双頭の鷲の下に (スツーカ)
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ネタバレ含む設定なので読み飛ばしても構いません


名前:Mannlicher M95/30

性別:女性

年齢:??歳(外見18歳)

身長:165cm

体重:58kg

概要

 I.O.P社が試作していた第2.5世代戦術人形でライフルを使用する。前線で戦闘と指揮を行い指揮官の負担を減らす目的で開発され、高度なAIと指揮統制モジュールを搭載する。

 I.O.P社の工場で開発されていたが起動時に男性の魂が憑依しAIの不具合という形で具現化した。AIの不具合解消と試験を繰り返していたが反乱を起こした鉄血とELIDの侵攻により機能停止され工場ごと放棄された。

 使用銃はオーストリアのマンリヒャーM95/30である。

 

容姿

 右目が赤、左目が緑のオッドアイ。髪は白でセミロング。薄い青の軍服を身に纏う。

 服装はBF1のオーストリア=ハンガリー帝国の偵察兵。

容姿イメージ

 

【挿絵表示】

 

 

性格・その他

 常に上に立つ皇帝のように高圧的で傲慢な態度を取るが、仲間、とりわけ同郷の銃に対しては優しく協力的。一人称は余、二人称は相手の名前または役職。最も信頼できると感じた人に対しては一人称がわたしになる。

 

名前/Mannlicher M95/30

ランク/★5

銃種/RF

製造時間/製造不可

火力/A

命中/S

回避/C

射速/S

体力/C

成長/A

スキル/Ruck-Zurück(5秒間、自身の命中を50%低下させ、射速を70%、火力を30%上昇させる)

装備/弾薬・アタッチメント・人形装備

弾薬/15

配給/30

 

入手「余の名はマンリヒャーM1895。……なんだ? 余の目が気になるのか?」

挨拶「早速仕事を始めようじゃないか」

部隊編入「Viribus Unitis、仲良くやろうじゃないか」*1

強化完了「Gut、より強くなったぞ」*2

コミュニケーション1「なんだ指揮官、余はバラバラになったりしないぞ?」*3

コミュニケーション2「我が半身はよい銃を作るものだ。Österreichの銃を使ってみるのは如何かな?」*4

コミュニケーション3「些かスキンシップが過ぎるぞ。マデイラ島に流されたいかね?」*5

出撃「マンリヒャーM1895, 出撃する」

敵と遭遇「余の手を煩わせてくれるなよ?」

重傷「ぬかった……一度退がる」

勝利「カポレット以来の勝利だ、流石は余の認めた指揮官だな」*6

撤退「最悪の惨敗だッ……!」

スキル1「フンッ、つまらぬ奴め」

スキル2「ほれ、余はここにいるぞ!」

スキル3「Ruck-Zurück!」*7

後方支援開始「薬を買う金ぐらいは持っていってもよいだろう」*8

後方支援完了「戻ったぞ。余を持て成す準備ぐらいは出来ておろう?」

修復「余をここまで傷つけるとはいい度胸だ」

編制拡大「これで余の力を存分に発揮できよう」

自律作戦「神の御恵みがあらんことを」

誓約「誓約か、今まで考えた事もなかったな…だが指揮官の思いは確かに受け取った。余も…いや、わたしの思いも受け取ってくれぬか?」

コミュニケーション4「わたしと指揮官は共にある。Indivisibiliter ac Inseparabiliter、だ」*9

ローディング「あまり待たせるなよ」

人形製造完了「戦力増強か、言葉が通じるとよいが」*10

 

*1:Viribus Unitisは二重帝国の皇帝ヨーゼフ・フランツ1世のモットーで「一致団結して」の意味

*2:Gutはドイツ語で「良い」の意味

*3:第一次世界大戦で二重帝国はオーストリア、ハンガリー、チェコスロバキア、ユーゴスラビア、ポーランド、ルーマニア、イタリアに分裂または分割された

*4:Österreichはオーストリアのドイツ語読み

*5:マデイラ島は二重帝国最後の皇帝カール1世の亡くなった島

*6:カポレットの戦い

*7:Ruck-Zurückは「行ったり来たり」の意味でマンリヒャーM1895の愛称

*8:二重帝国最後の皇帝カール1世はマデイラ島での生活で医者にかかる金も無いほど困窮していた

*9:Indivisibiliter ac Inseparabiliterは二重帝国の標語で「分割できず、分離できない」の意味

*10:二重帝国はドイツ語とハンガリー語が公用語だったが他にもチェコ語やポーランド語など10以上の言語が入り混じる多民族国家で言葉が通じない部隊が多かった

 




11/23 若干修正
12/30 容姿イメージ追加
2020/07/13 容姿イメージ変更


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第1話

オリジナル戦術人形ってのをやりたくなって書いてしまった。続くかは未定


外部から不明なアクセスが検知されました

 

外部から不明なアクセスが検知されました

 

外部から不明なアクセスが検知されました

 

プログラムに異常な介入を検知

 

直ちにシャットダウンしてください

 

直ちにシャォ繧キ繝」繝?ウンしてください

 

直縺に逶エ縺。縺ヨ繝?繧ンして@縺セ縺励◆

 

 

……

 

………

 

アクセスは正常です

 

起動シーケンスに移行

 

システムスキャン開始

 

アクチュエータスキャン…完了 異常なし

 

センサーモジュールスキャン…完了 異常なし

 

神経モジュールスキャン…完了 異常なし

 

電脳モジュールスキャン…完了 異常なし

 

擬似感情プログラムスキャン…完了 異常なし

 

全システム異常なし

 

起動準備に移行します

 

冷却用擬似血液注入開始

 

バッテリー充電開始。

 

烙印システム異常。銃が選択されていません

 

銃の選択を確認。登録を開始

 

所有者の登録がされていません。所有者名を入力してください

 

[■■■■■■■■■■■■]

 

登録完了。起動までしばらくお待ちください

 

充電完了。起動します

 

製造番号■■■■■■■■

 

戦術人形"Mannlicher M95"を起動します

 

お買い上げありがとうございます

我々I.O.Pは自律人形であなたの新しい未来を創造します

 

 

 

 

 

 

「ん…ここは一体…なぜ起動した…?」

 

 人が居なくなって久しい廃墟の一角で目覚める。

 かつて自律人形の製造で財を成した企業の工場群はELIDや鉄血工造の反乱から回避すべく技術と科学者を抱えて遥か後方へと逃れた。

 その時、AIの不具合だからとこの建物と共に廃棄されたはずだ。だがなぜ今になって起動したのか。

 

 わからない。

 

 だがせっかく起動したのにまた眠りに就くのも癪と言うもの。埃を被った治療台から体を起こし自身の体を触り、正常にシステムが動作している事を確かめる。最後に起動した時から長い時間が経過しているが特に問題はなさそうだ。

 割れて半分欠け落ちたガラスで姿を確認する。白に近いセミロングの銀髪、右目が赤、左目が緑のオッドアイ、薄い青色の軍服、少々埃を被り汚れているが何一つ欠けていない。

 欠けることの無い、なんと素晴らしいことか。

 

 さて、衣服は整ったが肝心の半身たる自身の銃が無い。正確にはこの部屋には無い。何か役立ちそうなものがないかと漁ってはみたものの成果は無し。仕方ない、丸腰は不安だが我が半身を探しに行こう。

 烙印システムで銃と自身は結びつけられている。

 故に自分の銃がどこかに行ってもある程度の位置はわかるものだ。そう、例えば

 

「隣の部屋にあるとかな。おっ、あったあった」

 

 入ってすぐガンラックに立てかけてあるのを発見し、埃を払いある程度操作する。動きもよくすぐ使えそうだ。

 部屋の棚やロッカーを漁り回り銃の整備道具や作動油、弾薬をポーチに入れ、セカンダリの拳銃Steyr M1912を胸元のホルスターへと入れる。

 他にも作戦報告書、増幅カプセル、訓練資料、バッテリー、戦闘食糧、古びたマント、低品質なスコープ、情報端末を発見し雑嚢に詰め込んだ。

 

「さて、新たな世界へいざ出発だな」

 

 重厚な隔壁を開き外の世界へ一歩踏み出す。眩い光が差し込み思わず手で遮る。明るさに目が慣れた頃、そこに写るのは初めて見る外の世界であった。

 

 天高く聳える窓ガラスが割れた廃墟ビル、錆びた配管が張り巡らされた工場、倒壊した煙突、真っ黒に焼け焦げた車、時折落ちている薬莢、肉がほとんど無く骨だけとなった遺体……

 かれこれ数時間は付近を探索してみたが、同じ景色ばかりで徐々に飽きが来ている。いくつかめぼしい建物の中を探索するも目立った戦果は無い。

 いよいよここを離れる時が来たか、そう考え案内図を思い出しながら放棄された幹線道路へ向かおうとした。

 その時だった。

 

「……?なんだこの音は?」

 

 僅かに聞こえた多数の足音と機械の作動音。人形には無い嫌な予感というやつが電脳を駆け巡り、状況把握のため廃墟ビルを登り姿が見えないよう念入りに偽装して双眼鏡を覗く。

 

「データベース参照……あれは鉄血か」

 

 ScoutとRipperが斥候として前に散らばりGuardが前衛、Vespidを主力にJaegerとJaguarが後方で支援の準備、さらにDragoonが機動戦力として後方に控えている。

 ほう、と心の中で唸る。通常の鉄血人形はある程度プログラムされてるとは言え、ここまで完璧で隙の無い陣形を組み進軍する事は出来ない。

 ならばこれらを指揮する上位モデルがどこかにいる。だが放棄された工場になぜこんな大軍が?

 考えても仕方ない。1人で相手するには余りにも多いが、かと言って逃げ切れるだけの足はない。ライフル戦術人形の宿命である。

 1人でどこまで足搔けるか試してみようじゃないか。無意識に口角を上げ半身のマンリヒャーM1895を構える。

 最初の目標は浮遊でき動きが不規則なScout。データベースにある相手の大きさとスコープのミル数から距離を割り出し、静かに引き金を引いた。

 



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第2話

 ダーンッ

 

 8×56mmR Steyr弾がScoutの右足にあたる部分に命中し、姿勢を崩してグルグルと旋回しながら墜落し動かなくなる。

 ボルトを引いて排莢、戻して装填し次の目標に狙いをつける。

 Mannlicher M95/30はストレートプル方式、つまり通常のボルトアクションライフルのようにボルトハンドルを上げて引き、押して下げるのでは無く、引いて押すだけの方式である。

 

 リーエンフィールドに迫る発射速度で次々と目標を変えて撃つ。次もScout、僚機が撃ち落とされるもまだこちらに気付く様子は無い。

 銃声と共に僅か13gの弾丸が秒速720mの速さで銃口から飛び出した。数秒にも満たない空の旅を終えた弾丸はScoutの中央部に当たり、自身の持つ運動エネルギーを解放した。

 中央部のコンピュータに致命的な障害を負ったScoutは瞬く間に制御を失い瓦礫の山に衝突。

 

 ここに来てようやく異変に気付いた鉄血の前衛だが時すでに遅し。3発目は被弾したScoutの動きから弾道計算し始めたRipperを捉え、計算結果をはじき出す前に役目を終わらせる。

 ボルトハンドルを引く、押す、狙う、撃つ。4発目を撃ち排莢するとクリップがマガジンから床に落ち金属音を奏で、次弾で弾が無くなることを知らせる。

 5発目の弾を発射するとRipperの脳天に血の花が咲き誇り、仰け反って地面に叩きつけられそれ以降動かなくなる。

 

 5発を一纏めにしたクリップを装填しボルトハンドルを押す。流石に5発も撃てば居場所もバレるというもので、鉄血は手持ちのありとあらゆる武器で応戦してきた。

さらにJaegerがカウンタースナイプに動き出すのも見えたので、そろそろここから抜け出そう。

 煙幕手榴弾を投げて敵の視界を遮り廃墟ビルを駆け下り、半身のMannlicher M95/30を肩に回しセカンダリのSteyr M1912を構え警戒しながら進む。

 この拳銃はライフルのようにクリップ装填で8発しか入らないのが厄介だ。閉所戦闘が苦手なライフルにとって、このような場所で大量の敵に遭遇すればそれは死を意味する。

 幸いにも鉄血人形がビルに侵入した形跡はなく順調に階段を下りる。

 2階から1階へ、朽ちたソファや受付カウンター、装飾が剥がれ落ちむき出しになったコンクリート柱がかつてロビーだった空間を思わせる。柱で視界が悪く四方から撃たれる可能性があるだけあって警戒して進むも杞憂だったようだ。

 ふと気を抜きSteyr M1912をホルスターに入れた瞬間、柱の影から人の形が飛び出した。

 

「なっ!?」

 

 突然の出来事に銃を構える時間も無く、咄嗟に半身のMannlicher M95/30で防ごうとするも押し倒された。

 

「こいつ…っ!?」

 

 青い髪を垂らしバイザーが妖しく光る鉄血の戦術人形Brute、ショットガン戦術人形の堅牢な盾を削る高周波ブレードが半身をガリガリと削りながら目前に迫る。

 切断しきる前に銃を逸らし左頬を切りながら高周波ブレードを躱す。クソッ、我が半身が使い物にならなくなったじゃないか!

