った時、そいつは既に敗北している』狩りをしている際それを肝に銘じとけ」

「にゃ……。わかり、ましたニャ」

ハンターは崖上から轢かれたアイルーを見ていった。決して仕事を奪われた恨みでクンチュウを蹴り飛ばしたわけでは無い。

「お前はどこか詰めが甘い。まあ良い、残りの討伐頑張れ」

ハンターは一通りクンチュウを蹴り落とすと崖っぷちに腰掛けアイルーの奮闘を見ていた。

 

クエスト終わってバルバレに戻る。

 

 

「無事で何より! メンバー募集!」

バルバレに到着したハンター達を団長が迎えた。

 

「おうお前さん、聞いたぞ。屋台のネコの介の依頼を見事、いなしたんだってな」

「ええ」

「ネコの介から、お前さんに伝言だ。『ありがとニャル。オマエさまに感謝ニャル。ところで、オマエさまを信じてもう1つクエストを依頼したいニャル。後で、来てくれニャルよ。それと、あちこちでオマエさまを宣伝しといたニャル。依頼が増えるといいニャルね』お~、いい話じゃないか!素晴らしいな!」

「有り難いですね」

「他にもお嬢の元に色々相談が来ている。ハンターさんならできる!デキる!」

「そうですか、確認してみます」

「それにつけてもメンバー募集!来たれ料理人!来たれ商人!メンバーが集まったら、次はどこに行くかを考えておかないとな。フフ…旅はこの瞬間が一番面白い」

そう言って団長は豪快に笑った。

 

 

 

「シッ…!!お客さん、もしかして…、あなたが、アレですか?」

お嬢に寄せられた相談を解決するため、武具屋の若い店員まで向かったハンターに開口一番シリアスな口調で話しかけてきた。

アレって何だ?そう思いながらも、ハンターはチラシの似顔絵のことを聴いているのかと思い、我らの団のハンターだと言うことを伝える。

 

「ククク…ヤッパな。隠しても、オレにゃあ分かってんだ。」

何も隠して無いって。なんだ、話がずれている気がする。

「どうした?それに似合ってないぞその話し方」

いつもは丁寧な接客と気さくな性格な店員が秘密結社の一員のような語りをしている。

「なんだよその顔は。驚いてんじゃねえぜ。コッチがオレの顔なのさ…」

知らねぇよ。

「で、依頼は何だ?」

ハンターやってると変な依頼も来る。面倒くさいので、そう割りきって依頼を尋ねた。

「てことで、その柔腕を見込んで頼みがある…。例のモノを納品してくれたら、アンタを、アレに推薦してやるぜ。どうだ、悪い話じゃねえだろう…?」

「すまない、話が見えん。もう少し分かりやすく頼む」

『例のモノ』と『推薦』の言葉。もしかしてギルドの人間だろうか?G級ハンターの肩書きで十分なのにさらに何か押しつけようとするのか。

 

「シラバッくれんなよ、分かってんだろう…?そう、卵だよ、卵!卵の納品だ!」

「卵の納品?」

そこでようやく繋がった。ポッケ村でハンターをしているときから依頼があったが、キノコだったり、鉱石だったり何かアイテムに狂信的になっている人たちがいる。ただしモンスターがいて採取が出来ないから代わりに採ってこい。その手の類いの依頼だろう。少しばかり胸に広がっていた灰色の疑心は無くなっていた。

「頭上に抱く卵!さんさんと輝く卵!おお、オレたちの卵!もしアンタが《ガーグァの卵》を無事に納品できたら…、俺たち組織の一員に推薦してやるぜ!いいハナシじゃねーかコノヤロウ!てワケで、緑色したネェさんに『秘密の卵運搬・ガーグァ編』

って依頼を出しておいたからな」

「はぁ。分かった」

卵を納品して欲しいなら普通に言えよ。そう思いながらこれは後回しで良いなど段取りを組み立てる。

「おおッとォ…!この話は口外無用だぜ…!オレの頼みだってことは言うんじゃねーぞ!」

言わねーよ、アホらしい。

 

 

 

次にハンターが向かったのはバルバレで買い物に来ている女性。

「ああ、困っちゃった。ああ、どうしよう。ああ、大ピンチよ!」

「どうした?我らの団に相談しに来たそうだが?」

ハンターが声を掛けると、女性は嬉しそうに答えた。

 

「あ! チラシのハンターさんだ!お願い、私の悩みを聞いてー!」

「ああ、要件は何だ?」

「さっき、大事な買い物をすませて家に帰ろうと思ったんだけど…、帰り道に《ジャギィ》がいて帰れないの!」

これは早めに解決した方が良いな。

ハンターはメモを取り考える。

「ジャギィ討伐だな。」

「ひー!ハンターさん、私イヤよう!ジャギィにかじられるのだけは!いや、他のモンスターにかじられるのもイヤだけど」

「俺だって嫌だな」

「でしょう?そこでなんだけど、ジャギィの討伐をお願いしてもいい?私、看板娘さんに『ジャギィの群れを狩れ!』っていう依頼を出しておくわ!」

「分かった引き受けよう」

「お願いよー!ハンターさん!」

そこでふと気がついた。

「ジャギィだけか?」

「へっ?」

「ドスジャギィは見かけなかったか?」

「ええ、いなかったわ」

「そうか、なら良い。明日には帰れるようにするから帰る準備だけしておいてくれ」

 

ハンターはそう言うと次の依頼主の元へ向かった。

 

 

 

 

「ハァ…なんだいサギかい。チラシのハンターはアンタだったのかい」

「詐欺って言われてもな」

場所は変わってバルバレの雑貨屋の女将の元へ。お嬢の描いたイラストで詐欺扱いされる。なんだかバルバレに来てからいらない設定が増えている気がしてならない。

 

 

「そりゃあね、チラシの似顔絵はどこのやんごとなきお方か、ってぐらいまつ毛の長い、ぱっちりお目々だったよ。まるで別人じゃないか!期待しちまったよ!何に期待したかは聞くんじゃないよ!」

女将の手元のチラシをみる。お嬢のイラストは女将の好みのタイプだったらしい。

「期待させて悪かったな。いつも世話になっているからな、俺がやれることはやろう」

ハンターがそう言うと女将はニッと笑って言った。

「まあいいさ、アンタなら話が早そうだね。早速なんだけど、頼まれてくれないかい?《サシミウオ》の納品をさ」

「釣りか、良いだろう」

「今、港にねえさんの狩猟船が来ていてさ。ねえさんは、モガって村で漁港を仕切っているんだけどね。ところが、シケのせい不漁でさ。サシミウオが足りないらしいんだ。怖い依頼人に怒られちまうって、船長がピーピー泣いてるんだよ。かわいそうだろ?てことで、ギルドに『新鮮なサシミウオを求めて』って依頼を出しておいたからね。それじゃ、よろしく頼むよ!」

「ああ、任された」

ハンターはマイハウへと向かう。下位の新人ハンターなら一つ一つやっていくが、いちいちバルバレから遺跡平原まで往復していたら時間がかかる。纏めて片づけた方が良い。

 

アイテムポーチにサシミダンゴを入れ、卵を運ぶため競争薬も2つほど入れた。サシミダンゴは釣りフィーバエとムシの死骸で調合し作った。

ペイントボールとシビレ罠とドスジャギィが現れても良いように手配する。

 

オトモを引き連れ遺跡平原へ向かった。

 

 

ベースキャンプに到着して支給品を受け取り、携帯食料をかじりながらオトモとミーティングを始める。

「よし、依頼の確認に入る。準備は良いか?」

「ニャ」

1人と一匹のベースキャンプに緊張が入る。

「まずは、ジャギィの討伐。買い物客がジャギィに襲われ帰れない事件が勃発。依頼はジャギィだが、群れのリーダー争いか縄張り争いの影響が原因と考えられる。なので、ジャギィだけ討伐してもまた被害が出ることが考えられるだろうから群れ1つ完全に潰す。午前中に終わらせるのがノルマだ。そうしないとガーグァが警戒して出てこない。卵回収のためにも早く終わらせる」

「ニャ。サシミウオはジャギィ殲滅後に回収で宜しいですかにゃ?」

「ああ、アイルーの巣に池があってそこで穫れるそうだ。さて、行くか」

ハンターは立ち上がり鬼神薬と強走薬を飲みベースキャンプを飛び出した。

 

ガシャガシャと装備の音が激しくなるほど全力で黄金色の草原を駆けていく。赤茶色の段差を飛び越え見えるのは4匹のジャギィ。ハンターが太刀を引き抜き踏み込んで大上段から振り下ろし一閃。鮮血が飛び散り辺りを濡らす。

そのまま勢いをつけて他のジャギィの胴体を突き刺す。剣先は性格に心臓を貫き鼓動を止めた。胴体から太刀を引き抜き、下段から鋭い切り上げで更にもう一体の命を刈り取る。

残った一体は逃げようとするがアイルーに切り裂かれ倒れた。

走りながら納刀して次のエリアに向かう。そこからは討伐というより虐殺と言った方が良いだろうか。会ったジャギィは容赦なく殺し、大地を紅に染めていく。ジャギィノスも屠っていく。

ギャッ、グェッ、ギャァア。

モンスターの悲鳴とハンターの怒号が飛び交い、暖かな草原は凄惨な戦場へと変わっていった。

 

「オーゥ、オゥオゥオゥ!」

ハンターの狙い通り、群れを攻撃されドスジャギィが現れた。群れを攻撃する敵を倒すため招集をかける。エリアの端にある小さな洞穴からジャギィが次々と出てきてハンター達を囲もうとする。油断すれば囲まれ体制を崩されたら最後、鋭い牙で啄まれ、生きたまま喰われることになる。そんな死に方はするつもりもないし、生きる残るのはこちらの方だ。

「いざ参る!!」

狩場が居場所。ハンターは生きるか死ぬかの瀬戸際で自分の人生を感じることが出来る。己の奥底にある強い破壊衝動が込み上げ体を突き動かせる。

ジャギィが噛み付きやジャギィノスのタックルなど激しい攻撃が始まるが、ハンターは斬り下がりと鬼刃斬りのカウンターなど駆使し、回避はせず真っ正面から立ち向かい次々と斬り捌いていく。

アイルーはハンターの背中を護るように陣取り武器を振るう。ブーメランで中距離から牽制をかけ相手の攻撃を乱し、隙を突き一体一体倒していく。

「グァァア!!」

咆吼1つあげドスジャギィが大きな体躯を駆使しタックルをぶちかますがハンターに躱されアイルーにはガードされ決定打にはならない。

群れのジャギィ達は次々と倒されて戦力はどんどん失っていく。

ドスジャギィの攻撃パターンは噛み付きや跳びかかり。尻尾を使った薙ぎ払い程度。銀色の装備を鮮血で塗らし、修羅と化したG級ハンターの実力の前で身体能力のみでしか戦えないドスジャギィは圧倒的不利の状況だった。

銀火竜の素材で出来た飛竜刀【銀】の刀身から吹き荒れる業火は最高まで練り上げた練気と混ざり、辺りの空間を陽炎に歪ませ、ドスジャギィの肌を焼き斬っていく。

シビレ罠にかかった相手に鬼刃斬りが決まり、大きく振り下ろした爆炎のひと太刀がドスジャギィの頭部に炸裂。王者の襟巻きは吹き飛び、ドスジャギィを大きく仰け反らせ、がら空きになった喉笛に鬼刃大回転斬りが一閃。赤い刀身と迸る白炎が煌めいた瞬間ドスジャギィは後ろにぶっ飛び立ち上がること無く地に伏した。

 

ジャギィ38体、ジャギィノス29体、ドスジャギィ1頭の群れはハンターのノルマ通りに午前中に壊滅した。

 

横たわるドスジャギィに腰掛け太刀を砥石で研ぎ直し、携帯食料を食べる。

「お前大丈夫か?疲れてないか、怪我してないか?」

「ニャー。思いきっり暴れることが出来て満足ニャ」

ハンターはアイルーの様子を窺う。戦っている最中は敵のことしか考えられないのでアイルーの様子は分からなかった。しかし、少しばかり息が乱れる程度で大きな怪我も無く、しかも暴れられて満足と大口をたたいた姿に感嘆する。

今回の討伐でハンターはアイルーの評価を更に上げた。

正直オトモアイルーを見下していたが、自分の狩りに弱音を吐く事無くしっかり付いてきたことに驚いていた。

今まで他のハンターとクエストに同行したことは何度かあるが、ハンターは型破りな攻撃をするので誰も付いてくることができなかった。

 

「正直お前を見くびっていたよ。すまなかったな、これからも頼む」

「ニャ、恥ずかしいニャ。ボスの戦う姿は僕の目標ニャ」

「あんまりマネされても困るがな。さてサシミウオをとりつつ休憩するか」

ハンター達は立ち上がり、サシミウオが穫れると言われるアイルーの巣に向かった。

 

互いに釣り竿を垂らしのんびり釣りをするハンター達。アイルーの巣に血塗れのハンターとオトモアイルーが現れたときはちょっとした騒ぎになったが、事情を説明してアイルー達に納得して貰い、釣りをさせてもらっている。ドスジャギィの群れにはアイルー達も困っていたようで、むしろ感謝された。

「ボス、相談があるニャ」

「どうした?」

釣りをしているハンターにアイルーが横から語りかける。

「僕には夢があるニャ」

「夢?」

突然の相談に少し驚くが、面白そうなので続けさせる。

「ボクは将来、コブンであるサブオトモを増やすという、イダイなる【野望】をイダいているニャ!フィールドを放浪しているノラオトモを雇って増やせるニャ」

「可愛い野望じゃないか。それで増やしてどうするのさ」

「ボスをサポートするのニャ!必要なアイテムとか調達したり、情報を集めたり色々やってみたいのニャ」

ハンターは少し考えるが、断る理由もないし好きにさせることにした。

「好きにすれば良いさ。ただキャラバンにはそんなに住まわせることは出来ないだろうし、俺が全部面倒見れるわけでは無いぞ」

「僕が責任もって面倒見るニャ。場所も何処か拠点を作ってやろうと思うニャ。だからボスは狩りに連れてってくれれば良いニャ」

「分かった、お前に任せるよ」

ハンターは釣り上げたサシミウオを見ながらそういった。

 

日も傾き、ベースキャンプに戻る途中に遺跡平原からジャギィの群れがいなくなったため逃げ隠れていたガーグァが戻ってきていた。

尻を蹴飛ばして卵を出させてベースキャンプに向かう。

ジャギィの討伐。サシミウオの納品。ガーグァの卵の納品と終わらせてバルバレに戻る。

 

 

1度に3つのクエストを解決した事により、我らの団の評価は口コミで上がっていった。

解決が早く、料金もそこまで取られない。むしろ平均より安い方。

次々と依頼が舞い込んできてお嬢の仕事も増え、忙しくなった。

「はい、それではハンターさんにお伝えしますね。宜しくお願いします。……次の方どうぞ~。どのようなご相談ですか?」

 

その様子を見て団長は満足げに頷いた。

 

連絡船にハンターと出会ってから団長の多比も大きく流れが変わってきた。連絡船でのハンターとの出会い、ダレン・モーランの撃退。

仕組まれていたように上手く廻ってきている。

この調子だと捜している料理人と商人もみつかるだろう。

(ハンターさんは我らの団の羅針盤だな)

最高の出会いに団長は天に感謝をした。

 

 

 

「ぐう。困ったニャル。タル配達のアイツが、まだ来ないニャル」

ハンターは後日料理人のアイルーの元へと向かった。すると未だに悩んでいる姿が。ハンターは声をかけた。

「どうした?まだなにかあるのか?」

「おお、そこにおわすは銀色のハンター。オマエのおかげさまで、タル配達のアイツがタルの回転を開始したニャルよ」

一礼して感謝を伝えるがすぐに表情が曇る。

 

 

「でもシカシ、今度は、《アルセルタス》という

ムシのソシにあってるニャルね。ああ、どこかにムシのソシをソシしてくれるハンターはいないものニャルか」

どうやらまたモンスター妨害に遭っているようだ。

「なら俺が行こう」

「…おお、その顔はやる気があるという顔ニャルね。ありがたやニャル、ありがたやニャル。私、【アルセルタス、突撃!】という依頼を

ギルドに出しておいたニャル。これを達成したら、

《食材》のレベルが上がるニャル。いいコトだらけニャルね。では、銀色のハンターよ、よろしく頼んだニャル」

「ああ、任せてくれ。所で1つ聞きたいのだが、俺たちのキャラバンで料理人と商人を捜しているんだ。料理人を紹介してもらえるような場所を知ってないか?」

ハンターはふと聞いてみた。折角知り合ったんだ、何か情報の1つや2つ得たいところ。

 

「ム? 帽子の団長は料理人を探しているニャルか?それは大変けしからんニャル」

「やっぱり駄目かね?」

やはりあちこちに旅をするキャラバンに専属で就く料理人はいないのだろうかとハンターは思うが、猫の料理人は予想と違う答えを出した

「ここに、こんなに素晴らしい私がいるというニャルに。なぜ私を誘わないニャルか」

「何?我らの団に来てくれるのか?」

「行っても良いニャル。その代わり旦那がクエストをクリアしたらの話ニャル」

「そ、そうか。それならうちの団長殿に声を掛けてくれないか?詳しい話もあるだろう」

「分かったニャル。旦那は気を付けて行くニャルよ」

 

