愛和創造シンフォギア・ビルド (幻在)
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無印・永遠の巫女編
羽ばたくは剣、創るはビルド!


忠告!作者はシンフォギア初心者です!
まだ無印しか見ていません!
それでもOKな人は見てください!OKじゃなくても見てほしいです!


―――一つの戦いがあった。

 

「―――勝利の法則は決まった!」

 

愛と平和を愛した四人の戦士―――その最後の生き残りは、星を殺す超生物を倒すために最後の力を振り絞る。

 

ボルテックアタックッ!』

 

最期の一撃が、自らの最大の敵に直撃する。

 

「これで最後だッ!」

 

「この俺が滅びるだと・・・!?そんな事があってたまるか!人間如きにぃぃぃいい!!!」

 

星を殺す怪物は、最後まで悲鳴を上げ、されど、愛と平和の為に戦う戦士の前に敗れ去る。

 

 

想いは力と変わり、彼の者の力と成りて、前に進む礎とならん。

 

 

「うぉぉぉぉおおぉぉぉおぁぁぁぁああぁぁぁあああぁああ!!!」

 

 

絶叫する戦士は、ただ一人の相棒の名を叫ぶ。

 

 

「万丈ぉぉぉぉおぉぉおぉおぉおおおおおお!!」

 

 

そして、聞いた――――

 

 

 

 

 

 

天に羽ばたく、双翼の歌(ツヴァイウィング)を―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――新世界は、成された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そよ風に吹かれ、緑の匂いが鼻孔をくすぐる。

「――――い」

(誰だ・・・)

沈んでいた意識が、だんだんと浮上していく。

「―――さい」

まだ、微睡んでいたい。そんな欲求が体を支配している上に、そもそも体が休息を欲している。

だが、それでも、起きなければならない。

「お――さい」

誰かに呼ばれている。だから、起きなければ――――

 

 

――――新世界を、見なければ。

 

 

 

「起きなさい」

「・・・・」

桐生(きりゅう)戦兎(せんと)』が目を覚ます。すると、寝転がる彼の視界に、これまた綺麗な美少女が立っていた。

どこかのものであろう黒い制服。白鳥の翼のように白い肌。艶やかな青い髪。

このような絶世の美少女を、他に見た事があろうか。

「ここで何をしているの?」

だが、その少女の眼つきは鋭かった。

「く・・・つぅ・・・ここは・・・」

どうにか体を起こして、痛む頭を抑えつつ、戦兎は起き上がる。

「・・・・スカイウォール」

「え?」

だが、ここで戦兎はある事を思い出し、急いで立ち上がっては少女を押し退け、周りを見る。

 

 

そこに、国を隔てた壁(スカイウォール)は存在しなかった。

 

 

「スカイウォールが・・・ない・・・」

日本を三つに隔てた壁『スカイウォール』。それが綺麗さっぱり、跡形もなくなくなっていたのだ。

「ここは・・・俺が創造した新世界なのか・・・・?」

そう呟いた時、

「貴方、聞いているんですか?」

「ん?」

そこで、戦兎は初めて少女の事を認識した。

「ここで何をしているのですか?」

「え?何って・・・」

さてどう答えたものか。

ここで寝ていた。いや、それ以前に、何故この少女は寝ていた自分を起こしたのか。

もしここが公共の場であるならば、そんな無粋な事をする必要はない筈だ。

であるならば、ここは――――

「そんな事よりも聞きたい事があるんだけど」

「質問をしているのはこちらなんですが」

「ここって・・・どこ?」

「どこって・・・ここは私立リディアン音楽院です」

「がくいん・・・って事はここは・・・」

周囲を見回してみる。

どうにも視線が殺到していると思ったら、少女と同じ格好をした少女たちのほとんどがこちらを興味深そう、あるいは訝しそうに見ていた。

そして、ここにいる者全員が――――年端も行かない少女たち・・・・

「・・・・」

それを認識した途端、戦兎の全身から冷や汗が流れる。

「・・・まさか、女子高?」

「それ以外に何に見えるんですか?」

現実は非常である。

「最っ悪だ・・・」

戦兎はその場にうな垂れた。

「まさか・・・知らなかったんですか?」

「いやー・・・実は記憶が朧気で、気付いたらここにいたって感じで・・・」

まあ嘘は言っていない。偶然目覚めた場所がここだったし、昨日、というかさっきまで命懸けの戦いをしていて疲れていたのもある。

とにかく、決してわざとこの男子禁制の地に足を踏み入れた訳ではない。そう、決してだ。

「はあ・・・まあとにかく、警備員には突き出しますので大人しくしててください」

「げっ」

(おいおい目覚めて早々こんな展開ってないだろ!?)

このままでは女子校に侵入した変態というレッテルが張られかねない。

そうなれば、あの馬鹿にそのネタでどこまで笑われるか分かったものじゃない。

(ならば仕方がない・・・・)

戦兎は、自分のコートに、()()()()()がある事を確認して、

「悪い!悪気はないんだ!」

そう言って踵を返した瞬間、

「はっ?」

いつの間にか世界が反転していた。

否、この浮遊感に加えて、風になびかれる感じは――――

「ふげぁ!?」

「やはりやましい事があったか」

 

―――投げだった。

 

少女が、自分よりもでかい体格の戦兎を、なんの苦も無く投げ飛ばしたのだ。

「マジかよ・・・」

少女が近付いてくる。

「いっつつ・・・」

「覚悟しろ」

先ほどとは打って変わって言動がきつくなっている。

だが、ここで大人しくやられる程、天才物理学者は甘くない。

「悪いな」

「まだ起き上がれるのか」

戦兎は、起き上がると同時にポケットから()()()()()()()()()()()()()()()を取り出すと、それをシャカシャカと振り始める。

「ッ!何をするつもりだ?」

警戒する少女。

「何、お前らに危害は加えないよ」

次の瞬間、飛んだ戦兎は、常人にはありえないスピードっで一気に逃げ出した。

「なっ!?」

「悪い!縁があったらまた会おう!」

(もう会いたくないけどな!)

そんな事を思いつつ、戦兎はさっさと逃げていった。

「逃げられたか・・・しかし、あの身体能力・・・」

少女は逃げられた事に歯噛みしつつ、また戦兎の身体能力に関心を抱いていた。

そんな少女の視界の片隅に、何か、光るものがあった。

「ん?これは・・・」

それは、不死鳥の柄が入ったボトルだった。

「あの男の持ち物か?」

そう思いつつ、とりあえずは没収しておこうという事で、少女はそれをポケットに入れた。

 

 

 

それが、仮面ライダービルドこと桐生戦兎と、シンフォギア『天羽々斬』装者の風鳴翼のある意味最悪の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

どうにか私立リディアン音楽院から脱出した戦兎は、その街並みを見て回っていた。

「本当にここは・・・スカイウォールの無い、俺が創った『新世界』なのか?」

星を殺してまわった宇宙最悪の地球外生命体『エボルト』。そいつを消滅させ、新たな世界を創造する事。

父である葛城忍、戦兎の仲間、()と、桐生戦兎の悲願。

その結果が、目の前にある街並みか。

街は賑わいを見せ、人々は日常を生きるままに右往左往に行き来し、子供たちは無邪気に遊び、そして、平和―――

まさしく、平和そのものだ。

「本当に、上手くいったのか・・・?父さんの夢見た新世界が・・・・」

その街並みを見て、戦兎が一人、そう呟いた時、

 

《―――そうみたいだね》

 

聞き覚えのある声が、頭の中で響いた。

その声に、戦兎は嬉しそうに呟いた。

「ああ・・・本当に、実現したんだ・・・」

新世界創造は―――成功した。

見事エボルトを消滅させ、新たな世界を作り出す事に成功したのだ。

 

しかし、そこに一つのイレギュラーを残して。

 

戦兎の自らの中にいるもう一人の自分、あるいは、本来の自分ともいうべき存在『葛城巧』が言う。

 

《―――だが、新世界にいる彼らは、前とは違う十年を過ごした事になる。君の知っている彼らじゃない》

 

そのイレギュラーとは、戦兎自身。

この世界で、唯一戦兎だけが、もう一つの記憶を保持したまま、ここに存在している事。

 

即ち、彼だけが、『特別』なのだ。

 

葛城巧という天才科学者に、佐藤太郎という売れないバンドのメンバーに顔を与えて生まれた存在。あの世界で、エボルトがいたからこそ、誕生した存在。

 

唯一無二、それが桐生戦兎。

 

《―――本来なら『桐生戦兎』は新世界に存在しない。こうして創造主として生き残っても、君を知る者は誰もいないだろう》

 

葛城は、ただ淡々と、事実を述べる。

戦兎が、特殊な存在であるが故に。

戦兎はその事実に、ただ目を伏せるだけだった。

 

《―――そろそろお別れだ》

 

その言葉が脳内に響いた。途端、葛城の存在が、戦兎の頭の中から消えていく感覚があった。

おそらく、エボルトを倒すという目的を達成した為に、幽霊的に言って未練が無い為に成仏する、といった所だろうか。

つまり、これから先は戦兎だけの体として生きていく事になる。

葛城巧は、桐生戦兎の中から消える。

 

《―――楽しかったよ・・・》

 

その言葉を最後に、葛城巧という存在は、戦兎の中から消えていなくなった。

それっきり、葛城の声は聞こえなくなった。

「・・・・」

正直、寂しくないと言えば嘘になる。だが、後悔はない。

こうして、エボルトを倒し、新世界を創造した。

達成感はあれど、そこに後悔はない。

 

そして、戦いの中で死んでいった、仲間たちも、きっと復活している事だろう。

 

 

仮面ライダーグリスこと、『猿渡(さわたり)一海(かずみ)

 

忠告を無視して、ブリザードナックルを使った変身を行い、心火を燃やして自らエボルトの擬態を殲滅せしめた男。

 

仮面ライダーローグこと、『氷室(ひむろ)幻徳(げんとく)

 

自ら悪役となり、そして、仲間の為に、その身を賭してエボルトのエボルトリガーを破壊してみせた、最後には英雄となった男。

 

そして、仮面ライダークローズこと、『万丈(ばんじょう)龍我(りゅうが)

 

唯一無二の友にして相棒、エボルトとの戦いを、最後のその時まで、自分と共にあった、最高の相棒だった男。

 

 

自分の目の前で消えていった者たち。仮令、自分の事を忘れていても、生きていてくれるなら、それでいい。

 

「生きていてくれたなら・・・・それでいい」

 

一杯の嬉しさの中に、ほんの少しの寂しさを込めて、戦兎はそう呟いた。

 

それで良いと、思ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――だったのだが。

 

 

 

 

 

「最っ悪だ・・・」

しばらくして分かった事があった。

 

―――ここは新世界じゃないかもしれない。

 

「ノイズってなんだ・・・特異災害対策機動部ってなんだ・・・」

自分の知らない用語が、どういう訳かこの世界では一般的だという事だ。

簡潔に説明すると、ノイズとは、人類共通の脅威、人類を脅かす特定特異災害だという事。

人のみを狙って襲い、そして触れた瞬間、その人間を自分ごと炭素の塊に変えるという。また、時間経過でも勝手に炭化し、自壊するらしい。

しかし通常の兵器などは一切通用せず、基本的な対応策としては、シェルターに逃げ込んでそいつらが自壊するまで待つというものだ。

そして、特異災害対策機動部とは、そのノイズに対して対策を講じている自衛隊組織であり、日々ノイズに対しての研究だとか対策を練っているという話らしい。

一応、この国の首相や首相秘書は氷室親子だ。

ついでに難波の名前もある。

そこは、前の世界と同じだ。

だが、全く違う世界である事には変わりはない。

「まさか、二つの世界が融合した際、ほぼ崩壊しかけていたこっちの世界の歴史が消滅して、逆にこっちの世界の歴史として構築されたって事か?」

自分たちとは違う十年を歩んだ世界。であるならば、自分たちの世界とは違う脅威があり、歴史があっても可笑しくはない。

「つまり、この世界は――――」

新世界である事には違いない。だが、戦兎の知る歴史を辿った訳じゃない世界、という事だろうか。

当然、この世界の住人は、世界が融合した事なんて気付く訳が無い。

戦兎の手には負えない、全く新しい世界という事だ。

「最っ悪だ・・・」

戦兎は、もう一度その言葉を口にして、その場に項垂れた。

こうなってくると、戦兎の手には負えないかもしれない。

あまりにも、自分たちの世界とは勝手が違い過ぎる。

 

――――しかし、

 

「ノイズ・・・か・・・」

人類を脅かす、驚異。

平和を乱す者。人類の天敵。

倒す手段も無い。守る手段も無い――――だが、戦兎の持つ、ライダーシステムなら、あるいは――――

「ま、見過ごせる訳もないしな」

戦兎は立ち上がる。

「いっちょ、この世界でも愛と平和のヒーローやりますか!」

見返りなど求めない。

それが彼の正義のモットーだ。

 

 

 

 

 

しかし、この世界でも正義のヒーローをやるといっても、拠点がなければどうしようもない。

「幾つか壊れてたのもあるから修理もしないとなぁ・・・カズミンとかに渡してたボトルもないし、今はあるだけのボトルだけでどうにかするしかないか。まあ、ドライバーとビルドフォンが生きてただけ幸いか」

そんな事を呟きながら、戦兎は街中を歩いていく。

丁度いい拠点を見つけなければ、最悪ホームレス生活なんてのもあり得る。

「さぁて、どうしようか・・・」

なんて、思っていたら――――

 

「ノイズだぁぁあああッ!」

 

「ッ!?」

誰かの叫びと同時に、場が一気に混乱へと陥る。

皆、一斉に走り出す。

悲鳴を上げ、生きる為に全速力で走る。

その最中、戦兎は一人、その騒ぎの中心を睨みつける。

そこには、半透明の異形がいた。

全て、それぞれ何かしらの生物の形をとっており、人間型だったりカエル型だったりする。

「あれがノイズか・・・」

実際に対峙してみると、スマッシュとは違うものを感じる。

スマッシュは、元が人間なだけあって、人間らしい荒々しさが感じられたが、あれはどちらかと言うとただ人を殲滅する事を目的とした兵器という淡々とした感じがする。

「どちらにしろ、どうにかしないとな・・・」

その時だった。

「うわぁぁあああ!!」

一人の青年が転び、そこを狙ってノイズの一体がその男に絡みついた。

すると、ノイズは青年と共に、一気に炭化、塵となって消えた。

「なっ・・・!?」

そのスピードは凄まじく、触れられただけでも一瞬にして人を炭に変えてしまった。

「確かに人間を構成する物質の一部として炭素があるけど、いくらなんでも早すぎんだろ!」

()()している場合じゃない。

戦兎はポケットからウサギの柄が入ったボトル―――ラビットフルボトルを取り出すと、それを一気に振る。

「きゃぁぁああ!!」

一人の少女がノイズに襲われる。ノイズは、そのまま少女に覆い被さろうとするが、その寸前で少女が何者かにかっさらわれる。

「え・・・」

「大丈夫か?」

見ればいつの間にか戦兎が少女を抱き抱えて立っていた。

「早く逃げろ!」

「は、はい!」

戦兎は少女を降ろすなりそう叫び、少女が逃げた事を確認した所でノイズに向き直る。

「ったく、なんて数だよ・・・」

ノイズは数えるが億劫な程いる。

気付けば、住民のほとんどが逃げ切ったようで、その場にいるのは戦兎とノイズだけだった。

「よし、全員逃げたな・・・」

その時だった。

どこからともなくバイクのエンジン音が聞こえた。

「なっ・・・!?」

見れば、なんとノイズを押し退けて突っ込んでくる者がいた。

「何してんだ!?」

思わず怒鳴ってしまう戦兎。

だが、バイクに乗っている者は一群を突破した所で高く飛び上がった。

よく見ればヘルメットを被っていない上に、その少女には見覚えがあった。

「あいつは・・・!?」

それは、戦兎が目覚めて最初にあった少女だった。

そして少女―――風鳴翼は、一つ、歌を口ずさんだ。

 

「――――Imyuteus amenohabakiri tron――」

 

その瞬間、翼を眩い光が包み込み、そしてその姿を、全く違うものへと変化させる。

 

それは、鎧だった。

 

最も、戦兎から見れば、鎧と呼べるかどうか怪しいものだったが、それは間違いなく鎧だった。

翼がその鎧を纏った瞬間、周囲に何かのフィールドが展開され、その鎧を纏った翼は、その手に持つ刀で、戦兎の前に立つノイズを一掃する。

「何をしている!?」

そして翼は戦兎に向かって怒鳴る。

「何故避難しない!死にたいのか!?」

それを受けた戦兎の反応は――――

「すげえ!」

「は?」

だった。騒然翼は間抜けな反応を返す。

「一体全体どうなってんだそれ!?一体どうやって変身したんだ!?どんな技術なんだ!?どうしてなんか言葉を言うだけで変身出来るんだ!?なあなあな―――」

「ああ!鬱陶しい!」

無理矢理強制終了させ、翼はノイズに向き合う。

「とにかくお前は避難していろ!」

そう言って、翼はノイズの大群に向かって走る。

その時、戦兎の耳に、どこからともなく謎の音楽が流れてきた。

その音楽は、目の前の翼から聞こえてきているのだと、戦兎はすぐさま理解した。

そして、翼は歌を歌い、ノイズと戦う。

剣一本、見事に操り、敵を蹂躙する。

その剣は、様々な形へと変化し、時には巨大に、時には細く、時には分裂して驟雨の如く振らせる。

その風の猛威とも言える翼の猛攻に、ノイズはたちまちその数を減らしていく。

「すっげぇ・・・」

その戦いを見て―――というよりは、翼の操る刀の明らかに質量保存の法則を超えた変形に戦兎は目を奪われていた。

一体どのような仕組みなのか。材料はなんなのか。それら全てが戦兎の常識を超えていた。

そして、何十というノイズが屠られた所で、さらに巨大なノイズが出現する。

呼称は、強襲型(ギガノイズ)

「でかっ!?」

だが翼は引くことなくそのノイズに突貫する。

それに対してギガノイズが、翼を迎撃するべく小型のノイズを吐き出す。

しかし、翼はそれをものともしないで飛び上がり、その刀を巨大化、一気に振り下ろし、エネルギー刃を放ち、一気に両断する。

 

―――蒼ノ一閃

 

「このまま―――」

殲滅する。そう思い、次なる敵へ狙いを定めようとした、その時。

「きゃあ!」

「ッ!?」

まだ幼い少女の声が聞こえ、そちらに振り向けば、そこには、今にもノイズに襲われそうになっている少女がいた。

(そんな!?逃げ遅れたのか!?)

翼の予想通り、その少女は今まさに逃げ遅れたのだ。

まだ年端もいかない幼い少女。

その少女が、壁際に追い詰められ、今まさにノイズに襲われそうになっていた。

「くっ!」

翼はすぐさまその少女を助けるべく飛ぶ。だが、その間に別のノイズが割って入るもの。しかし、そのようなノイズは翼の敵ではない。

軽くあしらわれるだけだ。だが―――それでも間に合わない。

(ダメ・・・!)

間に合わない。そのような言葉が脳裏を過る。

そして、別の手段を思いつく前に、少女がノイズに覆い被らされる―――寸前、

 

何者かが少女をかっさらって、ノイズの攻撃から助けた。

 

「ッ!?」

その何者かが移動した先に翼は目を向ける。

そこには、今まさに一人の少女を抱えた男が、そこに立っていた。

「大丈夫か?」

「う・・・うん・・・」

少女はまだ怖いのか、震えていた。

「大丈夫」

そんな少女に、男は笑いかける。

少女を降ろし、そして、優しくその頭を撫でる。

「この正義のヒーローが今すぐ助けてやるからな。だから、安心してここで大人しくしてるんだぞ」

「・・・うん!」

少女は、頷く。

「よし!」

男が、立ち上がる。

振り返れば、そこには大量のノイズが今まさに男と少女に近付いてきていた。

そんなノイズと男の間に、翼が割って入る。

「無駄な威勢はよせ!あれはただの人間には倒せん!だから早く逃げろ!」

そう促す翼だが、男は、それを拒否する。

「逃げる?冗談はよしてくれよ」

「何?」

「この正義のヒーローが逃げるなんて、ありえないだろ」

「何を言っている?戯れはやめろ」

翼は、男の言葉に苛立ちを見せる。だが、男は―――戦兎はそんな事知った事かと言うように、懐からとある機械を取り出した。

手回し式のレバーに、円盤型のパーツの付いた、謎の機械。

それを、戦兎は腰に宛がう。

すると、腰に黄色いベルト――――『アジャストバインド』が巻かれ、その装置を腰に固定する。

それは―――ベルト。

桐生戦兎が、仮面の戦士に変身するための重要なアイテム。

 

その名も、『ビルドドライバー』。

 

ビルドドライバーが腰に取り付けられた所で、戦兎はポケットから二本の小さなボトルを取り出す。

赤いウサギの柄が入ったボトルと、青い戦車の柄が入ったボトルだ。

「何をするつもりだ?」

翼が、尋ねる。

「まあまあそこで見てなさいって」

戦兎はそう答え、そして、一度、手の中のボトルを見て、すぐにノイズの方を見た。

 

「――――さあ、実験を始めようか」

 

お決まりのセリフと共に、戦兎は、二つのボトル―――ラビットフルボトルとタンクフルボトルを振る。

そうする事で、ボトルの中にあるトランジェルソリッドを増大、活性化させる。

十分に振り、活性化させた所で、ふたの部分にあたる、シールディングキャップをボトルの正面に固定する。

そして、それを、ビルドドライバーのツインフルボトルスロットに差し込む。

 

ラビット!タンク!

 

ベストマッチ!』

 

ベルトから、その様なテンションの高い声が響く。

「らびっと?たんく?べすとまっち?なんだそれは・・・?」

一方の翼は混乱するばかり。

だが、構わず戦兎はビルドドライバーに取り付けられたレバー、『ボルテックレバー』を回す。

するとドライバーの円盤型パーツ『ボルテックチャージャー』が回転、装置内部の『ニトロダイナモ』が高速稼働。そして、ドライバーから透明なパイプのようなものが伸び、それが戦兎の周囲を囲う。

それに巻き込まれそうになった翼は距離を取る。

その間にも、透明なパイプ―――『スナップライドビルダー』という高速ファクトリーが展開され、その管を、赤と青の液体が流れ、そして、戦兎の前後にそれぞれ、形を形成していく。

 

ウサギと戦車。全く関係性のない二つの成分。それが今、戦兎を最強の超人へと変える『装甲(アーマー)』を象られる。

 

それが今、ベストマッチする―――

 

 

 

 

Are You Ready?

 

 

 

 

覚悟は良いか。そう問いかけてくる。

 

それに対する答えは、決まっている。

 

今までだってそうだ。そして、これからだってそうだ。

 

―――何故なら俺は、仮面ライダーなのだから!

 

 

「変身!」

 

 

ファイティングポーズと共に、そう叫び、そして、アーマーを形成したスナップライドビルダーが戦兎を挟む。

形成されたアーマーが戦兎の体に着装され、そして白い蒸気を噴き上げながら、赤と青の装甲を身に纏った戦士が誕生する。

 

鋼のムーンサルトラビットタンク!イェーイ!』

 

ちゃっかり決めポーズまで取って、戦兎は―――仮面ライダービルドは、今ここに参上した。

「なんなんだ・・・」

翼は呆然とし、少女は目をキラキラを輝かせて、その赤と青の戦士を見つめた。

 

「勝利の法則は、決まった!」

 

融合した、もう一つの世界―――その世界でまた、愛と平和を胸に戦い続けた戦士が、人々の平和の為に戦う――――

 




次回!愛和創造シンフォギア・ビルド!

「ちょーっと待って」

仮面ライダーとなり、ノイズを蹴散らす戦兎。

「貴方をこのまま返す訳にはいきません」

「なんで?」

そして問答無用で手錠を掛けられる戦兎。

そんな戦兎を待ち構えるものとは?


次回『兎と剣のムーンサルト』


「貴方の戦う理由は何?」



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兎と剣のムーンサルト

戦「天っ才(てぇんさぁい)物理学者の桐生戦兎は、見事エボルトを倒し、新世界を創る事に成功した。だが、その世界ではノイズという脅威が人々を脅かしていたのでした」

翼「おいなんだこれは!?聞いてないぞこんなの!」

戦「こっちじゃ当たり前なあらすじ紹介ってやつだよ。察しろ」

翼「察しろってお前、私たちはこれでも初対面だぞ?」

戦「そんなの関係ないよ細かい奴だな。とにかく、この世界でも愛と平和を愛する正義のヒーロー『仮面ライダービルド』として戦う事を決意した俺は、前回にしてついに変身するのであった!」

翼「そして私の事については何も触れないのか・・・」

戦「この物語の主人公は俺だからな」

翼「はあ・・・もういい。えーっと・・・・」←台本読中

戦「そんなわけでど―――」

翼「どうなる第二話!」

戦「―――って俺のセリフを取られた!?」

翼「はっ!」




作者「前回のタイトルとか変えました」


――――少女の歌には、血が流れている。

 

 

 

 

戦兎が仮面ライダービルドに変身した時、特異災害対策機動部二課では、今まさに、正体不明の戦士の登場に混乱していた。

「なんだ奴は!?」

そこの司令官である『風鳴(かざなり)弦十郎(げんじゅうろう)』は、すぐさまビルドの正体を探ろうと指示を飛ばす。

「分かりません!」

「対象からのエネルギー検出量は確認出来ず!」

「アウフヴァッヘン波形も検知出来ず、全くもって未知なる存在です!」

「正体不明の謎の戦士だとでもいうのか・・・!?」

そして今、モニターの前で、正体不明の謎の戦士、仮面ライダービルドが動き出す。

 

 

 

 

「お前は・・・一体・・・・」

翼が、目の前で変身した戦兎―――仮面ライダービルドに問いかける。

その問いかけに、ビルドは快く答える。

「仮面ライダービルド。作る、形成するって意味のbuild(ビルド)だ。以後、お見知りおきを」

そう名乗った時、ノイズが一斉にビルドに襲い掛かる。

「ッ!」

すぐさまノイズを迎撃しようとする翼。しかし、その前にビルドが立ち塞がる。

「だからそこで見てなさいって」

そう言うと、ビルドは一度腰を落としてから、左足で一気に踏み出す。すると、ほぼ一瞬にしてノイズとの距離を詰め、そのまま一気に殴る。

すると殴られたノイズは吹き飛び、一瞬にしてその体を炭素の塊へと返す。

「お、やっぱ効くじゃねえか!」

一方のビルドの体に異常はない。これなら、問題なく戦える。

さらなるノイズが襲い掛かる。しかしそれをビルドは何の苦もなく躱し、さらに反撃で一撃二撃と殴り飛ばす。

さらに人型(ヒューマノイド)ノイズが背後から襲い掛かるが、突如としてビルドドライバーから再びスナップライドビルダーが展開されたかと思うと、それが一つの武器を形成する。

あの戦いで唯一壊れておらず、そして一番使い慣れたビルドの武器『ドリルクラッシャー』だ。

それを片手に一薙ぎ一閃。範囲内にいたノイズが纏めて消滅する。

さらにノイズがビルドに襲い掛かるも、ビルドは一切慌てた様子もなしにノイズを蹴散らしていく。

「すごい・・・」

その戦いぶりに、翼は呆気にとられる。

「数が多いな・・・」

一方のビルドは、その数の多さに少し鬱陶しさを感じていた。

「これでいくか」

それで取り出したのは、ハリネズミの柄が入ったフルボトルだ。

「今は武器がないから、これで我慢してくれよっと」

 

ハリネズミ!』

 

それをラビットフルボトルと入れ替え、ボルテックレバーを回す。

ボルテックチャージャーが回転し、スナップライドビルダーがすぐさま展開し、そのパイプの中を、白い液体が流れ、新たなアーマーを形成する。

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

白い装甲が、赤い装甲の上に重なるようにビルドに装着される。

白い装甲が重なると同時に赤い装甲は粒子となって消え、そして白い装甲がビルドの新たな装甲となって合着する。

それは、ベストマッチとは違う、いわゆる『トライアルフォーム』と呼ばれるものだった。

 

その名も、『仮面ライダービルド・ハリネズミタンクフォーム』

 

しかしそれでもノイズはなおもビルドを攻撃する。だが、襲い掛かってきた大量のノイズに対して、ビルドがやった行動は、()()()()()()()()()()

そのままノイズの集団がビルドにある範囲まで近付いた瞬間―――

 

右手を包むグローブの棘が突如として伸び、襲ってきたノイズを全て串刺しにする。

 

「な・・・・!?」

その鋭さと範囲の広さは凄まじく、一瞬にしてそのノイズたちを炭素へと変える。

すぐさま針は元に戻り、ビルドは、一気にノイズを殲滅するべくノイズの集団に向かって行く。

「うぉぉぉぉぉお!!」

肩と手の棘を利用しての突撃(チャージ)で、ノイズを一気に蹴散らす。

その最中で、強襲型のノイズが戦兎を踏み潰さんとその巨大な足を上げる。

「うおっと!」

そのノイズの踏み潰しを躱し、戦兎は、新たに二つのフルボトルを取り出す。

「お前にはこいつだ!」

シャカシャカと振り、宝石の柄の入ったフルボトルと、ゴリラの柄の入ったフルボトルをスロットに差し込んだ。

 

ゴリラ!』ダイヤモンド!』

 

ベストマッチ!』

 

更なるベストマッチ。

それが意味する事は、ビルドの新たな力のお披露目。

ボルテックレバーを回し、そして、スナップライドビルダーを再展開する。

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

スナップライドビルダーが、ビルドを挟み込む。

 

輝きのデストロイヤーゴリラモンド!イェイ・・・!』

 

纏われたのは茶色と水色の装甲。

右腕には、見るも巨大な剛腕が形作られ、一方の左側は眩い宝石の光を放っていた。

「今度はダイヤとゴリラだと!?一体何の関係がある!?」

すかさず翼のツッコミが炸裂する。

「俺だって知らないよ!?まあいい!」

ビルドはノイズと向き合う。その間にも、ノイズは今にもビルドを踏み潰そうとしていた。

だが、ビルドは敢えて避けず、その足をまさかの()()()()()()()()()()

するとどうだ?剛腕から放たれた一撃は、淡くもノイズの足を押し返すどころか見事に粉砕してみせた。

その怪力に、さしもの翼も唖然とする。

そして―――ビルドはボルテックレバーを回す。

何回か回した所で、ビルドは手頃なノイズの元へ向かう。

 

Ready Go!』

 

ビルドは、手頃なノイズに触れると、その瞬間、そのノイズが宝石に包まれる。

そして、右の剛腕を引き絞って―――

 

ボルテックフィニッシュ!』

 

その塊を砕いて、宝石を―――ダイヤモンドを散弾銃の如く散らばらせ、ノイズを一気に殲滅する。

しかし、それほどの広範囲攻撃をしたにも関わらず、ノイズはまだ残っていた。

「やれやれ、しつこい男は嫌われるぞ。あれ?こいつらに性別なんてあったっけ?」

なんて事をぼやいていると。

「ん?」

どこからともなく、聞き覚えのある曲が流れてきたかと思うと、

 

「―――去りなさい!無想に猛る炎、神楽の風に滅し散華せよ!」

 

そして、聞き覚えのある声で、その歌が聞こえた来た瞬間、ビルドの目の前のノイズが一瞬にして一層される。

 

千ノ落涙

 

「うお!?」

そして、目の前に、一人の少女が降り立つ。

この場において、ビルド以外にノイズを殲滅せしめる力を持つのは、ただ一人。

 

風鳴翼だ。

 

翼は、歌を歌いながら、背後のビルドを見る。

「やれやれ、見てろって言ってたんだけどな」

仕方がないとでも言うように、ビルドは翼の隣に立つ。

「仕方がない。一緒に戦うぞ」

その言葉に翼はただ頷くのみ。

 

鋼のムーンサルトラビットタンク!イェーイ!』

 

ビルドは再びラビットタンクフォームに戻り、取り出したドリルクラッシャーをガンモードに変形、ハリネズミボトルを差し込んでノイズを迎え撃つ。

そして、その前に翼が出て、接近して敵を叩く。

ビルドの放つ針状の光弾がノイズを叩きつつ、翼がその刃を振るい、ノイズを一気に殲滅する。

翼が逆立ちし、その足を大きく広げて回転しだせば、脚部のブレードで一気に敵を薙ぎ払う。

 

逆羅刹

 

そのまま敵を一気に殲滅していく中で、またもや強襲型が姿を現す。最後の一体だ。

(このまま・・・)

「おっと!止めはこの天っ才に任せな」

「な!?」

そのまま一気に倒そうとした翼を止め、ビルドはボルテックレバーを回す。

「ちょーっと待って」

(は?)

次の瞬間、ビルドはそのノイズから背を向けて走り出す。

「何をしてるんだ!?」

思わず怒鳴る翼だが、ビルドは何も無意味な行為をしている訳ではない。

何歩か走った所で、ビルドは思いっきり地面を踏む。するとその地面が抜け、ビルドは一気に地中に沈む。

その間に、どこからともなく白いグラフが現れ、そのX軸がそのノイズを挟み込み、拘束する。

「これは・・・!?」

それが、ビルドの必殺技の前兆だと、翼は知る由もない。

 

Ready Go!』

 

そして、ビルドが穴から飛び出し、Y軸上へ飛ぶ。そして、展開された放物線に沿うように、ビルドはノイズに向かって蹴りをぶっ放す。

 

ボルテックフィニッシュ!イェーイ!』

 

放たれた必殺の一撃。右脚の裏にある『タンクローラーシューズ』の無限軌道装置(キャタピラ)が、敵の皮表面を一気に削り取り、貫く。

そして、その必殺の蹴撃を喰らったノイズは、炭素の塊となり、消滅した。

その様子を見て、戦兎は振り返る。

「よし、終わり!」

見れば周囲には、翼とビルド、そして逃げ遅れた女の子のみ以外、炭素の塊しかなかった―――

 

 

 

 

 

数十分後――――

自衛隊であろう組織が現場にやってきて、『立入禁止』と書かれたバリケードを設置。

事態の収拾を行っていた。

その最中で、戦兎はこっそりノイズの炭素を回収しようとしていた。

「よーし」

無事、余っていた空のフルボトルの中にノイズの炭素を入れる事に成功した戦兎。

やはり科学者、探求心と好奇心は留まる所を知らない。

誰にも見られていない事を良い事に好き勝手したい放題である。

そんな中で、戦兎は現場の様子を見渡した。

「しっかし、仕事が速いな・・・」

その場にいる者たちは、それぞれのエキスパートなのか、役割を分担し、炭素の回収や侵入者が入らないように警備をし、保護した少女の面倒もしっかりと見ている。

何度もこういう事を経験していなければ出来ない迅速な行動だ。

「何度もあるんだな・・・こういう事」

ふと、戦兎は新世界を創造する前の事を思い出す。

 

そういえば、自分も戦う事が日常茶飯事だったな。

 

(あの時は自分探しとかで色々やってたけど、あの戦いがあったから今の俺があるんだよなぁ・・・)

宿敵に、生まれてくるべきではなかったと言われた。

だけど、今の『桐生戦兎』と『仮面ライダービルド』を創ったのは、仲間の存在があったからだ。

この胸に『愛と平和(ラブ&ピース)』を掲げられるのも、その仲間たちがいたからだ。

「今どうしてんだろうな・・・」

かつての仲間たちは、この世界で、一体どうしているだろうか。

会いたいとは思う。だが、彼らはきっと、桐生戦兎の事など覚えてはいないだろう。

それでも、会いたい事には変わりない。

「はあ・・・」

「お母さん!」

ふと、あの女の子の嬉しそうな声が聞こえた。

どうやら、母親と再会できたようだ。

「お母さん・・・!」

「ああ、良かった・・・」

その様子を見て、戦兎は思わず顔を()()()()としてしまう。

「良かったな」

「あ、おじさん・・・!」

「おじっ・・・まあいい。ちゃんとお母さんに会えてよかったな」

「うん・・・!」

「あの、もしかして貴方が・・・」

母親が、戦兎を見る。

その問いかけに、戦兎は立ち上がって高らかに言った。

「ええ!この天才物理学者にして自意識過剰な正義のヒーロー桐生戦兎がお助けしました!」

そんな完全にイキっている名乗りをする戦兎に、母親は呆然とするが、

「本当だよ。おじさんが助けてくれた・・・」

「そう・・・・ありがとうございました。娘を助けていただいて」

「いえいえ」

深々と頭を下げる母親に、戦兎は当然の事のように謙遜する。

「あの、お礼は必ず」

「ああ、いいっていいって、そういうのの為に助けてる訳じゃないから」

「ですが」

「大丈夫!もし、何かお礼がしたいなら、そのお礼を娘さんの為に使ってやってください」

「しかし・・・」

「俺はいつだって無償で人を助ける正義のヒーローですので」

そう言って、戦兎は最後までお礼を受け取ろうとはしなかった。

そんな中で、一人のスーツを着た女性が話に割り込んできた。

「お取込み中すみません。この同意書に目を通した後、サインをして頂けますでしょうか?」

そう言って、女性は母親に何やらタブレットを見せた。

「本件は国家特別機密事項に該当する為、情報漏洩の防止という観点から、貴方の言動、及び、言行には今後、一部の制限が加えられる事になります。それと―――」

「えーっと・・・結構あるな・・・・」

とりあえず、ある程度の挨拶をした後にその場を離れ、その親子が無事に帰っていく所を見届けて、戦兎は、先程からこちらを監視していたあの少女を見た。

戦兎の視線に気付いた少女は、すぐさま戦兎に近寄る。

「さっきはありがとうな」

「別に、当然の事をしたまでです」

「そっか・・・あ、そういやお前のあの鎧ってなんなんだよ?」

「まだ引きずるか!?」

「科学者として探求したいのは当然だ!」

そう言って、物欲丸出しで翼に歩み寄ろうとする戦兎。

その戦兎をどうにか押しとどめて、翼は戦兎に告げた。

「とにかく、貴方をこのまま帰す訳にはいきません」

「はあ?」

「特異災害対策機動部二課まで、同行して頂きます」

「ああ、別にいいけど―――」

 

ガチャン

 

問答無用で手錠を掛けられる。

「・・・なんで?」

「すみませんね。貴方の身柄を、拘束させていただきます」

「ッ!?」

戦兎が気付かない間に、彼のすぐ傍に、所謂優男的な男が立っていた。

その気配を、一切気付かせないで。

(いつの間に・・・!?)

なんて思っている間に車に押し込まれ――――

 

 

 

「・・・ここって・・・確か女子校だったよな?」

そうして連れてこられたのは、戦兎がこの世界で最初に目を覚ました『私立リディアン音楽院』だった。

だがそれに答えてくれる者はおらず、そのまま手錠を掛けられたまま廊下を歩く。

「ほえー・・・」

とりあえず道順を覚えるべく、廊下を見回す。

随分と綺麗に掃除されており、設備から見ても、名門だという事も窺い知れた。

そんなこんなで中央棟に案内され、そこのエレベーターに乗る事になる。

男がエレベーター内のある装置に端末を掲げると、扉が閉じると同時に何故か隔壁のようなものが閉まり、さらに床から取っ手のようなものが出現した。

「どーなってんだこれ!?」

当然食いつく戦兎。

「下に設置されてたのか?だとするならば格納する必要がある筈だ。おそらく折り畳み式でさっきの端末を掲げる事で何かのスイッチが起動してそれで―――」

「あのー、危ないので掴まってください」

男に促されつつ、その取っ手に掴まる戦兎。

はて、何故このような取っ手に掴まる必要があるのか。

なんて思っていると、

 

突然、エレベーターが落ちた。

 

「うぉぉぁぁぁぁああぁああぁぁあああぁぁあああ!?」

凄まじい絶叫が戦兎の口から吐き出される。

「び、びびったぁ・・・どうなってんだこりゃ・・・」

どうやら凄まじい速度で降りているようだ。

一体、この下に何があるというのか。

そうしてしばらくすると、突如として視界が開け、そこで見えたのは、様々な模様の描かれた壁が円柱状に描かれている光景だった。

「どうなってんだこりゃ・・・」

もう一度、同じ言葉を言う戦兎。

一体、どれほどの時間をかけてこのような空間を作ったというのだろうか。

戦兎は最初から最後まで興味深々であった。

そんな戦兎の様子を、翼はじっと観察していた。

そうして、エレベーターが止まり、そしてさらに案内された先で――――

 

突如としてクラッカーの音が炸裂した。

 

「ようこそ!人類守護の砦、特異災害対策機動部二課へ!」

やけにガタイの良い男が、そう言い、その周囲ではここの職員と思われる者たちが拍手で戦兎を出迎えていた。

その上の横断幕では、『熱烈歓迎!仮面ライダービルド様』と書かれていた。

その様子に翼は頭を抱え、側にいた優男は苦笑するだけだった。

「は、はは・・・最っ高だ!」

そんでもってなぜか戦兎は嬉しそうだった。

 

 

 

 

「では改めて自己紹介だ。俺は風鳴弦十郎。ここの責任者をしている」

「そして私は出来る女と評判の櫻井了子。よろしくね」

ある程度落ち着き、手錠を外してもらった所で、自己紹介を始める弦十郎と了子。

「天っ才物理学者の桐生戦兎です!よろしく」

そして戦兎はここぞとばかりに名乗る。

「天才・・・?」

それでもって翼は首を傾げるだけだった。

「君をここへ呼んだのは他でもない。協力を要請したい事があるからだ」

「あのノイズとかいう化け物の事だろ?もちろんいいぜ」

即答する戦兎。

「それもある・・・が、我々が真っ先に知りたいのは、君が変身した、あの『仮面ライダービルド』という姿と力についてだ」

まあ、そうだろう。

あれは彼らにとっては未知の力だ。

地球外生命体エボルトを倒す為に、戦兎の父親の葛城忍が設計し、そして戦兎そのものである葛城巧が創り上げた究極の防衛システムにして兵器だ。

そう易々と教える訳にはいかない。

故に、

「それについては、俺から条件がある」

「なんだ?言ってみろ」

「そこの女の子が使ってた鎧について教えてくれ。それが、俺の持つ仮面ライダーという情報への対価だ」

科学はいつだって等価交換。特に、ライダーシステムだけは絶対に秘匿しなければならない力だ。

それ相応の対価がなければ、話せない。

「ふむ・・・いいだろう。その代わり、こちらが話したら、お前も『仮面ライダー』について教えてくれ」

「よし、交渉成立」

そうして、手頃な部屋にて、あの鎧の事について説明を受ける事となった。

 

 

その部屋にて。

座って向かい合う戦兎と弦十郎。その弦十郎が、後ろに控える翼に視線で合図を送る。

それに、翼は服の下に入れていたネックレス―――その先にある、宝石を取り出す。

「『天羽々斬(あめのはばきり)』、翼の持つ第一号聖遺物だ」

「聖遺物・・・遺跡だとかから発掘された、古代の遺産だとかなんかか?」

「厳密にいえば、世界各地に存在する伝承に登場する、現代の技術では製造不可能な異端技術の結晶の事。多くは遺跡から発見されるんだけど、経年による破損が著しくって、かつての力を秘めたものは本当に希少なの」

「へえ・・・つまり、そこの奴が持ってる宝石みたいなものも、本来のもののほんの一部って事なのか。んでもって力を開放する為には歌を・・・いや、特定の波長をもった声じゃないとダメなのか」

「お、天才と名乗るだけはあるわね。そう、欠片にほんの少しでも残った力を増幅して、解き放つ鍵が、特定振幅の波動なの」

「なるほどなるほど・・・となると・・・」

頭をフルに回転させて、戦兎は一つの結論を導き出す。

「その活性化した聖遺物を一度還元して鎧として身に纏ったのが、あの鎧って事か・・・」

「それが、翼ちゃんの纏うアンチノイズプロテクター『シンフォギア』なの」

「シンフォギア・・・」

自分の知らない、未知の力。よもや、歴史や伝承の産物が実在し、その力を利用する技術を開発してみせるとは。

世界とは広いものだ。

「だからと言って、誰でも纏える訳ではない。聖遺物を起動させ、シンフォギアを纏える歌を歌える僅かな人間を我々は、適合者と呼んでいる」

「それが、そこの女の子という訳か」

などと返事を返していると、ふと周囲の視線が何やら奇妙なものでも見るような視線である事に気が付いた。

「・・・あれ?俺何かまずい事でも言った?」

「・・・君、風鳴翼を知らないの?」

「風鳴翼?そこの女の子の事か?」

その返しに、周囲は酷く驚いたような表情になる。

戦兎は、ますます訳が分からなくなり、首を傾げるだけ。

「この国民的トップアーティストの風鳴翼を知らない人間がいるなんて・・・」

「どんだけ世間知らずなんだ・・・・」

「・・・え?何?俺何か悪い事をした!?」

その場に居合わせている男女二人組の物言いにさしもの戦兎も混乱する。

「落ち着きたまえ戦兎君。そうだな・・・こいつの名前は風鳴翼。俺の姪に当たる奴で、この日本じゃ知らぬ者はいないと言われる程の大人気歌手だ」

「日本で知らぬ者はいないって・・・すごいなそりゃ」

「・・・どうも」

翼はそっけなく返す。

「まあ、翼ちゃんの紹介はこのぐらいにして、どうかしら?シンフォギアについては少しは理解できたかしら?」

「まあな。俺の知らない技術があるとは、やはり世界は広いものだ」

戦兎はうんうんと頷く。

「それじゃあ、今度は君の番だ」

「っと、そうだったな」

そこで戦兎は少し考え、そして、説明する為の文章を脳内で構築。

それを速攻で組み立てて、戦兎は懐からビルドドライバーを取り出して、それを目の前の机の上に置いた。

「これは・・・」

「ビルドドライバー。この俺の発・明・品!にして、仮面ライダーに変身する為の必須アイテムだ」

そして、二つの小さなボトル『ラビットフルボトル』と『タンクフルボトル』を取り出し、それをビルドドライバーの横に置く。

「そんでもって、これはフルボトルと言って、特殊な成分が入った特別なボトルだ」

それらを並べて、戦兎は話す。

「この二つを使って、変身する――――」

 

 

 

 

 

 

「―――と、いう訳だ」

戦兎は、仮面ライダーの事を隅々まで話した。

流石に新世界創造だとかエボルトだとかの事とかは伏せ、自分は父親の設計した物を完成させたとか適当な事(嘘は言ってない)を抜かしつつ、重大な部分だとかはぼかして説明した。

ボトルの成分だとか、このスカイウォールの無い世界では、というかエボルトがいなければ製造されていなかった代物であるが故に、既に作られていて、そしてそれを創った父親は死んでいるという事にしておいた。

こういう理由なら、複製しようなんて考える者もいないだろう。

「なるほどな」

ビルドに事について話しきると、弦十郎は腕を組んで頷く。

「にわかに信じられんが、あの姿と強さも見れば、それも頷ける」

「この小さなボトルが、ねえ・・・」

「・・・」

(あの驚異的な身体能力は、あのボトルの所為だったのか・・・)

了子がラビットフルボトルを片手に、信じられないとでも言うように呟き、一方の翼は、戦兎が見せた身体能力について、合点がいったという顔をしていた。

そこで試しに了子がラビットフルボトルを振り、移動して見せると。

「うわっと!?」

凄まじい速度で部屋を駆け巡った。危うく壁にぶつかりそうになるも、ギリギリの所で止まる。

「すっごぉい!本当なのね!振ればボトルの力を使えるのって!」

了子が興奮している傍ら、弦十郎は真剣な眼つきで戦兎に尋ねる。

「戦兎君。そのビルドドライバーは誰でも扱えるのか?」

それは、おそらく、戦えない者故の問いかけだろう。

あんな、年端もいかない少女に、人類守護の要を任せる。それが、大人にとってどれほど悔しい事か。

しかし、戦兎は首を横に振る。

「いや、使えるのは、ある条件を満たしている人間のみだ」

「その条件とは?」

「・・・・ハザードレベル。いわゆる、ベルトを使うための能力値って奴か・・・」

かいつまんで説明してみる。

 

ハザードレベル。

それは、かつてのスカイウォールから抽出される『ネビュラガス』に対する耐性を意味する。

普通の人間では、注入した時点で消滅、あるいは『スマッシュ』と呼ばれる怪人へと変異してしまう。

だが、極稀にネビュラガスを注入されてもスマッシュにならないケースの人間が存在し、そういった人間のみ、ライダーになる事が出来る。

 

戦兎は、その水準がどれくらいのものかというものを伏せて、あくまで仮面ライダーになれる基準として弦十郎に説明する。

「そうか・・・」

弦十郎は、非常に残念そうにそう返事を返した。

その様子を見かねた戦兎は、立ち上がって言う。

「大丈夫だって!この正義のヒーローの桐生戦兎が、ノイズの脅威から人々を守りますから!」

「自分からヒーローだというか。変わってるな君は」

「ヒーローですから」

なんの恥ずかし気もなく言ってのける戦兎に、弦十郎は笑う。

一応、調子を取り戻したのか、弦十郎は立ち上がって戦兎に問いかける。

「では、協力してくれるって事でいいかな?」

「ああ。人々の平和を守るのも、仮面ライダーの仕事だからな」

「なら歓迎しよう、桐生戦兎君。君を正式に二課の職員として認める。今後の活躍を期待している」

「こちらこそ、よろしく」

そう言って、握手を交わす二人。

だがそこで、今まで沈黙を貫いていた翼が、口を挟んだ。

「司令、少しよろしいでしょうか」

「ん?どうした翼」

弦十郎の問いかけに、翼は、戦兎と向き合った。

「何故、ヒーローである事に固執する?」

「え」

「それは生半可な覚悟で口にしていい言葉ではない。ましてや、我々が相手にしているのはノイズ。普通の人間では、太刀打ちする事すら出来ない、人類の天敵だ。そんな脅威を前にして、貴方は果たして、その信念を貫けるの?」

「・・・・」

翼は、問いただす。

「貴方の戦う理由は何?」

その、翼の鋭い視線と問いかけに、戦兎は、答える。

 

「―――『愛と平和(ラブ&ピース)』」

 

それは、即答だった。

何の躊躇いもなく、惜しげもなく、するりと戦兎の口から出てきた。

しかし、それは戦兎にとってはあまりにも当たり前な言葉。

彼の、信念を体現したかのような言葉だ。

「・・・愛と平和の為と言うか」

「一つ教えといてやる。くしゃっとなるんだよ」

「くしゃ・・・?」

戦兎の言葉に、訳が分からず翼は首を傾げる。

「誰かの力になれたら、心の底から嬉しくなって、くしゃっとなるんだよ。俺の顔」

それは、あの時、小さな女の子が母親と再会できた時に戦兎が見せた笑顔。

誰かの力になれた。誰かの為になれた。そう思うだけで、戦兎は心の底から嬉しくなって、その笑顔を見せる。

愛と平和(この言葉)が、この現実でどれだけ弱く脆い言葉かなんて、分かってる。それでも俺は謳うんだ。愛と平和は俺がもたらすものじゃない。一人一人がその思いを胸に生きていける世界を創る・・・その為に、俺は戦う」

確固たる意思をもって、戦兎は翼に言い切って見せる。

愛と平和を胸に生きる、桐生戦兎だからこそ言える、彼の捻じ曲がる事の無い信念。

「・・・それは、決して容易い道じゃない」

「知ってる。だけど俺はその為に科学者になったんだ。どれだけ時間がかかってもいい。俺は、そんな世界を目指したい」

生半可な覚悟などではない。

戦兎は、ことこの事に関しては本気も本気だ。

「・・・・そうか」

それを改めて理解した翼は、手を差し出す。

「私は風鳴翼。第一号聖遺物『天羽々斬』のシンフォギア装者にして、防人だ」

それに、戦兎は答えるように、その手を握り返す。

「俺は桐生戦兎。仮面ライダービルドで天才物理学者だ。よろしくな」

 

 

愛と平和を胸に戦う正義の兎と過去を引きずりなおも戦う比翼の剣―――相反する二つの性質を持つ二人。

 

それが、新たなベストマッチ(シンフォニー)を生み出すとは知らずに。

 

しかし、彼らは知る由もない。

 

 

 

 

 

 

今、この瞬間、強大な魔の手が迫ってきている事に――――

 

 

 




次回の愛和創造シンフォギア・ビルドは!

「天才物理学者の桐生戦兎です」

まさかの教師に就職する戦兎。

「何故これとこれがベストマッチとかなんだ?」

「すごいでしょ?最っ高でしょ?天っ才でしょ?」

ビルドについて興味津々な翼。

「ノイズです!」

そしてまた出現するノイズ。その渦中に、戦兎は、相棒の姿を目にする。

次回『覚醒!完封!クローズ&ガングニール!』

「ば、万丈・・・!?」


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覚醒!完封!クローズ&ガングニール!

戦「天才物理学者にして仮面ライダービルドこと桐生戦兎は、この世界でノイズとやらと戦う特異災害対策機動部二課の一員として今日もノイズと戦って・・・」
翼「だから私を忘れるなといっているだろう!?」
戦「うるさいな!この物語の主人公は俺だぞ!?」
翼「そう思っているのは今の内だがな・・・まあとにかく、同じく特異災害対策機動部の者にしてシンフォギア奏者である風鳴翼は、今日も仮面ライダービルドと共にノイズと戦う日々を送るはめとなった。まあ私はまだ信用はしていないがな」
戦「何気に酷いなお前・・・」
万「なあ、俺の出番まだか?」
戦「お前はまだ出てないんだからここに出てくんなよ。馬鹿なの?」
万「馬鹿じゃねえ!筋肉つけろ筋肉を!」
響「ツッコむ所そこじゃないと思いますけど・・・あ、どうなる第三話!」
戦「ぽっと出にセリフとられた!?」



この国の首相は氷室さんじゃないとか言ってましたが編集して氷室さんにしました。
確認をお願いします!

戦「そうなるぐらいなら始めにそうしとけ!」

仰る通りでございます・・・


戦兎が無事、二課の一員として活動する事が決まった所で、ふと弦十郎が思い出したかのように戦兎にある事を言った。

「そういえば、お前の戸籍がなかったんだが・・・」

「あ」

それで戦兎も重大な事を思い出す。

そう、戦兎には戸籍がないのだ。

この世界の創造主ではあるがゆえに、その存在はこの世界にとっては異端だ。

故に、戦兎の存在はこの世のどの記録にも残っていない。

「あー、それは・・・」

「何か問題があるようなら、こちらで作ってやらん事もないぞ」

「マジか!?」

弦十郎の提案に、戦兎は食いつく。

「ああ。ただし、それなりの職業にはついてもらうからな。いわゆる、表向きの顔という奴だ」

「そういえば戦兎君、物理学者って言ってたわよね?」

「ええ、()()物理学者です」

了子の言葉に何の恥ずかし気もなく肯定する戦兎。

「だったら、ぴったりの職業があるわよ」

 

 

 

 

 

翌日――――

「今日から物理学の講師をしてくださる、桐生戦兎先生です」

「天才物理学者の桐生戦兎です。よろしく」

翼の目の前で、わくわくした様子で自己紹介している戦兎の姿があった。

 

了子が提案した職業とは、教師である。

 

戦兎の天才的頭脳は、超難関の物理試験で百点を取る程だ。

その頭脳をもってすれば、誰かに教える事も出来るだろう。

ついでに二課の本部の真上はリディアン音楽院という学校だ。

であるならば、二課のすぐ傍で働けるというメリットも存在する。

だからこうして、教師となった戦兎。

「天才って自分で言っちゃってるよ・・・」

「自分で天才って言っておいて、実はそんなにすごくないって事よくあるよね」

「私これからあんな人に物理教わるのかな」

始めの印象はこれだ。

翼も、自分で天才と言っている男が他人にまともに教えられるのかと思っていたのだが―――

「―――と、いう訳で、力はこのように釣り合うのです」

 

その質は、凄まじかった。

 

物事の例え方、生徒への質問に対する対応、教科書に囚われない独自の授業方法。

その全てが、彼の教えを受ける全ての生徒の心を掴み、次第に惹かれていった。

 

 

そして数日、桐生戦兎という物理教師の噂は瞬く間に広がり、そして学園中で彼の授業を受けたいという生徒が殺到した。

 

 

 

 

「―――正直に言って、舐めていた」

学校が終わり、二課の一室にて翼は頭を抱えていた。

「物理学者としての実力、教師としての技術、キャラによる人気の獲得、何をとっても一流。さらに人当りも良いから生徒からの人気もすさまじい・・・正直ここまで大騒ぎになるなんて思ってもみなかったぞ!」

「それはまた」

その翼の愚痴を聞いているのは、彼女のアーティストとしてのマネージャーである緒川慎次である。

彼もこの二課の職員であり、翼に最も近い存在だ。

そんな彼を前に、翼は戦兎に対する自分の評価を恥じていた。

完全に彼の事を舐めていた翼にとっては目から鱗である。

「私は最初はそれほど凄い男とは思っていなかった。だが、よくよく考えてみたらシンフォギアに対しての理解力が速い上に、あのビルドドライバーという装置を組み立てた技術力に加えて、その理論を組み立てる頭脳もあったんだ。だからその時点で気付いておくべきだった。あの男は科学者としては一流だという事を・・・人間としてはどうかと思うが・・・!」

「まあまあ落ち着いてください。そんなに思い詰めても仕方がありませんよ」

「ふう・・・そうですね」

一旦落ち着きを取り戻した翼に、緒川は飲み物を渡す。

「そういえば、このごろ桐生を見かけませんが、何かあったのですか?」

「ああ、彼なら、自室にて武器の修理を行っているそうですよ」

「武器・・・?」

「ビルドとしての武装ですよ。何やら、ある戦いで全て壊れてしまったようでして、今、自室にこもってそれの修理をしているようです」

「そうですか・・・」

そこで翼はふと考える。

(もしかしたら、ビルドの事について色々と聞き出せるかもしれない・・・)

この時、翼は自分でも自覚してない程に、仮面ライダービルドに興味を惹かれていた。

 

 

 

 

 

一方、学校が終わり、徹夜覚悟で武器の修復を行っている戦兎は、様々な道具を駆使して修理を行っていた。

やはりその技術力は凄まじく、何時間も掛かりそうな配線の手直しも数秒で終わらせる程だ。

「ふう・・・これでホークガトリンガーも修理完了っと」

そう言いつつ、戦兎は回転式機関銃のホークガトリンガーを傍らに置き、軽く伸びをする。

「ちょっと休憩するか」

「桐生」

ふと、そこでドアの方から声が聞こえた。

「翼か?」

「入ってもいいか?」

「ああ、良いよ」

戦兎の返事を聞き、翼が入ってくる。

「よっ。どうした?」

「いや、ビルドについて聞きたい事があってな」

翼は、意外と整理されている戦兎の自室を見渡す。

机の上には、幾つもの武装が置かれており、別の机の上には幾つものフルボトルが置かれていた。

翼は、今戦兎が傍らに置いてあるホークガトリンガーに目を向ける。

「それは?」

「ん?これか。これはホークガトリンガー。俺の発・明・品だ」

「何故誇張して言うのかは知らんが、それもビルドとしての武器なのか?」

「その通り!これはガトリングフルボトルの成分を使って創り上げた武器でな、ガトリングフルボトルを使えばどんなフォームでも使える武器でな。これの最大の特徴はロックオンした相手の位置情報を元に弾速や発射角度の微調整を行う事でな、さらに使用者の手癖を記録分析する事で―――」

「分かった!分かったから少し落ち着け!」

興奮気味に自分の発明品を自慢しだす戦兎を抑えつつ、翼はホークガトリンガーに施された鷹の意匠に注意する。

「何故、鷹の意匠を?」

「ああ、ガトリングとのベストマッチがタカだからだよ」

それを聞いて、翼は机に置いてあるフルボトルのうち、タカの柄の入ったボトルとガトリングの柄が入ったボトルを手に取る。

「何故、これとこれがベストマッチとかなんだ?」

「あー、それは・・・」

どう説明したものか。

 

ベストマッチとは、かつての戦兎の仲間であった石動美空の父親、石動惣一に憑依したエボルトが、惣一の記憶を元に作ったフルボトルの組み合わせの事であり、そのベストマッチの起源は、『思いついた動物を殺せる武器や兵器の組み合わせ』だ。

途中、コミックだとか時計だとか訳の分からない物もあるが、その理由は、父親の娘の愛故だ。

思い浮かべた動物のほとんどは、幼少の美空との思い出から浮かべた事であり、その思い出を汚されたくなかった惣一は、途中から訳の分からない物を思い浮かべたのだろう。

 

故に――――

「実は俺にもよく分かんないんだよな」

誤魔化す事にした。

彼らにエボルトの事は言っていない。だから、馬鹿正直に話せば、エボルトを倒す為にライダーシステムを作った父親に悪い印象を持たれてしまう可能性があったからだ。

だから、これが最適解・・・の、筈だ。

「そうか・・・」

その答えに、翼は短く答え、また別の道具に手を伸ばす。

「これはフルボトルか?見た所、缶のように見えるんだが・・・」

それは、『ラビットタンクスパークリング』。ビルドの強化アイテムである。

「それはビルドの強化アイテムだ。今は成分が抜けてて使えないけど、それも後で直すつもりだよ」

「他の違う形状のものも使えないのか?」

「ああ。どれもこれもどういう訳かボトルの成分が抜けててな。ラビットタンクスパークリングとか、今持ってるボトルと同じ成分の奴ならどうにかなるんだが、全部のボトルがないと使えない物は今の所修理は絶望的だ」

「これだけあるのに、まだ他にもあるのか?」

「ああ」

これで全部ではない。それに翼は驚きを隠せない。

「全部で何本あるんだ?」

「まあ特殊な奴もあるからなんとも言えないんだが、まあざっと言って六十本って所かな」

総勢六十。なんという数なのだろうか。

確か、ビルドは二つのボトルの組み合わせによって変身する。

それを考えると、その組み合わせはざっと三千六百通り。

かなりのバリエーションが見込める。

「ちなみに、大まかに分けると生物と道具で三十本づつだ」

「ほう・・・」

「そして!そのベストマッチとなるボトルを見つける事の出来る機能を搭載したこのビルドドライバーなら、こうやってベストマッチ発見機にもなるのだ!」

 

ラビット!』『タンク!』

 

ベストマッチ!』

 

「すごいでしょ?最っ高でしょ?天っ才でしょ?」

「分かった。分かったから」

もはや戦兎の異常なテンションに慣れてきた翼。

「他のボトルはどうしたんだ?」

「ああ、仲間に預けてある」

「仲間・・・?仲間がいるのか?」

「ああ。今は・・・離れているけどな」

「それは、何故・・・?」

「まあ色々あって」

そう言って戦兎は新たな武器の修理に取り掛かる。

「うっわ、これは酷いな・・・」

「・・・」

何か、上手く誤魔化された気がする。

その時、翼は、今自分のポケットに入っている、机の上に置かれているフルボトルと同じフルボトル―――『不死鳥フルボトル』をポケットの中で握りしめる。

真っ赤な紅蓮のボトル。

その紅蓮の色が、自分とは相反する色であるのにも関わらず、手放す気になれないでいた。

あのように自己紹介をして、名乗りあったにも関わらず、翼は、戦兎の事を信じられないでいた。

 

この男には、謎が多過ぎる。

 

隠し事がある事は既に気付いている。

その隠している事が一体何なのか、それまでは分からない。

だが、その隠し事を聞き出せない限り、翼は、戦兎の事を信じる気にはなれないでいた。

 

その時、手の中にある不死鳥フルボトルが、ほんの僅かに温かくなった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は、深夜。

自衛隊が、その大火力を使い、ノイズの集団を迎え撃っていた。

だが、弾丸や砲弾、ミサイルは全てノイズの体を透過し、まるで効いている様子はなかった。

「くそ!やはり通常の兵器ではノイズに太刀打ちできんか!」

隊長格である自衛隊員がそう吐き捨てる。

 

ノイズには、通常の兵器は効かない。

 

その理由は、位相差障壁と呼ばれる、現実世界への存在比率を自在にコントロールできる事にあり、いわば彼らは半幽霊状態でこの世に存在しているようなものなのである。

故に、全ての武器は透過、貫通し、ノイズに一切の攻撃が通用しないようになっている。

 

たった一つ―――否、二つの例外を除いて。

 

「―――Imyuteus amenohabakiri tron――――」

 

タカ!』『ガトリング!』

 

ベストマッチ!』

 

どこからともなく、歌と声が聞こえ、上空を通ったヘリが、ノイズへと向かう。

そのヘリから、二人の人影が空中に躍り出る。

 

『Are You Ready?』

 

「変身!」

 

天空の暴れん坊ホークガトリング!イェイ・・・!』

 

空中で展開されたスナップライドビルダーに挟まれ、人影の一人―――桐生戦兎は仮面ライダービルド・ホークガトリングフォームに変身する。

それと同時に、翼は天羽々斬を纏い、ノイズの大群の前に降り立つ。

一方のビルドは、ホークガトリングの能力である飛行能力によって空中に留まる。

その時、マスクの下のインカムから通信が入る。

『翼、戦兎君。まずは一課と連携しつつ、相手の出方を・・・』

「いえ、私一人で問題ありません」

『翼!』

無線の向こうの弦十郎の言葉を無視して、翼は天羽々斬を抜く。

 

「―――去りなさい!無想に猛る炎、神楽の風に滅し散華せよ!」

 

「本気で一人でおっぱじめやがった・・・」

『すまない。翼のフォローを任せられるか?』

「問題ない。勝利の法則は既に決まっている」

右手を右のアンテナで滑らせ、ぱっと開く動作をして、戦兎は―――ビルドはその手に持つホークガトリンガーを翼が暴れ回る場所のノイズに向かって銃口を向ける。

「翼、俺が雑魚を一掃する。お前は大物を頼んだ」

 

警告は、した。

 

次の瞬間、引き金を引いた瞬間、凄まじい連射性で翼の周囲のノイズを一掃する。

一発も外さず、全てだ。

『ついでだ。空からも来ているぞ!』

「OK!」

見れば、飛行型のノイズがビルドに向かって襲い掛かってきていた。

その突進を軽く躱して、ビルドはホークガトリンガーのリボルマガジンを手動回転させる。

 

『Ten!』

 

しかし、それは一回だけに留まらず、

 

『Twenty! Thirty! Forty! Fifty! Sixty! Seventy! Eighty! Ninety!』

 

その数、十回。

 

One Hundred! FULL BULLET!』

 

最大弾数にまで達すると同時に、今空中にいる全てのノイズを球状の空間に閉じ込める。

「オォォアァアア!!」

その全てのノイズに向かって、ビルドはホークガトリンガーの弾丸を全て一気にぶっ放す。

タカの唸り声が響いたかと思うと、ほぼ一瞬にして全てのノイズを縦横無尽に蹂躙し、銃弾の餌食にする。

それと同時に、下にいる翼が巨大ノイズを一刀の元、両断する。

 

蒼ノ一閃

 

翼が着地すると同時に、ノイズが爆散する。

これで、ここら一帯のノイズは全て倒した。

「よ、お疲れ!」

翼の元へ降り立つビルド。

しかし、翼は何も答えず、その脇を通り過ぎていく。

「あれ?」

何やら素っ気ない彼女の様子に、ビルドは首を傾げる事しか出来ない。

「あいつ・・・なんかあったのか?」

『そういえば、君は知らないんだったな』

「どういう事だ?」

『二年前、ライブ会場の惨劇と呼ばれる事件が起きた。その事件で、翼は唯一無二の相棒を失ったんだ』

「相棒を・・・」

『それから二年、アイツはずっと一人で戦い続けていた。おそらく、戦兎君が戦いに加わった事で戸惑いを感じているのだろう。だからあまり責めないでやってくれ』

「・・・」

それを聞いて、ビルドは思う。

 

(俺、翼の事なんも知らないんだな・・・・)

 

一人孤独に戦い続ける少女の事を、ビルドは何も知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、どうすっかなぁ・・・」

翌日の学校にて、戦兎は職員室で一人そう呟く。

「桐生先生、何か悩み事ですか?」

「ん?まあ、そんな所かなぁ・・・」

向かいの女性教師の言葉にそう返事を返しつつ、戦兎は考える。

どうしたら、翼ともっと親密な関係になれるのか。

これから共に戦う仲間として、信頼度は上げておきたい。

とりあえず、互いの健闘を讃え合えるぐらいには。

「相談に乗りましょうか?」

「ん~・・・いや、大丈夫」

女性教師の提案を拒否しつつ、戦兎は立ち上がる。

「次の授業がありますから」

「そうですか、頑張ってください」

「どうも」

そうして職員室を出る戦兎。

(しっかし、どうすっかなぁ・・・)

「あ、見て、戦兎先生よ」

「ほんとだ!」

(翼は結構頑固そうだし、ちょっとやそっとじゃ心を開いてくれそうにないんだよなぁ)

「戦兎先生、頭良いし格好良くて素敵よね」

「うんうん、さらに運動も出来るみたいだし、いつも乗ってくるバイクは自作なんだって」

「すごぉい!」

(まあ、出会って数日の俺なんかに心を開いてくれる訳がないけど・・・でも二年前の事件か・・・それを調べてみるってのも手かもな。そうすれば地雷を踏まずにすむかもしれない)

「あの顔、何か悩んでいるのかしら?」

「ああ!出来る事なら相談に乗ってあげたい!」

「ちょっと!抜け駆けは許さないわよ!」

(でも気を使いすぎるとかえって不審がられるかもなぁ・・・万丈ならどうしたんだろうな・・・結構何も考えずにずばずばいってそうだが・・・)

「ええ~、いいじゃないそれぐらい」

「私だって戦兎先生と話したいの!」

「だったら一緒に聞けばいいじゃない」

「「ダメ!私だけで戦兎先生と話すの!」」

「ちょっと!そっちも抜け駆けしようとしてるじゃない!」

「そういうアンタだって!」

(いや、万丈を手本にするのはやめよう。あの馬鹿のやり方でどうにかなるのは同じ馬鹿だけだ)

「ていうかそこ、なんか喧嘩してるようだけどここ学校だからやめなさい」

「は、はい!」

「すみません!」

 

戦兎は知る由もない。

 

「きゃー!戦兎先生に話しかけられちゃった!」

「ちょっと!先生は私に話かけてくれたのよ!」

「なんですって!?」

「あーもう喧嘩しない!」

 

 

既に学校内で自分にファンクラブが出来てしまっている事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、戦兎が考えに考えた結果は、

「お前って昔デュエット組んでたんだな」

馬鹿正直な直球勝負だった。

「・・・それがどうかしたのか?」

「いや、ちょっと気になってな」

「はあ・・・」

溜息をつかれた。完全に悪い印象を持たれた。

「二年前の記事は見たのでしょう?」

「ああ、あれね。胸糞悪かったよ」

二年前、『ライブ会場の惨劇』と呼ばれる事件があった。

それは、風鳴翼と天羽(あもう)(かなで)という二人の歌手のユニット『ツヴァイウィング』のライブの最中に起きた最悪の事件。

空を埋め尽くす程のノイズがライブ会場に出現し、何百人という人達が死んでいった。

そして、あの事件の後、心無いメディアによって、ノイズの襲撃を生き残った者や、その遺族は、世間からの凄まじいまでのバッシングを受けた。

理由は、逃げる際の被害者たちへの誤解。

事件によって死んだ人間のほとんどはノイズによる炭化が原因だ。だが、それ以外で死んだ人間の事をメディアは挙げ、結果、自分が生き残りたいが為に他者を犠牲にしたクズとして世間に広まり、凄まじい非難を浴びる事となったのだ。

それによって自殺する者が出たり、あるいは蒸発する者が出たり、たかが生き残っただけで、何十人もの人間が不幸な目にあった。

全ては、メディアの持つ、情報のもたらす利益故に。

その、人間の腐った部分に、戦兎は怒りとやるせなさを感じていた。

「それを見て、お前はなおも愛と平和を掲げるのか?」

「ああ。確かに、人間には醜い部分がある。世界中に生きる全ての人間が良い奴だなんて思わない。それでも俺は愛と平和の為に戦う。仮令どれほど罵倒されようとも、きっと誰もが『愛と平和』を胸に掲げて生きていける日を、俺は創っていきたい」

即答だった。

どこまで行っても、桐生戦兎は、その覚悟を曲げるつもりはないらしい。

その戦兎の真っ直ぐな目が、翼には輝いて見えた。

「天羽奏だっけ?」

「・・・・ええ」

それは、翼の唯一無二の親友にして、ツヴァイウィングの片翼の名前。

「その事件で、命を落としたそうだな」

「その様子じゃ、奏の最期まで・・・・」

「絶唱、だったか」

己の全てを捧げて歌う、最後の一撃にして、下手を打てば自爆技となる、諸刃の剣『絶唱』。

本来、『絶唱』はシンフォギアとの適合率が高ければ高い程、そのバックファイアの影響は少なくなる。

だが、天羽奏は本当はシンフォギアの適合者にはなれない筈だった。

それを、無理な投薬によって適合率を無理矢理引き上げて使っていた為に、そのバックファイアは凄まじいものとなり、天羽奏は、その身を一欠片も残すことなく塵となって消滅した。

そして、それ以来翼は、己の身を『剣』として研ぎ澄まし、ノイズとの戦いに没頭した。

「俺も昔、相棒を助ける為に捨て身の戦法を取った事があった」

「え?」

予想外な言葉が、戦兎の口から出た。

「そいつ諸共消滅する事で、体を乗っ取られたそいつを助け出そうとしたんだが、力を奪う事には成功したんだが、逆に体を乗っ取られてな。ほんっと、あの時は最っ悪だったよ」

「そう・・・だったの・・・」

でも、今彼はそこにいる。きっと、彼の仲間が、彼を助けたのだろう。

だけど、自分は大切な人を助ける事が出来なかった。

 

彼とは、違う。

 

「それに、最後の戦いじゃあ一緒に戦ってくれた仲間も死んじまった」

「っ!?」

また、衝撃の事実が戦兎の口から出る。

「一人は俺の忠告を無視して勝手に強化アイテム使って死んじまうし、もう一人は敵の強化アイテム壊すだけ壊して死んじまうし、色々と大変だったぜ」

だけど、と戦兎は続ける。

「託されたものあったんだ」

愛と平和の為に。ただ一つの信念の元に戦った仲間たち。

その仲間を失い、戦兎は、一人ここに立っている。

 

そう、―――戦兎は今、独りだ。

 

「・・・」

それは、独り戦い続けてきた翼と、どこか似た感覚があった。

その期間は、天と地程の差があるものかもしれない。

しかし、戦兎は自分たちには話せない秘密を隠し持っている。

だが、その秘密を独り抱え続けている。共有できる相手もいなければ、その事を知っている者もいない。

だから、彼は今、どうしようもなく独りだ。

例えるならば、突然、知らない場所に放り込まれた子供そのもの。

それでも、彼は、笑って戦うのだろう。

愛と平和の為に。揺るがぬ信念のままに。

 

その身が、滅んだとしても。

 

そう思うと、翼は胸がきゅうっ、と締め付けられるような感覚を感じた。

(あれ、なんで私、胸が・・・)

その理由が分からない翼。

しかし、そんな翼の様子に気付かず、戦兎は続ける。

「だからさ、お前も奏から何かを託されたんじゃないかと思うんだ。俺が何か言えた義理じゃないけど、それでもその想いを継いでいく事は出来ると思う」

戦兎は、手を差し出す。

「だからさ、もう少し連携が取れるようにならないか?そうすりゃ、少しは肩の荷が下りるかもしれないし」

その差し出された手を見て、翼は、戸惑う。

「私は・・・」

この手を、取ってもいいのだろうか。

 

 

 

その時、二人の通信機に、通信が入る。

 

 

 

翼はそれを反射的に取り出して耳に押し当てる。

「どうしたんですか?」

『ノイズだ!すぐに二課にまで来てくれ!』

「分かりました」

ノイズ―――それが出現したのなら、自分たちの出番だ。

「ノイズよ」

「分かった。いこう!」

二人同時に駆け出し、二課本部まで一気に向かう。

 

 

 

 

二課に到着した翼と戦兎。

「状況を教えてください!」

「おいどーなってんだ!?」

翼と戦兎の言葉に、オペレーターの一人が答える。

「現在、反応を絞り込み、位置の特定を最優先としています」

モニターを見れば、この街の地図と幾つもの点を中心に円形の力場を示す表示が映し出されていた。

まだ、位置は分からないようだ。

「く・・・!」

「現場の監視カメラとか見れないのか?」

戦兎がオペレーターの一人が使う端末に駆け寄る。

「出来るには出来ますが・・・」

「やってくれ。俺が全部見る」

戦兎の指示に、オペレーターが応じる。

映し出されたのは、ノイズが出現したと思われるあらかたの場所全ての監視カメラのリアルタイム映像。

その無数の映像を、戦兎は頭を高速回転させて全て確認する。

その最中で、戦兎は、ある映像に目を奪われる。

「ッ・・・!?」

「どうかしましたか?」

戦兎の異変に、そのモニターを使っていたオペレーターが訪ねる。

「このモニター、ちょいと巻き戻してくれ」

「分かりました」

戦兎が指差した監視カメラの映像を巻き戻す。

「ここだ!」

映像が止まる。そこに映っていたのは――――

 

「ば、万丈・・・!?」

 

戦兎の相棒である、万丈龍我だった。

 

 

そして、異変は、起きる――――

 

 

「反応を絞り込めました!位置特定!」

「ノイズとは異なる、高出力エネルギーを検知!」

「波形の照合急いで!」

「まさかこれって・・・アウフヴァッヘン波形!?」

動揺が、広がる。

「それって確か、聖遺物から検出されるエネルギー波・・・まさか、シンフォギアか!?」

戦兎の予想は的中し、その名がモニターに映し出される。

 

[code:GUNGNIR]

 

GUNGNIR(グングニル)・・・?」

GUNGNIR(ガングニール)だとォ!?」

「え!?読み方そっち!?」

どうでも良い所で驚いているが、とにかく戦兎は、その場所の映像を映し出すように指示を出す。

そして、そこに映し出されているのは――――青い装甲を身に纏った戦士。

「あれは、まさか・・・」

「もう一人の仮面ライダーだとォ!?」

その名を、戦兎は呟く。

「・・・・クローズ」




次回の愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「なんだろう。これ・・・」

謎の青いボトルを拾った立花響。

「ん?あ!?ちょ、おま、出てくんな!」

女子高生に飯を奢られる万丈龍我。

邂逅する二人。

「わあ可愛い」

何故かクローズドラゴンに懐かれる小日向未来。

そして、新たに出現するノイズ。

「こっちだ!」

「生きるのを諦めないで!」

その最中で、響の胸の奥に秘められた力が開放される。

そして、もう一人の仮面ライダーが、その姿を現す。

『Wake Up Burning!』

『Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!』

次回『復活の槍撃!目覚めろドラゴン』

「見せてやるよ・・・俺の変身をなァ!」


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復活の槍撃!目覚めろドラゴン

戦「仮面ライダービルドこと桐生戦兎は、今日も今日とて、ノイズを倒す日々に明け暮れていたのでした」
翼「物理教師という二面性生活を送る桐生戦兎。しかし今回の主役はそんな桐生戦兎ではなく、彼の相棒である万丈龍我である」
万「やっと俺の出番か」
戦「んな訳ないでしょーが、この物語の主人公にして主役は俺。OK?」
翼「残念だがこの物語の主人公であったとしても、今回の主役ではないからな?」
響「あ、なんだか戦兎先生と翼さんの出番ほんの少しみたいですよ」
戦「しかーし!この物語の主人子は俺!桐生戦兎だからな!」
万「なんでそんな必死なんだよ?」
翼「この際見苦しいな」
響「えーっと、では、私、立花響と龍我さんが変身―――」
戦「――しない仮面ライダービルドが活躍―――」
翼「―――しないしちゃんと二人が変身する第四話をどうぞ」
戦「俺の出番がぁぁああ!」


OP『Be The One(By Tsubasa Kazanari〈CV.Nana Mizuki〉)』


戦「自分の願望書いてんじゃないよ・・・まあ俺も聞きたいけど」
翼「そ、そうか・・・」


作「水樹奈々さんBe The One歌ってくんねーかな~」(願望)


―――立花(たちばな)(ひびき)、十五歳、誕生日九月十三日、血液型はO型、彼氏いない歴=年齢、趣味は人助け。

 

何故いきなり彼女の事を話したのか。理由は、彼女がガングニールの装者なのだが、何故彼女が装者として覚醒したのかは、事の始まりを昨日の夕方にまで遡る必要がある。

 

 

事の始まりは昨日の帰りに拾った謎のボトルだった。

「なんだろう。これ・・・」

青い竜の柄が入った小さなボトル。

一見、ただの玩具にしか見えないのだが、シャカシャカと振ると意外に楽しい。

「もう響ったら、誰かの落とし物かもしれないよ」

「分かってるよ。後で交番に届けるって」

そんな彼女を咎めるのは、響の通う私立リディアン音楽院の寮と同部屋であり、小さな時からの親友である、『小日向(こひなた)未来(みく)』である。

しかし、やはりこのシャカシャカという音と感触は心地良くて楽しい。

「でも、こんな玩具って売られてたっけ?」

そこでふと疑問に思った事がそれだった。

「それもそうだね。玩具売り場でこんなもの売ってなかったと思うけど」

「もしかして、実はすごいアイテムで、振れば振る程パワーが上がる、とかなんかだったりして」

「もう、そんな事あるわけないでしょ?」

「えー、そうかな―――」

なんて、右手でボトルを持ったまま拳を前方へ突き出した瞬間、

 

 

―――目の前の大気が吹き飛んだ。

 

 

「「・・・・」」

幸い、目の前に人がいなかったら良かったものの、もしこれが誰かに当たっていたりしていたら大惨事である。

たかだか振っていただけで大気が吹き飛ぶレベルの威力。

その光景を目の当たりにした顔を見合わせた二人が取った行動は―――その場からすぐにでも逃げ出す事だった。

 

 

 

 

 

 

「はぁー、びっくりしたぁ・・・」

離れた公園にて、響と未来は肩で息をしながらベンチに座っていた。

あのボトルは響のポケットの中である。

「なんでこんなものが・・・」

「まさか、どこかの秘密結社が製造して、世界征服を企んでるのかも!」

「ノイズの出るこのご時世に?」

「だよね・・・」

触れただけで体が炭化するというのに、たかがパンチ力を引き上げるだけのボトルを作って一体何になるというのか。

「でも、実際にこれがあるんだよね」

試しに数回振った後に、それを持ったまま拳を振るってみる。

すると、凄まじい風切り音が鳴り、先ほどとは打って変わった弱いパンチが放たれる。だがそれは、年頃の少女が放っていい威力の拳ではなかった。

「交番に届けるのやめた方がいいかも・・・・」

「確かに、これを悪い事に利用しようとする人がいたら、大変だもんね・・・」

ボトルをポケットにしまい、項垂れる響。

「はあ、私って呪われてるかも・・・」

「そんな事ないよ。まあ、こんなボトル拾っちゃったのは災難かもしれないけど・・・」

「だよねぇ・・・まあ、家に置いておくだけなら大丈夫だよね」

一見はただの玩具だ。誰にも怪しまれないだろう。

発信機とかもついているかもしれないが、そんな日常とは無縁の彼女たちには、そんな考えは思い浮かばないのだが。

「へいき、へっちゃら!」

と、いつものおまじないの言葉を響が口にした瞬間、

 

 

―――目の前で人が倒れた。

 

 

「え、えぇぇええ!?」

「だ、大丈夫ですか!?」

突然の事にテンパる二人。

だが、響は慣れているのか意外と冷静だった。

「大丈夫ですか!?しっかりしてください!」

見た目は素行の悪そうな男だが、容姿は良い方で、茶髪で筋肉質。

そんな男が目の前で倒れたとあっては、未来はともかく響は黙っていられなかった。

「う・・・」

「あ、よかった。気が付いた・・・」

意識がある事にほっとした響と未来。

「・・・た」

「はい?」

ふと、その男が何かを言ったかと思い、耳を近付けてみると、

「・・・腹、減った」

「あー・・・」

 

どうやら、空腹だっただけらしい。

 

 

 

 

「いやー悪いな奢ってもらってよ」

駅前のお好み焼き屋『ふらわー』にて、見事復活を果たした男に礼を言われる。

「そんな事はありませんよ」

「響のいつものお節介ですので心配しないでください」

「酷いな~、人助けと言ってよ」

「響の場合は度が過ぎてるの」

親友の辛辣な言葉が突き刺さるも、それでもめげない響。

「ふ~ん・・・あ、ばあさん水くれ」

「あいよ。それにしてもアンタ、食べるねぇ」

「まあこの一週間なにも食べてなかったからな」

「一週間!?」

これには驚きを隠せない二人。

「いやー、いきなり知らない場所に投げ出されるわ、俺のもってる金は使えないわ、ついでにチンピラどもに難癖付けられてボコっても今度は警察のお世話になりそうで逃げだすわでもう散々でさー」

「わ、わーお、壮絶・・・」

「ついでに俺、馬鹿だから何すればいいのかわかんなくてよ」

「はあ・・・」

よく分からない人だ、と未来は思った。

嘘を言っているようには見えないし、彼の言うように、頭もそこまで良い訳ではないのだろう。

だが、悪い人ではないとはなんとなく分かる。

なんというか、馬鹿でお人好し、という感じがする。

「あ、そういえばまだ名前言ってなかったな。俺は万丈龍我だ。よろしくな」

「あ、立花響です」

「小日向未来と言います」

「ていうか響、お前なんかアイツに似てるな」

「え?似てるって誰にですか?」

「俺の知り合い。あいつも結構なお人好しでな。困ってる奴がいたらどこにいても駆けつけるような奴でさ。自分の事より他人の事を優先させちまうんだよ」

「そうなんですか・・・私も会ってみたいです」

「ぜってぇ気があうと思うぜ」

何やら和気藹々としている。

それが、なんか、微妙に面白くない。何故だろうか。

「ん?あ!?ちょ、おま、出てくんな!」

と、突然、龍我がジャケットの中に手を突っ込んだかと思うと、そこから何かが飛び出し、未来の方へ向かう。

「え?わっ!?」

「キュルッキュイーン!」

それは未来の頭にこつんと当たると、未来の差し出した手の上に降り立った。

「わあ、可愛い」

それは、四角い胴体をもった機械の動物だった。

「龍我さん、これは?」

「あー・・・俺の知り合いが作ったもんでな。クローズドラゴンっていうんだ」

「じゃあクロだね」

「ネコかよ・・・」

そんな万丈のツッコミなど無視して未来や響はクローズドラゴンを愛でる。

が、よくよく見てみると、どういう訳かドラゴンは未来にかなり懐いているようだ。

(戦兎の奴そんな機能つけたか?)

軽く火を噴いたり毒を吸い出したりは出来る。だがあんな風に人に懐くようにあの男は設定するだろうか。

あくまで、万丈のお目付け役という事で作られたものだというのに。

 

まあそんな事万丈に分かる筈がないのだが。

 

しかし、特定の相手にのみこれほどまでに懐くだろうか。

訳が分からなくなる。

結局、何もわからず仕舞いのまま、万丈はそのまま夕飯をご馳走になった。

 

 

 

 

「悪かったな。奢ってもらってよ」

「いえ、人助けは私の趣味なので」

「もう、響ったら」

響の発言に呆れる未来。

「ていうかお前、いつまソイツに引っ付いてるつもりだよ」

「キュルル!」

それでもって、未来から離れようとしないドラゴン。

「未来の事が気に入ったのかな」

「機械の動物に好かれてもね・・・」

「とにかく行くぞ」

「キュル!?」

無理矢理ドラゴンをひっつかむ万丈。

「キュルッキュイーン!キューン!キュルルルル!」

「あ、こら!暴れんな!」

それでもって暴れるドラゴン。どうやら相当未来の側にいたいらしい。

そんなドラゴンに、未来は優しく声をかける。

「ごめんね。もう少し一緒にいてあげたいけど、貴方の主人はこの人でしょ?」

「キュル・・・」

「また機会があったら、もう一度遊ぼうね」

「・・・キュィーン!」

どうやら納得したらしく、ドラゴンは万丈の懐に戻る。

「なんか納得いかねえ・・・」

「乱暴過ぎるんですよ龍我さんは」

「そういうもんかぁ?」

いまいち良くわからない様子の万丈。

「まあいっか、そんじゃ、またな」

「はい!」

そう言って、万丈は去っていく。

「なんだか、不思議な人だったね」

「うん。機械の動物もってて、それで何日も食べてなかったなんて。あんなに良い服着てるのに」

おそらく、何かしら事情があるのだろう。

しかし、それにしては落ち込んだ様子も無く、意気揚々としていた。

そんな、掴みどころの無い人。

「なんだか、すぐに会える気がする」

「私も、なんだかそう思うよ」

響と未来は、そんな予感がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

その夜、戦兎と翼がノイズと戦ってた事なんて露知らず、翌日の昼休み時。

 

 

 

 

「自衛隊、特異災害対策機動部による避難誘導は完了しており、被害は最小限に抑えられた、だって」

自分の携帯の液晶画面を見ながら、未来はそのように呟く。

それは、昨晩おきた、ノイズに関するニュースだ。

「ここから、そう離れていないね」

「うん・・・」

ご飯を食べつつ、そう返事を返す響。

しかしその心象は、いつにもましてぼーっとしていた。

理由は昨日の万丈との邂逅―――などではなく、この学園へ入学した目的だった。

 

立花響は、風鳴翼に会うためにこのリディアン音楽院に入学した。

 

二年前、ライブ会場の惨劇の渦中に、響はいた。

その最中、ツヴァイウィングの二人が戦う姿を響は目撃し、そしてその戦いに巻き込まれて、胸に傷を負った。

その時の傷―――どういう訳か楽譜の記号で使われる(フォルテ)の形についてしまったのだが―――は今でも残っている。

響が知りたいのは、あの日戦っていたツヴァイウィングの事と、あの日何が起きていたのかという事だ。

それを翼から聞けば、何か、分かるような気がする。

だから、響は、翼に会いにリディアンに入ったのだ。

 

その事を考えながら、昼食を食べていた響だが、

「ねえ、見て。風鳴翼よ」

「ほんとだ!」

「ッ・・・!」

生徒の一人が、そうひそひそと話す声が聞こえた。

「芸能人オーラ出まくりで、近寄りがたさが凄い・・・」

「孤高の歌姫といった所ね」

それを聞いた途端、響はすぐさま立ち上がって翼の元へ行こうとする―――が、翼は目の前にいた。

それも超至近距離、文字通り目と鼻の先だ。

長く綺麗な青髪。整った綺麗な顔。

いつも写真や映像で見ているものじゃない、生の顔だ。

だが、それが問題だった。

いざ対峙すると体が固まり、動けなくなる。

聞きたい事があったのに、口が強張って上手く話せない。

周囲からは色々とひそひそと声がする。

「あ・・・あの・・・」

いつまでも口ごもっていると、翼は何故か、自分自身の頬を指差した。

それに、響は同じ様に自分の頬に触れてみると、そこにはご飯粒がついていた。

「・・・・」

それだけ言って満足したのか、翼は横を通り過ぎていってしまう。

「・・・・」

(あ、結構ダメージ受けてる)

目に見えてやってしまったという感情が滲んでいるのが分かる。

響は何も言わずに席に戻ると、すっかり落ち込んだ様子でもくもくとご飯を食べ始める。

その様子に、未来は苦笑するだけだったのだが。

「あ!見て!戦兎先生よ!」

「ほんとだほんとだ!」

明らかに翼の時よりテンション高めな黄色い声が聞こえてきて、今度は未来がそちらを見ると、そこにはトレンチコートを着て、悠々と食堂に入ってくる、このリディアンに一週間前に勤務し始めた男性教師、桐生戦兎がいた。

その授業は、この学園では凄まじい評判を受けており、どこのクラスも彼の授業を受けたいと躍起になる程だ。

噂では、勤務一週間にして既にファンクラブが出来ているとか。

「戦兎先生、ナルシストで自意識過剰だけど、授業はとっても面白いよね」

「うんうん、あの授業一回で今度の物理のテスト百点はとれる気がする!」

「それに顔も良いし。ああ、一度でいいから個別授業受けてみたいな~」

「ちょっと!抜け駆けは許さないわよ!」

「私だって受けたいんだからね!」

「何よ!ぽっとでのモブの癖に!」

「「それは貴方も同じでしょ!」」

・・・何やら、人気があり過ぎるというのも問題な気がするが。

そんな戦兎が、響の横を通った。

その時、戦兎の視界に落ち込んでいる響が入る。

「おい、どうした?」

そしてすぐさま声をかけてきたのである。

「せ、戦兎先生が自分から声をかけたー!?」

「羨ましすぎるぅ!」

「ずっるーい!」

「・・・」

もはやこの際無視しようと決め込む未来。

一方、戦兎に声を掛けられた響は、

「あー、大丈夫ですよ。自分の意気地なさにショック受けてるだけですので」

「それはそれで大丈夫じゃないと思うんだが・・・」

戦兎は響の方へ向き直ると、

「まあなんだ。何で落ち込んでるのかは知らないが・・・諦めずに、またチャレンジすればいいだろ。科学者の俺に言わせれば、失敗は成功の元だ」

「戦兎先生・・・・」

事情も何も聞いていないのにこの的確な指示。

自称天才と言うだけの事はあるというのだろうか。

「失敗は成功の元・・・はい、そうですね!私、頑張ってみます!」

「元気になってよかったよ。そんじゃ、俺は忙しいんで」

「ありがとうございました!」

そう言って、去っていく戦兎を、響と未来は見送った。

 

 

 

 

「はぁ・・・」

だが結局は落ち込むのであった。

「翼さんに完璧可笑しな子だと思われた・・・」

「間違ってないんだからいいんじゃない」

そして親友の辛辣な一言。

「・・・それ、もう少しかかりそう?」

響は未来がノートに書いているものを見て、そう尋ねる。

「うん。・・・ん?ああ、今日は翼さんのCD発売だったね」

風鳴翼は日本が誇るトップアーティスト。そのCDの発売日が今日なのだ。

「でも、今時CD?」

「うるっさいな~初回特典の充実度が違うんだよ~CDは」

これでも翼の大ファンである響は、今日という日を待ちわびていたのだ。

故に、

「だとしたらもう売り切れちゃうんじゃない?」

「ッ!?」

当然、行動は早かった。

 

 

 

 

 

 

「あぁ~・・・腹減った」

万丈龍我は、一人ベンチに座って項垂れていた。

「金は使えねえし、変な奴らには絡まれるし、危うく警察に掴まりそうになるし、もう散々だ・・・」

「キュルッキュイ」

「お前はいいよなぁ、そんな能天気でよぉ・・・・」

万丈の上空を自由気ままに飛び回るドラゴン。

しかし、そんな事を呟く龍我の心情は、かなり弱っていた。

(今頃どうしてんだろなぁ・・・戦兎たちはよ)

あの戦い―――新世界を創るためにエボルトと死闘を繰り広げた。

その戦いの最中で、多くの仲間が死んでいった。

一海、幻徳、その他にも、大勢の人たちが死んでいった。

そして、自分は今、一人死に損なっている。

この世界で、たった一人、生き残ってしまっている。

まさか、一人だという事がここまで堪えるとは思わなかった。

「もう一度会いてぇな・・・」

「キュィ・・・」

「ん?なんだよ。慰めてくれてんのか?」

万丈の膝の上に乗って心配そうに見上げるドラゴン。

そんなドラゴンの気遣いなのかどうかも分からない行動に、少し心が軽くなる。

「よし!うだうだ考えてても仕方がねえ!もう少し歩いてみっか!」

「キュイ!」

そんな訳で街中を歩く万丈。

「しっかし、ここは俺の知ってる街とは色々と違うところがあるよなぁ・・・・」

宙吊りの列車、空中に映し出される映像、謎の警報。

ここ一週間、この街の様々なものを見てきたが、ほとんどが万丈が知らない事ばかりだ。

警報が鳴った時はよくわからずその場で立ち往生して、そのまま一週間が過ぎてしまったが、よくよく考えてみれば、あれは何かの襲来をしていたのではないだろうか。

「だとしたらあんな所で棒立ちになってるわけにはいかねえよな・・・」

なんて思いつつ、万丈は曲がり角を曲がった。

そしてふと立ち止まって、異常に気付いた。

「・・・・」

目の前―――の、足元にあったのは、黒い、砂の小さな山。

他にも、道路の上や、店の中。至る所に黒い砂があった。

 

万丈にとっては、それが人間とその天敵がなった炭素の塊とは知らない。

 

だけど、それが、あまりにも異常な事態だという事だけは、本能で理解できた。

「なん・・・だよ・・・これ・・・・」

 

「いやぁぁぁあぁあ!!」

 

「ッ!?」

小さな、子供の悲鳴が聞こえた。

「今のは・・・!」

「キュルッキュイー!」

「あ!おい!」

万丈が、突然飛び出したドラゴンの後を追う。

 

 

それが、全ての始まりだったのかもしれない。

 

 

「キュル!」

「あそこか・・・ってなんじゃありゃあ!?」

辿り着けば、そこには小さな女の子が何か半透明の化け物に襲われていた。

「だれかぁ!たすけてぇ!」

「って呆けてる場合じゃねえ!今すぐ助けて・・・あれ?」

ポケットに手を突っ込むが、何故かそこには何もない。

「ない!?ない!?ボトルがない!?」

ジャケットのポケットやズボンのポケット。あのボトルを入れられそうな場所をくまなく探したが、結局見つからず。

それで万丈は、ある結論に行きついた。

「・・・ボトルを落とした」

「キュルル!?」

何故かドラゴンが驚いた。

しかし、そうしている間にも化け物は女の子に近付く。

「って、ボトルがあろうがなかろうが関係ねえ!今はアイツを助けねえと・・・!」

だが、万丈からの距離じゃ間に合わない。

このままでは女の子は化け物の攻撃を受ける。

「間に合え・・・!」

だが、無常にも化け物は女の子に襲い掛かり――――

 

「やぁああ!!」

 

間一髪で、一人の少女が女の子を救い出す。

その少女は―――響だった。

「響!?」

「え!?龍我さん!?」

響は真っ直ぐこちらに走ってくる。

「何してるんですか!?今すぐ逃げましょう!」

「いや、お前らは先に行け、ここは俺がどうにかする!」

「なに言ってるんですか!?触れたら死んじゃうんですよ!?」

「は!?触ったら死ぬのか!?」

「なんでノイズの事を知らないんですか!?」

「ノイズ?なんだそりゃ・・・ってあぶねえ!」

「きゃあ!?」

化け物が―――ノイズが一斉に万丈たちに襲い掛かる。

間一髪で躱す事が出来たが、それでもノイズは追いかけてくる。

「キュルッキュイーン!」

「ドラゴン!?」

その最中、ドラゴンが先導するように飛び出す。

「行きましょう!走れる?」

「う、うん・・・!」

「よし、行こう!」

「あ!?おい!」

 

三人は、走る。

 

響が女の子の手を引き、万丈は後ろからいつでも襲い掛かられてもいいように走る。

だが、ノイズは先回りしていたのか、路地裏の川の両方の道に待ち構えていた。

「嘘・・・」

「おねえちゃん!」

女の子が響に抱き着く。

「大丈夫、お姉ちゃんがいるから・・・」

「くそ!殴る事が出来れば良かったんだがなァ!」

「え!?万丈さん何をぉぉぉお!?」

万丈が二人を担ぐなり、向こう岸へ一気に投げ飛ばす。

その後を追うように、万丈は川に飛び込む。

「うわっと・・・龍我さん!」

「俺に構うな!行け!」

「・・・はい!」

想像以上のスピードで川を泳ぎ切ってくれた万丈を背に、響は走る。

途中、女の子が疲れて走れなくなり、そんな女の子を追いついた万丈が背負って走る。

それでもノイズは追いかけてくる。

「はあっはあっはあっ!シェルターから、離れ、ちゃった・・・!」

「シェルター!?マジかよ!」

まだ余裕のある万丈の後ろを、息を切らせながらも必死に走る響。

それでもなおもノイズは追いかけてくる。

「くそ!まだ追いかけてきやがる!」

「きゃあ!」

「ッ!?響!」

響が転んだ。

倒れた響は、酸素を求めるように必死に呼吸をしている。

「無理すんな!」

万丈は、響すらも担いで走る。

その最中で、響は、後ろからまだ追いかけてくるノイズの群れを見て、ふと二年前の事を思い出す。

 

『生きる事を諦めるな!』

 

その言葉を思い出すと、不思議と力が湧いてくる。

生きようって、思えてくる。

「大丈夫です・・・まだ走れます!」

万丈の腕から降りて、自分の足で走る。

 

―――二年前のあの日、あの時、あの瞬間、間違いなく、私はあの人に助けられた。

 

工場の中を走り、逃げて、逃げ続けて。

 

―――私を救ってくれたあの人は、とても優しくて、力強い歌を歌っていた。

 

女の子をジャケットで縛り、離れないようにして、気が遠くなるほど高くて長い梯子を上る。

 

「―――っはぁ!はあ・・・はあ・・・」

「おい、大丈夫か?」

女の子を降ろした万丈は、疲れ切った様子の響に声をかける。

「ァ・・・はぃ・・・だいじょ・・・ぶです・・・!」

どうにか答える響だが、明らかに疲弊しきってるのは明らかだ。

「くそ、ドラゴンフルボトルさえあれば・・・!」

そう悪態を吐く万丈。

「死んじゃうの・・・?」

ふと、少女の小さな弱音が聞こえた。

そんな少女の言葉に、万丈は勇気づける。

「大丈夫だ!俺がいる!この・・・えーっと・・・そうだ!『プロテインの貴公子』―――バサッ!(自分で言っている)―――万丈龍我様がいるからな!」

苦し紛れのジョークなのか、自分でジャケットを靡かせて、天を指差す万丈。

そんな万丈の言葉に、二人は、思わず吹き出す。

「「あ、アハハハハ!」」

「な、なんだよ・・・」

「ご、ごめんなさい!でも、面白くって」

「たくよう・・・」

いじける万丈。

「キュイ!」

だが、ドラゴンが鋭い声を発してそちらを向けば――――ノイズの大群が、目の前に立っていた。

「「ッ!?」」

女の子が、響に抱き着く。万丈が、そんな二人の前に立って、ノイズと対峙する。

「キュルル・・・!」

ドラゴンが、ノイズたちを威嚇するように唸る。

それでも、ノイズたちはじりじりと近付いてくる。

「くそ!ボトルさえあれば!」

「ボトル・・・?」

先から万丈が言っている『ボトル』という言葉。

 

―――何か、私に出来る事・・・!

 

運命が、動き出す―――

 

―――私に出来る事が、何かある筈だ・・・!

 

少女は、自然と二年前に言われた言葉を叫ぶ。

 

「生きるのを諦めないで!」

 

その胸に、秘められた希望が、今、歌と共に輝く。

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron―――」

 

光が、迸る。

黄色く、黄金の光が、その場に拡散する。

「なんだ!?」

「キュイ!?」

これには、万丈も驚く。

 

だが、万丈が驚いている間にも、響の体の中ではある変化が起きていた。

 

細胞の一つ一つが書き換えられていくかのような激痛が体を駆け巡り、細胞の全てが侵食され、流れる血を構成するヘモグロビンすらも変わり、人ならざる者へと変り果てる。

されど、彼女は、人の形を保つ。

「う――っあ!あぁぁぁああぁぁあぁああぁあああッ!!!」

四つん這いになって絶叫する。

背中から、何かしらの機械のようなものが飛び出したり引っ込んだりする度に、響の体に、白い鎧が纏われていく。

「響!?」

完全に着装が済んだと同時に、鎧の隙間から蒸気が吹き出す。

その姿は、まさしく、戦士そのもの。

万丈にとっては、それは戦士と呼ぶに相応しいものなのかと思うものだが、それは間違いなく、立花響の戦士としての装束だった。

そして、響は、自分の変化を改めて認識した。

「え?うぇえ!?なんで!?私、何がどうなっちゃってるの!?」

明らかに混乱している様子の響。

「おねえちゃん・・・格好いい!」

「え?」

女の子が、きらきらした目で響を見上げていた。

「だぁくっそ!お前変身できたのかよ!」

「へん・・・しん・・・?」

「ああ?お前仮面ライダー・・・な訳ないか。くそっ、俺にもボトルがあれば・・・」

「あ、あの!龍我さん!」

響は、懐から、寮の部屋から持ってきていた青い竜の柄が入った小さなボトルを取り出した。

「ボトルってこれですか?」

「な!?お前が持ってたのかよ!?」

「じ、実は昨日拾ってて・・・」

「何でもっと早く言わねえんだよ!?・・・まあいい」

万丈はボトルを受け取ると、ノイズの方を見る。

「まあ丁度いい機会だ。やっとこいつらを殴れる気がするからなぁ!」

万丈は、懐から、謎の機械―――ビルドドライバーを取り出す。

それを腰にあてがえば、アジャストバインドが腰に巻き付いて固定される。

「キュィィキュゥッルルッルル!」

そして空中を取りまわっていたクローズドラゴンを掴み取ると、響から受け取った青いボトル―――ドラゴンフルボトルを思いっきり振る。

「見せてやるよ・・・俺の変身をなァ!」

そして、クローズドラゴンに振る事でトランジェルソリッドを十分活性化させたドラゴンフルボトルをセットする。

そして、クローズドラゴンの頭部と尻尾を折りたたむと、本体の赤いボタンを押す。

 

Wake UP!』

 

そして、そのままビルドドライバーにセットする。

 

CROSS-Z DRAGON!』

 

クローズドラゴンをセットしたビルドドライバー。そのボルテックレバーを一気に回す。

回して回して、ドライバーから伸びるスナップライドビルダーに、ドラゴンフルボトルの成分で構成された鎧が構成される。

「え?なにこれ?なにこれぇ!?」

その範囲から逃れつつ、響は驚きを重ねる。

そして、あの言葉がドライバーから発せられる。

 

『Are You Ready?』

 

その答えは、あの日からいつも決まっている。

 

自分が信じた人間の為に。

 

その身を賭して、今、変身する。

 

「変身!」

 

『Wake UP Burning!』

 

『Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!』

 

スナップライドビルダーに構成された装甲が万丈を挟み、そして、その装甲の上に『ドラゴライブレイザー』が纏われる。

それはまるで、炎を纏いし、炎龍の如く。

「え、ええぇぇええ!?」

「わあ!」

響は驚き、女の子は目を輝かせて、変身した万丈を見上げた。

 

それこそが、仮面ライダービルドの最高の相棒の『仮面ライダークローズ』だった。

 

「さあ行くぜぇぇえ!!」

万丈―――クローズは再誕を祝うが如く雄叫びを上げた。




次回の愛和創造シンフォギア・ビルドは!

ついに変身した仮面ライダークローズと立花響!

「いくぜぇ!」

「―――絶対に離さない、この繋いだ手は」

クローズがノイズたちを蹴散らす中で、ビルドたちもやってくる。

「戦兎先生ぃ!?」

正体がばれる戦兎。

「おい!?なんだよこれ!?」

問答無用で掛けられる手錠。

果たしてどうなるのか!(分かり切った事を)

次回『再開のナイトバトル』

(私は・・・一人だ・・・)


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再開のナイトバトル

戦「ごく普通の高校生である立花響は、シンフォギア『ガングニール』の装者となりて、ノイズと戦う運命にあった・・・って誰だ台本変えたの!?」
了「私よ♪」
戦「なんて事してくれてんすか・・・」
了「いいじゃない。どうせ本編でいっぱい活躍するんだから」
万「おいこら今回は俺の活躍回だろ!?なのになんで俺の名前が出てこねえんだよ!?」
戦「うるっさいよこっちはそんなに暇じゃないんだからさ。えーっと、本当の台本は・・・」
了「ああ、それならさっき翼ちゃんがシュレッダーのようにみじん切りにしてたわよ」
戦「なんだと!?」
万「なんか変な事書いてたんじゃねえの?」
戦「いやアイツが恥ずかしがるようなこと書いた覚えはないんだが・・・」
了「まあそれはともかく、はい、響ちゃん」
響「あ、はい!ではどうなる第五話!」




ちなみに翼が台本をみじん切りにした理由。

翼「いや、少しコーヒーを零してしまってな・・・」

証・拠・隠・滅!


仮面ライダークローズ。

その出現が確認されたと同時に、戦兎は弦十郎に言う。

「風鳴!俺は出るぞ!」

「分かった。翼も行ってくれ!」

「・・・分かりました」

翼は、モニターに映る新たなガングニール奏者を見る、というよりは睨みつけており、返事を返すと同時に走り出す。

「あそこまでは距離がある。バイクで行くぞ」

「分かった!」

二課から出て、二人は翼がバイクを置いている場所に行く。

「後ろに乗れ」

「いや、その必要はない」

「はあ・・・?」

翼が戦兎の返事に首を傾げていると、戦兎はライオンフルボトルを取り出すなり、それをビルドフォンのスロットに差す。

「見よ!俺の発・明・品!」

 

『Build Change!』

 

そしてビルドフォンを投げれば、一瞬にしてバイクへと変化する。

「・・・・」

それを見て、翼は唖然とするしかなかった。

(いや・・・いくらなんでも質量保存の法則を超えてるだろ・・・)

「よし!行くぞ!」

「あ、ああ・・・」

そうして二人はバイクを駆り、すぐさまノイズが出現した現場に向かった。

 

 

 

 

 

そして、まさにその現場では、新たな仮面ライダー『クローズ』が爆誕していた。

「龍我さん・・・その姿は・・・」

その姿に、響は驚きを隠せない。

そんな響に、万丈は―――クローズは高らかに名乗る。

「仮面ライダー。仮面ライダークローズだ」

「仮面・・・ライダー・・・」

「かっこいい!」

女の子が、クローズを見て、そう呟く。

「へへっ、そうだろ?」

その女の子の純粋な言葉に嬉しさがこみ上げつつ、クローズはノイズたちと対峙する。

「響、そいつを頼むぜ」

「わ、分かりました―――」

その時、響は、口から自然と、歌を歌っていた。

 

「―――絶対に離さない、この繋いだ手は」

 

すると、どういう訳か響の体から力が湧き上がってくる。

 

―――そうだ。なんか良くわからないけど、確かなのは、私がこの子を助けなきゃいけない事だよね・・・

 

それだけが、響の中の唯一の確信。

 

「行くぜぇ!」

クローズがノイズの集団に突っ込む。

(龍我さん!?)

その行為に、響は目をむく。何故触れば炭素の塊と化してしまう危険性のあるノイズに自ら突っ込むのか理解できないからだ。

だが、そんな心配は杞憂であり、

「オラァ!」

クローズの拳がノイズの一体にめり込んだ瞬間、蒼炎が迸り、ノイズだけが炭素の塊となって消えた。

(倒した・・・!?)

「はっ!なんだこの程度か?だったら負ける気がしねぇ!」

クローズが次々とノイズを蹴散らしていく。

(すごい・・・)

しかし、だからと言って響たちの方にノイズが来ない訳ではない。

「―――ッ!」

女の子を抱き抱え、響はノイズから後ずさる。

「オラァ!」

「龍我さん!」

「逃げろ!」

そこへクローズが割り込んでノイズを蹴散らす。

その格闘能力は、素人の響から見てもすさまじく、洗練されていた。

何か格闘技をやっていなければ出来ない動きだ。

そして響は、クローズの言葉に従い、上った高台の上から踊り出る。

「う―――わぁあぁああ!?」

だが、想像以上に高く飛んだらしく、慌てる響。

 

身体能力が、想像を超えて強化されている。

 

その事実が、響をますます混乱させる。

(なんか変な格好になっちゃうし、龍我さんはなんか変なのに変身しちゃうし、訳分かんないよぉ!)

そのまま一気に落下していくが、

(でも!)

すぐさま切り替えて態勢を立て直し、両足で地面に着地する。

コンクリートの地面を踏み砕き、響は己の身体能力が大幅に強化されている事を改めて実感する。

それでもなお、響は歌を紡ぐ。

見上げれば、先ほどまで響達がいた高台から大量のノイズが落ちてくる。

それをタイミングを見て横に飛び、地面を跳ねながらも躱す。

「お前らの相手は俺だろうが!」

 

『BEAT CROSS-ZER!』

 

ドライバーからクローズ専用武器である『ビートクローザー』を取り出し、クローズはノイズの集団に向かって振り下ろす。

着地と同時に剣の射線上にいたノイズは一刀両断され、地面を踏み砕いて着地したクローズはビートクローザーの柄部分のレバーを引っ張る。

 

『ヒッパレー!』

 

そしてすぐさまグリップ部分のトリガーを引く。

 

『スマッシュヒット!』

 

「ウオリャァァァアア!!」

一気に薙ぎ払い、クローズの周囲にいたノイズが全て消滅する。

「すごい・・・!」

その威力に、響は感嘆する。

だが、そこへひときわ大きな足音が聞こえる。

「でかっ!?」

巨大な強襲型ノイズだ。

そのノイズが、クローズ―――ではなく響の方へ拳を振り下ろしてくる。

「え!?うわわわわわ!?」

響は、その拳から逃れる度に後ろに飛ぶ。

 

だが、また飛び過ぎる。

 

「うわぁぁああ!?」

その飛び具合に慣れず、そのまま建物に激突。落ちそうになるところを建物の壁に設置されていたパイプを掴む事で落ちるのを防ぐ。

「危なかったぁ・・・!?」

だが、安心するそんな響の元へ、もう一体の強襲型ノイズが襲い掛かる。

「くっ!」

やっと慣れてきた身体能力で、その拳を躱し、響はどうにか着地する。

しかしまだまだノイズは響と少女を狙って襲い掛かってくる。

そのうち、一匹のカエル型ノイズが、響に襲い掛かる。

「―――ッ!」

だが、それでも響の口からは自然と歌が流れ出て、しつこいノイズにほんのちょっと怒りを込めて、拳を握って―――

 

そのノイズをぶん殴った。

 

するとどうだ。響に殴られたノイズは、響に殴られた所から一気に炭化し、消滅する。

(え?私がやっつけたの?)

「テメェら・・・」

ふと、クローズの何やら怒りに震えた声が聞こえたかと思うと。

「お前らの相手は俺だろうがァ!!」

ボルテックレバーを思いっきり回し、クローズは、己の必殺技を発動する。

 

『Ready Go!』

 

するとどこからともなく『クローズドラゴン・ブレイズ』という名の龍が現れる。

それが、飛び上がったクローズの動きをブーストするかのように炎を吐き出し、その炎に乗ったクローズは、目の前の巨大ノイズに向かって、ボレーキックを放つ。

 

ドラゴニックフィニッシュ!』

 

その一撃は、まるで竜の爪の如く。一体のみならず、その後ろの二体目すらも穿って殲滅する。

その威力の凄まじさに、響は唖然とするほかなかった。

「すごぉい・・・ん?」

ふと後ろから何かのエンジンが聞こえてきた。

 

『Are You Ready?』

 

「変身!」

 

「――――Imyuteus amenohabakiri tron――」

 

レスキュー剣山ファイヤーヘッジホッグ!イェイ・・・!』

 

光が迸り、変な叫び声が聞こえたかと思えば、迫ってきたバイクから何かが躍り出る。

「ん?誰だ?」

響の側に降り立った二つの影。

「あ・・・!?」

一人は、風鳴翼。日本が誇るトップアーティストにして歌手。その翼が、今、自分と似たような青い装束を身に纏ってそこに立っていた。

そしてもう一人は、クローズと同じ、全身を装甲に身を包んだ男。

ただ違うとすれば、その装甲は赤と白の二つだという事。

ふと、翼の方から声を掛けられる。

「呆けない、死ぬわよ」

「え?」

「貴方はここでその子を守ってなさい」

駆け出す翼。

「やれやれ、もう少し丸まった言い方は出来ねえのかアイツは・・・」

一方の赤と白の装甲の男はそう呟く。

「あ、あの・・・」

そんな男に、響はおずおずと声を掛けようとする。

そんな響に男は気付き、快く名乗る。

「ビルド」

「え?」

「仮面ライダービルドだ。よろしくな」

「あ、はい。よろしくお願いします・・・」

そこでクローズの怒鳴り声が聞こえる。

「お前!?生きてたんなら言えよ!?」

「うるっさいな。こっちもこっちで大変だったんだからしょうがないでしょうが」

ノイズが襲い掛かってくるも、男―――ビルドの左腕に取り付けられたウインチ型武装『マルチデリュージガン』から放出された高圧の水を喰らい一気に吹き飛ぶ。

吹き飛んだ所でビルドは右手のグローブの棘を伸ばし、その棘でノイズを一気に串刺しにしていく。

「龍我さんの知り合い・・・?」

何やらクローズを知っている風のビルドの言動に響は首を傾げる。

「まあそんな所だ!」

そこへノイズを殴りつつクローズが戻ってくる。

「あいつは味方だから安心しろ!」

「分かりました!龍我さんがそういうなら・・・」

そう話している間にも、翼とビルドは瞬く間にノイズを殲滅していく。

ウインチから放たれるのは水だけではなく、炎も噴出し、ノイズを一気に焼き尽くしていく。

一方の翼は刀を変形させて大剣とし、それを用いて『蒼ノ一閃』で巨大な強襲型ノイズを叩き切り、続く小型ノイズの集団は『千ノ落涙』による殲滅攻撃で一気に片付けていく。

「俺も負けてらんねぇ!」

さらにクローズすらも飛び出し、ビートクローザーによる斬撃だけでなく、徒手格闘による炎を纏った一撃一撃でノイズを打ち倒していく。

「すごぉい・・・ビルドさんも龍我さんも凄いけど・・・やっぱり翼さんは・・・」

「あ・・・!」

降ろした女の子で、響は後ろを見る。

そこには、まだいたのか強襲型ノイズが今、響たちに襲い掛かろうとしていた。

 

だが―――突如として天から巨大な剣が落下し、それが強襲型ノイズを貫く。

 

天ノ逆鱗

 

その巨大な剣の上に、翼が一人、佇んでいた。

その様子を、響は呆然と見上げ、そんな彼女を、翼は見定めるように見下ろしていた。

「終わったな」

そこへビルドがやってくる。

「怪我はないか?」

「え?あ、はい。大丈夫です」

「お前も、どこか痛い所はないか?」

「ううん、だいじょうぶ。おねえちゃんがまもってくれたから」

「そっか、良かったな」

そう言ってビルドは女の子の頭を撫でる。

立ち上がるビルド。そこへ、クローズがビルドに詰め寄る。

「せぇ~ん~とぉ~」

「うお!?なんだよ!?」

「なんだよじゃねえよ!お前いままでどこにいたんだよ!?こちとら一週間飲まず食わずで危うく死にかけたんだぞ!?」

「知らないよそんな事!?ていうかどうやったら死にかけるんだよ!?お前力あるんだからバイトすりゃあ良かっただろ!?」

「バイト・・・あ!」

「何、その手があったか!みたいな顔してんだ!?いつにも増して馬鹿の度合いがあがってんじゃないのか!?」

「馬鹿って言うな!せめて筋肉付けろ筋肉を!」

何やら言い争っているビルドとクローズ。

その中で、響は気になる言葉を聞いた。

「せんと・・・?」

どこかで聞いたことのある名前だ。

聞き間違いか、などと思っていると、

「まあいい。話はあとで聞くから、今は大人しくしていろ」

そう言って、ビルドはクローズのものと同じビルドドライバーから二つのボトルを抜き取る。

そして装甲が粒子となって消え、その中から現れたのは―――

「え・・・えぇぇええぇぇええ!?」

「ん?」

「戦兎先生ぃ!?」

―――リディアン物理教師の桐生戦兎だった。

 

 

 

 

 

その後、自衛隊が駆け付けてバリケードを設置したり炭化したノイズを回収したりと(せわ)しなく多くの人々が動いていた。

その最中で、戦兎は改めて万丈と対峙していた。

「んで?お前いつからここに来てたんだよ?」

「それはこっちのセリフだ・・・なあ、ここは本当に新世界なのか?」

「ああ、氷室首相や幻さんの名前や、かずみんが経営してると思われる農場に、『nascita』もネット上のマップに出てた。ついでに難波重工の名前もあった。ただ違うのは、この世界にはスカイウォールがない事と、ノイズという世界共通の災厄、そして、シンフォギアっていう対抗手段があるだけだ」

「マジか・・・」

それを聞いて項垂れる万丈。だが、ふと思い出して、万丈は戦兎に尋ねる。

「エボルトはいないんだよな?」

「ああ、いないよ。そして俺たちが戦ってた事も、スカイウォールがあった事も、誰も覚えていない。もちろん俺たちの事もな」

「マジか・・・」

「ついでに言うとお前、この世界じゃ結構名の通った格闘家だぞ?まあ世界に名を馳せるようじゃないけどな」

「マジかよ!?」

「黒髪だけど」

「黒髪!?俺は茶髪だ!」

「こっちの万丈はだよ!」

馬鹿さ加減は相変わらずである。

「ていうか万丈、これは一体どういう事だよ?」

「ん?ああ、それは俺にも分からん」

戦兎が指摘しているのは、クローズドラゴンの事だ。

「どうやったらこんな普通の動物みたいになるんだよ!?」

「知るか作ったのはお前だろ!?」

そこには万丈を側を暇そうに飛び回っているクローズドラゴンの姿があった。しかもご丁寧にあくびまでかましている。

明らかに機械の範疇を超えた行動だ。まるで本物の動物だ。

「俺こんな機能付けたか?なんでこんなどこにでもいる動物っぽい動きをするようになったんだ・・・新世界を作った影響で、何か問題でも・・・」

「キュル!?キュルッキュイーン!」

「ああこら暴れんな!?ていうかなんで暴れるんだこいつ!?」

危うく分解されそうになった所をまるで嫌がるように暴れるクローズドラゴン。

「戦兎さん」

「ん?ああ緒川か」

「キュルイ!」

そこへ、一人の好青年がやってくる。

二課のエージェントである緒川慎次である。

その緒川が割り込んできた事で出来た戦兎の隙をついてクローズドラゴンは脱出、すぐさま響の元へ飛んで行った。

「誰だこいつ?」

「ああ、この人は・・・」

向こうで響の可愛らしい悲鳴が聞こえたが気にしない。

「緒川慎次。戦兎さんのサポートをしている『特異災害対策機動部二課』の者です」

「そのとくいなんちゃらがなんなのかは知らねえが、まあいい奴って事はなんとなくわかったわ」

「ありがとうございます・・・しかし、まさか格闘家の万丈龍我さんが戦兎さんのお仲間だとは思いもよりませんでした」

この世界では、万丈龍我はそれなりに名の通った格闘家だ。

そして、その万丈とこの万丈は同一人物。

 

おそらく、エボルトの遺伝子を持っているがゆえに、戦兎と同じく『存在してはいけない人間』としてこの世界に生き残ってしまったのだろう。

 

よって、この世界には、二人の万丈が存在している事になる。

「しかし、髪を染めたんですか?」

「え?あー、それは・・・」

「緒川、こいつは別人だ。名前は同じだけど別人だ」

「そうなのですか・・・」

戦兎が万丈の事について誤魔化そうとするが、何故か緒川はそれほど驚いた様子ではなく、

()()()()()()()()()()()()、彼は万丈龍我と同一人物だと思いますが?」

「「―――!?」」

話を、聞かれていた。

その事実が、思わず万丈を身構えさせるが、そんな万丈の肩を戦兎が掴む。

「落ち着け」

「でもよ・・・」

「俺がなんとかする」

戦兎は、どうにか万丈を留まらせ、緒川に近付く。そして、緒川のすぐ傍で立ち止まると、緒川に一つ、耳打ちした。

「頼む。その事は二課には内緒にしておいてくれ。余計な混乱は招きたくない」

「新世界・・・その言葉が何を意味をするのか分かりませんが、貴方がたが悪い人間ではない事は分かっています。幸い、この事を聞いているのは僕だけです。ですが、隠し事は関心しませんね」

「ああ、分かっている。だけど黙っていてくれ。いつか、必ず話すから」

「・・・ええ、いつか、必ずですよ」

緒川は、そう言い残して戦兎たちから離れていく。

「・・・なんとかなったのか?」

「ああ。・・・万丈」

戦兎は、万丈に新世界の事は黙っておくようにと伝える。

「まあお前の判断なら」

「頼んだぞ」

「おう」

「桐生」

ふと、そこへ翼がやってくる。

「そこにいるのが、お前の仲間なのか?」

「ああ。万丈龍我。馬鹿だけど、頼りになるぜ」

「馬鹿っていうな。筋肉をつけろ筋肉を」

いつもの論点がずれた言い合いに、それを知らない翼はそこじゃないだろうと呆れる。

「まあいい。とりあえず来てくれ」

翼に言われて、戦兎と万丈は翼についていく。

向かう先、そこには、未だ変身したままの響がいた。

そんな響が、ココアを飲んで温まっていると、突然、その変身が解除される。

どうやら気を抜くと解けるようだ。

だが、それに驚いた響は態勢を崩し、ココアを落としてしまう。

そのまま制服姿に戻って、後ろに倒れようとした時、翼が響を抱える。

「あ、ありがとうございま・・・・」

慌てて振り返って、お礼をいようとして顔を上げると、おそらく翼だった事に気が付いて改めて頭を下げる。

「ありがとうございます!」

しかし翼は一度彼女に背を向けて距離を取ろうとする。

「あ、あの!」

だが、そんな翼に、響は声をかけて。

「翼さんに助けられたのは、これで二回目なんです!」

「二回目?」

その言葉に、翼は立ち止まる。

「にひひ」

一方の響は片手をピースサインにして嬉しそうに笑っていた。

「二回目・・・?」

「どういうこった?」

「キュル?」

一方、訳の分からない二人は首を傾げるばかり。

「ママ!」

だが、そこで、あの女の子の声が聞こえ、見てみると、そこには母親に抱かれる女の子の姿があった。

どうやら、無事に会えたようだ。

その様子に、戦兎はいつものようにくしゃっと笑い、万丈も思わず笑みを浮かべる。もちろん、響も同じだった。

だが、その傍にいたスーツの女性―――戦兎にとっては一度見た顔だが―――が、機密事項に関する書類を差し出していた。

その様子に、万丈は唖然としつつ、響は翼に帰るという事を伝える。

「じゃあ私もそろそろ・・・・」

―――が、目の前にはスーツの集団が横一列に並んでおり、翼はその後ろに控えていた。

完全に取り囲まれている。

「貴方がたをこのまま帰す訳にはいきません」

「悪いな、万丈」

「え?どういう事だよ?」

戦兎が万丈から離れる。

「ええ!?なんでですか!?」

「特異災害対策機動部二課まで、同行していただきます」

そして、問答無用でかなり頑丈な手錠を掛けられる響と万丈。

「え・・・あ、あの・・・・」

「キュイーン!?」

「おい!?なんだよこれ!?」

「すみませんね。貴方がたの身柄を拘束させてもらいます」

その傍らにはいつの間にか緒川が立っており、戦兎は片手で謝罪のジェスチャーをしていた。

「安心しろ。俺もやられたから」

「はあ!?」

「なぁぁぁんでぇぇぇえぇえええ!?」

そして問答無用で車に乗せられ、連れていかれた。

 

 

 

 

 

そうして着いたのは、お馴染みのリディアンだった。

「どうしてリディアンに・・・?」

響はどこに連れていかれるのか心配で、一番話しかけられそうだった戦兎に声を掛けられる。

「まあ付いてくれば分かる」

「そんなぁ・・・」

「おい戦兎、一体どういう事なんだよ?」

「だから大人しくついてきなさいって。それぐらい出来るだろ」

そうしてリディアンの中央棟の中にあるエレベーターに乗って―――

 

「どぉぉぉぉぁぁぁぁあぁああぁぁぁああああ!?」

「ぎゃぁぁあああぁあぁああぁぁぁあああぁあ!?」

 

エレベーター(という名の絶叫マシン)に乗せられて―――

 

「ようこそ!人類守護の砦!特異災害対策機動部二課へ!」

 

そして『熱烈歓迎!立花響様・万丈龍我様』という横断幕と共に、歓迎会が開かれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どういう事なんだよ戦兎?」

戦兎の自室にて(自室にしてはかなり広い)万丈は戦兎に尋ねていた。

「言ったろ。俺は今は学校の先生なの。そんでもってここ特異災害対策機動部二課、略して特機部二(とっきぶつ)でノイズを倒しながら正義のヒーローやってるって」

カイゾクハッシャーを修理しながら、戦兎は万丈の質問に答える。

「なんか知らねえが戸籍まで作ってもらってよ。この、とっきぶつ?だっけか?一体どう言った組織なんだよ?」

「簡単に言えば、ノイズっていう化け物から人々を守るための正義の組織って所」

「へえ・・・んで、お前は一週間ここで働いていたと・・・」

「そうだが」

「俺に内緒で・・・上手いもんも毎日食ってたんだろォなぁ・・・」

「ああ・・・ん?万丈?」

「テメェ一人だけずりぃぞゴラァ!」

「うぉぉ!?ちょ、まて!今はんだ使ってるから掴み掛かんな!火傷するから!」

「知るかぁ!こっちは今の今までホームレス生活だったんだぞぉ!」

「それは悪かったって!あ、やめろ、ドラゴンフルボトル使って殴るのはやめろ!頼むからアーッ!」

 

―――やけに部屋の中が騒がしい。

 

翼は、戦兎の部屋の前に立っていた。

(桐生は、仲間は死んだといっていた・・・おそらく、万丈は生き残った方の仲間・・・だけど・・・)

あの時、万丈の姿を見た時の戦兎は、震えていた。

まるで、死んだ人間の幽霊に出会ったかのような反応だった。

死んだ筈の相棒が、目の前にいるかのような反応だった。

(私とは・・・違う・・・)

自分は奏を失ったのに。何故、彼の相棒は生きているのか。

それが、どうしても納得がいかない。

 

一体、何を隠しているというのか。

 

(お前は何を隠しているんだ・・・桐生・・・)

一人という寂しさが、今更ながらに込み上げてくる。

そして、もう一つ―――

(あれは・・・あのシンフォギアは・・・奏の・・・)

立花響が纏っていたシンフォギア。

あれは、間違いなく、天羽奏の使っていた『ガングニール』だ。

 

ガングニール。またの名をグングニル。

北欧神話における主神『オーディン』が使っていたとされる聖遺物。

絶対貫通にして必中。投げれば必ず当たるという伝説を持つ、神の槍。

そして―――死んだ奏が使っていたものだ。

 

それを、あんな、戦いを知らない人間の手に渡っている。

 

(あれは・・・奏のガングニールだ・・・!)

大切な友にして片翼を失った後悔と戦いへの執着。

だからこそ、納得できない。

 

だからこそ、理解してしまう。

 

(私は・・・一人だ・・・)

 

 




次回の愛和創造シンフォギア・ビルドは!

二課に招かれ、シンフォギアの説明を受ける響と万丈。

「なるほど。わからん」

「私も分かりません」

明かされる響のシンフォギアの正体。

「奏ちゃんの置き土産ね」

響が抱く決意。

「私の力で、誰かを守れるんですよね?」

葛藤する翼。

「ああいうタイプはどんだけ言っても止まらねえと思うからな」

そして出現するノイズ。その戦いの最中で―――

次回『ミスマッチな二人』

「貴方と私、戦いましょうか」

「え?」


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ミスマッチな二人

戦「天才物理学者の桐生戦兎とトップアーティストの風鳴翼は、ノイズと戦っていた万丈龍我と立花響を助け、見事二課へと連行するのに成功するのだった!」
万「おい!連行って言うな!」
響「私まだ成人もしてないのにー!」
翼「落ち着いて。実際に警察に突き出したわけじゃないから」
戦「いくら警察に捕まったっていうトラウマがあるからって騒ぐ程の事じゃないでしょ?」
響「え?龍我さん掴まった事があったんですか・・・?」
万「冤罪だ!冤罪で捕ったんだ!」
戦「そして優しい俺が万丈の冤罪を晴らしてあげたのでした。はいめでたしめでたし・・・」
翼「勝手に終わらせるな!?」
響「冤罪だったんですね。良かったぁ・・・」
万「ああ・・・だーもう話は終わりだ!どうなる第六話!」


「―――それが、翼ちゃんが響ちゃんの纏うアンチノイズプロテクター『シンフォギア』なの」

「なるほど。分からん」

「キュル!」

万丈の一言で戦兎以外のその場にいるものがズッコケる。ちなみに、響の頭の上に乗っかっているクローズドラゴンも同意するように鳴いた。

「だろうね」

「だろうとも」

「いや、こいつの場合は一から十まで理解してないから」

「あのー」

「はい何かしら?」

「私も分かりません」

「いやお前は分かれよ」

 

ここは、二課にある部屋の一つ。

昨日、シンフォギア奏者として目覚めた立花響と仮面ライダークローズこと、万丈龍我にシンフォギアの事を説明しているのだ。

 

だが、当然のように万丈にそれは理解出来ず、それに納得しているオペレーターの二人『藤尭朔也』と『友里あおい』は納得している様子だが、万丈の馬鹿さを知っている戦兎はとりあえずフォローになってないフォローを入れるのだった。

「いきなりは難しすぎちゃいましたねー」

「いや、万丈に限ってはたとえどんなに説明したとしても分からないから」

「おい!」

「え?龍我さんってそんなに頭悪いんですか?」

「最強、無敵ぐらいの漢字しか分からないぞ」

「ええ・・・」

「おい!いくらなんでもそれは言いすぎだろ!俺だって足し算ぐらい出来るわ!」

「その年で足し算しか出来ない時点はお前は馬鹿確定なんだよ!」

「馬鹿ってなんだ!せめて筋肉をつけろ!」

「論点違うと思うんだが・・・」

「キュウ・・・」

弦十郎が二人の言い争いの呆れる傍らで、了子が口を挟む。

「だとしたら、聖遺物からシンフォギアを創れる唯一の技術『櫻井理論』の提唱者が、この(わたくし)である事だけは、覚えておいてくださいね」

「はあ・・・」

「結局どういう事だよ?」

「ようするに、あの化け物を倒せる装備を作ったのがこの人って事」

「マジかよ!すげえな!」

ようやく理解出来たのか興奮気味の万丈。

「でも、私はその聖遺物?なんてもの持ってません。なのに何故・・・・」

すると、その疑問に答えるかの如く、部屋のスクリーンに新たな画像が映し出される。

それは、響のX線写真、レントゲンだ。

その心臓部分にあたる部分に、何か、欠片のようなものが散りばめられていた。

「これがなんなのか、君には分かる筈だ」

「はい。二年前の怪我です。あそこに私もいたんです」

そう答える響。

「二年前ってどういう事だ?」

「二年前、ライブ会場の惨劇っていう事件があってな。そん時にコイツも現場にいたんだよ」

「それってスカイウォールの惨劇と似たようなもんか?」

「んな訳ないでしょ。あれに比べたら安いものだが・・・まあ、大量のノイズが襲ってきて、その現場にコイツもいたってことだ」

「マジかよ・・・」

そして、戦兎は推察する。

(二年前・・・天羽奏の死と、今コイツが使っているシンフォギアの事から考えて、これは・・・)

その間にも、了子がその破片について話し出す。

「心臓付近に複雑に食い込んでいるため、手術でも摘出不可能な無数の破片。調査の結果、この破片はかつて奏ちゃんが身に纏っていた第三号聖遺物『ガングニール』の砕けた破片であることが、判明しました」

その事実に、翼は衝撃に打ちのめされる。

「ん?翼?」

その異変に気付く戦兎。

「奏ちゃんの置き土産ね」

即ち、響の纏うガングニールは、奏のガングニールそのもの。

あの日、消滅した筈のガングニールは、響の中で、ずっと残り続けていたのだ。

その事実に、翼はふらつき、思わず近くの台に手を付く。

相当、衝撃が大きかったのだろう。

何せ、奏が持っていたものと同じなのだから。

翼はおぼつかない足取りで部屋を出ていく。

「大丈夫かアイツ?」

「・・・・」

その後ろ姿を見て、戦兎は万丈に言う。

「悪い万丈、ちょいと行ってくる」

「お?おう」

万丈は始めは戸惑ったが、やがて意図を汲んでくれたのか、止める事はしない。それに少し安心して、翼を追いかけるように部屋を出ていく戦兎。

そして部屋には、弦十郎、了子、万丈、友里、藤尭、響しかいなくなった。

「・・・あの」

ふと、響が声を挙げる。

「どうした?」

「この力のこと、やっぱり誰かに話しちゃいけない事なのでしょうか?」

立ち上がって、そう言う響に、弦十郎は静かに答える。

「君がシンフォギアの力を持っている事を何者かに知られた場合、君の家族や友人、周りの人間に危害が及びかねない。『命』に関わる危険すらある」

「命に・・・関わる・・・?」

その時、響の脳裏に、未来の顔が浮かぶ。

もし、未来に危ない目にあったら、自分は―――

「・・・」

それを思うと、響は思わず俯いてしまう。

「俺たちが守りたいのは機密などではない。人の命だ。その為にも、この力の事を、隠し通してもらえないだろうか?」

「貴方の秘められた力は、それほど大きなものだという事を、分かってほしいの」

いきなり、実感が湧いてきたのか、響は言葉を失う。

そんな、大きなものだという事を、一般人である響には、あまり理解出来なかったのだ。

「・・・まあ、あれだ。シンフォギアは兵器じゃないって事だな」

そこで、万丈が口を挟んだ。

「ノイズを倒せるたった一つの方法で、とんでもねえ力がある。それをどっかの馬鹿が軍事利用しないように、黙ってろって事だろ」

「軍事利用・・・」

万丈は、ポケットからドラゴンフルボトルを取り出す。

「でも、それは使う奴によって変わってくるみたいだ」

「使う奴によって・・・?」

「シンフォギアも仮面ライダーも結局の所は何も変わらねえ。使い方次第で兵器にもなるし、誰かを守るための力になる。俺は、この力を愛と平和の為に使う。それが、俺の信じた仮面ライダーだからな」

「キュル!」

万丈は、響にその言葉を送り、そして尋ねる。

「お前はどうしたい?」

「・・・」

その問いかけに、響は、

「あの、私の力で、誰かを助けられるんですよね?」

その言葉に、弦十郎と了子は頷く。

「分かりました!」

それが、響の答えだった。

 

 

 

 

 

 

一方、部屋で出ていった翼の方では。

「・・・」

未だ、信じられないとでも言うように、その場に立ち尽くし、考える翼。

(奏の置き土産・・・それがアイツだとでも言うのか。信じられない・・・だが、もしそうだとしたら、私はどうすればいい?奴を受け入れる事が出来るのか?この私に。一体、どうやって」

「おい桐生・・・勝手に私の心境をナレーションするな!」

「ありゃ」

翼からの怒りのツッコミを受けつつ、戦兎は笑みを浮かべて歩み寄る。

「悪いな。お前結構からかいがいあるし」

「お前にからかわれるほど、私は間抜けではない」

「いや実際にからかわれてただろ?」

ぬぐっ、と口ごもる翼。

(真面目ちゃんめ)

「それで、一体何の用だ」

誤魔化すように戦兎にここに来た理由を尋ねる翼。

「まあ、アイツは確かに戦いに関しては素人だし、あんたの大切な人が使っていたシンフォギアを使っていて、気に食わないのは分かる。でも、遅かれ早かれ結局はお前と同じ戦場で戦う事になるんだ。信頼はしなくても信用はしてもいいんじゃないのか?」

翼を諭すように言う戦兎。

しかし翼は、納得できないとでもいうように反論する。

「私は、この身を剣として戦い生きてきた・・・奴は、ただの一般人。そんな人間が戦場(いくさば)に立つべきではない・・・」

「まあ、俺も一般人が戦うのには反対だけど・・・なんというか、アイツには、底知れない危険があるような気がするんだよな」

「底知れない危険?」

「ああ・・・なんというか・・・自殺願望というか・・・」

自殺願望?あのどこにでもいそうな少女に?

その言葉に疑問を抱く翼だが、すぐさま言葉を紡いだ。

「なら猶更戦わせるべきではない。そんな人間は早死にするだけだ」

「もちろんそうはさせないさ。だけど、アイツは必ず戦場に立つ。だから俺たちが死なせないようにしなくちゃいけないんだ」

「死なせない・・・?」

その言葉に、翼は首を傾げる。

「ああ、アイツが戦場に出るっていうなら、俺はアイツが死なないように戦う。ああいうタイプはどんだけ言っても止まらねえと思うからな」

その言葉には、何か、強い意志を感じられた。

「もう二度と、何も失いたくないから」

「・・・ッ!?」

その顔には、これまでにないほど覚悟がこもっていた。

「お前が、あいつにどんな思いを抱いているのか、本当の所わからないけど、少なくともアイツがまともに戦えるようになるまで守ってやることぐらいはやってくれ。少なくとも、これは俺からの願いだ」

「・・・・」

戦兎の頼み事に、翼は、すぐに返事を返せなかった。

(桐生は・・・何も失っていない訳じゃないのか・・・?)

相棒が生きていた。それでも、彼にとっては、まだ多くのものを失っていることに変わりないというのか。

多くのものを失って、それで残ったのが、戦うための力と、たった一人の相棒だとでもいうのか。

そんな男に、自分はどんな返事を返せばいいのか。

(奏・・・私は・・・)

そこで、電動スライド式の扉が開く音が聞こえ、振り返ってみれば、そこから響が駆け出て、その後ろを万丈がついてきていた。

そんな響は、翼の前に立つ。

「私、戦います!」

そしていきなりそう言いだした。

「慣れない身ではありますが、頑張ります!一緒に戦えればと思います」

そう言って、響は翼に手を差し出す。

「万丈」

「ま、そういうこった」

「キュィールルルル!」

戦兎の予感は的中していた。

「やっぱり・・・」

「・・・・」

一方の翼は、その手をしばし見つめた後、やがて、納得いかないとでもいうように目をそらした。

「・・・あの・・・一緒に戦えれば・・・と・・・」

その時、二課の施設内にけたたましく警報が鳴り響く。

「なんだぁ!?」

「ノイズだ!行くぞ!」

 

 

 

 

「ノイズの出現確認!」

「本件は我々二課で預かることを一課に通達!」

作戦本部にて、弦十郎が職員たちに指示を飛ばしていた。

「出現地特定!座標でます!」

そうして映し出された場所は、リディアンのすぐ側だった。

「リディアンより距離二百!」

「近いな・・・」

「迎え撃ちます!」

翼がすぐさま駆け出す。

「俺たちも行くぞ万丈!」

「おう!」

「・・・!」

戦兎と万丈も追いかけ、その後を響もついていこうとする。

「! 待て!君はまだ・・・」

そこを弦十郎に止められる。

「私の力が誰かの助けになるんですよね?シンフォギアの力でないと、ノイズと戦うことは出来ないんですよね?だったら行きます!」

響は、そのまま翼のあとを追う。

「・・・」

「安心しろ風鳴」

そこで、立ち止まっていた戦兎が弦十郎に言う。

「しばらくは俺がアイツを守るから」

「・・・頼んだぞ」

弦十郎の言葉に戦兎はうなずき、そして走り出す。

「危険を承知を誰かの為だなんて、あの子、良い子ですね」

「・・・果たして本当にそうだろうか?」

「え?」

弦十郎は、静かに言う。

「翼のように、幼いころから鍛錬を積んできた訳ではない。ついこの間まで、日常の中に身を置いていた少女が、誰かの助けになるというだけで、命を懸けた戦いに赴けるというのは、それは、歪な事ではないだろうか?」

「つまりあの子もまた私たちと同じ、こちら側ということね・・・」

四人が去った指令室には、重い空気が漂っていた。

 

 

 

 

『日本政府『特異災害対策機動部』よりお知らせします。先ほど、特別避難報が発令されました。速やかに最寄りのシェルター、待避所へと避難してください』

そのような放送が街中に響き渡る中で、風鳴翼と万丈龍我は、何十体ものノイズの前に立っていた。

「戦兎の奴おっせぇな・・・」

「キュルル」

「無駄口は叩くな」

「へーい・・・」

「キュウ・・・」

そんな中で、ノイズがいきなり溶けだしたかと思うと、一気に集まっていき、やがて、巨大なノイズへと変貌する。

「マジかよ・・・」

その事を知らない万丈にとっては、それはまさしく異常な事であり、その変貌ぶりに愕然とする。

だが、すでに慣れた翼は、静かに聖遺物の起動聖唱を行う。

 

「――――Imyuteus amenohabakiri tron――」

 

次の瞬間、胸のペンダントが輝き出し、翼に蒼銀の装甲を纏わせる。

「やるっきゃねえか」

 

Wake UP

 

一方の万丈もクローズドラゴンにドラゴンフルボトルをセットし、ボタンを押してビルドドライバーにセットする。

 

CROSS-Z DRAGON!』

 

そしてボルテックレバーを回して、スナップライドビルダーを展開する。

 

『Are You Ready?』

 

「変身!」

 

『Wake UP Burning!』

 

『Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!』

 

「しゃあ!」

変身したクローズはそうガッツポーズをとってそう気合を入れる。が、その横ですぐさま駆け出す翼。その口は、歌を歌っていた。

「あ!?おい!」

その翼を迎撃するようにノイズが体についていた羽を全て飛ばす。

しかし、翼はそれをアクロバティックに躱す。しかし躱した筈の羽はブーメランの如く巻き戻っていき、されど翼は足のブレードを展開して一瞬にして全て叩き切る。

「すっげぇ・・・」

その華麗さにクローズはその場で呆ける。

そのまま翼はノイズの背後を取り、その手に持つ刀を巨大な大刀に変形させ、振り返ったノイズに向かって振るおうとする。

「このまま片足を真っ直ぐ突き出して片足の膝は胸につけるつもりで引き絞ってあとはこのまま鉄の棒の如く動かない!」

「はい!」

「ッ!?」

聞き覚えのある声が聞こえたかと思いきや、ノイズの側面から変身した響とラビットタンクフォーム・ビルドが同時に飛び蹴りをノイズに叩き込んでいた。

それを喰らったノイズは態勢を崩す。

「翼さん!」

「余計のお世話かもしんねえけど後頼んだ!」

「くっ・・・!」

絶好の機会、それを作った響とビルドに、翼はなぜか歯噛みしつつ飛び上がり、その巨大化した刃をノイズに叩きつけた。

 

蒼ノ一閃

 

ズバンッ!という擬音が聞こえそうな程綺麗に入ったその一撃は、一瞬にしてノイズを炭化させ、消滅させる。

「・・・あれ?俺出番なくね!?」

「そうだな。まあどんまい」

「どんまいじゃねえよ!これじゃあ変身シーン見せた意味が無ぇじゃねえかよ!?」

「無駄に変身シーン使ってんじゃないよ。ていうかうるさいな。少しは黙ってろ」

「黙ってろってなんだ!?俺の出番返せよゴラァ!」

「だーもううるさいって!」

何やら言い争いをするビルドとクローズを他所に、響は翼に駆け寄っていた。

「翼さーん!」

「・・・」

「私、今は足手纏いかもしれないけど、一生懸命頑張ります!だから、私と一緒に戦ってください!」

しばしの、沈黙。否、先ほどからビルドとクローズがうるさいが、この際無視するとしよう。

「・・・・そうね」

ふと、返ってきた翼の言葉に、響はさらに嬉しさを込み上げさせる。だが―――

「貴方と私、戦いましょうか」

「え・・・」

次の言葉で、それは困惑へと変わった。

今、翼はなんといったのか。

 

戦いましょうか、と言ったのか。

 

その言葉を、響が理解する前に、翼は、その手の刀を響に突き付ける。

「は?」

「ん?」

その異変に、取っ組み合っていたビルドとクローズも気付く。

「え、あの、そういう意味じゃありません。私は、翼さんと力を合わせようと・・・」

「分かっているわそんなの事」

「だ、だったらどうして・・・」

「私が貴方と戦いたいからよ」

「え・・・」

翼の言葉に、響は増々困惑する。

「なあ・・・なんかやばい事になってきてないか?」

「ああ・・・」

戦兎は、ドリルクラッシャーとゴリラフルボトルを取り出しつつ、そう答える。

その行為に、クローズもいつでもボルテックレバーを回せるように用意する。

「私は貴方を受け入れられない。力を合わせ、貴方と共に戦う事など、風鳴翼が許せるはずがない」

(そう、許せるはずがない・・・)

彼女が使っているのは奏のシンフォギア。されどそのシンフォギアを使っているのは戦いを知らない、何も知らないド素人。

そんな相手と共に、戦う事なんて出来やしない。

それが、ただの意地だとしても。

「貴方もアームドギアを構えなさい」

アームドギア・・・それは、シンフォギアに存在する固有武装。

ガングニールの別名はグングニルであり、その名が意味する事は、北欧神話における主神オーディンが使っていた神槍。それを、かつては奏も使っていた。

それに対して翼は刀。天羽々斬は、十束剣と呼ばれる刀剣の一種であり、かつてスサノオが八岐大蛇退治に使ったとされる神剣である。

しかし、目の前の少女、立花響はそのアームドギアを展開していない。

彼女はここに来るまで、完全に徒手空拳―――否、ただ殴って蹴っていただけだった。

「それは、常在戦場の意思の体現。貴方が、何をもおも貫き通す無双の一振り、ガングニールのシンフォギアを纏うのであれば、胸の覚悟を構えて御覧なさい!」

そう言い放つ翼。シンフォギアを纏うのであれば、それはまさしく戦う意思の象徴だ。

それを展開していない、響はというと。

「か、覚悟とかそんな・・・私、アームドギアなんて分かりません・・・分かってないのに構えろなんて、それこそ全然分かりません!」

まだシンフォギアについて理解出来ていない響にとって、それは未知なるもの。

そんなものをいきなり理解し、使えなどとは、戦兎でもなければ無理な話だ。

その言葉に、翼は刃を降ろし、そして背中を向けて歩き出す。

だが、まだ油断は出来なかった。

響は響で、不安そうに翼の背中を見つめている。

「覚悟を持たずに、のこのこと戦場(いくさば)に立つ貴方が、奏の―――」

ある程度の距離が開いた。そこで、翼は響に言い放つ。

 

「―――奏の何を受け継いでいるというの!?」

 

「―――ッ!?」

その言葉が、響に衝撃を与える。

そして次の瞬間、翼は飛び上がり、刀を響に向かって投げる。

それが、一気に巨大化し、見るも巨大な大剣けと変化する。

その柄頭を、ブレード部分のブースターで加速した翼は蹴り込み、一気に響に叩きつけようとする。

 

天ノ逆鱗

 

「「ッ!」」

それを見たビルドとクローズがすぐさま動く。

ビルドは手に持ったドリルクラッシャーのソケットにゴリラフルボトルを装填し、クローズはボルテックレバーを一気に回す。

 

『ボルテックブレイク!』

 

ドラゴニックフィニッシュ!』

 

巨大な腕型のエネルギーを纏わせたドリルクラッシャーとクローズドラゴン・ブレイズを拳に纏わせて翼の『天の逆鱗』の迎撃を図ろうとするビルドとクローズ。

しかし、その二人の間を、何かが物凄い勢いで通り過ぎたかと思うと―――

 

「コラァ!」

 

見た事のあるワインレッドのシャツをなびかせ、拳で『天ノ逆鱗』を真正面から打ち返した。

その人物は―――弦十郎だ。

「「えぇぇええぇぇええぇええぇええ!?」」

明らかに人が受け止めるべきものではない翼の一撃を、あの巨漢は、拳一発で受け止めていた。

しかもよく見れば拳は剣の切っ先に当たっていない。僅かに空間が出来、その間で止められていた。

否―――そのままその巨大な大剣を消滅させてしまったのだ。

「「えぇぇえええぇぇえええぇぇえぇぇえええぇええ!?」」

「おじさま・・・!?」

さらにそれだけに留まらず、

「おぉぉぉお――――たぁっ!!」

弦十郎が声を発すると共に、足元の道路が一気に崩れ吹き飛ぶ。

「嘘だろぉぉぉぉおおおぉぉおおおぉお!?」

「何ぃぃぃいいぃぃぃいいぃいいぃいい!?」

その威力は、本当に人間が放っていいものではなかった。

たかだが震脚で道路を吹き飛ばすなど、間違いなく人間技ではない。

「なあ、あの人ってエボルトの親戚か何かじゃねえの!?」

「知らないよ!まさかあんな化け物が存在するなんて俺も思わなかったよ・・・って翼!」

どうにか発動してしまった必殺技を叩きつける事で吹き飛ばされる事は防いだが、ビルドとクローズは弦十郎の規格外さに驚いたままだ。

だが、ビルドの視界に落下してくる翼が見えた時、ビルドは思わず走り出していた。

「うおっと!」

間一髪で受け止める事に成功するビルド。

そして、下水道管をやったのか、割れたアスファルトの隙間から水道水が噴水の如く溢れ出す。

それと同時に、響と翼の変身は解除される。

「大丈夫か?」

「・・・!は、離せ!」

「うお!?」

翼はビルドの腕から逃れ、その場にへたり込む。

「あーあーこんなにしちまって。何をやってんだお前たちは。この靴、高かったんだぞ?」

「いやそこかよ」

「ご、ごめんなさい・・・」

「一体何本の映画が借りられると思ってんだよ」

見れば、弦十郎の靴は見るに堪えない程無残、というか原型も残さないような有様だった。

(というか何故に映画?)

その事に疑問を抱いてしまう戦兎だが、とりあえずビルドドライバーからフルボトルを抜いて変身を解除する。

クローズも同様に、クローズドラゴンを抜いて変身を解除する。

「キュルル・・・」

ベルトから抜かれたクローズドラゴンは、そう小さく鳴いて、万丈のすぐ傍で飛び留まる。

「らしくないな、翼。ろくに狙いもつけずにぶっ放したのか、それとも・・・」

そこで、弦十郎はある事に気付いた。

「お前、泣いて・・・」

「泣いてなんかいません!」

その言葉を、翼は否定する。

「涙なんて、流していません・・・」

念を押すように、悟られぬように、翼は否定する。

「風鳴翼は、その身を、剣と鍛えた戦士です。だから・・・」

「・・・」

その言葉は、まるで、自分を守るために作った殻のようなものだった。

その言葉に、弦十郎はそれ以上追及はせず、そっと翼を立ち上がらせる。

「翼さん・・・」

「・・・」

その様子に、響は心配そうに呟き、事情を知らない万丈だが、何かしら重大な事があるのだろうと思い、何も言わない。

「私、自分がダメダメなのは分かっています」

それでも、響は何か言いたかった。

「だから、これから一生懸命頑張って」

それは、響にとっては慰めのつもりだったのだろうか。

 

()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

その言葉が、風鳴翼の地雷だと知らずに。

 

 

 

 

次の瞬間、乾いた破裂音がその場に響き――――風鳴翼は泣いていた。




次回の愛和創造シンフォギア・ビルドは!

「このままじゃまともに戦えないぞ」

未だぎくしゃくした翼と響。

「ん、いっぱいですね」

この街のノイズの発生。

「まさかこの件、米国政府が糸を引いているなんて事は・・・」

ノイズ以外の脅威と、地下に隠された、デュランダルの存在。

「全て、私の弱さが招いた事だ・・・」

自らの至らなさを悔いる翼。

「俺が人であるように、お前も人なんだからさ」

そして、戦兎はその言葉を否定し、

「私にだって、守りたいものがあるんです!」

運命が、彼女の前に立ちはだかる。

次回『約束のシューティングスター』

「・・・ネフシュタンの鎧・・・」


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約束のシューティングスター

戦「いや、いくらなんでも早すぎやしないか!?」
弦「なんでも書き貯めたものが以外に多く溜まったから、たまにはサービスで一日二連続投稿に乗り出したらしい」
戦「一日に二回なんて結構ハードなんだけど!?これじゃあタグ詐欺じゃねえか!?」
弦「まあ、気まぐれ投稿らしいからな。途中飽きたりネタが思い浮かばなくなったらしばらく投稿できなくなるから、そういう警告の意味もあるんだろう」
戦「おいなんでそんな冷静なんだよお前熱血系キャラなのになんでそんな冷血に物事判断してるんだ!?」
弦「はっはっは!歳の功というものさ!」
藤「存在するだけで憲法に抵触する程の戦闘力もってる人間だからこそなにか説得力ありますね・・・」
翼「そんな事よりさっさと始めるぞ。今回は特別に万丈や立花に参加してもらってないんだから」
戦「その為の穴埋め要因としてこいつらが呼ばれちゃったんでしょうか・・・まあいいや」
弦「では、今回は響君が意外に活躍する話だ。はい戦兎君」
戦「お、おう・・・ではどうなる第七話!」


―――仮面ライダービルドこと、桐生戦兎は、自室にて、自分の発明品の修理に当たっていた。

 

「それ、直りそうか?」

そう聞いてくるのは、ダンベルを使って筋トレをしている万丈だ。

「ああ、どうにかなりそうだ」

黙々と作業を続ける戦兎。

 

あれから一ヶ月。

 

シミュレーターなどを使い、ノイズに対しての連携訓練を行ってきた戦兎、万丈、翼、響の四人ではあったが、まず響が戦いの素人であること、翼が独断で戦う事、それでもってその二人に振り回される戦兎と万丈という全く持って噛み合わない状態に、現場の者たちはともかく、弦十郎たちには完全に呆れられていた。

 

「しっかし、どうすんだよ。このままじゃまともに戦えねえぞ」

「響はお前がどうにかしろ。戦い方ぐらい教えられるだろ」

「まあそれはそうだけどよ・・・問題なのは翼の方だろ?」

「まあ、そうだな・・・」

未だ、響や戦兎たちに心を開こうとしない翼。学校でもツンツンとした態度は健在で、やはり、周囲の生徒からは近づきがたい印象を与えていた。

元々トップアーティストという立場もある。

表でも結構忙しい筈なのに、ノイズを倒すこともしているというのは、かなり忙しいはずだろう。

響はともかく、ノイズを倒せる仮面ライダーという存在が増えたのだ。少しぐらいは休んでもいいと思うのだが。

「でも、大切な人を失ったっていうのは、アイツの心にまだ傷を残してると思うんだ」

「・・・そうだな」

翼だけではない。二人とも、大切な人を失っている。

万丈は恋人を、戦兎は父親を、それぞれ失っている。

新世界創造によって、彼らは復活しているだろう。しかし、それは自分たちの知っている相手ではない。

スカイウォールの存在していた自分たちの世界とは違う世界の歴史に生きる人間だ。

だから、彼らは自分たちの事を知らない。

そして翼は、自身の片翼とでもいうべき親友を失っている。

その傷は、そう簡単に治るものではないだろう。

その事を、良く知っている二人は、あえてその事を翼には言っていない。

人を失う気持ちは、誰よりも、痛い程理解しているのに。

「だぁーくっそ!どうにもなんねえのかよ!」

「お前はやる事ないからいいでしょ。俺は仮面ライダーとしても学校の先生としても頑張らなくちゃいけないんだからさ。そんなに暇なら風鳴さんに稽古つけてもらったらどうだよ?」

「お、それいいかもな」

戦兎の提案をあっさり受け入れる万丈。

「しっかしお前が先生ねえ。しかも女子校なんだろ?」

「うるっさいな。いいでしょ別に。お前は働いてないんだからさ」

「さぞ女にはモテてんだろうな。なあ?戦兎先生?」

「気持ち悪いからやめなさい」

「気持ち悪いっていうな」

ふと、そこで扉が開く。

「ようお前たち」

「風鳴さん」

「風鳴のおっさん、どうしたんだよ?」

入ってきたのは弦十郎だった。

「何、今何してるのか気になってな」

「あっそう・・・あ、そうだ風鳴さん。万丈暇そうだから稽古つけてやってくれよ」

「そういえば龍我君は元格闘家なのだったな」

「まあな・・・」

その事に関しては万丈は苦い思い出ある。

かつて八百長試合に手を出したのだ。

それに手を出した自分の事を、彼自身も『クズ』だと認識しているのも事実だ。

だが、それでも彼が誰かを守りたいという気持ちは本物だ。

「だったら俺の家の来るか?サンドバックもあるし、強くなる事間違いなしだぞ」

「へっ、上等だ。どうせ暇なんだ。しっかりと強くしてもらうぜ」

(んでもってコイツがどうやって強くなったのか、その秘訣を聞き出してやる・・・!)

などと考えている万丈。

「あ、そういえば風鳴さんはどうやってあれほどの力を?」

戦兎が直接弦十郎に聞く。

それに弦十郎は自慢するかのように言った。

「男の鍛錬は食事と映画鑑賞と睡眠だけで十分だ!」

「「は?」」

それだけ?

「え?何?それだけ?」

「映画の鍛錬法は確かに効果はあるぞ」

「映画の鍛錬法を実践してんのかよ!?」

ただそれだけであれほどの力を手に入れたというのか。

本物の化け物かこの男は。

「なあ戦兎」

「なんだ万丈」

「俺、マグマになってもこの人に勝てる気がしねぇんだけど・・・」

「奇遇だな。俺もハザードでも勝てそうにない気がする」

改めて、弦十郎の規格外さに驚嘆する二人だった。

 

 

 

 

 

それでもって夜。

「遅くなりました!」

響が作戦本部にやってくる。

「すみません」

頭を下げて謝罪する響。

「では、全員揃った所で、仲良しミーティングを始めましょう」

了子がそう言う傍らで、響と翼の間には、形容しがたい空気が流れていた。

その様子を、戦兎は横眼で見つつ、会議を始める。

まず、モニターにここら一帯の地図が映し出される。

そして、一つの点を中心として広がる円も表示された。

その数はかなり多い。

「どう思う?」

弦十郎が響に問いかける。

「ん、いっぱいですね」

「っはは、全くその通りだ」

その返しに、弦十郎は笑い、一方の翼は顔をしかめていた。

「これは、ここ一ヶ月のノイズの発生地点だ」

「確か人間がノイズに出会う確率っていうのは、通り魔と出会う確率を下回るんだよな」

「その通りだ。そういえば響君は、ノイズについて知っている事は?」

「テレビのニュースや学校で教えてもらった程度ですが、まず無感情で、機械的に人間だけを襲う事、そして、襲われた人間が炭化してしまうこと、時と場所を選ばずに突然現れて被害を及ぼす、特異災害として認定されている事」

「意外と詳しいな」

「今纏めてるレポートの題材なんです」

褒められて照れたのか頭を掻く響。

「そうね。ノイズの発生が国連での議題にあがったのが十三年前だけど、観測そのものはもーっと前からあったわ。それこそ、世界中の太古の昔から」

「そんなに前なのか」

「世界各地に存在する神話や伝承の数々に登場する異形は、ノイズに由来するものが多いだろうな」

「だから聖遺物・・・」

神話の時代から存在するというのなら、それに対抗するために作られたものが今響や翼の使うシンフォギアの核である聖遺物なのだろう。

「さっき戦兎君が言ってくれたように、ノイズの発生率は決して高くないの。誰の眼から見ても明らかに異常事態。だとすると、そこになんらかの作意が働いていると考えるべきでしょうね」

「作意?てことは、誰かの手によるものという事ですか?」

「そう考えるのが妥当だろうな」

「一体誰がなんの目的でやるんだよ?」

「それは分からん」

「中心点はここ、私立リディアン音楽院高等科。我々の真上です。サクリスト-D『デュランダル』を狙って、なんらかの意思が、この地に向けられている証左となります」

翼が、そう指摘する。

「デュランダル・・・?」

「・・・ってなんですか?」

当然、そんな事を知らない戦兎、万丈、響は首を傾げるだけだ。

一応、戦兎はその名前を知っているが。

その疑問に、友里が答える。

「ここよりも更に下層、『アビス(深淵)』と呼ばれる最深部に保管され、日本政府の管理下によって我々が研究している、ほぼ完全状態の聖遺物。それがデュランダルよ」

「翼さんの天羽々斬や、響ちゃんの胸のガングニールの欠片は歌を歌って、シンフォギアとして再構築させないと、その力を発揮出来ないけれど、完全状態の聖遺物は一度起動した後は、百パーセントの力を常時発揮し、さらには、装者以外の人間も使用可能と、研究の結果が出ているんだ」

藤尭が捕捉を加える。

「結局どういう事だよ?」

「響や翼の使うシンフォギアよりも強力な武器がここよりも下にあるってことだよ」

万丈のぶれなさに呆れつつ、軽く説明する戦兎。

「それが、私の提唱した櫻井理論。だけど完全聖遺物の起動には、相応のフォニックゲイン値が必要なのよね」

「んん~?」

まあ響はあまり理解出来ていないようだが。

「フォニックゲインってなんだ?」

「歌で発生するエネルギーの事だよ。ボトルを振れば成分が活性化するのと同じ理論だ」

「なるほど」

「あれから二年。今の翼の歌であれば、あるいは・・・」

弦十郎の言葉に、翼は顔をしかめる。

「そもそも、起動実験に必要な日本政府からの許可って下りるんですか?」

「いや、それ以前の話だよ。安保を糧に、アメリカが再三のデュランダル引き渡しを要求してきてるらしいじゃないか。起動実験どころか、扱い自体に慎重にならざるを得ない。下手打てば国際問題だ」

「アメリカか・・・」

戦兎や万丈にとっては馴染みのない言葉だが、国同士のいざこざはなんとなく分かる。

かつてパンドラボックスを巡って戦争をした程だ。

「まさかこの件、米国政府が糸を引いているという事は・・・」

「調査部からの報告によると、ここの数か月における本部コンピューターへのハッキングを試みた痕跡が数万回に及んで認められているそうだ」

傍らでは翼は手に持っていた紙コップを握りつぶし、その様子に響は目をそらす事しか出来ない。

「結局はどういう事だよ?」

「お前な・・・ライダーシステムで例えると、俺たち仮面ライダーの使う技術を盗もうとしているってことだよ。パソコンだとかそういうのにアクセスして、データを盗もうとすること。まあ分かりやすく言えば、紗羽さんが難波重工にデータを渡してたのと同じだな」

「ああ、ああいう感じか」

「流石に、アクセスの出所は不明。それらを、短絡的に米国政府の仕業とは断定できない」

「なんでだよ」

「証拠が足りないからだよ馬鹿」

「馬鹿っていうな!」

「おほん、もちろん痕跡は辿らせている。本来こういうのこそ、俺たちの本業だからな」

そこで、緒川が話に割り込んでいた。

「風鳴司令」

「そうか。そろそろか」

「こんばんは。これからアルバムの打ち合わせが入っています」

「はえ?」

「どういう事だよ」

「ああ。俺が教師をやってるように、アンタもそういう職業についてるのか」

「ええ。表の顔では、アーティスト風鳴翼のマネージャーをやっています」

そう言って、緒川は名刺を差し出す。

「おお!名刺貰うなんて初めてです。これまた結構なものをどうも」

「なあなあ俺も作れないのかこれ?」

「お前まともな職業についてないのにどうして名刺なんか作るんだよ」

そうして、翼と緒川は仕事の為に指令室を出ていく。

その様子を見送りつつ、響は弦十郎に尋ねる。

「私たちを取り囲む脅威って、ノイズだけじゃないんですね」

それに、その場にいる者たち全員がうなずく。

「どこかの誰かがここを狙っているなんて、あまり考えたくありません」

「大丈夫よ」

「え?」

「何故ならここは、テレビや雑誌で有名の天才考古学者櫻井了子が設計した、人類守護の砦よ」

「―――ッ!」

「お前の事じゃねーから」

ガタッと立ち上がりかけた戦兎を制する万丈。

「先端にして異端のテクノロジーが、悪い奴らなんて寄せ付けないんだから」

「よろしくお願いします」

「んん」

そんな中で、戦兎は考える。

(確かにデュランダルだとかの聖遺物は、使い方次第では本国を守るための防衛手段にもなるし、逆に敵国を滅ぼす為の兵器にもなる・・・だが、なんかそんな国単位の話じゃないような気もするんだよな・・・・)

何故この街にノイズが集中するのか。一体どういう目的があるのか。

本当に、デュランダルだけが目的なのか。狙っているのはアメリカなのか。

何か、強大な陰謀が隠れているようにも思える。

(エボルトと同じように、この世界を滅ぼそうとする奴がいたりするのか・・・?だとしたら・・・)

ポケットのラビットフルボトルを握りしめて、戦兎は決意を新たにする。

(その野望を俺たちが阻止してみせる・・・!)

 

 

 

 

 

 

 

 

それでもって翌日。

黒板にベクトルの図を描きつつ、戦兎は教科書を見ず、自らの言葉でそれを説明していた。

「あ~、やっぱり戦兎先生ってかっこいいなぁ」

「あんな風にさわやかな笑みを浮かべながら授業が出来るなんて、すごいよねぇ」

「はいそこ。ここの仕組み分かりますか~?」

一人の生徒を指名して、答えてる最中、戦兎は奥の席に座る翼を見上げる。

その表情は、未だ何かを考えている様だった。

「・・・」

その様子に、戦兎は溜息とともに肩を落とすのだった。

 

 

 

 

授業が終わり、放課後。

「よっ」

「桐生・・・」

いつも通り一人の翼に、戦兎は声をかける。

「ちょっと付き合ってくれ」

そうして、二人は学園の屋上へとやってくる。

下を見下ろせば、何人もの生徒たちがグラウンドで走っていたり、遊んでいたりしていた。

「それで、何か用か?」

「ああ。お前、どうしてそこまで一人で戦おうとするんだ?」

その問いかけは、戦兎の疑問の一つだった。

「いや、どうしてそこまでして戦おうとする?アイツはともかく、ノイズに対抗できる仮面ライダーが二人もいるんだ。たまには休む事も考えた方がいいんじゃないのか?」

「何を馬鹿な事を・・・私はこの身を『剣』として鍛えた身。そのような行為は必要ない」

「天才でも休みは必要だぞ?結構なハードスケジュールだろ?」

「お前には関係ない事。気にすることでもないだろう」

「関係なくねえよ。仲間だろ?」

仲間。その言葉が、翼の心に突き刺さる。

「・・・・お前に・・・奏を失った私の気持ちなんて・・・」

「分かるさ」

「何をだ?私はあの日、『絶唱』を使う奏を止められなかった。もっと私が強ければ、奏は死ぬ事は無かった・・・!失い事はなかった・・・全て、私の弱さが招いた事だ・・・」

「だから、自分一人だけで戦う、と・・・はあ・・・」

翼の言葉に、戦兎はこれまでにないほど大きなため息をつく。

「・・・何?」

「いや、お前がこれまでにないくらい馬鹿でどーしようもない奴だって分かってさ」

「馬鹿だと・・・?それは一体―――」

思わず食って掛かろうとした翼を、戦兎は次の言葉で止める。

「俺たち全員自分一人で戦ってる訳じゃねえんだよ。俺だってな、万丈や仲間たちがいなくちゃ、本当は何もできないただの人間なんだよ。でも、仲間がいたからこそ、今の俺が、ビルドがある。お前だって同じだ。風鳴翼っていう一人の人間は、天羽奏や風鳴さん、二課の奴らがいたから今のお前がいるんだろ。その事忘れて戦っている奴を、馬鹿と呼んで何が悪い」

「それでも私は、この身を剣として鍛えてきた!私の歌は、戦う為のものだ・・・」

「歌はそういうものじゃないだろ。確かにお前たち装者は歌を歌いながら戦っているかもしれないけど、その歌は、誰かに生きる希望を与えてくれるものじゃないのか?お前の歌は、本当に戦うためだけにあるのか?少なくとも俺から見ればお前の歌は、誰かに生きる為の勇気を与えてくれていると思う」

「・・・!」

その言葉に、翼は息を詰まらせる。

誰かに生きる為の勇気を与えてくれている―――誰かの為に歌を歌う。

(わた・・・しは・・・・)

この身は、『剣』として鍛えてきた。決して折れる事の無い一本の『剣』として鍛え、この国を守る『防人』として、今までの人生を捧げてきた。

そんな中で、自分が唯一楽しいと思えたものが、歌だった。

例え、戦う為に覚えたものであっても、自分は、歌が好きだった。

だけど、今の自分は――――

「翼」

戦兎が、言う。

「自分の事を『剣』だなんて言うなよ。俺が人であるように、お前も人なんだからさ」

「・・・・」

夕焼けに染まる空を見上げて、戦兎は語る。

「剣っていうのは、人を傷つける為の道具だ。だけどお前は、その力を誰かを守るために使ってる。そんな人間が、剣だなんて言えるか?」

「それ・・・は・・・・」

「結局、お前もただの人間なだけだ。歌を歌うのが好きな、ただの人間だ」

戦兎の真っ直ぐな言葉が、翼の耳に届く。

「だからま、あんま無理すんなよ。お前の歌を待ってる奴って、結構いるんだからさ。ちなみに俺もファンだったりする」

「な!?聞いているのか?」

「ああ、響から勧められてな。今じゃ作業している時は毎日聞いてるよ」

「そ、そうか・・・」

ポケットから新品のウォークマンを取り出して、戦兎は言う。

「こんな風に、誰かを元気づけられる歌が歌えるんだ。お前は剣なんかじゃない。一人の女の子だよ」

「・・・・」

なんだか、初めて言われた気がする。

人生で、一人の女の子などという言葉を、初めて言われた。

その言葉に、翼がフリーズする―――その時だった。

通信機から、連絡が入る。

「ん?どうした?」

『ノイズだ!すぐに出てくれ!』

どうやら、問答はここまでのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方で―――

「キュイーン!」

「こっちか!」

通信機に入ったノイズ出現の報を聞き、すぐに現場に向かっていた万丈。

持ち前の体力で、ほぼ息切れなしに現場の地下鉄入口に辿り着く。

そこには、すでに響がいた。その手には、携帯が握られており誰かと電話をしている風だった。

「響か・・・?」

「・・・ごめん、急な用事が入っちゃった・・・・今晩の流れ星、一緒に見られないかも・・・」

その会話を聞き、万丈は察する。

 

(何か、約束があったのか・・・・)

 

「キュイ・・・」

電話をしている響を、クローズドラゴンは心配そうに鳴いていた。

「ありがとう・・・ごめんね・・・」

そうして、通話を切る響。

そして、その携帯をポケットの中にしまった瞬間、勢いよく振り向いて今地下鉄から出てきようとしていたノイズたちを睨みつける。

「キューッルルッルルッルル!」

その隣に万丈もたつ。

「龍我さん・・・」

「付き合うぜ」

「・・・ありがとうございます」

十分に振ったドラゴンフルボトルを、クローズドラゴンに装填し、ビルドドライバーに装填する。

 

Wake UP

CROSS-Z DRAGON!』

 

そしてボルテックレバーを回して、スナップライドビルダーを展開する。

 

『Are You Ready?』

 

「変身!」

 

『Wake UP Burning!』

 

『Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!』

 

それと同時に、響もガングニールの起動聖唱を唱える。

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron――――」

 

その身を夕焼け色のスーツと白銀のプロテクターで覆い、ノイズを倒すための力をその身に宿す。

その瞬間、ノイズを現実世界に引きずり出す力場が発生、そして、響はその胸の内から歌を紡ぐ。

「っしゃあ!行くぜぇえ!!」

そして、二人は目の前のノイズに飛び掛かった。

その最中で、弦十郎から通信が入る。

『小型の中に、一回り大きな反応が見られる。まもなく翼と戦兎君も到着するから、それまで持ちこたえるんだ。くれぐれも無茶はするな』

「は!こんな奴ら、俺たちだけで充分だ!」

ビートクローザーで数体のノイズを薙ぎ払い、クローズはさらに奥へ進む。その後を響もついていく。

改札の前まで行くと、そこには、まるでブドウの房を背負っているようなノイズに出くわす。

おそらく、あれが反応が強いノイズだろう。

「分かってます!私は、私に出来る事をやるだけです!」

そう言い、響は改札を飛び越して、ノイズに殴り掛かる。

それは、まさしく素人の喧嘩そのものだった。だが、それでも、シンフォギアの見せる対ノイズ性能は健在であり、ただ殴ったり蹴ったりするだけでも、ノイズは炭素の塊となって消える。

その最中、ブドウ型ノイズが体に付けた球をいくるか落とし、響たちの方へ転がしたかと思うと、突如として爆発。

「え!?」

「な!?」

その爆発に巻き込まれる響とクローズ。

天井が崩れ、その下敷きとなっている間に、ブドウノイズは階段を飛び降りて逃げていく。

そして、その下敷きになった二人は、

「―――いってぇなオイ!」

クローズはすぐさま瓦礫から這い出て健在だという事を示した。

「響!大丈夫か!?」

だが、響は起き上がってこず、その姿を探すクローズ。

「・・・見たかった」

「ん?」

その時、声が聞こえたかと思いきや、瓦礫が吹き飛んでその中から響が怒りの形相で目の前のノイズの集団に殴り掛かる。

「流れ星見たかった!」

動きは素人。だが、その拳に込められた感情は、まさしく本物。

とてつもない怒りが、響を突き動かし、ノイズを殴り飛ばす。

「未来と一緒に―――」

背後のノイズすらも吹き飛ばして、

「―――流れ星見たかった!」

振り向き様に蹴りを叩き込んでまたノイズの一体を炭素の塊へと変える。

「うお・・・」

その迫力は万丈ですら後ずさる程だった。

「うぉぉぉあぁぁぁぁああぁぁあああぁああああ!!」

その暴れ様はすさまじく、何体ものノイズを一重に吹き飛ばしていた。

その一方で、地下鉄のホームにて、ブドウノイズは房の球を回復させ、なおも逃走を図る。

それを見て、響はホームの壁を意味も無く殴る。

(やべえなんか知らねえがめっちゃ怒ってやがる!?)

まだ十五歳の少女が出せるはずもない迫力にクローズはその後ろを見るだけでも後ずさった。

「アンタたちが、誰かの約束を侵し・・・!」

ブドウノイズが球を切り離して新たなノイズを呼び出す。

「嘘の無い言葉を・・・争いの無い世界を・・・なんでもない日常を・・・!」

そこで、クローズは響の異変に気付く。

 

黒い

 

何か、響の姿が黒くなって見える。

その黒は、まるで――――

(ハザード・・・?)

―――かつて、ビルドが変身した、黒いビルド。

それに、似ている気がする。

「おい、響―――」

「―――剥奪すると、言うのなら―――ッ!!」

より狂暴性の増した攻撃で、響はノイズを片っ端から叩き伏せていく。

 

これは、まずい。

 

クローズは本能的にそれを察知し、すぐさま呼びかける。

「おい響!それ以上進んだら戻れなくなるかもしれねえぞ!」

だが響は止まらない。

「がぁぁあぁああ!!」

おそらく、元々あった怒りに加えて、なんらかの要因で暴走しているのだと思われる。

「おい!響!」

まるで獣だ。

黒いビルド―――ビルド・ハザードフォームは、暴走した場合、目の前の敵を徹底的に破壊する為に、全ての思考を廃し、ただ目に映る全てのものを壊す事しか考えられなくなる。

だが響の場合は、怒りによって敵を蹂躙したいという感情が現れている。

ハザードとは、どこか違う暴走状態。

そこへ、あのブドウノイズが放ったと思わしき球が転がってくる。

「あぶねえ!」

「え」

響の襟首を掴んで後ろに投げ飛ばし、代わりにその爆発を受けるクローズ。

「うごあ!?」

「龍我さん!?」

「つぅ・・・大丈夫だ!」

だが、ダメージはそれほどでもなく、クローズはその視界に逃げるブドウノイズを捕捉する。

「な!?待ちやがれ!」

「待ちなさい!」

そのノイズを追いかけようとする響とクローズだが、突如としてノイズは天井をその球の爆弾で爆破、地上への穴を作り出し、そこから駆け上がって地上に出ていった。

「やろぉ・・・」

「・・・あ」

ふと、その穴から見える夜空を、一条の閃光が迸っていた。

「流れ星・・・・?」

否―――それは、風鳴翼の纏う光だった。

 

『各駅電車ー!急行電車ー!快速電車ー!』

 

そして、そのすぐ傍ではビルド・カイゾクレッシャーフォームがその手の弓武器『カイゾクハッシャー』のビルドアロー号をエネルギー供給ユニット『トレインホームチャージャー』まで引き絞る。

 

海賊電車!』

 

次の瞬間、カイゾクハッシャーからエネルギー体のビルドアロー号とビルドオーシャン号が発射される。

 

『発射ッ!』

 

蒼ノ一閃

 

特大の斬撃と電車型の矢がノイズを襲う。その一撃は叩き込まれ、一瞬にしてノイズを消し飛ばす。

「いや・・・やりすぎだろ」

その様子を、万丈はそう言いながら見ていた。

そんな中で、翼とビルドが着地する。

そんな二人に響とクローズが駆け寄る。

ふと、後ろ姿を見せる翼に、響は言う。

「私だって、守りたいものがあるんです!」

しかし、翼は響を見ようともしない。

「だから・・・・!」

しかし、その先の言葉が続かない。

そんな二人の様子に、ビルドとクローズは呆れていた。

 

「―――だから?んでどうすんだよ?」

 

どこからともなく、声が聞こえてきた。

「ッ!誰だ!」

その声に、ビルドは叫ぶ。

 

雲に隠れていた月が、姿を見せ、月光がその正体を照らす。

 

そこから現れたのは――――白い鎧を纏った少女だった。

「誰だ・・・アイツ?」

クローズ、ビルド、響の三人は何なのか分からず、唯一、翼だけは、その少女の纏う『鎧』を知っていた。

「・・・『ネフシュタンの鎧』・・・・」

 

 

少女の運命が、動き出す――――




次回、愛和創造シンフォギア・ビルド!

「ネフシュタン・・・青銅の蛇・・・?」

目の前に立ちはだかる、かつて奪われた鎧『ネフシュタン』。

「ここでふんわり考え事たあ、ちょせぇ!」

それを駆る、謎の少女。

「繰り返すものかと・・・私は誓った・・・!」

「出て来い!アームドギアぁ!」

その圧倒的戦闘力の前に、自分の無力さに打ちひしがれる響。

「防人の生き様!覚悟を見せてあげる!」

そして、翼はついに『禁じ手』を開放する。


次回『覚悟のレクイエム』


「―――――っふっざけんなぁぁああぁぁああぁぁあああ!!!!」


剣の為に、兎は飛ぶ。


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覚悟のレクイエム

弦「さて今回はメインの者たちが戦闘に入っててあらすじ紹介が出来ないために我々二課が説明しよう」
了「天才物理学者にして仮面ライダービルドこと桐生戦兎、同じく仮面ライダーであり『プロテインの貴公子』万丈龍我らは、天羽々斬のシンフォギア装者の風鳴翼と同じくガングニールの装者である立花響のぎくしゃくした関係に呆れていたのでした」
友「一ヶ月たっても噛み合いませんでしたよね・・・」
藤「ですが、戦兎さんが二課に入ってからは、翼さん少し丸くなったように感じるんですよね」
弦「それは俺も思った。いやー、剣剣と言っていたアイツが、まさか兎一匹に変えられるとはな」
了「今後が楽しみねー」
藤友「ですね」
弦「では、何やら不穏な空気漂うネフシュタンとの戦いが繰り広げられる第八話をどうぞ!」



一方戦場にて

戦「なんか、どっかで俺と翼の事に関するよからぬ噂をされたような気がする・・・」
翼「私もだ・・・」
万「気のせいじゃねえの?」
響「えーっと、ごめんねこっちで色々話し進めちゃって」
ク「別に寂しくなんてねーしバーカ!」




―――もし、偶然や、奇跡というものが存在するというのなら、彼女は、その偶然を否定し、必然という結果を勝ち取った者であるだろう。

 

 

 

偶然、シンフォギアに選ばれた翼と違い、奏は自らの力でシンフォギアの力を勝ち取った。

 

その動機は、復讐。

 

長野県水上山聖遺物発掘所の発掘現場に、休日であるという事で父親に連れてこられた奏は、そこを狙われてノイズに襲われた。

そして、家族全員をノイズによって奪われた。

二課が存在する事を知り、そしてノイズを倒せる―――殺せる力を持っている事を知り、奏はその力を求めた。

文字通り、血反吐を吐くような訓練と薬物投与をやり、まだ十四歳の体を限界にまでズタボロにした末に、ついにシンフォギアを手にすることに成功した。

それが、今、響が使っているシンフォギアであり、第三聖遺物『ガングニール』であった。

 

ただ復讐の為だけに歌い戦う少女。

 

だが、そんな彼女が戦い、そして、人々から感謝される事で、心に変化が起きた。

 

それは、『自分達の歌が誰かを勇気付け、救う事が出来る』という事を悟ったからだ。

 

そして、彼女は復讐の為だけでなく、誰かを守る為にも歌う事を決意し、そして―――

 

 

翼と『ツヴァイウィング』を結成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出会いから、五年―――あの日から、二年―――

 

 

 

少女は、運命と邂逅する。

 

 

「ネフシュタンの・・・鎧・・・」

翼が、その鎧の名を呼んだ。

「ネフシュタン・・・青銅の蛇・・・?」

カイゾクレッシャーフォームのビルドが、そう呟く。

「お、おい、なんだよあれ・・・?」

『ネフシュタンの鎧、二年前、ライブ会場の惨劇の日に奪われた完全聖遺物の一つよ』

クローズの言葉に、了子が答える。

「二年前・・・そうか、その日のライブは、相応のシンフォニックゲインを獲得するためのものだったのか」

ビルドの推察は的中しており、そして、ネフシュタンの鎧を纏う少女も答える。

「へえ、って事はあんた。この鎧の出自を知ってんだ?」

顔はバイザーで分からない。だが、先ほど了子が言った言葉で、ビルドはある程度警戒する。

 

おそらく、あの鎧は危ないものだ。

 

「二年前・・・私の不始末で奪われた物を忘れるものか。何より、私の不手際で失われた命を忘れるものか!」

大剣を構えて、翼はその切っ先を少女に向ける。

ビルドもカイゾクハッシャーを構える。

それに対して、少女も鎧から出る刃の鞭と謎の杖を取り出す。

 

奏を失う事になった事件の原因、そして、奏が残したガングニールの破片。

 

(その二つが同時に揃うなんて、一体どういう巡り合わせだよ)

そして、その巡り合わせの中に、翼がいる。

どんな偶然が起きればこんな事になるのか。

(とにかく今はコイツをどうにかして・・・・)

「やめてください!」

「ぬぐあ!?」

が、突如として響に後ろから抱き着かれる。

「な!?響!?」

「相手は人です!同じ人間です!」

「え!?いや、まあ、そうなんだけど・・・」

「「戦場で何を馬鹿な事を!」」

(見事に被ったな)

少女と翼の言葉が見事に被った事を頭の片隅に追いやる。

「むしろ、貴方と気が合いそうね」

「だったら仲良くじゃれ合うかい!?」

少女が刃の鞭を振るう。

「あーもう!」

「え!?きゃ!」

ビルドは響を抱き抱えて距離を取り、一方の翼は空に飛ぶ。

「万丈!頼んだ!」

「おう!?」

「ふんぎゃ!?」

そして響を万丈に向かって投げつつ、ビルドアロー号を引く。

 

『各駅電車!急行電車!快速電車!海賊電車

 

『発射!』

 

それと同時に、上空の翼から蒼の一閃が放たれる。

打ち放たれたエネルギー弾とエネルギーの刃。

双方から襲い掛かる高威力の一撃を、少女はその手に持つ刃の鞭で二つとも弾き飛ばす。

「なっ!?」

「最大まで溜め込んだ一撃を弾いた!?」

しかし、翼はすぐさま上空から少女に斬りかかる。

だが、最初の振り下ろしは躱され、続く数撃すらも最小限の動きで躱し、大きく踏み込んだ薙ぎ払いを刃の鞭で受け止める。

そして、その大剣を弾かれ、追撃の鞭の薙ぎ払いを躱したと思い気や、その腹に深い蹴りを貰う。

(あの翼が・・・!?)

蹴り飛ばされて、地面に倒れる翼。

「これが完全聖遺物か・・・!」

「ネフシュタンの力だと思わないでくれよな」

ビルドは、新たに二本のボトルを取り出す。

「まずは弱点を見つける・・・!」

 

忍者!』『コミック!』

 

ベストマッチ!』

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

忍びのエンターテイナーニンニンコミック!イェイ・・・!』

 

機動性に優れたフォーム、ニンニンコミックフォームへとチェンジしたビルド。

そしてすぐさま少女の鎧の解析を始める。

だが、そのまま黙っている少女ではなく、刃の鞭をビルドに叩きつける。

しかしその機動性をもって躱し、忍者らしい機動性で一気に少女に肉薄する。

 

『四コマ忍法刀!』

 

ニンニンコミックにおける専用武器『四コマ忍法刀』を取り出しその刃をもって少女に斬りかかる。

ニンニンコミックの機動性と柔軟性をもってして、反撃してくる少女の攻撃をかわしつつ、ビルドは忍法刀を振るう。

だが、戦闘力は少女の方が上らしく、鞭の一撃を受けてしまう。

「ぐぅ!?」

距離を取らされる。

「はっ!どうした?その程度かよ!」

挑発する少女に対して、ビルドは右腕をしならせ、何かを投げる。

「ッ!?」

暗い中、微かに見えたそれは―――手裏剣。

「チィ!」

それを少女が叩き落している間に、ビルドは忍法刀のトリガーを引く。

 

『風遁の術・・・・竜巻斬り!』

 

刃から竜巻が発生し、それをビルドは少女に叩きつける。

「ちょせぇ!」

だが、少女はあろうことか真正面からその竜巻を刃の鞭によってねじ伏せる。

「嘘だろ・・・!?」

「ほらほら行くぜぇ!」

伸びた刃の鞭を、ビルドに叩きつけようとする。

それをビルドは巧みに躱していく。

さらに、少女はもう一つの鞭を使って翼をも攻撃する。

「くっ!」

「翼さん!戦兎先生!」

「戦兎ぉ!」

響と万丈が声をあげる。

「お呼びじゃないんだよ。こいつらとでも遊んでな」

そこで少女は杖を取り出して、中心の宝石部分から光の弾丸を放出する。

その光が地面に着弾すると、そこからいきなりノイズが現れる。

「な!?」

「ノイズが・・・操られている・・・」

まるでダチョウのようなノイズ。

そのノイズの視線が、響たちに向く。

「やろぉ!」

クローズはそのノイズ共に向かって行く。

「あ、万丈さん!」

ノイズがくちばしから何かを吐き出す。それをクローズは躱して、その胴体に拳の一撃を叩き込む。すると一瞬にして炭化して吹き飛ぶ。

「まだまだぁ!」

そのまま次々とノイズを殴り飛ばしていくクローズだったが。

「うわあ!?」

「!?」

背後から声が聞こえたかと思いきや、振り返ればそこにはノイズの吐き出した液体に掴まっている響がいた。

「響!?」

「そんなぁ・・・うそぉ・・・」

それは粘着性のある液体。いわゆるトリモチだ。

駝鳥(ダチョウ)だけに、()()モチだ。

「上手い事言ってる場合か!?うお!?」

「龍我さん!?」

「へぶ!?」

すぐさま助けようと駆け出すクローズだが、先ほど避けたトリモチに引っかかって無様に転ぶクローズ。顔面から落下したので仮面がなければ相当痛かっただろう。

「ぐぉぉお・・・」

「大丈夫ですか!?」

「ああ、大丈夫・・・」

 

『ビートクローザー』

 

そしてビートクローザーを取り出すなり、それのスロットにロックフルボトルを装填する。

 

『Special Tune!』

 

そして、柄の『グリップエンド』を二回引っ張る。

 

『ヒッパレー!ヒッパレー!』

 

「喰らいやがれ!」

そしてすぐ近くにいるノイズに向かってビートクローザーを振るう。

 

『ミリオンスラッシュ!』

 

その刀身から蒼い炎の火炎弾を飛ばし、二体のノイズを狙い撃つ。

だが、それでは粘着質のあるトリモチは消えない。

「くそ!別腹かよ!」

「あぅ、もう!」

必至に拘束から逃れようともがく響だが、相当粘着性が強いのか、シンフォギアの強化された身体能力をもってしても逃げる事が出来ない。

 

その一方で、翼が再度少女に斬りかかる。

「その子たちにかまけて、私を忘れたか!」

着地すると見せかけて片足で少女の片足を払い、態勢を崩した所で足のブレードで斬りかかる。

だが、一回目を躱され、追撃の二回目を防がれる。

「お高くとまるな!」

「ッ!?」

そのまま足を掴まれ、そのまま地面に叩きつけられる。

「ぐあぁぁああ!?」

地面を抉りながら転がる翼。その翼に追いついてその頭を踏みつける。

「のぼせ上がるな人気者、誰もかれもが構ってくれるなんて思うんじゃねえ!」

 

『火遁の術―――』

 

「ッ!?」

 

『―――火炎斬り!』

 

「ハア!」

そこへビルドの火炎斬りが炸裂。しかし躱され、距離を取られる。

「大丈夫か?」

「ああ・・・」

「ハッ!他人の心配している暇があるのかよ!」

刃の鞭がビルドを襲う。

ビルドは、翼を抱えると四コマ忍法刀のトリガーを引く。

 

『分身の術』

 

次の瞬間、ビルドの前に三人のビルドが出現、連続して襲い掛かってくる鞭を叩き落す。

「な!?」

「分身の術・・・!?どうして・・・」

「俺の発明品のお陰さ!」

分身ビルド三人が少女に向かう。

「チッ!三人に増えた所で、何も変わんねえんだよ!」

三対一。そんな不利な状況でも少女は油断せず、三人のビルドを相手取る。

「今の内だ。下がって・・・」

「まだ戦える・・・!」

「だけど・・・!?」

分身が全て倒される。

「なるほど、流石完全聖遺物・・・」

「小手先の技が通じるかよ!」

「だったらこれはどうだ!」

 

オクトパスライト!』

 

ベストマッチ!』

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

稲妻テクニシャンオクトパスライト!イエイ!』

 

新たなフォーム、オクトパスライトとなって、ビルドは少女と対峙する。

「今度はタコと電球?なんの組み合わせだよそりゃあ」

(それは思った)

少女の言葉に頷く翼。

「目を閉じてろ」

「え?何をいって・・・・」

次の瞬間、網膜が焼かれる程の光がビルドから発せられる。

「ッ!?なんだ!?」

「ハア!」

次の瞬間、ビルドが少女を殴り飛ばした。

「ぐあ!?」

吹き飛んで態勢を崩した所で、ビルドは今度は右肩のタコ足『フューリーオクトパス』を操り、少女を縛り上げて地面に叩きつける。

「ぐあぁあ!?」

「捉えたぞ・・・!」

そのまま縛り上げて拘束するビルド。

「くっそ・・・この程度で勝ったと思ってんじゃねえよ!」

「なに!?」

しかし、とてつもない力で拘束を逃れられ、次の瞬間、鞭の先にエネルギー球が出現。

「やばっ・・・!?」

「喰らいなぁ!」

 

『NIRVANA GEDON』

 

投擲されるエネルギー弾。

「戦兎先生!」

「戦兎ぉ!」

「桐生!」

「くっ!」

砲弾が、ビルドに直撃する。

凄まじい爆発が巻き起こり、閃光があたりを一瞬だけでも照らす。

巻き起こる黒煙の中、そこから何かが飛び出す。

それは、赤と青の装甲を纏った者だった。

 

鋼のムーンサルトラビットタンク!イェーイ!』

 

ビルドの初期フォーム、ラビットタンク。

ラビットの跳躍力を使ってどうにか逃れたのだ。

だが、

「ぐっ・・・」

「はっ、爆発の衝撃までは逃れなかったか」

その場に膝をつくビルド。爆発そのものは避けられても、衝撃までは逃れられなかったのだ。

「丁度いい。おい、お前の持ってるボトルって奴全部寄越しな」

「何・・・・!?」

「アタシの狙いは最初(はな)っから、お前の持ってるボトルとそこで掴まってるソイツを掻っ攫うことさ」

「なっ!?」

つまり、彼女がこちらを狙ったのは、響を攫う事と戦兎と万丈の持つボトルを全て奪う事か。

「なんでボトルの事を・・・」

「誰が教えるかよバーカ!さあ、さっさと渡して―――ッ!?」

だがその時、空から無数の刃が雨の如く降ってくる。

翼の『千ノ落涙』だ。

「チィッ!」

「繰り返すものかと・・・私は誓った・・・!」

翼が、立ち上がる。

「だから!ここでお前を仕留める!」

「ハッ!やってみろ!」

「おぉぉぉおおお!!」

翼と少女がぶつかる。

いくつもの金属音と激しい爆発が巻き起こる。

その様子を、響はただ見ている事しかできない。

「くっそ!どうやったら取れるんだよこれ!」

クローズはクローズで焼くなり斬るなり、足に引っ付いたトリモチを取ろうと躍起になっている。

「はやく・・・いかねえと・・・」

ビルドは、ダメージが深いのか、無理して立ち上がろうとしている。

今、翼を手助けに行けるものは誰もいない。

「・・・そうだ、アームドギア・・・!」

そこで、響は自分に残された唯一の可能性『アームドギア』の展開を試みる。

(奏さんの代わりになるには、私にもアームドギアが必要なんだ・・・それさえあれば・・・!)

響は、必死にもがいて、アームドギアをその手に呼び出そうとする。

 

だが、出ない。

 

「来い!出て来い!アームドギア!」

だけど、出ない。響の手に、彼女の戦いの意思そのものであるアームドギアが現れない。

「なんでだよ・・・どうすればいいのか分かんないよぉ・・・!」

今すぐにでも翼を助けに行きたい。だけど、どうにも出来ない。

これほどまでに、自分の無力さに打ちのめされた事が、他にあっただろうか。

少なくとも、彼女の人生において、一切無い。

その間にも、戦いは激化していく。

剣と鞭の鍔迫り合いの中、翼は改めて実感する。

「鎧に振り回されている訳ではない・・・この強さは本物・・・!?」

「ここでふんわり考え事たあ、ちょせぇ!」

「くっ!」

弾かれ蹴りをバク転で躱す。しかし追撃なのかノイズを召喚され、そのノイズに襲い掛かられる。

「くぅ!」

『逆羅刹』『千ノ落涙』『蒼ノ一閃』自らの持つ技全てをもってノイズを殲滅しようとする。

その最中で放った『蒼ノ一閃』それが複数のノイズを斬り裂いて少女に向かって一直線に飛んでいく。

しかし、躱され、反撃に放たれた鞭の一撃を放ち、また激しく打ち合う。

斬撃を振り下ろし、蹴りを繰り出し、拳を薙いで、互いに攻撃を叩きつけ合う。

その最中、翼は短剣を何本か投げる。

「ちょせぇ!」

しかしそれを全て弾かれた上に、先ほどビルドに放たれたあの黒い砲弾を作り出す。

「らあ!」

 

『NIRVANA GEDON』

 

それを避ける事が出来ず、翼は、それを諸に喰らってしまう。

「翼さん!」

「翼ぁ!」

大剣で受け止めるも、抑えきれず、爆発に吹き飛ばされる。

なんども地面を激しく跳ね、地面に倒れ伏す翼。

「ふん、まるで出来損ない」

そんな翼を、少女は嘲笑する。

「・・・確かに、私は出来損ないだ・・・」

「ああ?」

「この身を一振りの剣と鍛えてきた筈なのに、あの日、無様に生き残ってしまった・・・!」

忘れもしない、あの日の屈辱と後悔。

「出来損ないの剣として・・・恥を晒してきた・・・!」

その日から、風鳴翼の人生は変わった。奏を失い、それでもなお戦い続けた。

歌を戦う事に使い、毎日の鍛錬も欠かさず、ただただノイズを屠る事だけを考えて戦ってきた。

だからこそ、今、ここで―――

「だが、それも今日までの事・・・!奪われたネフシュタンを取り戻す事で、この身の汚名を雪がせてもらう・・・!」

刀を杖にして、翼は立ち上がる。

「そうかい、脱がせるものなら脱がして・・・っ!?何!?」

少女は、ふらふらの翼に攻撃を加えようとした所で止まる。

何故か、体が動かないのだ。

振り返ってみれば、そこには――――ただ短剣が突き刺さっていただけ。

しかもそれは、先ほど翼が投げた短剣の一本。これがどうして、少女の動きを止められようか。

 

その理由は、影。

 

少女の影に、短剣が突き刺さっているのだ。

 

 

影縫い

 

 

影を刀剣の類で縫い付ける事で、敵の動きを封じる技だ。

「チッ!こんなもので、アタシの動きを―――」

そこで、少女は気付く。

「まさか・・・お前・・・」

それを悟った少女の顔は、一気に青ざめ強張る。

 

「―――月が覗いている内に、決着をつけましょう」

 

月を見上げる翼の顔は、どこか、覚悟を決めたかのように清々しかった。

「―――まさか」

そして、ビルドは気付く。

「詠うのか―――『絶唱』を」

それは、自らの全てを燃やし尽くして歌う、シンフォギアの奥の手にして、諸刃の剣、そして、最終手段にして、下手をすれば心中技と言わしめる、自爆技。

「翼さん!」

その翼に、響は叫ぶ。

「防人の生き様!覚悟を見せてあげる!」

翼は、響に叫び告げる。

「貴方の胸に、焼き付けなさい!」

「やめろ翼ァ!」

ビルドが叫ぶ。だが、それで止まる程、翼の覚悟は生半可なものではない。

「くそ!やらせるかよぉ!好きに、勝手にぃ・・・!?」

どうにか逃れようともがく少女。しかし、翼は月に向かって、その刀を掲げた。

その姿は、ある意味、幻想的だった。

 

「―――Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl―――」

 

それは、静かな歌だった。

何の騒音も無い、メロディも無い、テンポだってありゃしない。ただただ告げるだけの歌。

その歌の最中で、翼は、少女に歩み寄る。

少女は、なおも抗おうと、腰の杖を手に取り、新たなノイズを出現させるが、すでに、翼は少女の目の前にまで来ていた。

 

 

「―――Gatrandis babel ziggurat edenal―――」

 

その翼の行動に、誰もが動けなかった。その覚悟は、あまりにも本気であり、そして、止める事が出来ない状況に立たされているからだ。

 

 

―――ただ一人を除いて。

 

 

「―――――っふっざけんなぁぁああぁぁああぁぁあああ!!!!」

ビルドが―――桐生戦兎がダメージの残る体を酷使して、全身に迸る痛みを無視して、翼の方へ全力疾走を開始していた。

「やらせねえ!絶対にやらせねえ!そんな事、この俺が許せると思うなぁぁああ!!!」

雄叫び上げ、戦兎は、足のホップスプリンガーを限界にまで縮め、そして一気にその反動で飛ぶ。

既に絶唱はその歌詞の四分の一まで歌い終わっている。

(間に合え・・・!)

翼の元まであと数秒。しかし翼が歌い終わるまでには―――間に合わない。

 

「―――Emustolronzen fine el zizzl―――」

 

―――詠唱が、終わった。

 

それでも、戦兎は手を伸ばす。

「翼ぁぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁああぁぁぁああぁあ!!!!」

その時、翼が戦兎の方を向いた。

その口端からは既に一筋の血を流れていた。

(頼む、間に合ってくれ・・・・!)

もう間に合わないと分かっていても、戦兎は、翼へ手を伸ばす事をやめない。

 

その手を引っ込めてしまえば、もう二度と、『ヒーロー』を名乗れない気がしたから。

 

そんな中で、走馬灯を見るが如く、思考が加速し、全てがスローに見えてくる。

それによって、翼の変化が、目に見えてわかる。

やがて、口からでなく、目からも血を流し始める翼。

(翼・・・!)

そんな翼に、戦兎はなおも手を伸ばす。

その時、戦兎は、翼の口が動いたのを見た。

その動きから、紡がれた言葉は――――

 

 

―――ばか

 

 

まるで、仕方がないとでも言うように、その表情は、笑っていた。

その顔に、一瞬、思考がフリーズしてしまった瞬間――――

 

 

 

 

全てが吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ぐ・・・あ・・・」

その爆心地から数メートル離れた場所で、戦兎は、変身が解けた状態でそこに倒れていた。

「ぐ・・・く・・・」

タンクフルボトルの強化で無理矢理立ち上がり、ボロボロの体に鞭を打って歩き出す。

「つば・・・さ・・・」

彼女は、どうなった。

絶唱は、確かに強力だが、その分バックファイアが凄まじいと聞く。

かつて絶唱を使った奏は、その体が欠片も残らなかったと聞く。

(急がねえと・・・!)

そうして、クレーターの出来た場所へ辿り着いて、戦兎が目にしたものは―――

「―――ッ!?」

その姿に、戦兎は、絶句する。

「翼さぁん!」

「おい!大丈夫か!?」

そこへ、響と変身解除した万丈がやってくる。

「うわ!?」

「んな!?―――そげぶ!?」

しかし途中で響がこけて、そのこけた響の腕につまずいて顔面から地面に倒れる万丈。今度は仮面は被ってないのでダイレクトだ。

そしてさらに、車に乗った弦十郎と了子までやってくる。

「無事か!?翼!」

車から降りた弦十郎が、背中を見せる翼にそう声をかける。

「・・・私とて・・・人類守護の務めを果たす・・・防人・・・」

掠れた声で、翼は、振り返る。

その姿は、あまりにも酷くて、惨かった。

 

両目から血を垂れ流し、口からも血を吐き、鼻穴、耳と穴という穴から血を流していた。

その血が滴り、彼女の足元を赤く染めていっていた。

 

その姿に、響と万丈は言葉を失い、戦兎は、翼の後ろで、その手を握りしめて歯を食いしばっていた。

「こんな所で、折れる剣じゃありません・・・・」

それだけを言い残した途端、翼の体が傾いた。

「ッ!」

それに気付いた戦兎はラビットフルボトルを振って駆け出す。

その時、足が凄まじい痛みを訴えたが、それを歯を食いしばって耐え、倒れ行く翼の元へ向かう。

「翼!」

翼を抱き留めて、ついに限界が来た足が崩れ、その場に座り込む。

「翼さぁぁぁぁぁあああぁぁああああぁぁあぁあん!!」

そして、響の絶叫が迸る。

「おい!しっかりしろ!翼!」

「う・・・き・・・りゅう・・・・」

「しゃべるな!おい!今すぐ救急車を」

「分かっている!」

弦十郎にそう言い、戦兎は戦兎で翼の延命措置をしようとする。

「・・・な・・・ぜ・・・」

「ああ!?」

「な・・・ぜ・・・・きた・・・の・・・」

今持ち合わせているフルボトルで、どうにかしようとポケットを探る戦兎に、翼はそう尋ねる。

その質問に、戦兎は怒鳴り返す。

「だったらお前はなんで絶唱を使った!?お前、こんな重傷になって、悲しまない奴がいないと思ってんのかッ!?」

「それ・・・は・・・・」

「少なくとも、俺は悲しいッ!」

「・・・!」

ハリネズミフルボトルを振り、そしてそれを翼の体に押し当てる。

(針治療の要領だが、とりあえずこれで痛みを緩和、それでライトで心臓マッサージをしつつ、フェニックスで傷そのものを・・・!?)

そこで、戦兎は気付く。

「フェニックスが・・・・!?」

フェニックスフルボトルが、無かった。

「冗談だろ!?なんでこういう時にねえんだよ!」

「どうした!?」

「フェニックスがねえ!それさえあればある程度傷を治す事が出来るのに!」

どこで落とした?一体、どこであれを落とした!?

翼の体は今はボロボロだ。それは、外側からではなく内部の事。

絶唱のバックファイアで、翼は体内をボロボロにしている。

であるならば、外から傷を治すには、治癒力と生命力を強化するフェニックスが一番最適だ。

ハリネズミはただ痛みを和らげるだけ、ライトは心臓を動かして延命するだけだ。

「くそっ!なんでこんな時に!」

肝心な時に、どうしてこうなるのだろうか。

このままでは、翼は死んでしまう。

フェニックスさえあれば、重症を和らげ、救急車が辿り着くまでに命を持たせる事が出来る。

何もできない現実に打ちのめされ、戦兎は俯く。しかし、それでも尚戦兎は、思考をやめてはいなかった。

フェニックスがないのなら、ないなりに、どうにかするしかない。

「・・・ほ・・・と・・・・」

ふと、翼が、何かを呟く。

「・・・・ば・・・か・・・・・」

その言葉が、紡がれ、耳に入った時、

「・・・うるさい。お前にだけは言われたくねえよ!」

顔を上げた戦兎の顔から、僅かな雫が落ちる。

(こうなりゃ、忍者とコミックで応急処置をするかねえ。忍者の精密性ならある程度の医療技術だって問題なく出来るはずだ・・・!)

忍者フルボトルとコミックフルボトルを取り出し、それを振る。

そして、それをビルドドライバーに装填しようとした時、ふと翼の懐が()()()事に気付いた。

それを見て、戦兎は、その場所を探る。

 

そこから出てきたのは――――フェニックスフルボトルだった。

 

「・・・なんだよ」

戦兎は、すっかり毒気が抜かれたような表情になり、

「お前が持ってたのかよ」

そう呟き、そして、すぐにボトルを振って、それを翼に押し当てた。

 

 

その時、翼の体が、ほんの少し光ったように見えた。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

絶唱を使い、反動で昏睡する翼。

「翼さんが自ら望み、歌ったのですから」

自分の不甲斐なさを悔やむ響。

「奏って奴の代わりになる必要はないんじゃないか?」

自室に引きこもる戦兎。

「無理してるんだもの」

そうして響が得た答えとは。

次回『決意のプレリュード』

「たのもー!」


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決意のプレリュード

緒「日本が誇るトップアーティストにしてシンフォギア『天羽々斬』奏者である風鳴翼は、戦いの最中絶唱を使い、意識不明の重体に陥ってしまう」
ク「なんでアタシがこんなところに・・・」
黒グニール「仕方がないでしょう。なんでも桐生戦兎と風鳴翼が出られないという事で代役として呼ばれちゃったんだから」
ク「待て。なんで無印では絶対に登場しないお前が出てんだ!?」
黒グニール「うろたえるな!」
ク「やかましい!」
緒「まあまあ二人とも落ち着いて。元敵同士、仲良くしましょうよ」
ク「そういうアンタは落ち着き過ぎだ!」
黒グニール「実言うと『今忙しいから代わりにお願い』って頼まれたのよ」
ク「忙しいからって絶対に出てきちゃいけない奴だすか普通!?」
響「まあまあ落ち着いて」
ク「そういうお前はなんでそんな落ち着いてんだよ!?」
響「え?だって本編じゃないし、これろくお―――」
ク「あーあー!分かった分かったから超重大シークレット発言はやめろー!」
万「大丈夫なのかこんなんで・・・」
緒「アハハ・・・まあそんなわけで」
黒グニール「どうなる第九話!」
ク「テメエが言ってんじゃねーよ!」


リディアンのすぐ隣にある、総合病院。そこに、絶唱を使い、大幅なダメージを負った翼は搬送されていた。

 

 

 

「かろうじて一命は取り留めました。ですが、容態が安定するまでは絶対安静。予断の許されない状況です」

「よろしくお願いします」

引き連れた部下ともども、弦十郎は医師に頭を下げる。

「俺たちは、鎧の行方を追跡する。どんな手掛かりも見落とすな!」

そしてすぐさま行動に移る。その場で立ち止まっていては、何もできないからだ。

その一方で、響、万丈の二人は病院内に設立された休憩所にて待っていた。響の肩には、クローズドラゴンが乗っている。

「貴方がたが気に病む必要はありませんよ」

そこへ、緒川がやってくる。

「あ・・・」

「翼さんが自ら望み、歌ったのですから」

「緒川さん・・・」

自販機の飲み物を買いながら、緒川は続ける。

「響さんはご存知と思いますが、以前、翼さんはアーティストユニットを組んでいまして」

「ツヴァイウィング・・・ですよね・・・」

「そうだったのか」

この世界の事を何も知らない万丈にとっては、それは新鮮な情報だ。

「その時のパートナーが、天羽奏さん。今は貴方の胸に残る、ガングニールのシンフォギア装者でした」

 

二年前のあの日、奏は、ノイズによる被害を最小限に抑えるために、絶唱を使った。

元々、適合係数が低く、薬品『LiNKER』によって無理矢理使っていた状態で、彼女は、自らの全てを燃やしてシンフォギアの最大出力を解き放つ絶唱を使ったのだ。

そして、奏は跡形も残さず死んだ。

 

奏の殉職とツヴァイウィングの解散。

そうして一人となった翼は、奏がいなくなった事で出来た穴を埋めるべく、我武者羅に戦ってきた。

一人の少女が当たり前に経験する恋愛や遊びなど一切やらず、ただ敵を斬る剣として戦ってきた。

自分を殺して、奏を奪ったノイズを倒すために。

 

 

「そして今日、剣としての使命を果たすため、死ぬ事すら覚悟して絶唱を使いました」

緒川は、静かにそう言った。

「不器用ですよね。でもそれが、風鳴翼の生き方なんです」

「・・・」

万丈は、何も言わない。

だが、響は―――泣いていた。

「そんなの・・・酷過ぎます・・・」

「キュル・・・」

「そして私は・・・翼さんの事・・・・何にも知らずに・・・・一緒に戦いたいだなんて・・・奏さんの代わりになるだなんて・・・!」

あまりにも、無神経過ぎた。

そんな事を言った自分が、響は憎かった。

「・・・正直、良く分かんねえけどよ・・・」

ふと、万丈が話し出す。

「お前が、その、奏って奴の代わりになる必要はないんじゃないか?」

「僕も、貴方に奏さんの代わりになってもらいたいだなんて思ってません。そんな事、誰も望んでなんていません」

誰かの代わりになんて、誰も出来ない。それこそ、同じ人間が存在しない、この世界共通の法則だ。

傍にいてくれる人間がいなくなって、そこに別の人間が入っても、その空虚さが埋まらないのと同じように。

「ねえ響さん、龍我さん。僕からのお願いを聞いてもらえますか?」

「ん・・・?」

「なんだよ?」

響が涙をぬぐい、緒川の顔を見た。

「翼さんの事、嫌いにならないでください」

それは、緒川のささやかな願い。

「翼さんを、世界に独りぼっちになんてさせないでください」

その、穏やかで、懇願するような視線に、響は静かに答え、万丈は当たり前のように答える。

「はい」

「おう、任せろ」

そう返事をした時、ふと緒川はある事に気付く。

「そういえば、戦兎さんが見当たりませんけど・・・」

「ああ、アイツなら自室にこもってるぞ」

「え?なんでですか?」

万丈は、日の出の見える空に向かって呟く。

「・・・・もう誰も、あんな目には合わせない為、だってよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――落ちる、落ちていく。どこまでも、深淵の如く。

 

終わりの無い落下と浮遊感。逆さまに落ちていっているのが、風の流れでなんとなく分かる。

 

そして、この現実感の無い場所で、彼女は思う。

 

 

―――ああ、自分は、死ぬのか・・・?

 

 

そう思うと、ふと、最後に見た彼の顔を思い出す。

 

 

―――泣いてたな。

 

 

ほんの少しの涙を流して、彼は必至そうにこちらを見ていた。

 

まるで、兎のように怯えた目だった。

 

彼の名前にあるような。そんな顔だ。

 

 

 

ふと、その時、自分のすぐ傍を何かが通り過ぎる。

 

 

 

その気配は―――視界に映った赤髪は―――

 

 

 

気付けば、彼女は深く広い、遠くまで見えない水の中に入っていた。

 

そして、その中で、彼女を見つけた。

 

その彼女に、彼女は叫んだ。

 

 

―――片翼だけでも飛んで見せる!どこまでも飛んで見せる!

 

 

―――だから笑ってよ、奏・・・!

 

 

しかし、名を呼んだ彼女の顔に笑顔は無く、彼女は深い水の中を沈んでいく。

 

暗い、深海の中を、ただただ落ちていく。

 

 

―――どうして、どうして笑ってくれないの、奏・・・

 

 

彼女は、必死に叫ぶ。それでも目に映る彼女は遠のいていく。

 

どんどん沈んで離れていってしまう。

 

どれだけ水をかいても上がる事が出来ない。まるで何かに引きずられていくかのように。

 

 

―――いや、いや・・・!まだ、まだ飛んでない・・・私は、まだ・・・

 

 

どれだけ、必死にもがいても、沈んでいく。

 

真っ暗になっていく。やがて、伸ばしていた自分の手が見えなくなっていく。

 

 

―――怖い

 

 

体が冷たい、何も見えない、何も感じない―――それが、堪らなく怖い。

 

 

―――怖い、怖いよ・・・

 

 

体を丸めていないと、今にもこの不安と恐怖に押しつぶされてしまいそうだった。

 

かつて、奏が言った事を思い出す。

 

弱虫で、泣き虫だ、と。

 

確かに、その通りかもしれない。

 

自分は、一人になるだけで、こんなにも弱くなる。

 

ずっと、一人で戦ってきた筈なのに、今にも、泣きそうだ。

 

 

―――たすけて

 

 

もう耐え切れなくなって、その言葉を言った、その時――――頭に何かが当たった。

 

見上げてみれば、そこには―――赤い兎がいた。

 

 

―――うさ・・・ぎ・・・・?

 

 

その兎は、彼女がこちらに気付くと、その体を翼に摺り寄せる。

 

温かい――――

 

その温もりが、とても嬉しくて、とても安心して、心が安らいでいく。

 

 

赤い兎。どこか見覚えのある、小さな赤い兎。その体を抱きしめて、翼は、その意識を闇に投じていく―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病室の集中治療室にいる、翼の手には―――ラビットフルボトルが握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――戦兎君はまだ出てこないのか?」

弦十郎の言葉に、万丈が答える。

「ああなったアイツは梃でも動かねえよ。特に、誰かを守るためだったらなおさらな」

腹筋をしながら、万丈は答える。

現在戦兎の部屋の扉には『出入禁止』と物凄く気合の入った文字で書かれた紙が張ってあり、それ以来戦兎はその部屋から出てきていない。

その最中で何度も爆発音が響いており、本当に大丈夫なのかという心配も出てきていた。

「ていうか、あの鎧のガキの事はなんかわかったのかよ?」

「まだ何も分かっていませんよ」

藤尭が答える。

「捜索は続けていますが、これと言って、手掛かりとなりそうなものは何も・・・」

「つまり、お手上げって事だな・・・」

プロの彼らで見つけられないのなら、彼らより頭が圧倒的に悪い万丈には探すなんてことさら無理な話だ。

「そういえば龍我さん、監視カメラにドラゴンが飛んでいく所を確認したのですが、大丈夫なんですか?」

「ああ?あー、もうアイツの勝手にさせようかな、って思ってよ・・・」

腹筋から腕立てに切り替えて、万丈はそう答える。

「そこまで自由に行動出来るなんて、戦兎君ってすごいのね」

「いや、前まではあんな事なかったんだけどな・・・」

「なかったってことは、あれは当たり前の事じゃないのか?」

「ああ。戦兎曰く、俺のお目付け役だとかなんとか言ってたけど、あんな風に感情豊かに飛び回ったり鳴いたりなんてしなかったぞ?」

「じゃあ、何かあったのか?」

「ああ、たぶんしんs・・・」

万丈は慌てて口を閉じる。

(あっぶねえ。そういや戦兎には新世界の事はしゃべるなって言われてたっけ)

「どうかしたのか?」

「い、いやなんでもねえよ・・・まあ、なんだ、戦兎も分かんねえらしい」

実際の所、戦兎は新世界創造の影響でどこかの機能がイカれて本当に動物らしくなったという見解らしい。

実際の所、どうなのかは分からないが。

「そうなのか?」

「ああ。科学はアイツの専門だからな。俺にはなんも分かんねえ」

 

否、分かる事は一つだけある。

 

(あいつ・・・なんか寂しそうな眼してたな・・・)

万丈は一人、あの鎧を纏っていた少女の事を思い出していた。

「あ、そういえば龍我君」

ふと、スクワットしながらあの少女の事を考えていた万丈に了子が声をかける。

「ん?なんだよ?」

「チャック開いてるわよ」

「へ?」

みれば、万丈のズボンのチャックは全開だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方で―――

未来は響がいるであろう屋上に向かっていた。

最近の響は、よく一人になる事が多くなってきたから、そんな響を未来は探していた。

と、そこへ、

「キュールールルッルルッ!」

「ん?」

聞き覚えのある泣き声が聞こえたかと思い、見上げてみれば、そこからクローズドラゴンが降りてきていた。

「クロ・・・!?」

「キュル!」

ドラゴンは未来の周りを一回転すると、未来の差し出した手の上に乗り、一鳴きする。

「どうしたの?」

「キュルル!」

当然、言葉は伝わらないが、なんとなく分かる事はある。

 

ただ会いに来ただけなのだろう。

 

「しょうがないなぁ・・・でも、まずは響を探してからね」

「キュル!」

未来の言葉に、ドラゴンは了承したように鳴き、また飛んで今度は未来の側を浮遊する。

その様子に微笑みつつ、未来は響の元へ行く。

案の定、響はリディアンの屋上のベンチにいた。

その表情は、どこか沈んでいた。

「ひーびき」

そんな響に、未来は声をかける。

「未来・・・それにクロまで・・・」

「最近一人でいる事が多くなったんじゃない?」

「キュール!」

それは、未来から見ての指摘。そしてそれは的中していて、響は一人、この間の事について考えていた。

 

翼は入院し意識不明の重体、戦兎は自室に籠り爆発音の響く何かの実験をしている。

万丈は弦十郎の所で何か稽古をつけてもらっているようで、翼があんな風になってから、一層強く打ち込んでいる様だった。

 

それに対して、自分は何が出来るのか。

 

その事を考えていた。

「そうかな?そうでもないよ。私、一人じゃ何にもできないし・・・あほら、この学校にだって、未来が進学するから私も一緒にって決めた訳だし・・・あいや、なんていうか、ここって学費がびっくりするぐらい安いじゃない?だったら、お母さんとおばあちゃんには負担掛けずに済むかなーってあはははは・・・・」

よく一回目も噛まずに言えたと思える言い訳。その言い訳を遮って、響の隣に座った未来は、響の手を取る。

ドラゴンは、そんな未来の膝の上に休むように乗る。

「あ・・・」

その行為に、響はそれ以上何も言えなくなる。

「・・・やっぱり、未来には隠し事出来ないね・・・」

彼女の事を良く知る響だからこそ、未来のその行為の意味を理解する。

「だって響、無理してるんだもの」

「うん・・・」

しかし、いくら幼い事からの親友だとしても、言えない事はある。

「でもごめん、もう少し一人で考えさせて。これは、私が考えなきゃいけない事なんだ」

もちろん、二課から言われた機密の事もある。だけど、こればかりは自分の心の問題であり、他者に頼るような事ではない。

自分で、どうにかしなければならない。

「分かった」

そして、それを未来は了承する。

「ありがとう、未来・・・」

沈黙が流れる。

「キュルル・・・」

その沈黙に、ドラゴンが力なく鳴いてみせる。

その時、未来が立ち上がる。

「あのね、響」

そして、空を見上げながら、未来は響に言う。

「どんなに悩んで考えて、出した答えで一歩前進したとしても、響は響のままでいてね」

「私のまま・・・?」

「そ、変わってしまうんじゃなく、響のまま成長するんだったら、私も応援する。だって響の代わりはどこにもいないんだもの」

「キュル!」

未来の言葉に同意するようにドラゴンが鳴く。

「いなくなって欲しくない」

その言葉が、響の心に響く。

それでも、響は悩む。

「私・・・私のままでいていいのかな・・・?」

その言葉に、未来は迷いなく答える。

「響は響じゃなきゃ嫌だよ」

その言葉に、響は、この前、会議で言った言葉を思い出す。

 

『私にだって守りたいものがあるんです!だから・・・!』

 

あの時、続かなかった言葉。

その先の言葉。

響は立ち上がって、向こうに見える、翼の入院する病院の方を見た。

そして、その拳を、ぎゅっと握ってみる。

(私は、私のままで・・・)

―――強くなる。

思い出してみれば、戦兎も、自分のまま強くなるために、自分のスキルを十分に生かして、誰かを守れる力を手に入れようとしている。

それを思うと、響は、自然と気持ちが固まっていくのが分かった。

「ありがとう未来。私、私のまま歩いて行けそうな気がする」

その言葉に、未来は嬉しそうに頷く。

「そうだ」

そこで未来はある事を思い出す。

「こと座流星群見る?動画で撮っておいた」

「ほんと!?」

「キュル?」

響は目を輝かせ、ドラゴンは何のことか分からず首を傾げる。

そうして見せられた動画には―――何も映ってなかった。

「んん?なんにも見えないんだけ、ど・・・」

「うん・・・光量不足だって」

「ダメじゃん!?」

そんな言葉が出てしまう。だけど、自然と笑いがこみ上げてしまう。

「おっかしいなあ。涙が止まらないよ」

頬を伝う涙を拭い、響は笑う。

「今度こそは一緒に見よう」

「約束。次こそは約束だからね」

「キュルル!」

「あ、クロも一緒に見たい?」

「キュル!」

「しょうがないなぁ」

ドラゴンと楽しく話す未来を見て、響は一つの決心を固める。

 

私にだって、守りたいものがある。

 

守れるものといったら、小さな約束や、なんでもない日常だけなのかもしれない。

 

それでも、守りたいものを守れるように、私は、私のまま強くなりたい。

 

その為には――――

 

 

 

 

 

「たのもー!」

 

 

風鳴家の扉を叩いた。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「朝からハード過ぎますよ」

弦十郎に弟子入りした響と、それに付き合う万丈。

「そうもいかないんだよね」

明かされる日本政府の現状

「名付けて、『天下の往来独り占め』作戦!」

決行される、完全聖遺物の輸送。

その最中で、かの天才が新たな力をもってやってくる。


次回『スパークリングした天才がやってくる!』


「さあ、実験を始めようか」




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スパークリングした天才がやってくる!

農具「ついにワタシにも出番がきたデ・・・農具ってなんデスか!?」
工具「私も工具になってる・・・」
無性「なんでも正体バレを避けるためというらしいですけど・・・無性ってなんですか!?確かにボクに性別はないですけど!」
農具「こうしたの誰ですか!?」
工具「確か、戦兎先生が書いてたと思う・・・」
農具「よーし今すぐ切り刻みにいくデス」
無性「ま、まあまあ今はとにかくあらすじ紹介をしましょう!」
工具「そうだね。こほん、天才(笑)物理学者の兎ちゃん(悪意)は新世界創造を成し遂げたのでしたがなんと残念な事にノイズという脅威が世界を脅かしていました~」
農具「ぐぬぬ・・・分かった、ワタシもやるデース!それで合流した龍我さんと二課の人たちと一緒に、ノイズを倒していたいたのデスが、その最中で翼さんが大怪我を負ってしまうんデース!」
無性「それを受けた桐生戦兎は、失われた強化アイテムの修理の為に部屋に引きこも・・・え?何真面目にあらすじ紹介してんだ?ですか?」
農具「外野は引っ込んでろデース!」
工具「刻むよ?」
農場主「みーたん!?」
農具「関係ない奴は出てくるなデース!」
工具「はあ・・・とにかく、第十話をどうぞ」



工具「それじゃあ、行こうか」
農具「はいデース!」
無性「お、お手柔らかにお願いします・・・ね・・・」(南無三です戦兎さん・・・)


東京近郊の森に、一つの豪邸があった。

 

 

『《ソロモンの杖・・・我々が譲渡した聖遺物の起動実験はどうなっている?》』

そこには、一人の女性のみがいて、その女性は、どこかと連絡を取っていた。

「《報告の通り、完全聖遺物の起動には相応レベルのフォニックゲインが必要になってくるの。簡単にはいかないわ》」

流暢な英語が、女性の口から話し出される。

『《ブラックアート・・・失われた先史文明の技術を解明し、ぜひとも我々の占有物としたい》』

ここは彼女の家であり、隠れ家。とある組織から身を隠すための拠点にして起点。

でなければ、誰もが彼女の姿に目を奪われていた事だろう。

長い金髪は言いとして、問題なのは、そのグラマラスな体が完全にさらされているという事だ。

着ているのは精々ハイヒールの靴に黒いニーソに黒のアームカバーのみ。

「《ギブ&テイクね。貴方の祖国からの支援には感謝しているわ。今日の鴨撃ちも首尾よく頼むわね》」

『《あくまでも便利に使う腹か。ならば見合った動きを見せてもらいたいものだ》』

「《もちろん理解しているつもりよ。従順な犬ほど長生きするというしね》」

その言葉を最後に、彼女は通話を切る。

「・・・野卑で下劣、生まれた国の品格さのままで辟易する・・・そんな男に、()()()()()()()()()()()()()()()事を教える道理はないわよね?」

その全身素っ裸の女性が、椅子から立ち上がって歩み寄り、巨大な食堂で話かけるのは、ある装置に拘束された服装をボンデージにされている銀髪の少女。

「クリス」

その少女―――クリスの頬を撫でれば、クリスは目を開ける。

「う・・・あ・・・」

「苦しい?可哀そうなクリス。貴方がぐずぐず戸惑うからよ。誘い出されたあの子をここまで連れてくればいいだけだったのに、手間取ったどころか空手で戻ってくるなんて」

顎を持ち上げ、女性は見下すようにクリスに言う。

 

このクリスこそが、この間戦兎たちを襲ったネフシュタンの鎧の正体である。

 

何故、彼女がその女性と行動を共にするのか。

「これで・・・いいんだよな・・・?」

ふと、クリスが弱々しく尋ねる。

「何?」

「あたしの望みを叶えるには、お前に従っていればいいんだよな・・・?」

「そうよ。だから、貴方は私の全てを受け入れなさい」

クリスから離れ、とあるレバーに手をかける。

「でないと嫌いになっちゃうわよ」

そのレバーを降ろした瞬間、クリスにすさまじい程の電流が流れ出す。

「うあぁぁあぁあぁぁあああぁぁあああ!!!」

悲鳴が響く。

発生した電気がクリスの体を迸り、筋肉を痙攣させ、激痛を与える。

「可愛いわよクリス。私だけが貴方を愛してあげられる」

数秒の後、女性は電流を止める。

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・!?」

密着する女性。

「覚えておいてねクリス。痛みだけが人の心を繋いで結ぶ、世界の真実だと言う事を」

その言葉を、あの男が聞けばなんと言うだろうか。

「さあ、一緒に食事をしましょう?」

その言葉に、クリスは、僅かにでも安心して――――

 

 

 

次の瞬間には、また電流を流されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――響が弦十郎に弟子入りしてから数日。

 

「オラァ!」

「くっ!」

万丈の蹴りが容赦なく響の顔面を狙うも、それを紙一重で躱す。

立て続けに右ジャブ二回の左フックと裏拳の二連撃が繰り出され、それを響は手ですべてそらしていく。だが、一発、頬を掠め、とにかく距離を取ろうと下がる下がる。

しかしその響に対して万丈は容赦無く距離を詰め、さらに追撃を重ねる。

「どうしたどうした!?逃げてばかりかァ!?」

「こっのぉ・・・!」

万丈の激しすぎるラッシュに響は防戦一方。万丈の繰り出すストレートやロ―キックなどが次々に響へと迫り、それらが掲げられた腕に炸裂する。

(流石元格闘家・・・強い・・・!)

しかしそのラッシュの最中で、響は万丈に出来る隙を見る。

左脇腹、そこが大きく開いている。

(ここっ!)

万丈が左拳を引いた所で、響はその脇腹へ向かって大きく踏み込み、そして右ショベルフックを繰り出す。だが、

「あめぇよ」

「あ!?」

だが、それはいとも容易くはたき落とされた。

(嘘、目はずっとこっちを見てるのに・・・!?)

正確無比に、渾身の一撃をいとも容易くはたき落とされた。その視線は常に響を見ており、決して響の拳を見ていた訳ではない。

「自分の部位と相手の狙いが分かれば、防ぐのは簡単なんだよ!」

そして、響の腹に万丈の蹴りが炸裂する。

「げぼ・・・」

おおよそ年頃の少女が出してはいけない声を発して響は蹴り飛ばされ、そして地面に倒れる。

「くぅっ!?・・・げほっ・・・ごほっ・・・・!」

「あ、やべ、やり過ぎた」

腹を抑えて悶える響に万丈はやってしまったという顔になる。

「おい大丈夫か?」

「あ・・・いえ・・・だいじょ・・ぶです・・・・」

余程効いたのか悶絶している響。

「うむ、二人とも、良い感じだったぞ」

そこへ弦十郎が近寄ってくる。

「ていうか風鳴のおっさん。なんで俺は女子高生とやりあってるんですかね?」

「戦場に歳の上下もないだろう。いつ何時だってどんな相手とも戦えなければ意味はないからな」

「それもそうか」

深くは考えない万丈。

「よし!龍我さん!もう一本お願いします!」

「お前まだやんのかよ!?」

「もちろん!」

 

響が弦十郎に弟子入りしてから数日、アクション映画の鍛錬法やそれなりの筋トレ、さらには拳法やら格闘技術からをある程度習得してきた所で、本場の格闘家である万丈と戦わせてみようという弦十郎の提案で、今まさにその模擬戦が行われていた。

 

「やぁあああ!!」

響のラッシュが万丈を襲うも、それらをいとも容易く躱して見せる万丈。

回し蹴り、正拳突き、ロ―キック、アッパー、踵落としなどなど、様々な攻撃を繰り出してはいるが、一向に当たる気配がない。

「ダメだ!そんなものじゃ当たらないぞ!稲妻を喰らい、雷を握りつぶすように打て!」

「言ってる事全然分かりません!でもやってみます!」

両足をしっかりと地面につけ、響は万丈をその双眸で見据える。

(来る・・・!)

そして、先ほどとは打って変わった一撃が来ると悟った万丈も構える。

一瞬の静寂。しかし、響は自らの心臓が大きく跳ねた事を感じると、地面を踏み砕く踏み込みで、万丈に接近し、右拳を引き絞って、一気に万丈に叩きつける。

それに対して万丈が放ったのは掌底。

響の一撃に合わせて放った来たのだ。

響の渾身の一撃と万丈の迎撃の一撃。それが、双方から直撃する。

衝突した拳と掌。それは、構図から見れば万丈が響の一撃を受け止めたように見える。

実際、それはその通りであり、万丈が二ッと笑ったと思った瞬間、手を掴まれた響は引っ張られ前のめりにつんのめる。

「う、うわわわわ・・・!?」

「おーらよっと!」

「うわぁあ!?」

転ばないように前に出そうとした足を引っかけられ、その引っ掛けられた足で下半身を跳ね上げられ、見事に投げられる。

「あうぅ・・・」

「今の良い一撃だったぜ」

元々鍛えてきた万丈と鍛えて数日の響ではその筋量に差が出るのは当然。

それでも木に括りつけられたサンドバックをぶっ飛ばす程の威力はあったであろう響の先の一撃は、見事なものだった。

お陰で、実は万丈の手は結構痺れている。

「よし、そろそろこちらもスイッチを入れるとするか」

そしてさらに、弦十郎まで乱入してくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁー、朝からハードすぎますよ」

「ハア・・・ハア・・・おい、なんで俺ばっかりこんなに疲れてんだ・・・!?」

あの後、弦十郎の扱きを受けた万丈と響。

何故万丈の方が疲れているのかというと、理由としては響はまだ未熟、しかし万丈はプロだという事で察してほしい。

「頼んだぞ、明日のチャンピオン」

「はい、これご苦労様」

「あ!すいません!」

「すまねえな・・・」

友里からスポーツドリンクを受け取る響と万丈。

「んぐ・・・っぷはぁ!あの、自分でやると決めた癖に申し訳ないんですけど、何もうら若き女子高生に頼まなくとも、ノイズと戦える武器って、ライダーシステム以外にないんですか?外国とか・・・」

藪から棒に、響はそんな質問を上げる。

「公式にはないな。日本だって、シンフォギアを最重要機密事項として、完全非公開だ。ついで、ライダーシステムに関する情報も全てシャットアウトしている」

「ええー、私、あまり気にしないで結構やらかしてるかも・・・」

「情報封鎖も二課の仕事だから」

「仮面ライダーなら、顔バレしないで済むんだけどな」

シンフォギアとライダーシステムは、その身を鎧に包むという点では同じだが、ライダーシステムは全身を鎧で包み込むものに対して、シンフォギアは一部のプロテクターと生地は薄いが強靭なぴっちりボディスーツのみで顔が出ているといったデザインだ。

だから、顔が見られれば一発アウト、という事もあり得る。

「だけど、時々無理を通すから、今や、我々の事を良く思ってない閣僚や省庁だらけだ。特異災害対策機動部二課を縮め、『(とっ)()部二(ぶつ)』と揶揄されてる」

「情報秘匿は、政府上層部の指示だってのにね。やりきれない」

「んなもん無視すりゃあいいだろ・・・」

「そうもいかないんだよね」

万丈の言葉を否定する藤尭。

「それに、いずれシンフォギアの有利な外交カードにしようと目論んでいるんだろう。まあ最も、首相、それも首相補佐官がそれを許さないだろうけどね」

「EUや米国は、いつだって回転の機会を伺っている。シンフォギアの開発は、既知の系統とは全く異なる所から突然発生した理論と技術で成り立っているわ。日本以外の国では到底真似できないから、猶更欲しいのでしょうね」

「結局やっぱり、色々とややこしいってことですよね」

「あーだめだ。そういうのは全部任せるわ。俺にはなんも分からん」

もはや理解を超えた事態にすでに思考を放棄した響と万丈。

「あれ?師匠、そういえば了子さんは?」

「永田町さ」

「永田町?」

「政府のお偉いさんに呼び出されてね。本部の安全性、及び防衛システムについて、関係閣僚に説明義務を果たしにいっている。仕方の無い事さ」

「本当、何もかもがややこしいんですね・・・」

「とにかく、大変ってことだな」

「ルールをややこしくするのはいつも、責任を取らずに立ち回りたい連中なんだが、その点、広木防衛大臣と氷室首相、そして、氷室幻徳首相補佐官は・・・・了子君の戻りが遅れているようだな」

「・・・・」

弦十郎がそう言う傍らで、万丈は思わず笑みを浮かべる。

(そうか、あの野郎ちゃんとやってんじゃねえか)

かつての戦友の事を思いながら、万丈は、自室にて修理に没頭している相棒の事を思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い、海の底のように暗い場所で―――彼女は―――翼は一人、沈んでいた。

 

―――私・・・生きてる・・・?違う、死に損なっただけ・・・

 

どうしてか、生きているという実感があった。理由は、腹のあたりにあるこの温かさ。

あの赤い兎が、自分のお腹の上で、丸まってそこに座っていた。

その温かさが、なんとも心地が良い。

その温かさを感じながら、翼は思った。

 

―――奏は、何のために生きて、何のために死んだのだろう・・・

 

お腹の兎の頭を撫でながら、そう考える。

その時、どこからか、聞き覚えのある声がした。

 

「真面目が過ぎるぞ、翼」

 

――――ッ!?

 

それは、聞き間違えるはずのない、大切な人の声。

 

「あんまりガチガチだと、そのうちぽっきり行っちゃいそうだ」

 

間違いなく、奏の声だ。

 

―――一人になって私は、一層の研鑽を積んできた。数えきれない程のノイズを倒し、死線を乗り越え、そこに意味など求めず、ただひたすらに戦い続けてきた。そして、気付いたんだ。

 

お腹の赤い兎を抱き上げて、そして優しく抱きしめて、翼は、想いを吐き出す。

 

―――私の命にも、意味や価値がないって事に・・・!?

 

その時、腕に抱く兎が、怒ったように翼の顔をぱしぱしと叩く。

 

―――え?何?なんなの・・・?

 

その行為の意味がいまいちわからない。

 

「・・・戦いの裏側とか、その向こうには、また違ったものがあるんじゃないかな?」

 

兎に叩かれ続ける翼に、奏は言う。

 

「あたしはそう考えてきたし、そいつを見てきた」

 

―――っ・・・それは何?・・・痛い、痛いよ・・・!

 

なおも叩いてくる兎を制しつつ、翼は聞き返す。

 

「自分で見つけるものじゃないかな?」

 

―――奏は私にいじわるだ・・・

 

やっと大人しくなってくれた兎をそのままにして、翼は頬を膨らませてみる。

 

―――だけど、私にいじわるな奏は、もういないんだよね・・・

 

もう一度、兎を抱きしめて、そう呟いた。

 

「そいつは結構な事じゃないか」

 

―――私は嫌だ!奏に側にいて欲しいんだよ・・・

 

今にも泣きそうな翼。そんな翼を、赤い兎は心配そうに見上げる。

 

「・・・あたしが傍にいるか遠くにいるかは、翼が決める事さ」

 

―――私が・・・?

 

その言葉は、翼の胸に響く。そしていつの間にか、赤い兎は離れていっていた―――

 

 

 

―――そうだ。お前が決める事なんだよ。

 

 

 

―――そして、奏の物とは違う、聞き覚えのある声が、聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、翼の意識は覚醒する。

(ここ・・・は・・・)

「先生!患者の意識が・・・」

「各部のメディカルチェックだ。急げ!」

視界に、見覚えの無い白い服を着た人々が見える。

少し見渡せば、様々な機材がそこに置かれていて、脈拍を測るもの、点滴の管、何かのレントゲン写真といった様々なものが確認出来た。

そして、耳に微かに届く、聞き覚えのある歌。

視線を向ければ、そのガラス窓からリディアンが見えた。

(・・・不思議な感覚。まるで世界から切り抜かれて、私の時間だけゆっくり流れてるよう・・・・)

そして、思い出す。

仕事でも任務でもないのに、学校を休んだのは、これが初めてなのだ、と。

(皆勤賞は絶望的か・・・)

などと思いつつ、翼は、もういない奏に向かって言う。

(心配しないで、奏。私、貴方が言う程真面目じゃないから、ぽっきり折れたりしない。だからこうして、今日も無様に生き恥を晒している・・・)

ふと、自分の手に何かが握られている事に気付き、まだ重い腕を、無理矢理動かして、その手に握られているものが何なのかを見る。

 

それは、あの男と同じ名前の入った、赤いフルボトルだった。

 

「・・・・もう」

それを見て、一度目を見開いた後、それを握ったまま、胸に当てた。

「ばか・・・」

そして、短くそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日の夕方――――広木防衛大臣が殺害された――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その報告を受けて、二課では、その事件の犯人について捜索していた。

だが、一向に正体は掴めず、手をこまねく状況となっている。

ただ、了子の方は通信機が壊れてただけで、連絡が取れなかったという事以外、何に問題も無かった。

 

そして、上層部の命により、二課はサクリスト-D『デュランダル』を輸送する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、作戦当日―――

「防衛大臣殺害犯を検挙する名目で、検問を配備!『記憶の遺跡』まで一気に駆け抜ける」

「名付けて、『天下の往来独り占め』作戦!」

その作戦名はどうなんだ、と万丈と響は思った。

 

作戦の内容は、まず、輸送対象であるデュランダルを乗せた了子の車を、四台の護衛車で囲う。そして、その上から弦十郎の乗るヘリが周囲を索敵する。

そして、デュランダルを乗せた車両に、ノイズが現れた時の為に響と万丈、そして戦兎を同乗させる。

そのまま、一気に『記憶の遺跡』と呼ばれる場所まで逃げる。

簡潔に説明するとこんな感じだ。

 

だが―――

「戦兎先生は、やっぱりまだ・・・」

「あともう少しだって言ってたし、たぶん大丈夫だろ」

まだ、強化アイテムの修復が出来ていなかったのだ。

なんでも、パンドラボックスの成分がないとかで苦戦していたらしいが。

車に乗りつつ、万丈と響はそう言い合う。

「大丈夫でしょ。何せ、仮面ライダーとシンフォギア装者が一人ずついるんだから」

了子がそう言うも、響は、少し心配だった。

「大丈夫だ」

そんな響の肩を、万丈が掴む。

「あいつは必ず来る」

「龍我さん・・・」

万丈の戦兎に向ける絶対的な信頼。

(龍我さんが信じるなら・・・)

「分かりました。私、信じてみます!」

「おう!そんじゃ、出発進行と行こうか!」

「「おー!」」

その掛け声に了子も乗り、そして、作戦が始まる。

 

 

 

 

 

 

前後左右に護衛車がついていき、その上から弦十郎の乗るヘリが上空から異変がないかを探す。

響も響で、窓から顔を出し、周囲を探る。

万丈も万丈で響同様に周囲を探っていた。

やがて、車両群が長い橋に入った。

ふと、響が前を向いた時―――

 

道路が崩れているのを見た。

 

「了子さん!」

「ッ!」

了子がハンドルを切る。崩れた場所は大きくも、片側に移動すれば避けられるほどの損壊。

しかし、一番端にいた車両だけは避け切れず、そのまま空中に飛び出し、反対の崩れた場所に激突し、爆発する。

「ああ・・・」

「マジかよ・・・・」

その惨状に、響と万丈は言葉を失う。

「しっかり掴まっててね・・・」

「え?」

「は?」

「私のドラテク(ドライブテクニックの略)は狂暴よ」

車両群が加速する。

『敵襲だ。まだ姿は確認出来ていないがノイズだろう』

「この展開、想定していたより早いかも」

次の瞬間、マンホールが吹き飛び、響たちの乗る車両のすぐ後ろの車両が空高くぶっ飛ぶ。

「ひぃ・・・」

その様子に響は思わず悲鳴を上げる。

『下水道だ!ノイズは下水道を使って攻撃してきている!』

弦十郎からの連絡が入った瞬間、今度は目の前の護送車が吹っ飛び、こちらに向かって落ちてくる。

「うわぁぁぁああ!?ぶつかるぅぅぅぅうう!!」

「よ、避けろぉぉぉおお!!」

響と万丈の絶叫が車両内に轟き、了子はすぐさまハンドルを切って落ちてくる黒い護送車を躱す。だが、思いっきりハンドルを切り過ぎたのか歩道に突っ込んでごみ箱などを弾き飛ばす。

「ちゃんと運転しろよ!」

「運転もしてないのに文句言わない!」

万丈からの怒鳴りにそう返しつつ、了子は弦十郎に連絡を入れる。

「弦十郎君、ちょっとやばいんじゃない?この先の薬品工場で爆発でも起きたらデュランダルは・・・」

『分かっている!さっきから護衛車を的確に狙い撃ちしてくるのは、ノイズがデュランダルを損壊させないよう、制御されているように見える!』

実際にも、了子の乗る車以外をあまりにも正確に破壊している。こんな事をただのノイズがするとは思えない。

だとすれば―――

「チッ」

―――万丈は、了子が舌打ちしたのを見逃さなかった。

(こいつ・・・なんで舌打ちを・・・・)

『狙いがデュランダルの確保なら、あえて危険な地域に滑り込み、攻め手を封じるって寸断だ!』

「勝算は?」

『思いつきを数字で語れるものかよ!』

その弦十郎の判断に従い、残った二両は薬品工場へと突っ込む。

すると目の前のマンホールが吹き飛び、そこからノイズが飛び出し、前方の護衛車を襲う。

視界を塞がれた車両をすぐさま乗員は乗り捨て、一方の車は建物の一つに突っ込んで爆発する。

その中で、ノイズがまるで躊躇うかのように動きが鈍る。

「狙い通りです!」

響が喜ぶも束の間、何かに乗り上げたのか、車が一気に転倒する。

「うわぁぁあぁああ!?」

「うぉあぁぁあぁあ!?」

盛大にひっくり返り、スピンを繰り返してようやく止まる了子の車。

「南無三!」

その様子を弦十郎は見ていた。

そして車から響、万丈、了子の三人が出てくる。

「くっそ・・・もっとちゃんと運転しろよゴラァ!」

「うるさいわね!こっちだって必死だったのよ!?」

「あ、あの!ノイズが・・・!」

気付けば、周囲を大量のノイズに囲まれていた。

しかもその数は増えている。

「了子さん・・・これ、重い・・・!」

「だったら、いっそここに置いて私たちは逃げましょ?」

「そんなのダメです!」

「そりゃそうよね・・・」

「んな事言い合ってないでさっさと行くぞ!」

万丈が響からデュランダルの入ったケースを取り上げてせかす。それと同時にノイズが弾丸の如く飛んでくる。

そのノイズたちから逃げるように走る三人だが、ノイズに貫かれた車が背後で爆発、その爆風で万丈はケースを落としてしまう。

「しまった!?」

そして次の瞬間、ノイズが一斉に万丈たちに襲い掛かってくる。

(やられる・・・!)

変身している暇が、ない。クローズドラゴンをセットする時間がない。

これでは、死ぬ―――

 

だが、ノイズが万丈たちに攻撃を入れる事はなかった。

 

突如として、了子がノイズの前に出て、右手を掲げた。

すると、何かしらのバリアが張られ、ノイズがそれに触れた途端、一瞬にして炭素の塊を化してしまう。

「了子・・・さん・・・?」

「おい、なんだよそれ・・・」

まるで人間技ではない。

弦十郎とは違う、人間離れした能力。

ノイズの攻撃を防ぐ度に、髪が解け、眼鏡が飛ぶも、了子は不敵な笑みを崩さない。

「しょうがないわね。貴方のやりたいことを、やりたいようにやりなさい」

その言葉を受けて、響は立ち上がる。

「私、歌います!」

そして、万丈は了子を怪訝そうに見ながら、クローズドラゴンのドラゴンフルボトルをセットする。

 

Wake UP!』

 

CROSS-Z DRAGON!』

 

『Are You Ready?』

 

「変身!」

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron――――」

 

『Wake UP Burning!』

 

『Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!』

 

その身を蒼炎の鎧で包み込み、万丈は仮面ライダークローズへと変身して、響は神々の槍の名を持つ鎧を纏う。

「行くぜぇ!」

「はい!」

駆け出すクローズと響―――が、響は足元のパイプに足を引っかけて盛大に転ぶ。

慣れないヒールを履いているからだ。

「大丈夫か!?」

思わずクローズが立ち止まり、その間にノイズが周囲を囲む。

「チッ!」

短く舌打ちをして、クローズは響を守るようにノイズと向き合う。

その一方で、響も立ち上がる。

(ヒールが邪魔だ・・・!)

そう思った響は、迷いなく踵のヒールを破壊して、いつも履いている靴と同じようにする。

そして、独特な構えでノイズと向き合う。

いざ、戦いが始まろうとしたその時、

 

「てーんーさーいーがー!」

 

「「ッ!?」」

 

「展開を予測してここにいたぁぁぁああ!!!」

 

見上げれば、工場の塔のような建物の上に、天を指差して立つ一人の男がいた。

擬音があればバァァァンッ!なんていう音が出てきそうな程に、その男は背を反らして天を指差していた。

その男は―――

「戦兎!?何やってんだ!?」

「戦兎先生!?」

その一方で、

「何やってんだアイツ・・・」

クリスもその場に来ていた。当然、ノイズを操っているのは彼女である。

そしてその戦兎は、顔を真っ黒にしたままでトレンチコートの下に着ている服もどこもかしこも黒ずんでいた。

「ヴァーハハハハハ!!この天才の手にかかればこの程度の展開を予測してここにあらかじめ来ることなど造作もない!さあ俺を崇めよ!神と称えよヴァハハハハハ!!」

「なんか・・・キャラ崩壊してませんか?しかもボロボロ・・・」

「たぶん何日も徹夜続きだったからテンションが可笑しくなってるんだろ」

完全にどこか壊れている戦兎の様子にドン引きの二人。

「ヴァハハハハハ・・・はぁー」

やっと落ち着いたのか、息を吐く戦兎だったが、次の瞬間、左手を前に突き出した。

それは、ビルドの複眼が描かれた、缶だった。

「なんですかあれ?炭酸飲料?」

「やっと出来たのか・・・」

それに響は首を傾げ、クローズは安心するように呟く。

「ここ数日、失敗に失敗を重ね、抜けてしまったパンドラボックスの成分を再現するために何度も爆発を喰らい、ボロボロになりながらも、翼の為を思って根性を見せて直したビルドのパワーアップアイテム・・・その名も『ラビットタンクスパークリング』ぅ!すごいでしょぉ!?最っ高でしょぉ!天っっ才でしょぉぉぉおお!?ヴァハハハハハ!!!」

またキャラ崩壊を引き起こす戦兎。

しかし、それもほんの少しの事。

 

「さあ、実験を始めようか」

 

やがて、いつもの眼差し、戦いを前にする戦士の眼に戻ると、戦兎は、突き出したラビットタンクスパークリングを振る。

 

シュワシュワシュワ

 

まるで炭酸飲料から泡が吹き出すのと同じ音が響き、戦兎は、プルタブパーツを開ける。

爽快な音が鳴り、戦兎は起動したラビットタンクスパークリングを掲げる。

そして、それを腰に装着したらビルドドライバーにセットした。

 

ラビットタンクスパークリング!』

 

そんな音が響き渡り、戦兎は、ボルテックレバーを回す。

(もう二度と・・・・)

今までとは違うスナップライドビルダーが展開され、戦兎の前後に展開される。

その最中で、戦兎は思い出す。

 

翼が、絶唱を使ったあの夜の事を。

 

(翼を、あんな目にさせない為に・・・!)

 

その為に、この力を取り戻したのだ。

 

『Are You Ready?』

 

覚悟は、良いか?

 

そのいつもの問いかけが、戦兎に告げられる。

(ああ―――)

そういえば、と戦兎は思い出す。

 

彼女の笑顔を、見た事ないな、と。

 

だったら、見よう。彼女の笑顔を。

戦兎の想う、最っ高の笑顔を、創ってみせよう!

 

(―――出来てるぜ)

 

両腕を広げた後、ファイティングポーズをとって、戦兎は叫ぶ。

 

「―――変身!」

 

シュワッと弾けるラビットタンクスパークリング!イェイイェーイ!』

 

赤と青、そして、白というトリコロールの装甲を身に纏い、ビルド・ラビットタンクスパークリングが、新世界に誕生する。

 

「勝利の法則は、決まった!」

 




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「あれが・・・戦兎先生の新しい力・・・」

ついにその姿を現すラビットタンクスパークリング!

「アタシのもんだ!」

そして繰り広げられるデュランダル争奪戦。

「渡すものかぁぁぁ!!」

それを手にした響に変化が起こり――――

「俺が?何故に?」

どういう訳か、戦兎と響が翼の見舞いに―――

次回『病床のディーヴァ』

「えーっと・・・」



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病床のディーヴァ

戦「天才物理学者の桐生戦兎は!その天才的な頭脳を駆使してラビットタンクスパークリングを復活させたのでしたァ!」
翼「やっと私も復帰だ!」
響「なんだかテンション高いですね二人とも」
万「久々の登場だからだろ」
翼「本編で絶唱使ってしばらく倒れていたからな。やっと復活出来たぞ」
ク「はいはいお疲れお疲れごくろーさまでした」
万「今回はお前と戦兎の戦いから始まるんだっけか」
戦「メタい話してんじゃないよ。ま、この天才がやっとの事で活躍出来るんだから、問題はないんだけどな」
響「そして今回はなんと!翼さんのあの秘密g」
翼「・・・」(無言で響の首筋を木刀で叩く)
未「ひ、響ー!」
ク「おいお前ここでの最初のセリフがそこでいいのか!?」
戦「お前も万丈と変わらないな」
万「おいそれどういう意味だ!?」
ク「馬鹿にすんなよ!これで成績は良い方d」
戦「はいはいじゃあさっさと俺が活躍する第十一話に行こうか」





翼「そういえば、この間暁と月読が恐ろしい笑顔でお前の部屋に入った後に凄まじい騒音が聞こえたのだが、あれは一体・・・」
戦「この世には知らぬが仏ということわざがあるんだ。だからその事は聞くな」
翼「はあ・・・」


赤と青、そして白のトリコロールの装甲。ややギザギザのついたその姿は、何か、キレのある印象を与えていた。

 

「あれが・・・戦兎先生の新しい力・・・・」

その姿を、響は見上げた。

一方のビルドは、戦場を見渡し、ある程度敵の位置を覚えると、すぐさま自分が立っていた塔のような建物から身を投げ出す。

そして、縁に足を引っかけ、そして踏み出した瞬間、足の裏で発生した『泡』が炸裂、恐ろしい速度で地面に落下した。

そして、ノイズの間を凄まじい速度で駆け抜ける。

「「速い!?」」

その速さに、響どころかクリスすらも驚く。

 

ラビットタンクスパークリングの能力は、『泡』による各種能力の向上。

足の裏で泡を破裂させればその衝撃で高速移動が可能であり、拳に乗せれば泡の破裂で敵を粉砕する。

 

そのスピードを活かして、戦兎はノイズたちを蹂躙する。

「よっしゃあ!俺たちも行くぜ!」

「はい!」

さらにはクローズや響も参加する。

ビルドが超高速移動で敵を蹂躙している間に、クローズの拳から発せられる蒼炎によって敵を圧倒し、その一方で響も今までの特訓の成果が出て、以前のような素人の戦いではなく、まさしく格闘家のそれに匹敵する格闘術をもってノイズを殲滅していた。

「こいつ・・・戦えるようになっているのか・・・?」

万丈に散々殴られ、弦十郎に鍛え上げられたからこその、響の力だ。

背中を叩きつけたり、肘鉄を叩き込んだり、時には両の手の掌打で叩き飛ばす。

もう、素人なんて言わせないとでも言うような迫力だ。

そして、ビルドもまた、今までとは比較にならない程の強さでノイズを倒していた。

『泡』とは意外と馬鹿にならないものだ。高速移動によってノイズが何か行動を起こす前に全て叩きつぶしているのだから。

「オォオ!」

右腕の『Rスパークリングブレード』によって複数のノイズを斬り裂きつつ、立て続けに右脚の蹴りで周囲を薙ぎ払う。

しかしノイズはまだ存在しており、また新たに襲い掛かってくるだろうと思ったその時、上空から刃の鞭が叩きつけられる。

「うお!?」

「今日こそはボトルを渡してもらうぜ!」

クリスの蹴りがビルドの顔面に突き刺さる。否、ギリギリの所で止められていた。

「なっ!?」

「生憎と俺の持ってるボトルはそんなに安くはない!」

空中で地面に向かって投げ飛ばす。どうにか着地したクリスに、空中で泡を炸裂させて加速したビルドの一撃が襲う。

ギリギリの所で躱し、ビルドは地面を叩き砕くも、更なる追撃がクリスを襲う。

(こいつ、この間とは比べ物にならないぐらいに・・・!?)

「おぉぉおお!!」

ビルドの拳がクリスに叩きつけられる。どうにか刃の鞭で防いだが、直後に炸裂した泡で吹き飛ばされる。

「ぐぅっ!?舐めるなぁ!」

だが、そのまま一方的にやられる程、彼女は甘くない。

振るわれる鞭。それを躱すビルドだが、続く二撃目三撃目と、躱し、接近しようとするが、意外に攻撃の圧が高く、なかなか近付けない。

されどビルドはその攻撃の網を潜り抜け、すぐさまクリスに一撃見舞おうとしたが、躱され、反撃の蹴りを防ぎ、今度は蹴りを腹に叩き込もうとするもしゃがんで躱され、真上から鞭が振り下ろされるも、それを紙一重で躱してと一進一退の攻防を繰り広げる。

(スパークリングでやっと互角か!)

(うぜえ、なんだよこいつ!)

激しく打ち合うビルドとクリス。

その一方で、響とクローズはノイズの殲滅に当たっていた。

響の動きは、もはや素人ではない程洗練され、敵を屠っていた。

その最中で―――了子のすぐ傍のケースのランプが点滅しだす。

「この反応・・・まさか・・・!?」

それはデュランダルに何があった時のサイン。

そして了子は、その異変を引き起こしたであろう人物を見る。

「やあ!」

膝蹴りがノイズの一体を粉々に粉砕する。

立て続けにノイズの放つ触手攻撃が襲い掛かるも、それを落ち着いた動きで巧みに躱し、そしてそのノイズに正拳突きをかまして粉砕する。

「行ける・・・このまま・・・!」

 

『ミリオンスラッシュ!』

 

「へ?ひゃうわ!?」

すかさずクローズのビートクローザーから発射された一撃を頭を下げる事で躱す響。

「龍我さん危ないじゃないですか!」

「いやーすまんすまん。あの戦兎見てたら張り切っちまってな」

「もう・・・!」

ふとクローズはビルドと殴り合うクリスの方を見る。

その顔には、何か焦りのようなものが見えた。

(あいつ・・・)

一体、何に焦っているのだろうか。

彼女に残された時間が。それとも、何か別の理由があるのか。

その時、ケースから何かが突き破って出てくる。

それは、剣。石色の剣だ。

そして、相当古いものだという事も伺える。

「あれは・・・」

「こいつがデュランダル・・・!」

それが、空中で静止し、なおかつ黄金の光を放ち始めていた。

その剣に向かって、クリスが飛び上がる。

「アタシのもんだ!」

「しまった!」

ビルドはクリスが呼んだノイズに邪魔されている。片付けるのは一瞬だがその一瞬でクリスはあの剣を―――デュランダルを手に入れるだろう。

そのクリスが、デュランダルに手を伸ばし、掴み取ろうとする、その寸前――――

「させるかよ!」

「な!?」

クローズが飛び掛かり、一気に引きずり下ろす。

「テメェ・・・!?」

「そう簡単に渡すかってんだよ!」

「離せ!この・・・」

そのまま落下するクリスとクローズ。そして、落ちていく二人の代わりに、響がデュランダルを手に取る。

「渡すものかぁぁぁ!!」

 

そして、響がその剣を手にしたその時―――何かが、破綻した。

 

「うごあ!?」

「うわぁ!?」

見事に絡み合って落下したクローズとクリス。

「い・・・つつ・・・ん?」

四つん這いになるクリスの上に覆いかぶさるような形になったクローズ。

だがその時、手に何か、柔らかい感触のものがあった。

「なんだ・・・これ・・・」

それは、まるでマシュマロのように柔らかく、しかし弾力はありもっちりとし、手袋越しでも分かるほどやわらかいこれは一体――――

「ど、どこ触ってんだ変態ィ――――!!」

「ぐおあ!?」

クリスの強烈な肘鉄がクローズの顔面に炸裂し、吹き飛ばす。

「ぐ・・ご・・・なにすんd・・・!?」

そのまま壁に激突して、頭をさすりながら見た先には、どういう訳か腕を胸の前で交差させて隠し、それでもってクローズを涙目で睨むクリスの姿があった。

「んん?・・・・あ!?」

胸を隠すような動作。そして先ほど自分が触った感触と、殴られた理由を考えると・・・

「やーい変態」

「うるせえ!」

ビルドの揶揄いに怒鳴り返すクローズ。

「まあそんな事より」

「そんな事よりってなんだ!?」

「逃げるぞ」

「は?」

突然のビルドの逃亡宣言。それにクローズは思わず呆けてしまうが、次に聞こえた()()()で気付く。

 

響の様子が変であることに。

 

「う・・・ゥウゥ・・・!」

唸り声を発する響。その手には、あのデュランダルが握られており、デュランダルが放つ光は、先ほどよりも一層強く輝いていた。

「ゥウ・・・ゥウゥゥゥゥゥウウウゥウウウ・・・!!!」

そして次の瞬間、黄金の光が天を貫くように迸る。

「なんだァ!?」

「これがデュランダルの力か!」

光が迸る。それは、完全聖遺物サクリスト-D『デュランダル』の起動を意味していた。

立花響という少女が、たった一人で起動させたのだ。

そして、その光の中で、剣が形を変え、一本の黄金の大剣へと変わる。

それと同時に、響の姿も禍々しく、黒く変わっていた。

「あれは・・・あの時の・・・!?」

以前、地下鉄で見た響の黒化。それと、とても酷似しているが、今の彼女は、おそらく完全に理性を失っている。

「おぉオぉぉおォォォオオォォオオォォオオ!!!」

おおよそ人の物とは思えない咆哮を上げて、彼女は剣を掲げる。

「コイツ・・・何をしやがった・・・・!?」

ふとクリスは、すぐ傍にいる了子の方を、何故か向いた。

その了子の顔は、とても恍惚そうにその光を眺めていた。

まるで、待ちに待った奇跡に出会えたかのように。

「チッ・・・」

その姿に舌打ちし、クリスはその手に『ソロモンの杖』を響に向け、咆える。

「そんな力を見せびらかすなァ!」

そうして召喚されたノイズに反応した響は、視線をそのノイズに向ける。その眼を見た瞬間、クリスは、少し後ずさってしまう。

「ひっ・・・」

「ウゥゥウウゥゥウウ・・・・!!」

そして響は、剣から放たれる黄金の光を、一気にそのノイズに、そして、その後ろにいるクリスにまで向けて振り下ろした。

「あ・・・・ああ・・・」

その圧倒的光景を前にクリスは棒立ちになり、

「あぶねえ!」

そこへクローズが横からクリスを掻っ攫う。

そして光の砲撃は、薬品工場を穿ち、やがて―――凄まじい爆発を引き起こした。

 

ドラゴニックフィニッシュ

 

そして、迸った衝撃に向かって、クローズはクローズドラゴン・ブレイズを叩きつけた。

「ぐおぁぁぁああぁぁああ!?」

「お前、なんで・・・・!?」

割れる衝撃。クリスは、クローズの腕の中でその光景を見ていた。

「たとえ敵でもなぁ・・・お前のような奴は、放っておけねえんだよぉぉぉぉおお!!」

ブレイズが、その衝撃に耐えきれないとでも言うように消えていく。

しかし、クローズが絶叫を上げ、その姿を保たせ、クリスを必死に守るかのように拳を突き出し続ける。

そして、次の瞬間には、二人は光に飲み込まれていた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・これがデュランダル・・・完全聖遺物の力・・・・」

工場の惨状を見て、戦兎はそう呟いた。

「こんなもんが、やばい奴らに渡ったりすれば・・・」

工場は半壊。地面は削り取られ、建物の殆どが崩れ去り、瓦礫と化し、崩れ去っていた。

「っとそうだ。万丈はどこだ・・・」

あの少女を助けるために、戦兎とは逆の方向へ走った万丈を探す。

「あの方向からこういったから、あの馬鹿なら真っ直ぐ飛んで・・・・」

あの状況での万丈の行動を計算し、どこに飛んで行ったのかを予測。

そうして辿り着いた場所に、彼は倒れていた。

仰向けで、意外と無傷な状態でそこに寝転がっていた。

「おい、起きろ馬鹿」

「ん・・・ぐぅ・・・」

一度顔をしかめて目を開ける万丈。

「せん・・・と・・・」

「よう」

「・・・!そうだ!あいつは・・・!?」

「お前が助けようとした奴か?さっき逃げたって言ってたぞ」

「そうか・・・アイツ、無事なのか・・・良かった・・・」

ほっと息を吐く万丈。そんな万丈に戦兎は笑いつつ、手を差し出す。

その手を万丈は取り、立ち上がる。

「今度会えばいい」

「そうだな」

万丈の肩を叩いてそう言う戦兎に、万丈は頷く。

 

 

 

作戦は中止。起動してしまったデュランダルは、また二課のアビスに保管される事なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完全聖遺物の起動には、相応のフォニックゲインが必要になる。

ソロモンの杖の起動に、クリスが半年かかったのに対して、響はほんの一瞬で起動してみせた。

それだけに留まらず、その力をいとも容易く解き放って見せた。

まだシンフォギアに目覚めて数日の人間が、あんなにも容易く、完全聖遺物を起動した。

その事実が、クリスに突き付けられる。

「化け物め・・・!」

歯を食いしばり、クリスはそう呟く。

今彼女が立っているのは、拠点としている屋敷のすぐ傍にある桟橋の先だ。

呟くのと同時に、あの力を解き放たれた時に自分を庇ってくれた仮面の戦士の事を思い出す。

(なんで、あの時・・・)

自分達は、敵だった筈だ。それなのに、何故、彼は自分を守ったのか。

自分が死ぬかもしれない。そんな状況で、何故、

 

『たとえ敵でもなあ・・・お前のような奴は放っておけねえんだよぉぉぉぉおお!』

 

「ッ!」

手に持つソロモンの杖を握りしめる。

「くそ!ふざけやがって!」

大人とは、醜いものだ。彼女は、それを嫌という程思い知らされてきた。

あの地獄で、散々、ずっと―――

「なんで・・・その大人が・・・!」

 

敵なんて庇っているんだ。

 

訳が分からない。あの青い戦士の事を考えると無性にイライラする。

どうせ奴も力を振りかざして威張りたいだけの人間なのに。どうして―――

「ちくしょう!」

やはり、離れない。あの男の事が、頭から離れようとしない。

顔も知らない、あの男を――――

そこでクリスは頭を振って別の事を考え始める。それも声に出す事で、より意識を反らす為に。

「このアタシに身柄の確保をさせるぐらい、『フィーネ』はアイツにご執心という訳かよ」

立花響。ガングニールの破片をその身に宿すもの。そして、デュランダルを一人で覚醒させえた、自分を超える存在―――

それと同時に、あの凄惨な過去を思い出す。

「・・・そしてまた、アタシは一人ぼっちになる訳だ・・・・」

そよ風が吹く中で、クリスはそう呟く。

太陽が山の影から姿を見せ、クリスは、背後に立つ女性に気付く。

それは、彼女の雇い主、あるいは、飼い主。

「・・・分かっている。自分に課せられた事くらいは」

その時、また彼の事が脳裏によぎる。

それを振り払うように、クリスは女性に向かってソロモンの杖を投げる。

「こんなものに頼らなくとも、アンタの言う事ぐらいやってやらあ!」

それを女性は受け取り、その女性にクリスは言う。

「アイツよりも、アタシの方が優秀だって事を見せてやる!アタシ以外に力を持つ奴は、全部この手でブチのめしてくれる!」

シンフォギア奏者も、仮面ライダーも全て、この手で叩き潰す。

「それが、アタシの目的だからな・・・!」

 

全ては、この世から争いをなくすために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弦十郎と戦兎が、喪服姿で二課に入ってくる。

「亡くなられた広木防衛大臣の繰り上げ法要でしたわね」

「お疲れ」

「ああ、ぶつかる事もあったが、それも俺たちを庇ってくれての事だ。心強い後ろ盾を失ってしまったな・・・」

何故、戦兎も喪服を着ているのか。

理由は、葬儀に総理大臣とその補佐官が来ると聞いたからだ。

「で?どうだったんだよ戦兎」

こそこそとしつつ、万丈は戦兎に尋ねる。ちなみにクローズドラゴンは今日も未来の所に向かっている。そろそろ怒られるかもしれない。

「ああ、新世界でも総理は総理だったし、幻さんも変わりなくて安心したよ」

「そうか」

その言葉に、万丈も安心する。

「こちらの進行はどうなっている?」

「予定よりプラス十七パーセント」

進行とは、基地の強化作業の事である。

「デュランダル移送計画が頓挫して、正直安心しましたよ」

「そのついでに防衛システム、本部の強度アップまで行う事になるとは」

「ここは設計段階から、限定解除でグレードアップしやすいように織り込んでいたの。それに、この案は随分と昔から政府に提出してあったのよ」

「でも確か、当たりの厳しい議員連に反対されていたと・・・・」

それなのに何故、その案が通ったのか。

「その反対派筆頭が、広木防衛大臣だった」

それが理由だ。

「非公開の存在に血税の大量投入や、無制限の超法規措置は、許されないってな」

一つ、ため息を吐く弦十郎。

「大臣が反対していたのは、俺たちに法令を遵守させることで、余計な横槍が入ってこないよう、取り計らっていたからだ」

重い空気が、場に広がる。その間でも、戦兎はいつも通りのシャツとボロボロのジーンズ、そしてトレンチコートを着る。

「司令、広木防衛大臣の後任は?」

「副大臣がスライドだ。今回の本部改造計画を後押ししてくれた、立役者でもある」

「だけどその大臣はいわゆる親米派でな。つまり、日本の国防政策に対して、アメリカの意向が通りやすくなっちまったって訳だ」

「それが何か悪いのか?」

やはり、と言った具合に万丈が訪ねる。それに呆れつつ戦兎が答える。

「あのな?この間デュランダルの引き渡しをガンガン要求してきてるアメリカが、こっちの事情に口出ししやすくなったんだよ。最悪対ノイズ戦の武装であるシンフォギアだとかライダーシステムが向こうに流出しちまう可能性があるって事だよ」

「やばいんじゃねえのかそれ・・・!?」

流石にこれは万丈でも理解できたようだ。

「まさか、今回の防衛大臣暗殺の件も、米国政府が・・・」

そこで、突如として警報が鳴る。

モニターを見れば、数人の職員が消火器をもって火元の消化を行っていた。

「たーいへん。トラブル発生みたい。ちょっと見てきますわね」

そう言って部屋を出ていく了子。

「さて、向こうのトラブルは了子君に任せておいて、戦兎君、君に翼の見舞いに行ってきてもらいたいんだが」

「俺が?何故に?」

「今緒川はある任務に行っていてな。響君もと言っていたから、二人で言ってきてくれないか?戦兎君は今日も学校を休んで一日暇な訳だし」

想定外の提案に戸惑うものの、断る理由はない。

「はあ・・・分かりました。不肖、この天才物理学者桐生戦兎、風鳴翼の見舞いに行ってまいります」

「まあ俺も暇だからな」

「ああいや龍我君はここで待機しててくれ」

「へ?」

何故か止められる万丈。

「一応君もノイズに対抗できる唯一の人材であることには変わりはない。だから念のため、君にはノイズ出現に備えて待機してもらいたいのだ」

「ああ、そういう事か・・・でもなんで戦兎なんだ?」

「それは察しろ」

「察しろって・・・はっは~ん」

弦十郎の意味深な笑みに万丈もにやついた顔で戦兎を見る。

「・・・・なんだよ?」

「いやー、モテる男は辛いねえ」

「いや一体何の話だよ?」

「べっつにー、いずれ分かる事だよ」

「はあ?おい、この馬鹿何言って・・・なんでお前らも笑ってんの?」

「いや、なんでも・・・くくく」

「すみませ・・・ふふふ」

何故か藤尭と友里まで笑っていた。

その場に何故か控えめな笑い声が響く中、戦兎一人だけが取り残されているこの状況。

「え・・・あ・・・ちょ・・・あーもう!なんなんだよお前らぁ!?」

謎の笑みの意味も分からず、戦兎は叫ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、なんなんだよあいつら・・・」

病院の玄関扉の前で待つ戦兎。

そこへ、響が慌てた様子で入ってきていた。

「すみませーん!遅れましたー!」

「おう遅いぞ」

「ハア・・・ハア・・・実は、花を買うのに時間がかかってしまって・・・」

「花?ああ、見舞いの」

「先生は何を?」

「適当に腹減ってるだろうからリンゴ買ってきた」

戦兎が持ち上げた袋には、リンゴが三つ程入っていた。

「それで、あれから体調の方はどうですか?」

体調、というのは、戦兎はスパークリングを直す為にかなり長期間徹夜続きの作業をしていたため、ベッドに倒れた後はそのまま丸一日起きなかった上に起きたとしても作業の疲労が溜まっていてしばらく動けず、学校をさらに休む事になってしまったのだ。

まあ、パンドラボックスの成分を再現する為に相当苦労したのだから、当然といえば当然だが。

「あれから結構休んだし、明日からはいつも通りやれるよ」

「いいなあ、私も一度戦兎先生の授業受けてみたいです」

「だったら今度、個別授業でもやるか?」

「本当ですか!?いやー、私勉強全然でして、戦兎先生が教えてくれるならきっと成績アップも間違いなしです!」

そんな他愛もない話をしながら、二人は翼の待つ402号室の前に立つ。

(あれ?そういえば翼って確か女だったよな?それもまだ現役の高校生。いくらトップアーティストと言えども学校では生徒と教師の関係だし、ついでに十歳近く歳離れてる訳だから、あ、なんかいきなり緊張してきた。やばいやばいやばいやばいマジでどうするそうだ公式を頭の中で唱えて心を落ち着かせよう!)

頭の中でヤベーイ!だとかブルァァァアア!!とかヤヤヤヤベーイ!!!だとかの音声が流れて内心パニくり始めた戦兎。

「戦兎先生?」

「はい!?」

「どうしたんですか?」

「べ、べべべつに何も!この天才に怖いものなんてないぜ!フハハハハハ・・・・」

「何か変ですよ・・・?」

ジト目で戦兎を見上げる響。

(よし、とりあえず落ち着け、落ち着くんだ桐生戦兎。お前は天才物理学者なんだ。この程度の事態で騒いだりしない)

脳内で鋼のムーンサルト!などという音声が流れると同時に戦兎は覚悟を決める。

「よぉーし、開けるぞ」

「は、はい!」

ついに覚悟を決めた戦兎は、ついに、風鳴翼の待つ病室の扉を開ける。

そこで見たものは―――

「「・・・・!?」」

響が、鞄を落とす。

戦兎が、後ずさる。

「こ、これは・・・」

「まさか・・・そんな・・・」

目の前の光景を見て、二人は、絶句し、目を見開く。

何故なら、その部屋があまりにも――――

「何をしているの?」

ふと、後ろから声を掛けられる。聞き覚えのある声だ。

その声を聞いた途端、響―――ではなく戦兎が背後にいる人物の肩を掴んだ。

「翼!?怪我はないか!?」

「きゃあ!?い、いきなり何!?」

「翼さん!ほんとに無事なんですか!?」

「え、ちょ、入院患者に無事を聞くって、というか、今私怪我をして・・・」

「何もされてないよな!?どこも、変な事とかされてないよな!?」

「お、落ち着いて、一体何の話を・・・」

「これの事だよ!」

戦兎が指差す先、そこは、翼の病室だった。

その中は――――凄まじい程の散らかっていた。

コーヒーが入っているであろうカップはひっくり返し中身がこぼれ、服は散らかり何かの薬品も机の上にぶちまけられ、花はしおれて枯れているのもあれば、何故かトイレットペーパーが地面を転がって紙のシルクロードを作り、週刊誌や雑誌などが床に散乱し、その惨状はあまりにも惨かった。

「てっきり何かに襲われたのかと思ったぞ!?こんな怪我をしている状態でストーカーだとかに襲われてたら洒落にならんぞ!お前何かと頑固なとこあるし、もしかしたらやせ我慢とかしてるんじゃないかって・・・」

マシンガンのごとく矢継ぎ早に言葉を叩き出し続ける戦兎。

しかし、その一方で翼は顔を赤くしていた。

それはなぜかって?

 

この部屋の惨状を見られたからだ。

 

「み、見ないでぇぇぇぇぇええ!!」

「ぐへあ!?」

強烈な平手打ちが戦兎の頬に炸裂し、まさしく横に吹っ飛ぶ戦兎。

「えぇぇええ!?」

その予想外の行動に、響は驚き、戦兎は訳が分からないまま廊下の床に倒れる。

「・・・あ」

「い、いきなりなにすんだ!?」

すぐさま起き上がって抗議する戦兎。

だが、翼の顔がなぜか赤くなっているのに気付く。

「ご、ごめんなさい・・・・」

そして、戦兎と響は気付く。

「あ、あー・・・」

「えーっと・・・」

二人は、なんて言えばいいのか分からなくなった。

 




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!

翼のまさかの散らかった部屋を片付ける戦兎と響。

「もう、そんなのいいから・・・」

そして、改めて響の覚悟を聞く翼。

「守りたいものがあるんです」

一方の万丈は、街中を歩いている中、あの少女を見つける。

「お前・・・家族いないだろ?」

「黙れぇぇええ!」

始まる戦闘。

「なんだか、敵わないわね」

それを知らぬ、翼と戦兎。

「ごめん」

ついに未来に隠し事がバレてしまう響。

様々な想いが錯綜する中で、万丈は少女と対峙する。

次回『馬鹿と復讐者とファンタジスタ』

「今の俺は、負ける気がしねぇ!」


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馬鹿と復讐者とファンタジスタ

緒「今回は連日投稿ですか」
頭「なんでも書き溜めが思いのほか溜まったから消化という形で張り切ってるらしい」
万「おいまだ出てきてねえのになんでお前が出てんだよ・・・ってあれ?なんで電気が消えて」
絶望センス「やあ、待たせたね」キャァァア!
黒グニール「こ、これは・・・!?」
農具「想像の斜め上をいく破壊力デス・・・!?」
工具「正直に言ってダサい・・・」
絶望センス「お前たちも俺のセンスが分からないのか・・・!?」
万「誰もお前のセンスなんて理解出来ねーよ!」
緒「誰か一人ぐらいあらすじ紹介しましょうよ!?」
黒グニール「お願いちょっと待って・・・そ、その服は一体どこで・・・」
絶望センス「全てオーダーメイドだ。羨ましいのか?」
農具「やっばいデス。本人分かってないパターンデス・・・」
戦「お前らいい加減にしろ!いつになったらあらすじ紹介始めるんだ!?」
未「もう私が読み上げます・・・こほん、天才物理学者にして仮面ライダービルドこと桐生戦兎は、私の親友、立花響と一緒に風鳴翼さんのお見舞いにいくのでした」
戦「お前らコイツを見習え。何絶望センスの服の話題で盛り上がってんだよ」
絶望センス「俺は絶望センスなどではない俺はひ」
響「あぁぁあネタバレは控えてください!」
ク「だーもう!今回はアタシと龍我がぶつかる話だ!どうなる第十二話!」



あの後、戦兎と響は散らかっていた翼の病室を掃除していた。

「もう、そんなのいいから・・・」

「そういう訳に行かないでしょうが」

「私、緒川さんからお見舞いを頼まれたんです。だからお片付けさせてくださいね」

そう言って、響は翼の服をまた一枚重ねた。

「それにしても意外でした。戦兎先生って科学者ですから片付けられないってイメージがありました」

「俺かよ!?まあ、これでも結構几帳面なんだぞ?ある程度発明が出来るだけのスペースは確保するために常に整理整頓はしてるんだが、それがいつの間にか部屋全体に広がってな・・・」

未だ頬に赤い手形のついた戦兎は散らかった薬などを片付けていた。

「もちろん、翼さんの事も意外でした。いつもは完璧なイメージがあるのに、こんな一面があったなんて」

「真実は逆ね。私は戦う事しか知らないのよ」

「いや、お前歌唄ってるだろ」

誰にでも呟くでもなく放った言葉が、どういう訳か戦兎には届いた。

兎故の地獄耳というものか。

「はい!おしまいです!」

ただ、その会話は響には届いてなかったらしく、そう両手を広げて言う響。

「あ、すまないわね。いつもは緒川さんがやってくれてるんだけど・・・」

「おまっ・・・まだ年頃の女の子なんだからそれはどうなんだ!?」

「男の人に片付けさせてるんですか!?」

その言葉で、翼は気付く。

「ッ!?た、確かに考えてみれば色々と問題はありそうだけど・・・・」

「ありそうじゃなくてあるから。めっちゃあるから」

「そ、それでも、散らかしっぱなしにしているのも、よくないから・・・つい・・・」

随分としおらしい態度の彼女に、響は戸惑いを隠せず、一方の戦兎はなぜか笑いをこらえていた。

(可愛すぎだろこの自称防人・・・っ)

言っておくがときめいている訳ではない。・・・本人曰く、だが。

「今はこんな状態だけど、報告書は読ませてもらっているわ」

「へ?」

「私の抜けた穴を、貴方がよく埋めているという事もね」

予想外の賞賛に、響は思わず謙遜する。

「そんな事全然ありません!いつも二課の皆に助けられっぱなしです・・・」

「そんな事ないって。この間の戦闘なんて、見間違えるような動きしてたじゃねえか」

バンッ、と響の背中を叩く戦兎。

「うわ!?」

「自信を持て」

「あ、ありがとうございます・・・・でも、嬉しいです」

響が、照れたように頬を掻く。

「翼さんにそんな事言ってもらえるなんて」

「でも、だからこそ聞かせて欲しいの」

翼は、響を真っ直ぐに見据える。

「貴方の戦う理由を」

「え・・・」

「ノイズとの戦いは遊びではない。それは、今日まで死線を超えてきた貴方なら分かる筈」

ノイズは、人類共通の世界災厄。そんな存在を、二課は相手取ってきた。

その危険性を、響は確かに十分理解している。

「よく、分かりません・・・」

されど響は、そう答える。

「私、人助けが趣味みたいなものだから・・・それで・・・」

「それで?それだけで?」

戦兎なら、それだけ、と答えるだろう。元より、他人の為に戦う人間だ。

ならば、響はどうなのか。

「だって、勉強とかスポーツとか、誰かと競い合って結果を出すしかないけど、人助けって誰かと競わなくていいじゃないですか。私には、特技とか人に誇れるものなんてないから、せめて、自分の出来る事で、皆の役に立てればいいかなーって・・あははは・・」

ふと、響の言葉が途切れる。誤魔化しきれない、と思ったのだろうか。

「・・・・きっかけは」

「ん・・・」

「きっかけは、やっぱり、あの事件かもしれません。私を救う為に、奏さんが命を燃やした、二年前のライブ・・・」

その日から、響の運命は変わった。

「奏さんだけじゃありません。あの日、沢山の人がそこで亡くなりました。でも、私は生き残って、今日も笑って、ご飯を食べたりしています。だからせめて、誰かの役に立ちたいんです。明日もまた笑ったり、ご飯食べたりしたいから、人助けをしたいんです」

その言葉に、戦兎は笑って頷く。

その正体が、数多くの人間を人体実験へと使い、多くの犠牲者を出した悪魔の科学者だからこそ、それ以上に多くの人々を助けたい、戦兎だからこそ。

「貴方らしいポジティブな理由ね」

そんな響の理由に、そう返す翼。

「だけど、その想いは前向きな自殺衝動なのかもしれない」

「じ、自殺衝動!?」

「誰かの為に自分を犠牲にすることで、古傷の痛みから救われたいという、自己断罪の現れなのかも」

それは、戦兎にも言える事だ。そして、響にも言える事。

「あの・・・私、変な事言っちゃいましたか・・・?」

「いや、大丈夫だろ」

そんな理由で翼は言ったのではないだろう。それは戦兎も自然と分かる。

そして、翼は心外とでも言うように呆けていた。

「あは、アハハハ・・・」

「・・・ふ」

そんな様子に、翼も笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

場所は変わって屋上。

一部に緑があるこの場所は中々に、居心地の良い場所だ。風も中々に気持ちが良い。

「変かどうかは、私が決める事ではないわ。自分で考え、自分で決める事ね」

「・・・考えても考えても、分からない事だらけなんです」

「分からない事、ね・・・」

「デュランダルに触れて、暗闇に呑まれ掛けました。気が付いたら、人に向かってあの力を・・・私がアームドギアを上手く使えていたら、あんな事にもならずに・・・」

「力の使い方を知るという事は、即ち戦士になるという事」

翼が、即座に答えた。

「・・・戦士?」

「それだけ、人としての生き方から離れるって事だろ」

戦兎が響の頭に手を置く。

「貴方に、その覚悟はあるのかしら?」

その問いかけに、響は、答える。

「―――守りたいものがあるんです」

ただ真っ直ぐに、自分の胸の中にある、明確な想いを伝える。

「それは、なんでもない、ただの日常。そんな日常を大切にしたいと、強く思っているんです。だけど、思うばっかりで、空回りして・・・」

「戦いの中、貴方が思っている事は?」

「ノイズに襲われている人がいるなら、一秒でも早く救い出したいです。最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に駆け付けたい!そして・・・」

響の脳裏に、あの少女の事が思い浮かぶ。

あの日襲ってきた、白鎧の少女。

「もし相手が、ノイズではなく、誰かなら・・・」

ノイズではなく、言葉の通じる相手なら、彼女は。

「『どうしても戦わなくちゃいけないのか』っていう胸の疑問を、私の想いを、届けたいと思います」

それが、響の戦う理由。彼女自身の答え。

その答えを、翼は尊重する。

「今貴方の胸にあるものを、出来るだけ強くはっきりと思い浮かべなさい。それが貴方の戦う力、立花響のアームドギアに他ならないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万丈は、街中を歩いていた。

「暇だから街に出てみたが、なんか都合よく暇をつぶせる場所ねーかな。ジムとかそういう」

「キュル」

ドラゴンはそんな事しらんとでもいうように鳴く。

「マイペースな奴め・・・」

しかし、そう思っていても暇な事には変わりはない。

「あー、なんか変わった事ねーかな・・・」

なんて呟いていると、ふと上空を何かが通り過ぎた。

「今のは・・・・!?」

その何かに、万丈は見覚えがあった。

それを見た途端、万丈は走り出す。

「おい!待てゴラ!」

「ああ?」

追いかけて、万丈は叫ぶ。

その声を聞いた何か――――ネフシュタンを纏った少女、クリスが街灯の上に降り立つ。

「なんだお前?」

追いかけてきた万丈を見て、首を傾げるクリス。だが、万丈のすぐ傍を飛ぶドラゴンを見て、合点がいく。

「ああ、この間の青い奴か」

「何しにきやがった!?」

「知ってるだろ?アイツとお前らの持ってるボトルを取りに来たんだよ」

「結局それが目的かよ!」

万丈は懐からドラゴンフルボトル―――ではなく、金色の、フルボトルとは全く形状の違うボトルを取り出した。

「丁度いい。今ここでお前のボトルを貰っておこうかぁ」

「いいぜやってやるよ・・・だけどその前に!」

ビッと指を突き出す万丈は、

「お前、なんで戦ってんだ?」

「はっ、教える義理があるかよ!」

クリスが刃の鞭を振るう。

振るわれた刃の鞭は万丈めがけて振り下ろされ、それを万丈は避ける。そして、刃の鞭が穿った場所は抉れ吹き飛び、それを見た周囲の人々は一斉に逃げ出す。

阿鼻叫喚のままに、周囲の人間が逃げ惑う中、万丈は未だ上にいる少女を見る。

「本当に戦うしかねえのか?」

「何言ってやがる?」

「お前・・・家族いないだろ?」

「ッ・・・!?」

万丈のその言葉に、クリスは狼狽える。図星だ。

そして、図星を付かれた事で、クリスは逆上する。

「―――黙れぇぇええ!!」

振るわれる鞭。それを躱す万丈へ、今度はクリス自身が殴りかかる。

「うお!?」

「お前に何が分かる!?戦争でパパとママを殺されたアタシの何が分かる!?お前ら大人が力を振りかざすから、戦争がなくならない!力がある奴は必ず誰かを傷つける!そんな世の中を終わらせる為にアタシは力を手に入れたんだ!アタシ以外に力を持つ奴をこの世から消し去って、戦争をなくしてやるんだ!」

「それが理由かよ!?」

「そうだ!お前はどうなんだ!?お前もその力で誰かを傷つけて力を見せつけて支配するんだろ!?だったらアタシが潰してやる!お前も、あの男も、その力を使ってるやつ、全員――――」

次の瞬間、

「オラァ!!」

万丈が、クリスに向かって拳を突き出した。

その一撃が、クリスの掲げられた腕に直撃した瞬間、

「な―――ッ!?」

予想外の力が掛かり、クリスは吹き飛ばされる。

「馬鹿な・・・あの力を纏ってないのに・・・・」

「・・・分からねえ」

「は?」

「分からねえよ。お前、本当にそれが正しいって思ってんのかよ」

万丈が、静かに問いかける。

「お前、何を言って・・・」

「桐生戦兎・・・アイツはな、常に誰かの為に何かをしたがる大馬鹿野郎だ。前に、人助けの仮面ライダーと自分の過去の事どっちが大事かって聞いたらな、アイツは全然迷わねえで人助けって言いやがった。そんなアイツの口癖は『愛と平和』、『ラブ&ピース』だぜ?」

「ッ・・・!?」

「馬鹿みてえだよな。そういう事、恥ずかし気もなく言ってのけるんだからよ。でも、だからこそアイツは『仮面ライダー』なんだよ。誰かの為に、正義の為に、ただそれだけしか考えてねえ」

クローズドラゴンをその手に持つ。

「アイツは『ヒーロー』なんだよ。他の誰でもねえ桐生戦兎だからこそ、アイツは自意識過剰でナルシストの正義のヒーローなんだよ」

金色のボトルを、クローズドラゴンに差し込む。すると、その体の色が突如として変化。暗い赤と青の装飾の施されたドラゴンへと変化する。

「ヒーロー?ヒーローだと?」

クリスは、握りしめた手を震わせる。

「ふざけんなよ!?何がヒーローだ!?寝言は寝ていえクソがァ!」

「アイツは寝言じゃ絶対にそんな事言わねえよ。いつだって本気だ」

「良い大人が夢なんか見てんじゃあねえよぉぉぉおお!!」

クリスが、あのエネルギー弾を生成する。

「―――それが夢かどうかなんて、お前が決める事じゃねえよ」

ボタン『ウェイクアップスターター』を、押す。

 

覚醒ィッ!!』

 

「だけど、これだけは言わせてもらうぜ」

 

 

グレェートクロォーズドラゴンッ!!!』

 

 

 

 

「―――俺も親はいねえよ」

 

 

 

 

『Are You Ready?』

 

 

 

 

目の前の少女と戦う――――己の正義の証明の為に。

 

 

「変身ッ!!」

 

 

次の瞬間、万丈が立っていた場所に、『NIRVANA GEDON』が炸裂する。

凄まじい爆発が巻き起こり、ただの人間であれば、一瞬で消し炭にされているだろう。

クリスも、万丈は消し炭になっただろうと、仕留めた事を確認するために爆発によって巻き起こった煙をじっと見ていた。

だが、その煙は、突然吹き飛ぶ事になる。

「ッ!?」

 

 

『ウェイク アップ クロォォォズッッ!!』

 

『ゲットゥ グレェイト ドゥラァゴンッ!!!』

 

イェェェエイッッ!!』

 

 

そんなハイテンションな声と共に、吹き飛んだ煙の中から、一人の戦士が現れる。

形は、クローズに酷似している。だが、色合いが違う。

金色の炎の装飾が赤い装飾へと変わり、頭部の龍の装飾も紅蒼の龍へと変わり、その姿は、どこか、危険すらも匂わせる。

 

それが、仮面ライダークローズの進化系である『グレートクローズ』である。

 

「行くぜ」

クローズが腰を落とし、そして駆け出す。その速さは、クローズの時よりも早く、素早くクリスとの距離を詰めると、その拳を叩きつける。

「うぐ!?」

(重い・・・!?)

その重さに、クリスはどうにか踏ん張る。

「オラオラオラ!」

「く・・・っそ!調子に、乗るなぁぁ!!」

パワーアップしたクローズに押され、クリスは、刃の鞭を振るう―――

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ん?」

戦兎は、何かに気付いたようにフェンスの方を見る。

「どうかしたの?」

「いや、気のせいだ」

先ほど、響はお好み焼き屋『ふらわー』に行ってしまい、現在戦兎と翼の二人きりになってしまっている。

「そういえば・・・」

そこで、翼は思い出したかのように懐に手を入れる。

「これ、返すわ」

それは、戦兎のラビットフルボトルだ。

「ああ、そういやそうだったな」

それを受け取る戦兎。

「あの時はありがとう。あんな事言った手前、あそこで死ぬかもしれないと思ってたから・・・」

「次からはやたらむやみに絶唱を使おうとするんじゃねえぞ。あれはあくまで応急処置まがいのその場凌ぎだ。次は無理かもしれない」

「でも、貴方がいたから、私は絶唱を心置きなく歌えた」

「おいやめろ、洒落にならんからやめろ」

顔を青くする戦兎の様子がおかしく、少し吹き出してしまう翼。

「以前貴方は言ったわね。私は剣じゃないって」

「ん?ああ、言ったな。ライダーシステム使ってる俺が兵器じゃないように、お前も剣じゃない、一人の女の子だってな」

「ええ。貴方はそう言った・・・」

翼は、夕焼けに染まる空を仰ぎ見る。

「父に認められたい一心で、己を鍛え続けてきた。一本の剣として、護国の防人として、この人生を己の鍛錬にのみ使いこんできた。そんな中で奏に出会って、何かが変わった。奏に出会ったから、私は、今の自分があるのだと思った。だけど、その奏を失って、戦う理由を見失いかけた。依存していた。だけど、そんな奏は、もういない」

「・・・・」

死んだ人間は、二度と戻ってこない。それは、どれだけ科学が発達しようと実現不可能な真実だ。

例え、全てを破壊する事の出来るライダーシステムであっても、何かを生み出す事は出来ない。

だから、戦兎はこの力を愛と平和の為に使うと決めた。

「立花が奏のガングニールを体内に宿してるって知った時は、正直、認められなかった。あんな覚悟の無い人間に、ガングニールの装者は務まらないと、そう思い込んでいた。だけど、改めて見てみると、彼女は誰よりもひたむきで真っ直ぐで、それでいて誰よりも優しくて、その実、自分はどうなっても良いって思ってる」

「正直、目を放してられないって所か?」

「そう捉えてもらって構わないわ。そして、戦士としての覚悟も、ちゃんと持ってた。だから、もう意地を張るのをやめようと思うわ」

立ち上がって、翼は、戦兎の前に立つ。

「実は、イギリスのレコーディング会社からオファー来てるの」

「イギリスの?すげーじゃねえか」

「ええ。桐生、もし、世界中の全てのノイズを駆逐する事が出来たなら、その時、私は―――」

空を見上げて、翼は戦兎に告げる。

「―――世界を舞台に歌いたい」

「いいんじゃないか」

その言葉に、戦兎は頷く。

「決めるのはお前だ。お前が決めるんだよ。俺は、ただお前の選んだ答えを応援するだけだ」

「正直、不安なの・・・戦う為だけに歌を唄い続けてきた私に、果たして世界で歌う資格はあるのだろうかって・・・」

相方を失い、ずっと、戦うためだけに歌を唄ってきた。楽しむ、誰かの為の歌を失った。

そんな自分が、果たして世界で歌っても良いのか。

その不安が、翼にはあった。

「別にいいんじゃねえか?」

「え?」

「話は変わるが、見返りを求めたら、それは正義って言わねえぞ。お前は、何かの見返りの為に歌を唄ってるのか?」

「・・・・」

確かに、そうだ。

自分はただ、誰かの為に剣を振るい、そして歌を唄ってきた。

それは、決して見返りを求めての事ではない。

誰かの為に、誰かの笑顔の為に、自分の歌で、誰かに勇気を与え、誰かを幸せに出来ると想って、奏と共に歌を唄い続けてきた。

それは、今でも変わらない。

「・・・私、世界で歌ってもいいのかな?」

「いいんじゃねえの?というか、それをしたのは他の誰でもないお前だろ?何言ってんだ?」

「そうね。何言ってるのかしら、私」

不思議な感覚だ。彼と話していると、こんなにも胸の内を曝け出せて、幸せな気持ちになる。

まるで、奏と一緒にいる時のようだ。

いつもは天才天才と自分を誇示していて、頼りなさそうに見えるけど、本当は誰かの為に何かをできる強い人間なのだ。

優秀であるからこそ、自分を誇示する。されど彼は、その力を、誰かの為だけに使う。

彼の掲げる『愛と平和』の為に。それを、本気で叶える為に。

「なんだか、敵わないわね・・・」

「ん?なんか言ったか?」

「なんでもない」

そう言いつつ、翼は、こっそりとあの言葉を呟いてみる。

「愛と平和・・・ラブ&ピース・・・」

その言葉は、脆く儚いものだ。だけど、彼が言うと、そんな言葉は、硬くて確かな、そして、強い意志が宿っている。

そんな、気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――龍我さん、ネフシュタンの鎧の少女と交戦を開始しました!」

一方二課本部では、クローズとクリスの戦いの幕が上がった事を確認していた。

「龍我君に近隣の森へ移動するように通達!そして、響君と戦兎君への連絡だ!」

その手腕を見事に発揮し、弦十郎は指示を出す。

 

 

「はい!分かりました!すぐに向かいます!」

その連絡を受けた響はすぐさまクローズが移動するであろう森に向かっていた。

その向かい側から、親友がやってきているとも知らずに。

 

 

 

 

 

凄まじい衝撃と粉塵が巻き起こる中で、クローズはクリスと互角以上に戦っていた。

「ウオリャ!」

蹴り薙ぎを紙一重で躱し、刃の鞭を振るうも、クローズはそれを必要最小限の動きで躱し、また反撃に出る。

しかし、振るわれた刃の鞭は意外にしなり、クローズの足を払う。

「うお!?」

「オラァ!」

「ぐぅ!?」

足を払われ、態勢を崩したクローズへすかさず蹴りを叩き込むクリス。

蹴り飛ばされたクローズはそのまま地面を転がり、態勢を立て直した。

「これでも喰らいやがれ!」

「ッ!?」

すかさずクリスはクローズに向かってエネルギー弾を投擲、それを少女を中心に弧を描くように走り出す事で躱すクローズだが、続く鞭の攻撃がクローズを襲う。

(距離を取られると厄介だ・・・!)

生憎と万丈は射撃はそこまで得意ではない。ビートクローザーの炎射出を使っても、この距離で当てられるとも思っていない。

彼に出来るのは、あくまで近接格闘のみ。それは彼を本物の格闘家と位置付けるには十分な要素だ。

とにかく、このまま一方的にやられる訳にはいかない。

今はこの砲弾の刃の鞭の攻撃を掻い潜り、クリスへと攻撃を加えなければ―――

「――――は?」

「・・・・え」

気付いたら、どういう訳か歩道に出ていた。

(は?なんでこんな所に歩道が?てかここ森の中だったよな?なんでこんな所に・・・)

そして、横を見てみれば、そこには、未来がいた。

「未来!?」

「え、なんで私の名前を・・・」

一方の未来は戸惑うばかりだ。

「龍我さん!」

そしてさらには、響までやってくる始末。

「あ、響!」

「ッ!?未来!?」

響はともかく、全くの一般人である未来がこの場に居合わせるのはまずい。

「喰らいやがれッ!」

「ッ!?」

何故なら、クリスがクローズに絶賛攻撃中だからだ。

「あぶねえ!」

「きゃあ!?」

クローズは思わず未来の方へ飛び出す。

すかさずクローズのいた場所に鞭が叩き込まれ、凄まじい衝撃波が迸るのと同時に、クローズは未来を抱えて地面を転がる。

「ッ!?しまった、他にも・・・!」

そして、最悪な事に、

「大丈夫か!?」

「あ、はい・・・あ!?」

「ッ!?」

 

――――車が吹っ飛んできていた。

 

(やばい、間に合わねえ!)

迎撃が、間に合わない。避ける事は可能だが、それでは未来が車の下敷きになってしまう。

無茶を覚悟で迎え撃つしかない。

そう思い、拳を握った時――――

 

 

「―――Balwisyall nescell gungnir tron―――」

 

 

その歌が、聞こえた瞬間、目の前にはすでに響が立っており、その車を殴り飛ばした。

「響・・・!?」

「響・・・?」

「・・・ごめん」

響は、未来に向かってそう一言呟くと、すぐさまクリスに向かって飛んでいく。

「あの野郎・・・」

「あ、あの・・・!」

立ち上がったクローズを、未来が引き留める。

「一体何が・・・響は、一体どうなって・・・!」

「悪いが説明してる時間はねえ。今はあいつをどうにかしねえといけねえんだ」

「でも・・・!」

なおも食い下がろうとする未来を、クローズは振り払うように走り出す。

「あとでいくらでも話してやる!だからそこで待ってろ!」

その時、未来の耳に、聞き覚えのある鳴き声が聞こえた。

 

「―――キュイー!」

 

「・・・クロ?」

未来は、茫然としたまま、クローズの後ろ姿をただ見つめた。

 

 

『現在、響ちゃんは市街地を避けて移動してる!爆音を頼りに追いかけるんだ!』

「分かった!」

クローズは、絶賛粉塵の巻き起こりまくっている場所へ走っていた。

ようやく辿り着いた場所で、響はどういう訳かクリスに自己紹介をしていた。

「私は立花響、十五歳!九月の十三日で、血液型はO型!身長は、こないだの測定では百五十七センチ!体重は、もう少し仲良くなったら教えてあげる!」

「何言ってんだアイツ・・・」

その行動に思わず開いた口が塞がらないクローズ。

「趣味は人助けで、好きなものはご飯&ご飯!あとは・・・彼氏いない歴は年齢と同じ!」

「な、なにをとち狂ってんだお前・・・」

「私たちは、ノイズと違って言葉が通じるんだから、ちゃんと話し合いたい!」

それで、クローズは響の意図を悟る。

「まさかアイツ・・・」

「なんて悠長!この後に及んで!」

クリスが刃の鞭を振るう。

鞭は、先の方へ進めば進む程、その速さが目には捉えられない程凄まじい速度を発揮し、また威力を高める。

その高速の一撃を、響は躱して見せる。

(こいつ・・・!?)

次々と来る鞭の攻撃、それら全てを、響は躱していた。

(何か変わった・・・覚悟か!?)

「話し合おうよ!私たちは戦っちゃいけないんだ!」

なおも響はクリスに話しかける。

「だって、言葉が通じていれば人間は―――」

「うるせえ!」

突如としてクリスが叫ぶ。

「分かりあえるものかよ人間が。そんな風に出来ているものか!」

響の言葉を真っ向から否定して、クリスは叫ぶ。

「気に入らねえ気に入らねえ気に入らねえ気に入らねえ!わかっちゃいけえことをべらべらと口にするお前がぁぁああ!!!」

「分かりあえるさ」

だが、そんなクリスの言葉を否定する者がいた。

クローズだ。

「俺はそれを見た!例え敵だったとしても、ちゃんと理解してやれば分かりあえるんだ!例え仲間を殺した相手でも、許せなくても、気持ちが同じなら必ず通じ合える。俺はそれを見てきたッ!」

クローズはクリスに向かって指を突き付ける。

「俺の名前は万丈龍我!仮面ライダークローズ、そして『プロテインの貴公子』だ!そんで、今からお前を止める男だ!覚えとけ!」

「龍我さん・・・!」

胸を張ってそう名乗り出すクローズ。

「ふざけんなよ・・・何がアタシを止めるだ!そんならお望み通り、テメェから潰してやらぁ!アタシの全てを使ってでも、お前の全てを踏みにじってやる!」

クリスが飛ぶ。

それと同時にクローズがボルテックレバーを回す。

「吹っ飛べッ!」

放たれる強力なエネルギー弾。

 

『NIRVANA GEDON』

 

グレートドラゴニックフィニッシュ!』

 

黒弾と龍がぶつかる。

クローズドラゴン・ブレイズを纏った拳で、黒弾を迎え撃つも、思った以上に強力で拮抗してしまう。

「もってけダブルだ!」

「なッ!?」

すかさず、クリスが次の黒弾を叩きつけてくる。

一発だけでもきついというのに、二発連続となると、負荷は恐ろしいものになる。

だが、それでもクローズは――――

「いいぜ・・・来いやぁぁああ!!」

受け止めている黒弾の後ろからもう一発の黒弾が炸裂する。

「ぬ、ぐぉぉぉおお・・・!?」

次の瞬間、その黒弾が炸裂し、クローズの後ろにいた響諸共爆発する。

凄まじい爆風が迸り、周囲を吹き飛ばす。

「はあ・・・はあ・・・お前らなんかがいるから・・・アタシはまた・・・」

巻き起こる土煙。しかしその中に、クローズと響は倒れていない。

「な・・・!?」

「ハァァァア・・・・!!」

いるのは、両掌の間で何かを生成しようとしている響の姿と、またボルテックレバーを回しているクローズの姿だ。

「うわぁあ!?」

だが、響が生成していた何かのエネルギーは爆発、響は吹き飛ばされる。

(やっぱりだめだ・・・翼さんのように、ギアのエネルギーを固定できない・・・・!)

彼女が行っているのは、アームドギアの生成。

「まさか、この短期間でアームドギアまで手にしようというのか・・・!?」

「おい響、なにも武器ってのは剣とかそういうものじゃないんだぜ?」

クローズドラゴン・ブレイズがどこからともなくとんでくる。

「時には、この拳が武器になる事だってあるんだぜ?」

「! そうか!」

響は、その言葉で何か答えを得たのか、掌で生成していたエネルギーを握りしめる。

すると、手首のギミックが駆動する。

「させるかよ!」

すかさず、クリスの刃の鞭が飛んでくる。

それをクローズが掴む。

 

『Ready Go!』

 

左拳を握りしめて、クローズは言う。

「お前に、何があったかなんて、俺には分からないけどな・・・!」

その左拳に、クローズドラゴン・ブレイズが纏われる。

「お前が、その力を何の為に使っているのか分からないけどなぁ・・・!」

「は、離せ・・・!」

クローズは、手の中にある刃の鞭を、思いっきり引っ張る。

「せめてこの拳に乗せた思いだけは受け取っとけや!」

クリスが引っ張られる。それと同時に、響とクローズが飛び出す。

響は腰のブースターで加速し、クローズはドラゴンの放つブレスに乗って、

(最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に―――!)

「今の俺は―――」

(この胸の想いを、伝える為にぃぃぃいいいッ!!)

「―――負ける気がしねぇぇぇえぇえええ!!!」

「あ、あぁぁぁぁああ!?」

 

グレートドラゴニックフィニッシュ!』

 

二人の渾身の一撃が、クリスに叩きつけられる。

その瞬間、鎧の拳が叩きつけられた部分に、明確なひびが入り、龍の一撃が体を抜きぬける。

(馬鹿な・・・ネフシュタンの鎧が・・・)

炸裂した破壊力はそのまま吹き飛ぶ力へ。クリスは一気に石垣に叩きつけられる。

「がぁ・・・あ・・・・」

意識が飛びそうになるほどの強力な一撃。

エネルギーをパイルバンカー方式で拳をぶつけるのと同時に打ち込む事で、事実上の二段攻撃を実現させている。

その破壊力は馬鹿にならず、その一撃は、かつての翼の絶唱に匹敵する程だ。

(なんて無理筋な力の使い方しやがる・・・あの女の絶唱に匹敵しかねない・・・)

その時、体が凄まじい痛みを訴える。

ネフシュタンの鎧が再生している所からだ。

いや、そもそもな話、()()()()()()()()

(食い破られるまでに、カタをつけなければ・・・!)

そうしてクリスが見た先では、響は腕を降ろし、臨戦態勢を解いていた。

まさしく、戦う意思がない事を示すように。

一方のクローズも、同じようにその場で佇んでいた。

「お前・・・馬鹿にしてんのか!?」

そんな二人の行動を、クリスは怒る。

「アタシを・・・雪音クリスを!」

「やっと名乗ってくれたな」

その言葉を待ってたと言わんばかりにクローズは答える。

「ッ!?」

「そっか、クリスちゃんって言うんだ」

そして響からも想定外の言葉が出てくる。

「ねえクリスちゃん、こんな戦い、もうやめようよ。ノイズと違って私たちは言葉を交わす事が出来る。ちゃんと話をすれば、きっと分かりあえる筈!だって私たち、同じ人間だよ?」

それは、紛れもない響の本心だ。

「・・・むなくせんだよ・・・」

だけど、クリスはそれを否定する。

「嘘くせぇ・・・青臭え・・・!」

その言葉にさらに怒りを掻き立てられ、クリスは響に殴りかかる。

それを、クローズが防ぐ。

「龍我さん!」

「こんなに言ってもまだ分かんねえのかよ!」

「信じられるかよ!」

クリスの猛攻がクローズを襲う。それをクローズは後退しながら防ぐ。

激しく叩きつけられる猛攻を、クローズは冷静に対処していく。

「オラァ!」

「ぐっ!?」

横に蹴り飛ばされる。

その最中、クリスは、鎧が徐々に再生する様子を見る。

(くそ、これ以上は・・・)

「クリスちゃん・・・」

そこで響が、クリスに向かって手を伸ばす。

(まだ、そんな絵空事を・・・)

その響の行動に、クリスはついに――――

「―――吹っ飛べよ!」

 

―――奥の手を取り出した。

 

「―――装甲分解(アーマーパージ)だ!」

次の瞬間、周囲に鉛玉の入った手榴弾の如く、パージされた鎧が飛び散る。

「うおあ!?」

「きゃあ!?」

周囲の木々が吹っ飛んでいく最中、二人は聞いた。

 

「―――Killter Ichaival tron―――」

 

「―――ッ!?」

「これって・・・」

それは―――聖唱――――

 

 

―――ドクン―――

 

 

(なんだ・・・今のは・・・)

その歌が聞こえた瞬間、クローズの―――万丈の中で、何かが起きる。

 

「―――見せてやる、『イチイバル』の力だ」

 

クリスがそう答えた瞬間、クリスを、真っ赤な装甲が装着される。

それはまるで、鮮血のようであり、彼女の心を現しているのかもしれない。

「ぐぉ・・・ぁ・・・!?」

クローズは身の内で暴れ出す力の奔流を感じていた。

(なんだよこの力・・・制御出来ねえって訳じゃねえが、アイツの歌を聞いた途端、力が湧きあがってきやがった・・・!?)

その理由がさっぱり分からず、その間にもクリスは自らのアームドギアを展開していた。

「歌わせたな・・・」

「え?」

「アタシに歌を唄わせたな!」

クリスが響に向かって叫ぶ。

「教えてやる・・・アタシは歌が大っ嫌いだ!」

「歌が、嫌い・・・?」

クリスが構えるアームドギアは『ボウガン』

見ての通り、遠距離武器だ。

 

「――――傷ごとエグれば忘れられるってコトだろ?」

 

歌が、始まった瞬間、クリスのボウガンから一斉に複数の光の矢が射出される。

「うっわ・・・!?」

それを躱す為に走り出す響。

だが、クローズは動いていない。

「龍我さん!?」

それに驚く響。

そのまま矢の何本かが、クローズに殺到する―――かと思われた時、

「―――嘘つくんじゃねえよ」

次の瞬間、クローズは拳を振りぬいていた。

その拳が振るわれた瞬間、突風が舞い、矢はまとめて逸れてクローズに直撃せずに後方で炸裂する。

「な・・・!?」

「こんなにすごい歌唄えんのに歌が嫌いだぁ?冗談じゃねえ・・・!」

 

―――力が漲る。魂が、震える―――

 

突き出した拳を握りしめたまま、クローズはクリスに向かって咆える。

「こんなに力が漲る歌を、魂が震える歌を、嫌いだと?んな訳ねえ・・・」

「テメェ、何を言って・・・」

「こんなにも魂籠った歌を唄える奴が、歌を嫌いな訳がねえ!」

愛と平和の為にライダーシステムを創った戦兎のように、それを設計した戦兎の父親のように、創り上げたものには、そうあってほしいという願いがあった。魂が、込められていた。

彼女の歌は、それと同じくらい、魂がこもっていた。

 

例え、それに込められた想いが、何かに対する憎しみだったとしても。

 

「それを俺が証明してやる・・・!」

クローズが大地を踏みしめ、クリスを睨みつける。

「今の俺は、負ける気がしねぇ!」




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!

「筋肉をつけろ筋肉を!」
「じゃあ筋肉馬鹿!」

ぶつかり合うクローズとクリス。

「ふざけんなぁ!」

戦火の如き歌を唄い、銃を乱射するクリス。

「それがお前の戦う理由かよ!」

青い龍を轟かせて、拳を叩きつけるクローズ。

「もう貴方に用はないわ」

そして、その最中に姿を見せる、謎の女性は――――

次回『終わりの名を持つアンノウン』

「待てよ・・・フィーネ!」







ちょっとした余談。

響「いいですか?服は私がやるので、戦兎先生は雑誌とかを片付けてください」
戦「へーい」
~掃除中~
戦「ん?なんだこれ・・・こ、これは・・・!?」
翼「ッ!?そ、それだけは見るなぁぁああ!!」
戦「ぐぼあ!?」同じ場所にびんた炸裂。
響「え!?うわぁ!?・・・ん?何々?数量限定風鳴翼セクシーグラビア写真集・・・!?」
翼「わざわざ読み上げるな!」
響「あうち!?」松葉杖で小突かれる
戦「想像以上にエロかった・・・」
翼「言い残す事はそれだけか?」
戦「ごめんなさい許してください」
翼「誰が許すかぁ!」
戦「アー!」



一応有名人で女性なんだからこういうのもありえると思うんDA☆




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終わりの名を持つアンノウン

ク「仮面ライダークローズこと万丈龍我と、アタシ、シンフォギア『イチイバル』の装者である雪音クリスは、互いの意志のままにぶつかりあったのでした」
響「ちょっと待ってクリスちゃん!?なんで私が入ってないの!?」
ク「お前前回あんまり活躍してないだろ?」
響「酷い!?クリスちゃんに自己紹介したり龍我さんと一緒にクリスちゃん殴り飛ばしたのに!」
ク「それはアタシへの当てこすりのつもりか?」イチイバルを構える
響「あぁああ!?ごめんなさい!」
翼「落ち着け雪音。立花も悪気があっていった訳じゃないんだ。許してやってくれ」
ク「まあ先輩がそう言うなら・・・」
戦「そして!この天才物理学者にしt」
万「お前もそんなに活躍してないだろ」
戦「主役なのに!?」
未「まあ仕方がないですよ。私も登場ほんのちょっとだったんですから」
ク「まあいい。今回はついにフィーネがこいつらの前に姿を現すぞ」
戦「こんな所でネタバレすんじゃないよ!さあどうなる第十三話!」


「ウォリヤァァァアア!!」

雄叫びを上げて、クローズはクリスに向かって走る。

「馬鹿正直に突っ込んでくるとは馬鹿か!」

「馬鹿じゃねえ!筋肉をつけろ筋肉を!」

「じゃあ筋肉馬鹿!」

クリスの放つボウガンから矢が射出される。

それらが一気にクローズに殺到し、直撃する。だが、クローズは止まらない。

「な!?」

「オラァ!」

クローズの拳がクリスに叩きつけられる、かと思いきや紙一重で躱し、その脇腹にボウガンの一撃を叩き込む。

「ぐ・・・おぉぉお!」

しかし怯む事なくクローズはすかさず、蹴りを振るうも、それをバク転で躱される。

距離を取ったクリスは、すかさずボウガンを変形する。

 

その形は―――二門三連ガトリングが一つずつ。

 

「んなッ!?」

 

BILLION MAIDEN

 

放たれる弾丸の嵐。それをクローズは両腕を交差させる事で真っ向から受ける。

「ぐぅ・・・この程度で、俺が止まると思うなぁ!!」

またしてもクローズは弾丸の嵐を突っ切ってくる。

(無茶苦茶かよ!?)

明らかにネフシュタンの鎧の時よりも強く感じる。

振るわれる拳、顔面を狙ったその一撃を、クリスはどうにか躱し、だが、続く蹴りは避け切れず、蹴り飛ばされる。

「ぐぅ・・・!?」

一瞬、顔をしかめる。だが、すぐに気を持ち直したクリスは、飛んで追撃してくるクローズに腰部アーマーから展開した小型ミサイルを解き放つ――――

 

CUT IN CUT OUT

 

追尾性があるのか、小型ミサイルはクローズに殺到する。

「ぐぉぁぁああ!?」

ミサイルは全て直撃する。爆炎をまき散らし、直接喰らったクローズはそのまま落ちていく―――筈だった。

「ま・・・だ、まだぁぁぁああ!!」

「なっ!?」

なんと、ミサイルを喰らってもなお、クローズの勢いは衰える事なくクリスへと向かっていた。

「くそ!」

ガトリングガンをすぐさまハンドガンへと変形。クローズを迎え撃つ。

クローズの拳が顔面のすぐ横を掠め、その胸に拳銃の銃口を押し当て、トリガーを引く。

フルオートで射出される弾丸が何発もクローズの胸部に叩き込まれる。

しかし、それではクローズの装甲を貫く事は出来ず、すかさず放たれた蹴りが脇腹に直撃し、地面に向かって落とす。

「がっは・・・!?」

「おぉぉおお!!」

クローズが落下しながら、クリスを追撃する。だが、クリスはすでにその手にライフルを構えており、そこから放たれる必殺の一撃がクローズの腹を穿つ。

「があ!?」

直撃はやや右より、しかし直撃した事によって回転、吹き飛び、クリスから数メートル離れたところに落ちる。

「ぐ・・・くぅ・・・」

「こん・・・の・・・」

よろよろと立ち上がるクローズとクリス。

「なんだよ・・・なんなんだよさっきから!」

すかさずガトリングの乱射が始まる。

クローズはそれを横に走りながら躱す。

「くそ!」

それを銃口を向けながら追いかけ、そして小型ミサイルをまた放つ。

何度も炸裂する小型ミサイルを躱しながら、クローズは何かを投げる。

「ッ!?」

それをガトリングガンをかざす事で防ぐ。それは―――石だ。

「石・・・!?・・・はっ!?」

その一瞬の隙で、クローズはクリスに接近する。

飛び上がってボレーキックを放つも、しゃがんで躱される。しかし次の空中回転後ろ回し蹴りは当たり、吹き飛ばされる中、反撃に放ったガトリングがクローズに殺到する。

「ぐぅ・・・!?」

銃弾の雨を受け、膝をつくクローズ。

「ハア・・・ハア・・・中々やるじゃねえか・・・!」

(なんなんだよ、さっきから・・・!)

何故、この男はこんなにも楽しそうなのだろうか。

「もっと聞かせてくれよ。お前の歌をよ・・・」

(こいつまさか・・・アタシの歌で強く・・・!?)

まさか、と思う。

この歌に、そんな力があるとは思えない。

 

壊す事しかできない、自分の歌になんて。

 

「―――ッ!!」

ガトリングを乱射する。

それをクローズは掻い潜る。ある程度近付かれた所でガトリングからボウガンに変形。

拳が振るわれる。躱してボウガンを撃つ。今度は躱される。

蹴りが迫る。下がって躱す。続く二撃目をさらに下がって躱して見せる。

距離が、出来る。

「「―――ッ!!」」

クローズがボルテックレバーを回す。クリスが巨大ミサイルを二基展開する。

 

グレートドラゴニックフィニッシュ!』

 

MEGA DETH FUGA

 

クローズが拳に乗せて放ったクローズドラゴン・ブレイズがクリスに、クリスの放った巨大ミサイル二基がクローズに、衝突する事なく、互いに直撃する。

「「ぐあぁぁああぁあ!?」」

凄まじい爆発が巻き起こる。

「龍我さん・・・クリスちゃん・・・どうして・・・・」

そして、その激しさに響は立ち入れないでいた。

「あーあー、あの馬鹿。派手にやりまくりやがって」

「え・・・」

聞き覚えのある声がしたと思うと、そこにはホークガトリングフォームのビルドがいた。

「戦兎先生!」

「遅れて悪いな。話は風鳴さんから聞いてる。もう一つのシンフォギアだろ?」

「はい。イチイバルっていうらしいです」

「みたいだな」

ビルドは鷹の眼の能力で戦況を見ていた。

「あの、戦兎先生・・・」

「止めたい、だろ?大丈夫だ。あの馬鹿はそもそも倒すためだけに戦っている訳じゃない。万丈には万丈なりのやり方って奴があるんだよ」

その言葉の意味を、響は理解できず首を傾げる。

だが、その言葉の意味を響はすぐに理解する事になる。

 

互いの大技を喰らったクローズとクリスは、その身をボロボロにして向かい合っていた。

「くそ・・・なんなんだよ、さっきから・・・!」

こうもボロボロにされて、同じようにボロボロにされているクローズを見て、クリスは悪態を吐く。

「なんで・・・倒れないんだよ・・・!」

「なんで?決まってんだろ」

クローズは、よろよろとクリスに向かって指を差す。

「テメェを止めるためだよ」

「アタシを・・・止めるだと?」

「そうだ」

「ハッ!何を言うかと思えば、お前もアイツと同じ甘ちゃんかよ。いいか、アタシは大人が大っ嫌いだ!力を振りかざして弱者を蹴落とす!いつも自分の事しか考えてねえ!お前だってそうだ!お前だって自分の力振りかざして見せつけて、力を見せびらかしたいろくでなしなんだろ!?なあ!?」

クローズを責め立てるように、クリスは怒鳴り散らす。

だが、それにクローズは静かに答える。

「・・・確かに俺はろくでなしだ。八百長に手を出して、()()を死なせちまって、馬鹿で間抜けで、冤罪で捕まって・・・一人じゃなんにも出来ねえ馬鹿野郎だ。けどな、そんな俺でも、誰かの役に立ちたいって思うんだよ!」

拳を胸に当てて、クローズは叫ぶ。

「愛と平和を胸に生きて、俺は戦えねえ奴の為に戦う!そんでもってお前を止める!」

桐生戦兎という男を見てきた。その男が掲げる信念をいつも間近で見てきた。

だからこそ、彼も掲げる愛と平和。

 

何故なら、『仮面ライダー』とは、そのためにあるのだから。

 

「愛と平和だと・・・?」

その一方で、クリスは肩を震わせていた。

「ふざけんなぁ!」

「ッ!?」

クリスがガトリングを乱射する。

「何が愛だ!何が平和だ!そんな寝言は寝てから言えよ!そんな事言って、お前もまたアタシを独りにさせるんだろうがぁぁぁあ!」

ガトリングから大量の弾丸が吐き出され、それがクローズに殺到する。

さらにダメ押しで小型ミサイルを乱射。追尾性のあるそれらが一気にクローズを襲いまくる。

「ちくしょう!そんな事言う奴から死んでいくんだ!パパもママも死んじまうんだ!皆、皆アタシを独りにする・・・アタシから遠ざかっていく!だからもう、誰も、こんな思いをしないように、アタシは力を持つ奴全員ぶっ潰すんだぁぁあああ!!」

 

「―――それがお前の戦う理由かよ」

 

「ッ!?」

気付けば、クローズはクリスの背後に回り込んでいた。

「くっ―――!?」

すぐさま振り返ってガトリングで薙ぎ払おうとしたが、それよりも早くクローズがクリスのガトリングを持つ手を掴んで懐に踏み込んだ。

「くそ!離せよ・・・!」

「離さねえ」

「離せよ!」

()()()()()の手を離せるかよ!」

「―――ッ!?」

クローズが言った事で、クリスは、自分が泣いている事に気付いた。

頬を伝う、熱い液体。それが、彼女の興奮して赤く染まった白い肌を滴っていた。

「う・・・うるさい!」

クリスは、振り払うように腕に力を込める。だが、クローズの力が予想以上に強く、動かす事は出来ない。

(なんなんだよ・・・なんなんだよこいつは・・・!)

何故ここまで踏み込んでくる。何故ここまで近づいてくる。何故ここまで、全力でぶつかってくる。

分からない分からない。

この男の行動全てが分からない。

「なんなんだよ、お前は―――」

「俺の名前は万丈龍我!そして、愛と平和の戦う『仮面ライダー』だ!二度も言わせんな!」

そう名乗るクローズ。その迫力に、クリスは思わず動きを止めてしまう。

複眼越しから、彼の真っ直ぐな視線を感じる。

その想いを感じてしまう。

そのまま硬直し、二人の視線が交じり合う。

 

その時―――

 

「避けてください!」

「ッ!?」

突如聞こえた響の声に、クローズは慌ててクリスを抱えて前に飛ぶ。

次の瞬間、先ほどまで二人がいた場所に飛行型ノイズが落下してきて、その地面を抉り飛ばした。

「なんだ!?」

「あれは・・・ノイズ・・・?」

気付けば、空中には大量のノイズが空を埋め尽くすほどに出現していた。

「んだよあの数!?」

「万丈!そいつは任せた!」

クリスを抱えるクローズの前に、ビルドと響が立つ。

「あの数、一体どこから・・・・」

響がそう呟いた時――――

 

「――――命じた事も出来ないなんて、貴方はどこまで私を失望させるのかしら?」

 

どこからか聞こえた声。それに、彼らは一層警戒を強める。

「あそこだ!」

ビルドが見つけた先に、それはいた。

海が見える海岸の手摺。そこに、一人、黒いコートと蝶の飾りがついた帽子を被り、金色の長髪を靡かせる女性がいた。

その手には、以前クリスが持っていた杖『ソロモンの杖』が握られていた。

「フィーネ・・・」

クリスが、その女性の名を呼ぶ。

「フィーネ?なんじゃそりゃ?」

「フィーネ・・・確か、音楽でいう所の終止記号の名前だったような・・・」

「フィーネ・・・終わり・・・」

四人の視線が、女性―――フィーネに向けられる。

だが、クリスは一度クローズを見ると、その腕から逃れ、フィーネに向かって叫ぶ。

「こんな奴がいなくたって、戦争の火種くらいアタシ一人で消してやる!そうすれば、アンタの言うように、人は呪いから解放されて、バラバラになった世界は元に戻るんだろ!?」

「呪い?なんだそれは・・・」

物理学者であるビルド―――戦兎に、呪いなどのオカルトはよくわからない。

もちろん、クローズと響にも分からない。

「――――はあ」

ふと、フィーネが溜息を零した。

「もう貴方に用はないわ」

「え・・・」

その言葉に、クリスは言葉を失う。

「な、なんだよそれ・・・!?」

しかしフィーネは答える事なく、片手を掲げた。

すると、周囲に散らばったネフシュタンの鎧が粒子化、フィーネの掲げられた手に集まっていき、やがて消えていく。

そして、杖を掲げると、上空のノイズが一斉に襲い掛かってくる。

「うわ!?」

「チッ!」

響は慌てて避け、ビルドはホークガトリンガーで応戦。

「待てよ・・・フィーネ!」

「あ、おい!」

その間に、クリスが走り出す。

その後を、クローズが追いかける。

「あ、クリスちゃ・・・」

「アイツの事は万丈に任せて、とにかく俺たちはノイズを片付けるぞ!」

ビルドがホークガトリンガーを乱射しながら響にそう叫ぶ。

「わ、分かりました!」

響もビルドの言葉に頷くも、一度クリスとクローズが行ってしまった方を見る。

(クリスちゃんの事、よろしくお願いします!)

「あ、馬鹿!余所見すんな!」

「え・・・」

だが、見てしまった事が命取りだった。

飛翔型がその身を槍状にして襲い掛かってきたのだ。

その距離と態勢では、迎撃するのは難しい。

(しまった・・・!?)

ノイズが、響に直撃する―――粉塵が巻き起こり、凄まじい衝撃が迸る。

「響ぃ!」

ビルドが叫ぶ。

舞い上がる粉塵。その中で、見たものは―――何かの壁だった。

「壁・・・?」

「―――剣だ」

「ッ!?」

上から声が聞こえ、見上げれば、そこには、巨大な剣の上に佇む風鳴翼の姿があった。

「おまっ―――遅いんだよ!」

「それについては申し訳ない。ただ抜け出すのに時間がかかってしまった」

謝罪する翼。

「ったく、無理すんじゃねーぞ」

「分かっている」

「翼さん・・・」

「気付いたか、立花。だが私も十全ではない。―――力を貸してほしい」

翼から、初めて頼られる。それが、響にとってどれだけ嬉しい事か。

「はい!」

響からの心地良い返事をもらった所で、翼はあの二人が走っていった方を見る。

(あの少女、イチイバルの事もあるが、今はノイズの殲滅が優先・・・そっちは任せたぞ、万丈)

すかさずノイズが翼に向かって突貫。しかし、翼は巨大な剣から飛びなり足のブレードを使ってそのノイズらを切り刻む。

 

「―――去りなさい。無想に猛る炎」

 

次の瞬間、空から無数の剣が降り注ぎ、それよりも下にいたノイズらを一掃する。

 

千ノ落涙

 

落下する翼と入れ替わるようにビルドが飛び立ち、周囲に球状のフィールドを展開する。

 

ONE HUNDRED! FULL BULLET!

 

そして空間内に入ったノイズに向かって銃弾を乱射。一匹残らず、百発の弾丸の元に一層する。

「やぁあ!」

一方、地面に振ってきたノイズに対して、響は真正面から迎え撃っていた。

腕のガジェットをパイルバンカーのように打ち込む事によって拳の威力を高め、敵を粉砕していく。

その威力は、まさしく一撃必殺、雷を打ち込むが如くの威力であり、初めてギアを纏ったときとは見間違えるような動きでどんどんノイズを粉砕していく。

「良い動きだ。見間違えるようだぞ」

「ありがとうございます!風鳴師匠のお陰です!」

「おじさまが鍛えたのなら納得だ!」

まだぎこちない連携だが、以前より遥かに噛み合った動きで翼と響はノイズを倒していく。

「勝利の法則は、決まった!」

ビルドがビルドドライバーのボルテックレバーを回す。

 

『Ready Go!』

 

ボルテックフィニッシュ!』

 

「ハァァアアア!!!」

空中で加速したビルドが放つ飛び蹴り。それは一条の槍となりて、直線状のノイズを全て殲滅する。

「翼さん!」

「ッ!」

翼の背後からノイズが襲い掛かる。

その攻撃を翼は飛んで躱し、響の上空を飛び越えた時、

「立花!」

「っ!はい!」

開いたガジェットをさらに引っ張り、肘にまで伸ばすと、響は脚部のパワージャッキを伸ばし、それを地面に叩きつける事で加速、拳を引き絞り、そのノイズに向かって渾身の一撃を叩き込む。

その一撃を叩き込まれたノイズはたちまち木端微塵になり、炭となって消える。

『全てのノイズの消失を確認しました』

「万丈たちの行方は?」

『すみません。先ほどロストしてしまいました・・・』

「いいや、大丈夫。あの馬鹿の事だ」

友里の申し訳なさそうな声にそう返しつつ、ビルドは、クローズが置いていったであろう通信機を拾う。

「それなりに考えて行動してるはずだ」

戦いが終わり、残ったのはこの森の惨状。

そして、万丈の通信機。

(あの少女の事は万丈に任せるとして・・・俺は俺で、やれる事をやっておくか・・・)

視界に映る、響と翼。

駆け寄る響と笑いかける翼の二人に、仮面の下で顔を()()()()としつつ、戦兎はあのフィーネという女性の事を考える。

(あの女、どこかで・・・)

言いようのない既視感(デジャヴ)を感じながら、ビルドは、思考を巡らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――イチイバル・・・北欧の神ウルの弓にして、第二号聖遺物、か・・・」

資料を読み漁り、戦兎はそう呟く。

「あの少女・・・雪音クリス、だっけ?一体どんな奴なんだよ?」

指令室にて、戦兎はそう尋ねる。

「雪音クリス・・・二年前行方知れずとなった、ギア装着候補の一人だ。そして、バルベルデ共和国にて、内戦で両親を殺害された戦争孤児だ」

「戦争・・・」

その言葉に、戦兎は苦い顔をする。

かつて、戦争の火種となったライダーシステムを作った本人であるがゆえに、戦争という言葉は戦兎の心に強く響く。

「まさか、イチイバルまで敵の手に・・・」

「二年前か・・・ライブ会場の惨劇といい、なんで二年前の物が出てくるんだよ・・・ああ、最っ悪だ」

「何かの因縁か、誰かの策略かは分からんが、とにかく放っておく事は出来ない」

「しかし、聖遺物を力に変えて戦う事において、我々の優位性は完全に失われてしまいました」

「敵の正体・・・フィーネの目的は・・・」

「その手の資料があればな。当然ネットには出てねえと思うし」

「そういえば龍我君、通信機置いてあの少女の事を追いかけてるんでしょうけど、大丈夫かな・・・」

「あの馬鹿なら何の問題もねえよ」

「だといいのだけれど・・・」

そこで、扉が開いて響と翼のメディカルチェックをしていた了子が戻ってくる。

「深刻になるのは分かるけど、シンフォギアの装者は二人とも健在、さらに仮面ライダーもいるんだから、頭を抱えるにはまだ早すぎるわよ」

そう言う通り、響も翼、戦兎も無事だ。行方が分からなくなった万丈は怪我をしていてもあの程度でくたばるような根性なしではない。

だから、そこまで心配する事はでない。心配事があるとすれば、あの少女の事だろう。

「翼、全く、無茶しやがって」

弦十郎の言い分は、まだ入院している必要のある翼に対する咎だろう。

「独断については謝ります。ですが、仲間の危機に伏せっている事など出来ませんでした。立花は未熟な戦士です。半人前ではありますが、戦士に相違ないと、確信しています」

「翼さん・・・」

思ってもみなかった翼からの言葉に、響は驚く。

「完璧には程遠いが、立花の援護ぐらいは出来るかもな」

体の調子を確かめつつ、翼は響にそう言う。

「・・・私、頑張ります!」

そして期待に応えるという意気込みをするかのように、響はそう返した。

「響君のメディカルチェックも気になる所だが・・・」

「ご飯を食べて、ぐっすり眠れば、元気回復です!」

「どんな理論だそりゃ・・・」

呆れる戦兎。だが、その思考は別の事に回っていた。

(雪音クリスのシンフォギア・・・二年前のライブ・・・ライブの目的は、確かネフシュタンの鎧の起動実験であり、その時にイチイバルも盗まれた・・・その事は、おそらく日本政府でも一部の人間しかしらず、アメリカ政府も知る由もない筈だ・・・だとすれば、この一連の事件の犯人はおそらく――――)

「にょわぁぁああなんて事をぉぉおお!?」

突然、響が悲鳴を上げるものだから強制的に思考が中断させられる。

「なんだ!?」

「いや、単純に櫻井女史が立花に悪戯しただけだ。気にするな」

「あ、そう・・・」

(その程度の事で思考中断させられたのか俺はぁぁあ!?)

まさかの展開にダメージを受ける戦兎。

「響ちゃんの心臓にあるガングニールの破片は、前より体組織と融合しているみたいなの。驚異的なエネルギーと回復力は、そのせいかもね」

「融合・・・ですか・・・?」

「「―――!」」

その発言で、戦兎と翼は同時に了子を見た。

(融合・・・?それってかなりやばいんじゃないのか・・・なのになんでコイツはこんな平然としている?)

実際に経験した事はない。だが、人体において本来ありえないものとの融合は、かなり危険の筈。

それが、果たして未知の産物である聖遺物と融合して、果たして無事でいられるのだろうか。

(了子さん・・・貴方は一体・・・?)

戦兎は、了子の事を、じっと見ていた。

 

 

 

 

 

その一方で、

「ハア・・・ハア・・・」

クリスは、走っていた。逃げる為に、あの、化け物から逃げる為。

「くそ!なんだってこんな事に・・・!」

どれだけ走っても走っても追いかけてくる。まるで体力が無尽蔵であるかのように。

ギアは解除され、あとは自らの力で走るしかない。

走って逃げて逃げ続けて、それで曲がる路地。すぐに傍の物陰に隠れて、追手をやり過ごそうとする。

音が聞こえる。その音が一度止まり、また動き出すような音が聞こえ、遠ざかっていく。

「・・・・・ほっ」

どうやら行ったようだ。

「やっと巻いた・・・」

疲れを知らないのかという程で追いかけてくるものだからすっかり疲れてしまった。

だが、ここで立ち止まる訳にはいかない。

「すぐに、フィーネの所に行かねえと・・・」

「キュイ!」

「うわぁ!?」

目の前に、ソイツはいた。

小さくて青い、四角い胴体を持った小さな竜。

自らの主人の、自分の居場所を知らせる化け物。

「くそ!なんなんだよぉ!」

その小さな化け物から逃げるように走り出したクリスだが、

「やっと捕まえた」

「ッ!?」

駆け抜けようとした途端に何者かに捕まる。

その何者かとは言うまでもない。

 

―――万丈だ。

 

「しばらくドラゴンが追いかけてくれっから、飯買ってきておいてやったぞ」

「キュルッキュイ!」

「は、はあ!?」

こちらが必至になって逃げている間に、そんな悠長な事をやっていたのか。そしてなぜかドラゴンは誇らし気だ。

「お前、どこまでアタシの事を馬鹿にするつもりだ!?」

「馬鹿じゃねえよ筋肉をつけろ」

「お前の事じゃねえよ!?」

ダメだ。こいつはすさまじいまでに頭が悪い。

そんな事を考えていると、目の前に何かが突き出される。

 

あんパンだ。

 

「・・・」

「腹減ってるだろ?」

「ば、馬鹿にすん――――」

 

ぐぎゅるるる・・・・

 

「・・・」

「ほら見ろ。食っとけよ」

「キューイ!」

バナナを食べながら、万丈はクリスにあんパンを押し付ける。

だが、クリスは尚も万丈を睨みつける。

「別に毒とか入ってねーぞ?すぐそこのコンビニで買ってきたんだからよ」

「信用できるか!敵の与える食いもんなんて!」

走り出すクリス。

「あ、おい!」

その後を万丈はバナナを食いながら走り出す。

(くそ!なんで振り切れないんだ!)

万丈はなおもバナナを食いながら追いかけてくる。バナナを食いながらである。

だというのスピードが一切衰える事なく追いかけてくる。

「ちくしょぉぉぉおお!!ついてくんな変態ー!」

「変態じゃねえよ!?何言ってんだ!?」

幸か不幸か、おまわりさんはこなかった。

 

 

 

「ハア・・・ハア・・・」

「大丈夫か?牛乳飲むか?飲みかけだけど」

「・・・!」

それを聞いてすぐさま万丈から牛乳を奪い取って飲み干す。

「お、なんだ飲みたかったんじゃねえか」

「勘違いすんな。これに毒が入ってないから飲んだだけだ」

「コンビニで買ってきたもんにどうやって毒入れんだよ・・・」

もちろん、万丈にそんな頭はないのだが、それをクリスが知る由もないのは当然の事である。

それと、さっきからクリスの頭の上を飛び回っているクローズドラゴンはあの赤色の姿から青色に戻っている。

(どーなってんだこりゃ・・・)

以前までは普通のクローズで戦っていた。だがそれでは勝てないと思い、グレートクローズでクリスと戦ったわけだが、どういう訳か変身を解除した途端、金色だったグレートドラゴンエボルボトルが黒く変色してしまったのだ。

まるで力を失ったかのように。

とにかく、これでグレートへの変身は出来なくなった。

今後はいつも通り、通常のクローズで戦う事になるだろう。

「・・・ってか、お前食いかけなら食べるのかよ」

「毒が入ってるかもしれないからな。もしくは睡眠薬でアタシを監禁するかもしれねえし」

「しねーよそんな事。てか、食いかけ食うってハイエナか」

「アタシは死肉を漁ってんじゃねーよ!?」

万丈は仕方がなくあんパンを一つ開けて人齧りしてからクリスに渡す。

それを奪い取るようにクリスはそれを受け取り、一気に口に頬張る。

「言っておくが、礼は言わねえからな」

「分かってるっつーのんな事。もともと礼言われる為に買ってきたんじゃないんだからよ」

「はっ!どーだか」

鼻で笑うクリス。未だ、万丈に対する信頼はないようだ。

ふと、そこでどこからともなく泣き声が聞こえた。

「ん?」

「なんだ?」

そちらに向かってみると、そこにはベンチに腰掛けて泣く女の子と、そのすぐ傍には男の子が困っているような様子でそこに立っていた。

「泣くなよ!泣いたってどうしようもないんだぞ」

「だって・・・だってぇ・・・!」

それを見て二人が思った事はこうだ。

「おいこら、弱いものを虐めるな」

「何してんだよ」

そう言って二人は彼らに近付く。

「虐めてなんかないよ。妹が・・・」

「うわぁあん!」

声を泣き出す少女。それを見たクリスは腕を振り上げる。

「虐めるなって言ってんだろ!」

「うわ!?」

思わず頭を庇う少年。その腕が振り下ろされる、その前に、何故か少女―――妹が兄とクリスの間に立る。

「おにいちゃんをいじめるな!」

「はあ・・・?」

思わず首を傾げるクリス。

「お前が兄ちゃんに虐められてたんじゃねえのか?」

「違う!」

万丈が聞けばそう言い返してくる。訳が分からず首を傾げていると、兄が説明する。

「父ちゃんがいなくなったんだ。一緒に探してたんだけど、妹がもう歩けないって言ったからそれで・・・」

「迷子かよ・・・だったらハナッからそう言えよな」

「いやお前が早とちりしたんだろ?」

「自分の事を棚に上げて言うな!」

ごもっともである。

「だって・・・だってぇ・・・」

さらにぐずる少女。

「おい、こら泣くなって!」

「おい待て、そこまで言ったら―――」

次の瞬間にはすでに兄の方が妹とクリスの間に入ってきていた。

「妹を泣かせたな」

「あーあー」

「うるっさい!あーもーめんどくせえ!一緒に探してやるから大人しくしやがれ!」

そうしてクリスと万丈による小さな兄妹の親探しが始まる事になった。

 

 

 

 

 

色とりどりの光が輝く街中を歩く万丈とクリス、そして迷子の兄妹。

妹の方は万丈に肩車をしてもらっており、これなら高い視線から親を探しやすいだろう。が、クローズドラゴンに夢中でその手段はすでにアウトになっている。だってドラゴンに視線が行ってるから。

馬鹿ながらに良い発想である。

「~♪」

そんな中で、クリスは一人鼻歌を歌っていた。

「なんだ。歌好きなんじゃねえか」

「は?」

いきなり万丈からそんな風に言われる。

「何言ってんだ。歌なんて大っ嫌いだ。知ってんだろ」

「歩きながら歌を唄ってる奴が、なんで嫌いなんて言えるんだよ」

「うるせえ・・・ママがいつも歌ってたから、それを覚えてただけだ」

「なんだ?お前の母ちゃん歌手かなんかだったのか?」

「まあ、そんな所だ・・・馬鹿やらかして死んじまったがな・・・」

「馬鹿・・・?」

その意味が分からずにいると、

「あ、父ちゃん!」

「ん?」

「あ!」

どうやら、父親が見つかったようであり、交番から出てきた男に駆け寄る。

万丈は妹を降ろし、父親の元に向かわせる。

「お前たち、どこに行ってたんだ?」

「おねえちゃんとおにいちゃんがいっしょにまいごになってくれた!」

「おい」

「違うだろ。一緒に父ちゃんを探してくれたんだ」

「すみません。ご迷惑をおかけしました」

父親が頭を下げて謝罪する。

「いや、なりゆきだからそんな・・・」

「人を助けんのは当たり前の事だ」

その謝罪にそう返すクリスと万丈。

「ほら、二人にお礼は言ったのか?」

「「ありがとう」」

礼儀正しく、頭を下げる兄妹。

「仲良いんだな・・・そうだ。どうすればそんなに仲良くなれんのか教えてくれよ」

そう尋ねると、妹は兄の腕に抱き着き、兄が代わりに答える。

「そんなの分からないよ。いつも喧嘩しちゃうし」

「喧嘩しちゃうけど、仲直りするから仲良し!」

その返事に、クリスはただ黙る。

「理屈じゃねえんだよそういうのは」

隣の万丈がクリスにそういう。

「俺だって戦兎と喧嘩する事はある。だけど、その度に互いの事が知れて、んでもって喧嘩する前より信頼できるようになる・・・あー、なんというか、まあそんなもんだ」

「なんじゃそりゃ・・・馬鹿かお前は」

「馬鹿じゃねえよ筋肉つけろ筋肉を」

「そこじゃないだろ・・・・」

論点が違う万丈の返しに、クリスはやはり呆れる。

「じゃあねー!」

あの後、あの兄妹と別れて、またあの公園に戻る。

「一体いつまでついてくる気だよ・・・」

「実を言うと帰り方が分かんねえだわ」

「キュルッキュ!」

「はあ!?」

ハッハッハ、と笑う万丈に今度こそ驚くクリス。

「お前・・・通信機とかそういうのあるだろ?」

「いやー実は携帯とかその手の奴全部置いて来てさ」

「なんでだよ!?」

本当に馬鹿なのか。

「どうしてそういう大事なもん全部おいてこれるんだよ!?」

「あれがあったらお前の居場所すぐに分かっちまうだろ?」

「はあ?何言ってんだお前・・・」

「なんか良くは分からねえけどよ、お前にはやりたい事があって、んでもって今捕まるのは都合が悪い・・・違うか?」

鋭い指摘。万丈曰くの第六感か。

「それでお前に一体なんのメリットがあるんだよ?」

「メリット?んなもん考えてねえよ」

「はあ!?」

ばっさりという万丈に、クリスは開いた口が塞がらない。

「ななな何も考えてねえてお前馬鹿なのか!?やっぱ馬鹿なのか!?」

「そんな馬鹿馬鹿言うな!」

「いーや馬鹿だ!お前大人の癖に天性の大馬鹿野郎だ!」

よもやこの様な人間がいるだなんて。

自分が今まで見てきた人間の常識が覆るような男がこの世に存在するだなんて。

(いや、これも演技かもしれねえ。アタシの油断を誘って、体よくは裏切って・・・)

「そういやお前なんでボトルなんて狙ってんだよ?」

「誰が教えるか!いいか?アタシとお前は敵同士だ!そんなアタシたちが仲良く情報交換なんてするか?しないだろ?敵だった奴が味方になるだなんてありえねえんだよ」

「いやありえるぞ。実際そうだったし」

「はあ!?何言って・・・」

「いやー、あの時は大変だった。街は壊れるわ敵攻め込んでくるわでさー・・・」

ふと、万丈の顔に影が差す。

「・・・ほんと、色々あった」

「・・・」

その雰囲気に、クリスは、なんとも言えなくなる。

(こいつ・・・何かあったのか・・・?)

憂いのある、万丈の顔に、クリスは自分に近いものを感じた。

「・・・あー、もう!」

ふと、クリスは苛立ちを抑えるように頭を掻き出す。

「しょうがねえ。ついてくるなら勝手にしろ!」

「お、いいのか?」

「お前がどこまでも付いてきそうだからな・・・だけど、付いてきて後悔するんじゃねえぞ」

「はっ、逃げて後悔するより立ち向かって後悔した方が何倍もマシだ」

「そうかよ・・・」

「そんじゃ、改めてよろしくな、()()()

そう言って、万丈は手を差し出す。

「・・・よろしくってどういう事だよ?」

「え?今のそういう意味じゃねえの?」

「どこをどうとったらそうなるんだ!?」

ダメだ。この馬鹿さ加減にはいい加減なれるしかない。

クリスはそう諦めて、踵を返して歩き出した。

その後を、万丈は追いかけていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――装着した適合者の身体機能を引き上げると同時に、体表面をバリアコーティングする事で、ノイズの侵食を保護する機能、更には、別世界にまたがったノイズの在り方を、インパクトによる固有振動にて調律、強制的にこちら側の世界の物理法則下に固着させ、位相差障壁を無効化する力こそ、シンフォギアの特性である。同時に、それが人とシンフォギアの限界であった。

 

シンフォギアから解放されるエネルギーの負荷は、容赦なく装者を蝕み、傷つけていく。

 

その最たるものが、『絶唱』―――人とシンフォギアを構成する聖遺物とに、隔たりがある限り、負荷の軽減はおよそ見込めるものではない。

 

それは、了子自身が定説した櫻井理論でも結論付けられている。

 

 

そんな了子のいる部屋には、どういう訳か、響の映る写真ばかりが飾られていた。

 

 

―――唯一理を覆る可能性があるならば、それは立花響。人と聖遺物の融合体第一号。

 

 

天羽奏と風鳴翼のライブ形式を模した起動実験で、オーディエンスから引き出され、さらに引き上げられたゲインにより、ネフシュタンの起動は一応の成功を収めたのだが、立花響は、それに相当する完全聖遺物『デュランダル』をただ一人の力で起動させる事に成功する―――

 

 

そんな了子が使っているマグカップには、紫の蝶の絵柄―――

 

 

―――人と聖遺物が一つになる事で、さらなるパラダイムシフトが引き起こされようとしているのは、疑うべくもないだろう。

人が負荷なく絶唱を口にし、聖遺物に秘められた力を自在に使いこなす事が出来るのであれば、それはあるけき過去に施されし、()()()()()()()()()()から解き放たれた証。

 

真なる言の葉で語り合い、()()()()()()が自らの手で未来を築く時代の到来。

 

過去からの超越――――だが――――

 

 

ただし、その部屋には、二枚、響ではない人物の写真があった。

 

 

―――突如現れた、聖遺物以外の方法でノイズと戦う者たち、桐生戦兎と万丈龍我。この私ですら知らない超技術をもって、本来触れられない筈のノイズに触れ、そして打ち倒す、シンフォギアに匹敵する力を持つ『ライダーシステム』を持つ者たち―――

 

それを思うと、了子は、握った拳に力を込めた。

 

―――聖遺物ではない未知の物質、()()()の知らないものを駆使して戦う仮面の戦士。

完全なるイレギュラー。

まるで、()()()からやってきた、異界の戦士。

果たして彼らはどこから現れたのか――――

 

「こことは、違う世界からやってきた・・・もしくは、()()()()()か・・・」

 

どちらにしろ、不確定要素である事には変わりはない。

あのボトルの使い方は、彼らの専売特許。しかし、ボトルさえ奪えば――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――二課にある、戦兎の自室―――の前を偶然通りかかった翼は、ふと戦兎の部屋の前で立ち止まった。

(そういえば、雪音を見て何かのアイディアが浮かんだと言っていたが・・・)

一体なんだろう。と思っていたら、

「完っ成だ!」

「うわ!?」

突然の叫び声が聞こえ、翼は思わず驚く。

「か、完成・・・?」

恐る恐る扉を開けてみると、そこには、丁度椅子から立ち上がった戦兎の姿が見えた。

その頭からは、まるで兎の耳のようなくせ毛が飛び出していた。

「クリスの変形する銃器を見て思いついた武器・・・その名も『ブラストモービル』!」

「ぶ、ブラストモービル・・・?」

そう声を漏らした瞬間、戦兎の眼が翼に向いてギラリと光る。

「ひっ」

その眼光は百戦錬磨の翼すらも竦み上げさせる程の威力で、さらには一瞬にして翼との距離を詰め、眼前で矢継ぎ早に赤い長方形の装置―――ブラストモービルについて説明しだす。

ちなみに翼の背後はすでに閉じた扉で塞がっている為逃げられない。

「このブラストモービルの凄い所はな、変形機構『マルチギミックサック』による変形でな、拳銃だけどとんでもない威力の弾丸を連射出来る『ブラストシューター』、グリップ部分を倒して銃口とは反対側からビームソードを出す『ブラストブレード』、二つくっつけて双身刀にする『ブラストデュアルソード』の三段階!凄いでしょ?最っ高でしょ?天っ才でしょ?」

「そ、そうか、それは凄いな・・・アハハ・・・」

もはや狂気染みた戦兎の説明に翼はどうにかしてこの状況から逃れる方法を模索していた。

だが、翼は知らない。

 

戦兎の本当の恐ろしさは、これからだと言う事を。

 

「試したい・・・」

「は?」

折りたたんでいたグリップを起こす戦兎。翼は一瞬何を言っているのか分からなかったが、戦兎が徐々に翼に銃口を向けようとしている事で気が付く。

「まて・・・・待て待て待て!?いくら出来たばっかで気持ちが昂るのは分かるがいくらなんでも人に向ける奴があるか!?」

「科学に犠牲はつきものだ・・・」

「愛と平和を愛する科学者とは思えない発言!?い、いや、待って!お願い!お願いだからそれを向けないで!シンフォギアも纏ってないから!」

恐ろしい笑みを浮かべて涙目の翼に銃口を向ける戦兎。

だが、すぐに笑みを引っ込めて銃口を上に挙げた。

「ま、これを使うにはそれに見合うボトルの成分が必要なんだけどな」

「ほっ・・・」

安堵する翼。

「ボトルの成分というと、何が必要なんだ?」

「ドラゴンともう一つ」

「万丈のボトルと・・・もう一つ?なんだそれは?」

「いやー実は後先考えずに作っちまって、一つはドラゴンなのは分かってんだけど、問題はもう一つ。ベストマッチであるロックフルボトルじゃない何かのボトルが必要なんだが、今持ち合わせてるボトルのどれにも当てはまらないんだよな・・・」

「どれにも当てはまらない?それじゃあどうするんだ?」

「ん・・・諦めるかな?」

「おい」

思わず叩いてツッコミを入れてしまうが、これではせっかくの発明品もお蔵入りだ。

(どうにかならないだろうか・・・・)

隣で悩んでいる戦兎と一緒に考える翼。

だが、考えても思いつく訳がなく、ただ時間が過ぎていくだけだった。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!

フィーネの屋敷にどうにか戻るクリス。

「毛ほどの役に立たないなんて」

しかしそこでフィーネに斬り捨てられる。

「テメェぇぇええ!!!」

そこへ、クローズが乱入する。

「ダメですね・・・」

その一方で、響は未来とすれ違いを起こしていた。

「今のままでもいいんじゃないかな?」

そして鳴り響く警報。

その戦いの最中で、黒くなったクローズのボトルが輝き出す。

次回『激唱!紅のクローズドラゴン!』

激唱戦場!』

「負ける気がしねぇ・・・!」


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激唱!紅のクローズドラゴン!

翼「この間は酷い目にあった・・・」
響「大丈夫ですか翼さん?」
戦「タメシタイ・・・タメシタイ・・・」
ク「お、おいどうしたんだこの馬鹿は・・・なんでこんなゾンビみてえな顔でいるんだよ!?」
万「ああ、新しい発明品が出来たからそれを今すぐにでも試したいんだろ。いつもの事だ」
響「いつもの事なんですか!?」
了「流石にこれはないわね・・・・」
弦「何かあったら俺が対処しよう」
万「任せた」
戦「という訳で、この本によればごく普通の高校生の立花響は、シンフォギア『ガングニール』を纏い、ノイズと戦う運命にあ・・・おい待てこれ別の時空の台本じゃねえか!?」
友「あ、すみませんそれ私が書いた台本です」
戦「アンタかよ!?ていうかそんな時間あったのかよ!?」
友「実は私もちょっとやってみたくて・・・」
戦「本当の台本はどこだよ・・・」
響「あ、それならさっきしr・・・こ、工具ちゃんと農具ちゃんがシュレッダーにかけてたましたけど・・・」
戦「まだ根に持ってんのかよめんどくせえ・・・」
ク「はあ・・・今回は龍我の新フォーム登場回だ」
戦「待てクリス。まだ始めるには早い。なんかこう・・・インパクトというか・・・」
未「えーそれなら私が一発芸を・・・オッスわr」
一同『それは言わせねえよ!?』
未「(´・ω・`)」
響「で、では、第十四話をどうぞ!」


「―――《確かにこちらからの依頼ではあるけれど、仕事が杜撰(ずさん)すぎると言っているの」

かつての豪邸にて、フィーネは電話越しの相手にそう言う。

「《足がつけばこちらの身動きが取れなくなるわ。まさか、それもあなたたちの思惑というのなら・・・》」

『《神ならざる者が全てに干渉るうなど不可能。お前自身が一番分かっているのではないか》」

電話越しに、そのような返事が返ってきた直後、大部屋の扉が勢いよく開く。

「アタシが用済みってなんだよ!?」

クリスだ。

「もういらないって事かよ!?あんたも物のように扱うのかよ!」

そんなクリスをフィーネは冷めた目で見ていた。

「頭の中ぐちゃぐちゃだ・・・何が正しくて何が間違ってるのか分かんねえんだよ!」

それとフィーネは、受話器を電話に置き、通話を切る。

「・・・どーして誰も、私の思い通りに動いてくれないのかしら?」

振り向き様に、フィーネはソロモンの杖を発動。ノイズを呼び出す。

その行為に、クリスは狼狽する。

「潮時かしら?」

「え・・・」

「そうね。貴方のやり方じゃ、争いを無くす事なんて出来やしないわ。せいぜい一つ潰して、新たな火種を二つにばら撒く事くらいかしら?」

「アンタが言ったんじゃないか・・・!」

クリスは、泣きそうな声でフィーネに言う。

「痛みもギアも、アンタがアタシにくれたものでだけが―――」

「私の与えたシンフォギアを纏いながらも、毛ほどの役に立たないなんて」

それは、クリスの全てを否定する言葉。

「そろそろ幕を引きましょっか」

次の瞬間――――扉のすぐ横の壁が吹き飛ぶ。

「テメェぇぇええ!!!」

蒼い装甲の仮面ライダー、クローズだ。

クローズが凄まじい勢いでノイズを消し飛ばし、フィーネに突っ込む。

「お前!?」

「ウオリャァァアア!!!」

クローズの渾身の拳の一撃がフィーネに叩きつけられる。

しかし、その一撃はフィーネに触れる寸前で止められる。

障壁だ。

「これが、どうしたぁあ!!」

もう一方の拳を振り上げて、その障壁を叩き割ろうとする。

「うるさいハエが紛れ込んでいたものね・・・まあどちらにしろ、私の敵ではないが」

「ッ!?」

次の瞬間、クローズの腹に、()()()が叩きつけられていた。

「がっ―――!?」

上空に弾き飛ばされたクローズは、そのままクリスの元まで落ちる。

「おい・・・!」

「ぐ・・・今のは・・・」

気付いた時には、フィーネは、黄金の鎧を身に纏っていた。

「私も、この鎧も永遠に不滅・・・未来は永遠に続いていくのよ」

それはクリスが纏っていたものと細部は違うが、間違いなく『ネフシュタンの鎧』。

青銅の蛇の名を冠する、完全聖遺物。

「『カ・ディンギル』は完成しているも同然・・・もう貴方の力に固執する理由はないわ」

「カ・ディンギル・・・?そいつは・・・」

聞き慣れない言葉。

「カ・ディンギルだか、カードローンだか知らないが、どちらにしろテメエはぶっ倒す!」

クローズは懐から『クローズマグマナックル』を取り出し、すかさずドラゴンフルボトルを装填してドラゴニックイグナイターを長押しする。

 

だが、何も起きなかった。

 

「・・・あれ?」

もう二、三回バンバンと叩いてみるが、やはり何も起きない。

「あれ?あれ?なんでだ!?」

「おい!?どうした!?」

うんともすんとも言わないマグマナックル。

だが、何度かイグナイターを押した所で気付く。

「・・・壊れてたんだった」

「はあ!?」

「やっべえ!?」

完全に失念していたクローズ。

そういえば新世界創造の際に、多くの戦兎の発明品が修理しないと使い物にならない状態になっていたのをすっかり忘れていた。

「ふふ、何をするつもりだったのか知らないけど、貴方たちは知り過ぎてしまったわ・・・」

フィーネがソロモンを向ける。

「くそ!逃げるぞ!」

「え・・・!?」

クリスを抱えて走り出すクローズ。すかさずノイズが二人を攻撃する。

「うぉあぁあ!?」

粉塵が巻き起こり、壁が粉砕される。

どうにか外に転がり出る事は出来たが、クリスは、その最中で見たフィーネの嘲笑うような顔を見て、とうとう、自分は見捨てられたのだと悟った。

「ちくしょう・・・」

さらにノイズが襲い掛かる。

「うぉぉぉおお!?」

それをクリスを抱えたクローズが躱す。

夕焼けにそまる空、その空に、一人の少女の叫びが響く。

「ちくしょぉぉぉぉぉおおおお!!」

 

 

 

 

 

 

 

「あー、ダメだ・・・ブラストモービルに合うボトルの成分がねえ・・・」

一応、ジーニアスフルボトルで調べてみたが、六十本のボトルの成分のどれもが、ブラストモービルに使える成分じゃなかった。

 

補足しておくと、ジーニアスフルボトルは原因不明の故障でビルドアップスターターを押しても一切起動しなかった。

 

あの手この手でどうにかしようと考えたが、結局分からず仕舞いでお蔵入りとなっている。

 

一応、ジーニアスにある浄化能力は備わっているのだが、変身には使えないという状況だ。

 

 

 

「どうしたもんかねえ・・・ああ、最っ悪だ・・・」

彼がそうぼやく理由は、何もブラストモービルの事だけではなかった。

 

雨である。

 

「色々とジメジメするし、湿気は強いし、テンションは下がるし、嫌な事思い出すし、ああ、最っ悪だ」

一つ謎なのは、彼がどういう訳か街に出ているという事だ。

彼は二課の一室を貰い受けてそこで生活したり開発したりしている。

二課はリディアンの真下。教師である彼が街に出る必要はない。

が、それは教師という立場だけの話だ。

 

彼は、教師であると同時に物理学者であり、仮面ライダーだ。

 

だから、発明品に必要なアイテムを作るために、部品を買いに出ているのだ。

「目的の物は買ったし、今日はこのまま・・・ん?」

ふと、戦兎の視界に見覚えのある横顔が見えた。

「アイツは確か・・・」

思い立ったが吉日か、戦兎はその人物に声をかける。

「よっ、早いな」

「戦兎先生・・・」

その人物とは、小日向未来。先日、クリスと響、クローズの戦いに巻き込まれた少女だ。

だが、その表情は浮かなかった。

「小日向未来だったよな?どうした?何か悩みか?」

「いえ、大した事では・・・」

「そうは見えないんだけどな」

「・・・」

黙り込んでしまう未来。

「・・・もしかして、響の事か?」

「響の事を知ってるんですか!?」

「まあな」

戦兎は、ポケットから一本のボトルを取り出す。ラビットフルボトルだ。

「それは、龍我さんと同じ・・・もしかして・・・」

「ま、そういう事だ」

それをしまって、戦兎は改めて聞く。

「一応、響と職場を同じにする人間だ。ついで今は教師。教師なら、生徒の悩みを聞くことも役割の一つなんじゃないかと思うんだが?」

「・・・」

その言葉に、未来は少し考えて――――

突然、目の前で何かが倒れる。

「ッ!?」

「何!?」

思わず性分故か戦兎が未来を庇うように前に出てしまう。

倒れたのは、ごみ箱だ。そしてそれを倒したのは―――青い装甲を纏った仮面の男。

「万丈!?」

「戦兎か!?」

思わぬ形で再会を果たす二人。

「お前今までどこに・・・」

「そうだ戦兎!どこでも良いからコイツを匿ってくれ!ただし二課はダメな!」

そんなクローズの腕の中には、気絶してぐったりとしているクリスの姿があった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・く・・・・はっ・・!?」

飛び起きるクリス。

そんな彼女の視界に最初に映ったのは、知らない部屋だった。

「ここは・・・」

「キュイー!」

「うわ!?」

目の前でドラゴンが鳴く。

「良かった。目が覚めたのね」

そして、呟く一人の少女。

「びしょ濡れだったから、着替えさせてもらったわ」

気付けば、今の自分の服は誰かの体操着だった。まあ、クリスが体操着というものを知っているかどうかは疑わしいが。

「か、勝手な事を!」

だが、一方のクリスは好き勝手された事に気が付いて声を挙げて立ち上がる。

が、問題は立ち上がった時にあった。

「あ・・・」

「キュイ?」

突如として目の前の少女が顔を赤くする。まあドラゴンは何のことだが分かっていないが。

そして、その反応に疑問を持ったクリスは、すぐに自分が着ているのが上半身のもの()()というのに気が付いた。

「な、なんでだ!?」

「さ、流石に下着の替えまではもってなかったから・・・・」

すぐさま布団にくるまるクリス。

(あれ?そういやあいつは・・・)

「未来ちゃん」

そこで更なる人物の介入。中年の女性だ。

その後ろから、洗濯籠をもって着いてきている万丈の姿も。

「どう?お友達の具合は?」

「目が覚めた所です」

「キュイ!」

「ありがとうおばちゃん。布団まで貸してもらっちゃって」

「気にしないでいいんだよ。あ、お洋服、洗濯しておいたから」

「あ、私手伝います。龍我さんはこの子の面倒を」

「分かった」

「キューイ!」

「あ、クロも手伝ってくれるの?」

「悪いわね~」

「いえ」

なんだか一気に話が進んでしまった。

「よ、具合はどうだ?」

「どこなんだよここは・・・!?」

「未来の行きつけのお好み焼き屋のばあさんの家。いやー良かったぜ。こういう所があってさ」

「・・・」

クリスのすぐ傍に座り、万丈は改めて尋ねる。

「で?具合はどうなんだ?」

「それはお前の方だろ?お前の方がノイズからの攻撃喰らいまくってたし・・・」

「舐めるな。プロテインの貴公子万丈龍我様を舐めんな」

「なんだよそれ・・・」

そろそろ万丈の馬鹿さ加減に慣れてきたクリスは、ふっと笑ってしまう。

「そういや、アイツは・・・」

「ああ、小日向未来って言ってな。まあ、一般人だ」

「一般人・・・ね・・・」

知り合いと言えばいいのに。と思うクリス。

ふと、ベランダで服を干している未来と、その近くで洗濯ばさみを挟む事で手伝っているクローズドラゴンを見る。

「・・・随分と懐いてるんだな」

「ん?ああ、どういう訳か未来にはあんなに懐くんだよ。なんでか知らんけど」

「そうなのか・・・・」

不思議な事もあるものだ。

機械なのに、あんな普通の動物っぽく振舞えるとは。どんな技術なのか。

しばらくすると、服を干し終えたのか、未来たちが戻ってくる。

「それじゃあ、体を拭こうか」

「拭く?」

「体、汚いでしょ?だからね」

どこからともなく桶とタオルを持ってくる未来。

「ほらほら男の人は出てって出てって」

「分かった。分かってるから押すな!」

「クロも」

「キュイ!?」

一人と一匹まとめて追い出される、ふすまを閉められる。

「はあ・・・」

「キュイ・・・」

ドラゴンはかなり落ち込んでいる。未来と一緒にいられないのがそれほど悲しいのだろうか。

だが、そんな中で万丈の腹の虫が鳴る。

「げっ」

「アハハ、お腹が空いてるんだね」

そこでお好み焼き屋のおばさんがやってくる。

「ついてきなさい。今からご飯、作ってあげるから」

「本当か!?悪いな!」

「いいよ。食べなきゃいざって時に力が出ないからね」

そう言っておばさんは階段を下りていき、万丈は嬉々としてその後をついていく。

 

 

だが万丈は知る由もない。

 

 

おばさんには、クリスが万丈の女だと思われている事に――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、どーにか間に合ってよかった」

「何かあったの?」

珍しく疲れた様子で脇に教材を抱えて歩く戦兎とその隣を歩く翼。

「見て、戦兎先生よ」

「それと・・・え!?風鳴翼!?」

「どうして二人が一緒に・・・」

「もしかして、教師と生徒で禁断の・・・」

「待って待って!翼さんは日本が誇るトップアーティストよ!もしそんな事になったら・・・」

「そうよ。それを戦兎先生が弁えていない筈はないわ!」

「でも、距離が近い・・・」

「やめて!そんな事実は知りたくない!」

「「・・・」」

今回は会話が入り込んで二人ともいたたまれなくなってしまう。

「なんか・・・悪いな」

「いや、どっちかっていうとそっちの方だと思うのだが・・・」

「え?」

「え?」

無自覚と無知。

「とりあえず、響でも探すか・・・」

「そうだな」

それについては同意する二人。

そんな訳でやってきた屋上にて、響はいた。

「よ、響」

「戦兎先生・・・翼さん・・・」

響の顔は、やはり暗かった。

朝の未来の事もあり、もしかしたらと思ったのだが、どうやら予想は的中しているようだ。

「・・・私、自分なりに覚悟を決めたつもりでした」

ベンチに座り、響はそう話し出す。

ちなみに戦兎はベンチの腰掛に座っている。

「守りたいものを守るため、シンフォギアの戦士になるんだって。でもダメですね・・・小さな事に気持ちが乱されて、何も手につきません。私、もっと強くならなきゃいけないのに・・・変わりたいのに・・・」

先日、未来は響の秘密を知ってしまった。

二課から、絶対に話してはならない機密情報として、シンフォギア装者となってノイズと戦っている事を隠し続けていた。

だけど、それがバレてしまい、そして、そのせいで関係が拗れてしまったのだ。

それも、かなり深刻な形で。

「その小さなものが、立花の本当に守りたいものなのだとしたら、今のままでもいいんじゃないかな」

ふと、翼がそう答えた。

「立花は、きっと立花のままで強くなれる」

「翼さん・・・」

そして、今度は戦兎からも声をかけられる。

「ま、誰かと喧嘩したっていうんなら、俺も万丈とよく当たってたりしてたな。意見の食い違いだとかで、よくぶつかったりしてた」

空を見上げる戦兎。

「だけど、その度に俺たちは一歩ずつ分かりあえた。お前たちの在り方とは違うけど、それでも、何度もぶつかったから、俺はアイツの事を最高の相棒だって思えるんだ。だからま、何かのすれ違い程度なら、大丈夫だろ?もしダメなら、互いの意見をぶつけ合えばいい」

「戦兎先生・・・」

そう笑って言って見せる戦兎。

「戦兎や奏のように、人を元気づけるのは、難しいな」

ふと、翼がそんな事を言う。

「いえ、そんな事ありません」

その言葉に、響は首を横に振る。

「前にもここで、同じような言葉で親友に励まされたんです。それでも私は、また落ち込んじゃいました。ダメですよね」

なんて言って空を見上げる響。

その様子に、翼と戦兎は、その頬を綻ばせる。

「翼さん、まだ痛むんですか?」

「大事をとっているだけ。気にする程ではない」

「そっか。良かったです」

翼は、未だ杖を使って生活している。まだ、この間の怪我が響いているのだろう。

「絶唱による肉体への負荷は、極大・・・」

自らの全てを燃やし、自分も他者も、それ以外の全てを滅ぼす事の出来る、まさしく滅びの歌と呼ぶに相応しい、心中技。

「その代償と思えば、これくらい安いもの」

ふと、翼は戦兎の方を見た。戦兎は見られた事できょとんとしているが、翼にとっては、思う所があるのだ。

「絶唱・・・滅びの歌・・・でも、でもですね、翼さん!」

響は、立ち上がって翼に言った。

「二年前、私が辛いリハビリを乗り越えられたのは、翼さんの歌に励まされたからです!翼さんの歌が、滅びの歌だけじゃないって事、聞く人に、元気をくれる歌だって事、私は知っています」

「ああ、実際、お前の歌を聞いてると修理や発明がすっげえ捗る。お前の歌は、戦うだけのものじゃないって」

「立花・・・桐生・・・」

「だから早く元気になってください。私、翼さんの歌が大好きです」

そう、自信満々に言ってのける響に、翼は、ふっと笑ってしまう。

「私が励まされてるみたいだな」

「え?あれ?」

「確かにそうだな」

小さな笑い声が、その場に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

一方、お好み焼き屋ふらわー―――の上の階のおばさんの家にて。

「喧嘩かぁ・・・」

万丈が部屋の隅でパッケージに入れられたお好み焼きを食っているのを他所に、いつもの赤いドレス姿に着替えたクリスはそう呟く。

「アタシにはよくわからない事だな」

「俺は色々あったな」

「キュル・・・」

食いながらそう答える万丈と感慨に浸るドラゴン。

「そうなのか?」

「まあな。そういうお前は無かったのかよ。喧嘩する友達とかよ」

「・・・・友達いないんだ」

「え・・・?」

未来が、茫然とそう呟く。

「地球の裏側でパパとママを殺されたアタシは、ずっと一人で生きてきたからな。友達どころじゃなかった」

忘れもしない、あの日の事を。

「そんな・・・」

「たった一人、理解してくれると思った人も、アタシを道具のように扱うばかりだった。誰もまともに相手にしてくれなかったのさ」

憎々し気に、クリスはあの頃の事を思い出す。

「大人は、どいつもこいつもクズ揃いだ。痛いと言っても聞いてくれなかった。やめてと言っても聞いてくれなかった。アタシの話なんて、これっぽっちも聞いてくれなかった・・・!」

泣き喚けば叩かれた。泣くことすら許されなかった。

それは、まだ幼かったクリスにとっては、地獄以外の何者でもなかった。

クリスにとっては、そのころの記憶が全てだった。

「・・・・戦争、か・・・」

「なんだ?まさかお前の気持ち分かるぜ?なんていうつもりか?」

「まあ、俺もそういうのに巻き込まれて、いろんな奴死んでいくのを見たからな」

この腕の中で、大切な人が消えていくのを、見た事があるから。

そして、そんな様子の万丈に、クリスはただ舌打ちする事しか出来ず、その空気に、未来はいたたまれない様子になる。

「・・・なあ」

ふと、クリスが口を開ける。

「お前、その喧嘩の相手ぶっ飛ばしちまいな」

「え?」

「どっちが強ぇのかはっきりさせたらそこで終了。とっとと仲直り。それでいいだろ?」

「大雑把だな」

「うるせえ」

万丈に突っ込まれて口を尖らせるクリス。

「・・・出来ないよ。そんな事・・・」

一方の未来は、顔を曇らせてうつむく。

「ふん、わっかんねーな」

「でも、ありがとう」

「ああ?アタシは何もしてねーぞ?」

未来の言葉が、いささか理解出来ないクリス。

それに、未来は首を振る。

「ううん。本当に、ありがとう。気遣ってくれて」

「キュル!」

「あ、えーっと・・・」

ふと、未来はそこで戸惑う。

未来は、クリスの名前を知らないからだ。

「・・・クリス。雪音クリスだ」

「優しいんだね。クリスは」

未来の言葉が予想外だったのか、クリスは驚き、やがて未来に背中を向ける。

「・・・そうか」

「お前照れてんのか?」

「うるせえ!」

万丈からの茶々が入り、クリスがそれに怒鳴るも、未来は笑う。

「私は小日向未来。もしもクリスがいいのなら・・・」

未来は、クリスの手を取る。

「私は、クリスの友達になりたい」

「・・・・」

その言葉に、クリスは思わず未来を見返してしまう。

だが、クリスはその手を振り切って、部屋を出ていこうとする。だが、ふと立ち止まり、口を開く。

「アタシは・・・お前たちに酷い事をしたんだぞ・・・?」

「え?」

その意味が理解出来ていないのか、首を傾げる未来。

 

だが、その時、けたたましく警報が鳴り響いた。

 

 

―――ノイズだ。

 

 

 

 

 

 

「翼です。立花も桐生も一緒にいます」

『ノイズを検知した。相当な数だ。おそらくは、未明に検知されていたノイズと関連がある筈だ』

「了解しました。現場に急行します!」

『ダメだ』

弦十郎から、何故か止められる。

『メディカルチェックの結果が出ていない者を、出す訳にはいかない』

「ですが・・・」

「大丈夫だ。この天才の手にかかれば、ノイズなんてちょちょいと片付けてやりますって」

戦兎が、翼の肩に手を置いてそういう。

「翼さんは皆を守ってください。だったら私、前だけを向いていられます」

響は、翼に自信満々にそう言ってのけた。

 

 

 

 

 

 

街はまさしく混乱の最中にあった。

「おい、なんの騒ぎだ・・・」

「何って、ノイズが現れたのよ」

「ッ!?」

「警戒警報しらないの?」

今までフィーネと行動を共にしていたからか、クリスにはそんな事知る由もない。

「行くぞドラゴン!」

「キュル!」

「あ、龍我さん・・・!」

当然、万丈はドラゴンを伴って、人が逃げていく方向とは逆方向に走り出す。

「ッ・・・!」

「クリス!?」

さらにはクリスまでもが追いかけるように走り出す。

(馬鹿な・・・アタシってば、何やらかしてんだ・・・!)

視界の隅、小さなぬいぐるみが踏みつけられるのを見た。

(くそったれ・・・・!)

万丈を追いかけて走っていると、すっかり人のいなくなった場所に辿り着く。

「どこにいやがるんだ!」

「ハア・・・ハア・・・」

ノイズを探す万丈と膝に手をついて、呼吸を整えるクリス。

「アタシの所為で関係の無い奴らまで・・・」

それが、無性に申し訳なくて、悔しくて、クリスは空に向かって叫ぶ。

その様子に、万丈は何も言わない。

やがて、クリスは膝をついて、残酷なまでに青い空を見上げた。

「アタシのしたかった事はこんな事じゃない・・・いつだってアタシのやる事は・・・いつもいつもいつも・・・・!う・・うわあ・・ぁぁあ・・・・!!」

「クリス・・・」

泣いて蹲るクリス。

「キュル!」

「ッ!?」

ドラゴンの叫び声で、万丈はノイズが現れた事に気付く。

「クリス!」

万丈が叫ぶ。

「上手くいかない時もある!失敗する時もある!だけど、お前のやってる事全部が間違いな訳じゃねえ!」

ノイズが迫る中、万丈は蹲るクリスを庇うように立つ。

「昨日だって、迷子になってたガキ二人の親探してやってたじゃねえか!それが間違いな訳がない!お前の想っている事も、間違いなんかじゃねえ!」

「お前・・・」

ドラゴンフルボトルを振り、成分を活性化させる。

「これから償っていけばいい。生きてなきゃ、償いなんて絶対に出来ねえんだからよ!」

そのフルボトルを、クローズドラゴンに差し込む。

 

Wake Up!』

 

「戦争を止めるって想いも間違いじゃねえ。それで悔しがるのも悪い事じゃねえ!だけど、戦争を止めようと今まで必死に頑張ってきたんだろ!そう思って戦ってきたのは、他の誰でもねえ!」

 

CROSS-Z DRAGON!』

 

「雪音クリスただ一人だろうが!」

 

「・・・アタシ・・・だけ・・・」

その言葉は、クリスの心に強く響く。

やがて、クリスは涙を拭い、決心のついた表情で立ち上がる。

「アタシはここだ・・・だから、関係ないの奴らの所になんて行くんじゃねえ!」

それと同時に、ノイズが襲い掛かる。

「Killter Ichiva・・・げほっ、ごほっ・・・!?」

「うおあ!?」

聖詠を唱えようとした途端、まだ呼吸が整ってないからかむせるクリス。一方の万丈は意外にもノイズの攻撃が激しく、レバーを回す事が出来ない。

その最中で、上空からノイズが強襲してくる。

「・・・!?」

「あぶねえ!」

上空から襲い掛かるノイズに、万丈はクリスを庇うように抱える。

「あ・・・」

上空から槍のように襲い掛かるノイズ。それに背を向け、万丈は胸にクリスを抱えて、そのノイズの攻撃から庇おうとする。

「りゅ――――」

 

「ふんっ!」

 

次の瞬間、突如としてアスファルトがせり上がり、それが盾となってノイズの攻撃を阻止。

「はっ!」

すかさずそのアスファルトが砕け散り、散弾の如くノイズに浴びせられる。

それをやった者の正体は―――

「風鳴のおっさん・・・!?」

風鳴弦十郎だ。

アスファルトは震脚でめくり取り、砕くのはただの拳打。

それだけでも、彼が人間離れしているのは窺い知れる。

「あいっ変わらずの化け物ぶりだな・・・」

なんてぼやく万丈を他所に、ノイズが再度三人に向かって攻撃をしかける。

それを震脚でめくり上がらせたアスファルトで防ぎ、弦十郎は万丈とクリスの二人を抱えて建物の屋上へ向かう。

「大丈夫か?」

「ああ、一応な」

「・・・・」

弦十郎の人間離れした所業に未だ茫然としているクリス。

「それと・・・いつまで抱き合ってるつもりだ?」

「「は・・・?」」

何やら言いにくい様子でそう言ってくる現状に指摘されて、二人は改めて、互いに抱き合っている事に気付く。

「な――離れろ馬鹿!?」

「ぐべ!?」

何故か鉄拳が万丈の顔面に炸裂した。

「何すんだ!?」

「うっさい!」

何故殴られたのか分からない万丈と顔を真っ赤にしてそっぽを向くクリス。

そこで、飛行型のノイズが三人を追いかけるように飛び上がってきた。

それを見て、万丈はボルテックレバーを回す。

 

『Are You Ready?』

 

「―――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)―――」

 

「変身!」

 

『Wake UP Burning!』

 

『Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!』

 

万丈はクローズへと変身し、クリスはイチイバルを纏う。

赤と青。奇しくも戦兎の基本フォームと同じ色合いだ。

「でやぁ!」

 

『ヒッパレー!ヒッパレー!』

 

「ウオリヤ!」

 

『ミリオンヒット!』

 

クリスのボウガンからは何本もの矢が放たれ、万丈のビートクローザーからは波形状のエネルギー刃が飛び、視界に映るノイズを一掃する。

「御覧の通りさ!」

クリスは弦十郎に向かって言う。

「アタシ・・・らの事はいいから、他の奴らの救助に向かいな」

「だが・・・」

「ノイズを倒せんのは俺たちだけだ。だから安心して行っとけ!」

クローズとクリスは屋上から踊り出る。

「ついて来いクズども!」

 

BILLION MAIDEN

 

ガトリングガンの乱射が、ノイズを一掃する。

その最中で、クローズがビートクローザーで全てを叩き切っていく。

(そういや・・・)

ふとクローズは、あの時戦兎から渡されたものの事を思い出す。

それは、戦兎が作ったブラストモービル。

赤黒いカラーリングに、何かのケースのようにコンパクトなデザイン。

試しに、グリップ部分のトリガーを引いてみるが、何も起きない。

(確か、ドラゴンともう一つ・・・だったか・・・)

二つの成分。ドラゴンはまだ良いとして、問題なのはそのもう一つ。

六十本のボトルのどれでもないのだというのなら、一体何が・・・

だが、クローズは考えても分からないという結論に至り、思考を放棄。今はただ目の前のノイズを一掃する事に集中する。

近付いてきた敵も遠くの敵も、全てクリスが打ち抜く中で、クローズは自ら赴いて敵を薙ぎ払い続ける。

だが、数があまりにも多すぎる。

「チッ!なんかのバーゲンセールかよ!」

そう悪態を吐くクローズの傍らで、クリスは歌を唄い、ノイズを片付けていく。

そしてやはりと思う。

(やっぱコイツが歌を唄っている間は、力が漲る!)

これは一体どういう事なのか、万丈には分からない。

だが、実際に強くなっているのだから、その勢いに乗った方が得策だろうというのは本能で理解していた。

「オラオラオラァ!」

人のいない街中で、銃声が轟き続ける。

しかし、その数は着実に増えていっていた。

その度に倒していくも、やはり、ノイズは増える一方だ。

正直、どちらか片方だけだったのなら、その勢いに飲み込まれていた事だろう。

「くそ!どんだけいるんだこいつら・・・!」

「アタシが知るかよ・・・!」

クリスの歌が響く中で、背中合わせて二人は自分たちを囲むノイズを睨む。

(一か八か、必殺技で・・・!)

そう思い、ボルテックレバーに手を伸ばしかける。

 

その時だった。

 

「ん?・・・なんだ!?」

「なッ!?」

突如として、ボトルホルダーにセットしてあった、黒くなったグレートドラゴンエボルボトルが赤く輝き出す。

クローズは、それを恐る恐るホルダーから取り外してみると、その光は収束していき、そこにあったのは、エボルボトルではない、真っ赤なボトルが握られていた。

弓を携える何者かの柄が入ったそのボトル。

「なんだこれ・・・?」

そう呟いた直後、クローズドラゴンが勝手にドライバーから飛び出す。

「うお!?なんだよいきなり!?」

「キュールールルッルルッ!」

まるで急かすように、ドラゴンは自らに装填されていたドラゴンフルボトルを輩出した。

「これを入れろってことか・・・?」

「おい!なんでもいいからさっさとしてくれ!」

じりじりと近付いてくるノイズの群れ。

「だーもう!やりゃあいいんだろやりゃあ!」

そう叫んで、クローズはその赤いボトルをクローズドラゴンへと装填した。すると、クローズドラゴンが、烈火の如く真っ赤に染まる。

そして、起動ボタンを押す。

 

激唱ゥ!』

 

そして、すぐさまビルドドライバーに装填した。

 

クロォーズイチイバルッ!!!』

 

「え?イチイバル?」

その音声に、クリスは思わず驚く。しかし、その間にもクローズはボルテックレバーを回していた。

やがて、クローズの周りに、四方向に展開されるスナップライドビルダーが形成されたかと思うと、前後には装甲、右にはライザーと何かの防具、左には同じく防具のみで展開される。

 

『Are You Ready!?』

 

覚悟は良いか。

もう何度も聞いた言葉だ。

この、未知の変身を前にして、果たして準備は出来ているのか。それを、聞いているのだろう。

だが、クローズは――――万丈は不思議と悪い気はしていなかった。

だから、叫ぶ。

 

「いくぜ!」

 

四方のスナップライドビルダーがクローズを挟み込む。

 

激唱戦場クロォーズイチイバルッ!!!』

 

イェェエイッ!!ドッカァァァァアンッ!!!』

 

真っ赤な装甲を纏いし龍―――赤い装甲を纏ったクローズ。

 

 

その名も、『クローズイチイバル』

 

 

新たなクローズが、この新世界に誕生した瞬間である。

 

「負ける気がしねえ・・・!」




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!

ついにその姿を見せるクローズイチイバル!

「これでも喰らってろ!」

その圧倒的強さと共に戦うクリス!

「やっさいもっさい!」

その一方で現場へ向かう戦兎と響は、最大の危機に陥っている未来と再会する。

「私、響に酷い事をした」

その最中で、未来が取った行動とは――――

「未来を・・・私の大切な人をお願いします!」

次回『私という音響き・ラビットの足は疾風の如く』

「準主役なりに意地張らせてもらうぜ!」


















ちょっとやってみたかった奴(注意/本編全く関係ないです。ただやってみたかったというだけです。ですのであまり期待しないでください。それとオリジナルライダーがいたりします。嫌だって人はここでブラウザバック!いい人はこのままビルドアップ!)




いくつも存在する可能性の世界『並行世界』―――


ギャラルホルンという聖遺物が示す並行世界の異常―――


異常が起こる事で繋がった二つの世界―――


それの解決の為、装者と仮面ライダーたちは、その平行世界へと旅立つ。


その先で出会った者は―――




「―――ここが、シンフォギア・ビルドの世界か」



『KAMENRIDE!DECADE(ディケイド)!』



突如として装者と仮面ライダーの前に現れる謎の『仮面ライダー』。



「何故桐生の力を・・・!?」
「お前は一体、誰なんだ・・・!?」

「俺か?―――通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ!」

その名を、門矢(かどや)(つかさ)

「やあ、君の持つ聖遺物というお宝を頂きに来たよ」



『KAMENRIDE!DEENDE(ディエンド)!』


トレジャーハンターと名乗る『仮面ライダー』の登場。


「それを返せ!」
「お願い、大切なものなんです!」

「それは無理な相談だな」


その名は、『海東(かいとう)大樹(だいき)


次々と繋がっていく世界―――様々な世界が一つになり、また新たな混沌が生まれる時―――


「―――祝え!」


魔王が降臨する。


「全てのライダーの力を持つ、魔王だってさ」


『RIDER TIME!KAMEN RIDER!ZI-O(ジオウ)!』



仮面ライダージオウ―――常盤ソウゴ。



今、様々な世界が錯綜し、そして―――全てを混沌に陥れようとする者に、仮面ライダーが立ち向かう。


「さあ、終焉を始めよう」


『殺戮・絶滅・壊滅!崩壊ノ道ヲ辿レ!ワールドブレイク・イン・スルト!』



今、全ての世界が交錯し、全ての世界を守る戦いが始まる。



「翼に手を出すなぁああ!!」

「歌うのを諦めないで!」

「響は私が助ける!」

「私に構わないで」

「今のアタシたちは負ける気がしねぇ!!」

「マリア姉さん?」

「私の計画の達成の為に・・・」

「俺の刃をその身に刻め」

「ここでお前を喰らい尽くす・・・ッ!」

「心火を燃やして」「ぶっ潰すデース!」

「大義の為の犠牲となれ・・・!」

「オォォオオ!」

「この世界を破壊する・・・その前にお前を破壊してやる」

「流石にお宝の横取りは黙っておけないね」

「もう二度と失ってなるものかよ!」

「遅い!でも間に合ったから許す!」

「貴様如きにあの男が倒せるかよ。チャオ」

「あの男は俺の友達だ・・・だからお前を倒す!」

「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、過去と未来をしろしめす時の王者――――」

「なんか、いける気がする!」

「だとしても!」


「何故そこまでして俺に歯向かう?」


「俺たちが仮面ライダーだから」




愛和創造シンフォギア・ビルド―――ギャラルホルン編


『創造の果てに』



「さあ―――最後の実験を始めようか」
「今の俺たちは―――誰にも負けねえ」

「戦兎ぉぉぉぉおお!!!」
「龍我ぁぁぁぁああ!!!」










連載はしない!(今だけで精一杯!そしてなんかおかしいと思っても無理にツッコまないでください!)


