荒野のORCA飛行隊 (COTOKITI JP)
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主人公はナニカ……サレタヨウダ……。

曰く、かなり昔に空の上にでっけえ穴が開いて、そこから様々な物が伝わって来たんだそうな。

 

そんで、穴はココ最近は開かなくなったが、穴からやって来た物や技術のお陰で荒れ果てた荒野の中で人々は繁栄し、それぞれのコミュニティを創り上げていった。

 

これはなんやかんやあって『破軍の空賊団』等と呼ばれた空賊団を率いたとある飛行隊の物語である。

 

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ただいま、現在時刻深夜3時を過ぎております。

 

だーっ!くっそ!!

 

真っ暗な部屋の中での唯一の光源であるゲーミングPCと睨めっこをしているこの怖い顔のおっさんは嘗ては大企業の優秀な社員であったが、会社が倒産したせいで行き場を失い、再就職する気にもなれずにニート生活を満喫している。

 

何故俺はペロハチなんかでゼロと格闘戦を挑んでしまったんだァァァ!!

 

内心叫びながら欠伸をし、負けた事でやる気を無くした彼はさっさとパソコンの電源を切り、スマホ片手にベッドに潜り込んだ。

 

動画サイトで動画を見漁りながら眠りにつくのを待ち続ける。

 

How to b○sicはいつ見ても面白いなぁ……

 

卵に親でも殺されたのかと思う位に机に大量の卵を機関銃の如く投げつけまくる動画を見ながら時刻を確認する。

 

「もう四時か…………寝よ」

 

もう流石に時間が時間なので眠りに入る。

 

まぁ、明日の予定なんて無いも同然なんだけどねっ!!

 

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翌日、目を覚ますと何故か全身が動かなくなっていた。

 

えぇ……何なの……?

あれですか、俗に言う金縛りとかいう奴ですか?

 

寝起き早々の事なので半ばパニックに陥り、体を動かそうと必死に体に力を入れようとするが一向に動く気配はない。

 

しかもここ俺んちじゃなくね?

俺んちこんな明るくないよ?

 

瞳は動かす事が出来たので周りを見てみるが一面白で何が何だか分からない。

 

パニックが収まってきた頃、突然何者かの足音が複数聴こえてきた。

 

良かった、人がいたようだ!

早く助け求めないと……。

 

歩み寄ってくる人物に必死に声を掛けようとするが、声が出ない。

どうやら声帯もダメになっているようだ。

 

すると、自分を囲むように立っていた人達が話し始めた。

 

「これが今度の実験体かね?」

 

ん?

 

「はい、資料では元大企業の社員だとか」

 

……何か既視感のあるシーンだな…………?。

 

「例のルートからか?」

 

おい待て、これは……これは……。

 

「何でも、会社が倒産したそうです」

 

「夢破れたりか……フッ、だがこの実験で生まれ変わるさ」

 

「生き残る事が出来れば、の話ですがね……」

 

「まぁ、そういう事だ。 始めよう」

 

まずいまずいまずい!!

 

このままじゃ俺ナニカサレちゃう!!

 

強化人間になんかなってたまるか……あ、意識が………………スヤァ……。

 

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そして今に至る。

 

「ここどこやねん……」

 

ナニカサレタ後、目を覚ましたと思えばそこは、荒野の中にポツンとある小さな街だった。

 



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まさかの遭遇

ナニカサレタ後にいきなり見覚えの無い街に放り出されておよそ10分が経過した。

 

なんかみすぼらしいというか寂しいというか……良い街ではなさそうだな。

 

街ゆく人々は殆どがヨボヨボの老人か、痩せこけた子供位しかおらず、まるで世紀末を思わせるような外観だった。

 

それに自分の服装も変だ。

 

自分が今、身に付けているのはカーキ色の作業服であり、まるで整備員か何かのようだ。

 

それに左胸に大きく『3』と刺繍してある。

 

自分の服装を確認しながら歩いていると、地面に何かが落ちている事に気付いた。

 

それを手に取り、付着した砂を払うとそれは長方形の紙だった。

 

「……電報か?」

 

誰宛の物か分からない電報を読み上げてみる。

 

『ナヲキカレタラ メルツェルヲナノレ』

 

そこにはそう書かれていた。

 

名を聞かれたら、メルツェルを名乗れ……?

 

メルツェルと聞いて真っ先に思い浮かべたのはACfaに登場するテロ組織、『ORCA旅団』の副団長であるリンクス、『メルツェル』だ。

 

これを送った奴は一体何の意図があってこんな内容にしたんだ?

 

電報をヒラヒラと振りながら再び歩き出す。

 

しかし、何故か彼はその電報を忘れてはいけないような気がした。

 

「まぁ、覚えておくか……」

 

電報を投げ捨てて道の先へと進み続ける。

 

 

暫く歩いていると街にも変化が現れてきた。

 

先程よりも街にも活気が増し、あちこちに店が並んでおり、買い物客などが歩き回っていた。

 

それともう一つ気になる事があった。

 

買い物客などに混じって自分と同じカーキ色の作業服を着た人達もいたのだ。

 

それ以外の買い物客などは、作業服を着た人達に哀れみや侮蔑のこもった視線を向けており、当然同じ格好をしている彼にも向けられた。

 

不快な視線に晒されながら街を歩いているとたまたま飲食店を見かけ、店の中で客が食べている料理を見た途端、腹の虫が鳴いた。

 

でも今金が…………あったわ。

 

作業服のポケットに手を突っ込むと何枚かの紙幣が入っていた。

 

街の人の会話を聞いた限り、多分言葉は通じるだろうしここで飯にしよう。

 

そう思いながら飲食店の扉を開く。

 

扉を開けばそこでは沢山の人がそれぞれの席に座って飯を食べていた。

 

中には作業服の人も数名いる。

 

情報が欲しかった彼は近場の席に座って話し合っている作業服の二人組の隣の席に座る。

 

店員に適当な料理を注文し、来るまでの間、二人に話し掛けるタイミングを見計らう。

 

どうやら二人も注文したばかりのようで料理はまだ置かれていない。

 

二人の内自分のすぐ左隣の男は厳つい強面で、筋肉もかなりある事が作業服越しでも分かる。

 

その更に隣にいるもう一人は片方とは違ってどっちかというとクールな雰囲気を醸し出している。

 

二人はこちらには興味を示さず、会話を続けているが、そこに声を掛ける。

 

「そこの二人、話がある」

 

そう言うと二人は話を中断し、怪訝そうな顔をしてこちらに振り向いた。

 

初対面でこんな話し方ってあるか!

クソっ……前世の癖がここに来て仇となるとは……。

 

彼は前世では大企業の優秀な社員として安定した生活は送れていたが、とある問題があった。

 

それは顔が怖いのと言動に威圧感がある事だ。

 

そのせいで周りの同僚や部下からも怖がられ、唯一の親友からも

 

『お前ってラスボスか黒幕が似合いそうな顔と声してるよな』

 

なんて言われた。

 

その親友は彼の事をよく、メルツェルに似ていると言っていた。

 

顔は分からないが声は完全な速水ボイスで言葉遣いもメルツェルそっくりなんだそうな。

 

しかも凄いのは彼がキャラを作っている訳ではなく、素でそんな感じだという所だ。

 

「……なんだ、お前?」

 

先に口を開いたのはすぐ左隣にいた強面オッサンだった。

 

あれ? この声どっかで聞いた事があるな……。

 

……それよりやべえ、声を掛けたは良いものの何を聞き出すべきか分からねぇ。

 

流石にいきなりこの世界のことについて教えろなんて言われたら彼等に怪しまれてしまうだろう。

 

仕方ない、適当に世間話でもしてそれとなく聞き出そう……。

 

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数分話をして分かったことが幾つかある。

 

まず一つ目に、ここはイルンエバという街であるという事。

 

二つ目に、この作業服みたいな服を来ている奴らは全員、強制収容所で働かされている囚人という事。

 

三つ目に、俺と二人は同じ第3労働区と呼ばれる場所で働いているという事。

 

四つ目に、この街の富裕層以外の若者は全員強制収容所にぶち込まれて労働を強いられるという事。

 

五つ目は二人の名前なのだが、これがかなりの衝撃だった。

 

まず、強面の方はなんと、『オールドキング』と名乗ったのだ。

 

オールドキングといえばあのORCA旅団の一員であるリンクスの一人だ。

 

元は『リリアナ』と呼ばれる反体制派武装組織に所属しており、独善的テロリズム思想を持つORCA旅団でも浮いていた人物。

 

しかし何故オールドキングなんて名前か聞いてみたが

 

「俺達には元から名前が無い。 だったら自分で付ければ良いだけだろ?」

 

との事らしい。

 

一方クールな方はと言うと………………。

 

『オッツダルヴァ』だと言うのだ。

 

これにはオールドキングよりも驚いた。

 

オッツダルヴァ……またの名をマクシミリアン・テルミドールはORCA旅団創始メンバー、『最初の五人』の一人であり、ORCA旅団の団長を務めているリンクスだ。

 

最前線で戦う彼は類稀なる戦闘能力を発揮し、カラードランク1の座を我が物としている。

 

そんな彼が目の前にいるのだ、格好は少しアレだが。

 

まさか……ここにORCA旅団メンバー他にもいたりしないよな?

 

彼が心の中で放った言葉がフラグにならない事を祈ろう……。

 

 

 

 

 




もしこの作品に登場してほしいACのキャラがいましたら感想にてリクエスト下さい。
ひょっとしたら登場するかもしれません。


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勘違いから始まる英雄譚

〜オールドキングside〜

 

あの日、俺とオッツダルヴァは月に一度だけ街への外出が許される日に行きつけの飲食店で昼食を取っていた。

 

そこで話している内容はいつも通り。

 

この腐り切ったイルンエバを乗っ取る為の武装蜂起の計画だ。

 

計画は第3労働区のごく僅かの囚人にしか知らされていない。

スパイの危険性もあるからだ。

 

そして計画を実行するに当たって、ここから近い所にいる空賊団とも連携を取る事になっている。

 

空賊の協力への対価はイルンエバの所有する最新鋭航空機の設計図。

 

俺達が出した対価はそれだけじゃ無かった。

 

ここにある例の最新鋭重爆撃機、『Me-264』の実物まで持ってくるという大盤振る舞いだ。

 

Me-264とは四発型の重爆撃機であり、凄まじい爆弾の搭載量と高い対空火力、圧倒的航続距離が特徴だ。

 

ここでは非常に高価で製造数もまだそこまで無い為、手に入りにくく、求める者は多い。

 

それを渡す代わりに空賊団が協力してくれて尚且つ俺達を迎え入れてくれるんだ、悪い話ではない。

 

蜂起に使用する武器もその空賊団から地下の下水道を通して密輸してもらっている。

 

計画が上手くいくかは分からないが、ベストは尽くすべきだろう。

 

俺達の行きつけであるこの飲食店はただ飯を食うだけじゃなく、作戦会議にも使われる。

 

実は中にいる他の客や店員は全員会議の間、警察などが来ないか見張っているのだ。

 

そんな中で作戦の最終確認をオッツダルヴァと行っていると、俺の隣の席に見ない顔の男が座った。

 

奴の顔を見て思ったことと言えば、策士を思わせるような知的な顔付きをしていた。

 

奴は時折こちらをチラチラと見ては正面に向き直る。

 

……妙な奴だな。

 

不審に思いながらも相手に悟られない様に話を続けていると、奴の方から話し掛けてきた。

 

「そこの二人、話がある」

 

落ち着きがあり、それと同時に威圧感を感じさせる口調で、俺達も流石に話を中断し、奴の方を見た。

 

「……なんだ、お前?」

 

何故だか分からないが、奴と目を合わせた瞬間、途轍もない悪寒を感じた。

 

俺とて元は空賊の陸戦隊に所属しており、実戦経験もある身だ。

 

俺でさえも無意識に恐怖を感じる奴は一体何者なのか……。

 

「お前、見ない顔だがもしや新入りか?」

 

今度はオッツダルヴァも問い掛け、奴はそれに肯定するように小さく頷いた。

 

コイツは新入りなのか。

不運な物だな。

 

「それで、新入りが俺達に何の用だ?」

 

「なに、俺はここについてあまり知らない。 それを聞くついでに世間話でもしようと思っただけだ」

 

そう言いながら奴は口角を上げ、不敵な笑みをその顔に浮かべた。

 

コイツはやはり怪しい。

 

この風格からしてただの囚人という訳でもなさそうだ。

 

「最近、調子はどうだ? "上手く行っているか"?」

 

上手く行っているかだと?