ハンターは離れ、クエストを確認しにお嬢の元へ向かう。

「お嬢、料理人からのクエストを受けたい」

「はい、こちらですね。アルセルタスはご存じですか?」

「虫のモンスター位しか知らないな」

「徹甲虫と呼ばれていて、空中から素早い動きで敵を攻撃してきます。頭の槍みたいな突起を使った突進に注意です!でも勢い余って壁に突き刺さったりするそうなのでチャンスはあると思います!」

「ふむ、非常に興味深いな。ありがとう、行ってくる」

「はい。お気をつけて~」

お嬢は手を振ってハンターを見送った。

 

 



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軽量級の兵士と青藍の狩人

ハンターは猫の料理人の依頼を解決するため再び遺跡平原にいた。

 

崖の段差のエリア7の辺りを見渡しながら様子を窺うハンターを狙う影が1つ。緑色をベースとした外殻と鎌のように発達した爪、そして一際目を引く巨大な角が特徴。

アルセルタスはハンターを仕留めようと崖の遙か上にある岩肌にへばりついていた。

羽を震わせ風に乗りハンターの後方へと移動し、重力に従い急降下、鋭い頭部の突起を向けて弾丸のように風を切り裂きハンターの後頭部に突き刺すべく突進した。

「ぐあっ!」

しかし突起はハンターの装備に弾かれ刺さることは無く、体制を崩すのみ。

再びアルセルタスは急上昇しハンターの視界から外れると再度、後方から鉄砲玉の如く突撃した。

ハンターは振り向きすぐさま回転回避で躱す。

2度目の突進も躱され、アルセルタスは1度壁に張り付いて様子を見る。

一方ハンターはすぐさま索敵をしてアルセルタスを見つける。しかし敵は目の前に迫っていた。

これも回転回避で辛くも回避する。

アルセルタスはハンターを通り過ぎると急上昇。エリアの中腹の段差の上に滞空して、オレンジ色の長い鎌のような爪を持つ前足をすりあわせ威嚇する。

 

「ボス!大丈夫かニャ!」

「ああ、それにしても中々のスピードだな」

アイルーが駆け寄り武器を構える。

ハンターも飛竜刀【銀】を鞘から抜き構える。

 

相手は上空。間合いの外にいるためどうしても近づいて斬らなければならないが、崖の多いこのエリア。崖を登っていては隙を作ってしまうだけ。地の利を活かしているのはアルセルタスの方だ。

「僕が突撃するニャ」

アイルーはそう言うと地面を掘り姿を眩ます。

地面を潜って敵の背後から奇襲をかけに行ったと判断したハンターはアイテムポーチからペイントボールを取り出し投げた。

ピンクの液体が緑の甲殻にベットリと着いた。

ブーーンと音を立てて突撃するアルセルタスをハンターは右の重心移動を活かした移動斬りをお見舞いする。

長い左前足にヒットするが浅い。

すぐさまハンターは振り向き剣先を敵に向ける。相手は太刀の間合いから一歩外れた場所に陣取っている。無闇に斬りかかっては体力をいたずらに消耗するだけ。鬼刃斬りのカウンターは練気が溜まってないので出来ない。ハンターはアイルーの奇襲を待つことにした。

今度は前足を使い、左に旋回しながら斬りつけてくる。ハンターは落ち着いてこれを回避。アルセルタスが先程いたエリアの中腹の崖の側に滞空したときだった。地中からアイルーが飛び出し、叩きつけた。

背中に攻撃が当たり、ひるんだアルセルタスはひっくり返って地に落ちた。ピクピクと痙攣している隙に猛攻を仕掛ける。しかしすぐさま体制を整え、宙に浮いてアルセルタスは逃げる。

前足をすりあわせ再び威嚇する。白い吐息がでている。たたき落とされて怒ったようだ。

ハンターも練気は溜まり鬼刃斬りを一通りぶちかませる事が出来る。が、下手に焦って大技を当てに行っても手応えは薄いだろうと判断。相手はプライドを傷付けられ怒っている。猛攻をさせて疲労が溜まり動きが鈍ったところに叩き込む。戦い方を決めたハンターはアイルーに短く伝える。

「奴を疲れさせた所を一気に叩く。良いな」

「了解ニャ!」

アイルーはハンターに答えると大きく回り込みアルセルタスの背後から角笛を吹いた。

アルセルタスは大きく腕を振り上げ羽音を鳴らしてアイルーに向かって低空突進を敢行。鋭い突起はアイルーの首元を狙うが、紙一重で躱す。

アルセルタスは減速して旋回。すぐさま再度突撃する。これもアイルーは躱すが、アルセルタスは逆に加速、ハンターを貫かんとそのまま勢いをつけて突っ込んだ。

「っらぁ!!」

しかしアルセルタスの攻撃はカウンターを習得したハンターには好都合。練気を解放し瞬間だけ身体能力を爆発的に上げる。太刀を横に構え、アルセルタスの強い衝撃を持った突起をいなし、勢いを吸収し練気に還元する。一瞬で最高まで溜まった練気を暴走させて一閃。アルセルタスの下腹を斬りつけた。

強いカウンターを受けたことでアルセルタスはバランスを崩し、突進の慣性のまま壁に突き刺さった。

「ぜぁあああ!!」

ハンターはカウンターの衝撃で痺れる両腕を心の中で叱咤し追撃する。ここを逃す手はない!横に一文字の太刀を振るい、フィニッシュに上下に鬼刃斬りを叩き込む。

「師より受けし槍さばきを喰らうがいいニャ!」

アイルーは爆走し大きく跳躍。ランスの突進のように突っ込み斬りつける。

突然のカウンターに続き大ダメージをうけたアルセルタスは空高く飛びエリアから逃げる。

エリアは変わって段差の多い赤茶けたエリア4。ここでアルセルタスは驚く戦法でハンターを迎える。

羽を収め地上戦を持ち込んできた。

長い爪を振るい攻撃してくる。ハンター達が横に廻ろうとすれば旋回して寄せ付けない。

しかし、接近戦のエキスパートであるハンターに地上戦を持ち込むのは悪手である。

「潰す!!」

攻撃パターンを見極め攻撃を躱し後ろ足を狙ってダウンを取りに行く。

「ウニャニャニャ!!」

アイルーがハンターに負けじと猛攻を続ける。

ハンターがこのままダウンを取れると確信したところで強い警鐘がハンターの脳裏に過ぎった。

 

アルセルタスが得意なのは空中戦のはず。実際太刀は当たらないし、段差を利用しての攻撃しかハンターの選択肢は無かった。

有利だったのはアルセルタスの方である。それをわざわざ不利になる戦い方に変えたのか。まるで何か誘っているような--。

ハンターが気づいたときにはアルセルタスは腹部を持ち上げ激しく羽ばたいたと思うと勢いよく急発進。ハンターとアイルーを轢き飛ばし上空に飛翔した。

ハンターとアイルーは強く地面に叩きつけられる。

「ぐっ…!!」

「ニャッ!!」

何とか立ち上がりアルセルタスの攻撃に備える。

ハンターのダメージは思ったより大きかった。と言うのも両腕に力が入らない。最初のカウンターのダメージが響いていた。

自然回復するのに時間がかかる。しかしアルセルタスは攻撃は激しさを増してきた。

ふらふらと何とか回避するハンターを狙ってアルセルタスは激しく突進する。

ついにハンターは尻餅をついてしまった。

アルセルタスは喜ぶようにオレンジ色爪を振り回しとどめを刺さんと全速力で貫きに来た。

「ボスゥ!!」

アイルーが吠えるが、力が入らない。

「くそっ……くそっ……!!」

ふらふらと何とか立ち上がり太刀を構えるハンター。

ギチチチと口元をハンターを嘲笑うように鳴らして迫るアルセルタス。

「くそっ……!なんてわけねぇだろうがぁああ!」

鬼刃が輝く渾身のカウンター。銀火竜のブレスが着弾したような爆発が起き、自慢の角をたたき斬って破壊した。

「うらぁぁああ!!」

更に横一線から上下に切り捨て振り上げた。練気が火柱となってアルセルタスを焼き尽くす。炎が消え去ると緑の体液が噴水のように吹き上げアルセルタスは絶命した。

「やれやれ、てめーの敗因はたった1つ。たった1つだけだ」

フラフラとした足取りはすでに無く、太刀を右肩に担いでアルセルタスを見下ろす。

ひっくり返って足がピクピクと痙攣して死んでいるアルセルタスに語りかけるハンター。

「『勝ち誇った奴が負けるのさ』」

太刀に付着した血を振り払い鞘に納める。

ハンターの不意打ちを食らって弱ったような動きは演技。急発進をする瞬間僅かだが体を反らしダメージを軽減していた。

長いハンター生活で一番有効な罠は弱ったふりだったりするのをハンターは経験則で知っていた。そこそこ互角な戦いをして弱ったふりをすれば格下はすぐに勝ち誇る。その隙にバッサリ切り捨てれば終わる話。これは人にも言えることだ。自分の戦績を誇示してる奴ほど早く死ぬし、ろくな仕事もしない。

「おい、大丈夫か?」

アイルーに回復薬を差し出して飲ませるハンター。

「ボスは大丈夫ですかニャ?」

フラフラと立ちあがるアイルーにハンターは言葉を返す。

「あの程度でやられるわけ無いだろ?演技だよ演技。この前もお前に教えただろ?『勝ち誇った奴は既に敗北している』と。まぁ、今回はそれを実演でお前に見せられたのは大きな収穫かな?さて分かったらとっとと帰るか」

「ニャ、にゃんて……人ニャ」

ハンターはアイルーを立たせアルセルタスを一瞥すると、ベースキャンプに向かって歩いて行った。

 

 

 

 

「おお、銀色のハンター。オマエサマこそが我が救世主ニャルよ。タル配便のアイツが喜んでたニャルよ。これもすべて、オマエのおかげさまニャル。いい奴ニャルね。私、オマエさまをいたく気にいったニャル。…でも飯代はいただくニャル。ニャハ」

アルセルタスを討伐して報告すると猫の料理人は、そう言った。

「ふっ、しっかりしてるな。それであんたはうちのキャラバンに来るのかい?」

「勿論約束は守るニャル。団長殿に挨拶に後で行くニャルから旦那からも言っておいて欲しいニャル」

「分かった、待ってるぜ。またな」

ハンターはそう言って報告のため集会所に向かった。

 

 

「おお、良いとこに来てくれたね。君に話しがあるんだよ」

「マスター、いかがなさいましたか?」

多くのハンターが出入りする集会所。飯を食べるはハンターや、狩りが成功したのだろう。モンスターの角やら尻尾を掲げて帰ってくるハンターもあれば、集会所に入ってきて落ち込むグループもある。その度に響めきだったり笑い声が響く。

その集会所を取り仕切るギルドマスターが話があるとハンターを呼び止めた。

「まずはクエストをクリアおめでとう。アルセルタスを討伐したんだってね」

「いえいえ、それ程のことでは」

「うんうん。君なら朝飯前だろう、それでね話なんだがね」

「ええ」

「君に『探索』を協力してもらえないだろうかと思い呼んだんだ」

「『探索』ですか?」

「うん。未知の樹海と言ってね、ギルドが未開拓だったフィールドを調査していてね、そこを君に調べてもらえないかなと」

「待って下さい、腕っ節に自信はあっても勉学はそこまで得意では無いのですが」

「ほっほほ。何も研究しろと言うわけでは無いんだよ。一定のフィールドを歩き回ってギルドが用意した拠点まで到達して貰えれば良いのさ。モンスターを討伐してもらえたらなお良いね。簡単に言えば毎回フィールドの形が変わる素材ツアーみたいなモノだね。やってもらえるかい?」

「良いですが。旅によっては出来なくなるかもしれないですよ」

「良いのさ。気楽にやってもらえれば。詳しくは君のキャラバンの団長殿に伝えたから聞いてもらえるかい?」

「分かりました、失礼します」

ハンターは集会所を後にしてキャラバンに向かう。

 

 

ハンターを迎えたのはやはり団長だった。

「無事で何より! メンバー募集!」

隙あればメンバー募集する団長につい笑うハンター。それを見てか、団長は続けた。

「おお、調子よさそうな顔だな」

「ええ、団長殿に朗報ですよ」

ハンターはそう切り出すと屋台の料理人が我らの団に入ることを伝えた。

 

「なんだって?屋台のネコがウチに入るって?はっは!お前さんもやるねぇ~!そいつはうれしい報告だな!おっとお前さんにも報告があるんだったな!

ギルドから…、《探索》の許可を取っておいたぞ!!」

「ええ、先ほどギルドマスターから聞きました」

「おお、知っていたのか」

「しかし詳しい話は団長殿に聞けと言うことで」

「では、さっそく説明するか!《探索》とは、ギルドの許可を得て未調査の地を調査することなんだ。発見したさまざまなモンスターをギルドに報告する、というのが大きな目標だな」

「採取クエストみたいな感じですかね?」

「いや、未調査の地だから、支給品などのギルドの設備は整っていない。頼りになるのは自分のみ!準備万端でのぞむのがいいだろう。…とまあ、いろいろあるが百聞よりも一見、くわしいことは実践で説明するか!」

「実践ですか?」

「ああ、早速俺とお前さんで探索に出かけよう!なにハンターさんなら出来る!出来る!」

 

こうして急遽団長とハンターの探索が始まった。

 

 

 

「準備はいいか、我らの団ハンター!気合いで調査を開始するぞ!」

「やりましょうか!」

ジョーイちゃんに送られたどり着いた場所は遺跡と森が広がる大自然。ベースキャンプのベットはあるのものの、当たりに回復薬や携帯食料の入った箱が投げ出されている。

「いや、こうして2人で狩場に立つと始めて会った時を思いだすな!」

「ええ、あの時も古龍相手に2人で立ち向かいましたね」

吹き付ける熱風と砂。始めて会った二人の男は巨大な古龍を前に共闘し結果的にバルバレを救った。

「フフ、そういやあの時ごちそうになった酒は旨かったな。またメンバー皆で飲みたいものだな。おっと、お嬢は飲ませるなよ。酒乱でな押さえるのに苦労するからな」

「前も言ってましたね。それにしても意外ですね」

「たったおちょこ一杯でも飲ませると酔っ払ってしまってな、モンスターのマネやら色々やって色々壊すからな。挙げ句の果てには自分でクエスト作るんだ。『乱入クエスト・ウケツケジョーの討伐』ってね」

「フッ、お嬢らしい」

「ほんとに飲ませてしまったことを後悔するくらい酷いからな。まぁ、弱いから飲めないと言ってたお嬢に一口進めた俺が悪いんだがな」

「貴方ですか元凶は」

酷いオチに肩を落とすハンター。それをいつもの如く笑い飛ばして探索の説明を団長は始めた。

 

 

 

「よし、それでは《探索》についてもう一度、簡単に説明しよう。探索とは、ギルド未調査の地域、この《未知の樹海》を調査することなんだ。目標は、生息するモンスターを発見してギルドに報告すること、だな。調査をしながらどんどん進んでいくと…。探索の終了地点に、ギルドの手配した《荷車》が待機している。この荷車に乗れば、調査を終了して帰還できるぞ!

何が起ころうと、調査終了地点までたどり着くことがカンジンだな!