では次回も楽しみに!


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私という音響き・ラビットの足は疾風の如く

翼「見てみろ!もうこの小説のお気に入り登録者が450を突破したぞ!」
戦「これも全て、俺の活躍のお陰だな」
緒「どっちかと言いますと、少女キャラの萌え萌えな反応からじゃないでしょうか?」
了「そうよねぇ、特に翼ちゃんとクリスちゃんなんか、良い反応してるし」
戦「そこは俺の活躍と言ってほしかった・・・」
万「諦めろ」
響「そんなに言われてない私って呪われてるかも・・・」
未「ほら元気出して、本編じゃ響は私を助けてくれたじゃない」
響「だけど前回は龍我さんの新フォームに全部持ってかれたじゃん・・・」
ク「元気出せっての。ほら、あんぱんやるからよ」
響「あんぱんで喜ぶのはクリスちゃんぐらいだよ」
ク「あ゛あ゛?」
響「わーいあんぱんだ嬉しいなー!」
戦「まあそれはともかく!天才物理学者にして仮面ライダービルドの桐生戦兎は、ノイズが出現した為に、動けない翼の代わりに―――」
響「ここだ!私!立花響と共に街へと向かうのでした!」
戦「勝手に割り込むんじゃないよ!」
響「いひゃいいひゃいでふへんほへんへい(痛い痛いです戦兎先生)!」
翼「その一方で、万丈龍我が変身する仮面ライダークローズに新たな形態が生まれる」
ク「その名もクローズイチイバル!いやー、アタシのギアの名前が使われてるのってなんか嬉しいなぁ」
万「そんなに喜ぶ事か?」
ク「あたぼうよ!なんてたってアタシは―――」
工具「そんなわけで」
黒グニール「私たち次回作からじゃないと出てこれない装者三人組は出てこないシンフォギア・ビルド、第十五話を」
農具「どうぞデース!」
頭「・・・・みーたんが出てきてないのになんでこんな人気がでるんだふざけんな!」
絶望センス「お前はすっこんでろ!」
戦「お前もだよ!」




作者「本当にありがとうございます!今後ともこの小説をよろしくお願いいたします!」


真っ赤な装甲を身に纏い、クローズイチイバルがそこに立つ。

「なんだよこれ・・・力が漲ってくる!」

ノイズが襲い掛かる。

 

『Blast Mobile!』

 

すかさずクローズはドライバーからブラストモービルを取り出す。

何故彼がそれを持っているのか、それはクリスをふらわーのおばさんの所で匿う際に、戦兎から渡されていたからだ。

ドラゴンフルボトルを持っているのは、クローズだけだから。

 

『Set Up!Blast Blade!』

 

モービルが変形し、エネルギーの刃が飛び出す。

それを使い、クローズは二刀流で襲い掛かる敵を薙ぎ払っていく。

「おぉぁぁああ!!」

襲い掛かってくるノイズを一気に片付けていく。

「これでも喰らってろ!」

すかさずクリスが遠くの敵に対してガトリングを乱射。

一気にその数を減らしていく。

だが、その数がやはり数が多い。

であるならば、

「いっくぜ―――っておぉぉおお!?」

接近し、薙ぎ払えばよい。と思ったクローズだったが、足に取り付けられたタイヤ『CZIクイックダッシュホイール』によって、まるで滑るかのように走行しだす。

「お、おぉぉ・・・よし!」

始めは戸惑うものの、すぐに慣れ、滑らかに戦場を駆け巡る。

「オラァ!!」

そして、敵陣に自ら突っ込んで、両の手の双剣を持って敵を一気に薙ぎ払う。

「行くぜ行くぜ行くぜぇぇえええ!!」

ホイールによる滑らかな移動と双剣の斬撃。

その突破力のある移動攻撃が、ノイズの大群を一気に減らしていく。

「ちょせぇ!」

クローズが地上の敵を一掃している間に、クリスは小型ミサイルを撃ちまくって遠場の敵を倒していく。

 

『Set Up!Blast Shooter!』

 

グリップ部分を立ち上がらせ、引き金を引いて光弾を撃ちまくる。

タイヤが逆回転すれば滑りながらの回転も可能であり、回りながら撃ちまくる事も可能だ。

貫通力のある光弾が、直線状のノイズを一気に炭素へと帰していく。

クリスに近付こうとしていたノイズも寸分狂いもなく打ち抜く。

(すげえ、これがイチイバルの力・・・!)

元々、長距離広範囲攻撃を特性とするシンフォギアであるイチイバル。

それが何故、接近戦特化であるクローズの強化となりえたのか。

それは未だ謎だが、ただ分かる事がある。

 

ホイールは移動能力を拡張し、視界は以前よりも広くなり、パワーも圧倒的に強くなっている。

 

それは、クリスの扱う大火力を、クローズの近接戦闘能力をブーストしている表れなのかもしれない。

 

『Set Up!Blast Dual Sword!』

 

二つのブラストモービルを合体させて、双身刀へと変形させる。

掌で回転させて、その勢いのまま敵を薙ぎ払う。

右から来るノイズを突き刺し、そのまま薙ぎ払っては数体を一気に斬り裂き、背後から襲い掛かる敵を反対の刃で脇から突き出して刺し殺す。

「やっさいもっさい!」

「ん?」

ふと横眼でクリスを見てみると、やはりノイズはクリスを集中的に狙っている。

(野郎、寄ってたかって一人相手に・・・!)

しかし、この距離ではブラストシューターは当たらない。

何か、別の方法がないものか。

(ちょっと待てよ・・・)

そこでふと思い出す。

(シンフォギアっていろんな形状があったよな・・・?)

翼は、刃の形を自由に変えられるのに対して、クリスはボウガンを様々な銃器に変形させる事が出来る。

であるならば―――

(その力を使ってる今なら・・・!)

クローズは、イメージする。

今、この距離でクリスを援護出来るような武器を。

もし、この力がシンフォギアと同等であるならば、このブラストモービルも―――

 

『Set Up!Blast Impact Bow!』

 

突如としてブレード部分が湾曲し、その切っ先から細長い光の糸が伸び、双方を結んだ。

そして、柄の部分すらも変形して、二つのグリップの間に持ち手があるような形になる。

「これなら―――!」

クローズは弓弦を引く。

すると、光の矢が形成され、それをクリスに襲い掛かろうとしているノイズに向かって放つ。

光の矢は目にもとまらぬ速さで飛んでいき、そのノイズを穿ち、それだけに終わらず、そのまま一直線に飛んでいき、そのノイズの後ろにいたノイズを全て撃ち貫いた。ついで、その後ろの建物まで軒並み破壊して。

「うそぉん・・・」

その意外な威力にクローズは思わず茫然とする。

一方のクリスは思わず援護射撃にクローズの方を見る。

一方のクローズは戸惑ったのかとりあえずピースサインを送る。

その様子に、クリスは歯噛みしてそっぽを向いて更なる敵を撃ちに行く。

放っておけば色々と突っ走りそうだ。

(だから俺がなんとかしてやんねーとな)

 

『Set Up!Blast Shooter!』

 

すぐさまブラストシューターに切り替えて、クローズは走る。

「行くぜオラァァアァ!!」

そのまま、ノイズの大群に向かって行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、戦兎と響は、マシンビルダーに乗ってノイズのいる場所へ向かっていた。

その最中、どこかへと飛んでいくノイズを見て止まる戦兎。

「どこに向かってんだ・・・?」

なんて呟いた直後、

 

「きゃぁぁあああ!」

 

「「ッ!?」」

どこからともなく悲鳴が聞こえ、二人はマシンビルダーを下りるなり、そこへ向かって走り出す。

そこは、ボロボロになった建設途中の建物。

そこへ入るなり、響は声を挙げる。

「誰か!誰かいま――――」

突然、真上から声が聞こえてきたと思って上を見てみたら、何かが落ちてきていた。

「「ッ!?」」

それを見た響と戦兎は、響は手摺を飛び越え、一方の戦兎は後ろに飛んですぐ近くの柱に隠れる。

「あれは・・・」

上を見てみれば、タコのようなノイズがビルの上を陣取っていた。

「野郎・・・」

戦兎は何かする前に下を見る。

するとそこには、口を塞がれている響と塞いで人差し指を手に当てている未来の姿があった。

その行為で、戦兎はある程度察する。

(音に反応するって事か・・・)

ビルドドライバーでは、ボトルを装填した際に識別音声が流れる。

ついで、ボトルを振る時も音が鳴るため、下手に成分を活性化させられない。

(くそ・・・)

もう一度下を見る。そこからでは、響と未来の姿しか見えないが、二人の視線から、もう一人の存在が伺いしれる。

さらには携帯を使って会話をしている。おそらく、メモ機能だろう。

あれなら、音を出さずに会話できる。

(さて、俺はアイツをどうにかしないとな・・・)

ここで下手に動けば、響はともかく、未来やもう一人に危険が及ぶ。

一か八かで狙撃するのも手だが、あのサイズとなると、一撃で仕留められるかどうか怪しい。

ゴリラモンドならいけるだろうか。いや、変身する以前に生身で触るのは即死に繋がる。

科学で言う所のトライ&エラーが使えない。つまり、失敗すれば即アウト。

(どうする・・・?)

今使える手段は、やはり―――

「う・・ぅ・・・」

もう一人の呻き声で、ノイズが動き出す。

(考えてる暇はないか!)

戦兎はポケットからラビットフルボトルを取り出す。

その際、僅かでも振れたためか、兎特有の聴覚が発動する。

「―――私、響に酷いことをした」

未来の声だ。

「今更許してもらおうなんて思ってない。それでも、一緒にいたい。私だって戦いたいんだ」

「・・・・ダメだよ、未来・・・」

「どう思われようと関係ない。響一人に、背負わせたくないんだ・・・・」

戦兎の視界で、未来が立ち上がる。

(アイツ、何を――――)

「私―――もう迷わない!」

 

未来が、声を挙げる。

 

「なっ!?」

その行為に、戦兎は思わず戦慄する。

次の瞬間、未来は走り出し、ノイズは未来に向かって触手をぶつける。

ジグザグに走る事で、ノイズの攻撃を掻い潜り、そのまま外に出る。

「あの馬鹿!」

戦兎はその場から飛び降りる。

そこで、倒れている女性を見つけ、その女性に響が駆け寄っているのを見る。

「その人は任せた!」

その声に、響は振り返り、

「未来を・・・私の大切な人をお願いします!」

その声に頷き、戦兎は駆ける。

 

シュワシュワシュワ

 

プルタブスイッチを入れて、ラビットタンクスパークリングを起動する。

それをビルドドライバーに装填して、ボルテックレバーを回し、そして叫ぶ。

 

「変身!」

 

シュワッと弾けるラビットタンクスパークリング!イェイイェーイ!』

 

泡の力で、加速する。

その最中で、他のノイズが襲い掛かる。

「邪魔だぁぁああ!!」

両腕の刃や泡の勢いを利用して粉砕し、ビルドは加速する。

(絶対に死なせない。この身をかけても、絶対にッ!!)

加速するビルド。その視界の先では、必死にノイズから逃げる未来の姿を捉える。

ノイズの触手が未来を狙い、一気に迫る。

(させるか!)

この距離では間に合わないと判断したのかドリルクラッシャーをガンモードにしてぶっ放す。

放たれた弾丸は、そのノイズの触手を吹き飛ばす。

「え・・・」

「止まるな!走れぇ!」

「ッ!」

ビルドが叫び、未来はさらに走る。だがノイズは諦めずに未来を狙う。

「おいコラタコ野郎」

ビルドは飛び上がる。

「女子高生だけ狙うとか同人誌の魔物かなんかかァ!?」

泡で加速し、渾身の飛び蹴りを叩き込んでぶっ飛ばす。

すぐさまそのノイズは炭化する―――だが、

「きゃあ!?」

「ッ!?」

未来の方に、もう一体のタコ型のノイズが迫っていた。

「もう一体!?」

ビルドはすぐさま駆け出す。

だが、その進路を大量のノイズが妨害する。

「だから邪魔だっつってんだろォがァ!」

一気に加速して、ビルドはドリルクラッシャーを使ってノイズの大群を突破する。

その間にも未来は片側が崖の下り坂に向かって走る。

(もう・・・走れないよ・・・)

走って走って、疲れ果てて、未来はとうとうその場に崩れる。

その背後から、タコ型ノイズが迫る。

(ここで、終わりなのかな・・・)

迫るノイズを見て、未来はそう思う。

(仕方ないよね・・・響・・・)

ノイズが飛び上がる。

その場面へ、ビルドが全速力で駆け付ける。

「未来――――!!」

ビルドが絶叫する。それと同時に、特大の泡の破裂で加速する。

(だけど――――)

ノイズが、落下してくる。

ビルドが、駆け抜ける。

未来が――――立ち上がる。

(だけど―――)

理由は、単純だ。

 

(―――まだ響と流れ星を見ていない!)

 

果たしていない、約束があるから―――!

 

眼を見開いて、未来は走り出す。

そこへノイズが落下し、アスファルトを砕く。

砕けた事で道路が崩れ落ち、未来は、すぐ傍の崖を真っ逆さまに落ちる。

「うぉぁぁぁあ!!」

絶叫し、ビルドも飛び降りる。

そのビルドの視界に、一つの影が飛び込む。

「響ッ・・・!」

すでに右手のガジェットを引き、撃ち込む準備が完了している。

「ああ、くっそ・・・!」

その響の顔を見て、ビルドは悔しがる。

「今日の主役はお前だ、響」

響の拳がノイズを穿つ。拳はノイズを貫き、一気に炭化させる。

その間にも未来は落下していく。その未来に向かって、響はもう一度拳を炸裂させて未来に向かって飛ぶ。

そして、未来に追いつき、抱き抱えるのと同時に―――ビルドが二人を抱える。

「戦兎先生・・・!?」

「なーに今回の主役はお前だが、準主役なりに意地張らせてもらうぜ!」

 

『ボルテックブレイク!』

 

ドリルクラッシャーをガンモードにして、ロケットフルボトルを装填。そして銃口から発射されるジェット噴射によって落下スピードを殺し、そのままロケットゆっくりと着地する―――と思いきや、何故か思いっきり足を滑らせる。

「あ」

「え」

「は」

見事に足を滑らせたビルドがそり替わりになって一気に坂を真っ逆さまに滑り落ちる。

「ぎゃぁぁああ!?」

悲鳴が聞こえ、やっと止まった時には、上に乗っかっていた響と未来は宙へ放り出されて、そのまますぐ傍の川の横に倒れる。

その場で手をつき、過呼吸をする未来と響。

落下の衝撃か、変身が解除されてしまっている。

「いったぁい・・・」

「いたた・・・」

腰に手を当てて痛がっていると互いに顔を見合わせて、思わず笑ってしまう。

「随分と派手に転んじゃったなぁ」

「あっちこっち痛くて、でも、生きてるって気がする。ありがとう。響なら絶対に助けに来てくれるって信じてた」

「ありがと、未来なら最後まで諦めないって信じてた」

そう言い合う二人。

「だって、私の友達だもん」

「っ・・・」

その言葉に、未来は胸を痛め、顔を歪める。

やがて涙を流し、ついには響に抱き着く。

「ぐえっ!?」

そのまま後ろに倒れてしまい、響の元で、未来の泣き声が聞こえた。

「怖かった・・・怖かったの・・・」

「私も・・・すっごく怖かった・・・」

その言葉に、響も目尻に涙を浮かべる。

「私、響が黙っていたことに腹を立ててたんじゃないの・・・!誰かの役に立ちたいと思ってるのは、いつもの響だから・・・でも、最近は辛い事苦しい事、全部背負い込もうとしていたじゃない。私はそれが堪らなく嫌だった。また響が大怪我するんじゃないかって心配してた・・・」

二年前のライブの時のように、目を覚まさないかもしれない。

「だけど、それは響を失いたくない私の我儘だ・・・そんな気持ちに気付いたのに、今までと同じようにだなんて・・・出来なかった・・・」

「未来・・・」

響は、一度未来を離すと、面と向かい合う。

「それでも未来は私の・・・っ・・・」

「え?何・・・?」

突然、何かをこらえる響。だが、突如として響は声を挙げて笑い出す。

「だ、だってさ・・・髪の毛ぼさぼさ涙でぐちゃぐちゃ、なのにシリアスな事言ってるし!」

「もう!響だって似たようなものじゃない!」

「んえ!?嘘!?未来、鏡貸して―――」

そう頼んだ時だった。

「おい・・・お前ら・・・・」

どこからか聞き覚えのある声が聞こえたかと思えば、自分たちが腰を落としている場所がもぞもぞと動く。

「そこをどいてくれ!女子高生二人が上で暴れんのは流石にきつい!」

「あ!?ごめんなさい!」

「すみません!」

慌てて戦兎の上から立ち退く二人。

「あー、やっと解放された・・・」

「なんだかすみません・・・」

「全くだ・・・でもま、仲直りは出来たみたいだな」

ビルドフォンのシャッターを押す戦兎。

「「え」」

「ほら、これが今のお前らの顔だ」

「え?うぉ、凄い事になってる!?これは呪われたレベルだ・・・」

「私も想像以上だった・・・」

再び、笑い合う。

その様子に、戦兎も顔をくしゃっとする。

その場には、少女二人の笑い声が響いていた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し過ぎて、全てのノイズが殲滅された商店街にて。

「はい、ふらわーさんから回収しておきました」

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

緒川から通学鞄を受け取っている未来を他所に、戦兎は周囲を観察していた。

(しっかし、今日はどうしてあんなに大量のノイズが・・・この辺りのノイズ出現率があまりにも高いとはいえ、いくらなんでも多すぎる・・・)

道端にある炭を一つまみして、指先で擦ってみる。

(大体は、万丈と雪音クリスがやってくれたから良いものの・・・それにしてもこんだけやる必要はあったか・・・)

ふと、何やら乱暴な運転故の車のタイヤが擦れる音が聞こえてきたと思ったら、了子の運転する車だった。

(一番怪しいのは・・・)

戦兎は了子を睨む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いが終わり、万丈は相変わらずクリスと一緒に行動していた。

「お前・・・一体いつまでついてくる気だ」

「俺の気のすむまで」

「キュル!」

あっさりと言ってのける万丈(馬鹿)にもはや呆れるしかないクリス。

「アタシはお前たちに酷い事したんだぞ・・・?」

「だからなんだ。俺がお前を放っておけないからこうしてついていってんだろうが」

「放っておけないって、おせっかいのつもりかよ」

「まあな」

「・・・」

どこまで行っても付いてくるこの男。

いっそストーカーとでも言って巻くか。

そう思ったがやめて、クリスは改めて理由を聞いた。

「・・・なあ、なんでお前はそんなにアタシに構うんだよ」

「・・・」

その問いかけに万丈はしばし黙り、やがて話し出す。

「戦争の重さは知ってる。家族を失う苦しみも知ってる。大切な人間が、目の前で消えちまう事も知ってる・・・だから放っておけねえんだよ。戦争を無くしたい。んでもってその為に戦うお前をな」

「・・・・はっ」

そんな事を言う万丈にしばし黙ってしまうも、誤魔化すように鼻で笑う。

「まるで戦争を体験したような口ぶりだな。お前のそのお粗末な頭じゃ海外でまともにやっていけねえし、生憎と日本は世界一治安が良い国って事で評判だぜ?そんな国で、どうやって戦争を理解するってんだよ?そう映画とか見た訳じゃあるまいし―――」

「マジだ」

「は?」

「実際に戦争は見た事あるし、それで戦った」

万丈の眼に、嘘はなかった。

目は口程に物を言うと言うが、今の万丈の眼差しは、まさにそれだった。

この平和な国で育ってきたであろう男がする目ではなかった。

 

まさしく、戦争を体験してきたような、そんな表情だった。

 

「・・・お前は、一体」

「・・・上手く説明できるか分かんねえけどよ・・・」

川の縁に作られた歩道の手摺に手をついて、万丈は語り出す。

「ぱらりらだかパラレルだとか、確かそんな感じに、何個かの世界があって、そのうちの二つが合体する・・・なんて話があったらお前は信じるか?」

「世界が・・・合体・・・?」

なんだその現実感の無い話は。

一体、この男は何を伝えようとしているのか。

だが、世界、と言ったか。

そう考えてみると、ありえないような、そんな現実感の無い答えが浮かび上がってくる。

 

この世界の人間じゃない、という可能性が。

 

「・・・・あー、だめだ。やっぱり上手く説明出来ねえ。忘れてくれ」

万丈は歩き出す。

「ほら、行くぞ」

「お、おう・・・」

さっさと歩いていく万丈の後ろ姿を、クリスはただ見つめる事しか出来ない。

「キュル」

「ん?」

ふと、視界のやや上をドラゴンが飛び回る。

その様子にほんの少し微笑みつつ、クリスも万丈についていくように歩き出す。

(まあ、いっか・・・)

この男の事はよくわからない。

深く考えてない事もよくわかる。

何せこの男は正真正銘の『馬鹿』だからだ。

それでいて、自分と真正面からぶつかってくれる。

(ちょっとは、信じてもいいかもな・・・)

そう思い、クリスは、万丈を追いかけた。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!

「学園の真下にこんなシェルターや地下施設が・・・」

リディアンの真下にて、邂逅する未来と装者、そして仮面ライダー。

「デートしましょう!」

突然の響の発言。

「アタシは『大人』が嫌いだ!」

雨の中叫ぶクリスと対峙する万丈。

「それじゃあ、行ってくるわ」

そして、戦兎が向かった先には―――

次回『変わり果てたニューワールド』

「はい。お待ちどう」


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変わり果てたニューワールド

農具「天才物理学者にして仮面ライダービルドこと桐生戦兎は、響センパイの頼みで決死の思いで未来さんを助けに向かい、見事に響センパイに手柄をかっさわれたのデース!」
戦「何楽し気にそんな事言ってんだああ!?」
農具「い、痛い痛い!痛いデスよ!頬を引っ張らないでくださいデス!」
黒グニール「あれ?そういえばいつものメンバーは?」
戦「なんか知らんが用事があるとかで全員欠席だよ」
黒グニール「とすると私たち三人だけなのね!」
戦「言っておくが、お前さっき高級な牛タン食ってイキってる事知ってるんだからな」
黒グニール「な、何故それを・・・!?」
農具「〇〇〇のメンタルはいつも食事で決まるんデス!」
黒グニール「はいそこの農具すこし口をチャックしましょうね~?」
農具「あぁぁあ!?だからって針と糸を本当に出さないでほしいデス!」
戦「しかもチャックじゃねえし・・・まあいい」
未「はあ・・・はあ・・・お、遅くなりました・・・・」
黒グニール「あら?あの子はどうしたの?」
未「ああ、さっきクロのいたずらの餌食になってしまいその所為で伸びてます」
一同『一体何があったし』
未「ゴルフボールが一杯入ったバケツをひっくり返してしまいまして・・・」
翼「な、なんでここにゴルフボールアーッ!」
黒グニール「今の翼の声よね!?」
農具「急いで片付けないと―――」
工具「え?ま、まって、どうしてここにゴルフボールキャァァア!!」
弦「ぬお!?何故ここにゴルフボールぐあー!」
無性「へぶし」拳が当たった
ク「あべし」拳に吹っ飛ばされる
万「ふむぐ!?」クリスの胸が直撃
黒グニール「もう既に大惨事!?」
戦「だーもう!どうしてこうなるんだ!?もういいから本編第十六話をどうぞ!」
黒グニール「あ、待って私もゴルフボールヘアッ!?」前方に向かって空中回転
農具「ごふっ!?」思わぬ逆サマーソルトキックを喰らう
未「ああ、さっきよりも大惨事n・・・」
クロ「キュル!」未来の足裏にゴルフボールを仕掛ける
未「えっ、なんでここにもゴルフボールいやぁぁあ!!」
戦「ああもういい加減にしろよお前r」
クロ「キュル!」戦兎の足裏にゴルフボールを仕掛ける
戦「クロてめぇぇぇぇええ!」スッテーン


―――彼女は、バイクを弄るのが趣味だ。暇な時は、いつも自分の愛車をいじくってる。

 

その様子を遠目でみつつ、こっそりと近付いてみる。

すると、彼女からささやかな鼻歌が聞こえてくる。

それも自分とのデュエット曲だ。それが無性に嬉しくて、思わず自分も重ねて歌ってしまう。

肩越しにその様子を覗いてみると、彼女は恥ずかしがるように驚いた。

「か、奏!?」

その反応が面白く、思わず笑ってしまう。

「ご機嫌ですな」

「今日は非番だから、バイクで少し遠出に・・・」

「特別に免許貰ったばかりだもんな。それにしても、任務以外でも翼が歌を唄ってるのは初めてだ」

「っ・・・奏・・・」

恥ずかしいのか俯く翼。

「そういうの、なんか良いよな」

そう言って、その額を小突く。

「また鼻歌聞かせてくれよな~」

「~~~っ!奏!鼻歌は、誰かに聞かせるものじゃないから!」

それは彼女の精一杯の抗議なのだろう。

不器用な彼女らしい、反論だ。

「分かってるって、じゃ、行ってきな」

そう言い残して、自分は立ち去る――――

 

 

 

 

「・・・なんだ、今のは・・・」

自室のベッドにて、戦兎は目を覚ます。

時計を見れば、丁度いい時間であった。

「ふ、あぁあ・・・」

軽くあくびをしつつ、戦兎はベッドから立ち上がり、作業机の方へ向かう。

ふと、自分の手の中に、ある物が握られている事に気が付く。

「ん?・・・フェニックスフルボトル?」

何故かラビットと同じくらい赤いフェニックスフルボトルが握られていた。

「なんでこれが・・・」

 

―――アンタも行って来たらどうだい?

 

「・・・・!?」

どこからか、聞き覚えの無い声が聞こえてきた。

思わず振り返って、目に入ったのはビルドフォンだった。

「・・・・」

それを手に取って、何を思ったのか写真アプリを開いて、そこにある写真を見た。

 

それは、旧世界での思い出。

 

仲間たちと取った、一年間の戦いと日常の記録。

 

自分が、旧世界で生きてきた証。

 

「・・・そうだな」

ビルドフォンを一旦切り、戦兎はつぶやく。

「行った方がいいかもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

リディアンの地下深く。そこに存在する特異災害対策機動部二課の施設にて、先日組織の外部協力者として登録された未来を伴い、響は二課にやってきていた。

「わあ・・・学校の真下にこんなシェルターや地下基地が・・・」

「あ!翼さーん!」

ふと、響は目の前に翼がいる事に気付く。さらに緒川や藤尭、それと戦兎もそこにいた。

「立花か。そちらは確か、協力者の・・・」

「こんにちは、小日向未来です」

「えっへん、私の一番の親友です」

未来がお辞儀をする傍らで、胸を張って自慢する響。

「立花はこういう性格故、色々面倒を掛けるだろうが、支えてやってほしい」

「見ていて危なっかしい所あるからな」

「あ、先生酷い」

「いえ、響は残念な子ですので、ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」

「お前も何気に酷いな・・・」

「ええ!?何!?どういう事ぉ?」

「響さんを介して、お二人が意気投合しているという事ですよ」

「んーはぐらかされた気がする・・・」

ふくれっ面になる響。

その様子に、未来と戦兎、そして翼が笑う。

その翼の様子に気付いて、戦兎は微笑む。

(ちゃんと変わったな・・・)

その事に一安心しつつ、響が口を開く。

「でも未来と一緒にここにいるのは、なんかこそばゆいですよ」

「小日向を外部協力者として、二課に移植登録させたのは、司令が手を回してくれた結果だ。それでも、不都合を強いるかもしれないが・・・」

「説明は聞きました。自分でも理解しているつもりです。不都合だなんて、そんな」

「あー、そういえば師匠は・・・」

「ああ、私たちも探しているのだが・・・」

「どこに行ったんやら」

何やら外出中らしい。

万丈もクリスと同行している為いないが、流石に司令官がいなくなるのはまずいだろう。

「あ~ら良いわね」

そこへ、了子がやってくる。

「ガールズトーク?」

「どこから突っ込むべきか迷いますが、とりあえず僕を無視しないでください」

「おい俺も忘れんな。この天才物理学者を忘れるなコラ」

溜息を吐く緒川と青筋を浮かべる戦兎。

しかしそんな二人を他所に、響どころか未来が了子に対して興味津々だった。

「了子さんもそういうの興味あるんですか?」

「もちのろん!私の恋バナ百物語聞いたら、夜眠れなくなるわよ」

「まるで怪談みたいですね・・・」

「了子さんの恋バナ!?きっとうっとりメロメロ乙女で大人な銀座の恋の物語ぃ~!」

響、やはり女子か。そういう話には腹をすかした犬の如く食いついてきた。

その一方で翼は頭を抑えるばかり。

了子の眼鏡がきらりと光る。

「そうね・・・遠い昔の話になるわね。こう見えても呆れちゃうくらい一途なんだから・・・」

何やら本格的な話が出てきそうである。

「「おぉぉおおー!」」

その感覚で未来と響が目を光らせる。

「意外でした・・・櫻井女史は、恋というより研究一筋であると・・・」

翼は意外と言った風な口ぶりだった。

「命短し恋せよ乙女と言うじゃない。それに女の子の恋するパワーってすごいんだから」

「女の子?その年で?」

戦兎の心無い言葉が吐き出される。その直後、了子の鉄拳が顔面に炸裂する。

「ぐべあ・・・」

「戦兎さん!?」

倒れる戦兎。しかしそんな事知った事かという風に話を続ける了子。

「私が聖遺物の研究を始めたのも、そもそも・・・」

そこで、了子は止まる。

「「うんうん、それで・・・!?」」

完全にガールズトークにのめり込む女子と化した響と未来。

その仕草は何やら餌を前にした子犬のように可愛い。

「あ・・・ま、まあ!私も忙しいから、ここで油売ってられないわ」

「自分から割り込んだんだろテメェ・・・そげぶ!?」

「戦兎さぁぁん!?」

「桐生ぅぅうう!?」

今度は了子の蹴りが炸裂する。

「ヒールが、ヒールがぁぁああ・・・!!」

「とにもかくにも、出来る女の条件は、どれだけ良い恋してるかに尽きるのよ」

「大丈夫ですか?」

「うわっ、ヒールが完全に突き刺さってましたねこれは・・・」

「だ、大丈夫か桐生!?しっかり、しっかりしてぇ!」

「ガールズ達も、いつかどこかで良い恋なさいね」

そう言って、了子は手を振ってさっていく。

「それじゃ、ばっはは~い」

「聞きそびれちゃったね~」

「ん~、ガードは硬いかぁ・・・でもいつか、了子さんのロマンスを聞き出してみせる!」

戦兎が沈み、それを看病する翼を他所に、響はそうガッツポーズをとるのであった。

 

 

 

 

 

 

「司令、まだ戻ってきませんね」

「メディカルチェックの結果を報告しなければならないのに・・・」

この間のメディカルチェックにて、もう以前のように動けるという診断を受けた報告をしたいのだが、生憎とその司令は留守。

さらには通信機も置いていっているらしく、連絡も取れない。

これでは、報告なんて不可能だろう。

「次のスケジュールが迫ってきましたね」

「もうお仕事入れてるんですか!?」

「少しずつよ。今はまだ、慣らし運転のつもり」

「じゃあ、以前のような、過密スケジュールじゃないんですよね?」

「ん?」

「だったら翼さん!デートしましょう!」

「ぶおっふぉ!?」

戦兎は、思わずむせてしまった。

「大丈夫ですか?」

「げほっ、ごほっ・・・いや、なんか想像も及ばない言葉が出てきて驚いただけだ。気にすんな・・・」

激しく咳込みつつ、戦兎は気を取り直す。

「それで、デートってどういう・・・」

「そのままの意味ですよ?お出かけです」

「だよな・・・あー、びっくりした・・・」

安心して肩を落としつつ、戦兎はコーヒーを飲む。

「良かったら、戦兎先生も行きませんか?」

ふと、未来がそのように提案する。

だが、戦兎は首を横に振る。

「悪い。少し予定があってな」

「そうなのか・・・うむ、そうなのか・・・」

((あ、意外と落ち込んでる))

翼が沈んでるのをなんとなく察してしまう女子二人。

ただし緒川と戦兎にはバレていないようだ。

「何か予定があるんですか?」

「ああ、バイクでちょっと遠出にな」

「バイク・・・」

その言葉に、翼は僅かに反応する。

「どこに出かけるんですか?」

「ああ、ちょっと里帰り的なことをな」

(里帰り・・・?)

その言葉に、翼は首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨の降る中――――

「んじゃ、ちょいと食いもん買ってくるからドラゴンと待ってろ」

「いいのかよ。こいつを置いて行って」

「なんか知らねえがノイズが出たらすぐに飛んできてくれるから大丈夫だって。それに、何か起きたときの為の合図にもなるだろ」

「キュル!」

まるで任せろと言わんばかりに首を持ち上げるドラゴン。

「そうか・・・」

「安心しろ。いざって時はぶん殴ってどうにかするからよ」

「頼むから出来るだけ暴力沙汰は避けてくれよ・・・あとノイズに触れたらただじゃすまないんだからな?」

ハハハとなぜか洒落にならないことで笑う万丈にあきれつつ、クリスは万丈を見送る。

「あ・・・」

「ん?」

「その・・・気を付けて・・・」

「おう?わかってるよ」

傘を片手に、万丈は出ていく。

それでもって家に一人となるクリス。否、一人と一匹になるクリスとドラゴン。

(しばらくは待つしかないか・・・)

クリスは、これから退屈になりそうな気がした。

 

 

 

 

 

 

雨の降る中、万丈はコンビニから出る。

「ありがとうございました」

店員の挨拶を背中に、万丈はコンビニから出た所で、見覚えのある人物に気付く。

「風鳴のおっさん・・・」

「よう。少しいいか?」

近場で雨宿りしつつ、万丈と弦十郎は並び立つ。

「雪音クリスの様子はどうだ?」

「すこぶる元気だよ」

「そうか・・・なら良かった」

弦十郎は、心底安心した様子でそう呟く。

「それで、何しに来たんだよ?」

「・・・大人の務めを果たしにな」

「大人・・・ね・・・」

短く呟く万丈。

「ヴァイオリン奏者、雪音雅律(まさのり)と、その妻、声楽家、ソネット・M・ユキネが、難民救済のNGO活動中に、戦火に巻き込まれて死亡したのが八年前。残った一人娘も行方不明となった」

「それがクリスか・・・」

「そうだ。その後、国連軍のバルベルデ介入によって、事態は急転する。現地の組織に囚われていた娘は、発見され保護。日本に移送される事となった。当時の俺たちは、適合者を探すために、音楽会のサラブレットに注目していてね」

「イチイバルの適合の事か・・・」

「ああ。だが日本への帰国途中に突然、行方不明となり、俺たちは慌てた。二課からも相当数の捜査員が駆り出されたが、この件に関わった者の多くが死亡・・・あるいは、行方不明という最悪の結末で幕を引くことになった」

「マジかよ・・・」

その事実に、万丈はただただ驚く。

そこで万丈は気付く。

「そうか・・・全部フィーネって野郎の仕業か・・・!?」

「その線が濃いだろうな。だが、だとしても我々が彼女の正体を掴めていないのは事実だ。居場所も分からない以上、下手に動くことは出来ない」

「くそっ・・・」

雨の中、悔しがる万丈。

「そこでだ、龍我君」

「ん?」

「彼女をこちらで保護したい。この間の一件から、彼女がフィーネに狙われているのは明白。であるならば、二課で保護した方が安全だと思うのだがどうだろうか?」

確かに、その方が安全だろう。二課なら、響や翼というシンフォギア装者がいるだけでなく、戦兎―――仮面ライダービルドという心強い味方がいる。

このような布陣がいる場でなら、クリスも安全だろう。

しかし―――万丈は首を横に振った。

「いや、ダメだ」

「それは何故だ?」

「アイツには、アイツの戦いがあるからだ」

万丈は、真っ直ぐ弦十郎を見る。

「さっきの話聞いて、アイツが戦争を止めたいって気持ちは分かった。あんたらが、クリスを保護したいってのも分かる・・・でもダメなんだ。アイツには、アイツの戦いがある。それを、邪魔させる訳にはいかねえ」

拳を握りしめる。

「俺はそれを支えてやりてえ。アイツが、途中でくじけないように傍にいてやりてえ。俺は馬鹿だから、上手く言えねえし、なんかの気遣いなんて出来ねえけどよ。それでもアイツを支えてやる事ぐらいは出来る気がするんだ。まだ、アイツの事なんにも知らねえし、なんか怒らせちまう事もあるかもしれねえけど、それでも、俺はアイツの傍にいてやりたい」

そう、はっきりと口にする万丈。

「・・・そうか」

その言葉に、弦十郎はふっと笑う。

その時だった。

「キュールルールルールルールルッ!」

「うわ!?おい、やめろ!」

ふと、物陰から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「クリスか?」

「う・・・」

万丈が呼びかけると、物陰から、気まずそうな顔をしたクリスと、陽気に鳴くクローズドラゴンが出てくる。

「いたのかよ」

「いや・・・ちょっと、気になってな・・・」

「気にするって何をだよ?」

「な、なんでもいいだろ!」

顔を真っ赤にして怒鳴るクリス。

そんな中で、弦十郎の笑い声が響く。

「おっさん?」

「いや、すまない。やはり戦兎君の言った通りだったな」

「戦兎が?」

「ああ。君は、理屈じゃなく誰かの為にで動くような男だと聞かされていたからな。その分なら、彼女を保護する必要はなさそうだ」

「そうか?」

「ああ」

弦十郎がうなずく。だが、そこでクリスは口を挟んだ。

「待てよ」

その言葉で、二人の視線がクリスに向く。

「なんで、そんな簡単に敵だったアタシの為にそこまで出来るんだよ・・・」

「なんでって・・・なんでだ?」

「アタシに聞くな!いいか!?アタシは『大人』が嫌いだ!大っ嫌いだ!死んだパパとママも大っ嫌いだ!とんだ夢想家で臆病者!アタシはあいつらとは違う!被戦地で難民救済?歌で世界を救う?愛と平和?良い大人が夢なんか見てんじゃねえよ!」

「大人が夢を、ね・・・」

クリスはなおも言葉を続ける。

「本当に戦争を無くしたいのなら、戦う意志と力を持つ奴らを片っ端からぶっ潰していけばいい!それが一番合理的で現実的だ!」

必至に、自分の想いを()()()()()とするクリス。

「・・・お前が、一体どんな気持ちでこの人生、どうしてきたのか知らねえけどよ・・・俺の知る限り、その方法じゃ戦争はなくならないと思うぞ?」

「なんだと・・・」

「だってそうだろ?もし、ソイツに家族とかいたら、そいつらがお前に恨みをもって、力を手に入れようとする。それでまた潰してもまた別の奴がお前を倒そうとする。それじゃあ終わりが見えねえじゃねえか。そんな方法で、お前は本当に争いを無くせると思ってんのか?」

「そ、それは・・・」

反論できず、言葉が詰まるクリス。

「・・・良い大人は、夢を見ないと言ったな」

ふと、弦十郎が口を挟む。

「そうじゃない。大人だからこそ、夢を見るんだ。大人になったら背も伸びるし力も強くなる。財布の中の小遣いもちっとは増える。子供の頃は、ただ見るだけだった夢も、大人になったら叶えるチャンスも大きくなる。夢を見る意味も大きくなる。お前の親は、ただ夢を見に戦場に行ったのか?」

「・・・・」

何も言い返せず、黙り込む。

「違うな・・・『歌で世界を平和にする』って夢を叶えるため、自ら望んで、この世の地獄に踏み込んだんじゃないのか?」

弦十郎の言葉が、雨音に交じってクリスに伝わる。

「なんで・・・そんな事・・・」

「夢は必ず叶うって事をお前に見せたかったんだろ?」

万丈が、答える。答えて見せた。

「歌で世界を平和にする、か・・・戦兎と変わらねえぐらいの大馬鹿野郎だな。でも、そんな夢を抱けるなんてすげえじゃねえか。お前は、そんな親を嫌いだなんて言ったけどさ、世界を平和にしたいって願うお前の親がお前の事が嫌いな訳がねえ。誰よりも、お前の事を大切に思ってただろうな」

「ッ・・・」

クリスに目尻に涙を浮かぶ。必死に、溢れ出るものを抑えている。

そんなクリスの頭に、万丈は手を置いた。

「・・・!」

「上手く言えねえけどさ・・・頑張ったな」

「―――ッ!」

 

そこが限界だった。

 

クリスは、万丈に抱き着くと、声を挙げて泣いた。

雨の降る中、雪色の少女の泣き声が雨音の中響き渡る。

万丈は、突然抱き着かれた事に動揺し、どうしようかと迷うが、無理に引き剥がすなんて事は出来ず、

(すまん、香澄・・・!)

なんて事を言って、胸に顔をうずめて泣くクリスを抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日――――

まだ日が昇ったばかりの頃、戦兎はリディアンの前の道路に姿を現していた。

 

『Build Change!』

 

ビルドフォンにライオンフルボトルを差し、マシンビルダーに変形させる。

「さて・・・」

「こんな朝早くからお出かけとは、随分と今日の事を楽しみにしてたいたようで」

ふと聞こえた声に振り向けば、そこには緒川が立っていた。

「緒川か・・・」

「すみません。尾行するような真似をしてしまい」

「いや、いいよ。これから昔馴染みの所に行くんだからよ」

「昔馴染み・・・ですか・・・」

「分かってんだろ」

戦兎の顔は、言葉とは裏腹に、どこか憂鬱そうだった。

「・・・新世界。それは、一体どういう意味なのでしょうか?」

「・・・ここだけの話、お前、並行世界って信じるか?」

戦兎は、マシンビルダーに腰掛けて、そう尋ねる。

「可能性の世界・・・今ある世界とは違う道を辿った世界が他にも存在し、それが無数に存在するという話ですね」

「ああ。それで、その中に世界Aと世界Bがあるとする。その二つを合体にさせて、新たな世界Cを創る・・・それが、新世界創造の方法だ」

その言葉に緒川の表情は驚愕に染まる。

「では、この世界は、その世界Cだとでもいうんですか?」

「ああ。だけど、誰もその事を覚えていない。世界が融合しただなんて事は、誰の記憶にもない。ただ、俺と万丈を除いては、な」

創造主である戦兎と、エボルトの遺伝子を持つ万丈。

その二人だけが、旧世界の記憶を保持したまま、この世界に取り残されてしまった。

「しかし、そんな事が可能とは・・・一体、何の目的でそんな事を・・・」

「詳しくは、時間がないから言えねえけど・・・ただ言える事は、世界を救う為にやった・・・て事だけだな」

マシンビルダーに跨り、ヘルメットを被る。

「新世界を創るための力はもうない。この世界は、平和であるのが一番だ」

朝焼けの空を見て、戦兎はつぶやく。

「・・・ノイズさえいなければ、最高だったんだけどな」

「・・・・」

その言葉に、緒川は、何も言えなかった。

やがて、戦兎は誤魔化すように笑い、エンジンをかける。

「それじゃあ、行ってくるわ。もし風鳴さんが帰ってきたら言っといてくれ」

「分かりました。お気をつけて」

「ああ」

バイザーを降ろし、戦兎は走り出す。

その彼を見送りつつ、緒川は考察する。

(新世界を創造する・・・それは並大抵の力では絶対に不可能な所業・・・この世に現存するどの聖遺物を率いても、既存の物理法則を超越しない限りは、そもそも出来ない事だ・・・それを、彼はやってのけた。彼のいた世界に、それを成しえる聖遺物があったとしたならば・・・それは、決して見過ごせるものじゃない)

一人、その危険性を感じつつ、緒川は戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦兎が最初に向かったのは、『nascita』と呼ばれる喫茶店だった。

記憶とナビを頼りに、移動し、そうして辿り着いた場所がそこだった。

「・・・」

かつての旧世界で、自らの拠点とした喫茶店『nascita』。

この新世界では、一体どうなっているのか。

戦兎は、一度深呼吸をしてから、扉を開ける。

「いらっしゃいませー」

聞き覚えのある声が、聞こえた。

扉を開けて、入った先に、彼女は、いた。

「・・・美空」

石動美空。かつて、旧世界にて、戦兎たち仮面ライダーをサポートしてくれていた少女。

そんな彼女が、目の前に立っていた。

「お一人様ですか?」

「あ、ああ・・・」

だけど、彼女は彼の事を覚えていない。

この新世界で、仮面ライダー・・・旧世界に関わる全ての事は、この世界に生きる人々の記憶から消えているのだから。

「では、こちらへ・・・」

「あ、あの・・・」

戦兎は、美空を呼び止めた。

「何か?」

「いや・・・なんでもない」

「そうですか・・・ああ、では、こちらに」

カウンター席に案内される。そこで戦兎は、コーヒーを一つ頼んだ。

ふと、目の前を見れば、そこには美空の父親、石動惣一が、手慣れた手つきでコーヒーを作っている。

ふと気付けば、いつも誰もいなかった時とは違い、店は、それなりに繁盛していた。

壁には、風鳴翼・・・ではなくどこかのかなり綺麗な外国人の女性のポスターが飾られていた。

(マリア・カデンツァヴナ・イヴ・・・)

どこかの有名人だろうか。

「・・・」

「はい。お待ちどう」

「あ、ありがとう・・・ございます」

危うくため口で返事する所を寸での所で誤魔化し、戦兎はコーヒーを飲んだ。

「・・・美味い・・・」

かつてはまさしく泥水と形容出来る程まずかったマスターのコーヒーが、美味かった。

(そうか。あの時はエボルトに乗っ取られてたから・・・)

異星人と地球人の味覚は違うという事なのだろう。

「いいだろう?」

「へ?」

「マリア・カデンツァヴナ・イヴ、君がさっき見ていたポスターの人だよ」

「ああ」

それで合点がいく。それほどまでに有名なのか。

「デビューから僅か二ヶ月で全米ヒットチャートの頂点に上り詰めた気鋭の歌姫!ミステリアスにして力強い歌声は国境を越え、世界中に熱狂的なファンまで多数獲得する程の世界の歌姫!彼女のCDが出た時はすぐさま買いに行ってるんだよ~」

「買いに行ってるのは私だけどね」

そこで美空が戻ってくる。

「注文だよ」

「あいよ」

そう言って惣一は美空から受け取った表を見てすぐさま作業に取り掛かる。

「ごめんなさい。お父さん、マリアさんの事になると興奮しちゃって」

「ああ、別に・・・」

「ちなみに私も大ファンだったりするんです」

あの父にしてこの娘ありか、何やら興奮気味だ。

 

旧世界とは、違う。

 

ふと、惣一が美空から注文を受けた時に、店にある冷蔵庫を開ける。

「あ・・・」

思わず声を挙げ、目を見張るも、冷蔵庫に手を突っ込んだ惣一が取り出したのは何の変哲もない食材だ。

(ああ、秘密基地もないのか・・・)

よくよく考えてみれば、エボルトがいなければあの秘密基地は創られなかったし、そもそもスカイウォールがなくなっている時点で、エボルトがいないのは明白。

であるならば、石動惣一がエボルトに憑依されていない道理も通る。

(あーくっそ、改めて実感するときついなぁ・・・)

コーヒーを飲んで、戦兎は、そう心の中で呟いた。

その視界の中で、美空が楽しく接客している様子を眺めた。

 

 

 

 

 

nascitaを出て、次に向かったのは、猿渡ファームと呼ばれる農場だった。

何人もの農家が、畑を耕し、実った作物を採集していた。

その様子を、戦兎は遠くから眺めていた。

「おうおう」

ふと、見覚えのある顔に声をかけられる。

何やら、カツアゲみたいな感じで。

「ん?」

「お前、ここに一体何の用だぁ?」

見覚えのある赤いバンダナを頭に巻いている男だ。

かつて、北都と呼ばれる街の軍隊の筆頭を務めていたとある男の部下。

三羽ガラスの赤羽と呼ばれていた大山勝だ。

そして、旧世界では、自分の目の前で死んだ男。

「いや、この辺りを通った時にこの農場があるって事を思い出してな。だから、ちょいと見に来ただけだ」

「本当かぁ?なんか別の農場で商売敵に畑荒らされたっていう話持ちあがってるからお前もその手の奴なんじゃねえのかぁ?」

「なんで俺がそんな事しなくちゃいけないんだよ・・・」

短気なのは相変わらずか。

「その辺にしておけ」

ふと、そんな赤羽を止める者がいた。

「あ、カシラ」

「・・・」

(一海・・・)

猿渡一海―――仮面ライダーグリス。

北都唯一の仮面ライダーにして、この農場の主。

誰よりも農場の事を大切に思い、そこに生きる農家たちの為に戦っていた戦士。

そして、自分の忠告を無視して禁断のアイテムを使い、そして死んだ男。

「悪かったな。うちのもんが」

「いや、大丈夫だ」

「ていうかお前、その話はもうずっと前の話だろうが。いつまで引きずってんだ」

「す、すんません・・・」

「まあいい。さっさと戻れ」

一海に言われて、自分の仕事に戻る赤羽。

「ま、好きに見ていってくれや」

「いや、もう充分に見させてもらった。良い場所だな」

「ああ、そうだろ?」

笑って自慢してみせる一海。

その様子を見て、戦兎は、心底安心するのであった。

 

 

 

 

 

それからも、戦兎はバイクを走らせ、自分の知る限りの場所を走り回った。

難波重工の工場『難波機械製作所』では、内海成彰が難波スティックと呼ばれる鉄の棒を折ろうとしていたりして、それに周りの無反応さにドン引きしてしまったり、続く政府官邸では氷室幻徳が父親の仕事をしっかりサポートしていたり、街中で見かけた滝川紗羽はジャーナリストとして奔走していたりと、自分の知る彼らとは、全く違う人生を歩んでいた。

 

スカイウォールの存在しない世界―――パンドラボックスが発見されなかった世界。

 

それだけで、こうも変わるものなのだろうか。

いや、おそらくノイズがいるというだけでも、大きく変わっている筈だ。

ただ、自分たちの知る十年―――否、歴史そのものが違うのがこの世界だ。

シンフォギア、ノイズ、特異災害対策機動部二課、聖遺物――――

あの世界では、絶対にありえなかったものばかりだ。

だけど、ライダーシステムとシンフォギアは、似て非なるものではあるが、誰かを守るために作られたという事には変わりはない。

だけど―――

「・・・・」

夕焼けに染まる空を見上げて、戦兎は、思う。

(この世界に、果たして『俺』は必要なのだろうか・・・)

なんて、思ってしまう戦兎。

自分の掌を見て、この世界における自分の異物感を改めて実感してしまう。

だが、すぐに頭を振ってその考えを振り払う。

(何考えてんだ。ノイズがいるんだ。俺が生きるのを諦めてどうすんだっての)

「はあ・・・」

思わずため息をついてしまう戦兎。

「ああー、だめだ。色々と考えちまう・・・」

なんて、呟いた時。

 

―――あんまり難しく考えてると、そのうちぽっきりいっちゃうぞ。

 

「・・・ッ!?」

また、知らない声が頭の中で響く。

その瞬間、視界が真っ白に染まる。その真っ白な視界に、戦兎は覚えがあった。

「ここは・・・」

そこは、もう一人の自分である葛城巧との対話の場である、白い世界。

いくつもの数式が上空を通り過ぎ、いくつもの扉から、これまでの記憶が流れる、真っ白な世界。

「どういう事だ・・・巧はもういない筈なのに・・・」

 

《―――へえ、ここがアンタの心の中かぁ・・・なんというか、数字がいっぱいだな》

 

「誰だ・・・?」

振り返れば、そこにはまるで羽毛のような赤毛の長髪を持つ少女がいた。

その少女を、戦兎は思わず警戒してしまう。

《警戒しても無駄だと思うよ。なんだか知らないけど、アタシも気付いたらここにいたからさ》

「気付いたら?ってか、お前は誰だよ」

《アタシ?アタシは・・・っと、なんか知らないけど時間切れみたいだぞ》

「時間切れ・・・あ」

少女の体が、消えかけている。

いや、それだけじゃない。視界が暗くなってきている―――というよりは、別の景色が―――自分が本来見ているべき景色が見えてきた。

《まあ、アタシが誰かだって事はまた今度という事で》

「おい!とりあえず名前だけは―――」

戦兎は、少女に手を伸ばす。

その少女は、ふっと笑みを浮かべると、言葉を紡いだ。

 

 

 

《―――生きるのを諦めるな》

 

 

 

「―――ッ!?」

気付けば、戦兎は、先ほどまでいた公園に立っていた。

あの白い世界には、もう入れない。

「なんだったんだ・・・」

訳が分からない。あの世界には、本来なら自分と巧しか存在しない筈だ。

そして巧は、この世界の巧の元へ戻っていった。きっと、スカイウォールの事も忘れているだろうけども。

だから、もうあの白い世界は創られないはずだった。

だというのに、あの少女が、白い世界に突然―――

「訳分かんねえ・・・」

流石にこればかりは戦兎には分からなかった。

あの少女が一体誰なのか。一体どうやってあの白い世界にやってきたのか。

分からない事は多い。だけど、彼女が最後に残した言葉は、不思議と胸の中に残っていた。

 

―――生きるのを諦めるな

 

「・・・そうだな」

戦兎は、ふっと笑う。

「正義のヒーローが諦めたら、まずいもんな」

すっかり日の沈んだ空を見上げて、戦兎は、そう呟いた。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!

「実は、これを渡したくてな」

翼からライブに招待される戦兎。

「もう大丈夫なのか?」

そのステージは、かつてのツヴァイウィングの最後の舞台。

「そんで、これからどうるすんだ?」

一方、クリスと行動を共にする万丈たち。

「運が悪かったな」

そこへ現れるものとは―――

次回『歌女のナイトフェスティバル』

「負ける気がしねえ!」


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歌女のナイトフェスティバル

未「ノイズが蔓延る新世界で、仮面ライダービルドこと桐生戦兎は、同じく仮面ライダークローズである万丈龍我、シンフォギア装者にして私の親友立花響、そして、同じくシンフォギア装者であり日本が誇るトップアーティストである風鳴翼と共に、ノイズと戦う日々を送っていた」
黒グニール「そして、そんな桐生戦兎だけど・・・ちょっと待ってなんで私まだ黒グ―――」
戦「ちょーっと野暮用で里帰りをしていたのでしたー!」
黒グニール「待って、お願いだから私の話を」
万「んでもってその前日にはクリスはやっと心を開いてくれたのでした」
黒グニール「待て待てお願いちょっと待てどうして私のはな」
ク「う、うるさい!いいか!あの時のは色々と溜め込んでたものがあったからついうち抱き着いちまっただけで」
黒グニール「いやだから話w」
響「もークリスちゃんったら恥ずかしがっちゃって~」
ク「うっさい!」
黒グニール「ねえ、はn」
翼「はあ、バイクで行くなら私もツーリングしたかったな・・・」
黒グニール「あn」
ク「ハッ、どーせ後で行ったんだろうっていうオチになるんだろ?」
黒グニール「・・・」
農具「まあバイクの免許持ってるのは翼さんとライダー全員デスからね」
工具「いずれ行けるから安心」
黒グニール「・・・私泣いていいかしら!?」
戦「と、いう訳で」
黒グニール「無視!?」
戦「第十七話を」
黒グニール「泣く!泣くわよ!?泣くからね!?いいのね!?」
戦「どうぞ!」
黒グニール「うわぁぁああぁぁあああん!!」(号泣&逃亡
農具工具セット「「先に○○が出た報い」デス」
無性「なお、意味のないネタバレ隠しによるアドリブです」


戦「あ、そういや前回に対する感想の数が十を超えたぞ!」
翼「読者の皆様には感謝しかありません。是非とも今後ともこの小説をよろしくお願いいたします」
作者「ありがとうございます!」


――――翌日――――

 

 

「桐生」

「ん?」

ふと、戦兎の研究室にて、翼が戦兎に話しかけてくる。

「どうかしたのか?」

「実は、これを渡したくてな」

そう言って渡されたのは、一枚のチケット。

「これは・・・ライブのチケットか?」

「出来れば万丈にも渡したかったんだが、今は雪音の事で手一杯なんだろう」

「もう大丈夫なのか?」

「ああ。アーティストフェスが十日後に開催されるのだが、そこに急遽、ねじ込んでもらったんだ」

「倒れて中止になったライブの代わりって事か・・・」

あの日、絶唱を使わなければ、予定通り行われていた筈のライブ。

その代わりと思えば、安いものか。

「それで、会場は・・・」

場所を確認すると、そこは、二年前、ツヴァイウィング解散の原因となったライブ会場だった。

「お前・・・」

「過去は、いつか乗り越えていかなければならない。この会場が、私の新しい第一歩なんだ」

翼は、戦兎を見上げる。

「それを、桐生にも見届けて欲しい」

確かな覚悟の籠った眼差しと、自分は大丈夫だと言う笑顔。

その決意の固さに、戦兎も答える。

「分かった。見に行くよ、ライブ」

「ありがとう。貴方が来るのを、楽しみにしてる」

それは、とても小さな約束なのかもしれない。

だけど二人にとっては、とても大切な約束だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方で、

「はむ・・・んぐんぐ・・・」

アンパンを片手に頬張りつつ、クリスと万丈、そしてドラゴンは公園のベンチにて休息をとっていた。

「そんで、これからどうするんだ?」

「もう一度フィーネの所に戻る。んでもって叩き潰す」

「こういうのって、色々と協力してもらった方がいいんじゃねえか?」

「したければ好きにしろ」

万丈の片手と、クリスのポケットには、弦十郎から渡された通信機が入っている。

彼曰く、いつでもこちらからサポートできるように、だそうだ。

ただし、

『いいか。一応アタシが信じてんのは龍我だけだ!まだ全ての大人を信用した訳じゃないから、そこの所は間違えるなよ!』

と、クリスは言っていた。

ようは照れ隠しである。

「アタシは、アタシが信じた奴の為に戦う。争う理由もないんだろうけど、争わねえ理由もねえ。そこの所は間違えんなよ」

「頑固過ぎんだろお前・・・」

「キュル・・・」

相変わらずつっけんどんなクリスに呆れる万丈とドラゴン。

それはまあいいとして。

「とにかく、あの野郎の屋敷に乗り込むのは良いが、問題なのはアイツをどうやって倒すかだろ?なんか良くわからねえバリア張るし、あのネフ・・・なんとかの鎧とか着て結構強ぇし、どうするんだよ?」

「ネフシュタンの鎧な・・・あの鎧には自己修復機能があって、どんなに傷つけてもあっと言う間に治っちまう。ついでに使用者の体を食いつくして融合しちまう性質も持ち合わせてる。下手すりゃ鎧に殺されかねない」

「じゃあ自滅を待てば・・・」

「あの女が何の対策もしてねえ筈ねえだろ。きっと、なんらかの方法でどうにかしてるはずだ」

「うーん・・・」

本格的に考え出す万丈。そんな万丈にクリスは溜息を一つつく。

「お前馬鹿なんだからそんな難しく考えるなよ」

「馬鹿っていうな。せめて」

「筋肉をつけろ、だろ?はいはい分かってますよ筋肉馬鹿」

「ぬぐ・・・」

何やら、揶揄われているようで面白くないと思ってしまう万丈。

だけど、不思議と悪い気はしていなかった。

それが証拠に、ふっとクリスが吹き出すと万丈も笑い、また反響するようにクリスは小さく笑いだし、万丈も笑う。

「そういや、今日はあそこがやけに明るいな」

「ん?そうだな・・・なんでだ?」

当然、翼のライブだからである。

しかしそんな事を知らないのは当然であり、二人は首を傾げるばかりだった。

「さて、そろそろ暗くなってくるし、今夜寝る場所探すか」

「だな」

そう言って立ち上がった万丈とクリス。

 

―――だが、そこでなんの偶然か転がってきたビンをクリスが踏んでしまう。

 

「は・・・?」

「え」

当然、ビンで足を滑らせたクリスは、そのまま倒れていき、

「あぶねえ!」

寸での所で万丈がその手を掴み、一気に引き戻す。

「うわ!?」

その反動でクリスは今度はつんのめり、そのまま万丈の体に抱き着く形で寄り掛か手しまう。

そして、クリスのその豊満な胸が、思いっきり万丈の胸板に押し付けられる。

「「~~~~!?」」

当然、異性同士である二人にはそれは溜まったものじゃない。

ばっと離れて互いにそっぽを向いてしまう。

「な、なんかすまん・・・」

「あ、アタシの方こそ・・・」

どうにも気まずい空気になってしまう。

ただ、ここで二人の差を解説しておくと、まず万丈は年頃の女性、それもかなり良い部類に入る美少女に抱き着かれ、さらには学生にしては巨大すぎる乳房を押し付けられた為にどこぞの中学生男子のように照れている。

だが、クリスは違った。

先ほどから心臓がバクバクと破裂するんじゃないかと激しく脈打っており、その顔はリンゴのように真っ赤になっており、さらに体は沸騰するんじゃないかと煮え滾っていた。

頭からは湯気が出ている始末だ。

なんだか知らないが、あの一件以来、どうにも万丈が気になってしまう。

それは、まあ不可抗力とは言え、万丈の腕の中で泣いてしまったが、あれはあくまで自分を慰めてくれたのであって、決して何か他意があった訳ではない。

それは彼の性格から考えると、そんなに深くは考えていない筈だ。

だが当然、こっちにだって何か邪な考えがあった訳でもない。

そう、だから自分がこれほど動揺する理由はないのだ。

ない、筈なのだが・・・

(なんでこんなに体が熱いんだよ・・・!)

訳が分からないからこうなっているのである。

しかし、そんな時間はすぐに終わりを告げて、突如として唸り出したクローズドラゴンに二人は思わず身構える。

「「ッ!?」」

身構えれば、影から出てくるのはノイズ、ノイズ、ノイズ。

「へっ、こんな時にお出ましとは、運が悪かったな」

しかし、大量のノイズを前にしても、クリスは怖気づくことなく、むしろ不敵な笑みを浮かべてペンダントを取り出す。

「今のアタシは、すこぶる調子が良い!」

それと同時に、万丈もビルドドライバーを腰に巻く。

「そりゃよかった。俺も心置きなくやれるってもんだ!」

「キュールルールルールルールルッ!」

ドラゴンが万丈の手の中に納まり、万丈は、この間出来てしまった真っ赤なボトル―――名づけるなら『イチイバルレリックフルボトル』をクローズドラゴンに差し込む。

すると、青かったクローズドラゴンのボディが鮮血の如く真っ赤に染まる。

そのウェイクアップスターターを押して、起動する。

 

激唱ゥッ!』

 

クロォーズイチイバルッ!!!』

 

ボルテックレバーを回し、四方向にスナップライドビルダーを展開させる。

 

『Are You Ready!?』

 

「変身!」

 

「―――Killter Ichaival tron―――」

 

激唱戦場クロォーズイチイバルッ!!!』

 

イェェエイッ!!ドッカァァァァアンッ!!!』

 

 

目の前に立つノイズと、二人の真っ赤な戦士。

「行くぜクリス!」

「オッケー龍我!」

「「負ける気がしねえ!」」

そう言い、二人はノイズに向かって駆け出していく。

 

 

 

 

 

 

 

その一方、戦いが始まっているとは露知らずの戦兎は、ライブ会場に訪れていた。

「これが噂に聞くペンライトって奴か・・・」

若干、ライブというものが新鮮でわくわくしている天才物理学者。

それが証拠に彼の両掌には同じ色で発行するタイプのペンライトが一本ずつ握られていた。

「そういや、翼の歌、ノイズとの戦い以外で生で聞くのはこれが初めてだな・・・」

そう思い出し、やがて戦兎は頬に笑みを浮かべる。

「よし、今日は脇目も振らずに思いっきり楽しみますか!」

会場に入る前のブースにて、戦兎は腕を突き上げてそう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ろくに照明も付つけず、真っ暗なライブ会場―――

そこへ突如として照明がつき、音楽が流れれば、会場にいる観客は一斉にペンライトをつけ、歓声を上げた。

そして、ステージの端から歩み出てくるのは、日本が誇るアーティストにして歌姫、風鳴翼。

その姿を、青を基調とした衣装で着飾り、ただゆっくりと、ステージの中央に立って見せる。

巻き起こるの歓声の中、翼は、歌を紡ぐ。

 

「―――Deja-vuみたいなカンカク、制裁みたいなプラトニック―――」

 

 

 

同時刻―――

 

「オラァ!」

ブラストブレードをもってクリスに近寄るノイズを切り払うクローズ。

クリスはガトリングガンをもって遠くの敵を一掃する。

白のようなノイズが砲撃する。

「ッ!?」

 

『Set Up!Blast Shooter!』

 

その砲弾をクローズが打ち抜く。

「クリスには一切近付けさせねえ・・・!」

しかしそれでも、他の雑魚ノイズは迫ってくる。

そのノイズをクリスがガトリングで一薙ぎするも、上空に飛び上がったノイズだけは仕留められず、そのまま上空から強襲を受ける―――

「やあ!」

寸前で響が飛び蹴りを放って直線状のノイズ全てを一掃する。

「響!」

「遅くなりました!」

すぐさまノイズと向き合う響は、腕のガジェットを引いてスタンバイし、一気にノイズの群れの中を駆け巡る。

放たれた必殺の拳はノイズの群れを一気に薙ぎ払う。

そこへ、城型ノイズの砲撃が響を襲う。しかし、その砲弾にクリスが銃弾を浴びせる。

「貸し借りは無しだ!」

クリスはそう叫び、さらなる敵へその銃口を向ける。

「うん!」

それが無性に嬉しくて、響は元気よく返事を返す。

響の打撃がノイズを吹き飛ばす。クローズの斬撃がノイズを斬り捨てる。クリスの銃撃がノイズを薙ぎ払う。

 

 

 

サビに、入る―――

 

 

 

その瞬間、会場のボルテージは一気に引きあがり、歓声が轟く。

 

 

 

拳を振り上げた響が、地面に向かってその拳を振り落とす。

衝撃が前方へ一直線に進み、遠くの地面を砕いて城型ノイズを沈める。

その間にクリスが周囲のノイズを掃討し、そしてクローズは、ボルテックレバーを回しながら城型ノイズに迫っていた。

 

『Set Up!Blast Break Gun!』

 

その最中、変形したブラストモービルがクローズの右脚に着装される。

 

『Ready Go!』

 

飛び上がったクローズの右脚が赤い光の粒子が迸る。

それらが形を成し、やがて一本のライフルを生成。

 

 

「行くぜぇぇえええ!!」

次の瞬間、ライフルの撃鉄が降ろされ、クローズがノイズに向かって打ち出される。

 

ブラステックフィニッシュ!』

 

叩きつけられた一撃。貫く衝撃。だがそれだけに留まらず、足の装着されたブラストモービル・ブラストブレイクガンから、高密度のエネルギー弾が叩き込まれる。

それが止めとなり、ノイズを貫通し、一気に破壊する。

破壊されたノイズは一気に炭素の塊となり、崩れ去っていく。

 

 

 

 

 

 

それと同時に、翼の歌は終わり、歓声が会場に響き渡る。

 

 

 

 

 

その歓声の中で、翼は、話し出す。

「ありがとう皆!」

始めに、感謝。

「今日は思いっきり歌を唄って、気持ちよかった!」

そして、まっさらな本音を言う。そこで一旦、深呼吸をしてから、翼は、意を決して言う。

「こんな思いは久しぶり。忘れていた」

その言葉に、会場は静まり返り、そこには、翼の言葉のみ流れ出す。

「でも思い出した。私は、こんなにも歌が好きだったんだ」

忘れていた事、思い出した事。

「聞いてくれる皆の前で歌うのが、大好きなんだ」

響と出会い、万丈と出会い、そして、戦兎と出会って、思い出した事。

「もう知ってるかもしれないけど、海の向こうで歌ってみないかって、オファーが来ている。自分が何のために歌うのか、ずっと迷ってたんだけど、今の私は、もっと沢山の人に歌を聞いてもらいたいと思っているの。言葉は通じなくても、歌で伝えられる事があるならば、世界中の人たちに、私の歌を聞いてもらいたい」

ずっと悩んできた事。そして、やっと決心した事。

「私の歌が、誰かの助けになると信じて、皆に向けて歌い続けてきた。だけどこれからは、皆の中に、自分も加えて歌っていきたい」

全てが変わってしまったあの日。だけど、また変わってしまった、あの出会いがあった。

「だって私は、こんなにも歌が好きなのだから」

あの頃から変わらない、本当の自分の気持ち。

「たった一つの我儘だから、聞いてほしい・・・」

ただ一人の、少女の想い。

「―――許してほしい」

 

その少女の想いに――――

 

 

《―――許すさ、当たり前だろ?》

 

 

「―――ッ!」

耳に届いた、友の声。

次の瞬間、会場に、止めどない歓声が上がった。

そのどれもが、「頑張れ」や「いいよ」と言う、翼を元気づけてくれる言葉ばかりだ。

そして、その中に、ただ一人、片手を上げてピースサインを送る男の姿もあった。

その声に、翼は、涙を流して、一言だけ呟いた。

「・・・・ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリスちゃーん!」

「ふん」

抱き着こうとする響を躱し、クリスはさっさと立ち去る。

「ああ!待って!」

そんなクリスを呼び止めようとする響だが、クリスはびっと響を指差す。

「いいか!今回は助けてやったがアタシはお前らと慣れ合うつもりはねえ」

「龍我さんとは一緒にいるのに?」

「不可抗力だ!でだ、確かにアタシたちに争う理由なんてねえのかもしれねえが、争わねえ理由もねえ。人間がそんな簡単に手を取り合え―――」

が、そんなクリスの言葉を遮って響はクリスの手を取る。

「なっ!?」

「出来るよ。誰とだって仲良くなれる」

「そ、そんな簡単に・・・」

「どうして私にアームドギアがないんだろうって思ってた。半人前は嫌だなって思ってた。だけど、今は思わない。だって、こうしてクリスちゃんの手を握りしめられるんだから」

「・・・・」

戸惑うクリス。しかし、そんなクリスの頭にがっと万丈が手を置く。

「うわ!?」

「ま、そう言うこった。大人しく認めちまえ、こいつは俺以上の馬鹿だってな!」

「あ!龍我さん酷い!」

「どっちかって言うと龍我の方が馬鹿だろ!」

「馬鹿って言うな」

「筋肉付けろだろ筋肉馬鹿!」

「あ、そういえばクリスちゃん龍我さんの事はちゃんと名前で呼んでるんだ!」

「ッ!?(ギク)べ、別にいいだろお前には関係ない」

「私の事も名前で呼んで~」

「だぁあ!鬱陶しい!」

響に詰め寄られて、クリスの叫びが夜空に広がる―――

 

 

 

 

 

 

ライブが終わり、観客が口々に今日のライブの事を話しながら去っていく。その様子を、戦兎は入口から離れた所で見ていた。

 

《―――久々に、翼が歌ってるのを見れた》

 

また、あの白い世界に意識が飛ぶ。

 

「久々・・・」

《ああ、アタシがアイツの隣にいないってのが、なんか凄く悔しいな》

「・・・」

目の前に座り込む彼女は、泣いていた。

「・・・お前は、もしかして・・・」

《ごめん、また時間切れみたいだ》

視界がホワイトアウトする。

《もう少し、時間が取れると良かったんだけどな。流石にここで一人でいるのは結構退屈だからさ》

そして、視界がライブ会場に戻る。

「・・・・出来る限りの努力はする」

「戦兎先生!」

そこで、未来がやってくる。

「未来?響も一緒だと聞いたんだが・・・」

「響はノイズが現れたからそれの対処に・・・」

「なぬ・・・!?」

ノイズだと?そんな事一度も聞いていないぞ。

「おい本部!」

『いやーすまん。響君が君と翼には言わないでくれって言っててな。ついつい意見を受け入れてしまった』

「ふっざけんな!?その様子じゃ上手くいったから良かったものの、もしアイツに何かあったら・・・」

『一応、現場に龍我君やクリス君もいた。だから、対処は無事滞りなく終わったよ』

「お、俺のヒーローとしての活躍の場が・・・」

その場にがっくりと膝をつく戦兎。

「あ、アハハ・・・」

それに未来は苦笑するしかなかった。

「・・・・だ」

「はい?」

「やけ食いだァ!」

「うわ!?」

いきなり起き上がってそう叫んだかと思うと、未来の方を見る。

「万丈から聞いたぞ!なんかすごく美味いお好み焼き屋があるんだってな!?」

「は、はい、ありますけど・・・」

(あれ?この間行った筈だよね?もしかして覚えてない・・・?)

「よし、そこでやけ食いするぞ!案内しろ!」

「ええ!?わ、私これから寮に戻って晩御飯の支度を・・・」

「じゃあ場所だけでも教えてくれ!あーくっそぉ!俺の出番がぁぁあぁああ!!!」

その場に、戦兎の悲痛な叫び声が響いた。

 

 

 

 

 

翼が決意を示したライブの夜―――物語は、着々と進んでいた。

 

 

 

 

 

そして、戦兎は気付かなかった。

 

 

 

ポケットの中にあるラビットフルボトルが、ほんの微かに青くなった事を。

そして、その青がすぐに溶けるように消えてしまった事を―――

 

 

 

 

 

決戦は―――近い―――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!

「なんだよ・・・これ・・・」

フィーネの屋敷に再度突入した万丈とクリス。しかしそこにあったのは何人もの武装したアメリカ人の遺体だった。

「カ・ディンギル」

その言葉の意味とはなんなのか。

「現れやがったか・・・!」

そして現れる巨大ノイズ。

「変身!」

その脅威に今、仮面ライダーとシンフォギア装者が立ち向かう。

次回『リンクした手だけが紡ぐもの』

「「「「―――託したッ!」」」」













一つ、思いついたネタ(残酷注意)




ノイズによって文明が破壊された日本。
生き残った人々はただ、今日の食糧を求め、明日へとその命を繋ぐためにただ生きる。
されどノイズは際限なく溢れ出し、人々はただ、ノイズに怯え暮らす。
その地獄で、少女がただ一人、戦い続ける。
されど少女は自らを『人』とは思わない。
見た目が『少女』であろうとも、彼女は決して自らを『人』としない。

あの日、親友を食べたことを思い出せる。

あの日、怪物を止めようとした少女を食べた事を思い出せる。

あの日、その少女の姉にして自分の姉のような存在だった少女を食べた事を思い出せる。

あの日、恩人を自ら食べてしまった事を思い出せる。

故に彼女は自らを人としない。
その身は人ではなく、人の形をした怪物と例える。
なれば彼女は一体何者か――――


そしてその世界にも、異世界の装者が降り立つ。


「―――別の並行世界のあたしデスか」

「・・・あた・・・し・・・?」



―――少女は、怪物(じぶん)と邂逅する―――



戦姫絶唱シンフォギアXDU―――『偽物の神刃』



「あたしは――――ネフィリム」





―――結局の所・・・いわゆる『ネフィリム切歌』です。


やる気はないし、誰かに書いてほしいなって思ったネタ。(誰か書いてくれてもいいんやで?)


丁寧に設定並べると(変更OK)

ネフィリム切歌

暴走したネフィリムがF.I.Sの研究所にて切歌を捕食、そのまま調、マリア、セレナすら捕食した所でとある聖遺物を取り込み、その姿と記憶を『暁切歌』として引き継いで変化させた。
しかし、暴走時、ついでネフィリムだったころの記憶がその時完全に抜け落ちており、自分が調たちを食べてしまった事は知らなかった。
ナスターシャが意図して隠し、また調たちを失った事で切歌がグレ状態になってしまい、憎悪の対象であるネフィリム(自分だとは知らない)もいない上、ナスターシャが切歌に恨まれかねない教育をし続けた事により(真意は切歌に自分がネフィリムを悟らせないため、あえて自分に憎しみの矛先を向けさせていた)、かなり陰気な生活を送る(いわゆる文スト中島敦状態)。七年後のある事件を経てネフィリムとして覚醒して暴走してしまい、ナスターシャを殺害、死に際の一言で自分がネフィリムだと知る。
その後、自身のギアである『イガリマ』を捨てる、というか食べる事によって体内に保管し、二度と使わない事を決意、偽物である事を刻み付けるために左目を斬り潰す。
以降、F.I.Sに追撃されながらも世界を流れ、ルナアタックによって世界唯一のノイズへの対抗手段と成り果てる。
それから、色々あって世紀末状態となった日本に住み着き、残った住民を守るために日々『偽物』としてノイズや錬金術師と戦っている。

外見
切歌本来のお気楽な性格は完全に死に、愛想笑いや力のない言動を見せる。渾身のジョークもガチに笑えないブラックジョーク。
手入れをしていない為に髪はありえない程ぼさぼさで伸び放題になっている。もはや手遅れレベルである。
せめて偽物らしく暗い緑を基調とした服装を身に纏う。
眼が死んでいる。
痩せてはいない。

スペック
イガリマを捨て、代わりに()()()()()()ゲイ・ボルグを扱う(なんでかって?ネフィリムは神話によれは半神半人だからさ)
今までに食べた聖遺物の能力を引き出し、自在に操る事が可能。しかしマリアのガングニール、セレナのアガートラーム、調のシュルシャガナは食べてしまっているが、罪悪感故にあえて使わない。
今までに捕食した聖遺物の特性と名前を全て記憶する事、さらに一度見た聖遺物の解析と理解が可能(ある聖遺物の特性)
さらに、食べた聖遺物をアームドギアとして顕現させる事が出来、一度に顕現させられる数は彼女自身が捕捉出来る限り、際限はない上、触れずに浮かせて遠隔操作も可能。
また、ギャラルホルンすら捕食した事がある為、並行世界の観測を任意でする事が出来る。
戦闘能力は素の状態で装者と互角、それ以上となる。
ギアを纏えばXDと同等以上の力を発揮する(捕食した聖遺物の多さと特性故に)

未だ暴走して本来の姿に戻る可能性があり、どういう訳か煙草を吸っているとネフィリム化を抑える事が出来る。
ちなみにネフィリム化すると、しばらく暴れ続け、やがて元に戻るという謎仕様。
暴走時は制御は出来ないが記憶は残る。

ネフィリムであって切歌本人ではないため、並行世界の切歌に影響を与える事はない。


以上、出来れば誰か書いて(叶いもしない願い

では次回も楽しみに!


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リンクした手だけが紡ぐもの

戦「人々を脅かす特異災害『ノイズ』の存在する新世界にて、仮面ライダービルドこと桐生戦兎は、通称『特機部二』と呼ばれる組織と協力し、ノイズと戦う日々を送っていた」
万「おお、なんか今日は真面目だな」
戦「最近カオスな内容が多かったからな。たまにま真面目にやってもばちは当たらないだろ」
ク「普通にネタがなくなったって言えばいいだろ」
響「ああだめだよクリスちゃんネタバレは」
未「そうだよ。そんな傷ごと抉るようなこと」
作「ぐふっ・・・」
翼「ああ、作者が倒れた・・・だが問題はないか」ムジヒ
戦「はいはいディスんのはそこまでにして、さてどうなるd―――」
黒グニール「ちょぉっと待ったぁ!」
戦「うお!?なんだよ黒グニーr」
黒グニール「私は黒グニールなどでない!」
万「まだ引きずってんのかよ・・・」
黒グニール「せっかく、折角本編で名前が出てきたのに、どうしてまだ私の名前が黒グニールなの!?おかしいでしょ!?」半泣き
戦「あーもううるさいな。だったら『タヤマ』に改名してやるから、それでいいだろ?」
タヤマ「何よタヤマって!?・・・ってもう名前が変わってる・・・?」
戦「ちなみにこれは『ただの やらしい マ〇〇』の略だ」
タヤマ「何気に酷くない!?ていうか私のどこにやらしい要素があるのよ!?」
響「うーん、何気に装者の中で一番スタイルいいからじゃないですか?」
ク「ついでにあの訓練服や水着はかなりの色気抜群だったよなぁ?」
タヤマ「うわぁぁん!皆がいじめるぅぅぅう!」逃走
翼「と、いう訳で、第十八話をどうぞ!・・・あれ?あらすじ紹介、今回も出来てなくないか?」


「じゃあ、またあとで」

そう言って、翼は走り去っていく。仕事に行くようで、その前に一度こちらに声をかけておきたかったらしい。

「・・・・有名人と仲良くなるとは、俺も随分と俗世に染められたもので」

あの頃は、仮面ライダーとして、あまり多くと関わっていく時間は無かった。

しかし、それでも多くの人々と関われたとは思っている。

敵でも味方でも、はたまた関係ない人間でも。

「・・・」

ふと、思った。

 

人は、誰かと関わらずには生きていけない。

 

誰かと関わり合う事でしか、相手の事を理解出来ず、ただ自分を認識する事も出来ずに生きていく事になる。

 

例え、争い憎み合う事になっても。

 

 

「・・・・それでも」

戦兎の本質は変わらない。

「俺の『愛と平和』は、絶対に揺らがない」

ただ、それだけを信じて、戦兎は今日も生きる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異変を感じたのは、フィーネの館の扉をくぐった時だった。

「「ッ!?」」

二人は思わず鼻の奥を突いた匂いに気付いた。

その匂いに、二人は覚えがあった。

それを認識した途端、二人は走り出し、あの日フィーネが待ち構えていた場所へと駆け込む。

そこには―――

「なんだよ・・・これ・・・」

何人もの武装した男たちが、急所から血を流して倒れ、絶命していた。

クリスや万丈にとっては、見慣れた光景だ。

「何が、どうなって・・・」

部屋に入り込み、探索しようとすると、もう一人の気配を感じ、二人は思わずそちらを向く。

そこには、弦十郎がいた。

「ち、ちが―――」

「クリスは何もやってねえ!」

万丈がクリスを庇うように二人の間に割って入る。

「龍我・・・」

次の瞬間、扉から武装した黒スーツの男達が入ってきて、思わず身構える万丈だったが、黒スーツの男たちは二人を素通り、遺体の確認を始める。

「誰もお前たちがやったなどと、疑ってはいない。全ては、君や俺たちの傍にいた、()()の仕業だ」

「彼女・・・誰だよソイツは―――」

「風鳴司令」

ふと、黒スーツの一人が弦十郎を呼ぶ。

弦十郎がそちらに向かえば、そこには一人の遺体と、その上には一枚のメッセージが掛かれた紙が置いてあった。

それは、赤い―――おそらく口紅などで書いた―――文字でこう書かれていた。

 

『―――I LoVE YoU SAYoNARA―――』

 

「これは・・・」

「・・・なんて書いてあるんだ?」

その場にいる者たちがずっこける。

「おま、これも読めねえのかよ!?」

「仕方ないだろ分かんないだから!」

勝手に言い争うクリスと万丈に呆れる弦十郎含む黒スーツ一同。

そんな中で、その死体を見ていた黒スーツの男がその紙を拾い上げた、その瞬間、

「キュルー!」

ドラゴンが叫び、突如として部屋が爆発する。

「ッ―――!!」

その爆発をいち早く勘で察知した万丈をクリスを抱き寄せると、ポケットのドラゴンフルボトルを取り出す。

爆炎が舞う中、天井が崩れ、これまた巨大な瓦礫が降ってくる。

これに踏み潰されれば、確実に死ぬ。

であるならば迎撃あるのみだが、仮面ライダーに変身する時間が惜しいのも事実。

かと言ってドラゴンフルボトルを使って殴っても振り足りなさから質量に負けて圧し潰される。さらに、今万丈の腕の中にはクリスがいる。

だから、一歩間違えれば、即死―――

だが、万丈は―――

(今の俺なら―――!!)

 

ハザードレベル7――――ボトルの進化が可能な数値

 

握りしめたドラゴンフルボトルに、自分の力が収束するようにイメージする。

念じた瞬間、手の中のドラゴンフルボトルが銀色に輝き出す。

そして、その輝きを、一気に振ってきた瓦礫に叩きつけて―――粉砕した。

「ウォリヤァァアア!!」

振り上げられた拳は岩を穿ち、破壊する。

やがて爆炎が収まり、弦十郎はともかく、他の黒スーツも無事だった。

「二人とも、無事か!?」

「ああ、どうにかな」

「・・・」

万丈は本能的に銀色に輝くドラゴンフルボトルを隠すようにポケットに入れて、そう返事を返す。

だが、クリスは呆然としたままだった。

「・・・・ん?どうしたクリス」

「・・・え、あ、ああ・・・アタシも大丈夫だ」

「それなら良かった」

弦十郎は周囲を見る。

「中々、味な真似をしてくれる」

「何がどうなってるんだよ・・・」

「なんとも言えん・・・が、今はとにかく、急いだ方が良さそうだ」

「そうか・・・」

「うむ・・・それで、いつまでくっついているつもりだ?」

「え?」

「は?」

そこで二人は、爆発が起こった際にぴったりくっついたままの状態である事に今更気付く。

「「ッ!?」」

思わずバッと離れる二人。

正確には、クリスが万丈の腕から逃れるように暴れたのだが。

「とにかく、俺たちはこれから本部に戻る・・・が、お前たちはまだ」

「ああ、一緒にはいけない」

やや赤くなった顔を向けつつ、クリスはそう答える。

「そうか。ただ、お前は、お前が思っている程独りぼっちじゃない。実際に龍我君が傍にいるし、お前が一人道を行くとしても、その道は遠からず、俺たちの道と交わる」

「今まで戦ってきた者同士が、一緒になれるというのか?世慣れた大人が、そんな綺麗事言えるのかよ?」

「言ってるな。アイツは」

万丈がなんの悪びれもせずに断言する。

そのすまし顔が無性に気に入らないクリス。

「アイツって誰だよ・・・」

「戦兎だよ。ほら、あの赤と青の仮面ライダーの」

「ああアイツ・・・あんま関わった事ねえから良く分かんねえな」

「会ってみれば分かる。彼は筋金入りの平和主義者だ」

「はっ、筋金入りねぇ・・・だったら会いたくなってくるな。いつまでそんな世迷言言ってんだって言ってやりたくなるぜ」

「お前も筋金入りのひねくれ者だな・・・」

クリスの物言いにがっくりとする万丈。

「ふっ、その分なら問題はないだろう。ノイズが出たら追って連絡する」

「分かった。そん時は任せとけ」

「やるとは言ってねーよ勝手に決めんな!」

怒鳴るクリスだが万丈はものともしない。

「それじゃあ俺たちは撤収する。何か分かったら教えて―――」

「―――カ・ディンギル」

「・・・何?」

クリスの言葉に、弦十郎が止まる。

「フィーネが言ってたんだ。カ・ディンギルって。それが何なのか分かんないけど、そいつは、もう完成しているみたいな事を・・・」

「ああ、そういやそんな事も言っていたな」

あの時、フィーネは確かにカ・ディンギルは完成していると言っていた。

それが一体何を意味するものなのかは分からないが、とにかく、ろくでもないものであることは確かだ。

「カ・ディンギル・・・」

弦十郎が、咀嚼するようにその言葉を口にする。

「後手に回るのは仕舞いだ。こちらから打って出てやる・・・!」

弦十郎はそう呟き、そして立ち去って行った。

その後ろ姿を、万丈とクリスは、ただ見送った。

 

 

 

 

 

 

二課本部から連絡が入り、戦兎と翼は通話を繋いだ。

『はい、翼です』

『響です』

「戦兎でーす」

おそらく、検討のついた敵についての調査の報告だろう。

『収穫があった』

どうやら、何かしらの情報を手に入れたようだ。

『了子君は?』

『まだ出勤してません。朝から連絡不通でして・・・』

(連絡不通だぁ?)

顎に手を当てる戦兎。

『そうか・・・』

『了子さんならきっと大丈夫です。何が来たって、私を守ってくれた時のように、ドカーンとやってくれます』

そんな事を言う響に、すぐさま翼が否定を入れる。

『いや、戦闘訓練をろくに受講していない櫻井女史に、そのような事は・・・』

「ありゃ俺と違って根っからの研究者だからな」

(ただの、で済めばいいんだが)

そう思う戦兎。

『ほえ?師匠とか了子さんって、人間離れした特技とか、持ってるんじゃないんですか?』

「んだそりゃ・・・」

弦十郎は分かる。何せ拳一つで翼の一撃を粉砕する程だ。

だが、了子もは、とは一体どういう事なのか。

戦兎は、了子のあの力を目の当たりにはしていないから当然なのではあるが。

ふと、そこで新たに通信が入る。

『ん?』

『お?』

「おう?」

『やぁっと繋がったぁ』

了子だ。

『ごめんね、寝坊しちゃったんだけど、通信機の調子が良く無くて』

(通信機の調子が・・・?)

この間壊れていたと言っていたが、修理した影響なのだろうか。

だが、どうにもそれが真実とは思えなかった。

『無事か了子君、そっちに何も問題は?』

『寝坊してゴミは出せなかったけど、何かあったの?』

『良かったぁ』

響は安心している。だが戦兎は、どうにも拭いきれない疑心のまま、その会話に耳を傾ける。

『ならば良い。それより、聞きたい事がある』

『せっかちね。何かしら?』

『・・・・カ・ディンギル』

(カ・ディンギル?それって確か・・・・)

『この言葉が意味する事は?』

弦十郎が了子に尋ねる。

『・・・カ・ディンギルとは、古代シュメールの言葉で『高みの存在』。転じて、天を仰ぐ程の塔を意味しているわね』

『何者かがそんな塔を建造していたとして、何故俺たちは見過ごしてきたのだ?』

「いや、カ・ディンギルは別名『バ―――」

戦兎は、それを言おうとして、途端に口を紡ぐ。

『確かに、そう言われちゃうと・・・』

幸い、響が口を挟んでくれたおかげで気にはされなかった。

『だが、ようやく掴んだ敵の尻尾。このまま情報を集めれば、勝利も同然。相手の隙に、こちらの全力を叩き込むんだ。最終決戦、仕掛けるからには仕損じるな』

『了解です!』

『了解』

「分かった」

そして、通話を終える。

「・・・・」

通話を切った後で、戦兎は思考する。

(カ・ディンギル・・・別名『バベルの塔』。人が天に向かって建てた文字通りの巨大な塔・・・敵は、それを使って何をする気なんだ・・・?)

あの場では言わなかった。

戦兎の持つ『葛城巧の記憶』から、一時期オカルトに興味を持った時の記憶が役に立つとは思わなかったが、しかし相手は、そのバベルの塔で一体何をしようと言うのか。

そして、あの場で言わなかった理由は、二課の中にスパイがいると踏んだからだ。

雪音クリス、ネフシュタンの鎧、イチイバル・・・どれも二課に関わりのあるものばかりであり、先のデュランダル輸送の件では情報が洩れているかのように狙われた。

であるならば、その一連の事件に関わっているのは――――

 

 

 

 

その一方で、

「些末な事でも構わん、カ・ディンギルに関する情報を搔き集めろ」

二課では『カ・ディンギル』なる塔の事について、職員全員が全力で情報を搔き集めていた。

だが、突如として警報が鳴り響く。

「どうした!?」

「飛行タイプのノイズが超大型ノイズが一度に三体・・・いえ、もう一体出現!」

 

 

 

 

 

 

 

街中では、まさしく大パニックが起きていた。

人々は上空に現れたノイズに逃げ惑い、我武者羅に走っていた。

「現れやがったか・・・!」

その様子を、万丈とクリスは見上げていた。

 

 

 

「合計四体・・・すぐに向かいます」

通信機片手にジャケットを着込み、そう返事を返しつつ走り出し、緒川からヘルメットを貰って走り出す翼。

 

 

「今は人を襲うというよりも、ただ移動していると」

そして響もまた、連絡を貰っていた。

「はい・・・はい」

「響・・・」

響が通話を終え、未来と向き合う。

「平気、私と翼さんと戦兎先生でなんとかするから。だから未来は学校に戻って」

「リディアンに?」

「いざとなったら、地下のシェルターを開放してこの辺の人たちを避難させないといけない。未来にはそれを手伝ってもらいたいんだ」

「う、うん・・・分かった・・・」

未来は、心配そうに答える。

「ごめんね。未来を巻き込んじゃって」

「ううん。巻き込まれたなんて思っていないよ。私がリディアンに戻るのは、響がどんなに遠くに行ったとしても、ちゃんと戻ってこられるように、響の居場所、帰る場所を守ってあげる事でもあるんだから」

「私の、帰る場所・・・」

響は意表を突かれたかのように呆気にとられる。

「そう、だから行って。私も響のように、大切なものを守れるくらいに強くなるから」

そう微笑む未来。そんな未来をしばし見つめて、響はふと、歩み寄ってその手を取った。

「あ」

「小日向未来は、私にとっての『ひだまり』なの。未来が一番あったかい所で、私が絶対帰ってくる所。これまでもそうだし、これからもそう!」

そう、自信満々で言いきって見せる響。

そこへ、

「おい響!何してんだ・・・って未来もいたのか」

戦兎が走ってきた。

「戦兎先生!」

「すぐに行くぞ。まだ被害が出ていないとはいえ、そんな悠長にしていられないからな」

「分かりました・・・未来、私は絶対に帰ってくる」

「響・・・」

「それに、一緒に流れ星を見る約束、まだだしね」

まだ果たしていない、約束があるから。

「・・・・うん!」

それに、未来がうなずくと同時に、

 

『Build change!』

 

戦兎がビルドフォンをマシンビルダーに変えていた。

「乗れ!」

「はい!それじゃ未来、行ってくるよ」

戦兎からヘルメットを受け取り、その後ろに乗る響。

バイクはそのまま走り出し、その後ろ姿は、途端に遠ざかっていった。

 

 

 

 

 

戦兎がバイクを走らせている中で、本部から連絡が入る。

「おう」

『ノイズ進行経路に関する、最新情報だ』

道行く車の間を掻い潜りながら、戦兎と響は耳を傾ける。

『第四一区域に発生したノイズは、第三三区域を経由しつつ、第二八区域方面へ進行中。同様に、第一八区域と第一七区域のノイズも、第二四区域方面へと移動している。そして・・・』

『司令、これは・・・』

『それぞれのノイズの進行経路の先に、東京スカイタワーがあります!』

「東京スカイタワー・・・?」

「あれです!」

響が指差す先、そこにそびえ立つ一本の塔。あれが東京スカイタワーなのか。

だが―――

(低い・・・あんなものがバベルの塔な訳があるか!?)

神話級のものであるならば、あれはあまりにも低すぎる。

であるならば、おそらく別の―――

『カ・ディンギルが塔を意味するのであれば、スカイタワーはまさに、そのものじゃないでしょうか?』

『スカイタワーには、俺たち二課が活動時に使用している映像や交信と言った電波情報を統括・制御する役割も備わっている・・・』

「それをなんで狙うんだっての!カ・ディンギル完成してんならなんでそれを狙うんだっての!ていうかまた二課が関わってんのか!?ネフシュタンといいイチイバルといい、どれもこれも二課関係のものばっかじゃねえか!?」

『お前の疑問も最もだ。だが向かってくれ!頼む』

「ああもう分かった分かりましたよ!ノイズは放っておけないからな・・・!」

通話を切る。

「ですが、ここからじゃスカイタワーは・・・!」

「ああ、遠い!」

ここから急いで間に合うだろうか。なんて思っていると、ふと上空からけたたましい風切り音が聞こえてきた。

見上げれ見れば、そこには―――

「ヘリ!?」

『なんともならない事をなんとかするのが、俺たちの仕事だ』

もはやこれからする事は明白だった。

 

 

 

 

 

 

超大型の飛行ノイズが、そのジェット機構のような部分からノイズをばらまき始める。

さらには小型の飛行型すらも吐き出してくるしまつ。その数は、数えるのも億劫な程多かった。

その様子を、戦兎と響はヘリから見下ろしていた。

「行くぞ!」

「はい!」

丁度、大型の一体が眼下になった所で、二人は、空中へその身を投げ出した。

 

タカ!』『ガトリング!』

 

ベストマッチ!』

 

落下しながら、戦兎はボルテックレバーを全力で回し、響は、空を仰ぎ見ながら聖詠を唄う。

 

『Are You Ready?』

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)―――」

 

「変身!」

 

天空の暴れん坊ホークガトリング!イェイ・・・!』

 

ビルドへと変身し、響もガングニールを身に纏う。

そのまま響は落下、ビルドはソレスタルウィングを折りたたみ、一気に落下していく。

さらに響は右腕のガジェットを肩まで引き上げて、スタンバイし、ビルドは左足のスカイクローシューズから鍵爪を展開、一気に落下していき、そのまま眼下のノイズに叩きつけた。

叩き込まれた一撃はそのノイズに風穴を開け、一気に粉砕する。

その一方で、現場の目下に到着した翼はすぐさま天羽々斬を纏い、直後に『蒼ノ一閃』をぶっ放す。

しかし、蒼ノ一閃は上空の巨大ノイズに直撃する前に、他のノイズによって威力を削がれ、やがて消滅する。

「くっ・・・相手に頭上を取られる事が、こうも立ち回りにくいとは・・・!」

見上げれば、ビルドがソレスタルウィングで飛び回りつつホークガトリンガーで狙い撃とうとしているが、他のノイズが邪魔で攻撃を叩き込めないでいる。

そこへ、無事に着地してきた響がやってくる。

「ヘリを使って、私たちも空から・・・!?」

だが、その前にヘリがノイズに群がられ、落とされる。

「そんな・・・」

「よくも!」

すぐさま他のノイズが槍の如く落ちてくる。

それを躱し、続く敵を拳で粉砕し、刀で切り払うも、上空のノイズがさらに小型ノイズを吐き出す。

それをビルドが撃ち落とすも、やはり数が多すぎて叩き切れない。

「空飛ぶノイズ・・・どうすれば・・・」

「臆するな立花。防人が後ずされば、それだけ戦線が後退するという事だ」

しかし、数の多さに加えて、上空の敵への攻撃は出来ないのが現状だ。

大量のノイズが二人に向かって落下していく。その大群をビルドが打ち下ろそうとするも、やはり数が多く仕留めきれない。

落ちてくるノイズに身構えていると、どこからともなく銃弾の嵐が吹き荒れ、一瞬にして上空のノイズが消し飛ぶ。

その銃弾が飛んできた方向を見れば、見慣れた少女と赤い仮面の戦士がそこにいた。

「待たせたな!」

「わあ!」

それに響は思わず嬉しさがこみ上げ、対して翼は身構えてしまう。

「チッ、こいつがピーチクパーチクうるさいからちょっと出張ってきただけ。それに勘違いするなよ。お前たちの助っ人になったつもりはねえ!」

「助っ人だから安心しろ」

「うぐ・・・」

すぐさまクローズに否定されて赤くなるクリス。

「助っ人?」

『そういう事だ』

翼が首を傾げるが、弦十郎がフォローを入れる。

『第二号聖遺物『イチイバル』を纏う戦士、雪音クリスだ』

そう弦十郎が告げると同時に、響はクリスに抱き着く。

「クリスちゃーん!ありがとー!」

「こ、この馬鹿!アタシの話を聞いてねえのかよ!?」

抱き着かれて驚くクリスを他所に、飛んでいたビルドはクローズの元へ。

「万丈!」

「おう戦兎!」

「お前なんだよその姿は。俺の知らねえ姿に見事に変身しやがって」

「知らねえよ俺でも良くわかってねえんだから」

「でもま、無事にそれは使いこなせてるみたいだな」

ビルドは、クローズの手の中にあるマグナムに変形したブラストモービルを見やる。

「おう」

「よし、ここからは連携して・・・」

「ッ!勝手にやらせてもらう!邪魔だけはすんなよな!」

ふと響の腕から逃れたクリスはそう言うなり、アームドギアを展開する。

ボウガンから放たれた必殺の矢は上空のノイズを一気に撃ち落としていく。

「戦兎、空の敵は俺とクリスでやる。お前らは地上のノイズを!」

「分かった!」

 

ラビットタンクスパークリング!イェイイェーイ!』

 

ビルドはすぐさまラビットタンクスパークリングに変身し、地上に降り立ったノイズに向かう。

それに翼と響も続く。

ビルドが泡の破裂による高速移動で道を切り開き、討ち漏らした個体は翼と響が各個撃破。

その一方で、ガトリングガンで上空の敵を薙ぎ払うクリスとスケート走行で突っ走りながらブラストシューターで撃ち抜いていくクローズ。

クリスとクローズが上空の敵の相手をしてくれるからか、瞬く間にノイズはその数を減らしていく。

だがしかし―――

「うわ!?」

「あ!?」

一旦退いて態勢を立て直そうとした翼の背中に、同じく敵をより多く捕捉するために下がっていたクリスの背中が当たる。

「何しやがる!すっこんでな!」

「貴方こそいい加減にして。一人で戦ってるつもり?」

「アタシはいつだって一人だ」

「万丈がいるのに?」

「あ、アイツは別だ!とにかく、これまで仲間と慣れ合った事はこれっぽっちもねえよ!」

顔を赤くして否定するも、クリスは言葉を続ける。

「確かにアタシたちが争う理由なんてないのかもな。だからって、争わない理由もあるものかよ」

「それ昨日も言ってなかったかー!?」

「うるさい!お前はお前でノイズやってろ!」

(なんだろう。言われてる事は癪に障るのだけれど、意外に可愛い・・・)

万丈の割り込みに怒鳴るクリスの様子に、ついつい毒気を抜かれる翼。

「なんだよ・・・」

「いや、なんか、イメージと違うなと思って・・・」

「ハア!?何言ってんだ!?」

そろそろ限界値を超えそうなクリスの怒り。

が、とにかく落ち着いて自分の言いたい事を言おうとする。

「アタシらはこの間までやりあってたんだぞ。そう簡単に、人と人が・・・」

だが、そこでやはり割り込むのは響だった。

「出来るよ。きっと」

「またお前かよ・・・」

「残念俺もいる」

そこへビルドまでやってくる。

「確かに、そう簡単に人は仲良くなれねえよ。だけど、仲良くなれない道理はないだろ?実際、ぎくしゃくしていた響と翼だって、今じゃこんなに仲良くなってる」

「それはそっちの理屈だろ・・・」

「万丈と一緒に行動しといてよく言うぜ」

「あ、あれはあっちが勝手に・・・」

「そうだよ。クリスちゃんだって龍我さんと仲良くなれたんだもん。私たちとだって、きっと仲良くなれる!」

そう言って、響はクリスの手を取り、そして、翼の手も取る。

「私にはアームドギアはない。だけどそれはきっと、こうして誰かと手を繋ぎ合う為にあるんだって、今は思う。だって今、こうして二人と手を繋ぎ合えてるんだから」

「立花・・・」

そう笑顔で言う響を、翼はしばし見つめ、やがてその手の剣を地面に突き立てる。

そして、突き立てる事で空いた手を、クリスに伸ばす。

それに、クリスは戸惑う。

しかし、翼は頑固なのか、せがむように手を伸ばす。

その頑固さに、クリスも諦めたのか、恐る恐る手を伸ばす。が、どうにもじれったいのかばっと掴んでしまい、クリスはそれに驚いて手を引っ込めてしまう。

「こ、この馬鹿に当てられたのか!?」

「そうだと思う」

あっさり肯定。

「そして、貴方もきっと」

それでもって指摘。

「・・・冗談だろ・・・」

「ハハッ」

白い頬を赤くしながら、消え入るような声で悪態を吐き、そんな様子にビルドは笑い声を上げる。

「おい!そんな事より、さっさと上の敵どうにかしてくれ!」

その一方で、形状を弓にしたブラストモービルを振り回しているクローズが叫ぶ。

「おい万丈今良い所・・・なんだその形態!?一体全体どうやった!?」

「知らねえよ!?なんか念じたらこうなってた!」

「そのフォームって武器にも何かしらの作用及ぼすのかよ・・・」

もはや呆れかえっているビルド。

「とにかく!俺の攻撃じゃあ当てる前に威力が殺されて届かねえ!クリス、お前がどうにかしてくれ!」

「ああ。分かってる」

クリスがうなずく。

「でもどうやるの?」

「アタシのイチイバルの特性は超射程広域攻撃。派手にぶっ放してやる!」

「まさか、絶唱を・・・」

「馬鹿、アタシの命は安物じゃねえ」

「ならば、どうやって・・・」

「そんなの簡単だろ。ようは溜め攻撃だろ?」

ビルドの指摘に、クリスは胸を張って肯定する。

「ああ、ギアの出力を引き上げつつも、放出を抑える。行き場の無くなったエネルギーを臨界まで溜め込み一気に解き放ってやる!」

「だが充電(チャージ)中は、丸裸も同然。これだけの数を相手にする状況では危険過ぎる」

「そうですね。だけど、私たちがクリスちゃんを守ればいいだけの事!」

ノイズが群がる。

「ん?なんだこれ?」

「これは・・・数式?」

ふと気付けば、彼女たちの周りに、まるで立体化した計算式やら法則やらが出現していた。

「これが、俺たちの勝利の法則だ」

ビルドが、彼女たちに言う。

「さあ、実験を始めようか!」

「ああ!」

「はい!」

三人が、群がるノイズに向かって飛び上がる。

(頼まれてもいない事を・・・)

そんな彼らに、クリスは思わず笑ってしまう。

(アタシも引き下がれないじゃねえか!)

 

 

「―――なんでだろう心が、ぐしゃぐしゃだったのに」

 

 

「―――ッ!?」

 

 

 

ドクンッ!

 

 

 

強く、はっきりと感じた。

クリスが歌い始めた瞬間、クローズの体の中で、何かが大きく鼓動する。

そして、それを境に、力が漲ってくる。

(やっぱりだ・・・クリスの歌を聞いてると、心がめっちゃ震えて、力が漲ってくる・・・!)

ホイールを加速させて、道路上にはびこるノイズを一気に蹴散らす。

「力が漲る、魂が震える・・・アイツの歌が、迸るッ!!」

 

『Set Up!Blast double Jamadhar!』

 

ブラストモービルがさらに変形する。ブレードモードの状態から変形し、銃身の半分のそのまた半分が割れ、さらに太くなるかのようになり、その割れた部分から新たな光の小さな刃が飛び出す。

それは、カタールと呼ばれる武器だが、見た目は完全なメリケンサックである。

だが、格闘家の万丈にとってはこれほどありがたい武器は無い。

ホイールの作り出す加速に合わせて、クローズは拳を突き出し、目の前のノイズを粉砕、そのまま次々をノイズを蹂躙していく。

「もう誰にも止められねェ!!」

クローズの快進撃は止まらない。

「ハアッ!」

その一方で、ビルドもすさまじい戦いぶりを見せる。

スパークリングの『泡』の力は移動にも攻撃にも使える。

(かつて敵だった男がいた。だけど、気付いたら仲間になっていた)

腕のブレードで竜巻のように回転して群がるノイズを巻き上げ粉砕する。

(国の為に、悪を貫いた男がいた。だけど、いつかは正義の為に一緒に戦ってくれた)

着地して、クリスに向かおうとするノイズを捕捉し、一瞬でその距離を詰めてまとめて粉砕する。

(そうだ。敵だからって、全員が悪い奴な訳じゃない。ちゃんと分かりあえる事が出来る。アイツの言うように、人は繋がる事が出来る)

ビルドは、飛ぶ。

「それが俺の目指す、『愛と平和』・・・ラブ&ピースだ!」

そう叫び、ライダーキックが炸裂した。

(誰もが繋ぎ繋がる手を持っている・・・!)

また一方で、群がるノイズを得意の徒手空拳で粉砕していく響。

(私の戦いは、誰かと手を繋ぐこと!)

この拳で、全てを守るため、彼女は、

「最短で最速で真っ直ぐに一直線に、この想いを拳に乗せる!」

パイルバンカー式の鉄拳が、直線状のノイズを一掃する。

(砕いて壊すも、束ねて繋ぐも力・・・)

さらに襲い掛かるノイズを己が手の刀をもって斬り捨てていく翼。

(フッ、立花らしいアームドギアだ!)

であるならば自分は何をするべきか。

「決まっている。この剣をもって、その想いに答える!」

蒼ノ一閃が迸り、薙ぎ払う。

そしてついに、クリスのイチイバルが臨界を突破する―――ッ!!

 

「光が・・・力が・・・魂を―――ぶっ放せッ!!」

 

(今、アタシが出来る最善をォ――――!!)

クリスのシンフォギアが変形する。

三連四門のガトリング砲、小型ミサイルポッド、四基の巨大ロケットミサイル―――明らかに敵をオーバーキルするつもりの完全武装をもって、クリスはその身に溜め込んだエネルギーを解き放つつもりなのだ。

そんな彼女に向かって、彼らが言う事は一つ。

 

「「「「―――託したッ!!」」」」

 

それが、クリスの最大火力の必殺技―――!!!

 

 

MEGA DETH QUARTET

 

 

放たれる大火力。

放たれた四基のミサイルは、一基は小型ノイズのほとんどを薙ぎ払い、さらに放たれた小型ミサイルからもさらに小型のミサイルが放たれノイズの殆どを一基に殲滅。残った個体すらもガトリング砲の餌食となり、塵芥と成り果て、消し飛んでいく。

撃って撃って撃ちまくって、それで粉砕して、上空のノイズ全てを消し飛ばす。

その間に、地上の敵も全て、四人の活躍によって駆逐された。

「やった・・・のか?」

「ったりめえだ!」

「わあ・・・!」

「おっしゃあ!」

「よし」

黒い塵が降り注ぐ。

空にはもうノイズはおらず、ただ真っ青な空が広がっており、地上にはあちらこちらにノイズの炭化した成れの果てが転がっていた。

「これで殲滅したな」

「あー、つっかれた」

変身を解除して、合流する戦兎と万丈。

「んで、お前あの時会った時は言わなかったけど、そのボトルはなんだよ?」

「これか?いや俺にもよくわからなくてな」

「キュル」

ボトルを輩出したクローズドラゴンは元の青い姿に戻る。

「ちょっと見せてみろ」

「おう。一応、あのエボルボトルが変化した奴なんだが・・・」

「エボルボトルが・・・?」

とてもそうには思えない。というかエボルボトルだったころの原型が既にない。

何か、弓を携えた射手といった柄が入った完全に普通のものと同じフルボトルだ。

一体全体何がどうなってこうなったのか。

いや、そもそもな話、『クローズイチイバル』という名前の時点で察しは付く。

おそらくはクリスの歌。そして、クリスの発するフォニックゲインによって、このボトルは変化したのだろう。

であるならば、他のボトルは一体どうなるのか。

特定のボトル―――フルボトルを『聖遺物』と仮定するならば、彼女たちの歌で変化する事はあり得る。

しかし、ボトルを進化させるという形でならば、それはこちらで言う所の『ハザードレベル7』に相当する所業だ。

とてもではないが、ネビュラガスを注入されていない、ましてやハザードレベルの概念そのものがない世界で、『歌』程度でボトルが変わるとは思えない。

果たして、これは一体どういう事なのか。

(そもそもこのボトルは万丈がエボルトのエボルボトルを自らの力で変化させたボトルだ・・・だからクリスの歌はあくまで()()()()()()()()()()()に反応して、それに呼応する形で変化したという事で片付けられるが・・・どうにもそれだけで終わる気がないんだよな・・・)

なんて考えていると、先ほどまでクリスとじゃれていた響の通信端末に連絡が入る。

「はい」

『響!?』

聞こえてきたのは、未来の声だった。それも、かなり()()()()()()

『学校が、リディアンがノイズに襲われ――――』

 

 

ブツンッ――――

 

 

その声を最後に、通信は途切れた。

「・・・・え」

次に聞こえたのは、響の茫然と漏らした声だけだった。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「避難してください!」

ノイズに襲われるリディアン!

『カ・ディンギルの正体が、判明しました』

そして明かされる、カ・ディンギルの正体。

「上手くいなせていたと思ったのだが・・・」

襲来するフィーネ。

「待ちな」

立ち塞がる弦十郎―――

「リディアンが・・・」

そして、ようやく辿り着いたリディアンの惨状を目の当たりにして、彼女たちは何をするのか――――

次回『月を穿つ/夢を守る』

(―――アタシの歌は―――その為に――――!)


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月を穿つ/夢を守る

響「無事、東京スカイタワーに接近していたノイズを倒す事に成功した、私立花響と、風鳴翼と、雪音クリス、そして、仮面ライダーである桐生戦兎と万丈龍我であったが、未来からの連絡によって、その余韻は絶望へ叩き込まれる事となる・・・」
翼「今日はいつになく真面目だな」
響「最近カオスな事が多かったですからねぇ、マr・・・黒グニールさんが色々と不憫な事になってましたから・・・」
ク「ああ、なんか三日三晩泣き続けてたらしいな」
翼「どうせGから出番が増えるんだ。それまで我慢してもらった方がいいだろう」
(それをいう資格がお前にあるかー!)
ク「なんか、どっかから怨霊染みた声が聞こえた気がしたんだが・・・」
響「き、気のせいじゃないかな~?」
戦「まあなにはともあれ、問題ないだろ。てなわけで、ついにカ・ディンギルがその姿を現すぞ!」
麗人「それはいいのだが、先ほどタヤマが血の涙を流したって連絡が来たぞ」
万「はあ!?なんでだよ・・・」
農具「それが〇〇〇デース!」
戦「だから名前出すなァ!!」
無性「規制音が間に合ってよかったです・・・」
ク「てかお前も登場するのまだ先なんだから出てくんなよ!?」
麗人「では、リディアンが襲われる所から始まる第十九話を見ろ」
ク「無視かよ!?」


戦兎たちが、街に出たノイズを対処している間に、リディアンはノイズの襲撃を受けていた。

そのノイズに自衛隊が対応しているが、通常兵器ではノイズに一切効かないどころか干渉自体出来ないため、ただ無駄に弾を消費する事しかできない。

ただ出来る事と言えば、リディアンにいる生徒たちを、とにかく逃がす事だけ。

その避難誘導に、未来は先陣切って行っていた。

「落ち着いてシェルターに避難してください!」

自衛隊員に誘導を任せ、生徒をなだめつつ、未来はそう声を挙げる。

「落ち着いてね・・・」

「ヒナ・・・」

そんな中で、未来に話しかける者がいた。

黒鉄色のショートカットが特徴的な『安藤(あんどう)創世(くりよ)』。

長い金髪が特徴的なお嬢様の『寺島(てらしま)詩織(しおり)』。

そして髪の毛をツインテールにした『板場(いたば)弓美(ゆみ)』。

いつも未来や響と一緒にいる同級生の少女たちだ。

「皆・・・」

「どうなってる訳?学校が襲われるなんてアニメじゃないんだから・・・」

いつも比喩にアニメを使う弓美らしい言い方だが、確かにその通りだ。

街でノイズが出ても、学園で出る事なんて今までになかったのだから。

「皆も早く避難を・・・」

「小日向さんも一緒に・・・」

詩織がそう言ってくるも、未来は首を横に振る。

「先に行ってて。私、他に人がいないか見てくる!」

「ヒナ!」

よく変なあだ名をつけて呼ぶ創世が呼び止めるも、未来は行ってしまう。

「君たち!」

そこへ、避難誘導に当たっていた自衛隊員の一人が走ってくる。

「早くシェルターに向かってください!()()()()()()()()()―――」

その次の瞬間、一瞬の事。

 

その自衛隊員が、ノイズに貫かれる。

 

そして、一秒もたたずして炭素の塊となり、崩れていく。

「――――いやぁぁぁあぁぁああぁあああ!!」

弓美の悲鳴が、響き渡った。

 

 

 

 

 

 

学園の中で、生存者がいないか走り回る未来。

流石に元陸上部故か、その体力はまだ衰えていない。

「誰かー!残ってる人はいませんか・・・・きゃ!?」

地面が揺れて、未来は思わず小さく悲鳴を上げる。窓の外を見てみれば、巨大なノイズが、リディアンを力の限り破壊し尽くしていた。

自衛隊などまるで歯が立っていない。

「学校が・・・響の帰ってくるところが・・・」

その惨状を目にして立ち尽くす未来。しかし、それを許さないかの如く、ノイズが窓から飛び込んでくる。

壁に張り付いたノイズが、そのまま砲弾の如く襲い掛かってくる。

それに未来は反応できずノイズに衝突される―――事にはならず、寸での所で緒川が未来を押し倒して危機を脱する。

「うう・・・あ、緒川さん・・・!?」

「ギリギリでした。次、上手くやれる自信はないですよ」

緒川は面を上げ、通り過ぎていったノイズの方を見る。

すでに、次の攻撃態勢に入っている。

「走ります!」

「うぇえ!?」

未来の手を取り、駆け出す緒川。

「三十六計逃げるに如かず、と言います!」

すぐさまエレベーターに駆け込み、通信機を使って扉を閉める。

そのままノイズは入ってこれないかと思ったが、現実と異次元との実体率を操作する事の出来るノイズ。物体への透過は可能だ。

しかし、二人に触れるには一歩届かず、超高速で落ちるエレベーターが動き出し、そのままノイズはエレベーターから追い出された。

「・・・・ほ」

思わず安堵の息を漏らす未来。

その後、緒川は通信機を使い、本部に連絡する。

「はい、リディアンの破壊は、依然拡大中です。ですが、未来さんたちのお陰で、被害は最小限に抑えられています」

人的被害はかなり進んでいた為、おそらく生徒の犠牲者はいないだろう。

自衛隊はその限りではないが。

「これから未来さんを、シェルターまで案内します」

 

 

 

二課本部―――

「分かった。気を付けろよ」

弦十郎がそう返事を返す。そのまま切ろうとした時、緒川から声が上がる。

『それよりも司令』

「ん?」

『カ・ディンギルの正体が、判明しました』

「なんだと!?」

驚く弦十郎。

『物証はありません。ですが、カ・ディンギルとはおそらく―――ッ!?』

次の瞬間、緒川が息を飲む声が聞こえ、そして立て続けに何かが粉砕される音と、

『きゃぁぁあぁああ!!』

未来の悲鳴が無線越しに聞こえてきた。

「どうした!?緒川!」

呼びかけるも返事はなく、ただ向こうの通信機が破壊された時に聞こえる砂嵐の音しか聞こえなくなった――――

 

 

 

 

その一方で、緒川と未来の方では――――

「ぐ・・ぁ・・・」

「こうも早く悟られるとは、何がきっかけだ?」

そう問いかけるのは、黄金のネフシュタンの鎧をその身に纏うフィーネだった。

何故彼女がここにいるのか。まあ単純な話、このノイズ襲撃は全てこの女の所為なのだが。

「っ・・・塔なんて目立つものを、誰にも知られる事なく建造するには、地下へと伸ばすしかありません・・・」

上ではなく下。下に向かって塔を建造するというのなら、誰にも悟られることなく、建てられる事は容易だ。

「そんな事が行われているとすれば・・・特異災害対策機動部二課本部・・・そのエレベーターシャフトこそ、カ・ディンギル・・・・そして、それを可能とするのは―――」

「漏洩した情報を逆手に、上手くいなせたと思っていたのだが・・・」

そこで、エレベーターが最下層に到達。緒川の背後の扉が開く。

それで拘束を逃れた緒川は身軽な動きで距離を取って飛び上がると同時に脇のホルスターから拳銃を抜き出し発砲。その数、三。

それら全てがフィーネに直撃するが、突き刺さった弾丸がまるで削り取られたかのように落ちていき、一方のフィーネの体には傷一つついていなかった。

「ネフシュタン・・・!?」

返答の代わりか、ネフシュタンの肩にある刃の鞭を操り、緒川を一瞬で拘束し、持ち上げる。

「緒川さん!」

「ぐぁぁあぁあ!?」

締め上げられ、絶叫する緒川。

「ぐぅ・・・あぁ・・・・未来・・・さん・・・逃げ・・・て・・・」

今自分が危ない状況であるのに、他人を逃げるように促す緒川。

しかし未来はそのまま棒立ち―――()()()()()()()()()()()()()()()()()

だが、あまり効果はないのかフィーネはぶつかってきた未来へと肩越しに視線を向ける。

その視線に、未来は思わず後ずさる。

「ひっ・・・」

振り返ったフィーネは、緒川から拘束を外し、未来と向き合う。

そして、その顎に手を当てる。

「麗しいな。お前たちを利用してきた者たちを守ろうというのか?」

「利用・・・?」

訳が分からない未来。

「何故二課本部がリディアンの地下にあるのか。聖遺物に関する歌や音楽のデータを、お前たち被験者から集めていたのだ。その点、風鳴翼という偶像は、生徒を集めるのによく役立ったよ」

そう言って、嘲笑い、未来から離れて歩き出すフィーネ。

その後ろ姿を見る未来。

だが―――

「―――嘘を吐いても、本当の事が言えなくても、誰かの命を守るために自分の命を危険に晒している人がいます!」

先ほどの緒川がそうであったように。あの日の響が自分を守ってくれたように。

「私は、その人を・・・そんな人たちを信じてる!」

まさかの啖呵。響や翼のようにシンフォギアを纏えない、戦兎や万丈のようにライダーシステムを使えない、戦いもしらないただ一人の少女が、おそらく百戦錬磨であろう存在に、ちっぽけな勇気を振りかざしていた。

「―――ッ!」

それが癪に障ったのか、フィーネは未来の頬に一発平手打ちをすると、すかさずその胸倉を掴んでもう一度引っ叩いた。

未来はそのまま崩れ落ちる。

「まるで興が冷める・・・!」

忌々し気に呟き、フィーネは、そのままデュランダルが保管されている場所へ向かう。

そして、どこで手に入れたのか二課の通信機を取り出し、認証パネルにかざそうとした寸前でどこからか飛んできた弾丸によって通信機が破壊される。

「デュランダルの元にはいかせません・・・!」

振り返れば、そこには拳銃を構える緒川の姿があった。

「この命に代えてもです!」

銃を投げ捨てて格闘戦を挑もうとする緒川。

しかしフィーネはまるで冷めた目で緒川を見据え、ネフシュタンの鞭の刃を振るおうとする。

 

「―――待ちな、()()

 

しかし、突然どこからともなく声が聞こえたかと思いきや、突然天井が粉砕され瓦礫が落ちてくる。

そこから現れた者は―――

「―――私をまだ、その名で呼ぶか」

「女に手を挙げるのは気が引けるが、二人に手を出せば、お前をぶっ倒す!」

―――二課司令、風鳴弦十郎だった。

かなりの硬い筈の鋼鉄の壁をぶち抜いてここまでやってきたのだろう。

というか、どうやったら人間の力でその壁を突破できるのだろうか。

「司令・・・」

緒川はともかく、未来は完全に茫然としている始末である。

「調査部だって無能じゃない。米国政府のご丁寧な道案内で、お前の行動にはとっくに行き着いていた。後はいぶり出すため、あえてお前の策に乗り、シンフォギア装者と仮面ライダーを全員、動かしてみせたのさ」

「陽動に陽動をぶつけたか。食えない男だ。だが、この私を止められるとでも――――」

「おうとも。一汗掻いた後で、話を聞かせてもらおうか!」

なんの迷いもなくというか戸惑いもなく答えて見せる弦十郎。

すかさず地面を蹴り砕いて前に出る弦十郎。その進行を阻止すべく刃の鞭を振るうも当たらず、二撃目も飛んで躱されては天井の出っ張りを掴み、そしてそのまま体を持ち上げて天井に足を付けたと思ったら一気に落下。

そしてそのまま拳を振り下ろしてくる弦十郎にフィーネはギリギリの所で避けるも僅かに掠ったのか鎧にひびが入った。

ていうか掠っただけでこれである。

「何・・・!?」

思わず驚いて距離を取るフィーネ。

鎧はすぐさま修復するが、フィーネは未だ険しい顔で弦十郎を睨む。

「肉を削いでくれる!」

そしてすかさず刃の鞭を弦十郎に叩きつけようとするもいとも容易く掴み取られて引っ張られて、さらに鎧によって重量が増している筈のフィーネを軽々を引っ張り出し、そのままどてっぱらに渾身の一撃を叩き込んだ。

 

言っておくが、生身の人間が、である。

 

そのまま弦十郎の背後に落下するフィーネ。

「が・・・ぐあ・・・」

思わず呻き声をあげるフィーネ。

「完全聖遺物を退ける・・・!?どういう事だ・・・!?」

まさしくその通り。しかし弦十郎は言ってのける。

「しらいでか!飯食って映画見て寝る!男の鍛錬は、ソイツで充分よ!」

なお、一人の少女もそれで鍛えられた模様。

「なれど人の身である限りは・・・!」

立ち上がったフィーネはすぐさまソロモンの杖を取り出し向ける。

「させるか!」

すかさず弦十郎が床を踏み砕いて飛び散った破片を蹴り飛ばす。

「甘いわ!」

しかしフィーネはそれを躱し、ノイズを複数体召喚してしまう。

「どうだ!人の身である貴様に、ノイズは倒せ――――」

 

『ボトルビューン!』

 

突如として聞こえた、電子音声。

「ぬぅぅう・・・」

見れば、弦十郎の手には、見慣れない()()()()()()()()()()()()が握られており―――

 

テンペスティックナックルビュバーンッ!!』

 

次の瞬間、凄まじい風が吹き荒れ、フィーネが呼び出したノイズがまとめて消し飛ばされる。

「ば、馬鹿な・・・・!?」

「戦兎君の部屋から勝手に持ち出した発明品だ・・・が、どうやら試作品だったようだな」

吹き荒れた暴風の最中、弦十郎が握っていたナックルがバラバラにぶっ壊れる。

元々未完成だったのもあるが、弦十郎の全力の一撃に耐え兼ね粉砕してしまった事が大きい。

最も、万丈のマグマナックルほっぽって別のナックル作ろうとしていた戦兎も戦兎だが。

「く、それならもう一度・・・!」

「それをさせると思うか!」

が、動揺したフィーネに向かってすかさず瓦礫を蹴り飛ばす弦十郎。今度は直撃し、ソロモンの杖が天井に突き刺さる。

「く・・・ッ!?」

そしてすかさず、弦十郎が飛び上がって拳を握りしめた。

「ノイズさえ出てこないのなら―――!」

振り下ろされる拳、このままいけば、直撃は免れ―――

 

「―――弦十郎君!」

 

一瞬、フィーネの顔が了子のものになる。

「―――ッ!?」

それを見た瞬間、弦十郎の動きが完全に止まった。

 

次の瞬間、真っ直ぐ硬化した刃の鞭が、弦十郎の腹を貫いた―――

 

「司令・・・!」

緒川が声を漏らす。

腹を貫かれた弦十郎はそのまま血を吐いてはまき散らし、そのまま地面に倒れる。

「いやぁぁぁああぁああああ!!!」

未来の叫びが響き渡り、弦十郎の体を中心に、血溜まりが広がる。

「抗うも、覆せないのが運命(さだめ)なのだ・・・!」

弦十郎のポケットから通信機を奪い取り、ソロモンの杖を回収する。

「殺しはしない。お前たちにそのような救済など施すものか」

そう言って、フィーネはデュランダルが保管されているアビスへと続く道を開ける。

そしてそのまま、扉の向こうに消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

司令部にて、装者と仮面ライダーたちの戦いを見守る二課職員たち。

その最中で、司令部の扉が開いたと思いきや、ぐったりとした状態で緒川と未来に運ばれる弦十郎がいた。

「司令!?」

「応急処置をお願いします!」

緒川の指示で応急処置を行う友里。

「本部内に侵入者です」

代わりに緒川が端末を操作、そして、事あらましを簡潔に述べる。

「狙いはディランダル、敵の正体は―――櫻井了子」

「な・・・!?」

「そんな・・・!?」

更なる動揺が司令部に広がる。

しかしその間も緒川はコンソールを操作し、響たちに回線を繋げる。

「響さんたちに回線を繋げました」

それを聞いた未来は、すぐさま呼びかける。

「響?学校が、リディアンがノイズに襲われてるの!―――あ・・・!?」

しかし突如として周囲の照明が落ちる。

「なんだ!?」

「本部内からのハッキングです!」

「こちらかの操作を受け付けません!」

あっと言う間に彼らの扱う機器が使用不能となっていく。

「こんな事・・・了子さんしか・・・」

藤尭がそう呟く中で、未来はただ茫然と、その様子を見ている事しか出来なかった。

「響・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が沈み、月が空に昇ったころ、戦兎たちはリディアンに到着した。

「これは・・・」

その惨状を見て、全員茫然とする。

学園の校舎は崩れ去り、グラウンドは荒れ、破壊された戦車が置き去りにされており、気配は一人もいない。

「未来ー!皆ー!」

響が呼びかけても返事はなく、ただその場に膝を付く事しか出来ない。

「リディアンが・・・」

翼が茫然と呟く中、見上げた先の校舎の端に一人の女性が立っているのに気付く。

「櫻井女史・・・!?」

その女性は、櫻井了子だった。

「フィーネ・・・お前の仕業か!?」

「やはりアンタなのか!?了子さん!」

クリスの叫びに、戦兎も叫ぶ。

「ふふ・・・ハハハハハハ!!!」

それを聞いて高笑いをする了子。

「そうなのか・・・その笑いが答えなのか!?櫻井女史!?」

「嘘だろ・・・!?」

信じられないとでも言いたげな翼と万丈。

「アイツが、アタシが決着をつけなきゃいけないくそったれ・・・フィーネだ!」

クリスがそう叫んだ瞬間、眼鏡を外し、髪を解いた了子が光に包まれる。

そして、その光が収まるころにそこに立っていたのは、先日万丈が見た、あの金髪の女性だった。

「嘘・・・」

響が茫然と呟く中で、ネフシュタンを纏った了子は―――フィーネはその場に佇んでいた。

「野郎・・・ずっと俺たちをだましてたのか!?」

「ていうかお前はこの前会ったんだから気付かなきゃ可笑しいだろ!?」

「仕方ない。馬鹿だから」

「馬鹿っていうな。せめて・・・」

「筋肉をつけろだろ!?分かってるよ筋肉馬鹿!」

ふと、響が口を開いた。

「・・・嘘ですよね。そんなの嘘ですよね?」

未だに信じられないとでも言うように尋ねる響。

「だって了子さん、私や龍我さんを守ってくれました」

「あれは単純にデュランダルを守っただけだ。お前たちはおまけだったんだよ。何せ、貴重な完全聖遺物だからな、あれは」

しかし、それを否定するのは戦兎だった。

「嘘ですよ・・・了子さんがフィーネと言うのなら、じゃあ、本当の了子さんは?」

「櫻井了子の肉体は、先だって食いつくされた・・・いや、意識は十二年前に死んだと言って良い」

「どういう事だ?」

戦兎が訪ねる。

「超先史文明期の巫女『フィーネ』は、遺伝子に己が意識を刻印し、自身の血を引くものが、アウフヴァッヘン波形に接触した際、その身に、フィーネとしての記憶、能力が再起動する仕組みを施していたのだ」

「遺伝子に自分の意識を投影したっていうのか・・・そんなの、現代科学じゃ到底不可能だ・・・!?」

戦兎は信じられないとでも言うように呟く。

「当たり前だ。現代じゃ到底及ばない力を秘めているのが先史文明の科学力だ。そして十二年前、風鳴翼が偶然引き起こした天羽々斬の覚醒は、同時に、実験に立ち会った櫻井了子の内に眠る意識を目覚めさせた。その目覚めし意識こそが、『フィーネ(わたし)』なのだ」

それが、今目の前に立つ、フィーネの正体。

「貴方が、了子さんを塗り潰して・・・」

「まるで、過去から甦る亡霊・・・!」

「・・・・・」

茫然とする響、顔を険しくする翼、そして、黙ったままの万丈。

「フハハ・・・『フィーネ』として覚醒したのは私一人ではない。歴史に記される偉人、英雄、世界中に散った()()()は、パラダイムシフトと呼ばれる技術の大きな転換期にいつも立ち会ってきた・・・」

「その一つがシンフォギアシステムか・・・!?」

「そのような玩具、為政者からコストを捻出するための副次品に過ぎぬ」

「お前の戯れに、奏は命を散らせたのか・・・!?」

「たかだかお前の計画の為だけに、多くの人間を殺してきたっていうのか!?」

「アタシを拾ったり、アメリカの連中とつるんでいたのも、そいつが理由かよ!?」

「そう!全てはカ・ディンギルの為!」

フィーネが、なんの悪びれもなく肯定し、そしてそう答えた瞬間、突如として地面が揺れる。

「うおあ!?」

「な、なんだァ!?」

「これは・・・!?」

大きく揺れる中で、リディアンの真下から、何かが地面を突き破って出てくる。

それは、見るも巨大な塔。

あの日、二課のエレベーターシャフトから見えていた壁画のような飾りが施されており、その巨大さは、まさしく天を見上げる程。

「カ・ディンギル・・・別名、『バベルの塔』・・・!」

「バベルの塔!?それは確か・・・」

「ああ、大昔に、人が天に手を伸ばそうとして建てた超巨大な塔だ。だけど、あれから何度もエレベーターを見ている内に、あのシャフトの構造に気付いた・・・」

戦兎は、答える。

「あれは、強大なエネルギーを打ち出すように作られていた・・・つまり、このカ・ディンギルは巨大な砲塔!()()()()()だ!」

「「「「ッ!?」」」」

その言葉に、全員、息を飲んだ。

「そう!これこそが、地より屹立(きつりつ)し、天にも届く一撃を放つ、荷電粒子砲『カ・ディンギル』!」

(そび)え立つは、星をも穿つ巨大兵器だった。

「カ・ディンギル・・・こいつで、バラバラになった世界が一つになると!?」

「呪詛だ」

すかさず戦兎が口を挟む。

「人々はかつて、相互理解が可能な言語を使っていた。だけど、塔を築いている途中、神は人々から相互理解の為の言語を奪い、混乱を招いて建造を中止させた・・・お前の目的は、その呪詛を解く事だな!?」

「ああ、今宵の月を穿つことによってな」

「月を・・・・!?」

「穿つと言ったのか・・・!?」

「なんでさ!?」

その時、フィーネの顔が、今までにないくらい切実なものへと変わった。

「・・・私はただ、あのお方と並びたかった・・・その為に、あのお方へと届く塔を、シンアルの野に建てようとした・・・だがあのお方は、人の身が同じ高みに至る事を許しはしなかった・・・」

切実に、そして恋焦がれるように、フィーネは語る。

「あのお方の怒りを買い、雷帝に塔が砕かれたばかりか、人類は交わす言葉まで砕かれる・・・果てしなき罰、バラルの呪詛を掛けられてしまったのだ」

それが神話の真実か。

「月が何故古来より『不和』の象徴と伝えられてきたか・・・それは、月こそがバラルの呪詛の源だからだ!人類の相互理解を妨げるこの呪いを、月を破壊する事で解いてくれる!そして再び、世界を一つに束ねる・・・!」

そう月に向かって伸ばした手を握りしめるフィーネ。

それと同時に、カ・ディンギルに変化が訪れる。

突如として光だし、やがて稼働するかのような音が鳴り響き、その砲塔の中ではエネルギーが充填されていく。

このままチャージが終われば、すぐさま月は破壊されてしまうだろう―――と、その時だった。

「―――だぁぁああああぁぁああぁあああ!!!」

万丈の絶叫がその場に鳴り響いた。

「さっきからお前の言ってる事が何一つわかんねえよ!バラルの呪詛?それを解く?もう何もかもが分からねえけどな!これだけは言わせてもらう!」

ビッとフィーネを指差して言い放つ。

「お前は間違っている」

馬鹿故の馬鹿らしい真っ直ぐな言葉。

「ふん、雑頭には少々難しすぎたか」

「確かに、誰かに会いたい。その為に何かを成そうとするのは間違いじゃない」

そこへ、戦兎が進み出る。

その手には、ビルドドライバーが握られていた。

「だけど、その為に大勢の人々の命を危険に晒し、何の意味もなく消し去るなんて事は、科学者として絶対に容認できない・・・何より・・・」

それを腰にあてがい、アジャストバインドを巻き付ける。

「俺の信念が、それを許さない!」

「ふん、永遠を生きる私が余人に歩みを止められる事などありえない」

「止めてやるよ。何が何でもな・・・!」

ラビットフルボトルとタンクフルボトルを取り出し、それを振る。

万丈もドラゴンフルボトルを取り出してそれを振り、折りたたんだクローズドラゴンをその手に収める。

 

ラビット!』『タンク!』『ベストマッチ!』

 

Wake UP!』『CROSS-Z DRAGON!』

 

戦兎たちがボルテックレバーを回し、スナップライドビルダーを展開すると同時に、装者三人が聖詠を唄う。

 

『Are You Ready?』

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)―――」

 

「―――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)――」

 

「―――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)―――」

 

「「―――変身!」」

 

 

全員の姿が、変身する。

 

 

鋼のムーンサルトラビットタンク!イェーイ!』

 

『Wake UP Burning!』

 

『Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!』

 

 

五人が、並び立つ。

「行くぞォ!」

ビルドの掛け声に、全員が駆け出す。

先陣を切ったのはビルド。

左足のホップスプリングで一気に接近し、ドリルクラッシャーを叩きつける。

しかし、躱され、それでも追撃でもう一度振り下ろすも躱される。そこでもう一度ビルドが飛び上がったかと思うとビルドの後ろから響が飛び出し拳を叩きつけるもそらされ、弾き飛ばされる。

「うぉあぁあぁああ!!」

そこへクリスが小型ミサイルをばら撒く。

 

MEGA DETH PRATY

 

放たれる数の暴力。それをフィーネは鞭の一閃で全て破壊する。

黒煙がまき散らされる中、クリスは他の者に向かって視線を向ける。

その視線を受けて、仲間は意図を直接聞く事もなく動き出す。

「ウォォォオ!!」

クローズが飛び出し、拳の連撃を加え、すかさず響が一歩下がったクローズとフィーネの間に入り込み回し蹴りの連打。

そのまま応戦する最中で飛び上がり、背後から翼が斬りかかり、フィーネの側面からビルドがガンモードに変形したドリルクラッシャーを向ける。

「チッ」

小さく舌打ちの後に、ビルドが発砲。その弾丸をフィーネは叩き落し、すかさず鞭の形を剣状にして翼を迎え撃つ。

そのまま鍔迫り合いに持ち込むも、ビルドが再び発砲。だが、フィーネは刃の鞭で三角形の陣を形成すると、そこからバリアが発生し、ビルドの放った弾丸を阻む。

「何!?」

そしてすぐさま鞭の硬化を解除しては翼の刀を絡めとり、奪い取った。

武器を奪われ、無防備と思われた瞬間、その体制を逆さまにし、恐ろしいほどの超回転で足のブレードを連続で叩きつける。

それに対して、フィーネは鞭を振り回して回転し、翼の高速回転に対抗する。

そこへビルドが飛び込んで飛び蹴りを放つ。

それをフィーネは防ぐも、ビルドが叩きつけたのは、青い右脚。その足裏には―――無限軌道帯。

「づあ!?」

その無限軌道が回転し、鎧を削り取り、その下の肉すらも削ぎ降ろす。

それを見たフィーネはすぐさまビルドを跳ねのけ翼から距離を取る。

(どうせすぐに治るんだろ・・・でも、その隙さえできれば―――!)

本命は別。

その本命とは―――クリスの巨大ミサイル。

放たれたミサイル。それをフィーネは躱すも、どういう訳か軌道を変えてフィーネをしつこく追い回す。

 

標的捕捉(Lock-On) 能・動・追・尾(Active)

 

フィーネがミサイルに追い回されている間に、続けざまにもう一つのミサイルをカ・ディンギルに向ける。

 

標的捕捉(Lock-On) 狙・撃・制・御(Snipe)

 

意図に気付いたフィーネはすぐさま態勢を立て直す。

そして、クリスの必殺の一撃が放たれる。

 

標的捕捉(Lock-On) 対・象・破・壊(Destroy)

 

撃ち放たれたもう一つのミサイルは真っ直ぐカ・ディンギルへと突っ込んでいく。

「させるかぁぁぁああ!!」

すかさずフィーネが刃の鞭を使ってそのミサイルを両断する。両断されたミサイルは、いとも容易く爆発するも、しかしもう一発、フィーネを追っていたミサイルが迫ってきていなかった。

「もう一発は・・・!?」

そこで、フィーネは空を見上げた。

そこには、天に向かって突き進むミサイルに乗るクリスの姿があった。

「クリスちゃん!?」

「何のつもりだ!?」

「何してんだよアイツ!?」

「・・・・まさか、カ・ディンギルを真正面から迎え撃つつもりか!?」

戦兎の予想、それは的中していた。

クリスは、自らカ・ディンギルの前に立ち、その砲撃を迎え撃つつもりなのだ。

だが、敵は月を穿つ程の威力を備えた、荷電粒子砲。

「足掻いたところで所詮は玩具!カ・ディンギルの発射を止める事など・・・」

カ・ディンギルの砲門の先に、月が重なった時――――

 

 

「――――Gatrandis babel ziggurat edenal――――」

 

 

聞こえてきた、その歌の名は―――

「この歌・・・まさか!?」

「絶唱・・・・!?」

 

 

ミサイルから飛び降りて、カ・ディンギルの前に出る。

 

 

「――――Emustolronzen fine el baral zizzl――――」

 

 

腰のプロテクターから無数のエネルギーリフレクターを展開し、取り出した二つのハンドガンから、それぞれ一発ずつのエネルギー弾を発射。

 

 

「――――Gatrandis babel ziggurat edenal――――」

 

 

放たれたエネルギー弾は、リフレクターに反射されると同時に増幅され、それが無数に引き起こされて行き、ほぼ無限に力が増幅されていく。

そのエネルギー弾が反射する度に、光は強さを増していき、やがて、その形が蝶の羽を象っていく。

 

 

「――――Emustolronzen fine el zizzl――――」

 

 

 

その最中で、手に持ったハンドガンを前方のカ・ディンギルに向け、そしてその手にバスターキャノンを形成した。

 

 

「――――やめろぉぉぉぉおおおお!!!」

 

万丈の絶叫が迸るのと同時に―――カ・ディンギルが発射された。

 

そして迎え撃つ、クリス渾身の砲撃は真正面から衝突する。

 

衝突によって、眩い光が迸り、周囲を照らしていく。

 

 

そしてクリスの砲撃は、確かにカ・ディンギルを食い止めていた。

 

 

「一点集束・・・!?押し留めているだと・・・!?」

フィーネは信じられないと、そう叫ぶ。

 

しかし、それも長くは続かない――――

 

 

(―――ずっとアタシは、パパやママの事が、大好きだった)

 

 

バスターキャノンはひび割れていき、エネルギーは尽きていく。

 

 

(―――だから、二人の夢を引き継ぐんだ)

 

 

ギアにすらひびが入っていく。その口元からは血を垂れ流し、絶唱のバックファイアが彼女の体を蝕んでいく。

 

 

(―――パパとママの代わりに、歌で平和を掴んで見せる・・・)

 

 

僅かな、一瞬。ただ一瞬、押し留めて――――

 

 

(―――アタシの歌は―――その為に――――!)

 

 

――――光に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・あ」

それは、誰が漏らしたか。

カ・ディンギルの一撃を受けた月は―――その一部を欠けさせるにとどまった。

「し損ねた・・・!?僅かに逸らされたのか!?」

フィーネが、驚愕に目を見開く。

そして、小さな光を巻き散らして、落ちてくる少女が、一人―――

「・・・おい、ふざけんなよ・・・」

クローズが、そう呟く。

「あ・・・ああ・・・」

「・・・・」

翼は、そう声を漏らす事しか出来ず、響はただ、言葉を失う。

「ふざけんなよぉぉぉぉぉおおぉぉお!!!クリスぅ――――――――ッ!!」

クローズの悲痛な叫びと共に、クリスは、森の中に堕ちた。

 

 

堕ちて―――いった。

 

 

「――――あぁぁあああぁぁぁぁぁあああああぁぁあぁぁぁあぁああああ!!!!」

響の悲鳴が、響いた。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

月の完全破壊を阻止し、墜落したクリス。

「嫌だよ・・・」

崩れ落ちる響。

「見た夢も叶えられないとは、とんだ愚図だなぁ」

嘲笑うフィーネ。

「無駄と笑ったのか!?」

咆える翼とビルド。そして―――

「ガァァァァァアァアアアア!!」

響は、黒く暴走する――――

「・・・お前を止めるぞ、響・・・」

「どこまでも『剣』といくか」

「―――お前がいるから、私は、心置きなく歌える・・・」

「―――翼ぁぁぁあああ!!!飛べぇぇぇええぇえええええ!!!」


次回『双翼と兎のライジングサルト』


「――――立花ぁぁぁああああぁぁぁああぁぁあああ!!!」




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双翼と兎のライジングサルト

罪「どうも、この小説のオリキャラ一号の仮称『罪』です。名前はGからになると思います」(CV.堀内賢雄)
ガキ「オリキャラ二号の仮称『ガキ』です・・・ってかなんで俺こんな不名誉極まりない名前なの!?確かに俺の年齢はしr・・・工具と同じだけれども・・・」(CV.松岡禎丞)
罪「それ以外にいい名前が見つからなかったんだろう。それはともかく、おい、桐生戦兎」
戦「おうなんだ?」
罪「実は先ほどからタヤマから『セレナぁぁぁああぁぁあぁあああ!!』・・・と、いう訳なんだが」
戦「オーケー今ので大体状況は分かった」
妹「アハハ・・・すみません今すぐ黙らせてきます」
ガキ「頼んだ・・・っで、今までかなりカオスな事な内容やってましたけど、俺たちもやんなきゃいけないのかな・・・?」
戦「別に、そこまで気負う必要はないと思うぞ。今までが問題なだけだったから・・・」
罪「おい、お前ちょっと来い」
農具「なんデスか?」
戦「おいまでお前ら今から何をするk」
罪「やれ」
ガキ「だが断る!この〇白が最も好きな事の一つは」
ガキ・農具「「自分で強いと思ってるやつに『NO』と言ってやることだ!」」
戦「おいコラいくらCV(中の人)がそういう繋がり多いからってそのネタぶっこむな!?ていうかなんでネタ!?ただの三重パロディだよな!?」
罪「作者がやりたかったから?」
戦「何作者の心境代弁してんだよ。確かに農具のCV茅野さんだけれども、確かに松岡さんと接点多いけどー!」
農具「次はこのネタやってみたいデース!」
ガキ「お、それなら今からでも・・・」
麗人「いきなり割り込んで悪いがこれ以上はネタバレになりかねん。だからそれくらいにしておけ」
農具「はいデース!・・・って何故敵のお前が!?」
ガキ「馬鹿前回も出てただろ」
麗人「あの二人にはずるいずるいと言われて、とりあえず許可を取りによったのだが・・・」
戦「もうバッチリ音入ってるよ。ああもう、それじゃあ波瀾の二十話をどうぞ!」
ガキ「スターバーストストリーム!」
農具「リリース・リコレクションデース!」
戦「だからやめろぉ!!」


作「あ、セレナ誕生日おめでとうです」(遅い
タヤマ「セレナぁぁああぁぁぁああああ!!!」(血涙疾走
作「ぐべぁ!?」(轢かれる


―――リディアンの地下。そこにある一室に、未来たちはいた。

 

あの後、フィーネによって二課の施設の機能を全て殺された後、重傷を負った弦十郎を抱え移動。そのままリディアンの電力施設のすぐ傍にある部屋にて、藤尭の情報処理能力によって、どうにか監視カメラなどの映像を見る事が出来ていた。

そして、そこには未来の友人たちもいた。どうやら逃げ遅れてここに急いで避難したらしい。

そして―――クリスが堕ちるところも、彼女たちが戦っているところも、全て、見ていた。

(さよならを言えずに別れて、それっきりだったのよ・・・・なのにどうして・・・・?)

そのクリスの生き様を見て、未来はただ言葉を失っていた。

(お前の夢・・・そこにあったのか?そうまでしてお前がまだ夢の途中というのなら、俺たちはどこまで無力なんだ・・・!?)

そして弦十郎は、ただただ悔しがる事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

泣き崩れる響。

「そんな・・・せっかく仲良くなれたのに・・・」

「夢が見つかったって言ってたじゃねえかよ・・・それなのに・・・馬鹿野郎・・・!」

クローズは拳を握りしめる。

「こんなの・・・嫌だよ・・・嘘だよ・・・」

ただ目の前にある現実を直視できず、響はその場に手をついて、ただ、己の無力さに打ちひしがれる。

「もっと沢山話したかった・・・話さなかったら、喧嘩することも・・・もっと仲良くなることも出来ないんだよ・・・!」

そんな響に、翼とビルドは何も言わない。

「クリスちゃん・・・夢があるって・・・でも、私まだ聞けてないままだよ・・・」

そんな中で、フィーネの冷徹な言葉が発せられる。

「自分を殺して月への直撃を阻止したか・・・・ハッ、無駄な事を」

嘲笑った。

「見た夢も叶えられないとは、とんだ愚図だなぁ」

フィーネは、クリスの所業を嘲笑う。

「・・・笑ったか?」

翼が、呟く。

「大切なものを守り抜く・・・そんな、誰にでも出来ないような事をやってのけたアイツを・・・無駄と笑ったのか!?」

ビルドが、咆える。

翼の脳裏に映るのは、二年前、絶唱を使い、その身を滅ぼした奏の姿。

ビルドの脳裏に映るのは、決死の行動で最強の敵の力を封じ、そして消えていった氷室幻徳の雄姿。

その行為を、今、無駄と称して嘲笑った。それは、彼らにとっては到底受け入れがたい言動だ。

翼は剣を向け、ビルドは構える。

その時だった。

 

「――――それガ」

 

「「「―――ッ!?」」」

突如として聞こえた、おぞましい歪んだ声。

そして、その歪んだ声を発したのは――――その体を真っ黒に変え、獣のように成り果てた――――響だった。

「夢ト命ヲ握リシメタ奴ガ言ウ事カァァアァァアアアアァァアアア!!?」

獣のような方向が、その場に轟いた。

その変化に、フィーネの口元が歪んだ。

「おい、立花・・・!?」

その変化に、戸惑う翼。

「あれは、あの時と同じ・・・!?」

かつて地下鉄で見た響の黒い姿。

今の響は、その姿を完全に真っ黒に染め上げて、獣のように咆哮を挙げていた。

「融合したガングニールの欠片が暴走しているのだ。制御出来ない力に、やがて意識が塗り固められていく・・・」

「やはり実験か!?」

ビルドが叫ぶ。

「お前はその事を知っていて、響を実験に使っていたんだな!?」

記憶になくとも、かつて自分も同じ事をしていた戦兎だからこそ言える事だった。

「実験を行っていたのは立花だけではない」

その問いに、フィーネは答える。

「見てみたいとは思わんか?ガングニールの翻弄されて、人としての機能が損なわれていく様を・・・」

「くそったれが・・・!」

「お前はそのつもりで立花を・・・奏を・・・!」

その時、響が地面に手をついて四つん這いとなり、そのままフィーネに向かって飛ぶ。

「ッ!?立花!」

翼が叫ぶも、響は止まらない。そのまま響は、フィーネに襲い掛かる。

 

 

―――その寸前、クローズが響を殴り飛ばした。

 

 

「ガァァア!?」

そのまま横に吹っ飛び、瓦礫に激突する。

「万丈!?」

翼はクローズの行動に驚く。

「・・・なんのつもりだ?」

フィーネが、クローズに問いかける。だが、クローズは何も答えない。

代わりに、ビルドたちの方を見た。

しばり交わる、クローズとビルドの視線。

「・・・・分かった」

ビルドは、新たにボトルを二本取り出す。

「響は任せたぞ」

「おう」

 

パンダ!』『ロケット!』『ベストマッチ!』

 

「桐生・・・万丈・・・?」

「響はアイツに任せて、俺たちはフィーネをやるぞ」

 

『Are You Ready?』

 

「・・・分かった」

刀を構える翼。

 

「ビルドアップ!」

 

ぶっ飛びモノトーンロケットパンダ!イェイ!』

 

ロケットとパンダ。文明の繁栄の象徴と絶滅危惧種の相反するフォーム『ロケットパンダフォーム』。

「任せたぞ。万丈」

「・・・おう」

ビルドと翼が、フィーネの前に立つ。

「・・・カ・ディンギルの動力はデュランダルだな」

ふと、ビルドが問いかける。

「いかにも」

それをフィーネは肯定する。

「いかに月を破壊する事の出来る兵器だとしても、それがただの一発だけの消耗品であれば本末転倒・・・失敗した時の為に、もう一発、いや、何度でも撃てるように設計するのが大砲の構造だ。そして、あの馬鹿げた砲撃を撃つには、それ相応のエネルギー源が必要だ。あの時、クリスにデュランダルを狙わせたのも、カ・ディンギルの力の供給源を確保する為だな」

「その通り。エネルギー炉心に不滅の刃『デュランダル』を取り付けてある。それは尽きる事の無い無限の心臓なのだ・・・・」

「だが、お前を倒せば、カ・ディンギルを動かすものはいなくなる・・・!」

翼が刃を向ける。

「やれるものならやってみろ」

「ああ、やってやるよ!」

ビルドがそう叫ぶ傍らで、クローズは暴走する響と対峙する。

「・・・」

「ガァァァアァァアアァァアアア!!!」

咆哮を挙げる響。

それを見て、万丈は、かつて戦兎が暴走した時の事を思い出し、そして、自分が暴走した時の事を思い出す。

 

そして、その結果生み出された惨劇を、脳裏に思い浮かべて。

 

「・・・・お前を止めるぞ、響・・・!」

「グガァァアアァアアァァァァアアアアァアアアアァァァァァアアアアァァアアアアアァアア!!」

響が絶叫を挙げて、クローズに襲い掛かった。

 

 

 

「どうしちゃったの響・・・!?」

クローズに襲い掛かる響を見て、未来は声を挙げる。が、その響はいとも容易くクローズに殴り飛ばされる。

しかしそれでも立ち上がり、ただ本能のままにクローズに襲い掛かる。それを再び、クローズが殴り、今度は地面に叩きつけた。

「元に戻って!」

そう声を挙げるも、ここから聞こえる筈がなく、画面の向こうの響はクローズと壮絶な戦いを繰り広げていた。

「もう終わりだよ・・・私たち・・・」

そこで板場が、そのような声を挙げる。

「学院がめちゃめちゃになって・・・響もおかしくなって・・・」

突然の非日常に放り込まれて、完全に弱気になっているのだ。無理もない。

「終わりじゃない。響だって、私たちの為に―――」

「あれが私たちを守る姿なの!?」

未来の反論を真っ向から否定するように、板場が泣きながら怒鳴る。

それと同時に、響の拳がクローズを吹き飛ばし、すぐさま追いついては頭を掴み、そのまま地面に叩きつけるように投げた。

『ぐあ・・・』

『グルァァァアアァアア!!』

咆哮を挙げて、地面に倒れたクローズに跨り何度もその拳を叩きつける。

その様子に、安藤も寺島も恐ろし気に見ていた。

それでも、未来は言う。

「私は響を信じてる」

その響の姿から、目をそらさず、真っ直ぐに。

「・・・私だって響を信じたいよ・・・この状況はなんとかなるって信じたい・・・でも・・・でも・・・!」

それでも板場は、泣き崩れる。

「板場さん・・・」

「もうやだよ・・・誰かなんとかしてよ・・・!怖いよ・・・死にたくないよぉ・・・!」

頭を抱えて泣き喚く。現実に耐え切れずに、ただただそこに蹲る。

「助けてよぉ・・・響ぃぃい・・・・!!!」

そう、泣き叫んだ時だった。

『――――いい加減にしろぉぉぉおお!!』

クローズが、叫んだ。

それと同時に、青い龍がクローズの拳から放たれ、響を吹っ飛ばしてそのまま地面に叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

一方で、

「おぉぉお!!」

ロケットの勢いで飛び、右手の鉤爪を振り下ろす。その先にはすでに刃の鞭。

鍵爪と刃の鎖が直撃―――だが拮抗せずにいとも容易く刃の鎖が両断される。

「何ッ!?」

「オラァ!」

すかさず懐に飛び込んで左足で後ろ蹴り(ソバット)を叩き込む。

「ぐぅ・・・!?」

「ハァァア!!」

そこへ翼の上空から巨大化した剣による『蒼ノ一閃』を放つ。

それを寸前で躱す。

「調子に乗るなァ!」

すかさずフィーネは刃の鎖を振るい、ビルドに叩きつけようとするも、ビルドは肩の噴出口で飛び上がり、逃げる。

「これでも喰らってろ・・・・!」

そして左手を向けるなり、左手を覆うグローブからいきなりレーザーが発射される。

それをフィーネは鞭で陣を作り出し、それによって出来た盾でそのレーザーを防ぐ。

 

ASGARD

 

「んだと・・・!?」

「ふんっ!」

防がれた事に動揺するビルドに、フィーネはすかさず刃の鞭を飛ばし、その足に絡みつかせる。

「しまっ・・・・」

そのまま一気に地面に叩き落とされる。

「桐生!」

「余所見をしている場合か!?」

「ッ!?」

すかさずフィーネが刃を鞭を振るい、翼に叩きつける。

「ぐあ!?」

直撃を貰い、吹き飛ばされるかと思いきや、その腕に刃の鞭が絡み、引っ張られ、そしてすかさずその顔面に拳の一発を貰う。

「かはっ――――」

そのまま吹き飛ばされ、地面を滑る。

しかしそこへ、ビルドが叩きつけられた場所の土煙の中から何かが凄まじい勢いで飛んできて、それがフィーネに直撃、吹っ飛ばす。

それは、フィーネを吹き飛ばした後に、引き返していき、やがて、左拳を突き出したビルドの左腕に戻り、その体を分解させ各部パーツとして装着された。

「ハア・・・ハア・・・どうだ、俺のロケットパンチのお味は・・・!」

ビルド・ロケットパンダフォームの固有武装であるコスモビルダーである。

しかし、吹き飛ばされたフィーネは、何事の無かったかのように立ち上がる。

その右肩の鎧が吹き飛び、中が粉砕骨折しているにも関わらず、だ。

「この程度の傷、ネフシュタンの前では無意味だ」

そうフィーネが言うと、彼女の体からパキパキという音が聞こえたかと思うと、歪んでいた肩が元に戻り、さらには鎧すらも修復してしまう。

「なんだと・・・!?」

「私と一つになったネフシュタンの再生能力だ。おもしろかろう?」

「人の在り方を捨て去ったか・・・!」

頬を赤く腫れさせて立ち上がる翼がそう呟く。

その時、カ・ディンギルに変化が起こる。

「なんだ!?」

「まさか、もうチャージが始まったのか・・・!?」

「その通り。さあどうする?急がなければカ・ディンギルは再び発射されるぞ?」

フィーネが挑発する。

「・・・・桐生」

ふと、翼が隣のビルドに話しかける。

「なんだ?」

「・・・私がどうにかする。だから・・・」

ビルドは思わず翼の方を見た。そんなビルドを見返す翼の眼を見た瞬間、ビルドは何も言えなくなり、ただ、絞り出すように答えた。

「・・・分かった」

「・・・ありがとう」

翼は、短くそう呟いた。

その時、青い龍が、響を上空へ吹き飛ばし、地面に叩きつけた。

 

 

 

 

「いい加減にしろよ・・・お前・・・」

クローズドラゴン・ブレイズによる攻撃を浴びてもなお立ち上がる響に、クローズは言う。

「その拳は、一体なんの為の拳だ」

響が飛び掛かる。その響の突き出された拳を掴んで、頭をひっつかんで、そのまま背負い投げの要領で背後に叩きつける。

「ガァッ!?」

「誰かを壊すだけの拳なのか!?誰かを悲しませるものなのか!?ただ流されるままに暴れて、その先に一体何があるんだってんだよ!?」

クローズの抑えつけを逃れ、響は踵落としをクローズの脳天に叩きつける。

クローズの足元が大きく陥没する。

「・・・・違うだろ」

しかし、クローズは耐えきった。

「お前のその手は、誰かと手を繋ぐためのものだろ!?」

その足を掴んで、もう一度地面に叩きつける。

「束ねて繋げる力の筈だろ!?」

その響の顔面に、拳を叩きつける。

「受け継いだ力なんだろ・・・・」

もう一度叩きつける。

「テメェの恩人から貰った、大事な力なんだろ!?」

もう一度、叩きつける。

 

クローズのドラゴンフルボトルが、最愛の人の形見であるように―――

 

「ガァァアアァアア!!!」

響が立ち上がり、クローズを蹴り飛ばす。

靴底を擦り減らしながら、後退したクローズ。そして響は、右手のバンカーを叩き起こす。

それに対して、クローズはボルテックレバーを回す。

「その力を、そんな事の為に使ってんじゃねえよ!!!」

 

『Ready Go!』

 

「グガァアァァァアアアアアァァァアアアァァァアアアア!!!」

「ウオリャァァァアアアアァァアアアアアァァアァアアア!!!」

 

 

ドラゴニックフィニッシュ!!!』

 

 

二人の拳が、相手に叩きつけら、凄まじい衝撃を巻き散らす。

交錯した二人の一撃は、どうなったのか。

「・・・違うだろ」

響の拳は、クローズの鳩尾に決まり―――

「その力は、こんな事の為に使うもんじゃねえだろ」

クローズの拳は、響の顔面に直撃する寸前で止まっていた。否、止めていた。

鳩尾に突き刺さっている拳を、クローズは反対の手で掴む。

「誰かから貰ったその力を、誰かを壊すために使うな。それじゃあ、ソイツの想いを裏切る事になるんだぞ」

「・・・・」

その拳をそっと引き離し、クローズは、こつん、と響の額に拳を当てた。

「だからもう、戻って来い」

「・・・・・ぁ」

次の瞬間、響の黒が、消えていった。

クローズの当てた拳の所から、一気に、引いていくように消えていく。

その姿はシンフォギアを纏っておらず、いつもの制服姿に戻っており、その両目からは、涙を流し、やがて膝をついた。

「・・・ご・・・め・・・なさい・・・・ごめん・・・なさい・・・!!」

体を震わせて、響は、クローズに握りしめられた拳を、もう一方の手で掴んだ。

「わた・・・わたし・・・わたし・・・!」

「分かってる。お前は何も悪くない。誰も死んじゃいない。だから泣くな」

「でも・・でもぉ・・・わた、しの・・・手は・・・誰かと・・・手、繋ぐため・・・に・・・あるのに・・・わた・・・りゅう・・・がさんを・・・!!」

まるで、小さく怯える子供のように、響は泣きじゃくる。

「分かってる。俺はなんともない。だから泣くな」

そう言いながら、クローズは響の頭を撫でて、響を慰める。

ただぐずり泣く響と慰めるクローズ。

その時だった――――

 

「立花ァぁぁああぁぁあああああ!!!」

 

翼の叫びが、響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――お前がいるから、私は、心置きなく歌える・・・」

「だから、それは洒落にならねえって言ってるだろうが・・・」

「分かっている。でも、こんな気持ちは初めてなんだ」

フィーネに向かって歩きながら、翼はビルドに向かってそう言う。

「奏と一緒に歌う時とは違う安心感。奏が隣にいてくれる時とは違う高揚感。お前が聞いてくれているというだけで、私は、安心して天高く舞い上がれそうな気がするんだ」

フィーネの前に立ち、翼は、キッ、とフィーネを睨みつけた。

「どこまでも『剣』といくか」

「今日に、折れて死んでも、明日に人として歌うために。風鳴翼が歌うのは、戦場ばかりでないと知れ!」

そう言い放つ翼。

「人の世界が剣を受け入れる事などありはしない!」

まるで蛇のように唸った刃の鞭が、翼に襲い掛かる。

「いいや、受け入れるさ」

その刃の鎖を、ビルドが弾き飛ばす。

「コイツがただの『剣』じゃなく、『風鳴翼』という一人の人間である限りッ!」

ビルドがコスモビルダーを放つと同時に、翼が飛び上がる。

コスモビルダーは真っ直ぐフィーネの方へ飛んでいき、それをフィーネは躱す。その上空から翼が飛び掛かるもすかさず刃の鞭を叩きつけようとする。

しかしその刃の鞭による攻撃を、翼は脚部のブレードで迎撃、弾いたところで、剣を巨大化させて『蒼ノ一閃』の一閃を放つ。

その一撃をフィーネは刃の鞭の切っ先を叩きつける事で相殺。その直後、コスモビルダーがフィーネの眼前に接近、さらにビルドも接近して右手のジャイアントスクラッチャーで交差時に強烈な斬撃を与え、コスモビルダーが直撃する。

「ぐあぁぁあぁああ!?」

吹き飛ばされるフィーネは、そのままカ・ディンギルの外壁に激突し、落下する。

「翼ァ!」

 

「――――去りなさい!無想に猛る炎!」

 

飛び上がり、刀を空中へ投げ、凄まじく巨大な大剣へと変形させて、その柄頭を蹴ってフィーネに向かって叩きつける。

 

天ノ逆鱗

 

天ノ逆鱗が、フィーネに向かって突き進む。

それに対して、フィーネはASGARDを三重に展開。そのASGARDに、翼の天ノ逆鱗が叩きつけられる。

凄まじい衝撃が迸り、周囲一帯に暴風が吹き荒れる。

翼の天ノ逆鱗はASGARDを貫く事はなく、その姿勢を一気に直立させる。

そのまま巨大な大剣は()()()()()()()()()()()()倒れていき、その上に乗る翼は二本の刀を携えて飛ぶ。

そして、その双剣から赤い炎を迸らせ、翼はカ・ディンギルに向かって飛ぶ。

 

炎鳥極翔斬

 

そう、翼とビルドの狙いは初めから―――

「初めから狙いはカ・ディンギルか!?」

「その通りだよ!」

 

ウルフ!』『スマホ!』『ベストマッチ!』

 

すぐさま翼を撃ち落とそうとするフィーネの前に、ビルドが飛び出す。

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

繋がる一匹狼スマホウルフ!イェーイ・・・!!』

 

灰色とシアンのスマホウルフフォーム。その姿へと再び変身したビルドは、すぐさまボルテックレバーを回す。

 

『Ready Go!』

 

翼へと迫る鎖の鞭。それを、ビルドは、展開した円状に展開したアプリアイコンの上を走る狼に噛ませ、捕まえる。

「何!?」

「翼の邪魔はさせねえ・・・・!」

 

ボルテックフィニッシュ!』

 

がっちりと刃の鞭を噛み込む影色の狼。

「チィッ!」

それにフィーネは舌打ちするも、しかし次なる手段は打っていた。

「だが、これならどうだ!」

次の瞬間、影の狼が加え込むネフシュタンの鎧の刃の鞭の切っ先から、突如として黒いエネルギー弾が生成される。

「これは・・・クリスの・・・!?」

かつて、クリスが放った、破壊の一撃――――

 

NIRVANA GEDON

 

「堕ちろぉぉぉぉぉおお!!!」

「しまったっ・・・避けろ翼ぁぁぁああ!!」

黒い砲弾が、空を駆け上がる翼に迫る。

「くっ・・・!」

だが、気付いた時にはすでに目の前に迫っていて―――

「ぐあぁぁああぁぁあぁああ!!!」

 

砲弾は翼に直撃した――――

 

 

 

(やはり、私では・・・)

意識が、闇に沈みかける。あの砲撃の威力は身をもって知っている。

だから、もう一度飛び上がる事は出来ないだろう。

そう、諦めかけた時――――

 

《―――何弱気な事言ってんだ》

 

懐かしい声が、聞こえた。

 

(・・・奏?)

目の前に立つのは、見間違うはずのない、唯一無二の片翼――――

 

《翼》

 

奏は、翼に手を差し伸べる。

 

《あたしとあんた。両翼揃ったツヴァイウィングなら、どこまでも遠くへ飛んでいける》

 

その手を、翼は掴み取る―――そして、思い出す。

 

(そう・・・両翼揃ったツヴァイウィングなら―――そして―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

《―――そして、勝利への方程式を導いてくれる、あの男が背中を押してくれるなら―――》

 

 

 

 

 

 

「―――翼ぁぁぁあああ!!!飛べぇぇぇええぇえええええ!!!」

 

 

眼を見開く。その目の前には、彼が作り出した、勝利への方程式。

 

(桐生が、背中を押してくれるなら―――!!)

 

カ・ディンギルに存在する足場を踏み、飛び上がって、翼は、飛ぶ。

 

(どんなものだって、超えて見せる―――!)

 

「―――勝利の法則は、決まった・・・!!」

その炎を蒼炎へと変えて、翼は、火の鳥の如く舞い上がる。

「させるかぁぁああ!!」

「それはこっちのセリフだぁぁぁああ!!!」

なおも妨害しようとするフィーネの攻撃を、ビルドは体を張って止める。

左腕のスマホは粉砕され、右手の鉤爪は折られ、肩の装甲が削れ、腹に直撃し、顔面に叩きつけられようとも、翼の邪魔をさせまいと、ビルドは全力でフィーネの攻撃を防ぐ。

そして翼は、天高く舞い上がる。

(立花、見ろ。これが、私の生き様だ!!!)

 

「――――立花ぁぁぁああああぁぁぁああぁぁあああ!!!」

 

親友の力を受け継ぐ少女の名を、翼は咆え――――そして、カ・ディンギルにその一撃を叩き込んだ。

「ああ・・・!!!」

フィーネは目を見開く。

「翼さん・・・!?」

「翼・・・!?」

そして、それを目撃したクローズと響。

「・・・・カ・ディンギル」

そして、散々フィーネからの攻撃を受けてボロボロになったビルドは、翼が突撃したカ・ディンギルを見上げて、仮面の奥でほくそ笑んだ。

 

「―――破壊だ。ざまーみろ」

 

 

 

次の瞬間、カ・ディンギルが爆発した―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の想いは・・・またも・・・!!」

もはや修復不可能なまでに破壊されたカ・ディンギルを見上げて、フィーネは呆然と呟く。

「ハア・・・ハア・・・畜生・・・やってやったぞ・・・くそったれがぁ・・・・!!」

地面に倒れ込み、ビルドは、破壊されたカ・ディンギルを見上げて、そう呟く。

だが、その声に歓喜はなく―――

「・・・くそったれがぁぁぁあ・・・・・!!!!」

ただただ、後悔しかなかった。

「そん・・・な・・・・翼・・・さん・・・・・」

そして響は、翼が消えたカ・ディンギルを見上げて、一人絶望し、膝をついて。

「畜生・・・畜生ッ!!!」

クローズはすぐ傍の瓦礫を殴り砕いて、悪態を吐く。

 

 

 

 

「・・・天羽々斬・・・・反応、途絶・・・」

藤尭が、絞り出すようにそう告げる。

その現実に、友里は思わず涙を流して目をそらし、弦十郎は、拳から血が滲みそうな程に握りしめる。

「身命を賭して、カ・ディンギルを破壊したか・・・翼・・・お前の歌・・・世界に届いたぞ・・・世界を守り切ったぞ・・・!!」

そして、実際にその手からは血が滲みだしていた。

「・・・分かんないよ」

そんな中で、板場が呟く。

「分かんないよ!どうして皆戦うの!?痛い思いして、怖い思いして、死ぬために戦ってるの!?」

涙を流し、理解できないと喚き散らす。

「分からないの?」

そんな板場に、未来は言う。未来もまた、涙を流して。

そんな彼女は、板場に歩み寄り、その肩を掴んで引き寄せる。そして、真っ直ぐに板場を見据えて、もう一度言う。

「分からないの?」

アニメという、非現実的なものを見ている、彼女なら、分かる筈なのだ。

 

ただ、誰かの為に。

 

やがて、板場の泣き声が、その部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

「―――どこまでも忌々しい!!」

フィーネが、刃の鞭を地面に叩きつける。

「月の破壊は、バラルの呪詛を解くと同時に、重力崩壊を引き起こす惑星規模の天変地異に人類は恐怖し、狼狽え、そして聖遺物を振るう私の元に基準する筈であった・・・!!痛みだけが、人の心を繋ぐ『絆』!たった一つの真実なのに・・・!!」

そう喚き散らすフィーネ。そんなフィーネに、叫ぶ者がいた。

「―――――フィィィィィネェェェエエエェエエエエエッ!!!!」

 

ビルド―――桐生戦兎だ。

 

ビルドは、フィーネを指差して叫ぶ。

「次へテメェだ!テメェをぶっ倒して、全部終わらせてやるッ!!!」

その手に、ラビットタンクスパークリングをもって、

「二年前のライブも、クリスを誘拐したことも、学校を破壊し、大勢の人間を騙し、そして、クリスと翼の事も、その全てに決着をつけてやるッ!!!」

その叫びに、フィーネは恐ろしい眼つきでビルドを睨み返す。

「私を、倒すだと・・・?」

ゆらりと怒りの感情を迸らせながら、フィーネはビルドと向き合う。

「私は、数千年もかけて、バラルの呪詛を解き放つ為に、一人抗ってきたのだ・・・かつて唯一創造主と語り合える統一言語を取り戻し、この胸の内の想いを届けるために・・・!それなのに、お前たちは・・・!!」

「その為に、大勢の人間を巻き込んだのかよ・・・」

クローズが、ビルドと挟み込むようにフィーネの背後に立つ。

「いったいその想いの為にどれだけの人間が死んだ・・・お前の為に、どれほどの奴が犠牲になった!?」

「是非を問うだと!?恋心も知らぬお前たちが!」

怒鳴るフィーネに、クローズは動じず、ただその手に『イチイバルレリックフルボトル』を取り出し、それをクローズドラゴンに装填する。

「恋心ぐらい分かる・・・だからこそ」

「お前を止める・・・!!」

 

激唱ゥ!』『クロォーズイチイバルッ!!!』

 

ラビットタンクスパークリング!』

 

フィーネが刃の鞭を振るう。その鞭が、展開されたスナップライドビルダーに阻まれる。

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ!」

「行くぜ!」

 

激唱戦場クロォーズイチイバルッ!!!』

 

イェェエイッ!!ドッカァァァァアンッ!!!』

 

シュワッと弾けるラビットタンクスパークリング!イェイイェーイ!』

 

「行くぞォ!」

「来い・・・仮面ライダーァァア!!」

「うぉぉぉおおぉおおお!!!」

フィーネとビルド、そしてクローズが今、ぶつかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリスちゃん・・・・翼さん・・・」

そして響は、ただそこで膝を付き、絶望していた。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

激突する仮面ライダーとフィーネ。

「痛みだけが、人を繋げる絆だと・・・ふざけてんじゃねえよ・・・!!!」

フィーネの言葉を否定し、彼らは戦う。

「二人とももういない・・・」

その最中で絶望する響。

「いくらなんでも無茶だ・・・!!」

その様子を、シェルターから見守る者たち。

「じゃあ一緒に応援しよう!」

そして、今まさに、敗北しそうな彼らに、奇跡が宿る。


次回『夜明けのシンフォギア』


シンフォニックマッチ!!』



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夜明けのシンフォギア

戦「ノイズが蔓延る新世界にて、仮面ライダービルドこと桐生戦兎は、相棒の万丈、特異災害対策機動部二課の面子、そしてノイズへの唯一の対抗手段であるシンフォギア装者、翼と響、そしてクリスと共に、全ての黒幕フィーネとの最終決戦に挑むのであった」
万「ついにここまで来たんだな」
ク「っていうか、まだ最終回じゃねえんだからそんな最終回っぽいナレーションする必要ねえだろ?」
響「いいじゃん雰囲気があって」
弦「うむ、何事も気持ちから入らないとな!」
藤「気持ちってなんですか気持ちって・・・」
友「しかし黒幕の正体が了子さんだったなんて・・・」
戦「感傷に浸っててもしょうがないでしょうが。過ぎちまったものはしょうがない」
了「そうよぉ?もうあとの祭りなんだから、あとは成り行きに任せないと」
ク「おい、何猫被ってんだよフィーネ。もうその必要はねえだろ」
フィ「ふっ、そう言われては仕方がない。まあ正体もバレているんだ。ここまで上っ面を被る必要はないか」
翼「随分と素直だな・・・まあいいか」
フィ「ちなみに、私の中の人は仮面ライダーと関係があったり」
戦「ここでいきないCVネタもってくんな!?ビビるわ!」
フィ「黙りやがれデス」
農具・ガキ「ケモミミ!」
戦「別のキャラの感性に引っ張られてんじゃねえよ!?」
罪「まあ、それはともかくさっさと本編に移ろう。こんなクソネタ出されて読者もうんざりしている頃だろうし」
作「何気に酷くない・・・?」
戦「それもそうだな」
作「無視!?」
未「では、ついに響があのパワーアップした姿になる第二一話をどうぞ!」
クロ「キュル!」


「うぉぉぉおお!!」

高速回転するドリルクラッシャーをフィーネに叩きつけるビルド。

しかし、その一撃は躱され、すかさず蹴りが迫るも紙一重で躱す。

「ウオリャァアア!!」

すかさずクローズが飛び込み、ブラストブレイドで斬りかかるも、硬質化した刃の鞭に防がれる。しかし、防がれてもすぐさま引き、もう一度横薙ぎに振るい、フィーネの脇腹を浅く斬る。

しかし、すぐさまもう一本の刃の鞭が飛んできて、クローズはそれをホイールによる機動力で躱す。

そこへ泡によって加速したビルドのボレーキックが迫る。

それと同時に距離を取ったクローズのブラストモービル・ブラストシューターによる射撃が重なる。

それに対して、まずビルドの一撃を受け止め、すかさず刃の鞭で光弾をある程度撃ち落とし、そしてビルドの足を掴んでクローズの方へ投げる。

「なっ!?」

反応出来なかったクローズはそのまま突っ込んできたビルドとぶつかり転がる。

そこへフィーネが黒弾を形成、二人に向かって投擲する。

「ッ!?」

それを見たビルドはすぐさま泡で横に飛び、続いてクローズも反対方向にホイールを回転させて躱す。外した黒弾は先ほどまでビルドたちがいた地面に直撃し、凄まじい爆発を引き起こすも、すかさずビルドとクローズがフィーネに接近する。

ビルドはドリルクラッシャーと四コマ忍法刀、クローズは双身刀モードのブラストモービル・ブラストデュアルソードでフィーネに向かう。

それを迎撃するようにフィーネは動き、刃の鞭がそれぞれ二人に向かう。

しかし、ビルドはそれを受けるとドリルクラッシャーで一気に巻き取り、一方のクローズは躱してそのままフィーネに接近する。

「ぐっ!?」

片方を封じられ顔を歪めるフィーネだが、すぐさまクローズに対応。

振り下ろされる双身刀をもう一方の刃の鞭で受け止め、すかさず反対の刃で斬り上げられる。先ほどより深い傷がフィーネの体を抉るが、それも決定打にはならない。

ネフシュタンの鎧の再生が、彼女をどうやっても生かす。

 

『ボルテックブレイク!』

 

そこへ刃の鎖を絡めたまま飛び出てくるビルドが、ドリルクラッシャーに青い角のようなエネルギーを纏わせてそのままフィーネの体を貫く。

「ぐふぅ・・・!?」

「おぉぉぁあぁぁあ!!」

そのままドリルクラッシャーを回転させて、貫いた場所から一気に中身をかき回す。

血が飛び散り、臓腑がスクランブルエッグになる。

そしてそのまま引き抜き、中の臓腑を抉り出す。

飛び散る血、巻き散らされる内臓。

だが、そのどれもが決定打にはなりえない。

ネフシュタンの再生は、ビルドたちの攻撃を上回る。

「どれほど攻撃しても無駄だ。私には決して届かんよ」

「だったら届くまで攻撃するだけだ!」

すかさずクローズがブラストモービルの形状を双身刀から弓『ブラストインパクトボウ』へ変形させ、矢を引き絞る。

「喰らいやがれ!」

「それをおちおち喰らうと思ったか!?」

しかし、それよりも早く地面に忍ばせていた鎖の刃がクローズを襲い、そして上空へ打ち上げる。

「ぐあぁああ!?」

「万丈!」

打ち上げられたクローズ。そこへフィーネの放つ黒弾が迫る。

「こなくそ・・・!」

すかさず矢を放って迎撃するクローズ。矢は寸分違わず黒弾を撃ち抜き破壊する。

しかし未だ空中で身動きの出来ないクローズに更なる追撃を加えようとするフィーネに、ビルドはすぐさま接近。その拳を叩きつける。

「オラァ!!」

「ぐぅ!」

拳を叩きつけられたフィーネはその一撃を止める。

そのまま力比べが始まるかと思いきや、すぐさま拳の中で泡が炸裂、フィーネを吹き飛ばし、すかさずそのフィーネに泡による加速で追いつき、蹴りを叩き込む。

吹っ飛ばされたフィーネはそのまま瓦礫に激突し粉塵を巻き散らし、そしてそこへクローズの矢が炸裂する。

「どうだ・・・!」

未だ巻き起こる粉塵。

そのまま警戒するビルドだが、次の瞬間、背後からクローズの悲鳴と爆発音が響いた。

「な!?」

振り返れば、何故かこちら側に吹っ飛んでいるクローズの姿があった。

視線をずらせば、そこにはネフシュタンの刃の鎖が―――

「まさか、死角から攻撃を!?」

おそらくあの黒弾の直撃を受けたであろうクローズはそのまま変身解除されてしまう。

「万丈!?」

「余所見をしている場合か!」

すかさずフィーネが黒弾を放つ。

「くそ!」

それを見てビルドはドリルクラッシャーで迎撃するも、威力に耐え切れず吹っ飛ばされる。

そこへ刃の鎖が足に絡みつき、そして持ち上げられて、一気に地面へと思いっきり叩きつけられる。

「がはっ・・・!?」

「止めだァ!!」

そして、もう一本の刃の鞭の切っ先がビルドに叩きつけられる。

「ぐあぁぁああ!?」

止めの一撃を受けて、ビルドすらも変身解除される。

「ぐぅ・・・あ・・・・」

「が・・・くぅ・・・・」

痛みに悶える戦兎と万丈。

「もはやネフシュタンと一体化した私に、お前たち程度が勝てる道理はない。そもそも立花響という生体と聖遺物の融合症例。奴という先例がいたからこそ、私は己が身をネフシュタンと同化させる事が出来たのだからなぁ・・・」

倒れ伏す二人を見下すフィーネ。

「痛みこそが、人を繋げる唯一の真実にして絆だ・・・それなのに、お前たちは・・・!!」

「・・・・違う」

戦兎が、手を付いて立ち上がる。

「痛みだけが、人を繋げる絆だと・・・ふざけてんじゃねえよ・・・!!!」

ふらつきながらも、戦兎は立ち上がる。

「痛みが刻み付けるのは恐怖だけだ!そんなものが絆である筈がねえ!それは、ただ支配したいというだけのお前の身勝手な思い込みだ!絆ってのはな、相手を信じる心なんだよ!痛みじゃない、ただひたすらに相手を信じられる事こそが本当の絆だ!」

「黙れ!相手を信じるだと?ふざけた事を抜かすな!バラルの呪詛がある限り、人は決して分かり合えぬ!月を破壊し、バラルの呪詛を解き放たない限り、人が繋がる事はありえないのだ!」

「それこそありえねえよ・・・!!」

万丈が、立ち上がる。

「だったらどうして俺と戦兎は互いを信じあえる!?クリスと分かり合う事が出来た!?翼を助けたいと思えた!?響がクリスに向かって手を伸ばせた!?全部、お前の言う痛みなんかじゃない、相手を思いやる心から出来たことばっかだ!バラルの呪詛程度で、人が繋がれないだと?これを見てまだそんな事が言えんのかよ!?」

「黙れ・・・黙れ黙れ!お前たちは何も知らない。ただあのお方と並び立ちたかった私の気持ちを、その年月を、その苦しみを!何も分かっちゃいない!そんなお前たちが、『絆』を語るなァ!!」

「「語ってやる!!」」

フィーネの叫びを、真っ向から返す。

「どんだけお前が俺たちの絆って奴を否定してもな、俺たちは絶対にそれを曲げねえ!」

「人と人とが手を繋ぎ合う世界、それを創り上げる為に、俺たちは戦っている!」

その手に、それぞれのボトルを握りしめる。

「だから俺たちは、絶対に諦めねえ」

「倒れない」

「くじけない」

「「負けられない!!」」

その胸には、いつだって一つの信念があるのだから。

 

「愛と―――」

 

「平和の―――」

 

「「為にぃぃぃいいいぃぃいッ!!!」」

 

そう叫び、二人は走り出す。

「愛と・・・平和だと・・・?」

駆け出す二人の、その言葉を聞いて、フィーネは怒鳴り散らす。

「そんな世迷言、すぐに消し飛ばしてくれるわァ!!」

次の瞬間、ネフシュタンの刃の鞭が、二人を襲った――――

 

 

 

 

「・・・翼さん・・・クリスちゃん・・・」

その最中で、響は一人、そこで項垂れる。

「二人とももういない・・・・」

その瞳に光は無く、ただあるのは、胸中に広がる絶望のみ。

「学校も壊れて・・・」

掠れた声で、ただ目の前の現実を、絶望に染まった心で認識する。

「みんないなくなって・・・」

遠くで、戦兎と万丈がフィーネに生身で立ち向かっているが、今の響には遠い場所の騒音程度にしか聞こえていない。

「わたし・・・わたしはなんのために・・・なんのために戦ってる・・・?」

自分が戦う意味を見失って、響はただ一人、そこで蹲る。

「みんな・・・」

 

 

 

 

 

その一方で、

「いくらなんでも無茶だ・・・!!」

生身でフィーネと戦う戦兎と万丈を見て、藤尭がそう声を挙げる。

その言葉の通り、戦兎と万丈は、ネフシュタンと完全に融合したフィーネに終始圧倒され続けている。

「聖遺物相手に、生身で立ち向かうなど・・・!」

弦十郎の場合はお前が言うな、と言いたい所だが実際は憲法に抵触する戦闘力を有するためにあまり強くは言えない。

『うぉぁぁぁあああ!!!』

『がぁぁあぁぁああ!!!』

しかし、どれほど叩きのめされても、どれほど吹き飛ばされても、戦兎と万丈は立ち上がり、フィーネに向かって行く。

「戦兎先生・・・」

「龍我さん・・・」

その無茶苦茶な戦いように、学生である四人は呆然とする。

その最中、どこからかいくつもの足音が聞こえてきた。

振り向けば、扉の方から、幾人もの民間人がいた。

「司令、周辺区画のシェルターにて、生存者、発見しました」

どうやら、他のシェルターにいた生存者のようだ。

「そうか!良かった・・・」

それに弦十郎は心底安心する。

その最中で、

「・・・あ」

黒髪の少女が、藤尭の前にあるモニターを見て声をあげる。

「あの時のおじさん・・・」

「あ、ちょっと!」

その黒髪の少女が、モニターに近付いて顔を覗き込む。

「やっぱり・・・」

「すみません、うちの娘が・・・」

「戦兎先生の事を知ってるんですか?」

「え、ええ・・・あの人に、娘をノイズから助けてもらって・・・」

『ぐあぁぁあああ!!』

戦兎の悲鳴が響く。

画面を見れば、地面に叩きつけられた戦兎が仰向けになって地面に倒れていた。

「おじさん・・・!」

黒髪の少女は、思わず声を挙げる。

しかし、おそらく常人が喰らえば死ぬような攻撃を受けても、戦兎は立ち上がる。

『まだ・・・まだぁぁああ!!!』

「がんばれ・・・!」

もう、何度も殴られては叩き伏せられている。それでも戦兎は立ち上がり、戦っている。

その戦兎を、黒髪の少女は応援する。

そう、その少女は、かつて戦兎が助けた女の子なのだ。

「どういう事だ・・・」

その戦兎と万丈の戦いに、藤尭は声を漏らす。

確かに、普通の人間が、聖遺物を纏った相手にあそこまでやれるなんて事は、本来ありえない。

よほど体が頑丈じゃなければ、風に吹かれるが如く死んでいる筈だ。

それなのに、二人は生身で戦い続けていた。

それは一体どういう事なのか。

その最中で、ふと、もう一人のツインテールの少女が声を挙げる。

「あ!かっこいいおねえちゃんとおにいちゃんだ!」

「あ、ちょっと!待ちなさい!」

その少女は、進んでモニターに近付く。

『ぐおあ!?』

『ええい、鬱陶しい!』

『これぐらいで・・・終わると思ってんじゃねえぞぉぉぉおお!!』

その最中で、万丈はなおもフィーネに殴り掛かる。

しかし、その画面の奥で、響は一人、蹲っていた。

「すみません・・・」

「ビッキーの事、知ってるんですか?」

安藤が、その子の母親に尋ねる。

「え・・・・」

その母親は、しばし考える素振りを見せて、やがて答えた。

「詳しくは言えませんが、うちの子が、あの人たちに助けていただいたんです」

その少女は、かつて万丈と響が、体を張って助けた少女だった。

「自分の危険を顧みず、助けてくれたんです。きっと、他にもそう言う人たちが・・・」

「響の・・・人助け・・・」

それは、彼女が趣味としている事だった。それが、今、どういう訳かこの状況を巡り合わせた。

『ぐおあ!?』

『がはっ!?』

その間にも、戦兎と万丈はボロボロになっていく。

「ねえ?カッコいいお姉ちゃんたちを助けられないの?」

「助けたい・・・」

二人の少女が、皆に聞く。

その答えに、彼女たちは口ごもる。

「・・・助けようと思ってもどうしようもないんです。私たちには何もできないですし・・・」

そう、寺島が言ったとき、

「じゃあ一緒に応援しよう!」

ツインテールの少女が、そう言いだす。

「ねえ?ここから話しかけられないの?」

少女が藤尭にそう尋ねる。

「う、うん・・・出来ないんだよ・・・」

「出来ると思う・・・」

藤尭がそう答えた瞬間、予想外な所から肯定する声が上がった。

それは、黒髪の少女だった。

「学校の設備がまだ大丈夫なら、電力を復旧させて、スピーカーとかを使って声を届けられると思う・・・」

「分かるのか?」

「お父さんが、でんきこうじし」

「父の影響で・・・」

ピース、と無表情にながらもどこか誇らしげなドヤ顔で、黒髪の少女はそういう。

「確かに、学校の設備が無事なら、リンクしてここから声を届ける事は可能です」

「それなら!」

未来の瞳に希望がともる。

「応援、やろう・・・!」

黒髪の少女が、そういった。

やる事は、決まった。

 

 

 

 

 

 

その一方で、戦場では。

「なぜだ・・・」

フィーネは、なおも立ち上がる戦兎たちから後ずさる。

「何故、そこまでして立ち上がる・・・何がお前たちを奮い立たせる・・・!?」

理解できない。フィーネは、そう顔を振った。

「どうして、そこまで他人の為に戦える!?」

「そんなの・・・決まってんだろ・・・!」

その手にラビットフルボトルをもって、戦兎は叫ぶ。

 

「俺たちは・・・仮面ライダーだからだ!」

 

そう言って、戦兎はフィーネに向かって走る。

ラビットフルボトルを握りしめて、その拳をフィーネに叩きつけようとする。

しかし、その拳はフィーネの顔面のすぐを通り過ぎ、そして次の瞬間、腹に重い一撃が入る。

「カハッ・・・!?」

「もういい・・・沈め」

冷めきった眼で、フィーネは腹を殴った戦兎を見下す。

「どれほど足掻こうと、お前たちが私に勝つことなどありえないのだ。その仮面を纏えないお前たちに、信念を貫き通す事など出来ないのだ」

そのまま、戦兎はその場に倒れ込む・・・そう、思った瞬間、戦兎の手が、殴ったフィーネの手首を掴む。

「!?」

「それ・・・でも・・・!」

その顔を挙げて、フィーネを見上げる。

「俺たちは・・・戦い続ける・・・・!!」

その瞳には、決して折れぬ信念が揺らめき、戦兎の体から、黄金の光が揺らめき出る。

「誰かの為に・・・誰かの笑顔の為に・・・!!」

そして、降ろした右手の中のラビットフルボトルが変化する。

 

ハザードレベル7による、フルボトルの進化――――

 

「俺たちは、戦い続けるんだぁぁああ!!!」

黄金に輝くラビットフルボトルを握りしめて、戦兎は拳を振り上げて、フィーネの顔面を打ち据えた。

「がっ!?」

「おぉぉぁぁあ!!」

すかさずその殴った顔面を蹴り上げ、仰け反らす。

「うぉぉぉおお!!」

そこへ万丈も飛び込んでくる。その万丈も、白銀の光をその体から発しながら、銀色の輝くドラゴンフルボトルを握りしめて、拳を引き絞った戦兎と同時に、フィーネを殴り飛ばす。

「ぐぁぁぁああ!?」

想定外の威力に、フィーネは驚く間もなく殴り飛ばされ、地面に倒される。

「ぐ・・・あ・・・馬鹿な・・・ネフシュタンと完全に融合した私が押されているだと・・・!?」

ありえない。ただの人間に、このような芸当が出来る訳がない。

「お前たちは・・・一体・・・!?」

「何度も言わせるんじゃないよ亡霊女」

その手のフルボトルを握りしめて、戦兎は、万丈は、答える。

 

「「―――愛と平和の戦士、仮面ライダーだ」」

 

そう、はっきりと言ってのける二人。

「愛と・・・平和だと・・・!?」

その言葉に、フィーネは怒りに顔を歪める。

「その言葉が、どれほど幼稚で浅はかな言葉なのか、お前たちは理解しているのか!?」

「知ってるよ。痛いくらいに知っている。愛と平和が、どれほど脆い言葉かなんて、俺が一番良く知ってる・・・だからこそ謳うんだよ。愛と平和を、それを、一人一人が胸に抱いて生きていける世界を、俺は、この手で創り上げ(ビルドす)る」

 

 

 

 

その姿は、黒髪の少女に、どのように映っただろうか。

 

 

 

 

そして、それと同時に、彼らの耳に、何かが聞こえた。

 

 

 

そしてそれは、戦兎と響にとっては、とても聞き慣れた歌だった。

 

 

 

――――仰ぎ見よ太陽を よろずの愛を学べ

 

 

 

「これは・・・」

「・・・リディアンの、校歌」

それは、リディアンという学校で歌われてきた、伝統の校歌。

「なんだ・・・この耳障りな・・・何が聞こえている・・・!?」

フィーネは、何がなんだか分からない。

 

 

――――朝な夕なに声高く 調べと共に強く生きよ

 

 

そして、その歌声は、響にも聞こえていた。

「ぅぁ・・・・」

その声の中には、大切な親友の声もあった。

「なんだ・・・これは・・・」

その意図が、なんなのか分からないフィーネ。

 

 

―――遥かな未来の果て 例え涙をしても

 

 

 

その歌は、未来たちが、決死の想いで繋げた意志。そして、メッセージ。

 

(響、戦兎先生、龍我さん・・・私たちは無事だよ。皆が帰ってくるのを待っている。だから、負けないで)

 

 

―――誉れ胸を張る乙女よ 信ず夢を唄にして

 

 

その声は、確かに聞こえた。聞こえていた。

 

 

 

「どこから聞こえてくる・・・この、不快な歌・・・!?」

そこで、フィーネは気付く。

「―――ハハハハハ!!」

そこで、万丈の笑い声が上がった。

「そうか、アイツら生きてんのか」

「ああ、だったら、余計な事に気を遣わないで済みそうだ」

二人は、心底嬉しそうに、学園のスピーカーから聞こえてくる歌を聞いていた。

そして、聞いた。

「聞こえるだろ?皆の声が・・・皆の歌が、お前によ」

 

 

 

「・・・・うん、聞こえる」

 

 

 

その言葉に、答える声。

「皆の声が・・・聞こえる・・・・」

夜明けの日差しが降り注ぐ。

「――――良かった」

その声に、響は、心の底から安心する。

「私を支えてくれる皆は、いつだって側にいる・・・!!」

そして、振り絞る。

「皆が歌ってるんだ・・・だから・・・!」

 

 

 

その、胸の中の歌を、解き放つ――――!!!

 

 

 

「まだ歌える―――頑張れる―――戦えるッ!!」

 

 

 

 

――――希望が、起動する。

 

 

 

 

突如として放たれた(うた)を纏い、響は立ち上がる。

 

 

 

「まだ戦えるだと・・・!?」

その事実に、フィーネは驚きを隠せない。

「ああ、戦える」

それと同時に、戦兎の握るボトルと万丈の持つボトルにも変化が起こる。

黄金に輝いていたラビットフルボトルは、蒼く染まり、銀色に輝いていたドラゴンフルボトルは紅く染まる。

そして、もう一本――――

それを、ポケットの中から取り出す。

 

それは、紅蓮から夕焼け色に染まった、フェニックスフルボトルだった。

 

「馬鹿な・・・何を支えに立ち上がる!?何を握って力と変える!?鳴り渡る不快な音の仕業か・・・?」

フィーネにとっては、何もかもが予想外の事過ぎて、頭の整理が追い付いていなかった。

だけど、これだけは言えた。

 

奇跡は―――起きたのだ。

 

「そうだ・・・お前が纏っているものはなんだ・・・?お前たちの手の中にあるものはなんだ・・・!?・・・何を纏っている?何を握っている!?それは私が作ったものか!?それは私の知っているものか!?お前が纏うそれは一体なんだ!?お前たちが握るそれはなんなのだ!?」

その問いかけに答えるように、響は顔を挙げた。

「なんなのかって?そんなの、決まってんだろ」

その問いかけに答えるように、戦兎は口を開いた。

 

次の瞬間、三つの光が、天を突いた。

 

 

一つは、蒼。蒼天色の、風鳴翼の放つ光。

 

一つは、紅。紅蓮色の、雪音クリスの放つ光。

 

一つは、黄。黄金色の、立花響の放つ光。

 

 

 

そして―――

 

 

 

絶唱ゥ!!!』

 

 

 

万丈が、赤く染まったドラゴンフルボトル―――『イチイバルドラゴンソングフルボトル』をクローズドラゴンに装填。するとクローズドラゴンが、紅と白の塗装を施されたような姿に変わる。

「行くぜ、戦兎」

「分かってるよ、万丈」

万丈は、そのクローズドラゴンをドライバーに装填する。そして戦兎は、蒼く染まったラビットフルボトル『天羽々斬兎ソングボトル』と夕焼け色に染まったフェニックスフルボトル『ガングニールフェニックスソングボトル』を装填する。

 

 

天羽々斬兎(アメノハバキリウサギ)!』『ガングニールフェニックス!』

 

シンフォニックマッチ!!』

 

クロォーズイチイバルヘルトラヴァースッ!!』

 

 

ボルテックレバーを回し、スナップライドビルダーを展開する。

戦兎には、蒼と夕焼け色の装甲が、万丈には、紅と白の装甲がそれぞれ展開される。

戦兎のビルダーの展開の仕方は、どこかのライブステージを思わせるようであり、一方の万丈のビルダーは四方だけでなく、頭上にまで展開されていた。

 

そして――――

 

 

 

『Are You Ready?』

 

 

 

覚悟は良いか?と、お決まりの問いかけをしてくる。

 

それは、巨大な敵へ立ち向かう事への確認と、その力を使う事に対する問いかけ。

 

だけどその答えは、いつだって決まっている。

 

 

その視線を一度、響に向けると、響は、力強くうなずいた。

 

 

そして―――

 

 

「「変身ッ!!」」

 

「シンフォギアァァァァアアァァァアアアァァア!!!」

 

声が重なり、戦兎、万丈、響、翼、クリスは、変身する。

 

 

 

天に羽撃くダブルシンガー!』

ビルドツヴァイウィング!』

イェーイチョウスゲェーイ!!』

 

激唱(ゲキショウ)激強(ゲキツヨ)マッスルゥブァレットパーティ!』

クロォーズイチイバルヘルトラヴァァァアス!!』

『オラオラオラオラオラオラァァァァアア!!!』

 

 

五つの光が飛翔する。

白き純白の装束と翼を羽撃(はばた)かせ、響、クリス、翼は飛ぶ。

そして、ビルドとクローズも、その姿を今までにない新たな姿で飛び立った。

 

ビルドは、蒼と夕焼け、二つの空の色を纏い、その複眼は、左が兎の顔でその耳の部分は刀となり、一方の右側は不死鳥と槍といった姿となり、その手首には響の物と酷似したアームドが装備され、その背中からは『ZWソレスタルブレイブウィング』が展開されていた。

 

その名も『ビルド・ツヴァイウィングフォーム』。

 

二つの力を組み合わせるビルドだからこそ成しえる形態―――

 

 

一方、クローズは全身を赤くクリムゾンの如く染め上げ、その各部から白熱するラインを体中に走らせ、全体的に少しごつくなると同時に、龍としての威厳がさらに出ているような姿。

その背中には二本の飛行ユニット『トラヴァースフライター』が開き、そこからラインと同じ光を発して空を飛んでいた。

 

その名も『クローズイチイバル・ヘルトラヴァース』

 

地獄を乗り越え、そして天に羽撃く為のクローズの新形態―――

 

 

 

そして、三人のシンフォギア装者が成したのは、ありったけの歌の力『フォニックゲイン』によってシンフォギアに施された三〇一六五五七二二のリミッターを全てアンロックする事で成しえる、最終決戦形態。

 

その名も―――『XD(エクスドライブ)

 

 

 

 

 

歌と科学、その二つが交錯し、そして最高のベストマッチとなって、奇跡は引き起こされた。

 

 

 

 

「――――さあ」

 

数式と楽譜を展開して、ビルドは告げた。

 

実験(ステージ)を始めようか」

 

 

フィーネを上空から見下ろし、今、最終決戦が始まる―――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「高レベルのフォニックゲイン・・・こいつは二年前の意趣返し・・・?」

新たな姿、新たな力を手に入れた響、翼、クリス、ビルド、クローズたち。

その力をもって、フィーネの呼び出すノイズを蹴散らしていく。

「来たれ・・・デュランダル!!」

しかし、未だフィーネは諦めず、彼らは、最後の決戦へと向かう。


次回/無印編最終回『ソングが奏でる明日』


「生きるの、諦めんなよ」




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ソングが奏でる明日

作「祝え!ついにこの小説のお気に入り登録者数が七〇〇人を突破したぞ!」
翼「この小説を読んでくれる皆様には感謝以外の言葉もありません」
戦「という訳で!」
響「全ての事件の黒幕であったフィーネを前に大ピンチに陥っていた仮面ライダーとシンフォギア装者たち」
万「しかし絶体絶命の中、硬い心でフィーネと戦っていた俺たちだった」
ク「そこへ生き残っていた奴らからの歌が聞こえ、最高の奇跡を引き起こす」
翼「その名も『エクスドライブ』『ビルド・ツヴァイウィングフォーム』『クローズイチイバル・ヘルトラヴァース』!」
未「その力が今、開放される時!」
クロ「キュルル!」
ガキ「俺たちにもそういうフォームあるのかな?」
工具「きっとある。だから待とう」
頭「それまで心火を燃やして」
農具「待つのデース!」
罪「まあ、それまでかなり長い時間がかかるだろうけどな」
タヤマ「うう、セレナーセレナー・・・」
妹「まだ引きずってる・・・」
元詐欺師「まああーしたちの出番はまだ先だけど」
けん玉「ここいらで登場させてもらうワケだ」
麗人「いや、ここで勝手に登場させてすまない・・・」
響「ああ、貴方が謝る事じゃないですよー!」
万「てかなんでお前らとっくに出てんだよ!?」
ク「ああ、またカオスな事に・・・」
弦「ハッハッハ!まあいいではないか!賑やかで」
緒「ツッコミが追い付かなくなるんですよ・・・」
無性「確かに今のツッコミはクリスさんと龍我さんと戦兎さんだけですから・・・あと原型」
原型「おい確かにパヴァリアが出てきたからと言ってオレも出すな。そして原型ってなんだ!?この体もスペアだ!」
藤「ここにきてほぼ全員集合・・・」
友「これは色々とややこしくなりそうね・・・」
妹「これ本部の食堂の予算足りるでしょうか・・・主に出演料で・・・」
弦「あ、考えてなかった・・・」
戦「だーもう!こうなったららちが明かない!」
元詐欺師「待って!まだあーしたち一言しか喋ってないわ!」
けん玉「あと武器は確かにけん玉っぽいがこの名前は納得いかないワケだ!」
麗人「落ち着きなさい貴方たち。出させてもらってるだけありがたいと思いなさい」
戦「という訳で!最終回の第二二話をどうぞ!」
クロ「キュールルールルールルールルッ!!」


ビルド・ツヴァイウィングフォーム

 

クローズイチイバル・ヘルトラヴァース

 

シンフォギア・エクスドライブ

 

 

その三つが揃い、天に羽ばたき、彼らは空に立つ。

 

 

 

「皆の歌声がくれたギアが、私に負けない力を与えてくれる・・・クリスちゃんや翼さんに、もう一度立ち上がる力を与えてくれる・・・戦兎先生や龍我さんに、誰かを守る力を与えてくれる・・・歌は、戦う力だけじゃない―――命なんだ」

響が、その力に、そう呟く。

「高レベルのフォニックゲイン・・・こいつは二年前の意趣返し・・・?」

 

《―――んなこたどうでもいいんだよ!》

 

突如として頭の中に響くクリスの声。

《うお!?なんだこれ!?頭の中に声が直接響いてくる!?》

《どういう原理なのかめっちゃ気になる!》

《お前はぶれないな!?》

「念話までも・・・限定解除されたギアを纏って、すっかりその気か!?」

フィーネがソロモンの杖を使い、ノイズを召喚する。

《いい加減芸が乏しいんだよ!》

《世界に尽きぬノイズの災禍は、全てお前の仕業なのか!?》

翼の問いかけにフィーネは念話をもって答える。

《ノイズとは、バラルの呪詛にて、相互理解を失った人類が、同じ人類のみを殺戮するために創り上げた自立兵器・・・》

《人が、人を殺すために・・・》

《ノイズには建物を透過する能力がある・・・建物を壊さず人だけを炭化させるだけのものがノイズか》

その言葉に響は面食らい、ビルドは仮面の奥で苦い顔をする。

《バビロニアの宝物庫は、扉が開け放たれたままでな、そこからまろびいずる十年一度の偶然を、私は必然へと変え、純粋に力と使役しているだけの事》

《また訳の分かんねえ事を・・・》

《ようはノイズの発生源の扉が開いたままで、それをあの杖で自由に開閉できるって事か・・・》

《なんだ、簡単な話じゃねえか》

クローズが拳を鳴らす。

《ようはあの杖奪っちまえばこっちのもんじゃねえか!》

《出来るものならな!》

次の瞬間、ノイズが弾丸の如くビルドたちに遅いかかかる。

しかし、それを躱すのは容易、かすりもしない。

だが、そのおかげで、ほんのわずかに時間が出来る。

「満ちよ―――!!」

フィーネが、ソロモンの杖を掲げる。

ソロモンの杖から発せられる光が、天へと昇り、そして眩く拡散する。

そして、その拡散した光が着弾した瞬間、おぞましい数のノイズが、街中に出現しだす。

小型も大型も、そして空にも、街全体を埋め尽くすほどの大量のノイズが、この街に跋扈する。

それは、一種の災害ともいえる光景だった。

「あっちこっちから・・・!」

「おっしゃあ!どいつもこいつもまとめてぶちのめしてくれる!!」

そう言って、クリスは一足先に飛んでいく。

「よし、それじゃあ俺も・・・」

「あの、龍我さん・・・」

「ん?」

クリスに続こうとしていたクローズを呼び止める響。

「どうした?」

「その、私・・・龍我さんに・・・」

「ん?・・・ああ、これね」

そう言って、クローズは自分の鳩尾に手を当てる。

「確かに結構効いたが・・・別にどうでもいいだろ?」

「え?」

「お前は俺の呼びかけに答えてくれた。ちゃんと戻ってきてくれた。だったらそれでいいじゃねえか。切欠を作ったのは俺だが、戻ったのはお前の力だ。お前はその強さを誇っていいんだよ」

「龍我さん・・・うわ!?」

ぽん、と響の頭に手をおくクローズ。

「一緒にやるぞ。響」

「・・・はい!」

それに響がうなずく。

その一方で、ビルドと翼は・・・

「お前生きてたんなら早く復活しろ」

「し、仕方ないだろう!先ほどまで本当に死んでいた気がするんだから・・・・」

確かに、臨界にまでエネルギーを溜め込んだカ・ディンギルに突っ込んだのだ。

あれで無事という方が信じられない話である。

「それと・・・桐生」

「ん?なんだ・・・って本当になんだ!?」

ふと、翼はビルドの夕焼け色の装甲に触れた。

「・・・・そこにいるんだね、奏」

「・・・・」

その言葉に、ビルドは何も言い返せず、

 

《―――やっぱ翼にはバレちゃうか》

 

ビルドの中の奏が、そう答える。

「桐生の中にいるんだったら、早く言ってよ」

《いやー、なんかあたし、表に出られないみたいでさ。あくまでこいつの頭の中にいる存在って感じで。こうして翼と話せるのも、きっとその限定解除(エクスドライブ)状態だから出来る事なんだと思う》

「じゃあ、奏と直接話が出来るのは、こういう時だけなんだね・・・」

《まあそうなるな》

何か気まずい。

翼自身自覚はないのだろうが、絵面的に見れば、翼がぴったりとビルドに引っ付いているような光景だ。

当然、奏の声は翼とビルドにしか聞こえておらず、傍から見れば恋人同時の逢引きである。

だけど、ビルドにそんな事を突っ込む余裕はなかった。

 

翼が、泣いていたから。

 

「奏、私はもっと、貴方と話がしたい・・・」

《ああ、あたしもだよ・・・でも、今は・・・》

「うん、分かってる・・・・だから、桐生の力になってあげて」

《おう!あたし達ツヴァイウィングの名前を使っているんだ!生半可な事はさせねえよ!》

「あー・・・そろそろいいか?」

時間的にもそろそろなんとかしなければならない。

「あ、ごめんなさい・・・」

《それとだな翼》

「え?何、奏」

《さっきの様子だと、完全に恋人同士が抱き合ってるみたいだったゾ☆》

「――――ッ!?」

奏に指摘されて、一気に顔を赤くする翼。

それを見てビルドも顔を抑えていたたまれなくなる。

「わ・・・忘れて・・・・」

「お、おう・・・」

本当に消え入りそうな声でそういう翼に、ビルドはとにかく頷く事しか出来なかった。

《そんじゃあ、いっちょやってやろうじゃねーか!》

ビルドが両手を合わせ、腕のアームドをアームドギアに変形させる。

それは、かつて奏が使っていた槍だ。

「これがアームドギアか・・・毎度思うが一体どんな仕組みなんだ?」

「奏のアームドギアを使うんだ。情けない戦いをしたら即斬るからな」

「おおこわ。分かってるよ!」

《さあ、実験を始めようか!》

「俺のセリフをとってんじゃないよ!」

五つの光が、街のノイズたちの元へ飛んでいく。

 

それぞれの翼を羽撃かせて、彼らは敵の方へ飛んでいく。

 

装者三人の歌声が空に響く中、まず一番槍を手にしたのはクローズ。

手甲から二本の光り輝く爪『エクスティンクションクロー』を展開させ、その切れ味に物を言わせて地面すれすれで滑空。その先にいるノイズを恐ろしい機動力で一気に切り刻んでいく。

その上にいる巨大ノイズは、続く響のパイルバンカーナックルによる一撃が貫通し、直線状にいた巨大ノイズが纏めて消し飛ぶ。

その上空へ、クリスはその身に飛行ユニットのようなアームドギアを展開、そのアームドギアから追尾性のあるレーザーを乱射し、一切外すことも無く上空のノイズを一網打尽にしていく。

《やっさいもっさい!》

 

MEGA DETH PARTY

 

ノイズがその数を一気に減らしていく。

《すごい!乱れ撃ちだ!》

《全部狙い撃ってんだ!》

《だったら私が乱れ撃ちだぁぁあああ!!》

腕のギアのバンカーを拳に叩きつける事によって、アームドギアのエネルギーを前方に拡散、地上にいるノイズに散弾銃の如く叩きつける。が――――

《うぉぁぁぁあぁあああ!?》

《あ、ごめんなさい》

《気を付けろやァ!?》

クローズも巻き込んでいた模様。

その一方で、上空へ飛び上がった翼はその大剣を掲げて、二体の飛行型超大型ノイズに向かって蒼い斬光を放つ。

 

蒼ノ一閃

 

それが重なっていた二体の超大型ノイズをそのまままとめて両断する。

《お前の槍の穂先ってドリルクラッシャーよりも速く回転するんだな》

一方のビルドは、翼たちよりもはるかに高い場所から奏の槍を見てそう呟く。

《ん?ああ、そうだな》

《実は天才科学者の俺にもやってみたかった事があるんだ》

《それはなんだ・・・ってそれかぁ、そういやアタシもやってみたいなとは思ってたんだよ》

《子供大人関係なく熱中した、あの必殺技・・・・》

槍を掲げ、柄の部分すらも穂先の拡張に使い、そして槍の根本に作った穴の部分に手を突っ込む。

すると、ビルドの右手に巨大な槍の穂先が装着されたような見た目になる。

しかし、それだけに留まらす、槍は巨大化し、やがて巨大な槍へと変化して――――

「行くぜ・・・!!」

そのまま超速回転したかと思うと、一気にノイズの大群に向かって突進、凄まじい回転に加えて、その槍―――否、ドリルからジェット噴射の如き勢いでエネルギーが放出され、恐ろしい速度でノイズの大群を貫く、その技の名は――――

「ギガァ―――」

《ドリルぅ―――》

 

「《ブレイクゥゥゥゥウウゥゥウウゥウウウ!!!!」》

 

実際の名前は『LAST∞METEOR』の突撃バージョンなのだが、男のロマンか(奏は女だけど)やってみたかったのかすさまじい勢いで敵を殲滅していく。

《ぎ、ギガドリルブレイクだぁ!》

《おいこら!戦いに集中しろぉ!》

そして、弦十郎の影響を諸に受けている響にとってはこれほど目を輝かせられない事は無い。

そのまま、装者と仮面ライダーたちはたちまちノイズをその力をもって一気に消し炭にしていく。

クローズの爪が、響の拳が、クリスの銃が、翼の剣が、ビルドの槍が、ノイズを一匹残らず殲滅せんと振るわれる。

クローズの持つブラストモービルの弓による狙撃も、恐ろしい威力を発揮して直前上のノイズを撃ち貫く。

クリスの飛行ユニットに乗る響が、クリスの一斉砲火と共に腕のアームドギアから放たれる拳の一撃が放たれ、何十ともいえるノイズを消し飛ばす。

翼の大剣が放つ斬撃とビルドの槍が巻き起こす竜巻が重なり、上空のノイズを一気に蹴散らす。

全てが灰に帰すほどの激しい暴力の嵐が巻き起こり、ノイズはたちまちにその数を減らしていった。

「どんだけでようが、今更ノイズ・・・!」

ほぼ全てのノイズを殲滅したあたりで、クリスがそう呟いた時、フィーネが動いた。

なんと、ソロモンの杖を自分の腹に向けているのだ。

「何をする気だ!?」

次の瞬間、フィーネをソロモンの杖で自分を貫いた。

「じ、自殺・・・?」

「いや、あの執念深さだ。何かが・・・起きる・・・!」

ビルドがそう予測した通り、突き刺されたフィーネの体から、彼女の体の一部が伸びた。

それがソロモンの杖に引っ付き、浸食する。

すると次の瞬間、街中に残っていたノイズが、一斉にフィーネの元へ集まり、その体を融合させていく。

それだけに留まらず、さらにノイズを呼び込み、自分に向かってどんどん集めさせていく。

「ノイズに、取り込まれて・・・」

「そうじゃねえ・・・アイツがノイズを取り込んでんだ!」

《了子さん・・・何を・・・!?》

クリスの言葉通りなのか、集合したノイズがビルドたちに向かってその体を伸ばす。

「来たれ・・・デュランダル!!」

そう叫んだ瞬間、カ・ディンギルの最奥にあるデュランダルを取り込んでどろどろの液体となった体で取り込み、そして、その体を巨大な化け物に変容させる。

 

それは、ヨハネの黙示録に登場する怪物。赤き竜。

『緋色の女』または『大淫婦』とも呼ばれた女『ベイバロン』に使役された滅びの獣。

 

 

即ち、混沌の獣。滅びの聖母の力―――

 

 

 

黙示録の赤き竜がその口元から光線を吐く。

その光線が迸った瞬間、街は焼かれ、凄まじい熱気と衝撃を巻き散らした。

「街が・・・!」

「なんて威力だよ・・・」

下手すれば、この国などあっという間に焼け野原である。

《―――逆さ鱗に触れたのだ》

フィーネが、呟く。

《相応の覚悟が出来ておろうな?》

次の瞬間、竜がブレスを吐く。

それを躱そうと三人は回避行動に移る―――だが、

「「うぉぉぉぉおおぉぉおお!!」」

《え!?ちょ、まぁぁああ!?》

ビルドとクローズだけは真正面から迎え撃った。

「な!?」

「龍我さん!?戦兎先生!?」

「何して――――」

次の瞬間、ビルドとクローズに直撃した砲撃は拡散した。

真正面から迎え撃ち、尚且つ後ろに受け流しているのだ。

そして、凌ぎ切った。

「何・・・!?」

「・・・はっ、この程度かよ」

クローズが鼻で笑う。

「こんなもの、エボルトのブラックホールに比べたら屁でもない」

 

何故なら、奴は一人で星を殺す事の出来る存在なのだから。

 

《ははっ、やっぱすげーな・・・!》

奏の感心した声が挙がる。

「調子に乗るな・・・!!」

ひれを展開し、そこからクリスと似たようなレーザーを発射する。

「それが―――どうしたァ!!!」

クローズが飛び出す。

腕の爪を使い、レーザーを真正面から撃ち落としていく。

「龍我!後ろ!」

「は?ぐおあ!?」

だが死角から飛んできたレーザーまでは防ぎきれず撃ち抜かれる。

「何やってんだよ!?」

「ハア!!」

翼が蒼ノ一閃を放つ。それが竜の頬らしき部分に直撃し、その装甲を削るが、たちまちにその傷は回復していく。

「このぉ!」

すかさずクリスが砲撃するが、首あたりにいたフィーネの部分の外壁が閉じ、砲撃を阻んでしまう。

「なんだと・・・!?」

すかさず反撃の砲撃。

「うわ―――ぁぁあぁあ!!」

直撃を貰い、よろめく。

「うぉぉおおぉお!!」

響の拳が竜を撃ち抜くも、はやりすぐさま修復し、無かった事にされたかのように傷は修復されてしまう。

「ダメ、すぐに治っちゃう・・・!」

「どうすりゃいいんだよ・・・」

「・・・」

響とクローズがそう声を挙げる中、ビルドは黙って黙示録の赤き竜を観察する。

《いくら限定解除(エクスドライブ)されたギアであっても、所詮は聖遺物の欠片から作られた玩具。完全聖遺物に対抗できるなどと思うてくれるな》

そう、フィーネが絶望を突きつけるかのように言った。

「・・・・言ったな」

ビルドが、そう呟く。

《聞いたか?》

「チャンネルをオフにしろ」

「え?なにが?」

「馬鹿は馬鹿らしく馬鹿やればいいんだよ」

「馬鹿じゃねえよ筋肉つけろ!」

「論点そこじゃないよ」

クローズの言葉には呆れつつ、ビルドは続ける。

「とにかく、それをやるためには・・・」

ビルド、翼、クリスの三人は響の方を見る。

「お前に体張ってもらうぞ。いいな?」

「あ、えっと・・・その・・・」

実際、彼女自身は何も分かっていないだろう。

だけど、何かをしなければいけないというのは分かっているのだ。

だからこそ、彼女は頷く。

「・・・やってみます!」

力強いその答えに、彼らは頼もしく思い、笑みを零す。

そこで竜から砲撃が轟く。

それを躱しながら、クリス、翼、クローズが前に出る。

そしてビルドは、右手を掲げ、右の複眼のアンテナで指を滑らせて、いつもの決め台詞を言う。

「勝利の法則は、決まった!」

突っ込む三人、

「ええい、ままよ!」

「私と雪音と万丈で露を払う!」

「手加減無しだぜ!」

「分かっている!」

「おっしゃあ!負ける気がしねぇ!」

クリスと万丈が突っ込み、その後方にて、翼は己が持つ剣に意識を集中させる。

エクスドライブによって解放された力であるならば、さらなる力を発揮できる―――

想いは、現実となり、翼の大剣はさらに巨大となる。

「ハァァァ―――ァァアッ!!!」

そして、そこから放たれるは蒼ノ一閃に非ず――――

 

蒼ノ一閃・滅破

 

全てを断ち切る必殺の一撃が竜に直撃、その装甲を吹き飛ばし、中のフィーネを曝け出す。

しかし傷はすぐに修復される。だが、そこへクリスとクローズが飛び込む。

傷が修復される前に侵入に成功、それにフィーネは驚きを隠せない。

そしてクリスが密閉された空間の中で砲火しまくって黒煙を巻き散らす。

それを振り払い、フィーネは周囲を警戒する。

(クローズはどこだ!?)

そう思った瞬間、すぐ真下からクローズが急上昇、そのままフィーネの右手にあったデュランダルを殴り、フィーネの手から離れさせる。それと同時に外から翼の斬撃が炸裂し、さらに穴が開く。

「ウオリャアァァァアアアァアアアアア!!!!」

そして、その開いた穴に向かって、クローズはデュランダルをオーバーヘッドキックで蹴り飛ばす。

その蹴り飛ばした先には、響がいる。

「そいつが切り札だ!」

翼が叫ぶ。

「勝機を零すな!掴み取れ!」

失速して落ちかけるデュランダルがまた跳ね、落ちそうになったらまた跳ねる。

「ちょっせえ!」

クリスが拳銃で撃ち飛ばしているのだ。

「それが勝利の法則の最後の鍵だ!絶対に取りこぼすんじゃねえぞ!」

遠くからタイミングを見計らっていたビルドもそう叫びながらボルテックレバーに手をかける。

そして、飛んできたデュランダルを、響は掴み取る。

 

―――そして、意識が、強烈な破壊衝動に塗り潰され掛ける。

 

「ガ・・ぁ・・・ァ・・・!!?」

闇が、体を、意識を塗り潰す。

(だ・・め・・・!!)

その闇を、響は己が全力をもって抑え込む。

デュランダルの放つ重圧が大気を震わせる。

「グ・・ぅゥ・・・ぅうゥ・・・!!」

(おさえ・・・こまなきゃ・・・・!!!)

飲み込まれ掛ける意識、塗り潰そうとする破壊衝動、心を食いつぶそうとする闇。

その全てに、響が全力で抗う。

しかし、少しでも油断すれば一気に飲み込まれてしまう程凄まじい衝動だ。

それを抑え込むのは、簡単な事じゃない。

しかし、このままでは、フィーネに――――

 

「―――正念場だ!踏ん張り処だろうがッ!!!」

 

聞き覚えのある声が、響の耳に届く。

弦十郎だ。

「強く自分を意識してください!」

「昨日までの自分を!」

「これからなりたい自分を!」

(昨日・・・まで・・・これから・・・なりたい・・・・)

緒川、藤尭、友里の叫びが聞こえる。

「屈するな立花」

翼とクリスが寄り添う。

「お前が構えた胸の覚悟、私に見せてくれ!」

「お前を信じ、お前に全部賭けてんだ!お前が自分を信じなくてどうすんだよ!」

「わたし・・・の・・・かくご・・・わたしを・・・しんじる・・・!!)

翼とクリスの叫びが聞こえる。

「貴方のおせっかいを!」

「アンタの人助けを!」

「今日は、あたしたちが!」

友の声が、聞こえる。

「姦しい!!」

フィーネが怒鳴り、黙示録の赤き竜がその触手を伸ばす。

「黙らせてやる!」

その触手が、響たちを狙う。

しかし、それをクローズが全て叩き落す。

「お前の手は束ねる手、誰かと手を繋ぐための手・・・それは俺たちの目指すものと同じだ!それを守るのが俺たち『仮面ライダー』の役目だ!だから信じろ!お前だけの力を!!」

クローズの叫びが聞こえる。

「お前がいままでやってきたことはなんだ。お前が信じてきたものはなんだ。それは、お前という一人の人間を創り上げてきた全ての筈だ。それを思い出せ。そうすれば、お前は絶対に、その闇に打ち勝てる!」

ビルドの叫びが聞こえる。

(信じる・・・思い・・・だす・・・・)

意識が、遠のく。全て、塗り潰される。

 

破壊衝動が―――彼女を塗り潰――――

 

 

 

「―――響ぃぃぃぃいいいぃぃいいいいぃいいいい!!!」

 

未来の叫びが、響の胸に響く。

(そうだ・・・今の私は、私だけの力じゃない・・・!)

「うぉぉぁぁぁあぁあああ!!」

襲い掛かる触手の攻撃、その全てを、クローズが叩き落して見せる。

「おぉぉぉぉおおぉお・・・・!!!」

ボルテックレバーを全力で回し、その機会を伺うビルド。

「ビッキー!」

「響!」

「立花さん!」

「・・・」

響の力を信じ、その名を呼ぶ友と、そしてただひたすらに信じて見守る親友。

(そうだ・・・この衝動に、塗り潰されてなるものかァ!!!)

 

その破壊衝動を―――抑え込め!!

 

 

闇が、消える。

 

 

「――――今だぁぁああぁぁああぁああ!!!」

 

 

Ready Go!

 

 

デュランダルから黄金の光が迸り、響はその光の翼を広げ、翼とクリスと共に不滅の大剣を掲げる。

 

ビルドの槍が変形し、それが右脚に装着されると同時に、その両翼を広げる。そして、蒼と夕焼けの二重螺旋の光がビルドの右脚に収束される。

 

「その力・・・何を束ねた・・・!?」

その光景にフィーネは目を見開く。

それに響は叫ぶ。

「響き合う皆の歌声がくれた―――シンフォギアでぇぇええぇえええ!!!」

《―――いけぇええぇええ!!!戦兎ぉぉぉおおぉお!!!》

奏の叫びとともに、ビルドが、飛ぶ。

 

 

Synchrogazer

 

 

シンフォニックフィニッシュ!!!』

 

 

蒼と夕焼けの二重螺旋を描くビルドのライダーキックをブーストするように、デュランダルの光がビルドの背中から炸裂する。

その光すら螺旋に巻き込んで、三重の螺旋を描きながら、その翼を羽撃かせ、黙示録の赤き竜に直撃する。

「おぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉおおお!!」

その一撃は、いともたやすく赤き竜の頭部を穿つ。それで終わりかと思われた瞬間、ビルドの軌道が変わり、背中から竜の背中を撃ち貫く。そのまま、何度も軌道を変え、何度も何度も赤き竜を完膚なきまでに消し去るべく突撃を繰り返し、ライダーキックを叩き込み続ける。

(完全聖遺物同士の対消滅・・・いや、これは、それ以上の・・・!?)

「おぉぉぉぉあぁぁああぁぁぁあぁぁぁあぁああああ!!!」

螺旋を描くビルドのライダーキック。それが、デュランダルの力をさらに強め、一方的な消滅を促す破壊の一撃へ昇華していた。

 

まるで、響が束ねた歌の力だけでなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()まとめて放っているとでもいうように。

 

「おぉぉおぉぉお―――――ッ!!!」

 

 

全ての力が、一つになる(Be The One)―――

 

 

(――――天羽、奏・・・!?)

ビルドの面影に、今までに見た事のない、純白のギアを纏った天羽奏の姿を見た。

「誰かを悲しませる何もかも――――」

《誰かを苦しめるもの全て―――》

ビルドが、上空へ飛び上がる。そして、そのまま赤き竜を貫くように落下していく。

「《―――全部砕けろぉぉぉぉぉおおおおぉぉおお!!」》

その一撃が、竜に激突し――――

「どうしたネフシュタン!?再生だ!」

フィーネが叫ぶ。

「この身、砕けてなるものかぁぁぁあああぁぁああぁぁぁぁああぁぁあああ!!!」

 

 

――――赤き竜は、消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街は破壊され、いわゆる廃墟と化していた。

夕焼け色に染まる空の下、激戦を繰り広げた跡地にて、ビルドはフィーネに肩を貸して、仲間たちの元へ戻ってくる。

「お前・・・何を、馬鹿な事を・・・」

「別に、ただのおせっかいだよおせっかい」

そう返して、ビルドは近くの岩に彼女を腰掛ける。

「全く、お人好しかよ」

「ま、自意識過剰でナルシストな正義のヒーローですから」

「自分でいいますか?それ」

小さな笑いが漏れる中、響はフィーネに歩み寄る。

「もう終わりにしましょう、了子さん」

「私は・・・フィーネだ・・・」

「でも、了子さんは了子さんですから」

「俺たちが知ってる櫻井了子は、あんた以外にいないからな。少なくとも元の櫻井了子を俺たちは知らねえよ」

「・・・・」

フィーネは何も答えない。そんなフィーネに、響は続けて言う。

「きっと私たち、分かり合えます」

「・・・・」

ふと、フィーネは立ち上がった。

「ノイズを創り出したのは、先史文明期の人間・・・統一言語を失った我々は、手を繋ぐ事よりも相手を殺す事を求めた・・・そんな人間が分かり合えるものか」

フィーネは、最後まで否定をする。

「人が、ノイズを・・・」

「だから私は、この道しか選べなかったのだ・・・・!」

刃の鎖を握り締めて、フィーネは、辛そうにそう告げた。

「おい・・・」

思わず突っかかりそうになったクリスを翼が手で制し、クローズは、ただ黙ってそれを見守る。

「・・・結局の所」

ビルドが、口を挟む。

「科学っていうのは、使う人間によって悪にも正義にも変わる。それが、人を殺す目的で作られたとしても、もっと別の用途を見つける事は可能だった筈だ」

ビルドにとって、科学に善悪はない。ただ、使う人間や環境によってそれが決まる。

科学の発展に、悪い事しかないことは無いのだから。

「人は分かり合えない・・・だけど、誰か一人だけでも、誰かに向かって諦めずにその手を伸ばして、掴む事が出来れば、きっと分かり合う事が出来る筈だ。だって人間は、元々そんな風に出来ているんだろ?アンタという存在が、統一言語っていう証拠を持ってきてくれたんだからよ」

ビルドは、背中を見せるフィーネを真っ直ぐに見据えた。

ふと、フィーネがほうっと息を吐くのを感じだ。

そして―――振り向き様に刃の鞭を振るった事も、

「ハァァ!!」

その顔は狂気に歪み、笑っていた。その一撃を響とビルドは躱し、響は前に出てフィーネの懐に入り込み、その拳を寸止めで止める。

そこで止まるかと思われた。

「私の勝ちだァ!」

「!?」

しかしフィーネはその笑みを崩さない。

刃の鞭は、天に向かって伸びていた。

「まさか――――!?」

「てぇやぁぁぁあぁあぁああ!!」

次の瞬間、まるで何かを引っ張るかのように、振り向き様に刃の鞭を引っ張る。

地面が砕け、雄叫びを挙げて、ネフシュタンを砕きながらもフィーネは何かを引っ張る。

そして、勝利を確信したような顔で、その行為の真意を明かす。

「月の欠片を落とすッ!!」

「「「なッ!?」」」

見上げれば、確かに欠けた月の欠片がどことなく大きく感じる。

間違いなく、落ちてきているのは明白だ。

「私の悲願を邪魔する禍根は、ここでまとめて叩いて砕く!この身はここで果てようと、魂までは絶えやしないのだからな!」

その体は、すでにボロボロだった。

「聖遺物の発するアウフヴァッヘン波形がある限り、私は何度だって世界に黄泉返る!」

《了子さん・・・》

ビルドの中の奏が、悲しそうに呟く。

「どこかの場所!いつかの時代!今度こそ世界を束ねる為に・・・!!」

とてつもない執念。この場にあるもの全てを破壊しようとも、彼女は、決して諦める事はないのだろう。

「アハハ!私は永遠の刹那に存在し続ける巫女!フィーネなのだぁぁぁ――――」

その時だった。

 

響が、その拳を胸に当てたのは。

 

小さな風が、吹いた。

「・・・うん、そうですよね」

響は、頷いて、拳を引く。

「どこかの場所、いつかの時代、蘇る度何度でも、私の代わりに皆に伝えてください」

その顔は、いつも通りの彼女の笑顔だった。

「世界を一つにするのに、力なんて必要ないって事を。言葉を超えて、私たちは一つになれるって事を。私たちは、未来に手を繋げられるって事を。私には伝えられないから、了子さんにしか、出来ないから」

「お前、まさか・・・」

フィーネの言葉は、続かなかった。

《・・・アイツが、あたしのガングニールを受け継いでくれて良かった》

「そうか?」

《ああ。アイツがあの日を生き残って、そして、今、こうして立派になってくれたんなら、悔いはないよ》

「そっか・・・・」

その光景を、ビルドは、奏と共に見届ける。

「了子さんに未来を託すためにも、私が今を、守ってみせますね!」

はっきりと、確固たる決意をもって、響はそう宣言した。

その言葉に、フィーネは呆れかえり、やがて、ふっと笑った。

「本当にもう、ほうっておけない子なんだから」

その表情は、彼女たちが今までに見てきた、櫻井了子の顔だった。

フィーネは、響の胸に指を当てる。

 

「―――胸の歌を、信じなさい」

 

その言葉を最後に、フィーネは塵となって消えていった。

その最後に、弦十郎はぐっと堪え、クリスは涙を流し、クローズはそんなクリスの頭に手を乗せ、翼も涙をこらえて、その光景を見送った。

 

 

 

「―――軌道計算、出ました」

藤尭が、そう告げる。

「直撃は避けられません・・・」

「あんなものがここに落ちたら・・・」

「全部まとめて吹っ飛ぶな」

ふと、そう軽い口調でビルドは呟いた。

「安心しろ。俺が全部片づけてやっから。ヒーローは俺だからな」

「あの、戦兎先生・・・」

そう言って飛び立とうとするビルドを、響が呼び止めるも、その前にビルドが響たちに向かって指を差す。

「こういうのは『仮面ライダー』の仕事だ。誰かの夢守れなくてどうする?それに、お前には今だけじゃなく、フィーネと同じようにこれから先の未来の事も任せたい」

「戦兎先生・・・?」

そして、すぐにその指を二本に変えて、ビルドは、仮面の奥で()()()()とする。

「『愛と平和(ラブ&ピース)』だ。そんじゃ、いっちょ行ってくる」

そう言ってビルドは、クローズを掴む。

「え?」

「お前も行くんだよ。ほら、来い」

「え!?な!?ちょ!?まだ心の準備が」

「今の状況で心の準備が出来ると思ってんのか」

「うぉ!?うぉぉぉぁおぉぉおぉおおおぉおお!?」

飛翔するビルドとクローズ。

「ん?ああ、分かった」

その最中でビルドはふと止まり、また振り返って言う。

「生きるの、諦めんなよ」

「あ―――」

答えを聞かず、二人は空に向かって飛んで行った。

 

 

 

 

 

大気圏を突破し、ビルドとクローズは、落下してくる月の欠片に向かって飛ぶ。

《・・・なあ、戦兎》

真空の宇宙空間だから声が届く事はない。しかし、この状態でなら、念話で会話する事は可能だ。

《どうした?》

《本当にいいのか?あれ、いくらこのフォームでも、ただじゃ済まねえぞ?》

《分かってる》

その言葉に、ビルドは頷く。

《だったら・・・!》

《この新世界に、『仮面ライダー』は必要ない》

《・・・!?》

予想外の言葉が、ビルドから吐き出される。

《お前・・・》

《ノイズに対抗するだけなら、シンフォギアシステムだけで十分だ。それに、俺たちという異物がこの新しい世界に紛れ込んでいたら、きっと、何か悪い事が起きる》

ライダーシステムは、正義の為に作られた力だ。だが、結局は兵器利用され、多くの人々を傷つけた。

《ライダーシステムは、その気になれば誰でも扱える兵器だ。対してシンフォギアシステムはそれに見合った適合者がいなければ、誰もが使える代物じゃない分、安全だ。だから、ライダーシステムを、()()()()()()()()

《おいそれ俺も巻き込んでねえか?》

《あくまで保険だ。俺が先に突っ込んで失敗したらそん時は頼む》

なんて、軽いノリで言っているビルドだが、

《・・・そんな体震わせてんじゃ、なんの説得力もねえよ》

《ッ・・・》

ビルドの手は、握り締められたまま震えていた。

《だから、一緒に突っ込んでやる》

《万丈・・・》

クローズが、ビルドと並び飛ぶ。

《どんな時も一蓮托生だ》

《・・・あー、最っ悪だ。お前も新世界で記憶なくしてたら良かったのに》

がっくりと項垂れるビルド。

そんな時だった。

 

 

《――――存在ごと消すなんて、そんな悲しい事言わないでください》

 

 

《!?》

二人は、思わず後ろを見た。

そこには、三つの翼を広げる光があった。

《お前ら!?》

響、翼、クリスの三人だ。

《そんなにヒーローになりたいのか?》

《こんな大舞台で挽歌を唄う事になるとはな。桐生や万丈には驚かされっぱなしだ》

《お前ら・・・なんで来た!?》

ビルドは思わず怒鳴る。

しかし、そんなビルドの怒鳴りを無視して、響は言う。

《だって、勝手に二人だけに片付けさせるわけにはいきませんでしたから》

《奏も連れていくなら、その片翼である私が赴かない訳にはいかないからな》

《ま、一生分の歌を唄うには、いい機会だからな》

《お前ら・・・!》

クローズが嬉しそうに声を挙げる中、ビルドは一人茫然とする。

《ま、そういうこった》

奏が、話しかけてくる。

《ほかの二人はともかく、翼は結構頑固だぞ?》

《・・・・ああ、最っ悪だ・・・》

頭を抱える戦兎。

《今日と言う日を俺は、きっと後悔する・・・》

だけど、その声は、どこか嬉しそうだった。

《何言ってるんですか》

響が、手を差し伸べる。

《私たちの未来は、これからですよ》

《ああ、そうだな》

五人、手を繋ぎ、改めて飛ぶ。

 

 

「―――不思議だね、静かな空」

 

 

響の歌声が、真空の世界に響き渡る。

 

 

 

「―――本当の剣になれた」

 

 

 

翼の歌声が、森羅の世界を包み込む。

 

 

 

「―――悪くない時を貰った」

 

 

 

クリスの歌声が、万象の世界に鳴り響く。

 

 

 

手と手を繋ぎ合わせ、五人は飛翔する。

 

 

 

《―――それでも私は、立花と雪音ともっと歌いたかった。戦兎や万丈に、歌を聞いてもらいたかった》

《なんか、すまん・・・》

《バーカ、そういう時はそうじゃねえだろ》

《そうだぞ。辛気臭くちゃ、せっかくの歌が台無しだろ?》

《・・・そうだな、ありがとうな。皆》

 

 

 

ブースターを点火、飛翔能力促進、加速する。

 

 

 

《解放全開!いっちゃえ!(ハート)の全部で!》

 

響の叫びと共に、一気に月へ突っ込んでいく。

 

《皆が皆、夢を叶えられないのは分かっている。だけど、夢を叶える為の未来は、皆に等しくなくちゃいけないんだ》

 

《皆、色んなもん抱えてんのは知ってる。それを、誰かに任せたくないのも分かる。だからこそ、そんな誰かの助けになりたい。誰かの為に戦う事が、俺の戦いだ》

 

《命は、尽きて終わりじゃない。尽きた命が、残したものを受け止め、次代に託していく事こそが、人の営み。だからこそ、剣が守る意味がある》

 

《この新世界で、多くの事を学んだ。シンフォギアの事、二年前のライブの事、皆が抱えている事・・・愛と平和がどれほど脆い言葉かなんて知っているし、散々その事を言われてきた。だけどそれでも俺は謳い続ける。俺は、その為に科学者になったのだから》

 

《例え声が枯れたって、この胸の歌だけは絶やさない。夜明けを告げる鐘の音奏で、鳴り響き渡れ!》

 

光が、五つに分かれる。

 

《これが私たちの絶唱だァ――――――――ッ!!!》

 

響、翼、クリス、ビルド、クローズが、それぞれの力を爆発させる。

 

翼は、その手に山をも断ち切る巨大な刀を。

 

クリスは、全てを殲滅せしめる大量の大型ミサイルを。

 

響は、両手足のガジェットを限界にまで引き絞る絶対破壊の拳を。

 

ビルドは、螺旋を描くあらゆるものを穿つ蹴りを。

 

クローズは、全てを焼き払う巨大な砲門を。

 

 

『Set Up!Blast Grand Cannon!』

 

『Ready Go!』

 

 

 

シンフォニックフィニッシュ!!!』

 

トラヴァースフィニッシュ!!!』

 

 

 

 

そして、月の欠片は――――跡形もなく消滅した――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――よっ」

「・・・」

気が付けば、そこはあの真っ白な空間。

「・・・・ああそうか、俺死んだのか」

「勝手に死んだ判定するんじゃないよ」

なんて言い合って、二人は向き合う。

「まあ、なんだ・・・一応、楽しかったって言っておくよ」

「・・・もう、行くのか?」

戦兎の問いかけに、奏は悲しく笑う。

「きっと、未練がましかったんだろうな。アタシの所為で大怪我を負ったあの子は大丈夫だったか。翼はあの後、いじけてないか。きっと、心配だったんだろうな」

「・・・・」

だけど、それはもう杞憂だったと知れた。だから、もう残る理由はない。

「死人は死人らしく、天国に行くとするよ」

そう笑いかける奏。

「ちょっと待て」

そんな奏を、戦兎は呼び止める。

「一つ、俺の方である仮説を立ててみた」

「仮説?」

「ああ」

戦兎は説明を始める。

「新世界を創造する時、俺は、エボルトとの戦いで、本当は消滅しかけていた。異物が異物らしく、排除されるようにな。だけど、そうはならなかった」

その理由は、言うだけなら至極簡単な事だった。

 

「―――俺とお前の体が融合したんだ」

 

特定の世界での時間の流れが違うのと同じように、戦兎たちが新世界を創造したのは、本当は二年前、あのライブの日だったのだ。

その時、奏が絶唱を使い、その身を塵へと変える瞬間、世界は融合した。

そしてその時、世界が融合する際に消滅しかけていた戦兎の体と、同じく塵となり消滅しかけていた奏が、『消滅』という概念を、融合する事で対消滅させたのだ。

即ち、今の戦兎の体は、同時に奏の体でもあるのだ。

しかし、物理的に確実に死んでいた奏の体は崩壊しかけていた為に、ただ存在が消えかけていただけの戦兎の補強を行っただけだった。

だから、見た目と記憶は戦兎のまま、この世界に落ちたのだ。

「俺は、お前に助けられた。それが、今の俺だ」

ただ、目覚めたのが二年後というのは気になる所だが。

まあ、それぞれの世界で時間の流れが違うという事もある。

体を構成するのにそれほどの時間がかかったという事なのだろう。

万丈の場合はエボルトの遺伝子で存在の崩壊には至らなかったのだろうが、それでもこの世界に適応するのにそれなりの時間を要したのだろう。

「そっか・・・あたしは、知らずにアンタも助けていたって事か・・・」

それが、無性に嬉しいのか、奏は笑った。

「そっか、そっかぁ・・・だったら、安心だな」

「何がだよ?」

「アタシの体が、アンタの中にあるんだったら、心配はいらないってことさ。だってアンタは、正真正銘の正義のヒーローなんだからさ」

誰かの為に戦える、誰かの為に勇気を振り絞れる。

そんな男の体に、自分の体が一部となっているというのなら、それほど誇らしい事は無い。

「ヒーローは、どんな時だって誰かの為に戦わなくちゃいけない。確かにシンフォギアがあるから大丈夫だとは思うけど、それでもほんの少しの手助けが必要な時だってある」

「そうだな」

「アタシは消えてしまうかもしれないけど、アタシの魂は、アンタの心の中で生き続ける」

「非現実的だな」

「でも悪くないだろ?」

「ああ、悪くない」

「だからさ」

「ん?」

奏は、ほんの少し、困ったような、それでいて一つの確信を込めた表情で、戦兎に言った。

 

「―――翼の事、頼んだ」

 

「・・・・ああ、任せろ」

その答えに、奏は満足したのか微笑んで、その姿を消した。

 

《―――じゃあな・・・桐生、戦兎―――》

 

「・・・じゃあな、天羽奏」

そして、全てがホワイトアウトしていき、戦兎の意識は、現実に引き戻される――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――」

そうして、目を開けて最初に映ったのは、見慣れた青い空だった。

「・・・・」

見慣れた青い空。それが意味する事は、ここは地上のどこかであるという事。

 

そして、自分は今、生きているという事の証だ。

 

「・・・・あー、最っ悪だ。結局生き残っちまった」

清々しいまでに青い空。いっそ憎らしい程青い空だ。

しかし、いつまでもその空を見上げている訳にはいかない。

とりあえず体を起こそうと身動ぎしてみると、ふと自分の左腕に何かが乗っかっている事に気付く。

すぐに左を見てみるとそこには―――

「ん・・・んぅ・・・・」

 

これまた可愛らしい寝顔の風鳴翼がいた。

 

「――――」

瞬間、息が止まった。

全ての時間が停止したかに思えた。

まず、翼が横にいる事には確かに驚いた。

しかも自分の腕を枕にして、憎たらしい程の寝顔で寝ている事にも。

だが、フリーズした理由はそこではない。

超眼前に、いつもは毅然と振舞う少女の普段からは考えられない可愛らしい寝顔があったのだ。

見慣れた顔とは言え、このいわゆるギャップ萌えというものに、戦兎は間違いなくやられていた。

(ど、どうする・・・?)

どうにかしなければ。下手に起こせば、逆に拳を喰らう事になるかもしれない。

だからと言ってこのままでいるのもまずい。

彼女は日本が誇るトップアーティスト風鳴翼。こんな所で見知らぬ男と寝ているなんて知れたら、スキャンダルで彼女の芸能生命は絶たれてしまう。

それだけはどうにか阻止しなければ。

 

しかし、そんな思考は無駄だというかのように、翼が目を覚ました。

 

「ん・・・んん・・・ん?」

うっすらと眼を開けて、翼は、眼前の戦兎を見つめた。

「よ、よお・・・おはよう?」

「き・・・りゅう?」

誰なのかは認識しているようだ。

そうして待つ事数十秒。改めて目の前にいる人物が桐生戦兎だという事を認識し、徐々に自分が置かれている状況を理解したのか、たちまちその顔を真っ赤に染め上げていき――――

「きりゅ―――!?」

「ふぎゅ!?」

思わず飛び退いた翼だったが、その先で腰を地面についた途端、何やら悲鳴のような声が聞こえた。

見てみれば、そこには青い顔をして悶えている響の姿があった。

「た、立花!?」

「う・・・うぐ・・・な、なんでご飯食べてただけなのに、机の下からぱんちんぐましーんがお腹に渾身のボディーブローを・・・!?」

慌てて立ち退くも、余程の大ダメージだったのかしばらく腹を抑えて悶える響。

「「・・・・」」

もはや哀れとしか言いようがない。

そこで、ふと戦兎は背後に気配を感じて後ろを振り返ってみれば、今度はそこには芝生の上に大の字になって寝る万丈とその上ですやすやと眠るクリスの姿があった。

こちらは響とは違って随分と微笑ましい。

その様子に苦笑しつつ、戦兎は立ち上がる。

そうして立ち上がって見たものは、見知った街並み、されど以前のようなものではない、みすぼらしい姿と成り果てた街だった。

「・・・」

「・・・私たちは、生き残ったんだな」

隣で、翼がそう呟く。

「ああ。死に損なった」

「そっか・・・私は、まだ歌えるんだな」

「ああ」

翼の呟きに、戦兎は確信をもって頷く。

「そっか・・・そうなんだ・・・私は、まだ・・・」

言葉は、長くは続かなかった。

「う・・・ひっぐ・・・・生きて・・・る・・・みんな・・・生きて・・・うう・・・!」

泣いていた。震える体を必死に抑えつけるように体を抱きしめ、嗚咽を漏らして、翼は泣いていた。

 

『―――翼の事、頼んだ』

 

その様子を見て、戦兎は、奏からの言葉を思い出し、そっと、その頭を撫でた。

「ああ、生きてる。皆、生きてる」

「う・・・ぅぅ・・・ぅぁぁぁああぁあああ・・・・!!!」

二年前、大切な片翼を失ってしまった。守れなかった。

だけど、今回は守り切った。そして、生き残った。

それが、嬉しいから、泣くのだ。

 

 

 

 

 

 

やがて、響が復活して起き上がり、その一方で先に起きたクリスが誰の上で寝ているのかに気付いて顔を真っ赤にして万丈を殴り飛ばし、万丈は何故殴られたのか首を傾げる。

その様子に一通り、こちらの生体反応を嗅ぎ付けてきたのか、ヘリコプターで弦十郎たちが駆け付けてきてくれた。

そうして実感する。

 

 

戦いは、終わったのだ、と――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――それで、奏はもういないんだな」

「ああ、未練はもうないってさ」

「そうか・・・」

「寂しいのか?」

「ああ・・・すごく」

「そうか・・・」

「でも、ほんの一時とはいえ、奏と再び一緒に戦えたのは嬉しかった」

「それは良かった」

「だから、今度こそ前を向いて、夢を追いかけてみようと思う」

「夢・・・世界を舞台に歌う事か」

「ああ。全てのノイズを駆逐した暁に・・・それで、だな・・・」

「ん?どうした?」

「・・・その夢を叶えるのを、手伝ってくれないか?」

「ん?手伝うもなにも、俺は初めからそのつもりだが?」

「ふふ、そうか。そうだったな。貴方は、そういう人だったな」

「おう。俺は―――」

「「自意識過剰でナルシストな正義のヒーローだからな」」

「ははっ」

「ふふっ」

「あ!翼さんと戦兎先生見つけたー!」

「こんな所で何してんだよ」

「そんな所でイチャコラしてんじゃねえよ」

「い、イチャコラなんてしていない!」

「ほーうそんな反応するってことはそういう事なんじゃねえのぉ?」

「~~っ!雪音ぇ!!」

「そう怒んなって」

「それで、どんな話をしていたんですか?」

「ん?そうだな―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

どこかの場所、いつかの時代、彼らはいつだって、正義の仮面を被り戦う。

そんな彼らはいつだって、誰かのヒーローであり続ける。

どれほど強大な敵が立ちはだかろうとも、どれほど傷付いても、どれほど裏切られても、どれほど苦しんでも、彼らは決して、諦める事は無い。

そう、何故なら彼らは―――

 

 

 

 

 

『仮面ライダー』なのだから――――

 

 

 

 

 

 

 

「―――次の実験(ステージ)は何にしようかって話してた」

 

 

 

 

 

愛和創造シンフォギア・ビルド『無印・永遠の巫女編』―――完―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次章――――愛和創造シンフォギア・ビルド『G・天翔ける大舟編』―――

 

 

 




次回は『創造しないシンフォギア・ビルド!』

内容はお楽しみに!



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創造しないシンフォギア・ビルド!

作「さぁてやってきたよ完全ギャグ回」
戦「変に駄作になってなきゃいいんだけどな」
作「そんな事いわんでください・・・」
響「ま、まあまあ、本編の『絶唱しない』からだけじゃなく、この作品ならではの話もありますし、きっと楽しんでもらえますって」
作「そう言ってくれるのは君だけだよ・・・」
ク「ま、これでも精一杯頑張って作ったんだろ」
翼「うちの作者は基本書き溜めしていく主義だからな。これまでも定期的に更新出来たのは、それなりのストックがあったからだしな」
作「感想も多くてほんと驚いてるよ。まさかあんなに感想を貰う事になろうとは思ってなかったし」
戦「そんでもってあのお気に入り登録者数・・・全て俺のお陰だな!」
万「お前はただのキャラの一人に過ぎねーだろ調子乗んな」
戦「馬鹿は黙ってろ」
万「馬鹿っていうな!?馬鹿って言う方が馬鹿なんだよバーカ!」
未「アハハ・・・では、そろそろ本編の方へ行きましょうか」
クロ「キュル!」
響「じゃあ皆で一緒に!」
響翼ク未「創造しないシンフォギア・ビルドをどうぞ!」
クロ「キュールルールルールルールルッ!」
戦万「しまった!?」



作「あ、今回オリキャラの名前が出るので」
タヤマ「私たちの出番は?」
作「Gからに決まってるでしょう・・・」
工具「それまで待とうか」
農具「では本編をどうぞデス!」


―――ナックルの行方―――

 

「―――風鳴」

「お、おう・・・」

「俺がまだ開発途中だった『ストームナックル』が突如としてどこかに行っててな」

「うむ」

「それで、アンタが了子さんにぶっ刺された現場に、その残骸があった訳なんだが、ありゃ一体どういう事だ?」

「な、なんのこt」

「それと緒川から、なんか了子さんが召喚したノイズ相手に、緑色のナックルを使ったと供述を貰った」

「・・・・」

「・・・あんたが使ったな?んでぶっ壊したな?それも完膚なきまでに」

「・・・・すまん☆」てへっ

「―――じゃねぇぇよぉぉお!!!そしておっさんのてへぺろなんて需要ねぇわぁあぁああ!!」

 

 

 

 

 

―――OTONA―――

 

「クリスちゃん、私思った事があるんだよね」

「ああ?なんだよ藪から棒に」

「実は最近知ったんだけどさ、緒川さんって忍者なんだよね」

「へえ・・・ってハア!?あ、あの人忍者だったのか!?」

「本当だぞ。緒川さんは私の実家に代々使える忍びの一族の次男坊なんだからな」

「そ、そうだったのかよ・・・」

「それでね、二課の人たちの事をある程度思い出してみたんだけどね。まず藤尭さん」

「ああ、あの冴えなさそうな奴な」

「あの人、ああ見えてすっごい情報処理能力ってのを持っていて、月の軌道計算も、本当は一人でやってたみたいだよ」

「マジかよ・・・」

「いわゆる、『情報処理チート』って奴だな」

「それで、友里さんは、銃も扱えて、どんな仕事も冷静で真面目にこなせるいわゆる『仕事チート』な人」

「言われてみれば確かに・・・」

「それで、師匠は誰が見ても分かる『武力チート』で、緒川さんは『忍術チート』でしょ?」

「そんじゃあ龍我は『体力チート』でも言いたいのか?」

「あ、言われちゃった・・・」

「それを言うなら、桐生も『科学チート』じゃないか」

「はい。それで私、思ったんですよね」

「「なにをだ?」」

「二課の大人の人たちって・・・『チート』持ちばっかりだって事に」

「「・・・・」」

「・・・あれ?反応薄くない?」

「いや、それは・・・うん・・・」

「特機部二にまともな奴がいないのは今に始まったことじゃないだろ?」

「ええー、そんなぁ・・・」

「ていうか、それを言ったらお前は『大食いチート』に分類されるんじゃねえか?」

「確かにご飯は大好きだけど、そこまでじゃないかな~」

「ならば私は『防人チート』だな」

「一体どういったチートだよ・・・」

「防人としての気構えの強さだ」

「はっ」嘲笑

「な、なんだその顔は!?」

「べっつに~」

「まあクリスちゃんは、『可愛さチート』だけどね」

「は、はあ!?アタシの一体どこが可愛いんだよ!?」

「そういう所かな?」

「どういう意味だそれはぁ!」

 

 

 

 

 

 

―――雪音クリスの悩み―――

 

(なりゆき任せで手を繋いぢまったが、アタシはこいつらのように笑えない・・・)

「ふっほっほ」腕立て伏せ

(でも、アタシはアタシがしでかしたことから逃げちゃいけない。これはアタシの罪なんだ)

「ふんぬっ!ぬぅぐっ!」懸垂

(・・・この身は、常に鉄火場にあってこそ・・・)

「うぉりやぁぁあ!!」ダンベル上げ

「だぁぁああ!!」

「うごあ!?」ダンベルの棒が胸に直撃し倒れる

「さっきからお前は何やってんだ!?」

「何って筋トレだよ・・・おーいてて・・・」ダンベルどかし

「なんでこういう時まで筋トレなんてやってんだよ・・・」

「これしかやる事ねえからだよ・・・あ、プロテイン飲むか?」

「いらねえよ。てかなんでプロテインしか置いてないんだよこの部屋・・・てかどこからもってきたこのプロテイン」

「何って、外出れねえから緒川の奴に頼んだんだよ」

「ぜってー引いてる気がする・・・ってかほんとに特機部二にはまともな奴はいねえのかよ・・・」

「ふん!俺を他の奴らと一緒にしてもらっちゃ困るぜ!何故なら俺は『プロテインの貴公子』―――ばさっ―――万丈龍我だからな!」天井指差し

「ぷっ、なんだよそれ」

「・・・・やっと笑ってくれたな」

「え・・・?」

「なんかここに来てから全然笑ってないと思ったからよ」

「そ、そうか・・・?」

(まあ大体はあの馬鹿のせいだと思うが・・・)

「だから安心したぜ。ここの生活が窮屈に思ってないか心配だったんだ」

「そ、そうか・・・」

(ったく、なんでこいつはこういうのに鋭いんだっての・・・)

「その、ありがとな、龍我・・・」

「おう!」

「・・・で、今さっきアタシの眼にはカップラーメンにプロテインを思いっきり入れる光景が目に見えたんだが・・・」

「は?カップラーメンとプロテインは最高のベストマッチだろ?」

「そう思ってんのはお前だけだこの馬鹿!!」

「馬鹿ってなんだ!?せめて筋肉つけろ筋肉を!」

「あーもう馬鹿馬鹿筋肉馬鹿ー!さっきまでの感動を返せー!」

「感動ってなんだ!?」

 

 

 

 

 

―――歓迎会―――

 

「という訳で、改めての紹介だ。雪音クリス、第二号聖遺物『イチイバル』の装者にして、心強い仲間だ」

「ど、どうも・・・よろしく・・・」

そう言って、クリスはやや不安ながらも答える。

「さらに、装者三人、ライダー二人の行動制限も解除となる」

「師匠、それってつまり・・・!」

「そうだ!君たちも日常に帰れるのだー!」

そう言って、弦十郎は拳を握りしめて見せる。

「やったー!やっと未来に会える!」

そう言って響は他の者たちより明らかにはしゃぎ出す。

「クリス君や龍我君、そして戦兎君の住まいも手配済みだぞ」

「一応聞くが、そこって広い場所なんだろうな?」

「ああ。要望通り、新設されたリディアンの近くにある倉庫地帯の一個を買っておいたぞ」

「よし」

「何故に倉庫・・・?」

翼は首を傾げるしかなかった。

「あ、あたしにいいのか?」

「もちろんだ。装者の任務以外での自由やプライバシーは保証する」

それにクリスは思わず目を輝かせる。

が、そこで泣きかけた事に気付いたのか、涙を拭う。

が、それで翼は何を勘違いしたのか、ある鍵を取り出して話しかける。

「案ずるな雪音、合鍵は持っている。いつでも遊びに行けるぞ!」

「はあ!?」

当然驚く。

「私ももってるばかりかなーんと!未来の分までー!」

「自由とプライバシーなんてどっこにもねーじゃねぇかぁああ!!」

「ああ、それとお前の部屋万丈の隣だぞ」

そこで戦兎が爆弾発言。

「・・・は?」

「おう、よろしくな!」

万丈はにかっと笑って答える。

それを理解するのに数秒―――

「は、はぁぁぁああぁぁぁああ!?」

クリスの絶叫が部屋に轟いた。

 

 

なお、この後すぐにノイズ出現の警報がなり、彼らは駆り出され、未来と再会する事になる。

 

 

 

 

―――デュランダル―――

 

 

「そういえば師匠」

「ん?どうした?」

「あの時のデュランダルはどうしたんですか?」

「ああ、何せ完全聖遺物同士の対消滅を免れたとはいえ、完全聖遺物としては健在。下手をすれば街一つ、いや、国を滅ぼす程の威力を秘めている。その為、管理特区『深淵の竜宮』に保管する事にしたんだ」

「深淵の竜宮?」

「聖遺物の中でも、特に危険な物やそれに類する危険物、未解析品などを集積、隔離・保管する目的で建造された管理特区の事よ」

「はえー、そんな所があるんですね・・・」

「ん?それじゃあソロモンの杖は?」

「あれは上手く利用すれば、ノイズの発生を抑える事が可能かもしれないと言う事で国の研究機関に回される事になった。誰かが悪用しなければ、実質無害な代物だからな」

「そうか・・・」

「まあ、デュランダルについては響が使えばほぼ問題はないんだけどな」

「へ?なんでですか?」

「なんでって、あれを制御できるのはお前以外に誰もいないだろ?」

「ええ!?いやいやあれは皆がいてくれたからこそ出来たのであって、私一人じゃ何にも出来ませんでしたよ」

「まあそうだろうな。お前一人であれを制御できるとは思ってなかったし」

「ええー!?先生酷い!」

「事実だろこの馬鹿」

「あう」

「まあそんな気にするな。ところで万丈はどこに・・・」

「ああ、それなら先ほど訳が分からないから部屋に戻って筋トレするって言って出ていきましたよ」

「いつでもどこでも筋トレだなアイツは・・・」

「まあ、馬鹿だからな」

 

 

 

 

 

―――新居―――

 

「まあ、リディアンの校舎が新しくなるにつれて、俺も二課本部の一室からこの倉庫街に引っ越ししてきた訳だが」

「やはり綺麗に整頓されているな」

翼が、片付けられた部屋の様子を見てそう呟く。

「お前の方はいいのか?」

「ああ。もうすでに荷物は運んでおいた」

「どーせすぐに散らかすんだろーけど」

「う、うるさい!」

顔を赤くしてそう叫ぶ翼をいなしつつ、戦兎は作業机の椅子に腰かける。

そして、ある道具を机の上に置く。

「ん?それは・・・ドライバーか?」

「ああ、『スクラッシュドライバー』っていうんだ」

レンチのようなレバー、薬品を入れるような筒、そして両側から押し込むタイプのプレス装置。

一見して、ビルドドライバーとは違うというのは明白だ。

「万丈の為のものでな。これも壊れてるから修理しねえと・・・・」

「ほう・・・ビルドドライバーを使うのとで、何か違うのか?」

「まあな。ビルドドライバーの変身に必要なハザードレベルは3。それに対してスクラッシュドライバーに必要なレベルは4だ。戦闘力も通常のビルドやクローズを凌駕する程で、持ち主のハザードレベルに応じて能力は向上する・・・ただ・・・」

「ただ・・・なんだ?」

しばし考えこんでから、戦兎は答える。

「アドレナリンを過剰に分泌するために闘争本能を上昇させる。さらに身体に大きな負荷が掛かる上に、常に戦いを求めるようになるんだ」

「それは・・・大丈夫なのか?」

「ああ。アイツはすでに克服してる。だから問題はない」

戦兎は自信満々に答える。それに、翼はほっと胸を撫でおろす。

「そうか、なら安心だな」

「比較的損傷も少ないから、すぐに実戦に出せる」

「なら、万丈の新しい姿にも期待だな」

そう軽く言い合った所で、少しの間、沈黙がよぎる。

「・・・・お前たちは、私たちなんかよりも、ずっとずっと強大な敵と戦い続けてきたんだな・・・」

「まあな」

新世界が成されたとはいえ、その間に、多くの大切な人たちを失った。

仲間を、家族を、友を。そして、関係のない多くの市民を死なせてしまった。

その過程で、何度も絶望に叩き落された。

それでも、彼らは立ち上がり、強大な敵と戦い続けてきた。

「私たちより、余程強いわけだ」

「それは違うぞ」

翼の呟きを、戦兎はすぐに否定する。

「お前は、この二年間、ずっと一人で戦い続けてきた。それが、奏を死なせてしまった負い目からだったとしても、お前は確かに、その二年間を戦い抜いてきた。そして、今まで受け入れられなかった響の事や、クリスの事だって受け入れた。響の事はともかく、敵だったクリスを受け入れるのは、それなりの勇気がいる。俺は、そんなお前が弱いだなんて思わねえよ」

「桐生・・・」

戦兎は、手を止めて、自分の胸に手を当てる。

「俺の中にはもう奏はいない。だけど、俺もお前も、奏から託されたものは確かにあるんだ。それを忘れなきゃ大丈夫だろ」

「・・・うん、そうだな」

翼は、静かにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

―――クリスの仏壇―――

 

「知らなかった・・・特機部二のシンフォギア装者やってると、小遣いもらえるんだな・・・」

通帳を眺めながら、クリスはそう呟く。

立花響(あの馬鹿)はきっと『ごはん&ごはん!』とか言って、食費にとかしてそうだし、風鳴翼(あっちはあっち)で『常在戦場』とか言って、乗り捨て用のバイクを何台も買い集めてそうなイメージがあるなぁ。桐生戦兎(あの天才)は『はっつめいひ~ん』とかなんとか言って、ビルド強化用のアイテムの部品とか買ってるんだろうなぁ・・・んで龍我は・・・馬鹿だからなんも買わねえだろうな・・・いや勝手な想像だけれども)

と、ふけりつつ、もう一度通帳に記載された金額を見る。

(っで、アタシはどうしたもんかなぁ・・・)

そうして思い至った事は、龍我を連れ出してあるところに行くことだった。

「おい、なんか買い物に付き合えなんて言うが、一体何を買いに行くんだよ?戦兎とかはどうなんだよ?」

「あの三人じゃだめなんだよ」

そうして連れてこられたのは―――

「ぶ、仏具店・・・!?」

まさかの仏具店だった。

「へへっ、いっちばんかっこいい仏壇を買いに来たぜ」

「なんで仏壇なんだよ・・・」

あまりにも予想外過ぎて呆れかえるしかない。

「というか、どうやって運ぶんだよ仏壇なんて」

「その為にお前を呼んだんじゃねえか」

「荷物持ちかよ!?」

「当然だろ?」

「こういうのは風鳴のおっさんに頼めばよかっただろ・・・流石の俺でも骨が折れるぞ仏壇は・・・」

「べ、別にいいだろ。真っ先に思い浮かんだのがお前なんだからよ・・・」

と、顔を赤くして顔を反らすクリス。

それに特に追及しない万丈だった。

「ほら、行くぞ!」

「お、おう・・・」

もはや張り切り過ぎているクリスを呼び止める事も出来ず、万丈は成り行きに任せ、仏具店に入っていった。

 

そうして、どうにかクリスの家に仏壇を運び込む事に成功した万丈。

「な、七回もサツに捕まった・・・」

「わりーな。でかい荷物を運ばせちまって。お陰で助かった」

「全くだ・・・」

げんなりしているのも当然。まさか剥き出しで背負わされるなんて思ってもみなかったからだ。

「そういや、どうして仏壇なんか部屋に置いてんだよ」

「ああ、アタシばっか帰る場所が出来ちゃ、パパとママに申し訳ねえだろ?」

「・・・!」

それで万丈は気付く。

クリスは、戦争で両親を失っている。そして、何年も両親の墓やらどういうのをやってこなかった。だから、なんでもいいから両親の冥福を祈りたかったのだろう。

(なんだ。そういう事ならサツに捕まったかいはあったって事だな)

万丈は、ほっと息をついた。

 

 

 

 

 

―――未来とクロ―――

 

 

ルナアタック事変から二ヶ月近くの月日が経った。

その最中、未来は一人、新生リディアンの廊下を一人で歩いていた。

そんな時だった。

「キュールルールルールルールル!」

「あ、クロ」

最近になってこちらに来る事の多くなったクローズドラゴンことクロ。

戦兎も万丈も、もう面倒くさいからとその名前で呼ぶようになってしばらくたつ。

「今日はどうしたの?」

「キュー!」

当然、言葉は分からない。

だけど、なんとなく伝えたい事は分かる。

「そっか・・・戦兎先生がまた発明品を直せたんだね」

「キュル!」

「今回はどんなものなの?」

「キュル!ルルル、ルーキュッ!」

「へえ、フルボトルバスターっていうんだ」

そんな、他愛もない話をする一人と一匹。

「キュルル・・・」

「でも、まだジーニアスは直ってないんだね」

未だ、起動する様子の無いジーニアスフルボトル。

一体何が原因で、どうして起動しないのか。それは謎であり、戦兎がいくら調べても分からないのだった。

「直るといいね」

「キュル」

ふと、未来の顔が翳る。

そして、窓の外の空を眺める。

 

今、響は、出現したノイズの対処に向かっている。

 

そんな響を、自分はただ、待って、見守る事しか出来ない。

それが、彼女にとって、どれほど歯がゆい事か。

「・・・・私も、一緒に戦う事が出来たらな・・・」

そう、呟いた時、クロが一鳴きして飛び立つ。

「キュル!」

「ん?」

そうして、その顔を未来の頬に擦りつける。

まるで、元気づけてくれているようだ。

「もう、くすぐったいよ。でも、ありがとう」

その何気ない行為がほんの少し嬉しくて、未来は微笑む。

「じゃあ、私と一緒に、響たちの帰りを待とうか」

「キュル!」

未来は、そう話しかけて、クロと共に歩き出した。

 

 

 

 

 

―――バラエティ―――

 

 

「バラエティ?」

「はい。今度、出演予定のクイズ番組に、翼さんが出る事になったんです」

「アイツにクイズが出来るとは思えないが・・・」

「一応、ニューシングルの告知も出来ると・・・」

「まあ、いいんじゃね・・・ていうか、アイツがクイズバラエティに参加するとは思えないんだが・・・何やった緒川?」

「ただお話しただけですよ?試しにクイズを出してみたら、見事に正解してましたから大丈夫かと思いまして」

「ちなみにその内容は?」

「万葉集にもうたわれた、九州防衛のために設置された兵士をなんというか」

「防人だろ」

「長岡藩の藩是であり、かの連合艦隊司令官である山本五十六の座右の銘でもあった、四字熟語は?」

「常在戦場・・・」

「辻褄の合わない事を意味する『矛盾』とは、何をも跳ね返す盾と、もう一つは何?」

「矛・・・ってこれ翼なら答えられる奴ばっかじゃねえか!?」

「すごいじゃないですか。全問正解です」

「無視かよ・・・」

「ああそうだ。ついでと言ってはなんですが、戦兎さんに問題です」

「え」

「問題、第一に惑星は太陽を一つの焦点とする楕円上を運動する」

「ケプラーの法則」

「問題、1500年代において、数学的な記述・分析を重視する手法を率いた『天文学の父』と呼ばれた」

「ガリレオ・ガリレイ」

「問題、同じ種類のボース粒子が干渉しあう事で、多数の粒子が単一の状態へと集中する現象を」

「ボース・アインシュタイン凝縮」

「すごい!全て正解です」

「ま、天っ才ですから」

「これなら、翼さんと一緒に番組に参加させても良さそうですね」

「そうかそうか・・・・ん?」

「では、そういう事でお邪魔しました」シュバッ

「待てェ腹黒忍者ァ!!」ニンニンコミック

 

 

 

 

 

 

 

 

―――旧世界―――

 

 

「―――と、いう訳だ」

「ふぅむ・・・エボルトという星を殺す地球外生命体と、パンドラボックスという世界を滅ぼしかねない力を秘めた箱・・・こちら風に言うなら超強力な完全聖遺物といった所か」

「まさか、そんな戦いがあったなんて・・・」

「想像も出来ないわね・・・」

「・・・・」

「ん?どうしたクリス?」

「いや・・・なんでもねえ・・・」

「・・・」

「そんで響はどうしたんだ?」

「いえ・・・話し合いたくても、話し合えそうにない人だっているんだなって思って・・・」

「「・・・・」」

「あ、えっと、その、だからといって許すとかそういう訳じゃないんですよ!?ただもう少し別に道があったんじゃないかなって・・・・」

「立花らしいな」

「そこが響の良い所なんだが・・・エボルトについては諦めろ。アイツはどう足掻いても無理だから」

「そう・・・ですよね・・・」

「まあ、お前のその心意気は尊敬するよ」

「しかし、新世界が創造された今、パンドラボックスは見つかっていないという事になっているのよね?」

「ああ、あるいは、元々なかったって事になっているか、だな」

「詳しく調べてみない事には分からんが、俺の知る限り、火星にロケットを飛ばしたという事は聞いたことはないな・・・」

「そうなのか・・・そこが決定的な所だな・・・」

「それは良く分かんねえけど、まあエボルトは倒したから安心しろ」

「そうか・・・もしノイズ以外でそんな奴が現れたらただじゃ済みそうにないからな」

「司令ならなんとかできそうですけどね」

「乗っ取られなきゃいいんだけどな」

「やめろ。それを想像しただけで寒気が止まらなくなる」

「・・・・あの、戦兎先生、龍我さん」

「ん?どうした響」

「辛くはなかったですか?仲間に忘れられて」

「・・・・」

「・・・・まあ、辛くはなかったと言えば嘘になる」

「・・・」

「でも、今はお前たちがいる。今は、お前たちが俺たちの仲間だ」

「戦兎先生・・・」

「やせ我慢じゃないのか?」

「お前はどうしてそこで台無しにするのかな?」

「はっ、お生憎様アタシはひねてるらしいので」

「ただ素直じゃないだけだろ」

「うっさい!」

「ほらほら落ち着け雪音」

「だからって頭を撫でるなぁ!」

「っ・・・っはは!本っ当に最っ高だなお前ら!」

「それは桐生もだろう?」

「違いない」

「否定しないのかよ」

「だって本当の事だし」

「何が本当なんだよ俺に内緒で美空んとこ行きやがって」

「あんときクリスにひっついてたお前が悪い。どうせホテル連れ込んであーんなことやこーんなことしてきたんだろ?」

「俺はそんな変態野郎じゃねえ!!」

「な、ななななに言ってんだお前はぁ!!」

(・・・・と、こんな感じに、私たちは日常を謳歌しています!)

 

 

 

 

 

 

―――ベストマッチ―――

 

「そういえば前々から気になってたんですが、ビルドドライバー『鋼のムーンサルト』とか『輝きのデストロイヤー』とか言ってますが、あれは一体どういう事なんですか?」

「ああ、あれか?・・・なんでだ?」

「知らないんですか?」

「設計したのは父さんだったからな・・・」

「ああ、私も気になっていたんだが、桐生のお父様は、どうしてそんな機能を?」

「エボルドライバーを元に作ってたからな・・・元々、ベストマッチ発見機能は俺が後からつけたものだが、その後の音声は父さんがやったものだったな・・・」

「まさかエボルドライバーも変な事言い出すのかよ?」

「普通に言ってたな。なあ万丈」

「ああ。エボルコブラとかエボルドラゴンとか、すっげえ言ってたな」

「その上ブラックホールか・・・・あの時の言葉の意味が分かった気がする」

「戦兎先生たちって本当に了子さんたちより強い相手と戦ってたんですね・・・」

「あ、クロを使ってた時も『Wake Up!』とか言ってましたよね?」

「発音上手ッ!?ま、まああれは・・・・俺の趣味だ」

「キュル!?」

「お前の趣味かよ!?」

「いやだってこういっときゃ父さんと引けをとらない科学技術が俺にもあるんだってことを誇示できるし・・・」

「むしろお前の馬鹿さ度合いがあがった感じだよ・・・」

「まあ何はともあれ。一応これであの音声については分かっただろ」

「何も分かってねーしなんにも説明出来てねーよ」

「じゃあそういう訳でバーイ!」

「あ!逃げんなコラァ!」

「キュルル!!」

「逃げないでください戦兎先生!」

「敵前逃亡は重罪だぞ!」

「粛清の対象だぞオラァ!」

「あ、えーっと、じゃあ私が捕まえるね!」

「うお速っ!?」

「流石元陸上部・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――アメリカ――――

 

 

 

 

人の近寄らない森の奥に存在する、とある研究所の一室にて。

二つの人間が入りそうな棺桶のような装置の前に、一人の男が立っていた。

「・・・そろそろか」

そう呟いて、そう呟いて、男は装置を停止させる。

すると、控えていた研究員が装置を開ける。

「う・・・ぐ・・・」

まず、片方からぐったりとした様子で出てきたのは、おおよそ中学生か高校生かと思われる少年だった。金髪で紺色の瞳を持つ少年だった。

その少年が、研究員に肩を貸されながら部屋を出ていく。

もう一つの装置からは、何事もなかったかのように立ち上がる、一人の青年。

白髪で色白、瞳の色も灰色と、何から何まで白に近い男だった。

「『涼月(りょうげつ)慧介(けいすけ)』、ハザードレベル4.0。『シン・トルスタヤ』、ハザードレベル4.2か・・・地道にごく少量の()()()()()()を投与し続ければこうなるか・・・まあ、重畳だな」

男はくっくと笑いながらそう呟く。

「よくここまで耐えたなぁ」

「お世辞はいい。これで、二人とも規定値は超えたぞ」

「ああ、分かっている」

くっくと男は笑いながら、男はシンと呼ばれた男にアタッシュケースを一つ差し出す。

「まだ未完成品でノイズとの戦闘は出来ないが、向こうの仮面ライダーとの戦闘に支障はないだろう。ただ()()()()()()()()()()さえ奪えばこれは完成する・・・ただ、極秘裏に作ったためにこれ一つしか作れなかった。もう一つはそうだな・・・万丈龍我の持つスクラッシュドライバーを奪えばいい。その時にこのリストに記載されているボトルのうち一本だけでも奪ってきてくれると助かる」

三ヶ月前に諜報機関よりもたらされた、仮面ライダーの記述。

日本政府より提示された櫻井理論とは全く異なる系列の技術。

(ククク・・・()()()にあの()()()を見つけなければ、私は仮面ライダーの存在に気付く事はなかった・・・だからこそ、覚悟しろ。万丈龍我、桐生戦兎・・・!)

忘れもしない。あの男の所為で、自分は人生を狂わされた。

(悪魔の科学者、葛城巧。そして葛城忍!私は貴様らの人体実験の所為で死んだ・・・故にこれは復讐だ。私のライダーシステムに加え、お前が作ったライダーシステムを使い、貴様が作った仮面ライダーである桐生戦兎と万丈龍我をこの手で葬る・・・!)

男は、くつくつと笑う。

(我が名は『ジェームズ・グレナテス・ノーランズ』・・・いずれ世界に自由をもたらし、人の尊厳を取り戻すものだ・・・!)

その一方で、シンは勝手にアタッシュケースを開けて、中にある装置を見る。

それは、何か引き金のついた装置のついたベルトだった。

上部にはスライド式のレバーがあり、トリガーグリップは装着時から見れば左側についており、その中央には、縦に取り付けられたタンクがあった。

それを腰に巻き、シンは一度、上部レバーをスライドさせ固定、トリガーグリップを引っ張り、中の収納スペースを引き出し、もう一度押し込んだ。

 

『Ready』

 

無機質な音が響き、待機音声が流れる。

シンは、トリガーにかけた左手をそのままに、すうっ、と体を捻り、ぐっと腕を横にもっていき、変身ポーズをとる。

「変身」

そして、トリガーを引いた。

 

『Penetration Armor Type-Empty』

 

次の瞬間、シンの体に黒鉄色の装甲が纏われていく。

見た目はスマートに、しかしどこか無機質で、それでも何か、人間らしさを感じる黒鉄色の姿。

仮面は複眼ではなく顔全体を覆うV字型のバイザー。

「そう、それこそが私が創り上げたライダーシステム・・・『ルインドライバー』!」

ジェームスが、両手を広げる。

「今日程素晴らしい日はない!さあ、その誕生を祝おうじゃないか。我が最初の仮面ライダー―――」

その声を、シンは無視していた。

ただ脳裏に映る、一人の少女の事を思い浮かべて。

 

「仮面ライダークライム・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こことは違う、小さな小屋に、どこか古い生命維持装置をつけられた少女が一人横たわっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月―――その光は、一体何をもたらすのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

月を穿つ一撃の日から三ヶ月、それぞれの想いが交錯する物語が、始まる――――




―――オリキャラ紹介―――

シン・トルスタヤ(CV:堀内賢雄)

マリアたちと同じFISのレセプターチルドレンの一人として呼ばれた元少年兵。
年齢は二十四とFIS組の中では最年長。
刃物に関する技術においては群を抜いており、紛争地においてその猛威を振るい、恐れられていた。
紛争終結後、ナスターシャに拾われ元の名前を捨て、現在の名を与えられる。
本編二年前からライダーになるためにネビュラガスを投与され、ハザードレベルを4.2にまであげている。
白髪で美青年。やや細身に見えるが力は相当あり、戦闘技術もかなり卓越している。


ライダー名『仮面ライダークライム』

名前は罪の英読みとナスターシャのフルネームから。

ライダー名の意味は『犯罪』

涼月慧介(CV:松岡禎丞)

金髪碧眼の少年。同じくレセプターチルドレンであり、イギリス人と日本人のハーフ。
年齢は調と切歌と同じ。
研究者である親を事故で失い、調や切歌とは違ってその事は覚えている。
体の柔軟性が凄まじく、その事を若干羨ましがられたりする。
ハザードレベルは4.0。
身長は同い年の二人より高い。

ライダー名『仮面ライダータスク』

名前は二人の苗字に月が付く事から、下の方は思いつき。

ライダー名の意味は『牙』。


ジェームズ・グレナデス・ノーランズ(CV:考えてない

旧世界において、葛城忍の研究に協力していた外国人の研究員。
しかしプロジェクト・ビルドの技術を盗もうとした所をロストボトルの人体実験に使われ死亡する。
死んだ時期は実はビルドとグリスの代表選の寸前。
その為、葛城親子を酷く憎み、ホワイトパネルを拾った事で記憶を蘇らせ、その記憶で作ったライダーシステムと育てたライダーで戦兎と龍我を葬ろうとする。

名前の由来は実は適当。



次は若干の説明などを含めた設定集


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設定集(無印終了時)

これを見る前に前回の創造しないシンフォギア・ビルドを見てからにしてください!

戦「なんで同時投稿にしたんだよ・・・」 
翼「その方が都合がいいからだそうだ。最近かなり溜まってきているらしいからな」
戦「あ、そう・・・」


本作における仮面ライダービルド

 

 

桐生戦兎、万丈龍我の体質はハザードレベル7のまま。

故に素の状態でも常人を超える身体能力を発揮する。

 

原因不明の故障によってジーニアスフルボトルは使えない。

 

桐生戦兎が担当しているクラスは翼とクリスのクラス、一年以外のクラスの三分の一を受け持っている。

 

『ソングボトル』

フルボトルが特定の波形とエクスドライブ発動に必要なフォニックゲインに干渉する事で別の形に活性化したフルボトル。

歌の波形によって変化するが、一時的なものであるため、使用せず放置しているとしばらくして元に戻る。

通常のボトルより凄まじい力を発揮する。

通常のフルボトルとは合わず使えないが、同じソングボトルを組み合わせる事で使用が可能になる。

現状、現在分かっているシンフォニックマッチは『天羽々斬兎』と『ガングニールフェニックス』による『ツヴァイウィング』のみ。

 

『天羽々斬兎ソングボトル』

ラビットフルボトルが翼の歌に反応して変化したソングボトル。

効果は本来のスピード強化に加えて刃物による斬撃力を強化する。

 

『ガングニールフェニックスソングボトル』

フェニックスフルボトルが響の歌に反応して変化したソングボトル。

効果は治癒力に加えて、自身に干渉してきた力を纏め上げて放つことが出来る。

 

『イチイバルドラゴンソングボトル』

ドラゴンフルボトルがクリスの歌に反応して変化したソングボトル。

効果は身体能力の効果に加えて、銃火器の威力を底上げする。

 

 

 

『レリックフルボトル』

聖遺物そのもの力を内包したフルボトル。

現在一本しかないために謎の多いフルボトル。

既存のフルボトルと同じように振る事で成分を活性化させて効果を発揮する。

 

『イチイバルレリックフルボトル』

どういう訳か力を失い黒化したグレートドラゴンエボルボトルがクリスの歌に反応して変化したボトル。

単体の効果は銃火器の強化と弾丸並みの鉄拳を放てる。

 

 

仮面ライダービルド

 

ツヴァイウィングフォーム

 

『天羽々斬兎ソングボトル』と『ガングニールフェニックスソングボトル』の『シンフォニックマッチ』で発動した形態。

『ZWソレスタルブレイブウィング』による自由な高速飛翔能力に加え、奏のアームドギアの槍を扱う事が出来る。

槍の穂先のサイズを自由に変えたり、複製して複数の対象を破壊する事が可能。

 

必殺技は、自分に干渉した力の全てを一つに束ねて相手に叩きつける事が出来、なおかつ相手が反撃に放った力すらも利用してしまう『シンフォニックフィニッシュ』

 

槍を変形させてギガドリルブレイクも放てたりする。

 

見方を変えれば翼と奏、二人の力が再び一つとなり、再び比翼が双翼となり羽撃いた形態ともいえる。

 

変身時はライブステージ型のライドビルダー『ステージスナップライドビルダーZW』に展開された二つのアーマーがUMオーブの如く合体する感じ。

 

色は、青と夕焼け。

 

 

 

 

仮面ライダークローズ

 

クローズイチイバル

 

『イチイバルレリックフルボトル』をクローズドラゴンに装填する事で発動した形態。

本来なら三形態を想定して作られたブラストモービルにさらなる形態を与える能力を持っており、脚部のホイールで平面での高機動能力を有する。

クリスの広域高射程の火力を爆発的な機動力と攻撃力に回している反面、防御力が低下しているのが欠点。

ただし機動力が高いために回避率は非常に高い。だが機動力で上回られると敗北の確立が高まる。

ハザードレベルによるステータスの変化はない。

その為クローズチャージよりは機動力では勝るが総合的な実力では負けている。

 

今出ている形態は以下の通り

 

ブラストブレード

二つのモービルから突き出すエネルギー刃。二刀流が可能

 

ブラストシューター

グリップを立てる事で使える銃。威力は一撃で戦車の装甲に風穴を開けられるレベル。

 

ブラストデュアルソード

双身刀。間合いにおける武器の防御性が向上する。

 

ブラストインパクトボウ

弓。威力はシューターを凌駕し、直線状のもの全てを貫く。

 

ブラストブレイクガン

足に装着するパイルバンカー。必殺技発動時に変形する。蹴りを叩き込んだ瞬間に砲弾並みのエネルギー弾を撃ち込む。

 

残りは今後から(力尽きた)

 

必殺技はブラストブレイクガンを足に装着した状態でライダーキックを放ち、着弾した瞬間にパイルバンカー式で砲撃、対象に杭を打ち込んだかのような風穴を開ける『ブラステックフィニッシュ』

 

色は赤。

 

 

 

 

 

クローズイチイバル・ヘルトラヴァース

 

ドラゴンフルボトルがエクスドライブ並みのクリスのフォニックゲインに干渉した事で変化した『イチイバルドラゴンソングボトル』をクローズドラゴンに装填する事で発動する。

クローズイチイバルの装甲に光のラインが入ったような形態であり、背中の飛行ユニットによって高機動飛行が可能。

さらに腕のアーマーから伸縮可能なエネルギー体の爪を伸ばして敵を斬り裂く事が可能。

通常のクローズイチイバルでは使えなかったリフレクターも展開可能な為に、欠点の防御力の低さを補っている。

無論、ブラストモービルも使用可能。

 

必殺技は展開したブラストモービルからクローズドラゴン・ブレイズを放って相手を消し飛ばす『トラヴァースフィニッシュ』

 

 

ヘルトラヴァースの意味は『地獄踏破』。戦争というこの世の地獄を経験したクリスを同じく戦争を経験した万丈が彼女と共に乗り越えるという心情からきている。

 

 

 

 

 

 

 

 

天羽奏

 

新世界創造の瞬間に死に、そこへ消滅しかけていた戦兎と融合した事によって、図らずも戦兎を助けた。

しばらく眠っていたが、翼のフォニックゲインに触れる事で、戦兎の『葛城巧のいなくなった記憶』に割り込む形で目覚める。

 

フィーネとの決戦後、その姿を消失させる。

 

 

 

 

『ストームナックル』

戦兎が今後の為を考えて作っていた第三のナックル。

全てを焼き尽くすマグマ、全てを凍てつかせるブリザードに続いて、今度は全てを吹き飛ばすストームである。

ハリケーンやサイクロンじゃない理由は、ストームの方が語呂が良いからというふざけた理由。

ボトルは現時点で不明(なお、戦兎は開発者ゆえに知っている模様)

 

 

 

『ルインドライバー』

ジェームズが作ったビルドドライバーと対をなす変身ベルト。

名の由来は『破壊・破滅』の意味を持つ『Ruin』から。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドG!!

あの戦いから―――三ヶ月―――

「凄い数のノイズが追ってきます!」

貨物列車にて、装者二人とライダー一人がソロモンの杖の輸送任務を担っていた。
しかしそこへ襲来するノイズの群れ。

「背中は預けたからな?」

迎撃する装者たち。

その一方で―――

「ったく、何やってんだとアイツ・・・」

戦兎は翼のライブへと向かっていた。
一人の少女を伴って―――


開催されるライブの最中、一夜限りのユニットライブ。
その翼の相手である世界の歌姫『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』が、その身を、想定外の代物に身を包んだ。


「―――私は、私たちはフィーネ!」




終わりに抗う物語が、始まる――――


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G・天翔ける大舟編
黒のガングニール 


戦「天才物理学者にして仮面ライダービルドこと桐生戦兎は、フィーネとの戦いに決着を迎え、ノイズと戦う日々に明け暮れていた」
シ「では、今回より本格的に参入する事となったこの小説だけのオリジナルキャラにしてオリジナルライダーの仮面ライダークライムこと、シン・トルスタヤだ」
慧「同じく、仮面ライダータスクこと、涼月慧介です」
戦「まだでてきてないんだから出てくるんじゃないよ・・・」
マ「ついに私も本名が開放よ!Foooooo!!」
工具「今日はいつになくマリアがうるさい・・・」
農具「相当あの名前から解放されたのが嬉しかったんデスね・・・」
慧「って、まだお前らの名前は出ないのかよ!?」
農具「しょうがないデス。だってまだ本編ででてないんデスから」
響「あれ?いつもの元気がないような・・・」
工具「これも全て他のキャラが目立っているから・・・」
龍「うおい!?こんな所でそれ纏うのヤメルルォ!?」(今回から万丈から龍我になります)
農具「マストダーイ!!」
ク「うわぁぁぁあ!?なんか今までイジられキャラだったアイドル大統領の名前が先に公開されたから後輩二人が暴れだしやがって!?」
マ「ぐふあ・・・」
翼「ま、マリアー!」
シ「アイドル大統領という名前に反応して喀血したな」
戦「ああもう今回もGDGDだぁぁぁ!!」
未「えー、では『G編』第一話、及び、愛和創造シンフォギア・ビルド、その第二三話をどうぞ!」
クロ「キュールルールルールルールルっ!」
作「あ、今回は本編第一話まるまる書いてますので文字数がとんでもない事になってます」(この作者は幽霊です)


―――雷鳴轟き、雨天より落つる、闇夜の中、一つ突っ切る武装列車あり。

 

 

その上空には、無数の飛行型ノイズが襲来していた。

すぐさま迎撃を始める武装列車。

しかし、ノイズに通常の兵器が効く訳がなく、弾丸はその体を透過し、対象には一切のダメージは入っていなかった。

そのまま、ノイズは形を変えて迎撃してきた武装車両を襲撃、中にいる警備員を炭化させ、なおかつ車両を破壊する。

「きゃあ!?」

その衝撃で、友里が倒れる。

「大丈夫ですか!?」

そんな彼女を心配するのは、抱える程大きなアタッシュケースを抱えた白髪の男だった。

「平気です。それよりも、ウェル博士はもっと前方の車両に避難してください!」

友里はすぐさま立ち上がり、男『ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス』、通称『ウェル』にそう促す。

「ええ・・・・」

「大変です!」

そこへ駆け込んでくるのは、二人の少女と一人の男。

「凄い数のノイズが追ってきます!」

「連中、明らかにこっちを獲物と定めてきやがる」

「まさかソロモンの杖と同じ奴があるって訳じゃねえよな・・・」

まず茶髪の少女『立花響』が報告、白髪の少女『雪音クリス』がノイズの行動にそう呟き、男『万丈龍我』がそう呟く。

「急ぎましょう!」

友里が、そう告げる。

 

 

 

 

 

「第七一チェックポイントを通過を確認!」

その一方で、特異災害対策機動部二課の本部にて、藤尭がそう叫ぶ。

「岩国の米軍基地到着まではもうまもなくです!ですが・・・」

このままノイズを連れていく訳にはいかない。

「こちらとの距離が伸び切った瞬間を狙い撃たれたか・・・」

「司令、やはりこれは・・・」

「ああ、何者かが、ソロモンの杖強奪を目論んでるとみて、間違いない」

弦十郎は、険しい眼つきでそう告げるのだった。

 

 

 

 

 

 

ノイズからの攻撃が激しくなる中、一行は前の車両へと向かう。

「はい・・・はい・・・多数のノイズに混じって、高速で移動する行動パターン・・・?」

本部からの連絡を受ける友里。

「三ヶ月前、世界中に衝撃を与えた『ルナアタック』を契機に、日本政府より開示された『櫻井理論』。そのほとんどが、未だ謎に包まれたままになっていますが、回収されたこのアークセプター『ソロモンの杖』を解析し、世界を脅かす、認定特異災害『ノイズ』に対抗しうる、新たな可能性を模索する事が出来れば・・・」

ふと、次の車両に移った所で、クリスが立ち止まる。

「ソイツは・・・ソロモンの杖は、簡単に扱っていいものじゃねえよ・・・」

「クリス・・・」

後ろの龍我が、心配そうに彼女の名を呼ぶ。

「最も、アタシにとやかく言える資格はねえんだけどな・・・うわ!?」

そんなクリスの頭を、龍我はわしゃわしゃとかき回す。

「な、なにすんだよ龍我!?」

「安心しろ。俺たちがついてる。その為の仲間だろうが?」

顔を近づけて、そう笑って見せる万丈に、クリスは顔を赤くして顔を反らす。

「お前、本っ当の馬鹿・・・」

「馬鹿って言うな、せめて」

「筋肉をつけろ、ですよね龍我さん」

調子よくいって割り込む響。

「了解しました。迎え撃ちます!」

友里が、そう返事を返し、通信を切る。

「出番なんだよな?」

クリスの問いかけに、友里は銃を取り出して頷く。

それと同時に、天井からノイズが襲ってくる。

「うわぁあああ!?」

ウェルが情けなく腰を付くと同時に、龍我は手にレンチのようなレバーのついた何かの装置を取り出し、それを腰に巻き付けた。

 

『スクラァッシュドゥライバァーッ!!』

 

続いて何かの飲料パックのようなものを取り出し、そのシールディングキャップを開ける。

「行きます!」

響の叫びと共に、龍我は、そのパック―――『ドラゴンスクラッシュゼリー』を『スクラッシュドライバー』に装填した。

 

 

ドゥラゴンジュエリィーッ!!』

 

 

すると、スクラッシュドライバーから何かを作るかのような待機音声が流れる。

そして、それが流れ出し、準備が整うと同時に、彼らは頷き合う。

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)―――」

 

「―――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)―――」

 

 

「―――変身!」

 

二人が聖詠を唱え、そして龍我は、スクラッシュドライバーの『アクティベイトレンチ』を押し下げる。

するとレンチと連動するプレス機がドラゴンスクラッシュゼリーを圧迫、揉み潰し、中にあるゼリー状の『トランジェルソリッド』をドライバー内部に取り込む。

すると龍我が巨大なビーカー『ケミカライドビルダー』の中に入る。

 

そして、その中が青い液体で満たされ、龍我を包み込み、龍我を仮面の戦士『仮面ライダー』へと変身させる。

 

 

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

 

ドゥラゴン・イン・クロォォズチャァァジッ!!』

 

『ブルァァァァア!!!』

 

 

真っ白の素体の頭頂部から青いゲル状の液体が噴出し、それがクローズの体に纏われ、装甲を形成する。

 

仮面ライダークローズチャージ。

 

スクラッシュドライバーを使う事で成る事の出来る、クローズの新形態。

「むぅ・・・」

「ん?どうした?」

クローズチャージに変身したクローズを見て、何故かクリスは不貞腐れていた。

「別に・・・」

「クローズイチイバルに変身してくれなくて寂しいんだよね~?」

 

ガンッ

 

「痛い・・・」

「根も葉もない事いうからだ」

「おい、そんな事してねえでさっさと出るぞ!」

天井を突き破って、三人は上空の敵を見据える。

「群雀どもがうじゃうじゃと」

「どんな敵がどれだけ来ようと、今日まで訓練してきた、()()()()()()()()()()があれば!」

「あれはまだ未完成だろ?もし失敗して大惨事になったらどうすんだよ?」

「大丈夫ですよ!今から使うって訳じゃありませんし、とっておきたいとっておきですから!」

「そうかよ」

「ふん、分かってんなら言わせんな」

クリスがアームドギアのボウガンを展開する。

それと同時に、クローズが左手に武装を展開する。

 

『ツゥインブゥレイカァーッ!!』

 

ツインブレイカー。クローズともう一人の専用武器。

 

『ビィームモォードッ!!』

 

「背中は預けたからな?」

「任せて!」

「行くぜえ!!」

響が歌い始める。

 

「―――ぎゅっと握った拳 1000パーのThunder!」

 

「オラァ!!」

クリスがボウガンの引き金を引いて矢を乱射。

それと同時にクローズがツインブレイカーから光弾を乱射する。

それによって、上空のノイズがたちまち数を減らす。

しかし、それを掻い潜ったノイズがクリス達に接近。しかしそのノイズを、以前よりも洗練された動きで次々とノイズを叩き落していく。

その最中で槍状で突っ込んできたノイズすらも、二体を拳で、最後の一体をサマーソルトキックで叩き潰す。

その間に、クローズがツインブレイカーのフルボトル装填スロットにドラゴンフルボトルを装填する。

 

シィングルゥッ!!』

 

ツインブレイカーのパイルに青い光粒子が収束する。

それと同時に、クリスがボウガンを弩弓に変形、それにつがえた矢を放ち、それが何体ものノイズを貫き、そして細かく分裂。それが空一面にばら撒かれると同時に、無数の鏃が驟雨と成りて、ノイズの大群に振り落とされる。

それと同時に、クローズがツインブレイカーを突き出す。

 

シィングルゥフィニィッシュッ!!!』

 

「ウオリヤァァァアアア!!!」

二つの砲身から打ち出される火炎。それが、今まさに列車の背後から突っ込もうとして来ていたノイズの集団を纏めて焼き払い、そして上空のノイズもクリスの驟雨によって消滅する。

 

GIGA ZEPPELIN

 

しかし巻き起こる爆炎の中、青い閃光を巻き散らして高速で飛翔する何かがいた。

それは、今までに見た事がないノイズ。

「なんだアイツ?」

「アイツが取り巻きを率いてやがるのか」

すかさず腰部のギアから小型ミサイルポッドを展開、一斉に射出する。

 

MEGA DETHPARTY

 

しかしそのノイズはノイズにしてはあり得ない高機動を発揮してミサイルを全て躱す。

「だったらァ――――!!」

それに対してすぐさまガトリング砲を展開、乱射する。

 

BILLION MAIDEN

 

しかしそれすらも全て回避してみせる。それだけに留まらず、その体を変形させて巨大な槍へと変形、一気に突っ込んでくる。

しかもその外装はクリスのガトリング砲の弾を弾き飛ばしている。

「嘘だろ!?」

「クリスちゃん!龍我さん!」

響が右腕のギアのバンカーを引っ張り出す。そして飛び上がり、それにクローズが続く。

 

『アタァックモォードッ!!』

 

ビームモードの砲身『レイジングビーマー』を動かし、パイルを突き出させる。そして今度はドラゴンスクラッシュゼリーを装填する。

 

ツゥイィンッ!!』

 

「ハァァァァアア!!!」

「ウォォオォオオ!!!」

突っ込んでくるノイズ、そのノイズに、響は拳を、クローズはツインブレイカーを叩きつける。

 

ツゥイィンブゥレイクッ!!』

 

高速回転するパイルの一撃と一撃粉砕の拳の一撃。それを受けてもそのノイズは粉砕されずにただ上方へ突進をそらされる。

しかし、そのノイズ一体に集中する訳にいかず、他にも襲い掛かる小型飛行型ノイズを相手にしなければならない。

これではジリ貧である。

「あん時みたく、空を飛べるエクスドライブモードなら、こんな奴らに一々もたつく事なんてねえのに!」

「うーん戦兎からタカボトル借りときゃ良かったかな?」

「ですね・・・って、クリスちゃん!龍我さぁん!」

「「ん?」」

何故か慌てた様子の響の声に後ろを向いてみると、列車がもの凄い勢いでトンネルに入っていく所だった。

そう、それだけなら良かった。問題なのは、このままでいれば()()()()()()()()()()()という事だった。

「「うわぁぁあぁぁぁああ!?」」

「うぉぉぉおおぉぉおお!?」

すぐさま響が足のバンカーで、クローズがツインブレイカーを列車の屋根に叩きつける事で風穴を開ける事で回避する。

その時、ちゃっかりクローズがクリスをお姫様抱っこしていたりする。

「ギリギリセーフ・・・!!」

「う・・・あ・・・う・・・・」

「ん?どうしたクリス?」

「な、なんでもねえ!・・・でも、助かった・・・」

顔を真っ赤にしてクローズの腕から降りるクリス。

「おう!」

礼を言われた事に一抹の嬉しさを込み上げさせながら、クローズは車両の後ろの方を見る。

「さて、アイツらどうやってぶっ飛ばす?」

「攻めあぐねるとはこういう事か・・・」

「そうだ!」

ふと響が手をぽんっ!と叩いて何かを閃く。

「何か閃いたのか?」

「師匠の戦術マニュアルで見た事ある!こういう時は、列車の連結部を壊してぶっつければいいって!」

「おお!そいつはいいな!」

「でしょ!?」

「う・・・おっさんのマニュアルといえば面白映画だろ?そんなのが役に立つものか。大体、アイツらに車両ぶつけたって通り抜けてくるだけだろ?」

額を抑えて呆れるクリスだが、響は不敵な笑みを浮かべていた。

「ふっふふ~ん!ぶつけるのはそれだけじゃないよ!」

ノイズはなおも近付いてくる。

「さあ急いで!トンネルを抜ける前に!」

前の車両に移動し、クリスが連結部を破壊。

「サンキュー!クリスちゃん!」

「本当にこんなんでいいのかよ?」

お礼を言う響に対して、クリスは未だ彼女の意図が分からない様子。

「あとはこれで・・・」

「こうすりゃあいいんだな!!」

クローズが後方車両を殴って後ろに飛ばす。

すると切り離された車両が背後から迫ってくるノイズの大群に向かって突っ込んでいく。

注意しておくが、あくまで移動し続けている彼女たちの視点から見ればの話しで、実際には後方の車両が押された音によって減速、速度としては未だ人をひき殺せるレベルの速度だ。

しかし、そんな障害物はノイズにとっては無駄にも等しい。

位相差障壁によって自身の現実との実体感を薄め、列車を透過する。

しかし、トンネルの出口で待ち構える者がいた。

「クロ!」

「キュル!」

クローズが呼びかければドラゴンフルボトルを装填したクローズドラゴンことクロが飛んできて、そのままツインブレイカーのスロットに自ら装填される。

 

ルェディゴォッ!!!』

 

パイルが高速回転しだし、青い光粒子が収束する。

その一方で、響の右腕はまさしくアームドギアと呼べるほどに巨大なジェットナックルに変形しており、その後方にあるジェット噴出機構にはエネルギーが溜まっている。

「飛ぉべぇぇええぇぇぇええええッ!!!」

 

レッツゥブゥレイクッ!!!』

 

「ウォリヤァァアアァァァアァアッ!!!」

次の瞬間、響のギアのジェットが爆墳。それと同時にクローズが突き出したパイルからクローズドラゴン・ブレイスが飛び出し、それが響の右腕のアームドギアに纏われる。

その光の粒子がアームドギアのエネルギー炉に溜め込まれ、その腕の放つエネルギーを龍の顎として列車から透過してきたノイズに叩きつける。

そして、通常とは比べ物にならない程の威力で打ち出された衝撃が、大型ノイズを砕き消し飛ばす。

それが、響とクローズの合体技。

 

撃槍龍ノ咆哮(DRAGON-DESTRUCTION)

 

放たれる龍の咆哮――――それが、そのノイズだけでなく列車すらも消し飛ばし、後方より突っ込んでくるノイズすらもまとめて、トンネルの先まで全て消し飛ばす。

(閉鎖空間で、相手の機動力を封じたうえ、遮蔽物の向こうからの重い一撃・・・)

その様子を、クリスは過ぎていく列車から見ていた。

響の成長性、起点の利かせ方、どんな状況でも最適解を導く直観力。

その全てに、戦慄を抱いていた。

(アイツ・・・どこまで・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィーネと名乗る女性が荷電粒子砲『カ・ディンギル』を使って引き起こした『ルナアタック事変』から、三ヶ月後―――

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・んで、杖を届けた瞬間にノイズが襲撃、担当していたウェル博士と一緒にソロモンの杖が行方不明、と・・・」

『うむ、その通りだ』

弦十郎からそのような報告を受けつつ、戦兎はバイクを走らせる。

「ったく、何やってんだよアイツ・・・」

『それで、君の見解を聞きたいんだが・・・』

今回のソロモンの杖輸送任務。広島の岩国にある米軍基地までアークセプターである『ソロモンの杖』を輸送するのが目的であり、その際に同行したのが響、クリス、龍我の三人である。

翼は今夜開催される『Queen's Of Music』というライブに向けてのリハーサルで席を外し、戦兎はもしも別の場所にノイズが現れた為の対応策として残っていた。

「見解って、どう考えても杖を持っていたウェル博士が怪しいだろ」

『ふむ。そう思うか』

「ソロモンの杖はすでに起動状態。あとは触れるだけでノイズを好きなだけ操れるんだ」

『俺には、そんな奴には見えなかったがな。何より度胸がないように見える』

「そういう人間程、強大な力を手に入れた時に力に溺れるんだよ」

『そうか・・・分かった。ならばその線を考えてウェル博士の行方を調べる事にしよう』

「オーケー。じゃ、俺はこれから会場に向かうから、何かあった時は連絡する」

『分かった。楽しんで来いよ』

それを最後に、本部との連絡を切る戦兎。

バイクが風を切る音をヘルメット越しに聞きつつ、戦兎は、視界に映るライブ会場を見る。

「あの・・・」

ふと、後ろから声を掛けられ、それに戦兎が反応する。

「ん?どうした?」

振り向けば、戦兎の乗るバイクの後ろには、橙色がかった茶色の髪を風に靡かせる少女がいた。

「任務の方は・・・」

「ああ、見事に杖を奪われたとよ」

「そんな・・・」

少女は、ショックを受けたかのような声を挙げる。

「安心しろ。この正義のヒーローの仮面ライダービルドがいるんだ。なんの問題もねえよ」

「だと・・・いいのですが・・・」

「心配性だな、お前は」

少女が顔を曇らせる中、戦兎は快活に言ってのける。

「大丈夫だ。俺はもちろんの事、万丈や響、翼、クリスがいる。お前が心配する事なんてどこにもねえよ」

「・・・・そう、ですね・・・そうですよね」

少女は元気を取り戻したように声を明るくする。

「そんじゃ、今日は翼のデュエットライブだ。相手はお前の大好きな」

「マリア・カデンツァヴナ・イヴです!」

「よし!そんじゃあ行くか!セレナ!」

「はい!」

 

 

 

 

彼女の名前は『セレナ・リトルネッロ・ヘルカート』。

記憶喪失の少女である。

 

 

彼女は、今日のソロモンの杖輸送作戦より、二ヶ月も前に、とある謎の人物からの依頼で引き取り事となったのだ。

 

 

 

 

 

「本当にここなのか?」

『ああ、指定されたポイントはそこで間違いないよ』

藤尭の言葉に、戦兎が答える。

『しかし、どうしていきなりこんなものを送って来たんだろうね』

「知らねえよそんな事」

それは、突然の事だった。

発信源不明の暗号メッセージが二課に送られ、それを解析した所、こんなメッセージが出てきたのだ。

 

『湾岸の港にて、トラックを一台用意した。その中に諸君らに受け取ってほしいものがある』

 

あまりにも罠感満載なメッセージ。しかし、確認しない訳にもいかず、その時手が離せなかった弦十郎の代わりに戦兎、龍我、響、クリス、翼はやってきたのだ。ちなみにクロは駄々をこねた為に未来の所にいる為、今回はいない。

「受け取ってほしいものって、一体なんでしょうね?」

「こういう時は決まって爆弾とかそういう罠っぽいものって相場が決まってんだよ」

「だが確認しない訳にもいかない。その要求するものがなんであれ、無視する事は出来ない」

「はいはい分かってんよ」

戦兎の後ろでは装者三人が今回のメッセージについて話し合っていた。

「んで?どう思うよ戦兎」

「まあ罠である事には変わりないだろうけど、他でもない上司の命令だ。聞かない訳にはいかないだろ」

そうして移動した先に、それはあった。

港の倉庫の影に隠れるようにして、そのトラックは置いてあった。

 

エンジンがかかったままで。

 

「エンジンがかかったまま?」

「どういう事だありゃ?」

響とクリスが首を傾げる。

「どうやら人は乗ってないようだ・・・」

確かに、エンジンはかかっているが、人は乗っていないようだった。

「となると積み荷の方か・・・」

戦兎はしばしトラックを観察し、思考すると、

「よし、万丈。行ってこい」

「はあ!?」

「この中で一番頑丈なのはお前なんだから、なんなら変身してでも行って来いよ」

「なんで俺が・・・」

「な、なんならアタシが一緒にいってやってもいいけど?」

クリスがそう申し出る。

「いや、いい」

「そ、そうか・・・」

「あ、クリスちゃんがっかりしてる」

 

ごつんっ

 

「痛い・・・」

「いい加減な事を言うからだ」

「そんなコントしてないで、さっさと行ってこい」

「分かったよ・・・ったく、人を良いように使いやがって」

ぶつぶつと文句を垂れる龍我が、トラックに近付く。

そうして、トラックの後ろの扉の前に立つと、恐る恐るその扉を開けた。

その中にあったものは――――

「・・・」

龍我が首を傾げて中に入る。

そうして数秒した後に、龍我が慌てた様子で出てきた。

「せ、戦兎!」

「どうした?」

「良いから来い!」

龍我の慌てように顔を見合わせ、四人はトラックに向かう。

その中にあったのは、人が入れそうな程大きなカプセルといくつもの電子機器。置かれているモニターには誰かのバイタルが表示されており、他にもいくつもの医療関係の機器が置かれていた。

「これは・・・」

思わず茫然とする一同。だが、その中で龍我は中に乗り込んで、カプセルの前に立つ。

「こっちだ」

それに戦兎は従いに、カプセルにある小窓を覗き込んだ。

その中にいたのは―――一人の少女だった。

「こ、こいつは・・・!?」

見た目は、年齢は十六~十七。髪の色は橙色がかった明るい茶色。

まるで妖精のような容姿をしているが、その体はやややせている。

腕に点滴の針が刺さっているのが見え、おそらくこれから栄養を直接貰っており、また口には頑丈そうな呼吸器が取り付けられていた。

「どう思うよ?」

「エンジンをつけっぱなしにしていたのは、トラックの中の医療機器を常に稼働しておくためか・・・」

戦兎はすぐさま通信機を取り出す。

「おい本部」

だが、返事は返ってこない。

「ん?おーい、もしもーし!」

返事は、無し。

「・・・・どうなってんだ?」

何故か繋がらない。

これは一体どういう事なのか。

「どうした?」

そこへ、翼たちが入ってくる。

「ん?・・・え!?これって・・・・」

「どうなってんだよ・・・」

カプセルの中身を確認した装者は当然驚いた。

「戦兎、これは一体・・・」

「見た所本物の人間であることには間違いない。だが本部と連絡が取れない」

通信機が繋がらない事は事実。

「何?本部、こちら翼・・・本当だな・・・」

「お前のもか?」

「ああ。これは一体・・・・」

一体なんなのか。

「皆さん、無事だったんですね!」

そこへ緒川が飛び込んでくる。

「緒川さん!?」

「どうかしたのか?」

「皆さんの通信機の反応が途絶したので、急いでやってきたのですが、大事がないようでよかったです」

「反応が・・・そうか」

戦兎は、気付く。

「緒川、トラックを出てすぐに本部と連絡を取ってくれ。このトラックの中はおそらく妨害電波が飛び回ってる」

「妨害電波・・・なるほど、そういう事でしたか」

戦兎の言葉に胸を撫でおろした緒川は、すぐにトラックを出て本部に連絡を取る。

その最中で、戦兎はカプセルの中の少女を見下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

後に、少女は何故か『睡眠薬』で眠らされていた事が分かり、その睡眠薬の体内洗浄を行った後、彼女―――セレナは目覚めた。

そしてトラック内には彼女の生体反応を遮断するように強力なジャミング波が発生しており、その所為で生体反応を検知できず、ましてや通信も出来なくなっていたのだ。

しかし、見つけたはいいがここからが問題で、彼女は記憶喪失であり、また、彼女の情報を見つける事が出来ず、やむなく外国人らしい名前を戦兎がつけ、二課で面倒を見る事になったのだ。

その際、龍我がうっかりシンフォギアの事を喋ってしまい、仕方なく二課の非公認協力者として登録、リハビリの後にリディアンに入学したのだ。

 

そして現在、類稀なる才能を戦兎の助手として発揮し二課に貢献していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのライブ会場にて。

ステージのセットが行われている中、一人の女性が鼻歌を一つ歌いながらその様子を眺めていた。

「~♪」

「・・・今日はいつになく落ち着いているな、マリア」

そんな彼女に、一人の男が声をかける。

「そんな事はないわよ、シン。何せ今日は、私たちの覚悟を見せる日だもの」

男、シンの言葉に、女、マリアはそう答える。

「そうだな。お前が落ち着ける女な訳がないか」

「ねえ、それってどういう意味?」

「何かを食べなければ外面を保てない意地っ張りマリアという意味だが?」

「う、うるさい!」

思わず怒鳴ってしまい、注目を集めてしまった。

それに顔を赤くして、マリアは姿勢を正す。

そこで、彼女の携帯に連絡が一つ入る。

『こちらの準備は完了、サクリストSが到着次第、始められる手筈です』

聞こえてきたのは、一人の女の声。

「ぐずぐずしてる時間はないわけね?」

立ち上がり、マリアは答える。

「OK、マム。世界最後のステージの幕をあげましょう」

『任せましたよ』

それを最後に、マムと呼ばれた女との通話を切る。

「あの男はうまくやれたようだな」

「ええ。貴方も準備して頂戴」

「ああ、分かっている」

マリアの言葉に、シンは頷いた。

 

 

 

 

 

 

夕焼け色の光に照らされる街、その影にあるとある場所に、その車両はあった。

その中にいるのは、一人の初老の女と、白衣を着た男性だった。

「流石は世界の歌姫『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』。ステージは大盛り上がりですな」

「しかし、彼女の歌をもってしても、アレを起動させられないのは事実です」

褒め称える男に、女は塩辛く対応する。

「やれやれ・・・しかし、貴方も意地が悪い。彼女にとっては()()()()()()()()()()()()()()()()なんて事を・・・」

「しかし、そうでなければ世界は救えない」

車椅子に座る女は、冷酷に答える。

そこに、モニターに一つのメッセージが届く。

曰く、『Si Vis Pacem,Para Bellum(汝 平和を欲せば 戦への備えをせよ)』。

「ようやくのご到着、随分と待ちくたびれましたよ」

女はその顔に笑みを浮かべて、そう呟き、一方の男はくつくつと笑い声を静かに上げた―――

 

 

 

 

 

 

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴ――――デビュー僅かで全米ヒットチャートの頂点に昇りつめた気鋭の歌姫。

そのミステリアスにして力強い歌声は、国境を越え、世界中に熱狂的なファンを多数獲得している、いわゆる世界の歌姫的存在だ。

 

 

 

 

そのマリアが、目の前で万雷の喝采を受けていた。

 

 

 

「悪い、遅れた!」

「あ、戦兎先生、セレナ」

翼が用意した特等席にて、戦兎とセレナは駆け込む。

そこには、未来、板場、安藤、寺島の四人がいた。

「遅いですよー!」

「でも良かったです。翼さんの出番はこれからなんですから」

「これには間に合って良かったぜ・・・」

「すみません、煽り運転してきた人がいたのでお灸をすえてやってたら遅れてしまって」

そう言って、戦兎とセレナは未来の隣に座る。

「煽り運転って・・・大丈夫だったんですか?」

「ああ、予想通り出てきて文句つけようとしてきたから権力使って()()()()

国家権力様様である。ちなみに相手は男女の二人組で女は証拠写真のつもりか動画を取り、一方の男はこちらに難癖つけて殴り掛かろうとしてきた。

まあ、それはさほど問題にはならなかったが。

「そ、そうですか・・・」

安藤が顔を引きつらせる。

「あの、響は・・・」

「ああ、向こうでさらにノイズが現れたみたいでな。それの対処に遅れて、到着するのはもっと後になりそうなんだ」

「そうですか・・・」

未来はあからさまに落ち込む。やはり響がいないと寂しいのであろう。

「大丈夫ですよ。きっと間に合います」

そんな未来を、セレナが励ます。

「ありがとう、セレナ」

「はい」

「・・・・・お」

そこでステージの照明が消える。

それに会場のボルテージが一気に湧き上がる。

ステージ奥のモニター、その壇上からシャフトに乗って、二人の女性が出てくる。

片方は、黒と赤のライブ衣装を着込む日本が誇るトップアーティスト『風鳴翼』。

もう片方は、純白のライブ衣装を纏う世界にその名を馳せる歌姫『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』。

 

これが、このライブのメインイベント。

 

 

風鳴翼とマリア・カデンツァヴナ・イヴの二人による、一夜限りのユニットライブだ。

 

 

今、この空間を支配しているのは、マリアか、翼か。

奏でられる伴奏のメロディの中、二人の歌姫が歌い出す。

 

―――Huu...Cold moon...Blue shine...

 

―――マサニ今宵、イマ世界ハ、一ツニナル、届キタマエ、叶エタマエ、

 

唄い出し、二人の歌姫が華麗に舞う。

 

 

―――さあ…始まろう―――

 

 

剣のようなマイクに自らの声を伝え、この会場にスピーカーを通して自身の歌声を届ける。

 

(3、2、1 Reagy go Fly!!)

 

―――果てなき 強い この想いは

 

―――譲れない 強い この想いは

 

―――誰にも 負けない 不死なるメロディー

 

―――輝けTrue heart!!

 

マリアの放つミステリアスで力強い歌声。しかしその歌声に、翼のストイックな高く澄んだ歌声が重なる。

ステージの様々なギミックが稼働し、二人の演出を盛り上げ、会場のテンションを引き上げていく。

 

―――この手から崩れ去った、イノチ…紡いだコ・ド・ウ!

 

黒いマントを靡かせて、翼が澄んだ声を響き渡らせる。そして最後のフレーズを、会場の者たちが一緒になって叫ぶ。

 

―――欠けたムーンライトその光は残した者にナニヲ問ウ!

 

腰布のフリルを振るい掲げ、観客の声援を受けながらマリアの力強い歌声が鳴り渡る。

 

―――哀しみを束ねて (つるぎ)

 

―――刃に ジャスティスの名の下に

 

その掌に火を灯し、されど自らのマイクを相手に向けやりそのマイクに向かって歌い、そしてまたその剣の形をしたマイクを振るえば、空中にいくつもの火が灯る。

このステージのギミックの一つだ。

 

―――二度と消える事ない

 

―――魂の種火をさあ

 

―――灯せ――――

 

その切っ先を床に突き立てた時―――炎が舞い上がる。

 

 

―――Ignition―――

 

 

次の瞬間、歌のテンションが引きあがる。歌の盛り上がり所『サビ』に突入したのだ。

 

 

―――燃えなさい 人に 運命(さだめ)などない

 

炎の柱の間を駆け抜ける二人の歌姫。

 

―――飛びなさい 過去を 引き千切って

 

入れ替わり走り抜け、モニターのある大ステージへ。

 

―――行きなさい アツく 羽撃き合い

 

観客の方を見やり、さらなる歌声を放つ。

 

―――響き伝う

 

―――奏で伝う

 

―――絆ッ!

 

さらなる炎のエフェクトが炸裂する。

 

―――そう 涙 握りしめて

 

―――背負った 全部 握りしめて

 

苛烈に燃え上がる炎の映像をバックに、二人の歌姫はその歌声を競い合うかのように歌い叫ぶ。

 

―――いま不死なる夢を羽根に

 

歌も、終盤に差し掛かる。

 

―――願う明日を共に飛ばないか?

 

二人の歌姫が並び立ち、まるで問いかけるように観客に向かって歌う。

 

 

―――歌えPhoenix song――――

 

 

光の羽を舞い散らせ、映像に燃え盛る炎の鳥を映し出し、二人の歌は終わりを告げた。

 

 

 

その感情は会場全体を包み込み、会場を歓声で埋め尽くした。

その勢いは留まる事を知らないのか、激しく、炎の如く燃え上がっていた。

二人の歌姫が、その声援に感謝するように手を振り、やがて翼が前に進み出る。

「ありがとう、皆!」

その言葉に、会場はさらなる持ち上がりを見せる。

「私は、いつも皆から、沢山の勇気を分けてもらっている。だから今日は、私の歌を聞いてくれる人たちに、少しでも、勇気を分けてあげられたらと思っている」

その言葉は、会場をさらなる熱狂に包み込む。

そこで、マリアが一歩、進み出た。

「私の歌を全部、世界中にくれてあげる!」

このライブは、全世界を通して中継されている。だから、この声も、全て、世界中に届いているのだ。

「振り返らない、全力疾走だ。ついてこれる奴だけついて来い!」

自らを誇示する力強い言動。これが、彼女の人気の一つだ。

「今日のライブに参加出来た事に感謝している。そしてこの大舞台に、日本のトップアーティスト『風鳴翼』とユニットを組み、歌えた事を」

「私も、素晴らしいアーティストに巡り会えた事を、光栄に思う」

その手を差し出す翼。その手を、マリアは握り返した。

その行為に、会場はさらに湧き上がる。

「私たちが世界に伝えていかなきゃね。歌には力があるって事を」

「それは、世界を変えていける力だ」

マリアの言葉に、翼もうなずく。

ふとマリアが翼に背中を向け、会場の方を向く。

 

「――――そして、もう一つ」

 

その声音に、翼―――と戦兎は、違和感を覚えた。

マリアが、突如として腰布を靡かせた、その瞬間―――

 

 

会場に無数のノイズが出現した。

 

 

「な―――ッ!?」

「ノイズ!?」

それに戦兎は思わず立ち上がり、セレナは口元を抑えて驚く。

突然のノイズの襲来に、会場は一気に大パニックに陥る。

「・・・狼狽えるな・・・」

そして、その会場に、とてつもない怒声が叩きつけられる。

「―――狼狽えるなッ!!!」

その声に、会場は一瞬にして静まり返る。

 

 

 

「ノイズの出現反応、多数!場所は、Queen's of Musicの会場!」

「なんだと!?」

藤尭の報告に、弦十郎が立ち上がって声を挙げる。

 

 

 

 

 

「遅かりし・・・ですが、ようやく計画を始められます」

初老の女が会場の映像を見てそう呟く。

その部屋には、二人の少女の姿があり、また、白衣の男もくつくつと笑う。

(さあ、出てくるがいい葛城の仮面ライダー。私が創り上げたライダーによって、無様に敗北するが良い・・・!)

 

 

 

マリアの一言で、不安あるものの落ち着きを取り戻した会場では、攻撃する様子を見せないノイズが観客を囲んでいた。

「あ、アニメじゃないのよ・・・」

板場がそう呟く。

「なんで、また、こんな事に・・・」

安藤も、どうしてこうなったのか分からない様子だった。

「響・・・」

未来がそう呟く中、戦兎が腰にビルドドライバーを装着する。

「戦兎先生・・・」

しかし、ドライバーをつけたまま、戦兎は様子を見るように会場を見下ろしていた。

「あ、あの、戦兎先生?出ないんですか?」

板場がそう声をかけるも、戦兎は首を横に振る。

「だめだ。人質が多すぎる」

ノイズの数に対して、観客の数も相当なものだ。

「そっか・・・!」

「下手に戦って観客をパニックさせては、いらない被害を出す可能性があります。ですから・・・」

セレナがそう言う中で、戦兎は、ただ静かに状況を見極めていた。

 

 

 

 

その一方で、岩国の米軍基地からヘリで帰投している龍我たちにも、その様子は見ていた。

「どうなってんだこりゃあ・・・・」

先ほどまで歓喜に包まれていた会場は一辺、恐怖のステージへと早変わりしている様を、龍我、響、クリスの三人はヘリにあるテレビで見ていた。

「了解です。装者二名、仮面ライダー一名と共に、状況介入まで四十分を予定。事態の収拾にあたります」

ヘリの助手席で友里が本部からの連絡に応じている。

「聞いての通りよ。昨日を抜かずの三連戦になるけど、お願い」

友里の言葉に、三人は頷く。

「またしても操られたノイズ・・・」

「詳細はまだ分からないわ。だけど・・・」

「だけど?」

友里の言葉に、響が聞き返す。

「ソロモンの杖を狙った襲撃と、ライブ会場に出現したノイズが、全くの無関係とは思えない」

その友里の推察に、彼らは一抹の不安を覚えるのだった。

 

 

 

 

そして、ライブ会場にて。

「怖い子ね」

首の衣装を取り外しながら、マリアを睨みつける翼に、マリアはそう告げる。

「この状況にあっても、私に飛び掛かる機を伺っているなんて」

まさしく、歴戦の戦士である翼は、大胆不敵に佇むマリアをどうしようかと考えていた。

首の衣装の下には、緊急時を考えてギアを隠していたのだが、どうやら使う時が来たようだ。

だが―――

「でもはやらないの。観客(オーディエンス)たちが、ノイズからの攻撃を防げると思って?」

「くっ・・・」

一般人がノイズに触れればその時点でアウト、死だ。

だから迂闊に動けない。

「それに―――」

マリアが、会場に取り付けられた世界中のニュースを映すモニターを見やる。

「ライブの模様は世界中に中継されているのよ?日本政府はシンフォギアに対する概要を公開しても、その装者については秘匿したままじゃなかったかしら?ねえ、風鳴翼さん」

挑発的なマリアの言葉に、翼は毅然と言い返す。

「甘く見ないでもらいたい。そうとでも言えば、私が鞘走る事を躊躇うとでも思ったか!?」

その手の剣型のマイクを突きつけ、悠然と答える。

「フッ、貴方のそういう所、嫌いじゃないわ。貴方のように誰もが誰かの為に戦えたら、世界は、もう少しまともだったかもしれないわね」

そう、切実そうに語るマリア。

「なん・・・だと・・・?」

その言葉に、翼は首を傾げる。

「マリア・カデンツァヴナ・イヴ・・・貴様は一体・・・・」

「そうね、そろそろ頃合いかしら?」

いつものような口調に戻ったマリアが、その手のマイクを軽々と回転させて掴み取り、そしてそれを口に近付けた。

そして、()()()()

「私たちは、ノイズを操る力をもってして、この星の全ての国家に要求する!!」

高らかに告げられる、マリアの言葉。

「世界を敵に回しての交渉・・・!?これはまるで・・・」

「・・・宣戦布告」

苦い思い出を思い出しながら、戦兎はそう呟く。

「そして―――」

マリアは、その手のマイクを天高く投げる。

 

そして――――()()()()()

 

 

「―――Granzizel bilfen gungnir zizzl(溢れはじめる秘めた情熱)―――」

 

 

「これは―――!?」

その光景を目の当たりにして、翼は呆然とする。

 

今、彼女はなんと言った?

 

 

gungnir(ガングニール)と言ったのか?

 

 

 

黒いマントをなびかせ、黒い装甲をその身に纏った、世界の歌姫。

それは、紛れもない二課の持つものと同じ『シンフォギア』

そして、あるはずのない、もう一つの―――

「黒い・・・ガングニール・・・!?」

茫然とする最中で、ガングニールを纏ったマリアはマイクを口元に近付ける。

「私は―――」

そして、高らかにその正体を告げた。

 

「―――私たちは『フィーネ』!そう・・・『終局(おわり)』の名をもつものだ!」

 

 

 

 

 

 

今、世界の滅亡を賭けた戦いの幕があがった。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!

黒のガングニールを纏ったマリア。そして、彼女の発した『フィーネ』という武装組織。

それによって騒然とする会場において、ビルドこと桐生戦兎と緒川慎次が動く。

「オーディエンスたちを開放する!」

訳の分からない行動を起こすマリア。

「そんじゃあ、行きますか!」

そして戦場に躍り出るビルド。

「待っていたわよ、仮面ライダービルド」

しかし、そんなビルドたちの前に現れたのは、新たな仮面ライダーだった。

次回『その胸の想いは正義か偽善か』


「それこそが偽善」



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その胸の想いは正義か偽善か

切「ついにアタシたちも!」
調「名前、開放・・・!」
慧「おめでとう調、切歌」
シ「さてこれでF.I.S全員の名前が出たが・・・」
マ「首謀者は私ではあるんだけどQueen's of musicで起きた騒ぎの中、仮面ライダービルドである桐生戦兎は、どう対処しようか迷っていた」
翼「一方現場の風鳴翼は、生中継という視線の檻に囚われ、天羽々斬を纏えないでいた」
戦「その状況を打開する為、今、桐生戦兎は動くのだった!」
切「さてあらすじ紹介は終わったデスね」
一同「え?」
調「先生・・・覚悟・・・!」
戦「え?なんでお前らそんな殺意マシマシなの!?」
切「あの名前の恨み、忘れた覚えはないデス!」
調「農具って何?確かに稲刈りには役立つけど・・・」
マ「そういえば私の事もよくも『ただの やらしい マリア』略して『タヤマ』って呼んでくれたわねぇ・・・・」
戦「いやだってあれ以外呼び方ないだろ」
マ「せめて『黒グニール』のままにしなさいよ!」マリア・カデン粒子砲
戦「うぉぁぁぁあ!?」鋼のムーンサルト!
調「ビルド死すべし慈悲は無い!」ひき肉コンボ
戦「うぎゃぁぁああ!?」輝きのデストロイヤー!
切「今までの恨みぃぃい!!」金木犀の剣(千本桜)
戦「それ違う作品のや―――ひぃぃい!?」未確認ジャングルハンター!
慧「ついでにお前も・・・」
シ「待て。お前はまだライダーに変身していないんだからそれではネタバレになる」
響「あ、ああ・・・」
ク「はあ・・・じゃあ、波瀾起こりまくってる第二四話をどうぞ」
作「今回も丸一話分デス」
万「そんなに書いてて大丈夫なのかよ?」
作「大丈夫、自分のスタイルは書き溜めだから」サムズアップ
万「あっそう・・・」


黒いガングニールを纏った、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。

その存在は、その場にいる翼や戦兎だけでなく、二課の面子全員を驚かせた。

『我ら武装組織『フィーネ』は、各国政府に対して要求する』

マリアが、全世界へ向けて報道される中継に向けて告げる。

「そうだな・・・差し当たっては、国土の割譲を求めようか?」

「馬鹿な・・・・」

その行動に、翼は呆然と立ちすくむ。

「何考えてやがんだ・・・」

『もしも二十四時間以内に、こちらの要求が果たされない場合は、各国の首都機能がノイズによって不全となるだろう』

マリアの言葉に、戦兎は訝し気に睨みつける。

「はい・・・はい・・・人質がいるために下手には動けませんが・・・はい、分かりました・・・状況の変化次第、即時対応します・・・」

二課本部との連絡をするセレナ。

「どうだ?」

「仮面ライダーなら顔バレはありません。こちらの状況判断で動くようにとのことです。中継については、緒川さんが・・・」

「分かった」

戦兎はポケットからラビットフルボトルとタンクフルボトルを取り出す。

後は向こうのタイミング次第だ。

「一体どこまでが本気なのか・・・」

『私が王道を敷き、私たちが住まうための楽土だ。素晴らしいとは思わないか?』

ラビットフルボトルの効果で強化された聴覚で、ステージ上の会話は、マイクを使われなくとも分かる。

(だけどなんで国土の割譲だ?いくらなんでも現実的じゃねえだろ。アイドル大統領とでも呼べばいいのかこのウスラトンカチ!)

「戦兎先生、意外に苛立ってます?」

「ああ、こんなふざけた状況で何もできないという事に苛立ってるよくそったれ」

未来の言葉に、戦兎はぶっきらぼうにそう答える。

「何を意図しての騙りか知らぬが・・・」

翼がその手のマイクを握り締める。

「私が騙りだと?」

その言葉にマリアはマイクを使わずに応じる。

「そうだ!ガングニールのシンフォギアは、貴様のような輩に纏えるものではないと覚えろ!」

そう叫び、翼は、聖詠を唄い出す。

「な!?ちょっと待て!」

それを聞いて戦兎は慌ててボトルをスロットに入れようとする。

 

「―――Imyuteus amenohaba―――っ!?」

 

しかし、その聖詠が唐突に途切れる。

「ん?・・・緒川か!?」

おそらく緒川が連絡を入れて止めたのだろう。

確かに、今の状況で天羽々斬を纏えば、全世界に彼女がシンフォギア装者だとバレてしまう。

その状況は芳しくない。

「確かめたらどう?私の言った事が騙りなのかどうか」

マリアが挑発的に尋ねる。

しかし、翼は応じず。それに対してマリアは不敵に笑って見せる。

「なら―――」

そうして彼女の次の行動はこれだった。

『会場にいるオーディエンスたちを開放する!ノイズたちに手出しはさせない・・・速やかにお引き取り願おうか!』

「ハア!?」

これには流石の戦兎も驚く。

「一体何が・・・」

「まあ、どちらにしろこちらにとっては都合がいい。お前たちはこれに乗じて会場から出るんだ」

「戦兎先生は?」

「なに、動けないお姫様を助けにいくさ」

戦兎は不敵に笑って見せる。

それに未来とセレナは頷く。

「分かりました」

「先生、どうかお気をつけて」

そのまま二人は、板場たち三人を連れて会場を出る。

 

 

 

その一方で―――

『何が狙いですか?』

マリアの通信機に、一人の女性の声が入る。

『こちらの優位を放棄するなど、筋書には無かったはずです。説明してもらえますか?』

その厳しい口調に、マリアは答える。

「このステージの主役は私・・・人質なんて、私の趣味じゃないわ」

『死に汚れる事を恐れないで』

強い口調で、相手が言う。

しばしの沈黙――――

『・・・ふう、調と切歌、そして慧介を向かわせています。作戦目的をはき違えない範囲でおやりなさい』

「了解、マム。ありがとう」

その言葉を最後に、マムと呼んだ女との通信を終える。

 

 

 

 

避難は、順調に進んでいた。

 

 

「んじゃ、翼が戦えるようにするための準備はそっちに任せた」

『ええ。そちらも、時間稼ぎをお願いします』

「分かった。ま、仕留めてやってもいいんだが・・・そう簡単には行かなそうだな」

『ハハ・・・では、そちらは任せましたよ』

「ああ。頼んだ」

そうして緒川との通信を切る戦兎。

「そんじゃあ、行きますか!」

両手のボトルを振る。そして、周囲にありとあらゆる数式を浮かばせる。

十分にボトルの成分を活性化させた所で、ベルトのスロットにボトルを差し込んだ。

 

ラビット!』『タンク!』

 

ベストマッチ!』

 

ボルテックレバーを回し、スナップライドビルダーを展開させる。

 

『Are You Ready?』

 

覚悟は、良いか?

 

そんな何百回も聞いた問いかけの答えは、既に出ている。

 

「変身!」

 

ファイティングポーズと共にそう叫び、展開されたスナップライドビルダーで形成された装甲をその身に纏う。

 

鋼のムーンサルトラビットタンク!』

 

その身に赤と青の装甲を纏い、戦兎は左足の脚力を使って、一気にステージに飛ぶ。

そのまま床を踏み砕きながら、マリアと翼の間に着地した。

そして、その複眼の奥からマリアを睨みつけた。

「―――待っていたわよ、仮面ライダー」

そしてマリアは、不敵に現れたビルドを見つめていた。

「俺の事を知っているのか?」

実は仮面ライダーの事は公表されてはいない。

理由は、フルボトルが聖遺物以上に未知のアイテムであるという事だ。そして、ライダーシステムを悪用する輩が現れないとも限らない。

この世にネビュラガスがないとはいえ、フルボトルの存在が知られればそれを奪いに来る輩が現れるかもしれない。

フルボトルは、いわば聖遺物以上のロストアイテム。そんなもの、どの国だって喉から手が出る程欲しいものだろう。

「ええ、こちらにも仮面ライダーに詳しい人がいるからね」

「なんだと・・・?」

仮面ライダーに詳しい?それはつまり、自分と同じ『世界の異物』として旧世界の記憶を持ち込めた人間だとでもいうのか?

そんな人間が、他にいるというのか。

「どうやらお前には色々と聞かないといけないようだな・・・」

ドリルクラッシャーを取り出し、それをマリアに向ける。

「そう急くな。丁度いい機会だし、()()()()()()()()()()も紹介してあげる」

「何・・・!?」

今、なんと言った。

 

こちらの仮面ライダー、と言ったのか。

 

「シン」

マリアが呼ぶ。

すると、ステージの裏側から、一人の大きな長方形のケースを背負った男が歩み出てくる。

「お前は・・・!?」

その男に、翼は目を見開く。

「知ってるのか?」

「マリア・カデンツァヴナ・イヴのマネージャーのシン・トルスタヤだ」

「マネージャー?」

ビルドはその男を見やる。男は、ビルドを見つめつつ。マリアの斜め前に立つ。

その腰には、見た事のないベルト―――

「それは・・・!?」

男はそのベルトのグリップを掴むと一度引いて、もう一度押し込んだ。

 

『Ready』

 

無機質な電子音声が鳴り、ベルトから待機音が流れ出す。

その状態で、シンはトリガーを引く。

 

「変身」

 

『Penetration Armor Type-Empty』

 

次の瞬間、シンの周囲に無数の鎧が展開され、それが彼の体に着装される。

そうして組みあがったのは一人の鎧戦士。

顔面はv字のバイザーで覆われ、全身を黒い装甲で覆い、どこかスリムで無機質なデザインのボディ。

戦兎(ビルド)の見た事のないベルト。そして、それによって現れた、謎の戦士。

「仮面ライダークライム・・・彼こそが、私たちフィーネの仮面ライダーよ」

マリアが、そう告げる。

「仮面ライダー・・・だと・・・?」

翼が、拳を握りしめ、怒りを込めた声で呟く。

「仮面ライダーは、誰かの為に戦い、守り抜き、愛と平和の為に戦う戦士だ!お前たちのような輩が軽々と名乗っていいものじゃない!!」

それは、彼の―――ビルドへの侮辱に等しい。少なくとも翼にとっては、それと同等の事だった。

「・・・・であるならば」

ふと、黒い仮面ライダー『クライム』がそう呟いた。

「何故世界から争いがなくならない?」

その言葉に、翼は言葉を詰まらせる。

しかし、その言葉にビルドが答える。

「確かに、愛と平和というのは、世界で最も弱くて、脆い言葉だ。そんな言葉で戦争はなくならないのかもしれない・・・だけど、だからこそ俺はこの力を使って争いを止める。力をもってしまったから。そして、誰かを守れる力を持っているから」

ドリルクラッシャーを掲げ、ビルドはそう高らかに言ってのける。

「桐生・・・」

「ありがとうな。そう言ってくれて嬉しかったぜ」

「・・・ああ」

ビルドの言葉に、翼は笑って答える。

「そうか・・・」

ふと、クライムが呟く。

「それがお前の信念か」

「ああ、俺はこの力を、愛と平和の為に振るう」

「であるならば―――」

クライムが、背中のケースに手を伸ばし、そこから突き出ている突起を掴み取る。

そこで、翼は一つ違和感を覚える。

(あの突起物、何かに似て・・・)

そして、それを掴み取った瞬間―――

「ッ!!剣だ!」

「ッ!?」

翼が叫び、ビルドが防御態勢に入る。

次の瞬間、掲げたドリルクラッシャーに凄まじい衝撃が迸る。

「ぬぐあ・・・!?」

「その信念、どこまで本気か試してやる」

気付けば、クライムから斬撃を振り下ろされていた。そして、その手には一本の剣。

やや曲がった形状の諸刃の刀身。それは、機械的に作られた剣。

そして、僅かに聞こえる、不快な音。

「高周波ブレードか・・・!」

「その通りだ」

剣を弾き、すかさず追撃の一撃が迫る。それをどうにか飛び退って躱すも、凄まじい連撃がビルドを襲う。

「桐生・・・!」

(あの男・・・出来る・・・!)

剣の太刀筋から見て我流だが、その冴えは翼から見てもあまりにも洗練されたものだった。

おそらく、あの装甲はライダーの身体能力に追いつくためのものに過ぎない。そして、その身を敵の攻撃から守るためのもの。

彼はその気になれば、剣だけでビルドを圧倒出来る程の実力を秘めているのだ。

「なっろぉ・・・!!」

「くっ・・・!」

ビルドが苦戦している。翼は思わず胸のペンダントを握りしめ、前に出ようとするも、そんな彼女のすぐ傍にはガングニールを纏ったマリアが立ち塞がっている。

そして、世界中が彼女を見ている。

下手に動けない。

その状況に、翼はただ悔しそうに歯を食いしばる事しか出来なかった。

 

 

 

 

その一方で、

(今は戦兎さんが足止めしてくれているとはいえ、翼さんは未だ世界中の視線に曝されている。その視線の檻から、翼さんを解き放つには・・・)

「うわっ、人がきてっぞ!」

「こっちデス!」

ふと、どこからともなく声が聞こえてきた。見上げてみれば、階段の上から三人の人影が見えた。

(まだ人が・・・?)

そう思い、緒川はそちらに向かって走り出す。

その一方で、その人影三人の方では。

「やっべえアイツこっちに来るデスよ!」

小声で他の二人にそう耳打ちするのは金髪の少女の『(あかつき)切歌(きりか)』。

「どうすんだよ!?ここで計画がおじゃんになったらマムに怒られるだけじゃすまないぞ!?」

その一方で慌てている童顔の彼らより身長の高い『涼月(りょうげつ)慧介(けいすけ)』。

「大丈夫だよ切ちゃん、慧くん。いざとなったら・・・」

そして、胸のペンダントを取り出して見せる黒髪ツインテールの少女は『月読(つくよみ)調(しらべ)』。

この三人が物陰に隠れていた。

「うぉぉ!?何それ出してんだ調!」

「穏やかに考えられないタイプデスか!?」

ちなみに『!』は出てますが小声です。

調が取り出したものを慌てて仕舞わせる。

「どうしたんですか!?」

「うぇえ!?」

が、そうこうしている間に緒川に見つかる。

「早く避難を!」

「あーえっとデスね~」

切歌がどう言い訳しようかと考えていると、慧介が作り笑いで緒川に言う。

「じ、実は彼女がトイレ行きたいって言ってまして、それでトイレ探してたんですけど色々と迷っちゃって・・・」

と、何故か緒川をじーっと見つめる調の前に立ちながら慧介はそう言い訳をする。

「そ、そうですか・・・では、用事を済ませたら、非常口までお連れしましょう」

「ああいえお構いなく!ここらでぱぱっと済ませるので・・・」

「分かりました。でも気を付けてくださいね」

緒川も緒川で急ぐ理由があったために深くは追及せず、さっさと行ってしまう。

「は、はい、そっちも・・・」

そうして緒川が完全にどこかに行った事を確認すると、慧介と切歌はそろって安堵の息を吐いた。

「ど、どうにかなった・・・」

「デス・・・」

「じ~~・・・」

「ん?どうした調?」

「私、こんな所で済ませたりしない」

「ああ・・・」

調の言い分に苦笑いを浮かべる。

「でもお前がいきなり物騒な事を言うからだぞ?」

「あれが一番最善だと思った」

「そのジェノサイド思考から少しは離れようか」

「全く、調を守るのはアタシの役目とは言え、いつもこんなんじゃ体がもたないデスよ?」

「もう少し良い教育しておけばよかったかな・・・」

「ふふ、いつもありがとう。切ちゃん、慧くん」

そうお礼を言う調。

「さて、こっちも行くとしますデスかね」

「ああ」

「うん」

そうして、二人は走り出す。

 

「―――ビルドから()()()()()()デスよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっろ・・・!!」

クライムという仮面ライダーは重いくも細かい斬撃と、恐ろしいまでの小回りの利く地上高機動。

まるで黒い疾風。そのスピードに対抗するには―――

「だったらコイツだ・・・!」

片手にある缶型のアイテムを振る。まるで炭酸が溢れるような音が響き、そのまま片手でプルタブパーツ型のスイッチを起動する。

そのまま元から装填されていたボトルとそれを交換した。

 

ラビットタンクスパークリング!』

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

シュワッと弾けるラビットタンクスパークリング!イェイイェーイ!』

 

ビルド・ラビットタンクスパークリング。

泡による破裂で加速できる―――!!

「オオ!!」

「ッ!?」

加速したビルドドリルクラッシャーによる一撃を受け止めるクライム。

しばしの鍔迫り合い。しかし、すぐさま互いに弾き飛ばし、そこから二人の高速戦闘が展開される。

ステージの上で、いくつもの金属の衝突音が鳴り渡る。

「桐生・・・」

「随分と余裕ね」

「!」

マリアが話しかけてくる。

「観客は皆退去した。もう被害者が出る事はない。それでも私と戦えないというのであれば、それは貴方の保身の為」

「くっ」

「貴方は、その程度の覚悟しか出来てないのかしら?」

マリアに指摘されて、翼はただ歯噛みする事しか出来ない。

ふと、マリアが剣型のマイクを構える。

そして次の瞬間、そのマイク―――否、剣を翼に向かって突き立てる。

それを翼はどうにか逸らす。やはりシンフォギアの身体強化が効いている。

「翼・・・!」

「余所見をしている場合か!」

「ぐぅ!?」

ビルドは手助けに行くことが出来ない。

翼はマリアの放つ連撃を防ぎ続けるも、突如としてマリアがマントを翻す。

そのまま回転し、そのマントの裾を、一陣の刃の如く振るう。

それを剣で受け止めるも、予想以上の切れ味に翼は思わず体を反らして躱す。

(マントが武器になるのか・・・!?)

どうにか距離を取るも、その手の剣は折れて使えない。

それを見て、翼はそれを投げ捨て、徒手空拳のように構える。

「翼!」

そこでビルドが四コマ忍法刀と忍者フルボトルを投げる。

「すまない!」

それを受け取り、翼はその刃をマリアに向ける。

それでもなお、マリアは自分の優位は覆らないとでもいうかのように、その刃を振るう。

 

 

 

「中継されている限り、翼さんはギアを纏えない・・・!」

ヘリから見れる中継を見ながら、響はそう声を挙げる。

「どうすんだよ・・・!」

「おい!もっとスピードあがらないのか!?」

「あと十分もあれば到着よ!」

未だ何も出来ない事に、彼らはただ戦いを見る事しか出来ない。

 

 

 

 

二つの剣戟が繰り広げられる。

クライムとビルドが繰り広げる高速戦闘。ステージ全体を駆け抜けるような戦いは、まさしく苛烈の一言に尽きる。

その一方で、翼とマリアは、ギアの装着と非装着という決定的アドバンテージの差故か、ボトルによる強化をもってしても押されている一方的な展開を見せていた。

(せめて、ギアを纏えれば・・・!)

マリアの猛攻を防ぎつつ、翼は思考する。

そして、下がりながら戦っていたからか、ステージの端に辿り着き、その視界にステージの裏側へ続く通路を見つける。

(カメラの眼の外に出てしまえば!)

それを認識し、翼は左肩のマントを目隠しのように脱ぎ捨てマリアに向かって投げる。

そして、マリアの視界が遮られると同時に、翼はステージ裏に向かって走り出す。

マントを振り払い、それを見たマリアは翼に向かってその手のマイクを投げる。

それを翼は飛んで躱し、そのままステージ裏に駆け込もうとした所で、踏み出した足の靴のヒールが―――折れた。

「な・・・」

「貴方はまだ、ステージを降りる事を許されない」

一瞬の動揺。それによって許してしまった、マリアの接近。

マリアの足が迫る。

「くっ・・・」

ギリギリの所で四コマ忍法刀で防ぐも、その脚力によって、大きく蹴り飛ばされ、ステージから出てしまう。

そこには、ノイズが待ち構えていた。まるで翼に群がるようにだ。

「ッ!?勝手なことを!」

それを見て、マリアは驚き、翼はそのまま落ちていく。

(決別だ・・・歌女であった私に・・・)

その状況を見て、翼は、諦めた。

そして、落ちる中、翼は叫ぶ。

「聴くが良い!防人の歌を!!」

 

 

 

「おらぁあ!!」

その一方でビルドはホークガトリンガーを乱射していた。

その弾丸の嵐を、クライムは自ら突進。そして、一切スピードを衰えさせず、迫り来る弾丸を全て叩き落していた。

「なんだと!?」

「ハアッ!!」

下段から刃が迫り、それを間一髪で躱す。しかし、返す刃は躱しきれず、その身に一太刀受ける。

「うぐっ・・・」

「セェイッ!!」

そしてすかさず、もう一度斬撃を喰らい、弾き飛ばされる。

「があっ!?」

飛ばされて床を転がる。

(つ、強い・・・!?)

想像以上の強さに、ビルドは戦慄する。

おそらく、システムの優位なら、こちらの方が上だ。だが、その差を一気に埋める程の戦闘技術が、彼にはあるのだ。

(一体どうやったらこんな強さを・・・!?)

ふと、ビルドの視界に見覚えのあるものが映る。

「あ・・・!?」

それは、フルボトルだ。それも二本。

「やべえ・・・!」

ビルドが取りに行こうとする前に、クライムがそれを拾う。

「・・・狼と虎か・・・」

そう呟いたクライムは、その二本のフルボトルをしまった。

「それをどうするつもりだ・・・!?」

「簡単な話だ」

クライムがビルドの問いかけに答える。

「使う」

そして、すぐにビルドに斬りかかった。

 

 

 

 

そして、翼が落ちていく最中――――突如として映像が切れ『NO SIGNAL』と表示される。

 

「ええ!?なんで消えちゃうんだよぉ!」

その瞬間を、響たちは見ていた。響は驚いてテレビの故障かなんかとテレビに齧りつく。

「現場からの中継が切断された?」

友里が、携帯端末を見て、そう呟いた。

「いや待て!?映像があったから、翼は変身出来なかったんだよな?」

「って事はつまり・・・?」

「ええ」

「え?え?」

響だけは唯一分かっておらず、他の者たちは、不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

そして、翼が―――歌を唄う

 

 

「―――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)―――」

 

 

光が迸り、その身に蒼き鋼の装甲を纏う。

 

シンフォギア『天羽々斬』の起動である。

 

シンフォギアを纏い、非装着という弱点を克服した今、風鳴翼に恐れるものは何もない。

自らノイズの集団を駆け巡り、その一陣の刃を振るう。

会場を埋め尽くしていたノイズの集団を、その手の刃で駆逐し尽くしていく。

「中継が遮断された・・・!?」

そして、マリアは今起きている事態に驚いていた。

翼がシンフォギアを纏うためには世間の視線を断つ必要がある。

だからこそ、その優位性のままに、翼を追い詰めようとしていたが、それが遮断された事によって、翼は身軽に刃を振るう事が出来る。

 

 

そして、映像を管理している施設に、緒川はいた。

「シンフォギア装者だと、世界中に知られて、アーティスト活動が出来なくなってしまうなんて、風鳴翼のマネージャーとして、許せる筈がありません・・・!」

息を挙げて、緒川はそう言った。

 

 

 

そうして、全てのノイズを殲滅、再びステージの上に立つ。

刀の切っ先を向け、翼はマリアと対峙する。

その翼をマリアは笑いながら見つめる。

「いざ、推して参る!」

そう叫んだ直後、一際すさまじい衝撃が鳴り響き、二つの影が二人の側に降り立つ。

「ハア・・・ハア・・・」

一方は息を挙げて呼吸をするビルド。

「・・・・」

もう一方は何気に平然としているクライム。

「大丈夫か?」

「ああ・・・くっそ、意外に強いぞアイツ」

翼の言葉に、ビルドはそう答える。

「シン、どう?」

「意外に粘ってくる。ハザードレベルにそれ程差はない筈だが・・・」

一方のマリアとクライムは若干の優位を感じてもいない。

「やはり、マリアが楽屋に来た時にはいなかったが、こうしてみると明らかに手練れだという事が分かる・・・」

「お前から見てもそう思うか・・・」

並び立ち、二人は武器を構える。

「どうにかしてシンの方を抑えてくれ。そうすればこの剣をもって奴を仕留める」

「分かった。頼んだぞ」

互いに頷き合う。

「作戦会議は終わったかしら?」

ふとマリアが挑発的に話しかけてくる。

「心配するな。今終わった所だ!」

翼が飛び出す。

その翼の前にクライムが立ちはだかる。しかし、そこへビルドがクライムを横から押し出す。

「ぐっ!?」

「お前の相手は俺だ!」

ビルドがクライムを抑える。その間に、翼はマリアを仕留めにかかる。

翼の振るう剣の連撃を躱すマリア。そして、攻撃の瞬間に生まれた隙にマントの一撃を叩き込んで下がらせる。

随分と使い勝手がいい。何より、翼の刃に叩きつけられた一撃に、翼は思い知る。

「このガングニールは、本物!?」

「ようやくお墨をつけてもらった。そう、これが私のガングニール!なにものをも貫き通す、無双の一振り!!」

マリアが仕掛ける。

マリアのマントから繰り出される一撃一撃を、翼はその技量をもって凌ぐ。

「だからとて、私が引き下がる道理など、ありはしない!!」

その一方で、ビルドとクライムの戦いも熾烈を極めていた。

クライムの放つ連撃、それをビルドは泡の破裂による瞬間加速で躱していた。

そして、一気にクライムの間合いから離れ、ハリネズミフルボトルを装填したドリルクラッシャー・ガンモードとホークガトリンガーの射撃を放つ。

それをクライムは正面から叩き伏せる。

「どうなってんだよお前のその剣技は!?」

「忍びの如く走り、立ち塞がるものをありとあらゆる手段でねじ伏せているだけだ」

状況的に、ビルドが不利なのは変わりがなかった。

(くそ!ボトルを奪われたのもそうだが、こいつたぶん素でかなり強い・・・おそらくライダーシステムはコイツの身体能力のただの延長に過ぎねえ!)

振りかざされる刃、それを両手の武器で防ぎ、さらに距離を取って撃ちまくる。

それでもクライムは止まらない。

「くっそ!」

「遅い!」

クライムの斬撃がビルドの右側から迫る。

「オッラァ!」

それに対して、ビルドは右腕のブレード『Rスパークリングブレード』を叩きつけて弾き飛ばす。

弾き飛ばした所で地面に片足をつける。そこでもう一度泡を炸裂させてクライムに接近する。

その手にはすでにブレードモードにしたドリルクラッシャーと持ち替えた四コマ忍法刀を持っていた。

そのまま剣戟に持ち込む。

クライムの放つ高速斬撃に対して、ビルドは四コマ忍法刀を盾にするように使い、ドリルクラッシャーで攻撃を仕掛けるような戦法を取る。

激しい打ち合いが繰り広げられる。

その最中だった。

『マリア、シン、お聞きなさい』

マムからの通信である。

『フォニックゲインは、現在二二パーセント付近をマークしてします』

「なっ・・・」

その言葉にクライムは思わず動揺する。

「ッ!オラァ!!」

そこへすかさずビルドが斬り込み、また、同様に隙を見せたマリアに翼が仕掛ける。

「私を相手に気を取られるとは!」

取り出した二対の剣、その柄を連結させて双身刀にするや、掌の上で高速回転。その切っ先に炎を燃え上がらせ、まるで輪入道のように振るう。

そして、足のブースターによって床を滑り、一気にマリアに突っ込み、その回転と炎を纏ったまま、マリアを一刀の下斬り伏せる。

 

風輪火斬

 

それと同時に、ビルドの連撃がクライムに叩き込まれる。

「オォォオオ!!」

右足、左足、左の斬撃、右の斬撃、そして、交差させる二刀同時の振り下ろし。

「ぐぅあ・・・!?」

吹き飛ばされ、床を転がるクライム。

「話はベッドで聞かせてもらう!」

そしてその間に、翼は止めを刺すべくマリアに二撃目を叩き込もうとする。

だが、そこでビルドは気付く。

「翼、後ろだ!」

「ッ!?」

背後から、無数の円盤。それらが翼に向かって襲い掛かる。

翼は思わず立ち止まり、その円盤を双身刀をもって防ぐ。

 

 

「―――首を傾げて 指からするり 落ちてく愛をみたの」

 

 

α式 百輪廻

 

 

歌が、響き渡る。

それは静謐にして過激な歌。

薄紅と黒のシンフォギアを纏った少女の頭部に取り付けられたギアから放たれる無限軌道の鋸。

その少女の背後から、今度はダークグリーンと黒のシンフォギアを纏った少女が鎌を携えて飛び上がる。

そしてその刃を複数に分けて、構える。

「行くデス」

そして、その刃を鎌を振るうのと同時に放つ。

 

切・呪リeッTぉ

 

放たれる二の刃。それが弧を描いて鋸の乱射を防いでいる翼に迫る。

その刃が翼に直撃する、その寸前、ビルドが掻っ攫って直撃を避ける。

「あっぶな!?女の子のくせしてなんか相当バイオレンスな武器を持ってるんだが!?」

「私が知るか!?」

そして、二人の装者がマリアと翼、ビルドの間に立つ。

「危機一髪」

「まさに間一髪だったデスよ!」

装者が、三人。

「面倒くさい事になったな・・・」

「装者が三人・・・!?」

ビルドと翼は武器を構えつつそう呟く。

「調と切歌に救われなくても、貴方程度に遅れをとる私ではないんだけどね」

「人の事は言えないが、十分に遅れを取っていただろう」

「う、うるさい!貴方は黙ってて!」

「はいはい、夫婦喧嘩はそこまでにして」

「夫婦じゃない!」

「まだって付け加えてればさらに弄れたのに・・・」

「殴るわよ流石に!」

「ご、ゴメンナサイデース!」

何やら目の前でショートコント染みた会話が繰り広げられているが、状況が芳しくないのは事実。

 

―――の、ように見える。

 

「貴様のような奴はそうやって・・・」

翼が、言い放つ。

「見下ろしてばかりだから勝機を見落とす!」

「・・・ッ!?上か!」

見上げれば、既に二人の装者がヘリから飛び降りていた。響とクリスである。

「土砂降りな!十億連発!」

 

BILLION MAIDEN

 

クリスから放たれるガトリング砲の嵐。

それを調と切歌は左右に避け、マリアはマントを硬質化させて弾丸の雨を防ぐ。そしてクライムは、なんと雨に逆らって飛び上がってきていた。

弾丸も全て自らの剣で一発の漏れなく叩き落している。

そのまま、落下してくるクリスに斬撃を叩き込もうとした途端、クリスが不敵に笑い、響と同時に押し合い、空中で避けると、その背後からクローズイチイバルがブラストシューターの銃口を向けていた。

「クローズッ!?」

放たれる弾丸、予想外な死角からの攻撃。それをクライムはどうにか防ぐも、威力故か飛び上がる為の勢いを削がれる。

 

『Set Up!Blast Blade!』

 

そして叩きつけられる光刃。

「テメェの相手は俺だ!」

「くっ・・・」

そのまま空中で乱撃。

その間に響が足のガジェットを炸裂させて地面に向かって加速、その拳をマリアに向かって叩きつける。

それをギリギリの所で躱されるも、すぐさま翼とビルドを掻っ攫って距離を取る。

クローズの二刀の斬撃がクライムを下にしたまま斬撃を重ねる。

しかし、ここでクライムが振り下ろされたクローズの左手首を掴み、そのまま引っ張る。

それと同時に、何故かその手の高周波ブレードを()()()

その刃はそのまま空中を舞い、クローズとクライムの高さが同じになった瞬間―――

 

()()()()()()()ブレードでクローズを叩き落した。

 

「ぐおあ!?」

そのままビルドたちの所へ落下する。

「龍我!」

「いってて・・・大丈夫だ。ギリ防いだ」

どうにかクローズが起き上がった所で、彼らは対峙する。

フィーネと名乗った武装組織の装者と仮面ライダー。

特機部二の保有する仮面ライダーと装者。

その二勢力がここに集結した。

「やめようよこんな戦い!」

そこで響が説得を始めた。

「今日出会った私たちが争う理由なんてないよ!」

しかし、その言葉が、調の琴線に触れる。

「ッ・・・そんな綺麗事を・・・」

「え・・・」

響にはどういう事か分からない。

「綺麗事で戦う奴の言う事なんか、信じられるものかデス!」

切歌が、刃を向けてそう叫ぶ。

「そんな、話せば分かり合えるよ!戦う必要なんて―――」

「―――偽善者」

調の怒りの籠った言葉が響く。

「この世には、貴方のような偽善者が多すぎる・・・!!」

敵が、動く。

「・・・・偽善、か」

ふと、ビルドが呟く。

 

「―――だからそんな世界は伐り刻んであげましょう!!」

 

調の歌が鳴り渡り、放たれた無限軌道の鋸の機関銃弾が放たれる。

茫然と立ち尽くす響に向かって放たれたそれを、ビルドがホークガトリンガーをもって迎え撃つ。

 

FULL BULLET!』

 

無数に放たれる鷹の弾丸。

それらが狙い違わず調の放った刃を叩き落す。

「ぼさっとするな!」

「え・・・あ・・・」

クリスとクローズが両側に出て、彼女たちに向かって銃撃を放つ。

「偽善だがどうだか知らねえけどな!俺たちはそもそも愛と平和の為に戦ってんだ!それが偽善だとか言わせねえっての!」

足のホイールを回転させて、クローズが前に出る。

他の者たちもそれぞれの相手に応戦する。

その最中、調が響を集中的に攻撃してきていた。その頭のアームドギアを展開し、巨大な無限軌道の鋸を高速回転させて響を切り刻むべく振るう。

「わ、私は、困ってる皆を助けたいだけで、だから―――」

「それこそが偽善・・・!」

調の、なおも厳しい言葉が響に突き付けられる。

「痛みをしらない貴方に、誰かの為になんて言ってほしくない!!」

 

γ式 卍火車

 

今度放たれたのは巨大な円盤鋸。

「あ・・・」

それが、響に向かって迫る。

その円盤鋸が、響に叩きつけられようとした、その瞬間―――

 

輝きのデストロイヤーゴリラモンド!イェイ・・・!』

 

ビルドの放った剛腕が、その二つの円盤鋸砕く。

「「ッ!?」」

それに、二人は驚き、すかさずゴリラモンドフォームに変身したビルドが調に迫る。

「くぅ!」

叩きつけられた拳の重さに、調は顔を歪める。

そのまま大きく後退させられるも、ビルドは追撃しない。

代わりに、彼女に問いかけた。

「・・・偽善って言ったな」

「・・・?」

「確かに、お前らから見たら俺たちのやってる事は偽善かもしれない・・・だけど、俺は本気でこの力を誰かの為に使おうって思ってる。その想いに嘘はない」

「ッ・・・人の痛みも知らないで・・・!」

「分かるさ。痛いくらいに」

調の言葉を遮って、ビルドは言う。

「誰かを失う痛みも、誰かに裏切られる痛みも、誰かを救えなかった痛みも、誰かを死なせてしまった痛みも、全部分かる・・・」

自分の手を握りしめて、ビルドは調に語り掛ける。

「貴方は・・・」

その言葉に、調は、思わずたじろぐ。

「お前は、一体なんの為に戦ってるんだ」

「え・・・」

「俺は、愛と平和の為に戦っている。そんなもの、叶う訳がないというかもしれないけど、俺は本気でそれを貫き通すつもりだ。何故なら俺は、その為だけに科学者になったんだから」

戦兎は、調に歩み寄る。

「もし、出来る事なら―――俺にお前たちを、救う事は出来ないのか?」

ビルドは、調の間合いで、そう語り掛ける。

「・・・・」

調は、そのビルドの言葉にしばし茫然とする。そのうち俯いて、体を震わせる。

「・・・・う」

そして――――

「うるさい!!」

調が鋸を展開してビルドを攻撃する。それをビルドは距離を取って躱す。

「貴方に・・・私たちの何が分かるというの!!」

頭のギアから、再び円盤型鋸を無数に放つ。

ビルドは、それを地面を叩いて鉄板を叩き起こし、それを防ぐ。

するとすかさず、その鉄板がいきなり宝石へと変わる。

「え・・・」

 

ボルテックフィニッシュ!!』

 

砕かれた宝石の板。

そこから放たれる、宝石の散弾銃。

それを調は慌てて巨大鋸で防ぐも、威力が思った以上に強く、鋸が砕かれて宝石が炸裂する。

「きゃぁあぁああ!?」

吹き飛ばされて、しかし直撃は幸いにもなく、どうにか持ち直す。

そして視界の先に、右手を突き出すビルドを見た。

「だから―――」

ビルドは、調に向かって言い放つ。

「知ろうとするんだ!」

「・・・ッ」

ビルドの、真っ直ぐな言葉に、調は言葉を失っていた。

 

 

「ぐおあ!?」

一方のクローズはクライム相手に苦戦していた。

クローズイチイバルはその攻撃力と機動力の高さから防御力に乏しい弱点を抱えている。

クライムの動きはクローズイチイバルの高機動に対応しており、苦戦を強いられていた。

「くっそ!」

「無駄だ。お前では俺には勝てない」

クライムの冷酷な一言。

「そうかよ・・・だったら、こいつだ!」

クローズは、その懐からスクラッシュドライバーを取り出す。

そう、掲げた瞬間だった―――。

 

何者かがクローズの背後からスクラッシュドライバーを掠め取った。

 

「と、取った!取れたぞ!!」

それは、一人の少年だった。

「・・・ん?え?・・・ああ!?」

数秒遅れてクローズはスクラッシュドライバーを奪われた事に気付き慌てだす。

「スクラッシュドライバーを取られたぁ!?」

「はあ!?何やってんだよ!?」

クローズ渾身の失態。それにクリスが怒鳴る。

「慧介、よくやった」

「何、こんな事じゃまだまだだ!」

慧介と呼ばれた少年は得意げに言って見せる。

そして、それはビルドたちの方にも聞こえてきた。

「スクラッシュドライバー・・・奪えたんだ」

「なんだと・・・!?」

ビルドが、明らかに動揺しているのが分かった。

それは、奪われた事に対してではない。

「くそ!」

ビルドは思わず走り出す。しかし、その前に切歌が立ちはだかる。

「させないデスよ!!」

鎌の一撃がビルドを襲う。その一撃をビルドは左腕で受け止める。宝石において最高級の硬さを誇るダイヤモンド並みの防御能力を持つフローレスガードアームは、切歌の刃を通さない。

「そこをどけ!あれは、あのドライバーは―――!」

そこで、ステージ中央で、光が迸った。

そして、見るも大きなノイズが出現する。

「わぁぁあ・・・・何あのでっかいイボイボぉ!?」

「なんか醜いなアレ!?」

「・・・増殖分裂タイプ・・・」

「こんなの使うなんて、聞いてないデスよ!」

「でも逆に都合がいい。目的の一部は達成している」

そこでクライムらフィーネ側に連絡が入る。

『五人とも引きなさい。当初の目的の半分は達成しているのです。今はこれで良しとしましょう』

「・・・分かったわ」

マリアが動く。その手のアームドパーツを変形させ、それを一振りの槍へと変形させる。

「アームドギアを温存していただと!?」

すかさず、マリアが槍を出現した巨大ノイズに向ける。

その槍の穂先から粒子の砲撃が放たれ、ノイズを穿った。

 

HORIZON♰SPEAR

 

貫かれたノイズは、そのまま爆発四散する。

「おいおい、自分らで出したノイズだろ!?」

何故そのような行動を取るのか。

四散したノイズは、その体を無数にばら撒く。そして、その最中で彼らは逃げていく。

「ここで撤退だと!?」

「おいコラ俺のベルト返せ!!」

クローズが指差しながら叫ぶも彼らは止まらず。

「くそっ・・・すぐに追いかけないと、あのベルトは・・・!!」

ビルドが彼らを追いかけようとした時、ビルドは気付く。

散らばったノイズが、いきなり増殖してきたのだ。

「ノイズが・・・」

「なんだこれ!?増えてんのか!?」

どんどん大きくなっていくノイズ。

まるで急速な細胞分裂をしているかのような。

「ハア!!」

翼が斬撃をそのノイズに叩きつけるも、炭化したものより増殖したものの方が明らかに多かった。

「コイツの特性は、増殖分裂・・・!」

「つまりどんだけ倒しても増えちまうって事か!?どうすんだよ!?」

「このままじゃそのうちここから溢れだすぞ!」

「くっ・・・!」

ビルドが歯噛みする中、緒川から連絡が入る。

『皆さん聞こえますか!?会場のすぐ外には、避難したばかりの観客たちがいます!そのノイズをここから出す訳には・・・・』

「アイツらを追いかけられないってことか・・・くそっ!」

思わず悪態を吐くビルド。

「すぐに取り返さなくちゃいけないってのに・・・!」

「観客・・・皆が・・・!」

クローズは自分の失態を恥じ、響はこのライブに来ていた友達の事を思う。

「迂闊な攻撃では、いたずらに増殖と分裂を促進させるだけ」

「どうすりゃいいんだよ!」

「せめてナックルさえ使えれば・・・!」

クローズマグマの大火力ならあのノイズの増殖を抑えつつ焼き尽くす事が出来る。

だが、マグマナックルは故障で使えない。

であるならば―――

「・・・絶唱」

響が、そう呟く。

「絶唱です!」

「まさか、アレを使う気か?」

「あのコンビネーションは未完成なんだぞ!?」

クリスの言葉に、響は頷く。

「確かに、アイツの増殖を上回る一撃を放てるあれならどうにかなるかもしれないが、それでもお前への負荷はすさまじいぞ?」

「それでも、今やらなくて、いつやるんですか!?」

ビルドの言葉に、響はそう言い返す。

それに、ビルドは黙り込み、そして頭を掻いて、折れた。

「あー分かったわかった。じゃあ俺と万丈でどうにか抑えっから、任せたぞ」

「ありがとうございます!」

ビルドに礼を言い、響と翼、クリスは互いに頷き合う。

「万丈、やるぞ」

「その、戦兎・・・」

「ドライバーを取られた事については後だ。今は、この気色悪い奴をやるぞ」

「・・・ああ」

ビルドの言葉に、クローズは申し訳なさそうに答える。

「俺たちは散らばった奴を片端から片付けていく。絶唱が終わるまで邪魔をさせなければいいから無理して倒そうとするなよ」

「おう!って迂闊に攻撃したらやばいんじゃ・・・」

「細かく刻めばちゃんと炭になるから。ほら、行くぞ!」

そう言ってビルドは左腕を増殖していくノイズに掲げる。

するとそのノイズは一瞬にしてダイヤへと変わり、それを右腕の剛腕で砕く。するとそのダイヤは一瞬にして炭となって消える。

その一方でクローズは両手の剣をとにかく我武者羅に振って三人に近付こうとするノイズを片付けていく。

そして、その間に、装者三人が、響を中心にして手を繋いだ。

「行きます!『S2CA・トライバースト』!」

そして、彼女たちは、歌う。

 

「「「―――Gatrandis babel ziggurat edenal―――」」」

 

S2CA―――正式名称『Superb Song Combination Arts』―――『超絶合唱技』。

 

「「「―――Emustolronzen fine el baral zizzl―――」」」

 

『トライバースト』装者三人の絶唱を重ね合わせ、協奏曲として調律・制御するS2CAの最大の大技。

 

「「「―――Gatrandis babel ziggurat edenal―――」」」

 

『手を繋ぐこと』を己がアームドギアとし、力を束ねる事に特化した響にしか出来ない必殺技。

 

「「「―――Emustolronzen fine el zizzl―――」」」

 

 

しかし、その必殺技には、一つ、欠点があった――――

 

 

 

「――――セット!ハーモニクス!」

 

 

 

ハーモニクス―――弦楽器の弦を正しく、絶妙な位置にて軽く押さえる事で発生する、超高音の名を冠し、その絶大な力を発動する。

三人の周囲を、絶唱の三段重ねによって引き起こされた虹色の光を纏った衝撃波が吹き荒れ、増殖しようとしていた増殖型ノイズを一気に吹き飛ばす。

その強大なエネルギーは、響一人だけから放たれている。

 

そう、S2CAの欠点は、その負荷が全て、立花響に掛けられるという事。

 

「ぐ・・ぅ・・・あぁぁあああぁぁあああぁぁあぁぁああああ!!!!」

 

体中を苛む痛み。それに、響は絶叫を挙げて悶え苦しむ。

「耐えろ、立花!」

「もう少しだ!」

翼とクリスが響に呼びかける。

「・・・ん、おい!あれ!」

クローズが指差す先。そこには、分裂増殖型のノイズがいた場所に、おそらくその核と思われるノイズが佇んでいた。

その体は・・・やっぱり醜い。

いつの間にかラビットタンクフォームになっていたビルドは、それを見て叫ぶ。

「今だ!」

「レディ!」

響のギアに変化が生じ、まるでエネルギーを放出するための準備とでもいうように割れる。

そして、両手のギアを合体させて、巨大なガントレットとして形成する。その瞬間、虹色の光が響に収束していく。

「フルボトルバスター!!」

そしてビルドもまた動く。

ビルドドライバーから巨大な剣『フルボトルバスター』を取り出し、そのグリップ部分とブレード部分を降り、スロットを露わにする。

そしてそこに、三本のボトルを装填する。

 

ラビット!』『ゴリラ!』『クジラ!』

 

『ミラクルマッチでーす!』

 

それを、そのノイズに向かって、バスターキャノンモードで構える。

「行け!タイミングはこっちで合わせる!」

「お願いします!」

全ての光が響に収束した瞬間、響は飛ぶ。

「ぶちかませ!」

クリスの叫びを背中に受け、響は飛ぶ。

「これが私たちの―――」

それと同時に、ビルドがフルボトルバスターの引き金を引いた。

 

ミラクルマッチブレイク!!!』

 

放たれたエネルギー弾が、響がノイズに拳を叩きつけるのと同時に炸裂する。

 

 

「――――絶唱だぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

 

そして、超速回転してエネルギーを増幅させた一撃が、ノイズに叩き込まれ、そして、天に虹色の竜巻となって吹き荒れた。

その虹色の光は、星の輝く夜空に天高く昇って行った。

 

 

 

そして、その様子を、『フィーネ』の装者たちは見ていた。

「なんデスか、あのトンデモは・・・!?」

「綺麗・・・」

「あんなものがあるなんて・・・」

「こんな化け物もまた、私たちの戦う相手・・・」

「・・・」

隣で歯噛みするマリアを見やり、クライムは、もう一度光の竜巻が吹き荒れるステージの方を見た。

「・・・仮面ライダービルド・・・桐生戦兎」

 

『俺は、その為に科学者になったんだ』

 

ビルドの言葉に、クライムは今一度考える。

(このドライバーと俺の技術をもってすれば、計算上は俺はビルドを圧倒出来る筈だった。だが、実際はスパークリングでこちらがやや優勢だったとは言え、ほぼ互角・・・)

受けた刃の一撃を思い出し、クライムは―――シンは自分と戦兎との差を考えた。

(考えられるとすれば、ハザードレベルの差・・・か・・・)

一体どれほどの差があるのか。その時のシンには、思いもよらなかった。

 

 

 

 

 

 

そしてまた、『COMPLETE』という文字を前に、マムと呼ばれた女性はほくそ笑んだ。

「夜明けの光ね」

「・・・」

その一方で、隣の男は顎に手を当てて考えていた。

(何故圧倒出来なかった・・・当時の桐生戦兎のハザードレベルは多めに見積もっても『4.5』の筈・・・なのに何故、我がライダーシステムで圧倒出来なかった・・・?)

装着者の戦闘力は申し分ない。ライダーシステムも葛城のライダーシステムを超えるものを作った。しかし、それを埋める程の何かの要素が、予想していた結果と違う結果を生み出した。

(まだまだ改良が必要という事か・・・・)

しかし男は、取り乱すようなことはしなかった。

ただ、改良の余地あり、と改めて認識しただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、ノイズが全て消し飛んだライブ会場にて――――

「・・・」

戦兎は、敵が消えていった空を見上げていた。

 

『痛みを知らない貴方に、誰かの為になんて言ってほしくない!』

 

「・・・本当に、知らない訳じゃないんだよなぁ・・・」

そう呟いて、戦兎は、その場で膝をついて空を仰ぎ見ている響を見た。

「無事か!?立花!」

「キュルー!」

そんな響に、翼たちが駆け寄る。

振り返った響は、笑っていても、その双眸からは涙を流していた。

「へいき・・へっちゃらです・・・」

涙を拭い、響はなんでもないとでも言うように言った。

だけど、その様子から見ても明らかに大丈夫じゃない。

「へっちゃらなもんか!?痛むのか?まさか、絶唱の負荷を中和しきれなくて・・・」

そんなクリスの憶測を、響は大きく、何かを振り払うかのように横に振った。

「・・・私のしてる事って、偽善なのかな・・・?」

そして、胸の中にある想いを吐露する。今にも張り裂けそうな程苦しい、その胸の内を。

「胸が痛くなることだって・・・知ってるのに・・・・う・・ひっぐ・・・」

響の小さな嗚咽が、鳴り渡る。

「お前・・・」

そんな響に、戦兎が前に立って屈みこんで話しかける。

「見返りを求めたら、それは正義とは言わないぞ」

「ひぐ・・・え・・・?」

「お前は、誰かを助ける時、何をしてほしいかなんて考えるのか?」

戦兎は、真っ直ぐに、涙に濡れた響の瞳を見つめた。

「ちが・・います・・・・」

その問いかけに、響は迷いなく答えた。

「だったら、それでいいじゃねえか」

響の頭を撫でて、戦兎は笑って言う。

「お前のその想いはお前だけのものだ。他の誰でもない『立花響』って奴の想いだ。その想いに、嘘なんてないだろ?」

「・・・・」

戦兎が、自分の信念である『愛と平和』を貫き通すように。

「お前の手は、誰かと手を繋ぎ、そして想いを届かせるものだろ?だったら、お前の胸の内の想いを届かせて見せろ。それが、立花響の『(ちから)』だろ?」

元気づけるように、戦兎は、そう響に言った。

「・・・戦兎先生」

響は、俯いて、戦兎に尋ねる。

「・・・私の願いは、この拳は、この想いは・・・あの子に届くでしょうか・・・?」

少女のものにしては、随分と硬くなってしまった掌を見て、響をそう尋ねる。

その質問に、戦兎はしようがないとでもいうように息を吐いて、言う。

「届くかどうかじゃない。届かせるだろ?」

「・・・・そう、ですよね」

顔を挙げた響の顔は、いつも通りの笑顔になっていた。

「この想いは、届かせるものですよね」

「ああ」

どうやら元気を取り戻したようだ。そう、クリス、翼、龍我は思った。

「ああ、それともう一つ」

だが、戦兎は指を一本立てて響の前に出す。

「辛い時は吐き出しても良いんだぞ。俺には、あんまりそういうのは出来なかったからさ」

「―――っ」

そう言って、響の額を小突く。

その小突きが、意外な決定打となって、響の顔を歪め―――

 

 

 

 

 

 

戦兎の胸の中で泣く響の頭を、そっと撫でる戦兎を、遠巻きに眺める、一人の男がいた。

その手には、奇抜な形をした杖。

 

その男の口が、嘲笑うかのような笑みに歪んだ。




次回、愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

行動を起こさない武装組織『フィーネ』

「特に何も考えてねえよ」

学校で忙しい戦兎に代わり、情報を集める龍我と緒川。

「なんなの・・・アイツ・・・!!」

ビルドの言葉が頭から離れない調たち。

(やはり『ネフィリム』とは・・・人の身に過ぎた―――)

敵の首領、ナスターシャが語る、ネフィリムとは。

「ここで間違いないんだよな?」

そして突き止めた敵の本拠地にて―――

「変身!」

次回『旧世界からのサイエンティスト』

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』


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旧世界からのサイエンティスト

シ「仮面ライダービルドこと桐生戦兎率いる二課ノイズ殲滅隊・・・いや、戦闘部隊?まあどっちでもいいか。その彼らと戦いを繰り広げた我らフィーネの戦闘部隊が激突。こちらはフルボトル二本、スクラッシュドライバー一つの奪取に成功する」
戦「よくもやってくれたなこの野郎」
マ「それでもってすぐ撤退。あのままやりあってもよかったんだけど・・・」
慧「まあLiNKERのハンデがあったからなあ・・・」
切「しょうがないデス」
翼「しかし、してやられたのは確かだ」
響「〇〇〇は本当に・・・あれ?なんでこんな所で規制音が?」
ク「そういう発言だからだろ馬鹿」
響「あう」
調「それはともかく、最近、随分と調子がいいみたいで・・・」
作「いやー試験が終わってからというものしばらく暇だからついつい筆が進んで・・・」
慧「なお作者は未だ学生です」
戦「そういう個人情報晒すんじゃないよ芸能人じゃないんだから」
ク「しっかしこの小説マジにタグ詐欺してるよなあ・・・」
マ「ええ、『更新速度は期待するな』と言っておきながらほぼ二日間隔で投稿してるし」
作「うぐっ」
戦「オリキャラもどっかのキャラからモデルと設定引っ張ってきてるし」
作「それシンだけだからね!?」
慧「ついでに俺のCVやってる人がやってたキャラと何気に被ってるみたいだし・・・」
作「それは完全な偶然だ!伊〇助の事は完全に頭の中から外れてた!」
調「言い訳はいいから、慧くんのCVネタスイッチオン」ポチ
慧「猪突猛進!」トッシン!
作「ぐべあ・・・!?」
戦「という訳で、どうなる第二五話!」
響「結局今回もぐだぐだ・・・」
作「シクシクシク・・・」


フィーネが世界に宣戦布告してから一週間がたった。

その間、その組織からの各国への交渉、騒動、犯行などは一切無く、全くと言って良い程足取りが掴めなかった。

果たして、奴らの目的は一体なんなのか。

(ソロモンの杖が奪われた直後にライブでのフィーネの宣戦布告。んでもって一週間音沙汰無しときた。忘れたころにやってくる戦法で少し時間空けて行動を起こすつもりか?)