何の事を言っているんだコイツは?

 

まさか……武装蜂起計画の事を……。

いや、それは……無いだろう。

 

「あぁ、上々だ」

 

憶測を自分に言い聞かせるように否定しながら平静を装いつつ答える。

 

「そうか、なら良かった」

 

相変わらず奴は不敵な笑みを浮かべながら台に頬杖を突いている。

 

まるで……俺達の全てを見透かしているかのような表情だ。

 

……クソっ……気味が悪いな……。

 

内心悪態を付きながら表情だけは変えずに奴を睨むと奴は更に口角を上げその笑みを深くした。

 

……っ!?

 

その途端、先程とは比べ物にならない程の悪寒を感じた。

後ろをチラ見してみればオッツダルヴァも悪寒を感じたのか目を見開いて冷や汗を流していた。

 

恐怖を紛らわせる為に話題をこちらから振ることにした。

 

「お前、俺達と同じ第3労働区のようだが、なんて名前だ?」

 

名前を問うと奴は数秒考える素振りを見せると自分の名を言った。

 

「…………私の名はメルツェルだ」

 

その瞬間、飲食店の中が凍りついたかのように静まり返った。

 

〜オッツダルヴァside〜

 

コイツ……コイツは今なんと言った!?

 

店内の全ての客が驚愕の表情で奴を見る中、私でさえも驚愕を隠す事が出来なかった。

 

『メルツェル』

 

この世界におけるメルツェルとは、嘗て世界最強のエースパイロットと呼ばれた空賊の男だ。

 

彼の単独撃墜数は公式に記録されているだけでも700を超えている。

 

それに空賊になる前は傭兵として活動していた為、実際は更に多いと考えられている。

 

それに加えて被撃墜数はたったの2。

 

その原因もエンジンの整備不良による故障と対空砲の流れ弾と、少なくとも戦闘機に撃墜された記録は存在しない。

 

しかし彼は、5年前の史上最大の大規模戦闘と言われたルベンリ防衛戦という空賊団と企業連との戦いにて6回の出撃で敵戦闘機、『F6F ヘルキャット』を14機、『Yak-9U』を9機、『スピットファイアMk.IX』を18機、『P-51Cマスタング』を10機、その他爆撃機等を21機撃墜した後、消息を絶っている。

 

彼の強さは最早伝説を通り越して神話級であり、戦闘機乗りで彼を知らない者はいない。

 

二つ名は『ルベンリの守護者』と呼ばれたりもするが、一番呼ばれている二つ名は『ダークレイヴン』だ。

 

理由は彼の機体、『XP-55』のノーズアートがワタリガラスだからである。(ノーズアートがワタリガラスとは本人が公言している)

 

彼の特徴と言えば、見た目や言動に反して学力は余り無く、戦闘機も殆ど直感で動かしていたそうだ。

 

あとサブカルチャー等も好んでおり、それらのギャップからファンも多くいる。

 

そんな彼が消息を絶ってから彼の姿どころか痕跡すら見た者はいないという。

 

という事は目の前にいるあの男はメルツェル本人だと言うのか……?

 

今まで見つからなかったのは辺境の地で身を隠していたからなのか?

 

だとすれば強制収容所に収監されるのも納得出来る。

 

強制収容所ならば本名を名乗る必要も無く、素性が知られる事も無い。

 

今、ここにいる全ての者が彼の風格から悟った。

 

彼が…………本物のメルツェルだ…………。

 

 

 

 

 

 




コトブキ飛行隊との絡みはまだ後になります。

因みに言うとここはそもそもイジツですらありません。
海の水位は穴によって僅かに下がってはいますが、海は普通に残っているし荒野なんて何処にもありません。

メルツェルがイジツに行くまで頑張りたい所です。


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計画的(大嘘)犯行

〜メルツェルside〜

 

現在、俺は飲食店を出てオッツダルヴァとオールドキングに着いていっている。

 

そりゃそうよ。

自分の房どこか分かんないんだもの。

 

しかし飲食店にいた時の二人は変だったなぁ。

友好的な笑みを浮かべていたというのに急に睨んでくるからそれに対抗して更にスマイルを強めたら二人ともなぜが目を見開いて汗流しちゃうし。

 

名を聞かれた時、ふとあの電報を思い出していたら、考えるよりも先に口が動いてしまい、ついついメルツェルと名乗ってしまった。

 

おいおい、俺みたいな雑魚にORCA旅団の副団長なんて務まるわけがないだろう。

 

俺の発言に店の皆ドン引きしちゃってたし。

 

……まぁいいか!

早く戻って寝よう。

 

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あの後、そのまま二人に着いていくと、自分の房が二人の房のすぐ隣にある事が分かった。

 

周りを見れば他の囚人達も外出していたのか満足そうな顔で両手に大量の商品の入った袋を持ってそれぞれの房へと戻っていく。

 

ここの房は二人に一部屋なんだけど……誰と相部屋なのかな?

 

そう思いながら房の重たい扉を開ける。

 

入ってすぐ右にあるベッドに彼はいた。

 

「あ? あぁ、お前がここに来るって言う新入りか」

 

その男は航空機関連の雑誌を読んでいたが俺に気付くとそれを閉じて半身を起こした。

 

見た感じはなんだか脳筋っぽい見た目してるな。

それに上はタンクトップだけか。 ここ暑いからなぁ。

 

「メルツェルだ。 これから宜しく頼む」

 

そう言って右手を差し出す。

 

すると彼も俺の手を握った。

 

「俺は『ヴァオー』だ。 宜しく頼むぜ」

 

…………またORCA旅団員かよ…………。

 

そのフラグ回収は余りにも早すぎた。

 

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「メルツェルって言うのか。 あの世界最強のエースパイロットと同じ名前とはな」

 

「飛ぶことの出来ない私には到底似合わない名前だな……」

 

互いに挨拶を交わした後、ヴァオーと暫く雑談をしていたが、直ぐに消灯時間になってしまい、俺達は互いのベッドに潜り込んだ。

 

いや〜目の前にゲームのキャラがいるもんだから緊張しちゃってあまり話せなかったなぁ……。

 

まぁいいや、明日話そ。

 

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そんなこんなで翌日。

 

朝を迎えた俺達は朝食を取った後、直ぐに職場へと向かった。

 

どうやら俺達の仕事とは航空機の整備のようだ。

 

ハンガーにズラリと並べられた航空機の数々。

その中で俺とヴァオーはとある飛行機に割り当てられていた。

 

「随分と大きな爆撃機だな」

 

「Me-264、重爆撃機だ。 所長が購入したらしい」

 

「新たな戦力と言う訳か」

 

四発のエンジン、備え付けられた四丁のMG131と二丁のMG151機関砲、そして何よりもその巨大な機体だ。

 

大きな主翼はハンガーにギリギリ収まる程のサイズで、胴体も他の双発機等とは比べ物にならなかった。

 

っといかんいかん。

仕事をしなくては。

 

「早く始めるぞ。 看守に折檻を受けたくはないだろう」

 

とは言ったものの…………。

 

「…………………………」

 

これどうすんの?

 

エンジンカウルを外してはみたが中のエンジンには一切手を付けていない。

というよりどうすればいいのか分からない。

 

こういうのって事前に指導とかあるもんじゃないの?

あれか? 習うより慣れろってか?

 

よし、こうなったらヴァオーを見よう見まねしてみるか!

 

ヴァオーはエンジンから何かのパーツを取り外すと工具箱から新品を取り出して付け替えている。

 

あのパーツって……もしかしてこれか?

 

エンジンの中からそれっぽい物を見つけ、試しに取り外してみる。

 

それはスパークプラグと呼ばれる部品なのだが、そんなもの俺が知ってる訳無いよねー。

 

堪らずヴァオーに教えを乞うたが、スパークプラグに加えてイグニッションコイルだのシリンダーヘッドカバーだの未知の単語ばかりでわけがわからないよ。

 

仕方ないのでエンジンは他の整備員に任せて機内に移った。

 

コックピットの座席や計器類に降り積もった埃などを雑巾で拭き取りながら機内をじっくりと眺める。

 

コックピットの中に入った事なんて人生で一度も無かったので少し興奮気味である。

 

…………誰も見てないよな?

 

周りに誰もいない事を確認すると他の整備員の目を盗んでコックピットの操縦席に腰掛けた。

 

「おぉ……」

 

すげえな、まるで機長になった気分だぜ!

 

目の前の操縦ハンドルに手を伸ばし、両手で強く握る。

 

流石にハンドルを回すのはまずいので握るだけに留めておこうとしたが、興奮のあまりハンドルを思い切り後ろに引き起こしてしまった。

 

その瞬間

 

バキッ

 

絶対にしてはいけないような音がなったのとハンドルが外れたのは同時だった。

 

「あ」

 

や、や……

 

やっちまったァァァァァァァァァァァ!!!

 

しかも副操縦席の方には何故か元からハンドルが無かったのでこれでは操縦なんて出来ない。

 

と、とととととにかく直さないと!

 

元ある場所にハンドルを挿そうとすると、後ろから声が聞こえて脊髄反射で取れたハンドルを服の中に隠してしまった。

 

「メルツェル、もうこっちは終わったぞ」

 

ヤバいヤバい!!

もうこうなったら隠し通すしかねぇ!!

 

「あぁ、此方も完了した所だ」

 

「なら別の機体に移るぞ」

 

「分かった」

 

早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われェェェェェェェ!!!!

 

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〜ヴァオーside〜

 

Me-264のエンジンの点検と修理を終えた俺はメルツェルのいる機内に向かったんだが…………見ちまった。

 

不良品だったせいで片方しかない操縦席のハンドルを無表情でもぎ取っていたメルツェルの姿を…………。

 

その行動には目を疑ったが、バレたらこっちまで連帯責任を負わされるので知らないフリをして話し掛けた。

 

俺の声に気付いたメルツェルは服の中にハンドルを隠すと振り向き、俺を見た。

 

その時の目は忘れられなかった。

 

あの目には「バラしたら殺す」。

そんな感じの言葉が込められていた。

 

思わず鳥肌が立っちまったが、何とか平静を装い、メルツェルと次の作業場へと行った。

 

しかしまずい事になった。

 

Me-264は武装蜂起計画で俺達が逃げるのに使うだけでなく空賊団への報酬としても重要な機体な為、それを無力化されるのはかなりまずい。

 

まさか、アイツ武装蜂起計画を知っていてあんな行動を取りやがったのか……?

 

だとしたら余計にまずい。

 

兎に角メルツェルには警戒しておこう。

それに、ハンドルも今日中に取り返さなくては。

 

計画実行は明日だからな。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

〜メルツェルside〜

 

作業が終わって囚人は全員房へと戻っていく。

 

服の中にはまだあのハンドルが隠されている。

 

何とかして防衛戦の中に持ち込みたかったのだが、ゲートを通ろうとした瞬間、そこにいた2人の看守に止められた。

 

「ボディチェックだ。 服の中に何も隠してないな?」

 

看守が俺の体に手を伸ばす。

 

させるかァァァァァァ!!!!

 

俺の放った右ストレートが看守二人を昏倒させるまで僅か0.8秒!!

 

音速の如き速さで看守を殴り倒した俺はそそくさとその場を後にする。

 

俺最後尾で良かった……。

しかもここ監視カメラ何て物無いし。

 

数十分後、目を覚ました看守二人は数十分前からの記憶を失っており、困惑しながらも職場へと戻っていったのだった……。

 

 

 

 

 




登場キャラのリクエストは今も受け付けていますので引き続きリクエストがありましたら感想にてお願いします。

ACキャラの話し方って難しいなぁ……。
特に一番迷ったのは一人称ですね。
ガバガバ知識なのでどのキャラがどの一人称なのか分からない時があるんですよねぇ……。

あと最初の五人を全部登場させようとも思いましたが知識不足によってネオニダスはまだ可能性がありますがジュリアスは厳しいかと…………申し訳ありません……。


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ヘイ!タクシー!

〜メルツェルside〜

 

えぇ〜イルンエバの現在の天気をお伝えします。

 

現在の天気は………………。

 

「何なんだ一体!?」

 

晴れ時々、7.62mm弾とロケット弾、100kg爆弾の雨が降るでしょう。

 

…………というか現在進行形で降って来てるわバカ野郎ォォォォ!!!!

 

折角気持ちのいい朝を迎えられたのに空襲なんか仕掛けてきやがって!!

 

お陰でこちとら朝っぱらから全力疾走中だよ!!