調査の途中で力尽きてもスタート地点に戻されるが、クエスト失敗になることはない。だからといって、油断は禁物だがな」

そこまで説明をして団長は荷物を持つ。

「はっは!さて、と。こんな所だな。よし! では、途中でモンスターに会うかもしれないが、ひとまず、荷車までたどり着いてみよう!」

「行きましょう。モンスターは任せて下さい」

「ああ、ハンターさんの戦いをまた見れると思うと興奮してきたな!はっは!」

 

2人はギルドが持ち込んだ大雑把な地図を参考に道なりに進んでいく。小型モンスターのランポスがいたので討伐して団長の安全を確保していく。ついでに倒したモンスターのメモを取る。

 

 

暫く進むと開けた場所に遺跡平原のような二重底のエリアにたどり着いた。

 

すると向こう側からランポスが2頭こちらに走ってくる。太刀を引き抜き手早く仕留める。

団長がハンターの側に駆け寄ると2人を包む大きな影が。

蔦の上にはランポスのリーダー、ドスランポスが立っていた。ドスランポスはハンター達の前に飛び降りると一際大きく鳴いて号令を放つ。

ランポスが集まり2人を囲むように立ち並ぶ。

「おっと、めずらしいな!この地方ではめったに見ない《ドスランポス》じゃないか!ちょうどいい、ここでギルドに調査結果を報告する方法を教えておこう!」

団長は左手で帽子を押さえ不敵に笑うとハンターに目を配る。ハンターは頷き、閃光玉と煙玉を取り出すと地面に叩きつけた。

閃光と白煙がドスランポス達を包み込む。これで時間が稼げるだろう。

2人は走り柱のかげに隠れた。そして団長が口早に説明をする。、

 

「ギルドに対し、モンスターを発見した!…という報告をするには、当然のことだが、その証が必要になるんだ。証となるのは、主に次の2つだ。

●出会った大型モンスターを狩猟する

●大型モンスターの落し物を入手する▼

これらの証は、常にギルドに報告されている。こうした報告が評価されれば、そのエリアでのモンスター生息が認められることがあるんだ。もちろん、より多くの調査をしたハンターが高く評価されることになるぞ!」

「分かりました」

「それと、注意を1つ!通常のフィールドと違い、探索で出会ったモンスターは完全に逃げて姿を消すことがある。出会ったモンスターを狩猟するなら、スマートな狩りが必要になるぞ!」

そこまで説明すると煙も晴れてきている。そろそろ時間のようだ。

 

「と、こんな感じだな。ドスランポスを狩るか否かはお前さん次第だ。今のお前さんの手に負えないと思ったら、迷わず探索終了地点の荷車を目指すんだぞ!」

「団長殿、誰にモノを言っているんですか?何度も狩り慣れた敵ですよ。」

「はっは!いや失敬!そうだな、ハンターさんなら出来る!出来る!」

「そこで見てて下さい。すぐ終わらせます。」

飛竜刀【銀】を抜刀してドスランポスに向かっていくハンター。

青藍の狩人と白銀のハンターの戦いが始まった。

 

 

ドスランポスの群れと言っても小さなモノで、ドスランポス自体も成り立ての若い個体だ。

群れの連携は基本的なもので新人ハンターなら苦戦するが、G級の我らの団ハンターの前では試し斬りの相手にしかならない。

雑魚で練気を溜め、すぐさま鬼刃斬りをドスランポスにぶつけ、鬼刃大回転斬りで下っ端もろとも巻き込み切り捨てた。ものの数分で倒してしまった。

 

団長が笑顔で再び駆け寄る。

「よし、見事だ!と言うか流石だな!ギルドに調査結果が報告されたぞ!しかも、ドスランポス討伐で高い評価を得たようだ!ギルドは、調査に貢献したハンターに、特殊なボーナスを用意していると聞く。これからもたくさん調査して高い評価を得たい所だな!」

「しかし良かったのでしょうか?あっさり終わりすぎて少し怖いくらいですが」

「はっは!そのうちお前さんも唸る奴がでてくるさ!さてゴールまで進むか」

2人はその後大型モンスターに会うこと無く、どんどん進みゴールの2台まで到着した。

「よし! 着いたな!ここが探索終了地点だ!そこに荷車があるだろう?それに乗り込めば、帰還することができるぞ。お疲れさまだったな、我らの団ハンター!」

「ええ。戻りましょうバルバレに」

 

こうして団長が荷台をアプトノスに牽かせ、バルバレへと戻っていった。

 

 

翌日、ハンターが目覚めマイハウスの荷台から出ると良い匂いと団長達の笑い声が聞こえる。

するとすぐ側に屋台の猫の料理長が現れてメンバーに料理を振る舞っていた。

 

 

 

ハンターは団長に声を掛ける。

「おはようございます。団長殿」

 

「おお、ハンターさん。昨日はお疲れ様だな!お前さんに報告が2つある!報告その1!我らの団・メシ部門が見つかった!紹介しよう。お前さんも知っている屋台の料理長だ!世界をまわろうと誘ったら、大喜びで承知してくれたぞ!お前さんも挨拶しておいてくれ。ノリのイイヤツなんだ」

世界を廻ろうと誘う団長も凄いが、それを喜ぶ料理長もなかなか肝の据わった猫だ。

 

「報告その2!探索での調査が評価されたぞ!ギルドから書状を預かっている。読んでみようか?

『貴殿の調査結果を評価し、《ギルドクエスト》の受注を許可する。また、近日大型モンスターの目撃事例あり。引き続き、調査されたし。』ほう…!《ギルドクエスト》の受注許可が下りたか!」

「ギルドクエストとは?」

ハンターが聞き慣れない単語に疑問を覚え聞いてみた。

 

「ギルドでは、調査に貢献したハンターに対して、《ギルドクエスト》という特殊なクエストの受注を許可しているんだ。さっきの調査結果は、特別に

俺がギルドに申請しておいたぞ!ギルドクエストのことならお嬢に聞いてみてくれ。喜んで教えてくれるはずだ」

そこまで言って団長は話を変えた。

「さて、と。よし、ここでお前さんに、次の目的地の話をしておこう。仲間がそろったら、バルバレを出発しようと思ってな。で、どこを目指すかなんだが…、船を作りに行こうと思う!デカくて丈夫な船をな!」

「船ですか?」

いきなりスケールのデカイ話が出てきた。ハンターの口角が自然と上がっていく。団長の話はスケールが大きくて面白い。やはりこのキャラバンに入って正解だった。

 

「船があれば、遠くに行ける!”コイツ”の正体を探してどこまでも進めるぞ!」

そう言うと、帽子から白く輝くアイテムを取り出した。

「それは何ですか?」

何だかんだ疑問に思っていた事を、今更だが聞いてみた。

 

「おっと…そうか。お前さんには、まだ教えてなかったか。……これだ。見てくれ。」

光の角度によって白かったり金色だったり変化する。何かの鱗のようだが、ハンターやってて見たことが無い素材だった。

 

「”コイツ”は偶然手に入れたシロモノでな。………不思議でキレイだろう?こんな不思議なモノ、見たことも聞いたこともなくてな。そりゃもう、うずいたよ!”コイツ”のことが知りたくて、いても立ってもいられなかった!で、相棒と一緒にキャラバンを作って飛び出した、ってワケだ。それ以来、いろんな場所でいろんなモノを見てきたが、未だに”コイツ”の正体のシッポさえつかめていない。だが、あきらめはしない!世界をくまなく回ればいつか真実に行き当たるだろう!そのためなら、俺は海だって渡るし、空だって飛ぶつもりだ!…とまあ、これが俺達の旅だ。そんなわけで、次の目的地はデカい船を作ってくれそうなもの作りに長けた村だな!」

「そうだったんですね。どんどん楽しくなっていきますね」

明らかになった我らの団のルーツ。それと団長のアイテム。もしかしたらハンターが追い求める龍の素材なのかもしれない。アイツも白かったから……。

「我らの団の船か…実に楽しみだ!はっは!」

そこまで考えると思考を辞めた。団長の言うとおり世界を回れば真実にたどり着くだろうから今ここで答えを出す必要は無い。

 

「さて、と。お前さんは探索で大物の調査をしてみてくれ!その間に俺は商人を捜すとするさ。準備を十分にしていけよ!」

「了解!」

「さても変わらずメンバー募集!残る募集メンバーは商人のみか。なんかこうなァ、身軽でたくましくて顔が広くて、物知りでヘンなものをあつかっていて、陽気で愉快で洒落のわかる商人がいいなァ。ぜいたく言い過ぎか?こりゃ失敬。はっは!」

団長の笑い声がバルバレに響く。

残るメンバーはあと一人。商人だけ。メンバーが揃えば大きく運命の歯車が動き出す。

我らの団に旅立ちの風が吹こうとしていた。

 



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我らの団の日常と探索のハンター

ストーリーを確認するため1から4Gをやっているのですが火竜の逆鱗が全然出ない。



 

「それじゃ行ってくる」

何時ものようにハンターさんは受付嬢の私の元へ来て、挨拶をして行きます。クエスト行く前にはモンスターの話をしてクエストに向かいます。

「行ってらっしゃい、ハンターさん」

今回は団長さんと探索に向かいますので、帰ってくる頃には日が変わっているでしょう。

今回は筆頭オトモさんは休暇と言うことで、キャラバンのマイハウスでぐっすり眠っています。

 

今日は月に1度のキャラバンの報告会があるので、私はお昼前に集会所に行く予定になっています。

 

今までは活動報告と言っても報告することがあまりなく、特に問題はありませんと一言で済んでいたのが、ハンターさんの活躍など報告しなければならないため、多くなりそうです。

 

新しく入った猫の料理長さんの手作り料理を加工担当さんと私で円卓に座り頂きます。

団長さんはハンターさんと一緒に探索へと向かっています。

朝一番の話題はやはり私達のハンターさんの事でした。

 

「………今日は、ハンターは何を狩りに行ったんだ?」

大きな肉まんを齧りつきながら加工担当さんは言いました。竜人族の彼は体が大きいので、カボチャサイズの肉まんが普通のサイズに見えます。不思議。

「ギルドの要望で『探索』に行きました」

「……そうか」

「一日かけて終えるので、明日の朝に戻ってくると思います」

「旦那も人気者ニャル」

「…………よく他の人達からハンターのことを聞かれるからな」

 

そうなんです。私達はキャラバン生活なのでお風呂が無く、集会所にある銭湯を利用するのですが、私達の団長さんが、男湯で良く通る声で他のキャラバンのハンターさんや他の団長さんなどに我らの団ハンターの自慢話をしています。

ましてや団長さんはハンターさんの戦いぶりを1度は熱風吹き荒れる大砂漠でバルバレを救うために。2度目は探索での青藍の狩人を相手に間近で見ています。しかもまた今回も同伴したのでまたハンターさんの戦いを見れるかもしれません。

私もみたいです。モンスターを。

団長さんの語りは分かりやすく、また聞いていて楽しいので木製の壁越しに聞こえてくる話を耳を澄ませて聞いている女湯の利用客もいたりします。

 

私も1度ハンターさんと空の王者・リオレウスの金色の風吹き荒れる荒野での決闘を成り行きで隠れて見ていました。ハンターさんがいたので怖くなかったです。

 

昨日の夜の銭湯でも盛り上がってました。

私が銭湯に行き、体を洗っていると男湯に団長さんと加工担当さんが浴室に入ってきたのでしょう。大歓声が上がってました。

「おーう。お疲れ様だな!はっは!」

「待ってたよー!待ってたよー!我らの団の団長サン!!」

「遅いぜ!!俺なんか1時間も風呂に入って待ってたぜぇ!」

男の人って集まると何でこんなにアホになるんでしょうか?

「「……いや、上がれよ」」

女湯からボソッと突っ込みがあがります。

「はーっはっは!いや、そいつは待たせたな!うーん、どこから話そうかな。今日も面白い活躍をしてくれたからな!」

「ウェェェイ!勿体ぶるなよ団長サン!!」

「…………まぁ待て、体を洗わせてくれ。……はなしはそれからだろう」

そう加工担当が言うと、他の男性客が声を上げます。

「じゃあ俺酒持ってくる!!」

「よっしゃァ!皆ァ今夜は飲むかぁ!!」

「「「イエエエエエエエイイイ!!」」」

ハンターさんがバルバレに来てキャラバンに入ってからこんな感じです。

男湯で近所迷惑になりそうな騒ぎなのに女湯からクレームが上がらず問題にならないのはやっぱり皆さんがハンターさんに興味を持っているからなのでしょうか?呆れた溜息は出ても、うるさいと否定する声が出ません。因みにハンターさんは狩りに出ているので自分の話題になっているのは気付いていません。

 

そんな感じで注目を浴びる我らの団が、報告会で特になしで済ませるわけにはいきません。

「……お嬢。………そんなに悩む必要は無いさ」

「えっ、そんな顔をしてましたか?」

色々と考えていると加工担当さんから言われドキッとしました。

「…………深刻な顔をしていた」

「お嬢はすぐ顔に出るニャル。分かりやすいニャルよ」

「そうですか?」

ポーカーフェイスなら自信があったんですけどね。ちょっと恥ずかしいです。

「とにかく飯を食べてひと仕事するニャル」

そう言って料理長さんはデザートを出してくれます。

「…………俺は何人か装備強化を受けていたからな。それをやりながら商人を捜すとしよう」

「はい!今日も我らの団頑張りましょう!」

ハンターさんが頑張っているんのですから私達も頑張らないといけませんね!気合い、いれて。仕事、仕事~。

 

食事を終えて、クエストボードの依頼を一旦整理して片付けてしまい。集会所へと向かいます。

集会所の裏側にある会議室でキャラバンの報告会を行います。

ここではどの道が危険だとか、新しい道が出来たとか、他のキャラバンに協力を求めたり、情報交換の場となっております。また、ハンターの募集だったり引き抜きも会議の後行われています。

 

私が不安なのはハンターさんの引き抜きです。今やバルバレ一のハンターである私達のハンターさんはどのキャラバンも欲しい人材です。

資金のあるキャラバンだとクエスト報酬の他にキャラバンからお給料が出たりします。

 

ウチでは出してませんし、ハンターさんがいらないとおっしゃってましたので気にしてはいませんでしたが、やはり他のキャラバンから好待遇を出されたらハンターさんも移籍してしまうのでしょうか?

折角出会えたのに別れるのは辛いです。

モンスターが大好き。その事を笑わないで認めてくれたハンターさんは彼だけでしたし、色々と教えてくれる方は彼だけでした。

もっとお話を聞きたいですし、いろんなモンスターの生態を笑いながら話して欲しいです。

……………………。

 

「……さん、ソフィアさん。君の番だよ、ホッホ」

「ヘッ?!……あっ、はい!」

ハンターさんのことを考えていたらいつの間にか私の番になってました。ギルドマスターに声を掛けて貰うまで気がつきませんでした!

私は立ち上がり教壇に移動して我らの団の活動を報告します。

会議室にいるのは大体100人ほど。ううっ一体何人に私達のハンターさんのことを引き抜きに来るのでしょうか。

弱気になった私の脳裏に私を守ってリオレウスと戦ったハンターさんの姿が過ぎりました。

『かかってこいやぁーー!!』

巨大な敵に向かって啖呵を切ったハンターさんの勇姿から勇気を貰い私は他のキャラバンの皆さんを見渡します。

(ハンターさんの帰る場所は私が守らないと!)

そう決意すると私は口火を切りました。

「まず皆さん知っていると思いますが、ハンターが一人入団しました。以前我らの団にハンターがいましたが、彼はギルドの要望で筆頭ハンターとして我らの団を抜けて活躍しています。彼が抜けた間はハンターがおらず我らの団に頼ろうとしていた方々には迷惑をかけました。彼が抜けた後、我らの団はメンバーを募集していて、料理人と商人を捜していましたが、料理人が見つかり後は商人だけ。メンバーが揃い次第に次に向けて行動を移そうと思います。バルバレを出て船を造って旅の機動力を上げるのが次の目標です。バルバレに滞在するのも残り僅かかもしれませんが、宜しく頼みます。以上です。何か質問はありますか?」

 

取りあえず言うことは言いました。ハンターさんが入ったこと。我らの団の今後を報告してお終いです。拍手が起きてますが質問等は無さそうです。その様子を見てギルドマスターが言いました。

「ご苦労さま。うん、ギルドからすれば貴団のハンターはバルバレに置いておきたい所だが、そうも行かない。貴団のハンターからも丁重に断られたしね。何かあれば協力して貰うとするよ、それでは良き旅を。ホッホ」

「ありがとうございます。それで断られたというのは?」

ギルドから既にハンターさんへ引き抜きがあったのでしょうか?不思議に思ってギルドマスターに聞いてみました。

「うん。この前ね、筆頭ハンターとして活動したら良いのじゃないかなと聞いてみたんだがね。我らの団と旅をしたいと言われて断られたのさ。だから」

ギルドマスターは他の皆さんに向けてハッキリと言いました。

「我らの団のハンターを引き抜きは彼にとって迷惑な話だから辞めてね。ホッホホ」

そう言ってギルドマスターはパイプをふかしました。

会議室は軽く響めきが起こりました。ハンターの移籍などを扱っているのはギルドガールの階級でもトップクラスの人間しか就くことの出来ない銅鑼姉ちゃん。またはその上司であるギルドマスターくらいの物です。そのギルドマスターが直にハンターの移籍交渉を禁ずるのは前例がありません。

 

その事に驚くよりも、ハンターさんがギルドのお誘いを断ることに感激しました。

ギルドのハンターになることはハンター冥利につくお話です。前いたハンターさんは団長さんの友人で筆頭ハンターのお誘いがあったとき我らの団に抜けるのを迷ってましたが、団長さんが『ハンターとして誇りある事だから行ってこい』と送り出しました。ハンターならば1度は言われてみたい言葉を言われそれを蹴ってまで我らの団にいてくれる事に嬉しくて涙が出そうです。

 

………と言うか、ハンターさんを守るとか決意してましたけど、既にハンターさんに守られていたのでは無いのでしょうか?

私が不安に思った事はハンターさんに取っ払って貰っているような?