黒板に数式を書きながら、戦兎は考えていた。

(まあどちらにしろ、スクラッシュドライバーは取り返さないといけない・・・クライム・・・シン・トルスタヤがボトルを奪った事を鑑みれば、おそらくアイツらはハザードレベルの事を知っている。そして、スクラッシュドライバーを奪ったって事は、少なくともアイツらのハザードレベルは4.0以上・・・)

「はい、ここの問題解けるやつ」

(あのドライバーは、何も知らないまま使っちゃいけない・・・万丈のように暴走する前に奪わないと・・・)

「じゃあ、そこの奴」

「んー・・・?」

(ボトルゼリー状にしたスクラッシュゼリーもこの一週間で出来ている筈だ・・・スクラッシュドライバーに対抗するにはスクラッシュドライバー・・・だけどもう一つ作るのは少し抵抗がある・・・)

「おい」

視線を上げる。そこには、いつも通りの表情でこちらを見るクリスの姿があった。

「出来たぞ」

そう言われて、戦兎は黒板を見る。

「ああ、正解だ」

その最中で、小さくぱちぱちと拍手する少女がいた。

セレナである。

セレナは、その顔を可愛く綻ばせていた。

その様子にクリスは気恥ずかしいのか顔を赤くして、その様子に、戦兎は顔を()()()()とする。

(どちらにしろ、今万丈と緒川が手掛かりを見つけてきてくれる筈だ。俺は、ただ、有益な情報をアイツらを持ってきてくれると信じて、こいつらを鍛える事しかでない)

戦兎は、クリスを席に向かわせつつ、そう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その件の龍我と緒川だが。

「なんのつもりか知らんが、テメェら覚悟はできてんだろぉなぁ?」

「特に何も考えてねえよ」

絶賛極道さん宅に突入中☆だった。

フィーネが使っていたと思われる乗り捨てられていたトラックからその所在を突き止め、結果緒川と龍我が突入しているこのヤクザの事務所に当たった訳なのである。

「さて、ヤクザは僕がどうにかしますので、龍我さんはあの奥にある絵を取り外して、中にあるものを回収してください」

「おう」

軽い作戦会議の後に、襲い掛かってきたヤクザを軽くノックアウトさせつつ龍我はあからさまに何か隠してますよーと言わんばかりに飾られている大きな絵を取り外して、中に金庫がある事を確認。それをドラゴンフルボトルの力で力任せに扉を引っこ抜いてみる。

「うっは、これマジモンの金か!?」

中にはテレビで見るような金の延べ棒が三段重ねピラミッドで置かれていた。

が、今回の目的は金ではなく情報である。その事を見誤らない龍我は金の延べ棒をぞんざいに取り出して、奥にある書類を取り出す。

何やら背後で、

「こ、こいつ忍法を使うぞ!?」

「アイエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」

「アバー!」

「サヨナラ!」

なんて事になってるがこの際気にしない。

「お、緒川!」

「ん?」

龍我が投げた書類を受け取る緒川。そこへ別のヤクザがナイフを龍我に突き刺そうとする。

「どうだ?俺にはよくわかんねえけどそれであってるよな?」

「ぎゃん!?」

しかし、龍我はそれを見ずに拳を振り下ろして一発ノックアウト。

「ええ。これで司令に良い報告が出来そうです。しかし・・・ふむ・・・」

「ふげ!?」

「どうした?何が書いてあるんだよ」

「ぎ、ギブ、ギブ――ゴキン――・・・」

「この出納帳、架空の企業から大型医療機器や医療品、計測器などが大量に発注されていますね・・・・」

「へぶっ!?あ、ちょっとタン―――」

「えーっと・・・つまりどういう事だ?」

「ふんげりば!?」

「誰かが、医者の使う道具を沢山買ったという事ですよ」

「た、たしゅけ・・・ぎゃん!?」

「ふーん・・・あ、こいつでラストだ」

「と、止めは勘弁し――――なんで窓から投げるんだぁぁぁぁ・・・!!」

とりあえず向かってくるヤクザ全員をのして惨状となった事務所内に佇んでいた。

「ふーん・・・で、それがどうかしたのかよ?」

「おそらくこの架空の企業を調べれば、奴らのアジトが分かるかもしれません」

「本当か!?」

「ええ、藤尭さんの力を使えば、今晩にでも」

「よっしゃ!」

龍我は拳を掌に叩きつける。

(早くあのドライバーを取り返さねえと・・・俺のようになっちまう・・・)

もう、あんな思いを誰かにさせないために。

 

 

 

 

 

 

 

どこかの施設のシャワールームにて、調と切歌はいた。

「それでね、信じられないのは、それをご飯にザバー!っとかけちゃった訳デスよ」

切歌が軽快に喋っている。『それ』が一体なんなのかは分からないが。

「絶対におかしいじゃないデスか!そしたらデスよ・・・」

ふと、調の方を向いた切歌の言葉が途切れる。

シャワーから降りかかる温水に打たれながら、調は、神妙な面持ちで俯いていた。

「・・・まだ、アイツの事を、デスか?」

アイツとは、立花響・・・ではなく、仮面ライダービルドの方だった。

 

『分かるさ。痛いくらいに』

 

「くッ・・・!」

その言葉に、調は否定できなかった。

それほどまでに彼は真っ直ぐに、そして切実に呟いたのだから。

「何が・・・」

こうして対峙していない時でも、調は彼の言葉を否定できなかった。

今でも、あの時の言葉が頭から離れないからだ。

 

『お前たちを、救う事は出来ないか?』

 

それを振り払った。なのに―――

 

『だから―――知ろうとするんだ!』

 

その言葉を振り払うかのように、調は拳を壁に叩きつけた。

あのビルド―――戦兎の言葉を、調は、信じたくなかった。

それを認めてしまったら、自分は、一体なんの為に戦っているのか分からなくなるから。

「なんなの・・・アイツ・・・!!」

「・・・」

悔しい。彼の言葉を否定できないのが、これほどまでに否定できないなんて、調は思ってもみなかった。

そんな調の壁に叩きつけた拳を、切歌は手に取った。

まるで、そんな調を落ち着かせるように、自分が傍にいる事を誇示するかのように。

ただ、切実に、その手を握り、そして握り返す。

そこへ、また一人とやってくる。

マリアだ。

「それでも私たちは、私たちの正義とよろしくやっていくしかない」

温水を浴びて、マリアはそう言う。

「迷って振り返ったりする時間はもう、残されていないのだから」

「マリア・・・」

そんな姿に、調は一言、彼女の名前を呼んだ。

 

 

 

そんなシャワールームの前では、

「なあ、シン」

「どうした?」

「どーして俺たちは女が入っているシャワールームの前を陣取っているんですかね?」

「敵の襲撃に備えて、重大な戦力を守るためだ。彼女たちもギアを纏っていなければただの人間と変わらない。その分、ハザードレベルが上がった事によって多少は人間を凌駕する身体能力を得ている俺たちなら、時間は稼げるだろうという事だ」

「うん。でもさ、大丈夫なの?変なハプニングとか起きたりしない?」

「よく調ととんでもない事起こしてたからな、お前」

「やめて!それ結構心にぐっさり来るから!」

「というか慧介。この会話もう二ヶ月近くもやっているぞ?」

「いやだってさ。おかしいじゃんこんなの。別に誰かが覗きに来るわけじゃないんだからさ」

「だとしても、いざ敵が攻め込んだ時はこうして守らなければならない。ネビュラガスを投与してハザードレベルを上げている俺たちと違い、ギアを纏っていなければただの人間である彼女たちは、俺たちよりも弱いんだからな」

「だったら、この時間を少しでもハザードレベルを上げる事に使った方が有意義なんじゃ・・・」

「その通りだな」

と、そんな時だった。

 

突如として、警報が鳴り響いた。

 

 

 

 

施設の隔壁を閉じ、警報の大本を隔離する、一人の車椅子に乗った初老の女。その右目には眼帯をしており、何か、怪我のようなものを抱えている事が分かる。

彼女の名は『ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ』。

マリアたちフィーネの頭目にして科学者だ。

そんな彼女の目の前にあるモニターにて、何かを貪る、この世の生物とは思えない何かが映し出されていた。

(あれこそが、伝承にも謡われし、共食いすらいとわぬ飢餓衝動・・・やはり『ネフィリム』とは・・・人の身に過ぎた―――)

「人の身に過ぎた、先史文明期の遺産・・・とかなんとか思わないでくださいよ」

部屋の暗闇から歩み出てきたのは、一人の白衣を着た二人の男性だった。

「ドクターウェル、ジェームズ博士・・・」

「例え人の身に過ぎていても、英雄たる者の身の丈にあっていればいいじゃないですか」

片や、眼鏡をかけた男ウェルは、あのソロモンの杖輸送任務の後に起きたノイズの襲撃で行方不明となった筈の男だ。

これは一体どういう事なのか。

そしてもう一人は、『ジェームズ・グレナデス・ノーランズ』。ナスターシャと同じ研究所にいた研究員であり、シンの使うベルトを作った張本人である。

と、ウェルがそう言った所で、部屋に駆け込んでくる者たちがいた。

「マム!さっきの警報は!?」

マリア、切歌、調、シン、慧介の五人だ。

「次の花は未だ蕾故、大切に扱いたいものです」

ウェルがそう言う。

「心配してくれたのね。でも大丈夫。ネフィリムが少し暴れただけ。隔壁を降ろして食事を与えているから、時期に収まる筈」

そこで、大きな震動が起きる。

「もし問題があるようなら俺が鎮圧するが?」

シンがそのように言う。

「対応措置は済んでいます。それに、貴方のベルトは改良の途中でしょう?」

「いや、改良については一応は済ませた。それと涼月君」

「ん?」

ジェームズが何かを投げ、それを慧介は受け取る。

それは、小さなパックだった。

「これって・・・!」

「スクラッシュドライバーで使う為のスクラッシュゼリーだ。上手く適合するボトルを取ってきてくれて感謝するよ」

「礼を言うのはこっちの方だよ!これで俺も戦える・・・!」

嬉しそうにその手のスクラッシュゼリーを掲げて見せる慧介。

「それよりも、そろそろ視察の時間では?」

ふと、ウェルがそのように提案する。

「『フロンティア』は計画遂行に必要なもう一つの要・・・起動に先立って、その視察を怠る訳にはいきませんが・・・」

じっと、ウェルの方を見るナスターシャ。

「こちらの心配は無用。留守番がてらに、ネフィリムの食糧調達の算段でも立てておきますよ」

と、当たりの良い笑顔でそういうウェル。

「俺も、向こうのライダーへの対応策を考えなければならないのでな」

「では、調と切歌を護衛につけましょう」

「こちらに荒事の予定はないから平気です。むしろそちらに戦力を集中させるべきでは?」

「いや・・・」

ここで、シンが口を挟む。

「五人も戦闘員がいるんだ。もし奴らに襲撃を受けた時、()()()()()()では対応しきれない可能性が高い。()()()()()使()()も考えて、俺と慧介が残る事にした方が良い」

シンが、ウェルを睨みつける形で、そう提案した。

「別に大丈夫なんですがね」

「確かに、ここまでの大人数で行く必要はありません。では、シンと慧介はここに残り、私は三人をつれて視察にいくとしましょう」

ウェルはやれやれと言った風に首を振る。

「では後はお願いします」

ナスターシャは最後にそう言い、装者三人を部屋を出ていく。

その様子を見送る男四人。

「・・・貴方たちも行ってくればよかったのに」

「餌を巻いておいてよく言う。俺が気付かないと思ったか」

シンは軽蔑するかのようにウェルを見る。

「おいおいウェル、ばれてるぞ」

「はあ、これだから()()()()は・・・」

「結局荒事起こすつもりじゃないか・・・」

ジェームズが面白がり、ウェルは苛立ちを隠そうともせずに額を抑え、慧介は冷めた表情でウェルを見る。

「どちらにしろ、僕の計画の邪魔にだけはならないでくださいよ」

「善処しよう」

「まあ、そのライダーシステムを与えたのは、ビルドとクローズを倒すために作ったものだからな・・・ククク・・・」

ジェームズが怪しく笑う。

(どちらにしろ、ビルドとクローズが計画の障害になるのは確実・・・それを排除する事に異論はない)

シンは、おそらくこれからやってくるであろう敵をどう倒そうか、それを思案していた。

 

 

 

 

 

 

 

『秋桜祭』―――リディアン恒例の学校行事である、所謂『学園祭』だ。

「わあ・・・!」

その準備風景を見て、セレナは目を輝かせていた。

「コイツは凄いな・・・」

その隣では戦兎も関心していた。

「私こういうのは初めてです!」

「俺も何度かやったか、女子校でもこんなにやるんだな・・・」

戦兎の場合、元が葛城巧とは言え、高校生時代を経験している身だ。

だから、学園祭はやった経験がある。

「それにしても、生徒会主催でカラオケ大会をやるなんて驚きました」

「なんでも生徒会の権限の範疇で願いをなんでも一つでも叶えてもらえる事が出来るらしいがな。しかしなんでクリスの奴は逃げ出したんだ?」

何故かカラオケ大会の話を聞いた時、クリスは思いっきり逃げ出したのだが。

理由は、不明である。

「なんででしょう?」

「あ!戦兎先生!」

ふと、そこで戦兎が担任をしているクラスの生徒たちが駆け寄ってきた。

「雪音さん見ませんでしたか?」

「クリスか?見てないが・・・」

「どこいっちゃったのかな・・・」

「あの、何かあったの?」

「ああ、実は雪音さんにカラオケ大会に出場してもらおうと思って・・・」

「確かに、クリスさん歌が上手だからね」

「分かった。こっちでも探しておく」

「ありがとうございます!よし、向こうはあっちを探してみよう!」

そう言って、彼女たちは駆けていく。

「・・・クリスさん、大人気ですね」

「まあアイツの親が有名な声楽家っていうのもあるが、アイツ自身の歌も翼に引けをとらない程だからな」

よく調子に乗ってリズムに乗って体を左右に動かすなんて可愛らしい癖もあるぐらいだ。

歌が好きなのは当たり前だろう。

「さて、私たちもクリスさんを探しに行きましょうか」

「そうだな」

 

ちなみに、セレナは戦兎の親戚という扱いになっている。

 

「ですが、どこにいるんでしょうね」

「さあなぁ・・・」

そう言い合いながら、校舎の廊下を歩く二人。

「・・・そういえば、スクラッシュドライバーの方は・・・」

「ああ、どうにかして取り戻さないといけない。あれは、何も知らずに使っちゃいけないものだ・・・それにクライム・・・シンの方もどうにかしなくちゃいけない・・・」

戦兎は、そう言って目を細めた。

「・・・やっぱり、『アレ』を使わないと勝てませんか?」

「ああ・・・どうにか耐える事は出来たが、スパークリングじゃアイツにいずれ負ける。だから、アレの完成を急がないと・・・」

あの、禁断の力を使う前に――――

「あ、それはそうと、今度の学園祭、何か予定はありますか?」

「特にないが・・・ああいや、翼に誘われてたんだった」

「ふふ、やっぱりですか」

セレナは分かってたかのように笑う。

「なんか、『最近セレナと一緒にいる事多いからたまには私に付き合ってくれてもいいだろう』とか言われたんだが、ありゃ一体どういう意味だ・・・?」

「ぷっくく・・・さ、さあ、一体なんなんでしょうね・・・ぷくく・・・」

(やだその剣めっちゃ可愛い・・・!!)

笑いを思いっきりこらえるセレナ。

そこで、とある教室の前を通りかかった時に、何かの会話が聞こえてきた。

「よーっすここで何してんだー」

その部屋に戦兎は躊躇いも無しに入る。

「あ、戦兎先生」

「げっ」

「桐生・・・」

そこには、五人の女子生徒が学園祭で使うであろう飾りを作っていた。

そのうちの二人は翼とクリスだった。

「なんだ。学園祭の飾りつけをやってたのか」

「クリスさん、さっきクラスメイトの人たちが探してましたよ」

「た、頼む!あいつらには言わないでくれ!」

「ふふ、どうしようかな~」

「そうだ、桐生・・・先生たちも手伝ってくれないか?」

「人手に多い事に越したことはないからな。よし、いいだろ。手伝ってやるよ」

「ありがとうございます!」

 

戦兎の器用さ、セレナの巧みさによって、その飾りの製作はかなり捗ったという。

 

 

 

 

 

 

そして、夜――――

 

「ここで間違いないんだよな?」

『ええ。緒川さんたちが入手した情報では、ここに何度も物資が運び込まれているようでして』

街の外れの廃病院にて、ライダー、シンフォギア装者の五人はやってきていた。

緒川と龍我が入手した情報から、藤尭などがそれを解析、架空の企業の正体を突き止め、その搬入先を割り出し、すぐにでも先手を仕掛けたという事だ。

セレナがどうして通信に対応しているのかと言うと、セレナ自身の要望で彼らのサポートしたいと言い、結果、藤尭や友里の代わりにオペレーターを務める事になったのだ。

「お前ら明日も学校なんだから休んでも良かったんだぞ?」

「そういうお前こそ、アタシたちと同じように教師として学校に行く癖に行こうとしてるじゃねえか」

「戦兎先生や龍我さんたちにだけ行かせて、自分たちは何もしなかったなんて嫌ですから」

「人々を守る事は防人の務め。仮面ライダーもまた然り。であるならば、私たちが動かない道理はない」

「そうか」

『まあ何はともあれ、私もお手伝いさせてもらいます』

「そうか、頼んだぞ。セレナ」

通信機越しからセレナの言葉に頷き、五人は廃病院に突入する。

 

 

 

そして、その様子を監視カメラで見ているウェルたちもいた。

「きやがった・・・」

慧介がそう呟く。

「おもてなしと行きましょう」

ウェルはそう呟いて、キーボードのエンターを押した。

 

 

すると、病院内に赤い霧状の何かが散布される。

 

 

その様子を、戦兎たちは物陰に隠れながら見ていた。

「やっぱり、元病院ってのが雰囲気出してますよね・・・」

「なんだ?ビビってるのか?」

「そうじゃないけど、なんだか空気が重いような気がして・・・」

「まあ、あながち間違いじゃないかもしれないな」

「・・・以外に早い出迎えだぞ」

翼の言葉に、他の者たちは通路の奥を見る。

すると、そこからノイズが何体か来ているのが見えた。

「行くぞ万丈」

「おう!」

 

激唱ゥ!』『クロォーズイチイバルッ!!!』

 

忍者!』『コミック!』

 

ベストマッチ!』

 

戦兎がビルドドライバーのボルテックレバーを回す。それと同時に、装者三人が聖詠を唄う。

 

『Are You Ready?』

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)―――」

 

「―――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)――」

 

「―――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)―――」

 

「「変身!」」

 

激唱戦場クロォーズイチイバルッ!!!』

 

忍びのエンターテイナーニンニンコミック!』

 

イェェエイッ!!ドッカァァァァアンッ!!!』

 

見事に仮面ライダービルド・ニンニンコミックフォームとクローズイチイバルに変身したビルド、クローズとシンフォギアを纏う響、クリス、翼。

そして始まる、ノイズとの戦い。

 

今回のセンターは、クリスだ。

 

「―――挨拶無用のガトリング!ゴミ箱行きへのデスパーリィー!」

 

クリスの放つ『BILLION MAIDEN』がノイズの群れへ殺到する。

「やっぱり、このノイズは・・・」

「制御されてんな・・・」

「という事は」

「ここでビンゴだな!」

五人が前に出る。

襲い掛かるノイズをクリスが先陣を切って蹴散らし、そのカバーに響と翼、そして後方からビルドとクローズが援護するという形だった。

クリスがアクロバティックに動きながらボウガンを撃ちまくり、そのクリスを死角から襲おうとしている敵を響が拳で叩きのめし、翼が斬り飛ばす。

そして、ブラストモービルのブラストシューターでクローズが背後から射撃、天井を駆け抜けるビルドがそこから四コマ忍法刀を振るってノイズを蹴散らす。

しかし、どうにも違和感を感じる。

「ん・・・?」

どうにも、ライダー比べて装者たちのノイズの撃破数が少ないような気がする。

威力が足りないのか、例え吹き飛ばしてもノイズが再生してしまい、かなり手間取っている。

「おい!?どうした!?」

「分かんねえ・・・なんか知らねえけど手間取るんだ!」

いつの間にか息をあげている装者たち。仮面ライダーの二人は全く平気なのに、これは一体どういう事なのか。

「セレナ」

『装者たちの適合係数が低下しているようです!このままでは戦闘を継続する事は出来ません・・・!』

「俺たちがなんとかカバーするしかないか・・・!」

 

『分身の術!』

 

ビルドが三体に分身する。分身によって装者たちをカバーするつもりなのだ。

「万丈!前に出ろ!」

「おう!」

 

『Set Up!Blast Blade!』

 

クローズがノイズの群れに突っ込み、取りこぼした個体をビルドの分身体が倒す。

「大丈夫か!?」

「ハア・・・ハア・・・す、すみません・・・」

「ハア・・・くそっ・・・なんだってんだ・・・」

「このような事になろうとは・・・!」

その間にビルドが駆け寄り、やや疲れた様子の三人は顔を悔しそうに歪める。

「ウオリヤ!!」

最後の一体を叩き斬るクローズ。

「大丈夫かアイツら・・・」

ふと心配になって背後を振り向いて彼女たちの安全を確認する。

一応、大事はないようだ。

しかし、ふとこちらを見た響が叫んだ。

「龍我さん!後ろ!」

「ッ!?」

背後から何かが飛び掛かる。

それをクローズは振り向き様に肘鉄で迎撃し上空へ吹っ飛ばす。

しかし、すかさず天井のパイプに足をついたかと思えば再度突撃、それをブラストブレードを叩きつけて吹き飛ばす。

「炭素にならない・・・!?」

「どうして・・・まさか、ノイズじゃない・・・!?」

「じゃああの化け物は一体なんなんだよ!?」

おおよそ、この世の生物とは思えない、四足歩行の化け物。

体色は灰色、体にマグマのような筋が通っており、そのサイズは大型犬以上。

とにかく、あんな生物は彼らの記憶には存在しない。

そんな相手に戸惑っている中で、ふと誰かが拍手するような音が聞こえてきた。

それに身構え、化け物の奥の暗闇に目を凝らす。

「え・・・!?」

そして、その姿に響、クリス、翼、クローズの四人は驚く。

「ウェル博士!?」

「おまっ、あの時・・・」

当然、死んでいるかと思っていた人物が生きていたらそれは驚く。その間にもあの化け物はウェルの横にあったケージの中に入っていく。

「やっぱり自作自演かこのペテン師」

だがその中でビルドはウェルを睨みつける。

「大方、ソロモンの杖はケースの中じゃなく、コートかなんかの下に隠してたんだろ。それでもって自分に襲わせた・・・違うか?」

「ええ、全くその通りです」

「ソロモンの杖を奪うため、自分で制御し、自分を襲わせる芝居を打ったのか・・・?」

「バビロニアの宝物庫よりノイズを呼び出し、制御する事を可能にするなど、この杖をおいて他にありません」

翼の言葉を肯定するかのように言うウェル。

「そしてこの杖の所有者は、今や自分こそが相応しい・・・そう思いませんか?」

「思うかよ!」

クリスが否定し、すぐさま小型ミサイルを展開、発射態勢に移る。

「ッ!?待て!!」

ビルドが止める。が、クリスはそれを無視してミサイルを発射する。

その直後、

「ぐ、ぅあぁぁあぁあああ!!!」

顔を苦痛に歪め、悲鳴をあげる。

「クリス!!」

倒れかけるクリスを支えるクローズ。

そして、ミサイルがノイズをウェルごと巻き込んで炸裂する。

爆発が巻き起こり、施設の壁を破壊、建物を爆炎によって粉砕する。

「くっ・・・!」

巻き起こる爆風を四コマ忍法刀の『風遁の術・竜巻斬り』でいなしつつ、ビルドはウェルの方を見る。

しかし、そこにいるのは無傷のウェル。

「くっそ、なんでこっちがズタボロなんだよ・・・」

『適合係数の低下で、バックファイアが凄い事になってるんです。下手に大技を放てば、シンフォギアが装着者自身を殺しかねません!』

セレナの言っている事はまさしくその通り。適合係数が低ければ、その分、負荷が大幅にかかり、技に見合ったダメージを受けてしまう。

クリスは装者の中でも特に高い適合係数を有する『第一種適合者』。

その分、バックファイアが凄まじい事になっているのだ。

「・・・!あれは!」

ふと響が何かに気付いて空を見上げれば、そこには、あの化け物が入ったケージを運ぶノイズの姿があった。

(さて、もう少しデータを取りたい所ですが・・・)

ビルド、クローズ、響の三人がウェルの方へ構えていた。

「万丈、お前はあのケージを!」

「ああ!」

クローズが脚部のホイールを全力で回転させ、残った三人、ビルドと翼はウェルに向かって構え、響はクリスに肩を貸している。

「ああ、そうだ。貴方がたには丁度いいお相手がいるんでした」

「相手・・・?」

黒煙が舞う中、そこから、三人の人影が出てくる。

そして、一人はウェルの隣に、残りの二人は、ビルドたちに立ちはだかるように立つ。

その者たちとは・・・

「シン・トルスタヤ・・・」

「それと、万丈のスクラッシュドライバーを奪った少年・・・」

「それで・・・最後の人は誰?」

一人は、仮面ライダークライムこと、シン・トルスタヤ。そしてもう一人は、金髪の十五歳ぐらいの少年。

そして最後の一人は、白衣を着た謎の男だった。

「どうも初めまして、仮面ライダービルドの桐生戦兎。私はジェームズ・グレナデス・ノーランドという者だ」

「俺の事を知っているのか?」

「ええ知っているとも。()()()()()()()ね」

「「「「ッ!?」」」」

四人の表情が強張る。

「どうして、旧世界の事を・・・」

「単純な話さ。思い出した。ただそれだけの事」

「お前か。そのドライバーを作ったのは?」

ビルドが訪ねれば、ジェームズは盛大に両手を広げて肯定する。

「そう!これこそが私の作った、プロジェクト・ビルドを超えるライダーシステム『ルインドライバー』!私が創り上げた『グレンディナインゴット』の装甲にボトルの成分を浸透させることで、本来のボトルの使用量の三分の一の量で二倍の力を発揮する事が出来る!このライダーシステムは、本来であればお前のビルドドライバーを超えるシステムだ!」

「装甲に成分を浸透・・・なるほど、そんな使い方が・・・」

「それで?お前はそれを使って桐生たちに何がしたい?」

翼が訪ねる。

「私の目的はただ一つ・・・」

指を一本立てて、ジェームズは言う。

「それは、そのライダーシステムを作った葛城の名を持つ者への復讐をすることだ!」

「復讐・・・?」

「葛城・・・だと・・・」

その言葉と迫力に、響はゾッとし、ビルドは冷や汗を流す。

「私は、旧世界においてライダーシステムの技術を奪うために日本の研究機関に所属していた・・・だが、私は嫉妬した!私より優れた技術を持つ葛城忍に、葛城巧に!だからこそ超えようとした・・・・だが、奴らはそれを良くは思わなかった!私に超えられるのが怖かったからだ。だから、私を人体実験に使い!あわよくばその過程で殺した!あれほどの屈辱を私は味わった事はない・・・」

 

ふと、ジェームズの話を聞いてその場にいる敵味方関係なしに全員がこう思った。

 

(ただの逆恨みじゃねえか・・・)←戦兎、クリス、慧介

(ただの逆恨みだよね・・・?)←響

(ただの逆恨みだな・・・これは・・・)←翼

(ただの逆恨みですね・・・)←ウェル

(ただの逆恨み・・・)←シン

 

そんな全員の心情など知らないジェームズはそのまま得意気に話を続ける。

「だからこそ、私はこの世界で君たちという存在に感謝した・・・私に、今や記憶を失いし葛城忍と葛城巧に復讐するチャンスをくれた事にな・・・!」

その顔は、もはや狂気に歪んでいた。

「私のライダーシステムで葛城忍が作ったライダーシステムを超え、葛城巧が作ったドライバーを使う事で葛城忍の希望だった万丈龍我を殺す・・・!そうする事で、私はこの世界において旧世界における葛城親子に復讐する事が出来るのだ!」

「龍我を・・・殺す・・・?」

クリスが、呻き混じりに呟く。

「ふざけんな・・・そんな理由で、龍我を・・・!」

「クリスちゃん無理しないで!」

動こうとするクリスをなだめる響。

「桐生戦兎。今一度君に宣言しよう。お前たちは、私が育てたライダーたちに無様に敗北するのだ!!」

(こいつは・・・俺が葛城巧だって知らないのか・・・?)

であるならば―――

「このシステムは、父さんが愛と平和の為に作ったんだ・・・だから俺はこの力を愛と平和のために使う。ただ復讐の為だけに作られたシステムに、俺たちは負けない」

四コマ忍法刀を構えて、ビルドは言い放つ。

「桐生を殺すと言ったな・・・」

やや殺意を抱きつつ、翼はジェームズに刃を向ける。

「お前如きにとられる程、この男の命は軽くないと知れ!」

しかしジェームズは怖気づいた様子もなく、叫び散らす。

「さあ!やるがいい!お前たちの力を、存分に見せつけてやれ!」

「言われなくてもやるよ」

「計画に、こいつらは邪魔だからな」

シンがウルフフルボトルを取り出し、少年はスクラッシュドライバーを取り出す。

「お前、それは・・・!」

「お前じゃない。涼月慧介だ。覚えておけ!」

少年、涼月慧介が、スクラッシュドライバーを腰に巻き付ける。

「そうじゃない、そのドライバーは・・・!」

「悪い事は言わない!それを使うのはやめろ!」

「ふん、使わせるのが怖いんだな?自分たちが無様に敗北するから、と・・・構わん、目に物見せてやるが良い」

慧介がポケットから見た事もないスクラッシュゼリーを取り出す。

「お前たちがなんと言おうと、俺は戦う。愛と平和なんていう幻想を言うお前たちに、俺は絶対に勝つ!」

そして、躊躇いもなくそのスクラッシュゼリーをスクラッシュドライバーに装填した。

 

タイガァージュエリィー!』

 

そしてシンは引き出した収納スペースにウルフフルボトルを装填し、中に入れた。

 

『Ready』

 

シンはそのまま立ち、慧介は右拳を腰に、左拳を肩当たりに構えるようにしてポーズを取る。

 

「変身」

「変身!!」

 

シンがトリガーを引き、慧介がレンチを降ろす。

 

「う、ぐぁぁあぁぁあああ!?」

その時、慧介から悲鳴が上がる。おそらく、スクラッシュドライバーからくる負荷がダイレクトに伝わっているのだろう。

(頼む・・・その時点で失敗してくれ・・・)

そんなビルドの願いは、すぐに打ち砕かれる。

「う・・ぐ・・・あぁぁぁああぁぁあぁああ!!!」

慧介が絶叫し、何かを振り払うかのように腕を振る。

そして、それと同時にケミカライドビルダーが形成され、その中に液体が満たされ、慧介を包み込む。

そして、それが慧介の体に纏われ、シンの体も出現した装甲を体に装着する。

 

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

 

タイガァー・イン・タァスクゥッ!!』

 

『Penetration Armor Type-Wolf

 

『ブルァァァァア!!!』

 

慧介が、クローズと同じ白銀の素体を纏い、それに、オレンジ色のヴァリアブルゼリーが纏われ、装甲を形成する。

シンも真っ黒な装甲が体に装着される。そして、その装甲に基盤のようなラインが迸ったかと思うと、それが装甲に馴染むように消えていく。

 

これこそが、シンの変身する仮面ライダークライムの本来の姿。

 

そして、慧介が変身した仮面ライダーの名は『仮面ライダータスク』。

 

その二人の仮面ライダーが今、彼らの前に立ち塞がる。

「そんな・・・」

響は、仮面ライダーが新たに二人も出現した事に驚愕する。

「翼・・・」

「ああ・・・」

二人は、構える。

 

 

新たなライダーバトルが、勃発する――――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

対に激突するライダーとシンフォギア装者。

『そのまま飛べ!龍我君!』

その一方でケージを確保しに行った龍我はマリアと対峙する。

「どうした?その程度か?」

激突するクライムとビルド。

「まだまだ行くぞ!」

タスクと響たち装者。

果たして決着の行方は――――

次回『激突!ビルドVSクライム!』

「――――奴に勝つには、これしかない」


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激突!ビルドVSクライム!

藤「仮面ライダービルドこと天才物理学者の桐生戦兎は、同じく仮面ライダークローズである万丈龍我と、シンフォギア装者である響、翼、クリスと共に、武装組織『フィーネ』のアジトと思われる廃病院に踏み込んでいた」
緒「そして、情報は当たり、フィーネの構成員であるウェル博士とジェームズ博士、そして仮面ライダークライムであるシン・トルスタヤ、そして新たに仮面ライダータスクに変身した涼月慧介が立ち塞がる」
弦「まさかあの少年が変身してしまうとはな」
友「人のことを言えませんが、子供を戦場に出すのはなんだか気が引けますね・・・」
藤「しょうがないよ。シンフォギアを纏えるのは、彼女たちだけなんだから」
弦「仮面ライダーがいても、彼女たちを戦場に出させてしまう自分が不甲斐無い・・・」
友「ですが、戦兎君たちが来てくれたお陰で彼女たちの負担も大きく減らせています」
緒「今後も、彼女たちの支えになってくれるといいですね」
弦「うむ。では何やら不穏な空気の漂う第二六話をどうぞ!」
藤「・・・・ん?うお!?作者が昇天してる!?」
友「そういえば感想数が二十超えたんだっけ・・・」
緒「なんか新記録だ!とか叫んでましたね・・・」
作(こんなに多くの感想ありがとうございます!)


クライム、タスクが変身する少し前。

 

逃げた飛行型ノイズをクローズイチイバルの機動性で追いかけ、道を駆け抜けるクローズ。

ホイールの回転数を跳ね上げさせる事によってさらに加速、そのスピードを速め、飛行するノイズに追いつこうとする。だが、その先は既に海。クローズが追い付くころにはすでにノイズは洋上に出てしまっている。

であるならどうするべきか。

『そのまま飛べ!龍我君!』

無線から、弦十郎の声が響く。

(飛ぶ・・・!?)

その事に疑問を感じていると、すかさず緒川から通信が入る。

『海に向かって飛んでください!大丈夫です!我々を信じてください!』

「信じる、だって?」

その言葉に、クローズは仮面の奥でほくそ笑む。

「んなもん、とっくの昔に信じ切ってるよ!」

クローズは、その声を信じ、海へ飛ぶ。ライダーとしての脚力で飛び、さらにブラストモービルのブラストシューターでの反動を利用して飛距離を伸ばそうとするが、届かない。

ついに届かず、落ちていく。

しかし、クローズは月夜に照らされた海に黒い影を見る。

海面を突き破って出てきたのは、巨大な潜水艦。

 

それは、二課の仮設本部だ。

 

突き出した潜水艦の艦首は今飛び上がったクローズと同じ高度となり、その艦首にクローズは飛び乗り、そのままさらに大跳躍。

一気にノイズに接近し、ノイズをブラストブレードでバラバラに斬り落とす。

ケースが落下し、落ちていく中をクローズは追いかける。

それを掴み取ろうとした、その時だった。

「――ッ!?」

言い寄らぬ悪寒を感じ取り、クローズは思わず身を翻す。そして、彼の目の前を何かが横切り吹き飛ばす。

「ぐあぁあ!?」

そのまま海面に落下してしまう。

「―――っぷはぁ!」

すぐに海面から出てみれば、夜が明け、その太陽を背に海面に浮き立つ槍の上に佇む女がいた。

その女は―――

「マリア・・・!」

マリア・カデンツァヴナ・イヴだった。

 

 

 

 

 

 

「―――ぐぁぁああ!?」

想像以上の強さに、ビルドは文字通り押されていた。

地面を転がり、どうにか立ち上がるも、そこに立つ仮面ライダーはなおも余裕そうにこちらを見下していた。

仮面ライダークライム―――シン・トルスタヤ。

恐ろしいまでの剣の冴えと実力。そして、そんな化け物染みた強さを持つ彼をさらなる超人へと仕立て上げるライダーシステム『ルインドライバー』。

「どうした?その程度か?」

「な・・・めんなよ・・・!」

ラビットタンクスパークリングを取り出すなりそれを装填。すぐさまラビットタンクスパークリングになってドリルクラッシャーと四コマ忍法刀で斬りかかる。

しかし、クライムは一度身を屈めたかと思うと、まず横薙ぎの一閃でドリルクラッシャーを弾き飛ばしビルドの態勢を崩し、すかさず返す刀で胴体に一撃を入れる。

おもわずよろめいたビルドはすぐさま四コマ忍法刀で斬りかかるも、いともたやすく躱されその脇をすれ違い様に斬り裂かれる。

「がぁぁあ!?」

「ふん」

背後でよろめくビルドを後ろから見て、すぐさまクライムは追撃に入る。

狼の俊敏性によって場を駆け抜け、そしてその体を一気に斬り刻む。

「ぐぁぁぁあぁああ!?」

「戦兎先生・・・!!」

それを見ていた響は思わず声を挙げる。

(これが、ルインドライバーの本来の力・・・!?)

膝をつくビルド。

「ぐ・・・ぅ・・・あ・・・・」

そのビルドに向かって、クライムは容赦なく止めの一撃を入れようとする。

「させん!」

そこへ翼が割り込んで斬りかかる。

しかしクライムはそれを弾き飛ばし、すかさずその腹に蹴りを叩き込む。

「ぐぅ・・・!?」

まだ、ギアが重い。その為に対応できなかったといえばいい訳にはあるが、あの剣の冴えや動きは完全に達人のそれ。

(流派は、我流・・・だが、剣士・・・いや、戦士としての実力は本物・・・!)

翼は、クライムの強さに戦慄していた。

しかし、クライムは距離を取った翼に、何かを投げた。

 

それは、ナイフだった。

 

「・・・!?」

そのナイフ全てを撃ち落とすが、それらが翼の喉、左目、心臓と急所を的確に狙っていた事に響は戦慄する。

(殺し慣れてる・・・!?)

その手際から、翼は、あまりにも手慣れたクライムの動きにまた戦慄する。

 

 

 

その一方で、

「ハァア!!!」

響がタスクに向かって拳を突き出し、その響の拳をタスクは躱す。

タスクと響が、激しく打ち合う。

響の拳が、想像以上に柔らかいタスクの体の動きに躱され、すかさずその無理な態勢からタスクの蹴りが迫る。

それを響は一歩探して射程から逃れる事で躱し、再び踏み込もうとしてやめて二段目のタスクの蹴りを躱す。

「ッ!?」

「やぁあ!!」

そして響の拳がタスクに炸裂する。吹き飛ばされたタスクはそのまま宙に舞い、しかし何事もなかったかのように着地する。

「くっ」

(殴った瞬間に威力を殺すように後ろに飛んだ・・・!)

男にしては異常な柔軟性。響が今までに戦った事のない相手だ。

(早く決着をつけないと・・・!)

タスクがスクラッシュドライバーを使うのは、おそらくこれが初めてだ。

そして、おそらくタスクはスクラッシュドライバーの『危険性』に気付いていない。

(本当は戦いたくない・・・だけど!)

戦わなければ、彼を救えない。

拳を握って、響はタスクに向かって飛び出す。

しかし、先に走り出した筈の響より、タスクがいち早く響の懐に飛び込んでいた。

(速い!?)

想像以上の速さに響は後ろに飛ぶ暇もなく拳を受ける。

「ぐ!?」

「まだまだ行くぞ!」

蹴り、蹴り、蹴り。回し蹴りが右、左、右と同じ方向から炸裂し、響を下がらせる。

「づっ・・・この・・・!!」

「どうした?その程度かよ!」

タスクが恐ろしい俊敏性で襲い掛かる。

その俊敏性に、響は顔を歪めて防御に徹する。

「くそ!苦戦してんじゃねえか・・・!」

その様子を、クリスは悔しそうに眺める。

「ぐぅあ!?」

掲げたドリルクラッシャーに、クライムの高周波ブレードが叩きつけられる。

それが右肩に食い込み、さらなる激痛を与える。

(もう・・・あれを使うしかないのか・・・?)

クライムの想像以上の戦闘力。それを超えるには、もはや、あの手段しか―――

(だが、あれは・・・!?)

クライムが押し込む力を緩める。その反動で押し込まれたドリルクラッシャーが高周波ブレードから離れ空振り、そこへ蹴りを叩きつけられる。

「がぁあ!?」

「桐生!!」

地面に倒れ伏すビルド。

「こんなものか・・・」

「素晴らしい・・・!!」

クライムの呟きに、ジェームズは歓喜に震えるような声を出す。

「シン・トルスタヤの少年兵としての経験、そして、私が開発したプロジェクト・ビルドを超えるライダーシステムである『ルインドライバー』による変身・・・!その結果が、この事実!今、私は葛城忍を超えたのだぁぁぁあ!!」

ジェームズが高らかに声を挙げる。

「それともう一つ、彼女も到着したようですよ」

そこへ、ウェルによる一言。彼が視線を向ける先を向けば、そこにはあのケージを手に取ったマリアの姿があった。

「あれは・・・!」

「時間通りですよ、()()()()

『―――ッ!?』

ウェルの言葉に、二課の面子が一様に驚愕する。

「フィーネだと・・・!?」

「『フィーネ(終わりを意味する名)』は、我々組織の象徴であり、彼女の二つ名でもある」

「まさか・・・じゃあ、あの人が・・・!!」

響は、信じられないとでも言うように呟く。

そして、ウェルはそれを肯定してみせる。

「彼女こそ、新たに目覚めし、再誕したフィーネです!」

その事実に、彼らは驚愕に固まった。

潮風に吹かれ、海面に浮く槍に立つマリアは、毅然とした表情で、彼らを睨みつける。

「何かの冗談だろ!?」

「冗談じゃないんだよ!お前らがフィーネを倒してくれたお陰で、今度はマリアがフィーネに取り憑かれる事になったんだからなァ!!」

タスクが殴り掛かってくる。

それを響は下がりながらいなす。

「嘘、だよ・・・だってあの時、了子さんが・・・」

あの時、フィーネは、了子はこう言ってくれた。

『胸の歌を、信じなさい』と。

あの言葉で、和解出来たと思っていた。

だけど、目の前に立つ彼女がフィーネであるなら、あの時の言葉は一体・・・

「・・・リインカーネーション」

「遺伝子によるフィーネの『刻印』を持つ者を魂の器とし、永遠の刹那に存在し続ける、輪廻転生システム・・・!」

それによって、フィーネの魂は何度も復活する。

それが、フィーネが自らの遺伝子に仕組んだ呪いともいうべき、執念のシステム。

「馬鹿な・・・それなら、あの時、あのステージで歌っていたマリアは・・・!?」

「さて、それは自分も知りたい所ですね」

ウェルは、そう呟いた。

 

 

 

(ネフィリムを死守できたのは僥倖・・・だけどこの場面・・・次の一手を決めあぐねるわね・・・)

マリアがそう思考していた。その時、海面から何かが飛び出してくる。

クローズだ。

一度沈んで、その後ブラストモービルの砲撃で海面にまであがってきたのだ。

「どうでもいいがそれを渡しやがれ!」

ブラストシューターを放つクローズ。

それをマリアは紙一重で身を捻って躱し、すれ違い上空に飛んだクローズを見上げる。

「喰らいやがれ!」

そのままブラストブレードで斬りかかるクローズ。

それをマントによる防御で防ぐ。

「悪いけどこれを渡す訳にはいかない!」

そのまま追撃、しかしマントの一撃でいなされ、そのまま殴り飛ばされ、洋上に上がった潜水艦の船体に着地する。

そんなクローズを鼻で笑い、マリアはケージを真上に投げる。

するとそのケージはまるでどこかにワープしたかのように消える。

そして、マリアも船体に上がり、その手に槍を手に取り、クローズと向き合う。

「だからこうして、お前を倒すのだ!」

「やってみろよ・・・このテロ野郎が!」

マリアとクローズが、ぶつかる――――

 

 

 

「ハア!!」

翼がクライムに斬りかかる。

その後ろで、ビルドが呻き声を上げながら倒れ伏している。

「あれを使って、お前たちは何をする気だ!?」

「教える義理はない」

「ぐぅ!?」

未だギアの出力低下が仇となりクライムの攻撃を防ぐのに手一杯な翼。

弾き飛ばされ、すかさず翼は逆立ちとなり、一気に回転して足のブレードで斬りかかる。

 

逆羅刹

 

それに対してクライムは、突然刀を手放す。

しかしすかさず、足裏で()()()()()()()一撃で翼を弾き飛ばす。

「うわぁああ!?」

「まだ『Anti LiNKER』の効力が残っている状態でよく向かってくる・・・だが、所詮はそこまでだ」

地面に倒れ伏す翼。

「翼・・・!!」

「こんな事が・・・だが・・・」

どうにか立ち上がる二人。

「まだやるか」

「当然だ・・・」

「こんな所で、引き下がる訳にはいかない!」

ビルドはドリルクラッシャーを構えて、翼は刀を手にする。

(だが、このままじゃいずれやられる・・・)

ビルドは考える。

(奴は間違いなく殺し慣れている・・・だからこそ、こんな所で翼を死なせる訳にはいかない・・・!!)

考えてみれば、答えはすでに出ていた訳で、それがまた苦渋の決断であり、それでもビルドは、その方法を取った。

「翼・・・」

「なんだ?」

 

「―――『ハザードトリガー』を使う」

 

「―――ッ!?」

そのビルドの言葉に、翼は思わず固まる。

「・・・本気か?」

翼は、正気を疑うかのように聞いてくる。

だが、ビルドの答えは変わらない。

「ああ・・・今、奴に勝つには、これしかない」

ビルドの声が、震えていた。

「・・・だけど『アレ』はまだ出来てないんだろう?」

翼が、静かに尋ねる。

「分かってる・・・だから、もしもの時は頼んだ・・・!」

ビルドはそう答え、懐から、赤い装置を取り出した。

それは、中央部にメーター、本体上部に青いボタンとそれを保護するカバー。そして、コネクタが付いていた。

「それは・・・」

クライムは、見たことも無いものに、思わず呟く。

「ん?あれはなんですか?」

「さあ・・・私も見た事がないですが、所詮はただの悪足掻きでしょう」

尋ねてくるウェルに対して、ジェームズは不敵な笑みを崩さない。

「・・・分かった。任せろ」

そして翼は、そんなビルドを見て、ただ頷いた。

「・・・行くぞ」

ビルドは、その手の赤い装置―――『ハザードトリガー』のボタンを保護するカバー『セキュリティクリアカバー』を外し、青いボタン『BLDハザードスイッチ』を押した。

 

 

『ハザードオン!』

 

そんな機械音声が流れる。

「え・・・・!?」

その音は、響とクリスにも聞こえていた。

「余所見している場合かよ!?」

「あ!?」

「させるか!」

一瞬の隙をつこうとしたタスクに向かってクリスが銃撃し阻止する。

「ありがとうクリスちゃん・・・!」

「余所見すんな!」

「分かってる!でも・・・・」

それでも、響はビルドの方が気になって仕方がなかった。

「だって、あれは・・・」

「ああ、わかってる」

響の言葉に、クリスはうなずく。

「だからその時は、アタシたちで止めるぞ」

ビルドはそのまま、ビルドドライバーの『BLDライドポート』にハザードトリガーの『BLDライドコネクタ』に接続する。

そして、ラビットフルボトルとタンクフルボトルを取り出し、それを振り、中の成分を十分活性化させた後で、それをドライバーのスロットに入れた。

 

ラビット!』『タンク!』

 

 

『スーパーベストマッチ!!』

 

 

今までとは違う音声が流れる。

 

 

 

『ドンテンカン!ドーンテンカン!ドンテンカン!ドーンテンカン!』

 

 

 

そんな待機音声が流れ出し、一方のビルドは何かを覚悟するかのようにゆっくりとボルテックレバーに手をかけ、回す。

 

 

『ガタガタゴットンズッダンズダン!ガタガタゴットンズッダンズダン!』

 

 

そうして形成された、鋳型のビルダー『ハザードライドビルダー』。そのビルダーには、黒と黄色の警戒ラインが貼られていた。

もはやその時点で、それがどれほど危ないものかという事を物語っていた。

 

 

『Are You Ready?』

 

 

 

覚悟は良いか、と、問いかけてくる。

その問いかけにビルドは、しばしの逡巡を見せる。

 

この力で、かつて戦兎は過ちを犯した。

 

その手で、人を殺めた。その罪悪感は、今も戦兎を蝕んでいる。だけど、今は――――

 

(―――この力で、俺はもう―――誰も失いたくない―――)

 

だからこそ、彼は叫ぶ。

 

自分の守りたいものを守るために。

 

 

 

「―――ビルドアップ!!!」

 

 

 

ハザードビルダーが、ビルドを挟み込んだ。

 

 

 

 

 

『アンコントロールスイッチッ!!ブラックハザード!!!』

 

 

 

 

『ヤベェーイ!!!』

 

 

 

 

 

ハザードビルダーから出てきたビルド。

 

その姿は―――真っ黒だった。

 

ビルド本来の二色の装甲は複眼を残して全く見えず、全身を黒一色に染めたかのような姿。

それはまるで―――実験に失敗した研究者が如く。

「あれが・・・ハザードフォーム」

響は、ただその姿に畏怖していた。

 

『ビルド・ラビットタンクハザードフォーム』

 

封印した筈の禁断のフォームが、今再び復活した瞬間である。

 

 

 

 

「―――この胸に宿った 信念の火は 誰も消す事は出来やしない 永劫のブレイズ―――」

 

マリアの歌が潜水艦の艦上に響き渡り、そこへクローズが突っ込む。

双剣と槍が錯綜し、激しく打ち合う。

「オラァ!!」

下段すれすれの斬り上げが迫るも躱され、しかしすかさずもう一方から間髪入れずの追撃。そのまま左右交互、隙を見せぬ連撃を繰り出す。

しかし、今歌っているのはマリア。即ち、バトルポテンシャルが向上しているのだ。

だから、クローズにもそうそう遅れはとらない。

マントが靡き、連撃を繰り出すクローズを打ち据える。

「ぐっ!?」

弾き飛ばされ、距離を取らされる。そこへ遠距離でマントの斬撃が迫り、それをホイールの回転で躱し、続く二撃、三撃を躱す。

その度に、潜水艦の装甲に傷が入っていく。

『龍我君!マリアを振り落とすんだ!』

「おう!」

 

『Set Up!Blast Impact Bow!』

 

ブラストモービルを弓状にして一気に引き絞る。

「喰らいやがれ!」

今のクローズが放てる最高火力の一撃がマリアに向かって放たれる。

その一条の光が、マリアのすぐ横を掠める。どうにか躱したようだが、しかしその余波はすさまじい。

「くう!」

だがしかし、躱したのは事実。マントを纏い、高速で回転してクローズに迫る。

 

『Set Up!Blast double Jamadhar!』

 

すぐさまブラストモービルをナックルダスター型にして、そのマリアの黒い竜巻を真正面から受け止める。

「ぐ・・・ぅぉぉぉあぁぁああ!!!」

火花が散り、しかしクローズは耐え、力任せに弾き飛ばして見せる。しかし―――

「ぐぅ・・・」

ふと踏ん張った左足がガクつく。

その隙を逃さず、マリアは一気にその手の槍を振るう。

「ぐぁぁあ!?」

弾き飛ばされ、どうにか踏み止まるも、その時走った足の痛みに思わず仮面の奥の顔を歪める。

(くそ、はじめに貰った一撃が効いてやがる・・・・!)

「ハァァァア!!」

「ッ!?」

見上げれば、マリアが槍を振りかざしてきていた。

そのまま槍を振り下ろしてくる。

「だったらァ!!」

「ッ!?」

そこでクローズは自らの装甲の薄さを無視。そのままマリアの槍を受け、そのままカウンター気味にマリアの腹に一発拳を叩きつける。

「ぐふっ・・・!?」

「がはっ!?」

クローズは弾き飛ばされ、マリアは腹を抑えて蹲る。

(こちらの一撃に合わせるなんて・・・・・)

「ぐ・・・」

それも、かなり重い一撃だ。武器を使うよりもずっとすさまじい威力だ。

(立ち上がれない・・・・!!)

その一方で、クローズは左膝を抑えていた。

最初、ケージを掴み取ろうとした時のマリアから受けた一撃が効いているのだ。

(だけど、ホイール使えば走る時の痛みはあんまりでねえ・・・)

姿勢を保つのに多少足を使うとはいえ、その程度だった無視できる程度だ。

あと、攻撃時は我慢すればいい。

相変わらずの脳筋思考で、クローズはすぐさま戦略を組み立てる。

立ち上がって、そして、ブラストモービルをしまって拳を構える。

(やっぱこっちの方がやりやすいわ)

(あれほど攻撃を受けて、まだ戦えるというの・・・!?)

マリアは、そのクローズの行動に驚くほかなかった。

そのまま、二人は静かに対峙した。

 

 

 

 

 

ハザードフォームに変身したビルドは―――一気にクライムに迫った。

「むっ―――」

先ほどよりも速く、それでいて明らかに受ければただでは済まない感じを出させる黒いビルドの拳。

だが―――

「だが、遅い」

それよりも速く、クライムの斬撃がビルドの右肩に炸裂する。

―――だが、ビルドは、怯まなかった。

「何ッ!?」

そして次の瞬間、ビルドの拳がクライムに炸裂する。

「ぐふっ・・・!?」

その重さに、クライムは思わずよろめく。

(なんだ、今の攻撃は―――)

「がっ!?」

すかさず顔面にビルドのブロウが叩き込まれ、そこから逆転、一方的に叩きのめされる。

「ぐっ、あっ、がっ!?」

「シン!?」

クライムが押されているその状況に、タスクは驚きを隠せなかった。

(嘘だろ・・・シンが押されるなんて・・・!?)

「馬鹿な!?」

そしてそれはまたジェームズも同じだった。

「ルインドライバーがビルドドライバーに負けているだと!?たかが黒くなったぐらいで、あれほどの力が出ると言うのか!?」

「これは予想外ですね・・・」

狼狽するジェームズの隣で、ウェルは眼鏡のブリッジを押し上げる。

(しかし、確かにすさまじいですが、彼はどこか焦っている・・・その焦りは一体・・・)

観戦しているウェルの眼にはそう映り、そしてそれはまた、クライムも同じだった。

「これが、ハザードの力・・・」

そして、その強さに翼は立ち竦んでいた。

「ハッ!!」

「ぐぅ!?」

その焦りの隙をついてクライムがサマーソルト気味にバク転、手放したブレードを足で掴み取り、ビルドの顎を斬り上げる。

そして着地するや、一気にビルドとの距離を詰め、すれ違い様に斬りぬこうとするが、それよりも速くビルドが蹴りを繰り出して―――高周波ブレードを叩き折った。

「何っ・・・!?」

ハザードフォームの体の末端部分には、触れた対象を分解・霧散させる機能を備えている。

その機能を使い、ビルドは高周波ブレードをへし折ったのだ。

そして、得物を失ったクライムに、ビルドは拳を振るうも、折られたことからすぐに立ち直ったクライムは後ろに飛び、ナイフを投げる。

ビルドは、それを全て叩き落し、全て分解・霧散させる。

「なるほど・・・厄介だな・・・」

「・・・・」

対峙する二人。

すかさずビルドが仕掛ける。まるで待ったなしだ。

徒手格闘戦になった二人の戦い。ビルドの放つ拳を的確に躱すクライム。

だが―――避け切れない。

「ぐぅっ!?」

「おぉぉおお!!」

右、右、左、右蹴り、左蹴り。

その三分の一は避けれても残りの三分の二が炸裂する。

(こいつ、時間が経つ度に強くなるのか・・・!?)

ハザードフォームでは、ハザードトリガーに内蔵されている強化剤『プログレスヴェイパー』による脳の特定部分を刺激することによって、変身者の戦闘力を引き上げていく効果がある。

その浸透率は、時間が経つたびに浸透していき、やがては――――負荷に耐え切れず、意識を失う。

ビルドが深く踏み込む。

「しまっ―――」

「おぉぉおお!!!」

そして渾身のアッパーがクライムの鳩尾に突き刺さる。

「ガハッ・・・」

「馬鹿な!?」

吹き飛ばされ、地面に倒れ伏すクライム。

「シン!」

「やあぁ!!」

「がっ!?」

気を取られたタスクの隙をついて、響が吹き飛ばす。

(よし、体が大分楽になってきた)

原因不明の不調の回復を実感してきている響。

この事態に、ジェームズは狼狽する。

「馬鹿な・・・私の育てたライダーが・・・」

「戦兎!大丈夫か!?」

「ああ、まだいける・・・!」

翼の呼びかけに、ビルドは頭を抑えながら答える。

このまま追撃しようとした。その時、どこからともなくあの円盤鋸が飛んでくる。

「「ッ!?」」

それをビルドと翼は叩き落し、そこへすかさず―――

「なんとイガリマァァァア!!!」

ビルドに向かって鎌を振り下ろす切歌。

 

「―――警告メロディー 死神呼ぶ 絶望の夢Death13」

 

そのままビルドを追撃、ビルドは攻撃を避ける。

「切歌ちゃんと・・・調ちゃん・・・!?」

突然の乱入者。それに驚く響。

切歌がビルドを攻撃している間に、調は響に向かって脚部のホイールを使い、さながらスケート選手の如くアスファルトを駆け抜ける。

そして再び円盤鋸『α式 百輪廻』を響に向かって放つ。

 

「はっ、たっ、たぁっ!!」

放たれた百輪廻を、響はその拳でもって叩き落す。

そしてすかさず調は輪型の鋸を展開し、巨大な車輪として、響に突進する。

 

非常Σ式 禁月輪

 

「う、うわぁぁあああ!?」

あまりにも殺意マシマシな攻撃に流石の響も驚きを隠せず回避する。

その一方で切歌の攻撃を受けるビルド。

しかし、今のビルドは他の装者など目じゃない程に強くなっている。その為、イガリマを振るう切歌の鎌をいとも容易く殴り折る。

「ッ!?」

硬直し、隙が出来るも、ビルドは追撃しようとする。

 

しかしここで、唐突にビルドの動きが止まる。

 

「―――」

「え・・・!?」

驚く切歌。

(まずい・・・こんな時にハザード限界が・・・!?)

「何か知らないですが、今の内に―――」

「させん!」

切歌が止まったビルドに向かってもう一本鎌を取り出して攻撃しようとする所を翼が受け止める。

だが、ビルドは未だその場にとどまり、頭を抑えている。

その様子のビルドを背に、翼は叫ぶ。

「ハザード限界だ!」

「「ッ!?」」

翼がそう叫ぶ。それを聞いた響とクリスはすぐさま血相を変える。

「そんな!」

「チッ!こんな時に・・・!」

「立花!お前が一番確実だ!頼む!」

切歌の連撃をいなしつつ、翼がそう叫ぶ。

「分かりました!」

その指示に従い、響は走り出す。

「敵を前にして背中を向けるなんて」

その背後から調が追撃してくる。頭に装着されたギアから展開された回転鋸を展開し、一気に響に叩きつけようとするが、それをクリスが受け止める。

「ッ!?」

「早く行け!」

「ありがとう!」

調をクリスに任せ、響はそのままビルドの元へ向かう。

そして、腕のギアのバンカーを限界にまで引き上げる。

「ごめんなさい!戻ってきてください!」

そして、一度謝り、そして祈りを込めた拳を、棒立ちのビルドに叩きつけた。

拳の一撃と共にバンカーの追撃が叩き込まれ、ビルドはそのまま殴り飛ばされて、壁に叩きつけられる。

「な!?」

「仲間を・・・!?」

その行為に、フィーネの装者やライダーを驚く。

巻き起こる粉塵の中、出てくるのは変身解除された戦兎。

「ぐ・・・ぅ・・・」

「大丈夫ですか!?」

「ああ、どうにかな・・・」

クライムからの攻撃だけでなく響の強力な一撃。それらが重なれば、戦兎の体に蓄積されたダメージは相当なものになる。

「しっかりしてください・・・!」

「すまない・・・」

響が戦兎に駆け寄り肩を貸す。

その一方で、翼とクリスは敵と対峙する。

「お前ら、一体何が目的だ!?」

クリスが怒鳴り気味で問いかける。

「・・・正義では守れないものを、守るために」

「え・・・」

調の返しに、響は戸惑う。

「そりゃ一体どういう―――」

響が重ねて聞こうとしたところで、どこからともなく風が吹き荒れる。

 

 

 

一方、艦上にいるマリアとクローズは―――

「ハア・・・ハア・・・」

一歩も動かず、互いの出方を見ていた。

だが、マリアの方はどこか余裕がなかった。

(ギアが、()()・・・)

ギアの重さを感じながら、それでもマリアはクローズから目を放さない。

しかし、そこへナスターシャからの連絡が入る。

『適合係数が低下しています。ネフィリムは回収済みです。戻りなさい』

帰還命令が下される。

「くっ!時限式じゃここまでなの!?」

「!?」

その言葉に、クローズは驚く。

(時限式って確か、なんか薬使って適合者になる奴らだったか・・・?まさか、こいつら、奏って奴とおなじ・・・)

風が吹き荒れる。

「ぐお!?」

思わず顔を庇うクローズ。その隙にマリアは飛び上がり、見えない何かに捕まる。

そして―――

「・・・なんじゃ、こりゃあ・・・」

見上げれば、プロペラ式の垂直離着陸機がいつの間にか現れていた。

「いつの間に・・・」

そこから降ろされるロープ。それに博士二人を抱えた装者、そして仮面ライダーが掴み取り、そのまま飛行機に回収され、飛んでいく。

「逃がすかよ!」

すぐさまクリスがその飛行機を撃ち落とすべくギアを狙撃銃(スナイパーライフル)に変え、ヘッドギアを狙撃用のスコープへと変形させ、対象を狙う。

 

RED HOT BLAZE

 

「ソロモンの杖を返しやがれ・・・!!」

執念で狙いを定めようとするクリス。

しかし――――

 

ロックオンした瞬間、その姿が虚空に消え去った。

 

「なんだと・・・」

目の前で消えた敵の飛行機。

「クリス!」

「セレナちゃん!」

『反応・・・消失しました・・・』

響がセレナに呼びかければ、向こうも敵を見失っていた。

「超常のステルス性能・・・直接見ている俺たちから姿を眩ませて、レーダーすらにも映らない・・・これが、敵の持つ異端技術・・・」

ボロボロの体に鞭を打って、戦兎はそう呟いた。

 

 

 

 

 

そして、その飛行機のコクピットにて、ナスターシャは目の前にある聖遺物を見つめていた。

(『神獣鏡(シェンショウジン)』の機能解析の過程で手に入れた、ステルステクノロジー・・・私たちのアドバンテージは大きくても、同時に儚く、脆い・・・)

「ッ!?ごふっ!ごほっ!」

突然、激しく咳き込むナスターシャ。そうして抑えた手を広げてみれば、そこには、口から吐いた血が握られていた。

「急がねば・・・儚く脆いものは、他にもあるのだから・・・!」

ナスターシャは、その何かの野望に満ちた目で、移り行く景色を睨みつけた。

 

 

 

 

「ぐぅ・・・」

「シン、無理しないで」

腰かけるシンを労うマリア。

マリアは、翼との戦いでナスターシャの命令で引き、そして切歌たちと一緒に飛行機に乗り込んでいた。

その一方では、切歌に殴り飛ばされるウェルの姿があった。

「下手打ちやがって。連中にアジトを抑えられたら、計画実行までどこに身を潜めれば良いんデスか!?」

「おやめなさい。こんな事をしたって、何も変わらないのだから」

そんな切歌をマリアが咎める。

「胸糞悪いです」

そう言ってウェルの胸倉を掴み上げていた手を離す。

「驚きましたよ。謝罪の機会すらくれないのですか?」

まるで悪気の無いウェルの態度に切歌はまた怒り出す。

そこへ、その部屋のモニターにナスターシャが映る。

『虎の子を守れたのが勿怪(もっけ)の幸い。とはいえ、アジトを抑えられた今、ネフィリムに与える餌がないのが、我々の大きな痛手です』

「博士がルインドライバーの改良道具だけじゃなく、餌も持ってきてくれれば良かったんですけどね」

「・・・ふん」

部屋の隅でまるで機嫌の悪いジェームズが腕を組んで背中を壁にもたれかけていた。

「今は大人しくしてても、いつまたお腹を空かせて暴れ出すか分からない」

そう言って、調は光の格子に閉じ込められているネフィリムを見る。

「シン、大丈夫か?」

「ああ。しばらく休めば大丈夫だ」

最も酷いダメージを受けたシン。

ビルドから受けた攻撃が思いのほか、重大な事になっており、装甲を通したかのような直接的なダメージが入っていた事が伺えた。

「あの黒いビルド・・・貴方は知らなかったのか?ジェームズ博士」

そう尋ねれば、ジェームズは気分をさらに悪くして顔を歪める。

「まさかあんな形態が存在するとは・・・おのれ葛城忍、葛城巧・・・!!」

その眼は憎しみに満ちており、とてもではないが会話は出来そうにない。

その事にため息を吐きつつ、シンはマリアからの治療を受ける。

「はい。これでおしまいよ」

「ありがとうマリア」

「だけど、しばらくの出撃は無理ね・・・」

「アームドギアをいとも容易くへし折ってたデス」

あの黒いビルド。見た目の黒さのように、相当の危険性を孕んだ形態だというのは伺えた。

そして、あの時響に変身解除された理由もなんとなく理解できる。

(あの黒いビルド・・・早々に排除しておいた方が良いですね)

そしてウェルもまた、あの黒いビルドに対して、ただならぬ警戒心を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

潜水艦が洋上を航行する中、その甲板にて戦兎、翼、響、クリス、龍我は座っていた。

特にダメージの深い戦兎は、コートを毛布代わりに艦上に寝転がっていた。

「ぐ・・ぅ・・・」

「桐生・・・」

痛みに呻き声を上げる戦兎を、翼は心配そうに見ていた。

彼女もまた、クライムから攻撃をもらっている。だが、そんな痛みに比べれば、戦兎の方がずっと痛いだろう。だから、我慢できる。

そんな中で、船体から弦十郎とセレナが出てくる。

「無事か、お前たち!」

「大丈夫ですか!?」

「師匠・・・セレナちゃん・・・」

セレナが救急箱をもって、戦兎たちへ駆け寄る。

そして響は、弦十郎を見上げて、ある事を呟いた。

「了子さんとは、例え、全部は分かり合えなくとも、せめて少しは通じ合えたと思ってました・・・なのに・・・」

新たに、フィーネが誕生した――――そして、今、自分たちの敵として立ちはだかっている。

そんな現実が、彼女たちに突き付けられていた。

そんな彼女たちに、弦十郎は言う。

「通じないなら、通じ合うまでぶつけてみろ!言葉より強いもの。知らぬお前たちではあるまい」

そんな弦十郎の言葉に、クリスは呆れ、翼は頷き、龍我はくくっと笑う。

「言ってる事、全然分かりません!」

そして響は、言い返す。

「でも、やってみます!」

そんな響の言葉に、弦十郎は微笑む。

(――――あれが了子さんな訳あるかっての)

が、戦兎だけは全く違う感想だった。

(了子さんとして覚醒したなら、まず月の破壊を目論むし、国土の割譲なんて頭の悪い発言なんてしない。仮に、周到な用意があったとしても、わざわざアジトが分かるような足跡なんて残さねえし、他の誰かが仕掛けてもすぐに分かった筈だ・・・)

痛みに鈍る頭を懸命に回転させて、戦兎はある結論を導き出す。

(つまり、マリアはフィーネではない・・・そして、()()()()()。だとすれば、本当の器は、残り二人に絞られる―――)

セレナと翼に治療される中で、戦兎は、考える。

(暁切歌か、月読調のどっちか・・・って所か・・・)

そして、もう一つ。

「・・・ハザードを使った感じはどうだった?」

ふと、翼が訪ねる。戦兎の手には、ハザードトリガーが握られていた。

「・・・嫌な事を思い出したよ」

一度翼の方を見て、そして俯いて、頷いた。

「アイツに勝つにはこれしかなかったとは言え、やはり暴走の危険性がある・・・早くアレの完成を急がないと・・・」

「そうか・・・」

腕の包帯を巻き終え、翼はふと手を止める。

「・・・私は、科学の事はさっぱりだ」

「ああ、それは知ってる」

「だから、手伝う事は出来ない・・・でも」

ふと、戦兎の手を手に取り、そして持ち上げて顔の近くに近付け、戦兎を真っ直ぐに見る。

「影ながら、応援している」

「・・・おう」

その真っ直ぐな眼差しに、戦兎は、笑って答えるのだった。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

『フィーネ』との戦いから数日後。

「毎年こんなに人が来るのか?」

リディアンでついに開催される学園祭『秋桜祭』。

「何を食べても美味しいデスよ!」

何故かいる調と切歌。

「頼む助けてくれ!」

そして何故か逃走しているクリス。

その理由とは――――

次回『教室モノクローム』

「お前は歌、嫌いなのかよ?」


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教室モノクローム

作「おのれ駅伝・・・こうなりゃ今すぐ全てを破壊して潰してやらぁぁぁああ!!」RPGなど完全武装
響「やめてください!」
作「あふん」
戦「今週の仮面ライダーゼロワンが駅伝によって潰されたために怒りを爆発させてお仕置きされた作者の図がこれです」
ク「ったくビルドの小説書いてるくせになんで他の仮面ライダー見てるんだか」
頭「それが仮面ライダーファンというものだ」
絶望センス「そういやお前は以前にも他のライダーになった事があるそうだな」
ネトアイ「丁度十年前になるのよねそのライダー」
頭「その時の活躍を見てくれても良いんだぜみー〇ん?」
スパイ「なおその時は相当な女たらしだった模様」
龍「マジかお前アッハッハ!!」
翼「それはともかく、仮面ライダービルドこと桐生戦兎は二課の面々と共にフィーネのアジトを突き止めたが、そこで敵の仮面ライダー、クライムとタスクに苦戦してしまう。そこで手を出したのが禁断の力『ハザードトリガー』によって成される『ハザードフォーム』だった」
青羽「言っておくけどなぁ、俺は黒いビルドを見るとイライラすんだよぉ!」
戦「悪かったって!こうするしか手がなかったんだ!」
黄羽「あの時は本当に大変だったよねえ・・・」
赤羽「ああ、あれはマジで信じられなかった」
戦「ああもう、もうそんな事がないように頑張るから!てなわけで今回は全国が鼻血吹いたらしい第二七話をどうぞ!」
ク「鼻血ってどういう事だ!?」
未「そのままの意味だよクリス」
ク「だからどういう意味だぁぁあぁああ!?」


F.I.S―――正式名称『米国連邦聖遺物研究機関(Federal Institutes of Sacrist)

 

米国における聖遺物研究所であり、謎の武装組織『フィーネ』が逸脱した組織。

フィーネの構成員は、大方がそこの研究員であり、その統率を離れ暴走したという事らしい。

二課同様に聖遺物に対する研究を行っていたわけだが、どうやら個人の才に左右される『歌』ではなく合理的に機械的に安定した起動方法を模索する事に大きく予算を割いていたらしい。

 

ソロモンの杖輸送任務にて行方不明になり、そして再び現れたウェル博士もまた、F.I.Sの研究者の一人だという事らしい。

 

 

 

「んでもって、マリアの纏うガングニールが時限式、か・・・」

龍我からもたらされた、新たな情報。それは、マリアはLiNKERによる薬物投与によって成立している後天的な装者、第二種適合者だという事。

即ち、天羽奏と同じ、という事だ。

そんな情報を資料に纏めたものを横眼に、戦兎は、目の前にあるとある機械を作っていた。

(奴らの目的がなんなのか知らない。だが、あの化け物を集中的に守っていた事は分かる。あれさえ確保できれば、あるいはあれがなんなのか分かれば、目的が何なのか分かるんだが・・・)

なんて考えつつ、その右手を横に突き出して何かを掴んだ。

「ひっ」

可愛らしい悲鳴があがり、戦兎はそちらをジト目で睨む。

「で?お前は一体なにやってんだ?」

「あ、えーっと、そのぉ・・・」

どう言い訳しようか考えているのは、戦兎の助手であるセレナである。

その手には、まだ未完成のストームナックルとその設計図があった。

「せ、戦兎先生はまだアレの完成も出来てない事ですし、だからせめて、戦力増強の為にこれだけでも直しておこうかなぁ・・・と思いまして・・・」

「文化祭の準備は?」

「学校行事より直面している問題を解決する方が大事だと思うんです」

「馬鹿かお前は学校の方が大事に決まってんだろ!?」

「は、はいぃい!!」

戦兎に怒鳴られて縮こまるセレナ。そんなセレナに戦兎は呆れ、ぽんぽんと頭を軽く叩く。

「ま、その心意気だけは受け取っておくよ。だけどお前はまだ学生。今は青春を謳歌する方が大事だろ」

「でも・・・」

「本当に困った時は手伝ってもらうさ。だからそれまでは学校の友達とかを大事にしろ」

「・・・分かりました」

セレナをそうなだめ、戦兎は未だ痛む体に我慢を要求しつつ、考える。

(どちらにしろ、見過ごす事は出来ない。もし何か動いた時は、必ず―――)

ハザードを使ってでも、スクラッシュドライバーを取り戻す。

 

 

 

 

 

そうして傷の痛みも引いてきた三日後。秋桜祭当日。

「なあ、秋桜祭って毎年こんなに人が来るのか?」

「ああ。一般公開の日は毎年こんな感じだ」

翼と一緒に文化祭を回る戦兎。

ちなみにセレナは龍我と一緒である。理由は、まああれだ。クリスが『奴ら』から逃げているから。

ちなみに、

「あ、見て、戦兎先生よ!」

「翼さんもいるわ!」

「なんて仲睦まじく横並びで歩いているのかしら・・・」

「戦兎先生イケメンだから翼さんと引けを取らないわ・・・」

「ああ!出来る事なら翼さんと場所を変わりたい!」

「ちょっと!変わるべきはこの私よ!」

「何よ!まるで自分の方が相応しいとでも言いたげな言い分ね!?」

「少なくともアンタよりは上よ!」

「なんですって!?」

「やめなさい貴方たち。戦兎先生の隣は私のものよ」

「さらに増えたー、もうやだー」

なんていう会話が繰り広げられており。

「く・・・うぅ・・・」

翼は顔を真っ赤にしていた。

「・・・ま、まあ気にすんなよ。単なる噂だし・・・」

「・・・むう」

「ん・・・?」

「・・・・」

「おい、どうした・・・?」

顔を赤くしていじける翼が頬を膨らませている事に戦兎はついぞ理解する事は出来なかった。

「ま、まあとにかく、今は文化祭を楽しもうぜ」

「・・・ふう、仕方がない。今日は私も羽目を外すとするとしよう」

戦兎の提案を受け入れ、二人はそのまま学祭を楽しんでいく。

 

 

 

その一方で―――

「楽しいデスなぁ、何を食べても美味しいデスよ!」

何故かリディアンの学園祭にいる切歌と調。

「じー・・・」

そして何故か楽しんでいる切歌を睨みつける調。

ちなみに二人はどういう訳か額縁眼鏡をかけていた。

「ん?なんデスか調・・・?」

その視線に、切歌は訳も分からず気まずそうに調をみる。

「私たちの任務は、学祭を全力で満喫する事じゃないよ。切ちゃん」

移動して人気の無い木の所までやってきた切歌と調。

「わ、分かってるデス!これもまた、捜査の一環なのデス!」

調の言葉にそう言い返す切歌。

「捜査?」

「人間誰しも、美味しいものに引き寄せられるものデス」

そう言って、切歌はポケットから受付で貰ったパンフの内、『うまいもんMAP』と書かれた紙を取り出す。

「学院内のうまいもんMAPを完成させる事が、捜査対象の絞り込みには重要なのデス」

そんな切歌の言い分を聞いた調は、頬を膨らませてさらにその睨みを強くする。

「むぅー・・・!」

「う・・・心配しないでも大丈夫デス。この身に課せられた使命は、一秒たりとも忘れていないのデス」

 

 

 

 

それは、ほんの昨日の事。

「アジトを抑えられ、ネフィリムを成長させるに必要な餌、聖遺物の欠片もまた、二課の手におちてしまったのは事実ですが、本国の研究機関より持ち出したその数も、残り僅か・・・遠からず、補給しなければなりませんでした」

「じゃあどうすんだよ?」

そんな事を言っているウェルに、慧介がそう尋ねる。

今だ傷は癒えていないために、療養中なのは致し方ない。

「対策は何か考えているのか?」

「対策などとそんな大袈裟な事は考えていませんよ。今時聖遺物の欠片なんて、その辺にごろごろ転がっていますからね」

「まさか、このペンダントを食べさせるの?」

調が驚いたように言うも、ウェルがすぐさま否定する。

「とんでもない。こちらの貴重な戦力であるギアを、みすみす失わせる訳にはいかないでしょう?」

ちなみに、ジェームズは自室に引きこもってルインドライバーの改良を行っている。スクラッシュドライバーについてはまるで頓着がない。

「だったら私が、奴らのもっているシンフォギアを・・・」

「それはダメデス!」

ふと、そう言うマリアに向かって、切歌が声を挙げる。

「絶対にダメ。マリアが力を使う度、フィーネの魂がより強く目覚めてしまう。それは、マリアの魂を塗り潰してしまうと言う事・・・!そんなのは、絶対にダメ・・・!」

調が立ち上がり、そう言いだす。

「その通りだ。お前が戦うのなら、俺が代わりに戦う」

そして、シンもまた立ち上がってそう言い出す。

「そうだ、マリアがマリアでなるなるなんて、そんなの絶対にダメだ」

慧介もまた、同じく。

「四人とも・・・・」

「だとしたら、どうします?」

ウェルが訪ねる。

「アタシたちがやるデス!マリアを守るのが、アタシたちの戦いデス!」

 

 

 

 

 

そして、今に至る。

シンと慧介はビルドたちから受けた傷の回復に専念させる為に今回は置いてきた。

その為、今ここにいるのは切歌と調の二人だけなのだ。

「とは言ったものの、どうしたものかデス・・・」

未だ、見つけるべき相手を見つけられていない現状。

どうすればいいのか考えていた。

「とにかく、この学園祭を回れば、きっと奴らにも―――」

その時だった。

「それでですね。クリスさんったら顔を真っ赤にして怒っちゃったんですよ」

「アッハッハ!まじかそれ!?マジで笑えるじゃねえか!?」

「ですよね!?」

そんな、仲睦まじい男女の会話が聞こえてきた。

その方向へ視線を向けた調は、目を見開いて、硬直した。

「――――」

「ん?調、どうかしたデ・・・」

その調の異変に気付いた切歌が、調を同じ方向を見た時、調も固まった。

そこにいたのは―――彼女たちが、見知った顔だった。

「んで、その後クリスはどうなったんだよ?」

「もう恥ずかしかったのか思いっきり走って逃げていきましたよ。あー、本当に面白かったぁ・・・」

そこにいたのは、仮面ライダークローズこと、万丈龍我。そして、一人の橙色がかった茶色の髪を靡かせる少女。

「・・・セレナ?」

セレナ・リトルネッロ・ヘルカートだった。否―――

「せ、セレ―――!?」

思わず飛び出そうとした調の口を切歌が塞いで木の陰に隠れる。

そうして、二人が過ぎ去っていくのを待った。

「・・・切ちゃん、何を・・・」

二人が過ぎ去っていくのを物陰から見つつ、調は切歌に尋ねた。

「・・・あれは、別人かもしれないデス」

「別人?」

「そうデス。言うでデスよね。世界には、同じ顔の人間が三人もいるって・・・だから、あのセレナは、別人かもしれないデス・・・いいえ、絶対に別人デス・・・!」

切歌は断言した。

「もしセレナが生きていたら、きっとアイツらと一緒にはいないデス。それに、セレナは、あの時・・・・」

そこから先の言葉が、続かなかった。

だけど、その気持ちを、調は汲み取る。

「・・・そう、だよね・・・」

行ってしまうセレナを背中を見て、調は呟く。

「セレナは、もう、いないんだよね・・・」

調は、虚しく呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方で――――

「んむ・・・このチョコバナナという菓子は絶品だな」

「お前、それ食ったどころか存在すら知らなかったのか?」

チョコバナナを頬張る翼を半目で見つつ、満足そうにしている翼の顔を見て思わずふっと笑ってしまう戦兎。

しかし、しかしだ・・・・

(なんか周りからの視線が痛いんだが・・・)

道行く人、翼の存在を認めるなり、何故か翼ではなくその隣にいる戦兎を好奇な目で見ていた。

(なんで翼じゃなくて俺に注目するんだ?)

こういう状況になれていない為か、首を傾げるだけの戦兎。

全くもって鈍感な男である。

「翼、ちょっと人目のつかない所に行こう。視線が結構きつい」

「む、それもそうだな・・・よし、行くか」

戦兎に言われて状況を理解したのか、翼も了承し、一目のつかない校舎の方へ。

「今まで、ノイズの対処に専念していたが、こうして改めて参加してみると、存外楽しいものだな」

「そう思えたようで何よりだよ・・・」

そう言い合いながら、食べ終わったチョコバナナの串を捨て、廊下を二人並んで歩く。

「そういえば、例のものは出来たのか?」

「ん?・・・ああ、まだだ。結構深い所で破損してて中身を一から作り直さなくちゃいけないから、まだまだ時間がかかりそうだ」

「そうか・・・」

ハザードトリガー。

それに内臓された黒色の強化剤『プログレスヴェイパー』が充填されており、変身者の肉体に装甲と一緒に浸透される。

そして、脳の特定部分に浸透させて戦闘本能を刺激する事で圧倒的な戦闘力を発揮させる事が出来る。

しかし、その分変身者への負担が高く、時間が経つと脳が負担に耐え切れなくなり、『ハザード限界』と呼んでいる危険域に達すると、目につくもの全てを敵味方関係なく破壊しようとする暴走状態である『オーバーフロー状態』に陥ってしまう。

その力で、戦兎は一度、人を殺している。

だから、絶対に制御しなければならない。

「次の戦いまでにいは間に合いそうか?」

「間に合わせる。絶対に」

「そうか・・・そうだな・・・」

ハザードの暴走は、響の暴走と似たものがある。だからこそ、そんな事は絶対にあってはならない。

「それはそうと桐生・・・・」

その時だった。

ふと、視界の横にあった扉から、何かが飛び出し、翼を真正面から衝突した。

「「うわ!?」」

クリスだ。

「いってぇ・・・」

「またしても雪音か」

「え?何?前に同じような事があったのか?」

「まあそんな所だ・・・それで何をそんなに慌てている?」

「っ!追われてるんだ!さっきから連中の包囲網が少しずつ狭められて・・・」

「追いかけらているって・・・」

「だから頼む!匿ってくれ!」

「あー、一体何の話だ?」

状況が理解できない戦兎。

「私もよくは知らないのだが・・・何やらクラスメイトに追われていてな」

「あああれか・・・」

「頼む助けてくれ!」

「お前歌上手いんだからいいじゃねえか」

「でも・・・」

「あ!雪音さん見つけた!」

「げっ」

そうこうしている内にクラスメイトに捕まるクリス。

「お願い!登壇まで時間がないの!」

「うぅう・・・」

「諦めろ」

戦兎がクリスの肩に手を置いて、そう言った。

 

 

 

 

 

そんな訳でカラオケ大会の開催されているホールにて。

「さあて!次なる挑戦者の登場です!」

司会と書かれたリストバンドを腕につけた少女がマイク片手にテンション高めにそう言う。

その会場の席には、響と未来、そしてクロの姿があった。

実は彼女たちの友人である板場たちがこの大会に出るとのことで、彼女たちも見に来ていたのだ。

ただし、結果は惨敗である。

そして、会場が歓声に包まれる中、出てきたのは、一人の少女。

その姿を見て、響と未来とクロは驚く。

「響、あれって!?」

「うそぉ!?」

「キュル!?」

そんな彼女たちの驚きに答える者がいた。

「雪音だ」

「私立リディアン音楽院二回生、雪音クリスだ」

翼と戦兎である。

一方のクリスは、顔を赤くしてその場に佇んでいた。

既に曲は流れているが、クリスは、どうにも歌い出せないでいる。

「ぜえ・・・ぜえ・・・よぉし間に合ったぁ!」

「まだ前奏が始まったばかりですね!」

そこへ駆け込む龍我とセレナ。

しかし、すぐに異変に気付く。

すでに歌は始まっているだろう。しかし、クリスはまだ歌い出さない。

(やっぱり、いきなりなんて・・・)

横眼でステージ横にいるクラスメイトの方を見る。

そんな彼女たちは、頑張れ、とクリスを応援しているが、どうにも歌い出せない。

だが、そんな時だった―――

「クリス―――!!」

よく聞き知った声が、クリスの耳に届いた。

見上げてみれば、そこには、不敵な笑い顔でこちらを見る龍我の姿があった。

「りゅ、龍我・・・!?」

その姿にクリスは目を見開いて驚く。しかし、

「歌えよ!お前の好きなように!」

ただ、短く、そう声をかけた。

その声に、クリスは、少し恥ずかしがって――――それでも、ほんの少しの勇気をもらった。

 

「―――誰かに手を差し伸べて貰って」

 

少し遅れての、歌い出し。

しかし、一度歌い出せば―――そこはもう、クリスの世界(ステージ)だ。

 

「―――(いた)みとは違った(いた)みを知る」

 

その綺麗な歌声が、一瞬で会場を魅了する。

 

「―――モノクロームの未来予想図」

 

リズムに乗り、歌に乗り、自分の世界に夢中になり、彼女の歌は、加速する。

 

「―――絵具を探して…でも今は―――」

 

 

その最中で、クリスは思い出す。

 

 

「えー、今日から転入してきた生徒を紹介すっぞ。ほら、挨拶しろ」

「雪音、クリス・・・」

なんとも軽い感じでクリスに話しかけてくる戦兎に恨みがましい視線を向けながら、クリスはそう名乗る。

 

 

―――何故だろう、何故だろう―――

 

 

―――色付くよゆっくりと 花が虹に誇って咲くみたいに―――

 

 

唄えば唄うほど、初めての学園生活の事が呼び起される。

「雪音さん!」

「一緒に食べない?」

話しかけてきてくれた人がいた。あのクラスメイトの三人だ。

そんな彼女たちを前にして、クリスは、思わず逃げてしまう。

「悪ぃ、用事があるんだ・・・」

 

 

―――放課後のチャイムに混じった風が吹き抜ける―――

 

 

本当は、一緒に食べたかった。だけど、そんな事に慣れてなかった。

「まあ最初はそうだろうな」

そんな中で、あの教師は声をかけてきた。

「人間誰しも初めての事には戸惑うものだ」

「・・・」

黙々とあんぱんと牛乳を頬張りながら、その教師の()()()を聞く。

「でも、ほんの少し勇気を振り絞れば、案外簡単に出来ちまう事だぜ。誰かと関わりを持つっていうのは」

 

 

―――感じた事無い居心地のよさにまだ戸惑ってるよ―――

 

 

歌を唄えば唄うほど、自分の想いが表に出ていく。歌を唄っているときだけ、自分は自分を出せる。

だからこそ、今、こうして笑っている。

歌の授業で歌にのめり込んで、いつの間にか体を動かしていた事がとても恥ずかしかった。

だけど―――

 

 

―――ねえ、こんな空が高いと 笑顔がね…隠せない―――

 

 

 

「―――一体どうしたんだ?」

「勝ち抜きステージで、雪音さんに歌ってほしいんです」

ここに連れ込まれる前の会話―――

「だからなんでアタシが・・・!」

「だって雪音さん、凄く楽しそうに歌を唄ってたから」

「あ・・・」

歌を唄えば、本当の自分が出る。

歌を心の底から大好きな自分が出てきてしまう。

それを、歌を唄う度に見られてしまう。

その結果が、これだ。

 

「―――笑ってもいいかな 許してもらえるのかな―――」

 

 

その、歌が大好きなクリスの全てが出ている歌は、会場を魅了していた。

響を感動させ、未来を震わせ、翼を昂らせ、戦兎を落ち着かせ、セレナを興奮させ。

セレナたちを追いかけてこの会場に来ていた調と切歌の二人に、自分たちの目的を忘れさせ。

そして何よりも、龍我に想いを届かせていた。

 

 

「―――あたしは、あたしの―――」

 

 

もし、この想いが届いているのなら―――

(もっと、もっと、伝わって欲しい―――)

 

 

「―――せいいっぱい、せいいっぱい…こころから、こころから…―――」

 

 

「お前は歌、嫌いなのかよ?」

戦兎が、あの場でそう尋ねる。

 

ああ、嫌いと言えたら、どれほど楽だっただろうか。

 

だけど、それでも、否定できなかったのは――――

 

 

 

(アタシは・・・歌が、大好きだから―――)

 

 

 

「―――あるがままに―――」

 

 

 

何より―――

 

 

 

「――うたってもいいのかな…!―――」

 

 

 

 

(―――龍我が聞いてくれる、この歌が―――私は―――!!!)

 

 

 

 

 

想いが、爆発する。

 

 

 

「―――太陽が教室へとさす光が眩しかった―――」

 

 

 

その瞬間、会場にいる全ての人間に、ある光景を映した。

 

 

 

――――そこは、晴天の空の下の、赤い花々が咲く、野原。

 

 

 

「―――雪解けのように何故か涙が溢れて止まらないよ―――」

 

 

 

それは、きっと、彼女の心の世界。

今、彼女が歌う事で、会場に見せている、彼女の幻想。

 

歌が伝える、想いの力。

 

 

 

「―――こんなこんな暖かいんだ…―――」

 

 

 

その花の花弁が、風に舞い、彼女の周りを花吹雪となって飛び回る。

ああ、それは、まさに―――

 

 

「―――あたしの帰る場所―――」

 

 

 

彼女だけの、歌だ――――

 

 

 

「―――あたしの、帰る場所―――」

 

 

 

 

(楽しいな・・・)

歓声が、会場を包み込む。

(アタシ、こんなに楽しく歌を唄えるんだ・・・)

会場を魅了した、彼女の歌の幻想は終わってしまった。だけど、その余韻は残り続ける。

(そうか・・・)

その会場にいる響や未来、翼、戦兎、セレナ。彼女たちが、激励をもって拍手をする中で、ただ一人、まるで自分の事のように得意気に笑って、グッドサインを向ける、龍我を見上げた。

(ここはきっと・・・アタシが、いても良い所なんだ・・・)

その余韻の嵐に吹かれながら、クリスは、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――そんなわけで

 

「勝ち抜きステージ!新チャンピオン誕生!」

スポットライトに当てられたクリスが呆気にとられる。

「さあ!次なる挑戦者は!?」

改めるとかなり恥ずかしい状況である。しかし司会は当事者ではないためそんなクリスの事情などおかまいなしにどんどん話しを進めていく。

「飛び入りも大歓迎ですよー!」

そう司会の少女が言っている間に、龍我とセレナは戦兎たちの元へ。

「悪い、遅れた」

「よお騎士様、お姫様のピンチに颯爽と駆け付けて、かっこいいですな」

「茶化すなよお前・・・」

「でもでも!龍我さん格好良かったですよ!」

「まさしく、男だな」

なんて言い合っていると、

「やるデス!」

「ん?」

何やら聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

そうしてスポットライトに当てられたのは――――

「アイツらは・・・!?」

その姿に、クリスは驚愕する。

「チャンピオンに」

「挑戦デース!」

 

月読調と暁切歌だった。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

突如として姿を現した調と切歌。

「一体なんのつもりだ?」

その一方で、『フィーネ』アジトでは、米国からの襲撃を受けていた。

「俺が出る」

その中で名乗り出たのは――――

「なるほどな・・・・」

調たちの狙いとは。

そして、シンの生身での実力は。

次回『戦場のジャック・ザ・リッパー』

「・・・白い・・・悪魔・・・」


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戦場のジャック・ザ・リッパー

戦「仮面ライダービルドこと、天才物理学者の桐生戦兎は、リディアンで開催されている学園祭『秋桜祭』を翼と共に回っていたのであった」
マ「いわば戦兎と翼の初デートって所ね」
翼「はう・・・」
ク「・・・・」
未「ん?どうしたのクリス?」
ク「・・・ふんっ!」龍我に向かって腹パン
龍「うげあ!?」クリスに腹パンされる
ク「龍我の馬鹿!」
龍「何故だ・・・」
響「アハハ・・・それで、前回ですが、クリスちゃんが歌いました」
切「そして、アタシたちがクリス先輩に喧嘩を売ったのデース!」
調「という訳で、負けない」
慧「俺もみたかったなそれ」
調「そ、そう・・・」
シ「はあ・・・まあ、それはともかくだ」
マ「では、今回はシンの過去が明らかになる第二八話をどうぞ!」


突如として、カラオケ大会の会場にその姿を見せた調と切歌。

「翼さん、戦兎先生、あの子たちって・・・」

「ああ・・・だが一体なんのつもりだ?」

一体、何が目的で姿を現したのか。

「ただの対抗心からじゃねえのか?」

「馬鹿は黙ってろ」

龍我の言葉を一蹴しつつ、戦兎はなおも二人から目を放さない。

「キュルル・・・」

警戒して唸るクロを一度みつつ、未来は響に尋ねる。

「響、あの子たちを知ってるの?」

「あ、うん・・・あのね未来・・・」

響がどう説明しようかと悩んでいると、おもむろに翼が立ち上がって説明する。

「彼女たちは、世界に向けて宣戦布告し、私たちと敵対するシンフォギア装者だ」

「じゃあ、マリアさんの仲間なの?」

「ああ」

「ライブ会場でノイズを操って見せたのも、あの人たちなんです」

セレナが、捕捉を加えて、彼女たちを見上げた。

 

 

 

 

 

 

その一方で、港近くの倉庫内にて、フィーネの所有する飛行機は隠されていた。

その中で―――

「よし、全快だ」

包帯を取り、体の動きの調子を確認してそう言うシン。

「あまり無理しないで」

「ハザードレベルが上がっているお陰で傷の治りが早くなっている。だからもう心配はない」

マリアの言葉にシンはそう返す。

事実、慧介も既に傷は治している。

しかしマリアはその返しに、俯いてしまう。

「マリア・・・」

「後悔しているのですか?」

そんな中、同じ部屋にいたナスターシャがそうマリアに言う。

その言葉に、マリアは首を横に振る。

「大丈夫よマム。私は、私に与えられた使命を全うしてみせる」

そうマリアが言った直後、シンはおもむろに壁の方を見た。

「シン?」

「・・・・敵襲だ」

「なっ!?」

その言葉に、ナスターシャはすぐさまモニターを映し出す。

そこには、徐々に集まりつつある戦闘服を着て武装した集団が映っていた。

「今度は本国からの追手・・・」

「もうここが嗅ぎ付けられたの!?」

「異端技術を手にしたとっても、私たちは素人の集団・・・少年兵であったシンがいても、訓練された集団を相手に上手く立ち回れるなど、虫が良すぎます」

それは事実であり、実際に奴らにここを特定されてしまっている。

シンも元少年兵と言えど、彼は作戦参謀を任された存在ではなくあくまで戦闘員。その場その場の判断において長けてはいても、本気で作戦を立てる相手に、勝てる訳がない。

「どうするの?」

「俺が出る」

すぐさまシンが申し出る。

「いくら元少年兵である貴方でも、それでも七年のブランクがあります。ライダーシステムがない状態でどれほど戦えるか」

「問題ない。勘は十分に取り戻している」

ナスターシャの言葉に、シンはそう返す。

「だったら俺も・・・」

「お前はダメだ。それに相手はただの人間。ライダーシステムを使うまでもない」

シンはそう告げると、すぐさま部屋を出ていこうとする。

「待ってシン、相手はただの人間だとしても銃をもっているのよ?いくら貴方でも・・・」

「問題ない。全て斬るまでだ」

シンはなんでもない、とでも言うように言い返す。

「だとしても・・・・」

「マリア」

それでも食い下がろうとするマリアに、ナスターシャが厳しい声で言う。

「ライブ会場の時もそうでした。マリア、その手を血に染める事を恐れているのですか?」

「マム、私は・・・」

その言葉に、何も言い返せないマリア。

「だからこそ」

そんな中で、シンが言う。

「俺が代わりに血を浴びるんだ」

「シン・・・?」

マリアの方を見ず、シンは部屋を出ていく。

「待って、シ―――!」

マリアが何かを言いかけるが、それを無視してシンは駆け出す。

「ジェームズ博士、敵襲だ。刀の方は出来ているか?」

ジェームズの部屋に駆け込み、シンは尋ねる。

「そこに立てかけてある。それを使え」

机に座って作業に没頭しているジェームズの言葉に横を見れば、機械的な鞘に納められた一本の刀が置いてあった。

「完全聖遺物『雷切(ライキリ)』だ」

「完全聖遺物だと?どうやって起動した?」

「あのライブ会場の時だ。ネフィリムと一緒に起動した」

「そうか」

深くは聞かない事にする。

それを肩にかけ、すぐさま部屋を出ていく。

そして、部屋を駆け出ていく。

 

 

 

 

 

明かりの灯った会場にて、調と切歌の二人が階段を降りてステージに向かってくる。

そして、切歌はクリスに向かって目の下を引っ張って舌を出した。

「べー!」

「ッ!」

完全にこちらを馬鹿にしている行為にクリスは思わず頭にくる。

しかしここで暴力に訴えかける程彼女も愚かではない。

「切ちゃん、私たちの目的は?」

「聖遺物の欠片から作られたペンダントを奪い取る事デース」

「だったら、こんなやり方しなくても・・・」

調が呆れたように言う。

 

「なるほどな・・・・」

その一方で、ラビットの能力で二人の会話を盗み聞いた戦兎は納得した様子で二人を見ていた。

「どうだった?」

「どうやらシンフォギアのペンダントが狙いらしい・・・」

「シンフォギアって、なんで・・・!?」

「それは分からない・・・だけど・・・」

一つだけ確信している事がある。

「聞けば、このステージを勝ち抜けば、望みを一つ叶えてくれるとか。このチャンス逃す訳には・・・」

「面白ぇ、やりあおうってんならこちとら準備は出来ている」

「クリスが売られた勝負を買わない訳がないんだよなぁ・・・」

戦兎の予想通り、クリスは勝負を受けて立ったのだ。

呆れない訳がない。

そんな中で、調の溜息が一つ。

「特別に付き合ってあげる。でも忘れないで。これは・・・」

「分かってる。首尾よく果たして見せるデス!」

切歌が不敵に言って見せる。

そうしてステージの上に立つ調と切歌。

「それでは歌っていただきましょう!えーっと・・・」

「月読調」

「暁切歌デース!」

「オーケー!二人が歌う、『ORBITAL BEAT』!もちろんツヴァイウィングのナンバーだ!」

そうして流れる前奏に、観客席の響達は驚く。

「この歌・・・!?」

「翼さんと奏さんの・・・!?」

「なんのつもりの当て擦り・・・」

「なんだ誘ってんのかあいつら?」

「まあ、挑発なんだろうな」

聖遺物の欠片を使っているペンダント。それを使って、一体何をしようというのか。

 

そして、調と切歌による、二重奏(デュオ)が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

倉庫の外で待ち構える武装集団。

壁に爆弾を取りつけ、爆発による混乱に乗じて一気に制圧するつもりなのだろう。

しかし、倉庫の扉の面のすぐ横の面の壁が、突如として吹き飛んだ。

「ッ!?」

「なんだ!?」

思わず驚く戦闘員たち。巻き起こる粉塵の中、微かに光る、青白い光―――

 

それが迸った瞬間、その粉塵より一番近かった戦闘員の首が跳ね飛ぶ。

 

「「「な―――ッ!?」」」

一瞬、何が起きたのか分からなかった。しかし、その青白い光が再び迸った時、その姿を認める前にまた一人から鮮血が舞う。

その光景に、彼らは後ずさる。

それもそうだろう。

今時リアルなスプラッタなんてありえないのだから。しかし、それは現実だった。

 

青白い光を放つ刀を片手に―――シンは、血塗れでそこに立っていた。

 

「・・・・」

ただ、シンはそこに立ち、後ずさる彼らを見据える。

そして―――

「・・・このまま退いてくれるというのならこれ以上死人は出ない。だが、このまま続けるというのならば・・・」

切っ先を向け、そして柄を顔に近付けるように構えて、シンは警告する。

「全員斬る」

その眼光に当たられた彼らは―――

「う、撃てぇぇぇええ!!」

 

恐怖に負けて、シンに向かって銃撃を開始した。

 

その弾丸の嵐を、シンはその手に持つ刀―――完全聖遺物『雷切』の能力を開放する。

 

 

雷切―――人が作った、通常の聖遺物よりも遥かに力の劣る人造聖遺物の一つ。

伝承において、雷の中の雷神を切ったとされるその刀は、その身に雷を纏い、操る。

 

 

それによって引き起こされる体内を駆け巡る信号を加速させ、筋肉を強制稼働。それによって直撃する弾丸を叩き落し、そして、放たれた弾丸の嵐を駆け抜ける。

そしてすれ違い様に一人を切り伏せ、すかさずその横にいる一人を先ほど切った一人の背後から周り背中から心臓を一刺し。そして引き抜くと同時にその後ろにいた一人を袈裟懸けに叩き切り、最後の一人の首に雷切を突き刺す。

その間、僅か三秒。

「がは・・・」

何が起きたのか分からず、絶命する戦闘員たち。

最後に突き刺した一人から刀を抜いて、刀についた血を払う。

完全聖遺物なのは刀身だけ、即ち柄は人工物――――しかも高周波ブレードとしても機能しているため、その切れ味は、この世のどの武器よりも鋭利となっている。

そして、その中の一人が、こうつぶやいた。

「・・・白い・・・悪魔・・・」

血塗れで佇むシンに向かって、死にかけの兵士が、そう呟いた。

 

 

 

その様子は、監視カメラから見えていた。

すぐさま異変に気付いた他の部隊が警戒する中、シンは何の躊躇いもなしに走り出す。

「う・・・」

そして、その惨状に、マリアは思わず手で口を抑えて目をそらす。

慧介もその様子に戸惑いを見せ、ただナスターシャだけは、そのシンの姿から目をそらさなかった。

(白い悪魔・・・切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)・・・)

 

 

かつて、少年兵だったシン。しかしこれは本当の名前ではない。

ナスターシャが自らの養子とした際に与えた名である。

 

その本名は――――ジャック。

 

アフリカ大陸における戦争において、その名を馳せた兵士部隊がいた。

決まった名はなく、その構成員から、『幼き殺人者たち(マーダー・オブ・チャイルド)』と呼ばれていた。

所属する者全てが一流の戦闘能力を有する()()()ばかり。

それぞれがかつて凶悪な殺人事件を引き起こしたシリアルキラーの名前を冠し、シンは、その一人―――刃物使い『切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)』として、その猛威を振るっていた。

刃物を使わせれば右に出るものはおらず、戦場で彼が通った場所には必ず血の海が出来る程だと言われていた。

事実、弾丸よりも出血量の多い刃物であるなら、一度斬れば多くの血が流れるのは当然の事だ。

しかし、彼が刃を振るえば、間違いなく血の海が出来上がったのは事実だった。

浴びる血は全て敵の血。

白髪色白という事で、『白い悪魔』とも呼ばれ、まさしく彼の名は一躍有名だった。

 

やがて、その国での戦争は終結を迎え、『幼き殺人者たち』は、原因不明の解散を遂げ、シンはただ一人、戦争が終結した戦場に佇んでいた。

そして、そんな彼を拾ったのが、ナスターシャだった。

そして、自分の養子として『シン・トルスタヤ』の名を与え、レセプターチルドレンとしてF.I.Sの研究所に迎え入れた。

 

 

それが、『ジャック』であり『シン・トルスタヤ』という一人の少年だった。

 

 

シンが刃を振るえば、その分大量の血が広がる。

(貴方は、今でもその血濡れた刃を振るうのですね・・・・)

そんな血塗れのシンを見て、ナスターシャはそう思った。

しかし、別のモニターに映る兵士が、突如としてどこかに向かって発砲していた。

そしてすぐさま、そのうちの一人が、真っ黒な塵となって消滅した。

その光景に、彼女らは見覚えがあった。

「炭素・・・分解・・・・?」

モニターに映るもの。戦闘員たちを炭素分解させられるものなど、この世に一つしか存在しない。

 

ノイズだ。

 

そしてそれを召喚しているのは―――ウェルだ。

「ドクターウェル・・・!?」

『でしゃばり過ぎだとは思いますが、この程度の敵、僕一人で十分ですよ』

その手には、ソロモンの杖。その杖を使って、ノイズを呼び出しているのだ。

戦闘員たちが反撃する。しかしその放たれた弾丸はノイズたちによって阻まれ、また別のノイズが彼らに近付き、そして触れた瞬間から一気に炭素分解していく。

モニターから、彼らの悲鳴があがる。

シンとウェルによる殺戮が、モニターの奥で繰り広げられていた。

その様子に、マリアは、歯を食いしばって、必死に耐えていた。

 

 

 

 

 

 

調と切歌の歌が終わりを告げ、会場からクリスの時と同様の歓声があがる。

その歓声に調は呆然とし、切歌は素直に受け取っていた。

そんな二人の様子に、彼らは戸惑いを隠せなかった。

「翼さん・・・」

響が翼に尋ねる。

「・・・何故、歌を唄う者同士が、戦わねばいけないのか・・・」

その切実な想いに、戦兎たちは、何も言えなかった。

 

 

 

 

「すごい音がしてたのここじゃない?」

そう言って、倉庫の近くにやってきたのは、これから球団へ向かう子供たち。

「どうせ何かの工事だろ?」

「早く練習に行かないと、監督に怒られるってば」

そんな風に軽口を叩き合っていた。

しかし―――

「うわぁぁあ!!」

誰かが、路地裏から出てきた。そしてその途端、黒い炭素となって、欠片も残さず消え去った。

子供たちは、何が起きたのか分からず茫然としていると、先ほど炭素とかした人間が出てきた所から、白コートを着た男が出てくる。

「おやおやぁ?」

ウェルだ。

だが、ウェルはその子供たちを確認すると、怪しい足取りで彼らに近付く。

『やめろウェル・・・』

その行為に、マリアは、気付く。

『その子たちは関係ない!』

しかしウェルは止まらない。

ソロモンの杖を掲げて、ノイズを召喚する。

『やめろぉぉぉおお!!』

そして、そのノイズが、子供たちに向かって迫る。

『シン――――ッ!!!』

もはや願望に近い形で、マリアはシンの名を呼んだ。

 

次の瞬間、雷鳴が轟き、ノイズのみが炭素となって消え去る。

 

「・・・なんのつもりですか?」

ウェルが、つまらなそうにそう尋ねると、全く反応出来ない速度でその首に刃が押し当てられる。

「ぐ・・・く・・・!?」

その行為に、ウェルは動く事が出来ない、一方のその刃を向けた者であるシンは、恐ろしい眼光でウェルを見上げていた。

「それはこちらのセリフだ。民間人にまで手を出す必要はない」

「はっ・・・『切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)』とまで呼ばれた貴方が、何を言いますか・・・見られた以上は口封じに始末するのが手っ取り早いでしょう・・・?」

「どうせここはノイズを出した時点で奴らに特定されるのは目に見えている。始末した所で手遅れだ。そして――――」

刃を、ウェルの首に押し当てる。

 

「俺は貴様が気に入らん」

 

そしてウェルをどつく。

「ぐう!?」

「貴様は戻って聖遺物奪取の為の算段でも考えてろ」

「く・・・後悔しますよ?僕に向かってこのような事・・・」

「―――ここで死ぬか?」

その手の雷切の真っ赤な刀身を捻って見せて、そう言うシン。

「ぐ・・・」

その眼光に完全に威圧されたウェルはそれ以上何も言えなくなり、立ち上がって倉庫へ戻っていく。

その様子を見送りつつ、シンは後ろを見る。

そこには、何が起きているのかさっぱり理解できていない子供たちの姿があった。

シンは、血塗れのまま彼らに向かって歩み寄り、そして言う。

「ここで見た事は全て忘れろ」

「え?」

「さっさと消えろッ!俺の気が変わらないうちになッ!!」

鬼の形相で怒鳴れば、彼らはすっかり怯え、乗っていた自転車を全力でこいで逃げていく。

「・・・・」

『お疲れ様です、シン。すぐに帰投してください。戻り次第出発します』

「了解だ」

ナスターシャからの連絡を聞き受け、シンは踵を返す。

ふと、シンは自分の血塗れの手を見た。

(・・・久しぶりに、血を浴びた・・・)

もう七年も前になる。

レセプターチルドレンとして、白い孤児院に入ったのは。

その以前まで、自分は―――

(やめよう・・・)

首を振って、その過去を振り払う。

(もう、戻る事はないんだ・・・)

あの時に、戻る事なんて、二度と――――

 

 

 

 

 

歓声が収まらぬ中、その中心人物である調と切歌に、司会が賞賛を送る。

「チャンピオンもうかうかしていられない、素晴らしい歌声でした!これは得点が気になる所です!」

確かに、クリスの時もそうだったが、彼女ら二人の歌もすさまじかった。

クリスの歌が野原のように穏やかなものであるなら、彼女らの歌はまさしく烈火の如き勢いのあるもの。

対極ではあれど、その凄まじさはクリスのものと引けを取らない。

「二人がかりとはやってくれる・・・!」

一方のクリスもそれは認めていた。

その事に得意気になろうとした所で、二人の通信機に連絡が入る。

『アジトが特定されました』

「「ッ!?」」

『襲撃者を退ける事は出来ましたが、場所を知られた以上、長居は出来ません。私たちも移動しますので、こちらの指示するポイントで落ち合いましょう』

「そんな、あと少しでペンダントが手に入るのかもしれないのデスよ!?」

『緊急事態です。命令に従いなさい』

有無を言わせぬ言動で、通信を切られる。

それに、二人は悔しそうに俯く。

「何かあったのか?」

「何が聞こえた?」

翼が訪ねる。

「通信機で誰かと連絡を取っていたみたいだが、相手との会話は聞き取れなかった」

「そうか・・・」

「あ・・・!」

響が声を挙げる。その視線の先では、調が切歌を連れてさっさと壇上から降りていくのが見えた。

「さあ、採点結果が出た模様です・・・ってあれ?」

「ッ!?おい!ケツをまくるのか!?」

クリスの声にも目もくれず、二人はさっさと出ていこうとする。

「調!」

「マリアやシン、それに慧くんもいるから大丈夫だと思う・・・でも、心配だから・・・」

そう言われると、切歌は何も言えなくなってしまう。

「追うぞお前ら」

戦兎が立ち上がってそういう。

「おう」

「ああ」

それに、翼、龍我、そして響が続く。

「分かりました・・・未来とセレナちゃんはここにいて」

響が、二人にそういう。

「もしかしたら、戦う事になるかもしれない」

「う、うん・・・」

クロも響と共に、行ってしまう。

そんな彼らを見送り、未来は両手を合わせ、呟く。

「響・・・やっぱり、こんなのって・・・・」

「未来さん・・・」

そんな未来の様子に、セレナは何も言えなかった。

 

 

 

学園の敷地内を走る調と切歌。

その前をふと、大きなくじらの模型が通り過ぎている。

二人は、それを茫然に見る。

 

まるで楽しそうだ。

 

自分たちは、こんなにも苦しいのに。

 

「くそ・・・どうしたものかデス・・・!」

切歌が、悔しそうに言う。

そうしてそのクジラの模型が通り過ぎた所で、行こうとした所を、翼と戦兎に遮られ、後ろからクリス、響、龍我の三人が塞ぐ。

「・・・切歌ちゃんと調ちゃん・・・だよね?」

響がそう尋ねる。先ほど、そう名乗っていたから当然だ。

「五対二・・・数の上ではそっちに分がある・・・だけど、ここで戦う事で貴方たちが失うものの事を考えて・・・」

そう言って、調はこの場に来ている民間人を見る。

「お前、そんな汚い事言うのかよ!?」

「さっき、あんなに楽しそうに歌ってたのに、なんでそんな事言うんだ!?ていうかそもそもなんで戦う事前提なんだ!?もっと頭使え!」

「お前は言い過ぎだ」

それを言われて、切歌は、しばし考えた後、苦し紛れにある事を言い出す。

「ここで戦いたくないだけ・・・」

そしてびっとクリスたちの方を指差して宣言する。

「そうデス決闘デス!」

「は?」

「しかるべき決闘を申し込むのデス!」

「いや馬鹿かお前」

龍我がばっさりと言ってしまった。

「別に会ったからって必ず戦わなくちゃいけない訳じゃないだろ?」

「そうだよ!会えば戦わなくちゃいけないって訳でもない訳でしょ?」

「どっちなんだよ!?う・・・」

「どっちなんデス!?あ・・・」

思いっきりかぶる。

(なんかの恒例行事かなんかなのか・・・?)

被った事が恥ずかしいのか顔を赤くするクリスと切歌の様子に戦兎は呆れきる。

「決闘の時はこちらが告げる。だから・・・・」

調は切歌の手を取って、さっさと行ってしまう。

「待てよ」

しかし、そこで戦兎が呼び止める。

「決闘を始めるのはいい。だけど、その前あの慧介って奴からスクラッシュドライバーの使用をやめるように言ってほしい」

そういうと、調は鋭い視線で戦兎を睨み返す。

「それは貴方たちのメリットにしかならない。それに、そうする理由が見当たらない」

「あれを使い続ければ、いつか暴走して死ぬぞ。アイツ」

「「・・・・!?」」

その言葉に、調と切歌は目を見開く。

「あれを作ったのは俺だ。あのドライバーは、体内のアドレナリンを過剰に分泌して闘争本能を刺激して戦闘力を高める。だがその反面、体への負担はすさまじい事になる。あのまま使い続ければ、いずれは意識を失う程のダメージを負う筈だ。さらに、闘争本能を刺激されるから、使えば使う程戦いを求めるようになる」

「で、でも、最初の変身では、そんな事・・・」

「最初の一回はな」

切歌の言葉を、龍我が遮る。

「だけど、使い続ける度に、自分が何をしたいのか見失って、ただ戦いたいとだけしか思わなくなる。それで体がボロボロになって、いつかは訳が分からず倒れちまう。そうなっちまったら、もう止める事は出来ねえぞ」

「だ、だったら、なんでお前は無事なんデスか!?」

切歌の指摘は最もだ。

龍我もスクラッシュドライバーを使う事が出来る。だけど、であるならばどうして今、こうしてここにいるのか。

「確かにスクラッシュドライバーの暴走は意思の力で克服する事は可能だ。だけど、それまでに死なないとは限らない。スクラッシュドライバーを使いすぎて、克服する前に身を亡ぼす事になるかもしれない。だから・・・」

「克服できるのなら、それで十分」

調が、戦兎の言葉を遮る。

「慧くんなら、きっと暴走を克服してくれる」

調は、それだけを言って、さっさと行ってしまう。

「行っちまいやがった・・・」

龍我がそう呟いた時、彼らが携帯しているインカムに二課から通信が入る。

『五人ともそろっているか?』

相手はもちろん弦十郎だ。

『ノイズの出現パターンを検知した。まもなくして反応は消失したがな。念のために周辺の調査を行う』

「分かった」

「「はい」」

「ああ」

「おう」

五人は、すぐさま二課に向かった。

 

 

 

二課仮説本部にて。

(遺棄されたアジトと、大量の切断された斬殺死体とノイズ被災者の痕跡・・・それも、死体の方はアメリカの特殊部隊の人間ばかり・・・これまでと違う状況が、一体何を意味しているのか・・・)

顎に手をあてて、弦十郎は思案する。

そこへ、藤尭が弦十郎にある事を報告する。

「司令、永田町都心部電算部による、解析結果が出ました。モニターに回します」

そう言って、正面モニターに映し出されたのは、奇妙な形をした図形。

それが、アウフヴァッヘン波形だ。

それが二つ、全く同じ形の色違いの図形がそれぞれ映し出された。

「誤差、パーツは、トリオンレベルにまで確認できません」

それはつまり、全く同じだと言う事。

 

それは、響のガングニールの波形と、マリアのガングニールの波形と全く同じだという事を意味していた。

 

その事実に、彼らは一様に驚愕した。

「マリア・カデンツァヴナ・イヴの纏う黒いガングニールは、響君のものと寸分違わぬという事か・・・」

がっくりと弦十郎は現状を把握する。

「響さんとマリアさんのが・・・」

セレナが、そう呟く。

「私と、同じ・・・」

響が、胸に手を当てて呟く。

 

 

これから考えられる事は、フィーネ―――米国政府と繋がっていた了子によってガングニールの一部が持ち出され、創り出されたと考えられる。

しかしそれはそれで謎がある。

米国政府は了子の研究を狙っているが、F.I.Sという機関があり、シンフォギアが作られているというのなら、もう狙う必要などどこにもない筈なのだ。

しかし、現在、F.I.Sは暴走している。

これから考えられることは―――

 

「―――向こうは米国政府にすら聖遺物に関する情報を秘匿・独占し、そしてその管理下から離れ、独自判断で動いているって所か・・・」

戦兎が顎に手を当てて、そう推察する。

「F.I.Sは、自国の政府まで敵に回して、何をしようと企んでいるのだ・・・」

弦十郎のその問いかけに、誰も答えるものはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六年前―――

 

「・・・」

自室にて静かに本を読んでいたシン。しかし、突如として部屋が揺れた事に気付く。

「なんだ・・・?」

 

 

―――この時、シンがいたF.I.Sの研究所では、ネフィリムの起動実験が行われていた。

 

 

しかし、歌を介さずしての起動ではネフィリムは制御出来ず、今現在暴走状態に陥っているのだ。

そしてシンは、その状況において未だ抜けきらない少年兵時代の勘をもって判断。

今起きている状況について考察、そして―――何かあったのでは、と推察した。

その結論に至ったシンはすぐさま部屋を出た。途中、警備員がいたが、すぐさま締め落として突破し、揺れの中心へと走った。

とにかく、今は一体何が起きているのか把握しなければ。

 

「―――Gatrandis babel ziggurat edenal―――」

 

「・・・!?」

突如聞こえた、歌に立ち止まるシン。

「なんだこの歌は・・・」

当時、シンはまだ、セレナがシンフォギア装者だという事を知らなかった。

シンが来たのは、起動実験の二ヶ月前。その時はまだ、フィーネの器の候補である、レセプターチルドレンの一人だったが故に、そして、まだセレナとマリアと大きな接点を持つ前だったからだ。

 

「―――Emustolronzen fine el baral zizzl―――」

 

どこから聞こえるのだろうか。この、清らかで、穢れを知らないような歌は。

「向こうか?」

その声を辿り、シンは走る。

だが―――突如として目の前から、凄まじい衝撃が叩きつけられた。

「何っ・・・!?」

思わぬ事態に反応できず、シンは、そのまま吹き飛ばされる。そして、壁に激突し、意外にも呆気なく気を失ってしまった。

 

 

「ぐ・・・ぅ・・・・」

気が付いたのは、警報がけたたましく鳴り響いていた時の事だった。

眼を開き、視線を動かして自分が倒れている事を認識し、少し痛む体を起こす。

「何が起きた・・・?」

まるで訳が分からない。だが、今はとにかく動かねばならない。

その結論に至ったシンは立ち上がり、走り出す。

そうして、風に混じった熱風から、その奥の状況を察し、そして、自分から飛び込む。

 

 

―――そこはまさしく、惨劇の場だった。

 

 

天井は崩れ去り、炎は燃え盛り、ありとあらゆる機器が派手に壊れていた。

そして、その惨状の中、一人佇む少女がいた。

「アイツは・・・」

「セレナ・・・セレナぁ!」

誰かが、誰かの名を呼ぶ。

気付けばもう一人いる事に気付いた。しかし、その頭上から瓦礫が降ってきていた。

「ッ・・・!」

思わず声をあげようとしたが間に合わない。瓦礫は、声を挙げた直後にその少女の頭蓋に直撃し、砕くだろう。

そんな事を呑気にも考えてしまい、それによって焦りが加速してしまう。

だが、そこへ背後からもう一人がその少女を後ろから押し退ける。

そして、少女の代わりに、その人物の足が下敷きとなる。

(助かった・・・のか・・・?)

否、である。

先ほどの崩れが原因で、一気に崩れが広がり始めたのだ

「まずい・・・」

ここに来て、最悪の展開。このままでは、あの少女はともかく、その向かい側にいる少女が下敷きとなってしまう。

「チッ」

小さく舌打ち、シンは駆け出す。

(全く、なんて所に連れてきたんだ貴方は・・・)

瓦礫を踏み分け、尚且つ最短ルートで突っ走る。

そして、シンは、少女を――――

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ん」

目を、開いた。

「眠っていたか・・・・」

目を擦り、状況を把握する。今、自分が着ているのはTシャツとボタンを留めていない白いシャツとスーツパンツだけの服装。

視線を動かせば、そこには血塗れのスーツやシャツなどが乱雑に置かれていた。

「・・・・・」

それを一瞥し、シンは立ち上がる。

(マリアには、悪い事をした・・・)

そうして、シンは、雷切を片手にナスターシャの元へ行くのだった。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!

無事、マリアたちと合流する調と切歌。

「決闘すると、そう約束したから・・・・」

そんな二人を叱責するナスターシャ。

「そのくらいにしましょう」

しかしウェルがそれに賛成、ジェームズも決闘に賛同する。

「ここでやるなんてな・・・」

決闘の場にやってくる二課の装者とライダーたち。

そこで待ち受けていたのは――――

「俺・・・は・・・負けない・・・!!」

「何を企てる!?F.I.S!」

「―――もっと多くの誰かをぶっ殺してみせる訳だァ!!」

「それが、私のシンフォギアだぁぁぁぁああ!!!!」


次回『彼の地にてのデュエル』

「慧くん、やめてぇぇえ!!」


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彼の地にてのデュエル

戦「天っ才物理学者の桐生戦兎と!」
翼「と、トップアーティストの風鳴翼と・・・」
響「どこにでもいる普通(じゃないけど)の高校生立花響に」
万「プロテインの貴公子万丈龍我!」
ク「そんでもって元戦場育ちの雪音クリスが、F.I.Sの連中に決闘の申し込みをされるのであった」
マ「そのせいで一体どのような結果になってしまうのか!」
麗人「すまない。私一人だけ勝手に出演してすまない・・・」
原型「おいそこの救済者(笑)。もう始まってるぞ立ち直れ」
麗人「は!?すまない・・・こほん。さて、その一方でシン・トルスタヤの過去が明らかになった訳だが、その正体が『白い悪魔』『切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)』という事が明かされた」
戦「言っておくが、この時点じゃ俺たちまだシンの正体知らないからな?」
シ「あの時は本当に色々とやらかした・・・敵兵に恐怖を刻み付けて戦意を喪失させる為に〔自主規制〕抜き出した死体を(はりつけ)にしまくったものだ・・・」
ク「おいそれアタシが育った戦場でもやらなかったぞ・・・!?」
響「どうしよう・・・最近師匠と見たスプラッタ映画を思い出し・・・おぇぇえ・・・」
翼「立花ァ!?いくらなんでもここで吐くなよ!?いいな?吐くなよ!?」
麗人「ここはいつもこんななのか?」
原型「残念な事にな・・・やれやれこれじゃあ先が思いやられる・・・」
戦「本当、いつになったらこのグダグダが終わるんだか・・・」
原型「仕方がない。今回はここでシメるとしよう。では、何やら不穏な空気が漂う第二九話を見ろ」

麗人「さて、私はもう戻るとしよう・・・あの二人の猛攻をどう掻い潜ろうか・・・」
戦「まあ、その・・・頑張れ」
響「勝手に引っ張り出してすいません~!」


カ・ディンギル――――かつて、旧リディアンの校舎があった地であり、二課の本部があった場所。

そこから、フィーネらの合流地点(ランデブーポイント)だった。

飛行機が着陸し、そこから、マリア、シン、慧介が出てくる。

「マリア!」

「シン、慧くん・・・!」

「大丈夫デスか?」

「・・・ええ」

心配そうな二人の言葉に、マリアは短く返す。

「敵は俺とウェルで排除した。マリアは戦闘に出ていない」

「良かった・・・」

「あー、俺も戦いたかったな」

慧介がそうぼやく。

「フィーネの魂に塗り潰されたら、もう会えなくなるから・・・」

「フィーネの器となっても私は私よ。だから心配しないで・・・」

「マリア・・・!」

調と切歌は、そろってマリアに抱き着く。

「・・・」

「二人とも無事でなによりです」

そこへナスターシャとウェル、そしてジェームズがケースをもってやってくる。

「強化はしておいた。もう遅れはとらないだろう」

「すまない、ジェームズ博士」

差し出されたケースを受け取り、シンはそう返す。

「さあ、追いつかれる前に出発しましょう」

「待ってマム!」

しかしナスターシャの言葉に待ったをかける切歌。

「アタシたち、ペンダントを取り損なってるデス!このまま引き下がれないデスよ!」

「決闘すると、そう約束したから・・・・」

調がそう言った直後に、ナスターシャが調の頬を引っ叩く。

「マム!」

すかさず庇いに入った切歌だが、その切歌にもナスターシャの掌が叩きつけられる。

「いい加減にしなさい!」

ナスターシャの叱責が飛ぶ。

「マリアも、貴方たち二人も、この戦いは遊びではないのですよ!」

彼らが行っているのは、まさしく下手をすれば死に直結しかねない戦いそのものだ。

しかし、そんなナスターシャの叱責を、ウェルが止める。

「そのくらいにしましょう。まだ取り返しのつかない状況ではないですし。ねえ?それに、その子たちの交わしてきた約束、『決闘』に乗ってみたいのですが・・・」

「しかし・・・」

「貴方もその方がいいですよね?念願のリベンジマッチですよ?」

ウェルはジェームズに問う。

「当然だ」

それに、ジェームズは拳を握りしめて答える。

「今度こそ奴らを捻り潰してくれる・・・!!」

 

 

 

 

 

二課仮説本部にて。

「ノイズの発生パターンを検知!」

ノイズの出現を知らせる警報が鳴り響く。

「古風な真似を・・・決闘の合図に狼煙(のろし)とは・・・」

「ノイズ使って俺らを呼び出そうってのか!」

藤尭が場所を特定する。

「位置特定!・・・ここは・・・・!?」

突如として藤尭が動揺したような声をあげる。

「東京番外地・・・特別指定封鎖区域!」

「そこって・・・!?」

「カ・ディンギル跡地だとぉ!?」

弦十郎が立ち上がってそう声をあげる。

「なるほど、そこなら邪魔は入らないな・・・」

戦兎は、モニターに映し出された地図の座標を睨みつけながら、そう呟く。

「カ・ディンギル・・・・」

そしてセレナもまた、不穏な空気を感じていた。

 

 

 

 

 

 

「決着を求めるのなら、おあつらえ向きの舞台という訳か」

カ・ディンギル跡地―――フィーネとの戦いによって、崩壊したリディアンを移転するに伴って、しばしカ・ディンギルの撤去工事やらをするために、立ち入り禁止となった場所だ。

そこに、五人はやってきていた。

「ここでやるなんてな・・・」

「・・・ん?おい、あれ!」

クリスが見る先に、奴らはいた。

その数、三人。

一人は、ソロモンの杖を携えたウェル。

そしてその前に、シンと慧介が佇んでいた。

「シン・トルスタヤ・・・」

「慧介君・・・」

「野郎・・・!」

戦兎と龍我が前に出る。

「万丈、スクラッシュドライバーにはスクラッシュドライバーだ。俺はハザードトリガーを使う」

「おう、任せろ」

 

『スクラァッシュドライバァーッ!!』

 

『ハザードオンッ!』

 

戦兎がビルドドライバーを腰に巻き付け、ハザードトリガーを起動し、龍我が先日戦兎が新しく作ったスクラッシュドライバーを巻き付ける。

「行くぞ、慧介」

「おう」

シンが腰に巻いたルインドライバーの収納スペースを引っ張り出し、そこにウルフボトルを装填する。

慧介はタイガースクラッシュゼリーを、龍我はドラゴンスクラッシュゼリーをスクラッシュドライバーに装填する。

そして戦兎は、ラビットフルボトルとタンクフルボトルをビルドドライバーに装填した。

 

 

『Ready』

 

ドゥラゴンジュエリィーッ!!』

 

タイガァージュエリィー!』

 

ラビット!』『タンク!』『スーパーベストマッチ!!』

 

 

そして、ウェルがノイズを召喚した直後、それに対抗するように装者三人が聖詠を唄う。

 

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)―――」

 

「―――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)――」

 

「―――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)―――」

 

 

『Are You Ready?』

 

 

戦兎がボルテックレバーを回しハザードライドビルダーを、龍我と慧介がケミカライドビルダーを、そしてシンが周囲に鎧を呼び出すのと同時に叫ぶ。

 

「「「「変身ッ!」」」」

 

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

 

タイガァー・イン・タァスクゥ!!』

 

ドゥラゴン・イン・クロォォズチャァァジッ!!』

 

『Penetration Armor Type-Wolf

 

『アンコントロールスイッチッ!!ブラックハザード!!!』

 

『ヤベェーイ!!!』

 

『ブルァァァァア!!!』

 

戦兎が鋳型に挟まれ、そこから真っ黒なビルドが姿を現す。

龍我と慧介がビーカーに満たされた液体を体に纏い、ジェル状の液体が頭部から噴出。体に纏われる。

シンがその装甲を身に纏い、ボトルの成分が装甲内に浸透していく。

響、翼、クリスの三人が、シンフォギアをその身に纏う。

F.I.Sのライダーと二課のライダー、シンフォギア装者が対峙する。

「お前らはノイズを、俺たちはアイツらだ!」

「おう!行くぜぇえ!!」

「気を付けてください!」

装者三人がノイズを掃討する中で、ライダーたちが激突する。

クライムの抜いた電気を帯びた刃がビルドに向かって振り下ろされる。

(はやっ―――!?)

それをビルドは寸での所で躱し、すかさず拳を突き出すも、その拳を紙一重でかわされ、すかさずその顎を蹴りで打ち据えられる。

「がっ!?」

それに思わずあとずさるも、すぐさま前に踏み出して再び拳を突き出す。

だが、それすらも躱される。

「なっ・・・!?」

「今までと同じだと思うな。俺たちも成長する・・・!」

懐に潜り込まれ、胸に一閃を受ける。

「ぐぅ・・・!?」

思わず後ずさるビルド。そのビルドに追撃しようとするクライム。

そのまま激しい追撃がビルドを追い詰めていく。

雷を帯びた刃による神速の斬撃が次々にビルドを打ち据える。

だが、その最中、ビルドがその顔をあげたかと思った瞬間に振り下ろされた刃を僅かに掠めるも躱し、その顔面を拳が打ち据える。

「ぐっ・・・!?」

予想外の反撃。クライムの斬撃に対応し、

「お前こそ、俺を、俺たちを舐めるなよ・・・・!」

掌に黒い霧のようなものが発生する拳を握りしめて、ビルドはクライムに向かって走り出す。

 

その一方で、クローズとタスクは。

「オォオ!!」

「づっ!?」

タスクの攻撃はその柔軟性のある体でしなりのある攻撃を繰り出してくる。

その時放たれる一撃はまるで鞭の一撃が如く、大きく振りかぶる攻撃ほど威力が凄まじくなる。

問題なのは、その振りかぶる攻撃が、モーションの大きい腕ではなくリーチも威力も高い足が主体だという事だ。

故に、足を主体とした攻撃がクローズに叩き込まれていた。

「ぬっぐっ・・・!?」

叩き込まれる蹴りの嵐。素早く鋭いその一撃一撃は、確かにクローズを打ち据え下がらせていた―――が、

「これが・・・」

「ッ!?」

しかし、突如としてその足を掴み取られる。

「なっ・・・!?」

「どうしたァ!?」

そのまま片手で持ち上げ、一気に地面に叩きつける。

「がぁっ!?」

「このぐらいじゃ足りねえぞ!!」

「うわぁぁあ!?」

そのまま地面から引きはがされ、地面から突き出した岩に投げられて叩きつけられる。

叩きつけられた岩はそのまま砕け散り、タスクは地面に倒れ伏す。

(さっさと変身解除させてドライバーを・・・!)

ツインブレイカーを取り出してクローズはすぐさまタスクの元へ走ろうとする。

しかし、その最中でタスクが立ち上がる。

それにクローズは立ち止まる。

 

タスクの様子がおかしい。

 

「ぐ・・・ぁ・・・」

どうにか立ち上がったタスクの体を、気のせいか、小さなプラズマが走っているように見える。

「俺・・・は・・・負けない・・・!!」

「・・・まさか」

立ち上がったタスクが、背を反らして雄叫びを上げる。

「オォォォォォオオオォォッ!!!」

けたたましい程の叫び声を出して、タスクはクローズに向かって走り出す。

 

『ツゥインブゥレイカァーッ!!』

 

その手にツインブレイカーを呼び出し、アタックモードで突き出す。

「ぐっ!?」

「ぶっ倒す!お前をぶっ倒して、俺たちは計画を完遂させるっ!!」

しなる体でツインブレイカーによる一撃。

これによって攻撃手段は絞られるも左による一撃の威力は上がる。

だが、問題はそこではない。

突き出されたツインブレイカーを持つ左手を右手で掴み取って止める。

「ぐぅぉぉぉぉおおぉおお!!」

(こいつ、暴走してやがる!?)

アドレナリンの過剰分泌。それによって引き起こされる、闘争本能の暴走。

そして、それによって引き起こされる、最悪の結末は―――

「だらぁ!!」

「ぐあ!?」

クローズの容赦のないツインブレイカーの一撃がタスクに叩き込まれる。

(さっさと倒さねえと、こいつがあぶねえ!!)

 

自分の二の舞に、なって欲しくないから。

 

 

 

 

 

そして、ノイズを掃討する装者三人。

「調ちゃんと切歌ちゃんは!?」

響がノイズを倒しながらウェルに問いかける。

「あの子たちは謹慎中です。だからこうして僕が出張ってきているのですよ。お友達感覚で計画に支障をきたされては困りますので」

「何を企てる!?F.I.S!」

翼が怒鳴り気味に問う。

「企てる?人聞きの悪い。我々が望むのは、()()()()()!」

「は!?」

クライムと戦っていたビルドが思わず声を漏らす。

しかしそれを気にせずウェルは、夜空に昇る欠けた月を指差した。

「月の落下にて損なわれる、無辜の命を可能な限り救い出す事だ!」

「月の・・・!?」

そのウェルの言葉に、彼らは驚く。

「冗談だろ!?」

「冗談じゃないから俺たちが戦ってるんだよ!!」

クローズがそう言えば、ウェルの代わりに答えるようにタスクが叫んで再びクローズに向かう。

「月の公転軌道は、各国機関が、三ヶ月前から観測中、落下などという結果が出たら黙っていな――――」

「黙っているに決まってるじゃないですか?」

なんとも厭味ったらしい口調でウェルは翼の言葉を遮る。

「対処方法の見つからない極大災厄の対処法など、さらなる混乱を招くだけです。不都合な真実を隠蔽する理由など、いくらでもあるのですよ」

「まさか、この事実を知る連中ってのは、自分たちだけ助かる算段を立てている訳じゃ・・・」

「だとしたらどうします?貴方たちなら」

クリスの言葉に、ウェルは聞き返す。

「対する私たちの答えが・・・ネフィリム!」

そうウェルが叫んだ瞬間、

「ぉぉおおッ・・・おお?」

タスクを追い詰めていたクローズの足元が突如として砕け散り、何かが飛び出す。

「ぐおぁぁぁあ!?」

「ッ!?」

それは、あの時の怪物だ。

「アイツは・・・!?」

「あれが、俺たちの最大の切り札・・・『天より堕とされし巨人(ネフィリム)』だ」

クライムがそう言い、飛び出してきたネフィリムは、その場で咆哮を上げた。

「龍我さん!!」

「ぐおあ!?」

頭から落下するクローズ。

「龍我!」

そんなクローズにクリスが駆け寄る。

そうしてクリスがクローズを抱き起した瞬間、駝鳥型ノイズが強力な粘液を放出、クローズとクリスを拘束する。

「くっ、こんなもので・・・!!」

どうにかもがいて脱出しようとするが、動けば動くほど粘液は体に絡みついてくる。

「人を束ね、組織を編み、国を建てて命を守護する!ネフィリムはその為の力!」

ネフィリムが咆哮を上げて駆け出す。

その正面には、響と翼の二人。

「立花!」

「はい!」

そのネフィリムを響が真正面から迎え撃ち、翼が側面から攻撃する。

得意の格闘術でネフィリムを翻弄し、その刃を側面から突き立てる。

だが、ノイズじゃないからか、あまり効果がないように見える。

「ルナアタックの英雄よ!その拳で何を守る!?」

ウェルが、戦う響に尋ねる。

しかし響は歌を唄いながら無視、両腕のアームドギアのガジェットを引き起こし、左のバンカーをネフィリムのどてっぱらに叩きつける。

そこへ、翼の『蒼ノ一閃』が叩き込まれる。

「立花!」

動きが止まったネフィリム。そこへ、響が飛び込む。

腰のブースターを噴射させ、一気にネフィリムへと突っ込む。

しかしすかさずウェルがノイズを響とネフィリムの間に呼び出して道を阻む。

「そうやって君は、誰かを守るための拳で――――」

そのノイズを一気に蹴散らして、響はネフィリムへ拳を叩き込もうとした瞬間―――

 

「―――もっと多くの誰かをぶっ殺してみせる訳だァ!!」

 

その時、響の脳裏に、あの時調に言われた言葉を思い出す。

 

『それこそが偽善』

 

その言葉は、今でも、響の胸につっかえている事だ。

だけど―――

「―――違う!!!」

その言葉に、響は真正面から否定してみせる。

「例え、誰かに否定されても、誰かに偽善と罵られようとも―――!!」

ネフィリムが、大口を開けるのが見えた。

「この拳に―――」

それを見た響は、すぐさま腕を捻り――――

 

「―――愛と平和がある限り、誰かと手を繋ぐという想いは、絶対に曲げないッ!!!」

 

その顎に強烈な一撃(アッパーカット)をお見舞いした。

「それが、私のシンフォギアだぁぁぁぁああ!!!!」

響の予想外の攻撃にウェルは目をむく。

「あいつ・・・!」

その響の雄姿に、クリスと翼は笑う。

ぶっ飛ばされたネフィリムはそのまま吹っ飛ばされて地面に落ちる。

「よし、このまま・・・」

その時だった。

粘液で動けないクリスとクローズの元に、タスクが立った。

「あっ・・・!?」

「ぶっ倒す・・・・!」

ツインブレイカーを掲げて、そのまま一気に振り下ろす。そのままクリスに直撃する―――その寸前、クリスは何もかに引っ張られ、気付いた時には仰向けに倒れていた。

「え・・・」

「ぐあ・・!?」

いつの間にか目の前にはクローズの仮面があった。

クローズが、クリスの上に覆いかぶさっているのだ。

「がぁぁぁあああ!!!」

タスクが、ツインブレイカーを何度も無防備なクローズの背中に叩きつけられていた。

「がっ、ぐぅっ、ぐがっ・・・!?」

「りゅ、りゅう・・・」

「アァァァアァアアア!!」

タスクが、何度も、何度もツインブレイカーを振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

そしてその様子は、遠場でモニターしていたマリアたちにも見えていた。

「慧介・・・!?」

「なにしてるデスか!?」

無防備な相手に向かって、何度も叩きつけられる凶刃。

その行為は、今までの慧介では考えられない行動だった。

「フハハハハ!!いいぞ!そのまま万丈龍我を殺すがいい!!」

ジェームズは、まるで愉快そうに高笑いをしていた。

「まさか・・・これがあの人の言っていた・・・・」

スクラッシュドライバーによる暴走―――

闘争本能が引き起こす、精神の暴走。

「くっ!」

「どこにいくつもりですか?」

思わず飛び出そうとした調を、ナスターシャが止める。

「貴方たちに命じているのはこの場での待機です」

「慧くんを止める。あんな事、止めさせないと・・・!」

「では、今をおいて、彼が万丈龍我に勝てる勝算はありますか?」

「え・・・」

ナスターシャの言葉に、調は押し黙ってしまう。

「このまま万丈龍我が消えれば、我々の優位性は格段に向上します。今、彼を排除するチャンスは、ここ以外にないでしょう」

「でも、あんなの慧くんじゃ・・・」

「子供が大人の事情に口するものじゃないぞ、ミス月読」

ジェームズが、調の言葉を遮る。

「ああでもしなければ、我々の計画は達成されません。より確実に遂行するべきだ」

「そんな・・・」

調は、茫然とする。

「これが・・・」

ふと、マリアが呟く。

「これが、私たちの成すべき事なの・・・!?」

その問いかけに、ナスターシャは何も答えず。

「・・・アタシたち、正しい事をするんデスよね・・・?」

切歌の言葉は、ただ虚空に消えていき、耐え切れなくなった調は、叫んだ。

「慧くん、やめてぇぇえ!!」

 

 

 

 

 

 

「やめろ!」

何度もツインブレイカーをクリスを守るクローズに叩きつけるタスク。

そんなクローズに、クリスは涙を滲ませながら叫ぶ。

「もういい!これ以上は龍我が・・・・!」

「ぐ・・・っざけんなよ・・・ここでお前を守れなくちゃ、愛と平和なんて語れるかよ!」

「ッ・・・馬鹿!!」

 

『ツゥインッ!!』

 

「「ッ!?」」

聞き覚えのある音声に二人は目を見開く。そこには、スクラッシュドライバーにタイガースクラッシュゼリーとトラフルボトルを装填したツインブレイカーを掲げるタスクの姿が―――

「やばい・・・!」

「くたばれぇぇぇえ!!!」

エネルギーが充填されたツインブレイカーが、クローズに向かって振り下ろされる。

「だめぇぇえ!!」

しかし、それが直撃する前に、響がタスクを殴り飛ばす。

「ぐぅッ!?邪魔をするなぁぁぁあ!!」

「ハァァァア!!」

二人の拳が交錯する。

 

ツゥインブゥレイクッ!!』

 

高速回転するパイルが、響の顔面に迫る。

しかし、それを響はしっかり目を捉え、既の所で躱し、一方の響の左拳はタスクの顔面に突き刺さる。

「ォォォオオオッ!!」

そのまま殴り飛ばす。

「大丈夫!?クリスちゃん!?龍我さん!?」

「あ、ああ・・・」

「すまねえ・・・」

無事を確認した所で響はタスクの方を見る。

タスクは、未だ変身解除していない。それでも立とうとしている。

「まだ戦えるの・・・!?」

 

 

 

 

 

「涼月慧介・・・ハザードレベルこそは低いものの、体の柔軟性と頑丈さにおいて類稀な体質をもった特異体質・・・もちろんスクラッシュドライバーのリスクは知っていたさ。だからこそ、彼を選んだのだよ・・・スクラッシュドライバーの負荷に耐えられる()をもった彼をね・・・!」

 

 

 

涼月慧介。

イギリス人と日本人の間に生まれたハーフ。

体質・一般を遥かに超える柔軟性と、特殊な遺伝子配列による突然変異による頑丈性。

彼が、親の実験事故の場で生き残った理由がこれだ。

この頑丈性によって、彼は生き残ったのだ。

 

 

 

「倒す・・・!!」

「もうやめようよ!これ以上戦ったら・・・」

「黙れぇぇぇええ!!」

タスクが駆け出す。

「くっ!」

響は思わず構える。

しかし、その横から復活したネフィリムが襲い掛かる。

「あ・・・・!?」

「立花ァ!!」

大口を開けるネフィリム。その口に大剣化した天羽々斬を押し付けて響への攻撃を防ぐ翼。

「うぉぉぉぉお!!」

「ッ!?」

そこへタスクのツインブレイカーの一撃が叩き込まれる。

「あぁぁああ!?」

「ぐあぁぁあ!?」

二人纏めて吹き飛ばされ、地面に倒れる響と翼。

その時、翼はネフィリムに口に天羽々斬を残してきてしまう。

「喰ったぁぁぁあ!!」

そこでウェルの歓声が上がった。

「ついに聖遺物を喰ったぁぁぁあ!!!」

見れば、なんとネフィリムは翼が手放してしまった天羽々斬をバリボリと喰っていた。

「天羽々斬を・・・」

「食べている・・・」

その光景に、二人は呆然とする。

「ぐぅ・・・ん?」

「あれは・・・」

それは、ビルドとクライムも戦いを止める事のものだった。

「完全聖遺物『ネフィリム』は!いわば自立稼働する増殖炉。他のエネルギー体を暴食し、取り込む事でさらなる出力を可能とするぅッ!!」

その時、ネフィリムの体全体が赤く光り出し、その体の形を変化、増大させていく。

「さあ始まるぞ!!聞こえるか?覚醒の鼓動・・・!!この力が『フロンティア』を浮上させるのだぁぁぁぁあ!!」

「フロンティア・・・・?」

ビルドが呟くが、その間にネフィリムはさらに大きく、禍々しくなっていった。

その全長は、成人が見上げる程であり、腕はさらに肥大化し、その図体もずんぐりとなっていた。

その光景に、響、翼、クリス、クローズ、ビルド、クライム、タスクは呆然とするしかなかった。

「ウェーヘヘヘヘヘハハハハアハアヘヘヘヘハハアア!!!!」

気持ち悪い笑い声を上げるウェル。

「まさか、この為に俺たちを、いや、響たちを・・・!?」

「その通りぃぃぃいい!!!本当ならそこのガキの腕ごと食わせるつもりだったが、天羽々斬でも十分に成長させるに至ったぁ!!だが折角だ・・・他の奴らアームドギアも喰らわせてやろう!!」

ネフィリムが動く。

響と翼に向かってずしんずしんと近付いてくる。

二人は立ち上がり、響は拳を握りしめて構え、翼はもう一本の刃を取り出して構える。

「翼さん・・・」

「分かっている」

二人は、ネフィリムの出方を伺う。

「立花響ぃぃぃいい!!!」

「ッ!?」

そこへタスクが襲い掛かってくる。

そのまま響に拳をぶつけて吹き飛ばし、それを追いかけていく。

「立花!」

思わず翼が振り返って名を呼んだ瞬間、ネフィリムが拳を振り上げていた。

「あっ・・・」

気付いた時にはもう遅く、翼はネフィリムの一撃を諸に喰らって宙を舞った。

「翼さっ・・・ぐあ!?」

「やばい・・・!!」

空に打ち上げられた翼のギアは所々破損し、翼自身も大きなダメージを負っていた。

(しくじった・・・)

そのまま受け身もとれずに落下。

「う・・ぐぅ・・・」

呻く翼に、ネフィリムが近付く。

「さあネフィリムぅ!!その女ごと聖遺物を喰らうが良いぃぃぃいい!!」

ネフィリムが咆哮を上げて、その開けた口を翼に向けて一気に迫らせる。

「あ、あぁ・・・」

それを避ける事は翼には出来ず――――ネフィリムは何かに噛みついた。

「翼さぁん!!」

「翼ぁ!!」

響とクローズの叫びが響く。

だが、翼は喰われていなかった。

ネフィリムが噛みついたのは―――ビルドだった。

両手でネフィリムの歯に手をかけ、閉じないように踏ん張っていた。

「き、桐生・・・!」

翼の声は、泣きそうだった。

「ぐっ・・・早く逃げろ・・・!!」

「だ、だけど・・・」

「早く!ハザード限界が、近いんだ・・・・!!」

既に強化剤『プログレスヴェイパー』が、すでに脳の奥深くに浸透してきているのだ。

このままでは、いずれ意識がなくなる。

(まずい・・・もう、限か――――)

そして、ビルドが、その意識を手放してしまった、その直後、

 

 

ビルドが、ネフィリムに、喰われた。

 

 

「―――あ」

翼が、そう声を漏らした。

血が、喰われたビルドの装甲の歯が突き立てられた隙間から溢れていた。

ビルドの装甲にネフィリムの歯が食い込んでいるかのような形に。

左手は口の中、右手は、まだビルドの装甲に阻まれ、出来ている口の隙間から出ていた。

「き・・・りゅう・・・?」

流れ出す、おびただしい程の血。それが、ビルドの足元に血だまりを作っていく。

まるで、ぐったりしているビルド。

「―――いったぁぁぁああ!!!」

ウェルが、奇声を上げる。

「ついにライダーにもパクついたぁぁあ!!」

ゲヒャヒャヒャとウェルが嗤う。

その光景に、クリスとクローズは呆然とし、クライムは仮面の奥で目を閉じ、響は、そんな、と呟いてその場に膝をついて、タスクは突然戦いをやめた響に戸惑いを見せ、調、切歌、マリアの三人は、ビルドが喰われた事にただ目を見開いている事しか出来ず、ナスターシャは哀悼を捧げるように目を閉じた。

そして、それを目の前で見せられた翼は――――

「―――うわぁぁぁあああぁぁああぁああああぁぁぁあぁあぁああぁぁぁあぁあああ!!!」

悲鳴を上げた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マックスハザードオンッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――直後にその音が聞こえたのは、一瞬だった。

 

 

 

 

突如として、ネフィリムの口が開き、何かが砕かれる音と、何か重いものを殴り飛ばすかのような音が響き、ネフィリムが吹き飛んだ。

 

 

『ガタガタゴットンズッダンズダン!ガタガタゴットンズッダンズダン!』

 

 

そして聞こえた、聞き覚えのある音声。

 

 

 

『Ready Go!』

 

 

 

そこに佇むのは、真っ黒な人影。

 

それは、先ほどネフィリムに食われていたビルド。

そのビルドがまるで何事もなかったかのように、その場に佇んでいた。

しかし、何か、様子がおかしかった。

「・・・・桐生?」

先ほど流した涙を拭わず、翼は呆然と呟く。

「・・・・やばい」

そして、クローズは、その状態のビルドを知っていた。

「これは、やばい・・・!!!」

それは、その―――音声は―――

 

 

『オーバーフロウッ!!』

 

 

 

仮面ライダービルドの――――

 

 

 

『ヤベェーイッ!!!』

 

 

 

 

―――暴走(ハザード)が、始まる。

 

 




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「やめろぉぉぉぉおお!!」

ついに暴走するビルド!

「なんなんだ・・・それは・・・」

その圧倒的強さに、何もかもが破壊されていく―――

「や、やめろぉ!やめるんだぁ!!」

「慧介!」

「こちらの不始末は、こちらがつける・・・」

最悪な状況の中、動くのは―――

次回『ハザードは止まらない』

『ガタガタゴットンズッダンズダン!』

「貴方は・・・私が止める・・・!」




少し疑問に出された『何故慧介がスクラッシュドライバーで変身できるのか』という事なんですが、実はジェームズ博士の専門は生物で『遺伝子』。
旧世界でエボルトの遺伝子を植え付けられた戦兎、龍我、一海、あと時系列的にはもう既に仮面ライダーになってた幻徳のエボルトの遺伝子操作時の配列を記憶していた為、自らの持てる技術を駆使してシンと慧介に遺伝子操作を行った・・・という事で勘弁してください。
ジェームズ博士、小物感強いですけど本当に優秀なんです。
ただ、めっちゃ残念な性格になってるだけです。
まあ、だからって同情はしないんですけどネ(無慈悲)
ではまた次回にて。


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ハザードは止まらない

原型「さて、今回超トラウマ回という訳でレギュラーメンバーがほとんど欠席しているため、このオレがあらすじ紹介に駆り出された訳だが・・・」
麗人「何故前回に引き続き私まで・・・」
俺様「ハッハッハ!ついにこの小説オリキャラ三号であるこの『自主規制』が登場だぁ!さあ俺を崇めよ称えよひれ伏すが良い!!」
元詐欺師「うるさいわよ少しは静かになさい」
俺様「黙れ偽女!そのデカ乳はただの飾りだろうが!ハッハッハー!」
元詐欺師「かっちーん・・・言ったわねあーしより年上だからって調子乗ってると痛い目みるわよ!」
俺様「はたしてこの俺の速さについてこれるかァ!?」
錬金術師「うるさいぞ」
俺様「へぶ」
けん玉「自業自得なワケだ」
錬金術師「いきなりで悪いが、仮面ライダービルドであり天才物理学者桐生戦兎は、現在、敵との戦闘によってハザードフォームの暴走に陥ってしまう」
麗人「聞いた話だと、何やら相当なトラウマがあるそうだが・・・」
錬金術師「俺には関係ない話だ」
武人「うむ。相変わらずであるな!」
無性「と、とにかく!果たしてハザードフォームを止める事は出来るのか!」
原型「そんな訳だ。不穏な展開漂う第三〇話を見ろ」
麗人「なお、作中に作者の独自解釈があります。その点についてはご容赦を」


―――『オーバーフロー』。

 

溢れ出る、という意味をもつこの言葉が意味する事はただ一つ――――

 

 

 

 

 

―――仮面ライダービルドの暴走を意味する。

 

 

 

 

 

「・・・・」

ただ黙って、その場に佇むビルド。

「き・・・りゅう・・・?」

そんなビルドに、翼はどう声をかけていいのか分からなかった。

未だビルドの割れた装甲の隙間からはぼたぼたと血が流れ出ている。

だが、これだけは分かる。

 

今は、ダメだ。

 

今のビルドは、間違いなく、危険だ。

「なんなんだ・・・それは・・・」

ウェルはネフィリムが吹き飛ばされた事に狼狽しており、クライムは突っ立たまま何もしないビルドに刀を構えて警戒していた。

「響!」

そんな中で、クローズが響に向かって叫ぶ。

「この粘液をどうにかしてくれ!急げ!」

「あ、はい・・・!」

響がそれに応じて立ち上がった。その直後、響の目の前を何かが通り過ぎた。

その何かは、一気に棒立ちのビルドに襲い掛かる。

 

タスクだ。

 

「慧介・・・!?」

クライムは思わず狼狽する。

「くたばれッ!!」

そのままツインブレイカーを叩き込もうとした時――――その手を掴まれて、引っ張られ、後頭部を掴まれたと思ったら、その顔面を地面に叩きつけられていた。

「がっ!?」

地面に叩きつけられたタスク。その腹に、ビルドはすかさず蹴りを何発も叩き込んで、そして最後にサッカーシュートの如くタスクを蹴り上げる。

「がはっ・・・!?」

あまりにも一方的な展開。ビルドは吹っ飛んだタスクを追いかけて、落下してきた所を追撃。

そのまま走り続けて吹き飛んでいくタスクを何度も殴り、地面に叩きつけ、そして最後に蹴りを叩きつけて岩に叩きつける。

「があ!?」

そして、止めの渾身の右ストレートが腹に突き刺さる。

「がはっ・・・」

その一撃に、タスクは思わず膝をつく。そのまま倒れるかに思われたが、その体を掴んで、ビルドは倒さず、持ち上げて無理矢理立ち上がらせる。

 

『マックスハザードオン!』

 

再び、BLDハザードスイッチを押し、ボルテックレバーを回す。

 

『ガタガタゴットンズッダンズダン!ガタガタゴットンズッダンズダン!』

 

『Ready Go!』

 

ビルドの体から、真っ黒な禍々しい煙が立ち上る。

「・・・まずい」

その危険性を察知したクライムはすぐさま走り出す。

 

『オーバーフロウッ!!』『ヤベェーイッ!!!』

 

「ぐあぁぁあぁああ!?」

ビルドの手から伝わった、余剰したプログレスヴェイパーを直接流し込む一撃。

それがタスクの体を駆け巡り、激痛を与え、よろめかせる。

オーバードーズの原理で、一気に薬品を叩き込んで身体にダメージを与えたのだ。

だが、それだけで終わらない。

 

『ガタガタゴットンズッダンズダン!ガタガタゴットンズッダンズダン!』

 

今度はボタンを押さずにボルテックレバーを回しているのだ。

「だめだ・・・」

それを見たクローズは、思わず声をあげる。

それは、かつて、あの状態のビルドが使った―――最悪の()()コンボ――――

「やめろぉおお!!戦兎ぉぉぉおお!!!」

さらなる煙が蒸気のように立ち昇り、それが右足に収束する。

 

『Ready Go!』

 

そして、それを、タスクに容赦なく叩きつけた。

 

 

『ハザードフィニッシュッ!!!』

 

 

最悪の一撃が、タスクに叩き込まれた。

「ァ――――」

その一撃を叩き込まれたタスクは、その中枢に一撃を叩きつけられ、一度よろめく。しかし、やがて膝をついて、ビルドの足元に倒れ伏し――――変身が解除された。

 

 

 

「慧くん!」

調は、顔に手を押し付ける程動揺していた。

「いや、いやぁ!慧くん、慧くんっ!!」

「ッ・・・」

「これが・・・ハザードトリガーの力・・・だとでもいうの・・・?」

その光景に切歌は言葉を失い、マリアは戦々恐々していた。

「馬鹿な・・・そんな事が・・・」

「これは・・・」

ジェームズは、タスクの―――慧介の完全敗北に狼狽え、ナスターシャはいよいよ状況がやばくなった事に冷や汗をかいていた。

 

 

 

 

 

地面に倒れ伏す慧介を見下す事なく、ビルドは、次の標的を探す。

そうして捉えたのは―――ネフィリム。

「ま、まさか・・・!」

ビルドが、駆け出す。

ネフィリムが腕を振り上げる。それが叩きつけられる寸前でビルドはネフィリムの腹に拳を叩きつける。

敵味方関係なく全てを破壊するビルドの拳は、例え完全聖遺物のネフィリムであろうと容赦なく叩きのめしていく。

「や、やめろぉ!やめるんだぁ!!」

ウェルが止めても、ビルドは構わずネフィリムを殴り続ける。

「成長したネフィリムは、これからの新世界に必要不可欠なものだ!」

殴る、殴る。ただ殴る―――否、壊していく。

「それを・・・それをぉぉおお!!」

ネフィリムの一撃がビルドに叩きこまれ吹き飛ばす。しかし地面に着地したビルドはすぐさまネフィリムの元に舞い戻り、さらにネフィリムを攻撃していく。

「いやぁぁあぁああ!!」

半狂乱状態になったウェルがソロモンの杖を使い、ノイズを呼び出し、そのノイズらが一つに纏まってギガノイズと化す。

しかしビルドはただ淡々とそのノイズに近寄り、その顎をただ一撃打ち据えた。

それだけで、ノイズの炭素分解を超える分解攻撃がそのノイズを駆け巡り、一気に分解、消滅させる。

そのノイズをただの一撃で分解させると、そのビルドの強さに恐怖したのか一目散に逃げるネフィリムを強襲。

頭上から叩き落し、すかさず降りてその首根っこを掴んだと思ったら一気に立ち上がらせ、人間で言う所の急所を的確に殴り続ける。

それはまさしく、一方的な蹂躙だった。

時には持ち上げて叩きつけ、踏みつけ、立ち上がらせ、容赦なく叩きのめしていく。

その隙にクライムは、慧介の元へ駆け寄っていた。

「慧介!」

呼びかけ、体をゆるって見るが反応がない。

「慧介!慧介!・・・くそ!」

まるで反応がない為に、急いで脈を測る。

 

通常より弱っているが、まだ鼓動している――――

 

それを感じたクライムはすぐさまナスターシャのいる飛行機に連絡を入れる。

「ナスターシャ!慧介はまだ生きている!今から誰かをここに呼んで運んでくれ!」

 

 

 

 

それを聞いて真っ先に動いたのは調だった。

「調!?」

「慧くん!」

「待ちなさい!」

ナスターシャの制止も無視して調は飛び出す。

「アタシも・・・」

「切歌はここに残りなさい!」

「でも・・・!」

「これは命令です!」

「くっ・・・」

ナスターシャの強い口調にそれ以上なにも言えず、切歌は先に行ってしまった調の方を見た。

 

 

 

 

 

ビルドが、ネフィリムの胸当たりに拳を突き刺した。

分解能力によって皮膚が分解され、その中の臓器を掴んでいるのだ。

そのまま力任せに何かを引っ張り出し、それを捨てる。そして、いきなりぐったりしだしたネフィリムを片手で持ち上げ、もう片方の手でボルテックレバーを回す。

 

『ガタガタゴットンズッダンズダン!ガタガタゴットンズッダンズダン!』

 

黒い蒸気がまた発生し、再びそれが右脚に収束する。

 

『Ready Go!』

 

そして、再び必殺の一撃が、ネフィリムにも叩き込まれた。

 

『ハザードフィニッシュッ!!!』

 

それを喰らったネフィリムは―――跡形もなく分解・霧散していった。

「・・・」

それをビルドは淡々と見届ける。

「ひ、ひぃぃいい!!」

怯え切ったウェルは情けなく逃げ出す。

「慧くん!!」

そこへギアを纏った調が駆け付ける。

「慧くん!慧くん!!」

倒れ伏す慧介に、調は涙を流しながら駆け寄る。

「ごめんなさい!あの時、スクラッシュドライバーの危険性を伝えてたいら、ううん、戦う前にスクラッシュドライバーを取り上げれていたら、こんな事には・・・!!」

「懺悔するのは後にしろ!お前はすぐに慧介を抱えて飛行機に戻れ!」

クライムが調たちを背に叫ぶ。

「シンはどうするの?」

「俺は・・・奴を止める」

ふと、調はクライムが見る先を見る。

そして、恐怖する。

「ぁ――――」

ざっ、ざっ、ざっ、とビルドがゆっくりとこちらにやってきていた。

まるで感情の無い足取りで、ゆっくりと、クライムたちに近付いてきていた。

「あの状態の奴に逃げ切れるとは思えない。だから先に慧介だけでも連れていくんだ」

「でも、あれは明らかに正気じゃない!もしかしたら、シンも・・・」

「そんな甘ったれた事を言える状況か!慧介を見ろ!早く応急処置をしないと取り返しのつかない事になるぞ!」

クライムがそう怒鳴って、調を見た時、ビルドから視線を外した所を狙ってビルドが走り出す。

(しまった・・・!?)

今のビルドの理性は蒸発している。だが、戦いの本能というのか、最適で最速で最短で相手を破壊する為の直感は生きていた。

それが、クライムがビルドから一瞬目を放したこの瞬間だった。

この距離では、いくらクライムといえど反応に遅れる。

ビルドが、低い姿勢でクライムの懐に潜り込もうとする。

それに対して、クライムは足で刀を掴んで振るう斬撃で対応しようとした。だが―――ビルドは飛び上がった。

「なっ!?」

下と思わせての上からの攻撃。

クライムの攻撃は、すでに下段で繰り出す用意が出来てしまっている。

だから、この距離で対応する事は出来ない。

(こんな事が・・・)

ビルドの拳が、クライムに叩き込まれる―――

「ウオリャァァア!!」

その寸前で、クローズが横からぶん殴る。それによってビルドは横に吹っ飛ぶ。

「なっ!?」

「一つ貸しにしておいてやる!」

クローズがクライムに向かって指を差す。

「俺たちがアイツを抑えてるうちにさっさと行け!」

「なんのつもりだ・・・?」

「ソイツ大変なんだろ!?」

クリスがボウガンを両手にそれぞれもってそう言う。

「早く治療してあげて!」

響が言う。

「こちらの不始末は、こちらがつける・・・」

翼が、ビルドに最も近い距離で刀を構える。

「どうして・・・」

まるで自分たちを庇うかのような動きに、調は戸惑いを隠せない。

「どうして、私たちを・・・」

「私たちがそうしたいからだよ」

響は調にそう言い返す。

「私たちが、調ちゃんたちを守りたい。ただそれだけ」

ビルドが立ち上がる。

その複眼は、翼を映している。

「桐生・・・・」

刀を構えて、翼は言う。

「貴方は・・・私が止める・・・!」

それを言うのと同時に、ビルドが駆け出す。遅れて翼が駆け出し、そして激突する。

「さあ!行って!」

翼とビルドが戦い始めるのと同時に、響とクローズ、クリスも戦いに参加する。

「・・・・」

その様子に、調は呆然とし、そんな調にクライムが言う。

「行くぞ調」

「う、うん・・・」

クライムに促され、慧介を抱えて足の鋸を回転させて駆け出す。

「・・・・恩に着る」

クライムは、一度立ち止まって、聞いていないであろう彼らにそう呟き、調の後を追いかける。

調は、後ろ髪が惹かれる想いで、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

『―――戦兎先生はネフィリムにかまれた事で今もなお出血しています!早く止めて治療室に叩き込まないと出血多量で死んでしまいます!』

セレナが無線越しにそう言ったのを聞いた時に、真っ先に動いたのはクローズと翼だった。

暴走の果てに待つ者が死だなんて、そんな事、認められる訳がないからだ。

そして、クローズがビルドを殴り飛ばし、そして殴り飛ばされたビルドの前に翼が立ち、今の構図が出来上がる。

「くっ・・桐生・・・!」

全てが急所で確実に殺しにかかってきているビルド。

その攻撃を、翼は天羽々斬で受け流していた。だが―――

「くぅっ!」

天羽々斬が、刃こぼれを起こしていた。

ハザードフォームの最大の利点はその分解能力。

相手の装甲を分解し剥き出しにさせて、そして一気に中枢に一撃を叩き込むという現代兵器もかくやと言うべき能力を有している。

その分解対象は聖遺物とて例外ではない。

何より、欠点である理性が蒸発する事を踏まえると、より一層兵器としての力が発揮されている。

「く・・・ぅ・・・!」

(桐生・・・今の貴方がしたい事は、本当にこんなの事なのか・・・?)

ビルドの攻撃を受け流しながら、翼は心の中で呟く。

(違うだろう・・・そうじゃないだろう・・・貴方は、愛と平和を誰よりも信じて戦ってきた筈だ)

ビルドの拳が、とうとう天羽々斬を折る。

だが、翼は残った刀身で応戦を続ける。

今の戦兎に、言葉は届かない。それを聞くための耳はないからだ。

だから――――

「私は、お前を止めるぞ!」

右のストレートを脇に抜ける形で躱す。

「雪音!」

「もってけダブルだ!」

翼が叫べば、クリスが容赦なくミサイル二基をビルドに叩き込む。

しかし、爆発はすれどそのミサイルを破壊する対象として認識したビルドはすぐさま拳を叩きつけて分解・霧散させ、自分への威力を軽減する。

舞い上がる爆炎。

そこへさらにクリスはガトリング砲や小型ミサイルを叩き込む。滅多打ちである。

(前に龍我が言っていた。お前は誰よりも綺麗事を言っちまう奴だって。そんなお前が、そんなもんに振り回されてんじゃねえよ・・・!!)

「お前は愛と平和の為に戦ってきたんだろ!!」

その手の武器を狙撃銃へと変えて、一気にビルドを撃ち抜く。

それに吹っ飛ばされて倒れるビルド。だが、手を使わずにばっと立ち上がるビルド。

「ウォォォオオ!!」

そのビルドに向かって巻き起こった黒煙の中からクローズが突っ込んでくる。

そのクローズの拳がビルドの顔面を打ち据えるも、踏み止まったビルドの拳がクローズを捉える。そのまま激しい殴り合いに発展、互いに互いを殴り続ける。

(戦兎、何やってんだよ・・・・!)

その最中で、クローズは胸中でビルドに語り掛ける。

(また、そんなもんに振り回されやがって・・・!)

振り抜かれる拳を叩き落し、その顔面にもう一度拳を叩きつける。

「さっさと目ぇ覚ませ!バカ野郎!!!」

胸に一発叩きつける。そうして後ずさるも、ビルドはなおも襲い掛かる。

右の拳を防ぎ、続く左の拳も防ぐ――――

「今だ!」

両手を使わせた。これで、()()()()()()に反応出来ない。

「うぉぉおお!!」

響が爆炎の中を突っ切ってビルドのドライバーに取り付けられたハザードトリガーに向かって手を伸ばす。

(もう、これ以上、貴方に人を傷つけさせない。貴方が、もう二度と絶望しないように・・・だから!)

「届けぇぇぇぇええ!!!」

精一杯、手を伸ばす。そのまま、一気にハザードトリガーに向かって手を伸ばす。

そうして、それに触れる――――寸前で、ビルドの右手に掴まれる。

クローズが抑えきれずに、響がトリガーに触れるのを阻止されたのだ。

万事休す―――に、見えるかもしれない。

響とビルドの手。その隙間から、ビルドの背後から伸ばされた手。それが、ハザードトリガーを掴み取る。

「――――お願い」

そのトリガーを掴み取ったのは―――翼だ。

「戻ってきて!桐生ぅ――――!!」

そして、翼は、ハザードトリガーを力任せに外した。

外れた瞬間、ビルドの装甲から、『(ハザード)』が消えた。

元の、ラビットタンクフォームのビルドが、そこに立っていた。

「・・・俺・・・は・・・」

茫然としているビルド。

「良かった・・・戻った・・・」

「ったく、手間かけさせんじゃねえよ・・・」

疲れ切った様子でその場にへたり込む響とクリス。

だが・・・・

「う・・・・」

ビルドの体が大きく傾き、やがて装甲が粒子となって消える。

「あ・・・!」

倒れ行くビルド―――戦兎を後ろから慌てて抱き留める翼。

「桐生?・・・桐生!?」

あまりにもぐったりとし過ぎていた為に呼びかけてみたが返事がなく、見てみれば顔を歪めていた。

「桐生・・・あ・・・」

ふと戦兎の顔に触れようとした翼は、その手を見て気が付く。

 

血が、べったりとついていた。

 

そして思い出す。ビルドが―――戦兎が、ネフィリムに噛まれていたという事を。

それを知らせるかのように、遠くから、救急車のサイレンが鳴り響いていた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハザードフォーム・・・暴走の危険性を孕んだ、ビルドの形態・・・」

ナスターシャは、その戦闘力に戦慄を覚えていた。

「いつでもこの状態になれるというのは、中々に厄介なものですね・・・」

バンッ!と壁を叩く音が一つ。

「・・・ッ!己ェ・・葛城ィ・・・ッ!!」

頭に血が昇っているのか顔を真っ赤にして、額に青筋を浮かべて歯を食いしばっていた。

「暴走する力を与えるなど・・・悪魔、悪魔め・・・悪魔如きが、この私をここまでこけにするなど・・・・許さんぞォ・・・!!」

ぶつぶつと悪態を吐きながら部屋を出ていくジェームズ。

「ジェームズ博士・・・」

「・・・うっ!?ごほっ、ごほっ!」

「ッ!?マム!?」

突然、激しく咳き込むナスターシャ。

そうして、抑えた手を見てみれば、そこには口から吐いた血がついていた。

「こんな時に・・・げほっ、ごほっ・・・!」

「マム・・・マム!しっかりして!マム!」

ほどなくしてナスターシャは意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ただ、止めたかっただけだった。

 

 

 

 

ハザードトリガーを使った理由は、ただそれだけだった。

ただ、龍我を止めたいという一心で、その禁断の力に手を出した。

だけど、その力で、自分は人を殺めてしまった。

本当は、責め立てられてもおかしくなかった。だけど、誰も責めてはくれなかった。

自分はただ暴走しただけで、意識がなかっただけだ、と。

だけど、そうはいかなかった。

愛と平和、誰一人として死なせない・・・そんな信念を抱えて戦ってきた筈なのに、自分は、人を殺してしまった。

本末転倒だ。

そして、絶望した。

また自分は暴走して人を殺すのではないのか。あのアイテムを使い続ける限り、自分は、人殺しの業からは逃げられないのではないか――――そう、思っていた。

自分は、『悪魔の科学者』で、人体実験で多くの人間をその手にかけてきたのだ。

記憶はないとはいえ、自分が、大勢の命を犠牲にしたのは確かだった。

だけど、そうだとしても―――自分はその力を、誰かの為に、正義の為に、愛と平和の為に使うと決めた。

他の誰でもない―――『桐生戦兎(ヒーロー)』と『葛城巧(ヴィラン)』の二面性をもつ、自分だからこそ。

 

誰かが言った。『科学の歴史は戦争の歴史だ』と。

 

人は、闘争によってその技術を高めてきた、と。

違う。そうじゃない。科学とは、人の暮らしを豊かにするものだ。

その善悪なんて、使う人間によって決まる。だから自分は、この力を誰かの為に使うと決めたのだ。

父が願ったように、もう一人の自分が望んだように。

 

誰かを失う痛みを知っているから。

 

自分が誰かを殺してしまう苦しみを知っているから。

 

誰かを悲しませてしまう辛さを知っているから。

 

誰かの為に傷付く、傷を知っているから。

 

 

 

 

俺は―――その為だけに―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ん」

意識が、覚醒する。

真っ白な天井を見上げて、戦兎は自分が寝ていたという事を認識する。

視線を動かし、口に呼吸器が取り付けられている事に気付いて、それを外して起き上がる。

そうして頭を抑えつつ、戦兎は思い出す。

 

病人のローブ、医療機器のある部屋、そこで寝かされていた自分――――

 

そして、ネフィリムの口が閉じないように踏ん張っていた所で、意識が途切れた事を―――

 

「ああ、そうか・・・また暴走したのか・・・」

なんとも間抜け話だ。暴走すると分かっていても、それを使わなければ奴には勝てないのだから。それで暴走していては、まさしく本末転倒だ。

「早急にあれを作らねえとな・・・・」

あれを完成させて、ハザードトリガーの力を制御しなければならない。

その為には、多少の無理を通してでも―――

「・・・ん?今何日だ?」

と、割とどうでも良いかもしれない事を思い出し、日程を見てみると――――

「えーっと・・・一、二、三・・・ああ、三日かって結構経ってるじゃねえか!?」

 

 

 

戦兎は知らない。自分が寝ていた間に、自分よりも響の方が重大な事態に陥っている事に―――

 

 

 

融合症例が故の、最大の苦難というものを――――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!

戦兎が昏睡状態となった状態の二課では。

「なんでお前そんなに眠そうなんだ?」

それぞれがそれぞれの想いを馳せる。

(もう、私一人の想いでは、何も成せない・・・)

自らの行いを見返すマリアは、どう思うか。

「ここで何をしているんですか?」

次回『それぞれのアンビバレンス』

『随分と困っているようだな』


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それぞれのアンビバレンス

弦「仮面ライダービルドにして天才物理学者の桐生戦兎。彼は現在、敵からの攻撃を受けて重傷となり、意識不明の重体となっていた」
藤「しれっと連日投稿ですが、大丈夫なのか作者は・・・」
友「なんでもある程度書いてるものが溜まったから、それに毎度見てくれる読者に対しての感謝の気持ちを込めているそうですよ。あ、ここの作者は基本書き溜めですので無理してる訳ではありません」
無性「でも今やってるのは誰もが知るトラウマ回の最中・・・」
緒「まあまあ皆さん、お茶でも飲んで今は今回の話を見ましょう」
ネトアイ「今回は様々な人間の葛藤が描かれているのねぇ・・・」
スパイ「そういえば戦兎君は?」
龍「ああ、戦兎なら今寝込んでるからよ」
未「仕方ないですよ。だってあんな大怪我負って・・・」
響「あーもう、暗い話はここまで!さあどうなる第三一話!」
ク「その渦中にいる奴が何言ってんだ!」
響「あう!?」


戦兎が昏睡状態に陥ってから既に二日。

 

「・・・なあ」

そんな中で、クリスは目の前に座るセレナを見て、思いっきり訝しい目で睨んでいた。

「なんでお前そんなに眠そうなんだ?」

「え、えーっと・・・実験が色々と失敗しちゃって?」

頭を掻いてどうにか誤魔化そうとするセレナ。

そんな様子にクリスが切れる。

「ただ実験に失敗したってわけじゃねえだろこの馬鹿!!」

「ひぃっ!?」

「どうせ、あの先公の家にいって勝手になんかやってたんだろ?」

クリスが呆れ気味にそう指摘すれば、セレナはバツが悪いように目をそらす。

「・・・・戦兎先生があんな状態になって、私だけは何もしていないなんて、嫌だったんです・・・」

「・・・」

「私には、戦う事はできません。ですからせめて、戦兎さんと同じ科学方面でどうにか出来ないかと思って、色々と試行錯誤しているんです。あのアイテムの設計図は凄いです。詳しい事は書いてなくともハザードトリガーをどう制御するのかという理論はしっかりと組み込まれていた・・・」

「・・・」

切実に語るセレナを見て、クリスは黙って聞く。

「だからこそ、今度戦兎先生が目覚めたとき、安心してハザードトリガーを使えるようにしておきたいんです。いつも皆さんが無理をする分、私も・・・」

「お前の言い分は分かった」

クリスが話を遮る。

「だからと言って、無理する事はあいつは望んでいないと思うぞ?」

「・・・・」

それを言われて、セレナは俯く。

(なあ、アンタもそう思うだろ・・・?)

残酷なくらい青い空を見上げて、クリスは、心の中でそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

二課の指令室にて―――

「月の落下です!ルナアタックに関する事案です」

オペレーターたちが各国機関に連絡を取っていた。

そして正面のモニターには、日本の要人たちが映っていた。

『米国の協力を仰ぐべきではないか?』

「米国からの情報の信頼性が低い今、それは考えられません!」

その彼らに、弦十郎が対応する。

「状況は一刻を争います。まずは月軌道の算出をすることが先決です」

しかし、相手がたはそれを拒否。

『独断は困ると言っているだろう!』

『まずは、関係省庁に根回しをしてから本題に入っても遅くはない』

随分と頭の固い事だ。

これには弦十郎も頭を抱える。

(一刻も早く、ウェル博士の言う月の落下に関する情報を集めねばならないというのに・・・!)

少女やたった二人の男たちが戦っている今、自分たちに出来るのはこういう事しかない。

だというのに―――

 

『――――随分と困っているようだな』

 

その声に、弦十郎は目を見張る。

そうして新たに映し出された映像には―――

「ひ、氷室首相補佐官・・・!?」

氷室幻徳―――この国の首相の補佐官を務める、実質の政府のトップの一人。

『根回しが必要と言ったな。もう既に各施設に話しはつけてある。すぐに算出を始めろ』

『し、しかし・・・』

『総理の意見も出ている。早急に事態の把握をしろ、とのお達しだ』

『わ、分かりました・・・』

それを聞いた要人たちがさっさとモニターから消えていく。

「ご助力頂き、感謝します。氷室補佐官」

『気にするな。そちらにはノイズの撃退という大義を担っている少女たちがいる。それから鑑みれば、この程度、安いものだ』

幻徳はなんでもないと言うように返す。

「この仮説本部も提供してくださり、補佐官には頭があがらないばかりです」

『本来ならこちらが頭を下げねばならない事をしているお前たちに、これ以上手間はとらせん。では、俺はこれから総理と共に仕事に向かう。だがこれだけは忘れるな』

幻徳の眼が、鋭くなる。

『―――命を守るという大義を忘れるな』

それを最後に、幻徳との通信は終わる。

「・・・・ええ、分かっていますとも」

その言葉に、弦十郎はそう答えた――――

 

 

 

 

戦兎が昏睡状態になった。

それはきっと全て、自分の責任―――

(あの時、私が不覚を取らなければ・・・)

天羽々斬を喰われ、ネフィリムの成長を促し、そして、叩き飛ばされ、喰われ掛けた所を、戦兎に助けられた―――そして、戦兎が喰われ、あのような重傷を負ってしまった。

(全ては・・・私の失態が原因だ・・・)

刀を傍らに、畳の部屋にて、翼は膝の上に乗せた拳を握りしめる。

あんな事になったのは、自分が弱かったからだ。でなければ、あんな輩の使役する化け物風情に、後れを取る事はなかった。

天羽々斬を奪われ、あの怪物の成長を促す事もなかった。

その拳に当たり、動けなくなり、戦兎に庇われる事もなかった。

あのような形で、戦兎を、暴走させる事もなかった。

(私が、弱かったから・・・)

奏の時も、自分は、手を伸ばしても届かなかった。

(もっと、力を――――)

 

―――くしゃってなるんだよ。

 

「ッ・・・」

脳裏に、あの男の口癖がよぎる。

「・・・・違うな」

自然と、強張っていた体がほぐれる。

「私はただ・・・戦兎にあんな風にはなって欲しくはないと願っているだけだ・・・」

何か、見返りを求めているわけじゃない。どれほど周りに責め立てられようと、彼は、人を守る事をやめない。

「人を守る勇気・・・か・・・」

くしゃっとなる。彼は、ただ、それだけの為に―――

「・・・もう二度と、その身を削らせはしないぞ」

翼は、そう呟いて、素振りを始めるのだった。

 

 

 

 

 

その一方で――――

「ふっ!ほっ!やぁ!」

人目のつかない場所にて、格闘術の訓練をする響。

その様子を、未来は遠目ながらに見ていた。

「響・・・」

ここの所、響は切羽詰まった様子で訓練に勤しんでいた。

理由は、もちろん分かっている。

 

戦兎が意識不明の重体になってしまったからだ。

 

聞けば、相手の攻撃によって重傷を負い、その状態で戦い続けた事が原因だとか。

きっと、その事に響は負い目を感じていて、だから今よりももっと強くなろうとしているのだろう。

クリスも、翼も、龍我も、きっと誰もが、戦兎の現状に悩んでいる筈だ。

そして、自分なりにどうにかしようとも。

それに自分は、何もしてあげらない。

「キュールルー!」

「あ」

「ん?」

そこへやってくる機械の小動物(クローズドラゴン)

「わ!?クロ、また来たの?」

「キュル!」

「あれ?未来、こんな所で何してるの?」

「あ」

ついで響にも見つかる始末。

そういう訳で、話しを聞く事になったのだが。

「そっかぁ、やっぱり未来にはバレちゃうんだねぇ・・・」

「戦兎先生があんな事になって、響が一層思い詰めてるような気がして・・・」

「うん・・・私が暴走した時も、あんな感じだったのかもって思うと、ね・・・・」

初めて、ビルドの暴走(オーバーフロー)を目の当たりにして、響は思わず足が竦んでしまった。

あまりにも、感情がなく、そして容赦のない戦い方に、響は、どうしても戦兎の面影を見いだせなかった。

「オーバーフローした戦兎先生は、本当に怖かった。先生の優しさが一切感じられなかった。ただ、目に映るもの全部を壊す事しか考えてない。そう思った・・・」

シンフォギアの暴走とは、違うものではある。

シンフォギアの暴走は、感情の昂りによって引き起こされるものだ。しかし、ハザードフォームの暴走は―――あれは必然だ。

偶発する暴走なんかじゃない。

元からある設定にあらかじめ組み込まれているようなシステムのようなものだ。

必然的に、引き起こされる暴走だ。

だからこそ、必ず来ると分かっていても、いざ目の前にすればあんなにも怖い。

「だから――――」

響は、拳を握りしめる。

「私が止めないとって思うんだ」

「響が?」

「うん。龍我さんは、暴走した戦兎先生の正面に立って全力で止めようとした。だけど、私たちにはそんな度胸がなかった・・・それが堪らなく悔しかった。だから、今度は暴走した戦兎先生の前に立てるように、強くなりたいんだ」

「響・・・」

「だからごめん未来」

響は未来の方を見て笑いかける。

「また無茶するかもしれない。でも、必ず帰るから」

その笑顔が、未来の心に突き刺さる。

(本当は・・・戦ってほしくない・・・)

これ以上、響が傷つく所なんて、見たくない。

だけど、自分に出来る事は何もない。

そして、それは響にしか出来ない事だから――――

「分かった。それは、響にしか出来ない事だもんね」

そう言って、自分の心を押し込める。

「キュイ・・・」

そんな未来を心配そうに見上げるクロ。

「ありがとう、未来」

響はそう言った後に立ち上がる。

「さて、そろそろ戻ろうかな」

「分かった」

「服とってくるから待っててね」

そう言って響は行ってしまう。

その響の後ろ姿を見る未来。

そんな未来の肩に、クロは乗っかる。

「キュル」

そして、小さく未来の耳に一つ耳打ちした。

「・・・・え」

その鳴き声(なきごえ)は、未来を心の底から驚かせた。

「・・・・響が、危険・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方、カ・ディンギル跡地にて――――

 

ウェル博士(英雄もどきのクズ野郎)はいた。

 

ネフィリムをビルドにやられてからはや二日。酷くやつれた様子でソロモンの杖をそのまま杖として使いその場彷徨い続けているのだ。

全くもってアレである。

そんな最中で足を滑らせて坂を落下。情けない悲鳴を上げて下の方へと落ちる。

呻き声をあげて、顔を上げた先。

そこには、赤く明滅―――否、鼓動する何かがあった。

それを見た瞬間、ウェルの顔が狂喜に歪み嗤う。

それを拾い上げ、怪しい笑い声をあげて呟く。

「これさえあれば僕は英雄だぁ・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ナスターシャが倒れ、そして慧介もビルドにやられてから、マリアと調は二人の看病に当たっていた。

ナスターシャは持病を患っており、マリアやシンなら応急処置程度は出来るが、本格的な事はウェルの見立てでなければどうにもできないという現状の今、切歌とシンがウェルの捜索に当たっていた。

切歌は渋っていたが、ナスターシャの為となると快く了承してくれた。

シンは元々、ナスターシャを見捨てる事などする訳がないため、率先していたが。

(今はシンたちがドクターを見つけてくれるまで待つしかない・・・だけど、今一番心配なのは・・・・)

暴走したビルドの一撃を喰らった慧介だ。

あれ以来、慧介は目を覚まさない。

(仮面ライダーとしての装甲を貫き通す一撃を喰らったもの・・・こうなるのは当然・・・だけど・・・)

どうして、こんな事になってしまったのだろうか。

自分が戸惑いさえしなければ、シンに血を浴びさせる事も、慧介をこんな事にさせる事はなかっただろうに。

(もう、私一人の想いでは、何も成せない・・・)

人類を救う事も、夢のまた夢・・・

 

ただ、そんな無意識の中でも、彼女は歌を口ずさんでいた。

 

それは、彼女が失った妹『セレナ』との大切な思い出のある歌。

マリアは、暇があればいつもそれを唄っていた。

そしてその歌は、もう彼女たちの間では聞き慣れた歌だった。

そんな中だった。

「う・・・ぐぅ・・・」

「!」

慧介が目を覚ます。

「慧くん!」

「う・・・俺、は・・・ッ!」

しばらく状況を理解出来ていないでいた様子の慧介はしばらく周囲を見渡した後、何かを思い出したかのように目を見開き、思いっきり起き上がって、すぐ傍の調の肩を掴んで怒鳴り気味に尋ねる。

「あの戦いはどうなった!?ビルドは!?クローズは!?立花響は!?」

「あ、えっと・・・」

「落ち着きなさい慧介!調が驚いているでしょう!」

マリアが一括する事で正気を取り戻した慧介ははっとなり、やがて申し訳なさそうに肩から手を離した。

「ごめん・・・」

「ううん、気にしてないよ」

それで、事の顛末を話した。

「そうか・・・俺は、ビルドに・・・」

「生きるか死ぬかの状況だった。シンの応急処置が間に合わなかったら、慧くん、きっと死んでた・・・」

調の声が小さくなる。

その様子に、誰も何も言えず、そこでどこからか連絡が入る。

「私です」

その通信に答えたのは、マリアでもなく、なんとナスターシャだった。

『っとと、もしかして、もしかしたらマムデスか!?』

切歌の戸惑った声が聞こえてきた。

『具合はもういいのか』

シンが、どこか安心したような声でそう聞いてくる。

「マリアの処置で急場は凌げました」

『なら良かった。今、ドクターを探している』

「分かっています。私の容態を見れるのはドクターウェルのみ・・・そういう事でしょう?」

『話が早くて助かる』

『デスが、連絡が取れなくて・・・』

「二人ともありがとう・・・では、ドクターと合流次第、連絡を。合流地点(ランデヴーポイント)を通達します」

『了解デス!』

『なるべく早く見つける』

それを最後に、通信が終わる。

 

 

 

その一方、切歌とシンは。

「はあ・・・」

切歌はほっと息をついていた。

「まさか、マムが出るとは思ってもみなかったデスよ」

「声音からして、もう大事はないようだ。だが油断は出来ない。一刻も早くドクターを見つけよう」

「分かっているデス!」

その時だった。

 

切歌の腹が鳴った。

 

「おっと・・・安心した途端にこれデスよ」

「はあ・・・まあ、仕方がないだろう。朝から何も食べていない訳だからな・・・そこの店で済ませるとしよう」

「はいデス!」

そうして二人が入っていった店の看板には『ふらわー』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦兎の家にて、セレナはとある設計図を元にあるものを作っていた。

(戦兎先生が目覚めたとき、安心してハザードトリガーを使えるように、これを早く完成させないと・・・!)

もう誰も悲しませない。あの力で、誰一人だって死なせてやるものか。

そんな想いが、セレナを突き動かしていた。

コーヒーを片手に、セレナは今作っているものを読み返す。

(ハザードトリガーの中にある強化剤『プログレスヴェイパー』・・・その効果は、脳の特定部分に作用を及ぼし闘争本能を刺激し、戦闘力を十二分に引き上げる・・・だけど、使い続ければ脳が負荷に耐え切れなくなって、そしてついには暴走状態である『オーバーフロー』状態に移行してしまう・・・・)

コーヒーの入ったマグカップを置き、まだ試作段階のそれを持ち上げる。

(だけど、このアイテムなら、プログレスヴェイパーを抑制し、そしてオーバーフロー状態で理性を維持し続ける事が出来る筈・・・)

そんなわけで――――

 

『ハザードオンッ!!』

 

誰も装着していないビルドドライバーに起動したハザードトリガーをセットし、そして今作っていた装置をスロットに装填する。

 

『ドンテンカンドーンテンカン!ドンテンカンドーンテンカン!』

 

「よーしでは早速・・・」

 

『ガタガタゴットンズッダンズダン!ガタガタゴットンズッダン!』

 

『Are You Ready?』

 

ボルテックレバーを回し、そうして準備が完了して―――

 

 

バキィィンッ!!

 

 

「ふぎゃあ!?」

アイテムが爆発し、セレナは驚いてひっくり返る。

「う・・・ぅう・・・」

そうして起き上がったセレナの着ていた白衣はややはだけ、顔はげんなりしていた。

「失敗だぁ・・・」

砕け散ったそれを見て、セレナは情けなく声を挙げる。

「何がいけないんだろう・・・設計図通りに作った筈なんですけど・・・そもそも素材が悪いのかな・・・」

様々な事を工夫して、考えて、調べて。セレナは試行錯誤を繰り返す。

(もう、誰にも心配なんてさせないように・・・)

このアイテムを、一刻も早く―――

 

 

「くう・・・くう・・・」

「心配だから様子を見に来てみれば・・・」

呆れるクリスの眼には、眠気に勝てず机に突っ伏して寝ているセレナがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからどうしようか?」

そして、場面は響と未来、クロの元へ。

「お昼食べて、それからお買い物かな・・・」

「よし!それじゃあおばちゃんの所行こう!」

「もう、響は相変わらずだなぁ」

「キュールルールルッ!」

いつも通りの響の様子に、未来はからからとした笑いを浮かべる。

(さっきクロが言ってた、響が危険・・・ってどういう事なんだろう・・・・?)

一体、何が危険だというのか。命の危険?それとも、何か別の?

分からない。あまり、そういう事に詳しくないからか、どうしても想像力が及ばない。

(響・・・一体何を抱えてるの?)

響の表情から、何かを隠してる、なんて事はないだろう。

強いていうならば、気付いていない。

自分の身に近付いてきている、あるいは、起こっている事に、気が付いていない。

そんな気がするのだ。

 

「―――グル」

 

その時だった。

 

クロの鳴き声が――――()()()()のは。

 

「クロ?」

「ん?どうしたの―――」

そしてその直後、彼女たちの目の前を、三台の黒い車が駆け抜けていったのは。

その車の中に、見覚えのある、黒スーツの男達が乗っていたのは。

それが凄まじい速度で過ぎ去っていき、そして見えなくなり――――凄まじい爆発音が鳴り響いた。

「今のって・・・」

「くっ!」

響が走り出し、それに未来が続く。

そして、その先で見た光景は、悲惨だった。

先ほどまで新車のようだった黒い車の装甲はひしゃげ、へこみ、その周囲には元は人間のものであっただろう黒い炭素の山――――

そしてその周囲にはノイズと―――ウェルがいた。

「ウェヒヒ・・・誰が来ようと、これだけは絶対に渡さない・・・」

片手にソロモンの杖、そしてもう一方の片手には、何か布に包まれたもの。

「ウェル・・・博士・・・!」

「グルルルル・・・・」

響がウェルを睨みつけ、クロが今までにない声で唸り出す。

「な、何故お前がここに・・・!?」

「ここで何をしているんですか?」

「お前には関係ない!消えろぉぉおお!!」

あまりの狂いっぷり。見ていて情けない。しかし、そんな彼が半狂乱になってノイズを差し向ける。

「あ・・・・!?」

「未来は下がってて!」

響が、その手に持っていた荷物を投げ捨て、そのノイズに向かう。

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)―――ッ!!」

 

聖詠を唄い―――()()()()()ノイズを()()()

本来なら、それは死に直結してしまう行為。

「響ッ!?」

「キュル!」

響のまさかの行動――――しかし、響は―――()()()()()()()

「人の身で・・・ノイズに触れた・・・!?」

それは、本来ならありえない事。

しかし、それは現実で起きており、次の瞬間、その身を対ノイズ戦の戦闘装束へと変える。

そしてそのまま拳を押し込み、ノイズを消し飛ばす。

「おぉぉぉおお―――ッ!!」

吹き荒れる衝撃。

その最中で、響は拳を握りしめて叫ぶ。

「この拳も、命も―――シンフォギアだ!」

 

 

 

その身を、今自らの戦う力に蝕まれている事を、彼女はまだ知らない――――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!

シンフォギアを纏い、異常な熱を纏う響。

(力が・・・漲る・・・)

その力、止める事は出来ず―――

「俺ならどうにか出来ない事はない、が・・・」

されど乱入してくるF.I.Sの二人。

果たしてこの戦いの行方は――――

次回『ブレイクしていくキミに』

「よお、調子良さそうじゃねえか」


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ブレイクしていくキミに

マ「天才物理学者であり仮面ライダービルドこと桐生戦兎が昏睡状態の中、二課とF.I.Sの間で新たな抗争が勃発していた」
調「本当、なんであんなクズを守らなければならないの」
マ「抑えなさい調。それについては私も同感だけども、今の私たちにドクターは必要なの」
調「はあ・・・そんなわけでぶつかったドクターと響さん。しかし、いま響さんの体には、とんでもないことが起きていることを、まだ誰も知らない・・・」
マ「・・・よし、終わったわね」
調「じゃあ私はこれから慧くんと出かける予定があるから」
マ「わかったわ。さてこっちは今日の夕飯の献立でも考えて・・・」
シ「おい」
マ「あらシン、何かしら?」
シ「このカンペが見えないのか」
マ「えっと・・・『終わるのが早すぎる』・・・え?」
シ「そういう訳だ」
マ「どういう訳よ!?」
シ「マリアの体重は「え」この間の測定で「待って」ちゃっかりh」
マ「待ちなさぁぁぁあい!!」蛇腹剣
シ「ふん」回避&どろん!
マ「はあ・・・はあ・・・だ、誰にも聞かれてないわよね・・・?」
響「マリアさん・・・・」
マ「ん?どうしたのそんな申訳なさそうに・・・」
響「・・・リークしたのセレナちゃんです」
マ「セレナぁぁぁあぁああ!?」


翼「今回より、作者の都合により、二日間投稿から週一投稿となりました。楽しみにしていただいている皆様には申し訳ありませんが、しかしこれからもこの小説をよろしくお願いします」


――――果たして彼女は、自らの体の熱量が引きあがっている事に気が付いているだろうか。

 

 

その答えは―――否である。

 

(力が・・・漲る・・・)

その身に触れた木の葉が燃えて消えていったという事も、彼女は気付かない。

「な、なんだと・・・!?」

「この・・・熱気は・・・もしかして・・・」

その熱さに、ウェルと未来は驚きを隠せない。

(もしかして、これがクロの言ってた、響の危険・・・!?)

体から発せられる異常な熱。それが、一体何を意味するのか。

「なんなんだ・・・お前もあの()()()()()も!いつもいつも都合の良い所で、こちらの都合をひっちゃかめっちゃかにしてくれる、お前らはぁぁああ!!!」

ウェルがソロモンの杖を振りかざし、ノイズをさらに召喚していく。

「ハァー・・・戦兎先生は、英雄もどきなんかじゃない・・・」

腰をぐっと落として、拳を構えて、響は走り出す。

「愛と平和の為に戦う、仮面ライダー(正義のヒーロー)だ!」

叫び、その拳をノイズに叩きつける。

 

「―――ぎゅっと握った拳、1000パーのThunder」

 

そのまま一気に蹂躙、もはやノイズなど、彼女の相手ではない。

そのまま千切っては投げ、千切っては投げ、もはや一方的な展開。

「いつもいつもいつもいつもいつもぉぉぉぉおお!!!」

一方のウェルも負けじとノイズを出しまくる。しかし、それでも響の拳には敵わず、着実にその数を減らしていく。

しかし、時間もかけてはいられない。

響は一気に勝負に出る。

右手のギアを巨大なナックルに変形させて、腰のブースターとギアのブースターを掛け合わせ、回転炉によってエネルギーをチャージ。

「行っけぇぇぇぇええぇぇええぇえええええ!!!」

そのまま前に飛び出し、目の前のノイズを一気に消し飛ばす。

「うわぁぁああ!?」

衝撃が迸る。

凄まじい程の爆発が起き―――それでもウェルはしぶとく生き残る。

(仕留めそこねた・・・!)

であるならば、さらなる一撃を叩き込むだけの事。

ウェルは相も変わらずソロモンの杖を使ってノイズを狂ったように召喚しまくる。

足のギアのパワージャッキを叩き起こし、そして腰を低くして右腕のギアのエネルギーを充填。

「ウォォォォオオオォォオオ!!!」

叫び、ジャッキを叩きつけて瞬間加速、そのまま腰と腕のジェットでさらに加速。

ノイズの集団の中を突き進み、ウェルに迫る。

「う、うわぁぁああぁぁあぁあああ!?」

そのままウェルに拳が直撃するかと思いきや――――

 

響の必殺の一撃は、いとも容易く弾かれた――――

 

 

『Ready Impact Wolf Breke』

 

 

「うあ!?」

 

否、響が()()()()()

 

その理由は、響にしか分からない。

引っ込めた腕のすぐ傍で吹き荒れた、()()()()()()()

脳裏にいきなり叩きつけられた、()()()()()()()()()()イメージ。

それらが意味する事とは一体。

だが、しかし、これだけは分かった。

(今腕を引っ込めてなかったら、この人に、腕を斬り飛ばされた・・・)

響の目の前に立つ、存在。

スリム感のあるボディ、無機質な黒の装甲―――そして、顔全体を覆うV字のバイザー・・・

「仮面ライダークライム・・・シンさん・・・!」

完全聖遺物にして高周波ブレード『雷切』を右足で掴み、振り抜いた足を突きつけたまま、クライムはそこに立っていた。

その後ろには、ギアを纏った切歌がウェルを庇うように立っていた。

「ドクターと合流した。至急、回収を頼む」

シン―――クライムがこちらに来ているであろうナスターシャたちに連絡を入れる。

 

 

 

その一方で、クライムから連絡を貰ったナスターシャとマリアは。

「櫻井理論に基づく異端技術は、特異災害対策機動部の占有物ではありません。ドクターがノイズを発生させた事で、その位置を絞り込むことなど容易い・・・」

「だけどマム・・・」

「分かっています。こちらが知り得たという事は、相手もまた然りです。急ぎましょう」

そう、敵は、こちらと同じ戦力を有しているのだ。

時間はない。

「聞こえてるわね?二人とも」

『ああ』

『ドクターを連れて速やかに離脱デスよね』

 

 

 

 

が、しかしである。

「アイツを相手に、言う程簡単ではないデスよ・・・」

「俺ならどうにか出来ない事はない、が・・・」

何か、様子がおかしい。

彼女は、否、人間であれほどの熱量を発して果たして無事でいられるのだろうか。

『それと、もう一つ・・・』

「ん?どうした、マリ――――」

その時だった。

 

「立花響ぃぃぃいい――――ッ!!!」

 

「「「ッ!?」」」

その登場は、完全に彼らの意の外だった。

 

スクラップクラッシュッ!!!』

 

全てを喰らう虎の牙が響に襲い掛かる。

「うわ――――」

紙一重で躱した―――が、

「がぁぁぁああ!!」

着地したタスクがさらなる牙を響に叩きつける。

「がっ―――」

その蹴りは響の腹を抉り―――

「ダダダダダダ―――――ッ!!」

そしてライダーキックのラッシュの叩き込み、蹴り飛ばす。

「ダラァッ!!」

「ごはっ―――」

そして、次の瞬間、叩き込まれた全ての衝撃が響の体を一周回り――――

 

―――体内で炸裂した。

 

「かはっ・・・」

喀血し、その場に膝をつく響。

「慧介!?」

「なんでこんな所に・・・」

『ッ!?もう着いたの!?』

「どういう事だマリア!?」

『ジェームズ博士が慧介にドーピング剤を打ったのよ!それで、ドクターがノイズを出したのを検知したらすぐに出ちゃって・・・』

「あの野郎・・・ッ!!!」

思わずその手の雷切を握りしめるクライム。

一方、タスクは、膝をついた響の髪の毛を掴み、無理矢理持ち上げる。

そしてツインブレイカーを構える。

「くたばれ」

「う・・・あ・・・」

ツインブレイカーのパイルはすでに高速回転している。

「ッ!?待て慧介!」

「流石に人殺しはまずいデスって!」

二人が止めるも止まらず、タスクはそのままツインブレイカーを響に振り下ろそうとする。

「やめてぇぇええ!!」

しかし、そこへギアを纏った調がタスクの腕に掴まり止める。

「だめだよ慧くん!そんな事をしたら、もう後戻りなんて・・・」

「引っ込んでろ!」

「きゃあ!?」

タスクが調を振り払う。

「調!おい慧介!いくらなんでも・・・」

「黙ってろっ・・・!!」

「っ・・・!?」

タスクが複眼越しに切歌を睨む。その眼光と声音に、切歌は押し黙ってしまう。

「俺の邪魔をする奴は、誰であろうとぶっ潰す・・・!!」

「慧くん・・・!」

変わり果てたタスクの言動に、調は、涙を流す。

そのまま、タスクは今度こそ、響にツインブレイカーを叩き込もうとした――――

 

レッツブゥレイクッ!!!』

 

響の背後、その上空から、クローズがクローズドラゴン・ブレイズを纏ったツインブレイカーをタスクに叩き込んで吹っ飛ばす。

「ぐぁぁぁあ!?」

「慧介!?」

そのまま吹っ飛んでクライムたちの背後のトラックに激突する。

「間一髪だったな」

そんな中で、倒れる響を支えて登場したクローズは、彼らを一様に睨みつけていた。

 

―――が、

 

「・・・ぅあっつ!?あっつ!?ちょ!?おま、あっつ!?」

響の放つ熱量に耐えられず、思わずその場に座らせて離れるクローズ。

「おまっ、とんでもない程に熱いぞ!?」

「あつ・・・い・・・?」

響は、タスクから受けた必殺技が痛むのか、曖昧に返事を返す事しか出来ない。

しかし、クローズの言葉に、自分がとてつもない熱を発している事に気付き――――

 

突如として胸の痛みを自覚した。

 

「う・・・ぐ・・・あぁぁ!?」

「響!?」

突然苦しみだした響に驚くクローズ。

「がぁぁああぁああ!」

しかし、そこでなおも立ち上がるタスクが、クローズと響に向かって走り出す。

「待て、慧――――」

クライムの制止すら振り切って、彼はその中を突っ走り、クローズに向かってその拳を振り下ろす。

しかし、それをクローズは受け止める。

「よお、調子良さそうじゃねえか」

「万丈・・・龍我ァ・・・!!」

仮面の奥ではさぞ血走った眼を走らせているのだろう。

 

何故、ここにクローズがいるのか。

 

少し、プロテインでも買いに出かけていたのだが、その帰りに弦十郎から連絡を受けてすぐさま急行、途中未来とクロを見つけ、未来にそこにいるよう促し、クロを連れて響の元へやってきたのだ。

(そろそろ本気でお灸をすえねえとな)

ふとクローズは響の方を見る。未だ、胸を抑えて苦しそうに蹲っていた。

(悪い・・・少しの間だけ我慢してくれ)

直後、タスクのもう一方の拳がクローズに叩き込まれる。

しかし、それはいとも容易く受け止められており―――

「もう、遊びの時間は終わりだ・・・・」

「ッ!?」

次の瞬間、タスクの顔面にクローズの鉄拳が入っていた。

「がっ!?」

すかさずもう一方の拳によるブローが決まり、崩れた所を腕を掴まれ、建物に向かって叩きつけられる。

 

シィングルゥッ!!』

 

ツインブレイカーにロックフルボトルを装填し、そのまま駆け出して壁に叩きつけたタスクに叩きつけられ、壁を抜ける。

 

シングルブゥレイクゥッ!!!』

 

「ぐあぁぁあああ!?」

タスクとクローズはそのまま建物の壁をぶち抜いて中へ。しかし、そこから聞こえるのは、タスクの悲鳴のみ――――

「慧くん・・・」

「今は慧介の事は、クローズに任せるしかないですよ。止められるのは、アイツだけなんデスから・・・」

そう切歌が言った所で―――

「頑張る二人にプレゼントです」

「「ッ!?」」

いつの間にか、否、タスクに気を取られていたせいでクライムですらウェルが二人の背後にいる事に気付かなった。

そして、ウェルは、二人の首に何かを押し当てた。

「それは―――」

そして、それを容赦なく二人に注入した―――

思わず距離を取る調と切歌。

「ッ!?」

「何しやがるデスか!?」

何かを注入された部分を抑える二人。

 

それは、彼女たち『第二種適合者』がシンフォギアを纏う上では必要不可欠な『LiNKER』と呼ばれる薬品―――

 

「投薬してから、まだ効果時間には余裕がある、それなのに何故―――」

「だからこその連続投与です!あの化け物が来る前にケリをつけるには、今以上の出力でねじ伏せるしかありません。その為にはまず、無理矢理にでも適合係数を引き上げる必要があります・・・!」

眼鏡のブリッジを上げ、得意気に語って見せるウェル。

「でも、そんなことをすれば、過剰投与(オーバードーズ)の負荷で・・・うっ」

言いかけた所で、調がめまいを覚える。

「ふざけんな!なんでアタシたちが、アンタを助ける為にそんな事を――――」

「するデスよ!」

切歌の怒鳴りをウェルはすかさず言い返して見せる。

「いいえ、せざるを得ないのでしょう!貴方たちが、連帯感や仲間意識などで、私の救出に向かうなど到底考えられない事を!」

どうやら、互いの事をよくわかっているようだ。

「大方、あのオバハンの容態が悪化したから、おっかなびっくりかけつけたに違いありませぇん!」

狂ったように喚き散らすウェル。

「病に侵されたナスターシャには、生化学者である私の治療が不可欠・・・さあ、自分の限界を超えた力で、私を助けて見せたらどうですか!?」

下に置いたものを拾い上げ、二人を指差しそう言って見せる。

「う・・・ぐ・・・このぉ・・!!!」

その一方で、胸の痛みに苦しみながらも立ち上がる響。

そして、過剰投与(オーバードーズ)によって強烈なめまいなどの症状に侵されている調と切歌。

「ッ・・・やろう、切ちゃん・・・!!」

苦しそうに、言葉を絞り出す調。

「マムの所に、ドクターを連れ帰るのが・・・私たちの使命だ・・・!」

「調・・・」

言い切る調に、クライムは何も言えず。

「絶唱、デスか・・・・?」

もはや、手段はそれしか残されていない。

「そう、ユーたち歌っちゃえよ!」

ウェルが、気持ち悪い笑顔で言う。

「適合係数がてっぺんに届くほど、ギアからのバックファイアを軽減できる事は、過去の臨床データが実証済みィ!だったらLiNKERぶっこんだばかりの今なら、絶唱唄いたい放題のやりたいほうだーい!!!」

そう喚き散らすウェル。

「分かった。だからもう喋るな」

―――に、向かって強烈な膝蹴りを叩き込むクライム。

「ぐげあ・・・!?」

腹に炸裂したそれは一気にウェルの全身を駆け巡り、呆気なく崩れさせる。

「な、何を・・・ぐげ」

顔を踏みつけ、クライムは仮面の奥の眼光で見下す。

「貴様は脅せば簡単になんでもしてくれる奴だ。だからマムへの治療も脅せばどうという事はない。何安心しろ。すぐに良くなる・・・が、しばらくそこでくたばってろ」

と、ウェルから足をどかして二人の元へ行く。

「俺が時間を稼ぐ。二人はその間に絶唱を唄え」

「さっきのですっきりした・・・」

「やらいでかデス・・・!!」

叫び、そして二人は―――歌う。

 

「「―――Gatrandis babel ziggurat edenal―――」」

 

「―――ッ!?」

それを聞いた瞬間、響が一気に青ざめる。

「この歌って・・・絶唱・・・!?」

 

そう―――自身の全てを燃やし尽くして放つ、シンフォギアの最終決戦技『絶唱』

 

 

それを、調と切歌は歌っているのだ。

 

 

「「―――Emustolronzen fine el baral zizzl―――」」

 

 

そして――――響にとっては禁忌にも等しい、禁断の必殺技。

それは、戦兎にとっての、ハザードトリガーにも等しい、彼女たちが絶対にやってはいけない事。

「だめだよ・・・・LiNKER頼りの絶唱は、装者の命はボロボロにしてしまうんだ!」

響の叫びは虚しく、それでも二人は歌い続ける。

 

 

「「―――Gatrandis babel ziggurat edenal―――」」

 

「止めて・・・止めてください!今すぐ、二人に歌わせるのをやめさせてください!」

「・・・立花響」

響の叫びに、クライムは静かに答える。

「・・・これが二人の生き様だ」

「――――ッ!?」

その言葉に、響は、言葉を失った。

 

「「―――Emustolronzen fine el zizzl―――……」」

 

詠唱が、終わる――――

「「―――ぐぅっ!?」」

すぐさま、絶唱の負荷が二人に叩きつけられる。

 

女神ザババの絶唱二段構え。

 

シュルシャガナの絶唱は、無限軌道から放たれる、果てしなき斬撃。

それによって、敵の肉を削ぎ落すのがシュルシャガナの力。

その力で、響の動きを封殺――――

 

そして続くイガリマの絶唱。

その特性は、対象の魂の両断。物質的な防御手段は無く、絶対切断の一撃を叩きつける事が出来る。

 

女神ザババの振るう二対の神の刃。それがシュルシャガナとイガリマ。これほど相性の良い必殺技があろうか―――

 

(これが決まれば、いくら融合症例といえど・・・)

念のために、三撃目を構えるクライム。ルインドライバーの引き金に手をかけ、いつでも必殺技を放てるようにする。

クライムの必殺技『インパクトウルフブレイク』は、成分の浸透率を刀を持たせた足に収束させる事で、最速で重厚な斬撃を叩き込む事が出来る。

その斬撃は、シンの刃物に対する圧倒的才能による腕と、ルインドライバーによる変身によってもたらされる、絶対切断の一撃。

切歌の絶唱とは対を成し、魂ではなく万物を切断する。

そのまま、絶唱によるエネルギー臨界を迎えようとした時だった。

 

「―――Gatrandis babel ziggurat edenal―――」

 

なんと響も絶唱を歌い出した。

(何を・・・!?)

その行為に、クライムは驚く。

しかし、すぐに気付く。

「ギアの出力が・・・」

「エネルギーレベルが、絶唱発動まで届かない・・・あ!?」

驚くのも束の間、絶唱形態に変形させたギアが、急激に元に戻っていく。

「減圧・・・うわ!?」

切歌のギアすらも元に戻る。

それを見て、クライムの直感が感じ取った。

「まさか―――束ねたのか!?二人の絶唱を・・・中途半場な絶唱で・・・!?」

「「・・・!?」」

響のアームドギアの特性は、誰かと手を繋ぐ事による、エネルギーの収束、または操作。

「S2CA・・・トライ・バースト・・・」

 

「―――セット・ハーモニクス!!」

 

響が叫び、収束したエネルギーが解放させる。

「いくらなんでも無茶だ・・・!!」

「それでも・・・二人に、絶唱は歌わせない・・・!!!」

「何故、お前は・・・お前たちはそこまでする!?何故敵である俺たちに、そこまでする必要がある!?」

クライムが響に向かって尋ねる。

そんな中で、響は、クライムに向かって――――ピースサインを向けてきた。

「ラブ&ピース・・・・私の尊敬する人が、いつも言っている事です・・・」

開放されたエネルギーを合体させたギアに収束させつつ、響は語る。

「くしゃっとするそうなんです。誰かの為になれると、つい思わず、くしゃっとするそうなんです。私も、同じです・・・」

「・・・桐生戦兎か」

クライムは、思い当たる人物の名を口にする。

「だから・・・私も――――!!!」

高速回転するギアを天に向けて、その膨大なエネルギーをぶっ放す。

「愛と―――平和の―――為にぃぃぃぃぃいいいぃいい!!!」

巻き起こる虹色の螺旋。

その光は天を突き、その輝きを街に轟かせる。

それが、立花響にしか出来ない、束ねる力。

「これが・・・立花響・・・!」

その威力に、クライムは畏怖せざるを得なかった。

この様な存在がいるとは、思わなかったのだ。

(人間の身で化け物と呼べる人間なら戦場で何人も見てきた・・・だがこの立花響という存在は、破壊の力を存分に振り回せるいわば文字通りの人間の枠を逸脱した怪物・・・彼女がもし殺意をもってこちらにあれを向けていたら、間違いなくやられていた・・・)

今更ながら、とんでもない相手に喧嘩を売ったものだと思ってしまう。

S2CAを放った響は、その場に立ったまま動かない。

凄まじい熱を放っているのだ。おそらく、体に相当な負荷が掛かっている筈。

「マム、敵の位置情報を教えてくれ」

『天羽々斬とイチイバルが現在そちらに急行しています。ビルドの姿は確認できませんが、到着までもう少しかかります。その間に向こうの装者は合流するでしょう。ですので到着するまで耐えてください』

「ああ。過剰投与(オーバードーズ)の影響で二人は動けないが、この刃で守り通して見せよう」

クライムはナスターシャとの連絡を切る。

「ごめんなさい・・・」

過剰投与(オーバードーズ)でなければ、こんな事・・・・」

二人が、顔色を悪くさせながらも、クライムに申し訳なさそうに謝る。

「気にするな。俺がいる限り、誰も死なせはしない」

「シン・・・」

「とにかく今はウェルを確保する事が先決だ」

ふと、調が響の方を見る。

「あいつは・・・」

「今はやめておいた方がいい。あのままにしておいた方が戦力の分散にはなる」

「分かったデス」

その時だった。

「ぐあぁぁあ!?」

その直後で、彼らの後ろの横の建物の壁からタスクが壁を突き破ってごろごろと地面を転がりながら出てくる。

「慧くん・・・!?」

その姿を見る調だが、過剰投与(オーバードーズ)の影響で上手く喋れない。

タスクが突き破った所からクローズが歩いて出てくる。

「ぐ・・・ぅ・・・あぁぁああ!!!」

タスクは狂ったように叫び、そのアクティベイトレンチを降ろす。

 

スクラップクラッシュッ!!!』

 

タスクが必殺技を発動する。

「まて慧介!」

クライムの制止も聞かず、タスクはクローズに向かってオレンジに輝く右脚をもって走り出す。

飛び上がり、高所からクローズを狙う。

「がぁぁあぁああ!!」

「・・・」

それに対して、クローズもアクティベイトレンチを降ろす。

 

スクラップブレイクッ!!!』

 

それによってクローズの右脚にエネルギーが収束する。

そのクローズに向かって、タスクが回転して蹴りを叩き込もうとする。

だが、それをクローズは前に出る形で回避。

「がぁぁぁあ!!」

すかさずタスクは左足を軸に背後のクローズに向かって回し蹴りを放つ―――しかし、タスクの回し蹴りは空振る。

「な―――」

気付けば、クローズは飛び上がっており―――

「ウオリャァァアァアアア!!!」

その顔面にボレーキックを叩きつけた。

「ぐあぁぁああぁああ!?」

蹴り飛ばされたタスクは、そのまま調たちの元まで吹っ飛ぶ。

そして、彼女たちのすぐ傍で止まった所で、彼の変身が解除される。

「慧くん!」

そんな慧介に、調が涙ながらに駆け寄る。

「慧くん!慧くん・・・!!」

必至にゆするも、起きない慧介。

「立花ぁ!!」

「おい!無事か!?」

そこへ、まさかのバイクに乗ってやってきた翼と、ヘリから飛び降りて走ってきたクリスがやってくる。

「響!」

さらには未来までやってくる始末。

「く、ここまでか・・・!」

クライムは刀を構える。

響は動けず、実質三対一のこの状況。

(どう切り抜ける・・・!?)

全力で頭を回転させるクライム。

そんな中で、未来は一人、膝をついた響へと駆け寄る。

しかし、その最中で、未来は伸ばした手にとてつもない熱さを感じる。

「うっ・・・!?」

それは、響自身から放たれる圧倒的熱量。

「絶唱の三重唱を受けた事でのオーバーヒート・・・?だが、これは・・・!?」

その最中で、クライムは見た。

 

響の胸から、何か、金色の物質が出来ている事に。

 

「なんだあれは・・・!?」

「いやあ!響ぃ!!」

「ッ!?」

そんな中で、未来がなおも駆け寄ろうとする。

(いや、響が遠く、私がいけない所に行っちゃう・・・!!)

そんなのは、嫌だ。だから――――

「よせ!それ以上近付けば火傷では済まないぞ!」

「そうだ!落ち着け!」

「でも、でもぉ!!」

クライムが叫び、クリスが未来を止める。

(このままでは奴は死ぬ、だが、どうすれば・・・)

「慧くん・・・慧くん・・・!!」

後ろでは調が泣きながら慧介に呼びかけている。

「立花・・・」

そして、翼はどうすればこの状況を打開できるかと考えていた。

「やばい、このままじゃ響が・・・・」

自身の熱量にやられてしまう。

(熱なら冷やせばいいよな?何か冷やせるもの・・・)

見上げたクローズはそれを捉える。

「貯水タンクだ!」

響の真上には、貯水タンクがあった。

「承知ッ!!」

それを聞いた翼がすぐさま動く。飛び上がってその貯水タンクに傷をつけ、そこから水を溢れ出させる。

それが、一気に響に掛けられ、全ての水が流れ出たころには、ギアが解除され、私服姿になった響が出てきた。

「どうにかなったのか・・・」

「響!」

クリスが呟く中、未来が響に駆け寄る。

「響、しっかりして、響・・・!!」

未来が呼びかけても起きる気配を見せない。

「立花・・・」

そんな様子を翼は拳を握りしめて悔しがり、改めてクライムたちの方を見る。

そこには、何かの要因で動けない切歌と、変身解除されて昏倒している慧介に必死に呼びかける調、腹を抱えて悶絶するウェル、そして、そんな三人を構えるクライムがいる。

そんな彼らに、翼は、静かに歩み寄る。

その翼に、クライムは警戒して雷切を向ける。

「・・・出来る事ならば戦いたくはない」

「なんだと・・・?」

「先ほどの言葉で、貴方は悪人ではないと十分に分かる。だからこそ、私は貴方たちとは戦いたくない」

翼は、静かに、彼らに話しかける。

「今すぐに無理とは言わない。ただ、どうかその少年が身につけているスクラッシュドライバーを返してほしい。その力は、その少年には荷が重すぎる」

そう言って、翼は右手を差し出す。

その行為に、クライムは戸惑いを見せる。

「スクラッシュドライバー・・・」

そんな中で、調が呟く。すぐに、その視線は慧介の腰に巻き付けられているスクラッシュドライバーに視線を向けた。

「調?」

「そうだ・・・こんなものがあるから・・・慧くんは・・・」

調は、そのドライバーを掴み、そして慧介の腰から引き剥がす。

「こんなものが・・・あるから・・・ッ!!」

怒りに血走った眼をそれに向けて、調はそれを上空へ投げる。

「こんなものがあるから慧くんはぁぁぁぁぁああぁあああッ!!!」

そして、ヘッドギアを変形させ、巨大な回転鋸を展開し、その鋸をもって()()()()()()()()()()()()()()()()

「スクラッシュドライバーを・・・」

「壊しやがった・・・!?」

その行為に、その場にいる全員が茫然とした。

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・!!」

肩を激しく上下させ、荒々しく呼吸する調。

そんな調を見て、クローズは何も言わず、自身のスクラッシュドライバーからドラゴンスクラッシュゼリーを取り出して変身を解除する。

そして、黙って破壊されたスクラッシュドライバーとタイガースクラッシュゼリーを拾い上げてそのまま調の横を素通りする。

「・・・確かに返してもらった」

「・・・」

すれ違い様にそう言って、龍我は仲間の元へ向かう。

それと同時に、上空からマリアたちの乗る飛行機が飛んでくる。

 

 

調、切歌、シンは気を失った慧介とウェル、そしてウェルが持っていたものをもってそのまま飛び立ち、

 

龍我、翼、クリスは響をすぐさま治療室に搬送、破壊されたスクラッシュドライバーとタイガースクラッシュゼリーを厳重に保管した。

 

 

 

 

そうして、分かった事は――――

 

 

 

 

 

――――響がガングニールに侵食されているということだった。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「では本題に入りましょうか」

無事、F.I.Sと合流したウェル。

「俺を退院させて戦力に加える、ね・・・」

その一方、戦えない響の代わりに、戦兎が出ることとなる。

「楽しい楽しい買い出しだって、こうも荷物が多いとめんどくさい労働デスよ!」

その一方で買い出しに出ていた調と切歌。

その最中で、彼女たちの身に危機が迫る。

次回『隠されたトゥルース』

「これは・・・まさか・・・!?」


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隠されたトゥルース

戦「てーんーさーいーがー・・・帰ってきたァ!」
ク「天才(笑)物理学者の桐生戦兎が無様にも眠りこけている間に、馬鹿の体はとんでもないことになっていた」
戦「さり気なく無視しないでくれるか?」
ク「バカな事言ってるからだバカ。んでもって、そのとんでもないことの内容だが」
翼「聖遺物との融合・・・あの時櫻井女子が言っていたことに深く注意していればこんな事には・・・」
未「響、大丈夫かな・・・」
龍「そんな事心配してても仕方ねえだろ。ずぞぞ・・・」
ク「って、お前は何気にプロテイン入りのカップラーメン食ってんじゃねえよ」
龍「プロテインとカップラーメンの相性舐めんな」
切「今度アタシたちもやってみるデス?」
調「慧くんなら喜びそうだけど、流石に私たちが食べるのはちょっと・・・」
龍「なんだよ俺みたいに強くなりたくねえのか?」
ク「プロテインが好きなのはお前だけだろ・・・」
響「まあそれが万丈だからねえ」
戦「まあな・・・ん?待て、今回響は出られないはずだ。ついでに響は万丈の事を万丈とは呼ばないぞ・・・お前は誰だ!?」
響「え?響ですよ?」
龍「じゃあコーヒー入れてみろ」
響「ほい」
龍「まっず!?お前やっぱエボルトだろ!?」
エボ「バレちゃあ仕方がない!ここで皆の悪役エボルトの登場だァ!」
戦「なんでお前が出てるんだよ!?」
調「それもまだ登場していないのに名前出しという好待遇・・・!?」
切「一体どういうことです!?」
エボ「簡単だァ。作者を脅した」
作「ワレワレハニンゲンデアル」
ク「作者ぁぁぁああ!?」
未「これ脅迫というより洗脳なのでは・・・?」
エボ「それに中々の名演技だったろォ?今なら声の仕事やってるぜェ!」
翼「誰も呼ばんわ!さっさと帰れ!」
エボ「というわけだァ。第三三話を見ろォ」


ナスターシャの治療は無事に終わり、慧介を安静にさせた所で、ウェルは今動ける者たちを集めて会合を開いていた。

「では本題に入りましょう」

そうしてウェルが見せたのは、脈打つ何かだった。

「これは、ネフィリムの・・・」

「苦労して持ち帰った覚醒心臓です。必要量の聖遺物を餌として与える事で、ようやく本来の出力を発揮できるようになりました。この心臓を貴方が五年前に入手した・・・」

ふと、ウェルがマリアに向かって何かを言いかけ、それにマリアは首を傾げる。

「お忘れなのですか?フィーネである貴方が、皆神山の発掘チームより強奪した神獣鏡の事ですよ」

そして、奏が家族と共にその遺跡に見学に来ていた時の事だ。

「え、ええ・・・そうだったわね・・・」

それにマリアは歯切れ悪く答える。

(どうした・・・?)

それを庇うようにナスターシャが口を挟む。

「マリアはまだ記憶の再生が完了していないのです。いずれにせよ聖遺物の扱いは当面私の担当・・・話はこちらにお願いします」

「これは失礼」

ウェルが仰々しく頭を垂れる。

「話を戻すと、『フロンティア』の封印を解く『神獣鏡』と、起動させる為の『ネフィリムの心臓』がようやくここに揃ったわけです」

「そしてフロンティアの封印された場所(ポイント)も先だって確認済み・・・」

それにウェルが拍手で答える。

「そうです!すでにでたらめなパーティーの準備は整ってる訳ですよ。後は、私たちの奏でる狂想曲によって、全人類が踊り狂うだけ!うぇ、ウェハハハハハ!!!」

気持ち悪い踊りと共に、高笑いをするウェル。

「・・・近く計画を最終段階に進めましょう・・・ですが今は少し休ませていただきますよ・・・」

ナスターシャは、そう言って部屋を出ていく。

「・・・・ふん」

そうして部屋を出ていった所で、ウェルがそのように声を発した。

 

 

 

 

 

そうして翌日――――

 

 

 

――――生体と聖遺物が一つに溶け合う―――

 

シンフォギアは、歌による起動で聖遺物を一度エネルギーに変換し、鎧として再構築し、身に纏うのが基本だ。

しかし、響の場合、その聖遺物が体内にある為に、体内からエネルギーに変換され再構築、あるいは、シンフォギアを解除すると同時に起こる可逆によって、その身に深く、ガングニールの欠片が侵食していった。

それがもたらすのは、死と仮定されている。

だが、どちらにしろ、ガングニールの侵食が進めば、その身ははたして人間のものと言えるか分からなかった。

それをもって、新たな臓器が形成されているという事も判明し、いよいよをもって響の戦闘が不可能になってきている事が判明した。

 

 

どちらにしろ、立花響はこれ以上戦わせるべきではないという結論に至った。

 

 

そして、響を戦わせないという事を達成する為には―――

 

「俺を退院させて戦力に加える、ね・・・・」

響の診断カルテを見て、戦兎はそう呟いた。

その身は既に病衣を脱ぎ、いつものトレンチコートを羽織っていた。

「一応、傷の方はまだ塞がってない事を忘れるな。だから単独で戦闘になった場合には極力避けるように動いてくれ」

「分かった」

丁度やってきていた弦十郎にそう答えつつも、戦兎は思考を巡らせていた。

(どちらにしろ響は戦えない。その穴を、俺たちでどうにか埋めるしかない・・・)

「せめてロボットフルボトルがあればな・・・」

「ロボット?」

ふと、戦兎の呟きに弦十郎は反応する。

「ん?ああ、ロボットとフェニックスはベストマッチなんだよ。それを使えば、対象を別の物に変換する能力で響を助けられないかなと思ったんだが・・・上手くはいかないな」

「そうか・・・」

目に見えてがっかりする弦十郎。

それもそうだろう。奏の持つガングニールを受け継いでいる響が今、命の危険に晒されているのだ。

助けたいのはやまやまだろう。

しかし、どうしようもないのもまた事実だ。

「ま、今は目前の事は俺たちでどうにかするしかないだろ。その為にもまずは―――」

戦兎は足を踏み出す。

「発明品のパーツでも買ってくるわ」

「無理はするなよ」

「おう」

弦十郎の言葉に手を振って答える戦兎。

病室を出た所で、ふと戦兎は思う。

(悪いな・・・今回ばかりは無理通すかもしれない・・・)

 

 

 

 

 

 

「―――楽しい楽しい買い出しだって、こうも荷物が多いとめんどくさい労働デスよ!」

その一方、切歌と調は、食料の買い出しに出ていた。

「仕方ないよ。過剰投与したLiNKERの副作用を抜き切るまでは、おさんどん担当だもの」

なお、おさんどんの意味を間違って解釈しています。

そんな調を見て、切歌は、少し考え、調の前に出る。

「もって上げるデス!調ってば、なんだか、調子悪そうデスし・・・」

それも無理はないだろう。

慧介が、ここ数日で無茶に無茶を重ねている。

シンが慧介の事であまり寝ていない調を気遣ってこうして買い物に行かせているわけだが、やはり調の声にいつもの元気がなかった。

「ありがとう、でも平気だから」

しかし、やせ我慢のような声音でそういっても説得力がなく、調の事をよく知っている切歌は、こう提案する。

「んん・・・じゃあ、少し休憩していくデス!」

 

 

 

 

 

慧介の眠る部屋にて、シンは雷切の手入れをしていた。

いくら高周波ブレードと言えど、その本質は剣。手入れをしなければいずれは朽ちる。

一応、完全聖遺物ではあるのだが、それでも気持ち的に手入れをしておきたいのだ。

(戦場では敵のナイフを奪っていたばっかだったんだがな・・・)

奪っては捨て、奪っては捨て、ただの一つとして愛用したナイフはなかった。

しかし、略奪した刃物の手入れをして、いつでも万全な状態で戦えるように手入れをしていたのは事実だ。

例え使い捨てる事になっても、それが使い物にならなければ意味はないのだから。

ふとシンは、部屋にあるベッドに眠る慧介を見る。

命に別状はないが、しばらく起きる事はないそうだ。

(俺は、他の誰かが血を浴びるというのなら、代わりに俺がその血を浴びると決めて、この戦いに参加した筈だ・・・)

だが、今の現状はなんだ。

(マリアを追い詰め、調を悲しませ、慧介の命を危険に晒し・・・正直このままでは、数のいない俺たちではいずれは潰される・・・であるならば、どうするべきか・・・)

己の剣に出来る事とは一体、なんなのか。それをシンは今一度考える。

元少年兵として、自分に出来る事とは―――

 

 

 

 

 

人気の無い工事現場で、買ったものを食べる調と切歌。

「嫌な事もたくさんあるけど、こんなに自由があるなんて、施設にいたころには、想像できなかったデスよ」

そういって、メロンパンを一口食べる。

「うん・・・そうだね・・・」

その言葉に、調はそう答える。

「・・・フィーネの魂が宿る器として、施設に閉じ込められていたアタシたち・・・アタシたちの代わりに、フィーネの魂を背負う事になったマリア・・・自分が自分でなくなる怖い事を、結果的に、マリア一人に押し付けてしまったアタシたち・・・」

それ以上、言葉が続かなかった。

 

彼女たちは、レセプターチルドレン。フィーネの器として、非合法に集められた子供たち。

 

そのうち、装者としての才覚を見出されたのが、彼女らだ。

しかし、その為には――――

「・・・・ん?」

その時、切歌は調の異変に気付く。

額から脂汗をにじませて、調は苦しそうに呼吸を繰り返していた。

「調!?ずっとそんな調子だったデスか!?」

「うん、大丈夫・・・ここで休んだからもう大丈夫・・・それに、慧くんの苦しみに比べたら、これぐらい・・・」

「調・・・」

苦しそうに言い返す調に、切歌は何も言えなかった。

 

調は、慧介が好きだ。

 

切歌には、それがなんとなく分かっていた。

切欠は分からない。だけど、調が慧介を見る目がそんなだというのは察していた。

彼女が、慧介の事を誰よりも心配するのは、そういう事だって知っている。

だけど、今、そんな関係に亀裂が入ってきている。

(あのドライバーを、狙いさえしなければ・・・)

今更になって後悔する。

あの時の警告を聞いていれば、何か変わったのではないか、と。

しかし、それはもう遅い事、手遅れだった。

調がどれほど心配しても、おそらく慧介は、また――――

 

 

そんな時だった。

 

 

「あ」

「「え」」

何故か声がしたのでそちらを向いてみれば。

 

 

何故か戦兎がいた。

 

 

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

沈黙する事、数秒。

 

 

 

「なんでお前がここに!?」

「なんでお前らがこんな所で!?」

一気に警戒態勢に入る三人。だが、立ち上がった所で調がよろける。

「調!?」

そして隣の鉄棒の束に寄り掛かり倒してしまい―――その衝撃で上にあった鉄棒が一気に降り注いでくる。

「やばいッ――――!!」

それを見た戦兎はすぐさまラビットとダイヤモンドを取り出し、ラビットの力で自らの怪我の事を無視して一気に切歌たちの元へ向かう。

(間に合うか――――!?)

凄まじい速度でどうにか鉄棒が落下する前に切歌たちの元へ辿り着く事の出来た戦兎。そのままダイヤモンドの効果で体を頑丈にし、落ちてくる鉄棒の衝撃に備えた――――

 

 

 

 

 

 

 

結局の所、何も思い浮かばない為、シンはヘリから出た。

もちろん雷切を背負ってだ。

そんな中、すぐ傍の湖にマリアとナスターシャがいる事に気付く。

どうやら何かを話しているようだ。

(何の話をしているんだ・・・?)

そっと近づいてみて、耳をそばだてる。

そうして聞こえてきたのは、思いもしない会話だった。

「貴方にこれ以上、新生フィーネを演じてもらう必要はありません」

(何?)

思わず聞き入る。

「マム、何を言うの!?」

「貴方は、マリア・カデンツァヴナ・イヴ・・・フィーネの魂など宿していない・・・ただの優しいマリアなのですから・・・」

その言葉が、意味する事、それは―――

「フィーネの魂は、どの器にも宿らなかった。ただそれだけのこと―――」

その言葉に、シンは愕然とし――――

 

 

 

 

 

 

 

「――――あれ?」

来るであろう衝撃が、いつまでも来ない事に気付き、戦兎は目を開ける。

そこには、こちらに向かって手をかざす切歌の姿があった。

しかし、その姿がほんのりと赤いような―――

(いや、違うッ・・・!?)

戦兎はすぐに後ろを見た。

 

そこには、いくつかの鉄棒を支える――――赤いバリアが張られていた。

 

「これは・・・まさか・・・!?」

「何が、どうなってるデスか・・・?」

戦兎は思わず、切歌の方を見る。

そして、理解する。

(こいつが・・・了子さんの・・・フィーネの器なのか・・・!?)

その事実に―――戦兎は愕然とする。

 

 

 

 

 

マリアは―――フィーネではない。

 

 

 

であるならば、その魂は、別の器に宿る―――

 

 

 

 

 

ただ彼女たちはしらない。

 

 

 

この盛大な()()()が、さらに面倒くさい事態を引き起こす事を――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真夜中―――

調と切歌、そして慧介がメディカルチェックを受けている中、シンは一人、コックピットに向かっていた。

扉を開ければ、そこには飛行機を操縦するマリアの姿があった。

「マリア」

「シン?どうかしたの?」

「そろそろ代わろう」

「いえ、まだ大丈夫よ。貴方はもう少し休んでて」

「慧介はドクターに任せている。人でなしではあるが、技術に関しては文句を言わざるを得ないのでな」

「そう・・・」

マリアの隣の座席に座り、各機器の機能チェックを行うシン。

しばしの沈黙。

「・・・・お前がフィーネじゃないというのは本当か?」

「ッ!?」

そのシンの問いかけに、マリアは思わず目を見開いてシンの方を見る。

「・・・・どこでそれを」

「調と切歌が戻ってくる前に、お前とナスターシャが話している所を聞いた」

「・・・・そう」

その言葉に、マリアは平静を装うように、星空が輝く空を見た。

「・・・・提案は、マムからだったわ」

「・・・・」

「私がフィーネを演じる事で、ドクターをこちらに引き入れる事が目的だった。私たちの計画に、ドクターが必要だったから、私はそうせざるを得なかった」

「フィーネを演じる事で、異端技術の先端を所有している事を示す事で、ドクターを引き入れたという事か・・・」

「まさかジェームズ博士や貴方たちまでついてくる事になるとは思わなかったわ。それに、仮面ライダーなんていう、シンフォギアに匹敵する力を持ってくるなんて」

「二年前だ。博士にとっては、フロンティアの事など二の次で、俺たちを桐生戦兎たちとぶつけるのにこれほど都合の良い理由はなかったんだろう」

「そう・・・」

「その結果があの様だ。俺は、慧介を守る事が出来なかった・・・」

「それは、向こうの力が強かっただけで・・・」

「だからこそ、だと思うがな」

シンが、マリアの言葉を遮って言う。

「お前たちは、あまりにも人と戦う事を恐れている。それは、お前たちの中にある良心故だ。だからこそ、ナスターシャはこの計画に限界を感じているんだろう」

「そんな事は・・・!」

「いいかマリア」

シンは、マリアの方を見て、真っ直ぐに言う。

「お前はその優しさを捨てるな」

その言葉に、マリアは何も言えなくなる。

「例え嘘を貫き通してでも、その優しさだけはなくすな。それを無くしたら、お前は、お前でなくなる」

その言葉は、マリアを絶句させ、そしてシンは今一度夜空の照らす夜闇を見た。

(その優しさを守るためには、俺は、この剣を振るおう―――)

その決意のままに、シンは、操縦桿を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――と、いう訳だ」

「はあ・・・」

病室にて、弦十郎の言葉に、響はやや実感のない返事を返す。

この病室には、翼やクリス、戦兎、龍我もいた。

「このスキャニング画像の通り、響君の体内でガングニールの欠片が侵食と増殖を繰り返した結果、新たな臓器を形成している事が判明した。これが響君の爆発力の源であり、命を蝕んでいる原因だ」

それを見て、クリスは悔しそうに顔を歪める。

「・・・あはは」

そんな中で、響の笑い声が聞こえてきた。

「つまり、胸のガングニールが活性化するたびに、融合してしまうから、今後は、なるべくギアを纏わないようにしろと・・・」

そう、笑いながら言って見せる響。

しかし、そんな響の手を翼が掴み怒鳴る。

「いい加減にしろ!()()()()だと?寝言を口にするな!」

その眼には涙が滲んでいた。

「今後一切の戦闘行為を禁止すると言っているのだ!」

「翼さん・・・」

「このままでは死ぬんだぞ、立花!」

「ッ・・・!」

その言葉に、響ははっとなったように目を見開く。

しかしそこでクリスが割ってはいって止める。

「そんくらいにしときな!この馬鹿だって、分かってやってるんだ」

その言葉に、翼はさっさと病室を出ていってしまう。

その様子に誰も言葉をかける事は出来なかった。

そんな中で、弦十郎が心配を拭うように、話しかける。

「医療班だって、無能ではない。目下、了子君が残してくれたデータをもとに、対策を進めている最中だ」

「師匠・・・」

「治療法なんて、すぐに見つかる。そのほんのわずかな時間、ゆっくりしててもばちなど当たるものか」

響の頭の手におき、そう言う弦十郎。

「だから、今は休め」

「わかり・・・ました・・・」

そんな重い雰囲気の中、ふと戦兎だけは一つ考え事をしていた。

「戦兎?」

「ん?どうした万丈?」

「いやお前がどうしたんだよ?さっきからなんか考え込みやがって」

「いや、なんでもない・・・」

「そうか・・・?」

龍我に言われて、戦兎は改めて考え込む。

(フィーネの魂の本当の器は暁切歌・・・・まだ記憶が覚醒してないとはいえ、その力の片鱗が出ていた)

かつて、響や龍我から聞いた櫻井了子が張ったバリア。

切歌の展開したそれは、それと大差ないものと判断するならば、これは色々と厄介な事になってくる。

(まさかこんなに早く覚醒する事になるなんてな・・・)

現実は、何故こうも残酷なのか。

(響のガングニール侵食・・・切歌の了子さん化・・・F.I.S.の目的・・・)

様々な事が重なり、戦兎の頭でも処理しきれない。

(何故奴らはマリアをフィーネの新たな器として偽る必要があった・・・その理由が見つからない・・・一体何故・・・)

考えても考えても頭がこんがらがっていく。

(あー、もうやめよう。あの後すぐに別れちまったからな。なんか複雑な事情抱えてるみたいだし、もし連れてきたら連れてきたで向こうがこっちを襲撃してくるかもしれないからな)

もしやってきたのがシンなら、弦十郎が対処する前に多くの命が消えそうな気がするからだ。

(そうなった時はもう一度ハザード使わなくちゃいけなくなるが・・・ああ、最近泊まり込みになってきているからあれの修復作業も全然進んでないんだよな・・・今度セレナ呼ぶか)

なんて事を考えて、戦兎は、今後の事を考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ナスターシャたちが、『フロンティア』に施されている封印の開放を実行している間、調は一人、慧介の眠る部屋で待機していた。

未だ目覚める事のない慧介。

ビルドからの強力な一撃をうけて、さらにその状態でクローズとの戦闘に挑んだのだ。ジェームズが打ったドーピング剤がいかようなものか知らないが、その所為で慧介は体に更なるダメージを負ってしまっているのだ。

だから、ここ数日は目が覚めないというのが、ウェルの見解だった。

「慧くん・・・」

まるで死んだように眠る慧介。

「・・・ごめんなさい」

まだほんのりと温もりのある手を両手で包み込み、調は静かに謝る。

「私が、もっと、あの人の警告をちゃんと聞いていれば・・・慧くんは、こんな事にはならなかったのに・・・」

スクラッシュドライバーによる暴走―――それは、使用者を破滅させる事に他ならない。

だけど、もう彼が暴走する事も、戦う事もない。

「だけど、もう大丈夫・・・」

そして、確かな覚悟をもって、調は慧介を見た。

「私が、慧くんを守るから」

もう二度と、彼に辛い思いはさせない為に――――

 

 

 




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「でたらめ・・・ですと?」

日本政府がかき集めた月軌道に関する結果。それがもたらすものとは。

「・・・ごめんなさい」

勝手にアイテムの修復をしていたことがバレるセレナ。

「マム、これは・・・」

その一方、スカイタワーにて行われる、『フィーネ』と米国政府との密会。

「デートの続きだよ」

そして、響と未来のお出かけの行方は――――


次回『ディッセンゲイジする手/守れなかったサンシャイン』


「響ぃぃぃぃいいぃぃぃいいぃいいい!!!!」



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ディッセンゲイジする手/守れなかったサンシャイン

響「ゴジラとのコラボ・・・だとォ!?」
龍「ゴジラって確かあれだよな・・・確か怪獣王!」
ク「何故そんな化け物とコラボしようと思ったんだゲーム版シンフォギアぁ・・・」
翼「奏・・・大丈夫かしら・・・?」
シ「聞くところによると不死身だそうだな。心臓だけになっても生きてたとか」
調「皆さん、シンが言っている事は作者のうろ覚えな記憶ですのであまり期待しないでください」
切「調は確かモスラっていうチョウチョのギアなんデスよね」
慧「昆虫のギアか・・・なんだろう、昔カブトムシ捕まえてそれで調に見せにいったらとんでもない事になったんだよな・・・」
マ「あれは災難だったわね・・・カブトムシが逃げて切歌の顔に直撃して、その衝撃で調が押されてその後は慧介の顔面に」
調「チェストォ!!」
マ「あうち!?」
調「の、ノイズが蔓延る新世界にて、天才物理学者であり仮面ライダービルドこと桐生戦兎はしばらくの昏睡から復活!その復活した矢先で私と切ちゃんに遭遇したけど、そこでなんと切ちゃんが盛大な勘違いを―――」
切「うわぁぁあああ!!!し、調黙るデス!ちょっと黙るデス!」
セ「あの時の事を言われたくないから切歌さんを生贄にした・・・」
調「そしてさらに響さんの聖遺物との融合が深刻な事態に・・・ちょっと切ちゃん邪魔しないで!」
切「お願いデス!どうか、どうかその事だけは勘弁をぉぉぉお!!」
翼「落ち着けお前たち!これでは進まんだろう!」
龍「ああもう!もうとっとと本編に行くぞ!」
響「という事で!愛和創造シンフォギア・ビルド、その第三四話をどうぞ!」


「でたらめ・・・?」

二課の指令室で、弦十郎がそう言い、

「はい、NASAが発表している月の公転軌道にはわずかながら差異がある事が判明しました」

「誤差は非常に小さなものですが・・・間違いありません」

友里の言葉を、藤尭が肯定する。

「そして、その数値がもたらすものは・・・」

「ルナアタックによる公転軌道のズレは、今後数百年の間は問題ないという、米国政府の見解も、鵜呑みには出来ないという事か・・・」

その言葉と共に、弦十郎は厳しい表情を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

「――――おい」

「は、はい・・・」

額に青筋を浮かべる戦兎の視線の先には、申し訳なさそうに正座をするセレナの姿があった。

「なんでお前が勝手に『フルフルラビットタンクボトル』の修復をやってるんだ?」

「だ、だって戦兎先生怪我してましたし、私にも出来ない事はないかって考えた結果、こうなってしまって・・・」

「・・・・・」

「・・・ごめんなさい」

戦兎の眼光に勝てず、セレナは思わず謝ってしまう。

「・・・はあ」

そんなセレナに戦兎は溜息をつく。

どうにか病室での泊まり込み生活から脱して自分の家に戻ってきた訳だが、帰った時に戦兎の目に映ったのは何か、嵐でも吹き荒れたかのような部屋の惨状と、白衣を着てボロボロになったセレナの姿だった。

そして、そんな彼女の側には、ビルドの強化アイテムの一つである、『フルフルラビットタンクボトル』が置いてあった。

(一応、設計図通りに組み立てているみたいだが、確かにあの設計図じゃわかるものも分からないよな・・・いや、そもそもなんで設計図だけでここまで作れた?)

まだまだ完成には程遠いが、戦兎無しでここまで修理してしまうというのは、セレナもまた、誰かの為に必死になっていたって事なのだろう。

最も、それだけで修理を進めている彼女の技量もすさまじいものだが。

戦兎は一度、ううう、と唸って項垂れているセレナを見る。

そんなセレナに、戦兎は一度溜息をついて、手に取ったまだ未完成のフルフルボトルを差し出す。

「お前の気持ちは分かった。だから、これの修復はお前に一任する」

「え・・・・いいんですか!?」

「もうそこまでされたら任せるしかないだろ。だけどなるべく早くな」

「はい!不肖、このセレナ!謹んで強化アイテムの修復を務めさせていただきます!」

「ああ。だけどその前にまずは部屋を片付けような?」

「あ、はい」

ちなみに戦兎はかなり几帳面な性格である。

セレナに片付けを押し付けつつ、戦兎は龍我からの言葉を思い出す。

(あいつらは悪い奴らじゃない、か・・・)

なんでも、強力な熱を発していた響に近付く未来を止めてくれたとか。

「よし、やるか」

戦兎はそう言って、すぐさま()()()()に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その一方で、東京スカイタワーにて、そこにマリアとナスターシャはいた。

昨日のフロンティアの封印の解除するための実験が失敗に終わり、一度陸に戻って一夜明けたのだが、二人は、どういう訳かここにいた。

マリアは、ナスターシャから何も言われてはいない。

そんな中で、マリアはナスターシャから言われた言葉を思い出す。

 

『これ以上、貴方に新生フィーネを演じてもらう必要はありません』

 

その言葉は一体どういう意味なのか。

そして、シンの言う、自分たちの計画の限界とは。

「マム、あれはどういう・・・」

その質問に、ナスターシャは答える。

「言葉通りです。私たちのしてきた事は、テロリストの真似事に過ぎません。真になすべき事は、月がもたらす災厄の被害をいかに抑えるか・・・違いますか?」

「つまり、今の私たちでは、世界を救えないと・・・?」

そうして辿り着いた一つの会議室。

その中に入れば、そこには――――黒スーツを着た男たちがいた。

「マム、これは・・・・」

「米国政府のエージェントです」

その状況に、マリアは驚きを隠せない。

何故、こんな所に米国からの代理人たちがいるのか。

「講和をもたらすため、私が招集しました」

「講和を、結ぶ・・・?」

信じられない事に、マリアは未だ理解が追い付かない。

「ドクターウェルには通達済みです。さあ、これからの大切な話をしましょう」

そのナスターシャの行動に、マリアは怪訝を隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

同じく、東京スカイタワー、水族館エリアにて。

響は一人、水槽の中を眺めていた。

様々な魚類たちが水槽の中を自由に泳ぎ回っている様子を見ながら、響は翼に言われた事を思い出す。

 

『このままでは死ぬんだぞ、立花!』

 

「死ぬ・・・」

戦えば死ぬ。それは、戦士にとってはあまりにも当たり前すぎる真実だ。

戦い続けていくうちに、麻痺してしまった感覚だ。

それが、戦いを禁止された事で、目に見えて実感が湧いてしまう。

長い事戦い続けて、いつの日か麻痺してしまっていた。それは、遠い日の事だと錯覚していた。

(戦えない私って、誰からも必要とされないのかな・・・)

戦えない自分に価値はない。そう思った所で、あの日戦兎に言われた事を思い出す。

 

『見返りを求めたら、それは正義って言わないぞ』

 

(ああ、そうだ・・・私は、誰かに必要とされたくて戦ってきた訳じゃない・・・)

そうだ、ほんの少し、今は我慢すればいいだけの話だ。

力がなくたって、誰かを助けられない訳じゃない。

(出来る事はずっと少なくなるけど、それでも私は・・・)

と、考え込んでいた時だった。

 

ぴとっ

 

「うわっひゃぉう!?」

頬に冷たい何かを押し付けられた事によって飛び跳ねてしまう響。

それによって周りの視線を集めてしまう。

「大きな声を出さないで」

「キュールル!」

そこには、未来とその肩に乗るクロがいた。

「だだだだだだってぇ、こんな事されたら誰だって声が出ちゃうって・・・」

「響が悪いんだからね」

「え?私が悪いの?」

響の抗議を一刀両断する未来。

「だって、折角二人で遊びに来たのに、ずっとつまらなそうにしてるから・・・」

そう言って頬を膨らませる未来。

「ああ・・・ごめん・・・」

その事に申し訳なさそうに謝る響だが、すぐに立ち直り、未来に言う。

「心配しないて!今日は久しぶりのデートだもの。楽しくない筈がないよ!」

「響・・・」

そんな響を見て、未来は弦十郎から言われた事を思い出す。

 

響の胸のガングニールの侵食を食い止める方法。

それは、穏やかに暮らさせる事によって戦闘から遠ざける事だった。

それが出来るのは未来のみ。

だから、未来はその役割に、一種の使命感を感じていた。

 

(私が、響を守るんだ・・・)

その決意を胸にする未来。

「デートの続きだよ」

響が未来の手を取る。

「せっかくのスカイタワー!丸ごと楽しまなきゃ!」

そう言って走り出す響に、未来は手を引かれていくのだった。

 

 

 

 

シンが昼食を作り、調が慧介の看病に勤しんでいる間、切歌は一人、飛行機の外の木陰で考え事をしていた。

その理由は、自分がフィーネの器かもしれないという事だった。

(リインカーネーション・・・)

遺伝子に組み込まれた、未来永劫の魂の継承を可能とする輪廻転生システム。

(もしもアタシに、フィーネの魂が宿っているのなら、アタシの魂は、消えてしまうのデスか?)

システムにおける転生は、本来の人格をフィーネの魂によって塗りつぶし、新たなフィーネとして覚醒させるという事。

即ち、フィーネの覚醒は、暁切歌という一人の人格の死を意味するという事になる。

しかし、そうであるならば――――

(ちょっと待つデス・・・アタシがフィーネの魂の器だとすると、マリアがフィーネというのは・・・)

「切歌」

そこへ、雷切をもったシンがやってくる。

「あ、シン・・・」

「昼食の支度が出来た。すぐに食べると言い」

気付けば、その腰にはルインドライバーが巻かれている。

「どこか行くデスか?」

「ああ、これからマリアとナスターシャの所にいる。ドクターがいない上に、何か胸騒ぎがするからな」

「アタシも行った方がいいデスか?」

「いや、いざって時にここを特定されれば、慧介だけでなくジェームズ博士も守らなければならない。その防衛を調一人にやらせるのは無理だ。ついで、LiNKERの残量も考えなければならないからな」

「分かったデス。そういえば、今日のご飯はなんデスか?」

「二百九十八円」

「ご馳走デース!」

シンの答えに切歌は喜ぶ。

「じゃあ俺は行ってくる。俺は既に飯を食べたから、お前たちもすぐに食べると言い。安心しろ。ちゃんと出来たてだ。変身」

 

『Ready』

 

『Penetration Armor Type-Wolf

 

ウルフフルボトルを装填したルインドライバーの引き金を引き、真っ黒な装甲をその身に纏う。

そして、そのまま恐ろしい速さで、シンは森の中を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

マリアが、ナスターシャから受け取ったメモリーチップを黒スーツの男に渡す。

「異端技術に関する情報、確かに受け取りました」

「取り扱いに関しては別途私が教授します。つきましては―――」

と、ナスターシャが言い終える前に、彼らは拳銃を向けてくる。

「マムッ!?」

その行為に、二人は驚く。

「貴方の歌よりも、銃弾は遥かに速く、躊躇なく命を奪う」

リーダー格と思われる男が、不敵に笑ってそう言って見せる。

「初めから、取引に応じるつもりはなかったのですか・・・」

してやられたとはこの事か。

マリアが悔しそうに歯噛みする。

「必要なものは手に入った。あとは不必要なもの片付けるだけ――――」

その時だった。

 

 

窓の外に、ノイズが現れたのは。

 

 

「ノイズ!?」

それは誰が発したか、外からノイズが位相差障壁を利用、現実との実在率の低さを利用してガラスを透過して侵入、そのままエージェントたちに襲い掛かる。壁や天井からも、至る所から、ノイズが侵入してくる――――

 

 

 

そこから遠い場所、スカイタワーをまるっと見れる喫茶店にて、ウェルはいた。

「誰も彼もが好き勝手な事ばかり・・・」

そう言ってカップに入れられた飲み物を飲むウェルの傍らには、ソロモンの杖があった。

 

 

 

 

そうして、エージェントたちが一人残らず炭化された所で、マリアが聖詠を唄う。

 

「―――Granzizel bilfen gungnir zizzl(溢れはじめる秘めた情熱)―――」

 

次の瞬間、マリアの胸のガングニールが輝き、その身を黒き戦闘装束へと切り替える。

マリアが歌を紡ぎ、ノイズを切り払い、薙ぎ払う。

たちまちマリアの攻撃を受けたノイズはその身を炭素へと変え消えていく。

 

 

その衝撃が、スカイタワー全体を襲う。

「何・・・?」

未来がそう呟くと、クロが唸り出す。

「グルルルル・・・」

そうしてクロが睨む先を見れば、そこには大量の飛行型ノイズが飛んでいた。

「あれ、ノイズじゃないか!?」

「逃げるぞ!」

それ見た入場客が一斉に逃げ出す。

その波に逆らうように響が動くも、その響の手を未来は掴む。

「行っちゃだめ!いかないで!」

「キュル!」

クロも未来に賛同するように止める。

「未来・・・だけど行かなきゃ・・・!」

「この手は離さない・・・響を戦わせたくない!遠くに行ってほしくない・・・!」

何がなんでも離さないつもりだ。

これ以上響が戦えば、間違いなくその命を削るのだから。

しかし―――

「おかあさんどこぉ・・・?」

子供が泣きながら歩いていた。

だから響は未来を説得する。

「胸のガングニールを使わなければ大丈夫なんだ!このままじゃ・・・!」

「響・・・」

その響の願いに、未来は思わず手の力を緩める。

響はその手を放すなり、あの子供を追いかけ、その後を未来とクロも追いかけた。

 

 

 

 

 

「ッ・・・!」

マリアが、彼らに渡し、そして残ってしまったメモリーチップを踏み砕く。

そしてすぐさま、ナスターシャを抱えて駆け出す。

その行く先をノイズが阻むも、それすら斬り捨ててマリアは走る。

 

外から見れば、スカイタワーはあちらこちらから火を吹いて爆発していた。

 

エレベーターから武装した米国の兵士が出てきて、マリアたちに向かってアサルトライフルを連射。

それをマリアはマントを盾代わりとし、そして伸ばして彼らを弾き飛ばす。

しかしそれでも倒せたのは二人程度、なおも発砲され飛来してくる弾丸を盾でガードしつつ突き進み、一人を蹴り飛ばす。

「マリア、待ち伏せを避けるため、上の階からの脱出を試みましょう」

ナスターシャの言葉に従い、階段の隔壁を蹴り破り、そのまま上の階に向かって走る。

 

 

 

子供を確保した響と未来は、そのまま一緒に階段の方へ向かっていた。

「ほらほら、男の子が泣いてちゃみっともないよ」

「皆と一緒に避難すれば、お母さんにもきっと会えるから大丈夫だよ」

「キュールル!」

慰めながら歩いていると、職員らしき男が階段で待っていたらしく彼女たちに気付くなりすぐに駆け寄る。

「大丈夫ですか!?早くこっちへ」

子供を抱え、すぐさま階段の方へ行く。

「貴方たちも急いで」

そう言い残しで、その男は階段を降りていく。

それに従い、二人も走り出す。

しかしそこで外からノイズが突入してきて、爆発、天井が崩れ落ちる。

「危ない!」

「え・・・」

その真下には爆発に驚いて立ち止まってしまった響。そんな響を押し退ける未来。

「ギュっ・・・!?」

しかしクロだけは避け切れず、瓦礫の下敷きとなってしまう――――

 

 

 

 

アサルトライフルの銃口から放たれた弾丸の嵐をマントで防ぐマリア。しかし、その場に居合わせたスカイタワーの入場客が、奴らの弾丸の餌食となり倒れる。

「ッ―――!?」

それを見て、マリアは一瞬、息が詰まる。

しかし、それでも奴らは銃弾をその銃口から吐き出させる事をやめない。

それにマリアは、マントを翻して奴らを叩き伏せる。

そうして立ち上がり、巻き添えとなってしまった一般人の死体を見る。

「マリア・・・」

そんなマリアを、ナスターシャは心配そうに見上げていた。

それでも奴らは、やってくる。

「・・・・せいだ・・・」

銃を構える。しかしその瞬間、マリアが吠える。

「全ては、フィーネを背負いきれなかった私の所為だぁぁぁああぁぁああああ!!!」

その絶叫と共に、マントが彼らを襲う。

かろうじて躱したそれを、見やるも束の間、こちらに向かって突撃してくるマリアが飛び掛かり、奴らの一人に飛び蹴りをくらわそうとする。

だが―――それは受け止められた。

「え―――シン・・・!?」

受け止めたのは、クライムだった。

クライムはマリアの飛び蹴りを左腕で受けており、そのマリアをはじき返すとすぐさま振り返って後ろにいる敵を銃ごと切り伏せる。すかさずもう一人を踵落としで叩き落とし、そして最後に刀の柄頭で一人の鳩尾を穿ち、後ろにいる兵士すらも吹き飛ばす。

 

瞬く間に、死屍累々が出来上がる。

 

「シン・・・どうして・・・!?」

何故、彼がここにいるのか。

今ここにいる敵を全員沈黙させたクライムは、マリアの方を向いて、彼女に向かって歩み寄り、そして問答無用でその後頭部に頭を回して自身の装甲に覆われた胸に押し当てた。

それは傍から見れば、マリアを抱きしめているような構図に見える。

しかし、彼らにそんな思惑は一切なく、

「・・・すまなかった」

クライムは、ただ一言、そう告げた。

それを聞いたマリアは、途端に目を見開き、やがてその双眸から、悔しさのままに涙を流した――――

 

 

 

その一方で、どうにか瓦礫の下敷きになる事だけは回避した響と未来。

「ありがとう未来・・・」

未来に感謝する響。

それに未来は頷く。

「あのね、響――――」

未来が何かを言いかけた時、突如としてスカイタワーが大きく揺れる。

それによって響のすぐ背後の床が崩れ、それによって響がバランスを崩し、そこから落ちそうになる。

「響っ!!」

間一髪の所で未来が響の手を掴む。

しかし、響は宙吊りの状態となってしまい、まさしく絶体絶命の状況が出来上がってしまった。

 

 

 

クライムが先行する。その後を、マリアが後に続く形で追随する。

すると目の前に、アメリカ軍の兵士が出て、こちらに銃を構える。

それを見たクライムが一気に加速する。しかし、その十字路の右の通路から一般人が出てくるのが見える。

このままでは兵士の銃撃の餌食となってしまう。

しかし彼らは無慈悲にも引き金を引き、一般人ごとクライムらを蜂の巣にしようとする。

だがその銃弾が一般人を穿つことはなく、間に入ったクライムが弾丸を全て叩き落すそして脛のホルダーからナイフを取り出し、三本、敵に向かって投擲する。その刃は全て兵士の肩に直撃する。

すかさず右から兵士がやってくるも彼らに向かってクライムはまたもやナイフを投擲。腕、肩、腿。寸分たがわず外さず、そして後ろに向かっても投擲。丁度飛び出してきた兵士の脇腹に直撃し、突然の事に驚いたその兵士が思わず引き金を引いて後から続いていた兵士たちに向かって弾丸を浴びせてしまう。

「片付いたぞ」

「ええ・・・」

クライムはナスターシャを抱えるマリアに向かってそう言う。

そのままクライムが走り出そうとした所で、マリアが呼び止める。

「待ってシン」

「なんだ?」

「ここままでは埒が明かない」

マリアは槍を真上に構える。

「だから一気に駆け抜ける・・・!!」

槍を高速回転させ、その勢いで一気に天井をドリルの如く突き進む。

その後に、クライムは続いた。

 

 

 

 

燃え盛り、傾くスカイタワー―――……

その崩れた崖にて、響の手を掴む未来に、響は言う。

「未来!ここは長くは持たない、手を放して!」

「ダメ!私が響を守らなきゃ!」

しかし未来は拒む。

「未来・・・」

必死に響の手を掴む未来。そんな未来の顔を見上げて、響は、無理に笑う。

「―――いつか、本当に私が困った時、未来に助けてもらうから」

未来に掴まれている手の力を、緩める。

「今日はもう少しだけ、私に頑張らせて」

響の重さに耐え切れず、手が、どんどんずり落ちていく。

そんな響の言葉に、未来は、涙を流す。

「私だって・・・守りたいのに・・・!!」

その言葉を最後に――――響と未来の手が離れた。

「響ぃぃぃぃいいぃぃぃいいぃいいい!!!!」

未来が響に手を伸ばして叫び、そんな未来に響は微笑み――――聖詠(せんとう)を開始する。

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)―――」

 

その姿を黄色の戦闘装束に切り替え、高所から落下する。そして地上へ着地、巨大なクレーターを形成する。

今や禁じられたシンフォギア『ガングニール』を纏い、響は未来がいるスカイタワーを見上げる。

「未来、今行く!」

そう叫んだ時だった。

 

 

 

――――未来のいた場所で、爆発が起きた。

 

 

「ぁ――――ッ!?」

一気に血の気が引く。

 

そんな、あそこには、未来がいる。

 

しかしそこに未来の姿はなく―――二度目の爆発が起きる。

 

 

「未来ぅぅぅぅううぅぅううううぅう―――――――――――――――ッ!!!」

 

今、この瞬間――――響のひだまりが消えた瞬間だった。

 

 

「未来・・・」

もはや生存は絶望的。響は膝をつき、呆気なくシンフォギアを解除する。

「なんで、こんな事に・・・・」

もはや、何もかも遅い。響はただそこで膝まづき、後悔のままに涙を流すだけ――――

そこへノイズが無慈悲にも響に向かって襲い掛かる。

「ウオリャぁぁぁあぁぁああ!!!」

そのノイズの突撃を、クローズチャージが叩きつぶす。

さらに襲い掛かる個体を、翼とクリスが斬り伏せ、撃ち抜き、追い払う。

「立花!」

「大丈夫か!?」

クローズと翼が呼びかけるも響は俯いたまま。

「そいつは任せた!」

そしてクリスが響の守りを二人に押し付け、一人ノイズの殲滅を敢行する。

 

「―――挨拶無用のガトリング!ゴミ箱行きへのデスパーリィー!」

 

脚部ギアから小型ミサイルを展開、一気に放って殲滅する。

「―――One,Two,Three・・・目ェ障りだぁぁぁああぁぁぁああぁああ!!!」

 

MEGA DETH PRATY

 

炸裂した小型ミサイルの放つ爆炎の中を突っ切ってくるノイズの攻撃を走って躱す。

(少しづつ何かが壊れていきやがる・・・アタシの居場所を蝕んでいきやがる・・・!)

その手のボウガンをガトリングガンへと切り替える。

 

BILLION MAIDEN

 

その連射力をもって、ノイズを一気に殲滅していく。

(やってくれるのはどこのどいつだ!?)

地面すれすれで飛んでくるノイズ。

(お前か!?)

その突進を飛んで躱し、すかさずガトリングガンで蜂の巣にする。

(お前らか!?)

そして今度は上空から落ちてくる敵を全て銃弾によって撃ち落としていく。

(ノイズ・・・アタシがソロモンの杖を起動させてしまったばっかりに・・・!)

そこで、気付く。

(なんだ、悪いのは全てアタシの所為じゃねえか・・・)

ガトリングを乱射して、その間にすぐさま巨大ミサイルを展開する。

(アタシは―――)

 

「―――もう逃げなぁぁぁぁあぁああぁぁぁあぁあああいぃッ!!!」

 

MEGA DETH FUGA

 

放たれる巨大ミサイル二基。それが、空を駆け抜け、上空の巨大ノイズを消し飛ばす。

その余波によって、他のノイズも消し飛ばされ―――やがて、全てのノイズが消し炭へと変わる。

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」

無茶を敢行した為か、酷く疲労しているクリス。

戦いが終わったそこに残ったものは―――何もなかった。

 

 

 

 

 

 

全てが終わり、現場に二課の人間が集まり、戦兎は一人、未来がいた場所を探していた。

 

なんでも、米国政府とF.I.Sが接触し、交渉を試みたそうだ。

だが、交渉が決裂したにしては派手にやってしまっており、何故ノイズがこうまでして暴れたのか。

理由としては、米国政府とF.I.Sが結びつく事を良しとしない第三者が、これを引き起こしたのだろう。

そして、その第三者とは―――

 

「ウェル博士・・・」

拳を握りしめて、戦兎は怒りを滲ませる。

奴の勝手な思惑で、未来の命が消えたというのに、きっと奴は、へらへらと笑っている事だろう。

「野郎の顔面は必ず一発ぶん殴る・・・!!」

そう決意を固め、戦兎は周囲を探索する。

未来がいた場所。

(そういや、爆発に巻き込まれたんなら、どっかに吹き飛ばされる筈だ・・・もしくは、どこかにいる筈・・・)

しかし、未来がいた場所の周辺には何もなく、遠くから見えた場所から見えた爆発の威力を計算した場合、それほど遠くへは吹き飛ばない筈。しかし、その予測落下地点には誰もおらず、未来は実質行方不明となっていた。

(生きてる・・・なんて事も考えられるが・・・)

「・・・ん?」

ふと、戦兎の耳に何かが聞こえてくる。

何かを思い、ラビットフルボトルを振って聴力を強化すると、その耳に、聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきた。

 

クロの声だ。

 

「クロ!?」

その音が聞こえる方向。そこは瓦礫の中であり、戦兎は急いでその瓦礫をどかす。

余程大きかった瓦礫だった気がするが・・・この際気にしない(キリッ

そうしてある程度瓦礫をどかした所で、クロがそこから出てくる。

「キュールルールルールルールルッ!!」

「うお!?」

瓦礫を自らの力で押し退け、飛び出してくるクロ。

「キュルル・・・」

やっと出られたと言わんばかりにほっと溜息をついたクロだったが、すぐさまある事を思い出して戦兎のコートの中に潜り込む。

「え!?ちょ!?何!?なんなんだ!?」

そうしてクロが戦兎のコートの中から取り出したのはメモとペン。

それを床に置いたクロはすぐさま白紙のページを出して、それに何かを書き込んでいく。

「何書いてんだオイ・・・」

結構苦労している様子に、戦兎は呆れる。

 

 

しかし、クロが書いた一枚の絵が、今後の事を左右する事となるとは、戦兎は思ってもみなかった。

 

 

 

 

 

 

そして――――

ナスターシャを連れて、マリアとシンが飛行機の元へと向かっている最中。

ふと、シンがすぐ傍の木に寄りかかる。

「?・・・シン?」

それに気付いたマリアはすぐにシンの方へと向く。

「ハア・・・ハア・・・」

「どうしたの?」

「シン、どうしたのですか?」

そう声をかけた瞬間、シンが崩れ落ちる。

「ッ!?シン!」

思わず駆け寄るマリア。

「しっかりして!シン、ねえシン!」

口を押えて脂汗をかき、真っ青となったシンに、マリアは必至に呼びかける――――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「シンに何したの!?」

シンの異変にジェームズに詰め寄るマリア。

「なんか食えよ。奢るぞ?」

一方、クリスは翼を食事に誘う。

「愉快でいられる道理がない」

されど翼の態度はよくはなかった。

「まあまあそう言うなよ」

そこへ、龍我の姿が―――

「こ、これは・・・!?」

そして、戦兎が目にした、クロの描いたものとは。

次回『見えてきたホープ』

「・・・やりたいなら自分でやればいいのに」













またまた思いついたネタ(Pixivの方で流行っている(と思われる)ネタ)







魔法が存在する―――こことは違う世界―――

人間、エルフ、ドワーフ・・・ありとあらゆる種族が共存する世界。

されど、人間は他の種族を忌み嫌い、短い寿命と高い高慢さを持ち合わせていた。

そんな世界に、一人の麗しい竜人の姿があった。

名を、『翼』と呼ぶ。東洋の風鳴る山を支配する、一族の末裔の娘―――

自らの故郷を飛び出し、一人当てのない旅を続ける、彼女の前に、一人の少女と出会う。
その出生故に、一人迫害される少女―――ハーフエルフの『クリス』と。

風の導きか、はたまた運命か。出会った二人は、共に孤独の旅を続ける。

様々な困難があった。様々な試練があった。

それでも二人は、一緒に旅を続けた。


そんな時だった――――


「・・・貴様ら、何のつもりだ?」
「ん?人助け」


不思議な人間と出会った――――

大きな二輪車を駆り、銃と不思議な道具を片手に、一人の相棒と共に旅を続ける、これまでに出会った人間とは一風変わった人間。

その名を、『戦兎』と名乗った。

「お前はなんでアイツと一緒に旅してんだよ?」
「返しきれねえ恩があるからだよ」

その相棒は、果たして人と言えるのかどうかな人間だった。

名を『リューガ』と名乗った。

その二人と出会い、翼とクリスは、その運命を変える―――

「ここは我ら獣人族の砦、勝手な侵入は・・・はうえ!?竜人さんがいるよぉ!?」
「なんで人間と一緒にいるかは分からないけど、悪い人たちじゃないのかな?」

獣人族の里で、お転婆な少女『ヒビキ』とその親しき友人の『ミク』と出会い。

「さあさあ御集りの紳士淑女の皆さん!今宵も我ら怪盗姉妹の素晴らしきショーを見に来てくださり感謝感激の次第でございます!」
「今宵も華麗に得物を盗み取って見せましょう!」

大きく栄えた街で、孤児院の為に多くの宝石を盗み出す怪盗姉妹『マリア』と『セレナ』と出会い。

「マリアと孤児院に手を出す奴らは誰であろうと斬り殺す」

暗殺者として、そして大切な人を守るために人を殺し続ける運命に身を投じる『シン』と出会い、

「ああ、慧介、貴方は何故平民なのですか?」
「何があってもお前を奪いに行ってやる!」

貴族にその名を連ね、平民の少年と恋に落ちる『シラベ』とその相手であり、街のごろつきのリーダーである『慧介』と出会い、

「貴様ら、このオレを怒らせるとは言い度胸だな・・・であるならばこのまま貴様らを葬ってへぶっ!?」
「ダメだよキャロル、お客さんにそんな事しちゃ」

錬金術師姉妹のキャロルとエルフナインと出会い、

「貴様ァ!この方を我らがグリスキングダムの国王と知っての狼藉ふごあ!?」
「ああ!?アカちゃーん!」
「鍬が刺さったー!?」
「何言ってやがんだ今の俺はただの鍬もってるだけの貧乏キングだろうが」
「叔父上は相変わらずデスね」

とある王国で、何故か畑を耕す王『カズミ』とその配下である『三羽ガラス』、そして、カズミの姪にしてその王国の姫である『キリカ』と出会い。

「よ、久しぶりだな翼」

翼の親友であり、戦兎の兄妹分である竜人の『奏』と出会い、


様々な出会いと共に、彼らの旅は続く―――




異世界旅行歌記~The Beautiful World~





と、いわゆる、竜人の翼、ハーフエルフのクリスのいる異世界に戦兎と龍我をぶっこんで見た感じです。

設定的にはこんな感じ


東洋の風鳴る山の主の孫ではあるが、父の思いに従い、一人自由気ままな旅に出る事を決意。
しかし、山での生活において人間の醜さを知り、半ば人間に対しては良い思いを抱いていない。
戦兎たちの事も信用してはいなかったが、接していくうちに次第に打ち解けていく。
クリスが水浴びしている所に遭遇し、そして次の街でクリスが誘拐され助けた事で一緒に旅をすることになる。
戦兎たちとは、森の中でエルフ側の襲撃にあった所を助けられ、そして目的の街で奴隷を開放する姿勢から、多少なりとも信用し、共に旅をする事になった。
この世界における竜人は半竜状態と人間状態の二つの形態になる事が出来る。
身体能力は人間状態でも通常の人間を遥かに超える身体能力を発揮するが、半竜状態、いわゆる竜化モードではそれ以上の強さを発揮する。


クリス
人間とエルフの間に生まれたいわゆるハーフエルフ。
この世界において、人間と他種族の関係は最悪であり、特にエルフとの抗争が絶えないため、そのそれぞれの血を持つ彼女と家族は両種族から迫害され、両親を殺害された為に天涯孤独の身になる。
水浴びしていた所を翼と遭遇、そのまま街まで同行した所を誘拐されそうになった所を翼に助けられ、以来二人で旅を続けている。
人間は元より、エルフ側にも自分の居場所はないと思っている、ひねくれている。
リューガの出生に、多少なりとも親近感と共に、その行動を心配し、熱意に徐々に心を解かされていく。
動物との会話が可能。
エルフは魔法が得意であり彼女も例外ではない。むしろ通常のエルフより高い魔力を有しており、精霊との親和性も高い。
エルフである母親から歌を、人間である父親からは音楽を教わった為に歌は好き。


戦兎
人間。記憶喪失であり、二十歳以前の記憶を覚えていない。
目覚めて最初に出会った人物から貰った拳銃と人間としては驚異的な身体能力を持っており、さらには多くの魔道具を発明、駆使する事が出来る。
愛用の二輪自動車『ライドビルダー』は本編ビルドとは違い、イメージとしてはキノの旅のヘルメスがサイドカーになった感じのもの。
全ての命は等しくあるべき、愛と平和を掲げている為、基本的にどんな種族に対しても分け隔てなく接する。
ただし、極悪非道な奴らには容赦はしない。
基本殺しはしない。ある程度の悪事は見逃すが、どうしようもない破滅願望やら他者を玩具にしようとする奴など、法ではさばけない相手は容赦なく撃ち殺す冷徹さを持ち合わせている。
跳躍力に秀でている。
銃器全般を使いこなせ、近接格闘も得意。


リューガ
人とエボルト竜との間に生まれた、いわゆるハーフドラゴン。
見た目は限りなく人間に近いが、竜としての頑丈性、耐熱性、怪力など、人間離れした、否、その出自に相応しい身体能力を持ち合わせている。
その出生に故に、周囲より迫害を受け、されど母親の愛情によって曲がる事なく成長するも、母親を病気で亡くし、さらには殺人の冤罪で捕まる。
処刑されそうになった所を戦兎に助けられ、以来共に旅をしている。
クリスたちと出会う事で、自分と同じような出生のクリスを守ろうと決意する。
その頑丈さ故に大体戦兎に肉壁にされる。
体温を急上昇させてその熱で鉄を溶かす事が出来る。
稀に竜人と同じように完全とは言えないが中途半端な竜化が起きる時がある。



ヒビキ
獣人族の娘。竜人―――翼の叔父である弦十郎から格闘術を学んでいる為、実は里で一番強かったりする。
食べる事が何よりも好き
モデルは柴犬。

ミク
同じく獣人族にしてヒビキの親友。ヒビキの無茶に振り回されているも、度が過ぎれば叱って止める。
モデルは狐。

マリア
妹のセレナと共に、怪盗として様々な博物館から宝石を盗み出す日々を送っている。
その資金の殆どを自分たちの生活費と昔世話になった孤児院の借金返済のために使っている。
一緒に孤児院を育ったシンの事は今でも思っており、彼のやっている暗殺業の危険性を案じている。
主にピッキングなどの技術面を担当している。

セレナ
姉のマリアと共に、同じく怪盗業をやっている少女。
マリアとシンについては早くくっついたらどうだと若干イライラしている様子。
主に機械の開発など怪盗道具の使用を担当している。

シン
マリア、セレナと同じ街に住み、闇にて天が裁けぬ悪を成敗(暗殺)しまくっているエリートアサシン。
その資金をマリアたちと同じように孤児院の借金返済に回している。
マリアたちの動向は知っている(むしろあちらがやり過ぎている)為、そんな彼女たちを影ならがら殺してその成果を盗もうとしている輩を肩の端から殺していたりする。
本人無自覚マリアLOVE。

シラベ
とある貴族の令嬢。貴族史上主義の親に飽き飽きさせられており、夜の街に連れ出してくれる慧介に愛している。
いつかどこか遠くの街でひっそりと暮らすための知識を身に着けており、いつか家を捨ててしまおうなんかと思っている。

慧介
街のごろつきのリーダー。とはいえ勝手にそうさせられたために本人にあまりその気はない。
シラベとは木に昇った時に偶然会い、そのまま彼女の願いで外に連れ出した事がきっかけ。
それからしばらくして恋仲になる。

キャロル
錬金術師。当初は父親を殺された恨みで世界を滅ぼそうとしていたが妹のエルフナインに止められて、今は姉妹ともども、軽い人助けをしつつ、旅をしている。
戦闘担当。とにかく強い。すんごく強い。
絶唱七十億は伊達じゃない!

エルフナイン
錬金術師。キャロルの妹。恨みで世界を滅ぼそうとしていた姉を一発ぶん殴って止めた。姉より妹の方が権力は上。
キャロルが戦闘担当なのに対して医療や特殊な作業などを担当する。
戦闘は出来なくもないが期待する程無駄なレベル。
仕事が趣味。

カズミ
グリスキングダム国王。小国ではあるが農産業でかなり有名。国王なのに執務ほっぽって畑を耕す。
戦争になれば国王なのに戦争に出て何故か農具で敵軍を薙ぎ倒していく為別名『キングファーマーバーサーカー』。
家来に三羽ガラスを従えている。
隣国のみーたん(姫)に恋文を嫌という程送りつけている。

キリカ
グリスキングダム王女。カズミの姪に当たる。
叔父と同じく何故か執務をほっぽって畑を耕す。
お気楽ものの自覚が強い。
叔父同様何故か戦場に出て鎌で敵を薙ぎ倒していく為、別名『農家の死神姫』なんて呼ばれている。
三羽ガラスをいつも振り回している。
社交界で偶然出会ったシラベとは手紙のやり取りをする中。
ただし、過去の一件で『手紙』を送る際、その手紙が正しいか最後まで確認、そして返事が帰ってくるまで落ち着かない様子を見せる。


翼の親友。野良の竜人であり、故郷を持たない。
幼少の頃、両親を殺され、そのまま風鳴る山に辿り着き、そこで保護され翼と共に成長する。
しかしある時を境に一人旅に出る事になる。
人間の事は最初は恨んでいたが、戦兎と出会う事で次第に全ての人間が悪い訳じゃないという認識を持つようになる。
翼と戦兎の関係にニヤニヤしていたりする。




・・・・ここまで書いてしまった・・・
一応言っておきますけど、ただのネタですので、あまり期待しないでください。
こればっかりはどうしようもないし、延々と続く短編集って結構きついんですよねネタ考える的に・・・


では次回を楽しみにしててください!


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見えてきたホープ

翼「どこだ!どこに行ったテレビのリモコン!」
ク「部屋を片付けねえからそういう事になるんだろうが」
翼「返す言葉もない」
ク「やれやれ・・・とりあえずテレビのリモコンの事は後にして」
エボ「仮面ライダービルドこと桐生戦兎は新世界でノイズという人類共通の特異災害であるノイズ共と戦う日々を送っていたァ!」
翼「貴様ァ!まだ登場も先なのにまた出てくるとはどういう了見だ!」
エボ「ハッハッハ!そう簡単にオレを止められると思うなよォ!」
ク「くっ、龍我たちの登場を差し置いて自分だけ勝手に出てくるなんて・・・おのれエボルト!」
翼「落ち着け雪音!それは自分の事を棚上げして相手を勝手に追い詰める迷惑おじさんのセリフだ!」
ク「無駄に長いなそのあだ名!?」
エボ「そんな事はどうでもいいだろう。あ、そうだ。ちょいとここらで遊ぼうか」
ク「おいまて一体なにして遊ぶ・・・」
エボ響「ごきげんよう(こんにちは)、そしてごきげんよう(さようなら)
翼「それは中の人ネタ!?それも私たちでも滅多に使えない他人のものだと!?」
エボ響「どうだ!これぞ声の仕事を募集出来る地球外生命体の力だァ」
ク「くっそぉ・・・」
エボ響「じゃあついでにこれはどうだァ!」
エボクリ「このビチ〇ソがーッ!」
ク「あぁぁああ!!アタシの声でそれをやるなァ!」
翼「おのれ!立花だけには飽き足らず、雪音まで」
エボ翼「いくよ、バル〇ィッシュ」
翼「え?なんで私だけまともなキャラ・・・」
エボ翼「まああれだァ。今は全く見てねえが昔作者が見てたからだな」
ク「いくら作者の推しキャラだからってこの扱いの差はなんだ・・・」
翼「す、すまない雪音!私の中の人にもそれ相応の悪役を演じていたのだが・・・」
エボ「ま、作者の気に入ったアニメが少ねえのが原因だなァ」
ク「おのれくそ作者ァ!」
作「え?自分が悪いの?」
エボ「ちなみにィ、作者はCVよりも作画とストーリー性を優先するタイプの視聴者だったりする」
作「やめろぉ!それじゃあ完全に自分がにわかに見えるじゃないかァ!」
翼「ちゃっかり中の人に興味を持ち始めたのがシンフォギアからだったりするからな貴方は」
ク「それなら中の人ネタ使うな!慣れてもないのに!」
作「うわぁぁああ!!」心の奈落に落っこちた
翼「やれやれ・・・あ、しまった!?これではあらすじ紹介が出来ていない!」
ク「そういやそうだ!よし、今からでもやるぞ!」
エボ「あー、聖遺物に体を侵食されていた立花響は、小日向未来の制止も無視してシンフォギアを纏い、んでもって未来は爆発に巻き込まれて死にました。はい終わり」
つばクリ「勝手に終わらせるなぁぁぁあ!!そして殺すなぁぁあ!!」
エボ「という訳で、シンフォギア・ビルド、その第三五話をどうぞォ!」







翼「だが、これだけは譲らんぞ」
ク「ああ、これだけは譲らねえ」
つばクリ「十二月五日の日間ランキングでシンフォギア・ビルドが七十九位にランクインしました!」
翼「本当にありがとございます!」
ク「正直週間の方にも乗った事はあるんだが、日間に乗ったのはこれが初めてだ」
作「これからもこの作品をよろしくお願いします!」
ク「と、いうわけで、本編をどうぞ!」


「シンに何したの!?」

マリアがジェームズの胸倉を掴み上げてそう問い詰める。

その理由は、シンの突然の体調不良によるものだ。

何故かスカイタワーから戻る途中、変身を解除したシンがいきなり倒れたのだ。

それも見た目以上に深刻な様子で。

そのマリアの問いかけに、ジェームズはなんの悪びれもなく答える。

「何って簡単だよ。フルボトルの成分を装甲だけでなく人体にまで浸透させるよう改良しただけの事」

「人体に・・・ですって・・・!?」

その言葉に、マリアは目を見張る。

「それって、大丈夫なんデスか!?」

「知らんよそんな事。実際何が起こるのか、私に分かる訳がない」

「シンを実験体にしたの!?一体なんのつもりでそんな事を――――」

「黙れェッ!!」

ジェームズがマリアの手を振り払う。

「貴様に何が分かる!私の才能を恐れたクズによって殺された私の気持ちなど、貴様なんぞに分かってたまるかッ!!」

もはや正気じゃない。

人は、もはやここまで狂ってしまうものなのか。

「それに、貴様らのやっていた事も存外、人の事を言えないのではないかね」

「なんですって・・・!?」

「そうだろう。何せ全ての計画をおじゃんにしようとしたんだからな」

「・・・!?」

何故、バレている。

「マリア、どういう事?」

慧介の看病を一旦切り上げてきた調が訪ねる。

「それは僕からお話ししましょう」

そこでウェルが部屋に入ってきた。

「ナスターシャは、十年も待たずに落ちる月の落下より、一つでも多くの命を救いたいという私たちの崇高な理念を、米国政府に売ろうとしたのですよ」

そう言って見せるウェルの言葉に、調と切歌は思わずナスターシャの方を見る。

「マム・・・」

「本当なのデスか・・・?」

「それだけではありません」

さらにウェルは続ける。

「マリアに、フィーネの魂が宿ったっていうのも、とんだでたらめ。ナスターシャとマリアが仕組んだ狂言芝居」

「ッ・・・」

それにマリアは目をそらす。

「ごめん・・・二人とも、ごめん・・・」

マリアは、本当に申し訳なさそうに二人に謝る。

「マリアがフィーネでないとしたら、じゃあ―――」

切歌を、どうしようもない恐怖が蝕む。

 

マリアが違うのであるならば、本当の器は――――

 

「僕を計画に加担させる為とは言え、貴方たちまで巻き込んだこの裏切りは、あんまりだと思いませんか?折角手に入れたネフィリムの心臓も、無駄になる所でしたよ」

その言葉に、誰も何も言う事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方、近場のレストランにて、クリスは一人、ナポリタンをなんとも汚く食べていた。

戦場育ちという事を鑑みれば、それは仕方がないが、見ていてなんだか、口元を拭ってやりたくなる光景である。

そんなクリスの向かいには、翼がいた。

「なんか食えよ。奢るぞ?」

「夜の九時以降は食事を控えている」

「そんなんだからそんなんなんだよ」

「何が言いたい!用がないなら帰るぞ!」

立ち上がって、そう言う翼。

「・・・怒ってるのか?」

「愉快でいられる道理がない」

全く持ってその通りなのだろう。

「F.I.Sの事、立花の事、桐生の事、そして、仲間を守れない私の不甲斐なさを思えば・・・」

肩を震わせる翼。やがて座る翼。

「・・・呼び出したのは、一度一緒に飯が食いたかっただけだ」

理由を話すクリス。

「腹を割って話し合うのも色々悪くないと思ってな。アタシらいつからこうなんだ?目的は同じはずなのに、てんでバラバラになっちまってる。もっと連携を取り合って・・・」

「雪音」

そんなクリスの言葉を遮って、翼が厳しい言葉を言う。

「腹を割って話すというのなら、いい加減名前くらい呼んでもらいたいものだ」

「ハア!?」

それにクリスは思わず声を挙げる。

「それは、まあ・・・」

「まあまあそう言うなよ」

そんな時だった。聞き覚えのある声がしたと思い顔を上げてみれば、そこには龍我がいた。

「龍我・・・なんでこんな所に・・・」

「いや、ちょいと腹ごしらえしようと思ったら偶然お前らを見つけてな。そこちょっと座らせてもらうぜ」

龍我が、まるで翼の退路を断つかのように翼の隣に座る。

この座席の出口は一方のみ。もう一方は窓だ。

「お前もなんの用だ。用がないなら、そこをどいてもらいたいものだが・・・」

「何、俺も腹を割って話したいと思った所でな。まあなんだ、ここじゃちょっとなんだ」

龍我が右手で何かを投げ、それを左手で翼の前で掴み取って見せる。

それは、ドラゴンスクラッシュゼリーだった。

「これで語り合おうぜ」

「・・・」

それは、まさしく決闘の申し込みだった。

「・・・悪いが、そうする理由は私には・・・」

「だからそう言うなって。それともなんだ?俺に負けんのが怖いのか?」

あからさまな挑発。

翼と龍我の視線が錯綜し火花を散らす。

それを傍目に見ていたクリスは・・・

「・・・なんでこうなるんだ・・・・」

想った事を口にしてしまった。

 

 

 

 

 

 

拠点となる飛行機にて。

「・・・ん、ぐ・・・」

意識を覚醒させるシン。そこは、飛行機の医療室のベッドの上だった。

「俺は・・・」

頭を抑えつつ、シンは起き上がる。

そうして、徐々に意識を覚醒させつつ、何故自分がこんな所で寝ていたのかを思い出す。

「・・・そうか、俺は・・・」

おそらく、ルインドライバーの副作用的な何か。

「ジェームズ博士め・・・」

改良、否、改造によって、何か機能が追加されたのだろう。

それが、何かしらの副作用を及ぼしたのだろう。

なんとも、はた迷惑な男である。

「マリアたちは・・・」

どうにかベッドから降りようとした所で、体がかなり鈍重な事に気付く。おそらく何かの副作用故だろう。

しかし、だからといって足を止める訳にもいかず、シンはおそらく集合に使われているであろう部屋に向かう。

その最中で、未だ目を覚まさない慧介の方を見る。

その姿に一抹の罪悪感を感じ、すぐにその部屋を出る。

そうしてしばらく歩いた所で、ある部屋から話し声が聞こえてくる。

「嫌だなあ。悪辣な米国の連中から、貴方を守って見せたというのに」

ウェルだ。

「このソロモンの杖で」

会話に耳を傾けるシン。中には、調や切歌、マリア、ジェームズもいるようだ。

その中で、やや緊迫した雰囲気が感じられる。

ふと、足音が聞こえて、止まる。マリアの足音だ。

「マリア?」

「どうしてデスか・・・!?」

今の声の位置で、室内にいる者たちの大体の位置を把握する。

「フハハっ!そうでなくっちゃ!」

ウェルの嫌な嗤い声が聞こえてくる。

「偽りの気持ちでは世界は守れない・・・セレナの想いを継ぐ事なんて出来やしない。全ては力・・・力をもって貫かなければ、正義を成す事など出来やしない!世界を変えていけるのはドクターのやり方だけ。ならば私はドクターに賛同する!」

(マリア・・・)

その言葉に、シンは、どうしようもなかった。

「・・・そんなの嫌だよ」

そんな中で、調が声を挙げる。

「だけどそれじゃあ、力で弱い人たちを抑え込むって事だよ・・・」

そう調が呟くも、それに何かを言う者はいなかった。

「・・・分かりました」

ナスターシャがそう呟く。

「それが偽りのフィーネではなく、マリア・カデンツァヴナ・イヴの選択なのですね」

その言葉に、マリアは何も答えない。きっと、目で答えを返しているのだろう。

「うっ・・・ごほっ、ごほっ・・・」

「ッ!?大丈夫デスか!?」

ナスターシャの容態の変化を感じ取ったシンは部屋の中に入る。

「ッ、シン・・・」

「おや、もう起きれるのですか。驚きましたね」

マリアは少し気まずそうに、ウェルは嫌な笑顔でシンを見る。

その状況を見て、シンはシンを見てすぐに顔をそらしたマリアの方をしばし見て、やがて視線を外して隅の方にいるジェームズを見る。

「説明を聞こうか」

「ふん・・・成分を肉体にまで浸透させるようにしておいた。それによって本来の性能のさらに三倍の性能を引き出せるようにしておいた」

「三倍・・・体にかかる負荷は?」

「さあな。ただ、お前の体に成分が残留していなかった事を考えれば、ちゃんと成分回収機能は働いていたという事だろう。だが、成分を体に浸透させた影響で体調に不調が出たようだがなぁ・・・」

「そうか・・・」

シンはそれに頷くだけ、そしてすぐにナスターシャの方を見る。

「大丈夫か?」

「あとは僕に任せて、ナスターシャはゆっくり静養してください。さて、計画の軌道修正に忙しくなりそうだ。()()の対応もありますからね」

ウェルはそれを最後に、部屋から出ていく。

「では、私もルインドライバーの改良といきましょうかね」

そう言って、ジェームズもウェルが出ていった扉とは別の扉から部屋を出ていく。

「・・・やりたいなら自分でやればいいのに」

その調の一言は、果たしてジェームズに聞こえていたかどうかは、誰にも分からなかった―――

 

 

 

そして、飛行機の一室。そこに張られた光の格子の中に―――未来はいた。

 

 

 

 

 

 

 

人目の付かない、橋の下。

そこはかつて、戦兎と龍我が、戦兎が葛城巧だという事が判明して決闘した場所だ。

そこに龍我と翼が対峙する。

それを、クリスが遠目ながら見守っていた。

 

『スクラァッシュドライバァーッ!!』

 

龍我がスクラッシュドライバーを腰に巻き付け、続けてドラゴンスクラッシュゼリーを装填する。

 

ドゥラゴンジュエリィーッ!!』

 

何かを叩くような待機音が鳴り響き、龍我はファイティングポーズを取る。

そして翼は、すかさず天羽々斬の聖詠を唄う。

 

「―――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)――」

 

「変身!」

 

翼が聖詠を唄い終えると同時に、スクラッシュドライバーのアクティベイトレンチを一気に降ろす。

 

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

 

ドゥラゴン・イン・クロォォズチャァァジッ!!』

 

『ブルァァァァア!!!』

 

龍我がクローズチャージに変身すると同時に、翼も天羽々斬をその身に纏う。

対峙する両者。

翼が刀を構える一方でクローズが構えるのはツインブレイカー。

そうしてしばし対峙していると、おもむろに翼が駆け出す。

「ハァア!!」

振り下ろされる一撃を、クローズはツインブレイカーで受け止め、すかさず反撃に右拳を突き出す。それを紙一重で躱した翼はそのまま回転、横薙ぎにクローズを斬り裂こうとするがクローズはそれを下がって回避。そしてツインブレイカーを振りかぶって翼に殴り掛かる。

それを大きく後ろに飛んだ翼は、上空から無数の刃を振らせる。

 

千ノ落涙

 

降り注ぐ剣の雨。それがクローズに向かって降り注ぐ。

クローズは両腕を掲げてそれを受ける。いくつもの刃がクローズに叩きつけられる。

「ぬ・・・ぐぉぉぉおお!!」

その雨の中を、クローズは突っ切って翼の所へ。

「―――ッ!!」

それに翼は予想通りと刀を構えて迎え撃つ。

突進していくクローズはツインブレイカーを振りかぶり、翼に向かって振り抜く。

それを翼は外側に躱し、その背中に刃を叩き込もうとする。しかし、それを引き戻したツインブレイカーによって防がれる。

そしてすかさず繰り出された後ろ回し蹴りを繰り出し、それを翼は紙一重で躱す。

その翼を追いかけ、刃と拳の応酬が始まる。

「お前、戦兎がああなったのは自分のせいって思ってるだろ!?」

「ッ!?」

突然、クローズがそう言いだした為に翼は思わず目を見開く。

「図星かよ!」

「くうっ!?」

拳が刀に叩きつけられる。

「お前って、そういう所似てるよな!」

「ぐっ、似ているって、誰にだ!?」

「戦兎だよ!お前と戦兎、一人で何かを抱え込む所なんかそっくりだ!」

ビームモードにしたツインブレイカーで光弾を放つクローズ。

その光弾を翼は叩き落し、すかさず接近する。そうして刃を振り下ろした瞬間、クローズは懐からビートクローザーを取り出してその刃を受け止める。

「私と桐生が・・・そんな事・・・」

「あるね!アイツの事を一番知ってる俺だから分かる。お前はそうやって一人で抱え込んでる!そんな所がアイツに似てんだよ!」

鍔迫り合いで翼を押し退け、すかさずツインブレイカーを放つ。

それを横に転がって躱す翼に、クローズはビートクローザーの連撃を叩きつける。

「私が一人で抱え込んでいるだと・・・そんな事、お前なんかに分かるものか!」

翼がその連撃に反撃する。

「私が天羽々斬を喰われさえしなければ、桐生があんな大怪我を負う事はなかった!私が桐生をあんな目に遭わせたんだ。立花の事も、私が不甲斐ないばかりにあんな事になってしまった。全ては、私の至らなさが迎えた結果だ。皆を守る剣である私が守る事が出来なかった・・・その気持ちがお前に分かるのか!?」

「ああ、そうだな・・・でも、俺だってそういう時はあったよ!」

クローズが翼の斬撃を下段から弾く。

「このスクラッシュドライバーに振り回されていなけりゃ、戦兎が誰かを殺す事も、ああして苦しむ事もなかった。戦争をすぐに終わらせたかった。だけどそのせいでアイツが苦しむ事になっちまった・・・だから、俺はお前に同じ道を辿らせたくねえんだよ!」

激しい撃ち合い、その最中でクローズが剣を殴りつける。

「それに聞くけどな!お前なんでそんな剣って奴に拘るんだよ!?訳分かんねえよ!俺お前の事情とかあんま知らねえけど、なんでそんなに剣っていうのに拘る必要があるんだ!?」

「それは・・・」

「分かった。この際お前の在り方についてはなんも言わねえ。だけど、いくら剣でも休ませなきゃいずれはぽっきり折れちまうぞ!」

ツインブレイカーから光弾が放たれる。

「だからもう、一人で抱え込もうとすんな!それじゃあ他の奴らがまた無茶しちまうぞ!」

「そんな事・・・私は・・・・」

「奏の事をずっと一人で抱え込んでたやつが言ったって、なんの説得力もねえな!」

それを指摘にされて、翼は思わず動揺する。

「もっと俺たちの事を頼りにしろよ。お前から見たら、俺たちはそんなに頼りねえか?」

「それは・・・」

その言葉に、翼は何も言えず、そんな翼に仮面の奥で笑いかけて、ビートクローザーを投げ捨ててアクティベイトレンチを降ろした。

 

スクラップブレイクッ!!!』

 

「なっ!?」

「ウオリヤァァァアア!!」

そして飛び上がり、容赦なく翼に強烈なライダーキックを叩き込んだ。

それを大剣化した天羽々斬で受け止めるも、防ぎきれず直撃を受ける。

そうして倒れ伏した翼は天羽々斬を強制解除される。敗北したという証だ。

その一方、クローズも変身を解除して翼に歩み寄り、そして手を差し出す。

「ほら、俺は頼りになるだろ?」

「・・・全く」

そんな風に大胆不敵に言って見せる龍我に翼は呆れ、

「無茶をする男だ・・・」

その差し出された手をとった。

「おい!大丈夫か!?」

そこへクリスが駆け寄ってくる。

「お前な、マジで必殺技叩き込む奴あるか!?」

「しょうがねえだろ勝つにはあれしかなかったんだからよ」

「だからと言って本気の一撃叩きつける奴があるか!?」

「じゃあお前だったらどうすんだよ!?」

途端に言い争いになるクリスと龍我。

わーぎゃーと子供みたく喧嘩を始める二人に、翼は呆気にとられ、やがてふっと笑う。

「雪音」

「ん?なんだよ?」

「先ほどは済まなかった。少し気が立っていた」

「ああ、いや・・・アタシの方こそ・・・」

突然の翼の謝罪に戸惑うクリス。

「でも、名前の方は・・・まだ、待ってくれ・・・」

そう顔を赤くしながら、クリスは絞り出すようにそういう。

その様子のクリスに翼は・・・・

「・・・ぷっくく」

「な、なに笑ってんだよ!?」

「い、いやすまん。なんだか改めて見ると雪音が可愛く見えて・・・」

「か、かわっ・・・で、でたらめ言ってんじゃねえ!」

「なんだよ事実だろ?」

「な、なんでお前が肯定してんだよ!?ああもう!やっさいもっさい!!」

クリスの叫びが、夜の空に響き渡る。

しかしそこに先ほどのような重い雰囲気はなく、明るさを取り戻した雰囲気がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

その一方、スカイタワー屋上にて。

「戦兎さん、戦兎さん」

「んが・・・はっ!?エボルト!?」

「なんでもうすでにいない敵の名前を言ってるんですか・・・・」

座りながら眠りこけていた戦兎を、緒川が叩き起こす。

「緒川か?っていつの間に暗くなって・・・」

「そんな事より見てください」

緒川が指差す先、そこにあるのは、一枚の絵―――

「こ、これは・・・!?」

「先ほど、彼女の通信機を見つけました。これを解析すれば、これの裏付けにも・・・」

「ああ、そうだな。でかした俺の発明品!」

「キュル?」

それを()()()クロを褒めて、戦兎は見えてきた希望の光を確かに感じていた。

 

 

 

 

 

そうして翌日、二課仮説本部の指令室にて――――

「あの、一体何の用ですか?」

昨日から元気のない響。

その場には、翼、クリス、セレナ、龍我、戦兎の姿もあった。

そして、そんな響に戦兎が一枚の絵を渡す。

「まずはこれを見てくれ」

「これは・・・!?」

それを見た響の顔が強張る。

その絵には、互いに手を伸ばし合うマリアと未来の姿が描かれていた。

それも、相当リアルにだ。

マリアはギアを纏い、腕には謎の女性を抱えている事が変わる。さらにその隅にはクライムの姿も映っている。

まるで写真だ。

「これ、どうやって・・・」

「コイツが書いたんだよ」

戦兎が天井を指差す。そこには、自由にそわそわぐるぐると空中旋回を繰り返すクロの姿があった。

「え?いやいやいやまさかそんなありえねえだろ?」

「これ、お前らの顔写真とクロが描いた絵な」

「そっくりじゃねえか・・・・」

取り出した響、クリス、翼の写真と絵をそれぞれ一枚ずつ、計六枚を見せてみてみる。

「おそらくクロ君の機械としての記憶力が、その絵を完成させるに至ったのだろう。そして、昨夜見つけた未来君の通信機の記録から、破損されるまでの間、一定の速度で移動していた事が判明した」

それが、意味する事とは―――

「それってまさか―――」

「ああ、未来は死んでない。今はF.I.Sに拉致されて監禁されていると考えた方が妥当だ」

「それってつまり・・・!」

「こんな所で呆けている場合じゃないって事だろうよ」

まさかの吉報。未来が生きているという、想定外の言葉に、響は喜びを隠せない。

「さて、気分転換に、体でも動かすか!」

「はい!」

弦十郎の提案に、響は確かに元気よく答えた。

 

 

 

 

そんなわけで―――

「なんで俺まで走らされてんの!?」

装者とライダー、そして弦十郎を加えた六人で朝の走り込みを行っていた。

「俺病み上がりなんだけど・・・」

「だからこそ、体の調子を戻す方が先決なんじゃないのか?」

「うっわ無慈悲・・・」

翼の言葉に戦兎はがっくりと肩を落とすほかなかった。

「フゥハハハァー!お前いつも部屋ん中閉じこもってるからな!いい機会だから体動かして汗流せハッハァー!」

「なんでお前はそんなにテンション高めなんだよ。そういうテンションが一番疲れんだよ!ていうかなんで風鳴さんが『英雄故事』歌ってんだよ!?」

「意外に知ってるんだな」

「まあな!意外にセレナが映画好きでな!」

「ハア・・・ハア・・・ま、まだ終わらないのか・・・」

「クリスはクリスでもう死にそうになってるんですけど!?おいこれどうすんだ!?コイツ倒れたら一大事じゃないのか!?」

「そん時は俺が抱えていってやる!」

「ちょ・・・それは・・・恥ずかしい・・・」

「万丈、雪音が抱えて欲しいそうだぞ」

「よしきた」

「って、そんな事言ってねえから!てかこの持ち上げ方はやめてくれ本当に恥ずかしいからぁ!」

顔を真っ赤にして龍我にお姫様抱っこされるクリスとそれを面白がる翼となんか調子に乗っている龍我。

そんな様子を見て、戦兎は思う。

(なんか、憑き物落ちたようだな)

今まで、影さしていたような表情を、翼はしていなかった。

「よし、俺もしっかりやるか!」

そうして、戦兎も改めて、特訓の戦列に加わった。

 

 

 

 

 

 

 

なお、生卵を飲む段階で戦兎は盛大に吐いた模様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未来が監禁されている部屋にて。

「りんごは浮かんだ お空に―――…」

そこには、マリアが監視の名目でいて、壁に背をもたれかけさせて、一人歌を口ずさんでいた。

それを、未来は光の格子の中で聞いていた。

そんなマリアの手の中には、やや欠けた状態のシンフォギアのペンダントが持たれていた。

 

その名は、『アガートラーム』。

 

かつて、マリアの妹、セレナがその身に纏っていたシンフォギアであり、六年前からずっと、壊れたままのギア――――

 

それを唄いながら眺めていたマリアは、ふと未来の視線に気付く。

「ん?どうしたの?」

尋ねられた未来は、思わず目をそらす。

「いえ・・・ありがとうございました・・・」

単純な話、未来はマリアに助けられたのだ。

響が飛び降りた直後、変わるようにしてマリアが床から飛び出し、それに続くように現れたクライムに、未来は思わず、涙に濡れた目を向けた。

そして、マリアはそんな未来に、手を伸ばしたのだ。

 

『死にたくなければ来い』と。

 

そうして無事に燃え盛るスカイタワーから脱出したのだが、最終的に未来はこの檻にぶち込まれる事になったのだ。

「どうして、私を助けれくれたのですか?」

それでも、未来は尋ねられずにはいられなかった。

世界の敵となった彼女が、何故、自分を助けたのか。

「さあ・・・逆巻く炎に、セレナを思い出したからかもね・・・」

「ッ・・・セレナ!?」

マリアが出した言葉に、未来は思わず声を挙げる。

その事にマリアは首を傾げるも、未来はすぐさま視線をそらす。

(セレナ・・・偶然じゃないよね・・・?)

同じ名前の人間・・・それは別段、珍しい事ではないだろう。

苗字が同じ人なんてざらにいるし、同じ名前の人間もいない訳がないだろう。

 

とある珍しいものを発見する番組で、お互いの名前どころか誕生日、生まれた場所、挙句の果てには母親の名前まで同じ人間もいたりするのだから。

 

と、そんな事を思い出していると、二人がいる部屋に新たかに誰かが入ってくる。

「マリアの死んだ妹ですよ」

ウェル(英雄(屑))だ。

「ドクター・・・」

ウェ・・・・屑はマリアと未来の間に立つ。

「何か地の文でけなされたような・・・」

「「?」」

ウェルにマリアは尋ねる。

「この子を助けたのは私だけど、ここまで連行する事を指示したのは貴方よ。一体何のために?」

その問いかけに、ウェルは気前よく答える。

「もちろん、今後の計画遂行の一環ですよ」

そう言ってウェルは格子に囲まれた未来の前にかがむ。

そんなウェルに、未来は抱えた足を抱き寄せ、縮こまる。

「そんな警戒しないでください」

ウェルは、優しく話しかける。勿論建前だ。

「少し、お話でもしませんか?きっと貴方の力になってあげますよ」

そう言って微笑むウェルに、未来はやはり、警戒の色を拭えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

外にて、洗濯物を取り込む、シン、切歌、調の三人。

(・・・マリアがフィーネでないのなら、きっと、アタシの中に・・・)

この間、戦兎と対峙した時に発現した、フィーネの力の一旦。

それは、切歌の中にフィーネがいるという証拠。

 

そして、その魂に自分が塗り潰されてしまうかもしれないと言う事――――

 

(怖いデスよ・・・)

心の中で、切歌はそう呟く。

「マリア、どうしちゃったんだろう・・・」

「え?」

ふと、調が呟く。

「私は、マリアだからお手伝いがしたかった・・・フィーネだからじゃないよ」

「あ、うん、そうデスとも」

「・・・」

調の言葉に、切歌は戸惑い気味に答え、シンは黙って洗濯物を取り込む。

「身寄りがなくて、泣いてばかりの私たちに優しくしてくれたマリア・・・弱い人たちの味方だったマリア・・・なのに・・・」

昨日の、あの言葉。

 

『力をもって貫かなければ、正義を成す事など出来やしない!』

 

それは、今までのマリアからは考えられない言葉だった。

それに、調は悲しそうな表情を浮かべる。

「・・・・ん」

そんな時、シンが調の後ろから、黙ってその頭を撫でる。

「シン・・・」

「・・・調やシンは、怖くないデスか?」

ふと、切歌がある事を呟きだす。

「マリアがフィーネでないのなら、その魂の器として集められた、アタシたちがフィーネになってしまうかもしれないデスよ?」

それは、最もな事だ。

フィーネの魂の発現には、シンフォギア起動の際のアウフヴァッヘン波形に干渉する必要がある。

それに常にさらされ続けているシンフォギア装者など、恰好の的以外なんでもない。

「確かに、俺もレセプターチルドレンとして集められたが、俺はあくまで便()()()あそこに連れてこられた。だから、俺にフィーネの魂が覚醒するとは思えん・・・そもそもフィーネは女性だ。男である俺や慧介にそもそも発現などしないだろう」

「私は・・・よくわからない・・・」

「それだけ・・・!?」

切歌は、思わず声を強くして聞いてしまう。

「・・・どうしたの?」

ふと、切歌の様子が変な事に、調は思わず聞き返す。

それに、切歌は逃げるように、エアキャリアに戻っていく。

「切ちゃん・・・!?」

その後ろ姿を、調とシンは呆然と見る事しか出来なかった。

「どうしちゃったの・・・?」

「自分たちにフィーネの魂が覚醒する可能性があると感じて、それに恐怖しているのかもしれない・・・あるいは、既に・・・」

「そんな事・・・!」

シンの言葉に、調は否定しようとするが、先ほどの切歌の言葉で、否定しきれない事に思わず歯噛みしてしまう。

「・・・調」

その様子に、シンは調に向かって言う。

「お前は、お前がやりたい事をやるんだ。マリアだから、切歌だからじゃない。お前自身の心に従え」

「え・・・」

「そうしなければ、いつか後悔する事になるぞ」

 

あの日、血塗れの部屋の事を思い出しながら。

 

シンは、そう言って、取り込んだ洗濯物と、調の持っていた洗濯物を取り上げて、ヘリキャリアに戻っていった。

その後ろ姿を、調は呆然と見つめ、そして、思う。

(私の、やりたい事・・・・)

その意味を、調は心の中で噛み締める。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、彼らは、戦場へ――――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

日本より南側の海にて、F.I.Sの乗るヘリキャリアはいた。

「月が落下する前に、新天地にて、人類は結集しなければならない」

その先にて待ち構える米国海軍。

「この道を行く事を恐れはしない」

始まる、ノイズによる虐殺。

「慧くんの事、お願い」

しかし、それを調は見過ごせず、自ら戦地へ飛び込む。

「アタシじゃなくなってしまうかもしれないデス・・・!」

だが、切歌が彼女のギアを強制的に外してしまい、

「ソロモンの杖を使うアイツはどこにいやがる!?」

さらに、二課の装者や仮面ライダーが出現。

その時、その場にいる者たちにとって、ありえない者たちが姿を現す。

次回『予測不能のイレギュラー』

「―――Rei shen shou jing rei zizzl(鏡に映る、光も闇も何もかも)―――」



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予測不能のイレギュラー

響「みく~、みく~・・・」
戦「しっかりしろ。いつまで引きずるつもりだ」
響「だってぇ~」
調「けいくん・・・うぅ・・・」
戦「お前もか!?」
シ「こうしてみると・・・哀れだな」
戦「元々はウェル引き込んだお前らの所為だろ・・・」
シ「返す言葉もない。だが私は謝らない」キリッ
戦「ここでライダーネタするんじゃないよ!」
シ「いいじゃないか俺も仮面ライダーだ」
戦「そういう事じゃなくてだな・・・もういい。とにかくあらすじ紹介やるぞ」
シ「了解した。ノイズが蔓延る新世界にて、天才物理学者であり、仮面ライダービルドである桐生戦兎は、世界に宣戦布告した武装組織『フィーネ』改め『F.I.S』相手に仲間と共に戦っていた」
戦「その最中、ガングニールに体を侵食されて命に危機にさらされている響は、無二の親友である未来が行方不明になるという事態に面食らってしまうのであった」
響「生きててくれて良かったけど・・・みく~」
調「しっかりしてください響さん。未来さんが無事だった、それだけでよか・・・けいく~ん」
戦「言いかけて泣き出すな!せめて終わるまで耐えろ!」
シ「こんな事で本当に大丈夫なのか・・・」
戦「だぁもう!愛和創造シンフォギア・ビルド!」
シ「その第三六話を見ろ」


―――東経135.72度、北緯21.37度―――

 

そこに、彼らの目的であるフロンティアはあった。

「マムの具合はどうなのデスか?」

その洋上を飛空するフィーネの飛行機。その中で、切歌はマリアにナスターシャの容態を尋ねる。

「少し安静にする必要があるわ。疲労に加えて、病状も進行しているみたい」

「そんな・・・」

マリアの言葉に、そう呟くのは調。

「つまり、のんびり構えていられないって事ですよ」

そうして声をあげるのはウェル。

「月が落下する前に、新天地にて、人類は結集しなければならない」

ちなみに、飛行機の操縦をしているのはシンである。

昨日の体調の悪化を感じさせない程に回復している様子である。

「その旗振りこそが、僕たちに課せられた使命なのですから」

「御託はどうだっていい」

そんなウェルの言葉をシンが辛辣に言葉を返す。

「問題はどうやってフロンティアの封印を解除するかだ」

「それについてはご心配なく。既に手は打ってありますので」

ウェルがそう答える。

そんな中で、機内に一つ、警報が鳴り響く。

「これは・・・」

「米国の哨戒艦艇だな」

モニターに映し出されたのは、一隻の軍艦。

「こうなるのも予想の範疇。精々連中を葬り去って、世間の眼をこちらに向けさせるのはどうでしょう?」

そう言って、マリアの方を見る。

「そんなの弱者を生み出す、強者のやり方・・・」

「世界に私たちの主張を届けるには、恰好のデモンストレーションかもしれないわね」

調の言葉を、マリアは遮って賛同するかのように言う。

「マリア・・・」

「私は・・・私たちは『フィーネ』・・・弱者を支配する強者の世界構造を終わらせる者・・・この道を行く事を恐れはしない」

そう、冷徹に告げるマリアに、調は割り切れないようにマリアを見ていた。

 

 

 

 

 

その一方、その近海の海底にて。

「ノイズのパターンを検知!」

「米国所属艦艇より、応援の要請!」

映し出されたモニター。そこには、ノイズに襲われる米国の軍艦の姿が。

「この海域から遠くない!応援に向かうぞ!」

弦十郎の指示によって、やる事が決定する。

「応援の準備に当たります!」

翼と戦兎、そして龍我が先に駆け出す。

「翼さん!私も・・・」

その後を追いかけようとした響を、クリスは肩を掴んで振り向かせ、そのネクタイを掴み上げて怒鳴る。

「死ぬ気かお前!?」

「う・・・」

「ここにいろって、な?お前はここから、いなくなっちゃいけないんだからよ」

まるで願うかのようなクリスの言葉に、響は何も言えない。

「頼んだからな」

やがて、乱れたネクタイを整え、クリスも向かう。

その後ろ姿を、響は黙って見送る事しかできなかった。

 

 

 

一方海上。米国所属艦艇の上では、まさしく大惨事ともとれる光景が起きていた。

武装した海兵たちが、次々にノイズたちに炭化させられていく。

どれほど銃弾を撃ち込んでも、ノイズの体は全ての弾丸を透過し、一切のダメージを通せない。

まさしく、二つの例外を除いて無敵ともとれる存在―――

 

 

その光景に、マリアは下唇を噛み締め、破れた皮膚から血が流れる。

そんなマリアに、調は問う。

「こんな事が、マリアの望んでいる事なの?弱い人たちを守るために、本当に必要な事なの?」

「ッ・・・」

その問いかけに、マリアは答えない。

そのマリアを、調は見て、そしてすぐさま踵を返して扉を開ける。

「調!?何やってるデスか!?」

止める切歌に、調は言い放つ。

「マリアが苦しんでいるのなら、私が助けてあげるんだ」

そう言い、調は頼む。

「慧くんの事、お願い」

そして、調は――――その身を宙へと投げ出した。

「調!」

切歌の叫びを背中に受けて、調は聖詠を唄う――――

(慧くん、見てて―――)

 

「―――Various shul shagana tron(純心は突き立つ牙となり)―――」

 

その身に纏うは桃色と黒のシンフォギア。肉を削ぎ落す無限軌道の刃を振るう、ザババ神の刃の一つ―――『シュルシャガナ』の起動である。

そのシンフォギアを纏い、そのまま落下していく調。

 

「―――首をかしげて 指からするり 落ちてく愛をみたの」

 

自らのシンフォギアから発せられる歌を紡ぎ、調は頭部のギアから無数の円盤鋸を露出、一気に放つ。

 

α式 百輪廻

 

放たれた鋸は一重に真上からノイズの大抵を切り裂く。その場に着地すると同時に足裏の歯車を回転。スケートのように艦上を駆け抜ける。

そして、さらにヘッドギアを展開し、そこから巨大な鋸を出し、自らを軸として回転、一気に敵を切り裂いていく。

さらに、艦上を駆け抜け、その鋸で次々とノイズを切り裂いていく。

しかし、数の差か、一体に背後を取られる。

「ッ―――!?」

それに息を飲む調だったが、そのノイズは突如として切り裂かれ、炭素となって消えていく。

そのノイズを切り裂いたのは、切歌だ。

「切ちゃん!」

その時調は、応援に来てくれたのだと思った。

「ありが――」

その事にお礼を言おうとした途端、首に、何かを押し付けられ―――何かを注入される。

「え――――何を―――」

一体、何が起きているのか、調は理解出来なかった。

 

それは、『Anti LiNKER』―――適合者の適合係数を強制的に引き下げるLiNKERとは真逆の効果を有する薬品だ。

 

「ギアが・・・馴染まない・・・?」

そう呟いた直後、調からシュルシャガナが強制解除される

「アタシ・・・アタシじゃなくなってしまうかもしれないデス・・・!」

突然、訳の分からない事を言い出す切歌だが、一方の調はAnti LiNKERの影響とギアの強制解除によって体が上手く動かなかった。

「そうなる前に、何かを残さなきゃ、調に忘れられちゃうデス・・・!」

何か、切実な想いを語るように、切歌は調に手を差し出す。

「切ちゃん・・・?」

「例えアタシが消えたとしても・・・世界が残れば、調とアタシの思い出は残るデス。だからアタシは、ドクターのやり方で世界を守るデス。もう、そうするしか・・・」

そう切歌が言いかけた時、突如として海面から二本のミサイルが飛び出してくる。

 

(たてがみ)サイクロンライオンクリーナー!イェーイ!』

 

その外装がパージされたと思いきや、中からギアを纏った翼とクリス、変身したビルド・ライオンクリーナーフォームとクローズチャージが現れ、調をクリスと翼が確保し、切歌をビルドが、そしてクローズはノイズ殲滅に向かう。

そうして刃を交えるビルドと切歌。

「邪魔するなデス!」

切歌のイガリマがビルドの胸部装甲『ライアチェストアーマー』に叩きつけられる。

しかし、刃が通らない。

「え・・・!?」

ここで豆知識だが、ビルド・ライオンクリーナーフォームの『ライアチェストアーマー』は、武器による物理攻撃をほぼ通さない。つまり、武器を使って戦う切歌にとって―――今のビルドは天敵。

「ハア!」

「くっ!」

激しく切り結ぶビルドと切歌。しかし、武器による攻撃が通用しないビルド相手に、切歌は完全に押されていた。

その一方で、

「切ちゃん・・・!」

「おい!ウェルの野郎はここにいないのか!?」

「え・・・」

「ソロモンの杖を使うアイツはどこにいやがる!?」

「あぐっ・・・!?」

首を締め上げるクリス。

「やり過ぎだ雪音!」

「でもよ・・・!」

「分かっている!でも今は、この場をどうにかするのが先決だ!」

「うあっ!?」

切歌の悲鳴があがり、そこを見れば、地面に腰をつける切歌に、ビルドがライオン型のオーラを纏わせた右腕を突き出すビルドの姿があった。

その向こう側ではクローズがノイズに対して無双していた。

 

 

「切歌・・!」

マリアが、戦況に声をあげる。

装者二人に仮面ライダー二人に対して、こちらは切歌一人。完全に不利な状況だ。

(今はどういう訳かジェームズ博士がまたルインドライバーの改造を行っていて俺は出撃出来ない・・・いや、どちらにしろ、まだ体調が万全ではないから無理か・・・)

シンが操縦桿を握る手に力を込めてそう思案していると、唐突にウェルが提案を出す。

「ならば傾いた天秤を元に戻すとしましょうよ・・・!」

「それは・・・」

「出来るだけドラマティックに・・・出来るだけロマンティックに・・・!」

そうしてウェルは操縦席の端末を操作する。

「まさか、アレを・・・!」

マリアの言葉に、何も知らされていないシンは、その正体に驚くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

そうして聞こえてきたのは―――歌と―――()()()

 

 

「―――Rei shen shou jing rei zizzl(鏡に映る、光も闇も何もかも)―――」

 

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

 

タイガァー・イン・タァスクゥッ!!』

 

『ブルァァァァア!!!』

 

その音に、調は―――その眼を見開いた。

 

艦艇の両サイド、そこに落ちてきた、二人の乱入者。立ち昇る煙の中、その姿を見せるのは―――

「・・・なんで・・・」

調は、絶望の表情を浮かべる。

「どうして・・・だってあれは、調が・・・!」

その驚愕は、彼女たちだけのものではない。

「・・・・おい」

戦兎も、もう一人の乱入者の方を向いて、呟く。

「なんでお前が、そんなもん纏ってんだよ!?」

それは、彼らにとっては信じられない人物だった。

 

それは、未来――――シンフォギアを纏った、小日向未来だった。

 

そしてもう一人、本来ならありえない事をしている男。

 

涼月慧介―――仮面ライダータスク――――

 

まだ寝ている筈の少年が、仮面ライダーとしてそこに立っていた。

「スクラッシュドライバーは調が破壊した筈デス!なのに何故・・・」

「スクラッシュドライバーを解析する時間なんていくらでもあるんだ!きっと複製したんだろ!」

切歌の疑問にビルドが答える。

 

 

 

その一方で――――

 

「何故・・・」

ふとシンが口を開く。

「何故、慧介を出した・・・ジェームズ博士・・・!!」

シンが睨みつける先には、丁度この部屋に入ってきたジェームズがいた。

「ふん、向こうの仮面ライダーが出るんだ。であるならばこちらもライダーを出さない訳にはいかないだろう」

「だからといって、慧介はまだ安静にしていなければならない!このままでは死ぬぞ!?」

「別にいいだろうそんな事」

ジェームズが、なんの悪びれもせずに言って見せる。

「この際桐生戦兎と万丈龍我を葬り去れるのならなんだって犠牲にしてみせる。貴様も、あの装者も何もかもを利用してな!それで知らしめるのだ・・・真の天才はこの私だとなァ!ハハハハハ!!」

「貴様はどこまでも・・・!」

ミシリ、とシンの握る操縦桿がきしみだす。

そしてマリアは、拳を握りしめて必死に耐えている。

何があっても、この計画を遂行する気なのだ。

そんな状況で、シンは自分の無力さを思い知る。

(俺は、結局誰も救えないのか・・・!?)

「神獣鏡をギアとして、人の身に纏わせたのですね」

そこへナスターシャが操縦席に姿を現す。

「マム!?まだ寝てなきゃ・・・」

「あれは、封印解除に不可欠なれど、人の心を惑わすもの・・・貴方の差し金ですね?」

ナスターシャがウェルを睨みつける。

「ふん、使い時に使ったまでの事ですよ」

 

 

ほんの数日前の事だ。

 

「そんなに警戒しないでください。少しお話しましょう。きっと貴方の力になってあげますよ」

「私の・・・力・・・?」

ウェルの言葉を、未来はオウム返しに尋ねる。

「そう、貴方の求めるものを手に入れる、力です」

そうして差し出し広げた手の中にあったのは―――シンフォギアのペンダント。

 

 

それが、今未来が纏う、シンフォギアそのものだ。

 

 

「マリアが連れてきたあの娘は、融合症例第一号の級友らしいじゃないですか」

「リディアンに通う生徒は、シンフォギアへの適合が見込まれた装者候補たち・・・つまり貴方のLiNKERによって、あの子は何も分からぬまま無理矢理に・・・」

「んっんっん~、ちょぉっと違うかなぁ~」

ナスターシャの言葉を、ウェルは否定する。

「LiNKER使ってほいほいシンフォギアに適合できれば、誰も苦労はしませんよ。装者量産し放題です」

「なら、どうやってあの子を・・・」

そう、であるならば、どうやって未来は装者になる事が出来たのか。

それは、至極簡単な言葉で片付けられる。

「『愛』ですよ」

「何故そこで愛!?」

何故、そこで愛なのか。

「LiNKERがこれ以上級友を戦わせたくないという願う想いを、『神獣鏡(シェンショウジン)』に繋げてくれたのですよぉ!ヤバいくらいに麗しいじゃありませんかッ!」

そう大振りな動作で自らの優秀さを誇示するウェルを他所に、戦況が動く――――

 

 

 

 

「うぉぉぉぉおおおぉおおお!!!」

その手にアームドギアらしきものを取り出した未来が、叫ぶ。

「小日向が・・・!?」

「なんで、そんな恰好してるんだよ・・・!」

翼とクリスが信じられないとでも言うようにそう呟く。

「あの装者は、LiNKERで無理矢理に仕立て上げられた消耗品・・・私たち以上に急ごしらえな分、壊れやすい・・・・」

「ウェルの野郎か!」

「ふざけやがって・・・・!」

ビルドが怒りを滲ませて、クリスが悪態を吐く。

「行方不明となっていた、小日向未来の無事を確認。ですが・・・」

「無事だと!?あれを見て無事だと言うのか!?だったらアタシらは、あの馬鹿になんて説明すればいいんだよ!?」

クリスが怒鳴る中、クローズの側にいるクロが、悲しそうに鳴く。

「キューイ・・・」

「くそっ。どうすりゃ・・・」

その時、未来のシンフォギアのバイザーが目を覆う。

戦闘態勢だ。

そうして足のギアでホバー、一気にこちらに接近してくる。

「こういうのはアタシの仕事だ・・・」

「お前は引っ込んでろ!」

「なッ!?」

切歌から離れたビルドが、クリスを押し退けて未来へと向かう。

周囲の瓦礫を左手の『ロングレンジクリーナー』で吸い込み、その吸引によって浮かんだ瓦礫をそのまま突っ込んでくる未来に向かって投擲。

その寸前で右手のギア―――鉄扇から放たれた光線を躱し、その一方降り注いだ瓦礫を躱した未来がそのまま海に飛び出し足のホバー機能で海上を走る。

「だったらコイツだ・・・!」

 

海賊!』『電車!』

 

ベストマッチ!』

 

二つのボトルを装填すると同時に、ビルドも艦上から海上へその身を投げ出す。

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

定刻の反逆者海賊レッシャー!』

 

海賊レッシャーフォームとなり、海面に着地、そのままその能力で海面を駆け抜けて未来を追いかける。

 

『各駅電車!発射!』

 

取り出したカイゾクハッシャーで未来を狙い撃つビルド。それに応戦して鉄扇から光弾を放つ未来。

激しい撃ち合いが展開される。

 

 

その一方で。

「うぅぅうぅ・・・」

体からプラズマのようなものを発して、唸り声を上げるタスク。

「やめるデス慧介!それ以上戦ったら、本当に死んじゃうデスよ!?」

「お願い、慧くん!戦わないで!」

切歌と調の叫びが発せられるも、タスクは、すぐさま咆哮を上げて翼に向かって走り出す。

「はやっ―――」

「がぁぁあ!?」

「ぐあっ!?」

腹を蹴り飛ばされる翼は。

「おい!」

「がぁぁああ!!」

「ッ!?」

吹き飛ばされた翼に思わず声を挙げるクリス。そこへタスクが襲い掛かる。

それを見たクリスは、すぐさま調を横に投げ飛ばし、直後にタスクの拳を交差させた腕で受け止める。しかし、その衝撃は重く、踏ん張れず、殴り飛ばされる。

「がはっ・・・」

そのまますぐさまクローズに向かうタスク。しかし、殴り掛かろうとした所で逆に殴り飛ばす。

「ぐあぁああ!?」

「コイツは俺がやる!お前らは装者の方を頼む!」

クローズはすぐさまタスクと対峙する。

「万丈ぉ、龍我ぁぁぁあああぁああ!!!」

絶叫を上げるタスク。

「慧介・・・」

まるで獣のように叫ぶタスク。

そのまま一気にクローズへと殴り掛かる。

それをクローズが迎え撃ち、激しい撃ち合いへと発展する。

だが―――

(なんだこいつ・・・前より、強くなって・・・!?)

タスクの柔軟性のある蹴りがクローズの頬を掠める。

その威力は、以前のものとは比べ物にならない程だった。

 

 

 

 

「私が作ったスクラッシュドライバーは、ゼリー状にしたボトルの成分の構成を今までのものと違うものとし、その三倍の効力を発揮するようにしておいた。その分、体にかかる負荷は従来の四倍だがなぁ・・・!」

「貴様・・・!」

それでは、慧介の体がいずれは壊れてしまう。

そんな事になれば、調は―――

「どこまでも人として堕ちるか・・・!」

「戦場で散々命を奪ってきた貴様などに言われたくはないな」

「くっ・・・」

ジェームズの言葉に、シンは何も言い返せない。

「脳へのダイレクトフィードバックによって、己の意志とは関係なくプログラムされた戦闘(バトル)パターンを実行!流石は神獣鏡のシンフォギア!それを纏わせる僕のLiNKERも最高だ!」

「それでも偽りの意志では、あのライダーには届かない・・・」

そのナスターシャの言葉に、ウェルは不敵な笑みを崩さない。そしてマリアは、その光景に目をそらし、ウェルは、ただその戦いを真っ直ぐに見守る。

 

そのモニターには、ビルドの放つ攻撃が直撃しまくっている未来の姿があった。

 

 

「ビルド!圧倒しています!」

「これなら・・・」

ビルドが圧倒している様を、響は見る事しか出来ない。

カイゾクハッシャーから放たれた光弾を叩きつけた海面から水飛沫があがり、その最中を突っ切ってビルドが未来につかみ掛かり、そして容赦なく海面へと叩きつける。しかし未来は立ち上がり、至近距離で光弾を発射。それを間一髪で躱したビルドが、その腹に拳を叩き込む。その寸前で腕の帯が動き、ビルドに叩きつけられる。よろけるも、すかさずカイゾクハッシャーを発射。それを未来は寸での所で躱し、すかさず鉄扇の一撃をビルドに叩きつけるも、踏み止まったビルドがその攻撃を脇を抜けるように躱し、その脇腹をカイゾクハッシャーで斬る。そして、その攻撃を喰らっても、動じない様子の未来はすぐさま振り返ってビルドを撃ち抜こうとするが、その顔面に、先ほど外したビルドアロー号が戻ってきて炸裂する。

そして、そうしてよろけた未来に、拳を叩きつけて殴り飛ばす。

まるで容赦がない―――だけど、その拳は、震えていた。

未来を傷つけてしまう事への罪悪感だけじゃない。こんな事態を引き起こした張本人への怒り、こんな事しか出来ない自分への怒り、それでも戦わなければならないという、理不尽への怒り―――様々な怒りが、ビルドを動かし、そして、苦しめているのだ。

しかし、それでもビルドは戦うのをやめない。

 

戦わなければ、取り戻せないから――――

 

(ごめん・・・ごめんね・・・・)

その様子に、響は、心の中で謝るしかなかった。

そんな響に、弦十郎は元気づけるように頭を撫でた。

 

 

 

 

その一方で、海上を走るビルドと未来。

「オォッラァ!!」

カイゾクハッシャーを叩きつける。未来はそれを鉄扇で受け止め、上空へ弾き飛ばされる。

その未来に向かって、ビルドはカイゾクハッシャーを向けて、ビルドアロー号を引き絞る。

 

『各駅電車ー!急行電車ー!快速電車ー!海賊電車ー!』

 

「戻って来い・・・!」

 

『発射!』

 

放たれるビルドオーシャン号。それが、上空にいる未来を穿つ。

そのまま未来は落下していき、翼たちのいる艦上へ落ちる。

ビルドもその後を追いかける。

そこには、なおも立ち上がる未来の姿があった。

「だったら―――」

 

『Ready Go!』

 

ボルテックレバーを回し、足元の線路を出現させる。その上を、ビルドは走る。

それを未来は迎え撃つべく飛び上がるが、その未来よりも早く、その周囲に線路を展開。その周囲をぐるぐると回り、その状態で四方八方から未来を滅多打ちにする。

 

ボルテックフィニッシュ!』

 

滅多打ちにされた未来はそのまま落下、甲板に叩きつけられる。

そのすぐ傍にビルドは着地し、未来に駆け寄る。

そして、彼女に手を伸ばした所で、ギアからウェルの声が聞こえてきた。

『女の子は優しく扱ってください。乱暴にギアを引き剥がせば、接続された脳を傷つけかねませんよ?』

「んな事分かってんだよバーカ」

『ばっ・・・』

「そんな事分からないとでも思ったか」

そう言って、ビルドが未来に触れたと同時に、未来が起き上がる。

「ッ!?」

そしてその手の鉄扇を円状に展開したかと思うと、そこから無数の光線を放つ。

 

閃光

 

「まだ動けるのか!?」

どうにか距離を取るビルド。

その間に未来は鉄扇を収納。脚部のギアを変形させる。

それは、巨大な円形の鏡――――

すぐさま回避に映ろうとするビルド。だが、そこでふと後ろを見れば、そこには調とクリスがいた。しかも二人はタスクとクローズの戦いに夢中になっていて気付いていない。

光が、未来の展開したギアに収束される。

 

「―――閃光…始マル世界 漆黒…終ワル世界」

 

未来の歌に呼応して、光がどんどん収束していく。

「くっ・・・!」

ビルドは思わずカイゾクハッシャーのビルドアロー号を引こうとする。

「キューイ!」

そこへ何故かクロが飛んでくる。そしてビルドからボトルを一本かっぱらうとそれを自らに装填。

それと同時に、未来からとてつもない砲撃が放たれる。

 

流星

 

放たれる、魔を払う砲撃。

それが―――クロの張ったバリアに阻まれる。

「クロ!?」

「キュゥゥゥゥウッ!!!」

未来の砲撃から、ありえない力を発揮してビルドを守るクロ。

クロのバリアに直撃して拡散した光線が唸り、艦体を穿つ。

(なんだこりゃ・・・!?)

未来の放つ砲撃を防いでいるクロ。その体に装填されているのはダイヤモンドフルボトル。

その力で、未来の光線を弾いている。

「おい!どうなってんだよこれ!?」

ふと背後でクリスの声が聞こえる。その傍には茫然とした様子でその場にへたり込んでいる調。

「クリス!今の内にそいつをつれてここから離脱しろ!」

「はあ!?」

「クロでも抑え込むのには限界があるはずだ!だから急げ!」

「わ、分かった!」

とにかく光線から逃れるために後ろへ走るビルドと調を抱えるクリス。

 

 

その光線の嵐の中、なおも戦い続けるクローズとタスク。

「うぉぉおおあ!!」

拳が飛ぶ。しかし、それをクローズは受け止めてすぐさま顔面を殴り飛ばす。

「ぐあ!?」

「甘いんだよ!」

倒れた所を蹴り上げ、すかさず立ち上がらせて顔面を殴り飛ばして転がらせる。

「くっそぉぉおお!!」

それでもタスクは立ち上がって立ち向かってくる。

それをクローズは殴り飛ばす。

 

 

 

「無垢にして苛烈・・・」

ふと、調が喋り出す。

「魔を退ける輝く力の奔流・・・これが、神獣鏡のシンフォギア・・・」

「神獣鏡!?あれが最後のシンフォギアか!?」

クロが抑えている間、光線から距離を取って横に抜けた所でそう叫ぶビルド。

事実、ビルドは了子(フィーネ)の残した『櫻井理論』の大体を解析し終えているため、その上了子の残した大本のデータも預かっている。その解析の過程で、シンフォギアはガングニールが二つであることを除けば、シンフォギアは全部で七つある事が判明していた。

 

ガングニール、天羽々斬、イチイバル、イガリマ、シュルシャガナ、アガートラーム、そして神獣鏡。

 

七つあるシンフォギア、その最後の一つが―――今未来の纏う、聖遺物殺しの聖遺物。

 

聖遺物を消し飛ばす事の出来る、シンフォギア。

「うん・・・ステルスもあれでやってた・・・あの聖遺物の特性は、あるべき姿を正す事。そして、聖遺物由来の力の分解・・・」

「聖遺物由来の力の分解・・・というか、聖遺物そのものを分解するんじゃねえのかあれ!?」

クロが抑え込む未来の砲撃には、それほどの力があるというのか。

やがて、エネルギー出力が低下したのか、エネルギー砲が収束し、やがて収まる。

「キュウ・・・」

疲れ果てて、その場にこてんと落ちるクロ。

そのクロを拾い上げるビルド。

「お疲れさん。流石俺の発明品だ」

そう言って、クロからダイヤモンドフルボトルを抜き取り、ホルダーに戻し、クロを懐に仕舞う。

「あとは任せろ」

ビルドは、未来と対峙する。

その様子を、未来はバイザーの奥から見ていた。

そんな未来に、切歌は声を挙げる。

「やめるデス!」

そちらに視線を向ける。

「調は仲間!アタシたちの大切な―――」

『仲間と言い切れますか?』

そこでウェルが割り込んでくる。

『僕たちを裏切り、敵に利する彼女を―――月読調を、仲間と言い切れるのですか?』

なんとも、嫌味な喋り方で、ウェルはそう言う。

「・・・違う」

その問いかけに、切歌は、苦しそうに答える。

「アタシが調にちゃんと打ち明けられなかったんデス・・・アタシが、調を裏切ってしまったんデス・・・!!」

「切ちゃん!」

そんな切歌に、調は言う。

「ドクターのやり方では、弱い人たちを救えない・・・!慧くんのように、誰かを苦しめてしまう・・・!」

『そうかもしれません』

しかし、そんな中でもウェルは話すのをやめない。

『何せ我々は、降りかかる災厄にあまりにも無力ですからね。聖遺物とシンフォギアに関する研究データは、こちらだけの占有物ではありませんから。アドバンテージがあるとすれば、せいぜいこのソロモンの杖!』

その瞬間、上空の飛行機から、光が迸る。

それがこの海域一体に走ったかと思うと、たちまちあちこちからノイズが溢れかえる。

「ノイズを放ったか!?」

「くそったれが!」

翼が声を挙げ、クリスはすぐさま走り出す。

(ソロモンの杖がある限り、バビロニアの宝物庫は開いたままってことか!)

そのままノイズの殲滅に移行する。

クリスがノイズの殲滅を始めると同時に、今度は切歌が翼に向かって斬りかかる。

それをビルドがカイゾクハッシャーで受け止める。

「桐生!?」

「こうするしか、何も残せないんデス!」

ビルドの行動に驚く翼と、叫ぶ切歌。

『そうそう、それそれ。そのまま抑えていてください。あとは彼女の仕上げを御覧(ごろう)じろ!』

そう言うウェル。

しかし、その時今まで無言を貫いていたビルドが、唐突に呟く。

 

 

「――――勝利の法則は決まった」

 

 

「え?」

『はあ?』

その言葉に、切歌どころかウェルすらも素っ頓狂な声を挙げる。

「桐生、何か、この状況を打開できる策が見つかったのか!?」

翼の声は、どこか期待気味だった。

その声に、ビルドは仮面の奥で不敵に笑って答えて見せる。

「ああ、()()()()()()()()()()()()()()とびっきりの策がな!」

ビルドが切歌を弾き飛ばす。

「本部!今すぐ響を出せ!」

『な!?』

無線の奥で動揺する声が聞こえる。

『何を考えている!?今の響君が戦えば死んでしまうんだぞ!?』

「でもこれを成功させるには響に体を張ってもらうしかねえんだ!大丈夫!上手くいけば二人とも助ける事が出来る!」

『しかし・・・』

「司令・・・いえ叔父様!」

そこで翼が通信に割り込む。

「桐生を信じてください!きっと、桐生なら立花も小日向も救い出して見せるはずです!」

『翼・・・』

『師匠!お願いします!私にやらせて下さい!』

響の声が聞こえる。

『しかしだな・・・』

「あんた前に言ったな。思いつきを数字で語れるものかよって・・・そのあんたの弟子がそいつだ!過去は変えられない。だけど、未来ならどうとでもなる!俺たちが変えていくんだ!未来を救えるかどうかは、今俺たちが動かなきゃ何にも始まらない!」

ビルドが切歌にカイゾクハッシャーを向ける。

「切歌は俺が抑える!タスクはクローズがどうにかする!ノイズは翼とクリスで片付ける!邪魔なんてさせねえ。響の想いを偽物なんかにさせねえ・・・何がなんでも救ってやるんだ!俺たちで!」

『何をごちゃごちゃ言ってるのか分かりませんが、計画の邪魔はさせませんよ』

未来が飛んでいく。

「翼、お前はクリスと一緒にノイズを殲滅してくれ!任せたぞ!」

「ああ!任された!」

翼が調を置いてクリスと共にノイズの殲滅へ向かう。

ビルドは切歌に向かって突撃し、カイゾクハッシャーを振り下ろす。

「ぐぅっ!?」

それを受け止める切歌だが、返す刃で大きく弾かれる。ビルドが、すかさずその首を掴み取って、一気に別の艦船へ飛んでいく。

「切ちゃん!」

「がぁぁああ!?」

「ッ!?」

そこへタスクが倒れてくる。

「慧くん!」

思わず駆け寄る調。

「慧くん、これ以上は・・・」

「うるせえ!」

「きゃあ!?」

タスクに腕を振り払われ、倒れる調。

「俺の邪魔をするな・・・!!」

「慧くん・・・!!」

もう、立ってるのも辛い程ボロボロな筈なのに、どうしてそこまでして戦おうとするのか。

「もうやめて・・・慧くん・・・!」

調の声は届かない。もう、そこまで手遅れの状態なのか。

「うぉぉぉおおぉお!!」

タスクが目の前のクローズに殴り掛かる。

叩きつけられる拳を、しかしクローズはもはや片手でいなすのみ。

そして左手のツインブレイカーを胸に叩きつける。

「ぐぅ・・・!?」

そして、すかさず顔面を殴り飛ばす。

「ぐあぁあぁあ!?」

床をごろごろと転がるタスク。

「くそ!なんで勝てない・・・!」

倒れ伏した所で、甲板を殴るタスク。

そうして見上げた先には、ただそこに佇んでタスクを見下すクローズ。

「くそ・・・俺を、見下すな・・・!」

そうして、ふらふらしながらも立ち上がるタスク。

しかし、その最中で、クローズの視線が、ふと横を向いた。

余所見。こんな時に、あからさまな余所見。

普通だったら、その相手を完全に馬鹿にしている行為に、プライドの高いものだったらキレる事だろう。

しかし、そのあまりにも静かな雰囲気に、タスクは違和感を覚えて、思わずその視線を先を追ってしまう。

そこにいたのは―――調。

「え・・・」

調は、いきなり自分に視線が集まった事に戸惑いを感じる。

その調を、しばし見つめたクローズは、何故か調に向かって歩き出す。

何をする気なのか。

あまりにも、静かに歩み寄ってくるので、調は、何か、猛烈な悪寒を感じ取っていた。

その歩みの最中で、クローズは、ツインブレイカーを構える。

「え・・・!?」

今度は、確かな驚きを滲ませた声が調から発せられる。

タスクは、これからクローズが何をしようというのか分からない。

しかし、これだけは分かる―――

 

――――調に、何かするつもりだ。

 

そして、調の前に立ったクローズ。

「え・・・あ・・・」

そのクローズを見上げる。

クローズは、今も無言を貫いている。

しかしやがて、ツインブレイカーを持つ左手を持ち上げたかと思うと――――

 

 

 

 

 

「―――少女の歌には血が流れている・・・」

唐突に、ウェルがそう呟く。

「ククク、人のフォニックゲインによって出力を増した神獣鏡の輝き。これをフロンティアにも照射すれば・・・!」

「今度こそフロンティアに施された封印が解除される・・・」

マリアがそう呟いた時、唐突にナスターシャが激しく咳き込む。

「ッ!マム!」

「ナスターシャ、もう休め。これ以上は短い寿命がさらに短くなるぞ」

見れば口を押えていたナスターシャの手には血がついていた。

「ッ!ドクター!マムを・・・」

「いい加減お役御免なんだけど、仕方がない」

ウェルはしょうがなし、とナスターシャを連れていく。

「私がやらねば・・・私が・・・」

それを見届けたマリアは、まるで自分に言い聞かせるようにそう繰り返し呟き、シンは、そんなマリアの助けになれない事に操縦桿を握りしめて、歯噛みするしかなかった。

 

 

 

 

 

ノイズを殲滅しきって、着地した駆逐艦にて、クリスは、一つの炭素の塊の、手だったものの中に写真の入ったロケットペンダントを見つける。

「ッ―――分かっている・・・」

クリスは、自分に言い聞かせるように呟く。

「アタシが背負わなきゃならない十字架だ・・・」

「雪音!」

そこへ翼がやってくる。

「ノイズは全て殲滅出来たそうだ」

「そうか・・・」

翼の言葉に、クリスは、そう答える。

そんなクリスを、翼は心配そうに見つめる―――――

 

 

 

 

 

 

 

未来が乗り移った艦艇。

するとそのすぐ傍を、二課の仮説本部である潜水艦が並び立つ。

その上には、響が立っていた。

「一緒に帰ろう、未来」

響が、未来に話しかける。

「・・・帰れないよ」

それに、未来が答える。バイザーが、開く。

「だって私にはやらなきゃいけない事があるもの」

「やらなきゃならない事?」

「このギアが放つ輝きはね、新しい世界を照らし出すんだって。そこには争いもなく、誰もが穏やかに笑ってくらせる世界なんだよ」

「争いのない世界・・・」

「私は響に戦ってほしくない。だから、響が戦わなくていい世界を創るの」

「・・・だけど未来、こんなやり方で創った世界は、(あった)かいのかな?」

「・・・・」

「私の一番好きな世界は、未来が傍に入れくれる、(あった)かい『ひだまり』なんだ」

「でも、響が戦わなくていい世界だよ?」

未来が、もう一度言う。

その言葉に、響は、首を横に振る。

「・・・例え未来と戦ってでも、そんな事させない」

「私は響を戦わせたくないの」

「ありがとう。だけど私――――(たたか)うよ」

大切な親友を、救うために――――少女は、聖詠(たたかい)を始める。

 

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)―――」

 

 

 

 

 

 

 

その身に、黄の戦闘装束を身に纏い、響は、未来と(たたか)う――――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「やめろぉ!」

突如として調への攻撃を開始するクローズ。

「アタシが消える前に、やらなくちゃいけない事があるんデス!」

想いをぶちまける切歌とぶつかるビルド。

「お前も存外、一人で色々と抱え込んでいるんだな」

クリスに、話しかける翼。

「死ねるかぁぁぁああぁぁああぁああ!!」

そして、響と未来が、激突する――――

次回『喪失までのカウントダウン』

「響ぃぃぃぃぃいいぃぃいい!!」

「こんなの脱いじゃえ!未来ぅぅぅぅぅぅぅううぅうう!!!」


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喪失までのカウントダウン

作「祝え!新世界を成し、全ての戦いを終えた筈の仮面ライダーと新世界で戦う歌を紡ぐ戦姫たちが己が想いをかけて戦う世界の物語のお気に入り登録者数が一〇〇〇人を超えた―――その名も『愛和創造シンフォギア・ビルド』! まさに祝福の瞬間である!」
戦「どこぞの預言者のセリフを使ってんじゃないよ」
響「祝え!」
ク「お前までやってんじゃねえよ」
響「あう!?」
作「よし、言う事は言った。さあ寝よう」昇天
翼「そして秒で気絶するなァ!」
緒「余程嬉しかったんでしょうねえ・・・」
弦「まあこの作者にとってはあり得ない新記録だからな」
藤「今までの記録から見て、最大で言ったのは八百ですからねえ・・・それも結構緩やかで、この作品のように初っ端から爆発したっていうのはないですから」
友「流石の分析能力、作者の作品情報まで・・・」
作「流石にそれはやめてくれるかなぁ?」復活
慧「うお!?流石作者、復活も早い・・・」
シ「それはともかく、あらすじ紹介といこう。今回は少し長めに、役割分担しつつだ」
切「了解デース!ではまずアタシから・・・パンドラボックスによって引き起こされたスカイウォールの惨劇から十年!」
調「仮面ライダービルドこと、天才物理学者の桐生戦兎は、仲間の仮面ライダークローズの万丈龍我、仮面ライダーグリスの猿渡一海、仮面ライダーローグの氷室幻徳と共に」
原型「なんでオレがこんな事を・・・ハア。地球外生命体エボルトを打倒すために奮闘するのだった」
無性「エボルトを倒す為に多くの犠牲を出し、それでも新世界を創造する事で倒す事に成功した戦兎さんたちは、その新世界にて」
翼「私、風鳴翼と出会ったのであった。しかし創造した新世界には、ノイズという人類共通の特殊災害が存在していた」
未「その為、桐生戦兎は新世界で再び仮面ライダーとして、特殊災害対策機動部二課の仲間と共に、ノイズと戦う日々へと身を投じるのであった」
響「さてさてここからが本題!ノイズと戦う日々の一週間!その日私立花響と小日向未来は行き倒れている万丈龍我と出会ったのでした」
ク「それから、紆余曲折あって、この馬鹿はガングニール装者として覚醒。んでもって色々あってアタシとぶつかったりデュランダル覚醒させたりしててんややんわな訳だ」
麗人「そんな適当でいいのか・・・こほん。敵の黒幕フィーネは二課の研究員櫻井了子と判明」
元詐欺師「そして、ついに二課はフィーネとの最終決戦に突入し、シンフォギアに搭載された限定解除状態、その名もエクスドライブを発動させて」
けん玉「見事、フィーネを倒したワケだ」
錬金術師「そして、フィーネはその戦いで消滅、新たな輪廻の輪に戻るのであった」
俺様「そしてェ!フィーネの死に際の一撃!月の欠片の落下を阻止しに空へ飛んだのであったァ!」
武人「そして、見事に月の欠片を破壊してみせるのであった」
機械人間「何気に初登場だけど大丈夫かしら?・・・こほん、それから三ヶ月後、彼らの新たな戦いが始まる」
獣耳「全ての元凶たるソロモンの杖の輸送、その紛失、それらを得て、ついに敵が姿を現す・・・がんす!」
吸血鬼「その名も『フィーネ』。終わりの名(笑)を意味する組織らしんだぜ!」グハァ!マリアァ!?
亡霊「ククク・・・んでもって、フィーネの襲撃のついでは立花響の体の中の聖遺物が命を削っていると来たァ・・・」
鬼「さらにそこへ追い打ちをかけるように小日向未来が行方不明となってしまうのであった」
キメラ「まあ実際はフィーネに誘拐されていた訳だけども」
セ「やっと私の出番だ・・・そして、日本より南の海にてフィーネこと、F.I.Sは目標たるフロンティアを目指し、そこで遭遇した米国海軍を、ウェルがソロモンの杖を使ってノイズを召喚、形の残らぬ虐殺を引き起こしたのである」
ネトアイ「今思えば本当にロクでもない奴よね・・・そして、F.I.S側の仮面ライダーであるクライムことシン・・・は出なかったけど、その代わり本来なら変身してはいけない状態である筈の仮面ライダータスクこと、涼月慧介と」
スパイ「響ちゃんの親友、未来ちゃんがなんと七つ目のシンフォギア『神獣鏡』を纏って現れた」
頭「そしてェ、米国海軍を助ける為に仮面ライダーの二人を響は動けねえからクリスと翼の二人で今、戦ってる訳だ」
絶望センス「そして、万丈は鬼畜ジェームズ博士の改造スクラッシュドライバーを使っている涼月慧介の暴走を止める為、ビルドは暁切歌と、そして立花響は小日向未来を止める為、それぞれの戦いに挑んだのであった」
龍「なんかめっちゃ長くなったな・・・まあそんな訳だ」
エボ「愛和創造シンフォギア・ビルドォ!その第三十七話を―――」
戦「どうぞ!」


――――クローズのツインブレイカーが、悪寒を感じ取って倒れた調の顔面のすぐ横に叩きつけられた。

 

 

「あ・・・あ・・・」

何が起こっているのか、理解出来ない調。

そして、その光景を見ていたタスクは―――急激に血の気が引いた。

棒立ちになっている間に、クローズは再び拳を振り上げる。

「あ・・・ひっ・・・」

先ほどはまぐれで躱せた。だが、ギアがない状態では流石に二度目は無い。

そのまま間髪入れずに、ツインブレイカーの二撃目が叩き込まれる―――

「やめろぉ!」

しかしそこへタスクが割り込み、その一撃を受ける。

「慧くん・・・!」

「ぐ・・・ぅううぁああ!!」

絶叫を上げてタスクはなんとかクローズの拳を押し返そうとする。だが―――

「ふんっ!」

「があ!?」

蹴り飛ばされて横に吹き飛ばされる。

「慧くん・・・!」

調が声をあげるもクローズは再度、調にツインブレイカーを叩きつけるために拳を振り上げる。

しかしそこへクローズに光弾が叩きつけられ、クローズは思わずよろめく。

そこには、ツインブレイカーをビームモードで構えるタスクの姿があった。

「お前の相手は、俺だろ!!」

タスクがすかさずクローズに向かって突進する。

クローズがツインブレイカーを振り抜く。しかしタスクはその下を潜り抜けてクローズの胴に抱き着くなり、そのまま一気に押し込んで壁に叩きつける。

そのまま拳を叩きつけようとするが、すかさず逆に拳を顔面に叩きつけられ後ずさってしまう。

さらにクローズはタスクを追撃。拳やツインブレイカーを何度も叩きつける。

「うっ、がっ、がはっ、ぐあっ・・・!?」

一方的に叩きのめされている。

まるで歯が立たない程一方的に殴られ続けている。

さらには襟当たりを掴まれて何度も拳を胴に叩きつけられ、そして最後には脇腹に蹴りを入れられて叩き飛ばされる。

「がぁぁあああ!!?」

「慧くん!」

地面を転がり、倒れ伏すタスク。

そんなタスクに、すぐさま駆け寄ろうとした所で、クローズが調の背後に立つ。

「ッ!?」

すでにツインブレイカーを振り上げているクローズの左拳が振り下ろされる。

「うわぁあぁああ!!!」

しかし間一髪でタスクが覆いかぶさる事で難を逃れる。

「慧くん!?」

「ぐ・・・ぅう・・・」

タスクの中では、未だせり上がってくる戦闘衝動が暴れている。

それを必死に抑えて、タスクは調を守る事に専念していた。

しかしクローズは、そんなタスクを掴み上げると―――

「オラァ!!」

「がっ・・・!?」

その鳩尾にツインブレイカーの一撃が突き刺さる。その衝撃が全身を駆け巡り、一瞬タスクの意識を飛ばす。

しかしすかさず、クローズが二撃目をタスクに叩き込む事でタスクの意識は現実に引き戻され、そして決定的なダメージによってその場に倒れ伏す。

「慧くん・・・あっ!?」

思わず声をあげる調、そんな調の首を掴むなり、持ち上げる。

そのまま一気に首を締め上げる。

「あ・・・か・・・」

「調・・・!」

タスクは、それを見てどうにか立ち上がろうとする。しかし、どうしてか立ち上がる事が出来ない。

(くそ、動け・・・動けよ!)

どうしてこんな事になった。何故、こんな事になった。

気付けば、戦いを求めるままに戦っていた。勝てない事に苛立っていた。

邪魔される事が、無性に気に障った。

ただ勝ちたい。それだけを思って、自分は―――

 

調を―――傷つけた。

 

(どうして、俺はあんな事を・・・)

どれほど考えても、何も分からない。

このドライバーを使い始めてから、何かが変わっていった。自分の中で、何かがおかしくなった。

ただ戦いを求めるようになってしまった。

自分が、これまでしてきた事が、今になって呼び起される。

どうしてあんな事をしたのか、どうしてそんな事をしたのか。

ドライバーに振り回されたと言えたらどれだけ良かっただろうか。

だが、自分は確かに、この手で調を傷つけた。振り払った。

そんな自分が、今更―――

「ぐぅ・・・ぅ・・・」

調の呻き声が聞こえ、顔を上げる。

そこには、クローズに掴み上げられ、涙を流す調の姿があった。

微かに動く調の口。その口から紡がれた言葉は――――

 

 

「ごめんね、けいくん・・・・」

 

 

「―――ッッ!!!」

それを聞いた瞬間、タスクは―――甲板を殴った。

(馬鹿か、俺は・・・何勝手に諦めてんだよ・・・!!)

まだ体中が痛む。力が入らない。立ち上がることすら出来ない。

だが、その不条理を打ち破らずしてどうする。

その絶対的理不尽を打ち勝てずしてどうする。

 

 

「―――惚れた女一人守れないで、どうするんだッ!!!!」

 

 

立ち上がって、タスクはそう咆える。

そして、今まさに調にツインブレイカーを叩きつけようとするクローズに向かって、タスクは飛び蹴りを喰らわせる。

そのはずみで調がクローズの手から逃れる。

「あう・・・」

「うぉぉおおぉおお!!」

そのままクローズに向かって殴り掛かるタスク。

未だ、自分の体をすさまじい衝動が暴れている。

その衝動に流され、タスクはクローズに殴り掛かる。

凄まじいラッシュだ。だが、クローズには及ばない。

「ぐあ!?」

顔面を殴られる。殴ろうとしたら受け止められ逆に殴られる。殴り返そうとしたらその前に殴られる。

何もかもが上だ。とてもではないが、勝てる気なんてしない。

だけど、それでも―――

「調は・・・俺が・・・」

拳を振り上げる。

「俺が―――」

その拳を、タスクはもう一方の手で止める。

 

「俺が守るんだぁぁぁああぁぁぁあぁああ!!!」

 

その拳を、自分の顔面に叩きつけた。

「ッ!」

それを見たクローズの動きが止まる。

その瞬間、タスクの体を光が迸り、走っていたプラズマは鳴りを潜め、タスクの戦闘衝動は――――抑え込まれた。

「ハア・・・ハア・・・」

自分の手を見るタスク。閉じて開いたりを繰り返し、自分の体が軽い事を感じる。自分の意志に関係なく暴れるような事もなく、タスクの体は、完全にタスクの制御下にあった。

「これなら、行ける・・・!」

そう確信し、タスクは目の前のクローズを見る。

そしてすぐさまクローズに向かって走り出す。

「うぉぉぉおお!!」

ツインブレイカーを掲げ、叩きつける。それを防がれ、今度はクローズのツインブレイカーがタスクの顔面を狙う。しかしそれをタスクは体を大きく逸らして躱し、その反動を使ってクローズの顎を打ち据える。

「うごっ!?」

そのまま態勢を戻し、すぐさまクローズの懐に潜り込み、その腹に一撃入れる。

そしてそのまま連続で攻撃を叩きつけてどんどんクローズを下がらせる。

「ハアッ!!」

「ぐお!?」

拳を叩きつけて距離を取らせた所で、タスクはレンチを叩き下ろす。

 

スクラップクラッシュッ!!!』

 

右脚にエネルギーが収束する。

「俺の牙は、誰にも折れねえ・・・!」

そのままタスクはクローズに向かって飛び上がり、そして、両足を突き出して渾身のドロップキックを叩き込む。

「ダァァア!!」

「ぐおあ!?」

そのまま、一気に蹴り飛ばされるクローズ。蹴り飛ばされ、そのまま地面に仰向けに倒れる。

「ハア・・・ハア・・・」

激しく呼吸を繰り返し、タスクは沈黙したクローズを見ていた。

「慧くん!」

そこへ調が駆け寄る。

「調・・・」

「大丈夫?」

「ああ。もう大丈夫・・・」

「良かった・・・」

調は、タスクの様子に、涙を浮かべて喜ぶ。

「良かった・・・慧くんが、いつもの慧くんに戻ってくれた・・・」

「調・・・」

そんな調の顔をあまり見れず、タスクは思わず顔をそらしてしまう。

「ごめん・・・あんな事をして・・・」

「ううん。謝るのは私の方・・・私がスクラッシュドライバーが危険な事を言ってれば、こんな事にはならなかったから・・・」

「でも、俺が調を傷つけたのは本当の事だ。それに、調を悲しませた・・・」

「もういい。もういいんだよ。慧くんが戻ってくれた。私は、それだけでも嬉しい・・・」

「調・・・」

しばし見つめ合う二人。

傍か見れば結構甘いシーンなのだが・・・忘れてはいけない事が一つある。

「おーいってて」

「「ッ!?」」

クローズは戦闘不能ではないという事だ。

クローズが起き上がった事に、タスクは思わず調の前に出て身構え、調もタスクの後ろに隠れつつも警戒する。

しかし、もう既にクローズに敵意はなく。

「やっと克服したか」

「「え」」

「ったく手間とらせんなよな」

ぱんぱんと自分の体についた泥を払うような動作しながらそう言ってくるクローズに二人は呆けるしかなかった。

「え・・・一体どういう・・・」

「ん?お前の暴走を克服させる為の芝居だけど?」

そうあっさりと言って見せるクローズ。

「「え・・・えぇぇええぇぇええぇえええ!?」」

それを理解した二人は思わず絶叫してしまう。

「ししし芝居!?あれが!?あのマジで調を殺そうとしたのが全て芝居!?」

「そうだぞ?あ、ツインブレイカー叩きつけようとしたのはマジだぞ?だってそうしねえとお前動いてくれなさそうだったし、変に色々喋ったらなんかバレそうだったから黙ってただけだぞ」

「「・・・」」

ハッハッハ、と笑うクローズに二人は呆然とするほかなかった。

「まあなんだ。元に戻ってよかったな」

「・・・!」

その、クローズの心からの賛辞に、タスクは戸惑いを隠せない。

「そんじゃ、俺は他の奴ら探してくっから、そっちはそっちで勝手にやってろ!」

クローズはそのままどこかへと行ってしまう。

タスクと調は、その場に茫然と突っ立ってしまう事になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うあ!?」

ビルドが切歌を投げ飛ばす。

投げられた切歌は着地と同時に起き上がり、すぐさまビルドに鎌の一撃を振るう。それをカイゾクハッシャーで受け止め、そこから激しい撃ち合いとなる。

「アタシが消える前に、やらなくちゃいけない事があるんデス!」

「それでアイツを悲しませる気か!?」

「それでも、調に忘れて欲しくないデス!」

複製した刃を、鎌を振るうと同時に投げ飛ばす。

 

切・呪りeッTぉ

 

放たれた鎌の一撃をビルドはカイゾクハッシャーで弾き飛ばし、すかさずお返しと言わんばかりにカイゾクハッシャーを引き絞る。

 

『各駅電車ー!急行電車ー!』

 

『発射!』

 

二台分のビルドアロー号が放たれ、それが切歌を襲うもそれを切歌は叩き落す。

「そのためにここにある命を消すのか!?」

「何かを成すためには、力でしか出来ない事もあるのデス!」

「ふざけんな!!」

振りかぶって切歌に叩きつける。

「そんなものじゃ何も守れない。ただ何かを壊す事しか出来ない!」

「そんな事無い!この計画を成功させれば、大勢の命が―――」

「その大勢の為に一体どれくらいの人間が死ぬんだよ!!」

「うあ!?」

斬り上げられ、大きく下がらされる。

「お前がフィーネの器として焦るのは仕方ないかもしれない。だけど、その為に他の何かを犠牲にしようだなんて間違ってる・・・」

「じゃあ・・・じゃあどうすればいいんデスか!?フィーネの魂に塗り潰されて、アタシがアタシじゃなくなっちゃうこんな状態に、アタシはどうすればいいんですか!?」

「もっと別の方法で覚えてもらえばいいだろ!?写真やビデオ、あるいは思い出のもの。そんなものを沢山作って、沢山やって、思い出を作っていけばいいだろ!」

「それが出来たら、苦労しないデスよ!!」

涙を流して、切歌は鎌を振るう。

「もう、これしかないんデス!人類を救うためには、これしか・・・!!」

「誰かを見捨ててか!?他の誰かを見捨てて、自分たちで選んだ相手だけを救うっていうのか!?そんなのが本当の人類救済なのかよ!?」

「全ての人類を救うなんて、そんなの傲慢デス・・・そんな事が出来るって思ってる奴が、アタシは一番嫌いデス!」

「じゃあお前は調の事も嫌いなのか?」

「そ、それは・・・」

激しく切り結ぶ中で、切歌の動きが鈍る。

「確かに全ての人類を救う事は傲慢かもしれない。それでも俺は、世界中の誰もが愛と平和を抱いて行ける世界を創っていきたいと願っている。愛と平和は、俺自身がもたらすものじゃない。一人一人が胸に抱いて行ける・・・そんな世界を、俺は創る・・・その為に俺は戦う!!!」

切歌の鎌をさらに押し込む。

「・・・どうして」

切歌は、どうしてもその言葉を受け入れられなかった。

「どうして、そんなことをなんでもないように言えるんデスか!?」

その問いかけに、ビルドはすぐに答える。

「俺が、それを信じているからだ!」

二人はさらに、ぶつかり合う――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――私たちが初めて会った時は、確か色々と最悪だったな」

突然、そんな事を言い出す翼。

「なんだよいきなり・・・」

「いや、少し昔を思い出してな。思い出してみれば、私もお前も、櫻井女史が作った力で戦っていたなと思って」

「それがどうしたんだよ?」

「少し似てないか?桐生と万丈に」

「はあ?」

突拍子のない話に、クリスは呆れかえる。

「桐生も万丈も、敵によって力を与えられた者同士。そして私たちもまた、櫻井女史(フィーネ)という黒幕によって力を与えられた者同士だ。ほら、似ているだろう?」

「だからと言って、なんでそんな話を・・・・」

「・・・ソロモンの杖を取り戻すために、敵の所に単騎乗り込もうとしているんだろう?」

「・・・!?」

それを指摘されて、クリスは一瞬目を見張り、そしてすぐに顔を反らす。

「やれやれ、桐生の推測は的中していた訳だ」

「・・・!?あの先公が!?」

「ああ」

翼は頷いて見せる。

 

 

それは、海上に出撃する前の事。

「翼」

戦兎が、走りながら話しかけてくる。

「なんだ?」

「おそらくクリスは、ソロモンの杖の事について、色々抱えてるはずだ。たぶん、勝手に一人で敵陣に乗り込むだろうな」

「なんでそんな事が?」

「自分でなんとかしようとして、一人で突っ込んじまう所が万丈と似てんだよアイツは。だから分かるんだ。アイツの考えてる事が」

 

 

「そんな事を・・・」

「お前も存外、一人で色々と抱え込んでいるんだな」

「ッ・・・」

翼の言葉に、クリスは目をそらす。

「・・・・暖かすぎんだよ・・・」

「ん?」

「アタシには・・・あそこは、暖かすぎんだよ・・・」

クリスは、絞り出すように話し出す。

「アタシがソロモンの杖さえ起動しなけりゃ、こんなに人が死ぬ事もなかった。誰かが苦しむ事もなかった・・・全て、アタシが撒いた種だ。だから、その責任を・・・」

「そうか・・・でも、だからと言って一人で行くのは感心しないな」

翼の言葉に、クリスは何も言えない。

「もっと私たちを頼ってくれ。もし他の者たちではだめなら、せめて私が手伝ってやる。それが、片翼では飛べぬと知る私の、先輩として風を吹かせる者の果たすべき使命だ」

一人では何もできない。それは、響や龍我、戦兎と出会って思い知った真実だ。

(そうだったよね。奏・・・)

そう、きっと、周りの人間が助けてくれる。自分のやろうとする事を、助けてくれる。

それを、知っている。

「ッ・・・」

「私は、そんなに頼りないか?」

「・・・それでも・・・アタシは・・・」

クリスは、目をそらしたまま、それでもなお渋る。

しかし翼は、そんなクリスに言って見せる。

「帰りたくないといっても、首根っこ掴んでても連れ帰ってやるからな」

「・・・強引だな」

「そうさ。私は強引でお前の先輩で防人を自称しているトップアーティストだからな」

「・・・ぷっ、なんだよそれ、あの先公の真似か?」

「かもしれない。どちらにしろ、お前を連れ戻すというのは本気だ。どこにいても、どんな事になっても、私はお前を連れ戻してやる。だから、どうか私を頼って欲しい」

「ほんと、強引なのかそうじゃないのか、よくわかんない人だな・・・」

クリスは、仕方がない、とでも言うようにそう呟いて、翼に近付く。

そして、すぐにでも触れそうな距離で言う。

「じゃあ、頼りにさせてもらうぜ」

「ああ、頼りにされた」

二人は、そう笑い合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――幾億の歴史を超えて この胸の問いかけに応えよShin!」

 

響の歌が響く。

それと同時に、未来のバイザーが閉じ、二人同時に飛び上がる。

そして空中で激しくぶつかり合う。

響が拳をぶつければ未来は鉄扇によってそれを防ぎ、未来が鉄扇を振るえば響はそれを躱す。そのまま落下していき、距離と取って着地する。

その間、響の体温が急上昇する。

(熱い・・・体中の血が沸騰しそうだ・・・)

その最中で、響はビルドから言い渡された作戦を思い出す。

 

 

 

 

『―――奴らがどうして未来にあのギアを纏わせたのか。その理由は、それを使わなきゃどうしても出来ない事があるからだ』

「どうしても出来ない事?」

『そうだ。それが一体なんなのか分からないが、どちらにしろ奴らは未来の放つあの光線を何かしらの形で利用する筈だ。お前は、戦いの中で出来るだけのその光線を出させるんだ。おそらく奴らは、それを漏らすことなく搔き集めるはずだ』

「そんな事が可能なのか?」

弦十郎の言葉に、ビルドはすかさず答える。

『神獣鏡は鏡の聖遺物だ。だからあの光線は外部からの光を収束させて放つ。その為、鏡と同じ性質のものに反射する筈だ。だから、敵はその為の何かを使うはずだ』

「それを利用して、響ちゃんのガングニールと、未来ちゃんの神獣鏡を取り除くっていうの?」

『あの鏡が聖遺物由来の力を分解するなら可能な筈だ』

ビルドは、言う。

『今を逃せば、響は絶対に助からない・・・今しかないんだよ!未来も響も助ける方法が、これしかないんだ!だから頼む風鳴さん、響を出撃させてくれ!』

「しかし・・・」

渋る弦十郎。

「私、やります!」

響が弦十郎に言う。

「私が未来を連れて帰ります!例え死んでも必ず!」

「死ぬのは許さん!」

「だったら、死んでも生きて帰ってきます!これは絶対の絶対です!!」

響の必死さに、弦十郎は思わず気圧される。

そんな中、藤尭がある数値を出す。

「過去のデータと、現在の融合深度から計測すると、響さんの活動限界は二分四十秒となります!」

それは、藤尭が導き出した、響が戦える時間。

「例え微力でも、私たちが響ちゃんを支える事が出来れば、きっと・・・」

友里からの願い出。

それに弦十郎は、響にもう一度訪ねる。

「オーバーヒートまでの時間は、極限られている・・・勝算はあるのか?」

「思い付きを数字で語れるものかよ!!」

響は、弦十郎にそう言ってのけた。

 

 

 

 

 

 

 

タイムリミットは二分四十秒。それまでに、未来を救い出す。

必ず――――

響が拳を叩き込み、すかさず蹴りを二発入れる。しかしすかさず未来が鉄扇を突き出し、防いだ響を弾き飛ばして壁に叩きつける。

そしてすぐさまギアの帯で響を滅多打ちにする。

 

この任務、失敗すればどちらにしろ響が死ぬのは確実。

 

(死ぬ・・・私が・・・)

未来に叩きのめされる。しかし――――

胸のガングニールに侵食で、死ぬ事になっても、この想い、この拳が、どうして死ぬと言えるだろうか。否―――むしろ、死ねない。

「死ねるかぁぁぁああぁぁああぁああ!!」

叫び、脚部のアンカージャッキを叩き起こす。

帯を弾き飛ばすと同時にジャッキを叩きつけて飛び出し、未来に膝蹴りを叩き込んで上空へ弾き飛ばす。

すかさず未来の『流星』が放たれ、それを響が飛び躱し、先ほどまでいた駆逐艦に『流星』が炸裂、爆発する。

すかさず未来が無数の丸鏡を展開、そこからあの聖遺物分解の光線が放たれる。

 

混沌

 

(来た・・・!)

響は、それを足のパワージャッキによる空気を蹴り込む事で空中歩行し、躱す。

無数に放たれるそれを、響は全力で躱していく。

その上空では、シンの操縦する飛行機にて、マリアがシャトルマーカーを射出、そのまま操作し、未来の放った混沌を反射、収束させようとする。

 

残り、二十五秒―――響の体を、ガングニールが侵食し、体外にもその結晶が突き破ってくる時間―――

 

 

「―――戦うなんて間違ってる」

戦いながら、未来は、自分に言い聞かせるように呟く。

「戦わない事だけが、本当に温かい世界を約束してくれる―――」

それは、ウェルの組み込んだダイレクトフィードバックシステムによってもたらされた、未来の歪まされた思想――――

「戦いから解放してあげないと―――」

 

―――であるならば、なんで私は響と戦っているの?

 

響の体から、結晶化した聖遺物が突き破ってくる。

「ぐ、ぅ、あぁぁああぁああ!?」

体中を走る激痛。それに声を挙げながらも、響は歯を食いしばって耐える。

「―――違う」

未来が、気付く。

たった一つの矛盾が、未来の思考を破綻―――洗脳が、解ける。

「私がしたいのはこんな事じゃない――――!!」

響を戦わせたかった訳じゃない。響を苦しませたかったわけじゃない。

「こんな事じゃ、ないのにぃ―――!!」

システムと、本来の意志の矛盾によって引き起こされる、正気への引き戻し。

今起きている事態に、未来は、絶望し涙を流す。

今もなお蝕むガングニールの侵食に耐え、響は、一気に未来に向かって突っ切る。

(誰が未来の体を好き勝手してるんだ―――!!)

よくも、自分の大切な親友を、こんな目に遭わせてくれたな。一体、どこのどいつだ。

この落とし前は、高くつくぞ。その顔面に、拳を叩き込んで、絶対に未来に土下座させてやる。

そんな怒りを心の中で燃え上がらせて、響は、一気に未来に飛び掛かる。

そしてそのまま抱き着き、それと同時に未来の鏡が全て砕け散る。

「―――離して!!」

未来が拒絶する。

「―――嫌だ!!」

響が、叫ぶ。

「離さない!もう二度と離さない!!」

もう、あんな想いはしたくないから――――この手を、絶対に離しはしない。

「響ぃぃぃぃぃいいぃぃいい!!」

「離さない―――――ッ!!!」

光が、収束する―――それを見た響がすぐさまその軌道上へ向かって飛ぶ。

「そいつが聖遺物を消し去るっていうんなら―――」

放たれる、一条の光―――

 

「こんなの脱いじゃえ!未来ぅぅぅぅぅぅぅううぅうう!!!」

 

絶叫と共に、響と未来が、その光に飲み込まれる――――

 

 

 

 

 

 

光が、海の一点に向かって一気に照射される。

 

 

 

 

それが消えた瞬間、さらに強い光の柱が立ち上る。

 

 

 

 

その光が消えた瞬間、そこから、巨大な石造の建物が出現―――否、それは建物だけではなかった。

 

それは―――島。

 

それは―――島に見える船―――

 

 

 

「なんだよ、あれ・・・!?」

「あれが、F.I.Sが探していたものだとでもいうのか・・・!?」

クリスと翼がそれに目を見張り。

「いくらなんでもでかすぎんだろ」

クローズがその巨大さに驚き。

「これが・・・フロンティア・・・!!」

ビルドが、それの名を呟く。

 

 

 

 

それこそが、彼らの求めていた『フロンティア』と呼ばれるもの。

 

 

 

その本来の名は―――『鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)

 

 

 

「あれが、フロンティア・・・」

「・・・・」

その出現は、調とタスクにも見えていた。

調はその大きさに圧巻を示し、タスクは、それを見て、一つの決意を固める。

「調」

「何?慧くん」

「お前はこのまま二課に行くんだ」

「え・・・」

調が何かを言い返す前に、タスクは調を抱える。そのまま甲板の隅へ。

「待って・・・どうしてそんな事言うの!?どうして、そんな事・・・」

「これから皆がやろうとしている事を伝えるんだ。そして―――二課と一緒に、俺たちを止めてくれ」

タスクは、甲板の隅、海が眼下に広がる場所まで来ると――――

「待って・・・お願い!慧くん、待って―――!!」

「お願いしますッ!!」

そのまま調を海へと投げ出した。

「慧くんッ!!」

調を、思わず手を伸ばすも届かず、そんな調を空中で受け止める者がいた。

 

緒川だ。

 

緒川は、調を受け止めると一度タスクの方を見る。タスクは、真っ直ぐに緒川を見ており、緒川はその視線に頷き、調を抱えて海面に着地、そのまま走り抜ける。

「慧くん・・・!」

調は甲板の上に立っているタスクを見る。

タスクは、調が二課に保護されていく様を見届けると、すぐに踵を返してある場所へ走り出す。

いくつかの艦艇を飛び越えて向かった先は―――切歌とビルドのいる場所。

ビルドと切歌は、激しく切り合っていた。

その間に、タスクが割って入る。

「おぉぉお!!!」

「「ッ!?」」

突然の乱入者に驚く二人。そのままタスクは踵落としをすると、二人はそれぞれ左右に分かれ、タスクはビルドを追撃。

「切歌!下がるぞ!」

「え!?」

突然のタスクの提案に、切歌は戸惑うも、それでもなおタスクはビルドへの攻撃をやめない。

「万丈の奴、成功させたのか・・・!?」

「ええ、お陰さまでね!」

そう言ってタスクはそのままビルドを甲板の縁にまで追い詰める。

「うお、うおおおおお!?」

縁に立たされてバランスを崩すビルド。

「すみませんが落ちていて下さい!」

そのまま、そのビルドの足を払い、海に落とす。

「そんな馬鹿なぁぁぁぁああぁぁぁ・・・・・!?」

 

「・・・よし」

「いや何がデスか!?」

きらーんとガッツポーズをとって見せるタスクに突っ込みを入れる切歌。

「そんな事より、さっさと戻ろう」

「あ、あの、慧介。本当に慧介なんデスよね?」

「今まで迷惑をかけてごめん。もう大丈夫だから」

タスクのその返しに、切歌は思わず目元に涙を滲ませる。

「もう、遅いデスよ・・・!」

その様子にタスクは仮面の奥で微笑み、すぐに駆け出す。

「さあ、行こう。どちらにしたってここからが本当の戦いだ!」

「はいデス!」

切歌を連れて、タスクは、飛行船に戻っていく。

 

 

 

その様子を、海面に座り込みながら見送るビルド。

「・・・一応、懸念は一つ解消って所か」

「桐生ー!」

「おーい馬鹿先公!」

「ん?」

そこへ、海面を足のブースターによってゆっくりとやってくる翼とどこかで拾ったゴムボートに乗って翼に引っ張ってもらっているクリスがやってくる。

「大丈夫か?」

「ああ。怪我はない」

「なら良かった。すぐに本部に戻るようにとの事だ」

「分かった。すぐに行く」

「・・・おい、なんで通り過ぎちまうんだよ!?」

「すまない。止められないんだ・・・」

「はあ?意外な所で使えねえな・・・」

「すまない・・・」

「べつにいいよ俺が動けばいいだけの話だし。そういえば、響と未来は?」

「もうとっくに救助されている。二人とも無事だ」

「なら良かった」

翼の言葉に、戦兎は胸を撫でおろす。

 

二つの懸念を解消し、残るはフロンティアとジェームズの野望のみ。

 

 

 

ついに、最終決戦へと突入していく―――

 




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「本当に大丈夫なのか?」

ついに暴走を克服した慧介。

「ありがとう、未来」

未来を無事取り戻し、喜ぶ二課の一同。

「ウェヘヘ・・・早く動かしたいなぁ・・・ちょっとぐらいいいと思いませんか?」

だが、そうしているのも束の間。

「な、なんだぁ!?」

ウェルの凶行により、フロンティアが浮上。そして、最悪な事態に―――

「任せておきな」

それを察知し、動く二課。そして―――

「貴方が、月読調さん・・・?」

次回『蘇るメモリー』

「・・・胸の歌を、信じなさい」


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蘇るメモリー

作「十二月二十一日土曜日・・・即ち今日真夜中だけど―――祝え!!全ライダーの力を受け継ぎ、過去を未来をしろしめす時の王者にして、平成最後の仮面ライダー、その名も『仮面ライダージオウ』!そして、令和最初にして、飛電インテリジェンスの社長の仮面ライダー、その名も『仮面ライダーゼロワン』!!その二人のライダーが出会う、令和最初のジェネレーション映画が公開される!その名も『仮面ライダー 令和 ザ・ファースト・ジェネレーション』!まさに祝福の瞬間である!!」
戦兎「ついにジオウが令和の仮面ライダーと出会うのか・・・」
作「ついでに!昨日、遥か彼方の銀河。そこで繰り広げられる光と闇の戦い。その完結編がついに公開された!その名も『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』!!まさに祝福の瞬間である!!」
翼「おい。なんでそこで仮面ライダーと全く関係のないスター・ウォーズを出す!?」
ク「なんというか、結構気になる作品なんだと」
作「さらに!」
響「まだやるんですか!?」
作「最高のヒーローを目指す少年が、最高のヒーローに至る物語!その映画第二弾がスター・ウォーズと共に公開された!その名も『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング』!!まさに祝福の瞬間である!」
龍「ついに実写からアニメに変わっちまったよ!?」
セ「なお、これら全ては今やってる映画で作者が見たいと思う映画全部です。コメントでネタバレはやめてくれると嬉しいです」
作「そして―――」
戦「もういいわァ!」ドロップキック
作「ふげあ!?」
戦「ハア・・・ハア・・・の、ノイズが蔓延る新世界にて、天才物理学者にして仮面ライダービルドこと桐生戦兎は、二課の仲間たちと共に、ノイズと戦う日々を送っていた!」
未「そして、不覚にも敵のシンフォギア装者となってしまった私を救うため、響が体を張って私を救ったのでした。しかし、それによって敵であるF.I.Sの目的であるフロンティアを起動させてしまったのです」
翼「作者の暴走から始まってしまったが、とにかくシンフォギア・ビルド、その第三八話をどうぞ!」


「本当に大丈夫なのか?」

シンが、慧介に向かってそう尋ねる。

「ああ、今まで心配をかけてごめん」

「そうか・・・」

いつもの慧介の言動に、シンはほっと息を吐く。

「・・・マリアは?」

「・・・」

慧介がそう尋ねると、シンは気まずそうに視線をそらす。

「・・・ウェル博士のやり方に賛同し、結果、あの有様だ」

「・・・そっか」

「すまない。俺が不甲斐ないばかりに・・・」

「シンが気にすることじゃないよ。俺も色々と迷惑かけたからさ」

「・・・そうか」

慧介の言葉に、シンはそう返す。

「どちらにしろ、俺たちだけでやれる事は少ない。だからもう、俺たちはあの人たちに頼るしかない・・・」

「だから調を二課に保護させたのか」

「軽蔑するか?」

「いや・・・賢明な判断だ」

もはや、事態は彼らだけでは止められない事態になりつつある。

未だシンの元にはルインドライバーは戻らず、慧介のスクラッシュドライバーは従来の四倍の負荷が掛かる仕様となっている。

だが、今の慧介はそれを克服してみせている。

「・・・少し見ない間に、随分と大きくなったな」

「まだシンには敵わないよ」

「そんな事はない。俺は結局、マリアを止める事が出来なかったんだからな」

シンは自虐するように笑う。

そんなシンを、慧介は心配そうに見上げる。

そこへ。

「いやあおめでとう慧介」

「「ッ!?」」

その声に、二人は思わず身構える。

ジェームズだ。

「そんなに警戒するな」

「うるせえよ。お前のせいで散々な目にあったんだぞ」

慧介が軽蔑の眼差しでジェームズを睨みつける。

「ふん、たかだか私の駒の分際で言ってくれる」

「お生憎様、俺はあんたの駒になるつもりはないぞ」

「ふん、言っているが良い。どちらにしろ桐生戦兎と万丈龍我を殺してくれればそれでいい。それが出来ないようなら今ここで死ね」

なんとも直球に言ってくれる。

「どちらにしろ。ビルドにはハザードフォームがある。それを攻略しない限りは到底不可能だろうな」

「ふん。この際、貴様らには何も期待などしない」

「なんだと?」

ジェームズが踵を返す。

「もう既に桐生戦兎を殺す算段は出来ている・・・!」

ジェームズがそう言い、さっさと出ていってしまう。

「・・・算段が出来ているって、どういう事だ?」

「さあな・・・だが、どちらにしろ俺たちに出来る事は、この戦いを見守る事だけだ」

「あー・・・その事なんだけどさ、シン」

「ん?」

慧介は、シンにある事を伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仮説本部の潜水艦内にある、戦兎の研究室として割り当てられた部屋にて。

「・・・よし」

そう呟いて、戦兎は最後のパーツをクロに戻す。

「もういいぞ」

「キューイ!」

クロが、元気を取り戻したかのように飛び回る。

「クロちゃん、元気になったようですね」

「ああ」

別の机では、セレナがフルフルラビットタンクフルボトルの修復作業を行っていた。

「これから未来の所に戻る所だ。お前も一旦休憩にしておけ」

「分かりました」

戦兎が立ち上がると同時に、セレナもうなずいて戦兎に続く。

その前をクロが飛ぶ。

そんな中で戦兎は考える。

(しかし、クロはどうして、未来のギアに対して有効なボトルを見分けられたんだ?)