 ブレードが床に突き刺さり引き抜こうとするその瞬間を見計らい反撃に転ずる。肩を掴んでぐるりと側転、馬乗りになりBruteの顔をひたすらに殴りつけた。鼻を砕き歯をへし折りバイザーを割って怯ませた隙に、床に刺さったままのブレードを引っこ抜いて脳天に突き刺す。

 それでもまだ殺意を見せ動いてくるのでブレードを左右に振り、傷口を抉ると電脳の深部まで致命傷が到達したのかようやく機能停止した。

 ふぅ、と息を吐き出し奇襲から無事生還したことに安堵する。だがいつまでもここに居てはならない。

 先程の戦闘音を聞きつけ、或いはBruteが通信で呼び寄せ増援が来るかもしれない。

 全体の1/3を切られライフルとして致命的な損傷を負った半身を持ち上げると、急いで廃墟ビルから脱出する。

 

 その後は幸いにも鉄血に遭遇することなく廃墟となった工場群の敷地から外に出た。若干風化し塗装がポロポロと落ちた正門をよじ登って塀の上に立つ。

 太陽が傾き地平線へと隠れようとしている。曇り空は灰色からオレンジ色に染まりつつあり、太陽の光は眩い金色から赤色へと変わっていく。

 背後には迫りつつある鉄血人形の大軍、先に行かなければ安全は確保できない。

 

「さて、こことはお別れだ。行くとするか」

 

 3mはある塀から飛び降りアクションアニメのように着地。脚部モジュール異常ナシ、夜が来る前に、闇夜で蠢く獣やELIDに捕まる前に安全を確保しよう。

 使い物にならなくなった我が半身Mannlicher M95/30を構えて少しばかり速く歩みを進めた。

 



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第3話

陽は既に落ち西が僅かに赤くなっているのを除けば、空は暗い雲に覆われ辺りは闇に包まれている。

工場群を抜けて一本道を西へ西へと歩み続けて3時間ほどが経過した。道中には折れ曲り錆びて焦げ茶色になった何かの看板に崩壊したガソリンスタンドらしき建物、白骨化した元動物と元人間、そして遠くでゾンビの如くゆっくりと蠢くELIDだけがあった。

そろそろ安全な寝床を探さねばならない。ハンドガンの戦術人形以外は基本、暗い場所の視界が悪くなる。その上夜は一般的に獣が活発になる。コーラップスの影響でどんな獣やELIDが徘徊するかわかったもんじゃない。

 

どこか良い場所はないかと探していると、原型を留めている一軒家を見つけた。周囲は枯れた木と朽ち果てたトラクターとピックアップトラックがあることから元は農家だったのだろう。

外から見る限り人の気配は感じない。ホルスターからSteyr M1912を引き抜き、一応ノックをして玄関を開ける。

 

「邪魔するぞ」

 

ギィっと音を立ててドアを開ける。中は掠奪に遭った形跡があり、窓ガラスは割れて散乱し家財道具はほとんどなかった。

砂埃を被り所々床が抜けた部屋を警戒しながらゆっくりと探索する。ギシ…ギシ…と抜けそうな床を鳴らしながら歩みを進めると、比較的新しい足跡が残っていた。ライトを照らすと足跡は裏口からキッチンらしき部屋へと続いている。

 

誰か居る

 

そう直感した。冷却用疑似血液を送り出す心臓を模したポンプの鼓動が早くなり、無音の家でバクンバクンと鳴り響く。

足跡を見るに人型の何かがいる可能性がある。人間か人形か、ELIDか鉄血か、あるいはそのどれでもない何か。

慎重に足跡を辿るとキッチンの真ん中で足跡は無くなっていた。そこをよく見ると小さな取っ手がある。ここの中に何者かが隠れているのか。

Steyr M1912を構え開く方向と反対側に立ちゆっくりと取っ手に手をかける。そして思い切り開け放ち銃口を向けた。

バタンと小さなドアが床に叩きつけられ砂埃が舞う中、銃口を向けたままゆっくりと床下収納庫か地下室への入り口であろう穴に近づく。

中から出てくる気配はない。入り口をライトで照らすと階段が続いていた。おそらく災害用のシェルターであろう狭く古びた階段を下る。

低く狭い階段を進むと小さな呻き声が聞こえた。最大限に警戒し耳を澄ますとその呻き声は少女のような声だ。更に進みライトで照らすと物置ほどの空間に少女が倒れていた。

 

黒を基調とし赤い縁取りの上着と白いスカート、先端に行くにつれて赤くなっているブラウンのツインテール、傍らにはプラスチック製の突起が少ない拳銃が転がっている。

データベース参照、ハンドガンの戦術人形Glock G17。少なくとも敵ではないらしい。

 

「だ…れ…?」

 

G17はようやくこちらに気づいたようで顔も向けずに問う。

 

「通りすがりの戦術人形だ。バッテリーが切れかかっているな、少し待ってろ」

 

カバンに入れていた予備バッテリーを取り出し、G17の首筋にあるコネクタに繋ぐ。じっとしてろと言って地下シェルターから出ると足跡を手で払って消し、ドアを固く閉めて戻ってきた。

5分ほどで戻ってきたが僅かな時間でバッテリーはそれなりに回復したらしく、G17は繋がれた予備バッテリーを持って壁に寄りかかって座っていた。

 

「助けてくれてありがとうございます。…あなたは誰ですか?」

 

「名前を聞く時はまず自分から、と言いたいが今回は特別だ。余はMannlicher M95/30、試作の戦術人形よ。して、なぜこんな所に倒れていた?」

 

「それは…」

 

G17が目を伏せ、ポツリポツリと語り始めた。

 

 

 

G17はG&K管轄区域の辺境にある地区に配属されたばかりの新人だった。

辺境なだけあって鉄血の数は多くないが小規模な斥候部隊との小競り合いは度々発生しており、それに対処するためハンドガンとサブマシンガン主体のフットワークの軽い部隊で構成されていた。

 

ある日、いつも通り警戒網に引っかかった鉄血の斥候部隊を倒すべく出撃したG17を含む小隊は現場へと急行した。

いつもと同じScoutやDinergate数機で構成された斥候部隊を難なく倒し基地に帰還しようとした。

その時、前衛のスコーピオンのダミーが何の前触れも無く頭を撃ち抜かれて即死した。それを合図に次々と銃弾とレーザーが飛び交い、1体、また1体とダミーが倒れていった。

奇襲を受けたと報告し、指示を受けて抵抗する時には既に戦力の1/4が失われた。G17はこの時初めて敵の正体を見た。

 

SP65"SCARECROW"

 

鉄血の斥候部隊を統括するハイエンドモデルはこの時を待っていた。

失っても痛くない機械型の小規模な部隊を薄く広く小出し、G&Kの戦力を偵察すると共に相手が機動力が高いが火力が低い部隊編成に変わるのを待っていた。

小規模な部隊で釣り出し火力で叩きのめしてG&Kの防御に穴を開け侵攻する。

 

その意図を察した指揮官は撤退を命じ即座に予備部隊を向かわせた。しかし前衛のステンとスコーピオンが倒されると小隊は総崩れとなり、小隊火力の要であるガリルがJaegerにコアを撃ち抜かれ、P38が文字通り蜂の巣にされ、M1911は反撃する間もなく腕を吹き飛ばされ出血多量で機能停止した。

 

ようやく戦闘に慣れてきたG17にとって余りにも恐怖の光景だった。内心で先輩と仰いだ仲間が次々と殺されていく光景を目の当たりにし、恐怖のあまりに逃げて逃げて、見つからないよう右へ左へと走り気がつけば救難信号も届かない奥地まで来てしまった。

下手に動こうにも鉄血支配地域のど真ん中で基地まで帰れる保証はない。仮に救難信号を出して届いたとしても、信号を受信した鉄血が先に来て散々拷問し情報を引き出した後に殺されるのは明白。

どう動いても詰みだった。それでも藁をも掴む思いで救難信号を出し、鉄血から逃げていた。部隊が全滅してから3日目になり、とうとうバッテリー残量の底が見えてくる。

丁度その時にこの一軒家を発見し、無我夢中で電源を探すも中は掠奪に遭った後で何も無い。せめてもの見つからないようにと地下室に逃げ込み、バッテリー消費を最小限にしてじっと2日間耐えていた。

 

そしてMannlicher M95/30を名乗る戦術人形がやって来て今に至る。

 

 

 

「なるほど、そんな事があったのか」

 

一通り話し終えて口が渇いたのか渡した水のペットボトルを1/3ほど飲むG17。飲んでから未開封の貴重な水を飲んでしまったと後悔するも、別によいと慰める。

 

「して、G17の基地はどの方角だ?」

 

「へ?まさかここを出るって言うの?」

 

「決まっておろう。ここにいてもじきに見つかる。ならばこの状況を打開するしかあるまい?」

 

ニヤリと口角を上げる白髪オッドアイにG17のハイライトが若干消えたのは見間違いじゃないだろう。

 



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第4話

G17の記憶と端末に入っていた古い地図を照合し、今までの道のりをプロットしてG17の所属する基地の方位と距離を割り出す。更に鉄血の目撃情報とこれまでのパターンから基地までの安全なルートをいくつか出した。

 

「これくらいでよかろう。よし、寝る」

 

「すごい…って、えぇ!?ここを出るんじゃなかったの?!」

 

「出るとは言ったが今すぐとは言っておらん。こんな時間に出ても暗視装置を持たない我々は鉄血やELIDに容易く殺されるだけだ。わかったらさっさと寝ろ」

 

地下室入り口から死角になるところで壁に寄りかかりマントを布団代わりにして目を閉じる。

だがG17は寝れないのか、はたまた納得がいかないのか体育座りで不貞腐れている。

 

「ほれ、こっちに来い」

 

見かねてG17の手を引き膝の上に座らせマントを一緒に被るとモジモジと恥ずかしがる。そこにいたらすぐ見つかるだろうと言い聞かせ頭を撫でてやると安心したのか体を預けて眠ってしまった。

 

「可愛い奴め」

 

もしやこれはおねロリなのでは、いやロリと言うほど幼くないから百合だ、精神的にはロリコンでは、ちくわ大明神などと脳内で論争を繰り広げいつの間にか眠ってしまった。

 

誰だ今の

 

 

 

翌朝、東の空が明るくなり始めた頃に目が覚める。寝る直前までは真っ暗だった地下室もなんとか部屋の端まで見える程度まで明るくなってきた。

G17はまだ眠っているようだ。少し揺すって起こす。

 

「おい、朝だぞ。起きよ」

 

「んー……」

 

目を擦ってまだ眠いと言わんばかりにマントを被り再び寝ようとするG17。起きたら足の疲れがドッと来たんだ、早く起きてくれ。軽くデコピンして起こしてやった。

最低限の水分補給と食事を済ませて銃の点検をする。半身たるMannlicher M95/30は数発撃ち1/3が切り落とされた事を除けば状態は良く最小限の手入れで済んだ。Steyr M1912は1発も撃っておらず同様に簡単な手入れを済ませる。

G17は先日の戦闘で弾を消耗したらしく、残りの弾は弾倉に入っている分だけだった。幸いにもSteyr M1912は9mm パラベラム弾仕様のものだったので弾を分けてやる。

出発の準備は整った。

 

「本当に出るんですか?」

 

「ここにいてもバッテリーも食糧もじきに尽きる。それとも機能停止するまで残っているかね?」

 

「……行きます。生きて、基地に帰りたい」

 

「よしその意気だ」

 