…………本当に凄い人です。

さて、私の仕事はこれでお終い。私は特に何もしていませんが後はキャラバンに戻ってハンターさん達を待つだけです。

 

キャラバンに戻った私は椅子に座って本を読みながら、太ももにメモ帳を置いて待ってます。

加工担当さんは他のハンターさんの武器を強化してます。料理長さんは美味しい料理を振る舞っています。

団長さんがいれば笑いながらお酒を飲んでいることでしょう。

この風景が何時までもずうっと続けば良いなと思っています。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「準備はいいか、我らの団ハンター!気合いで調査を開始するぞ!」

探索2回目。今回も団長がハンターに付き添いで未知の樹海のベースキャンプに立っていた。

「ええ、やりましょうか」

ハンターも装備や道具を手早く確認し、立ちあがる。

 

「さてと、いよいよだな。ようやくここからが

本格的な探索の始まりだ。前回の調査では調査終了地点の荷車に辿り着くのを目標にしてみたが、今回は、大型モンスターに会うまで頑張って進んでみよう!力尽きて倒れてもスタート地点に戻されるだけだが、油断するなよ、我らの団ハンター!」

 

そう、探索はクエストと違い、何回も倒れてもクエスト失敗にはならない。極端な話が、100回力尽きてもギルドのアイルーが倒れたハンターを回収し、ベースキャンプに戻す。まぁ、それも戻せたらの話だが。

「ええ、今回は大型モンスターの調査もあります。団長殿は無理をせず逃げるなり隠れるなりして下さい」

「ああ!それと前回来た時とは地形も違っているからな!気を付けろよ!はっは!」

探索はギルドの指示された場所を調査するため地形もマップも全く違う。2人は遺跡の柱や生い茂る樹木によって形成された迷路のような細い道が続くエリアを抜けると広く開けたエリアに出た。

ハンターが先に進み様子を見る。するとクンチュウが数体ハンターを見つけると正面に集まり体を持ち上げカサカサと前ビレをこすり合わせて威嚇行動をとる。

ハンターがクンチュウを蹴り飛ばし丸めた隙に次に進もうかと考えていると、大きな気配が風を切って此方へと向かっているのに気がついた。

クンチュウ達も気配に気づき、体を丸め防御を固めるか、あるいは地中へと潜っていった。

 

ハンターは団長を連れて近くの岩陰に隠れる。

すると赤い甲殻、青い翼膜。特徴的な大きな嘴。

怪鳥・イャンクックが滑空してハンターに、いや、正確にはハンターの近くにいるクンチュウへと風圧を叩き込みながら飛来した。

イャンクックは岩陰に隠れているハンターには気がついていないようで、丸まったクンチュウを嘴でコンコンと突っつき、また転がし何かを確認するように様子を見ると、がぱりと口を大きく開き、丸まったクンチュウを1度咥えると、そのまま胃袋へと飲み込んだ。

 

イャンクックはそのまま次々とクンチュウを捕食すると、少し離れた場所で丸まっているクンチュウを見つけ、翼を広げてコミカルな動きでハンターに背を向けパタパタと駆けていった。

 

「いたぞ!《イャンクック》だ!こいつはすごいな!もし、イャンクックを狩猟できれば、高い評価を得るかもしれないぞ!」

団長は興奮しながら声を潜め言う。

「ならここで狩りましょう。ギルドの大型モンスターの報告はイャンクックのことかと」

ハンターは岩陰から飛び出そうとするところを団長が腕を掴み阻止する。

「そうそう、お前さんには調査対象のモンスターによる評価の差について教えておこう」

「お願いします」

「モンスターの狩猟や落し物の入手によって得られるギルドの評価だが…、モンスターによって評価の高さが違うんだ。もちろん、より強いモンスターのほうが評価は高くなる。もしお前さんがより高いギルドクエストの受注許可を狙っているのなら、より強いモンスターを調査をして狩猟、または落とし物を入手するのが一番だぞ!」

「なるほど、なら逃げるより戦った方が良いのですね」

「せっかくの機会だ、イャンクックの落し物でも

拾って帰りたい所だな!はっは!」

「そうですか、どうします?落とし物だけ取りますか?」

「お前さんなら俺がいても討伐も可能じゃないか?……とは言うものの、もちろん無理は禁物だぞ。調子が出ない時は荷車を目指し、無理せず帰還しよう!」

「分かりました」

「よし、説明はこんな所だな。どうする我らの団ハンター!」

「討伐します。団長殿は安全な場所へ隠れてて下さい」

イャンクックはクンチュウを飲み込み、テクテクと歩いている。ハンターは立ち上がり、闘志を漲らせて団長の問いに答えた。

 

「気合いの入れどころだ、我らの団ハンター!お前さんなら、できるできる!」

団長は真っ直ぐハンターの目を見て言った。

「行ってまいります」

ハンターはそう言うと悠々とイャンクックの元へと進んでいく。

--さて、狩りの時間だ。

 

「久しぶりだな。『先生』?」

ハンターは歩いてイャンクックに近づく。アイテムポーチからペイントボールを取り出し投げつける。

イャンクックはハンターに気付いて振り返った。

 

--先生、か。

 

ハンターがまだハンター資格を取ってない頃、教習所でハンター試験の相手がイャンクックだった。

産まれも育ちも普通じゃ無かったハンターは、教習所に放り込まれると、基本的な採取や肉焼きの授業の課程をすっ飛ばし、いきなりハンター資格試験を受けさせられた。

片手剣を預けられ闘技場で戦ったが、片手剣の使い勝手がどうも苦手だったため、盾を放り投げ身軽になり、剥ぎ取りナイフ1本でひたすら切り刻み討伐したのを覚えている。そうしてハンター資格を取った彼はその驚異的な戦闘力の高さを認められて、試験翌日にリオレウス亜種のクエストに行くことになったのは良い思い出だ。

 

「さて、手合わせ願おうか!」

昔を振り返るのは一瞬。今を生きるため、ハンターは太刀を引き抜きイャンクックに肉薄する。

 

(う~む、流石だな。やはり只者じゃない)

 

団長はハンターの戦いぶりを観て心の中で賞賛を贈る。ハンターの戦いを見るのは3度目。回避は最小限、攻撃は最大限。ハンターが理想とする動き方をそのまま体現したような戦いぶりだった。

 

突進を回避してイャンクックの背後からの攻撃。切り下がりで間合いを取り、弧を描く軌道のブレスを吐き出させ、それを躱しその隙を突き足下に小タル爆弾を起き起爆させる。

 

(そうか!落とし物を取りに行くつもりか!)

物陰に身を潜ませる団長は思わず膝を叩いた。

 

イャンクックは大きな音に弱い。音爆弾やモンスターのバインドボイスなどで大きく怯むと落とし物をすることがある。

普通ならば猛攻を与えるチャンスであるが、足下に落ちたイャンクックの落とし物を拾い取る。

(これでギルドに証明できるが、ハンターさんはどうする!?)

団長は岩陰からハンターの次の行動を見逃さんと目を見開いて様子を見る。

音爆弾の衝撃から意識を戻したイャンクックは怒り口から火炎を零し翼を広げてその場で飛び跳ね激しく頭を振る。

しかしその隙にハンターは落とし穴を仕掛けていた。

「今だぁ!!ハンターさん!!」

「おおらああああ!!」

ハンターの天に響く咆吼とともにS・ソルZメイルの両目から紅蓮の闘志の光が鈍く輝くとハンターの体躯から練気が爆発。すっぽりと穴に嵌まったイャンクックに突きと切り上げを織り交ぜつつ鬼刃斬りを叩き込み、刀身にありったけの力と練気を伝わらせて、鬼刃大回転斬りの遠心力でさらに威力をかち上げ一閃。すると、ハンターの脳内にアドレナリンが噴出し、深紅の刀身がイャンクックの頭部を切り込むと飛び散る鮮血の一粒一粒がハッキリと見える。太刀の勢いそのままに振り抜き鞘に刀身を鞘に納め振り返る。落とし穴から抜け出したイャンクックを見ると大きな耳がズタボロに割かれ破壊されていた。

 

イャンクックは翼を羽ばたかせ飛び立とうとするが、ハンターは閃光玉をイャンクックに叩き込み墜落させる。

横になり藻掻くイャンクックの足に向かって踏み込み、大上段から太刀を落とす。突き、切り上げと連撃を与え後方に切り下がりをしながら、立ちあがるイャンクックから間合いを取った瞬間練気を解放。体を回転させ左下段からの鬼刃斬りを鋭く切り込むと、左右に太刀を振るい再び大上段から鬼刃斬りを振り落とす。

「ぜえああああ!!!」

赤い練気を渦潮の如くまき散らして鬼刃大回転斬りをイャンクックの右側面をなぞるように斬りつける。鮮やかな赤い甲殻が鮮血に染まり、ドス黒い破片となって飛び散った。

 

イャンクックは大きく仰け反り低く唸ると、力なく地に伏した。最後の大回転斬りが致命傷だったのだろう。パックリと傷口が開いていた。

 

「はぁ、はぁ、……ふぅ。終わったな」

ハンターは呼吸を整えながら右手で太刀を振るい刀身に着いた血を落とし、ゆっくりと鞘に収めた。

 

「ふう…!けがはないか、我らの団ハンター?」

団長は岩陰から飛び出しハンターの元へと駆け寄る。

「ええ、大丈夫です。これで大型モンスターの調査は終わりですね」

「はっは!そうだな!いや、見事だったぞ我らの団ハンター!!」

「それでは荷車目差して行きましょう」

「ああ!他にもモンスターがいるかもしれないから気を付けて行こうか!」

 

2人は肩を並べて進んでいく。すると遺跡の内部に入るとボロボロの木箱が何個か半分地面に埋まる形で点在していた。

モンスターの気配は無い。が明らかに人がいた痕跡がある。

 

「それにしても、ここはめずらしいエリアだな。せっかくの機会だ、くまなく調べてみよう!何か面白いものが発掘できるかもしれないぞ!」

団長が木箱を無理矢理こじ開け中を見る。砥石だったり携帯食料など様々だ。ハンターが別な木箱を調べると土に濡れた鎧が出てきた。

 

「これは一体……?」

「おお、珍しいものを発掘したな!ふむ、どれ…。

これは《発掘装備》と呼ばれている遺物の1つだな」

「発掘…装備?」

ハンターが聞き慣れない単語に首を傾げると団長が腕を組みながら説明する。

 

「この地域では手に入らない素材で作られた珍しい武具なんだ。残念だが、このままでは古くて装備できない。うまく研磨して、使えるようにできればいいのだが…。まあ、とても珍しいものだからな。大事に持っておいて損はないぞ!はっは!」

「そう、ですか」

ハンターは発掘装備をまじまじと見る。土に汚れ、一部は苔が生えていたりと確かに使えそうでは無い。よく見ると装飾品もつけてあったようだ。

「この辺りでは良くある物なのですか?」

「たまーに出てくる物だな。それと武器も出てくるな。それを使うハンターもいたりするぞ」

「そうなのですか。……よく使えますね」

モンスターが跋扈するフィールドから防具が出てくる。前の持ち主はどうなったのだろうか?これはある意味曰く付き装備なのでは無いのだろうか?

そんなことを考えていると団長が聞いてきた。

「うん?ハンターさんは余り興味が無いか?」

「ええ、他人が使った武器は自分の手には馴染みません」

「ああ、そうか。いや、確かにハンターさんのような思いもあって使わないハンターもいるが、ハンターになった新人とか今より強い武器防具を揃えられない人達からすれば欲しい一品ではあるな。」

「なる程、需要はあるのですね」

「ああ、発掘装備で身を固めてクエストに行くハンターもバルバレにいるからな!」

「そうですか」

ハンターは、俺には不要な物だな。と思いつつ発掘装備をネットに包むと肩に引っさげて立ちあがる。装備を研磨する技術は気になっていた。

途中でハチミツやマンドラゴラなど採取しながら大型モンスターに会うこと無く荷車まで無事たどり着いた。

 

「よし!着いたぞ!今回もお疲れさまだったな、我らの団ハンター!そこの荷車に乗り込めば帰還することができるぞ。出会ったモンスターが手に負えなかったら、とにかくこの荷車に辿り着き、帰還することを覚えておいてくれ!荷車で帰還した場合にかぎり、ギルドからボーナスが贈られるから、できれば、荷車まで頑張ってたどり着きたい所だな。さて、と。今回もよく頑張ったな!我らの団ハンター!」

「お疲れ様です団長殿。戻りましょうか」

 

2人は荷車に乗り込むと料理長や加工担当。そしてお嬢の待つバルバレに向かって帰路に就く。

探索も無事完了。満点の星空が我らの団を祝福するかの如く輝いていた。

 

 




旅団の看板娘ことお嬢ですが、公式でソフィアとなっているので出しました。
登場人物設定とか書こうかなと思ったりして書いたりするのですが辞めたりの繰り返ししています。
次回の話でバルバレの物語は終わる予定。


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奇猿狐を退けるのは我らの団

「………ス。……さい。……ボス」

「ん。………んあ?ああ、何だ?朝か?」

昼前になる頃。ハンターはオトモに起こされて覚醒した。マイハウスのベットで横になっているS・ソルZにアイルーが声を掛けるのは中々シュールでもある。

ハンターは装備の重さに慣れるため装備を外して寝ない。

「もう昼前ですニャ。団長さんがハンターさんを待っているニャ」

「団長殿が?分かったすぐ行く外で待っててくれ」

ハンターはベットから這い出ると腰に手を当て背を伸ばす。

アイルーが出てから暫くしてハンターはマイハウスから現れた。

 

「聞いてくれ!めでたしの報告がある!そう!入団希望の商人が見つかったんだ!」

団長が嬉しそうにハンターに詰め寄る。

「紹介しよう。竜人商人だ」

「我らの団でハンターをやっている者だ、宜しく。……ってあんたは」

「お?知ってるって顔だな。」

「ええ、そこ通りで以前話したことが」

団長の側にいたのは朱色の漆塗りの箪笥のような箱の上に紫の座布団を敷いて座っている竜人の老人。

ハンターが以前アイテムを何か置いていないか聞いたらモンスターによって流通経路を荒らしているため営業できないと言っていたのを覚えている。

「おお、あんたさんは。前会ったわな。」

2人の様子に団長は少し驚きながらも商人の説明を続ける。

「何だ、それなら話は早い。このジィさんは、商いをしながら《錬金》のワザを探してバルバレに来たらしい。ところが、現在は商売あがったりの状況だそうだ」

「モンスターによって流通経路を荒らされているとか」

「ああ。最近、バルバレの近くで《ケチャワチャ》というモンスターが目撃されていてな。このケチャワチャが、商人たちの流通経路を荒らしているんだ。今、ギルドではケチャワチャの狩猟を《緊急クエスト》として取りあつかっている」

「なる程、早急に討伐に向かった方が良いですね」

ハンターが頷きながら言った。

「そう!ここでお前さんの出番、というワケだ!ケチャワチャを狩って流通経路が復活したら竜人ジィさんが仲間入りしてくれるそうだ!これで次の村を目指せるぞ!」

ケチャワチャを討伐すればメンバーも揃い次の村に行けることになる。今回のクエストはなんとしてでも完遂しなければならない。ハンターの深紅の目に灯がともる。

「俺が討伐してきます。……爺さん、任せてくれ」

「いやぁ、助かった!こりゃまた助かった!まさか、あんたさんがな!実はな、もうあきらめてバルバレを出ようと思っとったんよな。行商経路が復活したあかつきには、キャラバン入りさせてもらうわな!ワッハッハ!」

「ああ、待っててくれ。……所で団長殿、次の村と言うのは?」

「ああ、火山の火口内にある村でな。《ナグリ村》といったかな?武具の生産に長けていて、ハンター達でにぎわっているらしい。溶岩の熱を使って、デカい物を作る技術もあるそうだ。船を作るのも、お手の物だぞ!」

「非常に興味深いですね、旅立ちが待ち遠しいです」

ハンターの言葉に団長は満足げに頷いた。

「アツアツの溶岩とハンター達の熱気でグラグラ煮えたぎる村か。今から熱くなってくるな!はっは!では、我らの団ハンター!ケチャワチャの狩猟を任せたぞ!俺は旅立ちの準備と新メンバーの歓迎会の宴の準備をするとしよう!」

団長が立ち去り商人とハンターの2人になった。

「団長さんの旅も先は長そうだが、ワシの旅も長そうでな。」

商人が団長の背中をみて語った。ハンターは商人に尋ねた。

「爺さん、あんたはこのバルバレで商売するために来たのかい?」

「ワシはな、とある技術を探しとるんよ。失われて久しい《錬金》の技術をな。ワシの故郷の地方では、はるか昔に栄えた技術として逸話だけが残っとるんだわな」

「錬金か。コゲ肉を生肉変えたりしたことはあったがそんなもんじゃ無いだろ?」

「それも錬金ではあるが、ワシの捜している技術は素材を別の素材に変えたりしてな、スケールが大きいものだわな。マ、探しもんてのはそう簡単に見つからんてのが相場だわな」

「なる程。それでこれから旅に出るウチのキャラバンに来たのか」

「あんたさんがいるんなら心強いわな。バルバレ一のハンターなら安心して頼めるわな。どうかよろしゅうに」

「ああ、よろしゅうに。どれ、俺も準備するとしようか」

ハンターは商人と別れて準備を始める。

 

 

 

 