 

止まったらバラバラだよ!! あれでぇ!!

 

房の扉が開いたのは幸運だった……。

 

ていうか解放された囚人達は今どこから取ってきたのか銃火器持って飛行場とかハンガーで鎮圧部隊と銃撃戦繰り広げてるし。

 

あとバレないように洋式トイレのタンクの中に隠してたMe-264のハンドル何故か持ってきちゃった。

 

 

〜ヴァオーside〜

 

クソっ!結局ハンドルを見つけられなかった!!

 

どうする……?このままじゃアレの操縦なんて出来ない。

 

何とかメルツェルを見つけ出して取り返さねえと!!

 

 

〜オッツダルヴァside〜

 

囚人達と空賊団の協力のお陰で何とか飛行場に乗り込む事が出来た。

しかし、早くMe-264を奪取しなければ所長に持ち逃げされてしまう。

 

急いで飛行場の滑走路に辿り着くと既にMe-264が離陸の準備を行っていた。

 

「一足遅かったか!!」

 

逃がすまいとMe-264の所までオールドキングと共に全力で走る。

 

しかし私はある事に気付く。

 

……何かが変だ。

 

こちらからMe-264まではそれなりの距離があるのだが、何時まで経っても動き出す気配がない。 エンジンが稼働してるだけだ。

 

取り敢えずそれを僥倖と捉えて機体側面の扉をこじ開け、中に突入する。

 

機内には案の定、諸悪の根源である所長とその副官、護衛が二人いた。

 

まずは護衛二人を短機関銃で射殺し、コックピットにいる所長と副官を銃口を向けながら手際良く機内から叩き出す。

 

そしてコックピットの操縦席に座った時、何時まで経っても動き出す気配が無かった理由を知った。

 

「なっ……!? ハンドルは!?ハンドルはどこに行った!?」

 

本来あるべき筈のハンドルだけがすっぽりと抜けており、元はハンドルが挿してあったのであろう穴だけが残っていた。

 

「どうする!?このままじゃ操縦なんて出来ねえしそれよりも囚人達が押し負けそうだ!!」

 

オールドキングも機外を警戒しつつもかなり焦った表情をしていた。

 

こんな事態を私は予想なんてしていなかった為、どうすればいいか分からなくなった。

 

飛行場で囚人の方が押し返されてきている事も余計に私を焦らせた。

 

それにヴァオーもまだ来ていない。

 

どうすれば……どうすれば良いんだ!?

 

〜メルツェルside〜

 

全力疾走の末に飛行場に辿り着いたと思えば今度は囚人と鎮圧部隊のドンパチに巻き込まれた。

 

背を低くしながら銃火を掻い潜り、逃げられそうな場所を探す。

 

全く、ドンパチはハリウッド映画だけにして欲しいものだ!

 

あとヴァオー。 お前どうやって俺がハンドルを隠し持っていた事を知った!?

 

隠蔽工作は完璧(トイレのタンクに突っ込んだだけ)筈……。

 

ヴァオーがハンドルを寄越せなどと捲し立てて来るが今はそんな場合では無い。 早く逃げないと。

 

ふと滑走路の方を見ると、あのMe-264が飛び立とうとしているのが見えた。

 

エンジンは既に稼働しており、離陸準備万端といった風に見える。

 

それを見た瞬間、俺はそこに向かってさっきの全力疾走よりも凄まじい速度で駆けた。

 

お前らだけ逃がすかァァァァァァァ!!!!

俺も乗せろォォォォォォォォ!!!!

 

あまりの急加速に隣にいたはずのヴァオーが後ろを振り返れば豆粒ほどにまで小さくなっている

 

さっきも思っていたんだけど俺ってこんなに持久力あったっけ?

 

前世の頃は走りなんて中の下位の成績だった筈だぞ。

 

何とか飛び立つ前に追いつく事が出来、ヴァオーも息を切らしながら追い付いてきた。

 

しかし、機体に近付こうとしたらそこに何故かいたオールドキングに銃口を向けられた。

 

〜オールドキングside〜

 

「ヴァオーは乗せられるが……お前は駄目だ、悪いな」

 

銃口を向けられているにも関わらず、奴……メルツェルは驚く素振りも見せない。

 

なんだコイツ……銃口を向けられてもうんともすんとも言わねぇ。

 

それにここに来るまでに大規模な銃撃戦に巻き込まれた筈だ……。

 

やはりコイツは只者じゃない。

ひょっとすれば……本物の「メルツェル」だったりしてな……。

 

……いや、それは無いか。

そもそも根拠が無いからな。

 

頭の中で一つの可能性を打ち消し、ヴァオーだけを機内に迎え入れつつメルツェルに銃口を向け続ける。

 

どちらにせよ空賊団はメルツェルを受け入れる事は無いだろう。

連れてきた所で足でまといだ。

 

未だに動きを見せないメルツェルを見ていると、左手に何かを持っている事に気が付いた。

 

それをよく見てみれば、何とMe-264のハンドルだった。

 

「お前……何故それを持ってんだ!?」

 

メルツェルは答えない。

ただずっと俺の方だけを見つめていた。

 

その『目』に俺はまたしても怖気付いてしまった。

 

言葉では到底表現出来ないが、それは俺の恐怖心を煽るには余りにも充分過ぎた。

 

しかし、メルツェルが唐突に俺の方に歩み寄り、何をするかと警戒すれば左手に持っていたハンドルを渡した。

 

何が何だか分からず、取り敢えず受け取り、ヴァオーにコックピットまで持って行かせた。

 

急に何だ?

何故突然ハンドルを渡したんだ?

 

いや、それよりも何故奴はハンドルを持っている?

どこかで取ったのか?

 

「それを寄越せ」

 

そう言おうとした時だった。

 

メルツェルは持っていたハンドルを俺に投げ渡した。

 

てっきり「欲しければ俺も乗せろ」とでも言うのかと思ったがその予想は尽く裏切られた。

 

顔を見てみると……メルツェルは『笑みを浮かべていた』。

 

その笑みはどこか含みがあるように感じられた。

 

どんな意味があの笑みに含まれていたかなど察する事は余りに容易過ぎた。

 

そうか……お前……。

 

こうなる事を見越して、俺達を無事に逃がす為に……!

 

尚、それは全くの見当違いだった模様。

 

 




休日明けてから更新が大分遅れてしまった……。
申し訳ない……。


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孤独の要塞

〜メルツェルside〜

 

え? え?

 

オールドキングさんに脅されたのでハンドル渡したら置いてかれた件について。

 

てっきり乗せてくれるのかと思っていたら俺を残してそのまま飛び立ってしまった!

 

もう駄目だァ!死ぬぞ!皆(主に俺が)死ぬ!

 

……いや!ダメだダメだ! まだ諦めてはいけない!

 

先ずは脱出の手段を見つけ……ってあった!

あんな所に都合よく放置されたイルンエバ防衛隊のBF-109F4が!

 

まさかこのご都合主義展開が神様パワーだと言うのか!?

 

ラノベじゃボロクソ言ってたけど当事者になってみるとめっちゃありがてえわ!

ほな、いただきます。(HND風)

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

〜引き続きメルツェルside〜

 

やべぇ、超やべえ(語彙力誤パージ)

 

コックピットに座ったら操縦の仕方が手に取るように分かるぞぉ!

これなら楽勝だな!

 

と思っていた時期が私にもありました。

 

「ぐううっ!」

 

アカーン!!離陸する時カウンタートルクの事全然考えてなかった!

 

現在ラダーペダルを親の仇とでも言うかのように踏みつけています。

 

速度上げすぎでアカンこれじゃハンガーに突っ込んで死ぬぅ!

 

(お前が死ぬねんこんなぐらいで)←天の声

 

うおお!飛んだ!飛んだぞ!

 

アイキャンフライ!!

 

よーし!後はランディングギアを収納して高度を少しずつ上げていくだけだ!

 

アイツらめ!

後であったら文句の一つでも言ってやらぁ!

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

〜オッツダルヴァside〜

 

何故かメルツェルがハンドルを持っていたお陰でMe-264を飛ばすことが出来た。

 

何故ハンドルを持っていたのかは分からないが、オールドキング曰く『この計画』を知っていた可能性が高いそうだ。

 

だとして彼にとって我々を助ける事に何のメリットがあったのだろうか?

 

我々は元を辿っても只の空賊でしかない。

 

それと、3人とも同じ『ルベンリ』の防衛を担っていた空賊団、『リリアナ』の一員と言う共通点がある。

 

嘗てのルベンリ防衛戦では主に三つの組織が防衛に当たっていた。

 

一つは我々が所属していた空賊団、『リリアナ』。

 

もう一つはリリアナとは兼ねてから友好関係を築いていたミグラント『アルバトロス』。(防衛に当たっていたのは契約期間中だけであったが)

 

そして最後の一つ、奴らは謎に満ちていた。

突然あちら側から協力の話を持ち掛け、かなりの戦力を破格の値段で売り込んできたのだ。

 

特に奴ら…………『財団』お抱えの飛行隊、『死神部隊』は全員が単独撃墜数100機越えという正にエース中のエースの集まりだった。

 

実際、メルツェルを除いて最も敵に損害を与えていたのは死神部隊である。

 

まぁ、それでも我々は負けてしまったがな……。

 

同じリリアナだったメルツェルも行方をくらまし、それ以来からリリアナの崩壊が始まりつつあった。

 

……確かメルツェルの死因の仮説に『財団』による裏切りというのがあったな。

 

その仮説によればメルツェルは企業連だけでなくその他の組織等の上層部から『イレギュラー』として危険視されており、財団が協力の話を持ち掛けてきたのは建前であり、本当の目的はイレギュラーであるメルツェルの排除だったそうだ。

 

ふと、私はルベンリ防衛戦でのメルツェルとの最後の通信を思い出した。

 

《オッツダルヴァ、無事か?》

 

《大丈夫だ……まだ墜とされはせん!》

 

《ヴァオー、お前も無事か?》

 

《ハッハー!!まだまだ行けるぜ!メルツェェェェェェェル!!!!》

 

《単純バカが……死んで治るものでもあるまい》

 

あの無線の時、メルツェルの声からは違和感が感じ取られた。

 

何時も冷静沈着だった彼の声に僅かだが焦りが含まれていたからだ。

 

《そちらこそ無事なのか?メルツェル》

 

《……いや……特に問題は無い》

 

突然間を置いて喋り出すメルツェルに疑問を抱いた私は今どんな状況なのかを聞いた。

すると帰ってきた答えはおかしかった。

 

《……っ!オッツダルヴァ!私はこれより戦域を離脱し、南西へと向かう!だが決して着いて来るな!》

 

《どういう事だ? それに今どこにいるんだ?先程からお前の姿が見えないのだが》

 

更に疑問を投げ掛けた瞬間、突然金属が弾け、ガラスが割れる音と共にメルツェルの呻き声が聴こえてきた。

 

《うっ!グゥゥ!!》

 

《!?メルツェル!?何があったメルツェル!?》

 

あの後、結局メルツェルが無線に応じる事は無かった。

 

ルベンリも企業連に占領され、行き場を失った我々はイルンエバの強制収容所へと送られた。

 

『あっちの』メルツェルも無線で言っていたのと同じ南西にいたが、恐らくまぐれだろう。

 

飲食店の時は周りの雰囲気に流されてしまっただけだ。

 

そう思いながらしっかりと固定されたハンドルを協力してくれる空賊団、『ローテファーネ』の基地の方向にハンドルを回す。

 

そういえば……あの無線の時、死神部隊が半数位に減っていたような……。

 

頭の中で一つの可能性が生まれようとしていると突然、側面の防護機銃を任せていたヴァオーから声が上がった。

 

 

「敵機だ!10時の方向から5機来てる!」

 

「来たか……!」

 

コックピットから左方向を見ると、確かに何かが複数太陽光を反射して光っているのが見えた。

 

ヴァオーは空戦の才能があるだけでなく、視力がとても高い。

 

彼曰く、真昼に星が見えるレベルだそうだ。

 

こういう時でもヴァオーの鷹の目は役に立つ物だ。

 

「来るぞ!」

 

敵機の接近と共にヴァオーが叫ぶ。

 

刹那、敵機の銃声と此方の防護機銃の銃声が重なり、それと同時にMe-264の機体側面に複数の風穴が開き、敵機の射線に入っていたヴァオーの右頬を7.7mm弾が掠め、右足にはモロに命中し、貫通していた。

 

「くっ……そ!」

 

「無事かヴァオー!?」

 

「こんなんで死んでたまるかってんだぁぁ!」

 

傷をものともせずに右足の銃創を左手で抑えながら右側の防衛機銃のグリップを持った。

 

MG-131の対空照準器の中に敵機、『スピットファイアMk.Ⅰa』を捉え、偏差を付けつつ引き金を引く。

 

小銃とは比べ物にならない銃声と共に吐き出される13mm弾はヴァオーの狙い通りにスピットファイアを捉え、右主翼に数発命中した。

 

「よし!当たった!」

 

右主翼から燃料を噴出しながら逃げ去っていくスピットファイアを後目に今度は後方の銃座に着く。

 

上からけたたましい銃声が聴こえる。

オールドキングもヴァオーと同じように応戦しているのだろう。

 

未だ大した損傷を負っていない機体に少々油断していたのは不味かった。

 

「……つ!?オッツダルヴァ!!10時方向から更に敵機!また五機のスピットファイアだ!!」

 

オールドキングからの叫び声を聴いてすぐさまコックピットから外を見ると、スピットファイアが既に互いの機種が分かる程にまで接近してきていた。

 

クソっ……護衛の戦闘機でもいてくれれば良かったのだが……!