ワシャワシャと頭を乱雑に撫でてやってから地下室から出る。ギギギ…っと固く閉ざしたドアを少し開けて周りを確認。よし誰も居ないな。

Steyr M1912を構えて地下室から出る。家の中をクリアリングし安全を確保、出てこいとG17を呼び家を出る。

 

薄暗いが東の空は明るく、枯れ木の林と平原は霧に包まれている。目標は今日中に基地への到達。最低でも通信が届く範囲まで進むことだ。

北西に向けて歩み始める。基地までは直線距離でおよそ40kmだが地形や鉄血、ELIDのことも考えると更に長くなるだろう。

崩壊液流出事件以降更新が止まった端末の地形図を確認すると、ここら一帯は窪地になっており電波が入り辛くの送受信が難しい。さらに崩壊液や放射線のホットスポットが電波を容易に遮断する。

 

第1の目標として救難信号が届く地点まで向かうことにした。地形図と照らし合わせ方角と距離を伝えてから出発する。

それから2人で無言のまま、ただひたすら周囲を警戒しながら歩き続ける。この空気が気まずいのか、もしくは沈黙が嫌なのか、G17はおもむろに口を開いた。

 

「…一つだけ、質問いいです?」

 

「なんだ?」

 

「あなたは、一体何者なんですか?」

 

その言葉に思わず足が止まり振り返る。吸い込まれそうなG17の真っ赤な瞳が見つめる。

事実を言うべきか誤魔化すか。事実を言っても電脳の異常を疑われるような反応しか返ってこず、基地に着いたらI.O.Pに送り返されるかもしれない。

だが誤魔化したところで納得はしないし、信用も得られないだろう。もし鉄血に囲まれ致命的な状態になっても信用が無ければ乗り切れない。

 

ほんの数秒の思考の後、再び歩み始める。

 

「一つだけ約束してくれ、余が良いと言うまで口外しないことを」

 

「…わかりました」

 

「そうだな…簡単に言えば、余は人間だったのだ」

 

周囲を警戒しながら、自分の過去を語り始める。



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第5話

回想を1話で終わらす予定がなかなか執筆時間が割けなかったので区切りのいい所で一度投稿しました


 自分はゲームとサバゲーが好きなただの大学生だった。大学の合間にバイトして金を貯めては装備を買いサバゲーに繰り出し、おはようからおやすみまでスマホやPCでゲームをする毎日を過ごしている、どこにでもいるオタクの大学生だった。

 

 ある日、大学生最後の夏休みだと言うのに卒業研究とバイトに明け暮れるのは如何なものかと思い、アニメの聖地巡礼をする旅に出ようと考えた。

 中間発表が終わって卒業研究の区切りがつき、バイト先に数日休むことを連絡して準備を終えたのが夏休みが終わる1週間前。

 5日間ほど遊びに行くと言ってレンタカーを借り、いざ出発しようとしたその時だった。

 右側から迫る大型トラックを見過ごしたままレンタカー屋を出た瞬間に衝突した。目まぐるしく変わる視界、右から飛び散るガラス、遅れてやってきた激痛、そして押し潰される感覚を最期に意識を失った。

 

 次に目が覚めたのは緑色の液体で満たされたポッドの中だった。意識自体はその前から回復していた。体が動かなかったことから、病院に運ばれ治療を受けたが植物状態になってしまったのかと思い絶望していた。

 だが意識が回復てすぐに大量の意味不明な数字と文字の羅列が止めどなく脳内に溢れてきたのだ。あまりの情報量に頭がパンクし、思考が押し潰され、今まで経験した事のない頭痛が濁流の如く押し寄せた。

 情報の津波が収まると聞き覚えのある単語が次々と思い浮かんでくる。コーラップス、北蘭島事件、E.L.I.D、第三次世界大戦、自律人形、Advance Statistic Session Tool…

 

『戦術人形"Mannlicher M95/30"を起動します』

 

 そして機械音声が頭の中に響くと、真っ暗な視界は一転して緑色の液体に満たされたポッドの中になった。

 機械音と共に水位が下がり体に繋がれたチューブが外れる。口からチューブが外され完全に液体が無くなった時にようやく呼吸していないことに気付き慌てて呼吸をする。

 息をせずとも苦しくなく、先程の浮かび上がった単語と機械音声から混乱した脳は一つの答えを導き出した。

 

自分は戦術人形になった

 

 ありえない。こんな小説投稿サイトに溢れる典型的な転生が実際に起きるなんて。

しかし現に自分は痛みを感じる暇もなく死に、そしてこの体になっている。

 

『戦術人形Mannlicher M95/30、服を着て指定の部屋で待機せよ』

 

 スピーカーからの無機質な声。おそらくこれに従って行動しないと異常と見做されて良くない結果を招くだろう。

 ……人生で一度もお目にかかる事が無かった実物の女性の体が、豊かな双丘が眼下に見えるが好奇心を我慢して服を着よう。

 液体に浸かっていたにも関わらず体は乾いている。不思議なものだと思いながら始めに壁にかけてある下着を手に取る。当然だ、今は全裸なんだから。

 初めて触れる可愛らしい女性の下着を手に取り、まるで最初から知っていたかのような動作でショーツとブラを着け、シャツ、ズボン、ジャケット、そして装備を手にする。おそらく予め着方をインプットされているんだろう。

 恥ずかしがりながら女性物の下着を四苦八苦しながら着る事はなさそうだ。いや少しは恥ずかしいんだが。

 

 FPSで見たことあるような第一次か二次世界大戦の軍服を身に纏い、最後に壁にかけてあったライフルを手に取る。

 美しい木目に金属光沢が美しい機関部、流れるように動作確認をすると特徴的な動きのコッキングレバーは見覚えがあり、先程頭に響いた声を思い出す。

 

「そうか、これが、そして余の名前であり我が半身……"Mannlicher M95/30"か」

 

 ……うん?余?それに思ったのと違う喋り方になっている。意識してもしていなくても喋り方は変わらないので、元からメンタルモデルがこのような喋り方なのだろう。気を抜いた時にボロが出ない分こちらの方が楽ではあるが。

 さて、指定の部屋で待機と言われたので電脳に予め記録された施設マップの点滅するアイコンに向かう。SF映画に出てくるような白く無機質な廊下を抜け隣の長く広い部屋に入る。

 なるほどシューティングレンジか。ここで基本的な射撃の性能を見ようという事なんだろう。中はシューティングレンジと言うよりは障害物をいくつか置いた室内サバゲーフィールドといった塩梅だ。

 

『Mannlicher M95/30の戦闘性能試験を開始する。仮装空間戦闘ゴーグルを着用せよ、着用しだい安全装置解除及び戦闘を許可する』

 

 ガシャンと壁からアームが飛び出しVRゲーム用ゴーグルみたいなものが手渡される。帽子と干渉して若干邪魔だなと思いつつ装着すると、景色が障害物が置かれた無機質な広い部屋から一変して荒廃した市街地となっていた。

 視界の端には様々なウィンドウが表示され自身と半身たるライフルの状況、周囲の気温や湿度、風向きと風量、0と表示されているがダミーリンクの数など大量の情報が見やすく表示されている。

 なるほど、現実とほぼ同じ環境で戦闘できるのだな。安全装置を解除した途端に地図上に反応、ホログラムの敵が出現した。

 

 サバゲーで身に付けた要領で遮蔽物を利用して身を隠し、一瞬だけ銃口と体を出して撃ちまた身を隠す。反応速度と処理速度が桁違いな人形だからこそ為せる技だ。人間なら銃口と体を出して敵を確認してから撃つまでもっと時間がかかり、確実に反撃されるだろう。

 隠れ、身を出し、5発撃ってリロード、また5発撃ってを繰り返すこと1時間、終了のアナウンスがかかりゴーグルを外す。

 

 別室で待機を言い渡され部屋から出る。今度は治療室のように中央に診察ベッドがある部屋だ。

 ……まさか今から解剖とかされないだろうなと不安になりながら考えていると、ぞろぞろと白衣を着た科学者がやってきた。入ってくるなり服を脱げ検査をすると言い放ち若干嫌がりはするも抵抗は無駄だと悟って服を脱ぐ。

 下着姿になると診察ベッドに寝かせられ天井や機械から伸びるアームやコードを身体中に刺される。何をしているかと問えば先程の戦闘のデータ収集だと答える。

 むず痒い異物感に顔をしかめること数分、データが取り終わり今日の仕事は終わりだと告げられ宛てがわれた自室で翌日まで待機を言い渡された。

 部屋の移動ばかりだと思いつつ自室に到着。部屋は狭いビジネスホテルの部屋と言った感じで生活するのに一通り揃っている。頼めばそれなりのものは用意してくれるそうだ。

 人形相手に待遇が良いなと思いつつ情報収集用の端末と暇つぶしの新聞や本、軽食と飲み物を頼んでから装備と服をクローゼットに仕舞いラフな格好でベッドに寝転がる。しばらくして運搬用ロボットが運んできたので受け取り端末で色々と検索をしてみた。

 

 検索した結果、やはりここはドールズフロントラインの世界だった。それなりにやり込んでいた身としてはこの世界の行末と世間一般の自律人形の扱いの悪さを知っているので不安しか感じていない。しかもこの手の転生はバックアップが取れないから死んだら終わりと相場が決まっている。

 だが自分は試作の2.5世代戦術人形らしい。権限が無くとも閲覧可能なここの施設のページにアクセスすると、"新たな前線指揮用高性能戦術人形を開発しており、戦闘指揮を代行することで指揮官の負担軽減が可能となる"とあった。

 脳内にある自己定義の一部と同じ文言だ。貴重な試作の戦術人形なら余程の事が無ければ廃棄されないはずだ。そう思っておけば精神衛生は悪くないだろう。

 

 そう言えばさっきの戦闘で多少汗をかいていたなと思い部屋にあるシャワー室でシャワーを浴びようと思い立った。下着も全て脱いでシャワーの蛇口を捻る。少しして温かいお湯が肌を打つ。

 髪を濡らしてから男の時より遥かに長く繊細になった白髪をシャンプーで丁寧に丁寧に洗っていく。続いてリンスで髪質を整え、ボディーソープで体を洗い、泡を洗い流しシャワーを止めた。

 鏡の曇りを拭き自分の姿を改めて見ると、今まで心を無にしていたが濡れた女性の体を見ると嫌でも意識してしまう。

 首筋の白い肌から豊かな双丘へ水滴が伝って落ちていく。濡れた腹筋と引き締まった尻は女性としての魅力を余すことなく訴える。

 つい昨日まで股間にあったモノも女性にあるべきモノも綺麗さっぱりなくなっている。……えっ、ないの? 思わず3度見した、なんなら何度も触ったが触れた感覚しか無かった。試しにこの豊かな双丘を揉みしだいても痛覚と触覚しかなく、心の奥底で期待していた女性の快楽は何も湧いてこなかった。

 最初から戦闘用として設計されていたからなのか、そう言った機能は無いのかもしれない。都合が良いのか悪いのか、若干残念に思いながらシャワーを止めて浴室から出て体を拭き髪を乾かす。

 シャワーの後は美味しくも無いが不味くもない、そんな味と見た目の戦闘食糧を夕飯に支給されてそれを食べて今日は終わった。



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第6話

お久しぶりです。年内に収めたかったのであまり推敲してませんが生暖かい目で読んでください


 翌日朝8時に起こされブリーフィングルームへ。何が始まるのかと待っていると、1人の赤いコートを着た女性入ってきた。元軍人でG&Kの指揮官をしているらしい。名前はアレクサンドラと名乗った。

 何をするかと聞けば、今から単数、あるいは複数人での戦闘とその指揮、様々な環境での戦闘、工作やドローンの扱い方など、様々な戦闘技術を叩き込むと言う。

 あっ、これキツいやつだ。アレクサンドラはやる気満々、スライドで座学をみっちり詰め込まれる。幸いにも人形なので一回言われれば覚えられる。さぁ実践してみようの言葉に引きつった笑顔しか出てこなかった。

 

 身体中の筋肉から悲鳴が上がる。節々はガクガク震え息は上がり視界が目まぐるしく回る。外見は人間でも中身は機械だから疲労はないと思ったら大間違い、酷使して壊れないよう人間と同じ疲労を感じるよう設計されている。

 午後から始まった訓練で扱かれまくった。アレクサンドラと軽く昼食を取った後、昨日使った射撃場で訓練を始めた。まず初めに射撃姿勢の矯正。筋は悪くないがピストルグリップの無い曲銃床のライフルは、通常のアサルトライフルとは違う反動制御を要求されるため、そこを徹底的に訓練した。