「旦那、あの竜人の商人はおもしろいニャル」

中華鍋に入っている肉と野菜を高火力で炒めながら料理長はハンターに言った。

「ほう?」

「好きなメニューを聞いたら賭け事と言っていたニャルよ」

「はは。食事より賭け事か。確かにあの爺さんは強そうだ」

料理長は炒め物を皿に移すと上から餡を掛ける。鼻腔に入る香りに誘われハンターはツバを飲み込む。

料理長はスープとサラダとご飯をお盆に載せハンターに出した。

ハンターは出された料理を次々と平らげていく。

「私も、一度勝負してみたいニャル。私の勝つ姿が、今から目に浮かぶニャル」

料理長はニヤリと不敵に笑って言った。

「こういうのを、キングターキーが棍棒ネギしょって来た、というニャルね」

「たいした自信だな」

「ニャハ、旦那がいない間はサイコロを振る練習をしているニャル。旦那も私と勝負してみるニャルか?」

「致しません。金を賭ける勝負で勝った例しがない」

ハンターは代金を置いて立ち上がる。

「命を賭ける場合は必ず勝つけどな」

「ニャハ、流石ニャル。気を付けて行ってくるニャルよ」

ハンターはクエスト受けるためお嬢の元へと向かう。

 

 

 

「ハンターさん、ついにきましたよ!緊急クエストです!《ケチャワチャ》の狩猟ですよ!」

今日もテンションが高いお嬢である。素材クエストだと「気を付けて下さいね」と一言で終わる。あまりの落差に笑ったものだ。

「ああ。所で……」

--ケチャワチャについて教えてくれ。そう聞こうと口を開くがお嬢はモンスター愛の熱が入ってしまったせいか立ちあがって叫んだ。

 

「やったーっ!私の《ハンターさんの評価を上げる会》が早速、コウをソウしたーっ!」

「ん、何だって?!」

お嬢は秘密裏に何かしていたのだろうか?ハンターが思わず聞き返すと、お嬢はハッと我に返って左右をキョロキョロ見渡し椅子に座り一枚のクエストの紙を出した。

「………はっ。ええと…なんでしたっけ?あ、緊急クエストですね。はい」

「いや、そうなんだけど。さっき何て言ったの?」

「《ハンターさんの評価を上げる会》です。ハンターさんに仕事がたくさん来るように私が結成しました」

いつの間にかスポンサーが付いていたようだ。

「因みに会員は私独りです」

「それは心強いねぇ」

なんて言って良いのか分からないが取りあえず答えた。

「ハイッ!この話はここまで!緊急クエスト、ケチャワチャですね!此方になります!」

 

「『遺跡平原』での狩猟か。何か注意することはあるか?」

「ケチャワチャは鼻から粘着質の液体を飛ばします。ウチケシの実を持って行って水属性やられを無くすように対処をお願いしますね」

「ああ、分かった。行ってくる」

「あ、そうそう。私、新しいフィールドに行けるクエストもいくつか用意してみたんです。★2の中にありますから、のぞいてみてくださいね」

「ああ、ありがとう」

お嬢はにっこり笑うと再び立ちあがって言った。

「ふーっ…よお~し!ではハンターさん!行きましょう、緊急クエスト!そして、この調子でぐいぐい上げましょう!ギルドの評価を!ぐいぐいっと!」

「ああ、俺が戻ったら皆で宴だな。待っててくれ」

「はい!その時にケチャワチャのお話を聞かせて下さいね!私いつものように待ってますから!」

ハンターは手を振るお嬢に答え、装備を整えるためにマイハウスに向かう。

 

 

場所は変わって遺跡平原。いつものようにS・ソルZシリーズに太刀は鬼哭斬波刀・真打。

水属性の攻撃と聞いて雷属性の武器を選んだ。

 

ベースキャンプで携帯食料や鬼神薬を胃に収め、オトモと狩りの前のミーティングを始める。

 

「さて、今回はケチャワチャの狩猟。こいつが流通経路を荒らしているために討伐する。団長殿が言うには、いつもは虫を食べるそうだが、人間の食料に味を占めて襲うようになったそうだ。人里近くに出没するそうだから、舐めてかかると痛い目を見ることになるだろう。気を引き締めて行こう」

「ニャ。ボスはケチャワチャと戦ったことはあるのかニャ?」

オトモはハンターに尋ねた。

「無いな。お前はあるか?」

「勿論ニャ。ケチャワチャのいる場所も何となく分かるニャ」

「そうか。お前の予想は何処にいると思う?」

ハンターは地図を広げて尋ねた。オトモはマップのエリア2を指して言った。

「恐らくここニャ。知っての通り遺跡の柱に網みたいに張った蔦せいで二重床の構造ニャ。ここはケチャワチャが得意とする場所ニャ。雲梯で遊ぶサルのように移動して爪とか鼻からの水鉄砲を駆使して来るニャ」

「そうか、攻撃が当たりにくい感じか?」

「太刀ならリーチもあって当たるにゃ。それと音爆弾とか大きな音をぶら下がっているときに聞かせると怯んで落ちるからオススメニャ」

「なるほどね。それで支給品で音爆弾があったのか」

「ボスの腕前なら大丈夫ニャ」

「嬉しいこと行ってくれるじゃ無いか。さて、そろそろ出発ニャ」

「ああ、行くか」

ハンターとオトモは立ち上がり、ベースキャンプを後にする。

 

エリア1を左に進み、難なくエリア2へと進む。

 

日は高く、ハンター頭上には細かい網のように蔦と葉っぱが覆っていた。

足を忍ばせゆっくりエリアの中央に進んでいく。目で様子をうかがい、音と匂いでモンスターの気配を探る。

気配はあるが、まだ見つけてはいない。すると背後でカサリと葉が落ちる音がして振り返る。しかしそこには何も無い。

再び音が鳴り葉が数枚落ちる。そちらの方に目を向けるが遺跡の柱でケチャワチャの姿は無い。

上から来るか?右か左か?

体の筋肉が硬化するのを目を閉じ静かに深呼吸してほぐす。カサカサと音が近づいてきた。意識をそちらに集中していると気配を真上に感じた瞬間大きく音が鳴り、葉を数枚まき散らしながらソイツは現れた。

蔦床の大きな穴から身を逆さまにぶら下げハンターの目と鼻の先にケチャワチャは頭を表した。

狐のような体毛。大きな耳。バクのような鼻。派手な色のソイツは両耳で仮面のように顔を覆う。耳の外側の模様が大きな目に見える。右左とテンポ良く耳を動かしてハンターの反応を楽しむかのように動かし、両耳を開くと鼻から水鉄砲をハンターの胴に発射した。

 

「ちっ、随分な挨拶だな!」

水鉄砲を喰らい数歩後ろによろめいて下がる。ダメージは無いが、ベタつきが酷い。アイテムポーチからウチケシの実を取り出し握りつぶして胴に振りかける。弾けるように粘着質の液体は流れ落ちた。

(お嬢の言ったとおりだな、ありがとう)

アドバイスをくれたお嬢に感謝しつつも、目の前の敵に殺意を籠めた目線を贈る。傷は無いがしかしハンターに不快感を与えるには十分だった。ハンターの反応に満足したのかケチャワチャは両腕で蔦にぶら下がると、耳で顔を覆い、咆吼を1つ。これが開戦の合図となった。

「しばくぞワレェェエーーー!!!!」

「かかって来いニャァア!!」

ハンターは怒りを込めて吠えた。オトモも負けじと叫ぶ。ハンターは抜刀、ふざけたツラを切り刻もうとするがケチャワチャは蔦床の上へと上がり攻撃を躱す。そしてガサガサと激しく音を立てて移動する。

すかさずケチャワチャはハンター達の後方に回ると頭だけ出して水鉄砲を3発発射する。

それをハンターとオトモは左右に別れて回避する。オトモは穴を掘って地中に潜り移動を開始して、ハンターは遺跡の柱に絡みついた蔦を掴み蔦床に登る。

するとケチャワチャは蔦床にぶら下がり、身を隠すように移動する。姿は見えないが、ハンターは蔦床を注視して、ぶら下がるために蔦床に引っかけている爪をみて、敵の動きを把握する。

ハンターは蔦床を走り、爪に向けて太刀を振り下ろす。爪に当たった刀身から、紫電が奔りケチャワチャへと伝わり筋肉を痙攣させる。堪らす葉を巻き上げハンターと同じ土俵に上がった。そこにケチャワチャの動きを待っていたかのように、蔦を泳ぐように現れたオトモは槍のような武器をランスの突進のように突っ込みケチャワチャの背中から頭までなぞるように斬りつけた。

しかし手応えは浅い。ケチャワチャはモモンガのような飛膜を羽ばたかせ跳躍。空中で小さく体を丸めて勢いよく大の字に体を広げ、飛膜を使い大気の流れを利用し滑空。ハンター目掛けて両腕の鋭い爪を叩き込んできた。

が、ハンターも歴然の狩人。難なく回転回避でこれを避け、間合いを取る。

すかさずハンターが距離を詰め斬りつけようとするが、ケチャワチャは蔦床を掴み強く揺らした。

足下が大きく揺れハンターはその場に立つのが精一杯。

その隙にケチャワチャは再び蔦床の下へと潜る。

 

(コイツやるな!)

 

お互い決定打は与えられていない。しかしハンターは挑発的な言葉を叫んだものの焦りは感じておらず冷静に対処出来ていた。むしろ相手を褒めていた。ここまでフィールドの特徴を活かしたモンスターは始めてみる。

自然と口角が上がっていた。

 

 

しかし、笑ってもいられない。不利な状況なのは変わりは無いし、このまま人を馬鹿にしたような戦いをする奴に付き合う趣味は無い。立ち回りを大きく修正する必要があった。

ハンターからすれば慣れない立体的な戦闘で先手を取るのは難しい。後の先を取る形でしっかり攻撃を与え怯んだ隙に鬼刃斬りを叩き込むしかない。また支給品の音爆弾も4個あるがもう少し温存しておきたい所。

 

罠は蔦床では設置出来ないため、罠にはめて猛攻。ダメージを与えて怒らせ、鬼刃斬りを使ったカウンター主体の戦法に流れを変えるのも、些か無理がある。

蔦床にから降りて戦うことも考えたが、上り下りで余計な体力も使いたくない。そこでハンターは蔦床を走って移動。蔦床の上にあるモンスターの巣に登りオトモに向かって叫んだ。

「アイツをこっちに追い立てろ!乗り攻撃でダウンを取る!!」

「ニャー!!」

オトモは下に降りるとブーメランを駆使してケチャワチャを攻撃。ケチャワチャは不快に思ったのか勢いよく蔦床へと躍り出た。

「デュアア!!」

それを待っていたハンターはモンスターの巣を踏み台にして大きく跳び、太刀を抜刀。狐色の背を斬りつけしがみつく。

ケチャワチャは激しく動きハンターを振り落とそうとするが離れない。動きが弱まった隙を激しく剥ぎ取りナイフで滅多刺しにする。

「!!!!」

大きく仰け反りケチャワチャは横に倒れる。ハンターはすかさず抜刀。練気を溜めるべくひと太刀ひと太刀全力で振るい溜まりきった所で解放。鬼刃大回転斬りを決めると、刀身に蒸気のような白い練気を纏う。

体制を整えたケチャワチャは顔を耳で覆い咆吼1つ。

「うるせっ!!ボケェ!!かかってこいやァ!!!」

狩りの最中、ハンターは心に住み着こうとする極限の恐怖と緊張を怒号で発散して太刀を構える。

怒りに身を任せ口元から白い息を荒々しく吐き突進をしてきた。それをハンターは右の重心移動を利用して攻防一体の移動斬りで対処する。

オトモはすかさず追撃をたたみ込む。しかし怒り狂ったケチャワチャは両腕で激しく蔦床を叩きつけ暴れ回る。その勢いでオトモは吹き飛ばされ大地へと落ちていく。直撃は避け、上手くダメージを逸らしていたため無事だと判断して、ハンターは踏み込み斬りつける。

「うらああああ!!!!」

ハンターは隙だらけの左脇腹向けて連撃を叩き込む。鬼刃斬りで斬撃を叩き込んでいると、怯んだケチャワチャは蔦床にずっぽりと下半身が嵌まり身動きが取れない。

「まだまだぁー!!」

切り下がりからの鬼刃大回転斬り。確かな手応えを感じ確認すると、鋭い爪が弾け飛んでいた。刀身が朱に染まり赤い稲妻が迸る。戦いの流れがハンターに流れているのを確信した瞬間ケチャワチャの姿が消えていた。何があったと目を見開いてよく見ると、すると蔦床に穴が空きその下の大地へと落下していた。

ハンターも飛び降り落下しながら攻撃を与える。

オトモも合流するがケチャワチャは素早く姿勢を立て直し咆吼。そして硬直して動きが止まったハンターを腕の力で吹き飛ばし、飛膜を羽ばたかせて飛んでいった。

 

「ボス!!」

「痛たた。いやぁ、いいの貰ったな」

ハンターは左腕を摩りつつ立ち上がる。

「大丈夫かニャ?」

「ああ、大丈夫。お前こそ無事か?」

「ニャ、何ともないですニャ」

「そうか。よし、一旦休憩。砥石とか回復したあと奴を追いかける」

ハンターはその場にしゃがむと太刀を砥石で研ぎ始めた。

オトモも回復薬を飲んでいる。

「アイツなかなかやるな」

ハンターはポツンと呟いた。

「ボス?」

「いやぁ地形を活かしてくるモンスターは初めてだからさ。感心してしまった」

「ボスくらいなものだニャ。そんな感想言うのは」

「ははは、かもな。さて。第二ラウンド行くか」

「ニャッ」

お互いダメージを回復してエリア移動をする。

場所はエリア4。赤茶色の段差のある場所はハンターにとっても好都合だった。

耳で顔を覆う姿はお祭の仮面舞踏会に使うかぶり物にも見えなくは無い。耳の先端の棘が牙のようにも見えていて中々迫力がある。

ハンターは余裕を持って太刀の切っ先を向ける。

ケチャワチャの突進。難なく躱す。右左と腕を叩きつけ両腕で更に叩きつけるがこれもハンターは回避する。ケチャワチャはバク転をしてその勢いで低滑空の突進をするが、ハンターは練気のカウンターを叩き込む。

予想外の攻撃によって体制を崩したケチャワチャは大地に派手に転がった。

藻掻いているケチャワチャの顔面に紫電の煌めきが襲い掛かる。オトモはブーメランを利用して中距離から攻撃する。

大きな耳に裂け目が入った。

ハンターは切り下がり、武器を収めアイテムポーチから音爆弾を取り出す。

ケチャワチャはオトモに滑空攻撃を仕掛けようと空中で翼を広げた瞬間、ハンターから投げ出された音爆弾モロに喰らいバランスを失い墜落する。

 

落下したケチャワチャはハンターを見ながら後ろ足を引きずるように逃げていく。

 

 

 

トドメを刺すときが来た。ハンターはそう思うと、ケチャワチャを追いかける。するとそこで気がついた。ケチャワチャの先にに仁王立ちになる小さな相棒の姿を。

ハンターは抜きかけた太刀をパチンと戻す。

「何処行くのニャ?」

オトモは武器を構えてケチャワチャに問いかける。

「クォォオオアア!!!」

邪魔するな!と言わんばかりに鋭く吠えると右の鉤爪でオトモを切り裂きにかかる。

オトモはブーメランを投げつけ襲い来る爪を弾き飛ばす。

「さっきはよくも吹っ飛ばしてくれたニャ!」

オトモは叫ぶと、ケチャワチャの脳天目掛けて飛び込んだ。

鮮血が飛び散り奇猿狐は地に伏す。

 

「筆頭オトモの名は伊達では無いのニャ」

動かなくなったケチャワチャにそんな言葉を落とす。

 

「美味しいとこ持って行きやがって」

少し恨めしそうにハンターは言う。その姿にオトモはワタワタと慌てる。

「ニャッ。そんな訳では……」

「ふはは、まぁいい。胸を張れ、良くやった。バルバレに戻るぞ」

「ニャっす」

ハンターはオトモを労うと、ベースキャンプに向かっていく。

 

 

 

 

 

 

「無事で何より!さすがは我らの団ハンター!見事、緊急クエストを達成したな!お前さんのおかげで、商人達の流通経路が安全になったぞ!竜人ジィさんも大喜びだ!」

団長と商人はは戻ってきたハンター達を出迎えた。ハンターはオトモの頭を軽く叩いて言った。

「今回はコイツがトドメを刺して活躍しました」

「おおっ、そうか!やるなネコ太郎!!流石だな!」

「ニャッ、そんなたいしたことはしてないニャ」

「はっは!胸を張ればいいのさ!」

褒められて恥ずかしがるオトモの姿が可笑しくてついハンターも笑ってしまう。

「それで商人の爺さんは?」

「さっそく仲間入りして、《竜人問屋》という店を開いてくれた。さあさあ、挨拶しておいてくれ!皆ともすっかり仲良くなっていたぞ!」

「ソイツは良かった。爺さん改めて宜しく頼む」

商人はくしゃくしゃの皺だらけの笑顔で言った。

「よろしくさん、お1ついかが。いらないモノも、いるモノも、あっという間に増やしてみせるわな」

「ああ、ところで爺さんの店はどういうアイテムを取り扱っているんだ?」

「ワシの店《竜人問屋》では、それはそれは手広い商売をしとるんだわな」

「と言うと?」

「日替わり商品の販売はもちろんのこと…、《アイテムを増やす》で、あんたさんから預かったアイテムを増やしたり…、《素材を交換する》で、この地方にはいないモンスターの素材を物々交換なんかもできるわな」