 

そんな事を考える暇もなくコックピットに7.7mm弾が降りかかる。

 

「グッ!!」

 

銃弾があちらこちらに着弾し、キャノピーを粉々に割り、コックピットをほんの一瞬だが荒らし尽くした。

 

キャノピーから出たガラス片が身体のあちこちに突き刺さり、それどころか左脇腹を7.7mm弾が貫通しており、作業服が血で赤く染まってきた。

 

「オッツダルヴァ!!」

 

オールドキングの声に反応すら出来ず、朦朧とする中で私はそれでも尚、ハンドルを手放す事は決して無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




流石にイジツに行くまでか遅すぎるのでローテファーネと主人公が会うことが出来たら、そこから何とかしてイジツへ向かうところまでストーリーをすっ飛ばそうと思っています。

リクエスト募集中
登場して欲しいACキャラとそのキャラが搭乗する戦闘機を募集しています。
マイナーな戦闘機とか計画、試作だけで終わった物でも構いませんよ!(ただし、キャラに関しては作者の知識不足のせいで搭乗出来ない場合もあります)


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クロスオーバー

〜メルツェルside〜

 

うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!

死んでたまるかァァァァァ!!

 

「グッ!」

 

飛行場から飛び立った俺はオッツダルヴァ達の乗るMe-264に追い付いたと思ったら何故かスピットファイアの群れに襲われていた。

 

チクショーッ!!

こちとら一機しかいないんだぞ! 空気読みやがれよ!!

 

スピットファイアの銃撃を横旋回で必死に躱しながらこの現状を打開する策を必死に頭から捻り出そうとするが、敵との交戦自体がそもそも想定外だったので何一つ思い付かない。

 

そうこうしている内に一機のスピットファイアが此方の後ろに付き、照準を合わせた。

 

「クッソォォォ!!」

 

空戦などゲームでしか経験したことの無い彼は『あのゲーム』での操作を思い出し、出来る限りの操作をヤケクソに行った。

 

その瞬間、視界が突然真上を向き、ほんの一瞬だが静止した。

 

「……へ?」

 

大仰角を向いた機首は直ぐに正面を向き、目の前には先程まで此方を追っていた筈のスピットファイアがいた。

 

な、なんか知らねえけど貰ったァ!!

 

スピットファイアに照準を合わせ、機首の7.92mm機銃と20mm機関砲の弾を浴びせる。

 

20mmモーターカノンから放たれた砲弾は見事にスピットファイアの左主翼を抉り、根元からへし折った。

 

折れた翼の断面から火を噴きながら落ちていくスピットファイアを一瞥し、もう一度後ろを確認する。

 

「うわ……」

 

後ろを見てみればまだ何機ものスピットファイアが追ってきていた。

 

だが、Me-264の防護機銃が上手いこと敵機を妨害してくれているので、撃ってくることは無い。

 

「助かる……!」

 

誰があの防護機銃を撃っているかは分からないが、取り敢えず感謝の言葉を述べつつ操縦桿を強く握る。

 

しかし俺は今更自分が圧倒的不利な状況であるかに気付く。

 

……これ打つ手なくね?

 

防護機銃の援護も何時まで続くか分からない。

そして何より敵機の数が多過ぎる…………修正が必要だ……。

 

半ば諦めムードに入りかけていた俺の耳に、突然銃声が響いた。

 

防護機銃の物ではなかったので敵機が撃ってきたのかと思い、後ろを見てみると、そこには炎上しながら墜ちていく複数のスピットファイア。

 

それと…………スピットファイアを撃ち落としたのだと思われる五機の『La-5』がいた。

 

五機のLa-5は速度を上げて此方に接近し、横に並んだ。

 

彼等の機体の両主翼と胴体側面に描かれた『赤い旗』のエンブレムを見つめていると、無線機から声が聞こてえてきた。

 

《ここにはMe-264しか来ないって話だったっすけど……アンタは何者なんすか?》

 

何だか聞き覚えのある声だな……。

 

「成り行きで護衛を務めただけだ。 少なくとも敵ではない」

 

《護衛っすか……》

 

まさかこの人って……!

 

「失礼だが……名前を聞いてもいいか?」

 

そう聞くと、数秒の間を置いて編隊の先頭にいたLa-5がバンクを振ると同時に返答が帰って来た。

 

《レイ・ドミネイト……皆からはRDって呼ばれてるっす》

 

……ワァオ……。




今回は短めの話になってしまったっっ!!
しかもこの後はイジツ編まで話すっ飛ばすから余計に短くなる可能性がある……!

あとACV系列のキャラで一番好きなのはRDです(隙あらば自分語り)


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赤へと集え

ここから日記形式で一気に話をすっ飛ばしていきます。


〈○月✕日〉

 

敵編隊との戦闘の末に辿り着いたのは、辺鄙な場所にポツリと建っている貧乏なのが見て分かる飛行場であった。

 

そこを根城としている空賊団、『ローテファーネ』には正式なリーダーが不在であり、RDことレイ・ドミネイトが仮の指揮官として九人の仲間達と共に戦場に出ていたそうだ。

 

因みに姐さんこと『ロザリイ』は元パイロットであったが、過去の戦闘で左目と左足を失ってからはローテファーネ唯一の料理人として厨房でその腕を振るっているのだとか。

 

RDはやはり原作通りロザリイには頭が上がらないようだ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

〈○月✕日〉

 

ローテファーネに予め入団する事が決まっていたオッツダルヴァ達は、共にやってきた俺をどうするかRDと話し合った後、腕を買われて仲間入りを果たす事となった。

 

それと食堂で今日から仲間となるパイロット達からある話を聞いた。

 

何でも近々大規模な計画を実行するらしく、その為になんと企業連の飛行船を盗むそうだ。

 

作戦内容によるとその飛行船は、夜間に大量の物資と航空機等を運んで丁度ここに近いルートを通る為、一番近づいてきたタイミングでレーダーによる探知を回避しながら接近、護衛戦闘機を無力化し、双発輸送機で飛行船内のカタパルトを通って格納庫に乗り込み、素早く船内を制圧した後、そこからいきなり計画実行に移るというアクション映画さながらの作戦だった。

 

今度はその『計画』について聞こうとしたが、その時には仲間達は既に酔い潰れてしまっていた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

〈○月✕日〉

 

あの仲間……『ダン・モロ』(またもやACキャラ)が話していた計画を今度はRDからまた聞かされた。

 

既にダンから聞いたと言ったらRDは「ウチの情報管理は杜撰っすね……」と呆れ顔で呟いていた。

 

しかし、あの日には聞けなかった計画についてはちゃんと聞くことが出来た。

 

RDが地図を広げて指さした場所は、何の島も何も描かれていない白紙の状態だった。

 

これは何だと聞くと、RDは指さした場所について話した。

 

何でも、未だ誰も辿り着くことの出来ていない未知の領域なんだとか。

 

その大陸は海が何故か干上がった事によって出来た土地と考えられており、船で行こうにも近付くにつれて水位は下がり、海底の岩などが露出しており、座礁や激突の危険があるので行く事は出来ず、航空機では距離の遠さのせいで辿り着くことが出来ても燃料不足で帰る事が出来ないし、そもそも他の勢力圏の空域を侵犯してしまうので只の航空機では無理な話だ。

 

但し、飛行船は別だ。

 

飛行船……しかも企業連が作った軍用の飛行船ともなれば、圧倒的積載量で燃料も物資も持つし夥しい数の対空火器は敵編隊を一瞬にしてスクラップへと加工する。

 

まぁ、逆に言えばそれを盗む時のリスクは計り知れない物だが。

 

それとRDによればその大陸は嘗てとある爆撃機乗りが撃墜覚悟で飛び、撮影した大陸の写真が赤茶けた荒野だった事からこう呼ばれている。

 

『レッドランド』と。

 




よーし!次からイジツへ行くぞ!!

空賊団とか企業、ミグラントの勢力圏だらけって話だが……

最新型の飛行船が負ける訳ねえだろ!!いくぞぉぉおおおおおおおおおおああああ!!!!!!


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フライングフォートレス

〜RDside〜

 

とうとう計画実行の日がやって来た。

飛行場では何機もの戦闘機、攻撃機が出撃準備を終えて待機している。

 

この前来てくれた三人は全員あの最精鋭と言われていたリリアナに所属していたと言うので有難い。

 

しかし気になるのは四人目の、『メルツェル』という男だ。

 

俺は間近であの人の戦闘を見ていたがとても素人の成せる業ではなかった。

 

とんでもない機動で追ってくるスピットファイアの群れをたった一機で翻弄し、Me-264の防護機銃の射線に上手く誘導していた。

 

仕舞いには機体を大仰角を向かせたまま静止し、そのまま復帰するというコブラ機動までしてしまった。

 

コブラ機動なんてレシプロ戦闘機には絶対に不可能な戦闘機動の筈なのだ。

 

あんなに急減速してしまえば復帰は困難になり、復帰出来たとしても失速で敵機なんか追えない。

 

そもそも機体の強度が持たずに空中分解する恐れだってあるのだ。

 

だがメルツェルはそれをいとも容易くやってのけた。

 

メルツェル……まさか本物なのか……?

 

作戦開始前だって他の仲間が緊張に包まれている中、たった一人だけ煙草を吸い、紫煙を吐きながら寛いでいた程だ。

 

あの人を見ていると俺の中である考えが浮かぶ。

 

あの人……メルツェルだったら俺達のリーダーが務まるんじゃないかって……。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

〜メルツェルside〜

〈現時刻PM13:43 4000メートル上空〉

 

はいどうも(謎の挨拶)

 

現在俺達は八機の戦闘機と一機の輸送機で編隊を組んで企業連の飛行船がいる空域まで接近中。

 

編成はRD達ローテファーネのベテランパイロットが乗るLa-5五機、後はI-16(RS-82無誘導ロケット弾六発搭載)が三機だ。

 

俺とオッツダルヴァ、ヴァオーはI-16に搭乗している。

 

ついでにオールドキングは空賊団にいたとはいえ、陸戦部隊所属で航空機の操縦経験が無いので船内を制圧する部隊として輸送機、Ju-52の中にいる。

 

I-16って良いよね。

 

カッコイイし、旋回性能良いし、機銃の火力が高い上にロケット積めるから対地攻撃まで出来ちゃうという素晴らしい兵器だ。

 

自分が今その名機に乗っているという事実に頬を緩ませているとRDから通信が入った。

 

《飛行船を発見!このまま突入してもレーダー波に捕捉されてしまうから後方下部へと回り込もう》

 

《とうとうお出ましか……》

 

ん?どこにいるんだ?

 

辺りに目を凝らしてもそれっぽい影は見受けられない。

 

俺が見えてないだけなのか……?