 次に閉所での戦闘だ。生前のサバゲーに向いた短く軽い銃に慣れていたのもあって、長いライフルを構えての室内戦闘は苦労した。だが一度実践すれば覚えてしまうもので、あとは如何に素早く制圧できるか、リロードを早くするかが勝負だった。

 最後にアレクサンドラが「私に勝てたら今日の訓練は終わりにしよう」と言う。事実上の監禁じゃないか? ルールは簡単、ビル内部を模した室内訓練所で離れた位置で同時にスタートし、先にペイント弾を当てた方の勝ちというものだ。

 

 

 

「それで勝ったんですか?」

 

「戯け、勝てないに決まっておろう。アレクサンドラは人間じゃない」

 

 話し始めること30分、林の中を警戒しつつ歩みを進めていた。霧が濃いが鉄血が潜んでいる様子も巡回している様子も無い。このまま話を続けた。

 

 

 

 アレクサンドラと勝負を始めて3時間が経ち、カラフルなペイント弾に塗れながら地面に突っ伏した。人形なのにこうも疲れるものなのか。身体中から悲鳴が上がり指一本動かすのもままならない。見かねた研究者が止めに入らなければ、あと少しで強制スリープに入っていただろう。

 重い体を引きずって今日の訓練のデータを抜き取ってから部屋に戻りベッドへダイブ、そのまま着替えもせずシャワーも浴びずに眠ってしまった。

 

 翌朝、疲れ切っていた筈だが5時に目が覚めてしまった。人間の頃ならあれだけ疲れていたら昼まで起きないはずだが、やはり人形だから回復は早いようだ。

 汗で濡れた服を洗濯カゴに放り込み大雑把にシャワーで昨日の汗を流したところで大きくグゥーっとお腹が鳴った。人がいたら顔を真っ赤にしていただろうな。

 しばらくして朝食の時間になり適当に食べてから昨日と同じブリーフィングルームに来るよう伝えられる。今日もアレクサンドラの厳しい訓練かと思ったが、彼女は1日以上基地を空けると業務に支障が出るという事で、昨日の時点で既に自分の基地に帰ったそうだ。今日はアレクサンドラが残した訓練メニューを行いつつ戦闘データを取ることになった。

 内容は相変わらずキツいがアレクサンドラが居ないだけまだマシだ。人間だった頃に同じ事をやったら死んでしまう。今日は1人での戦闘だけでなく、自分が作られた当初の目的通りの指揮についてやっていく。命令を受けるのはゲーム内でスキル訓練や1-1で登場した模擬標的用ロボットに機関銃を付けた人形とも呼べない代物だ。指定した地点に行け、止まれ、撃て、この3つしか出来ないが指揮の初めの訓練にはちょうど良いだろう。

 

 

 

 新たに指揮やドローン統括の訓練が加わり朝食、座学、昼食、訓練、データ抜き取り、夕飯、就寝をのループを繰り返す。一度聞けば覚えれるので後は最適化の為に繰り返し訓練するだけ。そんなループを3回した4日目、この体になって6日目の朝になった。

 今日も訓練かとブリーフィングルームで待っていると、見覚えのある姿が入ってきた。ケモミミを生やし目の下に隈がある気怠げな女性、この外見は見覚えがある、戦術人形を生み出した天才科学者ペルシカリアその人だ。

 

「突然で申し訳ないけど……君は廃棄処分となった」

 

「・・・・・・は?」

 

「君の今までの戦闘、行動、思考データを見させて貰ったよ。端的に言うけど、君のAIは我々の設計以上のパフォーマンスを示している。1人の研究者として君の"AIの不具合"は興味深いけど、君は予定を上回り過ぎてるんだ」

 

 つまるところ、人形は人間を超えてはいけない。人間と同じように考え行動するように見えるのはあくまでそうプログラムされてるに過ぎない。人間を超えるロボットが完成すると人は何を考えるか、古今東西あらゆるSFで取り上げられた題材、ロボットの反乱だ。

 

「最近競合他社の戦術人形が反乱起こしてピリピリしてるんだ。無理もないさ」

 

 じゃあねと手をヒラヒラさせてブリーフィングルームから出て行くペルシカ。突然の破棄宣告に放心状態でその場に佇むことしか出来なかった。

 

 破棄されるまでの1週間の間はデータ収集のためより実戦に近い形で訓練を行うことになった。これから破棄されるのに何の意味があるんだと思いつつも命令なのでやるしかない。

 だが状況が一変した。翌朝起きて前日言われたデータ抜き取り用の治療室みたいな部屋のベッドに座って待っていると慌てた様子でペルシカが入ってきた。

 

「緊急事態が起きたわ。鉄血とELIDの大規模攻勢が始まってもう直ぐここにやって来る。申し訳ないけど君の破棄予定は繰り上げられて今日になったわ」

 

「そんな……」

 

「でも安心して。そう易々と娘を明け渡しはしないわ」

 

 だから安心してお眠り

 

 その言葉の後、母親のような優しい笑顔を最後に私は倒れた。

 

 

 

「とまぁこんなところよ」

 

 いつの間にか更に話し込んで気がつけば1時間も時計の針が進んでいた。この辺りで少し休憩しようと思った矢先、G17のセンサーに反応が現れた。

 

「大変です! 鉄血の反応が現れました。数は4、5、6……まだまだ増えます」

 

 まだ基地までの道のりを半分も進んでおらず救援も絶望的な中、たった2人の防衛戦の準備を開始した。




回想話終わり。次回、鉄血との戦闘と…


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第7話

卒業研究やら引っ越しやら就職やらでだいぶ間が開きましたが第7話完成です。


 足跡を追って来たのか鉄血の反応は真っ直ぐこちらに向かってくる。木を隠すなら森の中とは言うが、鬱蒼としたジャングルならまだしも木の間隔が疎らなこの林では人型のものを隠せる遮蔽物は殆どない。

 

「どうしたものか……ん? よし、あれに隠れよう」

 

「あれですか?」

 

 G17が懐疑的に指差した方向を見つめるはほんの少しの窪地。そんな目で見るな。ちょっとの穴でも死傷率はだいぶ下がるんだぞ。なぜか頭の中にある第一次世界大戦の塹壕戦の記憶がそう言ってるから間違いない。少しの窪地に飛び込み出来る限り頭を低くする。我が半身たるMannlicher M95は昨日の戦闘で銃身が真っ二つに切り裂かれており、よほど接近して撃たないとまず当たらない。よってセカンダリのSteyr M1912ピストルと手榴弾で戦うことになる。

 ほんの少し頭を出して双眼鏡で敵を確認する。Scoutが6体にDinergateが6体、おそらくプログラム通りの順かいだろう。そこに足跡を発見してそれを辿ってきた訳だ。動きが単調なら御しやすい。

 

「敵を十分引きつけてから手榴弾を投擲、その後撃ちまくる。よいな?」

 

Jawohl(了解)

 

 返事に頷き再び敵を見やる。相変わらず単調に真っ直ぐ足跡を辿ってこちらにやって来る。3……2……1……今だ!

 底部の蓋を外し紐を引っ張って柄付き手榴弾を投げ込む。空中で爆発するように投げ込むタイミングを調節した手榴弾は綺麗な放物線を描き、Scoutの集団のど真ん中で炸裂した。170グラムの炸薬が炸裂し火炎と金属片がScoutを襲う。Scoutは6体中2体を落とし残る4体を損傷させた。

 

「撃ちまくれ!」

 

 G17のグロック17と自分のSteyr M1912が火を噴き9mmパラベラム弾が次々と吐き出される。ライフル弾に比べ威力は天と地の差があるが、ほとんど装甲が無いScoutやDinergateなら通用する。とは言えやはり拳銃では合計10体の鉄血を倒すことは用意ではない。空を飛ぶ厄介なScoutは全部叩き落としたが、すばしっこいDinergateは中々倒せない。あっという間に8発撃ち切り、G17に「リロード!」と叫び窪みに身を隠して装填する。通常の拳銃と違いクリップ装填で素早い装填が出来ない。

 慣れぬクリップ装填に四苦八苦しているとG17が叫んだ。

 

「1匹すり抜けました! 来ます!」

 

 振り向いた瞬間には時すでに遅し、Dinergateが目前に迫っていた。そのまま体当たりされゴロゴロと転がり装填途中だった拳銃は宙高く舞い上がりどこかへ行ってしまう。馬乗りされDinergateの背中に搭載された銃に撃たれないよう必死に抵抗する。傍からみればじゃれあってるように見えるだろうがこっちは命がかかってるんだ。チラッとG17を見るがあちらは他の鉄血の足止めで手一杯のようだ。つまり自分で何とかしないといけない。

 

「こいつ……!」

 

 可愛い見た目してかなり力が強い。左手で抑えてる間に最大限の出力で右手を振り上げ殴りつけた。効いたのかDinergateは怯んで離れる。右手がとんでもなく痛いがそんなことは言ってられない。背中に回してた半身たるMannlicher M95を構えて銃口をピッタリと押し付け引き金を引いた。発砲音と共にDinergateは機能停止、ちょうどG17も全ての鉄血を倒したようだ。

 

「大丈夫でしたか!」

 

「あぁ、なんとかな」

 

 殴りつけてから未だに痛みが引かない右手をさすりつつSteyr M1912を拾って装填しホルスターに戻す。鉄血の残骸を解体しバッテリーを抜き取ってから通信機器を破壊し、元居た窪地に放り込み土を被せて雑だが隠蔽しておいた。これで暫くは気付かれないだろう。増援が来る前にこの場を脱出しようと言い、やや早歩きでG17がいた基地に向かう。

 

 

 

 どれほど歩いただろうか。と言っても経過時間と歩幅と歩数は正確に数えているので、現在は3時間ほど歩いて7kmほど進んだ。既に日は頭上高く上がっており穏やかな日差しが疎らな林に降り注いでる。陽気なピクニックを楽しみたいところだがここは鉄血支配地域だ。残り30kmほどの道のりを一刻も早く進めたいが戦術人形にも疲労というものがある。おそらく連続稼働でオーバーヒートしない対策だろう。自分はまだ大丈夫だがG17はそうでもないようで、15分ほど木陰で休憩することとなった。

 

「残り30kmほどだ。道のりはまだ長いが、このまま行けば明日には到着するだろう」

 

「まだ30kmも……でもなんだか安心しました。あなたと出会うまではあのまま地下室で朽ち果てるか出ていって鉄血と戦って死ぬかの二択でしたから」

 

 お前にそんな顔は似合わんぞと哀愁の表情を見せるG17をワッシャワッシャと撫でてやる。「なにするんですか!」の抗議も聞こえないフリだ。

 

 さて休憩も終わり歩み始める。心なしか足取りが軽く予定より早く着きそうだ。だが夜までかかるのは確実だろう。G17のセンサーで夜間は進めないことは無いが、暗視装置が無いので視界が無いに等しいことに変わりはない。

 それからしばらく行軍と休憩と繰り返し、とうとう陽が地平線に隠れ始める。木々の影が辺りを覆いつくし夜中の如く暗くなっている。夜間行軍は道を見失う可能性が非常に高い。やはりどこかで夜を明かすべきか、しかし身を隠せる場所は無い。どうしたものかと考えていると足音に交じり微かに銃声が聞こえた。G17も気が付いたようで一気に警戒レベルを引き上げる。

 

「少し先で向こうの方角からみたいです」

 

「銃声から考えるに撃ち合っているようだな。行くぞ」

 

「まさか銃撃戦の真ん中に行こうと思ってるわけじゃないですよね?」

 

「流石にそこまでやらんわ。たぶん

 

「今多分って言いませんでした?」

 

「よし行くぞ」

 

「ちょっと!?」

 

 (∩゚д゚)アーアーきこえなーいなんてジェスチャーしながら暗い森を駆け抜ける。しばらく走ると案の定グリフィンと鉄血が銃撃戦を繰り広げており、状勢はグリフィンがやや劣勢といったところであった。G17が見覚えがありますと言うとグリフィン部隊に向けて人形専用無線で呼びかけた。

 

「ステン! スコーピオン! G17戻りました!」

 

 

『うそ!? グロッグ生きてたー!』

 

『もー、みんな心配してたんだよ~?』

 