「ソイツは凄いな」

山菜爺さんからチケットと交換で素材は貰ったことはあるが、それ以上だった。

「あんたさん、狩りではいろんなアイテムが要り用になるわな?」

「そうだなぁ」

「よしきた!そんな時こそ、ワシの出番だわな!ワシにアイテムを預けてくれたら、狩りに行っとる間にぐんと増やしておくわな!『狩りに行く前、竜人問屋!」』…と覚えておくれな。ワッハッハ!」

「ふふ。頼りにしている」

2人は固い握手を交わすと団長か声を掛けた。

「改めてやったな、我らの団ハンター!緊急クエストの達成、見事だったぞ!お前さんのおかげで商人達の流通経路が安全になった!バルバレの皆が大喜びだ!もちろん、竜人ジィさんもこの通り大喜びだ!はっは!」

「ええ。これで、メンバーも揃いました。我らの団結成完了ですね」

「ああ。さて、と。竜人ジィさんも仲間入りしたし、次の地を目指すとするか!さあ、溶岩でアツアツの《ナグリ村》に船を作りに行くぞ!その前に宴会だ!!さぁさぁ今宵は飲んで食って、騒ごうでは無いか!!」

団長は料理長の下へと足を運ぶ。円卓には沢山の料理と酒が所狭しと置いてあった。

「あっ、ハンターさん!お帰りなさい!!」

お嬢はニコニコとメモ帳を抱えて笑って迎えた。

「ただいま、お嬢」

ハンターはお嬢の隣に座る。すると反対側に加工担当が席に着いた。

「…………よう、戻ったか」

「お待たせしました」

「……怪我もなく良かった」

無口な加工担当はフッと笑みを浮かべた。

「帰ってきたニャルか。さて、飯にするニャル」

料理長も調理場を片付け席に座る。

「ああ、暴れて腹が減ったよ」

「ほぅ。これまた豪勢な食事だわな。これなら秘蔵の1本出すしかないわな」

「はーっはっはっは!爺さん、太っ腹だねぇ!」

商人はぬるりとどこからか瓶を取り出して、団長が早速自分のグラスに注いでいる。、

「なら俺もあとでポッケ村の酒を出しましょう。お前は猫だから……あった、これだ。マタタビジュースだな」

「ニャ。ボス、嬉しいニャ」

オトモはハンターの膝に座っている。

「はっは!そうだな、ネコ太郎も飲め飲め!」

こうして仲間も揃った我らの団の賑やかな宴は日が沈み、夜が更けても続いていった。

 

 

----バルバレでも小さなキャラバンだった我らの団は、こうして各分野のプロフェッショナルが集まり、旅立ちの風に吹かれて物語のページは進んでいくことになる。

 



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ナグリ村へ

「頭が……いたい……」

もそもそとベッドから起き上がり座り込んで呟く女性。バルバレ集会所の上位受付嬢その人である。

昨日、我らの団の宴に団長殿からのお誘い途中からでギルドマスターと一緒に参加した結果がこの様だ。

我らの団ハンターとは仕事の付き合い。最初はそう思っていたが、気がついたら正直に言うと、受付嬢は我らの団ハンターに惹かれていた。

G級ハンターの実力。しかしクエストは選ばず依頼は何でもこなす。『下位の運搬クエストなんぞG級ハンターがやれるか!』などと良くあるクレームを一切言わない。たとえ薬草取りでも2つ返事でこなす優しさ。ベースキャンプの手入れなども率先して手伝ってくれる。

クエストの帰りの飛行船でよく仕事の愚痴を聞いてくれるし、集会所での他ハンター達の喧嘩や揉め事を仲裁してくれることもしばしば。

そんな憧れの彼と一緒に食事が出来る事に表情には出さずとも内心はしゃいでいた。

いざ宴に参加すると美味しい料理に美味しいお酒。

『いつもありがとう』とハンターからポッケ村のお酒を注がれ、あらあらうふふ何だか夫婦みたいですね。と1人で興奮していたりした。

そこまでは覚えている。その後が記憶が無い。ここまで飲んだのは人生でもあまりない。別に酒乱でも無いが、記憶を無くすのはマズい。我らの団ハンターの隣に座っていたのは覚えているが迷惑をかけていなかっただろうか?

痛む頭を使って記憶を振り絞ると昨晩の記憶が脳内にポツポツと浮かんでくる。

『ハンター様、あ~ん』

『えっ?いや、その……あぐ』

『ふふ、ちゃーんと食べないとダメなんですからね。次は野菜ですよ』

『んぐ、大丈夫。……ちゃんと1人で食えるから。皆も笑ってないでジョーイちゃんを止めてくれ』

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

叫んだら頭に響いて更に辛い。思いだすんじゃ無かった!

『あ~ん』ってなんだ。ハンター様引いていたし、上司や我らの団の皆さんにも思いっきり迷惑をかけているじゃないか!

受付嬢はベッドに再びダイブするとジタバタと暴れる。相変わらず頭痛が酷いが、苦い記憶を消してくれるなら悪化させた方が良いと思い暴れるが痛みとともに次々と自分のしたことが思い返される。

『はんたー様に言いたいことがあります!』

『お、おう』

『食事するくらい、兜を脱いだら良いと思います!はい、あ~ん』

『えっ、また?!……あむ。装備の重さに慣れるためにやっていることだから良いのさ別に』

 

 

「ううう……」

昨日の記憶を取り戻し、枕に顔を埋めて呻る受付嬢。昨日の醜態を同僚の闘技場受付嬢に知られたらのほほんとした口調でからかわれるに決まっている。集会所に来る我らの団ハンターを熱い視線で見つめている銅鑼ねえちゃんに殺意と嫉妬の籠もったハンマーで大砲の弾の如くぶっ飛ばされる。下位受付嬢の訳の分からない妄想のネタになる。いや、それよりも。

「ハンター様に嫌われたらどうしよう?」

死ねる。飛行船を操舵してそのまま火山の火口に突っ込むしか無い。

クールな振る舞いで評判の彼女も流石に今回の出来事は許容範囲を超えていた。

「ふふ、仕事行かないと」

休みたいと思いながらも、制服に着替えて身嗜みを整える。

荷物を纏めて、集会所に向かう。食事する気にはなれなかった。

ギルドマスターと挨拶を交わし、カウンター業務に入ろうとするとマスターに呼び止められた。

「ほっほほ、出発の挨拶に来たみたいだよ」

「えっ?」

集会所の玄関にはウエスタンな壮年の男性と銀リオレウスの装備のハンターが立っていた。

 

 

 

 

 

バルバレを離れるときが来た。

我らの団のメンバーは慣れた手つきで荷物を纏めて行く。

ハンターはマイハウスに全ての荷物が積み込んであるので特にすることも無いので他のメンバーの荷造りを手伝おうと向かう。

団長はテーブルに地図を広げ椅子に座りタンブラーに入った酒を煽る。

「団長殿、何か手伝えることはありますか?」

「はっは!俺は大丈夫だ。皆旅支度は慣れているからな、お前さんが手伝えることは無いと思うぞ」

「そうですか?」

ハンターは各ブースを見てみる。加工場などは色々と片付ける物もありそうで、独りでは些か厳しいと思えるが。

ハンターは取り敢えず加工ブースに向かう。

「何か手伝いますか?」

「…………大丈夫だ」

ハンターは加工担当に声を掛ける。

加工担当は制作途中の片手剣や制作道具など、竈の中に押し込み纏めたのちに加工ブースの屋根側から垂れている太いチェーンを全身の力を込めて引くと、カラクリ仕掛けが機動。看板が勝手に畳み、四方から緑の板が竈を包み、下から四つの車輪が生えるように現れる。コンパクトに纏まると1つの荷車に変わった。

「凄いな……全自動ですか」

「…………各地を転々とするからな、キャラバンでは重宝される技術だ」

「知らなかった……」

「……あとは荷車を1列に連結させて移動するだけだから、お嬢の手伝いをすると良い」

加工担当が指差す方を見てみると、大きなクエストボードを折り畳もうとしている。ハンターはお嬢の下へと向かった。

「んっ、んっ!ていっ!」

上下折りたたみ式のクエストボードをお嬢は力任せに下側を持ち上げ叩きつけるように折り畳んだ。

「ふぅ。あっハンターさん」

「お嬢、何か手伝おうか?」

「そうですか。それじゃあ……ってあれ?」

何か引っかかる感触を感じお嬢が見てみるといつも肩から提げているお気に入りのカエルのポーチの足が、折り畳んだクエストボードに挟まっており抜けなくなっている。

「あらら。んっ、んん~!……キャア!!」

力任せに引き抜こうとするが中々抜けない。それでも引っ張ると、クエストボードの上の留め金が外れ折り畳んだクエストボードが勢いよく開き、貼り付けていたクエストの紙が舞い散った。お嬢は反動で尻餅をつく。

「大丈夫か?」

ハンターは手早く落ちたクエストを回収。お嬢に手を引っ張り立ち上がらせる。

「えへへ、やっちゃいました。ありがとうございます、ハンターさん」

「イッーヒッヒッヒ!」

しわがれた笑い声が響く。ハンターが振り返ると商人の爺さんが笑っていた。

「爺さん、笑うなっての。それより荷造りし無くて大丈夫か?」

「イヒヒ、すまんすまん。ホイッ」

商人は鍵の形をした杖をコンコンと自分が座布団を敷いて座っている箪笥のような巨大な品物入れを軽く叩くと、正面に展開している商品棚が勝手に纏まり、商人の座っている品物入れに収納。車輪が現れ日よけの傘まで自働に出てきて商人を日差しから守る。

「イヒッ。終わったわな」

「凄ぇな、その技術」

ポッケ村から出る時に荷造りに苦労したハンターはあっという間にコンパクトに纏まるシステムに感心せざるを得ない。

「年寄りには有り難いシステムだわな」

「羨ましいね」

ハンターはクエストボードをたたみ直すと、お嬢と一緒にマイハウスに詰め込む。

一方、料理長は竈の火を水で消し、器を重ねて食材倉庫に仕舞おうとする。脚で半開きになった倉庫の扉を開け中に入るが、倉庫の下に落ちていた魚を踏みつけ滑り転倒。その衝撃でカラクリ仕掛けが発動。食材倉庫を中心にして屋台が纏まり出発完了となった。

 

 

 

ハンターは団長と2人でバルバレギルドへと向かっていた。ギルドマスターへ挨拶のためである。

「……さて、と言うわけでこれよりナグリ村へ行くとする」

団長はギルドマスターへ挨拶している中、ハンターはジョーイちゃんと話をしていた。

 

 

 

「ハンター様、昨日はその……ご迷惑を」

「ああ、大丈夫だ。楽しめたか?」

「ええ、楽しかったです」

両手を胸の前に組みほんのり朱に染まりながら答える受付嬢。ハンターは頷きながら「そうか」と答える。

 

2人は雑談を交わすが、その様子を見た他の男性ハンターから殺意の籠もった視線を向けられているが、気にしていない。

ジョーイちゃんはそれに気付いてか、話題を変える。

「ちゃんと回復薬は持ちましたか?」

「そう言った物はアイテムボックスにストックしているから大丈夫」

「歯ブラシとか着替えとかもしっかり持ってますか?」

「ああ、大丈夫。というか子供の遠足じゃ無いんだから。急にどうした?」

ジョーイちゃんの質問攻めにたじろぐハンター。一体どうしたと言うのだろう?

「いえ、ハンター様は旅に慣れてないと思ったので」

バツが悪そうに答えるジョーイちゃんにハンターは苦笑する。

「大丈夫だよ。団長殿もいる、独りじゃない」

頼れる仲間も出来た。金や権力のために戦うのではない。大切な仲間を守るために今の自分はいる。

「それと……、ギルドで何かあったら遠慮無く連絡来れ。俺で良ければ力を貸す」

勿論、ギルドマスターや受付嬢たち集会所の皆も大切な仲間だ。バルバレでは色々と世話になった。そう思い、ハンターは発言したが、ジョーイちゃんの耳には自分に会う理由にしか聞こえない。

 

「ふふふ、遠慮無く頼りにさせて貰いますね。その時はちゃーんと私が安全操舵で送り迎えしますから」

確認するかのように一歩近づき人差し指をS・ソルZヘルムの口元に当てる。並みのハンターならこれでイチコロで恋に堕ちる物だが、狩場が居場所のG級ハンターには効果無し。

「ああ、また頼む」

彼はそう言って右手を差し出す。受付嬢も笑顔で彼の手を握り握手を交わすが、心の中では静かに泣いていた。

 

 

因みに余談だが2人の会話の後、その場にいたハンターたちはボマースキルの装備に変えて「爆発しろー!!」の言葉とともにギルドストアで大タル爆弾を大量に買っていく珍事が起こったという。

 

ジョーイちゃんと話を終えるとハンターは団長とギルドマスターの下へと向かう。

「ほっほほ、気を付けて。よき旅を」

「ああ!世話になったギルドマスター!」

「では、これで」

集会所から出ようとするハンターをギルドマスターが呼び止めた。

「おっと、君、ちょっと良いかい?」

「何でしょう?」

「君に1つ警告だ」

「警告?」

何か悪いことでもしただろうか?ハンターは首を傾げた。

「うん。ここ最近未知のモンスターが至るところで暴れている。それを筆頭ハンター達が追っていてね。」

「はぁ……」

「黒い飛竜だ。名前はゴア・マガラ。凶暴な性格で中々危険だからね、注意してくれたまえ」

「分かりました。警告感謝します。では失礼します」

ハンターは一礼すると集会所を後にする。ゴア・マガラか、出会わなければ良いが。ハンターの心が僅かばかり灰色の影を落とす。

 

 

 

集会所からキャラバンに戻ると荷車を1列に並べていた。加工担当が各荷車を連結器で固定してあるのを確認。

「……行けるぞー!」

「はっは!よし、行くか!」

「はい。出発進行~♪」

合図を出すと、団長はポポに鞭を打って歩かせる。

ナグリ村へ向かって進み始めた。

 

昼間にバルバレを出て、3日かけてナグリ村に到着する予定だ。

流通ルートを競歩程のスピードでキャラバンは進んでいく。

ハンターはマイハウスの中でお嬢とモンスター談義をしていた。

「なるほど、ナルガクルガは跳びかかりをする態勢に入ったときに音爆弾を投げると転倒するのですね」

「ああ、隙が出て攻撃できるけどその後は怒り状態になるから乱発するのは危険だな。ただ、怒ると落とし穴に嵌まるようになるから俺は落とし穴を仕掛けて怒った後にすぐはめて一気に攻めるようにしていたけどな」

「ふむふむ、メモメモ」

メモを取るお嬢の背で歓声が上がる。ハンター達が振り返ると商人と料理長が賭け事に興じていた。

「私の勝ちニャル」

「イヒヒ、もう一回勝負だわな」

「よしきた、また私が勝つニャル」

「それは分からんわな。ハンターさんもよく見とくわな」

「ふふ、イカサマするなよ」

「そんな事はするまでも無いニャルよっと!」

料理長は立ち上がり手の平に持ったサイコロをお椀の中に投げ入れる。コロコロと転がる2つのサイコロは動きを止める前に荷車が段差を乗り越えた衝撃でお椀から飛び出し、賭けは成立しなかった。

「ニャニャニャ~~!!!」

「ファファファ!」

悔しがる料理長と笑う商人。勝負は分からなくなってきた。

 

 

流通ルートの途中にある道の駅に寄り補給と休憩を挟み、モンスターに遭遇すること無く夜道を進んでいく。満点の星空を眺めながら加工担当は荷車の幌の上に横になり仲間の笑い声を聞きながら考えていた。今までの旅のこと。そしてこれからの旅のこと。

 

ハンターが来てから運命の歯車が噛み合い動き始めた気がしてならない。

加工担当の祖父は同じ職人で、鋼龍の装備を作るのが夢だった。

ハンターはかつて鋼龍を討伐したことのある猛者。このまま仲間と旅を続ければ祖父が叶えられなかった夢を自分が叶えることが出来るのでは無いか……と。ふとそんな事を考えると満点の星空を横切る流れ星が見える。

「…………幸先が良いな」

加工担当はフッと笑みを浮かべると、身を荷車の振動に身を任せ、眠りについた。

 

順調にキャラバンは進み、団長は手元の地図を見る。伝書鳥が鋭く鳴き団長の肩から飛び立った。その方向をみると大きな火山が見える。加工からは噴煙がモクモクと立っており、火山が活発なのが分かる。目的地がハッキリと見え、団長の心は溶岩のように熱くなる。東から日が昇り始めると同時に世界に明かりが満ちていく。

ナグリ村はもうすぐだ。

 

 

太陽が昇りきるころにはキャラバンは火山の麓から洞窟に入り地下へと向かっていく。

熱気に包まれた道を進むと集落が見えた。大きなクレーンや鉱石を運ぶためのトロッコがあちこちにあり、村と言うより鉄工場といった方がしっくりきそうな村だ。

村に入るとキャラバンを各地に配所したのちマイハウスへとメンバーは集合する。

 

 

「お疲れさん、我らの団ハンター!やっとナグリ村に着いたな!」

団長はハンターに笑顔で語った。

「長旅はどうだった?」

「最高。その一言に尽きます」

「ん? そうか、そりゃいい!はっは!よし、と!それじゃあ船だな!キャラバンの船作り開始といくか!」

「ええ」

「さて…どこかに村を取り仕切る村長がいるはずだ。探して、話をしよう。それにしても…。ふむ」

団長は腕を組み考え込む。この村に着てから感じていた違和感。それをハンターは言葉にした。

「静かすぎませんかね?」

そう、あまりにも静かすぎる。かれこれキャラバンが到着してクエストボードや加工場のブースを展開する際も村人には会っていない。

 

「ああ、活気のある村だと聞いていたんだが、様子がおかしいな。とりあえず、村長を探してみるか」

「ええ。そうしましょう」

キャラバンのメンバーは村の中心へと歩いて行く。

 

ナグリ村。噂によると土竜族の熱気で熱い村だと聞いていたが、その評判とは真逆の印象を覚えた。村人たちはその場に座りこんだり地べたに大の字になって寝ていたりと元気のげの字すら無い様子だった。

加工担当はその様子を見て呟いた。

「ナグリ村の皆が倒れている。……何があったんだ。」

 

 

お嬢がハンターに声を掛けた。

 

「ハンターさん、見つかりました?ナグリ村の村長さん。どこにいらっしゃるんでしょう?」

「いや、見当たらないが。それよりも村の様子がおかしいな」

「はい。それにハンターさん、ご覧になりました?