あの咄嗟な状況で、正確に有効なボトルを導き出した。こちらには、なんの事前情報もなかったのにだ。

まるで、初めから知っていたかのような行動だった。

ダイヤモンドの特性として、光を屈折させるという効果がある。

その効果で鏡を創り出し、そしてその特性を利用して神獣鏡の光を弾き飛ばしていた。

ただ元がダイヤだったために完全反射には至らず、背後へ拡散させてしまったわけだが。

(それに、クロを修復させる過程で、変なものもあったしな・・・)

一部のパーツに融合していた、謎の物質。

時間がなかったために詳しくは調べていないが、おそらくあれがクロが本物の動物のように動くようになった理由だ。

後で調べるとしても、とにかく今は――――

 

 

 

 

医療室(メディカルルーム)にて、未来は一人、そこにいた。

そんな時に、医療室の扉が開き、そこから響とクロが駆け入ってくる。

「未来!」

「キュル!」

その後ろから、翼、クリス、龍我、戦兎、セレナが入ってくる。

そんな中で響は未来に抱き着き、クロは未来の頬に自分の頭をすりよせる。

「小日向の容態は?」

「LiNKERの洗浄も完了、ギア強制装着の後遺症も見られないわ」

その報告に、響とクロは心底嬉しそうにする。

「良かったぁ、ほんとに良かったぁ!」

「キュールルールルールルールルッ!」

そんな中で、未来は響の顔にある絆創膏などに気付く。

「響・・・その怪我・・・」

それは、未来がギアを纏っていた時につけた傷だ。

「うん」

「私の・・・私の所為だよね・・・」

親友を傷つけてしまったことに、思わず涙を流す未来。

「うん、未来のお陰だよ」

「え・・・?」

しかし、響から出たのは彼女を責める声ではなく、感謝の言葉だった。

「ありがとう、未来」

何故、お礼を言うのか。

「響・・・?」

「私が未来を助けたんじゃない。未来が私を助けてくれたんだよ」

訳が分からない。一体、何故、どうしてなのか。

「友里、あれを出してやれ」

「はいはい命令しないで」

戦兎の言葉に友里は呆れながらも、モニターに一枚の画像を表示する。

それは、響のレントゲン写真である。

「これ・・・響・・・?」

「あの聖遺物には、聖遺物を分解・無力化する効果があってな。その光を利用して、お前からギアを引き剥がすと同時に、響の中のガングニールの欠片も除去したってわけ。いやぁ、この作戦思いついた俺さっすがー!」

「って、お前なのかよ!?」

「ブレないな相変わらず」

「全く。呆れる程のナルシスト野郎だな」

「ですね」

相変わらずの戦兎の言動に回りは呆れる。

「つまり・・・」

「小日向の強い思いが、死に向かって疾走するばかりの立花を救ってくれたのだ」

「ま、そういうこったな」

「私が本当に困った時に、やっぱり未来は助けてくれた。ありがとう!」

「私が、響を・・・」

そう思うと自然と嬉しさがこみ上げるも、その反面、申し訳なさが出てくる。

何故なら、響はもう―――

「でもどちらにしろ、F.I.Sはフロンティアってのを浮上させた訳だろ?」

「ああ、本当の戦いはこれからってことだ」

「何、そんなもの、私と雪音、それに桐生と万丈がいれば問題ないだろう」

そう言って見せる翼。

「あ、戦兎さんは出撃するのは少し待っててくれませんか?あともう少しでフルフルボトルが直りそうなので」

「それだけでも上出来だ」

セレナの頭を撫でる戦兎。

「えへへ・・・」

「・・・・むう」

それを面白くなさそうに見る翼。

「なんだ?嫉妬してんのか?」

「な、なにを言ってるんだ!?」

「ん?どうした?」

「ん?ああ、実はコイツgむご!?」

「ななななんでもない!なんでもないからな!」

「お、おう・・・?」

何故か必至な翼に首を傾げる戦兎。

「ふふ・・・あはは・・・!」

その様子に、未来は思わず笑ってしまうのだった。

 

 

 

 

フロンティアにある通路にて―――

「着きました」

マリア、シン、慧介、切歌、ナスターシャ、ウェル、ジェームズの七人が、フロンティアのとある一室にやってきていた。

「ここがジェネレータールームです」

ふるぼけたその空間の中央には、巨大な球体の何かがあった。

「なんデスかあれは・・・」

切歌がそう呟く傍ら、ウェルがそれに近付いて、もってきていたケースからネフィリムの心臓を取り出す。

「へっ」

そしてそれを球体に取り付ける。

すると球体が突如として輝きだし、謎の模様を描き出す。そして上の固定器が持ち上がり、光はさらに強まる。

そして、周囲の水晶に、光の粒子が迸る。

「ネフィリムの心臓が・・・!」

「心臓だけとなっても、聖遺物を喰らい、取り込む性質はそのままだなんて・・・卑しいですねえ・・・ふひひひ・・・」

 

 

外では、フロンティアに緑が生い茂り始める。それは、フロンティアが起動したという証拠ともいえる。

 

 

「エネルギーが、フロンティアに行き渡ったようですね」

ナスターシャがそう呟く。

「さて、僕はブリッジに向かうとしましょうか。ナスターシャ先生も、制御室にて、フロンティアの制御をお願いしますよ」

そう言って、ウェルは向かう。

その輝きを見つめて、切歌は、調に言われた事を思い出す。

 

『ドクターのやり方では、弱い人たちを救えない』

 

「そうじゃないデス・・・フロンティアの力でないと、誰も助けられないデス・・・調だって助けられないんデス!」

そう、言い聞かせるように切歌は叫ぶ。

「切歌・・・」

そんな様子の切歌に、慧介は心配そうに見て、シンは―――

(どうする・・・桐生戦兎・・・)

そう、思うのだった。

 

 

 

 

 

 

米国の艦隊の第二陣がやってきた事。

それでもってフロンティアが起動した事を受けて、戦兎たちは指令室に来ていた。

未来も一緒である。

「まだ安静にしてなきゃいけないじゃないか」

「ごめんなさい。でも、いてもたってもいられなくて・・・」

「自分がやった事だからどうしてもだと」

戦兎が仕方ないように言う。

「あれは君の責任ではないのだがな・・・」

「まあどちらにしろ、響が戦線から抜けたんだ。ついでにタスクがまともに戦えるようになったから敵にとってはウィンウィンな結果だな」

「んな事軽く言ってる場合か」

戦兎の言い分に突っ込みをいれるクリス。

「大丈夫ですよ。何故ならこの天才物理学者の助手がすぐにビルドの強化アイテムを作ってみせますから」

「アハハ・・・セレナちゃんも戦兎先生みたくなってる・・・」

もはや呆れるしかない。

「フロンティアへの接近は、もう間もなくです!」

そこで、藤尭がそう報告を上げ、モニターには、浮上したフロンティアの映像が映っていた――――

 

 

 

フロンティア・ブリッジ――――

 

そこに昇降盤を使ってやってきたのは、ウェル、マリア、シンの三人。

「ここがブリッジ・・・」

その中心には、ジェネレータールームになったものと、サイズは小さいが同じような球体があった。

その前にウェルが立つと、あるものを取り出した。

「それは?」

「LiNKERですよ」

そういうと、ウェルは左手の袖を捲る。

「聖遺物を取り込む、ネフィリムの細胞サンプルから生成したLiNKERです・・・」

そして自分の左腕にそのLiNKERを注入した。

すると左腕が黒く変色、肥大化、変形し、異形の腕へと変わってしまう。

そして、その左手で目の前の球体に触れた。

すると、端末が光り出す。

「ウェヘヘ・・・早く動かしたいなぁ・・・ちょっとぐらい良いと思いませんか?」

「なんだと?」

「ねえ?」

すると、目の前の石板にある映像が映し出される。

それは、米国からの増援艦隊―――

それを見て、ウェルはその口角をさらに吊り上げる。

 

 

 

その一方、制御室では、ナスターシャが一人、フロンティアに記録されているデータを調べていた。

(フロンティアが、先史文明期に飛来したカストディアンの遺産ならば、それは異端技術の集積体。月の落下に対抗する手段もきっと・・・)

その時、ナスターシャの目の前にある柱型の水晶にある映像が映し出される。

「これは・・・!?」

『どうやら、のっぴきならない状況のようですよ?』

どこからともなくウェルの声が聞こえてくる。

『一つに繋がる事で、フロンティアのエネルギー状況が伝わってくる・・・これだけあれば、十分にいきり立つ・・・』

何やら、良からぬ事を考えている様子のウェル。

その行動を察したナスターシャはすぐさま制止の声を挙げる。

「早すぎます!ドクター!」

『さあ、行けぇ!』

ウェルがそう声を発すると同時に、フロンティアが動き出す。

 

 

 

フロンティア中心の石造から三本の光が放たれる。それが天に向かって立ち上る最中で纏まっていき、やがて一本の手を形成。

そしてそのまま――――()()()()

 

 

「どっこいしょぉぉぉぉお!!」

そして次の瞬間、その手が月を引き寄せ―――その力でフロンティアが一気に浮上する。

 

 

 

「ドクターの欲望の暴走・・・手遅れになる前に、私の信じた異端技術で阻止して見せる・・・!!」

制御室にて、ナスターシャはすぐさま端末を忙しなく操作する。

 

 

 

そして、その影響は海中にまで。

突然の海流に二課の潜水艦は大きく揺れていた。

「うわわわわわ!?」

「な、なんだぁ!?」

「広範囲にわたって海底が隆起!我々の直下からも迫ってきます!」

「おいそれってまさか―――」

戦兎が言い終える前に、とてつもない衝撃が彼らを襲う。

 

潜水艦の直下にて、まさしくフロンティアの一部が激突していた。

 

それでもって艦内なのだが。

「うわあ!?」

「え?ふごあ!?」

衝撃によって跳ねたクリスがそのまま龍我に激突し、もつれあうかのように倒れる。

「う、お、あぁあ!?」

「え?うわぁあ!?」

一方揺れに耐えきれなかった戦兎も翼に向かって倒れ込む。

そうして揺れが収まった時だった。

「ん・・・んん・・・いってて、なんだったんだよ一体・・・ん?」

倒れたクリスはどうにか体を押し上げる。しかしそこで自分の胸に何かがのしかかっている事に気付いて見下ろしてみれば―――

 

龍我が胸に顔をうずめていた。

 

その一方、戦兎の方は―――

「いったた・・・すまない翼、バランスを崩しちまった・・・ん?どうした?」

「あ・・・ああ・・・」

一方の戦兎は体を起こして見せれば、すぐ眼下に翼がこちらを見つめていた。

だが、その顔はりんごのように真っ赤で、耳の先まで真っ赤っかなのである。

「ん?翼、おーい・・・」

「は、はう・・・」

「え?ちょ!?なんで白目向いてんだ!?おい、翼!?どっかぶつけたりしたのか!?翼ー!?」

 

まあ、龍我の場合はクリスが倒れた事によって押し付けられてしまったという理不尽なのだが―――

 

「う、うわぁぁああぁぁあぁああ!!!」

「ふげあ!?」

「翼ぁぁぁあ!目を覚ませぇぇええ!!」

「きゅう・・・」

 

まあ、ご察しの通りである。

 

 

 

 

そして、一方のフロンティアは――――空中に浮いていた。

 

それは見事なまでの浮遊である。

そのブリッジには、そんなフロンティアに向かって艦砲射撃を行っている米国艦隊の姿が映っていた。

「楽しすぎて眼鏡がずり落ちてしまいそうだ・・・」

ウェルがさらにフロンティアを操作。

するとフロンティア下部にあるオブジェクトが光り出し、その瞬間、海上の艦船が突如として浮き上がる。

そして次の瞬間、何かに握りつぶされたかのようにへこみ潰れ、最後には爆発を引き起こした。

それだけで一気に艦隊は全滅した。

「んー、制御できる重力はこれぐらいが限度のようですねぇ・・・」

嗤うウェル。

(これが人類を救済する力だと?これではただの殲滅兵器じゃないか・・・)

その脅威さにシンは冷や汗を流す。

「ついに手に入れたぞ。蹂躙する力ァ・・・!これで僕も、『英雄』になれるゥ!!この星のラストアクションヒーローだぁああ!!ウェヘヘヘ!!やったぁぁああ!!!」

仰け反って、ウェルは大いに喜んだ。

 

 

 

 

二課潜水艦にて。

「・・・・・」

顔に大きな手形の痕を作って不機嫌そうにしている龍我と、顔を真っ赤にして戦兎から顔をそらしてその場にへたり込んでいる翼を他所に、指令室では状況確認を急いでいた。

「下から良いのを貰ったみたいだな・・・」

「計測結果が出ました!」

「直下からの地殻上昇は、奴らが月にアンカーを打ち込む事で―――」

「フロンティアを引き上げた!?」

「おい、待て、それってまさか――――」

戦兎がそれを聞いて顔を青ざめさせる。

 

 

 

 

「行き掛けの駄賃に、月を引き寄せちゃいましたよ」

ウェルがなんでもないとでもいうように言って見せる。

それに、マリアとシンの表情が強張る。

「月を!?」

「落下を速めたのか!?」

それを聞いたマリアがウェルを押し退けコンソールに触れる。

「救済の準備はまだ何も出来ていない。これでは本当に、人類は絶滅してしまう・・・!!」

しかし、マリアの操作をコンソールは受け付けない。

「どうして・・・どうして私の操作を受け付けないの!?」

「ウェヘヘ・・・LiNKERが作用している限り、制御権は僕にあるのです。人類は絶滅なんてしませんよ。僕が生きている限りはね」

そう当然のように言って見せるウェル。

「それが僕の提唱する、一番確実な人類救済方法です」

「ふざけるな貴様!そんな救済方法などあってたまるか!」

「ならばどうします?貴方には全人類を救う手立てがあるとでも!?」

「月の落下を阻止すればそれだけでいい筈だ!なのに何故人類を逆に減らすような事をする必要がある!?」

「それじゃあ僕が好き勝手出来ないだろう!僕が英雄にならない世界など、滅んでしまえばいい!」

「ふざけるな・・・私は、そんな事の為に悪を貫いてきた訳じゃない!」

マリアがウェルに掴みかかろうとするが、ウェルがそれを左手で叩き弾く。

「マリア!」

「ここで僕を手にかけても、地球の余命があと僅かなのは変わらない事実だろ?ダメな女だなあ」

倒れ伏すマリアをウェルが嘲笑う。

「フィーネを気取ってた頃でも思い出して、そこで恥ずかしさに悶えてな」

「セレナ・・・セレナ・・・私は・・あ・・あぁぁあ・・・!!」

もはや変えようのない事実に、マリアはそこで一人打ちひしがれる。

「そこで気のすむまで泣いてなさい。帰ったら、僅かに残った地球人類をどうやって増やしていくか、一緒に考えましょう」

ウェルはそう言ってブリッジを出ていく。

そこには、床に倒れて嗚咽を漏らすマリアと、ただ他者に運命を委ねなければならない事実に拳を握りしめるシンの姿しかなかった。

(最後の希望は・・・)

その最中で、シンは、おそらくこの状況を覆せるであろう男の事を思い出す。

(お前だ・・・桐生戦兎・・・)

 

 

 

二課本部にて。

ライダースーツに身を包んだ翼とクリス、そして龍我が並び立つ。

「翼、クリス君、龍我君、行けるか?」

「無論です」

「任せておきな」

クロは、未来と離れるのが惜しいのか、未来の側にいる。

「キュル・・・」

「私はもう大丈夫だから、龍我さんの力になってあげて」

「・・・キュル!」

その言葉にクロは力強く頷いて、龍我の元へ。

「よし、行くか」

「あ、あの・・・」

そんな中で、響が声をかけようとすると、三人は笑って返す。

「案ずるな。私だけじゃない。雪音や万丈もいる」

「お前は安心してここにいろって」

「あとの事は俺たちに任せろ。お前も早く来いよ」

「ああ、分かってんよ」

戦兎は、セレナがフルフルラビットタンクボトルの修復が終わるまで動けない。

今回の戦い。アレ無しではおそらく戦いきれないからだ。

彼らが向かっていく様子を、響は見送る。

 

 

そして、潜水艦の格納庫の扉が開き、そこから翼とクリスがバイクに乗って、クローズイチイバルになったクローズが足のホイールを使って飛び出す。

それと同時に、翼とクリスが同時に聖詠を唄う。

 

「―――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)――」

 

「―――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)―――」

 

そしてすぐさまその身を蒼天の装束、紅蓮の装束へと変えた二人は、そのままフロンティアの大地を駆け抜ける。

その前方には、ノイズ―――

「行くぞ雪音!」

「おう!」

翼が足のギアを変形、クリスが腕のギアを変形させ、バイクの前方に巨大な刃を、その手にボウガンを展開する。

そして、その刃によって向かってくるノイズを切り払い、撃ち漏らしそうになったノイズをクリスが狙い撃つ。

そのまま一気にノイズを殲滅していく。

 

騎刃ノ一閃

 

QUEEN's INFERNO

 

「よっしゃあ!俺も負けてられねぇぜ!」

クローズもブラストモービルを変形。シューターですかさず前方に向かって乱射、一気に殲滅していく。

 

 

 

その様子は、二課の指令室から見えていた。

「流石・・・!」

それに友里が賞賛する。

「問題なのは、こっちが装者二人で向こうも二人だとして、あちらには戦兎さんがハザードで戦わなければ敵わないクライムがいます」

「ついでに三倍強化で四倍負荷のスクラッシュを克服したタスク・・・」

戦力的には、こちらが不利だ。

その上、クライムには『戦場の白い悪魔』『切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)』の異名を持っているとも聞いている。

元少年兵としての力が、奴らにはあるのだ。

さてどう動くべきか・・・・

「司令」

そこへ緒川が入ってくる。

「どうした?」

「捕虜の装者が、どうしてかセレナさんとの面会をしたいと要求してきていて・・・」

「調ちゃんがセレナちゃんに?」

一体どういう訳なのだろうか。

「どうしても話がしたいと言ってて・・・」

「しかし今セレナ君は戦兎君の強化アイテムを作っている最中だ。引っ張り出せるかどうか・・・」

「いいんじゃないか?」

そこで口を挟んだのは戦兎だった。

「もしかしたらアイツは、セレナの過去を知っているかもしれない。何か、記憶を呼び起こす切欠になる筈だ」

 

 

 

そうして、指令室には未だ手錠をはめられた状態の調が連れてこられた。

「申し出を受け入れてくれてありがとうございます・・・」

「何、気にすんな」

しおらしく言う調に、戦兎は笑って返す。

「それで、セレナは・・・」

「もうすぐ来る筈だが・・・」

「お、遅くなりました!」

そこへセレナが駆け入ってくる。

それに調が振り返れば、そこには、白衣を着て、余程急いできたのか肩で息をしているセレナの姿があった。

「セレナ・・・」

「貴方が、月読調さん・・・?」

「ッ・・・」

その返しに、調は思わず目を見開いてしまう。

そんな調に、戦兎は言う。

「今のコイツは記憶喪失だ。今名乗ってる名前も偽名だ。だから、何か知ってるなら話してやってくれ」

「記憶喪失・・・」

戦兎の言葉に、調はもう一度セレナの方を見る。

セレナは、何かを覚悟してきているかのように真剣な顔立ちでそこに立っていた。

そんなセレナの様子に、調も、意を決して話し出す。

「・・・貴方の本当の名前は、セレナ・カデンツァヴナ・イヴ。マリア・・・マリア・カデンツァヴナ・イヴの妹よ」

「私が・・・マリアさんの・・・・?」

「うっそぉ・・・・」

その言葉に、セレナだけでなく、その場にいるもの全員に衝撃を与える。

「そして、私たちと同じ、レセプターチルドレン」

「レセプターチルドレン?」

「フィーネの魂の器として非合法に集められた孤児たちの事だよ」

「・・・何故それを?」

戦兎が答えたので、調は訝し気に戦兎を見上げる。

「こちらには櫻井了子(フィーネ)本人がいたんだ。その時の研究データを俺が預かっていて、今は俺が解析中って訳」

「・・・・そう」

そこから、調は、セレナに関して、様々な事を話した。

マリアの事、白い孤児院の事、ネフィリムの事。

しかし、そのどれも話ても、セレナは一向に記憶を思い出す事はなかった。

「これだけ言ってもまだ何も思い出さないなんて・・・」

緒川の言ったその言葉は、まさしくその場にいる者全員の心の代弁だった。

「ごめんなさい・・・」

「ううん、貴方が謝る事じゃない。ちゃんと記憶を呼び起こせない、私が悪いんだもの・・・」

セレナがそうフォローを入れるも、調はあからさまに落ち込んで俯く。

その様子に、セレナは申し訳ない気持ちになり、周りは色々と諦めかけていた。

そんな中で、未来は自分が監禁されていた時の事を思い出す。

「・・・そういえば、マリアさん、何か歌を唄っていたよ」

「歌?」

その言葉に、未来は頷く。

「・・・Apple・・・」

唐突に調が呟く。

「マリアが、よく唄ってた歌」

「マリアさんが?」

「それ、覚えているか?」

「うん」

戦兎が聞けば、調は頷き、そして、耳にこびりついたその歌を紡いだ。

 

「―――りんごは浮かんだお空に…」

 

その時だった。

 

「―――りんごは落っこちた地べたに…」

 

その次の歌詞を、唐突にセレナが歌い始めたのだ。

 

「―――星が生まれて歌が生まれて ルルアメルは笑った常しえと」

 

無心で歌うセレナ。その両頬を、きらめく何かが伝っていた。

 

「―――星がキスして歌が眠って」

 

その様子に、響も、未来も、戦兎も、弦十郎も、緒川も、友里も、藤尭も、二課の職員も、歌っていた筈の調も、ただ黙ってそれを聞いていた。

 

「―――かえるとこはどこでしょう…? かえるとこはどこでしょう…?」

 

セレナは、ただ涙を流し、その歌を、最後まで歌いきる。

 

「―――りんごは落っこちた地べたに… りんごは浮かんだお空に…―――」

 

そうして、セレナは閉じていた眼を開ける。涙に濡れ、そして、何かを決意した眼差しをもって。

「・・・行かなきゃ」

唐突に呟いた言葉に周りの人間は察した。

「せ、セレナ・・・もしかして・・・」

 

「―――ごめんなさい調さん。忘れてたりして」

 

恐る恐る尋ねる調に、セレナは―――セレナ・カデンツァヴナ・イヴは涙を流しながら笑って答える。

「セレ・・ナ・・!!」

思わず嬉しさがこみ上げ、調はセレナの胸に飛びつく。

「良かった・・・良かった・・・セレナ・・・!!」

泣きじゃくる調の頭を、セレナはそっと撫でる。

しかし、そこである事を思い出した調がセレナを見上げる。

「でも、どうして・・・」

それにセレナは目をそらす。

「それが、私にも分からないの・・・ネフィリムを元に戻したっていう所までは覚えてるんだけど、それからの記憶がなくて・・・」

「それで俺たちに拾われたところからしか何も思い出せない、と・・・」

戦兎がそう指摘すれば、セレナは頷く。

そして、すぐにセレナは戦兎にせがむ。

「お願いします戦兎先生。私をマリア姉さんの元へ連れていってください!」

「待て待て、いくら記憶が戻り、元装者だからと言っても、流石にギアがない状態での出撃は・・・」

「ま、そこは俺がどうにかするさ」

戦兎が弦十郎の言葉を遮ってそういう。

「安心しろ。こいつは俺が責任もって送り届けてやる」

「戦兎君・・・」

その様子に、調も自分も申し出をしようとするが、しかし敵である自分を出撃させてくれるとは思えず、その言葉を引っ込める。

しかし―――

「師匠。調ちゃんも行かせてあげてください」

「え・・・!?」

突然の響の提案に、調は思わず目を見張る。

「調ちゃんもいれば、万が一にも対応できると思うんです」

「うーむ、それなら問題はないか・・・緒川」

そしてなぜか止めない弦十郎。

そして訳も分からず手錠を外される。

「捕虜に出撃要請って・・・どこまで本気なの?」

「もちろん全部」

調の言葉に響はそう答えて見せる。

「貴方のそういう所好きじゃない。正しさを振りかざす、偽善者の貴方が・・・」

なおも、偽善者と呼ぶ調。

「私、自分がやってる事が正しいだなんて、思ってないよ。以前、大きな怪我をしたとき、家族が喜んでくれると思って、リハビリを頑張ったんだけどね。私が家に帰ってから、おばあちゃんもお母さんもずっと暗い顔ばっかりしてた。それでも私は、自分の気持ちだけは偽りたくない。偽ってしまったら、誰とも手を繋げなくなる」

自分の手を握って、そう言って見せる響。

「手を繋ぐ?そんな事、本気で・・・」

「だから調ちゃんにも、やりたい事をやりとげて欲しい。もしもそれが私たちと同じ目的なら、少しだけ力を貸してほしいんだ」

調の手を取って、そう言って見せる響に、調は戸惑いを隠せない。

「私の、やりたい事・・・」

「お前のやりたい事は、暴走している仲間を止める事だろ?だったら協力してやる」

戦兎からもそう言われ、調は、思わずその手を振り払って背中を向ける。

「・・・皆を助ける為だったら、手伝ってもいい・・・」

その言葉に、響や未来は嬉しそうにする。

「だけど信じるの?敵だったのよ?」

「敵とか味方とか言う前に、子供のやりたい事を支えてやれない大人なんて、かっこ悪くてかなわないんだよ」

「師匠!」

弦十郎が、調の言葉にそう言ってのける。

そして、弦十郎は調のギア『シュルシャガナ』を返す。

「こいつは、可能性だ」

そして、そう言って見せる。

そんな弦十郎に、調は目尻に浮かんだ涙を拭ってこう返す。

()()()()()()()()

「甘いのは分かってる。性分だ」

「・・・ん?」

(あれ、今のは・・・)

何か、言動が可笑しかったような気がする。

この違和感はなんだ・・・?

しかし、その違和感を考える前に、響が調の手を取る。

「じゃあハッチまで案内してあげる!セレナちゃんと戦兎先生も!急ごう!」

「あ、その前に」

そこでセレナが呼び止めた。

 

 

 

戦兎の研究室にて。

「これを」

セレナは、戦兎に長い筒状のものを渡す。

「成分はまだ片方しか入ってませんが、これでオーバーフロー状態をどうにか出来ると思います」

「ここまで直しただけでも上出来だ。ありがとうな」

「はい!」

戦兎の感謝の言葉にセレナは嬉しそうに返す。

「よし、それじゃあそろそろ―――」

「ねえ」

それを見ていた響の言葉を遮って、調は戦兎に尋ねる。

「貴方はどうして戦うの?」

「ん?愛と平和(ラブ&ピース)の為だけど?」

調の質問に、もはや条件反射のように言い返す戦兎。

「よくもそんな事をなんの恥ずかし気もなく・・・」

「よく言われるよ。だけど、俺はこれを曲げるつもりはない」

「そんな叶いもしない言葉を掲げて、貴方は何がしたいの?」

そう言われて、戦兎は―――一切考えずに答える。

「くしゃっとなるんだよ」

「くしゃ・・・?」

「そ、誰かの為になれると、心の底から嬉しくなってくしゃってなるんだ。だから、俺は今まで誰かの為に戦ってきたし、これからも誰かの為に戦い続ける」

戦兎は調に歩み寄り、そして調の前に立っていう。

「だから、お前の為にも戦わせてくれよ」

「・・・」

そんな戦兎を見上げて、調は言葉を失う。

「・・・まあいい」

調はいじけるように視線をそらす。

「セレナを助けてくれた事には、感謝してるから」

その言葉に、彼らは嬉しそうに笑う。

 

 

 

そうして、ハッチから飛び出すギアを纏い、禁月輪で走る調と、セレナを後ろに乗せてバイクで出る戦兎。

だが、調の禁月輪には、どういう訳か響がいた。

『何をやっている!?響君を戦わせるつもりはないと言ったはずだ!?』

「戦いじゃありません。人助けです!」

『減らず口の上手い映画など、見せた覚えはないぞ!』

「まあまあそう言うなって風鳴さん」

そこで戦兎が割り込む。

「いざって時の為の発明品渡してあっから大丈夫だって」

『しかしだな・・・』

『行かせてあげて下さい』

未来の声が聞こえる。

『人助けは、一番響らしい事ですから』

「未来・・・」

未来の言葉に、響は感慨に浸る。

『・・・ふっ、こういう無理無茶無謀は、本来俺の役目だった筈なんだがな』

「まああの強さだからなぁ・・・」

そうして通信を切り、四人は向かう。

「さあ、さっさとこのふざけた事やってる奴ぶん殴って、敵も味方も全部救ってやろうじゃねえか!」

戦兎がそう叫んで、バイクを一気に走らせ、その後を調の禁月輪が追った。

 

 

 

 

「立花と桐生と、あの装者にセレナが一緒に?」

その一方で、翼たちは本部から響たちが出たという報告を受けていた。

「全く、アイツはいつもアタシらの想像の斜め上をいきやがる」

「本当にな」

「ああ」

そんな彼らの行動に、三人は思わず笑ってしまう。

「了解です。ただちに合流します」

「さて、ノイズを深追いしすぎちまったな・・・」

そうクリスが呟いた時だった。

どこからともなく銃弾が彼らに襲い掛かり、三人は一重に回避行動を取る。

「なんだ!?」

「敵襲か・・・!?」

そうして彼らは銃弾が飛んできた方を見れば―――

「なっ・・・・」

それを見て、クローズが固まる。

そこに立っていたのは、一重に異形ともとれる存在。それが複数、計五体。

ノイズとは違う、人に近いそれは――――

「なんだあれは・・・」

「あんなノイズ見た事ねえぞ!?」

「・・・ノイズじゃねえ」

クローズが、呟く。

「あれは・・・『スマッシュ』だ!」

 

 

 

 

 

その一方、人がいなくなったジェネレータールームにて。

「ククク・・・ネビュラガスとネフィリムの細胞を使い、創り上げた私だけのスマッシュ・・・その名も『ネフィリムスマッシュ』・・・!人を依り代にしなくていい分、捕食して取り込む力は無くなっているが、それぞれの個体に特有の能力を持たせてある・・・くくく・・・」

ジェームズは、一人狂喜に満ちた顔で何かの作業をしている。

「そして、このボトルさえ完成すれば、私は桐生戦兎をぉ・・・くく・・くひひ・・・!!」

結晶を流れる粒子の一部が、何本ものチューブを通って、一本のボトルに入れられていた。

 

 

 

 

 

「スマッシュって、確か旧世界での・・・」

「なんでそんなもんがこんな所に・・・!?」

想定外の事態に、翼とクリス、そしてクローズは動揺を隠せない。

そんな中で、クローズは周囲に誰かいないかと探していると、遠くに見覚えのある人物が立っている事に気付く。

そこには―――慧介がいた。

慧介は、真っ直ぐにクローズを見ていた。

「・・・悪いお前ら」

「ん?」

「龍我?」

「ここは任せた」

そう言って、クローズは慧介に向かって走る。

「龍我・・・」

そんなクローズを見送り、クリスはその意思を汲み取り、スマッシュたちに向き直る。

「やるぞ」

「ああ」

翼とクリスがスマッシュと対峙する。

 

 

 

そして、クローズは慧介の元に辿り着くと、変身を解除して慧介と対峙する。

「よお、元気にしてるか?」

「おかげさまで」

龍我の言葉に、慧介は爽やかな笑顔で答える。

しかし、すぐに真剣な表情になって龍我を見つめる。

「貴方なら、来てくれると思いましたよ。俺がどうしたいのかというのも、きっと分かってくれると」

「前に俺も色々やらかしたからな。お前に同じようになって欲しくなかっただけさ」

「そうですか・・・俺が、ここで貴方を待っていた理由はただ一つ。貴方との決着をつける為です」

そう言って、慧介はスクラッシュドライバーを取り出す。

「貴方には、暴走を止めてくれた恩があります。ですが、調を傷つけた事に対するけじめがまだ出来ていない・・・だから、俺は、貴方と全力で戦う事で、その答えを見つけたい」

「はっ、そういう事か。だったら受けて立ってやるぜ」

龍我もスクラッシュドライバーを取り出す。

「全力でかかってこい」

「ありがとうございます」

 

『スクラァッシュドゥライバァーッ!!』

 

腰にスクラッシュドライバーを取りつけ、それに互いのスクラッシュゼリーを装填する。

 

ドゥラゴンジュエリィーッ!!』

 

タイガァージュエリィーッ!!』

 

何かを叩くような待機音と共に、二人は構える。

 

「「変身!!」」

 

そして、スクラッシュドライバーのアクティベイトレンチを叩き下ろし、二人は変身する。

 

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

 

タイガァー・イン・タァスクゥッ!!』

 

ドゥラゴン・イン・クロォォズチャァァジッ!!』

 

『ブルァァァァア!!!』

 

その身をシンプルな素体の装甲に身を包み、二人は対峙する。

そして、互いに変身が完了した瞬間に、二人は激突する――――

 

 

 

 

 

 

 

戦兎がバイクを走らせ、調が禁月輪を走らせている最中、彼らはフロンティアの巨大な建造物へ向かっていた。

「あそこにいるのか!?」

「分からない。だけど、そんな気がする・・・」

調の答えに、戦兎は深く追求はしない。

そこで、調は突如としてその場で旋回。戦兎も特に驚かずその場でバイクを止める。

「うわぁっと!?」

「どうしたんですか!?」

響とセレナが驚く中、戦兎と調は上を見上げていた。

それにつられて彼女たちも見上げてみれば、そこには、切歌がいた。

「切歌ちゃん・・・!」

「切歌さん・・・」

切歌は一度、戦兎の乗るバイクの後ろに乗るセレナを見やる。

「セレナ・・・」

それを見て驚くも、すぐに首を振る。

そして切歌は、自らの聖詠を唄う。

 

『―――Zeios igalima raizen tron(夜を引き裂く曙光のごとく)―――』

 

その身を深緑と黒の戦闘装束へと身に纏い、その手に鎌を展開する。

「切ちゃん!」

「調、どうしてもデスか!?」

「ドクターのやり方では何も残らない・・・!」

「ドクターのやり方じゃないと何も残せないデス!間に合わないんデス!」

もはや平行線な二人の言い争い。

「二人とも、落ち着いて話し合おうよ」

「「戦場(いくさば)で何を馬鹿な事を!」」

(いやなんかの恒例行事なのかこれ!?)

思わず突っ込んでしまう戦兎だが、そんな事を言っている場合ではない。

「貴方たちは先に行って。貴方やセレナがいればきっと、マリアを止められる。手を繋げられる」

「調ちゃん・・・」

思わぬ言葉に、響は純粋に驚く。

「・・・止められるか?」

「・・・必ず」

戦兎の問いかけに、調はそう答える。

「・・・分かった。響、後ろに乗れ」

「え、わ、分かりました」

「セレナ、開けろ」

「はい」

セレナが下がる事で響が座れるだけのスペースを作る。

そこに響が座った時、調が呼び止める。

「ねえ」

「え?何?」

「・・・胸の歌を、信じなさい」

その言葉は、いつか了子が響に向かっていった言葉。

「・・・やっぱり、お前は・・・」

戦兎は、その言葉にある事を悟る。しかし、それ以上追及する事はなく、戦兎はバイクを走らせる。

「させるもんかデス!」

そう言って止めに入ろうとした切歌を、調が放った百輪廻で止める。

「調、なんでアイツを・・・アイツらは調が嫌った『偽善者』じゃないデスか!?」

「でもアイツらは、自分を偽って動いているわけじゃない。動きたいときに動いて、愛と平和の為に動くアイツらが眩しくて羨ましくて、少しだけ信じてみたい」

「サイデスか・・・」

そう言い切る調に、切歌はそう呟く。

「でも、アタシだって引き下がれないんデス!アタシがアタシでいられるうちに、何かを形で残したいんデス!」

「切ちゃんでいられるうちに・・・?」

「調やマリア、マムの暮らす世界と、アタシがここに至って証を、残したいんです!」

「それが理由?」

「これが理由デス」

一気に臨戦態勢に入る。

そのまま切歌が刃を増やし飛び上がり、その鎌から刃を飛ばす。

 

切・呪リeッTぉ

 

すかさず調がヘッドギアから展開した巨大円盤鋸を投擲して迎撃する。

 

γ式 卍火車

 

その二つの刃が今、激突する――――

 

 

 

フロンティアのそれぞれの場所で、戦いが繰り広げられる。

 

 

クリスと翼はネフィリムスマッシュと、

 

クローズはタスクと、

 

調は切歌と、

 

それぞれの戦いが繰り広げられる。

 

そして戦兎、響、セレナは―――敵本陣に乗り込み、物語は終盤へ向かう――――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?」

「「大好きだって―――言ってるでしょぉぉぉぉぉおお!!!」」

激突する調と切歌。

「すまない。仕留めきれなんだ」
「いや、アタシもとれなかった」

スマッシュたちを相手取るクリスと翼。

「全く・・・末恐ろしい人だ!」

己の覚悟の確認の為に、クローズに戦いを挑むタスク。

『貴方の歌で、世界を救いなさい・・・!』

そして、歌で世界を救おうとする、マリア―――

それぞれの想いが、ぶつかり合う戦場の結末は―――

次回『譲れないエモーション』

「まさか、調、デスか・・・」








最近、Google playで見た『るろうに剣心(実写版)』を見て―――




風鳴―――鎌倉の時代より、人々の恐れられ続けてきた一族―――


戦国、幕末と、様々な時代の変わり目、動乱期に、その力を振るい、多くの血を流し、多くの人々の殺めた、護国の鬼を自称する一族―――


しかし幕末、その動乱の後に、その姿はぱったりと消える事となる―――


そして、明治の時代―――彼女は、現れた。


「怪我はないか、そこの娘よ」
「あ、アンタは・・・!?」


多くの人を殺め、されど刃と峰が逆さとなった刀『逆刃刀』をもって流浪の旅を続ける剣士の少女『風鳴翼』。
その翼と出会った、西洋人とのサラブレットの少女『雪音クリス』。
その二人を中心に、物語は動き出す―――

襲い掛かる、クリスを狙う刺客たち。

「何故雪音を狙う!」
「その女はとある血統の娘だからさぁ!」

そんな彼女たちを助けてくれる、仲間。

「困った時はお互い様です!」
「うちの響がすみません・・・」

支えてくれる、かつての部下と親たち。

「僕はいつでも貴方の味方です」
「子供が気張ってるんだ。大人の俺が何もしなくてどうする!?」
「娘の我儘を聞いてやるのも、父親としての務めだ」

苦悩するクリス。

「アタシのせいで・・・」


少女は、人を切らぬ刃を振るう。


どれほどの強敵がこようとも、どれほど過去が縛りつこうとも、


「私は、雪音だけの防人。故にこの刃は、雪音の為だけに振るおう」


愛する者を守るために、


「アンタは、アタシが醜くないのかよ」


混血であることに悩める少女を、救う為、


「雪音が醜い訳がなかろう。私が証明しよう」


翼は、戦う―――



「いくぞぉ、『風鳴の鬼』ィ――――!!」
「あぁぁぁああぁぁああ!!!」





明治剣客浪漫譚―――『雪のままに風は舞う』






――――完全につばクリじゃねーか(書いて思った事)



とまあ、そんな所で、また次回を楽しみに!


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譲れないエモーション

作「―――」
戦「・・・え?なんて?」
作「―――」
ク「だから、何言ってんのか分かんねえよ!なんで口だけ動かしてんだ!?腹話術か!?」
調「なんでも映画仮面ライダーはそのストーリーを、一方のヒロアカ映画は最後の戦闘の作画力を目の当たりにして、声を無くしてしまったらしいのです」
響「そうなの!?一体どんな感じなんだろう!」
弦「もしかしたら今後の訓練の参考になるかもしれんな」
シ「いや完全に超常を毎度の如く超えるのがアニメだぞ。それを易々と際限・・・出来るか、これも元々アニメ作品だし」
緒「ちなみに、読唇術で作者の言葉を代弁させてもらいますと『遅れましたがメリークリスマス!』『令ジェネ泣いた』『ヒロアカ戦闘ヤバすぎ』と言ってます」
原型「やれやれ何をやっているんだか。まあいい本編を始めるぞ。ノイズが蔓延る新世界にて、仮面ライダービルドこと桐生戦兎は、特異災害対策機動部二課の仲間たちと共に、世界救済を謳うも実質ウェルというクソ野郎の暴走に振り回されているF.I.Sの暴挙を阻止する為に動く。その最中、アイドル大統領(笑)の妹セレナの記憶が月読調の手によって復活、そしてついに決戦が始まるのであった」
マ「・・・」ピクピク
切「ま、マリアー!?」
慧「相変わらずの豆腐メンタル・・・」
龍「ほんと何やってんだか」
戦「ま、そんな訳で、シンフォギアビルドその三九話をどうぞ!」


「――――警告メロディー 死神を呼ぶ 絶望の夢Death13!」

 

凄まじい勢いで鎌を振るう切歌の一撃を調は四つに分裂させたシュルシャガナで反撃。

 

γ式 滅多卍切

 

振るわれる無限軌道の刃。それが切歌に叩きつけられるも、互いに互いの戦いを知っているが故に躊躇いなく切歌はその殺戮の嵐へ飛び込んでいく。

 

「―――DNAを教育してく エラー混じりのリアリズム」

 

激しく火花を散らす二人の刃。

その最中で切歌はもう一本の鎌を取り出す。

 

「この胸に――――」

 

肩のジェットを吹かせて、一気に加速。

 

「ぶつかる理由が―――」

 

無限軌道の刃を振り上げて、一気に叩き落す。

 

「「あるのならぁあぁぁぁああぁああ!!!」」

 

さらに二人の刃はぶつかる。

 

 

 

 

 

 

ネフィリムスマッシュの一体『バレットスマッシュ』の放つ弾丸を翼が叩き落し、その脇からクリスが反撃の銃撃。

その死角から『エレファントスマッシュ』と『クラブスマッシュ』が襲い掛かるものの、クリスがバレットスマッシュの銃撃を止めさせた為にすかさず翼が対応。エレファントスマッシュの巨大な足を大剣の一撃で弾き飛ばし、クラブスマッシュのハサミを斬り上げ、そのまま一気に回転して蒼ノ一閃で二体とも弾き飛ばす。

そこへ低姿勢でこちらに走ってくるのは『コックローチスマッシュ』。

それにクリスが銃撃するが恐ろしい速度で旋回したり躱したりしてくるために一気に近付かれる。だが、クリスは不敵に笑って見せている。

コックローチスマッシュはしかしすかさず後ろに飛び退る。

そこへ翼が刀をその場に突き刺す。

その反対側から『スタンガンスマッシュ』が迫ってくるもそれをクリスが迎撃して距離を取らせる。

「すまない。仕留めきれなんだ」

「いや、アタシもとれなかった」

背中合わせで五体のスマッシュと対峙する。

「これがスマッシュ・・・」

「龍我たちが戦った・・・」

沢山の人々を守るために戦った、悪意によってつくられた怪人―――

「それに私たちが負ける道理はない。そうだろう?」

「ああ、今のアタシたちは―――負ける気がしねぇ!!」

スマッシュたちが一斉に襲い掛かる。それも飛び上がってだ。

その下を前方に走って潜り抜けた二人は、空中に飛び上がった二体に刀の雨と小型ミサイル群を叩きつける。

 

千ノ落涙

 

CUT IN CUT OUT

 

それらがスマッシュたちに炸裂する。

だが―――

落下したスマッシュたちは立ち上がる。

「流石にこんなんじゃ倒れねえか」

「ならば、倒れるまで斬るのみ!」

怪人との戦いがさらに激化する――――

 

 

 

 

 

激しく打ち合うクローズとタスク。

しなやかに動くタスクの動きはまさしく虎のそれ。拳の一撃、蹴りの一撃、そのどれもが体のしなやかさから発せられる凄まじい衝撃を生み出す。

その猛攻を、クローズは何の苦もなく受け流す。

その猛攻の最中で反撃に放たれた一撃は的確にタスクの顔面を狙い打つ。

(やっぱり強い・・・!だったら・・・!!)

踏み止まり、タスクはクローズに向かって走り出す。低姿勢で頭を突き出すような走り方で、タスクはクローズに接近する。

そのタスクにクローズは拳を突き出し顔面を狙う。だが、クローズの拳はタスクには当たらず、どういう訳かタスクの頭はその場で静止。そこから下だけが動き、頭部を置いていって、そこを軸としてクローズの顎を蹴り上げる。

「うごあ!?」

サマーソルトキックを叩き込み、クローズをよろめかせると同時に、その隙を狙って腹に強烈な直蹴りを叩きつける。

「うおあ!?」

下がらされるクローズに、タスクはもう一度突撃。

そんなタスクにクローズはもう一度拳を突き出すも、今度はタスクはそのクローズの手に乗り、そのままクローズの顔面を蹴り飛ばす。

「ぬぐあ!?」

さらによろめいて下がるクローズ。

(このまま・・・!)

一気に畳みかけようとする。

しかし、そのままクローズを殴ろうとした所で躱されてしまう。

「え・・・!?」

それに思わず目を見張る。しかし、気付いた時には顔面を掴まれていて、そのまま地面に叩きつけられていた。

「がはっ―――」

(そんな・・・視線はこっちを向いていなかったのに・・・!?)

どこを狙うか分からなかった筈だ。なのに何故分かったのか。

そのまま持ち上げられて殴り飛ばされる。

靴底を擦り減らしてどうにかとどまり、殴られた腹を抑えながら、タスクはクローズを見る。

「中々やるじゃねえか!」

そう言って、クローズは嬉々として言ってくる。

「全く・・・末恐ろしい人だ!」

タスクはすぐさまクローズに向かって走り出す。

 

 

 

 

その様子を、遠目から眺める者が一人。

 

毎度おなじみゲスクズ科学者のウェル博士である。

 

「ウェヘヘヘ・・・」

その手には、ソロモンの杖がある。

 

 

 

 

 

そして、その戦いの風景は、ブリッジのマリアたちにも見えていた。

「どうして・・・仲の良かった調と切歌までが・・・」

その戦いを見て、マリアは再度崩れ落ちる。

「マリア・・・」

「私の所為だわ・・・こんなものが見たいがためじゃなかったのに・・・!!」

何もかもが自分の望まない方向に行ってしまう。

その全てに、マリアは絶望してその場に蹲る。

そんなマリアを、勇気づけてあげられない自分の不甲斐なさに、シンは拳を握りしめる事しか出来ない。

そんな時だった。

『マリア、シン』

「「ッ!」」

ナスターシャの声だ。

「マム?」

『今、貴方たち二人だけですね?フロンティアの情報を解析して、月の落下を止められるかもしれない手立てを見つけました』

「え・・・」

「それは本当か?どうすれば良い?」

『最後に残された希望・・・それにはマリア、貴方の歌が必要です』

「私の・・・歌・・・」

その言葉に、マリアは呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「切ちゃんが切ちゃんでいられるうちにって、どういう事?」

唐突に調が訪ねる。

「アタシの中に、フィーネの魂が、覚醒しそうなんデス」

切歌は、苦々しくそう答える。

「施設に集められた、レセプターチルドレンだもの。こうなる可能性はあったデス・・・」

「だとしたら、私は尚の事切ちゃんを止めて見せる」

「え・・・」

調の言葉に、切歌は驚く。

「これ以上、塗り潰されないように。大好きな切ちゃんを守るために」

「大好きとか言うな!アタシの方が、ずっと調が大好きデス!」

鎌を向けて、そう叫ぶ切歌。

「だから、大好きな人たちがいる世界を守るんデス!」

そう叫ぶ切歌に、調は動く。

「切ちゃん・・・」

二つの無限軌道の刃をプロペラに変形。それを上と下で高速回転させる事で浮遊する。

それが―――

 

緊急Φ式 双月カルマ

 

「調・・・」

それに対して、切歌は肩のギアを刃に形成する。それが―――

 

封伐・PィNo奇ぉ

 

そして二人は飛び上がり――――

「「大好きだって―――」」

再び激突する――――

「「言ってるでしょぉぉぉぉぉおお!!!」」

 

 

 

 

 

 

そのマリアたちのいるブリッジに向かって、戦兎が走らせるバイクが駆け抜ける。

「間に合ってくれよ・・・!」

全力でエンジンを蒸かせ、戦兎たちは一気に駆け抜ける。

そんな時だった。

『戦兎君!』

「ん?どうした朔也」

藤尭から連絡が入る。

『これ見てくれ』

そうして止めたマシンビルダーのディスプレイに表示されたのは――――

「姉さん!?」

「マリアさん、どうして!?」

マリアの姿が映っていた。

 

『―――私は、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。月の落下がもたらす災厄を、最小限に抑える為、フィーネを名を騙った者だ』

 

「なんでいきなりこんなものを・・・・」

「・・・」

戦兎の呟きを他所に、セレナはその映像に見入る。

 

 

ほんの数分前。

「月を、私の歌で?」

『月は、地球人類より相互理解を剥奪するため、カストディアンが設置した監視装置・・・ルナアタックで一部不全となった月の機能を再起動出来れば、公転軌道上に集積可能です・・・うっ―――ごふっ!』

音から、ナスターシャが吐血した事が出に取るように分かる。

「マム?マム!」

しかし、その事に慣れていないマリアには分からない事だ。

「フォニックゲインで、月の機能を復活させるのか・・・」

『貴方の歌で、世界を救いなさい・・・!』

苦しそうに、しかし力強く、ナスターシャはマリアにそういった。

 

 

 

(これが成功すれば、あのくそったれの計画を阻止できる・・・)

シンは、少し離れた所でその様子を見守っていた。

「全てを偽ってきた私の言葉が、どれほど届くか自身は無い。だが、歌が力になるというこの事実だけは、信じて欲しい!」

そうマリアは全世界に呼びかけ、そして、聖詠を唄い、ガングニールを起動させる。

 

「―――Granzizel bilfen gungnir zizzl(溢れはじめる秘めた情熱)―――」

 

その身を黒い戦装束を身に纏い、マリアは―――歌う。

 

 

 

 

 

「戦兎先生!」

「ああ!」

戦兎がバイクを走らせる。

「マリアさんは、歌で世界を救う気だ」

「だったら、それを手伝うのが、妹である私の役目!」

「その為に、最短で最速で真っ直ぐに一直線に行くぞオラァァア!!!」

バイクで階段を駆け上がり、三人は一気に、映像の発信源へと突っ走る。

 

 

 

 

 

 

「ハア!」

スマッシュの一体を退けて、翼とクリスは息を上げてその場に佇む。

「くそっ、またギアが重い・・・!!」

「これは、あの時と同じ・・・」

それと同時に、ギアの出力低下をその身をもって感じていた。

 

 

「忘れた頃にAnti LiNKERはやってくる・・・くひひ・・・!!」

そう呟くウェルの見る先には、あらかじめ仕掛けておいた薬品散布装置。その中に仕込まれているのは当然、適合者の適合係数を引っさげる『Anti LiNKER』。

それによって、翼とクリスのシンフォギア適合係数を下げ、動きを鈍くしているのだ。

 

 

ギアの出力低下によって、苦戦を強いられる翼とクリス。

背中合わせでどうにか敵を倒そうと模索する中、唐突にクリスが翼に言う。

「アタシに考えがある」

「・・・っ!」

それを聞いて、翼はクリスの方を見る。クリスは黙って翼の方を向いており、その眼差しを受けて、翼は頷く。

「分かった。乗ってやろう」

「おいおいアタシはまだ何も・・・」

「何、可愛い後輩が出してくれた案だ―――信じない訳にはいかないだろう」

その言葉に、クリスは半ば茫然とし、やがて仕方がないとでも言うように呆れる。

「はっ、こんなろくでなしの提案受け入れるなんざ、あんたも大概博打打ちだよな」

「その博打を打たせるんだ。仕損じるなよ」

「はっ!当然だ!」

そう頷き合って、二人は同時に動く。

バレットスマッシュの放つ弾丸を翼がその機動力で躱し、エレファントスマッシュの重攻撃を躱してクリスが銃弾を放つ。

そうして、襲い掛かるスマッシュたちの猛攻を躱して反撃して、ヒット&アウェイで立ち回るものの、数の差で避け切れず、クラブのハサミに翼が弾き飛ばされ、エレファントの一撃をクリスが貰い吹き飛び、互いに叩きつけられる。そこへスタンガンスマッシュの電撃を二人を襲う。

「「あぁぁあぁぁああぁあ!?」」

電流が二人の体を迸り、全身に激痛が走る。

やがてその電撃がやめば、二人は体から湯気を出してそこに佇んでいた。

もはや、動く力もないだろう、と思われた時だった。

おもむろにクリスが翼の手を握った。

「っ・・!?」

「頼む・・・」

微かに呟いたクリスの呟き。その呟きを聞いて、翼は、答える。

「ああ――――来いッ!!!」

そして、すぐさまクリスが腰部のギアから小型ミサイル群を展開し、ぶっ放す。

 

MEGA DETH PARTY

 

その瞬間、その大技のバックファイアがクリスだけでなく翼にまで襲い掛かる。

「「ぐあぁぁああぁぁああぁあ!?」」

飛び上がった小型ミサイル群はそのまま宙を一周、落下していき、翼とクリスごと、スマッシュたちを消し飛ばす。

「「あぁあぁあああぁああ!!?」」

二人の絶叫と小型ミサイルが炸裂した爆発音と共に、その場にあるものが消し飛んだ―――

 

 

その様子を見ていたウェルは――――

「ふわっひゃう~!!願ったり叶ったりしてやったり~!」

と踊りながら喜んでいた。

 

 

 

 

 

タスクの柔軟な攻撃とクローズの猪突猛進な攻撃が、しのぎを削ってぶつかり合う。

その柔軟な動きでタスクはクローズの猛攻の合間を縫ってクローズに攻撃を叩き込んでいるが、クローズにそれが効いている様子はなく、稀に当たる拳がタスクを徐々に追い詰めていく。

そして、最後の一発がタスクに叩き込まれ、タスクは地面と転がる。

「ぐあぁあ!?」

地面を転がり、タスクは仰向けに倒れる。

「ハア・・ハア・・ハア・・・!!」

激しく呼吸を繰り返し、タスクは横眼でクローズを見る。クローズはこちらを追撃せずに構えて佇んでいる。

まさしく、強者の余裕である。

(あーくっそ・・・やっぱ強いなぁ・・・)

その純粋な強さに、タスクは称賛を送る。

もはや自分が勝つのは絶望的。そして相手はこんな自分に手加減なんてしないだろう。

だったら、どうやったら彼に渾身の一撃をお見舞い出来るか。

(だったら、それなりに無茶を通してやる・・・!)

膝たちの状態で、タスクはスクラッシュドライバーのアクティベイトレンチを叩き下ろす。

 

スクラップクラッシュッ!!!』

 

スクラッシュドライバーで必殺技を発動させると同時にタイガースクラッシュゼリーをドライバーから抜いて左手のツインブレイカーにタイガーフルボトルと共に装填する。

 

ツゥイィンッ!!』

 

そして立ち上がって構えた先に見えたのは―――

 

ルェディゴォッ!!!』

 

クローズドラゴンをツインブレイカーに装填して、更にドライバーのレンチを下ろすクローズの姿があった。

 

スクラップブレイクッ!!!』

 

そうしてタスク同様にツインブレイカーを構えるクローズ。

その様子に、タスクは思わず笑ってしまう。

「ほんと、手厳しいなぁ・・・」

だが、やる事は変わらない。

互いに互いを見据えて、二人は、同時にツインブレイカーを放った。

 

ツゥインブゥレイクッ!!』

 

レッツブゥレイクッ!!!』

 

タスクのツインブレイカーから、トラ型の炎―――タスクタイガー・ブレイズが飛び出し、クローズのツインブレイカーからは龍型の炎―――クローズドラゴン・ブレイズが飛び出し、それらが正面からぶつかり合う。

激しい衝撃波が広がり、衝突点から地面が抉れクレーターが出来、二つの炎が激しくせめぎ合う。

しかし、その拮抗は長くは続かず、呆気もなく、タスクタイガー・ブレイズがクローズドラゴン・ブレイズに飲み込まれ、そのままタスクに激突、吹き飛ばす。

「ぐあぁぁああぁああ!?」

直撃を貰ったタスクは吹き飛び、そして地面に倒れ伏すと同時に、その変身が解除される。

「ハア・・・ハア・・・ぐっ・・・!!」

余程ダメージが大きいのか、呼吸する度に肺が痛む。

全身を焼くような痛みが体を苛む。

だが、その痛みが、今はどうしても心地いい。

僅かに目を開けて、慧介は空を見上げる。

(空って・・・こんな青かったんだな・・・)

なんて、当たり前な事をぼやいていると、その視界に変身を解除した龍我が立つ。

「よう、生きてるか?」

「・・・おかげ・・・さまで・・・」

「なら良かった。あーつっかれた」

かなり余裕そうな彼に、慧介はついぞ勝てないと実感する。

そこでふと疑問に思った事を口にする。

「あの、龍我さん」

「ん?なんだ?」

「貴方のハザードレベルって・・・」

「ん?7だけど?」

「え゛」

それを聞いて、慧介の表情が引きつる。

「えーっと・・・人間の限界値って、レベル5までが限界だと聞いたんですけど・・・」

「あー、なんか知らねえけど、俺、なんか人間じゃねえ奴の遺伝子持っててよ。それでなんか限界超えちまったみたいでさ」

「・・・・」

この時、慧介は思った。

 

 

自分はこんな化け物に喧嘩売ってたのか、と・・・

 

 

(もうこの人には喧嘩売らないようにしよう・・・)

内心そう決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

調と切歌の歌が響き渡り、二人はその刃を激しく打ち合う。

調の無限軌道の鋸に対して、切歌は肩につけられた刃。それらが激しく切り結び、火花を散らず。

 

非常Σ式 禁月輪

 

双斬・死nデRぇラ

 

調は巨大な車輪を、切歌は二つの鎌を組み合わせて巨大なハサミに。

突っ込んでくる調に対して、切歌は肩アーマーからアンカーを射出。

それを巧みな操作で躱した調は飛び上がり、上方から飛び掛かる。

それを切歌が巨大バサミで迎撃。これまた激しく火花を散らす。

やがて押しきれないと判断した調は距離を取り、頭部ギアから百輪廻を連発。対して切歌は巨大バサミを解除してそれを全て叩き落す。

着地した調はそのまま地面を走行、一気に切歌に接近する。

対して切歌は調を迎撃するためにもう一度アンカーを射出。それを調を躱し、頭部に巨大な鋸を展開。

そしてそれを切歌が両手で持ち刃を巨大化させた鎌で迎え撃つ。

二つの刃が正面衝突し、互いに弾き飛ばされる。

そして二人は互いに距離を取る。

「切ちゃん・・・どうしても引けないの?」

「引かせたいのなら、力付くでやってみせるといいデスよ」

切歌はそう言って、調の足元に何かを投げる。

それは、拳銃型の注射器―――『LiNKER』の入ったものだ。

「LiNKER?」

「ままならない想いは、力付くで押し通すしかないじゃないデスか」

切歌はそう言って、自分用のLiNKERを首に押し当て注入する。

そして切歌は―――絶唱を唄う。

 

「「――――Gatrandis babel ziggurat edenal――――」」

 

同時にLiNKERを注入した調も、絶唱を歌い出す。

適合係数が高ければ高いほど、絶唱の負荷は軽減される。即ち、LiNKERを使用する事でその適合係数を上げ、絶唱による互いの全力を真正面から叩きつけ合う気なのだ。

そうして、歌い終わった瞬間、二人の体に、絶唱の負荷が掛かり、絶唱が発動する。

「絶唱にて繰り出されるイガリマは、相手の魂を刈り取る刃!!」

地面にイガリマの刃を突き立て、その刃どころか柄すらも巨大化させていく。

「分からず屋の調から、ほんの少し負けん気を削れば―――!!」

そうして浮かび上がるは切歌の跨る巨大な鎌。

「分からず屋はどっち・・・!」

一方調が展開するのは両手に巨大な無限軌道の鋸を、脚部にはそれを支えるも足ですら敵の肉を削ぎ落す無限軌道の刃を形成する。

「私の望む世界には、切ちゃんもいなくちゃダメ!寂しさを押し付ける世界なんて、欲しくないよ!」

切歌の刃が調に叩きつけられ、それを調が弾き飛ばす。

「アタシが、調を守るんデス・・・!例えフィーネの魂に、アタシが塗り潰される事になっても!!」

イガリマの中にあるエンジンを蒸かせ、さらなる威力の倍増を行う切歌。

それによってイガリマが高速回転、巨大な円盤となって調を襲う。

「ドクターのやり方で助かる人たちも、私のように、大切な人を失ってしまうんだよ!?」

突っ込んでくるイガリマの一撃を弾き飛ばす。それと同時に、左腕のギアが砕け散る。

 

そもそも、この戦いは調に不利な点があった。

 

それは、LiNKERの投与タイミング。

二課に掴まった事でLiNKERの投与を断ってしまっていた調は、そのままの状態でシンフォギアを纏い出撃している。だが切歌にはLiNKERを製造でき、所持しているウェルがいる為、新たにLiNKERを戦闘直前に投与。そのタイムラグが、二人の適合係数に決定的な差を与えており、今の絶唱も、その時間差によるLiNKERの効果時間に比例する効果の低下が低い調の方が出力が僅かに低い。

その為、調のギアは、切歌のギアに破壊されていく。

だが、それでも―――

「そんな世界で生き残ったって、私は二度と歌えない!!」

眼に涙を滲ませて、調は切歌に向かって叫ぶ。

「でも、それしかないデス!そうするしかないデス!例え、アタシが調に―――嫌われてもぉぉぉぉおお!!」

イガリマの一撃が、調の右腕のギアを粉砕する。

「うぅっ・・・切ちゃん!もう戦わないで!」

それでも、調は必死に切歌に呼びかける。

「私から大好きな切ちゃんを奪わないで!」

それでも切歌は止まらない。

振り下ろされる、イガリマの魂を穿つ刃。

その一撃が、調に振り下ろされる―――寸前で、何かしらの障壁にイガリマが阻まれた。

「え――――」

弾かれたイガリマが、切歌の手から離れ、遠くに突き刺さる。

その障壁を張ったのは他でもない―――調だ。

「え・・・なにこれ・・・」

件の調も、自分が何をしたのかを理解出来ていない。だが、今ので十分だった。

 

フィーネの魂の器は―――調だったのだ。

 

切歌ではない。

 

「まさか、調、デスか・・・」

とてつもなく大きな勘違い。それによって引き起こされたこの戦い。

「フィーネの魂の器になったのは調なのに、アタシは、調を・・・」

その事実に直面した時、切歌の中で何かが崩れ去る。

「切ちゃん・・・?」

突然変わった切歌の様子に、調は首を傾げる。

「調に悲しい思いをしてほしくなかったのに、出来たのは調を泣かす事だけデス・・・」

まるで、ハンマーで頭をぶん殴られたような気分。足元が瓦解するかのような感覚。

全て、自分の勘違いから始まった。自分が事態をややこしくしてしまった。

これでは、慧介と大差ない程、周りに迷惑をかけているではないか。

その事実を認識した切歌は、自らを打ちのめす絶望のままに、弾き飛ばされ、地面に突き刺さったままのイガリマを遠隔で操作する。

空へ舞ったイガリマが空中で高速回転。そのまま一気に、切歌に向かって落下していく。

「あ・・・」

それに、調が切歌が何をしようとしているのかを悟る。

「アタシ、ほんとに嫌な子だね・・・・」

涙を流して、切歌は笑う。

 

「消えてなくなりたいデス」

 

その瞬間、イガリマが切歌を襲う。

「だめ、切ちゃん!!」

調が走り出す。イガリマが迫る。そして―――その刃は――――

 

 

―――切歌を押し退けた調の背中に突き刺さった。

 

 

「調・・・?」

信じられない光景を目前にして、切歌は――――

「調ぇぇぇえええぇぇええ!!!」

絶叫した―――

 

 

 

 

 

 

自らの歌を熱唱したマリア。

唄いきった彼女は、荒く息をして、必死に呼吸を整えている。

そんな彼女の様子を、世界中の人間が見ている。

『・・・月の遺跡は依然沈黙・・・』

「ダメなのか・・・」

ナスターシャの言葉に、マリアが崩れ落ちる。

「私の歌は・・・誰の命も救えないの・・・!?セレナ・・・あ・・あぁぁ・・・!!」

情けなく、泣くマリア。

 

 

 

 

そんなマリアにシンが寄り添う姿を、中継を見ていた板場たちはおもむろに呟く。

「この人、ビッキーたちと同じだね・・・」

安藤の言葉に、二人がうなずく。

「うん、誰かを助ける為に・・・」

「歌を唄うなんて・・・」

他の誰にも、出来る事ではない。

その想いを込められる力こそが、歌なのだ。

 

 

 

 

 

 

その一方、翼たちがいた場所にて、地面が大きく砕け、その下には空洞が広がっていた。

「シンフォギア装者と仮面ライダーは、これから僕が統治する未来には不要・・・ひ、うわあ!」

そこへ立ち入るのはウェルだ。

しかし足を滑らせてしまう。

「そのためにスマッシュをぶつけ、ライダー同士をぶつけ合わせたのですが・・・装者の方はこうも奏功するとは、ちょろすぎるぅ~」

と言っていると、その視界に見覚えのある姿を見つける。

そこには、翼が一人倒れていた。

「お~・・・ん?もう一人はどこへ・・・?」

それに歓喜に浸りそうになるも、すぐにクリスがいない事に気付く。

しかし、背後から聞こえた何かの破砕音から猛烈な悪寒を感じて、ウェルはすぐさま横に飛んだ。

「うわぁああ!?」

「チィッ!!」

先ほどまでウェルがいた場所を銃弾が掠める。

「お、お前、無事だったのか!?」

そしてそこに立つのは、ボロボロのギアを身に纏い、ふらふらな状態のクリスが立っていた。

「さっきの大技でそこで寝転がってる奴が負荷を一部請け負ってくれてな。お陰様でぴんぴんしてるよ!」

「くそったれがぁぁあ!!!」

ウェルがソロモンの杖を取り出してノイズを一斉に召喚する。それらが一気にクリスを囲む。

「今更ノイズ・・・ぐっ!」

すぐさま倒そうとするも、やはりバックファイアの影響は残っているようで、体中を激痛が走る。

「くくく、Anti LiNKERの効力は未だ健在!」

「なら・・・ぶっ飛べ―――装甲解除(アーマーパージ)だ!!」

まともにギアが使えないなら、そのギア、外してぶつければいいだけの事。

クリスは、以前響にも使った装甲を弾けさせる捨て身戦法を使い、一気に周囲のノイズを殲滅する。

ウェルはしぶとくも物陰に隠れて凌ぐ。

飛び散った装甲がエネルギー弾となって、一気に周囲のノイズを消し飛ばす。

そうしてほとんどのノイズが消し飛び、土煙が巻き起こる中、ウェルは物陰から顔を出し、クリスを探す。

そのウェルに向かって、ギアを吹き飛ばして全裸になってしまったクリスが飛び掛かって杖を弾こうとするも、それにいち早く付いたウェルがそれを躱す。

「しまったっ・・・」

「このガキがァ!!」

「ぐあ!?」

そのクリスに向かってウェルが左手でクリスを殴り飛ばす。

「やれぇ!!」

生き残ったノイズが、クリスへと向かう。

ギアを外してしまったクリスには、もうどうする事も出来ない。絶対絶命。万事休す―――

「ッ―――」

そんな、どうしようもない状況で、クリスは、叫ぶ。

 

「―――先輩・・・!!」

 

 

その叫びに応えるかのように、突如として降り注いだ、刃の雨。

「なっ!?」

それに驚くウェル。

巻き起こる土煙の中で、クリスは見る。

その中心に佇む、風鳴翼の姿を。

「そのギアは・・・」

その身に纏う戦闘装束は、今までに見た翼のギアとはかけ離れたもの―――それは、三ヶ月前のものと同じ、今のものとは低出力のギア。

「馬鹿な!?Anti LiNKERの負荷を抑える為、あえてフォニックゲインを高めず、出力の低いギアを纏うだと!?そんな事が出来るのか!?」

「できんだよ。そういう先輩だ」

ウェルの言葉に、クリスはそう返して見せる。

 

「―――颯を射る如きの刃 麗しきは千の花」

 

歌を唄い、翼はウェルの操るノイズを一気に殲滅していく。

「付き合えるか!」

「あ!?」

ウェルが翼がノイズを殲滅している間にソロモンの杖をもったまま逃走を始める。

「待て!」

すかさずクリスが追いかけようとするものの、やはりバックファイアのダメージは拭えず、よろめく。

そのままウェルが逃走してしまう―――と思われたその時、ウェルが何かにぶつかる。

「いった!?な、なんだ・・・」

衝撃で尻もちをつき、見上げた先にいたのは、ゴミを見るような目でウェルを見下す龍我と慧介の姿があった。

「コイツが未来を魔改造した奴か?」

「ええ。ですので好きなだけやっちゃってください」

「じゃあ遠慮なく―――ッ!!」

右拳を握りしめて、龍我はウェルの持つソロモンの杖を蹴り飛ばす。

「ああ!?」

「歯ァ食いしばれやぁぁぁぁああ!!」

「うわぁぁああ!?」

そしてウェルの顔面を、掲げた腕を吹き飛ばして右拳で全力で顔面を殴り飛ばす。

「ぐげぁぁあ!?」

ぶっ飛ばされたウェルの顔面は大きく歪み、そのまま吹き飛んでいき、どこかへ飛んでいく。

それと同時に、翼はノイズを全て殲滅し終える。

そしてクリスは借りたライダースーツ姿をその身に纏い、翼も元のライダースーツ姿へと戻る。

そうして、戦いは、終わりを迎えた。

「これを」

「すまねえな」

ソロモンの杖を拾った慧介が、それをクリスに渡す。

「迷惑をかけて申し訳ありませんでした」

「気にするな。もう過ぎた事だ」

頭を下げて謝る慧介に、翼はなんでもないと言う。

そこでふと、クリスは翼に尋ねる。

「それにしたってよ、アンタ、なんでアタシの言葉を信じてくれたんだ?」

「雪音が先輩と呼んでくれたのだ。理由はそれだけでも十分だろう?」

「それだけ?」

「それだけだ」

「・・・」

その翼の返しに、クリスは呆然とする。

「さあ、立花と合流するぞ。それと、涼月慧介と言ったか?」

「はい」

「お前はどうする?」

「ついていきます」

慧介は、即答する。

「これ以上、このふざけた事をやめさせるために」

「そうか。ではついてくるが良い」

そう言って、翼は歩き出す。

クリスは、そんな後ろ姿を見ていると、唐突に龍我に背中を叩かれる。

「行こうぜ」

「・・・ああ」

呆けつつ返し、龍我が先に行く。

そして、その後を慧介が続く。

(本当にどうかしていやがる・・・・)

そんな彼らを見て、クリスは思う。

(だからこいつらの側は、どうしようもなくアタシの帰る場所なんだな・・・・)

その事を、クリスは改めて実感した―――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「調、目を開けて!調!」

イガリマからの致命的な一撃を受けた調。

「無理よ!私の歌で世界を救うなんて・・・!」

自分の無力さに打ちひしがれるマリア。

「見つけたぞくそったれ科学者ァ!!!」

そこへ乱入する戦兎たち。

「誰かを守るために使うだと?ふざけるのも大概にしてくれ」

そして、ついに姿を現すジェームズ。

二人の科学者が、ついにぶつかる―――

次回『逆襲のヒーロー』

「俺はもう、自分を見失ったりはしない・・・この力は、完全に俺のものだ!!」

『マックスハザードオンッ!!!』


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逆襲のヒーロー

響「みなさん!明けましておめでとうございます!」
マ「・・・ん?そういえば作者は?」
響「ああ、それが、大晦日前日に見事に風邪を引いちゃったみたいで・・・」
戦「熱は下がったみたいだが今は大事をとって休憩中ってことだ。なんか初日は頭痛が酷くて寒気が凄かったらしいぞ」
マ「うわぁついてない・・・後でお見舞いにいってあげましょうか」
響「あ、皆も呼びましょう」
マ「ダメよ。大人数で押しかけたら無理させちゃうかもしれないじゃない」
響「え~そんなぁ・・・」
戦「ま、それはともかく、あらすじ紹介行ってみようか!」
響「はい!強大な力を秘めたフロンティアを巡って、米軍艦艇、二課、そしてF.I.Sの間ですさまじい戦闘が勃発した」
マ「しかし米軍艦艇はウェルの手によって壊滅。戦いはF.I.Sと二課の一騎打ちに持ち込まれた」
戦「ジェームズが作り出したネフィリムスマッシュは翼とクリスの手で殲滅、万丈と慧介の戦いは万丈が勝利をおさめ、そしてついに、ソロモンの杖を奪還する事に成功したのであった!」
マ「そして残すは私・・・う、耐えるの、耐えるのよ・・・よぉし。私とシンのいるブリッジだけとなった・・・そういえば桐生戦兎。セレナが貴方の為に新たな強化アイテムを造ったそうだけど、それは一体何なの?」
戦「ふっふっふ、それは本編までのお楽しみにだ」
響「え~、何か教えてくださいよ~。読者の皆さんは知ってても、私たちは知らないんですよ~」
戦「あーもう、それじゃあギュインギュインのズドドドドォな奴だ!」
響「おー!ギュインギュインのズドドドドォ!」
マ「何よそれ!?擬音ばっかで何にも分からないんだけど!?」
戦「一言で語れないのが天っ才なもんで!」
マ「はあ・・・まあいいわ。今回の話で明かされるわけだしね。どうなる第四〇話!」


ブリッジへと続く昇降盤の通る通路にて、龍我によって顔面をぶん殴られ、大きくその右頬を腫れさせ右側の歯がほとんど折れたウェルがいた。

「くそ!ソロモンの杖を手放すとは!こうなったらマリアをぶつけてやる・・・ッ!!」

狂気と怒りに満ちた表情で、ウェルは憎々し気にそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

魂を切り裂く刃の直撃を受けた調は、背中から血を流し、力無くその場に倒れ伏していた。

「調、目を開けて!調!」

そんな調に切歌は両目から大量の涙を流して呼びかけていた。

しかし、調は一向に起きる気配は無く――――

 

 

 

 

その呼びかけは、沈みゆく調の意識に、微かに響いていた。

「切ちゃん・・・?」

その声に、調は、まるで海の底のような場所に映る人影にそう呼びかけるも、すぐに違うと否定する。

「じゃない・・・だとすると、貴方は・・・」

「―――どうでもいいじゃない。そんな事は」

突如として人影が、調の呟きに答える。しかし調は、それに驚く事なく首を横に振った。

「どうでもよくない。私の友達が泣いている・・・」

「そうね。()()()()()()()()()()()、このまま大人しくしているつもりだったけど、そうもいかないものね」

その人影は、微笑みながらそう言ってくる。しかし、その気配が、微かに、しかし確実に薄くなっていっている事を、調は感じていた。

「魂を両断する一撃を受けて、あまり長くは持ちそうにないか・・・」

イガリマの絶唱特性は、対象の魂を斬り裂く事によって、事実上の死を与える防御不能技。即ち、それを受けた調はその瞬間、もう二度と眼が覚めない筈だった。

 

彼女の中に、もう一人の魂がなければ。

 

「私を庇って?でも、どうして・・・」

調には、訳が分からなかった。

彼女の願いは、月より放射されるバラルの呪詛の解除、及び異端技術による人類支配の筈だ。そんな彼女が、何故、永遠を生きる彼女にとって、すぐに消えてしまう命の一つである自分を庇ったのか。

「あの子に伝えて欲しいのよ」

彼女が、答える。

「あの子?」

調は、首を傾げる。

「だって、数千年も悪者(ローグ)やってきたのよ。いつかの時代、どこかの場所で、今更正義の味方を気取る事は出来ないって」

彼女は、自虐するようにそう話す。

現在(きょう)を生きる貴方たちがなんとかなさい」

「立花・・・響・・・」

調は、思い出すようにその名を口にする。

あの、馬鹿としか言いようがない程お人好しで、しかしそれでも真っ直ぐに自分の想いを貫き通そうと動く彼女の名を。

「ああ、それと、あの男にも伝えておいてくれないかしら?」

そして、彼女は、思い出したかのようにもう一人の事も言い出す。

「あの男・・・?」

「そう、今頃私の研究データの解析にあくせくしているだろうから、ヒントを貴方に残すわ。そのヒントから、私の全てを託すって」

「桐生・・・戦兎・・・」

もう一人の名前も、調は口に出す。

愛と平和、ラブ&ピース、それを本気で実現しようと、誰かの明日の為に戦おうとする、あの少女と同じくらい馬鹿でお人好しな男の名前を。

「いつか未来に、人が繋がれるなんて事は、亡霊が語るものではないわ」

 

―――彼の謳う、愛と平和の為の力になる。そう、伝えなさい――――

 

その言葉を最後に、その気配は消え―――そして、調は、現実に戻っていく。

 

 

 

 

 

「目を開けてよ、調・・・!」

もう半ば諦めかけて、それでも諦めきれず涙を流す切歌。

彼女自身も分かっているのだ。否、分かり切っているからこそ、この事実を受け入れたくないのだ。

イガリマを扱うのは彼女だ。だから、誰よりもその危険性を知っている。その特性を誰よりも熟知しているからこそ、切歌は、絶望と現実逃避のままに調の名前を呼び続けているのだ。

それも、もうすぐ途切れる―――そんな切歌に、答える声があった。

「開いているよ、切ちゃん」

「え・・・」

それに驚いていると、すっと調が何事もなかったかのように起き上がる。

「体の、怪我が・・・・」

驚いたことに、調の背中の傷は、跡形もなく消えていた。あれほど大きな刃が肉深く突き刺さっていた筈なのに。

それはきっと、彼女の置き土産。

調は、切歌の顔をじーっと、見つめる。

「調!」

切歌は、調に抱き着く。

「でも、どうして・・・?」

しかし、すぐに離れて疑問を口にする。

「たぶん、フィーネの魂に助けられた」

そうして、調は切歌に答えを言う。

「え、フィーネに、デスか・・・?」

そう聞き返す切歌に、今度は調から抱き着く。

「皆が私を助けてくれている。だから切ちゃんの力も貸してほしい・・・一緒にマリアを救おう」

「・・・うん、今度こそ調と一緒に、皆を、助けるデスよ」

二人は、やっと仲直りをしたのだ。

勘違いから始まった、喧嘩は終わった。

 

 

 

 

ブリッジにて。

『マリア、もう一度、月遺跡の再起動を・・・』

「無理よ!私の歌で世界を救うなんて・・・!」

ナスターシャの言葉を、マリアが泣きながら拒否。

『マリア!月の落下を食い止める、最後のチャンスなのですよ!』

そうナスターシャが叱咤する中、ウェルが、昇降盤でやってくる。

「ウェル!」

シンが雷切を背中の鞘から抜いてウェルに向ける。

「そこをどけェ!月が落ちなきゃ、好き勝手出来ないだろうが!」

ウェルが血走った目をシンに向けてシンに向かって怒鳴る。

「断る!もうこれ以上貴様の好きにさせるものか!」

シンがウェルに向かって怒鳴り返す。

「いいからそこをどけぇ!」

ウェルが左手を床に当てる。すると、突如としてシンの足元の床の一部が正方形に飛び出し、それが予想外な事に反応出来なかったシンの腹に突き刺さり吹き飛ばす。

「がっ!?」

「シン!!」

そのまま壁に叩きつけられ、その場に力なくずり落ち、ぐったりとしてしまう。

「シン!」

マリアが泣きそうな顔でシンの名を呼ぶ。

「やかましいわ!」

だがそこへウェルは走り出してマリアを殴り飛ばす。

『マリア!シン!』

「あ?やっぱりオバハンか」

ウェルが、ナスターシャの声を聞き、にやりと笑う。

するとウェルはコンソールに触れると、何やら作業を始める。

『お聞きなさいドクターウェル!フロンティアの機能を使って、収束したフォニックゲインを月へと照射し、バラルの呪詛を司る遺跡を再起動出来れば、月を元の起動に戻せるのです!』

それが、世界を救う唯一の方法。ナスターシャが命懸けで導き出した、彼女の『勝利の法則』。

だが、このウェルという男の『勝利の法則』は、そんなものとは真逆のものだった。

「そんなに遺跡を動かしたいのなら―――!!」

この男にとっては、支配こそが至高。人の上に立ってこその英雄という固定観念がある。

故に、自分にとって邪魔となる存在は―――容赦なく排除する。

「あんたが月に行ってくればいいだろ!!」

そして、ウェルは、ナスターシャのいる制御室を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という悪魔の所業ともいえる行為に乗り出す――――。

 

が、その為にはコンソールに触れ、その命令を実行しなければならない。

 

ウェルのネフィリムの細胞を仕込んだLiNKERを投与した左手をコンソールに触れる、その寸前―――

 

そのコンソールに何かが撃ち込まれ、『残念だったな!』と書かれたスマホのアイコンのような質量あるホログラムがウェルの手を阻んだ。

 

「なっ!?」

それに、ウェルは驚愕する。それは、マリアもシンも同じだった。

さらに次の瞬間、そのアイコンの表示が代わり、ウェルを指差すかのようなイラストと『さあ、お前の罪を数えろ』というキャッチコピーの文字列が並び立ち―――

「待てぇ!」

そして、どこからともなく、その声が聞こえてきた。

「ッ!?」

突如として、叫び声が聞こえてきたと思いきや、ブリッジの窓部分から、突如としてバイクが一台飛び込んでくる。

「見つけたぞくそったれ科学者ァ!!!」

「よくもマリア姉さんを傷つけてくれたなサイコパスサイエンティストォ!」

「え、えーっと・・・観念してくださいウェル博士!!」

その上には戦兎、セレナ、響の三人が乗っていた。

すかさず戦兎がホークガトリンガーをウェルに向かって容赦なく撃ちまくる。

「うわぁああ!?」

それにウェルは慌てて情けなく転げまわるように逃げ、そこへ戦兎がバイクをアキラストップでバイクを止め、それと同時に響とセレナがマリアとシンの元へ向かう。

「マリア姉さん!」

「セレナ・・・?」

セレナは真っ先にマリアの元へ向かい、そのままマリアに抱き着く。

「良かった、マリア姉さん・・・!!」

「セレナ・・・なの・・・でも、どうして・・・」

ありえない事態に、マリアは理解が追い付いていない様子だった。

「大丈夫ですか?」

「ぐう・・ああ・・・連れてきたんだな・・・・」

その一方、響はシンの元へ向かう。

そんな中で、シンが呟いた言葉に、響は微笑む。

「やっぱり、貴方だったんですね」

「何・・・?」

その言葉に、シンは目を見開き、その一方戦兎はウェルと対峙していた。

「チィッ!いつもいつもこっちの都合の悪い時にィ!!!」

「ハッ!テメエの都合を潰して何が悪いんだか。ってかなんだその左手、(みにく)!?」

「黙れ黙れ黙れェ!英雄である僕に、こんな事が許されると思っているのかぁぁああ!!」

半狂乱になったウェルが戦兎に向かって殴り掛かる。しかし、ネフィリムの細胞を埋め込んだ左手の一撃を、戦兎は何の苦もなく受け止める。

「はえ・・・?」

「英雄、だと・・・?」

ぐぐぐ、と戦兎の手がウェルの左手を抑え込むように下に動かし、次の瞬間、もう一方の拳でウェルの顔面に拳を叩き込んでいた。

「ぐべあ・・・!?」

思わずよろめいたウェルにすかさずもう一方の拳で顔面を殴り、腹に膝蹴りを叩き込んで前のめりになった所で、回し蹴りを再度顔面に叩き込んで蹴り飛ばす。

「ぐげあ!?」

「お前がヒーロー?ふざけんのも大概にしろ!」

そして倒れ伏したウェルに戦兎は自分を指差してそう言い切って見せる。

「テメエのような人でなしにヒーローなんて名乗れるものかよバーカ」

そしてあからさまに馬鹿にし始める戦兎。それにウェルは顔を真っ赤にしてブチ切れる。

「くそぉ・・・くそくそくそくそくそくそくそくそォォォォオ!!」

ウェルが、建物を変形させる。

床が変形し、戦兎を襲うも、既にラビットフルボトルを振っていた戦兎は常人にはあり合えない速度でそれを躱し、そしてすかさずウェルの懐に飛び込む。

「はえ?」

そして、顔面を殴り飛ばす。

「ごぱぁ!?」

もはや何が起きたのか理解していないウェル。

「フルボトルにあんな使い方が・・・」

響に肩を貸されつつ、シンは戦兎の戦いに目を見張る。

「あ・・・あば・・・な、何が・・・」

もはや何が起きているのか分からないウェル。

「お前には色々と借りがあるからなぁ・・・」

そのウェルの背後に、戦兎はいつの間にか立っており、右肩をぐるぐると回していた。

「はっ!?」

 

注意、ここから先、ウェルが戦兎に徹底的にボコボコにされます。

 

「まず、これは俺の私情!お前が使役していたネフィリムにぱっくんちょされた分!」

「ごぱっ!?」

「万丈、クリス、響だまくらかしてソロモンの杖奪っていらん被害出した分!」

「あが!?」

「Anti LiNKERなんか言う奴でみんなを苦しめた分!」

「ぐべ!?」

「それとこれは俺の日頃の不満三連発!セレナが勝手に何か作る響が発明品に勝手に障るクロがいたずらしてくるの三つ!」

「待てそれ関係なくくげごがぶが!?」

「スカイタワーにノイズ放って響を悲しませた分!」

「そげぶ!?」

「そんで未来に無理矢理シンフォギア装着させた分!」

「あがぱ!?」

「調と切歌の関係を変にこじらせた分!」

「げんぶ!?」

「慧介が暴走する原因を造った分!」

「はぶ!?」

「そんでもってこれはちょっと楽しくなってきたからおまけ一発」

「理不尽!?」

「最後に翼のステージ潰してくれた分だゴラァ!」

「あるふれっど!?」

ひとしきり殴った所で一旦休憩に入る戦兎。

「く、くそぉ・・・この英雄の顔をここまで殴りまくってくれたなぁ・・・!!」

が、ウェルはそこまで殴られてもまだ話せるようだった。顔は見るも無残な程に腫れあがっているというのに。

「「「うわあ・・・」」」

女性陣はドン引きである。

「お前なんてヒーローじゃねえよ。ヒーローってのはな、無償で誰かを助ける奴が名乗れるもんなんだよ。そもそも人を殺す事に愉悦覚えてる奴に英雄名乗る資格なんてないわボケ」

「はっ!何を言い出すのかと思えば・・・歴史上の英雄を見なさい!彼らがその功績を立てるのに多くの血を流してきた!であるならば僕もそれ相応の血を流す事で、真の英雄になる事が―――」

「どうでもいいんだよ歴史上の人物の事なんざ」

「なっ!?」

割とバッサリと持論を一蹴されるウェル。

「問題なのはどれほど多くの人間を救えるかだ!その為に多くの血を流したっていうけどな、マジでふざけてんじゃねえぞ。人を殺して、それに喜びを感じる奴を俺は絶対にヒーローだなんて認めねえ」

「であるならば何故お前は兵器であるライダーシステムを使う!それが戦争の引き金になるかもしれないと何故―――」

「んな事分かってんだよ!これが戦争に利用されて、多くの人々が涙を流すって事も知ってんだよ!だけど、俺はこの力を、愛と平和の為に使う・・・例え何かを壊す力であったとしても、俺は、誰かを守るためにこの力を使う。それをお前に否定させはしない!!」

互いに睨み合う戦兎とウェル。

戦兎は揺るぎない信念を持った表情で、ウェルは思い通りにいかない事に苛立ちを感じた表情で。

しかし、そんな時だった。

「誰かを守るために使うだと?ふざけるのも大概にしてくれ」

ジェームズが、昇降盤を使ってやってくる。

「ジェームズ博士・・・!?」

その登場に、シンは目を見開く。

「それは葛城という悪魔どもが自らの生贄とした人間の血肉から創り上げた悪魔の兵器(ちから)だ。それを使っている時点で、貴様は悪魔の仲間入りをしているのだよ」

ジェームズは嘲笑するようにそう言う。

「そうかもしれないな・・・でも、父さんはこの力を、正義の為に作ったんだ。それを、破壊の為としか考えていないお前に否定される筋合いはないな」

戦兎は、毅然と言い返す。

「くく・・クハハハハハ!!!」

ジェームズが、その返しに高笑いをする。

「ふざけるな」

しかし、すぐさま憎悪に塗れた声で戦兎を睨みつける。

「正義だと?そんな訳があるか!あの男は他者の才能を妬み、そして自分を超える才能があればすぐに消す!そんな男だ!そんな男が、正義など語るものかァ!!」

憎しみに血走った眼を向けるジェームズ。しかし、そんなジェームズに、戦兎は冷めた目を向けていた。

「・・・あんたが父さんに殺された理由が、やっとわかったよ」

「なんだと・・・?」

戦兎の言葉に、ジェームズは訝し気に聞き返す。

「あんたは父さんの事を何も理解していない。父さんが、たかが才能の差で誰かを殺す人間じゃないって事は、息子である俺が一番よく知ってる」

以前、父親である忍に聞いたことがある。

 

何のために科学者になったのだと。

 

それに、忍はこう答えた。

 

愛と平和(ラブ&ピース)』の為だ、と。

 

「才能を嫉んでいたのはお前だ。いや、それも違う。お前はライダーシステムを兵器としてしか見てなかった。そして、それをいつか起こる戦争の為に本国に持ち帰ろうとしたんだ」

 

「息子・・・だと・・・いや、それ以前に貴様は奴の事を父さんと・・・」

ジェームズは、目を見開く。

「ああ、そういえば言ってなかったな――――俺がお前を人体実験に使った『葛城忍』の息子、『葛城巧』だよ」

今更気付いたのか、と呆れる戦兎。

「ま、悪魔の科学者としての記憶は一切ないけどな」

「く、くく・・・」

それに、ジェームズは口を抑え、腹を抱えて笑い出す。

まるで、この巡り合わせに、感謝しているかのように。

「これほど運命に感謝した事は無いィッ!!」

狂気に歪んだ顔で、ジェームズは戦兎を指差す。

「今日!ここに!私の復讐目標である葛城忍の息子をこの場に引きずり出してくれた運命にッ!!私はこれほど感謝する事はないだろうッ!!」

ジェームズは、狂ったように背中を反らして笑い出す。

「今ここで葛城巧を殺し、葛城忍の前にその首を突き出し、恐れおののいた所を家族ごと惨たらしく殺し、この復讐を完遂するッ!!」

末恐ろしい事を喚き散らし、ジェームズが、ルインドライバーを取り出す。

「ッ!?それは・・・」

シンが、目を見開く。一方の戦兎は冷静にジェームズを睨みつけていた。

「悪いがそう簡単に殺される訳にはいかない。これでも仲間が待ってるんだ。そう簡単に死ねるかよ」

「散々人を殺しておいてよく言う・・・貴様なんぞに仲間などいるものかァ!!」

「いる!!」

そう答えたのは、戦兎ではない。響だ。

「私だけじゃない。翼さんやクリスちゃん、龍我さんに、二課の皆が戦兎先生の仲間だ!」

「ならば貴様らも悪魔の仲間だ!悪魔は、まとめて私が全て葬り去ってくれる!」

そう言って、ジェームズはルインドライバーを自らに装着した。

「何っ!?」

「ルインドライバーを、自分で・・・・!?」

その行為に、驚くシンとマリア。

「くくく、どちらにしろ貴様を葬り去るために用意したものだ。それを私が使ってもなんら問題はない」

「待て、それは確かハザードレベルが規定値に達しなければ使えない筈だ!」

「そんな事はとっくに知ってるんだよォ!!」

ジェームズがシンに怒鳴り返す。

「すでにお前たちに隠れてハザードレベルを上げる為にネビュラガスをお前たちより早い段階で注入していたに決まっているだろぉ?それでもお前に使わせたのはいずれ私が使う時の事を考えて試験的に貸してやったに過ぎない・・・まあ、その段階でまさか葛城の仮面ライダーを葬り去るチャンスが到来するとは思っていなかったがな・・・」

ジェームズには自信があった。元少年兵であるシンと格闘訓練ならシンを覗いてトップの慧介なら必ず戦兎と龍我を葬り去ってくれると。

しかし実際は違った。

実際に戦わせてみれば、優位なのは戦兎と龍我たちではないか。

その上、慧介に限っては無様に惨敗するばかり。

であるならばどうするべきか。

 

もう自分が戦うしかないじゃないか。

 

ジェームズは、ポケットから一本のボトルを取り出す。

「このフロンティアのエネルギーを込めたこのボトルで、貴様を葬ってくれるわァ!!」

そう叫び、ジェームズはそのボトル『フロンティアレリックフルボトル』をルインドライバーに装填、収納スペースをすぐさま元に戻す。

 

『Ready』

 

「変身ッ!!」

そして、そう叫び、ジェームズは引き金を引いた。

 

『Penetration Armor Type-Frontier

 

深い藍色の装甲を身に纏い、その装甲に輝くラインが走る。

クライムの時のバイザーはなく、ただ横に伸びる複眼がある、禍々しい姿だった。

「くくく・・・これが仮面ライダー・・・名付けるならそう『リベンジ』・・・私は今日から、仮面ライダーリベンジだ!!」

ジェームズ―――仮面ライダーリベンジがそう声を挙げる。

「戦兎先生!」

「分かってる!」

響の叫びに、戦兎はすぐに応じる。

ラビットタンクスパークリングを取り出しそれを振り、プルタブスイッチを起動し、そのまま腰に装着したビルドドライバーに装填する。

 

ラビットタンクスパークリング!』

 

ボルテックレバーを回してスナップライドビルダーを展開。両手を広げた後にファイティングポーズをとって戦兎は叫ぶ。

 

「変身ッ!!」

 

シュワッと弾けるラビットタンクスパークリング!イェイイェーイ!』

 

ビルド・ラビットタンクスパークリングに変身し、ビルドはリベンジと対峙する。

「死ねぇぇえ!!葛城巧ィッ!!」

リベンジが叫び走り出し、それにビルドが迎え撃つように走り出し、そして、激突する。

 

 

 

ビルドがリベンジと激突する。

その様子を、マリアはただ茫然と見つめていた。

「マリア姉さん、大丈夫?」

そこへ、マリアの頬の腫れを心配するようにセレナが近寄る。だがマリアはなおもセレナがいる事に困惑していた。

「セレナ、どうして貴方がここに・・・」

「それは・・・」

マリアの質問に、セレナは返す言葉に戸惑う。

「俺が隠していた」

そこへ、シンがやってきて、そう言う。

「シン、どういう事・・・?」

「あの日、俺はセレナを間一髪の所で助けた。だが、絶唱の負荷でもはや生死を彷徨う状態だったセレナを、俺は誰に言うでもなく、凍結させる事で生き永らえさせた。だが、いずれはばれ、セレナがまた回復すれば奴らは何度もでもネフィリムの起動実験を行うだろう・・・だから俺は、毎夜孤児院を抜け出し、闇医者をつきとめ、金を稼ぎ、三年でセレナの治療に成功させたはいいものの、あの時の俺では、セレナをどこにも預ける事は出来なかった。その上、お前たちにも隠していかなければならなかった」

そんな時に、ルナアタック事変が起き、月の起動が変わり、人類存亡の危機になった。

そして、作戦を成功させる為には、日本に向かう必要がある事が分かり、シンはすぐさま、セレナを特異災害対策機動部に預ける事にした。

そこなら、セレナの安全を保障してくれるだろうと踏んだ。

幸い、闇医者の見立てでは失血による脳へのダメージで記憶を失っているという診断結果が出ていた。

であるならば、記憶喪失のままで、新たな人生を歩ませた方が安全だと踏み、二ヶ月前にセレナを二課へと預けさせたのだ。

「そう・・・だったの・・・」

マリアは、茫然とシンの言葉を聞いていた。

「本当にすまなかった・・・だが、セレナの事がバレて、本国で人質にされるよりはマシかと思った。日本は、和を重んじる国だと聞いていたから、それにかけたわけだが・・・どうやら間違いではなかったようだ」

セレナの様子に、シンは微笑む。

「じゃあ、セレナは・・・」

マリアは、目の前に座るセレナを見る。

「うん、ちゃんと生きてるよ。マリア姉さん」

そのマリアに、セレナは微笑む。

「セレナ・・・せれ・・・な・・・!!」

死んでいたと思っていた妹が生きていた。これ以上、嬉しい事も、悲しい事もないだろう。

「ごめんなさい・・・貴方の意志を継いで・・・世界を救おうとしたけど・・・私には出来なかった・・・!!ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・貴方のいる世界を・・・私は・・・救えなかった・・・!!」

「そんな事ないよ。まだ間に合う」

抱き合う二人の様子に、響は微笑みが浮かび上がるも、すぐさま背後に気配を感じ振り返ると、そこには抜き足差し足でコンソールに近付こうとするウェルの姿があった。

(あれに触らせちゃだめだ!!)

直感的にそう悟り、響は立ち上がってウェルに向かって走り出す。

それに気付いたウェルは、すぐさまコンソールに向かおうとする。

が、

(あれ?そういえばさっき戦兎先生がウェル博士に何か気になるような事を言ってたような。確か、未来にシンフォギアを装着させた―――)

瞬間、響の思考が超速で回転する。

その間、僅か0.1秒。

その理由はただ一つ。

「そいつが小日向未来にギアを無理矢理取り付けた張本人だッ!!」

そう、シンが言い放ったからだ。

それを聞いた響は直後に―――

 

ぶちっ

 

「お前かぁぁぁああぁあああ!!!未来を誑かして苦しめたのはぁぁぁあ!!!」

ブチ切れてウェルを容赦なく殴り飛ばした。

「ぐべあぁあ!!?」

普段の響からは考えられない程容赦ない一撃。それが見事に顔面の奇しくも龍我がぶん殴った方とは反対の方に炸裂し、そのまま一気に殴り飛ばす。

「よし、計算通り」

「「ええ・・・」」

そう言ってガッツポーズを取るシンに、イヴ姉妹は引いてしまう。

「ふうー・・・あ、つい本気で殴っちゃったけど・・・まあいっか」

もはやウェルに対する良心の一切が消えている響。

普段は心優しい響だが、やはり未来の事になると容赦はなくなるようだ。

『マリア、シン、聞こえますか!?』

「この声・・・マム!?」

『その声は・・・まさか、セレナなのですか!?』

ナスターシャが酷く驚いたような声で聞き返す。

「はい!シンさんのお陰で、この通りぴんぴんしてます!」

『シンが・・・いえ、この際、それについては後回しにしましょう。もう時間は限られています。フロンティアの機能を使って、収束したフォニックゲインを月へと照射し、バラスの呪詛を司る遺跡を再起動が出来れば、月を元の起動に戻せるのです』

「だからマリア姉さんは歌ってたんだね・・・」

『セレナ、貴方がいるのなら、貴方の歌で世界を救いなさい』

声の向こう側のナスターシャの声は、掠れている。

気絶する寸前で見えた、あの瓦礫の時のダメージが残っているのだろうか。

だが―――

「ぐおあ!?」

ビルドの悲鳴が聞こえ、そちらに視線を向ければ、なんとビルドがリベンジに一方的に打ちのめされていた。

「ハハハハ!!たかだか人間一人の力で、この巨大宇宙船の力を使うリベンジに叶う者かァ!フハハハハハ!!」

「こっのやろう!!」

距離を取ったビルドが足裏で泡を破裂させて、一気にリベンジに迫る。

その拳を叩きつけるも、叩きつけたビルドの拳から伝わってきたのは大地のように重い感触だった。

「ッ!?」

「無駄ァ!!」

リベンジがその腕を弾き飛ばし、ビルドを殴る殴る。ラッシュを一気に叩きつけていく。

「貴様如きの力で、このリベンジの力を覆せるものかァ!!散々大勢の人間をネビュラガスの人体実験に使いッ!殺し!非道の限りを尽くしてきた貴様にィ!この私が負ける道理はないのだァ!!!」

蹴り飛ばされ、よろめき、すかさず近付いたリベンジがビルドを掴み、そのまま反対側、昇降盤の方へ投げ飛ばす。

「ぐぅ・・・!!」

「どうだ!自分の兵器が負けている様を感じるのは!実に、実に滑稽だな!葛城巧ィ!!」

その言葉に、戦兎は立ち上がって言い返す。

「ライダーシステムは・・・兵器なんかじゃない!!」

その手にドリルクラッシャーをもって、リベンジに接近するビルド。

振り下ろされるドリル。それをフロンティアは躱し、続く一撃をも躱して三撃目を止める。

「本当に兵器じゃないと言えるのかぁ?」

「ッ!?」

一瞬、ビルドの動きが止まる。

次の瞬間、片手でドリルクラッシャーを持つ手とは反対の手を、ビルドの顔面に向かって振るう。

それを顔を傾ける事で間一髪で躱し、続く二撃目も反対に顔を傾け躱す。だが三撃目、抑えた手を引っ張りバランスを崩した所での背中への蹴りは躱せなかった。

「がっ!?」

「科学は人が争う事で発展してきた!科学が進展するのはいつも人を殺すための『兵器』が生まれる時!いついかなる時も、他国を凌駕する兵器を造らんと多くの科学者どもは躍起になった!お前も同じだ。お前は、科学の発展が戦争を生み出すと知りながら、ライダーシステムを造ったのだ・・・!!」

圧倒的な強さに、ビルドはどんどん追い込まれていく。

しかし、それでもビルドは言い返す。

「戦争に加担したい科学者なんて、一人もいない!!人々の幸せを願って、平和利用の為に力を尽くしてるんだ!」

ビルドの拳がリベンジを襲う。泡の破裂によって引きあがる拳の威力。それに差し引いても、その拳の速さは、常人のそれを超える。

しかし、その拳を全ていなし躱し、反撃の蹴りを叩き込んでビルドを下がらせる。

「ふん、戦争に加担したい科学者は一人もいないだと?それは偏見というものだ。科学者はいつだって、自らの自己(エゴ)の為に日々研究を重ねる。それを理解していないお前ではないだろう!」

「ぬぐあ!?」

続けてリベンジがやった事は、そこらに転がっている瓦礫を蹴り上げ、それをもう一度ビルドに向かって蹴り突けるというもの。

一発目は躱して見せる。しかし続く二撃、三撃と次々にその攻撃をもらう。

「ぐあぁあ!?」

「それでもまだ平和の為と抜かすなら聞こう!ハザードトリガーはどう説明する!」

リベンジが、糾弾するように尋ねる。

「暴走し、全てを破壊する兵器と化すあの力を、どう平和利用するというのかね?」

「あれは、希望だ・・・!」

「希望だと!?暴走し他人を傷つける力が希望を抜かすか!この偽善者め!」

すかさず、リベンジが瓦礫を投げ飛ばし、それをビルドに叩きつける。

「がぁ!?」

顔面に炸裂し一瞬、体が仰け反る。そうしてリベンジから一瞬、目を放した隙に、リベンジは接近、そのままビルドを殴り飛ばし、壁に叩きつける。

「がっは・・・」

「戦兎先生・・・!」

壁から剥がれ落ちるように崩れ、地面を転がり、仰向けに倒れる。

「お前は分かっていたんだよ・・・こうなる事を・・・ククク」

それは、この戦いが引き起こされた事に対する侮蔑と、自分の力が相手より勝っていた事を証明するが故の、優越感がこめられた言葉。

「あの世界で、戦争が起こる事も、全てなぁ!!」

リベンジが、声を挙げてビルドを嘲笑う。その圧倒的な強さに、マリアとシンは諦めるかのように目を閉じる。

「・・・・戦争は、悲しみを生むだけだ・・・!」

ふと、そんな中で、ビルドは呟く。

「はあ?」

思い起こされるのは、旧世界で引き起こされた戦争。多くの人々が争い、傷つき、その命を落としていった。

全て、自分が作った、『ライダーシステム』の所為で。

子供が親とはぐれる、兵士が血を流す、阿鼻叫喚、多くの人々が泣き、叫び、住む場所を失い、逃げても逃げても、敵は武器を構えてやってくる。

止まる事は許されない、止まれば、自分の命が終わる。敵を蹂躙しなければ、自分たちが殺される。だから戦う。

その戦いで、多くの人々が、傷つき倒れて、自分たちの街が、故郷が破壊される。

破壊されれば報復しようとする。そして報復すればまた報復される。復讐が復讐を呼び、悪意が弱い命を踏み潰す。

戦争とは―――負の連鎖だ。

「巧だって・・・本当はそんな事望んでいなかった。だけど、それでも悪魔を名乗るしかなかった。世界を守る為に、多くの人々の明日を守るために、例え力に頼ろうとも、多くの人々を救うために!!」

「まるで自分は別人とでもいうような言い草だな」

「そうだ。俺に悪魔の科学者としての記憶はない。それでも俺は、『葛城巧』であり、『桐生戦兎』なんだ・・・だから、葛城巧(過去の俺)が引き起こした全ての責任を、その因縁を―――桐生戦兎(今の俺)がそれを終わらせる!!」

 

『ボルテックブレイクッ!!』

 

ドリルクラッシャー・ガンモードにタンクフルボトルを装填、ついで、ホークガトリンガーもフルバレット状態にしてリベンジに向かって乱射する。

一方リベンジはルインドライバーの引き金を引き、必殺技を発動する。

 

『Impact Frontier Break!』

 

叩き込まれる弾丸の嵐の中を突っ切って、リベンジはビルドに接近。そのまま頭上を飛び越え、ビルドの背後を取ると、フロンティアの成分が込められた右腕でビルドを殴り飛ばす。

「ぐあぁぁああ!?」

殴り飛ばされ、ビルドは地面を転がる。その最中でドリルクラッシャーとホークガトリンガーを落とし、地面に仰向けに倒れ伏す。

「ぐ・・あ・・・ハア・・・ハア・・・」

そんなビルドを見下し、リベンジはなおも嘲笑う。

「もはや何をしても無駄だぁ。お前は私には勝てない。私という才能を恐れた結果がこれだ。お前たち『葛城』は、私という才能を見誤って死ぬのだぁ!」

ハハハハハ!と、リベンジは高笑いをする。

全身を苛む痛みに耐え、ビルドは倒れたままリベンジの方を見る。

その最中で、その向こうにいるセレナたちを視界に入れてしまう。

それを見て、ビルドは――――

「・・・ああ、最悪だ。こんな時に思い出しちまうなんて・・・」

もう一度天井を仰ぎ見て、ビルドは、思い出す。

 

『誰かの力になりたくて、戦ってきたんだろ!?誰かを守るために、立ち上がってきたんだろ!?それが出来るのは、葛城巧でも、佐藤太郎でもねえ!桐生戦兎だけだろォがァ!!』

 

かつて、相棒が言ってくれた言葉。

 

「筋肉馬鹿に言われたあの言葉が、今の俺を創った・・・あいつだけじゃない」

ビルドは―――桐生戦兎は立ち上がる。

「皆の想いを受けて、俺は『桐生戦兎』として、正義の為にライダーシステムを使ってきたんだ!」

ビルドが、ハザードトリガーを取り出す。

「ふっ、使うが良い。そして暴走するがいい。その力で、全てを破壊するが良い!!」

リベンジは嘲笑う。暴走する力に手を出すビルドを・・・桐生戦兎を。

「俺はもう何も壊さない。大切なものを見失わない。『葛城巧』としてじゃない――――」

しかし、それに戦兎は、揺るがない覚悟をもって叫ぶ。

 

「―――自意識過剰でナルシストな正義のヒーロー『桐生戦兎』としてのやり方で、俺は大切なものを守り通して見せる!」

 

そして戦兎は、ハザードトリガーを起動する――――

 

 

 

 

 

『マックスハザードオンッ!!!』

 

 

 

 

その音に、リベンジは驚く。

「いきなりマックスだと・・・何を考えている!?」

まさか、いきなり暴走領域の力を使うとは思ってもみなかったのだろう。

「オーバーフロー状態になれば暴走する・・・初めから暴走して戦うつもりなのか!?」

「無茶よそんなの!!」

そのビルドの行為に、シンやマリアも驚く。

「大丈夫!」

そんな二人に、セレナは叫ぶ。

「もし、戦兎先生を信じられないなら、私を信じて!」

セレナが、二人に向かって、そう言う。

その、セレナの自信に二人は、何も言わずにビルドの方を見る。

 

 

ビルドが、ビルドドライバーにハザードトリガーをセットする。

 

 

そして次にビルドが取り出したものは―――長いボトル。

「なんだそれは・・・!?」

見た事もないアイテムに、リベンジは戸惑いを隠せない。

 

 

 

ピョンピョンピョン

 

 

 

振れば、まるで何かが跳ねるような音が聞こえてくる。それと同時に、そのボトルの片方。銀色の部分にある発光装置が赤く光る。

そして、ビルドは、そのボトルの金色の蓋『セレクティングキャップ』を捻り、そのすぐ下の『リボルインジケーター』に兎の絵柄が表示される。

 

 

ラビット!』

 

 

そして、すぐさまそのボトルを引き延ばし、折り曲げ、『ビルドアップコネクター』を連結させ、ビルドドライバーに装填する。

 

 

ラビット(アンド)ラビット!!』

 

 

そのような音声が鳴り響き、ビルドは、言う。

 

「ビルドアップ」

 

そして、ボルテックレバーを回し、ハザードビルダーを展開する。

 

『ガタガタゴットンズッダンズダン!ガタガタゴットンズッダンズダン!』

 

展開されたハザードビルダーがビルドを挟み込み、そこから真っ黒なビルドを出現させる。

 

『Are You Ready?』

 

『オーバーフロウッ!!』

 

そのような音声が発せられると同時に、どこからともなく赤い機械の兎が飛んでくる。

可愛らしい仕草をするそれは、一度首を左右に振ると、突如としてその体を五つのパーツに分解させ、ビルドの周囲に展開される。

 

その形は、まるで鎧。

 

 

 

 

それをビルドが―――着装する。

 

 

 

 

 

紅のスピーディージャンパーッ!!!

 

 

 

ラビットラビットッ!!!

 

 

 

『ヤベェーイッ!!!ハヤァーイッ!!!

 

 

 

 

それが、ビルドの新しい強化フォーム――――

 

 

 

 

真っ赤な装甲をその身に纏い、ついに紅のビルドがその場に姿を現す。

「あれが、ギュインギュインのズドドドドド・・・・」

マリアが、そう呟き、紅のビルドは、リベンジの方を見る。

そしておもむろに駆け出し、その拳を叩きつける。

「ぐぅ!?」

その速さは、あまりにも速かった。

「おぉぉお!!!」

そのまま、凄まじい勢いでリベンジにラッシュを叩き込んでいく。

「ぐっ!?なんだ、この強さは・・・この速さは・・・!?」

リベンジが反撃するも、その全ての拳がビルドに辿り着く前に、ビルドの拳が先に叩き込まれる。例え先に拳を叩きつける事が出来たとしても、その拳は全て防がれ、カウンターの一撃がリベンジに突き刺さる。

「ハア!!」

渾身のストレートが叩き込まれる。

「速い・・・!」

響が、純粋に思った事を思わず口にしてしまう。

 

「ぐぅ!?・・・だが、今の私は、重力を自在に操る事が出来るッ!」

すぐさまリベンジが周囲の重力を操り瓦礫を浮かせる。

「これでもくら―――」

それをぶつけようとした瞬間、顔面に謎の衝撃が走る。

「ぐべあ!?」

すかさず腹、胸、肩、とまるで拳を何度も叩きつけられているかのような衝撃がリベンジを襲う。

「な、なにが起きて――――」

そしてリベンジは見る。

 

ビルドの突き出した腕が()()()自らを打ち据える瞬間を。

 

「馬鹿な・・・ぐあぁ!?」

まともに喰らったその一撃で吹き飛び、壁に叩きつけられるリベンジ。

それを遠目で見ていたシンは、その強さに圧巻する。

「あの動き・・・暴走状態のものと同じ・・・だが、自我を失っていない・・・」

今のビルドは間違いなくオーバーフロー状態。即ち暴走していてもおかしくない状態なのだ。

しかし、今のビルドが暴走している様子はなく、リベンジを圧倒していた。

「ハザードトリガーの万能強化剤『プログレスヴェイパー』を、同じフルボトル二本分の成分の常温による相互干渉によって生み出される万能抑制剤『スタビライザヴェイパー』によって抑制、自我を失う寸前で留める事で、理性を保ったままオーバーフロー状態で戦う事が出来る。それが、戦兎先生が考案して、作り出した強化アイテム『フルフルラビットタンクボトル』。そして、あのフォームが、速さ、機動性に特化した姿、『ビルド・ラビットラビットフォーム』!」

 

暴走を克服し、手に入れた新たな力――――

 

セレナが得意気に語るのを他所に、ビルドはさらにリベンジを追い込んでいく。

「俺はもう、自分を見失ったりはしない・・・この力は、完全に俺のものだ!!」

ビルドが跳ぶ。

高く跳んだビルドが、天井にその両足を付けると、すぐさま壁に向かってその天井を蹴り、また壁に両足を付けるともう一度蹴り飛ばし、三次元に四方八方、否、縦横無尽に駆け巡る。

「ば、馬鹿な・・・この私が、ルインドライバーが、悪魔如きに圧倒されるなど・・・!?」

目が追い付かない。おそらく、ビルドの動きがまともに見えているのはシンだけだろう。

十分に攪乱したビルドが、壁を蹴ってリベンジの腹に一撃を叩き込む。

「がっは・・・」

まるで相手になっていない。その理由は、一重にその速さ。

拳を突き出し、伸ばす際もその速さはすさまじく、まるで弾丸の如く勢いで敵を打ち据える。

それだけに留まらず、

「がぁぁあ!!」

リベンジの上段蹴りがビルドの顔面を捉えようとする寸前、その足が空振り、地面に着く前に背後に周り、殴り飛ばす。

挙動が速い、行動が速い、攻撃が速い。何を置いても、今のビルドの速さは、クライムに匹敵する程の速さを見せつけていた。

それだけじゃない。両腕両脚が伸縮するため、いつでもどこからでもリベンジに攻撃を叩き込めるのだ。

接近して殴り飛ばす、足を伸ばして蹴り飛ばす、腕を伸ばして薙ぎ払う、突っ込んで踵落としを決める。

まさしく一方的。

「ば、馬鹿な・・・この私が、ルインドライバーが、負けているだと・・・!?そんな、そんな事―――」

その言葉が終わる前に、ビルドのアッパーがリベンジに炸裂。それによって宙に浮いたリベンジを、再び拳が叩き込まれ、吹き飛ばされる。

「ぐあぁぁぁあ!?」

大きく距離を離され、地面を転がるリベンジ。

「フルボトルバスター!!」

一方ビルドは、着地と同時に、フルボトルバスターを取り出し、それにラビットフルボトルを装填する。

 

ラビット!』

 

「これが正義の力―――桐生戦兎の力だァ!!」

 

トリガーを引き、バスターブレードモードでリベンジをぶった切る。

 

フルボトルブレイクッ!!!』

 

天井から強襲。リベンジを脳天から叩き斬る。

「がはっ・・・」

さらに、後ろに飛んでもう一度三次元移動。その間にもう一度ラビットフルボトルを装填、そして次にゴリラフルボトルを装填する。

 

ラビット!』『ゴリラ!』

 

『ジャストマッチでーす!!』

 

すかさずもう一度トリガーを引き、今度は斜め後ろからの水平薙ぎ。

 

ジャストマッチブレイクッ!!!』

 

「がはぁ!?」

さらなる一撃を受けてよろめくリベンジ。

そのリベンジに、ビルドは更なる一撃を加えに行く。

 

ラビット!』『ゴリラ!』『忍者!』

 

ラビット、ゴリラ、忍者―――それは、戦兎が愛用したベストマッチ、巧が一か八かで使おうとしたベストマッチ、そして、忍が良く使っていたベストマッチの有機物ボトルの組み合わせ。

 

『ミラクルマッチでーす!!』

 

リベンジは、よろめき、どうにかビルドの一撃から逃れようと、ルインドライバーのトリガーを引く。

 

『Impact Frontier Break!』

 

腕にボトルの成分が収束し、その拳でビルドの振り抜くフルボトルバスターを迎え撃つ。

だが、もはやその攻撃はビルドの前には無意味だった。

 

ミラクルマッチブレイクッ!!!』

 

振り抜かれた、三本のボトルの一撃。葛城一族の、桐生戦兎の一撃。

壁を蹴り、リベンジに向かって袈裟斬りを炸裂させ、リベンジを壁に叩きつける。

「がっはぁ・・・」

それでリベンジの意識が一瞬飛びかける。

その隙にビルドはフルボトルバスターを仕舞い、ボルテックレバーを回す。

 

『ガタガタゴットンズッダンズダン!ガタガタゴットンズッダンズダン!』

 

ボルテックレバーを回したビルドが、地面を蹴って飛び上がる。

 

『Ready Go!』

 

飛び上がったビルドが、右脚をリベンジに向かって伸ばす。

それに思わず身構えるリベンジ。しかしそれはリベンジに当たる事なく、その寸前で止まる。

 

 

『ハザードフィニッシュッ!!!』

 

 

だが、本命はそれではない。

空間に固定された次元伸縮バネ『ディメンションスプリンガー』によって引き延ばされた足は、元に戻ろうとする。

そして、その足先は、空間を歪めるが故に伸縮だけでなく、物体をその場に固定する事も出来る。

そうして固定された伸ばされた右足の先は、敵に狙いを定めるスコープにして、カタパルト。

その反動だけでなく、背中のマフラー『マフラビットアクセラレーター』によって超音速にまで加速する。

そこから放たれる、超音速の一撃――――

 

 

 

 

ラビットラビットフィニッシュッ!!!

 

 

 

 

それが、今リベンジへと叩き込まれた

「ぐあぁぁああ!?」

胸部アーマーが砕け散り、その後ろの壁を砕けさせ、外に叩きだす。

ばらばらと砕けたアーマーの破片が宙を舞うも、金属光沢の放つそれらが、太陽の光に曝され、きらきらと輝く。

そうして、リベンジは外へと叩き出された。

「すごい・・・」

「これがビルドか・・・勝てない訳だ・・・」

その圧倒的強さに、マリアは呆然とし、シンはその強さに納得していた。

そんな中で、ビルドは響たちの方を向く。

「響!セレナ!こことそいつらとその英雄もどきは任せた!」

「分かりました!」

「待てぇ!その英雄もどきという言葉を撤回―――」

「貴方は黙っててください」

「げぼあ!?」

響に顔面をぶん殴られ悶えるウェルに同情はせず、ビルドは外に叩きだしたリベンジを追う。

 

 

 

 

その、リベンジが落ちた先で――――リベンジは

 

 

 

「己ェ・・・・」

もはや憎しみの感情しか抱いていないリベンジが、その場で這いつくばっていた。

砕け散った胸部装甲。そこから、想像を絶する痛みが、ジェームズを襲っていた―――否、もはや今のジェームズに痛みなどなかった。

「己、己己己おのれオノレオノレオノレオノレおのレオのれおノれオノれオノレオノレオノレオノレぇぇぇえ!!!」

叫ぶリベンジ。

もはや、葛城巧や忍に対する怒りで、痛みを脳内から排除しているのだ。

痛みを無駄な思考として、脳内から排除し、それ以外の事を気にしないように。

ただ、奴を―――ビルドを殺す為だけに。

その想いに呼応するかのように、その両手両足の地面から、リベンジが何かを吸い出していた

「殺ス・・・絶対ニ殺スゥ・・・!!カァツラギィタクミィィィィイ!!」

地獄の底から轟くような雄叫びがその空に響き渡る。

そこへビルドがやってきて、リベンジの異常に気付く。

「・・・おいおい」

それにビルドは冷や汗を流す。

装甲が生きているかのように胎動し、膨れ上がり、変形し、まさしく異形、怪人にでも成り代わっているかのような変化が、今まさに、リベンジに起きていた。

砕け散った筈の胸の装甲はいつの間にか修復され、しかし禍々しく変形しており、またその体も肥大化。下半身はそのままで、まるで上半身がトロルのように巨大化している、まさしく異形ともいうべきその姿は―――とてもではないが仮面ライダーとは言えなかった。

否、それは、むしろ――――

「・・・スマッシュ・・・だな」

 

―――地球上には存在しないネビュラガスを人体に注入する事で、特殊な細胞分裂を引き起こし、創り上げる怪物―――

 

「おおかた、フロンティアから力を吸い上げて、それをボトルの成分に変換、ルインドライバーの機能でそれを体内に浸透、それが体内に残存しているネビュラガスと化学反応を起こして、結果、こうなったと・・・」

 

目の前にいるのは、もはや人間ではない。

「さあ・・・実験を始めようか」

フルボトルバスターを構えて、ビルドは、目の前の怪物―――『フロンティアレリックスマッシュリベンジ』と対峙する―――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「どんだけ頑丈なんだよ・・・」

リベンジと激闘を繰り広げるビルド

「ウェルを止めて・・・」

マリアから、ガングニールを託される響。

「心配しないで!」

そして、響は再び、ガングニールを纏う―――

「喰らいつくせ、僕の邪魔をする何もかもを・・・!」

暴走したウェルが生み出した怪物『ネフィリム』

「フざけルなぁァぁあ・・・・!!!」

怪物へと成り果てたジェームズ=リベンジ。

「マリア姉さんがやりたい事は、何?」

「皆を守りたい・・・」

そして、姉妹の歌が、世界に響き渡る―――


次回『始まりの(バベル)


Start Up』


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始まりの(バベル)

戦「天才物理学者にして仮面ライダービルドの桐生戦兎は、創造した新世界にてノイズと戦う日々を送っていた」
シ「F.I.Sとの戦いももうすぐ決着。前回のウェルとジェームズをぼこぼこにするシーンは俺も混じるべきだったか」
マ「待ってそれは私もやりたいわ」
調「私も」
切「アタシもデス!」
響「あ、私も」
未「私にもやらせてくれるかな」
龍「殴り足りねえからな」
慧「待て待て待て!?いくらなんでも皆殺意マシマシ過ぎじゃね!?杉田だけに!」
戦「誰が上手いこと言えといった」
慧「あいた」
戦「まあそれはともかく、ジェームズが変身した仮面ライダーリベンジは思いっきりボッコボコにされ、戦いは次なるステージへ」
シ「その結末を見逃すな」
マ「というわけで、第四一話をどうぞ!」


ビルドがリベンジを追って、外に出ていった時の事だった。

「ぐ・・・ぐそぉ・・・・!!」

ウェルが呻き声を上げながら立ち上がる。

「大人しく降参してください。これ以上戦っても、貴方に勝ち目はありません」

そんなウェルに、響は冷静に降伏勧告を告げる。しかし、ウェルはそれを拒否。

「黙れ!黙れ黙れェ!!英雄である僕が負けるだと?そんな事があってたまるかァ!!」

もはや、呆れを通り越して醜い。

醜すぎる欲望である。

「貴方は、英雄にはなれない・・・」

「何ィ?」

「貴方のような人は、決して英雄になれない・・・もちろん、私も英雄になりはしない」

「ハッ!ルナアタックの英雄と呼ばれておきながら、なんて傲慢な!お前のような奴がいるから色んな奴が好き勝手するんじゃないのか!?」

「そうかもしれない・・・だけど、それでも私は誰かに向かって手を伸ばし続ける。じゃないと、誰とも繋がれない。愛と平和を、語る事なんて出来はしない!」

ウェルに向かって構えて見せる響。

「ここで貴方を止めて見せます。ウェル博士!」

その言葉に、ウェルは激しく歯ぎしりする。

 

その時だった。

 

「融合症例第一号!」

突如としてマリアが響に向かって叫ぶ。

振り返れば、何故かシンフォギアを解除しているマリアが、響に向かって何かを投げる。

 

それは、シンフォギアのペンダント。

 

「これって・・・」

「一度、ガングニールと融合した事があるのなら可能な筈だ!だからお願い・・・ウェルを止めて・・・世界を救って!」

マリアの懇願するかのような言葉。

「そんな事させるかぁぁぁあ!!」

そこへウェルが飛び掛かる。今のウェルの左腕はネフィリムの特性と同等の力を持つ。

それで聖遺物に触れれば、その聖遺物を取り込む事が可能―――即ち、響の手の中にある、ガングニールのペンダントに触れ、取り込む事が出来れば、永久に封じる事が可能なのだ。

それに対して、響は拳を握りしめて迎撃しようとする。

「うげあ!?」

だがその前にセレナがガンモードにしたドリルクラッシャーでウェルの左腕を撃ち抜く。

「それはこっちのセリフです」

「いったぁぁああ!?」

撃ち抜かれたウェルはその場で悶え転げまわる。

「調ちゃんにも言われてるんだ」

そんな中で、響がマリアに向かって言う。

「マリアさんを助けてって。だから、心配しないで!」

そう言って、笑って見せる響。

「ああそれと、私、『融合症例第一号』なんて名前じゃありません!」

「え?」

「立花響、十六歳。好きな物はごはん&ごはん、体重は・・・まあそれは後で、どこにでもいるただの女子高生です!そして―――」

響は、ウェルの方を見て、高らかに言い放つ。

「愛と平和の為に戦う、シンフォギア装者です!」

 

そして、胸の歌を―――信じて歌う。

 

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)―――」

 

 

聖詠と共に、手の中のペンダントが輝き、響の衣服を、どんな困難も打ち倒すための力を込めた戦装束へと変化させる。

胸の聖遺物―――奏のガングニールは消えた。

本来であれば装者になる事が出来ない、普通の一般人の少女。その運命を変えたのは、やはり、あのライブの日。

あの日、彼女が憧れる切欠となった歌の世界が、戦場と化した世界で戦う、二人の戦姫が紡ぐ歌が、彼女の運命を変えた。

あの日、胸に受けた傷。それは彼女を蝕むものだったのかもしれない。しかし、それでも彼女は―――その力があったからこそ、多くの人々を救えたのだ。

 

だからそれは、必然だ。

 

それは、マリアのものと同じ、ガングニールではあれど、黒ではない撃槍。

しかしそれは、マリアの槍でも、奏の槍でもない槍―――ただ真っ直ぐに貫き通す、拳の一撃。

彼女だけの、矛―――全ての人と手を繋ぐための拳ッ!!

 

今ここに、立花響のガングニールは復活した。

 

「ひぃぃい!?」

それを見て、流石に勝ち目がないと踏んだのか、無様に逃走を始めるウェル。

「こんな所で・・・うわぁあ!?」

階段を踏み外し、転げ落ちるウェル。

「こんな所で・・・終われるものかぁあ!!」

落ちた先で床を叩き、そこにどういう原理か穴を生成するウェル。

「穴!?」

「逃げるつもりか!?」

そこへ、どういう訳か弦十郎と緒川がやってくる。

「ウェル博士!」

ウェルはそのまま穴の中で逃げていく。その穴は、ウェルが入ると同時に消えてしまう。

「くっ・・・!」

「響さん!そのシンフォギアは・・・」

緒川が響の姿を見て、驚いたように尋ねる。

「マリアさんのガングニールが、私の歌に応えてくれたんです!」

その直後、突如としてフロンティアが揺れる。

 

フロンティアが、上昇しているのだ。

 

「今のウェルの左手はネフィリムと同じもの。だからこのフロンティア内であればどこでもフロンティアを意のままに操作できる状態になっている。だからウェルの暴挙を止める為にはフロンティアの動力を止める必要がある。今は、桐生戦兎がハザードフォームで消し飛ばしたネフィリムの心臓を使って動力を起動している。それさえ破壊する事が出来れば・・・」

「ウェル博士の暴挙を止められるんですね?」

響の言葉に、シンがうなずく。

「頼む、立花響。戦えない俺たちに代わって、奴を止めてくれ」

シンは、そう言って頭を下げる。

「お願い・・・」

マリアも、一緒になって頭を下げる。

「心配しないで」

そんな彼らに、響はなんでもないように答える。

「さっきも言ったけど、調ちゃんに頼まれてるんだ。だから、絶対に止めてみせます」

その時、何かが砕けるような音が響く。

見れば、そこには先ほどウェルが穴を開けた場所に拳で亀裂を作っている弦十郎がいた。

「師匠!」

「ウェル博士の追跡は、俺たちに任せろ。だから響君は・・・」

「ネフィリムの心臓を止めます!」

弦十郎の言葉に、響はそう答えて見せる。

それに、弦十郎がうなずく。

「待て」

そこへシンが弦十郎に申し出る。

「それなら俺も・・・」

「あ、待ってくださいシンさん」

しかし、それをセレナが遮り、肩にかけていたアタッシュケースを下ろす。

「戦兎先生から、シンさんに渡し物です」

「桐生戦兎から・・・俺に?」

そう言って、セレナがアタッシュケースの留め具を外した直後、箱が勢いよく開く。

「うわ!?」

そして、その中から何かが飛び出し、一度セレナの額を蹴っ飛ばしてからシンの方へ飛んでいく。

「はぐあ!?」

「セレナ!?」

「うお!?」

そうしてシンの左掌に乗って、そのまま左腕、左肩、右肩、右腕を通って右手の甲に乗ったそれは、シンの手の上で一鳴きする。

「バールルルル!!」

「コイツは・・・!?」

白い、狼の機械。

一見クローズと似たそれは、折り畳み式なのか若干スリムであり、しかしその背中には、ボトルを装填する為のスロットがあった。

「いったた・・・『クライムウルフ』。戦兎先生が、シンさんの為に作ったお目付け役兼、変身アイテムです」

「奴が・・・俺に・・・一体何故・・・」

その事に、戸惑うシン。

「ええ!?戦兎先生が!?」

「また勝手に何か作ったんですね・・・」

「全く、戦兎君は・・・」

響は心底驚き、緒川は苦笑いし、弦十郎は仕方がないとでもいうように頭を掻く。

「龍我さんからシンさんの事を聞いて、戦兎先生がシンさんの事を信じて作ったそうです。シンさんは、優しい人だから、きっと、この力を託せるって」

セレナは、アタッシュケースの中からもう一つの装置を取り出す。

それは―――戦兎が新しく作った、ビルドドライバー。

「はっ・・・自分で愛と平和の為と言っておきながら・・・いや、奴の持論から言えば、この力は使う者次第という事か・・・だが今は、これほど都合の良い事はない」

シンが、セレナから受け取ったビルドドライバーを腰に巻き付ける。

「ジェームズ博士が、俺たちの遺伝子を弄ってくれた事に関しては感謝しなければならないな」

そう言って、シンは取り出したウルフフルボトルを振り、そして背負われるように取り付けられたフルボトルスロットにそのボトルを装填する。

 

Start Up』

 

装填すると同時にそのような音声が鳴り響き、そのままウルフを横に折りたたむようにして、ビルドドライバーにセットする。

 

CRIME WOLF

 

まるで抑揚のない音声。しかし、それがまたシンらしさを出している。

そして、ボルテックレバーを回し、スナップライドビルダーを展開。

 

 

『Are You Ready?』

 

 

―――覚悟は良いか?

 

そう、ベルトが呼びかけてくる。

それを聞いてシンは、なるほど、と思う。

彼らは、いつも、この様な問いかけを受けてながら戦っていたのかと。

 

自分の『正義』を、再確認するために。

 

シンは、一度、マリアの方を見た。

マリアは、シンがこちらを見た事にきょとんとしているが、その事に、シンは思わず微笑む。

(彼女が、笑顔でいてくれるのなら―――)

この力、あえて受け入れよう――――

 

「変身」

 

特に変身ポーズを取らず、シンは、ビルダーに挟まれる。

 

『Start Up Lightning!Let's CRIME WOLF!Yeah!』

 

ビルダーに挟まれ、現れるは灰色の戦士。

その素体は、ビルドのウルフハーフボディを二つ組み合わせたようなものだが、腕の爪はなく、代わりに頭部の複眼『ツインアイウルフ』を覆うV字のバイザー『オーグメントレイヤー』が取り付けられており、その全身も若干スリムな体系となっていた。

ルインドライバーによって変身するクライムを『プロトクライム』とするならば、これは、まさしく本当の『仮面ライダークライム』と言った所だろうか。

そう、それはまさしく―――

 

 

新生・仮面ライダークライムの誕生である。

 

 

そう、変身したクライムは、一度変身した自分の姿を見る。

「これがビルドドライバーによる変身か・・・」

ルインドライバーの時より、ずっと動きやすい事に、クライムは感心する。

おそらく、ルインドライバーの『装甲にボトルの成分を浸透させる』というコンセプトの元、金属製の装甲が若干重いのだ。システムの補助とボトルの成分の効果が向上する効果があるとはいえ、それでも装甲の重さは否めない。

その一方で、ビルドドライバーの『ボトルを装甲に加工して纏う』というものは、いわば装甲に金属並みの硬さをもつプラスチックを纏うかのような感覚だ。

性能はともかく、動きやすさで言えばビルドドライバーの方がマシだった。

ある程度の調子を確かめると、シンは―――クライムは頷くと、響の方を見やる。

「行こう、立花響」

「はい!」

「よし、行くぞ緒川!」

「はい」

弦十郎と緒川が亀裂に入っていく。

そしてクライムは、出る前にマリアの元へ向かう。

「マリアはここで待っていろ」

両手を肩において、クライムはマリアにそういう。

「シン・・・気を付けて・・・」

それに、マリアはとても心配そうに、今にも泣きそうな表情でシンを見上げていた。

「ああ」

目元に滲んでいた涙を拭ってやる。

「必ず」

「待ってて、ちょっと行ってくるから!」

「気を付けてください!」

セレナの言葉を背に、クライムと響は走り出し、外へと飛び出す。

その後ろ姿を、マリアは見届ける―――

 

 

宙に浮く瓦礫を足場に、二人は飛ぶ。

「お前たちは炉心の破壊をしに行け!俺はビルドの援護に向かう!」

「お願いします!」

視界で、大きな土煙が舞い上がる瞬間を見据える。

ツインウルフアイの能力を、オーグメントレイヤーによって強化した結果だ。

このオーグメントレイヤー。

集団戦特化の『ウルフフルボトル』の能力に単独戦闘用の機能を追加する能力があるらしく、半径一キロ以内の索敵、動体視力の大幅強化、敵味方関係なくその行動を把握する事が出来たり、挙句の果てに

「あそこか・・・・」

そこから、ビルドが飛び出し、それを何故か上半身が肥大化したリベンジが追いかけていた。

変形し、巨大な手と化した手の爪によってビルドを切り裂こうとし、ビルドの速さを捉えきれず、躱される。

そして距離を取った所で、ビルドが腕を伸ばして攻撃。

それを躱してその腕を掴むも、しかしすかさずビルドが戻る反動を利用して突撃、体当たりをかまして吹き飛ばす。

吹き飛ばされたリベンジが地面を滑り、激しく土煙を立てるも、まるでダメージがないように立ち上がる。

「チッ、どんだけ頑丈なんだよ・・・」

「手伝ってやろうか?」

そこへクライムがやってくる。

「お、その様子じゃ俺の見立ては正しかったようだな」

「何故俺が奴に遺伝子操作されていると?」

「慧介がスクラッシュドライバーを使えたんだ。だったらお前も使えて当然だろ」

「そうか」

そのビルドの物言いにクライムはふっと笑う。

「キサマ、そノドラいバーは・・!?」

「もうお前に従う必要はないからな。それに、折角の贈り物だ。ありがたく使わせてもらう事にした」

クライムは、そう言ってビルドドライバーに触れる。

「く、くクく・・・そうカ、それガオ前の答エか・・・!!」

さらに、リベンジの装甲が変形する。

「ならバ!貴様も悪魔ノ一人!いマこコで引導を渡してクれルワあぁぁああぁああ!!」

恐ろしいまでに変形した装甲。

それに、ビルドとクライムは怖気づく事はなく、敵と対峙する。

「行くぞ」

「おう!」

 

 

 

 

その一方、響は翼たちの元へと向かっていた。

「翼ちゃん!クリスちゃん!龍我さん!それに慧介君も!」

翼とクリスは、Anti LiNKERの効果が抜けたのか再度ギアを纏っており、龍我はクローズイチイバル、慧介は先の戦いで三倍強化四倍負荷のスクラッシュドライバーが壊れた為に龍我のスクラッシュドライバーでタスクに変身していた。

流石にあれほどの負荷が出る調整をしていたのだ。壊れて当然である。

「立花」

翼が響の名を呼ぶ。

「もう遅れは取りません。だから・・・!」

「ああ、一緒に戦うぞ」

「はい!」

ふと響は、ソロモンの杖を持つクリスを見つけると、まるで自分の事のように喜んでその手を手に取る。

「やったねクリスちゃん!きっと取り戻してくれると信じてた!」

「お、おう、ったりめえだ・・・!」

そんな中で、タスクは響に歩いて行って、頭を下げる。

「すみませんでした!」

「え?」

「自分が暴走したせいで、アンタにも迷惑をかけた!本当にごめん!」

「ああ、気にしないで!でも、無事に制御出来て良かったよ。だから、一緒に戦おう」

その響の言葉に、タスクは顔を上げて頷く。

「はい!・・・って、そういえばシンとマリアは・・・」

「ああ、シンさんなら戦兎先生と一緒に、ジェームズ博士と戦ってて、マリアさんはセレナちゃんと一緒にいるよ」

「シンはジェームズと戦って・・・ん?待って、今セレナって言った!?」

タスクが驚く傍らで、ふと彼女たちの通信機に弦十郎から通信が入る。

『本部の解析にて、高出量のエネルギー反応地点を特定した!おそらくあそこが、フロンティアの炉心!心臓部に違いない!装者たちは、本部からの支援情報に従って急行せよ!』

それを受けた翼が高らかに言う。

「行くぞ!この場に槍と弓、剣を携え、龍と虎を従えているのは私たちだけだ!」

ふと、向こう側で激しい爆発音が聞こえてくる。見れば激しい土煙が、本部の支援情報のあった場所に向かって移動していた。

というか、戦いながら移動しているのだ。

「あそこにシンたちが・・・」

「行くぞ!」

「あ、はい!」

それぞれの目的に向かって、彼らは飛ぶ。

 

 

その様子を、炉心にてウェルは見ていた。

「人ん家の庭を走り回る野良猫め・・・!フロンティアを喰らって同化したネフィリムの力を、思い知るが良い!!」

その時、炉心に取り付けられたネフィリムの心臓が一際強く鼓動する――――

 

 

その時、響たちの向かう先の地面が、まるで生物のように動き出す。

「え!?何!?」

「今更何が来たって・・・!」

そうして出来上がったのは――――巨大な怪物だった。

巨大な腕、棘のある肩や背中、何もかもを喰らい飲み込みそうな程巨大な口―――おおよそこの世の生物とは思えない異形だった。

「グォォォォォオオオォォォオオ!!!」

咆哮を上げたそれは、背中の棘をミサイルのように飛ばす。

それを、彼女らは躱す。

「これは、あの時の自立型完全聖遺物(ネフィリム)なのか!?」

さらに、怪物―――ネフィリムが火炎弾を吐き出す。

クリスに向かって放たれたそれを、クリスはどうにか躱す。

「にしては張り切り過ぎだ!!」

 

 

 

 

「喰らいつくせ、僕の邪魔をする何もかもを・・・!」

炉心にて、ウェルの絶叫が迸る。

「『暴食』の二つ名で呼ばれた力を示すんだ!ネフィリぃぃぃぃぃぃィム!!!」

 

 

 

 

 

 

その一方、ブリッジにて。

「セレナ、お願い、貴方の歌で世界を・・・」

マリアは、壊れたもう一つの聖遺物―――『アガートラーム』のシンフォギアを彼女に差し出す。

もう、修理しなければ起動できないものであるそのシンフォギアは、元々はセレナのものだ。それを、この六年、マリアがずっと持っていたものだ。

しかし、それをセレナは、首を振って受け取らない。

「どうして・・・」

それに、マリアは戸惑う。

「確かに、私なら何の負荷も無しに、アガートラームをもう一度纏う事は出来ると思う。でも、きっと私一人だけの歌じゃ、世界は救えない」

「そんな・・・貴方が出来なきゃ、一体誰が・・・」

「だから、私たち二人で歌うの」

セレナは、アガートラームを持つマリアの手を両方の手で包み込む。

「一人ではできなくても、二人ならきっと出来る。それに、私はもう装者じゃない。それはもう過去のもの・・・今のアガートラームは、マリア姉さんのものだよ」

セレナは、マリアに向かって微笑む。

「マリア姉さんがやりたい事は、何?」

その問いかけに、マリアは、胸の中で思ったことを、するりと答えて見せる。

「歌で、世界を救いたい・・・月の落下がもたらす災厄から、皆を守りたい・・・」

その答えに、セレナは大いに微笑む。

「生まれたままの感情を、隠さないで―――」

「セレナ・・・・」

そう言って、セレナは―――歌う。

 

「りんごは浮かんだお空に…―――」

 

それに、マリアが続く。

 

「りんごは落っこちた地べたに…―――」

 

その歌が、二人の間を流れ、そして――――世界に鳴り渡る―――

 

 

 

それは、まるで魔法のような光景。

 

 

二人が歌っているのはただの民謡。彼女たちの故郷で、祖母より聞かされてきた童歌(わらべうた)だ。

その歌が世界各地に響き渡り、その歌詞を知らない筈の人々が、自然にその歌を口ずさみ、共鳴し、旋律一つ奏でる度に、人々が衝動的にその歌を唄っていた。

 

 

それによって、高まったフォニックゲインは――――

 

 

 

 

「ごふっ・・・」

すでに限界に近い体で、ナスターシャはその光景を目の当たりにしていた。

「世界中のフォニックゲインが、フロンティアに収束していっている・・・」

世界中の人間が奏でるフォニックゲイン。それが今、このフロンティアに収束していっていた。

「これだけのフォニックゲインを照射すれば、月の遺跡を再起動させ、公転軌道の修正も可能・・・!!」

もう、時間がない。迷っている暇もない。

ナスターシャは、すぐさま行動を開始する。

 

 

 

『マリア!セレナ!』

「・・・ッ!マム!」

マリアとセレナが、コンソールへと向かう。

『貴方たちの歌に、世界が共鳴しています。これだけフォニックゲインが高まれば、月の遺跡を稼働させるには十分です』

その言葉に、二人は思わず安堵してしまう。

『月は私が責任をもって止めます・・・う、ごふっ、ごほっ!』

「ッ!?マム!」

向こうの様子が見えない中で、ナスターシャが何かを吐いた事が分かる。

『う・・・もう何も貴方を縛るものはありません・・・行きなさい、マリア』

それは、今まで聞いたナスターシャのどの声よりも優しい声だった。

『行って私に、貴方の歌を聞かせなさい』

「マム・・・オーケー、マム!」

その言葉に、マリアは、涙を流しながら、笑って、力強く答える。

『セレナ・・・』

「・・・はい」

『まさか、貴方の声がまた聞けるとは思ってもみませんでした』

「私も・・・またマムに会えるなんて思ってなかった」

『貴方には、本当に申し訳ない事をしました。貴方一人に、大きな責任を負わせてしまいました』

「気にしないで・・・あれは、私が選んだ道だもの」

セレナは、力強く答えて見せる。

『少し見ない間に、とてもたくましくなりましたね・・・』

「姉さんには負けるよ」

『そうですか・・・・さあ、貴方も行きなさい。貴方たち姉妹の歌を、聞かせなさい』

「・・・・イエス、マム」

その言葉を機に、マリアが高らかに宣言する。

「世界最高のステージの幕を上げましょう!!」

 

 

 

 

 

「ぉぉおらぁぁあ!!」

ビルドが走り出し、そのまま腕を後ろに伸ばしリベンジに接近する。

一瞬にして距離を詰めて、伸ばした腕を反動によって引き戻し、そのまま一気に叩きつけてぶっ飛ばす。

「ぐあぁあ!?」

その吹っ飛んだ先で、クライムが刀を正眼に構えていた。

「自由斬撃ッ――――」

手の中の雷切から放たれる電流を、スーツの性能向上に使用。反応速度を極限にまで高め、もはや時間が止まったと錯覚するほど遅くなった世界で、クライムは、突っ込んできたリベンジを、横薙ぎ一閃で斬撃する。

「がっは・・・!?」

確かに深く切り裂いた。しかし、その傷が瞬く間に修復されていく。

「チッ!」

「うぉぉぉお!!」

「ウオリャア!!」

そこへ、何故かここにやってきたクローズとタスクの高所からの飛び掛かり攻撃。

ブラストブレードとツインブレイカーによる一撃がリベンジを地面に叩きつけられる。

激しい衝撃によって土煙が巻き起こる。

「お前!?なんでこっちに!?」

「ああ?苦戦しているようだったから手伝いに来てやったんだろうが」

「お前に心配される程弱くないよこの馬鹿!」

「馬鹿って言うな、せめて筋肉つけろ筋肉を!」

ビルドとクローズは相変わらず、

「シン!」

「慧介か。調と切歌は?」

「ごめん見てない!ただ向こうにネフィリム復活して出てきたんで響さんたちにそっち任せてる!」

「ネフィリム!?ウェルの奴か・・・!?」

そこで瓦礫の中からよろよろとリベンジが立ち上がる。

「はあ!?今の食らってまだ立てんのかよ!?」

「ボトルの成分を体にまで浸透せているとは言っていたが・・・どうやらフロンティアからの供給がある限り、何度でも再生するようだ」

「ええ!?どうすんだよそんな奴!」

「だったら再生できないように攻撃するまでだ!!」

ビルドがフルボトルバスター片手にそう叫ぶ。

「うがぁぁあああ!!」

そこでリベンジが地面を叩く。すると地面が一気に盛り上がり、四人を纏めて打ち上げる。

「うぉぉぉおお!?」

「ちっ!こんな事まで出来るのか!?」

「もうほんとの化け物だな・・・」

「・・・・ん?」

ふとタスクが後ろを見れば、そこには、ネフィリム相手に奮戦している響達の姿がいた。

「あ、これネフィリムとぶつかる軌道だ」

「「「え」」」

ネフィリムのすぐ傍に着地してしまった四人。

「え!?なんで四人ともこっちに!?」

「すまんなんか連れてきちまった!」

突然の飛来に驚く装者三人。

「なんか見たこともない姿になっているが・・・それが噂に聞くハザードフォームを制御する力か!」

「おう!」

「なんか色が被ってんな・・・ってあぶねえ!」

ネフィリムが、すぐさま四人に攻撃目標として敵意を向ける。

その拳が四人に向かって振り落とされるも当たらず、ビルドが地面を駆け抜けてネフィリムの懐に飛び込む。

「っ!?待て桐生!そいつに物理的攻撃は―――」

後ろに向かって腕を伸ばし、そのまま反動でネフィリムを殴り飛ばす。

するとどうだ?ネフィリムの皮膚は呆気無く砕け、その中の中枢を穿ってみせた。

「―――ああ、そういえば防御力関係なしに攻撃を加えられるんだったな・・・」

ハザードフォームの『BLDコンバージェントグローブ』は、拳による攻撃の衝撃を破壊対象内部の特定部位に収束させる機能を備えており、敵の装甲強度に関わらず、一定のダメージが与えられるのだ。

「じゃああのデカブツとまともに戦えんのはアイツだけかよ!?」

「あー、そうでもないっぽい」

次の瞬間、ネフィリムの腕が斬り落とされる。

クライムだ。

「ふん、この程度か」

クライムの斬撃が、ネフィリムの腕を綺麗さっぱりに斬り裂いたのだ。

「もうなんか、同じ人間と思えないんだが・・・」

「あの剣技・・・是非一度手合わせてしてみたいものだ・・・ッ!?」

ふと背後から殺気を感じて飛び退く翼。そこへもはや人のものとは思えない腕を振り上げて振り下ろしてきたリベンジの腕が炸裂する。

「お前は・・・!?」

「貴様らだナ・・・あノ悪魔ニきョウりょクしテいるクズドもは・・・!!」

「は・・・?」

思わず硬直してしまう翼。

「い、一体なんの話・・・」

「とボケるナ!きサマがあの悪魔ト共謀シているノはシッテいるノだ!ついデに今ここデお前ヲ殺セば、少なくとも奴ノ気力を削ぐコトは出来ルだロうな!」

「だ、だから、一体何の話を・・・」

訳が分からない翼はただ混乱しているだけだが、そこへこっそり翼に忍び寄ったクライムが翼にしれっと説明する。

「そいつが悪魔と言っている相手は桐生戦兎だ」

 

ぶちっ

 

「きっさまぁぁぁあああ!!!」

「ぐあぁぁああ!?」

いきなり蒼ノ一閃でリベンジをぶった切る翼。

「桐生の事を悪魔だと・・・貴様、余程死にたいらしいな・・・・!!」

鬼の形相で翼はまるでどのような方法で斬り刻んでやろうかと熟考するかの如く片手に持った刀の峰をもう一方の掌にとんとんと何度も叩いていた。

「グっ・・・・何ガ悪い!あの男は、正真正銘ノあくm・・・」

「問答無用!!!ここで私に斬り刻まれろォ!!」

すかさず斬撃の嵐をリベンジを襲う。

「あ、あんな先輩初めて見た・・・・」

「よほど戦兎先生の事を悪魔呼ばわりされたのが許せなかったんだね・・・」

「よし、計画通り」

「「ええ・・・」」

何やら満足気でガッツポーズを取るクライムに引く響とクリス。

だが―――

「ふザケるナァァアァァアアア!!」

「な!?」

翼がリベンジに弾き飛ばされる。

「野郎、まだ―――」

「ガァァアアァアア!!」

「うごっ!?」

別方向から飛び掛かってきたクローズを殴り飛ばす。

「さっきよりも動きが―――!?」

リベンジに変化が起こる。肥大化していた腕は急激に収縮、その装甲も一気に引き締まり、スリム体系になる。

そして次の瞬間、恐ろしい速さでタスクに接近、殴り飛ばす。

「ぬぐあ!?」

「慧介!?」

声をあげるクライムに、リベンジが迫り、恐ろしい速度で拳を振るう。

それに対してクライムは恐ろしい反応速度で対応。リベンジの振るう拳の連撃をクライムがその刀剣をもって叩き落していく。

だが―――

(こいつ、だんだん早く、強く――――!?)

「シャァァアア!!」

雷切を蹴り上げられ、大きく上体が仰け反る。そのがら空きになったどてっぱらにリベンジの蹴りが叩き込まれ、クライムは大きく下がらされる。

「ぐっげほっ・・・!?」

(時間が経つ度に強くなっていく・・・これは、いよいよ早急に決着をつけないとまずいぞ・・・!)

リベンジの異常な成長性。

それはおそらく、この巨大宇宙船から力を供給し続けられているために、その余剰分が成長するための経験値だかアビリティポイントだかに変換されているのだ。

その上ジェームズ自身は科学者。考える事に関しては戦兎に匹敵する程だ。

その頭脳を使って、自らを強化していっているのだ。

遺伝学に精通している事も、彼の強化をさらに加速させてみてもいいだろう。

そんなリベンジがネフィリムを投げ飛ばしているビルドを見る。

「カァツゥラァギィィィィイ!!」

「ッ!?そっちに行ったぞ!」

恐ろしい速度でビルドに突っ込んでいくリベンジ。

「なっ―――!?」

その速度に反応できず、呆気なく吹き飛ばされるビルド。

「ぐぁぁああ!?」

地面に叩き落とされる。

「シィネェェエェエエエ!!」

「ッ!?」

起き上がった所を、リベンジがさらに追撃しようと飛んで蹴りを向けてくる。

その時だった。

「慧くんを苦しめた仇ぃぃぃぃぃいい!!」

調が巨大な丸鋸をもってリベンジをぶった切った。

「デェェェエスッ!!」

さらにネフィリムの腕を拘束し、そのままギロチンのような刃でぶった切る切歌もやってくる。

「がっはぁぁああ!?」

吹っ飛ばされるリベンジ。

「お前ら・・・!」

「シュルシャガナと」

「イガリマ、到着デース!」

「来てくれたんだ!」

響が嬉しさに声を挙げる。

「あの人は斬り刻むあの人は斬り刻むあの人は斬り刻むあの人は斬り刻む・・・」

「あ、アハハ・・・まあ、アイツらを相手にするのは、結構骨が折れそうデスよ」

なにやら呪詛のように言葉を繰り返しながらリベンジが吹っ飛んで行った方を睨む調とそんな調に苦笑しつつ先ほど断ち切った腕を早急に再生させるネフィリムを見上げる切歌。

「おーい切歌ー、調ー!」

「あ!慧介!」

そこへタスクが駆け寄ってくる。が、次の瞬間。

「慧くん!・・・あ」

「え、ちょ、しら―――うげはあ!?」

タスクに駆け寄ろうとした調がなぜか小石に躓いてタックル気味にタスクに抱き着きそのままもつれ合うかのように倒れる。

「いたたぁ・・・」

「んぐ!?ちょ、調、どいてくれ―――」

そう言って上に乗って抱き着いたままの調をどかそうとするタスクだったが、次の瞬間、

「んひゃん!?」

なんとも色っぽい声が調から発せられる。

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・え、何今の声?」

瞬間、場が凍り付く。

が、それをよそに、タスクは調を押し上げる―――調の胸をつかみながら。

「・・・・」

「・・・・」

沈黙――――後に、

「いやぁぁあああ!!!」

「ふごあ!?」

仮面ライダーになってなければ確実に死んでいる張り手。それがタスクに炸裂し、ものの見事に吹っ飛んで行った。

「ああ、なんか、本当に元通りって感じがするデス」

「・・・ん?ちょっとまて、日常茶飯事なのかこれ!?」

「ああ、もはや呪われているレベルに、調と慧介はこんなだ」

「そ、そういうのは家でやれぇ!」

切歌が遠い目をし、ビルドが驚き、クライムが説明、そしてクリスが顔を真っ赤にしてそう叫ぶのだった。

「あはは・・・って!そんなことしている暇じゃないですよ!」

そう、ここは戦場。目の前には、自立稼働型の完全聖遺物ネフィリムとスマッシュと化した仮面ライダーリベンジがいるのだ。

すでに再生を終えて、こちらに向かってきているネフィリムは咆哮を挙げて彼らを見下ろし、一方のリベンジは調から受けた傷を再生させて、こちらに向かってきていた。

「グォォォォオ!!」

「カァツゥラァギィィィィ・・・・!!」

ネフィリムはともかく、リベンジは見るからに哀れだ。

復讐に取りつかれた亡霊、憎しみのままにその身を怪物に変えた哀れな一人の男。

そんな怪物が、今、一つの脅威となって、彼らの前に立ち塞がっていた。

「せめてツヴァイウィングになれればな・・・」

ふとビルドがそう呟く。

「ツヴァイウィング?それって確か・・・」

「ああ、翼が昔組んでたユニットの方じゃねえぞ」

ビルドがラビットフルボトルとフェニックスフルボトルを取り出す。

「ツヴァイウィングフォームなら、色んな力を纏め上げてアイツを一撃で消し飛ばす事が出来るんだが・・・」

「それをするにはどうすれば?」

「シンフォギアに搭載された『限定解除(エクスドライブ)』って言う力を開放する程のフォニックゲインがあれば、どうにかなるんだが・・・」

そう言って、二本のフルボトルを握りしめるビルド。

「じゃあどちらにしろ今の状態でどうにかするしかない訳デスね?」

そんな時だった。

 

「それでも、私たちには歌がある」

 

声が響き、聞こえてくる。

そちらに視線を向ければ、そこには、大舟フロンティアが発生させる重力によって浮遊する岩の上に乗ったマリアとセレナがいた。

「マリア!」

「それにセレナも!」

「ええ!?本当にセレナなの!?」

すぐさま全員がマリアのいる岩の上に乗っかる。

「本当に、本当にセレナデスか?」

切歌が、信じられないとでもいうようにセレナに問いかける。

「はい。こうしてぴんぴんしてます」

「マジかよ・・・」

「セレナ・・・!」

セレナの生存に、何も知らない切歌とタスクはただただ驚くしかなかった。

だけど、それ以上に、嬉しかった。今はただ、それしかない。

「マリアさん!」

「・・・もういいのか?」

クライムの問いかけに、マリアは頷く。

「私は、もう迷わない・・・だってマムが、命懸けで月の落下を阻止してくれてる・・・」

そうして、マリアは月を見上げる。

彼らの敬愛する人が、残り少ない寿命を削りに削って、月の落下を阻止してくれているのだから。

もう、迷いはない。

それにうなずき、ビルドは叫ぶ。

「目標は自立型完全聖遺物ネフィリムと仮面ライダーリベンジ!奴らを即刻倒して、この戦いを終わらせるぞ!!」

『―――おう!』

 

 

 

「―――出来損ないどもが集まった所で、こちらの優位は揺るがないッ!!!」

ウェルが、この上無く醜く喚き散らす。

「焼き尽くせ!ネフィリィィィィム!!!」

 

 

 

 

ウェルの絶叫に応えるかのように、ネフィリムがその口から、巨大な火炎弾を吐き出す。

その火球が、彼らのいる岩に直撃する。

その気になれば、森一つ焼き尽くすほどの凄まじい爆炎と衝撃波が巻き散らされ、もはや生存はあり得ない―――

 

 

 

だが、奇跡を叩き起こすのが―――歌だ。

 

 

 

 

「「―――Seilien coffin (望み掴んだ力と誇り咲く)airget-lamh tron(笑顔/望まぬ力と寂しい笑顔)―――」」

 

 

その二重奏の歌が響き渡ると同時に―――黒煙が振り払われる。

そこにあるのは、球体に展開されるエネルギーフィールド。

 

シンフォギア装着時に引き起こされる、絶対防御フィールドだ。

 

「助かった・・・のか・・・」

「ああ、二人の歌のお陰でな」

見上げれば、シンフォギアの換装システムで服が取り払われ、手を繋ぎ合うマリアとセレナの二人がいた。

 

本来、シンフォギアを纏えるのは一つにつき一人。

 

しかし、元々破損していた事もあり、機能にエラーが起こり、本来なら起動しないはずだったそれが、超高出力のフォニックゲインに加え、さらに彼女たちの家族の絆によって、一生に一度の、システムにある誤作動(バグ)によって引き起こされた奇跡を引き起こした―――

 

 

それが、今引き起こされている、マリアとセレナのシンフォギアのダブルコネクトである。

 

 

「調がいる―――切歌がいる―――慧介がいる―――シンがいる―――セレナがいる―――そして、マムもついている――――」

「うん。それに、それだけじゃない。響さん―――翼さん―――クリスさん―――龍我さん―――戦兎先生―――そして、ここまで私を連れてきてくれた、二課の皆がいたから、私はここにいる―――」

「ええ、だから、皆がいるなら、これくらいの奇跡―――」

 

「「―――安いもの!!」」

 

その二人の思いに応えるべく、その場にいる全ての装者が歌う―――

 

 

それこそは――――『始まりの(バベル)』。

 

 

「―――託す魂よ 繋ぐ魂よ」

 

 

響が―――否、全てのシンフォギア装者が歌い出す。

 

 

 

「装着時のエネルギーをバリアフィールドに!?だがそんな芸当!いつまでも続くものではない!!!」

 

ウェルの支配するネフィリムが再度炎を吐き出す。

 

その様子を、見上げる、一人の男―――

「フざけルなぁァぁあ・・・・!!!」

悪魔風情が、太陽の如き輝きの中に立つ。それは、彼にとっては、到底許せるものではなかった。

憎悪を塗れさせた声で、その光景を憎々し気に見上げた。

 

 

 

火球がマリアとセレナの張る防御フィールドに叩きつけられる―――その寸前で、響が動く。

 

「セット!ハーモニクス!!」

 

七人の間で行き交う、七重奏の歌をその手に束ねる。

 

「S2CA!フォニックゲインを力に変えてぇぇえええ!!」

そして、その火球を殴り飛ばす。

その爆炎の中で、翼が調に手を差し出す。

「惹かれ合う音色に、理由なんていらない」

その手を見て、次に翼を見て、調は、戸惑い気味にその手を取る。

「アタシも、つける薬がないな」

クリスも、そう言って、切歌に手を差し出す。

「それはお互い様デスよ」

切歌はそう返し、差し出されたクリスの手を手に取る。

「調ちゃん!切歌ちゃん!」

響も、調と切歌と手を繋ぐ。

「ふっふっふ~、これほどのフォニックゲインがあれば・・・」

ビルドが、ラビットフルボトルとフェニックスフルボトルを取り出す。

「やっぱり!最っ高だ!」

見れば、ラビットフルボトルは青く、フェニックスフルボトルは夕焼け色に染まっていた。

「それは―――」

「フルボトルは歌によって変化する。その力は今までの比じゃねえぞ!」

そう言うビルドに、クライムとタスクは、自分たちの持つボトルを見る。

ちなみにクライムは、クライムウルフをドライバーから取り外してみている。

見れば、クライムのウルフフルボトルはその銀がさらに輝いており、対してタスクの虎フルボトルは桃色に変わっていた。

名付けるのなら、『アガートラームウルフソングボトル』と、『シュルシャガナタイガーソングボトル』。

「これが、歌の力か・・・」

「バル!」

ふと、取り外したクライムウルフがクライムに向かって叫ぶ。

「これを差せと言うのか?」

「ああ!こんな風にな」

クローズが、クロに赤く変化した『イチイバルドラゴンソングボトル』を装填する。

 

絶唱ゥ!!!』

 

すると、クロの装飾に赤だけでなく金色の装飾まで施される。

「なるほど・・・」

「あれ?それじゃあ俺は・・・」

「適当にそのドライバーにでも差してろ」

「俺だけなんか扱い雑ッ!?」

相当なショックを受けるタスクを傍らに、ビルドは敵を見据える。

「さあ、行こうぜ!」

そんな中で、調は響とビルドに問う。

「貴方たちの言ってる事が、偽善でないと信じたい。だから近くで私に見せて。貴方の言う『人助け』を。貴方の言う、『愛と平和』を、私たちに―――」

それに、響とビルドは頷く。

そして、ビルドの決め台詞が告げられる。

 

「さあ―――実験(ステージ)を始めようか」

 

光が、輝く―――

 

 

(繋いだ手だけが紡ぐもの―――)

 

 

 

 

「絶唱七人分・・・たかだか七人ぽっちで、すっかりその気かぁぁあ!?」

 

ネフィリムがレーザーの如く、マリアの張るバリアフィールドに叩きつける。

 

しかし、ウェルの見立ては間違いである。

 

響が束ねる絶唱――――ビルドたちの手に込められたボトルに込められた歌は――――

 

「七人じゃねえよ――――」

自然と、ビルドも感じていた。

それは、響と同じガングニールを使う、天羽奏の体を自らの一部としているが故なのかもしれない。

だから、響の束ねる絶唱の強さを、その重さを、その高鳴りを感じ取っていた。

 

「私が束ねるこの歌は―――――」

 

 

そう、響が束ねるこの歌は、マリアとセレナが繋いだ、世界の――――

 

 

「七十億の、絶唱――――――ッ!!!」

 

 

 

歌が響き渡る――――

 

天羽々斬兎(アメノハバキリウサギ)!』『ガングニールフェニックス!』

シンフォニックマッチ!!』

 

クロォーズイチイバルヘルトラヴァースッ!!』

 

AwakeningATONEMENT CRIME

 

ソングチャージボトルッ!!』

 

ビルドが二つのソングボトルを装填する。クローズが赤く染まったクローズドラゴンを装填する。クライムが、さらに銀色に輝くクライムウルフを装填する。タスクがソングボトルを装填する――――

 

ボルテックレバーを回し、ビルドが『ステージスナップライドビルダーZW』を展開し、クローズが四方上下の『トラヴァースライドビルダーI』を展開。そしてクライムが全てを闇を切り払うかのように白き純白のビルダー『イノセントライドビルダーMSA』を展開する。

 

そして、尋ねられる。

 

『Are You Ready?』

 

その答えは、もう既に決まっているようなものだった。

だからこそ、彼らは叫ぶのだ。

 

「「「「変身ッ!!」」」」

 

そして、彼らは飛び立つ――――

 

 

天に羽撃くダブルシンガー!』

ビルドツヴァイウィング!』

イェーイチョウスゲェーイ!!』

 

激唱(ゲキショウ)激強(ゲキツヨ)マッスルゥブァレットパーティ!』

クロォーズイチイバルヘルトラヴァァァアス!!』

『オラオラオラオラオラオラァァァァアア!!!』

 

Awakening The Decide

Stand Up ATONEMENT CRIME

『All Right』

 

潰れなァァァいッ!!!』

 

 

天に羽撃く、十一の光。

 

シンフォギアの限定された力を開放する『限定解除状態(エクスドライブモード)

 

翼と奏の絆の証であり、ビルドを天へと導く『ビルド・ツヴァイウィングフォーム』

 

クリスの過酷な過去を乗り越え、全てを振り払う『クローズイチイバルヘルトラヴァース』

 

白銀の装甲を身に纏い、純然たる輝きを放つ『アトーンメントクライム』

 

シュルシャガナソングボトルによってチャージフィニッシュが強化された必殺技状態『ソングチャージフィニッシュ』。

 

それぞれの光が大空に輝く。

「響き合う皆の歌がくれた―――」

全ての歌を束ねて今―――羽撃く。

 

 

『シンフォギアでぇぇぇぇえぇぇえぇぇぇぇええぇぇええええ!!!!』

 

 

その十一の光が、一気にネフィリムとリベンジに突っ込んでいく。

「うガあぁぁぁあああぁあぁぁぁあああぁぁぁぁあああ!!!」

リベンジが絶叫し、それに対抗するべく、その腕をこれまでになく巨大化させる。

しかし、相手は七十億の絶唱を束ねたシンフォギア装者と仮面ライダーたち。

その程度のあがきは、もはや無駄だった。

「お前は、ここで終わりだ!!」

 

シンフォニックフィニッシュ!!!』

 

トラヴァースフィニッシュ!!!』

 

イノセントフィニッシュッ!!!』

 

スクラップソングフィニッシュッ!!!』

 

全ての力を束ねる双翼の一撃が、全てを喰らい吹き飛ばす龍の一撃が、万物を斬り裂く純白の一撃が、決して折れない牙の一撃が、ライダー四人によるライダーキックがリベンジに炸裂し、シンフォギア装者たちの放つ光がネフィリムに直撃し――――そして、跡形もなく消し飛ばした――――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「・・・おいおいおいおい嘘だろなんでこうなるんだよ!?」

消滅し、しかし再び復活するジェームズことリベンジ。

『キサマダケハカナラズジゴクニオクッテヤル』

ビルドを執拗に狙うリベンジ。

「誰がさせるか」

しかし、そんなリベンジから、ビルドを守るように彼らが立ちはだかる。

「私の恩師を、そう簡単に殺せると思わないで」

『オマエタチガワルイノダ』

「マリアぁぁああ!!」

「ここで決着を着けるぞジェームズ!!」


次回 『G・天翔ける大舟編』最終回


『ビヨンド 星が音楽となった…かの日』


「・・・・私は、貴方の、良き『母親』とは、言えませんでしたね・・・」


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ビヨンド 星が音楽となった…かの日

翼「パンドラボックスによって引き起こされたスカイウォールの惨劇から十年と一年。エボルトを倒し、新世界を創り、その新世界で特異災害対策機動部二課に所属するシンフォギア装者、私、風鳴翼と立花響、そして雪音クリスたちと共に、天才物理学者にして仮面ライダービルドである桐生戦兎、仮面ライダークローズの万丈龍我はノイズと戦いながら、日常を謳歌していた」
ク「その最中で、F.I.Sとかいう連中が世界に宣戦布告。アタシたちはそいつらに対抗するために戦い、鎬を削っていった」
調「ライダー同士の激突、ネフィリムのこと、ビルドの暴走、そして、響さんの聖遺物の侵食。様々な異常事態が起こり、戦いは混沌を極めた」
切「そして、戦いはついにクライマックスへと進むデス。F.I.Sの目的であったフロンティアの上、多くの戦いが起こり、様々な思いが激突していったデス」
マ「その最中で、セレナが記憶を取り戻し、私、マリアと再会する。そして、ジェームズは仮面ライダーリベンジへと変身し、さらにウェルはネフィリムを再び生み出してしまう」
セ「しかし、それを打ち破るは我らがヒーロー、仮面ライダーたち。そして、歌の力によって真の力を解放したシンフォギアを纏う私たち」
響「だけど、戦いはまだ終わってはいなかった。G編最終回の第四二話を・・・」
戦「ちょっと待てなんか固い」
響「うえぇえ!?なんでですか!?」
切「せっかくの最終回なんデスからもうちょっとおごそかにやった方がいいと思うのデス!」
龍「それじゃあなんかこのあらすじ紹介の意味がないような気がするんだよな」
ク「龍我まで!?」
慧「よし、ならばこうしよう。誰かの物真似をするってのは」
調「慧くん何を言ってるの?」
慧「安心しろ調。何を隠そう俺は物真似の達人なのだ!」
翼「うむ。ならば叔父さまの物真似でも」
マ「待ちなさい翼。貴方まで乗ったら収集がつかなくなるわ」
シ「それなら俺の剣捌きを披露して」
マ「お願いシン!貴方までボケに回らないで!」
ク「流石にツッコミが追いつかなくなる!」
未「五航戦の子なんかと一緒にしないで」
一同「!?」
未「ふふ、怖いか?」
響「み、未来が壊れたー!?」
未(本物)「騙されないで響!」
エボ未「あいで」
翼「こ、小日向が二人!?」
戦「このパターンは間違いねえ。お前がエボルトぉぉぉお!!」
未エボ「ばれちゃあ仕方がない。死にたい子はどこかしらぁ?」
未「やめて!確かに中の人的にその役やったけどここではやらないで!」
マ「ああ、もう!今回もグダグダ!さあどうなる第四二話ぁ!」


「フォニックゲイン・・・照射継続・・・・ごふっ!」

また、血が口から吐き出される。それが、目の前のコンソールを赤く染めていく。

「月遺跡・・・バラルの呪詛・・・管制装置の再起動を確認・・・月機能・・・アジャスト開始・・・!」

モニターに映る、月遺跡の機能が、回復していく。

あと、数分で月の機能は復活し、公転軌道も元に戻るだろう。

ふと、モニターに映る地球が見えた。

その地球からは、様々な歌による、奇跡が見える。

(星が、音楽となって・・・)

その奇跡に、ナスターシャは微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ネフィリムの敗北。

 

 

それは、ウェルに多大なるショックを与えるに十分な出来事だった。

「なん・・・だと・・・」

その場に両膝をついて、絶望に満ちた表情で俯くウェル。

「ウェル博士!」

そこへ、弦十郎と緒川がやってくる。

「お前の手に、世界は大きすぎたようだな」

「ッ!」

ウェルがすぐさま傍らのコンソールに触れようとする。

だが、その寸前で緒川が拳銃を発砲。その銃弾は、なんと腕の振りによって軌道がひん曲がり、寸分違わずウェルの左腕の影に突き刺さる。

それによってウェルの腕がまるでその場に固定されたかのように動かなくなる。

 

翼も使っていた忍術『影縫い』である。

 

それを喰らい、しかし抗おうと必死に腕を動かすも、やはり影縫いは強力なようだ。

「貴方の好きにはさせません!」

緒川がそう言うも、ウェルはなおも抗う。

「奇跡が一生懸命の報酬なら――――」

ウェルの体から、所々血が流れ出る。おそらく、強力な拘束に対して、自らの体を壊してでも力業で破ろうとしているのだ。

そして、ウェルが緒川の影縫いを破って、コンソールに触れる。

「僕にこそぉぉぉぉぉおお!!」

それに二人は身構える――――だが、

「・・・・・え」

 

何も、起きない。

 

否―――

()()()()()()()()()()()()()!?」

ウェルの命令に、フロンティアが応えないのだ。

「何故、何故なんだ!?何故この僕の命令を――――」

何度もコンソールをたたいても、一切の反応を示さないコンソール―――

その時だった。

 

 

 

――――カァァァツゥゥラァァァギィィィィイ・・・・・・

 

 

 

どこからともなく聞こえた、声。

「この声は・・・!?」

「まさか・・・ジェームズなのか!?」

ウェルが、驚愕しながらそう呟く。

「ジェームズだと!?」

「まさか、今のこのフロンティアを支配しているのは・・・!?」

炉心に取り付けられていたネフィリムの心臓が、突如として地面に埋まるように消える。

「限りない戦兎君への憎悪が暴走した、ジェームズ博士だというのか・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変化は、いきなりだった。

「ん?」

突如として、地面が盛り上がり、それが人型を形成する。

その胸部分では、何か、赤い光が脈打っていた。

「・・・おいおいおいおい嘘だろなんでこうなるんだよ!?」

それが一体何なのか、ビルドはすぐさま理解する。

「あれはまさか・・・ネフィリムの心臓か!?」

クライムも気付いたらしく、放たれた言葉に、全員が驚愕する。

 

そう、あの人型は――――リベンジだ。

 

「そんな・・・ネフィリムの心臓は、炉心に取り付けられている筈よ!?」

「もしかして、戦兎先生への憎悪が暴走したジェームズ博士が、フロンティアを支配してネフィリムの心臓を引き寄せた・・・?」

即ち、このフロンティアの支配権は全て、ジェームズことリベンジが持っているという事である。

ネフィリムの細胞を受け付けた左手を持つウェルからも奪い去った、その支配権をもって、ネフィリムの心臓を引き寄せたのだ。

そして、その心臓を内包するあの体は―――ネフィリムそのものといえる。

「そんな相手、どうすりゃいいんだよ!?」

「やる事は変わらない」

ビルドが、答える。

「どちらにしろアイツを倒さなきゃ全部終わらないんだ」

「そうだな・・・」

ビルドの隣に、翼が立つ。

「何が来ようとも、我々のやる事は変わらない!かかる苦難を払いのけ、この不毛な戦いに終止符を打つ・・・それが、我々の成すべき事だ!」

毅然と言い放つ翼に、全員がうなずく。

『皆、聞こえるか!』

そこへ、弦十郎から連絡が入る。

『どうやら今フロンティアはジェームズ博士が支配しているらしい』

「知ってるよそんな事!」

『そして、ネフィリムの心臓を取り込んだであろうジェームズ博士は、このフロンティアの全てを喰らいつくし、そして強大なエネルギーを有する存在へと昇華するらしい。そのエネルギーは実に一兆度だ』

「地球丸ごと蒸発するエネルギーじゃねえかよ!?」

『そうだ。だから、そんなエネルギーが爆発しないよう、そっちで対処してほしい。やり方は任せる』

「ああ、そう・・・あー、分かった分かりましたやりますよ」

ビルドはフロンティアを見る。

「どちらにしろ、やんなくちゃいけないだろ」

槍を展開し、ビルドはそう答える。

「・・・ん?待って!?もしフロンティアの全てを喰らいつくすなら、マムは・・・」

「ッ!?そうだ、マムが!」

ナスターシャは、月を止める為にこのフロンティアに残っている。

もしこのままリベンジがフロンティアを喰らいつくしてしまえば、おそらくナスターシャもただではすまない。

「おい風鳴さん!」

『分かった。その人物の救助は緒川に任せる。だからお前たちは』

「あのくそったれをぶっ倒せばいいんだろ!」

気付けばリベンジは、その体を真っ赤な溶岩のように変化させており、遠目から見てもとんでもないエネルギーを内包している事が手に取るようにわかる。

そんなリベンジ、全員が身構える。

そのリベンジが、動く――――

 

瞬間、ビルドが吹き飛ぶ。

 

「ぐあぁぁあ!?」

「ッ!?桐生!?」

吹っ飛ばされて、一気に大気圏へ突入するビルド。その腹には―――なんとリベンジがいた。

「てめっ―――」

『キサマダケハカナラズジゴクニオクッテヤル』

恐ろしい程の速さで飛び、そのままビルドにタックルをかまして、一気に大気圏まで吹っ飛んでいるのだ。

「ふ・・・ざっけんなよ!!」

ビルドがリベンジを蹴り、仰け反らせて押し退け、そしてすぐさま槍をスイングして吹っ飛ばす。

「借りるぞマリア・・・!!」

そしてすぐさま、ビルドはもう一方の手に、今度は黒い槍を展開する。

それは、マリアのガングニールだ。

「これに(ひびきのガングニール)も加えてトリプルガングニールだァ!!!」

奏のガングニールの穂先が高速回転し、マリアのガングニールがエネルギーを溜める。

そして放たれるのは竜巻とレーザーの二重砲。

それがリベンジに叩きつけられる―――だが、

『オソイ』

「なっ!?」

いつの間にか後ろに回り込まれ、振り向いた瞬間を殴り飛ばされる。

「ぐあぁぁあ!?」

そのまま空中で追いつかれては殴られてを繰り返され、ビルド自身、まるで洗濯機にでも放り込まれたかのようにその場を殴り飛ばされまくる。

そのまま殴り飛ばされ続けるかと思いきや、どこからともなくリベンジに向かって何かが飛んでくる。

それは、銀の短剣―――セレナのアガートラームから放たれた攻撃だった。

しかしリベンジはそれを無視、体にその短剣が何本も突き刺さってもなおもビルドを執拗に狙う。

しかし、そんなリベンジとビルドの間に三点に配置された短剣三本がそれぞれを線で結び、強力なエネルギーバリアを展開。リベンジの拳を阻む。

『グギィィィィイ!!!』

奇声を張り上げて、リベンジはそのエネルギーバリアを叩き割ろうとする。

「誰がさせるか」

「そう簡単に壊せると思わないで」

しかし、そうしている間にマリアとクライムがリベンジに接近、その手にもつ刀と長剣によって吹き飛ばす。

「戦兎先生!」

「大丈夫か!?桐生!」

そこへ響と翼がやってくる。

『グガァァア!!』

すかさずリベンジがその掌から強力な熱線を放ち、ビルドを穿とうとする。

しかし、それはまたしても三重に張られたバリアによって防がれる。

「私の恩師を、そう簡単に殺せると思わないで」

セレナが、防御に回っているのだ。

そして、やっとビルドの元に、全ての仮面ライダーとシンフォギア装者が集う。

ちなみに空を飛ぶ手段をもたないタスクは調に連れてきてもらっていた。

「なんて執着・・・」

「ここまでくると敵ながらあっぱれデス」

他の者たちは眼中になく、ただビルドだけを執拗に狙う。

そこまで憎悪が深いという事だろうか。

『ソコヲドケェェェエ!!ソイツヲコロセナイダロウガァァアアア!!』

「どこのヤンデレの言葉だよそれ!?」

リベンジが恐ろしい速度で突っ込んでくる。

しかし、その速さに、クライムが対応する。

突っ込んでくるのを刀で弾き飛ばし、また再度突撃してくるのをもう一度弾き飛ばす。

「くっ!」

しかし、何度か打ち合っている内に、クライムの剣が次第に弾かれていく。

「やはり、速さに対応できていても力負けする・・・・!!」

どうにか弾き飛ばし、態勢を整えるも、間髪入れずリベンジが、再度突撃を仕掛けてくる。

「どりゃあ!!」

しかしそこへタスクがドロップキックを叩き込んで再び吹き飛ばす。

だが、それでもリベンジは止まらず。一気にビルドに接近する。

「マリア姉さん!」

「ッ!」

セレナがマリアと手を繋ぎ、二人一緒に手を伸ばす。

「シンさん!そのまま刀を―――」

その言葉が終わる前に、クライムとリベンジが激突する。

リベンジの蹴りが、クライムの刀と接触する―――その瞬間―――

『グアァァアア!?』

リベンジが悲鳴を上げて吹き飛ばされる。

「私の絶唱特性はエネルギーベクトルの変換。それをマリア姉さんのものと重ねる事で全て貴方に返しました。そして―――」

リベンジの動きが急激に鈍る。

「―――エネルギーベクトルを操作して、お前の成長を停止させた。これでこれ以上強くはならない!」

マリアが、そう言葉を引き継ぐ。

以前、セレナが絶唱を歌う事でネフィリムを停止状態に追い込んだその能力を率いて、リベンジの成長性を逆転、停止させたのだ。

今はXDモード。いわゆる絶唱無限発動状態。だから、こんな事は造作もないのだ。

「・・・ついでに、速さも奪わせてもらったわ、これで力では勝てても速さで私たちを捉える事は出来ないわ」

そう得意げなマリアの左右から、調と切歌が飛び出す。

「やぁぁあ!!」

無限軌道の刃で、リベンジを左右から挟み込む。リベンジは呆気無く挟まれるも、その接触部分から火花を散らしている事から、それほどダメージになっていない事が窺い知れる。

だが、本命はそれではない。

 

切歌の魂を両断する刃だ。

 

「この刃で、成仏するデスよぉぉおお!!」

そして振り下ろされる刃。

だが、その瞬間、リベンジが顔を上げたかともうと、その仮面が変形、なんとも恐ろしい口をばりばりと開けた。

「え――――」

その口に、イガリマが叩き込まれると、呆気なくイガリマの刃は食いちぎられる。

「デデデデース!?」

そして今度は調の無限軌道の刃を掴むと、手で無理矢理止め、それを無理矢理口に運ぼうとする。

「まさか、シンフォギアを――――」

「させるかよ!!」

「オラオラオラァ!!」

そこへ、クリスとクローズの集中砲火がリベンジに叩き込まれて吹っ飛ぶ。

なんと全て切歌と調に紙一重で直撃しなかった。

「た、助かった・・・」

「ありがとうデス!」

「何、お礼を言われるもんでもないさ」

「だけどありゃやばいな・・・」

先ほど、シンフォギアを―――否、聖遺物を喰らおうとしていた。

「ネフィリムとしての暴食性は健在という事か・・・」

「どうするんだよ?下手に攻撃すればまた食われかねないぞ?」

クライムの言葉に、タスクがそう声を挙げる。

『カァァツゥゥラァァギィィィィイ!!!』

まるで呪詛のように叫ぶリベンジ。

「まさか、これほどまでに憎悪を燃やせる人間がいるとは・・・・」

(その対象が、桐生だなんて・・・)

これが、罪の業というものなのだろうか。戦兎が背負っている罪は、自分なんかでは到底背負いきれないほどのものなのか。

一緒に、背負ってやることができないほど、重いものなのか。

そんな不安が、翼の胸中を埋めていく。

しかし、そんな不安を掻き消すかのように、突如として彼らの周囲に実体化した数式が出現する。

「な、なんデスかこれ!?」

「数字が、いっぱい・・・」

「なんでいきなりこんなものが・・・」

「え、えーっと、+と+で、-で・・・んでもってあの記号はなんだ!?」

「まさか・・・桐生戦兎か?」

そうして、注目を集めるビルドは・・・

「えーっと、これでもない。あれでもない・・・ああもうどれだ!」

何故かボトルをとっかえひっかえ取り出したりしまったりしていた。

「どれだよ()()()()()()・・・俺の計算が正しければ、ある筈なんだが・・・・あ!」

散々探していた所で、ビルドが目的のものを見つける。

 

それは、緑色に変化したサメフルボトル―――『イガリマシャークソングボトル』だった。

 

「それって、もしかしなくてもアタシの歌で変化したボトルデスか?」

「ああ、これを使えば―――俺たちはアイツに勝てる」

ビルドは、そう言ってフロンティアの方を見る。

「ただし、これは賭けだ。下手をすれば、この中の誰かが死ぬかもしれない・・・」

「でも、全員で生きて帰る事が出来る可能性はあるんですよね?」

響が、そう聞いてくる。

「ああ。その為の要はお前だ、クリス」

「え?アタシ?」

クリスがきょとんとする。

「お前のソロモンの杖が、締めの鍵だ。俺が合図したら―――エクスドライブの出力で機能拡張したソロモンの杖でバビロニアの宝物庫をこじ開けろ」

そう告げるビルドに、クリスは―――

「それで全部終わるってんなら、やってやんよ」

「よし、だったら―――」

ビルドが、右手を仮面の右アンテナの上で滑らせ、そしてすぐに開いて見せる。

 

「―――勝利の法則は決まった」

 

いつもの決め台詞と共に、彼らは構える。

『カァツゥラァギィィィィィ!!』

リベンジが突っ込んでくる。セレナとマリアがリベンジの成長性のベクトルをいじくったお陰で、スピードは格段に落ちている。

だから、対応するのは可能だ。

クローズとクライムが前に出て、その背後からセレナが無数に展開した短剣を飛ばす。

リベンジはそれを叩き落し、そしてすぐさまクローズとクライムと激突、激しくぶつかり合う。

その最中、二人が左右に分かれたかと思えば、マリアの放ったレーザー砲がリベンジに叩き込まれ、吹き飛ばされる。

そしてその上から響が拳を振り下ろして叩き落す。

しかしどうにか踏み止まったリベンジはそれでもなおビルドに向かって飛んでいく。

そこへクリスの集中砲火が炸裂する。

しかしリベンジは怯まずビルドに向かって突き進む。それをタスクによって阻まれ、顎を打ち据えられた直後に激しい連撃がリベンジに叩き込まれる。

そして、タスクが最後の蹴りを叩き込んで、上に飛び上がった瞬間、切歌と調の息の合った同時攻撃がリベンジに叩き込まれ、リベンジは吹き飛ばされる。

「慧介、お前のシュルシャガナタイガーを」

その最中でビルドがタスクにそう言う。

「大事に使ってくださいよ」

そのビルドにタスクはシュルシャガナタイガーソングボトルを渡す。

「アタシたちの力を使うんデス!」

「情けない所見せたら許さない」

「翼にも言われたよそれ!安心しろ!この天才物理学者に任せなさい!」

そう言って、ビルドは二つのソングボトルを装填されていた二本と取り換え、差し込む。

 

イガリマシャーク!』『シュルシャガナタイガー!』

 

シンフォニックマッチ!』

 

そしてすぐさまボルテックレバーを回せば、ビルドの周りにツヴァイウィングの時とは違うビルダー『ステージスナップライドビルダーZBB』が展開される。

そして、ビルドの左右斜め後ろに、緑と桃色のアーマーが形成される。

 

『Are You Ready?』

 

それはきっと、先ほどの彼女たちの言葉を重ねて問いかけての言葉だろう。

今更、その決断が鈍るなんて事はない。

だからこそ―――

 

「ビルドアップ!」

 

彼は、戦うのだ。

 

 

全てを切り裂くツインエッジ!』

ビルドザババ!』

イェーイヤベェーイ!!』

 

暗い緑のイガリマと桃色のシュルシャガナの力を内包した装甲を纏い、新たな形態へと変身を遂げたビルド。

それこそが、絶対切断の力を持つ、斬撃特化の形態『ビルド・ザババフォーム』。

「ぐっ!?抜けられたぞ!」

「戦兎先生!」

そこへリベンジが突っ込んでくる。

『カァツゥラァギィィィィイッ!!』

突っ込んでくるリベンジ。その突撃を、ビルドは間一髪で躱す。

『ガァァアア!!』

そのまま旋回して再度突っ込もうとするも、リベンジは自分の体に、何か、ワイヤーのようなものが絡まってきている事に気付く。

「あれは・・・!?」

「ヨーヨー・・・デスか!?」

それは、シュルシャガナタイガーハーフアーマーの左手から伸ばされた、ヨーヨーの糸。

「シュルシャガナの特性は無限軌道によって相手の肉を削ぎ落す刃にある。それでもってヨーヨーは勢いが弱まらない限り永遠に回り続ける無限軌道の一種。それを使えば――――」

その隙間から鋸のような刃を展開したヨーヨーがリベンジに直撃する。そして、その装甲を一気に削っていく。

『グアァァァアアア!?』

「こんな事も可能なんだよ!」

そのまま糸を引っ張り、そのまま振り回す。

「響!構えろ!」

「ッ!はい!」

ビルドの言葉に響は構え、そこへビルドがリベンジを投げ飛ばす。

「セイッハァァア!!」

そして、弦十郎直伝の正拳突きが炸裂、さらには鎧通しの原理まで使って体内にまで衝撃を浸透、内側から爆ぜさせる。

「ハイヤァ!!」

そのまま上方へ蹴り飛ばす。

『グ・・・ギ・・・ガァァアア・・・!!』

(まだまだ足りない・・・!)

しかし、リベンジは未だ沈黙せず。

 

『Ready Go!』

 

そこへ聞こえた、必殺技発動前の音声。

なんとクライムが宙を蹴りながら一気にリベンジに迫っていた。

クライムの空中移動方法は空中散歩。空気を蹴り飛ばして、突破力にすぐれた移動をできるのだ。

そして、リベンジに接近すると同時に、足裏の『ウルフグラッドシューズ』に雷切を掴ませ、そして収束したエネルギーを全て運動エネルギーへと変換し、右脚によって放たれる斬撃をリベンジに叩きつける。

 

イノセントフィニッシュッ!!!』

 

次元を引き裂く、足による渾身の斬撃。

それによって、リベンジは一撃で両断される。

「今だッ――――!!」

それを聞いたビルドがすぐさま飛翔。ボルテックレバーを回し、一気にリベンジに接近する。

「ザババ神の有する二つの刃の内の一つである『イガリマ』の絶唱は、魂を両断する必殺の刃―――その一撃に、物理的防御は存在しないのデスッ!!」

左足脛にイガリマのものと同じ、緑色の刃が飛び出す。

「これで最後だ、ジェームズ!!」

『カァツゥラァギィィィィィッ!!!』

リベンジが光線を放つ。しかし、それをビルドは躱し、そのまま一気にリベンジに接近、空中で高速前方回転し、必殺技によって絶唱状態になったイガリマの刃を踵落としの要領でリベンジに叩きつける。

 

シンフォニックフィニッシュッ!!!』

 

その刃が、リベンジに叩きつけられ、リベンジの―――ジェームズの魂を両断する一撃が叩きつけられる。

そのまま、ジェームズの魂は消滅―――するかに思われた。

『ククク・・・』

「ッ!?」

しかし、ジェームズは消滅しなかった。

『ヌカッタナカツラギタクミィ!!コノテイドデコノワタシガキエルトオモッタカァァァア!!!』

リベンジが両手を広げる。その手を巨大な爪へと変形させて、そのまま一気に振り下ろそうと言う魂胆なのだろう。

『ジブンノサイノウノナサヲウランデジゴクニオチルガイイィィィィィイ!!!』

そのまま爪を振り下ろそうとする。

「・・・・はっ」

―――そうとした所で、ビルドから小さく笑い声が聞こえてきた。

「俺がイガリマの刃を振り下ろしたのは、お前の魂を消滅させる為じゃない―――ネフィリムの心臓の制御をお前から切り離す為だ!!」

『ナニ・・・!?』

次の瞬間、リベンジの体の中で、何かが大きく脈打つ。

「ネフィリムの心臓は、確かに全ての聖遺物を喰らいつくすほどの暴食性をもっているさ・・・それでもいつかは臨界に達する。その臨界点を超えれば、地上を焼き尽くして蒸発させるほどの大爆発を引き起こすなんて事は訳ないさ。だけど問題はそこじゃない。問題は、爆発させられるかどうかだ」

『ダ、ダガソンナバクハツヲヒキオコセバ、オマエタチモタダデハスマナイゾ!?』

リベンジがあからさまにうろたえていた。

「ああ、そうさ・・・だから、()()()()()()()()()()()()()

ビルドが、リベンジを蹴り飛ばす。

「クリス!やれ!」

「バビロニア、フルオープンだぁぁぁあああ!!!」

クリスが、その手のソロモンの杖を使ってリベンジの背後に、巨大な空間の穴を形成する。

『コレハマサカ・・・バビロニアノホウモツコカ!?』

「ああその通りだよ・・・お前をその中で爆発させる。それが俺の導き出した勝利の法則だ!!」

ビルドが、リベンジに向かってそう叫ぶ。

「人を殺すだけじゃないって、やってみせろよ!ソロモォォォォォォンッ!!!」

クリスが絶叫し、バビロニアの宝物庫の扉が拡大していく。

『フザケルナァァアア!!!』

次の瞬間、そのまま押し込まれるかと思われたリベンジがソロモンの杖を使っているクリスに向かって何かを飛ばす。

「避けろ!雪音ぇぇえ!!」

翼が叫ぶも反応できなかったクリスがその何か―――切り離されて飛んできたリベンジの体の一部が直撃し、吹き飛ばされ、ソロモンの杖を手放してしまう。

しかし、それを次に手に取ったのはマリアだった。

「明日をぉぉぉぉぉぉぉおお!!」

絶叫と共に、マリアが扉の拡張を引き継ぐ。

『ウガァァアアァァアア!!』

それでもなお抗うリベンジは、その体から血管のような触手を伸ばしてマリアをソロモンの杖ごと拘束。

「ッ!?マリア!!」

「姉さん!!」

「やばい!!」

「く・・・ぅぅう・・・・」

すぐさま最も近いビルドが助けに向かおうとするが、そのビルドすらもリベンジは拘束する。

『キサマモダァァァア!!』

「なっ!?」

『オマエタチガワルイノダ・・・ワタシハタダカツラギダケヲコロスツモリダッタノニ、ソレヲジャマスルカラコウナッタノダァァァァアアァア!!』

なんと身勝手な言い分だろうか。しかし、そう叫んでいる間にリベンジは二人を一気にバビロニアの宝物庫へ引きずり込む。

「くっそ!!」

「く・・・格納後!私がゲートを内部より閉じる!!ごめんなさい桐生戦兎!でも、ジェームズは必ず・・・!!」

「自分を犠牲にする気か!?」

「マリアぁぁああ!!」

「だめ、姉さん!」

仲間の叫び声が聞こえる。

だけど、マリアとビルドはどんどん引きずり込まれていく。

「こんな事で、私の罪が償える筈がない・・・だけど、全ての命は私が守って見せる・・・・!」

マリアが、目尻に涙を滲ませて、そう口にする。その時だった。

「だったらぁ・・・・」

一緒に引きずり込まれているビルドが、叫ぶ。

「テメェの命は、俺たちで守ってやる!!」

体から無限軌道の刃や一刀両断の刃を突き出し、必死に拘束から逃れようとしているビルドがいた。

そして、その声に応えるかのように、全ての装者とライダーがマリアと共に開けられた穴へと入っていく。

「貴方たち・・・」

「前にも言ったはずだ」

クライムが、マリアに言う。

「お前たちが浴びる()は、俺が代わりに浴びてやる」

バビロニアの宝物庫の中には、数えるのも億劫な程、ノイズが充満していた。

「英雄でない私に、世界なんて守れやしない・・・でも、私たち・・・私たちは、一人じゃないんだ」

その言葉に、マリアは微笑む。

「ぬ・・・ぐ・・・ぉぁぁあああ!!!」

完全に引きずり込まれたところで、ビルドが拘束から抜け出す。

そして、バビロニアの宝物庫が完全に閉じてしまう。

『ハハハハハ!!!イッポオソカッタナァ!!』

「何言ってやがる」

高笑いするジェームズに、ビルドは言い放つ。

「ここで決着を着けるぞジェームズ!!」

 

 

 

最後の戦いが、始まる――――

 

 

 

『カァツゥラァギィィィィイイイッ!!!』

ビルドは、ザババからツヴァイウィングへと再び変身し、その手に白槍と黒槍を持つ。

「マリアの槍と、奏の槍、そして、響の槍を合わせた、この力でッ――――」

宝物庫内を駆け抜け、二人の超戦士が激突する。

「いっけぇぇえええ!!」

腕のアームドギアを槍状に変え、一気に突撃し、群がるノイズを殲滅していく響。

「ウオリヤァァアアア!!」

その手の爪をもって次々とノイズを切り裂いていく。

「ハァァアアア!!!」

翼が巨大な剣を振るい、巨大なノイズを蹴散らしていく。

「喰らえぇぇぇええ!!!」

クリスが展開した巨大ギアを使って次々と広範囲にわたってノイズを撃ち抜いていく。

「ダダダダダダダ――――ッ!!!」

タスクが凄まじいラッシュで次から次へとノイズを叩きのめしていく。

「やぁぁぁああ!!」

セレナが無数の短剣を展開しファンネルの如く操作、それをノイズに向かって寸分の違いなく仕留め、そして次から次へと、次の標的へと無数の短剣が敵を貫いていく。

「てぇええい!!」

「やぁぁああ!!」

切歌が鎌を振るい、調が丸鋸を飛ばす。

「ハアッ!!」

そしてクライムが、マリアを拘束していた触手を一刀の元両断する。

「マリア!大丈夫か!?」

「ええ・・・でも、一振りの杖ではこれほどのノイズを・・・制御が追い付かない」

目の前にいる有象無象の全てがノイズ。これほどの数を、たった一本の杖で制御できるなどとはおこがましいにも程がある。

「姉さん!」

そこで群がるノイズを殲滅していたセレナが叫ぶ。

「姉さんはその杖でもう一度宝物庫を開く事に集中して!」

「え?」

「外から開けられるんだ!中からも開けられねえ訳がねえ!!」

クローズが巨大ノイズを投げ飛ばしながらそう叫ぶ。

「鍵なんだよ!ソイツは!!」

クリスがそう叫ぶ。

「マリア!」

「ええ!―――開けぇぇえぇえええええ!!!」

マリアが、宝物庫内に向かってソロモンの杖を使用。

するとそこに扉が開き、彼らの世界が姿を現す。

その最中で、ビルドとリベンジが宝物庫内を駆け巡り、ぶつかり合う。

「セイッ!!」

『グォォオ!?』

ビルドの振るう槍がリベンジを弾き飛ばす。

『グガァァアア!!』

すかさずリベンジが体中からレーザーを放つも、ビルドはそれを飛んで躱しきり、そのまま一気に突撃―――ギガドリルブレイクをリベンジに叩きつける。

『ググギギギギギギィィィィィイイ!!!』

しかし、腹に風穴を開けられ、そのまま削り飛ばされそうなっても動き、その回転を止めようとそのドリルを掴む。

「いい加減しぶといんだよ!!」

すかさず右の槍を引き抜き、左の槍でレーザー砲をぶっ放し、吹き飛ばす。

だが、それでもリベンジは諦めずビルドを追いかける。

『カツラギィィィィィイイイッ!!!!』

しかし、そこへ翼の斬撃がリベンジに叩きつけられる。

「桐生!」

「おう!」

翼の掛け声に、ビルドもうなずき、二人でリベンジに同時攻撃をしかける。

「いつまでも桐生に執着するその憎悪、叩き斬ってくれる―――!!」

「俺以外にも迷惑かけたんだ。それ相応の礼はしてもらうぞッ!!!」

翼がその巨大な刀を大きく振りかぶり、戦兎が二つの槍を組み合わせ、一本の槍へと変え、その穂先を高速回転させて竜巻を引き起こす。

それが、ツヴァイウィング―――風鳴翼と天羽奏の二人によって繰り出されるコンビネーションアーツ。

 

 

双星ノ鉄槌(-DIASTER BLAST-)

 

 

その一撃が、リベンジに炸裂する。

『グギャァァアアアァァァアアアア!?』

その大技の直撃を喰らったリベンジが彼方に吹き飛ばされる。

「翼さん!戦兎先生!」

響の声が聞こえ振り返れば、マリアが開けた現実世界への扉があった。

それに二人はすぐさまそちらに向かって飛ぶ。

「行くぞクリス!」

「おう!」

クローズの言葉に頷き、クリスが展開していたギアを外し、そのパーツをすぐさまエネルギーへと変換してノイズたちに叩きつけ、すぐさまその穴に向かって飛ぶ。

だが―――

 

―――カァァァツゥゥゥラァァァァギィィィィィイイ……………!!!

 

突如として、巨大な影が彼らの前に立ち塞がる。

それは、ついにネフィリムの心臓に食いつくされ、それでもなお現世に残り続ける、ジェームズの怨念の慣れの姿――――ネフィリム・ノヴァ。

 

否―――ネフィリム・ノヴァ・リベンジ!

 

「あの野郎、まだ・・・!!」

「迂回路はなさそうだ」

「ならば、行く道は一つ!!」

「手を繋ごう!」

ビルド以外の全員が、手を繋ぎ合う。

「あともう少し頼むぞ、奏!」

ビルドが、二つ―――否、三つの槍を束ねた槍を掲げる。

「マリア」

「マリアさん」

調と響に言われ、マリアはすぐさま胸から一本の長剣を抜き放つ。

そして、調と響の手と自分の手を繋ぐ。

「この手―――簡単に離しはしない!!」

「行くぞお前らぁぁぁあ!!」

 

 

『Ready Go!!!』

 

 

ビルドが発動する必殺技。

それと同時に、響とマリアが、己の体の装着させられたギア全てを使い形成した右手と左手を繋ぎ合わせる。

「「最短で、最速で、真っ直ぐに――――」」

そして、その拳をもってネフィリム・ノヴァ・リベンジに向かって突撃する。

「「一直線にぃぃぃ―――――――――!!!!」」

 

 

シンフォニックフィニッシュッ!!!』

 

 

ビルドの螺旋を描くライダーキックがその組み合わされた拳の背後を叩き、そのまま超速回転。

『シネェェエエエエェェェエエエ!!』

ネフィリム・ノヴァ・リベンジがその口から今までに類を見ない程の熱線を放つも、直撃した熱線は、全てビルドの『シンフォニックフィニッシュ』によって逆に利用されていき、彼らの力となって束ねられる―――

「「「うぉぉぉおおおぉぉおおおぉおお!!!!」」」

全員の絶叫と共に、彼らは一気にネフィリム・ノヴァ・リベンジに激突する。

『バ、バカナァァァアアアァァアア!?』

そうして直撃する、その技の名は―――

 

 

Vitalization

 

 

その一撃は、ネフィリム・ノヴァ・リベンジを撃ち貫き、彼らを一気に出口へと導く。

そのまま外に出て、砂浜に叩きつけられる。

「ぐ・・・く・・・」

遠くに、ソロモンの杖が見える。

「今すぐにでも、門を閉じなければ・・・」

だが、先ほどの一撃で体力のほとんどを使い切ったからか、もう体がまともに動かない。

『カァァァツゥゥウラァァアギィィイイイッ!!!』

再び聞こえる、怨嗟の籠った声。

見上げれば、ネフィリムと化したジェームズが外に出てこようとしていた。

その体に風穴があいているにも関わらずにだ。凄まじい執念である。

「あの野郎・・・!!!」

「まずい・・・このまま外に出られれば、門を閉じるにしろどちらにしろ、奴の爆発によって地上が消し飛ぶぞ・・・・!!」

そうなれば、地球は一気に焼失してしまう。

「まだだ・・・」

クリスが、唸るようにそう呟く。

「心強い仲間は・・・他にも・・・!!」

「仲間・・・?」

翼の言葉に、マリアは呆然と呟く。

「そうです・・・私たちには、まだ・・・!!」

「私の・・・親友・・・未来が・・・!!」

セレナと響が、顔を上げて見る先には、フロンティアから脱出した二課の潜水艦から、陸上部で鍛え上げた足で走ってくる、未来の姿があった。

(ギアだけが戦う力じゃないって、響が教えてくれた!私だって、戦えるんだ!!)

戦いたい。ただ一つ、その想いだけで、未来は走る。

「ぐ・・・く・・・!!!」

ビルドが、起き上がる。

その手には、フルボトルバスター。

「桐生・・・戦兎・・・!!」

そのビルドに、クライムが叫び、何かを投げる。

「これを使えぇぇえ!!」

「ッ!!」

掴み取ったそれは、『アガートラームウルフフルボトル』。

さらに、クローズのドライバーからクロが飛び出し、タスクの元へ飛んでいく。

「キュル!!」

「え!?」

そのまま、タスクの持つツインブレイカーに自ら装填される。

 

ルェディゴォッ!!』

 

「え!?ああっと・・・ああもうやりゃあいいんだろォ!!!」

やけくそ気味にタスクはツインブレイカーをまだ空いているバビロニアの宝物庫に向ける。

「間に合え・・・!!」

ビルドも、フルボトルバスターにフルボトルを装填していく。

 

アガートラームウルフ!』

シュルシャガナタイガー!』

イガリマシャーク!』

 

ミラクルマッチでーす!!』

 

ビルドが全てのボトルを装填すると同時に、未来がソロモンの杖を手に取り、一気に投げ飛ばす。

「お願い!閉じてぇぇえええぇええ!!」

「ぶっ飛べぇぇええぇええ!!!」

「いっけぇぇぇえええええ!!!」

それと同時に、タスクのツインブレイカーからクローズドラゴン・ブレイズが放たれ、ビルドのフルボトルバスターから砲弾が放たれる。

 

レッツゥブゥレイクッ!!!』

 

ミラクルマッチブレイク!!!』

 

放たれた砲弾と投げられたソロモンの杖をドラゴンが飲み込み、そのエネルギーを自らの力に変え、巨大な龍へとその身を変え、そのまま一気に門から出ようとするネフィリム・ノヴァに突撃していく。

(もう響が―――誰もが戦わなくていいような・・・)

未来の切実な想いが、言葉となって放たれる。

「―――世界にぃぃぃぃいい!!」

 

『グルアァァアアアァァアアアァアア!!!』

 

その想いに応えるが如く、クローズドラゴン・ブレイズが、咆哮を上げる。

そのクローズドラゴンの一撃が、ネフィリム・ノヴァに直撃し、一気にバビロニアの宝物庫内に押し込み、それと同時にバビロニアの宝物庫が閉じ―――次の瞬間、宝物庫内で、全てを焼き尽くす爆炎が巻き起こる。

 

―――カァァァツゥゥゥラァァァァギィィィィィイイッ!!!!

 

ジェームズの断末魔の空耳を最後に――――戦いは、終わった。

 

 

 

 

 

 

 

夕焼け色に染まる空、自衛隊や、その他マスコミの飛ばすヘリなど、多くの人間が彼らの流れ着いた島に集う。

「ウェヒヒ・・・間違っている・・・英雄を必要としない世界なんて・・・へっへっへ・・・」

壊れたように笑いながら連行されるウェル。

しかし、そんなものが気にならない程に―――マリアたちは切羽詰まっていた。

 

 

 

潜水艦内のメディカルルームにて―――ナスターシャは寝かされていた。

だが、その状態は良いとは言えず―――危篤状態となって、どうにか延命されていた。

「マム・・・マム!」

そんなナスターシャに、マリアたちは必死に呼びかける。

「マム!死んじゃ嫌デス!」

「お願いマム!目を開けて!」

「頼むマム!マム!」

「マム・・・お願い、目を覚まして!」

「・・・・」

目を開けず、ただ苦し気に呼吸を繰り返すだけのナスターシャ。

「そんな・・・」

その様子に、響たちは何も言えなかった。

「僕が発見した時には、既に意識はなく・・・」

「いや・・・ナスターシャをここまで運んでくれた事には感謝しかない。ありがとう、緒川慎次」

申し訳なさそうにする緒川に、シンは、そう頭を下げて礼を言う。

「う・・・」

「ッ!マム!」

そこで、ナスターシャが意識を取り戻す。

「まり・・・あ・・・」

「マム!ああ、良かった・・・」

目を覚ました事に、安堵するマリアたち。

「なあ、戦兎・・・」

「言うな」

そんな中で、龍我が戦兎に尋ねるも、戦兎はそう言い返し、それを止める。

「何も・・・言うな」

「・・・おう」

戦兎の言葉に、龍我はそれ以上何も言わない。

「・・・・全員・・・いますね・・・」

ナスターシャが、掠れた声でそう呟く。

「・・・・ええ、いるわ」

マリアが、そう答えれば、ナスターシャは一度深呼吸をし、そして、話し出す。

「もう・・・貴方たちを縛るものは何もない・・・これからは・・・貴方たちの想うがままに生きなさい・・・」

「マム・・・」

「何者にも縛られず・・・自分の意志で・・・行動なさい・・・」

「でも・・・でもアタシたち、何も分からないデス!何も知らないデス!」

「マムがいてくれないと、私たち・・・何も・・・」

切歌と調が涙を流し、そう言う。

されど、ナスターシャは言葉を紡ぐ。

「優しい貴方たちなら・・・きっと・・・これから先も力強く生きていける・・・自分の心を偽る事なく・・・」

「マム・・・」

セレナが、自分の胸に拳を当てる。

「シン・・・」

「・・・なんだ」

ナスターシャがシンを呼ぶ。

「あの時、貴方を拾ったのは・・・単なる気まぐれ・・・」

「・・・」

「ですが・・・貴方に名付けたその名は・・・貴方が、自分を見失わないようにする為のもの・・・」

 

シン―――その意味は、『罪』。

 

「その罪を、忘れず・・・されど、何者にも縛られることなく・・・・生きなさい・・・」

「・・・」

その言葉を、シンは黙って聞く。

そんな中で、ナスターシャは、天井を仰ぎ見て、一つ、呟く。

「・・・・私は、貴方の、良き『母親』とは、言えませんでしたね・・・」

そのナスターシャの言葉は、どこか、安らげだった。

その言葉に、沈黙を貫いていたシンが、突如として怒鳴り気味に答える。

「そんな、事は・・・ないッ・・・!!」

その拳から血を流して、その両目から、涙を流して、シンは言う。

「貴方は・・・俺の・・・ただ一人の・・・『母親』でした・・・ッ!!」

ナスターシャの病気で細くなった手を握り締めて、シンは、その背中を丸めて、ただ嗚咽を漏らす。

「今まで・・・ありがとうございました―――」

そして最後に、そう、ナスターシャに告げた。

その言葉に、ナスターシャは満足そうに笑って―――

「なら・・・良かった・・・」

 

 

その生涯を、閉じた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月の軌道は、正常値へと近付きつつある、と報告を受けつつ、彼らは、外の砂浜にて、月を見上げる。

フロンティアは、リベンジによってそのエネルギーを食いつくされ崩壊していっているらしく、今、一部を除いてどんどん地球に落下、太平洋上にその残骸が落下していっているらしい。

ナスターシャが、命懸けで元に戻した月を。

「マムが未来へと繋げてくれた・・・ありがとう、お母さん・・・」

マリアが、そう呟く。

その胸には、壊れたアガートラーム。

その隣に、セレナが立っている。

「マリアさん」

そんなマリアに、響が声をかける。それに振り向けば、そこには、マリアのガングニールを差し出す響がいた。

「・・・ガングニールは君にこそ相応しい」

それを見て、マリアはそう答える。

響は、それに頷くようにそのガングニールのペンダントを握りしめる。

その一方で、シンと慧介は、戦兎にそれぞれのビルドドライバーとスクラッシュドライバー、そして、ウルフフルボトルとトラフルボトル、そしてタイガースクラッシュゼリーを差し出していた。

「今まで迷惑をかけた」

「これはお返しします」

そう言う二人に、戦兎はそれを受け取る。

「おう。お前らが戻ってくるまで、これは預かっとくぜ」

そして、二人にそう言って見せる。

それに二人は目を見開き、やがてそれに微笑む。

「・・・だが、月の遺跡を再起動させてしまった」

そうして見上げる先にある月。そこにある月遺跡は―――

「バラルの呪詛か・・・」

「人類の相互理解は、また遠のいたってわけか・・・」

翼とクリスが、そう呟く。

「・・・・へいき、へっちゃらです!」

その最中で、響がそう答える。

「そうだな」

そして、そんな響の背中を叩いて、戦兎がうなずく。

「だってこの世界には、歌があるんですよ」

全ての人が、繋がる事の出来る―――たった一つの想いを伝える方法。

「響・・・」

その言葉に、彼らは思わず笑ってしまう。

「歌、デスか・・・」

「・・・いつか人は繋がれる。だけどそれは、どこかの場所でも、いつかの未来でもない・・・そして、ヒントを残す。私の全てを貴方に託す・・・確かに、伝えたから」

調が、二人にそう言い、それが何かを察した二人は、頷いて見せる。

「立花響、桐生戦兎」

そして、マリアが、二人に言う。

「君たちに出会えて、良かった」

 

 

 

そうして、戦いは終わった。

 

 

 

マリアたちは、今までの罪を清算する為、日本政府の元、服役する事になった。

返却されたドライバーは、戦兎たちの手によって保管される事となる。

その間、米国政府から死刑にしろだとか、様々なごたごたがあったようだが、一応彼らは、施設にて上手くやっていっているらしい。

 

 

 

そして――――

 

 

 

「翼さーん!クリスちゃーん!セレナちゃーん!戦兎先生ー!」

リディアン音楽院にて、響と未来が駆け寄ってくる。

「よう響、今回は遅刻しなかったな」

「えへへ~。今日は早く起きれまして」

「もう、私が起こさなかったら絶対に寝坊してたでしょう」

「あう、言わないでよ未来ぅ~」

「相変わらずですね響さんは」

そんな中で、翼が拗ねたようにある事を言い出す。

「聞いてくれ立花、あれ以来、雪音が私の事を『先輩』と呼んでくれないのだ」

「だーかーらー!!」

「何々?クリスちゃんってば翼さんの事、『先輩』って呼んでるの?」

「ちょ、ちょっと響ったら・・・」

何から揶揄い気味に言い出す響に、クリスは眉をぴくぴくさせながら言う。

「いい事を教えてやる・・・アタシはお前より先輩で!年上だって事をォ!!」

「や、やめてぇクリスちゃぁぁん!!」

その頬を掴み担ぎ上げるクリスにやれる響に、翼と未来、セレナは溜息をつく。

とりあえず引き離して止める。

「二人ともそれくらいにしておけ。傷もまだ癒えていないというのに」

全く持ってその通りだ。

戦兎に至ってはリベンジからの攻撃を集中して受けていたために、この中では実は最も重傷だったりする。

「アハハ・・・」

「ねえ響、体、平気?おかしくない?」

未来が心配しているのは、融合症例故の身体的異常の事だろう。

だが、それは杞憂というものだ。

「心配性だなぁ未来は」

そう言って、響は未来に抱き着く。

「私を蝕む聖遺物は、あの時、綺麗さっぱり消えたんだって」

そう、未来の纏った神獣鏡の一撃が、響の体から響を蝕む聖遺物を取り除いたのだ。

だから、響はもう大丈夫。

「響・・・」

「でもね」

そんな中で、響は続ける。

「胸のガングニールはなくなったけれど、奏さんから託された歌は、絶対に無くしたりしないよ」

それだけは、響の中にあり続ける、胸の歌。

その言葉に、翼とクリス、セレナ、戦兎は頷くように微笑む。

「それに、それは私だけじゃない」

響は、空を見上げる。

「きっとそれは、誰の胸にもある、歌なんだ・・・」

それはきっと、彼女たちの信じる、世界の真理だ。

 

 

 

 

 

 

 

そんな中で、戦兎は、思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば戦兎さん」

日本へ戻る道中、潜水艦内で戦兎は緒川に呼び止められる。

「なんだ?」

「ナスターシャ教授を救助する道中で、このようなものを見つけたのですが」

そうして、緒川が差し出したもの。それを見て、戦兎は目を見張る。

「こ、これは・・・!?」

「僕の予想が正しければ、これは――――」

それを震える手で受け取り、戦兎は、それを、動揺しきった表情でそれを見つめた。

 

それは、この世界にあって欲しくなかったもの。

 

かつて、龍我が作った、世界を救い、そしてまた滅亡させる可能性を秘めた代物―――

「ああ、これは・・・・」

戦兎は、震える声で、その名を告げた。

 

 

 

 

 

「―――『パンドラパネル』だ」

 

 

 

 

 

 

 

戦兎の住む倉庫の壁に、それは立てかけられていた。

 

 

 

 

 

 

 

それが、新たな闘争を生み出すのは、割と近い時にやってくる――――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?



神経衰弱勝負が突如として勃発。


それに参加するのはまさかの響、翼、クリスの三人。


一体何が起こったのか!



なんか大ざっぱだけど気にするな!

ク「いや気にするわ!?」

次回『負けられないゲーム』








今年の仮面ライダー冬映画を見て思いついたこと。






いつも通りの朝、何気ない日常――――

しかし、その世界に生きる翼は、その日常に一つの違和感を覚えていた。

何か、何かが足りない――――そんな違和感のままに、翼は、仲間と共に今日も戦いと歌の日常を謳歌する――――はずだった。




「桐生は・・・どこ?」




仮面ライダーのいない世界。
それに気付いた翼は、一人孤独な戦いに身を投げる。

奪われる『天羽々斬』

「天羽々斬が・・・!」

襲い掛かる、世界の調律者『ワールドアジャスター』

「何故本来の世界を拒む?」

敵となった、S.O.N.G。

「何故なんですか、翼さん!」

成すすべのなくなった翼の手に残ったもの、それは――――


「天羽々斬の、ファウストローブ・・・」


それを身に纏い、戦う翼。そんな彼女の前に、現れたのは―――


「こんな事になったのは、過去のどこかでワールドアジャスターが介入したハズだ」


別世界の仮面ライダー『ジオウ』とその仲間たちと共に、全てを取り戻す戦いに飛び込む。


向かった時代は、まだ翼が幼く、彼女の『母親』が生きていた時代―――

そこで翼が見た母親『風鳴綾女(あやめ)』の姿は―――

「未来の翼・・・?」

「何故、お母様がファウストローブを・・・!?」

翼と同じ『天羽々斬』のファウストローブを纏い、風鳴の息がかかった者たちを斬る姿だった。

「風鳴を潰す為よ」



錯綜する娘と母の想い。



「やめてください、お母様・・・!」

「邪魔をするというのなら、お前も斬る!」



世界の調律を図るワールドアジャスターと戦うジオウ―――常盤ソウゴたち。



「世界を乱す汚らわしい仮面ライダーどもめ」

「あまり仮面ライダーを舐めない方がいいよ」



翼の行動に葛藤するシンフォギア装者たち。



「あれにはきっと何か理由があるはずよ!」

「先輩が何の理由もなしにあんな事するかよ」

「翼さんを信じたい・・・」

「心火を燃やして、この想いを貫き通すデスよ!」

「教えてください。翼さんの願いを」



本来の歴史か、本来から外れた歴史か。



「もう私は、何も失いとうはありません・・・!」

「乱れた世界は目障りなだけだ。正しき世界こそ美しく、存在する価値がある」

ワールドアジャスターの魔の手が、迫る―――



「どんな事があっても、過去は変えられないのだろう?」


「だけど、未来なら変えられる」



母の願い、娘の想い。そして、自分たちの世界を取り戻す、(たたかい)が、今、始まる――――



「私はお母様を超えて、真の天羽々斬の装者となって見せる!」

「来なさい、翼!」







映画愛和創造シンフォギア・ビルド『ザ・オリジン・ジェネレーションズ』





―――第一号聖遺物(シンフォギア)『天羽々斬』の誕生が今、明かされる―――――



「―――翼、待たせたな」






―――ゼロワンの父息子ならぬ天羽々斬の母娘ですはい



時間軸的にはGXとAXZの間ぐらい、かな~

簡単なキャラ紹介


風鳴翼
世界の調律の影響を受けなかった者の一人。
記憶を取り戻した事によってワールドアジャスターに狙われる事になり、その最中でシンフォギアの天羽々斬を奪われ、代わりに謎の人物から与えられた天羽々斬のファウストローブで戦う事になる。
道中、S.O.N.Gの面々に勘違いされて狙われるようになってしまう。
歴史を元に戻すためにソウゴと共に過去に飛ぶ。


常盤ソウゴ
仮面ライダージオウ。作り変えた時空の世界で平和に暮らしていたが、ワールドアジャスターが行動を起こした事で記憶を取り戻す。ワールドアジャスターの野望を阻止するためにゲイツ、ツクヨミ、ウォズと共にシンフォギア・ビルドの世界にやってきた。
魔王(ライダー)としての強さは健在。
翼と共に過去に飛ぶ。


明光院ゲイツ
仮面ライダーゲイツ。ソウゴと同様、平穏な世界で暮らしていたが、ワールドアジャスターの出現によって記憶を取り戻す。
同じ仮面ライダーとしてソウゴと行動を共にする。

ツクヨミ
仮面ライダーツクヨミ。ソウゴとゲイツと同様(以下略
時間停止能力は健在。それをもって彼らをサポートする。


ウォズ
仮面ライダーウォズ。みんな大好き祝福の鬼。
ソウゴと共にワールドアジャスターの野望を止めるために行動する。


立花響
ガングニールの装者。
ワールドアジャスターによって翼が歴史を乱そうとしていると聞いて、それを阻止するために翼を止めるために過去に行ったりして翼の行く手を阻む。
ただ、その行動には迷いが見える。

マリア・カデンツァヴナ・イヴ
アガートラームの装者。
響同様、歴史を乱そうとしている翼(実際には取り戻そうとしている)翼の行く手を阻む。
だが、その行動に違和感を抱いており、ワールドアジャスターの言葉も信用しきれていない。

雪音クリス
イチイバルの装者。
翼の行く手を阻むシンフォギア装者の一人。
翼がそんな事をしないと分かっており、その理由を聞き出すために行動するも、ワールドアジャスターが自分たちの不利益になるような行為に対して干渉してきて上手くいかない。
そのためワールドアジャスターに不信感を抱いている。

月読調
シュルシャガナの装者。
翼の行く手を阻むシンフォギア装者の一人。
とにかく一度捕まえるべきと割と容赦なく翼に襲い掛かるも、慧介という翼の言葉に思わず動揺する。
だが、ワールドアジャスターのカインによって記憶操作されその動揺を直され、何度も翼に襲い掛かる。

暁切歌
イガリマの装者。
翼の行く手を阻む(以下略(デース!?
調同様、とにかく捕まえようの精神で翼に襲い掛かる。記憶消去の影響が最も酷い一人だったりする。
だがその胸に刻まれた心火だけはいつまでも残り続けている。

小日向未来
世界調律の影響によって記憶が消えなかった者の一人。
クロが未だ未来の傍におり、その為、翼同様ワールドアジャスターに狙われる事になる。
翼の安否を心配している。



風鳴綾女
八紘の妻。本来の歴史であれば翼が歌で天羽々斬を起動させた頃、即ち翼が五歳の頃に病死したとされている。
剣の腕は達人級であり、翼を圧倒する剣技を持つ。ただし訃堂には敵わなかったらしく、腹に深い傷を負っている。
始め、八紘とは風鳴訃堂を暗殺するために言い寄っただけだったが、八紘の不器用な愛情表現に惚れてしまい、そこを訃堂に漬け入れられ、暗殺に失敗、傷を負い、翼を孕む事となってしまう。
容姿は翼を幾分か大人にして黒髪にしたかのような姿。
とある錬金術師から受け取った天羽々斬のファウストローブをもって風鳴の力を削ごうとしているが、その真意は―――



ワールドアジャスター
世界の調律を目的とした組織。早い話が『公式じゃない第三者の二次創作絶対に許さないマン』。
本来の歴史とは違う歴史を歩む世界を見つけては調律という名の修正を行い、本来の歴史に戻すという行動を行っている。
例えるなら、シンフォギアの二次創作をいろんな手段でハッキングだか乗っ取りだかやって消すというもの。
今回S.O.N.Gに干渉して翼は道を踏み外したのだと説明、すぐさま止めるように言った事でS.O.N.Gを一時的にだが味方につける。
全員、白い独特な装束を身に着ける。


カイン
ワールドアジャスターのリーダー的な存在。
本来の世界の歴史に深く関係する者は記憶の消去を、そうじゃない者は抹殺するという思考を持つ。
目的のためならば手段は選ばず、とにかく世界を本来の歴史に戻せるならばなんだっていいという思考をもつ。
能力は記憶の操作。これによってその世界の歴史の記憶を持つ『異物』の記憶を消していっている。
翼もその対象だった。
世界を乱す存在(即ちオリ主とか)を醜く思っている。


スフィル
ワールドアジャスターの一人。
赤い長い髪が特徴的な女。性格は残虐であり、能力は体の各部が刃物のようになる事。
常に人をどう切り刻むか考えているが、それが滅多に表に出ることはなく、戦闘時にその本性が剥き出しになる。


グラーク
ワールドアジャスターの一人。
巨大な体を持つ大男であり、言動は片言。能力は超硬化、超筋力強化によって肉弾戦車になり、ほぼほぼ隙がない鉄壁の体をもつ。
何かの命令がなければまともに動けない。
弱点は固いは固いが温度に強い訳じゃないという事。


シャット
ワールドアジャスターの一人。
リベリオンの主人公のような身体能力と射撃能力、格闘能力を持ち、ありとあらゆる銃器を扱える。
能力は無限銃火器呼出。ありとあらゆる銃器を無条件で呼び出す事ができ、その弾薬も無限というチート仕様。


仮面ライダーたち
世界調律の影響で本来の原作の新世界で記憶を失った状態で生活している。
原作通り、戦兎はフリーの発明家、龍我は居候の筋肉バカ、一海は猿渡ファームを経営、幻徳は政府長官として、慧介とシンもそれぞれの生活を営んでいる。
ただこちらの事は本編の趣旨から外れるので説明は省略。



用語

ファウストローブ・天羽々斬
聖遺物『天羽々斬』の欠片を利用して作られたファウストローブ。
シンフォギアの天羽々斬と違い、全身を覆う黒いボディスーツに腰マントといった具合のシンプルな装束となっており、身体強化はもちろんの事だが、刀の変形機能はついていない。
代わりに、アクセルフォーム並みの高速移動を可能とし、精神力が続く限りずっと加速していられる。
翼の場合は拒絶反応によって全身に激痛が走った後に纏う事ができる。
ただし、綾女の場合はなんのリスクもなく纏う事ができる。




と、まあここまでです。

というわけで、次回を楽しみにしててください!


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ビルド NEW WORLD VCX『仮面ライダークローズ with イチイバル』
負けられないゲーム


戦「さーてG編も終わって今回はギャグ回だー!」
翼「というわけで、桐生戦兎たちが創造した新世界にて、ウェルとジェームズの野望を討ち果たした我々シンフォギア装者と仮面ライダーたち」
ク「ついにノイズの殲滅も達成して、先輩は夢を追い、世界は平和を取り戻したのでした」
セ「しかーし、何やら二課では何か争いごとが勃発していて?」
響「さぁて一体何が起こるのか!」
調「なお、この章において二課組のあらすじでの登場はばっさりなくなります」
二課一同『ッ!?』
切「悪く思うなデース!」
龍「ちょっと待て!?俺まだ何も話してな―――」
マ「というわけで!シンフォギア・ビルド四三話を見なさい!」
シ「んでもって後書きを見ろ」
慧「さあどうぞ!」


―――まず早速だが、響、翼、クリスはとあるゲームをしていた。

 

それもこれまでになく真剣な表情で。

とてもではないが戦場で肩を並べて戦う者同士で見せ合う顔ではない。

 

 

そんな彼女たちがやっている勝負とは神経衰弱である。

言わずと知れた定番ゲームではあるが、それを何故、この三人で、しかもとてつもない程本気なオーラの中でやっているのか。

 

 

その理由はほんの数分前に遡る。

 

 

 

 

 

それは、フロンティア事変から数週間後、三学期が始まって間もなくの頃だった。

「遊園地のチケット?」

「ああ」

弦十郎の手には、有名な遊園地のペアチケットが握られていた。

「デパートのくじ引きで当てたんだが、生憎とそんな相手がいないんでな。だからお前たちの誰かに渡しておこうと思ったんだ」

「へえ」

「なるほど」

「ほーん・・・」

 

そんな三人の脳内はこうだ。

 

(お、これ最近未来が行きたがってた遊園地だ。ラッキー!)

(遊園地か・・・そういえば今週の土日は予定が開いていたな。桐生でも誘ってみようか)

(遊園地ねえ・・・ま、そんな所に興味なんて・・・いや、待てよ。これを使えば龍我と一緒に行ける・・・って何を考えてるんだアタシは!?べ、別に龍我と一緒に遊園地に行きたいわけじゃ・・・でも、たまには誰かと遊ぶっていうのも悪くはないかな・・・)

 

である。

そして、そんな三人はすぐさま行動に移った。

「じゃあ私がそのチケット貰って・・・え」

「では私がそのチケットを頂いても・・・え」

「アタシがそのチケット貰っても・・・え」

瞬間、雷が三人の間で走る。

「アハハ~、翼さんにクリスちゃん、二枚も貰うなんて一体誰を誘うんですかぁ?」

「ふっ、そういう立花こそ、どうせ小日向とはこういう所には何度も行ってるんだろう?たまには譲ってくれたらどうだ?」

「そういう先輩だって、どうせあの先公誘うつもりなんだろ?見え見えなんだよ」

「そういうクリスちゃんだって龍我さん誘うつもりなんでしょ?バレバレだよぉ?」

「べ、別にアタシは龍我を誘いたいだなんて・・・」

「そ、そうだぞ。第一それでは私が桐生に気があるみたいではないか」

「違うんですか?」

「そ、それは・・・というか立花、どうせいつでも小日向と行けるんだ。私に譲ったらどうなんだ」

「私ってなんだ私って。アタシの事も忘れんな」

「チケットですよチケット。私にお金払わせる気ですか?私より収入の多い翼さんが?」

「どうせ二課の給料でそんなものは安いものだろう」

「どうせ全部食費や乗り捨て用バイクに溶かしてんだろ」

「酷いなぁ。食欲は人間の三大欲求だよ?使わない方がおかしいじゃ~ん」

「乗り捨て用とは失敬な。最近、桐生に頼んで壊れない頑丈で持ち運びが可能でお手軽な携帯バイクを作ってもらっている所だ」

「結局乗り捨てる気満々じゃねえか!」

「そうですよそんなものにお金使うぐらいならもっと他の趣味にお金使いましょうよ!」

「そんな事とはなんだ!?それならお前もその無駄に消費する食費を減らせ!」

「どちらにしろ金の使いすぎだお前ら!」

「それを言うならクリスちゃんだって仏壇は仕方がないとして、他の家具はどれも高いのばっかじゃん!」

「アタシは良いんだよこういうの弁えてんだから」

「だからとて、雪音だけ無駄遣いしていないとはいいきれない。さあ吐けお前も何か無駄な事に金を使っているのだろう!」

「なんでアタシがお前らと同類にされてんだよ!」

「「なんか一人だけ違うのは嫌だから」」

「こういう時にシンクロしてんじゃねえよツヴァイウィング!」

「あー、お前たち?」

「なんですか!?」

「何様ですか!?」

「なんだ!?」

何やらヒートアップしてきた言い争いは弦十郎が割り込む事で止まる。

「そんなに言い合うなら、せめて何か勝負ごとで決めたらどうだ?」

「それだったら・・・」

そこでまるで待ってましたと言わんばかりのタイミングで響が取り出したのはトランプ。

「神経衰弱で決めましょう」

 

 

 

―――で、今に至るのだ。ちなみに弦十郎は仕事があるからとチケットを置いて指令室に行ってしまった。

 

ちなみに神経衰弱とは、全て裏にしたトランプのカードを平らな面に広げ、一人ずつ二枚ひっくり返し、それで同じ数字であるなら自分の手札に、違ったら元に戻し、そして全てのカードがなくなった所で、最も手札が多かった者の勝利という単純なゲームだ。

 

それを提案した響が軽くルール説明をする。

「ジョーカーは使わない。あとイカサマ行為は露見した時点でマイナス五ポイントだからね」

「うむ」

翼が相槌を打つ。

「スタートはじゃんけんで決めます」

「うむ」

結果、クリスがパーで翼、響がグーでクリスの一人勝ち。

「じゃあクリスちゃんからスタートだね」

「うむ・・・」

「そうだな」

「じゃあゲームスタートです」

そう、満面の笑みで開始を合図する響。

その響に向かって――――

 

「ドォォンだ立花ァ!!」

 

そう怒鳴って翼は響を指差した。

「ななな何の話ですか翼さぁん!?」

それに驚いておどおどしだす響。

「いやまあ不可解な点がいくつかあるよな?」

「へ?」

「まず私たちに記憶力で挑む・・・この時点で少し不可解だ。普通だったら自分の得意なゲームを選ぶだろう?」

そもそも響は記憶力は良い方だったか。

「それにしれっと言ってくれたが、『イカサマ行為はマイナス五点』。『即時失格』じゃなくてか?こうなれば警戒もする。何も言わなきゃ気付かなかっただろうな」

そう言って翼は広げられたトランプのカードをいくつか手に取って見せる。

「なんかこれ数字みたいに見えるんだが?」

そうして翼はトランプの裏面の端を指差す。

そこには、確かにちゃっかり数字に見える模様がある。しかも実際に『2』に見える模様のあるトランプは実際に『2』のトランプだ。

それに響は笑いながら冷や汗を垂れ流す。そんな響に、翼は証拠品を叩きつける。

「『イカサマトランプ』ではないかッ!!」

 

―――イカサマトランプ!

それは、裏でもカードの数字がわかるという仕掛けの施されたトランプである!

また、『狙ったカードが引けるトランプ』『目の焦点をずらし立体的に見ることでそのカード数字が見えるトランプ』などあったりするが、有名なのは、今響が用意したこの『マークドデック』である。

 

というわけで――――

 

 

―――立花響、ここでイカサマが露見!

 

 

「うっわマジじゃねえか」

そこへクリスが響の精神に畳みかける。

「お前せこッ!?姑息!しかも一応かけておいた保険でバレるとか、いっちばん恥ずかしいやつ!!あ~恥ずかしい、アタシならすぐに帰ってるよ!」

はずはずはずと連呼するクリス。もうすでに響のライフはボロボロである。

「そのへんにしてやれ雪音」

そこで翼が止める。

「イカサマを罰点制裁と定めた時点で、これもルール範囲内の行為・・・触れてるだけフェアだ」

「そうですよぉ!?イカサマはバレなきゃイカサマじゃないんだへーんだ!!」

ここぞとばかりに言い返す響。だが、

「いやばれてるんだがな」

と言われて意気消沈するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

仕切り直しの為、しばしお待ちください。

 

 

 

 

 

 

トランプを変え、改めて始めたペアチケット(デート権)を賭けた神経衰弱。

前半戦、腐っても人類守護の砦たるシンフォギア装者たち。

各々、出たカードと数字を正確に記憶。意外な事にノーミスで順当にポイントを稼いでいく。

 

雪音クリス 獲得、十

風鳴翼   獲得、十

立花響   獲得、八(ただしペナルティによってマイナス五)

 

残り枚数、二十四。

 

「これで先輩と対だな」

「ふっ、負けないぞ」

クリスと翼がばちばちと火花を散らす。

「流石皆さん、いい記憶力しています・・・」

そんな中、響が、ふとそんな事を言い出すと―――

「少し難易度上げますよ!」

カードを叩きつけて、響がそう叫ぶやいなや。

「「ッ!?」」

響は、突如として伏せたカードを、別の場所へ移動させたのだ!

その戦法の名は―――『場所移動』!

 

 

『場所移動』―――

カードの位置を動かす事によって、必死になって覚えたカードの位置、数字を脳内からぶっ壊す、非常にうざったい戦略である。

 

 

これによって、翼とクリスの記憶はそのカードに気を取られて一気に破壊される。

(やられた!)

(やりやがったなコイツ!)

これによって、二人の覚えたカードの位置、番号は脳内から吹き飛ぶ。

この戦略によって、響は順当にポイントを稼ぎ、ついにマイナス分を完済!

これによって、

 

雪音クリス 獲得、十。 

風鳴翼   獲得、十二。

立花響   獲得 十八。(マイナス五によって十三)

 

残り枚数 十二枚

 

「うっふふ~、さあ皆さん、ゲームを楽しんでくださいね~」

この上なくウザったらしい笑い声でうきうきしてみせる響。まるで勝ちを確信しているかのような余裕だ。というか、何故か響は自らトランプを動かしたのに彼女だけ覚えていられるのか。

(まずい、アタシが最下位だ・・・これじゃあ龍我と一緒に遊園地に行けない・・・!!)

クリスはその現状にかなり焦っていた。そのせいで龍我と誘う事になんの疑問も抱かなくなっている訳ではあるが。

それは隣の翼もであるが、最下位じゃない分、巻き返しが出来るという確率にかけていた。

だが、これでは響に勝たれてしまう。

そうなれば、彼女たちの願いは叶えられない。

「うっふふ~、遊園地に行ったら何をしに行こうかな~。定番のジェットコースターかなぁ?それともメリーゴーランド?あ、ゴーカートもいいよねえ・・・こんな機会めったにないからなぁ~」

(あの余裕たっぷりな顔面を殴りてぇぇぇえ・・・!!!)

ほくほくとした表情で遊園地に行ったらどうするか考えている響に苛立ちを募らせるクリス。

(くそっ!どうすりゃ今のこの現状を打開できる!どうやったらあの馬鹿にアホ面かかせる事が出来る!?考えろ・・・!!)

現状を打開するために頭をフル回転させるクリス。

「く、外れだ・・・!」

翼が引き当てたのは『13』と『8』のカードだ。

次は響の番である。

(そういえば・・・龍我には、恋人がいたんだったよな・・・)

ふと、思考の隙間に入り込んだ雑念。

(その人は、龍我の目の前で死んで・・・龍我にとっては一生忘れられない人で・・・)

そんな相手に、自分が敵うのだろうか。

そんな不安がよぎってしまう。

しかし――――

(いや・・・・そんな事考えても仕方ないよな)

その不安を振り払い、クリスは目の前の問題を直視する。

今はとにかく――――

(この馬鹿に目に物見せてやるッ・・・!!)

とにかく、このむかつく顔面を叩き潰したい気分だった。

「13・・・」

ふと響が取ったカードは翼がとったものとは違う『13』のカードだ。

(13・・・さっき出てたな、これも取られたか!?)

今の響はどういう訳かこちらの記憶力を凌駕する記憶力を発揮して場所移動によって動かしたカードの位置を正確に覚えている。

その謎の最大のアドバンテージがある以上、こちらの不利は揺るがな―――

「あ、違った」

「え」

 

外した

 

何故?先ほど翼が『13』のカードを取った筈なのに、何故外した?

『13』・・・その数字に意味があるのか?

外した響は、その『13』のカードを、やけに遠い場所に置いた。

(普通にミスっただけか・・・?)

クリスの番となり、クリスは、ある一枚のカードを手に取る。

(いやまさか・・・)

それを見た瞬間、クリスの中で、全てのパズルのピースがはまるような感覚を覚えた。

(なるほどな・・・・)

「次はクリスちゃんの番だね」

響がそう言うと、クリスは―――

 

次の瞬間――――全てのカードを奪い去っていった。

 

「アタシの勝ちだ」

そう、クリスは勝ち誇った顔でそう言ってのける。

結果

 

一位 雪音クリス 獲得十八

二位 立花響   獲得十八(−五)計十三

三位 風鳴翼   獲得十二

 

「お、おう・・・怒涛の追い上げだったな雪音・・・」

最下位となった翼はその事にショックを受けながらも、いきなり調子づいたクリスにそう言う。

「いやまあタネさえ分かればこんなもんだろ?」

「ぎくっ」

その言葉にそう返すクリスに、響はあからさまに顔をそらす。

「タネ?」

首を傾げる翼に、クリスは()()()()()を始める。

「このトランプには、柄が対象じゃないっていう特徴がある。だからこういう使い方が出来るんだ」

そう言って、クリスはカードを裏面を上にして机に置き、指をある配置にする。

「っ!そうか、時計の時刻か!」

これが、響の自らの場所移動によっても崩れなかった異様な記憶力の正体である。

「そう、トランプを置く角度で、一から十二までの数字を表す事が出来る。だから『13』のカードの扱いに困って、この馬鹿は遠くにおきたかった。場所移動戦術はそれを隠すための行動だな」

それを聞いた翼は、震える体で響の方を見る。

「立花、お前・・・」

件の響はこれまでにないほど冷や汗を流していた。

「せこぉぉぉぉお!?」

今度は翼からの集中砲火が浴びせられる。

「せこっ!?姑息っ!?ちっともこりてない恥知らず!どこで買えるんだその図太さ!それでバレて利用されるとかいっちばん恥ずかしい奴だぞ!?」

「う・・・ぅう・・・」

どうやら二度もイカサマ行為をやった事が信じられないらしい。

「恥ずかしい・・・これは恥ずかしいぞ立花ぁ!!」

「見ないでぇ・・・!」

よっぽど恥ずかしいのか背中すらも見せる響。

「だって・・だってぇ・・・」

肩を震わせ、涙声で呻く響。

「未来と一緒に遊園地に行きたかったんだもん!!」

そこでついに理由を暴露する響。どうやら観念したようだがどちらにしろ敗北したのは変わらない。

「もう、死にたいので帰りますぅ・・・」

「おう、でも死ぬんじゃねえぞ」

ここでクリスの止めの一発。

「未来にはバレたけど他の人は騙せたんだけどなぁ・・・」

そう言って部屋を出ていく響。

「・・・さて、という訳でチケットは雪音のものだな」

「おう、ありがたくもらってくぜ」

クリスがそう言って机に置かれた遊園地のペアチケットを手に取る。

「それじゃあ私はこれから少しスケジュールの確認でもしてくる。万丈とのデート、頑張るといい・・・」

そう言って翼が出ていこうとする。

しかしその寸前でどういう訳か立ち止まり・・・

「・・・・ぅぅぅううぅぅうう!!」

(え!?泣いたァ!?)

何故か泣きながら全速力で出ていった。

その行為にクリスはぽかんとするも改めて自分の手の中にあるチケットを見る。

(さてこれでチケットは確保だ・・・あとは龍我を誘うだけ・・・あれ?なんかいきなり緊張してきたぞ!?一体どんな格好で行けばいいんだ!?)

そして改めて現状を確認したクリスは思いっきり頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

そして、クリスは龍我の家の前にやってきていた。

しばし、手の中のチケットと扉を交互に見て、やがて意を決してインターンホンを押す。

そうして待つこと数秒。

「おう誰だ?・・・ってクリスか。どうした?」

龍我が扉を開けて出てくる。

「ああ、いや、特に理由とかはないんだがな」

「ないのかよ」

「いや、やっぱそういう訳じゃなくて・・・その、今度の週末、予定空いてるか?」

「は?まあ、空いてるっちゃあ空いてるが・・・」

「だ、だったらよ・・・」

ややぎこちない仕草で、クリスはチケットを差しだす。

「アタシと一緒に、遊園地に行かねえか?」

「は?遊園地?」

首を傾げる龍我。その顔にはまさしく『何故?』の二文字とはてなマークが。

「べ、別に、深い意味はないんだけど、よ・・・たまには、その、一緒に遊びたいな~・・・なんて・・・」

「・・・・」

しばし回答を考える龍我。

「・・・なんか、珍しいな。お前から誘ってくるの」

「そ、そうだったか?」

「まあ俺もあまりそういう事はないけどよ。なんかあった時に誘ってたのは俺だったような気がするからさ」

「そ、そうか・・・」

クリスは未だ顔が赤いままである。

(どうせ、なんか仕事がある訳でもねえし、付き合うのも悪くねえか・・・)

龍我はそう思い、クリスに向きなおる。

「そんじゃ、今度の週末な」

「い、いいのか?」

「お前から誘ったんだろ?どうせ俺も暇なんだ。丁度いい暇潰しに使わせてもらうぜ」

「そ、そうか・・・」

(暇潰し、か・・・)

結局はその程度の認識、といった所か。

(龍我にとって、アタシはその程度の人間って事なんだな・・・)

と、心寂しく思う。

「じゃあ、土曜日、楽しみにしててくれよ」

「おう」

そうして、龍我は扉の向こうに消えていく。

そんな中でクリスは手を伸ばそうとしたが、やめて、その扉が閉じる。

そうして、閉じた扉を前にして、クリスは・・・

「・・・ばーん」

なんて、手を拳銃の形にして、そう呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけで週末の土曜日―――

 

「・・・」

集合場所にて、そわそわと待ち人を待つクリス。その恰好は、色々と考えた末のおしゃれなのか、少し気合をいれた私服だった。

そんな様子を、遠目に眺めるのは――――

「ふっふっふ、万丈がデートに誘われたんだ。こんな見世物滅多にお目にかかれねーぞぉ」

「な、なんかすさまじい背徳感が・・・」

「クリスちゃん、緊張してるね」

「キュル!」

「クロは今回は静かにしててね」

「何故僕まで呼び出されたのでしょうか・・・」

「むぅ・・・」

変装した戦兎、セレナ、響、クロ、未来、緒川、翼の七人だ。

ちなみに、服装は全て未来や翼が用意したものである。どれもこれもどこにでもいる大人や子供といった感じで、行為を除けば全然怪しまれない服装である。

「いやー、こういうのは尾行のエキスパートである緒川に頼むのが一番いいと思ってな」

「やれやれ、こんな事をして、あとでどうなっても知りませんよ?」

「安心しろ。いざって時の為の策は用意してある」

にししと笑う戦兎とやれやれと呆れる緒川。

「あれ?翼さんどうかしたんですか?」

そんな中で、未来はなぜかそわそわしている翼の様子に気付く。

「ああいや、なんでもない・・・」

「戦兎先生と二人きりじゃなくて残念なんですよね~?」

 

ゴッ!

 

「ひぇっ」

「あ、頭が割れる・・・」

「次言ったら本気でかち割るぞ」

何やら不機嫌な様子の翼に尋ねた未来だったが、そこで響がちょっかいを出した訳なのだが、その返答がまさかのどこかに落ちていた木の棒でぶん殴られてノックアウトさせられるという事だった。

ちなみにその行為に未来は小さく悲鳴をあげる。

「ついでに、朔也の奴に監視カメラハッキングしてもらっていつでもどこでも追跡可能だぁ・・・!!」

『まあ一応司令の許可もとってることだしねえ・・・』

なんでも二課内にいるリア充応援団体がクリスと龍我のデートの事を聞きつけて弦十郎に許可を取り行ったらしいのだが。

ついでに何故か弦十郎ものりのりだったらしい。

「おそらく狙ってやったな」

『うんうん』

戦兎の呟きに全員同意する。

と、そうこうしている内に。

「あ、龍我さんきましたよ」

セレナの言葉に、全員が一斉に物陰に身を潜める。

「悪い、遅れた」

「いんや、アタシも今来た所だ」

 

「本当は一時間も前から待ってたのにね~」

「まあ私たちが来た頃にはもう来てたけど・・・」

 

「それじゃあ、行くぞ」

「おう」

そう言って、二人は歩き出す。目的地は当然、あの遊園地だ。

 

 

「動いたぞ!」

「では尾行していきましょうか。こそこそしていると逆に怪しまれるので、人混みに溶け込むように。あ、人気の無い場所では僕が尾行しますので、皆さんは僕のGPSを頼りに尾行を」

「OK。やっぱお前を呼んで正解だった」

「・・・ねえ、緒川さんも意外に乗り気だったりするんですか?」

「さあ、それはどうでしょうね」

「キュールルー!」

ちなみにクロは未来が持ってきた鞄から頭を出している状態だったりする。

 

 

 

「ここが遊園地か・・・」

弦十郎から貰ったチケットを使い、無事入場したクリスと龍我。

「ん?ああ、そうか。そういやお前遊園地に来んの初めてだったな」

「まあな・・・」

しみじみと遊園地を眺めるクリス。

そんなクリスの様子に、龍我はすぐさまその手を取る。

「へ!?」

「だったら今日は楽しもうぜ!初めての遊園地巡りだ!」

そのまま引っ張られるままに、クリスは龍我と共に走っていく。

その顔は、耳まで真っ赤になっていた。

 

「まず遊園地に来たらこれだ!」

ジェットコースターである。

「な、なあ龍我・・・」

そのジェットコースターに隣り合わせで乗った二人だが。

「ん?どうした?」

「これ、ちょっと高過ぎねえか・・・?」

「は?普通だろ?」

「う、嘘だろ!?」

高さ百五十メートルである。

「まあ俺も乗るの初めてだけどな!」

「は、それって一体どういう――――」

次の瞬間、

「ふにゅあぁぁああぁぁあああ!?」

「アハハハハハ!!!なんだその叫び声!アハハハハハハハハハ!!」

絶叫系に振り回されて悲鳴をあげるクリスとその爽快感を楽しむ龍我。

 

 

その様子を、近くの移動販売車の売るジュースを飲みながら、望遠鏡で見ている響。

「アッハハ!クリスちゃんすっごい顔!!」

ちなみに、入場料は二課の経費から出されている。

「これ学校で見せたらすごく受けそう・・・」

「だからって撮らないでね」

思わずスマホを取り出しているセレナを咎めつつ、未来はジェットコースターの方を見る。

クリスの手は、何気に龍我の服の裾を掴んでいたりする。

 

 

「ハア・・・ハア・・・もう二度とジェットコースターには乗らねえ・・・」

「それじゃあ、今度はあれ行ってみるか」

「ん?ゴーカート?」

「おう。あんな感じの小さな車に乗って走り回るアトラクションでな。あれ、結構楽しいぞ」

「という事は龍我も乗った事があんのか?」

「ああ。行ってみようぜ!」

龍我はクリスの手を取りその列に並ぶ。

 

 

「へえ、次はゴーカートか」

「ジェットコースターとは違い、一種の爽快感がありますからね。良い判断です」

「まあ、ジェットコースターで削れた精神は少しは回復するだろうな」

なんて言いつつ、ちゃっかりビデオに撮ってたりする戦兎であった。

 

 

「おらおら飛ばすぜぇ!」

「お、おおお・・・!!」

アトラクションであるが故か、本当の車とは明らかにスピードに差はあるが、それでもジェットコースターのような全力系とは違う感覚の爽快感があった。

何か、吹き抜ける風というか、それが前から後ろへ過ぎ去っていくその感覚が、どうにも心地良い。

そんな感覚を味わいながら、龍我の運転の元、彼女らの乗るゴーカートはコースを走り抜けていく。

 

 

「随分と楽しそうですねクリスさん」

「まああの馬鹿も一応デートの基本って奴を弁えてるからな。問題ねえだろ」

「しかし、意外でした。龍我さん、彼女いたんですよね」

「まあな」

響の言葉にそう返すと、ふと戦兎の雰囲気が暗くなる。

「・・・あ」

それで響は自分の失言に気付く。

「ご、ごめんなさい・・・」

「別に、気にすんなよ。もう全部終わった事だ」

戦兎の視線の先にいる龍我を見つつ、戦兎はそう返す。

その様子を、翼は心配そうに見ていた。

 

 

 

その後の事だが、戦兎たちが尾行している事に気付くことなく、龍我とクリスは遊園地を満喫した。

メリーゴーランド、ティーカップ、ウォーターライド、お化け屋敷(二人とも想像以上の怖さで思いっきり絶叫)、ミラーハウス、シューティングゲーム、etc…

様々なアトラクションを力の限り遊びつくす。

 

その一方だが、

 

「おい!何やってんだ見失うぞ!?」

「だ、だって、あのドリップタワー面白そうなんですよ!?せっかく来たんですからここは乗らないと・・・!」

「目的忘れてねえかお前!?」

尾行している途中で目的を忘れた響があちらこちらのアトラクションに無断で行ってしまったり。

 

「ねえそこの君」

「え?なんですか?」

「その子可愛いわね?何?誰が作ったの?」

「あ、えっと、知り合いの人が作ってくれたもので・・・」

「キュールルー!」

「あ、ちょ、クロ・・・!」

「うわぁ何この子!機械だなんて思えないんだけど!」

「おかーちゃん、おねーちゃんのもってるあれほしー」

「なにそれ?新しい防犯装置だとか?」

「触らせて触らせて!」

「あ、ああ!誰か助けてー!」

「待ってろ小日向すぐ行くー!」

クロが見つかった事で他の入場客に注目されて未来がもみくちゃにされたり。

 

「すみません」

「はい?私ですか?」

「私こういうものでして・・・」

「えーっと・・・え、これ有名なアイドル事務所の・・・」

「よければ、その・・・」

「あ、えっと、その・・・」

「すみませんこの子にそういうのは遠慮させてもらっていいでしょうか!?」

偶然来ていた某事務所のアイドルPに勧誘を受けてセレナが困ったり。

 

「ん?あれ、風鳴翼じゃない?」

「ぎく」

「え?どこどこ!?」

「ほらあれ」

「・・・」

「あ、逃げた!」

「まさか本物!?」

「探せ探せ!」

「た、助けて桐生ー!緒川さーん!」

「うぉぁぁぁあ!!」

さらには翼の正体がばれかけて軽く騒ぎになり、その度に唯一の大人で男である戦兎と緒川がどうにかしたりと色々と大変だった。

 

 

そんなこんなで遊園地を楽しく回っていく龍我たちを見守る一行。

「二人とも、とっても楽しそう」

「いつかマリア姉さん達と一緒に来てみたいです」

「まあ今はあいつらのデートを見て楽しもうぜ」

「このまま行けば、いい雰囲気で終わりそうですね」

「雪音が楽しそうで何よりだ」

「そうですね・・・」

「キュル・・・」

そんな二人を人混みに紛れてついていく戦兎たち。

「・・・キュ?」

ふと、そんな中で、クロの視界にふと見覚えのある顔が映る。

しかし、クロは首を振ってその顔を無視する事に決めた。

 

 

何故なら主人と()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 

人混みの中、二人並んで歩く龍我とクリス。

「なんか、ありがとうな」

そんな中で、クリスは、龍我にお礼を言う。

「ん?どうしたんだよいきなり」

「こんなアタシと一緒に、こういう所に付き合ってくれた事だよ。突拍子もなかったし、断られるなんて事も考えてたから、だから、少し嬉しくて」

「まあ、折角だからな。でも、それでクリスが楽しんでくれたんなら良かった」

「ああ、すっごく楽しかった」

龍我の言葉に、クリスは本当に嬉しそうに笑う。

そんな中で、ふと考える。

(これからも、龍我と一緒にいられるかな・・・)

ふと、そんな考えが、クリスの脳裏を過ぎる。

その視線は、横を歩く龍我を見上げていた。

しかし、すぐに自分が変な事を考えている事に気付き、ばっと顔をそらす。

(な、なに考えてんだよアタシは!こ、これからも仕事とかで一緒にいられるんだ!そんな事、ある分けねえだろ)

そう、自分の胸の高鳴りを必死に誤魔化す。

その一方で、龍我は、ふと視線を、クリスとは反対方向の横に向けた。

「――――」

そして、その視線の先で、あるものが目に映り、龍我は自然と歩みを止めていた。

 

 

その様子に、戦兎は気付く。

「あれ?龍我さん?」

一拍遅れて、他の者たちも龍我の異変に気付く。

そうして、龍我が見る先を、戦兎たちも追ってみると――――

「・・・ッ!?」

 

戦兎だけが、息を呑んだ。

 

「何を見てるんだろ?」

「さあ・・・」

「・・・ん?桐生、どうかしたのか?」

戦兎の異変に気付いた翼。

その顔は、かなり動揺している様だった。

 

 

戦兎と龍我の視界の先にいるのは、一人の女性。

 

 

黒髪のセミロングの女性だった。

物腰柔らかそうな雰囲気であり、どこか、はかなげな雰囲気を出す、一人の女性。

しかし、戦兎と龍我にとっては、今のタイミングではあまりにも最悪な存在だった。

 

龍我が立ち止まった事に、クリスも気付き、振り返って龍我の方を見るクリス。

「龍我?」

体を震わせて、目を見開いている龍我に、クリスは首を傾げる。

「――――香澄」

ふと、龍我がそんな風に呟く。

 

 

「こんな所で出てくんのかよ・・・!!」

戦兎は頭を抱える。

 

 

彼女の名は、『小倉(おぐら)香澄(かすみ)

 

 

旧世界において、龍我の腕の中でその生涯を閉じた―――龍我の元恋人――――

 

 

「香澄ッ!!」

「あ!?」

龍我が、唐突に香澄に向かって走り出す。

(見間違えるはずがねえ、あれは香澄だ・・・!)

人混みを押し退けて、龍我は我を忘れて香澄に向かって走る。

「龍我!どこ行くんだよ!?」

突然の龍我の行動に困惑するクリス。

「香澄・・・香澄・・・!」

龍我は、必死に走って香澄の元へ向かう。

会えた。死んだ最愛の人に、会えた。もうすぐ、もうすぐなのだ。

もうすぐ―――この手で―――

そう、手を伸ばした時だった。

「かす―――」

 

「―――香澄」

 

突如として、冷水をかけられたかのような衝撃が龍我を襲う。

それは、()()()()()()()、しかし自分の口からは出たものじゃない、男の声。

いきなり立ち止まり、見たその先には、香澄に近付く、一人の男。

見知らぬ男―――じゃない。

「おい、どうしたんだよ・・・」

追いついたクリスは、その場で棒立ちになる龍我の異変に気付く。そして、龍我の見るその瞬間を、見てしまう。

「あ、龍我」

「わりぃ、トイレが長引いた」

「いいのよ。こうして人混みを眺めているのも、結構楽しいから」

「そうか。そんじゃ、次、行こうぜ」

「ええ。あ、そうだ。帰りにお土産でも見ていかない?」

「お、いいな」

仲睦まじい様子の二人が、龍我に背を向けて去っていく。

「・・・あ」

それを見て、クリスは察してしまう。

その光景は、今の龍我にとっては、あまりにも、残酷すぎる光景―――

龍我が、踵を返す。

「あ、りゅう・・・」

何か、声をかけようとしたが、出そうとした言葉が出ず、そのまま龍我がクリスの横を通る。

「悪い。行こう」

短くそう言って、龍我はクリスの横を通り過ぎる。

「・・・・ああ」

その言葉に、クリスは、それ以上何も言えなかった。

 

 

 

 

「戦兎さん」

隣の緒川が、戦兎に問いかける。

「彼女が、もしかして・・・」

「ああ。万丈の、元恋人だ」

救う事の出来なかった、人間の一人―――

「・・・あ、行ってしまいますよ」

セレナの言葉に、皆は、二人の方を見る。

しかし、今の雰囲気では、とても尾行なんて気分ではない。

だが―――

「乗りかかった船だ」

戦兎がそう言い出す。

「最後までやろう」

戦兎のその言葉に、全員がうなずくのだった。

 

 

 

 

それから、やや気まずい雰囲気でクリスと龍我は遊園地を回り、日が沈みかけた頃、二人は、それぞれの家の前に戻ってきていた。

「今日は、ありがとうな」

「いや、俺の方こそ。久々に楽しめた」

「そっか、なら良かった」

「それじゃ、また明日な」

「ああ。また明日・・・」

そう言って、龍我は自分の部屋に戻っていく。

その様子に、クリスは、思わず、手を伸ばす。

だが、間に合わず、龍我は部屋の中に入っていってしまった。

そんな様子に、クリスはそれ以上追いかける事が出来ず、大人しく自分の部屋に戻る事にした。

 

 

そんな様子を、戦兎たちは彼らの住むアパートの近くの公園から見上げていた。

「クリスちゃん・・・」

「龍我さん・・・」

そんな二人の様子を心配そうに見上げる、響、未来、セレナ、緒川、翼。

そんな中で、戦兎だけは、木に背中をもたれかけて、今日の事を思い返す。

(ほんっと、なんでこうなるのかね・・・)

龍我にとって、忘れられない人。

そして、この新世界においては、同一人物ではあるが、別人である存在。

しかし、いずれは乗り越えなければいけない相手だ。

(乗り越えられるかどうかは、お前次第だぞ)

戦兎は、龍我に向かって、心の中でそう語り掛けた。

 

 

 

 

そして、自室に戻ってクリスは、玄関に突っ立ったまま動かないでいた。

「・・・・」

そして、思い出す。

龍我が、香澄を見た時の表情を、あの、焦り様を。

(忘れられない、恋人・・・)

一方的な別れ、二度と会えない事になる死別。目の前で消滅してしまった、最愛の人。

それが、小倉香澄。

だけど、今の香澄は、もう今の龍我の恋人ではない。

この世界の、新世界の『小倉香澄』であり、新世界の『万丈龍我』の恋人だ。

仮面ライダーの『万丈龍我』の恋人ではない。

だけど、それでも―――龍我は、自分を抑えられなかった。

 

それが、たまらなく、『悔しい』と思った。

 

(龍我は、まだ香澄って人の事を忘れられていない・・・忘れられないんだ。アタシを、見ていてくれてる訳じゃない。・・・それが、悔しい)

自分の胸に手を当てて、握りしめる。

(龍我に見てもらいたい。香澄じゃない。アタシを見て欲しい)

何故、ここまで彼に渇望するのだろうか。何故、ここまで彼に固執するのだろうか。

二人きりの時、龍我は、自分じゃない誰かの名前を呼んだ。

それを聞いた途端、胸の奥が、ずきんと痛んだ。

もちろん、気のせいだとは分かってる。だけど、確かに痛んだのだ。

その理由は、一体なんなのか。

分からない分からない。否、本当は、もう分かってる。

両親が言っていた、この気持ちの名前を、自分は本当は知っている。

だけど、認めるのが怖かった。

認めてしまったら、きっと、今までのように龍我と接する事が出来なくなってしまうと思っていた。

だけど、そんな自制心すら押し退ける程に、彼と関わる度に、この気持ちは大きくなっていた。

もう、抑えられない程に。

「アタシは―――」

それを自覚してしまえば、その誰もいない空間で、その言葉はするりと出てしまう。

 

「―――龍我が、好き」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これから始まるは、『万丈龍我』の物語にして『仮面ライダークローズ』の物語。

 

旧世界より続く因縁。旧世界での宿敵。

 

この新世界にて繰り広げられる、戦い。

 

そして、少女の抱く、淡い恋心。

 

 

その行方を追う物語――――

 

 

 

愛和創造シンフォギア・ビルド

 

 

 

ビルドNEW WORLD―――VCX(ヴィクロス)『仮面ライダークローズ with イチイバル』

 

 

これより、開幕―――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルド!

「いいか?俺は筋肉馬鹿じゃねえ『プロテインの貴公子』―――バサッ!―――万丈龍我だ!」

数か月の時が経ち、自分たちが創造した新世界にて。

「さぁて!そんなわけで改めて俺が開発した発・明・品を見ろ!」

その日常を謳歌する戦兎と龍我。

「―――コレがァ、パンドラボックスの力で創った、新世界かァ~・・・」

だが、そんな彼らに、突如としてパンドラパネルから新たな地球外生命体『キルバス』が出現する。

「なんで、テメェがビルドに!?」

創られた新世界で、キルバスに襲われる龍我とクリス。

「龍我!」

そんな彼らを助けたのは―――

「―――オレは、会いたくなかったよ」

龍我と戦兎の宿敵―――エボルトだった。



次回『蘇るオールドワールド』



トランプのネタはもちろん『か〇や様』ネタです


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蘇るオールドワールド

作「始めに言っておこう・・・我・慢・で・き・な・か・っ・た!!」
シ「まああのシンフォギアRadioを見ればな」
作「あやひー(クリス役)や井口さん(未来役)のトークも面白かったけど、それよりも衝撃的なのは新イベントの情報・・・だよ。まず初めに言っておこう

  誰あれ?

 え?何?何あのクリス?完全にお嬢様なんだけど、面影全然ないんだけど。ていうか未来と話が合うって何?なんのご褒美?ついに公式つばクリ出てくるの?そんな最高な事あっていいのか―――」
マ「切歌」
切「ちょっと落ち着くデスよ!」
作「あべし」頭に魂斬撃の一撃
調「作者の見苦しい場面を見せつけてしまい、申し訳ありませんでした」
慧「それと言っておきますが、作者はまだ学生でスマホすらもっておりません。こうしてパソコンは持ってる訳ですが、そのあたりは何卒ご容赦いただけると幸いです」
シ「それと、前回語弊があったわけだが、クローズ編においてあらすじ紹介と前書きは俺たちが担当する事となった」
調「私たちの出番が一切ないから当然の処置」
マ「というわけで、天才物理学者にして仮面ライダービルドである桐生戦兎が創造した新世界にて、桐生戦兎含め、相棒の万丈龍我やシンフォギア装者である風鳴翼たちは、日常を謳歌していた」
シ「だが、そんな彼らの日常に、今新たな強大な敵が現れようとしていた」
切「その敵とは一体・・・!」
慧「そういえば平行世界の翼さんとクリスさんはどこぞの聖遺物を専門に奪う組織のおたずねものらしいよ?」
調「慧くん話ズラさないで・・・まあそんなわけで、クローズ編第二話を見なさい。滅多にない週二回目の投稿だからありがたく読みなさい」
作「ちょっと待って!確かに調子のったけどそんな高圧的に要求しないでこっちのハードルがあがる!」
マ「まあ平行世界の全く性格の違う翼とクリスには確かに興味はあるわね」
シ「別にこの話で平行世界の話を書いてもいいんだぞ?」
作「そんな暇があればいいんだけどね!さあ見てない奴は一応Youtubeとかにあるから見てみろ!絶対に自分と同じ感想抱くと思うから!」
シ「まあ確かにな。というわけで、本編をどうぞ」

作「・・・・やっぱあれ見て我慢できるつばクリ勢はいないだろう。だから叫ぶ。


Fooooooooooooooooooooooooo!!!

調「切ちゃん」
切「うるさいのデス!」
作「あべし二回目!」背中にイガリマァ…!
作(霊)『それでこの我が消えると思ったかぁあ!!』
フィ『いい加減にしなさい』
奏『そうだぞ』
作(霊)『え?あ、ちょ、離せ死人、あ、あ、あぁぁあああ!!』
シ「・・・というわけで今度こそ本編どうぞ」


「―――火星で見つかったパンドラボックスが引き起こしたスカイウォールの惨劇から十年。地球外生命体エボルトの暗躍によって、日本は三つに分かれ、混沌を極める。仮面ライダービルドであり、天才物理学者の桐生戦兎は、その他大勢のライダーと力を合わせて地球殲滅を目論むエボルトの野望を阻止する・・・そして、もう一つの地球と融合して、皆を救済する新世界を創るのだった」

「おい、その他大勢のライダーってなんだよ?もっとちゃんと説明しろよ!」

「じゃあ筋肉馬鹿の万丈龍我とアイドルオタクの猿渡一海と文字ティー大好き氷室幻徳と力を合わせてぇ・・・」

「ちょっと待てよ!筋肉馬鹿はねえだろ?」

「うるっさいな!だったら自分で考えなさいよ。・・・こんな万丈でも主役になれる『仮面ライダークローズ』をどうぞ」

 

 

 

その言葉で締めくくり、戦兎は録音機のスイッチを押す。

それで録音が終わり、戦兎は溜息をついて椅子にずしっとよりかかる。

「いいか?俺は筋肉馬鹿じゃねえ『プロテインの貴公子』―――バサッ!―――万丈龍我だ!」

そう言って天井を指差し、決めポーズを取る龍我。が、すでに録音は終わっているため、その声は記録されていない。

「「・・・はあ?」」

何故か被るその言葉。

「・・・ってかもう録音止めてるし」

「ふざけんなよ。俺が主役じゃねえのかよ!?」

「そんなの嘘に決まってるでしょうが。とにかく、これで俺たちの記憶にまつわる記録は全て取り終えた」

そう言って、戦兎が視線を落とす先には、『Kamen Rider BUILD』と書かれた書類が置かれていた。

これは、旧世界における、彼らの記録。―――というか台本である。

桐生戦兎、仮面ライダービルドとしてのその戦いの全てを記した資料と、それにまつわる音声データを録音していたのだ。

発案は、もちろん戦兎。

そして今、その録音が全て終わったのだ。

「はぁー、やっとかよ・・・美空やエボルトまで登場させやがって。声のそっくりさん探すの大変だったんだぞ」

ちなみに、これは装者やセレナには内緒であり、これを知っているのは、声優探しを手伝ってくれた緒川(マネージャーとしての能力を買って)や二課の僅かな職員だけである(なお藤尭含む)。

ただ狙ってやったのか知らないが、二課の女性陣は誰も知らない(無論友里も)。

「しょうがないだろ?本人たちは記憶を失ってんだから」

「なんで皆忘れちまったのかなぁ・・・・」

そうぼやく龍我。

この新世界において、旧世界――――スカイウォールやパンドラボックスにまつわる記憶は世界中の人々から一切消えている。

もちろん、響たちシンフォギア装者も同様だ。

覚えているのは、世界の創造主にして、エボルトがいなければ存在しなかった戦兎と、エボルトの遺伝子を持つ龍我だけ。

「またその話か・・・何度も言ってるだろう。新世界に作った際にパンドラボックスにまつわる記憶は全て失ってるんだ。だから皆は、スカイウォールがあった事も、エボルトに地球を滅ぼされそうになった事も、仮面ライダーの存在すら覚えていない」

まあ、マリアがフィーネとして決起した時にビルドの姿がばっちり映ってしまい、それに対する情報操作にかなりの労力をしいて、『謎の仮面の戦士』として都市伝説に仕立て上げられてしまっている訳だが。

「もちろん、俺たちの事も・・・」

「新世界を創るために死ぬはずだった俺たちは、本来ならこの世界に存在しちゃいけない・・・だろ?」

その言葉に、龍我はそう返した。

そうして、しばし沈黙がよぎる。

「・・・・」

「・・・ま、分かってんならそれでいいさ」

そう言って戦兎は立ち上がる。

「さぁて!そんなわけで改めて俺が開発した発・明・品を見ろ!」

そう言っていつものハイテンションで戦兎は机の上に置いてある、まだ塗装もしていない何かの装置を手に取る。よく見ると蜘蛛に見えない事もない。

「なんだそりゃ?」

「これはな、クローズドラゴンよりも高性能な変身アイテム・・・蜘蛛型ペットロボだ!」

「相変わらずだなそのネーミングセンス・・・」

「馬鹿のお前に言われたくないよ」

「馬鹿って言うな馬鹿って。ていうか、この間クライムウルフ作ったばっかじゃねえか。また余計なもん作ったのかよ」

「余計とは失礼な。これもまた立派な戦力増強の為の新発明なんだぞ」

クライムウルフとは、仮面ライダークライムことシン・トルスタヤ専用の変身アイテムである狼型自立稼働型変身アイテムである。

「まあいいや。俺はもう行くからな」

「ん?おう。ってか、お前もたまには仕事しろよな」

「災害救助の仕事があるからいいじゃねえかよ」

そう言って、龍我は戦兎の住む倉庫から出ていく。

「・・・はあ、まだ引きずってんのかねえあの事」

なんだか暗い雰囲気を醸し出しながら部屋を出ていく龍我を見て、そう呟く戦兎。

それは数日前のクリスとのデートの時の事だ。

あの最悪なタイミングで、元恋人である香澄に遭遇するとは、誰が予想できただろうか。いや、誰も予想できるわけがない。

これではクリスが可哀そうである。

「本当、あの馬鹿には困ったもんだな・・・」

と、そうぼやいた時だった。

 

何やら、耳障りな音が聞こえる。

 

何かと思って周囲を探してみると、ふと壁に立てかけてあるパンドラパネルが怪しく青白い光を放っていた。

一体何かと注視していると、そのパネルから、何かが溢れ出す。

 

「―――コレがァ、パンドラボックスの力で創った、新世界かァ~・・・!」

 

次の瞬間―――その何かが、パンドラパネルから溢れだした―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ・・・」

盛大に溜息をついて、噴水の縁に腰をかける龍我。

その目の前では、フリーマーケットが広げられており、多くの人々が展示され売られている商品をうつりうつり見ていた。

そんな様子を眺めながら、龍我は先日の事を思い出す。

(なんか・・・クリスに悪い事をしたな・・・)

そう思うのは、先日のデートの事。

あの遊園地で香澄を見つけ、そして、この世界での自分を見てしまった事。

そして、今の香澄が幸せそうだったこと。

その隣に、自分がいない事。

 

そして、我を忘れてクリスを置き去りにしてしまった事―――

 

(なんであんなタイミングで出てくるんだよ・・・)

香澄の事もそうだが、あの時は、何よりもクリスとの時間を大切にするべきだった。

あの気分を、一瞬にしてぶち壊された気分―――

(・・・あれ。俺なんでクリスの事を・・・・)

そこで、唐突に自分の気持ちの違和感に気付く龍我。

そんな時だった。

「キュールルールルールルールル!」

「ん?」

空を見上げてみれば、そこにはどういう訳かクロが龍我の真上を旋回していた。

その様子に、龍我は思わずふっと笑ってしまう。

「なんだ。今日は未来の所じゃねえのか」

「キュル!」

そう鳴くと、クロは龍我の肩に乗ってあくびをする。

「相変わらずマイペースな奴め」

そう言って、龍我はフリーマーケットの様子を見る。

(ほんと、クリスに悪い事をしたな・・・)

そう思っていた時の事だった。

 

龍我の前に、一人の女性が立つ。

 

「・・・・ん?」

見上げてみれば、そこには茶髪の背中の肩甲骨あたりにまで髪を伸ばした一人の女性がいた。

「・・・誰だお前?」

まっすぐにこちらを見てくるので、龍我を思わずそう返してしまう。

そう問いかけてみると、龍我は女性の視線が龍我ではなく肩のクロに向いている事に気付く。

「・・・そのロボット」

「ん?ああ、こいつか?ちょいと知り合いが作ったものでさ―――」

龍我が返事をしようとした時、その女性は、肩にかけていたバックから一冊のメモ帳を取り出し、あるページを見せる。

 

そこに描かれていたのは――――仮面ライダークローズだった。

 

「―――ッ!?」

「これがなんだか分かる?」

その女性は、真っ直ぐに龍我を見ていた。

 

 

 

 

「はあ・・・」

その一方で、特に当てもなく一人街中を歩くクリス。

(この気持ちを自覚した所で、今がどうにかなるわけじゃないんだよなあ・・・)

先日のデートで気付いてしまった自分の恋心。

自分より遥かに年上な相手に対して、抱いてしまったこの気持ち。

(忘れる・・・なんて事も出来るんだろうけど、そう簡単に忘れられる訳ないんだよなぁ・・・)

そう、この『恋』という気持ち。一番厄介な所は一度自覚したら二度と忘れられないという所だ。

忘れられない相手。忘れる事の出来ない相手。自分のものにしたい相手。そんな独占欲にも似た感情によって引き起こされるその気持ちは、本当に厄介なものだ。

しかし―――

(龍我はまだ、香澄って人の事を忘れられないんだよな・・・)

龍我の失った恋人。この世界じゃ、別に自分と幸せな人生を送っている、最愛の人。

(龍我が最愛と言った人。そんな人の代わりに、アタシはなれるのかな・・・)

そんな心配が、クリスの胸を満たしていた。

故に学業にも集中できない。

ここ最近、授業の内容が右から左に流れていくような感じだ。

こんな状態ではいけない。気持ちを切り替えなければ。

(・・・なんて思えれば良かったんだけどな)

これが、恋煩い、というものなのだろうか。

「ママが言った通りだな・・・」

そうぼやいた時、ふと噴水広場の前を通ったクリスの眼に、龍我と、その目の前に立つ女性の姿が目に映った。

「誰だ・・・?」

その姿に、クリスは思わず目を見開いた―――

 

 

 

尋ねられた龍我は、どう答えようかと考える。

「知ってるなら教えて、探してるの!」

女性は、そう言ってせがむように龍我に尋ねる。

どう答えようか。否、それ以前に、何故この女はその事を覚えているのか。

「・・・アンタ、誰だ?」

龍我は、そう尋ねる他なかった。

その問いかけに、女は目を伏せる。

「・・・分からない」

女の返答は、それだった。

「学校の教師らしいけど・・・記憶がなくて・・・」

(セレナと同じ、記憶喪失って奴か・・・?)

そう龍我が思った矢先、龍我の携帯に着信が入る。

それを取り出して画面を見れば、『桐生戦兎』の文字が。

「戦兎か?今俺たちを知って―――」

すぐさま通話を繋げて戦兎に、目の前の女の事を報告しようとしたら、通話に出た戦兎の声はかなり切羽詰まっていた。

『逃げろ万丈!』

「は?」

『白いパンドラパネルから見たことも無い地球外生命体が現れた・・・!』

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡る――――

 

 

白いパンドラパネル、そこから溢れ出た青い液体が、戦兎の体に直撃する。

「うぐっ!?」

それが、体中を駆け巡るような気持ち悪い感覚と共に戦兎の体を徘徊。そしてすぐさま戦兎の体から出て、着地した場所で人型を形成した。

その姿は―――桐生戦兎とそっくりだった。

「・・・ッ!?」

そんな特性をもっている存在なんて、戦兎は一人―――否、一つしか知らない。

 

ブラッド族―――星狩りの一族であり、地球上に存在しない宇宙から来た地球外生命体。

 

別の生物への擬態が可能であり、ブラックホールを使い、エネルギーに還元された星のエネルギーを喰らう事で、その力を強大にしていく存在―――

それが、ブラッド族。

それと同じ存在が、戦兎の目の前に立っていた。

「―――オマエの記憶をコピーさせてもらったァ」

戦兎もどきが喋り出す。

「・・・何者だ?」

戦兎は、警戒しきった視線で戦兎もどきを睨む。

その戦兎もどきが、盛大な仕草で振り返って自らの名を告げる。

「オレは『キルバス』!エボルトとは昵懇(じっこん)の仲でねェ。アイツがオレから奪った『パンドラボックス』を取り返しに来たァ!」

(パンドラボックスっ・・・!!)

それを聞いた戦兎はすぐさま走り出し、引き出しに隠しておいたビルドドライバーをすぐさまひっつかむ。

そしてそれを腰に装着しようとした時、突如として戦兎の体に何かが突き刺さる。

「がっ・・・!?」

それは、何かのチューブ。戦兎もどき―――キルバスの指先から伸ばされた、いわゆる触手。

その触手から、戦兎の体の中に何かが注入されていき、それが抜かれると同時に、戦兎はその場に倒れ込んでしまう。

「ァ――ぐ・・ぁぁ・・・!!」

全身を苛む激痛。体を焼くような痛み。

忘れもしない。この痛みは―――地球には存在しない毒による激痛。

間違いない、この存在は―――

「う・・・ぅう・・・」

どうにか足掻こうとするが、その時倒した机の上に乗っかっていたテレビのリモコンのスイッチが入り、テレビが付く。

そこには、下着を着ず、真っ赤なワインレッドのスーツに身を包んで踊る男の姿があった。

「ん?」

それを見たキルバスは、それを興味深そうに眺めると、一瞬にして戦兎の姿からその男の姿へと変えてしまう。

「この方がクールだァ」

そう、キメキメのポーズで言うキルバス。

そうして、床で苦しむ戦兎が落としたビルドドライバーとパンドラパネル。そして、蜘蛛型ペットロボを拾い、キルバスは高らかに言い放つ。

「さァ、エボルトをォ―――狩るかァ!!」

そう叫び、キルバスはさっさとそこから出ていく。

「う・・・ぐ・・・」

その間に、戦兎はどうにか体を引きずり、机の上に這い上がる。

その上にある、『ジーニアスフルボトル』を掴み―――そこで力尽きてしまい、床に倒れてしまう。

(ちく・・・しょぉ・・・)

毒が回るスピードが早い。それが証拠にどんどん体表が変色していっているのがわかる。

セレナが自分が死ぬまでに帰ってくることに賭けようにも、今はマリアたちの留置所に言っていてその可能性は絶望的。

このままいけば、おそらく数分で自分は死に至るだろう。

こんな呆気なく死ぬのか。こんなにも、呆気なく。

(ばん・・・じょ・・・つば・・・さ・・・・)

激痛で薄れゆく意識。

激痛で感覚が、どんどん遠のいていく。

このままでは、いずれ、本当に死――――

 

そんな時、何者かに抱き起される感覚を覚えた。

 

そしてすぐさま思いっきり体を揺すられ、顔に何か、雫のようなものが落ちてきている事に気付き、僅かに暗闇に沈んでいた意識が覚醒する。

そうして、目を開けた先にいたのは―――

「戦兎・・・戦兎ぉ・・・!!」

「つば・・・さ・・・?」

そこには、どういう訳か涙を流しながら必死にこちらに呼びかけている翼の姿があった。

「なん・・・」

「しっかりしろ戦兎!死ぬな!頼むから死なないでくれ!」

必死に呼びかける翼の眼からは止めどなく涙が溢れ出ていた。

そんな中で、戦兎は、自分の手の中にジーニアスフルボトルがある事を確認。

僅かに唇を動かし、翼に、ジーニアスを自分に差すように促す。

もはやほんのわずかな声も出ない状態。

これで伝わらなければ詰みだ。

しかし、戦兎の期待通り、翼は戦兎の手に握られたジーニアスフルボトルを掴むと、それを戦兎の体に押し当てる。

「く・・・ぅ・・・ぁ・・・・」

すると、戦兎の体から激痛が一気に引いていく。

ジーニアスの持つ万能浄化装置が効いている証拠だ。

そうして、変色していた肌が元の色に戻り、戦兎の顔に生気が戻っていく様に、翼は恐る恐る尋ねる。

「戦兎・・・?」

「く・・・ぁ・・・ああ、もう大丈夫だ」

どうにか自分の力で起き上がれるようになった戦兎は、体を起こす。

「よかったぁ・・・!」

その様子に、翼は顔を歪め、子供のように戦兎に縋りながら泣き出した。

 

 

 

 

 

そして現在―――

「キルバス・・・?」

龍我は、戦兎から告げられた敵の名を反芻する。

『今、翼に頼んで二課にそいつの居場所を割り出してもらってる。だから早く逃げろ。いいな?』

「あ、ああ・・・」

どうやら本当のようだ。

戦兎の忠告を聞き入れつつ、龍我はしばし考える。

しかし、そんな時、向こう側が何やら騒がしい気がした。

そちらに視線を向けてみれば、割れる人混みの中、その割れた場所を堂々を歩く、下着を着ず、真っ赤なワインレッドのスーツを着込み、同じ色の帽子を被る男がいた。

その男が、帽子を投げ捨てるような仕草で、周囲の注目を搔き集めていた。

その様子に、龍我は思わず感心してしまう。

「ダンサーの、柿崎悟志・・・」

そんな中で、女性がそんな名前を呟く。

だが、そんな二人の眼に、柿崎が掲げた手が怪しく光り出すのが見えた。

そして、柿崎は次の瞬間、それを龍我に向かって放つ。

「うおッ!?」

それに驚いて身を翻してギリギリで躱すも、手首の腕時計と携帯が壊れ、衝撃を受けて地面に倒れる。

その様子は、遠くにいたクリスにも見えていた。

「龍我!?」

すぐさま、龍我の元へ駆けつけようと走り出す。

一方の龍我のいる広場では、その場にいた人々が皆一斉に逃げ出していた。

当然、龍我を謎の能力をもって攻撃した柿崎という男に恐怖しているからだ。

「探したぞォ・・・エボルトォォォオ!!!」

そう叫んだ柿崎の手には―――ビルドドライバー。

「それはッ・・・!?」

それを腰に装着した柿崎は、そのドライバーのフルボトルスロットにラビットフルボトルとタンクフルボトルを装填する。

 

ラビット!タンク!

 

ベストマッチ!』

 

そうしてボルテックレバーを回し、展開されたビルダーと、掛け声と共に、お決まりの言葉を言う。

 

Are You Ready?

 

「変身ゥ」

 

創り上げられた二つの装甲が、柿崎を挟みこむ。

 

鋼のムーンサルトラビットタンク!イェーイ!』

 

そうして現れたのは――――仮面ライダービルドだった。

 

 

 

 

「―――噴水広場にて、暴動事件発生!」

一方の二課では、当然その事は知れ渡っている。

「例のキルバスのという輩の仕業かもしれん!早急に事態の把握、そして全ての装者を現場に急行させろ!」

弦十郎がそう指示を飛ばす中、藤尭が声を挙げる。

「現場の監視カメラの映像、出ます!」

そうして映し出されたものは――――

「ビルド・・・だとォ!?」

龍我を襲う、ビルドの姿だった。

 

 

 

柿崎が、ビルドに変身した。

その事実は、龍我に大きな衝撃を与えていた。

「なんで、テメェがビルドに!?」

しかし、その問いに答える事なく、龍我はビルドに殴り飛ばされる。

「フン!エボルトォ、()()()に、いるんだろォ!?」

一方のビルドは龍我に向かってそう言う。

当然龍我には何が何だか分からない。

「テメェ・・・!」

「龍我!」

「ッ!?クリス!?」

立ち上がる龍我に、クリスが駆け寄る。

「大丈夫か!?」

「ああ・・・」

「なんでビルドに・・・」

「俺が知るかよ・・・でもやるぞ!」

「ああ!」

「キュル!!」

龍我がクロを掴み取り、その背中のスロットにドラゴンフルボトルを装填。

 

Wake UP!』

 

CROSS-Z DRAGON!』

 

すぐさまボルテックレバーを回しビルダーを展開。隣のクリスはシンフォギアを起動するための聖詠を唄う。

 

『Are You Ready?』

 

「―――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)―――」

 

「変身!」

 

『Wake UP Burning!Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!』

 

龍我は仮面ライダークローズに、クリスはイチイバルをその身に纏い、すぐさまビルドに殴りかかる。

 

その瞬間を、女は目を見開いていた。

「あれは・・・」

その時、女の脳裏に、ある光景がフラッシュバックする。

 

たった今、龍我が変身したクローズが、何かと戦う姿を。

 

そして、その戦士に、助けを求めた、自分の姿を―――

 

 

クローズが殴り掛かる。しかし、ビルドはそれをいとも容易くいなし、クリスからの援護射撃すら躱してクローズを圧倒する。

「どうしたァ、エボルトォ!!」

「ぐあ!?」

戦兎のビルドとは比べ物にならない程の強さを発揮する、柿崎のビルド。

「何故姿を露わさないィ!?」

クローズの攻撃を躱し、逆に戦兎の変身するビルドからは考えられないほどの威力の打撃がクローズを襲う。

その最中で投げ飛ばされれ、ビルドは倒したクローズを踏みつける。

「その姿で龍我を踏んでんじゃねえよ!!」

すかさずクリスがその手のボウガンをガトリングガンに変形。引き金を引く。

 

BILLION MAIDEN

 

ガトリングによる乱射がビルドを襲う。

「おおっとォ!」

しかし、ビルドはそれを躱して見せる。

「中々やるじゃねえかァ!それが『シンフォギア』って奴かァ!」

「シンフォギアの事も知ってんのかよ・・・!?」

そのビルドの言葉に、クリスは冷や汗をかく。

そんな中で、クローズが立ち上がる。

「何言ってんだ・・・エボルトはもういねえよ!」

そう言って、クローズは再度ビルドに殴り掛かる。しかし、振り下ろした拳を受け止められ、しかし再度殴り掛かっても躱され、なおかつ、背後を取られ、後ろから締め上げられる。

「ぐぅっ!?」

「龍我!」

「だったら、オレが呼び覚ましてやるよォ!!」

そういうと、クローズを前にどつき、隙が出来た所に強烈なドロップキックを叩き込む。

「ぐあぁぁああ!?」

「龍我ぁ!」

想像以上の威力なのか、かなりの距離を吹っ飛ぶクローズ。

そのまま近場の駐車場まで吹っ飛ばされ、そこで変身解除に追い込まれる龍我。

「ぐ・・あぁ・・・」

龍我の敗北。その苦しみようを見たクリスの頭に血が昇る。

「よくも龍我を―――」

「折角だ」

だが、構えたガトリングガンを蹴り上げられ、その腹に一撃を入れられる。

「げほっ―――」

「お前もくたばってろォ!」

そのまま龍我の方へ殴り飛ばされる。

「あぁあ!?」

龍我の元まで殴り飛ばされ、クリスもシンフォギアを解除される。

「クリス!」

「うぅ・・・なんて強さだよ・・・」

ダメージに地面に倒れ伏す二人。

そんな二人を見下し、ビルドはスロットからボトルを抜いて、変身を解除する。

そうして変身を解除した柿崎が取り出したのは、白いパンドラパネル。

そのまま倒れ伏す龍我に近付き、そのすぐ傍にパネルを置き、龍我の手首をつかむ。

「ぐぁ・・・何すんだ・・・!」

抵抗しようとその手を反対の手で掴み返すが、すぐさまその手を()()()()()()()()()、痛みで思わず悶絶する。

「龍我!」

クリスが叫ぶ。

「パンドラボックスのォ・・・復活だァァァア!!」

そして、柿崎はそう叫び、掴んだ龍我の手と、もう一方の手をパネルの上で重ね合わせる。

「ぐあぁぁああ!?」

その時、凄まじい激痛が龍我を襲う。

その様子を、あの女が遠目で見ており、クリスも、そんな龍我の様子を目を見開いてみる事しか出来ない。

そうして、激痛に苛まれる龍我を茫然と見ているクリスが目にしたものは――――パンドラパネルの下から、正方形の箱が形成されていく様だった。

「パンドラパネルが・・・」

そうして完成したのは、龍我がこの世界で最も見たくなかったもの。

 

―――今はもう存在しない筈の、パンドラボックスだった。

 

「どうなってんだ・・・!?」

そう呟いた瞬間、パンドラパネルから凄まじい衝撃波が迸り、光が波紋のように広がっていく。

それを受けた女は、自分の中で何かが変わる感覚を覚え、その場に倒れ伏す。

 

 

 

その光は、世界中に広がっていった。

 

 

 

その時、コーヒー豆の店からコーヒー豆の入った紙袋を抱えて出ていった美空は、突如吹き付けた突風に顔をしかめる。

しかし、その脳裏に、唐突にある光景が次々とフラッシュバックしていった。

その現象に、美空は困惑し――――そして、何か、決定的な何かを思い出した。

 

 

 

 

それと同時に、龍我の脳裏に、見覚えのある光景がフラッシュバックする。

見覚えのある宿敵の姿、崩壊する文明、破壊される星――――

「―――ハァッ!?」

次の瞬間、我に返り、まるで今更呼吸を思い出したかのように激しく呼吸をする。

「今のは・・・!?」

「箱は完成した。後は中身だァ・・・」

呆然とする龍我を他所に、柿崎はそう言って立ち上がり、龍我を指差し、こう言う。

「貴様の命で、パンドラボックスは力を取り戻すゥ!!」

「なん・・・だと・・・!?」

 

雨が、降り出す―――

 

「ククク・・・」

柿崎が、再び変身する。

 

レスキュー剣山ファイヤーヘッジホッグ!イェイ・・・!』

 

ビルド・ファイヤーヘッジホッグフォームに変身した柿崎は、龍我に近付くとその体を掴み上げて持ち上げる。

「龍我ぁ!」

クリスは、思わず龍我の名を呼ぶ。

(ダメだ、このままじゃ、龍我が・・・!)

考えたくもない最悪の事態。

それを予測してしまい、クリスはどうにか立ち上がろうとする。

だが、先ほどの一撃が効いているのか、立ち上がる事が出来ない。

その間にも、ビルドは龍我を掴み上げ、その右拳―――直撃すれば伸縮自在の棘が体中を貫く一撃が、龍我に叩き込まれる。

「・・・あァ?」

だが、直撃した筈の拳に、ビルドは違和感を覚える。

その拳は―――龍我によって防がれていた。

手を交差させて、その拳の手首を抑える事で、直撃を防いでいた。

だが、そんなビルドの攻撃を防いだ龍我に、クリスは、得体の知れない気持ち悪さを覚える。

「・・・龍我?」

思わず、その名を呼ぶが、すぐさま違うとクリスは思った。

何か、雰囲気があまりにも違い過ぎる――――

龍我が、ビルドの拳を弾き、その胴に拳を叩き込んで、一気に下がらせる。

「うお!?」

驚くビルド。しかしその声は、どこか嬉しそうだった。

そうして、雨に打たれる中、そこに立つ龍我の体から―――何か、液状の何かが溢れ出す。

それは龍我の体から抜け出ると、形を成し、人型へと姿を変える。

 

血の色の装甲、水色のバイザーとコブラの意匠―――。

 

忘れもしない。その姿を。

龍我は、その姿を知っていた。知らない訳がなかった。

 

―――ブラッドスターク、否―――

 

「エボルト・・・!?」

彼らの最大の宿敵―――エボルトが、そこにいた。

「やっと現れたかァ。会いたかったぞォ!!!」

ビルドが、エボルトに襲い掛かる。

その攻撃をいなすエボルト。龍我とクリスが一緒になっても敵わなかったビルドの攻撃を、ブラッドスタークのエボルトは見事に捌き切っていた。

そして、その言葉に、エボルトは―――

「―――オレは、会いたくなかったよ」

そうして反撃に出るエボルト。拳を横に躱され、回し蹴りを放つも下に躱され、そこへ左腕のマルチデリュージガンからの放水を受けて一気に距離を取らされる。

そして、すかさず高水圧の放水を、エボルトは障壁をもって防ぐ。

「ぬ・・・ぐぅ・・・ハアッ!」

そして、その障壁をもって衝撃波を放ち、放水を押し返す。

「ぬお!?」

そうして出来た隙に、エボルトはビルドに向かって走り出し、その胸に拳を一撃決める。

そのまま吹き飛ばされたビルドを前に、エボルトは周囲を見渡し、パンドラボックスを見つけるとそれを拾い上げる。

「何がどうなってんだよ!?」

女を抱え上げる龍我がそう叫ぶ。そのすぐ傍にはどうにか立ち上がったクリスもいる。

「話は後だ。ズラかるぞ!」

そう言って、エボルトは三人を掴むと、一気に高速移動してその場を離脱した。

そうしてエボルトを見失った柿崎―――否、キルバスは、笑いながらボトルを抜き、変身を解除する。

「ナニをしても無駄だァ。オマエはオレから逃げられなァい」

そうして取り出した戦兎が作った蜘蛛型ペットロボ。

それが、一瞬にして赤と黒の塗装をされたかのように変色した。

それに、キルバスはそっとキスを落とした――――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

龍我たちと連絡がつかない事態に苛立ちを募らせる戦兎。

「引き続き捜索は続けるそうだが・・・」

その一方、件の龍我たちは、エボルトと対峙していた。

「ここは、万丈が旧世界で入れられてた刑務所だ」

警戒心をあらわにする二人。

「この地下に、キルバス攻略の鍵がある」

しかし、そんな事を意に介さず、そんな中で、一緒に連れてきてしまった女性が目覚める。

「アンタが、仮面ライダーだったんだね」

その女『馬渕由衣』から語られる、クローズの過去。

「今の話・・・本当なのか・・・?」

それを聞いた、クリスの反応は―――


その一方で、政府官邸を訪れた戦兎と翼、響、弦十郎たちは、そこで待つ、戦兎の仲間たちと出会う―――

「久しぶりだな。全部思い出したよ」


次回『因縁のバイゴーンデイズ』



リディアンこそこそ噂話
翼は実は切羽詰まると戦兎の事を思わず『桐生』ではなく『戦兎』と名前で無意識に読んでしまう事がある。

翼「・・・はあ!?」
ク「気付いてなかったのかよ?」
翼「あ、いや、別にそんなことは・・・でたらめいうなぁ!」
マ「目をぐるぐるさせても説得力ないわよ?」


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因縁のバイゴーンデイズ

マ「仮面ライダークローズこと、万丈龍我は雪音クリスとともに地球外生命体キルバスの襲撃を受けて窮地に立たされてしまう」
シ「しかし、そんな彼らを助けたのは、なんと彼らの宿敵『エボルト』であった」
切「ついにエボルトの登場デース!」
調「戦兎先生たちは、あんな化け物とずっと戦い続けてきたんだよね・・・」
シ「ああ、もはや尊敬に値するな」
慧「なんで俺たちあんな人たちに宣戦布告してたんだろう・・・」
調「やめてそれは言わないで」
切「特にハザードはマジでヤベェーイだったデス・・・」
マ「まあ、慧介があんなことになったからね・・・」
調「私ハザード嫌い」
シ「・・・おい、なんか話ズレてないあいた!?」
マ「普段はボケに回ってる貴方が言わないで!」
シ「ぬぅ・・・たまにはいいだろう!『銀魂』の坂田○時だってボケに回ったりツッコミに回ったりしているだろう!」
切「なんでデスかね。その名前にどうしようもない嫌悪感を感じるのデスが・・・」
慧「はい中の人ネタ入りましたー!」
マ「なんかもう色々とカオスね」
シ「いつものことだろう」
マ「だからあなたがここで真面目な事を言わないで違和感あるから」
切「じゃあそういうわけデスので、クローズ編第三話をどうぞデス!」



作「翼オレっ娘ってマジですか?」


―――龍我と連絡が取れない。

 

どれほど龍我の通信機、携帯に連絡をかけても、一向に返事が返ってこないのだ。

「はあ・・・」

苛立ちの籠った溜息を吐き、戦兎は通話を切る。

「二課の方でも、万丈や雪音の捜索は難航しているようだ」

そんな戦兎の一方で、翼は二課からの情報を受け取っていた。

「キルバスの方は?」

「見失ったそうだ」

「そうか・・・」

翼の言葉に、戦兎はそう返す。

今セレナは、留置所にいるマリアたちの面会に向かっていていない。

だからキルバスの襲撃は受けなかった訳だ。

それがせめてもの救いか。

「引き続き捜索は続けるそうだが・・・」

そして、現在の二課が把握できている戦力はシンフォギアを未だ保有している翼と響のみ。セレナのアガートラームはまだ修復途中であり、例え返ってきたとしても戦う事は出来ない。

そして戦兎のビルドドライバーは奪われ、また、シンのビルドドライバーと慧介のスクラッシュドライバーは、盗難防止の為に二課本部預かり。だから実質戦兎は戦えない状況に陥っているのだ。

だから、事実上戦力となれるのは翼と響の二人のみ。

「分かってる。俺たちの方でも探そう」

そう提案しかけた時だった。

ふとつけっぱなしだったテレビに、緊急速報が入る。

それを見て、戦兎と翼は息を呑む。

 

曰く『仮面ライダーに告ぐ。至急、政府官邸に集え』

 

「戦兎・・・」

「ああ、分かってる」

翼の言葉に、戦兎は頷いた。

 

 

 

 

 

 

失っていた意識が覚醒する。

重い瞼を持ち上げて、クリスが最初に目に留めたもの。

それは―――龍我の寝顔だった。

「・・・・ひわうッ!?」

しばらくぼーっとしていたが、すぐさまそれが龍我の顔だと認識すると、クリスは驚いて飛び退く。

その時、思いっきり尻もちをつく。

「いったたぁ・・・ん?ここは・・・」

「ここは、万丈が前の世界で入れられてた刑務所だ」

「ッ!?」

聞き覚えの無い声に驚き、クリスはすぐさま胸のペンダントを握りしめてその存在を睨みつける。

「よォ、確か、雪音クリスって言ったか?」

「・・・お前が、エボルトか・・・?」

クリスが、唸って警戒している猫のように低姿勢でエボルトを睨みつけていた。

「そう警戒するな。今はオマエらとやりあうつもりはねェよ」

「誰がそんな事信じるかよ」

「信じる信じないはお前次第だ。ま、仲良くやろうぜ」

「ざけんな」

相手に戦闘の意志がない事はわかる。だからといって警戒を解く理由にはならない。

何故なら、この男は前の世界で龍我ともども地球を滅ぼそうとしていた地球外生命体なのだから。

「っていうかお前、先公や龍我に倒された筈・・・」

「ぬ・・・ぐ・・・」

「っ!?龍我!」

そこで、龍我が目覚める。

「ってて・・・ここは・・・?」

「刑務所だよ。オマエが葛城巧殺しで服役していた」

龍我の問いかけに答えるのはエボルト。

「エボルト・・・なんでテメェが・・・!?」

龍我の疑問は最もな事だ。

滅ぼした筈の宿敵。それが今、ここにいるのだ。

驚かない訳がない。

「忘れたかァ?」

そんな疑問にエボルトが答える。

「オレは遺伝子を自在に操れる。倒された時に、ほんの僅かな遺伝子を、オマエの体内に潜り込ませたんだよ。それが今回のパンドラボックスの影響で、覚醒したってワケだァ」

「マジかよ・・・」

クリスにとってはにわかに信じられない事だった。

だが、相手は人間の常識が通用しない地球外生命体。そういう事も造作もないのだろう。

「んだと・・・あのキルバスって野郎は、テメェの仲間か?」

そう問いかける龍我に、エボルトは仕方なさそうに説明を始める。

「・・・キルバスは、オレの兄貴だァ」

エボルトは、語る。

「オレ達の故郷、ブラッド星を滅ぼした張本人でもある」

「自分の故郷を、自分で・・・!?なんでそんな事を・・・」

「キルバスは、ブラッド星の王だったァ。だがアイツは、破滅型の快楽主義者でねェ。破壊衝動に駆られて、自分の星を滅ぼしちまったァ」

その言葉に、クリスはゾッとする。

「オレは、命からがらブラッド星の源だったパンドラボックスを奪って逃げたァ・・・」

そう言って、エボルトは傍らに置いてあるパンドラボックスに触れる。

「ヤツの狙いは、このパンドラボックスだろう」

「でもパンドラボックスのエネルギーは全部使い果たした筈だ」

「残念だが、ブラッド族の手にかかれば、再生可能だ。一定のエネルギーさえ手に入れば、この箱は復活する」

「それって・・・まさか、スカイウォールを・・・!?」

「まあ、そんな所だァ」

クリスの言葉に、エボルトはあっさりと言ってのける。

その言葉に、二人は絶句してしまう。

即ち、旧世界の悪夢が再び、この世界に引き起こされるという事を意味する。

そんな二人を見やって、エボルトはおもむろに立ち上がって見せる。

「この地下に、キルバス攻略の鍵がある」

そう言って、歩き出そうとしたエボルトだったが、いきなり苦悶の声をあげてその場に膝をつく。

「ぐっ・・・まだ無理かァ・・・」

そう言って、エボルトは仰向けに倒れる。

「仲良くやろう・・・相棒・・・」

そう言うと、エボルトは突然その体を赤い液体に変えて、龍我の中に入る。

「ええ!?」

「な!?」

「おい!?何勝手に体の中に入ってきてんだよ!?」

「ちょ、勝手に龍我の中に入るな!出ろ!今すぐ出ろエボルトォ!」

そう言ってわちゃわちゃと騒ぎ出す龍我とクリス。

「出ねえと殴んぞ!」

「あ、馬鹿!」

「いってぇ!?いってぇよ!おいエボルト!出てけよ!」

そう言ってわーぎゃーと騒いでいると、ふとクリスの視界に、あの女が起き上がっていた所が入る。

「あ・・・」

その女は、龍我を見ていた。

まあ、あんな奇怪な行動を起こしていたら注目を浴びるのも当たり前だ。

「あ、いや、これはその、な?別になんでもないんだ・・・」

そう言って誤魔化そうとするクリスだったが、女が唐突に言い出す。

「アンタが、仮面ライダーだったんだね」

「「・・・」」

その言葉に、二人はそろって黙る。

女はおもむろに立ち上がり、二人に向かって歩き出す。

「全部思い出した・・・」

そう言って、女は、服をまくり上げる。

「え!?あ、龍我は見んな!というか何やってんだよ!?」

「そ、そうだぞ!人前でそんな事を―――」

突然の女の行動に、二人は慌てるも、その服の下を見て、思わず見入ってしまう。

何故なら、その腹には―――あまりにも酷い火傷の痕があったからだ。

「それは―――」

「アンタは私たちを見殺しにした」

「え・・・」

その言葉に、クリスは思わず目を見開く。

 

 

 

それは、旧世界での事――――

 

その時、東都では北都からの襲撃により、戦火に包まれていた。

そんな中で、彼女―――『馬渕(まぶち)由衣(ゆい)』は自分の生徒たちと共に、戦場から逃げる為に隠れていたのだが、どうにも逃げ遅れたらしく、どうすればいいのか分からなかった。

「先生・・・」

そんな中で、生徒の内の一人が、心配そうに声をあげる。

「先生・・・怖いよ・・・」

「大丈夫だよ。先生が、ついてるから・・・」

由依は必死に、生徒たちを元気づけようとする。

その時だった。

「ウオォォラァァァアアアア!!」

雄叫びが聞こえ、そちらに視線を向けてみれば、そこには、青い装甲を纏った男が、北都の機械人形―――ガーディアンを相手に、剣を片手に戦っていた。

襲い掛かるガーディアンの攻撃をいなし、そして反撃の一撃を叩き込んでいく。次々にガーディアンを倒していく様は、まさしく、歴戦の戦士のようだった。

そして、由依はその男の名前を知っていた。

「仮面ライダー・・・」

その姿に、由依は思わず叫ぶ。

「助けて!」

その声に、その仮面ライダー―――クローズが一瞬、こちらを見た。

だが、クローズはすぐさま襲い掛かるガーディアンを切り払い、どこかへ行ってしまう。

「ッ!?待って!」

そう声を挙げた瞬間、その声に気付いたガーディアンが、こちらに銃を向けて近付いてくる。

 

 

そして、彼女たちはガーディアンに捕らえられた。

 

 

生徒たちと引き離され、由依は、ロストボトルの実験台にされ、そして―――焼かれて死んだ。

 

 

徹底的に痛めつけられ、耐え難い苦痛を味わった。

その結果が、今の彼女の体―――

「ロストボトルの実験台に・・・!?」

龍我は、信じられないとでも言うようにそう呟く。

「気付いたら何故か生き返ってた。でも記憶がなくて、全員に火傷を・・・私はまだ良い方」

そう、彼女は、まだ()()()だ。

「私の生徒だった子供たちは、今もまだ昏睡状態のままでいる」

未だ、目覚めないままだ。

「・・・嘘だろ・・・」

それを、龍我は信じられなかった。

「新世界になったら、元の姿に戻るんじゃ―――」

 

『そうとは限らない』

 

突如、頭の中にエボルトの声が響く。

『ロストスマッシュは新世界を創るための生贄だァ。しかも最初に出来た四本は、実験中に出来た、いわば偶然の産物。その人間が元に戻れなくても不思議はない』

「んだと・・・」

「・・・・なあ」

ふと、クリスが龍我に問いかける。

そちらを見た龍我の視界に、信じられないとでも言うような表情でこちらを見るクリスの姿があった。

「今の話・・・本当なのか・・・?」

「それは・・・」

その問いかけに、龍我は答えられなかった。

その龍我に、クリスは思わず掴みかかる。

「答えろよ!なあ、答えてくれよ!龍我ぁ!」

体をゆすって、クリスは龍我に問いかける。

その言葉が、どういう訳か龍我の胸に刃となって突き刺さる。

その時だった。

「―――フッ」

その時、龍我が―――笑った。

「さあなぁ。どちらにしろ、どうでも良い話だろォがよッ!」

そう言って、龍我は掴みかかるクリスの手を掴んだかと思うと、そのまま振り払ってクリスを倒してしまう。

「―――ッ!?あぁあ!?何勝手に乗り移ってんだよ!?」

思いがけない龍我の行動。

しかし、ここで彼の名誉の為に弁明させてもらうが、先ほどのは龍我の体を乗っ取ったエボルトの所為である。

「す、すまねえクリス!今のはエボルトが・・・」

「触るな!」

思わず駆け寄ろうとした龍我だったが、クリスの言葉で思わず止まってしまう。

「・・・・」

こちらを見ずに、その場にへたり込むクリスに、龍我は何も言えなくなる。

やがて、クリスは立ち上がって、何も言わずに歩き出す。

その背中を、龍我はただ見る事しか出来ない。

さらにそんな龍我の肩をひっつかむ者がいた。

「へっ―――」

そして無理矢理振り向かせられた瞬間、頬に鋭い痛みが入る。

「いってぇ!?」

「・・・最低」

やったのは由依。由依は、ゴミを見るような目で龍我を一瞥した後に、クリスの後を追う。

そんな中で、龍我は、その場に突っ立つ事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

その一方、政府官邸にて―――

「こ、ここが政府官邸・・・」

廊下を歩きながら、響は委縮しきった様子でそう呟く。

「しかし、一体誰がテレビであのような事を・・・」

翼が顎に手をあててそう呟く。

「仮面ライダーの事をどうにか都市伝説として情報操作して誤魔化したが、それが二課の戦力である事を知っているのは、二課の職員を除いて一部の政府関係者のみ。おそらく、その中の誰かが流したのだろうが・・・」

「まあ、その誰かってのは分かってる」

司令官としてついてきた弦十郎の疑問に、戦兎はそう答える。

「え?誰なんですか?」

「着けばわかる」

響の質問に戦兎はそう返し、案内された会議室の前に立つ。

「ここだな」

そう呟いて、戦兎たちは会議室に入った。

そうして、入った先に、彼らはいた。

「皆・・・」

「戦兎・・・!」

戦兎が入った事により、その中にいる者たちが、一斉にこちらを見る。

その誰もが、戦兎の知っている顔――――

 

ネットアイドルの知名度を利用して、戦兎たち仮面ライダーを支えてくれた『石動(いするぎ)美空(みそら)』。

 

 

難波チルドレンとしての経験を活かし、その情報力で戦兎たちをサポートしてくれた『滝川(たきがわ)紗羽(さわ)』。

 

 

北都唯一の仮面ライダーにして、戦兎と共にあの戦場を駆け抜けた『仮面ライダーグリス』こと、『猿渡(さわたり)一海(かずみ)』。

 

大義の為に、国の為に、その身を投げ打ってでも一緒に戦ってくれた『仮面ライダーローグ』こと、『氷室(ひむろ)幻徳(げんとく)』。

 

 

この四人が、そこにいた。

 

 

「久しぶりだな。全部思い出したよ」

幻徳が、戦兎に向かってそう呟く。

「氷室長官・・・!?これは一体・・・」

戦兎たちから、旧世界の事については聞いている三人。しかし、実際に仲間の名前は聞かされておらず、それぞれ、偽名を言ってあるのだ。

「もしかして、この人たちが戦兎先生の・・・」

「旧世界での仲間・・・」

響と翼も、その面子に思わず緊張してしまう。

「前の世界の事をすっかり忘れちまってた・・・」

ふと一海がそう言い出す。顔を逸らし、何やら神妙な面立ちで

「にも関わらずだ。俺はこの新世界でみーたんに一目惚れをした」

そう言ってすぐ傍の机を叩く。

やはりずれないドルオタ。流石である。

「これは間違いねえ。これは運命以外の何者でもないッ!!」

「いいからグリス黙ってて」

「またグリス・・・」

「っていうか戦兎・・・」

ふと美空が立ち上がって戦兎に詰め寄る。

「なんで国民的トップアーティストの風鳴翼がここにいるのよどういう事!?」

「い、いやあ今ちょっとしたビジネスやっててそこの仕事仲間って奴で」

「あ、あの今度独占取材させてくださいませんか?」

「え、あ、そ、それはスケジュールを確認しないとちょっと・・・」

「ほらそこ記者魂滾らせない」

「話をそらさないでよ!」

何が何だか分からない美空が戦兎に詰め寄り、記者らしく翼に詰め寄る紗羽。

「この世界では桐生戦兎はノイズと戦う特殊災害対策機動部二課の戦闘員だ。この事実を知っているのは一部の政府関係者しか知らない。風鳴翼も、ライダーシステムに並ぶ『シンフォギアシステム』を率いて戦う者だから、一緒にいてもおかしくはない」

と、ここで幻徳がフォローを入れる。

「ふぅん・・・まあ、あの時のテレビでビルド映ってたから、戦兎の事だからそんなだとは思ってたけど・・・」

美空はとりあえず引いてくれた。

「ハハ・・・でも、なんでみんなの記憶が・・・」

そこで戦兎が真っ先にその疑問を口にする。

「パンドラボックスが発動したらしい。その影響だろう」

「確かに、監視カメラには映っていなかったが、龍我君たちが戦っていた現場から超高出力のエネルギー波を検知しました」

「パンドラボックスが・・・」

「でも妙だよな。赤羽たちは前の世界の事を思い出した。でも、他の連中は何にも思い出せねえ」

「お父さんも前の世界の事は知らなかった」

「記憶の復活には、何か個人差があるっていう事ですか?」

響が疑問を口にする。

「・・・もしかして」

戦兎が、一つの仮説を立てる。

「人体実験を受けた者だけが、前の世界の記憶を取り戻したのかもしれない・・・」

「確かに、ここにいる皆が人体実験を受けている」

一海、幻徳は仮面ライダーになるための、美空はロストボトル、そして紗羽はスマッシュ。

響と翼はそもそもそういう事は無いため、旧世界の事を思い出す事は無い。無論、弦十郎もだ。

「そうだったんだ・・・」

「確かに桐生から話は聞いていたが・・・まさかその様な事に・・・」

そうなると、おそらくシンや慧介も旧世界の事について何か思い出しているのかもしれない。

まあ今はそれはどうでもいいだろう。

そんな事より今は、

「ねえ、そういえば、万丈は?」

紗羽が、そのように質問する。

「龍我君の行方は現在、我々の仲間の一人と一緒に、分かっていません。今、我々が総力を挙げて捜索している所です」

そこで弦十郎がそのように応じる。

「たぶん、そのパンドラボックスを復活させたのは、万丈と―――キルバスだ」

そんな中で、戦兎がその名を口にする。

「キルバス?」

「白いパネルから現れた、地球外生命体の事です。そして、桐生を襲い、この一連の事態の首謀者でもある・・・」

翼が、心なしか拳を握りしめていた。

その言葉に、皆絶句する。

「なんてこった」

「エボルトみたいな奴が、まだいたのか・・・」

皆一様に頭を抱える。

確かに、エボルト単体であの強さだったのだ。それと同等レベルの化け物が現れたとなれば、とてもではないが頭を抱えずにはいられない。

ふと、そんな中で。

「えーっと、いきなり話は変わるんですけど」

響が手を挙げてとある疑問をぶつけた。

「もしかして貴方が『ネトアイ』さんで」

「は?」

「そこの人が『スパイ』さんで」

「うぐ!?」

「幻徳さんが『絶望センス』さんで」

「何・・・!?」

「それで、貴方が『頭』さんでいいんですか?」

「お、おう・・・」

響の質問に、皆、別々の反応を取る。

美空は口をぽかんと開け、紗羽は心に何かがぐっさりと刺さり、幻徳は目を見開き、一海は何故か一番マトモな事に動揺していた。

そして、戦兎は思いっきり目をそらしていた。

「せぇ~ん~とぉ~?」

ふと美空がそれはそれは恐ろしい笑顔で戦兎に詰め寄っていた。

「何?ネトアイって?アンタまさかこんないたいけな子たちにそんな名前を教えてたの?」

「だ、だって事実だろ。ネットアイドルだったんだからさ・・・」

「だからといってももっとマシな名前があったでしょ馬鹿ァ!!」

「ぐべあ!?」

渾身の顔面ブロウを喰らって倒れる戦兎。

「き、桐生ー!」

その様子に思わず叫んでしまう翼。

「ったくもう」

「っはは。そういや自己紹介がまだだったな。俺は猿渡一海。仮面ライダーグリスだ。よろしくな」

「フフフ、所詮私はいつまでたっても裏切り者のスパイ女よ・・・あ、私は滝川紗羽。よろしくね」

「氷室幻徳だ。前の世界では仮面ライダーローグをやっていた」

「石動美空。もう話は聞いてると思うけど、前の世界でネットアイドルをやっていたわ」

一様に自己紹介をしてくれる仮面ライダー勢。

「立花響です。よろしくお願いします!」

「改めて、風鳴翼です。桐生とは、この世界で共に肩を並べて戦った仲です」

「特異災害対策機動部二課司令官の風鳴弦十郎だ。一応、戦兎君や龍我君の上司になる」

そして自己紹介を返す二課組。

「しかし、まさか長官が仮面ライダーだったとは・・・」

「驚いたか?」

「それはもう」

「しかし、一体何が理由で『絶望センス』などという名前を・・・」

「ああ、それはコイツの服のセンスが絶望的だからだ」

「え?そこまで最悪なんですか?」

「ええ。それをこの馬鹿は最高のセンスだと信じて疑わないのよ?」

「あの服装の良さがまだ分からないのか」

「分かる訳ないでしょ!」

「なんというか、想像できんな・・・」

「まあそのうち分かるさ・・・」

ふと、そんな中で弦十郎の通信機に連絡が入る。

「藤尭か?」

『龍我さんとクリスちゃんの居場所を特定しました!』

その声に、弦十郎は戦兎たちの方を見る。それに戦兎たちは頷き、すぐさま一海たちの方を見る。

「さて、再会早々で悪いが、手伝ってほしい事がある」

「おう、任せろ」

「何をすればいい?」

戦兎の言葉に、一海と幻徳は二つ返事で承諾してくれた。

 

 

 

 

 

その数十分前。

旧世界にて、龍我が服役していた刑務所。その刑務官控室にて、三人の刑務官が身ぐるみを剥がされて縛られていた。

犯人は当然、龍我たちである。

 

刑務所の廊下を、龍我が旧世界で活用した騙して叩きのめして身ぐるみを剥ぐという方法で変装した由依、クリス、龍我が歩く。龍我はパンドラボックスの入った段ボールを台車にのっけて歩いていた。

ただ、その空気はやや重かった。

「・・・悪かった」

そんな中で、龍我が由依に向かって謝る。

「俺はお前たちに気付いてやれなかった」

「・・・どーせ聞こえなかったって言うんでしょ」

由依が、辛辣に答える。

「・・・いや」

それを、龍我は否定する。そうして立ち止まり、龍我は、告白する。

()()()()()()()()()んだ」

そう言って、また歩き出す。

「・・・あの頃の俺は、自分の為に戦っていた。俺を信じてくれた人の為に、俺が信じた人の為に・・・だから、お前たちの声を聞く余裕がなかったんだ」

「・・・」

その言葉に、クリスは何も言えなかった。

ふと、そんな中で、由依はふと龍我の前に立った。

「・・・ん?」

次の瞬間、由依の拳が龍我の腹に突き刺さった。

「うげぇえ!?」

「え!?」

余程強烈だったのかよろけた龍我は思わず壁に寄りかかる。

一方のクリスは驚きのあまり固まっていた。

「う・・・ごえ・・・な、なにすんだよお前!?人が謝ってんのに!」

「お前呼ばわりしないで。馬渕由衣って名前がある」

「由依・・・?」

そういえば名前を聞いていなかった。

と、思った瞬間―――男にとっては当たってはいけない場所に由依の蹴りが炸裂した。

「ほ・・・おう・・・」

それを喰らって崩れ落ちる龍我。

「うわぁ・・・」

その光景に、クリスは引く他なかった。

「名前で呼ぶな。図々しい」

一体どうしろというのだろうか。

「キュル~?」

「ぬ・・ぐ・・・可愛くねえ・・・」

どうにか耐えきって立ち上がる龍我は、そのままクリスの横を通って台車を押していく。

その様子を、クリスは見る事しか出来ない。

「キュル~?」

「ん?ああ、すまねえ。行こう」

クロの鳴き声に頷き、クリスもついていく。

(分かってる・・・何も龍我が全部悪い訳じゃない・・・でも、信じられなかった・・・)

信じたいけど信じられない。

龍我が誰かを見捨てるなんて事が信じられない。

龍我の拳に込められた想いは、誰よりも誰かの為を思っていた。

響が暴走した時も、翼が自分を責めていた時も、初めて自分と戦った時も。

真正面からぶつかって、そして、救おうとしてくれていた。

その龍我の想いを信じたい。

でも、あの話を聞いてしまったら、どうしてもその想いが揺らいでしまう。

頭の中が、ぐちゃぐちゃになっていく。

「アタシは、どうすれば・・・」

 

『―――もしかしてオマエ、万丈の事が好きなのかァ?』

 

「―――ッ!?」

突然、頭の中に響くような声にクリスは驚き、周囲を見渡してしまう。

『あー下手に声を出すなよ。別に取って食おうってわけじゃねェ。どういう訳か、オマエを操ろうとしても操れないからなァ』

「まさか、エボルト・・・でも一体いつ・・・」

『オマエが万丈に殴られた時、ちょっと面白半分で一部を潜り込ませといたァ。ま、大した量じゃねェから、擬態化しても戦闘に一応の支障はねェがなァ』

「一体何の用だよ・・・」

クリスは思わず警戒しながら話す。

『何、簡単な話だァ。オレはシンフォギアに興味がある。その上、オマエの歌にも興味がある。どうやら、万丈の中にあるオレの遺伝子だけ、活性化するみたいだからなァ』

「どういう事だよ」

『それはオレも知らん。ただ言える事は、オレはオマエを()()()()()()。そしてオマエの歌は万丈を強くする。クローズイチイバルっていう形態がそれを証明している』

「アタシの歌が・・・」

それは一応戦兎の検証によって証明されている。

クリスが歌を唄えば、龍我の戦闘力が飛躍的に向上していた。

その原理は分かっていないが。

『それでだァ。クリス、オマエ、万丈の事が好きなのかァ?』

「んな!?」

それを聞いた途端、思わずクリスの顔が真っ赤になる。

「な、ななな何を言って・・・」

『さっきから万丈の事以外何も考えてないだろォ?その上、万丈の事を考える度に心拍数が上がってる。これは明らかに、万丈にただならぬ感情を・・・』

「あーあーうるさい黙れ!今すぐ黙れ!その体に風穴開けるぞゴラァ!」

「クリス?何一人で騒いでんだ?」

突然騒ぎ出したクリスに龍我が驚いたようにこちらを見ていた。

「あ、いや、なんでもねえ・・・」

「・・・そうか」

龍我は、それだけ言って、すぐに歩き出す。

「あ・・・」

『あーあー、どんどん万丈との距離が離れていくなァ』

「全部お前の所為だろ!」

『ま、その通りで。さ、早く行かねェとおいてかれちまうぞォ』

「覚えてろよ・・・ッ!」

クリスは憎々し気に歩き出すのであった。

その際、クロが終始おろおろしていたのはここだけの話である。

 

 

そうして辿り着いたのは、刑務所の地下。

「あ?何もねえじゃねえかよ」

『そりゃァそうだァ』

龍我の言葉に、龍我の体内にいるエボルトが答える。

すると龍我の体から液状化したエボルトが飛び出し、再びブラッドスタークの姿となって出現する。

「ここは、前の世界とは違うからなァ」

そう言って、エボルトは龍我が持つダンボール箱から、パンドラボックスを取り出すと、それを部屋にある台座の上に置く。

「ン~・・・」

そうして、少し調子を確かめるような仕草をすると、パンドラボックスの上に手を置き、やがてそこから光が迸り、部屋が突如として変化する。

そうして出現したのは、どこかの研究施設だった。

いくつもの機材が置かれており、その変化に、由依とクリスは絶句し、龍我は、その光景を知っていた。

 

それは、エボルトがパンドラボックスを使う事によって引き起こされる地形変化。だが、これはそういうものではない。

おそらく、旧世界の地形をここに呼び出したのだ。

 

「ここは、前の世界じゃファウストの研究室だったァ」

ファウスト―――戦兎の前の人格たる『葛城巧』が創設した組織。

スカイウォールから抽出されるネビュラガスを利用して人体実験を行い、多くの犠牲者を出した組織でもある。

さらに、パンドラボックスから光が発せられ、壁や一部の空間に、無数の文章が出現する。

「なんだこれ?」

「この研究室の研究レポートだァ」

そう言うエボルト。その言葉に、三人はとりあえずそれを読み返してみる。

そんな中で、由依はとある名前を見つける。

「万丈龍我・・・」

「!」

「え!?」

「これ、あんたの名前?じゃあこれ、あんたの事?」

そうして由依が覗き込むパソコンを見るクリス。

「・・・本当だ。全部龍我の事だ・・・」

「なんで俺の事が・・・」

すると、その全ての数列やデータが、一気にエボルトの手の中に収束していく。

「ここに研究室を作ったのは、刑務所に放り込んだオマエの動向を探る為だったァ」

その手には、一本の青いボトルが握られていた。おそらく、何かしらの力でそのボトルにここにある全てのデータを収納したのだろう。

「刑務所だけじゃない。俺たちはお前を監視しながら、ハザードレベルを上げる為に、様々な試練を与えたァ・・・葛城巧の殺害容疑を掛けたのも、()()()()()()()()のも」

ふと、エボルトから、最後に、聞き捨てならない言葉が告げられた。

「・・・え」

「・・・待てよ」

その言葉に、クリスは絶句し、龍我は、震える声でエボルトに尋ねた。

「なんだよ俺の親って・・・」

「言ってなかったかァ?お前の両親が死んだのは事故なんかじゃない。()()()()()()()()()

「―――――は?」

それを聞いた瞬間、クリスは、まるで側頭部をハンマーでぶん殴られたかのような衝撃を感じた。

驚くだけならば隣の由衣も同じ。だが、そのショックの差は、クリスの方が明らかに上だった。

(それじゃあ・・・龍我も・・・アタシと同じ―――)

 

誰かに、両親(パパとママ)を殺された―――

 

その事実が、クリスの精神を根底から揺らがせる。

自分と、同じ境遇である事に。そして、そんな龍我に、自分はどんな思いを抱いたのか。

龍我も、心なしか動揺しきっていた。

「グルルル・・・」

クロは、そんなエボルトに完全に敵対心をもって睨みつけ、唸っていた。

「それも、オレが与えた試練の一つだァ」

しかしエボルトはそれを意に介さず、ふざけた仕草と共に語る。

「案の定、オマエのハザードレベルは急激に上がったァ」

まるで挑発するような言動。

その言葉に、龍我がブチ切れないワケがなかった。

「・・・ふ、ざ、けんなァ!!」

素手での本気の拳の一撃が、エボルトを吹き飛ばす。

壁に叩きつけられ、その隣にあった棚からいくつか物が落ちる。

「うぐおっ!?・・・クックックック・・・」

しかし、それでもエボルトは笑っていた。

「やっぱりオマエは挑発しがいがある」

完全に龍我を弄んでいるかのような口ぶりだ。反省の色など全く見えはしない。

「んだと!?」

「葛城先生が言ってたよォ。人体の神秘によって生まれたオマエは、オレを凌駕する力を秘めてるってなァ・・・」

その口調に、ふと龍我はある結論に辿り着く。

「俺のハザードレベルを上げる為にここへ呼んだのか・・・?親の話をして、俺の怒りの感情を・・・」

「勘違いするなァ」

エボルトは立ち上がって龍我の結論を否定する。

「オレが欲しいのは、オレとオマエの遺伝子に関するデータだァ。コイツがキルバス攻略の鍵を握るゥ」

そう言って、エボルトはその手のドラゴンエボルボトルを見せてくる。

「今はァ、オレと組んだ方が得策だと思うけどなァ?」

「・・・」

その言葉に、龍我は答えを返しきれない。

その時だった。

「まさかァ、オレより、人間に協力するとはなァ」

柿崎に擬態したキルバスが、階段を降りてきていた。

「キルバス・・・!?」

「なんでここが・・・」

「けど良い話を聞いたァ。万丈龍我にエボルトの遺伝子が宿っている事は知ってる・・・まさかソレが、オリジナルを超える程の力だったとはなァ!」

そうして取り出したのは、戦兎が作った変身アイテムである蜘蛛型ペットロボだ。しかし、そのカラーリングは以前見た無塗装の鉛色ではなく、赤と黒の鮮やかな色合いに変化していた。

「それは戦兎の!?」

龍我が驚いている間に、キルバスはその手に一本のボトルを生成。

それは、今までに見た事がないようなボトルであり、キルバスはそれを思いっきり振って中の成分を活性化。

そしてそのボトル『キルバスパイダーフルボトル』をその手の蜘蛛型ペットロボ―――否『キルバスパイダー』に装填する。

そして、それを両手で掲げたかと思うと、一気に腰に装着したビルドドライバーにセットする。

 

キルバスパイダァーッ!!』

 

そして、ボルテックレバーを回し、蜘蛛の巣状のビルダーを展開する。

 

『Are You Ready?』

 

「変身ゥ」

 

そして、その蜘蛛の巣状のビルダーが、キルバスを挟む。

 

スパイダァースパイダァー!!キルバススパイダァー!!!』

 

そうして、その場に誕生したのは―――全身真っ赤な仮面ライダー。

 

その名も、『仮面ライダーキルバス』。

 

ブラッド族の王が、仮面ライダーへと変身した姿だった。その赤と黒の色合いの姿は、どこか、おどろおどろしい。

「マジかよ・・・」

龍我が信じられないと言った風にそう呟く。

その間にキルバスはパンドラボックスに近付いたかと思うと、手をパンドラボックスに掲げ、白いパネルに何かのエネルギーを注ぎ込む。

すると、そのパネルが独りでに動き出し、小さな箱のようなものを形成する。

そして、それを得意気に手に取って見せるキルバス。

「コレに、オマエたちのエネルギーを吸収すればァ、最高のパンドラボックスが出来上がる・・・」

「オマエの望みはなんだァ?」

エボルトが尋ねる。

「ハッ!オレはオマエと違って、この世に何の未練もない。この箱の力で、()()()()()()()()()、全てを滅ぼすゥ!!宇宙と心中して無に変えるなんてェ、サイコウじゃねェかァ?」

なんて事をなんの躊躇いもなく言ってのけるキルバス。

エボルトが言った通り、確実にどこかイカれている。

救いようがない。いや、むしろ―――絶対に倒さなければならない。

「オイ聞いたか万丈。オマエの敵はオレか?コイツか?」

そう尋ねるエボルトに、龍我は仕方がないとでも言うように答える。

「・・・今だけだからな」

「オーケイ。良いだろォ」

「・・・あ」

そこで、クリスは我に返る。

(そうだ。戦わねえと・・・)

クリスは、胸のペンダントを取り出し、握りしめる。

「オレが擬態でいる間、オマエにクローズマグマやクローズイチイバルを使える力はない」

「・・・っ!」

その言葉に、クリスの肩が少し跳ねる。

(今のアタシが、龍我と一緒に戦えるのか・・・)

何故だろうか。心が締め付けられる。いや、これは、恐怖?とにかく、心が締め付けられるように痛い。

ギアを握る手が、震える。

気にするな。今は、目の前の事に集中するんだ。じゃないと死ぬぞ。

死ぬ。殺される。自分が。

怖い。戦うのが怖い。龍我と一緒に戦うのが、怖い―――

(アタシ・・・は・・・)

思わず、体が震える。こんな状態で、まともに戦えるのか―――?

そう、心がくじけそうになった時だった。

「キュル」

「っ!」

クリスの肩で、クロが鳴く。

そんなクロをクリスは見やる。

「キュール!」

まるで、大丈夫だ、とでも言わんばかりにふんすと首をそらす。

「・・・そうだな」

その行為に、クリスは思わず笑ってしまう。

そして、一度深呼吸をして、心を落ち着かせる。

(龍我とは、あとで話をつければいい。だから今は―――)

目の前の敵を見据える。

気付けば、もう先ほどのような震えは消えていた。

「だったら・・・」

 

『スクラァッシュドライバァー!!』

 

龍我が、腰にスクラッシュドライバーを装着する。

そして、取り出したドラゴンスクラッシュゼリーのシールディングキャップを捻る。

「こっちだ!」

 

ドゥラゴンジュエリィーッ!!』

 

龍我がドライバーにそれを装填すると同時に、クリスが聖詠を唄う。

 

「―――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)―――」

 

「変身!!」

 

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

 

ドゥラゴン・イン・クロォォズチャァァジッ!!』

 

『ブルァァァァア!!!』

 

龍我がその身を仮面ライダークローズチャージに変身すると同時に、クリスもイチイバルを起動、その身に纏う。

そして、次の瞬間には、三人はキルバスと激突するのだった――――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「オマエらが徒党を組んだ所で、無駄だぜェ!」

キルバスと激突するクローズ、エボルト、クリスの三人。

「昔よりさらに強くなったみたいだなァ!?」

しかし、その強さに蹂躙されてしまう。

「このボトルを、戦兎に渡せ・・・!」

その戦いの最中で、エボルトがキルバスの凶刃に倒れる。

すかさずキルバスが、エボルトに攻撃しようとした瞬間―――彼らが現れる。

「おまたせ!龍我さん!クリスちゃん!」
「遅れてすまない」
「記憶が戻ったんだ、よっ!」
「筋肉馬鹿が」


次回『復活のロボット&クロコダイル』



リディアンこそこそ噂話

マリアたちの面会に行っていたセレナだが、差し入れの中に何故か小さな仕掛けマイクと小型カメラが入っていたとか。

セ「なんか調さんに作ってくれって言われたので張り切っちゃいました!」
ク「おい、まさかその用途って盗ちょ」
調「えい」お薬ブス
ク「はうあ」意識が仏像
調「それじゃあまた次回で」エガオ


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復活のロボット&クロコダイル

マ「最近、パターン化してきたセリフを言うのに飽きてきた今日この頃・・・」
慧「マリアマリア、ちょいとこっち見てくんろ」
マ「え?何かしら・・・ってその五円玉を結んだ紐で一体何を」
慧「貴方は今から自分の意志とは関係なしに俺の言う事を聞くようになる」
マ「は?何を言って」
慧「というわけであらすじ紹介スタート」
マ「天才物理学者の桐生戦兎が作った新世界にて、白いパンドラパネルから地球外生命体キルバスが出現、さらに万丈龍我の体の中に潜んでいたエボルトも復活して、事態は混沌を深めていた・・・」
切「おお、マリアが見事にあらすじ紹介しているデスよ」
慧「何を隠そう、俺は催眠術の達人なのだ!」
シ「じゃあ調に俺が言った暗示をかけてみろ」
調「え?なんで私?」
シ「じゃあまず振れ」
慧「分かったけど・・・え?何々?まず初めに眠らせる?まあ分かったけど・・・」過程は飛ばすがとりあえず指パッチンする。
調「すぴー」
切「一発で寝たデス・・・」
慧「えーっと、それで・・・貴方の体の感度は五倍になります」
調「ん・・・」ピク
シ「その状態で自分の局部をいじれ。思い人をオ〇ズにしてな」
慧「ストォォォップ!?調に何やらせようとしてんの!?」
調「あ・・・あ・・・慧くん・・・ああ・・・!!」
切「調ぇ!おきるデスよ!それ以上は文面的に色々アウトデスよぉ!」
マ「それでもってキルバスから逃走に成功したクリスたちは馬渕由衣と共に多少のトラブルはあったものの龍我が旧世界で捕まっていた刑務所に潜入!そこでキルバス攻略の鍵になる情報を手に入れるもキルバスに見つかり、そのまま戦闘にもつれ込むのだった!というわけでクローズ編第四話を見なさい!そして慧介は今すぐ調の催眠を解きなさい!」


クローズとエボルトがキルバスに殴り掛かる。だが、キルバスはビルドドライバーから取り出したドリルクラッシャーで応戦する。

「オマエらが徒党を組んだ所でも、無駄だぜェ!!」

「「ぐあぁぁあ!?」」

かなりあっさりと壁を砕いて外にぶっ飛ばされる二人。

外の草原に投げ出された二人は、追ってくるキルバスに対応する為、すぐさま立ち上がる。

「クククク・・・」

キルバスが笑いながら近づいてくる。

「アタシを無視すんなぁぁあ!!」

すぐさま背後からクリスが小型ミサイル群を掃射。

 

CUT IN CUT OUT

 

それをキルバスは振り向いて、ドリルクラッシャーを片手に全て叩き落して見せる。

そこへすかさずクローズのツインブレイカーからの射撃。それを躱したキルバスはそのままクリスへ接近、ドリルクラッシャーを振り下ろす。

それを間一髪で躱し、拳銃型にしたギアを向けるも引き金を引いた瞬間に弾かれ、その腹に一撃を貰う。

「うぐっ!?」

その背後からエボルトが強襲。だが、それに対応したキルバスはその拳を弾くなり、その胴体にドリルクラッシャーを叩き込む。

そうして怯んで下がった所でクローズが殴り掛かるも、その一撃を弾いて斬撃を叩きつける。

そこへクリスが拳銃を連射。弧を描くように走りながらキルバスに銃弾を浴びせるも、叩き落したり躱したりで一発も当たらず、クリスの射撃に対してキルバスはなんとドリルクラッシャーを投擲した。その一撃を銃を掲げる事で防ぐも、予想以上の威力で弾き飛ばされる。

その背後から、クローズが取り出したビートクローザーを振り下ろすも防がれ、そのまま交錯した剣を弧を描くように回す事でクローズの手からビートクローザーを弾き飛ばし、続けざまに二撃、斬撃を叩き込む。

見かけによらず多彩だ。それが、キルバスがブラッド族の王と呼ばれる所以なのかもしれない。

その弾き飛ばされたビートクローザーはエボルトのすぐ傍に落ちる。

「いただきッ!」

それをエボルトはすぐさま拾い上げ、地面をスライディングしながらキルバスに接近。

その背後からクリスがボウガン状にした両手のギアから矢を一斉射。

キルバスにその矢が殺到し、そこへエボルトの足元からの攻撃。それをキルバスはいとも容易く払いのける。

躱されたエボルトはクローズの傍で立ち上がるも、クローズが自身の武器を使っている事に抗議しだす。

「ああ!?なに人の武器勝手に使ってんだよ!?」

「オマエのモノはオレのモノ」

「俺のもんだ!」

「んな事言い合ってる場合か!?」

エボルトとクローズに言い合いにツッコミを入れるクリス。

そこへキルバスが襲い掛かり、それに対してエボルトはクローズをどつく。

「あいてッ!?」

倒れたクローズを他所に、その一撃をビートクローザーをもって防ぐ。

再び拳銃型にしたギアをもって、その乱戦に参加するクリス。

あまりにも近場で戦闘するために援護がしにくいのだ。

そうして三対一で繰り広げられる激闘。だがしかし、力は圧倒的にキルバスの方が上だ。

「昔よりさらに強くなったみたいだなァ!?」

「あたり前だァ!」

エボルトの言葉にそう答え、キルバスは三対一にも関わらずクローズ達を押していく。

初めのエボルトを切り払い、すかさずクローズに二撃叩き込んで後ろに流し、そしてクリスの肩に振り下ろした後に蹴り飛ばす。

「オマエたちがこの星で胡坐をかいてる間にィ、オレはいくつもの星を、狩ってきたんだからなァ!!」

エボルトからビートクローザーを奪ったかと思うと、すかさず激しくドリルクラッシャーとビートクローザーの二刀流でエボルトを滅多打ちにする。

「ぐあぁああ!?」

最後の両の振り下ろしを喰らい、吹き飛ばされるエボルト。

「ぬぐ・・・」

「フッ」

それを嘲笑ったキルバスは、ビートクローザーとドリルクラッシャーを投げ捨てると、ビルドドライバーのボルテックレバーを回す。

 

『Ready Go!』

 

必殺技の発動だ。

 

おそろしいスピードでエボルトの周りを駆け抜けたかと思うと、キルバスはその肉体から生成した蜘蛛の糸をもってエボルトを拘束。身動きを取れなくする。

その状態で必殺の一撃を叩き込むつもりなのだ。

「させるかぁぁぁあ!!」

クリスがすかさず弩弓状にしたギアをもって、阻止にかかる。

その矢は上空へ飛び、そして空中で分解。無数に別たれたその矢が、死の驟雨をとなってキルバスに降り注ぐ。

 

GIGA ZEPPELIN

 

降り注ぐ死の驟雨。だが、それに対してキルバスは、展開した巨大な四本の蜘蛛の足でそれを全て弾き飛ばす。

「なっ!?」

そしてすかさずその巨大な足のうち、一本でクリスはまるで蹴っ飛ばされた缶のように吹っ飛ばされる。

「かっはぁ・・・!?」

「クリスゥ!!」

クリスの口から僅かに血が流れる。

そしてすかさず、拘束されたエボルトに、キルバスの蜘蛛の脚の一撃が突き刺さる。

 

キルバススパイダーフィニッシュッ!!!』

 

突き刺さる、蜘蛛の脚。

その一撃が、エボルトを貫く。

激しい土煙が舞い上がり、その中で、エボルトが膝を付き、倒れる。

「う・・・ぐあ・・・」

その体から、まるで壊れた電子機器のようにバチバチと電気を迸らせる。

そのエボルトに向かって、キルバスは、白いパンドラパネルから作り出した箱を向ける。

すると、それが光を発してエボルトを吸収していく。エボルトの命をもって、力を蓄えているのだ。

「エボルト!」

粒子化し、箱に吸収されていくエボルトに、クローズは思わず声を挙げる。

「うゥ・・・とんだ誤算だったなァ・・・このボトルを、戦兎に渡せ・・・!!」

そうして苦し紛れに投げたのは、先ほどの地下でのデータを収束させたボトルだった。

「あとは頼んだ・・・チャオ・・・」

その言葉を最後に、エボルトは完全に粒子となり消滅し、キルバスのもつ箱に吸収される。

「ハハハハハ!!!」

それにキルバスは笑い声を上げる。

その様子を隠れて見ていた由依は、その状況に戦慄していた。

「・・・死んだ?」

一方のクリスは、先ほどキルバスから貰った一撃をどうにか防いだためにそれほどダメージはない。しかし、すぐに動ける程ではなかった。

「く・・・」

そして、そんな中でキルバスはさらなる標的を見据える。その標的は当然、クローズの事だ。

「次はオマエの番だァ!」

そうして手から発生させた蜘蛛の糸を、一気にクローズに巻き付かせる。

「ッ!?しまった・・・!」

「龍我ぁ・・・!!」

すかさず展開される蜘蛛の脚が、何度も地面を叩きつけながらクローズに向かって突っ込んでくる。

このままではエボルトの二の舞。しかし、クリスもクローズも何もできない。

万事休す、絶体絶命―――そう思われた時だった。

 

どこからともなく二条の閃光が迸り、その一撃を左右に弾き飛ばす。

 

「ぬおっ!?」

それに驚きよろめくキルバス。

そんなキルバスの視界に入ったものは―――

「おまたせ!龍我さん!クリスちゃん!」

「遅れてすまない」

 

シンフォギア『ガングニール』を纏った立花響とシンフォギア『天羽々斬』を纏った風鳴翼だった。

 

否、それだけではない。

 

黄金の強化スーツに身を包んだ男と、紫の強化スーツに身を包んだ男の二人の戦士がいた。

それは、クローズにとっては見間違えようもない相手であり、クリスにとっては初めて見る者たち。

それは、旧世界にて、戦兎と龍我と共に激戦を駆け抜けた頼もしい仲間たち。

 

北都の仮面ライダーにして、猿渡ファームを統べる若頭『猿渡一海』こと、『仮面ライダーグリス』。

 

西都の仮面ライダーであり、この国の為に戦い抜いた政府長官『氷室幻徳』こと、『仮面ライダーローグ』。

 

その二人の仮面ライダーが、そこに立っていた。

クローズの知る、今この場にいない筈の、しかし頼れる仲間である仮面ライダーが二人、この場に見参していた。

 

「カズミン!?幻さん!?なんで!?」

クローズの混乱は当然、本来ならこのような場所にいない二人が、何故このような所にいるのか。

「記憶が蘇ったんだよっ!」

そう言って、グリスがクローズの頭を小突く。

「筋肉馬鹿が」

さらにローグがその肩を拳で押す。

「そんじゃあ見せてもらうぜェ、シンフォギアって奴の力をよォ!!」

「はい!よろしくお願いします!一海さん!」

「カズミンって呼べ!」

「はい!カズミンさん!」

「氷室長官。その実力の程、頼りにしています」

「そっちもだ。弦十郎の姪。その剣が伊達じゃない事を証明してみせろ」

「無論です!」

そうして、二人の仮面ライダーとシンフォギア装者が、キルバスに突撃していく。

 

 

 

一方、二課本部にて。

「ガングニール、天羽々斬、グリス、ローグ、戦闘を開始!」

「クリスちゃんがアウフヴァッヘン波形を発してくれなかったら、どれほど難航していたか・・・」

そもそも響たちがクリスたちの元へ迎えたのは、一重にクリスがシンフォギアを纏う事で発生したアウフヴァッヘン波形のおかげだ。

だから、予想より早く現場に駆け付ける事になったのだ。

「とにかく今は近隣の住民の避難誘導をしつつ、戦闘を全力でサポートしろ!いいな!」

弦十郎が指示を飛ばし、その戦いの様子を見守る。

 

 

 

「やぁぁあ!!」

一番乗りの響がキルバスに拳を叩きつける。

しかしそれは受け止められるも、すかさず体を回転させて後ろに抜けた響の後ろからグリスとローグが再び拳を放つ。そしてすかさず翼が飛び上がってその刀を振り下ろす。

だが、グリスとローグの拳を押し返したかと思うと振り下ろされた翼の一撃を躱し、クローズが殴り掛かるも、振り抜かれた拳は全て受け止められる。

そのまま乱戦に持ち込む。

キルバスの一撃をグリスがアクロバティックに回避、そこへすかさずローグの蹴りが繰り出されるも躱され、飛び上がった響がパイルバンカー式の鉄拳を振り下ろし、しかしそれすら躱され、されどその地面に拳を叩きつけて陥没させ、土煙を巻き起こす。

その巻き起こった粉塵の中から復活したクリスの銃弾が飛んでくるもキルバスはそれを掴み取って投げ捨てる。

そしてそれに気を取られた隙をついて翼が刀をキルバスに突き刺さんと突撃。

だが、それはいとも容易く躱され、逆に脇腹にキルバスの拳が突き刺さる。

「ぐぅっ・・・!?」

吹き飛ばされた翼と変わるようにグリスも突撃するも逆に殴り飛ばされ、続けざまにローグ、響、クローズと殴り飛ばされる。

「ぬぐあ!?」

「ぐお!?」

「ああ!?」

「があ!?」

一様に吹き飛ばされる一同。

地面を転がるも、どうにか立ち上がる。

「久々の復活だってのに、半端ねぇなァ・・・!」

「これがキルバス・・・!!」

「少々甘く見ていたか・・・!」

グリスの言葉に、響はその強さに戦慄し、翼は膝の上で拳を握りしめる。

「ここは一旦引いた方が良さそうだ」

ローグが紫色の拳銃『ネビュラスチームガン』を取り出しそう言う。

「おう」

「くっ、あわよくば桐生を襲った事を後悔させてやろうと思ったのだが・・・」

「翼さん・・・気持ちは分かりますが今は抑えましょう・・・」

ローグがネビュラスチームガンのトリガーを引いて振り抜けば途端に蒸気が発生して彼らを隠す。

「行くぞ!」

そんな中で、クローズが由依を連れて、同じように蒸気に紛れる。

やがて蒸気が晴れる頃には、そこにはもう、彼らの姿はなかった。

「ああ?・・・はっ」

キルバスはそれもまた一興と鼻を鳴らし、あの箱を取り出してみる。

 

 

 

 

そうして訪れたコンクリート造りの殺風景な部屋に、赤い四角い台座にパンドラボックスを置くキルバス。

そして、あの白い箱を取り出すと、それをパンドラボックスの中に落とす。

パンドラボックスの中に入ったその白い箱は、凄まじい光を発し、びりびりと凄まじいエネルギーを発する―――が、それはすぐに収まり、ボックスの底に落ちる。

「・・・これじゃあ宇宙を滅ぼせないィ・・・」

中を覗き込み、そう呟くキルバス。しかし、すぐさまその表情を獰猛な笑みに歪める。

「ばぁぁんじょぉぉりゅうぅがぁぁぁあ・・・・!!」

 

 

 

 

 

 

そうして戻ってきたのは、戦兎の住む倉庫。

真っ先に入った龍我を待っていたのは、記憶を失ってここにはいない筈の、しかし記憶を取り戻した美空や紗羽、そして、F.I.Sの面々との面会に行っていたセレナ、響の帰りを待っていた未来、そして、ここで待機していた戦兎だった。

一応、シンの為に作ったビルドドライバーはあるが、いざって時の為に強化アイテムを作れる戦兎を控えさせておきたいという弦十郎の思惑があった。

「美空・・・紗羽さんも・・・」

そうして再会を果たす一同。

「・・・その人は?」

ふと、美空が立ち上がって、龍我の後ろにいる女性の事を尋ねる。

「・・・馬渕由衣。訳合って一緒にいる」

龍我はそう言って、戦兎にエボルトから貰ったボトルを手渡す。

「これは・・・」

それを受け取り、戦兎は、すぐさま解析に入るのだった。

 

 

 

 

テレビの生中継にて。

『―――カリスマダンサーの柿崎悟志が、刑務所に立てこもっているという情報が入りました。彼に一体何があったんでしょうか?・・・あ!柿崎氏が出てきました!柿崎氏です!何か、箱のようなものを持っています・・・』

テレビの中継映像から、武装した警官隊が盾を構えている様子をバックに、女性タレントがその様子を語っており、その映像の中で、刑務所から柿崎が現れる。

その柿崎の手が、青く発光したかと思うと、何か波動のようなものが迸り、一瞬、砂嵐が入る。

そして、回復した映像には、画面が割れたのか映像には亀裂が入っており、そして誰もいなくなり、燃え盛る炎の中、柿崎―――キルバスがそのカメラに向かって言い放つ。

『万丈ォ龍我ァ!この星を滅ぼされたくなかったら、オレとオマエが最初に会った場所に来ォい。オマエのエネルギーが回復する、明朝まで待とォ・・・!!力を、蓄えて来いやァァア!!』

それを最後に、カメラが破壊されたのか、それっきり映像が途切れる。

その様子を、龍我たちは神妙な面立ちで見ていた。

「ふざけやがって・・・」

一海が、そう呟く。

その間にも、戦兎はボトルの解析を終わらせる。

「ふう・・・」

「どうですか?」

セレナの言葉に、戦兎は答える。

「・・・キルバスを倒す方法が見つかった」

「本当ですか!?」

響が立ち上がる。

『その方法とは?』

テレビ電話式でもう一つのテレビ画面から、弦十郎が尋ねてくる。それに戦兎は説明を始める。

「万丈の中にあるエボルトの遺伝子を最大限まで増幅させるアイテムを作れば、キルバスに勝てるかもしれない」

その言葉に、龍我は戸惑いを見せる。

「エボルトの力を・・・」

そんな中で、紗羽が尋ねる。

「エボルトって死んだんじゃないの?」

「万丈が仮面ライダーに変身出来てるって事は、まだ体の中にエボルトの遺伝子が存在している証拠だ。でも危険も伴う」

「・・・危険とは、どのようなものだ?」

翼が尋ねる。

「・・・エボルトが以前の力を取り戻す可能性がある」

「「「・・・!?」」」

その言葉に、全員が、主に旧世界組が息を呑む。

「復活したら、また前の世界の悪夢が蘇るかもしれんな」

「そんな事はさせねえ!」

幻徳の言葉に龍我が、すぐさま叫ぶ。

「そうですよね」

それに、響がうなずく。

「もしエボルトさんが地球を滅ぼそうとしたら、私たちが止めればいいですもんね!」

「「「・・・・」」」

その言葉に、旧世界勢があんぐりと口を開ける。

「もう、響ったら」

分かっていたかのように未来が笑う。

「そうだな」

その言葉に、翼はふっと笑う。

「あいっ変わらず、考えてる事がプレイフルだよな。お前の頭の中は」

クリスが仕方がないとでもいうように笑う。

「それに、エボルトさんが力を取り戻すって事は、それだけ戦力が増えるって事ですよね?だったらいい事じゃないですか」

「馬鹿なの?」

「はう!?」

美空の辛辣な言葉に思いっきりダメージを受ける響。

「はあ・・・まあ、分かってたことだけどよ・・・」

そして龍我ですら呆れる。

「コイツ、いつもこんななのか?」

「諦めろ。響は誰にでもこんな感じだ」

「お人好しにも程があるだろ・・・」

完全に呆れられている。

「それだけじゃない」

そんな中で、戦兎が脱線した話を引き戻す。

「遺伝子を増幅させる事で、お前の体がパンクするかもしれない」

それはつまり、龍我の体が、エボルトの遺伝子に押し潰されてしまうかもしれないという事だった。

「・・・俺の体はどうなってもいい」

しかし、龍我は怖気づかない。戦わなければ、この世界を守ることが出来ない。

「もう誰かが悲しむ姿を見たくねえんだよ・・・」

そう言って、柱に寄りかかる。

「だから、新しいアイテムを・・・」

「馬鹿じゃないの?」

しかし、そんな話を断ち切るように、上がる声があった。

今まで沈黙を貫いていた由依だ。

「由依さん・・・?」

「はあ・・・誰かに頼まれた訳でもないのに、まるで自分たちがやらなければ地球を救えないみたいな顔しちゃって」

投げやりで、それでもって軽蔑的な、由衣の言葉。それは、完全に彼らを信用していないからこそ言える言葉だった。

「んだと?」

一海が怒りを露わにするも、それを意に介さず由依は立ち上がる。

「誰もアンタたちが助けてくれるなんて思ってないから」

そう言って、由依は出ていくように歩き出す。

「・・・・私も、誰もそんな風に思っているなんて思っていませんよ」

そんな由依に、響が話しかける。それに由依が立ち止まる。

「でも、それでも私たちは戦うんです。誰かに求められたからじゃない。私は私の意志で、誰かを助けたいんです。もちろん、由依さんの事も・・・」

拳を握って、響は言う。

「ですから・・・あ」

しかし、由依は最後まで聞かず、外に出ていってしまう。

その様子を、美空と未来は、悲しそうに見続けた。

 

 

夕焼け色の空の下。由依は、丘のベンチに座って、その空を見上げていた。

「響の事、許してあげてください」

そんな彼女に、未来と美空がやってくる。

「あれでも、響は本当に誰かの為になりたいと思ってるんです。人助けが、趣味みたいなものですから」

未来の言葉に、由依は何も帰さない。

「・・・万丈から聞いたよ。貴方も人体実験を受けたって・・・」

美空が、そう言う。それに由衣は、責めるように話し出す。

「・・・あの時アイツが助けてくれたら、私や生徒たちはあんな目に遭う事はなかったし、死ぬ思いをすることもなかった・・・あの子たちは、今も苦しんでる・・・」

あの悪夢を、きっと、眠り続けている間も見続けている事だろう。

「・・・由依さん」

「仮面ライダーが助けてくれるなんて二度と思わない」

それは、由依の怒りが具現化したかのような言葉。

他の誰でもない。仮面ライダーに裏切られた彼女の、心の言葉。

そんな由依に、美空は、言う。

「もう一度だけ、信じてあげてくれないかな?万丈を・・・」

その言葉に、返事はなかった―――

 

 

 

夜―――

いくつものチューブに繋がれた龍我が、椅子に座っていた。

言わずもがな、龍我の中のエボルトの遺伝子を活性化させる為の装置だ。

その装置に繋がれた龍我。

そんな龍我をみやり、クリスは、一度何かを思い、そして龍我に近付いて、その耳に小さく耳打ちする。

「これが終わったら、話しがある」

「・・・?」

その事に首を傾げる龍我だったが、クリスはすぐさま距離を取る。

「・・・っしゃあ!」

その話がなんなのか分からないが、とにかく龍我は気合を入れる為に声を挙げる。

それを見た戦兎は、うなずいてキーボードの『Enter』を押す。

すると装置が稼働し、遺伝子の活性化による激痛が龍我を襲う。

「が、あぁぁあ!?」

痛みに悶え苦しむ龍我。

そんな龍我を、周囲の人間は心配そうに見守る。

そこへ、美空、未来、由依が戻ってくる。

「ぐあぁあああ!!!」

「万丈・・・!」

「龍我さん!?」

絶叫する龍我。

そんな龍我の元へ、美空と未来が駆け寄る。

そして由依は、悶え苦しむ龍我のその姿に、思わず、目をそらしてしまう。

「がぁああぁぁぁあぁああああ――――!!!!」

静かな真夜中に、龍我の絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

翌日、早朝―――

 

「柿崎氏に擬態したキルバス、未だ移動する様子無し!」

二課では、かなりの大騒ぎになっていた。

それはもちろん、対キルバス戦の為の準備の為に他ならない。

「近隣の住民の避難、完了しています!」

「いいか!ここで敗北すれば、この地球どころか宇宙そのものが吹っ飛ぶ!総員、心してかかれ!!」

弦十郎が指示を飛ばす中、藤尭が声をあげる。

「装者および仮面ライダー、キルバスと会敵!」

「よぉし!これより戦闘態勢に入る!全力で彼らをサポートするぞ!!」

 

 

 

 

龍我とキルバスが初めて出会い、そして戦った、噴水広場。

その噴水にて、キルバスはその手のキルバスパイダーを愛おしそうに眺めていた。

しかし、すぐにこちらに近付く気配を感じ、そちらを向いて笑みを浮かべる。

そこから来るのは、龍我、一海、幻徳、クリス、響、翼の六人。

その誰もが、神妙な面持ちでこちらに歩いて来ていた。

「ゆっくり休んだかァ?」

キルバスがそう尋ねる。

「ああ、なんなら今すぐお前をぶっ倒してやろうか?」

龍我が挑発するように指差す。

「ククク・・・ハハハハ・・・面白いィ」

それにキルバスは嘲笑う。そして、上着を脱ぎ捨て、上半身裸になると、取り出したキルバスパイダーフルボトルを振り、それにキスを落とすと、それをキルバスパイダーに装填する。

「オマエの力で、最高のパンドラボックスを創ろォ・・・」

 

キルバスパイダァーッ!!』

 

そしてそれをビルドドライバーに装填し、ボルテックレバーを回して蜘蛛の巣のようなビルダーを展開する。

 

『Are You Ready?』

 

「変身」

 

スパイダァースパイダァー!!キルバススパイダァー!!!』

 

そして変身する、仮面ライダーキルバス。

「存分に暴れられる場所へ案内してやるゥ・・・ハァ!!」

パンドラボックスへ触れると、そこから地面を駆け巡るように赤い蜘蛛の巣が広がり、それが周囲の地形を一気に変形させていく。

そこは、まるでどこかの鉱山地帯だった。

 

 

「周囲の地形、変形ッ!!!」

映像の先で、二課職員の動揺した声が響く。

「これが、パンドラボックスの力とでもいうのか・・・!」

その力に、弦十郎は戦慄する。

 

 

そうして、変化した地形にて。

「この星もォ、そして宇宙もォ!すゥべェてェ、破壊してやるゥ!!」

そう言ってのけるキルバス。まさしく、狂っているとしか言いようがない。

「・・・上等だ」

「そんな事は絶対にさせない」

それに、龍我とクリスが答える。

「キュルー!!」

「地球の平和は俺たちが守る・・・!!」

クローズドラゴンを掴み取り、それにイチイバルレリックフルボトルを装填する。

 

激唱ゥ!』クロォーズイチイバルッ!!!』

 

そしてクロをビルドドライバーに装填する。

それに続くように、一海も黄色の飲料パックのようなアイテム『ロボットスクラッシュゼリー』を、幻徳は普通のフルボトルとは違うボトル『クロコダイルクラックボトル』を取り出す。

 

Danger!』

 

ロボォットジュエリィーッ!!』

 

クロコダイル!!』

 

龍我がボルテックレバーを回し、全ての準備を整えるのと同時に、少女たちも、ギアペンダントを握り締めて、その身に流れる血のかよう歌を唄う。

 

「―――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)―――」

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)―――」

 

「―――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)――」

 

『Are You Ready?』

 

そして、彼らは叫ぶ。

 

「「「変身ッ!!」」」

 

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

 

『割れるゥ!喰われるゥ!!砕け散るゥッ!!!』

 

激唱戦場クロォーズイチイバルッ!!!』

 

ロボット・イン・グリィスゥッ!!』

 

クロコダイル・イン・ロォーグ…ッ!!!』

 

イェェエイッ!!ドッカァァァァアンッ!!!』

 

『ブルァァァァア!!!』

 

『オゥラァァァア!!!キャァァァア!!!』

 

クリス、響、翼によるシンフォギアの起動が完了、その身に神の武具の力を纏い、クローズ、グリス、ローグが変身を完了させる。

六人の戦士が、今この場に推参した瞬間であった。

「オレの力を思い知るがいいィ!!」

キルバスが、その身から青い液状のようなものを放出し、それが地面に落ちると、すぐさま形を成し、クローズたちにとって馴染みの深い敵が現れる。

 

スマッシュだ。

 

それもおそらく、キルバスの擬態である。

「スマッシュ・・・」

その登場に、クローズは思わず動揺した声をあげる。

「こいつらは俺たちに任せろ。行くぞ、ヒゲ、ガキ共」

そんなクローズの前に、グリスとローグ、響、翼が立つ。

「黙れポテト」

「雪音たちはキルバスを」

「・・・ぶふっ、ごめんやっぱ無理耐えられない」

「折角の雰囲気が台無しじゃねえか!!」

若干締まらないが、それぞれの敵を見据え、今、地球を守るための戦いが始まる――――。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

キルバスとの戦闘が始まり、戦いは熾烈を極める。

「そんなモンかァ?だったらこれで終わりだァ!!」

しかし、キルバスの圧倒的力の前に歯が立たないかと思われていたが、そこへ復活したエボルトが再び現れる。

「―――久しぶりィ。・・・でもないかァ」

しかし、やはりキルバスの力は強大であり、絶体絶命の窮地にまで追いつめられる。
大ダメージを喰らい瀕死になるエボルト、倒れる龍我、そんな中で、クリスが取った行動とは―――

次回『衝動インスパイア』

銀河無敵の筋肉ヤロォッ!!』

「―――アタシ、龍我の事が好きッ!!」




リディアンこそこそ噂話

クローズたちの元へ颯爽と駆けつけたように見える四人だが、実は移動手段を確保する時間がなく、全員ノンストップランで現場に駆け付けている。

一「ったく政府直属なんだから車ぐらい用意しろっての」
弦「それについては誠に申し訳なく・・・」
幻「ポテトに何言っても無駄だ弦十郎」
一「んだと?」
幻「やんのか?」
弦「ああ喧嘩はやめてください!」


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衝動インスパイア

切「仮面ライダービルドこと、桐生戦兎が創造した新世界。しかしそこはノイズが蔓延る世界だったのデス!しかし、ノイズの脅威はさり、平和が訪れるかと思いきや、地球外生命体キルバスが襲来!今、その最終決戦が行われようとしているのデス!」
調「ついに最終決戦・・・どうなるかな」
慧「なんか龍我さんも一海さんも幻徳さんも無双してたっていうし、マジにとんでもないよな・・・」
シ「ついでにいってシンフォギアもまともに通用しない奴だ。おそらく最後の切り札S2CAも通用しない可能性が・・・」
マ「いやいや待て待て待ちなさい!S2CAが効かないというのならどうやってアイツを倒すっていうのよ!?そもそもなんで地球外生命体まで出てくるってどうなってるの!?もうシンフォギアの世界観ぶち壊しじゃない!怖い怖いこの小説一体どこまでシンフォギアの世界観ぶち壊せば気が済むの!」
シ「世界観ってもう『仮面ライダービルド』『戦記絶唱シンフォギア』『クロスオーバー』『世界融合による新世界』の時点で色々壊れてるだろう」
マ「やめて現実見させないでー!」
切「と、という訳で、キルバスと大激突するクローズ編第五話をどうぞデス!」
調「ここで一つお知らせがあります。作者の学校での試験が近いために、来週の小説の投稿をお休みさせてもらいます。楽しみにしていただいている読者の方々には申し訳ありませんが、何とぞご理解のほどをよろしくお願いいたします。それともう一つ、バレンタインやクリスマスなどは、クローズ編が終わった後、『創造しない』と一緒に投稿いたしますので、楽しみにしてください。以上、広報役の月読調でした」


グリス、ローグ、響、翼の四人が生み出された六体のスマッシュと鎬を削る。

 

「やぁああ!!」

響の連打が一体目のノイズの腹に叩き込まれ、すかさず飛び上がってその顔面を蹴り飛ばす。すかさず背後から襲い掛かってきたスマッシュの攻撃を飛び上がって躱し、肩に手を置いてそのまま頭上を通って背後に回ると同時にその背中に膝蹴りを叩き込む。

そして、それによって二体のスマッシュがもつれた所を左手のギアのアンカーを叩き起こし、腰のジェットで加速、そのまま拳を叩きつけて二体纏めて吹き飛ばす。

「うおりや!」

グリスはノイズの一体を掴むとプロレスのように地面に倒れ込む反動を利用してスマッシュの一体を投げ飛ばす。

「ウィィィイ!!」

そして突っ込んできたもう一体に対してラリアットをお見舞いする。

「ハァァア!!」

翼の斬撃が双方から襲い掛かってくるスマッシュを交互に打ち据える。

一方が交互に近付くように、決して同時攻撃させないようにその刀を振るう。

しかし長くは続かず、ついに二方向からの同時攻撃を許してしまうが、

「ハァァア!!」

翼は足のスラスターを噴射。それによって生み出された回転で襲い掛かってきたノイズを竜巻の如く弾き飛ばす。

「ふっ!」

一方、ローグは敵の攻撃を受け流すと同時に反撃を叩き込み、さらにもう一方からの攻撃にも対応、上手く受け流し、それでいて的確な反撃を繰り出していた。

そして、クローズとクリスは――――

 

「挨拶無用のガトリング!ゴミ箱行きへのデスパーリィー!!」

 

クリスが歌えば、クローズの体内にあるエボルトの遺伝子は活性化し、さらなる力を発揮する。

その法則に則って、クリスが後方で歌い、それによって強化されたクローズイチイバルでキルバスを抑え込もうと言う魂胆だ。

そして、その目論見は成功しているのだが――――

「ぐぅ!?」

キルバスはそれ以上だった。

クローズの繰り出す拳打、それをキルバスは躱し防ぎ、なおかつこちらを弄ぶかのように殴り返してくる。

「やっろぉ!」

すかさずクリスがボウガンをもって援護。

しかしキルバスはそれを躱して見せ、得意の機動性でキルバスが避けた先へ巻き起こされた土煙を突っ切って殴り掛かったが、いとも容易く躱される。

まだ、届かないのだ。

(もっとだ・・・もっと、声を張り上げろ・・・!!)

クリスは、歌を叫ぶように歌う。

(じゃないと、龍我が安心して戦えねえだろッ!!)

追尾性のある小型ミサイルを乱射し、キルバスに殺到させる――――

 

 

「そういえば!」

ふと戦いの中でグリスがローグに尋ねる。

「内海はどうした!?」

クローズチャージやタスクとは違い、ツインブレイカーを二つ同時に使えるグリスは、それをもってスマッシュを叩き伏せていた。

「内海って誰ですか!?」

「もしかして、仮面ライダーマッドローグの変身者か!?」

件の内海なる人物を知らない響と翼はそのように尋ねる。

彼らが言っているのは内海成彰。かつて難波重工の難波チルドレンの一人であり、仮面ライダーマッドローグの変身者の事だ。

「そうだ!あいつはエボルドライバーで変身していたから、人体実験をしてない」

ネビュラスチームガンで敵を撃ちつつ、ローグはそう答える。

「あンの眼鏡!」

「記憶を失われたままなんだろう!」

そう言い合う二人だが。

 

今頃、難波重工で楽しくやっている頃だろう。

 

「そっとしておいてやれ」

「同感だ」

「それでいいんですか!?」

「記憶を無理に呼び起こす必要はないからな」

そう結論付けて、四人はそれぞれの戦いに戻る。

 

 

「ハハハハ!!」

「うぐあ!?」

キルバスの攻撃をもろに受けて、地面を転がるクローズ。

「―――ッ!」

すかさずクリスがキルバスに向かってガトリングを掃射。

「無駄無駄無駄ァ!!」

そのガトリング砲の乱射を全て避け切り、クリスに接近したキルバスはそのままクリスを殴り飛ばす。

「づっ―――!?」

「クリス!このォ!!」

それを見たクローズがすかさずキルバスに向かって走り出す。

クリスは未だ歌を唄い続けている。

ブラストモービルを取り出し、シューターで射撃。躱される。

接近した所で後ろ回し蹴りを防がれるもすかさず一撃、二撃と拳を突き出す。

しかしそれは躱され、続く三撃目からの攻撃を防いできたキルバスは、最後の攻撃を躱すと同時にカウンターで膝蹴りを腹に叩き込む。

「がはっ!?」

それを喰らい、地面を転がるクローズ。

しかしすぐに立ち上がって、拳を地面に叩きつけつつ、キルバスに向かって突進、そのまま拳を叩きつけるも、掴まれて防がれる。

「そんなモンかァ?だったらこれで終わりだァ!!」

キルバスは、ビルドドライバーからカイゾクハッシャーを取り出すなり、それを掴んでいた拳を押し返して離すと同時に、クローズに振り下ろす。

だが、その振り下ろされた一撃は、クローズの体から突如として飛び出した赤い液状の何かによって防がれる。

「なッ!?」

それは徐々にクローズの体から溢れだし、やがて形を成して、その正体を現す。

「な、ン、だ、と・・・!?」

「―――久しぶりィ。・・・でもないかァ」

その正体は――――エボルト。

 

 

仮面ライダーエボル・フェーズ1だ。

 

 

キルバスに叩き込んで下がらせるエボルト。

「ぬぐあ!?」

驚いていたキルバスだが、すぐさま嬉しそうに笑い声を上げる。

「ハハハ!生きてたかァ・・・エボルトォォォオ!!」

 

 

 

 

それは昨晩の事。

 

 

 

龍我のエボルトの遺伝子を活性化させる装置を起動させて数分。

突如として龍我の体から、赤い液状の何かが溢れ出し、それが龍我の近くに着地、形を形成し、彼らにとって忌々しい姿、仮面ライダーエボルとなってエボルトは出現した。

「ん~っ!・・あ~・・・」

「エボルト・・・ッ!!」

かつての宿敵の姿を見て、戦兎は険しい表情でエボルトを睨みつける。

「よォ戦兎ォ。久しぶりだなァ」

「こいつが、エボルト・・・!」

翼とセレナが警戒心を露わに身構えている。

「お陰で完全復活だァ」

「お前を蘇らせたのはキルバスを倒すためだ」

「だろォなァ。けど、協力するかどうかは、オマエたち次第だァ」

そう言って、一同を指差すエボルト。

そんなエボルトを、彼らは睨みつける。

 

ただ一人を除いて。

 

「響・・・!?」

未来が驚きに声をあげるのもお構いなしに、響が、エボルトの前に立つ。

「ああ?」

しかもその表情に、敵対心はなかった。

「私、立花響、十六歳。誕生日は九月の十三日で、血液型はO型、好きな物はごはん&ごはんで、あと、彼氏いない歴は年齢と同じです!」

「・・・はァ?」

これにはエボルトも驚く他なかった。

何故ならあまりにも重い空気の中で明るい声で自己紹介をかましてくる奴がいるのだからそれはもう驚くほかない。

もちろん、エボルトを知っている者たちにとってはその対応はあまりにも予想外過ぎた。

「よろしくお願いします!」

そう言って、響はエボルトに手を差し出す。

「・・・コイツ、天性の馬鹿なのか?」

「それが立花だ。気持ちは分からなくもないが、大目に見てやってくれ」

一海の言葉に翼は仕方ないとでも言うようにとりあえず言っておく。

「・・・クク、ハハハハ!!」

エボルトは、そんな響を見て高笑いをする。

「戦兎たちから話は聞いてただろう?」

「はい。ですが今は味方です。少なくとも、強さについては信じてますので」

「クク、おい戦兎ォ。こいつ面白いなァ」

「ああ、頭が痛くなるほどにな・・・」

戦兎は頭を抱えていた。

地球を滅ぼす程の力をもった地球外生命体ですらも手を繋ごうとする響の度胸の凄まじさは、もはや呆れる程だ。

「いいだろう。今回はコイツの度胸に免じて協力してやる」

エボルトは、響を興味深そうに見ながらそう言った。

 

 

 

「裏切ったらただじゃおかねえぞ」

「信用ないねェ。楽しくやろうじゃねえかァ、相棒」

「相棒じゃねェ!!」

「んな事いってないで、さっさと行けよ!アタシがサポートするから!」

「おう、頼んだぜェ」

クローズ、エボルト、クリスの三人が並び立ち、新たにここに共同戦線が確立される。

「行くぞ!」

「よしっ!」

「ちょっせぇ!」

クリスの放つボウガンの乱射を合図に、クローズとエボルトがキルバスに突っ込んでいく。

 

 

 

 

その一方で、

「・・・皮肉だよねぇ・・・」

拠点としている戦兎の住居にて、紗羽がそう呟く。

「え?」

その言葉に、未来が反応する。

今、この家には、強化アイテム作成の為に戦兎とセレナ、ここで龍我たちの帰りを待つ美空と未来、そして由衣がいた。

「ああ、未来ちゃんは知らないんだっけ?」

「いえ、戦兎先生から大体の話は聞いてます。色々と大変だったそうで・・・」

「まあねえ・・・まさか、万丈とエボルトが一緒に戦うなんて・・・」

確かに皮肉である。敵同士だったものが今は手を取り合い・・・はしていないが協力して共通の敵を倒そうとしている。

人間、共通の敵を見つけたら争いをやめるという言葉はあながち間違いではないのかもしれない。

まあ、片方は地球外生命体、もう片方は人間と呼べるか怪しい存在だが。

「・・・アイツ、エボルトに両親を殺されたんだって」

そんな中で、由衣が口を挟む。

それに、皆、黙る。

「なのに手を組むなんて、結局アイツは自分の命が惜しいんだよ。自分が助かりたいから戦ってるだけ・・・」

「・・・そんな訳ないじゃん」

その言葉に、美空が言い返す。

「逆だよ。みんなを守りたいから戦ってるんだよ?愛と平和の為なら自分はどうなってもいい。それが万丈龍我なんだよ?」

「他の人たちだって、きっと同じです」

それに、未来が続く。

「自分の為なんかじゃない。知らない誰かの為に自分の命を懸けられる・・・そんな事、貴方の思うような人が出来ますか?少なくとも、響は、他の誰かの為に命懸けで戦ってる。私は、そう信じてる」

そう、未来が言い、由衣は、その瞳に迷いの色を見せる。

 

 

が、そんな空気をぶち壊すかのように電子レンジのような装置の扉が破裂音と共に勢いよく開く。

 

 

「出来た!」

それを見た戦兎は嬉々とした表情で立ち上がる。その頭の髪は、その一部がぴょこん、と跳ねていた。

「わあ!」

ついでにセレナも興奮気味に立ち上がる。

そうしてその電子レンジのような装置『ボトル生成器ライト版』の中に入っていた大型のボトルを取り出す。

「名付けて、『マッスルギャラクシーフルボトル』!ハハ!凄いでしょ?最っ高でしょ?天才でしょー!!」

「流石戦兎先生です!」

「でたーいつものー。そしてなんか増えてる~」

二人のハイテンションさに思わず頭を抱える美空だが、しかし何か懐かしむように、紗羽ともども笑みを零す。

そうして、『マッスルギャラクシーフルボトル』を手に取った戦兎は、由衣の前に立つと、それを差し出す。

「悪いけどこれ、万丈に届けてくれないかな?」

由衣は、それを、戸惑い気味に受け取った。

 

 

 

 

「ぐあぁあ!?」

「ぐぉおあ!?」

「あぁぁあ!?」

「うわぁあ!?」

まとめてスマッシュに吹っ飛ばされるグリス、ローグ、翼、響。

「どうなってんだ・・・!?」

「前のスマッシュとレベルが違う・・・!」

「私と雪音がこの間戦ったスマッシュとは段違いに強い・・・!」

「これは、一体・・・」

地面に倒れ伏して、その強さに驚愕する四人。

『とォぜんだァ!』

そんな中で、そのスマッシュたちからキルバスの声が聞こえてくる。

『コイツらはあくまでオレの擬態・・・オマエら人間が勝てる相手じゃないッ!!』

「だ、まれコラァァァアア!」

どうにか立ち上がって、四人は六体のスマッシュに突撃する。

しかし、その圧倒的強さに、どうにか奮戦するも敵わず、また弾き飛ばされて、四人とも変身解除させられる。

「ぐ・・・・あぁあ・・・!!」

「ぐぅ・・・くそ・・・!」

「あ・・う・・・!?」

「ふかく・・・!」

「お前ら!」

クリスが思わず叫ぶも、そこで自らの失態に気付く。

(しまった、歌を・・・!)

次の瞬間、突然パワーダウンしたクローズがキルバスに吹っ飛ばされる。

「ぐあぁああ!?」

「龍我!」

倒れ伏すクローズ。そのクローズを他所に、キルバスは今度はエボルトを猛攻。カイゾクハッシャーとドリルクラッシャーをそれぞれ両手でもち、激しく叩きのめす。

「ぬぐあ!?」

そうして倒れた所を踏みつけるキルバス。

「エボルトォ、忘れたかァ!?オマエは一度としてこの兄に勝った事がないという事をォ!!」

ドリルクラッシャーとカイゾクハッシャーの刃でエボルトの首を挟み込み、持ち上げるキルバス。

「ぬ・・・ぐぉ・・・」

「フハハハハ・・・!!」

そうして立ち上がらせた所で、すぐさまその刃をエボルトの腹に突き刺す。

「グハッ・・・ア・・・!?」

次の瞬間、切り裂き気味に引き抜かれ、エボルトは倒れる。

そんなエボルトを、キルバスは見下す。

「エボルト!・・・くっそぉぉぉおお!!!」

それを見たクローズは、すぐさま立ち上がり、キルバスに向かって殴り掛かる。

しかし、それはいとも容易く躱され、すかさず、激しい斬撃の嵐がクローズに殺到する。

それにクローズは成す術もなく滅多打ちにされていく。

「やめろぉぉおお!!」

すかさずクリスが小型ミサイル群を放つ。

 

MEGA DETH PRATY

 

「アァ?」

それを見たキルバスは、今滅多打ちにしていたクローズを掴んだかと思えば、それをなんとクリスが放った小型ミサイル群へと突き出し(ガードベントし)た。

「あ・・・!?」

そして小型ミサイルがクローズに殺到。

「ぐあぁぁああ!?」

数の暴力がクローズに叩き込まれ、それを諸に喰らったクローズはその場に膝を付き倒れ、そして変身を解除させられる。

「龍我ぁ!」

「う・・・が・・・」

「キュルー!」

やってしまったと後悔してももう遅い。

クリスは悲鳴のように名前を呼び、龍我はその場で痛みに苦しみ、クロは心配そうに龍我の側で鳴く。

「どうやらァ、勝負あったようだなァ?」

そう言って、両の手の武器を投げ捨てる。

しかし、そこへ何やら聞き覚えのある音が聞こえてきた。

「アァ?」

 

それは、紗羽の運転する車。

 

それがキルバスの作り出した地形の坂を駆け下り、龍我たちの元へ向かってきていた。

その中には、紗羽だけでなく、由衣の姿もあった。

しかし、その車に向かってスマッシュの一体が立ち塞がる。

「ッ!?」

紗羽が息を呑む。

次の瞬間、そのスマッシュが地面を殴り、そこから叩き起きた衝撃波が車に直撃、それを諸に喰らった車は衝撃と共に急停止する。

よほどの衝撃だったのか、車内の紗羽は気絶していた。

「うぅ・・・!?大丈夫!?ねえ!ねえ!」

気絶した紗羽をゆする由衣。しかし反応はない。

そんな中で、手の中のマッスルギャラクシーフルボトルが目に入る。

それを見て、由衣はすぐさま車を出る。

そしてすぐさま龍我の元へ向かおうとした所で、由衣の目の前に、車を止めたスマッシュが迫ってきていた。

「あ・・・」

それに、由衣は思わず、あの時の恐怖がフラッシュバックしてしまい、その体が震える。

「まずいっ・・・!」

思わずクリスがその銃口を向けようとしたが、その前を何かが通り過ぎる。

「だれか・・・助けて・・・」

逃げるように後ずさりながら、由衣は、助けを求める。

その後ろは車。退路は塞がれている。否、そもそも逃げ切れるかどうかが怪しい。

「だれか・・・」

そうして振り上げられる、スマッシュの拳。

それに、由衣は思わず目を瞑ってしまう。

振り下ろされる拳。だが、それが由衣に直撃する事はなかった。

間一髪の所で龍我が割り込み、ドラゴンフルボトルを握りしめた拳でそのスマッシュを殴り飛ばす。

「ハア・・・ハア・・・」

ボロボロの体でここまで走ってきたのだ。その息は、当然あがっていた。

「・・・良かった」

しかし、龍我は由衣の無事を思う。

「今度は間に合った・・・」

「・・・!」

その言葉に、由衣は目を見開く。

「龍我・・・」

そんな龍我に、クリスはその胸に手を当てる。

「嬉しいねェ!まだそんな力があるとはなァ!」

キルバスが、狂喜にそう叫ぶ。

「戦兎のアイテム・・・出来たのか?」

龍我が由衣に尋ねる。

「でも、その体じゃ・・・」

「いいから貸せ!」

龍我が怒鳴って、その手を由衣に向ける。

その手に、由衣はしばし戸惑った後に、そのアイテムを渡す。

それは、青色の、黒い装飾の施された大きなボトルだった。

「オイ、正気かよォ?今のオマエに勝算あるとは思えねえけどなァ」

「うるせえ!こうなったら・・・一か八かだ!」

そのボトルのシーディングキャップを開け、すかさず『ビルドアップスターターCZE』を押し、ビルドドライバーに装填する。

次の瞬間、

「ぐ、ぅあぁぁぁあああ!?」

激しい拒絶反応が起こり、その痛みに龍我は絶叫し、倒れる。

「龍我!?」

「万丈!」

倒れた拍子に、そのボトルが外れ落ち、倒れた龍我に由衣が駆け寄る。

「最後の悪足掻きは終わったようだなァ」

キルバスが、あのパネルから作った箱を取り出す。

そうして、龍我たちに近付いていく。

間違いなく、龍我をその箱に取り込むつもりだ。そうなれば、龍我の死は免れない。

それを、遠目に見ていたエボルトは―――

「ッ!?」

ふと、ついていた手のあたりの土が跳ね飛ぶ。

それは、銃撃。しかし、エボルトを狙ってはいたが当てるものじゃない。

エボルトは、そちらに視線を向けると、そこには、エボルトに銃口を向けるクリスの姿があった。

その眼差しは、真っ直ぐとエボルトに向いており、その眼差しから、エボルトはある意図を汲み取る。

「・・・あ、そう・・・じゃあ任せたァ」

そう言って、エボルトは視線を外す。

その言葉に、クリスは感謝するように笑う。

そして、龍我たちに迫るキルバスを睨むと、クリスはその手のギアを連射式の拳銃に変えると、一気にキルバスに走りながら連射する。

「あァ?」

「クリス!?」

そして、クリスはキルバスと龍我たちの間に立つと、その手のギアをすかさず大口径の狙撃銃(スナイパーライフル)へと変形させ、キルバスでも躱せない速度の距離と弾速でキルバスをぶっ飛ばす。

 

RED HOT BLAZE

 

「ぐおぁぁぁあ!?」

吹っ飛ばされたキルバスだが、すぐに態勢を立て直す。

「・・ククッハハ!そういやまだオマエがいたなァ!!」

キルバスは嬉々として声を挙げるが、そんなキルバスを無視して、クリスは、龍我の方を向いて、叫ぶ。

「龍我!」

そして、告白する。

 

「―――アタシ、龍我の事が好きッ!!」

 

「―――ハアッ!?」

突然の告白。

それに、龍我は驚きを隠せない。

それは当然、響、翼、一海、幻徳も一緒だった。

「龍我が香澄さんの事を忘れられないのは知ってる!だけど、それでもアタシは龍我が好き、大好きなんだ!」

「ナニゴチャゴチャ言ってやがる!」

キルバスがクリスに殴り掛かる。

それに気付いたクリスは振り向いた途端にその頬に拳を貰うが、どうにか踏み止まって、その手の拳銃を再び連射する。

それをキルバスは体を捻って躱し、そのまま回転して後ろ回し蹴りをクリスに叩きつけて蹴り飛ばす。

「ぐあッ!?」

蹴り飛ばされ、地面を滑り倒れるクリス。

そんなクリスにキルバスは追撃に踏みつけようとする。

だが、それをクリスは横に転がって躱し、下がりながら両手の銃を乱射する。

その最中で、クリスは思い出す。

 

 

 

 

 

エボルトが復活し、作戦会議が終わった後の事。

クリスと龍我は倉庫の外にいた。

「それで、話ってなんだよ?」

龍我が訪ねる。

「・・・なあ、龍我ってさ、本当にエボルトと協力する気なのか?」

クリスは、そう聞き返す。

「・・・ああ」

「なんでだ?」

頷いた龍我に、クリスはさらに質問を重ねる。

「だってエボルトは、龍我の両親を殺したんだぞ?それなのに、どうして協力するって言い切れるんだ?アタシには、分かんねえよ・・・」

クリスは、俯いて、そう言葉を言う。

そのクリスの言葉に、龍我はしばし頭を掻いて答える。

「守りてえからだよ」

「え・・・」

「どんな事したって、どんな手使ったって、守りたいものがある・・・結局、そんな単純な話だ」

「その為なら、自分の仇とでも手を組むのか?」

「まあ、お前からしたら信じられねえだろうけどさ。でも、過去の因縁を引きずって、大切なものが見えなくなってたら元も子もねえ。守りたいものも守れなくなる」

握りしめた自分の拳を見て、龍我は、そう語る。

やがて顔を上げて、いつものバカみたいに自信満々な笑顔をクリスに向けた。

「初めの頃は、本当に余裕なんてなかった。俺を信じてくれた誰かのために、俺が信じた誰かのためにって。だけど、今はそうじゃない。愛と平和の為に、知らない誰かの為に戦う。そんな俺を創ってくれた奴らの為に、そして、関係のない誰かを守るために俺は戦うんだ。もちろん、お前の事もな」

そんな、なんでもないとでも言うように、龍我は言ってのける。

(ああ、やっぱり・・・)

そして、クリスはその言葉にどこか自然と納得していた。

(龍我は、こんなにも真っ直ぐだ・・・)

馬鹿みたいに真っ直ぐで、ただ自分に正直なだけ。

守りたいという自分の想いに素直なだけなのだ。

自分には、もってないものを持っている。

(それが羨ましくて・・・そこがアタシは好きになったんだ)

ああ、やはり自分は―――

「・・・好き」

「ん?なんか言ったか?」

「ううん、なんでもない」

尋ねてくる龍我に、クリスは首を横に振る。

「龍我」

「ん?」

「アタシは龍我の為に歌う。龍我がキルバスに勝てるように、アタシは歌い続ける。今のアタシには、まだ『愛と平和』なんて本気で言えない、余裕もないけど、アタシはアタシが信じた奴の為に戦う事にする。いつか、パパとママが思い描いた平和を胸を張って言えるようになるまで、その為に、龍我の為に歌う」

クリスは、真っ直ぐに龍我を向いて、言い切る。

「だから、勝とう。龍我」

「ハッ、何言ってんだ。当たり前だろ」

龍我は、嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

そんな龍我に、クリスは自分の想いを曝け出す。

「アタシは、龍我に救われた!初めて、信じたみたいって思った!だって、こんなアタシに初めて全力でぶつかってきてくれたのは、龍我だったから!」

キルバスの猛攻をしのぎ、銃の引き金を引き絞って、ありったけの銃弾をキルバスに浴びせる。

だが、躱しきれずに顎にアッパーを貰い、倒れる。

倒れたクリスに追撃しようとするキルバスに、クリスはすかさず弩弓状にしたギアを向けて、巨大な矢を叩きつける。爆発が引きおこり、黒煙がキルバスを包む。

その黒煙の中からキルバスが手を伸ばしクリスの首を掴み、持ち上げて、その状態で顔面を殴り飛ばす。

「ぐあぁああ!?」

殴り飛ばされて、また地面に倒れるクリス。

「ぅ・・・ぐ・・・初めてだった・・・!!」

それでもなおクリスは、抗うために立ち上がる。その気持ちを、本心を伝える為に、叫ぶ。

「あんなに・・・真っ直ぐ・・・アタシを見てくれたのは!」

初めて会った時は、最悪だった。

互いに敵同士で、何も知らなくて。

今のようになるなんて思わなかった。

こうして、好きになるなんて思わなかった。

「パパとママの夢を・・・受け継ごうと思えた・・・!!」

フィーネとは違う『夢』を抱く、両親の想いにようやく気付けた。

キルバスの猛攻がさらにクリスを襲う。

「頑張ったなって・・・言ってくれた・・・・!!」

それをしのぐクリスの眼からは、涙が溢れていた。

「真っ直ぐに、誰かを信じられる事が羨ましかった・・・!」

キルバスの拳がクリスに叩きつけられる。

「だから、アタシは―――そんな龍我が好きになったんだァ!!」

吹っ飛ばされる事でわざと距離を取ったクリスが、自らのギアの全ての武装を展開。

ガトリングガン、大型ミサイル四基、小型ミサイル群――――

それを、一気にキルバスに向かって一斉に発射する。

 

MEGA DETH QUARTET

 

放たれる、銃火器の暴力。

それが、キルバスに次々に殺到していく。

その様を、龍我と由衣は呆然と見る。

「いいのかァそんな所で寝ててよォ」

気付けば、そんな二人の隣に、エボルトが立っていた。

「あの小娘は、オマエの為に自分の全てを賭して戦っている。オマエはそれを見ているだけかァ?」

「ッ・・・」

龍我は、思わず四つん這いのまま俯く。

そして、その手を、自分の胸に手を当てる。

「・・・()()()()()は偽りかァ?」

エボルトが見透かしたように龍我に告げる。

その言葉に、龍我は胸に当てた手を握りしめる。

 

この、胸を焼くような、彼女を心の底から求める想いは――――

 

突如として、キルバスがクリスの放つ兵器の暴力を突っ切って、そのギアを砕き散らす勢いでクリスを上空へ蹴っ飛ばす。

「か・・・っはぁ・・・・!?」

それを喰らったクリスのギアが砕け散り、クリスはその痛みに歯を食いしばる。

そしてそんなクリスに向かってキルバスは飛び上がり、止めと言わんばかりに、クリスの腹に強烈な蹴りを叩き込む。

「がっ――――」

 

その時、クリスの体の中で、決定的に致命的な何かが壊された。

 

龍我たちの目の前に叩き落とされたクリス。

「―――こふっ」

その口から血を吐き出し、ぐったりとするクリス。

「クリスッ!?」

「こりゃあまずい。おそらく内臓が体内で破裂したな」

エボルトが、そんな軽い口調で言ってのける。

その言葉に、龍我は息を呑む。

「あ・・か・・・りゅ・・・が・・・・」

クリスが、呼吸もまともに出来ない状態で、龍我の方を見る。

こちらを、ただ震える視線で見てくる龍我をみやり、クリスは、小さく微笑む。

「・・・立ち上がって・・・アタシは・・・そんな龍我が・・・大好きだから・・・・」

それを最後に、クリスは目を閉じ、事切れたかのように力尽きる。

それと同時に、クリスからイチイバルが解除される。

「クリスちゃん!」

「雪音ぇ!!」

思わず響と翼が叫ぶ。

「・・・」

クリスが力尽きた事に、由衣は言葉を失う。

「万丈ォ」

エボルトが、尋ねる。

「オマエは、自分が好きだと言ってくれた女一人守れない程弱かったかァ?」

エボルトは、続ける。

「人間は、こんなに弱かったのかァ?」

その言葉に、龍我は―――。

 

「―――ふざけんな」

 

その拳を握りしめて、答える。

「由衣も、クリスも、俺が救う・・・もう、悲しませないッ・・・!!」

その胸を握りしめて、その胸から溢れ出そうな想いを、拳に込めて。

「うぉぉぉおおぉおぉおおお!!」

 

彼女の想いに、答える為に――――龍我は、立ち上がる。

 

シーディングキャップを開け、ビルドアップスターターCZEを押す。

 

MACHOFEVER!!』

 

そして、起動した『マッスルギャラクシーフルボトル』をビルドドライバーに装填する。

 

マッスルギャラクシー!!』

 

壮大な待機音声が流れ出し、すかさず龍我がボルテックレバーを回し、ビルダーを展開する。

 

ブルアッ!』『チャオ!』『ブルアッ!』『チャオ!』

 

それを見たエボルトは、待っていたと言わんばかりにその体を粒子へと変え、龍我が展開したビルダーに新たなビルダーを自ら形成する。

 

『Are You Ready?』

 

そして尋ねられる、その言葉。

それは、龍我に掛けられた、覚悟の確認。

お前に彼女を救う事は出来るのかと。

 

お前に、彼女の想いを答える覚悟はあるのか、と。

 

その問いかけに、龍我は、覚悟の言葉をもって、叫ぶ。

 

 

「変身ッ!!」

 

 

それを、了承と取ったのか、ビルダーが龍我を挟み込む。

 

 

銀河無敵の筋肉ヤロォッ!!』

 

クローズエボルッ!!!』

 

パネェーイッ!!マジパネェーイッ!!!』

 

 

 

そこに現れたのは、青と白の装甲を纏った、一人の戦士。

 

 

 

「あれが・・・」

「仮面ライダー・・・クローズエボル・・・!」

 

 

龍我とエボルトが合体する事で誕生した、最強の戦士『仮面ライダークローズエボル』

 

 

その戦士が今、ここに誕生した。

クローズは、クリスに歩み寄ると、その額をそっと撫でる。

まるで、静かに眠っている。

「・・・・由衣」

そんなクリスを見ながら、クローズは由衣に頼む。

「クリスを頼んだ」

立ち上がったクローズは、キルバスの方へ歩き出す。

「コイツはァ良いィ!最高のエネルギーになりそうだァ!!」

キルバスが走り出す。

「・・・テメェは許さねえ」

クローズが、静かにそう呟き、突っ込んでくるキルバスと激突した――――




次回!『愛和創造シンフォギア・ビルド』は!?

激突するクローズエボルとキルバス。

「ならば、こっちも本気を出すまで!」

激しい戦いを繰り広げる両者。だがキルバスの方がまだ上で―――

「―――『愛と平和』を胸に生きる俺は―――誰にも負ける気がしねェ!!」

その戦いの行方は―――

次回最終回『雪の音のヴィクトリークローズ』



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雪の音のヴィクトリークローズ

マ「さあ始まるわよ先週すっぽかしたシンフォギア・ビルド!」
慧「正確には試験の為に投稿を断念するしかなかったというだけなんだけどねぇ・・・」
切「というわけで、地球外生命体キルバス打倒の為、宿敵エボルトと共に戦うクローズたちデスが、その最中でクリス先輩が致命傷を負ってしまうデス」
調「しかし、その寸前で放った言葉が、再びクローズを立ち上がらせる力を与え、ついに、クローズ最強の姿『クローズエボル』が誕生する!」
シ「そして物語は結末へ。その戦いを見逃すな」
マ「それにしても、まさか地球外生命体と合体するなんてね。龍我って本当に人間?」
慧「まあ人間だな。エボルトの遺伝子を持っているとはいえ、龍我さんは仮面ライダーなんですから」
調「悪の力を正義という仮面で覆う・・・それがどれほどの悪を内包していても、仮面ライダーは正義の仮面をもって正義を執行する、正義の味方だから」
切「正直、あの人たち以外の仮面ライダーはライダーじゃないと思うのデス!」
シ「それは人それぞれだろう。というわけで、クローズ編最終回を見ろ」



その前に少し小話

切「―――やぁっと試験が終わったのデース!」(リアルの作者役
切「そしてやってやるデスよPC版シンフォギアXDU!」(スマホ持ってない勢
切「早速ガチャを引いて・・・およ?およよ!?」

『Vitarization』からの☆六マリア

切「―――( ゚Д゚)」



調「ちなみに、イグナイト響さんにイグナイト私、あと確定ガチャで最初にとったのはクルースニク切ちゃんです」
慧「作者って意外に切歌好きだよな。一番の押しは翼さんみたいだけど」
マ「ただしスタイルは効率重視と一式染め編成と来た」
シ「バトルは楽してムービーは楽しみたいというスタイルだな」


―――キルバスとクローズが激突する。

 

キルバスの拳を躱し、すかさずその脇腹に拳を叩き込む。

「ぐお!?」

そして追撃のストレートをキルバスに叩き込んでさらに下がらせる。

踏み止まったキルバスは再びクローズに殴り掛かる。激しく打ち合い、キルバスがクローズに拳、蹴りを叩きつけるもクローズは意に介さず、捌き、その足を掴むなり、持ち上げてフィールドを駆け巡りながらキルバスを何度も地面に叩きつける。

そして何回か叩きつけた所でキルバスを投げる。

そのままさらに接近、凄まじい連撃を叩き込んでキルバスをさらに追い込む。

「ぬぐう!?ならば、こっちも本気を出すまで!!!」

実力差を感じとり、キルバスは自らが生み出したスマッシュを取り込む。

「ハハハ・・・さあ行くぞ!」

再び、クローズとキルバスが激突する。

激しい撃ち合いが繰り広げられる。クローズの拳がキルバスの顔面を打ち据える寸前で掴まれ、すかさずキルバスの蹴りがクローズの腹に叩きつけられようとした寸前でクローズが止め、さらに反撃と言わんばかりに掴まれた手を振り払い、反対の手でキルバスを打ち据えようとするも躱され、互角と言わんばかりに激しく激突する。

地面に降り、そこから恐ろしいスピードで戦場を駆け抜け、交錯する度に凄まじい衝撃が大気を弾けさせ、もはやすさまじいの一言に尽きる戦いだ。

しかし、その拮抗もいずれは破れる。

「がァ!?」

クローズが押し負ける。

殴り飛ばされ、派手に地面を転がり、激しく土煙を上げる。

「残念だったなァ。オレの方が上だァ!」

そのままクローズを追撃、倒れたクローズを蹴り上げて、そのまま拳を連続で叩きつける。

「ぬ、ぐっ、がァ!?」

クローズはなんとかしのぐも、擬態を取り込んで力を取り戻したキルバスの拳は想像以上に重く、防いでいる腕が痺れ、次第にその痺れは強くなっていく。

やがて耐え切れなくなり、ガードが外される。

「しまっ――――」

「オラァ!!」

キルバスの渾身のボディーブローがクローズに叩き込まれる。

「がぁあ!?」

ぶっ飛ばされて壁に叩きつけられるクローズ。

しかし、そのダメージにどうにか耐え、立つクローズだったが、すかさずキルバスがボルテックレバーを回す。

 

『Ready Go!』

 

キルバスが両手から蜘蛛の糸を射出。それでクローズを拘束し、そのまま思いっきり振り回す。

「ぐぉぁぁああ!?」

「フハ、フハハハハハハ!!!」

高笑いを上げ、キルバスは拘束したクローズを良いように振り回す。

壁に叩きつけ地面に叩きつけ、激しくクローズを痛めつけていく。

やがて、蜘蛛の糸を引っ張り、クローズを引き寄せたかと思いきや―――

 

キルバススパイダーフィニッシュッ!!!』

 

オーバヘッドキックでクローズを打ち据え、蹴り飛ばす。

クローズが叩きつけられた地面が爆ぜ、凄まじい衝撃と共に土煙を巻き散らす。

「ぐあぁぁあぁあああ!?」

キルバス渾身の必殺技が、クローズに直撃したのだ。

クローズが、倒れる。

「おい!」

「龍我さん!!」

「万丈!」

クローズが倒れた事に、それを見ていた者全員が思わず叫ぶ。

「ぐあ・・・あぁ・・・」

必殺技を叩き込まれた事で、クローズの体の中は、凄まじいまでの激痛が迸っていた。

だが、そんな中で、クローズは―――龍我は思い出す。

 

 

まだ自分が、自分の為だけに戦っていた時の事を。

 

 

(―――確かに、昔の俺は、自分の為に戦ってた・・・)

自分の冤罪を晴らす為に。自分の無実を証明するために。

(でも、アイツが教えてくれたんだ・・・)

冤罪で刑務所に叩き込まれ、味方が誰もいない状況。ただ逃げる事しか出来ず、誰も信じる事ができなかった。だけど、そんな自分の前に、あの男が現れた。

愛と平和をなんの躊躇いもなく言い切り、誰かの為に自分を犠牲にして、なんの見返りも求めず、ただ人の為に戦いたいと願う、一人の男に。

 

誰かの力になりたいと思える正義を―――

 

自分が毒に侵されていても、誰かの心配をしてしまう。

 

誰かに手を差し伸べる優しさを―――

 

どれほど自分が傷ついても、誰かを守る事をやめない。

 

誰かを守る事の勇気を―――

 

自分に、自らの正義を語って見せる。

 

誰かの為に戦う強さを―――

 

他の誰でもない。

 

 

(俺のヒーローが、教えてくれたんだ・・・!!)

 

 

そして――――

(ああ、くそっ)

その視界に、由衣に介抱されているクリスが見える。

自分に、その想いを伝えてくれた、たった一人の少女の姿。

口端から血を流している事を無視すれば、まるで、安らかに眠っているようで。

その白い雪色の肌から連想するは、白雪の名を関する眠り姫―――。

こっちは命懸けだというのに。なんて呑気な事なのだろうか。

でも、だからこそ―――

(最悪だ・・・お前と一緒にいた日常が、香澄と一緒にいる時と同じくらい、楽しいなんて思える日が来るなんて・・・!)