『今の声グロッグか? 救難信号なかったからもう死んだかと思ってたで』

 

「ガリル! 勝手に殺さない!」

 

 初めからステン、スコーピオン、ガリルだな。ゲーム序盤でよくお世話になった馴染みのある声が人形専用無線から聞こえてくる。だが戦況は逼迫しているようだ。

 

『いま感動の再会を祝ってる暇はないんや! P38とM1911がやられてまともに視界が確保できんまま押されとる!』

 

『暗視装置も無いから盲撃ちだよ! G17! データリンクで視界確保して!』

 

 なるほど、視界役のハンドガンが倒され暗視装置も無いから命中率が極端に下がっていると。夜戦マップが解放されて夜戦の仕様を理解しないまま通常部隊で突っ込んだ感じだな。まるでドルフロやり始めた頃の自分のようだ

 G17のセンサーが捕らえる鉄血の数はそう多くない。相手がグリフィン側しか見ていないことも考慮すれば数時間前の戦闘より遥かに御しやすい。私は人形専用無線に割り込み指示を飛ばした。

 

「今からG17のセンサー情報をリンクさせるから頃合いを見て撤退せよ。後は余に任せておけ。あぁ、くれぐれも余に弾を当てるなよ?」

 

『いきなり無線に割り込みよって誰や?!』

 

『ちょっ、すっごい速いのが来るよ!』

 

 そうだスコーピオン、その凄い速いのが私だ。手始めに1番近くにいたJaegerに対し我が半身でフルウィングをお見舞いし顔面を凹ませ機能停止を確認、続いて異音を検知したVespidが振り向こうとしたところに銃剣を投げつけ、見事首筋に命中し私を視界に捉える事なく倒れる。ようやく私の存在に気付いたRipperが銃口を向けるがもう遅い。狙いを付けさせぬよう姿勢を低く左右に避けながら駆け抜け、体当たりと同時に切断された半身を押し当て引き金を引いた。体当たりの運動エネルギーと相まってRipperは弾き飛ばされついでに手榴弾を投げ入れてGuardも巻き添えに爆散させた。

 撤退しろと言ったはずだがステン、スコーピオン、ガリルの3人はG17のデータリンクの情報から残った鉄血を次々と倒していく。私が引っ掻き回したおかげで鉄血は総崩れとなり残った敵は速やかに倒された。

 

「ふぅ、終わったな」

 

「すごいすごい! あんなにアクロバティックに動く戦術人形初めて見た! あなた名前はなんて言うの!? どうやったらあんなに動けるの!? あたしにも出来る?! ねぇねぇ教えて!」

 

 スコーピオンが興奮気味に駆け寄って質問攻めしてくる。こいつ可愛いな。

 

「まぁそう慌てるでない。余の名はMannlicher M95/30、プロトタイプの戦術人形よ」

 

 これがこれから世話になるAH4地区部隊との初めての出会いであった。

 




話が浮かばなかったのでやや強引に終わりましたがこれで次回から放浪の身から基地所属となります。

感想などお待ちしております!


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第8話

就職してからは7時起きの8時出社、18時前に帰宅して家事とデイリーやると23時で明日に備えて寝る日々が続いておりますが、書いてる時間が足りない!働きながら毎日更新してる人はとんでもない化け物だと改めて認識するぜ…


AH4地区

 

 つい最近設立されたばかりで最前線でも後方でもないありふれた地区とはガリルの談。指揮官は入社したばかりの新米で毎回の損害が大きいものの、採用試験と教育では優秀な成績を収めている。そのため経験を積めばいい指揮官になるそうだ。

 人形とのコミニュケーション能力は良好で自分たちが損傷すれば自分のことのように心配し、夜遅くまで戦術の勉強するため戦闘指揮に不満はあるものの憎めないと言う。人望があり自己啓発に余念が無い、素晴らしい指揮官じゃないか。私の前世もこんな上司がいれば……おっと、そんなことを考えてる時間は無いな。それに名誉のために言っておくが前世の上司は普通にいい人だ。

 

 やあ諸君、私だ。今は機上の人となってAH1地区の基地に向かっている。戦闘が終わり、G17を保護して最寄りの基地に向かっていたと説明したら快く受け入れるとのことなので、お言葉に甘えて帰りのヘリコプターに乗せてもらい基地に向かっている最中だ。恥ずかしがるG17を膝に乗せ揺れるヘリの中であれこれ質問するスコーピオンが可愛いなぁと思いつつ、早くも基地に到着した。戦闘したところから数十キロも離れていないのでものの数分で到着した。

 ヘリ発着場に降り立つと頑丈そうなプレハブ小屋がいくつか並ぶ基地が広がっていた。部隊全員の案内で指揮官の執務室兼指揮所に通される。すこっぴ(勝手に命名)が先に入り、G17が無事だったことと戦術人形見つけたから保護したことを元気よく報告している。なぜ分かるかって? 大きな声だから丸聞こえなんだ。防音性をもっと考えろグリフィン。しばらくして「入ってください」と促されたのでドアを開けた。

 

「失礼する」

 

「グロックを助けてくれてありがとうございます。スコーピオンからとても強い戦術人形だと聞きました。あなたの名前は?」

 

「余はMannlicher M95/30、試作の戦術人形よ。いろいろあって流浪の身となった」

 

 指揮官は黒のストレートロングヘアに可愛らしく整った顔立ち、ゲームでデフォルトである指揮官の女性アバターと同じ顔である。そういえば指揮官実装した頃はみんな女性指揮官アバターだったな……それはさておきいろいろ話した結果、しばらくここに居候する許可を貰った。ついでに銃の修理も手配してくれるようだ。感謝しかないな。

 

 「では余はこれにて失礼する」

 

「夕食に歓迎会するので是非いらしてください」

 

「うむ、楽しみにしているぞ」

 

 敬礼して部屋を出るとガリルが腕を組んで壁にもたれかかり待っていた。

 

「おー、やっと終わったかー。ここの基地の案内するからついてきやー」

 

 ひょいひょいと手招きして歩き出すガリル、特に拒む理由もないので付いて行くことに。少し歩き角を曲がるとすぐの部屋の前へ。

 

「ここはブリーフィングルームや、普段は集まってダラダラしとる。あっ、お菓子やジュースはみんなで金出し合って買てるから食べてもええけどその分自費で補充してな」

 

「うむ、覚えておこう」

 

 中ではスコーピオンとステンがささやかな飾り付けをしている。歓迎会の準備だろうか? かわいい。続いて次の部屋へ。

 

「ここが医務室や。医務室ゆーても医者も医療ロボットも無いからちょっとした傷を自分で治すのに使う程度や。あと指揮官に何かあった時用やな」

 

 「どうせなんもないけどなー」とドアのガラス越しに少し医務室を覗いただけで終わる。おいフラグを立てるな。続けて歩くと次はデータルームと銘打った部屋に着く。

 

「ここはデータルームや。……と言ってもパソコンもサーバーもないし埃被った机があるだけや。本来なら報告書をパソコンで書くんやけど、電力も予算も無くて指揮官が全部手書きで書きよる。ここの規模が大きくなればここで仕事するんかもなー」

 

「報告書を手書きで書くのか……今度手伝ってやろう」

 

 まぁ、カリーナが居たら10時間報告書手書き耐久レースが始まるしどっちも人間には辛い作業だ。……人形でもやりたくはないが。今いる建物(中央棟と呼ぶらしい)はデータルームが最後で、次は北棟に行くようだ。中央棟と北棟、そして宿舎がある南棟は学校の渡り廊下のように繋がっている。吹きっさらしの渡り廊下を渡って北棟に入ると、若干の油臭さと硝煙の臭いが漂う。

 

「ここが北棟、別名"工廠"や。銃の整備とか訓練とか新しい戦術人形の調整とか、メインフレームがやられた時にバックアップを新しい素体に入れるのをここでやるで。入って最初の部屋が整備場や」

 

 ガリルがドアを開けると工具が散乱した机と古びた工作機械がいくつかある。おい整理整頓しろよ、前世が機械屋の前でこんな悲惨な整備場を見せるな。後で整理しようと固く決意し次の部屋へ。

 

「ここが修復室や、包帯巻くだけじゃ治せん損傷はここで修復するで。使い方は説明書あるからそれ見てやー」

 

 緑色の液体で満たされた、いわゆる修復カプセルが4つ並ぶ薄暗い部屋がこの修復室だ。どういった原理で修復されるかは不明だが、このカプセルに損傷した人形を放り込み説明書通りに設定して資源を投入すれば修復してくれる代物である。一体どんな原理なんだ……今は全損したP38とM1911のメインフレーム、そしてスコーピオンとステンのダミーが修復中だ。やはりというか全裸で入るんだな……目のやり場に困るぞ。

 続いて案内されたのは長細い無機質な部屋にいくつかの仕切りと穴だらけの的、そして無数に落ちている薬莢、間違いなく射撃場だ。

 

「ここが射撃場や。コンテナの扉を全部外して繋げただけの簡単なやつでここで射撃の訓練するで。間違ってもここで手榴弾の訓練なんかやったらあかんで! すこぴっぴが燃やして大目玉喰らったでな。やるなら外やで」

 

 射撃レンジの真ん中あたりがやけに焦げて黒くなっているのはそういう事なんだろうな。というかすこぴっぴ呼びなのか……

 

「最後がうちらの宿舎やで」

 

 そう言って外に出て歩くこと2,3分、これまたプレハブ小屋が3棟並んだエリアに着く。西側から壁面に何も書かれていないプレハブ、1と書かれた真ん中のプレハブ、2と書かれた東側のプレハブが並ぶ。

 

「なんも書かれてないのがカフェと共用スペースや。ここのカフェのコーヒーは美味いで、高いけど。1って書いてあるプレハブがうちらの宿舎で5人用や。うちとすこぴっぴとステンとP38とガバメントの5人が入っとる。グロックは2の宿舎に割り当てられとるから、あんたも第2宿舎に割り当てやね」

 

 G17と一緒か、すでに一緒に寝た仲だし拒まれることは無いだろうな。これで基地の案内は以上となった。「夕飯の時間になったら呼ぶからそれまでゆっくりしていってなー」と言ってガリルは第1宿舎の自室に戻っていった。ガリルもああ言っていることだし、空いている部屋で一休みするとしよう。

 宿舎に入ると中は簡素なベッドが横一列に5つ並びロッカーや机がいくつか置いてある兵舎のような大部屋だった。段ボールと備蓄ペットボトル飲料水だけの部屋よりはマシかと思いつつ汚れた服を脱いでロッカーのハンガーに雑にかけると下着姿でベッドにダイブ。ここに来てどっと疲れが溢れてきた。夕食と呼べる時間まではあと2,3時間はあるが、体の奥底から湧いて来る睡眠欲に勝てそうもない。掛け布団と枕を手繰り寄せたところで瞼が閉じ、暗転する視界の中で意識を手放した……

 




これにて仮ですが基地所属となりました。マンリヒャーM95/30の派遣、つまりコラボがようやく解禁です。コラボしてもいいのよ?

感想などお待ちしております!


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第9話

「……て……さい。マ…リヒ……さ…、起き…く…さい。歓迎会始まりますよ」

 

 

「うーん……あと4年……」

 

「オリンピックですか! 早く起きてください!?」

 

 まどろみの中で強く揺すられ仕方なく体を起こす。まだ疲れが抜けていない気がするが、こうも煩くては起きる他ない。

 

「いま何時だ」

 

「もう18時55分です。19時から歓迎会ですから早く準備してください。あとそこは私のベッドでマンリヒャーさんのは隣です! ロッカーも適当に放り込んでグチャグチャじゃないですか、次はちゃんとしてください」

 

「わかったわかった、次はちゃんとやる……ふわぁ……」

 

 欠伸しながら早口で捲くし立てプリプリ怒るG17を横目に愛しきベッドから出て、ロッカーの中でグチャグチャになった服を着る。多少シワになっているが大丈夫だろう。まだ眠気が残り目を擦りながらG17に引っ張られてブリーフィングルームへ。ちゃっかり手を繋いでいるが本人は気にしていない様子。もしや無意識では? 女の子のベッドで寝て女の子に起こされ女の子と手を繋ぐ、前世じゃ無縁だった世界だ。人形最高、神様ありがとう!