そこかしこにバタンと倒れている皆さんを。そんなに眠いのかしら?」

「眠いわけじゃ無いと思うぞ?」

料理長もハンターに言う。

「どうしたことニャルか、旦那。ナグリ村の皆が

グンニャリしてるニャル。村長もグンニャリしてるニャルか」

「グンニャリか。そうだな、病気が流行ってる訳でも無さそうだしな」

商人は呆れた顔で言った。

「ようやくのナグリ村…、楽しみにしていたんだが、皆、悪いモノでも食ったんかね?」

「食中毒?それならそれで騒いでいると思うがな」

「あんたさんも、拾い食いには注意よな。あんたさん、落ちてるもんでもなんでも口に入れそうな顔だわな」

「おいおい」

 

このままではらちがあかない。ハンターは雑貨屋を営んでいる。土竜族の男性に声を掛けた。

 

「こんにちは。やっているかい?」

「ふう…。ようこそ…。ここは雑貨屋だ…。ああ、スマン、今ちょっと、やる気ってやつが出なくてな。うん」

大地に座り込みながら顔だけ上げて話す様子にハンターは片膝就いて目線を合わせて尋ねた。

「やる気?何が不幸なことでもあったのかい?」

「ん、ああ。でもいいの。あんた、ほしいモンがあるのか?なら、ちょうどいいや。最近、品ぞろえを増やしたんだ。《LV3 通常弾》、《LV2 貫通弾》

《火炎弾》に《氷結弾》…。いろいろあるけど、もういいの。なんか買ってくれたら、それでいいの」

「あ、ああ。また買いに来るよ」

あまりの落ち込みっぷりにハンターは引いてしまう。

 

「あのー。そこで横になられてどうしたんですか?」

お嬢は道のど真ん中で大の字になってる土竜族に声を掛けた。しかしお嬢の声は聞こえてないのかブツブツと呟くばかり。

「ふう。地面が冷たくて気持ちいい。やる気も出ないし、それでいい。あーあ。採掘所のモンスター、

どっか行ってくんないかなー」

「モンスター?ッ!ハンターさん!」

お嬢はハンターの元へと駆けだした。これは病気でも食中毒でも無い。モンスターの被害にあって落ち込んでいる。

ハンター目差して走ると彼の目の前には1人の人間の娘がハンターに泣きついていた。

 

「大変!どうしよ!村の危機ーっ!お願い、ハンターさん!おとうちゃんの話を聞いてーっ!うわーーーん!」

「わかった、泣くな泣くな」

娘は袖で涙を拭うとキッと睨み付けて叫んだ。

「泣いてない!」

 

「ハンターさん!」

「お嬢。大体話しが見えてきたな」

「ええ。村長さんの元に行きましょう」

ハンターとお嬢は白い大きなヒゲを蓄えた大柄な男性の元に行く。

男性は涙をボロボロと零し泣き叫んでいた。

「ううぅ…。なんてこった…。もうだめだぁ。溶岩が止まっちまった…。鉱石も掘りに行けねぇ…。このままじゃ、オレっちみんなひからびちまう…!でも、どうにもなんねぇ…!オーイオイ、オーイオイ!オレっち《土竜族》は終わりだぁ!ここで朽ち果てるんだぁあああ!」

「失礼。あんたがナグリ村の村長さんかい?」

ハンターが声を掛けると涙を拭い返事をする。

「…ん?なんだ?アンタ、客か?いかにも…。オレっちが、ナグリ村の村長だぁ」

「そうかい。俺たちは旅をしている者でな、船を造ってもらいたくてこの村に来たんだ。」

そうハンターが話すと村長の目に光が灯る。

「ほう、船を作りてぇ、と?だがスマねぇ…!ごらんの通り、今は無理だぁ!」

「……皆さん倒れています。どうかしましたか?」

お嬢の質問に村長は答えた。

 

「火山から流れてくる溶岩突然、止まっちまった上に、採掘所に《テツカブラ》が現れて、鉱石を掘りに行けねぇんだ。オレっち土竜族は作るのダイスキだからよう。この通り、グッタリのありさまよ」

「なる程、そうだったんですね」

「オーイオイ、オーイオイ!もうだめだぁ!ムスメよ…すまねえ!ここで朽ち果てるおとうちゃんを

許してくれぃ!ムスメよ…!オレっちのカワイイ

ムスメよおおおおおぉぉぉおおお!」

大声を上げて泣き叫ぶ村長。その様子を見てお嬢は言った。

「村長さんは私が相手しますので、ハンターさんはさっきの女の子の元へ向かって下さい。それからテツカブラを討伐する準備をしましょう」

「わかった」

ハンターは男の泣き叫ぶ声を背にさっきの少女の元へと向かう。

「大変!どうしよ!村の危機ーっ!おとうちゃんとあんちゃん達が一歩も動けなくなっちゃった!あ、ハンターさん!おとうちゃんの話を聞いてくれたんでしょ!ありがとう!」

「ああ、モンスターが出て仕事が出来なくて落ち込んでいたんだな」

「そうなの、ここ最近、ず~っとこんな感じなの。ここナグリ村では、土竜族のみんなが、ず~っと昔から武具を作ってるんだけど、最近、地底洞窟の奥に《テツカブラ》が住みついちゃった!だから、採掘に行けなくなって…、素材がゼロ!お仕事ストップ!みんなグッタリ!おとうちゃんも、あんちゃん達もとたんに、これなんだもの!もうーっ! だらしないったらー!」

大の大人が揃いも揃ってダラダラしたら女の子からすればシャキッとしろよと言いたくなるのも無理は無い。

「ここで会ったがひゃくねんめ!お願い、ハンターさん!力を貸して!テツカブラを追い出して、おとうちゃんやあんちゃん達を元通り、元気にしたいの!」

「ああ、俺たちも村の技術が必要でね。俺たちの依頼をこなして欲しいから、テツカブラは俺が何とかしよう」

「うん!ありがと!このままじゃ、みんな朽ち果てちゃうよーっ!うわーん!」

涙もろいのは父親の村長譲りなのだろうか。涙を零して泣き始めた。

「おいおい泣くなって」

少女は涙を拭ってキッパリと言った。

「泣いてない!」

「そうかい」

 

とりあえずハンターと少女は2人歩いて我らの団のクエストボードへと向かう。その道すがら少女はポツリと呟いた。

 

「よかった…ハンターさん達が来てくれて。本当は、どうしたらいいかわからなくって、すっごく心細かったんだ…。テツカブラがいなくなって、鉱石を掘りに行けるようになったら、おとうちゃんも、あんちゃん達元気になると思う!」

元気な口調で話しかける姿を見て本来の性格なんだなとハンターは思った。

「ああ、俺もそう思う」

少女はハンターに顔を向けて話しかけた。

「ねえねえ、ハンターさん達は、船をつくりに来たんでしょ?ごめんね…。今はおとうちゃんも、あんちゃん達もぜんぜん動けなくって…。ううう…みじゅくものだあ…。私だけじゃ、どうにもなんないよーっ!」

「良いんだよ、それで。俺だって最初はちっぽけなガキだったんだ。大人になってハンターになっても周りに助けて貰ってばかりだからな。1人で何でもやろうとすると失敗する物さ」

「そっか、そうなんだね」

「ああ。だから気にすんな」

そうこうしているうちにお嬢の元へとたどり着いた。

 

「あ、ハンターさん。探してみましたよ。ナグリ村の皆さんのぐったり解消クエストです」

そう言って1枚のクエストをハンターに渡す。

「《テツカブラ》の狩猟、ですね。鬼蛙とも呼ばれる獰猛なモンスターで、狩猟例も少ないんですよ」

「ほう?腕が鳴るな」

「さて、行き先ですが…、まあ、《地底洞窟》」

「地底洞窟?」

聞き慣れない単語をハンターは繰り返して尋ねた。

「地底洞窟は、大自然が生んだ火山地帯のフィールドなんだ」

少女はハンターに教える。

「地上にぽっかりと口を開けた大穴…。地中深くへと伸びる洞窟…。テツカブラは、そんな地底洞窟の深くに巣食うモンスターだと聞きます」

「ふむ」

 

「とにもかくにも、ナグリ村の皆さんの元気を取り戻さないとですね。テツカブラを狩猟すれば、ナグリ村も助かる、評価も上がるの一石二ガーグァ、三ガーグァ」

「そうだな。さっさと討伐してくるか」

 

ハンターは少女に向かって言った。

「娘ッ子、お前さんは村長さんの側にいてやってくれ」

「うん!」

少女は元気に返事をすると駆けだしていった。

 

ハンターはクエスト受注のサインを書くと団長の元へと向かう。

 

「なるほど、採掘所にテツカブラか。そういうワケで、ナグリ村の皆がグッタリだったのか。こりゃ一大事だぞ、我らの団ハンター。このままじゃ、ナグリ村も船もペシャンコだ」

「ええ、俺は今すぐ討伐に向かいます」

「ああ。頼んだぞ、ハンターさん。しかし、ナグリ村のムスメっこの心配も無理はない。村人全員が、倒れるとはな。それにつけても、武具が作れなくなった途端にぶっ倒れるとは、土竜族ってのはずいぶんと仕事熱心なんだな」

「そうですねぇ」

「俺も見習うか?はっは!」

その言葉を聞いてハンターは仕事真面目な団長を思い描こうとして、辞めた。想像できない。

「今のままで十分ですよ」

団長は朗らかに笑った。

 

ハンターは装備を調えるとオトモを連れて狩りへと向かう。

武器は最古の水中遺跡で発見された文献の記述を土台にして作られた太刀のアトランティカ。ハンターの持つ水属性の太刀だ。

防具も替え、リオレウス亜種の装備。リオソウルZシリーズに身を固めた。

愛用のSソルZシリーズは加工担当に預けメンテナンスをして貰い出発する。

 

「さて、行くか」

低い声で呟くとハンターは村を出て行った。

 



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ナグリ村の危機は我らの団の危機!

ネコタクに揺られてたどり着いたのは地底洞窟のベースキャンプ。

手早く支給品を回収し、携帯食料を囓りながら狩りの前のミーティングをオトモと行う。

 

「さて、今回はテツカブラの討伐。狩猟例も少ないモンスターだ。そこで今回は討伐目的では無く、捕獲しようと思う」

「捕獲ですかニャ?」

「ああ。ギルドで生態を確認して貰いたいしな」

「わかりましたニャ」

「よし行くか」

ハンター達は立ち上がり崖っぷちへと向かう。

ベースキャンプの崖を飛び込めば地底洞窟のエリア1へと降りることになる。

体を軽く動かし、重力に身を任せ地底へと飛び込んだ。

 

ハンター達は走ってエリアを越え、地底深くと潜っていく。

何度も崖を飛び降りて着いた先は最奥地のエリア。

 

湧き水で床は濡れ、エリアの向こう側から噴煙が立ちこめている。

「ここにいるかと思ったが……」

ハンターは歩いて様子を窺う。すると岩陰からジャギィが飛び出してきた。

「お前らじゃ無いんだよなぁ」

ハンターがため息を吐きながら右手をアトランティカの柄にかけた時、右側からの地面から大きな口を開け跳びかかる巨影が現れて、ジャギィを一口に飲み込んだ。そのまま慣性に従いハンターに背を向けたままゴクリと喉をならず。

「テツカブラニャー!」

オトモが叫ぶ。ハンターはその後ろ姿を観察する。

ずんぐりした赤い巨体。確かにカエルのような形だが、可愛げは無い。

そしてハンターに振り向くと満足げにげふうとアンモニアの匂いのする吐息を吐きかけた。

「臭ぇ……」

あまりの臭さにハンターは右手で仰ぐ。消臭玉を持ってくるべきだったかとハンターは考えるが、そうも言ってられない。

太刀・アトランティカを鞘から抜き放ち正眼に構える。

テツカブラは普通ならば身も竦む咆吼をあげるが、高給耳栓のスキルが発動しているハンターには効果は無い。

その隙に大きな牙に斬りつける。高圧縮された水は刃となり傷をつける。

テツカブラは後ろ足に力を込める跳躍。ハンターを大きな牙で噛み付きにかかるが、重心移動の攻防一体の型である移動斬りでこれを対処する。

距離の離れたテツカブラの間合いを縮めようとハンターは近づくが、テツカブラは大きな下顎を地面に差し込むと、巨大な岩を掘り起こし巨大な壁にした。

岩によってテツカブラの挙動が見えない。上からか右側からか、それとも左か。ハンターは僅かに迷うが、太刀を納めテツカブラの右側に廻る。

そそり立つ岩を回避してテツカブラを見ると口元には更に岩を咥えていた。

ハンターが回り込んだと知るとテツカブラは咥えた岩を噛み砕き散弾銃のように鋭い破片をばらまく。

ハンターはいくつか脇腹に破片を喰らい吹っ飛ばされる。

「ボス!」

「ゲホッ…!大丈夫だ!」

軽く咽せながらも素早く体制を整えるハンター。

テツカブラはとぼけるように頭を傾げてハンターを見つめる。

吹き飛ばされたものの、そこまでダメージは無い。

ハンターはテツカブラの攻略を脳内でシミュレーションする。

あの大きな下顎を破壊すれば、岩を使った攻撃は弱体化するのは想像できるが、その隙をどうやって作るか。

罠を使う。乗り攻撃を与えてダウンを取る。方々は多々あるが、奴の攻撃の特徴も見極めたいところ。

そう考えるとハンターは自然と体が動いていた。

「後ろ足を攻めろ!」

ハンターはオトモに指示を出して、テツカブラの顔面に太刀を振るう。オトモは武器を後ろ足に叩き込みダメージをしっかり与えていく。

テツカブラは目の前のハンターに右前足で引っ掻き吹き飛ばそうとするが、これをハンターはオトモのいる後ろ足へと流れるように回転回避をして立ち上がりと同時に鬼刃斬りをたたみ込む。

 

大回転斬りを叩き込むと甲殻が弾け、大きな傷跡が残る。テツカブラは大きく転がり倒れると、バタバタと藻掻いてる。

「ここだッ!!」

ハンターはテツカブラの頭部に攻撃を与えて練気を限界まで溜める。アトランティカに練気を纏わせ全身の力を込めて太刀を振るう。傷口からは鮮血とともに水が噴き出して、体力を奪っていく。蒼い装備が血に染まり黒に変わっていく。

左右に太刀を振るい斬り込んだ後、大上段から叩き下ろすと大きな牙は鈍い音とともにへし折れた。

切り下がりで斬りつけつつ間合いを取るハンター。テツカブラは大きな咆吼1つ繰り出す。しかし高級耳栓の前ではただの隙にしかならない。

「フンッ」

ハンターは力強く踏み込み口腔内にアトランティカを突き刺した。

テツカブラは後ろに仰け反り怯むと地面に体をねじり混むように潜っていった。

気配がエリア9から消える。

 

「逃げたか」

血に赤く濡れた剣先を見つめハンターは右腕の力で太刀を振るう。水が迸り刀身から鮮血が流れ落ちる。それを確認してから鞘に納め、アイテムポーチから回復薬を取り出し胃へと流し込むと、追いかけるため崖をのぼりはじめた。