 

《各機、着いてきて。 なるべく大回りに雲の中を通りながら》

 

言われた通りに雲の中に突っ込み、RDの後を追い続けているかやはりそれらしき物は見当たらない。

 

しきりに外を見つめていると、ふと何かの音が聴こえた。

 

俺達のエンジンの稼働音とは違うかなり大きな轟音。

 

それと合わせて左どなりの雲の隙間から黒い何かがチラついていた。

 

《高度を下げて……もうすぐ回り込める……!》

 

緊張の混じったRDの指示に従いながら高度を少しずつ下げていく。

 

するとRDの機体が左旋回をして雲から抜け出したので俺達もそれに従って雲から抜け出す。

 

そこで見た光景……俺は一生忘れることは無いだろう。

 

"私"は……空の上で、『要塞』を見た。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 




感想は良い……私にはそれが必要だ……。


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ブッ壊れた人形

またもや更新が大幅に遅れてしまった……。


〜レイ・ドミネイトside〜

 

ここはローテファーネの基地周辺の空域。

 

そこには五機の戦闘機と一機の輸送機、そして……

 

巨大な城がそこにはあった。

 

「ゆっくり近付いて……レーダー波に引っ掛からないように……」

 

その飛行船のレーダーの死角である後方下部。

 

そこを五機と一機で密集しながら接近していたのだが、おかしな事が起きていた。

 

《護衛機が一機もいない……こんな事が有り得るのか……?》

 

オッツダルヴァの言葉に俺も同じく同意した。

 

飛行船の周辺には戦闘機一機飛んでおらず、またカタパルトから離陸する気配も感じられない。

 

まるで『どうぞ入ってください』とでも言っているかのようだ。

 

攻撃など受けないと慢心しているのか若しくは寧ろ盛大に歓迎でもしてくれるのか。

 

《横から入れそうな場所は無さそうだ。 レーダーには映るが上から侵入する》

 

「分かった、だけど対空砲には気を付けて。 飛んでる以上、人はいるはずっすから」

 

無線を交わしつつ輸送機は死角から外れ、飛行船の上部へと高度を上げた。

 

《あった!ハッチが上部にあるぞ》

 

どうやらビンゴだったようだ。

 

《今から兵士を降下させる》

 

「分かった、幸運を《おい、不明機、十二時の方向だ》」

 

幸運を祈ると言おうとしたらメルツェルの声に遮られてしまった。

 

少し不機嫌になったが今は大事な作戦中なので取り敢えず前方を見る。

 

するとそこには月明かりに照らされた一機の航空機がいた。

 

だが、その航空機は今までに見た事の無い形状をしている。

 

《なんだありゃあ……かなりでけえな》

 

《面妖な……》

 

《しかも速い!こっちに突っ込んでくるぞ!》

 

不明機はとんでもないスピードで俺達に向かって突っ込んでくる。

 

機種が不明な以上、どんな性能や兵器を持っているか分からない。

 

ここは回避するべきだ。

 

「全機、ブレイク!」

 

五機はそれぞれ左右に機体を回し、急旋回で回避を試みる。

 

そして五機が数秒前までいた所を不明機が爆音と共に通り過ぎだ。

 

通り過ぎるほんの僅かな瞬間、俺は不明機の姿を見た。

 

美しいと言わざるを得ない見事な流線形の機体形状。

 

かなり前向きに配置されているコックピット。

 

両主翼の下に装備しているロケットのような武装。

 

そして、レシプロ機特有のプロペラは無く、代わりに後ろへ向かって火を噴く二つの穴があった。

 

この機体形状、俺には聞き覚えがあった。

 

最近、一部の勢力で試験的に運用されているという新世代戦闘機。

 

「ジェット……戦闘機!?」

 

そう呟いた時、無線機からあのジェット戦闘機のパイロットと思われる声が聴こえてきた。

 

〈やっと来たか……『ダークレイヴン』。 まっ、やるんなら本気でやろうかぁ? その方が楽しいだろ!ギャハハハハ!!〉

 

その狂ったような笑いに俺達は戦慄した。

 

〜メルツェルside〜

 

アイエエエエエ!?主任!?主任ナンデ!?

 

勘弁してくれ!主任が来るなんて聞いてねえぜそんなの!

 

しかも乗ってる機体明らかに時代錯誤だろ!?

 

こんなレシプロ機如きが『Su-27 フランカー』なんかに勝てる訳無いだろ!いい加減にしろ!!

 

しかも台詞からして俺ら殺す気マンマンじゃねえか!!

 

黒い鳥来てくれ!!主任が暴れてるぞ!!

 

〈んじゃ、こっちから行かせてもらうね!ダークレイヴン!見せてみな、お前の力を!!〉

 

さっきからダークレイヴンとか言ってるけど誰の事なんですかね……?

 

ダークレイヴンって黒い鳥の事か?

だとしたらここにはそんな奴いないが……(出来ればいて欲しかった)

 

ってうおっ!? こっち来たァァ!!

 

後方から食い付いてきたフランカーを振り切ろうと必死に旋回を行うが、一向に離れてくれる気配は無い。

 

あのような旋回を行えば下手すればGに耐えられずに気絶する。

 

にも関わらず主任は急旋回を繰り返しながら追い掛けてくる。

 

ここで俺の脳内に一つの可能性が生まれた。

 

まさかとは思っていたが……主任はここでもAIなのか!?

 

明らかに人間業ではない機動。

それを繰り返し行える時点で少なくとも人は辞めているだろう。

 

それに主任は原作でもAIだったのでここでも同じになるという事も考えられる。

 

面倒な事になったな……。

 

俺は面倒が嫌いだと言っただろう。

 

……同じ速水ボイスだからってスティンガーの物真似をしている場合では無いな……。

 

そう思いながら後方を見ようとすると変な音が聞こえる事に気付いた。

 

なんだ……この甲高い音……?

 

いや、前世のシュミレーターゲームで聞いた事のある音だ。

 

確か……これってミサイルが飛んでる音……。

 

………………やっべ。

 

そう思った時にはフランカーの放った赤外線誘導ミサイルはI-16のすぐ後ろにまで迫って来ていた。

 

ウワアアアアアアア!!マアアアアア!!

 

パニックになった俺は操縦桿を勢いよく前に倒し、地面に向かってダイブした。

 

風切り音が大きくなり、僅かばかりか機体がかなり軋んでいるような気がする。

 

ミサイルは未だに此方の後を追ってきている。

 

あのミサイルの追尾性能おかしいだろ!?

 

絶対AC産のミサイル使ってますねクォレハ……。

 

高度は三桁を切り、機体が対気速度の限界に達し、悲鳴を上げる。

 

あかんこれじゃ機体が死ぬぅ!

 

内心ふざけながらも両手で操縦桿を引き起こす。

 

機体がおかしな音を立て始め、空中分解するかと思われたが、なんとか機体を水平に持っていく事が出来た。

 

ミサイルは何か知らんけど勝手に地面に突っ込んで爆発した。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

〜オッツダルヴァside〜

 

敵のジェット戦闘機がメルツェルに向かってミサイルを放ったのを視認し、冷や汗が頬を伝った。

 

『ミサイル』

 

私も聞いた事がない訳では無い。

噂では過去に『AIM-9 サイドワインダー』を搭載したF6Fヘルキャットが実戦に参加していたらしい。

 

しかし、私とて実物を見るのは初めてだ。

どのような性能を持っているのかは分からない。

 

冷や汗を流しながらメルツェルの行動を見張っていると、メルツェルの駆るI-16は突然急降下し、地面へダイブした。

 

あの男……何をする気だ!?

 

軽戦闘機であるI-16があんな急降下に耐えられるはずもない。

今頃機体が悲鳴を上げていることだろう。

 

徐々にスピードは増していき、ミサイルもその後を追い続ける。

 

あともう少しで地面と激突すると言った所で、I-16は機体を起こし、地面スレスレで水平に戻した。

 

その直後、I-16の後方で爆発音。

 

見てみれば先程追ってきていたミサイルが地面に激突し、爆煙を上げていた。

 

この一連の流れでここにいる全員が察した。

 

《まさか……ミサイルを地面に叩き付けたって事すか!?》

 

RDが驚くのも無理は無い。

 

そんな芸当が出来るやつなんてエースパイロット……それもルベンリの守護者に匹敵する位の練度を持ち合わせている者しかいないだろう。

 

ここで疑念が確信へと変わった。

 

あの戦闘機のパイロットはメルツェルを『ダークレイヴン』と呼んでいた。

 

あんな戦闘機に乗る時点で只者ではない。

そんな奴とメルツェルが関わりを持っているのであれば、人を間違える筈も無いのだ。

 

やはり……彼は本物のダークレイヴンだったのか……。

 

華麗に空を舞う彼の機体を見ながら私は心の中でそう呟いた。

 




登場するACキャラとその搭乗機を募集中!
搭乗機は試作だろうが史実に存在しない変態カスタマイズ仕様でもいいぞ!(例で言うなら三式戦闘機にターボプロップエンジン&二重反転プロペラ搭載)

まだまだ書けるぜ!メルツェェェェル!!


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小鳥は鴉を運ぶ

〜メルツェルside〜

 

未だ続けられる主任(搭乗機Su-27 フランカー)との激しいドッグファイト。

 

互いの位置が前後に何度も入れ替わり、その都度主任の機銃から銃弾が放たれるがまだ俺に当たることは無い。

 

他の僚機も助けに来てくれてはいるが、正直フランカーの性能を前にして何も出来ていないのが現状だ。

 

幸いな事はフランカーの方が何故か此方の速度に合わせてくれているという所か。

 

兎に角俺はどこかしらで先手を打たなければと内心焦っていた。

 

そしてその時はやって来た。

 

見事なコブラ機動で俺にオーバーシュートを起こさせた。

 

位置が此方の後ろに変わり、失速から復帰したフランカーは機首の30mm機関砲の照準を合わせる。

 

クソっ!

 

どうするよこれ!?

 

まず一射目。

 

ドドドッ!!というまるで工事現場のドリルのような音と共に銃弾がキャノピーのすぐそばを通り過ぎ、それにビビりながらも間一髪で被弾は回避した。

 

あぁもうどうにでもなりやがれ!!!!

 

遂にヤケクソなった俺は直感だけを頼りにラダーペダルを踏んづけ、その次に操縦桿を思い切り横に倒す。

 

突然の浮遊感。

 

揺れ動き、上下が反転する視界。

 

気が付けば、後ろにいたフランカーはいつの間にか目の前にいた。

 

フランカーは突然の事に対応が遅れているのか回避機動は取っていない。

 

その好機を決して逃す事は無かった。

 

「…死ね……!」

 

速水ボイスで悪態をつくと同時に主翼下のロケットを六発全弾発射した。

 

それと一緒に7.62mmの銃弾も浴びせる。

 

爆炎で何も見えないが、手応えは確かにあった。

 

墜した。

 

そう思い、慢心した俺はこの後の出来事に自分の先程の行動を後悔する事となった。

 

なっ何だぁっ!?

 

黒煙を唐突に上げ出すエンジン。

 

かなり酷い損傷を負っているのが見て分かる。

 

原因など、少し考えれば直ぐに分かる事だった。

 

やっちまったァァァァ!!!

 

ゼロ距離ロケットで自爆とか勘弁してくれ!!!

 

そう、先程のゼロ距離ロケットによってロケットの破片を浴びたI-16はエンジンに致命的な損傷を負い、満身創痍な状態であるのだ。

 

計器を見ると、エンジンの回転数が徐々に下がって来ているのが分かる。

 

もう音からしてエンジンが停止するのは時間の問題だった。

 

どっどうすんだよこれ!?

 

不時着するか!?

 

あっいや、それは不味い!!

 

ここで不時着かパラシュートで脱出なりすれば確かに命は助かるかもしれない。

 

だがそれだけである。

 

荒野のド真ん中でたった一人で救助が来るまで生き残り続けられる自信などある訳ない。

 

そう考えている間にもエンジンは停止しようとしている。

 

どっかに着陸できる場所…………あった!!

 

着陸出来て尚且つ救助してもらえる場所。

 

それは飛行船のカタパルトだった。

 

そうと来たら動かずにはいられない。

 

急いで操縦桿を横に倒し、飛行船に接近する。

 

目指すは船体前部にあるカタパルトの入口。

 

途中で失速を起こさないように緩降下しながら最短ルートで船体前部へ回りこむ。

 

よし……行ける……行けるぞぉ!!

 

前部に到達し、やや大回りに左旋回。

 

次第にカタパルトの入口が見えてくる。

 

あと少し……あと少しだ……!

 

カタパルトへの着陸準備を整え、ランディングギアを展開しつつ機首を少しずつ下げている最中、とうとうエンジンの音が止んだ。

 

《おい!エンジンが停止したぞ!》

 

《大丈夫なのかよそれ!?》

 

オッツダルヴァとヴァオーが心配の言葉を投げ掛けてくれている。

 

嬉しい(小並感)

 

「まぁ……失敗したその時には、『私』が死ぬだけの話だ」

 

《なっ……!?》

 

あかん、緊張で声が震えてしまう……。

 

これじゃ折角の決め台詞が台無しじゃないか!