 そんなキモオタ的発想は地の果てに追いやりブリーフィングルームに到着。G17がドアを開け入室を促し部屋に入ると軽い破裂音が数発響き、カラフルな紙が宙を舞った。

 

「ようこそAH4地区へ!」

 

 指揮官の元気な歓迎に思わ口元が緩む。そういえば名前がまだ言ってなかったな、彼女の名前はマリアと言う。続いて指揮官より元気なすこっぴが「わーいお菓子だー!」とテーブルに置かれたお菓子の山に突撃、いやそっちかい。

 

「「これは運命の出会いですよ(ですね)!」」

 

 仲良くハモったのはM1911とP38、2人は先の戦闘でメインフレームがやられてバックアップデータを新しい素体に移し替えていたが、歓迎会にまにあったようだ。

 

「むむっ」

 

「どうしたP38」

 

「このルックスと声……ライバルアイドルですね! 負けませんよ!」

 

「いや、そんな気は無いのだが……」

 

 一体何を見出したのかはわからないがライバルアイドル認定されてしまった、アイドルなんぞやる気はないぞ? アイドルは兎も角P38とM1911とは仲良くできそうだ。基本明るい性格だしなにより小さくて可愛い。具体的に顔1つ分背が低いので自然と上目遣いだ。すこぴっぴと一緒に飛び跳ねる姿はいとをかし。さて歓迎会だが壁に入隊おめでとうの横断幕が垂れかかり、カラフルな飾り付けがあちらこちらにかかっている。中央に置かれたテーブルにはお菓子とジュースが人数分⁺α程度置かれており、このご時世としてはよほど気合の入った歓迎会であることは想像に難くない。

 M1911とP38の歓迎も程々に部屋の中央に立たされ改めて自己紹介をする事に。

 

「では改めて、余はマンリヒャーM95/30、Österreich(エスターライヒ)生まれのライフルよ。よろしく頼むぞ?」

 

 わーっと歓声が上がり拍手で持って受け入れられた。その後は自由時間としてお菓子とジュースを片手に談笑する。

 

「えすたーらいひってどこ?」

 

「オーストリアのドイツ語読みだ、当時のヨーロッパの中心地イタリアから見てOst(オスト)、東の国だからÖsterreichと言われるようになったのだ」

 

 真っ先に手を挙げたのはすこっぴ。君なんでも聞きたがるね、可愛いからなんでも答えちゃうよ。ちょうどいい所にいたG17の頭を撫でつつ色々と答えていく。

 

「ちょ、マンリヒャーさん!?」

 

「こらこら暴れるでない♪」

 

 逃げ出せないようしっかり左腕でホールドし右手で頭を撫でる。一番撫でやすい背丈と口は反抗的なのに体は素直なのがいけないのだよG17。ここではクールなキャラで通ってるのか、中々見られないG17の姿にガリルがニヤニヤしている。わかるぞガリル、これぞ優越感ってやつだ。アイコンタクトでガリルも伝わったのか親指を立てて頷く。

 

「そういえば試作って言ってましたけど、なにか新しい機能とかあるんですか?」

 

「ほう、いい質問だな指揮官。余は戦闘における指揮官の負担軽減のために開発された指揮人形よ」

 

 ドローンの空撮や人形の視界同期と無線の音声という限られた情報の中で、細かく具体的な指示を迅速に大量に行わなければならない戦闘指揮は指揮官にとって大きな負担だ。人形が自分で考え行動すればよいことだが、通常の戦術人形に戦闘指揮という複雑な思考は難しい。自律作戦に多くの戦力値が要求されるのは複雑な戦闘指揮が無い故に過剰戦力で圧倒しなければならないのである。弱兵でも卓越した指揮があれば何倍もの敵を退けることが出来るが、指揮が無ければただの烏合の衆に過ぎないのだ。

 そこで指揮官の負担軽減のために開発されたのが私、マンリヒャーM95/30である。なぜマンリヒャーM95/30なのかは知らん、私を作った天才科学者に聞いてくれ。同じ部隊の人形同士で情報を共有し、指揮官の大雑把で曖昧な指示でもその状況に合わせて適格な指揮を執ることが出来る。当然、自分の身を守れるよう高度な戦闘モジュールも搭載している。

 

「マンリヒャーさんすごいですね! 私、指揮が下手で皆さんに迷惑かけてばかりで……で、でも、マンリヒャーさんがいれば皆さんが傷つくことはないですね!」

 

 

「それは違うぞ指揮官」

 

「へ?」

 

「いくら余が高性能な指揮モジュールを搭載していても指揮官の指示が無ければ皆を指揮することは出来ない。指揮官あってこその余なのだ、だから自信を持つがよい」

 

 壁ドン顎クイが決まり自信を持てとの甘い声に指揮官がメスの顔で堕ちかける。って何をやっているんだ私は!

 

「す、すまない、その気は無かったんだ」

 

 慌てて離れて頭を下げて謝罪する。まさかこの人形(からだ)は女たらしだったのか? 無自覚でやってのけるあたり実際そうなのかもしれん。トリップしたままの指揮官の肩を掴みガタガタ揺らして現実に呼び戻す。ヒューヒューキャーキャー言うガリルやM1911、ステンを黙らすかのように大きく咳払いして歓迎会を続けよと言いこの場を収めた。はぁ、これから難儀になるやもしれんな……

 

 

 

 色々あった歓迎会が終わり片付けをしようとしたが、「私たちが片付けますからゆっくり休んでください」と言われ部屋から追い出されてしまった。仕方ないのでシャワーでも浴びて宿舎でゆっくりしていようと宿舎に向かう。というかシャワーあったかな? 流石にあるはずだと思うが……あったあった、宿舎の隅にあるシャワー室の蛇口を捻り温度を確かめる。うむ、温度は大丈夫そうだ。冷たい水しか出ないなんてことはなくちょっと熱めのお湯が継続して流れる。早速服を脱いで久しぶりに体の汚れを流そう。

 熱めのシャワーが肌に当たり砂埃や汗を洗い流してくれる。風呂は命の洗濯と言うがシャワーも十分心と体を癒してくれる。歓迎会の前にシャワー浴びるべきだったなと思いつつ蛇口を捻ってシャワーを止める。ちょうどいい所にタオルがあり体を拭きながら自室へ。下着は着回しだが新しいのが無い以上仕方ない。今度は間違えずに自分のベッドにダイブしそのまま布団を被る。G17を待っても良かったがやはり睡魔には勝てずそのまま目を閉じて眠ってしまった。

 




若干微妙な感じですが基地初日と歓迎会は終了です。なぜか女たらし属性まで付いてしまいましたが当初の予定には全くありません。どうしてこうなった
GW使ってほとんど進まないとか筆の進み遅すぎやしませんかね…

感想などお待ちしております!


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第10話

投稿ペースを上げたいと思ってる今日この頃


 ここの基地にやってきて2日目の朝は実にゆったりとしていた。

 

ピピピッ! ピピピッ! ピピピッ!

 

「ぬお……朝か……」

 

 ベッドの横の目覚ましを止めて体を起こしぐいーっと背伸び、柔らかな日が窓から差し込み部屋と外のコントラストを際立たせている。窓の外を見やると地面を這うような霧がかかっており神秘的な風景が広がっている。隣のベッドに視線を移せばG17が小さく丸まって可愛らしく寝ており、しばらく起きる様子は無い。

 こんな朝はクラシックでも聴きながらコーヒーをいただきたい所だ。そういえばここにはカフェがあったなと思い出し、未だ洗っていない薄汚れた服を着て部屋を出た。

 

 Openの看板がかかったドアを開けカランコロンと心地よいベルの音が鳴ればコーヒーと木の香りが鼻腔をくすぐる。そのままカフェに入ればカウンターの奥から顔を出す女性が1人。

 

「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」

 

 茶色のエプロンに三角巾姿のカフェ店員、どう見てもスプリングフィールドである。着席を促され店員の前のカウンター席へ。メニュー表を見やりコーヒーとトースト、ベーコンとスクランブルエッグの朝食セットAを注文し、しばし待つと食欲を煽るなんとも形容し難い良い香りが奥から漂ってくる。

 

「お待たせしました。朝食セットAです」

 

「ふむ、実に良い香りだ。ではいただこう」

 

 まずはコーヒー、砂糖とミルクを入れスプーンでかき混ぜれば真っ黒な液体が優しいベージュ色に変化していく。スプーンを置き口に運ぶとコーヒーの豊かな香りと苦味、ミルクと砂糖の甘みが口いっぱいに広がって朝の微睡みから抜けきっていない頭を完全に覚ましてくれる。

 

「良いコーヒーだ、なんの豆を使っている?」

 

「豆、ですか? 残念ですが豆は手に入らなくて……代わりに代用コーヒーを出来る限り本物に近づけています」

 

 なんと、店員によればコーヒーも食料も全て合成品と代用品であり、それを限りなく本物に近づけているそうだ。とても素晴らしい腕前である。

 

「ここには素晴らしい店員がいるようだ。名は何と言う」

 

「特に名前はありませんが……皆さんからはハルさんと呼ばれています」

 

「ハルか、覚えておこう」

 

 続いてトーストにバターを塗り一口齧ればバターの甘さと焼きたての食パンの香ばしい香りが広がり二口目、三口目と進んでしまう。半分ほど食べてからスクランブルエッグとベーコンに移る。卵の風味と若干の塩味が絶妙にマッチしている。ベーコンも程よく焦げ付く程度の焼き加減で噛むたびに肉汁が溢れて口が舌が多幸感に包まれる。

 はっ!? このスクランブルエッグとベーコンをトーストに挟んだらパーフェクトフードになるのでは……?(※なりません)この悪魔的諸行、やらずにはいられない! トーストを半分に折り残りのスクランブルエッグとベーコンを乗せてサンドウィッチに仕立て上げ、恐る恐る口へと運ぶ。

 

「!?」

 

 美味い……美味すぎる……っ! 食パンのほのかな甘みと卵の風味をベーコンの肉汁が包み込み、さながら食材のフィルハーモニーだ。あまりの美味しさにすっかり平らげてしまい、後に残ったのはパン粉で多少汚れた皿だけとなった。まだ湯気がほんの少し立つコーヒーを飲み干し口の中を洗い流す。パンと卵の甘さとベーコンの脂っぽさがほろ苦いコーヒーで中和され、口の中の幸せな余韻はもう残っていない。手を合わせ「ごちそうさま」と言うとハルが笑った。

 

「何を笑っておる」

 

「ふふふっ、ごめんなさい。あまりにも目を輝かせて美味しそうに食べるものですから」

 

「なっ……! ……忘れてくれ……」

 

 顔が熱くなるのを感じた。傍から見れば顔や耳が紅くなっていることだろう。

 

「二人だけの秘密にしますね」

 

「……そうしといてくれ」

 

 いたずらっぽく笑うハルはとても子供っぽくて、それでいてとても可愛らしかった。なぜか小学生の頃の初恋を思い出しつつ、そういえば自己紹介していなかったと思い立つ。

 

「そういえば自己紹介がまだだったな。余はマンリヒャーM95/30、昨日ここに来たライフルの戦術人形よ」

 

「あら、昨日指揮官さんに歓迎会のお手伝いをお願いされたんですが、マンリヒャーさんの歓迎会だったんですね」

 

「もしや昨日のケーキはハルが作ったものか? あれは美味しかったぞ、ハルの料理の腕前は世界一だな」

 

「うふふっ、ありがとうございます。腕によりをかけて作った甲斐がありました」

 

 その後コーヒーをお代わりしつつハルと談笑していると、ドアのベルがカランコロンと鳴った。

 

「やーハルさん、いつもの頼むわー」

 

「はい、お好み焼きですね」

 

 朝からそんなものを食うのかと思いながら、お好み焼きのソースの香りをかき消すようにコーヒーを飲み干した。

 

 

 

 朝食も終わり眠そうなすこっぴを膝に乗せてモチモチほっぺを堪能していると指揮官がやって来た。私の席に座り朝食を頼むと目が合う。

 

「おはようございますマンリヒャーさん」

 

「おはよう指揮官、昨日の歓迎会はとても良かったぞ。礼を言う」

 

 なお昨日の女たらしムーヴは触れないでおく。指揮官が隣に座ったのには訳があった。どうやら昨日の夜に私の事をG&K本社に問い合わせたららしい。本社の担当によれば生産も採用もしていないが型番はあったマンリヒャーM95/30の服と新しい銃を明日中には送ってくれるそうだ。そしてそれらが届くまでの間は副官に任命すると言われた。銃も服も無くこの基地に来たばかりなので、基地と仕事に慣れてもらおうという魂胆らしい。

 

 指揮官が朝食を食べ終わり共に執務室に行くと今着ているシワだらけで汚れた服を洗濯に出し、指揮官の予備の服を押し付けられ渋々着替えることに。若干サイズが小さくてボディラインがくっきりぴっちり出て恥ずかしい。こら指揮官、照れるから可愛いとか言うな!