 

場所は変わってエリア8。広く暴れやすく、所々段差もあり、乗りも期待出来る。

テツカブラはハンターを見つけると、地面から岩を掘り出して咥えたまま跳びかかってくる。

それを難なく避けて構えるが、反転して再び飛んでくるためそれを回転回避で避ける。

すると角笛の暴力的な音色が響き渡る。それと同時に筋肉が少しばかり膨れ上がる。

オトモが吹いたのは鬼神笛。攻撃力が上がる術だ。

「ボス!!」

「ああ!」

3度目の跳びかかり。限界まで極めた集中はハンターの脳内にアドレナリンを出し、相手モンスターの動きはスローモーションのように見えていた。練気を纏ったアトランティカのしのぎでテツカブラの動きをいなして右後ろ足に鬼刃袈裟斬りをすれ違い様に斬り込んだ。

鬼刃の煌めきが迸るとハンターの後ろには右後ろ足に深い傷を負ったテツカブラが転がる。

ハンターはすかさず頭部に向かい鬼神斬りを叩き込む。

「ぜああああ!!!!」

獣の咆吼を解き放ち、大回転斬りの横一線で残る下顎の牙を切り落とした。

 

テツカブラの武器でもある下顎の牙を除いたら厄介な岩の壁や岩石砕きも脅威では無くなった。

ハンターは怒濤の猛攻を仕掛ける。オトモは回復笛や鬼神笛を吹き鳴らしハンターをサポートする。

最後は背中に乗りダウンを取ると、シビレ罠を仕掛けて麻痺したところを、麻酔玉で眠らせて戦いを終わらせた。

 

ハンターは切り落としたテツカブラの牙を拾いベースキャンプへともどった。

ベースキャンプに続く崖をひたすら登るのはハンターにモドリ玉を持ってくるべきだったと後悔させるのに十分だったりしたが、疲れた体に鞭打って何とか戻った。ベースキャンプには団長の伝書鳥がいて、ハンターは牙に『テツカブラ討伐完了』と書いて伝書鳥に持たせてナグリ村へと向かわせた。これで村人達も安心するだろう。ハンターはゆっくり片付けをしてしばらく休んでからナグリ村に戻った。

 

 

ナグリ村に戻ったハンターを出迎えたのは笑顔が輝くお嬢だった。

 

「あ、ハンターさん!テツカブラの狩猟おつかれさまでした!ナグリ村の皆さんがやっと元気になったんですよ。ああ、よかった」

お嬢の言葉通り、静寂に包まれていた村は一変して、加工の音や土竜族の威勢の良いかけ声で騒がしくなっていた。

 

「さあ、お船のことを村長さんに相談しましょう!」

「ああ!」

2人並んで歩いて行くと、村長の隣に団長もいてなにやら話し込んでいる。

 

「おお!待っていたぜハンターさん!アンタの帰りをな!」

ナグリ村の村長がハンターを見つけて手を振って話しかけた。先ほどまで大きな体を小さく丸めてベソを掻いていたとは思えない。

「よくやった、我らの団ハンター!見事だったな!」

団長もハンターを労う。

「ハンターさん、アンタがテツカブラを追い出してくれたんだってな。何と言っていいか!恩に着るぜ!」

「いえ、やれることをやったまで」

「ブハハイ!そうかい!……うん。この村では、火山から溶岩を引いて物作りをしているんだがな。最近、どういうわけか、火山からの溶岩が止まっちまってな。おまけに、テツカブラが出たおかげで素材の調達までパァときたもんで、みんな、すっかり弱っちまって」

「仕事熱心ですね。はい」

お嬢が苦笑しながら言う。

「それよりアンタら、船を作りてぇんだって?話した通り、今は溶岩がねぇからデケェもんが作れねぇ。オレっちが原因を探ってくるからよう、ちぃーと待っててくんねぇかい?」

「はい。……しかしハンターさん、意図して溶岩を引いたのにそれが止まるって何かしらのモンスターの影響があるんじゃ無いでしょうか?」

「テツカブラは倒したけどな。アイツは岩を動かしたり出来たから溶岩くらい止められそうだが……」

「うーん、気になりますね。しかし悩んでも仕方がありません。村長さんの調査結果を待ちましょう」

「だな」

 

溶岩が止まった理由。モンスターが関わって無ければ良いが。ハンターがふと考えると不意に団長の声が響いた。

「よしきた!ではその間に、船の設計でも進めよう!設計は、俺の相棒にまかせてくれ!得意も得意、お手のものだ!」

「おお、さすがは竜人さんだなぁ!恐れ入ったぜぃ!」

団長と村長。この2人は好奇心が強いところが似ている。話も熱く盛り上がっていた。

「ところで、団長さんよう、船を作ってどこに行くんだい?」

村長の質問に目を輝かせて団長は帽子の中から光り輝くアイテムを取り出した。

「よくぞ聞いてくれた!俺たちは、コイツの正体を探して旅をしているんだ」

村長はアイテムをまじまじと見つめ見惚れるように呟いた。

「おお!こいつは…すげえ!いいねえ…。フシギでキレイな”アイテム”だなあ…。なんだか、むかしひいじいちゃんから聞いた”フシギなモノ”のことを思い出すぜ…」

「んん?それは興味深い話だな」

村長の一言で団長の目がキラリと光った。

「ひいじいちゃんがまだ若かったころな、この村に、伝説の職人って呼ばれる竜人さんが来たことがあるらしいんだ。その職人さんが、キラキラ光るフシギなモノを持っていたんだとさ。なんでも、海を渡った場所に竜人さん達が住む村ってのがあってな。そこで手に入れたとか」

「ほう……?」

「ええと、なんて村だったっけな?確か…、《シナト村》だったっけな?」

「ほうほう、面白い話だな。そうだな、せっかく船を作ることだしなァ。よし、次はその村でも目指してみるか。もしかしたら、手がかりが見つかるかもしれないな」

団長は腕を組みハンターに向かって言った。

「そうと決まれば我らの団ハンター、ひとまず相棒の相談に乗ってやってくれないか?」

「相談ですか?」

「船の材料で必要なものがあるらしいんだ。お前さんを探していたぞ。お嬢、お前さんは相棒の依頼をクエスト化してくれるか」

「はい。それではハンターさん先に行って準備してますね」

「わかりました。お嬢たのむ」

団長とお嬢は先にキャラバンへと向かう。村長と二人きりになったハンターは村長に話しかける。

「村長さん何かあったら遠慮無く俺を使ってくれ」

「いやー、ホント面目ねぇ。オレっちみんな、作るの大好きだから、もうマイッタマイッタ。溶岩が止まっちまって、鉱物も掘れなくなったときたら、

目が回ってグルグルよ! ブハハイ!」

豪快に笑う姿は非常に様になっている。

「そんなわけで、今はデケェ船は作れそうにねぇんだ。オレっちが原因を探ってくるからよう、用事でも済ませてきてくれねぇかい?」

「ええ。船に必要な素材だと言っていたので何かしらのモンスターでしょうね」

ハンターの言葉に村長は頷き言った。

「あの竜人のニィちゃん、船の設計もやるそうじゃねぇか。かーっ! 竜人の知識には恐れ入るねぇ!ウチのムスメが張り切っていたぜ。設計の手伝いをするんだってな」

「へぇ、あの子が」

金髪の幼い人間の少女と体格の良い竜人族の加工担当。何だか兄妹のような組み合わせだ。

「ムスメにとっていい経験になるに違いねえ。コキ使ってやってくれぃ!」

「はい。……そう。お宅の娘さんについて貴方に伝えることがあります。」

ハンターが村長に伝えたことは我らの団がナグリ村に着たときに村の皆に元気になって貰えるよう、勇気を振り絞ってハンターに助けを求めたことだった。

 

「…え?オレっち全員が倒れている間、ムスメがあんたに助けを?」

「ええ。皆元気がなくなってこのままだとマズいと。ハンターの俺に泣きながらも独りで頑張って伝えてくれました。」

「…そうだったのかぃ。ムスメよ…よく1人で頑張った…」

「誇ってあげて下さい。彼女の勇気に。私は彼女の勇気に答えただけです」

村長の肩に手を添えて真っ直ぐ話すハンター。村長は目に涙を浮かべ叫んだ。

「ムスメよ…。ムスメよぉぉおおぉおおおおおおお!」

 

 

 

 

村長と別れたハンターは加工担当の所まで向かうと、そこには村長の娘も一緒になって何やら話し込んでいた。

「やったー!おとうちゃんもあんちゃん達も、みーんな元気になったよ!ハンターさん、ありがとう!ほんとうにありがとう!ぎゅー!」

「ああ、どう致しまして」

女の子はハンターに満面な笑みで感謝を伝えるとハンターに抱きついた。

 

「お礼にこれあげる!水光原珠っていって、《装飾品》を作るのに必要なの!」

「ああ。頂こうか。しかしこんなのよく持ってたな」

水光原株を手で持って眺めながらハンターは言った。

 

 

「私ね、母ちゃんから装飾品の作り方を昔から教えてもらっていたんだ!ハンターさん、装飾品は私にまかせて!丸ごとぜ~んぶ、ハデにデコったげる!」

「ソイツは凄いな……!頼りにするぜ」

水光原珠をポーチに受け取り加工担当と話をする。

 

「よう…テツカブラの狩猟…見事だったぞ。お前がテツカブラを狩ったとたん…ナグリ村の皆が…嬉々として採掘に出かけたんだ」

「そうですか」

「いよいよ船作りだ…楽しみだな。船の設計は…俺にまかせろ」

「ええ、お願いします」

「お前には…《ゲリョス》の狩猟を…頼みたい」

「ゲリョスですか」

「船を作るには…ゲリョスの素材が…必要だ。お嬢に…『ゲリョスを狩猟せよ!』という依頼を頼んでおいた。お前がゲリョスを狩れば…市場に素材が出回るだろう。それを商人の爺さんに買い取って貰って船の素材に使う手筈だ。……頼んだぞ」

「わかりました。そうそう、団長殿が言ってましたが、船を造ったらシナト村に向かう予定です。何でもここの村長さんの曾祖父さんがあのアイテムを見たことがあるらしく、その際シナト村の名前を聞いたそうで」

ハンターがそう言うと、加工担当は何か考えるように黙り込んだ。

「どうかしました?」

「そうか…シナト村か。実はな、シナト村は…俺のじいさんの…故郷なんだ。じいさんは故郷のことを…いっさい語りはしなかった…俺が知っているのは、村の名だけだ。なぜ語らなかったのかは分からない…きっと何か…思う所があったのだろう」

そこまで語るとフッと笑って。

「まさかこんな所で…その村の名を聞くとは…思わなかったがな」

苦笑交じりに語った。

「んで、娘ッ子は設計の手伝いか?」

「うん!色々と加工のお兄さんから教えてもらうんだー!」

「ナグリ村の小さな娘が…船の設計を…手伝ってくれているんだ。なかなか面白い娘だな…時々驚くほど…鋭いことを言う。いつかナグリ村を出て…どこまでも行くのが…夢だと言っていた。彼女の才能は俺が…保障しよう。間違いなく天才だ」

「だってさ。俺は設計とか出来ないからな、頼りにするぜ娘ッ子」

ハンターは少女の頭を優しくなでる。

「えへへっ、ハンターさん! 私も手伝う!手伝うったら手伝う!船の設計、お手伝いするんだから!だめだって言っても勝手に手伝っちゃうもんねーっ!………えーと、えへへえ。がんばるから、お手伝いさせてほしいな。うんとがんばるから」

「ああ。任せた」

 

 

ハンターはゲリョス討伐のクエストを受けるためにクエストボードの元まで向かう。

「ナグリ村の皆さん、元気になりましたね。ふーっ、いいコトしたあとは気持ちがいい」

お嬢がニコニコとクエストの書類を分別して纏めたファイルから1枚のクエスト用紙を取り出す。

 

「とにかく今は、溶岩が止まってしまった原因を

調べてもらうのみ…ですね。そうそう、加工屋さんからクエストの依頼をあずかりましたよ。お船を作るための材料集めを引き受けてほしいんですって。これです。《ゲリョスを狩猟せよ!》。あのゴム質の皮が、防水に最適なんだとか。まあすごい」

「色々と役立つ素材だからな。……ほい、しばらく休んでから行くとするよ」

ハンターはサインを書いてお嬢に渡す。それにお嬢はズタン!とスタンプを押してクエスト受注の手続きは完了。後は狩猟するだけである。

 

「それではハンターさん、ゲリョスの狩猟、開始~」

「ああ、その前に一眠りするさ」

「はい、お休みなさいハンターさん」

 

 

ハンターは四時間ほどマイハウスのベッドで眠ると装備を整えて、部屋を出る。メンテナンスを受け綺麗になったSソル・Zに身を包み、飛竜刀【椿】を背負い、料理長お手製の食事を取っていた。ナグリ村の村人達も食事しているので非常に賑わっている。

料理長も忙しそうに鍋を振るい、食材を煮込んでいる。

オトモは今回は連れて行かない。ナグリ村での手伝いを任せている。兄貴分なアイツは張り切って仕事をしている。

久しぶりのソロハントに心躍らせているそんなハンターの元にナグリ村の少女が横に座った。

「お疲れ、飯食うか?奢るぜ」

「ううん、さっき食べたからいいよ」

「そうか。どうした?」

ハンターは箸を置き、少女に体を向ける。少女はしばらく俯いたが、ハンターの目を見て尋ねた。

 

「ねえ、ハンターさん達は、船を作ってどこに行くの?」

「とりあえず海の向こう側にあるシナト村を目差す予定だ」

「え? 海の向こうに?うわあ、いいなあ…!」

「ああ。竜人族が住む村らしい。シキ国って言ってな、俺の使っている太刀の製法がそこから伝わったて言われている地方でな、俺もそこそこ興味があるし」

「私ね、この村から出たことないんだ。外に修行に行きたいって言ったら、おとうちゃんがダメだーって」

「そうか、そうだろうな。『ムスメヨォォオ』って叫ぶのが想像できるな」

ハンターは村長に出会って一日しか経ってないが、彼の性格は何となくわかっていた。

「あははっ、やっぱり?そうだよね……」

少女は少し俯きながら言った。その様子にハンターは言葉をポツリと呟いた。

「出てみたいのか?」

「えっ?」

「村。出てみたいのか?」

その答えにしばらく黙る少女。触れれば壊れるような表情でハンターに尋ねた。

「もし。……もし私がハンターさん達と一緒に行きたいと言ったら連れてってくれる?」

ジッとハンターの目を見て言う少女の答えにしばらくしてからハンターは言った。

「良いよ。来なよ。団長殿の許可が必要だと思うけど、あの人なら笑って迎えてくれるさ」

「本当?!」

「ああ、来る者拒まずが我らの団だからな。モンスターの心配なら気にすんな。俺がいる。飯の心配も無い。美味いだろ、うちの飯は」

「うん!」

「君の能力も加工屋のお兄さんのお墨付きだ。誰も文句は言わないさ、後は勇気だけだ」

「勇気?」

「村長さんに、親父さんに断って説得しな。黙って出て行くのは子供のすること。家出じゃ無いんだ、自分で決めた道は胸張って歩かないと駄目だぜ」

「……うん!ありがとうハンターさん!」

「ああ。……駄目だって村長さんに言われたらどうするんだ?」

ハンターの問いに少女は笑顔で言った。

「でもいいもんねー!おとうちゃんのばかーっ!そう言ってハンターさんについていく!」

「やれやれ」

ハンターは少女の言い分に苦笑しながらグラスの酒を煽った。

 

 

少女と別れ、ネコタクを村の外で待っていると団長が見送りに来た。

「火山から溶岩が流れてこない…か。こりゃ一大事だぞ、我らの団ハンター。村長が原因を調べてくれるらしい。あせらず、果報は飲んで待つとするか。」

「飲むって……酒?」

「ああ、酒」

2人は笑い合う。

「お前さんは、相棒の頼みでも聞いてやってくれ。確か、ゲリョスの狩猟だったか?」

「ええ、これからサクッと捕獲してきます」

「そうか、それなら気をつけてな。うちの相棒は、乗り物の設計もお手の物なんだ。長年のつき合いだが、竜人の知識と技術には、毎度驚かされる。加工屋のムスメっこも、相棒にずいぶんとなついているようだな。面白い組み合わせじゃないか。はっは!」

「ええ。兄妹のような感じで見ていて微笑ましいですね」

「ああ、しかもあの子の才能は光る物があるな。それを知ってか口数少ない相棒も珍しく話し込んでるしな」

「ええ、彼も楽しそうに話しています」

「はっは!全くだ!」

しばらく話していると、ネコタクがやってきた。ハンターは荷台に乗り込み団長に話しかける。

「行ってきます!」

「おう!行ってこい我らの団ハンター!何度も言おう!お前さんなら出来る!出来る!」

団長は去って行くハンターに向かっていつもの言葉を投げかけた。

 



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