 

どうでもいい事を頭の中で考えながら速度を落としつつカタパルトへ接近するが、あることに気付く……否、気付いてしまった。

 

あれ?これ距離届かなくね?

 

どんどん下がっていく高度。

 

この下がり方でカタパルトに到達してしまえば不時着どころか下手すれば正面衝突して木っ端微塵だ。

 

………………………………マズイ……。

 

そうこうしている内にもカタパルトとの距離は縮み、高度はどんどん下がって来ている。

 

…………まるか…………たまるか……。

 

心の中で『何か』の導火線に火がついた。

 

その火は導火線を伝い、たちまち何かへと引火し、爆発する。

 

それ即ち…………生存本能ッッ!!!

 

死んでたまるかァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!

 

それはあまりにも神がかったタイミングであった。

 

カタパルトと接触する僅か数秒前、俺は操縦桿を思い切り引き起こし、機首を全力で上へ上へと上げた。

 

その結果、なんと機体の前部分が奇跡的にカタパルトの端っこに乗ったのだ!!!

 

だが後輪の方は乗っかっていないので、ズルズルと音を立てながら機体は墜ちようとする。

 

しかし!俺にとってはその残された数秒で充分だった!!

 

シートベルトを引きちぎるように外し、コックピットから飛び出した俺はそのまま機首を伝い、機体がずり落ちる直前でカタパルトへ向かって飛んだ!!

 

距離は充分近い。

 

思い切り飛んだ俺ははるか数千メートル下の地上へ落ちること無くカタパルトへ着地した。

 

ずり落ちたI-16は木の葉のように舞いながら墜ちていった。

 

やった……やったぞぉぉぉぉぉ!!!

 

FOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




またもや更新が大幅に遅れてしまったッッ!!!

ついでにACキャラ&その搭乗機募集中!!
感想にて頼む!


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鯱の誕生

〜ダン・モロside〜

 

俺達は今、飛行船の中をクリアリングしながら進んでいる。

 

飛行船が飛んでいるということは人がいるのは確実。

 

いつ、どこで遭遇し、交戦するのか分からないこの状況で俺の手は僅か…………いやかなり震えていた。

 

「くそ……来るならさっさと来てくれよ……」

 

ボソボソと呟きながら短機関銃、『PPSh-41』の銃口をあちこちに振り回しながら目を泳がせつつ索敵を行う。

 

最近来たばかりのオールドキング以外は皆呆れ顔で『またか』と俺を見ている。

 

嫌な視線を無視しながら『こういう時ほど肩透かしさ』と心の中で自分に言い聞かせつつ更に歩みを進める。

 

暫く歩いてから俺達全員が異変に気付いた。

 

「妙だ……飛行中の飛行船がもぬけの殻など有り得ない……」

 

部隊の指揮を執っていた強面の男、ポール・オブライエン(いつも哨戒任務にしか出てこないのと強面で口調も荒々しい事から『警備隊長』という渾名で親しまれている優秀な団員の一人)は顎に手を当てながら銃を肩から下げ、辺りに視線を移した。

 

先程からかなりの時間をクリアリングに費やしており、だだっ広い飛行船の中はそれなりに探し回った筈だ。

 

なのに人っ子一人見つからないというおかしな事態に部隊員全員も疑問を抱かざるを得なかった。

 

「全員脱出したには中は随分と整えられているな」

 

「元よりここに人などいなかった……という可能性もあるか……?」

 

「それは無いだろう」

 

「そ、そうだよな……はは……」

 

ちゃっかり話に加わろうと自分の予想を言ってみたが即座に否定されてしまったので笑って誤魔化しながら黙る。

 

 

 

誰もいない廊下をただひたすら進んで十分位たった頃、俺達はこの飛行船の操舵室の扉の前へと辿り着いた。

 

ポールが扉を蹴破ったと同時に俺たち四人が操舵室の中に突入し、瞬時に周りに敵がいないかクリアリングする。

 

「クリア」

 

やっぱり操舵室ももぬけの殻。

 

しかし本来操舵輪があるべき場所に何やら見た事の無い機械が設置されていた。

 

近付いてよく見てみると何かを挿し込む穴が一つだけあった。

 

もっとよく見ようとしゃがみこむと、足元に何かが落ちているのが見えた。

 

その長方形の何かを拾い上げ、観察してみる。

 

形状は直方体、これも何かしらの機械のようだ。

 

ふと目の前の機械と手に持っている機械を交互に見てみる。

 

あれ、これってあの機械に挿せるのか?

 

手に持ったそれの先端はあの機械の穴にピッタリ収まる形をしている。

 

それに興味を持ってしまった俺はそれを機械の穴の中に挿し込んだ。

 

な、何が起こるんだ……?

 

楽しみ半分ビビり半分といった感情で何が起こるか待つ。

 

その数秒後、突然機械から大音量で誰かの声が流れた。

 

〈不明なユニットが接続されました〉

 

〈システムに深刻な障害が発生しています〉

 

〈直ちに使用を停止して下さい〉

 

「うわぁっ!?」

 

思いの外音が大き過ぎて俺は思わず情けない悲鳴を上げて腰を抜かしてしまった。

 

「うおっ!?」

 

「な、何が起こった!?」

 

「これは……」

 

突然の大音量に皆驚いて音の発生源である謎の機械を見ている。

 

あとメルツェル、お前ちゃっかり後ろで驚いてるけどいつの間にここに来たんだ!?

 

 

〜メルツェルside〜

 

操舵室がやたら騒がしかったから来てみたけれど……何が起きてんのこれ?

 

ダンは腰抜かしてるし謎の機械は不明なユニット接続されてるしカオスだ。

 

「あぁ……何が起きた?」

 

声を掛けると五人は一斉にこちらを向き、驚いたような顔をした。

 

「メルツェル!?お前どうやってここに……」

 

「少しここのカタパルトを借りただけだ」

 

オールドキングの問に適当に答え、目の前の謎の機械に目をやる。

 

ダンを通り過ぎて機械をまじまじと見つめていると、今度は別の声が聴こえてきた。

 

〈見てたよダークレイヴン〜。 なかなかやるじゃない? ちょぉ〜っと時間掛かったけどねぇ。 ギャハハハ!〉

 

またもやあの聞き覚えのある声。

 

主任!貴様何をする気だ!?

 

〈いやいやぁ〜ちょっとお手伝いをNE☆!〉

 

こいつ……心を読みやがった!?

 

大丈夫だよな……?

 

どっかから主任砲撃ち込まれたりしないよな?

 

そんな考えも杞憂に終わり、話は普通に進んでいく。

 

「……つまり、この飛行船は全てお前が制御してるということか? 主任」

 

〈そういうこと〉

 

主任曰く、この飛行船の操舵装置、動力、電気、武装等、全てのシステムをたった一人(?)で管理しているらしい。

 

「道理でもぬけの殻だった訳だ。」

 

オールドキングは納得したが、警備隊長ことポール・オブライエンはまだ疑問がある残っているようだ。

 

「だとしたら、お前は一体何者なんだ? どう見ても人ではあるまい。 それとも本体はどこか遠くにでもいるのか?」

 

〈う〜ん、人でないのは正解だね。 固有名称で言うなら、人工知能、即ちAI〉

 

うん、知ってた。

 

〈人工……知能……?〉

 

聞き慣れない単語にダンは首を傾げている。

 

無理もない。

 

そんな技術がこの世界に普及してるとは思えないからな。

 

〈まっ、人の人格や知能を人工的に作ったって認識でいいよ!〉

 

「そんな物が存在するというのか……」

 

AI作るとかこの世界の企業連すげえなおい。

 

まあでもこんな馬鹿でかい飛行船動かせるんだから有り得るっちゃ有り得るのか……?

 

〈あぁそれと、格納庫にダークレイヴン……メルツェルへのプレゼントがあるんだ〉

 

「俺にプレゼント?」

 

どうやらダークレイヴンというのは俺だったらしい。

 

残念だが俺は黒い鳥じゃないぞ。

 

〈プレゼント、気に入ってくれると良いけど……〉

 

これが……日常の終わりであり、我々『ORCA飛行隊』の始まりでもあった。

 

この先にあるのが何なのか、未だ誰も知ることは無かった。

 

 

 

 




次回、とある荒野のコトブキ飛行隊キャラと出会います!

ヒント、『この物語の時間軸は荒野のコトブキ飛行隊の最終話が終了した直後です』


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出会いと気付き、そして歓喜

〜???side〜

 

盛大に揺れまくる視界の中で、僕は目覚めた。

 

朦朧とする意識の中で、自分は今愛機のコックピットの中にいると分かった。

 

制御を失った機体はスピン状態に陥っており、木の葉のようにクルクルと空の上で回り続けている。

 

このままではまずい。

 

僕はこんな所で死ぬわけにはいかない。

 

「ふっ!……くっ!」

 

ラダーペダルと操縦桿を同時に操作し、スピンからの復帰を試みる。

 

スピンによるGで吐き気を催してしまうが、自慢のスーツが汚れてしまう為、何とか堪える。

 

どうやら上手くいったらしく、スピンから見事復帰することができた。

 

しかしスピンから復帰したはいいものの、機体の状況はあまりいいものとは言えなかった。

 

コックピットの後ろにあるエンジンは黒煙を上げ、複数の小さな『弾痕』からは燃料が吹き出ている。

 

こんな状態で飛び続けられる訳が無い。

 

一か八か、僕は脱出を試みる事にした。

 

幸い、キャノピーは歪んだりはしておらず、すんなりと開いた。

 

背中に背負ったパラシュートを開く紐の位置をしっかりと確認し、頭の中で『3……2……1……』と数え、1になった所で意を決して機体から飛び降りた。

 

このままどこか人の住んでいる場所にでも降りられれば良いのだが、どうなるかは分からない。

 

コンパスも地図も無いのでは現在位置の把握など不可能。

 

視界を遮る雲の中で、何とかパラシュートの紐を掴み、思い切り引っ張った。

 

ちょうど雲の下に出たのとパラシュートが開かれたのは同時だった。

 

その光景に僕はただ唖然とするしかなかった。

 

辺り一面に広がる水、水、水。

 

嘗て住んでいた場所にもそれなりの大きさの湖はあったが、これは湖と言うより最早『海』だ。

 

広大な海の水平線を見つめながら僕は独り叫ぶ。

 

「もしかして僕って『穴』の向こうに来ちゃったぁ!?」

 

〜レイ・ドミネイトside〜

 

出発してからかれこれ二週間は経った。

 

現在は水の確保の為に海の上で飛行船を停めている。

 

今も飛行船の下部から伸びたホースが大量の海水を吸い上げている最中だろう。

 

ここ十数日、やる事が無さすぎて皆退屈している。

 

飛行船の対空警戒、火器管制、その他諸々は全て主任がどうにかしているし、敵が襲ってくる事も無い。

 

あまりに退屈だったのでローテファーネのメンバーは食堂にいる姐さんとあの主任からの『プレゼント』に付きっきりなメルツェルを除いて全員魚釣りに行っている。

 

一方自分は自室の中で音楽を鳴らしながら読書に耽っていた。

 

いつの年代か分からないロックが飛行船の中で見つけた綺麗なラジカセから大音量で流れ、それが俺の鼓膜に響く。

 

このまま一日が終わってしまうのではと思っていると、突然自室のドアが何者かによって開かれた。

 

「誰っすか?」

 

ラジカセから流れる音楽を止め、扉の方を見ると、そこにはダンがいた。

 

何やら焦っているようだ。

 

「RD!ちょっとこっち来てくれ!」

 

「どうしたんすか? そんなに焦って」

 

「人!人が海の向こうから流れて来たんだよ!」

 

「……は?」

 

言われた事がよく理解出来なかったが、ダンに促されて仕方なく飛行船の下へ降りた。

 

幾つかの階段を降りて辿り着いたのは飛行船の左側面の出口。

 

出口の前で釣竿と獲物の詰まったバケツを背負ったメンバー全員が誰かを取り囲んでいた。

 

「うぇっっぐじっっ!!!」

 

取り囲まれていた男は余程寒いのか盛大なくしゃみをぶちまけた。

 

よく見ればその男の着ているスーツはびしょ濡れであり、その所為で男は凍えているようだ。

 

「おいおい、大丈夫かよ?」

 

「こ、こ、これが大丈夫に見えると思う……? さ、寒……」

 

彼が鼻水をズルズルと啜りながら震えた声でボソボソと言っていると上の格納庫からメルツェルがやって来た。

 