クリスのあの言葉が蘇る。

 

『立ち上がって』

 

その言葉を思い出し、クローズは、その足を地面に踏みしめる。

「―――ああ、立つさ」

胸の想いのままに、その心の声のままに。

 

「―――『愛と平和』を胸に生きる俺は―――誰にも負ける気がしねェ!!」

 

確固たる想いをもって、クローズは、地面を蹴る。

「オラァ!!」

クローズの拳がキルバスに叩きつけられる。しかしキルバスはそれを左手をもって防ぐ。

すかさず蹴りが飛び、それを再び右手で防ぐ。

さらなる攻撃、追撃、連撃がキルバスに叩きつけられる。

「だからァ、お前たちがどれほど足掻こうとも、このオレに勝つ事は出来ないんだよォ!!」

キルバスの反撃の蹴りがクローズの顔面に炸裂する。しかし―――

「なっ!?」

蹴りは、クローズの腕によって防がれていた。

「そんなの、やってみなきゃ分かんねえだろッ!!」

クローズのアッパーが炸裂、キルバスが空中へ吹き飛ぶ。その後をクローズが追い、そのまま空中で激突。激しい空中戦が繰り広げられる。

あちらこちらを飛び交い、交わっては凄まじい衝撃波が巻き散らされる。

クローズの拳がキルバスに向けられるも、キルバスはそれを紙一重で躱し、すかさず反撃のキルバスの拳をクローズは躱し、返す拳もキルバスも躱し、そのまま拳の応酬。

だが、その最中でキルバスがクローズを地面に向かって殴り飛ばす。

どうにか地面に着地したクローズに向かってキルバスが突撃、そのまま地面を砕いて一気に沈む。

そのまま地面を突き進んでいけば、地中にある空洞に出る。

そこには地下水が溜まっており、そこへ飛び出たクローズは水中に落ちる。

キルバスは水中にまで追いかけてきて、拳を叩きつけてくる。防げば水が爆ぜ、激しい水飛沫を上げる。

その水飛沫が上がった所でクローズがキルバスを殴り飛ばす。

「ハァァアア!!」

吹き飛ばされたキルバスが、その身からエネルギーを放出。無数の光弾となったそれはでたらめに上下左右四方八方に放たれ、空洞の壁や天井に直撃、一気に割り、崩していく。

落ちてくる岩盤。それを殴って砕いていくも、壊しきれず圧し潰されていく――――だが、それで諦める程、仮面ライダーは―――万丈龍我は、弱くはない。

 

「―――破壊を楽しんでんじゃねぇぞぉぉぉぉぉぉおおッ!!!」

 

クローズ自ら、凄まじいまでのエネルギーが放出され、それがクローズの周囲の岩を吹き飛ばし、そのままクローズは地中を突き進む。

いずれは地面を突き破り、地上に飛び出す。

その後を、キルバスが追いかけてくる。

飛翔する、二つの光――――

「龍我さんだ!」

「負けんじゃねえぞォ!!」

その姿を、傍観している彼らは応援する。

「万丈!ここが踏ん張りどころだ!」

「いけェ!」

空中でクローズとキルバスが激突する。

クローズの拳を躱し、受け、そのまま反撃に出ようとしたキルバスの拳は、突如として空ぶる。

そして次の瞬間、キルバスの下からクローズのアッパーが炸裂する。

そのまま飛翔、雲を突き破り、激しく殴り合う。

クローズの拳がキルバスを殴り飛ばし、キルバスの拳がクローズを殴り飛ばす。

一進一退の攻防。

もはやただの人間が介入していいような戦いではない。

そんな極限の戦いを、クローズは戦い抜く。

両手を掴み合い、押し合えば、すかさずクローズがキルバスを蹴り飛ばす。

そのまま、天高く飛び上がる。

そのまま大気圏ギリギリにまで到達。

「そっちが、飛び道具を使うってんなら・・・!!」

クローズがキルバスに殴り掛かる。それをキルバスは躱す。

「こっちだって、やってやるよォ!!!」

キルバスの顔面にクローズの拳が炸裂する。しかしすかさずキルバスが反撃に腹に一撃を入れ、再度クローズが殴り掛かろうとした所を躱し、その背中にさらに一撃入れる。

「どうぞォ、ご自由にィ。どうせ無駄だがなァ!!」

しかしすかさず、クローズがボルテックレバーを回す。

 

クロォーズサイドッ!!』

 

『Ready Go!!』

 

突如としてどこからともなくクローズドラゴン・ブレイズが出現。それが、龍我の引き絞られた拳に呼応し、咆える。

 

マッスルフィニッシュッ!!!』

 

「ウオリヤァァァァアァアア!!!」

『グルアァァァアアァァアアアァァアアアッ!!!』

 

クローズドラゴンが吼え、恐ろしい速度でキルバスを襲う。

「グアァアアアァァアァアアァァアアアアアァアアア!?」

避けられなかったキルバスはそのままクローズドラゴンの牙の餌食になり、噛み砕かれ、貫かれる。

『このままたたみかけろォ!!』

「言われなくても分かってんだよッ!!」

クローズと合体しているエボルトがクローズに向かってそう叫ぶ。

すかさずクローズがボルテックレバーを回す。

 

クロォーズサイドッ!!』『エボルサイドッ!!』

 

『Ready Go!』

 

クローズドラゴンに撃ち抜かれたキルバスは、そのダメージ故か一気に地面に向かって落下していた。

それに対してクローズは自らの目の前に生成したブラックホールへ飛び込みワープ。

キルバスの真上に転移し、ブラックホールの超重力によって一気に引き寄せる。

そして、その拳に超重力・圧縮・崩壊・爆発させる力を込めて、キルバスに一気に叩きつける。

 

ギャラクシーフィニッシュッ!!!』

 

『セヤァァァァアッ!!!』

その拳が叩きつけられたキルバスは、地上に向かって一気に落下していく。

「グアァァアアァァアアアアァァアアアァァアアアァァァァァアアァァァアアア!?!?」

キルバスが叩きつけられた場所では、何重にも出来た大きなクレーターが出来ていた。

その中心で、キルバスは、ボロボロの状態で倒れていた。

「ぐあ・・・ぁ・・・何故だ・・・」

どうにか立ち上がろうとするも、すでにその体はボロボロ。もはやまともに立ち上がれる状態ではない。

「人間・・・・如きにィィ・・・・!!」

そこへクローズが着地する。

そして、すかさずボルテックレバーを回す。

 

クローズサイドッ!!』『エボルサイドッ!!』

 

ダブルサイドッ!!!』

 

『Ready Go!』

 

クローズが、飛び上がる。

その右脚に、青と赤の炎を纏わせて、一気にキルバスへと突き進む。

「ウオリヤァァァァアアァァアァアアァァァアアァァアアアアア!!!」

そして、その右脚を突き出し、ボロボロで立つのがやっとなキルバスに叩きつける。

 

前に突き進む勇気を、自分を愛してくれた人の想いを、そして、愛と平和の為の正義を込めて―――

 

クローズは今、撃ち貫く。

 

凄まじいまでの衝撃波が迸り、クローズは、その一撃が発する推進力のままにキルバスを押し込んでいく。

その最中で、キルバスは見た。

 

クローズエボルが、二人の、仮面ライダーの影を映しながら絶叫している事を―――。

 

その影の片方―――己が弟である、エボルトが、キルバスに告げる。

『まだ分かんないかァ?』

その言動は、キルバスを完全に小馬鹿にしたようなものであり、

 

『人間だからお前を倒せたんだよ。チャオ~♪』

 

いつもの別れの言葉の言葉と共に、クローズエボルの必殺技が、キルバスに炸裂する。

 

 

マッスルギャラクシーフィニッシュッ!!!』

 

 

究極の一撃へと昇華した必殺のライダーキックがキルバスを吹き飛ばす。

そして、壁に叩きつけられたキルバスは―――――跡形もなく消し飛んだ。

 

 

 

 

 

 

キルバスが消滅し、そして、キルバスが持っていた白いパンドラパネルの箱は、自ら勝手にパンドラボックスの元へ戻り、そして元のパネルに戻り、そのまま欠けていた面の位置へ戻ったと思ったら、それ以外のパネルが消滅。

白いパネルだけがそこへ落ち、やがて、変わってしまっていた地形は、何もかも元通りになる。

しかし、ただ一つだけ、元に戻らないものがあった。

「クリスちゃん・・・クリスちゃん!!」

キルバスから致命傷ともとれる一撃を喰らったクリスが、未だ目覚めない。

「頼む・・・目を開けてくれ、雪音ぇ!」

響と翼が必至に呼びかけるも、クリスに返事はない。

その様子を、一海と幻徳は黙って見ている事しか出来ず、由衣も、ただクリスを抱えてその体温が奪われていく様を見ている事しか出来ない。

「クリス!!」

そこへ、変身を解除した龍我が駆け寄り、由衣からクリスを受け取り、そしてその体を揺らして呼びかける。

「おい!目ェ覚ませよ!お前、自分だけ気持ち伝えて勝手に行くなんて、卑怯すぎるだろ!」

「そうだよクリスちゃん。ちゃんと、龍我さんの気持ちも聞かなきゃだめだよ!こんな、こんな所で死ぬなんて・・・絶対にダメだよ!」

響がクリスに必死に呼びかける。しかし、クリスは目を覚ます事はない。

今、弦十郎が医療班を現場へ送っているだろうが、それでも間に合うかどうかは分からない。

もしかしたら、このまま―――

「ちくしょう・・・」

龍我が、クリスを抱き締める。

「俺は・・・また間に合わねえのか・・・!!」

そう、後悔の言葉を呟いた―――その時だった。

 

『・・・・あァー、これじゃあ折角の勝利ムードが台無しじゃねェかァ』

 

龍我の頭の中に、そのような声が聞こえた瞬間、突如として龍我が跳ねるように顔を上げる。

そして次の瞬間、龍我の手がクリスの腹を鷲掴む。

その瞬間、クリスの体が一度、大きく跳ね、そして、その体にうっすらと無数の赤い基盤のようなラインが走ったかと思いきや、すぐさま消える。

そして、赤いラインが消えるのと同時に、龍我の体の中から、赤い液体が溢れ出て、それがやがて、人の形を―――否、人型の怪人へと姿を変える。

 

それが、エボルトの本来の姿。ブラッド族としての彼の本当の姿。

 

「エボルトさん・・・?」

響が、背中を向けるエボルトの方を見る。

そして、先ほどまでエボルトに体を操られていた龍我は、同じ遺伝子を持つからこそ理解していた。

「エボルト・・・なんで・・・」

「そいつにはあらかじめオレの遺伝子を忍び込ませておいててなァ。昨日オレが吸収された時に司令塔を失って体中に拡散しちまってたのを集めて、潰された内臓を補強しておいた。若干、ハザードレベルが上がって、オレの遺伝子が体に馴染んでるかもしれねえが、これで命に別状はないだろォ」

エボルトはそう説明する。

「それじゃあ、クリスちゃんは・・・!」

「ただし、あくまで応急処置。他の怪我はそっちでどうにかしろ」

「ありがとうございます!」

響は、立ち上がって、深くお辞儀をする。

「どういうつもりだ?」

一方の龍我は、クリスを抱えたまま立ち上がる。

「ナニ、安心しろ。どういう訳かソイツだけは乗っ取れない。だからソイツがお前たちを裏切るような事は・・・」

「そうじゃねえ!・・・なんで助けた?」

人類を滅ぼそうとしていた存在が、何故クリスを助けたのか。

その点が、龍我には分からなかった。

自分たちの、敵だった筈なのに。

「・・・さあなァ」

しかし、エボルトはそう答える。

「しばらくこの星を離れる。また力を蓄えたら戻ってくるよ」

そしてそう言って、エボルトは龍我たちの方を向く。

「それまでしばしの別れだ」

「はい!お元気で!」

「・・・やっぱ変わってんなァお前」

響の想定外な言葉に、エボルトはほくそ笑む。

「え?そうですか?」

響は首を傾げるだけだ。

だが、今はその事はどうでもいいだろう。

「チャオ~♪」

エボルトは、彼らにそう挨拶し、その身を液状化させて、天高く飛んでいく。

「・・・二度と戻ってくんじゃねえ」

「ええ~!?なんでですか!?」

「~・・・いいか?アイツは思っている以上に悪い奴なんだぞ?」

「でもクリスちゃんを助けてくれました!」

「それはアイツの計画の一部に決まってんだろ。きっと何かクリスに仕掛けたに違いねえ」

「いくらなんでもそれはないと思いますよ?」

「なんでそう言えるんだよ?」

「だって・・・」

響は、エボルトが消えていった空を見上げる。

「エボルトさん、さっき『人間だからお前を倒せたんだよ』って言ってました。それって、人間を認めたって事じゃないですか?」

「・・・・」

なんとも、響らしい考え方だ。

人の良い面をよく見ている。

まあ、あの男の場合は、良い面も悪い面の一部なのだが。

「少なくとも、私はそう思うんです」

「立花らしいな」

「・・・やっぱこいつ天性の馬鹿だろ?」

「言ってやるなまだ高校生だ」

「カズミンさん酷いです!」

わーぎゃーと騒ぎだす響と一海。そしてそれを呆れ気味に眺める翼と幻徳。

そんな様子を、龍我はふっと笑う。

「万丈」

そんな中で、由衣が龍我に声をかける。

「おう由衣」

「ありがとう。さっきは助けてくれて」

「・・・おう!」

由衣は、微笑んで礼を言う。

そして、その視線を、龍我に抱えられている眠ったままのクリスへと向けられる。

「・・・その子、大事にしなさいよ」

「・・・おう」

由衣は、含みある笑顔でそう言い、龍我は、それをなんとなく察して頷く。

しかし、それをいつの間にか見ていた外野は―――

「なんというか、すげえよなあのガキ。あんな土壇場で告白するなんてよ」

「ですよねぇ・・・」

「これが恋する乙女の底力、というものなのだろうな」

「うむ・・・」

「・・・ん?幻徳さんなんで脱いで・・・ぶっアハハハハ!!」

幻徳を見て突如として笑い出す響。

「む?どうした立花・・・ッ!?」

そしてそれを見て幻徳を見た翼は、それを見て絶句する。

幻徳が、どういう訳か上に来ていたジャケットのファスナーを下ろし、下に着ているTシャツを晒していたのだ。

そのシャツに書かれていたのはこれだ。

 

   右

   に

   同

   じ

   ←

 

 

「・・・あー、氷室首相補佐官」

「む?なんだ?」

「・・・・何故、一番右なのにそのTシャツを・・・」

そう、幻徳は今、一番右にいるのだ。

だから、そのTシャツは本来なら、自らが誰かよりも左にいなければ使えないものであり、ある意味全く的外れな事なのだ。

「・・・・」

それを指摘された幻徳は―――何事もなかったかのように左に移動した。

「いや使いこなせねえなら使うなよ」

「えっと・・・それは一体どういう・・・」

「あ、それが絶望センスの由来ですか!」

「誰もこのセンスを理解してくれんのだ・・・!」

「ああ・・・はい・・・それは・・・」

拳を握り締めて血の涙を流す幻徳の様子に、翼はそれ以上何も言えなくなる。

「皆~」

「あ、紗羽さん」

「もう酷い目に遭ったわよ~。車は壊されるし頭ぶつけて気絶するし。なんでエアバック開いてくれなかったの・・・ついでにもう全部終わってるみたいだし・・・ん?あの三人何かあったの」

「まあ、それはこれから分かりますよ」

遠くで、多くのサイレンが聞こえてくる。

おそらく、二課の救急隊員たちの乗る車両のサイレンだろう。

そのサイレンを聞き入れつつ、彼らは、クリスを抱える龍我を見守り――――

 

 

 

―――そして、戦いは終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後―――

戦兎、セレナはとある発明品の開発に勤しんでいた。

「戦兎、入るぞ」

「また発明?」

そんな中で、翼と美空が戦兎の家に入ってくる。

「あ、翼さん、美空さん!」

「ご飯持ってきたよ」

「さんきゅー」

呆れ気味ながらも昼飯を持ってきてくれた美空に礼を言う戦兎。

「むう・・・」

そんな中で翼は美空の弁当を注視する。

「ん?・・・ああ、はっは~ん」

そんな翼の視線に気付き、美空はふっと笑みを浮かべる。

「今度料理教えてあげようか?」

「い、いいのか!?」

「いいわよ。これで私の負担も減るもんだし」

「おお・・・・あ、でも仕事が・・・」

「ああ、そういえば海外進出に向けての準備があるんだっけ」

それじゃあ仕方がない、と納得し、弁当の中身を取り出しつつ、美空はある事を話しだす。

「由衣さんから聞いた。ビルドが昏睡状態だった子供たちを救ってくれたって」

そう、旧世界における実験で、意識不明となっていた子供たちを、戦兎は治したのだ。未だ起動しないジーニアスフルボトルを使って。

「ジーニアスボトルの浄化機能を利用したんだ」

未だ、まともに起動できないとはいえ、浄化機能だけは使えるジーニアスボトル。

その機能を使い、戦兎は子供たちの体内に残っていた汚染物質を全て除去したのだ。

その言葉に、美空、翼、セレナは笑顔を浮かべる。

「やっぱり、仮面ライダーはこの世界にも必要だね」

「ノイズが去った今、仮面ライダーとシンフォギアは災害救助手段となってしまった。しかし、だからこそ我々が存在する意味がある」

「これからも愛と平和のために、ですね」

「・・・ああ」

そんな三人の言葉に、戦兎は頷く。

「あれ?そういえば万丈は?」

「龍我さんなら、クリスさんのお見舞いに行きましたよ。今朝目覚めたそうでして」

「そうなの?じゃあ後で私もいかなくちゃ」

「うむ。それはそれとして、桐生は何を作っているのだ?」

「ん?ああ」

戦兎が作っているものを覗き込む翼と美空。

「『リンク・アニマル』。装者の適合係数を安定させる自立稼働型アイテムだ。これを使えば、LiNKERを使う必要もなくなる・・・!」

「LiNKERを使わずとも・・・まさか、マリアたちの為か?」

「まあ、そんな所だ。アガートラームの修復もひと段落して、今は試作段階だが・・・これから実用段階にまで改良していくつもりだ。凄いでしょ?最っ高でしょ?天っ才でしょ?」

「はいはいスゴイデスネー」

恰好つける戦兎に美空が棒読みでそう返す。

だが、翼にとっては驚愕せざるを得なかった。

 

 

LiNKER無しでギアを纏う事ができる。

 

 

それは即ち、もう奏のようなLiNKERに頼って戦う必要がなくなるという事。

 

もう二度と、あのような惨劇は起きないという事。

 

それを思い出せば、翼は、自ずと笑みがこぼれる。

「本当に、桐生はすごいな」

そんな時だった。

「すみませーん戦兎先生は・・・あ」

そこへ未来がやってくる。

「おお小日向か」

「すみません。お邪魔だったでしょうか?」

「そんな事ねえよ」

「あれ?響さんは?」

「弦十郎さんの所で修業です。キルバス戦で思う所があったみたいで・・・」

「うむ、そう言われてみると私も鍛えねばならんな」

翼は拳を握って見せる。

「さて、と」

「あれ?戦兎先生どこかへ出かけるんですか?」

「ああ、ちょいと未来と用があってな」

「そうなの?」

「ああ」

戦兎はそう答えて立ち上がり、未来の方へ歩き出す。

「そんじゃ、行こうか」

「はい」

戦兎の言葉に未来は頷き、二人は外に出ていく。

「・・・・なんというか」

そんな二人の様子を見送り、翼はふと呟く。

「仲良くなったな・・・」

「ほんと、こんなに多くの女の子たちに囲まれて、幸せ者ねえあの馬鹿は」

「アハハ・・・」

美空の言葉にセレナは苦笑した―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院にて。

「・・・・」

龍我はクリスのいる病室の前で、小さな花束片手に立ち止まっていた。

そして、その前で、かれこれ一時間は突っ立ったままだった。

その理由はただ一つ―――先日のキルバス戦における、あの告白だ。

(なんか気まずい・・・)

クリスの偽り無き想い。それは龍我にだって分かる事。

だけど、だけども、龍我はそれに答えられる自身がなかった。

かつて、香澄を死なせてしまった後ろめたさ故に。

ついで相手は年下。そして戦争を体験してしまっている少女だ。

そんな彼女に、果たして自分は、支えてやることが出来るのか。

それ以前に、まだ香澄の事を拭う事が出来ていない。

一体全体どうすればいいのか。

「・・・だぁっもう!!」

しかし、いくら考えても答えが見つからない為、龍我はそこで思考を中止。

意を決して、扉を開ける。

自動ドアが開き、部屋の中から吹き付けてくる風を感じながら、龍我は病室に踏み込む。

そうして入った先に、彼女はいた。

病衣に身を包み、ベッドから上半身だけを起こし、日差しが差し込む、開いた窓から外を眺める、雪色の髪をした少女を。

その佇まいは、妙に絵になる様子だった。

そんなクリスを、龍我は立ち止まって見ていた。

ふと、彼女が龍我の気配に気付いて、視線を龍我の方へ向ける。

「龍我・・・」

クリスは、ただ一言、龍我の名を呼ぶ。

真っ直ぐ、こちらを見てくる、アメジストの瞳。

その瞳にどきりと心臓を跳ねさせつつも、なんとか平静を装いつつ、龍我は無理に笑顔を作る。

「よ、よお、元気そうじゃねえか」

「おかげさまでな」

クリスはなんでもないかのように答える。

「それで、どうよ?」

龍我が、ベッドの横にある台に花束を置き、椅子に座りつつ尋ねる。

「肝臓を中心に、そこら周辺の遺伝子が他の所と違うらしい。一応、生殖機能に異常は見られないってさ」

「そ、そうか・・・」

(なんでそこをチョイスした・・・!?)

クリスの言葉に、いちいちどぎまぎしてしまう龍我。

「先公の見立てだと、アタシがエボルトの記憶に塗り潰される事はないんだと。アタシはいわゆる『特異体質』らしいからな」

「へえ・・・」

「ついでにアタシのハザードレベルもあがってるらしいから、普通の人間より生身で強くなってるってさ。話には聞いてたけど、やっぱエボルトってすげぇんだな」

「まあな・・・」

ふと、クリスが窓の外を見る。

「なんか、龍我と一緒になっちまったなぁ・・・・」

「・・・・」

と、感慨に浸るクリス。そんなクリスをちらりと見やった龍我だが、ふと、その耳が赤くなっている事に気付く。

「・・・それで、だな」

・・・なんか、声が若干上ずっていたように聞こえたが気のせいだろうか?

そして、クリスは恥ずかしそうに顔を赤くしながら、龍我をちらちらと見ながら、ある事を尋ねる。

「・・・・この間の・・・返事・・・」

「・・・・ッ!?」

それを聞いて、龍我は体の体温が一気に跳ね上がるのを感じた。

「あ、あああえっとそれはその・・・」

思わず取り乱してしまう龍我だが、クリスが心配そうに龍我を見つめてくる。

そんなクリスの様子に、龍我は気まずそうに口をつぐみ、頭を何回か掻いた後に、やがて姿勢を整えて、答える。

「・・・正直、俺は香澄の事が忘れられない」

「・・・」

「お前の事は、嫌いなわけじゃねえ。むしろ、女として見てるつもり・・・いや、確かにお前の事を、一人の女として見てた。お前と一緒にいる事が、香澄と一緒にいる時ぐらい、楽しいって思えた。それでも俺は、香澄の事を忘れられない。たぶん、俺はお前と香澄を重ねちまう。それが、凄く申し訳ねえんだ」

龍我は、正直に自分の気持ちを明かす。

「また、お前を香澄と同じように死なせちまうかもしれねえ・・・それが、俺はどうしようもなく怖いんだ」

大切な人の命が、自分の腕の中で消える。

その時程、辛くて、悲しかった事はない。

そんな想いを二度としたくない。

「だから、すまねえ・・・」

龍我は、そう言って頭を下げる。

そして、次の来る、クリスの返答を待った。

罵倒か、呆れか。いずれにしても、気分の良い言葉ではないだろう。

龍我は、その時を、頭を下げながら待つ。

「・・・分かった」

ふと、クリスからそんな言葉が聞こえる。

その言葉に、龍我は少し顔を上げる。

「だったら、とりあえずアタシと付き合え」

と、次の瞬間、まさかの言葉が飛んできた。

しばしフリーズ。

「・・・・ハアッ!?」

そして数秒待ってやっと理解した所で素っ頓狂な声を挙げる龍我。

「龍我の気持ちは良~く分かった。だから、とりあえずアタシと付き合え」

「いや待てなんでそうなる!?」

クリスの滅茶苦茶な提案に龍我は思わず叫んでしまう。

しかし、そんな龍我の顔の前に、クリスは人差し指を突きつける。

「アタシが、そう簡単に死ぬようなやわな奴に見えるかよ?」

そう、不敵に笑って見せるクリス。

「確かに、龍我にとって、香澄は忘れられない人だと思う。だけど、その逆も然りだ。きっと、うじうじしてる龍我の事を心配していつまでも成仏できないでいるかもしれないな」

「お、おう・・・?」

「だから、アタシが龍我を目一杯幸せにしてやる。誰もが羨ましがるぐらい幸せにして、香澄さんが安心して成仏できるようにしてやる!だからとりあえずアタシと付き合え」

なんてめちゃくちゃな。というか、新世界創造の際にほとんどの人間が生き返っているのだから成仏というのはおかしな話なのだが。

「お前・・・馬鹿なのか?」

「筋肉馬鹿の龍我には言われたくねえな」

龍我の言葉に、そう軽く返して見せるクリス。

そんなクリスが、ふと両手を組んで、語り出す。

「龍我の香澄は、前の世界で死んだ。今この世界で生きてる香澄は、この世界の龍我のもので、アタシの目の前にいる龍我のものじゃない・・・だから、アタシが龍我を幸せにする」

クリスは、確かな覚悟をもって、そう言った。

「他の誰でもない。アタシが龍我に幸せにするんだ。アタシは龍我が好きだから、龍我の幸せを独り占めしたいんだ。だから、アタシは龍我と付き合う」

他の誰にも譲らない。龍我の幸せを、自分が作って見せる。そうしてみせる。

「だから、アタシと付き合え。龍我」

「あくまで命令口調なのな・・・」

なんと強引な事か。しかし、意外と、悪くない気がする。

「当然」

ふんす、と胸を張って言ってのけるクリスに、龍我はふっと吹き出す。

「分かった。俺の負けだ」

そう言って、龍我はクリスの手を取る。

それに、クリスは少し顔を赤くする。

「幸せに出来る者ならやってみろ」

龍我は、その『挑戦』を受けて立つ。

その言葉に、クリスは同じ様に笑い、

「上等だ。絶対に龍我を誰よりも幸せにしてやる」

その笑顔は、誰よりも嬉しそうな笑顔だった――――




次回の愛和創造シンフォギア・ビルドは『創造しない』!

何話かに分けて一度に投稿ですのでお楽しみに!

ついで現在のキャラ設定も投稿しちゃいます!

ですので楽しみにしてください!

ではまた次回で!


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創造しない G編

戦「俺、復活!」
翼「復帰だろう」
響「しばらく前書きでの登場はなかったけど、やっと戻ってきたぞー!」
未「今回は先週休んでしまったお詫びとして、速めに投稿!」
ク「んでもって、最近流行ってるあの病原体によってマジェスティが見れない事に対する八つ当たりと現在進行形で戦ってる人たちを元気づける事を目的として投稿している」
セ「せめて、少しでも闘病の活力になってくれることを祈ります」
龍「んでもって、一気にまとめて投稿だ。他にも何話かあるから、ダイレクトに見に来ている奴はまず目次を見る事をお勧めするぜ」
戦「じゃ、そういうわけで、創造しないシンフォギア・ビルド、その第一部をどうぞ!」


―――ケータリング―――

 

マ「ケータリングぅ!」

シ「ここぞとばかりに食いつくな」

マ「当然よ!マムはお肉ばっか食べるし、ドクターはおかししか食べないし、調は食べる量が少なくて、切歌はもう少し野菜食べさせるべき、まともに食べるのは慧介ぐらいよ!」

シ「それは否定しないが・・・おい、待て、いくらなんでもタッパーの量が多いぞ!?全て持っていく気か!?」

マ「当然!ここで取らなきゃ絶対に後悔するわ!」

シ「ケータリング如きで本気になり過ぎだ!?」

マ「貴方は食べなさすぎるのよ!いくらまだ少年兵時代の名残が残っているからってレーションばかり食べて!少食は体力の低下につながるわ!もしもの時に動けなかったどうするのよ!」

シ「ぬぐ・・・それを言われると何も言い返せん・・・」

マ「でしょ!だから持つのはお願いね。私のマネージャーさん!」

シ「ああ・・・」

シ(マリアがアイドルやってて良かったと思えるのは、ケータリングが充実している現場に巡り合えた時だったりする・・・)

 

 

 

―――SAKIMORIとNINJA―――

 

翼の楽屋に突入した後の事。

 

マ「あれが、その筋では有名なSAKIMORIとNINJA・・・!間近で見たらなんて迫力・・・!」

シ「いつもの事だが、たかだか高級食材食ってテンションがハイになっていたからといって、この落差はないだろう・・・」

マ「あんなのとやり合わないといけないなんて・・・無理よマム!」

シ「おい。こんな所で任務放棄するとか言わないよな?」

マ「いくらその気になれたからって、それでどうにかなったら誰も苦労しないわよぉ!・・・へっくち!」

シ「あ」

マ「うわぁぁああ!どこかで私の悪口がまかり通っているぅ!」

シ「安心しろ!してるとすれば米国政府の連中だけだ!だから気をしっかりもてマリアー!」

 

 

 

 

―――F.I.S決起から数日後―――

 

 

戦「なーんであそこで右に曲がっちまったんだ俺・・・というか挟み撃ちなんて反則だろ。普通逃げられねえだろあんな感じ挟まれたら・・・」

翼「戦兎もお疲れ様だな。だが終盤まで生き残れたんだから良かったんじゃないか。私なんて、一次予選も突破できなかったんだから・・・」

戦「ていうかお前、なんであそこで常在戦場だなんて答えたんだ。断捨離だろあれは」

翼「聞いたことないんだから仕方がないだろう!」

戦「もう少し考えろ馬鹿野郎!」

翼「あうち!」

緒「大変です二人とも!」眼鏡かけた状態

戦「うお緒川!?」

翼「安心してください!フィーネが現れたテロ集団が現れた今、かかる危難は全て、防人の刀で払って見せます!さあ!事件の詳細を―――」

戦「また次の仕事もってきたのかよもう勘弁してくれ!」

翼「何を言うか桐生!今私たちが立ち上がらずして、いつ立ち上がるというのか!?」

戦「そうじゃねーよ緒川の顔を見ろ眼鏡かけてんだろうが!」

翼「へ?」

緒「はい。大変なのは、テレビの出演依頼です。先日の翼が出演したクイズ番組と、戦兎さんが出演したサスペンス番組の放映直後からバラエティのオファーが殺到してるんです」

翼「どうして、こんなことに・・・」

戦「いやなんでだよ!?」

緒「常々思っていたんですが、翼さんや戦兎さんのキャラって、バラエティ向けなんですよ。この際に、プロモーションの方向性を一考してみてもいいかもしれませんね」

翼「あ、あの?緒川さん・・・?」

緒「海外で体を張った無体なチャレンジ系はもちろんのこと、ステージ感がいいですから、コントとかもいけそうですよね。あと、防人クッキングで見事な包丁捌きを披露するのも―――」

翼「決別だ、歌女であった私に・・・」

戦「俺の平穏の日々がぁぁぁあ!!」

 

 

 

 

―――逃亡生活中のお食事事情―――

 

調「おさーんどん、おさーんどーん・・・」

慧「おっす調」

切「調ー!」

調「あ、慧くん、切ちゃん」

慧「飯の方はどうなってる?」

調「ばっちり」

切「おお!今夜はご馳走なのデス!」

慧「ご馳走?・・・いや、まあ料理担当は調だからな・・・あ、それならちょっと俺に味見をさせてくれ」調が片手にもってた小皿をとる。

調「あ・・・!?」

慧「ん・・・うん、いい味出てる」

調「そ、そうかな?・・・」慧介から小皿を返してもらう

慧「・・・ん?どうした?」

切「調?」

調「な、なんでもない・・・」

慧「お前も味見してみたらどうよ?」

調「え?あ、うん・・・」

切「どうしたデスか?しないならアタシが味見を・・・」

調「だ、だめ!」

慧切「え?」

調「お、お料理はもうすぐ出来るから、部屋で待ってて!」

慧「お、おう・・・」

切「分かったのデス・・・」

慧介、切歌、退出。

調「・・・・慧くんの、馬鹿・・・」

 

 

 

 

―――セレナが目覚めて数日―――

 

 

セ(私の名前はセレナ・・・とは言っても、これは戦兎っていう人が名付けてくれた名前で、本当の名前を私は知らない・・・なんでも、私に関する個人情報がなかったていうから、私が誰なのかを特定することはできないって話だったけど、正直不安しかない・・・)

響「やっほーセレナちゃん!」

セ「あ、響さん、それに未来さん、戦兎さんも」

未「調子はどう?」

セ「おかげ様で・・・」

戦「もうすぐしたら退院だな。お前の身柄はしばらく二課に預けられることになるから、まあそれなりに不自由はないと思うぞ」

セ「何からなにまですみません。住む家だけでなく、学び舎にまで通わせてもらえるなんて・・・」

響「クリスちゃんと同じクラスなんだよね?」

セ「便宜上は、ですけどね」

未「ついでに戦兎先生の養子、という事にもなってるからね」

戦「身元引受先になっただけだっての。まあ家は別々だから同じ屋根の下で寝るっていう事にはならねえけど」

セ「そういえば、一つ気になっている事があるんですけど・・・」

戦「ん?なんだ?」

セ「龍我さんがこの間お見舞いに来てくれた時に話してくれたんですけど、仮面ライダーとシンフォギアっていうものがあるそうですね」

一同「・・・・」

セ「ん?どうかしましたか?」

戦「・・・どっからどこまで聞いた?」

セ「えーっと・・・仮面ライダーとシンフォギアが二課固有の戦力という所までですけど・・・」

戦「ごめんちょっと万丈の所に行ってくるわ。んでもって風鳴さんにちょっと報告してくるわ」

響「あ、はい・・・・」

セ「?」

 

 

 

 

―――タスクの問題解決した後―――

 

慧「そういえば、一つお伺いしたい事があったんですけど」

龍「ん?なんだよ?」

慧「調って無事ですか?」

翼「あの装者のことか。今は私たちの仲間と共に、この船を止める為に動いてくれている」

慧「結局動いたのか・・・」

ク「大方あのバカにそそのかされたんだろ」

慧「バカ?」

翼「雪音は恥ずかしがり屋でな、人の名前の事を素直に呼ぶことが出来ないのだ」

龍「呼べるのは俺だけだな」

ク「うるっせえ!な、名前を呼ぶのは、その、えっと・・・どうでもいいだろ!」

慧「あれ?見た目に違わず結構可愛い・・・?」

ク「どういう意味だそれ!?」

翼「だろう?」

 

 

調「なんだろう、何やら嫌な予感が・・・」

切「あ、アレー!?なんかギアの出力が上がっているように感じるのデスがー!?」

 

 

 

 

 

―――事変収束後―――

 

マ「・・・・つん」

ウル「バル?」

マ「・・・・つんつん」

ウル「バ、バル!?」

マ「・・・・つんつんつん」

ウル「バルルル!!」

マ「・・・・ふふ」

シ「何をしているんだマリア?」

マ「うわぁあああ!?」

シ「うお!?どうした突然」

マ「な、ななななんでもないわ!た、ただウルフと遊んでいただけよ!」

シ「そうか・・・しかし、こうしてみると、とても機械とは思えんな。思考パターンをクローズドラゴンをベースにしているとは言え、こうも動物らしくなるものなのか・・・?」

マ「当初はここまで動物らしい動きは見せなかったそうよ」

シ「ただ、クローズドラゴンを比べると、やはりこちらは機械であることに納得してしまう部分があるな・・・」

マ「それは何故?」

シ「あちらは小日向未来に異常な程に懐いており、自ら動物らしく動いているが、こっちはやや決まったパターンを繰り返しているように見える。学習はしているようだが、それでも、決められた思考パターンを繰り返しているように見える」

マ「へえ・・・一体何が違うのかしら?」

シ「さあな・・・今度、桐生戦兎たちの持つ秘密について教えてくれるそうだが、それを聞けば何か分かるかもしれない」

マ「そうね・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――旧世界(インF.I.S)―――

 

F.I.S組「「「ハザードレベル7・・・」」」

マ「しかもエボルトとかいうとんでもない地球外生命体と戦っていたなんて・・・」

シ「そもそも勝つなんて思う方が悪かった訳か・・・」

ク「ふっふ~ん!どーだ!」

響「なんでクリスちゃんが威張ってるの?」

未「しっ!龍我さんと晴れて恋人同士になれたから、色々と浮足立ってるんだよ」

調「・・・ずるい」

慧「え?何が?」

調「そんな単純な数値で慧くんが負けたなんて嫌」

龍「なんだただのノロケか」

慧「の、ノロ―――ッ!?」

調「べ、別にそんなんじゃ・・・」

戦「そんな顔を真っ赤にしてたら説得力ないっての。まあ、なんだ本当に色々あったんだよ」

切「それに、他にも仮面ライダーもいたんデスねぇ・・・」

マ「それについても驚きよね・・・」

戦「そういえば、シン、慧介。この間、キルバスがパンドラボックスを復活させたって話をしたよな?記憶の方はどうだった?」

シ「ああ。俺は旧世界の事を思い出した。どうやらどこまで行っても俺は軍人らしい」

慧「俺は何も・・・」

龍「え?そうなのか?」

翼「私たちは人体実験を受けていないからなんとも言えんが・・・記憶を思い出すのには個人差があると言う事か?」

セ「そういう事なんでしょうね」

シ「ジェームズ博士はろくでなしではあったが、人体実験で遺伝子操作の実験をしてくれなければ、今頃こうして皆と笑い合ってはいなかっただろう」

戦「それもそうだな」

警備員「そろそろ時間だ」

切「おっと、もう時間デスか」

調「早いね・・・」

セ「また今度会えますよ。ですからその時まで」

マ「そうね・・・また会いましょう」

龍「おう」

翼「今度会う時は、カラオケにでも行こうか?」

ク「そりゃあ良い!あの時の勝負の決着がついていないからな」

調「望む所」

切「絶対に勝つデース!」

戦「そんじゃ、またな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――観戦―――

 

仮面ライダー、装者、キルバスと対峙

マ「あれがキルバス・・・地球外生命体・・・」

切「まさか宇宙人が攻めてくるなんて驚きなのデス」

調「大丈夫かな・・・」

慧「大丈夫だって!他二人のライダーは知らないけど、何せ龍我さんがいる訳だし・・・」

シ「地球外生命体・・・どれほどの強さなのか、見せてもらおうか・・・・」

 

キルバス、擬態スマッシュを召喚

慧「スマッシュを作り出したぞ!?」

調「分身・・・かな・・・?」

 

 

キルバス、龍クリを蹂躙

シ「万丈龍我と雪音クリスが一緒になっても敵わないとは・・・!?」

切「シンフォギアをああもやすやすと・・・」

 

 

エボルト登場

マ「あれがもう一人の地球外生命体エボルト・・・」

シ「これで状況が好転してくれればいいが・・・」

 

 

キルバス、やっぱり圧倒

シ「やはりだめか・・・」

慧「どうすんだよ!?このままじゃあの人たちやられちゃうぞ!?」

 

 

グリス、ローグ、響、翼、変身解除

調「シンフォギアが・・・!」

切「解除されちゃったのデス・・・!」

マ「まずい、このままでは、奴に地球どころか宇宙そのものが破壊されてしまうわ!」

慧「くっ、俺たちも今すぐ加勢に・・・」

シ「だめだ!」

一同「ッ!?」

シ「・・・今更行った所で、俺たちが勝てる保証はないし、そもそもここから出る事も許されない・・・今は、ここで見ていろ」

一同「・・・」

切「・・・・ん?クリスさん?」

調「まさか、一人でキルバスに・・・って、え」

慧「こ、これは・・・!?」

マ「この土壇場で告白ぅ!?」

シ「・・・・」(あ、これ何かの・・・ふらぐって奴か?とにかく不吉な予感しかしない)

 

 

クリス、致命傷

調「クリスさんが・・・!」

切「大変です・・・!」

シ「あれは内臓のどこかが破裂したな、すぐに処置をしないと確実に死ぬぞ!」

 

 

クローズエボル変身

慧「あれが、仮面ライダー・・・クローズエボル」

マ「お願い、どうか、彼らに奇跡を・・・!」

 

 

激闘クローズVSキルバス

慧「まだだ!まだあんたならいけるだろう!」

切「頑張るのデス!くじけちゃダメなのです!」

調「そんな奴、貴方の敵ではない筈!だから負けないで!」

シ「ここが踏ん張りどころだ・・・打ち砕いて見せろ、万丈龍我!」

マ「貴方の想いを、あの子から貰った、想いと一緒に!その拳に込めて・・・!」

 

 

キルバス撃破

切「やった!やったデスよ調!」

調「キルバスに勝った!」

慧「いよっしゃぁ!」

 

 

クリス治療

マ「嘘でしょ、内臓を補強するって、どんだけなの・・・」

シ「改めて宇宙人だな、あのエボルトという奴は・・・」

 

 

状況終了

切「いやー、一時はどうなることかと思ったデスよ」

慧「エボルトがいなければどうなっていたことか・・・」

調「今回ばかりは感謝しないとね・・・でも戦兎さんたちの話を聞くと・・・」

シ「いつ戻ってくるか分からない以上、警戒するにこしたことはない。今後とも、鍛錬をしなければな」

マ「ええ。マムが救ったこの世界を守る・・・それが、生き残った私たちの使命だ」

 

 

 

 

―――克服―――

 

慧「死にたい・・・」

調「い、いきなりどうしたの慧くん・・・?」

慧「俺は調や切歌を傷つけた!いくらスクラッシュドライバーの影響とはいえ、調を泣かせたの事実だ!いっその事ナイアガラの滝の濁流に飲み込まれて溺死したい・・・」

調「だ、大丈夫だよ!私は気にしてないから・・・」

切「そういえば気になったんデスが、一体全体どうやって暴走を克服したんデスか?」

慧「え?どうって言われても・・・」

調「クローズ・・・龍我さんに手伝ってもらったって感じかな・・・」

切「一体どうな風にデスか?」

マ「あ、それは私も聞きたかったわ。あの時は神獣鏡のエネルギーを集めるのに手一杯だったから」

シ「俺も立花響と小日向未来の戦いに見入っていたから見ていないな・・・」

調「なんというか・・・クローズに殺され掛けた?」

三人「「「え」」」

慧「いやぁ、アレはマジで殺る気の眼だったよ。それを見た途端、なんというか・・・水をぶっかけられたように頭が冷えて言ったな」

調「それで、慧くんが全力になって止めてくれて・・・あの時の慧くんは本当に格好良かったな」

慧「やめろよ恥ずかしい・・・」

調「そんな。あの時の慧くんはビデオにとって保存しておきたいぐらいなのに・・・はっ!あの先生に作ってもらえば、脳の中の映像を読み取って再生する事も・・・」

慧「作らせないからな!?」

切「・・・なんというか、なんか口の中が甘い気が・・・」

マ「ようは・・・愛ね!」

シ「何故そこで愛!?」

 

 

 

 

 

 

―――フィーネの研究記録(データ)―――

 

 

戦「・・・」

美「ん?それは?」

戦「了子さん・・・二課の技術担当だった人の研究データだよ」

美「だったって事は・・・その人は・・・」

戦「ああ・・・」

紗「櫻井了子。特異災害対策機動部二課の元技術主任の事ね」

戦「うお!?紗羽さん!?いたんだ・・・」

紗「まあね。そろそろ翼さんが海外進出も近いから、今の内に外堀埋めて独占取材してもらおうかなと思って・・・」

美「完全に記者の仕事が板についてきてますね・・・」

紗「まあね。それで?それを解析して何をしようっていうのかしら?」

戦「全世界の研究機関に、『櫻井理論』が公開されたのは知ってるよな?これはその一部。解明されていない部分のおおよそ七割は解明出来てるぜ。流石俺」

美「はいはいスゴイデスネー。で?それには一体何が書いてあるの?」

戦「まあ大体はシンフォギアの事についてだな。シンフォギアの製造方法、メンテナンス方法、改修案、その種類・・・フロンティア事変(あのとき)はまだここまで行けてなかったから、神獣鏡の事は知らなかったが、これを解明する事で、まだ試作段階の『リンク・アニマル』の完成に一歩近づけると思うんだ。ただなぁ・・・」

美「え?何か問題があるの?」

戦「問題は、どうやって薬品の効果を機械的に再現するかだ。わずかに残ってたLiNKERの解析もまだ途中で、今のところ難航してる所だ」

美「ふーん・・・まあ、戦兎の事だから、悪用しないと思うけど、くれぐれも無理はしないでよね」

戦「おう」

紗「それじゃ、私はこれから二課に突入して緒川さんに予約とってくるから。今度こそ捕まえてやるわよ忍者ー!」

美「私も、店の手伝いがあるから」

戦「おう。それじゃあな」

 

 

 

 

 

―――バラエティ 翼の場合―――

 

司会『話題の片づけ術で、ときめき収納法という―――』

翼『今度こそ断捨離!』

ブブー!

翼『くっ、なんのつもりの当てこすりだ・・・』

響「こうしてみると、翼さんって、やっぱり翼さんだよね」

ク「ん、ほうだな」みかんもぐもぐ

龍「だんしゃりってなんだ?」

未「三人とも、翼さんに怒られるわよ!」

 

 

―――バラエティ 戦兎の場合―――

 

戦『はあ?このタイミングでミッションだぁ?えーっと・・・はあ!?賞金リセット!?ざっけんなここまで来て賞金六万なんてここまで逃げ切ってきた意味ないだろ!?』なお、ほとんどのミッションを単独クリア中

戦『まぇてゴルァ!賞金の為だここで捕まえてやるぞオラぁぁあ!!』

響「こうしてみると、戦兎先生って、やっぱり戦兎先生だよね」

龍「まあなぁ・・・」

ク「こんな金の亡者だったかあの先公」

未「もう、だから怒られるよ三人とも」

 

 

 

 

 

―――見舞いの品―――

 

F.I.S子供組「おおー!」

響「今年度から同じ学校だね、調ちゃん、切歌ちゃん」

戦「ただし、慧介は近場の学校だ。何せリディアンは女子校だからな」

調「がーん・・・」

慧「まあ仕方がないか・・・」

シ「どれどれ・・・ふむ、ドーナツか。それとこれは・・・プロテイン?」

龍「それは俺だ」

マ「何故プロテイン・・・」

切「それとこれは・・・教科書とドリル・・・デスか?」

戦「お前らの学力がどれほどのものか知らないが、セレナの話だと学力はそんなでもないらしいな。だからこれは俺の教師としての宿題だ」

切「そんな!?シンフォギア装者なのにデスか!?」

慧「いや切歌、俺たちが戻ろうとしてる日常では当たり前、というかシンフォギア装者でも学力は必要だよ・・・」

セ「私からは歴史書です」

調「セレナからも、宿題・・・」

セ「これは漫画ですので、それなりに楽しめると思いますよ?」

慧「漫画ぁ!」

シ「慧介が喰いついた・・・」

未「えーっとあとは・・・一海さんからは、農場でとれたお野菜で、幻徳さんからは・・・文字ティー?」

龍「幻さんそんなもん入れてたのかよ」

翼「しかも記載されている文字が『親しみやすさ』って・・・」

ク「ださいな」

慧「え?ださいってどこがですか?」

一同「え」

慧「いやー日本の文化ってすごいですね。Tシャツに文字だけをいれるなんて」

調「気に入ってる・・・・」

龍「なあ?どっかズレてないかこいつ・・・」

戦「知らないよ!」

翼「それにしてもみんな・・・丸くなったな」

F.I.S組「ッ!?」

響「ちょっ、翼さん!?」

切「い、いきなり何を言い出すデスか・・・」

調「ごはんが以前より充実しているからって、ありえないし・・・」

翼「む、みなの印象を言ったまでだが・・・」

龍「え?なんだ一体どういう事だ?」

戦「見た目が『丸く』なったじゃなくて性格が『丸く』なったって言いたいんだろ・・・」

慧「ああ、なるほどそういう・・・」

マ「天然でこの切れ味・・・」

翼「特にマリアが丸くなったな」

マ「ッ!?この剣、可愛くない・・・!」

 

 

 

 

 

―――もしも有名人が自分の店を訪ねてきたら―――

 

マ「戦兎」

戦「ん?どうしたマリア」

マ「何か、お茶するのにいい店はないかしら?」

戦「お茶?まあコーヒーが上手い店は知っているが」

マ「OK。じゃあそこに案内してくれない?」

戦「別にいいが・・・シンはどうした?」

マ「シンは緒川さんと話があるらしくて」

戦「そうか・・・分かった。行こうか」

マ「ふふ、翼には悪い事をするわね」

戦「何の話だ?」

マ「別に♪」

 

数分後。

 

戦「ここが例のコーヒーが上手い店」

マ「『nascita』・・・ここがそうなのね」現在変装中

戦「入るぞ」

美「いらっしゃいませ・・・あ、戦兎」

戦「なんだそのあからさまながっかり感は・・・」

美「べっつに~・・・それで、後ろの人は?」

戦「ああ、仕事の仲間で名前は・・・」

惣「ちょぉっと待ったァ!」

戦「うわ!?マスター!?」

美「お父さん!?」

惣「このあからさまに漂ってくるオーラ、そして動作に滲み出ている仕草・・・間違いない、貴方はあの」

マ「ストップ。そこまでよ」

惣「あ、はい」ばたん

美「お、お父さぁーん!?」

戦「気絶してやがる・・・」

美「いきなりなんで気絶なんか・・・」

戦「あー・・・美空」

美「ん?何?」

戦「こいつあのポスターの人」

美「こいつって・・・え?ん?え?」ポスターと変装マリアを交互に見る

マ「・・・」サングラス越しに微笑んで見せる

美「・・・」ばたん

戦「み、美空ー!」

モブ1「おい!なんか知らんがマスターと嬢ちゃんが倒れたぞ!?」

モブ2「め、メディーック!」

マ「・・・なんか大騒ぎになっちゃったわね」

戦「そうだな・・・」

 

この後美味しいコーヒーをちゃんと頂きました

 

 

 

 

―――トレーニングマシン―――

 

龍「トレーニングマシン?」

弦「ああ、昔俺が使っていたものでな。今はもう使わないから君にあげようと思うんだ」

龍「マジか!」

響「いいなぁ、私も欲しいなぁ」

弦「響君の場合は未来君が許さないだろう」

響「部屋のスペースがどうしても・・・」

弦「しかし、一つ問題があってな・・・」

りゅうひび「問題?」

弦「実は壊れていてな。修理しないとどうにもならないというか・・・」

龍「だったら―――」

 

 

 

戦「なんで俺がお前の為にトレーニングマシンを直さなきゃいけないんだよ」

弦「頼む戦兎君。これも特訓の為なんだ」

戦「それでなんでアンタが頼んでんだって話だよ・・・はあ・・・別にいいけど」

セ「あ、じゃあ私お手伝いしますね」

戦「頼んだ・・・随分と部品が古いな・・・」

龍「わりぃな」

戦「やれやれ、風鳴さんからの頼みじゃなけりゃやってないぞこんな事」

 

 

 

ク「あれ?これなんだ?」

龍「おっさんから貰ったトレーニングマシン」クリスの料理食べながら

ク「へぇ・・・」

 

 

 

 

―――切歌と三羽ガラス―――

 

 

切「迷ったデス・・・」

黄「ん?どうしたの?」

切「あ、いえお構いなく・・・」

黄「もしかして迷子?」

切「う・・・」

黄「図星だね・・・」

赤「おい黄羽。どうした?」

黄「あ、赤チャン。実は迷子を見つけて」

青「迷子?ほーっ、外国人か?」

切「あ、えーっとそれは・・・そのぉ・・・」

赤「にしては日本語流暢だな。髪染めてんのか?」

切「失礼な!地毛デスよ!これは!」

黄「へえ・・・あ、もし迷子なら、一緒にお母さん探してあげるけど?」

切「アタシはそこまで子供じゃないデスよー!調・・・友達と一緒に来てるデス」

赤「実は俺たちも迷子探しててな。その迷子探すついでにお前の友達も探してやんよ」

切「あ、ありがとうデス!」

青「よーっし、それじゃあ・・・ってカシラいたァ!?」

赤黄「何!?」

切「カシラ?」

一「ん?おうお前ら探しだぞ」

黄「探したぞ、じゃなーい!カシラ方向音痴なんだから勝手にどこかにいかないでよ!」

赤「そもそも俺たち一緒に行動していた筈なのに何勝手にはぐれてるんすか!?」

一「ああ?お前らがはぐれたんだろ?」

青「方向音痴のカシラが言ってもなんの説得力もないですよ!」

切「・・・もしかして、戦兎さんたちが言っていた、三羽ガラスと仮面ライダーグリス?」

猿渡ファームズ「え?戦兎?」

 

 

 

一「なぁーんだお前この間戦兎が言ってたF.I.Sのとこのガキか!」

赤「いやー、話しには聞いてたけど可愛いなお前」

黄「そうそう!」

青「でも金髪なのになんで日本名なんだ?」

切「あー、アタシ、実はあまり記憶なくて、それで預けられた所で名付けられたって感じなんデスよ」

黄「そうだったんだ・・・」

赤「それはなんか、悪いこと聞いたな・・・」

切「ああ、気にしないでほしいのデス!過去の事を忘れても、今はとっても楽しいんデスから」

一「そうか。ま、本人が楽しんでんならそれでいい」

調「切ちゃん!」

慧「切歌!大丈夫か!?」

切「あ!調に慧介!」

調「切ちゃんに手を出さないで!」

慧「やるなら俺が相手になるぞ」

赤「ああ?なんだこいつら」

黄「赤チャン、きっとナンパか何かって思われてるんだよ」

青「失礼な。そもそもこんな子供相手にナンパなんてするかよ」

調「誰が子供体形・・・?」

青「誰もそんな事言ってねーだろ!?」

切「ああ!調、慧介!落ち着くデスよー!」

 

~数分後~

 

けいしら「すいませんでした」

一「気にすんなよ。あ、そうだ。俺たち今からこの先にある喫茶店に行くんだ。良かったら奢ってやるぞ」

慧「ええ!?そんな迷惑をかけたのにそこまでしてもらうなんて・・・」

一「拒否権はない!大人しくついてこい!」

調「え?あの、その、あぁぁああ!?」

切「レッツゴーなのデス!」

慧「なんで切歌はそんな嬉しそうなんだぁぁああ!?」

 

~nacsitaにて~

 

一「みーたぁーん!」

美「・・・・」回避

切調慧「えぇぇぇえええ!?」

赤「すまん。これがカシラのデフォルトなんだ・・・」

 

 

 

 

 

 

―――未来とクロ(パート2)―――

 

未「~♪」買い物中

クロ「キュル~」

未「あ、クロ」

クロ「キュールル!」

未「また来たの?しょうがないなぁ。それじゃあ一緒に買い物しようか」

クロ「キュル!」

未「ふふ・・・あ、人参が安い・・・」

クロ「キュールル」

未「え?これは少し古いって?・・・じゃあこれかな?」

クロ「キュル!」

未「そういえばお味噌が少なくなってたんだよね・・・」

クロ「キュルル!」

未「これがいいの?じゃあこれにしようかな」

クロ「キュッキュ!」

未「あと、お肉」

クロ「キュールルールルールルールルッ!」

未「それが一番新鮮で状態がいいんだ。ふふ、ありがとう、クロ」

クロ「キュルル~」

未(本当、なんでもできるよねクロって・・・)

クロ「キュル?」

未「ん?なんでもないよ。さ、帰ろっか」

クロ「キュル!」

 

 

 

なんて事のない日常の一コマ(意訳/オチはない)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――新たな戦いの予感―――

 

 

?「―――キャロル・マールス・ディーンハイムの動向はどうかね?」

?「パヴァリア光明結社と接触、無事に支援を受けられるようです」

?「ふむ。であるならば、我々もそろそろ準備を始めるべきだな」

?「やぁっと俺たちの出番かぁ?」

?「どうやらそのようだねぇ。アハハ、楽しみだなぁ」

?「フハハハ!やっと我々が動く時が来たか!」

?「その通りだ。彼女の計画が完遂されれば、我々の目的の達成に早くも辿り着く事となる」

?「世界を一度崩壊させ、新たな世界を創る・・・我らがボスの悲願を、今ここで果たす時」

 

?「デイブレイク社の名の下に―――汚れた人類の歴史をゼロに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――マリアとシン―――

 

響「はいはーい!私からマリアさんとシンさんに質問がありまーす!」

マ「ん?何かしら?」

響「二人の出会いってどんな感じだったんですか?」

未「あ、それは私も気になります」

マ「出会い・・・といっても、ネフィリムの起動実験の少し前にマムがシンを連れてきたってだけだから、特に特別な出会いでもなんでもなかったわね・・・」

響「なんだつまんな―――うごふっ!?」未来に肘打される

未「じゃあどうしてそんなに仲良くなったんですか?」

マ「そうねぇ・・・セレナが死んで・・・いや、実際は生きてたわけだけども。それで落ち込んでた時に、励ましてくれたからかしら?あの時は結構不器用だったわよね~」

シ「まあ、あの時は異世界に放り込まれたという感じだったからな。マリアの妹が生きていた、なんて言える筈もなく、隠さなければならなかったが、まあ、それでも放ってはおけずという感じで」

マ「思えば、あれが私たちにとっての本当の出会い、って奴かしらね?」

シ「まあ、そうなるな」

響「ふーん・・・あ、それで一緒に過ごすようになったって事ですか?」

シ「流石にそこまで親密にはなっていないが、まあ、ある程度は行動を共にするようになったか。だが、マリアたちが第二種適合者になってシンフォギア装者になってからは、一緒に過ごす事は少なくなったな」

マ「そして、私が歌手としてデビューした時にシンがマネージャーになってくれて、そこから、本格的にパートナーって感じになったって感じかしら?」

響「ほうほう、仕事でもプライベートでもパートナーって感じですねぇ・・・あ、つまり夜のパートにゅ゛っ」未来が首に渾身のチョップ

未「そして今に至るという訳ですね」

シ「お、おう・・・」

響「みく、くびはだめだよくびは・・・」

マ「聞きたい事はこれで全部かしら?」

未「はい。ありがとうございました。では私はこれから体調が悪そうな響を病院に連れていきますので」

シ「ああ、分かった」

未来&響退出

シ「・・・なんというか、最近の学生というのは恐ろしいものだな」

マ「シン、しっかりして。今時の高校生は首に強烈なチョップなんて叩き込まないわ」

 

 

 

 

―――旧世界の歌―――

 

翼「ううむ・・・」

マ「あら翼。何をしているのかしら?」

翼「マリアにシンか。実は、桐生たちの話を聞いて、新しい歌を考案しているのだが、どうにも難儀していてな・・・」

マ「ふーん・・・ちょっと見せてみてくれないかしら?・・・ふむふむ・・・」

シ「ちなみにこれは一体いつから書いている?」

翼「戦兎たちの話を聞いたのが、去年だったから・・・ざっと八か月ぐらいは経っているだろうか」

マ「八か月!?」

翼「なるべく桐生たちの気持ちになって考えているのだが、これがどうにも難儀していてな・・・」

シ「ふむ・・・」

マ「確かに、旧世界の事を伝える歌、ていうのは悪くないと思うわ。だけど、そういう事を直接関係のない貴方が歌う、というのは少し無理があるかもしれないわね」

翼「分かっている。だが、それでも私は桐生と共に死線をくぐり抜けてきた仲だ。そんな桐生たちが、命懸けで戦ってきたという想いを、歌にして残したい。だから、下手は打ちたくない」

マ「なるほどね・・・分かった。止めはしない。だけど、そういう事なら、戦兎からもう少し詳しく話を聞いてみたらどうかしら?」

翼「桐生に直接?大丈夫だろうか・・・」

マ「大丈夫よ。その程度で彼は貴方を嫌ったりしないわ」

翼「そうか・・・うむ、そうだな」

シ「・・・」

シ(・・・気付いてはいないだろうが、今マリアはさらっと桐生戦兎に対するお前の好意を確認したぞ)

翼「分かった。これから桐生の所に行ってみる」

マ「頑張ってらっしゃい」

翼「ああ。そうだ。もしよければ、いつかまたステージの上で歌い合おう」

マ「いいわね。楽しみにしてるわ」

翼「ああ!私もだ!」

 

 

 

戦兎宅にて。

翼「・・・・と、いう訳なのだが」

戦「なるほどな・・・」

翼「だめ・・・だろうか?」

戦「別にいいぞ」

翼「本当か!?」

戦「こっちでの記録は全て取り終えたし、それに、俺たちの事を歌ってくれるのがお前なら、俺はそれが良い」

翼「そ、そうか」ぱぁ

戦「それで、今どれくらい進んでるんだ?」

翼「ああいや、まだ一番の途中で、タイトルも決まってないんだ」

戦「ふ~ん・・・」

翼「何か、良い名前とかはないだろうか?」

戦「・・・Be The One」

翼「Be The One?」

戦「この曲のタイトル。これが一番良いと思う」

翼「Be The One・・・一つになる・・・うむ、うむ!私が考えていたどの名前よりも良いものだ!流石だ!」

戦「ま、天才ですから」

翼「うむ。タイトルが決まると歌詞が一気に湧き上がってくる。戦兎たちが歩んできた戦いの全てが描けそうだ!」

戦「俺が手伝う事はこれで終わりかな?」

翼「いいや、まだまだ。例え歌詞が湧き上がってもまたつまづくかもしれない。だから、まだ付き合ってもらうからな!」

戦「やれやれ。これでも忙しい身なんだがな・・・分かった。手伝うよ。お前の新しい歌作り」

翼「ああ!」

 

 

 

 

 

―――名前の由来―――

 

 

藤「前々から気になってたんだけど、戦兎たちのライダーの時の名前って、なんでそんな名前になったんだ?」

戦「俺の場合は、元々『Project Build』っていう計画があったから、そんな感じになったってところだな。ま、名前の由来は、変身する時にアーマーを形成するから、『作る・創造する』という意味で、ビルドって名前になったんだ」

響「じゃあ龍我さんの『クローズ』は?」

龍「ありゃあ戦兎が名付けてくれたんだよな。なんだっけ『閉じる・完封する』って意味だったよな?」

戦「お、馬鹿にしては覚えてるじゃねえか。ちなみに英語表記は『CLOSE』じゃなくて『CROSS-Z』な」

ク「なんかややこしいな・・・」

切「じゃあじゃあ、かずみんの『グリス』はどうしてデスか?」

一「あ?うーんなんだ・・・成り行きか?」

翼「おそらく、猿渡の使うボトルが『ロボット』だから、機械などに使われるゲル状の潤滑油『GREASE』からきているんだろう」

戦「流石、バイクを自分で整備するだけはあるな」

調「じゃあ、幻徳さんのローグは?」

幻「あれは自分への戒めのつもりで名付けた名だ。ローグは、その名の通り『悪党』を意味する『ROGUE』からきている」

調「なるほど・・・」

藤「へえ、なんだか奥が深いんだな・・・」

友「あ、それならあなた達の名前の由来はどうなのかしら?」

シ「俺たちか?俺の『クライム』は『犯罪』の意味を持つ『CRIME』から名付けた」

セ「え?なんでそんな名前を・・・」

シ「・・・俺の過去」

セ「あ、なるほど・・・」

龍「じゃあ慧介の『タスク』ってなんだよ?」

ク「意味はそのまま『牙』だよな?」

慧「あれは調が名付けてくれたんだよな?」

調「だって慧くん、ネーミングセンス最悪だから」

響「え?どういう事?」

慧「俺だって自分でライダー名を考えてたんですよ?これ、当時考えてた名前なんですけど」

 その一『スーパーアームストロングサイクロンジェットストリームアームストロングマン』

 その二『ライダー2045』

 その三『シンプルに“虎”』

 その四『意表を突いて“猫”』

一「ヒゲ並みに絶望的じゃねえか!?」

切「調が名付けてなかったらどうなっていた事か」

マ「ちなみに、どうして『タスク』なんて名前を?」

調「えっと、慧くん、トラのボトルを使うから、牙って思って・・・」

切「本当のところは?」

調「私の聖詠に『牙』ってあるから・・・って何言わせるの切ちゃん!」

切「調は可愛いデスなー」

調「もう切ちゃ―――あ」足を滑らせる

慧「え、あ、ちょ、ま―――ぎゃぁぁ!」調が倒れてくる

マ「ああ」

シ「いつものか」

調「い・や・あぁぁぁあ!!」どうなったかは想像にお任せする!

慧「ぐぼあ!?」

ク「だから、そういうのは家でやれぇぇええ!!」

 

 

 

 

 

―――二課から見た装者と仮面ライダーたち―――

 

藤「そういえば、龍我とクリスちゃんが付き合い始めてから気付いたんだけど、翼さんと戦兎も意外に絡みが多いよね」

友「いきなりどうしたのよ?」

藤「非リア充の愚痴だよ」

弦「まあ節度をもってくれるなら、俺も文句はないな」

緒「僕としては、やっと翼さんに春が来てくれたことに安心していますけど」

藤「あれ?意外ですね。てっきり嫉妬してるものかと思ってました」

緒「確かに、僕の知らない翼さんの顔を見られないというのは少し妬きますね」

弦「ほう、お前でもそう思うのか」

緒「一応僕も人ですので。ただ、翼さんが幸せなら僕はそれでいいんですよ。そういう司令こそ、クリスさんの事は心配ではないんですか?」

弦「まあ、三年前の事があったとはいえ、俺はそれほど心配していない。何せ龍我君が彼女の傍にいてくれている訳だからな」

友「年の差恋愛かぁ・・・なんだか憧れちゃいます」

藤「まああれだけ合コン連敗してればね」

    殴

友「それはそうと、マリアさんたちの方も、中々恋愛成立してますよね」

緒「意外にそういう訳ではないですけど、脈なら一応あるみたいですね」

弦「慧介君と調君は分かりやすいがな」

緒「ですね」

戦「おいっすー」

弦「お、来たのか戦兎君」

戦「意外に暇でしてね・・・ってか朔也はどうしたんだ?」

友「気にしないで。いいわね?」

戦「お、おう・・・」

弦「そうだ。戦兎君、学校での彼女たちの様子はどういった感じかね?」

戦「え?学校でのあいつら?そうだな・・・響はよく授業中寝るから、もはや無視してるが、未来はやはり真面目に授業してるな。あとクリスはあんだけ粗暴悪い癖に勉強はしっかりしてるし飲み込みも早い。セレナも授業を真面目に受けてくれるし、意外にやりやすかったりする。ただ調と切歌はまだ学校生活に慣れないのか、戸惑っている所も多かったな。これから少しずつ慣らしていく必要がある」

弦「なるほど。やはり現場の意見が一番納得出来るな」

友「これからも、学校での装者との関わりを大事にしてね」

戦「ま、先生ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――卒業式―――

 

 

響「もうすぐ、卒業しちゃうんですよね・・・」

未「そうなると、翼さんはやっぱりロンドンに・・・」

翼「本当にノイズが根絶されたのなら、いつか、世界を舞台に唄ってみたいと夢見ていた」

戦「やっと夢が叶うな」

翼「ああ」

セ「なんだか寂しくなりますね」

龍「海外にいっちまうもんな」

戦「ってか、なんで万丈が学校の中に入ってんだよ?ここ関係者以外立ち入り禁止だぞ?」

龍「なんか緒川の奴が戦兎に忘れ物届けに来たって言ったら快く通してくれるって言ったからやったら本当に通してくれたぞ」

戦「なんでだよ!?」

響「あはは・・・まあなにはともあれ、私たちも頑張りますから、こっちの事は心配しないでください!」

翼「こういう時の立花は頼もしいな。むしろ、心配なのは雪音の方だ」

ク「はあ!?」

響「確かに、べそ掻きそうなのは、クリスちゃんだよね~」

戦「いや、クリスの事だ。水たまり作るほどの大号泣かもしれねえぞ」

翼「うむ、べしょべしょの号泣かもしれないな」

セ「皆さん、流石に言いすぎじゃあないですかね?」

ク「そうだ!元栓閉め忘れてる訳じゃねえんだ!簡単に泣くものかよ!むしろ泣くのは卒業するそっちだろ!?」

翼「剣に涙は似合わない。二度と泣かぬと決めたのだ!」

 

~卒業式当日~

 

翼「うぐ・・・えっぐ・・・」

ク「ぐすっ・・・言わんこっちゃねえな」

セ「クリスさん、そういうなら目尻の涙をどうにかしてください」

龍「どっちもどっちだろ・・・」

未「というか、なんでまた入れているんですか龍我さん?」

龍「警備の人に翼の付き添いだって言ったら入れてもらえた」

戦「何やってんだ警備員!?」

翼「ぐす・・・面目ない・・・皆と一緒に、いられなくなると思うと・・・つい・・・」

ク「う・・・」

つばクリ「うわぁぁぁあああん!!」

戦「仲良いなこいつら」

龍「ったく、なにやってんだか」

セ「なんだか微笑ましいですね」

未「寂しくなるね」

響「ずっと一緒だと思ってたから、余計にね」

 

―――通信機が鳴る―――

 

一同「ッ!」

戦「おうどうした?・・・・国連所属のスペースシップが帰還時のエンジントラブルか・・・」

響「了解です!本部にて合流します!」

セ「私もオペレーターとしてサポートに回ります!」

ク「ったく、先輩の卒業式だっていうのに!」

龍「でもやらなくちゃいけねえんだろ!」

戦「翼、あともう少しだけ付き合ってもらうぞ」

翼「ああ、無論だ!これからもどんなに離れようと、私たちはずっと一緒だ!」

ク「そういうのは後回しだ!行くぞ!」

未「いってらっしゃーい!」

 

 

 

―――次章『GX・奇跡の殺戮者編』に続く―――



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創造しない ちょっと長い話編

作「新型コロナの所為で学校が一週間近く休みになってしまったなぁ」
麗人「その分創作が捗るんだからいいんじゃないのか?」
作「それがそうでもないんだよ。学校から宿題出されるはその間の生活の事なんか書けとか言われてるし、時間が削られてしまう・・・」
原型「それが学生の本分なんだから諦めろ」
作「畜生めぇ!」
サイボーグ「あらあら、お姉さんが慰めてあげようかしら」
作「いやアンタの場合はおっ〇いミサイルで固いだろ」
サイボーグ「それもそうね」
麗人「はあ・・・まあそれはともかく、二つ目だ。二本立てだから、楽しんでくれるとありがたい。では、本編をどうぞ」


―――セレナ発端の騒動―――

 

 

「―――なあ」

「はい」

「とりあえず言わせてもらうとな。なんて事してくれたんだ」

「ごめんなさい」

「いや、な?ごめんなさいで済む話かこれ?控えめに言っても大惨事だぞこれ?」

「誠に反省しております・・・」

「一体どうやったらこうなるんだよ」

「はい・・・本当ごめんなさい。ですので―――未来さんの顔でその表情はやめてください」

現在、戦兎宅では非常に珍しい光景がそこにあった。

戦兎がいつも座る机に未来が座り、そしてそんな未来の目の前では調が青い顔して正座していた。

なんとも珍しい光景である。

ただ、もう一つ言わせてもらうと、現在、戦兎宅ではとんでもない事が起きていた。

 

「お、重ぇ・・・胸が凄まじく重ぇ・・・」←マリア

「こ、これがシンの体・・・シンの筋肉、シンの肌!」←シン

「何故こうなった・・・」←切歌

「ど、どうしよう・・・」←龍我

「おい!どうなってるんだよこれ!?」←翼

「落ち着け雪音!私も何がなんだか分からんのだ!」←クリス

「じぃー・・・」←セレナ

「・・・あ、あの、調?なんデスか?」←慧介

「ど、どうなってるのこれぇ!?」←戦兎

「な、何がなんだか全然分からねえよぉ!」←響

 

 

 

 

―――と、こんな風に、まるで人格が入れ替わったかのようにそれぞれがありえない行動を起こしているのだ。

 

 

 

ことの発端は、ほんの三十分前に遡る。

 

 

 

それは、セレナがとある発明をした事だった。

 

 

「つ、作ってしまった・・・」

目の前に置かれた、丸い球体をてっぺんに、その下には螺旋を描くコードに巻かれた細長い円錐と四角い箱とスイッチ―――その全てが金属製。

「つい、学校で聞いた話題を元に創り上げたこの発明品・・・・ついつい二課に保管されていた聖遺物もちょーっと(語弊)持ち出したりもしたけど、それで完成してしまった装置・・・」

自分の才能におののくセレナ。

「・・・動くかな?」

試しにスイッチに手を伸ばすも。

「セレナー、いるかぁ?」

「ヒィッ!」

戦兎の声が聞こえた瞬間、思わず近くにあった布をその装置の上にかぶせる。

「せせせ戦兎先生!?は、早いですね!?」

「まあな。ってかお前さっき何隠した?」

「べ、別に、なんでもないですよ!?ただ失敗したものを見られたくないってだけですから!」

「失敗?一体何を失敗したんだよ?」

「そ、それは・・・」

「ダメよ桐生戦兎。あまりそういうのに踏み込むものじゃないわ」

「あ、姉さん!」

思わぬ助け船にセレナは内心ほっとする。

それだけでなく、

「やっほー、セレナちゃん!」

「遊びに来ちゃった」

「キュルー!」

「暇だから来てやったぞ~」

「おう元気にやってるか?」

「すまない。お邪魔するぞ」

「ここが戦兎さんの暮らしてる倉庫・・・」

「なんだか無駄に広いデスね・・・あだ」

「そういう事いうものじゃない」

「そうだぞ切歌。ここ案外気に入ってるかもしれないんだから」

響、未来、クロ、龍我、クリス、翼、調、切歌、シン、慧介が次々に入ってくる。

「皆さんなんで?」

「ちょっと戦兎先生を見かけてね。それで先生の部屋にお邪魔しようかと思ったらみんなついてきちゃって・・・」

「まるで芋づる式にぞろぞろとな」

「そうなんですか・・・すみません。ここじゃあお茶とか用意できなくて・・・」

「ああ、いいよセレナ」

「戦兎さんの発明品でも見て楽しむデスよ!」

「ふっふ~ん。俺の発明品を見て驚け凡才ども!」

と、切歌の言葉にすっかりいきり立つ戦兎に苦笑するセレナ。

が、そこでセレナは警戒するべきだった。

 

クロの悪戯心というものを。

 

「キュル~?」

「ん?あ」

いつの間にか、セレナが隠したとある発明品の近くに忍び寄っていたクロ。

そしてクロは、その発明品の隠れていないボタン部分を見つけると―――

「キュル~」

「待って!それは押さな―――」

「キュル!」

所謂、えいっ!の掛け声を同じだろう声と共にクロがボタンを押し、次の瞬間光が溢れ出し――――

 

 

 

その結果がこれである。

 

 

簡単な話、人格が変な形で入れ替わってしまったのだ。

一人の意識が別の誰かの体の中に入ってしまったのだ。

簡単にするとこうである。

ちなみに、矢印の向いている方向が体、その逆がその中に入っている意識である。

 

 

 

戦兎→未来

 

龍我→マリア

 

響→戦兎

 

未来→龍我

 

翼→クリス

 

クリス→翼

 

セレナ→調

 

マリア→シン

 

調→セレナ

 

切歌→慧介

 

慧介→響

 

シン→切歌

 

 

 

な感じである。

 

訳の分からなさこの上ない。

 

「―――と、いう訳で」

解決策として、本来の体での髪型をやっておく、あるいは普段とは違う髪型にするという事になった。

「こんなものか・・・」

 

未来(戦兎) リボンを外す

マリア(龍我) ポニーテール

戦兎(響) N字の髪飾りをつける

龍我(未来) リボンを首に巻く

クリス(翼) くし型の髪飾りをつけ、ツインテールをやめる

翼(クリス) 髪飾りを外してツインテール

調(セレナ) 蝶の髪飾りをつけ、ツインテールをやめる

慧介(切歌) バツ印の髪飾りをつける

響(慧介) とりあえずオールバックにしてみる

切歌(シン) 雷切所持

 

という事になった。

「しっかし、本当にとんでもないもの作ってくれたな。これ一体なんの聖遺物だよ?」

「それが私もよくわかってなくて・・・」

「アホ!」

「はうあ!?」

「おおー、未来が調ちゃんを叩いてる・・・」

未来(戦兎)が調(セレナ)を叩く光景に新鮮さを感じる戦兎(響)。

「しかし、ずっとこのままというのも問題だな」

「いや待てそもそもこれ戻れんのか!?」

「最悪、それぞれがそれぞれの生活をしなければならなくなる訳だが・・・」

想像する一同。

「すぐに元に戻して!」

「お願いデス調からの視線がめっちゃくちゃ怖いのデス!」

「胸が重すぎて動きづらいわ!」

「だぁああ!!分かった!分かったからちょっと待ってろ!それとセレナァ!」

「は、はいィ!」

「テメェも手伝え!じゃないと殴る!」

「サーイエッサー!」

そんな訳で、未来(戦兎)と調(セレナ)が作業を開始。

「しかし、前々から思っていたが、やはり大きいな・・・」

と、クリス(翼)は自らの胸を見下ろしてそう呟く。

「毎度毎度肩が凝ってひでぇんだよ」

「胸が大きいっていうのも悩みものよね」

「「・・・」」

「・・・って!?セレナ・・・じゃなくて調と未来さんが凄い眼光で二人睨んでるんだけど!?」

翼(クリス)が肩をもみ、未だその体を堪能して既に鼻血すら流し始めているシン(マリア)をハイライトオフで睨むセレナ(調)と龍我(未来)。

「それに、思ってたけど先輩の体って大きいだけじゃなく軽いんだな」

「まあ鍛えているからな」

「慧介の体も軽くて柔らかいのデース!」

「えい」

「デスゥ!?」

慧介(切歌)を蹴っ飛ばすセレナ(調)。

「な、何をするんデスか調ぇ・・・?」

「慧くんの体で、好き勝手しないで。じゃないと刻むよ?」

「で、デース!」

いつになく黒いオーラを発するセレナ(調)に慧介(切歌)は思わず直立姿勢になる。

「あー、重すぎて肩がいてぇ・・・」

「だからといって胸を机の上に置くな目のやり場に困る」

「いいじゃねえかこれ結構辛いんだぞ。あ、それともあれか?マリアの体によくじょ―――」

「それ以上何か言ったらお前の体を斬り刻むぞ」

「ひぃ!?」

マリア(龍我)の揶揄いに思わず背中の雷切を抜きかける切歌(シン)。そしてそれにビビる龍我(未来)。

本当にシュールな光景である。

「じぃー・・・」

「・・・・」

「それで、お前はさっきから何やってんだ?ずっとソイツの事見てるけど」

その一方、セレナ(調)のとてつもない眼光に曝され続けている慧介(切歌)の様子に気付く翼(クリス)。

「・・・なんで」

「ん?」

「なんでマリアはシンの体なのに、私は慧くんの体じゃないの・・・!」

今にも誰かを呪いそうな程真っ黒なオーラを発してそう呟く調。

「た、助けてシンー!」

「ま、待って!?今は私よ!?いくらシンの体くんかくんかでもあのセレナじゃなかったハアハア調を相手にするのはきついわ!」

「おいマリアどさくさに紛れて俺の体の匂いを嗅ぐな!」

もはやカオスである。

「・・・あ」

と、そこで戦兎(響)がある事を思い出す。

「戦兎先生の体ってこ・と・は~」

「響?」

戦兎(響)の何かを企んでいるような様子に、いち早く気付く龍我(未来)。

「ふっふ~ん」

そうして取り出したのはビルドドライバー。

「そ、それは!?」

「前はハザードレベルや遺伝子操作受けてないから変身は無理だったけど、戦兎先生の体ならば!」

「ん?あ!?ちょ、待て!」

戦兎(響)の行動に気付いた未来(戦兎)すぐさま止めに入るも、

 

ラビット!タンク!

 

ベストマッチ!』

 

装着したビルドドライバーにラビットとタンクのボトルを装填、そして一気にボルテックレバーを回す。

止めに入ろうとした未来(戦兎)は展開されたスナップライドビルダーに道を阻まれ、その間にも変身準備が完了してしまい―――

 

Are You Ready?

 

変身(へ~んしん)!」

 

鋼のムーンサルトラビットタンク!イェーイ!』

 

すぐさま戦兎(響)は仮面ライダービルドに変身してしまう。

「うぅう・・・仮面ライダー、来たぁぁぁぁああ!!」

一度縮こまってから両手を振り上げるビルド(響)。

「わーいわーい!」

「やってくれたなコイツ・・・」

はしゃぐビルド(響)に頭を抱える未来(戦兎)。

「あわわ、響ぃ~」

「響センパイずるいデス!アタシも変身するデス!」

「あ!?切歌待て!」

 

『スクラァッシュドゥライバァーッ!!』

 

響(慧介)の制止も無視して慧介(切歌)はスクラッシュドライバーを装着。

 

タイガァージュエリィー!』

 

タイガースクラッシュゼリーを装填し、いざ変身―――と思った直後だった。

「で、デース!?」

慧介(切歌)の体に電流のような痛みが走り、その場でダウンする慧介(切歌)。

「き、切歌ぁー!?」

「言わんこっちゃない・・・」

響(慧介)に抱き起されつつ、慧介(切歌)はちかちかする視界の中で疑問を口にする。

「な、何故変身出来なかったデスか・・・」

「中身の問題だな」

作業しつつ未来(戦兎)が答える。

「ビルドドライバーと違ってスクラッシュドライバーは大量のアドレナリンを分泌する。その影響でお前の脳・・・というか精神が耐えられなかったんだろ」

「じゃあアタシじゃ変身できないと・・・トホホ・・・」

がっくりと項垂れる慧介(切歌)

(この慧くんも良い・・・)

そんな慧介(切歌)を写真に収めるセレナ(調)。

「・・・なあ」

「なんだ?」

「お前ンとこの装者ってどいつもこいつも変態しかいないのか?」

「・・・・」

マリア(龍我)の問いかけに答えない切歌(シン)。

何故なら、シン(マリア)はシンの匂いを堪能し、一方でセレナ(調)は撮った慧介の写真を見てよだれを垂らしているからだ。

見ていて汚い。

「響、そろそろ戻ろうよ~」

「ええ~いいじゃんもう少し~」

「しかし、せん・・・響さんが変身出来たってことはもしかして・・・」

響(慧介)が来ていた制服の下からギアペンダントを取り出す。

それをしばし見て、ぎゅっと握ってみる。

だが。

「・・・ダメか」

「聖遺物は特定の波長―――個人の歌で起動するとは言え、やはり精神面にも関わってくるみたいだな」

響(慧介)の意図に気付いたのか、クリス(翼)はそのように呟く。

「でも、アタシらなら出来るんじゃねえか?」

そう言い出すのは翼(クリス)。

「待ちなさいくんくんシンフォギアを起動する時はぷにぷにアウフヴァッヘン波形はぐはぐが出て本部に察知される可能性くんかくんかがあるわ」

「せめてその変態行為をなんとかしてから喋ったらどうだマリア!」

シン(マリア)の言い分としてそう言うが。

「ああそれならさっき本部に連絡して入れ替わったって言っておいたぞ。それでもしかしたらシンフォギア起動するかもしれないから許可とっといた」

「用意周到だな!?」

未来(戦兎)がビルドフォンを見せびらかしてそう言うので、翼(クリス)は嬉々として、クリス(翼)は仕方がないとでも言うように溜息を吐いた。

そうして少し片づけた部屋の中央に、クリス(翼)と翼(クリス)は向かい合って立つ。

ちなみに戦兎(響)はクロを使って変身したクローズ(未来)に叩きのめされて伸びています。何故叩きのめす事が出来たし。

「さて、いざシンフォギアを纏う事になると、少し緊張するな・・・」

「先輩でも緊張する事あるんだな」

「ああ。初めてシンフォギアを纏った時のようだ」

「そっか・・・さて、と。じゃあ早速やるか」

「ああ」

「ああ、ちょい待ち」

そこで未来(戦兎)からストップが入る。

「なんだよ?」

「貴重な事態だからな。この時の事をデータにしときたい」

「ふむ。言われてみれば確かにな」

「さっさとしてくれよ。こっちは早くやりたくてうずうずしてんだ」

「分かってるよ・・・よし。いいぞ・・・ってかやっぱこの体の手小さいな」

「なんかすみません・・・」

改めて体が違う事の不便さを実感する未来(戦兎)。

ちなみに調(セレナ)はというと。

「シクシクシク・・・」

装置の改造を完全に押し付けられていた。自業自得だが。

全ての準備が整い、そんなわけで、その手にギアペンダントを持つ二人。

(しかし、雪音のギアか・・・確か、北欧神話のウルという神の弓矢だったな)

(先輩のギアか・・・なんだっけ。この国の神話のスサノオ?っていうカミサマの刀だっけ)

なんて、互いのペンダントを見つめ、そう物思いのふける。

(雪音は両親を失い、戦争を経験している・・・そんな雪音の心の形があのギア・・・心象の変化によってギアは変わるというだから、あのような形になるのは当然なのかもしれないが・・・)

(何年も一緒に戦ってきたんだよなぁ・・・辛いことも、苦しい事も、一緒に経験してきたんだよなぁ・・・今更、そんな先輩のギアをアタシが纏ってもいいのかな・・・)

(しかし、こうなった以上は纏わせてもらおう。新たな危機の出現に、ギアと体が違うから戦えませんでしたと言い訳するのは、それは私の信念に反する)

(何を怖気づいてんだ。もしアタシ以外戦えない状況になったら、一体誰が皆を守って言うんだ)

ギアを握りしめる。

(答えてくれイチイバル。中身はお前の本来の主人のものではないが、必ずお前を使いこなして見せると約束しよう)

(答えてくれ天羽々斬。こんなアタシだが、せめて誰かの夢を守れるだけの力をアタシにくれ)

そして、そんな二人の想いは、ギアの届く。

 

「―――Imyuteus Ichaival tron(風切る弾丸は翼となりて)―――」

 

「―――Killter amenohabakiri tron(その撃鉄は夢を守る刃)―――」

 

その身に、シンフォギアを纏う二人。

クリス(翼)は、カチューシャのようなヘッドギアではなくなり、耳に取り付けるタイプのものへと変化し、天羽々斬の時と同じような軽装スタイル。

その一方翼(クリス)はあのヘッドギアとは形の違うものがついており、またその体の方もイチイバルメインの装備となっている。

大きな違いとしては色だろうか。

「おおー!」

「やはり中身が違うとギアも変わってくるのね」

「しかし、武器はまあ二人らしいよな・・・」

クリス(翼)のアームドギアは刀であるのは変わりないんだが、その鍔部分が回転式銃となっており、柄には引き金がついているようなものだった。

翼(クリス)のアームドギアはその一方で、時代錯誤なのか連射式のボウガンだったりする。その先には銃剣のように短剣がついていたり。

「それでも互いのギアの本来の形に引っ張られたな・・・」

「それを言うなら先輩、なんでアンタは剣に銃つけてんだよ」

「し、仕方がないだろう!雪音を意識したらこうなって・・・というかそういう雪音だってその先の剣、明らかに私の天羽々斬に似せたんじゃないのか!?」

「うぐっ・・・そ、そんな訳ないだろ!バーカ」

「ち、違うのか・・・?」

「あ、アタシの顔でそんな顔するなぁ!」

そ、言い合うクリス(翼)と翼(クリス)だが。

「なあ」

「ん?」

「これってさ、なんというかさ・・・」

「仲がいい先輩後輩?」

「あるいは夫婦ね」

「何故そこで夫婦!?」

「で、出来ましたぁ~。これでみんな元に戻ると思いますぅ~」

一同、それぞれ言い合っていると、やっと装置の改造を完了した調(セレナ)が泣き顔でやってくる。

 

 

 

そうして、どうにか元に戻った一同。

 

 

 

「うむ、やはり自分の体が一番だな」

「ああ、なんというか。落ち着く」

「あー、やっと胸が重い地獄から解放された」

「体中に自分のよだれが・・・」

「ごめんなさい・・・」

「切ちゃんモードの慧くんを取っちゃった~♪」

「調ぇ!それを今すぐ消せ!ていうかどんだけ写真とってんだ!?」

「調が怖かったデスゥ~・・・!!」

「もっと変身していたかったなぁ~」

「ダメだよ響」

そうして、感想はそれぞれだが元に戻れたことを喜ぶ一同。

「セレナ」

「はい・・・」

「しばらくお前の宿題を五倍にするから覚悟しておけ」

「はい・・・」

「な、なんて古典的な・・・」

その一方、セレナは完全に怒り心頭の戦兎から仕置きを喰らっていた。

「しかし、存外他人のギアというのも悪くないものだな。だが、やはり自分のギアを使うのが一番だ」

「そうかぁ?」

ふと翼が言い出し、クリスはそれに首を傾げる。

「ああ。流石に試し切りとかは出来なかったが、なんというか、雪音のこれまでを肌で感じていたような気分だ。だからこそ、イチイバルは雪音にこそ相応しい。体が雪音であっても、中身が別人なら意味はないからな」

「そ、そうか・・・」

翼の言葉に、クリスは顔を赤くして俯く。

(ったく、それは先輩にも言える事だっての)

その顔は、やや笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――他人の服―――

 

 

「桐生~、いるか?」

それは翼がアメリカへ発つ数週間前の事だ。

翼は戦兎の家を訪ねていた。

「いないのか・・・」

しかし、肝心の戦兎がいなく、その事にしゅんと落ち込んでしまう翼。

だが、このまま帰るのも何か癪であり、しばらくここで戦兎の帰りを待つと決めた翼は、早速中に入っていく。

ふと、そんな翼の眼に入ったのは―――戦兎のトレンチコート。

「これは、桐生がいつも使っているコートか」

それを手に取って持ち上げて広げて見せる翼。

それには多くの縫い目がしてあり、長い間戦兎と共に激戦を駆け抜けたという事が伺える。

貼り直しといった事もされており、おそらく焦げたか何かしたのだろう。

おそらく、戦兎にとっても一種の相棒的な立場にあるこのコート。

戦兎の戦いを、冬の間は多く見てきた、戦兎のコート。

「・・・・」

それを見て、翼はふと思う。

 

これ、着てみたら駄目だろうか?

 

(いや、いやいや、何を考えている風鳴翼!そ、そんな他人のものを勝手に着るなど、言語道断であろう!)

と、自分を律する翼。しかし、ちらりと見た戦兎のコートを見て、しばし葛藤した後―――

「・・・す、少しくらいなら」

あっさりと誘惑に負けた。

そうして来た戦兎のコートだが。

「やはり少し大きいな・・・」

翼の身長は167cm、その一方戦兎の身長はそれより9㎝高い176cm。

だから、若干大きいのは致し方ないのだ。

が、しかしである。

「そういえば、桐生は服をどうやって洗濯しているのだろうか・・・」

見た所洗濯機が見当たらない。おそらくコインランドリーか何かでどうにかしているのだろうが、ここ最近、戦兎がコインランドリーに入っていくところを見た覚えはない。

いや、ストーカーをしている訳じゃない。帰宅する道が偶然戦兎の行きつけのコインランドリーだけだという事だ。

だがしかし、臭くないだろうか。きっと汗で汚れている事だろう。洗ってやっても―――

 

―――すん

 

(―――はっ!?何をやっているのだ私は!?)

思わず袖の匂いを嗅いでしまった。いや、決してやましい気持ちがある訳じゃない。

ただ、臭くないかを確かめただけだ。そう。ただそれだけの事だ。

汗で臭くなっていないか。ただそれだけの事。

(戦兎の・・・汗・・・・)

翼、沈黙。

「・・・・」

 

―――くん

 

「ん・・・」

袖を鼻に押し当てて、匂いを嗅ぐ。

実際、何か匂いがするわけじゃないし、ただほんの微かに男の香りがするだけだろう。

が、それを対象の人物のものだと妄想した場合、翼の女としての部分が刺激される。

「す、少しくらいなら・・・」

結局誘惑に負けるトップアーティスト。

本当に何をしているのか。

「ん・・・せん・・・と・・・」

戦兎のコートに包まれ、まるで、戦兎自身の包まれているかのように錯覚する翼。

「はあ・・・はあ・・・こんな・・・こと・・・だめ・・・なのに・・・」

止まらない。どうしても止まらない。

彼の事を想うと、どうしてもその行為が加速してしまう。

やめなければと思っても、もう少し、もう少しと長くなる。

そして、あと一歩、その一線を越えてしまう―――その寸前で、

 

翼の視界にクリスが映った。

 

「あ・・・」

「――――」

「あ、いや、覗き見るつもりじゃなかったんだぞ?ただ先輩が随分と珍しい事をしてるなぁって思ってさ・・・いや、別に馬鹿にするとかじゃなくてな?」

と、どうにか言いつくろうとするクリスに対して、翼は。

「―――ゆきね」

深淵の闇から声を発したかのような声を発する。

そして、どこからか取り出した小刀をもって、ハイライトが完全に消えた目で、翼はクリスに迫って―――

「しんでくれ、そのあとわたしもしぬ」

「ちょ!?待て!待ってくれ!誰にも言わねえから!だからその小刀を仕舞え今すぐ!!」

数分後。

「ころせ・・・」

真っ黒ネガティブオーラを発して、翼はその場で三角座りをしていた。ちなみに戦兎のコートは着たままである。

「いや、別に、先輩があの先公の事が好きなのは知ってたからよ、こうなるんじゃないかな~って思ってたというかなんというか」

「ころしてくれ・・・・」

「そ、それに、今時の女子、好きな男の匂いを嗅ぐってのは、おかしくもなんともないと思うぞ?だって、好きな男の匂いって、なんかこう、くせになるというか・・・」

「・・・おい」

「ん?」

「まるで、自分もやった事があるような口振りだな?」

「・・・・あ」

クリス、自爆。

「うぅぅう・・・・」

顔を真っ赤にして、顔を覆って翼に背中を向けるように座り込むクリス。

そんな様子のクリスを見て、翼は思わず笑ってしまう。

「ふふっ」

「なんだよ・・・」

「いや、雪音も同じなんだなと思って、少し安心しただけだ」

自分だけがおかしい訳じゃない。そう思うと、少し安心してしまう。

そんな様子の翼を見て、クリスはふと、ある事を思い出す。

「・・・なあ」

「ん?どうした?」

「前に言ってたよな。アタシと先輩は龍我と先公に似てるって」

「ああ。あれか」

それを聞いて、翼はうんうんと頷く。

「私は桐生ほど頭は良くはないし、雪音も万丈のような馬鹿ではない」

「おい!」

「すまん。でも、私と雪音は、やはり桐生と万丈と似ていると思うんだ」

出会いが最悪だった事。黒幕から力を与えられていたという事。並々ならぬ事情を持っているという事。互いを信頼し合っているという事。

「おい。最後のはどうかと思うぞ」

「違うのか?」

「それは・・・」

否定しきれないのがなんとも。

「・・・運命、だったのかもしれないな」

「ん?」

「桐生と万丈が出会った事は、きっと運命だったのだと思う。だって、桐生と万丈が出会わなければ、きっとエボルトに負けていたと思うんだ。誰よりも信頼し合える相棒であり、互いに支え合ってきたからこそ、新世界を成す事が出来た」

「・・・」

「だから、私はそれが少し羨ましい。奏がいたから良くわかる。今はもういないからこそ、彼らの関係が羨ましいを思ってしまうんだ」

そう語る翼は、どこか楽しそうだった。そんな翼の様子に、クリスは少し、複雑な気持ちで。

「じゃあ、さ」

「ん?」

「アタシが、その、相棒って奴になってもいいぞ・・・」

「んん?」

「ああいや、別にそこまで深い関係じゃなくていい。一緒にステージに立つとか、そういうのは無理だしさ。だけど、戦う時とかは、頼ってくれると嬉しいというか、困った時は助けてやるっていうか・・・」

どんどん声がしぼんでいく。その様子に、翼はふっと笑って。

「では、その時は頼らせてもらうとしよう。私も人だ。一人では飛べぬと知る者の一人だ。私が困っている時は雪音が助けてくれると嬉しい」

「そ、そうか・・・」

「そして、雪音が困った時は私も助けてやる。お互い様というものだ」

そう胸を張って言う翼。しかし、その空気にクリスは―――

「~~~だぁぁあ!!なんか恥ずかしくなってきた!おい先輩!丁度あの先公のコート着てるんだ!ちょっくら決め台詞の一つでも言ったらどうだ!」

「なぬ!?そ、それはいくらなんでもむちゃぶりが過ぎるのではないか!?」

「ほぉ~んそれじゃあさっきそのコート使って先公の匂いかいでたってあの馬鹿に言っちまおうかな~」

「な!?雪音が唯一馬鹿と呼ぶ相手は立花だけ。つまり立花に話すと言う事!?た、頼む雪音!立花に聞かれたら死んでも死に切れん!」

「だったらやるんだなぁ」

「く・・・だったら、雪音もそこにある万丈のジャケットを着て、万丈のセリフを言ってもらうぞ!」

「なうあ!?な、なんでわかった!?」

「大方クリーニングにでも出そうと思ったのだろう!流石にあの生地の洗濯は骨が折れるだろうからな!」

「う・・・よーし分かったいいだろうやってやるよ!その代わり、先輩もちゃんとやってくれよな!」

「ああ分かった、やってやる!」

「そんじゃあまずは先輩から!ほら!言え!」

「えう・・・さ、さあ、実験をはじめようか・・・」

「はいだめー声が小さすぎまーす!」

「う、ぅう・・・お、落ち着け風鳴翼。ステージに立った時の事を思い出せ。観客は雪音一人なのだ・・・こほん」

咳払い一つの後で。

 

「―――さあ、実験を始めようか」

 

「ぶっはは!すげぇ!めっちゃ似てる!」

「な!?雪音!?いつの間にビデオを!?」

「永久的に保存してやろーっと!」

「く、ぅぅう・・・!さ、さあ私はやったぞ!今度は雪音の番だ!」

「えー次のはやってくれねえのかよ?」

「雪音がやったら私ももう一つやろう」

「うぐ・・・分かったよ!やりゃあいいんだろ!」

そうしてクリスは龍我愛用の青いジャケットを着こむ。

「ふむ、結構ぶかぶかだな」

「当たり前だろ!アイツとアタシの身長差考えろってんだ!」

「それもそうか。さあ雪音、やるがいい!」

「う・・・よ、よぉーし!やるぞぉ!アタシだって言った事はあるんだ。それを先輩一人に見られぐらい―――」

そうして頬を叩いた後、

 

「―――今の俺は、負ける気がしねぇ!」

 

「くっはは!随分と似ているではないか雪音!」

「くっぅう・・・実際やってみるとめっちゃ恥ずかしい・・・あとカメラに取るのやめろぉ!」

「お返しだ。私も事あるごとに聞いて活力にさせてもらおう!」

「うう・・・さ、さあ今度は先輩の番だぞ!そうだな・・・あれだ!相手に止めさしたりなんか妙案が浮かんだ時にいつも言ってる奴!」

「あ、あれか?あれは桐生のアイデンティティのようなものだが・・・仕方がない。こほん」

 

「―――勝利の法則は決まった」

 

「しっかり決めポーズまで取っちゃってくれちゃってまぁ~」

「・・・雪音」

「あん?」

「・・・どうしよう癖になりそう」

「・・・」

沈黙が数秒。

「・・・先輩」

「ん?」

「・・・続けよう」

「賛成だ」

そういう訳で。

「雪音!音声は私がやる!だから変身だ!」

「よ、よぉーし!やるぞ!」

「じゃあ Are You Ready?」

「変身!」

「良い感じじゃないか!ポーズもバッチリだ!」

「今度は先輩の番だぞ!Are You Ready?」

「変身!鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イェーイ!」

「やっぱ先公バージョンもバッチリだな。ついでに変身の時の音声もやるなんて」

「まああれだ。歌手だからな!」

「言ったな!じゃあこれだ!―――俺はプロテインの貴公子、万丈龍我だ!」

「プハハ!ば、万丈の奴、そんな事を言っていたのか!?」

「これがマジなんだよなぁ」

「そ、それなら私も――――天っ才物理学者の桐生戦兎ですっ♪」

「アハハハハ!ま、マジで似てやがる!」

「そうか!あ、雪音!今度はこれはどうだ!?―――自意識過剰な正義のヒーローの復活だぁ!」

「―――おっせぇんだよ!」

「・・・くく!」

「・・・はは!」

「よし雪音、もっとやろう!」

「ああ!もうこなりゃ全部やってやろうじゃねえか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・戦兎先生、これどうします?」

「楽しそうだから、このままにしといてやるか」

なお、その様子は未来と戦兎にばっちり録画されていたという事は、二人は後にバレて死ぬほど恥ずかしい思いをする事になる事は、この時まだ知らない。

 



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創造しない ラブコメ編

弦「ここでは装者や仮面ライダーたちの恋愛事情を見せていくぞ!」
緒「作者の実力でどこまで読者の血糖値があげられるかが分かりますね」
友「まあ、あの作者の実力でどこまでいけるかどうか見ものだけども」
藤「ハハハ・・・まあ、何はともあれ、この小説の装者たちの恋愛事情はある程度は垣間見えるかもしれない創造しない ラブコメ編をどうぞ」


―――返ってきたラッキースケベ―――

 

パターンその1

慧「さあてシャワーシャワーっと・・・」更衣室からシャワールームへ

調「ふう・・・」一通り浴びてシャワールームから更衣室へ

けいしら「「え」」扉の前でばったり

調「きゃぁぁああ!!」張りて打ち

慧「うげあ!?」喰らって吹っ飛ぶ

 

 

パターン2

切「あ、調ー!」慧介と話し合っている調を見つけた走り出す切歌

調「あ、切ちゃ―――」見つけて振り返ろうとする

切「あ」何故か足を引っかけて転ぶ

調「え」調を押す

慧「ぬぐあ!?」調に押し倒される

調「いったたぁ・・・」

切「ご、ごめんなさいデス・・・あ」見てはいけないものを見る

慧(お、重い・・・!)顔にのしかかっているものを押し上げる。

調「ふへっひゃふうっ!?」脇に指を差しこまれて素っ頓狂な声をあげる

慧「へ?」

調「ひやぁああ!」耐え切れず殴り飛ばす

慧「ふぼあ!?」

 

 

 

パターン3

切「もうちょっと右デス」慧介に肩車されて棚の上をのものを取ろうとしている

慧「こうか?」指示されて右へ移動する

調「何してるの?」そこへやってくる

切「あ、調」

慧「ちょっと上にあるものを取りたくて・・・あ」何故かビンを踏んでバランスを崩す

切「デェェェス!?」倒れ始めて悲鳴をあげる。

調「え!?きゃぁああ!?」巻き添えを喰らう

慧「うおぁあ!?」そのまま倒れる

切「デェェェス!?」遠心力で破壊力アップで床に叩きつけられる。

慧「いってて・・・・ん?」両手に柔らかい感触を感じる

調「うう・・・ふぇ?」慧介の両手が自分の胸に

切「デェス・・・」気絶

調「いやぁああ!!」びんた

慧「ぬがぁああ!?」叩き飛ばされる

 

 

 

パターン4

慧「ん?あ、これ翼さんの写真集だ。どれどれ・・・」

調「あ、慧くん・・・ん?」

慧「マリアのもシンが見ているのを横から見てたけど、翼さんもこれはこれで結構あざとい」

調「慧くん・・・?」ゴゴゴ

慧「ん?ああ調・・・ってなんでそれ取り上げてんの?」

調「私より、翼さんの方がいいんだ・・・」

慧「え。いや、ただ写真集見てただけだぞ?」

調「翼さんのような、大人びた人が好きなんだ・・・」

慧「調も結構大人びているような気もするけど・・・」

調「もう知らない!」

慧「え!?ちょ、ま・・・」調の腕を掴みます

調「え?きゃ!?」思いのほか力が強すぎて反動で引き戻され、そのまま慧介の方を振り向きながら引っ張られる。

慧「うお!?」思わず受け止める「あ」しかしその手は調のお尻に

調「はわ・・・」

慧「ん゛ん゛・・・・!?」

調「ううう・・・」涙目

慧「あー・・・アハハ・・・・」笑って誤魔化す

調「馬鹿ぁぁああ!!」

慧「うごあ!?」

 

 

 

シ「・・・いつも思うのだが、あの二人は何か、呪いでもかかっているんじゃないのか?」

マ「ええ。でなければ切歌が犠牲になってまで二人にラッキースケベがこんな頻度で起こる訳ないものね」

切「きゅう・・・」

調「けけけけ、慧くーん!!」何故か胸あたりの服が裂けてそこを隠しながら慧介に殴り掛かる

慧「だからわざとじゃないんだってば!」その調から逃げている

 

 

 

―――通い妻―――

 

AM 5:30

 

クリス宅寝室にて

ク「・・・んぅ」起床

ク「ふぁあ・・・」あくびをしながらパジャマから制服へ

ク「ん~・・・」水道にて顔に水

ク「~~!よしっ!」両頬叩いてオメメパッチリ

 

 

AM 6:00

 

龍我宅寝室にて

ク「おい龍我、起きろ。朝だぞ」

龍「ん・・・まだ・・・あと五分・・・」

ク「そんな事言うなよ。そうだな・・・あ、プロテインの特売やってるぞ!」

龍「プロテイン!?」

ク「よし起きたな。着替えそこに用意したから、着替えてリビングに来てくれ」

龍「お、おう・・・」ボーゼン

 

 

AM 6:15

 

ク「ほい」

龍「おお・・・」目の前に置かれた食事に目を輝かせる

ク「たーんと食べてくれよ」

龍「おう!いただきまーす!」ガツガツ

ク「・・・ふふ」

龍「んぐんぐ・・・美味い!」

ク「そいつは良かった」

龍「ん~・・・ん?お前は食わねえのか?」

ク「え?ああ、そうだったな。じゃ、アタシも、いただきまーす」

 

 

AM 6:35

 

ク「~♪」皿洗い

龍「・・・」皿拭き

ク「ほい」渡し

龍「おう」受け取り

 

 

 

AM 6:50

 

ク「よし、これでアイロンがけも終わり。後はたたんでっと」

龍「なあクリス、これどこにおきゃあいい?」

ク「ん?ああ、それはあっちに片付けてくれればいいぞ」

龍「そうか」

 

 

AM 7:10

 

ク「そんじゃ、アタシこれから学校だから」

龍「おう、気を付けていって来いよ」

ク「そんじゃ、行ってきます」

龍「おう、いってらっしゃい」

 

 

 

~しばらくして~

 

 

PM 17:00

 

ク「今夜の夕飯何にしようかな・・・」スーパーで買い物

未「あ、クリス」

ク「ん?ああ、お前か」

未「今日も龍我さんの所の夕飯を?」

ク「ああ。アイツ下手するといつもカップラーメンだからよ」

未「印象に違わぬ食生活だね」

ク「聞いて驚け。最近料理のバリエーションも増えてきたんだぞ」

未「龍我さんの為に、料理教室行ってたものね」

ク「う・・・それ、あの馬鹿や先輩の前で言うなよ?」

未「ふふ、分かってる」

ク「うう・・・あ、肉安い」

未「本当だ。今夜は焼肉かな・・・」

ク「プルコギでも作るか」

未「あ、それいいかも」

 

 

 

PM 18:00

 

ク「・・・」ピンポーン

龍「ドタドタ・・・おう」

ク「夕飯の材料買って来たぞ」

龍「なんかわりぃな毎日」

ク「いいって、アタシがやりたくてやってるんだからさ」

 

 

PM 18:10

 

ク「~♪」料理中に鼻歌

龍「・・・」ソファでテレビ見ながら待つ

 

 

PM 18:30

 

ク「はい、おあがりよ」

龍「うっは!美味そう!」

ク「たーんと食べてくれよな」

龍「おう!いただきまーす!」

ク「・・・ふふ」美味しそうに食べる龍我を見て微笑む。

 

 

PM 19:00

 

ク「じゃ、アタシはこれで。お風呂沸かしといたから入ってくれよ」

龍「何から何まですまねえな。なんか申し訳ねえ気分になってくる」

ク「気にすんなよ。言ったろ?アタシが龍我を幸せにするって。だから龍我は黙ってアタシに幸せにされてろ」

龍「そうか・・・じゃあ言わせてもらうけどな」

ク「ん・・・!?」突然頭の上に手を置かれる

龍「俺の幸せはお前が楽しそうにしてることだ。そこのところは忘れるなよ」

ク「・・・ん」キューン

龍「それじゃ、また明日な」

ク「ああ・・・また・・・」ポケー

 

 

 

 

 

龍「―――って感じなんだけどよ」

戦「完全に通い妻じゃねえか!?」

 

 

 

 

 

 

―――翼の歌―――

 

戦「~♪」

翼(む、桐生が口ずさんでいるのは・・・私の歌・・・?)

戦「ん?ああ翼いたのか」

翼「ああ、今さっき来たところだ。それと、さっき唄っていたのは・・・」

戦「お前の歌だけど?」

翼「そ、そうか・・・」テレッ

戦「特に、ルナアタックからあとの歌が俺は一番好きかな」

翼「そうなのか?」

戦「ああ。だってお前、その時までずっと戦い続けていたんだよな。それまでの歌は、どこか暗くて固かった。だけど、あれからの歌は、なんだかそういうのがどっか行って、まるで羽のように心が軽くなる。そんな歌だ」

翼「そうか・・・そうなんだな・・・」

戦「ま、俺としては最初の頃の喋り方のお前が見れなくなって寂しいとも思うがな~」

翼「あ、あれは、その・・・勘弁してくれ・・・」

戦「ハハハ!ま、その方がお前らしいからいいけど!」

翼「もう!戦兎は私にいじわるだ!」

 

 

 

 

 

 

 

―――邂逅 慧介と調―――

 

 

 

私は月読(つくよみ)調(しらべ)

F.I.Sという研究機関のレセプターチルドレンにして、シンフォギア『シュルシャガナ』の装者。

とは言っても、それはもう前の話。今はS.O.N.Gの特別監察の元、学校に通わせてもらったり、家を貰ったり、不自由の無い生活をしています。

家は、切ちゃんと二人暮らし。マリアとシンとは別々に暮らしている。

少し残念だったのは、慧くん・・・涼月(りょうげつ)慧介(けいすけ)と一緒の部屋じゃなかったことと、学校が同じじゃなかったことぐらい。

うん、まあ、部屋は別々なのは良い。だって家は隣同士、いつでも会える。

だけど、学校が別っていうのはどういうこと?

いや、リディアンは女子校だから慧くんは入れないっていうのは分かってる。

でも、なんだか慧くん学校でモテてるみたいで、慧くんが学校に馴染めてるのはうれしい事なんだけど・・・何か面白くない。

っと、話しがそれてしまった。

今から話すのは、私と慧くんの出会い。

出会いは、全くもってロマンチックの欠片もない、平凡な出会い。

だけど、だからこそ、私は、慧くんを好きになったんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

私と慧くんが初めて話をしたのは、私が自分の持ち物を纏めていた時の事だ。

当時、私は何か精神的なショックで記憶を失い、何も分からない状態だったのだという。

物心ついたばかりの子供、という事なのかもしれない。

そんな、右も左も分からないまま、ただ流れていく時間を無為に、大人たちの研究に付き合わされるだけの日々を過ごしていた時だった。

 

慧くんが、話しかけてきたのは。

 

「よっ」

その声に、私は振り返る。

「何してるんだ?」

「持ち物を纏めてる・・・・」

当時、私は酷く引っ込み事案で、初めて慧くんに声をかけられたときは、実はかなり驚いて、そしてびくびくしていた。

だから、こんな内気な私の所には誰も来なくて、とても心細かったのを覚えている。

「そうなんだ・・・あ、俺は涼月慧介。お前は?」

と、頼まれてもいないのに自己紹介をする、自分と同い年かそれ以上の男の子。

だけど、自分には自己紹介を返す以外の選択肢はなかった。

「・・・月読、調」

「調っていうのか。それって親から名付けられた?それともここにきて?」

と、ずかずかと踏み込んでくる涼月くん。当時、私は慧くんの事を、涼月くんと呼んでいた。

「ここにきてから・・・私、ここに来る前の記憶がないから・・・」

「切歌と同じなんだ・・・」

切歌、とは一体誰だろうか。同じ、という事は、彼女もまた、自分と同じ、過去の記憶をもってないのだろうか。

「なんだか、ちょっとうらやましいかな」

「羨ましい?」

一体何故。

「俺は、調と違って父さんと母さんの記憶を持ってるんだ。でも、俺の知らない間に、父さんと母さんは死んでて、気付いたら、ここに連れてこられてた」

そう言って、涼月くんはすぐ傍のベッドに腰をかける。

「だから、さ、ちょっと辛くて、こんな想いするぐらいなら忘れたほうがいいなーって思っててさ」

「・・・」

彼は笑っている。笑っているけど、どこかがズレている気がする。

引っ込み思案で、相手の顔色を伺う事が多かったから、分かってしまった彼の様子に、私は自然と、その頬に触れていた。

「調?」

「・・・!」

涼月くんに声をかけられて、初めて気付いた私は慌てて、その手を放していた。

「ご、ごめんなさい」

「いや、いきなりだったからびっくりしただけだよ。どうしたんだ?」

「べ、別に、なんでもない・・・」

なんて、誤魔化すも、涼月くんはそっかといって天井を仰ぎ見る。

だけど、先ほどの彼の言葉には、少し反論したくて、少し勇気を出して、自分の言葉を伝えた。

「私は・・・貴方が羨ましい」

「え?」

「私は、お父さんの顔も、お母さんの顔も知らない。だから、お父さんのことも、お母さんのことも覚えてる涼月くんがとても羨ましい。少なくとも、私にとって、そうだと思う」

「・・・」

果たして、答えを間違えていないだろうか。何か、彼の気に障ってしまっただろうか。

そんな不安が、拳を当てた胸に広がる。

だけど、そんなことは杞憂で、涼月くんは、優しく微笑んだ。

「そっか。そういえばそうだな」

そう言って、腰かけていたベッドから降りる。

「どっちもどっちだ。ははっ」

そう言って、涼月くんは笑う。それは、先ほどのように、どこかズレたものじゃなくて、ちゃんと、心の底から笑っているような笑顔だった。

「よかったら、一緒にご飯食べないか?切歌の事も紹介するからさ」

「え?別にいいけど・・・」

「だったら決まりだ!行こう!」

「え?あ、ちょ・・・!?」

そう言って、涼月くんは、私の手を取って走り出す。私はされるがままに引っ張られていく。

 

 

 

 

そこから、私は切ちゃんと出会い、マリアと出会い、セレナと出会い、シンに出会った。

慧くんが、皆に引き合わせてくれた。

だから私はもう、寂しくなんてなかった。

皆がいてくれるから、慧くんが、私を見つけてくれたから。

だから、今、とても幸せなんだ。

「調」

鍋を煮込んでいると、慧くんが声を掛けてくる。そちらに視線を向ければ、そこには慧くんだけでなく、切ちゃんも一緒にいた。

「何か手伝う事はないデスか?」

今日のおさんどん担当は私なのに。でも、私はその好意に甘える事にする。

「じゃあ、切ちゃんは冷蔵庫からお野菜を出して、それで慧くんは私が言った通りに切ってくれないかな?」

「お安い御用だ」

「了解デース!」

そう言って、二人は動いてくれる。慧くんは、シンほどじゃないけど、包丁の扱いはとても上手で、料理も、たぶんF.I.S組の中じゃ一番だと思うぐらい、料理上手だ。

その慧くんのお眼鏡にかなうように、私も日々、精進しているぐらいなんだから。

「おおー」

と、そこで切ちゃんが感嘆に声を漏らした。

「切ちゃん?」

「切歌?」

「この角度で二人の姿を見ていると、共同作業をしている夫婦のように見えるのデス!」

「ふ、夫婦!?」

「ははは、何言ってるんだ切歌。まだ結婚もしてないってのに」

「ケッコ―――っ!?」

切ちゃんと慧くんのダブルパンチで、私の頭の中は真っ白になる。

というか、体がとても熱い。なんだか頭から湯気が出そう。

「ん?調、どうした?」

「・・・慧くんの馬鹿」

「なんで!?」

私の言葉にちょっと凹むも包丁捌きは衰えない慧くんも見て、少し噴き出す。

 

ああ、やはり私は幸せだ。

 

切ちゃんと出会えたこと、マリアやセレナ、シンとも出会えたことも。

だけど、私に多くの発見をくれるきっかけをくれた慧くんと引き合わせてくれた運命に、私は心の底から感謝したい。

だって、今、私はこんなにも幸せなのだから。

まだ、告白も出来ていないけれど、今、心の中だけで言わせてください。

 

 

私、月読調は、慧くんの事が、大好きです。

 

 

 

 

 

 

―――邂逅 マリアとシン―――

 

 

フロンティア事変が終わり、留置所にてしばらく拘束されたのち、私は国連のエージェントとして、再び世界で歌を唄う事となり、今現在、その為にどうしようかと悩んでいた。

あのような事件を引き起こしておいて、今更どの面下げてステージに上がればいいのか、分からなかったからだ。

「マリア」

そんな時、私と一緒に国連所属のエージェントとして、引き続き私のマネージャーとしてついてきてくれたシンがあったかいココアを差し出してくれた。

「ああ、ありがとう・・・ん、美味しい」

「ならばよかった」

「昔は酷かったわよね。包丁はちゃんと使えるのに、いざ料理するとなると、てんでダメだったのに」

「料理はほとんどしなかったからな。支給されるレーションばかりを食べていたから、普通の料理を忘れるほどな上に、まともに料理をしようなんて思う奴などいなかった」

「まあ、戦争中らしかったからね」

 

アフリカ大陸で引き起こされた『第一次キリフデラ戦争』。

それは、ヨーロッパ諸国とキリフデラと呼ばれる国との間で引き起こされた、十年も続いた大規模な戦争だ。

それは、第三次世界大戦期にヨーロッパに支配され、当時のヨーロッパから迫害まがいの扱いを受けてきたキリフデラの戦争経験者たちが、ヨーロッパのS国の要人を射殺したことが発端。

これに対し、S国はキリフデラに対し謝罪と十項程度の要求をする。

その要求にキリフデラは一部を除く要求に同意したが、それに不満を持ったS国は武力行使を実行。宣戦布告の後、キリフデラに攻撃を仕掛けた。

それに対し、国民の反欧州意識が爆発。結果、双方の大規模な戦争へと発展してしまった。

 

幼き殺人者たち(マーダー・オブ・チャイルド)』は、キリフデラの側としてその戦争に参戦した。

 

 

シンは、その時には既に『幼き殺人者たち(マーダー・オブ・チャイルド)』の一員であった。

家族で旅行に出ていたところを強盗に両親を殺された、のが主な理由だ。

そしてその後にシンは『幼き殺人者たち』に拾われ、長い間戦地を渡り歩き、ナイフなどの刃物の使い方を覚え、そして、キリフデラ戦争で多大なる功績を残し、軍事力の乏しかったキリフデラを、勝利へと導いた。

だが、軍事力が自衛隊と比べて劣るキリフデラに勝利をもたらし、なおかつS国の軍をほぼほぼ壊滅状態に追い込んだ『幼き殺人者たち(マーダー・オブ・チャイルド)』を国連は危険視。

騙し打ち―――という形で、国連は『幼き殺人者たち』を捕らえるべく大軍を総員。

多量の被害を出しつつも、まだ子供であった彼らを捕まえるのは、容易い事だった。

 

そしてシンは、国連の襲撃から逃れ、一人放浪していた所をマム―――ナスターシャ教授に拾われた。

 

 

 

「完全に不利な戦いだった。そもそも個人的スキルが高いだけで装備はそれほど揃っていなかった俺たちが、フル装備、戦車、軍事ヘリ、ミサイルなどを用意した国連軍を相手に勝てる道理がなかった」

と、シンはその時の事を思い出すかのようにそう語る。

「まあほとんど子供だけの部隊だったみたいだしね」

「殺される訳ではなく、ただ捕まる。戦争の中で生きてきた俺たちにとって、閉じ込められることにおいて抵抗はない訳じゃないが、静寂というものは、あまりにも現実離れしていたと思う」

そう言って、シンは自分のココアを飲む。

そんな彼に、私は微笑みを浮かべながらマグカップに注がれた温かいココアの水面を覗き込む。

「ココア、か・・・なんだか、懐かしいわね」

「お前が初めて俺に振る舞ってくれたものだ。忘れる訳がない」

「そうね・・・今思えば、あれが私と貴方の、初めての出会いだったのかもしれないわね」

本当の意味での、私とシンの出会い――――

 

 

 

 

セレナを失い、私はしばらく失意に暮れていた。

当時の私は十五歳。シンは十七歳。今は気にならなかったが、その時は、とても身長差があったと思う。

とにかく、私は、あの日、ネフィリムの起動実験でセレナを失った。

セレナのギア『アガートラーム』の絶唱特性であるエネルギーベクトルの変換を利用し、ネフィリムを起動前に戻す。だが、絶唱を放ったことでバックファイアを受けたセレナの体はボロボロであり、私は、そんなセレナに近寄ることが出来ず、結果、崩れ行く建物の下敷きになる瞬間を見ている事しか出来なかった。

私は、妹を救えなかった。実際は、シンがセレナを助けて、そして治してくれていたのだけれど。

だけど、そんなこと知りもしない私には、ただただセレナを失った虚しさだけが今の私の胸に、ぽっかりと穴を空けていた。

「セレナ・・・」

特に何をするでもなく、廊下を歩く私。何をするにも気力が湧かなくて、それでも何かをしていないと、あの日の苦しみが再びこの胸を締め付けそうで、とてもではないが耐えられなかった。

と、失意のままに、廊下を歩いていた私は、不意に暗い廊下の向こうから、ぴちゃ、ぴちゃ、と言う規則正しい音が聞こえてきた。

「え・・・」

その音に、私は思わず足を止め、通路の向こう側から来る何かを警戒した。

ぴちゃ、ぴちゃという音は、次第にこちらに近付いてくる。

音からして、水の音。何か、規則的に誰かが水を落としているのか―――否、ぴちゃ、という音と一緒に、こつっ、という音も聞こえてくる。

つまりこれは足音。誰かが、びしょぬれの状態でこちらに歩いてきているのだ。

一体誰なのか。そういえば、外は確かかなり強い雨が降っていた筈。

まさか、こんな雨の中へ、馬鹿みたいに出ていった者がいるというのか。

警備員・・・であるはずもない。

であるならば、一体―――

暗闇の中、ぼんやりと見える、人影。

その人影が、一歩一歩こちらにやってきていた。

私は、その人影に、思わず足が竦んでいた。

きっと、セレナを失ったことですっかり弱気になっていた為に、その人影に対して恐怖してしまっていたのだろう。

だから、足が竦んで動かなかった。

そして、同時に一人だけだったから、とても心細かったのを覚えていた。

やがて、その人影が、近付いてきて――――

 

その時、雷が鳴り響いた。

 

「きゃあ!」

「ッ!?」

光と音の同時攻撃、それに柄にもなく驚いてしまった私は、思わず悲鳴を上げてしまった。

頭を抱えて、その場で背中を丸めて、立ったまま縮こまってしまう。

「う・・・ぅぅ・・・」

それが酷く情けなくて、思わず目尻に涙が浮かぶ。

だけど、そんな私に、声をかける者がいた。

「その声・・・」

その声に、私は、ゆっくりと顔をあげると、そこにいたのは、真っ白な少年だった。

白い髪に、病的なまでに真っ白な肌。典型的な白人とも言うべきその少年は、まっすぐに私を見ていた。

だが、その体はびしょ濡れで、髪からは雨水が滴っていた。

「確か、マリアって言ったな」

「え、ええ・・・」

その白髪の少年の言葉に、私は間の抜けた返事を返してしまう。

そんな私に、彼は私をしばし見つめた。

まるで、物色するかのように。

しかし、すぐに視線を外して、何か思案顔になると、姿勢を正して話しかけてくる。

「雷が苦手なのか?」

そういわれて、私は思わず恥ずかしくなったのを思い出す。

もう克服した筈なのに、今更驚いただなんて、なんという黒歴史か。

「べ、別に、油断していただけよ。普段は、そうそう驚くなんてことはしないわ」

「そうなのか」

次の瞬間、再び雷が鳴る。

ただし、今度は驚かない。そう何度も驚いてたまるもんですか。

「どうやら本当のようだな」

やれやれ、といった風の彼。そんな彼に、私は一つ、重要な事を思い出す。

「ていうか貴方、なんでそんな濡れてるのよ!?」

「それは・・・庭の花壇の手入れをしていた」

「こんな雨の中を!?」

なんでそんなことをしていたのか。訳が分からない。

「ていうか貴方、そういう趣味あったかしら・・・?」

「関係ないだろう今・・・はっくしゅ」

ふと、彼は小さくくしゃみをする。

「流石にこれ以上体を冷やすのはよくないな・・・」

なんて呑気に言う彼の言葉に、私は少し頭にくる。

「何さも当然なことをいまさら言ってるのよ!ちょっと来なさい!」

「な!?おい、なにを・・・!?」

そう言って、私は彼の手を取り引っ張り、部屋に連れてくると、洗濯したばかりのバスタオルを彼に投げつつ、引き出しから、とあるパックを取り出す。

彼は、受け取ったバスタオルで体についた雫を拭き取っていた。

「・・・何をしているんだ?」

ふと、彼が何かをしている私にそう声を掛けてくる。

私がやっている事、それは、ココアを作っているだけだ。

とは言っても、ココアパウダーにお湯を注いで作るだけの簡単のものだが。

「はい」

そして、出来たココアを、私は彼に差し出した。

「ん?」

「はい」

首を傾げる彼に、私は半ば無理矢理彼にそのココアを押し付ける。

「・・・これはコーヒー、なのか?」

「ココアよ。知らないの?」

「ココア・・・あの泥水とは違うのか・・・?」

「泥水って何よ泥水って・・・」

心外な。これでもセレナが美味しいと言ってくれるぐらいは美味しい飲み物だ。それを泥水と呼ぶとは、なんて男なの。

そう、セレナが、美味しいを言ってくれた、ココア。

セレナの事を思い出し、私は、自分の手にあるココアの注がれたマグカップの中身を覗き込んでいた。

散々泣きはらした所為か、目の下には隈が出来ていた。

未だに、あの時の事が夢に出てくるのだから、仕方がないといえば仕方がないのだろうけれど。

「美味い」

そんな風に、感傷に浸っていた私の耳に、その声は届いた。

そちらを見れば、そこには信じられないとでも言いたげに目を見開く彼の姿があった。

そんな彼を見やり、私は、そっぽを向きながら、彼に話しかける。

「当然でしょ。私が注いだんだから」

「これがココア・・・コーヒーとは、違う・・・こんな甘い飲み物があるなんて・・・」

「知らなかったの?」

「ああ。知らなかった」

素直に、彼は答えてくれる。

「暖かい」

もう一口飲んで、彼は、笑みを零した。

その顔に、私は、心臓が一度強く跳ねるような感覚を覚えた。

その気持ちが、一体なんなのか、その時の私は知らなかった。

ただ、今となって言えるのは、彼がふと見せた小さな笑みに、私は『ときめいて』いたという事だろう。

気付けば、彼はマグカップに注がれたココアを全て飲み干していた。

そして、満足そうに息を吐く。

「美味かった・・・」

「そう・・・」

「すまない。手間を取らせてしまったな」

「別に、なんか寒そうだった貴方を、放っておけなかっただけよ」

「そうか」

何を、ムキになっているのだろうか。

こんな男の子相手に、どうしてこんなにどきどきしてしまうのか。

私には、分からなかった。分からない分からない。

でも、不思議と不快な感じはしなかった。

「できれば、機会があればもう一度作ってくれるか?」

「え?別にいいけど・・・でも、これとお湯があれば簡単に出来るわよ?」

「何・・・!?」

それを聞いて、シンは私が見せたココアパウダーのパックを興味深そうに見る。

「これで簡単に?」

「ええ。これをカップに注いで、お湯を入れるだけであっという間に出来るわ」

「こんな粉が、あんな美味しい飲み物に変わるのか・・・!?」

「何を驚いてるのよ・・・」

不思議な人、だと思う。

そんな中で、ふと思い出す。彼の事だ。

確か、マムが連れてきた、新しいレセプターチルドレン。

マムと同じ名前を与えられた、彼の名前は確か・・・

「・・・・シン」

「ん?」

私の呟いた言葉に、彼は―――シンは反応する。

「シン・・・でよかったわよね?」

「ああ・・・とはいっても、ナスターシャがつけた名前だ。本当の名前は別にある」

「そうなの・・・?」

「ただ、俺としては今の名前で呼んでもらえると助かる。俺を救ってくれた恩人から貰った名だ。出来れば、それに慣れていきたい」

そう言う彼の目は、真剣そのものだった。

その真っ直ぐな瞳に、私は思わず見惚れてしまう。

だけど、すぐに我に返ると、私は頷いた。

「じゃあ、シン、そう呼ばせてもらうわ」

「ああ、よろしく頼む。マリア」

そういえば、彼も私の名前を知っているんだった。

「そういえば、お前は飲まないのか?」

「え?ああ、そうだった」

自分用に、もう一つ用意していたんだった。

私は、それを慌てて飲む。

「ふぅ・・・」

少し飲んで、口を離す。

「・・・妹の事を思い出していたのか?」

「・・・」

その言葉に、私は思わず黙ってしまう。

「・・・すまない。踏み込むべきではなかったな」

「いいえ・・・」

そんな彼の言葉を、私は静かに否定する。

「丁度良かった。少し、捌け口になってくれる人を探してたから」

「・・・分かった。俺でいいなら」

シンは、そう言ってくれた。

同じベッドに、同じように腰を掛け、私は、セレナの事を、初対面の筈のシンに何から何まで打ち明けた。

生まれ故郷のこと、ここに連れてこまれた時の事、ここのでの生活、セレナがどんな子なのか。

気付けば、私は勢いのままに、彼に全てを打ち明けていた。

ネフィリムの起動実験、絶唱を発動したセレナ、瓦礫の下敷きになる瞬間―――

その全てを、私はシンに打ち明けていた。

そして、気付けば私は泣いていて、そんな私に、シンは戸惑っているようだった。

ずっと、泣き続けていたと思う。

だけど、そんな私から、彼は片時も離れなかった。

「・・・マリア」

泣き続ける私に、ふとシンは、話しかける。

「泣けるときに泣く、というのは大事だ。もちろん、溜め込むのも良くはない。だからこうし打ち明けたことについて、俺はお前を笑わない。むしろ、お前の事を知れたことが少し嬉しいと思う。ただ、それでも一人で抱え込まず、時には誰かに寄りかかってもいいと思う。お前にはまず、そんな相手が必要だ」

そう、彼は言う。その言葉は、きっと彼なりの気遣いなのだと、私は思った。

ちょっと不器用だけど、私は、それに少し、救われた気がした。

「・・・それじゃあ」

頬を伝う涙を拭い、私は、シンの方へ体を傾けた。そして、そのままシンに寄りかかる。

「マリア・・・?」

「少しの間だけ、寄りかからせてもらおうかな」

隣に座る彼の体は、少し冷たい。思い出してみると、服を着替えてなかったな、と今更に思い出す。

だけど、その体温が、今は少し、心地よかった。

そしてシンは、そんな私を振り払おうとせず、ただ、ずっと傍にいてくれた。

 

 

 

 

 

 

そんなことを思い出しながら、私は、ふと隣に座るシンの体に寄りかかった。

「・・・どうした」

彼は驚くでもなく、さも当然のように聞いてくる。

「少しよりかかりたくなっちゃって」

「そうか」

彼は短くそう返し、そして、タブレットに記載されている情報を暗記していく。

「・・・・ああ、そうだ」

ふと、彼は何かを思い出したかのように、声をあげる。

「風鳴翼に連絡を入れてみたらどうだ?」

「翼に?」

「ああ、奴と一緒のライブであれば、復帰ライブとしては十分、向こうも向こうで殺到するオファーをどう断ろうかと難儀している頃だと思うから、タイミングとしては十分なんじゃないか?」

「貴方の冴えわたる判断力がとても頼もしいわ・・・」

しかし、悪い話ではない。むしろ好都合だ。

「貴方が一緒に来てくれて、本当に嬉しい。きっと、私一人じゃ、いずれ押し潰されていたかもしれないから」

「お前を一人にする方が危なっかしいからな。今は、二課改めS.O.N.Gがあるとは言え、少し落ち着くまでは、一緒にいてやる」

「いじわるな事言うのね」

「いじわる?何がだ」

変な所で鈍感なんだから。

本当に酷いわ。私が、どれほど貴方を(おも)っているのか。

「何でもないわ」

「そうか・・・」

そう言って、シンは特に気にした様子もなく、タブレットに目を戻す。

その態度が、少し憎たらしく思える。

でも、これが私たちにとっての当たり前の距離感。

それを、どう突き崩していけばいいのか。

いずれはこの関係も壊れてしまうかもしれない。

それでも私は、シンの事を愛してる。

シンに寄りかかるのをやめて、立ち上がる。

そのまま窓際に立って、外の景色を見る。すっかり日も落ち、夜景が綺麗だ。

その景色を眺めながら、私は、シンに声をかけた。

「シン」

「なんだ?マリア」

シンは、タブレットから視線を外して私の方を見る。

「ありがとう。私と一緒に来てくれて」

貴方と一緒にいられる時間、貴方と共に過ごす時間、そのどれもが、私にとっては掛け替えのないもの。

この幸せを、私は、失いたくない。

「何を言っている。当然の事だろう」

シンは立ち上がって、私の事を真っ直ぐ見てくれる。

「お前たちが浴びる()は全て俺が被る。それが出来ないならせめて、一緒に背負ってやる」

「・・・ありがとう」

彼の言葉に、私はいつも救われる。

彼の言葉が、私に前に進む勇気を与えてくれる。

セレナを失ったあの日に、『誰かに寄りかかる』という事を教えてくれた、彼だから。

 

 

シンだから、私は好きになったの。

 

 

 

 

 

 

バレンタイン

 

 

「―――と、言うわけで、チョコ作りだぁー!」

「・・・ってなんでアタシん家の台所なんだよ!?」

響の宣言通り、響、未来、翼、クリス、マリア、切歌、調、セレナの七人はクリスの家の台所にて、チョコ作りを始めようとしていた。

「まあまあいいではないか雪音」

「まあ、チョコを作るってのは反対じゃあないんだけどさ・・・なんでアタシん家なんだよ」

「二課の台所じゃ男の人たちが来ちゃうかもしれないでしょ?それに一番大きな台所もってるのクリスの家ぐらいだと思って」

「今、隣の家に龍我がいないとはいえ、それは・・・ああ、もう分かった分かった勝手にしろ。だけど龍我へのチョコは譲らないからな」

「本当にぞっこんね・・・」

と、言うわけで、彼女たちの目の前には、大量のチョコの材料やラッピンググッズが置かれていた。

「そういえば、翼さん、クリス先輩、マリアや調は渡す相手が決まってるデスけど、響さんと未来さん、セレナは誰に渡すんデスか?」

ふと、思った疑問を口にする切歌。

「もちろん、未来にだよ」

「私も響に」

「それここで言ってもいいのかな・・・」

「いつもの事だから、気にすることはないかな?あ、それと日頃の感謝を込めて、戦兎先生や龍我さんにも渡すつもりだよな」

「ほう・・・い、一応聞くが、義理なんだよな?」

「え?義理ですけどなんでそんなことを?」

「いや、なんでもない」

「ふふ、大丈夫ですよ~、とったりしませんから」

「どういう意味だ小日向!?」

咆える翼に生暖かい笑顔を向ける未来。

「私は、お世話になった二課の人たちにお礼のつもりで」

「本当の所は?」

「その手には乗りませんよ調さん」

「チッ」

「あーあー、もうさっさと作るぞ。じゃねえとバレンタイン過ぎちまうぞ」

「おっとっと、じゃあ早速始めましょうか」

「まずは買ってきたチョコを細かく切らないとね」

そうして始まるチョコ作り。

「・・・ん?翼、砂糖ちょっと入れすぎじゃないかしら?」

「ああ、実は戦兎、大の甘いもの好きでな。この間、あるカップケーキ屋のとてつもなく甘いカップケーキを何の苦もなく平らげていたんだ」

「へえ・・・」

「マリアさんマリアさん」

「ん?どうかしたの響?」

「そのカップケーキ・・・胸焼けするほどの甘さだったんです」

「・・・・へ?」

それを聞いて顔を引きつらせるマリア。

「~♪」

「随分と手際がいいんだねクリス」

「まあ、練習してきたからな」

「しかも作ってるのはカップケーキときた」

「ん?何かおかしいか?」

「カップケーキを送ることの意味分かってる?」

「え?そんなもんがあるのか?」

「カップケーキの意味はね・・・こしょこしょ」

「・・・っ・・・そっか」

未来から耳打ちされて、胸をなでおろすクリス。

「クリス?」

「だったら、安心かな」

そう、笑みをこぼすクリスに、未来は―――

(か、可愛すぎる・・・!)

普段との違いに、身もだえしていた。

「あれ?マリア姉さん、それココアパウダーだよね?」

「ええ。シン、ああ見えてココア大好きだから」

「そういえばシンが飲んでたの、あれコーヒーじゃなくてココアだった・・・」

「意外。シンさんあんな性格だからビター派だと思ってた」

「人は見かけによらないものよ」

 

と、そんな感じにチョコ作りは順調に―――進むはずもなく。

 

「あー!手が滑ってボウルの中身がー!」

「何してるの翼!?」

またある時は、

「翼さん!焦げてる!焦げてるデス!」

「はっ!?余所見してたらつい・・・」

またまたある時は、

「ん?なんか焦げ臭いような・・・」

「先輩、温度高すぎだ!」

「なに!?」

主に翼が原因で、惨事を連発していった。

「すまない・・・」

度重なる失敗ですっかりしょんぼり、あるいはショゲモリになってしまった翼は、ソファでチョコ塗れ粉塗れの状態で座っていた。

心なしか目尻には涙が。

「ま、まあ失敗は誰にでもあるわよ。だからそんな落ち込まなくてもいいじゃない」

「すまない・・・料理が出来ない歌女ですまない・・・」

「完全に落ち込んでる・・・」

彼女の目の前には焦げてどうにかお菓子として食べれる程度に袋詰めされたクッキー(深い意味はない)が一つ。

ちなみに、何度も焦がしたことによって食べ物を通り越して炭となってしまった材料はやむを得ず捨てる事となってしまっている。それも翼が用意した材料の三分の二ほどを全部である。

ちなみに、翼以外の者たちはそこそこいい具合に仕上がっている。

主に何でもできるマリアはしっとりとしたチョコブラウニー。

最近料理を習い始めたクリスは上出来な出来栄えのチョコマフィン。

響の料理をいつも作っている未来はそれなりの出来のガトーショコラ。

あまり料理はしないがたまに未来の手伝いをしている響は簡単な星型チョコ。

F.I.S組の料理当番であった調は一口サイズのトリュフ。

料理慣れしていない切歌は不格好な形のミルクチョコ。

そして研究ばかりではないセレナはマドレーヌ。

といった具合だ。

「喜んでくれるだろうか・・・」

翼が、そう不安そうにつぶやく。

「きっと受け取ってくれますよ。だから、頑張ってください」

そんな翼を、響が元気づける。

「立花・・・」

「当たって砕けろ、だぜ」

「いや砕けちゃだめでしょ」

「でもぶつからないと想いは伝わらないのデス!」

「ファイトです」

「大丈夫です。戦兎先生ならきっと受け取ってくれますよ」

「みんな・・・・」

皆からの激励を受ける翼の表情に、少し生気が戻る。

「それじゃあ明日に備えて、今日はもう解散しようか」

「それじゃあ、互いの健闘を祈って」

そんなこんなで、彼女たちは解散したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、バレンタイン当日―――

 

 

 

 

マリアの場合

 

「シン」

「ん?」

本部の廊下にてシンはマリアに声をかけられる。

「マリアか。どうした?」

「今日って何の日か、知ってる?」

「今日・・・ローマ皇帝の迫害によって殉教した聖ウァレンティヌスに由来する、西方教会の記念日だと思うが・・・」

「違わないんだけどなんかずれてない・・・?」

シンのずれた認識にとりあえず咳払いをしつつ、マリアは、背中に隠していた箱を差し出す。

「はい」

「ん?箱・・・」

それに首を傾げるシンだが、

「今日はバレンタインデー。女性が男性に贈り物をする日よ。忘れたの?」

「バレンタインデー・・・ああ、そういえば」

思い出したかのように、シンはマリアが差し出すその箱を受け取る。

「今年は色々な事があって忘れていた」

「そうね・・・」

「ルナアタック、フロンティア、ナスターシャ・・・思えば、あれほど苛烈な時間を過ごしたのは久しぶりだ」

思い出すように、シンは呟く。

「そうね」

それに、マリアも同意するようにうなずく。

「・・・開けてもいいか?」

「・・・ええ」

マリアの返事を聞き、シンはリボンを解き、箱を開ける。

「ブラウニーか。それにこの匂いはココアか」

「貴方の好きな味でしょ?」

「ああ」

それにうなずいて、シンはブラウニーをひと切れとり、口に運ぶ。

そして食べて、何度か咀嚼し、そして飲み込む。

「うん、美味い」

「それなら良かった」

そう言い合う二人の間には、笑みが零れていた。

 

 

 

 

調と切歌の場合

 

 

「慧くん、はっぴーバレンタインデー」

「アタシたちのチョコを受け取ってほしいのデース!」

二人そろって慧介に作ったものを渡す調と切歌。

「ありがとう二人とも。いやー、今年もバレンタイン迎えられるなんて思わなかったよ」

「私も思わなかった」

「こうして調と慧介と一緒に過ごせて良かったデス!」

二人からのチョコを貰いつつ、慧介の素直な言葉に、二人は頷いて見せる。

そんな中で、調が、慧介と切歌の手を取る。

「慧くんと、切ちゃん・・・二人がいてくれたから、今、私はここにいる。だから、ありがとう」

そう、満面の笑みで調は言う。

その笑顔に、二人も笑顔で答える。

「そんなの、こっちだって同じだよ。ありがとう、調」

「そうデスよ。ありがとうはお互い様なのデス!」

「マムも、喜んでくれるかな」

「きっとな」

そんな風に言い合う三人。そんな中で、切歌はふと、調の方へ近づいたかと思うと、

「まあそれはさておき、調はもうちょっと慧介とくっついた方がいいんじゃないデスか?」

「え!?」

「んな!?」

そうして切歌が調を押した結果、調が慧介の腕に密着するようになってしまい、その調の華奢で柔らかい感触が慧介の脳髄を討ち貫く。

「き、切ちゃん!」

「ほらほら、そうしてた方がお似合いデスよ~。というわけで今デス!」

「え?」

次の瞬間、どこからともなくシャッター音が鳴り響く。

それを聞いた調と慧介が、ぎぎぎ、とさびたブリキ人形のように首を回転させた先にいたのは、自分のスマホを構えた藤尭朔也の姿が―――

「・・・藤尭さん・・・?」

「い、いやー、ごめんね調ちゃん、慧介君。切歌ちゃんにどうしてもって言われて・・・」

「切ちゃん・・・?」

「藤尭さん!パスデス!」

次の瞬間、藤尭に向かって走り出した切歌が藤尭から彼のスマホをキャッチ。

そのまま全力で逃走を始める。

「逃がさない・・・!!」

一方の調はハイライトオフした目で切歌を追走。絶対に逃がさないという虎のようなオーラを滾らせて、切歌を全速力で追いかけていった。

「うわぁ・・・」

「ああ・・・」

その様子に藤尭と慧介は引きつった笑みを浮かべていたが、ふと慧介が動いていない事に気付いた藤尭が慧介の方を見る。

「・・・・慧介君?」

「え?ああ、なんか、うちの切歌がすみません・・・」

「ああ、いや、別に・・・なんかごめん・・・」

と、何かいたたまれない雰囲気となっていた。

 

 

 

クリスの場合

 

「ここ、だよな?」

クリスが訪れたのは、この潜水本部内にある、ジムルーム。

そこには様々な筋トレ道具やら運動道具などが出そろっており、そこで筋トレをする者は数多く存在する。

無論、弦十郎もここを利用している。

(最近、ここに通い詰めてるって聞いてたから、いるかな・・・)

実はかなり緊張してきているのだ。

何せ初めての恋人に初めて贈り物をするのだ。

しかも彼女自身、素直じゃない性格が突っかかってその緊張がさらに高まっている始末だ。

しかも、意外にも人が多く、さらにトレーニング道具が遮蔽物となって一目では龍我を見つけられない。

と、入り口で龍我の姿を探していると、ふととある人物が目に入る。

「あ、あんたは・・・」

「ん?クリスちゃん?」

なんと友里だった。その身をトレーニングウェアに身を包んで、片手にペットボトルを持っていた。

「なんでここに・・・?」

「オペレーターといっても、たまに外出することもあるからね。こうして体を鍛えておかないと、いざって時に逃げられないからね」

「ああ・・・」

自分たちシンフォギア装者や仮面ライダーと違って、彼女たちは普通の人間。ノイズに触れればその体を炭化されてしまう。弾丸が当たれば怪我するし最悪死ぬことだってあり得る。だから彼女らは、自ら生きる為の方法と選択肢を作ろうとしているのだ。

「偶に藤尭君も来るのよ」

「あの人もかよ・・・」

「クリスちゃんがここにいるってことは、龍我君を探しに来たってことよね?もしかしてバレンタイン」

「ま、まあ・・・そんな所だ」

指摘されて恥ずかしくなり、顔を逸らすクリス。

「だったらあそこにいるわよ」

そうして視線を向けた先にあったのはベンチプレス用の道具が置かれた場所。

「あ」

そのうちの一つに、周囲の人間が注目していた。

それに視線を向ければ、そこにいるのは、寝っ転がってバーベルを上げ下げしている龍我の姿があった。

「さっきからずっとやっててね。確か、百キロを十回セットでやって、もう三セット目から数えてないわね」

「流石だな・・・」

もはや龍我の身体能力には慣れて苦笑いするクリス。

と、そんな中で、大きな金属音が聞こえ、そちらに視線を向けてみれば、龍我がバーベルを専用のラックに置いて、ベンチプレスをやめていた。

激しく呼吸をしており、腹式呼吸か腹が上下していた。

「丁度終わったみたいよ。行ってあげたら」

「お、おう・・・」

友里に言われ、クリスは龍我の元へ向かう。

一方の龍我は上体を起こしてベンチに座ると、ゆっくりと深呼吸をして呼吸を整えていた。

「ふぅー・・・すぅー・・・ふぅー・・・」

元格闘家だからか、筋トレをどのようにやればいいのかは理解しているようだ。

そしてまた、気付いたことだが、トレーニングウェアの上からもわかるほど、龍我の体は夏に見た時よりも、ずっとずっと逞しくなっていた。

その体から汗が滴り、ゆっくりと息を整えている様子に、クリスは少し、心臓が跳ねるような感覚を覚えた。

そんな中で、龍我がクリスに気付く。

「クリス」

「よ、よお・・・」

気付かれて、タイミングを見失うクリス。

「どうしたんだ?お前がここに来るなんて珍しいな」

「りゅ、龍我を探してたんだ」

「俺を?そりゃまたなんで?」

「その、今日、バレンタインで・・・」

「バレンタイン・・・あ、そうか。なんかここの女どもが男になんか送ってるなと思ったら、そうかそういう事か」

納得、といった具合で龍我はそうぼやく。

「で?お前はどうなんだ?」

そして、龍我は含み笑顔でクリスの方を見る。

その視線に、クリスは思わずうぐっ、と唸る。

「ど、どうって」

「俺の分のチョコはないのかよ?」

と、いじるように尋ねる龍我に、クリスは体の体温が一気に上昇していくのを感じる。

「の・・・のぼせ上がるな筋肉バカ!あ、アタシ様のお菓子は、こんな人目に付く所で渡すもんじゃねえんだよ!」

ここで素直になれない性格が邪魔をして思ったこととは違った言い方をしてしまう。

ただ、チョコはあることは伝えられたので、ある意味上々なのだが。

「じゃあ誰かいない時なら渡せるんだな?」

「うぐっ」

そしてそれは全くその通りであり、龍我に指摘されて顔を赤くするクリス。

そして龍我は立ち上がる。

「分かった。んじゃ行くか・・・うおっ!?」

しかし、いきなり龍我の胸に何かが叩きつけられる。

それは、クリスの拳とそれに握られた紙袋。

「え、えーっと、くりす・・・?」

「ん」

「え?」

「ん!」

「お、おう・・・!?」

クリスの無言の圧力に龍我は思わず紙袋を受け取る。

そのまま、クリスは無言のままジムの出口へ早足て向かっていってしまう。

そして、入り口の前で止まると、唐突に龍我の方を指さして叫ぶ。

「あとで感想聞かせろよ!?絶対だからな!?」

顔を真っ赤にした状態でさっさと出て行ってしまうクリス。

「・・・・」

一方の龍我はぽかーんとその場に突っ立っていた。

だが、すぐさま渡された紙袋の中をあさり、中に入っていたマフィンを一つ取り出す。

袋に入れられていたそれを取り出し、一口かじってみる。

「・・・・美味い」

羞恥のままあてもなく廊下を早歩くクリスには聞こえていないが、龍我は確かにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

セレナの場合

 

 

緒川慎次は二課のエージェントである。

主に機密保護、情報操作、隠蔽工作などの『裏方まわり』を全般的に引き受ける存在であり、また表向き『小滝興産株式会社』に所属する風鳴翼専属のマネージャーでもある。

そしてその正体は風鳴家に代々仕える飛騨の隠忍『緒川家』の次男。

その身体能力は凄まじく、分身の術やらなんやらいろいろと使え、翼の使う『影縫い』もまた、彼の忍術の一つである。

 

 

さて、何故いきなり緒川の事を話したのか。

 

 

―――緒川が、翼の海外進出について、色々と下準備をするために、スケジュール表を確認しながら本部の廊下を歩いていた時の事だった。

「日頃の感謝の気持ちです。よかったら受け取ってください」

「ああ、ありがとうね」

「ん?」

ふと声が聞こえてそちらを向いてみると、そこにいたのは、二課の女性職員に小包を渡すセレナの姿があった。

(そういえば、今日はバレンタインでしたね)

その事を思い出し、緒川は、弦十郎の元へ向かおうとする。

と、そんな緒川の背中から声をかけられる。

「あ、あの、緒川ひゃん」

「ん?」

それに振り返れば、そこにはセレナが立っていた。その片腕にはおそらくここの職員に送るものであろうチョコの入った紙袋。

「セレナさん。どうかしましたか?」

そう問いかけると、セレナは紙袋、ではなく別の場所から四角い箱のようなものを取り出し、渡す。

「緒川さんに、バレンタインのお菓子です。マドレーヌです」

そう、笑顔で渡してくるセレナに、緒川は微笑むように笑みをこぼし、それを受け取る。

「では、あとで美味しく頂かせてもらいますね」

「はい。では、私はこれで」

そう言って、セレナは駆け足で去っていく。その後ろ姿を見送りつつ、緒川は発令所に向かった。

「司令」

「おお、緒川か」

「今度の海外進出について、少し話が・・・」

そして発令所にて、しばし談義していると、友里と藤尭が戻ってくる。

「友里あおい、ただいま戻りました」

「藤尭朔也、同じく・・・」

友里はしゃきっとしており、しかし藤尭はなぜかげんなりしていた。

「おう戻ったか」

「あれ?藤尭さん、どうかしましたか?」

「それが、切歌ちゃんのいたずらに加担したから調ちゃんにお仕置き喰らってて」

「どうにかスマホの破壊だけは免れたんですけど、一時間近く説教を喰らってしまいまして・・・」

それに緒川と弦十郎は苦笑いを零していた。

ふと、そんな中で藤尭が緒川がもっている箱に気付く。

「あれ、それは・・・」

「ああ、先ほどセレナさんから貰いまして」

「セレナちゃんから?・・・なんか他の人のと違くないですか?」

「え?」

藤尭の言葉に、緒川は思わずきょとんとしてしまう。

「そうなのか?」

「ええ。先ほど私たちもセレナちゃんからチョコを貰ったんですけど、私も朔也君も同じもので・・・」

そういって二人そろって同じ小包に入ったチョコを見せてくる。

「俺のと同じか」

「司令も貰ってたんですか?」

「ああ。ほれ」

そう言って弦十郎も自分の席に置いていたチョコの小包を見せる。

「一人だけ違うってこれってまさか・・・」

藤尭の言葉に、緒川はこの人生で初めて顔をひきつらせたかもしれない。

「まさか、ですよね・・・」

 

 

 

 

その一方で、

「ったく、龍我の奴は・・・」

先ほど龍我にマフィンを渡して体の熱を冷まそうと本部の廊下内を歩き回っていたクリス。

そんな中で、ふとT字路を真っ直ぐ行こうとした時に、横の通路で、セレナが壁に手をついて膝をついて、背中を丸めている姿を目撃する。

「なっ!?」

どことなく激しく呼吸をしているようにも見え、クリスは慌ててセレナの元へ駆け寄る。

「おい!?どうした!しっかりしろ!」

そして、その背中をさすってやる。

「ハア・・・ハア・・・だい、じょうぶ・・・です・・・」

「そんな訳ないだろ?どこか痛むのか?酷いんだったらメディカルルームに・・・」

「本当に、大丈夫なんです・・・」

そうして顔を挙げたセレナの顔を見たクリスは、一気に顔をひきつらせた。

まるでリンゴのように真っ赤にした顔に引き攣った笑顔、そして、心なしかものすごくぐるぐるしている目。

「そう、さっき、緒川さんにマドレーヌ渡せたんですよ。でもその時ちょっと噛んじゃってですね。だから今死にたいなーなんて思ってた所なんです。ええそうです。冷静ですよ私は。冷静にこの羞恥を抱えたまま素晴らしい死に方が出来ないか模索しているところなんです。アハ、アハハハハ・・・」

「うわあ・・・」

背中に手を回しているが、そこからでもしっかり伝わってくる激しい心臓の鼓動と彼女の顔の様子から見て、クリスは、ただ引く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翼の場合

 

 

「よもや、本部にはおらず、家にいるとは思いもよらなかった・・・」

戦兎の住む『No.3』の倉庫。そこに翼はやってきていた。

理由は、本部に戦兎がいなかったから。緒川に居場所を聞き出して、バイクですぐに来たのだが。

「・・・・受け取ってくれるだろうか」

そう言って、翼が視線を落とすのは、失敗してしまったチョコレートクッキー。

焦げて、どうにか食べられそうなものだけ厳選して袋に纏めたものだが、あの甘いもの好きで二課でもかなり有名な部類に入る甘党の戦兎が、果たしてこんなものを食べてくれるだろうか。

と、悩んでいると、唐突に僅かに開いていた扉から声が聞こえてきた。戦兎の声だ。

「誰かと話している?」

そっと耳を傾けてみると、

「―――だから、お前の方で解析できないか?サンプル送っただろ。・・・え?何?兵器開発なら協力しない?いや違うって!もしもの時の為の保険だよ保険!」

覗いてみれば、ビルドフォンで誰かと連絡を取っているようだ。

「これを完成させれば、負荷を大幅に軽減できるんだ。今は仮面ライダーやシンフォギアは災害救助の為の力だけど、いつまた大きな戦いが起きるか分からない。だから頼む」

誰かに、何かを頼んでいるのだろうか。何か、一生懸命のようにも感じる。

「・・・ありがとう。じゃあ、なんかわかったら連絡をくれ。うん、それじゃあ。母さんたちによろしく」

それを最後に、戦兎は通話を切る。

「ふう・・・これでもう少し前に進める」

「桐生」

「ん?」

翼が、戦兎に声をかける。

「誰と話をしていたんだ?」

「ああ、俺の知り合いの科学者。ちょいと奏の残したLiNKERについて調べてもらおうって思ってな」

「大丈夫なのか?そんなことをして・・・」

「大丈夫大丈夫。だってあいつの嫌いなことは兵器開発なんだからな。悪い事に使ったらあいつに殺されかねない」

「そ、それほどまでなのか・・・なんだか気になるな」

と、そういい合っていると、翼は戦兎の机の脇に置かれている紙袋に気付く。

するとそこには、溢れかえりそうな数のチョコが。

「桐生、これは・・・」

「ん?ああ、学校の奴らからめっちゃもらってな。会えば次から次へと、挙句の果てには学校の靴箱にまでしのばされてる始末だよ」

「・・・・」

それを見て、翼は思わず失笑してしまう。

(なんだ。私が渡さなくても、桐生は沢山もらっているじゃないか・・・)

下手な自分のものより、上手い他の子の方が、戦兎も喜ぶ。

わざわざ、失敗したものなんて、彼は食べないだろう。

そう思い、翼は、手にもった袋を、そっと背中に隠した。

と、そこで、

「そうだ。丁度良かった」

「ん?何がだ?」

呟いた戦兎の言葉に、翼は思わず首を傾げる。

そうして戦兎が手にしたのは、何かの刀。

「シンの雷切を改造して、フルボトルを装填できるようにして性能を大幅パワーアップさせたその名も『デンショッカー雷切』!すごいでしょ?最っ高でしょ?天っ才でしょ!?」

「ああそうだな。そういうわけで私はこれから用事が・・・ひっ」

立ち去ろうとするも戦兎に肩をがっしり掴まれた翼は小さく悲鳴を上げる。

「試したぁいなぁ~」

「あ、あの、ちょっと待ってくれ。頼む、頼むからそれを振るのだけはやめてくれ。聞いたところによると高周波ブレードって鋼鉄をも撫でるだけで斬り裂くんだよな?だったらそれを喰らったら私はただじゃすまないと思うんだが・・・」

「科学に犠牲はつきものだ」

「だからって人で実験するなぁぁあ!!」

「ってか、お前の手に持ってるそれなんだよ」

「え?」

いきなり話題を変えられて混乱する翼。実は掲げられた翼の手には、翼の作った焦げたクッキーが握られているのだ。

それを戦兎は強引に掻っ攫う。

「あ!?」

「クッキーかこれ?」

と、おもむろに袋を開けて中にあるクッキーの一つを口に放り込んだ。

「あ」

「んぐっ!?」

それを食べた戦兎の顔が一気に青ざめる。

思わず口を押える戦兎。しかし、ごくり、と飲み込んだ。

「―――っだはぁ!?こ、焦げてる・・・」

「す、すまない。それは失敗した中でどうにか食べられそうなものを厳選したものなんだ」

「作ったもんの中で一番の出来がこれかよ・・・これ誰が作ったんだ?」

「・・・私」

「え」

翼のカミングアウトに、戦兎は思わず固まる。

「・・・・え?これお前が作ったの?」

そう尋ねた翼の顔は、恥ずかしいのかほんのりと顔を赤くしていた。

「・・・・」

その様子に、戦兎はどこかいたたまれなくなる。

「ま、まあ、焦げてるとはいえ、一応食えなくもないし、焦げてることを除けば、砂糖の加減は俺好みだから、一応大丈夫なんじゃねえの?」

「ほ、本当か!?」

戦兎の言葉に、翼は思わず目を輝かせる。

「へ?あ、ああ。少なくとも甘さは俺の好きな方だが・・・」

「そうか。それなら良かった・・・・」

その言葉に、翼は心底胸を撫でおろす。

「少し砂糖が多すぎたかと思ったが、丁度良くてよかった」

「まあな。他の奴らのチョコはどうにも甘さが足りないんだよ。一般的な甘さだという事は理解できるんだが・・・何分俺の好みじゃないというか・・・」

「他の者たちのも食べたのか?」

「ん?ああ、食ったよ」

「そ、そうなのか・・・」

「だけどここだけの話。チョコに髪の毛やら爪やら混ぜてあるものがあってな。流石にそればっかりは食えないんで捨てさせてもらった。なんで髪の毛ごと喰わなきゃならないんだっての・・・」

「そ、そうなのか・・・」

そんなことをするような輩がいるとは思いもよらなかった翼。

何故髪の毛やら爪やらを混ぜる必要があるのか。

「ま、今まで食った奴の中でなら、一番好きなのはこいつかな」

それを聞いて翼はうれしそうにする。

「味は努力点だが」

だがしかし下げられてテンションが下がる。ある意味質が悪い言い回しである。

だがしかし、である。

「桐生」

「ん?なんだ?」

「来年は、もっと美味しいお菓子を送る。今度は焦げてない、桐生好みの甘いお菓子を」

そう言って、翼は、宣言する。

「だから、待っててくれないか?」

そう尋ねると、戦兎は不敵に笑って答える。

「俺を満足させられるならな」

相も変わらず、不敵な感じで、戦兎はそう言い返す。

 

来年、もう一度、贈るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、響と未来は互いで交換してましたとさ。




裏事情

来週の土曜日で投稿だとバレンタインからさらに離れてしまう訳だから、せめて二月の代わりに二日という感じで投稿したかっただけなのである。


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設定集(G編終了時

戦「これを見る前に、一度目次の方を見る事をお勧めします」
翼「この前に三話ほど創造しないがあるので、それらを先に見て頂けると幸いです」
響「というわけで、ちょっとした私たちの設定を見ていってください!」


桐生戦兎=仮面ライダービルド

 

自称天才物理学者だが、その頭脳は本物。

現在、リディアン物理教師にして二課(次章にてS.O.N.G)の技術主任を務める。

日々、櫻井理論の解析に勤しんでいる。

現在、櫻井理論は作成したシンフォギアの数、修復、メンテナンス法まで解析済み。

ただし、新たなシンフォギアの開発は現状不可能。

現在、ジーニアスが使えない状態であり、現状の最強フォームはラビラビタンタンとなる。

助手にセレナを持つ。

実質、二課及びS.O.N.Gのライダーシステムとシンフォギアシステムに関する権限は全て戦兎にある。

その技術力は櫻井了子に匹敵する。

必要に応じて戦力の拡張はするが、特に大きな事案が起きない限りは、新しい戦闘アイテムを作る気はない。

神経衰弱など頭を使うゲームに当然の如く強い

 

戦闘スタイルは豊富な武器やフォームによる手数。

 

 

 

 

風鳴翼

 

シンフォギア『絶刀・天羽々斬』の装者。

トップアーティストとして海外進出を果たす。

戦兎に恋心を抱いているが無自覚。本人、自分の行動になんの疑問も抱いていないので尚質が悪い。その為、その事に関しては戦兎と何かとすれ違いが起きやすいものの、信頼関係は良好。

片付けが出来ない、家事出来ない。その為、戦兎からがみがみ言われたりして縮こまる。

家の事情で自らを『剣』と律する。

剣術に秀でており、また、一部忍術など扱えたりする。

将棋などのゲームの強さは平凡

 

戦闘スタイルは剣による斬撃を主とする。

 

彼女の歌によって『ラビットフルボトル』が『天羽々斬兎ソングボトル』に変化する特性がある。

 

ボトルとの組み合わせは日本神話繋がり(古事記繋がり

 

 

 

万丈龍我=仮面ライダークローズ

 

筋肉馬鹿。知能はそれほど高くはない。しかし戦闘センスはある。

三度の飯よりプロテイン。基本的にS.O.N.Gにて主力戦闘員として毎日筋トレや弦十郎と響との特訓の日々。

クリスと恋仲になってから、クリスが通い妻まがいの行動をするようになったが、龍我本人は気にしていない。

難しい話は大抵聞き流し、暇つぶしに筋トレをするのが基本。

戦兎との信頼関係は絶対。またクリスとの連携もそれなりにである。

体を張ったアスレチックで弦十郎、緒川の次に得意。

 

クリスの歌によって体内のエボルトの遺伝子が活性化し、一時的に戦闘力が上昇する体質。

 

戦闘スタイルは近接格闘戦特化。

 

 

 

雪音クリス

 

シンフォギア『魔弓・イチイバル』の装者。

リディアンにて三回生として、龍我の家に朝食やら洗濯やらをしながら過ごすようになる。

エボルトの遺伝子を体内に取り込んだ為に、身体能力が上昇したが体力だけはどうにもならなかった。

エボルトに体を乗っ取られない特異体質。遺伝子を取り込んだことで若干ハザードレベルが上がっているようだが、現状で数値は不明。

褒め慣れていないため、褒められると顔を赤くする。

射的系ゲーム、無双。

 

戦闘スタイルは銃火器など、遠距離武器での戦闘を主とする。

 

彼女の歌によって『ドラゴンフルボトル』が『イチイバルドラゴンソングボトル』に変化する特性を持つ。

また、龍我の戦闘力及びハザードレベル一時的に引き上げる事も可能な特性を持つ。

 

ボトルの組み合わせはイチイの木→森→森に住む竜的なこじつけ。

 

 

 

立花響

 

シンフォギア『撃槍・ガングニール』の装者。

初対面の相手に誰であろうと真っ先に自己紹介をぶちかます。知能的に龍我程ではないが馬鹿。だけど常識人から見れば完全な馬鹿。

誰とでも仲良くなろうとしたり和解しようとする性格が目立つ。

エボルト相手でも友好的な程馬鹿。

根性と鋼メンタルの塊だが未来の場合は話が別。

余計な所でせこかったりする。

炭水化物が大好き。

イカサマを使う時があるが大抵バレて締め出される。

 

戦闘スタイルは龍我と同じく近接格闘戦。

 

彼女の歌によって『フェニックスフルボトル』が『ガングニールフェニックスソングボトル』に変化する特性を持つ。

 

ボトルの組み合わせはガングニールが何度も失われても復活するから。

(奏の死によって紛失→響の体内にある欠片が覚醒→マリアのものを使用して再び纏う的な感じで)

 

 

猿渡一海=仮面ライダーグリス

 

猿渡ファームの若頭。S.O.N.Gの非公式協力者兼戦闘員。

かなりのバトルジャンキーだが仲間の事を誰よりも思いやれる当主の鏡。

仲間を守る事を優先するが、同時に他の誰かを守る『仮面ライダー』の矜持も持ち合わせている。

現在、ブリザードナックルは修復されているが使用不可。理由は戦兎が前の世界での事を根に持っている為、返してもらえてない。

旧世界でも新世界でも美空ラブは変わらない。

変な所でポンコツな為にゲーム関連はわりとぽんこつ。

 

戦闘スタイルはツインブレイカーとフルボトル多用によるバリエーション豊富な攻撃。

 

 

氷室幻徳=仮面ライダーローグ

 

政府長官。仮面ライダーの中で唯一弦十郎より身分の高い男。またS.O.N.Gの非公式協力者兼戦闘員。

しかし服のダサさは変わらず。

結構凄い立場なのに色々と残念な人。しかし政治家としての手腕は中々のもの。

政治方面でS.O.N.Gをサポートする。

弦十郎は部下、その兄である八紘は友人という関係だったりする。

残念だけどかなり悪運が強い為に賭け事は若干強かったりする。

 

戦闘スタイルは自らの防御力にもの言わせてのごり押し

 

 

 

小日向未来

 

シンフォギア『歪鏡・神獣鏡(シェンショウジン)』を纏う事が出来る体質を有するも、響との戦闘の際に失われた上に、本来であればシンフォギアを纏う事ができない適合係数な為、変わらず響の帰る場所となる。

龍我の変身アイテム『クローズドラゴン』ことクロに非常に懐かれており、戦闘以外では龍我より未来の方についている。

学校でその存在は既にバレているため、いろんな意味で恰好の的である。

響がイカサマしてもそれを上回る技術で叩き潰す為にイカサマがバレた事はない(ただしイカサマしても負ける時はある)

 

 

セレナ・リトルネッロ・ヘルカート

 

本名『セレナ・カデンツァヴナ・イヴ』。

シンフォギア『銀腕・アガートラーム』の元装者。現在、その所有権をマリアへと譲渡している為、戦兎の助手として科学方面で装者や仮面ライダーをサポートする。また、マリアが戦えない時の為の非常用戦闘員として待機していたりする。

技術レベルはライダーシステムの多少の修理が可能なレベル。

戦兎の事はかなり恩師として尊敬している。

翼、クリスと同じく第一種適合者な為、適合係数安定剤『LiNKER』を必要としない。

マリアレベルで将棋が得意だったりする。

現在、名前を元に戻し、戦兎から名付けられた名前は偽名として活用する事にしている。

 

一応の戦闘スタイルは短剣をファンネルように飛ばし、全距離(オールレンジ)にて敵を斬り刻む。

 

彼女の歌によって『ウルフフルボトル』が『アガートラームウルフソングボトル』に変化する特性を持つ。

 

ボトルの組み合わせとしてはカデンツァ=独奏→一匹狼的な感じ

 

 

シン・トルスタヤ=仮面ライダークライム

 

本名は『ジャック』であり、父親はシンが生まれてすぐに他界、母親は戦地にて亡くし、そこから『幼き殺人者たち(マーダー・オブ・チャイルド)』の一員として戦場で多くの兵士を斬殺してきた過去を持つ。

その為、刃物に関する扱いは戦闘問わず、料理ですら完璧にこなす。

が、焼く煮る蒸すなどの斬る以外の過程は平凡より下。レシピを見ないとまともに作れない。

ナスターシャの養子でもある。

非常に少食。大抵をレーションで済ませてしまう悪癖を持つ。

好物はココア。

チェスとトランプ関係の勝負ごとが異常に強い。

 

戦闘スタイルは刀による高速斬撃

 

ライダーキックは右足裏で刀をもってでの強烈な斬撃を繰り出す。

 

モデルは『メタルギアライジングリベンジェンス』の『雷電』

 

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴ

 

現『銀腕・アガートラーム』の装者にして『烈槍・ガングニール』の元装者。セレナの姉でもある。

ただのやさしいマリアと呼ばれるだけあって非情になり切れない優しさを持つ。

基本なんでもできるが、ポンコツな面があり、特にシンの事になるとそれが非常に顕著になる事がある。というかタガが外れると変態化が起きるという異常。

貧乏生活が長かったため割と貧乏舌。金銭感覚は正常。

将棋が得意という一面を持つ。

 

戦闘スタイルは短剣による近接戦闘、刃を鞭のように伸ばして相手に叩きつける。

 

彼女の歌によって『ウルフフルボトル』が『アガートラームウルフソングボトル』、『フェニックスフルボトル』が『ガングニールフェニックスソングボトル』に変化する特性を持つ。

 

ボトルの組み合わせとしては、カデンツァ=独奏→一匹狼的な?

 

 

 

涼月慧介=仮面ライダータスク

科学者を親に持つ孤児。研究の事故などで両親を失い調らと同じくF.I.Sに引き取られる。

金髪碧眼であり、それなりにイケメン。体が柔らかい。すんごく柔らかい。

事実上F.I.Sの中で一番の常識人であり、気遣いがもはや完璧超人レベルであり、それが原因で彼の通う学校でファンクラブが出来ていたりする。

調に対してのみもはや呪いと言っても過言ではない頻度でラッキースケベが発動しまくる体質。

F.I.S組の中で最も常識的ではあるが、天然ボケが強い為、かなり曖昧。

あと異常な数の趣味を持っている為、割となんでも出来たりする。

口癖は『~の達人』

勝負(賭け)事については平凡。

 

戦闘スタイルは龍我、響と同じく近接格闘。

 

ライダーキックはカイザばりの両足蹴り。あるいは片足のみでの連続蹴り。

 

モデルは『武装錬金』の『武藤カズキ』(やっと元ネタが決まった)(それと作者はるろうに剣心が好きだったりする)

 

 

月読調

シンフォギア『鏖鋸・シュルシャガナ』の装者。

慧介の事が好きではあるのだが、『付き合ってない』というのが現状であり、さらにはファンクラブの存在にも気づきかけて気が気じゃない状況が続いている。挙句の果てにはストーカー行為に手を出してきている上にヤンデレ属性まで覚醒し始めている。

ただ元をただせば慧介は男性として、切歌は親友として大好きというどこにでもいる少女。

慧介の多趣味さには圧巻している。

金銭感覚がおかしい。

ヨーヨーにハマり始めている。

 

戦闘スタイルは無限軌道の刃による鏖殺

 

彼女の歌によって『トラフルボトル』が『シュルシャガナタイガーソングボトル』に変化する特性をもつ。

 

ボトルの組み合わせは、月と虎、あるいは月下獣的な感じのもの。

 

 

暁切歌

シンフォギア『獄鎌・イガリマ』の装者。

今のところ恋心を知らない純粋無垢な少女。語尾が『デス』あるいは『Death』、悲鳴も『デス』。

調を誰よりも大事に思っており、慧介は実は双子の兄という感覚で接している。

最近の悩みはその調が慧介に対して色々とこじらせているという事。

何かずれている。金銭感覚が絶望的に貧乏過ぎる。

駆け引きはそれなりなのだが何故か運だけは絶望的でそれで負ける事が多々ある。

 

戦闘スタイルは鎌による中距離蹂躙。

 

彼女の歌によって『シャークフルボトル』が『イガリマシャークソングボトル』に変化する特性を有する。

 

ボトルの組み合わせとしては『暁の水平線』→『海』→『サメ』なんていうこじつけも良い所な発想。

あるいは調と同じく西都の牙に関するボトルだから。

 

 

エボルト=仮面ライダーエボル

旧世界にて地球を滅ぼそうとした地球外生命体。しかし、戦兎たちとの戦いに敗れ、一時は消滅したかに思えたが、龍我の中に遺伝子の一部を忍び込ませ、それを戦兎が活性化させた事で完全復活を果たす(ただし完全体にはなれない模様)

 

戦闘スタイルは性能にものを言わせた蹂躙

 

現在宇宙散歩中

 

 

 

風鳴弦十郎

二課(次章よりS.O.N.G)の司令官。生身でシンフォギア装者や仮面ライダーを圧倒する力を持つ。OTONA代表。

それなりに人望も厚い為、司令官としての地位は盤石。

 

緒川慎次

現代NINJA。翼のアーティストとしてのマネージャーを務めている。また二課(S.O.N.G)のエージェントも務めてもいる。

NINJAであるため、隠密行動、戦闘技術は常人のそれを超え、様々な忍術を使いこなす。

分身の術も出来る。

 

藤尭朔也

S.O.N.Gの情報処理担当。高性能コンピューター並みの情報処理能力を持つ。

割と一人で一日で終わらせるのに百人は必要な情報処理を一時間で済ませる事ができる。

 

友里あおい

S.O.N.Gのオペレーターでありお姉さん的な存在。最近のストレス解消は拳銃を射撃場で撃ちまくること。

割と荒っぽい面もある。

 

 

三羽ガラス

一海を頭と慕う三人組。それぞれが自我をもつスマッシュ『ハザードスマッシュ』に変身する事が可能。

 

クロ

本来の名前は『クローズドラゴン』。元々龍我のお目付け役兼変身アイテムとして作られた。

名前は未来が名付けたが、それ抜きにしても未来に懐き過ぎている。龍我がスクラッシュドライバーを使うようになった為にその頻度が倍増している。

いたずらっ子な子供のような性格。

この間、機能停止した時に戦兎が修理する際、一部のパーツが謎の物質と融合していた。

 

 

 

用語解説

 

『シンフォギア』

聖遺物の欠片を用いて構成される鎧型武装、またはそのシステムの呼称。別名『FG式回天特機装束』。

特定波形の音波、即ち特定の個人の歌によって機動し、装着者の身体能力の上昇、ノイズの炭化侵食から防護するバリアコーティング、あるいは別次元に半ば踏み入れる事で触れる事の敵わないノイズを現実世界に調律する(引きずり出す)、位相差障壁の無効をうながす。

歌によってバトルポテンシャルを高める事が可能。故に歌いながら戦う必要があるのがある意味の欠点だったりする。

翼、クリス、セレナのようなただ唄うだけでシンフォギアを纏える装者を『第一種適合者』

マリア、調、切歌のような特定の薬品『LiNKER』を使用しなければ反動で体にダメージを与えてしまう装者を『第二種適合者』。

そして、響のように融合症例から装者になった者を『第三種適合者』と呼称する。

 

 

『ライダーシステム』

葛城忍が設計、立案し、その息子である葛城巧が完成させた、対地球外生命体用の戦闘兵器にして、仮面ライダーに変身するための装置の総称。

戦兎や龍我、シンが使う『ビルドドライバー』、一海や幻徳、慧介が使う『スクラッシュドライバー』がそれに該当する。

特定数値のハザードレベルとエボルトによる、あるいはそれと同じレベルの遺伝子操作を受けなければ使用不可という特性を持つ。

『フルボトル』あるいは『スクラッシュゼリー』に内包された『トランジェルソリッド』を装甲として形成、加工し、装着する事によって身体能力の強化、外傷からの保護、ノイズからの侵食を防いだりとした効果をうながす。

シンフォギアシステム同様、ノイズに対して攻撃可能なのは、『火星の聖遺物だから』と戦兎は推測している。

 

 

『仮面ライダー』

戦兎が呼称するいわゆる『正義のヒーロー』的な存在。あるいはライダーシステムを使って変身した姿の事を差し、その変身者の事を『ライダー』と呼ぶ事もある。

シンフォギア装者とは別の形でノイズへの対抗手段となる。

 

 

『パンドラボックス』

火星で発見されたキューブ状のアイテム。強大な力が内包されており、それを開くには六つのパネルと六十本のフルボトルが必要。

開かれた場合、星を滅ぼす『パンドラタワー』が形成され、星を破壊する事が可能。ビルド世界における火星の状態は、かつて地球人類を超える超文明をもっていた火星を根こそぎ破壊したからである(と、推測される。あくまで作者の推測です)

旧世界における『スカイウォール』は、そのパンドラタワーの一部である。

新世界創造の際、そのパンドラボックスは龍我が作り出した白いパンドラパネルとエボルトが作り出した黒いパネルが融合したパンドラパネル一枚を残し世界から完全に消滅してしまっている。

現在、そのパンドラパネルは戦兎個人が所持している。

 

 

『フルボトル』

パンドラボックスを開くため、そして仮面ライダーへの変身に必要不可欠なアイテム。

変身に使わずとも、振って中の成分を活性化させればそのボトルに合わせた効果を発揮できる。

全部で六十本存在し、さらには有機物と無機物で三十本ずつに分かれている。さらにはより相性の良い組み合わせが存在し、それを戦兎曰く『ベストマッチ』と呼んでいる。

この成分をゼリー状にしたものを『スクラッシュゼリー』、人工的に作ったものを『ロストボトル』と、このようなボトルも存在する。

また、聖遺物と同じく、装者の歌に反応してより強力なボトル『ソングボトル』に変化する特性をもつ。

また、聖遺物そのものの力を内包した『レリックフルボトル』も存在する。

 

 

『ソングボトル』

装者の歌によって変化したフルボトルより強力な力を発揮するボトル。

未だ、その謎は解明されていないが、戦兎の推測によると、フルボトルは火星の聖遺物、という説が濃いらしい。

パンドラボックスもまた似たようなものであるため、もしかしたら同じような現象が起こるかもしれない。

 

『レリックフルボトル』

聖遺物そのものの力を内包したフルボトル。

効果や使用方法は他のフルボトルと同じだが、違いは、歌によってその能力の効果が強くなる特性があり、レリックフルボトルを使用した変身では、そのボトルに呼応する歌の持ち主の歌で戦闘能力が大幅に向上する。

 

 

『聖遺物』

古代において使用された武器や装置の事。

いわゆる神話上に存在する武器や道具が主であり、響のガングニールや翼の天羽々斬など、そのようなものが多い。

ただし、そのほとんどが経年劣化によって損傷が激しく、歌による起動をもってしなければ、その出力を全く発揮できない。

もっとも、歌で発動しても一時的なものであり、本来の性能からは程遠いが、中には経年劣化の影響を受けず、そのままの状態で残っている『完全聖遺物』なるものが存在し、その場合は、一度発動すれば本来の性能を100%維持したまま使用可能という特性をもつ。

また、自立型というものも存在し、自ら動くことが可能な完全聖遺物も存在する。

 

 

『エボルトの遺伝子』

龍我とクリスの体内にある、エボルトの分身とも言うべき遺伝子。

龍我の場合は、この遺伝子があるからこそ仮面ライダーへの変身が可能であり、クリスの場合はハザードレベルの概念が付与、身体能力的がある程度向上するという結果が得られている。

また、龍我の体内にある遺伝子だけがクリスの歌に反応して龍我の身体能力を向上させるという効果が見られており、現在解明中の事柄である。

 

 

 

 

新フォーム

 

ビルド・ザババフォーム

 

シュルシャガナタイガーとイガリマシャークのシンフォニックマッチでなされるフォーム。

能力は全身の刃による斬撃。

イガリマシャークハーフボディからはイガリマの刃、シュルシャガナタイガーハーフボディからは無限軌道の刃が飛び出すようになっている。

武装は無限軌道の刃を繰り出せるヨーヨー。

ツヴァイウィングと同じく飛翔可能。

必殺技は魂を斬り裂く一撃必殺の刃。

 

 

仮面ライダークライム

 

ここではビルドドライバーによる変身を。

本来集団戦特化の能力をもつウルフの能力を、単独戦闘機能を追加するバイザー『オーグメントレイヤー』を装備している。

さらに、全身に電流が走りやすいようにしており、頭部にある『ライトニングシグナル』から発せられる電気信号を倍にして送り、身体能力の向上させている。さらに雷切からの電流による身体強化能力も倍増させる。

また、反応速度と思考速度を加速させることで、超高速で動くことができ、その状態で敵を自由に斬り裂く『自由斬撃』という機能が追加されている。

基本的に走り回ってすれ違いざまに斬る事に特化している。

必殺技は足裏に剣を持ってでの薙ぎ払い『ウルフティックフィニッシュ』(劇中未使用)

 

 

アトーンメントクライム

 

アガートラームウルフを使う事で発動するクライムの限定強化フォーム。

鉛に近い銀から白銀の装甲へと変化する。飛行方法は地面を蹴るかの如き空中散歩。

本来の電撃能力に加え、白い残光による防御、及び斬撃の飛翔などが可能。

空中でも走れる能力に加え、走力も跳ね上がっているため、まさしく電光石火の如く空中を駆けまわる。

必殺技は敵を空中に蹴り上げ、超高速で空中を動きまわし四方八方から滅多切りにする『アトーンメントフィニッシュ』。

 

 

仮面ライダータスク

 

スクラッシュドライバーで変身するライダーであり、他のスクラッシュライダーと同じく、戦えば戦うほど成長する。

基本的に性能や機能などはクローズチャージ、グリスと同じ。ただし、慧介の肉体特性である『体が異常に柔らかい』ことを反映しており、他の二人に比べてスーツの伸縮性は非常に高い。さらに最適化もされるために、戦うたび、その特性が強化されていく。

必殺技はカイザばりの両足蹴り『スクラップクラッシュ』

 





次章『愛和創造シンフォギア・ビルド』は!?


「始まる歌」「始まる鼓動」「響鳴り渡れ希望の音―――」


国連所属のロケットが帰還時のエンジントラブルで落下中の最中、仮面ライダー及び装者たちが救援に駆け付ける―――


それから三か月後


「お前ら、こんな暑いって時に相変わらずだな」

調、切歌も交えた学園生活を満喫する一同。

「誰かが噂でもしてるんだろうか」

別の学校にて、慧介もまた、今の生活を満喫する。

「あー、暇だ」

それぞれが、それぞれの日常を謳歌していた。

そしてロンドンでも、翼とマリアのライブが開かれる。



だが、そんな彼らの日常に、奴らの間の手が迫る――――




「終末の夜明けに栄光あれ・・・!」

「オレが奇跡を殺すと言っている」



強大な敵、二つの勢力――――それらが今、装者と仮面ライダーたちに襲い掛かる。



次回『GX・奇跡の殺戮者編』


『奇跡の殺戮者とワールドブレイカー』



世界を壊す、歌がある―――それに抗う、科学(ちから)がある。




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創造しない『その後の龍我とクリス』

作「忘れてた話をいまさらながら投稿するぜ」
調「なお、土曜更新はちゃんとやりますので安心してください」
戦「というわけで、ちょいとあのバカとクリスの日常の一幕を見ろ!」


―――クリスと付き合う事になった。

 

とはいっても、一方的な宣告による、勝負ごとのような関係ではあるが。

 

 

「どうだ?今日の味噌汁」

あの日以来、クリスはよく、朝食と夕飯を作りに来てくれるようになった。

無理はしていないか、と尋ねはするが、彼女は気にするな、といって笑顔で返してくる。

「ん、美味い。ダシでも変えたのか?」

今日の朝食は、焼き魚に味噌汁、そしてご飯、と、れっきとした日本定番の献立だ。

「そーなんだよ。最近いいダシ見つけてさー」

と、楽し気に語る彼女の顔は、見ていて飽きない。

こういう関係になってからしばらく経ってはいるものの、この笑顔だけは、どうしても代わり映えしない。しかし、それでも見ていたくなるのもまた、不思議なものだ。

「そういや、今日休みなんだっけか?」

「ああ、今日一日、ごろごろして過ごすつもりだぜ」

「なんかやんねえのかよ。筋トレとか」

「龍我じゃあるまいし・・・でもまあ、テレビとかは見るかなぁ」

「テレビねえ・・・なんか面白いのやってんのかよ?」

「ああ、バラエティだとか、世界の面白い話だとか、あ、この間雨の中で酒飲んでた男の映像があったぞ」

「なんで雨の中で酒なんで飲んでんだ・・・馬鹿なのか?」

「龍我以上の馬鹿かもな」

なんて言い合い、自然と笑いが零れる。

しかし、そんな中で龍我はふと思う。

 

何か、忘れている気がする―――

 

「・・・あ」

「ん?どうした?」

そして、唐突に思い出す。

「そういや俺、お前の両親に挨拶してねえ」

「・・・・」

クリス、フリーズ。

「は、はあ!?」

それでもって再起動と共に沸騰。うん、可愛い。

「な、ななな何言ってんだよ!?そ、そんな、まだ付き合ったばっかでそんな・・・・・って、アタシの両親もういないんだけど!?」

「え、いや、仮にも付き合う事になったんだから、ちょいと仏壇にお香でもあげにいこうかなと・・・」

「・・・・」

ただの親切。龍我の中にはそれしかなかった。

「そうだった。龍我はそこまで深く考えない奴なんだった・・・」

「失礼な」

そういい合ってるうちに、龍我は朝食を食べ終える。

「ごちそうさま」

「おそまつさま」

朝食を食べ終えたところで、龍我はおもむろに立ち上がる。

「そんじゃ、今日はクリスの家にでもお邪魔しようかね」

「え!?」

「ん?ダメか?」

「いや、だめってわけじゃねえけど・・・その、なんでだ?」

「さっき言った事もあるけど、まあたまにはお前の部屋に行きたいからだな」

「うう・・・」

と、クリスに拒否する理由もないわけであり、

「どうぞ」

「お邪魔しまーっす」

あっさりと家に招き入れてしまった。

「言っておくが、おもてなしはあまり期待すんなよ」

「まあいきなりだったしな。仕方がねえよ。ま、その分別の事で楽しませてもらうからよ」

「・・・・ちょっせえ」

にしし、と笑う龍我に、クリスはそっぽを向く。

彼が、そんな深い意味でそんな事を言っている訳がないからだ。

クリスの部屋は思いのほか片付いており、とくに面白そうなものはないように見える。

ただ、家具などはこれなりに高価なものそうであり、彼女の金の使い道が十全と伝わってくる。

まあ、そんな趣味を持たぬ彼女の事だ。他の事に金を使いたいのだろう。

しかし、部屋の片隅に置かれている仏壇。それだけは、他の家具なんかよりも遥かに豪華であり、力が入れられているという事が十分にわかる。

彼女が、どれほど両親の事を想っているのか、それだけで十分に伝わる。

何か飲み物を用意しようとしているクリスを他所に、龍我の足は自然とその仏壇の方へと向いていた。

「ん?龍我?」

戻ってきたクリスが、龍我が仏壇に向かっている事に気付く。

龍我は、仏壇の前に立つと、まず座布団の上に正座で座り、そして、手慣れた手付きで線香に火をつけ、リンを鳴らす。

そして、静かに手を合わせ、合掌する。

「・・・はじめまして」

ふと、合掌をやめた龍我が、仏壇に向かって話し出す。

「万丈龍我といいます。挨拶が遅れましたが、先日よりあんたたちの娘さんとお付き合いをさせてもらっています。その、八百長だとか、冤罪だとかで、色々と後ろめたい事が多いんだけども、それでも、付き合うと決めた以上は、全力で、クリスの事を守ろうと思います。そんな、頭なんてよくねえし、馬鹿だって馬鹿にされがちだし、この腕っぷししか取り柄はねえ俺ですが、どうぞ、よろしくお願いします」

そう言って、龍我は、仏壇に頭を下げた。

そんな龍我の姿に、クリスは、目尻が熱くなるような感覚を覚えた。

 

 

 

 

そんなこんなで、しばらくクリスの部屋で休日を過ごしていた訳だが、ふとクリスが、外を歩きたい、と言い出し、せっかくなので二人して外を歩くことになった。

「龍我、早く」

「分かってるって」

クリスが龍我を急かし、それに龍我は急いで靴を履こうとしたところで、ふと後ろを見た。

「ん?どうしたんだよ?」

「いや・・・なんでもねえ」

気のせい、と片付けていいのかもしれない。

「先に外出てるからな?」

「おう」

だけど、その声に、龍我は、安心させるように答える。

「ああ、任せとけ」

 

―――娘をお願いします。

 

微かに見えた、二人の男女の面影に、龍我はそう答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう、やっぱ冬は冷え込むな・・・」

「だったらなんで外に出たいなんて言ったんだよ・・・」

「いいだろ別に」

冬の冷たい風が肌を刺す。

いくら厚着をしていても、こればかりはどうにもならないらしい。

そんなこんなでアーケード街。こんな寒い中でも人通りは多いらしい。

「いいのか、こんな人の多い所で」

「龍我は嫌なのかよ?」

「別に、ただ心配なのは突然の人の波でお前とはぐれる事だが」

「じゃあ手でも繋ぐか?」

「んじゃそういう事で」

「んあ!?」

と、割と容赦なくクリスと手を繋ぐ龍我。

それにクリスの体温は一気に急上昇する。

「どうだ?()()()()()()()だろ?」

と、龍我は悪戯っ子のような笑顔でクリスにそう言ってくる。

 

―――どうやら、そういう事らしい。

 

「うう・・・逆に熱いよ!馬鹿!」

何か、なにか面白くない。この手玉に取られている感が無性に腹が立つ。

経験か、経験の差なのか。

こちとら未経験の十七歳の子供、向こうは経験のある二十四歳。

この人生経験の差か、そうなのか。

「馬鹿のくせに・・・」

「馬鹿っていうな」

しかし、それでも手は繋いだまま。折角繋いだ手を、そうそう離したくはないからだ。

そうして、しばらくこのアーケード街を歩いていると、唐突に龍我の足が止まる。

クリスはそれに気付き、先ほどまで見られなかった龍我の顔を見上げると、どこか悲し気な眼差しで、前を見ている龍我の姿があった。

その視線を追っていくと、そこに―――彼女らはいた。

「冬は、やっぱり冷えるわね」

「最近変な事件もあったし、いい加減にしてくれって感じだよな」

「でも、貴方がいるから辛くはないわ」

「恥ずかしいこというなよ・・・」

「ふふ、私は貴方の恋人よ?当然でしょう?」

「ふっ、言ってくれるな」

楽し気に、こちらの事など知らない―――いや、実際に知らないのだろう―――という様子で楽しく話す、二人の男女。

人込みの合間から、その姿を見つける。本当に、不幸な事なんてないかのように、その二人は楽し気だった。

その姿に、クリスは一種の不安感を覚える。

また、先日みたいな事にならないだろうか。そんな一抹の不安が、クリスの脳裏に過る。

恐る恐る、龍我の顔を見上げるクリス。

その時見た龍我の表情は、まるで、いつかの日を懐かしみ、そして、もう二度とそんな時間は戻らないという、そんな、悲しみのこもった表情だった。

そんな表情の龍我に、クリスは一重に、胸からこみ上げてくる熱をそっと抑え込んで、静かに、龍我の手を握る手に、力を込める。

「ん?」

それに、龍我が気付き、クリスの方を見る。

クリスは、俯き気味に龍我と同じ方向を向いており、

「アタシじゃ、不満なのかよ・・・?」

そう、拗ねたように言った。

そんな様子にクリスに、しばし呆気にとられた龍我は、ふっと笑い、声をあげる。

「あー、そうだな。まだまだ全然足りねぇなぁ」

その言葉に、ぴくりとクリスが反応する。

「だから、満足させてくれよ?そういう話だったよな?」

そして、続けてそう言って見せる。

その言葉に、クリスは弾かれたように龍我の顔を見上げて、にやり、と笑って見せる。

「おう言ったな。絶対の絶対に満足させてやるから覚悟しとけよ!」

「望むところだ。そう簡単に俺を香澄から引き離せると思うなよ?」

「やってやるよ!香澄よりアタシの方が断然良い女だって言う事を思い知らせてやる!」

不敵に、大胆に、二人はそう言い合う。

そんな中で、ふとクリスは、視界の片隅に誰かの面影を見る。

それは、女性。優しい笑顔を浮かべて、真っ直ぐにクリスの方を見ていた。

そして、その言葉が、クリスに向かって告げられる。

その言葉に、クリスは、ふっと笑ってしまう。

「ん?どうした?」

そんな中で、龍我はクリスがどこかを向いている事に気付く。

「いんや、ちょいとあのバカが見えたから、気になっただけだ」

「え?響いんの?どこだ?」

「さあな。ほんの一瞬だから見失っちまったよ」

龍我が響の姿を探す隙を見て、先ほどの女性がいた場所を見る。

もう、影も形もない、女性の姿。

そんな彼女に、クリスは、そっと答える。

「ああ、任せとけ」

 

 

―――龍我を、よろしくね。

 

 

その声は、クリスの胸に、いつまでも響いていた。




ちょいと特殊な事情

この話において補完したい事は、旧世界香澄は新世界香澄として復活していないという事です
理由はまあ想像に任せるとして、作者個人の見解では、

ネビュラガス投与→スマッシュにされる→スマッシュ解除されてすぐ消滅


といった具合に、肉体と精神が早い段階で既に消滅、新世界において新たな肉体にその精神が入らず、旧世界の事を想い出さなかった、といった具合で、まあそのあたり、ノベライズ版で何かわかると思いますけど、この作品ではこのような設定で推し進めたいと思っております。

なんか修羅場とか想像していた読者の皆様には申し訳ありませんが、そういう事とさせていただきます。

では、次回のGXを楽しみにしててください。

では。


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GX・奇跡の殺戮者編
奇跡の殺戮者とワールドブレイカー


戦「ひっさしぶりのあらすじ紹介だ!火星で発見されたパンドラボックスによって引き起こされたスカイウォールの惨劇から十二年!天才物理学者の桐生戦兎は地球外生命体エボルトを倒し、見事新世界を作り出すのであった!」
響「そしてその新世界で戦兎先生はシンフォギア装者である風鳴翼さんと出会い、そこから様々な戦いに巻き込まれていくのであった!」
翼「様々な戦いの末、桐生戦兎の所属する特異災害対策起動部二課改め『S.O.N.G』は、新たな装者、マリア、月読、暁、仮面ライダーにシン、涼月を加え、新たな戦いの火蓋を切って落とすこととなる」
龍「その新たな戦いの敵とは・・・えーっと、錬金術師?だっけか」
ク「ここで詰まるな!というわけで、錬金術師+αとの戦いの幕が今上がる!」
戦「というわけで、砂糖しか生成できなくなった読者の体に再びシリアスと言うなのブラックコーヒーを喰らわせてやるぜ!新章GX編第一話をどうぞ!」


突然だが、ロケットが操縦不能で大気圏に突入し、全力で陸地に向かって落下している。

 

 

理由は至極単純――――宇宙圏内に漂い、仮面ライダーリベンジが吸収しなかった、フロンティアの残骸を回収するために、国連調査団が派遣したロケットが、帰還時のシステムトラブルによって制御不能状態となっているのだ。

 

 

「―――全く、なーんでいつもこんな事になるんだか」

体にかかる重圧、それを受けながら、戦兎はそうぼやく。

「ってか、結構狭いんだからもう少しつめろよお前ら」

「うるせぇ!だいたいなんで俺たち四人が纏めて乗ってるんだよ!?ミサイルもう一本増やしても良かったんじゃねえのか!?」

「予算の問題だろう」

「ヒゲは黙ってろ」

「黙れポテト」

「んだとォ?」

「やんのか?」

「はいはいストップだ。ここで暴れて軌道が逸れたらどうするんだっての」

戦兎以外に、龍我、一海、そしてどういう訳か日本の事で忙しい筈の幻徳が乗っていた。

「それで、どうすんだよ?あんな勢いで飛んでるもん、どうやって止めんだよ?」

「そこはどうにかするさ」

一海の質問に、戦兎がそう答える。

「そうだよな?」

『―――はい!』

無線から、元気ある返事が返ってくる。

『私たちなら、へいきへっちゃらです!』

『この身は常に、人を守るためにある。必ず止めて見せるさ』

『ま、そういうこった』

聞き慣れた、三人の少女の声。

その直後だった。

『ミサイル!?俺たちを撃墜するために!?』

知らない男の動揺しきった声が聞こえる。

『致し方なしか・・・!』

そしてもう一人、覚悟を決めたかのような声―――だが、それはすぐさま驚きへと変わる。

『へいき、へっちゃらです!』

もう何度も聞いた、彼女のおまじない。

それが、スピーカーを通して、彼らの耳に届く。

『だから、生きるのを諦めないで!』

「―――いくぞ」

戦兎の言葉に、彼らは頷く。

 

パンダ!』『ロケット!』『ベストマッチ!』

 

Wake UP!』CROSS-Z DRAGON!』

 

ロボォットジュエリィーッ!!』

 

Danger!』クロコダイル!!』

 

Are You Ready?

 

覚悟はいいか、という問いかけに、彼らは、さも当然のように叫ぶ。

 

「「「「変身!」」」」

 

ぶっ飛びモノトーンロケットパンダ!イェイ!』

 

『Wake UP Burning!Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!』

 

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

ロボット・イン・グリィスゥッ!!』

『ブルァァァァア!!!』

 

『割れるゥ!喰われるゥ!!砕け散るゥッ!!!』

クロコダイル・イン・ロォーグ…ッ!!!』

『オゥラァァァア!!!キャァァァア!!!』

 

四人の変身が完了する――――それと同時に、歌が響き渡る。

 

「始まる歌」「始まる鼓動」「響鳴り渡れ希望の音―――」

 

三人の装者の、合唱曲(ユニゾンソング)――――

 

彼らの乗る二つのミサイルの外装が分離(パージ)。その中から、四つと三つの影が飛び出す。

 

「『生きる事を諦めない』と」

 

 

 

『Ready Go!!』ドラゴニックフィニッシュ!』

 

その一つ、イチイバルを纏ったクリスがミサイルを三機展開、その上に響と翼、ローグがそれぞれ乗り、すかさず発射。

 

「示せ」「熱き夢の」「幕開けを」

 

その一方、一海が変身した仮面ライダーグリスはスクラッシュドライバーに『ジェットフルボトル』を装填。肩のマシンパックショルダーから凄まじい速度でヴァリアブルゼリーを噴出。

 

「爆ぜよ」

 

クローズは必殺技によってクローズドラゴンを呼び出し、その上に飛び乗る。

 

「この」

 

そしてビルドは、左手のコスモビルダーのジェットを噴射、一気に落下していくロケットに近付いていく。

 

「奇跡に」

 

 

「「「嘘はない!!」」」

 

 

「いっくぜぇぇぇええぇぇええ!!!」

グリスが咆哮、一気に飛んでいく。

ミサイルをまるでサーフボードのように操る装者三人とライダー一人。

が、やはりミサイルな上に重力の弱い大気圏。少しでもバランスを崩せば即落下でいくら装者といえども一溜りもないだろう。

「まるで、雪音のようなじゃじゃ馬っぷり!」

「だったら乗りこなしてくださいよ!先輩」

装者やライダーたちはロケットに接近。

まず響がミサイルから飛び降り、装甲に拳を突き刺して振り落とされるのを阻止。続いて翼が船体に張り付き、続くようにビルドが船体に右のジャイアントスクラッチャーを突き刺す。

「立花!桐生!」

「はい!」

「分かってるよ!」

連結部に張り付いた響と翼がギアのブースターを、ビルドが右手のコスモビルダーを全開で噴射、大気圏での空気摩擦を軽減。

しかしまだ止まらない。

 

「その手は何を掴むためにある?」

 

続いて取りついたクリスがミサイルを四基展開。その後ろでクローズが支え、四基とも一気に点火する。

その船体の真下からはクローズドラゴンが押し上げる。

 

『ディスチャァァジボトルッ!!』『潰れなァァいッ!!』

『ディスチャァージクラッシュッ!!!』

 

さらにグリスがジェットフルボトルをスクラッシュドライバーに装填。肩のマシンパックショルダーから溢れ出るヴァリアブルゼリーの勢いが増し、むしろ燃え上がり、推進力を増加させる。

 

「たぶん、待つだけじゃ叶わない!」

 

脚のアンカージャッキを船体に突き刺し、腕部のギアを変形、ブースターナックルと化し、そのブースターを炸裂させてさらに押し返そうとする。

 

『フルボトル!』『ファンキーアタック!!フルボトル!』

 

ローグはネビュラスチームガンに『UFOフルボトル』を装填。続けて、スチームブレードを船体に突き刺し、ネビュラスチームガンの引き金を引く。すると銃口から引力が発生。それを上に向けて、船体を持ち上げようとする。

 

「その手は何を守る為にある?」

 

さらに翼が船体に刀を二本差し、足のスラスターを大きく展開。勢いよくブーストさせ、さらに減速を促そうとする。

 

ボルテックフィニッシュ!!』

 

そしてビルドがコスモビルダーの墳出力を必殺技発動によって強化。凄まじい勢いでコスモビルダーのジェットから凄まじい噴射が巻き起こる。

 

「伝う」「熱は」「明日を」「「「輝かす種火にィ―――ッ!!!」」」

 

そこで大気圏を突破、空気摩擦による燃焼を阻止。

「おい!?それでここからどうするんだ!?」

「まあどちらにしろ減速は間に合わねえだろ。このままいけば、カラコルム山脈への激突は免れねえだろうな」

「どうすんだよ!?」

意外に冷静なビルドに怒鳴り気味に聞くクローズ。

「せめて船内に突入して、パイロットだけでも救出した方がいいだろうな」

「かもな・・・でもだめだ」

ビルドがローグの提案を拒む。

「了子さんが残した研究データ、ナスターシャ教授が命懸けで守ったフロンティアの残骸―――どっちも聖遺物に関する貴重なデータだ」

地上が刻一刻と迫る。

「もしこのロケット見捨ててこんな人目の付かない所に落としてみろ。どっかの国がバックレて盗み出すかもしれねえだろ。それで軍事転用されたらたまったもんじゃない!」

船体に突き刺す爪が装着された手を握りしめる。

「誓ったんだ。俺に研究データを託してくれた了子さんに、全人類救って見せたナスターシャ教授に―――この力を『愛と平和』の為に使うと言う事を!」

コスモビルダーのエンジンが唸る。

「だからこんな所で諦めてたまるかぁぁぁああぁああ!!!」

目の前に巨大な山がある。このままいけば直撃は免れない。

「そうですよね!」

その叫びに、響が答える。

「了子さんの想いも、ナスターシャ教授の想いも全部、届けてあげないといけませんからね!」

山が接近してくる。

「龍我!!」

「ん?ぬぐあ!?」

そこでクリスがミサイルを分離、飛び上がってなんとクローズの顔面に逆肩車をしてくる。

その構図は、見ているとかなりけしからん構図になっているのだが、この状況ではそれを気にする余裕はない。

そうしてクリスが展開したのは六基の大型ミサイル。

それを一気に背後の山脈に向かってぶっ放す!

 

MEGA DETH SYMPHONY

 

放たれた六基のミサイルは空中で無数に分離。それが山の岩壁に突き刺さり、直前上に炸裂、爆発、粉塵を巻き起こす。

「ぶん殴れぇぇえぇええ!!」

「な、なにぃぃぃいい!?」

クリスの無茶ぶり。しかし、もはや考えている時間はなく、むしろ龍我の場合は考えるよりも体が先に動いていた。

 

『ボトルバーン!』

 

取り出したのはナックルダスター型の武器。それにあるボトルスロットに黒いボトルを装填。そして、正面のドラゴニックイグナイターを押す。

すると凄まじい曲調の待機音声が鳴り響き、そのまま一気に拳を振り抜く。

 

ボルケニックナックルッ!!アチャァァア!!!』

 

岩盤すらも溶かし砕く、必殺の一撃が叩き込まれ、その山は―――まるで中部の一部を切り取られたかのように砕かれ、そして一気にその標高を下げる。

「なあ、今の山って名前なんだ?」

「確か世界で二番目に高いK2って山だったか?」

「今ので世界三位に下方修正されただろうな・・・・ッ!不時着するぞ!」

ローグが叫んだ直後、船体が大きく揺れる。地面に不時着したのだ。しかし、未だ勢いは止まらず。

「うぉぁぁぁああ!?」

「ヒャッハー!こりゃあ良い!路線無しのジェットコースターだぜ!」

「何はしゃいでるんですかー!」

絶叫を上げるローグ、はしゃくグリス、突っ込む響。

「ッ!翼ァ!」

「承知!」

そして唯一正面を見ていたビルドが見る先には森。このまま向かえば、木に激突して転倒やら船体が傷ついてガソリンが燃えて引火して大爆発やらが起きかねない。木は意外と丈夫だからだ。

船体の先頭に躍り出た翼は、その手に持つ刀を巨大な刃へと変形。進行方向にある木を根こそぎ削ぎ落す。

しかし森を突っ切って見えた先に、今度あるのは巨大な山。

「今度は山ァ!?」

「任せろォ!」

「行きます!」

それにグリスと響が反応。

グリスが両手にツインブレイカーを呼び出し、響がブースターナックルを掲げる。

そして、目の前の岩山に向かって拳を叩き込む。

叩きつけられた衝撃によって船体が逸れ、直撃を免れる。

「次は左だ!立花!猿渡!」

翼の声に、響とグリスは続けて反応。左の拳とツインブレイカーを叩きつけ、再度船体をそらす。

「まだまだ来るぞぉ!?」

「ッ!」

今度は正面に小さな岩。しかもかなり鋭く、二人がいる位置では拳を叩きつける事が出来ない。

 

クロコダァイル…!』

 

それに対応するはローグ。再びネビュラスチームガンを取り出し、それにクロコダイルクラックフルボトルを装填。

エネルギーが銃口に充填されていき、それを目の前の岩に向ける。

そして、十分に威力が溜まった所で、引き金を引く。

 

『ファンキーブレイクッ!!クロコダァイル…!』

 

放たれた紫の砲弾。それが岩に炸裂し、砕け散る。

「まだまだ来るぞォ!!」

一気に山を駆け下りていく過程で、様々な障害物が出現、それをクリスの銃撃で破壊したり翼の斬撃で斬り飛ばしたり響の拳で粉砕したりクローズのクローズドラゴンで吹き飛ばしたりグリスの可笑しな破壊力でぶち抜いたりローグの謎の頑丈さで振ってくる瓦礫を防いだ(ガードベントした)りビルドの発明品で乗り越えたりと目まぐるしく変わる風景と状況に即時対応をしなければならかったが、それでも皆落ち着いて対処していく。

「この調子で麓まで行ければ―――」

『―――なんて呑気に言ってる暇ないですよ!』

しかしそこでセレナの声が無線越しに響く。

『その先に村があります!』

「んな!?」

セレナの声に、七人は前を向く。

見れば、そこには確かに村が―――

 

『マックスハザードオンッ!!』

 

すかさず、戦兎が動く。

「さあ―――実験を始めようか!」

やや早口で言った決め台詞を叫び、戦兎はハザードトリガーをビルドドライバーにセットする。

そして続けて取り出したのはあの細長のボトル――――『フルフルラビットタンクボトル』だ。

そしてそれを振る―――

 

ピョンピョンピョン―――

 

そのような音がそのボトルからなるも、それでもビルドは振り続ける。すると―――

 

 

―――ピョンピョン―――ドンドンドン

 

 

突如として音声が代わり、フルフルインジケーターが青く発光する。

そして、ボトルの金色側のキャップ、セレクティングキャップを捻り、リボルインジケーターに、青の柄を向ける。

 

タンク!』

 

そのままボトルを伸ばし曲げてビルドアップコネクターを接続。そのままビルドドライバーに装填する。

 

タンク(アンド)タンク!!』

 

そしてすさまじい勢いでボルテックレバーを回転。それと同時に、どこからともなく、七体の小さな青い戦車たちが凄まじい勢いでロケットの周りに整列する。

 

『ガタガタゴットンズッダンズダン!ガタガタゴットンズッダンズダン!』

 

展開されるハザードビルダーと、整列する蒼き戦車たち。

それらの要素を踏まえて、彼は叫ぶ。

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ!!」

 

ビルドが叫び、ハザードビルダーに挟まれると同時に、響が船体の正面に躍り出る。

「馬鹿!?」

「何を・・・!?」

そして、ハザードビルダーから出てきた、真っ黒な装甲を纏ったビルドは、飛び上がった戦車を、その身に纏う。

 

『オーバーフロウッ!!』

 

鋼鉄のブルーウォリアー!!!

 

タンクタンクッ!!!

 

『ヤベェーイッ!!!ツエェーイッ!!!』

 

 

 

これが、ハザードフォームを制御する、もう一つの変身。

 

 

その名も、仮面ライダービルド・タンクタンクフォーム。

 

 

ラビットラビットが速さに特化した形態なら、タンクタンクはパワーに特化した形態。

 

 

「―――勝利の法則は、決まった!」

その姿に変身したビルドはすぐさま響と同じように船体の正面に飛び出し、そして、その船体を真正面から受け止める。

「っしゃァ!俺も付き合うぜ!」

「仕方がない」

「やってやるよォ!」

「ええ!?龍我!?」

「氷室長官、猿渡まで・・・!?」

さらに、クローズ、グリス、ローグまでもその後に続き、五人そろってシャトルを止めようと躍起になる。

しかしそう簡単に勢いは止まらず、シャトルは村に迫る。

 

 

―――絆、心、一つに束ね。

 

 

シャトルが村に到達、大通りを突っ切り、そのすぐ近くの家に僅かながらに損害を与えていき、街を一気に横断していく。

 

 

―――響き鳴り渡れ希望の音!

 

 

車が爆発し、爆炎が上がる。それが彼らを巻き込むも、それでも彼らは、止めようと力を振り絞る。

 

―――「信ず事を諦めない」と

 

「ぬぅぅぅぅッ!!!」

「ぐぅぅぅうッ!!!」

「うぉぉおおッ!!!」

「だぁぁぁあッ!!!」

ライダーたちが絶叫。シャトルの正面には、一際大きな建物。

 

―――唄え 可能性にゼロはない

 

「歌に合わせろォ!」

「「「おう!!」」」

そして、シャトルが建物に直撃―――する寸前で、

 

「飛べよ」

 

翼が叫ぶ、

 

「この奇跡に」

 

クリスが叫ぶ、

 

 

「―――光あれッッ!!!」

 

 

響が叫び、そしてシャトルは―――真上に投げ飛ばされる。

 

 

そして、シャトルは建物の頭上ぎりぎりを通過し、僅かに建物を掠めながらもエンジンを噴射、姿勢を立て直し―――見事、着地に成功する。

「ぜはー、ぜはー、ぜはー」

「ああ・・・死ぬかと思った・・・」

「どちらかと言えば、パイロットやこの街の住民の方だがな・・・」

ライダー四人、疲れ切った様子で変身を解除し、それぞれ思い思いの言葉を吐く。

「ふう・・・任務完了」

そして、無事見事に、シャトルを止める事に成功したのだった。

「無事か!?桐生!立花!」

「龍我!」

「おい俺たちはどうした?」

そして、船体に張り付いていた翼とクリスがやってくる。

その問いかけに、仰向けに倒れていた響は、声を出して笑い出す。

「おかしな所でもぶつけたか?」

その様子を不思議そうに見るクリスと翼。

それに、響は笑って答えて見せる。

「私、シンフォギアを纏える奇跡が、嬉しいんです」

その言葉に、一同は微笑みを零す。

「お前、本当の馬鹿だな」

 

 

 

ただ、世界二位から三位に格下げされたK2には、南無三という他ないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このシャトル救助の一件の後、特異災害対策機動部二課は、国連直轄下にて、超常災害対策機動部タスクフォース『Squad of nexus Guardians』、通称『S.O.N.G(ソング)』として再編成され、安保理の定めた規約の範囲内でなら、国外活動が認められた組織として、新たに活動する事となる―――

 

 

 

 

 

 

 

 

それから三ヶ月後――――

 

 

 

 

 

「―――彼女が動いたか」

一人、蝋燭の光のみが灯った部屋に、長い食卓の最端にて、一人の男がそう呟く。

「はい。現在、彼女の分身体である『エルフナイン』がドヴェルグ=ダインの遺産をもって逃亡、それを自動人形(オートスコアラー)の一体が追跡しています」

「そうか・・・であるならば、我々も動くとしよう」

傍らの金髪の女性からそのような話を聞き、男は、その席から立ち上がる。

「世界の終わりは近い・・・故に、新たな夜明けの幕開けとなる・・・!」

男は両手を広げて高らかに言う。

「終末の夜明けに栄光あれ・・・!」

 

 

 

 

 

そして、日本の横浜でも、時を同じくして一人の少女―――否、少年か?そんな、良く分からない一人の子供が、一枚のローブのみを纏って真夜中の街を走る。

その足元に、銃弾のようなものが炸裂する。

それが幸いにも当たらなかったものの驚いて転倒し、しかしすぐさま立ち上がって近くの公衆電話に身を隠す。

「はあ・・・はあ・・・」

荒い呼吸を整えて、その子供は、その腕に抱えた箱を見る。

(ドヴェルグ=ダインの遺産・・・)

その中に何が入っているのかは、彼―――彼女か、彼女を追う追跡者しか知らない。

()()()()()()()()()()に・・・この遺産を届ける事がボクの償い・・・!)

その確信を胸に、彼女は再び走り出す。

そんな彼女を見つめる、一つの影。

何故か、キメにキメているポーズをとっているその人影というか女性は、月を背中に、その姿を目で追う。

「私に地味は似合わない・・・だから次は、派手にやる」

そして、そう呟くのだった―――

 

 

 

 

 

 

 

夏も間近なその日頃。

桐生戦兎は多くの女生徒が登校する様子を遠目に見ていた。

と、そんな時だった。

「クーリスちゃ―――うぶぅ!?」

聞き覚えのある声がしたのでそちらを向いてみれば、丁度クリスが響に鞄を叩きつけている様子が目に見えた。

その傍らには、その見事な直撃に感心している切歌と調、そして驚く未来に、苦笑するセレナの姿があった。

「アタシは年上で、学校では先輩!コイツらの前で示しがつかないだろ?」

「私は別にいいんですけどね」

「お前はもう少し先輩としての自覚をもて」

「あうち」

クリスからそれなりに痛いでこぴんを喰らうセレナ。

「おはよう、調ちゃん、切歌ちゃん」

そんな中で、未来が調と切歌に挨拶をする。

「おはよう・・・ございます」

「ごきげんようデース!」

調はやや慣れない様子で、切歌は鞄を振り上げて元気よく答える。

「暑いのに相変わらずね」

「キュールル!」

その未来の肩の上にはクロがこれでもかとくつろいでいた。

「よう」

「あ、戦兎先生!」

タイミングを見かねて戦兎が会話に入る。

「おはようございます・・・戦兎先生」

「先生もごきげんようデース!」

「おう。しっかし、お前ら、こんな暑いって時に相変わらずだな」

そう言う戦兎の視線の先には、所謂恋人繋ぎで手を繋ぎ合っている切歌と調の手があった。

「いやいやそれがデスね~、慧介には申し訳ないデスが、調の手はひんやりしてるので、ついつい手を繋ぎたくなるのデスよ~」

「ここでもう片方を慧君が繋いでくれていれば完璧だったのに・・・」

ふと、この暑い中ですっと空気が冷たくなったような気がした。

「どうして・・・」

「あー・・・調さん?」

セレナが恐る恐る呼びかける。しかし、調から溢れ出る黒いオーラは留まるところを知らず。

「―――どうして、この学校は共学じゃないの・・・!?」

「イタタタタ!?し、調!痛い痛い痛いデスよ!ちょっと、ちょっと手に入れた力を緩めてください!お願いします結構きついデスイタタタ!!」

「あああ!?調ちゃん落ち着いて!」

「切歌ちゃんの手が壊れちゃう!」

「落ち着けぇ!」

「だって、ここは女子校なのに慧くんが通っている所は共学校なんだよ。それで私以外の女と関係をもったりしたらどうするの?その女の子コロサナクチャ・・・」

「ああ、やっぱこうなった・・・」

学校に慧介を結びつけると高確率でこうなるのだから溜まったものじゃない。

「ったくもう・・・」

「そういうクリスさんは龍我さんとはどうなんですか?」

「え?そりゃあまあ・・・朝飯作って夕飯作って、それで風呂沸かしたり・・・まあ、それなりにデートもしてるっちゃあしてる・・・って何言わせんだ!」

「あら可愛い」

「~~~」

実際、精神年齢はクリスの方が上だが、実年齢二十歳(奏と同い年)な上にマリア(豆腐メンタル)の妹だ。クリスを手玉に取る事などお手の物だろう。

そこで、やっと落ち着いた調が一言。

「慧くん・・・今頃何してるんだろうなぁ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくち!」

リディアンから割と近い場所にある高等学校の教室にて、慧介は派手にくしゃみをかましていた。

「どうした慧介?風邪か?」

「そんな筈は・・・誰かが噂でもしてるんだろうか」

「ま、異常に体が柔らかくてそれなりにイケメンなお前なら噂の一つ二つあってもおかしくないわな」

「あるいは、その事に妬み嫉みを持つ輩が暗殺の算段を企てているか」

「なんだその洒落にならない冗談は・・・」

と、慧介に話しかけてくるのは、三人の男子。

一人は金髪に染めた髪と明らかにちゃらく見えるが根は良い奴な『立神(たてがみ)浩司(こうじ)』、もう一人は一回り大きいがたいを持つ野球部員の『池田(いけだ)(おさむ)』。そして最後に眼鏡をかけて何かしらの本を読んでいる『遠島(とおじま)俊太(しゅんた)』だ。

三人とも、この学校における慧介の友人たちである。

「しっかし驚きだよな。学校初日の自己紹介でいきなりめっちゃ体が柔らかいって言って実際に披露して見せた奴」

「あれは驚きだった。体が柔らかいのは女の特権かと思っていたが、あそこまで体が柔らかい人間は初めて見たぞ」

「まさに軟体動物だね」

「アハハ・・・まあ、自分も遺伝としか言いようのない特技である事には変わりないんだけども・・・」

慧介は苦笑する他なかった。

(まあ調も結構柔らかかったりするんだけども)

細くてすべすべに見えて意外にしっとりもっちりとしているのを知っているのは、日頃からラッキースケベを引き起こしまくっている慧介といつも調と一緒にいる切歌だけの特権だが。

「そういやお前、今夜、あれ見るか?」

「ああ、見るよ」

修の言葉に慧介は頷く。

「世界に進出した風鳴翼と、再び世界で歌うマリア・カデンツァヴナ・イヴ!ああ、楽しみだなぁ・・・!」

浩司がなんともうっとりとした様子でそう呟く。

その様子に、慧介は無言でうなずく。

(また、世界で歌えるようになったマリア・・・それを全力で応援するのが、俺たちの役目だ)

慧介は、鞄の中に潜ませているジェームズが作り、戦兎によって再調整されたスクラッシュドライバーとポケットの中に忍ばせているタイガースクラッシュゼリーを掴みつつ、そう心の中で呟くのだった――――と、ここで場面が切り替わる所だが、

「そんな事よりだ慧介」

「ん?」

「お前、巨乳か貧乳、どっちがタイプだ」

「ぶっふぅ!?」

思いっきり吹き出す慧介。

「ななな何を言ってんだお前はァ!?」

「なぁんだよぉ。別にいいじゃねえか友達に自分の性癖教えるぐらい。あ、俺はもちろんボンキュッボンのナイスバディがタイプだけどな」

「誰もお前の性癖なんて聞いてないわ」

「俺は綺麗なお姉さんタイプ」

「待て修!?お前もそういうキャラだったか!?なんでお前もその話に乗ってんだよ!?」

「僕はどちらかというとロシア系の白髪の女性かな」

「お前もかよ!?あーもう!お前らどうせ胸のでかい女ばっか妄想してるんだろ!?残念だったな俺は黒髪ツインテールの幼女体形が好みだぁ!」

「え、お前ロリコンだったの?」

「だぁぁぁあ!!もういい何を隠そう俺は喧嘩の達人!今ここでお前をシバいてくれる!」

「あ、ちょ、ま、お前洒落にならねえ程強いからそれはやめアーッ!!」

 

 

 

「へっくち」

「あれ?調、こんな暑い時期に風邪デスか?」

「汗を掻いて冷えちゃったからかな・・・?」

 

 

 

 

 

 

一方、喫茶店『nacsita』にて。

「今日もみーたんは可愛いな~」

「カシラ!鼻の下伸ばし過ぎです!」

相も変わらず美空にフォーリンLOVEな一海。その他にも三羽ガラスが一海と同じ席に座っている。

「ぶれないわね~」

「ポテトが・・・」

その別の席ではコーヒーを飲む紗羽と幻徳。

「ああ?なんか言ったかぁ?」

「やめなさい。少なくとも私の店で暴れるのだけはやめて」

「俺の店でもあるんだけどね?」

今にも喧嘩に発展しそうな一海と幻徳を止める美空と、コーヒーを注ぐその父惣一。

「あー、暇だ」

「そう言って突っ伏さないでよ」

そして、カウンターに頭を突っ伏す龍我。

「いやー、まさかこんなに娘の友達が来てくれるなんて。お父さん感動だな~」

「やめてよお父さん。確かに友達ではあるけど、そこまで感動する程の事じゃないし」

「そうですぜお父様。少なくとも俺はみーたんのファ」

「ふんッ!」

「ふげう!?」

「「「か、カシラー!?」」」

「ふん!」

「何やってんだか・・・」

美空から強烈な肘打を喰らって床に沈む一海とそっぽを向く美空の二人に呆れる龍我。

「それにしても、最近クリスとはどうなのよ?」

「あ?・・・ああ、クリスか。うん、まあ・・・いつも通りだぞ」

「いつも通りって・・・そんなんじゃいつか愛想尽かされちゃうわよ?」

「う・・・」

別段、いつも通りと言えばいつも通りなのだが、十分にいちゃいちゃしてるし、料理作ってもらったり、時々甘えさせてくれたりとそれはそれは贅沢な生活を送っちゃってたりする。

その生活の中で龍我が言える事は、クリスはしっかりとあの宣言を実行しようと努力しているという事だ。

であるならば、それに自分も答えたいと思っている。

思っているのだが・・・

「なんか、日頃の感謝を込めてなんかプレゼントでも送ろうかな~・・・っと」

「へえ?万丈にしては気が利くじゃん」

「それについてちょっと考えてんだよ。クリスに何を渡したら喜ぶのかって考えててさ。これがなんも思いつかねえんだわ」

「ふーん・・・ああ、そっか、万丈にとっては付き合うの二度目なんだっけ?」

「まあな」

そう、龍我は女性と付き合うのはこれで二度目なのだ。

ただ、最初の相手は自分たちとの戦いに巻き込まれて消滅してしまった。それが、今でも龍我の心に深い傷を残している。

(だから、今度は必ず――――)

あんな想いをしないために。

と、そんな龍我の前に一つ、フルーツタルトが置かれる。

「ん?」

「そんな思い詰めた顔してると、彼女さんに心配させちゃうぞ」

惣一だ。

「マスター・・・」

「それ、奢りだから遠慮しないで食べて」

「・・・さんきゅ」

惣一の厚意に感謝しつつ、龍我は、一度手を合わせてからそのフルーツタルトを口に運んだ。

 

 

 

 

 

そして、夜―――クリスの部屋にて。

「・・・で?どうしてアタシん家なんだ?」

眉をぴくぴくとさせながら、そう尋ねる家主のクリス。

「すみません。こんな時間に大人数で押しかけてしまいました」

「ロンドンとの時差は約八時間!」

「チャリティドッグフェスを皆で楽しむためにはこうするしかない訳でして・・・」

今、クリスの家には龍我はもちろん、響や未来、セレナ、その友人の安藤創世、寺島詩織、板場弓美に加え、調に切歌、慧介、そして戦兎がいた。

もちろん、クロも未来の膝の上である。本当に懐きすぎ。

その理由は、その日ロンドンで開催される、とあるライブを見る為である。

「ま、頼れる先輩ってことで」

「そうですよ。ここは先輩として気を利かせませんと」

そう言いつつ、響はクリスから人数分のガラスコップの乗っかったおぼんを受け取り、セレナはそんなクリスの肩に手を置く。クリスは学生の中では一番年上だが小柄な為、セレナより胸はでかくても身長では負けている。

「なんか今物凄くむかつく事言われたような事を言われたような・・・」

「そうですか?」

こめかみに青筋を立てるクリスと首を傾げるセレナ。

補足だが、セレナはマリアの妹である。即ち、装者の中では三番目に胸がデカかったりする。あとは察しろ(威圧

「それにやっと自分の夢を追いかけられるようになった翼さんのステージだよ?」

そう、それが今夜行われるライブを見る理由。

世界からノイズが消え去った事で、翼はついに、アーティストとして海外進出し、歌を世界に届けるという夢を駆け抜けている所なのだ。

「皆で応援、しない訳にはいかないよな」

クリスが、そう答える。

「そしてもう一人・・・」

「マリア」

「歌姫のコラボユニットの」

「復活デース!」

もう一人、また、新たに歌姫として復帰した者がいる。

「ほら、始まんぞ」

「戦兎先生!翼さんとマリア姉さんのステージだよ!」

「ん?おう」

一人、パソコンの画面を覗いていた戦兎は龍我に声をかけられ、改めてテレビ画面の方を見る―――

 

 

 

 

真っ暗な会場。その暗さの中で、響くのは観客たちの声援。

暗闇とは静寂の象徴―――しかし、そんなものをぶち壊すかのような熱気が、その会場を包み込んでいる。

だが、その熱気は、突如として響いた『前奏』によって、一気に上昇する――――

 

「―――遺伝子レベルの」

 

前奏が始まると同時に、天井の大画面のライトがカラフルに点灯。

そして、その直後に、桃色の髪を靡かせる青と白のフリルの衣装に身を包んだマリアがスポットライトを当てられ、その右手を天に掲げる。

 

「―――インディペンデント」

 

続けて、同じような衣装に身を包んだ翼が同じように左手を振り上げる。

 

「絶望も希望も―――」

(いだ)いて―――」

 

さらに、声を繋いで、放つは彼女たちの絆の成す歌。

 

「「足掻け命尽きるまで―――ッ!!」」

 

その声に呼応するかのように、会場が一瞬にして沸く。

これが、世界にその名を轟かせるマリア・カデンツァヴナ・イヴと日本より世界進出した、日本が誇るトップアーティストの夢のコラボレーションライブの輝きと情熱―――

 

『間奏』―――スモークが彼女たちの素足を包み込み、まるでバレエのような足取りでステージを歩く。そして、その最中で彼女たちの足元から見えるのは―――水面。

 

そう、彼女たちがステージとして歌っているのは、水面、水の上。

 

それが彼女たちが素足の理由―――だけに留まらず、彼女たちの背後のモニターが開き、そこから、広大な海とロンドン橋、そして、夕焼けに染まる空と沈みかけの太陽が現れる。

 

指定された時間、予定通りの天候、二人の歌女―――それは、まさしく奇跡の『調和』とも言うべき現象。二人だけの、世界―――

 

「ヒカリと飛沫のKiss―――…」

 

口付けを指先に乗せて放つような仕草。その直後、彼女たちを囲うように水の柱が吹き上がる。それはまるで王冠―――

 

「恋のような――!」

「虹のバースデイ!」

 

その飛沫が虹を描き、彼女たちの魅力を引き立てる。

 

「どんな美しき日も―――…」

 

水の柱が収まり、二人の歌姫は、鏡写しのように左右対称に踊る。

 

「何か生まれ―――!」

「何かが死ぬ!」

 

そして、次の瞬間、二人が海面をアイススケートよろしく滑り出す。

そのまま、ステージを駆け抜ける。

 

「せめて唄おう」

「I love you!」

 

その声に、会場の観客たちが同時に叫ぶ。

 

「世界が酷い地獄だとしても」

 

立ち止まった二人の背後で、再び水が横一列に吹き上がる。

 

「せめて伝えよう」

「I love you!」

 

再び滑り出し、まるでフィギュアスケーターの如き動きで滑りながら全身を使って自らを魅せる。

 

「解放の、時は来た―――」

「星降る」

「天へと」

 

しかし、ここは海面上、氷の張るスケートリングではない。

ましてやフィギュアスケートではない。

 

そう、これは―――ライブだ。

 

誰もがその口で、自らの声を世界に届ける、轟かせる最高のステージ―――!!

 

「「響き飛べ!」」

 

再び水が吹き上がる。その円の中を、二人の歌姫がくるくると踊りながら並び立ち、そして―――

 

「「リバディソング――――」」

 

 

―――星空が、輝く。

 

 

「「―――Stardust」」

 

 

天を差した天井、そこから、流星が降り注ぐ。

その中を、青のフリルを靡かせる翼と、赤のフリルを靡かせるマリアが駆け抜ける。

まるで星空のように暗くなり光り輝く世界へと変貌したステージを、二人の歌姫がここ一番の盛り上がりを魅せる。

 

「「そして奇跡は待つモノじゃなくて」」

 

二人が駆け抜ける海面。その二人が描くのは――∞の形。

 

「「その手で創るものと咆えろ!」」

 

腕を振り上げ、その声に応えるように一緒になって叫ぶ。

その声を受けて、二人は飛び上がる。

 

「涙した過去の苦みを!」

 

するとどうだ?二人は、突如として海面から離れ、その(そら)を飛び、自由気ままに飛ぶ。

それに合わせるように、水柱が爆発するように立ち昇る。

 

「レクイエムにして!」

 

二人が空中ですれ違うば、その場で空中で前転し、海面に着地。

 

「「生ある全のチカラで―――」」

 

そして、再び海面を駆け抜け―――

 

「輝けFuture world」

「信じ照らせ」

 

並び立った二人。それはいつかの競い合うようなものではなく、和解し合った友のような立ち姿。

 

「「星天ギャラクシィクロス―――…!」」

 

その天井の空では、二つの銀河が交じり合い、一つの輝きを―――新たな宇宙を創り出す。

それは、まさしく、全く別のもの同士が交じり合い、新たな『命』を創り出すが如くの奇跡―――

 

 

 

 

 

「うわっはー!」

会場が沸き立つ様子が映し出され、その日のライブを見に来てくれた観客(オーディエンス)たちに手を振る翼に、板場が声を張り上げて喝采を上げる。

「こんな二人と一緒に、友達が世界を救ったなんて、まるでアニメだね!」

「お前はいつもアニメに繋げるよな」

そんな板場に呆れを見せる龍我。

「あはは・・・ソウダネェ・・・」

「キュルル」

そんな言葉に、響はやや棒読み気味に反応するのだった。

 

 

 

 

その一方で、ステージを降りたマリアは―――

昇降盤で降りていく先にいたのは―――アメリカ人のスーツを着た屈強な男が二人。

「任務、ご苦労様です」

そして、マリアに向かって『任務』と、そう言った。

「アイドルの監視程ではないわ」

「監視ではなく警護です」

「それならシンだけで十分なのに」

「彼にはマネージャーとしての仕事もあります。それに、世界を救った英雄を狙う輩も、少なくはないので」

その言葉に、マリアはそれ以上は答えず、その二人を伴ったまま、歩き出す。

 

 

「月の落下とフロンティア浮上に関する事件を収束させる為に、マリアは生贄にされてしまった」

「シンも、そんなマリアを守るために、一緒に世界を駆けまわってるデス」

そう、アメリカ政府からの要請で、マリアは文字通りの『偶像(アイドル)』として、大人たちの体裁を守るための生贄にされている。

その状況に、三人は溜息を吐く。

しかし、

「そうじゃないよ」

未来が、それを否定してみせる。

「マリアさんが守っているのはきっと、誰もが笑っていられる、日常なんだと思う」

その言葉に、彼らに自然と笑みがこぼれる。

「そうデスよね」

「だからこそ、私たちがマリアたちを応援しないと」

「心配させない為にもな」

その様子に戦兎は微笑み、机の上に置いたビルドドライバーを手に取る。

 

誰かの明日を守る―――

 

かつて、世界を滅ぼそうとした地球外生命体―――その四体の内の一体に言い放った言葉。

その言葉に、嘘はない。

だから―――

(これを使うはめにならなきゃいいんだけどな・・・)

緊急時の備えの為に、設計した、とあるアイテム――――その設計図が映し出されている、パソコンの画面を見つめる―――その直後、

 

戦兎のビルドフォン、龍我、響、クリス、慧介の携帯端末に、二課からの連絡が入った。

 

「戦兎だ」

『翼のライブを楽しんでいる所すまないが、第七区域にて、火災事故が発生、消防活動が困難な為、応援要請だ』

「はい!すぐに向かいます!」

「ったく、なんでこんな時に」

すぐに立ち上がって、そう答える響と愚痴る龍我。

「響・・・」

「大丈夫!人助けだから」

そこへ、調と切歌が立ち上がって、申し出をする。

「私たちも!」

「手伝うデス!」

「だめですよ」

しかし、それはセレナに止められる。

「ギアを持たない私はともかく、LiNKERを使わなければ体に大きな負荷をかける第二種適合者である貴方たちの出動なんて認められる訳がないでしょう」

「ま、そういうこった。だからそこで大人しくしとけ!」

クリスがセレナの言葉にそう続け、すぐさま響と龍我、クリスは行ってしまう。

「「むぅ~・・・」」

それにすぐに顔をむくれさせる調と切歌だが、そんな二人の肩に手を置く慧介。

「大丈夫、すぐに終わらせて来るからさ!」

「慧介・・・」

「そんじゃ、行ってくる!」

「あ!慧くん!」

響たちの後を追おうとする慧介を呼び止める調。

「ん?」

「その・・・気を付けて」

「!・・・おう!」

調の言葉に、慧介は笑顔で答える。

「いくぞ、慧介」

「あ、はい!」

その一方パソコンにロックを掛けていた戦兎が慧介に声をかけ、その声に応えて、慧介も走り出す。

その様子を、調と切歌は、黙って見送るのだった。

 

 

 

 

 

「―――レイアが動いたか」

夜闇の中、眼下に広がるのは、赤い炎で一つの大きな建物を燃やし尽くす惨状。

「はい。この様子なら、S.O.N.Gも動くかと」

「という事は、仮面ライダーも出るという事だな。よし、では計画を始めようか―――」

高い建物から惨状を見下ろす二人。その眼は、これから起こる何かに、期待を込めているかのような眼差しだった。

「手始めに、桐生戦兎と万丈龍我を『抹殺』する―――」

 

 

 

 

「―――?」

その一方、何か、不穏な気配を感じ取ったシン・トルスタヤは、その場で立ち止まり、振り向く。

「・・・マリア」

そして、静かに、マリアの名を呟いた―――

 

 

 

そして、その不穏な予感は――的中していた。

様々な衣装がマネキンと共に飾られている細長い廊下のような部屋を歩くマリアと、その後ろに追随するボディーガードの二人。

その、ある意味気味の悪い空間の中で、彼女たちを見つめる者がいた。

それに気付かず、その部屋を歩くマリアたちに、扉のない筈の部屋での『風』を感じ取る。

「風・・・?誰かいるの!?」

その声に、マリアはすぐさま構えだし、他二人も思わず構えだす。

 

「―――司法取引と情報操作によって仕立て上げられた『フロンティア事変』の汚れた英雄、マリア・カデンツァヴナ・イヴ」

 

そのマリアの問いかけに、答える声が一つ―――

 

「何者だ!?」

その声に、マリアは怒鳴り気味に正体を尋ねる。

その問いかけに、その声の主は―――行動で答えた。

ボディガードの一人、正面から見てマリアの左側にいる男から、一つ上の段。たった一つだけ、異色を放つマネキンが一つ―――否、それは―――緑の衣装に身を包んだ、一人の女性。

その女性の手が、ボディーガードの後頭部を掴み、そのままぐいっ、と自分の方へと引き寄せる。

そして、サングラスを押し上げて、無理矢理その唇を重ねる―――

「んぐ!?」

まるで情熱的なキス。だが、その情熱的な口付けをされた男は、自分の体から何かが吸い出されている事を自覚し、抵抗しようとするが、片腕は掴まれ、後頭部を女性とは思えない程の力で固定され、さらには足、肩などで体を持ち上げられている為、逃げる事が出来ない。

「離れろ!」

すかさずボディーガードの一人が脇のホルスターから拳銃を抜き、向けるも、女性は構わず口付けを続ける。

するとどうだ。男の髪から、肌から、体からみるみる色素が抜けていき、最後には真っ白と言った、まさに死体のような状態に変化していく。

そして、吸血鬼の如く絞り終えたのか、その無理な態勢なまま、ボディーガードを捨て、妖しく笑う。

「ふふっ」

瞬間、三連射(バースト)。ボディーガードの拳銃から放たれるのは三発の銃弾。

それを、フラメンコを彷彿とさせる動きでスカートと同時に片腕を薙ぐ。

すると彼女の周りで風が吹き荒れ、銃弾がその風にのって機動を変え旋回、撃ち返され右肩、左胸、眉間と突き刺さり、一瞬にして絶命する。

その直後に、カカッ、と靴底を鳴らすステップを刻み、華麗にポーズを決める。

その異常な強さに、マリアは戦慄し、

「纏うべきシンフォギアを持たぬお前に用はない」

その女性は、マリアに向かって、そう告げた。

 

 

 

 

燃え盛る建物を背後に、逃げる一人の子供。

そんな子供を追い立てるのは、一人の女性。

「踊れ。踊らされるがままに―――」

黄色の男性用の衣装を纏い、その指に挟むは四つのコイン。

それを、恐ろしい速度で投擲、ローブを纏い、その腕に一つの箱を抱える子供を攻撃する。

その威力は、弾丸もかくやと言うべき威力を誇り、幸い直撃はなくとも近くの車に直撃、ガソリンに引火、さらなる爆発を引き起こす。

「うわ!?」

その衝撃を受けた子供は吹き飛び、アスファルトに叩きつけられ、倒れるも、しかし立ち上がり走り続ける。

その様子の子供に、しかし一人の少女が、ゲートの上に立って、燃え盛るマンションを見つめていた。

その眼は、まるで、遠い日の思い出を懐かしむかのような―――あるいは、何かに対する復讐心を映し出しているかのような。そんな目だった。

 

 

 

 

 

その火災現場に向かうは一機のヘリ。

『付近一帯の避難はほぼ完了。だが、このマンションに多数の生体反応を検出している』

その中で、弦十郎から被害状況を聞く響、クリス、戦兎、龍我、慧介の五人。

「まさか人が・・・!」

『防火壁の向こう側に閉じ込められているようだ。さらに気になるのは、被害状況が以前、四時の方向に拡大しているという事だ』

「四時?そりゃまたなんで?」

「赤猫が暴れていやがるのか?」

なぜ、四時の方向に被害が拡大しているのか。何かの抗争か、あるいは、もっと別の何かか。

『響君、戦兎君、慧介君は救助活動に、クリス君と龍我君は被害状況の確認にあたってもらう』

「了解です」

「任せろ」

弦十郎の指示に、彼らは頷く―――

 

 

 

 

 

女性の振るう剣を巧みに躱すマリア。しかし、女性の剣もさることながら、鋭く速い。

その最中で振り下ろされる刃、それを横に抜けるように躱し、すれ違い様に鋭い延髄蹴りを叩き込む。

すると、その女性の眼玉が一回()()

延髄に蹴りを叩き込まれた。それだけでも相当なダメージな筈なのに、女性は何事もなかったかのように首だけの力でマリアを上空へ弾き飛ばす。

「―――しまったッ!?」

そして、踏みしめられる地面と、掲げられる剣―――このまま落下すれば、マリアはその刃に貫かれ、死に至るだろう―――

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘリの扉が開く。

「任せたぞ」

クリスが、並び立った三人にそう言う。

「任された!」

「万丈、ちゃんと彼女守ってやれよ」

「うるせえ分かってるよそんな事!」

戦兎の揶揄いに怒鳴り返す龍我。

しかし、すぐに彼らは、その身を空へと投げ出す。

その眼下に広がるのは、燃え盛る炎と真っ黒な煙を吹き出すマンション―――

 

『スクラァッシュドライバァーッ!!』

 

落下の最中で、戦兎と慧介は、その腰に、ビルドドライバーとスクラッシュドライバーを装着する。

そして、戦兎はハリネズミフルボトルと消防車フルボトルを取り出し、それを振り、シールディングキャップを正面に固定する。

慧介は、左手でタイガースクラッシュゼリーを持ち、右手でシールディングキャップを正面に固定する。

そして、それを、それぞれのドライバーに装填する―――

 

ハリネズミ!』『消防車!』『ベストマッチ!』

 

タイガァージュエリィーッ!!』

 

そして、落下する最中で、戦兎はボルテックレバーを回し、慧介は左拳を右肩あたりにもっていくという変身ポーズをとる。

そして――――

 

『Are You Ready?』

 

覚悟の問いかけが、彼らに投げかけられる。

その問いかけに、戦兎と慧介は、躊躇いなく叫び、響は、聖詠を唄う――――

 

「「変身!!」」

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)―――」

 

レスキュー剣山ファイヤーヘッジホッグ!イェイ・・・!』

 

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

 

タイガァー・イン・タァスクゥッ!!』

 

『ブルァァァァア!!!』

 

 

展開されたスナップライドビルダーが戦兎を挟み込み、ケミカライドビルダーに溜め込まれたヴァリアブルゼリーが慧介に纏われ、二人を戦士『仮面ライダー』へと変身させる。

そして、響の歌によって起動した、右手のペンダントが光り輝き、その内部にある聖遺物が起動、エネルギーへと変化し、それが鎧として纏われる――――

 

それこそが、戦兎が変身する仮面ライダービルド・ファイヤーヘッジホッグフォーム。

 

慧介が変身する仮面ライダータスク。

 

そして、響が纏うシンフォギア『ガングニール』の起動である。

 

それぞれ、誰かを救うための戦士の姿へと変身した三人はそのまま落下。響の歌が鳴り響き、そのまま響が蹴りでマンションの屋上の床を粉砕。その穴に、響に続くようにビルドとタスクが突入する。

 

「―――一点突破の決意の右手!!」

 

貫いた先は火炎燃え盛る地獄絵図。

『反応座標までの誘導、開始します!』

「俺は消火活動しながら向かう。お前ら二人は先に行ってこい!」

「分かりました!」

響とタスクが走り出す。

それを見送ると、戦兎は響達がさった方向とは別の方向を向いて、左腕に取り付けられたマルチデリュージガンを放水モードにして消火活動を始める。

 

 

防火壁の向こう、炎から発生する二酸化炭素の塊である黒煙を、ハンカチなどで吸い込むのを防ぎながら、低酸素の中、耐える逃げ遅れた住民たち。

そんな彼らの耳に、何かが聞こえる。

「・・・何か、聞こえないか・・・?」

一人の住民が呟いた言葉に、他の者たちも反応する。

「これは・・・歌?」

それは、響が唄う、誰かを救うための歌―――

 

 

 

「くっ!?」

成す術なく落下するマリア。そのマリアに、女性の掲げる剣の切っ先が迫る。

そのまま貫かれる―――かに思われたその直前、どこからともなく青い一閃が迸る。

それは、青き戦装束に身を包んだ、刀を片手に持つ―――翼。

「翼!?」

翼はマリアを抱えると同時に刀を防ぎ、そのまま掻っ攫う勢いのまま女性と距離を取る。

「友の危難を前にして、鞘走らずにいられようか!」

そのまま刀を構えた直後、突如として女性の立つ場所の天井が切り抜かれる。

「「ッ!?」」

切り抜かれた天井から現れたのは―――

「シン!」

鋼鉄の床を斬り、人工完全聖遺物『雷切』を手に、黒いスーツ姿のシンがその姿を現す。

そのまま真下にいる女性を、足場にして落ちている天井ごと斬ろうと刀を掲げる。

「―――ッ」

しかし、女性が剣を掲げるのを感じ取ると、何故か攻撃を中断。代わりに足場にしていた鉄板を蹴り飛ばし、女性にぶつけようとするも逆に切り裂かれる。

そのまま翼と並び立ち、マリアを守る様に刀を刀を構える。

「よもや、そんな身なりでマリアの暗殺を企てようとするとはな・・・何者だ?」

「ふふ、男の方はともかく、貴方は待ち焦がれていましたわ」

「貴様は何者だ!?」

シンの問いかけに、女性は不敵に笑い、続く翼の問いかけになんとも大仰な格好で剣を掲げて見せる。

 

「―――自動人形(オートスコアラー)

 

なんとも、聞き慣れない言葉。

「オートスコアラー?」

「貴方の歌を聴きに来ましたわ」

その切っ先を翼へと向け、オートスコアラーと名乗った女性は、再び襲い掛かる。

 

 

 

タスクの拳が、次々と床と天井をぶち抜いて階段をショートカットしていく。

「よし!次は!?」

『左手九十度の壁を撃ち抜いて、迂回路を作って!』

「了解!」

 

『ツゥインブゥレイカァー!!』

 

左手にツインブレイカーを装着し、左手、真横の壁を殴り飛ばす。

そのまま友里の指示の元、壁をどんどん殴り砕き、ついに防護壁の場所へと辿り着く。

中に被害が出ないように、二度に分けて壁を叩き、瓦礫が飛ばないように壁を撃ち抜く。

中を見てみれば、多くの逃げ遅れた住民たちがそこにいた。

「避難経路はこっちです!急いで!」

その住民たちがタスクが来たとこで安堵する様子に微笑みつつも、本来の目的を忘れずに避難誘導を開始する。

 

 

 

 

 

翼の振るう刃を、翼の日本剣術とは違う西洋剣術でいなし、激しくぶつかり合う。

その様子を、シンはマリアを守る為の立ち位置にて注視していた。

パワーでは押しきれないと悟った翼がもう一本の刀を取り出し、手数で押し切ろうとするもそれすらも女性は華麗に凌いで見せる。

そして、その様子を見て、シンは思考する。

(本気を出していないにせよ、翼が手加減している様子は見られない・・・なのにあの女はそんな翼と互角に渡り合っている・・・やはり、あの女は―――)

 

 

 

『響さん!これで最後の生体反応です!』

セレナの指示を聞き、響はその足をさらに速める。

燃え盛る炎の中を突っ切って進むは階段。

そこに、一人の少年が取り残されている。

「ごほっ、けほっ・・・」

炎の間近、酸素が一気になくなっていく空間で、黒煙の巻かれながら少年は息苦しさに絶望を感じる。

逃げる最中で母親とはぐれてしまい、その心は、今にも折れそうだった。

「ママ・・・」

さらに、酸欠によって意識が遠のく始末。このままでは、炎で焼け死ぬより先に、酸欠によって死んでしまう。

とうとう耐え切れずにその場に倒れ込んでしまう少年。

そこへ、響が拳で瓦礫を殴り砕いて突入。そしてすぐさま倒れている少年を見つけ、抱き抱えて安否を確認する。

まだ息はある―――そう安堵するのも束の間、突如として天井が崩れ、響たちに向かって一気に落ちてくる。

だが、そんなもの、ありとあらゆるものを貫き通す無双の一振り『ガングニール』を纏う響にとっては、水面に張った薄氷も同然。

飛び上がると同時に片足を真上に向け、その勢いのまま天井を蹴り下し、一気に外へと飛び出す。

たった一撃、それだけで、響は少年を見事に救い出したのだ。

 

 

 

 

両の剣の柄頭を連結、足のスラスターをもって床を滑空する翼は、その双刃刀の刃から烈火の如き炎を滾らせて掲げ、頭上にて高速回転。

「風鳴る刃は、輪を結び―――」

そのまま一気に女性に接近。片手のみで双刃刀を振り回す。

「火翼をもって斬り伏そぶ―――!!」

回転によって威力の増した刃は青い炎を燃え上がらせ、その勢いのまま、一気に女性にその刃を叩きつける。

「月よ、(きら)めけッ!!」

その名も―――

 

風輪火斬・月煌

 

斬撃を叩きつけられた女性は吹っ飛び、そのままボックスが積み上げられた場所へ突っ込み、崩れたボックスの下敷きとなる―――

 

 

 

 

 

「よし、次!」

ほぼほぼ消火が完了したマンションの中で、ビルドは他に火種がないかを探し、焼け焦げた廊下を走る。

その時だった。

「仮面ライダービルド・・・桐生戦兎ですね」

「ん?」

T字路で、ビルドは立ち止まり、その声がした方向を見る。

そこに立つのは、一人の女性―――金髪の髪をポニーテールに纏め、グラマラスながらもスレンダーな体系で、黒のパンツスーツを纏い、バイザー型のサングラスをかけるその女性に、ビルドは警戒の色を露わにする。

「・・・なんで俺の事を知っている?」

仮面ライダーの事については公表されている。だが、マリアのようにその正体は明かされていない筈なのだ。

なのに何故、知っているのか。

「いえ、我々の計画に、貴方の存在が邪魔だった為、情報を搔き集めさせてもらったまでです」

「邪魔?」

「もうここまで言えばおわかりでしょう」

淡々と語る女性に、ビルドは嫌な予感を走らせる。

そして、火が消えた暗闇の中、窓から差し込む月光に、何かが反射するのをビルドは見逃さなかった。

「ッ!?」

体を後ろへ投げ出し、その、凄まじい勢いで突っ込んできた何かはビルドの目の前を通り過ぎ、すぐさま旋回して再びビルドを襲う。

しかしビルドはそれを紙一重で躱し続け、どうにか態勢を立て直した所で右手のBLDスパインナックルで殴り飛ばす。

するとそれはすぐさま女性の元へ戻り、そのすぐ傍を浮遊する。

「光の神ルーの持つ武具が一つ『フラガラッハ』。その能力は、持ち主の意志に呼応して持たずとも敵を斬り裂く神の刃」

柄の部分に球体、何かに繋がれてもいない輪の鍔、そして、短剣程の長さしかない刀身。

しかし、何も触れずに浮遊している事、先ほど殴った感触、そして、女性の説明で確信した。

 

あれは―――聖遺物だ、と。

 

「抵抗しなければ、なるべく楽に殺してさしあげます」

女性は、なんとも優しそうな、しかし狂気を感じる笑みで微笑んでくる。

「そうかよ・・・だけど、それは聞けない話だ」

 

ライオン!』『コミック!』

 

ボルテックレバーを回し、ビルダーを展開する。

 

「そうですか、残念です。では、なるべく絶望させながら殺してあげましょう」

「そうはいかねえよ。まだまだやることがたくさんあるんだ・・・ビルドアップ!」

スナップライドビルダーがビルドを挟み込む。

そうして現れるはベストマッチフォームではない。

どちらも黄色。

しかし、その性能は強力――――強大なパワーと防御力、そして精密な動きが可能なトライアルフォーム『ライオンコミックフォーム』の誕生である。

「悪いですが、それは今宵で最後となりますでしょう」

「言ってろ!」

ビルドと女性が、焼け焦げたマンション内で激突する―――

 

 

 

 

 

 

その一方で、火災現場の外、救急車が密集している場所にて、

「うちの子が見つからないんです!まだ救助されていないんじゃ・・・」

そこに、一人の女性が涙ながらに救急隊員に話しかけていた。

彼女は、避難の際に自分の子供とはぐれてしまった母親だ。その子供が、避難場所のどこを探しても見つからなかったために、このように、子供の安否を尋ねているのだ。

そこへ、少年を抱えた響がやってくる。

「お願いします!」

「! こうちゃん!」

その姿を見た母親は、響の腕に抱えられている子どもを見て、歓喜と嗚咽交じりに声を荒げる。

響の抱えるその子供こそが、その母親の子供なのだ。

「煙をたくさん吸い込んでます。早く病院へ!」

「ご協力感謝します」

意識のない子供を響から受け取り、必死に呼びかける母親。

救急隊員の一人が響のお礼をし、すぐさま救急車に母親とともにその子供を乗せる。

その様子を見届けてから、響はふっと微笑み、すぐに戻ろうとしたところ、ふと視界上方に、誰かがいることに気付く。

 

それは、一人の少女――――

 

 

 

その業火から呼び起こされるのは、過ぎたりし、遥か彼方の忌々しい記憶。

 

『それが神の奇跡でないのなら、人の身に過ぎた悪魔の知恵だ!』

 

十字架に括り付けられ、その足元から焼かれる―――父親。

 

『裁きを!浄罪の炎で、イザークの穢れを清めよ!』

 

くそったれの民衆、手を伸ばしても届かない自分の手。

 

 

成す術もなく、父は焼かれていく。

 

 

必死に呼びかけても、その炎が止まるわけではない。炎は徐々に、しかし確実に父の体を焼いていく。

そんな父が、死の間際に放った言葉があった。

 

『―――キャロル』

 

その言葉を、少女―――キャロルは忘れることはないだろう。

 

『もっと生きて、世界を知るんだ。―――それがキャロルの―――』

 

 

 

世界を―――奇跡を殺すまでは。

 

 

 

「パパ―――」

キャロルは、ふと父の名を呼んだ。

 

消えてしまえばいい思い出―――

 

 

「―――そんなところにいたら危ないよ!」

 

 

「ッ!?」

突如として、聞こえた声。

慌ててそちらに視線を向ければ、そこにいるのは―――一人の少女。

「パパとママとはぐれちゃったのかな?そこは危ないから、お姉ちゃんが行くまで―――」

「―――黙れ」

そんな少女―――響の言葉を遮るが如く、突如として空中に円を描いたかと思えば何かの陣が形成され、次の瞬間、その陣から突風が巻き起こる。

「うわぁぁあ!?」

それに驚いた響は思わず飛びのき、それを躱す。そして彼女が先ほどまでいた場所には、大きく穴が穿たれていた。

「ええ!?」

『敵だ!敵の襲撃だ!そっちはどうなってる!?』

その訳の分からない状況に驚く暇もなく、クリスから無線が入る。

「敵・・・?」

響は、少女を―――キャロルを見上げる。

その手には、先ほどの陣に描かれていた文字と同じ、ホログラムのような文字が掲げられていた―――

 

 

 

 

 

激しくほこりが舞い散る中で、あまりにも容赦のない翼の攻撃を、マリアは思わず咎める。

「やりすぎだ!人を相手に―――」

「こいつが人であったらどれほど良かっただろうな」

「え?」

シンの言葉に、マリアは思わず首をかしげる。

「余所見するなよ。こいつは―――」

「ああ、こいつはどうしようもなく―――化け物だ」

次の瞬間、かなりの重さはあろう瓦礫をいとも容易く、それも無傷で吹き飛ばして見せる女性の姿があった。

「聞いてたよりずっとしょぼい歌ね。確かにこんなんじゃ、やられてあげる訳にはいきませんわ」

生身―――のはずの体で、翼の一撃を受けてあの様子。

間違いなく、この女性は―――化け物。

 

 

 

 

 

陣が列を成し、四重の砲門となって展開される。

「―――『キャロル・マールス・ディーンハイム』の錬金術は、世界を壊し、万象黙示録を完成させる・・・!」

展開された陣を向けられる響。しかし、響が気にしているのは、その砲門を向けられている事ではなかった。

「世界を、壊す・・・!?」

「オレが奇跡を殺すと言っている」

響の言葉に、返答になってない返答を返し、一つの力ある文字を書き込む。

すると、重なる他三つの陣にも同じ文字が書き込まれ、それらが重なり合い、さらなる陣を形成、次の瞬間、何本もの風の槍が響に殺到していく―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛和創造シンフォギア・ビルド『GX・奇跡の殺戮者編』―――開始。

 

 

 

 

 

 

 




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

突如として正体不明の敵の襲撃を受ける装者、仮面ライダーたち。

「こちらの準備は出来ている」

激突する装者たち。

「引くわよ!翼!」

撤退を選択するマリアたち。

「ああ見えて、底抜けにお人好しぞろいデスからね」

待機命じられた調と切歌。

「人助けの力で、戦うのは嫌だよ・・・」

戦いを拒む響。

その最中で、彼らの前に現れたのは――――


次回『逃亡のアルケミスト』


「ボクの名前は『エルフナイン』」




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逃亡のアルケミスト

戦「天っ才物理学者の桐生戦兎は、仮面ライダービルドとして、日々救助活動をしながら日常を謳歌していた!だがそこへ現れる、錬金術師たちの猛攻が、襲い掛かるのであった」
エル「えーっと、今回から名前出しをさせていただく、エルフナインと言います」
キャ「キャロル・マールス・ディーンハイムだ。これからレギュラー登場となる」
響「わーいキャロルちゃーん!」
キャ「引っ付くな!」
響「おぶふっ・・・!?」
戦「はいはいわき役の紹介はここまでにしておいて」
キャ「脇役ってなんだ!?」
エル「ちなみにボクの名前はエボルトさんと被る為に二文字表記になっています」
キャ「その情報今いるか!?それを言うならこの方が分かりやすいからと言って同じように二文字表記になってるオレのことも追及されるべきじゃないのか!?」
エル「キャロル、ツッコむべき所そこじゃないと思うよ?」
戦「まあそれはともかく、GX編その第二話を―――」
響「あぁぁぁああ!!」
戦「うお!?どうしたいきなり!?」
響「そういえば!弓美ちゃんたちがSGXDでプレイアブル化されるからそれからの作者の気持ちをやんなきゃいけないんだった!」
戦「いやどうでもいいだろそんなこと―――」

マ(作者役)「いやいや待て待て待ちなさい。いくらなんでも頭悪すぎるでしょこんなことなんていや可能性はあったかもしれないけどこれは一体なんのサァプサァーイズ(ドラ〇ブ風)になのかしら?本当に心臓止まるかと思ったじゃない金子さんどんだけなのえ、まって本当に不安になってきたんだけど、いつもいつも思うけどシンフォギアの展開が全く予想できないんだけど、いや本当に何やってるのいやほんとマジで―――」

シ「マリア落ち着けそこまでだ」マリアズリズリ
戦「・・・・」
エル「・・・・」
響「・・・・」
キャ「・・・いやどうするんだこの空気!?」
戦「というわけでGX編第二話をどうぞ!コロナには気をつけろよ!作者はコロナの所為でゲイツマジェスティがみれねえからその怒りを小説にぶつけてるぞ!というわけで本編をどうぞ!」
キャ「無理矢理終わらせるな!」


―――暴風が、直撃する。

 

「うわぁぁああ!!」

それを諸に喰らい、吹っ飛ぶ響。

巻き起こる土煙が晴れる中、抉られた地面に倒れ伏し、しかし立ち上がろうとする響の姿があった。

しかし、その身にシンフォギアを纏わず、おそらく先ほどの一撃の直撃を受けたことが容易に伺える。

「何故シンフォギアを纏わない?戦おうとしない?」

キャロルが、彼女にそう問いかける。

「戦う・・・よりも・・・」

それに対して響は、問いを投げ返す。

「世界を壊したい理由を聞かせてよ」

その問いかけに、キャロルは一度、むっとしたような顔になり、次にはその一歩を空中へと踏み出し、その身を宙へ放り出す。しかし、その落下は非常に緩やかであり、キャロルはそっと、砕かれ地面に突き刺さる瓦礫の上に立つ。

「理由を言えば受け入れるのか?」

そして、キャロルは再び、響にそう問いを返す。

「私は・・・戦いたくない!」

響は、うつむいて、そう叫ぶ。

その答えが気に食わないのか、歯を食いしばり、キャロルは叫ぶ。

「お前と違い、戦ってでも得たい真実が―――オレにはある!」

その視線は、響を軽蔑するように見下していた。

 

 

 

 

 

 

 

そして―――

「あ?なんだありゃ?」

男が一人、その光景を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

クリスの家を出て、帰路につく未来たち。

「あーあー、せっかくせっかくみんなでお泊りだと思ったのに~」

板場がそう不満の声をあげる。

「立花さんたちが頑張っているのに、私たちだけ遊ぶわけにはいきませんから」

そんな板場を、寺島が咎める。

「ヒナが、きねくり先輩の家の合鍵をもってたから良かったけど。でも、どうしてもってたの?」

そんな中で、ふと安藤がそんな疑問を未来にぶつける。

それに未来は、思わず口ごもる。

「え・・・そうだよね。どうしてだろう?前に響から預かってたんだったかな?」

「ちょっとこちらの都合で、ね」

と、誤魔化すかのようにそう言う未来に、セレナがそう助け船をだす。

「ふ~ん・・・」

その返答に安藤はそう呟くも、そこで切歌が口を挟む。

「じゃあじゃあ先輩がた!アタシらはこっちなのデース!」

「誘ってくれてありがとう」

「失礼するデース!」

「あ!?切ちゃん!?」

と、まるで急ぐように調の手をとって走り出す切歌。

「バイバーイ!」

「気を付けてね」

「ちゃんとまっすぐ帰るんですよー。勝手に事件現場いったら説教ですからねー!」

そう、二人を見送った後で、

「さて、コンビニでおむすびでも買ってこようかな?」

「あらあら」

「まあまあ」

「てっきり心配しているのかと思ってたら」

「信じているんですね・・・」

意外な未来の反応に、四人は三者三様に驚く。

「響の趣味の人助けだから平気だよ。むしろ、おなか空かせて帰ってくるほうが心配かもね」

その未来の後ろを、モノレールが走りすぎる―――

 

 

 

 

 

 

ヘリが夜空に飛び上がるのを見送り、クリスと龍我は、芝生の上にたたずむ。

『火災マンションの救助活動は響ちゃんたちのおかげで順調よ』

耳のインカムから友里がそう情報をくれる。

「ふん、あいつらばっかにいい恰好させるかよ」

「さっさと例のやつぶっ飛ばして、この事件もさっさと終わらせて―――」

と、龍我が言いかけた瞬間――――

 

 

コインが弾かれる音がした。

 

 

次の瞬間、クリスと龍我の背後でヘリが爆発。爆炎を巻き上げて、その残骸が落下していく。

その光景に二人は思わずヘリの方を向き、しかしすぐに前方上方を見上げた。

そこに立つのは、なんとキメッキメのポーズをとる、一人の女性の姿があった。

まるで人形のような美貌を持つ女性だ。

「この仕業はお前か?」

その返答に、女は答えず。それにクリスは思わず歯噛みする。

その様子を陰から見る、一人の子供の姿があった。

「あれは・・・」

次の瞬間、女が何かを飛ばし、それがクリスと龍我の足元を、そしてクリスの頬を掠める。

それは、まさしく宣戦布告。

その手には、コイン。

「こちらの準備はできている」

あからさまな挑発。

「抜いたなぁ・・・だったらこっちも貸し借りなしでやらせてもらう」

「こんだけ派手に暴れてくれたんだ。それ相応の覚悟はしてもらうぜ!」

そうして、龍我はスクラッシュドライバーを腰にあて、クリスはシンフォギアのペンダントを取り出す。

 

『スクラァッシュドライバァー!!』

 

「あとで吠え面かくんじゃねえぞ!!」

龍我がポケットからドラゴンスクラッシュゼリーを取り出し、それをスクラッシュドライバーに装填する。

 

『ドゥラゴンジュエリィーッ!!』

 

まるで何かを叩くかのような待機音が鳴り響き、ファイティングポーズをとる龍我と共に、クリスが聖詠を唄う――――

 

「変身ッ!!」

 

「―――Lillter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)―――」

 

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

 

ドゥラゴン・イン・クロォォズチャァァジッ!!』

 

『ブルァァァァア!!!』

 

龍我が巨大なビーカーの中にすっぽりと入り、その中を青いジェル状の液体が満たしたかと思えば、それが一気に龍我に纏わりつき、白いスーツを形成。そして、頭部の噴出口から青いジェルが飛び出し、それが一気に白いスーツに纏わりつき、半透明の鎧を形成する。

それが、龍我の変身する仮面ライダークローズ―――その強化形態クローズチャージへの変身である。

そして、クリスはその身を赤い戦装束へと身を包み、まるでリボンが纏わりつくかのような装着によってインナー、アーマーを纏っていく。

そしてその手にボウガンを握り、その変身を完了する。

それが、クリスの纏う、シンフォギア『イチイバル』の起動である。

戦闘準備が整ったところで、クリスとクローズは先手必勝とばかりに、二丁のボウガンとビームモードにしたツインブレイカーで女を打ち抜こうとする。

 

「―――鉛弾の大バーゲンっ!!」

 

しかし、女はまるでブレイクダンスを踊るかのようにその乱射を見事に躱しきって見せる。

その動きは、まさしく人間離れしたのも。否、それ以上の、化け物のような身体能力だ。

それが証拠に、クリスの放つ光の矢をその嵐の中を見事に両手でそれぞれ一本、二本もつかみ取って見せる。

しかし、それは即ち―――

「やりやすい!!」

手加減する必要はないということだ。

であるならば、ボウガンを変形、さらに高速な連射が可能な状態にしてクリスは女に向かって乱射。

その間にクローズはツインブレイカーをアタックモードに変形、突撃する。

クリスの乱射に対して女は両手にあるだけかかえたコインを指先で射出。まさしく弾丸を超える威力で放たれたコインはクリスの射撃をものともせずに打ち合う。

その間に、クローズは一気に女に近付こうと走る。

何発か、クローズの方にコインが飛んでくるが、それをクリスが全て迎撃、クローズを止める事は出来ない。

さらに、クリスの歌によって強化されたクローズの身体能力は通常よりも格段に向上している。

だから、そうそうに後れを取ることはない―――が、突如としてクローズの横から何かが飛び出してくる。

「ッ!?」

その存在に気付いたクローズは思わずその何かに対して防御姿勢をとる。

次の瞬間、わりと本気の威力で蹴りを喰らったクローズは地面をごろごろと転がる。

「ッ!?龍我!?」

突然の乱入者。

この戦いに入ってくる不届きもの。それは一体――――

「仮面ライダークローズ、万丈龍我だな」

それは、顔面を鉄仮面で覆い、赤のローブを纏った一人の男。

手も鉄の爪のようなもので覆い、まさしく悪役といった風体だった。

「それがなんだ、ってんだよ!」

なぜかバケツが頭にはまってしまいそれをどうにか外すクローズがそう返答を返す。

「お前には、ここで死んでもらう」

「はあ?そりゃ一体どういう―――」

次の瞬間、クローズがツインブレイカーを持つ左手を振りぬき、飛んできた何かを弾く。

それは、一本の針―――

「テメェ・・・」

「言った筈だ。お前にはここで死んでもらうと!」

次の瞬間、男はクローズに向かって走り出す。

「チッ!クリス、そっちは任せたぞ!」

「お、おう!」

襲い掛かってくる男の猛攻。それを龍我は巧みに躱し、反撃に拳を突き出す。しかし拳が直撃する前に後ろに飛び、躱す。

クローズはそのまま追撃、激しく拳を繰り出すも、男はまるで幽霊のような動きでのらりくらりと躱し、すかさず倒れ気味に蹴りを繰り出してくる。

それを紙一重でクローズは躱し、大きく下がる。

その一方でクリスは女と激突。ガンカタで接近戦に持ち込み、激しく鎬を削る。

その最中で女がビルの壁に着地、クリスは先ほどまで女が乗っていた建築物の上に立つと、右のボウガンを三連二門のガトリングガンへと変え、そのまま女に連射。

それを女は壁をジグザグに走って躱し、クリスに接近しようと飛び上がったところ、クリスが腰部のギアを展開、小型ミサイルを一気にぶっ放す。

 

MEGA DETH PARTY

 

直前、クローズもアクティベイトレンチを叩き下ろす。

 

スクラップブレイクッ!!!』

 

その行為に目を見開く女と男。しかし、そうしている間にミサイルは女に殺到し、直撃、炸裂。

一方のクローズのスクラップブレイクは恐ろしい速度で接近したために男は回避が間に合わず、そのまま拳の一撃を貰い、吹っ飛んで壁に叩きつけられ、砕かれた瓦礫の下敷きになる。

確かな直撃。だが、それでも二人の表情は緩んではいなかった。

 

 

 

 

 

 

女が微笑を零す。

「聞いてたよりずっとしょぼい歌ね。確かにこんなのじゃ、やられてあげる訳にはいきませんわ」

その言葉に心乱すことなく、翼は刀を突きの構えに持つと、一気に突進。

しかしすかさず返しが来て刀を上空へ弾き飛ばされる。しかし、それは翼の講じた策。

翼の手を離れたその刀が空中で回り舞い、突如として巨大化―――『天ノ逆鱗』となって真下の女性を一気に押し潰す。寸前で剣を掲げて防いでいたところから、おそらくは―――

「下に叩き落としただけだろうな」

シンがそう呟く。そして、しばし思考を巡らせた後で、シンはマリアに目配せをする。

それにマリアは意図をすぐさま理解し、うなずき、翼の元へ駆け寄ったかと思うと、その腕をいきなり掴み、そして引っ張って走り出す。

「え!?」

「引くわよ!翼!」

「急げ!」

「えぇえ!?」

何がわからず混乱したままの翼を他所に、三人は通路を駆け抜けていく。

 

 

 

 

暗闇の中、煌めく刃がビルドを襲う。

しかし、それをビルドは右のゴルドライオガントレットで防ぎつつ、敵に接近、左手の四コマ忍法刀で斬りかかる。

しかし、それをいとも容易く躱され、されどビルドは追撃をやめない。

トリガーを三回引く。

 

『風遁の術!―――竜巻切り!』

 

放たれる暴風の一撃。巻き起こった竜巻が、周囲の壁にひびを入れながら一気に女性に迫る。

「くっ!」

それを見た女は操っていた柄が球体の剣の切っ先を自分の真上に向け、一気に天井を貫通。その穴に自らも飛び込み、ビルドが巻き起こした竜巻を躱す。

すかさずビルドもそのあとを追い、屋上へと逃げた女を追い詰める。

「あんな事言ってた手前、大した事ないんだな」

「流石は仮面ライダー・・・といった所でしょうか。素晴らしい手数です。しかし、その程度では私には適いませんよ」

そう女が言うと、先ほど操っていた剣とは別の、浮遊する三つの球体がさらに現れる。

「そうかよ。だったら―――」

 

海賊!』『電車!』ベストマッチ!』

 

すぐさまボトルを入れ替える。

 

『Are You Ready?』

 

「やってみろ!ビルドアップ!」

展開されたスナップライドビルダーがビルドを挟みこみ、新たなフォームを実現させる。

 

定刻の反逆者海賊レッシャー!』

 

海賊レッシャーフォームへと変身したビルドは、その手にカイゾクハッシャーを掲げて、一気に女とぶつかる。

「話はベッドで聞かせてもらうぞ!」

「その前に貴方は棺桶に入りますがね」

 

 

 

 

 

 

 

 

爆炎燃え上がる中、クリスとクローズは、それぞれの敵を睨みつけていた。

「もったいぶらねえでさっさと出てきやがれ!!」

「どうした?その程度かぁ!?」

そう叫べば、煙が晴れて、何かしらのバリアを張っていた女が姿を現す。

その直後に男が瓦礫を押しのけてその姿を現す。

どちらも無傷だ。

「どうやら舐めていたようだ・・・」

男がそう呟いた瞬間、女が動く。防御に使っていたコインが地面に落ちると同時にその手からほぼノーモーションでコインを射出。そのどれもがクリスだけでなくクローズも狙っていた。

「チィッ!」

「うぉお!?」

それを躱していると、唐突に無線に連絡が入る。

『何があったのクリスちゃん!?龍我君!?』

「敵だ!敵の襲撃だ!そっちはどうなってる!?」

その無線にクリスが応答。反撃はクローズが担当、ツインブレイカーをビームモードにして女に向かって撃ちまくっていた。

だが、その最中で―――

「危ない!」

どこからともなく声が聞こえ、思わずその声の主を探すが、何やら上から音がすると思い見上げれば、そこからは港に停めてあっただろうモーターボートが何台も落ちてきていた。

「なんの冗談だぁぁぁあ!?」

「ッ!逃げるぞ!」

「え?うおあ!?」

すぐさまクローズが回避行動に入ってクリスを抱えて走り出す。

直後、クローズの背後でモーターボートが落下、爆発し、爆風で二人を吹き飛ばす。

「うぉぁぁぁあ!?」

「うわぁぁああ!?」

悲鳴があがり、そのまま吹き飛ばされる二人。

「私に地味は似合わない・・・」

その様子を見下ろす女。

「だけど、これは少し派手過ぎる」

女が見る先、霧に紛れて、何か、巨大な影がモーターボートを持ち上げていた。

「あれがレイアの()か・・・」

ふと、その最中で男がそう呟く。

「あとは私が地味にやる・・・」

そう言うと、その影は闇に溶けて消えていき、その手にもっていたモーターボートも海面に落ちる。

「俺の事も忘れてもらっては困るな」

そうして、その巨大な影が消えた直後で、男が女―――レイアにそう声をかける。

「確かに、マスターとお前たちは協力関係にある、が未だ信用したわけではない。今は手を組んでいるが、下手な真似をすればすぐに排除する。そこのところを忘れるな」

「わかっている。お前たちは予定通りに()()()()()()()()()に着手してくれればいい。俺たちも予定通り()()()()()()()()()に専念しよう」

男が、その鉄仮面の下でほくそ笑む―――

 

 

 

 

 

夜の交差点にて、調と切歌は、家に戻る帰路についていた。

そんな中で、二人は思い出す。

『二人は留守番だ!LiNKERもなしに、出動なんてさせないからな!』

クリスに言われた言葉。それは、確かに正しく、そして彼女なりの気遣いの込められた言葉だというのは、これまでの生活からずっとずっと理解している。

「考えてみれば、当たり前のこと・・・」

「ああ見えて、底抜けにお人好しぞろいデスからね」

フロンティア事変の後、拘束されていた彼女たちの身柄を引き取ったのは、他でもないS.O.N.Gだった。

敵だったはずなのに、まるで友達と接するかのように、そんな憂いなんてなかったかのように、彼らは自分たちに優しくしてくれた。

それが保護観察だったのだとしても、学校にも通わせてもらい、何一つ不自由の無い生活をさせてもらっている。

「F.I.Sにいた頃には想像も出来ないぐらい、毎日笑って過ごせているデスよ」

信号が、赤から青に変わり、周りの人々が、我さきにと、目の前の横断歩道を渡っていく。

その中で、調と切歌は、その場に立ち止まっていた。

「・・・・なんとか、力になれないのかな・・・?」

調が、そう呟く。

「なんとか、力になりたいデスよ」

切歌が、そう返す。

「力は、間違いなくここにあるんデスけどね」

そう言って、服の下に隠していたペンダントを取り出す切歌。だが、使えない。

LiNKERもなしにギアを纏えば、その負荷に体が耐え切れず、自らを壊してしまう。

その点、ライダーシステムは一定の条件さえ満たせば、シンフォギアほどの負荷なく使用は可能だ。

現に、慧介はスクラッシュドライバーで変身して、人を助けている。

ライダーと、自分たちの決定的な違い―――。

「でも、それだけで何も変えられなかったのが、昨日までの私たちだよ。切ちゃん」

そうして、調がそう呟いた直後だった。

街の巨大モニターから流れるニュースに、響たちが向かったであろう事件現場の様子が映し出されていた。

『都内で発生した高層マンション、及び周辺火災の続報です』

それに、二人は思わず注目する。

『混乱が続く現場では、不審な人影の目撃が相次ぎ、テロの可能性も指摘されています』

そのライブ中継の中で、マンションの火災とは別に、空中で何かが爆発するかのような映像も映し出されていた。

それに、二人は思わず声を上げる。

「今の・・・」

「空中で爆発したデス!」

「何か、別の事件が起きてるのかも・・・」

切歌の言葉に、調はうなずく。

「だったらやることは一つデス!」

「うん、行こう、切ちゃん」

そう言い合い、走り出そうとした時だった。

「――――俺も行こう」

突如として、知らない男性の声が二人を呼び止めた。

 

 

 

 

 

 

モーターボートが爆発している状況を、近くの草むらに隠れて様子見をするクリスとクローズ。

その構図は、座り込むクローズの足の間に自らを持たれかけさせている、という構図だが、先ほど横抱きしてしまった為に、こういう構図になってしまったのは、致し方ないと言えるだろう。

「はちゃめちゃしやがる・・・」

「どっから飛んできたんだあれ・・・」

「大丈夫ですか?」

「ああ・・・ってぇ!?」

「ん?・・・うおぁ!?」

突如として声をかけてきた人物の方を見たクリスとクローズは、その恰好に思わず驚く。

なぜなら、その者が身に着けているのは、裾に紫のラインが入ったローブと、Tバックとしか思えないパンツしか身に着けていなかったからだ。

実質ほぼほぼ全裸である。

「あ!?龍我は見んな!」

「お、おう!」

思わずクリスがクローズの仮面を手で覆い、クローズは全力で視線を逸らす。

「おまっ、その恰好・・・!」

「貴方は・・・」

その少女?がそう言いかけたところで、クリスは慌てて弁明を始める。

「あ、アタシは快傑うたずきん!んでもってこいつは相棒のドラゴン仮面で、国連とも日本政府とも全然関係なく、日夜無償で世直しを―――」

そう、まくしたてるように言い訳を捲し立てるが、少女は、すぐさまクリスたちの正体を言い当ててみせる。

「イチイバルのシンフォギア装者、雪音クリスさんと、仮面ライダークローズの万丈龍我さんですよね?」

「「ッ!?」」

その言葉に―――否、その声に二人は思わずその少女の方を見る。

「その声、さっきアタシたちを助けてくれた・・・」

少女が、フードを脱ぐ。

「ボクの名前は『エルフナイン』。キャロルの錬金術から世界を守るため、皆さんを探していました」

その言葉に、二人は茫然とする。

「錬金術・・・だと?」

「・・・・って、なんだ?」

わかってた、というように、クリスはクローズの言動にずっこけた。

 

 

 

 

 

 

 

錬金術―――科学と魔術が分かれる前の、超古代のオーバーテクノロジー。

いわゆる、シンフォギアとは別系統の異端技術だ。

それを言うならば、ライダーシステムもある意味人智を超えた異端技術の一つでもあるのだが、それは今は置いておこう。

今問題なのは―――

「戦ってでも欲しい真実・・・?」

目の前の少女―――キャロルの言葉に、響は動揺を隠せない。

「そうだ。お前にもあるだろ。だからその歌で月の破壊を食い止めてみせた。その歌で、シンフォギアで、戦ってみせた!」

まるで糾弾するかのようなキャロルの言葉に、響は思わず反論する。

「違う!そうするしかなかっただけで、そうしたかった訳じゃない・・・私は、戦いたかったんじゃない!シンフォギアで、守りたかったんだ!」

結局はそこに行きつく。立花響は、倒す為に戦うのではなく、守るために戦っている。

その守るべきものがないのなら、響は、戦う事は出来ない。

それが、キャロルの癪に障ったのか。

「それでも戦え」

次の瞬間、キャロルの足元に、新たな魔方陣が形成される。新たな錬金術だ。

「お前にできる事をやってみせろ」

「人助けの力で、戦うのは嫌だよ・・・」

それでもなお、響はシンフォギアを纏わない。やはり、それがキャロルにとっては癪に障るのか、

「お前も()()()()()()()()()()口なのか!?」

足元と頭上、明らかに先ほどよりも強力な錬金術の発動が、今目の前で引き起こされている。

このまま発動すれば、響はただでは済まないだろう。

しかし、それでも響は戦う意思を見せない。

「・・・だって」

訴えかけるように、響は、キャロルに言う。

「さっきのキャロルちゃん、泣いてた」

「ッ!?」

それを聞いたキャロルは目を見開く。

まるで、知られたくない真実を知られてしまったかのような、そんな衝撃を受けていた。

「だったら、戦うよりも、その訳を聞かないと!」

そうでなければ、戦えない。

だが、それ以上に、キャロルは―――

「見られた・・・」

 

――――その事に激怒していた。

 

「知られた、踏み込まれた・・・!!」

怒りに歯を食いしばり、錬金術を発動。

「世界ごと―――!!」

展開されるは地の方陣。書き込まれる術式は地の術式。

そして起動されるは、大地を吹き飛ばす破壊!!

「ぶっ飛べェ―――――!!!」

そして発動する、錬金術は、響を――――

 

 

スクラップフィニッシュッ!!!』

 

 

―――錬金術が炸裂し、響がその爆風に思わず手を掲げてしまうも、襲ってくるだろう衝撃はなく、恐る恐る目を開けてみる。

するとそこには――――

「大丈夫か?」

―――真っ黒な城の化け物がいた。

否、それは一体ではない。

ふくろうのような怪物、クワガタのような怪人。

真っ黒な様子だが、しかしその体には、赤、黄、青とそれぞれのラインが体に入っていた。

「よかった。無事だった」

「カシラぁ!無事でしたぜ!」

響は、その三体を―――否、その三人を知っていた。

そして、視界の奥、こちらに背を向けて佇む、黄金色の人影の姿を見た。

その人物を、響は、知っていた。

「・・・カズミンさん・・・」

 

 

仮面ライダーグリス――――猿渡一海。

 

 

そしてこの三人は、彼の部下である三羽ガラス。

その四人が、何故かこの場に集結していた。

「―――よぉ、俺に内緒で何楽しんでんだ?」

見れば、グリスの立つ地面だけはどういう訳か抉れていなかった。まるで、迫りくる衝撃に対して真正面から別の衝撃を叩きつけ、それで左右にちらつかせたかのような跡だ。

そして、その惨劇を引き起こした張本人はというと。

「はあ・・・はあ・・・」

流石にあれほど強力な錬金術を行使した為か、疲労が目に見える。

しかし、それでも態度は崩さずに、グリスを睨みつける。

「仮面ライダーか・・・!!」

「おう。仮面ライダーグリス。言っておくが俺はガキでも容赦しねえぞ」

「そして俺たちは北都三羽ガラスだ!」

「て、おーいもう北都はないんだからそこは猿渡ファームでいいでしょ」

「ん?それもそうか」

なんとも気の抜ける。

だが、その間に流れる空気は一触即発そのもの。

しかし、そんな空気に割り込んででも、響は尋ねたかった。

「どうして、世界を・・・」

「ああちょっと!」

前に出ようとする響を、オウルハザードスマッシュが止める。

「ああ?」

「父親に託された命題だ」

響の問いかけに、キャロルは答える。

「お前にだってあるはずだ」

「え・・・」

その言葉が、響をどうしようもなく揺らがせる。

「お父さんに・・・」

「おい?何勝手に話し進めてやがる」

そこへグリスが割り込み、指をくいくいとまげて挑発する。

「そっちから来ねえならこっちから行くぞ」

「だ、だめですカズミンさん・・・!キャロルちゃんとは・・・」

「戦場で何を呑気な事言ってやがる」

グリスはツインブレイカーを構えて、キャロルと対峙する。

「仮面ライダー・・・今後の計画に支障を来しかねない存在だ・・・今ここで排除を・・・」

「面倒くさいやつですねぇ~」

気付けば、鉄橋の上に、青いゴシック衣装に身を包んだ少女が座っていた。

「カシラ!あそこ!あそこにゴスロリ少女が!」

「ああ?」

その登場に興奮する猿渡ファーム一行。

だが、それを他所にキャロルはその少女に言葉を投げ返す。

「見ていたのか・・・性根の腐ったガリィらしい」

そう言った直後に少女―――『ガリィ・トゥーマーン』はキャロルの傍に着地する。

そして、まるでバレリーナのような動きをしながら弁明を人を食ったような態度で話し始める。

「やめてくださいよぉ。そういう風にしたのはマスターじゃないですかぁ」

「・・・『思い出』の採集はどうなっている?」

「順調ですよぉ。でもミカちゃん、大喰らいなので足りてませぇん!」

嘘泣き感丸出しな様子。

「思い出?」

グリスが首を傾げている間に、二人は話を進めていく。

「なら急げ、こちらも出直しだ」

「りょうかーい」

次の瞬間、二人の間に光弾が通り過ぎる。

「俺を無視すんなゴラ」

明らかにご立腹な様子のグリス。

「ちょ!?カシラ!相手は子供なんですよ!?」

「この惨状を見て子供なんて言えるかよ」

グリスはこう見えてもバトルジャンキー。戦いを求める戦闘狂だ。

だから、こういう事は仕方がない。

「・・・どうします?」

「確かに仮面ライダーは計画の障害になりかねない・・・仕方がない」

グリスを見下すキャロルが、その手に何かを持ち、それを周囲にばらまく。

それは、一見してビー玉サイズの、しかし不規則に切り落とされたかのような形をした何かの塊。

それが地面に落ちて、割れ、そこから何かが出現する。

「なんだぁ?」

その間に、ガリィは何か液体のようなものが入った小さなガラスのカプセルを取り出すと、それを地面に叩きつけて割る。するとそこから赤い魔方陣が展開される。

「さよならぁ」

その魔方陣に足を踏み入れたガリィは、次の瞬間、その場から跡形もなく消える。

「な!?」

「消えたぁ!?」

それに驚く暇もなく、グリスたちの周囲に奇妙な形をした何かが現れる。

それは―――

「の、ノイズ!?」

 

――――ノイズだった。

 

「カシラ!こいつらノイズですよ!?」

「どういうこった・・・ノイズは戦兎たちがまとめて消したんじゃねえのかよ!?」

動揺を隠せないグリスたちに、キャロルは告げる。

「お前たちの相手はそいつらだ。そして、次は戦え」

茫然としている響に、キャロルは告げる。

「でなければ、お前のなにもかもを打ち砕けないからな」

そう言って、キャロルも先ほどガリィが使用したものと同じカプセルを投げ砕き、その場から消える。

「消えた・・・」

「へっ。まあいい。俺も丁度ノイズって奴らと戦ってみたかったんだ」

グリスが手をぱきぱきと鳴らし、戦闘態勢に入る。

その最中で、響は―――

「たくされた・・・」

その場で膝をつき、キャロルが先ほどまでいた虚空を見つめ続け、うわ言のように呟く。

「私には・・・お父さんからもらったものなんて・・・()()()・・・」

「!?」

まるで、処理しきれない事態に、脳が追い付けず、強制的にシャットダウンするかのように、響はその場に倒れ、気を失う。

「うわぁああ!?響ちゃーん!」

「こんなところで寝ちゃまずいって!」

「テメェらはそこでそいつら守ってろ」

グリスが、三羽ガラスにそう言い、一人でノイズの集団の前に立つ。

 

 

 

「さあ―――祭りの始まりだァ!!」

 

 

 

 




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

再び出現するノイズ。

「いい加減説明してもらいたいところだ」

襲い掛かってきたオートスコラーから逃走する翼たち。

(それでも、そんな事が私の戦いであるものか!)

その最中で己の所業を悔いるマリア。

「アハ、聞いてた通りだ」

次々と襲い掛かる、新たなる敵。

「まだまだ全然足りねえなァ!!」

そして、その時、新たなノイズの猛威が振るわれる。

次回『脅威のアルカノイズ』

「ジャック、会いたかった・・・」







シンフォギアXDイベントほんの少しやってみての感想。(ネタバレ注意)


切「風鳴訃堂(きゃびゃにゃりひゅど)ぉぉぉおおぉぉおお!?」Σ(゚Д゚)
切「そして誰デスかこのおじいちゃんはぁぁああ!?」
切「そしてメックヴァラヌス思った以上に弱すぎなのデス・・・」



訃堂でてきた時にはマジで心臓止まるかと思った。


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脅威のアルカノイズ

切「クソジジイはやっぱりクソジジイだったのデス・・・」
慧「開幕速攻でいう事がそれか!?」
調「あと創世さんの性能が化け物の過ぎる・・・」
慧「確かにな!?一人でマルチバトルモンスターを相手取ることの出来る性能だもんな!?しかも覚醒もしていないレベル50でな!(なお作者は無課金者です)」
創「そういうわけで作者が私を引き当てたためにゲストで登場!天才物理学者であり仮面ライダーこと、桐生戦兎(キリト)先生が創造した新世界!ルナアタック、フロンティア事変を見事解決した彼に待っていたのは、なんと新たな敵なのであった!」
慧「前々から思ってたんですけど、そのあだな付けるのなんかの癖なんですか?」
創「いやー、なんとなくね~」
切「ちなみに、他の人だとどうなんデスか?あ、ご友人がたとかはいいデス」
創「切歌はリッカ、調はミシラ、龍我さんはバンジーさん、一海さんはサルワさん、幻徳さんはゲンさん、慧介はケン、って感じかな」
切「おおなるほど」
創「さてさて仇名も決まったことだし―――祝え!」
一同「ッ!?」
創「2017年六月二十六日よりリリースされ、今日まで不動の人気を誇った戦姫絶唱シンフォギアXDアンリミテッドが1000日を迎えた!これは祝わねばならぬことである!さあ、ただこの瞬間を味わうが良い!!」
慧「ちょっと待って!?どこぞの預言者みたく祝われてもなんか困るんですけど!?ってかなんで預言者!?」
創「だって私一時期黒幕じゃね?って言われてたからさ~」
切「おお、なるほど」
慧「それでいいのかワンマンアーミー・・・」
創「さあそういうわけで!愛和創造シンフォギア・ビルドGX編その第三話をどうぞ!」



マジで創世化け物すぎる・・・狼だけに。


ロンドン、そこに設立されたライブ会場にて。

「現在、状況を確認中です!」

数人のエージェントたちが、今起きている非常事態に対処しようと躍起になっていた。

「A3から6の出口の封鎖を急げ!」

その最中で、聞こえてきた足音に気付いた彼らが向いた先には、ライブ衣装のままのマリアと翼、そして黒スーツのシンが走ってきていた。

「ッ!?エージェントマリア、エージェントシン!?」

「そこをどけ!」

シンが怒鳴り、すぐさま傍にある車に行くようにジェスチャーでマリアたちに指示を送る。

「貴方方の行動は保護プログラムに制限されているはず・・・なっ!?」

そう言っている間にシンは彼らから拳銃をスリ取る。

「非常事態だ。大人しくしていろ。でなければ斬る」

そう言ってシンは脅すように背中に背負った雷切の刀身を見せてみせる。

それにエージェントたちはたじろぎ、シンたちはすぐさま車に乗る。

「な、待て―――」

それでも追いかけようとするエージェントたちであったが、唐突に銃声が轟き、彼らの足元、正確には影に何かが直撃したかと思えば、彼らの動きが何かに固められたかのように動かなくなる。

「なんだ・・・!?」

「体が・・・」

「これは影縫い・・・緒川か!」

見れば自動ドアのすぐそば、拳銃をこちらに構えている緒川の姿があった。

その緒川がうなずき、それにシンもうなずいてすぐさま運転席へと座る。

「悪いが翼は好きにさせてもらう!」

マリアと翼が後部座席に、そしてシンが運転席へと座り、アクセルを踏みぬいて一気に走り出す。

その様子を、緒川は見送り。

「一体何が・・・」

今起きている状況を、いまいちつかめないでいた。

 

 

 

 

 

その一方で、

「なんだって!?」

「響のやつがやられた!?どういう事だよ!?」

クリスとクローズは、エルフナインを連れて敵から逃亡、その最中で本部から、響が意識を失ったという報告を受けていた。

『翼さんたちも撤退しつつ、態勢を立て直していて、戦兎くんの方も敵と交戦中。今、響ちゃんの方には一海さんたちがいて、戦兎くんの方には慧介君が向かっているわ』

「く、錬金術ってのは、シンフォギアよりも強ぇのか・・・?」

正確には、響が戦いの意思を見せなかったというのが主な理由だが。

「こっちにも252がいるんだ。合流地点(ランデブー)の指定を・・・」

その次の瞬間、

「ッ!?あぶねえ!」

上空から何かが飛来。それにいち早く気付いたクローズがクリスとエルフナインを抱えて退避。どうにか直撃を避ける。

その、直撃した何かの方を見れば、そこから赤い煙のようなものが立り上り、その穴の縁が赤い煙を吐き出しながらどんどん広がっていっていた。

「なんだ・・・こいつは・・・」

それに、二人は息をのむ。

 

 

 

 

 

 

その一方で、翼たちの方では。

『翼さん!一体何が起きているんですか!?』

「すみません。マリアに考えがあるようなので、そちらはお任せします」

緒川からの通信に、翼はそう対応し、通話を切れば、すぐさま隣のマリアに訝し気な視線を向ける。

「いい加減説明してもらいたいところだ」

翼がそう言えば、マリアは答える。

「思い返してみなさい。奴の狙いは翼自身とみて間違いない」

彼女の今までの言動から、確かにまるで翼を待っていたかのような言葉があった。

それは即ち、彼女の目的が翼であり、マリアはそれを誘き出すための餌に過ぎなかったということだ。

「この状況で被害を抑えるには、翼を人込みから引き離すのが最善手よ」

「なればこそ、皆の協力を取り付けて・・・」

「それが出来ればよかったんだがな。あの態度を見ただろう」

思い返されるのは、米国政府のエージェントたち。

想定外の事態にあっても、彼らは二人の―――マリアの身の拘束を優先していた。

「それにここはロンドン、日本からは遠く離れているそんな状況で、一体どう協力を仰ぐ?」

「それは・・・」

シンの言葉に、翼は何も言い返せない。

「・・・ままならない不自由を抱えている身だからね・・・」

そんな中で、マリアがそう呟く。

 

 

 

数ヶ月前―――

 

「―――私にこれ以上嘘を重ねろと!?」

その日、マリアは国際連盟からの使者と対話していた。

「君の高い知名度を生かし、事態をなるべく穏便に収束させるための役割を演じてほしいと要請しているのだ」

「役割を演じる・・・?」

「歌姫マリアの正体は、我ら国連所属のエージェント。聖遺物を悪用するアナキストの野望を食い止めるための潜入捜査を行っていた・・・大衆にはこれくらい分かりやすい英雄譚こそ都合が良い」

ただ、実際には桐生戦兎がそいつらを思いっきりボコボコにしていた訳なのだが、それは今言っても仕方がないだろう。

(あれは見ていて爽快だったが・・・)

「再び、偶像(アイドル)を演じなければならないのか・・・」

それは、なんと滑稽な事であろうか。

「偶像?そうだ、偶像(アイドル)だよ」

使者が大仰に手を振って見せる。

「正義の味方にして偶像(アイドル)が世界各地でチャリティーライブを行えば、プロパガンダにもなる」

そう言って使者は立ち上がる。

「米国は真相隠蔽のため、軍事通信傍受システム(エシュロン)からのバックトレースを行い、個人のPCを含め全てのネットワーク上から、関連データを廃棄させたらしいが・・・」

すると、マリアの持つ端末に、新たな情報が送信される。

そこには、調や切歌、慧介、シンだけでなく、響やセレナ、そして戦兎までもが、その個人情報と一緒にそこに記載されていた。

「彼女や君と行動を共にしていた未成年の共犯者たちにも将来がある」

その言葉を、そこに書かれている事を理解して、マリアの表情が強張る。

それに、思わずマリアの喉がひゅっと鳴る。

「例えギアを失っても、君はまだ誰かの為に戦えるという事だ」

 

 

 

 

 

それでも―――

(それでも、そんな事が私の戦いであるものか!)

そうマリアは静かに歯噛みする。

その様子に、翼は並々ならぬ感情がマリアにはあるのだと悟る。

しかし、そんな静かな状況の中、橋に差し掛かったところでシンの鋭い一声が二人に届く。

「伏せろ!」

「「ッ!?」」

気付けば前にはあの女性の姿があった。

シンがアクセルを踏みぬき、そのまま女を跳ねようと突っ込む。

しかし、剣を構える彼女にはそんな事は関係なく、一気に刃を振り抜き、車を横一文字に両断しようとする。

それを見た三人はすぐさまリクライニングシートを倒し、迫りくる刃を間一髪で回避。そして車は、ものの見事に横に両断された。

ルーフが思いっきりなくなり、風が三人に叩きつけられる。

こうなれば仕方がない。

シンがすぐさまビルドドライバーを腰に巻き、翼はその手にギアペンダントを握り締める。

「クライムウルフ!」

「バル!」

そして、シンのスーツの下からクライムウルフが飛び出したかと思うと、シンはウルフを右手で掴み、左手でウルフフルボトルを握り、振る。

そしてそれをクライムウルフの背中のフルボトルスロットに装填する。

 

Start Up』

 

そして、それをビルドドライバーに装填する。

 

CRIME WOLF

 

そしてボルテックレバーを回し、スナップライドビルダーを展開する。

 

『Are You Ready?』

 

いつもの決まったセリフに、シンは当然の如く応える。

 

「変身」

 

「―――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)――」

 

『Start Up Lightning!Let's CRIME WOLF!Yeah!』

 

次の瞬間、操作を失った車はよろけによろけ、橋の端にあった柱に激突して爆炎を燃え上がらせる。

しかし、上空から轟くのは一人の少女の奏でる旋律にして歌。

 

「―――邪鬼の遠吠えの残音が月下に呻き狂う」

 

そうして降り立つのは、青き戦装束を身に纏い、その手に刀を握る翼と、銀色の装甲を全身に纏う男がマリアを抱えて降り立つ。

 

それが、風鳴翼のシンフォギア『天羽々斬』の起動であり、シンの変身する仮面ライダークライムの参上であった。

 

「下がっていろ」

クライムの言葉に、マリアはうなずく。

その間に、翼が刀を大剣に変形、敵に斬りかかる。

その振り下ろしの一撃を、その女性は受け止める―――が、

「剣は剣でも私の剣は『剣返し』―――ソードブレイカー」

次の瞬間、翼の大剣が砕け散る。

「あれは!?」

「言葉から察するに、それが剣であるならば問答無用で破壊できる能力か何かだろうな・・・やりにくい相手だ」

その背中の雷切の柄を掴みつつ、クライムは状況を観察する。

しかし、突如としてクライムの頭部にある『オーグメントレイヤー』の索敵機能が反応。

「ッ―――!?」

その反応にクライムは背筋がぞっとするような感覚を感じ、横を向いてそこから接近してくる白い何かの振るう刃を受け止める。そのまま堪えきれず後ろに吹き飛ぶ。

「うぐっ!?」

「シン!?」

突然の奇襲者。あの女性とは違う、謎の存在。

その突然の襲撃者に、クライムはすぐさま浮いた足を地面に落とし、どうにか踏みとどまって弾き飛ばす。

「うわっと!?」

まるで幼い声。その声に、思わず子供と勘違いしそうになるが、その体躯から見てまだ幼い子供とは思えなかった。

ほっそりとした体、見るからの高身長、右手にもつ細剣(レイピア)

服装は白い長そでのシャツに白い長ズボン、といったずぼらな恰好。

しかし、先ほどの太刀筋から、その人物がただものではないという事は容易に想像できる。

「お前は・・・」

「アハ、聞いてた通りだ」

その男は、楽し気に話し出す。

斬り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の腕は落ちてるって」

「ッ!?」

その言葉に、マリアは息をのむ。

 

ジャック・ザ・リッパー。

それは、シンが過去に、少年兵として活動していた頃の名前。

刃物を持たせればすぐさま敵のバラバラ死体が出来上がるという噂を元に名付けられた彼の仇名。

実際、彼が刃物を使えば、たちまち敵の部隊は全滅した事は幾度としてある。

 

「捨てた名だ」

「でも驚いたよ~。まさか僕の剣を止められるなんてさぁ~」

へらへらとした態度。ピエロのように歪んだ笑顔。それらの行為が、不快感を掻き立てる。

「随分な自信だな」

「うん。だって人を切り刻むのは得意だし」

嬉々として応えるその男に、マリアは戦慄し、クライムは刀を正眼に構える。

「それにしても、がっかりだなぁ~」

「何がだ」

「俺は全盛期のあんたとやりたかったのに、これじゃあ拍子抜けもいいところ。でも命令だから仕方がないよね」

レイピアを向けてくる。

「俺の名前は『ジャード・ニルフラム』。今から君を殺すよ」

それを聞いて、クライムは鼻を鳴らす。

「ふん、どこのどいつかもいざ知らず、いきなり現れて俺の命を所望か。言っておくが、俺の命はそう安くはないぞ」

「うーん、たぶん、そうでもないと思うな~」

次の瞬間、ジャードが斬りかかる。

それをクライムは受け止め、弾き飛ばしすぐさま返す刀で迎撃。しかしそれを回転しながら下がられる事で躱される。

「だって、ジャックの剣ってさ」

そう距離をとったところで、ジャードは告げる。

 

「―――快楽を恐れてるんだもん」

 

「――――ッ!?」

それを聞いて、一瞬、クライムが揺れる。

が、その隙を狙ってかジャードが再び斬りかかる。

「アハ、図星だ」

「ッ・・・黙れ・・・!!」

「ムキになるって事は図星だね」

クライムの反撃にジャードは何の苦も無く躱して見せる。

そうしてジャードが距離をとる―――その時だった。

「あれれ?」

「ッ!?」

彼の周囲に、見覚えのある何かが出現する。

「こいつは・・・!?」

「嘘・・・!?」

そう、それは紛れもない、人類の天敵――――ノイズ。

 

 

 

 

 

そして、その出現は、クローズたちの方にも。

「クリスちゃん!龍我くん!」

「分かってるって」

「こっちにも出てきやがった」

彼らの睨みつける先。そこに、大量のノイズが集結していた。

「ったく、こいつらあの時全部消えたんじゃなかったのかよ」

「どうでもいい。どんだけ出ようが今更ノイズ!負ける気がしねえ!」

ガトリングガンを装備し、クリスはそのノイズに向かって乱射を始める。

だが、クローズはどうにも背筋を伝う悪寒を拭えずにいた。

(なんだこの違和感は・・・なんか、気持ち悪い・・・)

これは、本当に自分たちの知るノイズなのだろうか。

 

 

 

 

 

翼がノイズを斬り捨てる。

その最中で、クライムとジャードが大量のノイズを掻い潜って激しく鎬を削る。

「貴方の剣、大人しく殺されてくれると助かります」

その最中で女性がその戦いを見物しつつ、翼に向かってそういう。

「そのような課題を、いまだ私に求めているとは!」

襲い掛かるノイズを巧みな剣捌きで切り払いながら、翼はそう言い返す。

「防人の剣は可愛くないと、友が語って聞かせてくれた」

「こんなところで言う事か!?」

翼の言ったなんとも言えぬ言葉に、マリアは思わず赤面する。

再び襲い掛かるノイズ、そのノイズの群れを、翼は斬り捨て、すかさず大きく殲滅するためにその手を地面につき、逆さ立ちになったかと思えば自らを回転、足の刃を展開し、その回転を使用して次々とノイズを斬り捨てていく。

 

逆羅刹

 

そのまま一気に殲滅に取り掛かる。

 

 

 

 

「激情!」

拳がノイズを殴り飛ばす。

「激烈!!」

蹴りがノイズを粉砕する。

「激昂!!!」

次々とノイズを倒していくグリス。その戦いぶりは、まさしく狂戦士が如く。

「まだまだ全然足りねえなァ!!」

襲い掛かるノイズをものともせず、迫りくる全てのノイズを叩きのめしていた。

それが、仮面ライダーグリスの力。

北都の代表を務めた、仮面ライダー。

「誰が俺を満たしてくれるんだよぉぉぉぉおお!!!」

ツインブレイカーの一撃が大量のノイズを一気に消し飛ばす。

「いけーカシラー!」

「そのまま全滅させてやれぇ!」

その様子を嬉々として応援するオウルハザードスマッシュとキャッスルハザードスマッシュ。

「やれやれ、カシラはいいけど、少しはこいつの面倒も見てやれよな」

その一方、スタッグハザードスマッシュだけは気絶した響を抱え、歓声をあげている二人に挙げていた。

(だけど、なんか妙に引っかかるんだよなぁ・・・)

あのノイズたち。確かに彼らの記憶にあるノイズと同等のものだろうが、どこかが違う気がしてならないのだ。

何か、決定的な何かが違うような―――

 

その違和感は、すぐさま現実のものとなる――――

 

 

 

 

 

 

「ハア!!」

ビルドオーシャン号が放たれ、金髪の女性を狙う。

その一撃を躱し、しかし追尾してくるそのエネルギー体の列車を操作する剣によって迎撃する。

ビルドと女性が戦うマンションの屋上は、まさしくボロボロとなっており、床は砕け、穴が空いて、まるで爆弾でも爆発したかのような惨状だった。

「やはり、この程度では仕留めきれませんか」

「ハア・・・ハア・・・くそ、なんて威力だよ」

襲い掛かる剣と鉄球。襲い掛かるそれらを掻い潜り避けながら、どうにか応戦していたビルドだったが、攻撃に使われている剣と鉄球二個はともかく、防衛に使われている鉄球がビルドの放つ攻撃全てを叩き落とすため、大きく動かなければならないビルドに対して、女の方は疲労は少なかった。

なにより、剣と鉄球から放たれる一撃は、いくらアーマーを纏っていても喰らえば一溜りもない威力をもっていた。

だから、どうにか躱す事に集中せざるをえず、ほぼ一方的な攻撃を許してしまっていた。

だから、ビルドがここまで疲労するのも訳はない。

「やはり、これを使うしかなさそうですね」

「は?」

ふと、女がそう呟いて、その手に何か小さな欠片のようなものを無数に取り出す。

それが何か、と尋ねる前に女はそれを投げ、ばらまく。

地面に落ちて割れたそれから、何かの方陣を展開したかと思えば、そこから大量のノイズが出現する。

「ノイズ!?」

「ただのノイズではありませんよ。最も、ただのノイズと高を括っていると、痛い目をみますよ」

「くっ!」

襲い掛かるノイズ。それをビルドは思わず右肩の『マルチセイルマント』で防御の姿勢をとる。

 

だが、それがいけなかった。

 

 

 

 

 

 

「ぐぅ・・・!?」

ジャードの猛攻に、クライムが下がる。

「シン!」

それに思わずマリアが叫ぶ。

「ぐぅ・・・」

「アハ、結構しぶといね。あと何秒持つのかな?それとも何分?どちらにしろ早くジャックの血が見たいなぁ」

「抜かせ・・・!」

杖代わりにしていた剣を地面から抜き、改めて構えるクライム。

だが、その視界で、翼が、襲い掛かってきた女の元にたどり着くべく剣をふるい、接近しようとしていた。

それを見て、クライムは思わず叫ぶ。

「踏み込み過ぎだ!」

だが、一歩遅く、翼の放った刺突(つき)は、まるで武士のようなノイズの手から伸ばされる針の切っ先と正面衝突する―――瞬間、女がほくそ笑んだ。

そして、次の瞬間―――翼の剣の切っ先が消滅した。

「剣が!?」

そのままノイズはその針を押し込み、どんどん翼の剣を消滅させていく。

「風鳴翼!」

「おっと、そうは問屋がおろさないよ」

クライムが助けに入ろうとしたところで、ジャードが立ちふさがる。

「そこを、どけ!」

「はぁーい」

「ッ!?」

思わず袈裟懸けに斬りかかるが、ジャードは割とあっさりと横に避け、その背後から、ノイズがもう一体襲い掛かってきていた。

「しまっ―――」

ギリギリ、のところで返す刃でそのノイズを斬り捨てる―――が、背後から襲い掛かるノイズに気付くのが一拍遅れる。

「くっ」

そのノイズに対して後ろに飛び退くクライム。しかし、その切っ先が、ほんの少し、クライムの腕の装甲を掠める。

それと同時に翼の胸のギアペンダントにもノイズの針の切っ先が掠り、そして、確かな傷を入れた。

 

その瞬間―――彼らの纏う鎧が、()()を始めた。

 

 

 

「なん・・・だと・・・!?」

ガトリングガンを掲げて、ノイズの攻撃を防いだクリスは、そう声を漏らす。

その理由は、至極単純で、ノイズの攻撃を受け止めたガトリングガンが、いともたやすく消滅していっていたからだ。

そして、それはクローズも同じだった。

ノイズの攻撃を受けた装甲が、たちまちに消滅していっていたからだ。

「なんだよこれ・・・!?」

その光景に、二人は動揺を隠せない。

 

 

 

「うおっと!?」

ノイズからの攻撃をどうにか体を逸らすことで躱すグリス。

「あぶねえだろ!」

すかさずツインブレイカーのビームモードでそのノイズを打ち抜き、次の敵を倒しに行こうとするが、

「か、カシラぁ!」

「ああ?なんだぁ?」

「ケツがなくなってるっす!」

「は?ケツがなくなってるって・・・なんじゃこりゃあ!?」

突如として制止してきた三羽ガラスの言葉に思わず自分の尻を見たグリス。

そこは、先ほどのノイズの攻撃が掠めたところであり、見れば、そこの装甲が一気に消失していたのだ。

 

 

 

 

「ノイズだと、括ったたかがそうさせる」

 

 

「敗北で済まされるなんて、思わないで」

 

 

 

 

 

「なんだよ・・・これ!?」

それはまた、ビルドにも起きていた。

装甲が消えていく。

その光景に、ビルドは思わず動揺を隠せない。

その様子に、女はほくそ笑む。

「さあ、絶望のまま死んでくださいな」

剣が―――フラガラッハが飛来する。

「ッ!?」

それが、ビルドに一気に迫り、そして――――

 

 

 

 

 

「アルカノイズ・・・」

誰も知らない、どこかの部屋の、玉座にて。

キャロル・マールス・ディーンハイムは一人呟く。

「何するものぞ、シンフォギア、仮面ライダーぁぁぁああぁああああ!!!」

キャロルの絶叫が、たった一つの人形しかない部屋の虚空に響く―――

 

 

 

 

 

 

 

 

消滅した刀を放棄、すかさずもう一本の剣を取り出し、襲い掛かってきたノイズを斬り捨てる翼。

しかし、それが限界かシンフォギアが消滅、完全全裸の状態で翼はそこに倒れてしまう。

それと同時に、クライムの装甲が全て消失し、変身が解除されてしまう。

そこにある違いは―――気絶しているかしていないか。

「チッ!」

「翼!」

倒れた翼にマリアが駆け寄り、その翼とマリアを守るようにシンが雷切を構える。

「これでお仕事はひと段落ね」

女性がそう呟く。

「あとは・・・」

「ジャックを殺すだけ♪」

ジャードがレイピアの切っ先をシンに向ける。

「ッ・・・」

それに、シンは息をのむ。

 

 

 

 

 

「う・・・ぐあ・・・!」

「クリス!」

クリスのシンフォギアが分解され、素っ裸の状態で倒れ伏すクリス。

「クリスさん!」

エルフナインがクリスの傍に駆け寄っている間に、龍我に向かってノイズが襲い掛かる。

 

『ビートクローザー!!』

 

それに対して龍我はすぐさま懐からビートクローザーを抜いたと思いきや、そのノイズの攻撃をかわして、ビートクローザーで切り伏せる。

そして大きく飛び退き、クリスとエルフナインを守るようにビートクローザーを構える。

そこへ、レイヤとあの黒ローブの男がやってくる。

「くそ!こいつらはノイズじゃねえのかよ!?」

「あれはアルカノイズ、本来は世界の転換を目的としたものですが、それを兵器として利用すれば・・・」

「シンフォギアに備わる各種防御フィールドを突破し、仮面ライダーの特殊な装甲を分解する事など容易い・・・」

「さあ、最後の目的を果たすとしよう」

黒ローブの男が、その爪のような手袋を構える。

「チィッ」

「逃げてください!彼らの目的は、あなたの・・・仮面ライダーの抹殺です!」

「はあ?」

ビートクローザーを構えながら、龍我は思わず素っ頓狂な声を上げる。

「なんでだよ?」

「それは僕にも・・・」

「分かんねえのかよ!?どちらにしろ、可愛い恋人置いて逃げれるかってんだ!」

「であるならば・・・・」

次の瞬間、ローブの男が襲い掛かる。

「その恋人の前で死に晒せ!」

迫りくる、高速の爪の一撃。それは、常人では捉えることすら叶わない必殺の一撃―――常人ならば。

「なっ!?」

それを龍我は片手で防ぎ、逆にその腹に拳を叩き込む。だが、返ってくるのは鉄を殴ったかのような硬い感触。間違いなく鎧だ。

「チィッ!」

すかさず男は左手を龍我に向ける。拳を突き出し殴るのではない。ただ向けて。

次の瞬間、男の腕から何かが飛び出し、そこから鉄針が連射される。

それを見て龍我はその腕を蹴り上げ、その銃口を逸らし、続く男の攻撃を横に転がって躱す。

(馬鹿な、奴は仮面ライダーでなければただの人間の筈だ!?)

実際に男の動きはエルフナインの目には見えていない。それほどまでに人間離れしているという事だ。

だが、人間離れをしているという点では龍我も同じ。

 

ハザードレベル7.0、その数値は伊達ではない。

 

男の爪の猛攻が龍我を襲う。その一撃一撃をビートクローザーで防ぎつつ後退していると、背後からアルカノイズが襲撃。それを龍我は男を蹴り飛ばす事で猛攻から抜け出し、背後のノイズをビートクローザーで斬り裂く。

「油断したな」

しかし、すぐさま舞い戻ってきた男が、爪を龍我の背中に突き立てようとする―――その直前、

「お前がな」

龍我の左手には、いつの間にかナックルダスター型のアイテムが握られており―――

「な―――」

「ぶっ飛べ!」

クローズマグマナックルのドラゴニックイグナイターを押し、エネルギーを充填。そして、そのナックルを、後ろにいる男に向かって振りぬく。

「ウオリヤァァアア!!」

 

ボルケニックナックルッ!!!アチャァァァア!!!』

 

炸裂する溶岩の拳。それが男の胸に直撃し、吹き飛び、そのまま橋の裏に激突する。

「がっはぁ・・・」

壁にめり込んだかと思えば剥がれ落ち、地面に落ちる。

「ば、馬鹿な・・・通常の身体能力を超える我々に追いついてくれる人間が、この世にいる訳が・・・」

「なんだか知らねえが、仮面ライダーなめんな」

だが、今のは事前情報がなかったからこその不意打ちに等しい行為。

龍我の身体能力を知らなかったが故の手加減がなければ、あんな風に攻撃を捌ききる事などできなかった。

ついでに言えば、本来のマグマナックルの威力であれば、奴を一撃で沈める事ができた筈。それが出来なかったということは、変身をしていない龍我では、奴を倒すに至るほどの性能を発揮出来なかったということだ。

だから二度目が通用するとは、龍我は思えなかった。

「やれやれ」

ふと、レイアがあきれたように首を振る。

「次なる仕上げは、次なるキャストを・・・」

「くっ」

レイアが、コインを手に持って龍我ににじり寄ってくる。

流石に、同じことを二度やれと言われて成功させる余裕はない。

ライダーシステムもなしに、彼らと対等に戦うなんて事は無理な話なのだ。

このままでは、やれてしまう―――そう、思った時だった。

「させないデスよ!」

聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

変身が解除される。

その事に焦りを感じている一海。

敵はまだ多くいるというのに、ライダーではなくなった一海ではどうする事も出来ない。

「カシラぁ!」

そんな一海の前に、三羽ガラスが立つ。

「お前ら!?」

「カシラ!俺たちの後ろに!」

「響ちゃんは任せましたよ!」

「あ、おい!」

一海に響を押し付け、ノイズの方を見る三羽ガラスたち。

「やめとけ!ライダーの装甲を消すような奴だぞ!」

「だからといって、カシラのピンチに何もしないなんてできませんよ!」

得意げに言って見せるが、一海にとっては彼らが前に立つことはどうにも許せない事だ。

何故なら前世―――旧世界での彼らの死に際を見てきたからこそ、こんな危険な状況で戦わせるのは気が引けるのだ。

「お前ら・・・」

「さあ、やるぞお前らー!」

「「おおー!!」」

キャッスルの言葉に他の二人も応じ、すぐさまノイズの集団に向かって走り出す。

「ようは、攻撃に、当たらなきゃいいんだろ!」

事実、一海の変身が解除された理由はその一点に絞られる。

彼らからの攻撃を受けなければ、変身は解除されない。否、分解されない。

「だったら、簡単だ!」

「このまま嬲り殺しにしてやるぜぇぇええ!!」

キャッスルの拳が、オウルの翼が、スタッグの刀が、次々とノイズを殲滅していく。

「あいつら・・・」

その戦いぶりに、頼もしさを覚える一海。

だが、オウルの背後からノイズが一体、迫ってきている事を一海は気付く。

聖吉(しょうきち)!後ろだぁ!!」

「え!?」

気付いた時には、オウルの反応できない距離にまでそのノイズは迫ってきていた。

それを見た一海は一気に背筋が凍るような悪寒が駆け巡り、思わず響を抱えたまま走り出そうとしていた。

「黄羽ぁ!」

そこへキャッスルが割り込む。

「アカチャン!?」

(まさる)!?」

割って入ったキャッスル。その肩の可動防壁『グランドランパート』を構えて、オウルをノイズの攻撃から守ろうとしていた。

そして、誰も間に合う事なく―――キャッスルがノイズの一撃を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おりゃあ!」

突如として床のコンクリートが砕け散り、そこからタスクが出現、ビルドに迫ってきていたフラガラッハを弾き飛ばす。

「「ッ!?」」

それに、ビルドと女性は目を見開く。

「よぉし間に合ったぁ!」

「慧介!?」

「本部からの指示で助太刀に参りましたぁ!」

どうにか避難誘導が終わり、本部からビルドが襲われている事を知り、急いで駆けつけてきてくれたのだ。

「そうか・・・」

「ってか、なんでノイズがいるんですか」

「それは俺も聞きてえよ!」

 

『マックスハザードオンッ!!!』

 

ビルドがすぐさまハザードトリガーを取り出してスイッチを押して起動。そのままビルドドライバーに接続し、続けてフルフルラビットタンクフルボトルを取り出し、振ってそれを装填する。

 

ラビット(アンド)ラビット!!』

 

ボルテックレバーを回し、ハザードライドビルダーを展開、続けてラビットアーマーを呼び出して、すぐさまフォームチェンジを行う。

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

『オーバーフロウッ!!』

 

紅のスピーディージャンパーッ!!!

 

ラビットラビットッ!!!

 

『ヤベェーイッ!!!ハヤァーイッ!!!

 

ビルド・ラビットラビットフォームへと変身し、ビルドはどうにか変身解除を免れる。

「気をつけろ。こいつらの攻撃を受けると装甲を分解されて強制的に変身を解除させられるぞ」

「そのようですね。さっきクリスさんと翼さんのシンフォギアが解除されて、龍我さんと一海さん、それとシンの変身も解除されたって聞きました」

「何!?」

それを聞いてビルドは驚く。

実は戦いに集中するために無線を切っていたのだ。だから、情報が入ってこなかったのだろう。

「あいつらが・・・」

「戦兎先生、今はこいつらを」

「ああ、そうだな」

武器を下手に使えば、それも分解させられかねない。

それを考えれば、自然と格闘戦となる。

「無駄です。いくら数を揃えようとも、アルカノイズの解剖器官の分解からは逃れられません」

「んなこたわかってんだよ!」

ノイズが襲い掛かってくる。

とにかく、攻撃に当たらないようにしなければならない。

だから二人は回避しながら、時には攻撃される前に攻撃に出る。

しかし、何分数が多い。その数を、防御なしという状況で凌ぐというのは、ある意味至難の業だ。

スピードに特化したラビットラビットや、驚異的な柔軟性をもつタスクでも、いずれは避けきるのに限界がくる。

「うわ!?」

ついにタスクにノイズの攻撃が掠る。

「慧介!?」

そして、それに気を取られたビルドの正面からも、ノイズが襲い掛かる。

そして、その攻撃が、腕に直撃する――――

 

 

 

 

 

 

 

 

絶対絶命の状況。

「下手に逃げようとしたら、後ろのその子たち切り刻んじゃうかもね~」

なんて言われたのが運の尽きか、シンは逃げる事すら叶わないまま、ノイズたちの攻撃を躱し、ジャードの猛攻を凌ぎ切っていた。

後ろに控えているあの女は傍観するのみなのが唯一の救いか。

しかしおかげでシンの体は傷だらけ、ノイズからの攻撃は全て躱せど、ジャードの鋭い斬撃までは防ぎきれず、服は裂け、体中の至る所に切り傷が出来ていた。

「アハハ、結構粘るね」

「く・・・」

幸い掠り傷。致命傷はないとは言え、このままでは出血多量で動きが鈍る。

そうなれば、襲い掛かるノイズの攻撃すらも凌げなくなる。

「シン!私たちの事はいい!だから逃げて!」

背後でマリアが叫ぶも、迂闊にできない。

ジャードの言動は、どこか本気さが混じっている気がするからだ。

だから、下手に逃げる事が出来ない。

(どうする・・・!)

刀を握り締めるシン。変身が封じられた以上、もはや防戦するしか選択肢は残されていない。

このまま、助けが来るのを待つか。否、ノイズがいる以上、それは不可能だ。

だから、ノイズへの唯一の対抗手段であるシンフォギアと仮面ライダーである自分が対応するしかないのだ。

しかし、それが出来ないのであれば―――

(打つ手なし・・・万事休すか・・・!)

その状況に、シンは歯噛みするしかない。

「じゃあそろそろ終わりにしようか―――なっ!」

ジャードが仕掛ける。

それにシンは迎え撃つために構える。

そのジャードの両サイドからはアルカノイズが二体。三方向からの同時攻撃だ。

凌げない事は、ない。しかしそれはこの手の雷切を犠牲にするという事。

そしてなおかつ、自らの体を一部を相手に捧げる行為もしなければならないという事にもなる。

それほどまでに、シンは追い詰められていた。

 

 

 

―――だからこそ、この『援護』は予想外だった。

 

 

 

銃声が轟き、ジャードの両サイドにいたノイズが爆散する。

「は・・・?」

「ッ!?」

突然の事態に、ジャードは呆け、女は目を見開く。

そして、シンは、その援護にどういうわけか()()()()()()()()()()()()、ジャードに向かって刀を振るう。

その一撃を紙一重で防いだジャードは大きく下げらされ、すぐさまシンの追撃に出ようとする。

だが、そのジャードの足元に再び銃弾が飛んできて、思わずたたらを踏ませる。

そして次の瞬間、

「はい、おーまったせ!」

知らない声が聞こえてきて、シンの目の前に巨大な壁が作り出される。

「な!?」

「これは・・・!?」

突然現れた壁に戸惑いを隠せないシンとマリア。

それと同時に、三人を突如あがった煙幕が包む。

そして―――

「こっちよ!」

シンにとって、何故か耳に馴染む声が聞こえてきて、そしてシンはその声に導かれるかのように動く―――

 

 

すぐさま壁に穴が空く。

ノイズの分解する力によって、空けたのだ。

「いない・・・」

しかし、穴を穿った先には目標はおらず、気配もしないとくれば、もはやお手上げだった。

「ちぇっ、逃げられちゃった」

「しかし目的の一部は達成している事ですし、今回はこれで引くことにしましょうか」

カカッ、と女がヒールの踵を鳴らす。するとノイズたちの足元に方陣が表れ、そこに沈んでいくように消えていく。

「じゃ、俺もこれで帰るから。あーあ、リカルドに怒られちゃうな~」

「それはそちらの問題。そちらで解決してくださいな」

「ちぇっ、ファラは冷たいな~」

女―――『ファラ・スユーフ』の言葉につまらなそうに返し、ジャードは小瓶を取り出し、それを自分の足元で砕く。

「それじゃあ、またどっかで会おうね~」

「できれば会いたくないですけどね」

ジャードの足元に赤い方陣が出現すると同時に、ファラも先ほどジャードが取り出したような小瓶を取り出してそれを足元に投げ砕く。

さすれば彼女の足元にも赤い方陣が現れ、そして、次の瞬間には、二人はその場から消え、ノイズたちもいなくなっていた―――

 

 

そして、彼らの消えた橋の下に―――シンたちはいた。

「・・・行ったようね」

そう言うのは、赤髪の女性。

黒いシャツにサスペンダーショルダーホルスターにパンツスーツといった出で立ちの女性だ。その右手には、真っ赤な手甲(グローブ)が付けられている。

年齢は、マリアと変わらないぐらいだろうか。

彼らが行った事で一息つく赤髪の女性。

ただ、その女性にシン、マリア、気絶した翼の他にもう一人、やや小柄な女もいた。

「はいこれ、即席だけど着させてあげてね」

「あ、ありがとう・・・」

ぶかぶかのジャケットにフードを深く被った女。一見、少女と見間違いそうだが、何か、何かそうじゃないオーラが彼女から発せられているのだ。

だが、そんな事よりもシンは、赤髪の女性に尋ねたいことがあった。

「何故、お前がここにいる」

シンは、睨みつけるように、こちらを見る女を見る。

 

「―――エリザ」

 

シンと同じく『幼き殺人者たち(マーダー・オブ・チャイルド)』の一人。

 

 

エリザベート・バートリー―――通称『血塗れエリザ(カーミラ)

 

 

そのエリザが、今、シンの目の前に立っていた。

エリザは、その言葉にしばし沈黙を保つと、突然こちらを向いて、涙に潤んだ目をシンに向けて―――

 

――――いきなりシンに抱き着いた。

 

「な・・・!?」

それにシンは驚く。

だが、エリザはそれすらお構いなくシンを抱きしめて―――

「ジャック、会いたかった・・・」

そう、言った。

「な、なぁぁぁあぁぁああ!?」

マリアの絶叫が、轟いた。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

戦「いやー、まさかライダーの装甲が分解されるとはな」

慧「いやちょっと待って!?俺たちまだ戦ってるのになんでこんな呑気な会話してんの!?」

戦「ああ?別にいいじゃねえか次回予告なんだから。その間は時間止まってるわけなんだし」

慧「いやおかしいでしょ!?前までは次の話のセリフを切り抜いたりして次回予告してたでしょ!?」

戦「なんか面倒くさいんだと」

慧「ただの個人的な都合だった!?」

戦「というわけで次回!『第二のヘレシーテクノロジー』!」

慧「そういえばシンに抱き着いてたあの女の人って一体・・・」

戦「お前も体外じゃねえか・・・」




最近、この小説でのXV編のシェム・ハあたりというか後編のオープニングテーマが『ガンダムビルドファイターズ』の第二期オープニングしか思いつかない今日このごろ・・・
ちなみに作者が好きなガンダムはエクシアとAGE-FXデス。


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第二のヘレシーテクノロジー

弦「最近作者が遊戯王に嵌り始めているようだな」
緒「お気に入りのモンスターはジャンク・ウォーリアーのようです。なんでもスクラップ・フィストという必殺技の名前が気に入ったようで」
藤「いやいや少し待ってください。それよりもあらすじ紹介しましょうよ!」
友「天才物理学者である桐生戦兎を含めた仮面ライダーたちは、スカイウォールの惨劇を引き起こしたエボルトと戦い、そして二つの世界を融合させることで新世界を創造したのでした」
藤「友里さんは流れるように説明したなぁ・・・」
緒「その世界で、シンフォギア装者たちと出会い、二課の一員となり、ルナアタック、フロンティア事変、キルバス事件を乗り越え、そして彼らは新たな敵と対峙することになります」
弦「その名も、錬金術師!」
藤「歌、科学、錬金術、三つの技術が交錯する時、物語は動き出す!」
友「そういうわけで、シンフォギア・ビルドGX第四話をどうぞ」


「させないデスよ!」

その声が聞こえてきたのは、龍我の真上からだった。

見上げてみれば、そこにはどういうわけかどこかの横断幕を体に巻いてマントの如く纏っている切歌の姿があった。

「切歌!?なんでそんなもん巻いてんだ!?」

「ずこっ・・・そ、そんな事はどうでもいいんデスよ!」

龍我の言葉に言い返しつつ、切歌はその横断幕を脱ぎ捨てると、その胸からペンダントを取り出す。

言わずもがな、彼女のシンフォギア『イガリマ』のペンダントだ。

「まさか・・・!?」

その行為に、龍我は切歌が何をしようとしているのか悟る。

 

「―――Zeios igalima raizen tron(夜を引き裂く曙光のごとく)―――」

 

その身に漆黒ではなく純白となった緑のギアを纏い、その手に鎌を持つ切歌。

歌と共に纏われるその力。それはまさしく、切歌のシンフォギア『イガリマ』の起動を意味していた。

 

「―――危険信号点滅 地獄極楽どっちがイイDeath?」

 

ギアを纏い、超人並みの身体能力を手に入れた切歌は、ノイズを殲滅すべく、その手の鎌の刃を複製、それを鎌の振りの勢いによって投擲する。

 

切・呪りeッTぉ

 

放たれる刃は瞬く間にノイズどもを斬り裂いていく。

しかし―――

「――――ッ!?」

LiNKERを使わないでのギアの装着は、やはり第二種適合者にとっては相当な負荷となるようだ。

実際、切歌の体を、果てしない激痛が走っている。

「あのバカ・・・!」

龍我は思わず加勢に入ろうとする。しかし、

「貴様はここで死ね!」

先ほどのローブの男が再び遅しかかる。

「しまっ―――」

次の瞬間、男の突き立てた爪が、何か、固いものに直撃する。

「ッ!?」

それに思わず目を見開く男。

爪を突き立てたのは、何者かの胸部装甲。

その何者かの正体を見るために顔を上げた先にあったのは―――青い複眼と鰐に食われるが如き意匠の仮面―――

「幻さん!」

どういうわけか龍我の元に、政府長官、氷室幻徳こと仮面ライダーローグがそこに立っていた。

「なん・・・」

「ふんっ!」

「ぬぐあ!?」

ローグに殴り飛ばされる男。

「雪音クリスの安全を確保しろ。離脱は装者に任せる」

「お、おう!」

ローグの言葉に龍我はうなずき、すぐさまクリスの元へ走る龍我。

一方の切歌は、肩のブースターを蒸かして高速回転、ノイズを一気に薙ぎ払っていく。

 

災輪・TぃN渦ぁBェル

 

さらにローグはノイズを近づけさせないようにネビュラスチームガンを使って遠中距離からノイズを片付けていた。

「派手にやってくれる」

その様子にレイアはそう呟く。

「クリス!それとエルフナインつったっけ?大丈夫か!?」

一方龍我がクリスとエルフナインの元へ駆け寄る。

「あ、はい・・・」

どこか力なく答えるエルフナイン。

「龍我さん、これを!」

その最中で切歌が龍我に先ほどの横断幕を渡す。

「すまねえ!」

それをクリスの体にくるむ。

これで人目に彼女の裸体がさらされる事はない。だが、その間に他のノイズが彼らに迫ろうとしていた。

「ッ!?」

思わず龍我が応戦しようとしたところで、どこからか丸鋸が飛んできてそのノイズたちを鏖殺。

その丸鋸を扱うのは、龍我の知る中でもただ一人。

「調!」

調がフィギュアスケーターの如き動きで、その黒から白へと変わったギアを操り、頭部のヘッドギアから大量の丸鋸を射出する。

 

α式 百輪廻

 

放たれる丸鋸は瞬く間にノイズを殲滅していく。

「女神・・・ザババ・・・」

エルフナインが、そう呟き、倒れかける。

そこへ調が掛けてくる。

「龍我さん!私の後ろに!」

「え!?」

「クリスさんは切ちゃんが!」

「おう分かった!」

切り替えの速さは流石か。

「派手な立ち回りは陽動・・・?」

その最中で切歌がクリスを回収。

「陽動にまた陽動・・・」

レイアが傍観している中で、調は包囲網を突破すべく禁月輪を発動。その巨大な車輪の刃で一気にノイズを切り倒していく。

だが、突如として調の体に激痛が走る。

「うぐっ!?」

「調!?」

そのせいで禁月輪が解除される。

「やっぱLiNKERがねえと上手くギア扱えねえんだろ!?」

「くぅ・・・」

龍我の言葉に、調は何も言い返す事が出来ない。

実際、まだS.O.N.Gが二課だったころに激突した頃の出力を調たちは出せていない。

「ぼさっとするな!」

「うおあ!?」

そこへローグがノイズを蹴散らしながら走ってきて、調の後ろにいた龍我を担ぐと二人を追い越してライダーの走力を使って走る。

「調!」

「分かってる」

また、街路灯の上を飛ぶ切歌にそう答え、調は足のギアを使って滑るように走り出す。

そうして、彼らはレイアから逃げる。

「・・・予定にない闖入者。指示をください」

それを見て、レイアは自らの主人に指示を請う。

『追跡の必要はない。帰投を命ずる』

自らのマスターがそう告げる故に、レイアはそれに従う。

「さて・・・無様だな」

そう、レイアはローグに吹き飛ばされた男を見る。

「だが戦力は測れた」

その言葉に男は意に介さずそう答える。

「次は逃がさん。確実に殺してくれる」

先ほどとは打って変わって冷静な声音。どうやら、レイアの侮辱の言葉は効いていないようだ。

「ならいい。奴ら仮面ライダーは、我々の計画の障害となりかねないからな。最も、そちらは勝手に協力しているといった方が正しいが」

「承知している。だがこれは我らの悲願。世界を破滅させることこそが我らが御方の望み・・・」

その手に、あの小瓶を取り出し地面に投げ砕く。

「機会があればまた会おう」

そうして、男はその場から消え、また、レイアも同じような小瓶を足元で投げ砕き、その場から消えた――――

 

 

 

 

 

「勝!」

視線の先で、キャッスルハザードスマッシュがノイズの攻撃を正面から受ける。

その身に備えられた盾『グランドランパート』を構え、それによってノイズの一撃を諸に受けてしまう。

スマッシュとは、人間がネビュラガスを体内に注入され、特殊な細胞分裂を人為的に引き起こされる事によって生み出される怪物。

即ち、スマッシュである彼らは『生身』だから、攻撃を諸に受ければ、その体は『分解』され、消滅してしまう――――

「・・・・・あれ?」

 

―――ことはなかった。

 

「・・・・は?」

キャッスルの盾は、確かにノイズの一撃を受けた。

しかし、ノイズの手、白い棘のような何かは、キャッスルの盾を分解する事なく、ただかんかんと叩いているだけだった。

「あ、アカチャン?大丈夫・・・」

と、オウルがキャッスルの安否を確認しようとした直前―――

 

背後からノイズに叩かれてしまう。

 

「あだ!?」

だが、

「・・・・あれ?」

分解しない。むしろ無傷。消滅なんてもっての他だった。

「ああ?どういうことぬぐあ!?」

そして最後のスタッグ。ノイズからの回転タックルを喰らい、地面に倒れ伏す。

しかし、やはりその体は分解されなかった。

「どういう事だ・・・うおっと!?」

一海が茫然とし、しかし横から襲い掛かってきていたノイズの攻撃をどうにか躱す。

しかし、これで一つ分かった事がある。

 

三羽ガラスの彼らに、ノイズの分解は通用しない。

 

「「「・・・・」」」

それを理解した彼らは、しばしその場で顔を見合わせ棒立ちになったかと思えば・・・

「ひゃっはぁぁぁああ!!!」

「攻撃が効かないと分かれば怖いもんなんてねえぜぇぇええ!!」

「オラオラ全員斬り裂いてやるよぉぉぉお!!!」

目が一瞬、キラーン☆と光ったかと思えばあとは獲物を見つけた猛獣の如く、ノイズを蹂躙し始めた。

まさしく祭り、狂戦士である。

「あいつら・・・」

その様子に、一海はから笑いするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、それは同じ場所でも―――

「・・・ん?」

ノイズの攻撃が腕に直撃したビルド。しかし、分解されるかに思われた自分の装甲は―――分解されなかった。

「・・・・は?」

そんな声を出したのは意外な、いや、予想通り、あの女の方だった。

「・・・あれ?分解されないんだけど・・・」

そして、それはなぜかタスクも同じだった。

胸にノイズの攻撃が掠めた筈なのに、分解は起きていなかった。

「ど、どういう事・・・!?」

その様子にあからさまに女が動揺する。

そんな中でビルドは自分の手を見る。

(ハザードトリガーを使っているからか?いや、それならなんで慧介の変身は解除されない?スクラッシュドライバーだからか・・・いや、それだと一海の変身が解除された理由の説明がつかない・・・一体何が原因なんだ?)

視界の先では、いくらノイズの攻撃を受けても変身が解除されないタスクの姿があった。

「あー、戦兎先生」

「ん?なんだ?」

「とりあえず、こいつらの攻撃で変身は解除されないって事は証明されたので・・・やっちゃっていいですかね?」

タスクがそう尋ねてくる。

それにビルドは、仕方なくうなずく。

「ああ、いいぞ」

次の瞬間、

「うおっしゃぁあぁぁああ!!テメエら全員ボッコボコにしてやるぜぇぇええ!!」

何かストレスが溜まってたのだろうか。何かが爆発したタスクが一気にノイズの蹂躙を始める。

「やれやれ・・・さて、どうする?形勢は逆転したぜ?」

ビルドは不敵に女に尋ねる。

「く・・・」

「さあ、大人しくお縄につけ!」

ビルドが飛ぶ。ほぼ瞬きするほどの時間しかない中で、ビルドが女との距離を詰め、その体に拳を叩きつけようとする。

「フラガラッハ!」

しかし、そこへフラガラッハが飛来。ビルドを死角から刺し貫こうと襲い掛かる―――だが、

「遅い!」

「ッ!?」

一瞬にしてビルドが女の背後に移動。スピードに特化した形態が故の特性だ。

「しまっ―――」

「オラァ!」

フラガラッハは空振り、その代償として女は背中にビルドの拳を受け、吹き飛ぶ。

「くっ」

しかし、何故かそれほどのダメージになっていない。そのまま女性は吹き飛ばされる勢いで電柱の上に着地する。

「これは完全に想定外・・・すぐに報告しなければ・・・!」

懐から赤い小瓶を取り出し、それを足元で割る。

「ッ!?」

「今回はこれで引きますが、次会った時が、あなたの最後と知りなさい!」

女はそう捨て台詞を吐いて、その場から消える。

「これで、ラストォ!」

その直後に、タスクが最後の一体を片付け、ノイズの殲滅は終わった。

(なんだったんだ・・・あの女・・・)

そして、戦兎はこの一連の事件に、どうしようもない違和感を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

日が昇る。

その光を受けながら、ローグたちは道路を走る。

その最中で、調がふと止まった。

それに、他の二人も止まる。

「どうした?」

ローグが調に尋ねる。

「に、逃げ切れたのか?」

それに口を挟むように、ローグに担がれている龍我が尋ねる。

「一応はな。このままS.O.N.Gが指定した合流地点にまで移動する。それまで我慢していろ」

「ああ、クロの奴がいてくれたら良かったのにな・・・」

龍我ががっくりしているのを他所に、切歌は調の傍に降りて、自らを苛む痛みに耐えながら、今回の事を実感していた。

「LiNKERがなくたって、あんな奴に負けるもんかデス!」

「切ちゃん・・・」

その言葉に、調はそう呟く。

「分かってるデス!」

しかしそれはただの意地っ張り。現実はそう、甘くはない。

「私たち、どこまで行けばいいのかな・・・?」

「・・・・行けるとこまで、デス」

「でもそれじゃあ、あのころと変わらないよ?」

思い出されるのは、F.I.Sの施設にいた頃の記憶。

「確かお前たちがいたところは、F.I.Sの擁護施設とは名ばかりの研究所だったな」

「そこは、壁も天井も真っ白な世界だった」

ギアのバックファイアからくる痛みに耐えながら、彼らは移動を続ける。

「そこで出会ったシンフォギアは、昨日までの嫌な事を、全部ぶっ飛ばしてくれる、特別な力だと思っていたデスよ・・・」

そうして繰り返される訓練の日々。

毎日が辛くとも、その日常に、シンやマリアにセレナ、そして慧介がいたからこそ、その辛い日々を乗り越えられてきた。

「聖遺物が引き起こした災厄から、人類を守るには、聖遺物の力で対抗するしかない・・・」

「そう考えるマムを、手伝いたいと思った訳デスが・・・」

出来たのは、ただ流されるままに戦う事だけ。

自分の意志で戦っていたのは、仮面ライダーだったシンと慧介だけ。

シンは、マリアを助ける為に自ら危険を承知で飛び込み、慧介は暴走を克服した時に、自らの意志で調を二課に預け、そして龍我と一騎打ちをした。

それに比べて、自分たちはどうだっただろうか。

「状況に流されるままに力を振るっても、何も変えられない現実だけを思い知らされた・・・」

「マムやマリアのやりたい事だけじゃない。アタシたちはアタシたちのやりたい事を見つけられなかったから、あんな風になってしまったデス」

そんな二人の懺悔にも似た話に、ローグと龍我は黙って聞いていた。

「目的もなく、行ける所まで行ったところに、望んだゴールがある保証なんてない。我武者羅なだけではダメなんだ・・・」

「っ!もしかして、アタシたちを出動させなかったのは、そういう事デスか?」

「・・・目的を」

そこで、ローグが口を挟む。

それに、二人は思わずローグの方を見る。

「・・・目的を見失えば、そこにあるのはただの虚空」

その言葉に、二人は自然と重みを感じていた。

「だが、一度吹っ切れる事が出来れば、必ず立ち上がる事ができる筈だ」

その言葉を、二人は黙って受け止め、

「う・・・ぐ・・・」

「あ!」

切歌の腕の中のクリスがうめき声をあげる。

「よかった・・・」

「おい、クリス、大丈夫か!?」

調が安堵し、龍我はローグに担がれたまま呼びかける。

「大丈夫デスか?」

「大丈夫なものかよ!」

切歌が呼びかけると、返ってきたのはまさかの怒声だった。

その表情は、まるで悔しそうに歪んでいた。

(守れなきゃいけない後輩に守られて、大丈夫な訳ないだろ!)

その様子に、龍我は心配そうにクリスを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロンドンにて。

「完全敗北・・・いえ、状況はもっと悪いかもしれません」

S.O.N.Gとの通信で、翼はそう答える。その翼の手には、ひび割れた天羽々斬のペンダント。

そして衣装は、先ほどの少女から貰った衣服を身に着けている。

「ギアの解除に伴って、身に着けた衣服が元に戻っていないのは、コンバーターの損壊による機能不全とみて、間違いないでしょう。その上、シンが使っていたウルフフルボトルの成分も、変身解除の際の回収機能が働かず、中身は消滅しています」

「まさか、翼のシンフォギアも・・・」

マリアの言葉に、翼は顔を逸らす。

「・・・絶刀・天羽々斬が、手折(たお)られたという事であり、仮面ライダークライムが消失したという事だ」

「・・・」

マリアは、シンの方を見る。

そこには、こちらに背を向けて、一枚の紙を見つめるシンの姿があった。

それは、今はもう去った、あのエリザとかいう女狐(マリアの見解)から貰った紙だ。

『クリスちゃんのイチイバルと、翼ちゃんの天羽々斬の破損、龍我君のドラゴンスクラッシュゼリーと一海さんのロボットスクラッシュゼリー、戦兎君のライオンとコミック、シンさんのウルフの成分の消失・・・』

『戦兎がいるから、正直それほどの損害でもないと思うけど、また破壊されれば意味がない・・・』

 

 

 

その一方、S.O.N.G本部にて。

「響君の回収はどうなっている?」

源十郎がそう尋ねれば、

『もう平気です』

『んな訳ねーだろあほ』

『あだ』

別の無線から、響と一海の声が聞こえてくる。

『あはは・・・ごめんなさい。私がきちんとキャロルちゃんと話ができていれば・・・』

『話だぁ?お前殺されかけたのに何言ってやがる?』

『だって、キャロルちゃん、あの時・・・』

『戦場でその心構えは命取りだ・・・とまあ御託はともかく、その心意気だけはまあ認めてやる。だがな、襲い掛かられたならまず応じろ。じゃねえと、話どころじゃねえぞ』

『・・・はい』

「・・・話を」

一海と響の会話に耳を傾け、弦十郎は、そう呟くのだった。

 

 

 

 

その一方、ロンドンでは。

どこからともかく見覚えのある黒い車が数台やってきて、マリアたちを取り囲む。

そして、降りてきた国連のエージェントたちが三人を―――主にマリアとシンに向かって拳銃を向ける。

「状況報告は聞いている。だが、マリア・カデンツァヴナ・イヴ、シン・トルスタヤ。君たちの行動制限は解除されていない」

それを聞いてマリアは、翼から通信機を取り上げると、それを耳にあてがう。

「風鳴司令。S.O.N.Gへの転属を希望します」

「マリア・・・」

「ギアを持たない私ですが、この状況に、偶像のままではいられません」

マリアは、確固たる決意をもって、そう告げた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後―――

 

 

 

 

 

上空を飛ぶ特別チャーター機の中にて、シンは、あの襲撃の日の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

「ジャック、会いたかった・・・」

抱き着いてくるエリザ。

それにシンは、戸惑いを隠せない。

「な、なぁぁぁああぁあああ!?」

背後でマリアの絶叫が聞こえ、その事に思わず背筋が凍りそうになる。

「あ、え、エリザ、いきなりなんだ・・・!?」

「ああ、ジャックがいる・・・ここにいてくれている・・・」

「と、とりあえず離れろ、今はこうしている場合では・・・」

「もう少しこのままでいさせて」

「何故だ・・・!?」

何故だ。あの頃はかなりつんけんとしていた筈なのに、なんだこの変わりようは。

いや、あの頃から七年も経っているのだから変わるのは当然といえば当然なのか。

マリアに負けず劣らずの柔らかいものがシンの体に当てられ(ただそれでシンの精神にどのような影響を及ぼすという訳でもないのだが)ているのだが、とにかく今は一旦離れなければ話ができない。

そう思い、エリザを引き離そうとエリザの体に手を当てようとしたその時だった。

「いつまでひっついてるのよ!」

マリアが間に入ってエリザとシンを引きはがす。

「マリア!?」

「貴方一体なんなの!?助けてくれた事には感謝するけど、突然出てきてシンに抱き着くなんてどういうつもり!?」

「何よアイドル大統領」

「うぐ」

「私がジャックに抱き着いて何か問題でもあるわけ?」

「大有りよ!人のマネージャーに色気使うなんて貴方常識っていうものがないんじゃないの!?」

「色気?私はただジャックに抱き着いてただけですけど?」

「その体でシンを誘惑しようたってそうはいかないわ!ハニートラップがシンに通用するとは思わない事ね!」

「そんなもの、十年も一緒にいた私が知らない訳ないでしょ?あ!あなたはたったの七年だったわね。ごめんね~私の方が長くて~」

「うぐ・・・た、たかが十年で調子乗らないでくれる?こっちはこれでも『家族』としてその七年過ごしてきたんだから」

「それだったら私とだって同じ釜の飯を食べてきたわ。たかだか七年を流されるがままに生きてきた貴方とは格が違うのよ」

「流されるままですって!?こっちだってそれなりに自分で決めて戦ってきたわよ!ていうか何貴方、そこまで食いついてきてもしかしてやきもち焼いてるわけ?」

「なっ!?たかだか歌を唄うだけのアイドルの分際で・・・」

「ぽっと出の女なんかに負けるほどやわじゃないのよ」

「何よ!?」

「やる気!?」

「お、落ち着けお前たち・・・」

「シンは黙ってて!」

「ジャックは黙ってて!」

シンの制止に怒鳴り返され意気消沈するシン。

「何よジャックって!?」

「彼の名前よ。知らないの?」

「彼はシンよ!」

「何言ってんのよ!」

止まらないマリアとエリザの口論。

「どうすればいいんだ・・・」

「あー、ごめんね~うちのエリザちゃんが」

ふとそこで声をかけてきたのは翼に服を渡してくれた少女だった。

「あ、私は『アルフォンス・ヒードマン』。みんなからアルって呼ばれてる。ちなみに年齢は三十二」

意外に高かった。

「これはどういうことだ?」

「彼女はうちの会社で働いててね~。君たち『幼き殺人者たち(マーダー・オブ・チャイルド)』が壊滅した際に、君がF.I.Sに拾われたように、彼女はうちで引き取ったって訳だよ」

「なるほどな・・・」

「さてさて、それはともかく本題に入ろうか」

何やらヒートアップして放送事故レベルの言葉まで飛び交ってる二人の口喧嘩。

「はいはいそこまで、エリザちゃん、本来の目的を忘れないで」

「・・・そうだったわね。この女狐とこんな言い争いをしている暇はなかったわね」

「女狐はあんたでしょ」

「なんですって?」

「やるの?」

「はいはいガン飛ばさない。翼ちゃん怖がってるでしょーが」

気付けば二人の剣幕にいつの間にか起きていた翼がすっかり怖がっていた。

「ま、まりあ?なにがあったというんだ・・・?」

「ああごめんなさい翼。ただこの女狐が突っかかってきただけだから」

「女狐はあんたでしょ」

「なんですって?」

「やるの?」

「やめろお前たち」

「「へゔっ」」

いい加減イライラしてきたシンからの拳骨が二人の頭頂部に叩き込まれる。

「それで、一体何が目的なんだ?」

「いたた・・・っと、そうだったわね」

頭を抑えつつ、シンの疑問にエリザは答える。

「ジャック、私はあなたを勧誘しに来たの」

「勧誘だと?」

「そう。ジャック、あなたのいるべき場所は、ここじゃない」

エリザは、真剣な眼差しでシンを見つめていた。

「私の所属するのは民間軍事警備会社(P M S C s)『ストレイ社』。貴方の務める国連のエージェントとしての活動や、S.O.N.Gなんていう生温い理念を持つ場所なんかじゃない―――貴方の望む戦場を与えてくれる場所よ」

「俺の望む戦場・・・だと・・・?」

「ええ。ジャック、貴方の本性はどこまでいっても『人殺し』のそれ。その本性からは決して逃れられないもの。だから、貴方はそこにいるべきじゃない」

「俺は・・・」

エリザの言葉に、シンは戸惑いを見せる。

だが、そんなシンとエリザの間に、マリアが入る。

「・・・シンは、そんな人じゃない」

「マリア・・・」

射貫くような視線をエリザに向けるマリア。しかしエリザは、その視線にため息を零し、マリアに向かって、鋭い言葉を言う。

「怖いのね」

「なんですって?」

「ジャックの本性を見たことがないからそう言えるのよ」

そう言って、エリザは歩き出す。そして、シンの前に立つと、一枚の紙を彼に差し出した。

「私と社の連絡先よ」

「ちなみに、君の端末情報はこっちで既に入手済みだから、こっちからも連絡をかけられるよ」

アルフォンスがそう口を挟む。

「・・・・」

「今は答えを出さなくていいわ。だけど、これまでの自分を思い出しながら考えて頂戴」

踵を返すエリザ。

「いずれ、その時がきたら、返事を聞くわ」

その言葉を最後に、彼女らは行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

シンの手には、いまだエリザから貰った、彼女の連絡先と、彼女の所属する『ストレイ社』の連絡先が記載されたメモが握られていた。

(俺は・・・決して・・・)

その紙を握り締め、シンは、己の中にあるとある衝動をぐっと抑えつけた。

 

 

 

 

 

 

 

「―――それで?何かわかったのかよ」

S.O.N.G本部の潜水艦の中にて、龍我が開口一番にそう言った。

「落ち着け馬鹿」

「馬鹿っていうな」

「とにかく落ち着け筋肉バカ」

戦兎と幻徳に宥められ、不満げに口を閉じる龍我。

そこには、帰国した翼、マリア、シンも含めて、全てのシンフォギア装者と仮面ライダーが集結していた。

ただ、調と切歌はこの間の無理なギア装着によって、意外にも体への負担が大きかったらしく、しばしの病院生活を強いられていたのだが。

「シンフォギア装者と仮面ライダーが勢ぞろい・・・とは、言い難いのかもしれないな」

そう弦十郎がつぶやくと同時に、モニターに二つの画像が表示される。

「これは?」

「新型ノイズに破壊された、天羽々斬とイチイバルです」

それは、確かにギアペンダントの画像。そこに、『SERIOUS DAMAGE』―――『深刻な損傷』と確かに表示されていた。

「コアとなる聖遺物の欠片は無事・・・だが、エネルギーをプロテクターとして固着させる機能がダメになってて、実質シンフォギアとしては使用不可になってる」

戦兎が、その画像を見ながらそう説明する。

S.O.N.Gにおける聖遺物及びシンフォギアの状態管理、そしてS.O.N.G.の持つ技術は、全て戦兎が管理しているからだ。実質、この組織の櫻井了子に代わる技術主任といった所だろう。

「セレナのギアと同じ・・・」

マリアが、そう呟く。

「もちろん直るんだよな?」

「直すだけ、ならいいんですけどね」

クリスの言葉に、傍らのセレナがそう答える。

「セレナ・・・というかマリアのアガートラームを修復する際に色々と試行錯誤したおかげで、了子さんの作ったシンフォギアシステムについて色々分かったから、次同じようなギアの破損があってもすぐに修復できるようにはなっといたが、問題はそこじゃないんだよな」

戦兎が頭を掻きむしる。

「あの分解攻撃か」

一海の言葉に、戦兎はうなずく。

あの分解攻撃をどうにかしない限り、ギアは何度だって破壊される。

「じゃあどうするんデスか?」

「一応対策は考えてある。シンフォギアに施されるバリアコーティングをいじって、あいつらの持つ分解能力を無効化できれば、どうにかできない事はない」

「だったら、それで・・・」

「だけど、それだけじゃあのオートスコアラーとかいう奴には敵わねえだろ?」

事実、奴らの力は常人を凌駕していた。否、凌駕とかいうレベルじゃない。

あれは間違いなく怪物の域に達している。

「何か、シンフォギアの力をブーストする機能が必要だ。それこそ・・・ハザードトリガーみたいな強化アイテムみたいなものを」

ハザードトリガー、という部分を重く言う戦兎。

その言葉に、装者たちは何も言えず、しかしシンだけは戦兎に疑問をぶつけた。

「問題はそれだけではない。俺たち仮面ライダーの装甲も、奴らに分解された。その上、ボトルの成分も消滅してしまって使えない。その点の対策はどうなっている?」

その言葉に、戦兎はすぐに答える。

「一応、ボトルの成分はジーニアスから抽出すれば元に戻る。それに、ライダーシステムの方の強化案もある。どうやら、ハザード由来の変身なら、奴らの分解能力を免れる事ができるみたいだ」

そう言って、戦兎はハザードトリガーを出してみせる。

「ハザード由来?」

慧介が首をかしげてそう尋ねる。

「そう。一海の話じゃ、ハザードスマッシュは奴らの攻撃で分解されなかった。その上、俺のラビットラビットも、奴らの攻撃を受けても分解されなかったんだ。そこに通ずる共通点は、ハザードトリガーを使った変身かどうかだ」

「それじゃあ、現状戦えんのは戦兎と三羽ガラスだけじゃねえか」

「そこで、こいつだ」

龍我の言葉に、戦兎はスクラッシュドライバーを取り出して見せる。

「あ、それ俺のスクラッシュドライバー!?」

そう、それは慧介のスクラッシュドライバーなのだ。

「これは、ジェームズ博士が俺の作ったスクラッシュドライバーを調べて作ったものだうおあ!?」

次の瞬間、どこからともなく定規が飛んできて、戦兎の手にあったスクラッシュドライバーに直撃しそうになる。それをギリギリのところで避けた戦兎だったが、その定規は戦兎の後ろにあった弦十郎の席に直撃、鉄の板に思いっきり突き刺さる。

「・・・」

それにぞっとしながら、その定規を投げた張本人の方を見る。

そこには、黒いオーラを発しながら荒い呼吸をしている調の姿があった。

「・・・なんで、そんな、ものをぉ・・・」

「おおおお落ち着け調!」

「調落ち着くデス!」

次弾(えんぴつ)を投げようとする調を羽交い絞めにする慧介とその前に立って止めようとする切歌でどうにか事なきを得る。

が、その最中で、

「あ」

慧介の手が滑って袖から手が入り、ブラを通り越して生の調の胸を―――

「ひゃぁぁあ!!」

「うごあ!?」

思わぬ調のヘッドバッドが炸裂。それを顎に喰らった慧介はしばらく床でもだえる事に。

「・・・うぉっほん。続けるぞ。んで、ジェームズ博士・・・待て、調、悪かったこの名前は出さないだからそのカッターをしまえ今すぐ!・・・ふう、で、このスクラッシュドライバーだが、どういうわけかこのスクラッシュドライバーで変身した場合はあのノイズの攻撃を受けても変身が解除されなかったんだ」

「それは一体どういう事なのだ?」

翼の問いかけに、戦兎は答える。

「どうやら、スーツを構成する際の成分構成が違うらしい。この成分構成を他のドライバーでも再現できれば、おそらくあのノイズとまともに戦える筈だ」

さすれば、何の問題もなく奴らと対峙できることだろう。

「ただ、それまでにかなりの時間がかかる。まともにギアを直せるのは俺だけだし、ライダーシステムに関して深く理解してるのも俺だけだ。だから、ギアの修復とライダーシステムの強化にかなりの時間がかかると思う。ついで、このドライバーの検査もしたいから、しばらく慧介も変身できなくなる」

「現状、戦えるのは響君とセレナ君、そして龍我君と幻徳長官だけか・・・」

響のガングニールは健在とし、セレナのアガートラームは既に戦兎が修復している。

それに加えて、クローズドラゴンによる変身が可能な龍我、クロコダイルクラックボトルを有する幻徳も一応戦えない事はない。

「ま、ボトルの成分はすぐに戻せる。ただドライバーがなくて変身できなくなるのが慧介だけで、一海もシンも戦えない事はないぞ」

「そうか」

「助かる」

その言葉に、一海とシンは安堵を覚える。

「そんな事ないデスよ!」

ふとそこで切歌が声をあげる。

「私たちだって・・・」

「何馬鹿な事言ってんだよ」

が、その言葉を遮るかのように戦兎がそう言いだす。

「別にふざけてるわけじゃ・・・」

「LiNKERで適合係数の不足値を補わないシンフォギアの運用が、どれほど体の負荷になっているのか・・・」

「君たちに合わせて調整したLiNKERがない以上、無理を強いる事はできないよ」

調と切歌のメディカルチェックの結果、その容体は想像以上に深刻なものだった。

体の各部に軽度重度別れども、その結果が示すのは、明らかに危険域に近いものだ。

いくら第二種適合者。かつての翼の相棒だった奏よりは高い適合係数を持つとはいえ、その装着は、あまりにも危険だ。

「どこまでも私たちは、役に立たないお子様なのね・・・」

「メディカルチェックの結果が思った以上によくないのは知っているデスよ・・・それでも・・・!」

悔しそうに、切歌は顔を歪める。

そんな二人に、慧介はどう声をかけていいのかわからず、俯いてしまう。

「こんな事で仲間を失うのは、二度とごめんだからな」

「その気持ちだけで十分だ」

しかし、二人は納得した様子を見せなかった。

「ま、とりあえず現状の戦力の確認は済んだところで」

戦兎は、一つ提案を出した。

「ちょいと保護したエルフナインってやつのところに行こうぜ。そいつなら、何か知ってるかもしれねえからな」

その戦兎の言葉には、どこか、確信めいた自信があった。




ク「うにゃぁぁぁあああ!!」

翼「ぬお!?どうした雪音!?」

ク「龍我に裸見られたぁあああ!」

翼「今更か!?」

切「はっ!ということは、調のギアも分解されれば、慧介とのラッキースケベが成立してその分の不幸がアタシに降りかかる!?」

翼「一体どういう理論なのだ・・・」

マ「チィッ!私もギアをもっていればシンに裸を見られて合法的にあんなことやこんなこと・・・!」

エ「そうはいかないわこの女狐!」

マ「何よ女狐は貴方の方でしょ!?」

エ「ヤル気!?」

マ「上等よベッドに来なさい!」

翼「まてなぜそこで表ではなくベッドだ!?」

マリエリ「何ってレズバ―――」

ク「うぉぉぉぉぉぉおおおぉおおお!!次回!『銀色のフェアリー』!」

セ「次回は私が変身しますよ!」

ク「誰かこいつらを片付け箱に畳めぇぇええ!!」


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銀色のフェアリー

キャ「天才物理学者である桐生戦兎とガングニール装者である立花響及びS.O.N.G.所属の仮面ライダーと装者は、この俺キャロル・マールス・ディーンハイムとデイブレイク社と名乗る謎の組織によって、敗北を喫した」
エル「今は思えばあれがアルカノイズの初金星でしたよね」
キャ「ふん、所詮は烏合の衆。ただの雑魚に過ぎない」
エル「流石キャロル・・・生み出した張本人が故のディスり」
麗人「それにしても、私としては桐生戦兎たちの扱うライダーシステムが、歌でもなければ錬金術でもない『科学』の分野というものに驚いているのだが・・・」
詐欺師「そうよねぇ。錬金術より劣る筈の科学技術で、あれほどの戦闘力を引き出すことの出来るライダーシステムは、確かに脅威よね」
けん玉「末恐ろしワケだ」
錬金術師「世界融合の影響で、何やら世界の科学力がおかしなことになっていたからな。おかしいことではない」
俺様「あんたは相変わらずだな」
武人「ムッハッハ!それでこそ我が主!」
キャ「まだ登場先な癖に出てくるな!はあ、ともかく愛和創造シンフォギア・ビルド、その第五話を見ろ!」
エル「書き溜めがひと段落したためにかなり作者は燃え尽き症候群となって真っ白になってます」


錬金術師『キャロル・マールス・ディーンハイム』の拠点―――『チフォージュ・シャトー』内部にて。

「いっきまーす」

ガリィ・トゥマーンが、目の前にいるまるで何かで固められているかの如く動かない赤髪の縦ロールの少女の唇に、自分の唇を重ねた。

ちなみに、そこにはガリィとその少女の他、レイア・ダラーヒム、ファラ・スユーフ、そしてキャロルもいる。

そうして、ガリィと少女の『キス』がしばらく続くと、突如として少女の体が命を吹き込まれたかの如く動き出し、その場にへたり込んだ。

まるでブリキの人形の如く、がくがくと動き、やがて疲れたかのように俯く。

「はぅう・・・・」

それが、少女『ミカ・ジャウカーン』の覚醒だったりする。

「最大戦力たるミカの『思い出』を集めるのは、存外時間が掛かったようだな」

玉座にて、キャロルがガリィに向かってそう言う。

「いやですよぉ、これでも頑張ったんですよぅ?」

まるでおどけるような仕草。

「なるべく目立たずにぃ、事を進めるのは大変だったんですからぁ」

その割には、かなりの人間が干からびているわけだが。

「まあ問題なかろう。これで、自動人形(オートスコアラー)は全機起動。計画を次の階梯に進める事ができる」

そう、彼女たちは人間ではない。

その身は人と同じ肉ではなく無機物。まるで人のようにふるまうそれは、しかし、決して同じ人間と呼べるものではない。

「あー・・・・あうぁ~・・・」

そんな中で、ミカだけはまるでやる気なさげにそこ場で俯く。

「どうした、ミカ?」

キャロルが尋ねる。

「お腹が空いて、動けないゾ」

回答はこれ。ようは空腹である。

先ほどの接吻による『思い出』の受け渡しではまだ足りないらしい。

「ガリィ」

「ああ、はいはい。ガリィのお仕事ですよねぇ」

ミカはこの中でも最大の戦闘力を誇る存在。それがまともに動かないのであればそれが存在している意味がない。

「・・・ついでにもう一仕事、こなしてくるといい」

そんなガリィに、キャロルは命令を重なる。とはいっても、重要事項はミカへの燃料補給だが。

「そういえばマスター」

そんな中で、ガリィは自らの主に申告する。

「エルフナインは奴らに保護されたようですよ?」

その報告にキャロルは意に介さず応える。

「把握している」

 

 

 

 

 

 

 

どこかの豪邸にて。

「ほう、ビルドとタスクには通用しなかったと?」

一人の男が、目の前で跪く金髪の女性にそう尋ねる。

その金髪の女性は、先日ビルドを襲ったフラガラッハの所有者である。

「はい。どういうわけか、ラビットラビットフォームに変身したビルドとタスクには一切の効果がなく、仕留め損ないました」

「それは厄介だな」

男が、グラスに注がれたワインを一杯飲む。

「アハ、それはそれで面白そうじゃん」

そんな一方で、部屋の隅に置かれていたソファに座っていたジャードが子供のようにはしゃぐ。

「ジャード、少しは危機感を持ったらどうだ?」

「大丈夫だよ~、俺負けないし」

ローブを羽織った男―――先日クローズを襲った男である―――がジャードを咎めるも、ジャードは意に介さず。

そんな中で、ワインを飲んでいた男は状況を冷静に分析する。

「世界を分解するというキャロルの目的に、仮面ライダーは最大の障害足りえる。いくら彼女のオートスコアラーが優秀といえど、仮面ライダーの持つ潜在能力の不確定さは彼女の計画に何よりの影響を及ぼしかねない要素だ・・・だから、早急に彼らを消さねばならない」

「存じております」

男の言葉に、女性は跪いたまま答える。

「ふむ・・・ジーナ、君は桐生戦兎がライダーシステムに対アルカノイズ用の加工を施すまでにどれくらいかかると思う」

男が跪く女性『ジーナ・スカベンジャー』にそう尋ねる。

「エルフナイン、セレナ・カデンツァヴナ・イヴもいることを考えますと、数日はかかるものかと・・・」

「そうだな・・・よし、こうしよう」

男は立ち上がって、指を一つ立てる。

「最優先に殺すべきは桐生戦兎、彼さえいなくなれば、現状のライダーシステム、そしてシンフォギアシステムの全てを理解している存在を消す事ができる。そうなれば、これ以上のライダーシステムの強化は見込めないだろう」

くつくつと男が笑う。

「やることは決まったな」

ローブの男がそう呟く。

「ケイド、君は先日のダメージが残っているだろう。ジャード、君も今回は休みたまえ」

「了解した」

「えー」

ローブの男、『ケイド・アルカルネン』がうなずき、ジャードが不満げに呟く。

「代わりに、ミストとグレゴリ、そしてジャイロを桐生戦兎の元へ向かわせろ。何、学院で暴れたところで、どうせ()()()()()()

爽やかな笑みから吐き出される反吐が出るような言葉。

それが、彼らを率いる『リカルド・ダスト・クレイザー』という男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

S.O.N.G本部にある、個室の一つにて。

「ボクはキャロルに命じられるまま、巨大装置の一部の建造に携わっていました」

戦兎を筆頭としたシンフォギア装者、仮面ライダー一同が、先日保護した子供、エルフナインの言葉に耳を傾けていた。

「ある時アクセスしたデータベースより、この装置が世界をバラバラに解剖するものだと知ってしまい、目論見を阻止するために逃げ出してきたのです」

「世界をバラバラにたぁ穏やかじゃないなぁ」

「ぞっとしない話だ」

クリスとシンの言葉に、エルフナインはうなずく。

「それを可能とするのが錬金術です」

「あれか?こう、手をパンってやってドン!てやる奴」

「あ、それとは違います」

「あ、そう・・・」

若干、龍我がボケるもエルフナインにばっさり切られて意気消沈する。

「ノイズのレシピを元に作られたアルカノイズを見ればわかるように、シンフォギアを分解する、万物を分解する力は既にあり、その力を世界規模に拡大するのが、建造途中の巨大装置『チフォージュ・シャトー』になります」

「チフォージュ・・・ジャンヌ・ダルクの部下だった、青髭ジル・ド・レが子供を殺害した城の名前か」

「なんすかそのとんでもなくやばい城は・・・」

「装置の建造に携わっていたという事は、君もまた、錬金術師なのか?」

「はい」

翼の問いかけに、エルフナインはうなずく。

「ですが、キャロルのように全ての知識や能力を統括しているのではなく、限定した目的の為に()()()()に過ぎません」

ふと、気になるワードがエルフナインの口から出てくる。

「作られた?」

「装置の建造に必要な最低限の錬金知識をインストールされただけなのです」

はて、一体どういう事なのか。

「インストールと言ったわね?」

「必要な情報を、脳に転送複写する事です」

「そんな事まで可能なのか・・・」

「はい・・・ですが、残念ながら、僕にインストールされた知識に、計画の詳細はありません・・・ですが」

エルフナインは、確信をもって、その事実を告げる。

「世界解剖の装置『チフォージュ・シャトー』が完成間近だという事はわかります」

即ち、世界が滅亡の危機にあるという事を示していた。

「お願いします!力を貸してください!僕は、ドヴェルグ・ダインの遺産をもってここまで来たのです!」

「ドヴェルグ・ダインの遺産・・・?」

「ダイン・・・?」

戦兎にとっては何かひっかかる名だ。

「・・・アルカノイズに、錬金術師キャロルの力に対抗しうる聖遺物―――魔剣『ダインスレイヴ』の欠片です」

それを聞いた瞬間、戦兎の中で、一つのピースがはまるような音がした。

 

 

 

 

 

「―――んで、こいつがロンドンで天羽々斬を壊したアルカノイズ?」

「ああ、我ながら上手く書けたと思う」

そこに書かれているのは、子供の絵とでも言うべき、ただの武士の絵が描かれているだけだった。

「アバンギャルドが過ぎるだろ!?現代美術の方面でも世界進出するつもりか!?」

「あのー」

そんな中で、慧介が差し出がましく挙手をする。

「よかったら、俺が描いてみましょうか?そのアルカノイズの絵」

「はあ?お前、絵なんか描けるのかよ?」

「ダイジョーブッ!!何を隠そう、俺は似顔絵の達人だぁああ!!」

「お前、適当に言ってないか?」

と、試しにロンドンで見たファラの絵を描かせてみたところ。

「出来上がり!」

(上手い!?でもなんか似てない・・・)

どこぞの岸辺〇伴のような画風の絵が出来上がってしまった。

「慧介は意外に多趣味なんだ。料理や大工作業はもちろんピッキングだってできるぞ」

「いやそれはできちゃいけないだろ!?」

「ちなみに教えたのは俺だ」

「教えちゃダメだろ!?」

なんともどうでも良いショートコントが繰り広げられているが、問題はそこではない。

「問題は、アルカノイズを使役する錬金術師と戦えるシンフォギア装者が、ただの二人。そして、仮面ライダーも実質二人だという事実よ」

現在、慧介のスクラッシュドライバーは、他のドライバーの改良の為回収され、クローズはチャージになれないだけで戦えない事はなく、ローグは政府長官という立場の為、あまり大きくは動けず、まだボトルの成分の復活も出来ていない他のライダーは戦えない。

結果、分解される可能性はあれど戦えるのは響とセレナと龍我、そして、真正面から戦っても大丈夫なのが戦兎、といった具合である。

しかし、その戦兎も戦いに出れるのか怪しいといった状況。

「戦わずに分かり合う事は、出来ないのでしょうか・・・」

そんな中で、響はそう提案を促す。

「・・・逃げてんのか?」

そんな響を一海は罵倒する。

「逃げているつもりじゃありません!」

「いいや逃げてるな。お前は力の責任から逃げてる」

しかし、響の反論を真っ向から一海は否定する。

「誰かを傷つける?そんなの当たり前だ。力を持つ以上戦う事から俺たちは逃げられねえ。だけど、その戦いから逃げちまったら、守りたいものを守れねえぞ」

「でも、適合して、ガングニールを自分の力だと実感して以来、この人助けの力で、誰かを傷つける事が、すごく嫌なんです」

「はっ」

そう、辛そうに言う響の言葉を、一海は鼻で嘲笑う。

「人助けの力で誰かを傷つける事が嫌だぁ?そりゃそうだろうよ。だけどな、お前はいつだって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「―――ッ!?」

その言葉に、響は息を飲む。

「いいか。守るってのは、同時に何かと戦う時でもあるんだよ。その戦う事から逃げちまったらお前―――なんにも守れなくなるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

そんな一海の言葉が、響の胸についぞ引っかかったままだった。

(私は・・・そんなつもりじゃないのに・・・)

そう、心の中で呟いた時だった。

「―――私的には、ついてるとかついてないとかは、あんまり関係ないと思うんだけど」

「えぇぇええ!?」

と、未来の発言に、何故かそこで響が驚いてしまう。

「ビッキー、何をそんなに?」

と、後ろにいる安藤がそう首を傾げる。

「えあ、だって、何がどこについてるのかななんてそんな・・・」

と、響が狼狽えている理由は、一海の件とは別、エルフナインの体に事についてである。

エルフナインの体に、実は『性別などない』のである。

無性と言ってもいい。とにかく、彼女か彼か分からない(便宜上、彼女と呼ばせてもらう事にする)体であり、本人いわく『自分はただのホムンクルス、故に怪しくはない』という事なのだが、その体の構造の時点で怪しさ満点なのは致し方ない。

・・・前々から思っていたが、妙に話が噛み合っていない気がする。

とまあそれは置いておいて、現在の状況だ。

「ついてるついてない、『確率』のお話です。今日の授業の」

寺島がそう説明する。つまりはそういう事。

「まぁたぼんやりしてたんでしょ?」

板場の言葉に、響は恥ずかし気に空笑いをする。

「あ・・・アッハハ~、そうだったよね」

「この頃ずっとそんな感じ」

「・・・ごめん、色々あってさ・・・」

未来の不機嫌そうな様子に、響はつい自分が情けなくなる。

本当に、何をしているのか。

本当に情けなく思えてくる。

と、そんな思考をしていると、突如として背後から寺島の悲鳴が上がる。

それに気付いて、思わず振り返ってみればそこには――――

 

色素が抜け、干からび真っ白になった人々が、死人のように倒れていた。

 

その光景に、彼らは茫然とし、唯一響だけが、その存在に気付く。

「聖杯に思い出は満たされて、生贄の少女が現れる」

どこかの伝記の一説か、そのような言葉を述べるは青のオートスコアラー、ガリィ・トゥマーン。

「キャロルちゃんの仲間・・・だよね?」

「そして貴方の戦うべき敵」

響の問いかけに、ガリィは答える。そして、その首を人形のように捻って響たちを見た。

「違うよ!私は人助けがしたいんだ!戦いたくなんかない」

そんなガリィの言葉を、響は精一杯をもって否定する。

だが、その言葉に、彼女らしい自信はなかった。

「チッ」

そんな響に、ガリィは舌打ちを一つ。

そして木陰から出て、その手にもって投げるのは―――アルカノイズのテレポートジェム。

地面に落ちて砕けたそれらは、すぐさま口寄せの方陣を出現させ、そこから何体ものアルカノイズを出現させる。

それを見た響以外の少女たちの反応は―――当然、悲鳴である。

「貴方みたいなメンドクさいのを戦わせる方法はよぉく知ってるの」

まさしく、他者を危険に晒し、無理矢理にでも戦わせる、王道な悪役の手口。

「こいつ、性格わる!」

「あたしたちの状況も良くないって!」

「このままじゃ・・・」

間違いなく、アルカノイズに殺される。

「頭の中のお花畑を踏みにじってあげる」

可愛い顔してなんと下衆いことを言ってのけるのか。

性根が腐っているとはこの事か。

そんなガリィが指を鳴らせばノイズはたちまちに彼女たちに迫る。

そんな状況で、響はどうするのか。

正解は―――もちろん、戦う。

相手が『人』でないのならば、彼女は躊躇いなくその力を振るうだろう。

そうして、胸のギアペンダントを取り出し、聖詠を口にしようとする。

 

―――だが、響の開いた口からは、何も出ず。

 

「・・・響?」

その異変に、未来は気付く。

「―――っげほ、っごほっ!」

咽る響。激しく咳き込み、喉の調子を生理現象のままに整える。

そして―――呟く。

「・・・・歌えない」

「・・・・え」

その言葉に意味を、未来はすぐには理解できなかった。

「いい加減観念しなよ」

ガリィは苛立ちをつのらせてそう呟く。しかし―――それは事実だった。

「・・・聖詠が、胸に浮かばない・・・」

それは、まさしく―――シンフォギア装者として、致命的過ぎる状態。

 

「ガングニールが、答えてくれないんだ・・・!」

 

 

 

立花響―――ガングニール、使用不能。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――アルカノイズが出た!?」

リディアンの校門前で、戦兎がそう声を挙げる。

『響ちゃんたちのすぐ傍、そこでノイズの出現パターンを検知したわ!』

「まさか響を直接狙ってくるとはな・・・」

友里からの連絡を受け、戦兎は歯噛みする。

(敵の狙いはなんだ・・・仮面ライダーの命といいシンフォギア装者といい、何が目的なのかさっぱりだ。たかだかシンフォギア破壊するだけ破壊して、それで一体何を・・・)

だが、考えていても仕方がない。

今は響の元へ行かなければ。

そう思い、戦兎は響の通学路の方へと走り出そうとする、その寸前で、戦兎の前に、何者かが立ち塞がる。

それも三人。

ニットキャップを被った柄の悪そうな男に、ゴリラ以上の巨躯の男、そしてライダースーツに身を包んだ女。

「桐生戦兎、悪いがお前にはここで死んでもらう!」

そして、ニットキャップの柄の悪そうな男が、その見た目通りの声音でそう言ってくる。

「・・・デイブレイク社か」

エルフナインから聞いた、キャロルとは別に、一方的な協力関係を結んでいる謎の秘密結社。

その目的は不明ながら、どうやら、キャロルと同じく世界を分解する事を目的としているらしく、その構成員の数は不明との事。

だが、エルフナイン曰く、錬金術などの異端技術やオーバーテクノロジーを多く扱っていると聞いている。

「へえ、どうやらあたしらの事はすでに聞いているようだねえ」

ライダースーツの女が、口元を隠しながらそう含み笑いで言ってくる。

「そこをどいてくれ」

「お前話聞いてなかったのか?お前にはここで死んでもらうって言ってんだよ!」

次の瞬間、ニットキャップの男が高く跳躍する。

その高さは、とてもではないが人のそれを超えていた。

「ッ!?」

「死ね!ギガントプレス!!」

次の瞬間、男の右腕が巨大化。よく見ると右腕は篭手(ガントレット)でおおわれており、それが巨大化して戦兎を押しつぶさんばかりに襲い掛かってきていた。

「くっ」

それを戦兎は大きく後ろに飛んで躱す。

「やる気満々ってところか」

すかさず、戦兎の足元に鉄鞭の一撃が降り注ぐ。

どうにかこうにか躱し、戦兎は腰にビルドドライバーを装着する。

「さあジャイロ、行ってきなさい!」

すかさず、女が巨漢の体をその鉄鞭で打つ。

「――ゥ・ォ・ォオォォオオオ!!」

鼓膜が潰れそうなほどの咆哮が轟いたかと思えば、男の体が肥大化、さらにその体を巨大化させて来ていた服を破ってその体の下から筋骨隆々となった肉体を曝け出し、戦兎に向かって突進してきた。

その迫力故か、僅かにその体が大きく見えるような錯覚を感じるが、いずれにしても直撃すれば一溜りもない。

それを躱そうとした戦兎だが、

「きゃあ!」

「ッ!?」

悲鳴が聞こえ、振り返ってみればそこにはリディアンの制服を着た一人の女生徒が転んで倒れていた。

そう、ここは学校の校門の前。

それも帰りの下校時間の為、多くの生徒がこの街道を歩いている。

「くそっ!」

それを見た戦兎のとる行動は決まっている。

次の瞬間、ジャイロと呼ばれた男の体がリディアンの塀に激突する。

まるでウエハースのように砕け散る学校の塀。

ジャイロは、それを砕いたところで止まり、何やら手ごたえがない事に首を傾げる。

「ったく、もう少し場所考えて暴れろってんだ」

声がする方向、ジャイロが向いた先、そこには塀の上で先ほどの女生徒を横抱きして佇む戦兎の姿があった。

「大丈夫か?」

「は、はい・・・」

塀から降りて、そう女生徒に声をかける。安否を確認すると、その女生徒を下ろし、逃げるように促し、改めて敵に向き合う。

「やり合うってなら相手してやる。言っておくが、他の奴らに手を出すようなら、容赦なくお前らを倒す」

 

ラビットタンクスパークリング!』

 

ラビットタンクスパークリングをビルドドライバーに装填する戦兎。

「倒すぅ?おいおい俺たちをそこらにいる雑魚と一緒にしてもらっちゃあ困るぜ?」

「ふふふ、意外に見る目ないのねぇ。殺されるのは貴方だというのに」

ニットキャップの男とライダースーツの女が嘲笑う。

しかし、それに戦兎は意に介さず、ボルテックレバーを回し、ビルダーをすぐさま形成する。

「そうか?俺からすればお前たちは――――」

完全に展開されたビルダーに囲まれている中、戦兎はふっと笑う。

「―――それほど強いようには見えないけどな」

 

『Are You Ready?』

 

「変身」

 

シュワッと弾けるラビットタンクスパークリング!イェイイェーイ!』

 

その身を、ビルド・ラビットタンクスパークリングフォームへと変え、ビルドは、彼らと対峙する。

ちなみに、塀に隠れて周囲の人間の確認もした為、戦兎の変身が誰かに見られた訳ではない。

「さあ、実験を始めようか」

ビルドは、彼らに対して、そう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方で――――

ガングニールが起動できない響。

その周囲には、響他、四人を囲むアルカノイズの集団と、敵の最大戦力の一人ガリィ。

「なんで、聖詠が浮かばないんだ・・・」

ガングニールを起動できない事に茫然とする響に対し、ガリィは脳内で思考。

(ギアを纏えないこいつと戦った所で意味はない・・・こんな時は、仲良しこよしを粉と引いてみるべきか・・・?)

などと、ゲスい考えがガリィの脳裏を過った、その瞬間、

 

ダァンッ!と、力強い足音が聞こえた。

 

その足音を立てたのは―――寺島だった。

「あぁー、まどろっこしいなぁ」

そして、なんとも予想外過ぎる声音と口調で、だるそうに言葉を捲し立て始める。

その行動に、一気にその場の注目を集める。

しかし、それを意に介さず、寺島はさらに言葉を立てる。

その言動は―――不良のそれ。

「あんたと立花がどういう関係か知らないけど、だらだらやんならあたしら巻き込まないでくれる?」

「お前、こいつの仲間じゃないのか?」

豹変した寺島の態度に、ガリィは苛立ち気味にそう口にする。

「冗談!たまたま帰り道が同じだけ。―――オラ、道を開けなよ」

完全に敵を舐め切った態度。今の状況を理解していないのか、あるいは理解した上での行動なのか。

とにかく今の寺島は正気の沙汰とは思えない行動をとっていた。

それに対して、ガリィは、その言葉に顔を大きく歪め、しかし腕を振る動作でアルカノイズたちを下がらせる。

その瞬間―――寺島は安藤に向かってアイコンタクト、それにうなずいた安藤が、すぐさま未来の手を取って―――

「行くよ!」

「ああ!?」

 

―――逃走を始めた。

 

「あんたって、変な所で度胸あるわよね!?」

逃げる最中、板場が寺島に向かってそう声をあげる。

「去年の学祭もテンション違ったし!」

「さっきのお芝居!?」

「たまには私たちが、ビッキーを助けたっていいじゃない!」

安藤に手を引かれるままに未来は彼女たちの行動に驚く。

「我ながら、ナイスな作戦でした!」

寺島はこれまでになく得意気だ。

 

が、その一方で、そんな彼女たちの行動を見過ごしているように見えるガリィは―――

「――――と、見せかけた希望をここでばっさり摘み取るのよねぇ・・・!」

性悪な笑顔で、彼女たちの行き先を睨みつけ、一気にアルカノイズたちを向かわせる。

アルカノイズと通常のノイズの違いは単純にして分解構造と位相差障壁。

通常のノイズは、位相差障壁によって攻撃が通用せず、なおかつ体のどこでも触れるだけで対象を自分もろとも炭化させる事の出来る能力を持つのに対して、アルカノイズは、腕や体の一部分にのみ『分解器官』と呼ばれるありとあらゆる物体を分解、消滅させる能力を持ち、しかし位相差障壁によって存在を希薄化できない為に、通常兵器はある程度通用するも、それでも豆鉄砲程度のダメージにしかならない。

だが、その分解能力を限定する事によって、アルカノイズは何度でも対象を分解する事が可能だ。

例えるならば、一回刺すだけで死ぬミツバチをノイズとするならば、何度でも刺せるスズメバチがアルカノイズといえるだろう。

その分解器官を、丸めた状態から伸ばし、まるで鞭のようにしならせ、引きずりながら彼らは響たちに迫る。

そんな彼らを、ガリィは足元を凍らせて滑る事で追いかける。

「上げて落とせば、いい加減戦うムードにもなるんじゃないかしらぁ?」

どこまでいっても性根が腐っている。

「アニメじゃないんだからぁ!」

追いかけてくるアルカノイズたちに対して、板場がそう声を上げる。

その最中で、人型のアルカノイズの一体が、その右手の分解器官を響たちのぶつけようと振るう。

「ッ!?」

それが、一番後列を走っていた響の足元に直撃、響の靴の踵を掠め、響の靴を分解。

それに驚いた響はバランスを崩し転倒、どうにか受け身をとるも、その手からガングニールのギアペンダントが離れ、宙を舞う。

「ギアが!?」

宙を舞う、響のガングニール。それが、落ちていく先にいるのは―――

 

「―――全く、何をやってるんですか貴方は」

 

――――一人の少女が、立っていた。

 

「―――Seilien coffin airget-lamh tron(望まぬ力と寂しい笑顔)―――」

 

聖詠が響き渡り、純白の光が場を包む。

纏われるは、銀の右手。されどその手は左手にあり。

歪んだ伝承。されどそれは、確かな存在であり力。

その胸に宿るは戦いに対する哀愁。しかし同時に宿るは仲間を守る為の闘志。

 

今ここに、セレナ・リトルネッロ・ヘルカート改め、セレナ・カデンツァヴナ・イヴのアガートラームが顕現した。

 

「セレナちゃん!?」

「セレナ!?」

突然のセレナの登場、白銀のギアを纏う彼女は、落ちてきたガングニールのギアペンダントを掴み取ると、それを少し眺め、続けて響の方を見た。

果たしてその目に宿るは軽蔑か哀れみか。

しかし、今はそんな事を考えている暇はない。

セレナは、自らの纏うシンフォギアから奏でられる戦慄のままに、胸に浮かぶ歌を紡ぐ。

 

「―――誰かのためのヒカリになれるのなら…と」

 

左手から無数の短剣を引き抜き、遠隔操作。

宙を舞うそれらは某ロボットアニメのファンネルの如く動き、次々にアルカノイズを殲滅していく。

『セレナ君!』

無線から弦十郎の声が響く。

『発光する攻撃部位こそが解剖器官!気を付けて立ち回れ!』

敵陣に突っ込みながら、セレナはその声にうなずく。

無数に振るわれる銀の短剣。それらが縦横無尽に戦場を飛び交い、次々とアルカノイズを切り払っていく。

ノイズの数が減ると同時に、ガリィはさらなるアルカノイズを投入。

敵の数が増え、それでもセレナは敵の司令塔であるガリィを目指して突っ込む。

ノイズの殲滅をファンネルダガーに任せ、セレナは単身ガリィに接近。その手に短剣を握り締め、一気にガリィに突き刺すべく突進する。

そして飛び上がり、その短剣を一気にガリィに叩きつける―――が、しかし、その一撃はいとも容易く防がれる。

その理由は掲げられたガリィの両手。

その両手に冷気が集まり、氷の壁を形成していた。

(氷の壁―――!?それなら!)

すぐさま左手のギアを変形、巨大な砲身へと変形させる。

「なっ―――」

「ぶっ飛べ!」

 

HORIZON†CANON

 

放たれる熱線。それがガリィを吹き飛ばす―――かに思われたが、ガリィは寸でのところで躱しており、セレナの懐に入り込んでいた。

「しまっ―――」

「頭でも冷やせやァぁあ!!」

次の瞬間、ガリィから放たれた氷の槍がセレナを襲い、大きく弾き飛ばす。

どうにかアームドギアである短剣を地面に突き刺して踏みとどまる。

「くっ」

そして、その戦闘能力の高さに戦慄する。

「決めた。ガリィの相手はあんたよ」

ガリィが、性の悪い笑顔と共にそういい、バレリーナのような構えを取り出す。

「いっただっきまぁーす!」

次の瞬間、氷のラインが出来る度に、瞬間移動でもするが如き動きでガリィが迫る。

「なっ―――」

そして、その左手を氷の剣で固め、その短剣をセレナに―――突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、リディアンにおけるビルドの戦闘では―――

「くお!?」

鞭の攻撃をどうにか避けるビルド。

「アハハ!さっきの威勢はどうしたのかしらぁ!?」

ライダースーツの女『ミスト・ヘルガンディア』がそう高笑いをして鞭を振るう。

鞭とは、振るえばその先に行くほど威力とスピードが加速増幅する武器である。

だが、この鞭はそのアドバンテージだけでなく、まるで蛇のように狙いすました攻撃ができる為、ビルドのスパークリングの速さに追いついて攻撃を当ててきていた。

だが、威力についてはそこまで気にするほどではない。だが問題なのは、そのノックバック性能。当たれば高確率で態勢を崩す。

そこへ、他二人の超重量の攻撃だ。

「喰らいやがれェ!」

「うがぁぁあ!!」

一方は上空から、もう一方は横から襲い掛かってくる。

巨大化するガントレットと、砲弾並みの威力で突っ込んでくる肉弾。

その連携が、スパークリングのスピードをもってしても凌ぐのは至難の業という所業へと昇華していた。

スパークリングの特性は泡。泡の破裂によって、全ての身体能力を向上させ、凄まじいスピードや攻撃力を獲得している訳だが、事実ラビットラビットやタンクタンクには負ける。

(あの二つ出して敵に戦力図られるの避けてスパークリングにしたが、流石に舐め過ぎてたか!)