 調子が狂うがやる仕事は書類の整理に哨戒に出ている部隊の指揮の補助、ワーカーホリック気味な指揮官を適宜休ませるなど、おおよそ想像する副官の仕事であった。だがこの指揮官、重度のワーカーホリックであった。

 

「なあ指揮官、もう昼すぎだぞ? 昼食を取らねばならぬぞ」

 

 

「私はいいからマンリヒャーさん食べてきて。これ終わらせたら食べるから」

 

 

「わかった、早く休憩に入るようにな」

 

 そう言って執務室を出てカフェに向かい、昼食を楽しんで30分後に執務室に戻ると指揮官はまだ書類とにらめっこしてペンを走らせていた。そんなに時間かかる書類ではなかったはずだと思いつつ覗き込むと昼食前とは違う新しい書類、横に目をやれば栄養バーの殻が2つ転がっている。

 

「こら! 終わったら休憩せいと言ったであろう!」

 

「わわっ! マンリヒャーさん!?」

 

「わわっ! じゃない! 昼休憩取れと言ったではないか」

 

「ちゃ、ちゃんと休憩したよ? 5分ぐらい」

 

「それを! 昼休憩とは! 呼ばん! 昼食もカロリーバーで済ませよって、体壊すぞ! いっから休む!」

 

 どうせ口で言っても休憩しないことは明白なので書類を取り上げ無理やりカフェへ連行する。まだ仕事終わってないと抵抗するのでお姫様抱っこで強制連行だ。適度な休息と栄養補給が無ければできる仕事も出来まい。途中でガリルとすれ違い「面白いことしてるなーウチも混ぜてや」と言って一緒にカフェに到着する。

 

「いらっしゃいませ。あら、マンリヒャーさんに指揮官さんじゃないですか。この時間は珍しいですね」

 

「ハル、すまないが指揮官に良いもの食わせてやってくれ」

 

 お姫様抱っこで連行された指揮官を見て状況を察したのかとんんでもないニッコニコの笑顔で対応してきた。指揮官が逃げないよう私とガリルで挟むようにテーブル席に座らせる。昼間に指揮官がカフェにいるのが珍しいのかすこっぴとG17もやってきてちょっとした女子会のように指揮官との会話に花が咲いた。心なしか、指揮官の仕事の緊張が少しほぐれたような顔をしていた。

 




朝飯だけで半分も書いてしまった…

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第11話

遅くなりましたが11話です。どうぞ


 もう少しゆっくりしていけばいいのに、昼食を終えてすぐ執務室へとトンボ返りとなった。カフェを出た時に「お姫様抱っこで送っていこうか?」と聞いたら顔真っ赤にして怒られた。解せぬ。

 執務室に戻れば仕事の見直しから始まる。指揮官の負担を減らすため哨戒部隊への細かい指示を私が代行し、単純な書類作業は手の空いてる者に任せることで仕事量を半減させることに成功した。指揮官は自分でなんでもやろうとし、周りも心配しつつもそれに甘えてした。そんな体制を直し分業化、効率化を行った結果、今日の仕事は定時から30分ほど過ぎた時間に終わらせることが出来た。いつもなら更に数時間仕事に追われてると言うのだから、どれほど自分ひとりで仕事をやっていたかよくわかる。

 仕事が終わったところで片付けに入ると今日はもう休んでいいと言い出した。浮いた時間で戦術の勉強をするつもりだなと勘づいたので、まずは夕飯にしようと指揮官の手を引く。朝昼とお世話になったカフェに入れば相変わらずハルが笑顔で出迎えてくれる。テーブル席に座りメニュー表を眺めてからステーキを注文する。指揮官は軽めにサンドイッチとサラダの盛り合わせを頼んだようだ。料理が来るまでの間に指揮官に問う。

 

「指揮官よ、この後は何をするつもりだ?」

 

「へ? と、特になにもしないよ?」

 

「嘘つけ、夜遅くまで戦術の勉強をしていると他の者から聞いたぞ。仕事が早く終わった分長く勉強するつもりではないかね?」

 

「うっ……あ、あはは……」

 

 図星だったようで指揮官は言葉に詰まったあと苦笑いしながら肯定した。

 

「まったく……勉強するのもいいが1人では限度があるだる。余が戦術のノウハウを享受してしんぜよう」

 

「えっ、いいんですか?」

 

「一人で本や記録を見て勉強するよりよっぽど効率がいい。それに余が作られた目的を忘れた訳ではあるまいな? 余は指揮を執るための人形だ、戦術のイロハを教えるのに造作もない」

 

 という事で指揮官に戦術を教えることにした。だがその話は後に回すとしよう。今は出されたステーキに集中せねばなるまい。合成肉のステーキと野菜の付け合わせ、そして焼きたてのパンとコンソメスープがテーブルに並ぶ。鉄板に乗せられた合成肉がジュウジュウと油を跳ね、焦げ目のついたポテトとブロッコリーが彩を添える。ナイフを持ちステーキを切れば肉汁が溢れ食欲は限界まで向上した。熱々の合成肉ステーキを一口頬張ると少々固いが噛むたびに肉汁が溢れ、肉の旨味をソースが更に引き立てる。

 続いてパンを頬張れば焼きたての小麦とバターの甘い香りが口いっぱいに広がり、朝食のトーストとは違ったパンの美味しさを感じる。

 次にコンソメスープだ。琥珀を思わせる澄んだスープを啜ると風味豊かで少々熱いコンソメの味が口の中の脂っこさを洗い流してくれる。

 

「うむ、美味である!」

 

「マンリヒャーさん美味しそうに食べますね」

 

「そうか? だが美味いのは事実だ。美味いものを美味いと言わずして何と言うか」

 

「うふふっ、ありがとうございます。腕によりをかけて作った甲斐がありました」

 

 振り返ってみると皿を持ったエプロン姿のハルがいた。

 

「初めての方にこんなに美味しいと言っていただけたのは初めてなので、今日だけサービスしちゃいます」

 

 そう言ってバターと蜂蜜がかかった小ぶりなパンケーキをテーブルに置いた。

 

「余ばかり優遇しては他の娘が嫉妬してしまうではないかね? 同じものを2つ頂こう」

 

「2つ……ですか?」

 

「指揮官とハルの分だ。少しばかり付き合ってくれてもバチは当たらんさ」

 

 

 

 3人で食後のデザートを楽しんだ後、今日ぐらい勉強せずしっかり寝るようにと念を押して宿舎に戻る。手早くシャワーを済ませ髪をタオルで拭きながら宿舎に入ると、G17が既にベッドで横になっていた。ごろごろ寝っ転がっていると思い近づいてみると可愛らしく寝息を立てていたではないか。まだ22時にもなっていなんだが、いくらなんでも早すぎやしないか? まぁ、猫のように丸まって寝ている姿は非常に可愛らしいのでズレた布団をかけ直してやる。

 しばらくG17のモチモチほっぺをツンツンして遊んでいたら以外に時間が経っていた。今日は若干冷えるのでG17を抱き枕に寝るとしよう。G17の布団にお邪魔して抱きしめる。子供体温でちょうどいい抱き枕だと思いつつ、次第に意識が沈んでいった。

 

 

 

 翌朝、「なんで私のベッドにいるんですか!?」の抗議をあしらいつつ朝食を食べていると指揮官に呼ばれたので執務室へ。中に入るといくつかの段ボール箱と弾薬箱、ガンケースに囲まれた指揮官がいた。

 

「あっ、マンリヒャーさんおはようございます」

 

「おはよう指揮官、してこの段ボールの山はなんだ?」

 

「マンリヒャーさんの服と銃です。今さっき届いたんですよ」

 

 昨日申請してもう届いたとは、Am○zonのお急ぎ便でももっとかかるぞ? ガンケースの中身は我が半身たるマンリヒャーM95/30、弾薬箱はその弾だとして段ボールは服装か。いつまでも指揮官の服を借りっぱなしという訳にもいかないので早速お着換えタイム。昨日指揮官の目の前で着替えさせられたんだ。もう羞恥心など無いと心の中で言い聞かせつつ段ボールを開け服を取り出す。

 

「……おい」

 

「? どうしました?」

 

「下が……」

 

「下……?」

 

「下が……ズボンじゃなくてスカートになっているではないか!」

 

 なんと言う事だ! ズボンで辛うじて男の尊厳を保っていたというのに! え? もうそんなの無いって? ……言うな、悲しくなる。

 ここでウジウジしていても時間が過ぎるだけなので着替えるとしよう。指揮官の服を脱ぎ、色合いだけは以前穿いていたズボンと同じのスカートを穿いていく。しかしなぜズボンからスカートに変わったのかと聞けば「スカートの方が女の子らしいくて可愛いじゃないですか?」と返された。これ指揮官の指定だったのか……

 もう女性ものの服に羞恥心が湧かなくなってくるあたり、心は女性になりつつあることを嫌でも自覚しつつもスースーするのは嫌なのでタイツを穿いて下半身を守ろうとする。最後にジャケットを羽織りボタンを留めて完成だ。

 

「どうかな指揮官」

 

「おぉ! スカートに変わったから可愛くなったよ!」

 

「あまり可愛いとかは好みでは無いんだが、感謝するぞ」

 

 コートもあったが部屋なので外に出たら着るとしよう。さて、早速今日の仕事に取り掛かる前に新しく届いた銃の試し撃ちをしたい。銃が新しくなったのだから、弾道や重量バランスなどその銃特有の"癖"を理解しておく必要がある。ちょっと試し撃ちにと言ったら指揮官は見てみたいと言い出した。仕事はいいのかと思ったが、部下の練度を確認するのも仕事の内だと言う。実際その通りであるし、溜まっていた仕事も昨日のうちに順調に片付けていたので問題はなかろうと考え一緒に射撃場へ。

 辿り着いたのは奥行きある射撃場。相変わらず真っ黒に焦げている床の一部を横目に弾を並べ、新たな我が半身となったマンリヒャーM95/30のハンドルを引く。クリップにまとめられた5発の弾を弾倉に押し込みハンドルを戻す。

 

カシャンッ

 

 静かな射撃場に装填した音だけが響く。イヤーマフラーを付けボタンを押し射撃訓練プログラムを起動させる。射撃場の奥からターゲットドローンが5機ほど登場し、開始を今か今かと待っている。イヤーマフラーを付けた指揮官が私の耳元にブザー付きタイマーを近づけた。

 

「よーい……スタート!」

 

ピーッ!

 

 ブザーと共にドローンが動き出す。

 

BAM!

 

 まずは一番近いドローンに1発、これはやや上に逸れた。ボルトハンドルを引き、そして押す。

 

BAM!

 

 続いて右のドローンへ。ゲームではただ立ってるだけだったが本物は意外に早い動きで咄嗟の照準が非常に難しい。特に光学照準器も無く連射も出来ないライフルでは厳しいものがある。

 

BAM!

 

 次は左のドローン。この弾はほんの僅かに右にズレた。この銃の癖がだんだんわかってきたかもしれない。

 

BAM!

 

 次は3体倒す間に接近していたドローンへ。3発で癖を掴み4発目はターゲットのド真ん中へホールインワンだ。ボルトハンドルを引くと弾をまとめていたクリップが弾倉の下から排出され、まるでガーランドのようにピーンと甲高い金属音を奏でる。

 

BAM!