「やけに騒がしいから来てみれば……一体何が起こって……っ!」

 

メルツェルはこの男を視界に入れた途端、目を見開いて硬直した。

 

この反応からしてメルツェルは彼の事を知っていそうな気がする。

 

でなければ初対面であんな反応はしないだろう。

 

「メルツェル?」

 

不審に思ったオールドキングが話し掛けると、メルツェルはハッとした表情になり、「何でもない、大丈夫だ」と言って彼の元に歩み寄った。

 

「大分凍えている。 今すぐそのびしょ濡れの服を脱がして風呂に入れてやれ。 それと替えの服もだ」

 

どうするべきか分からなかった皆は取り敢えずメルツェルの指示に従う事にした。

 

ガタガタと震える彼に肩を貸し、上にある浴場へと運んでいく。

 

〜メルツェルside〜

 

おいおい……嘘だろ……夢なら醒め(ry

 

何やら下が騒がしかったので来てみたら、そこにいたのは驚くべき人物だった。

 

いきなり話を変えるけど俺は少し前に放送された空戦系アニメ、『荒野のコトブキ飛行隊』を見ていたのだ。

 

兵器に関する知識はにわか程度しかない自称ミリオタだったが、あのアニメにはなかなか惹かれる物があった。

 

ユーハング。 そこに繋がるとされている穴 。 そしてそれを狙うイサオと彼の率いる自由博愛連合。

 

結局色々と分からないことが残ったままアニメは終了してしまったが個人的にはかなり楽しめたアニメだ。

 

一番好きなシーンは自由博愛連合の戦闘機隊との大規模な空戦だな。

 

夥しい数の戦闘機とそれらの間で繰り広げられる空戦に俺は魅せられたものだ。

 

特にイケスカでの戦いで『F-86Kセイバードッグ』が出てきたのは鳥肌が立った程だ。

 

そんな個人的名作なアニメだが、その中で俺が好きなキャラは以外にも『イサオ』だったりする。

 

彼はユーモアに富んだ性格をしており、人を楽しませる才能がある。

 

事実、コトブキ飛行隊との初の対面の時はチカはイサオに対していい印象を抱いていた。

 

だが裏の顔はイジツに時折現れる穴から手に入る利益を独占しようとする悪の指導者。

 

その優れたカリスマ性から味方は多く、事を起こすまでは信頼していた者も多かった事だろう。

 

もし彼がコトブキ飛行隊の味方となっていたらさぞかし頼りがいのある仲間になれるだろう。

 

そんな妄想をしながらアニメをニ○ニ○動画で見返していた時もあった。

 

そしてそんな話をするという事は…………。

 

あの男……どう見ても『イサオ』だ!

 

身に付けていた赤っぽいスーツは間違いなくイサオで間違いない!!

 

ということはだ!

 

つまり!ここは!

 

『荒野のコトブキ飛行隊』の世界って事だァァァ!!!

 

ヒャッホォオオオオオオオオオオオイ!!!

 

やったぞぉぉぉぉぉ!!!

 

つまり俺達が向かってるレッドランドはイジツって訳だ!

 

原作キャラに出会えるぞぉ!

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




登場したキャラはイサオ!

あの穴の中に震電と共に吸い込まれたシーンを今回の話と繋げてみました。


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ワタリガラスの帰還

〜イサオside〜

 

「ふうう〜気持ち良かったぁ〜」

 

風呂から上がった僕は清々しい表情でお気に入りのスーツが乾くまでの間の服として渡された黒のバイカージャケットとグレーのシャツ、ジーンズにブーツを身に付け、風呂場から出る。

 

ずっとスーツしか着てこなかったから知らなかったけど、こういうのもなかなかイケてるね!

 

風呂に入った事によって全快した僕は、風呂場の入口で待っていた彼、メルツェルに会う。

 

「お待たせ!どうどう?僕のこの服装!似合ってるかな?」

 

まるでデートで彼氏に服装の感想を言わせようとする彼女のようにはしゃぎ、服装を見せびらかす。

 

「ふむ……」

 

メルツェルは僕の服装を下から上まで満遍なく見ると、小さく頷き、

 

「まぁ、アリじゃないか」

 

とだけ言った。

 

服装を褒められた事によって少しテンションの上がった僕は間も無く夕食という事で食堂へと案内された。

 

食堂の中は人数は少ないけれど、それでも賑やかさはあった。

 

この飛行船、有り得ない位に大きいんだよね。

 

あの『コトブキ飛行隊』を用心棒として雇っていた飛行船、『羽衣丸』が十隻あっても足りるか足りないか。

 

それ程にこの飛行船は大きい。

 

ここに流れ着いた時、海の上に壁でもあるのかと勘違いした程だ。

 

「おっ来たか!メルツェルと新入り!」

 

どうやらここに人達は僕を快く受け入れてくれるようだ。

 

僕の事を知らないってことはやっぱりここは別の世界なのかな?

 

そんな事を考えていると、メルツェルは食堂のカウンター席に座り、料理を作っていた綺麗な女性に何枚かの貨幣を置くと同時に話し掛けた。

 

「ロザリイ、俺とコイツに魚の素揚げをセットで頼む」

 

彼がそう頼むと彼女は貨幣の枚数を数え、それを終えると笑顔でそれを了承し、料理に取り掛かった。

 

彼女の名前はロザリイか。

 

念の為にここの人達の名前は覚えておこう。

 

料理が出来上がるまでの間、メルツェルと少し話をした。

 

「ねえ、メルツェル」

 

「何だ」

 

「アメリカ、日本。 これらの国家に心当たりはある?」

 

そう聞いて返ってきた答えは驚愕に値する程の有り得ない答えだった。

 

「…………そもそも、この世界に国家と呼べる物は存在していない」

 

「…………………………え?」

 

有り得ない、そんな筈は無い。

 

僕が嘗て取引をしていた所は間違いなくアメリカだ。

 

そんな短期間で国家が消滅する訳が無い。

 

「どういうこ「ほら、料理出来たわよ!」」

 

その事を聞こうとすると、いい匂いがしたと思ったらカウンター席に魚の素揚げと白米、味噌汁の乗ったお盆が二人分置かれていた。

 

「まぁ、料理が来たんだ。 冷める内に食え」

 

話を誤魔化されてしまったような気がするが、ここは大人しく料理に手を付ける事にする。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

〜メルツェルside〜

 

多分このイサオってアニメ最終話の穴の中に吸い込まれた後だよね?

 

という事はここがユーハングのある世界と勘違いしているのだろうか?

 

国家なんてこの世に存在してないけどね。

 

代わりに企業とか傭兵とか空賊とか空賊とか空賊とかならわんさかいるけど。

 

どうしようか……今ここでこの世界について説明するべきだろうか?

 

うーん……どうしようかな?

 

まぁ、後でいいか。

 

説明する時には主任にも協力してもらおう。

 

まだ質問し足りなさそうなイサオを放って食堂を出てそのまま格納庫へ直行。

 

もうそろそろ終わっている筈だ。

 

そう思いながら格納庫の奥にある堅牢な作りの鋼鉄製の扉の前に立つ。

 

暫くすると上にあるスピーカーから主任の声が聴こえてきた。

 

〈おっちょうどいい所に来たねダークレイヴン!今出来上がった所だよ〜!〉

 

こんばんは主任。

 

相変わらずのハイテンションですね。

 

「見せてくれ」

 

〈オーケー!〉

 

鋼鉄製の扉がゆっくりと開き、中の様子が露わになる。

 

そこにあるのは主任からのプレゼント。

 

スレンダーな機体形状とあの震電と同じエンテ型の機体は真っ黒に塗装されており、胴体にはワタリガラスのノーズアートが描かれている。

 

その機体の名は…………。

 

〈『XP-55 アセンダー』、ダークレイヴンの要望通りに改造しておいたよぉ!〉




今回は少々短め。
引き続き登場ACキャラ&搭乗機募集中!

感想だ!我らにはそれが必要だ!!


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契約

〜メルツェルside〜

この飛行船で飛び立ってから多分凡そ1ヶ月位は経ち、イサオもここにだいぶ馴染んできた所だ。

 

戦闘機も全て飛行船の格納庫にあった新品の『P-63 キングコブラ』に機種変更し、慣熟訓練も大方済ませた。

 

敵らしい敵も一向に現れる気配も感じられず、このまま無事にイジツへと辿り着ける……………………………………。

 

《九時の方向!不明機多数と飛行船を一隻確認!! こっちに来ているぞ!》

 

そう思っていた時期が俺にもありました。

 

哨戒飛行をしていたポールからの報告を聴きながらその方向へ双眼鏡を向ける。

 

「こちらに比べると随分と小さい飛行船だな」

 

「いや、俺達のが大き過ぎるだけだろう」

 

俺の独り言を隣にいるオールドキングが即座に否定する。

 

そういや確かに羽衣丸とかもあれぐらいの大きさだったな。

 

………………ってん?

 

双眼鏡越しに目に映ったそれを動きを止めて凝視する。

距離が遠い為、ハッキリとは見えないが、何だか俺にとってとても見覚えのあるエンブレムが飛行船の側面に描かれていた。

 

それから直ぐに主任が何かに気付いたように話しかけて来た。

 

〈ダークレイヴン!あの飛行船から通信が来てますよぉ〜!〉

 

「分かった、繋げてくれ」

 

あちらの方から話し掛けてくれるという事は、相手に話し合いをする意思があるという事だ。

 

此方としてはとても有難い。

 

どうにか交渉決裂して話し合いが話死合いにならないように心の中で祈りながら無線機からの声に耳を傾ける。

 

少々のノイズの後、ハッキリとした声が無線機から流れた。

 

他の隊員は怪訝そうな顔をして声を聴いているが、その中で俺一人だけが声を聞いた瞬間に硬直した。

 

そう、あの声は………………。

 

《お初にお目にかかる。 こちらは『有澤重工』の現社長を務めている……》

 

《『有澤隆文』だ》

━━━━━━━━━━━━━━━

〜レイ・ドミネイトside〜

 

突然のあの『有澤重工』の飛行船からの通信。

応答しない訳にもいかず、仕方なく自分が無線に応じた。

 

「此方は空賊団、ローテファーネの団長、レイ・ドミネイトっす。 要件は何すか?」

 

幾ら相手から話を持ち掛けてきたとしても何をしてくるかは分からない為、警戒しつつ要件を問う。

 

要件を聞いて有澤隆文と名乗る男から返ってきた答えは、協力の要請だった。

 

《我々は『レッドランド』を目指している。 だが複数の勢力の攻撃に耐えられる程我々は強くない》

 

「それで、協力して欲しいって事っすか」

 

《その通りだ、見返りに貴様らの求める物をやる》

 

欲しい物なら幾らでもある。

燃料、弾薬、予備の機体パーツに食料etc.....。

あとそれと人員が致命的に足りない。

 

何を求めようか言い悩んでいるとメルツェルが唐突に口を開いた。

 

「なら……お前達が我々のスポンサーになるというのはどうだ?」

 

「スポンサー……っすか?」

 

『スポンサー』

この言葉を反芻しながらメルツェルの方を見る。

まるでメルツェルはそれが正しいと言わんばかりに確信したような表情をしている。

 

《成程……スポンサーか》

 

「そうだ、我々が前線で戦って有澤重工を宣伝し、その見返りに弾薬、燃料、食料等の物資を提供する……。 私が考えた最善だが、どうだ?」

 

どうするか悩んでいるのか無線の先の相手は黙り込んでいる。

 

確かにスポンサーという関係は自分的にもいい判断だと思う。

俺達が有澤重工を宣伝し、報酬を貰う。

 

お互いにウィン・ウィンの関係だ。

 

後は隆文の答えに掛かっているが……。

 

《良いだろう、その話に乗るとしよう》

 

どうやら、心配は無用だったようだ。

 

〜有澤隆文side〜

 

確かに了承はした。

しかし、まだ疑問が残っている。

 

やけに話がトントン拍子に進み過ぎている。

無線の先の男は我々との協力関係に何故か乗り気だった。

 

ただ何の考えもなしに話に乗った訳ではあるまい。

恐らく、何かを彼は考えているのやもしれん……。

 

そんな私の疑問は次の彼の一言で殆どは解消した。

 

《……そちらの事情も理解している。 その上でこれを提案した》

 

「……!?」

 

なんと……彼は知っていたのか!?

有澤重工の現状を……!?