「くっ」

「俺たちの事をそれほど強いようには見えないって言ってたけどなぁ、それを言うならお前は聞いてたほど強くねえじゃねえか!期待外れもいいところだなぁ!」

ニットキャップの男『グレゴリ・ガウマーン』がそうビルドを嘲笑う。

だが、そんな罵倒に、ビルドは乗らずに冷静に状況を分析していた。

「そうだな・・・まあ、しばらく後手に回ってみて得られた収穫はあった」

「はあ?」

「お前らのその常人を超えた強さの理由は、肉体改造をしているからだ」

戦ってみて分かったが、この三人の異常な身体能力は、ただ鍛えただけでは絶対に手に入らないだろう。

何かしらの反則で肉体を改造していなければ不可能なほどだ。

シンであっても、ライダーシステムなしにスパークリングの動きについてこれる事は出来ない。

「はっ、それが分かったからってお前が俺たちに勝てる道理はないだろうがよぉ?」

グレゴリが言っている事は最もだ。

それが分かったからなんだというのか。

その程度の事でこの状況が覆る事はない。

「だけど、お前らの肉体改造がどういったものかは理解できる。お前が巨大化できる部位は右手のみ、そこの大男は肉体の肥大化、というよりは筋肉の増強。そして女は演算機能のついた義眼・・・そうだろ?」

その言葉に、彼らは息を飲む。

 

彼らは、それぞれ別々の形で肉体を改造している。

 

グレゴリは錬金術師。右手はとある事故で失い、それを補うための義手であり、それを自由自在にサイズを変えることが出来るのが、彼の錬金術。

そして、それを扱うために、パワー系の生物の遺伝子を体に仕込み、そしてそれを、自由自在に発現させることで、その巨大化した右手を操る事が可能。

ミストは改造人間(サイボーグ)。自らその肉体を改造した、科学技術の結晶。右目の義眼は、鞭と称したマニピュレータを操作するための演算装置であり、それを握る右手もまた機械。さらに、そのマニピュレータの重量に耐える為に、体のほとんどを機械へと改造している。

その為、彼女の体は完全に機械といっていい。

そして、ジャイロは薬品投与による肉体変化だ。その薬品投与によって脳の大部分が麻痺、まともな思考はできず、知能は調教された獣並み。

薬品による肉体改造によって彼が得たのは、ただ強靭なだけの肉体。

 

 

―――哀れという他ない。

 

 

「そんな事をして、一体なにをしたいのかわからないけどよ。お前たちの勝手な都合で、関係のない奴らまで殺すというのなら、俺はお前たちに容赦はしない」

ビルドが、ラビットタンクスパークリングをドライバーから抜く。

「容赦しない?はっ、さっきまで劣勢だった奴が何ほざいてやがんだ」

「まあ確かにそうだろうな。スパークリングは泡の破裂によって全ての身体能力を強化するフォームだが、それを全て超えられ、さらに連携で封殺されれば、何もできなくなる―――それだけだったらな」

フルフルラビットタンクボトルを取り出すなり、振り、兎が跳ねるが如き効果音が、重厚な鉄骨音に変わる。

 

―――ドンドンドン

 

そして、セレクティングキャップを捻り、タンクの柄を見せる。

 

タンク!』

 

再びボトルを折り、それをドライバーに装填する。

 

タンク(アンド)タンク!!』

 

そして、ボルテックレバーを回し、新たに七体の戦車『タンクアーマー』を呼び出す。

「ッ!?うお、なんだこいつら!?」

「く、邪魔よ!」

「うがぁあ!?」

その戦車たちがたちまちに三人を激しく攻撃する。

 

『ガタガタゴットンズッダンズダン!ガタガタゴットンズッダンズダン!』

 

その間に、ビルドはボルテックレバーを回し続け、鋳型のハザードライドビルダーを展開する。

そして、ある程度足止めをした所で戦車たちがビルドのすぐ傍の上空に飛び上がる。

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

そしてビルドはハザードライドビルダーに挟まれ、その身を真っ黒な装甲に包んだあと、飛び上がり、その装甲を一気に身に纏う

 

『オーバーフロウッ!!』

 

鋼鉄のブルーウォリアー!!!

 

タンクタンクッ!!!

 

『ヤベェーイッ!!!ツエェーイッ!!!』

 

その身に青い装甲を装着し、ビルドの新たなフォームがその姿を現す。

パワーに特化した、ビルドのもう一つのハザードを制御する形態。

 

ビルド・タンクタンクフォーム

 

蒼き鋼を身に纏い、ビルドは、三人を睨みつける。

「さあ、反撃開始だ!」

そう叫び、ビルドは走り出す―――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「へえ、全員守れたのねぇ。でも、次はどうかしらぁ?」

ガリィの猛攻を凌ぐセレナ。

「―――咆えろ、アガートラーム」

窮地に立たされたセレナが取った行動とは―――

「流石と言わざるを得ないな」

襲撃してきた敵、それらを倒したビルドの前に現れた人物とは!?

「―――我らは異端秘密結社『デイブレイク』!」


次回『穢れた世界を浄化する者たち』

「こいつが、ただ一つの戦力になる・・・」





セ「私、装着(へんしん)!」
翼「マリアが変身できない時は、セレナがギアを纏う事になっている」
マ「ちなみにギアデザインは本編アニメの私のギアの腰マントがなくなったバージョンよ。それにしてもセレナ可愛い」
セ「緒川さーん!どうですか私のギア姿どうですか」
緒「え、何故僕に・・・!?」
マ「どうせ私なんて・・・」
翼「だ、大丈夫だマリア!いつか振り向いてくれる時がくる!・・・たぶん」
マ「たぶんって何よたぶんって!?もういやぁああ!!!」
戦「マイクチェックの時間だオラァァア!!」ドアキックドーン!
緒「ここで全く違うネタをぶっこまないでくださいお願いします!」
セ「ああもう、戦兎先生のせいで感想聞けなかった・・・と言うわけで、次回も楽しみにしててください!」


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穢れた世界を浄化する者たち

切「やっとスマホを手に入れたのZE!」
調「切ちゃん、いくら作者の心情を表す為とはいえ語尾が違ってるよ」
慧「今更ながらにアズレンに(はま)ったらしい」
幻「なんでもアニメが想像以上に面白かったそうだ。作者曰く、あれほどまでに面白くしろとは言ってない(誉め言葉)だそうだ」
エル「ちなみに作者の推しはエンタープライズと瑞鶴らしいです」
キャ「そんなことよりあらすじ紹介しろ!」
ガ「天才物理学者(笑)の桐生戦兎は新世界を作り出すも無様に生き残り、それでもってノイズに追われたり変な奴らに終わりとてんやわんやしつつもS.O.N.G.所属の科学者として日々を過ごしていました~」
戦「なんだそのあらすじ紹介は!?完全に俺のことディスる気満々だろ!?」
ガ「うるっさいわねー。全部本当のことでしょ?」
戦「天才物理学者(笑)の時点で間違えとるわ!」
レイファラ「性根が腐っている!」
響「そ、そんなこと言っては・・・」
ミカ「というわけでシンフォギア・ビルドGX編第六話を見るんだゾ!」


切「アズレン大鳳のCVが悠木碧さんだと知った時は驚いたのデス」


―――氷の刃が、セレナに突き立てられる。

「くっ!?」

寸でのところでデルタ状に配置した短剣によるバリアで直撃を遅らせ、破られるまでに距離をとって直撃を躱して見せる。

「よぉく避けたわねぇ、だけど、一体いつまで避けられるかしらぁ!?」

ガリィの高圧的な言動。それに対してセレナはギアを持たない左手で指を鳴らして見せる。

「もっと周囲に気を配った方がいいですよ?」

「ッ!?」

次の瞬間、木の陰、壊されたベンチ、砕かれた瓦礫から弾丸の如き勢いで隠れていた短剣たちがガリィに向かって突っ込んでいく。

その速さは弾丸並み、即ち肉眼では捉えられないスピードで飛来していっているのだ。

それを躱そうなど、もはや至難の業だ。

 

FAIRIAL†BLAST

 

しかし、ガリィはそれを全て目視、尚且つその口角を吊り上げ、その直撃を受け入れる―――だが、その短剣の切っ先に形成された氷の障壁が呆気なく短剣の軌道を逸らし、全て外される。

「なっ・・・!?」

「甘いのよぉ!」

お返しと言わんばかりのつららの弾丸がセレナに放たれる。

その一発がセレナの頬を掠め、その顔に傷を作る。

「ッ・・・」

頬から伝わる痛み。割と深いのか、その傷はじくじくと痛む。だが、気にしていられる程の余裕はない。

この弾丸は―――危険だ。

何が、というならば、この弾丸は、確実に自分の背後にいる彼女たちに突き刺さる。

であるならば、自分が取るべき行動は何か。

決まっている――――体を張ってでの、絶対防衛だ。

「アァァア―――ッ!!」

絶叫を迸らせ、迫りくるつららの弾丸をデルタ状のバリアで防ぐ。だが、その威力は高く、何枚張っても次々に破壊されていく。

ひび割れ砕け、割られ、それでもセレナは次々にバリアを展開。

そして、つららの弾丸が地面を穿つたびに、そして砕ける度に煙が舞い上がり、セレナたちを包む。

煙が完全に彼女を隠した所で、ガリィは弾丸の射出をやめる。

そうして、破砕音が収まった戦場に立っているのは―――血塗れで佇むセレナの姿だった。

その後ろにいる響たちは全くの無傷。

その体に突き刺さっている氷の欠片から見て、おそらく、突破された氷は体を張って防いだのだろう。

「へえ、全員守れたのねぇ。でも、次はどうかしらぁ?」

ガリィが意地悪気に嘲笑う。

(痛い・・・)

致命傷はないとは言え、痛い。

これほど痛い経験をしたのは、一体いつ以来だろうか。

ネフィリムの時は、絶唱のバックファイアでもはや痛覚がない状態だったが、今はそうではない。

ここは戦場―――本当は立ちたくなどない、ありとあらゆる『痛み』を伴う場所。

姉であるマリアに、このアガートラームを託そうと思ったのも、本当は、逃げの部分が多い。

戦いたくなんてない。傷つくのが怖い。傷つけるのも嫌だ。そんな、矛盾だらけの心で、自分はここに立っている。

だけど、それでもこの場に立ったのは、自分がこの場での唯一の『力ある者』だから。

誰かを守るための力を持っているから。だから自分は、ここに立っているのだ。

 

力の責任から、逃げるつもりなど毛頭ない。

 

だから、彼女は―――

「―――ここに、立ってるんだ・・・!!」

自分を奮い立たせて、セレナは己を叱咤するが如く叫ぶ。

そんな中で、ガリィが嫌な笑みで指を鳴らす。その視線はセレナを向いていない。

その後ろ、即ち―――響たちの方。

「きゃぁああ!!」

「ッ!?しまった!」

振り向けば、そこには響たちを囲む何体ものアルカノイズ。

「くぅっ!」

苦悶の表情でセレナは短剣を飛ばす。その短剣を手の動きと合わせるように操り、一瞬にして彼女たちの周りに陣取っていたアルカノイズを全滅させる。

しかし、その隙を狙ってガリィがセレナに接近、隙の出来たセレナに、今度こそ氷の刃を突き立てようとしているのだ。

しかし―――

「そうは、いかない!」

「ッ!?」

逆手にもった短剣の刃が一閃され、ガリィの胸に確かにその刃が突き刺さる。しかし、思った手応えが、なかった。

(え・・・!?)

斬ったのは―――水。それはガリィの作り出した、水の分身体。

本体は、セレナから距離をとった位置から動いていない。

(しまった・・!?)

はめられた。そして、そう思うと同時に―――真上から落ちてきたアルカノイズの一撃を、その身に受けた。

「うわぁああ!?」

完全なモロ。アルカノイズの解剖器官の一撃が、セレナのギアに直撃し、瞬く間にそのギアを分解していく。

「セレナちゃん!」

思わず響が叫ぶ。

「これで終わり」

ガリィがにやりと笑う。

そんな中、膝をつくセレナ。

その身を守る鎧は、見るからに分解されていき、やがて、この身を一糸纏わぬ姿へと変えてしまうだろう。

そうなれば、もはや自分に彼女たちを守る力は失われてしまう。守る事が出来なくなってしまう。

そんな事、許せる筈がない。しかし、この身を守る力は、徐々にその力を失っていっている。

であるならば、そんな状況で自分に出来る何かとは――――

「―――すぅー」

深く、息を吸う。

その間に、ガリィが新たなアルカノイズを投入。なおも響を戦わせるつもりなのか。

しかし、そんな事態に、一体誰がさせるというのだろうか。

残された時間は、あと僅か。であるならば、その時間一杯――――全力で暴れてくれる。

 

「―――咆えろ、アガートラーム」

 

次の瞬間、セレナが無数の短剣を空中に投げる。

それら全ては、セレナの操れる短剣の限界数。

そして、その行為に、響は見覚えがあった。

「みんな―――」

セレナが、以前訓練で一度だけ自棄になって使った、()()()()()()()()―――

「―――伏せてぇぇぇえ!!!」

 

SPRIGGAN†VIOLENCE

 

妖精の嵐が吹き荒れる。

その刃の嵐は、次々にアルカノイズを切り刻み、さらには周囲にあった木やベンチ、鉄製のごみ箱や自動販売機すら、ありとあらゆるものを破壊していく。

ただ無傷なものあるとすれば、それは、レンガによって作られた、地面だけか。

「・・・・無茶苦茶してくれるわね」

その嵐を、どうにか凌ぎ切ったガリィが忌々し気に呟く。

それと同時に、

「う―――あぁあ!」

セレナのギアが完全に分解され、全ての衣装を消滅させてその場に投げ出される。

「く・・・ぅ・・・」

その場で膝をつき、素っ裸で苦悶の表情を浮かべるセレナ。

「やってくれたわねぇ」

そんなセレナの前に、ガリィが立つ。

「正直、ギアさえ破壊できればそれで良かったけど、あんたはそれなりに危険と判断したわぁ」

その手に、氷の刃を形成。

「セレナちゃん!」

その様子に、思わず響が叫ぶ。

しかし、その状況こそがガリィの思惑。

(聞けば、こいつのギアを纏えるのはもう一人いるそうじゃない。だったらこいつが一人消えた所で、なんの問題にもならないわよねぇ)

セレナの死で、響を無理矢理、戦場に叩き出す。

仲間の死というトラウマを植え付けられれば、流石の彼女も先ほどのような寝言も言ってられない筈。

まさしく、性根が腐っているような考えだ。

「さあ、死に晒せやぁ!」

振り上げられる刃。それにセレナは目を見開く。

「ダメ、セレナちゃん!」

どうする事も出来ない響は叫ぶだけ。

このままいけば、その刃はセレナを穿ち、その命を確実に摘み取るだろう。

そうなれば、響は――――

 

「――――セレナぁぁぁぁああぁあああ!!!」

 

―――と、その刃がセレナに突き刺さる前に、どこからか怒号にも似た叫び声があがった。

 

『ボトルキーン!!』

 

その声には、聞き覚えがあり、セレナは振り向いて、その姿を認める。

そこには、右手にナックルダスター型の武器を携えて、その中央部分のボタン『ロボティックイグナイター』を左手で押して飛び上がっている、自らの姉の姿があった。

「マリア姉さん!?」

ここにきて、セレナの姉、マリア・カデンツァヴナ・イヴが登場。

マリアはその勢いのまま、そのナックルを思いっきり振りかぶる。

「うぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉおお!!」

絶叫を上げ、マリアは、そのナックルをガリィに叩きつける。

 

グゥレイシャルナックルゥ!!』

 

カチカチカチカチカチィンッ!!』

 

叩きつけられる、絶対零度の拳。

それが、ガリィに叩きつけられ、たちまち周囲を一気に凍てつかせる。

そして、ガリィの背後の地面を一気に凍らせる。

「っ―――あぁあ!?」

その一撃を諸に喰らって、ガリィは一気に吹っ飛ばされる。

「ハア・・・ハア・・・」

その一方でグリスブリザードナックルを振りぬいたマリアは、荒く息をあげており、

「う・・・ぐあ・・・!?」

すぐさま右手に焼けるような痛みを感じてナックルを手放してしまう。

見れば、マリアの右手には霜が降りており、赤く変色していた。

(これが、ハザードレベルが足らない者が使用することによる、反動・・・!?)

 

 

数日前の事。

『な、なあ戦兎?いい加減俺のブリザードナックル返してくれても・・・』

『それに対する俺の答えは一つだ。ふざけんなゴラ』

いつになく低い声で一海を睨みつける戦兎。

『いくら一年たったからと言って、俺があの事を忘れてるとでも思ったか?BA☆KAか?オ↑マエ↓フザケン↑ナヨ↓?何がいい加減だ?俺の忠告無視して勝手に使って、それで何都合良く返してもらうと思ってんだ?ああ?』

『お、おう・・・すまねえ・・・』

完全にヤンキーというかそういう荒い口調になっている戦兎の迫力に一海は意気消沈していた。

『あ、そうだ。ちょうどいい機会だ』

戦兎はその場にいる装者やライダー全員に向き直る。

『このブリザードナックルや万丈の持つマグマナックルだが、基本的に万丈や一海以外が変身してない時に使えば、反動で手が焼けるか凍るかするから注意しろよ。ストームナックルの場合はあれは威力よりも吹っ飛ばすって感じだから反動は少ないが、逆にマグマやブリザードは強力な分、反動もでかい。『クローズマグマ』に初めて変身した時だって、熱にうなされてたぐらいだったからな』

『あれは熱かった』

龍我がうんうんとうなずいていた事は記憶に新しい。

『というわけで直したがこれはしばらく没収。反省しろ』

『うそぉん・・・』

『何がうそぉんだこの馬鹿!』

『あいで!?』

そのまま一海の頭をぶん殴り、その後、戦兎が基地潜水艦のどこかにブリザードナックルを隠したのだが―――

 

 

 

(シンから教えてもらったピッキング能力で金庫の鍵を開けてブリザードナックルを持ち出せたはいいけど、これは流石にきつい・・・!)

その激痛に、マリアは苦悶の表情を浮かべていた。

「やってくれるじゃない・・・!」

そんな中で、ガリィがなんと無傷で立ち上がる。

どうやらぎりぎりの所で防御して防ぎ切ったようだ。

「くっ・・・!」

(今の私では、このナックルは使いこなせないというの・・・!?)

事実、マリアの戦闘技術はシンに次いでかなり高く、シンフォギアをLiNKERに頼らなければ纏えないという点を除けば、戦力として実に安定しているといえる。

格闘技だけであれば、龍我とタメ張れるほどである。

しかし、やはりハザードレベルの差は覆るものではなく、さらにはギアを纏っていない状態では、ナックルの力を十全に発揮できなかった。

だから、ガリィはその一撃を凌いで見せた。

しかし、この状況―――とてもではないが良いとは言えない。

シンフォギアに匹敵する力を有するオートスコアラーが相手では、ギアをもたない、その上右手を負傷しているマリアではどうしても対応は不可能だ。

即ち―――万事休すという他ない。

「どういたぶってあげようかしらぁ?」

そう言って、ガリィは己が錬金術を発動させようとする――――が、

「そうは問屋が卸さない」

「ッ!?」

マリアとガリィの間に、割って入る一人の男。

シンプルな素体の上にオレンジの半透明の装甲。虎のように見えるその形状に、セレナは見覚えがあった。

「慧介さん・・・!?」

実はマリアがここに来るのに、緒川の車で急行してきたのだ。

しかし、到着してみればその現場はセレナの窮地。その為頭に血が上ったマリアが緒川の制止も聞かず飛び出してしまったのであり、遅れて変身したタスクが到着したというわけだ。

ちなみに、まだ変身できるクローズはビルドの元に向かっている。

「さあ、どうするオートスコアラー。どうやら、他の仲間はいないように見えるんだが?」

「チッ」

ガリィは舌打つ。仮面ライダーは自分たちの計画の障害。すぐさま消したい所だが、『奴ら』の報告では、タスクにアルカノイズの解剖器官は通用しないと聞いている。

さらに、『奴ら』はビルドの抹殺に向かっていてとてもではないが応援は望めない。

即ち、この状況はガリィにとっては限りなく―――悪い。

であるならば、ガリィが取るべき行動は何か。

「ふん、いいわ、引いてあげる。ギアも一つは破壊できたし、今回はこれで手打ちにしてあげるわ」

しかし、ガリィはタスクに―――彼らに向かって指を突き付ける。

「だけど覚えておくことね。お前たちは、見逃されたという事を!」

そう言って、ガリィは足元にあのジェムを投げ捨て、そしてすぐさまその姿を消した。

「・・・ふう」

一息ついて、タスクはスクラッシュドライバーからタイガースクラッシュゼリーを抜き、変身を解除する。

「さて、セレナ、だいじょう―――ぶぅッ!?」

そして、セレナの安否を確認するために振り返った瞬間、いきなり両目にとんでもない激痛が走る。

「ぐぉぁぁああ!?目が、目がぁぁぁぁああ!?」

「貴方は調の裸だけを見ていればいいのよ!」

「姉さん・・・何か違う・・・」

セレナはギアを破壊された事で一糸纏わぬ姿にされており、その一方で慧介は男。

即ち、セレナの体が仲間であれど男の目にさらされる事であり―――それを阻止すべくマリアは慧介に目潰しを叩き込んだのだ。

なお、ギャグ補正の為、目は潰れていません。

「あ・・・」

「あ!?」

「大丈夫ですか?」

が、その間に緒川が自分のスーツを脱いでセレナに羽織らせる。

「ありがとうございます、緒川さん」

「いえ、セレナさんが無事でよかったです」

「くぅ・・・何かいけない気がするわ・・・」

「姉さんは少し黙ってて」

体が痛む。致命傷はないとはいえ、ダメージは体に残っているようだ。

「姉さん、ちょっと・・・」

そんな体で、セレナはマリアに向かって握りこぶしを伸ばす。

それにマリアは手を差し出すと、その手に、何かを渡される。

それは、響の手から零れ落ちた、ガングニールのギアペンダント。

「これは・・・」

「それを響さんに返してあげて。私じゃ、つい、()()()()しまうから」

無理に笑顔を作って、セレナはマリアにそう言う。

その表情に、マリアは唇を引き結ぶ。

(もし、私がガングニールを手放していなければ・・・)

妹が、ここまで傷つくことはなかったのだろうか。

(いや、それは甘えだ・・・)

しかし、それはもう過ぎ去った過去。これは、もうすでに託した力だ。

マリアは、セレナの意図を汲み取り、響たちの元へ向かう。

「みんな、怪我はない?」

「はい、だけど、セレ先輩が傷だらけで・・・」

安藤が、セレナの傷の容体を案じる。

緒川は本部への連絡を、慧介はセレナの傷の応急処置を行っていた。

「歌って、戦って、ボロボロで、大丈夫なんですか?」

「ええ、私の妹は、そこまでやわじゃないわ」

あれほど傷ついても、戦う事をやめなかった。守ることを諦めなかった。

(セレナ)は、それほどの事をやってみせた。傷はあれど、姉として誇らしい。

やはり心配ではあるが。

「君のガングニールだ」

「・・・はい」

響は、マリアからガングニールを受け取る。しかし、その手は震えていた。

そして、その震えを抑え込むかのように、ガングニールを握った手を、もう片方の手で握り締め、そっと胸に当てた。

「・・・この力は、誰かを守るためのもの・・・私がもらった、私のガングニールなんだ・・・」

そう、小さく呟く彼女の言葉に、マリアは、先日の彼女と一海の会話を思い出す。

 

『この力で、誰かを傷つける事が、すごく嫌なんです・・・』

 

「―――そうだ」

それを思い出した途端、マリアは自然と響に詰め寄っていた。

「ガングニールはお前の力だ。だから、目を背けるな!」

その肩を掴み、マリアは叱咤するが如く、その言葉を響に叩きつける。

「目を・・・背けるな・・・」

その眼差しに、響は、思わず目をそらしてしまった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――クローズが付いた時には、すでに戦いは終わっていた。

 

 

「やっぱすげえな・・・」

ビルド・タンクタンクフォームの足元に、敵であろう三人が転がっていた。

 

グレゴリの巨大化する右腕は、ビルドの肩アーマーの砲台『BLDタンクタンクショルダー』から放たれる一撃によってひび割れ、続くタンクタンクのパワーでその右腕を粉砕され、そのまま地面に叩きつけられた。

ミストの鞭攻撃は、タンクタンクの重量と防御力の前には無意味であり、そのまま一気に接近され、顔面を掴まれ、地面に叩きつけられ、一発K.O。

そして、ジャイロはタックルをあっさりと止められ、しかしすかさず力比べと手四つという形になったが、結果はビルドの圧勝。圧し潰された挙句に振り回され、そして投げ飛ばされ、破壊力重視のボトルの組み合わせのフルボトルバスターの一撃を受けて地面に落ちた。

 

 

そんな訳で、敵組織の人間相手に、圧勝を収めたビルド。

「ば、馬鹿な・・・さっきまで、あんなに・・・」

「たかだかスピードを封じたぐらいで粋がんな。俺の全てがあの速さだけかと思ったがバーカ」

ダメージが予想以上に大きいのか、まともに動けないでいるグレゴリ、ミスト、ジャイロの三人。

「戦兎!」

「ん?なんだ万丈か」

そこへクローズが駆け寄ってくる。

「なんだってなんだなんだって!?」

「うるっさいよバカはちょっと黙ってろって、今はそんなことより、こいつらから話を聞きださねえと」

ビルドがそう言いだすと。

「は、誰が言うかっての」

「ま、普通はそうだろうな。だけど、お前は自分から話したくなる」

ぱき、ぱき、と手を鳴らすビルド。

どうやら実力行使らしい。

 

「―――いやあ、素晴らしい」

 

「「―――ッ!?」」

突如として、知らぬ男の声が聞こえてきて、ビルドとクローズはそちらの方を見る。

そちらを見れば、そこには―――中世の貴族が来ているようなバイオレットカラーの衣装に身を包んだ男がそこに立っていた。

「リーダー・・・!」

「リーダー・・・お前が親玉か?」

ビルドが尋ねる。

「そう・・・といいたい所だが、私は我々の組織の一部隊を率いているに過ぎない」

「組織・・・だと?それは一体―――」

ビルドが尋ねると、男は、仰々しく名乗りを上げる。

 

「―――我らは異端秘密結社『デイブレイク』!科学、魔術、錬金術、聖遺物、ありとあらゆるこの世に現存する技術、力を駆使し、世界を束縛から解放する事を目的とする、秘密組織だ」

 

「世界を束縛から解放するだぁ?」

クローズは、男の突拍子もない言葉に、そんな声を挙げる。

「そりゃ一体どういう意味だよ」

「君は思った事はないかね?人類は(けが)れていると」

「人類は(けが)れている?」

男は語る。

「バラルの呪詛、フィーネのリインカーネーション、ネフィリム・・・太古の時代から、人類はかつてこの世界を支配していたアナンヌキたちの残していった呪いに気付かぬまま、この世界を生きている。その身を汚れた神々の力に常に汚染され続けているのだよ。ノイズが蔓延っていた頃も同じだ。ノイズが炭化させた人間の炭は宙を舞い、多くの人間がその炭を気付かぬままに吸い、食し、やがてその身に知らず知らずのうちに汚していっている。だからこそ、一度浄化しなければならない」

「浄化、だと?」

一体どういう事なのか。

「そうだ。この世にいきる生きとし生ける、全ての汚された命を一度浄化し、再びこの世界に美しき世界を取り戻す!それこそが我らの悲願であり、人類が到達しなければならない終着点!そう、それこそが、我々の目指す世界の救済だ!」

 

「―――ふざけてんじゃねえよ」

 

すっと、クローズの口からとてつもない怒りを孕んだ声が響いた。

「全ての汚れた命を浄化?何訳分かんねえこと言ってんだ」

「少々理解が足りないようだね」

男は、小馬鹿にしたように返す。

「汚れた存在はこの世に必要ない。真に汚れなき命こそが、この美しき世界を生きるのに値し、そうでない汚れた存在は抹殺すべきだ。真に美しき世界を取り戻す事こそが、我々の悲願だ」

「ああ、そうか。お前らはそういう奴らなんだな・・・よぉく分かったよ」

みしり、とフルボトルバスターが軋む。

「お前らが、人の命を命とすら思ってない奴らだって事をなぁ・・・!」

吐き気をもよおす邪悪とは、これ即ち、何も知らぬ無知なる者を利用する事。自分の利益だけの為に利用する事。

一体、なんの本の言葉だったか。

この男は、否、その組織は、自分たちがそうだと思い、自分たちのその思想の為だけに、他者を踏み躙り、蹂躙し、なんの罪悪感もなく、ただただ『正義』の名のもとに、他者の命を奪える人間たちだ。

エボルトでさえも、感情を持ち、人間という存在の心を折るために、様々な非道な行為をしてきた。

だが、目の前に立つこの男は、そんなエボルトにすら匹敵するほど狂った思想を掲げている。

 

そんな思想を、ビルドたちが認める筈がない。

 

「それはそうだろう?」

男は、ビルドを嘲笑って見せる。

「言っただろう。この世界は汚れていると。そしてその世界に生きる命も汚れていると。だから、その全ての命を浄化する事の一体何がいけないのか」

「ふざけんのも大概にしろ」

ビルドが、口を挟む。

「何が浄化だ。それは結局、今を生きる人々を纏めて消し去るってことじゃねえか。そんなことをした世界に、一体なんの意味があるっていうんだ・・・!!」

「意味ならあるさ。何せ誰も覚えていない。こんな汚れた世界のことを、一体誰が覚えているというのか」

「ッ・・・!」

「テメェ・・・!」

その言葉に、二人の怒りがさらに高まる。

「それに君たちだって大概だろう。何せ、ライダーシステムというシンフォギアシステムと同等、あるいはそれ以上の力を有しているにも関わらず、シンフォギア装者という少女たちを戦わせているのだから」

「ッ・・・」

それを言われて、押し黙るビルドとクローズ。

その様子に、リカルドは嘲笑うかのように鼻で笑う。

「全く、君たちの気がしれない。彼女たちはうら若き少女、故に本来であれば戦いを知らない生活を送れる筈だったのに、その彼女らを戦いの日常に引き込んだのは、君たち『大人』の不甲斐無さ故だろう。故に私はこの世界を破壊し、全てを正すのだ」

そう言って、リカルドは片手を持ち上げる。

「しかし、今回は戦いの為に来たわけではない」

男は、そんな二人の事を意に介さず、ぱちん、と指を鳴らす。

その次の瞬間、ビルドの足元にいた三人が小さく跳ねる。

「今回は口封じついでの挨拶に来ただけだ」

「お前、自分の仲間を・・・!」

その行為に、彼らは驚愕し、

「ありがとよ、リーダー・・・」

グレゴリは、彼にそう礼を言って、あっさりとその命を手放した。

その光景に、ビルドの拳にさらに力が入る。

「名乗りがまだだったね、桐生戦兎、万丈龍我。私は『リカルド・ダスト・クレイザー』。デイブレイク社の第二部署を担当している者だ。では、また会おう」

ジェムを足元に投げ砕き、すぐさまその場から消失する。

空間を飛び越えて、どこかに行ってしまったのだろう。

その、先ほどまでリカルドがいた場所を見つめて、ビルドとクローズは静かにそこにたたずんでいた。

「・・・戦兎」

クローズが、ビルドの名を呼ぶ。。

「・・・確かに、俺たちはまだ子供であるあいつらに、その日常を犠牲にしてまで戦ってもらっている・・・」

その拳を確かに握り締めて。

「その道に引きずり込んだのは、確かに俺たちだ・・・」

ビルドは、そう顔をあげて、空を見上げた。

 

 

 

 

 

チフォージュ・シャトー、玉座の間にて。

ガリィが、テレポートジェムによって帰還する。

そんなガリィに、キャロルは静かに見る。

「ガリィ・・・」

「そんな顔しないでくださいよぉ。ギアを一つ破壊できただけでも上々じゃないですかぁ」

事実、アガートラームの破壊には成功している。だがしかし、肝心のガングニールの破壊には至っていない。

あの場でタスクが来なければ、仕留められたかもしれないのだが。

「自分が作られた目的を忘れていないのならそれでいい」

そんな最中で、キャロルは思い出す。

あの、あまりにも甘ったるい考えを持つ、ガングニールの装者の事を。

 

『人助けの力で、戦うのは嫌だよ』

 

それが、無性に癪に障る。

似たような人物を、彼女は知っている。その人物を、彼女が重なる。だから余計に苛立つ。

すぐにでも、その胸の想いを叩き潰さねば―――

「・・・だが次こそはあいつの歌を叩いて砕け。これ以上の遅延は計画が滞る」

キャロルは、ガリィにそう命令を下す。

()()()()()()()()・・・・わかってますとも。ガリィにお任せです!」

と、あざとく笑って見せる。

その様子にキャロルはため息をつく。

「・・・お前に戦闘特化のミカをつける。いいな」

「いいゾ!」

「そっちに言ってんじゃねえよ!」

ミカがそう返答したので怒鳴るガリィ。

 

 

 

 

 

夜―――戦兎の倉庫にて。

「現状、戦えるの響ただ一人・・・戦える仮面ライダーも俺を除いて、スクラッシュドライバーが使える奴が一人・・・」

薄暗い空間、その部屋を照らすのは、一つのディスプレイが照らす光だけ。

その画面を覗き込んで、戦兎は静かに独り言をつぶやく。

「最悪、ガングニールまで破壊された場合、戦える装者は―――」

そこまで言いかけて、戦兎は椅子の背もたれにもたれかかって、天井を仰ぐ。

「・・・そろそろ、潮時か」

戦兎はもう一度画面に向き直り、あるデータを引き出す。

そこには、一つのグラフと記録、そして、何かの設計図と見取り図だった。

「こいつが、ただ一つの戦力になる・・・」

戦兎は、そう呟いて、ふとリカルドの言葉を思い出す。

 

『彼女たちを戦いの日常に引き込んだのは、君たち『大人』の不甲斐無さ故だろう』

 

その言葉に、戦兎は心なしか拳を握り締める。

(この現状で、アイツに頼まなくちゃいけないなんて・・・)

自分の不甲斐無さ。それで彼女たちが戦う事になってしまったこの現状。全ては、S.O.N.G.の技術全てを任されている自分の責任―――

しかしそれでも、彼女に、頼らなければならないかもしれない、この現状に、戦兎はただ己の無力さを悔いながら、パソコンの電源を落とした。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?(Be The Oneでも聞きながらコッチヲミロォォォオ!!


「ごめんねマム、遅くなっちゃった」

お墓参りに訪れるマリア、切歌、調。

「歌えないビッキーかぁ・・・」

歌を失った響を心配する一同。

「雨の日って、あまりいい思い出はなかったわね」

とある喫茶店で対峙するシンとエリザ。

「敵の襲撃!?」

そして響と未来に襲い掛かる、錬金術師の魔の手!

「頼む、間に合ってくれ・・・!」

響の下へ急ぐ仲間たち。

「思考形態は異なるが、俺にも知性がある」

そこへ現れたのは―――


次回『一点突破のライトフィスト』





慧「ギャグ補正じゃなけりゃ目が潰れてたぞコンチクショウ」
調「でもセレナの裸は見たんだ?」
慧「いや、振り返った瞬間に潰されたから見えなかった」
調「・・・見たかったの?」
慧「龍我さんはどうだったんですか?」
龍「なんで俺!?」
ク「何言ってんだお前はぁぁああ!?」ドロップキック
慧「甘いわ!あっ」回避
調「あ・・・!」思いもよらないスカートめくり
切「ぐべあ!?」ドロップキックヒット
調「いやぁぁああ!」
慧「結局こうなるのかぐぼあ!?」


セ「もう、どうにでもなってください・・・」


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一点突破のライトフィスト

調「しばらく胃潰瘍やらピロリ菌の検査やらでまともに夜も眠れなかった作者ですが、今はどうにか薬で凌いでます」
ク「んなことどうでもいいからあらすじ紹介するぞ。パンドラボックスによるスカイウォールの惨劇から十年と一年、桐生戦兎ら仮面ライダーが創造した新世界にて、仮面ライダーおよび、シンフォギア装者らは、その力をもって救助活動を行うタスクフォース『S.O.N.G.』の戦闘員として、そして普段通りの日常を過ごしていた」
翼「そこで現れる錬金術師の登場、世界をやり直すことで浄化することを目論むデイブレイク社が現れ、しばし防戦に回ってしまう」
未「そして今、ガングニール装者である立花響は、自身の心の迷いによって、戦う力を失っていた」
一「戦う以上は覚悟決めろってんだ」
セ「まあまあそう言わずに」
切「とうとうエンプラさんの好感度が90を突破したのデス・・・!」
調「切ちゃん・・・今はそれ後にしようよ・・・」
切「およ?ならそうするデス」ぽい
作「アーッ!まだ買ったばかりのスマホがぁぁあ!!」ヘッドスライディング
一同「・・・」
未「・・・ま、まあなにはともあれ、クリーブランドが出ない事に難儀しつつ、本編GX編第七話をどうぞ!」


ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ。

 

シンの義理の母にして、マリアたちレセプターチルドレンにとって、母親のような存在であった女性―――

 

フロンティア事変にてその命を燃やし尽くし、そして息絶えた彼女の墓が、今、マリア、調、切歌の三人の前にあった。

街の近郊にある墓場に、彼女の墓はあるのだ。

「ごめんねマム、遅くなっちゃった」

マリアが、花束を添える。

「マムの大好きな日本の味デス!」

「私は反対したんだけど、常識人の切ちゃんがどうしてもって・・・」

そう言って切歌が置いたのは、何故かボトルの醤油。何故醤油。

「慧くんはクラス委員のお仕事でこれなくて、セレナは病院で怪我の具合を確かめる為に、今日はこれないの」

成り行きという感じで受けてしまったクラス委員長である慧介、先日の戦闘の怪我で通院しているセレナは、今は来ていない。

「宇宙に散らばっていたフロンティアの一部や、月遺跡に関するデータは、各国機関が調査している最中だって」

「みんなで一緒に研究して、皆の為に役立てようとしてるデス!」

「ゆっくりだけど、ちょっとずつ世界は変わろうとしているみたい」

互いに牽制しあい、異端技術に関して、しばしば小競り合いをし続けてきた世界が、互いに協力して、それを何かの為に役立てようとする。

そんな世界が、広がってきている。だが―――

(変わろうとしてきてるのは、世界だけじゃない・・・)

戦いの在り方も、変わってきている。

錬金術師や、アルカノイズの出現。

全く未知なる存在が、敵として立ちはだかっている。

(だけど、私だけは・・・)

ネフィリム・ノヴァ・リベンジの時のアガートラームも、セレナを守る為に使ったブリザードナックルも、どれも借り物の力。窮地を切り抜ける力はいつだって、本来であれば自分の力ではない力。

後者に至っては勝手に使った結果、この包帯だらけの右手である。

さらには、戦兎から凄まじい説教を受ける始末。

(正直、マムの説教より怖かったわ・・・)

そして、その分だけの優しさも感じた。無理矢理使う事による危険性を無視した自分の身を案じてくれる、彼の優しさを。

でも、だからこそ、マリアは、

「私も変わりたい。本当の意味で強くなりたい」

もう二度と、何者にも振り回されないような。そんな力を。

「それはマリアだけじゃないよ」

「アタシたちだって同じデス」

そのマリアの言葉に、調と切歌はそう答える。

そんな中で、唐突に雨が降り始める。

「・・・昔のように、叱ってくれないのね」

もう、二度と、そんなことはない。

だけど、それでも彼女たちは、前に進まなければならない。

「大丈夫よマム。答えは自分で探すわ」

「ここはマムが残してくれた世界デス」

「答えは全部あるはずだもの」

雨粒が葉の上を滴る。降り始めた雨の中、三人は、そう母親の墓に向かって呟くのだった。

 

 

 

と、そんな中で。

 

「そういえば、シンはなんでこなかったんデスか?」

と、切歌が唐突にマリアに質問する。

「シンがマムのお墓参りに来ない筈がない。一体何があったの?」

「ああ、それは・・・」

と、答えようとしたマリアの脳裏に過るのは、シンのあの言葉。

 

『すまない。エリザに今日会えないかと言われたから、そちらを優先させてもらう』

 

「・・・・」

それを思い出した途端、マリアの中で、黒い感情が渦巻き、下唇を噛み、なおかつ拳を握り締めて肩を震わせて、胸の奥から湧き上がる嫉妬と憎悪をまとめて込めた一言をつぶやく。

「・・・あンの女狐ェ」

「「ひぃぃい!?」」

それを聞いた調と切歌は互いに抱き着いて恐怖にもだえる。

「な、なんだか様子がおかしいのデス!?」

「し、刺激しないようにしよう。うん、それが良い・・・!」

ぎりぎりと歯ぎしりをするマリアを前に、二人は震え上がる他なかった。

 

 

 

 

 

 

その一方で、

「へっぷし」

とある喫茶店でシンが小さくくしゃみをする。

「あら?貴方が風邪なんて珍しいわね」

そんなシンの様子に、向かいに座るエリザはカフェオレを飲みながらくすりと笑って見せる。

「そんな筈はないのだが・・・」

「体調管理はしっかりしなさいよ。ここがあの戦場なら死んでるわよ?」

「善処する」

エリザの言葉に、シンは頷く。

そして、そんな二人を、離れた席で見ているのは・・・

(誰だ、あの女の人・・・)

(誰だろう、あの女の人・・・)

何故かサングラスをかけたセレナと新聞に開けた穴を覗いている慧介だった。

 

 

 

 

 

 

雨の降る中、リディアンの食堂にて。

響を覗いた、未来、安藤、寺島、板場の四人が、一つの席を囲んで、昼食を食べようとしていた。

「立花さんは食べないのでしょうか?」

「うん、課題やらなきゃって」

「お昼より課題を優先するなんて、こりゃ相当な重症だわ」

何事もするよりも食べることを優先する響が、課題を優先する。

そういう事は、普段の響からは考えられない事だ。

それは、まさしく重症と言わざるを得ない。精神面で相当なダメージになっている事が伺える。

「歌えないビッキーかぁ・・・」

安藤が、そう呟く。

「私たちが励ましても、立花さん、余計に気を使いそうですし・・・」

「普段は単純なくせに、こういう時ばっかりややこしいんだよね」

寺島がつぶやき、板場は苦笑する。

端的にいって龍我と同じタイプである。

普段は能天気なくせして、いざという時は色々と抱える。そんなタイプ。

「うーん・・・ビッキーが歌を唄えないのって、もしかしたら唄う理由を忘れたからじゃないかな?」

「響が、歌う理由・・・」

安藤の言葉に、未来は咀嚼するようにその言葉を繰り返す。

「うん。それを思い出せたら、きっと・・・」

言いえて、的を射ている。だからこそ、

「響はまた歌える・・・」

その確信を、未来は抱く―――

 

 

 

 

二課本部の潜水艦にて、三つのモニターに移された、三人のオートスコアラーの映像を見ながら、エルフナインは話し出す。

「先日響さんを強襲したガリィと、クリスさんと龍我さんと対決したレイア。これに、翼さんがロンドンでまみえたファラと、いまだ姿を見せないミカの四体が、キャロルの率いるオートスコアラーになります」

「人形遊びに付き合わされてこの体たらくかよ・・・」

「それに加えて・・・」

さらなるモニターが映し出される。

「世界の滅亡を目論む異端秘密結社『デイブレイク』、か・・・」

「確認できているだけでも龍我と戦ったローブ野郎とシンを圧倒したジャードとかいうやつと、謎の金髪女・・・」

「そのうち、先日戦兎君を襲った三人を口封じするために姿を見せたリカルドという男か」

「ろくな奴がいねえな・・・」

今この場にいるのは、エルフナインを筆頭に、戦兎、龍我、一海、翼、クリス、緒川、弦十郎と何人かの職員。

「スペックを始めとする詳細な情報は、ボクに記録されていません」

「その上、デイブレイク社の方の戦力は未だ不明。ただわかることは、奴らがシンフォギア、ライダーシステムと同等、あるいはそれを超える力を有しているという事だろうな」

戦兎が、そう呟く。

「超常脅威への対応こそ、俺たちの使命。この状況を打開するため、エルフナイン君と戦兎君から、計画の立案があった」

その弦十郎の言葉に、その場にいる者たちが一斉に二人を見る。

そうして、二人の背後に映し出されたモニターには、こう書かれていた。

 

『PROJECT IGNITE』

 

『PROJECT LINK ANIMAL』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雨、か」

窓の外の景色を見て、エリザはそう呟く。

「雨の日って、あまりいい思い出はなかったわね」

「地面はぬかるみ、歩くのは辛く。あの体格の俺たちでは、大人たちについていくのに精一杯だったな」

「懐かしいわね。アイリーンが足を滑らせて顔面からいって、泥まみれになってたっけ」

「ロバートの奴も、足を滑らせて崖の下に落ちていったな。あれで生きていたのが奇跡なぐらいだ」

「ああ、あれは本当に驚いたわね」

他愛もない話だ。

そう、他愛もない、彼ら『幼き殺人者たち(マーダー・オブ・チャイルド)』だけの思い出話。

そんな二人の会話が、唐突に途切れる。

「・・・ジャック」

エリザが、シンに尋ねる。

「この間の話の続きをしましょうか?」

「・・・」

その問いかけに、シンは黙り込む。

しかし、エリザは構わず続ける。

「別に今日答えを出してほしいわけじゃないわ。時間はいくらでもある。ただ、本来の貴方を見つめなおしてほしいと思ってるだけよ。その上で、S.O.N.Gに残り続けるか、こちらに来るかを決めてほしいの」

その言葉に、シンはその表情に迷いの色を見せる。

「・・・人の本性は、決して変わらないわ」

エリザは、神妙な面立ちでシンをたしなめるように話す。

「貴方の剣は、誰かを守る剣なんかじゃない。貴方の剣は斬る剣。誰かを殺す剣よ。貴方は、心のどこかで、殺しを求めてる。人を斬ることに渇望を抱いている。違う?」

エリザの問いかけに、シンは、首を振る。

「俺の剣は・・・マリアたちを守る剣だ」

「・・・この際、あの女狐の事は無視してあげるけど、貴方自身がそう思っていても、実際は違うんじゃないかしら?そう、それを口実にしてただ人を斬りたいだけなんじゃないの?」

その言葉に、シンは、心臓を鷲掴みにされるかのような感覚を覚える。

冷や汗が、背筋を伝う。

そのシンの様子に、エリザはため息を再び吐く。

「・・・これぐらいしましょう。でも覚えておいて。貴方は、どこまでいっても人斬り。その本性は、いつまでも隠せるものではないわ」

そう告げて、彼女は立ち上がる。

「支払いはしてあげるわ。それじゃあね」

それだけを言い残して、彼女は支払いを済ませて店を出ていく。

そして残されたのは、エリザにその心の内を暴露されたかのような心境に陥っているシンだけだった。

その様子を慧介とセレナの二人は、神妙な面立ちで見ていた。

「・・・どう思う?セレナ」

「そう、ですね・・・」

セレナ自作の集音機で会話を盗み聞きしていた為に、会話はダイレクトに聞こえていた。(壁越しでもしっかり音をとれる優れもの)

(正直、そんな気はしていた・・・)

慧介は、あの日、米国からの襲撃を受けた時のシンの事を思い出していた。

あの状況、怪我をさせるだけでいいはずの状況において、シンは米国の部隊を全員斬り殺した。

そう、皆殺しだ。

一切の躊躇いなく、その身を返り血に塗れさせて、シンは剣を振るっていた。

(マリアが気付いてたかどうかは分からないけど、あの時のシンの目には、確かに狂気が宿ってた・・・)

表情は、決して殺人に対する残虐性を意味するかのような笑顔などは一切浮かべていなかった。

だが、目は、何か、喜びを感じているかのような恐怖を感じた。

あの瞬間、人を殺す瞬間、シンは、『人斬り』を楽しんでいるのではないかと、そう勘繰ることはなかったが、よくよく思い出してみると、本当はそうではないかと思ってしまう。

人斬りを楽しむ、殺人鬼―――それが、シンの本性たる『斬り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)』ではないか。

そう、思ってしまうのだ。

(一体、どっちが本物のシンなんだ・・・)

そう、慧介が思った時だった。慧介の端末に何か通信が入る。

それは、シンも同じく、通信機を取り出し、そして耳に当てる。

「はいもしもし慧介です」

「どうした?」

ほぼ同時に連絡を受けた二人は、告げられた情報に思わず椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がった。

「敵の襲撃!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が体を叩く。

しかし、そんなことを気にする暇はないとでもいうかのように、戦兎はマシンビルダーを加速させる。

「頼む、間に合ってくれ・・・!」

そう、願うように、戦兎は道路交通法をガン無視して現場に急行していた。

 

 

「敵の襲撃!?」

そして、それはマリアたちの方でも。

「でもここからでは・・・」

「間に合わないデス!」

 

 

 

 

 

 

それは、突然の事。

下校していた響たちの目の前に、赤髪のロールの髪型の少女が現れたかと思えば、その少女がアルカノイズを出現させたのだ。

今の響では戦う事は出来ない為、逃げる以外の選択肢はなかった。

だから必死に逃げ、一年前のルナアタックによって未だ復興されていない地帯に逃げ込み、その中にある廃ビルに逃げ込んだのだが、正直言って追い詰められている気しかしない。

そして、階段を上って上に逃げようとする彼女たちに、アルカノイズの解剖器官が襲い、未来が上り終えた鉄製の階段が分解され、響が落下。

「うわぁあ!?」

「響っ!?」

そのままフェンスを突き破って一気に最下階に落ちる。

「ぐあっ」

その衝撃で肺の中の空気が吐き出される。

「っ・・・みく・・・!」

そんな、全身に激痛が走る中で、響はかすむ視界で未来のいるうえを見上げる。

そんな彼女の視界に赤髪のオートスコアラー『ミカ・ジャウカーン』が入る込む。

「いい加減戦ってくれないと、君の大切なもの解剖しちゃうゾ」

立ち上がろうとする響に、ミカは残虐な脅しを告げる。

「友達バラバラでも戦わなければ、この町の人間を、犬も猫もみーんな解剖だゾー!」

その人間にしてはあまりにも恐ろしく、そして巨大な手をうじゃうじゃと動かし、ミカは恐怖を強調して見せる。

それに、響は鞄を投げ捨て、首に下げているペンダントを取り出し、聖詠を唄おうとする。

だが、やはり唄えない。

どれほどあがいても、喉から声を出そうとしても、その声が出ることはない。

その様子に、ミカは呆れ果てた表情になる。

「本気にしてもらえないなら・・・」

そう呟くと、残虐味のある表情で、ミカは未来の方を見ると、その周りに集まっているノイズたちに指示を出す。

今にも、飛びかかりそうなアルカノイズ。

このままでは、未来はアルカノイズに殺されてしまうだろう。

そうなれば、響は―――

「あのね、響!」

そんな中で、未来の叫びが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「距離としては俺たちの方が近い!」

「でも大丈夫か!?まだ回収も済んでいないのに」

「解剖器官に当たらなければ大丈夫だろう!」

雨の中を突っ切って、走るシン、慧介、セレナの三人。

「確かにそうですけど、向こうにはオートスコアラーが一体いるんですよ?勝てる保証はあるんですか!?」

「やってみなければ分からないだろう・・・!」

シンらしからぬ返答に、二人は顔を見合わせる。

(まださっきの話を引きずってるのか・・・!)

正直、今のシンは危なっかしい。最悪な事態にならなければいいのだが。

と、思った直後だった。

「ッ!?」

唐突にシンが立ち止まる。

「え!?」

「シンさん、どうしたんですか!?」

「・・・・人がいない」

シンの言葉に、二人は初めて気付く。

そう、周囲に誰もいないのだ。

それも、車すらも一台も通っていないほどの、無人。

S.O.N.Gの避難誘導のせいか。否、そうであれば、S.O.N.Gの職員と合流する筈だ。

その上、ここはまだ、アルカノイズの出現場所より、結構離れている。

それがここまでの無人というのは、何かおかしい。

 

 

その時、彼らの近くの建物の屋上から、何かが飛び降りる。

 

 

「――ッ!?避けろ!」

それにいち早く気付いたシンが叫び、背中合わせに警戒していた三人は、一斉に三方向に躱す。

そして、躱してすぐに聞こえたのは―――何かの駆動音。

三人が先ほどまでいた場所のアスファルトに大きな亀裂が入り、砕け散る。

「何者だ!?」

シンが背中のケースにある雷切の鞘を握りつつ、ひび割れても何もない場所に向かってそう叫ぶ。

しかし、その問いかけに応えるかのように、その場の空間が歪みだし、色が付き、何もない空間から、一体のロボットが姿を現す。

「光学迷彩・・・!?」

四足の鋭利なブレードの爪のついた足、合金で出来た人工筋肉、尾部分に取り付けられた太いコードのようなマニピュレーター、そして、機械的なLEDライトを中心とした頭部。

そして大きく目立つのは、背中のチェーンソー。

見た目は狼か犬。だがしかし、その見た目は明らかに人工物のそれ。

そしてわかるのは、このロボットは―――敵だ。

 

「―――『LQ-84e』。対話IF(インターフェイス)搭載型無人機だ」

 

そしてその敵は名乗った。

「うお!?しゃべった!?」

「対話IF?」

「自立型の無人機には高度な人工知能(AI)が搭載されている。学習と対話IFにより、人との会話も可能になった」

「つまりすごい科学技術の結晶体ってこと?すごい!隅々まで調べたい!」

「こんなところで科学者魂滾らせるなよセレナ!?」

「思考形態は異なるが、俺にも知性がある」

セレナと慧介の茶番を無視して、そのLQ-84eは話を続ける。

そんな中で、シンは腰にビルドドライバーを装着し立ち上がる。

「知性だと?それじゃあ聞くが、お前は何のためにここにいる?」

そう尋ねた瞬間、LQ-84eから何かが投げられる。

それをシンはすぐさま背中の雷切を抜刀、全て弾き返し、最後の何かを掴み取る。

「シン!?」

「シンさん!?」

その掴み取った何かとは―――刃の部分が赤熱したナイフだった。

弾いたナイフも見れば、壁に突き刺さったものはその突き刺さった部分のコンクリートを溶岩の如く溶かしていた。しかし、その色は次第に薄くなっていき、やがて消え、コンクリートが溶けるのも止まる。

「なんだありゃ!?」

「あの形状から見て、ナイフ自体に発熱機能はない・・・たぶん鞘に高周波電磁誘導装置があって、それでナイフを赤熱させたんだと思う」

「何言ってんのか全然わかんないけど、とにかくやばいって事だな!」

すぐさま慧介はスクラッシュドライバーを腰につけるべく懐に手を入れる。

それと同時にセレナも加勢するため、首に手を伸ばす。

が、そこで二人は、目的のものがないことに気付く。

「「・・・」」

何かの間違いかと思い、自分の体を隅々まで調べてみたがなく、そして、大量の冷や汗をかいて、自分たちの変身アイテムがない理由を思い出す。

「しまった!?アガートラームはこの間の戦闘で壊れてたんだった!?」

「スクラッシュドライバーを調べるために戦兎先生に返してたんだったぁぁああ!!」

うおぁぁああ、と絶叫を挙げながら自らの失敗を恥じる二人。

だがしかし、そんな二人を気にしたら負けという謎の雰囲気に包まれている二人は会話を続ける。

「・・・お前を殺す為だ」

先ほどのナイフは挨拶代わりか仕留める気だったのか。

「ご立派な知性だ。命令に疑問も抱かないのか?」

「何を思おうと俺に命令を拒む権利はない。逆らえば俺の意識は消去される。不本意だが、選択の余地はない」

「選択の余地がないって・・・」

LQの言葉に、セレナは胸の内にふつふつとした感情を感じた。

「逆らう為に知性を使え」

一方のシンは、頭のこめかみを指先で叩きながらそう言う。

「ならばお前が手本を見せてみな。人間!」

LQが飛び上がり、高台に乗る。

その一方でシンはビルドドライバーを腰に巻き付け、クライムウルフのボトルスロットにウルフフルボトルを装填する。

 

Start Up』

 

そしてすぐさまビルドドライバーに装填する。

 

CRIME WOLF

 

ボルテックレバーを回してスナップライドビルダーを展開し、シンは叫ぶ。

 

『Are You Ready?』

 

「変身」

 

『Start Up Lightning!Let's CRIME WOLF!Yeah!』

 

ビルダーがシンを挟み込み、その姿を全身鎧の戦士へと変身させる。

それが、仮面ライダークライムへの変身だ。

背中のチェーンソーをマニピュレーターで持ち上げ、LQは雄叫びを挙げた。

そしてクライムは、雷切を構え、LQを迎え撃つのだった―――

 

 

 

 

 

未来の声が、響に届く。

「響の歌は、誰かを傷つける歌じゃないよ!」

その声に、響は戸惑いを見せる。

「伸ばしたその手も、誰かを傷つける手じゃないって知ってる!私だから知ってる!だって私は、響と戦って、救われたんだよ!」

忘れもしない、あの戦い。

自分が神獣鏡のギアを纏い、響がその命を削って戦った、あの海上決戦の戦いを。

その時、未来は確かに、響のその真っ直ぐな想いに救われたのだ。

「私だけじゃない。響の歌に救われて、響の手で今日に繋がってる人、沢山いるよ!」

翼も、クリスも、調も、切歌も、マリアも、慧介も、シンも、龍我も、そして戦兎も、多くの仲間たちや、沢山の人々の明日を、響の歌によって繋がれたのだ。

だから―――だから―――

 

「だから怖がらないで!」

 

「バァイナラー!」

次の瞬間、ノイズが未来に襲い掛かり、未来の足元のコンクリートを砕く。

そして未来は、宙に投げ出され――――

「―――うわぁぁああぁぁぁああぁぁぁあぁあああ!!!」

響の絶叫が迸り――――

 

「―――――ッ!!」

 

 

(私の、大好きな響の歌を―――みんなのために、歌って―――)

落下する中で、未来は、響にそう告げて――――

 

空中で抱き抱えられた。

 

「ッ!?」

目を見開けばそこには、黄色の戦装束を纏う、響が自分を抱えている姿があった。

そのまま一気に地面に落下、その両足で大地を踏みしめ、見事に着地する。

天井が砕け、その上にあった雨水が、一斉にその背後に降り注ぐ。

「ごめん。私、この力と責任から逃げ出してた」

そして、響は謝罪の後に、確固たる決意を、最愛の親友に告げる。

「だけどもう迷わない。だから聞いて、私の歌を!」

 

それは何物をも貫き通す、無双の一振り。

 

それは決して折れず、曲がらない武器。

 

それは彼女の心にして、決して砕けぬ拳。

 

最短で、最速で、真っ直ぐに、一直線に、曲がることを知らない、まさしく一点突破の、彼女だけの矛。

 

そう、それこそは『槍』。決して曲がらぬ『突撃槍(ランス)』。

 

 

今ここに、立花響の『ガングニール』は復活した。

 

 

 

未来を下ろし、響は行く。

「行ってくる」

「待っている」

そんなやり取りをし、響は、ミカに向かって突撃する。

 

 

 

 

 

LQのチェーンソーが襲い掛かる。

その一撃を、クライムは雷切で受け止め、後ろに弾かれたように下がった瞬間、その体を回転させて前に踏み込み、反撃の一刀を入れる。それを下がられて躱され、反撃にナイフを投げられるも叩き落して見せる。

しかし、すかさずLQがチェーンソーをもってクライムに斬りかかる。

そのチェーンソーの連撃をクライムは凌ぎ切り、なおかつ手放した刀を右足で掴み取り蹴り飛ばすように振り抜く。

 

 

 

 

 

ミカが出現させたアルカノイズ。それを、止まるでもなく避けるでもなく、正面突破でなぎ倒していく響。

バンカーセットした右のアームドギアを思いっきり引き絞り、地面に叩きつければたちまちノイズは消し飛ばされる。

そのまま一気にミカへと接近。

ミカはその巨大な掌から極太のカーボンロッドを生成し、響の振るう拳を真正面から受け止める。

しかし、ブースターによってどんどん押し込まれていく。

「こいつ、へし折りがいがあるゾー!」

 

 

 

 

「賢い戦い方を見せてやる―――誰か来てくれ!」

LQが距離を取り、鳴く、するとどこからともなくLQと似た犬型の機械兵器が現れ、クライムを襲う。

「鉄屑風情が―――」

しかし、知能はLQよりは劣るのか、その行動パターンは読みやすく、結果、一斉に斬り裂かれる。

しかし、その合間を縫ってLQがクライムの懐に飛び込み、チェーンソーを一気に突き刺す。

その一撃を、クライムは見事に躱して見せる。

「何っ!?」

そして次の瞬間、その顎を蹴り飛ばされる。

 

 

 

ミカが響を弾き飛ばす。

だが、それで止まるほど響は甘くはない。弾き返されたと思いきや足のアンカージャッキを叩き起こし、それで地面を叩き、再びミカに接近、そのまま腕のアームドギアのブースターを点火、回転を加えた渾身の肘鉄を叩きつける。

それを諸に喰らったミカは一気に吹っ飛ぶ。

 

 

 

顎を蹴り飛ばされたLQは思わず混乱。一体何が起きたのかと模索するも、その前にその首をクライムに掴まれる。

「や、やめろ―――」

次の瞬間、その体を刀が刺し貫き、投げ飛ばされ、そして落ちてきた所をけられてその体を回転させられてしまい―――

「終わりだ」

自由斬撃モードによる斬撃によって、LQはバラバラに斬り裂かれる。

そして、地面に残骸が落ち、

「戦闘継続・・・不可能・・・」

そして、沈黙した。

 

 

 

 

追撃、吹き飛ばされてもなお、響は拳をお見舞いするべく、ミカに向かって飛び込む。

そして、その拳を引き絞り、そのままミカに叩きつけた―――次の瞬間、

 

ミカの体が水となって弾け飛んだ。

 

一瞬、響の思考が停止する。

何が起きた。

それだけが、響の脳内を占めていた。

何故、いきなり形あったものが、形なき水に変化するのか。

その理由は、響の視界の先、柱の陰に身を潜めていた、もう一人のオートスコアラー。

「ざぁんねん、それは水に映った幻影(まぼろし)―――」

青きオートスコアラー、ガリィ・トゥマーンが、響を嘲笑うかのように笑っていた。

そして、響は、自らの視界の下に、ミカの姿を見た。

その態勢は―――完全な攻撃態勢。

その、天真爛漫な笑顔から放たれる、狂気の一撃は―――寸分たがわず響の胸の穿つ。

「―――ぐあぁぁああぁぁああぁあああああぁぁああ!?!?」

その一撃が響を天高く打ち上げ、その身の戦装束をバラバラに砕けさせる。

「響!」

未来が、響の名を叫ぶ。

「か・・ぁ・・・」

とうの響にすでに意識はなく。

「うおぁぁぁあぁあぁあああ!!!」

すかさずラビットラビットフォームのビルドの絶叫が迸り、落下する響を空中で受け止める。

そのまま落下し、ビルドはどうにか着地する。

「―――おい!おい響!しっかりしろ!」

ギアインナーが消滅していく。しかし、そんなこともお構いなしに、ビルドは響の安否を案じる。

だが、響の状態、そして状況は火を見るよりも明らか。

「いや、響!」

未来も駆けつけ、必死にビルドの腕の中にいる響の呼びかける。

そう、これはまさしく――――

 

 

立花響の、敗北だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突に、無線が入る。

「ん?」

それはセレナと慧介の端末も同じで、クライムはその通信を繋げる。

雑音だらけの通信。しかし、言葉はしっかり読み取れる。

『―――奴らは・・・この世界を束縛から解放するために戦うと・・・人類の自由の為に・・・戦うと・・・』

それは、紛れもなく、残骸と化したLQからの通信だった。

『だが・・・俺に自由は なかった・・・』

それは、AIにしては、あまりにも切実な言葉だった。

『自由とは・・・なんだ・・・?』

それを最後に、LQからの通信は途絶える。おそらく、完全に沈黙したのだろう。

「・・・AIまで自由を要求するのか?」

シンは、その言葉にそう呟いた。

「・・・」

そして、それを聞いていたセレナと慧介は、どうにも複雑な気分になる。

「・・・襲ってきたってことは、デイブレイクとかいう奴らの手先なんだよな・・・」

「ですが、あの子の戦いには、どこか躊躇いがありました」

そう呟いて、セレナは、LQの残骸の前に腰を下ろす。

「修理する気か?」

「できれば・・・ですけどね」

シンの言葉に、セレナは寂しく笑って答える。

「え!?響さんが!?」

しかし、すぐさま慧介がそう声を挙げる。

「どうした?」

「・・・響さんが、負けた」

シンが尋ねれば、慧介は、そう信じられないとでもいうように、そう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が降り注ぐ中、オートスコアラーは撤退していく。

響に自らのコートを纏わせて、体が冷えないように屋根のある場所に身を潜める戦兎と未来。

しばらくすれば、二課の職員がやってきて、響をメディカルルームに担ぎ込むだろう。

それまでは、響の命が途切れないよう、応急処置をする。

「・・・戦兎先生」

そんな中で、未来は、戦兎に声をかける。

「未来・・・」

そんな未来の言葉に、戦兎は戸惑う。

「私・・・()()()()

その言葉に、戦兎は諦めるようにため息を吐く。

「いいんだな?」

「はい。もうこれ以上―――傍観者でいたくありません」

その未来の言葉には、確かな覚悟が宿っていた。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

ついに始動する二つの『PROJECT』。

「―――頃合いだ」

「仕上げるぞ」

そこへ襲撃してくる、キャロルの刺客、そしてデイブレイク社の襲撃。

「そんなに叫ばんでも聞こえてるわ卵頭」

「安心しろ。死にに行くわけではない」

それに対抗するため、立ち上がるライダーたち。

「反撃だぁぁぁあぁあああ!!」

しかし、本部防衛にあたっていたクローズとタスクに、敵の牙が向く時、―――傍観者であった少女が立ちあがる。

次回『覚悟のM/鏡に映る、光も闇も何もかも』

「―――Rei shen shou jing rei zizzl(鏡に映る、光も闇も何もかも)―――」








リディアンこそこそ噂話

慧介がセレナと共にいたのはとある部活の買い出しを請け負ってしまい、その途中でセレナと合流したからである。

慧「なんでもすごい勢いで筆がなくなるみたいでさ」
セ「どんな部活なんですか・・・」


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覚悟のM/鏡に映る、光も闇も何もかも

戦「パンドラボックスが引き起こしたスカイウォールの惨劇から十一年、エボルトとの激闘を得て、新世界を創造したのも束の間、新世界を創造した桐生戦兎は、その世界の脅威であるノイズとの戦いにその身を投じる・・・」
龍「おい、俺たちのことも忘れんな!」
戦「うるっさいなこの小説の主役は俺だぞ」
一「出たよいつもの・・・ってか他の奴らはどうしたんだよ?」
戦「今日来るはずだった響は翼のCDを買いに、翼は新しい歌の作曲、未来はクロのいたずらの餌食になってて、切歌は調とお買い物だってさ。なんか服を買いに行くとか」
幻「む、服なら俺のオーダーメイドの・・・」
一「お前の服はダサいんだよ!」
幻「何故誰も俺のファッションを理解できないのだ!」
一同「一生理解できねえよ!」
慧「まあまあ皆さん落ち着いて。最近、コロナが加速して色々と大変なんですから。マスクしないとですよ」
シ「慧介、ここはフィクションの世界だから俺たちが対策しても意味ないz―――」
戦「お前はお前でメタいこと言ってんじゃないよこの真面目天然野郎!」
シ「あ、アズレンでエンタープライズと結婚したそうだぞ。次は瑞鶴とだそうだ」
慧「それ今ぶっこむ!?」
龍「加賀が出なくて泣いてたな」
一「ああ、赤城は思いのほか早く出たのにな」
幻「あとクリーブランドも建造で出ないそうだ」
慧「待ってくださいそれ以上やると作者が泣き崩れてしまいます!」
戦「あとデュエルリンクスでもネット対戦で連戦連敗らしいな」
慧「やめて皆!作者のライフはもうゼロよ!」(裏声)
シ「なぜ俺を掴む!?HA☆NA☆SE!」
龍「あ、作者が使ってんのはブルーアイズだとかいう奴を中心に構成した奴らしいぜ」
幻「上手くコンボが決まらないそうだ」
一「なにせ素人だからな」
慧「ああ、文字外で作者のライフが削られていく・・・」
戦「と、いうわけで、集いし願いが新たな力を呼び起こす!シンフォギア・ビルドGX編第八話をどうぞ!」


『PROJECT IGNAITE』

 

知っての通り、シンフォギアシステムには、いくつかの決戦機能が存在する。

一定の歌を紡ぐことにより、限界値を超えたフォニックゲインを発動、自らの体の損壊を顧みず極大の大技を繰り出す『絶唱』

一方、それ以上のフォニックゲインによって、シンフォギアに搭載された301.655.722種類のロックを全て解除、飛翔、超火力などといった、人智を超えた力を発揮する『限定解除状態(エクスドライブモード)』。

だが、どちらもそれなりの欠点を備えているのは確か。

絶唱は相討ち覚悟の心中技、失敗すれば、自滅技となりかねない超弩級の危険技。

一方のエクスドライブは相当量のフォニックゲインを必要とする。その量は、まさしく奇跡に等しいものだ。そんな奇跡を戦略に組み込むわけにはいかない。

であるならばどうすればいいのか。

 

シンフォギアには、もう一つの決戦機能が存在するのをご存知だろうか?

 

 

それは―――『暴走』

 

今までに響が幾度となく発動させてきた、あの黒化現象。

知能は怒り狂った獣並みに低下するものの、戦闘力が爆発的に引き上げられるあの現象。

『PROJECT IGNITE』とは、その暴走を三段階のセーフティロックにて制御し、純粋な戦闘能力へと変換錬成し、キャロルへの対抗手段として確立させることを目的としたプロジェクトだ。

 

 

 

「―――というのが、先日エルフナインが説明した『イグナイトモジュール』のおおまかな内容だ」

翼、クリスだけでなく、マリア、切歌、調、そして仮面ライダー全員すらもそろえたメンバーの前で、戦兎はそう言う。

「それを踏まえて、オートスコアラーが現れて説明できなかった俺が考案する『PROJECT LINK ANIMAL』だが、端的に言って装者の適合係数引き上げ機能の搭載だ」

「装者の適合係数を?」

「ああ」

戦兎の背後のモニターに、ある図面が映し出される。

「これは・・・」

「今考案している翼の天羽々斬のリンク・アニマルの設計図だ。まず、これを作ることによって得られるメリットは、まずLiNKER無しでのシンフォギアの装着可能な適合係数を引き出すことが出来るという事」

その言葉に、場が一気に騒然となる。

「それってもしかして」

「LiNKER無しでも、私たちも戦えるという事デスか!?」

「ああ・・・と、言いたい所だが」

調と切歌の期待気な言葉を落胆させるような言葉を戦兎は言う。

「実はこの理論はまだ未完成なんだ」

「未完成って・・・そもそもどうやって適合係数を向上させる?」

マリアの言葉に、戦兎は説明する。

「装者が適合係数の不足によってバックファイアを受けるのは、ギアからくる信号によって引き上げられる身体能力に体が耐えられないからだ。であるならば、その信号を機械的に制御することで適合係数を引き上げ、十全な力を発揮できるようにするのがリンク・アニマルの重要な機能になる。最も、第二種適合者が絶唱を使う場合にはLiNKERは必要になるが」

「でもまだ未完成なんだろ?じゃあなんでそんなもん作る必要があるんだよ?」

「まあ、その理由は後述する三つの機能かな」

そう言って戦兎は指を三本立てて見せる。

「まず一つ目に、装者の戦闘をサポートする強化武装の搭載。例えば天羽々斬には、ラビットボディにある『ホップスプリング』を応用して、反動による超機動、重攻撃を可能にする『スカイスプリング』の搭載する予定だ。それによって、翼の機動力は大幅に向上する」

「つまり、それぞれの装者にあった強化パーツをギアに搭載するってことか」

一海が思案顔でそう呟く。

「んでもって二つ目に、AR(拡張現実)機能の搭載。これを使う事で、装者の戦闘をサポートし、なおかつ本部からの後方支援(サポート)をさらに受けやすくする機能だ」

「具体的にはどのような感じだ?」

「まあ端的に言って、自分の視界に相手には見えない情報を提示することだな。お前ら、VR(仮想現実)はやったことあるだろ?それを機械無しでやれるようなもんかな?」

「それはそれでなんか楽しそうだな・・・」

それはともかく。

「んでもって三つ目。盗難と紛失の防止だ」

戦兎が言った言葉に、全員が首を傾げる。

「リンク・アニマルは、クローズドラゴンのように自由に動き回れる。だから、常にギアペンダントを常備していなくても、戦闘に入った時にすぐに飛んできてくれる。その上丈夫だからそう簡単に破壊されることもない」

「つまり、何かの拍子で盗まれることも、落としちゃうことがないというわけだな」

クリスの言葉に、戦兎は頷く。

「ま、説明としてはこんな感じだな」

現在のS.O.N.Gにおける技術主任は戦兎。事実その技術力は了子にも負けず劣らずであり、すでにシンフォギアの修復作業まで可能という天才っぷりである。

まさしく、天才は全てを凌駕する。といった所だろうか。

「だが、シンフォギアを強化してオートスコアラーに対抗できるようになるならば、イグナイトモジュールは必要なくなる。それでイグナイトの説明のあとにそのリンク・アニマルの説明をしたという事は、そのギアだけじゃ奴らには敵わないという事を意味している」

そんな中で、シンがそう言い出す。

「LiNKER無しでも運用可能なシンフォギアを作り出すのは良い。だがそれを何故、実現できない状態で出してきた?」

確かに、そんな状態の提案を、このタイミングで出してきたのか。

「その上で、お前はこの案を出したという事は、何か別の目的があるんじゃないのか?」

その言葉に、その場にいる者たちの視線が一斉に彼に集まる。

「・・・まあ、最初はマリアたちがLiNKER無しでも戦えるようになるというメリットがあったから考案したんだけど、ちっとばっか状況がそうせざるを得ない状況になってきたからな。イグナイト起動前でもある程度戦えるようにしておきたかった。ただそれだけだ。それに、いつかはやらなくちゃいけない事だったからな。早いか遅いか。ただそれだけの違いだ」

と、戦兎はそう言って見せる。

その様子に、シンはため息を吐く。

「まあ、そういう事にしておいてやる」

とりあえずは見逃された、という事なのか。

 

 

 

 

 

 

そして、響の敗北から、一週間近くが経過した。

響は未だ意識不明の状態。怪我の状態はかなり良くなっているとは言え、あの一撃は、相当な威力だったことが、当初の彼女の傷から伺えた。

そんなわけで、発令所には翼、クリス、マリア、龍我、シンが集まっていた。

幻徳は政府官邸で外せない仕事、一海は猿渡ファームの状況を確認しに行っている。

「『PROJECT IGNITE』『PROJECT LINK ANIMAL』、現在の進捗は、八十九パーセント。旧二課が保有していた第一号、および第二号聖遺物のデータと、セレナちゃん、エルフナインちゃんの頑張りのおかげで、予定より早い進行です。ライダーシステムの改修も、順調に進んでるとのことです」

戦兎はライダーシステムの改修を、セレナはリンク・アニマルの外殻及びシステムを、そしてエルフナインはギアにイグナイトモジュールを搭載する作業に勤しんでいる。

セレナは学校に公欠をとっているため、実質技術力のある三人がいることはかなりありがたい。

「各動力部のメンテナンスと重なって、一時はどうなることかと思いましたが、作業や本部機能の維持に必要なエネルギーは、外部から補給できたのが幸いでした」

現在、二課本部潜水艦があるのは、港にある発電所のすぐ傍。そこから電力を貰い受け、それを使って本部の電力を賄っている所である。

「それにしても、シンフォギアの改修となれば、機密の中枢に触れるという事なのに・・・」

ふと、緒川が一つの疑問を口にする。

「状況が状況だからな。それに、八紘兄貴の口利きもあった」

「八紘?誰だそりゃ?」

弦十郎が言った名前に龍我が首を傾げる。

そんな龍我に疑問に、弦十郎ではなく翼が答える。

「限りなく非合法に近い実行力をもって、安全保障を陰から支える、政府要人の一人にして、氷室長官の懐刀。超法規措置の対応など、彼にとっては茶飯事であり・・・」

「とどのつまりがなんなんだ?」

しかし、そのクリスの言葉に翼は視線を逸らす。

その代わりに、緒川が答える。

「内閣情報官『風鳴(かざなり)八紘(やつひろ)』。司令の兄君であり、翼さんのお父上です」

「だったらはじめっからそう言えよな。こんにゃく問答が過ぎるんだよな」

「私やシンのS.O.N.G編入を後押ししてくれたのも、確か、その人物なのだけど・・・なるほど、やはり親族だったのね」

しかし、その言葉に翼は浮かない様子だった。

「ん?どうしたんだ?」

龍我が首を傾げる一方、弦十郎も頭を掻いていた。

(何か、ただならぬ事情があるのだろうな・・・)

その様子を見ていたシンは、一人勝手にそう納得する。

そんな中で、発令所の扉が開いて、未来とクロが入ってくる。

「響の様子を見てきました」

「キュル!」

言わずもがな、響の見舞いだ。

「生命維持装置に繋がれたままですが、大きな外傷もないし、心配はいりませんよ」

「・・・ありがとうございます」

緒川のその言葉に、未来は寂しく微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・エルフナインさん、エルフナインさん」

「ん・・・あ・・・」

セレナに揺すられ、エルフナインは目を覚ます。

「寝落ちてましたよ」

「あ、すみません、セレナさん・・・」

「いい寝顔でしたけど、いい夢でも見てたんですか?」

白衣を着て、リンク・アニマルの外殻の組み立てに着手していた筈のセレナがそうエルフナインに尋ねる。

その部屋は、チョークで壁や床に、多くの式や文字、図形が描かれており、さらには資料すらも置いてある。

しかし、それほど散らかってはおらず、しかしその惨状を見るあたり、彼女の頑張りが十分に伺える。

「あ、はい。パパとの思い出に・・・」

「パパ・・・それって、キャロルさんの・・・」

その問いに、エルフナインは頷く。

見たのは遠い彼方の思い出。父親が料理に失敗し、それを食べる羽目になって、そして、これからの料理は自分が作ると意気込んだ、彼の日。

「はい。どういうわけか、キャロルにはボクに、錬金術の知識だけでなく、自分の思い出まで転送複写したんです。その理由は、わかりませんが・・・」

ふと、エルフナインは時計を見る。

「十分ぐらい寝落ちてましたか」

「こっちの準備はできました。あとは聖遺物とリンク・アニマルをうまく同期させることが出来れば・・・」

「分かっています。手伝ってくれますか?」

「もちろん」

二人が共同作業に入る。

そんな中で、エルフナインは、父イザークの、最後の言葉を思い出す。

 

『世界を知るんだ』

 

その最後に、一体何を言おうとしたのか。

その答えを探す為に、キャロルと敵対し、こうしてギアの改修に勤しんでいる。

しかし、同時に疑問に思う。

 

何故、キャロルは自分に自らの思い出すらも、転送複写したのだろうか。

 

それが、いまだ疑問であった。

 

 

 

 

 

 

「―――頃合いだ」

玉座にて―――

「仕上げるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

アルカノイズが、出現する。

それに、すぐさまS.O.N.Gが対応する。

「アルカノイズの反応を検知!」

「反応、絞り込みます!」

その直後、船体が大きく揺れる。

そうして映し出されたのは―――このドッグの近くの監視カメラのリアルタイム映像。

「まさか、敵の狙いは――――」

「俺たちが補給を受けている、この基地の発電施設か!」

事実、アルカノイズたちが、発電所に向かって進行していっていた。

「何が起きているデスか!?」

そこへ切歌、調、慧介が駆け込んでくる。

「アルカノイズに、このドッグの発電所が狙われてるの!」

「ここだけではありません!都内複数個所にて、同様の被害を確認!各地の電力供給率、大幅に低下しております!」

そうなれば、都内への二次被害だけでなく、ここへ供給する電力すら足りなくなり、ギアやライダーシステムの改修に大幅な影響が出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同時に、猿渡ファームにて。

「ノイズだぁぁああ!!」

「逃げろ!今すぐ!」

どういうわけか都内から遠く離れた場所に位置する猿渡ファームに、アルカノイズが出現していた。

そして、そのアルカノイズの集団の中に、一人だけ、スキンヘッドの筋骨隆々のパワードスーツを着た男がいた。

「でぇてこぉーい!カァメンライダァァァア!!!」

どこのレスリングマンか、そう雄叫びをあげるスキンヘッドの男。

「今すぐぶっ殺してやるから、大人しく俺の前に姿を現せやぁぁああ!!」

無駄にうるさく叫ぶそのスキンヘッドの男は『モーガン・ゲンネル』。

武装はその身の丈の二倍はある戦斧。

それ以外に武装はなく、あるのは全身を覆う真っ黒なパワードスーツだ。

イメージとしてはワンパンマンの桃源団が来ていたものをイメージしてもらえれば幸いである。

「うるせえよ」

そんなモーガンの声にこたえる声が一つ。

「そんなに叫ばんでも聞こえてるわ卵頭」

この猿渡ファームの主、猿渡一海である。

そんな一海に、モーガンは嘲笑をもって出迎える。

「ふっふっふ、こうもぬけぬけと出てくるとは、貴様、よほど頭が悪いと見える!」

「はっ、こんな楽しそうな事があって、出てこねえ奴なんかいねえよ」

「フハハハハハ!それを楽しむ為には、お前には少々資格がないようだがァ!?知っているぞぉ!貴様、今のライダーシステムはアルカノイズの分解攻撃には全くの無力を聞いているぞぉ!まともに戦えるのはタスクとビルドのみ!貴様は無能!即ち、貴様はここで死んだも同然だ!」

モーガンは、一海をそう指差し、嘲笑ってみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ここは政府官邸。

「あ、あー、氷室幻徳ー、氷室幻徳ー、貴方はただいま完全に包囲されているので、大人しく出てくることを提案しまーす。じゃないとー、ここにいるこの国を担う要人たちが、勇者の名の元に皆殺しにされちゃいまーす」

アルカノイズが政府官邸を包囲し、その一角で、一人のいかにもコスプレといったふざけた格好をした男がいた。

その姿は、ある意味『勇者』と呼べるものであり、恰好に加えてマントや背中に背負ったバスターソードがその本気度を物語っていた。

とどのつまり、勇者気取りの痛い奴、である。

しかしどちらにしろ、政府官邸内にいる人間は一人足りとして逃げることは出来ないだろう。

何故なら、政府官邸は完全包囲されているのだから。

その入り口にて。

「危険です長官!」

「安心しろ。死にに行くわけではない」

「しかし・・・」

外に出ようとする幻徳を、必死に止める職員たち。

そんな彼らに、近付く者がいた。

「幻徳・・・」

この国の首相にして、幻徳の父親である『氷室(ひむろ)泰山(たいざん)』だ。

「親父・・・」

そんな父親の姿を見て、幻徳は、外になおもふざけた降伏勧告をする勇者然とした男の方を見る。

「・・・奴は、おそらくここにいる者たちを皆殺しにするつもりだ。おそらく、話し合いでも解決しないだろう」

「・・・・」

その言葉に、泰山は何も言わない。

そんな泰山に、幻徳は背中越しに言う。

「その為に、俺が行くんだ。ここにいる者たちを守るために―――この胸に宿る、俺の『大義』の為に」

そして、もう一度父親の方を振り返って、微笑んで見せる。

「だから親父はここで待っててくれ。すぐに終わらせてくるから」

「・・・分かった」

その幻徳の言葉に、泰山は頷く。

「行ってきなさい、幻徳」

「ありがとう、親父」

その父親の言葉を背中に、幻徳は外に踏み出した。

 

 

 

 

 

そして、その様子を空から見下ろす、リカルドの姿があった。

「さあ、全ての仮面ライダーを抹殺するのだ。我らの悲願の為に。アルカノイズがいる限り、我らの優位性は覆らない」

その言葉は、―――儚くも砕かれることを、彼はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

そんな、さも当たり前のように笑うモーガンに、一海は鼻で笑ってみせる。

(ふり)ぃなぁその情報」

「なにぃ?」

モーガンは、一海の言葉に怪訝そうな表情を見せる。

そうして、一海はスクラッシュドライバーを取り出して見せる。

「もうライダーシステムは、ノイズの攻撃を克服してんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

「お、出てきた出てきた」

勇者服の男『破道(はどう)健治(けんじ)』は嬉々として幻徳の姿を見る。

「よかったぁ。君が出てこなくちゃ、勇者である僕の活躍を分かってもらえないからね」

「誰が勇者だ。貴様は誰が見ても変な恰好をしたテロリスト野郎だ」

「酷いなぁ。僕は本物だよ。勇者の剣に、勇者の服、勇者の鎧だってある。僕は正真正銘の勇者さ」

健治は悪びれもせずに言って見せる。

「勇者なら、こんな大人数で囲むなんてことはしないと思うのだが?」

「分かってないなぁ。今時の勇者は使い魔を使うんだよ?彼らはみんな、僕の使い魔。だから使役してもおかしくないよ」

「ものはいいようだな」

「さて、それじゃあそろそろ君を殺すね。あまり苦しまないように、頭から分解してあげるよ」

そう言って、健治はアルカノイズたちに指示を出す。

するとノイズたちが動き出し、幻徳に迫っていく。

その様子に、幻徳はあきれるようにため息を吐き。

「やれやれ、見た目は大人でも、中身は子供だな。どうして俺の相手は、いつもこんな子供みたいなやつの相手なんだか」

そう呟き、幻徳はスクラッシュドライバーを取り出す。

「ぷぷぷ、知ってるよ。お前のライダーシステムはアルカノイズに対抗できない。何もできずに死んじゃうといいよ」

「随分と情報が回っていないようだな」

幻徳が、そんな彼を逆に笑って見せる。

「もう既に、ライダーシステムはお前たちを攻略する準備はできている」

 

 

 

 

そして、本部潜水艦が泊まるドッグの発電施設にて、自衛隊がノイズの迎撃に当たっていた。

「アルカノイズの位相差障壁は、従来ほどではないとのことだ!解剖器官を避けて、集中砲火!」

アサルトライフルはもちろん、バズーカなどを率いて、彼らは進撃するアルカノイズたちを迎撃する。

バズーカの砲弾が炸裂すれば、アルカノイズたちは、たちまちその身の大半を吹き飛ばされ、次々に沈黙していく。

「行けそうです!」

誰かが、そう叫んだ直後、背後から近づいてくるアルカノイズに気付かず、そのアルカノイズの攻撃を受け、その身を跡形もなく分解されてしまう。

すぐさまそれに気付いた隊員が応戦するも、呆気なく分解される。

「く、いくらこちらの攻撃は通用するといっても、やはりノイズか・・・!」

隊長が、そう苦虫を噛み潰したかのような表情でそう呟いた直後だった。

 

何者かが、彼らの合間を縫って前に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゥラゴンジュエリィーッ!!』

 

タイガァージュエリィーッ!!』

 

ロボォットジュエリィーッ!!』

 

クロコダイル!!』

 

 

 

 

 

スクラッシュドライバーを腰に装着し、そのボトルスロットに、それぞれのアイテムを装填する。

 

 

そして、待機音が鳴り響く中で、彼らはアクティベイトレンチを叩き下ろすと同時に叫ぶ。

 

 

「「「「変身ッ!!」」」」

 

 

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

 

『割れるゥ!喰われるゥ!!砕け散るゥッ!!!』

 

ドゥラゴン・イン・クロォォズチャァァジッ!!』

 

タイガァー・イン・タァスクゥッ!!』

 

ロボット・イン・グリィスゥッ!!』

 

クロコダイル・イン・ロォーグ…ッ!!!』

 

『ブルァァァァア!!!』

 

『オゥラァァァア!!!キャァァァア!!!』

 

 

 

 

 

その身を頑強なアーマーに身を包み、変身するは仮面の戦士。

その正体は完全秘匿。しかしその心は人を守る戦士の気構えをもつ者達。

 

 

「反撃だぁぁぁあぁあああ!!」

「うおっしゃぁぁぁあああ!!」

クローズとタスクが雄叫びを挙げて、アルカノイズたちを薙ぎ払っていく。

鬼気迫るその戦い方は、今までの鬱憤を晴らすが如く勢いであり、瞬く間にノイズたちは殲滅されていく。

「オラオラどうしたどうしたァ!」

「フハハハハハハ!!!見ろ!ノイズがゴミのようだァ!」

真正面から解剖器官の一撃を受けてもものともせず、一切の分解が引き起こらない。

それは即ち、ライダーシステムは、アルカノイズの分解能力を克服したという証明に他ならない。

 

 

 

 

 

猿渡ファームにて。

「行けィ!奴を素っ裸にしてしまえェ!」

グリスにアルカノイズが襲い掛かる。

「ふん」

それを見てグリスは、両手のツインブレイカーをアタックモードで構え、そして、同時に両の拳を突き出す。

するとグリスに襲い掛かっていたアルカノイズは一瞬にして消し飛び、消滅する。

だがしかし、ノイズはなおもグリスに襲い掛かり、その身を纏う鎧を削ぎ落そうとその身の解剖器官を振るう。

だが、それをグリスは片手で払って見せる。

「フハハハハハ!触った!触ったなァ!さあ、その身をこの戦場に曝け出すがいいィ!!」

だがしかし、グリスの腕が分解されることはなかった。

「・・・・は?」

途端にモーガンは間抜け面になり、そしてグリスは、仮面の奥でほくそ笑む。

「さあ、祭りの始まりだぁ!!」

グリスが、両手にツインブレイカーをもって、アルカノイズの殲滅を開始する。

両手のツインブレイカーを操り、殴り、撃ち抜き、蹴り飛ばし、瞬く間にノイズを殲滅していく。

「ぬ、ぐぅ・・・!?」

その光景はモーガンにとって信じられない光景であり、そして気付けば、全てのノイズの残骸がグリスの足元に転がっていた。

 

 

 

 

 

 

「そんな・・・馬鹿な・・・」

ノイズの攻撃をものともせず、例え受けても無傷であり、どれほどの衝撃を受けようともビクともしないその男は、次々にノイズを捻りつぶしていく。

「この程度か?」

そしてローグは、片手に掴んだアルカノイズを握りつぶして、そう健治に向かって言い放った。

 

 

 

 

 

「クローズ、タスク、エンゲージ!」

「グリスとローグも、別の場所にてアルカノイズと交戦を始めました!」

モニターの奥では、クローズとタスクがアルカノイズを蹂躙している姿が見られる。

解剖器官の攻撃を受けてもその装甲は分解されず、一方的に敵を叩きのめしていく。

「スクラッシュドライバーの改良は、既に二日前に終わっていた・・・それによってアルカノイズへの対抗手段はすでに整っている」

「強化型シンフォギアの完成まで、これで時間を稼げる・・・!」

モニターの先で、クローズの『スクラップブレイク』とタスクの『スクラップクラッシュ』が炸裂し、大部分のアルカノイズが消滅していた。

 

 

 

「・・・・ふふ」

それを見て、健治はほくそ笑む。

「どうやら、お前は僕が直々に倒さなきゃいけないようだね」

健治は背中に背負ったバスターソードを取り出す。

そして、横に向かって剣を振りぬいて見せる。すると、剣から()()()()()が解き放たれ、横にある車やアスファルトなどを一気に斬り裂く。その威力は、一瞬、雷の壁が出来たと錯覚せしめるほどだった。

「これが僕の勇者の剣。これを受ければ、いくら仮面ライダーの君とて簡単に消し飛ばせる」

そしてそのバスターソードをローグに向ける。

「ならば受けなければいいって思うかもしれないけど、君が避ければ後ろの建物に直撃して、誰か死んじゃうかもね~」

「・・・・」

健治は嫌な笑みで剣を構えて見せる。

「さあ、避けるか受けるか・・・決めるのはお前だよ!」

次の瞬間、健治の振るう勇者の剣が、ローグに炸裂した。

 

 

 

 

 

 

「フハハハハハ!面白い!」

モーガンが突如としてそう高笑いして、傍らにある戦斧を持ち上げる。

「どうやら貴様はこの俺が直々に倒さなければならないようだなァ!」

「は、やれるもんならやってみろ」

グリスがくいくいと手で招いて挑発してみせる。

それにモーガンは戦斧を横に大きく振りかぶる。

「くぅらぁえぇいッ!!この俺の、渾身の一撃をぉぉぉぉぉお!!!」

その振りかぶった戦斧の一撃を、恐ろしい速度と質量をもって、グリスに叩きつける。

 

 

 

――――だがしかし、

 

 

 

「・・・はえ?」

健治の一撃は、ローグの装甲の前に止められており。

 

 

「大きく振りかぶりすぎだバーカ」

モーガンの一撃はグリスがしゃがむことで躱されていた。

「な―――」

 

シィングルゥッ!!』

 

冷蔵庫フルボトルをツインブレイカーに装填。それをモーガンの足元に叩きつける。

 

シィングルゥブゥレイクッ!!』

 

「な、にぃ!?」

足元がかっちんこっちんに凍り、身動きが取れなくなる。

そんなモーガンの前に立ち、グリスはアクティベイトレンチを下ろす。

 

スクラップフィニッシュッ!!!』

 

そして、グリスは自分の胸に右拳を当てる。

 

「心火を燃やして、ぶっ潰す・・・!!」

 

次の瞬間、グリスの両腕から液状のロボットアームが出現。

「この俺の前にひれ伏せぇぇぇぇええぇええ!!」

そしてその腕をもってモーガンを殴り飛ばす。

「ぬぐあぁぁぁああ!?」

吹っ飛ばされたモーガンはそのまま壁に叩きつけられ爆発する。

「ふっ」

その様子に、グリスは鼻で笑う。所詮はパワードスーツ。ライダーシステムの足元に及ばないのか、胸部装甲が砕かれた状態で沈黙しているモーガンがそこにいた。

「カシラー!」

そこへ、オウルが飛んでくる。

「おう黄羽」

「終わったんならこっち手伝ってよ~。流石に僕たち三人じゃ倒せなくはないけど面倒臭いんですけど」

「はあ?お前らそれでもこの農場の三羽ガラスか・・・はっ、まあいい。祭りの続きと洒落込もうじゃねえか!」

そのままグリスはオウルを引き連れて、アルカノイズの殲滅に乗り出す。

 

 

 

 

「くそっ!くそぉ!」

健治が何度もバスターソードを振るう。その度に雷鳴が轟き、そしてアスファルトが砕け散る。

だが、目の前にいるこの男だけは―――砕けなかった。

「くそ、なんで、なんで勇者の剣が効かないんだ・・・!」

超強力な防御力を持つローグには、たかだか雷を出せるだけの剣の攻撃など、蚊に刺されたも同然のもの。

その理由は内部がヴァリアブルゼリーで満たされている全身各部を保護している装甲『クロコダイラタンアーマー』。

普段は柔らかく動きやすいそれは、攻撃を受けると瞬時に硬化、徹甲弾すらも受け止める防御力を発揮する。

そして健治の振るう剣はただの雷発生装置。

剣を振るう際の威力に、切れ味はあれどそれほどの重さはない。

「・・・・なるほどな」

そして、ローグは攻撃を受け続けて分かったことをつぶやく。

「剣術の心得はない・・・戦い方も素人同然・・・能力に頼るタイプか」

格闘戦における技術力は皆無。あるのは強力な一点突破の火力のみ。

 

―――彼にあるのはただ、一方的な蹂躙によって得た自尊心のみ。

 

「貴様のような奴は生きる価値もない」

アクティベイトレンチを下ろす。

 

クラックアップフィニッシュ…ッ!!!』

 

バスターソードを掴み、思いっきり引く。

 

「大義の為の、犠牲となれ」

 

右拳を握り締め、その右手の『デスローブグローブ』にエネルギーを充填。

「う、うわぁぁぁあぁああああ!!」

その拳を、健治に容赦なく叩きつけて、そのバスターソードを粉砕してぶっ飛ばす。

「ぎゃぁぁぁあぁあああ!!」

断末魔と共に吹っ飛び、落ちた先ですさまじい爆発を引き起こす。

「・・・・ふん」

ぶっ飛んで沈黙した健治を一瞥し、ローグはすぐさま残ったアルカノイズたちの方を見る。

「最後の仕上げと行こうか」

そう呟いて、ネビュラスチームガンを取り出し、すぐさまアルカノイズの殲滅に乗り出した。

 

 

 

 

 

「うばっしゃぁぁぁああああ!!」

タスクのアッパーがノイズをまとめて上空にぶっ飛ばす。

「うおりやぁぁぁああぁぁあ!!」

クローズの突撃がノイズを車に轢かれたが如く吹っ飛んでいく。

「このまま強化型シンフォギアが出来上がるまで、時間を稼ぐぞ!」

「くそ!それにしてもうざい!ノイズだけに騒音がすごい!」

「誰が上手い事言えって言った!?」

連携も糞もないが、二人は確実にそれぞれの戦い方で敵の数を減らして言っている。

そんな中で、

「うおーりやぁぁあ!!」

「ッ!?」

タスクにミカが襲い掛かる。

ミカがその手に持つカーボンロッドが、タスクの掲げたツインブレイカーに叩きつけられる。

「うぐっ!?」

どうにか防ぐも、そのまま押し込まれ、押し返して動きを止められる。

そしてすかさず、ミカがもう一本の手で生成したカーボンロッドでタスクを吹っ飛ばす。

「ぐあぁぁあ!?」

「ッ!?慧介!」

そのまま壁に叩きつけられ、突き破る。

 

 

 

「慧くん!」

「やはりいたか、オートスコアラー・・・!」

その様子は発令所からも見えていた。

『ぐ・・・この野郎・・・!』

瓦礫の中からタスクが這い出てくる。

『ジャリンコ~、アタシは強いぞぉ』

挑発のつもりか、先が錐状のカーボンロッドの上に乗ってミカはそう言ってくる。

『ガキだからってバカにしやがって・・・仮面ライダー舐めんな!』

『ん?うおあ!?』

その一方で、クローズの方で驚いたような声が上がる。

そちらを見てみれば、そこにはクローズを襲う獅子の毛皮を被った男がいた。

「なんだあいつは!?」

クリスが声を挙げる。

『なんだテメェ!?』

『ムハハハハ!俺はデイブレイク社の切り込み隊長『テラー・オブジビアス』!これより貴様ら仮面ライダーを皆殺しにし、この世界を終焉に終わらる為の礎を築きに来たのだぁ!』

毛皮の男、テラーはそう叫ぶ。

「なんなんだあの男は・・・!?」

「ッ!?あの男から、聖遺物の反応を検知しました!」

「なんだとォ!?」

藤尭の言葉に、弦十郎は驚きの声を挙げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、上等だ」

クローズが身構える。

「テメェらがどうして世界を壊したいとか思ってるのか知らねえが、それが目的ならすぐにぶっ倒してやるよ」

「お前に出来るかぁ。このテラー様に」

「やってみなくちゃ分からねえだろうが!」

クローズがテラーに突撃する。

「やってみるが良い!」

それに対し、テラーは避けようともせず、その場に仁王立ちする。

「うおりやぁぁああ!!」

そして、そのまま拳を叩きつけた―――が、

「んな!?」

テラーの体に拳は通らなかった。

(な、んだ、このメッチャかてぇ皮膚は・・・!?)

「ネメアーの獅子」

「ッ!?」

テラーが、拳を振り上げる。

「かつて大英雄ヘラクレスが討伐せしめたあらゆる攻撃、あらゆる武器を通さなかった無敵の猛獣。俺が身に纏うこの毛皮はまさしくそれであり、この毛皮を纏う事によって得られる恩恵は、かつての獅子の力、そして、絶対的不死性を与えられるのだ!即ち、貴様が俺に勝つ通りなど、どこにもないのだぁぁぁぁ!!」

拳がクローズを狙う。

「チィッ!」

寸でのところでクローズは躱して見せる。

「だったらァ!」

 

ツゥイィンッ!!』

 

ゴリラフルボトルとタカフルボトルを同時装填。

ボトルを装填することによって高速回転するパイルにエネルギーが充填、それをテラーの拳を避けながら懐に飛び込み、その肩にツインブレイカーを叩きつける。

 

ツゥインブゥレイクッ!!!』

 

有機物系ボトル二連による一撃。ゴリラのパワーとタカの爪の鋭さを利用した、敵を斬り裂く一撃が、テラーに叩きつけられる。

その一撃が肩に直撃し、テラーの肩は大きく抉り飛ばされ、その肩から鮮血が溢れ出る。

「ぐぉぉぉぉおお――――なんてな」

「ッ!?」

一瞬、絶叫のようなものをあげたテラー。しかし、すぐさまその顔を卑しい笑みに変える。

そして次の瞬間、抉られた方の傷が一瞬にして修復、元通りになる。

「何!?」

「言っただろう。俺は不死身だと」

クローズがテラーに蹴り飛ばされる。

蹴り飛ばされたクローズは地面を転がり、しかしどうにか踏み止まる。

「んなのありかよ・・・」

「―――ありなんだよ」

「ッ!?」

突如として背後から聞こえた声に、クローズは思わず振り向く。そうして脇腹から見えたものは、一匹の蛇だった。

「なん―――」

なんだ、と言い終える前に、蛇がクローズのどてっぱらに体当たり、そのまま大きく吹っ飛ばされる。

「ぐおあ!?」

一気に吹っ飛ばされるクローズ。

「げほっ、ごほっ・・・!?」

「だぁれが一人だと言ったぁ?」

そうして聞こえてきたのはテラーとは別の声。

タンクトップとミリタリーズボンをきた筋骨隆々な男であり、その男の腕には何匹かの蛇。

「蛇・・・?」

「ああ、俺は無数の蛇を創造・使役する錬金術が扱える。俺が命令を下し、その命令を実行する、あるいは殺されるまでは決して消えることはない」

見れば、先ほどクローズを吹っ飛ばした蛇は真っ黒な塵となって消えていた。

獅子と蛇。それぞれの扱う能力の差はあれど、二人だというのはかなり厄介だ。

そこへ、タスクが飛んでくる。

「ぐぅ!?」

タスクは、吹き飛ばされた衝撃で後ろへ飛び、そのまま靴底をすり減らす勢いで後退、かがむクローズと背中合わせになるように止まる。

「んっふふ~」

見れば、ミカが両手にカーボンロッドをもってやってきていた。

「くっそふざけた見た目して無駄に強い」

単身で戦闘特化のオートスコアラーを相手にするのは手厳しいのか。

「くそ、ビルドドライバーさえあれば・・・」

ビルドドライバーさえあれば、あの姿に変身できるというのに。

「でも、引けない理由がある」

「ああ、そうだな」

二人は、意地と根性で立ち上がる。

「俺の牙をそう簡単にへし折れると思うなよ・・・!」

「たかが不死身と蛇、負ける気がしねぇ・・・!」

拳を打ち合わせて、二人はそう気合を入れる。

「状況が見えてねえのかぁ?お前らは俺たちに勝つことは出来ねえんだよ」

「大人しく負けを認めて、バラバラにされた方が早く楽になれるゾ」

「それでも戦いがお望みなら、どうぞご自由に。ただし一方的にやられて死にな」

テラーが煽り、ミカが提案、そして蛇使いの男『ロジャー・セリオ』が嘲笑う。

対峙する両者。

数においても戦闘能力においても、そして能力的にも劣っているこの状況。

正直、勝てる見込みはない。だが、それでも二人は戦う事をやめない。

何故ならば、彼らの背中には、守りたいものがいるのだから。

そして、緊張の糸が張り詰め、今、切れようとしたその瞬間――――

 

「待て!」

 

鋭い一声が響き渡る。

その声が響いた方を見れば、港のアスファルトの上に仁王立ちする未来の姿があった。

「未来!?」

「未来さん!?」

予想外の人物の登場に、クローズとタスクは同様に驚く。

「なんだぁあのガキ?」

「確か、ガングニールの装者の級友だったか?戦えねえ筈なのになんでこんなところにいるんだか」

そう、未来は戦う事は出来ない。であるならば、何故ここにいるのか。

 

 

 

「小日向!?」

「あいつ、なんであんな所に!?」

そして、未来の登場に驚いているのは、何も現場の彼らだけではなかった。

「今すぐ連れ戻せ!」

弦十郎がすぐさまそう指示を飛ばす。だが―――

 

『―――そうはいかない』

 

突如として艦内放送から、戦兎の声が響く。

「桐生!?」

「戦兎君、それは一体どういう事だ!?」

『あー、説明すると色々長くなるんだが・・・とりあえず全ての責任は俺が持つ。というわけで、あんたに一つ要求させてもらう』

おそらく自室の研究室でビルドドライバーの改修を行っているだろう戦兎が、無線を使って言う。

『七人目の装者の登録を、S.O.N.G司令であるあんたに要求する』

「七人目の装者・・・だとぉ!?」

その情報は、確かな衝撃をもって発令所に伝播した。

 

 

 

 

クローズが未来に向かって叫ぶ。

「何してんだ!?早く逃げろ!」

「おっと、そうはいかないんだゾ」

アルカノイズが未来を取り囲む。

「くっ」

「龍我さん!」

しかし、未来は戸惑いもなく、動揺もなく、ただ冷静に、龍我に要求する。

「ドラゴンフルボトルを貸してください」

「はあ?なんでそんなもんを―――」

「いいから早くッ!!」

「ッ!?」

その鋭い怒声に、クローズは驚く。

今まで、未来がこれほど強く要求してきたことがあっただろうか。

それも、あんな険しい表情で、真っ直ぐに見つめてきたことがあっただろうか。

いつも、後ろで、響の帰りを待つだけだった少女が、あんな目をするだろうか。

いつもとは違う、未来の様子にクローズは呆気にとられる。

しかし、すぐさま頭を掻くと、腰のボトルホルダーに手を伸ばす。

「っあぁ、もう!どうなっても知らねえぞ!」

「え!?龍我さん!?」

そしてクローズがドラゴンフルボトルを握り締め、未来に向かってそれを投げた。

 

 

 

『俺がリンク・アニマルを考案したのは、一つの前例があったからだ』

「前例?」

戦兎の懺悔ともとれる言葉。それに発令所にいる者たちは耳を傾ける。

『俺がそれに気付いたのは、ある機械の部品の一部が、とある聖遺物と融合している事に気付いた時だった。そしてそれが、とある少女の歌に反応し、またその機械が、シンフォギア・システムと同じ、聖遺物をエネルギーに変換、アーマーとして再構築する機能を有している事に気付いた』

そこで一つの実験を慣行。

その少女と、その機械で、その聖遺物の起動実験を行ったのだ。

結果は―――

『結果は、シンフォギアとして起動に成功。ついでLiNKER無しでも第一種適合者と差し支えないほどの運用状態が可能だという事を確認できた』

「待て!シンフォギアを起動した場合、その時必ずアウフヴァッヘン波形が検出される筈だ!?だが、今日にいたるまで、装者以外の反応を一度も検出されなかったぞ」

『覚えはないか?どんなレーダーも索敵能力も無効化する能力を持った超ステルス機能を持った聖遺物の事を』

その言葉に、マリアが呟く。

「神獣鏡・・・神獣鏡の持つステルス能力で、シンフォギア起動の際のアウフヴァッヘン波形を隠蔽したのね・・・」

「待てよ。それじゃあ、つまりあの子があそこにいるってことは・・・」

そう、そうであるならば、今、未来が戦場(あの場)にいる理由は―――

 

 

 

 

 

 

 

「キュールルールルールルールルッ♪」

クロが、未来の傍にやってきて、未来の左手に収まる。

そして未来は、クローズから受け取ったドラゴンフルボトルを振り、シールディングキャップを開け、それを背中に装填する。

「行こう、クロ」

「キュル!」

未来の言葉に、クロは頷く。

そして、未来はクロのウェイクアップスターターを押す。

 

『STANDBY!』

 

ハイテンションな音声が聞こえると同時に、未来はクロを上空へ投げる。

すると次の瞬間、クロからとてつもない程の炎が放出され、それが一気に形を成す。

それは、紫色の炎を纏った、クローズドラゴン・ブレイズだった。

そのクローズドラゴン・ブレイズが、未来の周りを自由気ままに飛びまわる。

その様子を、未来は見上げて、ふと思う。

(響・・・)

それは、オートスコアラーに敗北し、未だメディカルルームのベッドの上で寝ているだろう、親友を案じてのもの。

それは、後悔か。否、一つの決意だった。

(あの時、私がこの子を纏っていれば・・・なんて言わない)

だって、そうでなければ、響は自分の歌を取り戻せなかったのだから。

だから、あの判断を間違いとは思わない。ほんのちょっぴりの悔しさはあれど、それがあったから、響は、再び立ち上がることが出来たのだから。

だから、今、まだ君が眠っているというのなら―――

(せめて今だけは、私に響を守らせて)

その決意を胸に、未来は―――歌う。

 

 

「―――Rei shen shou jing rei zizzl(鏡に映る、光も闇も何もかも)―――」

 

 

 

『そうだ。仮称『第七号聖遺物』シンフォギア/リンクアニマル『神獣鏡』装者『小日向未来』―――お披露目の時間だ』

 

 

 

龍が、未来の体に纏わりつく。龍の吐く炎が、未来の戦装束を形成し、武装を作り出し、その身を超常の存在へと昇華させる。

頭部にはバイザー付きのヘッドギアが取り付けられ、その姿は、あの日未来が身に纏った、最凶のギアそのものだった。

ただ一つ違うとすれば、そのヘッドギアのバイザー部分が、龍の顔に見えない事はない事だろうか。

 

 

 

それは『鏡』。森羅万象、全ての景色、光景、光、闇すらも映し出し、敵の全てを曝け出し、また自らをも曝け出す、凶悪なる力。

全てを弾き、全てを消し、全てを受け入れ、全てを蹂躙せしめる。

それは最弱、されど最凶の異名を与えられた『聖遺物殺し(レリックキラー)』。

ああそれこそは、かつて失われた、剣、弓、槍、腕、鎌、鋸に次ぐ、『鏡』の第七のシンフォギア。

 

 

神獣鏡(シェンショウジン)』のシンフォギアの起動である。

 

 

 

Ready(準備完了). You can fight anytime(いつでも行けます)

 

 

視界に表示される文字列。それをダイレクトに理解し、未来は、バイザーを開き、素顔を晒す。

 

 

「――――始めに消されたいのは誰?」

 

 

 

あの日のような、虚ろな目ではない。確固たる決意の灯が宿った目で、未来は敵を睨みつけた。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルド!

「おいおい一体どうなってんだ!?」

神獣鏡を纏う未来。

「勉強不足ですね」

その力をもって、戦う未来。

「今度はワタシが相手だゾ!」

それでも強い、敵の襲撃者。

「なんと鋸!」

そこへさらに現れるシンフォギアを纏った調と切歌。

「確実に一人は仕留めてみせます」

激化していく戦い。その行方は―――


次回『臆病者たちの償いとプライド』






シンフォギア・ビルドのOPについて、いくつかシーンを想像してみた。




まずイントロにおけるセリフ
一期、二期『創造された新世界、その世界ではノイズが蔓延り、人々はその恐怖にさらされていた』

三期『ノイズがいなくなった世界で、錬金術師の魔の手がせまる。その野望を阻止するため、仮面ライダーとシンフォギア装者が立ち上がった』

四期『地球を滅ぼすほどの力を秘めた『神の力』。それを巡り、錬金術師と仮面ライダー、シンフォギア装者たちの戦いが幕を上げる』

五期前半『海底奥深くに眠っていた神の棺がその姿を現す。その力を巡り、数々の人間の思惑が入り乱れる』

五期後半『世界を滅ぼす力を秘めた神の腕輪がその力を目覚めさせた。その力を操るシェム・ハの前に、仮面ライダーとシンフォギア装者が立ち塞がる』

→タイトルロゴ→戦兎がボトルを振っている(このまま)黒板カキカキ(歩き)ビルドとマシンビルダー登場(続けてる)ウィリーシーンとビルダー枠内キャラ登場(今夜も真っ直ぐ、一人の足跡辿って)戦兎が黒板を消す(果てしない)→翼が歌っているシーン《だけど君だけは》→部屋で未来に響が抱き着くシーン(どこかで)右側に龍我、響、翼。(待っ)左側に弦十郎と了子含む()(二期からいなくなる)二課組()ここで主に黒幕が単独登場(笑顔)戦兎の家にて一斉に登場(絶やさずに)美空の代わりに未来(There You Will)手にはクロ→電子レンジがバンっと空く(Be The One)戦兎が嬉々としてボトル取りに行く(Be The One)ビルドへ変身(All Right)決めポーズ(明日の地球を投げ出せないから)ビルドライダーキック(Be The Light)響のスクラップフィスト(Be The Light)→刀を払う翼《Oll Light》→クリスのガトリング乱射(強く)調と切歌(なれるよ)マリアの蛇腹剣(愛は負)キャロルローブ装着(けない)ボトルをそれぞれとる(何かを助け)戦兎、翼、龍我、クリス(救って)がボトルを振っている(抱きしめ)あの夕焼けのライブステージに数式の嵐(心に触れて)電流の流れる刀を抜く後ろ姿のクライム(届くよ伝わる)タイガーブレイズと共に三点着地するタスク(Be The One)バイザーを光らせるギア未来(Be The Light)ブレイズ背中のクローズチャージ(メッセージ)複眼光らせるグリス(送るよ)葛城が奏に変わって手を触れ合わせるシーン(響くよ)→潜水艦の看守でビルドとギア翼が風になびかれながら海を見るで締め。


とまあ、第三期イメージOPでした。
ぜひBe The One(Sing is Tsubasa)で。

ではまた次回で!


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臆病者たちの償いとプライド

戦「とうとうウルトラマンともコラボを始めやがったシンフォギアェ・・・」
一「ここまで来たんなら仮面ライダーともコラボしてほしいよな」
響「出来るとしたらジオウかディケイドですよ・・・?」
未「あるいは今ホットなゼロワンかな」
翼「最近、コロナ騒ぎで戦隊の方が何やら大変なことになっているようだが・・・ちなみに作者は戦隊に興味はなく、見ていたとしてもシンケンジャーまでです」
ク「確かもってた玩具が旧型のディケイドライバーとゲキレンジャーの合体ロボだっけ?」
龍「確か、はじめは戦隊ものにハマってて、その後にライダーにハマって、んでもってドライブまで見て、それでジオウでライダー魂が再燃したんだっけか?」
響「あ、ちなみに作者は忘れやすい性格なのでこの記憶に確証はありません」
戦「まあ何はともあれ、パンドラボックスによって引き起こされたスカイウォールの惨劇から十一年、新世界を創造した仮面ライダービルドこと天っ才物理学者の桐生戦兎は、突如襲い掛かってきた錬金術師とアルカノイズに対抗するために、シンフォギアとライダーシステムの強化に乗り出したのであった」
響「そこへ襲い掛かる錬金術師とデイブレイク社の魔の手、どうにかこうにか完成したライダーシステムでグリスとローグは撃退に成功したんだけど、何故か基地に現れた人たちだけはものすごく強いんだよね・・・」
翼「それをもって、私たちの予想を裏切って、運命とでもいえばいいのかの如く、小日向未来がシンフォギア『神獣鏡』を纏ったのであった」
未「その私の活躍が見られるシンフォギア・ビルドGX編第九話をどうぞ!」
響「未来が自分を誇示した!?」


未来がシンフォギアを纏った。

 

それは、その場にいる者たちに、確かな衝撃を与えた。

「おいおい一体どうなってんだ!?」

予想外の装者の出現。それにデイブレイク社の二人は動揺を隠せない。

「シンフォギアは全部で六つの筈だろ!?」

「まさか、消滅した筈の七つ目・・・だが、奴らにそれを手に入れる手段はなかった筈だ!?」

完全なる想定外。それほどまでに、未来という『切り札(ジョーカー)』は彼らの意表を突き、

 

「―――閃光、始マル世界、漆黒、終ワル世界」

 

未来が先手を取った。

放たれたのは、未来がその手に取った鉄線を円状に掲げて放たれる散乱する光―――

 

閃光

 

それらが、いつの間にか展開されていたミラーデバイスによって反射、ほぼ無数と言える光が乱射し、残っていたアルカノイズを纏めて消し飛ばす。

そのまま、全方位からテラーとロジャー、そしてミカを狙い撃つ。

それに対してミカは展開したカーボンロッドの壁で防御、一方ロジャーは回避を選択し、テラーは正面から迎え撃つ。

彼の纏う『ネメアーの獅子』の特性は不死性と防御力。纏う事によってその身に不死を与え、その上、ありとあらゆる攻撃を無効化するに等しい防御力を与え、実質絶対的な無敵性を付与する力がある。

それをもってすれば、たかが光線が殺到した所で、何の意味もない――――

「馬鹿、避けろ!」

そう、テラーが避ける事を選択しなかったのは、ネメアーの獅子の特性に頼り切っていたから。

対して未来の纏う神獣鏡は『聖遺物殺し(レリックキラー)』の異名を持つ、聖遺物に由来する力の分解を主とする。

即ち―――

「ぐあぁぁあ!?」

ネメアーの獅子の不死性は、無効化される。

「ぐあぁあ・・・何故だぁ、何故ネメアーの獅子の毛皮が・・・」

「勉強不足ですね。私の纏う神獣鏡は全ての聖遺物を分解する。その毛皮が聖遺物というのなら、このシンフォギアは容赦なく分解する!」

物理的攻撃力に特化しているほかのシンフォギアとは全くの一線を画す神獣鏡のシンフォギア。

その特殊性故に、その戦闘能力は他のと比べ劣り、全シンフォギア中、最弱と揶揄されども、同時にその特性故に最凶と謡われている。

戦闘能力を捨て、特殊能力に特化したギア。

ステルス、ビット、光線、分解など、他のシンフォギアにはない機能を備え持っている。

故に、聖遺物を使う者にとって、未来という存在は、あまりにも―――天敵過ぎた。

「チィッ!だったらテメェを先にぶっ殺してやる!」

ロジャーがその体から蛇を生み出し、一気に未来に迫らせる。

「装者は七人もいるんだ。ついでお前は計算外のイレギュラー!イレギュラーを排除した所で、別になんのお咎めもなしだよなァ!!」

蛇は恐ろしいスピードで未来に迫る。しかし、

「その程度で、」

なんのアクションも起こしていない筈の未来。その全く別方向から神獣鏡の光線が降り注ぎ、一瞬にして蛇たちを消し飛ばす。

「私を仕留められると思ってるんですか?」

「な・・・ん・・・!?」

やけにあっさりと防がれた自分の攻撃に、ロジャーは動揺を隠せない。

何故なら、あの蛇は迎え撃つ為に放たれた攻撃を勝手に避けるようにプログラムしておいたのだ。

それが、その蛇が反応できない角度とタイミングで、こうもあっさりと倒されてしまえば、驚くのも無理はないだろう。

「今度はワタシが相手だゾ!」

しかしすかさず今度はミカが強襲。

未来の背後からカーボンロッドを振り下ろす。

それを未来は振り向いて対応。

 

Trace on(模倣開始)―――Battle Model CROSS-Z』

 

後頭部にあるヘッドギアパーツが瞳孔のように可動。

すかさず未来はその振り下ろしを回避。続けて振るわれる横なぎを下がって躱し、そして続く突きを掻い潜り、そして、右腕に帯を任せて―――力任せにそのどてっぱらに拳を叩き込む。

「うごほ!?」

そして、左手にもちかえた鉄扇を両手で握り締め―――クローズがビートクローザーを振るうが如き動きで一気に薙ぎ払い、ミカを吹っ飛ばす。

「うわーお!」

寸でのところでカーボンロッドでその一撃を防いだミカ。しかし、その顔は嬉々として未来を見ていた。

「オマエ、へし折りがいがあるゾ!」

「へし折れるものなら折ってみろ!」

再びミカが未来を襲い、未来はそれを迎え撃つ――――

 

 

 

 

 

『ダイレクトフィードバックシステムを使い、俺たち仮面ライダーや装者の動きを模倣。それによって、戦闘技術を補い対応させる。さらに、クロが敵の動きやミラーデバイスを装者の代わりに操作、最適解をラーニングすることで、常に最善手で敵と戦う事ができる』

「さっき龍我みたいな動きしてたのはそういう事かよ」

発令所にて、未来が激しくミカと打ち合っている様子がうかがえる。

しかし、未来の動きはたびたび変わっており、クローズの動きに似ているかと思えばグリスに、グリスに似ているかと思えば翼に、翼に似ているかと思えばビルドに、様々なバトルスタイルでミカと互角に渡り合っていた。

そして、その最中で、だんだんと未来がミカを超えるような動きをし始める。

それがまさしく、神獣鏡に搭載されたラーニングシステムとダイレクトフィードバックの合わせ技。

相手の動きを学習、予測し、今までのデータをもとに演算していく末導き出した最適解の戦闘法を実行する。

それこそが、戦兎考案のリンク・アニマルによって形作られたシンフォギア『神獣鏡』の力。

学習する度に強くなる。

低出力な反面、それをあまりあまって補う学習能力。

それが最凶とうたわれる所以――――

 

 

 

 

未来とミカが激しく打ち合う。

カーボンロッドの一撃を鉄扇を受け流し、すかさず回転を掛けて鉄扇を振るう。

その一撃がミカの腹に炸裂するかと思いきや、割とあっさりと下がられる。

そしてすかさず、未来のミラーデバイスから光線が放たれ、それがミカに襲い掛かる。

しかし、それをミカはカーボンロッドで迎撃。ミカの放つカーボンロッドは聖遺物ではない為、迎撃が可能なのだ。

だから未来の放った光はあっさりと防がれる。

「くっ」

(仕留めきれない)

機動性でならばこちらが勝っている。だが、根底の戦闘力や技術ならば、向こうの方が未だ勝っている。

他人の戦い方をトレースして戦う付け焼刃の自分とは、根本的に違うのだ。

「どうしたぁ?もう終わりか?だったらこっちからいくゾ!」

その次の瞬間、

「あぶねえ!」

「ッ!?」

未来の真横からアルカノイズが強襲してくる。

未来の使う神獣鏡は未だ対アルカノイズ用のバリアコーティングを施していない。

そんな状況でアルカノイズの一撃を受ければ、すぐさまシンフォギアが分解されて戦闘不能に陥る。

そんな敵に対して、未来が取った行動は――――

 

『Flare coating in arm』

 

左手を、掲げるだけだった。

 

「な!?」

「何を・・・!?」

その行為に、誰もが驚愕する。

対アルカノイズ用のバリアコーティングがされていないシンフォギアで、何故自ら受け止めるような行為に及んだのか。

その理由は、アルカノイズの解剖器官がその左手に直撃した瞬間に分かった。

未来の左手に触れたアルカノイズの解剖器官、しかし、未来に左手は、その左手に纏われたギアインナーは分解されなかったのだ。

その事態に、さらなる驚きが場を占める。

何故未来のギアが分解されないのか。

その理由は、未来に左腕に纏われた、僅かに見える青いオーラ。

「あれは・・・ドラゴンの炎?」

そして、その炎を扱うクローズだからこそ、それの正体に気付けた。

 

未来はシンフォギアを纏う前、クロにドラゴンフルボトルを装填していた。

これは、戦兎があえて隠した、リンク・アニマル第四の機能『フルボトルスロットの搭載』だ。

これにより、シンフォギアの戦闘能力をさらに向上。様々なバリエーションを生み出すことが可能なのだ。

 

未来がドラゴンフルボトルを使用した理由は、クロに対ノイズ用のバリアコーティングの他に、ドラゴンフルボトルの炎の力を新たなバリアとして二重展開することで、アルカノイズの解剖器官が直接、ギアに触れることを防ぎ、なおかつ―――逆に燃やすことを可能にした。

 

結果、ドラゴンの炎が未来の左手に触れたノイズを焼き払い、跡形もなく消滅させる。

 

アルカノイズが消滅。しかし、それでもアルカノイズの大群が未来に襲い掛かる。

いくらフルボトルによってアルカノイズの解剖器官を無効化できるとは言え、それでもビルドドライバーなどのライダーシステムに比べたら、劣化版と言って差し支えないほど。アルカノイズに解剖器官が効かないのは、クロが設定した身体機能の一部だけなのだ。

だから、設定を変更し、バリアコーティングを腕の帯に変更。それをもって、アルカノイズを叩き伏せる。

そのアルカノイズの陰を縫って、ミカがカーボンロッドを突き出す。

「ッ!?」

完全に懐に入られた。回避は不可能。防御も間に合わない。

だがしかし、それは未来とミカの間に現れた、謎の一枚の壁によって防がれる。

「盾!?」

否、それは―――

「なんと鋸!」

月読調の『鏖鋸・シュルシャガナ』だ。

巨大なヘッドギアから放たれるもう一方の鋸の一撃がミカを襲う。

一撃目はカーボンロッドで防ぎ、続く二撃目は躱し距離をとる。

「おおっとぉ?」

突然の乱入者。

「調ちゃん!」

だがしかし、未来の背後からテラーとロジャーが奇襲。

(まずはこいつから)

(仕留めてやるっ!)

聖遺物を分解する力を持つ未来を、確実に仕留めるつもりなのだ。

「ザババの刃は二つで一セット」

「「ッ!?」」

「その通りなの、デスッ!!」

その二人に向かって、今度は鎌の一撃が襲い掛かる。

それを寸でのところで躱す二人。

その鎌とは当然『獄鎌・イガリマ』。即ち――――暁切歌だ。

 

ここにきて、ザババの二刃コンビが登場する。

 

「未来さん、お待たせしました」

「いいタイミングだよ二人とも」

「こっから反撃開始デース!」

「切歌!?調!?なんで!?」

三人の元にクローズとタスクが走ってくる。

「慧くん・・・」

「どうしてここにいるんだよ!?LiNKERもないのに・・・」

「ごめんなさい慧介君。私がこうしたの」

二人をかばう様に、未来が前に出る。

「どういう事だよ?」

クローズが尋ねると、未来は話す―――

 

 

 

 

実は、龍我と慧介が出ていった直後、調と切歌もすぐに発令所を誰に気付かれるでもなく出たのだ。

「潜入美人捜査官眼鏡で飛び出して、一体何をする気デスか!?」

本部の廊下を駆けていく最中、切歌は調に尋ねる。

「慧くんたちのお手伝い」

「なんデスと?」

ギアを纏えないのにどうやって手伝うというのか。

その事を、説明しようとした二人の背後から、突如として声があがる。

「調ちゃん、切歌ちゃん」

「「ッ!?」」

聞き覚えのあるその声に、二人は立ち止まり、そして振り返る。

「未来さん・・・」

「何してるの?」

未来は、険しい表情で二人を見据えていた。

「あー、えっと、これは・・・」

「今重要なのは、強化型シンフォギア完成までの時間を稼ぐこと。だけど、きっと出てくるのはノイズだけじゃない。奴らもやってくる・・・」

オートスコアラーと、デイブレイク社。

そのどちらか両方がくるかもしれない。

いくら戦う度に強くなるスクラッシュドライバーと言えども、その力を凌駕する敵が現れれば、太刀打ちできるか分からない。

であるならば、せめてそのサポートに回って、時間を稼ぐ手助けになればと。

調にはそういう思惑があった。

「LiNKERもなしに、どうやって戦うの?」

未来は、二人にそう告げる。

「あてならある」

調はすかさず返す。

「え?そうなのデスか?」

「うん。この先にあるメディカルルームに、きっと・・・」

「それを使って、果たしてあなた達は戦えるの?」

しかし、未来は彼女たちにきつい言葉をぶつける。

「流されるだけだった、信念も何もないあなた達が、戦場に立って、その力を存分に振るえるの?」

それは、未来が彼女たちに告げる、厳しい言葉だった。

ただ、後ろで見ている事しかできない。だけど、待つ者の苦しみを知る、彼女の忠告。

それに、彼女たちは―――

「・・・確かにそうだった」

絞り出すように、調は言う。

「私たちは、流されるままに力を振るってた。成り行きに任せて、やけになって、ただ自分の力を誇示していただけだった。だけど、それでも今動かないと、私たちは一生このままなんだ。ここで動かなきゃ、私たちは、永遠に変われない!」

今までの悔しさを涙にして、調は未来に向かって吠える。

「これ以上、慧くんに引き離されるのは嫌、だから私たちは行きたいんです!」

「調・・・」

調の叫びに、切歌は調を見つめ、そして、すぐに何かを決意した表情になると、調の前に立ち、未来を睨みつける。

「何を言われようと、アタシたちは行くデス!それが、アタシたちの覚悟デス!」

「切ちゃん・・・」

そんな、二人に未来はしばし見つめ、やがてため息を一つ吐いた。

「仕方がない・・・」

そう呟いたと思うと、未来はポケットから一枚の紙を取り出す。

そして、それを二人に差し出す。

「これは・・・」

「LiNKERの隠し場所が書いてある」

「え!?」

その言葉に、二人は驚く。

「事前に調べておいたから」

「どうして、未来さんがLiNKERを・・・」

「私も色々あってね。・・・先行って待ってるから」

「キュールル!」

未来は二人にそう告げて、未来の背後に隠れていたクロがそう鳴き、そして二人の横を通って先に行く。

その後ろ姿を、二人は見えなくなるまで見つめていた。

 

 

 

 

 

「LiNKER model-K・・・ってそれ確か奏の奴か?」

「まあ・・・そんな所です」

未来はクローズの言葉にそう頷く。

「全く、何をしてるんだお前ら・・・」

「ごめんなさい・・・でも、いつまでも立ち止まったままなんて嫌だから・・・」

変われない事に対する焦りや不安が、今彼女たちをここに呼び込んだのかもしれない。

そして、それを知りながら黙認していた自分もまた、同じようなもの。

「分かった。一緒に戦おう、調、切歌」

タスクのその言葉に、調と切歌は顔を嬉しそうに綻ばせる。

「・・・大丈夫なのか?」

「今は、頼るべきだと思います。戦力が不足している今は」

アルカノイズの攻撃を受けても変身解除にされないクローズ、タスク、その上超高性能コンピュータたるクロのバックアップを受けて類稀なる戦闘能力を獲得している未来、そして、この中で劣るものの、強さはそれなりの調と切歌。

今この場で戦えるのは、この五人しかいない。

その最中で、突然、未来のバイザーが閉じる。

「クロ・・・?」

そうして、未来のバイザーに表示される、クロの提案する戦略―――

「・・・分かった。それで行こう」

それに未来がうなずき、再びバイザーを開き、未来は四人に向き直る。

「慧介君、調ちゃん、切歌ちゃんはミカの相手をして」

「いいんデスか?」

「奴は、その・・・響さんの・・・」

「うん、いいの。龍我さんはあの蛇の人をお願いします」

「別にいいんだけどよ・・・お前、大丈夫なのか?」

「大丈夫です」

未来は、テラーの方を見る。

「確実に一人は仕留めてみせます」

「作戦会議は終わったか?」

ミカが彼らににじり寄る。

「さっきは不意打ち喰らったが、今度は逃がさねえぜ」

「ムハハハ、どれほど数が揃おうと、貴様らが俺たちに勝てる通りはないのだぁ!」

ロジャーとテラーの二人も、ミカと挟み込むように立つ。

対立する二勢力。

「行きましょう」

「おう!」

未来とクローズが並び立つ。

「慧くん」

調は、タスクにLiNKERを手渡す。

「ん?なんで俺?」

「私は貴方に打ってもらいたい」

「アタシも、打ってもらうなら慧介の方がいいデス」

そう言って、切歌もタスクに自分用のLiNKERを充填した拳銃型の圧縮注射器を渡す。

 

 

 

 

「更にLiNKERを打ち込むつもりか!?」

「無茶だ!あれは、奏用に作られたLiNKER、その負荷は尋常じゃないんだぞ!?」

新たなLiNKERを打ち込もうとする調と切歌の様子に、騒然としていた。

「二人を連れ戻せ!これ以上は―――」

「やらせてやれ」

弦十郎の言葉を遮って、シンがそう言う。

その言葉に、弦十郎は言葉を詰まらせる。

「おい、お前何言って・・・」

その言葉に、クリスが喰ってかかろうとするが、それをマリアが止める。

「これは、あの日道に迷った臆病者たちの償いでもあるの」

「臆病者・・・?」

自分で何かを決められなかった、哀れな臆病者。

自らの意思で先陣を切り、敵であった戦兎を信じていたシンや、己の罪を自覚し、自分の都合で自分より圧倒的に強い龍我に一人立ち向かった慧介とは違う、まだ幼い少女たちの罪滅ぼし。

「臆病者たちの償い?」

その言葉に、マリアは頷く。

「誰かを信じる勇気がなかったばかりに、迷ったまま独走した私たち。だから、エルフナインやセレナがシンフォギアを、戦兎がライダーシステムを完全に蘇らせてくれると信じて戦う事こそ、私たちの償いなんです!」

そう言って、唇をかみしめるマリアの口端から、血が僅かに滴る。

その様子に、彼らは黙って、その戦いを見守る――――

 

 

 

 

 

「おいおい、これじゃあ話に聞いてたウェルのやり方と同じじゃねえか?」

「あの男と慧くんは違う。それに、慧くんは無理矢理やらないから」

「信用されたもので・・・ああ良いよ。どうなっても知らねえからな!」

そう言って、慧介は二人の首筋にそれぞれの注射器を押し付け、一気に中身を二人の体に注入する。

「「うぐっ!?」」

その瞬間、二人の体に、一瞬の異物の拒絶反応が起こる。

しかし、それを気にして第二種適合者はやってられない。

「あ・・・」

しかし、そんな中で調が口元に手をやり、自身の鼻から流れ出た液体に目をやる。

「・・・過剰投与(オーバードーズ)

「二人とも、大丈夫か?」

「鼻血がなんぼのもんかデス」

「よし、行こう!」

タスク、調、切歌が構える。

「うん、三人で、一緒に!」

戦いの火蓋が、切って落とされる。

「切り刻むデスッ!」

先陣を切るは切歌。鎌を二本取り出し、それを重ね合わせ、三日月形の刃が左右についた形の鎌を形成する。

 

対鎌・螺Pぅn痛ェる

 

それと同時に調が巨大な円鋸を展開。

「お?面白くしてくれるのカぁ!?」

その手にもった極太のカーボンロッドを投擲するミカ。

それを躱し、二人はミカに向かって走り出す。

それと同時に、クローズと未来が走り出す。

 

「危険信号点滅 地獄極楽どっちがイイDeath!?」

 

切歌が先陣を切り、未来がホバー能力によって前に出る。

ミカの放つカーボンロッドを肩アーマーのブースターによって加速すると同時に叩き落す切歌は、そのままその大鎌をミカに叩きつける。

ミカはそれをカーボンロッドで防御する。

しかし、LiNKERの連続投与で適合係数及びギアの出力が上がった今、その防御はすぐさま砕け散る。

それをミカは嬉々として回避する。

 

 

突っ込んでくる未来に対して、ロジャーが蛇を無数に放つ。

それに対して、未来は巧みに地面を滑り、襲い掛かる蛇を回避する。

だが、相手は作り出されたとはいえ生物。完全に避けきれる訳ではない。

だからこそ、未来は避けきれない蛇を帯をもって叩き落す。

 

残響

 

その一撃一撃が蛇を瞬く間に弾き飛ばしていく。

そのまま未来は蛇を掻い潜り、そのまま一気にテラーの脇を抜け、その腕に帯を巻き付かせる。

「なっ!?」

「貴方の相手は、私です!」

次の瞬間、未来は帯を使ってテラーを投げ飛ばす。

「テラー!?」

「お前の相手は俺だ!」

すかさずクローズがロジャーに拳を叩きつける。

「てっめ・・・」

「へえ、蛇に頼りっきりかと思えば、お前も中々鍛えてんじゃねえか!」

「くっそがァ!」

クローズとロジャーが激しく打ち合う。

接近戦に持ち込めば近接格闘に秀でているクローズの方が上だろう。

だがしかし、ロジャーはそれなりの格闘戦も出来るが本来ならば絡め手を得意とする。

即ち、蛇を使った死角からの奇襲攻撃。

「ぬぐあ!?」

蛇が背後からクローズの脇腹に体当たりをかます。

「おらよっ!」

そこへ極太の蛇を腕に巻き付かせたロジャーの拳がクローズに叩きつけられる。

それをどうにか両腕を交差させて防いだクローズだったが、その以外な威力に吹き飛ばされる。

(すぐにテラーの所に戻らねえと――――)

 

シングルフィニッシュゥッ!!!』

 

すぐさまテラーの元に向かおうとしていたロジャーの体に、突如として鎖が巻き付き、拘束する。

「そう簡単に行かせねえぜ・・・!」

見ればロックフルボトルをツインブレイカーに装填したクローズが鎖を出し、ロジャーを拘束していた。

「くっそがぁぁあ・・・!!」

その様子に、ロジャーは苛立ちをもってクローズを睨みつけた。

 

 

 

 

切歌がミカのカーボンロッドを粉砕、その背後からすかさずタスクが強襲。ミカは再び生成したカーボンロッドで対応し、しかしタスクは怒涛のラッシュでミカを追い詰める。

その拳はミカの生成したカーボンロッドにひびを入れ、再び砕く。

そしてすかさずタスクは後ろに飛び、調がヘッドギアから巨大鋸を投擲する。

 

γ式 卍火車

 

放たれる円盤。しかしミカはそれすらも生成したカーボンロッドで弾き飛ばす。

だがそんなミカにもすかさず車輪の鋸を展開。それに乗って一気にミカに体当たりをかます。

 

非常Σ式 禁月輪

 

それすらも真正面から受け止めるミカ。だが、適合係数が遥かに上昇した調の禁月輪は、ミカの持つカーボンロッドを容易く寸断する。

複数のギアが共鳴、同じメロディを奏で、複数の装者が同時に歌を唄う事で、バトルポテンシャルを通常の数段以上に引き上げる『ユニゾン』。

それをもってすれば、ミカとの戦闘力の差は埋められる。

対してタスクのスクラッシュドライバーは戦えば戦うほど強くなる。

先ほどミカに圧倒されていたとは言え、徐々にその差は埋められて行っている。

この二つの要因が重なれば、全オートスコアラー中最強のミカを退けられるのも、夢ではない。

 

 

 

テラーが想像以上の速さで未来に迫る。

「―――ッ!?」

それに未来は息を飲み、テラーの放つラッシュを紙一重で躱していく。

想像以上の速さ。先ほどは不意打ちで圧倒出来たとはいえ、相手は完全聖遺物。そのポテンシャルは、欠片であるシンフォギアでは遠く及ばない。

それが証拠に、徐々に拳が未来を捉えていく。

「く・・・うぅ・・・!」

そしてついに、テラーの拳が未来を捉える。未来は寸での所で鉄扇で防ぐも、その衝撃は尋常ではなく、その腕がかなり痺れる。

「どうしたどうしたァ!?その程度かァ!?」

テラーが、獣染みた速さで未来に接近、未来にさらなる攻撃を仕掛ける。

「調子に―――」

その瞬間、未来のバイザーが閉じる。

その途端、未来のギアに程こかれた竜の意匠が赤く輝きだす。

「乗るなァ!」

すると未来の動きが先ほどまでより遥かに良くなる。

ミラーデバイスの数が数を増し、いくつもの光がテラーを襲う。

「チィっ!」

それをテラーは獣故の柔軟性と身体能力で巧みに回避してみせる。

その光の雨を掻い潜り、テラーのボレーキックが未来の顔面を狙う。

それを未来は体を大きく逸らして回避。

それから二人の戦いは、さらに激化していく。

 

 

 

 

 

 

戦場は移り、発電所のソーラーパネルの上へ。

ソーラーパネルの上に乗ったミカに対して、調と切歌が左右から、タスクが正面から攻撃を仕掛ける。

そうしさ錯綜する三位一体の攻撃。その一撃を、ミカはその手にもったカーボンロッドで防御する。

「子供でも下駄を履けばそれなりのフォニックゲイン・・・ついで仮面ライダーの方も打ち合う度にどんどん強くなる・・・」

その事実に、ミカはさらにその表情を歪める。まさしく、戦いを楽しむ戦闘狂の如く。

「そのにやけ面今すぐにぶん殴ってやる!」

タスクが前に出る。

ミカの生成するカーボンロッドに対してタスクはアタックモードにしたツインブレイカーを叩きつける。

「うぉぉぉぉぉぉおお!!」

「ッ!?」

そした叩きつけたタスクのツインブレイカーから伝わるパワーが、一気に急上昇していくのをミカは感じ取る。

それは即ち、タスクのハザードレベルが上昇している事の証拠。最も、それを調べる手段は今は存在しないのだが。

そのままタスクは力任せにミカを弾き飛ばし、そうして距離が空いたミカに向かってすかさず調が両手のヨーヨーを重ね合わせ、それを真上に投擲、巨大な刃を持つ二重円盤刃になったかと思えば、それを一気に振り下ろす。

 

β式 巨円断

 

その一撃を、ミカは両手で形成した巨大なカーボンクリスタルで防御。

だが、それを形成したミカに向かって、調、切歌、タスクの三人は飛び上がる。

そしてタスクは、スクラッシュドライバーのアクティベイトレンチを叩き下ろす。

 

スクラップクラッシュッ!!!』

 

それと同時に、調の右足に巨大な回転鋸、切歌の左足に巨大な鎌の刃が形成される。

そのまま三人は、流星の如く、そのカーボンクリスタルに向かって突撃。

タスクの両足蹴りと調、切歌の斬撃を持った蹴りが炸裂する。

「―――ッ!?」

そして、それにライダーキックを叩き込んだタスクは―――すぐにそのカーボンクリスタルの危険性に気付いた。

「調、切歌ッ!!」

それを感じ取ったタスクは、左右にいる調と切歌を突如として押し飛ばす。

「慧くん!?」

「何を―――」

そして次の瞬間、

「ドッカーン」

 

クリスタルが、爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅぅっ!?」

テラーの拳が、未来の顔面を捉え、閉じていたバイザーにひびが入る。

足のホバーでどうにか踏み止まるも、テラーの猛攻は止まらない。

それを未来は帯や鉄扇を使って防ぐも、そもそも低スペックであることを膨大な戦闘データで補うこの神獣鏡では、それを凌駕された今ではあまりにも無理がある。

バイザーを閉じる閉じないの差で、記録されている膨大な戦闘データ叩き込まれる情報量が違い、戦闘スペックもバイザーを閉じている方が高いのだが、今はそれすらも凌駕されている。

それほどまでに、ネメアーの獅子の毛皮の力はすさまじいのだろう。

身体強化に驚異的な不死性。はたから見れば、まさしく無敵ともいえるその力。

だが、そんな力に対抗できるのは―――未来の纏う神獣鏡のみ。

であるからこそ―――負けられない。

(響が守り続けたみんなを・・・今度は、私が・・・!)

今、テラーを倒せるのは自分しかいない。だから―――

「絶対に、諦めない!」

未来の鉄扇の一撃がテラーの顎を打ち据える。

「――ッ!このガキ!」

しかしそれに耐えたテラーはすかさず未来の首を掴むなり振り回し、地面に叩きつける。

「ぐあっ」

背中から叩きつけられたことで、肺の中の空気が一気に吐き出される。

意識が一瞬飛びかける。だが、ギアに搭載されたクロの意識が、未来の視界に敵の攻撃を知らせる。

それに未来は従うままに顔を傾ける。直後、テラーの拳が未来の顔のすぐ横に叩きつけられ、そのアスファルトが砕け散る。

すかさずテラーがもう反対の拳で未来の顔面を殴ろうとしたが、その寸前で未来が円状に広げた鉄扇を掲げた。

その行為に、テラーは一瞬止まり、そして、その広げた鉄扇―――鏡の中に、一匹の龍が、こちらに向かって飛んできているのを見た。

次の瞬間、鏡から飛び出してきた紫の龍が、テラーをその顎で噛みつき、天高く飛び上がる。

それは、まさしくクローズのクローズドラゴン・ブレイズであった。

「喰いちぎれ―――神獣鏡(クロ)!」

『グルアァァアアァァァァアアァアアア!!!』

 

殲滅

 

龍が咆え、そのままテラーを咥えたまま飛びまわり、ドッグ近くのコンテナが積まれた場所に落ちる。

そして、激しい爆発音が響き渡る。

未来は立ち上がり、テラーが落ちていった場所を睨みつけ、立ち上る粉塵の中、突如としてコンテナが二つ、ものすごい勢いで飛んでくる。

「きゃあ!」

両腕を掲げるものの、幸い直撃はせず、未来の左右にコンテナは落ちる。

そうして顔を上げた先にいるのは、ボロボロの状態で立ち上がるテラーの姿。

「たかが小娘に、ここまでコケにされるとはァ!!」

怒りに血走った目を未来に向けて、テラーは自らの隣にあるコンテナを掴む。するとコンテナは僅かに歪み、そして恐ろしい怪力で持ち上がり、未来に向かって投擲される。

それを未来は躱し、そして、テラーに向かって一気に突撃を開始する。

閉じたバイザーから、クロがルートを検出、それに従って、未来はテラーに一気に突き進む。

その未来を迎え撃つように、テラーは次々にコンテナを投擲。未来にぶつけるべく何個も投げ飛ばす。

それを未来は全力で躱していく。時に大きく体を傾け、姿勢を低くして、当たらないように右往左往して、確実にテラーとの距離を詰めていく。

そしてついに、テラーとの距離が完全な至近距離に突入する。

「小娘がァ!」

テラーが拳を振り抜く。

「おぉぉおお!!」

未来が鉄扇を振り上げる。

しかし、速さはテラーの方が上。先に直撃するのはテラーの拳だ。

だが、未来はその拳を見事に脇に躱して見せる。

「な―――」

その未来(みらい)はすでに予測したもの。クロの高性能演算能力によって導き出された、高確率の未来―――

未来の鉄扇の切っ先が―――その銃口が、テラーの鳩尾に憑きつけられる。

(響・・・私にちょっとだけ、勇気を頂戴)

 

光が、炸裂する。

 

 

慟哭

 

 

「ぐ・・・ぼぁ・・・」

鳩尾を撃ち貫いた、全ての邪を払う『凶祓い』の光が突き抜ける。

それを諸に喰らったテラーは吹き飛ばされ、コンテナをいくつも吹き飛ばし、やがて凄まじい衝撃を伴って煙の中に消える。

「ッ!?テラー!」

それに気付いたロジャーが、クローズを相手に思わずテラーの方を見る。

そうしてロジャーの見たテラーの姿は―――ネメアーの獅子が完全に消滅してそこに沈黙する姿だった。

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」

一方の未来は疲れ果てた状態でテラーの沈黙を確認する。

「倒した・・・」

バイザーを開き、そう呟く未来。

『Yes』

クロがARシステムを使って、肯定する。

クロは、あの見た目によらず高性能だ。だから、その見立ては正しいのだろう。

だから、今は―――

「調ちゃんたちの援護に・・・」

そう思った直後、背後で凄まじい爆発が起こる。

「ッ!?」

それに振り向いた未来が見たもの。それは、爆発を諸に喰らって吹き飛ばされるタスクの姿だった。

 

 

 

 

「慧くん・・・」

爆発の瞬間、タスクに横に押されたことによって爆発の直撃を免れた調と切歌。

しかし、その爆発を諸に喰らったタスクは別だ。

その爆発を諸に受け、地面に落ちたタスクは、そのダメージに耐えられずその変身を解除されていた。

即ち、丸裸も同然。

「ぐ・・・ぅう・・・」

そんな慧介に、ミカが近づく。

「お前は計画には邪魔な存在。だからここでバラバラになるがいいゾ」

「させない・・・!」

そんなミカに調が巨大鋸をもって斬りかかる。

「慧くんは、絶対に、殺させない・・・!!」

慧介のおかげで爆発の直撃を免れた。だが、

(このままじゃ、何も変われない・・・!)

また、慧介に守られた。それでは意味がないのだ。

「デェェェス!!」

ひびの入った鎌で調とは反対方向から攻撃を仕掛ける切歌。

(こんなに頑張っているのに、どうしてデスか!?)

自分たちの体に合わないLiNKERを二本分使って、それでもって全力で戦って、結局は慧介に守られた。

それでは、一体何のためにここまでしたのかが分からなくなる。

二人の激しい猛攻。

「まあまあだったゾ」

だが、それに対してミカは何の苦もなく対応して見せる。

まるで、子供を相手にしているかのように―――

「だけど遊びは終わりだゾ」

「「ッ!?」」

次の瞬間、ミカの動きが変わる。

縦ロールの髪がジェット機構のように炎を噴き、切歌に向かって一気に加速。

その僅かしかない距離では、加速したミカの動きに対応できず、生成されたカーボンロッドの一撃を諸に受けてしまう。

そして、胸のマイクユニットに直撃、一撃で砕かれ吹き飛ばされる。

「うぐあ!?」

そして吹き飛ばされた切歌は地面を滑り砕きながら倒れ、そしてその身に纏うシンフォギアを消滅させる。

 

イガリマが破壊されたのだ。

 

「切ちゃん!」

「余所見してていいのカ?」

「―――ッ!?」

間髪入れず振り向いたミカの一撃が調を襲う。

その一撃を紙一重で躱し、ミカの背後に回って切歌の元へ向かおうとするが、すぐさま背後から追ってきたミカを迎撃すべく振り向いた瞬間―――マイクユニットにカーボンロッドの一撃を受ける。

「うぁぁぁああ!?」

その一撃を受けた調も切歌のすぐ横まで吹き飛ばされ、同様にその身に纏っていたギアを強制解除させられる。

「調・・・切歌・・・!」

シンフォギアを破壊され、素っ裸で戦場に投げ出される二人の少女。

「さあ、次はお前の番だゾ」

「て・・・めぇ・・・!!」

それを見た慧介の頭に血が上り、ほぼほぼ根性だけで立ち上がって見せる。

そして、その手に再びタイガースクラッシュゼリーを握り締める。

「おお?まだやる気なのカ?」

「当たり前だ・・・こんな所で死ねるかってんだ!」

慧介が、再びスクラッシュドライバーにタイガースクラッシュゼリーを装填する。

 

タイガァージュエリィーッ!!』

 

「慧介・・・逃げて・・・」

「慧くん・・・!」

弱々しく、調と切歌が慧介に促す。

「ふざけんな・・・」

そんな中で、慧介は思い出す。

 

 

 

 

「言ってなかったけど強制変身解除からすぐの再変身は負担がかなりでかいぞ」

戦兎が、シンと慧介を読んで、突然そんなことを言い出してきた。

「それはなぜだ?」

「仮面ライダーに変身する時、俺たちは体内のネビュラガスを活性化させる。一回目は、それほどダメージも入ってないし負荷もかかってないから大丈夫だから問題ないが、その状態で強制的に変身を解除させられると、体内のネビュラガスが活性化したままで、もう一度変身を試みれば、体内のネビュラガスが過剰に反応して、体に負荷をかける」

最も、戦兎がいつも使うベストマッチフォームや通常クローズの場合はそれほどでもないから大丈夫らしいが、スクラッシュドライバー、あるいはベストマッチ以上の変身は体に大きな負担をかける。

例えるならば、通常のベストマッチであるラビットタンクなら、強制変身解除された状態で二度目の変身をしても、ネビュラガスはそこまで活性化していない為、続けて変身しても体に負荷がかかるほど活性化はしない。ただし、スパークリングなど、より強力な変身はネビュラガスがベストマッチの時より過剰に活性化するため、その負荷に体が悲鳴をあげるからだという。

クライムは通常クローズと同様な為問題はないが、タスクの方は注意してほしいとのことだった。

「その状態で無理矢理変身することは出来ないことはない。だけど、お前の体はまだ若い。そんな体で無理に戦い続ければ、いずれ深刻な状態に陥るかもしれないってことを考えてくれ」

 

 

 

 

「知るかんな事ッ!!」

その警告を無視して、慧介はアクティベイトレンチを叩き下ろす。

その次の瞬間、

「ぐあぁぁああぁぁぁぁあぁああ!?」

体中に激しい激痛が走り、慧介を一気に蝕んでいく。

だが、それを慧介は、これから起こってしまうであろう調と切歌の未来を否定する為、根性と魂でその激痛を抑え込み、叫ぶ。

 

「変身ッ!!」

 

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

 

タイガァー・イン・タァスクゥッ!!』

 

『ブルァァァァア!!!』

 

走りながらその身を仮面ライダーへと変身させ、タスクは再びミカに向かって殴りかかる。

『ミカ、我々の計画の邪魔になる仮面ライダーを早急に始末しろ。やり方は任せる』

その一方ミカには主人であるキャロルから命令が下る。

「分かったゾ!」

それにミカは嬉々として応え、その手一杯に大量のアルカノイズ用のテレポートジェムを持ち、一気に空へ投げる。

それは空中で割れ、中にある成分が地面に落ちれば、そこに錬金術の方陣が出現、大量のアルカノイズが一斉に現れる。

「うぉぉぉぉぉぉおおお!!」

絶叫、そして、激突。

大量のアルカノイズがタスクに殺到し、それをタスクは正面から迎え撃つ。

解剖器官に変身を強制解除されないとは言え、一の力に対してそれ以上の数の力は膨大だ。

いくら仮面ライダーとはいえ、まだ肉体的にも精神的にも未熟なタスクでは、その物量に敵わない。

しかし、それでもタスクはノイズを殴り続ける。

その身がボロボロになろうとも、タスクは戦いのをやめない。

 

 

「調ちゃん!切歌ちゃん!」

そんな様子を見ていた未来がすぐさまそちらに急行しようとする。

だが、突如として未来の体に無数の蛇が絡みつき、一気に未来を拘束する。

「これは・・・」

「オイ、どこに行こうってんだ?」

突如として聞こえた底冷えするような声。

その声に、未来は悪寒を感じ取り、首をひねって後ろを見た。

そこには、狂気ともとれるほど怒りに染まった表情で未来を睨みつけるロジャーの姿があった。

(龍我さんは・・・!?)

思わずクローズの姿を探す未来。そうして見つけたクローズは、無数に巻き付かれた蛇を力任せに振りほどこうとしていた。

それを見た瞬間、未来の視界に『Danger』の文字が表示され―――

 

「ぐぼあっ!?」

 

突如として右頬に顎が砕けるかと思うぐらいの衝撃と激痛が走った。

「どこ見てんだゴラァ!!」

「ぐえっ!?」

すかさず腹に重い衝撃が走る。

一撃目の頬はロジャーのストレート、続く腹への衝撃は膝蹴り。

これから推察するに、ロジャーは未来を拘束したうえで嬲り殺しにするつもりだ。

「テメェがテラーにしたことに比べりゃあこんなのなんともねェだろォがよォ!!」

「ッ!」

すかさずロジャーの拳が未来の顔面を狙う。だが、突如として未来のバイザーが閉じる。

 

『Auto Mode』

 

次の瞬間、ロジャーの拳を、どこからともなく現れたミラーデバイスが防ぐ。

「あァ!?」

続けて別のミラーデバイスが別角度からロジャーを光線で攻撃。これにロジャーは飛んで回避する。

「チィッ!」

そして、間髪入れずに無数のミラーデバイスがロジャーを襲撃、激しくロジャーを追い詰め、気付けばロジャーを取り囲むようにミラーデバイス達は円陣を組んでいた。

そしてそのまま―――一斉射する。

 

煉獄

 

その一撃をロジャーは飛んで躱し、その間に未来はミラーデバイスを利用して蛇を断ち切り、拘束を逃れる。

そうしてやっと未来の意識は回復する。

「ありがとう、クロ・・・」

先ほどの動きは全て未来が行っていた訳ではない。

ダイレクトフィードバックシステムによって一時的にクロが未来の体を支配、ギアを制御し、先ほどの動きを実現(トレース)したのだ。

だが、不意打ちで受けたダメージは想像以上に重い。

(これしばらく動けないかも・・・)

「逃げてんじゃねえよクソガキが」

ロジャーが蛇を操り、血走った目で未来を睨みつけている。

テラーが倒されたことで、何かが切れたのか。

(この人にとって、あの人は何か大切な・・・)

それはすまない事をしたと思う。だけど、今はそれを気にしている余裕はない。

(急いで、慧介君のところに行かないと・・・!)

今の状態で、慧介がまともに戦える筈がない。

おそらくいずれは、限界が来る。

 

 

 

アルカノイズの猛攻を、タスクは一人で凌ぐ。

「ぐ・・ぅぁ・・・!?」

あまりの膨大な数に、対処しきれない敵の攻撃を諸に受け、地面を転がる。だが、それでもすぐさま立ち上がって、次なるアルカノイズを殴り砕く。

途方もない、敵の数。

「そこをどけぇぇぇえ!!」

 

スクラップクラッシュッ!!!』

 

アクティベイトレンチを叩き下ろし、タスクは飛び上がって前方にいるアルカノイズの集団をまとめて吹き飛ばす。

しかし、それでもノイズはまだまだ存在する。

「―――ッ!!」

 

スクラップクラッシュッ!!!』

 

二度目の必殺技発動。今度は拳にエネルギーを溜め込み、飛び上がって襲い掛かってくるアルカノイズの集団に対して激しくラッシュを叩き込む。

「ダダダダダダダダダダ――――ッ!!!」

だが、いくら必殺技と言えどもその膨大な数を凌ぎ切れはしない。

一方に集中すれば、もう一方がおろそかになる。背後からアルカノイズが強襲し、左足を斬り裂く。

「ぐあッ!?」

思わず膝をつく。その正面から、武士型のアルカノイズがその右手を振り上げ、振り下ろしてくる。

それを慧介は、ツインブレイカーで受け止める。

「・・・誰か・・・助けてほしいデス・・・」

絶叫して、そのノイズの腕を押し返し、タスクは再びアクティベイトレンチを叩き下ろす。

 

スクラップクラッシュッ!!!』

 

連続三度目―――その負荷は、絶大。

「ぐあ―――あぁぁああ!!」

それでもタスクは拳を振り抜く。

「私の・・・大切な人・・・大好きな慧くんを・・・」

放射線状の敵が一気に消し飛ぶ。そんなタスクの隙をついて、ミカが接近。

「しまっ―――」

「バァイナラァー!!」

次の瞬間、タスクの腹に、射出されたカーボンロッドの一撃が突き刺さる。

「がっ―――」

悲鳴を上げる間もなく、タスクがぶっ飛ばされる。

そして壁に叩きつけられ、そして――――変身が解除される。

「が・・・は・・・」

意識が、飛びかける。

だが、どうにか意識は保てた。

視界の先で、アルカノイズが迫る。

「まだ・・・だ・・・」

そのボロボロの体に鞭を打って、慧介は再び立ち上がる。

「もう、一度・・・!」

 

タイガァージュエリィーッ!!』

 

性懲りもなく、慧介は再びスクラッシュドライバーにタイガースクラッシュゼリーを装填、アクティベイトレンチを叩き下ろす。

だが―――三度目はない。

「ぐあぁぁあぁああ――――あ、ああ・・・」

今度は耐えきれず、今度こそ倒れ伏す。

「慧介君!」

「慧介!」

ロジャーに襲われて助けに向かえない未来、蛇の拘束から逃れようともがくクローズ。

「テメエはそう簡単に殺しはしねえ」

「あぐっ!?」

再び捕まる未来。体中に蛇が這い、未来の体を締め上げていく。

「く・・・ぅぅ・・・」

そんな未来の視界に、一匹の蛇が、口を開いてその毒牙を見せる。

「永遠に等しい苦しみの中で死にな」

「―――ッ!?」

その言葉に、未来は恐怖を覚える。

調と切歌はギアを破壊され、慧介は、絶体絶命のピンチ。

「誰か・・・慧くんを・・・助けて・・・」

アルカノイズが、解剖器官を振りかざす。

「このままじゃ、慧くんが・・・死んじゃう・・・・死んじゃうよぉ・・・」

慧介は、二回連続変身、三回連続の必殺技発動、そして、三度目の変身試みによって、既にその体をボロボロにしている。

だから、避ける事は叶わない―――。

アルカノイズの解剖器官が、慧介に迫る。

「誰かぁぁぁぁあぁぁぁあぁああああ!!!」

調の絶叫が、迸り――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無音の時間が、過ぎていく。

 

 

 

涙を流し、その瞬間を見たくないが為に、その目を閉じていた調と切歌。

だが、その沈黙は、あまりにも長すぎた。

 

あまりにも、音が無く、ただ聞こえるのは――――風の音のみ―――

 

 

 

「誰かだなんて、んな連れねえこといってくれるなよ」

 

 

 

そして聞こえたのは、とても聞き知った、快活な声。

目を開けた、その先にあったのは――――いくつもの銃痕、そして、その手の解剖器官を切り落とされた、アルカノイズたちの姿だった。

そして、その影に見えた、一つの輝きは―――

「つる・・・ぎ・・・」

倒れ伏す慧介の視界に―――彼女らは、いた。

 

 

「ああ―――振り抜けば風が鳴る剣だ」

 

 

次の瞬間、ノイズたちが風と共に消えていく。

 

 

そして、襲い掛かる蛇の牙に、調たち同様、目を閉じていた未来もまた、恐る恐る目を開けた。

見れば、その蛇の首を掴み、締め上げる青い手があり、

「よぉ、うちの教え子が随分と世話になったみたいだなぁ」

視線を外し、見上げれば、そこには兎と戦車を模した複眼の、赤と青の仮面ライダーが、大剣を肩に担いでそこにいた。

 

 

完全改修し、一新したシンフォギア『天羽々斬』『イチイバル』。

 

 

同時に、対アルカノイズ用の改造を終えたライダーシステムを身に纏う『仮面ライダー』。

 

 

 

 

 

 

今ここに、シンフォギア装者『風鳴翼』と『雪音クリス』、そして『仮面ライダービルド』が推参した。

 

 

 

 

「―――さあ、実験を始めようか」

 

ビルドが、静かにそう呟いた。




次回!『愛和創造シンフォギア・ビルド』は!?

ついに戦場に推参するクリスと翼、そしてビルド。

「さて、どうしてくれる先輩?」

始まる、四人の反撃。

「あー、まだ調整が済んでなかったか」

その最中で現れる、キャロルとリカルド。

「いや、手ずから凌いでよくわかった。オレの出番だ」

そんな彼らが纏うは、シンフォギア、ライダーシステムとは別系統の―――異端技術。

「遅い」

圧倒的な力を発揮する、二人の猛攻に、翼、クリス、ビルド、クローズは追い詰められる。

「未来が教えてくれたんです。自分はシンフォギアの力に救われたって」

そこへ駆けつける響。

そんな彼女らに、残された手段はただの一つ―――

次回『イグナイトする想い』


アーチャチャチャチャチャチャチャアッチャァァアアッ!!』

『ヤベェーイッ!!!ツエェーイッ!!!』


「「「『イグナイトモジュール』、抜剣!!」」」









いきなりシンフォギアライダー変身講座ァ!!


・・・と、何故かトップバッターに立たされたシン・トルスタヤだ。
ただ変身する行程を披露してほしいということだが、まあ、いいだろう。別に読者に見られるだけだ・・・ん?メタ発現はやめろ?・・・まあいいだろう。
とにかく、プロトクライムに変身するためのルインドライバーはない為、代わりにクライムウルフによる変身をお見せしよう。
まず用意させてもらうのが、桐生戦兎が創ったクライムウルフ。それとウルフフルボトルだ。ちなみに俺はこれとベストマッチであるスマホフルボトルももっているが、こっちは関係ないので割愛させていただく。
さて、まずするべきは、このクライムウルフのフルボトルスロットにこのウルフフルボトルを装填する。

Start Up』

ちなみに、クローズドラゴンとこのクライムウルフの違いは、向こうは頭と尻尾を上に折りたたむようにしまうことだが、クライムウルフは体がS字状になっている。
フルボトルスロットも背負うような形をしている。
そして、ボトルを装填したなら、今度は横から押して頭が上に、尻尾が下になるようにZ字状に折りたたむ。これでボトルは上を向くようになり、ビルドドライバーにも装填できるようになる。
これをこのままドライバーに装填する。

CRIME WOLF

そして、あとはビルドとクローズと同じだ。このレバーを回し、ビルダーを展開する。っと、ここで注意点だが、桐生戦兎はファイティングポーズ、万丈龍我はファイティングポーズと右手首を左手で顔の前で掴むようなポーズとり、また猿渡一海は相手を指さすかのように、そして氷室幻徳はポケットに手を突っ込みながら反対の手でレバーを下ろすように、そして慧介は左拳を肩の前にもっていくと、変身ポーズをとる訳だが、俺は強いていうなれば、まず右手を左肩に持っていき、

『Are You Ready?』

変身。と言った後に右水平に振り抜く。

『Start Up Lightning!Let's CRIME WOLF!Yeah!』

これで、俺の変身は終わりだ。・・・・ん?必殺技を見せてないって?はあ、分かった分かった見せればいいんだろう。
必殺技は、ボルテックレバーをもう一度回す。

『Ready Go!』

俺の場合は、空中に置いた刀を右足裏で掴み、振り抜く―――

ウルフテックフィニッシュ!!!』

・・・ふう、こんなものでいいだろう。
仮面ライダーの必殺技は基本的に真似できない仕様になっている。俺なりに真似できない技だとは自負しているが・・・ん?カブトみたいにスマートすぎるって?何を言っている?カブトとは誰だ?
・・・まあいい。とにかく俺の変身講座は終わりだ。来週は慧介がやるみたいだが・・・まあそれは俺の管轄外だ。

では、また来週のシンフォギア・ビルドを見てくれると嬉しい。

では、次回で。


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イグナイトする想い

マ「今回は翼たちが戦いに出てるから私たちがあらすじ紹介するわね」
シ「このご時世、学生の身分である作者がやることと言ったら学校からの課題であったりゲームであったり執筆活動であったりと、意外に退屈であるらしい」
マ「本屋が閉まってて崩れ落ちたっていうのも記憶に新しいわね」
緒「少し言い過ぎじゃないですか?こほん。パンドラボックスによって引き起こされた、スカイウォールの惨劇から十一年。宿敵エボルトを倒した仮面ライダービルドこと桐生戦兎は創造した新世界にて、S.O.N.G.の科学者として、そして仮面ライダーとして日々戦い続けていた。そんな彼と彼の仲間の前に、錬金術師を名乗るキャロルと世界の浄化という名目を掲げるデイブレイク社が立ちはだかるのであった・・・ん?何か匂うような・・・」
シ「む、すまん俺のシュールストレミングスだ。さっき喰ってきた」
マ「くっさ!?何この匂い強烈過ぎる!?」
緒「す、スウェーデン産のニシンの缶詰をさらに発光させたものですね・・・その匂いは納豆の十八倍は臭いらしいです・・・」
マ「いつも思うけどシンって変なものしか食べないわよね・・・」
シ「そうか?まあ何はともあれ、今回はすさまじく長い。おおよそにして二万五千字以上だからかなり時間が掛かるから覚悟して読むことだな」
マ「なんでそんな上から目線・・・まあいいわ。シンフォギア・ビルド、その第十話をどうぞ!」
緒「最後に慧介さんからの変身講座がありますよ」


クリス、翼、ビルドが現場に駆け付ける数分前―――

 

 

発令所の扉が開く。

そこから現れたのは、なんと響だった。

「響君!」

「おい、もう大丈夫なのか?」

体の所々に包帯を巻き、病衣を纏った響に、クリスは心配そうに声をかける。

「うん、へいきへっちゃらだよ」

そう言って笑って見せる響。だが、その表情はすぐに真剣な眼差しに変わる。

「状況を教えてください」

「・・・」

その言葉に、弦十郎は響に、現在の状況を告げる。

「現在、我々の滞在するドッグが、オートスコアラー、及びデイブレイク社に襲撃され、龍我君、慧介君、調君、切歌君、そして、未来君が迎撃に当たっている」

「未来が・・・」

「その他の発電施設も襲撃され、本部へのエネルギー供給量が低下、現在は予備電源で電力を賄っている所だが、それも長くは続かないだろう」

「一刻を争う、という事ですね」

「その通りだ」

モニターでは、変身を解除された慧介に、ミカが迫っている様子が映し出されている。

と、そんな最中で、発令所の扉が再び開かれ、そこからエルフナインが現れる。

「エルフナインちゃん」

「お前がここにいるという事は・・・もしかして・・・」

「はい。強化型シンフォギア『リンク・アニマル』――『天羽々斬ラビット』と『イチイバルドラゴン』、完成しました」

そうエルフナインが言うと、その手に乗っかっていた何かが、途端に翼とクリスに向かって飛んでいく。

「ん?はうあ!?」

「先輩!?」

と、そこまでは良かったが、何故か翼に飛んで行った方は凄まじい勢いで真っ直ぐに翼の額に直撃し、一方のクリスの方はその頭にすっと乗るだけだった。

翼はその額に当たった何かによって倒れる。

「な・・・なんだ一体・・・ってこれは兎か?」

と、起き上がった翼が見たものは、自身の腹の上に乗っかる、一匹の空色の塗装が施された機械の兎だった。

一見、ラビットラビットのラビットアーマーに酷似しているそれは、はて自分は何かしたか、とでもいいたそうに首を傾げている。

その一方、クリスの頭の上に乗っかったもの、それはクローズドラゴンとはこれまた違った形状の赤い塗装の施されたドラゴンだった。

「ああ、大丈夫ですか?」

「う、うむ、大丈夫だ・・・しかし、これが・・・」

「はい。戦兎さん考案のリンク・アニマルです。ただ、これらの性格は聖遺物によって変わるそうなので、その点についてはすみません・・・」

「ああ、まさか天羽々斬が、こんなわんぱくだとは思わなかった・・・」

翼のリンク・アニマル『天羽々斬ラビット』は、翼の上でこれでもかと元気に飛びまわっていた。

「対してこっちはすげえ大人しいな。おい、降りろ」

「キャールル」

クリスの言葉に従い、『イチイバルドラゴン』は肩に乗る。

「えーっと、私のは・・・」

「あ、ごめんなさい。今セレナさんが急いで作っています。ですから・・・」

「分かった。待ってる」

申し訳なさそうなエルフナインに、響は笑って許す。

「翼、クリス君、行けるな!」

「もちろんです」

「やっと暴れられる!」

弦十郎の言葉に翼とクリスは答える。

と、そんな中でまた発令所の扉が開く。

慌てた様子で入ってきたのは戦兎だった。

「悪い!やっと改修が終わった―――」

次の瞬間、

「くだばれ先公ぉぉぉぉおお!!!」

「キャー!」

「え!?ちょ、なnぐべあ!?」

クリスのぶん投げたイチイバルドラゴンが戦兎の顔面に炸裂し、そのまま戦兎が倒れる。

「いてぇ・・・」

あまりにも突然な不意打ち。イチイバルドラゴンは跳ね返って空中で何回か回転した後、再びクリスの頭の上にふわりと着地する。

「一体何が・・・」

「何がだぁ?テメェどの面下げてそんなこと言えるんだよオイ」

「私たちに内緒で小日向を戦士に育て上げるとは、一体どういうつもりだ?」

尻もちをついて顔を挙げる戦兎の先では、鬼気迫る迫力と眼光で見下ろしてくる翼とクリスの姿があった。

彼女らがそんな態度をとる理由はただ一つ、未来の事に関してだ。

「説教ならあとでいくらでも受ける!だけど今はあいつら追っ払う方が先だろ!」

が、戦兎にそう言われて、それ以上何も言えなくなる二人。

「それはそうだが・・・」

「何時間でも説教受けてやるから、とにかく今はあいつらを助けに行くぞ。んでもってシン、これを―――」

「それはお前が使え」

「―――っては?」

シンにビルドドライバーを投げ渡そうとした戦兎を、シンはなぜか止める。

「おそらく敵の親玉が近場にいる筈だ。初めから制御フォームで戦えば、おそらく戦力を図られる。だから始めは基本フォームなどで対応した方がいいだろう」

「え、まあ、それはそうなんだろうけど・・・」

シンは、ポケットからウルフフルボトルを取り出す。

「頼んだぞ」

「・・・分かった」

それを戦兎に渡し、戦兎はそれを受け取る。

「すぐに出撃してくれ!」

「「「了解!」」」

「それと戦兎君は戻ったら説明を求める!納得できない理由だったらしばらくスペシャル特訓コースだ!」

「どちらにしろ罰決定コースだろうが!」

とりあえず怒鳴り返し、戦兎は先に向かった翼とクリスの後を追おうとする。

「戦兎先生」

「ん?なんだ?」

「・・・・私からもあとでお話があります」

「ああ、分かってる。今ある問題片付けたら、好きなだけ殴られてやるよ!」

響の言葉にそう答えて、戦兎は走り出す。

 

 

 

 

―――そして現在。

 

 

 

 

「さて、どうしてくれる先輩?」

「反撃、程度では生温いな。逆襲するぞ!」

クリスと翼が、ミカを睨みつけながらそのようなやり取りをする。

ここで言っておくが、翼とクリスの纏うシンフォギアには、いくらか特徴的な変化がある。

翼の頭部に装着されたヘッドギア。それが若干兎に見えなくもないデザインへと変化していたり、また、ギアインナーに所々兎の意匠が施されていたりしている。

クリスのカチューシャのようなヘッドギアにも、龍の目のような装飾が追加されていたりと、それぞれ、兎、龍の特徴がギアに反映されていた。

「せい!」

ビルドがフルボトルバスターで未来を縛り上げる蛇を斬る。

「大丈夫か?」

「はい、どうにか・・・」

「よし、お前はこのままあの三人を連れて撤退しろ」

「で、ですが・・・」

「そんなダメージでどうするってんだ?ただでさえ低スペックのシンフォギアなんだぞ?」

「ッ・・・」

膨大な戦闘データでその低スペックを補うのが神獣鏡のシンフォギアだ。

そのスペックの低さ故に、防御力はあまりにも低い。

だから未来の受けるダメージは他と比べあまりにも大きい。故に、ダメージ的には未来が一番深刻だったりする。

今は、ダイレクトフィードバックシステムによる痛覚遮断で痛みはどうにかなっているが、それでも体を動かせるのは一重にクロが神獣鏡を制御しているからだろう。

「くっ・・・」

その事に、未来は悔しそうに歯噛みする。

「誰が逃がすかよ!」

しかし、そんな未来に向かってロジャーは蛇を飛ばす。

だが、その攻撃に対してビルドが対応、一刀の元に蛇を斬り裂く。

「邪魔すんじゃねえ!」

「お前がどう思ってようが、未来は殺させる訳にはいかねえんだよ。何せ、俺がそうさせちまったんだからな!」

「訳の分かんねえこと言ってんじゃねえよ!」

ロジャーが襲い掛かる。

「万丈!これを!」

ロジャーが突っ込んでくる間に、ビルドはクローズに向かってもう一つのビルドドライバーを投げる。

「準備しておけ!タイミングを見て、変身しろ!」

「おう分かった!」

どうにか蛇の拘束を引きちぎり、クローズはビルドドライバーを受け取る。

そしてビルドは、ロジャーを迎撃する。

「未来、今の内に!」

「わ、分かりました!」

「誰が―――がっ」

なおも未来を追撃しようとするロジャーの顔面をぶん殴り、よろめかせた所でビルドは左足を叩きつけ、ホップスプリングの力でロジャーを蹴り飛ばす。

「がぁぁああ!?」

コンテナに叩きつけられるロジャー。

「お前の相手は俺だ」

 

ラビットタンクスパークリング!』

 

ビルドが缶型の変身アイテムをビルドドライバーに装填する。

そしえボルテックレバーを回し、さらなるビルダーを展開。

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ」

 

そしてそのビルダーがビルドを挟み込み、次なる姿『ラビットタンクスパークリング』へと変身させる。

 

シュワッと弾けるラビットタンクスパークリング!イェイイェーイ!』

 

赤、白、青のトリコロールとなったビルドが、ロジャーの前に立ち塞がる。

「こ、の・・・くそがぁ!」

そうロジャーが叫んだ直後、ビルドの周りにアルカノイズが現れる。

ミカが放ったのだ。

「慣らし運転がてらに片付けるぞ!」

「綺麗にたいらげてやる!」

「最初に掃除されたい奴からかかってこい!」

アルカノイズの集団に向かって、三人が駆ける。

翼がその手の刃をもってノイズを斬り裂き、クリスがボウガンで打ち抜き、ビルドが泡の破裂を利用して高速で戦場を駆け抜ける。

 

「挨拶など無用 剣舞う懺悔の時間!地獄の奥底で 閻魔殿にひれ伏せ!」

 

アルカノイズを斬り捨て、大剣をもって大多数を叩き斬る。

 

「一つ目は撃つ!二つ目も撃つ!三つ四つめんどくせえ!…キズナぁぁ――」

 

その手のボウガンを薙ぎ払うと同時にボウガンを打ち放ち、範囲内にいるアルカノイズを纏めて撃ち抜く。

 

「舐めるんじゃねえ!」

「舐めるでない!」

 

二人の歌が重なり合う。その最中で、ビルドが驚異的な機動力で両腕の刃を振るい、アルカノイズを斬り裂いていく。

「おぉぉおお!!」

 

「全力のチカラで全開で突っ走れ!」

 

そのビルドと入れ替わるようにクローズが飛び出し、激しいラッシュを走りながら繰り出し、直線状にいるノイズたちを纏めて殴り飛ばす。

「オラオラオラァ!!」

 

「恐れる事はいらない君の道!」

 

今までとは一線を画す戦闘。

 

強化型シンフォギア『PROJECT IGNITE』は、破損したシンフォギアを修復するだけに留まらず、出力を引き上げると同時に対アルカノイズ用のバリアコーティングを施すことによって対アルカノイズ戦を実現することが可能。

さらに、『PROJECT LINK ANIMAL』によって、その出力は適合係数の増加によってさらに引きあがり、さらに、AR機能の搭載により、その戦闘効率は従来の数段にまで引き上げられている。

 

『Back!』

 

「ッ!」

翼の視界にそのような文字列が出現、振り向けば攻撃に態勢に入っているアルカノイズの姿が―――

だが、遅い。翼の刃が先にアルカノイズを斬り裂く。

(なるほど、これがARによるサポート!)

視界に、いくつものモニターが出現している。それが残りアルカノイズの数と位置を示し、仲間の位置もリアルタイムで教えてくれる。

流石に、状態、バイタルなどは本部から聞かなければならないが、無理に頭の片隅に留めるようなことも、AIに任せれば全て片付く。

これであれば、戦闘効率は、今までとは比にならないぐらい良くなる。

そして、シンフォギアそのものに、彼女らの戦闘能力を強化する機能も搭載されている。

それが―――『リンクスアームズ』。

「リンクスアームズ!」

 

『Links Armes 〔Sky Spring〕!』

 

天羽々斬のリンクアームズが起動する。翼の手足のギアに内蔵された強化型伸縮バネ『スカイスプリング』が制限を解除される。

そして、一歩を踏み込んだ翼。次の瞬間、

「うぉぁぁあぁぁぁああぁあああ!?」

 

―――想像以上に天高く飛んで行ってしまった。

 

(こ、これは―――!?)

想像以上にバネの力が強い。その結果、翼は現在――――雲を突き抜けるような程高く飛んでいた。

「これは高すぎますぅぅぅぅうう!?」

絶叫が迸り、翼は一気に落下していく。

 

 

「リンクスアームズ!」

 

『Links Armes 〔Foton Charger〕!』

 

ほぼ同時にクリスもリンクスアームズ『フォトンチャージャー』を発動、クリスの纏う鎧に光り輝くラインが走り、輝き出す。それを右手の持つボウガンに接続、エネルギーを充填し、それをアルカノイズのいる集団に向けて、引き金を引いた。次の瞬間、

「うおあ!?」

凄まじい反動がクリスを襲い、吹き飛ばし、一方ボウガンから放たれた矢は巨大な砲弾と化してアルカノイズの集団に炸裂、想像以上の破壊力を発揮して直線状の建物全てを破壊する。

そして吹き飛ばされたクリスはコンテナに叩きつけられて、その威力に内心驚いていた。

(威力強すぎんだろ・・・!?)

「あー、まだ調整が済んでなかったか」

それを見て、ビルドはのんきにぼやく。

「おいあれどうすんだよ!?」

あれでは制御ができずに、まともに戦う事なんて出来ない。だがビルドはいたって冷静だった。

「勝手に機械が調整してくれんだろ」

「は?」

ビルドの言葉にクローズが首を傾げる一方、翼の視界には無数の文字列が。

 

learning Start(解析開始)―――Complete(完了)―――Adjustment(調整)―――Optimization completed(最適化を完了しました)

 

You can go anytime(いつでも行けます)

 

「信じるぞその言葉!」

空中で態勢を立て直し、翼はその両足で見事に地面に着地して見せる。

「頼んだぞ!」

再びクリスは立ち上がってボウガンを構える。

ボウガンにエネルギーが充填され、視界に映るゲージに円のエネルギー充填率が表示される。

それがほぼ一瞬で充填完了の表示となり、クリスは引き金を引く。

それと直前で翼が地上に着地、アスファルトを踏み砕き、そして足のバネに圧力をかける。

縮小したバネは反動で戻ろうとする、その反動を利用して、翼は前に駆け出す。

放たれる矢。しかし今度はクリスを吹き飛ばさず、威力も先ほどよりは弱まったが、その破壊力は以前健在。建物ごと吹き飛ばさなくなっただけで、威力は段違いに跳ね上がっていた。

そして翼は、今までとは比較にならないほどの速さで地面を駆け抜け、文字通り風となってアルカノイズの集団に一薙ぎ一閃を喰らわせる。

ほぼ同時に突き刺さる、矢と刃の一撃。

それが、ほぼ一瞬にしてアルカノイズの集団を消し飛ばす。

「ほらな」

「・・・」

ビルドが得意気にそう言い、一方のクローズは唖然としていた。

が、そんなビルドに向かって矢が飛んでくる。

「あで!?」

「威力強すぎんだろ!?どうなってんだこれ!?」

「いきなりあんな具合で飛ばされたら誰でも驚くぞこれ!」

「いや、始めに全開の威力を体験してもらいたくてな・・・ってか、そうじゃないと上限が分からなかったというかなんというか・・・」

二人からの文句を受けつつ、ビルドはとりあえずへこへこと頭を下げる。

なんというか・・・不憫。

「すごい・・・」

「調ちゃん、切歌ちゃん、慧介君!」

その戦いを茫然と見守る調と切歌の元に、未来がやってくる。その手には、どこからか調達してきたジャケット。

「これを着て!」

「あ、ありがとうございます」

その間に未来は慧介に肩を貸す。

「大丈夫?」

「すみません・・・」

そして、腕の帯を使い、調と切歌を担ぎ上げると、一気に戦場から離脱する。

「ここはあの人たちに任せよう」

未来自身も先の戦闘で体に大きなダメージと疲労が溜まっている。とてもではないが、今の彼らの足手纏いにしかならないだろう。

(私たちが足手纏いだから・・・)

その事実に、調は悔しそうに顔を歪める。そして、四人が戦線を離脱した頃。

「って、んな事より!」

ふとビルドが唐突に叫ぶ。

「「ッ!」」

アルカノイズは全て片付けた。

残すは後二人―――オートスコアラーのミカと蛇使いのロジャーだ。

「オートスコアラーは任せた!」

「ああ!」

「おう!」

ビルドがロジャーに向かって、翼がミカに向かって走る。

ロジャーがビルドを迎撃すべく蛇を出現させ、一気に襲わせる。

だが、ビルドはその両腕にある刃、『Rスパークリングブレード』『Tスパークリングブレード』で一気に斬り裂きながら突き進んでいく。

その一方で翼がミカに向かって飛び上がり、巨大化させた大剣から、刀を抜刀。

抜刀時と切り返した二度目の斬撃によって、エネルギーの斬撃をぶっ放す。

 

蒼刃罰光斬

 

放たれる十字の斬撃。

それをミカは飛び躱す。その先へ、クリスが巨大ミサイルを二基、着地したミカにぶっ放し、直撃させる。

 

MEGA DETH FUGA

 

そして、それと同時に泡の加速によって恐ろしい速度でロジャーに突っ込んだビルドは飛び上がって真上からその拳を叩きつける。

ロジャーはそれを躱し、空ぶったビルドの手は地面を殴り砕く。

だが、そのロジャーが避けた先で、クローズはインパクトボウモードにしたブラストモービルを構えていた。

そして、クリスのミサイルがミカに直撃するのと同時に、クローズの放った矢も、ロジャーに直撃し、爆炎をまき散らした。

「ふん、ちょっせえ」

「いっちょあがり」

巻きあがる黒煙。その中に、微かに見える光る何か―――

「いや、待て」

「何?」

「あれは・・・」

黒煙が晴れた先にいたのは―――障壁を張るキャロルとリカルドの姿だった。

「めんぼくないゾ」

「いや、手ずから凌いでよくわかった。オレの出番だ」

ミカにキャロルがそう言う。

「すんませんリーダー」

「ふむ、彼らの力が想像以上に高かったというだけだ。気にするな」

一方のロジャーもリカルドに謝罪していた。

「ラスボスのお出ましか」

「だが、決着を望むのはこちらも同じこと」

「ここでぶっ倒してやる!」

「・・・」

クリス、翼、クローズがそう意気込む中、ビルドは静かに彼らを睨みつけていた。

「全てに優先されるのは計画の遂行・・・ここはオレに任せてお前は戻れ」

「分かったゾ!」

「ロジャー、君も戻り給え。その怪我ではこれ以上は戦えないだろう」

「リーダー!しかし・・・」

「テラーの事は残念だが、諦めろ」

「ッ・・・」

ミカは嬉々として撤退を選択、ロジャーはしぶしぶといった様子でテレポートジェムを使い、そのまま消える。

「とんずらする気かよ!?」

「案ずるな。この身一つでお前ら四人を相手にするのは造作もないこと・・・」

「おやおや、私の事も忘れてもらっては困るぞ」

「貴様はただ一方的に協力しているだけだろう。だがまあ仮面ライダーを仕留めてくれるというのなら、それはそれでありがたいのだが」

「ならそうさせてもらおう。何安心したまえ、彼らは私の敵ではない」

「言ってくれるじゃねえか」

クローズが一歩踏み出す。

「こっちからしたら、後ろでぬけぬけしている野郎に負ける気はさらさらないな」

その言葉に、リカルドはくくく、と笑い、続けて大きく笑って見せた。

「――ハーハッハッハッハ!この私がその人望だけで部長の地位にまでこぎつけたと思っているのか?であるならば、お前たちはなんと浅はかな事だろうな」

「んだと?」

「私が何も持たずにここに来たと思っているのかね?」

その最中で、ビルドは思い出す。

了子の残した研究データ。その中にあった、シンフォギアとは別系統の聖遺物起動システム―――

「まさか・・・!?」

「なるほど、なりを理由に本気を出せなかったなどと、言い訳されるわけにもいかないな・・・」

キャロルが、そう呟く。そして、左手を横に振り抜き、その何もない空間から、何か、独特な形のハープを取り出す。

それに、装者二人が身構える。

それと同時に、リカルドがその手に刀身の無い剣の柄を取り出す。

「ならば刮目せよ」

そして、キャロルが、そのハープの弦を奏でる。

 

 

それはケルト神話におけるダーナ神族の最高神ダグザが使用していた金の竪琴(たてごと)

かの最高神が使いしそれは、使用者なしでも巧みに奏でられ、また天候すら操る能力を有していたとされる。

その戦慄は傲慢であり貪欲。ありとあらゆる欲求を引き出し、感情を曝け出させる音色は、まさしく、神が使いし楽器。

 

それこそは―――『ダウルダブラ』。

 

 

 

方や、それはとある堕天使が使っていたとされる剣の柄。

それは神に反逆せし者の武具であり、神の敵対者であり、そして、地に落ちた堕天使。

全ての天使の長にして、最強にして最凶の天使にして悪魔。

彼の悪魔王であり、そのまだ清かった、その天使。

 

その名は―――『ルシファー』。

 

 

 

 

方や戦装束を、方や鎧をその身に纏う。

「ファウストローブとファウストアーマーか・・・!」

「なんだよそれ!?」

「いわゆる、錬金術版のシンフォギアとライダーシステムってところだな」

「そんなのありかよ・・・ってか、キャロルの方は大人になってるけどありゃなんでだ!?」

クローズが指さす先に立つキャロルは、その身をどういう訳か大人へと変化させていた。

それが、ダウルダブラの効果なのかは計り知れないが。

「聖遺物に普通の常識は通用しねえってことだろうよ」

「くそ!でたらめな上にむかつく名前しやがって!」

クローズが悪態をつく一方で、キャロルの成長した己の体を触る。

「これくらいあれば不足はなかろう?」

キャロルの纏う戦装束は暗い赤紫に四色の装飾のついた帽子をかぶったもの。

その一方でリカルドが纏った鎧は白い鎧に金の装飾のつき、その頭は双眸のついた兜でおおわれており、そして背中には何かのエネルギーで形成したウィング型ユニットが浮遊している。

また、キャロルが無手に対してリカルドは刀身がなかった剣の柄から紫電色の諸刃が形成されており、また一方には盾が装備されていた。

「では、私は仮面ライダーの排除をしよう。そちらは任せましたよ」

「好きにしろ」

「では」

ビルドたちが身構える。そして、リカルドがそう呟いた瞬間、

 

 

ビルドとクローズの目の前が塞がれる。

 

 

「なっ」

「えっ」

「遅い」

次の瞬間、頭を掴まれ、一気に持っていかれる。

そして、その勢いのまま投げ飛ばされ、コンテナに叩きつけられる。

「龍我!?」

「桐生!?」

一体、何が起きたのか。

気付いたら、ルシファーを纏ったリカルドによって、ビルドとクローズは彼方へと投げ飛ばされていた。

「余所見をしている場合か!」

「「ッ!?」」

そこへすかさずキャロルがその指から琴線を操り、まるでバターでも斬るかの如く地面を斬り裂きながら翼とクリスを攻撃。

それを二人は左右に躱し、キャロルは翼の追撃、横薙ぎに放たれた一撃を翼は伏せて躱す。

その威力は絶大、すぐ背後の燃料タンクが琴線と金属との擦れで発生した火花に引火したのか一瞬にして爆発、燃え上がる。

「大きくなった所で―――」

「―――張り合うのは望むところだ!」

翼とクリスが、各々が持つ武器を手に、キャロルと打ち合う。

 

 

 

 

その一方で―――

「な、にが起きやがった・・・!?」

投げ飛ばされたクローズが、逆さまの状態からどうにか戻る。

「瞬間移動・・・!?」

ビルドもどうにか立ち上がるが、気付けばその目の前に、リカルドが立っていた。

「なぬ・・・」

「人ならざる者の身体能力に、人はついていくことは出来ない」

そう言った直後、再びビルドとクローズは宙を舞う。

「「ぐあぁぁああぁあ!?」」

その吹っ飛んだ先で凄まじい速さで追いついたリカルドは、今度はビルドとクローズを叩き落す。

「遅い、遅いぞ仮面ライダー!」

想像以上の速さに蹂躙される仮面ライダー。

「くっそ!こっちの攻撃が―――ぐあっ!?」

こちらの攻撃が悉くかわされ、逆に向こうの放つ斬撃は鋭く早く、そして深い為に必ず直撃する。

その速さや重さは、想像を超えて強烈だ。

「ハアッ!!」

ビルドが背後から拳を突き出す。しかし、その一瞬で背後へと回られ、背中を蹴り飛ばされる。

「ぐあ!?」

「その程度の速さでは、私の纏う『ルシファー』には敵いはしないぞ」

蹴り飛ばされ、倒れるビルド。

「ざっけんなよゴラァ!!」

クローズが再びルシファーに殴りかかる。

「ハハハ、遅い、遅いぞ!その程度か仮面ライダー!」

「くっそがぁ!」

こちらの攻撃は一切当たらない。盾をもってるにも関わらず、防御もせずただ躱し、常に余裕をもってこちらと戦っている。

コンテナの上に上がってクローズがそれを追撃。しかしある程度攻撃を躱したところでリカルドは剣を薙ぎクローズを叩き落す。そこへビルドが高速で飛んできて攻撃を仕掛けるもあっさりと躱され背中に一撃を貰い、地面に倒れ伏す。

(ファウストローブは、錬金術の基本である『等価交換』の元、何かを消費してその力を発揮するのに対し、ファウストアーマーはその代償があまりにも少ない。理由はごく単純、男性は女性の下位互換だから・・・!)

了子の研究データ。そこに記載されていた記録に、とある興味深いものがあった。

 

曰く、『シンフォギア、ファウストローブを纏えるのは、生物学的に男性の上位互換である女性のみ』と。

 

即ち、男性ではどうあがいてもシンフォギアを纏う事は出来ないのだ。

まあ、全く別系統で男性でも戦える『ライダーシステム』が、とんでもない角度から登場した訳であるのだが。

そして、そんなファウストローブに対してある程度の適合率を持つ者だけが、ファウストアーマーを纏う事ができるのだ。

理由は、シンフォギア、ファウストローブが体表にエネルギー化した聖遺物を纏うのに対して、ライダーシステム、ファウストアーマーは体の外側に物質化した鎧を纏うからである。

ようは、ぴっちりスーツとパワードスーツのようなものである。

 

だから、運用性に関してはファウストアーマーの方が上。

「ぬぐあ!?」

クローズが吹き飛ばされる。

「くっ、だったら――――」

 

『ハザードオン!』

 

ハザードトリガーを取り出し、それをビルドドライバーに接続。

すかさずウルフフルボトルとスマホフルボトルを取り出し振り、それをビルドドライバーに装填する。

 

ウルフ!』『スマホ!』『スーパーベストマッチ!!』

 

『ドンテンカン!ドーンテンカン!ドンテンカン!ドーンテンカン!』

 

ビルドは立ち上がって、躊躇いなくボルテックレバーを回す。

 

『ガタガタゴットンズッダンズダン!ガタガタゴットンズッダンズダン!』

 

そうして展開するは鋳型のハザードビルダー。

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

すかさずビルドはそれに挟まれ、開いた中からその身を真っ黒な姿へと変身させる。

 

『アンコントロールスイッチッ!!ブラックハザード!!!』

 

『ヤベェーイ!!!』

 

ビルド・スマホウルフハザードフォーム。

再びビルドが禁断の姿へと手を出した瞬間である。

「行くぞ!」

真っ黒な姿でビルドはリカルドに殴りかかる。先ほどより身体能力が引きあがり、これでいくばくかはリカルドに追いつけるか―――と思われた矢先。

「その真っ黒な姿はやはり醜い・・・まさに人間の歴史を表しているかのようだよ」

「ッ!?」

しかしハザードフォームでも触れることは敵わず、次の瞬間、盾でぶん殴られる。

「ぐあ!?」

「フハハハハ!!」

よろめくビルド。

「くそっ、万丈!」

「おう!」

ビルドとクローズが、別々の方向からリカルドを攻撃する。

ほぼ同時に、別方向から。

これならば、躱せずともあたりはする。

だが―――それもかなわずクローズが背後から剣の一撃を受ける。

「ぐあ!?」

「言っただろう。その程度では私に触れることは出来ないと」

圧倒的スペックの差。身体能力もさることながら、その戦闘技術も凄まじい。

「今度はこっちから行くよ!」

「ッ!?」

そうしてリカルドが攻撃するのはビルド。その手に持つ剣を、肉眼では捉えられないほどの速さで振るう。

その超高速の連撃を躱すことはできず、ビルドは両腕を掲げて耐える。

「ぐ、ぅぅ・・・!」

今のビルドはハザードフォーム。即ち、暴走の危険性のあるフォームだ。

こんな状態で後手に回るのは、あまりにも状況的に悪い。

そこへクローズが背後から殴りかかるも躱される。

「無駄無駄」

「なろぉっ!」

クローズが再び殴りかかるも、すかさず躱されてその腹に斬撃を受け吹き飛ばされる。

「ぐあ!?」

その背中にビルドが攻撃をしかけるも真上に躱され後ろに回り込まれ、背中を蹴り飛ばされる。

そのままクローズの元へ着地し、そこへリカルドが強襲する。

「二人まとめて片付けてやる!」

壁に追い込まれた二人を、リカルドの剣が嵐の如く叩き込まれる。

「ぐ・・・ぅあぁぁ・・・!?」

「反撃する・・・隙がねえ・・・!」

そのまま、ビルドとクローズは蹂躙されていく―――

 

 

 

 

 

 

 

その一方で、背中の弦を爪弾いて音を奏でるキャロル。その次の瞬間、錬金術が発動。激流と爆炎が迸り、翼とクリスを襲う。

それをどうにか躱す二人だが、その威力は絶大であり、その一撃が迸った場所はまとめて焼け野原にされる。

唄うわけでもなく、この膨大なエネルギーを迸らせるキャロルのファウストローブ。

その『源』は『思い出』と呼ばれる脳内の電気信号。それを『償却(しょうきゃく)』することでダウルダブラを使っているのだ。

他者の持つその電気信号を錬金術で変換錬成。それによって生み出されるエネルギーをもって、ダウルダブラを歌を介さず使用しているのだ。

まさしく、火に薪をくべるかの如く。

これが、歌と錬金術の違い。歌は、それなりに大きな代償を必要としない分、その量、性質、相性が大きく関係してくるのに対し、錬金術は大きな代償を支払う事でありとあらゆる聖遺物を起動することが可能。

オートスコアラーは元来作られたもの。即ち『思い出』の量が少なく、他者から奪わなければならない。

しかしキャロルは、その身によらず数百年は生き永らえている存在。その思い出の量は、今を生きるものたちからすれば、途方もなく膨大。

比べるのもおこがましい程、その力はシンフォギアを凌駕する。

「くあぁああ!?」

燃料タンクが引火し、その爆風に翼が吹き飛ばされる。

リンクスアーム『スカイスプリング』による高機動を生かしても、キャロルの猛攻に追いつかれたのだ。

そして、すかさずキャロルが翼に向かって追撃の砲撃、六条の光が一気に殺到する。

「先輩!」

翼がやられたことに思わず声を挙げるクリス。

「その程度の歌でオレを倒せるなどと!」

動きの止まったクリスに、キャロルが魔弦を振るう。ピアノ線の如く振るわれるそれはクリスのいたコンクリートの建物を容易く切断し、粉砕する。

しかしそれを躱したクリスはその手にある武装をボウガンへと変え、物質化した矢をキャロルに向かって射出。

その矢は、空中で分解。矢の驟雨となってキャロルに襲い掛かる。

 

GIGA ZEPPELIN

 

しかし、襲い掛かるその驟雨を、キャロルは螺旋状に回転、展開した魔弦をもって全て叩き落し、その回転する弦の束に手を通せば、それは質量をもった螺旋の武器―――ドリルへと変わる。

そしてそれを束ねる弦の内一本を思いっきり引っ張り高速回転。それに錬金術の風の力を上乗せして竜巻を発生。その竜巻にクリスを飲み込ませる。

「ぐぅっ!?」

それに捉えられ、身動きの取れないクリスに向かって、キャロルはそのドリルを叩きつける。

暴嵐が塔の如く舞い上がる。

一撃を喰らったクリスは、そのまま落下。翼の隣に落ち、風によって砕かれた瓦礫が傍に降り注ぐ。

まさしく、圧倒的。

このままでは、敗北は必至だろう。

「「ぐあぁぁああ!?」」

そこへビルドとクローズも転がり込んでくる。

「いってて・・・大丈夫か戦兎?」

「ああ・・・まだハザード限界には余裕がある・・・まだいける」

仮面のモニターに表示されたハザード限界を示すゲージを見ながら、ビルドはそう答える。

「クク、まだやる気なのか?」

リカルドが、剣を弄びながら歩いてくる。

「くそったれが・・・」

「お前ら、無事か?」

「あれを試すには、ギリギリ大丈夫って所かな・・・」

「あれ・・・イグナイトモジュールか」

イグナイトモジュール。

それは、シンフォギアに新たに搭載された新型の決戦機能。

暴走をわざと引き起こし、なおかつ制御し、自らの力へと変える。

それが、イグナイトモジュール。

「ふん、弾を隠しているなら見せてみろ。俺は全ての希望をブチ砕いてやる」

そんな彼女らにキャロルは見下すようにそう言う。

「お前ら、分かってんだろうな?イグナイトのスイッチを入れれば最後―――自分の闇と戦う事になるぞ」

「上等だ―――付き合ってくれるよな?」

ビルドの言葉に威勢よく答え、己が先輩へと意志を尋ねる。

「無論、一人で行かせるものか!」

ならばあとは起動するのみ。

己が覚悟をもって、二人は胸のギアユニットに手を添える。

 

「「イグナイトモジュール―――抜剣!」」

 

 

『DAINSLEIF』

 

 

暴走の力が、起動する――――

 

 

外されたマイクユニットが形を変え、巨大な針を形成。それが、少女の胸を穿つ。

それはまさしく、彼女たちの心の闇を開放する注射針の如く。

全身を掻きまわし、内臓を掻きまわし、筋肉を潰し、心を圧迫し、骨を軋ませ―――その全てが幻痛であるにも関わらず、二人の体の中を暴れる破壊衝動は強力だった。

「が・・・ぁぁああ・・・・・!!」

「ぐ・・ぎあ・・・ぁぁあ・・・!!」

二人の体を、黒い何かが覆い始める。

「おいおいこれ大丈夫なのか!?」

「それは―――来るぞ!」

クローズが目を離した隙に、リカルドが強襲。その間にビルドが割って入り、その一撃を受け止めようとするが、掲げた両腕の隙間を縫って、剣の一撃がビルドを打つ。

「ぐうッ!?」

すかさず、リカルドの蹴りがクローズを弾き飛ばし、さらに間髪入れず、よろめきから回復していないビルドに剣の一撃を叩き込む。

「「ぐあぁぁああ!?」」

吹き飛ばされるビルドとクローズ。ビルドはコンテナに叩きつけられ、クローズは地に倒れる。

その最中で、己が体をのた打ち回る破壊衝動に悶え苦しむ翼とクリスを見て、ビルドは思い出す。

(イグナイトモジュールの核に使われている魔剣ダインフレイフは、抜けば血を求め、出来なければ使用者を殺すまで、鞘には戻らない呪われた剣・・・その剣の持つ殺戮衝動は人の心の闇を暴き、そして引きずり出す・・・ハザードトリガーとは似て真逆の力・・・)

ハザードトリガーは、強化剤によって己を強化し、その闘争本能を引き出し自らを強化するが、その強化剤の量が度を過ぎれば、脳は負荷に耐えきれなくなり、『破壊』以外の一切の感情を排除。殺戮マシーンとして暴走する。

だがイグナイトモジュール、かつシンフォギアの暴走は感情の爆発だ。ただ機械的に相手を破壊するのではなく、己が持つ破壊衝動を爆発させて暴れる。その姿は、さながら『獣』だ。

兵器と獣では、それはあまりにもかけ離れている。

だから、戦兎はその事に気が付かなかった。

シンフォギアの強化案として、その可能性を考慮しなかったのだ。

兵器と、獣だから。

(だけど、その引き出された破壊衝動に、人の心が打ち勝つことが出来れば―――)

それはまさしく、『獣』ではない『人』の力として振るわれる。

であるならば―――

(それを信じて、俺たちは戦うしかないッ!!)

地面に殴るように手を突き、ビルドは立ち上がる。

「うぉぉぉぉぉぉおおぉぉおお!!」

「こなくそがぁぁぁあぁぁああ!!」

ビルドとクローズが絶叫を挙げて、リカルドに殴りかかる。

 

 

そうして、ビルドたちが激闘を繰り広げている間、翼たちは――――

(あのバカは、ずっと、こんな衝動に晒されてきたのかァ・・・!?)

襲い掛かる破壊衝動。その重さが、これほどまでに辛いとは、誰が想像できていただろうか。

否、出来なかった。これを体験するまで、ずっと―――

(気を抜けば、まるで、深い闇の底に――――)

 

 

 

 

気が付けば、そこは、どこかのステージの上―――

「ステージ・・・?」

一体、いつ、自分はここにやってきた?

確か先ほどまで、自らを潰すような、破壊衝動に晒されていた筈。

それが証拠に、体は鉛のように重い。

だとしても、

「私は、もう一度ここで、大好きな歌を唄うんだ・・・!夢を諦めて、なるものか・・・!」

そう意気込んで、顔を挙げた先にいたのは――――

 

観客席を埋め尽くすほどの―――ノイズたち。

 

「私の歌を聞いてくれるのは、敵しかいないのか・・・?」

その目の前の光景が、翼を揺らがす。

新たな敵の出現に、戦いの為の歌を余儀なくされる。

 

剣であることを強いられた、自分には――――

 

かつて、父に言われたこと。

 

『お前が娘であるものか。どこまでも汚れた風鳴の道具に過ぎん』

 

それでも、認められたい。見てもらいたい。その為だけに、この身を『剣』として鍛え上げた。

(そうだ・・・この見は『剣』。夢を見ることなど許されない道具―――だけど―――)

その身に出来た『刃』では―――

 

―――誰も、抱きしめる事ができない――――

 

「う・・・ぐ・・ぁぁぁあ・・・・!!」

足元に散らばるのは、抱きしめてバラバラになった、奏の体。

そのバラバラになった残骸を見て、翼は、一人むなしく、闇に泣く――――

 

 

 

 

 

 

 

目が覚め、見た先にあるのは―――もう見慣れた教室だった。

見たところ、授業の最中だろうか。

茫然と見渡していると、友人がこちらを向いて、微笑みかける。

それに無性に恥ずかしくなって、教科書で顔を思わず隠す。

 

教室―――自分がいてもいいところ。

 

ずっと欲しかったものだ。両親を失い、この世の地獄に晒され続けて、やっと手に入れた平穏の場所。

だが、平和だからこそ思う。

 

地獄を日常としてきたが故の―――違和感。

 

この春から出来た後輩。だが、自分の不甲斐無さで戦場へと駆り立て、そしてあんな風にボロボロにさせてしまった。

 

独りぼっち、仲間、友達、先輩、後輩、恋人―――そういうものは、求めるべきじゃなかった。

 

(でないと―――でないと―――)

崩れた建物、破壊された街―――その中で倒れ息絶える後輩たち。

そうして、残酷な世界が彼女らを殺し、本当の独りぼっちとなってしまう―――

温もりを知らなければ、こんな思いを、することもない―――。

 

その、現実(ゆめ)から、クリスは逃げ出す。

 

「くぅ・・うわぁぁあぁああ!!」

泣き喚いて、ただ我武者羅に走って、その光景から、めをそらして―――

 

 

 

 

 

 

誰かにその手を掴まれた。

 

 

 

 

振り返った、その先にいたのは――――

 

 

「―――すまないな。雪音の手でも握ってないと、底なしの淵に、飲み込まれてしまいそうなのだ・・・」

脂汗を滲ませて、苦しそうな顔で笑う、翼の姿だった。

「・・・っへ、おかげでこっちもいい気付けになったみたいだ。危うくあの夢に溶けてしまいそうで・・・」

 

 

『IGNITE MODULE―――Force release(強制解除)

 

 

天羽々斬とイチイバルに搭載されたAIが、イグナイトモジュールを強制解除する。

その反動で、二人は地面に膝をつき、疲労困憊で息を挙げる。

そこへ、弾き飛ばされたビルドとクローズがやってくる。

「お前ら、大丈夫か!?」

「龍我・・・」

「戦兎・・・すまない、イグナイトモジュールの起動に、失敗した・・・」

「だろうな。見ればわかる・・・俺の方も限界だ」

ハザードトリガーを外し、ハザードフォームを解除するビルド。

「仕留めきるどころか、触れることすらできなかった」

「ったく、どんだけだよあの野郎」

膝をつき、ビルドは、近寄ってくる敵を睨みつける。

対峙するリカルドは、完全に無傷。一撃どころか触れることすら叶っていない。

「どうすんだよ・・・」

「何、方法はあるさ。ただ、あいつがそれを許してくれるかどうかが問題だが・・・」

当然、許しはしないだろう。あの男は、かなり用心深く、そして合理的な男だ。

決して自分の不利になるようなことはしない。

ビルドの持つ、ラビットラビットとタンクタンク、そして、クローズの()()姿()への変身は、決して許しはしないだろう。

あの速さでなら、変身する前にこちらを仕留める事が可能な筈だ。

それを、どうにかするには―――――

(イグナイトモジュールの起動で時間を稼いでくれると嬉しかったんだけどな)

失敗しては仕方がない。別の方法でどうにかするしかない。

「尽きたのか、それとも折れたのか・・・」

キャロルが降りてきて歩いてくる。

「いずれにせよ。立ち上がる力くらいはオレがくれてやる!」

そう言って、キャロルは上空に何かを投げる。

それは空中に溶けると、突如として巨大なアルカノイズが出現、その豚のような足の穴から何十体もの飛行型アルカノイズが出現し、目の前に広がる都市の上空で飛び回る。

「く・・・ここにきてアルカノイズを・・・!?」

空を飛ぶアルカノイズ。そのアルカノイズたちが、その身を円盤の如く回転させて、一気に街に降り注ぐ。

ノイズが落下していく度に、凄まじい爆発が起きる。

街から、人々の悲鳴が聞こえる。

「いつまでも地べたに膝をつけていては、市街の被害は抑えられまい」

「ああ、見るがいい!今、この汚らわしい世界の一部が清められている!汚れた人間どもが、今まさしく浄化されている!これほど素晴らしい光景は他にないだろう」

キャロルはともかく、このリカルドという男は本当にイカれている。

そして、このような狼藉は、絶対に許してはおけない。だというのに―――

(手をつく力を・・・!)

(奴に突き立てる牙を・・・!)

体は、鉛の如く重い。

その体で、どうにか立ち上がる翼とクリス。

しかし、やはり立ち上がることで精一杯なほど、二人は消耗しきっていた。

「歌えないのなら―――」

キャロルが、そんな二人を嘲笑う。

「分解される者たちの悲鳴をそこで聞け!」

そう、叫んだ時だった。

「―――ハハハハハハ!!!」

誰かの笑い声が聞こえた。

「桐生?」

その声の主は、ビルドだった。

「おいおい、もう勝った気でいるのかよ。だったらそれは少し早い」

「なんだと?」

「戦える奴がここにいる連中だけと思ったのかよ」

次の瞬間―――爆発が止む。

「―――ッ!?なんだ!?」

その異変に気付いたキャロルが見たもの、それは――――

 

 

「白熱!発光!勝者!まだまだ燃えたりねぇぇぇえええ!!!」

「この街を、そう簡単に分解できると思うな!」

 

 

黄金と紫の二人の仮面ライダーが、落ちてくるアルカノイズたちを叩き落している姿だった。

それだけじゃない。三体の怪人もまた、アルカノイズから市民を守り、また人々を助け出していた。

「おい!そっちにいたか!?」

「まだ結構いるよ!」

「一人残らず助けろ!」

一人、また一人と、崩れた瓦礫の中から助け出される。

そう、彼らは―――

 

 

「グリスにローグだと!?」

「なるほど、アルカノイズ対策をしているとはいえ、まさかあの二人を倒してきたか」

グリスがツインブレイカーで、ローグがネビュラスチームガンで次々と敵を打ち落としている。

一体も、逃さず、確実に。

 

 

「幻さん!かずみん!」

「無事だったか!」

ローグはともかく、グリスたちは何かしらのボトルの力を使って遠い場所からここまで飛んできたのだろう。

「チッ、だが、いくら打ち落とそうとも、大本を絶たなければ―――」

キャロルがそう呟いた直後、本部のある方向から、何かが飛んでくる。

それは、五基のミサイル。

そのうちの一つには――――ギアを纏った響が―――

「リンクスアームズ!」

 

『Links Armes〔Phoenix Blaze〕!』

 

次の瞬間、響の纏うシンフォギアから炎が巻き起こる。それがまさしく不死鳥の如く燃え上がり、その炎を纏って、響は一撃必殺の拳を、ノイズを生み出すアルカノイズに叩きつける。

そして次の瞬間、その炎で体を撃ち抜かれ、続けて残り四基のミサイルが空中のノイズたちに炸裂する。

 

それが、響のリンクスアームズ『フェニックスブレイズ』。

 

超火力をもって拳の威力を増大させ、敵を撃ち抜き焼き尽くす、クローズと同じブレイズ系の力―――

 

 

 

響が駆けつける数分前―――

 

翼たちが、イグナイトモジュールの発動に失敗した時だった。

「まずい!」

「装者、モジュールの起動に失敗!」

装者たちの心身の状況をモニターしていた藤尭と友里が声を挙げる。

「ボクの錬金術では、キャロルを止めることはできない・・・」

そして、その光景にショックを受けるエルフナイン。それが、装者への失望ではなく、自分の不甲斐無さ故にだ。

だが、そんなエルフナインに、響が寄り添う。

「大丈夫、可能性が全て尽きたわけじゃないから」

響が、そう言った直後、

「響さん!」

セレナが転がり込んでくる。

「セレナちゃん・・・」

「できました、『ガングニールフェニックス』です!」

そうして、セレナの手から飛び出すのは、夕焼け色の塗装が施された、一匹の機械の鳥。

それが、響の元へと飛んでいき、響の持ち上げられた手の中に乗って、威勢よく一鳴きする。

「キュイーン!」

その声に、響は不敵な笑みでうなずく。

「よし、行こう!」

 

 

そして、甲板に響が出ると、

「響・・・!」

丁度、慧介、調、切歌を抱えた未来が到着する。

未だ病衣のまま出てきた響に、未来は驚きと戸惑いを見せる。そして、俯いてしまう。

理由は無論、内緒でシンフォギア装者になっていたことだ。

隠し事はしないでほしい。かつてそう言っておきながら、今度は自分がその約束を破ってしまった。

かつて言ってしまった、彼女への言葉を、また自分に言われるのが怖かった。

だけど、それを振り切ってまで装者になったのは、一重に、響の手助けになりたいからで。

と、言い訳を考えてしまった未来だが、もはやこうなった以上、どんな言い訳も意味もなさないだろう。

であるならば、どんな罵倒でも受け入れようと、未来は、恐る恐る口を開く。

「あ、あの、響・・・」

だが、その言葉は続かず、戸惑う未来を、響はそっと抱きしめる。

「言いたいことは沢山あるけど、これだけは言わせて。―――ありがとう」

その言葉は、未来の予想だにしていなかった言葉だ。

「私が私の歌を取り戻せたのは、未来のお陰だよ。だから、ありがとう」

「ひび、き・・・」

「だけど、帰ってきたら説教だからね。ちゃんと言い訳の準備しといてよ?」

「う・・・ふぐ・・・うん・・・うん・・・!」

響の言葉に、未来は、耐え切れず涙を流す。

そうして響は未来から離れ、そして、潜水艦の先端に向かって歩き出す。

「行くよ」

 

『STANDBY!』

 

ハイテンションな機械音声。それを聞こえた直後、響はフェニックスを真上へと投げる。

そして次の瞬間、響の上空に、その身を燃え盛らせる巨大な火の鳥が現れ、響の周りを飛び回る。

その鳥がまき散らす燐光は、幻想的の一言でしか語れないほど、苛烈で、綺麗だった。

そして、その燐光の中で、響は、歌う。

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)―――」

 

その身に、黄色の戦装束を纏い、ヘッドギアから何まで不死鳥を模したかのようなデザインへと変化したその姿をもって、響は、発射されたミサイルへと飛び乗った。

その姿を、未来は見届ける。

「・・・頑張って」

 

 

 

そして現在。

響が、翼たちの元へ降りる。

「すまない・・・お陰で助かった」

「とんだ醜態を見せちまったけどよ」

未だ疲労が回復しない装者二人。そんな二人に、響は提案する。

「イグナイトモジュール、もう一度やってみましょう!」

それは、再びあの暴風の中へと飛び込むような提案だった。

「だが、今の私たちでは・・・」

「未来が教えてくれたんです。自分はシンフォギアの力に救われたって」

かつての親友の言葉を思い出し、響は二人を説得する。

「この力が、本当に誰かを救う力なら、身に纏った私たちだって、きっと救ってくれる筈!ダインフレイフの呪いを打ち破れるのは―――」

「いつも一緒だった、天羽々斬・・・」

「アタシを変えてくれた、イチイバル・・・」

「そして、ガングニール!」

 

Exactly(その通り)!』

That's how it is(そういう事だ)

Please believe us(私たちを信じてください)

 

ギアたちが、装者たちに訴えかける。

それは、これまで共に戦ってきたからこそ、そして、言葉を伝えられるようになったからこその、聖遺物たちの想い。

「信じよう!胸の歌を!シンフォギアを!」

「はっ、この馬鹿に乗せられたみたいでカッコ付かないが、まあギアにもこういわれちゃあな」

「もう一度行くぞ!」

三人が意気込む。

「さてさて見ものだなぁ・・・」

その様子を見ていたリカルドに、突如としてビームが襲い掛かる。

それを、リカルドは余裕をもって躱す。そのビームを打ったのは、クローズだ。

「不意打ちのつもりだろうけど、殺気が丸わかりだ?」

「はっ、避けたつもりだろうが、それはどうかな?」

「?・・・何っ!?」

リカルドが足元を見る。そこには、リカルドの足をばっちり捉える蜘蛛の巣があった。

「スパイダーフルボトルとオクトパスフルボトルのジャストマッチだ。粘着性と吸着性に動けなくなってろ!」

「小癪な!」

リカルドは、その蜘蛛の巣から逃れようと躍起になる。

「万丈!今だ!」

「おう!」

ビルドとクローズが、変身を解除する。

そして取り出すは、戦兎はハザードトリガーとフルフルラビットタンクフルボトル。

その一方で龍我がスクラッシュドライバーを外して取り出すのはビルドドライバーとクローズマグマナックル、そしてドラゴンマグマフルボトル。

戦兎はハザードトリガーのBLDハザードスイッチを押し、龍我はドラゴンマグマフルボトルをクローズマグマナックルに装填する。

 

 

 

『マックスハザードオンッ!!!』

 

 

 

『ボトルバーン!!!』

 

 

 

続けて戦兎はフルフルラビットタンクフルボトルを振る。

 

「さあ、実験を始めようか」

 

そして、そう呟き、ボトルを振ると同時に周囲に無数の数式が実態となって現れる。

そうして、跳躍音から重厚音へと変え、セレクティングキャップでタンクの柄を選択。

 

タンク!』

 

そしてそれを伸ばして曲げて、ビルドアップコネクターを接続。

そして、戦兎と龍我は、それぞれのアイテムを、それぞれのドライバーに装填する。

 

 

タンク(アンド)タンク!!』

 

 

クローズマグマ!!』

 

 

「ハァ!」

リカルドが、拘束を逃れる。

「そうはさせない!」

すかさず未だ変身途中で無防備なビルドとクローズに襲い掛かろうとするリカルド。だが、その行く手は、突如現れた小さな戦車たちに妨害される。

「ぬっ!?くぅ・・・!?」

その間に、戦兎と龍我はボルテックレバーを回し、それぞれのビルダーを展開していた。

そして、その一方で装者たちは、胸のマイクユニットの起動スイッチを押し、イグナイトモジュールを再び起動する。

 

「「「『イグナイトモジュール』、抜剣!!」」」

 

 

『DAINSLEIF』

 

 

そして、イグナイトが起動したマイクユニットの針が、三人を貫く。

そうして胸から溢れ出る、とめどない破壊衝動―――

「う・・ぐあぁぁ・・・あぁぁあ・・・!!!」

「ぐ・・・ぅぅう・・・ぅあぁあ・・・!!!」

「あ・・あぅ・・・ぅあぁああ・・・・!!!」

その衝動を、必死に抑え込む三人。

体から黒いオーラが溢れ出す。それはまさしく、シンフォギアが体現する暴走の力。

それが、彼女たちの体から溢れ出ているのだ。

 

 

戦兎は、『兵器』を体現するハザードビルダーを――――

 

龍我は、『極熱』を内包するマグマライドビルダーを―――

 

三人の少女は、『暴走』のイグナイトモジュールを―――

 

 

 

 

 

その様子は、当然、S.O.N.G本部の発令所でも―――

「呪いなど斬り裂け!」

マリアが叫ぶ。

「破壊衝動などねじ伏せればいい!」

シンが咆える。

「撃ち抜くんデス!」

「恐れずに砕けばきっと・・・!」

「きっと、打ち勝てる・・・!」

切歌が、調が、慧介が、願う。

「響・・・」

未来が、呪いに悶え苦しむ親友を、真っ直ぐに見つめる。

 

 

(未来が教えてくれたんだ――――)

 

力の意味を、背負う覚悟を――――!

 

だから、この衝動に塗り潰されて―――――!!!

 

 

 

 

(((なるものかぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁあああ!!!!)))

 

 

 

 

『Are You Ready?』

 

 

 

音声が、聞こえた。

 

 

それは、ビルドドライバーから発せられた、覚悟を問う言葉。

 

「「―――愛と平和のために」」

 

その言葉に、戦兎と龍我は呟き、そして、構えて―――()()()()()()()

 

 

「「「「「変身ッ!!!」」」」」

 

 

その次の瞬間、戦兎はハザードビルダーに挟まれ、龍我は背後のマグマライドビルダーから『ヴァリアブルマグマ』を浴び、響、翼、クリスはその身に漆黒の闇を纏う。

ハザードビルダーから出てきたビルドはその全身を真っ黒に染め上げ、そして、戻ってきた蒼き戦車隊を、飛び上がってその身に纏う。

龍我に浴びせられたヴァリアブルマグマは地面に広がり、そのマグマが流れた足元から八つ首の龍が伸びあがる。

そして冷え固まり、固着したマグマを、マグマライドビルダーが背後からブチ砕く。

漆黒を纏った装者三人。その漆黒は形を成し、明るい色合いの戦装束を一気に漆黒へと染め上げ、それぞれのパーソナルカラーをそのままに、暴走の色の黒を、己が力として顕現させる。

 

 

 

『オーバーフロウッ!!』

 

 

鋼鉄のブルーウォリアー!!!

 

 

極熱筋肉ゥッ!!クロォォォズマグマァッ!!!』

 

 

タンクタンクッ!!!

 

 

アーチャチャチャチャチャチャチャアッチャァァアアッ!!』

 

 

『ヤベェーイッ!!!ツエェーイッ!!!』

 

 

 

漆黒の外側から、平和の為の武力を。

 

冷え固まったマグマから、灼熱の力を。

 

纏われた暴走を、己が力へと。

 

 

 

それこそが、武力を体現する『ビルド・タンクタンクフォーム』。

 

灼熱をその身に宿す『クローズマグマ』。

 

そして、暴走を制御した『イグナイトモジュール』。

 

 

その起動が、今、成功したのだ。

 

 

 

『MODULE Start up!Let's Rampage!』

 

 

 

ギアからの言葉を聞き届け、漆黒の少女たちが歌う。

「始まる歌」

「始まる鼓動」

「響き鳴り渡れ希望の歌」

 

三人の歌が、重なる。

 

「「「『生きる事を諦めない』と―――」」」

 

ビルドがその手にフルボトルバスターを構え、

 

「熱き」「夢の」「幕開けよ!!」

 

クローズが灼熱の熱を武器に構える。

 

「爆ぜよ」「この」「奇跡に―――」

 

さあ―――反撃の時間だ!

 

「「嘘はないッ!!!」」

 

放たれるアルカノイズたち。だが、もはやそれは意味をなさぬ烏合の衆!

「うぉぉぉぉおおぉぉぉおお!!!」

後衛から送られてくる情報は、イグナイトモジュールの稼働可能時間は999.99カウント、そして敵の数五千。

「たかだか五千!」

屁でもない。

 

「―――その手は何を掴むゥ為にィあるッ!?」

 

響の拳が、ノイズをぶっ飛ばす。

 

「たぶん、待つだァけじゃ叶わァないッ!!」

 

その威力は絶大であり、一撃で大多数のノイズを一掃する。

 

「その手は、何を守ォる為にあるッ!?」

 

その一方でビルドは足のキャタピラを使って地面を走行、その速さをもって敵陣を駆け抜け、フルボトルバスターの引き金を、肩の砲台をぶっ放す。

「おぉぉぉぉおおぉぉおおお!!!」

その砲撃の嵐は、たちまちアルカノイズの集団を吹き飛ばす。

 

「伝う」「熱は」「明日を」「「「輝かす種火にィィ―――ッ!!!」」」

 

その最中で、翼の持つ剣が蒼電を帯び、振るわれた瞬間、超圧縮された(いかずち)の斬撃となりて、ノイズを一掃する。

 

蒼ノ一閃

 

「例え闇に吸い込まれそうになってもッ!!」

 

その一撃は光となり、ノイズを纏めて斬り裂く。

「力が漲る―――!」

燃える拳が、ノイズを焼く。

「魂が燃える―――!!」

発する熱が、ノイズを焦がす。

「俺のマグマが、迸るッ―――!!!」

今のクローズは、完全なる熱の塊、エネルギーそのもの。

溢れ出るマグマの力が、瞬く間にアルカノイズを蹂躙していく。

「もう誰にも、止められねぇぇぇえ!!!」

拳から放たれたマグマが、アルカノイズたちを焼き尽くす。

 

「涙さえも血に濡ゥれて苦しくってもッ!!」

 

そしてクリスは、己が持つ重火器、小型ミサイル、大型ミサイルを率いてノイズを殲滅しにかかる。

放たれた小型ミサイルは地上のノイズを焼き払い、打ち放たれた大型ミサイルはその外装をパージし、中から再び小型ミサイルを放出、そして空中にいるノイズたちを、一瞬にして纏めて消し差る。

 

MEGA DETH QUARTET

 

「帰ェる場所ォが待っているゥッ!!」

 

ノイズが次々と消し炭になっていく。一方的な殲滅。

 

まさしく無双―――

 

「集え」「守れ」「契れ」

 

「「「勇気の結晶が 奇跡なんだァァ――――ッ!!!」」」

 

その様を見て、キャロルとリカルドが動き出す。

「臍下あたりがむず痒い!」

飛び上がったキャロルが魔弦を持って響たちを攻撃し始める。

「動いたか・・・!」

「そう、そしてお前の相手は私だ」

「ッ!?」

ビルドの背後に立ったリカルドが、剣を薙ぐ。

 

 

―――願い、祈り、すべてを背負い。

 

 

その一撃を諸に喰らうビルド。だが、

「ッ!」

「なっ!?」

見事耐え切り踏み止まり、フルボトルバスターを薙ぎ払う。

 

 

―――本気ィを超えた本気ィの唄ァッ!!

 

 

それをリカルドは寸でのところで躱す。しかしそこへ、背部の『ソレスタルパイロウィング』で飛翔するクローズの一撃を喰らう。

「ファーストヒットォ!!」

「ぐぅっ!?」

「かぁらぁのぉぉぉお――――」

すかさず、ビルドの振り下ろしが炸裂する。

「セカンドヒットォ!!」

「ぐあぁぁあ!?」

それを喰らったリカルドは吹き飛ばされる。

 

―――痛みィなんてェ何も怖くないッ!!!

 

「「うぉぉぉぉぉおおぉおお!!!」」

「ッ!?」

どうにか踏み止まったリカルドに、ビルドとクローズはさらに追撃。

ビルドは足のキャタピラで接近し、クローズは背中の翼でリカルドに突撃、そのまま体当たりをかましていくつもの壁を一直線に破壊していく。

 

―――滾れ 沸騰せよ このカラダ

 

その一方で、響たちはキャロルと対峙する。

その身に暴れる闘争本能のままに、彼女たちはその手の武器を、その闇を、悪意を振るう。

 

 

―――翳せェッ!!!

 

―――さァ闇夜にッ!!

 

―――稲妻をォォォォオオオォォオオオッ!!!!

 

 

だが―――

 

(それでも響は、傷つけ、傷つく痛みに、隠れて泣いている――…)

今は何もできない。この体はボロボロで、今はその隣に立つことはできないけれど、その痛みを、その想いを知っている。

(響の笑顔も、その裏にある涙も、拳に包んだ優しさも・・・)

その拳を突き出し、ただ全身あるのみと咆える響の姿を見守って。

(全部抱きしめてみせる・・・だから・・・!)

未来は、叫ぶ。

「負けるなぁぁぁあぁあああ!!」

 

 

 

 

叫ぶような歌が、鳴り響く。

腕に巻きつけられた魔弦を、逆に引っ張りキャロルの態勢を崩し、そこへ翼とクリスの一撃が降り注ぐ。

 

 

―――絆ァ!!心ォ!!!一つに束ねェ!!!

 

 

ビルドとクローズに押し込まれ、距離をとったリカルドは、何らかの力で周囲のコンテナを操作、浮かばせ、一気にビルドたちにぶつける。

 

 

 

その一撃を束ねた魔弦で防ぐも、すかさずそこへ響の『フェニックスブレイズ』を纏った拳が叩きつけられる。

 

 

―――響きィ鳴り渡れェ希望の音ォ!!!

 

 

その降りかかるコンテナに対して、クローズがラッシュを慣行。コンテナがクローズの拳の熱量に耐え切れず熔解していく。

その隙をついて、リカルドが剣から翼の『蒼ノ一閃』の如き斬撃が飛来、ビルドとクローズを穿つ。

 

 

その炎の一撃を防ぎきれず諸を喰らったキャロル、それと同時に高く飛び上がる響。

 

 

―――信ずゥ事をォ諦めないィとォ!!!

 

 

粉塵が舞い上がる。しかしその中から、ビルドが天高く飛び上がる。

その姿に、青い装甲はなく―――

リカルドが念力を使ってコンテナをそのビルドに放つ。

「ビルドアップ!」

すかさず、赤い機械の兎が飛来、その身を鎧パーツへと分解させ、向かってきたコンテナの上を駆け抜けるビルドにその鎧が装着される。

 

 

紅のスピーディージャンパーッ!!!

 

ラビットラビットッ!!!

 

『ヤベェーイッ!!!ハヤァーイッ!!!

 

 

 

「―――勝利の法則は、決まった!」

 

 

 

ビルドが―――加速するッ!!

 

 

コンテナの上を駆け抜け、飛び回り、何十ものコンテナが飛来してきているのにも関わらず、ビルドはその全てを避け、飛び、躱し、一気にリカルドに接近する!

 

 

―――唄えェ!!

 

 

その一撃を受けて、ボロボロのキャロル。そのキャロルに向かって、ギアのジェット機構で加速した響が襲い掛かる。

 

 

―――可能性にィ!!!

 

 

迎撃は不可能だと判断したリカルドは、すぐさま残ったコンテナを防御に回すべくビルドの前方に掲げる。

それと同時にビルドはボルテックレバーを回し、必殺技を発動する。

 

『Ready Go!!』

 

背中のマフラビットアクセラレーターが稼働、内臓された推進加速装置が起動し、ビルドは、一気に超音速へと加速させる。

 

『ハザードフィニッシュッ!!!』

 

その発動する寸前、ビルドに凄まじい重圧がかかる。

 

 

―――ゼロはないィ!!!

 

それは空気の壁。いきなり加速しだしたビルドを抑え込む、空気抵抗の壁だ。

その一瞬の隙、だが、その隙が、ビルドに大きな力を与える。

その壁を突き破った瞬間、デコピンの原理でビルドは爆発的に加速する!!!

だが、リカルドもただコンテナを掲げるだけには終わらない。

そのコンテナに手をかざし、何重にも重なったコンテナの性質を変換、鉄を、世界最強の高度を誇る『タングステン』へと変換錬成。ビルドの一撃に備える。

 

 

 

ボォルケニックナックルゥッ!!アチャァア!!!』

 

 

 

しかし、次の瞬間―――そのコンテナが()()、爆ぜるように()()()

「―――なっ!?」

その爆ぜた鉄の中から現れたのは―――クローズ。

 

 

―――飛べよォッ!!!

 

 

その手にはナックルダスター型の武器、本来ならばビルドドライバーに装填されているはずのそれが、クローズの突き出された右拳に握られていた。

 

―――この奇跡にィ!!!

 

「あとは頼んだぜ、戦兎」

そして気付けば、溶けて開けられた穴からは、ビルドの姿が見え――――

 

 

 

 

ラビットラビットフィニッシュッ!!!

 

 

――――光あれェェェエエエェエッ!!!

 

 

 

超音速の一撃が、リカルドに突き刺さった――――

 

 

 

闇の爆炎の一撃が、キャロルに突き刺さった――――

 

 

 

 

 

 

 

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」

息をあげて、ビルドは膝をついた状態で顔を挙げる。

「戦兎!」

そこへクローズが駆け寄ってくる。

「あいつはどうなった?」

「さあな・・・だけど手ごたえはあった」

あの超音速の一撃は確かに届いた。確かに、奴の胸を撃ち抜いた。

蹴り飛ばして叩きつけた瓦礫の中に、奴はいる筈だ。

しかし、煙が晴れた先に―――何かが割れる音がした。

「「―――ッ!?」」

それに思わず仮面の奥で目を見開く二人。

「この力・・・」

その先では、足元に方陣を出し、淡い光に包まれる、変身解除されたリカルドの姿があった。

その身の所々からは血を流し、ビルドに穿たれた胸からも血を流していた。

「やはり、人間は汚らわしい・・・力に溺れ、他者を踏み潰す・・・所詮をお前たちも同じだ。敵以上の力で相手をねじ伏せる。その行為を、醜いと言わずしてなんとする?」

その問いかけの答えを聞く気はないようで。

「人類はやはり・・・汚れている・・・」

その場から消えた。残ったのは、戦いによって破壊された施設と、彼が垂れ流した血。

そうして消えたリカルドに、ビルドは、

「確かにそうかもしれない」

その言葉を否定せず、

「だけど、何かを破壊するためだけに力を使うお前たちとは違う。この力は、『正義』の為の―――『愛と平和』を貫く為の力だ」

彼の信念ともいえるその言葉は、静かにその場に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

そしてまた、同じように決着のついた場にて。

「キャロルちゃん・・・」

響は、元の姿に戻り、自らの一撃で胸から血を流すキャロルに手を差し伸べる。

「どうして世界をバラバラにしようだなんて・・・」

しかし、キャロルはその手を払いのける。

「忘れたよ、理由なんて・・・」

苦虫でも噛み潰したかのような表情で、キャロルはそう言い返す。

「『思い出』を『償却』、戦う力へと変えた時に」

そう、キャロルは瀕死の状態で、響を責め立てる。

「その呪われた旋律で誰かを救えるなどと思いあがるな」

「・・・!?」

その言葉に、響は思わず動揺し、その表情に満足したかのようにキャロルは嘲笑い、奥歯に仕込んだ何かをかみ砕き―――

「キャロルちゃん・・・?」

突如として少女の体が倒れる。

「キャロルちゃん!?」

そして次の瞬間、キャロルの体は、焼け炭と緑の炎に巻かれ、消滅した――――

 

 

 

そして、響の絶叫が、曇り空に虚しく響いた――――

 

 

 

 

 

 

「―――時は、きた・・・」

ビルドからの一撃を受け、ボロボロのリカルドが、そう呟く。

「呪われた旋律は成された・・・存外、犠牲を払った甲斐はあったというもの」

リカルドの前には、六人の戦士たち―――

「さあ、始めよう―――終わりの始まり、『万象黙示録』を!」

リカルドは、大仰な振る舞いで、そう宣言する。

 

 

 

「よう」

「桐生」

「龍我」

「そっちはどうだ?」

「どうにか勝てた・・・だが・・・」

翼の見る先、キャロルの死体が燃える場所に、響は一人、そこに立っていた。

「呪われた旋律・・・誰も救えない・・・そんなことない。そんな風にはしないよ。キャロルちゃん・・・」

それは、響の小さな誓いだった。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「それでは説明を聞こうか」

戦いが終わった直後にピンチに陥る戦兎(+未来)

「正直、隠していたことは、結構怒ってるんだよ」

そして登場する全てのリンク・アニマル!

「うむ。ここらで一つ、特訓だな!」

だがしかし、そこで一つ重大な問題があった。

「俺たち水着持ってない・・・・」


次回『波乱のショッピング』

「・・・ありがとう。少し楽になった」






そんなわけで変身講座ァ!!!


っと、いうわけでシンに続いてこの涼月慧介が変身講座します!
何卒よろしくお願いしま・・・え?そんなかしこまらなくてもいい?いつも通りで?
まあ、そういうなら・・・
というわけで、俺が変身する仮面ライダータスクの正しい変身方法を教えてやる。
まずは、『スクラッシュドライバー』を装着。

『スクラァッシュドゥライバァーッ!!』

そして、今度はこのスクラッシュゼリーを装填する。これの特徴は、ゼリー状だから振らなくて大丈夫って所だ。振ってからじゃないと力を発揮できないフルボトルとの大きな違いだな。
あ、ここで気を付けてほしいのは、キャップの向きを正面にすること。じゃないと装填できないし何より中の成分が押し出されないからな。
というわけでスロットな(ポチッとな的に)。

タイガァージュエリィー!』

よっしゃ!あとはこのままレバーを下ろすだけ!
っと、俺の変身ポーズだけど、俺は左手を右肩あたりにもっていって、レバーをそのポーズのまま、右手で下ろすんだ。
それじゃあ、

―――変身!


『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

タイガァー・イン・タァスクゥッ!!』

『ブルァァァァア!!!』


・・・あ、ちょ、調?なんでそんなにはしゃいでんの・・・ああ、戦兎先生に強制退出させられた・・・あ、戦兎先生が反撃受けた。南無三。
うぉっほん。と、まあこれで変身は一通り終わった。
それじゃ、締めは俺の必殺技でフィニッシュだ!
必殺技を発動する時は、この状態でもう一度レンチを下ろす!

スクラップクラッシュッ!!!』

いくぜ、これが俺のライダーキックだぁあぁあ!!!


ズドォォォンッ!!!


・・・フゥー、スッとしたぜぇ・・・え?何?キャラが違う?
いいじゃねえか俺は物真似の達人だぜ?
ま、何はともあれ、これで俺の変身講座は終わりだ。
ご清聴・・・あいや読んでいただきありがとうございました。
えーっと、次回の変身講座は・・・ん?なんで装者まで!?
え?作者の中のイメージを共有したい・・・だって!?
別に商品化される訳でもないんだからそんなことしなくても・・・あ、ちょ、それを投げるのはアーッ!!

・・・と、というわけで、次週の変身講座は未来さんがやってくれます・・・え?なんでトップバッターが未来さんなのかって?
まあそのあたりは・・・察してください。

というわけで次回!!





リンクスアームズ解説


ガングニールフェニックス『フェニックスブレイズ』

全身に設けられている火炎放出機構から炎を放出する。
火力は調節可能であり、通常の赤い炎から最も温度の高い青い炎まで、程度を自由に変化させることが出来る。
本気で使えば戦車すら液体に変える。
放出機構の部分の問題によって火炎放出している際、その炎が響を中心に不死鳥の形をとる。
ただし火力と方向を間違えれば自身ごと周囲を焼き払うことになるので注意が必要。


天羽々斬ラビット『スカイスプリング』

全身くまなく、不可視超次元バネが装着されており、普段は固定され、通常のギアと同じ併用が出来るが、固定解除すれば負荷がかかり、その負荷の分、身体能力の向上及び攻撃の破壊力増加を促す。
身体の動きによってバネの伸縮をAIによって操作、装着者の動きに合わせて伸縮を繰り返す為に実質負荷はゼロだが、逆に強力過ぎる事でその反動に体がダメージを負うリスクがある。
ちなみに翼がぶっ飛んだシーンは中の人ネタ。


イチイバルドラゴン『フォトンチャージャー』

全身にリフレクターと同じエネルギーをギアに搭載された専用の回路を通して循環、加速増幅させることによって武器全般の威力を強化する。
最大で初絶唱時の集約キャノン並みの威力が出るが、その威力で街の一部を吹き飛ばしかねない為封印中。
デメリットはフォトンチャージャーはエネルギーを常に溜め続ける為に熱が体に籠りやすく、それによって精神ダメージと疲労が出てくること。
フェニックスブレイズは体内の熱まで放出するため、その点は問題はないが、フォトンチャージャーはエネルギーが全身を駆け巡るため、放出は出来ない。



ではまた次回!


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波乱のショッピング

響「エボルトとの戦いによって生まれた新世界の誕生から一年!仮面ライダービルドの桐生戦兎と聖遺物ガングニールのシンフォギア装者立花響は、錬金術師キャロルとデイブレイク社のリカルドたちとの間で激闘を繰り広げていたのであった!」
ク「んでまあ、その桐生戦兎のお陰で前回新アイテム『リンク・アニマル』が完成したってわけだ」
翼「リンクス・アームズ、イグナイトモジュール・・・その二つの機能によって、シンフォギアの力は、さらに高まっている」
マ「これで仮面ライダーに後れは取らないわ」
切「最近作者はデュエルリンクスでアロマージデッキを使い始めて連勝中なのデス」
調「切ちゃん!今必要ないよその情報!?」
ク「確か回復しながら戦うデッキだったか?」
翼「回復することで効果を発揮し、相手の伏せカードを手札に戻し相手の墓地のカードを除外するの悉くを封じる。さらに永続トラップ、永続魔法、フィールド魔法の力で常に回復し、危険外から常に相手とのライフに差をつけるのが、そのデッキの強みだったな」
響「コンボが悉く決まるから結構気に入っているようです!」
ク「揃えんのはかなり大変みたいだがな」
切「あ、ちなみに使っているキャラはてん・・・」
調「ストップ切ちゃん!それ以上はダメ!」
響「と、言うわけで、もうそろそろ学校が再開しそうな感じで自身の体力不足を呪っている作者に代わって、シンフォギア・ビルド第十一話をどうぞ!」


S.O.N.G本部の発令所にて・・・

 

「―――それでは、説明を聞こうか。被告桐生戦兎君」

「わざわざ犯人の刑罰執行を決める裁判のように言わないでくれ・・・いや実際に俺被告だけども・・・」

なんとも冷めた目で弦十郎、翼、クリス、マリア、その他大勢の視線が殺到する先、そこにいるのは、申し訳なさそうに一時間ぶっ通しで正座させられている戦兎と未来の姿があった。

 

彼ら二人がこうなっている理由は、未来の持つ『神獣鏡』の事について。

 

S.O.N.Gどころか政府にも完全秘匿して、秘密裏に小日向未来という装者を鍛え上げていたこと、そして、神獣鏡という新たなシンフォギアの事、そして個人的な理由で隠していたことについての、説明会(裁判)が開かれているのだ。

 

「えーっと、話せば色々と長くなるんだが・・・どこから聞きたい?」

「何から何まで全部だ」

クリスの言葉に、戦兎は頭を掻きながら答える。

ちなみに二人とも逃げられないように影縫いで拘束されている。やったのはもちろん緒川さん。

「事の発端は、フロンティア事件の時に、未来が神獣鏡を始めて纏った時だ。あの時あいつが放った『流星』を、クロが防いだことは知ってるよな?」

「ああ。それがどうかしたのか?」

「その時俺たちは、神獣鏡の事について何も知らなかった。一応、俺はシンフォギアが七つあることは知ってたが、それが一体どんな聖遺物なのかは知らなかった。だけどあの中で、クロだけは、神獣鏡の対処法を知っていた」

クロがダイヤモンドフルボトルを使い、光を屈折させて未来の流星の一撃を防いだ。

それは見方を変えれば、事前に神獣鏡の事を知っていたという事になる。

ただの一介の機械の分際で、何故神獣鏡の特性を見抜くことが出来たのか。

「その時はまだわからなかったが、あの後クロを修理した時、部品の一部が何かの物質と融合しているが分かったんだ」

「それが、神獣鏡・・・?」

「そう。それが分かったのは事変が終わって、しばらくしてからだ。授業中、未来が一人で歌っている時に、クロの中の神獣鏡が反応、それで、確信を得たってわけだ」

それと同時に、クロの機構がシンフォギアのものと類似しており、さらにその体内で未来の歌を増幅している事にも気が付いた。

「それで、事件は起きた」

 

 

それはある意味、偶然だったのかもしれない。

 

 

キルバスとの戦いから一ヶ月。

冬の冷たさが肌に突き刺さるこの時期、未来は―――生き残っていたキルバスと遭遇した。

 

 

「キルバス!?」

「あいつは龍我が倒したはずだろ!?」

「そうだ。だけどあいつはやられる寸前、自分の体の一部を擬態として逃亡させ、生き永らえたんだ。それでもって、エネルギーを再び取り戻す手段を探していた」

そこへ、未来が通りかかったのだ。クロと一緒に。

「未来から電話がかかってきた時はマジに驚いたよ。相当焦ってたのか、間違えて俺に掛けちまったみたいでさ」

「その時、響は任務で遠くに行ってたから間に合ないって思って、だから待機していた戦兎先生にかけたの」

そして、戦兎がマシンビルダーを走らせ、現場に駆け付けた時―――歌が聞こえた。

 

それが、未来がクロを使っての、初めて『神獣鏡』を起動させた瞬間だった。

 

「念のためにとコンバータ機能を整備して、問題なく起動できるようにしておいたのが功を奏したらしくてな。幸いキルバスは弱っていて、倒すのにもそれほど苦労はしなかった」

そして、クロが神獣鏡を内包している事もバレた、というわけだ。

「そこで俺は、一つの仮説を立てた。聖遺物には意志があるんじゃないかって」

「聖遺物に意志が?」

「そう、だからクロも普通の動物らしい仕草をするようになった。そして、自分と最も親和性の高い未来に懐いたんだと思う」

「だけど、未来さんは私たちより適合係数が低かった筈・・・なのになぜ、クロは未来さんにだけ・・・」

「まあ仮説だけども、刷り込み効果って奴かもしれない。ほら、生まれたばかりの小鳥が初めて見たものを母親って認識するって奴」

「つまり、一番最初に接触した小日向を主人として認識したってことか」

「まあそんな所だ。それともう一つ、適合係数についてだ。未来は、この中で誰よりも適合係数が低いにも関わらず、戦闘におけるバックファイアが一切なかった」

どれほどの大技を連発しても、普通の装者と変わらないバックファイアを常に維持し続けた。そのお陰で、ビルドが先陣を切ったこともあり、ほぼほぼ無傷でキルバス相手に勝利を納めたのだ。

「そんなわけで、こんな風に機械的な制御を施すことによって、適合係数を安定させられるんじゃないかって思い、色々と調べた訳」

「なんだか妙に未来と戦兎先生の絡みが多いと思ったらそういう・・・」

「でも結果は思った以上のものは得られなかった」

「そう。そこなんだよ」

シンの言葉に、戦兎はげんなりとした表情でうなずく。

 

確かに戦兎の仮説は正しいのだ。

シンフォギアを機械的に制御することで、適合係数は安定させられる。

だが問題は、その機械的制御を、脳のどの部分に作用させるのかが問題であり、思った以上の結果は得られなかったのだ。

 

「結局、セレナを実験台に検証してみた結果、適合係数はそれほど上がらず、第二種適合者のLiNKER無しでの運用は夢のまた夢となってしまったというわけだ」

「なるほど、それがリンク・アニマルの起源ということか。であるならば、何故未来君が装者になったことを隠していた?」

弦十郎の問いかけに、戦兎は迷いなく答える。

「神獣鏡は、他の聖遺物にとって天敵にもなりうるからだ」

 

 

 

神獣鏡の持つ特性『凶祓い』。

ガングニールは一撃の破壊力、天羽々斬は自由自在に変形する武器、イチイバルは広範囲長距離射程、イガリマは魂を斬り裂く刃、シュルシャガナは無限軌道による鏖殺、アガートラームは攻防一体の短剣の遠隔操作といった具合に、大方が物理的な攻撃力を特性がほとんどな他のシンフォギアに対し、神獣鏡だけは唯一、その『特殊性』を特性とするシンフォギアだ。

その特性である『凶祓い』はありとあらゆる不浄を払い、清める効果を持つが、そこへ『聖遺物を分解・消滅させる』という力も作用する。

それを用いれば、どれだけ強力で凶悪な力をもつ聖遺物の問題も、()()()()()()()()

それは、他の聖遺物を扱う者たちにとっては、あまりにも脅威となりうる特性だ。

そんな力を扱えるなんて、その手の者たちの耳に入ってきたらどうなるか。

 

 

 

「想像できないあんたじゃないだろ?」

その鋭い指摘に、弦十郎は押し黙り、また、それを理解した者たちもそれを想像して目を見開く。

「えっと、結局どういう事デスか?」

無論、分からないものはいる訳だが。

「『神獣鏡』の持つ聖遺物殺しが、他者の持つ聖遺物を消滅させる場合、それは事実上の聖遺物の独占が可能になるという事。もしそうなれば、この世の異端技術のほとんどが消滅させられかねない。それを良しといない者たちが、それを知れば、結果は火を見るよりも明らかだ」

翼の説明に、切歌は理解する。

 

つまる所、聖遺物や異端技術を消されたくない者たち、あるいはその力を欲する者たちが、未来を狙いにやってくるという事だ。

 

そうなれば、未来は日常にいられなくなる。

 

「だから俺は未来の事を秘匿した。その上で、未来を鍛えた。もし、その力をどうしても使わなければならない時が来たら―――いつでも戦えるように」

その戦兎の眼差しは真剣そのものだった。

それは、彼の正義のヒーローとしての、そして、一介の教師として、子供たちを守る大人としての、決意の眼差しだった。

「すでに神獣鏡の『聖遺物殺し』の力は二度に渡って証明されている。一度目はフロンティア事変での響を蝕む聖遺物の除去、そして二度目は、ネメアーの獅子の破壊」

この二つをもってすれば、政府は黙っている訳にはいかないだろう。

「だからどっかから引っ張りだこにされる前に、あんたに要求したんだよ。七人目の装者として、S.O.N.Gに登録してもらうという事をな」

「なるほどな」

納得した様子で弦十郎は頷く。

「ごめん、響・・・」

かなり長い間、隠し事をしていたことの謝罪。そして、そんな辛い事を隠していたことへの謝罪。

響を信じていなかったわけじゃない。むしろ、響なら何が何でも自分を守ろうとするだろう。

だが、戦兎がそれを―――否、自分のプライドがそれを許さなかった。

力を持ったからこその意地、その力が他者に知られることで回りにかかる迷惑の考慮、そして、大切な親友にまで危害が及ぶことへの恐怖。

つまるところは、戦兎の言葉を言い訳にして、ただ自分の傲慢さを守りたかっただけなのだ。

だから、そんな自分への怒りも込めて、未来は、響に謝罪する。

そんな未来に、響は彼女前で膝をついて、目線を合わせる。

「黙っていろと言ったのは俺だ。だから、あまり未来を責めないでやってくれ」

そんな響に、戦兎はそのように言う。

その言葉を受けて響は、未来に言う。

「正直、隠していたことは、結構怒ってるんだよ」

当然だ。かつて自分に隠し事はしないでくれと言っておきながら、結局は自分が隠し事をしてしまった。

怒るのも、当然だ。

「だけど」

しかし、響は次の言葉を言う時には、未来を抱きしめていた。

「響・・・!?」

「それと同じくらい、ううん、それ以上に不安だった」

未来を抱きしめる響の肩が、震えている。

「未来があの人に殴られてた時、助けに行けなかった。それが悔しくて、そして怖かった。未来が、遠いところに行っちゃうんじゃないかって、それが怖くて・・・」

影縫いのせいで、腕を動かすことが出来ない。

それでも、響の感じていた恐怖が、確かに伝わってくる。

「だからお願い。どれだけ辛くても、痛くても、必ず帰ってくるって約束して。だって、未来は、私のひだまりなんだから・・・」

戦う以上は、無茶するのは当たり前だ。傷つくのも当たり前だ。

だから、五体満足で無事でいろなんて言わない。ただ、必ず生きて、自分の所に戻ってきてほしい。

そんな思いを、響は言葉にして伝える。

「うん・・・約束する。必ず、響の所に帰ってくる。だから・・・響も私の所に帰ってきてね」

「うん、約束する」

そうして、抱きしめ合う二人を見て、戦兎は微笑み、そして表情をなくした表情で前を見た。

(さて・・・俺は俺で生き残る方法を考えよう)

隣の明るい雰囲気とは裏腹に、戦兎の目の前にあるのは―――絶望のディストピアだった。

「・・・・とにかく」

弦十郎が口を開く。

「政府へは、俺から報告しておく、それをもって、未来君を正式なS.O.N.Gの装者として登録しよう」

「師匠・・・」

「こうなってしまっては仕方がない。戦兎君の話を考慮すれば、我々の管理下に置いた方が幾分か安全だろう。それをもって、二人の処分を言い渡す」

響が未来から離れ、正座する戦兎と未来に向かって、弦十郎は告げる。

「未来君の事については不問。まだ加入前という事で、俺に何か処分を言い渡す権利はない。だが戦兎君はしばらく給料抜き+俺考案地獄の特訓メニューだ。給料はしばらく教師の仕事で賄うと言い。分かったな?」

「サーイエッサー!」

給料と言われて思わず抗議しようとしたが弦十郎+αの威圧に負けてそう叫ぶしかなかった。

「ああ、それともう一つ」

ふと、クリスが一つ口を挟む。

「シミュレーションルームに来い」

「え?なんで?」

「こってり絞ってやる」

それを聞いて、戦兎は自分の足元が瓦解するような音を聞いた。

「アハハ・・・それじゃあ、私はこれで・・・」

「セレナ、ちょっと待ちなさい」

「はい?」

発令所から立ち去ろうとするセレナ。そんなセレナを、何故かマリアは止めた。

「貴方、知っていたわね?神獣鏡のことを」

「なんの話かな?姉さん?」

セレナがわけが分からないとでもいうように首を傾げる。

その様子に、マリアはため息を吐き、

「知ってる?貴方って嘘を吐く時は左手を背中に隠すって」

「え!?」

事実、セレナは左手を背中に隠していた。

「あ」

そしてそれに反応した結果―――今度はセレナに全員の視線が突き刺さる。

「あ、アハハ・・・・許して」

「「「誰が許すか!」」」

「ヒィィイ!!ごめんなさぁぁぁぁあい!!」

 

 

 

というわけで、戦兎と未来の査問会的な事は終わり、数日後――――

 

 

 

「全てのリンク・アニマルの作成、及びシンフォギアの改修、終わりました」

エルフナインが、調、切歌、マリアに作り上げたリンク・アニマルを渡す。

「これで私たちも」

「戦えるのデス!」

ふと、藤尭は部屋の片隅に視線を向ける。

そこには、ボロ雑巾同然に地面に沈み、形すら保てずスライム同然になっている戦兎がいた。

ちなみにその隣にはセレナがジャージ姿でぼろ雑巾になっていた。

「いや何があったの!?ぼろ雑巾は分かるけど何故にスライムになる必要がある!?」

「ずびばぜん~!」

「なんでエルフナインが泣いてんの!?」

「実は、毎日扱かれてる戦兎先生とセレナちゃんを案じて、栄養ドリンクを作ったんだけど、それが人体をスライムに変えてしまう薬だったようで・・・セレナちゃんは自分のを持ってたので難を逃れたんですけど・・・」

「それ間違いなく危ないよね・・・!?」

「一応、一日で元に戻る筈なんですけど・・・」

「ふん、ポカやらかした罰だ」

『酷い!スライムになるまではいいけどこの状態で鉛玉の大バーゲンするなんて酷過ぎる!』

「あ゛あ゛?」

クリスに睨まれて黙るスライム戦兎。

ちなみにセレナはシンフォギアを纏えないということで弦十郎に扱かれていた。

戦兎は装者と仮面ライダー、セレナは弦十郎と地獄の特訓、と言った具合である。

そんなわけで、マリアの手の上に乗る、白銀の狼。どこぞの忠犬の如くそこに居座り、微動だにしていなかった。

「・・・肩に乗りなさい」

そう指示を出せばその狼『アガートラームウルフ』はすぐさま肩に乗る。

「・・・頭」

「バウ!」

「肘」

「バウ!」

「三回転ジャンプ」

「バウ!」

「二足立ち」

「バウ!」

「いや忠実過ぎ!?」

「バウ!」

あまりにもマリアの指示に忠実過ぎるのだ。

「忠実・・・と・・・いうか・・・誠実的、かなぁ・・・?」

死んだ目でセレナも苦笑していた。

このアガートラームウルフ、形状こそはクライムウルフに酷似しているが、その塗装具合はこちらの方が明るい感じであり、そこのあたりは違いはとれる。

「ガブッ」

「デェェェエエエス!?」

その一方で、切歌のイガリマは―――サメだった。

サメ型のリンク・アニマル『イガリマシャーク』は相当わんぱくな性格なのか切歌の鼻に噛みつき、その一方で噛みつかれた切歌は発令所を痛みのままに走り回っていた。

「ああ、切ちゃーん!」

「ちょっと待ってろ」

そんな切歌の鼻に噛みつくイガリマシャークをシンが弾き飛ばす。

弾き飛ばされたイガリマシャークはそのまま響の方へ飛んでいき、今度は響に向かって噛みつく。

「ガブッ」

「ふぎゅあぁぁああ!?」

「ああ!?響ー!」

「誰かに噛みついてないと落ち着けねーのか!?」

「およよ・・・」

先ほどまで鼻に噛みつかれていた切歌の鼻は赤く腫れ、その痛みに涙目になっていた。

「切ちゃん、大丈夫?」

「どうにか・・・調の方はどうデスか?」

「ああ、私のは・・・」

調の見る先にあるは、発令所の席の上に乗って、あくびをしているピンク色の虎の姿があった。

「『シュルシャガナタイガー』・・・相当マイペース・・・」

「アハハ・・・」

「んでもってガングニールフェニックスは・・・」

一海が見る先、そこにガングニールフェニックスはいた。

「キュ、キュイーン!」

この騒動にかなり慌てていた。というかイガリマシャークにやめるように促している。どうやら、ツッコミ役だとか生真面目だとかそういう疲れやすいタイプなのかもしれない。

「どいつもこいつも変な性格な奴ばっかだな・・・」

「そうだな」

「まとめてみるとこうですね・・・」

 

クローズドラゴン(神獣鏡) 悪戯っ子

ガングニールフェニックス  生真面目

天羽々斬ラビット      わんぱく

イチイバルドラゴン     大人しい

アガートラームウルフ    忠実

イガリマシャーク      超わんぱく

シュルシャガナタイガー   マイペース

 

 

といった具合だ。

「クローズドラゴン二号機も出来ちまってるし・・・」

そうぼやく龍我の頭上には二体目のクローズドラゴンが飛んでいた。

ちなみに、クロの方は紫色の塗装が施されていた。

「まあ、とりあえず、これでイガリマ、シュルシャガナ、アガートラームも改修完了だな」

「戦兎さんの設計図より、リンク・アニマルは相応の素質と気質があれば誰でも扱えます。ですから、マリアさんに合うように勝手に調整されるので、問題なくシンフォギアを纏えると思います」

そう言うと、アガートラームウルフが地面に沈むセレナの所に降りる。

そんなアガートラームウルフに、セレナは力なく微笑み、

「姉さんの力になってあげてね」

そう言った。

「バウッ!」

その言葉にアガートラームウルフは頷くように咆え、マリアの元へ戻ってくる。

「じゃあ、あとは任せたからね。マリア姉さん」

「ええ。貴方のギアをもう一度・・・この輝きで、私は強くなりたい・・・」

そう呟くマリアに、弦十郎がうなずくように声を出す。

「うむ。ここらで一つ、特訓だな!」

『特訓?』

「「ヒィッ!?」」

反応はそれぞれ。

「無論、仮面ライダーの諸君にもだ」

「あ、仮面ライダーと言えば、慧介君は?」

「慧くんは、この間の連続変身と万全ではない状態での必殺技の連続使用で、検査入院しています。相当ダメージが大きかったみたいで・・・」

 

 

 

「へっくしょい!」

そのころ病院では、慧介は検査中に思いっきりくしゃみをしていた。

 

 

 

「あれだけやられれば、それもそうか・・・」

「無論、それほど無理はさせないが慧介君も特訓に呼ぶつもりだ」

「その理由は?」

「うむ、オートスコアラーの再戦に向け、強化型シンフォギア、イグナイトモジュールを使いこなすことに加えて、ハザードレベルの向上は急務である。近く、筑波の異端技術研究機構にて、調査結果の受領任務がある。諸君らはそこで、心身の鍛錬に励むといいだろう」

「筑波と言えば海だな」

幻徳がそう呟く。

「それについて一つ問題が・・・」

「あ、戦兎先生が元に戻った」

スライムから戻ったが過労でぶっ倒れたまま、戦兎が手を挙げる。

「なんだ?桐生」

「俺たち水着持ってない・・・・」

「「「・・・・・あ」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

去年、ノイズの撃退など、様々な任務に追われていた為に、仮面ライダー勢は水着をもっていなかった。

その上、F.I.S勢も学校指定の水着はあるものの、私的に使う水着は持っていない。

ちなみに戦兎は講師であって体育教師ではない為もってなく、龍我は筋トレをジムで済ませる為持っておらず、一海は農場の仕事、幻徳はそんな機会に見舞われることすらない為、仕方がないことである。

「というわけで、私たちの水着の新調もかねて!ショッピングだー!」

響がこれでもかとはしゃぐ。

今この場にいるのは、仮面ライダーである戦兎、龍我、一海、幻徳、シン、慧介に、シンフォギア装者である響、翼、クリス、マリア、調、切歌、未来の七人、そしてセレナやエルフナインがやってきていた。

「すみません、ボクの分まで・・・」

「気にしなくていいよ!好きなの選んでいいから!」

「払うのは俺だけどな・・・」

涙を流しながら、戦兎は銀行から下ろしてきた金を入れた財布を見ていた。

このショッピングモールは想像上の大きさであり、その中にある水着売り場はかなりの広さを誇り、バリエーションは様々。

「いたた・・・体がまだ痛むな・・・」

「慧くん、大丈夫?」

「ああ、どうにかね」

体のあちこちに包帯を巻いている慧介もまた水着をもたない者の一人。

一応、入院するほどの怪我ではなかった為に、医者からも許可は降りた為、この場にいるという寸法だ。

「無理しないで・・・」

「心配してくれてありがとう。まあしばらく休めば大丈夫だよ」

「なら、いいけど・・・」

調にとって、慧介の容体は水着なんかよりも優先すべきこと。だから心配するのは当たり前だ。

「あ」

が、しかし、ここで呪いが発動したのかよろける慧介。

そのまま調の方に倒れ、その体に寄りかかってしまう。

「きゃっ、慧くん大丈夫・・・あ」

「ああ、うん、大丈夫っちゃあ大丈夫なんだけど・・・」

手が、胸をがっちり掴んでいた。

「ぅぅ・・・ぅぅうううう!!」

「ふべら!?」

お決まりともいえる張り手が炸裂し、慧介は床に沈んだ。ついでその衝撃で体の各部分が一気に悲鳴をあげる。

と、言うわけでそれぞれが各々の水着を選び始める。

「うーん・・・」

そんな中で戦兎は、ボクサー系の水着を見て回っていた。

「どれがいいのか全然分からねえ・・・」

「であれば」

「うおっ!?幻さん!?」

いつの間にか、戦兎の隣に幻徳が立っていた。その手には、一枚の水着が―――

「これを選ぶといい」

それには『ムゥゥゥンサァルトォォォオ!!!』ととてつもなく気合の入った文字と炎の柄が描かれたボードショーツタイプの水着が握られていた。

だが、

「誰か着るかそんなもん」

「何故だ!?お前にものすごくあっているだろう!?」

「確かに文字はそうだけどそんな痛々しい奴を一体誰が着るんだよ!?」

「俺はこれだ」

と言って幻徳が取り出したのは『オゥラァァア!!』と書かれた黒と紫の水着。

そこまで文字が大好きか。

「ちなみにオーダーメイドだ」

「オーダーメイドをわざわざもってくんな!?」

戦兎の鋭いツッコミが突き刺さる。

「ていうか、幻さん仕事はどうしたんだよ?」

「何、前々から言っていたS().()O().()N().()G().()()()()()()()の件でな。それらの書類整理が終わるまでしばし暇なため、こうして有休をとってついてきているというわけだ」

「ええ・・・」

幻徳が仮面ライダーということは、実はあまり知られていない。

三か月前のロケット墜落事故の時も、実はライダーは四人ということだけ伝えてあって、そのうちの二人、一海と幻徳だけは、正体不明の戦闘員ということだけ国連に伝えていたのだ。

その他云々の話はまあ置いておくが、何はともあれ、先日の襲撃で日本政府には幻徳の正体がばれてしまった。故に、幻徳は前々から計画していたS.O.N.G.専属の外交官としての転属をひそかに進めている所なのだ。

まあ、それが実現するのはしばらく後になるのだが、少なくとも今年中にはいつでも転属できる用意は出来るようだ。

とにもかくにも、彼の父親にして総理大臣の氷室泰山の後ろ盾があれば何も問題はないだろう。

「まあ別にいいけど・・・余計なことはするなよ」

「それをお前が言うのか」

「この・・・絶望センスのくせして」

「それはやめろ」

 

 

その一方で。

「なあクリス」

「なんだよ龍我」

「どれがいいと思うよ?」

「どれがいいって・・・どっちがだよ」

「どっちて、俺の水着に決まってんだろ」

「龍我の水着をアタシが選ぶっていうのか?いや、まあ、別にいいけどよ・・・」

そうしてクリスが探した水着は、赤い龍の柄の入ったボクサーパンツタイプの水着だった。

「こ、これなんかどうだ?」

「ん?これか?・・・うん、いいかな」

「ほ、ほんとか!?」

「おう。お前が選んでくれたもんだからな」

という様子を、遠目から眺める未来の感想はこうだ。

(おそろいだね)

クリスが選んでいた水着は、選んだ水着と同じ龍の柄の入った水着だからだ。

その様子に、未来は生暖かい視線を向けていた。

「ねえ未来未来。これなんかどうかな?」

「うん、響らしい色で似合ってると思うよ」

「そうかな。フェニックスもそう思う?」

「キュイ」

「そっかー!じゃあこれ買おっと!」

「・・・・うーん」

「あれ?未来どうかしたの?」

「・・・・なんかしっくりこない」

「え?」

未来の言葉に、響はぽかんとし、次の瞬間、未来は指笛を鳴らした。それも結構高らかに響く奴だ。

 

次の瞬間、店内にいたリンク・アニマルたちが一斉に未来の元へ集ってきた。

 

「ぬぉぉおぉぉおお!?」

「な、なんだいきなりぃ!?」

「何が起こってるデスかぁぁあ!?」

「わわわわわわ!?」

「いた、痛い痛い!髪を引っ張らないでぇ!」

 

・・・相方の装者も一緒に。

 

「ハア・・・ハア・・・い、一体何が・・・・」

「フェニックスだとかウルフだとか、なんかしっくりこないので名前を今この場で付けたいと思います!」

「名前って・・・後でもいいんじゃ・・・」

「こういうのは先に決めるべきです!」

何か、未来の威圧感がすごい。

「しかし、こうして並べてみると、なんだか圧巻だな・・・」

そう呟く翼の視線の先には、横一列に並ぶリンク・アニマルたちがいた。

「適合係数を安定させる、という目的で作られたとはいえ、こうしてみると、なんだか愛着が湧くわね」

「うん、可愛い」

「同感デース!」

「んで?どうやって名前つけるんだよ?」

「私が考えたものでいいなら言ってもいいかな?」

「それでもいいが・・・」

「じゃあ発表します!」

そんなわけで未来が考えた名前とは―――

 

ガングニールフェニックス→『ニクス』

天羽々斬ラビット→『アメ』

イチイバルドラゴン→『バル』

アガートラームウルフ→『ラム』

イガリマシャーク→『マシャ』

シュルシャガナタイガー→『シュル』

 

「という感じです」

「いや本名からもじっただけだろ?」

「クロだってクローズドラゴンからもじったんだよ?ねー?」

「キュル!」

「こんな時に意気投合してんじゃねえよ!」

だがしかしである。

「下手な名前を付けるよりはマシよね」

「慧くん二号は却下されたし・・・」

「調、それはいくらなんでもないデスよ?」

「大概のネーミングセンスじゃねぇか!?お似合いか!?」

「とりあえず、これで彼らの呼び名は決まったわけだ。改めてよろしく頼むぞ、アメ」

「キー」

そう言って手を差し出す翼の手の上に、天羽々斬ラビット改め、アメが元気よく乗る。

「それでは、私は水着選びに戻る」

「じゃあ私たちも。行こう、シュル」

「ガウ」

「マシャもいくデスよ」

「ガブガブ」

「アタシも龍我の所に戻るからな?行くぞバル」

「キャールル」

「それじゃあまた後で会いましょう。ラム」

「バウ!」

それぞれがそれぞれの場所に戻っていく。

それを見送って、

「それじゃあ、私たちも行こうか未来」

「うん」

「行こう、ニクス」

「キュイーン!」

「クロもね」

「キュールル!」

 

 

 

その間に、

「うーん・・・」

セレナは一人、水着選びに難儀していた。

「姉さん、というかアガートラームウルフがいきなりどっか行っちゃって姉さんもそれを追いかけて行っちゃったし・・・それにしても水着多いな~・・・」

ずっと施設ぐらいだったために、こういうイベントは初めてで戸惑いが多い。

学校で水泳の授業はあるものの、そこでとんでもない程のカナヅチ性を見せて大恥を掻いたことは記憶に新しい。

「もうあんな思いをしない為にも、一度海で泳ぎの練習を・・・」

「セレナ、水着は決まったか?」

と、そこへシンがやってくる。

「あ、シンさん。シンさんの方はもう決めたんですか?」

「ああ」

その手にあるのはスパッツタイプの水着。なんともシンらしいシンプルなデザインだ。

「お前はどうなんだ?」

「私はちょぉっと難儀してまして・・・」

「ふむ・・・」

そういわれてセレナの目の前にある女性用水着を見て一考するシン。

そんな二人に、声をかける女性がいた。

「それなら、これなんてどうかしら?」

「え?あ、ありがとうござ・・・」

突然話しかけられて、振り向いたセレナの視界には、紅蓮のような髪をもった女性が立っていた。

「貴方は!?」

「エリザ・・・!?」

言わずもがな、シンがジャックだったころの仲間、エリザベートである。

「ハイ、こうして会うのは初めてね、セレナ・カデンツァヴナ・イヴ、いえ、リトルネッロ・ヘルカートの方がいいかしら?」

「できれば前者の方で見知っていただけると幸いです・・・」

「そう。ちなみに、この間の喫茶店であなた達が会話を盗み聞きしていたのは気付いてたから」

エリザがそう言った直後、

「何言ってるの。シンくんと離れた時に私が言わなきゃ気付かなかったじゃないか」

「・・・」

ひょっこり現れたアルに真実を告げられて、エリザはなんとも言えなくなる。

「アルフォンス・・・」

「やっほー、久しぶりだねシンくん」

「一体何の用だ?」

「何、少し話をしたかっただけだよ。あ、言っておくけど、私たちは君たちとことを構えるつもりはないよ。むしろ友好的でいたいと思ってる。これは我が社の本意だ」

「む・・・まあこちらも争わないで済むならそれにこしたことはないが・・・」

「なら良かった。じゃ、買い物しながら話をしようじゃないか」

といいつつ、買い物客を装いつつ、四人は会話を始める。

「言っておくけど、私たちは君を勧誘することを諦めてはいないからね」

「言ってくれる・・・俺がそちらに行って何かメリットがあるのか?」

「まあ正直言うとあんまりないかなー。ただやることはS.O.N.Gよりも血生臭い事ばかりってことかな。うちはこう見えて、警備会社なだけに血を見る事が多いから」

「私、民間警備会社って聞くと、ならず者っていうイメージが強いんですけど・・・」

「まあ普通はそうだろうね。ただまあうちはそこまで気性が荒いって訳じゃない。非合法に手を染めてるとはいえ、やってることはそれなりに世の中の為になるって思ってる」

次々に水着をとっかえひっかえしながら、アルは話を続ける。

「うちは基本的に誰でも受け入れる主義でね。異端技術はもちろん、科学、魔術、錬金術、なんでもござれだ。ただうちの技術主任は結構貪欲な人でね、櫻井了子っていう天才が現れてから、過去何度もその技術を超えようと躍起になってたよ。そこへ桐生戦兎のライダーシステムも現れて高齢者のくせに科学者魂が完全に再燃しちゃったみたいでね~。ライダーシステムを再現しようと躍起になってるよ」

「確かに戦兎先生のライダーシステムもシンフォギアに次ぐ科学系統の異端技術の一つですけども・・・そもそもフルボトルがなければ、再現すること自体不可能ですよ?」

「そこであのジジイは作っちゃったのよ」

「「は?」」

エリザの言葉に、二人そろって素っ頓狂な声を挙げる。

「今回、私たちが君たちに接触したのはこれを渡す為さ」

そう言って、アルはシンに何かを投げる。

それを受け止めたシンは、それに目を落とす。

それは、リボンで閉じられた小さな箱――いわゆるプレゼントボックス。

「うちの主任、ドクトルからの贈り物だよ。それを前金替わりに受け取ってほしいってさ」

「・・・何故そこまで俺を求める?」

その言葉に、アルは含みある笑みで答える。

「君の力が欲しいからだよ。単純な話さ。有能な人材を欲するのは、会社として当たり前の事。引き抜けるというのなら、引き抜いて見せる。私の役割は優秀な人材のスカウトだからね」

そう、アルは言って見せる。

「・・・そうか」

シンは、受け取った箱を懐にしまう。

「とりあえずこれは受け取っておく。だがお前たちの誘いに乗るかは俺の気分次第だ」

「今はそれでいい。だけど私は諦めないよ。私たちストレイ社は、いつでも優秀な人材を歓迎している」

シンの言葉に、アルは戸惑う様子も見せず、微笑んで見せる。

「ジャック」

そんな中で、エリザが口を開く。

「人の本質は変わらないわ。どれだけ貴方が心の中で否定しても、その本性までは隠せない。自分を思い出して、ジャック」

「・・・」

そのエリザの言葉に、シンは視線をそらしてしまう。

その気まずい様子に、セレナは交互にシンとエリザを見る。

と、そんな空気に―――真っ黒な感情を滾らせた声が。

「ちょぉっと・・・」

それを聞いたセレナの喉がひゅっと鳴る。

ついで、シンは額を抑え、アルはあーっと気まずい表情になり、その中でエリザはげんなりした表情で舌打ちする。

「ま、マリア姉さん・・・?」

そこにいたのは、真っ黒なオーラを滾らせてエリザを睨みつけるマリアの姿が。

「なぁんで貴方がここにいるのかしらァ・・・!?」

「面倒なのが来た・・・」

エリザがそう呟けば、マリアの中で何かがブチっと切れるような音が聞こえた。

(これはダメだ・・・)

「はっ、こうしてこそこそとしかシンと会う度胸しかない根暗女に、面倒くさいと言われたくないわね」

また、エリザの方でもブチっという音が聞こえた。

「ふん、薬がないとまともに戦えない引きこもりとは違って、こっちは現役なの。たかだかモニターを見ている事しか出来ない女と違って、私はいつだって忙しいのよ」

「時間の管理も出来ないのかしらそんなに忙しいならちゃんと余裕をもって働きなさいよ」

「ニートのくせに」

「何よ根暗」

「泣き虫」

「腰抜け」

どんどんレベルが低下していってる二人の口喧嘩。いや、その分ヒートアップしているともいえる。

「あわわわわ・・・」

「また始まった」

「いやー、ごめんねえうちのエリザちゃんが」

「いや、うちのマリアこそ・・・」

「あのー、お客様、他のお客様のご迷惑になりますので喧嘩は他所でやってください」

「「すいませんでした」」

結局、水着売り場なのに筋肉モリモリマッチョマンの店員に威圧されて二人の喧嘩は鎮圧された。

 

 

 

 

そして数時間後――――

「いやー、良い水着が買えてよかったよ~」

多くの者たちがご満悦といった様子で店から出ていく中で、

「すっからかん・・・」

もはや数円の小銭しかなくなった自分の財布を見て、絶望している者が約一名いた。

「ここ数ヶ月分の給料の三分の二が消えた・・・」

「私も良ければ出しましたのに・・・」

「いや、こればっかりは俺が悪いから気にすんな・・・」

未来からの提案を断りつつ、戦兎は深いため息を吐く。

(また銀行から金下ろさねえと・・・んでもってしばらく節約しねえと・・・)

想像以上の出費に、苦しめられている状況だ。

「桐生」

「ん?翼か」

そこへ翼がやってくる。

「もうみんな先に行ってしまってるぞ?」

「ん?ああ、そうだな」

翼に言われて、戦兎は頷き、慌てて歩き出す。

「そういえば桐生」

「ん?なんだよ?」

「リンク・アニマルの性格は・・・お前が設定したわけじゃないよな?」

「は?いやんな訳ないだろ。機械的に聖遺物を反覚醒状態にして意識を持たせて、体を持たせたってだけだから、性格自体は聖遺物そのものの性質に作用するぞ?」

「そうか・・・うむ、そうか・・・」

「それがどうかしたのかよ?」

「いや・・・なんだか奏に似ているなと思ってな」

いつも元気で、自分を引っ張ってくれた存在。

半ば、いや、かなり依存していた為に、二年間もその死をひきずっていた、相棒ともいえる存在。

その彼女の性格に、アメは似ていた。

その性格から、翼は、自分の手を見る。

 

あの闇の中で見た、自らの(やいば)でバラバラにしてしまった奏の事を、思い出しながら。

 

そんな翼を見やり、戦兎は―――

「イグナイトモジュールが見せるのは、そいつが心の奥底で抱えている闇そのもの。例えるなら、そいつの本性を暴き出すことと同じだ」

心の奥底に抱える闇を暴き出し、それを原動力に湧き上がる破壊衝動へと変換し、『暴走』を引き起こし、そして三段階のセーフティロックと999.99カウントで制御する。

それがイグナイトモジュール。その発動過程で見た幻覚は、その者の心に隠れた本性そのものと言えるだろう。

「その本性とどう向き合うかが、イグナイト制御の鍵になると思うぞ」

そう言って、戦兎は翼の頭に手を置く。

「だから頑張れ」

「・・・ああ」

その言葉に、翼は少し安心したように笑う。

「翼さーん!戦兎せんせーい!置いてっちゃいますよー!」

「デスデース!」

「早くしろよなー!」

向こうで、仲間たちが呼んでいる。

「おっといけねえ」

「急がないとな」

そう言って、二人は走り出す。

「桐生」

「今度はなんだ?」

「・・・ありがとう。少し楽になった」

うっすらと微笑んで、翼はそう言った。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?」

特訓の為、海へとやってきた一行

「死ィねェポォテトォ!!」

謎のデッドヒートを起こすバレーボール。

「斬撃武器が・・・」
「軒並み負けたデス・・・!」

引き起こされる仁義なき戦い(コンビニ買い出しじゃんけん)

「夏の思い出作りは十分かしらぁ?」

襲撃してくるオートスコアラーとデイブレイク社。

「ここで負ける訳にはいかない・・・!」

その状況に、イグナイトに手を出したのは―――

次回『復活の銀腕と歪鏡のハウリング』

「私は、何に負けたのだ・・・?」







さあお待ちかね 変身講座ァ!!


はい、小日向未来です。今回の変身は私が担当させてもらいます。
なんだから作者さんが、変身バンクにおいて装者が聖詠を歌う時に色々やるから、だったらこの小説でも同じことをやろうと思って、せめてものイメージを読者に持ってほしいからそうです。
え?そんなことは言わなくていい?メタ発現はするな?
はあ・・・まあとにかく、前回までのシンさん、慧介君に続き、今度は神獣鏡の変身シーンをお見せします。



はい。というわけで、まず用意するのは、私の相棒の『神獣鏡クローズドラゴン』のクロです。
元々は龍我さんのものだったんですけど、今回の話をもって、正式に私のリンク・アニマルとなりました。
まず、クロの側面にあるボタン『スタンバイスターター』を押します。

『STANDBY!』

それぞれのリンク・アニマルによって、この音声に違いがあるみたいだから、注意してね。
すると、クロがあっという間に炎に包まれて、大きな龍となって私の周囲を飛び回ります。
イメージとしては、『仮面ライダーウィザード』のインフィニティフォームの初変身シーンのあたりかな?
そして、私は聖詠を歌うと同時に、変身モーションをとります。
この場合、ポーズって言った方がいいのかな?
じゃあやるね。
まずはこの立った状態から、円を描くように手を広げながら頭上にもっていく。そして頭の上で手を組み、顔の前にもっていって、願うようなポーズをとる。そして、組むのを解いて、両肩に手を置くように腕を交差させて、そして、聖詠が終わった後、胸を張って、両手を広げて、クロを迎え入れるようにポーズをとる。

「―――Rei shen shou jing rei zizzl(鏡に映る、光も闇も何もかも)―――」

この時の変身バンクなんだけどね、事細かに説明すると、

クロの炎でインナーが足元から形成される→次に炎が蛇のように巻き付いて、それが手袋に変化。右手の手袋に龍の頭、左手に竜の尾が描かれている→続いて、右足を高く上げてそのまま膝を折ったまま床に叩きつける、そこに炎のドラゴンヘッドが現れそれがホバーパーツに変化、左足も同様にやり、竜の頭がギアに変化する→腰のギアパーツが装着された後、ヘッドギアが装着、頭の後ろにダイレクトフィードバックの装置が装着、そこへ周囲を飛び回っていたクローズドラゴン・ブレイズが入り込み、そしてバイザーを形成し、噛みつくように閉じてバイザーの竜の目が光った後にバイザーが開く→そのまま回転、二度蹴りを放った後、流れるように鉄扇を出して、その先を向けるように構えて完了。


と言った具合です。なお、全て作者の妄想な為、変身バンクはそちらでイメージください。
シンフォギアの必殺技って色々とあるんだけど、中には合体技もあるんだよね。
ちなみに、クロは他のシンフォギアとは違って、ウェル博士が外したステルスや視覚保護の強化だとか、あとレーダー機能もあって、直接的な戦闘も出来るんだけど、後方に回って戦況報告や指揮なんていうコントロールも・・・え?熱くなりすぎだって?ネタバレに注意しろ?
別に熱くなってつもりはないんだけどな・・・
とにかく、これで私の変身講座は終わり、次回はマリアさんだから、楽しみにしててね。
では、小日向未来とクロでした!



















特報!



GX、グリス編の後―――シンフォギア・ビルド、オリジナル章をやる―――かもしれない。







――――それは、いつもの日常―――の、筈だった。





―――仮面ライダーのいない世界・・・



「貴様か、私の名を騙り、悪事を働く輩は!」



東京の街で悪事を働く、『風鳴翼』の偽物。
その調査に当たっていたS.O.N.G.―――否、風鳴翼は、その『風鳴翼』の策略に嵌る。


「―――戦兎は、どこ・・・?」


消えてしまった『ヒーロー』


「お前が偽物だな」
「・・・・・・え」


敵となったS.O.N.G.


「戦兎先生の家、クリスの家の隣、長崎の農場、総理大臣の名前・・・何もかもがなかったんです」
「何も・・・なかった・・・?どういうことだ・・・!?」


唯一、記憶が残っていた未来から告げられる真実。


「これで、私が『本物』となりお前が『偽物』となる」


謎の懐中時計によって、天羽々斬を纏うもう一人の『風鳴翼』


「逃げてください、翼さん!」
「せめて、天羽々斬さえあれば・・・!」


何もかもが変わった世界で、S.O.N.G.と『風鳴翼』に追い詰められた翼は―――新たな『仮面ライダー』に出会う。


「こんな歴史になったのは、過去のどこかに、タイムジャッカーが介入した筈だ」


魔王を名乗る『常盤ソウゴ』と、その仲間たち―――


「行こう、全ての始まりの日に・・・!」


そして翼は、全てを取り戻す為に、過去に飛ぶ――――



―――シンフォギア『天羽々斬』が、何故生まれたのか。



その先で、出会ったのは―――


「お母様・・・?」
「未来の、翼・・・?」


翼と同じ、RN式を纏う、翼の母『隼綾女』だった。


「何故、お母様がそれを纏っているのですか・・・!?」

「『風鳴』を、潰す為よ」


始まる、母と娘の戦い――――


「戦わなければ、貴方は一生『偽物』のままよ」

「あぁぁあああ!!?」

起動する、RN式改天羽々斬――――

「そうはいかないぞ。仮面ライダージオウ」

姿を現す、タイムジャッカー『カイン』。その目的は――――

「この世界に必要なのはシンフォギアの力のみ!」

立ち塞がるS.O.N.G.と『風鳴翼』―――アナザー天羽々斬。

「全てを奪われた貴様に、もはや『絆』などありえない」

決定してしまった過去―――

「過ぎた過去は変えられないのだろう・・・?」

途絶えぬ悪意―――

「誰にも変えることは出来ないのだァ!!」

それでも、彼らは―――

「でも、未来なら自分の力で変えられる」



―――『夢』を、『絆』を。



「絶対にここは引かない!」

「百億連発だ!」

「ここで仕留める!」



―――取り戻す為に。



「私の歌を世界に聞かせ、人々の胸に届かせ世界を繋ぐ・・・その夢を叶える為に戦う・・・!」



愛和創造シンフォギア・ビルドTV(トラベル)―――『オリジン・ザ・天羽々斬』



―――シンフォギア『天羽々斬』誕生の秘密が今、明かされる。










―――アンケート実施するので、その結果からやるかどうか決めます。
期限は・・・GX編第十八話あたりまでとします。

では投票のほどお願いいたします。

ちなみにこれはシンフォギア・ビルドG編の後書きで書いた令ジェネリスペクト偽予告の脳内ストーリーなどを大幅に設定変更したものです。
何か不満があれば活動報告も載せときますのでそちらにて(ただし十八話掲載まで)

ではまた次回にて。



RN式改天羽々斬のイメージ画です。妹に依頼しました↓


【挿絵表示】


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復活の銀腕と歪鏡のハウリング

麗人「天才物理学者桐生戦兎は、ノイズが蔓延る新世界にて、ルナアタック、フロンティア事変を経て、S.O.N.G.専属の科学者として、風鳴翼、その他と共に戦い続けていた・・・」
響「ちょっとサンj」
未「響そこまで」
響「むぐふぉ!?」
キャ「フッハハハ!その他とはなかなか酔狂なことではないか!」
翼「何を言う、これでは雪音たちがのけ者みたいではないか」
ク「しっかしこの台本結構いいことしてるよなぁ」
詐欺師「あら?それはなぜかしら?」
ク「先公と先輩の名前しか載ってないから、関係を認めてるようなものだろ?」
翼「私と戦兎はそんな関係ではない!!」
けん玉「いつまで言っていられるか見物なワケダ」
切「今日は水着回なのデス!これで男どもの煩悩を悩殺してくれるのデス!」
調「切ちゃん、これ小説だから映像なしじゃ悩殺できないよ?」
切「だったら文面でやるのデス!・・・というか、甘さと言ったら調と慧介に勝てる人なんていないデスよ」
調「な、なにを言ってるの切ちゃん・・・!!」
ク「あ、アタシと龍我のことも忘れんな!」
未「はいはいいつもの惚気ありがとうねクリス」
麗人「はあ・・・まあ、何はともあれ、今回の愛和創造シンフォギア・ビルドGX第十二話を見なさい」
響「あ、今度YouT〇beで放送される仮面ライダーはウィザードだよね!作者が好きな奴!」
未「作者はビルドは無論のことですが、特にWと鎧武とドライブが好きだそうです。
ちなみに、作者が一番最初に見た仮面ライダーはブレイドです。父親がCDを持っていたようで、それを見たのがきっかけだそうです」
マ「まあ何はともあれ、本編を見なさい。今回の変身講座は私だから楽しみにしててね」


「―――来た来たキター!来たよコレー!」

「来たしかいってねえじゃねえか!」

「ていうかなんで私たち走ってるの!?」

「というかこれやるの!?」

「当たり前だよ!なんの為にイメージトレーニングを繰り返してきたと思ってるの!?」

「それは立花だけの話だろう!?」

「そ、そうなんですか!?」

「海デース!」

「ああ!?切歌が決め台詞を口走った!?」

「台無しよ台無しー!」

「姉さんまで乗らないで!」

「ええいもう構わん!予定通り行くぞー!」

「ま、待って、私服脱げてな―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『海だ「ぶべら!?(響)」・・・・ッ!!?』

 

 

 

 

 

「きゃぁぁああ!?」

「ひ、響ィー!?」

「響さんが車に撥ねられたぁ!?」

 

 

 

 

数分後。

 

「いやーまいったまいった」

「危うく今日が響の命日になるところだった・・・」

「いや洒落になってねえからな!?」

「轢かれたのがおじさまから手解きを受けていた立花でよかった」

「わーい・・・アハハ・・・」

「響さん、涙目で笑われても哀れなだけですよ?」

事の始まりは移動中のバスにて響が提案した海に来た記念の第一声。

台風一過の熟語に違わぬ、快晴の空。そんな気持ちいい日に、何もしない訳にはいかないと言い出したのだ。

一度はやってみたかったらしく、そのビーチが政府保有によってほぼ貸し切り状態なために白い目で見られることはなく、装者及び女性集で叫んでみる事にしたのだ。

んでもって海が見えた時点でよーいドン。結果、偶然通りかかったトラックに響が轢かれることになったのだ。

「あ、あのー」

と、そこでセレナが気まずそうに装者一同に声をかける。

「先ほどの運転手、せめてものお詫びとして一万円をくれたのですが・・・」

「「なにぃ!?」」

それを見て食いついたのは世間知らずの調と切歌。

「マジデスか・・・世間じゃひと轢き一万が相場なんデスか・・・」

「もしかしたら私たち、響さんでひと稼ぎ出来るんじゃ・・・」

「それは人道的にも響的にも完全アウトだからやめてください!」

と、軽い(?)ボケとツッコミをかましつつ、遅れてライダー陣が到着する。

「ったくいきなり道路に飛び出すとか何考えてんだ」←戦兎

「轢かれたのが響でよかったな」←龍我

「いや、いいんですかそれ!?」←慧介

「ったく荷物全部押し付けやがって」←一海

「次からは気をつけろ」←シン

「はしゃぐのは良いけど、あまり羽目を外し過ぎないでよ?」←美空

「よし、遊ぶか」←幻徳

 

・・・正確には、保護者(一人を除いて)である。

 

「およ?」

と、ここで切歌は見知らぬ女性がいる事に気付く。

「クリス先輩クリス先輩」

「ん?どうした?」

「幻徳さんやかずみんさんは知ってますけど、あの女の人は誰デスか?」

その言葉が耳に入ったのか、美空は手を挙げて自己紹介する。

「私は石動美空。もう聞いてるかもしれないけど、旧世界じゃこの馬鹿どものサポートをしていたわ」

「馬鹿っていうな馬鹿って」

「そうだ。俺はプロテインの貴公子―――ばさっ―――万丈龍我だ!」

「誰もお前の事を聞いてないよ」

べしっと龍我を叩きつつ、戦兎はテントやらベンチやらの設置をする。

「あれ?そういえば紗羽さんは?」

「仕事があるとかでパスだってさ。本人は行きたかったみたいだけど、仕方ないわね」

と、あらかたの準備が終わった所で―――一同は全力で遊び始めた。

 

 

 

 

「わーい!」

「わっ!?やったなぁ!」

「わわ、しょっぱいです!」

「海ってそういうもんなの、よっ!」

響、未来、エルフナイン、美空は浅瀬にて水の掛け合い。

「ふっふっふ、何を隠そう俺は砂の城造りの達人!江戸城も熊本城も万里の長城も朝飯前だぜぇ!」

「マジに万里の長城のが出来ているのデス・・・」

「慧くん、本当に多趣味・・・」

ほぼ慧介一人で砂の城造りを謳歌していたり、

「んっふふ~♪」

浮き輪に乗って波に揺られるクリス。

「うぉぉぉおおおぉぉおお!!!」

「うわっぷ!?」

そこへものすごい勢いで泳いで通り過ぎていく龍我。

「立花たち、楽しそうだな」

「クリスが龍我たちの巻き添えを喰らっているのは・・・なんというか、哀れね・・・」

「そうだな・・・」

その様子を見守りつつ、砂浜を散歩する翼、マリア、シンの三人。

ちなみに幻徳は一人日光浴、一海は美空の水着姿を頭のフィルターに焼き付けていた。

「・・・・」

そして、一人アンブレラの作る影に入って、もってきたノートパソコンを眺めるセレナ。

「よう、お前は遊ばねえのか?」

「あ、戦兎先生」

そんなセレナに、戦兎がやってくる。

「はい。この子のメンテナンスをしなければならないので」

「そいつ、・・・えっと、ブレードウルフだったか?本当に役に立つのか?」

「ええ、きっと役立てて見せます!」

そう言って、セレナは自分の後ろで伏せる()()()()の頭を撫でる。

その狼は、顔を上げ、内臓されたスピーカーで言葉を紡ぐ。

「感謝する。俺は自らの自由を行使した結果、お前たちに協力することにした」

それは、先日シンたちを襲った、デイブレイク社が保有していた対話IF(インターフェイス)搭載型無人機『LQ-84e』だ。

あの戦いの後、彼の脳ともいえるハードウェアを改修、残ったボディも出来る限り改修、自分の家に持ち帰り、多少S.O.N.Gの力を借りてその機体を分析、なるべく再現し、ちょっとした企業からパーツを発注しつつ、見事、修理。

新たな姿と名前を与えられ、戦闘無人機『LQ-84e』は災害救助ロボット『ガードウルフ』としてセレナの手で生まれ変わったのだ。

「遠隔での操作やAIの消去も不可能にしてあります。メンテナンスが終われば、もう好きにさせるつもりだったんですけど・・・」

「それでは等価交換がなりたたない。俺は借りは作らない主義だ」

「という訳らしく・・・」

「なるほどな・・・」

ランプやクリアカバーのような頭部はなくなり、狼らしい稼働型バイザーと牙のついた口が新たに取り換えられ、その腰部分には『S.O.N.G』の識別マークが施されていた。

一応、弦十郎にはセレナ及び戦兎の管理下の元、S.O.N.Gの戦力として所有することを認めてもらっている。

「アルカノイズとの戦闘は出来ないが、それ以外の救助活動、避難誘導は任せてくれ」

「それじゃあ聞くが、お前、デイブレイク社の事について何か知らねえのかよ?」

「俺は都合のいい兵器だったみたいでな。特別詳しい情報は与えられていない。常に蚊帳の外だ」

「本当かねえ・・・」

「奴らとの縁は既に切った。従う必要もない」

「あ、そう・・・」

上から目線な言動がどうにも癪に障る。

「あ、それはそうと戦兎先生。この間シンさんから渡されたあのボトルは・・・」

「ああ、あれか?」

それは、シンをスカウトしたいと躍起になっている民間軍事会社『ストレイ社』から送られた前金替わりの贈り物。

その中に入っていたのは―――一本のフルボトルだった。

「レリックフルボトルだというのは確かだ。問題はそれが一体なんの聖遺物なのかが全く分からねえってことなんだよな・・・」

レリックフルボトルの特徴として、歌に反応しないというものがある。

理由は不明だが、フルボトル化してしまった聖遺物は、その聖遺物特有の性質を変化させてしまうのではないかという事が今現在分かっている。

そして、そのフルボトルに内包された力は計り知れないという事だった。

「これを使いこなすには、このフルボトルの成分の多少の調整、そして、スクラッシュドライバーが必要だ」

「スクラッシュドライバー、ですか?」

幻徳のクロコダイルクラックボトルと同じタイプのボトル、という事なのだろう。

「それじゃあ、シンさんも・・・」

「うーん・・・それがシンの奴、いらないって言っててな」

どこか、挙動不審だった様子も見られた。

(まさかスクラッシュドライバーの危険性を怖がってんじゃねえだろうな・・・?)

と、勘繰るようにマリアと一緒に砂浜を歩くシンを見やる。

あまり顔に出ない性格であるが故に、その表情の真意は読み取れないが。

「・・・・」

「戦兎、セレナ、泳がないのか?」

と、そこへ二人の間に影が差し、見上げてみればそこには重力に従って下がる髪をかき上げる翼の姿があった。

「ああ、悪い。ちょっとこいつの様子を見にな。今行く」

「私はもう少し調整してから」

「そうか・・・」

「しかし翼さん・・・スレンダーですねぇ」

 

ごつん

 

「痛い・・・」

翼に拳骨を喰らって涙目になるセレナ。

「?、事実ではないのか?」

「やめてさしあげろウルフ」

「?」

機械であるが故に理解できないウルフ。

とりあえず立ち上がる戦兎。

「そ、それでだな戦兎」

「ん?」

ふと、翼が顔を少し赤くしてもじもじとして見せる。

その行為に首を傾げる戦兎だったが。

「その、この水着、どうだ・・・?」

どうやら感想を聞きたいらしい。

「正直言うと腰に巻く・・・なんだっけ?パレオ、のような奴がお前に合ってると思うぞ」

戦兎、正直に暴露。

「うぐっ・・・そ、それはマリアのような水着がいいと?」

マリアの水着はクロス・ホルター・ビキニというもので、なんというかかなり煽情的な恰好をしている。

「うーん、下はパレオだけど、俺としてはクロスじゃなくて普通のホルターネックの方がいいかな?」

「そ、そうか。桐生はそう言うのが好みなんだな・・・」

と、心のメモ帳にとどめる翼。

「ついでに言うと、マリアはモノキニタイプの方がいいと思うんだよな。その方がシンを誘えるだろ?ついでに響はタンク・スーツタイプも行けると思うんだ。未来はフレアタイプで、切歌は―――」

「ふんっ!」

「うごあ!?」

翼の渾身の蹴りが戦兎の腹に突き刺さる。

そのまま翼は頭から汽車の如く蒸気を出すかの如く憤慨した様子でどこかに行ってしまう。

「な、何故・・・」

「・・・おバカ」

それを遠目に見ていたマリアはそう呟くのだった。

 

 

「いやー、悪い悪い」

「ったく、こっちは気持ちよく波に乗ってたってのに」

その一方で、龍我はクリスに謝っていた。理由は言わずもがな、先ほどの全力クロールがつい熱中しすぎてしまい、クリスを巻き込んでしまったことについてだ。

海水を被ったことで、その髪からは雫が滴っている。

「まあまあ、お詫びといっちゃあなんだが、ちょいと面白い事してやるよ」

「は?面白い事って一体―――」

数分後。

「うぉぉぉぉぉおおぉおおお!!」

「お、おぉぉおお・・・・!!」

クリスの乗る浮き輪を、龍我が全力で泳いで馬車の如く泳ぎまくることだった。

ただ波に流されるのではなく、人に先導してもらう。これはこれでなかなか楽しいものだった。

 

「ふぅー、作った作った」

「流石慧くん」

「作りすぎデース・・・」

調と切歌の目の前には、慧介が作ったとんでもない数の砂の城。

傍から見れば見れば圧巻である。

「いっつ・・・」

と、そんな中で、慧介が鳩尾を抑える。

「慧くん?もしかして、この間の戦闘の傷がまだ・・・」

「ああ、まあ、そんな所。一応セーブするつもりで城造りやってみた訳だけども、やっぱ騙しきれないか」

「無理しないで」

「そうデスよ。それでえらい事になったら大変なのデス」

「善処するよ」

水着の上にラッシュガードを来た状態ではわかりにくいが、意外にも慧介の体は包帯だらけだ。

一応医者から外出の許可は出ているとはいえ、まだ戦闘は出来ない状態。海で泳ぐことも出来ないのだ。

それほどまでに、慧介は無茶な戦いをしたという事でもある。

と、そんな中で、

「みんなー!」

「ん?」

「それぞれ遊ぶのもいいけど、たまにはみんなで一緒に遊ばない!?」

そう叫ぶ響の手には、バレーボールが持たれていた。

 

 

 

 

筑波の異端技術研究機構にて。

「これは?」

そう呟く藤尭の目の前には、オレンジ色に輝く光の球体があった。

「ナスターシャ教授がフロンティアに残したデータから構築したものです」

「光の球体・・・?」

緒川の言葉に、その職員は頷く。

「そうですね。我々も便宜上『フォトスフィア』と呼称しています」

言われてみれば、光の球体に映る模様は、ドット風に見えて、どこか地球儀と同じ模様に見える。

「実際はもっと巨大なサイズとなり、これで約四千万分の一の大きさです」

「フォトスフィアとは一体・・・」

その球体を駆け巡るラインの光は、何かを伝えたいかのように、微かに明滅していた。

 

 

 

外に出た緒川は、すぐさま戦兎に連絡を取っていた。

「調査データの受領、完了しました。そちらの特訓は進んでいますか?」

『あーうん、まあ、順調っちゃあ順調なんだが・・・』

「ん?」

答える戦兎の言葉は、どこか端切れが悪く。

 

 

 

 

戦兎の目の前には、いかにも真剣な眼差しでビーチバレーに挑んでいる翼の姿があった。

「響が提案したレクリエーションが思いのほかヒートアップして、翼の奴がガチになってやってるから、ある意味特訓になっちまってる」

『ああ、そうですか・・・』

「とりあえず、あとの事は追って連絡するから、そっちはそっちで進めてくれ。じゃ」

そう言って、戦兎は連絡を切る。

「ったく、本気にしやがって・・・」

くじ引きでチーム分けをして、総当たり戦でやり合っている一同。

翼・シンペアとマリア・エルフナインペアがこぞって争っている所だ。

「次だ。来い!」

シンの掛け声とともに、エルフナインがバレーボールを頭上へ高く投げる。

そして飛び上がり、そして完璧なフォームでボールを打とうとして―――空ぶる。

「あれ・・・!?」

そのままの勢いで転び、派手に落下する。

「サーブミス、一点」

「いや容赦ねえな!?」

審判役を務めているウルフが容赦なく得点を加算する。

転がったボールをマリアが拾い上げる。

「なんでだろう?強いサーブを打つための知識はあるのですが、実際やってみると全然違うんですね・・・」

「背伸びをして誰かの真似をしなくても大丈夫」

「ん?」

「下からこう、こんな感じに」

そう言って、マリアがアンダーハンドサーブでボールを向こうへ投げ渡す。

「はう・・・すびばぜん・・・」

申し訳なさでいっぱいのエルフナイン。そんなエルフナインに、マリアは屈んで慰める。

「弱く打っても大丈夫。大事なのは、自分らしく打つことだから」

「はい。頑張ります!」

結局、そのゲームは翼・シンペアの勝利となり、続くは一海・調ペアと幻徳・響ペア。

「頑張ろうね。調ちゃん!」

「負けません・・・!」

「ヒゲ、お前バレーなんてできんのか?」

「んだとポテト」

すかさずウルフが笛(の音声データ)を鳴らす。

まず第一球は響。

「キェェエエ!!」

奇声のような叫び声と共に鋭いサーブが相手コートに迫る。

「え!?あ、ちょ!?」

「うぉぉぉぉお!!」

思った以上のガチ加減に調は戸惑い、そこへ一海がフォローに入る。

見事真上に飛んだボール。

「よし、行け!」

「え、あ、はい!」

一海に言われ、調はすぐさま駆け出し、ボールを打つ。

打たれたボールはすぐさま相手コートへ。

その先には幻徳。

「よし、このボールを真上に――あ」

が、幻徳ここでトスを失敗、手から滑り落ちたボールがコートに落ちる。

「・・・・」

「一点」

「ぷぷっ、だっせぇ」

「・・・」

一海の言葉に、幻徳の中で何かが切れる。

「次」

「行きます」

調がサーブする。

相手コートへ飛んで行ったボールは、響がレシーブして上に飛ばす。

アタックチャンスだ。

「そうはいくかよ!」

そう言ってそのアタックボールの前に一海が両手を挙げてブロックしにかかる―――次の瞬間、

「死ねェポォテトォ!!」

「ぐべら!?」

 

ボール越しに幻徳の拳が一海の顔面に炸裂する。

 

『えぇぇぇええ!?』

ボールごと殴り飛ばされた一海はそのまま吹っ飛びコート外まで。

そしてボールはコート内に落ちる。

そして、静寂が当たりを包み、

「一点」

「いや待て今の反則でしょう!?」

「直接殴ってないからセーフだ」

「これ新たな抗争の火種になるんじゃないかな!?」

そして無慈悲なる得点。

「フハハハハ!どうだポテト参ったか!」

「こンの、ヒゲェ・・・!!!」

怒りを滲ませた声で、一海は立ち上がり。

「上等だそっちがその気なら俺もとことんやってやらァ!!!」

そこからのゲームはもう酷いもので、ボールが上がれば、すかさず一海と幻徳の激しい殴り合いに発展してしまうのだ。

地獄突き、コークスクリュー、クロスチョップ、ラリアットなどなど、もはやボール越しなら何でもありだ。

結局のところ、最後まで殴り合った結果――――試合続行不可能という事で、そのゲームはなかったことになった。

「び、ビーチバレーってここまで恐ろしい競技だったんですか・・・?」

「いやあれはあいつらが可笑しいだけだから!」

そして続くは戦兎・未来ペアと龍我・切歌ペアの試合。

「ばっちこーい!」

「やってやるデスよー!デスがさっきのようにはしたくないデス!」

「いや当たり前だからなそれは!?」

「・・・・」

そんな彼らのやり取りをながめつつ、未来はふと思った。

 

―――ずっと響に隠し事をしていた私は、果たして響の隣に立つ資格があるのだろうか、と。

 

シンフォギアを纏い、共に戦う資格を得た。しかし、それだけではいけない気がする。

許してもらったとはいえ、自分は、かつて響がしていたことと同じをしたのだ。

果たして、そんな罪を背負っている自分が、響の隣に立って、戦ってもいいものなのだろうか。

否、それ以前に、自分は響の隣に立つだけの『強さ』を持ち合わせているのだろうか。

結局、最後は一方的にやられるだけやられて、最後は逃げかえるかのようになってしまって。

いくら、戦兎の所で特訓は重ねてきたとはいえ、果たしてそれで自分は強くなったと言えるだろうか。

自分は、本当に強いのだろうか―――

 

「未来!」

「え」

戦兎の叫び声が聞こえて、顔を挙げた瞬間――――

 

 

―――バレーボールが、顔面に炸裂した。

 

 

「あ」

「ふぐお・・・!?」

年ごろの少女が出してはいけない声を出して、未来は砂場に沈む。

「あぁぁあ!?」

「えらい事故デス・・・」

「み、未来ぅー!?」

すぐさま響が駆けつけ、抱き起こす。

「未来!?大丈夫!?」

「いたた・・・うん、どうにかこうにか・・・」

「良かったぁ・・・」

心底安心する響の様子を見て、未来は思う。

ああ、嫌だな、と。

(もっと、強くなりたい・・・響を心配させないほど、強い自分に・・・)

切望、ともとれるそれは、未来の胸中に小さく渦巻いていた。

 

 

 

 

白熱したビーチバレーは悉く装者、ライダーたちの体力を奪っていき、結果として、マジの特訓へと変わっていた。

「気が付いたら特訓になっていた」

「どこのどいつだぁー、途中から本意気になったのはぁー」

「だるいし、疲れたし、そして眠いし・・・」

「アハハ・・・お疲れ様です」

そんな中で、エルフナインは、真っ青な空を見上げて、一つ呟く。

「晴れて良かったですね」

「昨日、台風が通り過ぎたお陰だよ」

「日頃の行いデース!」

「ところでみんな、おなかが空きません?」

と、言い出したのは響。

「だがここは、政府保有のビーチ故・・・」

「近くに売店の類はないぞ」

幻徳がそう呟いた途端、その場にいるものたちの間で火花が散る!

 

『コンビニ買い出しじゃんけんぽん!』

 

そうして出たのは―――

 

チョキ―――翼、切歌、調、シン、戦兎、龍我

 

グー――――響、未来、マリア、エルフナイン、クリス、幻徳、一海、慧介、美空、セレナ

 

 

よって、チョキを出した者たちの負けである。

だがしかし、

「ぷははははは!翼さん変なチョキ出して負けてるし!」

世間一般でいう所の拳銃型の手。それは一重に北海道の方で伝わっている田舎型チョキである。

「変ではない!カッコいいチョキだ!」

「それ、かっこいいか?」

また、調と切歌、戦兎と龍我は、

「斬撃武器が・・・」

「軒並み負けたデス・・・!」

「俺も斬撃武器だから数に入るのか・・・」

「兎が負けた・・・」

「いや兎は普通に負けるだろ?」

なんて言っていた。

「好きなものばかりじゃなくて、ちゃんと塩分とミネラルを補給できるものもね」

ふと、マリアがそう言い出し、一方負けたことにむくれている翼に、自分のサングラスをかけてやる。

「人気者なんだから、これかけていきなさい」

「・・・・母親のような顔になってるぞ、マリア」

「『ママリア』ってか?」

瞬間、戦兎の顔面にマリアの拳が突き刺さった。

 

 

 

数分後―――

 

コンビニから出てくる一行。

「切ちゃん自分が好きなものばっかり」

「こういうのを役得というのデース」

「そうか。じゃあこの荷物をもってくれるってことも役得ってことにもなるな」

「それは勘弁デスぅ!」

「また財布からお金が消えた・・・」

「自業自得だろ」

自分の好きなお菓子や飲み物を買った切歌、それを咎める調、マリアに言われた通り塩飴やミネラルウォーターを持つシン、自分の財布を死んだ目で覗く戦兎、その戦兎に引く龍我。

その様子に、翼はふっと微笑む。

その途中で―――

「ん?あれは・・・」

野球部らしき少年たちが、神社の鳥居門らしき場所に集まっている光景が見える。

その現場に出くわした彼らは、見た。

「あれは・・・!?」

見覚えのある、氷の塊を―――

 

 

 

「・・・あいつら遅いな」

「いや、片道十分ですし、まだ二十分も経ってないですけど・・・」

一海のぼやきにそうツッコミを入れる未来。

そんな彼らの元に、エルフナインがやってくる。

「皆さん、特訓しなくて平気なんですか?」

「ん?まあ、ハザードレベルを上げる必要性はあるっちゃああるが・・・」

「真面目だなぁエルフナインちゃんは」

幻徳と響がそう答えるも、エルフナインは迫真な様子で彼らに言う。

「暴走のメカニズムを応用したイグナイトモジュールは、三段階のセーフティで制御される、危険な機能でもあります!だから、自我を保つ特訓は―――」

その時だった。

 

海の水が跳ね上がり、そこから一人の少女が現れる。

 

「なんだ!?」

「うおっ!?ゴスロリ少女!?」

「ガリィ!?」

オートスコアラー『ガリィ・トゥマーン』だ。

「夏の思い出作りは十分かしらぁ?」

「んな訳ねえだろ!」

すかさずクリスが駆けつけ、すかさず一海と幻徳がスクラッシュドライバーを取り出す。

「バル!」

「キュアー!」

 

『スクラァッシュドゥライバァーッ!!』

 

『STANDBY!』

 

それを装着し、クリスと響、未来がそれぞれのリンク・アニマルの『スタンドアップスターター』を押す。

次の瞬間、三人の間に、それぞれのアニマル・ブレイズが出現する。

クリスは四つ足の首の長い龍、響は大翼広げる不死鳥、未来は蛇のような龍。

 

ロボォットジュエリィーッ!!』

 

Danger!』クロコダイル!!』

 

「―――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)―――」

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)―――」

 

「―――Rei shen shou jing rei zizzl(鏡に映る、光も闇も何もかも)―――」

 

「「変身!」」

 

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

 

ロボット・イン・グリィスゥッ!!』

 

『ブルァァァァア!!!』

 

『割れるゥ!喰われるゥ!!砕け散るゥッ!!!』

 

クロコダイル・イン・ロォーグ…ッ!!!』

 

『オゥラァァァア!!!キャァァァア!!!』

 

 

すぐさまイチイバル、ガングニール、神獣鏡の着装、グリス、ローグへの変身をする五人。

 

 

「鉛玉の大バーゲン!馬鹿につけるナンチャラはねえ!」

 

 

クリスとグリス(なんか見ずらいな)がボウガンとツインブレイカーから光弾を放つ。

それが、水柱の上にたたずむガリィに向かって放たれるも、撃ち貫かれたガリィの体に風穴が空いたかと思いきや、あっという間に水へと変わり、その場にばしゃりと落ちる。

それに息を飲むも、すぐさま背後に気配を感じて振り返れば、そこにはいつ移動したのか、ガリィが立っており、彼女の放つ水しぶきが五人を吹き飛ばす。

「俺も・・・!」

「お前は下がってろ!」

慧介も変身しようとするも、それをグリスが止める。

「で、でも・・・!」

「まだ万全じゃねえんだろ!?ここは俺たちに任せて、お前は他の奴ら連れて逃げろ!」

「一海さん・・・く・・・!」

グリスの言葉に、慧介は不承不承と踵を返して走り出す。

「マリアさん!四人をお願いします!」

響の叫びに、マリアは頷き、セレナ、エルフナイン、慧介、美空を伴ってその場から離れる。

「来い!誘導する!」

ガードウルフが前に出て、四人を誘導していき、その間に五人はガリィを取り囲む。

「キャロルちゃんの命令もなしに動いてるの!?」

「さあねぇ」

響の問いかけにガリィはそう答え、すかさずアルカノイズをばらまく。

すかさず五人が動く。

響が拳でノイズを砕き、未来が鉄扇やミラーデバイスから放つ光線で打ち抜き、クリスがガトリングガンでノイズを一気に撃ち抜いていく。

「ウラウラウラァ!」

一海もツインブレイカー二丁でノイズを蹂躙し、ローグもネビュラスチームガンでノイズを撃ち抜いていく。

空中を飛ぶフライトアルカノイズに向かっても、クリスとグリスのミサイルとツインフィニッシュが宙で弾ける。

 

 

 

その様子は、遠場にいる戦兎たちにも見えていた。

「あれは!?」

「まさか、向こうに出やがったのか!?」

「行かないと・・・!」

調、切歌、龍我、シンの四人が先に向かい、戦兎と翼はその場にいる子供たちのすぐ傍の男に駆け寄る。

「ここは危険です!子供たちを誘導して、安全な所にまで―――」

「冗談じゃない!どうして俺がそんなことを!」

「はあ!?」

だがその男は背を向けて一目散に逃げ始める。

「うっそだろオイ!?」

「くっ、止むを得んか・・・!」

仕方なく、翼と戦兎が避難誘導を始める。

 

 

 

「やぁあ!」

未来の帯がアルカノイズを弾き飛ばす。

「クロ!オートスコアラーの場所を割り出して!」

バイザーが閉じ、クロが一帯の戦場の敵情報をスキャニング。そして、その結果を未来に突きつける。

 

一人、こちらに真っ直ぐ向かって迫る、大きな敵性反応が一つ――――

 

「ッ!?」

「死ねェ!!」

一人の男の拳が未来に叩きつけられる。

寸での所で、未来が鉄扇を掲げる事で防ぐことは出来たが、その一撃は想像以上に重く、大きく弾き飛ばされる。

「貴方は・・・!!」

先日、S.O.N.Gを襲撃した、デイブレイク社の者の一人『ロジャー・セリオ』だ。

「見つけたぜぇ、クソガキ」

怒りに血走った目を未来に向け、ロジャーは蛇を解き放つ。

「ッ!」

それに対して未来は光線を発射、蛇を迎撃する。

「ッ!?未来!」

それに気付いた響がすぐさま未来の援護に回ろうとする。

しかし、響の視界に突如としてある情報が提示される。

それは、オートコアラー・ガリィがこの場にいないという事。

そして、それから予想される予測結果。

 

マリアの元に、向かったという事実。

 

「幻徳さん!」

「なんだ!?」

すぐさま状況を判断し、響はローグに向かって叫ぶ。

「今すぐマリアさんたちの所に行ってください!オートスコアラーがそっちに・・・!」

「ッ!分かった、すぐに向かう!」

それを受けたローグはすぐさまマリアたちの元へと走り出す。

 

 

 

そして、逃げて森の中を走っていたマリアたちの元にガリィが先回りして降り立つ。

「見つけたよ、暴れん坊装者」

「え?それ私の事!?」

ガリィにそう言われてショックを受けるセレナ。

「くっ!」

すかさず慧介が前に出そうになるのを、マリアが手で制する。

「さあ、いつまでも逃げ回ってないで―――」

ガリィがその片手を氷の刃で包んで突撃してきた瞬間―――マリアが前に出る。

「ラム!」

「バウ!」

 

『STANDBY…!』

 

ガリィが振るう氷の刃、それを躱したマリアは、すかさずその左拳でガリィの顔面を殴り飛ばす。

その左拳には―――狼の(あぎと)が。

「がっ!?」

 

「―――Seilien coffin airget-lamh tron(望み掴んだ力と誇り咲く笑顔)―――」

 

聖詠が響き渡り、何体もの狼がマリアの周囲を駆け巡る。

その狼たちが、マリアの体に光となって直撃し、その身に狼の衣装を刻み込んだ純銀の鎧を纏わせる。

 

起動したのは、銀の左腕。

それは、大切な者から譲り受けた、彼女の力。

強くなりたいと願う、彼女の覚悟の証。

寂しき笑顔を持つ少女とは、違う、誇り咲くべき笑顔の為の拳。

 

 

今ここに、マリア・カデンツァヴナ・イヴのアガートラームは起動した。

 

 

『Start up airget-lamh. Fight to my master』

 

 

「銀の、左腕・・・!?」

「銀腕・アガートラーム・・!」

新生アガートラームの起動に、その場にいる者たちはこぞって目を見開く。

 

「真の強さとは何か? 探し彷徨う!」

 

マリアの纏うシンフォギアから歌が奏でられる。

「あんたがどれほどのものか知らないけど、失望だけはさせないでよぉ」

ガリィがアルカノイズをばらまく。

それに対して、腕の鞘に納められたアームドギアである短剣を抜き放つと同時に無数のダガービッドを抜き放ち、それを一気にアルカノイズの集団へと撃ち放つ。

 

INFINITE†CRIME

 

そのまま最前線のアルカノイズたちを一掃、そして短剣を構えて一気にアルカノイズを殲滅しつつガリィに肉薄する。

「ウルフ、マリア姉さんの援護を・・・!」

「了解した」

セレナの言葉にウルフは従い、尻尾のマニピュレータで腰部に取り付けられたナイフホルダーからスローイングナイフを抜く。

赤熱した刃によって、アルカノイズの解剖器官を避けながら、セレナたちに近付くアルカノイズたちを斬り裂いていく。

ウルフ臀部にある機構には、無数のスローイングナイフを収納する格納スペースがあるのだ。

「こっちは気にするな!お前は敵大将を!」

「恩に着る!」

ウルフの援護もあり、マリアはガリィに迫る。

(訓練用のLiNKERが効いている・・・それに、ラムのサポートで適合係数が安定している・・・これなら・・・!)

右手に持つナイフが伸び、まさしく蛇のように空中を這いながらアルカノイズたちを撃滅していく。

 

EMPRESS†REBELLION

 

蛇腹剣で道を切り開き、マリアは一気にガリィに迫る。

「うわー、私負けちゃうかも~・・・」

棒読みでそんなことをぼやきつつ、ガリィは高笑いを挙げる。

そして、そんなガリィに、短剣の一撃を叩き込もうとする。

「なんてね」

「ッ!?」

しかし、いとも容易く、あっさりと躱されてしまう。

(しまっ―――)

振り返った瞬間、ガリィの氷の刃がマリアに叩きつけられる。

「あぐあ!?」

その一撃を貰ったマリアは地面に倒れ、短剣が遠場に突き刺さる。

「姉さん!」

その光景に、セレナは思わず声を挙げる。

「マリア!・・・くっ!」

ウルフも救援に向かおうとするも、セレナたちに群がろうとするアルカノイズの対処で動けない。

「強い・・・」

どうにか起き上がり、マリアはガリィを見上げる。

「だけど・・・!」

力の差を感じたマリアは、切り札を切る。

 

 

 

 

 

 

「死ねェ!!」

ロジャーの吐き出す蛇が未来に襲い掛かる。

「未来!」

「邪魔すんじゃねえ!」

すぐさま未来の援護に入ろうとする響を、ロジャーが呼びだした、何体もの大蛇によって阻まれる。

「くっ」

「くそ!アルカノイズの次は蛇かよ!」

「蛇とか、むかつくことをしてくれるじゃねえか!!」

これでは、未来の援護に向かえない。

一方の未来は、襲い掛かる無数の蛇を、ミラーデバイスから放つ光線をもって迎撃する。

 

混沌

 

その輝きは蛇を一度だけ貫くだけに留まらず、展開したミラーデバイスで再び反射、増幅させ、ほぼ無限ともいえる反射を引き起こし、襲い掛かる蛇を一気に迎撃する。

しかし、全ての蛇を駆逐した所で、今度は腕に蛇を纏わせたロジャーが強襲。

それを未来は鉄扇をもって防ぐ。その拳の重さはなんたるか。

「ぐぅっ!?」

さらに、その拳が叩きつけられると同時に、腕に纏わりついてブーストの役割を担っていた無数の蛇たちが一斉に未来に向かって牙をむく。

それを、未来はすかさず両腕の帯で弾き、吹っ飛ばされる衝撃と足のホバーを全力噴射することで回避する。

「逃げんなァ!」

「無理な、話!」

すかさず、未来が鉄扇の先からミラーデバイスから放たれる一撃よりも強い光線を放つ。

 

慟哭

 

放たれた無情の一閃。しかし、ロジャーはそれを躱し、未来に拳の一撃を叩きつける。

「く、ぅう・・・!」

再び吹き飛ばされる未来。

(強い・・・この間より、ずっと・・・!?)

以前戦った時よりも、彼の戦闘力はいつにも増していた。

「殺す・・・テメェだけは殺すゥ・・・・!」

怒りや憎しみを原動力としているのだろうか。

彼は、未来以外は眼中にない様子だった。

でも、だとしても。

「ここで負ける訳にはいかない・・・!」

未来は、その力の差を埋める為、呪われた力に手を出す―――

 

 

 

 

「この力で決めて見せる!」

 

「これ以上、好きにはさせない!」

 

 

ほぼ同時に、二人は一発逆転ギャンブルに出る。

 

 

 

「「『イグナイトモジュール』、抜剣!!」」

 

 

『DAINSLEIF』

 

 

展開されたマイクユニットの針が二人の穿つ。

 

 

「ぐぅああぁぁ・・・・!?」

 

「あ・・う、あぁぁぁあ!?」

 

 

モジュールの起動に伴う、破壊衝動が精神を蝕む。

 

 

 

「未来・・・!」

その光景に、響は黙ってみている事しか出来ない。

 

「姉さん・・・!」

呪いに苦しむ姉を、見ている事しか出来ないセレナ。

 

 

そして、呪いに苦しめられる二人は――――

 

「弱い自分を、殺す―――う、わぁぁぁぁああ!?」

 

「響の、隣に、立てる―――あ、あぁぁぁぁあ!?」

 

 

 

 

 

漆黒が、覆いつくす。

 

 

 

 

 

「――――ガァァァアァァァアアァァアアア!!!」

 

 

 

「――――グルアァァアァァァアァァアアア!!!」

 

 

 

呪いが暴走し、マリアと未来が、暴走する――――。

 

 

 

 

「あれれ」

その様子に、ガリィはそうなったかとぼやく。

「グゥゥウウァァァアアァアア!!!」

漆黒に染まり、獣に成り下がったマリアがガリィを強襲。理性を吹き飛ばされているとはいえ、その力は絶大。

その一撃を、ガリィはいとも容易く躱して見せる。

「獣と落ちやがった」

その様子に、ガリィは軽蔑をもってそう呟く。

 

 

 

 

 

「グルアァァァァァアア!!」

「そんな、未来が・・・!」

イグナイトの暴走によって、未来が獣へと成り下がる。

その未来が、ロジャーに襲い掛かる。

「ッ!?」

その速さに目を見開くロジャーだが、拳を振るう未来に、ロジャーは真正面から迎撃する。

その拳の重さは、未来の華奢な腕から想像も出来ないほどに重く、またロジャーが踏みしめている砂場が衝撃によって吹き飛ぶ。

「ぬ・・・ぐ・・・!」

「グルァァァァアア!!」

すかさず未来が追撃に帯を振るう。だが、その攻撃はロジャーが呼び出して蛇にいとも容易く防がれる。

「死ねよクソガキィ!」

「グル・・・!?」

次の瞬間、ロジャーが反対の手で未来の腕をつかんだかと思いきや、思いっきり遠くへ投げ飛ばす。

それを未来は空中で態勢を整えて四つん這いで着地。

「グルァァァアアア!!!」

咆哮し、未来は敵を見据える。

「くそ、魔剣の呪いに飲み込まれやがった・・・・!」

その様子に、クリスは悔しそうにそう呟く。

 

 

 

 

その一方、暴走したマリアは、左腕を肥大化させ、その腕をもってガリィを強襲。しかしガリィはそれを苦も無く躱して見せる。

地面に突き刺さるマリアの凶爪。しかしすぐさま引き抜いては背後に回ったガリィを襲う。

「いやいやこんな無理くりな赤ではなく―――」

そのまま一撃を叩き込もうとするマリア―――の顔面に横から誰かの拳が炸裂する。

「え」

「グガァァァアァア!?」

そのままマリアは横の木に叩きつけられ変身解除の後に沈黙。

突然の事にガリィも一瞬呆け―――目の前に突きつけられた銃口に思いっきり首を捻る。

放たれた銃弾はガリィの髪を掠り、続けざまに数発放たれ距離をとる。

「お前は・・・」

そこに立っていたのは、紫のスーツに身を包んだ仮面の戦士。

「仮面ライダー・・・!」

「ローグだ」

ローグが再び駆鱗煙銃ネビュラスチームガンの引き金を引く。

「チッ、お前は及びじゃないんだよ!」

ガリィの拳が、ローグの胸に突き刺さる。

しかし、ローグはびくともせず、すかさず反撃の拳がガリィを襲う。

「んなっ!?」

「その程度の攻撃で、俺がやられると思ったか」

ローグは、全ライダー中最大の防御力を誇る。ビルドのハザードフォーム、あるいはそれに準ずるフォームであれば、その防御力を無視することが出来るが、その特性さえなければローグは、最大最硬の装甲を持つライダーとなる。

追撃の銃撃。

それをガリィは片手で弾いて見せる。

「チッ、あの装者は外れだし、邪魔は入るし、がっかりだ」

そう忌々し気にガリィは呟くと、テレポートジェムを取り出し、それを足元に投げる。

そして、あっという間に消える。

「逃げた・・・いや、引いてくれたという方が正しいか・・・」

「マリア姉さん!」

倒れるマリアに、セレナとエルフナイン、そしてアルカノイズを駆逐し終えたウルフが駆け寄る。

「マリアさん、マリアさん・・・!」

「大丈夫だ。それほど大きな外傷はない」

呼びかける彼女らの言葉に、マリアは目を開ける。

「姉さん!良かった・・・」

「・・・勝てなかった・・・」

唐突に、マリアは呟く。

「私は、何に負けたのだ・・・?」

その疑問は、虚空へと消えていき、それを見守っていたラムは、静かに茫然としているマリアを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

また一方で。

「グルアァァァァアアア!!」

暴走した未来が再びロジャーに襲い掛かる。だが、

「未来!」

その前に響が立ち塞がり、すさまじい勢いで突っ込んでくる未来を受け止める。

「ぐっ!ダメだよ未来!魔剣の呪いなんかに負けないで!」

「グルアァァァァア!!!アァァァアア!!!」

抱きしめる響の腕の中で、暴れる黒い獣。

しかし、そこへロジャーの大蛇が襲い掛かる。

「ッ!?」

それに息を飲む響だが、その蛇はたちまち、赤い弾丸に撃ち貫かれていく。

「そっちは任せた!」

クリスだ。

「ウオラァァァア!!!」

そして、ロジャー本人にはグリスが殴りかかる。

「テメ、邪魔すんな!」

「はっ!それなら俺を倒して見せなァ!」

ロジャーとグリスが激しく殴り合う。

だが、アルカノイズと戦う事で『スイッチ』を入れたグリスは、並大抵の力ではない。

「進撃!」

右のツインブレイカーが左腕を弾き飛ばす。

「爆現!!」

左のツインブレイカーが右脇腹に突き刺さる。

「豪快ィ!!!」

凄まじいラッシュが、ロジャーを襲う。

「こっのォ!」

ロジャーの拳がグリスの顔面を捉える。だが、効いていない。

「おいおいどうしたこの程度か!?」

「なっ!?」

その腕を弾き飛ばし、両腕のツインブレイカーの連撃がロジャーに突き刺さる。

「まだまだ全然足りねえなァ!!」

「ぐあぁぁああ!?」

想像以上のグリスの強さに、ロジャーは圧倒され、吹き飛ばされる。

そのまま砂の上を転がる。

「誰が俺を満たしてくれるんだよぉぉぉぉおお!!!」

両手を広げて、雄叫びを挙げるグリス。

「こ、の・・・調子に―――っ!?」

ふと、ロジャーが唐突に止まる。

「はあ!?撤退だと!?ふざけるな!あいつの仇が目の前に・・・チッ、クソがッ!」

誰かと通信しているのか、一人喋りだすロジャー。

やがて、そのポケットからテレポートジェムを取り出すなり、それを地面に投げ捨てる。

「次は必ず殺してやる・・・!」

そう言い残し、ロジャーはその場から消える。

「逃げやがった・・・」

「ってそうだ!あの子は・・・!」

そうしてクリスが振り返った先で、未来はなおも響の腕の中で暴れていた。

「く、どうにかして止めねえと・・・」

攻撃して気絶させるのも手だが、それを彼女が許す筈がない。

一体どうすれば―――

 

「―――クローズドラゴン!コード0739変身解除!!!」

 

と、そんな声が聞こえれば、

 

『Order acceptance. Remove transformation』

 

すると、途端に未来の体から黒が剥がれ落ち、元の水着姿に戻る。

「未来・・・未来!」

響が、揺すって未来に呼びかける。

すると、未来はうっすらとだが、目を開ける。

「未来・・・!」

「おい、大丈夫か!?」

そこへクリスと変身を解除した一海も走ってくる。

さらに、マシンビルダーに乗って急行してきた戦兎と翼がやってくる。

「私・・・暴走したんだ・・・」

「キュルー」

茫然としている未来に、申し訳なさそうに顔を摺り寄せてくるクロ。

「念のために強制解除コード設定しておいて正解だったな」

「流石戦兎だな・・・」

 

「大丈夫・・・」

そんな未来を、響は抱きしめる。

「大丈夫だからね。未来は、何も悪い事してないから・・・」

その言葉は、さらに未来の心を締め付け、同時にふと思う。

(嫌だな・・・)

こんな、弱い自分が、とても――――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「主を失ってなお襲い掛かる人形・・・」

オートスコアラーの行動に疑問を抱くS.O.N.G.。

「『強い』って、どういうことなんでしょうか?」

強さに悩むマリアと未来。

「今度こそ歌ってもらえるんでしょうね?」

そこへ襲撃してくる、ガリィとロジャー。

「てんで弱すぎる」

追い詰められる、マリアと未来。

「・・・俺にとっての『弱さ』とは―――」

そこへ、ローグから告げられる言葉とは―――

次回『ローグを演じた男』


「「『イグナイトモジュール』、抜剣!!」」






さあさあ変身講座ァァアア!!!


はろはろみんな、マリア・カデンツァヴナ・イヴよ。今回は私が変身講座をしてあげるわ。
ちょっとそこ『ママリア』とか『アイドル大統領』とか『ただのやらしいマリア略してタヤマ』とか呼ばない!私の心はガラスのハートなのよ!?
・・・こほん、話しがズレたわね。
だから、からかいやすいって言わない泣くわよ!?
と、とにかく!まずはラム・・・このアガートラームウルフを用意しなさい!ちなみに形はシンのクライムウルフと同じよ。
そして、この子の背中にあるスタンバイスターターを押す。
すると、七匹のおおかみさんが出てきてくれるわ。
ちなみに、それぞれに名前があるらしくて、怒りっぽいのが『ラース』、尻尾を振り振りして誘惑してくるのが『ラスト』。食い意地を張ってるのが『グラトニー』、何故か嫉妬深そうな子が『エンヴィー』、あくびをしてるのが『スロウ』、何故かマウントを取ろうと必死に胸を張ってるのが『プライド』、そして獰猛な顔をしているのが『グリード』よ。
さて、ここから変身に入る訳なんだけど、私のポーズは、まず自分の左肩あたりで左腕を縦に、右腕を横にして交差させて、そこから私から見て反時計回りに腕を回すの。そして、左拳を腰に、右手を水平に構えて、そして右に右手を振り抜く♪

「―――Seilien coffin airget-lamh tron(望み掴んだ力と誇り咲く笑顔)―――」

・・・よし、これでばっちりね。
あくまで作者の妄想なんだけれども、変身バンクは

振り抜いた右手におおかみが一匹噛みつく。それが光となって右腕に纏われ、再び斜め下に振り抜くと同時に着装→そこから光が全身へと纏われギアインナーを纏う→二匹の狼が足元で回り、レッグギアへと変化→腰の後ろから四匹目の狼が飛び掛かって腰のギアから体を駆け抜けるようにしてボディアーマーを着装→腰マントが現れ、そこに一匹の狼が入り込んで狼柄を描く→最後にどっかの戦隊もののような感じで頭に狼が噛みつきヘッドギアへと変化→最後に左腕に狼が噛みついてガントレットへと変身、そこから出る短剣を抜き放って、変身は完了。


といった感じよ。
少しは分かったかしら?他の皆は唯一無二っていう感じだけど、私は七匹もブレイズがいるのよ。
リンクス・アームズについてはまだ明かせないけど、次回の私の活躍、見ていてね。

では、マリア・カデンツァヴナ・イヴとラムでした。



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ローグを演じた男

弦「新世界創造からはや一年。仮面ライダービルドこと天才物理学者の桐生戦兎は、かつての仲間たちや風鳴翼たちシンフォギア装者と共に、錬金術師キャロルとデイブレイク社の脅威に立ち向かっていた・・・」
藤「前回、マリアさんたちが敗北してしまいましたねえ・・・」
友「イグナイトモジュール、ここまで危険なものだったなんて・・・」
緒「しかし、彼女たちならきっと乗り越えてくれるでしょう」
翼父「うむ。それはそうと最近、作者は『装甲娘』なるゲームを始めたそうだ」
友「またぁ!?本当に作者色々なゲームに手を出しているわね!?」
藤「作者曰く、面白いから仕方ないでしょう、とのことです」
緒「シナリオやキャラの個性がすごくドストライクだったようです。ちなみに作者は原作LBXではオーディンとドットブラスライザーが好きだったりします」
弦「まあなにはともあれ、今回ついに未来君とマリア君が、モジュールを克服・・・するかもしれない第十三話をどうぞ!」




作「エンペラーが想像以上に可愛い」


デイブレイク社―――第三支部本部にて。

「らしくありませんね」

ジーナが、ロジャーに向かってそう言う。

その部屋は、凄まじい惨状だった。

壁、天井、床、至る所に何かで殴ったかのようなクレーターが出来、砕け散った瓦礫が散乱し、とてもではないが人が住めそうな様子ではなかった。

「それほどまでに、相棒であるテラーを奪われたことが許せないのですか?」

「当然だ」

ジーナの言葉に、その部屋をこのような惨状にした張本人、ロジャーは答える。

「あのガキだけは何が何でも殺す。テラーをやりやがったあのガキは、必ず俺の手で始末する・・・!」

「はあ・・・まあ、あの装者の討伐は我々にとっても優先すべきこと。止めはしませんが、冷静さを欠いて返り討ちにならないようにしてください」

「はっ、イグナイトをまともに起動させられないあのクソガキに、俺がそうそう遅れを取るかってんだよ」

「だといいですけどね」

ジーナはそれだけ言って部屋を出ていく。

そして、ジーナが出ていった所で、ロジャーは思いっきり壁を殴る。

「奴は殺す・・・必ず殺す・・・・!!」

呪詛のように、ロジャーはそう呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「主を失ってなお襲い掛かる人形・・・」

政府保有の施設の客間にて、そう呟く翼。

「どうして優位にことを運んでも、止めを刺さずに撤退を繰り返しているのだろう?」

「まるで遊ばれてる気分だ」

「人形に人形遊びされてるってか?悪い冗談だぜ」

確かに、あの状況でなら無理に攻撃すればマリアを仕留められたかもしれない。

ロジャーは完全に殺す気だっただろうが、そこはグリスたちのファインプレーということで良しとする。

どちらにしろ、一体どういう事なのだろうか。

「何か裏があるとみて間違いないだろうな」

戦兎が、顎に手を当てつつ、そう呟く。

「よっく分かんねえな」

「万丈は相変わらずね・・・」

一方の龍我は話についていけず、というより暇つぶしにその場で腹筋である。それに呆れる美空。

「気になんのはそれだけじゃねえ。アイドル大統領と未来のこともだ」

「マリアがアイドル大統領なのは否定しないが、確かにそうだな」

「いやシンさん否定してあげましょうよ!?」

シンのボケはともかく、今はこの場にいない未来とマリアの事もある意味での心配事の一つだ。

そして、その事について、響は語る。

「力の暴走に飲み込まれると、頭の中まで黒く塗りつぶされて、何もかも分からなくなってしまうんだ・・・」

ビルドのハザードフォームとは違う、シンフォギアの暴走。

それは、一重に破壊衝動の暴走という共通点を有しているも、兵器か獣かという違いが確かに存在する。

そして、その発動条件も、まさしく真逆。

ハザードフォームの暴走は、まさしく機械的設定にあるかのようなものであり、『必然』という言葉が必ず介入するもの。

しかしシンフォギアの暴走は、己が闇を爆発させることで発動する本能の解放。そしてそれは、一重に自分自身の『弱さ』を突き付けられる事象でもある。

必ず暴走する『ハザード(危険)』じゃない。

その気になれば必ず制御できる『イグナイト(点火)』に、マリアと未来は負けたのだ。

(未来・・・)

今、一人でいるだろう未来の名を、響は心の中で呟いた。

「・・・・あれ?そういえば幻徳さんは?」

ふとここで慧介が、幻徳がいない事に気付く。

「ん?そういえば・・・どこいったんだ?」

誰も幻徳の行方を知らなかった。

 

 

 

 

 

 

「はあ・・・」

あてもなく、そのあたりを歩く未来。

(魔剣の呪い・・・私の心が、弱かったばかりに・・・)

あまりにもあっさりと、飲み込まれてしまった。

その結果が、あの暴走だ。

(強くなりたい・・・)

親友の隣に立てるぐらい、強く―――

そんな中で、未来に声をかける者がいた。

「小日向未来」

「ん?」

顔を上げてみれば、そこには幻徳がいた。

「幻徳さん・・・」

「丁度いい。お前も練習に付き合え」

「練習・・・?」

何の事かと思っていると、幻徳がある方向を向く。そちらを向けば、そこにはマリアと一緒にやってくる、ボールを持ったエルフナインの姿があった。

「エルフナインのサーブの練習に付き合ってやっていたんだ」

「ああ、なるほど」

それを聞いて、未来も納得する。

そうして、未来、マリアも交えた四人で、サーブ練習を始める。

何度も、何度もやって、しかし納得できないのか、エルフナインは何度も何度もサーブを繰り返す。

「おかしいな・・・上手くいかない」

「だが、確実に上手くなっていく。こういうのは積み重ねるのが大事なんだ」

「はい」

そう言って、幻徳は飛んできたボールをエルフナインに返す。

「・・・旧世界で戦ってきた長官なら、分かるのかな・・・」

「ん?」

ふと、マリアがそう呟き、それに幻徳は首を傾げる。

「だとしたら教えてほしい・・・『強い』って、どういうことなんでしょうか?」

その問いかけには、未来は顔を挙げる。

それは、今未来が直面している問題でもあるからだ。

自分が『弱い』ばかりに、魔剣の暴走を許してしまった、それを解決する為の糸口を。

「・・・・」

その問いかけに、幻徳は答える。

「・・・逆に聞くが、お前にとって『弱さ』とはなんだ?」

「え」

全く予想もしてなかった質問が返ってきて、マリアは思わず茫然とする。

その時だった。

すぐ傍の砂場から、噴水の如く水柱が立ち上る。

「「「「ッ!?」」」」

それに、四人は思わずそちらの方を見る。

「お待たせ♪外れ装者」

ガリィが、水柱の上に立ち、彼らを見下す。

「ッ!」

エルフナインの前に、未来、マリア、幻徳が立つ。

「マリアさん、未来さん、幻徳さん・・・!」

マリアは頭に巻かれていた包帯を解き、投げ捨てる。

「今度こそ歌ってもらえるんでしょうね?」

その見下すかのような言葉に、マリアは身構える。

だが、その直後、

「バル!!」

ラムがなぜか未来の背後に向かって咆える。

「え―――」

それが、一体何を意味するのか分からず―――未来の首に蛇が噛みつく。

「あっ――――」

「―――ッッ!?」

それを見て、三人の血の気が引く。

突き立てられた牙から、毒が流れ込む。

「ぁ・・・か・・・」

その毒は、たちまち未来の体を侵し、途端に未来は膝をつく。

「未来!」

「おい!しっかりしろ!」

「グルッ!!」

すかさずクロが未来の首に噛みつく蛇を弾く。その蛇が戻っていく先には、一人の男が立っていた。

「お前は・・・!!」

「これで終わりだ」

ロジャーだ。

ロジャーが作り出した毒蛇の牙が、未来に突き立てられたのだ。

「即効性の神経毒だ。三分で毒は全身を巡り、やがて体機能を停止させ死に至らしめる・・・そいつはもう終わりだ」

「それは、どうかな?」

「何?」

幻徳の言葉に、ロジャーが首を傾げる。

すかさず、今度はクロが傷口に噛みつく。

すると、たちまち悪くなっていた未来の顔色が元に戻っていく。

「なんだと!?」

やがてクロが口を離すと、その口から緑色の液体を吐き出す。

「あ、あれ・・・?」

そして、先ほどまで吐き気すら覚えていた未来は、何事もなかったかのように目を開いた。

「貴方、大丈夫!?」

「あ、はい・・・どうにか・・・」

「よかった・・・」

未来の返事に、マリアは胸を撫でおろす。

「なん・・・で・・・なんでだ・・・!?」

「クローズドラゴンには毒を吸い出し、なおかつ解毒する機能が備えられている。地球外生命体の毒ですら抜き取り治すことが可能だ」

幻徳がそういえば、クロがざまあみろと言わんばかりに鳴く。

それを見て、ロジャーは、笑い出す。

「くく・・・そうか・・・そういうことか・・・」

その様子のおかしさに、三人は警戒しながら立ち上がる。

「やはり、俺の手で直接殺すべきなようだなァ!!」

完全に臨戦態勢だ。

「いや、こいつは殺させはしない」

 

『スクラァッシュドゥライバァーッ!!』

 

「大人として、仮面ライダーとして、貴様を倒すからだ」

そう言って、幻徳はクロコダイルクラックフルボトルを取り出す。

「ラム」

「クロ」

マリアと未来の声に応えるように、ラムとクロがそれぞれの手に収まる。

そして『スタンバイスターター』を押す。

 

『STANDBY!』

 

『STANDBY…!』

 

すると、ラムが白銀の狼へと、クロが黒紫の龍へ変化する。

 

Danger!』クロコダイル!!』

 

シールディングキャップを開ければ、そのボトルからは表層がひび割れたかのような発光をし、そのままスクラッシュドライバーに装填する。

そして、何かが迫るBGMのような音が響き渡り、幻徳は、アクティベイトレンチを下ろす。

 

「変身」

 

「―――Seilien coffin airget-lamh tron(望み掴んだ力と誇り咲く笑顔)―――」

 

「―――Rei shen shou jing rei zizzl(鏡に映る、光も闇も何もかも)―――」

 

 

『割れるゥ!喰われるゥ!!砕け散るゥッ!!!』

 

クロコダイル・イン・ロォーグ…ッ!!!』

 

『オゥラァァァア!!!キャァァァア!!!』

 

 

二人の歌と一人の変身が響く。

銀腕と歪鏡、そして大鰐。

何かに喰われ割られるかの如き変身シークエンスを通して、仮面ライダーローグが出現。また、アガートラーム、神獣鏡をマリアと未来は再び纏う。

「外れでないのなら、戦いの中で示して見せてよぉ!」

「ぶっ殺してやる!」

ガリィがアルカノイズをばらまき、ロジャーが未来に向かって襲い掛かる。

しかし、ロジャーの前にローグが立ちはだかる。

「そこをど―――げぇぶっ!?」

ローグを殴り飛ばそうとするロジャー。だが、吹き飛ばされたのはロジャーだった。

最大の防御力を誇る仮面ライダーだ。ロジャーの拳は通用しない。

「こっちは任せろ。お前たちは、オートスコアラーを」

「分かりました!」

「頼みます!」

未来とマリアが、アルカノイズ殲滅に乗り出す。

その一方で、幻徳がロジャーと対峙する。

「お前の相手は俺だ」

「俺の邪魔をするなぁぁぁあ!!」

ロジャーの絶叫と共に、戦いの火蓋が降ろされる。

 

 

 

 

 

それは、突如としてリンク・アニマルたちが騒ぎ出しての事だった。

「アルカノイズの反応を検知!」

持参していたノートパソコンから、藤尭がそう声を挙げる。

「マリアたちがピンチデス!」

「未来が危ない!」

真っ先に切歌と響が外に飛び出し、その後に他の装者、ライダーたちが続く。

「あ、慧介はここに残ってろ」

「え!?ちょ、俺も」

「翼!」

「承知!」

「あ、ちょ、影縫いは卑怯―――アーッ!」

・・・慧介一人を除いて。

「どんまい」

「ちくしょう・・・」

影縫いで動けなくなった慧介の肩に、美空が手を置く。

しかし、その最中で、緒川の目に開いたままの扉から、何かが見えた。

「ッ!」

それを見た緒川はすぐさま部屋の外に出て、周囲を見渡すが、特に何もなく。

「風・・・?」

「どうかしたんですか?」

美空は、緒川の様子に疑問符を浮かべ。

「いえ、なんでもありません・・・きっと」

緒川は、そう答えつつも、過った不安を拭えずにいた。

 

 

 

 

マリアの放った短剣と、未来の放つ光線が一重にアルカノイズを殲滅していく。

そこへ襲い掛かる流水。それは冷水。他者を一気に凍てつかせるその激流の一撃をマリアは展開した三本の刃を持ってバリアを展開し、防ぐ。

そして、ガリィの側面から、未来が光線を三発発射、ガリィに叩きつけようとする。

「そのギアの特性は知ってんのよ!」

しかし、放たれた未来の攻撃は、ガリィが展開した氷の盾に()()()()()()()

「ッ!?」

神獣鏡は鏡の聖遺物。そこから放たれる攻撃は、当たれば確かに敵を消失させる一撃を叩き込むことが可能だ。しかし、その光線は『鏡、あるいは光を反射する物で跳ね返る』という特性がある。

ガリィが作った氷の盾は、一見して鏡のようなもの。

即ち、未来の攻撃を反射出来るのだ。

「攻撃が通らない・・・!」

「ふっ!」

すかさず、ガリィが二射目を放つ。

それを、すかさずマリアが防ぎにかかる。しかし、

 

『Danger!』『Danger!』『Danger!』

 

AR機能による自身のシンフォギアからもたらされる危険信号。

しかし、それに対応できず、マリアはバリアでその流水を防ぐも、あっという間に破られその冷水を浴びる。

「マリアさん!く!」

それを見た未来は鉄扇を構えてガリィに肉薄する。

だが、ガリィに肉薄する途中で、足元に魔方陣らしきものが出現する。

「なっ!?」

反応する間もなく、その魔方陣から現れた氷に、未来は天高く弾き飛ばされる。

「がっは・・・!?」

その光景は、エルフナインにも見えていた。

「未来さん!」

一方のマリアも、流水に晒され続け、その体をどんどん凍らされていく。

「強く・・・強くならねば・・・!!」

抗おうと思っても、氷はどんどん、自らを多い尽くしていき、やがて全身を氷漬けにされてしまう。

「マリアさん!」

エルフナインの悲鳴が上がる。

 

 

「死ねェ!」

ロジャーの拳がローグの胸に叩きつけられる。しかしローグはびくともせず、逆にローグの拳がロジャーを殴り飛ばす。

「ぐぅあ!?」

攻撃が通用しないのはなぜか。

「クソがァ!」

ロジャーが蛇を出してローグの体へと纏わせ、束縛し、その首を一気に締めあげる。

「どんだけ衝撃に強くても、締められれば死ぬだろォ・・・」

「ぬぐ・・・」

確かに、ローグの防御力の秘密は、防弾チョッキの技術にも使われている『水に溶かした片栗粉』と同じ原理。

普段は液状のヴァリアブルゼリーが装甲内に満たされており、それらが強い衝撃を受ける事によって徹甲弾をも防ぐほど固く硬化する特性をもっている。

だから、強い衝撃にはこれでもかと強い。だが、今のようにゆっくりと締め上げる攻撃に対してはあまりにもその装甲は役には立たないのだ。

 

―――ローグの防御力ばかりに目がいけばの話だが。

 

「ぬ・・・ぐ・・・!」

どうにかアクティベイトレンチを叩き下ろすローグ。

 

クラックアップフィニッシュ…ッ!!!』

 

次の瞬間、ローグから発せられた衝撃波で蛇たちが一斉に千切れ吹き飛ばされる。

「なん・・・!?」

「オォォオオ!!」

そして、ローグの全身を駆け巡るエネルギーを右拳に収束させ、一気にロジャーに叩きつける。

「くぅっ!」

すかさず蛇を収束させある意味での肉壁を作り、ローグの一撃を受ける。

叩きつけられた衝撃は肉壁に浸透し、弾け飛ぶ。

そしてすかさず、もう一方の拳でロジャーの腹を殴る。

「ぐぼあ!?」

腹を殴られ、その体をくの字に曲げるロジャー。

だが、その拳は必殺ではない。

『クラックアップフィニッシュ』のエネルギーは全て、先ほどの右拳の時に使ってしまった。

「く、そ、がぁぁあ!!」

ロジャーが蛇を巻き付けた腕でローグを振り払う。

それをローグは下がって躱し、距離をとる。

その最中、仮面で顔が隠れている事をいいことに、視線をマリアたちの方へ向ける。

そこには、氷漬けにされたマリアと、天高く跳ね上げられている未来の姿があった。

「ッ!?」

それを見て、ローグは仮面の奥で目を見開いた。

 

 

「強く・・・!」

なおも強さを求め、マリアは、自身を覆いつくす氷を砕き破る。

「く・・・ぁ・・・」

氷漬けにされた影響か、四肢が麻痺し、感覚がなくなってきており、また冷水で体力を削られた為か、マリアは、膝をつく。

「あぐぅ!?」

そのすぐあとに、未来が落下する。

「くぅ・・・」

弾き飛ばされ、落下した影響か、そのダメージで動けない未来。

「てんで弱すぎる」

そんな二人を、ガリィは侮蔑をもってそう言う。

そんな中で、二人は、自身の胸にあるマイクユニットに手を伸ばす。

イグナイトモジュールを使う気だ。

「その力、弱いアンタらに使えるの?」

「「ッ!?」」

しかし、ガリィからの言葉を受けて、マリアと未来は思わず目を見開く。

「私はまだ、弱いまま・・・」

「どうしたら・・・強くなれるの・・・?」

そう、呟いた時だった。

 

 

『逆に聞くが、お前にとって『弱さ』とはなんだ?』

 

 

幻徳の先ほどの言葉が、二人の脳裏に過った。

「私にとっての・・・」

「・・・弱さ・・・」

そう呟いた直後だった。

「ぐぉぁぁああ!?」

男の悲鳴が聞こえ、顔を挙げた先には、高く飛び上がってガリィに向かって落ちるローグの姿があった。

その手には、ロジャーの姿も。

「なっ!?」

「ふんっ!」

ローグが、ロジャーをガリィに向かって投げ飛ばす。

「チィッ!」

思いのほか早い投擲に、ガリィは迎撃ではなく回避を選択。

そのガリィが回避した先に、ローグのネビュラスチームガンの銃弾が襲い掛かる。

「こいつ!」

着地してもなおガリィを銃撃し続けるローグ。しかしその最中で地面に倒れるロジャーを掴み上げると、そのままネビュラスチームガンを持った右手で殴る。

「ぐべら!?」

そのまま地面を転がるロジャー。

「・・・俺にとっての『弱さ』とは―――『過去』だ」

ローグが、マリアたちに向かって言う。

「過去の過ち、それこそが俺の『弱さ』であり、『罪』だ」

「なにをごちゃごちゃと!」

ガリィが襲い掛かる。

振るわれる氷の刃を、ローグは腕で受け止める。

「ッ!?」

その刃を弾くと同時に、ローグの拳がガリィの顔面を狙う。

「だが、それを理由に過去から逃げてはいけない!」

ロジャーがローグを無視して未来の元へ向かおうとするのを、その肩を掴んで阻止し、その顔面に拳を叩きつける。

「過去を悔やみ、向き合い、そして乗り越える。それこそが『弱さ』であり『強さ』!」

ガリィがローグの足元を凍らせる。そしてすかさずつららの弾丸がローグを襲う。

身動きの取れないローグにつららが炸裂する。

「ぬぐっ!?」

衝撃ではなく、熱による痛み。冷却によって錯覚する焼けるような痛みにローグは悶える。

しかし、耐え切る。

「時代は変わる!」

装甲に張り付いた氷を無理矢理引っぺがしながら、ローグはネビュラスチームガンの引き金を引く。

それが、未来の元へ向かおうとしていた蛇たちを的確に撃ち抜く。

「チィッ!」

中々未来を攻撃出来ない事に、ロジャーの苛立ちを覚える。

「だが、変わることを恐れていては前には進めない!」

銃口を自分の足元へ向け、引き金を引き、氷を砕いて自由を確保する。

()()()()()()()()()()、それこそが、『強さ』と、俺は思う!」

クロコダイルクラックボトルを、ネビュラスチームガンに装填する。

 

クロコダァイル…!』

 

装填されたクラックボトルのエネルギーを充填。そのまま一気にガリィとロジャーに向かって放つ。

「喰らえ・・・!」

 

『ファンキーブレイクッ!!クロコダァイル…!』

 

引き金を引き、破壊の一撃が二人を襲う。

「ぐぅっ!?」

「ぬぐあ!?」

凄まじい衝撃が迸る。

「自分の大義を背負い続けることこそが、俺の強さ・・・」

衝撃によって吹き飛んだ砂浜に立つ、ローグが叫ぶ。

「国を創るのは、力を持つものじゃない――力を次に託せる国を創る―――それこそが、俺の大義だ!」

その叫びは、まさしく二人の少女に届いた。

「自分らしく変わること・・・」

「自分の大義を背負い続けること・・・」

「マリアさん!未来さん!」

さらに、エルフナインからも声があがる。

「大事なのは、自分らしくあることです!」

その言葉で、二人は悟る。そして思い出す。

 

それは、マリアがエルフナインに向かっていった言葉。

 

『弱く打っても大丈夫、大事なのは、自分らしく打つことだから』

 

他の誰でもない、マリア自身が言った言葉を。

 

『どんなに悩んで考えて、出した答えで一歩前進したとしても、響は響のままでいてね』

 

一年前、自分が親友に言った言葉を。

 

「弱い・・・そうだ」

 

二人が、立ち上がる。

 

「強くなれない私に、エルフナインが気付かせてくれた」

 

「弱くたっていい。私は私の、ありのままを受け入れる」

 

「弱くても、自分らしくあること。それが強さ」

 

どんな事が起きようとも、自分を捻じ曲げない。

 

「エルフナインは戦えない身でありながら、危険を顧みず、勇気をもって行動を起こし、私たちに希望を届けてくれた」

 

それが、どれほど勇気のいる事か。

 

「それはきっと、簡単な事じゃない。きっと、何よりも勇気のいる事だったんだと思う」

 

弱くてもいい。弱い自分を否定しなくていい。

その弱さを見つめ、受け入れ、前に進むこと。

 

それこそが―――『強さ』!

 

「小日向未来!」

マリアが、未来の名を呼ぶ。

「私と貴方の求める強さは、ほんの少しだけ違うかもしれない。だけど、それでも―――私と一緒に歌ってくれないか?」

マリアからの提案。それに未来は、大いに頷く。

「はい。まだまだ未熟者ですが、私で力になれるというのなら!」

その答えにマリアは微笑み、そして、敵を見据える。

「エルフナイン!そこで聞いていてほしい!」

「貴方の勇気に応える歌だよ!」

そして二人は―――一度敗北した力に、もう一度挑む。

 

「「『イグナイトモジュール』、抜剣!!」」

 

変形したユニットが、それぞれの胸を穿ち、その心の奥底に存在する破壊衝動を呼び覚ます。

「ぐ、ぅあぁああ・・・!!」

「あ、くぁぁああ・・・!!」

『黒』が、彼女たちを蝕んでいく。

しかし、それに彼女たちは、全力で抗う。

 

(狼狽える度、『偽り』に縋ってきた昨日までの私―――)

 

(いつも後ろで、響たちが傷ついていく様を見ている事しか出来なかった今までの私―――)

 

そう、自分たちは弱かった。

 

偽りに縋ることしかできなかったことが弱さであるならば、

 

後ろで見ることしか出来なかったことが弱さであるならば、

 

 

「そうだ―――」

 

「らしくあることが強さであるなら―――!!!」

 

 

心を蝕む破壊衝動。呪い―――されど、それを受け入れてこそ―――

 

 

「マリアさん!未来さん!」

 

「見せてみろ、お前たちの強さをッ!!」

 

エルフナインとローグの叫びが耳に届く。

その声をトリガーとして、二人は―――呪いを捻じ伏せる。

 

「「私は弱いまま、この呪いに反逆してみせるッ!!!」」

 

そして、叫ぶ。

 

 

「「変身ッ!!」」

 

 

 

漆黒が全身を覆いつくし、二人のギアに決定的な変化をもたらす。

全身を覆った漆黒は、形を成し、鎧を形作り、力として顕現する。

それこそが、マリア・カデンツァヴナ・イヴと小日向未来のイグナイトモジュール。

 

漆黒(のろい)を支配した狼と龍の凱旋である。

 

「今ここに問いかけよう 『強さ』とは何かと」

 

二人の合唱曲(ユニゾンソング)が戦場に鳴り響く。

「弱さが強さとか頓智を聞かせ過ぎだって!」

ガリィがすかさずアルカノイズをばらまく。

「ぶっ殺してやる!」

さらにロジャーからも大小さまざまな蛇がばら撒かれる。

 

「それは己の弱さをありのまま受け入れること」

 

左腕のアームドギアに短剣を装着、そこから発せられる光弾と展開したミラーデバイスから放たれる光線が、瞬く間にアルカノイズと蛇を蹂躙していく。

 

「無念 後悔 絶望 羨望 全ては私のDisgrace」

 

ガリィがローグを突破し、それに対してマリアが突貫、未来が援護に入る。

放たれる閃光それがガリィに殺到するも、ガリィは鏡の特性をもった氷のバリアを展開する。

だがしかし、その氷のバリアはいとも容易く破られる。

「ッ!?」

 

実際の所、イグナイトモジュールの搭載に最も難儀したのは神獣鏡だ。

理由は、神獣鏡の持つ凶祓いとモジュールの核に使われているダインスレイフの呪いが反発し合って、イグナイトをまともに発動できない事にあった。

それを戦兎は、あえて神獣鏡の特性である特殊性をモジュール発動と共に打ち消し、呪いの力によって爆発的なエネルギーを得る事を選択。

いわば、凶祓い、聖遺物殺し(レリックキラー)を失うというデメリットをもって、爆発的な攻撃力を付与させるという結論に至った訳なのだ。

 

「何もできない自分自身 だけどそれも弱さ(わたし)だから」

 

即ち、今の未来の神獣鏡の一撃は、鏡に跳ね返らない、見た目通りの光線として放たれているのだ。

そしてその光線は、まるで蛇のようにうねり、ガリィを襲う。

 

それと同時に、マリアの短剣の一撃が突き刺さる。

 

「「私は弱い事を受け入れよう」」

 

胴を断ち切られたガリィ。しかし、すぐさまその体は水泡へと変わり、その水泡一つ一つにガリィの姿があった。

 

 

一方、ローグとロジャーの戦いはというと。

「がぁぁああ!!」

ロジャーの拳がローグに叩きつけられる。だが、やはり効かない。

 

「偽りに縋ってきた」

 

そのままローグの拳がロジャーのどてっぱらに叩きつけられ、ロジャーは前のめりになる。

すかさずローグがロジャーの胸倉をつかんで上体を起こし、そのまま顔面に一撃を叩き込む。

 

「見る事しか出来なかった」

 

そのまま吹っ飛ばされたロジャー。

しかしその先には未来がいた。

「ッ!しねぇぇえ!!」

すかさずロジャーは未来に襲い掛かる。だが、

「リンクスアームズ」

次の瞬間、ロジャーの胴体に、凄まじい衝撃が迸る。

「ぐげぁぁああ!?」

自身の右腕ごと蹴り飛ばされ、砂浜を転がるロジャー。

そして、ロジャーが見上げた先にいるのは、紫電を迸らせるレッグギアを構える、未来の姿があった。

 

『Links Arms〔Smash Greaves〕』

 

本来ならホバー移動に使われる未来のレッグギア。しかし、それを攻撃に転用することで、未来の脚力を十二分に発揮することが可能。

それが未来の神獣鏡のリンクスアームズ『スマッシュグリーヴ』。

 

「だけど」「それも」「「昨日までの話だ」」

 

そのまま未来は、ロジャーを追撃。

イグナイト発動によって四本に増え、その先が口のように変化した腕の帯、未来本来のアームドギアである鉄扇、そして、彼女のリンクスアームズ『スマッシュグリーヴ』による、怒涛の連撃。

「ぐっ、くぅ・・・クソガキっ・・・!?」

 

「守りたいものがあるから」

 

未来がロジャーを追撃、しかし、それでも蛇は吐き出され続けている。

周囲のものを無差別に襲う様に命令された蛇たちは、一斉にマリアの元へ襲い掛かる。

だが、

「リンクスアームズ!」

 

『Links Arms〔Legion Sword〕』

 

マリアの周囲に計七本もの短剣が、マリアのギアから出てくる。

それら一つ一つに、狼の装飾が施され、それら一つ一つが様々な表情をしていた。

その七本に浮遊する剣が、襲い掛かる蛇たちを一瞬にして蹂躙、駆逐する。

それがマリアのリンクアームズ『レギオンソード』

 

「貫きたい想いがあるから」

 

七本の自立型攻撃ユニットによる、オールレンジ攻撃。

 

「だから」「行くよ」「「私の大義の為に」」

 

そのままレギオンソードたちが、空中で飛びまわるガリィの姿を映す水泡を追撃する。

しかし、全て外れ―――と、思っていた矢先にローグの背後にガリィが出現する。

「私が一番乗りなんだから!」

すかさずローグが振り返ってネビュラスチームガンの引き金を引く。

 

「「今こそ戦うんだ」」

 

その銃弾を、ガリィは躱す。そのままローグの懐に飛び込んで氷の刃を叩き込もうとするがそれをローグは手首をつかんで逸らす。そしてガリィの額に銃口を突き付けるも、片手で逸らされ外し、途端に二人は距離をとる。

 

「辛くても」「悲しくても」「「いいさ」」

 

だが、そこでローグはガリィにいきなり背をむけ、走り出す。

その行為にガリィは目を見開くが、そのローグの死角から上に飛び出してきたマリアを見てさらに驚愕する。

 

「誰にも負けない歌が―――」

 

マリアの短剣の一撃がガリィの張った障壁に阻まれる。

 

「その胸に―――」

 

ロジャーに対して足払いをかけ、転倒させる未来。

その倒れていくロジャーに向かって滑りこむように現れたローグがロジャーの顔面をぶん殴り体を地面から離す。

 

「「―――あるのなら!!」」

 

そのまま未来はマリアとガリィの元へ一気に突っ走る。

 

「窮命」「絶望」「挫折」「終焉」

 

一撃を阻んだことに、ガリィは笑みを浮かべるが、マリアの握る短剣が白銀に輝いたかと思えば、たちまちその障壁は砕かれる。

「ッ!?」

 

「「―――全て乗り越えられるから!!」」

 

そして、マリアの左のアッパーカットが炸裂し、上空へ打ち出される。

 

「痛くても」「泣きそうでも」

 

ローグが宙に浮いたロジャーを殴り飛ばす。

そして、倒れ伏すロジャーに向かって、ローグは―――死刑宣告をする。

「大義の為の、犠牲となれ…!!」

 

「「この胸の想い―――」」

 

打ち上げられたガリィに向かって、マリアと未来は飛び上がる。

マリアは、左腕のアームドギアの後ろに短剣を装着、たちまちその刃が大剣状へと変形させる。

 

「「決して―――」」

 

未来は、右足の『スマッシュグリーヴ』を変形、まるで質量を圧縮させるかのように縮小させた。

 

「「手放したりしない―――!!」」

 

ローグが、アクティベイトレンチを叩き下ろす。

 

クラックアップフィニッシュ…ッ!!!』

 

ローグの両足に、エネルギーが充填される。

 

マリアが腰のブースターを点火、さらには左腕のアーマーからもブースト、突撃しながら激しく回転する。

 

未来が右足のバーニアを噴出させ、マリア同様に、高速回転しながらガリィに向かって突撃する。

 

そしてローグが、エネルギーを充填させた両足で飛び上がり、立ち上がったロジャーに向かってその両足を挟み込む。

 

叩きつけられる、交錯する一撃。

 

「「私は私を否定しない―――ッ!!!」」

 

錯綜・GRAND†CROSS

 

交錯するマリアの剣と未来の蹴りが、ガリィを破壊する。

「一番乗りなんだからぁぁぁああ!!!」

その言葉を最後に、ガリィは爆発と共に消え去る。

そして、ローグの方でも―――

「ぐあぁぁあああ!?」

挟み蹴りを喰らい、さらには鰐のデスロールの如き一回転が加わり、ロジャーは、石垣の壁に叩きつけられる。

凄まじい爆発と共に、ロジャーは、倒れ伏す。

「ぐ・・・か・・・て・・・らー・・・」

倒れ伏したロジャーに、ローグが歩み寄る。

「手加減した。お前には聞き出したい事があるからな」

ロジャーの目の前に立ち、ローグはロジャーに向かってそう告げる。

「ぐ・・・く・・・あいつ・・・の・・仇が・・・討てないのなら・・・」

「ん?」

「この命・・・捨ててやるぅぅうう!!」

次の瞬間、ロジャーの体の中で何かが蠢いたかと思いきや、ロジャーの体を突き破って、一匹の血塗れの蛇が現れる。

「ッ!?」

それにローグは息を飲む。

「クハ・・・ハ・・・」

その様子に、ロジャーは満足そうな笑みを浮かべて、そのまま絶命した。ロジャーの体を突き破った蛇は、そこで力尽きたのか、すぐさま倒れ、そのまま動かなくなる。

「・・・」

その様子に、ローグは何も言わず、ロジャーの死体に背をむけて、マリアたちの元へ向かう。

そこへ、

「未来ぅー!」

「マリア!幻さん!無事か!?」

一歩遅く、響たちがやってくる。

 

 

「オートスコアラーを倒したのか?」

「どうにかこうにかね・・・」

疲れ切った様子で、マリアはそう答える。

「未来?大丈夫?怪我してない?」

「もう!いつもそれで私がどれほど心配してるのか分かってるの!?」

「う、ごめん・・・」

未来を心配するも思わぬ反撃に押し黙る響。

「それで幻さん、仕留めたっていうデイブレイク社の奴は・・・」

「自殺した」

幻徳は淡々と答える。

「女性は見ない方がいい。見ていて気分のいいものじゃないからな」

その死の瞬間を見た幻徳が、そう答える。

「しかし、よくやったよ。昼間は暴走したくせに、その日の内にイグナイトを二人とも使えるようになるんだからよ」

「ははは・・・昼間は申し訳なかったわね・・・」

「でも、これがマリアさんと未来さんの強さ・・・」

「弱さ、かもしれない」

「え?」

未来の返しに、エルフナインは首を傾げる。

「だけどそれは、私たちが自分らしくあるための力だ。教えてくれてありがとう」

「・・・はい」

マリアの言葉に、エルフナインは満面の笑みをもって答える。

「貴方にも、私に・・・私たちに弱さを教えてくれてありがとうございます」

「かつて同じ悪を貫こうとした身だ。当然の事だ」

マリアの感謝の言葉を、幻徳はそう受け取った―――

 

 

 

 

 

「―――ふむ、ロジャーは死んだか」

リカルドが、ジーナからそのような報告を受ける。

「はい。仮面ライダーローグによって、敗北したと」

「ふむ。それで、オートスコアラーの方は?」

()()、シンフォギア装者による破壊を確認、順調に計画は進んでおります」

「なるほどなるほど・・・」

傷のある体で湯舟に浸かるリカルドは、ジーナの報告をそう受ける。

「また一歩、清き世界へ近づいたというわけか」

「ええ、その通りでございます」

「では、そのまま監視を続け、その上で人員を送り給え。何があっても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そう、リカルドはジーナにそう告げた―――。

 

 

 

 

 

すっかり日も沈み、一同は持ってきた花火を使って遊んでいた。

「ていうか、誰だよ花火もってきたの」

「俺だ」

「幻さんかよ!?」

「あ、私も持ってきた」

「みーたんの花火はどれだ!?」

「次はどーんと行くぞー!」

「打ち上げってどれだっけ?」

「ここにある」

「お、じゃあ早速・・・意外に本格的な奴だと!?」

火をつけた花火の先からあふれる様々な光が、夜闇に輝き、鮮やかに色踊る。

「マリアや未来さんが元気になって、本当によかった」

「クァ・・・」

「お陰で気持ちよく東京に帰れそうデスよ」

「ガブッ」

「デスゥ!?」

線香花火を楽しむ切歌の線香花火を、どういうわけかマシャが火のついている部分を食べてしまう。

「うむ、充実した特訓であったな」

「いやどこがですが!?」

「それ、本気で言ってるんすか?」

翼のどこかズレた様子に、慧介とクリスがこぞってツッコミを入れる。

「充実も充実ぅ!お陰でお腹がすいてきたと思いません!?」

「いつもお腹空いてるんですね・・・」

「キュイーン・・・」

何故か目を輝かせている響に、エルフナインは苦笑し、イクスはあきれたように鳴く。

「だとすれば、やることは一つ!」

「じゃんけんか」

というわけで、

『コンビニ買い出しじゃんけんポン!』

 

結果、響と戦兎と未来の負け。

 

「パーとは実にお前らしいな」

「拳の可能性を疑ったばっかりに・・・」

「チョキで負けたからパーならいけると思ったんだが・・・」

「ものの見事に負けたな。ま、お疲れさん」

「あらら、私も負けちゃった・・・」

「疲れてるとはいえ勝負は勝負。行ってこーい」

 

 

 

というわけで、昼間にいった時と同じコンビニで、買い物をしようとする戦兎、未来、響の三人。

だがしかし、響は自動販売機に釘付けになっていた。

「おい響、何やってんだ?」

「それがすごいんですよ!東京じゃお目のかかれない『キノコのジュース』がある!え?こっちはネギ塩納豆味!?」

もう完全に虜である。

「何やってんだが・・・」

「あれ?確か君は・・・」

「ん?」

ふと、扉の方から声が聞こえ、そちらを見てみると、そこには配達員の服を着た男が立っていた。

「未来ちゃん・・・じゃなかったっけ?」

「あ、お前は昼間の!?」

「ん?君は昼間の!?」

それは、昼間、真っ先に逃げ出したあの男だった。

「お前、どこに行ったかと思ったらこんな所にいやがったのか!?」

「し、仕方がないだろう。誰だって身の危険を感じたら逃げるだろう・・・」

「あれ?戦兎先生、どうかしたんですか――――」

そこへ響が駆け寄ってくる。しかし、その言葉が、途中で途切れる。

それは、戦兎と未来の前に立つ、男を見たからだ。

「ひび、き・・・?」

そしてそれはまた、男の方も同じだった。

「え?なんで響の名前を知って・・・」

「・・・おとう・・さん・・・?」

「・・・・は?」

響が茫然と呟いた言葉、それに戦兎は固まる。

 

おとうさん――――響は、そう言ったのか。

 

それを聞く前に、響は脇目も振らず走り出す。

「あ、響!」

それは、普段の響からは考えられないような程、必死に、見たくもない現実から逃げ出すかのような、そんな走りだった。

そして、戦兎はそんな響の背中を見た後、すぐさま目の前に立つ男の方を見る。

(この男が・・・響の父親だと・・・!?)

戦兎は、その事実に、思わず自分の目を疑った。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

共同溝にてオートスコアラーを見つけたS.O.N.G.はすぐさま迎撃に向かう。

「やっぱ様子がおかしいデス!」

しかしそこで響が謎の暴走を起こす。

「お父さんのくせにぃぃぃいい――――」

それによって追い詰められる一同。

「歌わないと―――死んじゃうゾォォォオオ!!」

さらに現れる、デイブレイクのさらなる刺客。

「ここで仕留める」

その登場によって、起きた事態とは―――

次回『父娘と強さと翳り』

「けい・・・くん・・・?」





へ・ぇんしん、こうぅざぁ~!!



予告のし忘れで色々と変な事になっちまっただ、今週はこのアタシ、雪音クリスが変身講座の担当だ。
ったく、何がどーしてこんなことしなきゃならねぇんだか・・・まあいい。始めんぞ。
前回までで大体分かってると思うが、アタシはリンク・アニマル『イチイバルドラゴン』変身を行う。
手順は分かってると思うが、まずはリンク・アニマル共通のスタンバイ・スターターを押す。

『STANDBY!』

言っておくが、バルは龍我やあの子のもってるクローズドラゴンと形状は違って、どういうわけか四角形の面の狭い方じゃなく、広い方に頭と尻尾がある謎仕様だ。何を考えてこんな形にしたんだあの先公は・・・
とまあ、これでアニマルブレイズが出てくるって寸法なんだけど、アタシのドラゴンは、蛇みたいな奴じゃなく、四足歩行の首長流みたいな奴だ。えっとあれだ。クシャルダオラあたりを想像してくれると助かる。
そんでここで聖詠。
アタシのポーズは、まあそんな難しいことはしない。ただ祈るだけだ。
こう、顔の前で手を組んで、そして聖詠の終わりに天に突き出す。こんな感じだな。
それじゃ、変身行ってみようか!

「―――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)―――」

アタシの変身バンクはこんな感じだ。


クリスの背後からクシャルダオラ似の赤い炎の竜が現れ、空高く飛び出す→両手を前に差し出し、そして指先から炎と共にギアインナーを纏う→首後ろから炎が左腕に伸びて、竜の爪を模しながらガントレットに変形→続いて右腕も同様にガントレットを装着→腰のギアパーツが小型の竜の形となり、それが形づいて変形する→腰のミサイルユニットが竜の翼が覆うように炎を弾かせながら出現→足のパーツは炎のリボンが纏われるような感じであり、完全に纏われると一瞬、竜の顔の形になってレッグパーツに変形する→そして最後にカチューシャ型ヘッドギアはボディアーマーから順に炎によって形成、最後に炎の口を開いた竜のような形をとってギアへと変形して、変身完了。

と言った感じだ。
ま、アタシにかかればこんなもんよ。
ここでちと豆知識だが、リンク・アニマルのAI機能は装者やライダーの身体状況、敵の次の攻撃の予測や演算やらと言った具合だが、自分の視界にその映像を投影してるのは、アタシらのシンフォギアのヘッドギアから直接脳内に情報を送っているからなんだと。
そのお陰で、本部からの情報もダイレクトに伝わるって寸法だ。
人間としてはどうかと思うが、あんな科学者、アタシはフィーネ以外に見たことがねえよ。本当にすげえ。
それに、アイツのお陰でアタシは龍我と・・・ん?惚気んのは後にしろ?の、惚気てねえよ!
ああ、もう!とにかく、これでアタシの変身講座は終わりだ!
そんじゃあ次回を楽しみにしとけよ!



リンクス・アームズ紹介

アガートラームウルフ『レギオンソード』

それぞれが自立したAIを持つ七本の剣。
短剣を無数に放つ技とは違い、命令一つで自由自在に動くことが可能。
ただし、七本の剣はそれぞれ性格があり、攻撃的なラースとグリードとグラトニー、あんまり乗り気じゃないスロウにエンヴィー、そして気分次第で態度を変えるラスト、プライドと言った具合に、命令を聞かなかったり従ったりと何かとクセの強い機能である。
ただし、それぞれの剣に様々な能力があるため、クセが強い分、汎用性にも優れている。
自在に操れるかどうかは装着者次第。



神獣鏡クローズドラゴン『スマッシュグリーヴ』

クローズのライダーキックを元にして作られた最初期のリンクス・アームズ。
近接戦に弱い部分を克服するために造られたものであり、元陸上部としての脚力を活かすために作成した武装。
武骨なレッグパーツを移動ではなく攻撃に転用し、足首あたりにエネルギーを集中させて炸裂させる『インパクトモード』とギアの隙間から青い炎を噴出させて敵を溶断する『ヒートモード』の二種類に分けられる。
さらにホバー機能をアフターバーナーとして使用することで、爆発的な火力による強力な蹴りを放つことが出来る。
リンクス・アームズの中では最も負荷がかかりにくい装備である。






シンフォギア一期のOPでシンフォギア・ビルドォ…


イントロにて、翼、奏と戦兎、未来と龍我、了子、クリス、響の順で登場→響の歌唱(Listen to my song)→直後に世界融合の様子→その時に光が迸って無数のボトルが落ちてく来て、最後のガングニールフェニックスソングボトルが輝いて、タイトルが表示される(ちなみにこの時のタイトルロゴは響の後ろにビルドがいるみたいな感じ)→ワンテンポ速い動きで未来(僕の声は聞こえていますか)路地裏で拳を握り締めてみせる龍我(Please tell me)続いて翼の場面(答えの無い虚像を目指し)ちなみにここは原作通り(Fly for away))→二課組登場(言葉じゃ足りないから)クリスの嘆き それに龍我が手を伸ばす(僕の全てを受け止めて)椅子にあるコートをとってそれを着る戦兎(制御できない)そしてカメラ目線でふっと笑う(したくないよ)ボルテックレバーを回し、(初めて知)変身して決めポーズのビルド(る感覚)→デュランダルだとかそういう感じのカット→ノイズに対するビルド無双(君に歌うよ)翼の歌(永遠の始まりを)サビに突入(だから笑って)響とクローズが拳で無双(誰よりも熱く)背中合わせに拳とビートクローザーで無双(誰よりも強く)パイルバンカーとミリオンスラッシュ炸裂(抱きしめるよ)翼がノイズを斬り捨てる(震える心)その横からビルドが飛び出し(揺さぶれ)ホークガトリングに変身、弾丸を薙ぎ払う(ばいい)巨大ノイズ大暴れ(何かが動き出す)翼と響が歌ってる傍で見()上げるビルドとクローズ()胸の傷を光らせる響(きっと生まれた日)回転して背後に戦兎がフェニッ(から出会え)クスフルボトルを見つめている(ること)また回転して今度は奏が現れ(ずっと)→ここで原作の構図。響と翼と龍我が並び立ち、(探し)奏の方には戦兎が背中合わせ(てた)になるようになっている(んだ)ビルドがボルテックレバーを回す(風の鳴く)しゃがんで飛び上がる(夜は思い出して)響のキック(共に)翼の大剣(奏でた)クローズのドラゴンキック(奇跡)最後のビルドのボルテック()フィニッシュカメラ一直線()最後はひびみくで締め(舞うよ)


といった具合ですかね。あくまでイメージです。ではまた次回にて。






あともう一つ・・・作詞はもう二度とやらねえ・・・


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父娘と強さと翳り

戦「てぇんさい物理学者の桐生戦兎とその他大勢は、突如として現れた錬金術師たちと激闘を繰り広げていたのであった!」
龍「おい!その他大勢ってなんだちゃんと紹介しろ!」
響「そうですよ!別段戦兎先生だけが主役な訳じゃないんですし!」
戦「うるっさいなちゃんと台本通りにやりなさいよ」
ク「鉛玉の大バーゲン喰らうか?」イチイバァァアル!!!
戦「サアミンナキョウモジユウニヤッテイコー」
マ「やれやれ。まあ、前回までは、襲撃してきたオートスコアラー・ガリィとデイブレイク社のロジャーの襲撃を受けつつも、私と未来のコンビネーションプレイと幻徳長官の助けによって見事に撃退出来たのでした」
響「いいなぁ、私も未来と歌って戦いたいなぁ」
未「機会があったらね」
シ「作者曰く『作詞したくねえ』と言伝を預かっているが・・・」
ク「そんなもん、二度目もあるに決まってんだろうが。ほら、次章の」
翼「ストップだ雪音!ここでネタバレはまさしくアウトだぞ!」
エボ「そうそう、そんな訳でシンフォギア・ビルドGX第十四話を見ろォ!!」
一同「エボルトォォォオオ!?」
切「今週の変身講座はアタシなのデース!」


平日放課後―――リディアンにて。

 

「ふあぁ・・・」

盛大なあくびをかましつつ、戦兎はリディアンの裏門にある人物を待っていた。

その人物とは、

「やっほー戦兎君」

「お、紗羽さん」

滝川紗羽である。

「ごめん紗羽さん、仕事で忙しいのに」

「いいのよ。旧世界からのよしみでしょ?というわけで、依頼の人物、調べてきたわよ」

そう言って、紗羽はA4サイズの封筒を取り出し、それを戦兎に渡す。

戦兎はその封を開け、中の資料に目を通す。

立花(たちばな)(あきら)。ある商社に務めるごく普通のサラリーマンで、責任感が強く、ポジティブに問題を解決して、子煩悩でありながらも優しく家庭を支える良き父親だった・・・でも、響ちゃんがツヴァイウィングのライブに行ってから、その人生は狂わされることになる」

紗羽は、旧世界では難波重工のスパイ『難波チルドレン』の一人。その情報収集能力は凄まじく、どんな相手でも情報を聞き出すほどの話術と交渉術をもって情報をかき集める事ができる。

流石にこの事はS.O.N.Gの力を借りる訳にはいかず、個人的に紗羽に依頼、響の父親『立花洸』のことについて情報を集めてもらっていたのだ。

「その結果が今の体たらくってことか・・・」

あの様は酷い。

危険だからといって避難誘導もせずに青少年たちを置いて逃げたりするなど、かつての面影はまさしく完全になくなっているといっても良かった。

「逃げだすほどのバッシングか・・・」

「当時は本当に酷かったそうよ。仕事は取り上げられて、家の窓に石が投げ込まれたり、誹謗中傷の張り紙をたくさん張られたり、塀には落書き。完全に収まった今ですら、その時の跡が残ってるわ。流石にご家族に話を聞くのは気が引けたわよ」

「すまない・・・だけど、それでも家族を守るのが父親ってものなんじゃないのか・・・」

心なしか、戦兎の資料を持つ手に力が入り、資料の紙にしわが入る。

「・・・ま、それはともかく、私はそろそろ仕事に戻るわね。万丈やあの子たちによろしく言っておいて」

「ああ、じゃあまた後で」

「うん。それじゃ」

それを最後に、紗羽は車に乗って行ってしまう。

「・・・・父親、か」

その去り際を見届けつつ、戦兎は、ふとどこで働いてるのか分からない、父親の事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

どこかのレストランにて、シンはエリザと食事をしていた。

「・・・今回は一体なんの用だ?」

「別に、今回は勧誘じゃなくてただ単純に貴方と食事がしたかっただけよ」

エリザは、ステーキを食べながらそう微笑んで見せる。

その様子に、シンはジト目でエリザを見つつ、コーヒーを一口飲む。

「そういえば、『血』の方は大丈夫か?」

「ん?ああ、大丈夫よ。これのお陰で」

シンの問いかけに、エリザは自分の右手に装着されている指ぬきの真っ赤な手袋に触れる。

それは、一見すれば手甲、あるいはパンチンググローブとも呼べる形をしており、さらに理由は不明だが手榴弾のピンのような部品もついている。

「ファウストローブは知ってるでしょ?」

「ん?ああ。無論だ」

「これもね、ファウストローブなの」

「何・・・!?」

シンは思わず声を荒げそうになるが、どうにか抑え、平静を装う。

「カーミラって知ってる?」

「カーミラ・・・確か、吸血鬼の代名詞とされる『ドラキュラ』の祖になったといわれる女吸血鬼の事か?」

「そ、アイルランドの吸血鬼伝説・・・それを元に作られた架空小説・・・だけど、それが架空のものではなく、本当にあったことだとしたら?」

エリザは指を一本立てて話し出す。

「カーミラの死体、というものがアイルランドに存在していたのよ」

「何?」

「とは言っても、右腕だけだったけどね。この手甲は、そのカーミラの右腕を素材として作られたもの。これに血を流し込めば、たちまち力を発揮する。それが私の『赤腕・カーミラ』」

血を糧として起動する聖遺物『カーミラ』

「よもや、そのようなものが存在していたとは・・・」

「驚いた?一定量の血を一度に与えなければ大丈夫だから、定期的に血をこれに吸わせることで、どうにか快適に過ごしているわ」

「そうか・・・」

それを聞き、シンはコーヒーを一杯飲む。

「・・・む」

しかし、そこでシンの横を誰かが走り去っていく。

(いまのは・・・立花響?)

しかし、その表情は、どこか泣いていた。

「何かあったのかしら?」

エリザがそう言い出し、シンは、エリザの見る先にいる男を見る。

どこか、情けなさそうな顔立ちの男だ。

「誰かしら?あの男」

「想像する所、立花響の父親とみて間違いないだろう」

「ふぅん・・・」

エリザは、冗談交じりにそう言う。

(あれが立花響の父親か・・・)

シンは、響の父親である立花洸の様子をじっと見ていた。

 

 

 

 

一方、公園にて。

「なあ慧介。オロ〇ミンCかドデ〇ミン、飲むならどっちが良い?」

「なんだよ藪から棒に・・・」

「いやここの自動販売機がさ・・・」

「僕は断然ミルクコーヒー」

「僕はアップルジュースかな?」

「俺は青汁」

「しぶっ!?ていうかどれも俺が選んだもんじゃねえ!?」

級友と共に帰路についていた慧介。

「んっ、んっ、ぷはぁ!あーうめぇ」

「青汁をうまいって行ける慧介君はすごいよ・・・」

青汁を飲んで満足そうな顔をする慧介から若干引く修。

「青汁の百グラムあたりのエネルギー量は三百七十五キロカロリー、炭水化物は七十でまたビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンKに加え、β-カロテンなど様々な・・・」

「分かったからもう黙ってろ!?ていうかなんでそんなに知ってんだよ!?」

俊太の説明に耐え切れずツッコミを入れる浩司。

「はは・・・」

その様子に慧介は苦笑し、そして俯いて思案顔になる。

(昨日、やっと戦闘の許可が下りた・・・だけど、俺はまだ・・・)

「慧介、どうした?」

ふと、浩司に声を掛けられ、我に返る慧介。

「え、あ、ごめん、ちょっと考え事していた」

「この間大怪我してからいっつもそれだよな。なんかあったのか?」

この三人には、先日のオートスコアラー発電所襲撃事件の際に出現したアルカノイズが街に出現、破壊した時の巻き添えを食って大怪我し、入院していたと言い訳してある。

だから、別段疑われている訳ではないのだが。

「いや、なんでもないよ」

今はそう誤魔化すことしかできなかった。

(こればっかりは俺自身が解決しなくちゃ意味がないんだよな・・・)

そう思いつつ、青汁を飲んだ時だった。

 

慧介の携帯端末が着信音を鳴らす。

 

「うお!?」

驚きつつも慧介は端末を耳に当てる。

「はい、慧介です」

『アルカノイズの反応を検知した。場所地下六十メートル。共同溝内であると思われる』

「共同溝?」

『ってなんデスか?』

別回線で繋いでいるだろう切歌の声が聞こえた。

『電線系を始めとる、エネルギー経路を埋設した地下坑だ』

「分かりました。そちらに向かえばいいんですね?」

『ああ、調君、切歌君の所からはすぐにエントランスが見える筈だ。慧介君の方は戦兎君が迎えに行っているから待つように』

『本部は現場に向かって航行中』

『先んじて立花と猿渡を向かわせている』

『緊急事態だが、飛び込むのは馬鹿どもと合流してからだぞ!』

マリア、翼、クリスの声が続けて聞こえた。

「了解」

それを最後に、慧介は通信を切る。

「ごめん、急用が出来た!」

「またかよ?なんか多くねえかお前?」

「それについては聞かないでくれると嬉しいかな!んじゃ、また明日!」

慧介は、友人たちに別れを告げ、すぐさま公園のすぐ外へ出る。

周囲を見渡していると、どこからともなくヘルメットが飛んでくる。

「うおっ!?」

「乗れ!」

見れば、マシンビルダーに乗った戦兎がそこにいた。

 

 

 

 

 

数分後―――共同溝エントランスにて。

切歌、調、一海、戦兎、慧介の五人が、走ってくる響に気付く。

「あ、ここデース!」

そう切歌が声を挙げるも、響はそれを無視して彼らの間を通っていく。

「響?」

「何かあったの?」

入り口前で止まる響の様子に、一同はこぞって首を傾げる。

「・・・なんでもない」

「いやそんな訳・・・」

「みんなには関係ない事だから!」

一海の言葉に、真っ向から声を荒げる響。

その様子に、彼らは思わず押し黙る。しかし、その中で調だけは言葉を紡ぐ。

「確かに、私たちでは力になれないかもしれない・・・だけど、それでも・・・」

そういわれ、響は罰が悪そうに俯く。

「ごめん・・・どうかしてた・・・」

「キュイーン・・・」

響はそう呟いて、坑道へ入っていく。そのあとを、ニクスがとぼとぼとついていく。

その後を、彼らは一度顔を見合わせた後、入っていく。

「なあ戦兎」

「ん?なんだよ?」

「響の奴、何かあったのか?」

「ああ、たぶん、父親の事で、だろうな」

「父親?」

一海は、響の背中を一瞥する。

「・・・そういうのはお前の得意分野だろ?」

「俺が得意なのは科学だよ。まあ、どうにかしなきゃいけないってのは確かだが」

戦兎はそう呟いて、あの頼りなさそうな男の顔を思い浮かべる。

「拳で解決できることって、実は、簡単な事ばかりなのかもしれない・・・だから、さっさと片付けちゃおう」

ふと、響がそう呟く。

「行こう、皆!」

明るく振舞う響に、一つの危機感を覚えて、戦兎はビルドドライバーにフルボトルを装填する。

 

ラビットタンク『ベストマッチ!』

 

タイガァージュエリィーッ!!』

 

ロボォットジュエリィーッ!!』

 

『STANDBY!』

 

それぞれのベルトに、変身に必要なアイテムを装填するライダー。

一方の装者たちは、スタンドアップスターターを押すことによって出現するアニマルブレイズを呼び出し、それを聖詠と共に身に纏う。

 

『Are You Ready?』

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)―――」

 

「―――Zeios igalima raizen tron(夜を引き裂く曙光のごとく)―――」

 

「―――Various shul shagana tron(純心は突き立つ牙となり)―――」

 

鋼のムーンサルトラビットタンク!イェーイ!』

 

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

 

タイガァー・イン・タァスクゥッ!!』

 

ロボット・イン・グリィスゥッ!!』

 

『ブルァァァァア!!!』

 

ビルド、タスク、グリスの変身、さらにガングニール、イガリマ、シュルシャガナの装着を完了した六人が、円柱状の螺旋階段を、階段を無視して一気に飛び降りる。

 

「一点突破の決意の右手―――」

 

降りて少し走った先で、アルカノイズが出現する。

「出やがった!」

「ンフフ、来たナ」

声がしたので見上げれば、そこには全オートスコアラー中最強のミカ・ジャウカーンの姿があった。

「だけど、今日はお前たちの相手をしている場合じゃ―――」

 

ミカの言葉が終わる前に、響の拳がミカを襲う。

 

「いきなりかよ!?」

その行為に、グリスは思わず声を挙げる。

そしてその驚きは、他の者たちも同じ。

「まだ全部言い終わってないんだゾ!」

すかさずミカがアルカノイズを新たにばら撒く。

しかし、響はそのアルカノイズたちを突撃気味に叩き伏せていく。

「うわぁぁああぁぁぁあぁあああ!!!」

絶叫、その双眸から、光る何かが零れ落ちる。

「泣いてる?」

「やっぱ様子がおかしいデス!」

「というか―――」

群がるアルカノイズを倒していく中で、ビルドは見る。

 

拳を振るう度に、ミカが避ける度に、響の拳が、共同溝の壁を次々に破壊していっているさまを。

 

「―――いくらなんでもめちゃくちゃし過ぎだ!」

そうビルドは声を挙げるが、響には届いていなかった。

そんな余裕がないのだ。

何故なら、先ほど、父親と会ってきたからだ。

父親が親友に言伝をして、そして親友の説得があったから応じた面会。

だが、目の前に座る父親には、あの時逃げ出した責任というものがないかのような態度をとっていた。

その上、なんとも軽い感じで『やり直したい』などと言うではないか。

(なんでそんな簡単にやり直したいなんて言えるんだ!)