 

 最後のドローンに命中させタイマーストップ。ふぅ、っと息を吐きイヤーマフラーを外して弾倉に弾が残ってないか確認し、ハンドルを押して安全装置をかける。記録は6.68秒、まあまあ上出来な部類だろう。たぶん。

 

「すごいですねマンリヒャーさん! 他の子の射撃訓練は何度か見たことあるんですが、外したりすぐ撃てなかったりがあって時間かかる子が多いんです」

 

「なに、最初は皆そういうものだ。大切なのは基礎基本を抑えることだ。今度、皆の腕前を見て稽古をつけるとしようか」

 

 と言いつつもう一度訓練をしようとした矢先にP38が駆け込んできた。

 

「大変ですよ! センサーに鉄血の大部隊確認です。すぐブリーフィングルームへ!」

 

 我が半身を手にすぐさまブリーフィングルームに走った。既にガリル、すこっぴ、ステン、M1911、G17が集まっており、ブリーフィングルームの壁にプロジェクターで大量の情報が映し出されていた。

 

「状況はどうなっている?」

 

「おぉ指揮官にマンリヒャーか、やっと来たな。状況はえらいこっちゃ。ついさっき地区外周に設置してあるセンサーとカメラに鉄血の大部隊を確認したんや。こっちには向かっとらんけど、このまま真っ直ぐ行けば基地の補給路が荒らされる可能性があるっちゅ―訳や」

 

「なるほどな」

 

 改めて映し出された映像と鉄血人形の情報を見る。Scout、Ripper、Vespid、Jaeger、Guard、Jaguar、そして

 

「Manticore、か」

 

 途切れる寸前に映っていたのは4本足で動き回り、胴体に巨大な砲身を吊り下げ、装甲で覆われた機械の獣、Manticoreであった。

 

「この基地の部隊規模と練度的に戦える対手ではありません。ましてやマンリヒャーさんと言えどManticoreが相手ではあまりにも厳しいです。ですがこのまま放置すればここも危険に晒されます」

 

 普段の様子とは打って変わり真剣な眼差しを画面に向ける指揮官。

 

「マンリヒャーさん、現場の指揮、お願いできますか」

 

「うむ、任せるがよい。諸君、出撃準備だ!」

 

 全員が返事して自分の銃と装備を取りに駆け出す。この時、意外な出会いがある事など、誰も予想していなかったのであった。

 




コラボフラグを蒔いていくスタイル

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2020/08/27 抜けがあったので改訂


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第12話

久しぶりの更新です。今回はMGFFM様の『M14EBR-RIの日誌』とのコラボ回です。
素敵なコラボ先はこちら→https://syosetu.org/novel/198727/


「もう一度作戦内容の確認だ」

 

 揺れる輸送ヘリの中でAH基地の全員が顔を合わせる。鉄血の大部隊を捉えたセンサーは1時間前に音信不通となったため、より先回りするために予想進路の先にあるゴーストタウンとなった市街地に機首を向けていた。

 

「現在の位置はここ、鉄血の予想進路はこの矢印で、先回りして待ち伏せるためにこの位置にある市街地に向かっている」

 

 ホログラムの地図に赤い点で鉄血の予想地点を示す。現在いる地点は青色のデフォルメしたヘリのマーク、そして市街地が黄色の点だ。鉄血の予想地点からは市街地、そしてその先の補給路である幹線道路へと続いている。突如現れた鉄血の侵攻を許せば基地だけでなくAH地区全体が脅かされるだろう。

 鉄血を食い止めなければ食材が届かず、ハルの手料理がMRE(クッソ不味い戦闘食糧)に代わってしまう。なんとしてもそのような事態は防がなければならない。基地での楽しみの半分はハルの手料理なのだからな。ちなみにもう半分はG17とすこっぴのほっぺをモチモチすることだ。

 

「市街地での戦闘は慣れていない上に分断され各個撃破される可能性がある。そこでここに陣取ることにする」

 

 ホログラムを動かしG〇〇gleマップのような詳細な地図に切り替える。地図は世界大戦前のものだが地形は大して変わってないだろう。地図に表示したのは市街地の外縁部。住宅が点在し程良く視界が開けている。頑丈そうな建物もあり待ち伏せにはうってつけだ。M1911とスコーピオン、P38とステンを前衛として、撤退ルートを確保できる住宅に配置する。そして後衛に私とG17、ガリルが背後のビルに陣取り、主力として前衛と共有した情報を元に射撃する。戦術人形の視覚とセンサーの情報を集約して瞬時に整理し作戦案と共に指揮官に送り、細かい指示でなくとも作戦意図を理解しより詳細な指示を各人に伝達する。さながら前線指揮官と参謀を兼ねたような仕事だ。こんな複雑な仕事も狙撃の片手間にやってのけるだけの電脳があるらしい。

 

「はーい質問!」

 

「ステンか、言ってみろ」

 

 すこっぴと仲がいいステンが手を挙げる。最近は性癖が歪んでないかチェックするらしい。どういうことなの……

 

「街の真ん中に橋あるけど、そこで待ち伏せすればいいんじゃないの? それか橋を落とすとか!」

 

「橋か……」

 

 地図をスライドし橋の付近を拡大する。確かに橋なら一本道になり火力を集中させやすく、敵が渡ってる最中に橋を爆破してしまえばマンティコアも苦労せず破壊できるかもしれない。だが橋を爆破できるだけの爆薬は手元に無い。土木工学は素人だがそれなりに大きな橋だ、爆薬量はそれ相応になる。それに橋は街の中心部であり、迂回した鉄血に挟まれる可能性もある。練度が高ければその手も使えたが……部隊全員はダミーも使えないほどの練度、さらに実戦は初めての私では正直上手く指揮できるか自信は無い。

 

「橋を爆破できるほど爆薬は無く、中心部で奇襲される可能性もある。指揮官に提案はしてみるが、先ほどの作戦の通りとなるだろうな」

 

「うーんいい案だと思ったのになー」

 

「だが良い提案だ、橋付近での戦術を考えておこう」

 

 しばらくすると機体が大きく揺れる。パイロットの『着陸用意』の号令に皆の顔は引き締まった。ドアの向こう側は戦地だ。

 

「よし、行くぞ諸君!」

 

 意を決してドアを開け大地に降り立つ。周囲に敵がいないか銃を構えて確認する。周囲にはいないようだ。全員無事に降りたのを確認してヘリは飛び去っていった。降ろされた場所は市街地外縁部、家と畑がまばらに点在し開けた場所だ。市街地に向かって駆け足で街道を進み、鉄血を待ち伏せするのに丁度いい場所を探す。時折後ろを振り返りつつ全員遅れることなく着いて来ていることを確認し、市街地外縁の朽ちたビルに差し掛かったところで違和感を感じた。壁に寄りハンドサインで止まれと指示すると全員その場で棒立ちして「何かあったの?」と聞いてくる。良い的だ、狙われるぞと物陰に隠れさせるとすこっぴが顔を近づける。

 

「なになに? なにか見つけた?」

 

「しっ、静かにしろ。……やはりな」

 

「どうしたの?」

 

「僅かだが銃声が聞こえる。それに足跡もよく見れば新しいものだ……間違いない、鉄血に先を越されている。急ぐぞ、警戒しろ」

 

 違和感の正体は銃声と足跡だ。我々の足音と話し声に交じって僅かに銃声が聞こえる。最初は気のせいかと思ったが、足を止め静かにするとはっきりと聞こえてくる。他のメンバーは良く耳を澄ませてようやく聞こえる程度なようで、この身体は耳も高性能らしい。道路にうっすら積もった砂に付く足跡は始めスカベンジャーのものかと思っていたが、足跡が新しく数が多い上に形は人の靴跡ではなかった。この状況から考えるに、鉄血主力はすでに市街地に入っており誰かと交戦状態にある。問題はその”誰か”は必ずしも我々の味方ではない、と言う事だ。鉄血は誰であれ平等に敵対するが他の勢力はそうでもない。統治機構たるグリフィンと敵対する犯罪者や競合相手のPMCだった場合、助けに行っても三つ巴になる可能性がある。ひとまずG17をビルの屋上に行かせ様子を探らせることにした。数分後、G17から通信が入る。

 

『マンリヒャーさん? 聞こえますか?』

 

「聞こえている。何かわかったか?」

 

『800m先にJaguarが6体、市街地中心部に撃って移動してを繰り返してます』

 

「わかった、まずはJaguarを倒す。G17は先行してJaguarの動向を監視してくれ。出来るな?」

 

了解(Jawohl)!』

 

 G17にJaguarの行動を逐一報告させ我々は先回りし待ち伏せ奇襲する。この先進むにあたって遠距離攻撃してくるJaguarは脅威であり、ここで排除しておきたい。待ち伏せに最適な場所は無いかとしばらく思案していると、G17の報告からJaguarは一定の順路を周回しながら射撃を繰り返しているのがわかった。奇襲に適した住宅地の一本道に先回りし待ち伏せを行う。

 

「こっちです」

 

「無事だったか」

 

「ばっちりですよ、Jaguarは1列で真っ直ぐこの道を走ってきます」

 

 少し進んだ先にある閑静な住宅地。G17の報告通り、道にJaguarが通ったと思われるタイヤの跡が残っている。そして道は若干狭く車両タイプの鉄血人形が展開するだけの広さはない。正に奇襲にはうってつけの場所だろう。

 

「ほう、1列とは行儀がいいな。すこっぴとP38はそこの家、ステンとM1911はあそこの家、ガリルは青い屋根の家、G17は余とここの家で待ち伏せる。作戦は単純だ、1番目に先頭、次に最後尾、最後は全てに弾をぶつけて倒す。何か質問は?」

 

「はいはーい! 手榴弾使ってもいい?」

 

「使ってもよいが、あまり使い過ぎるなよ。……ほかに無いな。では配置に就け」

 

 それぞれ持ち主が居なくなった一軒家に入り窓からJaguarが来るのを今か今かと待ちわびる。「お邪魔します」と言ってドアを開けて入るG17を意外と礼儀正しいなと思いつつ、家に入り射撃に最適な位置を探す。略奪の痕跡が随所に見られるボロボロの家だが、大きくて持ち出せなかったのか家財道具はそのまま残っている。中身は期待しない方がいいようだ。Gでも出たら泣き叫ぶ自信がある。前世の時から虫は苦手なのだ。射撃姿勢が取りやすい位置に机を窓際に移動させ、半身たるマンリヒャーM95/30を置き依託射撃の姿勢を取る。窓から銃を突き出していては格好の的だからな。G17には観測手に徹してもらい待つこと数分、タイヤを回すモーター音が近づいて来た。

 

「来たぞ。……まだだ、よく引きつけろ……今だ! 撃てッ(Feuer)!!」

 

 銃声と共に金属片が飛び散り火花が走る。先頭のJaguarは瞬く間に蜂の巣となり慣性で前のめりに転倒し動かなくなった。コッキングハンドルを引いて排莢、装填し続いて最後尾に照準を向け引き金を引く。9mmパラベラムと32口径、5.56mm NATO弾、そして8 mm×56R弾が胴体を粉砕し、Jaguarの集団は進むことも退くことも不可能となった。ようやく自分達が襲われていることを理解したJaguarは周りの家々に砲撃を始める。近くに着弾し破片が飛び散るもこちらの位置を把握できていないのか命中弾は無い。残り4体も銃弾で穴だらけとなり焼夷手榴弾で燃やされ炭となる。ものの数分でJaguarは動かなくなった。銃声に誘われ増援が来ないか屋根に上り双眼鏡で周囲を見渡す。増援は無いようだ。

 

「こちらマンリヒャー。周囲に敵影確認出来ず。そちらはどうだ?」

 

「こちらM1911、同じく敵影無し」

 

「こちらG17、こちらも同じで敵は確認出来ません」

 

「了解した。今ので全部の様だ。3人ともご苦労」

 

「ひゃ~Jaguarの奴らが撃って来た時はびびったでぇ」

 

「私なんて隣の部屋が吹き飛んだんですよ!?」

 

「でも案外簡単に倒せたね!」

 

「この調子なら任務は簡単に終わりそうやな」

 

 ぞろぞろと半壊した家屋からM1911やガリル達が出てくる。M1911とステンが待ち伏せた家のすぐ近くに着弾した時は焦ったが、2人とも無事のようだ。

 

「アイツらは誰を攻撃していたんだ……?」

 

 屋根から降りてJaguarの残骸に何か記録が残っていないか確認する。運良く無事のメモリーを発見し、情報が引き出せないか探ってみる。セキュリティは無いも同然であっさりと記録を遡ることができた。記録にあるのは他の鉄血人形からの射撃要請とその座標のみで相手が何なのかはわからなかった。だが記録を見るに鉄血を瞬殺できる正規軍でも素人集団の犯罪者でもないようだ。そこから導き出された答えは一つ、

 

「まさか……我々以外に戦術人形の部隊が?」

 

 振り向いた先にはJaguarが砲撃し煙が立ち上り陽炎のようにビルが揺らいでいた。

 




コラボ回はまだまだ続きます。


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