Devil May Cry5 -Visions of V- (ユート・リアクト)
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MISSION 01

 

 

 知っているか。

 魔剣士スパーダの伝説を。

 

 

 遥か昔――スパーダは悪魔でありながら、人間のために魔界の帝王と戦った。

 魔界を封じ、人間界に留まった彼は、人間の女を妻に娶る――そうして生まれたのが。

「Son of SPARDA(スパーダの息子)」。

 半分は悪魔、半分は人間……ダンテ? まあ確かに、その名を知らない悪魔狩人(デビルハンター)はいない。

 だが、知っているか? スパーダの息子は、双子だったんだ。

 弟のダンテは人間を守るために戦ったが、兄は違った。

 人間を顧みることをせず、ただひたすらに力を求めた。

 

 

 バージル。

 それが、もう一人の半魔の名だ。

 

 

 

 

 

 

 † The Marriage of Heaven and Hell

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 愚者は、同じ木を見ても賢者と同じには見えない。

 

 

 

 

 

 

 度重なる敗北の末、バージルの肉体はついに限界を迎えようとしていた。

 ひどい気分だった。まだ悪い夢に囚われているかのようだ。

 やっとの思いで辿り着いた生家の前に立ち、バージルは数分前――もしかしたら、数時間前だったかもしれない。すでに時間の感覚は失われていた――の出来事を思い出していた。

〝――返してもらうぞ〟

 長らく行方知れずとなっていた、偉大な父より受け継がれし愛刀、閻魔刀。

 それを所持していた男は、バージルと同じ色の魂を持っていた。

 そのことを不思議には思ったが、深くは考えなかった。なにせ、閻魔刀を奪い返すために右腕ごと斬り落としたのだ。瀕死の重傷を与え、捨て置いた男について考察する余分など、今のバージルにはない。思考さえ、この身体を蝕む毒となっていた。

 もう、わかってはいるのだ。俺は助からない。強靭な半魔の肉体も、これが限界なのだと。

 

 

 死など恐れてはいない。

 だがバージルには、まだ成すべきことがあった。

 

 

 扉のない玄関をくぐり、中へと踏み入る。

 もう何十年も前に追いやられ、崩れかけた我が家。

 懐かしいとは思わない。忌まわしい、すべての始まりとなった場所が、ここだ。 

 見上げると、一枚の肖像画が壁にかけられている。

 写っているのは、在りし日の父と母、幼い頃の自分、そして――

「ダンテ……」

 

 

 死など恐れてはいない。

 だがバージルには、まだ成すべきことがあった。

 

 

 左手の閻魔刀を鞘から抜き放ち、逆手に持ち構える。

 鋭利な切っ先が、ゆっくりと突き立てられた。バージルの手によって。バージルの胸へと。

〝捨てなくては〟

「この重い鎖を断ち切れ……」

〝捨てなくては〟 

〝俺を敗北者と縛める、隷属の記憶を。悪夢を!〟

「俺を戒めるこの鎖を……!」

〝捨てなくては〟

〝今にも滅びゆく人の肉も、俺を弱者と縛める人の心も、不要!〟

 そうして背中へと突き抜けた閻魔刀は、バージルの中の人と魔を切り離し――

〝俺は、弟に負けっぱなしで死ぬ程度の男では、断じてない―――!〟

 

 

 ――「それ」はバージルが純粋な悪魔となるために捨てた、滅びゆくだけの搾りカスだった。

 ――「それ」は生まれたことで役目を終え、あとは死を待つばかりのはずだった。

「なんて、貧弱な身体だ……」

 枯れ木のように痩せ細った自分の腕と、変身し、膨大な怪物と化しつつある「自分」の姿を見上げ、「それ」の身体は震えていた。

 その感情を、最後に覚えたのはいったいどれだけ昔のことだっただろう。

 

 

 なあ「俺」。忘れていたんだろう。

 無力であるということが、どんなに恐ろしいかを。

 

 

 

 

 

 

 † The voice of the Devil

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 力のみが生命であり、肉体から生ずる。理性は力の限界、あるいは埒である。

 

 

 

 



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