八つ当たり気味にアルカノイズを殴り潰していく。否、本気でアルカノイズに八つ当たっている。

「壊したのはお父さんのくせに、壊したのはお父さんのくせに・・・ッ!!」

泣き叫ぶ響。

「突っかかりすぎだ!」

「ていうかこのままじゃここが壊れてしまいます!」

仲間の声にも耳を貸さず、響は暴れる。

アルカノイズを投げ飛ばし、壁に叩きつけ、そのアルカノイズたちに向かって、本来ぶつけるべき相手じゃない相手に、その怒りを叩きつける。

「お父さんのくせにぃぃぃいい――――」

だが、そこでふと思い返す。

(違う・・・)

 

―――壊してしまったのは、私も同じだ――――

 

突如として、振るった拳が止められる。

「え―――」

「何やってんだゴラ」

響の視界には、黒い半透明の仮面を被った男――――

 

スクラップフィニッシュッ!!!』

 

気付けば、グリスはアクティベイトレンチを叩き下ろしていて―――

 

気付いた時には必殺の回し蹴りが響に叩きつけられていた。

 

「ちったぁ頭を冷やせッ!!!」

「―――あぁぁぁぁああ!?」

予想外の一撃に、響は一瞬にして意識を刈り取られ、フェンスに叩きつけられる。

「意外にマジ!?」

「しょんぼりだぞ!」

「うるせえ!」

ミカがカーボンロッドを射出、それをグリスは受け止める。だが、

「ぐあぁぁあ!?」

予想以上の威力に吹っ飛ぶ。

「一海!」

「言わんこっちゃないデス!」

ビルドがグリスの元に、切歌が響の元へ向かう。

その間に、タスクと調はアルカノイズを切り払っていた。

「大丈夫デスか?」

切歌が響の安否を確認する。

「歌わないのカ?」

だが、そこへミカが左手を向ける。

「歌わないと―――死んじゃうゾォォォオオ!!」

次の瞬間、その左掌の、カーボンロッドを作り出す為の筈の穴から、まさかの火炎が吐き出され、それが切歌と響の所へ飛んでいく。

「ッ!?やばっ―――」

ビルドがそれに気付くも、一歩遅く、その火炎が切歌と響を飲み込む―――

思わず目を閉じた切歌。しかし、来るであろう痛みは来ず、恐る恐る目を開けた先にいたのは、鋸を展開して炎を防いでいる調の姿があった。

しかし、威力が高いのか、支えきれず、地面に手を付いてしまう。

その光景を、切歌は見ている事しか出来ず、ただ茫然とそれを見つめており、

「切・・・ちゃん・・・!」

調が、振り返りながら、切歌の安否を確認する。

「大丈夫・・・?」

その言葉に、切歌は―――

「んな・・・わけ・・・ないデス・・・!」

そう、答えた。

「え・・・!?」

その答えに、調は戸惑い、

「大丈夫な訳―――ないデス!」

その時、脳裏に過ったのは、自分の腕の中で、何か思いつめた表情をする、先輩の姿。

「―――ッ!?」

しかし、今はそんなことを考えている暇はない。

「こうなったらイグナイトで・・・」

そう言ってモジュールに手を出しかける切歌。

「だめ!」

しかし、調はそれを止める。

「無茶をするのは、私が足手纏いだから!?」

そんなやり取りを二人がしている間、ミカの方ではどこからともかくファラから通信がはいる。

『道草は良くないわ』

「正論かもだけど・・・」

ファラの言葉に、ミカは頷く。だが、

「鼻につくゾ!」

突如として火力が増し、圧力が倍増する。

(ダメ、防ぎきれな―――)

思わず吹き飛ばされそうになった瞬間、

 

チャァァジボトル!!』

 

そのような音が耳に聞こえた瞬間、調の前に誰かが立つ。

 

『潰れなぁぁい…!!』

 

そして次に放たれたのは大量の()()

「慧くん・・・!?」

「ぐ、ぅぅう・・・!!」

 

チャァァジクラッシュッ!!!』

 

タスクの右掌から、大量の海水が溢れ出し、それが炎の進行を阻んでいた。

「今、の・・・うちに・・・ぐっ!?」

火炎を防ぐタスクが、突如として鳩尾あたりを抑える。

(まだ、あの時のダメージが・・・!)

これでは、すぐに破られてしまう。

そう、痛みに耐えながら調の方を見るタスクだが、調はその場で立ち上がって、そのまま動こうとしていなかった。

「調・・・?」

その行為に、タスクは首を傾げ、

「余計なことを・・・!」

「は・・・?」

全く予想もしていなかった言葉に、思わず呆けてしまう。

「何を言って・・・」

「慧くんも、私のこと、足手まといだって思ってるんでしょ・・・!!」

「ええ・・・」

なんとも的外れなこと言い出す調に、タスクは呆れる他なかった。

一体どんな風に思えばこうなるのか。

そう考えていると、突如として彼らを襲っていた火炎が消失する。

そちらに視線を向ければ、ミカの左腕が、何か、機械のアームのようなもので掴まれ、持ち上げられていた。

鉛色の左、紅の右――――複眼は、不死鳥とロボットアームを象ったような形をしていた。

それは、ビルドのベストマッチフォームの一つ。

 

不死身の兵器フェニックスロボ!』

 

破壊と再生の能力を備えた『ビルド・フェニックスロボフォーム』である。

「その手を離すんだゾ!」

すかさずミカが左腕を掴むビルドに向かって右掌でカーボンロッドを叩きつける。

それをビルドはミカの左手を掴んでいた『デモリションワン』を離すとそのカーボンロッドを叩き砕いて防ぐ。

すかさず、その左手でミカを攻撃、ミカはそれを躱し、空ぶった一撃は地面を砕く。

だが、ビルドがすかさず右手をかざすと、砕かれた床が炎に包まれた後、何事もなかったかのように修復される。

「なっ!?」

破壊と再生、それがフェニックスロボの能力。

その能力を目の当たりにして驚くミカの隙をついて、グリスが飛び込む。

「喰らえやぁぁああ!!」

ツインブレイカーを構えて、ミカに一撃叩き込もうとするグリス。

だが―――

「ぐあっ!?」

 

突然、グリスが悲鳴を上げて地面に落ちる。

 

「なんだ!?」

まるで何かから攻撃を受けたかのように、グリスは地面の落ちる。

それが一体何なのかを理解する前に、ビルドも突如として肩、右胸、左腕、左肘に激痛を感じて膝をつく。

「ぐぅ・・・!?」

一体、何が起きたというのか。

弾丸の類は見えなかった。矢、コイン、石、遠距離武器に類する何もかもが見えなかった。それ以前に、何かを射出する音すら聞こえなかった。

ならば、この痛みは一体どこから―――

足音が、坑道の向こう側から聞こえた。

見れば、そこからローブの男が一人、こちらに向かって歩いてきていた。

「お前は・・・!?」

「万丈を襲った・・・デイブレイクの・・・!」

『ケイド・アルカルネン』だ。

「ミカ、そろそろ撤退した方がいいのではないか?」

「癪だけどその通りだゾ・・・」

ケイドの言葉に、ミカは渋々といった様子で従い、テレポートジェムを取り出す。

「預けるゾ。だが、次は歌うんだゾ」

「ッ!?待てゴラ――ぐあ!?」

すかさずグリスに何かの攻撃が叩きつけられる。

「くっそなんなんだよこれは・・・!?」

「見えない攻撃・・・!?」

「せっかくの機会だ。ここで仕留める」

そう言って、ケイドがその両手を広げると、次の瞬間、ビルドとグリスが同時に爆発する。

「「ぐあぁぁあぁぁあ!?」」

予想外の衝撃に、大ダメージを喰らい、二人ともその場に倒れ込む。

「ぐ・・・く・・・一体何が・・・!?」

「これでまだ倒れないか」

「戦兎先生!」

「カズミン!」

調と切歌が思わず立ち上がる。

しかし、その次の瞬間、調と切歌にも見えない攻撃が―――

「危ない!」

当たる直前、タスクが調たちの前に立ちはだかり、防御の姿勢をとる。

すると、タスクにのみ突如として痛みが迸る。

「ぐあぁ!?」

「慧くん!?」

「慧介!?」

「何!?」

膝をつくタスク。

「貴様、今、見えて・・・」

「そういう事か!」

ビルドが立ち上がり、右手でドリルクラッシャーの引き金を引いて弾丸を放つ。

「ッ!!」

次の瞬間、空中で火花が散り、何かが地面に落ちる。

「なにっ!?」

「それがお前の能力の正体だ!」

落ちたのは、数本のダーツ。

「お前の能力は、肉眼では捉えられない速さで何かを打ち出すこと―――このダーツがその証拠だ」

先ほど、ビルドがドリルクラッシャーを放った時に装填したボトルは『ウォッチフルボトル』。対象の時間にかかわる攻撃を可能とし、それで放たれたダーツの()()()()()()()()()()()()()、そして落としたのだ。

「あまりにも速過ぎる為に肉眼では捉えられず、なおかつ打ち込まれた直後に爆発して消滅する。だから体には何も残らないし何が起きたのか分からない。さっきの爆発も、ただ俺たちにミサイルを撃ち込んでいただけ・・・だけど、タネさえわかれば対応もしやすい」

銃口を向けたまま立ち上がるビルド。

「そして、それをノーモーションで、どうやって打ち出したのか。その答えはただ一つ―――お前『改造人間(サイボーグ)』だな?」

ビルドの指摘に、全員が息を飲む。

その問いかけに、ケイドは――――その覆面を外した。

そうして下から現れたのは―――顔半分が機械の姿。

「その通りだ。俺は、とある武器会社によって体を改造された改造人間・・・全身をどこでも敵を狙い撃つことの出来る銃口へと変えられた人間だ」

そう言って、ローブを捲し上げれば、そこにあるのは肌色の肉体ではなく、黒鉄色の義体。

「バレた以上、時間をかけるのは得策ではないな」

ラビットラビットフォームであれば、攻撃を見切り、躱すことが可能。タンクタンクならその防御力にものを言わせてゴリ押すことだって出来る。

それを変わっているからこそ、ケイドは撤退を選ぶ。

「ここは一度引かせてもらうとしよう。だが―――」

ケイドがローブを靡かせる。

「一人は仕留めさせてもらう!」

「ッ!?しまった!?」

ビルドが気付いた時には、ケイドから一発のダーツが放たれていた。それは誰にも対応できないほど速く、それは真っ直ぐ―――調を狙い撃っていた。

それに気付かない、気付く間もない調は、そのダーツが眉間に直撃する―――直前で、

「ガァッ!?」

タスクが、代わりにそのダーツの一撃を受ける。そして次の瞬間―――その仮面が砕け散る。

「―――え」

一瞬、何が起きたのか分からなかった。ただ、目の前で、一人の仮面の戦士の仮面が砕けたという事だけはわかる。

だが、それが、自分の想い人であるのなら話は別だ。

それも、自分を庇っただなんて。

複眼部分が大きく砕け散り、タスクは、調の目の前で倒れ伏す。

「慧介!」

「おい!」

タスクの変身が解除される。

「・・・慧介?」

倒れ伏した慧介の頭から、血が広がる。

「けい・・・くん・・・?」

その慧介を見下ろし、調は、茫然と彼を見下ろす。

頭から、血を流す、彼を―――

ケイドが、すぐさまテレポートジェムでその場から逃げる。

「おい!慧介!慧介!しっかりしろ!慧介!」

ビルドが慧介を抱き起こし、彼の安否を確認する。

「・・・・うそ」

そして、その様子を、調はただそこで突っ立って、茫然と見ていることしかできなかった。

 

遠くから聞こえる、誰かの声も、すぐ目の前で必死に呼びかける声も、ひどく、ひどく遠い場所から聞こえるかのように感じた。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「押っ取り刀で駆け付けたのだが・・・」

ミカとの戦いで惨敗した一同。

「調が悪いんデス!」

争う調と切歌。

「すごく嫌な姿を見ちゃったんだ・・・」

父と対面した響の心境。

「変形しないとムリだゾ」

そこへ再び襲い掛かる、敵。

それに、彼女らは一体どのようにして立ち向かうのか。


次回『心火フルスロットル』


「俺たちの牙は、誰にも折れねえ!!」






キリッと変身講座ァ!!!


ハイ!そういうわけでこんにちわ暁切歌デス!それとイガリマシャークこと、『マシャ』デス!どうもよろしくなのデス!
まあ、本編があんなことになってるのになんでこんなハイテンションなんだっていう疑問はあるかもしれないデスけど・・・ん?メタいことはいいからさっさと変身に移れって?まあまあそんなに焦らずとも大丈夫なのデス!じゃないとクリスマスにサンタさんは来てくれないデスよ?
・・・・あれ?皆なんでそんな憐れむような眼で見てくるデスか?何かおかしいこと言ったデスか?そうデスか?
それじゃあ、お待たせしましたのデス!。
今までの装者と同じ、準備の手順は同じデス!マシャはサメ型のリンク・アニマルデス。スタンバイスターターは背中のヒレの後ろにあるデス!ちなみに、フルボトルスロットは口の中にあるデス!どこかの電池で戦う戦隊みたいデスね!
さてさてそれじゃあお待ちかねの変身なのデスよ!

『STANDBY!』

押せば、たちまちに緑色の()のサメが出てくるのデス!
この状態で聖詠を歌うデス!
あ、ポーズを忘れてたデス。
アタシのポーズは左拳を横に少し上に突き出して、その後腕を折りたたんで顔の横に拳をもっていき、そして時計回りに腕を回す。そして、斜めになるように右手を左斜め上に、左拳を右斜め下にもっていき、そして腕を真上に突き上げるのデス!

「―――Zeios igalima raizen tron(夜を引き裂く曙光のごとく)―――」

変身バンクはこうデス!!



胸の前に出来た水球を両手で潰し、弾け飛んだ飛沫がギアインナーを形成→両手を話した所で鎌のステッキ部分が現れる→それをテクニカルに回す→その鎌部分に水が纏われ、サメの形を形成→それをまずは足に当て、ヒールが水流と共に形成される→ステッキを回し、サメを曲芸の如く真上に飛ばす→左手を突き出し指を鳴らし、そこへサメが落ちてきてアームプロテクターを形成する→そのままサメが切歌の肌を水面として上りあがり肩アーマーを形成する→そしてヘッドギア、水のサメが帽子の形になり、左側に十字、右側にサメの鋭い目が付けられ、一旦サメの歯がつばに出るも引っ込み、そしてサメを模したヘッドホンが取り付けられ、変身完了。


これがアタシの変身デース!
ん?なんで『水』なのかって?その理由はただ一つ、『サメ』だからデース!
ふっふふ~ん、これが心火を燃やして汗水流したイガリマの本領なのデス!
いわゆる、紅一点、って奴デスよ!
というわけで、アタシの変身講座はこれでおしまいデス!
次週は調の番デスよ~!楽しみにしてるのデス!

それじゃあ次回のシンフォギア・ビルドをお楽しみにデス!


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心火フルスロットル

戦「マイクチェックの時間だオラァ!!」
龍「うおっ!?いきなりどうした!?」
未「なんでもセレナさんがまたやらかしたみたいで」
龍「またかよ!?ってか、一体何をやらかしたんだ?」
戦「ああ?翼の奴を狼にしたんだよ」
龍「なんじゃそりゃ!?」
翼(狼)「ワフゥ!」(た、助けてくれぇ!)
ク「こら逃げんな!もっともふもふさせろ!」
翼(狼)(おのれ雪音!いくら狼で言葉が分からないと言ってこんな醜態を、ぉぉぉお~)
ク「ほれほれよしよし」
龍「なんか、手慣れてやがる・・・」
未「アハハ・・・そんなわけで、新世界創造より一年。タスクフォース『S.O.N.G.』に所属する天才物理学者桐生戦兎は、仮面ライダーとして、そしてS.O.N.G.の技術主任として、日々、シンフォギア装者や他の仮面ライダーと共に、世界で勃発する聖遺物の事件を解決して回っていたのでした。そして現在、錬金術師キャロルとデイブレイク社による、世界の分解を阻止するため、その戦いに身を投じていた」
翼(狼)「ワオォォン!」(ええい!いい加減にしないかぁ!)
ク「こら逃げんな!」
マ「もうちょっともふもふさせなさい!」
調「慧くん、捕まえて」
慧「合点承知の助!」
翼(狼)「ワフゥ!?」(なんか増えてる!?)
戦「だぁぁああ!もう!何はともあれシンフォギア・ビルド第十五話をどうぞ!」
翼(狼)「わふわふぅうぅ・・・!」(あ、だめ、尻尾はだめなのぉぉおお・・・・!!)



ちなみにセレナは『ぶりぶり(拷問)』でお仕置きされました。






―――ミカ、ケイドの撤退後の共同溝にて。

 

「押っ取り刀で駆け付けたのだが・・・」

共同溝内の様子はかなり悲惨だった。その攻撃のほとんどが響たちの攻撃によるものだというのがらやるせない他ない。

「間に合わなければ意味がねえ」

「人形は何を企てていたのか・・・」

「ってか、やりすぎだろあいつ」

そんな中で、

「・・・・」

「ウルフ、どうかしたんですか?」

ずっと床を調べ回っているウルフに、他の者たちと同じ様に共同溝の様子を見回っていたセレナが声をかける。

「おかしな点を見つけてな」

「おかしな点?」

「ああ、幸いここに残っていた足跡を調べていたんだが、どうにも、共同溝の整備士の靴底と一致しない足跡が、いくつもあることが分かった」

「共同溝の整備士さんたちと違う足跡・・・?」

セレナがその手に持つ通信端末にデータが送られる。それを見て、セレナは頷く。

「確かに、一致しないようですね・・・・」

「どう思う?」

ウルフに尋ねられセレナは顎に手を当てて考える。

「・・・この奥に、何かの施設がある・・・?」

「そう考えるのが妥当だろうな」

ウルフは、共同溝の奥を見る。

「調べる価値はあると思うか?」

「あるでしょうね」

ウルフの言葉に、セレナは頷く。

「なら俺が行こう」

「あ、シンさん」

そこで名乗りを上げたのはシンだった。

「スニーキングも出来ない事はない。むしろ、俺が行った方が都合が良いだろう」

シンはそう言ってスーツのネクタイを締める。

「それなら私も行くわ」

そこへマリアがやってくる。

「姉さん・・・!?」

「お前は・・・」

「ウルフも連れていくつもりなんでしょうけど、流石に一人じゃ心もとないでしょ?」

「だがな・・・」

「大丈夫、足は引っ張らないから」

そう自信ありげに言ってくるマリアに、シンはついぞため息を吐く。

「そういう事でしたら、僕が行った方がいいのではないでしょうか」

そこへ緒川もやってくる。

「緒川さん・・・!」

「いや、この先に敵の拠点があるかもしれない。そこでアルカノイズでも出されたらお前じゃ太刀打ちできない。それを考えると、アルカノイズに対抗できる俺かマリアのどちらかがいたほうがいいだろう」

「そういう事なら・・・司令には僕から連絡しておきます」

そう言って、緒川は仕事に戻っていく。

「とりあえず、やることはこれで決まりね」

「そうだな・・・」

シンは、そう言って共同溝の奥を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――S.O.N.Gのメディカルルームにて。

 

「ったく頭から血を流したから結構焦ったぞ」

「アハハ、心配をかけて申し訳ありません・・・」

戦兎の言葉に、左目の上にガーゼを張り付けた慧介が苦笑いでそう答える。

頭にケイドのダーツを喰らった慧介。仮面が割れるほどの威力であったそれは、確かに慧介の意識を刈り取るには十分だった。

だが、実際は目の上の額を少し切っただけで、仮面に直撃したダーツが着弾した直後に破裂する仕組みだったのが功を奏したらしい。

だから、失明も脳へのダメージもない。

「ですが、念のため検査は定期的に受けてください。もしかしたら深刻な事になっているかもしれませんから」

「分かった」

エルフナインの言葉に、慧介は頷く。

「調が悪いんデス!」

ふと、そんな中で声を荒げる者がいた。

「切ちゃんが無茶するからでしょ!」

「調が後先考えずに飛び出すからデス!」

「切ちゃんが、私を足手まといに思ってるからでしょ!」

見れば、互いにそっぽを向いて喧嘩をしている調と切歌の姿があった。

ちなみにマシャとシュルは気にも留めずに遊んでいたり寝ていたりしていた。

「何かあったのか?」

ケイドからのダーツ攻撃に加えて爆弾を喰らった一海が体に包帯を巻きながらそうぼやく。

「さっきの戦いについての責任追及だと」

戦兎は呆れ気味に答えてやる。

「おいおい、そんなに大声出すと怪我に響くぞ?」

そんな二人に慧介が仲裁に入る。だが、

「「・・・・」」

「・・・・え?何?」

「慧くんにだけは言われたくない!」

「慧介だけには言われたくないデス!」

「ええ!?」

予想外の返しに慧介は思わず驚く。

「どうせ慧くんも私のこと足手まといって思ってるんでしょ」

「慧介はいつもいつも無茶しすぎなのデス」

「ええ・・・俺何かした?」

「「分からないの!?」」

「・・・・すみません」

二人の剣幕に思わず謝ってしまう慧介。

「そんなだから、あんな大怪我・・・」

そして調が、誰にも聞こえない声で、その小さな拳を握り締めながらそう呟く。

「そんな状態で、イグナイトって奴を使えんのかよ」

一海の愚痴に、調と切歌の二人は一度顔を見合わせるも、目があった直後に違いにそっぽを向いてしまう。

その様子に、慧介はため息を吐いてしまう。

「ごめん、二人とも・・・」

そんな二人に、ついさっき起きた響が謝り、二人の手を取る。

「先にペースを乱したのは、私だ・・・」

そして、二人の手を重ね合わせる。

「さっきはどうかしたんですか?」

慧介が、響に尋ねる。

「・・・父親の事か?」

戦兎の指摘に、響は、うなずく。

「あれからまたお父さんと会ったんだ。ずっと昔の記憶だと、優しくてカッコよかったのに、すごく嫌な姿を見ちゃったんだ・・・」

「嫌な姿・・・?」

その調の言葉に、響は、今にも泣きそうな声で呟く。

「自分がしたことが分かってないお父さん・・・無責任でカッコ悪かった・・・見たくなかった・・・こんな思いをするぐらいなら、二度と会いたくなかった・・・」

その瞳から、涙が零れる。

「私が悪いの、私が・・・」

そんな中で、未来も泣きだす。

「違うよ。未来は悪くない・・・悪いのはお父さんだ・・・」

「でも・・・」

響が未来に歩み寄る。

「へいきへっちゃら。だから、泣かないで、未来」

「・・・うん」

「キュル~」

「キュイーン!?」

慰める響、うなずく未来、何故かちょっかいを出そうとするクロとそれを止めるニクス。

その様子に、戦兎はポケットからハザードトリガーを取り出して、それを見つめる。

 

父親が残した、希望―――

 

(父さん・・・)

この世界で生きて、記憶を取り戻したであろう父親。

その父が、旧世界で残した、希望への鍵。

危険(ハザード)』の名を関しているくせに、その実、希望になりうる力を秘めたこの力の使い道を示してくれた父親。

家族を、世界を守るために、敵の元で動いていた―――自慢の父親。

「どれだけ」

気付けば、自然に口が動いていた。

「どれだけ否定しようとしても、その人が自分の父親だという事からは逃げられない」

ハザードトリガーをポケットにしまい、戦兎は、響に言う。

「覆水盆に返らず、というが、その盆に新しい水を入れるのもいれないのもお前自身だ。だから、もう少し考えてから判断しろ。でないと、いつしか取り返しのつかないことになるぞ」

戦兎は、響に向かって、そう言った。

 

 

 

メディカルルームから出る調、切歌、慧介、一海、戦兎。

未来はしばらく響の付き添い。あの中で最もダメージが大きかったかららしい。

まあ、一海からの『スクラッシュフィニッシュ』を喰らって無事でいろという方が無理な話である。

ただ、調と切歌の仲は未だ険悪である。

その様子に、ライダー全員ため息を吐く。

と、そんな中で、エルフナインが二本の拳銃型注射器をもって来る。

「これを、調さんと切歌さんに」

「LiNKER model-Kか」

それは、奏のLiNKER。

それを受け取る調と切歌。

「オートスコアラーの再襲撃が予想されます。投与はくれぐれも慎重に」

「体への負担もそうだが、ここに残されているLiNKERの数にも、限りがある。気をつけろよ」

エルフナインは、二人に念を押すようにそう言った。

 

 

 

 

 

空が夕焼け色に染まるころ、調と切歌、慧介、そして帰り道が偶然同じな一海はこぞって帰路についていた。

しかし、未だ二人の空気が悪い事に、慧介は若干腹を痛めていた。

一方の一海はどこ吹く風。

そんな中で、調が切歌に言う。

「私に言いたい事・・・あるんでしょ?」

「それは調の方デス!」

しかし、すぐさま切歌が反論。

「やめろって二人とも」

「慧介は黙ってるデス!」

「慧くんは黙ってて!」

「なにゆえ!?」

何か二人の自分に対するあたりがキツいような気がする。

その時だった。

 

向かいの駐車場で何かが炸裂し、爆発する。

 

「なっ!?」

「いきなりなんだ!?」

みれば上空から、いくつもの赤熱したカーボンロッドが落下し、それが着弾する度に爆発する。

もはや爆弾である。

背後で爆発が引き起こり、爆風でよろめく。

「アタシたちをたきつけるつもりデス!?」

「くそ!舐め腐りやがって!」

燃え盛る境内。半壊した巨大な鳥居門の上に、ミカはいた。

その表情は、まさしく狂喜。

「足手纏いと、軽く見てるのなら・・・!」

顔に張り付けられた絆創膏やらガーゼやらを引っぺがし、調はその手にシュルを掴む。

 

『STANDBY』

 

調の背後に、巨大な桃色の虎が出現する。それと同時に、切歌の周囲を、緑色のサメが飛び回る。

「ん?」

その一方で、一海は横を見る。

そこから、見覚えのあるローブを来た男がやってきていた。

それを見て、一海はふっと不敵に笑って見せる。

「よお、元気そうじゃねえか」

「ここでお前たちを仕留めさせてもらう」

「やれるものならやってみろ!」

スクラッシュドライバーを腰に巻き、それぞれのスクラッシュゼリーを装填する。

 

タイガァージュエリィーッ!!』

 

ロボォットジュエリィーッ!!』

 

「―――Various shul shagana tron(純心は突き立つ牙となり)―――」

 

「―――Zeios igalima raizen tron(夜を引き裂く曙光のごとく)―――」

 

「「変身!」」

 

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

 

タイガァー・イン・タァスクゥッ!!』

 

ロボット・イン・グリィスゥッ!!』

 

『ブルァァァァア!!!』

 

アクティベイトレンチを叩き下ろし、慧介と一海は、仮面ライダーへと変身する。

その一方で、聖詠が歌い終わると同時に、アニマル・ブレイズが炎となってその身を包み込み、その身にシンフォギアを纏う調と切歌。

 

「二つ結びの輪舞(ロンド) お仕置きのスタート!」

 

すかさず調が放つのは頭部のヘッドギアから放たれる無数の丸鋸。

 

α式 百輪廻

 

それに対してミカは棒状のカーボンロッドを回転させて叩き伏せ、鳥居から降りる。

その一方、グリスとタスクは、ケイドと対峙する。

「ふん」

ケイドが不可視の速度でダーツを射出。

しかし、それをグリスとタスクは躱す。

「何っ!?」

「タネさえわかれば避けんのも簡単なんだよ!」

「同じ手が二度も通用すると思うな!」

ビームモードにしたツインブレイカーで応戦するタスク。

その攻撃をケイドは躱すも、そこへ二丁のツインブレイカーを構えたグリスが殴りかかる。

「オラァ!」

ツインブレイカーを振るうグリス。そのパイルがケイドに叩きつけられる―――だが、ツインブレイカーのパイルは、ケイドの手から伸びる爪によって防がれていた。

「なっ!?」

「近接戦は出来ないと思ったか!?」

次の瞬間、グリスのツインブレイカーを弾いてその腹に爪の一撃を叩きつける。

「ぐぁぁ!?」

「一海さん!?」

すかさずケイドがタスクにダーツを放つ。

それをタスクは躱し、躱せないものは弾き飛ばす。

だが、激しい。

「野郎!」

「まだまだ行くぞ」

ケイドがグリスとタスクに襲い掛かる。

 

 

 

 

一方、本部潜水艦にて。

弦十郎が会敵した現場の装者に指示を飛ばしていた。

「今から応援をよこす!」

すぐさま潜水艦を調たちの方へ向かわせようとする。

「それまで持ちこたえて―――ぬぐっ!?」

しかし、突如として潜水艦が揺れる。

「なんだ!?」

映像が出る。そこに映っているのは、二課本部の潜水艦なんかよりはるかに巨大な人影―――

「海底に巨大な人影だとォ!?」

 

 

 

 

海上にて。

「私と妹が地味に支援してやる」

レイアが、そう呟く。

「だから、存分に暴れろ、ミカ」

 

 

 

 

 

ミカがカーボンロッドを放つ。その猛攻を潜り抜け、調が飛び上がる。

そして高速回転してスカートを鋸状に変形。それによってミカに突撃する。

 

Δ式 艶殺アクセル

 

だが、掲げられたカーボンロッドによって防がれ、なおかつそのまま弾き飛ばされる調。

その隙を狙って切歌が鎌を振るうもそれすら躱されて、背中を蹴り飛ばされ地面に叩き落とされる。

どうにか態勢を立て直して着地する調と切歌。

「これっぽっちィ?これならギアを強化する前の方がマシだったゾ」

と、カーボンロッドを首に担いでそうがっかりしたように言ってくるミカ。

「そんなこと、あるもんかデス!」

「ッ!?ダメ!」

切歌がその挑発に乗り、調の制止も無視してミカに斬りかかる。

上空へ逃げたミカに対し、切歌は増やした刃を飛ばして追撃する。

 

切・呪りeッTぉ

 

その刃が直撃、エネルギーが炸裂して爆発を引き起こす。

「どんなもんデス!」

切歌が得意気にそう言ってみせる。

「こんなもんだゾ!」

だが、黒煙の中から出てきたのは無傷でロール状にした髪のバーニアで浮かぶミカと、空中に浮かぶ無数のカーボンロッド。

それが一斉に切歌に襲い掛かる。

それを切歌はどうにか躱してみせる。

「変形しないとムリだゾ」

ミカがそう挑発してくる。

「躱せないなら・・・」

それに対して、切歌が取るのは迎撃の態勢。

「受け止めるだけデス!」

遠くから飛んでくるカーボンロッド。

それが、切歌の元へ炸裂する。その寸前で、巨大な四つの丸鋸がその行く手を阻む。

「ッ!?」

調のシュルシャガナだ。

しかし、だ。今の切歌にとって、調に守られることは、とうてい許しがたい事態だ。

「なんで!後先考えずに庇うデスか!」

そう言って、切歌は調をどつく。

「うっ!?やっぱり、私を足手纏いと―――」

「違うデス!」

調の言葉に、返ってきたのは、否定だった。

「調が大好きだからデス!」

「え・・・」

その言葉に、調は驚く。

その間に、切歌はミカに斬りかかっていく。

「大好きな調だから!傷だらけになることが、許せなかったんデス!」

「じゃあ・・・私は・・・」

勘違いをしていた、というのだろうか。

「アタシがそう思えるようになったのは、あの時調に庇ってもらったからデス・・・!」

ミカの攻撃を受け止めて、調が、傷ついていく様を。

「みんながアタシたちを怒るのは、アタシたちを大切に思ってくれてるからなんデス・・・!」

「私たちを、大切に思ってくれる・・・優しい人たちが・・・」

「う、あぁぁああ!!」

切歌が、ミカの火炎に吹き飛ばされる。

「なんとなくで勝てる相手じゃないゾ!」

ミカが挑発してくる。

と、そこへ―――

「うわぁぁぁああ!?」

タスクがどこからともなくミカに向かって落ちてくる。

それをミカは躱し、タスクは地面に落ちる。

「ぐ・・・くっ・・・!」

「慧くん!?」

「慧介!?」

それに驚く調と切歌。

「仮面ライダー、お前はお呼びじゃないんだゾ!」

ミカのカーボンロッドがタスクを襲う。

それを見たタスクは、すぐさま横に転がって躱す。気付けばその右足には、何か、鎖のようなものが絡みついていた。

「くそっ・・・!」

タスクは、すぐ傍にある調が放った丸鋸を掴み取るとそれを鎖に思いっきり叩きつける。

聖遺物の刃であるからか、その頑丈そうな鎖はいとも容易く断ち切られる。

その鎖の先にはケイドがいて、ケイドは鎖を戻すとすかさずグリスが殴りかかってきていた。

しかし、それを観戦する暇はない。

「お前はバラバラになるんだゾ!」

ミカが右掌を向けてくる。

「ッ!?」

それを見たタスクは、何故か調と切歌の方を見る。

ミカとタスクの立ち位置、その直線状には、調と切歌がいる。

「だめ、避け―――」

「アタシたちの事は―――」

調と切歌が同時に叫ぶ。しかし、その制止を聞かず、ミカがカーボンロッドを放つ。

 

シィングルッ!』

 

すかさずトラフルボトルをツインブレイカーに装填し、拳を引き抜き、パイルを放たれたカーボンロッドに叩きつける。

 

シィングルブレイクッ!!』

 

叩きつけられる、エネルギーの奔流。放たれたカーボンロッドが迎撃したタスクを押し込んでいく。

そして、調たちの所でギリギリ止まり、そして砕く。

しかし、その時、鳩尾に痛みが走る。

「ぐぅっう・・・!?」

その痛みに、思わず膝をつくタスク。

「慧くん!」

そのタスクに、調と切歌が駆け寄る。

「まさか怪我が・・・!」

「なんで・・・いつもこんな無茶をするの!?」

タスクの様子に、調と切歌は、思わずそう声を挙げる。

「いつもそう・・・私たちが無茶をしようとすると、必ず慧くんは無茶をして大怪我をする・・・!もう嫌だよ。慧くんのそんな姿を見るのは。だから、だから足手纏いになりたくなくて・・・」

思えば、自分はいつも慧介に守られてばかりだ。

あの白い孤児院にいた時もそう。フロンティア事変の時も、クローズに襲われた時にタスクが助けてくれた。ミカと初めて対峙した時も―――

「慧くんが傷つくのは、もう嫌だから・・・!」

「だって・・・」

どうにか起き上がるタスクは、二人の疑問に答える。

「俺、仮面ライダーの中じゃ、一番弱いから」

その言葉に、調と切歌はハッとなる。

一番弱い―――それが、慧介が無茶をする理由。

「少しでも追いつきたい。みんなを守れるようになりたい。それだけの強さが、戦えるだけの強さが欲しかった・・・戦兎さんや、龍我さんのように、胸を張って自分の信念を貫けるだけの力が欲しい・・・!それが、俺が無茶をする理由だ」

どうにか立ち上がろうとするタスク。

(そうか・・・悩んでたのは、私たちだけじゃなかったんだ・・・)

マリアのような、心の強さだけではない。

根本的な強さ、否、力をタスクは求めているのだ。

彼らの隣に立てるような、そんなライダーに、慧介はなりたいと思っているのだ。

だから、自分に出来る事を、なんでもやろうとしているのだ。

 

自分だけ、仮面ライダーの中で一番弱いから。

 

(だけど―――)

「それで慧くんが傷つくのは、嫌だよ・・・」

自分の為に傷ついてほしくない。

そんな理由で、傷ついてほしくない。

「だったらさ」

するとタスクが、調と切歌に、支えにしていた手を差し出す。

「手伝ってほしい」

「え・・・」

「俺一人じゃ、調も切歌も守れない。だから、調と切歌に手伝ってほしい。あいつを・・・」

タスクの複眼の奥にある双眸が、敵を見据える。

「あいつらを倒す為に・・・!!」

その言葉に、調と切歌は、思わず吹き出す。

「自分一人じゃアタシたちを守れないから、アタシたちに手伝ってほしいって」

「慧くん、おかしすぎ」

そんな笑い声の後に、調と切歌が、タスクの手を握る。

「でも、悪くないデス」

「私たちも、慧くんを守る」

「調、切歌・・・」

三人は、立ち上がる。

「マムが残してくれたこの世界で、カッコ悪いまま終わりたくない!」

あの病室で、響の泣き声を聞いた。

「だったら、カッコよくなるしかないデス!」

もう、あんな声は聞きたくない。

「自分がしたことに向き合う強さを!」

その時、背後で轟音が響く。

振り返れば、立ち上った土煙の中からケイドが転がり出てくる。

「ぐぅっ!?なんだ・・・さっきまで弱かったのに、いきなり火がついたみたいに強く・・・!?」

「クク・・・フハハハハハハハ!!!」

高笑いが聞こえる。

「友情ッ!愛情ッ!!根性ッ!!!」

その主が、タスクたちを指さす。

「いいもん持ってんじゃねぇか!なあ、ガキどもォ!!」

グリスの言葉に、彼らは、うなずく。

「なんなんだ・・・お前は・・・!?」

「あァ?」

ケイドの問いかけに、グリスは面倒くさそうに答える。

「仮面ライダーグリス。それ以上でもそれ以下でもねぇ!!」

右胸に手を当て、グリスは呟く。

 

「心火を燃やして――――ぶっ潰す」

 

「心火・・・デスか・・・!」

その決め台詞を聞いた切歌は―――なぜか目を輝かせていた。

「切ちゃん・・・?」

「この反応・・・気に入ったんだな」

そう、呆れるも、それでも彼らは敵に向き合う。

「行こう、調!切歌!」

 

 

「「『イグナイトモジュール』、抜剣ッ!!」デース!!」

 

 

胸のマイクユニットを起動する。

飛び上がったユニットは変形し、その針で調と切歌を穿ち、その奥底に眠る破壊衝動を呼び覚ます。

「「うわぁぁぁあぁあッ!!」」

内から溢れ出る、黒い感情が、二人を塗り潰そうとする。だが、今の二人なら、その呪いに打ち勝つことは容易い。

その身を覆う黒は、確かに二人に力を与えてくれる。

「底知れず、天井知らずに高まるチカラァー!!」

その様を見て、ミカはその目を輝かせる。

そして、その身を突如として燃え上がらせる。

それはミカの切り札。

ミカを動かす『思い出』の償却効率を限界まで引き上げ、短い間だけ戦闘能力を大幅に向上させる決戦機能『バーニングハート・メカニクス』。

それを発動した以上、ミカはもう後戻りはできない。

何故ならそれは捨て身。一度発動すれば元には戻せない、戦闘において最強とされるミカの力。

それに対抗するには、もはや、調と切歌のイグナイト以外ありえない。

「ごめんね・・・切ちゃん・・・慧くん・・・!」

「いいデスよ・・・」

「気にしてない。それよりもみんなに言わなきゃいけない事があるだろ」

「そうだ・・・みんなに謝らないと。その為に―――強くなるんだ!」

そして、二人は叫ぶ。

 

「「―――変身ッ!!」」

 

イグナイトモジュールが発動する。

その身を覆いつくす漆黒が、二人の戦装束を変形。

漆黒を基調として装束が、二人に纏わりつき、そして、確かな『力』として顕現する。

 

『MODULE Start up!Let's Rampage!』

 

AR機能によって投影される文字列。

それを読み上げる事はせず、三人はミカに向かって突撃する。

「さァ、俺たちも始めようかァ!!」

そして、グリスもまたケイドに向かって走り出す。

 

「危険信号点滅ッ!地獄極楽どっちがイイDeathッ!?」

 

先に切歌が先陣を切り、ミカに突撃する。

バーニングハート・メカニクスによって爆発力が生まれたミカは、その切歌の攻撃を弾き飛ばす。

続く調の巨大ヨーヨーによる一撃を掴み取り、そのまま振り回して投げ飛ばす。

振り回された調はそのまま投げ飛ばされ地面に落ちる。

「調ッ!?」

「最強のワタシには響かないゾ!もっと強く激しく歌うんだゾ!」

すかさず切歌に向かってカーボンロッドが連続射出される。

「舐めるなぁぁぁああ!!」

すかさずタスクがそのカーボンロッドを迎撃、叩き落して一気にミカに接近。

「だから、仮面ライダーはお呼びじゃないって言ってるんだゾ!」

しかし、接近してきたタスクに容赦なく射出されたカーボンロッドが炸裂する。

「ぬぐぁ!?」

カーボンロッドが炸裂し、森の中に落ちる慧介。

「慧介!?」

そして切歌に向かってミカが飛び込み殴り飛ばす。

「ぐあぁああ!?」

そのまま神社の壁に叩きつけられ、すかさずカーボンロッドの雨が降り注ぐ。

それをどうにか躱す切歌だが、すぐさま至近距離で火炎放射を喰らいそうになる。

だが、その前に調とタスクが飛び出し、調は無数の丸鋸を。

 

ツゥイィンッ!!』

 

タスクはジェットとロケットのフルボトルを装填し、ツインブレイカーの引き金を引く。

(向き合うんだ・・・出ないと、乗り越えられないッ!!!)

 

ツゥイィンフィニッシュッ!!!』

 

丸鋸の嵐と、強力な砲撃がミカを襲う。

その飛び道具の嵐を、ミカは後ろ髪を使って防ぎ、そして飛び上がる。

そしてその飛び上がった先で、ミカが宙に円を描き、そこから無数の巨大なカーボンロッドの雨を降らせる。

それに対して、三人が取る行動は―――

「「リンクスアームズッ!!」」

 

『Links Arms〔Crash Muzzle〕!』

 

『Links Arms〔Spinning Beast〕!』

 

切歌の鎌が変形、鎌の柄が若干太くなり、さらにはその先に奥まで続く穴が現れる。

一方の調のヨーヨーには虎のような炎が吹き上がる。

それが、遠距離一点攻撃型の切歌のリンクスアームズ『クラッシュマズル』と充填放出型の調のリンクスアームズ『スピニングビースト』。

落ちてくるカーボンロッドを駆け抜けながら躱し、そしてその手の鎌――デスサイスライフルで上空にいるミカを狙い撃つ。

それをミカは空中でその熱気を利用し回避。

落ちてくるカーボンロッドを躱しながら何度もミカを狙い撃つ切歌。

「そんな弾じゃ当たらないぞ」

「知ってるデス!だから―――」

切歌の背後から全速力で走ってくる人影。

それに対して切歌は後ろも見ずに鎌を手の上で躍らせ、後ろに構える。

そして、背後からの人影がその鎌に乗った瞬間、

「マストォ―――ダァァァァイィッ!!」

鎌を思いっきり振り抜いて、その人物をミカに向かってぶん投げる。

それは、仮面ライダータスク。

「だから、オマエはお呼びじゃないって言ってるんだゾ!」

ミカが、巨大なカーボンロッドで迎撃してくる。

空中ではタスクは身動きが取れない。だが、タスクは左手のツインブレイカーを大きく振りかぶり、そして、絶叫と共にそのカーボンロッドをぶん殴る。

「うぉぉぉぉぉあぁぁぁあぁぁあああぁぁああああッ!!!」

絶叫と共に、ツインブレイカーのパイル部分でカーボンロッドをぶん殴るタスク。

すると、落ちてきたカーボンロッドが一撃で粉砕される。

「なっ!?」

「オォォォオオオ!!」

そのまま一気にミカに突撃、前転して踵落としを叩きこんで地面に落とす。

そのままミカは地面に落下する。

 

 

その一方、グリスとケイドの戦いは―――

「爆進ッ!」

グリスのラッシュがケイドに襲い掛かる。

「爆走ッ!!」

しかし反撃にケイドが不可視のダーツを飛ばす。

だが、グリスはそれを全て躱して見せる。

「なにッ!?」

「爆昇ッ!!!」

グリスのアッパーカットがケイドの顎を撃ち抜く。

「まだまだ全然足りねぇなァ・・・!!!」

「く、この・・・がっ!?」

再び、ツインブレイカーの一撃が顔面を打ち据える。

「だぁるぇが俺を満ィたァしてくゥれるぅんだよぉぉぉぉおお!!!!」

「ぐあぁぁああ!?」

仕舞いには振り回して駐車場の車に叩きつける。

「オラァァァア!!!」

そして闘牛の如く再びケイドに突進、叩きつけたツインブレイカーをそのままに、もはや滅茶苦茶という他ない動きで直線状の障害物全てを薙ぎ払いながら突き進み続ける。

それが止まるころには、ケイドは地面に倒れ伏していた。

「ぐ・・・か・・・これが・・・仮面ライ、ダー・・」

「おう!ラブ&ピース、それだけの為に戦う大馬鹿野郎どもだ!」

倒れ伏すケイドに向かってそう指さすグリス。

(しっかし、すげえな)

そんな中で、グリスはタスクの方を見る。

「うぉぉぉおぉおぉおおお!!」

タスクが、激しくミカと打ち合っている。

殴り殴られ、しかし一歩も引かない。

心なしか、一発殴られる度に、少しずつ、確実に強くなっているようにも見える。

それは、タスクの感情の高ぶり故か、それともハザードレベルが上昇しているが故か。

おそらくはそのどちらも。

感情の高ぶりでスクラッシュドライバーの性能は飛躍的に向上する。

元々、戦えば戦うほど強くなるのがビルドドライバーに比べて汎用性の乏しいスクラッシュドライバーの強みだ。

そして慧介は今、その強みに支えられ、強くなっている。

大切な人を守りたいという思いが、タスクを強くしているのだ。

そして、それは、殴り合う度に強くなっている。

「これが若さって奴か」

次の瞬間、グリスの右手がひらめき、顔面の前で何かを止める。

その手に握られているのは一本のダーツ。

見下ろせば、ケイドが膝立ちで、こちらを睨み上げていた。

「まだだ・・・!」

「いいねぇ・・・もっとかかって来いやぁぁぁあ!!」

グリスの咆哮が轟く。

 

そして、タスクは今。

「うぉぉぉおお!!」

ミカに拳を振るう。それは躱され、カーボンロッドが突っ込んでくるもそれをツインブレイカーで砕き、すかさず拳を振るうも受け止められ、振り回されかけるも踏み止まり、ツインブレイカーを叩きつけようとして防がれる。

「こなくそっ・・・!!」

「いい加減鬱陶しいんだゾ!」

「悪いねぇ、諦めの悪さには定評があるんでね!調!」

「ッ!?」

ミカとタスクが打ち合うことで起きた土煙の中から、調が躍り出る。

その手には、トラのオーラが纏われた、ヨーヨーが一つあり、調はそれを曲芸の如く振るう。

至近距離で振るわれる伸縮自在の流星錘。それがタスクでミカを挟んで、遠心力によって加速して振るわれる。

そして、ミカの頬を掠める度に、そのヨーヨーに纏われた虎のオーラが牙を突き立てようとその口を開く。

回転を加えて放たれるその一撃は、岩盤をも砕く一撃となってミカに襲い掛かる。

「おおっと!?」

リンクスアームズ スピニング・ビーストは単純に言ってヨーヨーの攻撃力を高めるだけに過ぎる能力ではない。

その本来の能力は回転の無限加速増幅。

等加速度運動の如く、ヨーヨーの回転率は高まり、それによって生まれる空気摩擦をエネルギーへと変換。それによって生まれる熱と、最高速などなく、一度止まるまで加速し続けるその回転は、敵の皮膚を削り取る凶器と成りうる。

今、調の手にあるヨーヨーは人智を超えた回転を引き起こし、それによって起きる空気摩擦の熱で大気を揺らしているほど発熱している。

そのヨーヨーを、地面に触れさせる。

その次の瞬間、まるで爆風にでも押されたかの如く調の前方に飛び出すヨーヨー。

一般的に『犬の散歩』と呼ばれるこの技。だが、無限に伸びる光のストリングがあれば、その距離は無限になる。

そして、スピニング・ビーストの真価はここから。

無限回転によって生まれたヨーヨーの突撃。しかしそれは調の制御下にあると同時に、調のギア『シュルシャガナ』に搭載されたレリックAI『シュル』の意識が乗り移っているも同然の代物。

そしてそれは即ち―――檻から解放された獣も同然。

 

β式極 月下獣

 

『ガァァアアアァァアアアアッ!!!』

ヨーヨーが虎となって咆える。

「ぞなもし!?」

襲い掛かる虎の牙。

それがミカに直撃し、吹き飛ばされる。

そして、空中に撃ちあがったミカに向かって、今度は切歌が追撃する。

切歌のスマッシュマズルは単純明快ライフルと化した鎌だ。

その能力は、切歌の視界に投影される円の範囲内なら弾丸は必ず直撃するというもの。

飛距離は関係ない。ただ射線上に敵がいるというのなら確実に撃ち抜く。

それが切歌のリンクスアームズ『スマッシュマズル』

そしてもう一つ―――

「デスデスデスデース!!」

何度も何度もボルトアクションする切歌。

そもそもこのライフルに薬莢など存在しない。あるのはエネルギーを固体化した弾丸ただ一つ。

それを、ボルトアクション一発事に装填し、引き金を引くとともに放つ。

ごく単純であるそれは、別の機能を有している。

それは、ボルトアクションする度にその威力が()()するという事だ。

一から二倍に、二倍から四倍に、四倍から八倍に、そういった具合に、ボルトアクションする度に、威力は倍増

一がコンクリートを砕ける程度だとするならば、切歌が行ったボルトアクションは十七回。即ち、131072倍。

 

凶弾・滅eがLぉ怒n

 

放たれたサメ型の弾丸が、打ち上げられたミカを襲い、炸裂する。

巻き起こる爆発。その黒煙の中から落ちてくるのは、腹あたりが喰いちぎられたかのように抉れたミカの姿があった。

「ここだ・・・!!」

「慧くん!」

調が、禁月輪を作り出し、タスクがそれに乗る。

そして、ミカの落下地点を挟むように調と切歌は向かい合う。

切歌が肩のワイヤーでギロチン状にしたイガリマと輪状にしたシュルシャガナを接続。

作用反作用の法則によって互いを引っ張り合い、ミカが落ちてくるその地点に向かって一気に突き進む。

(足りない出力を掛け合わせて・・・!?)

それが、二人の―――否、三人の必殺技。

「俺たちの牙は、誰にも折れねえ!!」

 

スクラップクラッシュッ!!!』

 

タスクがアクティベイトレンチを叩き下ろし、調の禁月輪から飛び上がる。

三点からの同時攻撃。

それが、三人の合体技――――

 

禁殺邪輪Zあ破刃スクラッシャー

 

三人の必殺が交差する。

切歌のギロチンが、調の輪鋸が、タスクの両足蹴りが。

それを喰らったミカは、断末魔を挙げる暇もなく消滅。その最中で、タスクは見た。

 

ミカが、笑っていたのを。

 

(こいつ、なんで笑って―――)

しかし、そんな疑問が解ける前に、ミカは消滅する。

「やった!」

着地した隣で調が嬉しそうに声を挙げる。

「いや、まだだ!」

タスクが声を挙げる先、そこに、彼らはいた。

グリスとケイド、二人の戦いが。

「ミカが破壊された・・・だが、目的は達成された。もうここに残る必要は・・・」

「逃がさねえよバァーカ」

「なっ!?」

テレポートジェムを取り出したケイドの手を掴み、投げ飛ばすグリス。

その手にあってジェムが落ちて砕け、何もない場所で発動して瞬く間に消える。

「ッ!?しまっ・・・」

「これで仕舞いだ」

グリスがアクティベイトレンチを下ろす。

 

スクラップフィニッシュッ!!!』

 

必殺技が発動し、グリスが飛び上がってケイドに突っ込む。

「くっ、ここで討たれるのであれば!」

「ッ!?」

その時、慧介の目は捉える。ケイドから、二本のミサイルが射出される瞬間を。

「やばっ―――」

「せめて用済みとなった装者だけでも―――!!」

次の瞬間、ミサイルが調と切歌に向かって飛んでいく。

「てめっ!?」

その直後にグリスの飛び蹴りが炸裂。そしてそれとほぼ同時に。

「うぉぁぁああ!?」

タスクがミサイルを上空に蹴り飛ばし、もう一方のミサイルが、切歌のところで炸裂した。

「あ―――」

爆音が、音を全て置き去りにする。

「ぐぁぁぁあ!?」

手加減を忘れたグリスのスクラップフィニッシュを喰らったケイドは、そのまま壁に激突し、爆発四散する。

「切ちゃぁぁぁぁあんッ!!?」

そして、調の絶叫が迸る。

「しまった・・・!?」

グリスが振り返った先では、全てが終わっていた。

調の方へ飛んで行ったミサイルは、寸前でタスクが防御した。だが、切歌の方へ向かったミサイルは、切歌に直撃し、黒煙をまき散らしていた。

「いやぁぁぁあぁあ!!」

「・・・・!?」

調は思わず泣き叫び、タスクはただその場で茫然と立たずむ事しか出来ない。

切歌が、ミサイルを直撃を受けた。

あれだけの威力を込めたミサイルだ。シンフォギアを纏っていても、ただでは済まない。

 

 

 

 

 

直撃すれば、の話だが。

 

 

 

 

 

「・・・ん?あ、調、おい調」

「うぇ・・・ひっぐ・・・きりちゃぁん・・・」

何かに気付いたタスクが、調に呼びかけるも、調は絶望のままに両手両膝をつき、うなだれている。

「いや調!顔上げろって!」

だが、タスクはめげずに調にそう促す。

そんなタスクの言葉に、調は、恐る恐る顔を挙げた。

その先にいたのは―――

「・・・いやあ、危なかった」

「間一髪だったな」

「切歌ちゃん、怪我はない?」

「あ、はい。大丈夫デス・・・」

キャッスル、スタッグ、オウルの三体のスマッシュが、切歌を守っていた。

どうやら、あの瞬間、キャッスルが割り込んでミサイルを防ぎ、オウルとスタッグがその余波から切歌を守ったらしい。

「アハハ・・・なんか、生きちゃってるデス・・・」

「きり・・・ちゃ・・・!」

陽気に笑う切歌に、調は、また泣き出した。

 

 

 

 

 

消防隊や警察、そしてS.O.N.Gが駆けつけてからのこと。

「こっちの気も知らないで!」

イグナイトの独断使用、及び、無理をしてでの敵オートスコアラーの破壊。

やっている事は間違っていないのだが、命令無視の部分が大きく、調、切歌、慧介の三人はクリスと弦十郎、そして戦兎に怒られていた。ちなみに怒られているのは、実は調と切歌だけだったりする。

ちなみに一海はどこ吹く風。

「たまには指示に従ったらどうだ?」

「というか慧介。お前また無茶したらしいな?スクラッシュドライバーは強力な分、負荷が大きい事は知ってるだろ?」

「独断が過ぎました・・・」

「これからは気をつけるデス・・・」

「ほんと、申し訳ありませんでした・・・」

その様子に、三人は目を白黒させる。

「珍しく、しおらしいな」

「・・・なるほどね」

そんな中で、戦兎はふっと笑う。

「それじゃ、俺から言う事は何もねえや。ただししばらくシュルとマシャは借りてくぞ。戦闘記録の引き出しと、ちょっとしたメンテナンスをしなくちゃいけないからな」

「おい、それでいいのかよ?」

「へたに叱って可能性潰すよりはマシだろ」

そう言って戦兎は二匹をひっつかむとそのままどっかに行ってしまう。

「私たちが背伸びをしないで出来るのは、受け止めて、受け入れること」

そんな中で、調が申し訳なさそうに言う。

「だから、ゴメンナサイデス・・・」

「う、うむ、分かれば、それでいい・・・」

弦十郎も、戸惑いを隠しきれていないが、とりあえずはそう言う。

一度、お辞儀をした後、三人は離れる。

「そんじゃ、俺ももう帰るわ」

一海もそう言って三羽ガラスの所へ戻っていく。

「ていうかお前ら、なんでここに来たんだよ?」

「そんなのカシラの帰りが遅いからに決まってんでしょうが」

「どんだけ待たせるつもりなんだよ」

「うるせえ」

なんて、自分の家来たちに言われつつも、一海は去っていく。

「全く・・・」

「先輩が手を引かなくなって、いっちょ前に歩いていきやがる・・・」

呆れる弦十郎の傍らで、クリスは、成長していく後輩たちを見て、そう思うのだった。

 

 

 

帰り道、調がふと呟く。

「足手纏いにならないこと・・・それは、強くなることだけじゃない。自分の行動に責任を伴わせることだったんだ」

「責任・・・自らの義に正しくあること・・・」

切歌が、携帯でその意味を調べる。

「でも、それを正義と言ったら、調の嫌いな『偽善』っぽいデスか?」

「んー、それとはまた少し違うんじゃないか?」

そんな中で、慧介が声を挙げる。

「自らの義に正しくあることが『責任』なら、それはそいつだけの正義って事だろ?だったら、それを偽善って否定するのは違うんじゃないか?」

その指摘に、調は頷く。

「ずっと謝りたかった。薄っぺらい言葉で、響さんを傷つけてしまったことを・・・」

そんな調の頭の上に、慧介は手を乗せて、あやすように撫でる。

「だったら謝ろう。大丈夫、俺も切歌もいるから」

「そうデスよ。ゴメンナサイを言う勇気が必要なのは、アタシも同じですから」

「慧くん、切ちゃん・・・」

「調を守るのは俺たちの役目だ」

そう言って、慧介と切歌は笑って見せる。

「ありがとう・・・いつも、全部本当だよ」

三人は、橋の上で、そう笑い合った――――

 

 

 

「それはそうと慧くん」

「ん?なんだ?」

「私を子ども扱いしてない?」

「え?もしかして頭撫でるの嫌だったか?」

「ううん。もっとなでなでして」

「え、あ、うん・・・なんか改めてやると恥ずかしいな」

「ふふ・・・」

「・・・あー」

(この二人のイチャイチャには、毎度敵わないのデス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ケイドがやられた?」

「はい」

バスローブを身に纏い、リカルドはジーナの言葉に耳を傾けていた。

「ふむ。それは参ったね。彼の能力を失うのは実に惜しいことだ。まあ、()()()()()()()()()()()()()()

「その事についてですが、先ほど、ドクターとの連絡が、つい先ほど途絶えました」

「ほう・・・流石に見つかるか」

その報告に、リカルドは意外そうに声を挙げる。

「まあ支部は世界中のどこにでもある。そのうちの一つが潰れた所で、何ら支障はない」

「おっしゃる通りです」

リカルドは、天井を見上げる。

「そろそろ彼女が復活する頃合いだ。そして、シンフォギア装者が強くなる時、世界の崩壊は加速する―――」

 

 

 

 

世界滅亡まで、あと数日―――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「こちらシン、下水道に侵入した」

下水道奥に侵入したシンとウルフとマリア。

「即刻排除する!」

そこで待ち受けていたのは、AI搭載型の無人機やサイボーグたち。

「《忍者だ!すごい!忍者!》」

そこで出会う、一人の少年『ジョージ』。

「俺、逃げてきたんだ!」

そして、その先にある研究所で、彼らは――――


次回『目覚める殺意』


「・・・・ジョージ・・・いいのか?」





―――本格的にメタ〇ギアの設定が絡み始めて大丈夫かなぁ・・・?





あっさあ変身講座ァァァアアア!!!!




と、いつものようにうるさいタイトルからのはじめまして、月読調です。
今回は私が変身講座を担当します。
と、やっとのことでイグナイトを克服しました、イェイ。
じゃあ、始めようか。私のリンク・アニマルはピンクの虎のシュルシャガナタイガーこと、シュルだよ。
シュルは基本的にマイペースで、いつもあくびをして寝ているの。
シュルは、他のリンク・アニマルより、少し体が大きいんだ。それでも手乗りサイズだけど、脇腹のスタンバイスターターを押す分には問題なし。

『STANDBY…』

それじゃあ、言ってみようか。
私の変身ポーズは、まず右手を前に突き出して、左手は胸に。そして両手を真上にあげた後に、右手は顔の横、そして左手は慧くんみたいに右肩あたりで握り拳を作る。
そして、聖詠の終わりと同時に、右手を前に突き出す。
さあ、やってみようか。

「―――Various shul shagana tron(純心は突き立つ牙となり)―――」

変身バンクはこんな感じ。


調の背後でタイガーブレイズが咆哮→調とタイガーが額を合わせた後に、タイガーが炎となり、調は回転しながら放たれた炎と共にインナーを纏う→四つん這いになって猫のように左拳を舐めてそのまま逆さまになるように飛び上がる→その最中で両足にレッグギアを装着→着地と同時に一回転しながら立ち上がり、腕を持ち上げ頭の後ろで組むような態勢になる→その状態から腕を振り抜き隠し持っていたヨーヨーを伸ばす→そのまま技を披露→足元を走る小型のタイガーをヨーヨーで掬いあげ、そのまま手に乗せ、アームパーツを装着→足元から腰へ、そこで一回転してトラのシルエットの描かれたスカートを纏い、そしてさらに上を写して顔あたりでヘッドパーツ(頭部装着部分)を装備→ツインテールの片方、そこにタイガーブレイズが纏われ鋸パーツへと変身(もう片方も同様)→そして最後にヘッドフォンパーツはタイガーブレイズが耳元に現れる形で形をなして形成→そのままヨーヨーを披露して変身完了。


こんな感じです。今回は作者に余裕があったらきっちり大増量です。
ちなみに、AIにはそれぞれ特性があって、未来さんのクロは『索敵と各種能力出力管理+α』が得意だったり、響さんのニクスは『パワー出力調整』、翼さんのアメは『負荷の増減と攻撃予測演算』、クリスさんのバルは『エネルギー伝達と射撃軌道計算』、マリアのラムは『エネルギーベクトル管理』、切ちゃんのマシャは『危機察知機関』、そして私のシュルには『情報処理と各種伝達』が備わってるみたい。
なんでも、それぞれに役目を持たせ、無線でやり取りさせることで、大幅な戦術の拡大を図るため、って聞いたけど、うん、戦兎先生は本当にすごい。

そんなわけで、以上、月読調でした。来週は翼さんです。

では、また来週。


リンクスアームズ紹介


イガリマシャーク『クラッシュマズル』

イガリマに銃撃能力を持たせるリンクスアームズ。
基本近接特化仕様であるイガリマに、遠距離戦における非アドバンテージを補うために造られたもの。
ボルトアクションを繰り返すことで、最大二十回分の倍化を可能とする。ただし、ボルトアクションを行うごとに、ギアの性能が一時的に四パーセント低下し、最大までボルトアクションして放つと、ギアの性能が二割にまで減衰するため、そうやすやすと使える代物ではない。
五回までが二十秒、十回までが二分、十五回で二十、そして二十回以下で一時間ギアの性能が落ちる。



シュルシャガナタイガー『スピニングビースト』

調のヨーヨー及びギアの回転機構を爆発的に加速させるリンクスアームズ。
ヨーヨーの回転速度を無限に加速させ、摩擦によるエネルギーを攻撃へと転化する。
一応、ヘッドギアやレッグパーツの鋸にも適応できるが、それをしたが最後、ギアそのものがある程度まで行くと、回転についていけずぶっ壊れることがシミュレーションで分かっているため、使用しないように念を押している。
また、ある程度まで回転すると、調ですら触れられないほどの威力に高まるため、程よく機能のオンオフをしっかりしなければならない。



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目覚める殺意

ク「天才物理学者であり仮面ライダービルドこと桐生戦兎は、地球外生命体エボルトとの激闘を経て、新世界を創造。しかしその世界では特殊災害『ノイズ』の脅威に晒されていた。んでもって今現在は錬金術師キャロルとデイブレイク社との戦いに、仲間の仮面ライダーとシンフォギア装者と共に立ち向かっている訳・・・」
響「指揮官様との間のすべてが壊れてしまえばいいのに!あははははは!!!」
ク「って待てェ!?お前そんなキャラだったか!?はっ、まさかまたエボルト・・・」
エボ「ん?俺はここにいるぞ?」
ク「はぁああ!?え、ちょっとまてじゃあこれは一体・・・」
切「悪あがきで、私を楽しませろ・・・ふふふ・・・!」
ク「お前はお前でなんだそのキツネの仮面は!?ってかなんだその火はやめろ見せるなぁぁあ!!」
マ「うん・・・OK、出迎えはこの恰好でいいわ」
翼「マリア!しっかりしろ!それではまるで本物のお母さんみたいだぞ!?」
ク「なんで先輩は平気なんだよ!?」
翼「私にも分からん!」
エル「戦争を語る輩は、果たして本腰の覚悟と自信はあるのか?」
ク「なんだその無駄に威厳のある態度と声音は・・・いつものドジっ子属性はどうした!?」
友「等しく破滅をくれてやる・・・!」
翼「友里さん!?一体何に破滅をもたらそうというのですか!?」
未「この艦隊は、ずいぶんと愉快な奴が多いな」
ク「むしろオンパレードだわ!お前もその中に入ってるわ!なんだそのキャラどこぞの神様か!?違うけども!」
戦「ちくしょう!またセレナの奴がやりやがった!」
ク「またかよ!?・・・ってか、そのセレナは・・・」
調「大変ですクリス先輩・・・」
ク「ああ?一体何が・・・」
セ「こちら、アールグレイでございます」
ク「ああ、ありが・・・ぶふお!?」
戦「誰からどうみても完璧なパーフェクトメイドになってやがんだよ・・・」
セ「主に全てを捧げるのはメイドの勤めです。ご主人様、ご覧になられますでしょうか?」
ク「落ち着けお前はそんなキャラじゃなかった筈だあと美味いなこの紅茶もう一杯!」
翼「一体どうなっているのだ・・・」
シ「なんでも、セレナがパンドラパネルをいじって人格を別の世界のものと入れ替えてしまったらしい・・・」
慧「メタいこと言いますけど中の人が繋がってる人じゃないとそういうのないみたいです」
ク「迷惑この上ねえ・・・」
エリ「弱い者ならこの栄誉に喜ぶかもしれないが、私は強いからな」
シ「お前まで来たのか・・・!?」
戦「だぁぁあもうこのままじゃ埒があかない!シンフォギア・ビルド第十六話をどうぞ!」
セ「ちなみに指揮官(さくしゃ)様は、先日瑞鶴様ともケッコンいたしました」
調「やめてセレナ、その喋り方はものすごく違和感を感じる」


―――東京地下下水道にて。

 

「こちらシン、下水道に侵入した」

『了解だ。このまま奥に向かってくれ』

スーツ姿のシンと私服から黒スーツへと着替えたマリア。そして、先行するウルフを交えた二人と一匹で、この先にある何かを調べていた。

そんな二人と一匹の視界には、何故か弦十郎の顔が映ったモニターが空中に投影されていた。

それは、彼らの頭部に装着されたデバイスに秘密があった。

強化型シンフォギアに搭載されているものと同じAR機能『リアルオーバー』を使えるようにする為のデバイス『セイレーン』。

これによって拡張現実を利用した通信技術や情報の整理などが可能となり、敵に盗み見られる必要もなくなり、常に情報をダイレクトに確認することが出来る。

考案・開発は戦兎であり、デバイスのデザインはセレナだったりする。

『セレナ君から聞いてはいるが、奥に何かあるようだな』

「ああ、ウルフが複数の足跡を発見していた。おそらく何かの組織がこの東京構内で何かをやっているのは間違いない」

『それがオートスコアラー、あるいはデイブレイク社に関連してるようなら、見過ごすわけにはいかない。お前たちの任務は、その組織の施設を発見及び、何か、違法行為を行っている証拠を集める事だ。潰す必要はない。証拠さえあればいくらでも上を動かすことが出来る』

「了解だ」

司令である弦十郎からの指示を聞き入れ、通信を切る。

「行くぞ。マリア」

「ええ。それにしても、下水道なんて初めて入ったわ」

「俺はそうでもない。市街地戦で下水道を使って敵の背後に回るなんてざらだった」

「そうだったの・・・」

そう二人が話し合っていたところで、ウルフが二人に声をかける。

「シン、マリア、まずは俺がこの先の様子は偵察する」

「ええ、お願いね」

「任せておけ」

ウルフはそう言うと、四脚の機動力を生かして先に向かう。

「先行できる味方がいるというのは、良いものだな」

「そうね。お陰で安全に潜入できそう」

そのウルフの後を追い、二人は、下水道を突き進んでいく。

 

 

 

―――港から身元不明の子供たちが搬入されている。

 

その情報は、もう一つの東京内の十二歳以下の子供が誘拐される事件が多発している、という事と関連があるのではないか、と下水道に入る前にウルフは行っていた。

そこから考えられる事案として、一つ、挙げられる。

 

人身売買。

 

人の臓器を売り、資金を得る、下法組織の行う行為。

何も知らない子供の新鮮な臓器を売り飛ばすことで資金を得てるなど、まともな倫理観を持つ者ならまず絶対にしない行為であり、軽蔑の対象。

それを平気で行う組織など、まず存在していい筈がない。

 

 

 

「この潜入調査で、さらわれた子供たちが救われる・・・・」

「今はそう信じて動くぞ」

下水道を走り、奥へと進んでいく二人。

そこで、ウルフから連絡が入る。

『二人とも、下水道内に所属不明の無人機を発見した。気を付けてくれ』

「無人機?」

「ノイズ相手ではまともに役に立たないからと作られなかった兵器だ。人を必要とせず、AIによって制御される対人兵器。サイボーグより扱いやすい兵器だ」

マリアの言葉に、シンがそう説明した直後、耳に気付いた自分たちのものとは違う()()に足を止める。

「何?」

そちらに目を向けてみれば、そこにはまるで雨でも降っているかのようにぽたぽたと水滴が落ちてきており―――

「上だっ!」

見上げれば、そこには巨大な腕をもった人型の怪物がいた。

その人型の怪物は片手で天井にぶら下がり、もう片方の機関砲をシンたちに向ける。

それを見た二人はすぐさま回避行動に、マリアは横に飛び、シンは後ろに飛び退る。

「くっ!」

マリアはすぐさまラムのスタンバイスターターを押そうとする。

「だめだマリア!」

「え!?」

だが、シンに止められる。

 

Start Up』

 

「敵も異端技術を所持しているんだ。シンフォギアのアウフヴァッヘン波形を検知される可能性がある!ここは俺に任せろ」

ウルフフルボトルを装填したクライムウルフをすぐさまビルドドライバーに装填する。

 

CRIME WOLF

 

ボルテックレバーを回し、スナップライドビルダーを展開。そのシンに向かってゴリラのような怪物は水面に降りてきてその機関砲を放つ。

弾丸がビルダーに阻まれ、水面が爆ぜる。

 

『Are You Ready?』

 

「変身!」

 

『Start Up Lightning!Let's CRIME WOLF!Yeah!』

 

ビルダーがシンを挟み込み、頭部にバイザー型ユニット『オーグメントレイヤー』が装着される。

それによって完了する仮面ライダークライムへの変身。

「即刻排除する!」

時間かけて騒ぎになる前に仕留めなければならない。

ゴリラのような―――面倒くさいからゴリラと呼ぶことにして、それが何か行動を起こす前にクライムは敵の懐に潜り込み、斬撃を激しく叩き込む。

そして斬り上げが顎に命中し、よろけた所で丸太のように太い足を持つとそのままジャイアントスイングで振り回し、飛び上がってその勢いのまま地面に叩きつけ、跳ね返った所でその胴体を一刀両断にする。

断ち切った部分、その断面からオーグメントレイヤーで動力を割り出し、そこに手を突っ込み離れ着地。

そして、その手にもった動力炉を握り潰し、破壊する。

鮮やかな手際だ。

とても初めてとは思えない。

「流石ね。以前にも同じような事を?」

「キリフデラで同じようなことをしたサイボーグがいた。当時真似をしたくて練習していた」

「そ、そうなの・・・」

なんというか、お茶目というか。

そういう事を真顔で暴露するのだからどうにも答えづらい。

「そんなことより、先を急ぐぞ」

「ええ、分かってる」

クライムが先行し、その後をマリアが追う。

途中、何体か徘徊していた無人機を倒しつつ、彼らは奥へ進む。

「無人機があるってことは、やっぱり」

「ああ、何かしらよからぬ組織がいることは間違いない」

そう言いあい、突き進んでいくと。

「うわぁぁあぁああ!?」

「「ッ!?」」

子供の悲鳴が聞こえてきた。

音を立てないよう、歩いていた二人はすぐさま駆け出し、巨大な穴がある場所を見下ろす。

そこから見えたのは一人の少年は、バスケットボールサイズの球体に三本の手足がついたロボットに襲われている瞬間だった。

「ッ!?」

「え?ちょ、きゃぁぁああ!?」

すぐさまクライムが動き、ラムでシンフォギアを纏おうとしていたマリアを抱いてその穴の壁を一気に駆け降りる。

そのまま片手でナイフを投擲、二体の内一体を仕留め、そのまま落下の勢いを利用してもう一体を叩き斬る。

「え・・・!?」

「うう・・・ちょっと!降りるなら降りるって言ってよ!」

「その時間があったらな・・・ん?」

マリアの抗議に応えつつもクライムが顔を挙げた先にいたのは―――なんと三体の恐竜。

「きょ、恐竜さん!?」

「いや、無人機だ!」

それは、高さが大人より頭一個分大きな二足歩行型の無人機。

「マリア、子供を!」

「ええ!」

マリアを下ろし、クライムは三体の無人機に刃を向ける。

「貴方、大丈夫?」

「・・・《すごい》」

「え?」

一瞬、少年が何を言ったのか分からなかった。

「《仮面ライダーだ!すごい!仮面ライダー!》」

「あ、ちょ!に、逃げるわよ!」

だが、すぐにマリアは理解する。この少年が使っている言語は―――英語だ。

しばらく日本暮らしが長くてド忘れしていた。

とにかくマリアは少年を担いで物陰に隠れる。

その間にクライムは三体の恐竜型無人機と戦闘を繰り広げる。

胸、というか腹あたりに先ほどぶった切った小型無人機が取り付けられており、おそらくそれがその無人機をコントロールしているのだろう。

ならば話は早い。

懐に潜り込み、まずは機動力を殺す為に足を攻撃する。

横薙ぎの一撃、だが、強硬な外装の他、中にある無数の金属繊維が織り込まれているためか、威力が分散、一度に断ち切れない。しかし、ダメージは通っている。

そのまま数回、斬撃を叩き込み、最初の一体が膝をついた所でクライムは自身の手に握られている雷切―――戦兎に改良されて強化された『デンショッカー雷切』の鍔部分にあるフルボトルスロットにスマホフルボトルを装填する。

 

『FULL ADJUSTMENT!』

 

そのまま鍔にある輪状の『ガードスピンスターター』を時計回りに回転させる。

 

『マワーセ!』

 

そして引き金である『デンショックトリガー』を引く。

 

『VOLT BLADE!』

 

そのまま無人機に向かって一気に突き刺し貫き、その内部に電流を流す。

規格外の電流を流されたことで内部の精密機械に異常をきたし、その無人機はそのまま沈黙する。

すぐさま引き抜いて次の敵へ向かう。

もう一体は背中に取り付けられた機銃をクライムに向かって放つ。

しかし、クライムはそれを走りながら叩き落し、スライディングでその股の下を潜り抜け、そのまま背後から背中に飛び乗る。

 

『マワーセ!マワーセ!』

 

二回、回転させて必殺技を発動。引き金を引いてため込んだエネルギーを開放し、強力な斬撃で腹に取り付けられた無人機ごとその無人機を一刀両断にする。

 

『MEGA VOLT BLADE!』

 

二体目の無人機を倒し、残るのはあと一体。

その無人機が、足のブレードを展開してクライムに襲い掛かる。

それに対してクライムはボルテックレバーを回し、再び必殺技を発動する。

 

『Ready go!』

 

突っ込んでくる無人機に対して、クライムは右手の剣を放つ。

その直後に迫る刃。その刃を、右足の裏で掴んだ雷切で弾き飛ばし、回転をかけてカウンターの一撃を叩き込む。

 

ウルフテックフィニッシュ!!!』

 

雷鳴一閃。とはいっても音は一切ならず、神速の一撃が無人機を一刀の元に両断され、破壊される。

そうして出来上がる、無人機の残骸たち。

デンショッカー雷切を背中の鞘に戻し、クライムは変身を解除してマリアたちの元へ向かう。

「無事か?」

「ええ。それとこの子も」

「《ありがとう》」

「む、英語?」

「ええ」

シンの疑問に、マリアは頷く。

ここから先は《》を払って英語で話し合っているものとする。

「俺、フィリピンから来たんだ」

「フィリピンなら母国語があるはずだが?」

「俺、英語を使う場所で育ったから、フィリピン語は喋れなくて・・・」

「そうなのか・・・」

「俺はシン。S.N・・・国際機関所属のエージェントだ。」

「私はマリア。彼と同じエージェントよ」

「俺はジョージ」

ふと気づくと、彼のうなじにや腕には点滴のチューブやらがついていた。

「お前はこんな所で何を?」

「それはこっちのセリフだよ。あんたこそ、こんな所で何をしてるんだ?仮面ライダーの秘密基地でもあるのか?」

「ふふ、敵の秘密基地ならあるかもね」

「もしかして・・・あの研究所(ラボ)?」

ジョージが、その言葉を発する。

「何か知っているのか?」

「俺、逃げてきたんだ!あ、こんなこと言っちゃっていいのかな・・・」

「大丈夫よ。私たちは貴方の味方よ」

マリアが、安心させるように言う。

「・・・まあ、あんたたちは良い人そうだ。あんた、仮面ライダーなんだろ?あんたら、あいつらを知ってるのか?」

「・・・おそらくな。それで、何があった?」

尋ねると、ジョージは一つ一つ語ってくれる。

「俺、ストリートキッズだったんだけど、マフィアみたいな奴にいい仕事があるって聞いたんだ。もちろん、怪しかったけど、腹も減ってたし・・・覚悟してついていったら港で船に乗せられた。他の連中と一緒にコンテナに詰め込まれて、妙な研究所に連れてこられたってわけさ」

日本の犯罪件数は他の国と比べて非常に少ない。おそらくその平和ボケしている所を付け込まれた、と考えるのが妥当か。

ただ、気になる所が一つ。

「他にも子供たちが?」

「うん・・・でも、俺、あいつらの話を立ち聞きしちまったんだ」

「どんな内容なの?」

「あいつら、俺たちを殺して臓器を取り出すって・・・」

「それで逃げ出した、か・・・」

それに、ジョージは頷く。

どうやら、人身売買という線は濃厚らしい。心なしか、マリアが下唇をぎりっと噛んでいた。

「あーあ、俺もあんたみたいな仮面ライダーだったら、警察やマフィアを恐れなくて済むのに」

「マフィアと殺り合う気か?」

そんなことを言い出すジョージに、シンは鋭く尋ねる。

「冗談だよ。俺、色々悪い事したけど、人殺しなんてするつもりはないしさ」

「それが良い」

シンは、切実そうにそう言い、マリアはそのシンを見上げる。

「まあとにかく、同じ部屋の連中と話をしようと思ったけど、フィリピンの奴らとは別の部屋にされちゃったし、他に英語が分かるやつはいないし、それで一人逃げたんだけど、あの無人機に追いかけられて・・・」

「今に至るというわけね」

マリアは、ジョージを自分の方へ向ける。

「その研究所(ラボ)のこと、もっと詳しく教えてくれないかしら?」

「う、うん・・・」

マリアの言葉に、ジョージは頷いた。

 

 

ジョージから聞き出したことは、まずジョージは排水溝から下水道に逃げ出したという事だった。

すぐ傍にシャッターがあり、おそらくそこから何かを投棄していたのだろう。

それともう一つ―――デイブレイク社の幹部が、その研究所を訪れていたらしい。

どうやら警備にサイボーグや無人機が使われているらしく、その彼らから話を聞いたらしい。

通信に応じた戦兎の話では、研究所内の端末にアクセスできればサーバーから警備サイボーグの視覚ログを漁れるらしい。

これで、敵の狙いが多少は分かるかもしれない。

ついで、証拠もかき集められて一石二鳥。

 

 

 

 

「あの子、一人にして大丈夫だったかしら?」

「緒川がすぐに駆け付けてくれるだろう。そんなことより問題なのは、急がないと子供たちの臓器が抜かれるという事だ」

「それもそうね」

警備していた無人機たちの目を掻い潜りつつ、マリアとシンは下水道を進んでいく。

「そもそも、このあたりってその手の業者さんが整備しに来るわよね?どうして今まで見つからなかったのかしら?」

「考えられるとすれば、最近出来たか、あるいは催眠術でなかったことにされたか、金を握らされたか」

「一番最後が有力そうね・・・」

「殺せば足がつく可能性があるからな」

セイレーンによって視界に映し出されるジョージとウルフからの情報を元に、作り上げられた地図を元に、シンとマリアは下水道を突き進んでいき、研究所らしい所に入ることに成功する。

「まさかホログラムで隠してあったなんて・・・セイレーンがなかったらきっとずっと道草を食い続ける事になってたわね・・・」

そんなことをぼやきつつ、彼らはさらに研究所内を突き進んでいく。

途中あったシャッターを開ければ、そこはどこかの工場のような場所に出る。

『そこは無人機のメンテナンスエリアのようですね』

セレナが通信を入れる。

『どこかに無人機に任務内容をインプットする端末があるはずです。それに接続すれば、ログをたどれるかと思います。ただ・・・』

「どうしたの?セレナ」

『踏み台が欲しいんだよ』

そう言ってきたのは藤尭。

「高いところならば登れる」

『ああ、そういう事じゃなくて、ハッキングの為だよ。ほら、世界中のネットを経由して逆探を遅らせるって感じの。そうだな、あの少年を襲っていた小型機あたりが良い。手順を教えるから、探してみてほしい』

「分かった。やってみよう」

藤尭から手順を聞きつつ、彼らは先を急ぐ。

その途中、彼らは、サイボーグと遭遇した。

セイレーンの索敵能力で壁越しに見つける事ができた為に、それほど難儀しなかったが、問題はサイボーグのいる位置。

 

明らかに邪魔。

 

「仕方ない。始末する」

「え・・・!」

雷切を抜き、シンは生身のまま飛び出す。

その走りに音は一切なく、まず目の前にいて背中を晒しているサイボーグを背後から羽交い絞め、その無防備の背中に刃を突き出す。

すると体内から白い液体が溢れ出し、そのサイボーグが倒れると同時に、地面にその白い液体が広がる。

続けて気付かれる前にもう一体も背後から一刺し、心臓当たりと思われる部分を貫き、何が起きたのか理解させる前に倒す。

続けて、三体目。流石に異常に気付いたようだが、人口とはいえ完全聖遺物である『雷切』の切れ味の前に、その鉄の体は意味をなさず、正面から心臓を一突きされる。

「な・・・かっ・・・!?」

何が起きたのか理解できず、そのサイボーグは地面に沈む。

そのあっさりとした様子に、マリアは茫然とその光景を見ており、そしてその足元に広がった白い液体から距離をとる。

「サイボーグ用の人工血液だ。義体にもよるが、一定時間ごとに透析を受けなければ自家中毒に陥るが、サイボーグの肉体との相性が良く、サイボーグにさせる際に、本来の血液と取り換える事が多い」

「そう・・・なの・・・」

その白い液体を見て、マリアは、すっと血の気が引くような気持ち悪さを覚える。

これは、いうなれば人間でいう所の血液に等しいもの。

それが、何かの粘液のようにどろどろと機械の体から流れ出ているのだから、生理的に受け付けないものがある。

生理的、であるならば――――

「辛いようなら引かせるが・・・」

「冗談言わないで・・・」

マリアは、恐怖を振り払うように口元を拭う。

「子供たちの救出が優先よ」

「分かった。なら先に急ぐぞ」

そう言って、シンは次の扉へ向かう。

その後を、マリアは追いかける。

電子ロックを外し、その扉を開ける。

次の部屋は明かりがついていないかのような部屋だ。

そこに恐る恐る、警戒を怠らずに入っていくマリアとシン。そして、背後の扉が閉まると、自動点滅式かのか、部屋に明かりがともる。

そして、中見えたのは―――無数の何かの装置。

「何・・・これ・・・?」

「・・・」

それに、シンたちは首を傾げるも、突如として装置の一部を覆っていた装置が動き出し、外された時、そこにあったのは―――眼球だった。

「ッ・・・!?」

それに、マリアは息を飲む。

そして、その無数の眼球が一斉にシンたちの方を見る。

「ひっ」

マリアは、小さく悲鳴を上げ一歩下がる。

多くの眼球がこちらを気味悪く凝視し、二人を見つめる。

「出るぞ」

これ以上は、マリアが耐えられないと踏んだシンは、その部屋から出る。

部屋を出て、そのすぐ隣の壁にマリアを寄りかからせる。

「大丈夫か?」

「え、ええ・・・」

あんなものは、見たことがない。

あれほど気味の悪い光景は、見たことなんてなかった。

「あれはサイボーグの脳ユニットだ」

「じゃあ、あれは・・・」

「子供たちから摘出したものだろう」

「ひどい・・・」

マリアは、小さな声でそう呟く。

酷く気が動転している。

当たり前だ。あんなものを見せられて、正気でいられるわけがない。

「マリア、やはり・・・」

「何度も言わせないで・・・私も行くわ」

マリアは、気丈に振舞う。

「子供たちを助け出すまで、リタイアなんて出来るもんですか・・・!」

マリアは、力強くそう言い、立ち上がる。

その様子に、シンは一抹の不安を感じながらも、マリアの意志を尊重することにした。

 

 

 

 

 

 

それから、シンとマリアはすぐ傍の例の三本腕の無人機をラムの意識で操作し、向かいの部屋に向かわせ、何人もいた警備サイボーグなどを素通りして命令端末へと動かした。

そして、その無人機にあるケーブルを使い、藤尭からのバックアップをもってハッキング、ログを盗み出す。

『見つかった。再生するけどいい?』

「やってくれ」

『それじゃ』

すると、シンとマリアの視界は突如として、別の人間の視界へと切り替わる。

それは、とあるサイボーグの視覚ログ。そのサイボーグが見た光景がそのまま記録される。

 

 

『早く製品を送れ。VR訓練はもう始まっている』

そこに映っているのは、ローブのサイボーグ、ケイドと白衣を着た中年の男。

『例の訓練プログラムですか?』

『ああ、数十年前の少年兵育成プログラムをな。VRと言っても、脳に直接情報を送っている訳だから、奴らにとっても現実と大差はない』

『素晴らしい技術ですな』

事実、VR訓練は命の危険がない。

肉体的恩恵は得られずとも、VR空間内で得た技術は確かな経験として現実に反映することも可能だ。

さらに、その経験を身体的に鍛える必要のないサイボーグに搭載することが出来れば、その戦力は一気に拡充する。

『追従は不要だ。そんなことよりも、早くここも放棄した方がいい。我々の計画をそろそろ奴らが嗅ぎ付けてくる頃合いだ』

『しかし、製品の数が揃っていません。人間の脳というのはどれも異なります。それを私がこの手で取り出して、一つ一つパッケージングするのですよ?』

そう言って、白衣の男は笑いを零す。

人をただの商売道具としか思っていない様子だ。

『なるほど、話は分かった』

そんな中で、彼らではない、もう一人の声が聞こえてきた。

―――リカルドだ。

『おわかりいただけましたか』

白衣の男が、リカルドの元へ歩み寄りそう言う。

『ああ、出荷が無理なら素材は処分しよう』

そこから飛び出したのは、とんでもない言葉だった。

素材を処分する―――それはつまり、取り出した臓器を全て捨てるという事。

あまりにも冒涜的過ぎる。

『え!?ですが、あれだけの素材を集めるのにもそれなりの時間が・・・』

その白衣の男の言葉に、リカルドはくっくと笑う。

『中南米にどれだけのストリートチルドレンがいると思っている?また集めればいいだけの話だ。各国政府も喜ぶだろう』

一体何の話か。

『人が操ることのできないノイズがいない今、驚異は消え去り、再び世界は混沌に陥る。その混沌の中で生き残るにはどうすればいいか。無論、力を持つことだ。サイボーグはその為の力だ。アルカノイズという制御可能な脅威に対して、サイボーグほど常人を超えた存在はいない。故に、犠牲なくして改革はない。全てはよりより社会の為だ』

『・・・分かりました。ですが、素材の調達にかかった経費は・・・』

『安心したまえ。すぐに資金を用意しよう』

『ありがとうございます。確認が取れ次第、素材は処分させていただきます』

まるで、なんでもないかのように言う白衣の男。

『要件は済んだな。そろそろ行こうか』

リカルドはケイドにそう言うと、再び歩き出す。

『本日はご足労、ありがとうございました』

 

 

 

 

 

「・・・何がより良い社会よ」

マリアが、怒りを滲ませた声でそう吐き捨てる。

「だが、これでデイブレイク社との関連性は取れたな」

立ち上がってマリアに手を差し伸べるシン。

「急ぐぞ」

「・・・ええ」

その手を取り、マリアも立ち上がり、そして、奥の部屋へと突撃する。

 

 

 

 

 

 

S.O.N.G潜水艦にて。

弦十郎は、緒川からの連絡を聞いていた。

「敵の狙いは、電気経路の調査だと?」

『はい。発電施設の破壊によって、電力総力が低下した現在、政府の拠点には、優先的に電力が供給されています。ここを辿ることにより・・・』

「表から見えない首都構造を探ることが、可能となるか・・・・」

『それともう一つ・・・』

「どうした?」

何やら端切れの悪い緒川の声に、弦十郎は尋ねる。

『先ほど連絡のあったジョージという子供ですが、向かわせた部下からの連絡だと、その少年はどこにもいなかったそうです』

「なんだとォ!?」

弦十郎は思わず声を挙げる。

「よく探したのか!?」

『無論、範囲を広げて調べさせるつもりですが、おそらくは・・・』

「敵に連れ戻された可能性が高いか・・・」

弦十郎は拳を握り締める。

(急いでくれ、シン君、マリア君・・・!)

 

 

 

 

 

 

 

 

奥の部屋にいたサイボーグや無人機を薙ぎ倒しながら、変身したクライムとマリアは、研究所を突き進む。

「これだけやらかしてバレていない訳ないものね、だったらやっちゃっていいでしょ!」

そんな訳でマリアも参戦し、思いのほかスムーズに進むことが出来ている。

その途中、どこかの倉庫のような場所に出てきた所で、どこからともなくミサイルが炸裂する。

物陰に隠れ、そこから部屋の奥を覗けば、そこには、車両型の無人機。

バリケードのような可動装甲、ミサイルポッドと一基の機関砲が備え付けられていた。

「あんなのありなの!?」

「ありだな」

機関砲が襲い掛かる。どうにか遮蔽物に隠れてやり過ごすも、次のエリアに移動するための壁は向こう側にある。

やるしかない。

「俺が前に出る。マリアは隙をついてレーザー砲を」

「分かったわ」

クライムが飛び出す。

それに気付いた無人機が機関砲を打ちまくる。

それをクライムは雷切で叩き斬りながら一気に接近、ミサイルすらも叩き斬って斬撃を加えようとするも、弾かれる。

「ぬっ!?」

可変装甲が思いのほか硬い。聖遺物であっても斬れないほどとは。

(どうなっている・・・!?)

それに驚きを隠せないクライムだが、その可動装甲が一度引かれたことを察し、すぐさま後ろに飛び退いてその可動装甲の打撃攻撃の範囲外から逃れる。

そこへ炸裂するのは、マリアのレーザー砲。

 

HORIZON†CANON

 

そのレーザー砲がその無人機に叩きつけられ、大きく後ろへ吹き飛ばす。

だが、

「え!?」

その無人機は耐えて見せた。

「嘘でしょ、シンフォギアの一撃を耐えるなんて・・・」

「どうやら、科学技術も相当進歩しているらしい」

聖遺物に劣らぬ、科学技術。

よもや、錬金術、異端技術に加え、驚異的な科学技術すらものにしているというのか。

だがしかしである。

先ほどのマリアの一撃を受けて、ダメージはあるようだ。

「壊せない訳ではないらしい」

「そうね」

マリアが左腕のギアから短剣を抜く。

それと同時に、無人機が変形。トーチカ状態から二足歩行状態へと変形。

そのまま、足のキャタピラと重心移動を使って、想像以上の速さでクライムたちを襲う。

可動装甲による挟み撃ち。それを左右に躱して、シンは弧を描くように接近。

二足の足を狙い、斬撃を迸らせる。

すれ違いざまに叩きつけた斬撃は、僅かに切れ込みを入れるのみ。

そのクライムに向かって無人機は追尾性のミサイルを乱射。

それをクライムは部屋内を駆け抜けながら躱す。

そこへマリアの飛び掛かり攻撃、短剣の一撃がミサイルポッドに突き刺さり、内部のミサイルの火薬や電気系統を切断、漏電した電気が火薬に引火し、小さいながらも爆発を引き起こす。

「いくら硬くても所詮は機械、もろい部分を突けば簡単に崩れる!」

だが、ミサイルを破壊されたぐらいでその機械は止まらない。

機械に痛覚はなく感情もない。あるのはただ、命令を実行するという行動原理のみ。

だからミサイルが破壊されたとしても、残った戦闘手段で戦うのは当たり前の事。

すぐさま機関銃をマリアに向かって装者する。

「リンクスアームズ!」

 

『Links Arms〔Legion Sword〕!』

 

展開される七つの短剣。そのうちの三本が三角形の頂点を組み、そのまま正三角形のバリアを作り出す。

それによって無人機の意識をこちらに釘付けにして――――

 

『MEGA VOLT SLASH!』

 

雷切からの神速の一撃が、無人機の両足を切り飛ばし、膝をつかせる。

そして、頭のカメラ付き可動装甲を蹴り飛ばし、回転させ、平衡感覚を一瞬でも奪うと同時に刀を構え『自由斬撃』へと移行。

それによって切れ味の増し、さらには斬撃精度も向上した状態で、無人機を滅多切りにする。

ある程度斬った所で飛び上がり、本体部分すらも斬撃。修復不可能なほどにまでバラバラにして破壊し、クライムは着地する。

「ふぅ・・・」

「お疲れ様」

一通りの戦闘が終わり、マリアが駆け寄ってくる。

「先を急ごう」

「ええ」

変身を解除し、二人は、再び走り出す―――

 

 

 

途中、何人かの警備を倒しつつ、二人は奥へと進む。

そして、その奥で見つけたのは、何かの冷却装置だった。

「これは・・・」

「何かの冷却装置・・・?」

『それは人工血液充填型の臓器保全装置(クライオ・プリザーバー)だ』

そこでウルフが連絡を入れる。

『予備冷却が始まっているようだ』

「どういう事だ?」

『その装置には冷却した人工血液が充填されている。冷却によって代謝を低下しつつ、人工血液で酸素を補給する。入れておけば腕だろうと脳だろうと数時間は維持できる』

「その予備冷却が始まっているということは?」

『分からないが、奴らは脳は諦めて他の臓器だけでも売りさばくつもりかもしれない』

「なんて奴らなの・・・!」

マリアが、怒りを込めた声を挙げる。

『急いだほうがいい』

「ああ、分かっている」

『それと、再びオートスコアラーが現れた。それによって一時的に本部との連絡は取れなくなるから注意しろ』

「オートスコアラーが!?」

『すでに他の装者たちが対処している。心配かもしれないが、その事はあちらに任せるしかないだろう。今はお前たちに出来る事をするんだ』

「・・・分かったわ」

マリアは渋々と言った具合で返事を返す。

そうして切れる通信。

「次に行こう」

「ええ」

シンの言葉にマリアは頷き、次の部屋へと移動する。

そこに―――子供たちはいた。

「「ッ!」」

二人は顔を見合わせ、すぐにそこへ向かう。

しかし、子供たちは分厚いガラスの向こう側、叩き割れない事はない。

だが、そこで何かの警報が鳴り響く。

「なんだ!?」

その警報に驚いている間に、子供たちのいる部屋に何かが流し込まれる。

何かのガスか何かか。異変に気付いた子供たちが匂いに鼻を塞いでいる。

その様子に、シンとマリアは何が起きているのか探ろうとするも、そこで別の誰かの声が響く。

「そこまでだ」

その声には、聞き覚えがあった。

振り返れば、そこには、サイボーグの視覚ログで見た、白衣の男と、そして、S.O.N.Gに保護されているはずのジョージが、そのこめかみに拳銃を突き付けられて入ってくる。

「ジョージ!」

「シン・・・マリア・・・」

ジョージが申し訳なさそうに二人の名を呼ぶ。

「クロロホルムを知ってるか?」

白衣の男が嫌な笑みで二人に問いかける。

「有機溶剤だが麻酔にも使える。ただ一つ欠陥があってな。吸い過ぎると死んじまうんだ」

「ッ!?」

ガラスの向こうの子供たちが苦しみだし、中には膝をついて倒れる者もいる。

このままでは、中の子供たちが死んでしまう。

「ッ!!」

それにシンはすぐさま背中の雷切を抜いてガラスを割ろうとする。

「ガラスを割るか?」

だが、そこで男の声が聞こえる。

「その時にはこいつの頭がぶっ飛ぶ」

そう言って、男はジョージのこめかみに押し付けている拳銃をぐりぐりと誇張して見せる。

「っ・・・」

それに、シンは柄から手を離す。

「投降しろ。それともお前たちは命を数で(はかり)にかけるのか?」

「この下衆が・・・!」

マリアはぎりっと歯を食いしばる。しかしその間にも子供たちは窓を叩き、必死に助けを求める。だが、その力も、だんだんと弱っていく。

だが、そんな中で―――ジョージが声を挙げる。

「シン・・・」

子供たちの姿に見入っていたシンは、すぐさまジョージの方を見る。

「俺のことは気にすんな!」

「黙れクソガキ!」

男がジョージに向けた拳銃をさらに強く押し付ける。

それに、ジョージは恐怖に喉を震わせ、黙る。

「降伏してもらおうか?」

ん?と男は尋ねてくる。

「時間がないぞ?」

嫌な笑顔で、男は勝ち誇ったかのように振舞う。

その様子に、マリアは何もできないやるせなさに下唇を噛む。

そんな中で、シンは―――

「・・・・ジョージ・・・いいのか?」

そう、ジョージに尋ねた。

「え、シン・・・?」

その言葉に、マリアは信じられないものでも見るかのようにシンを見た。

その問いかけに、ジョージは―――

「―――俺の命なんて・・・どうせクソだぜ・・・」

「待って、やめなさい!」

猛烈に嫌な予感を感じ取ったマリアは、思わず叫ぶ。

「こういうクズを道連れに出来るなら本望だッ!!」

しかし、マリアの制止もむなしく、ジョージは言い切る。

「黙れ!」

男は、焦った様子で腕の中で暴れるジョージを必死に抑えつける。

その最中で、その場にいる者たちは聞いた。

 

 

―――殺人鬼の、笑い声を。

 

 

「ククク・・・ハッハッハ!!」

笑い、シンは、背中の雷切を躊躇いもなく抜く。雷切の刀身を走る稲妻が、心なしか赤く迸っている。

「シン・・・?」

「・・・ジョージはああ言ってるぜ?」

今までに見たことないような表情に、マリアは言葉を失う。

そのままシンは、真っ直ぐ、恐怖を刻み付けるように、一歩、一歩、男に近付く。

「やめろ・・・馬鹿な真似はよせ・・・!」

近付いてくるシンに、男は狼狽えた様子で下がろうとする。

だが、ジョージの所為で上手く下がれない。

(だめ・・・お願い・・・やめて・・・!)

マリアは、シンを止めようとするも、今までに見たことがないシンの様子に、声を出すことが出来ないでいた。

男は、シンを脅すようにジョージに拳銃を押し当てるが、それでもシンは止まらず、その距離はどんどん縮まっていく。

そして次の瞬間―――ジョージが男の拳銃を持っている手を掴み、自分の頭から引き離す。

その瞬間、マリアの見る世界が、ゆっくりと、まるでビデオのスロー再生のように流れていく。

 

斬れ、と叫ぶジョージ。

 

駆け出すシン。

 

拳銃を引き戻そうとする男。

 

雷切を振り上げ、拳銃が、ジョージのこめかみに再び向けられる瞬間―――

 

 

 

 

閃光一閃―――一斬と紅が迸った。

 

 

 

 

 




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?」

敵の目的を見出し、二手に分かれて行動するS.O.N.G.一同。

「風鳴八紘邸・・・翼さんの生家です」

一方の翼は父八紘、そして自分の実家へ。

「野暮ね。親子水入らずを邪魔するつもりなんてなかったのに」

そこへ襲撃してくるオートスコアラーとデイブレイク社の刺客。

「―――甘いですよ」

その圧倒的な力を前に、彼らは――――

次回『リターン・オブ・風鳴』

「翼の剣が・・・砕かれてる・・・!?」





嗚呼、変身講座ぁ~


うむ、というわけで今回の変身講座は、この私、風鳴翼が勤めることとなった。
今から最高なシンフォギアの変身を披露してしんぜよう。
・・・む?何を笑っているのだ立花?なに?桐生の真似?
な、なにを言っているのだ!?べ、別に桐生を意識しているわけじゃごにょごにょ・・・
はっ!?いけないいけない。目的を見失う所だった。
うむ、ではさっそく実践していこう。
私のリンク・アニマル『天羽々斬ラビット』こと『アメ』は、一言で言えば青い兎だ。背中にフルボトルスロットがあり、ベルトに装填することを考えると、クローズドラゴンと同じ、横向きに入れるタイプだな。
さて、もう分かっているとは思うが、アメのスタンバイスターターは横側面だ。

『STANDBY!』

アニマル・ブレイズは青い巨大な兎だ。そうだな・・・桐生のラビットアーマーをイメージしてもらえると助かる。
さあ、今度は恰好だ。
まず、両腕を広げ、そして右手を手刀の形にし、真上へと上げ、それと同時に左手は拳にして腰に当てる。そして、真上へと上げた手刀を下ろして顔の前までもっていく。
とてもシンプルだろう?手刀の向きは掌を横へ向け、まるで真剣を眼前に構えるかのようにするのがコツだぞ。あ、桐生みたいなファイティングポーズでもいい。ほら、変身っていう時の。
む?だから何を笑って・・・だ、だから桐生を意識しているわけではない!この手刀で叩き斬るぞ!
・・・おほん、では、いざ参ろうか!

「―――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)――」

変身バンクはこのようにだ。

衣服がはだけた直後、大きくしゃがんで後ろにむかってムーンサルトジャンプ→いつもと同じ譜面の膜みたいなものを通り抜けてインナーを着装→そして着地と同時に今度は前方に向かって再び飛ぶ→それと同時にアニマルブレイズが五つのパーツに分解→レッグパーツを右回転の右逆回し蹴りで装着→続けて左足もその勢いのまま着装→そのまま落下、着地点の先に二台の小さな戦車→それの上に思いっきり飛び乗り、装着したアーマーがいつものギアに変形する→再び、今度は高く勢いよく、バネによって後ろに向かって飛び上がる→その勢いで右アーマーを装着→浮遊している足場に着地し再び跳躍→左アーマーを着装→そして地面に片膝で着地→左右から二台の戦車が飛び掛かり、それをそれぞれの手で受け止め、アーマーがギアへと変形する→一旦後ろへハンドスプリングした後、また跳躍→最後のボディアーマーへと飛翔、着装→同時に粒子となって各ギアパーツへと流れ光る→最後にヘッドギアが被さり、それが変形したヘッドギアへと変形→ヘッドギアが兎の形を模す→剣舞で締め。

と言った具合だ。
む?立花だけでなくなぜ皆も笑って・・・だ、だから桐生を意識してではない!丁度いい、今ギアを纏っている、少し切れ味をタメサセロ。
・・・と、まあ、これで私の変身講座は終わりだ。
次回は立花だ。是非楽しみにしてほしい。

では、また次回!


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リターン・オブ・風鳴

響(アズ)「てぇんさい物理学者の桐生戦兎は、地球外生命体エボルトとの決戦に勝ち、見事に新世界を創造することに成功いたしました。しかしその世界では特異災害ノイズによって人々の生活は脅かされていたのでした・・・さて、指揮官さまは一体どこに・・・」
戦「あ、アルバコア」
響(アズ)「ひぃやぁぁああぁあああああ!!!!」
戦「大分こいつらの扱いに慣れてきた・・・」
未「ご迷惑をおかけします・・・と言うわけで、ノイズの殲滅に成功をした仮面ライダーとシンフォギア装者は、新たな敵錬金術師との戦いに身を投じていたのでした」
ク「今はオートスコアラーを二体倒し、残るは二体」
翼「これからの戦いに、皆期待しててくれ」
マ「全く、いつものセレナのいたずらに振り回されて、もう散々だわ・・・」
セ(アズ)「申し訳ございません・・・」
戦「ていうかお前はいい加減元に戻れ。というか一体いつまでメイドの真似事しているつもりだ」
セ(アズ)「何を言いますか戦兎様。私は正真正銘のメイドでございます」
龍「いや確かに色々とすごいこと一人でこなしてるけどよ・・・」
調「このままじゃ時間がなくなる・・・」
切(アズ)「シンフォギア・ビルドGX編第十七話を見ろ」
慧「いつものバカさ加減がねえ・・・・」


―――棺が開く。

 

そこから現れたのは―――死んだはずのキャロル。

 

「お目覚めになりましたか」

そのキャロルに膝をつくファラとレイア。

そして、ファラとレイア、そして、天井から下がる垂れ幕と、それに刻まれた刻印を見て、キャロルは察する。

「そうか・・・ガリィとミカが・・・」

感慨深そうに、そう呟く。

「派手に散りました」

「これからいかがなされますか?」

レイアとファラの言葉に、キャロルはさも当然のように答える。

「言うまでもない。万象黙示録を完成させる」

その手をかざし、握り締めて見せる。

「この手で奇跡を皆殺すことこそ、数百年来の大願・・・!」

そして、その視界の見据える先―――自分と同じ記憶を保有する、何も知らない自分の分身の五感を通し、彼女の会話を聞き入れる。

 

『聞いた?調ちゃんと切歌ちゃん強いね。ほんとに強くなったと思う』

 

その彼女の名は―――立花響。

 

『そう思うでしょ?()()()()()()()()()も』

 

「ああ思うとも、故に、世界の終わりが加速する!」

その言葉の真意を、彼らはまだ、知らない――――

 

 

 

 

東京高速道路にて―――

マシンビルダーを走らせる戦兎。

その前を先行する黒塗りの車には、緒川、幻徳、未来、翼、そしてマリアが乗っていた。

そんな彼らの行き先は―――風鳴八紘邸。翼の生家であり、実家だ。

さて、何故彼らはそんな所へ向かっているのかと言うと、それはつい今朝のこと。

 

 

 

 

「計測結果、出します」

友里の言葉と共に、モニターに映し出されるのは、いくつかの点をラインで結んだ東京の地図だった。

「電力の優先供給地点になります」

「こんなにあんのかよ・・・」

「その中で、一際目立っているのが・・・・」

「深淵の竜宮・・・」

深淵の竜宮。

異端技術の中でも、取り分け危険の大きなものや未解析品を封印しておくための絶対禁区にして拠点中の拠点。

秘匿レベルの高さ故に、S.O.N.Gでもその情報はあまりにもない。

ただわかっているのは、響が起動させたサクリスト-D『デュランダル』が保管されているという事ぐらいだ。

「オートスコアラーがその位置を割り出していたとなると・・・」

「狙いはそこにある危険物ってわけか・・・」

「ってか、危険物って具体的にはどんなもんがあるんだよ?」

「そういうのは後回しだ万丈。問題なのは・・・」

「早い話が先回りして迎え撃つことだろ?簡単じゃねえか」

一海の言葉は確かに的を射ている。

「だが、襲撃予測地点はもう一つある」

弦十郎の言葉に、新たな座標が示される。

「ここって・・・!」

それに反応したのは翼だった。

「気になることがあったので、調査部で独自に動いてみました」

緒川が、話し出す。

「報告によると、事故や事件による、神社や祠の損壊が頻発してまして、いずれも明治政府の帝都構想で、霊的防衛機能を支えていた龍脈『レイライン』のコントロールを担っていた要所になります」

「するってーとあれか?なんか、その、要石的な何かが破壊されたとかそういう・・・」

「ま、敵の狙いは、そのレイラインに何かをするっていうことで間違いないだろうな」

戦兎の言葉に、翼は神妙な面持ちで呟く。

「風鳴の屋敷には要石がある・・・狙われるのも道理もあるというわけか・・・」

「だったらやることは一つだ」

「検査入院で響君、()()()()()でシン君が欠けているが、打って出る好機かもしれないな」

弦十郎が、エルフナインの方を見る。エルフナインは頷き、装者とライダーの方を見る。

「キャロルの怨念を、止めてください」

それに、彼らは頷くのだったが、その後で翼とマリアは、どこか浮かない顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それが今朝の事。

朝早くから、S.O.N.G本部を出発し、こうして緒川の先導の元、彼らは向かっている訳なのだが、車の中に乗るマリアは、窓の外の景色を眺めながら、つい先日の事を思い出した。

 

 

 

 

―――飛び散る鮮血。

 

 

 

「フゥー・・・・・」

振り抜いたまま、地面に落ちた()()()()を、シンは静かに見下ろしていた。

「ぁ・・・」

その光景を目の当たりにし、マリアは、その場に膝をつく。

血は飛び散り、その色白の体に飛びかかり、ただ一刀の元に両断し、その両断に使われた刀は、真紅に染められていた。

転がる、二つの死体―――そこから真っ赤な液体が広がっていく――――

 

「―――カーミラ」

 

突如として聞こえたその声に、二人は思わず顔を挙げる。

気付けば、そこに立っていたのは、紅蓮の髪を靡かせ、深紅のドレスに身を包んだ女性だった。

その女性を、彼らは知っていた。

「エリザ・・・!?」

「貴方・・・なんで・・・」

動揺する二人。そんな二人の事を無視して、エリザは、男の死体を蹴り飛ばす。

そして、床に広がる血に触れると、その血はまるで生きているかのように動き出し、空中で踊る。

そして、切断されたジョージの体を持ち上げ、その断面から血を循環させる。

「・・・ふう、これでひと先ずは、この子の安全が確保されたわ」

「何・・・?」

「カーミラは血を与える事で起動する聖遺物。その能力は私が触れた血を操り血に関する全ての事を行う事が可能―――とは言っても、流石にこの子の切断された体を治すのは細胞まで捧げないといけないから、今は生命維持がいっぱいいっぱいって所ね」

そう軽そうに言うエリザ。

その直後で、窓ガラスが割れる。

見れば、そこにはすでにアルフォンスがなんらかの方法で窓ガラスを文字通り粉々にしていた。

「私の錬金術の基本は理解・分解・再構築。それを分解で止めればほらこの通り」

そう言って、アルはマリアの方へ歩み寄り、手を差し伸べる。

「さ、立てる?」

「あ、ありがとう・・・」

アルフォンスの手を取り、ふらつきながらも立ち上がるマリア。

その様子のマリアに、エリザはため息を一つ、吐き出す。

「これでわかったでしょ?貴方とジャックじゃ、住む世界が違うって」

「ッ・・・!」

その言葉に、マリアは目を見開き、そして、辛そうに視線を逸らす。

「ジャックも、これで自分がいるべき場所がどこか分かったでしょ?」

「・・・」

そのエリザの問いかけに、シンは黙り込む。

その様子に、エリザはため息を吐き。

「今度、会う時には答えを聞かせて。この子供は私たちの方で責任をもって助けるから」

「・・・助けられるのか?」

「気は乗らないけど、この子をサイボーグにするわ。そうすれば、生き永らえさせることが出来る」

そう言い、エリザは手を動かし、血を操る。

エリザの支配下にある血が、シンの雷切に纏わりつき、その刀身についた血を拭い去っていく。

「それじゃあね。また、会いましょう」

茫然と突っ立つマリアとシンを他所に、エリザとアルフォンスはジョージを連れて去っていく。

その様子を、二人はただ、眺めている事しか出来なかった――――

 

 

 

 

 

 

結果として、子供たちは全員助かり、その研究所の責任者であった白衣の男は死亡した。

 

 

 

そして、その男を斬り殺したシンは――――ライダーの資格を一時剥奪され、しばらく独房での生活を強いられることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

シンのビルドドライバーは、S.O.N.G本部の戦兎の研究所に保管されている。

あれから、マリアはシンとは一度も顔を合わせていない。

調や切歌、慧介、セレナは会いに行っていたらしいが、正直、自分にはそんな資格は、否、勇気はなかった。

 

あんなシンを目の当たりにしてしまったのだから―――

 

ぎゅっと、下唇を噛む。

(怖い・・・)

マリアは、心の奥で、その言葉をつぶやいた。

そんな様子のマリアを、未来は心配そうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

そうして、辿り着いた風鳴八紘邸―――

「ここが?」

マリアの質問に、緒川は答える。

「風鳴八紘邸・・・翼さんの生家です」

「おっきい・・・」

「何度か邪魔をしたことはあるが、やはり、八紘の家は他とは違うな」

未来が率直な感想を述べ、幻徳はそう言葉を零す。

「ここが翼が生まれ育った家か」

「十年ぶり・・・まさか、こんな形で帰ることになるとは思わなかったな・・・」

翼は、感慨深そうに、そう呟く。

「はい・・・クリスさんたちも間もなく深淵の竜宮に到着するそうです」

「こちらも伏魔殿に飲み込まれないように気を付けたいものだ」

扉が開き、彼らは、風鳴の屋敷へと入っていく。

その芝生の一角には、仰々しく奉られている巨大な石が一つ。

「要石・・・」

「あれが・・・」

ふと、屋敷の方から着物を着た男が、二人の黒スーツの男たちを引き連れて現れる。

「翼さん・・・」

「お父様・・・」

その男こそが、翼の父であり、内閣情報官にして、氷室幻徳の懐刀『風鳴八紘』その人である。

「ご苦労だったな、慎次」

弦十郎とは違う、厳かな声音が響く。

体格は弟の弦十郎に遠く及ばずとも、その眼光は、やはり彼の兄だということを思い知らされる。

その男に慎次は一礼をする。

「貴方も、本日はご足労を」

八紘は幻徳を見てそう言う。

「気にするな。今回はこちらから来たわけだからな」

「それに、S.O.N.Gに編入された君の活躍も聞いている」

「あ、はい・・・」

「それと、君の活躍も。若いのによくやってくれた」

「あ、ありがとうございます・・・」

八紘は、慎次、幻徳、マリア、未来の順で視線を移していき、最後に戦兎を見る。

「・・・」

「・・・ん?」

真っ直ぐこちらを見据える八紘に、戦兎は首を傾げる他ない。

しばし戦兎を見た後、八紘は緒川の方を向く。

「・・・アーネンエルベの神秘学部門より、アルカノイズに関する報告書も届いている。あとで開示させよう」

「はい」

八紘は、それだけ言うと踵を返し、屋敷に戻っていく。

(こいつ、娘には何も言わないで・・・!?)

その行為に、戦兎は驚愕するほかなかった。

「お父様!」

その八紘に、翼は声を挙げる。

しかし、立ち止まった八紘を見て、翼は思わず口ごもる。

「・・・沙汰もなく、申し訳ありませんでした・・・」

そう、小さく謝る娘に対し、父親は、

「・・・お前がいなくとも、風鳴の家に揺るぎはない。務めを果たし次第、戦場(いくさば)に戻るといいだろう」

「おい!」

その父親のいいように、戦兎が喰ってかかる。

「お前翼の父親なんだろ!?なんだその言い草!」

「桐生、いいんだ・・・」

「いいや言わせてもらう!お前父親ならもっと他にいう事あるんじゃねえのか!?それなのに家の引き合いに出してそれでも―――」

「戦兎!」

翼の怒鳴り声が響く。

「翼・・・」

戦兎は思わず翼の方を見る。

「・・・いいんだ」

拳を震わせている様子に、戦兎はため息を吐く。

「はあ・・・分かったよ」

その会話を聞き届けたのか、八紘は屋敷に戻っていく。

その様子を、戦兎はジト目で見続け―――

 

突如として、緒川、幻徳と同時にホークガトリンガーで池の方を打つ。

 

鷹の弾丸、銃弾、蒸気の弾丸がその一点に集まり、何もない所で交差する。

すると強烈な突風が巻き起こり、そこから一人の女性が出現する。

それは、オートスコアラー『ファラ・スユーフ』。

「野暮ね。親子水入らずを邪魔するつもりなんてなかったのに」

「あの時のオートスコアラー!」

「性懲りもなく出てきやがって」

銃を持つ全員がファラへと銃口を向けている。

「ふふ、レイラインの解放、やらせて頂きますわ」

「やはり狙いは要石か!?」

「ええ、その通り・・・そんなことより、私ばかりに気を取られて大丈夫なんですか?」

「何・・・ッ!?」

ファラの言葉に、戦兎はすぐさまもう一丁の銃―――ドリルクラッシャー・ガンモードを引き抜き、要石、そのすぐ横に向かって銃撃。すると放たれた弾丸はその空中で何かとぶつかり、その何かを弾き飛ばす。

それは、黒い球体。

「外しましたか」

「お前は・・・」

塀の上に乗っているのは、一人の女性。

「久しぶりですね。桐生戦兎。今度こそ、貴方の命を頂戴しに来ました」

「やはりデイブレイク・・・!」

デイブレイク社のジーナ・スカベンジャー。

その彼女の言葉に戦兎はすぐさまビルドドライバーとハザードトリガーを取り出す。

死の舞踏(ダンスマカブル)・・・!」

ついで、ファラがアルカノイズをばら撒く。

「行くぞ幻さん」

「任せろ」

 

『マックスハザードオンッ!!』

 

Danger!』

 

ついで、装者三人が、それぞれのリンク・アニマルのスタンバイスターターを押す。

「ああ、付き合ってやるとも!」

 

『STANDBY!』

 

兎、狼、龍のアニマル・ブレイズが姿を現し、装者の周りを駆けて飛び回る。

 

ラビット(アンド)ラビット!!』

 

クロコダイル!!』

 

そして戦兎がビルドドライバーにフルフルラビットタンクフルボトルをラビットにセレクトした状態で装填、幻徳もクロコダイルクラックフルボトルをスクラッシュドライバーに装填する。

ボルテックレバーを回転、それと同時に、装者たちが聖詠を唄う。

 

「―――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)――」

 

「―――Seilien coffin airget-lamh tron(望み掴んだ力と誇り咲く笑顔)―――」

 

「―――Rei shen shou jing rei zizzl(鏡に映る、光も闇も何もかも)―――」

 

『Are You Ready?』

 

「「変身ッ!!」」

 

『オーバーフロウッ!!』

 

紅のスピーディージャンパーッ!!!

ラビットラビットッ!!!

『ヤベェーイッ!!!ハヤァーイッ!!!

 

『割れるゥ!喰われるゥ!!砕け散るゥッ!!!』

クロコダイル・イン・ロォーグ…ッ!!!』

『オゥラァァァア!!!キャァァァア!!!』

 

すぐさま変身を完了する装者と仮面ライダー。

 

「―――邪鬼の遠吠えの残音が月下に呻き狂う!」

 

翼の歌が戦場に鳴り響き、戦闘が繰り広げられる。

群がるアルカノイズを切り払い、飛び上がって叩き斬る翼。

続けてマリアが無数の短剣を展開し、それを一気に投げ飛ばし、すかさず蛇腹剣で周囲のノイズを薙ぎ払う。

そして、二人が撃ち漏らしたアルカノイズを、未来の光線で仕留める。

「ここは私が!」

「うむ、務めを果たせ」

八紘の言葉に、翼は少し俯く。

(務め、か・・・)

しかし、今はそんなことを考えている訳にはいかない。

再び歌を紡ぎ、襲い掛かるアルカノイズを斬り捨てる。

その一方、ビルドとローグはジーナと対峙していた。

ジーナの操る完全聖遺物『フラガラッハ』は一刀の刃と三個の球体で構成される武具。

そのどれもがジーナの思考によって自立稼働し浮遊し、そして砲弾の如き勢いで襲い掛かってくる。

その砲弾の連撃をビルドとローグは躱す。

そして、その最中でローグはネビュラスチームガンを放つ。

しかし、彼女の手元に残された鉄球がローグの弾丸からジーナを守る。

「チッ!」

性能が、思考に頼り切っているにしては精密過ぎる。

ビルドは、一刀と三球の違いをじっくり観察する。

鉄球はそれぞれ、ビルドとローグを追従、その最中で時々対象が変わったりして襲い掛かり、剣の方は自由に動き、様々な角度から斬撃を狙ってくる。最後の一つはジーナを守るように浮遊―――

剣の方が切っ先の向く先でどの方向に飛んでくるか予測は出来るが、鉄球はそういう目印的特徴というものはない。

だからいつ、どこで方向転換してくるかが分からない。

だが、そこで戦兎は気付く。

 

四つにわかれた、フラガラッハという完全聖遺物の特徴を。

 

そうと分かれば、戦兎は、すぐさまラビットラビットの機動性を生かして素早く駆け出す。

その手にはフルボトルバスターが握られており、フルボトルバスターの『クアッドフルボトルシリンダー』にベルトのフルフルボトルを装填する。

 

フルフルマッチでーすっ!!』

 

そして、その銃口『FBバスターキャノン』をジーナに向ける。

「ッ!」

それに気付いたジーナはすぐさま鉄球三つを自分の元に戻す。

 

ジーナの操る『フラガラッハ』の能力で完全操作されているのは剣のついた本体の球体のみ。

他の三つの球体は、決められた命令を実行しているような動きしかしていない。

即ち、ジーナが意識して操作しているのは、縦横無尽に飛びまわる剣のみであり、他三つの球体は、内二つを攻撃、残りの一つを防御に回して立ち回っているのだ。

途中、標的が変わるのは命令を切り替えて攻撃対象を変更しているに過ぎない。

であるならば、やれることはある。

 

すぐさまビルドは引き金を引く。

 

フルフルマッチブレイク!!!』

 

放たれる必殺の一撃。それが、ジーナに叩きつけられ、凄まじい衝撃波を巻き散らす。

そこでビルドはフルボトルバスターを投げ捨て、前に飛び出す。

そして次元伸縮バネ『ディメンションスプリンガー』によってほぼ無限に引き伸ばすことのできる『ホップホップガントレット』を後ろに向かって引き伸ばして、一気にジーナに突撃する。

そのまま戻る反動を利用して、ジーナに一撃を叩き込もうという魂胆だ。

案の定、ジーナにダメージはない。だが、球体を引き戻す為に操作を戻した為に、短剣の動きは鈍っている。

次のビルドの一撃は確実に決まるはずだ。

鉄球は先の一撃で弾かれて引き戻すことは出来ない。

であるならば、この一撃が刺さらない道理は―――

 

「―――甘いですよ」

 

ビルド渾身の一撃が―――受け止められる。

「―――は」

ビルドの拳は、ジーナの手袋に包まれた右手によって受け止められていた。

それが一体どういう事なのか理解する前に、ビルドの腕の外側に流れるように移動したジーナは、そのまま左手でビルドに拳打を叩きつける。

「がっ――――!?」

想定外の威力に、ビルドはぶっ飛ぶ。

「戦兎!?」

その光景に、ローグは信じられないと思ってしまう。

何故ならば、今のビルドの攻撃は、防御力を無視して相手にダメージを与える攻撃特性を有することを抜きにしても破壊力は抜群。そのビルドの攻撃を正面から迎え撃って、何故生身のその右手で無傷で受け止められるのか。そこが分からないからだ。

そして、なおかつ殴り飛ばすことが出来るのか。

考えられることとすれば、彼女は何か、武術を学んでいるのか。

「格闘戦は出来ないと思いましたか?残念、私の本来の戦闘スタイルはこちらです」

「格闘戦型か・・・!」

ローグが突っ込む。

鉄球がローグに襲い掛かるも、それをローグは避ける事はせず、その場で立ち止まり、その体で鉄球を受ける。

突き刺さった一撃は、ローグの装甲の前に弾き飛ばされる。

すぐさまローグは再び駆け出し、ジーナに格闘戦を挑む。

激しい拳の応酬。

ローグの拳は悉くかわされ、ジーナの拳はローグの装甲の前に阻まれる。

そのまま拮抗が続くかと思われた、その時だった。

すっとローグの胸の装甲に添えられる拳。

その次の瞬間、衝撃がローグの体を駆け抜ける。

「が―――ッ!?」

予想外の衝撃、まるでハンマーでも叩きつけられたかのような一撃に、ローグは思わず膝をつく。

「な・・・にが・・・!?」

「発勁というものをご存知ですか?至近距離で体内で発生させた運動量を叩きつけることを指します。中国武術では、これを『気』と呼び、至近距離、それも密着状態で放てば、ほぼ抵抗なしに相手の体に衝撃を伝播させ、体内から破壊することが出来る・・・貴方の自慢の装甲も、私の発勁の前には無力です」

「くそったれが・・・ぐはっ!?」

顔面を蹴飛ばされ、地面を転がるローグ。

「幻さん!」

ビルドが叫ぶ。しかしその時、ビルドの立つ地面に影が差す。

見上げれば、そこにはファラに向かって巨大な剣を叩きつけようとする翼の姿があった。

 

天ノ逆鱗

 

それを向けられたファラは、しかし余裕そうな表情でその場にたたずんでいる。

「ふふ、何かしら?」

そして、あろうことか、その手の剣で、翼の明らかにその剣よりも数百倍の質量はあろう剣を迎え撃った。

だが―――ひび割れたのは、翼の剣だった。

「何・・・!?」

巨大な剣が一気に風化していき、そして、再び激しい影が叩きつけられると同時に、天ノ逆鱗は跡形もなく砕け散る。

「翼の剣が・・・砕かれてる・・・!?」

その光景に、ビルドは驚きを隠せなかった。

そして巻き起こる突風に翼が吹き飛ばされ、中庭に落ちる。

「翼!?」

「翼さん!?」

その光景に、マリアと未来が声を挙げる。

「私の『ソードブレイカー』は、『剣』と定義されるものであれば、硬度も強度も関係なくかみ砕く、哲学兵装―――さあ、いかがいたしますか?」

剣を向けるファラ。一方の翼は、先ほどの一撃で気絶してしまっている。

「強化型シンフォギアでも敵わないのか・・・!」

緒川が悔しそうに声を挙げる。

「翼!」

「私の事もお忘れなく」

「ッ!?」

思わず翼の所へ駆け寄ろうとしたビルドに攻撃を仕掛けるジーナ。

ジーナの鋭い拳打をいなし、距離を取ろうとするビルドだが、ジーナの口角が吊り上がったかと思うと、左足、右肩、腹右側に鉄球が炸裂。激痛と共に、ビルドの体が一瞬、宙に舞う。

「しま―――ッ!?」

その隙を逃さず、ジーナの拳がビルドに突き刺さる。

「ぐぁぁぁあぁあ!?」

吹き飛ばされるビルドはそのまま地面を転がり、そのまま変身解除に追い込まれる。

「ぐっ・・・ぁ・・・・!?」

「戦兎・・・!」

戦兎の名を、ローグが呼ぶ。

「さあ、まずは貴方から排除しましょうか」

倒れ伏す戦兎に、ジーナがフラガラッハの刃を向ける。

「ハァァア!」

一方、マリアが短剣を飛ばしてファラを攻撃する。

「無駄よ」

しかしファラが振るう刃はその短剣を悉く破壊。そして巻き起こされた風はマリアに迫る。

「なっ―――うわあ!?」

マリアはその風を躱し、直撃を免れるも、風はマリアの背後にあった要石に直撃。

粉々に打ち砕く。

「要石が!」

「あら?アガートラームも剣と定義されてたかしら?」

アガートラームは『銀腕』。だが、彼女がファラに向かって放ったのは短『剣』。即ちファラの『ソードブレイカー』の効果範囲内――――

「哲学兵装・・・概念に干渉する、呪いに近いのか・・・!?」

自身の推測と、ラムの計測を見て、マリアは戦慄する。

「ふふ、ごめんなさい。貴方の歌には興味ないの」

ファラが風に巻かれる。

「剣ちゃんに伝えてくれる?目が覚めたら改めて貴方の歌を聞きに伺います、と―――」

その言葉を最後に、ファラはその場から消える。

「くっ・・・!」

その光景に、マリアは歯噛みする。

「ファラは撤退しましたか。なら、私も私の仕事を終わらせるとしましょうか」

「ぐ・・・くそ・・・!」

フラガラッハの刃が戦兎に向けられる。

しかし、その刃を、未来が弾く。

「させない!」

「神獣鏡!?」

思わぬ乱入者にジーナは距離をとる。

「邪魔するな!」

鉄球が未来に襲い掛かる。それを未来はミラーデバイスから光線を放ち、無数に反射させて狙い撃とうとするが、鉄球は光線全てを躱し、未来に襲い掛かる。

「ッ・・・!?」

突破されたことに、未来は息を飲む。

だが、そんな未来をローグが押しのける。

「きゃあ!?」

「ぬぐあ!?」

三発の鉄球がローグに叩きつけられる。

しかし、ローグの装甲の前には徹甲弾程度の威力しか持たない鉄球の一撃は効果はない。

「ローグ・・・!?」

ジーナが忌々し気に呟いた所で、その横から未来のものより明らかに強力な砲撃がジーナに襲い掛かる。

その砲撃を躱し、ジーナが見た先にいるのは、左腕のアームドギアを砲門へと変形させてこちらに向けて構えるマリアの姿があった。

「チッ・・・」

舌打つジーナ。そこへ、今度はなぜか未来が広げた鉄扇の鏡からの光。

一体何の意図があるのかと疑問に思っていると、今度は緒川からの銃声。放たれた弾丸は、未来が鏡を光らせる事によって出来た影に突き刺さる。

忍法『影縫い』だ。

これによってジーナの動きは止められる。

「くっ・・・!」

「長官!」

緒川がローグに向かって叫ぶ。

「任せろ!」

ローグがアクティベイトレンチを叩き落す。

 

クラックアップフィニッシュ…ッ!!!』

 

それと同時にローグの右足にエネルギーが収束、飛び上がったローグはそのままジーナに向かって一気に飛び蹴りを喰らわせようとする。

「ッ!」

それに対して、ジーナは鉄球を操作。影に突き刺さった銃弾を地面ごと抉り出し、影縫いの束縛から逃れる。

それによってジーナは動き、ローグの必殺技を躱す。

そのまま塀の上に登る。

「流石にこの数を相手にするのは分が悪い・・・」

マリア、未来、ローグ、緒川―――

四対一ともなると、数的不利は否めない。

「いいでしょう。ここは引きます。ですが、私はもう一度、あなた達を襲撃するでしょう」

それだけを言い残し、ジーナは姿を消す。

そして、その直後に、雨が降り始める。

「負けた・・・のか・・・」

翼を抱き抱え、戦兎は、そう呟いた――――

 

 

 

 

 

『要石の防衛に失敗しました』

S.O.N.G本部にて、弦十郎は緒川からの連絡を受けていた。

『申し訳ありません』

「二点も同時に責められるとは・・・」

『二点?まさか・・・!』

弦十郎の言葉に、モニターの向こうの緒川は表情を強張らせる。

「ああ、深淵の竜宮にも不審者だ」

そして、緒川の予感を、弦十郎は肯定する。

映し出されるモニター。

そこに、二人の人影があった。

一人は、オートスコアラーの一人である『レイア・ダラーヒム』、そしてもう一人は―――敵の首領『キャロル・マールス・ディーンハイム』。

「キャロル・・・」

「どういう事だ・・・あの野郎はあの時死んだんじゃねえのか!?」

「閻魔様に土下座して蘇ったのか・・・!?」

龍我とクリスが、驚きに歯噛みする。

「スペアの体・・・」

そんな中で、セレナは呟く。

それに、注目を浴びるも、構わずセレナは続ける。

「あらかじめ記憶のバックアップを取っておいて、自身の死と同時に、もう一つの素体に記憶を転写・・・事実上の蘇生をしたというの・・・?」

「正確には、死の瞬間までの記憶を転送複写しています」

「自分の死の記憶か・・・」

エルフナインの言葉に、一海は感慨深そうにつぶやく。

「奴らの策に乗るのは小癪だが、見過ごすわけにもいくまい。一海君は、龍我君、慧介君、クリス君、切歌君、調君を連れて、一緒に行ってくれ」

「任せろ」

一海は頷き、そして彼らは―――深淵の竜宮へと入っていく―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風鳴邸―――その縁側にて、まだ雨の降る外を眺めていた。

そんな彼女に、未来が歩み寄ってくる。

「マリアさん」

「未来・・・」

「どうかしたんですか?」

その言葉に、マリアは、何も答えず俯く。

「・・・もしかして、シンさんの事ですか?」

「!・・・ええ」

その指摘にマリアは弾かれたように未来の方を見るが、しかしすぐに視線をそらして肯定する。

「・・・こんな雨の日だった。私がシンと深く関わるようになったのは」

「そうなんですか?」

「ああ。闇医者に預けていたセレナの様子を見に行ってたんだろうけど、途中で雨にあって、びしょ濡れで帰ってきた。その時、初めて私はシンと出会って、ココアを振舞ってやったんだっけ」

「シンさんがココアが好きなのは、マリアさんとの大切な思い出だから」

「そう・・・かもしれないな。きっと」

あの日以来、シンはココアを飲むようになった。ことあるごとに、ココアを飲んでいた。

その事は今でも、思い出せる。

シンが、まだ、優しかったころの記憶―――

「・・・分からないの」

マリアは、震える体で、告白する。

「シンのことが、分からないの・・・あんなに、あんなに優しかったシンが、あんな顔をして、子供ごと敵を斬ったなんて・・・思えば、フロンティア事変の時もそうだった。殺す必要はない。そんな連中に、シンは躊躇いもなくあの刃を振り下ろした・・・!!その時から気付くべきだった。シンの中の狂気を・・・その本性を・・・!」

自らを抱きしめ、マリアは、必死に恐怖に耐える。

「怖い・・・本当のシンが・・・本当のシンが、どんな存在なのかが分からないのが・・・怖い・・・怖いよ・・・マム・・・!」

恐怖に震えるマリア。

あの時の、シンの姿に、シンのあの表情に―――

 

 

殺戮を楽しむ―――殺人者の笑顔に―――

 

 

「・・・確かに、あの時のシンさんは怖かったですよ」

マリアが、恐怖に震える中で、ふとその耳に未来の声が響く。

そして未来は、でも、と続ける。

「シンさんが今まで私や、他の皆にしてくれたことは、紛れもない本物です」

勉強で分からないところがあって、それでシンに尋ねれば、シンは快く教えてくれた。

いつも響を迎えに来る自分の愚痴を黙って聞いてくれる。

訓練の時、翼との手合わせで、どこが悪いのかを的確に示してくれる。

切歌が何かをやらかせば、それに呆れながらも後始末を手伝う。

全部、全部シンが、自分の意志でやったことだ。

「その全てが、嘘な訳がない。シンさんには、確かに『優しさ』があるんです」

「シンの・・・優しさ・・・」

「はい。もしかしたらシンさんの本性は残虐な殺人鬼なのかもしれません。でも、その心には確かに『優しさ』があるはずなんです。だからマリアさん」

未来は、真っ直ぐにマリアを見て、そして微笑んで、言う。

「シンさんの『優しさ』を、信じてあげてください」

その言葉に、マリアは、すっと震えがなくなっていくような感覚を覚えた。

 

 

 

 

 

 

S.O.N.Gの独房にて―――

 

「・・・」

シンは、手錠をかけられた状態で、独房で静かにしていた――――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

ファラに敗北した翼。

(私では届かないのか・・・)

「あとで話がある」

その一方で八紘に呼び出される戦兎。

「・・・ある意味、逆鱗に触れたのかもしれませんね」

そして再び襲撃してくるオートスコアラー・ファラとデイブレイク社のジーナ。

「ふふ、私は歌が聞きたいだけ」

その決着の行方は――――


次回『翼と兎のライジングサルト・セカンド』

「私はもう一度―――夢を見てもいいのですか・・・!?」





ラスト!変身講座ァァア!!


はい!というわけで立花響です!
いやー冒頭で他の私(中の人)の性格と入れ替わってたみたいで・・・なんだろう、確か『ヤンデレ』って奴だったような・・・・まあいっか。
というわけで、今回の変身講座は私!師匠風鳴弦十郎の弟子にして、奏さんからガングニールを受け継ぎ、あ、今はマリアさんのか。それで現在はS.O.N.G.所属のシンフォギア装者をしている立花響が担当します!
というわけで早速、私のリンク・アニマルは『ガングニールフェニックス』。生真面目で私が寝坊したりしてるといつも起こしてくれるんだ。え?未来はどうしたのかって?もちろん、未来と一緒に起こしてくれてるよ?それがどうかしたの?・・・はあ?とりあえず続き続き・・・
それで、このガングニールフェニックスこと、ニクスは両手を広げた鳥のような恰好を正面にしたような感じ。フルボトルスロットはクロと同じ所だよ。
それで、ニクスのスタンバイスターターはもちろんクロと同じ!ただ違うのは体の向きかな?
というわけで、スタートオン!

『STANDBY』

それじゃあ今度は変身ポーズだね。
私の変身ポーズは、まず両拳を腰に当てる所から始まります!
そこから左手を突き出し、そのまま続けて手首で交差させるように右手を突き出し、そのまままわして顔の右斜め上あたりに交差点をもっていったあと、もう一度右手を腰に戻して思いっきり突き出します。そして、突き出した拳を時計回りに振り抜いて蹴りを二回やりながら回転。そのまま三点着地してから拳を突き上げる!
それで終わりだよ。
それじゃあ、今度は変身バンク行ってみよう!


突き上げた拳と同時に背後から不死鳥が飛び立つ→そのまま天高く上った所で翻って響に向かって落下→その炎を全身に受ける→その炎を演武で振り払い、ギアインナーを纏う→左手を上に振り上げるような動作で右手で正拳突き→炎が纏われ、続けて左手も突き出して炎を纏う→そしてどこぞのエースの如く拳を突き合わせてアームギアを装着→右足を少し前に出し、踵を一度上げて勢いよく落とす→その後、軽く飛び上がって勢いよく着地→それと同時に巻き起こる炎を足に纏う→右足を高く持ち上げとのまま地面に叩きつけ、ギアを装着→今度は片足立ちで左膝を突き出し、その状態で炎がギアの形を成す→腰のジェット機構を炎が形となることで装着→そのまま不死鳥を模したヘッドギアを着装→正面カメラで翼を模した炎を噴きださせ、それがマフラーへと変化→最後の演武をもって変身完了。


と言った感じです!
うん、我ながら良い出来!
あのライブの日から、奏さんがきっかけをくれて、それを私の力にして、そしてマリアさんから託された。
それがこのガングニール。
このガングニールをもって、戦兎先生と同じ、『愛と平和』を貫いてみせる!
そんな訳で、以上、立花響でした!


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翼と兎のライジングサルト・セカンド

麗人「天才物理学者の桐生戦兎は、宿敵エボルトを倒し、見事に新世界を創造してみせた。だがその世界には特異災害であるノイズが蔓延る世界であり、その世界で桐生戦兎は、そこで出会った風鳴翼を筆頭とするシンフォギア装者、再開した仮面ライダーたちと共に、戦いの日々に明け暮れていた・・・」
錬金術師「その最中で現れたのが世界を破壊することを目的とするキャロル・マールス・ディーンハイムとデイブレイク社。今現在、桐生戦兎、そして風鳴翼は、オートスコアラー・ファラとデイブレイク社のジーナとの戦いで敗北したのだった」
詐欺師「いつ見ても中国拳法ってすごいわよねぇ」
けん玉「まあそれでも聖遺物使わなければ、敵ではない訳だ。実際にノイズに対抗できるわけじゃないワケだからな」
俺様「ハッ、この俺の速さについてこれる奴は誰も」
武人「少し黙り給え」
俺様「ぐえ」
麗人「そんなわけで、今回もその戦いを刮目してみよ」
錬金術師「アズレンで長門が常備実装されたが資金が足りなくて泣いている作者(指揮官)であった」
けん玉「まあなにはともあれ――――」
慧「ソードアート・オンラインアリシゼーション!」
切「来週の七月十一日放送開始デース!」
キャ「ガンダムビルドダイバーズRe:RISEも放送再開だ。絶対に見ろ。ただしオレは連想するな」
戦「後輩ライダーであるゼロワンはすでに放送再開しているが見てくれよな!」
俺様「貴様らァ!今回は俺たちがあらすじ紹介するばn」
切「黙ってろ!」金色の千本桜
俺様「ぎゃぁあああ!?別作品の技使うなぁぁああ!!」
麗人「・・・そういうわけで、シンフォギア・ビルドGX編、第十八話をどうぞ」


―――目を開ける。

 

そこは、見慣れた天井―――とは少し違った。

ここはどこなのか、確認するために周囲を見渡せば、そこがどこなのか、おのずと伺い知れるもの。

ここは、風鳴邸の一室。そこに風鳴翼は寝かされていた。

起き上がり、翼は思い出す。

「そうか・・・私はファラを戦って・・・」

そして、敗北した。剣を砕かれた。

自分の剣は、奴の剣に敗北したのだ、と。

(身に余る夢を捨ててなお・・・)

世界で歌うという夢を諦め、再び戦場に舞い戻ってきた。

だというのに―――

(私では届かないのか・・・)

その時だった。

「翼、具合はどうだ?」

聞いてて安心する、男の声が聞こえた。

「・・・すまない。不覚を取った」

「それは俺も同じだ。悪いが、動けるならすぐに来てほしい。お前の親父さんが呼んでる」

「・・・分かった」

それにうなずき、翼は着替え始めた。

 

 

 

 

 

 

八紘の執務室にて。

八紘の座る机の上には、いくつものファイルが置かれていた。

「これは・・・?」

未来の言葉に、緒川が答える。

「アルカノイズの攻撃によって生じる赤い粒子を、アーネンエルベに調査依頼をしていました。これはその報告書になります」

「アーネンエルベ・・・」

「シンフォギアの開発に関わりの深い、独国(ドイツ)政府の研究機関・・・」

「報告によると、赤い物質は『プリマ・マテリア』、万能の溶媒『アルカへスト』によって分解還元された、物質の根源要素らしい」

「宇宙の基本物質『プリマ・マテリア』に、ありとあらゆるものを溶かす『アルカへスト』・・・どれも錬金術用語・・・」

「エルフナインの話だと、錬金術の基本は、理解、分解、再構築・・・あるいは分解、理解、再構築の順で統一されて行われる繰り返しのようなものだ。アルカノイズは、その工程を分解の部分で止めてるって所か・・・?」

「な、なんだか頭がこんがらがってきました・・・」

未来が頭を抱える。

「問題は、それを使ってキャロルは世界を分解した後に何を構築するか、だよな・・・」

疑問は増えるばかり。

一体どうすればいいのか。

「翼」

そんな中で、八紘は翼の名を呼ぶ。

それに翼は顔を上げる。

「はい・・・」

「傷の具合は?」

淡々と、短く尋ねる。

「!・・・はい、痛みは殺せます」

「ならばここを発ち、しかるべき施設にて、これらの情報の解析を進めるといい」

しかし、次に続いた言葉は、翼の期待を裏切るものだった。

「お前が守るべき要石は、もうないのだ」

ほんの少し、期待してしまった。

だが、やはり父親の言葉は、いつまでも自分に冷たかった。

「・・・分かりました」

「おい」

そこで突っかかるのは、やはり戦兎だった。父親との在り方を、誰よりも理解している、戦兎が。

「それを合理的って言うんだろうけどな。あんたの娘が傷ついてんだぞ?それなのになんだその言い草は・・・!」

「いいんだ桐生」

「でもよ・・・」

「・・・いいんだ」

八紘は何も言わず、翼は、静かに戦兎を止めた。

「・・・桐生戦兎君、と言ったね」

だが、そんな中で、八紘が口を開いた。

「あとで話がある。言いたい事があるなら、その時にでも」

「・・・・」

その発言は、翼どころか戦兎も驚いていた。

 

 

 

 

 

縁側にて。

「あれはなんだ!国家安全保障のスペシャリストかもしれないが、家族のつながりをないがしろにして!」

「いくら父親と言えども酷過ぎます!」

「すまない・・・だがあれが私たちの在り方なのだ」

憤慨しているマリアと未来に、そう謝る翼。

ちなみに幻徳は政府官邸からの定期連絡を受けていた。

そうして辿り着いたのは一つの部屋。

「ここは子供時分の私の部屋だ。話しの続きは中でしよう」

そう言い、翼が襖を開けると、途端にマリアが身構え、未来は驚く。

「敵襲!?また人形が!?」

「これは酷い・・・」

だが、ここで注意してほしいのは、マリアには事前情報がなくて、未来にはあったという事だ。

「あ、いや・・・その・・・」

「話しには聞いてましたけど、これはあまりにも酷過ぎませんか・・・?」

「うむ・・・全くもってその通りだ・・・」

「・・・え?何?私にもわかるように説明してくれないかしら?」

目の前には、まるで嵐が過ぎ去ったとしか思えないぐらいに散らかった部屋だった。

「だからって、十年間そのままにしておくなんて・・・」

まあ、翼の言い分は最もであった。

「子供の頃は、ここでお父様に流行歌を唄わせてもらった思い出があるのに・・・」

そう言いつつ、翼は部屋の片づけに入る。

「それにしても、この部屋は・・・」

「そういえば、八紘さん、なんで戦兎先生だけ部屋に残したんだろう?」

「そうだな・・・まさか、お父様の逆鱗に触れて・・・」

そう身震いする翼に、未来はふと、娘と父、そして娘が素知らぬ男を連れてきたというシチュエーションを想像する。

ちなみにマリアは施設暮らしだったためその手の事態は抜けていた。

「・・・ある意味、逆鱗に触れたのかもしれませんね」

「うう・・・これで桐生が切腹なんてことになったら」

「いえ、流石にそこまではしないでしょ?あれでも天才で世界の頭脳となれるレベルの男よ?」

「ふふ、そういう事じゃありませんよ」

焦る翼とマリアの様子に、未来は笑いを零す。

「だとしたら、なんだというのだ」

「なんだか、父親と娘のお婿さんのご挨拶みたいだなーって思いまして」

翼、しばしフリーズ。

「ああ、言われてみれば・・・うん?」

それを指摘されて、マリアはふと首を傾げて、一方の翼は、言葉の意味を理解して、一気にその顔を真っ赤にして――――

「わ、私と戦兎はそんな関係ではないぃ!」

そう、わちゃわちゃしたのだった。

 

 

 

 

 

普通、自身を嫌悪している相手を自分の目の前に座らせておくだろうか。

机を一つ挟んで、向かい合うソファに八紘を目の前に座る戦兎はそう思った。

ついでに言うと、この部屋には八紘と戦兎の二人しかいない。

彼のボディーガードは部屋の外で待機しており、幻徳も緒川もいないこの状況。

正直、胃が締め付けられる気分である。

しかもこの無言の時間があまりにも長すぎる。

(な、何から話せばいいんだ・・・)

先ほどはああ言ったが、いざ一人だけで対峙すると、何か風鳴家特有の威圧感というものが否めない。

八紘は目を伏せているわけだが、こちらとして相手の挙動に注視するために精神がごりごりと削れていっている。

どうすればいいのか。

そう、この状況をどうにかするために色々と考えていると、いきなり八紘が口を開いた。

「・・・君は、あれの・・・翼の事をどう思うかね」

「・・・・え」

一瞬、何を聞かれたのか分からなかったが、すぐさま翼の事だと理解し、何故どう思っているのかを尋ねられて、困惑する。

「・・・そうだな」

だが、八紘の真っ直ぐな目を見て、戦兎は、正直に答える事にした。

「片付けが出来ない、家事を緒川に押し付ける、絵の才能は子供レベルで、取り柄といえば、歌と剣術ぐらい。それにどこか硬い所があって、変な所で気負う所がある。正直見ててハラハラする」

「そうか・・・」

「だけど」

戦兎は、翼の歌を胸に思い描いて、言う。

「歌だけは、あいつは誰よりも真っ直ぐ取り組んでた。心の底から、世界に歌を届けるって夢を全力で追いかけてる。まあ、それもこれもアルカノイズやら錬金術師の登場で潰れかけてるわけだが・・・」

「そうか・・・」

「俺は、あいつの歌が好きだ。心の底から知らない誰かの為を思えるあいつの歌が好きだ。俺は、そんなあいつの歌を・・・夢を守りたいと思っている。それが俺の―――仮面ライダーとしての役目だ」

その戦兎の言葉を受けて、八紘は頷く。

「そうか・・・ならば、心配する必要はなかったようだ」

「心配・・・?」

何の事だろうか。先ほど娘にあのような言葉を投げかけておいて、一体何を心配するというのか―――

(・・・ん?なんだ、このパターンどっかで見たことあるぞ・・・?)

そう、あれは、一度エボルトを倒した時に――――

「・・・・・なあ、あんた」

「なんだ?」

「・・・・あんた結構不器用だろ?」

「・・・・」

そういわれて、八紘は何も言わずに視線をそらした。

それを見て、戦兎は思わず頭を抱える。

(そういう事かよ紛らわしいなァ!!)

と、心の中で叫んだ。

この、風鳴八紘という男はやはり風鳴翼の父親だ。

何故なら、彼女はかなり不器用なのだから。

「あんたよく誤解されるだろ・・・」

「それは・・・まあ・・・うむ・・・」

否定しようと思ってもしきれない。これはもう、確定だ。

(不器用過ぎて娘に勘違いされてるパターンじゃねえか・・・)

戦兎の中で、八紘に対する評価が百八十度変わった瞬間であった。

「なあ、そんな回りくどく遠回しに言わずとも、翼ならあんたの言葉をちゃんと受け止めると思うぞ」

「そうか?・・・うむ、そうなのか・・・」

不器用な所は、本当に似ていた。

 

 

 

 

 

「この部屋は昔からなの?」

翼の部屋にて、マリアがそう声をかける。

「私が、片付けられない女ってこと!?」

「そうじゃない、パパさんの事だ」

「パパさん・・・?」

マリアの不思議ないいように、未来は首を傾げる。

その一方で、翼は自虐するような笑みを浮かべる。

「・・・私のお爺様―――現当主の『風鳴訃堂(ふどう)』は、老齢の域に差し掛かると、後継ぎを考えるようになった。候補者は、嫡男である父八紘と、その弟の弦十郎叔父様・・・」

「弦十郎さんか・・・」

 

 

 

 

「だが、父に任命されたのは、私でも、弟の弦でもなく、生まれたばかりの翼だった」

「はあ?なんでだよ?」

棚の上に置かれた写真を見ながら、八紘はそう言い、戦兎は首を傾げる。

「というか、普通、息子たち差し置いて孫に家督譲ろうとするか?」

「・・・孫ではない」

「は?」

「翼は、本来は孫ではないのだ。私の、娘でもない―――」

「それってどういう・・・・」

訳が分からず、戦兎は首を傾げる。だが、その時、八紘の拳が心なしか握り締められている事に気付いた。

「・・・翼は―――」

「翼は・・・より風鳴の血を濃く残す為に、父が私の妻の腹より産ませた」

それを聞いて、戦兎は側頭部をハンマーでぶん殴られた感覚を覚えた。

「なん・・・だよ・・・それ・・・」

一瞬、理解が出来なかった。だが、それを理解した瞬間、戦兎の中で何かが煮えたぎり、そして、あっという間に臨界点を超えた。

「ふッ・・・っざけんなァ!!」

思わず机をぶん殴りそうになるが、どうにか叫ぶだけに留める。

「どんだけ最低なんだよその訃堂って奴は!?一体何考えてんだ!?」

エボルトと同等ぐらい―――もしかしたら、それ以上の鬼畜の所業に、戦兎は怒りを隠せなかった。

 

 

それは即ち、事実上―――翼は、八紘と弦十郎の妹という事になる。

 

 

「風鳴訃堂は、人の道を外れたか・・・・!」

「そんな、そんなのって・・・!」

ありえない事情に、マリアは腹が煮えくり返りそうになり、未来はあまりにも現実味の無い残酷な真実にただただ驚くほかなかった。

今でも思い出すのは、幼き日に父が自分にぶつけた、罵倒の数々。

「以来私は、お父様に少しでも受け入れてもらいたくて、この身を人ではなく、道具として、剣として研鑽してきたのだ」

だが、結果はあの惨敗。

「なのに、この体たらくでは・・・ますますもって鬼子と疎まれてしまうな・・・」

自虐するように、翼はそう言った。

 

 

 

 

 

八紘がその手に取るのは、小さな女の子を抱き上げる、着物の女性の姿だった。

それは、幼き日の翼と彼女の両親との写真だった。

「・・・故に私は、翼を風鳴の家から遠ざけようとしてきた」

「それがあの態度か・・・」

家から遠ざけたい父親とその父親に認められたい娘。

その二人の思考がどこまでもすれ違い続けて、結果としてあのような結果を生み出してしまったという事だろう。

「始めは確かに風鳴の血を恨んだ。翼にもキツい言葉をぶつけたものだ。だが、やはり鬼の血が流れていようと人の子だったらしい・・・」

戦兎が見る、八紘の写真は、どれも翼が映っている。

一、二枚ほど、家族写真として八紘と翼が映っていたりするが、他の写真には、弦十郎や緒川、そして彼女の母親と思われる女性が映っている写真だけ、彼女が心の底から笑っている写真はなかった。

おそらく、それが八紘がもつ、娘との思い出なのだ。

「翼の母親は」

「翼が五才の時に病魔に倒れた」

「・・・すみません」

「いい、気にするな。それに、私は少しだけ安心していたりするのだよ」

「え?それってどういう・・・」

戦兎の疑問に八紘は―――

「それは―――」

その時だった。

 

凄まじい轟音が聞こえたのは。

 

「ッ!?敵!?」

「行きなさい」

八紘の言葉に戦兎は頷き、すぐさま外に飛び出した。

 

 

 

風鳴邸の外、すっかり日の沈んだ空の元、中庭に飛び出した戦兎は、すぐさま屋敷の天井を見た。

そこにいたのは―――ファラ。

「あら、一番は貴方でしたか」

「オートスコアラー・・・要石は破壊した筈だろ。なのになぜまた来た!?」

「それを貴方が知る由はありませんわ。そんなことより、もう来てますわよ」

ファラの言葉に、戦兎はすぐさま横を見た。

するとそこから鉄球が襲い掛かってきており、戦兎はすぐさま横に飛んでどうにか躱す。

見上げれば、そこにあ鉄球を操るジーナの姿があった。

「桐生!」

そこへ翼たち、幻徳も到着する。

「要石を破壊した今、貴様に何の目的がある!?」

翼が尋ねるも、ファラはどこ吹く風で答える。

「ふふ、私は歌が聞きたいだけ」

どうやら、問答するだけ無駄なようだ。

「今度こそ、その命、頂戴させていただきます」

 

『マックスハザードオンッ!!』

 

Danger!』

 

『STANDBY…!』

 

スタンバイスターターを押し、アニマルブレイズを呼び出し、装者は聖詠を唄う。

戦兎と幻徳はドライバーを腰に巻き、それぞれのアイテムを装填する。

 

ラビット(アンド)ラビット!!』

 

クロコダイル!!』

 

ビルダーを展開し、炎を身に纏い、彼らは変身する。

 

「―――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)――」

 

「―――Seilien coffin airget-lamh tron(望み掴んだ力と誇り咲く笑顔)―――」

 

「―――Rei shen shou jing rei zizzl(鏡に映る、光も闇も何もかも)―――」

 

『Are You Ready?』

 

「「変身ッ!!」」

 

『オーバーフロウッ!!』

 

紅のスピーディージャンパーッ!!!

ラビットラビットッ!!!

『ヤベェーイッ!!!ハヤァーイッ!!!

 

『割れるゥ!喰われるゥ!!砕け散るゥッ!!!』

クロコダイル・イン・ロォーグ…ッ!!!』

『オゥラァァァア!!!キャァァァア!!!』

 

変身が始まり、五人は敵に向かって走り出す。

翼、ローグはファラを、ビルド、マリア、未来はジーナを迎撃する。

 

「真の強さとは何か?探し彷徨う!」

 

マリアの歌が響き渡り、飛び上がったローグがファラに攻撃を仕掛ける。

ネビュラスチームガンから放たれる弾丸、それをファラは飛び上がって躱し、それを彼らは追撃。

すかさずファラが突風を巻き起こし反撃。それを翼とローグは互いに押し合って左右に飛んで避ける。

 

一方、ジーナと対峙するビルドたちは、ビルドとマリアがジーナに接近、その彼らを迎撃するように鉄球が襲い掛かる。

しかしそこへ未来の聖遺物殺しの光が迫り、ジーナはやむを得ず鉄球での攻撃を断念。

そして短剣を自らの拳と連動させてマリアと戦兎を迎え撃つ。

高速で動く戦兎の攻撃を拳でいなし、マリアの短剣の一撃をフラガラッハで迎撃する。

そこへ襲い掛かる未来の光線。

それらをジーナは完璧にいなしている。

 

『ライフルモード!ファンキー!』

 

ローグがネビュラスチームガンにスチームガンを接続し、ネビュラスチームライフルへと

変形させた武器でファラに斬りかかる。

その最中でスチームブレードの『スチームチェンジバブル』を回転、電撃を纏うモードへと変更する。

 

『エレキスチーム…!』

 

それにファラはほくそ笑み、それを己の剣をもって迎撃。

二つの刃が激突する。

だが、突如としてネビュラスチームライフルの刀身にひびが入る。

「ッ!?」

それを見てローグはすぐさまブレード部分を分離、一気に距離をとる。

そのローグに向かってファラが突風を叩きつけて吹き飛ばす。

「ぬぐっ!?ライフルモードでもだめか・・・!」

ライフルモードとすることでソードブレイカーの効果範囲内から逃れようとしたが、『銃剣』の概念がある以上、それでもソードブレイカーの効果範囲内であるようだ。

「長官!・・・く、この身は『剣』・・・切り開くまで!」

自分を奮い立たせるように、翼はファラに斬りかかる。

「その身が『剣』であるなら、哲学で凌辱しましょう」

ファラが風を巻き起こす。

天羽々斬―――アメからの警告を無視して、その風に、翼は飲み込まれる。

「く・・・ぅう・・・」

その身の戦装束がひびわれ、砕かれていく。

「砕かれていく・・・剣と鍛えた、この身も・・・誇りも・・・!」

耐え切れず、翼は吹き飛ばされる。

「うわぁぁああああ!!」

「ッ!?翼さん!」

「危ない!」

マリアが叫び、未来は、自分に迫る鉄球に気付く。

「きゃ、あぁぁああ!?」

その直撃を喰らい、未来は吹き飛ばされ地面に倒れ伏す。

「しまっ―――」

「余所見をしている場合ですか!?」

すかさず、短剣でビルドを抑え込んだジーナがマリアの懐に潜り込み、マリアにラッシュを叩き込む。

「が、あ、く、か―――」

拳が何度もマリアの体に突き刺さり、最後の一撃がマリアの腹に突き刺さる。

「かはっ・・・!?」

「マリア、未来!」

「さあ、最後は貴方です」

鉄球と短剣が、ビルドに襲い掛かる。

「ぐ・・・く・・・」

そして、倒れ伏していた翼は、どうにか立ち上がろうとするも、勝機が見えず、その場で項垂れる。

「夢に敗れ・・・それでも縋った誇りを頼りに戦ってみたものの・・・どこまで無力なのだ・・・私は・・・!」

自身の体たらくを、これでもかと恨む翼。

勝てない戦い。ボロボロの体。砕かれた誇り(つるぎ)

後に自分に残ったものは、一体―――

「翼!」

そこで、聞きなれた声が聞こえた。

見れば、そこに立つのは、自らの父である、風鳴八紘―――

「お父様・・・?」

今にもくじけそうな翼に、八紘は叫ぶ。

「歌え翼!」

今、なんと言ったのか。

 

歌え。そう、言ってくれたのか。

 

しかし、それでも―――

「ですが私には、風鳴の道具にも、剣にも―――」

「ならなくていい!」

翼の言葉を遮り、八紘は言う。

「お父様・・・?」

一体何故、と翼は目で訴える。それに八紘は、言葉にして答える。

「夢を見続ける事を恐れるな」

「私の・・・夢・・・?」

「そうだ!」

そんな中で、マリアが叫ぶ。

「翼の部屋、十年間そのままなんかじゃない!散らかっていても、()()()()()()()!」

あの翼の、あまりにも散らかっていた部屋。

しかし、十年間放置されていたにしては、あまりにも、あるはずの埃も、ごみも、塵も、何もなかった。

「お前との思い出をなくさないよう、そのままに保たれていたのがあの部屋だ!」

「娘を嫌う、お父さんのすることなんかじゃない。ちゃんと、翼さんの事を想っていなきゃ、絶対にしません!」

未来が、続いて叫ぶ。

「いい加減に気付けバカ娘!」

その言葉に、翼の目には、涙が溜まっていた。

「まさか、お父様は・・・僅かでも私が夢を追いかけられるよう・・・風鳴の家より遠ざけてきた・・・?」

「でなきゃあんな態度取らねえよ!」

戦兎の叫びが、聞こえた。

見れば、いくつもの鉄球に打ちのめされても、果敢にジーナと戦い続ける戦兎の姿があった。

「全部、全部お前が自分の夢を追いかけられるようにするためのものだ!ほんっと不器用だよな八紘さんもお前も!不器用過ぎて逆にいらいらするわ!」

「こ、の・・・なんですか、この力は!?」

ビルドの拳が、ジーナを打ち据える。

「ぐあ!?」

「そうだ。愛し合ってこその家族だ!お前は、こんなにも父親に愛されてるんだ!その想いを貫き通してやるのが娘の意地って奴だろうがッ!!!」

ビルドが―――戦兎が叫ぶ。

「誰かの為に、歌う事を恐れてんじゃねえよ!」

「――――!」

その言葉が、翼の心にすっと入り込む。

「・・・それがお父様の望みならば・・・」

翼は、再び八紘の方を見る。

その瞳に、涙を目いっぱい溜めて。

「私はもう一度―――夢を見てもいいのですか・・・!?」

涙を流して、翼は問いかける。

その問いかけに、八紘は―――黙ってうなずいた。

 

もう、それだけで十分だ。

 

「ならば聞いてください!」

立ち上がり、翼は、己が限界を開放する。

 

「―――『イグナイトモジュール』、抜剣ッ!!」

 

ジーナの拳がビルドに襲い掛かる。

「さあて、そろそろ俺も本気でいくとするか!」

それをビルドは躱し、そして、再びハザードトリガーの『BLDハザードスイッチ』を押した。

 

『マックスハザードオンッ!!』

 

ベルトのフルフルラビットタンクフルボトルを抜く。

 

「―――さあ、実験を始めようか」

 

棒状に戻し、ビルドは再びフルフルラビットタンクボトルを振る。

足元から空に向かって、無数の数式が姿を現し、一気に流れていく。

 

―――ピョンピョン―――ドンドンドン

 

跳躍音から重厚音へ。セレクティングキャップを捻り、柄をタンクへと変更する。

 

タンク!』

 

タンクへと設定されたフルフルラビットタンクボトル半ばで折り、そのままビルドドライバーに装填する。

 

タンク(アンド)タンク!!』『Build UP!』

 

ビルドがボルテックレバーを回し、イグナイトモジュール起動の為のスイッチを翼は押す。

 

『ガタガタゴットンズッダンズダン!ガタガタゴットンズッダンズダン!』

 

宙へ投げ出されたマイクユニット、出現する七台の戦車。

翼の胸にそれが突き刺さり、ビルドの真紅の装甲は粒子となって消失。

そして、その身に、黒き装束、青き装甲が纏われる。

 

 

 

 

「「ビルドアップッ!!」」

 

 

叫び、二人は新たな姿へと変身する。

 

 

 

『オーバーフロウッ!!』

 

鋼鉄のブルーウォリアー!!!

 

タンクタンクッ!!!

 

『ヤベェーイッ!!!ツエェーイッ!!!』

 

天羽々斬・イグナイトとビルド・タンクタンクフォームが今ここに参上する。

 

「―――失われた思い出を取り戻そうとする度に見える本当の自分」

 

翼とビルドの反撃が始まる。

「味見させてもらいます」

剣を構えるファラに翼は飛び上がり、高所からのその黒刀を振り下ろす。

 

「軋んだ心の音が」

 

塀が砕け散り、翼はそのままファラを追撃する。

そして刃を振るい、閃光一閃、蒼き斬撃を飛ばす。

 

蒼ノ一閃

 

飛翔する刃、ファラに迫るも、ファラはいとも容易く逸らし防ぐ。

 

「響く身体中に響き渡って行く」

 

しかしそれでも翼は止まらない。止められない。

 

もう二度と、立ち止まらない。

 

 

そして、ビルドの方は、フルボトルバスターをもってジーナに攻撃を仕掛けていた。

振るわれる大剣、その一撃をジーナは硬化の刻印が施された手袋で受け止め衝撃を後ろに逃がしながら、ビルドと激しく打ち合う。

 

「今も―――」

 

(パワーが、桁違い・・・!?)

その力に、ジーナは戦慄する。

完全に逸らしたと思っても、その一撃は確かにジーナの腕に痺れとして残る。

そして、驚くべき点がもう一つ。

「はあッ!」

「ぐあ!?」

ジーナの発勁がビルドに突き刺さる。

だが、それを受けても、ビルドは一瞬よろけるも、引くことなく前に進み出る。

「なぜ・・・発勁を喰らって、何故立っていられる!?」

普通じゃ、ありえないのに、一体何故―――

(そう、この感覚・・・まるで、鉄塊そのものを殴っているような・・・)

「お前の発勁は、ようは体内の水分に攻撃を浸透させて内側から破壊するんだろ?だったらその攻撃の衝撃を浸透させないようにすればいい」

「ばかな・・・いくら外側が鎧で包まれていても、私の攻撃は全て鎧通し・・・防げる筈がない!」

「そうだな・・・でも、()()ならどうだ?」

「二重・・・?・・・っ!?」

言われて気付く。ビルドは、先ほどからジーナの攻撃を全てその身に鎧う、青い装甲で全て受け止めていた。

それは、ハザードフォームの上から着込む制御装置付きの第二の鎧。その鎧を挟んでしまえば、衝撃の浸透を主とするジーナの発勁は通らない。

そして何より―――青い装甲『タンクアーマー』は、全ての攻撃を遮断する。

ローグの液体状態からの硬化ではなく、初めからがっちりとした硬い鎧によって体を覆う事で、ありとあらゆる衝撃を遮断する。

それが、ビルド・タンクタンクフォーム。

 

防御・パワー特化の形態だ。

 

「おぉお!!」

肩の砲台が動き、ジーナの方を向く。

 

「時は―――」

 

そこから、砲弾が放たれ、ジーナを狙い撃つ。

「くっ!?」

それを頭を捻って躱すジーナ。そこへビルドの蹴りが迫り、それをどうにかして防ぐ。

距離をとった所でジーナはビルドを中心に反時計回りに駆け出す。

その速さは、人間の域を突破するほど速く、肉眼では捉えられない速さだ。

それにビルドは周囲を見渡すも、そこへ鉄球が襲い掛かる。

「ッ!?」

それをどうにかフルボトルバスターで弾き飛ばすも、その隙を狙ってジーナがビルドの頭を掴む。

「調子に乗らないでください」

「ッ!?」

そのまま浮かばせられ、一気に外へ投げ出される。

「ぐぉぉぉおお!?」

そのままジーナは宙を舞うビルドに向かって、拳を引き絞り、フラガラッハをその拳の前に置く。

そして、そのままビルドに向かって、弾丸のような速さで撃ち放つ。

それに対してビルドはフルボトルバスターにフルボトルを装填する。

 

「―――止められなぁいからぁ!」

 

ロケット!』『ジェット!』『マグネット!』『ヘリコプター!』

 

「目を背けるのはもうやめよう―――」

 

アルティメットマッチでーす!』

 

そのままバスターキャノンモードでその短剣を撃ち抜く。

放たれた砲弾。しかし短剣の方は、突如として起動を変え、一気にビルドを貫こうとする。

だが、砲弾とすれ違った瞬間、突如として短剣は切っ先をビルドに向けたまま砲弾の方へ飛んでいく。

そのまま砲弾と直撃、そのままジーナの元へ弾き戻される。

「チッ!」

「やぁぁああ!!」

「ッ!?」

そこへ未来が飛び込んでくる。

 

「―――Are you ready?」

 

その未来に対してジーナは拳を振るう。だが、未来は超低姿勢でジーナの射程外にまで接近すると、その体に帯を巻き付かせて振り回すと、そのまま一気にビルドの方へ投げ飛ばす。

「こいつッ!?」

「貴方の相手は戦兎先生です・・・!」

ジーナが投げ飛ばされていく。

その様子を、未来、ローグ、マリアは見届ける。

 

「―――Build UP!」

 

遠場で、凄まじい爆発音が鳴り響く。

「はぁぁあああ!!」

 

千ノ落涙

 

「Transform Ready go!」

 

降り注ぐ無数の剣。

「いくら出力を増した所で!」

しかし、それらすべてがファラの剣の前に無となり消える。

「その存在が『剣』である以上、私に傷を負わせることは毛ほども叶わない」

ファラがもう一本剣を作り出す。

しかし、その真上から、ビルドが飛び掛かる。

「おぉぉおお!!!」

 

「二つの力でぇ―――」

 

握っているのは、拳。超重量級戦車の一撃が、ファラに襲い掛かる。

「仮面ライダー・・・!」

その一撃をファラは躱し、すかさず翼は後ろを向いて走り出す。そして、そこへ現れた人物に対し、刃を振り下ろす。

 

「未来を作り変えてゆける!」

 

「風鳴翼・・・!?」

翼の刃を宙を舞う短剣で受け止めるのはジーナ。

「くっ、貴方の相手は私ではない!」

鉄球が翼を襲う。

「貴方は、邪魔です・・・!」

一方ファラの風がビルドを吹き飛ばす。しかしそれほどのダメージにはならずビルドは翼と背中合わせに敵と対峙する。

 

「だからもう一度!」

 

そして挟み込むように立ち回る、ファラとジーナ。

対峙する双方。

「・・・リンクスアームズ」

「「ッ!?」」

翼が、呟く。そしてその直後、疾風が迸る。

 

『Links Arms〔Sky Spring〕!』

 

「前を!向いて!立ち止まらずぅぅう!!」

 

特殊な性質をもったバネを全身に展開することで、驚異的な機動力、攻撃時のスピードを獲得する翼のリンクスアームズ『スカイスプリング』。

それによって、翼の機動力は、この場の誰よりも速く、迅い。

鋭い斬撃の嵐がジーナに襲い掛かる。

 

「さあ―――」

 

「くっ、ぅ・・・!?」

鉄球だけの防御だけでは追いつかず、ジーナ自らが防御行動をとらなければならないほど速い翼の斬撃。

 

「あの日見た夢の続きを、描こう―――!!」

 

その一方、ビルドはファラと距離をとってフルボトルバスターで砲撃を敢行。

「く、この・・・!」

ファラは忌々し気に反撃の突風を巻き起こすが、『剣』ではないビルドには、その攻撃は通用しない。

タンクの防御力にものを言わせて突風を耐え切り、ファラの方へ踏み込む。

そのままフルボトルバスターをバスターブレードモードでファラに叩きつける。

しかし、ファラにはありとあらゆる『剣』と定義されるものを破壊する哲学兵装『ソードブレイカー』がある。

ブレード、すなわち剣の状態で振るえば、フルボトルバスターは砕かれる。

だが、フルボトルバスターは砕かれない。

 

「Justhice in my heart―――ッ!」

 

「っ!?ありえない・・・!?」

弾き飛ばされたファラは、混乱を隠せない。

「角だ!」

「は・・・!?」

「角だ!」

ビルドの訳の分からない言い分に、ファラは思わず呆け、そしてフルボトルバスターにフルボトルが装填されている事に気付く。

そのフルボトルとは―――ユニコーン。

角の聖獣のフルボトルが装填されていた。

「ユニコーンフルボトルでこの剣を角と無理矢理定義することで、お前の哲学兵装を逃れさせてもらった!」

そのままビルドは引き金を引いて必殺技を発動する。

「哲学風情が、科学に勝てると思うな!」

ビルドの斬撃がファラに襲い掛かる。

 

その一方で、翼の斬撃は激しくジーナを追い立てていた。

(このままではやられる・・・!)

それを悟ったジーナは行動を起こす。

「はあっ!」

「ッ!?」

そして、突如としてフラガラッハの刃がジーナの方を向き、その身にその刃を突き立てた。

血が噴き出し、翼は一瞬、自害かと思ったが、違うと判断。

 

フラガラッハにはありとあらゆる鎖を立つと言われ、それが一種の哲学兵装となっている。

 

それによって、ジーナは自らに施した『封印』の鎖を断ち切り、秘められた力を開放する。

そして解放された力をもって、ジーナは翼に攻撃を仕掛ける。

「ッ!?」

叩きつけられる拳は今までに類を見ないほど速く、重い。

 

「たとえ―――どんな―――」

 

だが、今の翼が後れを取る道理などない。

高速で戦場を駆け抜ける両者。

「ハァァァアッ!!」

 

「闇の中でさえぇぇええ!!」

 

剣と拳が衝突する度に、凄まじい衝撃波があちらこちらで巻き散らされる。

肉眼ではもはや捉えることの出来ない、高速戦闘が繰り広げられている。

戦場で激しく打ち合う、四人の戦士。

 

「手を差し伸べると、そう――――」

 

フルフルマッチでーす!!』

 

ビルドが、フルボトルバスターにフルフルラビットタンクボトルを装填し、それをファラに向ける。

ジーナの拳を受けて、大きく後ろに飛ぶ翼。

ビルドに接近するファラ、翼を追撃するジーナ。

それぞれの一撃が、突き刺さる―――かに思われたその時。

 

「誓おう」

 

ビルドと翼が入れ替わるようにその体の向きを変えた。

 

「Are you ready?―――Build UP!」

 

「「ッ!?」」

それによってビルドはジーナと、翼はファラを対峙することになる。

「くっ、だが、その身が剣である以上は―――!!」

「愛と平和と抜かす愚か者風情が―――」

ファラが双剣を掲げ、ジーナが拳を引き絞る。

その最中で翼とビルドの脳裏に過るのは、あの八紘の言葉。

 

『夢を見る事を恐れるな!』

 

「―――剣に非ず!」

「―――愛と平和を舐めんじゃねえ!」

翼の両足の剣が変形し、鋭く、変形する。そのまま一気にファラに向かって突撃する。

その一方で、ビルドは引き金を引き、ジーナに向かって砲撃を叩き込む。

 

「このまま、Let's go on! best match!」

 

フルフルマッチブレイクッ!!!』

 

そのまま地面に手を付き、コマのように回転、ファラの剣を足のブレードをもって砕く。

砲撃が直撃するも、弾かれて、ビルドにジーナの激しいラッシュが叩き込まれる。その全てが発勁。

だが―――ビルドは倒れない。

「ありえない・・・哲学の牙が何故!?」

「馬鹿な・・・」

理解できない。理解できない。理解できない。

だが、そんな二人に、翼が叫ぶ。

「貴様はこれを剣と呼ぶのか―――戦兎をただ幼稚な妄言を喚く愚か者と蔑むのか―――」

否、断じて否!

 

―――Transfotm Ready go!二つの力で

 

「否ッ!!これは、夢に向かって羽撃くための『翼』!私に、もう一度飛ぶための翼をくれた男だ!」

自分に『翼』をくれた人は、四人。

戦う為の道具だとしても、人々を守る為の翼をくれた、櫻井了子。

 

未来は作り変えてゆける―――

 

人々に勇気と笑顔を届ける歌を唄うという翼をくれた、天羽奏。

 

だからもう一度―――

 

片翼を失った自分に、再び飛ぶための力と翼をくれた、桐生戦兎。

 

前を、向いて―――

 

そして、自分に、夢に羽撃くための『翼』という名をくれた、父の風鳴八紘。

 

立ち止まらず―――

 

 

そう、この身は『翼』。どこまでも遠く、夢に向かって羽撃くための『翼』だ。

 

 

さあ、あの日見た夢の続きを描こう――――!!

 

 

「貴様の哲学にッ!!貴様の拳にッ!!『翼』は折れず、その男の『信念』を砕けぬと心得ろぉぉぉぉおおおおぉぉおお!!!!」

絶叫が迸り、翼は羽撃く。

「―――嬉しい事言ってくれるじゃねえか」

ビルドが、ジーナの肩を掴む。

そして、開いた手でボルテックレバーを回す。

「ッ!?」

「そうだ。あいつは剣なんかじゃない。誰よりも、どこまでも飛んでいく翼をもった、世界最高の歌姫だッ!!」

ボルテックレバーを回し終え、ビルドはジーナの両肩をしっかりとつかむ。

 

『Ready Goッ!!!』

 

飛び上がった翼の剣が炎の翼へと変わる。

ビルドの両肩の砲門が、一斉にジーナの方を向く。

 

『ハザードフィニッシュッ!!!』

 

そのまま翼は後転に高速回転、巨大な炎の風車となりて、一気にファラに突っ込んでいく。

ビルドの肩の砲門にエネルギーが充填されていくのを見たジーナはすぐさま三つの鉄球と短剣でビルドを滅多打ちにする。

「ッ!?何故、何故、倒れない・・・貫けない!?フラガラッハには、『鎧壊し』の哲学兵装があるのに・・・!?」

フラガラッハの伝承には『鎧で止める事は不可能』という伝承がある。

それが本当であるならば、今ビルドはフラガラッハの短剣に貫かれているはずなのだ。

だというのに、フラガラッハの刃は、ビルドの装甲の前に防がれていた。

それは、何故か―――

「俺の、この力は―――」

拳も使って、ビルドの攻撃から逃れようとするジーナに、ビルドは言い切って見せる。

「―――愛と平和の為の、『盾』だ!」

「ッ!?」

「俺はどこにもお前を逃がしはしない…ッ!!!」

人々を守るための盾―――誰かの為に傷つく勇気を奮う、桐生戦兎の矛にして、盾。それが、『ビルド』。

 

「勝利の法則は決まった!!」

 

次の瞬間、翼の翼撃(よくげき)が、ビルドの砲撃が炸裂する。

 

 

「―――Justice in my heart(正義は我が心にあり)!!!」

 

 

 

タンクタンクフィニッシュッ!!!』

 

 

羅刹 零ノ型

 

 

 

その最中、翼にぶった切られたファラは、気持ち悪いぐらいの高笑いをかましていた――――

 

 




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「だたっぴろいデス・・・」

翼たちがファラたちを迎撃している一方、深淵の竜宮に侵入したクリス一向。

「マスター、排除します」

そこで遭遇するキャロルとレイア。

「これ以上テメェの好きにはさせねえ・・・!」

激突する両者。

「遅れてすまない」

そこへ現れたデイブレイク社の刺客によって、戦いはさらに激しさを増していき―――

「久方ぶりの聖遺物ゥ・・・」

そしてあの男が再び姿を現す。

次回『史上最低の英雄』

「僕こそが真実の人ぉ・・・!!」



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史上最低の英雄

八「天才物理学者にして仮面ライダービルドこと桐生戦兎は、地球外攻め遺体エボルトとの戦いに勝利し、見事新世界を創造した。しかし、その世界は特異災害ノイズの脅威に晒されている世界であった。そこで出会ったシンフォギア装者たちと再会した仮面ライダー、さらに新たな仮面ライダーと共に、ノイズの殲滅に成功した彼らだったが、そこへ錬金術師キャロルと、世界の破壊を目論むデイブレイク社の襲撃に会い、今現在、その反撃に出ていたのであった」
弦「今回は八紘兄貴が担当なのか」
戦「どんどん俺の主役としての立場が・・・」
八「なに、君は本編で重役として十分に働いてくれているではないか」
戦「いやいやいやいやこのあらすじ紹介も本編でのことも全部主役である俺が担わないといけないんすよ!」
八「それに、君には翼の」
翼「お父様!」
八「おっと娘が来たようだ。では私はこれで」
戦「あ、いっちまった・・・結局何が言いたかったんd」
翼「悪・即・斬ッ!!」
戦「ナズェダ!?」
弦「・・・・アンケートの結果、この小説オリジナル章『オリジン・ザ・天羽々斬』公開決定!というわけでシンフォギア・ビルドGX編第十九話をどうぞ!」



翼がファラを撃破する数分前―――

 

 

 

小型潜水艇を利用して、『深淵の竜宮』に入った龍我、一海、慧介、クリス、切歌、調の六人。

「だたっぴろいデス・・・」

「こんな所があったなんてな・・・」

「ピクニックに来てるんじゃないんだ。さっさと行くぞ」

「ん?おう」

クリスの言葉に、一同は走り出す。その最中で、リンク・アニマルたちも、こぞって声を挙げる。

 

 

「施設、構造データ、取得しました」

「侵入者の捜索急げ!」

一方、本部潜水艦にて、敵の狙いを探るべく、S.O.N.G職員たちが総力をもって情報をかき集めていた。

その最中で、エルフナインがキャロルの狙いを予測する。

「キャロルの狙いは、世界の破壊・・・ここに納められた聖遺物、もしくはそれに類する危険物を手に入れようとしているのは間違いありません」

果たしてそれは一体何なのか。

 

 

 

 

「なんなんだ一体?」

「いやそれを俺たちに聞かれてもわからねえって」

龍我の言葉に一海はそう返す。

「龍我さんの馬鹿さ加減は相変わらずデスなー」

「それ、切ちゃんが言えたこと?」

「敵の目的が一体なんなのか知らねえが、アタシらのやることは変わらねえ」

走り続けて、クリスは何か、自らを言い聞かせるようにつぶやく。

「・・・そうだ、アタシがやんなきゃいけないんだ・・・」

「・・・」

そのクリスの様子を、龍我は注意深く見ていた。

 

 

 

 

そして、走り続けて数刻後。

『敵の狙いが分かったぞ!』

AR無線機『セイレーン』から聞こえてくる弦十郎の声に、一同は足を止める。

『敵の狙いは『ヤントラ・サルヴァスパ』。全ての機械を起動、制御することの出来る聖遺物です!』

「やんとりゃさるーばいぱー?なんだそりゃ?」

龍我のボケに、一同が一斉にズッコケる。

「~!龍我ぁ!」

「こういう時に変なボケかましてんじゃねえよ!」

「というかどうやったらそんな聞き間違いするんですか・・・!?」

「え?やんとれあさるべーじじゃないんデスか?」

「切歌・・・ややこしくなるから黙ろうか」

「デス!?」

気を取り直して。

『今からヤントラ・サルヴァスパのある区画に誘導する!すぐに急行してくれ!』

「「「了解!」」」

シンフォギア、仮面ライダーへと変身して、彼らは一気に敵の狙う区画へと向かう。

「それで、ヤントラ・サルヴァスパっていうのは、確か、ありとあらゆる機械を動かすことの出来る聖遺物なんだっけか!?」

『はい。ありとあらゆる機械を起動・制御を可能とする情報集積体』

「この馬鹿にわかりやすくいうと!?」

「おい!」

『そうですね・・・』

「無視すんな!?」

『ライダーシステムを機能停止させたり、または逆に操ることを可能とするスケルトンキーのようなものです』

「そりゃあすぐにでも阻止しねえとやべえな」

「急ぐぞ!」

そうしてシンフォギアとライダーの走力をもって、彼らはキャロルと対峙する。

そのキャロルの右手には、既に何かの板、ヤントラ・サルヴァスパが握られていた。

「キャロル!」

「これ以上テメェの好きにはさせねえ・・・!」

対峙する両者。

「マスター、排除します」

「任せた」

同伴していたレイアが、装者と仮面ライダーたちの前に立つ。

「行くぞ!」

クローズイチイバルがブラストモービル・ブラストシューターを手にそう叫ぶ。

その直後にレイアはアルカノイズを散布、無数のアルカノイズが出現する。

「てぇやぁぁぁあぁああ!!」

すかさずクリスが小型ミサイルをキャロルに向かってダイレクトにぶっ放す。

そのミサイル群を、キャロルはバリアをもって全て逸らす。逸らされたミサイルはキャロルの背後で壁に炸裂する。

グリスはレイアと対峙、レイアの放つコインを二丁のツインブレイカーで防ぎながら距離をとって戦うレイアを追いかけまわす。

「待てゴラァ!」

「地味に無理な相談だ」

その間に、タスク、調、切歌はアルカノイズを殲滅しにかかる。

その最中で禁月輪で戦場を駆けまわった直後で調が百輪廻でキャロルを強襲。

それすらもキャロルは結界をもって防ぐも、その時、キャロルを強烈な脱力感が襲う。

(こんな時に・・・!?)

それは、復活する際に記憶の定着がまだ不完全であり、馴染んていない事によっておこる、体の拒絶反応。それによって、体の動きが鈍くなる。

それによって結界が乱れ消失、そのキャロルに向かって、百輪廻の嵐が殺到する。

「ッ!?」

そのうちの一つが、キャロルの右手のヤントラ・サルヴァスパに迫る―――が、突如としてその百輪廻の丸鋸がまとめて引っ掴まれる。

「「「ッ!?」」」

それに目を見張ったのは、何もライダー・装者たちだけではない。

キャロルとレイアも同様だ。

キャロルに背を向け立つ男、弦十郎に負けず劣らずの体格を有するその男は、白い武士装束に身を包み、その手の丸鋸を投げ捨てた。

目はバンダナで隠し、その口元は不敵に笑っている。

「遅れてすまない。デイブレイク社『ニトロ・バルドン』、ただ今参上した!」

その男は、そう名乗りをあげる。

「デイブレイク社か・・・」

キャロルは、その男を見上げる。

「今更何人来ようが―――!」

クリスがすかさずガトリングガンを掃射する。

しかし、それを見た男―――ニトロは避けようとせず、防御もせず正面からクリスの掃射を受ける。

 

直後、クリスに向かって何かが飛んでくる。

 

「なッ!?」

「あぶねえ!」

間一髪、クローズがクリスを横から掻っ攫ってどうにかその何かを躱す。

「大丈夫か!?」

「あ、ああ・・・なんだったんだ一体・・・」

見れば、壁には無数の銃創が出来ていた。

「フハハハハ!無駄だ。この俺にはお前たちの攻撃は一切効かん!」

「それはどうデスか!」

すかさず切歌が二対の鎌を重ね合わせて巨大な鎌へと変形させ、ニトロに斬りかかる。

 

対鎌・螺Pぅn痛ェる

 

その一撃がニトロに炸裂する―――が、次の瞬間、凄まじい衝撃が切歌の腹を突き抜ける。

「ご・・ぼぇ・・・!?」

想像以上の衝撃に、切歌は一瞬意識を飛ばし、吹き飛ばされる。

「切ちゃん!?」

床に落ちる切歌。

その切歌に、ノイズを切り払いながら調が駆け寄る。

「切ちゃん、しっかりして!切ちゃん、切ちゃん!」

「―――ッ!」

それを見たクリスは、頭に血が昇るような感覚を感じて、すぐさま無数の武装を展開しようとする。

「てめっ―――」

「クリスさん待って!」

それを止めたのはタスク。クリスに声をかける事によって攻撃を中止させたタスクはそのままニトロとキャロルに向かって突っ走る。

「派手にさせるか!」

すかさずレイアがコインを弾いてタスクを攻撃。

それをタスクは巧みに躱し、そのまま一気にニトロに接近する。

「来い!」

ニトロは嬉々として拳をタスクに振るおうとする。

しかし次の瞬間―――ニトロの拳は空ぶる。

「なっ!?」

既にタスクはそこにはいなかった。

そう、消えたのだ。

その場にいる者たち全ての視界から。

しかし、その場からいなくなったわけじゃない。

タスクはちゃんとそこに―――キャロルの背後にいた。

低姿勢で、まるで回り込んできたかのような態勢で。

(今必要なのは、キャロルにヤントラ・サルヴァスパを渡さない事、奪還が出来ないなら―――!!)

タスクの片手には、調がばら撒いた百輪廻の丸鋸。

それをタスクは鋭く投擲。その丸鋸を、キャロルは躱そうとするが、一枚が手に当たりヤントラ・サルヴァスパが宙を舞い、そして二枚目が、ヤントラ・サルヴァスパを両断する。

「ヤントラ・サルヴァスパが!?」

「ぬかった!」

すかさずニトロがタスクを攻撃。

「それを、待ってた!」

「なっ!?」

拳が襲い迫るも、タスクはその拳を絡まるように掴み、そのまま自身の体ごとニトロを投げ飛ばし、()()()()()()()()()()

「クリスさん!」

「ああ―――その隙は見逃さねえ!」

すかさず、ありとあらゆるミサイルをキャロルに向かって一気にぶちまける。

 

MEGA DETH QUARTET

 

「オラオラオラオラァ!!」

すかさずクローズも銃弾をぶちまける。

「地味に窮地っ!!」

すかさずレイアが迎撃態勢に入る。無数のコインが、飛来するミサイルを次々に撃ち落としていく。

「ふんっ!」

「がはっ!?」

その最中で、タスクがニトロに殴り飛ばされる。

「今行くぞ!」

「そうはいくかよ!」

すかさずグリスが飛び上がってアクティベイトレンチを叩き下ろす。

 

スクラップフィニッシュッ!!!』

 

「ッ!?ダメだ一海さん!」

それに対して、タスクは思わず叫ぶ。

しかし、グリスは止まらない。

その一方で、レイアがミサイル群を撃ち落としていくも、その中の唯一、特大サイズのミサイルがキャロルに襲い掛かる。

「マスターっ!」

そのミサイルが、キャロルに炸裂――――

「ハァァアアッ!!」

グリスのライダーキックがニトロに炸裂する。しかし吹き飛んだのは―――グリスだ。

「ぐあぁぁあああ!?」

一瞬、グリスのライダーキックが炸裂した瞬間、グリスが壁に叩きつけられていた。

「カズミン!?」

「な・・・にが・・・」

壁から剥がれ落ち、地面に倒れるグリスにクローズが駆け寄る。

そして、煙舞う中、クリスが捉えたのは、自らが放ったミサイルが受け止められていること―――

「何がどうなってやがる・・・!?」

その事態に、クリスは動揺を隠せない。

「―――ク、ウェハハハハハ!!」

その笑い声を聞いた途端、タスク、調、切歌の背筋に悪寒が走る。

「こ、この声は・・・」

「まさか・・・!?」

煙が晴れた先にいるのは、未だジェットを噴かすミサイルを異形の左腕で掴む、白衣の男の姿。

「久方ぶりの聖遺物ゥ・・・」

そして、直後としてその腕が怪音を立て、みるみるうちにミサイルが取り込まれていく。

否―――喰われていく。

 

それは、『暴食』の二つ名を有する、この世にはすでに存在しない力の一部を持つ左腕。

そして、そんな左腕を持つ存在は、この世でただ一人―――

 

「この味は甘くとろけて癖になるゥ・・・!」

そう、タスクたちF.I.S組にとっては、二度と会いたくない人物。それは―――

「嘘・・・」

「なぁ・・・」

「嘘デスよ・・・」

目の前の、いる筈のない男の存在に、彼らは狼狽える。

「嘘なものか。僕こそが真実の人ぉ・・・ドクタァーウェr」

「その汚ぇ手をうちのクリスに見せてんじゃねえよ!」

「ぐべあ!?」

――――直後にクローズが投げた瓦礫に顔面を吹き飛ばされるウェル。ウェイ(・∀・)

「と、登場早々に、この僕になんてことを!」

「もう一発喰らうか?いっておくがテメエがクリスの裸を見たこと今でも根に持ってるんだからな」

「ヒィィイ!?」

瓦礫をもってただならぬ空気を発するクローズに、ウェルは恐れおののく。

が、しかしである。

「し、しかし・・・この恐怖に耐えてこそ、僕はまた一歩英雄に近付くというものぉ!」

「何が英雄だゴラァ!?」

「うおあ!?」

クローズ二度目の投擲、だがそれをウェルはどうにか避ける。

「チッ、外したか」

「龍我、お前あいつになんか恨みでもあんのか?」

それはともかく。

「いやぁ、遅れてしまってすまない」

そこへやってきたのは、シルクハットを被った、ピエロメイクをしたタキシードの男。

「遅かったじゃないか」

「彼を探すのに存外手間取ってしまってね」

さらなるデイブレイク社の戦闘員。

「それにしても・・・ウェヘー、旧世代のLiNKERぶっこんで、騙し騙しのギア運用なわけね」

「くっ」

「「うえ~」」

ウェルの登場でげんなりするF.I.S組。

「優しさで出来たLiNKERは、僕が作ったものだけぇ!そんなので戦わされてるなんてェ、不憫すぎて笑いが止まらァん!」

「黙れ英雄もどき」

「不憫の一等賞がなにを言うデス」

「なんか知らねえがむかつくなこいつ」

タスク、切歌、グリスが辛辣な言葉を浴びせる。

その最中で、クリスがぶつぶつと何かを呟いていた。

「アタシの一発を止めてくれたな・・・!」

ウェルは不遜な態度でその場にふんぞり返っている。

(この前かかされた恥は、まとめて返してくれる!)

己のアームドギアを構えるクリス。

「待つデスよ!」

「ドクターを傷つけるのは・・・」

そんな中で何故か切歌と調がクリスを止める。

「何言ってやがる!?」

「だって、LiNKERをつくれるのは・・・」

この世界でLiNKERを作れるのは、ただの一人。

「そうとも!僕になんかあったら、LiNKERは永遠に失われてしまうぞぉ!」

「・・・・」

それを聞いたクローズが一言。

「戦兎なら作れんじゃね?」

沈黙。

「それもそうデスね」

「あの人なら本当に作っちゃいそう」

「そもそもこいつに手加減する必要なんてなかったわ」

「はあ!?」

見事な手のひら返しに、さしものウェルも驚愕する。ウェイ(・ω・)ノ

「な、何を言って・・・!?」

「うちの天才物理学者を舐めんじゃねえよ」

クリスが気を取り直して武器を構える。

「ぽっと出が、話を勝手に進めるな」

その最中でキャロルがアルカノイズを再びばら撒く。

「今更ノイズっ!!」

すかさずクリスがガトリングを掃射。アルカノイズを撃ち払い、そのままキャロルたちを狙う撃とうとする。

「ひぃい!?」

キャロルが盾を形成して防御。

「その男の識別不能・・・」

「心配するな。彼の能力を行使すれば、ワールド・デストラクションは起動する」

ピエロメイクの男が、レイアたちに向かってそう言う。

「何?」

「かのフロンティアの起動させたのはこの男だ」

「っ・・・!」

その言葉に、キャロルは目を見開き、すぐさま前を向く。

「そうか・・・」

「僕は敵でも味方でもない!英雄だ!」

「だったらその英雄様に―――」

クリスが、両肩に巨大ミサイルを二基構える。

「さっきよりでかいのまとめてくれてやるッ!!」

すかさずクリスの歌が戦場に鳴り響く。

「ちょ、そのままぶっ放したら―――!?」

そのままぶっ放そうとした直前、ウェルが叫ぶ。

「このおっちょこちょい!」

「ッ!?」

「なんのつもりか知らないが、そんなの使えば、施設も!僕も!海の藻屑だぞ!なんてな」

「レイア、この埒を開けてみせろ」

「即時遂行」

喚くウェルを他所に、キャロルがレイアに命令。レイアがクリスたちに向かって躍り出る。

すかさずクリスがガトリングで迎撃する。

「ニトロ、君も仮面ライダーを抑えたまえ」

「承知!」

ピエロメイクの男がニトロに命令、すかさずニトロがライダーたに襲い掛かる。

「一体何を使ってんのか知らねえが、やってやろうじゃねえか!」

「待ってください一海さん!迂闊にこちらから攻撃は―――」

ニトロの拳がタスクに襲い掛かる。

「くっ!?」

その一撃をどうにか躱すも、続けて鋭い連撃がタスクに襲い掛かる。

「図体に反してこの速さ・・・!?」

「下がれ慧介!」

すかさずクローズがブラストシューターの引き金を引く。

放たれた弾丸はニトロに直撃するが、しかしすかさず何かが飛来してくる。

「うおっ!?」

「やはり、奴の能力は・・・うわっ!」

直後にタスクの足元に弾丸が当たる。

「流れ弾!?」

見れば、クリスがレイアに向かってガトリングガンを我武者羅にばら撒いていた。

派手な動きでクリスのガトリングガンの嵐を巧みに躱すレイアに、クリスはアルカノイズを巻き込みながらレイアに弾丸をぶち当てようと引き金を引き絞る。

(後輩なんかに任せてられるか・・・!)

「クリス・・・?」

暴れるがままにガトリングから弾丸を吐き出し続けるクリス。

しかし、レイアには当たらない。

(ここは先輩のアタシがァ・・・ッ!!)

心を巣食う苛立ちのままに、クリスはガトリングガンを放ち続ける。

その一方で、ニトロと対峙しているライダーたちは、

「くそっ、なんでこいつを攻撃しちゃいけないんだよ!」

「それは―――」

タスクが何かを呟く直前、

「ふふ」

ピエロ男が指を鳴らす。

次の瞬間、ニトロの背後で何かが爆発。その衝撃をニトロは諸に受ける。

「味方ごとだと!?」

グリスがそう叫んだ直後、凄まじい衝撃がライダー三人を襲い、ふっ飛ばす。

「「「うわぁぁぁああ!?」」」

突然の事に、三人は驚きを隠せない。

どうにか爆風だけでダメージはそれほどないが、一体何が起きたのか、それが分からない。

「一体何が・・・」

「やっぱり、奴の能力は・・・」

その一方で、ガトリングガンを我武者羅に放つクリスだが、未だにレイアを捉えられないでいた。

「ばらまきでは捉えられない!」

「落ち着くデスよ!」

調と切歌の声にも耳を貸さず、クリスはそのまま掃射を続ける―――だが、その射線上には調が―――

「調っ!」

タスクが思わず叫んだ直後、クリスのガトリングガンの矛先が、何者かに掴まれて止められる。

「あ・・・」

クローズだ。

クリスのガトリングガンを掴んで持ち上げ、仮面の奥の双眸でクリスを見つめる。

「・・・・巻き込んでどうすんだ」

「な・・・あ・・・」

クローズにそう言われ、クリスは、喉から出かかった言葉を必死に抑え込み、すぐさま別の事に意識を向ける。

「あいつらは!どこに消えた!」

「たぶん、この下・・・」

タスクがしゃがみ見る先にあるのは、赤い粒子を巻き散らしながら空いた、巨大な穴だった。

「すみません。あのニトロっていう男に足止めされて・・・」

「なんだったんだあいつ・・・」

下層へ続く穴。おそらくはアルカノイズで開けられた穴だろう。

「ごめんなさい。あのピエロの人に妨害されて・・・」

接近しようとしていた所を、ピエロに何かをされて足元を爆発され続けて近づけなかったのだ。

「でも、次は必ず仕留めるデス。アタシたち全員が力を合わせれば今度こそ・・・あ!?」

しかし、歩み寄ってきた切歌を、どういうわけかクリスはどつく。

「後輩の力なんて当てにしない!おてて繋いで仲良しごっこじゃねえんだ。アタシ一人でやってみせる!」

「おいクリス・・・」

「龍我は黙っててくれ」

「・・・・」

クローズが何かを言おうとするが、クリスは黙らせる。

(一人でやり遂げなければ・・・先輩として、後輩に示しがつかねえんだよ・・・!)

クリスの胸中は、穏やかではなかった。

 

 

 

 

「クリスさん・・・」

その様子のクリスに、オペレーターのセレナは心配そうにつぶやく。

「侵入者ロスト、大きな動きがない限り、ここからでは補足できません・・・」

「ドクターウェル・・・隔離情報が公開されていれば、こんなことには・・・」

ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス―――通称ドクターウェル。

その左腕をネフィリムと呼ばれる聖遺物と同等とすることで、フロンティアを制御した男。

「ネフィリムの力も健在・・・厄介だな・・・」

「それだけじゃありません」

セレナがそう声を挙げる。

「敵は、ウェル博士がここに収容されている事を知ってるような口ぶりでした。つまり、奴らは・・・」

「深淵の竜宮の情報を網羅している可能性がある、という事か・・・」

デイブレイク社。

知れば知るほど、その規模が測れなくなる、異端秘密結社―――

「敵は、思った以上に強大なようだ・・・追跡の再開、急げ!」

弦十郎の指示に、すぐさま職員たちは行動を開始する。

その最中で、エルフナインは破壊されたヤントラ・サルヴァスパの映像を見上げていた。

「最後のパーツ、ヤントラ・サルヴァスパが失われたことで、チフォージュ・シャトーの完成を阻止することが出来ました・・・」

だが、しかし―――

「なのに、キャロルはまだ・・・」

 

―――諦めていない。

 

 

 

 

 

 

「・・・っ!?」

キャロルが目を覚ます。

「俺は・・・落ちていたのか・・・」

意識のシャットダウン。拒絶反応からくる、精神乖離だろう。

「またしても拒絶反応です。撤退の途中で、意識を」

抱いていたレイアが、キャロルを下ろし、そう説明する。

「高レベルフォニックゲイナーが複数揃う両行に、逸るのは理解できますが・・・」

「杞憂だ・・・」

そこでキャロルは、ウェル、ニトロ、そしてピエロメイクの男の方を見る。

「礼は言わん」

「知っていますとも。これは我らが勝手にあなた方に協力しているだけなのですから」

そう言って、ピエロメイクの男―――『ベイク・ド・ボテル』はお辞儀する。

「そして・・・知っているぞ。ドクターウェル、フロンティア事変関係者の一人。そんなお前が何故ここに?」

「我が身可愛さの連中が、フロンティア事変も、僕の活躍もよってたかってなかったことにしてくれたぁ!」

全て自分の所業が原因だというのにこの態度である。

「人権も存在も失った僕は、人ではなく物、回収されたネフィリムの一部として、放り込まれていたのさ!」

その左腕を変形させてみせてそう喚くウェル。

「その左腕が・・・」

「イチイバルの砲撃も、腕の力で受け止めたんじゃないィ。接触の瞬間にネフィリムが喰らって同化!体の一部として推進力を制御したまでのこと」

いうなれば、掴んだ瞬間にミサイルのシステムを乗っ取り、その進むための力を弱め、ウェル自身の体が支えられるレベルの力にしただけのことなのだ。

「面白い男だ・・・よし、ついてこい」

「ここから僕を連れ出すつもりかぁい?だったら騒乱の只中に僕を案内してくれぇ」

「騒乱の只中?」

「英雄の立つ所だぁ」

ウェルの特筆すべき所はこの英雄願望の強さだろう。

そんなウェルに、キャロルは左手を差し出す。

「ん?」

それが握手と理解したウェルは自らの左手を白衣で拭き、握り返す。

「ネフィリムの左腕、その力の詳細は、追手を巻きつつ聞かせてもらおう」

「脱出を急がなくてもいいのかぁい?」

「奴らの動きなど()()()()。時間を稼ぐことなど造作もない」

キャロルは、そう不敵に笑って見せた。

 

 

 

 

「だぁかぁらぁー、そんな暴れるように力を使うなって言ってんだよ!」

「新しくなったシンフォギアは、キャロルの錬金術に対抗するための力だ!使いどころは今をおいて他にねえ!」

「それで他人巻き込んでたら力もくそもあるか!シンフォギアもライダーシステムも使い方ひとつで誰かを簡単に傷つけることが出来るんだ!ここを壊すことだって造作もねえ!」

「~っ!!正論で奴等と渡り合えるか!」

「渡り合えねえよ!」

龍我とクリスが激しく言い争う。

「今度は龍我さんとクリスさんが・・・」

「なんだかデジャブなのデス・・・」

理由は先の戦闘におけるクリスの暴走。目的を見失い、危うく調を巻き込みそうになったことについての責任追及―――ではなく、力の使い方について、龍我とクリスは言い争っているのだ。

その様子に、クリスに一言二言言おうと思って基地の通信装置を用いた弦十郎も、それを傍目で見る一海たちも、茫然と見ている事しか出来ない。

『念のため、各ブロックの隔壁や、パージスイッチの確認をお願い』

そうしてモニターに表示される地図に無数のスイッチの位置が表示される。

「こ、こんなに一変に覚えられないデスよ・・・」

『大丈夫ですよ。セイレーンにすぐに情報を送ります』

「おお!」

「流石セレナ」

『ふっふ~ん、すごいですよね?最高ですよね?天才ですよね!?』

「なんか、どんどん戦兎っぽくなってないか?」

セレナのおかしなテンションに一海は引くほかない。

その最中で、

『セキュリティシステムに、侵入者の痕跡を発見!』

「そういう知らせを待っていた!」

待ってましたと言わんばかりに、クリスがそういう声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風鳴邸にて―――

「これで、自殺は出来なくなっただろ」

「・・・」

ロープで拘束され、そこに座るジーナ。

その傍らには、翼に両断されたオートスコアラー・ファラの残骸。

そんな彼女らを見下ろすのは、翼、マリア、戦兎、幻徳、緒川の五人。

未来は、先ほど響からかかってきた電話に応じている。

ファラの方は既に機能停止しているのか、白目をむいている。

ちなみに、ジーナはビルドのフェニックスロボの能力で体内にあった心臓爆破装置、それも動脈に括り付けるリングタイプを取り除かれており、なおかつ口の奥に仕込まれていた毒も取り上げているために、外部から攻撃されない限り死ぬことはない。なおかつ気絶中である。

「この状態で、可動するの?」

「問題ないだろ。こいつらは口から思い出を吸収する。だったら頭さえ残ってりゃたぶん・・・ほらな」

目が回り、瞳が現れる。

「・・・いつか、しょぼいだなんて言って、ごめんなさい・・・剣ちゃんの歌。素晴らしかったわ」

ファラがそんなことを呟く傍らで、戦兎は考える。

(そういや、ガリィの時も笑っていたよな。ミカの時も、やられる直前で何か、勝利を確信したかのような・・・)

やけにライダーを遠ざけ、なおかつ、装者に撃たれることを望んでいるかのような。

「私の・・・歌・・・?」

突如として、ファラは高笑いをあげる。

「アハハハハ!まるで体がばっさり二つになるくらい、素晴らしく呪われた旋律だったわ!」

それに、彼らは顔を見合わせる。

「呪われた旋律・・・確か以前に、キャロルも言っていた・・・」

戦兎は、考える。

(キャロルの言葉、これまでのオートスコアラーとデイブレイク社の動き・・・ライダーだけを遠ざけて、装者をオートスコアラーと対峙させる―――破壊の時の、笑い・・・)

様々なピース、組み立てられる様々な推測、それらから、敵の狙いを想定―――答えを導き出す。

 

エルフナイン―――ダインスレイフ―――呪い―――歌―――旋律―――攻撃―――

 

戦闘時、破壊される瞬間、勝ち誇ったが如き笑い。

 

イグナイトの起動を待つかのような行動。

 

シンフォギアにはあって、ライダーにはないもの――――

 

 

「・・・まさか!?」

その答えに行きついた戦兎は、驚愕に目を見開く。

 

 

 

 

 

竜宮の深淵にて。

「どこまで行けばいいデスか!?」

「いい加減、追いついてもいいのに・・・」

視界に表示される、地図を見れば、まるでこちらの動きが分かっているかのように動く赤い点。

「まるで、こちらの動きが分かってるみてぇな動きだな・・・」

『まさか・・・ハッキング!?』

セレナが無線で驚きに震える声でそう声を挙げる。

『知らず、毒を仕込まれていたのか・・・!?』

驚愕に震える弦十郎の声。

「マジかよ・・・」

「そんなのありデスか!?」

だがしかし、キャロルはともかくデイブレイク社は錬金術、科学問わずにありとあらゆる技術力を扱う組織。そういう事も造作もないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

響が検査入院している病院にて―――

「ごめんね。任務の途中なのに・・・色々考えてたら眠れなくなっちゃって」

『いいよ。私も付き添えなくてごめんね』

「ありがとう・・・未来が聞いてくれたおかげで、もう一度、お父さんと話をしてみる決心がついた」

『うん・・・』

今、深夜を過ぎるまでにかかり続けた、父からの連絡。

その全てを拒否してきたが、流石に鬱陶しく、そして逃れられないという事を悟った響は、未来に連絡を入れてきたのだ。

「・・・だけどね」

それでも、響の不安は拭われない。

「ほんとはまだ少し怖い・・・どうなるのか不安でしょうがないよ・・・」

『響、へいき、へっちゃら』

「え?」

突然、未来からそのような言葉を言われ、戸惑う響。

『響の口癖だよ?』

「アハハ、いつから口癖になったのか忘れたけど、どんな辛い事があってもなんとかなりそうに思える魔法の言葉なんだ」

果たして、それは一体誰の言葉だったか。

『ほんと単純なんだから』

「前向きだと言ってくれたまえよ」

その二人の間に、笑いが零れる。

「おっかしーの」

『元気でたね。魔法の言葉に感謝しないと』

「うん、そだね」

響は、窓の外の寝静まった街を見つめた――――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「全部お前らの差し金ってことか!」

明かされる、キャロルたちの目論見。

『いいや、お前だ。エルフナイン』

明かされる内通者の正体。

「「「変身っ!!」」」

そして激突する両者、その戦いの行方は―――

次回『雪と龍のバーニングソウル』

「「今の(アタシ)たちは――――負ける気がしねぇぇええ!!!」」


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雪と龍のバーニングソウル

切(作者代弁)「ついに・・・計画艦が一隻完成したのデース!」
慧「切歌、もうアズレンはいいよ」
切(作)「何を言うデスか!経験値を溜めに溜めるという苦行を乗り越え、やっと完成したのデスよ!これを喜ばずしてなんとするデス!」
調「でも切ちゃん、その経験値って、経験値を追加するアイテムを使って稼いだものだよね?」
切「調ぇ!それは言わない約束デェス!」
慧「まあ切歌のことは置いておいて、天才物理学者の桐生戦兎は、エボルトとの戦いを制し、新世界を創造することに成功。しかし今現在、そこで出会った装者、再開した仲間たちと共に、世界の破壊を目論むキャロルとデイブレイク社との戦いに、その身を投じていたのであった」
調「その最中で、私たち装者は、キャロルからの脱走兵エルフナインと、戦兎先生、セレナによって、新機能『イグナイトモジュール』と『リンクス・アームズ』、それらを搭載した新型シンフォギア『リンク・アニマル』を手にいたてのでした」
慧「それにしても、あれほどの機械を発明するだなんて、本当に戦兎先生って天才だよねぇ・・・」
調「うん。そんな人に物理教えてもらえるなんて、ちょっと幸せものかも。あくまで勉強に関してだけど。あの頭の悪かった切ちゃんが・・・」
切「あ、サン・ルイさんの声、友里さんに似てるのデス」
慧「なんだって?」びゅん
調「それって本当?」ずい
切「ほらこれ」
友「ちょっとあなた達!それ見るならさっさと本編に行きなさい!」
慧「おおっと!というわけで、クリスさんと龍我さんが大活躍する、天才物理学者はあんまり活躍しないシンフォギア・ビルドGX第20話をどうぞ!」



一番最初にお迎えしたのはサン・ルイちゃんです。


風鳴邸―――

 

「イグナイトモジュール・・・なるほど全部お前らの差し金ってことか!」

「何・・・?一体どういうことだ!?」

戦兎の言葉に、幻徳が尋ねる。

「知らず毒は仕込まれて・・・知ることには手の施しようのないまま、確実な死をもたらしますわぁ・・・!」

ファラの言葉を、戦兎は代弁する。

「ワールド・デストラクション起動の為には、いくつか必要な準備が必要だった。そのうちの一つが魔剣の呪いによって構築された旋律―――イグナイトモジュールの放つ歌が必要だったんだ!」

 

 

 

 

「こちらの追跡を躱す、この現状・・・聖遺物の管理区域を特定したのも、まさか、こちらの情報を出歯亀して・・・!」

「それが仕込まれた毒・・・内通者の手引きだとしたら・・・」

内通者―――それが考えられるのは二人―――

「ウルフのプログラムは戦兎先生が構築しなおしたものです。それに、ウルフの性格上そんなことは・・・」

「ち、違います!僕はなにも・・・僕じゃありません!」

セレナが管理しているガードウルフとエルフナインの一匹と一人だ。

だが、だとしても、彼らを疑う事は―――

 

『いいや、お前だ。エルフナイン』

 

突如として、潜水艦内にキャロルの声が響く。

その直後、エルフナインの体から分離するかのように、半透明の人型―――霊体のキャロルが出現する。

「こ、これは、一体・・・!?」

「な、なんで・・・!?」

「まさか・・・エルフナインさんを通して、意識を投影して・・・!?」

セレナの推測は、間違ってはいない。

事実、キャロルはそこにいる訳じゃない―――

 

 

 

「馬鹿な!?エルフナインが間諜だと!?」

「そんな、だけど、エルフナインを疑うわけには・・・」

「ああそうだ。おそらくあいつは利用されただけだ。それに思いもしねえだろ・・・感覚を一方的に共有することが出来るなんて!」

そうだ。戦兎の予測を遥かに超えている。

感覚を別の意識をもつ個体と共有するなんて荒業、いくら戦兎でも予測できなかったのだ。

「魔剣の呪いの乗った歌を装者に歌わせ、それを自らの体に刻む。それがお前らの存在意義か・・・!」

「その通り」

ファラは肯定する。

 

 

 

 

「僕の感覚器官が・・・勝手に・・・!」

その事実に、エルフナインは顔を覆う。だが、もはや全て遅い。

『同じ素体から作られた、ホムンクルス素体だからこそ出来ることだ』

真実を突き付けるように、キャロルは告げる。

 

 

 

始めに、キャロルが呪われた旋律をその身に受ける事で、譜面が作成される。

それは、装者との戦闘と同時に叩きつけるダメージと共に刻み込まれる。

旋律は技となり、一撃となり、相手に叩きつけられる。

即ち、響で言う所の『歌で殴る』的な現象が起きているのだ。

シンフォギアの攻撃には、そう言った概念で、旋律が纏われている。

それをその身をもって受ける事によって世界を破壊するための譜面を作成するのだ。

あとは、その譜面をもとに他のオートスコアラーが装者と対峙、イグナイトモジュールを使わせ、そして破壊され、呪いによる破壊の為の歌を作り上げればいいだけの話―――だが、そこには一つ、重大な不安要素があった。

 

仮面ライダーの存在だ。

 

呪われた旋律による呪われた一撃を受けなければ、その譜面が刻まれることはない。

しかし、仮面ライダーには呪われた力など存在しない。

そもそもライダーシステムとは、歌でもなければ錬金術でもない、本来であればその二つに劣る筈の『科学』の領域に存在するものであり、オカルト的要素は全くもって皆無なのである。

同じ暴走を持つハザードトリガーがあるが、あれはどちらかといえば呪いではなく機能、システムだ。

だから、呪いには程遠く、歌を必要とせず戦う事の出来る仮面ライダーの存在は、自分たちに呪いの譜面を刻み付ける事はできない。

だから邪魔だった。故に排除しようとした。

だが、仮面ライダーの強さは、想像を超えるものであったために、排除は不可能と判断。故に、いかにして装者に自分たちを破壊してもらうかが重要であった。

そして、デイブレイク社の協力の甲斐あって、計画は順調に進んでいる。

三体のオートスコアラーは全て、装者の一撃によって粉砕されているのだから―――

 

 

 

「お願いです・・・ボクを拘束してください・・・!」

罪悪感に押しつぶされそうになるエルフナイン。

「誰も接触できないよう、独房にでも閉じ込めて・・・いえ、キャロルの企みを知らしめるという、ボクの目的は既に果たされています・・・だからいっそ―――!」

 

 

 

 

ファラが自爆する。

「あっぶねぇ!?」

寸での所でライダーに変身し、ジーナを守ることに成功したビルド。

その一方で緒川によって窮地を逃れた翼、マリア、幻徳の三人は、ファラの言葉に戦慄していた。

「呪われた旋律を手に入れれば、装者を生かす通りがなくなったという事なの!?」

自爆することで、装者を巻き添えにしようとしたのだろう。

「だから、こちらの気を引くことを滑らかに・・・」

しかし、その自爆で何か、光る粉のようなものが散布されている。

「これは・・・チャフか!?」

「なんだと!?」

ビルドが分析能力をもって、その粉の正体を暴く。

チャフ―――金属片によって電波を乱し、一時的に通信を不能にするパッシブ・デコイ。

「これでは、本部への連絡が・・・!」

「くそ!」

「付近一帯への通信攪乱・・・周到な!」

 

 

 

 

「だから・・・だから・・・いっそボクを・・・」

涙を流し、自らの『処刑』を求めるエルフナイン。

そんなエルフナインを―――セレナは後ろから抱きしめる。

「え・・・」

「大丈夫ですよ。貴方は、何も悪くない」

そう言って、セレナは静かにエルフナインをあやすように頭を撫でる。

「よかった。エルフナインちゃんが悪い子じゃなくて」

「敵に利用されただけだもんな」

友里、藤尭が、続けてそう言う。その表情は、穏やかなものだった。

怒りなんかじゃない。心底安心したような。そんな表情だ。

「友里さん・・・藤尭さん・・・わ」

戸惑うエルフナインの頭に、弦十郎がその大きな手を置く。

「君の企みは、キャロルの企みを止める事。そいつを最後まで見届ける事」

「弦十郎さん・・・」

「そうだ」

発令所の扉が開く。そこから入ってくるのは、ウルフだった。

「お前は命だ。失われれば二度と戻らない。一方俺は機械。死の恐怖はない。だが、真っ先に疑われるべきは俺の方であり、俺の知らないうちにハッキングプログラムを仕込まれていたかもしれない。破壊されるべきは俺だ」

「それなら安心して、ウルフ」

セレナが、ウルフに言う。

「お前に仕込まれていたハッキングプログラムは、既に俺の方で解除しておいた。だから安心しろ」

「朔也・・・」

 

 

事実――――ハッキングプログラムが起動しなかったことに、ケイドは苛立っていた。

 

 

「・・・恩に着る」

「だから、ここにいろ」

弦十郎が、断言してみせる。

「誰に覗き見されようとかまうものか」

「・・・はい!」

その言葉に、エルフナインは、笑顔をもって答える。

その様子が、キャロルにとっては面白くない。

 

 

 

「チッ」

舌打ちし、その場から消失―――元の体へと意識を戻す。

「使われるだけの分際で・・・・」

そこへ聞こえてくる、足音。

「ここまでよ!キャロル、ドクター!」

「デイブレイクの奴らも覚悟しろ!」

「さっきみたいにはいくもんかデス!」

威勢よく、調、慧介、切歌が声を挙げる。

「だが既に、シャトー完成に必要な最後のパーツの代わりは入手している」

キャロルは不敵に笑い、アルカノイズをばら撒く。

「子供に好かれる英雄ってのも悪くないが、生憎僕はケツカッティンでね!」

「ケツカッティンってなんだ訳の分からない言葉いいやがって!」

変な動きで変な事を言うウェルに、一海がロボットスクラッシュゼリーのシーディングキャップを外し、ベルトに装填する。

 

ロボォットジュエリィーッ!!』

 

タイガァージュエリィーッ!!』

 

激唱ゥ!』『クロォーズイチイバルッ!!!』

 

すかさず、クリスたちが自身のリンク・アニマルのスタンバイスターターを押す。

 

『STANDBYっ!』

 

龍我がボルテックレバーを回し、すぐさま四方にスナップライドビルダーを展開、装甲を形成する。

 

『Are You Ready?』

 

いつもの問いかけの言葉に、彼らは躊躇いなく答える

 

「「「変身っ!!」」」

 

『―――Zeios igalima raizen tron(夜を引き裂く曙光のごとく)―――』

 

「―――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)―――」

 

「―――Various shul shagana tron(純心は突き立つ牙となり)―――」

 

 

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

 

激唱戦場クロォーズイチイバルッ!!!』

 

タイガァー・イン・タァスクゥッ!!』

 

ロボット・イン・グリィスゥッ!!』

 

イェェエイッ!!ドッカァァァァアンッ!!!』

 

『ブルァァァァア!!!』

 

 

変身を完了し、まず切歌とタスクが先陣を切る。

「デェエスッ!」

「マストダイだ!」

その背後から調が百輪廻で援護。

「ハァーハッハッハ!!行くぜ行くぜェ!」

そしてその調の援護の後からグリスが突撃。

真っ直ぐに突っ込み、道を切り開く。

「オラァァア!!」

そのまま一気に敵陣に斬り込んでいく、が、そこでニトロが立ちはだかる。

「お前の相手はこの俺だ!」

「おもしれぇ・・・かかって来いやぁぁああ!!」

ニトロとグリスが激突。

その間、クリスが拳銃で低火力で的確に敵を撃ち抜いていく。

そのクリスに向かって、レイアがコインでトンファーを作り、クリスを攻撃する。

「ッ!」

それに気付いたクリスが飛び掛かってきたレイアの一撃を回避。

しかしすかさずレイアは追撃、クリスはガン・カタで対抗。だが、オートスコアラーの高スペック身体能力に圧倒される。

「ッ!?クリス!」

そのクリスの援護に向かおうとするクローズ。しかし、その足元が爆発する。

「うお!?」

それにクローズはホイールを止め、その攻撃を仕掛けた人物を見る。

そこにいるのは、ピエロメイクの男『ベイク・ド・ボテル』。

「テメェ!」

「ふふ、貴方の相手はこの私ですよ」

ベイクがにやりと笑い、何かを投擲する。

何か嫌な予感を感じ取ったクローズはそれを躱す。

しかし、投げられたそれはそのまま地面に落ちる。

それは、小さな小石。

「は?石・・・」

何故、つまめるサイズの小石がこんな所にあるのか。

「さあさあ、余所見していていいんですかぁ!」

「ッ!?」

再びベイクは小石を投げてくる。

「そんなもん!」

しかし、クローズはなんの威力もなくばら撒かれた小石を無視してベイクに近付くことを選択。

「愚かな奴め!」

ベイクが指を鳴らす。その次の瞬間、小石が突如として手榴弾の如く爆発する。

「ぐあぁぁああ!?」

その爆発の嵐をまともに喰らったクローズは吹き飛ばされる。

「私の錬金術は、触れた無機物全てを爆発性のある物質に変化させ、任意の威力、任意のタイミングで爆発させること!」

「や、野郎・・・!?」

つまり、先ほどの小石は、ベイクが錬金術で変化させた爆弾。

クローズはそれにまんまとしてやられたというわけだ。

「そしてもうワンコンボ!」

「なっ!?」

クローズの足元には、先ほどベイクがばら撒いた小石がある。それが爆発し、クローズを襲う。

「ぐあぁぁああ!?」

それを喰らって、クローズは膝をつく。

「くそったれが・・・!」

クローズはブラストモービルを構えて、ベイクを睨みつける。

そのまた一方で、ニトロと対峙するグリスは、

「ぐあぁああ!?」

まさかの防戦一方だった。

「なんだ・・・こっちが攻撃したと思ったら、俺がダメージだなんてどういうこった・・・!?」

「フハハハ!!!」

ニトロが再びその拳を振り込んでくる。

それにグリスは迎え撃つ態勢をとる。しかしそこへ飛び込んできたのは、轟音と共に放たれた一発の銃弾。

しかし、その銃弾はニトロに直撃すると、そのニトロの掌から衝撃波が発せられ、その銃弾を放った切歌に再び襲い掛かる。

「で、デェェェスッ!?」

まさかの反撃に切歌は思わず横に飛んで躱す。

「どうなってるデスか!?」

「衝撃を跳ね返した・・・!?」

「やっぱり・・・」

そこへタスクが駆けつける。

「あいつの能力は、エネルギーカウンター・・・体外から受けた衝撃を自分の攻撃力に転用して反撃しているんだ!」

そのタスクの指摘に、ニトロは嬉々として応える。

「その通り!俺は体外から受けた衝撃、熱量、運動エネルギーを体内に吸収、転換、循環させ、そのまま相手にすぐさま体外に出し、それを好きな相手に瞬時に叩き返すことが出来るのだ!」

「ありかよそんなの!?」

「言い換えれば、ほぼ無敵の能力ってことか・・・!」

「そういう事だぁ!」

ニトロが、グリスたちに襲い掛かる。

「ぐはぁ!?」

レイアが発生させた結晶に吹き飛ばされるクリス。

そしてレイアはすぐさまキャロルの元へ。

「あとは私と、まもなく到着する妹で対処します」

「オートスコアラーの務めを・・・」

「派手に果たしてみせましょう」

テレポートジェムが投げ込まれ、光にキャロルのみならずウェルも包まれる。

「待ちやがれ!」

すぐさまそれを阻止すべくクリスが飛び込むも、その行く先にレイアが立ちはだかる。

すぐさまトンファーで殴り飛ばされる。

「がぁっあ・・・!?」

それによってクリスの意識が一瞬消し飛ぶ。

そのまま地面に倒れる。

「危ないデス!大火力が使えないからって飛び出すのは・・・!」

「だめ、流れが淀む・・・!」

「一度下がれ馬鹿!」

その時だった。

「ではそろそろ仕上げといきましょうかぁ!」

ベイクが手を振り上げ、指を鳴らす。

その次の瞬間、ニトロの体が爆発する。

「なっ!?」

「自分の仲間を―――ッ!?」

そこで気付く。ニトロの力は、外から受けたエネルギーを攻撃に転換することが出来る事を―――

「もう遅い」

いつの間にか、グリスとタスクの腹にニトロの拳が添えられていた。

そして、次の瞬間、拳からエネルギーが炸裂する。

「「ぐあぁぁあぁぁああ!?」」

吹っ飛ばされるグリスとタスク。そのまま壁に叩きつけられ、地面に倒れる。

「かずみん!慧介!」

そこへ、レイアのコインの乱れ撃ちがクローズ、切歌、調を襲う。

そのまま動きを封じられ、次に出現したのは、見るも巨大なコイン―――

「しまっ―――」

次の瞬間、その二枚のコインに、三人が挟まれる。

「これで、フィナーレだ」

そして、それに()()を添えたベイクが、その手を離し、指を鳴らした瞬間―――巨大なコインが炸裂。

中から、切歌、調、クローズがボロボロの状態でその場に倒れる。

「う・・・ぅ・・・」

そして、起き上がったクリスが見たものは―――ボロボロになった倒れ伏す、後輩の、仲間の―――恋人の姿。

「あ・・・」

その光景の―――あの日、魔剣に見せられた、最悪のビジョンの通りになってしまった。

その現実に、クリスは―――涙を流す。

「ひとりぼっちが・・・仲間とか、友達とか先輩とか後輩とか恋人なんて、求めちゃいけないんだ・・・でないと・・・でないと・・・」

堪えようと思っても、涙は後から次々に溢れてくる。

その現実に、耐えられず、

「残酷な世界がみんなを殺しちまって、本当の独りぼっちになってしまう!」

子供みたいに、ただその現実を突きつけられて、泣き喚く。

「なんで、世界はこんなにも残酷なのに・・・パパとママは歌で救おうとしたんだ・・・ッ!!」

その場に崩れ落ちるクリス。

「歌え」

そんな中で、ピエロメイクが嗤いながらクリスに告げる。

「守りたければ唄え・・・でなければ、まずはお前がその残酷な世界とやらに殺されるぞ!」

ニトロの両手にある石が爆発。それによって発生したエネルギーがニトロの体内で駆け巡り、ブロウの一撃へと昇華する。

その一撃が、クリスへと今、叩きつけられる―――

 

その一撃を―――クローズが受け止める。

 

激しい衝撃波が迸り、クローズの持つブラストモービル・ブラストブレードが火花を散らす。

「あ・・・!?」

「何っ!?」

そして火花を散らした瞬間、ブラストモービルが音を立ててバラバラにクローズの足元に落ちる。

「―――オォオッ!!」

そして次の瞬間―――ナックルの一撃がニトロに叩きつけられる。

 

ボォルケニックナックルゥッ!!アチャァア!!!』

 

「ぐぉぁぁぁあ!?」

その威力に、ニトロが大きく下げられる。

「ぐはっ・・・馬鹿な、この俺が、威力を吸収しきれなかっただとぉ・・・!?」

焼けた胸を見て、ニトロは驚愕する。

「ぐっ・・・」

クローズが膝をつく。

「あ、龍我!」

クリスが、思わず声を挙げる。

しかし、気付けば、いつの間にかクリスはクローズに抱きしめられていた。

「・・・龍我?」

「・・・一人なんかじゃねえよ」

クローズは、クリスに向かって、そう告げる。

その言葉に、クリスは目を見開く。

「敵を目の前に背中を向けるなど!」

レイアが、無防備なクローズに背中に、トンファーを叩きつけようとする。

そのレイアに向かって、タスクが殴りかかる。

「させるかァ!」

「ッ!?」

そのタスクの攻撃を躱し、続く蹴りを躱した所で、タスクの顔面にトンファーの一撃を入れる。

「がっ―――あぁぁあ!!」

「な!?」

だが耐え切り、タスクは拳をレイアに叩きつけようとする。

しかし、そこへ手が割り込み、ニトロがタスクの拳を躱しに受け、その受け止めた掌でその衝撃をそのまま返す。拳にそのままの攻撃が跳ね返り、タスクはすぐさま拳を引っ込め衝撃を減らす。

だが、痛みにタスクは手を抑える。

「ぐぅっ!?」

すかさずニトロがタスクを殴り飛ばそうとする。

しかし、そこへ虎がニトロに襲い掛かる。

「チィッ!」

それを体で受け止め、すぐさまそのエネルギーを打ち返す。

「くぅっ!?」

その一撃は、リンクスアームズを起動した調の一撃だった。

そして、調とは反対側から、切歌がレイアに攻撃を仕掛ける。

「そうデスよ!一人なんかじゃないデス!」

そのままレイアを追い立てようとするが、すぐさまトンファーの一撃を喰らい、吹き飛ばされる。

すかさず調が入れ替わるように攻撃を仕掛ける。

「未熟者で、半人前の私だけど、傍にいる事で、誰かを独りぼっちにさせないぐらいは―――」

「ハアッ!」

「うわぁあ!?」

再びレイアのトンファーが叩き込まれる。

「二人とも・・・!」

「残酷な世界だなんて言うけどなァ!!」

その最中で、グリスがニトロと激しく殴り合う。

しかし、衝撃を吸収して自分の攻撃に転用するニトロには、明らかに不利であり、どんどん追い込まれて行っている。

「ぐぅっ!?俺たちは、その残酷な世界で戦い抜いてきたんだ!なに世界は偉大だなんてこと言ってんだ―――がぁああ!?」

ニトロに殴り飛ばされるグリス。

「が・・・ぁ・・・俺たち仮面ライダーは、誰かを守るために、全てを投げ打つ覚悟をもって戦ってんだ。そんな覚悟で生き残ってんだ。そう簡単に、世界如きに殺されてたまるかってんだよぉ!!」

立ち上がり、そして、クリスを指さす。

「お前が惚れた奴はなぁ、そんな世界で生き残ったんだ!そんな奴が、お前の言う『残酷な世界』風情に、殺されるんのかよぉ!!!」

「・・・・ぁ」

それを言われて、クリスははっとさせられる。

「そうデス・・・それに、後輩なんて求めちゃいけないなんて言われたら、ちょっとショックだったデスよ・・・」

「学校が違えど、俺にとっても、あんたは立派な先輩なんだ・・・!」

「私たちは・・・先輩が先輩でいてくれること・・・便りにしてるのに・・・!」

倒れ伏しても、立ち上がろうとする後輩たちの姿が、クリスの目に焼き付く。

「クリス」

クローズに呼ばれて、クリスはクローズの顔を見上げる。仮面に覆われた、自分の纏う力と同じ名前を関する力の仮面の奥にある、顔を。

「俺たちは一人じゃなーんにも出来ねえ。翼だってそうだ。俺たちはいつだって支え合って生きてる。先輩も、後輩も、仲間も誰も彼も、支え合って生きてるんだ。だから俺たちは戦えるんだよ」

「龍我・・・」

「それに、俺だって恋人なんて求めちゃいけないなんて言われて、結構辛かったんだぜ」

「え・・・」

仮面越しに、その額を重ね合わせる。

「だって、こんな可愛い恋人を、俺が手放したいだなんて思わねえだろ」

「・・・・!」

「それに、お前言ったよな。俺を香澄がいた時よりも幸せにするってよ」

それを言われて思い出す。あの、約束を。

「ああ、そうだった・・・」

先ほどのような、焦りに満ちた顔じゃない。

大胆不敵な、あの笑みを浮かべて、クリスは立ち上がる。

「龍我を幸せにすんのはアタシ、雪音クリスだ・・・ああ、そうだ。アタシのような奴が先輩をやれるのは、こいつらみたいな後輩がいてくれるからなんだな・・・」

もう、迷いはない。

「行こう、龍我!」

「おう!」

クローズがマグマナックルを取り出し、そして、黒いフルボトル『ドラゴンマグマフルボトル』を振り、そのシールディングキャップを開け、ナックルに装填。そしてすかさずそのナックルをビルドドライバーに装填する。

 

 

『ボトルバァーン!!!』クロォーズマグマ!!』

 

 

すかさずクリスがマイクユニットに手を添え、叫ぶ。

 

「『イグナイトモジュール』、抜剣ッ!!!」

 

 

『DAINSLEIF』

 

 

起動する呪い。

展開される極熱。

クローズの背後に出現するマグマライドビルダーが、凄まじい熱気を放ち、空間の大気を焦がす。

そして、直後に、クリスの胸を呪いの針が貫く。

それによって巻き起こる破壊衝動が、クリスを襲う―――

(アイツらが、アタシをギリギリ、先輩にしてくれるっ・・・!!)

破壊衝動が、クリスを飲み込もうと荒れ狂う。だが、今のクリスに、そんなもの、大した問題ではなかった。

(龍我が、アタシの傍に、いてくれるから、アタシは、先輩でいられるっ・・・!!)

そう、ちょっと問題があるとすれば、それは、自分がいつも龍我に幸せにしてもらっていることだろうか。

(ああ、悔しいな・・・)

こっちが幸せにするはずが、いつの間にか、こっちが幸せにされてる。

それが、とても悔しい。だけど、悪くない。

そう、だからこそ、自分は自分らしく―――

(後輩の想いに応えられない先輩なんて―――他の誰が許しても、アタシ様が許せねぇってんだァ!!)

 

―――他の誰でもない、暁切歌と月読調の後輩で、万丈龍我の恋人である、雪音クリスらしく。

 

 

この呪いを食い殺して見せる。

 

 

『Are You Ready?』

 

 

覚悟は出来ているか?

 

 

(―――出来てるよ)

 

 

「「変身ッ!!!」」

 

 

極熱筋肉ゥッ!!クロォォォズマグマァッ!!!』

 

 

アーチャチャチャチャチャチャチャアッチャァァアアッ!!』

 

 

『MODULE Start up!Let's Rampage!』

 

溢れ出たマグマが八頭の龍を生み出し、それを砕かれ―――

全身を覆う黒が形を成し、新たな形態へと変わり―――

 

 

―――イグナイト起動の合図とともに、クリスとクローズマグマが駆け出す。

 

「―――誰のために生きる!!誰の為の力ァ!!?」

 

放たれる赤い矢。

それをコインで作ったトンファーで叩き落すレイア。

その一方で、クローズはニトロとベイクに仕掛ける。

 

「誰のために戦う この手で今を守り抜くよォ!!」

 

クローズの拳がニトロに向けられる。

「愚か!」

「跳ね返してくれる!」

叩きつけられる獄炎の拳。その威力がニトロに炸裂し―――そのまま衝撃がクローズに叩きつけられる。

 

「壊れかけた街で!壊されない想いィ!!」

 

「―――力が漲る!」

 

しかし、クローズはひるまない。それどころか。

「ぐぅっ!?」

ニトロが顔をしかめる。

「どうした!?」

「馬鹿な・・・エネルギーを返しきれなかった・・・!?」

すかさずクローズの拳がニトロの顔面に炸裂する。

 

「―――魂が燃える!!」

 

直後にそのエネルギーがクローズに返ってくるが、そのままクローズはニトロをぶん殴る。

 

「―――俺のマグマが、迸るゥっ!!」

 

正面から、激しい殴り合いを始める。

 

「抱きしめるよ!願いを!心は誰も奪えないィ!!」

 

「―――もう誰にも、止められねェ!!!」

 

クローズの体から、ヴァリアブルマグマが溢れ出す。

その一方で、拳銃型に変形したアームドギアで、クリスはレイアに対して格闘戦を挑む。

(失う事の怖さから、せっかく掴んだ強さも温かさも全部、手放そうとしていたアタシを止めてくれたのは―――)

 

「決めたこの道を進むだけ」

 

クリスの視線が、背後にいる後輩たち向けられる。

その視線に、後輩たちは何かを察する。

 

「囚われてた、孤独の鎖に」

 

それを信じて、クリスは前を見る。するとレイアはなぜか後ろに飛んでいた。

なにかと悟る前に、クリスの足元で何かが炸裂する。

「ぐぅぁああ!?」

それは、ベイクの爆弾。その直撃をクリスはまともに喰らう。

「余計な事を・・・!」

見れば、ベイクとニトロは、その身を燃え盛らせるクローズに圧倒されていた。

その様子に呆れを見せ、すぐにクリスの方へと視線を向ける。

(先輩と、後輩―――)

 

―――体が、何かに侵食される。

 

「大切な人たちを―――」

 

(この絆は、世界がくれたもの―――)

 

―――体の内から、何かが広がっていく。

 

「守りたいそれだけ―――」

 

(世界は大切なもの奪うけれど・・・)

 

―――体中の血が、岩漿(マグマ)のように沸騰する。

 

「それだけで戦える―――」

 

(大切なものをくれたりもする)

 

 

 

失うばかりだった筈だった。それが気付けば、こんなにも大切なもので溢れかえっていた。

 

 

それもこれも、全部、二人の馬鹿のお陰だった。

 

 

 

「―――そうか」

「ッ!?」

煙の中から、クリスが現れる。そのただならぬ様子に、レイアは警戒する。

(パパとママは、少しでももらえるものを多くするため、歌で平和を―――)

 

 

顔を挙げたクリスの目は真っ赤に光っていた。

 

 

 

「―――うぉぉぉぉおおぉぉぉおおお!!!」

 

クリスの絶叫と共に、彼女の体内から発せられた熱気が、場を支配する。

「これは、シンフォギアの力ではない・・・この、溢れ出る熱量は・・・!?」

未知の力に、レイアは戸惑いを隠せない。

「お前らが嫌う、仮面ライダーの力だァ!!」

正確には、全ての大本となった存在の力の一端に過ぎないが、それでも、今のクリスにとっては十分すぎるパワーアップだ。

 

 

 

それを()()()()イチイバルのもう一つの機能、それが―――

 

 

 

 

『―――《Bright Blood Mord》』

 

 

 

 

―――少女の歌には、血が流れている。その輝きは、星の如く。

 

 

「負ッけェる気がッしなッいよ今ァ――――ッ!!」

 

 

クリスの体の中から溢れ出る光。それが力となって解放される。

「お前の力、借りるぞエボルト!」

拳銃を両手に、クリスはレイアに向かって駆け出す。

 

「燃え上がるこの想いの果てッ!!」

 

それに対してレイアはトンファーをもって迎撃する。しかし―――

「なっ!?」

レイアの一撃が空ぶる。ありえないほどの速さで、クリスがレイアの背後に回ったのだ。

 

「見えるッ!世界ッ!取り戻せッ!!」

 

そのまま、至近距離で引き金が引かれる。

寸前で当たらなかったが、しかしクリスの身体能力が格段に向上しているのは確かだ。

歌がうるさい程に鳴り響く。

 

「―――負けない情熱がッ!炎になるゥ!!願いとッ!!」

 

クリスとクローズ、二人の輝きが、戦場で誰よりも目立つ。

「うぉぉぉおおぉおお!!」

「ぐあぁぁあ!?」

クローズの炎が迸る。

「ニトロ!」

「ッ!おう!」

ベイクが投げた掌サイズの瓦礫。それを掴み取ったニトロの手の中でそれが爆発。ニトロの体内で衝撃が加速増幅する。

 

「目を覚ますこの闇の中にッ!!」

 

吸収し、それを再び攻撃に転用するだけに飽き足らず、その威力を倍増させることも可能なのだ。

「喰らえぇぇええ!!」

その一撃が、クローズに炸裂する。

「ぐ、ぅぉぉぉぉおおぉおお!?」

それを諸に受けて、大きく下がらされるクローズ。だが、クローズは沈まない。

「何故だ・・・!?」

「あれを喰らって、立っていられるのか!?」

驚愕する二人。

「今度はこっちの番だ」

 

「弱さ!捨てて!立ち向かうッ!!」

 

クローズはベルトからマグマナックルを取り出し、それに装填されたドラゴンマグマフルボトルを一度抜き、再びボトルを装填する。

 

『ボトルバァーン!!!』

 

「激しくッ!火を放てッ!!」

 

すると、ナックルが、赤く燃え上がり、すかさず、ナックル中央にあるボタン『ドラゴニックイグナイター』を押す。

 

「想いは届くいィまァ――――」

 

それによって、力が解放される。そのナックルを、クローズは振り抜く。

 

ボォルケニックナックルゥッ!!アチャァア!!!』

 

「―――Burning My Soul!!!」

 

結果は火を見るよりも明らかだった。

「ぐあぁぁあぁあああ!?」

衝撃を吸収しきれず、ニトロが吹き飛ぶ。

「ニトロ!?」

「ついでにテメェもだァ!」

 

―――勇気なら―――勇気なら―――ここにある―――共にある―――

 

「なっ!?」

すかさず威力を保持したままマグマナックルでベイクを殴り飛ばす。

「ぐぁあぁぁあ!?」

 

―――この胸に―――その胸に―――湧き上がる―――掴むだけ―――

 

纏めて吹き飛ばされる二人。

そして、クリスの方でも。

 

―――迷う日も―――迷う日も―――恐れずに―――恐れない

 

激しい攻撃の嵐がレイアに襲い掛かる。それをレイアはどうにか凌ぐ。

 

―――変わり続けるよ―――ただ強く―――

 

そして、その最中でクリスはスナイパーライフルを取り出して、何やら持ち方をライフルの銃身をもったかと思えば、

「ライフルで―――!?」

「―――殴るんだよ!!」

 

RED HOT BLAZE

 

 

「―――ここに立ち上がるため!!」

 

レイアをぶん殴り、よろけさせた所で、クリスとクローズは並び立つ。

「「うぉぁぁああぁぁぁああ!!!」」

そしてその場で絶叫、体内を駆け巡るエネルギーを一気に跳ね上がらせる。

 

―――燃え上がるこの想いの果て!!

 

『Links Arms〔Dragon Roar Charger〕!』

 

リンクスアームズ『ドラゴンロアチャージャー』。

プロテクター内に循環路を作り出し、それを体内で駆け巡らせ、一気にエネルギーを増幅させ、それを武器の威力へと転用する。

 

―――見えるッ!世界ッ!取り戻せッ!!

 

その一方、クローズが行っているのは肩の燃焼強化装置『フレイムドラグライザー』によって強化状態『ボルケニックモード』への移行をしているのだ。

 

―――負けない情熱がッ!!炎になるゥ!願いとッ!!―――

 

それによって、二人の次の攻撃は、強力な破壊力を発揮する。

「これでェ―――」

「―――最後だぁぁぁああ!!!」

クローズがボルテックレバーを一回回し、一気にニトロたちに突っ込んでいく。

その背中のソレスタルパイロウィングで飛翔し、その身が燃え盛るままに敵に突っ込んでいく。

 

―――目を覚ますこの闇の中にッ!!

 

クリスが背中に巨大なミサイルを二基構えて、うち一発をレイアに向かって放つ。

それをレイアは叩き落す。

「もろともに巻き込むつもりか・・・!?」

巻き起こる爆発による煙の中、それを突っ切って、第二のミサイルがレイアに迫る。

 

―――弱さッ!捨ててッ!立ち向かうッ!!

 

「ぉぉおおぉおおお!!」

クローズの周りに八頭の龍が出現する。その龍がそれぞれ咆哮し、一気にニトロたちに迫る。

「そんなもの、撃ち返してくれるわぁ!」

「汚れた人間風情にぃぃいいい!!」

 

―――激しく火を放て

 

投擲される爆弾、しかし、それは火気によって爆発することすら許されず消滅する。

「バ―――」

 

そして、二人の必殺技が炸裂する。

 

「「今の(アタシ)たちは――――負ける気がしねぇぇええ!!!」」

 

―――想いは届く 今ァ―――

 

 

 

「―――Burning My Soul(魂よ、燃えろ)ッ!!」

 

 

 

ボォルケニックアタァックッ!!アチャァア!!!』

 

 

MEGA DETH FUGA

 

 

 

二人の一撃が直撃する。

しかしクリスはその直前で何かに引っ張られるかのように後ろに飛ぶ。よくみれば切歌の肩アーマーから射出されたアンカーである。

そしてクローズは、ニトロたちに必殺技である『ボルケニックアタック』が炸裂すると同時に背中の翼を広げてクリスの後を追う。

ミサイルの爆炎が、クローズの背後から襲い掛かる。

しかし、これほどまでの威力の大技を放てば、施設の破壊は免れない。

そうでなくてもその衝撃と爆炎が襲い掛かってくる。

 

―――だからこその、後輩たちだ。

 

「スイッチの位置は覚えてる!」

すかさず調が丸鋸を射出。各隔壁のスイッチを同時に押し、表示を『OPEN』から『ROCK』へと変わる。

「引っ張れぇぇええ!!」

「ふんぐぅぅうう!!!」

「うぉぉぉおおお!!!」

そして、切歌の体を掴んで、クリスを全力で引っ張るグリスとタスク。

爆炎が背後からクローズとクリスを追いかけるも、隔壁がギリギリの所で閉じ、クローズとクリスはどうにか隔壁の外へ。

凄まじい振動が、深淵の竜宮を揺らす。

だが、六人とも無事だ。

「やったデス!」

「即興のコンビネーションで・・・全くもって無茶苦茶・・・」

「ハッハッハ!いいじゃねえか面白くて!」

「どこまで戦闘狂なんですか貴方は・・・」

クリスが立てた即興の戦略。それはまさしく、無謀とも言うべきものだった。

だがしかし、

「その無茶も、お前ら後輩がいてこそだ」

そう言って、クリスは、調、切歌、タスクの手を取る。

「ありがとな」

その言葉に、三人は嬉しそうに笑い、クローズとグリスも、安心したように微笑むのだった。

だが、一度収まったかと思った揺れが、再び大きな揺れとなって戻ってくる。

「おいおいこれやばくねえか・・・?」

ふとクリスの視界にイチイバルに搭載されたAI『バル』によって本部から送られてきた情報が表示される。

 

 

 

「深淵の竜宮の被害拡大・・・クリスちゃんたちの位置付近より、圧壊しつつあります!」

さらに、

「この海域に急速接近する巨大な物体を確認!これは・・・!?」

それは、巨大な人影、以前、本部を襲ったものと同じ―――巨大人型兵器。

「いけない、早く戻ってきてください!」

セレナが装者たちに呼びかける。

 

 

 

 

オートスコアラーやデイブレイク社からのダメージが大きい調と切歌、一海と慧介を抱えて、クリスとクローズが急いで小型潜水艇の元へ向かっていた。

ちなみに調と切歌はLiNKERの効果切れが主な理由である。

「だめ、間に合わない・・・」

「さっきの連携は、無駄だったデスか・・・?」

セイレーンからもたらされる深淵の竜宮の損壊状況と、敵の接近情報。

「まだだ!諦めるな!・・・ってうわ!?」

「そうだ!まだ間に合う!」

飛んで跳ねてを繰り返すクリスよりクローズの飛翔能力の方が遥かに速い。

クリスを肩車して、クローズはそのまま一気に飛翔する。

そしてすぐさま小型潜水艇へ到着、すぐさま本部へと戻る。

 

 

 

「―――潜航艇の着艦を確認ッ!!」

「緊急浮上!振り切るんだ!」

潜水艦が浮上する。

その後を、巨大な人型が追いかけてくる。

「敵巨大物体、距離、残り三百!」

「総員をブリッジに集め、衝撃に備えろ!急げ、友里!」

 

 

 

 

朝日が昇る。その瞬間を、響は見つめていた。

「―――決戦の朝だ」

 

 

 

潜水艦が浮上―――その直後に、巨大な人型の右腕が振り上げられる。

その、包帯だらけの一撃が、潜水艦に直撃した――――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「本当に、お母さんとやり直すつもり?」

再び、父親洸と対面する響。

「だって、怖いだろ」

しかし、洸の反応はあまりにもいい加減であった。

「立ち止まれるものか」

しかし、そこへついに起動した『チフォージュ・シャトー』が姿を現す。

「何もなければ耐えられまいて!」

襲撃してくるキャロル。それに響は―――



次回『リトルミラクル/父と娘』


「――――へいき、へっちゃら」


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リトルミラクル/父と娘

慧「最近ネタ切れになってきた今日このごr」
一部女性陣「きゃぁぁあぁああああ!!!」
慧「え!?なにごt」
調「慧くん!!」
慧「ぬぐお!?いきなりだきついて一体なにw」
真っ黒い何かが入ってくる(カサカサ
慧「あーなるほd」
切「だ、誰かどうにかしてくださいデース!!」
慧「あー、仕方ない。ここは俺が一つ活躍を」
弦「何やら悲鳴が聞こえたが何があった!?」ぷちっ
一同「あ」
弦「む?みんなどうしたんだ?」
マ「――――」ばたんきゅー
慧「ま、マリアぁぁああ!!?」
調切「―――」チーン
弦「ぬお!?調君と切歌君がこれまでにないほどの絶唱顔で気絶しているだとォ!?」
慧「全部あんたのせいだよ・・・」
弦「俺が一体何をしたっていうんだ・・・」
龍「ようお前ら一体何してんだ?」
慧「あ、どうも龍我さん今日は気分悪いんで帰ります」三人ずるずるひきずって
龍「ん?おう・・・?」
慧「あ、あとあらすじ紹介お願いします」
龍「お、おう・・・?と、とりあえず天才物理学者の桐生戦兎と風鳴翼及びライダーと装者一向は錬金術師キャロルとデイブレイク社との最後の結成に向かっていた。その一方で響は自分の親父と会っていたのでした」
弦「さて、響君の方は一体どうなることやら・・・」
龍「そんなわけでシンフォギア・ビルドGX第二十一話をどうぞ!」
一「なんか切歌たちが慧介にひきずられてたが一体何gうぉぉ潰れたゴキブリ!?」
龍「は!?マジかよ!?」
弦「一体誰が潰したんだ・・・ん?」


―――人型兵器の一撃が、本部に直撃する。

 

 

 

その時の衝撃で、天井の証明の鉄板が剥がれ落ち、落下―――友里の真上に―――

「ッ!」

それにいち早く気付いたウルフだが、思った以上に揺れが激しく、上手く動けない。

しかし、同時にもう一人気付いた者が―――

「危ない!」

 

 

 

 

その一方で、爆発の瞬間、本部のブリッジ部分が分離、直後、船体が爆発し、海の藻屑となる。

だが、次の瞬間、人型の叩きつけられた右腕が斬り飛ばされる。

その衝撃に、人型はよろけ、そして、巻きあがる黒煙の中、飛び出す銀色の閃光があった。

 

――――仮面ライダークライムだ。

 

クライムはそのまま左腕を駆けあがり、その人型の顔面前まで飛ぶと、刀を構え、そして―――

 

ウルフテックフィニッシュッ!!!』

 

無数の斬撃が、人型に叩き込まれ、爆散する。

それによって起きた波がブリッジに叩きつけられ、大きく揺れる。

その上に、クライムは着地する。

そして、雷切を背中の鞘に納め、一人ごちる。

「本部の大部分を損失・・・そして、こちらを排除する姿勢・・・いつでもやれたことを今になってやってきたという事は、俺たちはもう用済みという事か・・・」

そう、クライムは呟いた。

 

 

 

 

そして、ブリッジ内、発令所にて。

「う、ウルフに頼んで、シンさんにビルドドライバーとクライムウルフを返しておいてよかった・・・」

セレナが未だ揺れる視界の中でそう呟く。

独断でこっそりと電子ロックであるシンの独房の自作マスターキーをウルフに渡し、さらにウルフに内蔵した格納部位にビルドドライバーとクライムウルフ、そしてウルフフルボトルを忍び込ませ、いざって時にシンを出撃させるように仕組んでおいたのが功を奏したようだ。

しかし、

「エルフナイン、エルフナイン・・・!」

エルフナインの名を何度も呼ぶ、電子音声が聞こえてきた。

「ウルフ・・・!?」

それにセレナは伏せていた体を起こし、その声がする方を見れば、そこには、友里に覆いかぶさるエルフナインに必死に呼びかけるウルフの姿があった。

「ウルフ、どうしたの・・・!?」

すぐさまセレナが駆けつける。

「エルフナインが負傷した!」

「そんな!」

見れば、エルフナインの脇腹の衣服が赤く染まっているのが見えた。

それを見たセレナが急いでエルフナインの体を抱き起こし、そっと横たわらせる。

「エルフナインさん、エルフナインさん!しっかりしてください!」

「うぅ・・・!エルフナインちゃん!?」

そこで友里も起きる。

「ボクは・・・誰にあやつられたんじゃなく・・・」

そこで、エルフナインは気絶する。

そのエルフナインの脇腹あたりの衣服の赤がさらに広がっていく。

「エルフナイン!く、ウルフ、救命道具!」

「了解だ」

ウルフはその場に伏せて、胴体部分、その一部が開き、そこから救急箱が出てくる。

メディカルルームは、先ほど破壊された潜水区画にしかない。

この分離されたブリッジでは、まともな治療も出来ない。であるならば、せめて応急処置だけでもしなければならない。

「しっかりして、貴方は、ここで死ぬべき人じゃない・・・!」

セレナは、逸る心臓の鼓動を必死に抑え込みながら、エルフナインの手当てにあたった。

 

 

 

 

 

 

 

――――病院から、それほど離れていないレストランにて。

立花響は、父洸と対峙していた。

その父の前には、食事に使われた食器の数々。

「ふぅ・・・悪いな、腹減ってたんだ」

「うん・・・・」

そう言う洸に響は、小さく相槌を打つ。

そんな中で、響は自分の手の中にある携帯。そのメールに書かれた文字を見る。

 

『へいき、へっちゃら』

 

響の口癖。どんな辛い時でも、なんとかなってしまうかもしれないと思える、魔法の言葉。

未来から送られてきたメールには、そう書かれていた。

それを見て、それを心の中で唱えて、響は、意を決して父に言う。

「あのね、お父さん」

「どうした?」

「・・・・本当に、お母さんとやり直すつもり?」

「ほんとだとも」

洸は、即答した。その身を乗り出して。

「お前が口添えしてくれたらきっとお母さんも―――」

「だったら!」

そんな中で、洸の言葉を遮って、響は頼む。

「・・・始めの一歩は、お父さんが踏み出して」

それが、娘の父親に対する『お願い』だった。

「逃げだしたのはお父さんなんだよ。帰ってくるのも、お父さんからじゃないと・・・」

その言葉に、洸は、しばし沈黙して。

「・・・そいつは嫌だなぁ」

 

そう、拒絶した。

 

「だって、怖いだろ」

そして、話す。

「何より俺にも、男のプライドがある」

響にとって、信じられない言葉を。

「・・・私、もう一度やり直したくて・・・勇気を出して会いに来たんだよ」

その結果が、これだ。

「・・・・響」

「だからお父さんも、勇気を出してよ!」

「だけど、やっぱり、俺一人では・・・」

これが、昔、本当にあのカッコよかった父親なのか。

これが、自分が大好きだったあの父親なのか。

やはり―――

「・・・もうお父さんは、お父さんじゃない・・・」

こんな現実に向き合えない。これ以上、父の変わり果てた姿を見たくない。

「一度壊れた家族は、元に戻らない・・・」

だから、響は―――諦めの言葉を呟いた。

それに、洸は何も言えなくなる。

何かを言おうと思っても言葉は見つからず、娘の信頼を得る為の言葉は、今の彼には不可能だった。

そんな洸が、窓の外を見れば、そこには母親と手を繋いで歩く子供が転んで、その手の風船が丁度、空へと飛んでいく様子が目に入った。

その風船は、どこまでも飛んで行って、そして―――

 

 

 

どこかのビルの屋上、そこでリカルドは両手を広げて叫ぶ。

「さあ、世界の終わりの始まりだ!」

 

 

 

 

―――空が、砕けた。

 

 

 

 

「な・・・!?」

まるで窓ガラスが割れるように、空にひびが入り、砕け散ったのだ。

そして、それによって空いた穴から、何かが降りてくる。

「なんなんだ!?」

「空が・・・割れる・・・!?」

それに気付いた響も空を見上げる。

そこから現れたのは―――巨大な浮遊する城だった。

 

 

 

浮遊する城―――『チフォージュ・シャトー』玉座兼制御室にて。

「ワールド・デストラクターシステムをセットアップ・・・シャトーの全機能をオートドライブモードに固定・・・」

ウェルが、ネフィリムの腕をもって、チフォージュ・シャトーを、いわゆるオートパイロット状態にする。

そして、それを完了すると同時に、左腕を引き抜き、そして、薄気味悪く声を挙げる。

「うっひっひ・・・どうだ!僕の左腕は、トリガーパーツなど必要としない!僕と繋がった聖遺物は、全て意のままに動くのだ!」

それが、ウェルのネフィリムの恐ろしさ。

その気になればシンフォギアすらも牛耳ることの出来る力。故に、ウェルは隔離されたのだ。

「オートスコアラーによって、呪われた旋律は全て揃った・・・」

キャロルが、不敵に笑う。

「これで世界はバラバラに噛み砕かれる・・・!」

「あぁん?」

しかし、そこでウェルはキャロルの発言に疑問を抱く。

「世界を噛み砕くぅ?」

それにキャロルは頷く。

「父親に託された命題だ・・・」

 

呼び起こされるのは、父親の末路。

 

その、最後の言葉は―――

 

『キャロル、生きて、もっと世界を知るんだ』

「―――分かってるって!」

次の瞬間、キャロルの言動が一種の恐怖を掻き立てられるほどの無邪気な口調に変わる。

「だから世界をバラバラにするの!解剖して分析すれば、万象の全てを理解できるは!」

確かに、物の構造を確かめる為にはその中身を切り開かねばならない。

機械も、植物も、動物も、そして人間も。全ての生き物は、その中身を切り開くことでその構造を理解してきた。

「つまりは至高の叡智。ならばレディは、その知をもって何を求めるぅ?」

「―――何もしない」

ウェルの言葉に、キャロルは口調を戻し、答える。

「あぁん?」

「父親に託された命題とは、世界を解き明かすこと。それ以上も以下もない」

「OH、レディに夢はないのかぁ?英雄とは飽くなき夢を見!誰かに夢を見せる者!託されたものなんかで満足してたら、底も天辺も高が知れる!」

「―――『なんか』、と言ったか?」

―――ウェルは、正論ながらもキャロルの地雷を踏み抜いた。

 

 

 

 

 

 

響の携帯に、誰かが連絡を繋ぐ。

「はい」

『響ちゃん?』

出た先で聞こえたのは友里の声だった。

『通信、回復しました』

『手短に伝えるぞ』

響は洸を伴い、すぐに外に出る。

『周到に仕込まれていたキャロルの計画が、最後の段階に入ったようだ』

「え!?」

その言葉に、響は驚きを隠せない。

『敵の攻撃でエルフナイン君が負傷。応急処置を施したが、危険な状態だ』

『・・・ボクは平気です・・・だから、ここにいさせてください・・・!』

スピーカーから聞こえる、弱々しくも必死なエルフナインの声。

「エルフナインちゃん・・・?」

『俺たちは現在、東京に急行中。装者、ライダーが合流次第。迎撃任務にあたってもらう。それまでは・・・』

「はい、避難誘導にあたり、被害の拡大を抑えます」

そこで通信を終え、すぐさま後ろにいる洸に声をかける。

「お父さん、皆の避難を・・・」

「こういう映像って、どうやってテレビ局に売ればいいんだっけ?」

が、目を向けてみれば、そこにはシャトーの映像をとる父親の姿があった。

「お父さん・・・」

その様子は、あまりにも酷かった。

 

 

 

 

 

シャトー内にて。

「父親から託されたものを、『なんか』と言って切って捨てたか!?」

キャロルの逆鱗に触れたウェルだが、

「犯したともさ!」

全く悪びれる様子がない。正論は正論でも、それを言うのがクズであるならばそれはクズの理論にしかならない。

「ハッ!レディがそんなこんなでは、その命題とやらも解き明かせるのか疑わしいものだ!」

「何?」

「至高の叡智を手にするなど、天荒を破れるのは英雄だけぇ!英雄の器が小学生サイズのレディには、荷が固すぎるぅ!」

「くっ」

「やはり英雄は僕一人ぼっち・・・!二人と並ぶ者はなァい!」

そう喚き散らすウェルだが、

「やはり僕だ!僕が英雄となって・・・」

「どうするつもりだ?」

「無論!人類の為!善悪を超越した僕がぁ!チフォージュ・シャトーを制御してぇ―――」

 

 

次の瞬間、ウェルの腹に、一本の剣が突き立てられる。

 

 

「えぇ・・・いや~ん・・・」

「ねえ、知ってる?」

ウェルの背後、白髪の男が、そのにやけ面をさらしてウェルに言う。

「大抵の英雄はね―――最後には破滅するんだよ?」

剣が引き抜かれる。

そしてその直後―――ジャード・ニルフラムの蹴りがウェルを蹴り飛ばす。

「ぐぅえ!?」

「いやーごめんねぇキャロルちゃん、ちょっと偉い人に、ここの防衛を任されちゃってさぁ」

そうジャードが謝るキャロルの手には、魔琴・ダウルダブラが握られていた。

「ふん・・・まあ、下衆の血で汚れる事は避けられたから良しとするか」

「へえ、いいんだ。じゃあ、この粗大ごみは俺が処理しておくね」

そう言って、ジャードはウェルに歩み寄る。

「あ・・・ぅう・・・」

「よかったねぇ、英雄らしく死ねるよ」

「は・・・ハハ・・・言ってくれるねェ・・・」

「シャトーは起動して、世界を分解するための機能は自立制御されてるから、世界が終わるのももうすぐだね」

剣の切っ先がウェルに向けられる。

「君は英雄として語り継がれると思うよ―――世界を破滅させた、俺たちデイブレイク社の英雄として、ね」

「ふざけ・・・」

「バイバイ」

剣が降りぬかれる。

だが、ウェルはその前に自ら背後の手摺から身を乗り出し、そのまま一気に下へ落下していく。

「あーあ、切り刻みたかったのに」

手摺に肘をついて頬杖をするジャードの後ろ姿を、キャロルは見つめる。

(ご苦労だったな、ドクターウェル。世界の腑分けはオレが一人で執刀しよう)

そう、笑って時だった。

「ぐっ・・・!?」

また、拒絶反応がキャロルを襲う。

よろめき、どうにか傍らのダウルダブラを杖代わりにして膝をつくのを耐えるが、やはり、この拒絶反応は耐えるのがきつい。

「・・・立ち止まれるものか」

歯を食いしばり、キャロルは拒絶反応を抑え込む。

「計画の障害は・・・例外なく、排除するのだ・・・!」

そうしてキャロルは、千里眼のようにある光景を目の前の空間に投影する。

そこに映っているのは、一人の男女。その片方、少女の方は―――

 

 

 

「やっぱまずいよな」

洸は、そうせせら笑って携帯をポケットに仕舞う。

その父親のいい加減な態度に、響も我慢できずに声を荒げる。

「いい加減にしてよお父さん!」

「―――ほう、そいつがお前の父親か」

突如として、その場に聞こえた、響にとっては聞き覚えのある声。

「響、空から人が・・・!」

そう声を挙げる洸の見るほうを見れば、そこには巨大な魔琴を携えた一人の三つ編みの少女の姿があった。

無論、キャロルだ。

「キャロルちゃん・・・!?」

だが、響はキャロルが生きている事を知らない。だから、驚くのも無理はない。

「終焉の手始めに、お前の悲鳴が聞きたいと、馴染まぬ体が急かすのでな」

だが、響ももはや歴戦を潜り抜けてきた戦士、キャロルが生きていたとしても、大きくは動揺しない。

「・・・あれはやっぱり、キャロルちゃんの?」

「キュイーン!」

「うわ!?なんだこれ!?」

響の懐から、ガングニールフェニックス―――ニクスが飛び出し、キャロルを威嚇するように鳴く。

その響の問いかけにキャロルは肯定する。

「いかにも。オレの城『チフォージュ・シャトー』。アルカノイズを発展応用した、世界をバラバラにする解剖器官でもある」

「世界を・・・あの時もそういってたよね?」

それは、響とキャロルが初めて出会った、あの火事の日の事だ。

「あの時、お前は『戦えない』と寝言を繰り返していたが、今もそうなのか?」

嘲るようなキャロルの言葉。

その言葉に、響は一瞬目を見開くも、すぐに意を決した表情になって、ニクスをその手に掴もうとするが―――

「ッ!」

次の瞬間、キャロルが突風を巻き起こしてニクスを吹っ飛ばす。

「キュイーン!?」

「ニクス!?」

その吹っ飛んでいく最中で、ニクスが鎖で雁字搦めにされる。

これによって、ニクスは声を挙げる事も飛ぶことも出来ず落ちていく。

「そんな!?」

「ッ!?」

その落ちていく様を、洸は見つめる。

「もはや」

だが、キャロルの言葉で視線を戻す。

「ギアを纏わせるつもりは毛ほどもないのでなぁ!」

振り上げられた右手には、先ほどの突風と同じ方陣。しかし、そのサイズは、ただニクスを吹き飛ばすだけの方陣とはサイズが違った。

「ッ!」

それに対して、響はギアなしでの格闘戦を選択。

先のキャロルの言葉から、ギアを拾いに行けば、そっこくあの方陣で狙い撃たれるのが関の山だ。

「オレは、父親から託された命題を胸に世界へと立ちはだかる!」

「お父さんから、託された・・・」

その言葉が、再び響の胸に突き刺さる。

「誰にだってあるはずだ」

その言葉の刃が、響の胸に突き刺さった棘を、更に深く突き刺す。

「私は何も・・・!」

―――受け継いでいない。

「・・・託されていない・・・」

「何もなければ耐えられまいて!」

すかさずキャロルの風の咆哮が響を襲う。だが、響は棒立ちのまま。このままではその風に巻かれて吹き飛ばされる。

しかし、そこで()()()()()()()()()()()()

風の一撃は空振り、タイルの地面を砕く。

それによって巻き散らされる瓦礫。

煙が晴れた先にいるのは、()()()()()()()()()()姿()

「響!おい、響!」

「う・・・」

()()()()()()()()()()()

すかさずキャロルが追撃の術式を展開する。

「世界の前に分解してくれる」

それを見た洸は、すぐさま立ち上がって()()()()()()()()()走り出す。

「うわぁあああ!!」

「お父さん・・・!?」

逃げる洸。

「た、助けてくれぇ!」

だが、()()()()()。そして、()()()()()()()()()()()()()()

「こんなのどうかしていやがる!」

「あ・・・」

その背中は、あまりにも情けなくて、響はかつてのあの背中を思い出す。

 

あの、家から出ていく、父親の背中を―――

 

それを思い出すと、響の目に涙が滲む。

「フハハ!逃げたぞ!娘を放り出して、身軽な男が駆けていきよる!」

キャロルの攻撃が洸を襲う。

まるで嬲るような攻撃。しかし、その最中で洸は転び、()()()()()()()()()()()()()()()()()

そんな洸に、キャロルがにじり寄る。

そのキャロルに、洸は恐れおののくように尻もちをついたまま下がる。

その時手に当たった石を引っ掴んで、キャロルに投げる。そしてそのまま再び駆け出す。

「来るな!来るなぁ!」

再び立ち上がってはキャロルから逃げるように走る。

「大した男だなぁお前の父親は」

そんな父の姿から、響は思わず目をそらす。

 

 

―――その行動全てから。

 

 

「オレの父親は、最後まで逃げなかった!」

レーザーのような砲撃が、洸に襲い掛かる。

そして、それから逃げる洸は、響に向かって叫ぶ。

「響!()()()()()()()()

砲撃がなおも襲い掛かる。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

その時、キャロルの砲撃が、洸の至近距離で炸裂。その衝撃を諸に喰らった洸が、大きく吹っ飛ぶ。

「お父さん!・・・え」

その時、響は、見た。

 

洸を守るようにして、ほんの一瞬だけ出現した、炎の鳥を―――

 

だが、洸は確かに衝撃の直撃を喰らった。

その体はボロボロで、傷ついていた。

そして、その状態で地面に仰向けに倒れている。

「お父さん・・・?お父さぁん!」

必死に、倒れ伏したまま叫ぶ響。

「く・・ぅぅ・・・」

傷ついて、どうにか起き上がる洸は、響に()()()()()()()()

「これくらい・・・()()()()()()()()()・・・」

「・・・あ」

それを聞いた瞬間、響の脳裏に、とある光景がフラッシュバックする。

 

 

それは、まだ自分がとても幼い時に、洸がジャガイモの皮をむいていた時の事だ。

「っ・・・」

間違えて、手を包丁の刃で切ってしまい、その親指から血が流れ出ていた。

「おとうさん、だいじょうぶ?」

その父親を、幼い響は心配する。

「へいき、へっちゃらだ」

だけど洸は、響の頭に手を置いて、笑ってそういって見せる。

その笑顔で、それを聞くと、自然と響も笑っていた―――

 

 

 

(そっか・・・『へいき、へっちゃら(あれ)』はいつも、お父さんが言ってた・・・)

いつも、何かある度に、笑顔で言っていた、どんな辛い時でもどうにかなってしまいそうな気持ちになれる、魔法の言葉にして、思い出。

「逃げたのではなかったか?」

キャロルの言葉に、洸は言ってみせる。

「逃げたさ・・・だけど・・・!」

傷ついた体で、洸は立ち上がる。

「どこまで逃げても、(この子)の父親であることからは逃げられないんだ!」

「お父さん・・・」

ひ弱で、戦う力のない筈の父親。家から逃げた筈の父親。情けなかった父親。

「俺は生半(なまなか)だったかもしれないが、それでも娘は本気で、壊れた家族を元に戻そうと!」

足元に落ちていた瓦礫を拾っては、キャロルに投げ、洸は叫ぶ。

「勇気を出して向き合ってくれた!」

その姿が、その言葉が、響の胸に、温かい何かを溢れさせてくれる。

「だから俺も、なけなしの勇気を振り絞ると決めたんだ!」

 

―――立ち上がる為の力をくれる。

 

「響!受け取れぇ!」

洸の背中に隠れて投げられたのは、リンク・アニマル。

鎖で雁字搦めにされた、ガングニールフェニックス。

それを受け取り、響は、歌う。

 

『STANDBY』

 

喪失までのカウントダウン―――否、

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron(希望の為のカウントダウン)―――」

 

させぬ、とキャロルの光弾が放たれる。

それが、響に炸裂する―――

「響ぃ!」

直撃すれば命はない一撃、それが、響に炸裂した。

その状況に、洸は思わず、膝をつく。

だが、巻き起こった煙の中から、現れたのは―――炎の不死鳥に包まれた、愛娘の姿。

 

「――――へいき、へっちゃら」

 

―――あの時、走り出したのは、手元から離れてしまったニクスを探す為。

 

「響・・・」

洸が、立ち上がる。

 

―――あの時、あんなことを言ったのは、ニクスを探すのを悟られない為。

 

炎が形を成し、鎧となって、響に纏われる不死鳥。

 

―――あの時、転んだのは、落ちていたニクスを拾うため。

 

何もなかった響の手。だけどその何もない手に、誰かと繋ぐ為の力を与える、無双の一振り。

 

―――あの時 叫んだのは、娘の身を案じていたから。

 

 

全て、全てが意味のある行動だった。自分の愚かさを清算する、なんてこと、考えている訳がない。

 

だって、私は、彼の娘なのだから。

 

どこか頼りなくて、だけど結局は頼りになって、カッコよかった、あの父親の娘なのだから。

 

 

 

―――あの時、キャロルに向かって石を投げたのは、最後に投げるニクスを、確実に響に届ける為。

 

 

 

ひ弱で、戦う力のない筈の父親。家から逃げた筈の父親。情けなかった父親。

そんなもの全てが、霞んでしまうぐらい、今の父親は、眩しかった。

「私、お父さんから大切なものを受け取ったよ。受け取っていたよ」

リハビリの時も、学校の机に落書きされていた時も、どんなに辛い時でも、洸がくれたこの言葉が、支えとなって、今日までの自分に繋いでくれた。

「お父さんは、いつだってくじけそうになった私を支えてくれていた・・・」

なんで、こんな大切な事を忘れていたのだろう。

確かに、ああ、確かに、自分は、最高の父親から、この言葉を貰っていた。

「ずっと、守ってくれていたんだ!」

「響・・・」

響の言葉に、洸はきょとんとし、そして響の視界にある文字列が並ぶ。

 

 

『モウ怖イモノハナニモナイ。ソノ拳ヲ信ジテ進メ』

 

 

その言葉にうなずいて、響は、歌う!

 

「―――奇跡が宿った機械仕掛けの このアームには意味がある」

 

希望の為の歌が、小さな奇跡の歌が紡がれる。

ばら撒かれるアルカノイズ。

その中を突っ切って、響は拳を握り締めて殴り飛ばす。

 

「―――普通の日常なんでもない日々 そんな夢の為だと」

 

腰のジェットを蒸かし、高速回転を駆け、一気にフライトノイズの上空をとる。

そして、右腕のギアを変形させ、巨大なジェットナックルへと変形。落下の勢いともに、何体ものフライトノイズを叩き落していく。

 

「温もりを伝える 言葉じゃなくたって」

 

地面への落下と共に、アルカノイズがまとめて吹き飛ぶ。

そしてアルカノイズの集団から抜けると、すぐさま踵を返して再び突撃する。

 

「―――この拳の答え 武器を持たぬ答え」

 

響が次々とアルカノイズを倒していく。

その様子を、洸は黙ってみていた。そして、あの日、街のテレビで見た少女の事を思い出す。

(・・・じゃあやっぱり、あの時の女の子は、響だったのか・・)

 

「―――『一撃必愛』ぶっ込めラブソング」

 

逃げてばかりの自分と違い―――

 

「―――正義を信じ 握り締めよう」

 

彼女は何があったも踏み止まって、ずっと頑張ってきたのだ。

それを思うと、自分が情けなくなってくる。

 

「―――やり直せばいい 壊れたって もう―――うあッ!?」

 

その時、歌が途切れる。

見れば響がキャロルの放つ突風によって壁に叩きつけられていた。

「響ぃ!」

思わず叫ぶ洸。

「く・・・ぅ・・・ぁ・・・」

壁から剥がれ、落ちていく。

力が、入らない。

だけど―――

「負けるなぁぁぁあ!!」

大好きな、父親が応援してくれるなら、

「響、負けるなぁぁああ!!」

その叫びが、力になる。

 

「もうへいき、へっちゃらぁぁあ!!!」

 

『Links Arms!〔Phoenix Bleze〕!!』

 

 

想いの炎が迸る。不死鳥の形を成すその炎を身に纏い、響は一気にキャロルに突っ込む。

 

「ハッァート響きかせ合いッ!!」

 

右腕のアームドギアをジェットナックルへと変形、そこに、フェニックスブレイズの火力をプラスし、その威力は跳ね上がる。

 

「なけなしの勇気だって『勇気』ィィィイイィィイイッ!!!」

 

絶叫するような歌。

渾身の拳が、キャロルの腹に突き刺さる。

 

「泣けるほどギュッと、愛にぃぃぃなっるっゥウ!!」

 

着地、すかさず追撃。ジェットナックルのジェットを蒸かし、響は再び飛翔する。

それに対して、キャロルは三重の防御術式を起動。

「ヘルメス・トリスメギストス!!」

それは、錬金術師の祖と呼ばれる神代の錬金術師。

だが、響はそれを知る訳がない。

「知ィるゥもォんかァァァアアアッ!!」

激突―――そして、爆裂。

 

『―――キィアァァアァアアァアアアアッ!!!』

 

不死鳥が咆哮し、三重に張られた防御結界はいとも容易く粉砕される。

そして、その拳は、キャロルの顔面を打ち据え、遠くへとぶっ飛ばす。

遠場に落下し、激しい土煙を立てる。

だが、その直後に、洸の足元から大量のアルカノイズが出現する。

おそらく、なんらかのタイミングでアルカノイズをばら撒いたのだ。

「お父さん!」

響はすぐさま洸の元へ向かう。だが、あまりにも離れすぎた。

巻き込まない為に距離をとったのが仇になる。

「お前も父親を力と変えるなら・・・」

地面に叩きつけられ、よろよろと立ちあがるキャロルが、召喚したアルカノイズに命令を下す。

「まずはそこからひいてくれる!」

アルカノイズが、洸に迫る。

「ひぃぃいい!?」

「お父さん!」

間に合わない。そう思った時だった。

 

どこからか、大量の驟雨が降り注ぎ、洸の周囲にいたアルカノイズを纏めて消し飛ばす。

 

(これは・・・!)

 

『来タ』

 

ニクスが伝える。―――仲間の到来を。

 

キャロルの目の前に、巨大な剣が落ちる。それが壁となり、その上にたたずむのは、蒼穹の鎧を纏う少女。

そして、その壁を背にキャロルの前に立つのは、赤と青の装甲を身に纏った、仮面の戦士。

「チッ!・・・!」

そして、横を見てみれば、建物の上にたたずむ、十の影。

見間違えようもない。その色とりどりの装甲を纏う戦士たち。

 

鏖鋸・シュルシャガナ/月読調

 

獄鎌・イガリマ/暁切歌

 

銀腕・アガートラーム/マリア・カデンツァヴナ・イヴ

 

魔弓・イチイバル/雪音クリス

 

歪鏡・神獣鏡(シェンショウジン)/小日向未来

 

絶刀・天羽々斬/風鳴翼

 

仮面ライダータスク/涼月慧介

 

仮面ライダークライム/シン・トルスタヤ

 

仮面ライダーローグ/氷室幻徳

 

仮面ライダーグリス/猿渡一海

 

仮面ライダークローズ/万丈龍我

 

仮面ライダービルド/桐生戦兎

 

 

そして―――撃槍・ガングニール/立花響

 

 

祝え。

 

今ここに、全ての血の流れる歌を紡ぐシンフォギア装者と、世界を超えて再び立ち上がった仮面ライダーが集結した瞬間である。

 

 

 

洸は緒川によって救出され、戦場から出ていく。

そしてキャロルは、チフォージュ・シャトーの前で、装者たちと対峙する。

「ここまでだ。キャロル!」

「もうやめよう!キャロルちゃん!」

「本懐を遂げようとしているのだ。今更やめられるものか!思い出も、何もかもを償却してでも!!」

響の制止も無視して、キャロルはその手の魔琴を爪弾く。

 

魔琴から伸びる弦がキャロルの体を縛り上げ、体を変化、そのまま成長させ、その身にシンフォギアとは別系統の力・ファウストローブを身に纏う。

 

『滅琴・ダウルダブラ』再び降臨。

 

「ダウルダブラのファウストローブ・・・その輝きは、シンフォギアを思わせるが・・・」

マリアの言葉を、キャロルは鼻で笑って見せる。

「ふっ、輝きだけではないと、覚えてもらおうか!」

そして、キャロルは―――()()()()

 

「―――嗚呼、終焉への追走曲(カノン)が薫る」

 

「なに!?」

「これは・・・!?」

光が、網膜を焼く――――

 

 

 

 

港に止められた本部ブリッジにて。

「交戦地点のエネルギー圧、急上昇!」

「照合完了!この波形パターンは・・・」

「フォニックゲイン・・・だとぉ!?」

歌によって発せられるエネルギー波フォニックゲイン。

そのエネルギーは、現代科学に転用できない代わりに、太古の異端技術を呼び起こす力を持っている。

「これは・・・キャロルの・・・!」

腹から血を流し、エルフナインは戦慄する。

 

 

 

 

 

そう、それこそは、

「呪われた旋律・・・!!」

広げられるダウルダブラの魔弦。

それが激しく鳴動し、けたたましいくらいの音を掻き立てる。

そして、それに応えるように、黄金の風が彼らを襲う。

それを躱す装者、ライダーたち。

しかし、その黄金の竜巻は、着弾した地面を一気に砕き飛ばす。

「マジかよ!?」

「なんて威力だ!?」

「この威力、まるで・・・」

「すっとぼけが効くものか・・・」

「これは、絶唱・・・!?」

そう、絶唱だ。そのエネルギーが、災害の如く襲い掛かってきているのだ。

否、災害なのではない。災害とは意思無き力の奔流。

もし、災害に意志があるというのなら、それは、どうしようもない程の―――化け物だ。

「絶唱って確か、歌えば装者の体をぼろぼろにするっていう、あれか!?」

「その絶唱を負荷もなく口にする・・・」

「錬金術ってのは、なんでもありデスか!?」

キャロルの力、それに戦慄する一同。

だが、それをビルドは否定する。

「違う・・・絶唱によるバックファイアは適合係数に反比例して小さくなる。それをなんの負荷もなく歌っているってことは、アイツとダウルダブラの相性は、いわゆる適合係数百パーセント近く・・・つまり、絶唱を唄っても、なんの問題もなくその力を行使できるんだ!」

「だったらS2CAで・・・!」

フォニックゲインを束ねて、強力な一撃を叩き込む一人では成せない響の必殺技。

だが―――

「よせ!」

翼が響の肩を掴んで止める。

「あの威力、立花の体が持たない!」

「でも・・・!」

「それだけじゃない!」

ビルドが見上げる先、そこにあるチフォージュ・シャトー。

再びキャロルからの突風が巻き起こり、それに彼らは耐える。

「見てみろ・・・!」

「っ!?」

見上げれば、そこには、何故か心臓の鼓動のように鳴動するチフォージュ・シャトーの姿があった。

「鳴律・・・鼓動・・・共振・・・!?」

「まるで城塞全体が音叉のように、キャロルの歌に共振、エネルギーを増幅してるんだ!」

即ち、キャロルの放つ絶唱のエネルギーが、チフォージュ・シャトー内で増幅されているのだ。

そのエネルギーは、もはや絶唱すら可愛く見えるほどすさまじいものとなる。

その時、チフォージュ・シャトー下部から、光が迸り、地面に突き刺さり、四方に飛んでいく。

それが世界中に広がり、また無数のラインを地球上に展開する。

 

 

放射線状に放たれたエネルギー派は地表を沿って拡散・収斂する。

その軌道が描くもの、それは―――フォトスフィアと同じ軌道。

そのままエネルギー派は開析地へと収束、屹立する。

それによって、ありとあらゆるもの、生物も機械も関係なく、飲み込んでいき、分解していく。

 

 

「これが世界の分解だ!」

キャロルが、シャトーを背にそう叫ぶ。

「そんなことぉ!!」

響が飛び上がってキャロルに拳を叩きつけようとする。

だが、キャロルの周囲に展開された魔弦が、響の拳を阻む。

体中に絡みつくことでエネルギーを分散、相殺したのだ。

「ふっ、お前にアームドギアがあれば届いたかもなぁ」

そう嘲笑うキャロルを他所に、マリアが飛び上がる。

「マリア!?」

「私はあの巨大装置を止める!」

マリアが先行していく。その後を、調、切歌、タスク、クライムが追う。

調が禁月輪で切歌を運び、その最中で追いついたマリアの手を取る。

「!」

「LiNKER頼りの私たちだけど」

「その絆は、時限式じゃないのデス!」

「ま、俺たち仮面ライダーなら、その心配はないから、便りにしてくれよ!」

調と切歌の言葉に、そう頷き、ふとマリアは、反対側を飛ぶクライムを見る。

「シン・・・」

「・・・今はあの時の事を気にしている余裕はない」

クライムは、マリアの顔を見ないで、そう言う。

そして、調の禁月輪がシャトーの下にあるビルの壁に当たり、そのまま駆け上がり、クライムはその走力を使って壁を駆けあがる。

「うっわぁあ!?」

響が弦によって弾き飛ばされる。

「それでも、シャトーの守りは超えられまい。俺を止めるなど能わない!」

そのキャロルの背後から、翼が強襲。しかし空中で移動できるキャロルは躱して背後をとるも、そこへクリスとローグ、グリスの銃撃が襲い掛かる。

それに対してキャロルは黄金の風を巻き起こして反撃、それをローグとグリスがクリスの前に出て止める。

「ぐ―――ぅぁああ!?」

「ぬ―――ぐあぁあ!?」

「うわぁぁあ!?」

しかし耐え切れず吹き飛ばされる。

「野郎!」

「うぉぉおお!!」

そして、そこへビートクローザーを構えたクローズ・通常形態と、ドリルクラッシャーを構えたビルド・ラビットタンクフォームが斬りかかる。

しかし、キャロルが放った魔弦の一撃で二人は吹き飛ばされる。

「「ぐあぁあ!?」」

そのままビルドとクローズは落下する。

そして、倒れる彼らに、キャロルは言う。

 

「―――世界を壊す、歌がある!」

 

そこへ轟く、一発の銃声。

「貴様・・・!?」

放たれた一撃はキャロルの頬を掠めていた。

それを放ったのは、ラビットフルボトルを装填したドリルクラッシャー・ガンモードを向けるビルドだった。

そして、そのビルドがキャロルに向かって言い放つ。

 

「―――それに抗う、科学(ちから)がある!」

 

 

 

 

 

 

 

 

本部ブリッジ、その外にて。

「では、これをシンさんに届けてください」

「分かった」

ウルフの格納スペースに、ある物を入れ、セレナはウルフを出発させる。

「・・・間に合って」

そう、セレナは切実な思いを口にした。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

チフォージュ・シャトーに侵入することに成功したクライム一向。

「なんだこいつら!?」

その中にいたのは、何人ものサイボーグたちであった。

「ナス、ターシャ・・・?」

その最中で出会う、死んだ筈の恩人。

「聞かせてあげるよ」

そして、繰り出されるのは、あまりにも卑劣な手段であり―――

「君たちのミームはここで消える」

断罪ともとれる刃が、振り下ろされる、その瞬間――――

「・・・礼を言わせてくれ」

シンの中の、『狂気』が目覚める―――


次回『アサルトするジャック・ザ・リッパー』


砕くゥ!暴れるゥ!!狂い出すゥッ!!!


それはもう、誰にも止められない。


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アサルトするジャック・ザ・リッパー

切「ドーモ、アズレンのイベントで全てのキューブ使って爆死した作者デス」
戦「わざわざ作者の心を代弁しなくていいから!というわけで、天才物理学者であり仮面ライダービルドの桐生戦兎はエボルトとの戦いに勝利し、新世界創造を成功させたのでした!」
シ「だがその世界はノイズはびこる世界であり、桐生戦兎はその世界で出会った風鳴翼や他のシンフォギア装者、再開した仮面ライダーたちとともに、ノイズの殲滅に成功したのであった」
翼「だがそこに、錬金術師キャロルと世界の滅亡を目論むデイブレイク社が立ちはだかる」
マ「そして今、キャロルとの最終決戦が始まったのであった・・・というわけで今回はシンが主役!戦兎はわき役としてせいぜい頑張りなさい!」
戦「ふざけんじゃないよ!?この小説の主人公は俺でしょうが!?」
翼「戦兎、たまにはその席を譲るということも考えたほうがいいぞ」
戦「翼まで!?」
切「あー、イーグルがぜんぜんでないのデス!代わりに何故かハウばっかり出るのデス!レアリティこっちの方が高いのになんぜ低い方のイーグルが出ないんデスか!?」
戦「お前は少し黙ってろ!?」
シ「というわけで、シンフォギア・ビルドGX編第二十二話を見ろ」


―――チフォージュ・シャトー内へ侵入することに成功した、クライムたち。

 

だが、その最中で―――

「なんだこいつら!?」

体が機械で出来た男たちに襲い掛かられていた。

「人間・・・?」

「いえ、サイボーグよ!」

その身のほとんどを機械へと改造した人間たち。

「殺してやる!」

「今日はいたいけな少女を切り刻んでやるぜぇ!」

しかもすさまじい暴言を吐いて、その手の幅広の剣を振るってくる。

それをクライムは叩き落して、その腕を斬り飛ばし、すかさず心臓部分を斬り飛ばす。

斬り飛ばされた腕や傷口から、真っ白な粘着性のある液体が流れ落ちる。

「うぇえ・・・」

「気持ち悪い・・・」

「サイボーグ用の血液のようなものだ」

どんどんサイボーグを斬り捨てていくクライム。その様子を、タスクは黙ってみていた。

「慧くん、どうしたの?」

「いや・・・なんか、シンばっかりサイボーグ倒してるなって思って・・・」

「言われてみれば、そうなのデス」

確かに、ここに至るまでに戦ってきたサイボーグは、全てクライムが倒していた。

「こいつらがここにいるってことは、たぶん、奴らがここにいるということ・・・」

サイボーグを今時使う奴らなんぞ、奴ら以外にあり得ない。

そして、足元に転がるサイボーグの残骸を見下ろして、マリアは、先でサイボーグと戦うクライムを見る。

「・・・体は機械と言えど、元は私たちと同じ人間・・・」

ふと、調がそう呟く。

「人殺しをさせないように、シンが率先して斬っていってるのかな・・・」

その真意は、分からない。マリアでも、今のシンの心の内は、理解できない。

―――知るのが、怖い。

握り締めた拳が、自然と震える。

それに気付かず、タスクはクライムを見続ける。が、突如として背後から、何かが近づいてくるのに気付いた。

そして、先に行っていたクライムは、

「「「うわぁぁぁああ!?」」」

「ッ!?」

背後から聞こえた悲鳴に思わず振り返り、声がした方へと戻っていく。

(しまった、距離を開け過ぎた・・・!)

マリアの傍から離れていたのが仇となっていた。

(何をやっているんだ俺は・・・!?)

「マリア!皆!」

マリアたちの元へ戻ってみれば、そこには、床に倒れ伏す、マリアたちの姿があった。

そして、そのすぐ傍にいるのは―――

「ナス、ターシャ・・・?」

見覚えの車椅子に座った、眼帯の女性――――ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤが、そこにいた。

それによって、クライムは立ち止まってしまう。

「ッ・・・!?」

「思い出しなさい」

いる筈のない人物―――ナスターシャがクライムに言う。

「血に汚れた貴方の手を。それでどうして世界を救えるなんて夢想できますか?」

「・・・そうだとしても、俺は―――」

「目に映るもの全てを殺戮したいと、その欲望をその身に宿す貴方が、果たして世界を救うなどと出来るのですか?」

「―――」

瞬間、息が詰まる。

『そうだよねぇ』

次いで、久しく聞いていなかった声が、クライムの耳に届く。

「・・・ジャード・ニルフラム・・・」

『ジャック、君はいつもそうだ。代わりに血を浴びると言っておきながら、本当は自分が血を浴びたいだけ、ジャックは自分の為に戦ってるに過ぎないんだよ』

「・・・」

『だってそうでしょ?この間の事がその証拠さ』

「ッ・・・」

声は、シャトーそのものから聞こえているようだ。

『ただ弱者を斬り捨て、その生き血をすする・・・アハ、まるで吸血鬼だ』

「・・・俺の剣は、大切な者を守る剣だ・・・!!」

『守る剣、ねえ・・・じゃあ聞くけど、君はなんで、サイボーグたちを斬り捨てるんだい?』

「貴方は知っているはずです。彼ら(サイボーグたち)の経歴を」

偽物のナスターシャ、姿を現さないジャードから、そう言われ、口ごもる。

「・・・『大人』は、自己責任だろう・・・」

『それもそうだね』

ジャードが肯定する。

『自分で契約したんだし、自分の責任だろうな』

「確かに彼らは自分で判断したのでしょう」

『戦場で手足を失い、出来る仕事もなく』

「サイボーグ手術を受けさせてくれるPMCと契約することを」

『あるいは内戦で国土も荒れ果て喰うものにも困り』

「家族を養う為に異国の血でサイボーグになることを」

交互に、ジャードとナスターシャがクライムに語り掛ける。

『そして彼らは痛みも抑制され、ナノマシンで恐怖すら消され』

「命令のままに命を落とす」

『それをジャックは自己責任と言うんだね』

その問いかけに、クライムは何も言えない。

『だったら見せてあげるよ、ジャック』

「なんだと・・・?」

そこで、ナスターシャの背後から二体のサイボーグが現れる。

「見つけたぞ!」

その手には、電流を帯びる特殊警棒―――

「殺れ!」

その彼らに対して、クライムは剣を向ける。その時だった。

(勝てるのか・・・?)

「ッ!?」

突如として、頭の中で響いた声。その声は、先ほど声を発した目の前のサイボーグと同じ声だった。

「どうした?」

(こいつは仲間を何人も殺した・・・)

行動と言動、しかし、頭の中に響く声は、正反対そのものだった。

(来るな・・・!死にたくない!死にたくない!)

「ッ・・・!?」

これは一体なんだ。一体、何故このような声が。

『戦場には不適切とされた、抑制された感情―――それを今、聞かせてあげるよ』

ジャードが、そう告げる。

戦場に不適切な感情―――それを、戦場で育ってきたシンが知らない訳がなかった。

 

それは―――恐怖。

 

「行くぞ」

サイボーグたちが襲い掛かってくる。

それをクライムは、どうにか凌ぐ。

(俺には家族が・・・)

「ッ!?」

頭の中に響く声、そして、彼らの行動。

ナノマシンによって抑え込まれた感情。それが、これだというのか。

(なんで俺がこんな・・・)

「その程度か?」

鍔迫り合い、目の前の男の言葉と頭に響く声が噛み合わない。

『よく聞くんだ』

「死ね!」

すかさず別の男が襲い掛かる。

その一撃を躱し、距離をとる。

(いつまで、こんな生活が・・・)

(妻も子供も殺されて、まだ戦うしかないのか?)

「弱いぜこいつ」

再び殴りかかってくる。スタンロッドを振り回し、それをクライムは必至に捌く。

敵は決して強い訳じゃない。ただ、クライムの動きが凄まじく鈍っているのだ。

 

彼らの、心の声を聴いているのだから。

 

自動車爆弾(I E D)が脚を吹き飛ばして、他の仕事はもう・・・)

「やめろ!」

(こんな契約、するんじゃなかった・・・)

叫んでも、彼らは止まらない。自分の意志に反して、彼らはクライムを攻撃し続ける。

次の瞬間、クライムの腹に、スタンロッドの一撃が突き刺さる。

「ごふっ・・・!?」

そして、その隙を狙って、クライムの顔面にもう一人のスタンロッドの一撃が入り、クライムは宙を舞う。

「う・・げほっ、げほっ・・」

「どうしたのですか?シン」

ナスターシャが、クライムに呼びかける。

「っ・・・あ・・・」

どうにか立ち上がる。

だが、それでも彼らは攻撃をやめない。その声を叫んでも。

(金が溜まったら、母さんをドイツに連れていきたい・・・)

「そろそろ止めだ」

(こんな生活から抜け出さないと・・・)

「やめるんだ!」

クライムが、とうとう叫ぶ。

それでも、彼らは止まらず―――

「ダァア!!」

横から、タスクがそのサイボーグたちを纏めて蹴り飛ばす。

「慧介・・・ッ!?」

「逃げようシン!」

調が、クライムの手を引いて走り出す。

「どうなってるデスか!?さっきから、変な声が頭の中に響くデスよ!?」

「たぶん、サイボーグたちの声だ。意識を抑制するって言ってたけど・・・」

「・・・酷い」

マリアが、そう呟く。

それに、クライムは何も言えない。

「それに、あのマムは一体・・・」

「そんなの知る由もないだろ!」

「なんだかとっても罠っぽいデスよ!」

切歌の叫びが、シャトー内に木霊した。

 

 

 

 

世界の分解現象が、以前拡大中な最中で、

「なんで錬金術師が歌っていやがる!?」

クリスは、最もな疑問を口にする。

「・・・七つの惑星と七つの音階。錬金術の深奥たる宇宙の調和は、音楽の調和・・・ハーモニーより通ずる、絶対真理」

「どういうことだ!?」

「その成り立ちが同じである以上、おかしなことではないと言っている!」

 

 

―――先史文明期、バラルの呪詛によって引き起こされた、相互理解の不全。

 

それを克服するために、人類は新たな手段を探し求めた。

その方法は大まかに二つ。

そのうちの一つが、錬金術。万象を理解することで、世界と繋げようとした技術。

そしてもう一つが、言葉を超えて、世界と繋がろうと試みたのが、歌だ。

 

 

「錬金術も歌も、失われた統一言語を取り戻す為に創造されたのだ!」

そう、キャロルは言い切ってみせる。

「何を訳の分からない事を!?」

「お前は理解しなくていいんだよ!」

「なんでだ!?」

クローズの発言を抑え込みつつ、彼らはなおも彼女の言葉に耳を傾ける。

「その起源は分かっていないが、お前たちなら推察するのも容易かろう?」

「・・・フィーネ・・・了子さんか」

ビルドの言葉に、グリス、ローグ以外の全員が、ハッとなる。

 

 

 

 

「罠なら、仕掛けてきてもおかしくない頃合いなのデスが・・・」

シャトーの中を走り回り、何かに誘導されていると分かりながらも、彼らは走る。

だが、クライムの走り方はどこか力がない。

おそらく、先ほどのことが精神に多大なダメージを与えているのだろう。

まともに戦える状態じゃない。だから敵のいない道を選びながら進んでいるのだが、ふと目の前に誰かが倒れている事に気付く。

「罠以下の罠・・・」

そして、それが誰なのかを理解した時、彼らの中で嫌悪感が芽生える。

「もしかして、アタシたちを誘導していたのは・・・」

「ドクター、ウェル・・・」

ウェルが、腹から血を流して倒れていた。

「お前、それどうしたんだよ?」

「見ればわかるだろう?御覧のあり様でねぇ。血が足りず、シャトーの完全掌握することもままならないから難儀したよ・・・」

ウェルが、にやけ面で彼らに言う。

「さて、戦場(いくさば)で僕と取引だよ!」

 

 

 

ウェルの案内の元、一気に玉座へと到着したクライムたち。

「チフォージュ・シャトーの制御装置・・・」

(なんで来たんだ・・・)

「ッ!」

彼らの頭の中で響く声。

その声の主は、玉座中央にある制御装置を守っているサイボーグたちからのもの。

「くっ、さっきの聞いた後だと、やりにくい・・・」

「今もやりにくいよな。だけど、あれさえ破壊してしまえば・・・」

「オツムのプロセッサは何世代前なんだい?そんなことをすれば制御不能になるだけさ!」

「じゃあどうすれば―――!」

ウェルの言葉に、調が喰ってかかりそうになった時だった。

突如として周囲にアルカノイズが出現する。

「「「ッ!」」」

一同は、構える。

クライムもその手に雷切を持つが、やはり、体に力が入らない。

「君たちがむずがる間にも、世界の分解が進んでいる事を忘れるなよぉぉおお!」

そしてウェルは立ち上がり、走り出した――――

が、

「そうはさせないよ」

「ッ!?」

それに気付いたマリアが、ウェルを押しのけ、その一撃を受ける。

「うげあ!?」

「ぐぅっ!?」

その、一撃を放った人物とは―――

「ジャード・・・!」

「久しぶりだね~、マリアちゃん」

「貴方に名前で呼ばれる筋合いは・・・ないッ!!」

弾き飛ばすマリア。

「おっとと」

しかしジャードはおどけたようにステップを踏んで距離をとる。

「貴様ぁ・・・!」

ウェルがジャードを忌々し気に睨む。

「驚いたよ。まさかあの高さで生きているなんて。でも残念、君はここで今度こそ死ぬんだ」

「ふざけるな!貴様程度に殺されるほど、僕の命は安くないんだよ!」

左腕を突き出しウェルはジャードに向かってそう叫ぶが、ジャードはふっと笑うと―――

「ダラァ!!」

「あれ?」

次の瞬間、ツインブレイカーを横から突き出したタスクによって、右手の剣の一撃を防がれる。

「ふぅ~ん」

それを見たジャードは嬉々とした表情になると、目にもとまらぬ速さでタスクを蹴り飛ばす。

「がはっ!?」

「慧介!」

クライムが叫ぶ。

そのままジャードはタスクを追撃、激しい連撃がタスクを襲い、最後の一撃によって沈む。

「慧くん!?」

「慧介!?」

すかさず、ジャードが調と切歌を叩く。

「「きゃぁああ!?」

「調、切歌!?っ!?」

そして最後に、マリアが―――

「マリアっ!!」

「あっ!?」

クライムがマリアを押しのけ、代わりにその一撃を喰らう。

「ぐぅっ!?」

弾き飛ばされ、どうにか踏み止まるクライム。

しかし、そこへサイボーグたちが襲い掛かる。

「死ねぇ!」

(信じた俺がバカだった・・・)

「ッ!?」

反撃しようとしても、その言葉が脳裏に過る。

そのせいで、刃を止め、逆にその一撃を諸に受けてしまう。

「ぐあぁあ!?」

「シンッ!」

地面を転がり、膝をつくクライム。

「何をやってるんだあの出来損ないは・・・!」

ウェルが苛立つようにそう呟く。

「シン・・・!」

サイボーグたちに一方的に嬲られるクライム。

「く・・ぁ・・・」

膝をつくクライム。

「今更何を躊躇っているんだ!?」

ウェルが喚く。

「今まで人を斬り続けてきたお前が、サイボーグ如きになにを躊躇する必要がある!そいつらの心境なんぞ、糞喰らえだろうがっ!!」

「くっ・・・黙ってろ英雄もどきが・・・!」

膝をついた状態からどうにか立ち上がろうとするが、足に力が入らない。

「シン・・・」

倒れ伏す仲間が、心配そうにクライムの方を見る。

そんなクライムに、ジャードは右手の剣を弄びながら歩み寄り、語り掛ける。

「サイボーグたちにもそれぞれの人生がある。君はその事実から目をそらして、彼らを斬り続けてきた・・・あまつさえ、その体液を啜り、自らの糧にしてきたのだ」

「シンはそんなこと・・・!」

「しないといえるのかな?他でもない、目の前で彼の本性を見せられた君が」

「ッ・・・!」

言い返そうとして、言い返されて言葉が詰まる。

「・・・奴らを利用しているのは誰だ・・・」

クライムが、ジャードに問いかける。

「奴らの人生を弄んでいるのは・・・」

仮面の奥の眼光で、ジャードを睨み上げる。

「他人の弱みに付け込んで、どれだけ搾取する気だ!?」

その言葉に、ジャードは恍惚そうに頷く。

「いい言葉だよ。ジャック」

ジャードは、語り出す。

「俺だって、自分で選んで生きてきたわけじゃない。殺さなければ殺される。そんな世界で生きてきた。ああ、言っておくけど、俺が戦ってきたのはキリフデラじゃないよ。どっちかっていうとバルベルデの方だね。俺はそこで、この世界が、人類という種が腐りきっていることを知ったよ。いい、ジャック。人間の意志は周囲の環境から創られる。自由意志なんてものはない。意志を支配するのは、『ミーム』と呼ばれる心の遺伝子だ」

ミーム・・・脳内に保存され、他の脳へと複製可能な情報―――習慣や技能といった類のものだ。そして、社会的、文化的な情報の事でもある。

「意志とは関係なしに、ミームは文化を伝える・・・利己主義、絶望、憎悪、復讐心・・・!そうしたミームも伝染する」

国そのものが、とある国に対して嫌悪感を抱くように、正義の名の元に、罪のない誰かを罰するかのように。

「憎しみにさらされ続ければ、自らもまた人を憎むようになる。そして、憎しみのミームは、増殖していく・・・」

「全て、ミームのせいってわけか?」

「自然の成り行きと同じだよ」

ジャードは、クライムに向かってそう言う。

「風が吹いて、雨が降って 愚かな人類が殺し合う。同じことだよ。君の誰かを守る剣も所詮はミーム。桐生戦兎の愛と平和も同じミーム。ミームは心の隙間に入り込む・・・桐生戦兎の語る『愛と平和』なんて、心地よいお題目だったでしょ?」

それを言われて、クライムは心臓を鷲掴まれたかのような感覚を覚える。

「そして君は、相手の人生から重みから目をそらして人を殺す・・・その重みを見せられて戸惑うのが証拠だよ!」

クライムは、俯いて、視線を逸らす。

「恥じる事はないよ。全ては自然の成り行きと同じだよ。意志も判断も存在しない。故に自己責任もない。だけど、自然の成り行きとして、君の―――君たちのミームはここで消える」

その手の剣を一度真上に放り投げ、その剣を手にする。

「君たちの命と共にね・・・」

そして、その切っ先をクライムへと向けた時、

 

「・・・待てよ」

 

クライムからそのような言葉があがる。

「・・・礼を言わせてくれ」

「・・・シン?」

何か、クライムの様子がおかしい。

「ずっと心のどこかで迷っていた・・・フロンティア事変が終わってから、俺は戦いを捨てて平穏に生きることも考えた・・・だが俺にできたのはこんな仕事だけ・・・」

国連からの依頼を受け、影で国連の刺客として、様々な人間を、影で殺してきた。

マリアに、何も告げず―――

「その挙句がこのザマだ。俺はこれが正義だと、弱者を守るためだと思っていた・・・だが違ったんだ」

 

―――体が、すっと冷えるような感覚を覚えた。

 

それと同時に、マリアの心に、どうしようもない恐怖が巣食う。

これは、あの時と同じ―――

「懺悔かい?」

ジャードが小馬鹿にしたように言う。

「認めたくなかったが、心の奥で、俺は戦場を求めていた」

「シン・・・」

シンの言葉を、タスクたちは聞き入れる。

「ナスターシャに拾われ、白い孤児院で過ごしても、戦場を忘れる事ができなかった。マリアと過ごし、慧介たちに出会っても、俺の心の奥底でくすぶる何かを払う事は出来なかった。二課・・・S.O.N.Gに拾われたとしても、俺だけは戦いから逃れることが出来なかった」

鼓動が早くなる。怖い、怖い、怖い―――

「シン・・・」

その先の、言葉が出ない。

「それは、俺だけが―――人斬りを、楽しんでたからだッ!!!」

拳を床に叩きつける。大理石の床にひびが入る。

その大理石に、自分の顔が映り込む。

「桐生戦兎の『愛と平和』はそんな俺を救ってくれたよ・・・お陰で俺は今まで、『ジャック・ザ・リッパー』を抑える事ができた・・・・」

できた。何故、過去形なのか。その理由は―――明白だった。

「・・・ジャック」

「だが、お前の話で目が覚めた」

クライムが、変身を解除する。

「刀はあくまで人を殺す道具だ」

戦場での戦闘意志の放棄に等しいその行為を、何故今になって、シンはそれを行ったのか。

(だめ・・・)

唇が震えて、上手く、言葉が出せない。

止めたい。止めなければ、だって、この恐怖は、この恐怖が出るという事は―――

 

 

―――シンの中の殺人衝動が覚醒する前兆。

 

 

シンの目が、赤く光る―――

 

 

「――――『ジャック』に、戻る(とき)だ」

 

シンが、立ち上がり、叫ぶ。

「ウルフっ!いるんだろう!!」

そう叫べば、どこからともなくウルフが飛んでくる。

そして、何体かのサイボーグやアルカノイズを薙ぎ払いながら、シンの元へたどり着く。

その最中で、シンはビルドドライバーを捨てる。

「もってきているんだろう?」

「ああ、だが・・・」

「さっさとよこせッ!!」

シンが怒鳴る。

「・・・分かった。受け取れ」

ウルフの格納スペースが開き、そこにシンは手を突っ込む。そこから引き抜かれたのは、スクラッシュドライバーと、一本のフルボトル。

「あれは・・・!?」

「スクラッシュドライバー!?」

「なんでシンが・・・!?」

シンがスクラッシュドライバーを手にする。

その予想外の展開に、仲間はこぞって目を見開く。

そして、それをシンは腰に巻く。

 

『スクラァッシュドライバァー!!』

 

アジャストバインドが腰に巻き付き、腰に固定される。

そして、左手でそのボトルのシールディングキャップを開ける。

 

Killing

 

そのボトル―――『フェンリルレリックアサルトボトル』を、そのままスクラッシュドライバーに装填する。

 

フェンリルゥ…!!

 

それを差した途端、まるで戦場でのBGMのような待機音が発せられる。

そしてシンは、右拳を胸の前に持っていき、そしてその拳を握り締めながら叫ぶ。

 

「変身…ッ!!」

 

そして、右拳を振り抜き、それと同時にアクティベイトレンチを叩き下ろす。

「ぐ、ぅあぁぁぁあああ!?」

凄まじい痛みが、シンを襲う。

拒絶反応―――否、適合したからこそ、その負荷がシンの体にかかっているのだ。

だが―――

「クク・・・フハハハハハッ!!!」

シンは、笑っていた。

「痛みだ・・・そうだ、これこそが生きている証、俺の生きる意味!」

彼の仲間が、今までに見たことがないほど狂気に歪んだ笑顔。

それが、マリアにとっては、あまりにも恐ろしかった。

「そう、これこそが―――戦いだッ!!」

 

砕くゥ!暴れるゥ!!狂い出すゥッ!!!

 

フェンリル・イン・アサルトクライムゥッ!!!

 

ヒィハァァァア!!!ヒャハハハハ!!!

 

かつて、ガングニールの担い手であった、北欧の主神オーディンを喰い殺したと言われる、伝説の狼。

今、その力を纏い、クライムの新たな姿が現れる。

 

出現するケミカライドビルダーが、まるで内側から何かに割られたかのように砕け散り、その中から、白銀の装甲を纏った戦士が出現する。

バイザーは半透明のヴァリアブルゼリーで構成された『クリアファングレイヤー』と『アサルトレイヤー』の二重構造。

その身をCMエンハンスメントスーツを素体として、ヴァリアブルアーマー、ダイラタンアーマーの二重構造で身を包み、なおかつ動きやすいそのスーツは、変身者本来の戦闘能力を引き出すことが可能―――

 

そう、それこそが『仮面ライダーアサルトクライム』の誕生である。

 

「―――やれ」

その変身が完了すると同時に、ジャードがサイボーグたちに命ずる。

(嫌だ、戦いたくない・・・!)

それを受けたサイボーグの一人が、アサルトクライムに向かって斬りかかるが、そのサイボーグが剣を振り上げた瞬間、その一撃を避けてその腹を斬り裂き、すぐさま背後から斬りかかる敵に向かって先ほどのサイボーグがもっていた剣を足で掴み、そのまま背後のサイボーグに向かって突き刺す。そしてイナバウアーするように体をそらしながら、背後にいる敵二人を叩き斬る。

そうして、一気にサイボーグ三体を瞬殺するクライム。

その白い装甲からは、心なしか赤いオーラのようなものが揺らめいており、バイザーの奥から、赤い双眸が炎のように揺らめいているようにも見える。

そして、白い血のついた刀を、ジャードに向ける。

「次は誰だ?」

次の相手を探し求める。

「・・・アハ」

それにジャードは、嬉しそうに笑う。

「いいね、いいねぇ、やっぱり君は僕たちの同類だったんだね!」

「死にたいのはお前か?クク、ハハハ・・・!!」

白い血のついた雷切を撫で、クライムは名乗る。

「俺の名は『ジャック・ザ・リッパー』・・・キリフデラの白い悪魔・・・」

刀を弄び、そして構える。

「俺の、人斬りの本性を見せてやる・・・見ておけ、これが俺の、戦いだ!」

―――そのシンに、マリアは何も言えず、戦いは始まった。

 

 

 

 

 

 

世界が、どんどん分解されていく。

「歌・・・歌が世界を壊すなんて・・・」

響は信じられないとでも言う様に呟く。

「東京の中心とは、張り巡らされたレイラインの終着点・・・」

「逆に考えれば、ここを起点に、歌を世界中に伝播させることが可能ってわけか」

「その為に、安全弁である要石の破壊を・・・!」

「もうどうしようもないのか・・・!」

クリスが悔しがる。

「手ならある」

しかし、ビルドがそれを否定する。

「キャロルはウェルの左腕のネフィリムを使ってシャトーを起動させたんだとしたら、ほとんどの制御権はウェルにあるも同然・・・いけ好かない奴だが、あいつの英雄論でいやあ世界の分解なんて許しはしないだろ!」

「何が言いたい?」

キャロルがいぶかし気にビルドを睨みつける。

「あの英雄もどきの生命力は、ゴキブリ並みだ!」

「何を・・・まさか・・・!?」

キャロルがシャトー内の映像を投影する。そこに映るのは、シャトーの制御装置に左手を接続しているウェルの姿があった。

「生きていたのかドクターウェル!?何をしている!?」

『シャトーのプログラムを書き換えているのさァ』

「ジャードはどうした・・・!?」

その映像の、ウェルの背後で激しい火花が散っているのが見える。

そして、二つの影が、凄まじい速さで動いているのもわかる。

どうにか肉眼で視認することの出来るそれは、見たこともない仮面ライダーとジャードであるということが伺えた。

「使えない奴め・・・!」

『余所見してていいのかぁい?錬金術の工程は分解と解析ィ、そしてェ・・・!!』

「っ!機能を反転し、分解した世界を再構築するつもりなのか!?」

「その通りだ!」

ビルドが叫ぶ。

「チフォージュ・シャトーが錬金術に基づいて作られているというのなら、分解はもちろん、再構築だって可能だ!あんな奴だが役に立ってくれるじゃねえか!」

「馬鹿な!そんな運用にシャトーの構造が耐えられるものか!」

「っ!?何ッ!?」

その言葉に、ビルドは動揺する。

『そう!爆散する!』

動揺が走る。

「・・・しまった、その事を想定してなかった・・・!」

キャロルが絶唱をフリー素材のように使いまくれることに目が行き過ぎて、その可能性にビルドは気付けなかったのだ。

『どっちにしても分解は阻止出来るゥ!ハァー!ほんと嫌がらせってのはサイコウだァ!!』

ウェルの高笑いが、キャロルの投影映像から聞こえてくる。

 

 

 

 

 

シャトー内にて、

「ハハハハハハハハハハッ!!!!」

クライムが高笑いを挙げながら、ジャードと激しく斬り結ぶ。

その身から、殺戮衝動を思わせる赤いオーラを発しながら、クライムは、笑いながら戦いを楽しむ。

その様子を、マリアは見る事しか出来なかった。

ただその場に突っ立ち、そのクライムの戦い方を見ていた。

 

―――怖い

 

クライムの戦いが、笑い声が、その本性が怖い。

あんな、あんな姿を見たくない。

あれがシンだなんて、信じたくない。

「ッ・・・!」

唇を引き結び、歯を食いしばる。

(いや・・・あんなシン、もう見たくない・・・!)

目を閉じ、顔を背けた時だった。

「マリア!」

「ッ!」

アルカノイズが、マリアに向かって襲い掛かる。

寸での所で、調の丸鋸がそのアルカノイズを切り刻み、消滅させ、マリアは無事だったが、マリアは未だに茫然としたままだった。

「マリア!しっかりして!」

「シンから目をそらしちゃダメデスよ!」

「調、切歌・・・」

その二人の言葉に、マリアは力なくその名を呼ぶ。

だが、すぐに俯いてしまう。

その時、一際大きな音が響く。

見れば、地面に叩きつけられているクライムの姿があった。

「シン・・・!?」

「ククク・・・」

起き上がるクライム。その体に、赤いオーラだけでなく、何か、電流のようなあものが走るのをマリアが見た。

あれはそう、タスクが暴走していた時と同じ―――

「クハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

クライムが高笑いを挙げて、再びジャードに斬りかかる。

その剣筋は、戦い始めた時よりもあまりにも支離滅裂だった。

「あれあれぇ?どうしたのかぁ?当たらないっぞぉ!」

ジャードの蹴りが、クライムを吹き飛ばす。

「シン・・・!」

マリアが思わずその名を呼ぶ。

「ククク・・・!!」

クライムが、笑いながら立ち上がる。肩を震わせ、笑いを抑えきれないとでも言う様に、そして再び仰け反って高笑いを挙げる。

「フハハハハハハハハハハ!!ハァーハッハッハッハ!!」

「ッ・・・」

やはり、辛い。見ているのが、こんなにも辛い。

クライムが―――シンがあのように変わり果ててしまったことが、マリアにとって辛い。

(私は結局、シンの事を、何も理解してなかった・・・)

その本性と、抱えていた悩みを、その闇を、何も理解してあげる事ができなかった。

全て―――あの女の言う通りだった。

(私たちとシンとでは、住む世界が違う・・・違い過ぎる・・・)

血に汚れる事を恐れ、その全ての責任をシンに押し付けてしまった。

こんな、こんな自分が、果たして、シンの隣に立つことなんて―――

「マリアっ!!」

その時、タスクの鋭い声が聞こえた。

「これでいいのかよ!?本当に、こんな結末で、マリアはいいのかよ!!」

アルカノイズを殴りながら、タスクは、マリアに向かってそう叫んでいた。

「シンをあのままにして、何もしない・・・マリアはそれでいいのか!?」

「シンを・・・?」

「シンは今、スクラッシュドライバーに振り回されてる」

「え・・・!?」

それを聞いて、マリアはシンの方を見る。

確かに、今のクライムの戦い方は、クライムらしい、鋭く、そして確実性を感じる斬撃ではない、ただ力のままに振り回しているかのような戦い方だ。

それでもなんとかジャードについていけているのは、シンの潜在的な戦闘センスのお陰だろう。

だが、それでも限界は来る。

いずれは、やられてしまう。

「それでも―――」

その最中で、タスクは叫ぶ。

「それでもシンは、俺たちを守りながら戦ってるんだ!」

「私・・・たち・・・を・・・!?」

一体、何を言っているのだろうか。

シンは自分を守っている?一体、どうして・・・

「あの男、さっきからいつこっちを攻撃しようか考えてる!それをシンは、何度も阻止してるんだ!なんどもこっちに来ようとしている素振りがどうにか見えた。そして、それをシンは必ず阻止してた!俺の時とは違う。シンは、スクラッシュの力に、抗ってるんだ!」

スクラッシュドライバーは、変身者のアドレナリンを大量に分泌し、その者の闘争本能を掻き立て、戦闘を求める気質へと変化していく。

その性質に、今、クライムは振り回されているのだ。だけど、それでも―――

「それでもシンは、こっちを守りながら戦ってるんだ!今にも、暴走する闘争本能に塗り潰されそうになってるのに、必死に!」

再び、クライムの方を見る。

「マリア!シンを怖がらないであげて!」

今度は、調が叫ぶ。

「シンは、いつだって私たちを守ってくれた!いつも、辛い事を背負ってくれた・・・そんなシンが、くじけないでいけたのは、マリアがいたからなんだよ!」

調が、必死にマリアに訴えかける。

「マリアがいたから、シンは今日まで戦ってこれた!他の誰でもない、マリアの為に、シンは戦ってきたんだよ!」

「わたしの、ため・・・」

「そうデスよ!ジャック・ザ・リッパーが、一体なんだって言うんデスか!」

切歌のクラッシュマズルが火を噴く。直線状のアルカノイズが、纏めて吹き飛ぶ。

「シンはシン!ジャックもシンデス!殺人鬼だかなんだから知らないデスけど、シンが、ただ人殺しを楽しむだけの人じゃないって、アタシは知ってるデス!マリアも、知ってる筈デス!」

クライムが、どんどん傷ついていく。

それを、マリアは見ている事しか出来ない。

まだ、自分の想いが、それが一体なんなのか、分からないから―――

『マリア姉さん!』

「ッ!?」

無線から、セレナの声が響く。

『シンさんは、確かに殺人鬼であるジャック・ザ・リッパーかもしれない。だけど、それでもシンさんは確かな『優しさ』を持ってる!』

「ッ―――!」

妹の言葉に、マリアは、思い出す。

 

シンが、今まで自分たちにしてくれたことの全てを。

 

『あんな優しい人が、ただの殺人鬼であるはずがない。ううん、殺人鬼であっちゃいけないの!だって、あんな優しい人が、殺戮衝動のままに暴れる訳がない!殺人鬼であるはずがないの!』

「セレナ・・・」

『確かに、人は誰だって、その心の奥底にある本性を隠してるかもしれない。だけど、マリア姉さんが、非常になりきれない優しさをもっているように、シンさんにだって、誰かの為に戦える『優しさ』を持ってる!他の誰でもない、シンさんだけの『優しさ』が!』

戦況が、動く。

マリアの目の前、やや数メートル離れた所にクライムが立つ。

そのクライムに向かって、ジャードが地面に足元に転がっている、腹に剣が突き刺さったサイボーグから剣を引き抜き、それをクライムに向かって投擲する。

それをクライムは躱す。

だが、躱した先にいるのは―――マリアだ。

「あ・・・!?」

反応が遅れたマリアは、避けようと思っても避けられない。

それを躱そうとするも、完全に無警戒だったから、すぐに回避も取れない。

このままでは、刃が突き刺さってしまう。そう思った時―――クライムがその剣を叩き落した。

「シン・・・!」

「ハァァァアアアア!!!」

クライムが、再びジャードに向かって駆け出す。

その行為に、マリアは悟る。

(ああ、シンはやっぱりシンだ・・・・)

例え、自分の中の本性を受け入れても、シンは、その優しさを忘れていない。

誰を斬ろうと、シンは、その優しさを忘れない。

だって、サイボーグたちの声を聴いた時、シンは、確かに苦しんでいた。

その声に、戸惑っていた。

それは、シンに確かな優しさがあるから。だから誰かが傷つくことに苦しむ、戸惑う、そして、悲しめる。

 

(そうだ。私が好きになったシンは、ただの殺人衝動なんかに押しつぶされない。誰かの為に戦う事の出来る『勇気』と『優しさ』を持った男なんだ!)

 

更にクライムが傷つく。

それでもクライムは、前に出て戦おうとする。

その身に暴れる破壊衝動のままに、クライムは、戦いを続けようとする。

「アァ・・・アァァアア・・・!!」

体中が痛い。意識が朦朧とする。ただ、『戦わなければ』という衝動が、彼を突き動かしていた。

一体何のために戦っているのか。それが、何故か思い出せない。

何か、大切なものを、守りたいと願って、この身の人斬りの本性を受け入れた。

『消える』――そう言われて、守るために、人斬りを受け入れた。

一体、何が消えるのか、今となってはもはやどうでも良い。

 

戦わなければ。

 

守る為に、戦わなければ。

その手の刀を握り締める。

「ァァ・・・ァァァアァアアア!!!」

絶叫を挙げ、目の前の敵に、刃を振り下ろそうと、その刃を振り上げる直前―――誰かが後ろからクライムを抱きしめた

「んん~?」

その光景に、ジャードは訝しむように顔を歪める。

「・・・シン」

優しい、誰かの声。何度も聞いた、聞いていると心が安らぐ、そんな、声が。

「シン・・・私は、貴方が怖かった」

「・・・」

当然だ。本当の自分は、こんなにも血に塗れているのだから。

「貴方の本性が、貴方の人斬りが、血に塗れ、笑う貴方が怖かった」

それが、自分だ。それが、ジャック・ザ・リッパーなのだから。

「でも、それでも貴方は、『優しさ』を捨てないでくれた」

「・・・!」

その言葉に、クライムは仮面の奥で目を見開く。

「シン・・・私は、貴方の『優しさ』に何度も救われた。だけど、それではダメだと気付いた。優しさを受けるだけじゃダメ。何かを返さなくちゃいけない。貴方の『優しさ』に応えなくちゃいけないんだ」

クライムを抱きしめる腕に、力が込められる。

「貴方は、一人じゃない。私が付いてる。調も、切歌も、慧介も、セレナもいる。だから、一人で戦おうとしないで」

「・・・ま・・り・・・」

振り返ろうとする。しかし、その時、狂喜に満ちた表情でジャードが斬りかかる。

「邪魔しないでよっ!」

「ッ!マリア!!」

「きゃ!?」

クライムは、マリアを突き飛ばし、ジャードの一撃に備える。

だが、ジャードはクライムに剣を振り下ろすと、それをそのままクライムの右側に流したかと思えば、そのままマリアの元へ。

「え!?」

「アァァアアァア!!!」

そのジャードに向かって、クライムは刀を振り上げる。

「さあ、お前の刀を、仲間の血で濡らせ!」

「あ!?」

マリアを掴んだかと思えば、そのままクライムの前に突き出す。

「アァァアアア!!」

クライムの刃が、マリアの首に迫る。

その光を、マリアは自身の網膜に焼き付けながら、叫ぶ。

「私は貴方の本性を受け入れるっ!!だから―――」

その目から、煌めく何かを振りまきながら、

 

「―――戻ってきて、シン――――ッ!!」

 

 

 

 

 

 

―――俺を受け入れろ。

 

『ジャック』が、語り掛けてくる。

 

―――お前は、どこまでいっても『ジャック(オレ)』からは逃げられない。

 

―――忘れたか。お前が今まで、どれほどの人間を斬り殺してきたのか。

 

―――全て、『シン(オマエ)』の意志だ。『ジャック(オレ)』の意志だ。

 

―――『ジャック(オレ)』は『シン(オマエ)』、『シン(オマエ)』は『ジャック(オレ)

 

―――切っても切れない関係―――それが『ジャックとシン(オレたち)』だ!

 

そう、『ジャック』が言って見せる。

 

それに、『シン』は、否定はしなかった。

 

「・・・確かに、『シン()』は『ジャック(お前)』だ」

 

―――何?

 

シンは、そっと自分の胸に手を当てる。

 

「だけど、そんな俺でも、守りたいと願った人がいるんだ」

 

―――マリアか。

 

『ジャック』が、その名を告げる。

ああ、そうだ。彼女の名前は、マリア。

自分が、初めて、心を開いた、守りたいと願った少女―――

 

―――分かっているだろう。

 

『ジャック』が、警告する。

 

―――『ジャック(オレ)』を受け入れるという事は、お前は―――

 

「ああ、そうだ。マリアの傍にはいられない」

 

自分の手が血に汚れているから。というのもある。

ただ、何よりも、これから自分が走り抜ける道に、彼女は連れていけない。

彼女は優しすぎるから、敵を討つ覚悟はあっても、人を殺すことなんて、彼女には出来ないから。

 

「俺は、俺のやり方で、マリアを守る―――ああ、そうだ。俺は―――」

 

 

シン()』にとって、マリアとは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ・・・」

迫る刃に、マリアは目を閉じ、それが自分の首を斬る瞬間を待った。

だけど、いつまでたっても、想像していた感覚はこなかった。

恐る恐る、目を開けてみれば、自分の目の前に、白銀の刃があった。

「あ・・・」

そして、声が聞こえた。

 

「―――遅くなってすまない」

 

その声に、マリアは、心の底から、嬉しさがこみ上げてくる。

 

「―――もう、心配させて」

 

次の瞬間、マリアの顔の横で疾風が駆け抜ける。

「ぐべら・・・!?」

鋭い蹴りが、ジャードの顔面に突き刺さり、そのまま手摺まで蹴り飛ばす。

「ぐ・・・く・・・」

「礼を言うぞ。ジャード・ニルフラム」

クライムの声が聞こえ、ジャードは蹴られた顔面を抑えながら顔を挙げる。

「お前のお陰で、俺は『ジャック・ザ・リッパー』を取り戻せた。そして、守るべきものを再確認できた」

マリアの腰に手を回し、一気に抱き寄せる。

そして、もう片方の手にもった刀を、ジャードに向ける。

「俺は、俺の罪から逃げない。マリアがいてくれるなら、マリアが俺の帰る場所であるならば、俺は―――どんな罪も穢れも受け入れる!」

「シン・・・!」

その双眸から、なおも揺らめく赤い炎を滾らせて、

 

「―――俺の罪で、貴様を裁くッ!!」

 

そう、ジャードに告げた。

「く・・・ふふ・・・!」

それを聞いたジャードが、笑いながら立ち上がる。

「いいねぇいいねぇ!それでこそジャックだよ!」

どこからともなく、もう一本の剣を呼び出すジャード。

空間転移による、道具の引き出し―――彼もどうやら錬金術師のようだ。

「さあ始めよう?楽しい楽しい殺し合いの時間をねえ!」

狂喜に染まった表情で、ジャードをそう声を挙げる。

クライムはマリアから離れると、両手で刀を構える。

「シン・・・!」

そんなクライムに、マリアは声をかける。

だが、そこで突如として調、切歌、タスクが吹っ飛んでくる。

「「「うわぁああ!?」」」

「「ッ!?」」

見れば、そこから、一人の車椅子に乗った女性がやってきていた。

「マム・・・」

「ナスターシャ・・・」

その女性の名を、二人は静かに呟いた。

 

 

 

 

 

「世界の分解は止まらない・・・」

キャロルが、そっと地面に降りる。

「さじで止めさせてなるものか・・・!」

「だとしても」

ビルドが、キャロルに言う。

「止めてやる。他でもない、エルフナインの為に!そして、お前のために!」

「戯言を!」

キャロルの魔弦が襲い掛かる。

「ッ!!」

それを彼らは避ける。

「こうなったら、イグナイトで・・・」

「よせ!」

モジュールに手を出しかける響をクリスが止める。

「モジュールの使用は、キャロルに利される恐れがあるっ!」

「え!?それってどういう・・・」

「響!」

未来が響を横から掻っ攫って、襲い掛かってきた弦の一撃から逃れる。

そして、そのキャロルに向かって、ビルドがドリルクラッシャーを振り下ろす。

「ぬぐっ!?」

どうにか両手で結び付けた弦で食い止めるも、キャロルは苦悶に顔を歪める。

「絶対に止めてみせる!」

「鬱陶しい、仮面風情が・・・!」

キャロルがドリルクラッシャーを弾き飛ばし、巨大な術式を展開する。

「極太をくれてやる!」

「ッ!?」

そして、後ろにいる装者を、ライダーごと薙ぎ払うかのように、その砲撃を放った―――

 

 

 

 

 

「お前がマムであるものか!」

マリアが、偽物のナスターシャに向かってそう叫ぶ。

しかし、突如としてその身が黒い布のようなものに巻かれたかと思うと、その中から、なんと黒い戦装束を纏ったマリアが現れる。

それに、一同は息を飲む。

そして、開幕速攻で黒装束のマリアの突撃槍(ランス)から、凄まじいエネルギー砲が放たれる。

「ッ!くぅ―――!!」

それを、マリアはアームドギアの短剣で受け止める。だが、流石に受け止めきるのは無理があったようで、吹き飛ばされそうになった所を、すぐ後ろのシンが刃を重ね合わせる事で、どうにか凌ぐことに成功する。

そして、黒のマリアは、その槍を地面に突き立て、そして機械的な雑音混じりの声で言う。

「私は『フィーネ』。そう、終わりの名を持つ者だ」

それは、かつてマリアが、全世界に向けて放った言葉。

「・・・そうか」

それを聞いて、マリアは悟る。

 

あれは、自分の、自分たちの―――心の闇。

 

「お前は、私。過ちのまま行き着いた、私たちの成れの果て・・・!」

倒れていた家族たちが立ち上がる。

「だけど、黒歴史は塗り替えてなんぼデス!」

「シャトーが爆破される前に、この罪を乗り越えて脱出しよう!」

「ああ、そうだ―――自分の罪と向き合ってこそ、俺たちは、前に進める!」

マリア、切歌、調、タスクが、もう一人のマリアと、クライムが、ジャードと対峙する。

そして、戦姫三人の歌声が、この小さな戦場に響き渡る。

 

「――真の正義、背負った今 どれだけあの言葉が…」

 

調が突っ込み、まずは巨大な鋸で黒のマリアを封殺する。弾かれた所を、今度は切歌が上空から強襲する。

その一撃を躱し、その躱した先でマリアが突撃、しかし黒のマリアは背中のマントを翻して反撃、その連撃を、マリアは短剣で凌ぐ。

その一方、クライムはジャードと激しく鎬を削っている。

目にもとまらぬ速さで繰り返される斬撃の応酬が、火花を散らして戦場全てに散る。

その最中で、

『ウルフさん・・・!』

「っ!どうした?」

その戦いを遠目から見ていたウルフに、セルフナインから通信が入る。

『貴方の接続コードを、制御装置に繋ぐことは出来ますか?』

「なんだと?」

『自分らしく戦います・・・!』

「・・・分かった」

そのエルフナインの言葉にウルフは頷き、すぐさまウェルの元へ向かう。

「ドクターウェル!」

「ああ?なんだいぬっころ!」

「俺をシャトーに繋ぐ。こちらでサポートする!」

「胸が躍る!だけど出来るのかぁい!?」

「やらなければ世界が終わるだけだ!」

ウルフが、自身のマニピュレーターを制御装置に接続する。

 

 

 

 

「ガードウルフ、シャトーとの接続を確認しました!」

セレナがそう叫ぶ。

そして、モニターに映し出されるのは、ナスターシャの忘れ形見『フォトスフィア』。

「そうか!フォトスフィアで!」

「レイラインのモデルデータをもとにすれば、ここからでも・・・!」

フォトスフィアに映るレイラインのモデルデータ。それを使い、シャトーのシステムを逆算することで、世界の崩壊を阻止させる気なのだ。

「藤尭!」

「ナスターシャ教授の忘れ形見、使われるばかりじゃ癪ですからね!」

そうと決まればやることは決まっている。二課で最強の情報処理能力を持つ、藤尭朔也の本領発揮である。

「やり返して見せますよ!」

「私も微力ながらにサポートします!ウルフ、貴方も!」

『分かっている!』

「演算をこちらで肩代わりして、負荷を抑えます!掌握しているシャトーの機能を、再構築に全て当ててください!」

自分が持つ、錬金術の知識全てを使い、エルフナインは、自分に出来る事を全力でやっていた。

 

 

 

世界の分解が、以前拡大していく。

 

シャトーが、想定にない負荷をかけられたことで、悲鳴を上げる。

だが、それでも彼らは止まらない。止まれない。止められない。

「ぐげあ!?」

クライムの拳が、ジャードの顔面に突き刺さる。

さらに、そのまま同じ拳でもう一度ジャードを殴り飛ばす。

「ぐごあ!?」

どうにか踏み止まるも、鼻血を垂れ流して、ジャードはうわごとを呟く。

「あれ、おかしいな・・・なんで僕がこんなこと・・・」

「・・・」

自分が負ける、なんて思ってもみていないらしい。

どこまでも、救えない男だ。

ふと、背中に誰かがぶつかる。

見てみれば、そこにはマリアがいた。

どうやら、黒のマリアの『HORIZON†SPEAR』を防いでそのまま衝撃で飛んできたらしい。

「あ、ごめんなさい・・・」

思わず謝るマリア。だが、そんなマリアの顔を見て、クライムは思ったことを言い当てる。

「・・・その罪はお前のものだけじゃないぞ」

「っ・・・!」

その言葉に、マリアの目が見開く。

「その罪は、俺たち全員のものだ」

「シン・・・」

「そうだ!」

迫ってきていた黒のマリアの槍を、タスクが弾き飛ばす。

「寝言なんて言ってる暇なんてあげてやるもんか!」

そのまま黒のマリアの背後に回り、その腹に手を回して、そのまま強烈なバックドロップを叩き込む。

体が柔らかいからか、地面を足に着けたまま、ものの見事に背中をそらして完璧なバックドロップが決まる。

「つっ・・・」

黒のマリアの表情が苦悶に歪む。

「そうだよ」

そのマリアに向かって、調が巨大化させた丸鋸を叩きつけようとする。黒のマリアはそれを躱す。

「その罪を乗り越えるのは―――」

「―――五人一緒じゃないといけないのデス!」

その言葉に、マリアはハッとなる。

クライムが、マリアの左手をそっと握る。

その手を、マリアは強く握り返す。

「・・・ありがとう、みんな・・・!」

そのマリアの言葉を聞き入れ、クライムはジャードの一撃を受け止める。

「そいつにかまけて、僕を忘れないでよね」

「粋がるなデイブレイク。貴様など、雑兵に等しいと弁えろ!」

弾き飛ばし、そして、繋いだ手を離して、クライムはジャードと最後の勝負に出る。

クライムが、ジャードと激しく切り結ぶ音を背に、マリアは、ウェルに向かって叫ぶ。

「ドクター!私たちの命に代えても守ってみせる!だから、ドクターは世界を!」

その言葉に、ウェルは脂汗を塗れさせながら、にやりと笑って見せる。

 

シャトーの歯車が動き出す。

 

シャトーが、悲鳴を挙げる。

 

 

「やめろ・・・」

キャロルが、狼狽える。

「オレの邪魔をするのはやめろ・・・!」

背中に飛行の為の術式を描き、空を飛ぶキャロル。

「やめろ―――ッ!?」

そのキャロルに、しがみつく者が、一人。

ビルド・ホークガトリングフォームだ。

「行かせるかよ!」

「くっ、邪魔をするなぁぁああ!!!」

キャロルの絶叫が迸る―――

 

 

 

白装束のマリアと黒装束のマリアが、激しく切り結ぶ。

その最中で、マリアは無線を通して語りだす。

「翼と立つステージは楽しかった。次があるならその時は、朝まで貴方と歌い明かしてみたいわね・・・」

 

 

その言葉に、翼は狼狽える。

「マリア・・・何を・・・!?」

 

 

「命がけで戦った相手とも仲良くできるクリス先輩はすごいなって、憧れてたデスよ!」

切歌が飛び上がり、マリアの援護に回る。

 

 

その切歌の言葉に、クリスは、彼女らの意図を察して、必死に励ます。

「お前にだって出来る。出来てる!」

 

 

「あの時、龍我さんが正面からぶつかってくれなかったら、俺はきっと、大切なモノを失ってた・・・だから、ありがとうございます!」

黒のマリアの攻撃を凌ぎ、タスクは、感謝の言葉を述べる。

 

 

その言葉に、一つの嫌な予感がクローズの脳裏に過る。

「こんな時に、一体何言ってんだよお前・・・!?」

 

 

「未来、戦場ではあったけど、貴方と一緒に歌ったあの時は、とても楽しかった。また、もう一度、歌いましょう」

リンクスアームズ『レギオンソード』をもって、黒装束のマリアを追い詰める。

 

 

未来は、彼らが何をしようとしているのか悟り、口元に手を当てる。

「そんな・・・そんなの、当たり前ですよ・・・だから・・・!」

 

 

「ごめんなさい・・・あの日、何も知らずに偽善と言ったこと。本当は直接謝らなきゃいけないのに・・・!」

戦場を駆け、機会を伺う調。

 

 

傷ついた体に無知を打ち、響は、立ち上がって叫ぶ。

「そんなの気にしてない・・・だから!」

 

 

「氷室長官・・・あの日、私に『弱さ』教えてくれて、ありがとうございました」

 

「そんなことはどうでもいい!貴様、こんなところで―――!」

 

 

 

「心火を燃やしてぶっ潰す・・・あれ、すごくかっこよかったのデス!次からは、アタシも言ってもいいデスか?」

 

「はっ、何言ってやがんだ・・・あれに著作権なんかねえよ・・・なんだったら今から解禁にしてやってもいい。だけど、お前らは―――!!」

 

 

 

 

シャトーから、光が溢れ出る。

どんどん、壊れていく。

その光景に、キャロルは泣き喚くように叫ぶ。

「お願い、やめて・・・!私とパパの邪魔をしないで!」

「―――ふざけんなァ!!」

ビルドが高所からキャロルの顔面を殴る。

「何が私とパパだ!父親が愛する娘に向かって願う事なんて、たった一つしかねえだろうがァ!!!」

ホークガトリンガーが火を噴く。

その嵐を、キャロルは結界をもって防ぐ。

「何も知らないくせにィ―――!!!」

「うぉぉぉおおぉおお!!」

巻き起こる黄金の風、それにビルドは真正面から立ち向かう。

 

 

 

傷口が開き、それでもエルフナインは、シャトーの演算を続ける。

「僕の・・・僕の錬金術で世界を守る・・・!キャロルに世界を壊させない!!」

 

 

 

「―――桐生戦兎」

クライムが、ビルドに向かって通信を繋げる。

「俺は、お前の『愛と平和』のお陰で、一度救われた」

ビルドは、キャロルからの猛攻を必死に耐えながら、その言葉に耳を傾ける。

「だが、俺は、お前の信念を血で汚してしまった。だけど、それでも俺は、前を向いて進み続ける事ができる」

クライムの目の前には、クライムに切り刻まれ、体中から血を流す、ジャードの姿があった。

「なん・・・で・・・なんでぇ・・・・?」

訳が分からない、とでも言う様に喚き散らすジャード。

「何故なら、俺には、守るべき大切なものがあるからだ――――だから桐生戦兎」

スクラッシュドライバーのアクティベイトレンチに手をかける。

「お前の信念のライダーシステムを、血で汚すことを許してほしい―――」

「―――んなこたァどうでもいいんだよォ!!」

ビルドの叫びに、クライムはその手を止める。

「お前に言いたい事はまだまだ沢山あるんだよ!今までの事とか、これからの事とか、お前の過去とか俺の過去とか、仲間の事だとか、万丈の馬鹿さ加減だとか、一海のドルオタ度合いだとか、幻さんのダサTとか、俺の響たちの愚痴とか!まだまだ言いたい事が沢山あるんだよ!だから、だから―――必ず帰って来いよぉ!!」

仮面の奥で、ビルドが泣いている。

その言葉を、無線越しに聞き入れ、クライムは、ふっと笑う。

「―――ありがとう」

そしてクライムは、アクティベイトレンチを叩き下ろす。

 

アサルトアップフィニッシュ…ッ!!!

 

次の瞬間、クライムの姿が消える。

どこに行った、とジャードは思わず周囲を見渡し、真上から気配を感じて見上げてみれば、そこには、螺旋状の亀裂が走ったシャトー天井で腰を落とすクライムの姿があった。

「終わりだ・・・!」

それと同時に、切歌と調が、黒のマリアの槍を弾き飛ばす。

「心火を燃やしてぶっ潰すデス!!」

「私の想いは、誰にも打ち砕けない・・・!!」

そして、マリアは左腕のガントレットに短剣を装着し、それを一際大きなブレードへと変える。

そして、タスクがアクティベイトレンチを叩き下ろす。

 

「俺たちの(キバ)は、誰にも折れねえ―――!!!」

 

「私たちの罪で、貴方を超える・・・!!」

 

挟み込むように、マリアとタスクが飛び上がる。

その最中で、黒のマリアがその身をマントで包み込み、そして、その姿を、あの日の、ネフィリムを止めた時のギアと姿でそこに微笑んでいた。

『―――マリア姉さん!』

無線から聞こえた声、それに、マリアは叫ぶ。

「セレナァァァアアァァァアアアッ!!」

ガントレットから火を噴いて加速し、そのまま、タスクと共に、そのセレナを打つ。

 

「―――生きて」

 

その言葉を最後に―――渾身の一撃が偽物のセレナを消し飛ばす。

 

 

SERE†NADE

 

スクラップクラッシュッ!!!』

 

マリアの斬撃が、タスクの両足蹴りが、炸裂し――――

 

 

「うわぁぁあああ!!!」

天から雷が落ちるが如く、クライムの右足に掴まれた雷切の斬撃が、ジャードを叩き斬る――――

 

 

 

 

「やめろぉぉぉおおおぉお!!!」

キャロルの絶叫と共に、極大出力の砲撃がシャトーを撃ち抜いた。

そして、シャトーは―――爆発し、堕ちた。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「俺たちは、対価無しには明日を繋ぎ留められないのか・・・!」

クライムたちの犠牲をもって破壊されたチフォージュ・シャトー・

「投降の勧告だッ!!」

呆然とするキャロルに、エルフナインの言葉が刺さる。

『命題の答えは―――』

それを聞いた、キャロルの答えは―――破壊であった。

「今を蹂躙してくれるッ!!!」

その言葉に、ヒーローが怒りの拳を叩き付ける。

次回『託された想い』


「――――ふぅざけんなぁぁああぁぁぁあああああ!!!!」


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託された想い

響「天才物理学者にして仮面ライダービルドこと桐生戦兎は地球外生命体エボルトとの戦いを制し、ついに新世界を創造!そしてその新世界で蔓延っていたノイズの殲滅にも成功するのでした!」
未「だけど、そこへ新たに現れた錬金術師キャロルに加え、世界の破壊を目論むデイブレイク社が私たちに襲い掛かり、そして今、最終決戦にもつれ込んでいるのでした」
響「いやー、ついにここまで来たよね~。ここまで来るのに長いのなんのって」
未「まるで最終回みたいに言わないで、まだまだあるんだからね?」
響「分かってるって!」
未「それにしても戦兎先生がいない状態で始めちゃったけどこれで合ってるのかな?」
響「大丈夫大丈夫!これも忙しい戦兎先生の為だと思って、ね?」
未「もう、響ったら~」
ニク「・・・」
ニク(単純に宿題を増やされたからその逆恨みに役割奪うのはよくないと思うぞマスター・・・)
クロ(アハハ!いたずらしたーい!)
ニク(今回は許す)
クロ(やったぜ)キラリーン☆
未「ん?クロどうしたの?響に近付いて―――」
クロ「キュルル!」
響「アァァァアア!!!み、耳に噛みついてきたぁぁあ!!」
クロ「ピッ」『サプラァァァイズ!!』
響「ギャァァアアア!!な、なんだか知らないけど魂が逃げろと叫んでいるぅぅぅうう!!」
未「ああ!響どこ行っちゃうのぉ!?」
ニク「キュイ」
未「え?あ、それではシンフォギア・ビルドGX第二三話をどうぞ!響!待ってぇー!」


マ「・・・・え?待って、私の誕生日は!?」
シ「安心しろマリア」
マ「え?それってどういう・・・」

『マリア誕生部おめでとう』という横断幕を広げる慧介とシン、そしてクラッカーをならず調と切歌にケーキを運ぶウルフと拍手をするセレナ。

マ「皆・・・ありがとう・・・!!」
シ「というわけで本編をどうぞ。俺たちは勝手に誕生日会をやらせてもらう」


―――世界が、元に戻っていく。

 

 

「―――あぁぁぁぁあぁぁああああ!!!」

S.O.N.G本部にて、セレナの悲痛な声が響く。

「マリア姉さん・・・切歌さん・・・調さん・・・シンさん・・・ウェル博士・・・ウルフ・・・あ、あぁぁぁあ・・・!!!」

目の前のボードを叩き、セレナは自分の非力さを嘆く。

「・・・・分解領域の収束を観測・・・」

藤尭が、そんなセレナを気遣う様に、小さな声でその事実を告げる。

世界は、救われたのだ。

 

―――六人と一匹の犠牲をもって。

 

「俺たちは、対価無しには明日を繋ぎ留められないのか・・・!」

弦十郎は、そう、悔しがるようにそう呟いた。

 

 

 

 

シャトーが、堕ちる―――

真下のビルに突き刺さり、その窓ガラスを纏めて砕いて、シャトーが、堕ちる。

その光景を、キャロルは茫然と見上げる。

「シャトーが・・・託された命題が・・・」

その瞬間を目の当たりにしながら、装者たちの目には、涙が流れていた。

仮面ライダーたちも、その仮面の奥を歪めながら。

「みんなぁ・・・!」

「なんでだ!?くそったれ・・・!」

「マリアさん・・・あ・・ぁぁ・・・!」

「クソがァ!!」

「ぐ・・・ぅう・・・!!」

「馬鹿だろ・・・お前ら皆馬鹿だろッ!!」

「うわぁぁあぁああ!!」

翼が、その手の剣を叫びのままに地面に突き立てる。

そして、溢れ出る感情のままに、翼はキャロルを指さして怒鳴りながら告げる。

「投降の勧告だッ!!貴様が描いた未来は、もう瓦礫と果てて崩れ落ちたッ!!」

それが、あのシャトーの姿。

「・・・・未来?」

『もうやめよう・・・』

茫然とするキャロルに、エルフナインが念話をもって話しかける。

その声は、酷く弱々しかった。

『お願いキャロル・・・こんなこと、僕たちのパパはきっと望んでいない・・・!火炙りにされながら、世界を知れと言ったのは・・・僕たちにこんなことをさせる為じゃない・・・!』

「そんなの分かっている!!」

キャロルが、泣き叫ぶように怒鳴り返す。

「だけど、殺されたパパの無念はどう晴らせばいいッ!?パパを殺された私たちの悲しみは、どう晴らせばいいんだッ!?パパは命題を出しただけで、その答えは教えてくれなかったじゃないか!!」

『それ・・・は・・・・』

もはや、まともに答える力すらもないエルフナイン。そんな、彼女たちに、一人の男の声が聞こえた。

『・・・君たちのお父さんは、何か、大事な事を伝えたかったんじゃないか?』

その声に、キャロルは目を見張る。

『命がけの瞬間に出るのは、一番伝えたい言葉だと思うんだが・・・?』

その言葉の真意とは、一体なのか。

『・・・錬金術師であったパパが、一番伝えたかったこと・・・』

その言葉を、エルフナインは読み返す。

「ならば真理以外にありえない」

自身の意識を、エルフナインの体に投影、幻影として敵陣に投影する。

『・・・錬金術の到達点は、万象を知ることで通じ、世界と調和すること・・・』

「ッ・・・調和だと?パパを拒絶した世界を受け入れろというのか!?言ってない!パパがそんなこと言うものか!!」

キャロルは、その言葉を否定する。しかし―――

『・・・だったら代わりに回答する・・・ッ!』

力強い、その言葉の次に紡がれたのは―――

 

『―――命題の答えは、『赦し』』

 

その言葉が、キャロルに突き刺さる。

『世界の羞恥を赦せと、パパはボクたちに伝えていたんだ・・・!』

その言葉に、キャロルは動揺を隠せない。

その最中で、投影した視界の先で、エルフナインが吐血する。

『君!』

視界を、戻す。目の前にあるのは、壊れて使い物にならない、城。

「・・・チフォージュ・シャトーは大破し、万象黙示録の完成という未来は潰えた・・・」

乾いた笑いが、キャロルから零れる。

その様子に、彼らは見上げる事しか出来ない。

目を閉じたキャロル―――だが、次に目を開けたキャロルが言い出したことは―――

「ならば―――過去を捨て、今を蹂躙してくれるッ!!!」

「なっ―――!?」

その言葉に、一同は驚く。

振り返ったキャロルから、何か、オーラのようなものが溢れ出る。

『だめだよ!そんなことをしたら、パパとの思い出まで燃え尽きてしまう!』

キャロルの体から溢れ出るオーラのようなもの、それは、過剰に燃料として償却している『思い出』のエネルギー。

ありったけの思い出を錬成し、戦う力へと錬成しているのだ。

「キャロルちゃん、何を―――」

「復讐だ!!」

次の瞬間、キャロルから魔弦が放たれ、一同を纏めて吹き飛ばす。

「「「うわぁぁあぁあ!?」」」

吹き飛ばされて、壁に叩きつけられる一同。

「もはや復讐しかありえない・・・」

この数百年の想いを踏み躙られ、父親の仇が討てないというのなら、もはや彼女に残っているのは、父親を殺されたことに対する憎しみしかなかった。

その身に残った『思い出』の何もかもを燃やし尽くし消滅させてでも、キャロルは、力の続く限り、破壊の限りを尽くすだろう。

そんな―――そんなこと―――

 

 

「――――ふぅざぁけんなぁぁああぁぁぁあああああ!!!!」

 

 

―――仮面ライダービルド(桐生戦兎)が許さなかった。

 

 

ホークガトリングからラビットタンクへとフォームチェンジを果たしたビルドが、真上からキャロルを強襲する。

「無駄だァ!!」

キャロルが魔弦をもって、ビルドの進行を食い止める―――だが、魔弦はいとも容易く引き千切られた。

「な―――」

そして、ビルドの右拳が、キャロルの顔面に突き刺さった。

そのままビルドは、キャロルを殴り飛ばす。

地面に叩きつけられて、キャロルは、今起こった現象に混乱していた。

「馬鹿な・・・ダウルダブラの弦を、引き千切るなど・・・!?」

着地したビルドが、キャロルにむかって飛ぶ。ホップスプリンガーで飛び、そのままもう一度、キャロルに右拳を振りかざす。

そして、魔弦で反撃してきたキャロルの一撃を、右足裏の『タンクローラーシューズ』の足裏にある無限軌道を、地面につけると同時に回転、それによって加速した蹴りでまとめて引き千切りながら一回点して、そのままキャロルの顔面を再び殴り飛ばす。

「がぁぁああ!?」

そのまま壁に叩きつけられるキャロル。

「復讐だと?父親の想いを聞いて出した答えがそれかァ!?」

再び、右拳で殴るビルド。

今度は、腹に拳が突き刺さる。

「がはっ―――!?っ!何が悪い!」

ビルドの眼前に手をかざし、そこから黄金の風を巻き起こし、ビルドの顔面を打ち据える。

そのまま吹き飛ばされるかと思いきや、突き出された右手を、ビルドは左手で掴んで踏ん張る。

「なっ!?」

「そこまで父親の想いを踏み躙りたいのか!?」

再び、右拳が突き刺さる。

 

ビルドが、キャロルを圧倒している。

 

強化フォームでもない、ハザードトリガーを使ってすらいない。

基本形態である『ラビットタンク』で、ビルドは、キャロルを圧倒していた。

「一体、何が・・・」

その最中で、彼らは気付く。

ビルドから、黄金のオーラが溢れ出ている事に。

「あの光は・・・」

「楽しいか!?父親が知れと言ったこの世界を壊すのが、そんなに楽しいか!?」

ビルドの()()が何度もキャロルを打ち据える。

その最中で、キャロルは何度も何度も自身の錬金術をビルドに叩きつけている。

それでも、ビルドは止まらない。

「ぐっ!?・・・世界を赦すことを、お前の父親が出した命題を、お前の父親との思い出すらも、全てかなぐり捨ててまで、世界を壊したいのか!?」

「ッ!?ああ、そうだ!」

弦で作り上げたドリルが、ビルドの脇腹に突き刺さり、火花を散らす。

「ぐあぁあぁぁあああ!?」

「パパは世界に殺された!救ったのにも関わらず、奴らは、世界はパパを殺したんだ!その世界に復讐して、何が悪いんだ!?」

「ァァア―――お前の親父さんが救った世界だろうがッ!!」

「ッ!?」

また、右拳が突き刺さる。

「救ってみせたんだろ!?大勢の人々を、病気に苦しんだ人々を、確かにその手で救ってみせたんだろ!?他の誰でもない、お前の親父さんがッ!!」

「黙れ・・・あぐッ!?」

アッパーカットが炸裂する。

「大勢の人に、奇跡と切って捨てられ、魔女として処刑されたかもしれない。それでもお前の親父さんがやったことは、他のなんでもない、誰かを救って、誰かを助けた、紛れもない、希望をもたらしたんじゃないのか!?」

「黙れ・・・ぐふっ!?」

ボディーブローが突き刺さる。

「その親父さんの志を継がないで、お前の勝手な都合で、全部壊すっていうのか!?」

「黙れぇぇええ!!」

キャロルが、がむしゃらにビルドを殴る。

「お前に何が分かる!!パパを殺されて、途方に暮れて、それで行き着いたのがこの方法だ!これしかなかった!オレには、この道以外選ぶことが出来なかった!!だって、奴らは、パパがしたことを、『奇跡』と言って切って捨てたんだ!!」

風がビルドを貫く。

「オレは許さない!!パパを殺したこの世界を!()()パパを拒絶したこの世界を、()()殺すんだ!!」

キャロルの一撃が、ビルドの顔面に炸裂し、左目の複眼が砕け散る。

「戦兎ぉぉおお!!!」

その光景に、翼は思わず声を挙げ、駆け寄ろうとするも、それをクローズに手で制される。

「万丈・・・?」

「うおぁ!!」

複眼を破壊されても、ビルドは踏み止まる。そして再び、キャロルを殴り飛ばす。

「悪いがここは戦兎に任せた方がいいなァ」

グリスが、そう呟く。

「カズミンさん・・・?」

「桐生戦兎の親父は・・・葛城忍は旧世界では、ロストボトルの研究に着手していた男だ。そして、エボルトを倒す機会をずっと伺うために、敵として俺たちの前に立ちはだかった」

それは、知っている。その時の戦兎の表情も、その時の雰囲気から察した気持ちも、全部わかっている。

そして、その父親の最後の瞬間も―――

「ジーニアスフォーム。あれは、怒りだけじゃ絶対ぇ起動しねぇ力だ。あいつは、親父をエボルトに殺されて、一度、怒りのままに力を使おうとしたことがある」

「桐生が・・・」

あんなに優しい戦兎が、怒りの感情で戦おうとしていた。それは、今でも信じられないことだ。

「だけど、アイツは知ったんだ。怒りだけじゃジーニアスは使えないって。それを、親父さんが残した、ハザードトリガーから学んだんだ」

複眼を砕かれても、ビルドは、キャロルを殴り続ける。

その複眼から見える眼光を、真っ直ぐにキャロルに向けながら。

「だからあいつは、怒りで親父さんの想いを踏み躙ろうとしているキャロルを止めようとしてるんだ。同じ過ちを、してほしくないから・・・」

ビルドの拳が、再び突き刺さる。

「お前の親父さんが残したのは、希望だろうがっ・・・!!」

その胸倉をつかみ、眼前にキャロルの顔をもっていく。

そして、至近距離からキャロルを睨みつける。

「治らない病気じゃないって、決して助からない訳じゃないって、証明してみせたんだろ!?」

「だけどそれを奴らは『奇跡』と切って捨てた!」

「だったらそれをお前が『必然』だって証明してみせろよ!」

「出来たらそうしていた!だけど出来なかった!」

「だから諦めたのか!?親父さんの『意志』を、諦めたのか!!」

「だって、だって、あの時()()()力はなかった!」

「今こうして力をつけただろ!?その力で、なんで父親の無念を晴らそうとしなかったんだ!?」

「それは、それはぁ・・・!!」

どんどん、言い返すことがなくなっていくキャロル。

「助かるって、救われるって、例え奇跡でも、救われるって、『希望』の光を見せてみたんだろ!?だったらお前がその『希望』を継がなくてどうするんだよッ!!」

ビルドの叫びに呼応するように、ビルドの体から溢れ出ていた黄金の光がベルトに装填されているラビットフルボトルに収束する。

そして、そのボトルが黄金に輝く。

「ボトルが・・・」

「変化して・・・」

それだけに留まらない。

ビルドの装甲―――ハーフラビットアーマーが、一気に黄金に輝きだす。

「これは・・・!?」

「キャロル、歯ァ食いしばれ」

ビルドの右拳が、握り締められる。

「今からお前に叩きつけんのは、俺の想いだ。俺が父さんから継いだものだ・・・それを今からお前に見せてやるッ!!」

 

ハザードレベル7―――それを超えた、ハザードレベル…――――

 

ビルドの黄金の拳が、キャロルに突き刺さる。

そのまま、キャロルは、殴り飛ばされ、宙を舞った。

「が・・・は・・・」

そして、キャロルは、倒れ伏し―――ビルドに敗北した。

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」

黄金に輝いていたラビットアーマーが、元の赤に戻っていく。

「う・・・うぐ・・・ぁぁ・・・・!!」

倒れ伏すキャロルは、涙を流して泣いていた。

「・・・お前のその錬金術は、親父さんから教えてもらったものなんだろ・・・」

ビルドが、倒れ伏すキャロルに語り掛ける。

「だったら、それに込められた親父さんの想いを次いで、生きていくしかないだろ・・・どんだけ苦しくても、悲しくても、たった一つだけの親父さんの想いを胸に生きていくしかないだろ・・・」

「だ・・・けど・・・パパは・・・オレに、世界を・・・」

「世界を識るなんて、いつだって出来るだろ。方法もいくらだってある。それに、世界を壊しても、世界という概念そのものを知ることなんて出来ない。そこに生きるもの全てを、そこにある文明も、力も、醜さも美しさも、全てから目をそらさずにまっすぐ見つめて、少しずつ知っていけばいいだけの話だろ。お前は、俺たちと違って、長く生きられるんだからさ・・・」

キャロルの前で、ビルドは膝をつく。気付いてはいたが、ビルドの足は、キャロルと戦っている間もずっとがくがくと笑っていた。

キャロルの攻撃が、効いていなかった訳じゃないのだ。

ただ、無理を押し通してでも、伝えたかったことがあった。

「もう・・・お前は一人じゃない・・・一人で抱え込む必要なんてどこにもない・・・いくらだってやり直せる・・・だって、人間ってのはそういうもんだろ・・・自分の過ちを、二度と繰り返さないように頑張れる・・・それが、人間だ」

手を差し伸べる。

「俺たちが、一緒にやってやる。醜い所も、良い所も全部、一緒に識ってやる。だから・・・」

「・・・・」

その手に、キャロルは上体を起こし、そして、自然と手を伸ばして――――

 

 

 

ビルドが何者かぶっ飛ばされる。

 

 

 

「なっ・・・!?」

「ぐあぁぁあぁああ!?」

それにキャロルは驚愕。ビルドはそのまま吹っ飛び、装者たちの間を抜けて背後のビルに叩きつけられる。

「戦兎ぉ!」

変身解除されて倒れ伏す戦兎に、翼が駆け寄る。

「戦兎!しっかししろ、戦兎!」

「ぐっ・・・ぁ・・・一体何が・・・!?」

どうにか起き上がって、自分を吹き飛ばした者を探す。

「何が・・・」

「君には失望したよ」

キャロルは何が起きたのか分からず、突如として背後から聞こえてきた声に、キャロルは振り返る。振り返ろうとする。

だが、突如としてキャロルを囲うように出現した術式がキャロルを束縛。

そして―――突如としてその意識をなにかが塗りつぶしかける。

「ぐ、あぁぁあぁぁあああ!?」

「キャロルちゃん!!」

響が駆け寄ろうとする。しかし、そこに何者かが立ち塞がる。

「貴方は・・・!?」

そこに立っていたのは、ファウストアーマー『ルシファー』を纏うリカルド・ダスト・クレイザーだった。

「クレイザー、貴様・・・!!」

キャロルが、術式の中でそう呻く。

「もはや貴方は用済みです。世界の分解に失敗し、なおかつ仮面ライダーに敗北、そしてあまつさえ、彼らの手を取ろうとした。我々が貴方に協力する理由はもうすでにない」

「もとより・・・そうでは・・・なかっただろうが・・・!!」

「ええ、その通りだ。だが、貴方という逸材を、このまま敵の手に落としておくわけにもいかない。故に、使ってあげるという事です」

「何を・・・ぐ、ぁぁぁあぁあああ!!?」

キャロルの体に、黒い何かが這いずり回る。

「キャロルちゃん!・・・ッ!キャロルちゃんに何を・・・!?」

「悪魔、というものをご存知ありませんか?」

突如としてリカルドが語りだす。

「悪魔、とは、悪を象徴する超越的存在を表す言葉であり、また、キリスト教においては魔王サタンのことを指し、神を誹謗中傷し、人間を誘惑する存在でもある・・・」

「何が言いたいんだよテメェ!!」

怒鳴るクリスに、リカルドは仕方がないとでも言うように首を振る。

「彼女にはその悪魔を憑かせてもらった。悪魔憑きというものさ」

「「「ッ!?」」」

それに、一同は驚愕する。

「これによって、彼女は意識を塗り潰され、あとはその身滅ぶまで暴れる殺戮兵器へと変わり果てる・・・良かったではないか、これで彼女の望みは達成される」

「ふざけんな!何が望みだ。そんなもの、ただの支配となんら変わらんっ!!」

「支配だと?彼女は復讐を望んでいた。それを叶えてやろうとしているのだ。一体何が悪いというのか」

翼が喰ってかかるも、リカルドは理解できないとでもいうように言い返す。

「貴様・・・!!」

「許さない・・・」

その時、普段からは信じられないかのようなほど低い声が、響から発せられる。

「響・・・」

「キャロルちゃんの想いを・・・キャロルちゃんの苦しみも知らないで・・・何が望みをかなえてやるだ!!」

「君こそ、本気でありとあらゆる人間と分かり合えると思っているのか?その拳で、多くのものを殴り砕いてきたというのに」

「確かに、拳でぶん殴って解決できることは、簡単な事なのかもしれない。だけど、この拳で救われた人は確かにいるんだ!戦兎先生が、その拳でキャロルちゃんを止めて見せたように!!」

「あ・・・あぁぁぁあぁぁぁああああ!!!」

黒い何かが、キャロルを取り込む。

術式が消え、そこから出現したキャロルは、まさしく正気ではなかった。

「祝え!!今ここに、破壊の名を冠し、激怒と情欲の魔人にして七つの大罪が一つ『色欲』を司る悪魔が降臨なされた。その名も、『アスモデウス』!」

リカルドが手を振り上げ、祝言を放つ。

「此度の浄化は諦めるとしよう。だが、君たちの存在はいずれ我々の脅威と成りえる。だから今ここで排除させてもらうよ」

「そう簡単に排除できると思うなゴラ」

「貴様のような奴は生かしておけない・・・」

グリスとローグが、怒りを滲ませた声で、そう言い返す。

 

「心火を燃やして―――ぶっ潰す」

 

「大義の為の―――犠牲となれ」

 

戦兎が、立ち上がる。

「行くぞ万丈っ・・・!!」

「おう、当たり前だ!」

戦兎の手には、ハザードトリガーとフルフルラビットタンクフルボトル。

クローズの手には、クローズマグマナックル。

その最中で、響はイグナイトモジュールに手をかける。

「イグナイトを使う気か?」

「もちろんだよ」

クリスの言葉に、響は頷く。

「だって、そうでもしなきゃ、キャロルちゃんを助けられない!!」

「同感だ」

「私も、キャロルちゃんを助けたい・・・!!」

「ったく、しゃあねえなぁ・・・」

四人が、イグナイトモジュールに手をかける。

「あ、未来はちょっと待った」

「え?」

そこでふと、戦兎からストップがかけられる。

「お前のイグナイトモジュールは、呪いと浄化の中和反応によって引き起こされるエネルギーで力をブーストしている。それがある以上、()()()()()()()()()は使えない」

「じゃあどうすれば・・・!?」

「・・・他の奴らよりかなりきつい事になるが、大丈夫か?」

その戦兎の覚悟を問う視線に、未来は躊躇いなく答える。

「私の力で、救えるなら―――ッ!!」

「上等だ!!クロ!イグナイト・カオスモード起動!!」

戦兎がそう叫ぶと、未来の目の前に英字の文字列が並びだす。

 

Order acceptance(命令受諾). 《IGNITE・CHAOS MODE(イグナイト・カオスモード)》 Starting(起動)!』

 

「いいぞ!」

「この力は、エルフナインちゃんがくれたものだ!だから、疑うものかァ!!」

響の叫びと共に、彼らは抗うための力を発動させる。

 

 

『マックスハザードオンッ!!!』

 

 

『ボトルバーン!!!』

 

 

ハザードトリガーを起動、ドラゴンマグマフルボトルをマグマナックルに装填し、そしてビルドドライバーに装填する。

 

 

ラビット(アンド)ラビット!!』

 

 

クロォーズマァグマ…!!』

 

 

二人がボルテックレバーを回すと同時に、響たちが、スイッチを()()押す。

 

 

「イグナイトモジュール―――「「「()()()抜剣ッ!!!」」」」

 

 

三段階のセーフティロック、その二段目までを解放。

それによって、一段目とは比べ物にならない力の代わりに、凄まじい負荷と、999.99カウントの減少が加速する。

 

『DAIN.DAINSLEIF』

 

だが、今の彼女らにとって、そんなことはどうでも良い。

今はただ、救いたいのだ。

 

『Are You Ready!?』

 

「「「「「「変身ッ!!」」」」」」

 

戦兎がハザードビルダーに挟まれ、クローズがマグマライドビルダーから溢れ出たマグマを浴び、装者四人が、その身に黒き呪いを纏う。

 

フェイズ『ニグレド』から、『アルベド』へとシフトチェンジを敢行。

 

 

『オーバーフロウッ!!』

 

紅のスピーディージャンパーッ!!!

 

ラビットラビットッ!!!

 

『ヤベェーイッ!!!ハヤァーイッ!!!

 

 

極熱筋肉ゥッ!!クロォォォズマグマァッ!!!』

 

アーチャチャチャチャチャチャチャアッチャァァアアッ!!』

 

 

『MODULE Start Up!Let's Saver!!』

 

 

救え、と、今まで自分たちを支えてくれたシンフォギアたちが叫ぶ。

ならば、と彼女たちは、咆え歌う。

 

「始まる歌―――」

「始まる鼓動―――」

「響き鳴り渡れ―――」

「希望の歌―――!!」

 

「リカルドォォォオオオ!!!」

絶叫、そのまま響とビルドが先陣を切る。

「アァァアァァアア!!!」

キャロルが放つのは、自らの思い出を全力償却して放つ錬金術。

その一撃を、再び黄金の光を纏ったビルドが『アルティメットマッチブレイク』で相殺。

そのビルドが切り開いた道を、響が突破、キャロルに一撃を浴びせようと拳を振るう。

しかし、障壁術式がその拳の一撃を阻む。

(だったら――――ッ!?)

しかし、その時、隣のビルの壁が赤熱。それに嫌な予感を感じ取った響は、解放したフェニックスブレイズの炎で後ろに飛ぶ。ビルドごとその莫大な『熱』から逃れる。

「なんだァ!?」

クローズが叫ぶ。

溶けて空いた穴から現れたのは、一人の、騎士風の白装束を纏った男。

形の整ったヒゲ、弦十郎より巨大な巨躯。無手にして、その身から信じられないほどの熱量を放つ、その男は―――

「紹介しよう。彼こそが我が部署最強の男―――『グラント・マルフィー』だ」

リカルドの隣に立った男に、リカルドはそう紹介する。

その男、リカルドはにやりと笑う。

「はっ、真打登場ってわけかよ!」

「戦兎!あいつは俺がやる!だからお前は――――」

「ああ、キャロルを止める!」

クローズが、グラントの前に立つ。

そのクローズを、見下した様子でグラントは笑う。

「『竜』に勝てると思っているのか?人間」

何か、訳の分からない事を言っている。

「はあ?お前も人間だろ何言ってんだ?」

「否、俺は脆弱な人間などではない。全ての生物の頂点に君臨する『竜』である」

「何滅茶苦茶な事言ってんだ!」

クローズが駆け出し、万物全てを溶かす拳をグラントに叩きつける。

しかし、グラントはびくともしない。

「なっ!?」

「無駄だ」

次の瞬間、クローズの姿が消え、その横の壁が砕き散る。

「なっ!?」

その光景に、彼らは絶句する。

クローズが殴り飛ばされた。それはわかる。だが、何よりも目が言ったのは、グラントの腕。

腕が、肥大化し、黒く、異形の形となっていたからだ。

「なんだよそりゃ・・・」

「言ったであろう。『竜』であると」

「どうやらお世辞じゃないらしいなァ・・・!」

次の瞬間、ビルの空いた穴のすぐ横が吹っ飛ぶ。

「だァ!!いってえなゴラァ!!」

そこからクローズが『ボルケニックモード』全開で出てきた。

「戦兎、奴は俺たち三人でどうにかする!」

「分かった!」

クローズとグリスとローグ。その三人がグラントに向かって突撃する。

その間にも、響と未来がキャロルと激しく打ち合っていた。

だが、その間に未来は苦悶の表情を浮かべていた。

「未来、大丈夫!?」

「大丈夫・・・でも、これがカオスモード・・・!?」

呪いと凶祓いを相殺させた際のエネルギーで出力をブーストする未来のイグナイト。だがそれをあえてせず、呪いと凶祓いの双方の力を体内でスクランブル、わざと不純融合状態にして体内で暴れさせることで、呪いと凶祓いを両立させ、神獣鏡本来の力を呪いと共に引き出すイグナイト・カオスモード。

だが、戦闘力自体が飛躍的に上がる訳でもなく、本来の特殊性を取り戻すだけのこのモードは、未来の精神に、通常運用のイグナイトよりも二倍近い負荷をかける事になるデメリットの方が大きい力だ。

だが、それでも今の未来にとっては、そんなもの些細なものだった。

(こんな苦しみ、今のキャロルちゃんの苦しみに比べたら・・・!)

「ウ・・・ガ・・・ァァァアアアァァアア・・・!!!」

シンフォギアの暴走に近い状態になっているキャロルを止める為であるならば、未来は自分の体の中を荒れ狂う破壊衝動を抑える事など造作もなかった。

そこへ、キャロルに向かってクリスのガトリングガンが襲い掛かる。

「援護してやる!だからそのまま―――!!」

そのクリスの言葉にうなずき、響は拳を握りしめ、未来はその手の鉄扇を握り締め、キャロルに立ち向かう。

その一方、翼はリカルドと一騎打ちを敢行。

リンクスアームズ『スカイスプリング』によって攻撃速度と一撃の重さ、そして移動速度が飛躍的に強化されている翼だが、それでもリカルドの猛攻に防戦一方だった。

「もっとだ、もっと負荷を上げろ!」

アメに向かって、翼はそう指示する。

バネの強さを強化することで、一撃の重さと反動による加速を上げようとしているのだ。

だが、それでも―――

「遅いね」

「あぐっ!?」

盾でぶん殴られて、翼は地面を転がる。

「いくらイグナイトを使っても、それでも君は私には届かない」

「くぅ・・・」

「ちなみに、私は始めに桐生戦兎たちと戦った時は、僕は微塵も本気を出してはいない」

「なんだと・・・!?」

あの時、ビルドの持つ最大の力であるラビットラビットとタンクタンク、そしてクローズのマグマの力をもってして、やっと倒せたリカルド。それに一人で勝てるとは思っていなかったが、まさか、まだ本気とは思ってもみなかった。

だが、だとしても―――

「ここで貴様を食い止める・・・!!」

父の想いを踏み躙るこの男を赦すことは出来なかった。

 

 

「ウォォオオオ!!」

クローズの拳がグラントの顔面を打ち据える。だが、そのグラントの頬が黒く変色したかと思えば、すぐさま反撃の拳がクローズを打ち据え、建物に叩きつけられる。

「ご・・・っぁ・・・!?」

一瞬、意識が消し飛ぶ。

だが、すぐさま意識を取り戻せば、クローズはすぐさま『ソレスタルパイロウィング』を広げて飛翔する。

その間、グリスとローグが両側から強襲するが、それすらも弾き飛ばされる。

「「ぐあぁぁぁあ!?」」

とてつもない防御力、振れば人が紙吹雪の如く吹き飛ぶ拳、何をとっても強力過ぎる。

「くそ、化け物かよ・・・!」

「我をまだ人とするか。何度も言っているだろう。我は『竜』であると」

「だったらこいつはどうだァ!!」

クローズがボルテックレバーを回す。

そして、グラントの懐に飛び込むと、両拳ですさまじいラッシュを叩き込む。

 

 

ボォルケニックフィニィッシュッ!!!』

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラァァァアァアアア!!!」

激しいラッシュが、グラントに何度も拳を叩きつける。

「フハハハ!!」

「ッ!?」

だが、そのラッシュを受けても、まるで心地いいとでも言う様にグラントは笑う。

「無駄無駄無駄ぁ!いくら汝がマグマの力を宿していても、我はそのマグマで水浴びをする『竜』であるぞ!」

次の瞬間、クローズが再びぶっ飛ばされる。

「龍我ぁ!」

殴り飛ばされるクローズ。

「ぐぅ・・・げほっ、ごほ・・・!?」

地面に倒れ伏すクローズ。

「打つ手なしなのか・・・!?」

「っざけんな!まだだ、まだ手は残ってる!!」

ローグにむかって、グリスはそう叫んだ。

 

 

 

キャロルが展開する障壁術式に対して、響、クリス、未来、ビルドが激しい猛攻を叩きつける。

出力に任せた力押し。だが、それでも思い出を全力償却しているキャロルには遠く及ばない。

さらに、取りついている悪魔の力も重なって、暴走しながらもまるでイグナイトの如く制御しているキャロルの力は凄まじいものだった。

「ウガァァアアァァアアア!!!」

「うわぁああ!?」

「ぐあぁぁあ!?」

ラッシュを叩き込んでいた響とビルドが吹き飛ばされ、その二人を光線で攻撃していた未来が受け止める。

「イグナイトの二段階励起だぞ!?」

それでも、まだ届かないとでも言うのか。

先ほど、ビルドの力は確かに届いていたというのに。

「ッ・・・ア・・アァァアア!!」

キャロルが、悶えるように声を漏らす。

「キャロルちゃん・・・!?」

しかし、その時、キャロルの口から、一定のリズムで奏でられる言葉が発せられる。

 

歌だ。

 

「――嗚ア、終焉への()()が薫ル」

 

「さらに出力を!?」

「一体どれくらいのフォニックゲインなんだよ・・・!?」

その時、ビルドがリカルドに向かって駆け出す。

「翼、交代だ!」

「分かった!!」

翼とビルドが入れ替わり、今度はビルドがリカルドと切り結ぶ。

「いいのかい?今のキャロルから目を離して?」

「狙っていたのはこの瞬間だ!」

装者たちが、胸のマイクユニットに手を駆ける。

そこにあるのは、三段階の最後の安全装置(セーフティロック)―――その解除ボタンだ。

 

「抜剣!全安全装置(オールセーフティ)!!」

 

 

「「「「―――解放(リリース)ッ!!!」」」」

 

 

叫び、最後のロックを解除する。

 

『DAINSLEIF』

 

アルベドから、最終フェイズ『ルベド』へとシフトする。

 

その直後に解放されるキャロルのフォニックゲイン。それを、装者四人が響を先頭に真正面から迎え撃つ。

 

激しく鬩ぎ合い、激突する二つのフォニックゲイン。

 

「イグナイトの出力で捻じ伏せてェ・・・!!」

「吹き荒れるこのフォニックゲインを束ねてっ・・・!!」

「撃ち放つッ・・・!!!」

 

 

「S2CA―――テトラドブラストォォォオォオオオッ!!」

 

 

絶叫と共に放たれる、四つの歌声を束ねるS2CAが、キャロルのフォニックゲインを真正面から受け止める。

 

「ぐあぁあ!?」

ビルドが地面を転がる。

「しぶといねぇ。いい加減諦めて、ここで死んでくれると助かるのだがね」

ビルドが地面を殴り飛ばす。

「冗談じゃねえ・・・!!こんな所で、死んでたまるかッ!!」

ボルテックレバーを回すビルド。

「まだやんなきゃいけない事があるんだよォ!!」

 

『Ready Go!』

 

背中の『マフラビットアクセラレーター』に搭載された推進加速装置が作動。それによってビルドは地面を蹴り、音速を超えた超音速でリカルドに向かって飛び蹴りを放つ。

 

 

 

「いくぞお前らァ!!」

グリス、ローグがアクティベイトレンチを叩き下ろす。

 

スクラップフィニッシュッ!!!』

 

クラックアップフィニッシュ…ッ!!!』

 

『Ready Go!』

 

三人が飛び上がり、一点突破でグラントに向かってライダーキックを放つ。

 

ボォルケニックアタァックッ!!アチャァア!!!』

 

その一撃を、グラントは真正面から受け止める。

だが、びくともしていない。

「「「ッ!?」」」

グラントが、笑う。

 

 

 

 

「ぐ、ぅぅううう・・・!!!」

S2CA、それも、四人分のイグナイトの戦慄と絶唱を束ねた力であっても、押し込まれていく。

「このままじゃ、押し負ける・・・!?」

イグナイトの最大出力であっても、勝てないとでも言うのか。

「・・・イグナイトの・・・最大出力は・・・知っテいル・・・っ・・・!!」

キャロルの言葉が、聞こえる。

「だからコソそノまま捨テ置いたのト分かラなかッたノカ・・・!!」

まるで、失望したかのような声。

「オレの歌は―――ただの一人デ七十億の絶唱ヲ凌駕する、フォニックゲインだぁァぁあッ!!!」

次の瞬間、キャロルの歌が放つ歌に押しつぶされ、装者四人とも、吹き飛ばされてしまう。

「「「「うわぁああぁぁあぁあああ!!!」」」」

その衝撃は、街を打ち貫き、まるで砂の城の如く街を砕く。

 

 

 

超音速で加速するビルド。だが、そのビルドに対して、リカルドは剣を構えた。

「少し本気を見せてあげよう」

次の瞬間、リカルドの手にある剣が謎の光を帯びる。それと同時に、足元の小石がかたかたと動き出し、とてつもない威圧感を放つ。

(なんだ―――)

ファウストアーマーの仮面の奥で、リカルドがほくそ笑む。

「見せてあげよう―――裁きの一撃を」

次の瞬間、その剣が降りぬかれ、そこから、翼の青の一閃のような、禍々しい光を放つ斬撃が飛ぶ。

 

『デビルソード』

 

その一撃が、ビルドの『ラビットラビットフィニッシュ』をいとも容易く吹き飛ばす。

「ぐあぁぁああぁぁあああ!?」

 

 

 

一点突破のライダーキック三連撃。だが、それを受けてもなんら効果がなかったグラントは、にやりとほくそ笑むと、その口元が黒く変色したかと思いきや、異形の口へと変化したその口を大きく開け、そして、クローズに向かって破壊の一撃を放つ。

 

『ドラゴン・ブレス』

 

 

その一撃は、いとも容易く三人の仮面ライダーを吹き飛ばした。

「「「ぐあぁぁあああぁぁああああ!?」」」

 

 

 

 

 

キャロルのフォニックゲイン、リカルドのデビルソード、グラントのドラゴン・ブレス。

その三つの破壊の力が、彼らを纏めて吹き飛ばす。

「が・・・か・・・」

「ぐ・・・くぅ・・・」

「あ・・・い・・・」

「ぐ・・・くそ・・・」

「くぅ・・・う・・・」

「あ・・・く・・・」

地面に倒れ伏す、装者とライダー。

「アァ・・・や・・・ハり・・・ダメ・・なの・・・カ・・・」

だが、それでも彼らは立ち上がろうとする。

「例え万策尽きたとしても・・・一万の一つ目の手立てはきっと・・・!!」

そう、響が呟いた時だった。

 

「「「―――Gatrandis babel ziggurat edenal―――」」」

 

 

―――歌が、聞こえた。

 

 

「あ・・・」

そちらに視線を向けてみれば、黒煙が晴れた先に、彼らは、いた。

イグナイトモジュールを起動した、マリア、調、切歌と、アサルトクライムとタスクだった。

 

「「「―――Emustolronzen fine el baral zizzl―――」」」

 

「マリアさん・・・!」

「生きてたのか・・・!」

響とビルドが、うれしさに声を出す。

「約束だからな」

それに、クライムは答えた。

そして、崩れたシャトー内で起きたことを、思い出す―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瓦礫に埋もれ、動けないでいた所を、突如として助け出してくれたものがいた。

「ジャック、しっかりして!」

紅蓮のような赤い髪と雪のように白い肌。見覚えのあるその容姿は、クライムの旧友のエリザだった。

「・・・エリザか」

瓦礫がなくなったお陰で、身動きがとれるようになったクライムは起き上がる。

「随分と元気そうね・・・」

「埋もれていただけで足を潰されたわけではないからな」

脚に挟まっていた瓦礫を殴り飛ばし、立ち上がるクライム。

「ふう・・・ん?」

ふと、エリザがクライムの前にビルドドライバーを差し出す。

「貴方のものでしょ?大事にしなさい」

「・・・すまない」

それを受け取るクライム。

「それよりも、マリアたちは」

「あ、あー、あの女狐ね。あっちはあっちで助かってるわよ・・・くそ」

「最後に何を言ったかは聞かなったことにしておく」

クライムはすぐさま周囲を見渡し、そこでクライムはマリア、調、切歌、タスクの四人を見つける。

「お前ら!」

「あ、シン!」

「無事だったんだ。よかった・・・」

すぐさま駆け寄るクライムだが、すぐ傍にウェルが瓦礫に埋もれている事に気付く。

「ウェル・・・!?」

「ぐ・・・ぅう・・・」

ウェルがうめき声を上げる。

「ドクターウェル!」

すぐさまマリアが駆け寄る。

「僕が守った・・・なにもかも・・・」

そこでウェルは、うわ言のように喋りだす。

「まさか、お前・・・」

シャトーを制御して、僅かな余裕を使って、マリアたちを瓦礫から守ったようだ。

丁度、一点に集まっていたから、マリアたちは助かり、しかし流石に離れていたクライムを助ける余裕はなかったようだ。

そのすぐ傍で、ウルフがやってくる。その装甲はところどころ歪んでいたが、動きに支障はないようだ。

「最後の最後でこの男に蹴り飛ばされた」

「そうか・・・」

随分と、粋な計らいをしてくれる。

「君を助けたのは・・・僕の英雄的行為を、世に知らしめるため・・・」

遺言のような・・・いや、実際に遺言なのだろう。

「さっさと行って、死に損なった恥を晒してこい!」

ウェルが、そう叱咤する。

「それとも君は、あの時のようなダメな女のままなのかぁい?」

「・・・・!」

そう言って、ウェルは、一枚のメモリを差し出す。

「愛、ですよ」

「何故そこで愛!?」

「シンフォギアの適合に奇跡など介在しない・・・!!」

戦兎が、ラビットフルボトルを選んだように、龍我の手に、ドラゴンフルボトルを手に入れたように。

響が、三年前のあの日、その胸にガングニールの破片を受けたように。

 

全てに、『奇跡』などない。

 

「その力・・・自分のものとしたいなら・・・手を伸ばし続けるがいい・・・!!」

それを、マリアは受け取る。

ウェルの乾いた笑い声が聞こえる。

それを受け取って、立ち上がり、ウェルは、腕を持ち上げる力すらないのか、手を地面につく。

「・・・マリア・・・僕は英雄になれたかな?」

「・・・ああ、お前は最低の――――」

 

 

 

 

 

ウェルから貰ったメモリをウルフに託し、本部に走ってもらっている。

『マリア姉さん・・・みんな・・・良かった・・・良かったぁ・・・!!』

無線から、妹の泣き声が聞こえる。

そしてどうにか生き残ったビルの上で、エリザ、アルフォンスがその戦いを見守る。

「見せてもらうわよ・・・シンフォギアと、仮面ライダーの力を」

 

 

「「「―――Gatrandis babel ziggurat edenal―――」」」

 

 

七人の絶唱が、響き渡る。

翼を調が支え、クリスと未来を切歌が支える。

そして、響の後ろにマリアが立ち、全ての準備が整う。

 

 

「「「―――Emustolronzen fine el zizzl―――」」」

 

 

次の瞬間、キャロルのフォニックゲインが七人に襲い掛かる。

それを、響が真正面から迎え撃ち、マリアが支え、残り五人が補助する。

 

吹き荒れる歌の嵐。それを、自分たち七人の歌で受け止める。

 

 

「S2CA―――セプテットアドバンスッ!!!」

 

 

七重奏の名を冠する、S2CAで、今度こそキャロルのフォニックゲインを受け止める響。

 

「今度こそ、ガングニールで束ねッ!!!」

 

「アガートラームで制御ッ!!再配置するッ!!!」

 

それによって、受け止めたフォニックゲインを全ての装者に等しく分配、その力に施されたリミッターを順に解除していく―――それによってもたらされるのは―――

 

「それを見逃すと思うのかね?」

すかさずリカルドとグラントが再び『デビルソード』と『ドラゴンブレス』を放つ。

その威力で装者たちを吹き飛ばし、それを阻止しようという魂胆だ。

それに対し、仮面ライダーが必殺技で対抗。真正面から受け止める。

クローズの『ボルケニックナックル』が『ドラゴンブレス』を真正面から迎え撃ち、さらに『デビルソード』に対してグリスがツインブレイカー二丁の『ツインフィニッシュ』二連発に加えて『スクラップフィニッシュ』を重ねてロボット状のジェルをもって斬撃を受け止める。

そしてビルドはギリギリの所で『ラビットラビット』から『タンクタンク』へ変身。

そのまま『タンクタンクフィニッシュ』と『消しゴム』『掃除機』『ロック』『エンジン』の『アルティメットマッチブレイク』でクローズの『ボルケニックナックル』で爆散した衝撃を背後の装者に届かないように相殺。さらに威力を軽減させる。

そして、『デビルソード』に向かってタスクの『スクラップクラッシュ』、クライムの『アサルトアップフィニッシュ』、ローグの『クラックアップフィニッシュ』が『デビルソード』を受け止める。

 

激突する力の奔流。

 

それによって、ライダーたちの装甲に亀裂が入り、次々に爆風とともに砕き飛んでいく。

だが、それでも彼らは、一歩も引かない。

 

『希望』を繋げるために、『希望』を、『必然』の『奇跡』へと繋ぐために

 

マリアの左のガントレット、響の両のナックルが、形を変え、叩きつけられるフォニックゲインを受け止める。

「「ぐぅぅぅううぅぅぅううぅぅうううッ!!!」」

そのままキャロルの放つ、フォニックゲインを、一気に束ね、調律、制御、分配する。

「いい加減、崩れたらどうなんだっ!!」

リカルドとグラントの放つ斬撃と咆哮の威力がさらに増す。

それに、ライダーたちは思わず押される。

だが、それでも踏み止まる。

 

響のマフラーが、七色に輝く。

 

ビルドたちの持つボトルたちが、眩い光を放つ。

 

 

イグナイトのタイムリミットが迫る――――

 

 

 

 

 

キャロルが、その光景に、そっと手を伸ばす。

「最後の・・奇跡を・・・」

 

 

 

その光景を前に、キャロルは、塗り潰される直前の意識の中で、微かに唇を動かした。

 

「・・・た・・・す・・・け・・・て・・・」

 

 

 

 

変化したボトルを手に―――クローズが叫ぶ。

 

「今の俺たちは―――負ける気がしねぇぇぇぇえええ!!」

 

 

 

キャロルの放った、フォニックゲインを束ねて、今――――彼女たちは飛翔する。

 

 

 

 

「ジェネレイトォォォォオオォ――――ッ!!!」

 

 

「エクスドラァァァァァァァァァアイヴッ!!!」

 

 

巻き起こる七色の竜巻が、天を貫く。それによってもたらされるのは、天候の好転。立ち込めていた雲が吹き飛び、太陽の光が差し込む。

 

そこから現れたのは―――七人の戦姫。

 

純白に染まった戦装束を纏い、今、天より降臨したのだ。

 

 

そして、その装甲のほとんどを砕き散らしたライダーたちが、膝をつく。

その中で、割れた仮面の中から、その目を覗かせながら、戦兎は、光を見上げながら呟く。

 

 

「―――さあ、実験(ステージ)を始めようか・・・」

 

 

 

 

最終決戦(ラストステージ)が、始まる。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「比嘉の戦力差を指折る必要もないであろう・・・!」

エクスドライブを成功させた一同。

「たかだかエクスドライブ如きで何を粋がっているのか」

しかしそれを見てなお嘲笑うデイブレイク。

「泣いてるぞ」

無理を押し通して立ち上がるライダーたち。

「これが私の裁きの力だ―――」

しかし、それでも絶大な彼らの力に、突如として一筋の光明が差し込む。


次回『最終決戦オーバードライブ』


「「―――Gatrandis babel ziggurat edenal―――」」




次回の注意―――

次回、このご時世でめっちゃ不謹慎な名前がでます。
そのあたりについてはご了承ください。


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最終決戦オーバードライブ

戦「天才物理学者の桐生戦兎は、宿敵エボルトを倒し新世界を創造した。そしてその世界で蔓延っていたノイズを殲滅し、名実ともにヒーローに・・・」
響「ちょっと戦兎先生!今はそれどころじゃないですよ!今最終決戦ですよ!?」
戦「そんなこと分かってるようるさいな。だからこうしてここだけでもハイテンションでいきたいじゃないか」
響「そんな滅茶苦茶な・・・」
翼「そうだぞ戦兎。最近あらすじ紹介での出番が少ないからって印象付けるためにわざとベクトルの違う方向のテンションでやるなど愚の骨頂だ」
戦「しょうがないでしょ!?どれもこれも作者の匙加減なんだからよ!?」
ク「これもネタ切れしてきた作者の匙の一つなんだけどな」
龍「そんなことはどうでもいいけどよ、なんか今回、このご時世で出しちゃやべー奴があるみたいだが・・・」
戦「ああそれおm」
響「ああーっと!ここで時間が押してきましたー!というわけでシンフォギア・ビルドGX第二四話をどうぞ!」


ビルドが、膝をつく。

「がはっ・・・」

仮面の中で、血を吐いて、倒れ込む。

「ッ!桐生!」

「大丈夫ですか!?」

空からその様子を見下ろす装者たち。

現状、ライダーたちの姿は、見るも無残な様子だった。

ダメージを受け過ぎた影響で、ボロボロの鎧が粒子となって消失、変身を強制解除され、その中にいた肉体は、ボロボロで血だらけだった。

「慧くん・・!」

「酷い・・・」

あんなにボロボロになってまで、自分たちがエクスドライブを発動するまでデイブレイク社の攻撃から守ってくれたのだ。

それに応えずして、何が『必然』か。

彼女たちの前に、敵三人が立つ。

リカルドは、背中の羽を広げて、グラントはどういうわけか蝙蝠のような翼を生やして飛んでいた。

「三騎対六騎・・・」

「錬金術師であるなら、彼我の戦力差を指折る必要もないであろう・・・!」

「止めにオマケのエクスドライブ!これ以上はもう仕舞いだ!」

そう粋がる彼女らに、リカルドは鼻で嘲笑う。

「たかだかエクスドライブ如きで何を粋がっているのか」

「なんですって!?」

「あまり舐めてると痛い目を見るデスよ!」

「ふむ―――こんなあっさりと後ろを取られるのに?」

「「「ッッ!?」」」

突如として背後から声が聞こえ、振り向けばそこにはいつの間にかリカルドがいた。

視線を戻してみれば、そこにはすでにリカルドの姿はない。

「これが現実」

背後にいた筈のリカルドが、元の位置に戻る。

「いくらエクスドライブと言えども、所詮は欠片から創った玩具。ましてやフィーネなどという穢れた亡霊風情の作ったものなどに、我々が負ける道理などない」

「なんだとォ・・・!!」

それを聞いたクリスの頭に血が昇る。

「櫻井女史が、穢れているだと・・・その言葉、今すぐ取り消せッ!!」

「何故だ?そもそも世界にバラルの呪詛をもたらしたのは彼女ではないか。塔を創り、神の領域に踏み込もうとした結果が今の相互不理解の世界だ。それを解く為に何百年と時間を浪費し、多くの血に塗れた亡霊を、穢れていると言わずしてなんと呼ぶ?」

「もういい・・・」

響から、凄まじく低い声が響いた。

それに、装者たちの視線が彼女に集まる。

「もういい・・・それ以上、何も言わなくていい・・・」

その拳を血の滲むぐらい握り締めて、響は、怒りに歪んだ視線をリカルドを睨みつけた。

「だから、貴方だけは何がなんでもぶん殴る・・・・ッ!!!」

誰かの想いを踏み躙るこの男を、何があっても赦しはしない。

 

立花響は、人生で初めて、怒りで本気でぶん殴る相手を見つけた瞬間であった。

 

「ひ・・・びき・・・」

だが、その最中で、誰かの声が響の―――空に舞う彼女たちの耳に届いた。

「戦兎先生・・・?」

「怒りに飲まれて、目的見失ってんじゃねえぞ・・・」

その手に、蒼く変化した『天羽々斬兎ソングボトル』と夕焼け色に変化した『ガングニールフェニックスソングボトル』を握り締めて、彼女たちに、見るべき相手を指し示す。

「泣いてるぞ」

「!」

それを聞いて、響は、キャロルの方を見る。

そこには、悪魔に塗り潰されながらも、涙を流すキャロルの姿があった。

「キャロルちゃん・・・泣いて・・・」

 

天羽々斬兎(アメノハバキリウサギ)!』『ガングニールフェニックス!』

 

シンフォニックマッチ!!』

 

「ッ!!」

そのような音が聞こえ、目を再び向けてみれば、そこには、ビルドドライバーにソングボトルを装填する戦兎の姿があった。

「戦兎先生!?」

「よせ!もう戦わなくていい!」

あれだけボロボロになって、まだ戦おうというのか。

 

 

絶唱ゥ!!!』

 

クロォーズイチイバルヘルトラヴァースッ!!』

 

「龍我さんまで・・・!?」

「龍我!もういい!そこまでして戦う必要なんてないだろ!?」

 

 

AwakeningATONEMENT CRIME

 

 

「シン、お願い、もうやめて!」

 

 

ライダーたちが、次々に立ち上がっては、己のドライバーに、それぞれのボトルを装填していく。

 

 

 

ロボォットジュエリィーッ!!』

 

Danger!』クロコダイル!!』

 

タイガァージュエリィーッ!!』

 

 

「もういいデス!」

「幻徳さん、無理は・・・!」

「お願い、やめて慧くん!!」

 

装者が必死に止めるのも無視して、彼らは構える。

「お前らだけじゃ不安だからな・・・・」

 

『Are You Ready?』

 

ステージライドビルダーZW、アトーンメントビルダーCM、トラヴァースビルダーCRZ、ケミカライドビルダー。

それぞれのビルダーを展開し、彼らは、空を仰ぐ。

空にたたずむ、彼女らを。

そして、彼らは叫ぶ。

 

 

「「「「「「変身ッ!!」」」」」」

 

 

その身に、彼女たちが引き起こした『必然』を身に纏う。

 

ビルドツヴァイウィングッ!!!』

 

クロォーズイチイバルヘルトラヴァァァアス!!』

 

Stand Up ATONEMENT CRIME

 

ロボット・イン・グリィスゥッ!!』

 

クロコダイル・イン・ロォーグ…ッ!!!』

 

タイガァー・イン・タァスクゥッ!!』

 

蒼と夕焼け色のビルド・ツヴァイウィングフォーム。

 

赤の装甲に黄金のラインの走るクローズイチイバルヘルトラヴァース。

 

白銀の装甲に身を包むアトーンメントクライム。

 

黄金の半透明のアーマーを纏うグリス。

 

紫とひび割れた装甲を持つローグ。

 

オレンジ色の半透明のアーマーを身に纏うタスク。

 

再変身による負荷を度外視した、ライダーシステムの運用。

しかし、彼らは気にした様子もなくビルド、クローズ、クライムの三人はすぐさま彼女たちの元へ飛ぶ。

「戦兎先生・・・」

「ったく、無茶してくれる・・・」

「本当に、桐生たちは・・・」

そんな中で、ふとビルドは響に向かって軽くチョップをかます。

「あだ!?」

意外に痛い。

「い、いきなり何を・・・」

「怒りにとらわれて目的を見失わないように。これ、経験者からのアドバイス」

「怒り・・・」

響は、もう一度キャロルの方を見る。

やはり、キャロルは、塗り潰されてもなお、涙を流していた。

(ああ・・・そうだ・・・)

拳で解決できることは、とても簡単だ。だけど、涙を止めるというのは、とても大変だ。

『響!』

「っ!その声、お父さん・・・!?」

何故、父の声が無線から聞こえてくるのか。

『響!泣いている子が、ここにいる!』

それは、一体誰なのか。否、考えるまでもないだろう。

「泣いている子には、手を差し伸べなくちゃね」

「合格だ!」

ビルドが奏の槍を構える。

「ふん、所詮は汚れた人間同士、考えている事も実に汚れた人間らしい」

リカルドは、嘲笑う。

「ならば、その穢れた思想を叩き潰してやるのが、せめてもの情けよ」

グラントは鼻で笑う。

「グ・・・ガァァアアアァァァアアアア!!!」

キャロルが、その手から結晶を投げる。

空中に散布されたそれは、たちまち、巨大な内臓型ノイズをよびだし、あまりにも大量なアルカノイズを呼び出す。

その数は、悠に一万を超えているだろう。

どうやら、世界を分解することだけならば、十分な戦力はあるということだ。

だが、もはやそんなことは関係ない。

「俺たちが今やるべきことは、キャロルとエルフナインの涙を止める事。こんな悲しい事をやめさせることだ!」

「ふん、ならば俺はその邪魔が入らないように動くだけだな」

「はっ、なんだ、簡単な事じゃねえか!」

「それ本気で言ってんのか?まあ、スクリューボールに付き合うのは慣れているからな」

「その為にも散開して、アルカノイズの各個撃破を―――」

「それは俺たちに任せろ!」

ふと、下から声が聞こえた。見れば、グリスたちが既にアルカノイズたちの殲滅に当たっていた。

「俺たちがアルカノイズを殲滅する!」

「だから皆は、今の内にキャロルを!」

「慧介・・・皆・・・」

「ああっもう、仕方がない」

ふと、遠場のビルから、聞き覚えのある声がする。

目を向けてみれば、そこにいるのは、紅蓮のドレスのような戦装束を身に纏ったエリザと、手袋をはめ直しているアルフォンスがいた。

「流石にここまでのことは見過ごしておけないっての」

「上からも許可下りたし、僕たちも暴れさせてもらうよ~」

次の瞬間、アルが手を合わせた後に、足元のビルにその両手を当てると、突如としてビルの壁から巨大な拳の形をしたコンクリートが飛び出し、その前を通っていたアルカノイズを纏めて叩き落とす。

さらに、別の場所ではどこからともなく飛んできた砲撃が、フライトアルカノイズを打ち落としているのが見えた。

見れば、そこには猿渡ファームのハザードスマッシュたちがいた。

「カシラー!来ちゃいましたー!」

「何やってんだお前ら!?ちゃんと留守番してろって言っただろうが!?」

「だって、こんな世界の危機に何もしないなんて、なんか仲間外れみたいでいやじゃないですかー!」

思わぬ援軍が来てくれた。

これほど頼もしい事はないだろう。

「最っ高だ!」

それにビルドは仮面の奥でくしゃっとなる。

そして、よし、とうなずくと、

「調、切歌、クリスはあいつらと一緒にアルカノイズの殲滅、残りはあいつらの撃破及びキャロルの救出!異論は!?」

「「「ないッ!!」」」

「よし、始めようか!!」

 

―――シンフォギア装者と仮面ライダーが、暴れる。

 

戦場に轟く歌。飛び散る火花。戦いの音。

迫る命を狙う刃、抗う力、だけどそれでも―――

 

(あの子も、アタシたちと同じだったんデスね)

切歌と調が、お互いのアームドギアで作った円盤型の巨大兵器で地面に蔓延るアルカノイズたちをクワガタよろしく叩き斬っていく。

(踏み躙られて、翻弄されて、だけど、なんとかしたいともがき続けて)

周囲を走る円盤をもって、側面から近付くノイズすらも叩き斬る。

(違っていたのは、一人ぼっちだったこと、ただそれだけッ!!)