 

有澤重工は、嘗ては東方の地で名前の通り重工業を営んで来たが、ある時、海外へと進出する話が出た。

 

初めはノリノリで海を渡り、海外で営業を始めたが、費用に対して得られる物が割に合わな過ぎた。

 

オマケに東方にある本社が他企業に襲撃され、壊滅した所為でここから帰れなくなってしまった。

 

いずれ滅ぶ運命ならば、と私が出した提案が未確認大陸、レッドランドへ行く事だった。

 

もしそれが出来れば、我々は起死回生を成す事が出来る。

 

そのような経緯でここまで来たのだが、その前、レッドランドに行こうと決意する前は企業連から無法者等と呼ばれている空賊団の手を借りていたのだ。

 

そうでもしなければならない程に我々は危機に陥っていたのだ。

 

彼はこの事を知っていたというのだろうか?

 

それも気になるが、協力関係を築く以上、名を知らなければならない。

 

「名を聞かせて貰えるか?」

 

その後、返ってきた答えに私は人一倍に絶句した。

 

《メルツェルだ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




▂▅▇█▓▒(’ω’)▒▓█▇▅▂うわあああああああ!!!!
ダラダラしてたら更新全然出来なかったァァァァァァァ!!!!


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上陸

〜レイ・ドミネイトside〜

 

早朝、寝ている所をダンに叩き起され、何事かと船室に来てみると、そこにはローテファーネの面子が揃っていた。

こんな早くに呼び出された理由を聞くと、オッツダルヴァの答えに俺は納得と同時に驚愕した。

 

「ここから近い所に未知の陸地を発見した。 『レッドランド』の状態と一致している」

 

「辿り着いたんだ。 遂にな」

 

━━━━━━━━━━━━━━━

〜???side〜

 

俺達は所謂空賊だ。

正式な名前は『ハルスト航空戦闘団』だ

結構カッコつけた名前はいいのだが、如何せん空賊であるが故に誰かから何か奪わないと生活が出来ないのだ。

 

しかも奪った金品も生活費の為に費やされ、予備の航空機のパーツや燃料、弾薬が不足しちまっている。

オマケに機種がみんなバラバラなせいで連携が取りづらい!

 

俺の愛機だったなんかよくわからんけど威力めっちゃ高い二十ミリ機銃積んだ飛燕はあのクソッタレの『コトブキ』に壊されてスクラップになっちまった!!

 

折角メンバーの練度は高いというのにこれでは航空戦闘団の名が泣いてしまう。

何とかせねば……何とかしたい……。

 

そんなある日の事だった。

 

昼の哨戒飛行に出ていたカイルが何だか凄く慌てた様子で飛行場に戻ってきたので何があったのかを聞いてみたらこんな事を言ったんだ。

 

「ひ、飛行船!!でっかいのとちっさいのが一隻ずつ!!」

 

流石にこれには単独撃墜数78のエースである俺も焦った。

普通空賊相手にそこまでするか!?ってな。

 

とりま大至急で基地から荷物運び出してトンズラする準備を整えてた訳だ。

現れたんだよ遂にソイツが。

 

ちっさい方はよく見る一般的な飛行船だったが、その隣を飛んでいたのは最早常識の範疇に無い大きさをしていた。

軽く空を覆い隠すレベルで大きいソレはちっさい方と一緒に高度を落とし、飛行場のすぐ側の荒地に着陸した。

 

何が来るのかと遮蔽物に隠れ、各々の火器を構えながら飛行船を睨んでいると、出口からタラップが降り、そこから何人かの人が降りてきた。

 

どうやらそいつらは攻撃の意思は無いらしく、トンズラの必要は無くなった。

こんな飛行船を持ってるなんて余程でかい組織だと思ってな、何処の所属か聞いたんだよ。

そしたらそいつら、

 

「ローテファーネ」だって答えたんだ。

 

何だかよく知らないけど空賊団というのは分かった。

話によればローテファーネの連中は遥か遠い地からやってきたんだそうな。

 

そんなこんなで自己紹介が始まった。

 

「レイ・ドミネイトっす」

 

「オッツダルヴァだ」

 

「オールドキングだ。 同じ空賊同士仲良くしようぜ」

 

「ダン・モロだ。 よろしく!」

 

「有澤重工の有澤隆文という者だ」

 

そして最後の策士っぽい顔してる男も名乗った。

 

「ローテファーネのメルツェルだ。 宜しく頼む」

 

何だか変わった名前が多いなと内心思いながら、彼等との関係は始まった。

 

 




さぁさぁ遂に漸くイジツ編突入!!
物語を長引かせすぎたぜ!!


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荒野の鯱

〜メルツェルside〜

 

イジツに来て早々に同業者である空賊団、『ハルスト戦闘航空団』と出会い、今はどうしているかと言うと……。

 

「旅人達に歓迎の意志を込めて、乾杯!!」

 

「「「乾杯!!!」」」

 

来て早々に歓迎パーティが始まった。

どうやら彼等はお仲間が欲しかったらしく、交渉に乗ってあげたら大喜びしてこんな状況に至った。

 

因みに交渉で互いに述べた条件は

 

・俺達の協力を得る代わりに人員、戦力の提供をする。

 

この一つだけだった。

 

有澤重工と続いて今度はハルスト戦闘航空団と、仲間がどんどん増えてきていることに皆喜んでいた。

俺達の旅がこのみすぼらしい飛行場から始まるのだと思うと俺もワクワクしてドキがムネムネしちまうぜ!

 

それとハルスト戦闘航空団の団長はルーダーと言う名前で、急降下爆撃機のエースパイロットなんだとか。

 

〜ルーダーside〜

 

今日は実に運が良かった。

たまたま出くわしたアイツらとトントン拍子に話を進めて条件付きで協力を得る事が出来た。

 

あんなにバカでかい飛行船を持ってるんだ、恐らくあの飛行船みたいに相当デカい組織に違いない。

 

そんな奴らの後ろ盾を得られるんなら大歓迎だ。

 

それにアイツらかなりの数の戦闘機を持ってる。

と、言っても有澤重工とかいう奴らが持ってた局地戦闘機、『雷電』以外は何の戦闘機なのか分からなかったが。

 

こんな感じで大収穫を得られた次の日の事だ。

 

なんとアイツら、余った戦闘機を幾つかくれるらしい!

願ってもない僥倖に内心大はしゃぎだった!

 

デカい方の飛行船から降ろされてきたのは機体が真っ赤に塗られた零戦とはまた違う形をした戦闘機だった。

 

たまたま近くにいたオールドキングに機体名称を聞いてみたら、どうやらその戦闘機の名前は『La-5』という名前らしい。

随分と変わった名前だ。

 

ともかく新しい戦闘機が補充されたのだから補給にあと団員達に慣熟訓練もさせなければならない。

 

〜メルツェルside〜

 

イジツに上陸してから三日経ったある日、俺は皆にある提案をした。

 

それは空賊団の名前を変えるという事だ。

 

俺は是非とも付けたい団名があったから提案してみただけなんだけど皆は案外すんなり話に乗ってくれた。 やったぜ。

 

皆が各々の意見を述べる中、俺はやっぱりこれじゃないと!と思った名前を出した。

 

そしたら皆もそれに賛成してくれて、結果的に団名はそれに変わった。

 

エンブレムは今度にしよう。

 

〜オッツダルヴァside〜

 

とある日、メルツェルが今の団名から新しい名前に変えたいと提案してきた。

 

恐らくただ名前を変えたいのではなく、意図があるものと思われる。

 

現在我々は空賊であり、企業連の立派な敵だ。

オマケに企業連の飛行船を襲撃し、奪ったとまできた。

それも恐らく企業連の主力であろう飛行船を。

 

なので企業連は血眼になって私達を殺しにくるに違いない。

 

だから団名もエンブレムも新しく変えて素性を隠す。

そういう意図があってメルツェルは提案したのだろう。

 

その後、新しい団名に関する話し合いが行われたが、それは思ったよりもかなり早く終わった。

 

メルツェルの出した名前に皆が賛成したからだ。

彼が出した名、それは……。

 

「『ORCA飛行隊』というのはどうだ?」

 



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最悪の邂逅

曰く、遥か大昔に我々の元へ『第二の太陽』が降り立ち、人間を含む全てを焼き尽くしたという。

 

曰く、その日の記憶は第二の太陽によって焼き払われ、それを知る人も今やおらず、人々は何も知らぬまま今という世界を生きているという。

 

曰く、我々は再生を果たし、そして『第三の太陽』を呼び寄せるという。

 

曰く、我々は滅亡の因子であるという。

━━━━━━━━━━━━━━━

草木一本生えることのない果てしなく続く荒野。

その荒野の中には大きな街が一つ、存在した。

 

街はこんな荒野の只中でありながら活気に溢れ、目を凝らしてみれば商業が盛んである事が伺える。

 

市場で店を開いている店主が喧しい声で客を呼び寄せ、街中の飲食店では様々な料理の匂いが混じり合い、行き交う人々の嗅覚を刺激する。

 

この街、『マサイタ』に住む人々、外の街から来た客など、それぞれの目的でやってきた人混みの中に紛れ込んでいる二人の男こそ新たに生まれた空賊団、『ORCA飛行隊』のメンバーである『メルツェル』と、空間上に開いた穴よりやってきたカリスマと空戦技能全振りの男、『イサオ』である。

 

「今頃、オッツダルヴァ達も上手くやってるだろうか」

 

「さぁね、まあ取り敢えずはこの街をまんき……調査しよう!」

 

完全に遊ぶ気マンマンなイサオに半ば呆れつつもメルツェル自身もこの街に来てから娯楽に対する欲が強まってきているのを感じていた。

 

「おっあそこにカジノがあるよ!あそこ行こう!」

 

イサオが指さす先には如何にもVIPな連中が集まりそうな大きなカジノの建物がその存在感をこれでもかと主張している。

 

中身が一般人であるメルツェルには当然、カジノでの遊び方など知っている訳が無い。

 

故にここはイサオに行ってもらうしかない。

 

そう思い、イサオ一人に行ってもらうように話しておく。

 

「そっか〜じゃあ分かった!暫く待っててね!ちょっとばかし大儲けしてくるー!!」

 

自信満々に叫びながら建物の中へと飛び込んでいくイサオの後ろ姿を見て、メルツェルは溜息を一つ、静かに吐く。

 

マサイタに来る前、メルツェルはイサオに対してある事を警戒していた。

イサオを拾った日から考えてみると、荒野のコトブキ飛行隊の方での『イケスカ動乱』からまだそこまで日にちが経っていない。

 

つまり、イサオの顔を知る者がまだ多くいるかもしれないという事を警戒していたのだ。

その事を考えて、イサオにはあの赤っぽいやたら目立つスーツは脱がせてズボンはそのままで白のワイシャツの上から紺色の上着を着せて普通の民間人のように装って貰っている。

 

これでそこまで目立ちはしないと思うが、それでもまだ心配は少しだけ残っている。

 

有り得ない……絶対に有り得ないとは思うのだが、もしここにあのコトブキ飛行隊が来ていて、尚且つイサオの顔を見られたら一発アウトだ。

 

抵抗しなければ自由博愛連合に与したとしてドナドナされてしまうかもしれない。

だからといって抵抗すればイジツのありとあらゆる勢力を敵に回し、下手すれば全面戦争待った無しだ。

人類種の天敵は首輪付きだけで充分だ。

 

「……にしてもおそいなアイツ……」

 

建物の前で待ち続けるがイサオが出てくる気配は微塵も感じられない。

折角の散策を待ち時間だけで使い潰すのは何なのでその場を離れようとした時、ある方向を向いた瞬間にメルツェルの体は硬直した。

 

身体中から冷や汗が流れ、その目は見開かれ、有り得るはずの無かった光景を開いた口も塞げぬまま見続けていた。

 

「この街って思ってたより大きいじゃん!」

 

「こら、あまり走り回るなよ。 人にぶつかる」

 

「マサイタは世界有数の大都市。 主に商業が盛ん」

 

信じなかった。

 

いや、信じたくなかった。

 

目の前にある光景を。

 

「神のいたずらとは正にこういう事か……」

 

「ここってパンケーキ美味しい所あるの!?」

 

メルツェルの絶望に満ちたか細い声は、一人の少女の大声によってかき消されたのだった……。

 

 

 




やっべ、投稿遅れすぎたやっべ。
更新遅れてすみません許して下さい!何でもしますから!!(大嘘)

やっとコトブキ飛行隊メンバーと主人公を会わせる事が出来ました!
今後も多分かなり更新が遅れると思われます。
本当に申し訳ない(MTLMN)


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