空を飛ぶグラントに対して、マリアは長剣を鞭のように伸ばし、それに等間隔に装着された短剣をもって、グラントに斬撃を叩き込む。

(一人ぼっちで、ずっと抗い続けて、そして、寂しさを押し込めてきた)

キャロルに向かって、自身の武器である特殊性の無数の光線を曲折させてキャロルを狙い撃とうとする未来。

(救ってあげなきゃな・・・何せアタシも救われた身だ)

その身にある広範囲高射程大火力をもって、空を飛ぶノイズたちを母艦ごと破壊するクリス。

(その為であれば、奇跡を纏い、何度だって立ち上がってみせる!!)

超高速で空中を高速で駆けるリカルドを、ビルドともに空を飛翔して、翼は激しく火花を散らす。

(その為に私たちは、この戦いの空に、歌を唄うッ!!!)

その手の拳を握り締めて、クライムと未来が切り開いてくれた道に突っ込み、キャロルに拳を叩き込む。

(そうだよな。父親が死んで、辛くない訳がない。その苦しみを、ずっと抱えて生きてきたんだな)

シュルシャガナタイガーソングボトルをスクラッシュドライバーに装填し、アクティベイトレンチを叩き下ろし、それによって解放されたエネルギーを足に充填、飛び上がって、その足裏からラッシュと共に虎型の光弾を放ち、ノイズを消し飛ばしていく。

(親父がどーの娘がどーの。正直、そういうのは分からねーけど、だけど、あいつが父親をどんだけ大切に思ってんのかは分かる)

ツインブレイカーに射撃関連のフルボトルを装填し、一気にぶちまけ、周囲に群がるノイズを一気に殲滅していく。

(父親から託されたもの。それを背負い続けてきた奴は、文字通り身を削る思いでここまで来たのだろう。そんな子を、このまま見過ごすことなど俺にはできん!)

アクティベイトレンチを叩き下ろし、そのままデスロールの勢いをもってノイズたちを薙ぎ払っていく。

(俺に父親はいない・・・いるのは、三人の母親だけだ。だけど、一歩間違えれば、俺もキャロルと同じような道を歩んでいたのかもしれない・・・だからこそ、俺はこれ以上その道にいかせないように、それを止めてやる)

キャロルの放つ錬金術を、斬撃で叩き斬り、そのまま展開前の術式すらも破壊してみせるクライム。

(俺は親のことなんてほとんど覚えてねえ。だけど、託されたものってのは何だかわかる。それを、破壊のためになんて絶対に使わせねぇ!!)

手から伸びる爪『エクスティンクションクロー』をもって、グラントと激しく鬩ぎ合うクローズ。

(その為に、俺たちはこの科学の光を戦場に届かせるッ!!)

槍を振るい、ビルドはリカルドにその槍を叩きつける。

 

戦場に、光が轟く。

 

キャッスルのカタプルタキャノンの砲撃がノイズたちを撃ち抜く。

オウルが飛翔し、その翼でノイズを叩き落す。

スタッグのラプチャーシザースの斬撃がノイズを屠る。

猿渡ファーム三羽ガラスの見事な連携プレーが装者やライダーたちには劣るものの、確実にアルカノイズたちを殲滅していっていた。

「「「イェーイ!!」」」

一方、エリザたちの方は、

エリザはその身から溢れ出た血を形で成し、それを振るう。まるで鞭のようにしなり、水のように形を変え、鉄のように固い血の刃が、ノイズたちを瞬く間に殲滅していく。

「既にアルカノイズ対策は出来てんのよ!」

そのまますさまじい勢いでアルカノイズを殲滅していく。

「おー、今日はいつになく激しいねえ。まあ、それは私も同じっか!」

手を合わせ、地面に手を置けば、アスファルトが変形、周囲に群がっていたノイズを打ち上げ、そのまま両側のビルから飛び出した変形したコンクリートがその無数のノイズを押しつぶす。

「ま、位相差障壁がなければこんなもんでしょ」

そのまま次々に地面やらビルやらを変形させ、ノイズたちを潰していく。

 

思わぬ援軍と、エクスドライブとソングボトルによる超火力の光が、戦場に輝く。

 

その甲斐あって、アルカノイズはその数を一気に減らしていく。

「よし、このまま―――」

「ぐあぁぁあぁあ!?」

「うわぁぁぁああ!?」

安堵しかけたタスクの元に、いきなりクローズとマリアが落ちてくる。

「マリア!?龍我さん!?」

「あ・・つぅ・・・」

「ここまでやって・・・まだ通用しないというの・・・!?」

見上げれば、そこには未だ余裕そうな表情でそこに佇んでいるのはグラントだった。

「エクスドライブとヘルトラヴァースでも通用しないっていうのか・・・!?」

その事実にタスクは戦慄するほかなかった。

 

 

 

 

空中で激しくぶつかり合うリカルドとビルド、翼。

リカルドの速さはすさまじく、翼の機動性をもってしても中々追いつけなかった。

「くっ、せめて奴の動きを封じることさえできれば・・・!」

翼が歯噛みする。

「ふふ、無駄に足掻くといい。最も、どちらにしろ無駄だと思うがね」

「だったら―――」

ビルドは、一本のボトルを取り出す。

「こいつならどうだ?」

取り出したのは、()()に色に変化したフルボトル。

ビルドは天羽々斬兎ソングボトルを抜き、代わりにそのフルボトルを装填する。

 

神獣鏡(シェンショウジン)ユニコーン!』

 

その角には、ありとあらゆる病を癒し、毒を浄化するという逸話をもつ、幻獣の名を冠したボトル。

同じ、幻獣。炎の化身と大地を駆ける神馬、そして、おそらく最も相性の良いボトルの組み合わせ。

 

シンフォニックマッチ!!』

 

 

ボルテックレバーを回し、新たなビルダー『ステージスナップライドビルダーPRMS』を展開。紫と夕焼け色の装甲が作り上げらる。

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ!!」

次の瞬間、二つの装甲がビルドを横から挟み込む。

 

永愛プロミス!』

ビルドサンシャイン!!!』

イェーイフケェーイ!!』

 

紫と夕焼けのアンバランスな色合い。幻獣同士の組み合わせ。

ありとあらゆる力を浄化する『神獣鏡』と何をもおも貫き通す『ガングニール』のシンフォニックマッチ。

それが、『ビルド・サンシャインフォーム』。

『おひさま』と『ひだまり』の力が組み合わさって力である。

「たかだか力を組み合わせた程度で!」

リカルドがビルドに斬りかかる。

その、肉眼では捉えられないほど速く振るわれる斬撃に対して、ビルドは『神獣鏡ユニコーンハーフアーマー』の背中から伸びる二本の帯をもって対応。その先端がまるで龍の頭部のような形をして、寸分違わず撃ち漏らしなく、リカルドの剣を迎撃する。

「なに!?」

「おぉぉおお!!」

ナックル状に変形したアームドギアを纏った拳で、ビルドはリカルドをぶん殴る。

「ぐぅっ!?」

寸での所で盾で防いだリカルド。しかし、その背後から翼が斬りかかる。

「ハァァアッ!!」

しかし、その斬撃を回るように躱して翼の背後をとって、そのまま背中を蹴り飛ばす。

そこへ光が炸裂。リカルドはそれを寸での所で躱すが、光線はリカルドをしつこく追い回す。

見れば、ビルドがその光を放っていた。

「チィッ!!」

舌打ちをして、リカルドはその光から逃げ回る。

「翼、合わせろ!」

「ああ!」

左拳を響のジェットナックルへと変形させると同時にボルテックレバーを全力で回す。そのまま機構を回転させ、熱量を跳ね上げさせる。

それと同時に翼が剣を巨大化、その剣にエネルギーを充填する。

光はリカルドを追い回し、リカルドは斬撃を飛ばして迎撃するが、数はそれほど減らない。

そのまま逃げ回って、気付けば、ビルドと翼の目の前まで誘導されていて、

 

『Ready Go!』

 

そのままジェットナックルの一撃と大剣の斬撃がリカルドに炸裂する。

 

 

シンフォニックフィニッシュ!!!』

 

 

双星ノ鉄槌(-DIASTER BLAST-)・破』

 

 

渾身の合体技がリカルドに炸裂、そのまま一気に地面に叩きつけられ、なおもアスファルト砕きながら地面を転がる。

「よしっ」

思わずガッツポーズをとってしまうが、しかし戦いはなおも続いている。

立ち込める煙。

その中から、リカルドがどうにか立ち上がろうとしていた。

「ぬ・・・ぐぅ・・・・」

その装甲は、流石に二人の渾身の一撃を喰らったからかひび割れていた。

片膝をついて、顔を上げようとする、その最中、『ルシファー』の仮面が割れ、破片が落ちる。

それを見て、ビルドと翼は―――ゾっとした。

 

その仮面の下は―――人のものではなかったからだ。

 

「お前・・・それは・・・!?」

中にあったのは―――人の形をした何かだった。

「ん?ああ・・・見たのか」

ククク、とリカルドは笑う。

「美しいだろう?人間という醜い外面を捨て、穢れなき存在へと昇華することに成功した我が肉体を。だけど悲しいかな。人は理解できないものを醜いと認識してしまう・・・」

ぎょろりと動く()()()()。一つの眼球に瞳孔が二つあるかのような目に、赤く焼け爛れた肌が、その割れた仮面から見えた。

「そう、世界は醜いのだよ。だから一度破壊し、零からやり直さなければならない。自らを汚れていないと言い張り、醜い姿を、心を晒し続ける愚かで醜い人類が蔓延るこの世界は、リセットしなければならないのだ」

狂っている。のかどうか分からない。

変身前のあの姿は、ある意味仮初だとして、その仮面の下に隠れた本性は、あまりにも醜かった。

「知っているかい?天使ルシファーは、神に反逆したことで、その身を堕天させ、自ら悪魔になったという事を・・・・」

黒い煙のようなものがリカルドから漏れ出す。

それが、欠けた鎧を修復していき、そして修復されたその姿は―――あまりにも悪魔そのものだった。

「今こそ、制裁の時だ!」

 

―――『セラフィック・ルシファー』。それが、リカルドの真の姿であった。

 

次の瞬間、ビルドは翼と共に遥か彼方へ吹き飛ばされていた。

「ッ!?せん―――」

寸での所で、リカルドが動くのが見え、途端に翼を庇い、リカルドの剣を受けたのだ。

だが、先ほどとは常軌を逸した機動力が、吹っ飛ぶビルドと彼に抱えられた翼に追いつき、再び別方向に斬り飛ばす。それはまるでビルドが空中でゴムボールの如く跳ねまわっているようにしか見えなかった。

今のリカルドの動きは、本当に常識外れだった。

「ぐあぁぁあああ!?」

地面に叩き落とされ、アスファルトが砕け散る。

「うう・・・戦兎・・・大丈夫か?戦兎!!」

翼がビルドの腕の中で必死に呼びかける。ビルドはうめき声を上げるのみ。すぐに動ける様子ではない。

そこへ空中から彼らを見下すリカルドは、途端に背中の翼を大きく広げる。

「これが私の裁きの力だ―――」

次の瞬間、その広げられた翼から、いくつもの光弾が、ビルドと翼に向かって雨の如く降り注ぐ。

無数の光の矢。それが、ビルドたちのいる地面を広範囲にわたって破壊する。

それに気付いた響は、思わずキャロルへの攻撃を中断してしまう。

「戦兎先生!?翼さん!?」

光矢の雨が止まり、立ち込める煙。その煙が晴れた先にいたのは、所々が砕かれボロボロの大剣を掲げるボロボロな翼と、未だ倒れ伏すビルドだった。

大剣が砕け散り、翼が膝をつき、四つん這いとなる。

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」

「翼さん!」

「響、危ない!!」

「ッ!?」

キャロルの錬金術が響を襲い、響の行く手を阻む。

「アァァアアァアア!!」

「キャロルちゃん・・・」

キャロルの事は放っておけない。だが、このままでは彼らが殺られてしまう。

(どうすれば・・・)

その時、すぐ隣の建物が赤色しだし、液体化して―――否、()()()()爆ぜる。

「え!?」

「ぐあぁぁぁああ!?」

「あぁぁぁあぁあ!?」

「うわぁぁあああ!?」

そこから吹っ飛んできたのは、クローズ、マリア、タスクの三人だった。

「龍我さん!?」

「マリア!?」

「慧介君!?」

すぐさま三人を受け止める響、クライム、未来。

「一体何が・・・」

「あぁ・・・くっそ、強すぎんだろ・・・」

見れば、そこからやってきていたのは、全身のほとんどを真っ黒な鱗で覆った、おおよそ人とは呼べぬ巨躯へと変化したグラントだった。

「嘘、エクスドライブとソングボトルでも敵わないなんて・・・」

「世界を壊すだけなら、力は十分ということか・・・!」

その驚異的な力に、彼らは驚くほかなかった。

 

 

 

 

 

S.O.N.G本部にて―――

「ビルド、天羽々斬、クローズ、アガートラーム、タスクのバイタル大幅に低下!」

「嘘・・・だって、エクスドライブとソングボトルでの変身なんだよ・・・!?」

それでも勝てない存在とは、

「用が済んでいれば、いつでもこちらを排除出来たということか・・・!」

デイブレイク社のリカルドとグラント。この二人の力は、あまりにも凄まじい。

「どうしようもないのか・・・!」

藤尭が歯噛みする。しかし、その時、友里の画面に、どこからともなくメッセージが入る。

「え!?」

それに驚く友里。

「し、司令!」

「どうした!?」

「ど、どこからかデータが・・・!」

「なんだとォ!?」

「差出人は・・・ッ!?」

それを見て、友里は絶句した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リカルドが、歩いてくる。

「さあ、これで最後だ」

剣を振り払い、こちらにゆっくりと歩いてくる。

「くっ」

「君たちを排除した後に、この戦場にいる我々に敵対する勢力全てを排除し、新たな方法を模索しなければならないな」

「そんなこと・・・ぐっ!?」

立ち上がろうとしていた翼が、痛みに耐え切れず膝をつく。

向こうでは、未だに凄まじい爆発音が聞こえてきているというのに。

 

 

 

「龍我!」

ほとんどのアルカノイズを殲滅し、他を三羽ガラスやストレイ社の者たちに任せ、クリスが飛んでくる。

「クリスちゃん!」

「龍我、大丈夫か!?」

響からクローズを受け取り、クリスは呼びかける。

「ぐ・・・ぁ、ああ・・・」

「龍我でも敵わないのか・・・!」

目の前にたたずむ、炎を纏った怪物。

エクスドライブとソングボトルの力をもってしても勝てない存在。

「どうすれば・・・」

その時だった。

 

突如として、視界に何かの文字列が現れた。

 

「え!?」

それに驚く一同。だが、直後に弦十郎の声が無線から聞こえてきた。

『聞こえるか!?皆!』

「師匠!?」

『今お前たちに送ったのは、この状況を打開できるかもしれない可能性だ!今はそれにかけるしかない!』

それを軽く読み上げるクライムは、感嘆を漏らす。

「これは・・・一体誰が考えたんだ」

そのクライムの疑問に、弦十郎が答える。

『差出人の名前は―――葛城忍』

その名前に、一同は驚く。

「それって、戦兎先生のお父さん・・・!?」

「どうしてそんな人が・・・!?」

 

 

 

 

 

ビルドが、仮面の奥で笑う。

「そっか・・・そうだった・・・」

それを思うと、自然と体の痛みが消えていくような気がした。

ほんの少し、体が軽くなった気がする。

「父さんも、思い出していたんだった・・・」

それを思うと、嬉しさがこみ上げてくる。

 

父親が示してくれた、この状況を打開する為の策。それに託された思いを理解せずして、何が息子か。

 

「やるぞ翼!」

「ああ。戦兎の父上が託してくれた『希望』、無駄にするわけにはいかない!」

活力を取り戻したビルドと翼が構える。

「まだ抗うのか、力の差は、理解しただろうに」

嘲笑うリカルドが、再び彼らに切り込む。

(これをやるには、どうにかしてリカルドを足止めしなくちゃいけない・・・!)

(だが、今ここにある戦力では・・・!?)

そう思考している間にも、リカルドは彼らが反応できない速度で迫ってくる。

それに、二人は歯噛みすることしかできない。

だが――――

「でっぇい!!」

突如としてリカルドの道を阻むかのように巨大な丸い何かが落ちる。

それは、調の丸鋸。

「何ッ!?」

「やぁぁああ!!」

そこへ切歌の鎌の一撃。

「翼さんは今のうちに!」

「ここはアタシらに任せるデスよ!」

「すまない!」

「翼ァ!!」

ビルドが、翼に向かって何かを投げる。

それは、フルフルラビットタンクボトル。

「頼んだぞ!」

「ああ、頼まれた!」

翼が、リカルドから背を向けて離れていく。

「何をするのか知りませんが、隙にさせるとお思いですか・・・!?」

突如として、リカルドの隙をついて、リカルドの体に鎖と棘のある蔓が巻き付く。

「これは・・・!?」

「こっちこそ、お前の隙にさせると思ったら大間違いだぜ?」

そこにいるのは、グリスとローグだった。

「そう簡単に好きにさせるかよ!」

「無駄なあがきを・・・」

次の瞬間、いとも容易く鎖と蔓が引き千切られ、神速で動くリカルドの斬撃の嵐をグリスとローグは浴びる。

「「ぐあぁぁあぁああああ!?」」

リカルドの斬撃はすさまじく、ローグのダイラタンアーマーをもってしても防ぎ切ることは出来ない。

「カズミン!?」

「幻徳さん!?」

「君たちも同じだ」

「「ッ!?」」

いつの間にかリカルドに背後を取られ、同じように斬撃の嵐をその身に受ける。

「「きゃぁぁあぁあああ!?」」

「ハハ、フハハハハ!!」

一方的な蹂躙に、リカルドは優越感に浸りながら、剣をもって蹂躙する。

だが、その背後からビルドが殴りかかる。

「無駄だよ」

「ッ!?」

いとも容易く背後を取られ、ビルドは再び蹴り飛ばされ、ビルの壁に叩きつけられる。

煙が舞い、ビルドがその中に隠れる。

「さて、そろそろ逃げた彼女を追いかけるとしようか・・・・ん?」

ふと、足が引っ張られ、見てみると、そこには、桃色の光のストリングが巻き付いており、その先を追ってみれば、倒れ伏す調の手からそれは伸びており、その調を切歌が支えていた。

「いかせない・・・!!」

そして、その言葉だけをどうにか絞り出した。

 

 

 

 

キャロルとグラントの猛攻。

それを、彼らは全力で凌いでいた。

「凌ぐんだ。雪音クリスと風鳴翼が、あれを完成させるまで、時間を稼ぐぞ!!」

「分かってんだよそんなことォ!!!」

キャロルはともかく、注意しなければならないのは、グラントの攻撃。

一撃一撃が山を吹き飛ばしかねないパワーを誇る以上、まともに受ければ敗北は必至。

とにかく、時間を稼ぎつつ、そして、クローズを倒されないように立ち回らなければならない。

元より、仮面ライダーに関してはダメージがまだ深く残っている。

このままいけば、いずれ、ダメージを誤魔化しきれずやられてしまう可能性がある。

だからこそ、彼らは耐えるのだ。

 

二人の戦姫が、『希望』を繋いでくれることを願って。

 

 

 

 

「ここまでくれば・・・」

遥か彼方の上空。そこにクリスはいた。

なるべく早く、邪魔の入らない場所へ移動し、そして、送られてきたデータの通りに、それを実行する。

「雪音ー!」

そこへ、翼もやってくる。

「先輩!」

「雪音、やるぞ!」

翼の言葉に、クリスは頷き、そして、クローズとビルドから託されたものを取り出す。

 

それは、ドラゴンマグマフルボトル。

 

そして、フルフルラビットタンクボトル。

 

これらを―――エクスドライブの『絶唱』によって変化させる。

七十億の絶唱によるフォニックゲインがあれば可能なのではないか、とは思うが、フルボトルがソングボトルに変化する為の条件は、シンフォギアと同じ、特定波形の周波数が必要なのだ。

それを、エクスドライブ並みのフォニックゲインを、その者の波形として変換したものでしか成すことは出来ない。

ラビットフルボトルは、翼の歌で変化した。であるならば、同じ成分が二倍に充填されたフルフルラビットタンクフルボトルのラビット側の成分も、翼の歌で変化する筈。

そして、ドラゴンマグマフルボトルも、龍我の力によって象られたボトルだ。元はドラゴンフルボトルと同じ成分のドラゴンスクラッシュゼリーから生まれたボトルだ。龍我の体内のエボルトの遺伝子を活性化させ、さらにドラゴンフルボトルを変化させることの出来るクリスの歌であれば、おそらく、可能な筈だ。

 

それが、葛城忍が導き出した、可能性。

 

翼とクリスにしかできない、未来を繋ぎとめる為の希望だ。

 

だから、二人は、歌う――――

 

 

「「―――Gatrandis babel ziggurat edenal―――」」

 

 

ストリングを掴まれ、切歌もろとも何度も地面に叩きつけられる調。

 

 

「「―――Emustolronzen fine el baral zizzl―――」」

 

 

クローズに迫ったブレスを『イノセントフィニッシュ』で叩き斬るも、熱を被ってしまうクライム。

 

 

「「―――Gatrandis babel ziggurat edenal―――」」

 

 

ストリングから手を離したリカルドに向かって、ツヴァイウィングへとフォームチェンジしたビルドが槍を振るい、そして逆に斬撃を受けてしまう。

 

 

「「―――Emustolronzen fine el zizzl―――」」

 

 

クローズがブラストブレードでグラントに仕掛けるも、キャロルに妨害され、そしてグラントの拳を受け、ブラストブレードを砕かれながら殴り飛ばされる―――

 

 

 

 

「がぁぁああ!?」

地面を転がり、とうとう変身解除されてしまう戦兎。

「ぐあぁああ!?」

同時に、壁を何枚もぶち抜いて落ちた先で、変身解除させられる龍我。

「が・・・ぁあ・・・」

「ぐ・・・ぅう・・・」

激痛に倒れ伏す戦兎と龍我。

「戦兎ォ!」

「龍我さん!」

グリスとタスクが思わず叫ぶ。

「これで彼は終わり・・・さて、また立ち上がられても困る。ここで息の根を―――」

「誰がさせるかゴラぁぁああ!!!」

「うぉぉおおぉお!!」

グリスとローグが殴りかかる。

「無駄だ」

だが、間髪入れずにリカルドの斬撃が迸り、それにグリスとローグが倒れ伏す。

「が・・・ぁあ・・・」

「くそが・・・!!」

斬撃を受けて、立ち上がられないグリスとローグ。

「さあ、次は誰がやられたい?」

グラントが圧倒的威圧感で、彼らを威嚇する。

「くっ・・・」

「こんな奴相手にどうすればいいの・・・!?」

圧倒的な強さ。エクスドライブでも敵わない強敵。

そんな相手に、どうすればいいのか。

「例え万策尽きたとしても・・・一万と一つ目の手立てはきっとある・・・!!」

震える拳を握り締めて、響は言う。

「だから、まだ、諦める時じゃない・・・!!!」

グラントの放つ威圧感に、すぐにでも崩れそうになる。

だが、その恐怖を押しのけてでも、やられねばならない事がある。

 

キャロルを救う。ただ、それだけの為に。

 

「そうだ・・・まだ、終わってない・・・!!」

戦兎が、立ち上がる為に地面に手を付く。

「こんな所で・・・終わって、たまるかってんだ・・・!!」

龍我も、どうにか上体を起き上がらせる。

「愛と平和の為に・・・命を削ってでも・・・!!」

「あいつを・・・救ってやんなきゃいけねえんだよォ・・・!!」

それに、リカルドは理解できないとでも言う様に首を振る。

「何故そこまでして他人の為に命をかけられる。やはり汚れているが故なのかね?」

「穢れてると言って他人を見下すことしかできない奴に、どうこう言われる筋合いなんてない・・・!!」

「なんだと・・・?」

ボロボロの体を立ち上がらせて、戦兎はリカルドに言う。

「人間には心がある・・・」

戦兎が、手をかざす。そこへ落ちてくる、一本のアイテム。

「―――魂がある。誰かを守るために、全てを投げ打つ覚悟がある!」

見上げれば、そこには、空中でこちらを見下ろす翼の姿があった。

「それが分からないお前に―――」

同時に、龍我の元にも、一本のボトルが落ちてきた。それもまた、クリスが投げたものだった。

「―――俺たちは負けない!!うぉぉぉおおおぉぉおおお!!!!」

 

『マックスハザードオンッ!!』

 

戦兎が、絶叫と共にハザードトリガーを起動、それをビルドドライバーに装填した後に、そのフルフルラビットタンクフルボトルを振る。

 

 

―――ジャキンジャキンジャキン―――

 

 

まるで金属同士が擦れ合うかのような音が鳴り響く。

何回か降った所で戦兎はボトルのセレクティングキャップを捻り、蒼く変化したラビットの側を向ける。

 

 

ブレイドラビット!!』

 

 

そのまま両側を引っ張りビルドアップコネクターを接続、それをビルドドライバーに装填する。

 

 

ラビット(アンド)ラビット・ブルー!!』

 

 

 

装填した途端、突如として戦兎の周りに竜巻が巻き起こる。

 

『ザンテンキン!ザーンテンキン!ザンテンキン!ザーンテンキン!』

 

「ぐ・・・ぅ・・・ぁあぁああ!?」

そして、突如として戦兎の身体中に何かに斬りつけられたかのような傷がいくつも出来あがり、血が舞い上がる。

「戦兎!?」

それに、翼は思わず声を挙げる。

 

 

それと同時に、龍我もクリスから受け取ったボトル―――『ドラゴンコロナフルボトル』をマグマナックルに装填していた。

 

『ボトルハイバァーンッ!!』

 

それをそのままビルドドライバーに装填する。

 

クロォーズコロナァ!!』

 

その直後、突如として龍我の足元が熔解したかのように溶け出し、龍我を足元からいきなり焼き上げる。

「ぐ、ぅあぁぁぁぁぁあああ!?」

それは、龍我の足元からマグマが溢れ出しているからだった。

「龍我!?」

それに、クリスは思わず悲鳴のように声を挙げる。

 

 

 

 

 

竜巻に巻かれ、鎌鼬に切り刻まれているかのように傷ついていく戦兎。

 

足元の溶岩とその熱気に全身を焼かれる龍我。

 

 

その光景に、彼らは血の気が引くような感覚を覚える。

 

「ぐ・・・ぅぅうう――――!!」

「う・・・ぉぉおお――――!!」

 

だが、それでも戦兎と龍我は耐えながら、その雄叫びと共にボルテックレバーを回していく。

 

『ジャキジャキジャッキンズッパンズパン!ジャキジャキジャッキンズッパンズパン!』

 

展開される、ハザードビルダーとマグマライドビルダー。

だが、マグマライドビルダーの中に内包されているものは、明らかに別ものだった。

 

 

『Are You Ready?』

 

 

覚悟は良いか、と問いかけてくる。

何十回と聞いたその言葉は、彼らに『彼女を救う覚悟』と『奴らを打ち倒す覚悟』を問いかけてくる。

その問いかけに、変身する前からすでに満身創痍である彼らは、それでも迷いなく叫ぶ。

 

「「変身ッ!!」」

 

ハザードビルダーが戦兎を挟み込む。それと同時に巻き起こっていた竜巻の中から、一匹の青い兎が現れる。

その兎の耳は刃のような刃があり、よく見れば全身に刃という刃がついていた。

そして、ハザードビルダーの中から現れたビルドは、()()()の複眼を光らせ、そこに立っていた。

 

マグマライドビルダーから溢れ出た、直視することも出来ない程輝く液体を浴びる龍我。その溢れ出た輝く液体が地面に広がり、そこから巨大な龍が姿を現す。しかしその輝きが失われ、その液体が冷えて固まった時、背後のビルダーが、それを砕く―――

 

 

『オーバーフロウッ!!!』

 

蒼穹(そうきゅう)のスカイウィンガーッ!!!

 

ラビットラビット・ブルー!!!

 

『ヤベェーイッ!!!キレェールッ!!!

 

 

 

日輪筋肉ゥッ!!クロォーズコロナァッ!!!』

 

ギラギラギラギラギラギラァァァンッ!!!』

 

 

 

五つの鎧に別れた青い兎を、黒いビルドは装着していく。

そして、そこから現れたのは、ラビットラビットを青くしたような装甲を纏った戦士。

その名も『仮面ライダービルド/ラビットラビット・ブルーフォーム』。

天羽々斬の力を存分に身に纏った、ビルドの新たな力。

そして、クローズも固まった液体を砕かれ、そしてそこから現れたのは、眩い光を発する凄まじい熱を発する戦士。

その名も『仮面ライダークローズコロナ』。

クリスの歌によって、その身をマグマからコロナへと昇華させた瞬間だった。

 

「よしっ!」

変身が成功したことに翼は思わずそう声を漏らす。

「やっちまえ!龍我!先公!」

そしてクリスが、拳を振り上げて、そう叫ぶ。

「それが、君の全力と言うわけか」

リカルドが盾を構える。

「どうやら、少々警戒した方がよさそうだ」

そうリカルドが呟いた瞬間、

「・・・行くぞ」

 

―――ビルドの姿が消える。

 

「なっ!?」

そして次の瞬間、背後から後頭部をぶん殴られて地面に沈んだ。

あまりの威力に地面を跳ね、すかさずそこへ四方八方から連続して斬撃がリカルドに襲い掛かる。

そして最後に、()()()()()を喰らって吹っ飛ばされる。

「―――っァ!?」

その速さは、次元を超えていた。

(こ、の速さはキツい!?)

その一方、ビルドはそのあまりの速さに、目が追いつかないでいた。

それが証拠に、何発か空振った。

「これが、ラビットラビット・ブルーの力か・・・!」

「ぬ・・・ぐぅ・・・!」

吹っ飛んだ先の撃ち抜いた壁からリカルドが這い出てくる。

「あまり調子に乗らないことだ」

「・・・そうかよ」

リカルドの言葉にそう答えると、ビルドは腰を下ろす。

そして次の瞬間、神速の戦いが幕を開ける。

 

 

 

その一方で、

「あっちは始めたか」

グラントがその様子を見ていた。あまりの速さに姿は見えず、気付けばビルは両断され、地面は斬り裂かれ、もはや斬撃の暴風雨である。

「さて、それでお前はどうする?この『竜』に立ち向かうのだ。それ相応の力は備えてきたのだろう。まあどちらにしろ、お前たちが全滅するという未来に変わりはない」

そう、見下すようにいうグラントに、クローズはすっと腰を下ろす。

「俺たちの未来を――――」

そして次の瞬間、クローズが背中の翼を燃え上がらせて、飛ぶ。

それに対して、グラントは軽く薙ぐつもりで拳を引き、そして、同じく振り被ったクローズの拳と正面衝突させる。

 

――――マグマは、それを構成する物質によって温度が変わるが、最大で1200℃に達する。

 

だが、太陽の表面より下層であるコロナの温度は―――実に100万℃に達する。

 

故に―――

「ぐぅあ!?」

溶岩で水浴びする程度の竜の鱗など、簡単に溶かせる。

 

『竜』でも『神』と例えられる『太陽』には敵わない。

 

そして、クローズは叫ぶ。

 

「―――お前が決めるなぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

そして、二度目の拳を、グラントの頬に叩きつけ、殴り飛ばす。

グラントがビルをいくつも貫いていくのを見届けず、クローズは後ろを見る。

「あいつらは俺と戦兎でどうにかする!この間にお前らはキャロルを頼む!」

「分かりました!」

響がそう答え、クローズはすぐさまグラントの方へ飛んでいく。

そして、響は、キャロルと向き合う。

「ゥウ・・・アァァアア!!」

苦しそうに呻くキャロル。

「キャロルちゃん・・・・今、助けてあげるからね」

響はそう呟き、そして、背後にいる仲間たちと共に、キャロルを止める為に再び突撃する―――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

戦場に炸裂するビルドとクローズの力。

「俺のコロナが迸るッ!!」

そこで現れるキャロルの最後の奥の手。

「碧の獅子機・・・!?」

追い詰められるリカルド。

「もう終わりだ」

だが、そこでリカルドが、最悪の手に出る。

「清き世界の為に、その命を捧げなさい」

「やめろぉぉぉぉぉぉおおおぉおおおお!!!」


次回『堕天使の啓示』


「―――やぁっと余裕がなくなった」


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堕天使の啓示

戦「エボルトとの激闘を制し、新世界の創造に成功して一年。天才物理学者にしてリディアンの常勤講師である桐生戦兎は、ノイズやら錬金術師相手に仮面ライダーとして愉快な仲間と共に日々世直しの戦いに明け暮れていたのであった」
龍「おい!なんだよ愉快な仲間って!もっとちゃんと紹介しろ!」
一「そうだそうだ!」
幻「そもそも何故お前だけが仕切っている」
戦「俺が主役だからだ」
龍「ざけんな!」
戦「あーもう分かったよ。筋肉バカの万丈龍我とアイドルオタクの猿渡一海に文字ティー大好き氷室幻徳+三度の飯より炭水化物の立花響や世界アイドル風鳴翼に合法ロリの雪音クリスとあとアイドル大統領や斬り裂きジャック(笑)もろもろ力を合わせて・・・」
龍「変な説明いれんな!」
一「そうだぞ!俺はあくまでみーたんが好きなんだ!」
幻「あれの何がいけない・・・!!」
戦「あーもううっさいよ!そんなわけで何やら不穏な空気を次回予告でやってしまったシンフォギア・ビルドGX第二五話をどうぞ!」


神速で戦場を駆け抜ける、ビルドとリカルド。

ビルドの斬撃を伴う拳がリカルドに叩きつけられ、すかさずリカルドが反撃に刃を振るうも、それをビルドはすぐさま躱してみせる。

激しく打ち合う、ビルドとリカルド。

「オォォオッ!!」

「ぬぐあ!?」

だが、やはりビルドの方が速い。

斬撃を伴う打撃攻撃に加えて、敵を上回る攻撃速度と移動速度。

初速も変速も自由自在とくれば、緩急をつけて攪乱することも可能。

ことこの事においては、ビルドはリカルドを上回っていた。

「ぐぁぁああ!?」

その鎧を掴み、ビルドは神速に駆け抜けるままに、リカルドを縦横無尽に引きずり回す。

そして、壁に叩きつけ、そのまま強烈な飛び蹴りを喰らわせて建物の壁をぶち抜く。

初めはその超神速に戸惑っていたが、慣れてしまえばこっちのもの。

もはやずっと俺のターン状態である。

 

 

「力が漲るッ!!!」

クローズの拳がグラントに迫る。グラントは、本気で固めた皮膚をもって、その拳を受ける。どうにか防いだ所で反撃の拳をクローズに叩きつける。だが、先ほどまで紙吹雪のように吹っ飛んでいったクローズが今度は吹き飛ばない。すかさず反撃の拳がグラントを打ち据え、地面に叩きつける。

「ぬぐぅ!?」

すかさずクローズが追撃。

「魂が燃えるッ!!!」

空振り地面に刺さったその拳は一気にアスファルトを溶かし火の海にする。

そこへグラントの拳が刺さるも、それと同時に反撃の拳がグラントの腹に突き刺さっていた。

「ぐあ!?」

「がは!?」

思わずよろける両者。しかし、すぐさま立て直すと、再び殴り合う。だが、クローズの拳がグラントの拳を殴り飛ばし、そのまま顎を打ち据える。

「俺のコロナが迸るッ!!」

そのまま、両の拳に眩いまでの光を迸らせると、それを同時にグラントに突き出し、吹っ飛ばす。

「もう誰にも止められねぇぇぇえ!!!」

絶叫と共に、クローズがグラントを圧倒する。

 

 

 

 

 

キャロルと対峙する一同は、すぐにその周囲に、巨大な術式が広げられている事に気付く。

「やべえ、戦兎たちの事で、気付かなかった!?」

「残った思い出まるごと償却するつもりなのか!?」

「そうなれば記憶喪失どころの騒ぎではなくなるぞ!?」

血の涙を流しているキャロル。このままでは、彼女の意に反して、彼女の持つ思い出全てが消し飛んでしまう。

さらに言えば、記憶とは『生命の営み』そのもの。

それすらも失えば、生き方の概念を喪失し、最悪――――

「ゥゥ・・・アァァアァァアアア!!!」

凄まじい衝撃が迸る。

「な、なんだァ!?」

「このエネルギーは・・・!?」

凄まじいエネルギーの奔流が、キャロルから発せられる。

そして、その力の奔流に悲鳴を挙げるキャロル―――

「救うと誓った―――!!!」

「応とも!共に駆けるぞマリア!!」

その奔流に逆らうように、マリアと翼が前に出る。

「ッ!!」

すかさずクライムがボルテックレバーを回しあとに続く。

翼とマリアがその体を重ね合わせ、自分たちの持つ剣の切っ先を合わせ高速回転。

 

『Ready Go!』

 

刀を右足で掴み、そのまま飛び蹴りを放つクライム。

そして、その一点にマリアと翼が突撃する

 

イノセントフィニッシュッ!!!』

 

だが、キャロルはその攻撃に対し、防御術式を展開、一気に三人を弾き飛ばす。

「先輩!」

「マリア!」

「シンッ!!」

三人が吹き飛んでいく間に、キャロルがダウルダブラの魔弦を伸ばす。

「ッ!?」

それらが形を成して、緑色の装甲を作り上げ、出来た様々なパーツが何かの空間によってつなげられる。

そうして出来上がるのは、緑色の獅子。

「なんじゃありゃあ!?」

「碧の獅子機・・・!?」

碧の獅子機が咆哮を上げる。

「仕掛けてくるぞ!!」

クリスが叫び、飛べるものは上へ、そうではないものはその射線から逃れる為に全力で逃げる。

そして、次の瞬間、放たれたのは、獅子の口からの業火だった。

それは、一気に本部のある場所まで建物を打ち貫いていく。

「あの威力・・・!?」

「やばすぎんだろ・・・!!」

「くっ!」

未来が飛び出す。

「あ、おい!」

「アタシたちも・・・!」

「お前らまで!?」

その後を調と切歌が追う。

未来が鉄扇から光線を放ち、切歌が鎌を振るい、調が刃を高速回転させるヨーヨーを叩きつける。

だが、いとも容易く、弾き飛ばされる。

「「「うわぁぁあぁああ!!?」」」

すかさず、ライダー三人のライダーキックが突き刺さる。

 

スクラップフィニッシュッ!!!』

クラックアップフィニッシュ…ッ!!!』

スクラップクラッシュッ!!!』

 

その一撃が、獅子に突き刺さるも、いとも容易く彼らは弾き飛ばされる。

「「「ぐあぁぁあぁ!?」」」

ライダーキック三連撃でも届かない。となれば―――

「あの鉄壁は金城。散発を繰り返すばかりでは、突破できない」

「ならば、アームドギアにエクスドライブの全エネルギーを収束し、鎧通すまで!」

「身を捨てて()ろう、最大瞬間火力!」

「ついでにその攻撃も同時収束デス!」

即ち、エクスドライブを構成するフォニックゲインだかギアだかなんだかを一振りの武器に収束させて、それを後先考えずにぶっ飛ばそうという魂胆なのだろう。

「面白れぇ!付き合ってやるぜ!」

「御託は良い!マシマシが来るぞ!」

クリスが叫べば、獅子は次なる攻撃態勢に移行しており、その口から新たに無数の光線をぶっ放した―――

 

 

 

 

 

 

リカルドを殴り飛ばすビルド。

(このままでは誰一人仕留められずにやられる・・・!)

「勝利の法則は決まった・・・!」

「ッ!?」

その声を聞き、リカルドは思わず顔を上げる。

見れば、ビルドが既にボルテックレバーを回していた。

「しまっ―――」

ビルドの姿が消える。

 

『ハザードフィニッシュッ!!!』

 

目にもとまらぬ速さでリカルドにライダーキックを叩き込み、次の瞬間、とてつもない突風が巻き起こる。

 

天羽々斬フィニッシュッ!!!

 

「ぐあぁぁぁあぁああ!?」

その突風はドーム状に展開し、しかしその中は―――文字通りの斬撃の嵐だった。

その斬撃の嵐がリカルドを切り刻み、そして、その嵐を突き抜けて飛んできたビルドのラスト一発が炸裂、そのまま壁まで吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

その一方、クローズもまた、グラントを殴り飛ばしていた。

「ぐあぁぁあぁあ!?」

地面に叩きつけらたグラントの体から、焦げたような匂いが聞こえてくる。

一歩踏み出すだけで足元のアスファルトを溶かす100万℃のクローズの熱量をその身に受けたのだ。

いくら『竜』の鱗であろうと、溶かされるのは道理だ。

「ぬ・・・ぐぅ・・・」

「どうしたどうしたァ!?この程度かァ!!」

クローズが叫ぶ。

その言葉に、グラントはふっとほくそ笑む。

「見事だ。よもやこの我にここまでの手傷を負わせるとは」

純粋な称賛。

「故に―――我は貴様を全力で叩き潰すとしよう」

故の―――全力。

グラントの体が肥大化し、変化する。

全身を真っ黒な鱗で覆い、どんどん巨大化していくその体が成りえたのは―――巨大な竜。

「オォォオォォオオ――――ッ!!!」

竜の咆哮が轟く。大気が震え、窓ガラスが全て砕け散り、コンクリートの壁にひびを入れる。

その、凄まじいまでの威圧感と風圧を受けて、クローズは仮面の奥でふっと笑う。

「面白ぇ・・・今の俺は、誰にも負ける気がしねえ・・・!!」

ボルテックレバーを回すクローズ。それと同時に、『竜』がその口に火を含む。

 

『Ready Go!』

 

クローズが、その装甲を輝かせ、飛び上がる。

それと同時に、竜が、全てを焼き尽くす業火を放ち、それに対して、クローズは灼熱の龍を伴って足を突き出す。

「ウオリヤァァアァァァアアァァアアア!!!」

 

プロミネスティックブレイクッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

獅子が放った光弾。

「ぐ・・ぅぅぅうぅう!!」

「響!」

それを、前に飛び出した響が受け止めていた。

その姿に、未来が思わず声を挙げる。

「私が受け止めている間に・・・!!」

その響の想いに応える為に、彼らは動く。

「やるぞ!!」

装者たちが、その身を鎧うギア全てを自らパージ、エネルギーとして変換する。

 

 

スクラップフィニッシュッ!!!』

クラックアップフィニッシュ…ッ!!!』

スクラップクラッシュッ!!!』

イノセントフィニッシュッ!!!』

 

 

 

すかさず、仮面ライダーたちがアクティベイトレンチを叩き下ろし、ボルテックレバーを回し、そしてすぐさまグリスとタスクは自身のスクラッシュゼリーをそれと同じフルボトルと同時にツインブレイカー装填。ローグはネビュラスチームガンにクロコダイルクラックボトルを装填。クライムはアガートラームウルフフルボトルをデンショッカー雷切のボトルスロットに装填する。

 

 

ツゥイィンッ!!』

クロコダァイル…!』

ツゥイィンッ!!』

『FULL ADJUSTMENT!』

 

 

自ら分離させたアームドギアを一纏めにして、彼女らはそのアームドギアを獅子に向かってぶっ放す。

それと同時に、ライダーたちの砲撃も加わる。

 

『『ツゥインフィニッシュッ!!!』』

『ファンキーブレイクッ!!クロコダァイル…!』

『GIGA VOLT BLADE!』

 

十の光が、光線を押しのけ、獅子に直撃する。

 

凄まじい爆発を引き起こして、砕けた獅子の頭部から、自らのファウストローブの魔弦に縛られたキャロルが見えた。

「いたァ!!」

だが、届いていない。アームドギアが、一振り足りなかったのだ。

だが、それで諦めるほど、彼らは人が出来ていない。

爆散したアームドギアのエネルギーを、響が纏め上げる。

「グゥ・・・アァァアアァアア!!」

キャロルが絶叫し、獅子が火を吹く。

「立花ァ!!」

「響ィ!!」

その炎が、響を包み込む―――だが、響は纏め上げ、巨大な拳の形にしたアームドギアをもって受け止めていた。

凄まじい熱量すら受け止めて、響は、形成したアームドギアで、キャロルの放つ火炎を受け止めていた。

「繋ぐこの手が、私のアームドギアだ!!」

 

 

 

 

 

ビルドの必殺技を喰らって、倒れ伏すリカルド。

「ぐ・・・ぅぅ・・・!!」

「もう終わりだ。さあ、悪魔の解除方法を教えろ!」

ビルドが、倒れ伏すリカルドに向かってそう言う。

(馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!この私が敗北するだと!?穢れた人間如きにィ!!)

リカルドは考える。この状況を打開する策を考える。

だが、今リカルドには切れるカードがない。

ビルドの力はリカルドの力を超えており、下手に反撃しても一矢報いる事も敵わず逆にやられてしまうだろう。

ならばどうする?

負ける訳にはいかない。敗北も許されないこの状況で、自分に出来る事とはなんだ。

何か、思わぬ起点というものが、この場に来てくれれば―――

 

 

その時、リカルドとビルドの間の横にあるビルが突然砕け散る。

 

 

「「なっ!?」」

これには二人とも驚き、そしてその砕け散った瓦礫から出てきたのは、黒焦げになったグラントと、それを蹴り飛ばしたクローズだった。

それを見て、リカルドは確信する。

 

―――運命は自分に味方している、と。

 

「万丈、お前何してんだ!?」

「ん?おう戦兎、そっちもどうにかなったんだな」

「お前に言われることじゃ―――ッ!?」

クローズの背後で、リカルドが動くのが見えた。

それにすぐさま対応しようとしたビルドだったが、突如として気絶している筈のグラントが地面を殴り、ビルドとクローズを一瞬浮かせる。

「うお!?」

「しまった!?」

突然の事に、反応が遅れる。その間にリカルドはグラントを掴み、そしてすかさずグラントがブレスを吐いてどこかえ飛んでいく。

「ッ!!待て!!」

ビルドとクローズが、その後を追う。

「この方角は、響たちの―――」

ビルドは、嫌な予感を感じ取り、すぐに追いつかんと加速する―――

 

 

 

 

 

巨大な拳を握り締め、響は構える。

「当たると痛いこの拳。だけど未来は、誰かを傷つけるだけじゃないって教えてくれた!」

「グ・・・ゥゥゥウ・・・!!」

未だなお健在な響。

それに、キャロルは、一種の光を見て―――途端に絶望する。

(―――おい、やめろ、やめてくれ!)

理由は、暴走自分を止めようとする父との思い出を見たから。

(お願い、パパとの思い出だけは―――!)

そして、自らに巣食う悪魔は、その思い出すら償却して力に変えようとしているのだ。

それに抗えず、キャロルは再び涙を流す。

 

自分の頭の中から、父の顔が消える。

 

「―――アァァァアアァァァアァァアアアァアア!!!」

泣き叫ぶような絶叫。

それに対して、響はその拳をさらに変形。その拳に内包された七つのアームドギアを束ねてその拳をさらに巨大な拳へと昇華させる。

そして、バーニアを点火させ、その勢いのまま、獅子に突撃する。

「オォォオオォォオオォォオオォォォオオオ!!!!」

獅子が、迎え撃つように咆哮と共に全てを焼き払う、咆哮を放つ。

「オォォオオォォォオオオオォオオッ!!」

「アァァアアァァァァアァァアアアッ!!」

二人の絶叫が迸る。だが、威力が僅かに高いのは獅子の方。

響の拳が押し込まれていく。だが、それを黙ってみているほど、彼女の仲間は甘くない。

「立花に力をッ!!天羽々斬ィ!!」

翼が先陣を切り、クリス、調、切歌、マリア、未来がエネルギーを響に送る。

「イチイバルッ!!」

「シュルシャガナッ!!」

「イガリマッ!!」

「アガートラームッ!!」

「神獣鏡ッ!!」

七つの光が収束し、押し込まれていた拳が、再び前に進む。

「いっけぇぇえ!!!」

「やっちまぇえ!!!」

「ぶちかませ!!!」

「進め!立花響!!!」

ライダーたちの声が届く。

「―――ガァングニィィィィィィィィルッ!!!」

そして、響が絶叫し、獅子に拳が炸裂する。その、拳の名は―――

 

 

Glorious Break

 

 

その拳が、直撃する――――その寸前、クライムは見た。

 

碧の獅子機の上に、何者かが降りるのを。

 

そして―――

 

「やめろぉぉぉぉぉぉおおおぉおおおお!!!」

どこからともなく聞こえてきた制止の声の直前―――獅子が闇に飲まれた。

「え――――」

一瞬、何が起きたのか理解できなかった響。

だが、それを理解する前に、拳が、何者かに受け止められる。

見れば、細長く、あまりにも華奢で巨大な落書きのような二本の腕が、響の『Glorious Break』を受け止めていた。

拳は獅子には直撃せず―――否、それはもはや、獅子とは呼べなかった。

 

それは、獅子の鎧を纏った竜だった。

 

獅子が形を変え、突如として現れた竜の鎧に変わっていた。

蝙蝠のような翼、爬虫類のような太い足と腕、そして、長い首と獰猛な牙を見せる口。

そして、拳を受け止める落書きのような細い腕は、竜の背中から生えていた。

「―――繋ぐその手が己のアームドギアと言ったね」

そして、聞き覚えのある、声が、竜の背中から聞こえてきた。

「覚えておくといい。世界には、その手を振り払う手があるという事を」

 

気付けばビルの壁に叩きつけられていた。

 

「ガアッァ・・・!?」

意識が一瞬飛びかける。

束ねたアームドギアは粉々に砕け散り、街中に落ちていく。

「響ぃ!!」

未来の叫びが聞こえた。

(み・・・く・・・?)

何故、自分はこんなことになっている?

自分は、確か、この拳をキャロルに届ける為に突っ込んでいって、それで―――

 

立て続けに、獅子の鎧を纏った竜が火を吹く。

 

その炎が、堕ちていく響に向かって突き進み、そして、ビルを一瞬にして溶かし、蒸発させる。

「響ぃぃぃいいぃいい!!!」

未来の絶叫が迸る。

あの威力、直撃すれば原型も残らないような一撃。

それを、響は諸に受けたのか。

しかし、すぐ彼女の傍で、なにかが着地する音が聞こえた。

見れば、そこにはビルドが響を抱えて屈んでいた。

「響!!」

「桐生!」

ビルドが響を下ろす。

「響、大丈夫!?」

「うん、どうにか・・・」

「一体何が起こってんだよ・・・!」

一同が、突如として変形し、獅子の鎧を纏う竜へと変化した化け物を見上げた。

「フハハハハハハハハハ!!」

その背中から、高笑いが聞こえた。

その背中にいるのは―――なんと竜の背中に下半身を融合させたリカルドだった。

「あいつ、何をして・・・」

「錬成したんだ・・・」

ビルドが、震える声で彼らの疑問に答える。

「グラントの竜の体とキャロルの獅子、そして悪魔である自分を錬金術で錬成して、正真正銘の化け物を作り出したんだ!」

「嘘でしょ・・・」

「単体であの強さ・・・」

「それが三つに纏まったっていう事は、トンデモないものになるんじゃ・・・」

次の瞬間、竜が熱線を放つ。その一撃は、遠くにある山を穿ち、そのまま薙ぎ払った瞬間、いくつもの山がまとめて消し飛んだ。

「「「・・・・」」」

その光景を、彼らは黙ってみる事しか出来なかった。

「次は当てる」

竜の口が、再び火を纏う。

「清き世界の為に、その命を捧げなさい」

その言葉に、誰がキレただろうか。

 

―――万丈(クローズ)だ。

 

「ふざけんなぁぁぁぁぁああああ!!!」

クローズが飛翔、その手のマグマナックルを今一度抜き差しし再びエネルギーをチャージ。

そしてナックル中央のドラゴニックイグナイターを押し、そして、振りかぶる。

撃ち放たれる竜の咆哮。それを、クローズが真正面から迎え撃つ。

 

プロミネンスナックルゥッ!!!ギラリィィン!!』

 

激突する二つの力の奔流。

だが、威力は向こうの方が上だったようで、クローズはいとも容易くその光に飲み込まれ、ビルの壁に叩きつけられる。

「龍我―――」

クリスが叫ぼうとした直後、竜の体から放たれた光が、クローズを追撃し、そして―――消し飛ばす。

「―――龍我ぁぁぁぁぁぁあああぁああああ!!!」

クリスの絶叫が迸る。

クローズが、堕ちていくのが見える。そのまま地面に落ちて、それ以上動かなくなるのも。

「龍我!龍我ぁ!!」

「落ち着け!下手に動けば狙い撃たれるぞ!!」

すぐさまクローズの元へ行こうとするクリスをグリスが必死に止める。

だが、その直後に、竜から再び咆哮が彼らに向かって放たれる。

「うぉぉぉおぉおおお!!」

それに対抗するのは、ビルドだ。

その手にフルボトルバスターを構え、フルフルラビットタンクボトルを装填し、そのまま砲撃する。

 

フルフルマッチブレイクッ!!!』

 

激突する二つの砲撃。

凄まじい衝撃波が迸り、光が拡散する。

「グゥォォォオオオッ!!」

絶叫し、ビルドは、その砲撃を貫き通す。そして拡散したエネルギーは、そのまま彼らの横を通り抜け、背後に炸裂する。

どうにか直撃を避けた―――と思った直後に、ビルドが落書きのような腕につかまる。

「なっ!?」

そのまま持ち上げられ、リカルドの前まで持ってこさせられる。

「無様だねえ桐生戦兎」

「てめぇ・・・!!」

「おー怖い怖い。だけど、残念な事に君たちに希望はない」

ミシミシと音を立てる装甲。

「だけど、このまま蹂躙するというのも味気ない。ここまで私をコケにしてくれたのだ。少しは楽しませてくれないと割に合わない」

「はっ・・・コケにされたのはお前の間抜けさが招いた結果だろ・・・!」

「この状況でよく減らず口が叩けるね。聞くところによると、君はそのフルフルラビットタンクボトルなどという長ったらしい名前のアイテムを使わなければ、ハザードフォームを制御できないと聞いた」

「それがどうした・・・?」

「それを君から奪ったらどうなるんだろうね?」

「―――ッ!?」

それを聞いて、ビルドはゾッとなる。

 

「―――やぁっと余裕がなくなった」

 

悪魔の囁きが、聞こえた気がした。

「や、やめ――――」

「さあ、己が手で仲間を殺すがいい!!」

リカルドの剣が、ビルドを刺し貫く。そして、落書きのような腕は、そのままビルドを投げ飛ばし、建物の壁に叩きつける。

「戦兎ぉ!!!」

翼の悲鳴が聞こえた。

崩れた瓦礫の中で倒れ伏すビルド。

「戦兎ぉ!!」

叫ぶ翼。だが、その最中で、背後で聞こえた、()()()()()()()()

振り返ってみれば、そこには、膝をついて、絶望した表情で茫然とする調の姿だった。

「もう・・・ダメ・・・」

「月読・・・?」

「終わりだ・・・私たち、皆、ここで死んじゃうんだ・・・」

圧倒的力、エクスドライブでも敵わない敵、砕かれた響の拳、倒れ伏す、おそらく現状最強に近いであろう二人の仮面ライダー。

それらの要素は、彼らの心を折るには十分だった。

「そんなこと・・・!」

それでも、響は諦めずに戦おうとしていた。

だが、

「ないとでも言えるんですか!」

調の叫びが、響を黙らせる。

「エクスドライブも通用しない!戦兎先生たちでも歯が立たない!・・・これ以上、どうすればいいんですか・・・!」

「それ・・・は・・・」

流石の響も、この状況ばかりは絶望せざるを得なかった。

七人全員のアームドギアを束ねたあの一撃。

それをもってしても、奴を打ち破るには至らなかった。

これ以上、何をすればいいのか。

 

最早、万策尽きたも同然だった。

 

そして初めて、『死』が眼前迫っている事を悟る一同。

「死ぬ・・・今度こそ・・・」

「あ・・ぁぁ・・・!」

「こんな・・・ところで・・・」

絶望が、広がっていく。

流石に、一度死んだことのあるグリスとローグでも、その恐怖は未だ拭えない。

希望がまだあるならいい。だが、その希望が断たれた状態では、流石の彼らも、絶望せざるを得なかった。

 

その最中で、クライムは気付く。

 

(何故、追撃してこない・・・?)

あの竜は、何故か自分たちを追撃してこなかった。

それは一体何故なのか。

クライムは、その理由を考えた。

クローズへの追撃、ビルドの捕縛、そして、何かを離していた素振り―――

 

―――ハザードトリガー。

 

その時、クライムの喉がひゅっと鳴る。

まさか、まさか、と警鐘が頭の中で鳴り響き、クライムは、そっとビルドの方を見た。

そして―――

「・・・お前ら」

唐突に呟いたクライムに視線が集まる。

「逃げろ」

その言葉に、彼らはその方向を見た。

そこに立っていたのは、ビルド。

「せんっ・・・と?」

思わず声をあげそうになった翼だったが、すぐにその身を纏う青い鎧がない事に気付く。

その身は、全身真っ黒な鎧を―――

「こんな、時に・・・!!」

「うそ・・・」

「なんで、このタイミングで・・・」

 

―――ハザードフォーム・オーバーフロウ状態。

 

 

即ち、暴走。

ビルドが無言で駆け出す。

「ッ!!」

それにいち早く対応したのはクライムだった。

「やめろ、桐生戦兎!!」

「・・・・」

ビルドは答えず、拳をクライムに叩きつけようとする。それをクライムは拳に刀が直撃しないように逸らし、ビルドの放つ猛攻を必死に凌ぐ。

「そんな、戦兎先生・・・!」

「戦兎を止めるぞ!ヒゲ!キバ小僧!」

「分かっている!」

「え!?あ、はい!」

続けてグリス、ローグ、タスクがクライムの加勢に入る。

無言のまま、対象を破壊しようとするビルド。

声は当然届かない。何故なら、破壊以外の衝動を全て排除され、感情すらも消し飛ばされている状態なのだ。

その上、スペックが通常以上の強さを誇っている。

とてもではないが、ビルドの暴走を止めるのは至難の業だ。

「やめろ戦兎!」

グリスとローグが、背後から羽交い絞めにする。

「こんな所で、暴走している暇はないだろ!?」

だが、ビルドはすぐさま振りほどくと、二人を殴り飛ばす。

そこへタスクが飛び掛かる。

「戦兎先生!お願いです、止まってください!!」

必死に呼びかけても、ビルドは止まらず、タスクの腕を掴んで振り回し転ばせたかと思えば、その足をもってタスクを振り回し、何度も何度も地面に叩きつける。

「ッセァッ!!」

そこへクライムの斬撃がビルドのタスクの足を持つ腕に直撃する。

そのままタスクは宙を舞い、しかしどうにか地面に着地する。

「とまれ、止まってくれ!」

ビルドは、なおも激しくライダーたちを追い詰める。

その光景を、高みの見物で見下ろすリカルドは、

「フハハハハハ!!良い、良いぞ!そうだ、そのまま自らの手で穢れた人間たちに制裁を下せ!今だけは貴様は清き世界の為の正義の使者だ!」

そう、高笑いをしていた。

そして、同じようにその光景を見ていた装者たちは、その光景をただ黙ってみていることしかできなかった。

アームドギアを失い、そして戦意を失った彼女らに、もはやビルドと戦う気力なんてなかった。

だが、それでも、無機質に味方を蹂躙するビルドの姿から、響は目を離すことが出来なかった。

この状況を、絶望のままに終わらせたくない。

せめて一糸報いる為の、何かがあれば――――

 

その時ふと、響はビルドのベルトに装填されているボトルに気が付く。

 

「・・・ドラゴン?」

ビルドのビルドドライバーのツインフルボトルスロットに装填されているボトル。

それは、『天羽々斬兎ソングボトル』と『イチイバルドラゴンソングボトル』だった。

「なんで・・・ガングニールフェニックスじゃないの・・・?」

ビルドだったら、必ずガングニールフェニックスソングボトルを装填する筈だ。

それなのに、ベルトに装填されているのはイチイバルドラゴンソングボトル。

(一体、何の意味が・・・)

ボトルを再装填する暇はなかった筈。それなのに、装填されているのはなぜ、フェニックスではなくドラゴンなのか。

相性を考えれば、ツヴァイウィングでフェニックスを装填するべきなのに。何故―――

(翼さんとクリスちゃんと何か関係が・・・それとも、戦兎先生と龍我さん・・・?)

決して、回転のよくない頭を必死に回して、響は考える。

何か、何かあるはずなのだ。

何かを見落としている筈なのだ。

(私たちにあるもの、出来ること・・・・エクスドライブ、アームドギア、それをエネルギーに換算して、打ち出して、それでそれを纏め上げて―――形にした)

七人分のアームドギア。それを、束ねて形にした。

(それを、他人に纏わせることは・・・?)

自分たちのアームドギアを、制御装置として、ビルドの纏わせることが出来れば―――

「あ、あぁぁぁあぁああ!!」

全てのピースがはまり、響は声を挙げる。

「これだ、これならいける!」

「響・・・?」

それに、装者たちは一斉に視線を響に向けた。

響は、注目を浴びる事を気にせず、自分の頭の中に浮かんだ妙案を言い出す。

「私たちのアームドギアを、戦兎先生に纏わせるんです!」

その言葉に、一同は目を見開く。

「何考えてんだお前!?」

「私でも何を考えてるか分かんないよ!でも、これしかないと思うんだ!」

「だけど、私たち七人分の力を集めても、奴には届かなかった。それを今更鎧として纏わせたところで・・・」

マリアのその言葉に、響は言葉を詰まらせる。

つまるところ、装者七人の力を集めた所で、奴には届かなかったという現状があるという事だ。

それを言われては、響も黙るしかなかった。だが、意外にも助け船を出したのは―――倒れていた筈のクローズだった。

「戦兎なら大丈夫だ!!!」

「龍我!?」

クローズの復活に、クリスは驚きと嬉しさ混じりの声を挙げる。

クローズはそのままビルドに向かい、その動きを封じる。

「戦兎は、基本フォームで思い出を全力償却していたキャロルの錬金術を打ち破っていた。その力を、お前たちのアームドギアで強くしてやれば、きっと―――」

それを聞いて、翼、クリス、未来の目に希望が宿る。

「キャロルの錬金術を・・・!?」

『本当だよ。マリア姉さん』

無線から、セレナの声が届く。

『私たちも見た。戦兎先生が、一人で、キャロルを圧倒していたところを。だから、戦兎先生なら・・・!!』

「だったら、やる価値はあるわね・・・」

マリアが深呼吸をする。

「よし、やろう!!」

「「はい!!」」

「「ああ!!」」

マリアの言葉に、装者たちがうなずく。

そして、突如として戦意を取り戻した装者たちの様子に、リカルドは一種の危機感を覚える。

「何をする気なのか知りませんが、それをおいおいさせると思っているんですか!」

竜からの砲撃が装者に向けられる。

だが、その砲撃は突如として作られた何重もの壁に阻まれる。

「ほらほら、早くした!こっちだってそんなに持たないんだからね!」

アルが、地面を錬成して作った壁だ。だが、それでも竜の吐くブレスは強力だ。

山を一瞬にして吹き飛ばす熱線を、防ぐなど奇跡に近い所業である。

だが、それも長くは持たず―――クローズが駆けつけるだけの時間は稼いだ。

「うぉぉぉおおぉおお!!!」

クローズが、砲撃を真正面から受け止める。

「俺が抑えてるうちに、早くやれぇ!!」

熱線を弾き飛ばす。

「往生際が悪いッ!!」

さらに、黒い腕も飛んでくる。

それに対して、クローズはボルテックレバーを回す。

 

『Ready Go!!』

 

そして、その両拳に炎を滾らせて、クローズは、一気に強烈なラッシュを放つ。

襲い掛かる光弾や黒い腕を、真正面から迎え撃つ。

 

プロミネスティックフィニッシュッ!!!』

 

「うぉぉおぉおぉぉおおぉおおお!!」

絶叫と共に、クローズが竜の攻撃を抑え込む。

「戻って来い、ガングニール!!」

その間に、装者たちが手を真上に掲げて、飛び散ったアームドギアを自らの元に戻そうとする。

「翼さんの天羽々斬と、クリスちゃんのイチイバルを起点に!!」

「それぞれの部位にあった鎧を構築!!」

「天羽々斬とイチイバルで胴当てを形成し!!」

「ガングニールとアガートラームで手甲を形成!!」

「シュルシャガナが右足で!!」

「イガリマが左足!!」

「そして神獣鏡で、兜を作って、それを装着、制御する!!」

それぞれのアームドギアを、ビルドの体にあった鎧に形成していく。

暴走するビルドを、クライムたちが抑え込み、クローズとストレイ社の者たちが竜の攻撃から装者を守る。

「この、小癪な・・・いい加減に倒れたらどうだァ!!」

リカルドの叫びと共に、一際強力な熱線がクローズに叩きつけられる。

「ぬ・・・ぐぁぁぁああぁああ!!!」

その熱を、クローズは受け止める。

決して折れず、決して挫けず、希望を次へ繋げる為に。

装者が、鎧を形成していく。

体の一パーツを創るだけならば、アームドギアを形成するのと同じ要領でさほど難しくはない。

しかし問題なのは翼とクリスの方だ。何せ、同じ形のアームドギアを、相手に合わせる形で形成しなければならないのだ。

それを考慮すると、一番心配しなければならない所なのだが、どうやら杞憂であるらしい。

何故なら、翼とクリスが手を繋ぎ、その繋いだ手でエネルギーを結合、融合させることで鎧を形成しようとしているからだ。

これならば、時間はかかれどそれほど高くない難易度で鎧を形成することが出来る。

「出来た!」

そして、ついに全員が鎧の形成に成功する。

その声を聞いたライダーたちが一斉に好機に出る。

暴走するビルドの顔面をぶん殴り、その向きを装者たちの方へと向ける。

なんの感情も感じないビルドの複眼で睨みつけられ、彼女たちは一瞬、足が竦む。

だが、この程度の威圧、先ほどの絶望に比べれば、あまりにも生温い。

ビルドが、装者たちを標的と定め、突っ込んでくる。

だが、その方が狙いやすい。

相手はただ、破壊するためだけに、()()()()()()()()()()()のだから。

「いっけぇぇえぇええ!!」

拳を振り抜く。それによって射出される鎧たち。

装者七人によってつくられた、ビルドの鎧。

それが、今、ビルドに叩きつけられる。

しかし、それをいざ装着させるとなると、あまりにも気力のいる作業。

何せ、自分のアームドギアを他人に纏わせるのだ。

それが、一体どれほど難しい事か。

しかし、それでも彼女たちは諦めない。

「戦兎・・先生ぃ・・・!!」

ビルドが、抗うかのように、叩きつけられたエネルギーの奔流に逆らって、一歩一歩装者たちに近付いていく。

「まだ・・・私には・・・貴方に教わりたいことが沢山あるんだ!!」

響が、叫ぶ。

 

「お前には、まだ、生きていてほしいんだよ・・・!!」

「お前の『正義』を、私はまだ、受け止めきれてない・・・!!」

「先生の戯言のオンパレード、まだまだ聞きたいのデス・・・!!」

「貴方の『愛と平和』を、受け止めきれてない・・・だから・・・!!」

「負けないでください!戦兎先生!!」

ビルドに、六つの鎧が纏われる。

「消えろぉぉぉぉぉぉおおお!!!」

リカルドの砲撃が、その光量を増す。

 

「ぬ・・・ぐぁぁああ・・・!!」

クローズが、必死に受け止める。だが、このままではいずれ吹き飛ばされる。

(間に合え・・・!)

そう、誰もが思った。

 

「まだ、戦兎に聞かせていない歌が沢山ある・・・!!」

 

翼が、微かに呟く。

「だから、戻ってきてほしい・・・!!」

真っ黒に染まった、その姿に、大切な人の面影を感じて―――

「―――ッ!戦兎ぉぉぉぉぉおおおぉおおおお!!!」

そして、次の瞬間、クローズに叩きつけられる光が、更にその輝きを増した時――――

 

 

 

七色の光が、その光線を吹き飛ばした。

 

 

 

凄まじい衝撃が迸り、竜の熱線がかき消される。

「なんだと・・・!?」

その光景に、リカルドは目を向く。

あの、仮面ライダーを一度に叩き潰した光線を、ああも容易く吹き飛ばされたのなら無理はない。

「・・・ったく、おせぇんだよ」

そして、クローズは安心しきったように膝をつく。

「龍我!」

そこへクリスが駆け寄る。

「出来たんだな・・・」

「・・・ああ」

クローズの問いかけに、クリスは、力強く答える。

クローズの目の前に立つ、七色の鎧を纏う、仮面ライダー。

 

右腕に、撃槍・ガングニール。

左腕に、銀腕・アガートラーム。

右足に、鏖鋸・シュルシャガナ。

左足に、獄鎌・イガリマ。

頭部に、歪鏡・神獣鏡。

そして、胴体に、絶刀・天羽々斬と魔弓・イチイバル。

 

その七つのシンフォギアをもって、仮面ライダービルドは、新たな姿へと変身していた。

 

 

その姿の名は―――『仮面ライダービルド・アッセンブルフォーム』。

 

 

 

 

 

今ここに、新たな『希望』が誕生した瞬間であった。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?



――――とにかくすごいかも。



これだけ!



次回『ヒーロー・オブ・グロリアスブレイク』


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ヒーロー・オブ・グロリアスブレイク

戦「天才物理学者であり仮面ライダービルドこと桐生戦兎は、エボルトとの戦いを制し、新世界を創造することに成功する」
響「しかしその世界は、特異災害『ノイズ』によって脅かされている世界で、戦兎先生は再開した龍我さんと、その世界で出会った私たち立花響及び、風鳴翼さん、雪音クリスちゃんと、F.I.Sなどのシンフォギア装者と共に、ノイズの殲滅に成功するのでした」
龍「喜んだのも束の間、今度現れたのは錬金術師とか言う奴を名乗るキャロルっていう奴と」
ク「デイブレイク社っていうろくでもない奴らが新たな脅威として現れた」
翼「そして、特異災害対策本部二課改めS.O.N.G.は、そのキャロルたちに対抗すべく、新たに加わった二人のライダーやF.I.Sの装者と仮面ライダーと共に、ついに最終決戦へと突入した」
シ「世界を分解する『チフォージュ・シャトー』の破壊に成功し、残すはデイブレイク社の幹部であるリカルドとグラントのみ」
慧「だが、その圧倒的な力にエクスドライブやソングボトルを使っても俺たちは押される・・・」
マ「だけど、そこで起死回生の一手が予想外の人物によってもたらされる」
切「それによって、ついに逆転!と思いきや、またもやどんでん返しでリカルドがとんでもないことをしたのです!」
調「だけど、それでも響さんたちは諦めなかった・・・・」
未「そして成し遂げたのが、ビルドの新たな姿『ビルド・アッセンブルフォーム』!」
戦「と、いうわけで、ついに最終決戦だ!『Glorious Break』でも聞きながら見ろ!シンフォギア・ビルド第二十六話をどうぞ!」


 

ビルド・アッセンブルフォーム。

 

 

七つのシンフォギアをラビットラビットやタンクタンクと同じように鎧として身に纏わせることで成し得る、真なる仮面ライダーとシンフォギアの力が融合した姿。

 

 

そして、その姿に、リカルドは、戦々恐々していた。

「なんだそれは・・・」

あまりにも、神々しいその姿は、リカルドが目をそらしたくなるほどの輝きを放っている。

何故なら、その光は、あまりにも―――美しかったのだから。

「・・・ん?」

その最中で、ビルドは自分の身に装着させられている鎧に気付く。

「・・・なんだこれはぁぁぁあ!?」

そして絶叫。

「え!?なんだこれ!?俺いつの間にこんなもん作ったっけ!?」

「んなわけないでしょこのおバカ!」

「こういう時に変なボケかまさないで欲しいデス!!」

一人驚くビルドにマリアと切歌が一斉にツッコみを入れる。

それも無理もないことだがオーバーフロウ状態では意識は遮断され、完全な戦闘マシーンへとなってしまうために記憶には残らないのだ。

「私たちのアームドギアを鎧として纏わせました!それで、ハザードトリガーの影響をどうにか出来ると思います!」

「え?ああ、なるほど・・・」

それを聞いて納得するビルド。

「ふざけるな・・・」

その時、リカルドの方から声が上がる。

「貴様のような、穢れた人間如きが―――そんな美しい姿をしていい筈がないぃぃぃいい!!」

「うぉぁぁぁああ!?」

ビルドに向かって、無数の光弾が叩きつけられる。巻き起こった煙が光弾に撃たれるビルドを隠していく。

「戦兎!?」

思わず声を挙げる翼。だが、煙が晴れた先で、ビルドは両腕を掲げた状態で無傷で立っていた。

「・・・・あれ?」

そして、ビルドは何事もなかったかのようにそこに立っていた。

「ば、馬鹿な・・・!?」

そしてリカルドは、こちらの攻撃が効かなかったことに動揺していた。

その一方、ビルドの鎧には一切の傷すらも入っていなかった。

それを実感して、ビルドは拳を握り締める。

「そうか・・・」

そして、ビルドは後ろにいる仲間たちの方を向く。

「これは、お前たちが繋いでくれた希望なんだな・・・」

その言葉に、彼女たちは頷く。

それを受けて、ビルドは再び敵を見据える。

 

「―――さあ、実験(ステージ)を始めようか」

 

ビルドが飛び上がる。

そのまま一気に獅子の鎧を纏う竜に突撃する。

それに対し、落書きのように細い腕がビルドを迎撃しようと襲い掛かる。

だが、高速で動くビルドを、捉えることが出来ない。

七人分のエクスドライブの力をそのままに、鎧として装着されたビルドの力は、極限以上に高められている。

ビルドを近づけさせまいと、今度は無数の光弾がビルドに襲い掛かる。

それをビルドは飛翔することで躱していく。だが、弾幕の厚さに思わず距離をとらざるを得ない。

「堕ちろ、堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろぉぉぉおおおおおぉおおぉお!!!」

もはや滅茶苦茶にやりだすリカルドの猛攻。

「くっ!」

その攻撃の嵐に流石のビルドも苦悶の声を挙げる。

「何やってんだ!!」

「ッ!?」

その時、クリスの声が頭の中で響く。

すると、ビルドの両腕が無意識のうちに動き、広げられたその両腕から真っ赤なサブマシンガンが出現する。

そして、その引き金を、襲い掛かる光弾に向かって放つ。それと同時に、ビルドの背中から無数のミサイルが放たれる。

それらが光弾と正面衝突し、激しい光を巻き散らして爆散する。

その光の中を、ビルドは突っ切り一気に竜へと迫る。

再び竜から無数の光弾やらくがきのような手が迫る。

それをビルドはさらに変形させ、ビームライフル状にした両手の銃をもって迎撃。襲い掛かる光弾を躱し迎え撃ち薙ぎ払い、一気に近付いていく。

その最中で、竜の背中と融合しているリカルドが剣を振りかぶる。

「堕ちろぉぉぉおおぉおお!!」

そして放たれるのはデビルソード。漆黒の斬撃がビルドに迫る。

「戦兎ッ!!」

「ッ!」

それがビルドに直撃した瞬間、斬撃は真っ二つに割れ、それぞれ別々の方向へ飛び、背後の建物を切断する。

見ればビルドは掲げた大剣をもって斬撃を逆に切断したのだ。

反動で止まってしまい、再び突撃を始めるビルド。

そして、剣を掲げ、それを一気に背中にいるリカルドに振り下ろす。

それをリカルドは横薙ぎをもって迎え撃つ。

 

剣の衝突、激しい衝撃が迸り―――全ての窓が粉々に砕け散る。

 

その衝撃から、無防備な装者たちをライダーたちは守る。

「くっそ、なんて衝撃だよ」

「これは現実で起きている事なのか・・・まるで・・・」

鍔迫り合いを繰り広げるビルドとリカルド。そのビルドの死角かららくがきのような手や、竜の体表から現れた泥の手が、ビルドを捉えようと襲い掛かる。

それを、ビルドは腰部の機構を開き、そこから淡い紫色の光を放つ球体を拡散させ、さらに襟から伸びる黒い帯、アームの先に取り付けられた回転鋸が、それらを迎撃する。

球体は光の光線となって撃ち抜き、帯は叩き落し、鋸は鏖殺する。

やがて、防ぎきれないと判断したビルドが自ら下がり躱し、そして、すかさず左腕のガントレットが変形、巨大な砲門となってリカルドを撃ち抜かんと砲撃する。

それをリカルドは竜の体表から謎の泥を壁のように展開し防ぎ、今度はそれが津波となってビルドに襲い掛かる。

それをビルドは飛んで躱す。すかさずその波から黒い手が伸びてきて、それを光の球体で迎撃する。

それだけで、無数の爆発が引き起こされ、次の瞬間、らくがきの腕の拳の一撃がビルドに突き刺さり、巨大ミサイルの一撃が竜を吹き飛ばす。

ビルドが遥か彼方まで、山に激突し、竜は背後のビルと共に落ちていく。

「・・・・神の戦争かなんかじゃないのか・・・」

クライムは、柄にもなくそう呟く。

 

「・・・・」

山に叩きつけられ沈黙するビルド。

そのビルドに、落ちかけていた竜が立て直し、ビルドに向かって、再び無数の光弾を降り注がせる。

それらが、ビルドに殺到し、再び山を焼け野原にする。

だが、その焼け野原は一瞬で鎮火され、その中からビルドが立ち上がり、肉眼では捉えきれない速さで一気に竜へと接近する。

それを竜は迎撃しようとするが、その前に突如として竜の皮膚が大きく凹みだす。

ビルドが、飛びながらライフルで撃ち抜いたのだ。

そして、その凹んだ所に向かって右拳『ガングニールガントレット』の一撃を叩き込む。

黄金の拳の一撃の衝撃が、竜の体に浸透する。

しかし、その皮膚から鱗だらけの手が現れビルドの右腕を掴み、拘束する。

そしてすぐさま上下左右から光弾や泥の手が襲い掛かってくる。

それを、ビルドは左手を手刀の形にして腕を切断、離れて光弾を回避。

躱されたことで正面衝突した光弾は竜の皮表面で炸裂する。

しかし、その光の中から、緑の鱗と翼をもった一つ目の化け物が無数に現れる。

それをビルドは刀をその手にもって迎撃。迫りくる化け物『ドラゴトルーパー』を全て一刀両断していく。

そこで竜が動き、その巨大な腕を振り上げ、それを一気にビルドに向かって振り下ろす。

それをビルドは躱そうとするが、それを切断された筈のドラゴトルーパーたちが捉える。

そして、途端に石化し、ビルドの動きを封じ、そして拳を叩きつけた。

拳を叩きつけられたビルドは長い道路に落ち、そのまま何回かゴムボールのように飛び跳ね、建物をいくつも突き破っていく。

やがて沈黙する衝撃。立ち込める煙の中、ビルドはのんきに本部へと連絡を入れる。

「おい風鳴さん・・・」

『どうした!?』

「悪い・・・街壊すわ」

『は?』

本来であれば絶対に言いそうにない言葉。しかし、もはやなりふり構ってる状況ではない。

「どうした?もう終わりか」

リカルドが、嘲笑うかのようにそう言う。

しかし、次の瞬間、建物が吹っ飛び、放たれた虹色の光が竜を打ち据え、吹き飛ばす。

「ぐああぁぁああああぁあああぁああああ!?」

 

それは―――S2CA。

 

響十八番の、絶唱を束ね究極の一撃と化す大技。

それを、ビルドは体の中を巡るフォニックゲインを利用して放ったのだ。

いや、正確には違う―――

 

 

S.O.N.G本部にて。

「シンフォギアで構成した鎧を通して、装者の意識と同調・・・それによって戦闘能力を向上させているのか・・・!!」

信じられない、というように声を震わせて、そう呟く藤尭。

「だが、装者七人分の意識となれば、脳に凄まじいまでの負荷がかかる・・・常人であれば、そんなもに耐えられる筈がない・・・!!」

弦十郎の言う通り、七人分の意識と同調させるという事は、それほど自身の意識に負荷をかけるという事、最悪意識の混濁によって心神喪失状態になる可能性だってある。

だけど――――

「きっと、大丈夫です」

セレナが、自信ありげに言う。

「だって、あの人は―――自意識過剰で、ナルシストで、天才物理学者で、正義のヒーローなんですから!」

 

 

 

それを信じて、彼女たちも戦う。

「もう一発―――」

「――――行きます、S2CA―――ビルディングエディション!!」

響の動きに、ビルドが合わせる。それは簡単に言えば呼吸。武道における、精神統一を促す呼吸法だ。

それをもって、体内を循環するフォニックゲインを束ね、そして―――撃ち放つ。

 

ゲインタイプ・ガングニール/Gブロウ

 

「雷を、握りつぶすように―――打つべぇぇえええぇええっしぃぃいい!!!」

二度目の拳。それが、今度こそ竜を撃ち落とす。

再びの飛翔、地面すれすれを滑空し、堕ち行く竜の下をとると、今度は左拳を真上へ掲げる。

「セレナ、マリアァッ!!!」

「はい!」

「分かっている!!」

 

ゲインタイプ・アガートラーム/ツインチャージパーティクルキャノン

 

放たれる、純銀の輝き。それが、真下から竜を打ち据え、上空へと持ち上げる。

滞空時間が、伸びる―――

大きく腰を落とす。するとどうだ?緑の足から鎌が飛び出し、桃色の足からは鋸が飛び出す。

それをもって上空へ飛び出し、右足の鋸を竜の皮膚に叩きつける。

血しぶきが舞い、ビルドは竜の皮表面を一気に駆け抜け、真上に出る。そして、今度は左足を振り上げ、その踵に出現させた鎌の刃を、高速回転と落下の威力と共に、竜へ叩きつける。

切断には至らない、だが、刃は食い込む。

「鏖殺してあげる!」

「切り刻むデス!」

「なます切りだ」

 

ゲインタイプ・シュルシャガナ/インフィニティ・ソー

ゲインタイプ・イガリマ/ジャッジメント・ギロチン

 

右足を踏みしめ、巨大な鋸で竜の皮膚を滅多切りにしていく。泥のような手も、ドラゴトルーパーも、光弾すらも何もかも。

さらに足裏からも鋸を出して体内すらも傷だらけにしていく。

そして、それで固定した右足を軸に、イガリマの鎌をその手に持ったビルドは大きくその鎌を振りかぶる。

その鎌は、見るからに大きく、一撃で竜を叩き斬るつもりなのが見え見えな程に大きかった。

そして、鎌に備えられたジェット機構が火を吐き、直後の爆発と共に加速。爆速の斬撃が竜の体表を大きく切り上げる。

 

竜が、悲鳴を上げて暴れる。

 

らくがきのような手が襲い掛かり、それをビルドは躱す。

その躱した先、リカルドのデビルソードが炸裂し吹っ飛び、ビルに叩きつけられ、そこへ今度は竜と獅子の砲撃が襲い掛かる。

しかし、それは突如として現れた鏡によって阻まれる。三重に阻まれた、三つの鏡。

それが、光を防ぎ、押しとどめる。

「大切な願いを―――」

「―――思い、祈りを―――」

「「守るために」」

 

ゲインタイプ・神獣鏡/呪術砲

 

呪いから祈りへ。

 

光が、竜を吹き飛ばす。

明らかに、弱っているのが分かる。

チャンスは、今。ビルドは飛ぶ。

しかし、それでもリカルドの猛攻は止まらく。

放たれる、無数の光。

それに対して、ビルドはあえて突撃を選択。その手に先ほど使ったライフルを構え、飛翔したまま狙いを定める。

「狙い撃つ」

「二度と外さねえ・・・!!」

 

ゲインタイプ・イチイバル/ロックオンIストラトス

 

放たれる、弾丸三撃。

それが、背後のリカルド、竜の顔面、そして、獅子の兜を狙い撃つ。

その時、獅子の鎧にひびが入る。

それに、ビルドは一刀の刀を抜き、正眼に構える。

「行くぜ翼」

「承知―――参るッ!!」

 

 

ゲインタイプ・天羽々斬/天羽々斬・真打《月兎》

 

 

その斬撃は、三日月だった。

弧を描いた斬撃は、獅子の仮面を打ち、砕く。

それはまさしく、母兎が子兎を守るために見せる、天敵への一撃の如く。

そして、その獅子の鎧の中に、ダウルダブラの糸に雁字搦めされてとらわれた、キャロルの姿があった。

「キャロルちゃぁぁぁぁぁああん!!」

「キャロル!」

叫び、ビルドはすぐさま手を伸ばす。だが、その体を黒い腕に掴まれ、一気に引き離される。

「くっ、せめて―――!!」

その時、ビルドの額から、光が放たれ、それがキャロルの胸を打つ。

「渡しはしない。彼女は貴様らを殲滅するための生贄なのだからなぁぁああ!!!」

「ふっざけんなぁぁあああ!!!」

次の瞬間、リカルドのデビルソードがビルドに直撃する。

だが、巻き起こる煙の中、どうにかアガートラームのバリアで凌いだビルドが飛び出す。

「出力が足りていない・・・ならば!」

クライムは、自身のドライバーに装填されているクライムウルフから、アガートラームウルフソングボトルを抜き出す。

「慧介、お前もシュルシャガナタイガーを」

「分かった!」

クライムの言葉に従い、タスクもシュルシャガナタイガーソングボトルを取り出す。

「桐生戦兎!これをアームドギアに装填しろ!!」

そして、ビルドに向かって投げられる、二つのボトルを、ビルドは空中で掴み取る。

それをすぐさま、それに対応するアームドギアに装填する。

ガングニールガントレットにはガングニールフェニックスソングボトルを。

アガートラームガントレットにはアガートラームウルフソングボトルを。

イガリマレガースにはイガリマシャークソングボトルを。

シュルシャガナレガースにはシュルシャガナタイガーソングボトルを。

そして、BLD神獣鏡ヘッドには、神獣鏡ユニコーンを。

それぞれに対応するボトルを装填する。

それによって、各シンフォギアに搭載された力が解放され、ビルドの戦闘力をさらにブーストする。

「うぉぉぉおぉぉおおおぉおお!!!」

絶叫し、ビルドは再び竜に向かって突撃する。

 

 

その最中で、キャロルは目を覚ます。

「う・・・うう・・・」

そして、何やらうるさい、と感じて、目の前を見てみれば、そこには無数の光が迸っていた。

「これ・・・は・・・」

一体、何故こうなっているのか分からない。

そもそも、()()()()()?何故、こんなことになっている?自分は一体、()()()()()()()()()

だが、一つだけ分かるのは、自分は何か、取り返しのつかない事をしてしまったという事。

それに、自分の名前も思い出せないキャロルは、目の前に輝く光の中で、一際強い光を見た。

「キャロルゥゥゥゥゥゥウウ!!」

『キャロルちゃぁぁぁぁあん!!』

二人分の声が、重なって聞こえた気がした。

『キャロル!!』

知らない、だけど知っている声が聞こえた。

『キャロル―――生きて、世界を知るんだ』

忘れてしまった筈の、大切な人の声が聞こえた気がした。

自分に向かって伸ばされた手。

『いつか人と人が分かり合うことこそ、僕たちに与えられた命題なんだ』

知らない、大切な人の言葉が、胸に染みる。

『賢いキャロルには、分かるよね?そしてその為にはどうすればいいのかを』

その手に、キャロルは手を伸ばし―――突如としてその光が見えなくなった。

「あ・・・!?」

その光を、見失ってしまう―――だが、次の瞬間、再び光が迸り、何かが暗闇を打ち砕いて中に入ってくる。

その光に、忘れてしまった人の面影を重ねて――――

「―――パパぁぁぁああぁぁあああああ!!」

 

―――誰かの手が、自分の手を掴んだ。

 

 

 

抗うかのように、暴れるかのように、竜が光を巻き散らす。

その光が街をどんどん破壊していく。

もはや災害だ。

そして、その災害に立ち向かう、それに等しい力をもった存在が、その災害に突っ込んでいた。

「もう一度行くぞォ!!」

「はい!!」

その手には―――修復済みのグリスブリザードナックル。

それに、ビルドは右腕のガングニールガントレットを接続、そのままガングニールガントレットとグリスブリザードナックルを接続する。

何故、グリスブリザードナックルをもっているのか。

単純な話が念のために用意していたもの。だが、戦いのあまりの激しさに渡す余裕がなかったのと、今の今まで忘れていたことが原因であった。

だが、今それが手元にあることに、ビルドは心底安心している。

 

ブリザードナックルが、黄金に染まる。

 

『ボトルキーン!!』

 

そして、そのままロボティックイグナイターを押し込み、エネルギーを溜める。

 

ゲインタイプ・ガングニール/―――

 

 

もう一度、救うための手を――――

 

 

イグナイテッドナックルゥッ!!シャリィィン!!

 

 

 

黄金色の輝きに、竜はありとあらゆる手を尽くして滅しようとする。

 

 

光弾、泥、らくがきの手、竜の鱗、ドラゴトルーパー――――何もかもをもって防ごうとした。

 

 

だが、それらは()()()()の想いの込められた拳の前には、紙屑にも等しかった。

 

 

その一撃が通り、ビルドは今度こそキャロルの元へ飛ぶ。

すぐさまブリザードナックルを収納してその右手を伸ばす。

そして、キャロルの方からも伸ばされた手を、ビルドは掴む。

「うぉぉぉぉぉおおぉおお!!」

ビルドが絶叫し、キャロルを無数に絡まった魔弦から引き千切るように引っ張り出し、そのまま外に出る。その際、キャロルの長い三つ編みのおさげ髪が千切れ飛ぶ。

「ぬぐあぁぁあぁぁあああ!?」

それによって、リカルドが絶叫する。

ビルドはそれを無視して、すぐさま響たちの元へ飛ぶ。

「頼んだ!」

「はい!」

そして、キャロルを響たちに託し、再び竜と対峙するために飛ぶ。

「ぐ・・・ぅう・・・」

その最中で、リカルドは呻き声をあげ、顔を抑えていた。

「許さない・・・許さない許さない許さない許さないィィイ!!!」

リカルドが、醜く喚き散らす。

「美しき世界を拒みィ!!汚れた世界を望む異端者どもがァ!!我らが()の救済をォ!!その御心を踏み躙ったことォ!!万死に値するゥ!!!」

「神の使者にでもなったつもりか」

ビルドがリカルドに向かってそう言う。

「どれだけ自分を特別視しても、所詮お前も目立ちたがり屋の一人の人間に過ぎねえんだよ」

「黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れェ!!!その醜い姿を私に見せびらかすなァァァァアア!!!」

次の瞬間、突如として竜の体に光が出来る。

「これは・・・!?」

何かを錬成して、力へと変えているのはわかる。だが、それが一体何なのかまでが分からない。

「我が存在、我が精神、我が血肉、我が時間、我が歴史、我が概念、そして命!!その全てを錬成し、力へと変え、貴様を排除する礎としてくれるッ!!」

エネルギーが拡大、収束していく。

その威力はおそらく、この街どころか都市一つ吹き飛ばすほどの威力となるだろう。

その出力は、おそらくビルドの力を超えている。

 

―――だとしても。

 

「まだ終わっちゃいない!!」

ビルドがボルテックレバーを回す。

すると、ビルドドライバーからパイプ―――スナップライドビルダーが伸び、それが突如として何かを形成しだす。

ビルドドライバーに装填されたものだけじゃない。全身のアームドギアに装填されたソングボトルの成分すらも使って、それを形作ろうとしているのだ。

無限に伸びるスナップライドビルダー。それらが枝分かれし、形を成し、作り上げていく。

 

―――それは、巨大な拳。

 

響が叩き付け損ね、そしてリカルドによって振り払われた、七つのアームドギアを束ねた巨大な拳。

それを、今、ビルドは再び作り上げ(リビルドし)たのだ。

 

『Ready Go!!』

 

そして、ビルドは飛翔する。限界まで加速して、そのままその拳の後ろから、渾身のライダーキックを叩きつけ、一気にリカルドにその拳ごと突撃する。

 

『ハザァードフィニィッシュッ!!!』

 

それに対抗するが如く、竜の口から、闇色の咆哮が放たれる。

七色の拳と闇の咆哮。

その双方が、真正面から激突する。

「うぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉおおお!!!!」

「ハァァアァァァアァァァァアアアァァァァアアア!!!!」

激突する二つの力の奔流。

だが、押し負けているのはまさかのビルドだった。

「ぐ・・・くぅ・・・!?」

リカルドが錬成しているのは、何も自身の存在だけではない。

流石にダウルダブラには手を出せなかったが、それでもグラントの竜の体に加え、自らが身に纏うファウストアーマー『ルシファー』すらも錬成してエネルギーを錬成。さらには空気中の酸素やら水素やら窒素すらも原子の性質すら無視してエネルギーに錬成。それをそのまま竜の咆哮として放っているのだ。

このままでは、ビルドは三十秒とて持たない。

だが、それを黙ってみているほど、彼の仲間は人が出来ていない。

 

「今度こそ、戦兎に力を!!天羽々斬ィ―――!!」

 

「イチイバァァァアル!!!」

 

「アガァートラァァァァァム!!」

 

『お願い、アガートラーム!!』

 

「イガリマァァァァァァア!!!」

 

「シュルシャガナァァァアア!!!」

 

「神獣鏡――――ッ!!」

 

装者たちが、自らに残ったエネルギーをビルドに収束させる。

それと同時に、アトーンメントからアサルトへと変身したクライム、タスク、グリス、ローグ、そしてクローズが、必殺技のエネルギーをそのままビルドに収束させる。

 

「全ての明日をォ―――!!」

 

「勝ち取った奇跡で―――ッ!!」

 

「ぶちかませぇぇええ!!」

 

「いけ!桐生戦兎ォ!!」

 

「いっけぇぇえええ!!」

 

そして、最後の一人が、その力を、最後の希望を託す。

 

 

「ガァングニィィィィィィィィイィィイイルッ!!!」

 

 

絶叫。そして、全ての願いを込めて――――

 

 

 

―――絶望の未来を打ち砕き、最高の未来を創り上げ(ビルドアップす)る、一撃を―――

 

 

 

 

グ ロ リ ア ス

 

 

 

 

 

フ ィ ニ ッ シ ュ

 

 

 

その栄光を打ち砕く一撃が、加速する。

「ガァァァアアァァァアアァアアア!!!」

だが、七人の装者と六人の仮面ライダーの力を収束させてやっと互角。

しかもエネルギー消費はビルドたちの方が早く尽きる。

このままでは、いずれエネルギー不足で吹き飛ばされる。

 

 

――――であるならば!!

 

 

「イグナイトモジュール―――」

 

 

 

―――彼女が届けてくれた『呪い(キボウ)』に賭けるしかない。

 

 

 

「抜剣ッ!!!」

 

 

「『ダァインスレェェェェェイフッ!!!」』

 

 

黒の呪いが、ビルドを包み込む。

その絶叫と共に、ハザードトリガーのメーターを振り切り、敵の血を吸うまで止まらない魔剣の呪いをもって、力をブーストする。

思惑は違えど、キャロルが託し、エルフナインが届けた、最後の希望――――『イグナイトモジュール』。

それによって、ついに拳が竜の咆哮を押しのける。

 

呪いは―――祈りへ。

 

「なっ――――」

そのまま、拳は竜に炸裂、凄まじい衝撃を巻き散らし、獅子の鎧を砕き散らす。

「ぬ・・・ぐあぁぁぁあああ!?」

最後の最後で、逆転―――かに思われた、その時、突如として竜の体が膨張し、光を巻き散らす。

「ぐ・・・く・・・せめて、打ち倒せないのであれば・・・このまま貴様らを道連れにしてくれるぅぅぅうう!!」

叫び散らすリカルド。

 

 

「行き場を失ったエネルギーが、暴走を始めています!」

「被害予測、開始します!!」

眩い光が、竜から発せられる。その光景が、S.O.N.Gの発令所のモニターからも見えていた。

「エネルギー臨界到達まで、あと六十秒!!」

「このままでは、半径二十四キロが爆心地となり、六キロ以内の建造物が深刻な被害に見舞われます!!」

「ぬぅ・・・」

その報告、弦十郎は歯噛みし、緒川は冷や汗を流す。

「まるで、小型の太陽・・・」

その時だった。

溢れ出るエネルギーが、突如として一点に集まりだす。

「これは・・・!?」

「何が起きている!?」

「く・・・ッ!?これは、まさか・・・!!」

藤尭が、その正体を知る。

「び、ビルドです!ビルドが、暴走したエネルギーをかき集めて、抑え込んでいます!!」

「なんだとォ!?」

その言葉に弦十郎は驚き、

「戦兎先生、まさか・・・!」

そのビルドの行動に、セレナは、願わずにはいられなかった。

 

 

「な―――ッ!?」

例え一纏めにしたとしても、その身に宿るシンフォニックマッチの力は健在。

力を纏め上げて自らの力に出来る、ガングニールフェニックスと天羽々斬兎の『ツヴァイウィングフォーム』の力によって、臨界状態になったエネルギーを一気に纏め上げ、爆発を抑え込もうとしているのだ。

溢れ出る光が、リカルドの目の前に立つビルドに収束する。その胸に、今にも爆発しそうなほどに輝く真っ白な光があった。

それを目の前にして、リカルドは、最後に喚く。

「――――たかが歌如きに、世界を救えるものかァ!!」

腕を振り払い、そしてその指を突き付け、言葉の刃を突き付ける。

「貴様の力も、所詮は破壊の為の力!!!そんな力で救えるものか!誰も救えるものかァ!!」

真実を、最後のあがきとばかりに叩きつける。

「貴様のその足で、どれほどの人間を踏み潰してきた!そしてお前は、これからもその足で、誰かを踏み潰していくんだろう!!そんなお前が、誰かを救えると己惚れるなァ―――」

「それでも」

光を収束し、臨界点にまで貯め込んだエネルギーを抱えたまま、ビルドは言う。

「それでも救ってみせるッ!!」

その言葉に、リカルドは茫然とする。

 

 

「それが―――『仮面ライダー』だ!!」

 

 

そう叫び、ビルドは自身の右手を、右側の複眼のアンテナに滑らせて、決め台詞を決める。

 

 

「―――勝利の法則は決まった」

 

 

そして、ビルドは飛び上がる。

収束したエネルギーを抱えながら、ビルドは、一気に竜に向かって右足を突き出す。

「響の拳が繋がる手であるのなら、俺のこの足は伸ばす先に向かって進むための一歩だッ!!!」

そして、流星の如き勢いで竜に突撃し―――

 

「想いは、永遠だぁぁぁあああぁああぁぁああぁああああ!!!!」

 

―――絶叫と共に竜へと突撃し、そして――――臨界に達したエネルギーが、全てを吹き飛ばした――――

 

 




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

あの戦いから三日―――

「・・・桐生戦兎の捜索が打ち切られた」

行方不明となった戦兎。

「・・・来てくれて嬉しいです」

風前の灯のエルフナイン。

「・・・ごめん」

その事実は、どうしようもなく彼らの心に突き刺さる。

「世界を守れるなら、消えてもいいって思ってた・・・」

そして、運命は―――


次回GX編最終回

『正義を信じて、握り締めて』


「―――ボクは」




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正義を信じて、握り締めて

マ「天才物理学者にして仮面ライダービルドこと、桐生戦兎は、宿敵エボルトとの戦いを制し、見事に新世界を創造することに成功した」
シ「だが、創造した新世界には、ノイズと呼ばれる特異災害が存在し、桐生戦兎は再開した仲間たちや、その世界で出会った風鳴翼たちシンフォギア装者と共に、ノイズの殲滅にあたり、そしてついに殲滅に成功した」
調「だけどそこで、新たな敵、錬金術師のキャロルとデイブレイク社が現れて、私たちに襲い掛かった」
慧「世界の破壊を目論む彼らを止めるため、俺たちは新たな力と共に、激しい戦いを繰り広げた」
切「そして、その戦いが終わったころ、戦兎先生はどこかに消えてしまったのデス・・・」
調「大丈夫、だよね?」
慧「まあしれっと帰ってくるでしょあの人なんだし」
マ「それもそうね」
シ「馬鹿と天才は紙一重ともいうしな」
慧「いやそれ関係ある?」
調「それにしても、戦兎先生よりの私か・・・」
慧「ああ、今やってるイベントな。それがどうかしたのかよ?」
調「いや、性格まで似なくてよかったな、って・・・」
切「確かに、調が戦兎先生みたいな科学者になるのは・・・ありデスね」
調「切ちゃん?」
慧「ああ、確かにそそるものがあるな」
調「慧くん?え?まって。そそるって何!?」
シ「慧介・・・お前、まさか被虐体質なのか・・・!?」
慧「違うわ!なんか、こう・・・涙目にしてやりたい感じがするんだよね」
調「慧くん!?」
切「イケナイいちゃいちゃするなら、アタシの見てない所でしてほしいのデス」
マ「いやどちらにしろダメよ!やるなら結婚してからよ!」
シ「マリアはどちらかというよ過保護だな」
調「私を置いていかないd」
マ「過保護にもなるわよ!だってこの子たちまだ子供なのよ!?」
慧「子供だからってなんだ!?今時の高校生は学校でセ〇〇スする時代なんだぞ!」
切「マジですか!?」
調「待ってそれどこの情報!?」
マ「だとしてもダメよ!」
シ「・・・長引きそうだな。というわけで、シンフォギア・ビルドGX編最終回を見ろ」
調「あ、ああ、慧くんが、そんな・・・あれ?これはゆめ?」
マ「ほらぁ!慧介が変な事いうから調が変にトリップしちゃったじゃない!」
慧「元々話題投入したのはマリアだろ!?」


―――後に『魔法少女事変』と呼ばれる戦いの決着から、七十二時間。

 

即ち―――三日の時が過ぎ去っていた。

 

 

 

 

「―――もう二度とコロナにはならねえ」

龍我が、病衣を纏い可変式ベッドに寄りかかりながらそう呟いた。

「それ何度目ですか・・・」

その傍らでは、同じように病衣に身を包んでリンゴの皮をむく慧介の姿があった。

「だってよ、一回変身しただけでこれなんだぜ?」

見れば龍我の足にはこれでもかと頑強なギプスがつけられていた。

「まあ、確かにそうですけど・・・常人より治りが速いんですからいいじゃないですか。俺なんて左腕がこんななんですよ?」

と、慧介は布でつられてギプスに包まれた自分の腕を見せる。

つまり、慧介は片手でリンゴの皮をむいてるのだ。なんと器用なことだ。

「まあ、カズミンも幻さんも似たようなもんだけどな・・・」

「そうだな」

「ああ」

見れば首を補助するバンドで首を固められた一海と全身を包帯で巻いた幻徳がそこにいた。

「最も怪我が小さいのはシンっていうこの事実・・・」

「ああ・・・」

あの戦いにおいて、最もダメージが少なかったのはシンだ。

無論、装者もほとんど軽傷。重傷なのはライダーたちの方である。

その中でもシンは比較的軽傷だということらしいが、それでも安静にしていなければならないというのが現状だ。

「俺がどうかしたか?」

そこへ、シンが病室に入ってくる。

「あ、シン」

頭に包帯を巻いたシンが、彼らの病室に入ってくる。

「調子はどうだ?」

「このままいけば、完治は間違いないってさ」

慧介はそう返す。

それを聞いて、シンは頷き、一度目を閉じ、間を開ける。

そして、意を決したかのように告げる。

「・・・桐生戦兎の捜索が打ち切られた」

 

 

 

 

 

 

あの戦いの後――――戦兎は行方不明になっていた。

 

 

爆発の後、無事が確認された装者とライダーたち。

だが、その中に戦兎の姿はなく、すぐさま皆で探し始めたが、あったのは元に戻ったアームドギアだけであり、戦兎の持つビルドドライバー、フルボトル、アイテムなど含めて、戦兎はその場から消えていた。

戦いの傷が癒えていないその状態での捜索は無茶だと判断され、装者とライダーたちはすぐさま病院に連れ出されることになる。

その時、最も暴れたのは翼であり、緒川が当身で気絶させることでどうにか事なきを得た。

 

それから三日。

 

あの爆発の中、自らもそのエネルギーを吸収し、炸裂させた為に、生存は絶望的とされ、それでも続けられた捜索であったが―――

 

 

 

「なんでだよ!?」

「これ以上の捜索は無理だと判断。続ければ危険が及ぶ可能性があり、やむを得ず、という事らしい」

淡々と告げるシンに、龍我は喰ってかかろうとするが、そもそも足のギプスが邪魔で動くことは出来ない。

「・・・個人的に捜索は続けるつもりだ。奴がこのまま死ぬなどありえない。それに、俺も奴には言わなければならない事があるんだ」

そう、シンは自身のジャケットを力強く握り締める。

「当たり前だ・・・」

龍我は、そう小さく呟く。

「・・・そういえば、キャロルはまだ・・・」

「ああ、まだ目覚めない」

 

 

保護されたキャロルは、未だ昏睡状態を保っていた。

医者の見立てでは、急激な思い出の償却による脳への負荷が原因とされているが、この三日間、起きる気配は一切ない。

 

 

「それに、懸念すべきことはもう一つあるだろう」

シンは、それでも淡々と、言えない誰かの為に言葉を告げる。

「・・・・今夜が山場だ」

 

 

 

 

 

「・・・来てくれて嬉しいです」

ベッドに横たわるエルフナインが、この病室に来てくれた者たちにそう、感謝の言葉を述べる。

「毎日、すみません」

そして、謝罪。

「夏休みに入ったから大丈夫」

「キュール!」

「夏休み・・・?」

「楽しいんだって、夏休み」

「クァ・・・」

「アタシたちも初めてデース!」

「ガブガブ」

「早起きもしなくて良いし、夜更かしもし放題なんだよ!」

「それは響のライフスタイル・・・」

「響さんらしいですね・・・」

「あんま変な事吹き込むんじゃねえぞ」

「キュイーン・・・」

「キュア・・・」

響のボケに苦笑する未来とセレナ、ツッコミを入れるクリス。心なしかイクスとバルも呆れている。

「夏休みではね、商店街でお祭りもあるんだ!焼きそば、綿あめ、たこ焼き、焼きイカ!ここだけの話、盛り上がってくるとマリアさんのギアからは盆踊りの曲が流れるんだよ」

その二人と二匹のツッコミを無視して響は根も葉もない事を言い出す。

「本当ですか?」

「本当な訳ないでしょ!?」

「バウ」

即刻否定するマリアと心外だとでもいうように鳴くラム。

「大体そういうのは私より翼のギアの方がお似合いよ」

言われて想像すれば容易であった。

「なるほどなるほど・・・皆が天羽々斬についてどう認識しているのか、よぉく分かった・・・」

それによって溢れる笑い声に、翼は眉をぴくぴくとさせながら、肩で飛び跳ねるアメを掴んで締め上げるのであった。

「ボクにはまだ知らない事が沢山あるんですね・・・」

笑いで零れた涙を拭い、エルフナインはそう言い出す。

「世界や、皆さんについてもっと知ることが出来たら、今よりずっと仲良くなれますでしょうか?」

「なれるよ!」

響が、即答してエルフナインの手を取る。

「だから早く元気にならなくちゃ!ね?」

その言葉に、自然を回りから笑みが零れる。

そして、エルフナインも自然と笑みを零した。

 

 

 

「じゃあ、また明日ね」

「ご機嫌ようデース!」

エルフナインの病室から出る一同。

扉が閉じた所で、ふと響が喋り出す。

「あー、私ちょっとトイレに・・・」

その言葉に、翼とクリス、そしてセレナは、その表情を曇らせるも、悟られないよう、言葉を紡ぐ。

「・・・そうか」

「へへっ・・・」

舌をちろりと見せた後に、響は、俯きながら走り出す。

「・・・行くぞ」

「え?戻ってくるのを待たないデスか?」

「いいのよ」

切歌の疑問に、マリアはそう答えつつ、踵を返して歩き出す。

「・・・・すまない」

その最中で、翼がぽつり、と口を開く。

「私は少し、寄ってから帰ることにする」

「・・・そう」

そう、笑みを浮かべる翼に、マリアは頷き、そして翼も響とは違う、別の通路へと向かった。

その事に、切歌と調は首を傾げる。

そんな二人の手を、セレナが取り、そして引っ張る。

「行きましょう」

「お、おぉお・・・?」

訳が分からないまま、連れていかれる切歌と調。

そして、そこに残ったのは、未来とクリスの二人だった。

 

 

 

 

 

―――水道から、水が流れる音がする。

 

そして、もう一つ、誰かがすすり泣く、声がする。

その、すすり泣く少女の背中を、未来は静かに見つめていた。

「・・・ごめん」

その未来に気付いた、響は、顔を上げないまま、そう謝った。

「私が泣いてたら、元気になるはずのエルフナインちゃんも、キャロルちゃんも・・・元気になれないよね・・・?」

あえて、恩師の名を伏せたのは、もし、の可能性を考えたくないが故か。

水道の水を止める。

洗面台に溜まった水。その水に、何度も波紋が広がり消える。

「世の中、拳でどうにかなることって・・・簡単な問題ばかりだ・・・!自分に出来るのが些細な事ばかりで・・・ほんとに悔しい・・・」

「キュイーン・・・」

あの時、確実にキャロルを救い出せていたならば―――あの時、己が拳を貫き通せていたのなら、きっと、今頃―――

「・・・そうかもしれない」

未来が、そっと握り締められた響の拳を包み込む。

「だけどね、響が正しいと思って握った拳は、特別だよ」

「・・・特別?」

その言葉に、響は首を傾げる。

「世界で一番優しい拳だもの。いつかきっと、嫌な事を全部解決してくれるんだから」

「未来・・・」

泣きそうで、既に泣いている響の顔が、さらに崩れ、そして響は、未来に抱き着いた。

「ありがとう・・・やっぱり未来は、私のひだまりだ・・・」

その言葉に、未来は静かに響を抱きしめ返す。

その様子を、リンク・アニマルたちは黙って見守っていた。

 

 

 

 

 

 

――――廊下をしばらく歩いていると、らしくない泣き声が、クリスの耳に届いた。

少し暗い、廊下の途中。そこに、壁に手をついてたたずむ翼の姿を見つけた。

「・・・先輩」

そう声を駆ければ、翼は、しばしの間をおいて、身動きせず応える。

「雪音か・・・すまない、こんな情けない所を見せて・・・」

「いえ・・・そんなこと・・・」

この時ほど口下手な自分を呪ったことはない。

上手く慰めの言葉が見つからず、どうすればいいのか分からなかった。

「・・・・戦兎の」

ぽつり、と翼が語り出す。

「戦兎の捜索を打ち切るって言われた時、本当は、すぐにでも気絶しそうだったんだ。でなければ、なりふり構わず、暴れてしまいそうで・・・」

見た目によらず、翼は乱暴な性格だ。

頑固で、一点張りで、それは彼女の今までの生き方を物語っているようで。

「今更・・・今更気付いた所で遅いというのに・・・!」

その言葉に、クリスは目を見開く。

「・・・先輩・・・まさか・・・」

翼が、涙に濡れた目で、クリスを見据えた。

「・・・戦兎が好きだ」

それが、翼が初めて自覚した想いだった。

そして、すぐに失笑する。

「無様だろう・・・失って初めて気付くなんて、間抜けにもほどがある・・・以前に一度、経験したことがあるはずなのに・・・!」

そう拳を握り締め、翼は、さらに涙を零す。嗚咽が漏れ、決して人前では見せないような弱みを、今この瞬間に隠しきれないでいた。

そんな、翼の涙を、クリスはそっと拭った。

「・・・ゆきね?」

「・・・信じよう」

クリスは、静かにそういった。

「まだ、死体も見つかってねぇんだ。だから、きっと帰ってきます。あの先公が、そう簡単に死ぬはずがねえって知ってるでしょう・・・」

「だけど・・・生存は、絶望的で・・・」

「先輩が信じなくてどうするんすか!」

翼の両肩を掴み、クリスは咆える。

「好きなんだろ!?あの先公のことが好きなんだろ!?だったら最後まで信じ抜くってのが筋なんじゃねえのかよ!!それとも、先輩の想いってのはその程度なのか!?」

「そんな訳ないだろうッ!!」

翼が、そう怒鳴り返す。

「戦兎が好きだ!大好きだ!そんな私の想いが、その程度の筈がないだろう!!」

言って、気付く。

ここは病院、こんな大声で叫んだら、迷惑以外のなんでもない。

しかし、それでもこの想いを叫ばずにはいられなかった。

だって、その程度だと思われるのが、我慢ならなかった」

「なら、それでいいじゃないですか」

掴み返したクリスの顔は、とても穏やかで、安心していた。

その表情に、翼は毒気を抜かれたように脱力し、そしてふっと笑う。

「はは、雪音にここまで手玉に取られるとはな・・・」

「何言ってんすか。想ってんのは先輩の方だろうが」

「だな・・・」

そう言って、翼は突然、クリスに寄りかかるように抱き着く。

「せ、先輩!?」

「すまない。だけど、今はもう少しだけこうさせてくれ・・・」

その翼の声に、クリスは何も言わず。

「・・・分かったよ」

ほんの少しの間だけ、翼の要求を聞き入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――深夜。

 

「はあ・・・はあ・・・」

弱々しい呼吸を繰り返すエルフナイン。

そんな、エルフナインの病室に、一人、何者かが入ってくる。

その何者かは、エルフナインに繋がれた計測器の前に立つと、じっとそれを見ていた。

その者を、エルフナインは見つめ、そっと、その名を呼ぶ。

「せん・・・と・・・さん・・・?」

そこには、服はボロボロで煤だらけなのに()()()()()()()()()()戦兎がそこに立っていた。

「よ」

「帰ってたんですね・・・良かった・・・」

「それがよ、結構遠くまでぶっ飛ばされてな。地元の人に拾われて動けるようになったのが今朝。んでもって、ここまで来るのに何時間もバイクを走らせてきたってわけ」

「無事で、何よりです・・・」

そう、一安心するようにエルフナインは息を吐く。

「・・・そういや、アイツらどうだった?」

「元気・・・そうでした・・・でも、どこか無理をしていて・・・これじゃあ、だめ、ですね・・・」

そう、エルフナインは弱々しく笑って答える。

その言葉に、戦兎は拳を握り締めて、

「・・・そこにいるんだろ?」

そう、扉の方に視線を向けた。

そこに立っているのは―――

「キャロル・・・」

キャロル・マールス・ディーンハイムだった。

「・・・キャロル」

エルフナインの言葉に、キャロルはそう呟き。

「それがオレの名前・・・」

それは、全ての思い出を償却したが故の、当然の結末だった。

「記憶障害・・・思い出のほとんどを償却したばっかりに・・・」

キャロルが、ベッドの戦兎とは反対側の横に立つ。

「全てが断片的で、霞みがかったかのように輪郭が思い出せない・・・オレは、一体何者なのだ・・・?」

敵の策略に嵌り、踊らされていたが故の末路。

その結末は、あまりにも残酷過ぎた。

「ッ・・・」

その事実に、戦兎は思わず、顔を背ける。

「目を閉じると瞼に浮かぶお前なら、オレの事を知っていると思い、ここに来た」

「・・・君は、もう一人のボク・・・」

エルフナインは、記憶を失ったキャロルに、そう答える。

「オレは、もう一人のお前・・・?」

「ええ・・・二人で、パパが残した言葉を、追いかけてきたんです・・・」

その言葉に、キャロルは目を見開く。

「パパの言葉・・・そんな大切なことも、忘れて・・・」

「キャロル・・・」

キャロルは、エルフナインの前に膝をついて、懇願する。

「教えてくれ!こうしている間にもオレは、どんどん・・・!」

その、必死な様子のキャロルを見つめるエルフナイン。だが、突如として激しく咳き込む。

「お前!」

「エルフナイン!」

咳き込むエルフナインの口から、血が零れる。

もう、限界が近い。

「・・・・順を追うとね。一言では伝えられないです・・・ボクの体は、こんなだから・・・」

「オレだけじゃなく、お前も消えかけているんだな・・・」

エルフナインは、その言葉を聞き、天井を向く。

「・・・・うん」

そして、静かに肯定した。

この状況をどうにもできない戦兎は、ただその光景を見ていることしか出来ない。

だが、それでも手は出さなかった。

 

これは、二人だけの問題なのだから。

 

「世界を守れるなら、消えてもいいって思ってた・・・」

でも、と涙を流すエルフナインは続ける。

「今はここから消えたくありません・・・!」

そう、心の底からの想いを口にし、キャロルは、何か覚悟を決めたかのように目を閉じ、

「ならば、もう一度二人で――――」

そしてキャロルは、涙を流すエルフナインに―――その唇を重ねた。

 

それは、オートスコアラーたちもやっていた、『思い出』の吸収。

 

そして―――譲渡。

 

 

二人の手が、重なり合い、握り合い、そして―――燃える。

 

 

 

 

 

 

 

―――心臓が停止した。

 

その報告を聞きつけて、装者と、ライダーの中で唯一動けるシンは、すぐにエルフナインの病室へと向かった。

そして、中に飛び込んでみたものは―――一人の少女が、エルフナインが寝ていた筈のベッドの横に立っていたことだった。

「・・・キャロル・・・ちゃん・・・?」

茫然と、その名を呼ぶ響。

キャロル、と呼ばれた少女は、そのまま、何かを見渡すように首を動かし、そして―――

「―――ボクは」

振り返って、そう答えた。その瞳に、キャロルのような鋭さはなく――――エルフナインの柔和な眼差しがそこにあった。

 

そして、もう一人―――

 

「よっ」

その声に、翼は一瞬、息が詰まりそうになった。

その声がした方へ、顔を向けてみれば、そこには、一人の男が立っていた。

「ただいま」

何事もなかったかのように戦兎が、そう笑って言ってくる。

 

キャロルとエルフナイン、そして戦兎。

 

抱えていた三つの問題は、一片に解決したような場所で。

翼は戦兎に泣きつき、響はキャロルと一つになったエルフナインに抱き着く。

 

今、彼女たちが抱えていた全ての問題が解決した瞬間だった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後―――S.O.N.G本部、発令所にて―――

 

 

「・・・本当に、S.O.N.Gをやめるのか?」

「ああ」

弦十郎の言葉に、シンはそう答える。

弦十郎の前には、シンのビルドドライバーとスクラッシュドライバーが置かれていた。

ちなみに、スクラッシュドライバーはセレナが作ったものである。

「俺はどこまでいっても、戦いを求める気質からは逃れなれない。そんな俺の存在は、この組織にとっては害悪でしかない」

「だから、自分の力を存分に発揮できる組織へ転属する、と・・・」

 

―――シンは、ストレイ社の誘いを受ける事にした。

 

理由は、明快。彼の本性についてだ。

マリアが『優しさ』を捨てきれないように、戦兎が『愛と平和』を胸に生きているように、シンもまた、『戦闘』を求める気質からは逃れられない。

あえて、『ジャック・ザ・リッパー』としての自分を受け止める事で、精神的強さと技術的強さが向上したわけだが、その性質は、『殺人』そのものを良しとしないS.O.N.Gにおいては、あまりにも抑圧されるべき感情だ。

だから、シンはここを抜ける事にしたのだ。

 

―――政府に追われることを百も承知で。

 

「それで、君はここを抜けた後、どうするつもりだ」

「追手は斬って捨てる。俺の道を他人にどうこうされる筋合いはない」

「それは最もだな・・・」

ふぅむ、と弦十郎は考える。

何しろ、S.O.N.Gは国連直轄の組織。

そしてシンは数少ない仮面ライダーの一人。そんな男を、政府はみすみす手放すだろうか。

ちなみに、この部屋には、戦兎とマリアはもちろん、シンのS.O.N.G脱退を聞いて駆け付けた響、未来、翼、クリス、切歌、調、セレナ、慧介、龍我たちもいる。

「シンさん、本当にS.O.N.G抜けちゃうんですか?」

「ああ。俺のような奴がこの組織にいれば、いずれ不利な状況を作ってしまう」

「そんなこと・・・」

「話し合う前にまず斬る・・・それが俺だ。だから、お前とは相容れない」

響の言葉を否定して、シンは弦十郎に向き直る。

「どちらにしろ、明日の早朝には辞表を叩きつけて出ていくつもりだ。まさか、殴ってでも止めはしないだろうな」

「できれば・・・と言いたいところだが、確かにお前の存在はこの組織においてはあまりにも異質だ。いずれ、この組織の大きな障害となるだろう」

「師匠・・・!」

響が、信じられないとでもいうように、声をあげるが、弦十郎はあえて無視。シンに判決を言い渡す。

「八紘兄貴に言っておいてやる。だから―――君のS.O.N.G脱退を認める。速やかにここから出ていくがいい」

上司として、組織を担う者として、弦十郎は一つの決断を下した。

「今まで世話になった。ありがとう」

そしてシンは、一つ礼を言い、そして、発令所の扉へ向かおうとする。

「シン!」

そんな彼に、切歌と調は駆け寄る。

「本当にこれでいいの?」

「まだ、何か、その・・・何かないんデスか!?まだいたいとか、そういう・・・」

「ああ。俺がいれば、いずれこの組織の大きな障害となるだろう。最悪、この組織がなくなり、新たな組織が設立される可能性がある。その組織の司令が、風鳴弦十郎とは限らない」

「それでも・・・私たちは『家族』・・・だから、もっと頼ってくれても・・・」

「ありがとう。だが、お前たちを人殺しの道に引き込むわけにはいかない。例えそれが家族であっても、俺はこの道を行くと決めた」

そういえば、二人は何も言えずに俯く。

そんな二人に、慧介が肩に手を置く。

「調、切歌・・・」

「・・・分かってるデス」

慧介の言葉に、調と切歌は頷く。

それを見て、シンは次に戦兎の方を見る。

「すまない。お前のライダーシステムを血で汚してしまった」

「全くだ。・・・ったく、人が善意で作ったもんを仇で返してくれるとはな」

「すまない・・・」

「まあいいさ。科学は使う人間によって変わる。科学自体に良いも悪いもないさ」

「そうか・・・」

「まあ、なんだ。向こうでも元気にやれよ」

と、ぶっきらぼうながらもそう言う戦兎に、シンはふっと笑ってしまう。

「じゃあ、俺はこれで―――」

「シン」

「ん?・・・ッ!?」

出ていこうとするシンの名を、突然マリアが呼ぶ。それに反応してシンが振り返った瞬間、シンに向かって何かが投げられていた。

それは、弦十郎の前に置かれていた筈のビルドドライバーとスクラッシュドライバー、そしてウルフフルボトルとフェンリルレリックアサルトボトルだった。

「一度に投げる奴があるか・・・」

それを見事に受け止めたシンもシンだが。

「・・・それをもってシミュレーションルームに来なさい」

「・・・」

そして、それを投げたであろう張本人は、真剣な眼差しでシンを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

シミュレーションルームにて。

「それで、これで俺に何をさせる気だ・・・なんて聞くのは野暮か」

「随分と察しが良いのね」

シミュレーションルーム内にいるのは、シンとマリアの二人だけ、他の者たちは、全員外で待機している。

 

マリア曰く『終わるまで手出し無用』という言葉を受けて。

 

「ここにいるのはお前と俺の二人。そしてお互いの手には戦う為の力・・・」

マリアの手にはアガートラームウルフが、そしてシンの手にはビルドドライバー。

「ここまでくれば、何がやりたいのかは大体わかる」

そう言って、シンは躊躇いもなしにビルドドライバーを腰に巻く。

「ええ、そう。S.O.N.Gを抜けるんですもの。手荒い送別もあってもいいんじゃないかしら?」

 

『STANDBY…!』

 

マリアがラムのスタンドアップスターターを押し、すぐさまラムを白銀色の炎の狼へと変貌させる。

「それとも、こういうのはお嫌い?」

「まさか」

 

Start Up』

 

クライムウルフにウルフフルボトルを装填する。

「こういうのは大歓迎だ」

 

CRIME WOLF

 

シンが、ボルテックレバーを回す。

 

 

 

「あのー、これって大丈夫なんですかね?」

「別にいいんじゃね?」

セレナの言葉に戦兎はそう答える。

「最後まで手出し無用・・・それは即ち、何が起きようとも、この勝負に、一切の立ち入りを禁ずるということ・・・・」

「いや、それじゃあ危なくねえか!?」

クリスがそう声を挙げる。

「いいんですよ。それで」

そのクリスに、慧介が答える。

「どちらにしろ、これが最後・・・わだかまりなくしたいじゃないですか」

 

 

『Are You Ready?』

 

 

「シミュレーター、起動―――ステージを市街地に設定。起動します」

藤尭が、手慣れた手付きで、シミュレーターを起動。それによって、二人の存在する空間が、突如として街の中へと変わる。

 

「変身」

 

それを確認すると同時に、シンがそう呟き、

 

「―――Seilien coffin airget-lamh tron(望み掴んだ力と誇り咲く笑顔)―――」

 

マリアが、聖詠を唄う―――

 

 

『Start Up Lightning!Let's CRIME WOLF!Yeah!』

 

 

シンが、灰色の装甲をその身に纏い、マリアが、白銀の戦装束をその身に纏う。

シンからクライムへ―――クライムが背中の雷切を抜き、マリアが左腕の短剣を逆手で握る。

静寂―――後に―――

「「ッ!!」」

二人同時に走る。

そして、互いの刃が激突する。

耳鳴りがするほどの金属音が鳴り、二人は激しく鍔迫り合う。

それは長くは続かず、互いに弾き合い、至近距離で二人は剣戟に踊る。

振り下ろしを回転をかけながら躱し、そのまま薙ぎ払えば、刃の切っ先は胸の装甲を掠めるだけ。すかさず蹴りが飛んできて、それを左腕で受け、すかさずその左腕から無数の短剣を取り出してはそれを放つも、それを至近距離だというのにほとんど叩き落され、そのうちの何本かを掴み取られ投げ返される。

それを弾き飛ばし、再び刃の切っ先が胸めがけて飛んでくる。

それを身を捻って躱し、蹴りを返して見せたのだが、見事に掴まれ、そのまま振り回される。

地面に叩きつけられる前に左腕のギアを変形させ、ブースターを点火、わざと自ら回転することでその手から逃れる。

そしてそのまま少し離れた所に着地する。

そして、ふっと、笑ってしまう。

クライムが、恐ろしい速度で走ってくる。それをマリアは、蛇腹剣で迎撃する―――

 

 

「どっからどうみてもガチじゃねえか」

クライムとマリアの二人の戦いをポップコーンを食べながら眺める龍我がそうぼやく。

「これ大丈夫なのか・・・って待てそのポップコーンはどこから出した!?」

「ん?食堂で売ってたから買った」

「でも、二人とも楽しそうです・・・」

ぶつかり合う、クライムとマリア。その一撃一撃が、互いの命に突き刺さりそうなものなのに、それに晒されている二人の動きは、そんなことを気にしていないかのように軽快で、鋭く、容赦がなかった。

クライムは仮面に隠れて分からないが、少なくともマリアは笑っていた。

剣と剣がぶつかり合う度に火花が散り、時に交わる拳と蹴りもまた、ぶつかり合う度に、鈍い音が響く―――

それでも二人は笑っていた。

 

 

 

「――マリア!」

戦いの最中で、クライムが叫ぶ。

「腕を上げたな!」

「当然よ!」

マリアが、得意気に言い返す。

「でないと、貴方とタメを張れないでしょう!」

 

『Links Arms!〔Region Sword〕!』

 

七つの剣を呼び出し、それをもってクライムに猛攻を繰り出す。

それをクライムは巧みな剣捌きで凌ぐ。

「ずっと、貴方に追いつく為に努力してきた」

そんなクライムに、マリアはゆっくり近づく。

「戦場で育ってきた貴方に見合うような女になるためにはどうすればいいか、ずっと考えてきた」

その短剣を左腕のガントレットに装着し、ガントレットを変形させる。

「それで行き着いた答えは、貴方と同じくらい強くなることだった」

「ッ!?」

マリアが、砲門をクライムに向ける。

そして次の瞬間、超至近距離で、白銀の咆哮が放たれる。

 

HORIZON†CANON

 

放たれるレーザー砲。しかしクライムは、それをギリギリ横に飛ぶことで躱していた。

「だから・・・」

ガントレットを元に戻し、そして短剣を再び右手で握る。

「私は今ここで、貴方に勝って貴方に守られるだけの女じゃないって証明する!」

そう言って、マリアは胸元のマイクユニットに手を駆ける。

 

 

その様子は、モニターに映っていた。

「まさかイグナイトを!?」

その行為に一同は動揺する。

「くっ、これ以上はやらせちゃまずいだろ!」

「行くな」

止めに入ろうとするクリスを、戦兎が止める。

「っ、なんでだよ!?」

「今回ばっかりは―――最後までやらせた方がいい」

その戦兎の言葉に、クリスは唖然とし、そんなクリスの肩に、龍我が手を置く。

それに、クリスは黙って、戦いの行方を見守る――――

 

 

 

「イグナイト・・・どうやら、ここからが本番らしい」

「ええ、そうよ・・・だから、貴方も全力で来なさい!」

マリアが、叫ぶ。

「いいだろう」

クライムが応じて、ビルドドライバーからクライムウルフを抜き、変身を解除する。

そして、ビルドドライバーからスクラッシュドライバーへと変え、そして、フェンリルレリックアサルトボトルを取り出す。

 

Killing

 

そして、それをスクラッシュドライバーに装填する。

 

フェンリルゥ…!!

 

「イグナイトモジュール、抜剣ッ!!」

マリアが、イグナイトモジュールを起動し、シンが右手を左肩あたりまでもっていき、そして、叩きつけるようにアクティベイトレンチを叩き下ろす。

 

「「変身ッ!!」」

 

『DAINSLEIF』

 

砕くゥ!暴れるゥ!!狂い出すゥッ!!!

 

フェンリル・イン・アサルトクライムゥッ!!!

 

ヒィハァァァア!!!ヒャハハハハ!!!

 

アガートラームのイグナイトモジュール。

仮面ライダーアサルトクライム。

呪いと狂気。その二つがここに対峙する。

「―――今一度名乗ろう」

クライムが、刀を手の上で回し、マリアに向ける。

「俺は『ジャック・ザ・リッパー』。キリフデラの白い悪魔・・・この狂気、その身に受ける覚悟はあるか」

マリアが、蛇腹剣を鞭のように地面に叩きつける。

「ええ、そう。貴方はジャック―――だけど、私の知る『シン・トルスタヤ』も、同じ貴方。一人で二つの名を持つ人・・・どっちも貴方であるというのなら、私はそのどちらも超えてみせる!」

その返事に、クライムは仮面の奥で満足そうに微笑む。

(ああ、そうだ)

刀を改めて構えるクライム。

(『ジャック』も俺、『シン』も俺―――所詮俺は俺だ。どっちが本当の名前であっても、俺は俺という『本性』からは逃れられない・・・)

マリアも、その手に持つ短剣を構え、そしてその周りに七つの剣(レギオンソード)を侍らせる。

(だが、俺はもう、その本性から逃げない。受け入れ、俺として振るい続ける。それに気付かせてくれたのは、お前だ、マリア)

だから、とクライムは柄を握り締める。

(今の俺に出来る、最大限の感謝をもって―――)

「お前を倒すぞ、マリア」

そう、クライムはマリアに向かってそう言った。

その言葉に、マリアは不敵に笑う。

「いいえ、貴方を倒すのは私よ。シン」

沈黙が、一瞬―――

「いざ、参るッ!!」

その言葉と共に、クライムは駆け出し、

「かかってきなさい!!」

マリアは、クライムに向かって七つの剣をクライムに解き放つ。

銀色の閃光、赤い稲妻―――その二つが交錯し、激しく火花を散らす。

互いの全身全霊をもってぶつかり合い、己が全てをもって、その刃を振るう。

本気も本気で、二人はぶつかり合う。

 

 

 

「―――なんというか、まあ・・・」

その光景を見ながら、慧介は頭を掻く。

「慧くん・・・?」

「これがシンたちなりの愛の表現の仕方って奴なのかな・・・」

言われて、一同は思う。

 

なんとも、曲がりくねった愛情表現だな、と。

 

「でも、二人とも楽しそうデス」

「やってることは物騒だけどな」

激しい剣戟が、二人の間で踊りを描く。

しなるマリアの体がクライムの斬撃を躱し、唸るクライムの刃がマリアを捉えようと振るわれる。

互いに一進一退。

しかし、その戦いにも終わりがくる。

 

 

 

互いの一撃が互いを大きく退け合う。

そして、開いた間をもって、二人は同時に勝負を決めにかかる。

 

アサルトアップフィニッシュ…ッ!!!

 

クライムがアクティベイトレンチを叩き下ろし、そのまま恐ろしい速度でマリアに迫る。

それに対してマリアも黙ってみている訳ではない。

左腕のガントレットに短剣を装着、肘側に伸びた刃の周りにレギオンソードを連結させ、その刃に白銀の粒子型のエネルギーを纏わせる。

そして、そのエネルギーを開放し、飛び出し、そのまま突っ込みながら回転。

クライムが稲妻の如きスピードで迫り、その勢いのまま斬撃を放つのであれば、マリアは自らを回転させ刃の速度自体を加速、威力だけでも追いつく。

肉眼では捉えられない速度で走るクライムと、もはやコマにしか見えないほどに回転するマリア。

その最中で、クライムは飛び上がり、右足の裏で雷切の柄を掴む。

そのまま体を大きく捻り、突っ込んでくるマリアに対して、自らも突っ込む。

「ハ―――ァァァアァアアア!!」

そしてマリアも、粒子型エネルギーの噴射に加え、ガントレット自体にも内臓されているブースターも点火。

それによって上乗せされた破壊力をもってマリアは漆黒に染まった銀腕を振るう。

 

―――そして、二人の全身全霊の一撃が、互いに叩き込まれる――――

 

 

SEVENSΩSERE†NADE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこかの路地裏にて、エリザとアルフォンスはそこにいた。

そして、そんな彼女らに近付く者が一人。

「あ、遅いわよ、ジャック」

それに気付いたエリザが、その者―――シンに駆け寄った。

「すまない。少しごたついてな」

「引き止められたりとかしたの?」

「いや―――決闘をやっただけだ」

そういうシンの表情は晴れ晴れとしており、その様子にエリザは何回か目を瞬かせると、

「もしかして・・・あの女狐?」

「む、マリアのことであるなら、そうだが・・・」

その時、エリザの中で黒い何かが芽生える。

「へー、ふーん、そう・・・」

「・・・エリザ?どうした?」

「べっつに~」

何か、黒いオーラを滾らせてそっぽを向くエリザにシンは首を傾げる。

「まあまあ。さ、そういうわけで、そろそろ行っちゃおうか」

「ああ」

「それと、一つ聞くけど、ライダーシステムはどうしたの?」

アルフォンスの問いかけに、シンはふっと笑って答える。

「没収された」

「だろうね」

アルフォンスはそう返す。

「それで、いかないのか?でないと追手がくるかもしれないぞ」

そうおどけてみせるシンに、アルフォンスはやれやれと言った様子で首を振る。

「はあ、君という男は、意外にトラブルメーカーなのかもしれないね」

そう言って、アルはその手にテレポートジェムを取り出した。

 

 

 

 

 

「・・・おーい、マリアー、生きてるか?」

翼が、そう声をかける。

「・・・ええ、生きてるわ」

その問いかけに、マリアは短く答える。

「何笑ってんだお前・・・」

もう一方から、クリスがジト目でそう声を掛けてくる。

それを言われて、マリアはその笑みをさらに深める。

「だって、見事なまでに負けたのよ?笑うしかないじゃない」

思いっきり負けて、その結果がこれだ。

自分は、彼に負けた。

「勝手な判断で私闘をした挙句に無様にやられるなんて、情けないにもほどがあるわね」

「頭打っておかしくなったわけじゃねえよな?」

「貴方私をなんだと思ってるのかしら・・・?」

随分なクリスの物言いに少しイラつきつつ、マリアは既に立ったであろうシンの事を想う。

(向こうでも、頑張ってね。シン)

 

―――私はいつでも応援しているから。

 

 

 

その後、切歌と調に泣きつかれ、セレナから少しきつい説教を受け、戦兎と弦十郎からは労いの言葉をかけてもらったマリア。

別れの一撃。しかしそれは決別ではなく、送る者と送られる者の、挨拶のようなものだ。

だから、別に後悔なんてない。

 

 

 

―――シン・トルスタヤは、S.O.N.Gから脱退した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――数日後―――

 

 

「――――それで、戦兎は無事だったってわけね」

喫茶店『nascita』にて、一海からその話を聞いて美空が安心したようにそう言う。

「そんな所だ。ま、あいつがそう簡単に死ぬわけがねえってのは分かってたけど」

「だけど、よく秋田までぶっ飛ばされて無事だったわね。ライダーシステムのお陰かしら?」

「そこんところは戦兎もよくわかんないんだと」

ハザードレベルのお陰か、傷が癒え、どうにか歩ける程度にまで回復した一海は、今こうしてnascitaにて美空に報告しているのだ。

ちなみに、同様に回復した幻徳は既に政務に戻っている。

しっかりと、政府長官の任を全うしているようだ。

紗羽は仕事で来ていない。

「しっかし、シンフォギアとライダーシステムの合体かぁ・・・まるで『奇跡』みたいねぇ」

「まさかのコラボレーションなんて、なんかテンション上がりますね!カシラ!」

と、言うのは一海についてきた赤羽である。

「いつか他のライダーもギアを纏う日が来たりして」

「バカかお前ら。それじゃああいつらが戦えねえだろ」

と、言ってふと思う。

(ってか、仮面ライダーにシンフォギアを纏わせることが出来るなら、その逆も出来るんじゃね・・・?)

考えてみれば、装者の歌によってボトルが変化するというのなら、そのボトルを逆に利用してシンフォギアを強化することは可能なのではないか、と考える一海。

実際に、リンク・アニマルにはボトルスロットが搭載されており、それにボトルを装填してシンフォギアを強化する、という事自体は戦兎自身ですでに思い至っている事だ。

 

さて、そんなシンフォギア装者たちだが、戦いという場において、過酷な環境で育ってきた彼女たちの『ハザードレベル』は一体どうなっているだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、先公が帰ってきた時の先輩の泣きっ面ときたら、卒業式に見た時以来の泣きっぷりだったよな」

「もう、そんなこと言ってたら翼さんに怒られるわよ?」

公園のベンチにて、クリスと未来はそう言い合う。

ちなみに響は、洸と共に故郷に戻っている。理由は言わずもがな、だが。

「でも、生きてて良かった」

「だな」

未来の言葉に、クリスはそう頷く。

「あ、そうだ。前々から気になってたんだけどよ。装者だってバレる前に、あの先公と色々と訓練してたんだろ?どんなんだよ?」

「え?あ、えーっと・・・なんというか、クロのダイレクトフィードバックシステムを利用して、それで仮想空間でいろんな敵と戦わされた感じかな・・・」

「へえ・・・聞くけど、どんな奴らと戦ったんだ?」

「えーっと、戦兎先生や龍我さんたちのような仮面ライダーはもちろん、響たちとも戦ったよ。それに、スマッシュとも。だけど、なんだろう、一人だけ、よく思い出せない人がいるんだよね。仮面ライダーだった筈なんだけど・・・・なんというか、白かったような・・・」

「白かった?そんな奴いた・・・いたな」

思い至る節があり、クリスは失笑する。

「なんて奴と戦わせてんだあの先公は・・・」

クリスは、心なしかどっかでドヤ顔しているであろう天才物理学者(笑)を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

風鳴弦十郎邸にて―――

「う~ん・・・」

慧介は縁側に座って頭を捻っていた。

「どうしたんだ?慧介君」

「んぬぎ!ふぬぐ!!」

「ああ、いや、なんというか。この特訓法がどうにもしっくりこないな~・・・なんて」

「ふむ。映画の鍛錬法は効果はあるのだが、君の体には合わなかったか」

「ぐぬぬぬぬ・・・!!!」

「いや、成果はあるんですよ。ですが、なんかこう・・・・力技じゃなく、技術的と言うか、細かい作業的な何かというか・・・」

「ふぅむ・・・」

「え?あ、ちょ、あぁぁぁあ!?」

ドンガラガッシャーン!

弦十郎が掴んでいた手を離されたことによって思いっきり転がっていき立てかけてあった木版に突っ込む龍我。

「ああ・・・」

「細かい作業か。精密な動作なら、俺でも出来ない事がないが・・・」

「弦十郎さんの実力は知ってますが、ただ、なんというか・・・筋肉質になりたいわけじゃなく、この柔らかい体を十二分に生かせる技術が欲しいんですよね・・・」

先日の戦い以降、自分の弱さを実感していた慧介は、響の勧めで弦十郎に稽古をつけてもらっているのだ。

以前はシンがいたために、訓練にそれほど不自由はなかったのだが、それでも自分の力不足を感じているがゆえに、慧介は弦十郎の所に、龍我と共に訪れていたのだが。

「柔らかい体を生かせる技術か・・・俺としては、中国武術あたりを君に勧めたいところだが・・・」

「何か、何かが違うんですよ。中国武術でもない、どっかの国の格闘技じゃない、そういう、なんというか・・・ああもうなんかしっくりこないぃぃぃいい!!」

頭を抱えて天を仰ぐ慧介。

「まあ、悩んでても仕方がない!今は体を動かして、その頭を一度空っぽにした方がいいだろう!」

そう弦十郎が快活に言った直後だった。

 

―――緒川が風と共に現れた。

 

比喩ではなく文字通りにだ。

「司令、至急、お知らせしたい事が」

「なんだ?」

「風鳴機関が、葛城忍博士にライダーシステムの作成を依頼したとの報告が」

「なんだと!?く、あの親父のことだ。国防の為の手段の一つとするつもりか」

「ついで、国連からライダーシステムとシンフォギアシステムの視察も重なっています。氷室長官から、もしもの為に護衛を一人派遣してほしいとのことで・・・」

「そうか・・・ならば、マリア君が適任か」

「では、そのように手配を・・・」

「ああ、頼む」

「―――それだぁぁぁあああ!!」

その時、慧介からそんな声が上がる。

「うお!?どうした慧介君!?」

「いきなり叫ぶな―――あぁぁあ!?」

龍我が、庭の池に落ちる。

「緒川さん!!」

「え?」

縁側から飛び出し、そのままアクロバティックに回転し、そのまま額を打ち付ける勢いで緒川の前で土下座をかます慧介。

「俺に忍術を教えてください!」

 

――――慧介が、緒川慎次に弟子入りした瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その報告を、翼は戦兎の口からきいていた。

「風鳴機関が、ライダーシステムを・・・」

神妙な面立ちで、翼はそう呟く。

「パンドラパネルからネビュラガスを抽出、それを利用してドライバーを作るんだと。ついで、国連からのライダーシステム視察団も来るから、それに合わせて作るんだと」

「そうか・・・」

それを聞いて、翼の顔が曇る。

「風鳴機関がライダーシステムを求めることは、それほど深刻なんですか?」

難波製作所から取り寄せたパーツを先日の戦いで歪んだりして使えなくなったウルフのパーツと取り換える作業をしながら、ツナギを来たセレナが尋ねる。

「第二次大戦期に旧陸軍が設立した特務機関。その亡霊・・・未だ国政に強い影響力をもち、予想される戦局打開のために、世界に先駆けて聖遺物の研究を行っていた所だ。今でいうところのS.O.N.G.に値する」

「んで、そこを仕切ってんのが風鳴訃堂だ」

「例の翼さんのお爺さんのことですね。ここ、締めるよ」

「ああ」

レンチでネジを締める。

「そして、風鳴訃堂の人柄上、ライダーシステムを渡すのはいいことではなさそうだな」

ウルフが、そう予想してくる。

「ああ、なんとしてでもお爺様にライダーシステムが渡らぬようにしなければ・・・あの力を使って何をしでかすか、分かったものではないからな」

「安心しろ。首相と幻さんが上手くやって、作ったドライバーをS.O.N.Gに寄贈するように取り計らうってさ」

「そうなのか・・・して、そのドライバーは一体誰が使うんだ?」

「目途が立つまで俺が預かる」

「あ、そう・・・」

即答した戦兎に、翼は苦笑する。

「・・・・そんで」

「なんだ?」

「いつまでここにいるんですか翼サン?」

かれこれ数時間はここにいる。

それを聞いた翼は、抱えていた兎のぬいぐるみに口にうずめて、いじけたように言い返す。

「戦兎が悪いんだ。戦兎が」

「え?俺?」

「死んだと思わせておきながらあんな気の抜けた挨拶をされたら、誰だってこうなる」

「いや、それなら他の奴らもここにいなくちゃだめだよな?」

「唐変木の戦兎には分からない」

「何故に唐変木・・・」

「同感です」

「全くだな」

「あれー俺が悪いの!?」

訳が分からない。とでも言いたげな戦兎の顔に、翼はふっと微笑む。

「あ、そういえば」

「ん?なんだ?」

「お前なんで俺の事を名前で呼んでるんだ?」

そんな単純な疑問をぶつける戦兎。

「あ、そういえば!」

「誰も言わないから気付いていないものとばかり思っていたが」

セレナが目をキラキラと輝かせて、ウルフが機械的な声をあげつつ、翼の方を見る。

それに翼は、少し顔を赤らめて、

「だめか?」

そう、こてんと首を傾げて言い返して見せる。

「別にいいけど」

が、戦兎からは素っ気ない返しがくる。

「まあなんだ。俺もそれなりにお前からの信頼を勝ち取れたってことだな。いやー良かった良かった」

「・・・・」

そして、的外れな事を言い出す戦兎に、翼は途端に不機嫌になる。

(そういうことじゃないのに・・・)

戦兎のことを『好き』だと自覚し、翼はほんの少し積極的に戦兎と関わろうとしていた。

いずれはまた日本を飛び立つことになる。

そして、しばらく戦兎と会えなくなる。

その前に、戦兎と一緒に過ごしたいと思い、こうして戦兎の家に、特に理由もなく居座っている訳なのだが・・・あまりにも戦兎が鈍いのだ。

いや、翼自身の不器用さもあいまって、それはまさしく滝を泳いで駆け上がるが如く、いやそれ以上に困難な事態に陥っているのだが。

「ってか、お前がいるだけで何故がすんごく散らかるんだけどなんで?」

「え!?あ、それは、その・・・」

気付けば、翼の周りではゴミやら部品やらが散乱しており、ただ座っていただけなのに戦兎の家の一部が地獄絵図と化していた。

「よし、たった今理解した。お前には片付けと言うものを一から叩き込まなきゃいけないようだなァ・・・」

「い、いや、今まで剣として生きてきたが故、そ、そういうのはあまり得意では・・・」

「だったらなおさらだ!今日一日をテメェの矯正の為に使ってやる!!」

「あ、せ、セレナ!」

「頑張ってください翼さん。私はもう散々扱かれましたから」シンダメ

「俺はAIだ。そのあたりはよくわからん」

味方はいなかった。

「う、うわぁぁあぁあああ!!」

 

―――その日から、翼の散らかり度合いが二割ほどマシになったという報告を緒川がもたらし、S.O.N.Gに激震が走ったのであった―――

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、エルフナインも元気になって、これで全て一件落着デスね!」

うきうきと買い物袋を片手に、そう言い出す切歌に、調がうなずく。

「うん。だけど、私たちが戦った所は、しばらく立入禁止区域になっちゃったけどね」

「戦兎先生が被害を抑えてくれなければ、どうなっていたことか・・・」

戦兎がグロリアスブレイクフォームのエネルギーを纏め上げる力を使い、エネルギーを吸収、変換し、再びエネルギー元に叩きつける事でエネルギーの対消滅を図り、計測より遥かに規模を小さく出来たあの爆発。

だが抑えきれなかった衝撃が、そのあたりの建物に少なくない被害を与えてしまい、結果としてそこら一帯が立入禁止区域として指定されてしまったのだ。

だがしかし、今はこうして皆生きている事を祝うべきだろう。

「今日は慧くんが疲れて帰ってくると思うから、沢山作らないと」

「今日はご馳走なのデース!」

そう、切歌は拳を振り上げる。

「心火を燃やして―――頑張るのデス!」

 

 

 

 

 

――――自らにとって、最大の戦いが待っている事を知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ッ!」

「ん?戦兎先生、どうかしましたか?」

翼に部屋の片づけを命令して、ウルフとアメに監視させている間、新たな発明品に取り掛かっていた戦兎は、顔をしかめて右腕を抑えだす。

「いや、気にすんな」

「はあ?」

しかし、何気ない表情で答える戦兎に、セレナは気のせいかと片付け、ウルフのパーツ換装に戻る。

そして、誰も見ていないことを確認して、戦兎は気付かれないようにそっと右腕を捲った。

 

 

その腕の皮膚に、煌めく何かがあった―――――。




次回、愛和創造シンフォギア・ビルドは!?


「―――仮面ライダー、舐めんじゃねえぞ」
「―――シンフォギア装者を舐めるなデス」


仮面ライダービルド―――最終章―――



グリスと切歌―――最期の戦い――――



新世界の戦士たちは―――もう一度、巡り合う――――






――――『悪魔』と『魔騎士』と戦うために――――



「これが最期のォ――――」



想いを、胸に――――



「―――祭りだぁぁぁああぁぁあああああ!!」
「―――デェェェェエエエッス!!!」






ビルドNEW WORLD―――VGM(ヴィガルマ)『仮面ライダーグリス wish イガリマ』






来年、公開―――









というわけで、まことに申し訳ないんですけど思いのほかリアルが忙しくなってきたので一旦ここで区切らせてもらいます。

来年、余裕が出来たら再開することになると思うので、何卒ご理解のほどをお願いします。


では、次回を楽しみにしててください!


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ビルド NEW WORLD VGM『仮面ライダーグリス wish イガリマ』
切歌、轟沈、そして傷心旅行へ!


戦「ただいまぁ読者の諸君!」
響「シンフォギア・ビルド!略して『シンビル』!今日より投稿再開です!」
龍「どーにか作者が大学受かって一安心って所だから、やっと再開できるって喜んでたぜ」
ク「やぁっとアタシらの出番だな。お前ら!龍我の活躍を楽しみにしとけよ!」
翼「そこは戦兎ではないのか雪音!?」
ク「彼氏応援すんのは彼女の役目だろ」
翼「何を言う!この物語の主人公は戦兎だろう!寝言は寝て言え!」
ク「何言ってるんすか!?つい一年前まで龍我が主役だったじゃねえか!先輩こそ寝言は寝て言え!」
響「あるぇ?そもそも原作の『戦姫絶唱シンフォギア』の主人公は私なんだけどなぁ!?」
戦「ていうかお前ら!俺を差し置いて何勝手に盛り上がってんだ!?」
幻「そうだそうだ!俺も忘れるな!」復活Tシャツ着て
龍「幻さんは相変わらずだな!?」
マ「ちょっと!私たちも忘れないでよね!」
翼「マリア!?」
調「慧くんの事も忘れないで」
慧「いやー、俺とシンはオリキャラだから覚えてる人少ないと思うよ?最近じゃあウィザードやゴーストやら面白そうなの増えてるし、俺影薄いし」
シ「うむ、忘れ去られるのも当然」
マ調「お願いだからそんな悲しい事言わないで!」
エリ「そうよ!私たちオリジナルキャラはただでさえ原作キャラより影薄いんだからもっと自己主張しなさい!」
アル「エリザちゃん落ち着いて・・・」
狼「そうだぞ。オマージュキャラとは言え俺も影が薄い方だからな」
セレ「ウルフも悲しい事言わないで。それに私もあれだし・・・」
弓「影の薄さなら!」
詩「私たちだって!」
創「負けてないよ!」
未「落ち着いて!貴方たちはXDで結構活躍してたでしょ!?」
戦「何影の薄さ大会開催してんだ!?開始早々何悲しいことで争ってんのよ!?」
響「戦兎先生、これが半年近く忘れ去られていた者たちの心の叫びです」
影が薄い一同「良いよなぁ主人公たちは!」
戦「うるさぁい!世の中には主人公補正っていうものがあるの!それがない君たちはそもそも負け組なの!Do you understand!?」
一同「ふざけんな!」
エボ「というわけであらすじ紹介だァ!」
一同「!?」
エル「火星で発見されたパンドラボックスによって引き起こされた『スカイウォールの惨劇』から十年と一年!様々な困難を乗り越え新世界創造を果たした桐生戦兎たち仮面ライダーは、その新世界の新たな脅威『ノイズ』と戦うシンフォギア装者と出会った!」
エボ「そして装者たちと共に数々の困難を乗り越え、束の間の平穏を手に入れたのでしたァ!!」
戦「何さらっとあらすじ紹介しちゃってんのエボルトォ!?」
エボ「俺も久々の登場でテンションアゲアゲなんだよねぇ!」
響「なんだかいつもよりテンション高いですね・・・」
マ「あれ?そういえば切歌の姿が見えないわね・・・」
慧「一海さんの姿も・・・」

「「ハァーハッハッハッハッハ!!!」」

一同「!?」
一「ついにこの日が」
切「来たのデース!」
戦「一海!?」
響「切歌ちゃん!?」
一「影が薄いそこの雑魚どもォ!残念だが今回のエピソードはまるごと俺たちが主役だァ!!」
一同「な、なんだってぇ!?」
切「そうなのデス!だからもっと影が薄くなるがいいデース!」
ク「龍我の次はお前らかよ!?」
一「そのとぉーり!!残念だったなヒゲェ!」
幻「黙れポテトォ!!」
切「さあそういうことデス!シンフォギア・ビルド、新たな一ページをみr・・・」
弦「収録に間に合ったかァ!?」扉バーン!
切「くべあ!?」ひゅ~べちゃっ
調「き、切ちゃんが死んだ!?」
シ「このヒトデナシ!」
弦「む・・・?」
戦「・・・・というわけで再開したシンフォギア・ビルドをどうぞ!」
龍「なんか締まらねえな・・・」


「―――うぉぉぉぉおおおぉおお!!」

「甘いですよ」

「あ、避けられた―――背中痛ッ!?」

 

高速回転しながら緒川に突っ込んでいった慧介。しかしその一撃が躱され、背中から木に激突する。

「ぐぉぉぉお・・・俺の超文明飛鳥文化アタックがぁぁあ・・・・」

「大声あげて襲い掛かるのは愚の骨頂ですよ」

桃色の上着に緑のズボンといったジャージ姿で地面に倒れる慧介に、緒川はそのように厳しい言葉を投げる。

「しかし、音を出さない足運びなどは流石です。まだ粗いとはいえ、見様見真似でここまでやれるのは僕が見た中でもほんの数人です。磨けば数年に一人の逸材になるかもしれません」

「マジっすか?お世辞っすか?」

「少なくともお世辞ではありませんよ」

「うらっしゃぁぁ!!」

「ですがまずはその感情的な性格をどうにかしましょうか」

「あ、ハイ」

緒川からの手厳しい言葉を受けつつ、慧介は再び、緒川との特訓に挑む。

 

―――ことの発端は実力に伸び悩んでいた慧介が緒川の忍術を見てからであった。

 

それを見た慧介はすぐさま緒川に弟子入りを志願。弦十郎の押しもあって、緒川が折れる形(なお断る気はなかった模様)で慧介は緒川に弟子入り、そして、ここ一週間、慧介はずっと緒川の元で忍者の修行に勤しんでいた―――

 

 

 

「頑張るデスね~慧介」

「うん。本当にすごい」

その様子を、切歌と調はアイスを食べながら見ていた。

「緒川さんに弟子入りするって聞いた時は驚いたけど、でも、これで慧くんはもっと強くなる・・・」

「イグナイトがあるとはいえ、ライダーの力は、シンフォギアよりも上デスからね」

イグナイトを用いても、ライダーたちの力は相当なもので、特にクローズとビルドの力は次元を超えていた。

彼ら曰く、『ハザードレベル』が関係しているとのことだったが。

「マグマ使われたら誰も勝てない・・・」

「ラビラビとタンタンも大概なのデス」

それを思うと、二人の中で一つの不安が芽生える。

「私たち、また慧くんと引き離されちゃうね」

二人の見る先では、緒川の教える事を必死に実践しようとする慧介の姿があった。

走り方、身のこなし、体術、挙句の果てには手裏剣や苦無の投げ方まで、学べる事は学ぶという姿勢をもって、緒川の訓練にどうにかしがみついていた。

彼がどうしてそこまでするのか。

彼曰く『俺は特訓の達人(受ける方)だ』と言い張っているが、それだけではない気がする。

何しろ彼は、ライダーの中で最弱なのだから―――

「アタシたちも、頑張らないとデスね」

「うん・・・」

「だ・・・はぁ・・・」

「「あ」」

ばたんきゅーと倒れる慧介。

「いやぁ、飲み込みが早いものですからついつい本気になってしまいました」

「慧くん、大丈夫?」

「あ、安心しろ調、俺は特訓の達人(受ける方)、だ・・・」

「あ、死んだデス」

「勝手に殺さないで切ちゃん・・・」

しかし、ここまで本気になって訓練に励む慧介を見て、調は思う。

(慧くん、本当に頑張ってる・・・)

毎日、緒川を捉える為に、緒川から教わったことをメモに取ったり、出来ない時は必至に覚えて、そして、家で言われた通りの訓練メニューをこなして、陰ながらに見てきた、慧介が本気だというのは誰よりも分かった。

(応援、してあげたい・・・)

何か、差し入れでも用意してあげたい。

(あ、そうだ)

そこで、調はあることを思い出す。

(慧くんの好きなモノはセレナと同じプリン・・・それを作って、サプライズとして慧くんにあげよう)

我ながら完璧な計画、と胸の中で胸を張って見せる調。

「調?どうしたデスか?」

「なんでもないよ」

しかし妙にウキウキしている様子の調に気付いた切歌が声をかけるも、調は切歌から慧介の口に入ることを懸念してその事を隠す。

(プリンの作り方誰が知ってるかな・・・後でS.O.N.Gに行って聞いてこよう)

お手製のプリン作ってみせた時の慧介の表情に、心を躍らせながら、調は復活した慧介が、緒川にしごかれていく様を眺めた。

 

 

 

 

 

意外なことに藤尭が料理が得意という情報を聞きつけ、プリンの作り方を教わって三日。

「できた・・・!」

綺麗な色合いと見事なほどにとろけるカラメル。

我ながら最高の出来だと胸を張る調。あとはこれにホイップクリームとかをトッピングすれば完成だ。

「初めての出来だけど、これで慧くんも喜んでくれるかな」

きっと、喜んでくれるだろう。疲れた体には甘いもの、とあの教師も言っていたのだから、間違いないだろう。

「あとは、慧くんが帰ってきた時に渡すだけ」

冷蔵庫に特製プリンを入れ、調はそう呟く。

ただ、その中には試行錯誤で作った、試作品のプリンが二つほど。

「・・・どこかで消費しよう」

調は心の中でそう決意し、冷蔵庫を閉じた。

「よし・・・ん?」

ふと、調は服が汗ばんでいる事に気付く。

そういえば、昨日からシャワーを浴びていなかった。

切歌は今日はどこかに出かけると言ってまだ帰ってきていない。

外も暗くなってきているが、慧介が帰ってくるにはまだ早い。

「慧くんが帰ってくる前に、軽くシャワーでも浴びておこう」

そう思い、調は浴室に入っていく。

そうして、シャワーの音が聞こえてきた所で、

「ただいまなのデース!」

切歌が元気よく玄関から入ってくる。

「あれ?」

しかし、調から返事が返ってこないことに首を傾げ、部屋の中に入ってみれば、浴室からシャワーの音が聞こえてくる。

「なんだ、シャワー中だったデスか」

それにて一安心し、ふと小腹が空いてしまった為に()()()()()()()

「何かないかなー・・・あ!」

そして、調()()()()()()()()()()()()()

「しかも手作り・・・しかもいくつもあるのデス・・・はっ!まさか調、アタシに内緒でプリンを作っていたデスか!?も~、仕方がないんデスから」

そう言いつつ、切歌は()()()()()()()()を取り出した。

「三つあるって事は、そのうち二つは調と慧介の分デスよね~。それじゃあ、いっただっきまーす!」

そして、瞬く間にプリンを平らげてしまい、調が出てくるまでテレビを見ている事をした。

そして、調がシャワーから出てくる。

「あ、切ちゃん、帰ってたんだ」

「そうなのデス。ただいまなのデス」

「おかえりなさい」

いつも通りの切歌の様子に、調はふっと微笑みつつ、冷蔵庫の方へ向かう。

そして中身を開けて―――プリンが一個、手前にあったものがない事に気付く。

「え・・・」

見間違いか。否、確かに一個なくなっている。

手前に置いていた、()()()()()()()()()()()プリンが、なくなっていた。

シャワーを浴びる前には確かにあった。しかし、それがシャワーから出てきた時になくなっていた。

そして、部屋には切歌一人。

こうなれば推測するのは想像に難くない。

「切ちゃん!」

「うわあ!?ど、どうしたデスかそんな大声上げて・・・」

「冷蔵庫のプリン食べた?」

「え?ああ、美味しかったデスよ」

「手前の、ものを・・・」

わなわなと震える調の様子に気付かず、切歌はなんでもないように言う。

「え?あれもしかして調のものだったデスか!?」

合っているようで、合っていない答え。

調の責め立てるかのような眼差しが、切歌を射貫く。

「う・・・」

それに、切歌は思わずたじろぐ。

「で、でも、調も悪いんデスよ?三つも用意してたんデスから、そのうちに名前でもかいておけば・・・」

ここで、素直に謝れば―――否、結果はそう変わらなかったかもしれない。

「あれは・・・慧くんにあげるものだった」

「え・・・」

俯いて、呟いた調の言葉に、切歌の言葉が止まる。

「いつも頑張ってる慧くんの為に、慧くんの大好きなプリンを作って、喜ばせようと思ってたのに・・・!!」

前髪の所為で、上手く、顔が見えない。

しかし、その顔から、煌めく何かが落ちている事は分かった。それが地面に落ち、小さな円状の、本当に小さな水たまりを作る。

「あ、あの、調・・・」

「・・・て」

「え?」

「出てって!!」

 

 

 

 

 

 

 

―――問答無用で家から追い出された。

 

 

 

「やっちゃったのデス・・・」

とぼとぼと夜の街を歩く切歌。

「まさか、あれが慧介のものだったなんて分かる訳がないじゃないデスか・・・」

調も調・・・なんて思えたらどれほど良かったか。

「調・・・」

泣いていた。

おそらく、いやきっと、慧介にあのプリンを渡すのを楽しみにしていた筈だ。

それを、自分は何も知らずに―――

「ぅぅ・・・」

それを思うと、切歌は自然と胸に手を当てていた。

「胸が、痛いデス・・・なんか、キャロルに貰った一撃より痛いデス・・・」

あれほど、調が怒ったのは一体いつ以来だろうか。

前にあれほど怒ったことは、あっただろうか。

しかも、あれほど一方的に、泣かせてしまったのは。

「はあ・・・」

代わりのものを買ってそれでご機嫌を取る・・・なんて考えはすぐに捨て去った。

おそらく、それほど単純な問題ではない。

一体、どうすればいいのか――――

「カシラー!!」

「カシラー!」

そこでふと、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

そちらを見れば、四人の人影があり、うち一人はなぜかタキシードを着込んでいた。

「みーたん、夜なべして作ったのにぃぃい・・・・」

「いてぇ・・・エボルトの攻撃よりいてぇ・・・いてぇ・・・!」

「旅に出ましょう!心の傷は、旅で癒しましょう!」

「カシラは俺たちがいねえとなんにも出来ねえからなぁ・・・仕方がない、付き合ってあげますよ」

「あ、あの・・・」

その時、まともな判断ができない精神状態だったのかもしれない。

「「「あ?」」」

「アタシもその旅・・・ついていってもいいデスか?」

そう言ったのが運の尽きだった。

「え?なんで切歌ちゃんここに?」

「てか顔色悪!?何があった!?」

「というかこれはカシラの旅、お子様がついてくるものじゃあ・・・」

「お願いデス!家から追い出されてその上無一文なんデス!!それにアタシのハートもズッタズタなんデスお願いします!」

「いや必死か!?」

「よぉし切歌ァ!お前もついてこォい!!!」

「「「カシラ!?」」」

 

 

 

結果、海にて―――

「新たな恋を目出してェ!出発だぁぁぁあああ!!!」

「おぉぉぉおお!!」

「デェェェス!!」

「ガブ!」

財布も携帯も通信機も全部置いていって、一海、赤羽、青羽、黄羽、切歌の五人は、ゴムボートを押して大海原へ出る!

「いっくぞオラァァア!!」

「もうどこにでもバッチコイデス!!」

「あ、待って!まだ乗り込めてない!」

「ほらほらアオちゃん頑張って!」

「行っちゃう!?行っちゃいますよォ!!」

「デスデスデース!!あ、マシャ、ゴムボート噛んじゃダメデスよ!?」

「ガブ!」

「ぁぁああ!?言った傍から噛み砕こうとしてやがる!?」

「やめるデース!!」

 

―――と、こんな感じに、彼らは大海原へ飛び出したのであった。

 

 

 

 

 

―――グリス編、完!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――と思っていたのか?

 

 

 

 

 

 

 

―――火星で見つかったパンドラボックスが引き起こした『スカイウォールの惨劇』から十年。その元凶だった地球外生命体エボルトを、()()()()()()()()()がぶっ倒してさらに、もう一つの地球と融合した新世界を作り出す。だが、一時的に復活したパンドラボックスの影響で人体実験を受けたものにだけ、旧世界の記憶が蘇ったのだった・・・。

―――カシラ!エボルトを倒したのも、新世界を作ったのも、仮面ライダービルドでしょ?あとで苦情来ますよ?

―――デスデス!

―――いいんだよ。俺が主役なんだから。

―――アタシも主役なのデス!

―――ていうか―――

 

 

 

 

 

「ここ、どこだ・・・?」

見渡す限りの岩岩岩、そしてその岩を囲む海。そこにいるのは一海、赤羽、青羽、黄羽、切歌の五人だけ。あとサメ型の小さな機械の一匹だけ。

「無人島ですよ。傷心旅行で遭難したんでしょうが」

「ねーヒロインは?みーたんに振られたんだし」

「え?美空さんに振られたんデスか?」

「いうなぁぁああ!!みーたんが、いなくたってなぁ!い、ぃ、いなくたってなぁ・・・!!おれにはみぃたんしかいねぇぇええ・・・・うえぇ・・・」

「あ、泣いたのデス」

「というか、お前はどうしてここにいるんだよ?」

「アタシデスか?いや、少し、調のプリンを・・・いや、実際にはそうじゃなかったんデスけど、それで調を怒らせてしまってデスね・・・」

「それは災難だったな」

「大丈夫デス!別に調がいなくても・・・し、調が、いなくたっても・・・あ、アタシには、調しかいないのデェェェス・・・・うわぁあああん!!!調ぇぇええ!!」

「こっちも泣き出した・・・」

「こんな未練たらたらでも、やるときはやる!かもしれない『仮面ライダーグリス wish イガリマ』をどうぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本東京都付近の海岸にて―――

何人もの武装した者たちが、波打つ海岸を走っていた。

その者たちが、先頭に立つ者のハンドジェスチャーによる合図の元、物陰に隠れる。

そして、合図が出ると、一斉に飛び出し、そして、街に向かって進んでいった―――

 

 

 

 

 

 

 

東京の街―――

「エルフナインちゃん、元気になって良かったね」

「うん!今は藤尭さんたちと一緒に、ウェル博士が残したLiNKERの設計図を解析している所だって」

「協力者の人のお陰で、予定よりもずっと早く解析が進んでるみたいだな」

「ほんっと、最後に良い置き土産をしてくれるもんだぜ」

未来、響、龍我、クリスの四人が、そろって街を歩いていた。

「そういや、お前、親父さんとはどうなんだよ?」

「うん、もうへいき、へっちゃら!・・・と、いいたいんだけど、一度出来た溝はそう簡単に埋まらないかな・・・」

「こればっかりは、時間をかけなきゃだもんね」

「うん」

響は、自分の掌を見る。

「すぐには無理でも、少しずつ、ほんの少しずつでもいいから、あの頃の事を取り戻せればいい・・・それに、今のお父さんなら、きっと大丈夫だよ」

響は、そう自信ありげに言ってみせる。

それに、他の三人は微笑む。

『次のニュースです』

ふと、耳にそのような声が入り、見上げてみれば、街の大型テレビに、あることが書かれていた。

 

曰く『サイモン・マーカス氏ら日本に来日』、と。

 

『今朝、国連直轄超常災害対策機動部タスクフォース『S.O.N.G.』視察の為に、サイモン・マーカス審議官を団長とする、国連視察団が政府官邸に来日しました。これにより―――』

「・・・うわー、私たち有名人ですね~」

「有名なのはS.O.N.G.なのであって、アタシらじゃねえだろ。それにシンフォギアやライダーシステムも表には出せねえ特秘機密だぞ?」

「この視察団、ライダーシステムの為に来てるんだよね・・・」

―――ライダーシステムの存在は、シンフォギアと共に、政府によって秘匿されている。

表向きは政府直轄の慈善事業である『S.O.N.G.』だが、シンフォギアもライダーシステムも天才『櫻井了子』の後任である『桐生戦兎』が一括に管理しており、その他、確保した聖遺物などを保管、管理している。

 

その為、聖遺物絡みの事件の専門家ということで、国連が認めた聖遺物専門の組織にして、『深淵の竜宮』が破壊されたことによって、国連にとってはタスクフォース『S.O.N.G.』が現状確認されている全ての聖遺物を保有していると言ってもいい。

その為、強力な武力と高度な技術を有する彼らの力は、一歩間違えれば世界を牛耳ることも可能とする力をもった組織だ。

そんな組織の保有する力について、彼らが恐れない訳がないし、それが一体どのような力なのかも知ってもらう必要がある。

「そういえば、視察団来日に備えて、マリアさんが護衛についてるんだっけ?」

「うん。マリアさん、上手くやってるかな?」

その疑問を浮かべながら、響は首相執務室にいるであろうマリアの事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

――――政府官邸、首相執務室にて。

「仮面ライダーは有事の際、シンフォギア同様最前線で市井の人々を守る、防衛システムの一環と捉えて頂きたい」

そう説明するのは、武力を望まず、話し合いで解決する姿勢を持つ日本総理大臣『氷室泰山』。

そんな彼の傍らに立つのはその彼の息子にして政府長官の『氷室幻徳』。そして、彼らのボディーガードである、桃色の髪と黒スーツ着込んでサングラスをかけた女性―――『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』である。

そこで泰山が言った言葉を、幻徳が英語に翻訳、泰山の向かいに座る『サイモン・マーカス』に伝える。

それを聞いたサイモンは、手元のタブレットを操作すると、それを彼らの前に差し出す。

そこには、二人の男の写真と、なにか、剣のような紋章が映し出されていた。

「―――《過激派テロ組織『ダウンフォール』がライダーシステムを狙っているという情報が入っています》」

それを覗き込む彼らに、サイモンは説明する。

「《もし彼らの手に渡ればどんなことになるか・・・》」

それが、マリアがここにいる理由だった。

ライダーシステムを狙うテロリスト。その者たちから新たに作られたライダーシステムを守るため、こうしてマリアが派遣されたということだ。

だがしかしである。

(こうして任務についている訳だけど、私としてはこの()()()ずっと行方不明の切歌を探しに行きたいってのに!あーもう早く終わらないかしらこの仕事・・・!そして切歌を引き込んだ一海は後で処す!)

表情には出さないが、内心かなり荒れていた。

「《ご心配なく》」

幻徳の声が耳に入り、マリアは意識を仕事に戻す。

「《研究所の警備は万全です》」

 

 

 

 

国立先端物質学研究所にて、

「《こちらがAI搭載の警備用ロボット『ガーディアン』です》」

幻徳が説明するのは、アサルトライフルを構えた人型兵器だった。

「《何か異変を察知すれば速やかに対処します》」

(これが旧世界の・・・)

マリアは、その人型兵器をじっと見つめる。

旧世界において、スカイウォールの出現によって三つに隔たれた日本は武力を求めた。

その結果が、生まれたのが人工知能搭載型人型護衛ロボット『ガーディアン』。

他者からの命令を必要としない自立型であり、個々の戦闘能力はともかく、合体して巨大ロボットになったり、他の無人機ではできない精密機械の操作など、人の範囲内における様々な行動が可能な日本政府の優れもの。

サイボーグでもない為、ある意味人道的でもある。

(こんなものまで開発していたのね・・・戦兎の話だと、時間流れの違いでこっちの方が未来の筈なのに、こんなアンドロイドの技術は確立されてなかったのよね・・・)

それもこれもスカイウォールの惨劇があったが故か。

と、研究室に向かっている中でサイモンが呟く。

「最先端のテクノロジーで外圧から守るというわけか・・・」

 

 

 

 

そして、研究室にて―――

そこの研究員が持ってきたアタッシュケース。それを開けば、中に入っているのは、戦兎たちが使っているものと同じ『ビルドドライバー』が入っていた。

それに、視察団の面々は感嘆を漏らす。

「これが、ライダーシステムの要『ビルドドライバー』です」

「《素晴らしい(Excellent)》・・・!《触っても?》」

サイモンの言葉に、アタッシュケースを持つ研究員の隣に立つ男が、手で促す。

 

―――その男こそ、戦兎の父にして、ライダーシステムの根幹を作った男『葛城忍』である。

 

「・・・そのドライバーは新しく作ったものですか?」

視察団がビルドドライバーを物色している間に、幻徳が忍に尋ねる。

「ああ、旧世界の記憶を辿ってね。ネビュラガスはホワイトパネルから生成した」

戦兎のもつパンドラパネルに残っていたネビュラガスを抽出、それによってビルドドライバーを完成させることが出来たのだ。

一応言っておくが、ジェームズが考えたものではなく、彼よりもパンドラボックスに精通している忍が自ら考えだしたものである。

「・・・葛城巧はまだ復帰してないんですね・・・」

その言葉に、忍は自虐的な笑みを浮かべる。

「・・・噂じゃ、どこかの研究所にこもっているらしい」

「・・・・」

その言葉に、マリアは耳を傾ける。

 

葛城忍。

かつて火星へロケットを飛ばす『極プロジェクト』の一人にして、パンドラパネルにまつわるプロジェクトの責任者でもある。

彼は、地球外生命体エボルトに、彼のベルトである『エボルドライバー』の修繕や、ロストボトルの生成を任されていた人物であり、多くの人々を殺し続けてきた男だ。

そして、全ては新世界を作り、スカイウォールの惨劇を起こしてしまった贖罪の為に行動していた男でもある。

新世界を創る理論を確立させ、なおかつそれを戦兎に託し、そして死んでしまった―――戦兎の父親。

 

 

「巧は、まだ旧世界で私に利用されたことを恨んでる・・・」

実際の所、ライダーシステムの開発の為に、多くの人々を殺してしまった巧。その罪悪感は、きっとすさまじいものであり、そう仕向けた忍に怒りを向けるのは当然の事だろう。

「・・・戦争を引き起こしたトラウマは、そう簡単には消せませんよ」

幻徳が、そう続ける。

その言葉に、忍は何も言わず、ふと、思い出したかのようにあることを、マリアに尋ねる。

「もう一人の息子は、元気か?」

その問いかけにマリアは、

「ええ、彼も彼なりに、研究に精を出しています、ドクター葛城」

 

 

 

 

 

No.3倉庫―――という名の戦兎の自宅にて。

「え?ネビュラガスあと一回分しかないんですけど?」

戦兎は目の前に立つ男に向かってそう言う。

その男とは、つなぎを着込んだ眼鏡の男―――『内海(うつみ)成彰(なりあき)』である。しかもその手には鉄製のステッキ。

旧世界にて幻徳の秘書を務め、今は『難波機械製作所』で働いている筈なのだが。

「いいから注入しろ。部下が難波チルドレンがどうとか、旧世界がどうとか騒ぎ始めた・・・」

そう言いながら、段ボール(戦兎改造型『DANポール(セレナ命名)』)製ネビュラガス注入装置の内部に立つ。

「私がその記憶を取り戻せば、難波製作所は、さらなる発展を遂げる筈だァ!!ハァーハッハッハッハ!!」

そう言って高笑いをした後、何事もなかったかのように装置に入る内海。

「・・・やめておいた方がいいと思うのだが」

それをジト目で見る翼。何故か巨大な赤い兎のぬいぐるみ(持参)を抱き抱えながら。

「同感だ」

内海が扉を閉じるのを見つつそう言い返し、戦兎は注入装置のスイッチを入れる。

「それにしても、まだ見つかんないのか切歌の奴」

「ええ」

スイッチを入れた所で、戦兎は翼同様部屋にいる慧介の方を見る。

「かれこれ一週間、どこに行ってるんだが・・・」

「そのうち見つかりますよ。一海さんも一緒なんですから」

セレナがそうフォローを入れる。

「はあ・・・原因は知りませんけど、何かしら喧嘩して、切歌が家出する事態になって、調は調で何かいじけてるし・・・なんかもう色々と散々だ・・・」

「というか、戦兎がリンク・アニマルに発信機機能とかつければ良かったんじゃないのか?」

「プライバシーの問題があるでしょーが・・・ごめんアウフヴァッヘン波形でどうにかなると思ってた」

切歌がどこへともなく行方不明になって一週間、調は理由を話してくれず、その為慧介の精神が調の謎の不機嫌さでゴリゴリと削られて行っている為、内心かなり疲れているのだ。

幸い、そういう精神面も考慮して緒川が練習メニューを調節してくれているのだが。

「切歌、どこにいるんだよ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

国立先端物質学研究所―――その廊下にて、武装した謎の集団が駆け抜けていた。

そんな、ここの研究員でもない、ましてや()()()()者たちをみて、果たしてガーディアンが黙っているだろうか。

―――事実、ガーディアンは行動を起こさない。

それどころか、武装を下ろし、完全無防備状態でその場に木偶の坊の如く突っ立っていた。

その理由は一体何なのか。ガーディアンのカメラセンサーに映る彼等は、氷室幻徳らと同じ、被攻撃対象及び防衛対象として認識されている。挙句の果てにはリブート――再起動である。

その理由は―――

 

 

研究所に彼らが雪崩れ込んでくる。

それを見た幻徳はすぐさまビルドドライバーをアタッシュケースに仕舞い、ロックをかける。

「何者だ!」

マリアが声を挙げれば、武装した彼らは顔を覆っていた布を脱ぐ。

その頬や首に描かれているのは―――剣の紋章(エンブレム)

「ダウンフォール・・・!?どうやってここに・・・」

そこに、扉から新たに、一人の男が入ってくる。

その顔は布で覆われ見えない。だが、その目には、暗い、激しい感情が宿っていた。

「お久しぶりです。葛城先生」

そして、静かにそう言った。

「知り合いですか?」

「いや・・・誰だ?」

忍は、震える声でそう尋ねる。

「・・・浦賀ですよ。浦賀(うらが)啓示(けいじ)です」

その名前に、忍は気付く。

「浦賀・・・!私と一緒にエボルトの元でホワイトパネルの研究をしていた科学者だ・・・!」

「ホワイトパネルを・・・?」

忍の言葉に、マリアは小さく呟く。

その間に、幻徳は彼らの死角になるように、ブラインドタッチで携帯を操作する。

「パンドラボックスが復活した影響で思い出したんですよ。貴方の右腕だったにも関わらず、ロストボトルの試作品として殺された旧世界の記憶をね・・・!」

その声にはどこか、怒りが滲んでいた。

そう言った浦賀は、顔を覆っていた布を取り外す。

そうして見せた、浦賀の顔半分には、凄まじい程の火傷の痕が残っていた。

「完全な状態には戻れなかった・・・」

(初期のロストボトルの実験台にされた者は、元には戻らない・・・!)

以前、馬渕由衣という女性の腹にも、浦賀と同じような火傷の痕が残っていた。

おそらくは、彼も同じ―――

「俺は周りから嫌われ、恐れられ、戦うしかなかった」

机の上に座り、浦賀は、自分の事を語っていく。

「科学を武器にここまでのし上がってきたんだ」

そう言って、浦賀は取り出した携帯端末を操作する。

すると、扉から何体ものガーディアンが現れ、幻徳たちに向けてその銃口を向けた。

「何故ガーディアンが・・・」

「ハッキングされたのか・・・!」

「ならば、壊してしまっても構わないのでしょう?」

マリアが、サングラスを外し投げ捨てる。

そして、その手にアガートラームウルフ『ラム』を納める。

その間、幻徳はスクラッシュドライバーを腰に装着。

 

『STANDBY…!』

 

Danger!』

 

そして、マリアはラムのスタンバイスターターを押し、幻徳はクロコダイルクラックボトルを取り出し、それをドライバーに装填する。

 

クロコダイル!!』

 

「―――Seilien coffin airget-lamh tron(望み掴んだ力と誇り咲く笑顔)―――」

 

「変身」

 

クロコダイル・イン・ロォーグ…ッ!!!』

 

一瞬にしてシンフォギアの起動と着装、そして仮面ライダーへの変身を完了したマリアとローグはガーディアンが放つ銃弾をその身に受けながら、後ろにいる視察団を退避させる。

マリアのギアが奏でる旋律をバックに襲い掛かるガーディアンの猛攻を跳ねのけつつ、ローグは襲い掛かるガーディアンを叩き潰す。

一方先に逃げた視察団の団員たちだが、その先でガーディアンが襲い掛かる。

「ハァア!!」

そこに駆け付ける銀色の閃光。

自らの振るう短剣をもって、襲い掛かるガーディアンたちを迎撃、破壊。さらには後ろから襲い掛かるガーディアンが他の視察団員を攻撃する前に短剣を投げ飛ばし破壊。

「こっちよ!」

シンフォギアを目の前で起動するのはどうかと思うが今は有事。それにガーディアンは並大抵の身体能力でどうにか出来るほどの相手ではない上に、武装している。

それをかなり多い視察団をギア無しで守り切るなど不可能に近い。

だからこそ、これは最善の策なのだ。

背後からガーディアンが襲い掛かるも、それをローグのネビュラスチームガンから放たれた弾丸によって倒れ、続けてマリアが二体のガーディアンを蛇腹剣で横一列に貫いて破壊、そして最後の一体を、ローグが格闘戦で倒した所で―――マリアが吹っ飛ばされた。

「うわぁああ!?」

「ッ!?マリア!?」

一気に階段を転げ落ちるマリア。

「くぅ・・・!」

そして、マリアが見上げる先に立つのは、一人の女性―――。

白髪の長髪。艶めかしい肉体に着こまれたボディスーツと防弾装備。そしていくつかの武装をしている。

「何者だ!?」

「フッ、これを見て分からないか?」

そう言って、女は左掌を見せてみせる。そこに描かれているのは―――剣の紋章(エンブレム)

「貴方も、ダウンフォール・・・!?」

「そう、シャルティナ・アルーダ・・・浦賀啓示の右腕にして、ダウンフォールの錬金術師・・・」

「錬金術師・・・!?」

それを聞いて驚くマリア。

何故、錬金術師がこのような組織と一緒にいるのか。

「これが、仮面ライダーとシンフォギアの力か」

「ん?」

しかし、その疑問を考えるのを中断させるかのように、別方向から声があがった。

そちらに目を向けてみれば、そこには国連視察団団長『サイモン・マーカス』がいた。

「サイモン団長・・・?」

「どうして彼らが、その研究所に侵入出来たと思う?」

そう言ったサイモンがにやりと笑う。

そして、その手に見たこともないようなボトルを取り出した。

「私が、手引きしたからだよ」

そして、そのボトルのシールディングキャップを開け、それを自らに突き刺した。

まるで液体が全身を覆いつくすかのような現象と共に、サイモンの体が、瞬く間に別物へと変化する。

それは怪物―――体のところどころにメーターが取り付けられたかのような人型の怪物だった。

その怪物が、左手をローグに向け、その指先から弾丸を乱射、凄まじい威力と共に、ローグを吹き飛ばす。

「氷室長官!!」

「ぐぅあ!?」

一気に階段を転げ落ちるローグ。

その一方、サイモンが変身した怪物は、他の使節団員を投げ飛ばすと、すぐさまローグとマリアに襲い掛かる。

飛び掛かったサイモンはまずローグに狙いを定め、激しくローグを殴る。

「ぐっ、くあ!?」

全ライダーで最大の防御力を誇るはずのローグが、何故かサイモンの攻撃が通っていた。

それを見過ごせないマリアはすぐさまサイモンに斬りかかる。

だが、その一撃は受け止められ、すかさず凄まじい力で押し返されては殴り飛ばされる。

「ああ!?」

すかさずローグが殴りかかるもまたしても受け止められ、しかし腕に抱え込んだ所で二、三発膝蹴りを叩き込むも、すぐさま地面に叩きつけられ、その手のアタッシュケースを手放してしまう。

「ぐぅあ・・・!?」

そしてそのままサイモンに踏まれるローグ。

「氷室長官!」

「なんだ・・・この力は・・・!?」

「く、そこをどきなさい!」

すぐさまマリアがサイモンに斬りかかる。だがその前に左手の指にある銃口から弾丸が放たれ、それがマリアを撃ち抜く。

「あぁぁあ!?」

激痛が迸り、マリアは地面に倒れ伏す。

シンフォギアの物理保護のお陰か、身体にそれほどの損傷はないが、ダメージは大きい。

そこへ、浦賀が階段を下りてくる。

「ネビュラガスより高性能な『ファントムリキッド』で作り出した『ファントムクラッシャー』だ」

「ファントム・・・クラッシャー・・・?」

マリアが唖然とその名を呟いている間に、サイモンが変身するファントムクラッシャーが右手をローグに掲げる。

すると、ローグから何かが吸い取られていき、そして気付いた時には、ローグの変身が解除されていた。

「なんでだ・・・!?」

「変身が、解除された・・・!?」

「そう、そしてお前も」

「ッ!?」

いつの間にかマリアの前に立っていたシャルティナが、そう呟くと、マリアに向かって何か、霧状の物質を吹きかける。

それを受けたマリアは、途端にその身に纏っていたアガートラームを解除させられる。

「アガートラームが・・・!?」

そして、マリアの目の前に落ちるラム。そのラムの動きは、どこか弱々しかった。

「ラム?ラム!どうしたの!?」

「しばらくそいつには眠ってもらう。何、心配するな。お前は我々の捕虜となり、ダウンフォールが覇権を握る様を見ているといい」

そして、浦賀が幻徳が手放してしまったビルドドライバーを取り上げる。

「ライダーシステムは俺が支配した」

そして、懐から拳銃を取り出して―――

 

 

 

 

 

 

 

「―――ぐへえ!?」

どこかの海岸にて、一海たちはどうにか戻ってきていた。

男性陣の顔は一週間ヒゲを剃らなかったせいかヒゲだらけであり、一方の切歌は髪が伸び放題に伸びていた。

そしてその服は、まさしくボロボロ。

実はここに戻るまでに乗ってきていたゴムボートはマシャによって大破、故にあの無人島からずっと泳いできたのだ。

「や、やっと戻ってこれた・・・」

「何度三途の川が見えたことか・・・」

「カシラの傷心旅行なんて・・・ついていくんじゃなかった・・・!!」

そう口々に言うが、その最中で黄羽が何か言い出す。

「カシラ!なんか匂うんですけど・・・!」

「しょうがねえだろ・・・洗濯してねえんだから」

「そうじゃなくて!」

「じゃあ一体なんなんデスか・・・」

「・・・なんかやばい匂いが充満してる」

 

――――ハザードスマッシュである三羽ガラスは、体内にあるネビュラガスを匂いで感じる事ができる。

 

その黄羽が、そう言っているという事は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、贖罪の物語―――ではない。

 

 

これは、仲間の物語。

 

 

心の火―――心火を燃やして、己が信念を貫く物語。

 

 

男と少女の、大切なモノを取り戻し、そして、真にライダーと装者の意義を問いかける物語である。

 

 

 

 

愛和創造シンフォギア・ビルド

 

 

 

ビルドNEW WORLD―――VGN(ヴィガルマ)『仮面ライダーグリス wish イガリマ』

 

 

 

ここに開幕――――!!




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

占拠される政府官邸!

「言っとくが、頼みの綱の仮面ライダーとシンフォギアは、助けに来ないぞ?」

襲われるライダーと装者たち!

「お前たちは誰だ!?」

封じられる変身・・・!

「なんで、変身出来ねえんだよ!?」

そして魔の手は、切歌たちにも―――


次回『襲撃するフォールンファイター』


「・・・面白い。なら俺が行こう」







リディアンこそこそ噂話

慧「そういえばその赤いぬいぐるみってなんですか?」
翼「む、戦兎に似ていたから大金はたいて買ったまでだが」
慧「え?そんなに値打ちがするものなんですか?」
翼「なにか、アームのようなもので手に入れる筐体でな、これが意外に難しくて・・・」
慧「いやそれただのクレーンゲーム!?」
翼「大金を払わなければ何もくれぇんゲーム」
慧「ダジャレ!?」
セ「あ、この人形緒川さんに似てる・・・」
慧「セレナ留まれ沼るぞ!?」

皆もクレーンゲームの魔物に対抗する術を身に着けよう(無理

セ「お金が全部消えました・・・」
慧「だから言ったのに!」


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襲撃するフォールンファイター

響「パンドラボックスによって引き起こされたスカイウォールの惨劇から十一年!仮面ライダービルドである桐生戦兎は新世界を創造し、新世界で出会った風鳴翼らシンフォギア装者と再会した万丈龍我ら仮面ライダーと共に、錬金術師やノイズとの戦いに没頭していたのであった!」
切「ちょっと響さん!今回の主役はアタシとかずみんなんデスよ!?」
一「そうだそうだ!出しゃばんな原作主人公(笑)!」
響「ちょっ!?原作の部分はともかく(笑)はつける必要ないんじゃないかなぁ!?」
切「ハッハッハ!観念するがいいです!所詮は過去の栄光の産物!今を輝くアタシたちの影に隠れるくらいがちょうどいいのデース!」
響「い、いつになく切歌ちゃんが調子乗ってる・・・だけどそんな時の為のこれ!」
切「そ、それは!?」
響「もしも切歌ちゃんが暴走した時の為に戦兎先生より全員に配られた切歌ちゃんの恥ずかし~い『おてがみ』第一弾!」
切「なんデスと!?」
一「ちなみに俺も持ってるぞ」
切「デス!?」
響「えーっとまず第一章『愛する調へ』から・・・」
切「ガァトランディスバァァアベルジィィゼルエェェデナァァアア!!!」絶唱顔
響「S2CAで無効化&吸収!そして―――」
戦「グダってるから後にしろ!」あるてぃめっとまっちぶれいく!
響切「ギャァァアァアアア!?」
一「なんで俺までぇええぇええ!?」
翼「と、いうわけで、シンフォギア・ビルド、グリス&イガリマ編第二話をどうぞ」


『ウマ娘』が想像以上に楽しい・・・やはり三年の遅れは伊達じゃない!(ダブルオー大好き


政府官邸にて―――

 

ダウンフォールの隊員、そして、ダウンフォールにハッキングされたガーディアンたちが、氷室泰山に向かってその銃口を向ける。他にもその部屋にいる職員たちにも、その銃口が向けられていた。

その状況に、泰山は動揺していた。

(一体何が・・・)

「平和ボケに浸かった皆さん。今日から我々ダウンフォールが、この国を制圧して、新国家を設立する」

そう言い出したのは、サイモン・マーカスだった。

「サイモン・・・」

茫然と名を呟く泰山、その泰山の座る机に、サイモンはどっかと両手をついた。

「まんまと騙されてくれたなぁ。()っとくが、頼みの綱の仮面ライダーとシンフォギアは、助けに来ないぞ?」

 

 

 

 

 

その時、戦兎の家の天井が爆散する。

「うお!?」

「なんだァ!?」

驚く一同。そして、天井から入ってきたのは、ミリタリースーツに身を包んだ一人の男と、ライダースーツを着込んだ一人の女が降りてきた。

「何者だ!?」

翼がその二人に問いかける。

すると男の方は何も答えず、その手にもった銀色のボトルを振り、

「お前たちに名乗る名前などない」

女はそう言い、ふと、パンドラパネルの方を見た。

そして男が、そのボトルを自らに突き刺し、液体が溢れ出るかのような現象と共にその姿を怪物へと変える。

「あれは、スマッシュ・・・!?」

「いや、違う何かだ・・・」

「・・・行くぞ、翼、慧介」

「ああ!」

「ウルフ!貴方も!」

「了解した!」

戦兎と慧介がその腰にそれぞれのドライバーを巻き、翼はアメのスタンバイスターターを押し待機状態へ、そしてセレナの前にウルフが立ち塞がる。

 

 

ラビット!』『タンク!』ベストマッチ!』

 

タイガァージュエリィーッ!!』

 

『STANDBY!』

 

戦兎はボルテックレバーを回し、慧介がアクティベイトレンチを叩き下ろし、翼が聖詠を唄う。

その時、怪物が右手を掲げ、女が右手を彼らに向かって伸ばしていた。

 

『Are You Ready?』

 

そして、お決まりのセリフと共に、彼らは叫ぶ。

 

「「変身ッ!!」」

 

 

 

―――だが、展開されたビルダーも、翼の目の前に出現していたブルーブレイズラビットも、途端にその姿を消失させる。

「・・・・え?」

「あれ?なんでだ!?」

「これは・・・アメ!?」

そして、翼の目の前にアメが落ち、苦しそうに悶えていた。

「どうした!?」

「なんで変身できないんだ!?」

「・・・力を奪われた?」

「くっ、ウルフ!」

セレナが叫ぶ。すぐさまウルフが手足の爪で襲撃者を攻撃しようとしたが、

「失せろ、犬畜生!」

「ぬぐあ!?」

いとも容易く女に蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられ、倒れる。

「ぬ・・ぐ・・・ッ!?これは・・・」

叩きつけられたウルフの体から火花が散る。

「ウルフ!?」

「テメェ!」

セレナが叫び、すかさず慧介がトラフルボトルで敵に殴りかかる。しかしいとも容易く受け止められ、そのまま投げ飛ばされ壁に叩きつけられる。

「ぐっ・・・げほ・・・」

そのまま慧介は気絶。

「涼月!っ、あぁぁ!?」

「ぐあ!?」

「きゃあ!?」

すぐさま翼、セレナが怪物に殴り飛ばされ、戦兎に至ってはハザードトリガーを落としてしまう。

「ぐ・・・あ・・・」

怪物は戦兎が落としたハザードトリガーを拾い上げ、女はその間にパンドラパネルを壁から取り外す。

(こいつら、ハザードトリガーとパンドラパネルを・・・!?)

想像以上の痛みに動けない戦兎は、その光景を見ている事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

――――響、未来、龍我、クリスの四人は、偶然にも公園を通りかかった。

そこへ、

「ガングニールの立花響、神獣鏡の小日向未来、イチイバルの雪音クリスに、仮面ライダークローズの万丈龍我ね」

そう声をかけられ、公園の方を見てみれば、そこには一人のゴシックドレスの少女が一人、そこにいた。

「誰だお前?」

龍我が、何かを感じ取りながらそう尋ねる。

「ハッ、これから叩きのめされるお前らに教えることなんざ、何一つないね!」

次の瞬間、龍我たちの頭上から何かが落ちる。

「未来!」

「え!?」

「うぉお!?」

「あぶねえ!?」

間一髪で躱す響たち。

舞い上がる煙と突然のことにパニックになる人々の悲鳴の中から現れたのは、見たこともない怪物だった。

「あれは・・・」

「ひひっ」

その怪物の傍に、あのゴシックドレスの少女が立つ。

「敵か・・・!?」

「さあ、ちょっとばっか痛い目を見てもらうよ」

「待って!」

その彼女らに、響は声をあげる。

「なんでこんなことをするの!?戦う前にまず話し合おうよ!」

「はっ、聞いてた通り、とんだ甘ちゃんだねえアンタ。けど残念、アタシらはそんな余裕を与える気はないよ!」

そう言って、少女はその右腕に何かを巻く。その細い腕から見えない巨大な腕でもあるかのように巻かれたその布は巨大な拳となって未来と響に振り下ろされる。

「うわ!?」

「きゃあ!?」

「問答無用かよ!」

「ハッ!やるってんなら容赦しねえ!」

「キュアー!」

クリスがバルを、龍我がクローズドラゴンⅡを取り出す。

それを見て、少女がにやりと笑うのを彼らは見逃す。

「クロ!」

「本当は戦いたくないけど・・・イクス!」

「キュル!」

「キュイーン!」

響、未来、クリスがそれぞれのスタンバイスターターを押し、龍我はドラゴンフルボトルをクローズドラゴンⅡに装填し、それを腰の装着したビルドドライバーに装填する。

 

Wake UP!』CROSS-Z DRAGON!』

 

『STANDBY!』

 

ボルテックレバーを回し、ビルダーを展開。同時に待機状態によるアニマルブレイズと化すリンク・アニマルたちの出現を確認し、三人は歌い、龍我は叫ぶ。

 

Are You Ready?

 

「変身!!」

 

そして、ビルダーが龍我を挟み込み、少女たちを戦姫へと変身させる―――ことはなかった。

何も起きず、ビルダーは消滅。アニマルブレイズたちも途端に消滅していく。

「え!?」

「はあ!?」

「どうして・・・」

「なんで、変身出来ねえんだよ!?」

予想外の事態に、彼らは混乱する。炎を纏っていた筈のリンク・アニマルたちは、苦しそうに地面に転がっている。

そんな彼らに向かって、怪物と少女はその手を掲げていた。

そして、彼らが変身できない事をいいことに、少女はにやりと笑う。

「あらあら、どうしたのぉ?」

「ッ!?」

そして、ほんの一瞬で距離を詰め、少女は響を叩き潰す。

「が―――っはぁ!?」

一瞬で意識が飛ぶ。

「ひび―――」

「お前もだよ!」

「あが―――」

続けてその巨大化した腕で少女は未来を殴り飛ばす。シンフォギアを纏っていない状態でそんな一撃を受けたら、ひとたまりもないだろう。

そのまま未来は公園の塀に叩きつけられ気絶。

「お前ら!―――あぁあ!?」

すかさず、怪物がクリスを殴り飛ばす。

「クリス!?テメェ!!」

それに頭に血が昇った龍我はドラゴンフルボトルを手に怪物に殴りかかるも、いとも容易く受け止められる。

そしてそのまま殴り返され、道路に転がる。

「が・・・っは・・・」

そのまま、力尽きるように気絶する。

「これで仕事は終わり。別段、後でもいいんだけど、お姉さまが可能性は潰しておけっていうからね。悪いわね~」

そう言って、ゴスロリ少女はどこかへ行ってしまう。

「ま・・・・まて・・・!」

その最中で、唯一気絶しなかったクリスが、どうにか呼び止めようとしたが、聞こえなかったのか、あっという間にどこかへ行ってしまった。

「ち・・・くしょう・・・!」

そして、クリスはそのまま意識を手放した―――

 

 

 

 

猿渡ファームにて―――

「いやー、髭剃ってさっぱりしたなぁ」

「とこやさん代だけでなく、服まで買ってもらっていたせりつくせりで申し訳ないデスよ」

「いいってことよ」

「カシラの傷心旅行に付き合わせたわびだ」

猿渡ファーム一行と切歌。

長野にある猿渡ファームへの道中、五人は洋服店などで服を調達、さらには床屋やら髭剃りやらをして、すっかり元の様子に戻って、ここ猿渡ファームに戻ってきていた。

切歌の場合は、予期せぬ招待ではあるが。

「ここが猿渡ファームデスか・・・」

「ああ、俺自慢の農場だ!」

「・・・ん?カシラ!」

その中で、ふと黄羽が何かに気付き、そちらを指さす。

その方角を見て、彼らは、血相を変えてそちらに向かって走り出す。

そこには、幾人も苦しそうに倒れている猿渡ファームの従業員たちが倒れていた。

「おい、おい!?大丈夫か!?」

「しっかりしろ!!」

「一体誰がこんなことをしたデスか・・・!?」

傷ついた人々、そのうちの一人を、一海が抱き上げる。

「何があった!?」

「カシラ・・・!ダークグリーンの、化け物に襲われて・・・!!」

「ダークグリーン・・・!」

気配を感じ、切歌がそちらを向く。

続いて、他の者たちもそちらを向けば、そこにいるのは、一見外国人の男がトラクターにもたれかかっていた。

「《お前がグリスか。待っていたぞ》」

その男が、英語でそう言う。

しかし―――一海たちには分からない。

「え?なに?なに?」

「・・・何言ってんだテメェ」

そこへ、切歌が男に尋ねる。

「《これは全てお前の仕業デスか!?》」

「え!?お前分かんの!?ていうか喋れんのかよ!?」

「《その通りだ》」

「って勝手に話を進めんな!?」

他の男たちを置いてけぼりにして、帰国子女切歌は男を睨みつける。

「《その通りだというのなら・・・!》」

「《なら、どうする?》」

男は、そう言って、銀色のボトルを取り出す。

「それは・・・!?」

男がそのボトルを振り、そしてそれを自分に突き刺し、途端にその姿を、ダークグリーン色の怪物へと変身させる。

これで確定だ。

「お前が・・・あだ!?」

頭に血が昇りそうになった切歌の頭を一海が引っ叩く。

「な、なにするんデスかー!」

その切歌の抗議に応えず、一海はスクラッシュドライバーを取り出す。

そして、そのままロボットスクラッシュゼリーを装填する。

 

ロボォットジュエリィーッ!!』

 

それを見て、切歌も黙ってマシャをその手に納める。そしてそのままスタンバイスターターを押す。

 

『STANDBY!!』

 

そして出現する緑の炎を纏った鮫のアニマルブレイズ。

そして、二人に続くように三羽ガラスがそれぞれのロストボトルを手に、振る。

それと同時に、敵が―――メタルファントムクラッシャーが右手を掲げる。

それは、一海たちから何かを吸い取り、そして、マシャに何かを付着させる。

それに気付かず、彼らは、変身を敢行する。

 

「変身」

 

『―――Zeios igalima raizen tron(夜を引き裂く曙光のごとく)―――』

 

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

 

ロボット・イン・グリィスゥッ!!』

 

『ブルァァァァア!!!』

 

そして―――何事もなく変身を完了させる。

 

仮面ライダーグリス。

 

シンフォギア『獄鎌』イガリマ。

 

キャッスルハザードスマッシュ。

 

オウルハザードスマッシュ。

 

スタッグハザードスマッシュ。

 

その五人が、ここに現れる。

それに、メタルファントムクラッシャーは動揺したように彼らを見る。

「へっ!」

「ヘイカモーン!」

「ぶっ潰す」

挑発する三羽ガラス。

「《バカな!?何故変身できる!?》」

そして、その事実にファントムクラッシャーは間違いなく驚いていた。

「《何言ってるのか分からな―――》あいたァ!?」

その言葉に、切歌はどういうことが尋ねるも何故かグリスに殴られ悶絶し、その間にグリスは怒りをわななかせて叫ぶ。

「日本に来たならなぁ・・・日本語話せやゴラァァア!!」

「えぇえぇええ!?そこデスかぁぁあ!?」

すかさず強烈なドロップを叩き込んで後退させるグリス。

そこへ続くように三羽ガラスのデルタアタック。最後のキャッスルがクラッシャーを吹き飛ばした所で、

「切歌!!」

「はいデス!!」

切歌がキャッスルの背中を踏み台にて飛び上がり、鎌の強烈な一撃を振り下ろす。

「グゥァ!?」

「かぁらぁのぉぉお!!」

そこへ突き刺さる――――

 

スクラップフィニッシュッ!!!』

 

必殺のライダーキックが、クラッシャーに突き刺さる。

「グアァァアァアアアア!?」

クラッシャーはそのまま蹴り飛ばさ、地面を転がる。

切歌を交えての即席のコンビネーション。これが長年一緒にいてきたが故の力か。

「《どうなっているんだ!?》」

そのような声をあげ、クラッシャーは背中の鉄翼を広げ、ジェット噴射によって飛翔。追撃してきたグリスを押しのけ、そのままどこかへ飛んで行ってしまう。

「あぁああ!?《どこにいくんデスか!?》」

「おい!待てゴラァ!!」

切歌とグリスの叫びを無視して、クラッシャーはどこかと飛んでいく。

「ああ!」

「逃げてんじゃねえ!」

そう怒鳴る三羽ガラスを背後に、グリスと切歌は変身を解除する。

「いっ」

「ん?どうした?」

そして、突如として体に走った痛みに顔をしかめる切歌。

「いえ、LiNKER無しでのシンフォギアの使用は、やっぱり無理があるデスね・・・」

短時間で片付けられたから良かったものの、戦闘が長引けば不利になっていたのは切歌だった筈だ。

そこへ、青羽、黄羽が他の者たちの容体を見に行き、赤羽は一海と切歌の元に来ていた。

「何がおきたんすかね・・・」

「・・・」

それに一海は答えず、すぐに携帯を取り出すと、幻徳につなげた。一回のコールで、すぐに出る。

「おいヒゲ。俺の仲間が怪物に襲われた。なんか知らねえか」

幻徳なら、この事態にいち早く気付いているであろう一海の推測であり、この時何故かS.O.N.G.の存在を忘れていたが故の判断だった。

『・・・ああ、詳しい事は直接会って話す。今から研究所にこれるか?』

「・・・分かった。すぐ行く」

幻徳の言葉に、一海はそう答え、通話を切ろうとする。

『おいちょっと待て。あと、ついでにプロテイン買ってきてくれ』

「・・・ああ?」

何か、焦っているかのような口調で何かおかしなをことを言い出す幻徳に、一海は首を傾げる。

『・・・頼んだぞ、グリス』

それを最後に通話が切れる。

それをもって、一海は察する。

「・・・敵に捕まったか」

「え?それってどういうことデスか?」

「あいつは俺のことを『グリス』なんて呼ばねえ・・・プロテイン・・・」

その言葉で、何かを思い当たる一海。

「あ、あの!」

と、そこで切歌が手を上げる。

「携帯貸してもらってもいいデスか?」

「あ?なんでだ?」

「S.O.N.G.へ連絡すれば、もう少し何かわかるかもしれないのデス」

「・・・・あ」

それを聞いて、一海はそんな声を漏らした。

「やっべぇ忘れてた・・・」

「ええ・・・と、とりあえず貸してほしいのデス!」

「ていうかお前番号分かんのかよ?」

「S.O.N.G.そのものは知らないデスけど、さ・・・職員の一人のは覚えてるデスよ」

「は?なんで職員の番号知ってんだ?それも一人だけってどういう・・・」

一海が尋ね切る前に切歌は一海から携帯を受け取り、そして自分が覚えている電話番号を押す。

そして、数回コールの後、その連絡先の主が出る。

『はい』

「もしもし朔也さん?」

『え!?切歌ちゃん!?』

出てきたのは藤尭朔也。S.O.N.G.トップクラスの情報処理担当。

『あっ・・と、今どこに?』

「一海さんところの農場にいるデス。それと、変な怪物に農場が襲われて・・・」

『分かった。今から状況を簡単に説明するからよく聞いて。今、政府官邸を過激派テロ組織『ダウンフォール』が占拠して、氷室長官とマリアさんが生死不明の状態』

「マリアが・・・あ!たぶん、生きてるデス。さっき一海さんが電話して出たので、大丈夫だと思うのデス」

『そっか!良かった。それで、その数分後に装者とライダーがダウンフォールと思われる奴らに攻撃を受けて、調ちゃん以外の全員が変身不能の状態になってる』

「それって、もしかして大怪我したとか・・・」

『いや、なんでも力が奪われた感じで、変身そのものが出来ない状態になってるみたい。今、響ちゃん、未来ちゃん、クリスちゃん、龍我が本部に、戦兎、慧介君、翼さん、セレナちゃんが戦兎の家にいる。それと、どういうわけか調ちゃんと連絡がつかないんだ』

「調が・・・!?」

『慧介君の話だと、通信機だとか、その手の類のもの全部置いてあったって・・・だから、一旦切歌ちゃんたちは、今から戦兎の家に行ってくれ』

「本部じゃなくてデスか?」

『ああ、その方が、戦兎にとって都合がいいんだって』

「了解デス!」

『ああ、それと』

「デス?」

『マリアさんが結構心配してたよ』

「う・・・」

それを言われると何も言えなくなる切歌。

確かに無断でこの一週間、いなくなっていたのは事実だ。

(あとで謝ろう・・・そして、調にも・・・)

未だ、怒っているであろう親友の事を思い、切歌は空を見上げた。

そして、藤尭との通話を切る切歌。

「なんて言ってた?」

「戦兎先生の家に行けって」

「分かった。行くぞ」

切歌はそれにうなずき、赤羽をともなって一海は戦兎の家に向かった。

 

 

 

 

 

地下制御室にて―――

「ぐあ!?」

幻徳が蹴り飛ばされ、倒れる。

その体には高強度ロープで縛られており、身動きが取れない状態だった。

それは、傍にいるマリアも同じ。

「長官!」

「動くな」

マリアの頭に銃口を突きつけ、シャルティナはそういう。

「下手な芝居を打っても無駄だ」

一方の浦賀は倒れた幻徳を見下しながら、そう言う。

「お前らの狙いはなんだよ・・・!?」

幻徳がそう問うと、直後にその部屋の扉が開かれ、そこからダウンフォールの一人と、ライダースーツの女が入ってきていた。

「お姉さま!」

そして、途端に顔を破顔させ、シャルティナに飛びつく。

「お疲れ様イース」

そしてシャルティナは女―――イースを受け止め、そうほめる。

その一方、ダウンフォールの男は、その手にもったパンドラパネルを浦賀に渡す。

そして浦賀は、それを二人に見せびらかす。

「これだよ。ホワイトパネル。この無限の可能性を秘めた力さえあれば、世界を掌握できる・・・」

そこまで言いかけた所で、浦賀は何かに気付いたかのように怪訝そうな顔になり、しかし、それの正体に気付くと怒りで顔を歪ませ、それを地面に叩きつけた。

そして、ホワイトパネルは見るも無残に()()()()

「これは偽物だ・・・!」

かなり精密に作られた、完全な偽物。

「《なんだと(What)!?》」

一体どういうことか、と男が抗議する前に、浦賀は容赦なくその男を拳銃で撃ち抜いた。

「「なっ―――!?」」

その光景にマリアと幻徳は目を見開き、

「お、お姉さま、これは・・・!」

イースはシャルティナを恐れるように体を震わせていた。

しかしシャルティナはにっこりと微笑むと、

「大丈夫よ。貴方は何も悪くないから」

そう、抱きしめる。

(あの女は・・・)

その様子に、マリアは怪訝そうな顔をする。

「チッ、役立たずが・・・」

その一方浦賀は倒れ伏し、血だまりを作る男を見下しながら、突如連絡の入った携帯を取り出し、それを耳に当てる。

「俺だ・・・グリスとイガリマが?」

その声に、シャルティナはすっと浦賀の方を見る。

「・・・面白い。なら俺が行こう」

そして通話を切る浦賀。

「何があった?」

「お前の『毒』がイガリマには通用しなかったそうだ」

「なんですって?」

尋ねるシャルティナに浦賀はそう答え、それに驚いたシャルティナはすぐにその顔をにやりと歪ませる。

「それは面白そうね。私も行っていいかしら?」

「好きにしろ」

「じゃあ遠慮なく。貴方はここを守ってなさい」

「はい、お姉さま!」

そして、浦賀は男から落ちたハザードトリガーを拾い上げ、シャルティナを伴って、外に出ていった。

 

 

 

 

 

 

「まさか偽物のパネルを掴ませたとはな」

一海は感心の一言を呟く。

「ったく、一体どこに行ってたんだよこの馬鹿!」

「本当に心配していたんですからね!」

「ごめんなさいデス・・・」

その一方で切歌は慧介とセレナに叱られていた。

「それより」

そんな慧介と切歌の説教を遮って、戦兎が一海たちに尋ねる。

「お前たちなんで変身できたんだ?」

「私のアメも、雪音たちのバルたちも起動できない上に、戦兎たちが変身できない中、何故暁と猿渡だけが、変身することが出来たんだ?」

『傷心旅行のことも含めて、説明してもらいたい』

パソコンのテレビ電話機能で弦十郎も尋ねてくる。

「体になんかしたのか?」

「いえ、そんなことは・・・」

「別に何もしてねえよ。みーたんに振られて傷心旅行に行ってただけだ」

「え?お前美空に振られたの?」

「うるせぇ!」

そう言い返す一海の声はまさしく涙声だった。

「あー、傷心旅行ってそういう・・・」

「その話をするとな・・・俺は・・・・おれは・・・」

「振られたんだ」

「鬼か!?」

「ダメだって!カシラは美空ってワード聞いただけで泣いちまうんだから!」

若干、赤羽が言った言葉にも反応している模様。

そんな今にも泣きそうな一海の肩に戦兎は手を置いて―――

「ミソラミソラミソラミソラミソラミソラミソラミソラ……」

「―――ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」

一海、轟沈。

(((お、鬼だ・・・)))

鬼畜な所業を敢行してみせた戦兎に、一同の心は一つになった。

「・・・みぃたん・・・」

そのまま一海は床に座り込んでしまう。

「あ、そうだ暁。お前も月読とはどうなったのだ?」

「はう!?」

突然翼から尋ねられ、切歌の肩はびくりと跳ねる。

「そ、それは・・・・」

「あまり長引かせるのはよくないと思うぞ。月読①だって悪いと思っているだろうし、月読②も暁がいなくなってきっと心配している。それに月読③のことだ。きっと暁がいなくて寂しがっていることだろう。お前と月読④の仲だ。きっとそうに違いない。実はこの一週間、月読⑤の奴、訓練にあまり力を入れてなくてな、一体何度月読⑥の奴をフォローしたことか」

「―――うわぁぁぁぁぁぁああああ!!」

切歌、六発目で轟沈!

「あんたも鬼か!?」

「私が何かしたか!?」

「調さんの名前も切歌さんにとってはNGワードですよ!」

「しまった!?」

「しらべぇ・・・」

そのまま一海と背中合わせに座り込んでしまう切歌。もはや哀れである。

「さて、真面目に考えますか」

そこで、戦兎がそう手を打ち鳴らし、本題に入っていく。

「その旅行中に何か心当たりは?」

そう戦兎が赤羽に尋ねると、

「ああ、心当たりねえ・・・あ!そういや無人島で温泉に入ったんだけどよ」

 

『うわっはー!』

『カシラー、温泉があって良かったっすね!』

『気持ちいいのデース!』

『ああ、ほんとだな!』

ゴポゴポゴポ

『『『『『ん?』』』』』

ドッパーン!!

 

「―――突然湧き上がったもんだからよ。ガバガバお湯飲んじまって。その所為か、体が可笑しくなっちまってよ。しばらく高熱が続いて、マジで死ぬかと思った。その中で一番酷かったのは切歌ちゃんでしたよ」

「温泉・・・」

戦兎がそう呟くと、ふと戦兎のビルドフォンに着信が入る。

その画面には、紗羽の文字があった。

「紗羽さん、どうした?」

『久しぶり。実は、幻さんから妙な電話がきて・・・』

 

それは、あの時幻徳がこっそり繋いでいた携帯からの音声。

 

「ファントムリキッド・・・?」

紗羽からそのような言葉を聞き、戦兎はそう呟く。

『うん。それで、調べてみたらすごいことが分かったの――』

それを聞いた戦兎は、頭の中ではまらなかったピースがはまるような感覚を覚えた。

「そういうことか・・・!ありがとう、また連絡する」

そして連絡を切り、戦兎は立ち上がって自身の机に向かい、パソコンの傍に置いてあるメモ帳を取り出す。

「元の状態に戻れるかもしれない」

「本当か!?」

「ああ、俺たちはここを出る。お前たちは美空と調の元に行ってくれ」

何かを書き出しながら、戦兎は一海たちにそういう。

「・・・え?」

「敵がここを知ってるってことは、俺たちの情報をかなり知られてるってことだ。美空や調に危険が及ぶ可能性がある」

「あの、それなら俺が・・・」

「お前は戦う力を奪われて戦えないだろ。ここは戦える一海たちに任せるべきだ」

「く・・・」

それを言われて慧介は何も言えなくなる。

「いや・・・でも・・・」

「アタシは・・・」

「二人を連れてここまで来てくれ」

一海と切歌の言葉に耳を貸さず、戦兎は一枚のメモを渡す。

「翼、慧介、行くぞ」

「あ、はい・・・」

「分かった。暁、頼んだぞ」

「ウルフ、修理終わりました。再起動してください」

「ピピ・・・再起動完了。すまない。少し寝ていた」

「大丈夫そうで良かったです。さあ、行きましょうか」

「よし、風鳴さん、送った座標にあいつら向かわせておいてくれないか?」

『分かった。安全を期して緒川を同行させる』

「頼んだ」

ウルフを起こし、セレナ、戦兎、慧介、翼の四人はさっさと家を出ていく。

その様子を見送り、赤羽は声を挙げる。

「カシラ、切歌ちゃん!俺たちもみーたんたちの所に行きましょう!」

そう言う赤羽。だが、

「・・・いかねえ」

「・・・いやデス」

そう、返した。

「は・・・?」

それに赤羽は思わず瞠目する。

「なに言ってんすか!?」

「俺は振られた身だし合わせる顔がねえ・・・」

「調を泣かせておいて、どの面下げてあえるデスか・・・」

「こんな時にそんなこと言ってる場合じゃないでしょう!みーたんや調ちゃんの身に何かあってもいいんですか!?万が一のことがあったら!それこそ一生後悔しますよ―――ッ!?」

一海の服を掴んで、必死に説得する赤羽。だが、一海はその手を振り払う。

「・・・・分かりました」

それに、赤羽は立ち上がる。

「なら、俺たちだけで、みーたんと調ちゃんを迎えに行きます」

そう言って、立ち去ろうとして、ふと立ち止まった後に、

「・・・見損ないましたよ」

そう言って、赤羽は立ち去って行った――――




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「石動美空と、月読調だな?」

狙われる調と美空。

「女の扱いも知らないのか、テロリスト」

そこへ駆けつける三羽ガラス!

「おい、ここどこだよ?」

一方、戦兎たちは、ある場所へと向かっていた。

「変身」
「流着」

しかし、仮面ライダーに変身し、ファウストローブを纏ったシャルティナに、三羽ガラスは敗北する。

「三バカぁ!」

そこへ駆けつけたのは―――


次回『悪魔のサイエンティスト』

「・・・この人たちは、本当のバカなんデスよ」



作「ガンダム、それはロボット好きの浪漫の一つ・・・」
戦「どうしたいきなり・・・」
作「だけど、主人公機はどうしても使いこなせない・・・っ!」
翼「だからなんの話だと聞いている!」
作「だってよぉ!大好きなダブルオーやバルバトス使っても全然勝てないんだぞォ!何故かケルディムだと勝てるようになるって何!?まるで自分は主人公機は無理だって言われてるみたいでいやなんだよぉぉお!!!」
戦「ああゲーセンのマキブの話しな・・・ってライダーとシンフォギア関係ないじゃん!?」
作「うるさぁい!俺はダブルオーライザーが好きなの!だけど得意機体はケルディムなの!ケルディムじゃないと勝てないの!無駄に近接攻撃モーションを分けなくていいからいいの!無駄にコスト高い機体選んだところで使いこなせなきゃコストの無駄遣いもいいところなの!」
翼「もういい加減黙れ」当身
作「あふん」

最近作った奴でケルディムを作りました~。


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悪魔のサイエンティスト

ク「えー、天才物理学者の桐生戦兎ら仮面ライダーが新世界を創造して一年。なんやかんやあってやっと平和な日々を送ってたわけだが、そこへ過激派テロリスト『ダウンフォール』の襲撃を受け、現在後手に回ってる状態なのでありました」
響「なんかテキトーだよークリスちゃーん」
ク「いいんだよこういうのは適当で。一気読みすりゃあ大体の話の流れは分かるんだからよ」
響「・・・それ、がっつり読んでるってことになるよね?」
ク「細けぇこたぁいいんだよ。んなことより、とっとと本編移ろうぜ?」
響「いいのかなぁこんなんで・・・」
切「良くないのデス!」
響「うわ!?びっくりしたぁ・・・」
切「アタシ今回主人公なんデスよ!?なのになんであらすじに出してもらえてないんデスか!?」
ク「しゃーねえだろお前、ネタ枠なんだから」
切「酷いのデス!?あんまりなのデス!?クリスさんのあんぽんたんなのデス!?」
ク「おおいなんでそこでアタシの悪口に繋がる!?ていうかなんで疑問形だ!?」
切「引っかかったデスね!アタシのボケにツッコミを入れたということはクリスパイセンもネタ枠だということの証なのデス!」
ク「なんだと!?」
響「・・・・いや、そもそも皆ネタ枠だよね?私も含めて」
ク「それはこのアタシが毎度の如くボケとかそういうのをやりまくってるって言い草だなァオイこら!!」
響「イタタタタタ!?イタ、痛い痛いよクリスちゃぁん!」
切「どちらにしろクリス先輩ネタ枠は確定したもどうぜ―――」
シ「ヘイ蕎麦一丁まいどあり~」天井から颯爽登場
切「ぷぎゃ」ぶち抜いた天井が頭の激突
響ク「あ」
シ「じゃ、失礼しやした~」天井から退場。
響「・・・」
ク「・・・」
カメラマン「・・・ではシンフォギア・ビルドグリス編をどうぞ!」
ク「カメラマン!?」
切「オグリンは、クールだけれど、かわいいな・・・がくっ」
調「それが辞世の句でいいの切ちゃーん!?」


―――『piccolo nascita』

 

nascitaが移動型として展開できるようになり、その切り盛りを美空が担当している移動型カフェである。

その席の一つに、調は道行く人々を机に突っ伏しながら眺めていた。

「・・・暇」

そして、何を思うでもなくそう呟く。

「クァ・・・」

そんな調の目の前には、彼女のリンク・アニマルであるシュルシャガナタイガー『シュル』があくびをして丸まっていた。相も変わらずマイペースである。

そんなシュルを眺めつつ、調は店の方、美空の隣にあるラジオから聞こえてくる声に耳を傾けた。

『臨時ニュースです。先ほど、政府官邸が国際テロ組織『ダウンフォール』に占拠された模様です』

「「え・・・!」」

それに、美空は驚き、調は思わず立ち上がる。

「マリアが・・・」

そして、それと同時に、美空の前に、一人の男が立つ。

「石動美空と、月読調だな?」

それは、顔半分が火傷に覆われた男だった。

「迎えに来たよ」

浦賀だ。浦賀は美空に微笑みかけるも、その背後にはハッキングされたガーディアンがいた。

「ッ!」

調はすぐさま旧式のLiNKERを打ち込み、シュルのスタンバイスターターを押す。

 

『STANDBY!』

 

そして、すかさず聖詠を唄う。だが―――シンフォギアを纏う事ができなかった。

「え!?シュル!?」

思わずシュルの方を見るが、そこにいるシュルは、まるで苦しそうに悶えていた。

「シュル・・・シュル!」

「残念だったな。それはもう動かない」

背後から声がして、振り返った瞬間、頬に衝撃が走り、調は倒れる。

「あう!?」

「調ちゃん!」

美空が声を挙げる。

調は、自身を叩いた人物を見上げる。

「貴方は・・・」

「シャルティナ・アルーダ」

女―――シャルティナはそう名乗った。

 

 

 

 

 

龍我たちと合流した戦兎たちは、とある人気のない建物を訪れていた。

「おい、ここどこだよ」

「地球」

「なんだか・・・不気味ですね」

「同感だ。戦兎、ここに一体誰がいるというんだ?」

「この階段を上がればわかる」

「・・・ちょっと待ってください。戦兎先生の返しには誰もツッコまないんですか!?」

そうして、階段を上った先にいたのは―――

「珍しい来客だな」

一人の椅子に座る男だった。振り返ったその顔は、それなりの無精ひげを生やし、どこか根暗そうな雰囲気を出す男―――

「葛城巧・・・!?」

龍我が、その名を呼ぶ。

そう、この男こそが、ライダーシステムを作り上げた男にして、もう一人の戦兎にして、戦兎本来の人格―――『葛城(かつらぎ)(たくみ)』その人である。

「葛城巧だと!?」

「この男が!?」

「え!?あ、あの、立花響です!えとあの」

「落ち着け」

戦兎の鶴の一声でぴしゃりと静まる一同。

「その様子じゃ、まだ父さんとは和解してないみたいだな」

「君には関係ない」

戦兎の軽口に巧はそう返し、そして、すぐさま本題に入る。

「で?何の用だ?」

 

 

 

 

 

場面は戻って―――

「やめてよ!ちょっと、放して!」

「くっ、放せ・・・!」

ガーディアンに拘束された美空と調。シュルはその場に置いてしまっている。どちらにしろ、起動しないからどうしようもないのだが。

とにかく、暴れてガーディアンの腕から逃れようともがく美空と調。

そこへ―――

「女の扱いも知らないのか、テロリスト」

その声がした方を見れば、そこには、三羽ガラスの三人が立っていた。

「三バカ!?」

「じゃないし、三羽ガラスね」

「赤羽さん、青羽さん、黄羽さん・・・」

「みーたんと調ちゃんから手を放しな」

そう言って、三人は自身のロストボトルを体に突き刺し、すぐさまスマッシュへと変身する。

そして、すぐさま二人を助けようと駆け出すが、そこへ浦賀とシャルティナが立ちはだかる。

浦賀の腰には、ビルドドライバーが装着されており、シャルティナは腰のキーホルダーから、ダウンフォールの紋章と同じ剣のストラップ―――

「グリスの取り巻きか。面白い」

「やりごたえがありそうね」

そう呟き、浦賀はその手にハザードトリガーを取り出す。

「受けてたとう」

「え!?ちょちょ!?あれ!」

 

『ハザードオン!』

 

BLDハザードスイッチを押し、浦賀はそれをビルドドライバーのBLDライドポートに接続する。

そして、その両手に二つの真っ黒なフルボトルを取り出し、それをビルドドライバーに装填する。

 

『タンク!』『タンク!』

 

それは、ファントムリキッドで作り出した、メタルタンクタンクフルボトル。

それは、戦兎も行き着いた、ハザードトリガーを制御する為の()()()()()()()()()()

戦兎が試行した時は失敗したその組み合わせは―――ファントムリキッドによって可能にされていた。

そして、シャルティナがその手にもつ剣のキーホルダーは――――とある聖遺物の欠片から作り出されたものであり、その性能は、()()()()()()()()()によって強化されている。

 

『ガタガタゴットンズッダンズダン!ガタガタゴットンズッダンズダン!』

 

展開される、ハザードビルダー。しかし、その出現の仕方はビルドドライバーから出現するものではなく、突如として空中に出現するようなものだった。

 

『Are You Ready?』

 

いつもの言葉のままに―――浦賀とシャルティナが言う。

 

「変身」

「流着」

 

ハザードビルダーが浦賀を挟み込み、手の剣から溢れ出た液体がシャルティナの体を覆う。

挟み込んだハザードビルダーは、まるで挟んだ者に纏わりつくように消滅していき、シャルティナに纏わりついた液体は形を成し、一つの戦装束を作り出す。

 

『アンコントロールスイッチッ!!ブラックハザード!!!』

 

そうして出現したのは―――真っ黒な仮面ライダーと、黒の戦装束を纏う戦姫。

仮面ライダーの方は―――あまりにもビルドに酷似していた。

その姿に、美空は目を見開く。

 

『ヤベェーイ!!!』

 

「なんで・・・!?」

「ビルド・・・!?」

「シンフォギア・・・!?」

驚く三羽ガラス。

「ハザードをさらに進化させた―――『メタルビルド』だ」

「かのアーサー王伝説にて、裏切りの騎士と謡われた男の剣―――『アロンダイト』。そのファウストローブよ」

二つの黒―――メタルビルドとアロンダイト。

「ふざけやがって・・・」

その最中で、スタッグがその拳を握り締めて、怒りを滲ませた声で叫ぶ。

「俺は、その色したビルドが、この世で一番嫌いなんだよぉぉおお!!」

その手の剣を振るい、スタッグが先陣切ってメタルビルドに斬りかかる。

しかし、メタルビルドはいとも容易くその剣を受け止める。

「ッ!?」

それに驚くも、しかしすかさず両手の剣を振るうも、メタルビルドは片手で全て防いで見せる。

それは、戦兎のハザードフォームより遥かに高い硬度を有していた。

「―――ァア!!」

渾身の両手振り下ろしを繰り出すも、メタルビルドはそれをいとも容易く受け止める。

そして、スタッグよりも圧倒的なパワーで捻ると―――そのままスタッグを蹴り飛ばす。

「ぐあぁあ!?」

それに美空と調は目を見開く。

「大丈夫!?」

「大丈夫か!?」

「ッ!つぇえ・・・!」

その強さは、スタッグの力を遥かに超えていた。

「総攻撃だ!」

キャッスルがそう言い、三羽ガラスは、一斉にメタルビルドとシャルティナに殴りかかった。

それを、メタルビルドとシャルティナは余裕綽々と言った風に、迎え撃った―――

 

 

 

 

 

 

どこかの高台にて―――

「・・・ここ、どこデスか?」

「俺が知るかよ」

あまりにも的外れであろう場所で、一海と切歌は途方に暮れていた。

「だめだ・・・全っ然分からねえ・・・」

「デェス・・・」

一海と切歌はそう言うなり、近くにあったベンチに座る。

その手のメモには、簡易的な地図が書いてあるが、方向音痴である一海と、土地勘がない切歌では、その地図はまさしく解読不能な暗号だった。

「「はあ・・・」」

諦めて空を見上げる一海と切歌。

「・・・あいつらがいねえとすぐ迷っちまう・・・」

「・・・本当にあの三人がいないとダメダメなんデスね、カズミンさんは」

「うるせえ・・・」

切歌のからかいの一言に、一海は不貞腐れるようにそう言い返す。

ふと、一海はポケットからあるものを取り出す。

それは、美空に告って玉砕する前に貰った、洋服店のおまけ品。

それを見て、一海は思い出す。

『みーたんと調ちゃんの身になにかあってもいいんですか!?万が一のことがあったら、それこそ一生後悔しますよ!』

そして、それは切歌も同じだった。一海が何かを取り出し、それが一体何なのかを察する―――わけでもなく、それに描かれていたプリンの柄を見て、切歌もまた、赤羽の言葉を思い出していた。

「・・・クソったれ・・・!」

そう呟く一海。

「行くぞ、切歌」

「はいデス」

その一海の言葉に切歌は頷き、二人は、ある場所へ向かった。

 

 

 

 

 

「ぐあぁぁあ!?」

キャッスルがメタルビルドに殴り飛ばされる。

「がぁぁああ!?」

その直後に、スタッグがシャルティナに斬り飛ばされ、地面に倒れる。

その間に美空と調を連れて行こうとするガーディアンたちを、オウルが攻撃。

「みーたんに触るな!あと調ちゃんにも!」

「あとってどういう意味・・・!?」

ほぼ瞬殺でガーディアンを撃滅し、オウルは二人を安全な場所へ隠れさせる。

「二人とも、こっち!」

その間に、キャッスルとスタッグは、メタルビルドとシャルティナの猛攻に苦戦していた。

全ての行動が先読みされ、なおかつその硬い装甲を貫けない。

さらにシャルティナの大剣は一撃が重く、その威力はスマッシュの体をもってしても凄まじかった。

オウルが二人を安全な場所に隠し、戻ってきてもそれは変わらず、瞬く間に三方向に殴り飛ばされる。

圧倒的な強さの前に、三羽ガラスは窮地に立たされていた。

しかし、三人はすぐさま立ち上がる。

「負けて、たまるかぁぁあああ!!」

キャッスルが、腕を振り上げ雄叫びを上げる。

「来い!」

「っしゃあ!」

それは、かつて一度ビルドを変身解除に追いやった、三人の必殺技。

三方向から出せる限りのエネルギーをもって突撃し、その交差点で敵を叩く、デルタアタック。

その一撃が、背中合わせに立つメタルビルドとシャルティナを打ち貫く。

凄まじい爆炎が舞い上がり、その手応えは確かにあった。

「やった!」

渾身の必殺技が決まったことに喜ぶ彼ら―――だが、現実はそう甘くはなかった。

「え・・・・」

黒煙の中、傷一つない状態で、メタルビルドとシャルティナはそこに立っていた。

その光景は、美空と調の目にも入っていた。

本当に、傷一つなく、効いている様子もなくそこに立っていた。

「嘘だろ・・・」

スタッグがそう呟く。

「ふっ」

直後、メタルビルドが動く。

 

『マックスハザードオンッ!!!』

 

ハザードトリガーのBLDハザードスイッチを押し、ボルテックレバーを回す。

 

『ガタガタゴットンズッダンズダン!ガタガタゴットンズッダンズダン!』

 

そして、回し終えた瞬間―――メタルビルドは、その右足を繰り出す。

 

『Ready Go!』

 

『ハザードフィニッシュッ!!!』

 

繰り出されるは、なんと履帯。戦車の無限軌道(キャタピラ)に使われているような履帯型のエネルギーがメタルビルドの足裏から迸り、一気に三羽ガラスを撃ち抜く。

「「「ぐあぁぁああぁぁあああ!?」」」

その直撃を喰らった三羽ガラスは―――途端にスマッシュ化が解除され、ボロボロの状態でその場に沈む。

「あ・・・」

「ッ・・・!」

それを見た美空と調は、物陰から飛び出し、すぐさま一番近くにいた赤羽に駆け寄る。

「大丈夫?ねえ?ねえ!?ねえ!?三バカぁ!」

「しっかり・・・しっかりしてください、赤羽さん・・・!!青羽さん・・・!黄羽さん・・・!!」

意識のない三人。いくら呼びかけても、返事がない。

そんな、美空と調に、メタルビルドが近寄る。

それに気付いた調が、美空とメタルビルドの間に割って入るように立ち塞がる。

しかしそれでもメタルビルドは近寄ってくる。

鼓動が早まる、呼吸が荒くなる。

(シュルが使えたら・・・!)

自分がシンフォギアさえ纏えていれば、こんなことにはならなかった。

―――果たして本当にそうだろうか。

敵は圧倒的。自分たちでも苦戦するほどのコンビネーションを見せる三羽ガラスを、こうも容易くあしらって見せたメタルビルドやシャルティナに、果たして勝てるのか。

脚が、震える。

だけど、調はその場から動かない。

ここをどいてしまったら、何か、大切なものを失う気がしたから。

(慧くん・・・切ちゃん・・・!)

そして、思わず、喧嘩別れしてしまった親友の事を思い出し―――

 

―――突如としてメタルビルドが蹴り飛ばされる瞬間を目の当たりにした。

 

「オラァァア!!!」

「ぐあ!?」

そして、その直後に、シャルティナが黒剣を振るい、飛んできた何かを弾き飛ばす。

地面に突き刺さったそれは―――緑色の刃。

「あれは・・・!」

「・・・俺に内緒で何楽しんでんだ。コラァ」

そう言ったのは――黄金のスーツに身を包んだ、仮面ライダー『グリス』。

「・・・へえ」

そして、その背後から、鎌を構え、獄鎌イガリマを纏う暁切歌が、そこにいた。

「・・・グリス」

「・・・切ちゃん」

今ここに、仮面ライダーとシンフォギア装者が参上した。

その一方で、不意打ちを喰らったメタルビルドが立ち上がる。

「ビルドに化けるとは、胸糞悪ィなァ・・・!」

静かな怒りを燃やし、グリスはメタルビルドにツインブレイカーをもって突撃する。

「いくデス・・・!」

また、切歌も同じような怒りをもって、シャルティナに鎌を振るう。

だが―――グリスのツインブレイカーのパイルはメタルビルドの装甲の前に阻まれ、イガリマの刃はいとも容易くアロンダイトに防がれる。

「何っ!?」

「そんな!?」

すかさずグリスがもう一方の拳を振るうも、それを躱されカウンターで腹に一撃を貰う。

「お前如きが・・・」

すかさずグリスが反撃に出るが、全て悉く防がれ、反撃される。

「俺を止められると思うな!」

頭部の角を掴まれるなり、メタルビルドはグリスを投げ飛ばす。

その一方で、切歌もまた、シャルティナの猛攻に押されていた。

「ぐ・・ぅぅう・・・!?」

「どうした?さっきの威勢はもうないのか?」

「な、めるなァ!」

苦し紛れの『切・呪リeッTぉ』。それはシャルティナが体をそらすことによって躱されるが、すかさず肩アーマーを変形させ、不意打ち気味にシャルティナに突き刺そうとする。

 

封伐・PィNo奇ぉ

 

だが、超高速で動く四つの刃は全て、シャルティナの振るう剣によって防がれる。

「な―――」

(翼さんでも捌ききれないPィNo奇ぉを・・・!?)

「遅い、遅すぎる」

気付けば腹に蹴りが突き刺さっていた。

「がはっ!?」

そのままグリスの隣に落ちる切歌。

どうにか起き上がった二人を、メタルビルドとシャルティナは嘲笑うかのように鼻で笑う。

 

シィングルゥッ!!』

 

グリスはツインブレイカーにロックフルボトルを装填、引き金を引いて、その銃口から鎖を飛ばし、それと同時に切歌は肩アーマーからワイヤーを飛ばす。

 

シングルフィニッシュゥッ!!!』

 

それによって、メタルビルドとシャルティナを拘束する。だが、それはいとも容易く引き千切られ、メタルビルドはすかさずボルテックレバーを回し、シャルティナはその剣に妖しいオーラを纏わせる。

 

『ガタガタゴットンズッダンズダン!ガタガタゴットンズッダンズダン!』

 

『Ready Go!』

 

再び繰り出されたキャタピラの一撃がグリスに突き刺さる。

 

『ハザードアタック!!!』

 

「カズミンさん!――ッ!?」

すかさず、切歌に向かってシャルティナが踏み込む。

しかし、切歌はそれを待ってたと言わんばかりに、口角を吊り上げる。

それは、戻ってくる『呪リeッTぉ』。それがシャルティナの背後から襲い掛かってくる。

これが突き刺されば―――なんて考えは甘く、シャルティナはそれで背中を防ぐ。

しかし、これで攻撃の出鼻を挫いた。―――そう思っていた。

剣に纏われていた筈のエネルギーは―――全て、シャルティナの右拳に。

(本命は、拳―――)

次の瞬間、渾身の一撃が、切歌の腹に突き刺さる。

「おっ・・・ごぉ・・・!?」

締める間もなく柔らかい腹に拳が深く突き刺さる。

そのまま吹き飛ばされ、グリスと切歌は――――変身を解除される。

「グリス!」

「切ちゃん!」

思わず駆け寄ろうとする美空と調を、メタルビルドとシャルティナが捉える。

「離して!グリスぅ!離して!離してよぉ!!」

「切ちゃん!いや!切ちゃん!切ちゃん!!」

「ッ・・ァ・・・みーたん・・・!!」

「く・・・ッ・・・調・・・!!」

メタルビルドが、倒れ伏す一海と切歌に言う。

「こいつらを返してほしければ、ホワイトパネルを政府官邸にもってこい」

そのまま、メタルビルドとシャルティナは、美空と調を連れていく。

「ぐ・・・ぁあ・・・」

「く・・・ぅ・・・調ぇ・・・!」

手を伸ばしても、どんどん遠ざかっていく、大切なもの。

その伸ばした手に、ぽつり、と雫が落ちれば―――瞬く間に、大雨が彼らに降り注ぐ。

それは、彼らの敗北を暗示しているかのようで―――

 

倒れる部下―――連れ去られた守りたかったもの―――地面に倒れ伏す自分たち―――

 

 

 

 

「―――くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!!」

「―――うわぁぁぁあああぁぁぁぁあぁああ!!!」

 

 

二人の絶叫が、雨の中に、掻き消える―――

 

 

 

 

 

 

 

 

葛城巧の研究所にて―――

「雨が降ってきたな」

「そうですね」

窓の外の景色を眺めながら、翼がそう呟き、未来が相槌を打つ。

「ん?あれ?万丈と響ちゃんは?」

ふと、後々からやってきた紗羽がそう疑問を口にする。

「万丈と立花なら、先ほど話についていけないと、別の部屋で鍛錬をしています」

「ったく、龍我は相変わらずだなぁ。そこがいいんだけども」

「流れるように惚気るねクリス」

「事実だ」

「こ、これが彼氏持ちの余裕・・・」

クリスの言い分に未来は苦笑し、セレナが謎の敗北感を感じていた。

「私もいつかは緒川さんと・・・」

セレナの小言にぴくりと翼が反応するが、そこで巧が口を開く。

「ファントムリキッドは、ネビュラガス噴出地帯がもう一つの地球と接触した時に、ガスがより濃い状態で液体に変化したものと考えられる」

スケッチブックで図を書き出し、そう説明する巧。

単純な話、気体が圧縮されて液体へと変化した。いうなればボイルシャルルと状態変化だ。

それに答えるのは、怪我から回復していたエルフナインだった。

「つまり、一海さんたちが無人島で入った温泉はファントムリキッドだったってことですね・・・」

「ネビュラガスを高めたファントムリキッドを浴びていたから、グリスたちは元々あったネビュラガスを抜き取られても、変身出来たんだ」

「ですが、それでは切歌ちゃんがシンフォギアを纏えた理由にはならないんじゃ・・・」

切歌もまた、ファントムリキッドの温泉に浸かった者の一人だ。そのことを疑問にあげる未来だが、それにセレナが答える。

「その理由は、聖遺物に付着している、とある物質が原因かと思われます」

「とある物質?」

「はい。これは、ファントムリキッドをもとに作られていて、聖遺物そのものに付着することで、フォニックゲインを吸収、変換、別のエネルギーとして放出するとして、聖遺物の起動を阻止することが出来るんです」

「マジかよ」

「む、それだけならば、なぜリンク・アニマルたちは動かなくなったのだ?」

「それは、戦兎先生が作ったフォニックゲインを溜め込む貯蔵庫、私命名『G-バッテリー』内のフォニックゲインが、その物質で別のエネルギーへと変化されてしまったからなんです」

「でもよ。それならなんであいつの歌だけイガリマを起動出来たんだ?」

クリスの疑問に、巧が答える。

「おそらく、ファントムリキッドを体内に取り込んだことで声帯を僅かに変化させて、フォニックゲインの性質そのものに変化を及ぼしたんだ。そして、その歌はファントムリキッドによるフォニックゲインの変換の影響を受けなかった」

「その理屈で言えば、俺たちが元に戻れる理屈があるはずだ」

その戦兎の言葉に、巧は悲観的な意見をもって言う。

「だが、例え元に戻れたとしても、ネビュラガスより高性能なファントムリキッドには・・・勝てない」

実際に見た訳ではないが、気体が液体になるほど圧縮されて作られた物質だ。

その濃度は、気体の時とは比べ物にはならないだろう。

「確かに・・・」

「じゃあどうすんだよ?」

「・・・ファントムリキッドに適応したアイテムを作らないと・・・」

「―――だったら俺に創ってくれ」

その時だった。

「出来るなら、アタシにも作ってほしいデス」

階段の下を見てみれば、そこには手摺にもたれかかるボロボロの一海と、壁にもたれかかって同じようにボロボロの切歌がそこにいた。

「切歌、一海さん・・・」

「・・・みーたんと調がさらわれた」

一海は、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

政府官邸―――首相執務室にて。

「うっ!?」

「きゃあ!?」

手足を縛られた美空と調が倒れる。

その二人に、サイモンは立ち上がって怪訝そうな顔をする。

「なんだその女子供は?」

その問いかけに浦賀は、

「お前に話す必要はない」

 

 

―――ダァンッ!!

 

 

唐突に、拳銃の引き金を引いた。

「「ッ!?」」

その銃声に、二人は思わず目をつむり、そして開いた時―――心臓を撃ち抜かれたサイモンが、血を吐いて撃たれた胸を抑えていた。

「ぶっ・・・ど、うして・・・わ、私を・・・」

信じられないものでも見るかのように、サイモンは浦賀を見ていた。

その問いかけに、浦賀はつまらないもので見るように見つめ、

「この国のリーダーは俺だ」

それだけ言って、サイモンはそのまま倒れた。

「なんてことを・・・」

「あーあ、いいのか?そんなことをして」

その浦賀の行動に、シャルティナはソファの背もたれに腰をかけ、そう浦賀に尋ねる。

「旧世界じゃ俺の才能は見出されなかった・・・」

そう呟いた浦賀は、途端に机の上に置かれた『サイモン』とかかれた立て札を机の上から投げ捨てる。

「だが今は違う・・・俺がナンバーワンだ」

そう、髪を頭の振りで払い、そう言う。

「お姉さま」

そこへ、部屋に入ってきたのは、響たちを襲ったゴスロリ少女だった。

「あら、クレア。どうしたの?」

「銃声が聞こえたから、つい・・・」

「ふふ、大丈夫。私はなんともないから」

「なら良かった・・・」

その二人のやり取りを見て、調は気付く。

(あれは・・・)

しかし、そこへ浦賀の言葉が突き刺さる。

「お前こそ、いつまで()()()()にかまけているつもりだ」

その時、シャルティナから激しい殺気が放たれる。

その殺気に対して、浦賀はふっと鼻で笑う。

「まあ、好きにするがいい」

そう言って、浦賀は部屋を出ていく。

「・・・もう少しよ・・・あと、もう少し・・・」

その呟きの意味を、調と美空はついぞ理解することはなかった。

 

 

 

 

 

 

頭に包帯を巻いた切歌と一海の前には、三羽ガラスの三人がベッドに横たわっていた。

メタルビルドから受けたダメージが思いのほか大きく、意識不明の重体が故だ。

そんな、三人のベッドのうち一つに、一海は腰をかける。

三人とも、それなりの応急処置をしてあるが、それでも目覚める事はない。

「・・・俺のせいだ・・・」

「ッ!違うデス!それを言うならアタシも・・・」

一海の言葉に、切歌は思わず言い返す。

「いや、元はと言えば、俺が意地張らずにみーたんの所に行っていれば・・・」

「カズミンさん・・・」

一海の様子に、切歌はそれ以上何も言えなくなる。

その時だった。

扉が思いっきり開いたかと思えば、発明品が出来た時と同じハイテンションさで戦兎が駆け込んでくる。

「グリスとイガリマのパワーアップアイテム!その名も~『パーフェクトキングダム』!」

その手には、赤い城にフクロウ、クワガタの意匠がほどこされたアイテムと、ロボット、キャッスル、オウル、スタッグ、そしてイガリマと思われる意匠の施されたボトルが握られていた。

「すごいでしょ?最っ高でしょ!?天才でしょぉ・・・」

が、一海と場の雰囲気を前に、流石の戦兎も意気消沈してしまう。

「・・・なんてな」

戦兎にしては、珍しく自信がなかった。

「まだ出来てない。この二つのアイテムを完成させるには、ファントムリキッドの成分が圧倒的に足りないんだ」

戦兎は、そう告げる。

「だったら俺から抜きとりゃいいだろ」

「アタシからも・・・」

「それではダメだ。・・・数で言えば三人分」

戦兎は、眠る三羽ガラスに視線を巡らせて、告げる。

「だが今の状態で成分を抜き取れば・・・―――命の保証はない」

それは即ち―――アイテム完成のためには、三人の犠牲が必要ということだ。

それを聞いた、一海は、戦兎の胸倉を掴み上げる。

「こいつらを犠牲にしろって言うのかッ!?」

そう怒鳴り、そして、胸倉から肩を掴み、俯く。

「・・・出来る訳ねえだろ・・・」

それは、旧世界で三羽ガラスを失った一海だからこその言葉だった。

しかし、やがて戦兎から手を放すと、戦兎から離れる。

その時だった。切歌が口を開いたのは。

「・・・この人たちは、本当のバカなんデスよ」

そう、呟いた切歌は、ふと、無人島に遭難した時の事を思い出す。

 

 

 

 

 

洞窟の中で、波打つ音を聞きながら―――切歌は、苦しく、朦朧とする意識の中にいた。

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」

あの温泉のお湯を飲んで、一斉に体調を壊した彼らは、とにかく生き延びる為に、雨風を凌げる洞窟に逃げ込んでいた。

そして、その中で最も症状が酷かったのは切歌だった。

理由は明白。ネビュラガスより高性能なファントムリキッドを、体内に取り込み、その際の体の急激な変化に、肉体がついていけず、精神を摩耗しているからだ。

その上、体の急激な変化によって体温を奪われ、下手すれば体温の低下によって大量すら奪われている状態だった。

このままでは、確実に死んでしまう。

だが、そんな切歌を、彼らは必至に看病していた。自分たちも、まともに動けない筈なのに。

「うう・・・切歌ちゃん、死んじゃだめだよ・・・」

黄羽が、弱々しい声でそう呼びかけてくる。

「もし・・・俺たちが死んでも・・・カシラと切歌だけは、俺たちの肉を食ってでも・・・生き延びてくださいね・・・」

青羽が、そう言い出す。

「ふ、ふざけんな・・・・そんな不味そうな肉食えるかよ・・・そんなもん、切歌にでも・・・食わせとけ・・・」

一海が、そう言い出す。

その言葉が、訳が分からなくて、切歌は、朦朧とする意識の中で呟いていた。

「・・・で・・・」

「ああ?」

「なん・・・で・・・・なん・・・でぇ・・・・」

死にそうで、泣きそうで、寒くて、心細くて、余所者である筈の自分に、どうして、そんなことを言ってくれるのか。

まともに動かせない体の、手を、赤羽は唐突に掴んだ。

「カシラと、切歌ちゃんには・・・生きててほしいんですよ・・・」

その手を、力強く握り締めて、赤羽は必至に呼びかける。

「カシラと切歌ちゃんは、俺たちだけじゃない。沢山の人を、幸せにできるから・・・」

それに、と赤羽は続ける。

「カシラの傷心旅行に、巻き込んじまったからよ・・・こんなしょうもない理由で、死んでほしくないんだよ・・・」

「あ・・・う・・・」

まともに動かない口。それで何かを言おうと思っても、言えなくて、切歌は、自然と泣いていた。

 

 

 

「余所者である筈のアタシにも優しくしてくれて、自分より他人を優先して、本当に、バカデスよね・・・」

暗い部屋の中、切歌の頬から、何かが光った気がした。

「・・・だから、この人たちを殺してまで、力なんて欲しくないデス」

切歌は、俯きながら、その小さな拳を握り締めて、そう言った。

「・・・」

その言葉を聞いた一海は、何も言わずに扉に向かって歩き出す。

「どこ行くんだよ?」

戦兎の問いかけに、一海は扉に手をかけた所で、答える。

「・・・帰るんだよ。このまま戦っても勝ち目はねえからな」

そう言って、一海は扉を開けて出ていく。

「・・・アタシも、帰るデス」

そして切歌も、それに続くように部屋を出ていく。

その部屋の外では、去っていく一海と切歌の背中を、翼は静かに見つめていた。

「猿渡・・・暁・・・」

その後ろ姿を見届け、翼は、閉じる前の扉を押して、部屋の中に入る。

「戦兎」

「翼か・・・」

翼が、部屋の中に入った所で、ふと、声が聞こえた。

「・・・相っ変わらず・・・嘘下手だなぁ・・・カシラは・・・それに、切歌ちゃんも・・・」

そう言って、黄羽は、無理にでも起き上がろうとする。

「あまり無理は・・・」

「俺たちがいないと・・・」

翼が止めようとするが、青羽が遮る。

「何もできないんだからよ・・・」

そう言って、青羽も起き上がる。

その様子に、戦兎は心なしかアイテムを握る手に力を込めており、そこへ、戦兎の手を掴む手があった。

見れば、そこには、戦兎の手を掴む赤羽の姿があった。

「・・・・俺たちの命があれば・・・このアイテムは使えるのか・・・?」

目は口程に物を言う、という言葉がある。

彼らの目は、まさに、それだったと、戦兎は思った―――。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

『―――日本国民に告ぐ』

ついに都市への攻撃を開始するダウンフォール。

「ホワイトパネルがなくなってるんです!」

その襲撃の最中、一海と切歌は、独断で政府官邸へと殴り込みをかける。

「全て思い出したぞ!」

そんな一海と切歌の前、再びメタルビルドとシャルティナが立ちはだかる。

「全ッ然足りねえなぁぁああ!!」

激突する両者、その戦いの行方は―――


次回『心火解放ハートブラスト』

「これで俺は、世界の覇者となる」


もうじき大学生なんで車の免許取りに行ってます。
あとオグリとブルボンが押しだったりします(ライスシャワー?語り合う必要あります?無論可愛い!


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心火解放ハートブラスト

調「いよいよグリス編もクライマックスだね慧くん」
慧「そうだな調。だからこのあらすじの間だけは離れてくれるとウレシイカナ?」
調「いーやっ」ぎゅ~
慧「ドナイシヨ」昇天間近
マ「仕方がない。火星で発見されたパンドラボックスによって引き起こされたスカイウォールの惨劇から十一年。新世界を創造した仮面ライダービルドこと桐生戦兎は、新たに出会ったシンフォギア装者風鳴翼らと共に、ノイズ、錬金術師と戦う日常に身を投じていた。その最中で『ダウンフォール』を名乗る過激派テロ組織に仮面ライダー及び装者一同が襲われ、変身不能の状態に陥る。しかし、唯一変身能力を奪われなかった猿渡一海と暁切歌は、ダウンフォールの待つ政府官邸へと赴いたのであった・・・」
慧「おお、流石マリア」
マ「貴方たちがふざけ過ぎなのよ。最近クリスの色ボケだとかシンの天然ボケだとかでボケ枠が増えて参っちゃうっての」
慧「あっはは~、お疲れ様・・・」
調「慧くん、私以外の女なんて見ないで」
慧「調?相手はマリアだよ?マリア相手にそのナイフをぶっ刺そうっていうの?」
調「慧くんの視線を奪う女は全て敵・・・」
慧「一旦落ち着こうか!?マリアに向かって当てない短剣投げをするのやめようか!?」
マ「助けてシーン!」
切「こらぁ!アタシに内緒で勝手にあらすじ紹介しないで欲しいデース!」
慧「切歌!?今はダメだ!調が暴走している!巻き添えを食うぞ!?」
切「デス!?」
調「テキィ!」
慧「あーもう、やめ―――あ」胸をむにゅん
調「ひゃん!?」
切「た、助かったのデス―――」
調「いやぁぁあああぁあ!?」
慧「見事な一本背負い!?」
切「ぴぎゃあ!?」慧介と頭ごっつんこ
マ「あちゃあ・・・」
調「けけけ慧くんが他の女と寝てる・・・殺す殺す殺す殺す・・・」
マ「お、落ち着きなさい!?ていうかなんでそんな過激になってるの!?」
ク「そこは彼氏持ちのアタシが説明しよう!」
マ「クリス!?」
ク「半年以上もの間が置かれたことで調の中の慧くん分が枯渇!それを取り戻すべく過剰なスキンシップを必要とし、尚且つ反動で独占欲が通常の数倍に跳ね上がっているのだ!正直相手したくないからアタシは逃げる!」
マ「ま、待ちなさい卑怯者ー!」
調「コロス、ケイクンニチカヅクオンナスベテ・・・!」
マ「ああっもう!シンフォギア・ビルドグリス編第四話!どうぞ!」


―――東京都新宿付近にて。

 

『―――日本国民に告ぐ』

都内の大型テレビにて、浦賀が映し出され、その浦賀が、街の者たちに言う。

『今日からこの国はダウンフォールの支配下となり、我々が統治することになった。今日は独立記念日だ。盛大に祝おう』

浦賀がそう言う傍らで、街はダウンフォールによって多大な被害を被っていた。

街の各所に現れたダウンフォールの兵士に、改造されたガーディアンが街の人々を襲い、ファントムクラッシャーに変身した者たちは、その火力をもって、広範囲にわたって街を破壊していく――――。

 

 

 

 

 

 

S.O.N.G.本部にて―――

「ダウンフォール、一斉に攻撃を開始!」

「街の被害、拡大しています!死傷者多数!」

オペレーターたちが状況分析を必死に行っていた。

「自衛隊、歯が立ちません!」

「く、ノイズでもないのに・・・!」

モニターに映し出されるのは、抵抗する自衛隊たちが、ファントムクラッシャーを伴うダウンフォールに蹂躙されている姿であり、そして、それ以前にダウンフォールに襲われた住民たちの命が次々と散っていく。

その中には、戦兎たちの報告にあった女性たちの姿もあった。

それに、弦十郎は歯噛みする。

「錬金術でも聖遺物でもない科学の異端技術・・・それがここまでの力をもっているとは・・・!!」

「シンフォギアと仮面ライダーが戦えない今、我々には、まともな対抗手段が・・・」

異端技術を専門に取り扱うS.O.N.G.。だが、今目の前で暴れているのは科学の力によって生み出された未知の敵。

錬金術はあれど、それは敵の力のほんの一端、奴らの本当の恐ろしさは、その『科学力』にあった。

「科学の力を、ここまで恐ろしいと感じる事となろうとは・・・!」

弦十郎は、そう歯噛みした。

 

 

 

 

 

 

 

そして、巧の研究所にて。

「・・・」

戦兎と翼の目の前で、呼吸装置のようなマスクを取り付けられた三羽ガラスの面々が苦しそうに悶えていた。

その光景を、戦兎と翼は、目を逸らさず真っ直ぐに見ていた。

そんな二人の元に、廊下の方から響たちが走ってくる。

「戦兎先生!」

それも焦った様子でだ。

「ホワイトパネルがなくなってるんです!」

「あとブリザードナックルもねえ!」

それを聞いて、戦兎は椅子に座り出す。

「一海か・・・」

「大丈夫なのか?一海がブリザードナックルを使ったら・・・」

「いや、ファントムリキッドの成分を鑑みると、使用してすぐ死に至るという事はないだろう・・・だが、危険な行為には変わりない・・・」

以前の状態であれば、ブリザードナックルを使えば、一海のハザードレベルが急激に上昇し、それによって体が変化に耐え切れず、消滅した。

しかし、どちらにしろ体に急激な負荷が掛かることには変わりない。

「だけど、切歌は・・・」

「切歌にはイグナイトモジュールがある。それを使えば渡り合えない事はないだろう・・・だが、ファントムリキッドを体内に取り込んだことで体が急激に変化して、本来ならかなり危険な状態・・・今の状態で、イグナイトを使用するのは、一海と同じぐらいに危険だ」

「そんな・・・」

「・・・ッ!?」

(いや、ちょっと待て・・・!?)

そもそもな話、エボルトの遺伝子操作を受けていない状態で一呼吸でも吸えば体が消滅してしまうほど有害である『ネビュラガス』を液体になるまで圧縮した『ファントムリキッド』を取り込んで無事で住んでいる時点で異常な事態なのは分かり切っている筈だ。

さらに、戦兎の考案により、リンク・アニマル型のシンフォギアはライダーシステムに近い構造をしている。

(そんなものを纏ってもし敗北でもしたら切歌はどうなるんだ・・・!?)

 

最悪の場合、旧世界の一海や幻徳と同じように―――。

 

ぞわり、と悪寒が戦兎の背筋に走る。

そんなリスクを背負ってまで、切歌は、行ってしまったのか。

そこでふと、未来はガラスの向こうの三人を見る。

「・・・あの人たちは助かるんですか・・・?」

その問いかけに、戦兎は動揺の中で立ち上がって振り絞るかのように答える。

「・・・確率は、高くないだろう・・・」

その言葉に、その場にいる全員が言葉を失う。

「・・・でも、あの三人にしかッ・・・このアイテムは創れないんだ・・・ッ!」

それだけが、ダウンフォールを打倒するための、唯一の希望―――

 

 

 

 

 

 

 

 

政府官邸―――その、エントランスにて。

一海と切歌は、そこに来ていた。

目の前には、先日農場を襲った外国人の男が立っており、その背後には無数のダウンフォール・ガーディアンが待ち構えていた。

真上のディスプレイに、浦賀が映る。

『ホワイトパネルは持ってきたか?』

その問いかけに、一海はすっと、懐に隠していたホワイトパネルを取り出す。

それを見て、浦賀の口角が吊り上がる。それは、傍らで見ていたシャルティナも同じだった。

「・・・でもお前には渡さねえ。どうしても手に入れたけりゃ()()()を倒して手に入れな」

しかし、一海はそう言ってディスプレイに映る浦賀を睨みつける。

それに、浦賀はふっと笑う。

『威勢が良いな』

そう言って、浦賀は自分を映しているカメラを動かす。

そうして映し出されるのは、縛られ倒れ伏す美空と調だった。

「みーたん・・・」

「調・・・」

『グリス・・・』

『切ちゃん・・・』

その画面に、再び浦賀が映る。その浦賀は、ふっと笑っていた。

それに、一海と切歌は拳を握り締め、一海はビルドドライバーを、切歌はマシャをその手に取る。

 

『STANDBY!!』

 

スタンバイスターターを押し、切歌はイガリマシャークのアニマルブレイズを呼び出す。

一海は腰にビルドドライバーを装着する。

「―――心火を燃やしてお前を倒す」

 

「―――Zeios igalima raizen tron(夜を引き裂く曙光のごとく)―――」

 

すかさず、切歌がシンフォギア『イガリマ』をその身に纏う。

そして、一海がその手に取ったのは―――戦兎から使う事を禁じられていたブリザードナックルだ。

先日、マリアがピッキングで金庫をこじ開けたことを考慮して、自分の手元ではなく、別の誰かの所に隠しておこうと思い、戦兎が巧に預けてたものであり、それを切歌が偶然見つけ、それを一海に密告したが故に、今は一海の手にあった。

愛と平和(ラブ&ピース)の為に・・・ッ!!」

そう呟き、一海はノースブリザードフルボトルを取り出すと、それをブリザードナックルに装填する。

 

『ボトルキーン!!』

 

そして、それをビルドドライバーに装填する。

 

グリスブリザァードォッ!!!』

 

そして、一気にボルテックレバーを回し、その背後に『アイスライドビルダー』が出現し、一海は一度額に自分の指をあてた後、敵に向かってその指を向け、上に向ける。

そのアイスライドビルダーから冷気が漂っている。

その一方、切歌は胸のマイクユニットに手をかける。

 

『Are You Ready?』

 

その問いかけに、彼らは静かに答える。

 

「―――変身」

 

「イグナイトモジュール―――抜剣、デス(DEATH)

 

『DAINSLEIF』

 

アイスライドビルダーから液体窒素の如き液体『ヴァリアブルアイス』がぶちまけられ、それが一海を一気に氷漬けにし、切歌はその身に漆黒を覆う。

背後のアイスライドビルダーがその氷を砕き、その中から現れるのは、蒼き破壊の戦士。

そして、その黒を突き破ってやらわれるのは、漆黒の呪いを纏う戦姫だった。

 

激凍心火ッ!!グリスブリザァァァドッ!!!』

 

ガキガキガキガキガッキーンッ!!!』

 

 

その、青き姿こそが、グリス最強の力。全てを凍てつかせ、全てを粉砕する破壊の力。

ありとあらゆる障害を、その手をもってぶち壊していく、絶対零度の心火―――

 

 

仮面ライダーグリスブリザード。

 

 

今ここに、再誕した瞬間であった。

そして、切歌もまた、魔剣ダインスレイフによる、破壊の呪いを身に纏い、イグナイトモジュールの強化をもって、そこに立っていた。

冷気が、あたり一面の気温を、一気に下げる。

夏場でも、そこだけが冬のような肌寒さを―――否、寒いなんて生温い。

 

空気が、冷たい。

 

 

その光景を、美空はモニターをもって、そして、二度と見たくなかったあの姿を、もう一度目の当たりにしていた。

「グリス・・・ブリザード・・・!」

「あれが・・・」

一海の最期を飾った、最後の変身―――。

 

 

 

 

 

ダウンフォールの男が、メタルファントムクラッシャーに変身する。

そして、ファントムクラッシャーが、背後のガーディアンたちに指示を下す。

「行くぜ切歌」

「オーケー・・・()()()ァ!!」

ガーディアンたちが迫る。

「「かかって来いやぁぁぁあああ!!!」」

二人同時に絶叫し、弾丸の嵐を浴びながら敵陣に突っ込む。

そのまま飛び込み、グリスは、左手の『GBZデモリッションワン』を駆使して、襲い掛かるガーディアンたちを叩きのめしていく。

拳を叩きつける度に冷気が飛び散り、瞬く間にガーディアンたちを破壊していく。

それと同時に、イグナイトの爆発力をもって、切歌はこの狭い空間の中、二丁の鎌をもってガーディアンたちを次々と斬り裂いていく。

 

 

 

 

 

「完成した」

トレイの上に、液状の薬品を入れたボトルを机の上に置いて、巧がそう言う。

「これを飲めば変身を可能になる。無論、シンフォギアも纏えるようになる上に、ネビュラガスの成分を敵に吸収されることもないし、歌を封じられることもない」

巧とエルフナインが協力して作った、対ファントムクラッシャー能力の為のものだった。

「これなら・・・!」

「俺たちも戦える!」

それを手に取って、響たちはそう声をあげる。

しかし、龍我は、ふとした疑問を巧に投げかけた。

「・・・あんたは戦争の兵器を作らされたから、親父さんと仲違いしてんだろ?なのに・・・どうして俺たちのために?」

その疑問に、巧は、ふっと笑って答えた。

「・・・ヒーローが使うなら、それは兵器じゃない。―――希望だ」

その言葉に、その場にいる者たちは嬉しそうに笑う。

そんな中で、戦兎と翼が戻ってくる。

 

―――その手に、一つのアイテムと、二つのボトルを携えて。

 

「戦兎」

「先輩」

「グリスとイガリマのアイテムできたんだ・・・」

返事は、ない。

「・・・三羽ガラスは?」

その問いかけに、戦兎と翼が答える事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

グリスと切歌が、圧倒的数の不利の中、果敢に戦う。

特に切歌は、イグナイトモジュールの稼働時間の限界がある。

だから、早々に決着をつけなければならない。

 

「一海君・・・切歌君・・・!」

イガリマのアウフヴァッヘン波形を検知したために、すぐさま政府官邸のカメラをハッキングして、弦十郎たちはその戦いを見ていた。

 

 

 

そして、それはまた、美空たちも同じで―――

グリスが敵を殴る度に凍り砕ける敵の装甲。切歌が鎌を振るう度に剥き出しにされる電子機器。

「ホワイトパネルが手に入れば、世界は俺のものだ・・・!」

浦賀が、小さく呟く。

それに、美空は言い返す。

「あんたがいくら強くて有能でも、グリスには、いいえ、グリスと切歌ちゃんには勝てない」

「美空さん・・・」

その言葉に、浦賀は視線を美空に向ける。

「・・・あいつはね、バカでちゃらいドルオタだけど、仲間の、皆の明日を創るために戦う・・・正義のヒーローなの・・・!」

美空は、そう不敵に笑って言い切ってみせる。

「・・・切ちゃんだって、お調子者で、残念な所もあるけど、それでも、誰かのためを思って戦える・・・切ちゃんだって、正義のヒーローなんだ・・・!」

調も、強い意志をもって、そう言い切る。

そんな二人の言葉を、浦賀は鼻で笑う。

「ヒーロー?」

そう言って、浦賀は二人の前にしゃがみ、

「そんなものはただの幻想だ」

そう一蹴する。

そして、浦賀は部屋を出ていく。

そしてシャルティナもまた、

「ヒーローなんてものは存在しない。くだらない幻想に希望をかけることはやめろ」

そう、調たちを見下し、浦賀の続くように扉へ向かう。

「貴方は・・・」

そんな中で、調はシャルティナに話しかける。

「貴方は、どうしてあの人たちを・・・」

「それ以上は、何も言うな」

調の言葉を遮って、シャルティナは外へ出ていった。

 

 

 

 

 

「ぬぁぁあああ!!」

地下にて、幻徳は何故がうつぶせになった状態でどうにか手を縛っている紐を力任せに引き千切ろうとしていた。だが、思いのほか固く、中々抜け出せないでいた。

その時だった。

 

護衛していた筈のガーディアンが、突如として斬り裂かれ倒れた。

 

その上に、のしかかるは、鋼鉄の狼。

「無事か、幻徳!」

「ウルフ!?」

「私たちも!」

「いますよ」

さらに、ドリルクラッシャーを持参しているセレナと緒川もおり、そこへ紗羽も幻徳に駆け寄ってくる。

「幻さーん!」

何がなんだか分からないが、とにかくこれで助かった。と思った幻徳だったが。

「これで、変身できるって!」

そう言って取り出したボトルのキャップを開け、それを幻徳の口に押し付ける。

問答無用で流し込まれる液体に、幻徳の呼吸は一気い奪われる。

「あ、あの、紗羽さん・・・?」

「ゴボゴボゴボゴボ!!」

「え?何?」

「ぼ、どうやって潜り込んだの!?」

「それは、知らない方がいいかも♪」

「え―――ンゴボゴボゴボゴボ!?」

 

―――幻徳は、ペットボトルで溺れそうになった。

 

「・・・大丈夫か、これ」

「さあ・・・」

「ここはそっとしておいてあげましょう」

びべばいべばぶべろ(みてないでたすけろ)!!?」

 

 

 

 

戦兎の家にて。

「全て思い出したぞ!」

強化段ボール『DANポール(セレナ命名)』製ネビュラガス注入装置の中にいた内海がそう叫んだ。

「・・・・それにしても、いつまで寝かせれば気が済むんだ?」

「「・・・すいませんすっかり忘れてました」」

それに、翼と戦兎はそろってそう言うのだった。

だがそれはともかく、

「実は大変な状況なんです」

「力を貸してくれますか?」

それに、内海はすさまじい勢いで上体を起こし、にやりと笑う。

「愚問だな」

 

 

 

 

「オラァ!!」

「デェス!!」

ガーディアン、ファントムクラッシャー相手に、凄まじい戦闘力を叩きだして戦うグリスと切歌。

「足りねえなァ!!」

ガーディアンの一体の肩に乗り、そのまま一気に倒れ込み投げ飛ばす。

「全ッ然足りねえなぁぁああ!!」

その背後では、両側から襲い掛かるガーディアンの攻撃を二対の鎌をもって防ぎ、そしてすぐさま弾き飛ばす。

「その程度で、イガリマを折れると思うな!」

すぐさま弾き飛ばし、片方を肩アーマーに収納、もう一方を元の大きさに戻したかと思えば、

「リンクスアームズ!」

 

『Links Arms!〔Crash Muzzle〕!』

 

その鎌に銃口を作り出し、ボルトアクションの直後に引き金を引いて片方のガーディアンを撃ち抜き、そのまま背後を見ずにむきを変えてボルトアクションの後に引き金を引く。

「誰が俺を満たしてくれるんだよぉぉぉぉおぉお!!!」

絶叫―――そして、グリスと切歌は、全てのガーディアンを殲滅せしめた。

そんな、彼らの背後には―――

「よく来たな」

「ああ?」

「俺が相手してやろう」

浦賀がいた。

そして、もう一方、切歌の前に、シャルティナが立つ。

「お前の相手は私」

そうして、浦賀はビルドドライバーを腰に装着し、ハザードトリガーを接続する。

 

『ハザードオン!』

 

一方のシャルティナは、その入れ墨と同じ形の掌サイズの小さな剣を取り出す。

 

『タンク!』『タンク!』

 

『ガタガタゴットンズッダンズダン!ガタガタゴットンズッダンズダン!』

 

二つのメタルタンクタンクフルボトルを装填し、そして、ボルテックレバーを回すと同時に、空中に突如としてハザードライドビルダーが出現する。

 

『Are You Ready?』

 

「変身」

「流着」

 

そしてハザードライドビルダーが浦賀を挟み込み、シャルティナの体を謎の液体が駆け巡る。

そして、ハザードビルダーが挟み込んだはずの浦賀―――メタルビルドに取り込まれるように消えていき、シャルティアの体に纏わりついた液体が形を成し、漆黒の戦装束をその身に纏う。そしてその手には、巨大な大剣―――

 

仮面ライダーメタルビルドとファウストローブ・アロンダイト。

 

この二つが、ここに現れる。

「ふっ」

それを見て、グリスは鼻で笑い、メタルビルドもまた鼻で笑って歩いてくる。

「うおらぁぁあああ!!」

それに対して、グリスは駆け出し、そしてメタルビルドとぶつかる。

拳の一撃は脇に躱され、しかしすかさず振り返って反撃し、激しく打ち合う。

だが、一つだけ、先日の戦いと違う事は、それはグリスが以前よりもパワーアップしているという事だ。

「この前の俺とは―――」

「ッ!?」

腕を抱え込み、グリスはその拳をメタルビルドに叩きつける。

「訳が違ぇぞ!!」

その一方で、切歌とシャルティナの戦いもまた熾烈を極めていた。

大剣と大鎌、その二つが錯綜し火花を散らす。

だが、わずかばかり切歌が押されていた。

「ふんっ!どうした!?その程度か!!」

大剣に打たれた切歌が大きく下がる。

それに切歌は耐えきると、再び胸のスイッチに手をかける。

「甘く見るなデス!」

そして、スイッチを押す。

 

「抜剣―――第二制限(アルベド)!」

 

『DAINSLEIF』

 

イグナイトモジュールの第二のセーフティを解除、それによってカウントが加速、体にさらなる負荷がかかる代わりに、さらなる力を発揮する。

切歌が地面を蹴れば、振るわれるその鎌はシャルティアに叩きつけられていた。

「ぐぅっ!?」

先ほどよりも、遥かに重くなった一撃に、シャルティナは苦悶の表情を浮かべる。

「デェェエス!!」

「くぅ、あぁぁ!?」

想像以上の強化に、シャルティナは苦戦を強いられる。

それと同時に、メタルビルドもまた、グリスの力の前に、大きく押されていた。

「うぉぉおお!!」

「はぁぁああ!!」

激突する両者。黒の分解と青の氷結が互いの体に突き刺さるも、すぐさまグリスが二度目の拳を叩きつけてメタルビルドを押し返す。そのまま、左手のGBZデモリションワンによる猛攻をメタルビルドに浴びせまくる。

その度に冷気が炸裂し、そのまま吹っ飛ばす。

そして、切歌もまた、鎌の一撃をもってシャルティナを吹き飛ばしていた。

「ぐぅあ!?」

「あぁあ!?」

そして、倒れた所で、グリスはボルテックレバーを回し、切歌は二つの鎌を組み合わせてさらに巨大な大鎌を作り出す。

 

シングルアイス!!』『ツインアイス!!』

 

そして、グリスはGBZデモリションワンに冷気を纏わせ、それをメタルビルドの足元に叩きつけ凍らせて拘束、そして飛び上がってその身に極寒の冷気を纏い、そのまま一気に突っ込む。

切歌は肩アーマーからワイヤーを射出、それで立ち上がったシャルティナを拘束し、肩のバーニアを点火して一気にシャルティナに接近する。

 

グゥレイシャルフィニッシュッ!!!』

 

対鎌・螺Pぅn痛ェる

 

バキバキバキバキバキィーンッ!!!』

 

炸裂する零度のライダーキックと呪いの一撃が、それぞれに炸裂する。

「「ぐあぁぁああ!?」」

吹っ飛び、同じ所に落ちるメタルビルドとシャルティナ。

「これで終わりだ!」

「観念するデス!」

そうグリスと切歌が叫ぶ。だが、起き上がったメタルビルドがふっと仮面の奥で笑う。

「どうかな?」

「あ?」

次の瞬間、背後から飛んでいたメタルファントムクラッシャーがグリスと切歌を空中に弾き飛ばす。

「ぐあぁあ!?」

「うわぁあ!?」

突然の奇襲。すかさず、メタルビルドとシャルティナが必殺技を発動する。

 

『Ready Go!』

 

メタルビルドが飛び上がり、その膝でグリスと切歌を地面に叩きつけ、そして履帯型エネルギーで二人を床に擦りつけ、弾き飛ばす。

 

『ハザァードアタァックッ!!!』

 

「「ぐあぁぁああ!?」」

そのま蹴り飛ばされた所で、今度はシャルティナの大剣の一撃が二人を吹き飛ばす。

「「あぁぁぁあぁあ!?」」

必殺技の二段構えを受け、グリスはパンドラパネルを落とす。

「もう一匹、汚ぇぞ・・・!」

倒れ伏すグリスと切歌。

その間に、メタルビルドはパンドラパネルに向かって歩み寄る。

「戦争に綺麗も汚いもない・・・勝者こそが正義。旧世界で嫌というほど味わった筈だ」

そう言って、メタルビルドはパンドラパネルを拾い上げる。

「パンドラパネルが・・・!」

「ついに手に入れた・・・」

メタルビルドが、物色するようにパンドラパネルを眺める。

その様子を、シャルティナは静かに見ていた。

そしてメタルビルドは、それを二人に見せびらかし―――

「これで俺は、世界の覇者となる」

 

―――それを、体内に取り込んだ。

 

「うぐ―――ぐあぁああ!?」

次の瞬間、メタルビルドから凄まじい衝撃が迸り、そして発生したエネルギーに干渉したファントムクラッシャーが、バラバラに砕け散る。

「この力・・・!」

それを見たシャルティナは、嬉々とした表情でその凄まじさを実感する。

「これなら―――!!」

そして、シャルティナが取り出したのは―――何かの鞘。

「これを、起動することが出来る!」

メタルビルドから溢れ出るエネルギー。それを、シャルティナは己が錬金術をもってその鞘らしき何かに収束させる。

そして、その鞘らしき何かは、徐々にさびらしきものが剥がれ落ちていき、そして、凄まじい光を放つ―――

「ああ、ああ!!ついに、ついにやった!」

それと同時に、メタルビルドに、砕かれたファントムクラッシャーの装甲が纏われ、さらに禍々しい姿として現れる。

その姿に、グリスと切歌は言葉を失う―――

「―――これが俺の最高傑作―――ファントムビルドだ」

 

パンドラパネルを取り込み、さらなる覚醒を果たして、メタルビルドの進化形態。

 

 

それが―――仮面ライダーファントムビルド。

 

 

そして、黄金の光を放つ鞘を抱えるシャルティナは―――

「これよ・・・これさえあれば、私たちは、理想郷(アヴァロン)に行ける・・・!!」

「それは・・・一体・・・!?」

切歌が尋ねれば、シャルティナは満足そうに答える。

「―――『エクスカリバーの鞘』。かのアーサー王が所有していたものであり、持ち主に絶対的不死性を与え、そして―――夢の理想郷『アヴァロン』へと導いてくれる羅針盤!」

 

―――アーサー王。

本名『アルトリウス・ペンドラゴン』と呼ばれた、かの騎士王が所有していた、究極の聖遺物。

その効果は、絶対不朽にして不死性の付与。

『鞘さえ身に着けておけば、持ち主からは一滴の血も流れず、重傷を負う事もない』の言い伝え通り、鞘をもった者は何物の干渉を受けず、一切の攻撃を受けず、そして、一切老いる事もない。

 

 

まさしく、無敵の聖遺物―――

 

 

「なんで、そんなものを・・・」

「なんで・・・?それを貴方に教える義理はないわ」

次の瞬間、シャルティナは、それを体内に取り込む。

「なっ!?」

「錬金術の基本は理解、分解、再構築・・・それを利用して、鞘と一体化すれば、何者もこれを奪う事はできない!」

そして、鞘を取り込んだシャルティナの姿が、変わる。

装束が再び液体に変化したかと思えば、その体を黒い文様が這いずり、また装束も形が変わってさらに禍々しい姿となる。

「ふふ、フハハ・・・フハハハハハ!!これよ!これで、私たちは理想郷にたどり着ける!」

「くだらねえ・・・」

そんなシャルティナの言葉を遮って、グリスは立ち上がる。

「理想郷がどうした・・・ただ、飾りがついただけじゃねえか・・・!」

「一体どういうつもりか知らないデスけど・・・調を返してもらうまでやるのデス・・・!」

どうにか立ち上がるグリスと切歌。しかし、次の瞬間、ファントムビルドの姿が消えたかと思えば、懐に潜り込まれており、

「なにっ!?」

「え!?」

グリスの腹に蹴りが、切歌の顔面に拳がめり込んでいた。

そして、何が起きたのか理解する間もなく、グリスと切歌は背後に回られ蹴り飛ばされる。

「ぐあぁああ!?」

「うわぁああ!?」

そこへ、シャルティナの斬撃が落ちてくる。

それを見た切歌は、まだ回らない頭の中で、とにかく念頭に置いていた最後のセーフティを解除することを実行する。

 

「抜剣、全制限装置(オールセーフティ)―――解放(リリース)!!」

 

第二フェイズの『アルベド』から、最終フェイズの『ルベド』へシフト。

その出力をもってグリスを引っ張ってシャルティナの斬撃を回避―――したと思えば、シャルティナは最大出力のイグナイトを発動させた切歌に追いすがってきた。

「な―――」

次の瞬間、切歌とグリスはまとめて何かに押しつぶされるかのように地面に倒れる。

「ぐ・・・ぅあぁああ!?」

「が・・・あぁぁあぁ!?」

まるで、大気そのものに押しつぶされているかのように。

それによってグリスの装甲が軋み、切歌のプロテクターにひびが入る。

そんな二人を見下して、

「新世界の記憶を取り戻した時、興奮したよ!戦争によって、科学の素晴らしさが証明されるあの高揚感!」

圧迫感が消えたかと思えば、今度はファントムビルドがグリスを踏みつける。

「だから俺は決めたんだ。再び、この世界を火の海にしてやると・・・!!」

グリスの装甲が、さらに軋む。

そしてシャルティナは切歌の頸を掴み持ち上げる。

「そして私は、妹たちと共に、私たちだけの理想郷へ行く。こんな世界のことなんか知ったことじゃない!火の海になるならなればいい!私たちは、私たちだけの理想郷へ行く・・・」

切歌を締め上げる手に力が入る。

「だけど、その為にはお前は邪魔だ。お前だけは、唯一私に刃を届かせることの出来る力の持ち主!魂を斬り裂くその刃は、異次元に存在する私に触れる事ができるんだから!」

大剣の刃が切歌に向けられる。

しかし、その時、グリスの方から、ククク、と笑い声が聞こえた。

「悲しいな・・・」

そしてグリスは、憐れむように、ファントムビルドを見上げ、その足を掴んだ。

「お前・・・ずっと一人だったんだろ・・・」

そして、切歌もまた、自らを締め上げるシャルティナの手を掴む。

「はっ、何が私たち、デスか・・・貴方も()()()()()()・・・」

憐れむかのような切歌の言葉に、シャルティナは―――ファントムビルドは―――

「―――何が言いたい!!」

ファントムビルドの拳がグリスに叩きつけられる。それも、何度も何度も、床にひびを入れていく。

「ぐふあ・・・っ!?」

「仲間や、絆などほざくお前たちが、到底敵わない強さを、俺は手に入れたんだ・・・!!」

それとほぼ同時に、切歌は柱に叩きつけられいた。

「お・・・っごぉ・・・!?」

「お前如きが、見透かしたように言うなァ!!」

そして、柱に寄りかかった切歌に向かって、その大剣を何度も叩きつけていた。それを切歌は必死に鎌の柄で受け止める。

「家族も!兄弟も!姉妹もいないお前が、知った風な口をきくなァ!!」

再び、ファントムビルドがグリスを地面に叩きつけ、そのまま投げ飛ばし、

シャルティナが、その刃に特大のエネルギーをため込んで、

 

履帯エネルギーの一撃がグリスを撃ち抜き、シャルティナの斬撃が切歌を吹き飛ばす。

 

「「ぐあぁぁああぁぁああ!?」」

そのまま二人は、建物の外に投げ飛ばされ、そのまま地面に落下、変身を解除される。

「う・・・ぐああ・・・!?」

「く・・・ぅう・・・!?」

激痛に悶える一海と切歌、そんな二人を追いかけるように、ファントムビルドとシャルティナは降りたつ。

「遊びは終わりだ」

その二人の背後に、何体ものガーディアンが銃を構える。

圧倒的数の不利、二人の特大戦力、そして、ボロボロの体―――万事休す、としか言いようがない。

そんな状況を、一体どのように覆せばいいのか。

しかし、そんな中で、聞こえた声があった。

「勝手に終わらせてんじゃねえよ」

声がした方を見れば、そこには、一海たちの元に向かって歩いてくる、龍我とクリスの姿があった。

「パーティーはこっからだ」

「龍我・・・」

「クリス先輩・・・」

龍我は一海の前に、クリスは切歌の傍にしゃがむと、とあるアイテムを二人に差し出す。

龍我の手には、戦兎が創った『グリスパーフェクトキングダム』。

クリスの手には、『パーフェクトキングダムプリンセスフルボトル』。

「三羽ガラスがお前たちのために、命をかけて創った」

龍我が、敵を見据えながら、そう言う。

それを聞いて、一海と切歌は、それぞれのボトルを受け取る。

「・・・あいつらは?」

一海は、震える声で、そう尋ねる。

それに、龍我はそのポケットから三つのドッグタグネックレスを取り出して見せる。

それを見た、切歌は、思わずその両目から涙を流し、一海は、悔しそうに表情を歪める。

「・・・馬鹿野郎」

そして、それを握り締め、それを、そっと額に押し当てる。

「また、俺より先に行きやがって・・・ッ!!」

すすり泣く切歌、そんな切歌に、クリスもまた、一海のものがもっている三つのドッグタグをつけたネックレスを差し出す。

「・・・お前にも、だってよ」

その言葉に、切歌は、さらに涙を溢れ出させる。

「ぅ・・・ぁ・・・アタシの、ためにまで・・・!!」

 

旧世界で、美空の―――ネットアイドル『みーたん』の配信を、いつも仲間たちと、三羽ガラスの三人と過ごした日々を、その死の瞬間を、一海は思い出す。

 

この新世界で、自分なんかの為に、いろんなことをしてくれた、三羽ガラスたちのことを、切歌は思い出す。

 

「お前らの想い―――確かに受け取った…ッ!!」

そして、敵を見据え、一海は立ち上がる。

「―――俺に力を貸してくれ・・・ッ!!」

「・・・カシラ」

切歌が、そっと一海に尋ねる。

「アタシも・・・あの人たちの想い・・・受け取ってもいいデスか・・・?」

「そんなもん、聞かなくてもわかるだろうが・・・ッ!!」

その言葉に、切歌は涙を拭う。

「そう、デスよね・・・!!」

そして立ち上がって、その三つのドッグタグが付けられたドッグタグネックレスを首にかける。

そして、立ち上がって、敵を見据えた―――

 

 

 

 

 

 

東京都内、ダウンフォールが暴れる場所にて―――

戦兎が、ビルドドライバーを腰に巻く。

それと同時に、内海も、その手に人間用に調整されたエボルドライバーを腰に巻いていた。

その傍らには、翼、慧介の姿もあった。

 

 

 

また、別の場所では、幻徳とマリア、響、未来、そしてウルフの四人と一匹の姿があった。

その幻徳の腰には、ビルドドライバーと、細長いアイテム―――

 

それぞれのライダーが、自らのビルドドライバーに、そのアイテムを装填する。

 

プライムロォーグッ!!!』

 

『ボトルバーン!!!』『クロォーズマグマァ!!』

 

タイガァージュエリィーッ!!』

 

蝙蝠!!』『発動機!!』『エボルマッチ!!』

 

ラビットタンクスパークリング!!』

 

それと同時に、装者たちの手にあるリンク・アニマルたちのスタンバイスターターを押し、それぞれのアニマルブレイズたちを呼び出す。

 

『STANDBY!』

 

そして―――一海の手の中にあるグリスフルボトルを振ることで活性化、それを、グリスパーフェクトキングダムに装填する。

 

ウェルカムッ!!』

 

そして、それにある『キングダムアップスターター』を押す。

 

ゥッ!!』

 

それを、ビルドドライバーに装填する。

 

グリス ッ!!!』

 

切歌は、その手の『パーフェクトキングダムプリンセスフルボトル』のトランジェルソリッドを活性化、それを、イガリマシャークの口の中にあるフルボトルスロットに装填、スタンバイスターターを押す。

 

『STANDBY/KINGDOM!!』

 

そして、ボルテックレバーを回す一海の周りには、四つの炎の影。

赤、黄、青、そして緑―――その四つ。

 

切歌の背後には、鮫でなく、城、クワガタ、フクロウ、そして城の上に居座るロボットがアニマルブレイズとして出現する。

そのアニマルブレイズたちが、咆える―――

 

 

『Are You Ready?』

 

 

『覚悟は良いか?』―――その問いかけが、彼らに向けられる。

 

その言葉に、彼らは確かな覚悟をもって答える。

 

「変身・・・!」

 

戦兎が敵を見据え、

 

「変身!」

 

内海が高らかに、

 

「変身!」

 

龍我が力強く。

 

「変身!」

 

慧介が己の未熟さと共に、

 

「変身」

 

幻徳が確かな覚悟とともに、

 

「抜剣!」

 

響が本心を曝け出すように、

 

「抜剣」

 

翼が己が使命を胸に、

 

「抜剣!」

 

クリスが撃ち抜く相手を見据え、

 

「抜剣・・・!」

 

マリアが自身の正義を信じて、

 

「抜剣!」

 

未来が、大切なものを守るために、

 

 

 

「―――変身」

 

 

 

一海が、受け継いだ想いを胸に――――

 

 

 

「―――Zeios igalima raizen tron(暁の空に誓う勝利を手に)―――」

 

 

 

切歌が、受け取った力に祈りを込めて―――

 

 

 

 

―――今、変身する。

 

 

 

 

シュワッと弾けるラビットタンクスパークリング!イェイイェーイ!』

 

 

極熱筋肉ゥッ!!クロォォォズマグマァッ!!!』

アーチャチャチャチャチャチャチャアッチャァァアアッ!!』

 

 

 

バットエンジン!!』

『フゥハハハハハハ!!!』

 

 

 

大義晩成ィッ!!プゥライムロォーグッ!!!』

『ドリャドリャドリャドリャドリャァァアア!!』

 

 

『潰れるゥ!流れるゥ!!溢れ出るゥッ!!!』

タイガァー・イン・タァスクゥッ!!』

『ブルァァァァア!!!』

 

 

『DAINSLEIF』

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron(希望の為のカウントダウン)―――」

 

「―――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)――」

 

「―――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)―――」

 

「―――Seilien coffin airget-lamh tron(望み掴んだ力と誇り咲く笑顔)―――」

 

「―――Rei shen shou jing rei zizzl(鏡に映る、光も闇も何もかも)―――」

 

 

全ての戦士、戦姫に、戦うための鎧と戦装束が纏われる。

そして、それこそが―――仮面ライダーであり、シンフォギア装者である証。

 

今ここに存在する、全てのライダー、シンフォギアが復活した瞬間であり―――

 

 

 

 

ファーマァーズフェスティバルゥッ!!!』

 

 

グゥリスォッ!!!』

 

 

ガキンゴキンガコンドッキングゥゥウ!!!』

 

 

 

その姿は、まさしくメタルヒーロー。

赤い肩のガジェット、腕に取り付けられたブレード、背中の飛行ユニット。

黄金を基調とし、赤、黄、青、緑の四色の装飾を施されたその鎧は、限りなき心火の炎を体現する、男と仲間たちの想いが込められた姿。

 

それこそが、仮面ライダーグリスパーフェクトキングダム。

 

グリスの最終にして最強の、変身形態。

 

 

 

その姿は、戦場に立つ戦乙女。あるいは、姫騎士か。

被るヘッドギアには金、赤、黄、青のラインに十字を組むようなものへ。肩のアーマーは赤い盾へ、背中には黄色の飛行ユニット。その手には、クワガタを模した青い戦斧が二つ。

腰から伸びるマントは五色のカラーリングが施されており、その身にまとうインナーと鎧は、緑を基調とした、五色の姫騎士を思わせる武装―――

 

それこそが、パーフェクトキングダムプリンセス型ギア。

 

戦場に立つ姫騎士の如き、暁切歌、最大の切り札。

 

 

 

「――――これが最期の」

 

その手のドッグタグを握り締めて、漆黒を纏う装者たちと己が持つ最大の力を纏うライダー。

 

その力に込められた想いを胸に、グリスと切歌は―――

 

 

「―――祭りだぁぁぁああぁぁあああああ!!」

「―――デェェェェエエエッス!!!」

 

 

――――敵陣に突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

そして、最後の決戦が今、始まる。




次回、愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

始まるダウンフォールとの決戦!

「全ては、難波重工の―――」

全ての戦士がその想いを燃やし、

「大義の為の犠牲となれ・・・ッ!!」

強大な敵を打ち倒す為に、

「当たると痛い、この拳―――」

拳を握り、

「もう誰にも、止められねぇぇえ!!」

刃を手に、

「俺の牙は誰にも折れねえ」

力の限り、戦い抜く。

「勝利の法則は―――」

「―――決まった!」

その戦いの行方は―――


次回、グリス編最終回―――

―――『アカツキノソラ』

「これが俺の力だぁぁぁああ!!」


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アカツキノソラニ

切「ついに、グリス編もさいしゅうか―――いたぁ!?」
一「おいコラどういうことだ。俺の話なのになんで俺があらすじで全くでてこねえんだ?ああ?」
切「し、しらないデスよ!全ては作者のさじ加減なんデスから!」
一「ふざけんな!主役は俺だ!俺を出せ!」
龍「もう出てるだろ今この瞬間」
一「は?何言って・・・・ってもう録音しているだとォ!?」
龍「おせーんだよいつも」
幻「やはりポテトだな」
一「んだとやんのか!?」
幻「受けてたとう太郎丸!」
響「やめてください!」
一幻「ぐあぁぁああ!?」
慧「えー、火星で発見されたパンドラボックスによって引き起こされたスカイウォールの惨劇から十一年。新世界を創造し、数々の戦いを潜り抜けてきた桐生戦兎たち仮面ライダーと新たな仲間であるシンフォギア装者風鳴翼らと共に、突如として襲撃してきた過激派テロ組織『ダウンフォール』との戦いに身を投じるのであった」
調「前回はグリスの新形態と切ちゃんの新しいギアが出てきたんだよね」
戦「そう!特別なボトルを使って展開されるこの小説オリジナルのシンフォギア!その名も~『ビルドギア』!すごいでしょ?最高でしょ?天才でしょ~!!!」
セ「流石戦兎先生です!」
マ「セレナ、お願いだから貴方も馬鹿みたいなことはしないで・・・」
翼「む、マリア、何故そんなにやつれているのだ?」
マ「気にしないで」
切「まあ何はともあれ、シンフォギア・び―――デェ―――!?」
戦「あ、あらかじめ仕掛けておいた侵入者撃退用の落とし穴。なんで作動したんだ?」
クロ「きゅ~るる~」
未「もうっ、クロ!!」

―――ェェェエス!!ボチャン!!

ク「ありゃ外に投げ出されたな」
慧「なんか、最後の最後まであいつロクな目にあってねえな・・・」
一「ったく、仕方ねえな・・・シンフォギア・ビルド!グリスへ―――ェェェ―――!?」
ク「はあ!?今度はこいつもだと!?」
アメ「ピョンピョン!」
翼「こら!アメ!勝手にボタンを押すんじゃない!」
ク「ていうかなんでわかったんだよ隠しボタン!?」

―――ァアアァアア!!デェェエス!?ゴチン!!

戦「・・・というわけで、シンフォギア・ビルド、グリス編最終話をどうぞ!」


グリス、切歌、クローズ、クリスの四人が、敵部隊に突っ込む。

「うぉぉぉ―――っりゃァ!!」

振り下ろされるラプチャーシザース。それが向かってくるガーディアンたちを瞬く間に切断していく。

「うりゃぁああ!!」

さらに、切歌の方も両手の戦斧(トマホーク)を振るい、素早い手数で敵を薙ぎ倒していく。

その一方、敵を薙ぎ倒していたクローズが叫ぶ。

「美空と調は任せろ!」

「お前らは敵の親玉を頼む!」

クローズとクリスが、ガーディアンたちを薙ぎ払い、撃ち抜きながら、政府官邸へ入っていく。

「おう!」

「調と美空さんをお願いするデス!」

そのまま襲い掛かってくるガーディアンを斬り払い、そして彼らはファントムビルドとシャルティナと対峙する。

「仮面ライダーとシンフォギア・・・舐めんじゃねえぞ」

「ここでお前らをぶっ潰すデス」

「ふんっ、面白い。受けて立とう」

「お前だけはここで殺す」

対峙する両者。そして、何の前触れもなく互いに走り出し、そして、激突する。

 

 

 

 

 

強化型ガーディアンの肩を掴み、そのまま振り向かせたかと思えば、その手のスチームブレードで叩き伏せ、続くもう一体の攻撃を弾いた瞬間に切れ味に任せて両断。

「フハハハハ!!」

笑いながら、薙ぎ払いながら、敵を蹂躙していくマッドローグ。

その強さはさることながら、とてつもない力を発揮している。久々の変身にも関わらずだ。

その最中で、マッドローグは、エボルドライバーのEVレバーを回し、拳を振り上げる。

「全ては、難波重工の―――」

しかし、そこでふと思いとどまり、

「―――いや、民衆のために」

次の瞬間、マッドローグの必殺技がその場に炸裂した――――

 

 

 

 

 

白きマントを翻し、振りかかる火の粉を払うかの如く、プライムローグは敵を殴り飛ばす。

ファントムクラッシャーの攻撃をものともせず、ローグはそのまま殴り飛ばし、続けて襲い掛かる敵すらも投げ飛ばし、ボルテックレバーを回す。

「大義の為の犠牲となれ・・・ッ!!」

 

『ガブッ!ガブッ!ガブッ!』

 

『Ready Go!』

 

次の瞬間、飛行能力で突っ込んできたファントムクラッシャーに対し、振り向きざまにアッパーを叩き込んで上空へ吹っ飛ばした瞬間、

 

プゥライムスクラップブゥレイクッ!!』

 

そして飛び上がり、両足に収束したエネルギーをもって、ファントムクラッシャーを挟み砕く。

「うおぉあぁあぁぁあああ!!!」

そしてマントを翻し、次なる敵へ向かう。

 

 

 

「やぁぁああ!!」

得意の格闘技、それを駆使して、響は襲い掛かるガーディアンたちを殴り飛ばす。

しかしそこへ、シャルティナの妹のクレアが、右腕に巨大な腕を携えて響を襲う。

「くっ!」

「出てきやがったなシンフォギアァ!」

クレアは問答無用で響に攻撃を仕掛ける。

「ねえ、本当に話し合う事は出来ないの!?」

「なんて悠長!そんなこと言ってる暇があるなら、さっさと死ねや!」

巨大な腕が、響に迫る。

それが、響に直撃する―――しかし、

「ッ!?」

その拳は、響の片腕によって防がれていた。

「当たると痛い、この拳―――」

もう片方のアームドギアを変形させ、巨大なジェットナックルへと変形させる。

「―――だからこそ、この拳で、貴方を止める!」

「ッ!?」

クレアの腕を押し返し、響は右腕にフェニックスブレイズを纏う。

「おぉぉぉおぉおお!!」

そして、その拳を、そのままクレアに叩きつけた。

 

 

 

 

襲い掛かるガーディアンたち。しかし未来は、そのガーディアンたちを、その場から一歩も動かないでミラーデバイス、そして、鉄扇からの攻撃をもって全て迎撃していた。

そのまま次々と敵を撃ち抜いていき、敵の数を一気にへらしていく。

「繋いだ手、離さない為に・・・!」

脚部ギアの鏡を展開、そして、さらに無数のミラーデバイスを展開し、一斉に発射、それを互いに反射させ、無数に乱反射、瞬く間に範囲内のガーディアンたちを一掃する。

 

暗黒

 

終わることなき無数の光が、ガーディアンたちを消し飛ばす。

 

 

 

「ダラァア!!」

襲い掛かるガーディアンたちをタスクは三次元に等しい機動性で次々に敵を倒していく。

それは全て緒川との特訓の賜物か。

その最中で、ガーディアンの一体が、タスクを撃ち抜く。その一撃は確かにタスクを撃ち抜き―――そして倒れたのは穴の開いた丸太だった。

それに驚いていると、

「俺の牙は誰にも折れねえ」

気付けば、敵部隊から少し離れた所に、タスクはいた。

 

スクラップクラッシュッ!!!』

 

アクティベイトレンチを下ろし、タスクは片足を引き、ぐっと腰を下ろす。

次の瞬間、タスクの姿が掻き消え、一瞬、その集団の中にタスクの姿が見えたかと思えば、靴底をすり減らして、着地する、先ほどいた場所とは正反対の所にタスクが着地する。

そして、次の瞬間、ガーディアンたちが音もたてずに倒れていく。

「ふう・・・」

(調のことは任せたぞ、切歌・・・)

自分の妹分、あるいは、姉妹に、タスクはそう心の中で呟いた。

 

 

 

 

スパークリングの機動性を生かし、瞬く間にガーディアンたちを倒していくビルド。

そして、ビルドの背中を、翼がカバーしていく。

「戦兎!」

「おう!」

泡の破裂、スカイスプリングの弾性をもって、二人は高速で戦場を駆け抜ける。

そして、背中合わせに立った所で、ボルテックレバーを回し、いつもの決めポーズをとる。

「勝利の法則は―――」

「―――決まった!」

すかさず、ファントムクラッシャーがミサイルを無数に放つ。しかし、それら全てはビルドと翼の前に全て外れ、二人は飛び上がる。

 

 

スパークリングフィニッシュッ!!!』

 

泡が破裂する勢いを推進力に、足のブレードから噴出するバーニアを噴出させて、二人はファントムクラッシャーに突撃、そして撃ち抜き吹き飛ばす。

 

 

 

 

政府官邸内―――クローズが敵入り乱れる中、その火力をもって突っ込んでいく。

「うぉぉぉおお!!」

そしてそのまま拳を突き出し、ガーディアンをぶっ飛ばす。

「力が漲る!!」

背後から襲い掛かるガーディアンすらも殴り飛ばす。

「魂が燃える!!」

その股を掻い潜って、クリスが拳銃で敵を一発も外すことなく撃ち抜く。

「俺のマグマが、迸るゥッ!!!」

振り下ろされる刃、それをクローズが受け止め、その懐からクリスが両手の拳銃をもって撃ち抜く。

「龍我!」

そして、クローズがクリスを肩に乗せると、その両足にすら銃口を装着、そのままクローズがその場で回転し、その勢いのままクリスが引き金を引き絞る。

放たれ乱射される弾丸が、まとめてガーディアンたちを破壊していく。

「もう誰にも、止められねぇぇえ!!」

そして、道行くガーディアンたちを叩きのめした所で、クローズは美空と調が監禁されている部屋にたどり着く。

「ッ!美空!」

「アタシが抑えてるから、龍我は二人を!」

クリスが入り口前に陣取り銃を撃ちまくる。

「万丈!」

「龍我さん・・・!」

すぐさまクローズが美空と調を縛っているロープを解きにかかる。

「あ、足もか」

と、足のロープを外している所、

「グリス・・・!」

「切ちゃん・・・!」

「あ?え?」

突然立ち上がった美空と調は、一目散にどこかへ行ってしまう。

「は!?」

「おい、どこ行くんだよ!?ってうお!?」

「あ、おい待て!行く前にこれを、って鬱陶しい!!」

すぐさま二人を追いかけようと思っても、ガーディアンが襲い掛かってくるので、二人はそれを食い止める事になってしまう。

「あーっもう!あいつにこれ渡さなきゃいけないってのに!」

 

 

 

 

 

マリアの蛇腹剣が、纏めてガーディアンたちを貫く。

その剣を一気に引き抜き、ある程度のガーディアンたちを殲滅した所で、マリアは右手の短剣を掲げ、飛んできた矢を弾く。

そして、視線を向ける先に―――イースはいた。

「お前を殲滅する」

そして、恐ろしい速度で矢が連射される。

ラムからの『超危険』という言葉を信じ、マリアはその矢を横に走って躱す。

すかさず左腕のガントレットから無数の短剣を取り出し、それを一気にイースに放つも、イースはそれを全てその手の弓で叩き落し、そして一瞬腰を落としたかに思うと、一気にマリアに接近、

「ッ!?」

寸での所でその蹴りを受け止め、大きく距離を取らされるも、顔を上げた先には、九つの矢がマリアに迫ってきていた。

それらがまるで蛇の頭部のような煙を放っており、直撃すれば間違いなくただでは済まない事が目に見える。

それをマリアはどうにか迎撃しようとした、その時―――

 

『エレキアップ アンペア!』

 

次の瞬間、雷鳴が駆け抜け、瞬く間にその矢が叩き落される。

「―――ッ!?」

「何っ!?」

それにマリアとイースは目を剥き、しかしマリアはすぐにふっと笑うと、リンクスアームズ『レギオンソード』を展開。そのままイースに攻撃をしかける。

イースは、それを己が手の弓とどこからか取り出した弓をもって迎撃するが、先ほどの短剣よりより精密で高速な機動性をもつレギオンソードをいなしきることは出来ず、瞬く間に追い詰められる。

そして、気付いた時には懐に入られており、

「しまっ―――」

「私の罪で貴方を裁く…ッ!!」

 

SERE†NADE

 

「う――あぁぁあ!?」

絶対切断の一撃が、イースを両断し、そしてすさまじい爆発を引き起こす。

必殺の一撃を決めたマリアは、ふと振り返って、そして、仕方がないように笑う。

「・・・戻ってきてるなら、言いなさいよね」

 

 

 

 

 

 

グリスとファントムビルドが空中で激突する。

「激戦ッ!!」

空中で交わる斬撃。

「激昂ッ!!」

ファントムビルドがその手にもつドリルクラッシャーとグリスの腕に装着されたラプチャーシザースが火花を散らす。

「激震ッ!!」

その最中で、グリスの斬撃がファントムビルドは弾き飛ばす。

「ぬぐっ!?」

そこへ振り下ろされる両腕の刃。

「これが俺の力だぁぁぁああ!!」

そのまま激しい連撃がファントムビルドに襲い掛かる。

その一方で、両手の戦斧を振るい、切歌もまたシャルティナと激しく鬩ぎ合っていた。

 

「危険信号点滅ッ!地獄極楽どっちがイイDeath!?」

 

歌を叫び、切歌はすさまじい連撃をもってシャルティナを責め立てる。

両手横薙ぎを喰らわせて大きく下がらせ、そこへ両手の戦斧(トマホーク)を合わせて巨大な戦斧(ハルバード)へと変形させたところで、そのサイズの戦斧をもってシャルティナに連撃を喰らわせる。

一見、グリスと切歌が押しているようにも見えるこの光景だが――――

「どれほどのものかと思えば・・・」

振り下ろされた刃、それをファントムビルドは掴み、動けないようにしていた。

「その程度か!」

そして、そのまま弾き飛ばしたかと思えば、先ほどと打って変わってファントムビルドがグリスを激しく責め立てる。

そして、それはまたシャルティナも同様で、

「その程度の攻撃で」

「ッ!?」

戦斧を掴まれる切歌。シャルティナはそのまま戦斧を振り回し、切歌の態勢を無理矢理崩す。

「私を仕留められると思ったか!」

その態勢が崩れた切歌に対して、シャルティナもまた激しく連撃を叩きつける。

攻守一転、切歌とグリスが追い詰められる。

そして、ファントムビルドがグリスに向かって膝蹴りを叩き込んで吹っ飛ばし、シャルティナもまた、アロンダイトを振るって切歌を吹っ飛ばす。

「ぐあぁああ!?」

「うわぁぁあ!?」

吹っ飛ばされ、階段を転げ落ちるグリスと切歌。

転げ落ちた先、それぞれの得物を杖に立ち上がろうとするグリスと切歌だったが、そこへ、ファントムビルドのミサイルが殺到する。

「「ぐあぁぁあぁぁああ!?」」

そして成す術もなくミサイルの雨を浴びてしまい、グリスと切歌は、地面に倒れ伏す。

「ホワイトパネルを得た俺が、絆如きで強くなった気でいるお前らに負ける訳がない」

倒れ伏すグリスと切歌に、ファントムビルドは嘲笑うかのように階段を降り、そして見下してくる。

「俺がナンバーワンだ」

そして、そう告げた。

「家族もいない。兄弟もいない。姉妹すらもいない。そんなお前が、血も繋がってもいない奴らとの絆で、『鞘』を得て、無敵となった私たち姉妹の絆に勝てる訳がないだろう」

そしてシャルティナもまた、切歌を見下す。

そんな、倒れ伏している二人は―――

「・・・フフフ・・・」

「・・・ハハ・・・」

「フハハハハハハ!!」

「アハハハハハハ!!」

何故か、笑い声をあげていた。

「・・・何が可笑しい?」

グリスが、その手にもったドッグタグを見つめ、ファントムビルドとシャルティナに言う。

「お前らは、何も分かってねえ・・・」

起き上がる、グリスと切歌。

「アタシたち、仮面ライダーとシンフォギア装者は、大勢の希望を託されて戦ってるんデス・・・!!」

「半端な覚悟じゃ務まらねえ・・・」

その様子を、美空と調は、静かに見ていた。

「心の火を燃やして、みんなの想いに応える・・・ッ!!」

グリスが、立ち上がる。

「それが―――」

切歌が、その足で踏みしめる。

 

運命(さだめ)として仮面ライダーを選んだ―――」

「―――シンフォギア装者を選んだ―――」

 

「「―――俺たち/アタシたちの生き様なんだよぉぉぉぉおお!!!」」

 

絶叫し、そして二人は、その胸に拳を当てる。

 

「心火を燃やして―――」「―――ぶっ潰すデス」

 

その時、切歌のシンフォギアから、これまでにない旋律が奏でられる。

その両腕のブレードを構えて、その手の大戦斧を携えて、グリスと切歌は敵に向かって駆け出す。

 

「―――相手がどれだけ 悲しむかなんて 想像も出来ていなかった」

 

グリスの斬撃がファントムビルドに襲い掛かる。

その斬撃を叩きつけ、またドリルクラッシャーの反撃が迫るも躱し、凄まじいまでに激突し、そして互いに弾かれた所で天井を突き破って上空に飛ぶ。

 

「―――覚悟は大事 だけどもっと 自分を大事に」

 

その最中で切歌とシャルティナもまた激しく激突、その戦場を駆け抜けながら互いの武器を叩きつけ合う。だが、その最中で切歌の姿が消える。

「なっ―――」

しかし、次の瞬間、柱に鎌をひっかけて旋回していた切歌の蹴りがシャルティナの横から炸裂する。

そして態勢を崩したシャルティナに向かって、切歌は背中のバーニアを噴出、そのまま突っ込み、柱を何本か砕いて上空へ飛び出す。

 

「―――おせっかいが目に沁みた あの日々が宝物で」

 

空中で交わるグリスとファントムビルドの戦いに割って入るように、切歌がシャルティナを連れて飛ぶ。

その最中でシャルティナが切歌を弾き飛ばす。

そして、錬金術をもって空中に屹立。そして術式を展開したかと思えば、砲撃を切歌に向かって放ってくる。

 

――Yes,Yes!

 

「今の自分―――」

 

その追尾してくる砲撃を躱し、

 

―――Yes,Yes!

 

「支えてる―――」

 

その飛ぶ先は、グリスの方であり―――

 

「勇気の礎―――ッ!!!」

 

グリスが振り向き刃を振るい、切歌がその下を潜り抜ける。

そして、選手交代と言わんばかりに、切歌がファントムビルド、グリスがシャルティナと激突する。

「なっ!?」

「なんだと!?」

 

「―――ススメッ!!夜明けの陽の名の下で!!」

 

切歌の戦斧がファントムビルドに叩きつけられ、そのまま激しく打ち立てる。

 

「―――光の挽歌を歌うデスッ!!」

 

グリスの斬撃がシャルティナを襲い、展開される防御術式すらも斬り裂いて打ち落とす。

「馬鹿な、持ち主を異次元の存在とすることで、絶対的不老不死を与えるエクスカリバーの鞘をもっている私に、攻撃を当てることなど・・・!?」

その時、シャルティナの目に、切歌のギアと同じ緑色の装飾がグリスにあることに気付く。

「まさか、その力は―――」

「―――この力は、切歌の分も入ってんだよぉぉぉおお!!」

イガリマの斬魂能力。それが、グリスパーフェクトキングダムにも搭載されているのだ。

だから、シャルティナに届く―――

 

「グロリアス!!世界を照らす輝き―――ッ!?」

 

その最中で、ファントムビルドが切歌の攻撃を躱し、その足を掴んで投げ飛ばす。

切歌は、建物の屋上を数度バウンドし、屋上の上を転がる。

 

「――ッ!!戦う、意味をォ―――!?」

 

それでも歌を途切れさせない切歌に向かってファントムビルドはさらにミサイルの雨を降らせる。

それが切歌に炸裂する。だが、舞い上がる黒煙の中を駆け抜け、切歌はそのミサイル群から逃げ回る。

 

「ぐっと――希望(たいよう)にィ―――ッ!!」

 

襲い掛かるミサイルを躱し、しかし避けきれず当たりそうになった所でグリスが横から掻っ攫っていく。

 

「手に―――なれるように―――!」

 

その手を掴み、襲い掛かるミサイルを躱していく。

 

「暁の空に飛ぼ―――ッ!?」

 

「どこに行こうというのか?」

しかし、そこへシャルティナの大剣が突き刺さり、グリスと切歌は叩き落される。

「ぐあぁぁああ!?」

「あぁぁあああ!?」

一気に地面に落ちるグリスと切歌。

しかし、それで止まってくれるほど敵は甘くない。

「これで―――」

「―――最後だ」

そこへ、振り下ろされるアロンダイトとドリルクラッシャーの一撃。

それを、切歌とグリスはその直撃を貰う―――だが、その一撃を、二人は見事に受け止めていた。

「なにっ!?」

「―――うぉぉぉぉおおおぉぉおお!!」

グリスの絶叫が迸る。

 

―――Yes,Yes!

 

「みんながいる―――」

 

二人の体から吹き上がる、三色のオーラ。

「これは―――!?」

「ハザードレベルが、急上昇していく―――装者までも、だと!?」

 

―――Yes,Yes!

 

「暖かい―――」

 

次の瞬間、剣を弾き飛ばした切歌とグリスが、反撃に出る。

グリスの振るうラプチャーシザースがファントムビルドを斬り裂き、切歌の戦斧(ハルバード)が再び二つの戦斧(トマホーク)に分かれてシャルティナを吹き飛ばす。

「ぐあぁぁあ!?」

「くぅっ!?」

吹き飛ばされ地面を転がっていた二人だったが、すぐさま立ち上がり、ミサイル、砲撃術式、履帯型エネルギー、そしてアロンダイトのエネルギー斬撃を纏めてグリスと切歌に叩きつける。

 

『ハザァードフィニッシュッ!!!』

 

その直撃に、それを見ていた美空と調は目を見開く。

しかし、煙が晴れた先にいたのは、エネルギーバリアとして展開されたグランドランパートによって防がれていた。

 

「―――帰る場所のためッ!!」

 

そして、それを展開した切歌とグリスが、反撃と言わんばかりに攻勢に出る。

 

ブルゥッ!!』

 

ボルテックレバーを一回転させ、両腕のラプチャーシザースにエネルギーを込める。

それと同時に、再び二つを合体させて戦斧(ハルバード)へと変形させた切歌が、大きく戦斧を構える。

 

「ススメ!夜明けの陽の名の下で―――」

 

『Ready Go!』

 

二人が同時に駆け出し、先に切り込んだ切歌の斬撃をシャルティナが防御、そのまま切歌は二人の背後に頭上を越えて回り、そして、遅れて飛び込んできたグリスの一撃目をファントムビルドが受け止めるも弾かれ、そして切歌とグリスの斬撃が交錯するように炸裂する。

 

スゥタッグスラァッシュッ!!』

 

激烈・Sぅ打ぁっ愚

 

「勝利の喜び、歌うデース!!」

 

ブルゥッ!!』『イエロォッ!!』

 

ボルテックレバーを二回転させ、今度は飛翔する。

一撃目で二人を打ち上げ、そのまま縦横無尽に飛翔し、二人を吹き飛ばす。

 

オウルアタァックッ!!』

 

天災・汚ぅLu

 

そのまま二人を吹き飛ばす切歌とグリス。

 

「グロリアス!世界を照らす輝き!!」

 

そして、もう三回、ボルテックレバーを回す。

 

ブルゥッ!!』『イエロォッ!!』『レッドォッ!!』

 

切歌は浮遊したまま、肩のグランドランパートを可動。それと同時にグリスも両肩のランパートをエネルギー化して可動。

その銃口を敵に向け、そして―――一気にぶっ放す。

「行くぞぉぉぉおおおぉおおお!!」

 

キャッスルブゥレイクッ!!』

 

城砲・鬼ャっす琉u

 

炸裂する砲撃が、ファントムビルドとシャルティナを撃ち抜く。

「ぐあぁあぁぁああ!?」

「うわぁぁあぁああ!?」

その直撃を受けたファントムビルドとシャルティナ。だが、それで終わらない。

 

ブルゥッ!!』『イエロォッ!!』『レッドォッ!!』

グゥリィィンッ!!』

 

再び、ラプチャーシザースにエネルギーが充填、しかしその色は緑色であり、すかさず切歌もその手の戦斧をもってシャルティナに突撃する。その刃には、黄金の光が―――

 

イィガリマファングゥッ!!』

 

王撃・狗リi捨

 

グリスが両腕の刃を思いっきり振り抜くことで放たれるのは三日月形の無数の刃、それがファントムビルドとシャルティナに殺到し、突き刺さった所で、切歌の戦斧の一撃が、二人纏めて横薙ぎに斬り裂く。

その一撃を貰い、ファントムビルドは膝をつく。

「こんな力・・・どこから・・・!?」

後ろによろめくシャルティナ。

「いや・・・いやよ・・・こんな、ところで・・・!!」

しかし、そんな二人を知ったことかというように、グリスはボルテックレバーを全力で回す。

 

「戦う意味を―――」

 

切歌も歌を紡ぎながら、その手の戦斧(ハルバード)を右足に装着する。

そしてグリスは、ボルテックレバーを回しながらドッグタグを握り締める左手を振り上げる。

「俺の前にィ―――」

 

ブルゥッ!!』『イエロォッ!!』『レッドォッ!!』

グゥリィィンッ!!』

 

ゴォルドォッ!!』

 

 

「―――ひィれ伏ゥせぇぇぇえええぇぇえええええぇえ!!!!」

 

グリスが叫び、大きく腰を落としていた切歌が飛び上がる。

 

「ぐっと―――希望(たいよう)に―――」

 

駆け出すグリスと、空中で飛行ユニットのバーニアを噴出する切歌。

 

「手に―――なれるように―――」

 

それを見守る、美空と調。

 

『Ready Go!』

 

走り、飛び上がるグリス。その周囲に、三人のスマッシュと一人の装者の幻影が出現し、それがグリスに収束、まるでドリルの如く回転して敵に突っ込んでいく。

そして、切歌もまた、バーニアを噴出させることによって車輪のように高速で回転。そしてグリス同様に、三人のスマッシュ、そして一人の仮面ライダーの幻影と共に、一気に敵に突撃していく。

しかしそれに、比較的にダメージが大きいファントムビルドは成す術はなく、シャルティナだけは切歌に向かって渾身の反撃を喰らわせようとする。

しかし、振るわれたアロンダイトの一撃は、切歌の振り下ろした右足に装着された戦斧の一撃の前に折れ、その一撃を、二人同時にその身に受けた。

 

「―――暁の空に飛ぼォォォォオオォオオッ!!!」

 

キングダムフィニィッシュッ!!!』

 

完全・騎ィン救駄ムu

 

『ドゴドゴドゴドゴドゴォンッ!!』

 

螺旋を描き突き刺さるグリスの『パーフェクトキングダムフィニッシュ』の飛び蹴りと、縦回転の勢いを利用した切歌の『完全・騎ィン救駄ムu』が、ファントムビルドとシャルティナに突き刺さった。

その一撃を貰った、ファントムビルドは―――

「ァ・・・俺の方が・・・遥かに高い能力を備えていた・・・なのに、どうして・・・この差は・・・なんだ・・・」

信じられないと、ファントムビルドは理由を探した。

そして、その疑問に、グリスは答える。

「・・・俺たちには守るべきものがあって、お前にはそれがなかった。それだけのことだ」

その言葉を伝え、それを聞いたファントムビルドは―――そのまま粒子となって消滅し、取り込まれていたパンドラパネルが、がしゃん、と地面に落ちた。

「う・・・ぅう・・・」

そのパンドラパネルに向かって、膝をついたシャルティナが、必死に手を伸ばす。

「いや・・・いやよ・・・こんな、ところで・・・終わりたくない・・・」

切歌の一撃を受け、その左肩を大きく斬り裂かれたシャルティナは、涙を流しながら、そのパンドラパネルに手を伸ばす。

「私、たちは・・・必ず・・・理想郷に・・・!」

「もう、やめるデス」

そんなシャルティナに、切歌も膝をついて、そっとその手を取った。

「本当の家族も、兄弟も、姉妹もいないアタシでも、アナタの妹たちが、それを望んでいないことはわかるデス・・・」

ぎゅっと、その手を握って。

「貴方が、幸せでいることが、その人たちの願いなんデスよ」

本当の家族の在り方を知らない切歌。だけど、シャルティナの家族みたいな絆を感じている切歌だからこそ―――切歌は、シャルティナを止めた。

「・・・」

その言葉に、シャルティナはふと、遠い昔の記憶を思い出す。

 

三姉妹、楽しく生きていた、あの頃を―――

 

「・・・イース・・・クレ・・・ア・・・・」

その言葉を最後に、シャルティナもまた、光の粒子となって消えていく。

そして、そこに落ちたのは―――アロンダイトのファウストローブ、その鍵となる、小さな剣だけだった。

それを切歌はそっと拾い上げ、胸の前で、それを抱きしめた。

それを見届け、グリスは、晴れていく空を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ボロボロの状態で、帰り道を進む一海と、その後をどうにかついていく切歌。

「グリス!」

「切ちゃん!」

そんな二人を、美空と調は追いかけてきた。

「みーたん・・・」

「調・・・」

肩越しに、一海と切歌は二人の姿を認める。

「・・・ありがとう」

「切ちゃん・・・ありがとう」

そして二人は、一海と切歌に向かって、そう感謝の意を述べるのだった。

「・・・礼なら、アイツらに言ってやってくれ・・・」

その言葉に一海は、あの三人のドッグタグを握り締めながら、そう言う。

その言葉に、二人の表情が曇る。

僅かに血が付着したそれを、一海はそっと握り締め、また、切歌も首に提げたドッグタグを静かに握り締める。

「あいつらは・・・俺たちのために・・・!」

 

『『『カシラー!』』』

 

彼らの幻聴が、聞こえてくる。それにそっと、目を閉じる―――たところで。

「カシラー!」

「カシラぁ!」

「カシラ!それに切歌も!」

 

―――何か、おかしい。

 

「「・・・ん?」」

何やら、頭の中で響いていた筈の声が、特定の方向から聞こえてきたような気がしてそちらに目を向けてみれば、そこから、()()()()()()()()()()()が走ってきていた。

「カシラー!」

「切歌ぁ!」

茫然とする二人に、三人は思いっきり飛びつく。

「やった!」

「流石カシラと切歌ちゃん!」

「「「カシラ!切歌!カシラ!切歌!」」」

「デ、デェェェエエエス!?!?」

切歌が思いっきり振り切って尻もちをつき、そのまま思いっきり後ずさりする。

「ゆゆゆゆゆ幽霊!?幽霊デスか!?実態ある幽霊デスかァ!?南無阿弥陀仏!塩がどこであれがあっちデスか!?」

「失礼なちゃんと生きてるわ!」

「お前らなんで!?」

「いやぁ、成分抜き取られたら逆にぴんぴんしちゃって」

「ほぉら動く動く!」

「ほらあれじゃない!?デトックス効果!」

「「ああ!」」

一海と切歌を置いてけぼりにして盛り上がる三羽ガラス。

「え、えと、それじゃあ、生きてるデス・・・?」

「・・・死んだんじゃねえのかよ」

一海がそう尋ねると、

「ああ、そういや桐生戦兎がなんか言ってたな。死んだと思わせた方が、気持ちの高ぶりでハザードレベルが上がるだとかなんとか」

赤羽の言葉を聞いて、合点がいく一海と切歌。その後ろでは、美空と調が、ふっと微笑んでいた。

「・・・・なァんだとォ・・・!?」

「やっぱり、あの先生・・・・」

ゆらゆらと揺らめく怒りを、日の沈む夜に向かって―――

 

 

「悪魔の科学者がぁぁああぁぁぁぁぁああぁぁぁああああ!!!」

「デェェェェエエエェェェェェエエェエエエエッス!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、S.O.N.G.本部発令所にて。

「分ぁかってないな~」

回転する椅子に乗ってくるくる回る戦兎がそう言う。

「それほどあのアイテムを使いこなすのが難しいってことでしょうが」

「いやはや、ずいぶんと人が悪いな、戦兎君は」

「今に始まったことじゃねえだろ・・・」

弦十郎が関心するように言い、それにクリスが突っ込みを入れる。

「でも、万事解決して良かったよね」

そんな中で、紗羽がそう言い出す。

「葛城巧も、政府の研究機関に復帰したそうだ。今回の一件で、葛城先生も戦争の責任を深く受け止めて、あいつに謝罪したそうだ」

「良かったぁ」

「やっぱり親子は仲良くないとね」

続く幻徳の言葉に、響は心底安心し、未来はそんな響を見ながらそう言う。

そして戦兎も、とても嬉しそうであり、翼もその様子にふっと微笑んでいた。

「それにしても、ちょっとくっつぎ過ぎなんじゃねえのかお前ら」

龍我がそう言う先では、切歌の腕にべったりと抱き着いている調の姿があった。しかもその反対には慧介もべったりくっつかれている始末である。

「この一週間で摂取できなかった切ちゃん分と慧くん分の補給です」

「アハハ、ご心配をおかけして申し訳なかったデスよ」

「全くよ。人に何も言わずに勝手に傷心旅行に行くなんて。一体どれだけ心配したと思ってるのよ」

「あう・・・」

マリアの説教に途端に切歌は項垂れる。

「まあまあ今回の事件の功労者なんだし、マリアもそれぐらいにしとこうぜ」

「慧介は甘すぎるのよ・・・」

「そりゃあ妹分だからな」

そう胸を張ってみせる慧介。

その中で、エルフナインはふとあることを言い出す。

「それにしても、シャルティナさんですか・・・」

「ん?シャルティナさんがどうかしたの?エルフナインちゃん」

エルフナインが意外な所でそう言い出したことに響は目をぱちくりさせる。

「ボクたちのオートスコアラーの技術の一部に、()()()()()も使ってるいるんです。自分の人格、あるいは記憶から、人格を作り出すことは、いくらキャロルでも、完璧には程遠かったんです。そこで役に立ったのが、彼女の錬金術です」

「アタシらを襲った奴と先輩たちを襲った奴が、まさかオートスコアラーだったなんてな・・・」

そう。イースとクレアは、シャルティナが作り出したオートスコアラーだったのだ。

彼女たちがシャルティナを姉、と慕っていたという事は、即ち、そういう事なのだろう。

そして、彼女はこの世界の現実に耐え切れなくなり、物理的な理想郷へ向かう事を選んだ。

その結論が、あの鞘ということだ。

「フォニックゲインだけだと足りないから、パンドラパネルの力を利用しようとしたわけね」

「フォニックゲインを遮断する物質を作れるほどの奴だ。パンドラパネルのエネルギーを聖遺物起動の為にエネルギーに変換することは訳ないんだろ」

友里の言葉に、戦兎はそう続けた。

と、そこで、

「ってか幻さん」

そう言って、顎を何度か叩くと、幻徳を指さしあることを指摘する。

「ヒゲどうしたんだよ?」

言われて気付く。幻徳には、トレードマーク(?)のヒゲがないことに。

「あ、ほんとだ」

「気付かなかったのか?」

セレナの言葉にウルフがそう突っ込みを入れる。

「なんだ?失恋でもしたのか?」

「え?そうなのですか氷室長官」

クリスの言葉を真に受ける弦十郎。

「剃った方がいいと言われて」

「誰になのですか?」

「ってか、なんでダウンフォールに襲われた時に紗羽さんに連絡したんだよ?普通だったら俺かS.O.N.G.に連絡よこすでしょ?」

その戦兎の問いかけに、幻徳はふっと笑う。

「答えは簡単だ」

そう言うと、何故か幻徳の隣に紗羽が立ち――――

「俺たち―――」

 

『ホテルで朝まで』『語り明かしたってよ♡』

 

二人そろっての文字ティー。そして、その文字が意味するところは―――

「「「えぇええぇぇええええぇぇぇえぇぇええぇえええ!?!?!?」」」

それを理解した瞬間、その場にいる者たち全員が吃驚仰天である。

「二人・・・付き合ってたの・・・?」

「うそだろ・・・」

戦兎とクリスが信じられないとでも言う様に言う。

「ねえ幻さん?」

「ねえ紗羽たん?」

と、うざいぐらいに互いの指先をつんつんし合う。

 

―――と、気付けば、いつの間にか内海が立っていた。

 

「「「うわぁぁああぁぁあああああ!?」」」

本日、二度目の吃驚仰天。突然の登場に流石の一同もビビる。

「う、内海さん、いつからいたの!?」

「旧世界で私をサイボーグにしておきながら、そんな幸せを手に入れていたとは・・・」

そう、恨みがましく呟く内海。そして次の瞬間、その手にもっていた鉄棒を自分の膝に思いっきりたたきつけた。

「テェェェエヤ―――アァァアア!?」

が、鉄棒は折れず、逆に大ダメージを負う内海。

だがしかし、落ちた鉄棒を見て、それを掴むと、

「折れてない・・・」

「いや、普通は折れないよな?」

「流石は、難波スティックだぁぁあ!!」

そう、叫んだ内海を他所に、ふと友里があることを思い出す。

「あ、連絡と言えば、切歌ちゃん、なんであの時、藤尭君の携帯の電話番号を知ってたの?」

「ぎくり」

それを言われて大きく肩を跳ねらせる切歌。

「ああ、それは前に連絡先を交換してくれって切歌ちゃんに頼まれたんだよ」

「だけど普通って電話番号なんて覚えないんじゃねえのか?」

「ギクギク」

「あ、私は未来の電話番号知ってるよ!」

「そりゃあお前の嫁だからな」

「そ、そんな嫁だなんて」

「話が脱線してる脱線してる!っという事は切歌、登録さえしてればあとはどうだっていい筈の藤尭さんの電話番号を知ってたってことだよな?」

「ギクギクギク」

何やら、冷や汗がすさまじい切歌。

「そういえば、藤尭のことを名前で呼んでいたような・・・」

「な、なんで知ってるデスか!?」

「それはあの時、スピーカーモードにしてたからだけど・・・」

藤尭の言い分に、切歌の冷や汗は加速する。

「切ちゃん・・・もしかして・・・」

「暁・・・お前・・・」

「えー、ほーん・・・」

「ははあ、切歌ちゃんは藤尭さんのことが・・・」

「・・・え?切歌?それほんとなの!?」

「あ、あわわ・・・あわわわわ・・・!!」

周囲からの生暖かい視線と表情に、切歌は凄まじいまでに顔を真っ赤にする。心なしか頭から湯気が立ち上っており、そして次の瞬間、調の腕を振り切って羞恥のままに発令所を逃げるように出ていく。

「デェェエエエェェエェエェェェェェェェエエェェエエエエエェェエエェェエエェェエェェエエス!!!」

絶叫と共に、一目散に逃げていく切歌。

「逃げちゃった・・・」

「藤尭、少し話あるのだけれど」

「え?なんでそんな怖い顔してるんですかマリアさーん!?」

一目散に逃げていった切歌。

「いやぁ・・・セレナに続いて、切歌が、ハハハ・・・」

「慧くん慧くん」

ふと、調が慧介の服の裾をくいくいと引っ張る。

「ん?どうした調?」

「この後、家に帰ってやりたいことが・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バレたデス。死ぬしかないデス・・・」

未だ体の火照りが体から消えぬままとぼとぼと羞恥に顔を真っ赤にしながら道を歩く切歌。

 

きっかけは単純なのかどうかは分からないが、当初はそんなに気にならない相手であった筈の藤尭を、それなりに接していくうちに気になり始め、『慧くんと恋人になれたらなぁ』などという調の小言を聞いて途端に自覚してしまったのが事の始まり。

 

そこから、自分なりに感情を隠しつつ、努力してどうにか連絡先を入手することに成功したのだが、問題はこれをどうやって活用すればいいのかということで、連絡先をいつまでも眺めていたら、電話番号とメールアドレスを暗記してしまい、人前では言えない名前呼びをあの通話でしてしまったのが運の尽きだった。

(いや、もし朔也さんのような人が恋人になってくれたら嬉しいデスけど、アタシはまだ十代の子供、オトナな朔也さんとは違うのデス・・・でも好きになっちゃったものはしょうがないのデス!)

「はぅぅう・・・」

「あれ?切歌じゃねえか」

「ん?」

羞恥のままに歩いていると、ふと聞き覚えのある声が聞こえ、そちらに視線を向けてみれば、そこには三羽ガラスがいた。

「どうしたんだお前?」

「あ、もしかしてまた調ちゃんと喧嘩しちゃったとか」

「ああ、ありえそうだな」

などと勝手に話を進める三羽ガラスに、切歌は急いで弁明する。

「ちちち違うのデス!ただちょぉっと恥ずかしい話をされてここまで逃げてきただけなのデス!」

「え?恥ずかしい話って」

「うにゃぁぁぁあ!!もうそれ以上何も言うななのデェェェス!!」

絶叫、二度目。

「はあ・・・はあ・・・」

「あ、そうだ。お前に渡すものがあったんだった」

「え?」

ふと赤羽がそう言い出し、ポケットからあるものを取り出す。

「ほら」

「これって・・・みんなと同じ・・・」

三羽ガラスが身に着けているものと同じ、サイレンサー(プレートの周りのゴム)部分色が緑色になっている、ドッグタグだった。

「ほら、君も俺たちと同じようにカシラをカシラって呼ぶようになったからさ」

「これでお前も俺たちの仲間だ」

「ほら」

それを、切歌はそっと受け取り、

「・・・ありがとう、デス・・・大事にするデス!」

そして、嬉しそうに笑ってそう言った。

 

 

 

 

 

 

首に、三羽ガラスから貰ったドッグタグネックレスをかけ、切歌は上機嫌で帰路についていた。

下手をすればステップでも刻みそうなほどの軽快さで歩いている切歌が、無事に住んでいるアパートにたどり着けたのは上々だろうか。

そんな訳で、扉を開け、中に入ってみると、

「およ?慧介?」

「あ、お帰り切歌」

何故か慧介がエプロン姿でそこにいた。

「どうして慧介がここにいるデスか?修行とかでしばらくは一緒に食べられないって・・・」

「ああ、調が頑張った切歌のためにご褒美を用意するって言って、それの手伝いをしてるんだよ」

「ご褒美・・・」

それを聞いて、つい一週間以上前のあの出来事を思い出す。

「ん?どうした?」

いきなり切歌の雰囲気が暗くなったことに気付く慧介。

「あ、ううん、なんでもないデスよ!」

しかし、切歌はすぐさま明るく振舞い、誤魔化してみせる。

「そうか?」

「切ちゃん、帰ってきた?」

と、そこへ調が姿を見せる。

「あ、調・・・その・・・」

と、切歌は思わず言葉を詰まらせる。その様子に、調へふっと微笑み。

「いいよ。切ちゃん。もう気にしてない」

「え?」

「もとはと言えば、切ちゃんから慧くんに伝わることを止めようとして黙ってた私も悪いんだから、お互い様だよ」

「調ぇ・・・!」

「え?なんの話?」

話しについていけてない慧介は首を傾げるばかりである。

「あれ?慧介には話してないデスか?」

そう切歌が尋ねれば、調はふふっと微笑んで、冷蔵庫の中からプリンを二つ取り出して見せる。

「今日のデザートでね?」

「プリン!」

「案の定慧介が喰いついたのデス!?」

そうして、切歌は、やっと日常に戻れたのだと実感する。

 

調がいる、慧介がいる、この日常に――――切歌は、やっと帰ってきたのだと。

 

 

 

 

 

 

 

翌日―――一海と美空が付き合うという事を聞いて驚くのは、また別のお話。

 

 

 

 

―――仮面ライダーグリス with イガリマ『完』!




次回!創造しないシンフォギア・ビルドGXであ~る!



オリジナル回はまだまだ先なので楽しみに!少なくとも二週間ぐらい稼がせてもらうぜ!


戦「そんなんでいいのか・・・」
魔王「ふっふっふ~、ついに俺たちの出番だね!ゲ―――」
救世「ちょっと待てまだ名前を呼ぶんじゃないバレるだろ!?」
預言「安心したまえ救世主(笑)君、これからの事はこの本で全てわかる」
救世「おいコラなんで(笑)ってつけた(笑)って!?」
裏切「ちょっと貴方たち、落ち着きなさ・・・ってなんで裏切なの!?」
魔王「それは一度裏切ったのが印象付いてるんじゃない?」
救世「あんまりだろそれは・・・」
戦「あーはいはいまだ登場が先な奴らはさっさと帰れ!そんなわけでまた来週だ!」


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創造しないシンフォギア・ビルドGX!

戦「そんなこんなで手抜きのお笑い番組のお時間だ」
響「手抜きって・・・」
戦「いやだって自動車学校だとか大学だとか忙しくてまともにネタため込めなかったんだよ・・・まあ重要な所とかはかけたと思ってるから作者としては及第点らしいぜ」
響「及第点って・・・まあ、この間、十連ガチャやって何もできずにやる気なくしてたから、仕方がないといえば仕方がないですが・・・読者待たせた分際でそれはどうなんですか?」
戦「今や時代は『ウマ娘』に流れてるからなぁ・・・二期に至っては全てが最終回みたいな出来だし、ハマるのも無理ねえよ」
響「そういうものですかぁ?」
戦「こまけえこたぁいいんだよ。それじゃあちょっとした装者やライダーたちの日常の一幕をどうぞ!」


―――ハザードレベル―――

 

 

弦「いきなり装者とライダー全員を集めてくれと言われたが、一体どうしたというんだ?」

戦「この間、切歌がファントムリキッドを浴びてただろ。それでどうして体が消滅しないのか気になってな」

翼「そういえば、ハザードレベルなるものが低い者はネビュラガスを注入された時点で死に至るのであったな」

エル「はい。そういうわけで、戦兎さんと巧さんの知識とボクの錬金術を使って、ハザードレベル測定器を作ってみました」

龍「マジかよ錬金術すげえな!」

戦「おい設計したり回路繋いだりは俺が全部やってるんだからな」

セ「わ、私も少しは手伝ったんですからね!」

響「これで、私たちのハザードレベルが分かるんですね!じゃあまずは私からー!」

未「あ、ちょっと響!」

戦「いいよ。どうせ全員分やるつもりで全員を呼んだんだからな」

巧「僕まで呼ぶ必要はあったか?」

戦「念のためだよ。それじゃあ行ってみようか。

 

数十分後

 

エル「結果がこの通りでした」

 

 

 

桐生戦兎  7.7

 

万丈龍我  7.8

 

猿渡一海  6.0

 

氷室幻徳  5.2

 

涼月慧介  4.5

 

立花響   2.2

 

風鳴翼   4.3

 

雪音クリス 4.3

 

マリア   2.5

 

セレナ   2.2

 

暁切歌   4.9

 

月読調   2.0

 

小日向未来 3.0

 

風鳴弦十郎 1.0

 

緒川慎次  0.2

 

藤尭朔也  0.1以下

 

友里あおい 0.1以下

 

葛城巧   6.0

 

エルフナイン3.0

 

 

響「み、未来より下・・・?」

未「ええ・・・」

ク「まあアタシは予想通りだな」

翼「何故私が雪音と同値なのだ・・・?」

調「装者の中で、一番下・・・」

切「おおー一番なのデス!」

マ「それなりに行くと思ったのだけれど・・・」

セ「アハハ・・・私は案の定・・・」

弦「む、結構行くと思ったのだが・・・」

緒「司令でもこの結果・・・やはりライダーになるにはそれなりの・・・」

藤「俺たちは・・・」

友「予想通りね・・・」

エル「わわ、3.0です!」

巧「この数値は・・・そうか、お前か」

戦「さぞ俺が悪いみたいな言い方するんじゃないよ。でもまあ、これが現状って所か」

龍「なあ、人間の限界ってどれくらいなんだっけ?」

戦「6.0だな」

戦(それにしても、なんで翼の奴はクリスと同じ数値なんだ・・・?)

翼「ううむ・・・」

ク「ん?どうしたんだよ先輩?」

翼「いや・・・何故私までこのような数値なのか疑問で仕方がないのだ」

ク「ああ、そういや・・・」

戦「まあ、そのあたりは色々と調べる事にするよ」

翼「あとでお父様に色々と聞いてみる事にしよう」

 

~数時間後~

 

シ「・・・・」

 

シン 4.8

 

シ「なるほどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――制服―――

 

切「じゃーん!」

調「リディアンの制服に袖を通してみたけど、意外に着心地が良い・・・」

慧「二人とも似合ってるよ」

切「慧介も某高校の制服似合ってるのデース!」

調「うん、慧くんもカッコいい」

慧「・・・あれ?調なんか不機嫌じゃ・・・」

調「別に、同じ学校じゃないからって怒ってない。うん、怒ってないよ?」

切「イダ、イダダダダ!?しらべぇ!アタシの手を握りつぶさん勢いで握り締めないで欲しいのデース!」

慧「その細い腕のどこにそんな力が!?」

 

 

 

―――入学式―――

 

慧(入学式中とは言え、流石に保護者参加型で保護者がいないってのは意外に堪えるものがあるなぁ・・・)

モブ1「なあ、あの人ってまさか・・・」

モブ2「んな訳ねえだろこの学校にあの人が来るわけねえ」

モブ3「そうだよ。夫のいるあの人なんてあの人じゃないよ」

慧(なんだ?一体なんの話をして・・・)

 

変装する気のない変装姿のマリアと何故か当たり前の如く隣にいるシン

 

慧「マリアァァァァアァアアア!!?」

当然怒られた。

 

 

 

 

―――セレナ、新アイテムを作る!―――

 

セ「アガートラームをマリア姉さんに譲渡して、本格的に銃後の仕事に力を入れることになった今日日、私は皆をサポートするためのアイテムを作る!」

狼「やめておけ」

セ「酷い!?ウルフは心配じゃないの!?皆が強大な敵と戦った時にピンチになったりしたら・・・」

狼「その時はトライ&エラーで戦兎がどうにかしてくれる」

セ「もはや私は眼中になし!?ふん!いいもん私一人でやるもん!」ぷんすか

狼「だからやめておいた方が・・・」

セ「機能停止!」

狼「ぐあぁぁああ!?」

セ「さーてこれで邪魔者はいなくなった!なっにつっくろっかな~」

 

 

一時間後

 

セ「ローズをここに差して―――」ちゅどーん!「きゃぁぁあ!?」

 

更に一時間後

 

セ「ここを回せば・・・」バチッドカーン!「にぎゃぁぁあ!?」

 

更に一時間後

 

セ「今度こそ・・・!」スヴァアチッ!!「ァ―――」

 

更に更に一時間後

 

セ「アババババババ」バチバチバチバチ

 

 

 

 

戦「それ以上やったら本気で死ぬぞ!?」

セ「びえーん!やらせてくださぁーい!」

 

 

 

 

 

 

―――リンク・アニマルたちの談笑―――

 

 

ニク「キュイーン(あーつっかれた、なんであの人はことあるごとにボクを愛でようとするんだ)」

クロ「キュルル!(いいじゃないへるもんじゃないし!)」

ニク「(お前は能天気過ぎなんだよ!?)」

バル「(落ち着けよ。いつものことだろう)」

ニク「(お前はいいよな主人がまともでよぉ)」

バル「(そうでもないぞ?ことあるごとにダンナの惚気話を聞かされる)」

ニククロ「(あー・・・)」

アメ「(ヒャハハハハハハ!!!ヒャッハーヒャハハ!!!)」

ニク「(ゲェ一番うるさい奴が来た・・・)」

アメ「(フヒャハハハハ!!!)」ニクスにどーん!

ニク「(ギャァァアァ!?)」

クロ「(あ、吹っ飛ばされた)」

バル「(何をしているんだアイツは・・・)」

マシャ「(ガブ)」バルにガブリンチョ

バル「(イダァァアァアア!?)」大暴れ

シュル「(うるさい・・・)」

 

今日もリンク・アニマルたちは元気である。

 

ニク「(誰か助けてぇぇえええ!!)」

 

 

 

 

 

 

―――デイブレイク社―――

 

リ「・・・・」

ジ「・・・・」

リ「・・・・茶葉を変えたのかい?」

ジ「はい」

リ「・・・・」

ジ「・・・・」

テ「いやもっと会話続かせろよ業務連絡か!?」

ケ「無駄だ。この二人はいつもこうだ」

テ「おいコラケイド、お前サイボーグのくせになんで筋トレなんかやってんだ・・・!?」

ロ「おーいテラー!裏庭の池からでっかい魚が出てきたぞ~!」

テ「それはニトロの生簀ぅぅぅうう!?」

健「ねーねー、このボス中々倒せないんだけどさぁ、システムいじって弱くしちゃっていいかなぁ?」

テ「その難しさを楽しむんじゃないのか・・・!?」

べ「見てくださいこの生首、最新の爆弾化技術で作り上げた最高傑作で―――」

テ「まともな奴は一人もいないのかぁぁぁあああ!?」オマイウ

 

 

 

 

―――マリアとエリザの密会―――

 

日本のどこか―――

エ「来たわね」

マ「ええ来てやったわよ」

エ「じゃあいつもの所で」

マ「ええいつもの所で」

 

そのままラブホへと入っていった――――

 

 

シ慧(え?なんでラブホに・・・?)

 

 

後日

 

翼「む?マリア、なんだその腹に書かれている『正』の文字は・・・」

マ「戦績よ」

 

 

 

 

 

―――龍我とクリスの訓練―――

 

龍「おりゃ!」ズダン!

ク「あーあー、反動を考えて撃たないから外れちまったじゃねえか」

龍「難しいんだよなぁ銃って・・・」

ク「ほら、こうして」お胸むぎゅー

龍「・・・・」無心

 

 

ク「おっらぁ!」ずびん!

龍「腰が入ってねえから変な音になっちまったぞ」

ク「しょうがねえだろ本職はこっちじゃねえんだから!」

龍「しょうがねえな。ほら、ここをこうして脇を締めてだな」後ろからぎゅー

ク「・・・」無心

 

 

 

 

 

―――ビルドギア―――

 

響「いーなー、切歌ちゃんは~」

切「な、何がデスか・・・?」

響「私もビルドギア欲しい!」

戦「諦めろ。あれは切歌だから出来た奴だ」

響「でもでも一人だけずるいです!」

切「あれ結構疲れるからあんまり使いたくないんデスよね・・・」

響「ふん!いいもんエボルトさんに頼んでやる!」

戦「やめろ!それだけは絶対にやめろ!」

龍「マジで洒落になんねえから!」

一「そうだ!考え直せ龍我二号!」

幻「そうだぞ龍我二号!それだけはやめろ龍我二号!」

戦「やったらぶん殴るからな龍我二号!」

龍「分かったな龍我二号!・・・ん?」

響「なんで龍我二号なんですかぁあぁ!?」

 

 

 

 

 

 

―――ガードウルフ、お弁当を届ける―――

 

 

それは、何気ない日常の一幕であった。

 

「それじゃあウルフ、学校に行ってきますから、大人しくしているんですよ」

「問題ない」

 

セレナを玄関前まで見送り、ウルフは部屋へと戻っていく。

マンションの一室とは言え、セレナの研究室ともいえる一室は、常に鉄と油の匂いで充満しており、機械工学に強いセレナはそこで様々な機械の発明に一喜一憂している。

そこはある意味、ウルフにとっての犬小屋なのだが。

「む?」

今日はリビングに向かい、部屋の掃除でもしようと思った矢先、食卓の上に一つの包みがあることに気付いた。

それを大袈裟にセンサーでスキャンした所、

「弁当を忘れたのか・・・」

そこで、余計な妄想がウルフの脳裏に駆け巡った。

 

『ではセレナさん、この問題を解いてくださる?』

『はい!そんなの楽勝で―――』

 

ぐぅぅう

 

『はう・・・!?』

『ぷふっ、このタイミングでお腹なってるし』

『『『あはははは』』』

『はぅぅぅう~~』

 

 

 

「セレナの危機だ」

ウルフ、超高性能故の想像力で、主人の危機を演算した。

セレナの弁当をマニピュレータで掴むと、すぐさまセレナの現在位置を確認する。

(ぬっ、基本は徒歩である筈の彼女の移動速度が速い・・・これは、車。運転速度、技術からして―――緒川か!)

緒川の乗る車であればセレナは喜んでその助手席に座るであろう。

何かセレナは緒川にぞっこんであるからだ。

(ええい、急がねば・・・!)

窓を開け、驚異的な性能によって、隣の建物の壁にジャンプ。そのまま何度も両側の壁を行ったり来たりして落下速度を抑えながら地面に着地、そして凄まじい速度でセレナのGPSを辿る。

(この速度なら追いつけ――――ない!)

弁当の中身を考えると全力で走れない。

だから追いつけない。

ゆえに―――

(学校に先回りする!そう考えると、下に降りたのは失敗だったか・・・であれば!)

いきなり直角に曲がったかと思えば、壁に爪を突き立て、一気に壁を駆けのぼる。

そして屋上まで行くと、そのまま真っ直ぐリディアン音楽院まで駆けて行った―――。

 

「いや待てぇぇえええ!?」

 

―――が、そこへビルド・ホークガトリングフォームが待ったをかけた。

「む、桐生戦兎か?」

「いやお前何やってんの!?朝にSNSでお前の記事を翼が見つけてなかったら色々と大惨事だぞ!?」

「何を言う。セレナが学校で恥を掻く方がよほど大事じゃないか」

「ス・ケ・ー・ル・が・ち・が・う!?個人の問題と集団の問題の差を考えろォ!?」

「邪魔をするなビルド、俺は急いで弁当を届けねばならんのだ」

「いや人の話聞いて?ねえ聞いてる?何かおかしくなったのか?え」

「無理矢理にでも突破させてもらうぞ」

「だから人の話聞けよぉぉぉおおお!?」

 

 

 

 

リディアン音楽院校門前にて。

「それでは緒川さん、ありがとうございました」

「はい。気を付けていってきてくださいね」

「はい!」

そのままセレナはリディアンの中に入っていこうとする。

(緒川さんの車に乗せてもらっちゃった~!今日はいいことあるかも~)

と、内心ウキウキだったのだが・・・

「ん?」

ふと、目の前から響が全力疾走でこちらに走ってきていた。

「あれ?響さん、一体どうしたんで―――」

「―――そそそそそれどころじゃないよセレナちゃぁん!」

「え?それぞころじゃないって一体・・・」

「いいから早く来て!」

「え?ちょ、響さん力つよ―――おぉぉおおお!?」

そのまま響に無理矢理引っ張られていき、ふと人だかりが出来ている事に気付いた。

「すみませんっ、とおしてっ、とおしてくださっ・・・い!!」

その人込みをどうにかかき分けて、響がセレナを前に突き出す。

 

そこにいたのは、何故かボロボロで地面に倒れている戦兎と主人の帰りを待つかのように座っているウルフの姿があった。

 

「・・・・え?」

「セレナ」

そしてセレナに気付いたウルフがセレナの元へやってくると、

「弁当を忘れていたぞ」

 

 

 

この後、セレナはウルフについて凄まじいまでの質問攻めを受け、結局ウルフのミッションは失敗したのであった。

 

 

 

「もう二度とこんなことしないでください!」お顔真っ赤

「すまない・・・」

 

 

 

 

 

 

―――ラッキースケベ―――

 

 

その一

調「あいた」

慧「調、何かあったのか!?」

調「包丁で指を切っちゃった・・・」

慧「貸してみろ、ぱく」指をぱくっ

調「うひゃぁ!?」驚いてビンタ

慧「ぐえ!?」

切「それは慧介が悪いのデス・・・」

 

 

その二

慧「あ、調、ネクタイどこにあるか知らない?」

調「ここにあったよ」

慧「さんきゅ」

マシャ「がぶっ」

切「デェス!?」

慧「うわっ!?」調の胸にダイブ

調「いやぁぁ!!」

慧「ごはぁっ!?」

 

 

その三

調「慧くん、お弁当忘れてる」

慧「ああ、ありがとう」

調「はい、お鞄」

慧「うん」

調「背中向けて」

慧「え?背中?」とりあえず従う

調「慧くんの匂い~」

慧「結局それかい!?」(あぁぁぁぁあぁあ胸がぁぁぁあああ!?)

調(いつものお返し♪)

切「調~、アタシたちも早く学校に行くべきデスよ~」

慧「はっ!そうだとも調!早く学校に行かないと」

 

ブチブチブチブチッ(←何かの拍子に調の制服のボタンが全て千切れ飛んで下着が露わになる音

 

調「はえ?」

慧「なんでさ」

調「はうあうあぁっぁあぁああ!!」

慧「ぐはぁあ!?」

 

 

 

 

慧「セレナ、頼む。何か発明品で俺と調のラッキースケベをせめて抑える機械とか作れない・・・?」

セ「いいじゃないですか。楽しそうで。私は緒川さんとはそういうのは一切ないですよ?」ゴゴゴゴゴ

 

 

 

 

 

―――風鳴翼の受難―――

 

翼「戦兎、今日も来たぞ」

戦「お前、本当に暇なんだな・・・」

翼「緒川さんや叔父様には許可をもらっている。迷惑か?」

戦「正直お前のせいで部屋が散らかるんだが・・・」

翼「ぬぐっ」

セ「まあまあそう言ってあげないでください。翼さん、お茶でよろしかったですか?」

翼「あ、ああ。頼む・・・」ずーん

セ「分かりました~・・・えい」

戦「ぐお!?」

セ「戦兎先生のせいで翼さんが落ち込んじゃったじゃないですか!」

戦「ええ・・・俺なにかした?」

セ「それが分からないようじゃ一生人生負け組です」

戦「そんなに!?」

セ「では、あとで謝っておいてください」

戦「ああ・・・すまなかった翼。理由はなんなのか分からないけど・・・」

セ「ああ何も言わなくていいです馬鹿は黙っていてくださいむしろなにもしゃべるな」

戦「なんで!?」

翼「いいんだセレナ。悪いのは私なんだ・・・」ずずーん

セ「ウルフ!」

ウ「承知」

戦「ぐべあ!?」マニピュレータでばしん

翼「ああ!?戦兎ー!?」

セ「あんな奴は放っておきましょう。あの恋愛無能男は」

翼「さ、流石に言いすぎでは・・・」

セ「翼さん、こういうのはガンガン攻める方がいいんですよ。超奥手の私が言うんです。間違いありません」恋愛ポンコツ

翼「そ、そうなのか・・・」恋愛ポンコツ二号

セ「では私はお茶を用意します」

翼「ああ・・・」

戦「いったたぁ・・・なんなんだ一体・・・」

翼「戦兎、大丈夫か?」

戦「ああ・・・まあ、ゆっくりしていけよ」

翼「う、うむ・・・ゆっくりさせて頂こう」

 

―――そこから何もなく一日を過ごした。

 

セ(ど、う、し、て仕掛けないんですか!?)

翼(ししし仕方がないだろう!?どうしてあれで踏み込めるなんて言えるんだ!?)

セ(だとしてもこのままじゃいつまでたっても何も進展しないままですよ!?それでいいんですか!?)

翼(ぬ、それはそうだが・・・)

戦「おーう一体なにをこそこそやってんだ?」翼のすぐ後ろから声をかける

翼「うわっひゃうっ!?」条件反射の裏拳

戦「あぶねっ―――」顎を掠める「―――」膝をつく。

翼「・・・・ん?戦兎?」

戦「・・・」白目をむいて気絶

翼「戦兎ー!?」

セ「前途多難・・・・」

 

 

 

 

―――ストレイ社―――

 

 

アメリカのどこかにて―――

 

「ここがストレイ社の本社」

「意外に大きいんだな」

「表向きにはちょっとした部品会社やってるからね。ついでに慈善事業にも手を出してる」

ストレイ社本社をエリザに中を案内してもらっているシン。

「サイボーグ研究か・・・」

ガラス越しに行われていることを見て、シンはそう呟く。

「紛争で手足を失った人たちには沢山感謝してもらってるんだよ。ま、これも全て、内の技術主任を受け持ってるのあのクソジジイのお陰なんだけどね」

「その『クソジジイ』は一体どういうことなんだ?」

「あー、エリザちゃんが勝手にそう呼んでるだけだから。第一印象が最悪でずっとこれって感じ」

「なるほどな・・・」

隣のアルフォンスが軽い様子で言う。

(確かにエリザは第一印象が最悪の相手にはかなり手厳しかったな)

自分もその一人だったとは思うが、今はどうなのだろうか。

昔より妙に馴れ馴れしくなったと思っている。

そうしているうちに、ある部屋に辿り着く。

「ここは・・・」

「オペレーションルーム、いわゆる作戦本部って奴ね」

扉の横にあるパネルに掌を合わせると、典型的な機械音と共にロックが解除され、扉が開く。

「やっほー、ジム、イリア」

中に入れば、そこには二人の人物がいた。

「おかえり、エリザ」

「おっかえり~」

中に入れば、そこにはいくつかのモニタとそれなりの大きさを有するコンピュータ。壁一面に立て付けられた巨大モニタには、世界地図が映し出され、様々なグラフや文字列が表示されていた。

その前列のモニタに座っていた二人の男女の名を、エリザは呼んだ。

「ちょっとジム、コーヒー零したの?」

「だってイリアの奴がさ」

ジムと呼ばれた男は、黒人の筋肉質の男だ。ラフなTシャツを着て、首にはヘッドホンをかけている。

「何よ、私のせいだっていうの?」

「せっかく俺が用意したものをわざわざ肘あてて落とすからだろ。ちゃんと当たらねえ所に置いたってのに」

「ぬぐっ・・・」

一方のイリアと呼ばれた女性は、金髪の白人だ。

「おっ、アンタが噂の『ジャック』だな」

そこでジムがシンに気付く。

「ああ」

「俺は『ジム・クリーガー』。主にネット上の情報収集を任されてる。よろしくっ!」

そう言って、ジムは手を差し出してくる。

「シン・トルスタヤだ。出来ればこっちで呼んでくれるとありがたい」

「オッケー、シン」

「もうっ、だから貴方の名前はジャックでしょ?」

エリザが拗ねたようにそう言ってくる。

「今の俺はシンだ」

「私は意地でもジャックって呼ばせてもらうから」

「まあ・・・俺もその方がしっくる」

何せ、昔からの顔なじみだからだ。

そんな中で今度は金髪の女性が、

「私は『イリア・トリタン』、主にオペレーターを担当しているわ。貴方を歓迎するわ。ようこそストレイ社へ」

手を差し出し、シンもそれに応じる。

「それで・・・」

そこでシンは一つの疑問を解消するべく口を開く。

「そこにいるアンタは?」

そこにいたのは、厚手のコートを着込み、整えたヒゲといかつい顔をもった男だった。

ずっと、部屋の奥、司令の立場であろう席に、その男が座っていた。

「紹介するわ、ジャック。この人が私を拾ってくれた恩人にして、このストレイ社の社長『ガレス・アレクセーエヴィチ・トルストイ』よ」

「トルストイ・・・」

見上げる先の男の名に、シンはふと、死んだ『母親代わり』の顔を思い出す。

そして、男―――ガレスは立ち上がると、すぐにシンの元へと歩き出した。

「ようこそ、ジャック・ザ・リッパー。噂は聞いている。かのキリフデラの白い悪魔がウチに入ってきてくれるとは、光栄の限りだ」

「御託は良い」

「この名前は嫌いか」

シンの棘のある態度に、ガレスはふっと笑う。

「では改めて、ストレイ社社長のガレスだ。呼びやすい呼び方で呼んでくれ」

「そうか。シン・トルスタヤだ。これからよろしく頼む、ガレス」

「うむ」

ガレスはそう頷くと、すぐ近くにあった椅子に座る。

「入社して早速だが、お前にはラボに行ってもらいたいと思う」

「えー、あのクソジジイの所にシンを連れていくの?」

エリザがうんざりした様子でそう言い出す。

「そう言わない」

「ラボ、というと、ここの技術担当の人間か?」

「そうなる。そこで君の新しい力を作ったそうだ。見様見真似ではあるが―――ライダーシステムをな」

「・・・!?」

それを聞いて、シンは目を見開く。

「ライダーシステムだと・・・!?」

「聖遺物を扱う組織が何もS.O.N.G.だけだと思うなよ?世界中の至る所に聖遺物を有していたり盗み出そうと思っていたりする奴らがごまんといる」

ガレスの表情は、決して世迷言を口にするような者の顔ではなかった。

その瞳は、あの風鳴弦十郎に限りなく近い、信念ある者の目。

「だからこそ、我々はS.O.N.G.が活動を始める前から既に動いていた。世界大戦時も、その後の動乱の中でも、我々は聖遺物をロクでもないことに使おうとしている奴らの手から守ってきた。錬金術も、サイボーグも使った。そして今、我々は新たな戦力『仮面ライダー』を手に入れた」

掌を上に向けたまま、その手をシンに突き出す。

そして、ぐっとその拳を握ってみせる。

「下手をすれば世界を滅ぼしかねない力だ。だからこそ、封印、あるいは破壊しなければならない。政府の思惑など関係ない。俺たちは、『聖遺物』という驚異から人々を守るために結成された『外れもの(ストレイ)』だ。お前には、その手助けをしてもらう」

再び、ガレスの目がシンに向けられる。

「お前には、その見込みがある。だからどうだ?このストレイ社で、新たな仮面ライダーになってみないか?」

「考えるまでもない」

シンは、即答した。

「アンタの目を見れば、その想いがどれほど本気なのか嫌でも理解できる。それは俺が知っている奴の目だ。だからアンタの妄言に乗ってやる。俺を使い潰して見せろ」

В ПОРЯДКЕ(良いだろう)

シンのその言葉に、ガレスはふっと笑う。

 

 

 

 

ストレイ社地下―――

 

「ねえ?考え直さない?」

「エリザ~、それ何回目?いい加減諦めなって」

「だってシンをあんな奴に会わせるだなんて・・・」

「あの人一応いい人なんだからさぁ」

「嫌よ私クソジジイ嫌い」

「だったら帰っていろ。俺はいく」

「だったら私も行く」

「どっちなんだ」

アルフォンスに連れられて、シンは地下の『ラボ』と呼ばれる場所に来ていた。

そして、その地下にある扉の前に、アルフォンスは止まった。

「ここだよ」

「うう・・・私ここ嫌いなのよね・・・」

「だったら帰ればいいだろうに・・・」

げんなりするエリザに呆れつつも、シンはそこに足を踏み入れた。

 

中には、おびただしい程の機械の四肢が並びたてられていた。

 

「っ・・・!?」

限りなく人のものに近い、鈍色の腕や足。ましてや銅や頭すらもある。

その普通とは言えない空間の中、シンは、その中心に座る人物を見つけた。

「ようこそ」

そして、その人物がそう声を挙げると、くるりと椅子を回して、シンたちの方を向いた。

「私が、このラボを任されている『ドゥーフェンシュマーツ』というものだ」

 

その男は、ヤマネコのようだった。

 

あまりにも曲がった猫背。とんがった鼻に黒いタートルネックセーターと白衣を着込んだその男は、まさしくヤマネコのようだった。

ただ、シンが思ったことは―――

 

「こいつのどこにジジイ要素がある・・・!?」

「猫背でしょ?絶対年寄りだって」

「失礼な!?これでもまだぴちぴちの二十代後半だ!」

「もうすぐ三十路でしょドクトル」

アルフォンスのツッコミにがっくりするドゥーフェンシュマーツ。

「ま、まあいいや・・・とにかく私が天才の『ゲインツ・ドゥーフェンシュマーツ』だ。気軽にドゥーフかドクトルとでも呼んでくれ」

「あ、ああ・・・」

エリザが言うからにはそれなりに年老いた男かと思ったが、結構年若い男であった。

本当にこんな男が、あのレリックフルボトルを作ったのだろうか。

「あ、それと私のことをヤマネコと思っただろ?」

「いやそんなことは」

「その通り、私はヤマネコに育てられた」

「は!?」

思わぬワイルドな過去にさしものシンも驚く他なかった。

(そんな男がどうやって!?)

「言ったでしょ?クソほど最悪な男だって」

「言ってないよね?」

謎が深すぎて混乱してきた。

が、こんな所で混乱していてはこれから持つかどうかわからない。

「ま、そんなことより、私が作ったライダーシステムを取りに来たんだろう。安心しろもう用意している」

有無を言わさず手にとったスイッチをぽちっと押す。

するとシンの目の前で何かが炸裂し、白い煙をあたり一面に巻き散らす。

「げほっ、ごほっ・・・ってこれはドライアイスの冷気!?」

「そっ、水の中に突っ込めばたちまちに泡立つ奴」

「普通にやればいいでしょ!?」

得意気に言うドゥーフ。

しかし、気付いた時には、シンの目の前に、台座と共に一つのアタッシュケースが置いてあった。

「それが、君の新しい力だ」

「・・・」

シンは、それを手に取り、開けてみせる。

そしてその中には―――

 

「見るがいい!『ライダーネーター』だぁー!!」

 

なかに入っていたのは、一つの機械と、一本の電池のようなものだった。

「私のネーターシリーズの最高傑作!突然現れた未知の物体『フルボトル』を解析し!世界各地に存在する『ファントムリキッド』を利用し!そして作り上げた『ネーターバッテリー』によって超人になることの出来る変身アイテム!それがその『ライダーネーター』だぁぁあ!!」

ハイテンションで矢継ぎ早に自らの作った機械の自慢を繰り出すドゥーフ。

「これだからこいつは嫌いなのよ・・・」

「自分の機械に自信がもてるのはいいことだよ?」

エリザがうんざりした様子で額に手を当て、アルは苦笑いをしていた。

「お前のパーソナルデータに合わせて作った、お前だけのライダーネーターだ。さあ、試しに変身してみせるがいい!」

ハイテンションなままのドゥーフに、シンは未だ呆気にとられている。

しかし、そんな彼にアルフォンスが耳打ちする。

「大丈夫、性格はあれで、自分の事を『悪』と称するけど、根は良い人だから安心して」

それを言われて、シンはエリザの方を見る。

エリザは、特に否定するでもなく、しかし不服そうにそっぽを向く。

「・・・まあ、今はそれを信じるとしよう」

そう言って、シンはドゥーフの作った『ライダーネーター』を腰にあてがった。

腰に紫色のアジャストバインドが巻き付き、ベルトが固定される。

「この後は・・・」

「その電池っぽい奴を隅の穴に差し込めばいいぞ」

ドゥーフに言われた通りに、ライダーネーターの穴の開いている部分に、電池のようなもの『ネーターバッテリー』を差し込む。

 

『バッテリーチャージ!』

 

そのような機械音声が聞こえた。それと同時に、ベルトの正面部分に、黄色の発光部分がまるで『C』を描くように光っていた。

「そして今度は、それを回して押せば変身開始だ!」

「そうか・・・ならば」

言われた通りに、横のつまみを回す。

 

『C』が『V』に変わり、つまみを押す。

 

 

そして、電撃がシンに落ちた。

 

 

「シン!?」

「まった!」

思わず駆け寄ろうとしたエリザをアルフォンスが止める。

 

シンに纏われる電撃が、そこにとどまっている。

やがて、その電撃は形を成し、シンの体に新たな装甲として装着される。

 

その、姿は―――

 

 

 

エレエレエレキィエレクトリックゥ!』

 

ボルボルボルトォボルトクライム!』

 

ライダァーネェェタァァァアア!!!』

 

 

「―――見るがいい!これこそが私が作り上げた仮面ライダー!その名も『エレクトリッククライム・ボルトフォーム』だぁああぁああ!!」

「うるさいテンション高い!」

「あいた!?」

ぶん殴られ、悶絶するドゥーフを他所に、エリザはシンに問いかける。

「どう?新しい力を手に入れた気分は?」

シン―――『エレクトリッククライム』は、変わった自分の姿を見て、こう答えた。

 

「―――悪くない」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――場所・不明

 

誰もいない、薄暗い洋式の部屋で、一人の長身の男が静かに本を読んでいた。

「まーたそれ読んでんのか?」

そんな男に、誰もいなかった筈の部屋に突如現れた男がにやけ面で話しかけてくる。

「飽きねえな」

「ただ日記を読み返しているだけだ。私が歩んできた道のりを記す為にな」

そう呟いて、男は()()()()()()()()()()()()に目を向けた。

すると、虚空から小さな文字が現れ、それらがぺたぺたと文章をつづるように白紙のページに張り付いていく。

「無駄すぎんだろ」

「精密な錬金術の操作には必須項目だ」

あらかた文字が張り付き終わると、男は本を閉じる。

「主よ」

また、もう一人、現れる。

「サンジェルマンが呼んでいる」

「分かった」

男は本を閉じて、立ち上がる。

「行こう。我々は、立ち止まる訳にはいかない」

 

一つ、長身の本をもった男には、手首に巻かれたペンダント。

 

一つ、やや小柄な逆立った金髪の男には、足に付けられた脛当て。

 

一つ、巨躯を持つ男には、その巨体以上の大きさの槍。

 

三者三様―――しかしその眼差しには同一の目的ありて―――

 

 

 

――――我ら、悲願を達成せん、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――S.O.N.G.疑問交換―――

 

A「なあ、前々から思ってたんだけどさ、装者ってエロくね?」

B「どうした急に」

A「いやだってあんなぴっちりしたスーツでよくあんな派手に動けるよなって」

B「いや俺たちの代わりに命懸けで戦ってくれてる子たちに何言ってんの!?」

A「そりゃあ、俺たちだって命の危険感じてたから必死だったけどさ、後々考えてみるとタたねえ方が可笑しいんじゃねえのって最近思ってきて・・・」

B「だめだこいつなんとかしないt」

C「そんなこと言って、お前も本当は気になってるんじゃねえのか?」

B「バッ!?そんなことあるわけねえだろ!?響ちゃんや未来ちゃんはともかく、クリスちゃんと調ちゃんあたりをそんな目で見たら龍我さんや慧介君に殺されるって!?」

A「HAHAHA!大丈夫だって意外と優しいしアイツら」

戦「だったら試してみるか?」

A「ゑ」

龍「・・・」手をぽきぽき鳴らしてステンバーイしている

慧「・・・」準備運動と共に体を温めている

A「・・・タスケテ」

BC「頑張れ」

A「・・・・・・・・ッ!!」全力ダッシュで逃走

龍慧「逃がすかァ!!」追いかける。

B「Aよ。南無三・・・」

C「骨は拾ってやるぜ」

藤「まあ気にならないっていったら嘘になるけど、だからと言って仕事に支障をきたすほどでもないしな・・・」

C「ウッソだろお前・・・」

戦「それを言うなら俺だって間近であいつらの姿見てるが、別に変な恰好ってわけじゃあねえよな?あれが戦闘服なんだし、動きやすい方がいいだろうし」

幻「あれにもう少し派手な装いがあれば完璧だった」

全員「アンタのは参考にならん帰れ」

幻「何故だ!?」

一「ヒャッハッハ!追い返されてやんのざまみr」

龍「ウラァ!!」

A「ひィ!?」

一「ゲハァ!?」

龍「あ、すまん、待てゴラぁぁあああ!!!」

A「イヤァァァアアア!!!」

B「アイツまだ逃げてたのか・・・」

幻「フハハハ!目もないなポテt」

 

サクサクサクサクッ

 

幻「――――」バタン

藤「氷室ちょうかぁーん!!?」

C「うっわ苦無がしっかり刺さってるよ」

B「おいおい死んだわアイツ」

戦「おー、あいつ逃げてんな~」

A「あの、おねがい、しまっ、たすけて・・・」

戦「ほいっ」足を引っかける

A「へ?」

戦「じゃ、あとはよろしく」

A「裏切り者ぉぉぉおおおお!!」龍我と慧介に引っ張られていく

B「別に味方になってねえだろあほか」

C「しかし、装者たちのあのスーツはどうにかならないものですかね」

戦「別に俺たちが気にしなきゃいい話だろ?」

C「翼さんの服どうおもってるんですか?」

戦「え?悪くないと思うぞ。動きやすそうだし」

C「そういうことじゃないっての・・・」

B「翼さんの今後が思いやられるわ・・・」

戦「あ、もう少しデザインを変えて機能性をあげるってのも一つの手だな。インナーの中に伸縮性の素材を使って動きやすさに幅が出れば戦闘に支障は出ないと思うし、翼やクリスのリンクスアームズの効果もかなり引き出せるし・・・」

藤「まぁた始まったよ・・・」

C「翼さんにはどんまいって言っておくべきだな」

B「はあ・・・ってか結局俺ら何が言いたかったんだっけ?」

一同「それな」

 

 

 

 

―――ビルドギア、パート2―――

 

響「戦兎せんせー!私もビルドギア欲しい!」

戦「諦めろ無理だ」

響「ひどい!」

戦「お前未来よりハザードレベル低いだろ」

響「ぐふぅ・・・こ、これからあげますから大丈夫です!」

戦「いくら風鳴さんでもハザードレベルを底上げすることなんで出来ねえよ。実際にあの人のハザードレベル見ただろ?あれが現実だ」

響「ぶぅー、切歌ちゃんばっかりずるい!・・・あれ?ハザードレベルがそれなりにある私なら大丈夫なのでは・・・」

戦「その前にスマッシュ化して終わりだ。ファントムリキッドがどうやって生まれたか・・・知らなかったなバカだから」

響「酷い!?(二度目)」

戦「とにかく無理なもんは無理だ。ファントムリキッドを飲んで多少体は丈夫になったとは言えバックファイアはまだ無視できねえんだから。この間、無理がたたって病院に叩き込まれただろ」

 

 

切『デェス・・・』

 

響「うぐ・・・」

戦「とにかく、無理はものは無理だ」

響「ちぇー」

 

 

 

 

 

 

 

―――翼の母―――

 

「・・・」

八紘の前に、一つの写真立てが置いてあった。

そこには、まだ若いころの八紘と、一人の美しい女性が映っている。

「・・・翼は、本当に立派に育ったよ。自分の夢に向かって、確かに歩んでいっている。お前の言った通りにな」

誰もいない部屋で、八紘はただ一人、その写真に写る一人の女性に語り掛ける。

「そういえば、翼が男を一人連れてきたよ。翼の為に怒れる男だ。翼が惚れるのも無理はないだろう」

少し嬉しそうに呟く八紘。

「お前がいなくなってから、もう、何年になるだろうな・・・」

その写真を眺め、八紘は一人静かに呟く。

「・・・綾女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――というわけだ。分かったか?」

「まあ、なんとなく・・・?わざわざ記憶を強制的に取り戻させるんだから、結構やばい感じのことなんだよね?」

「ああ、今回、俺は干渉することができない、が、別の世界でならサポートしてやれる」

「どうやってやるんだ?」

「少し時間はかかるが・・・まあ楽しみにしておけ」

「なんだそれは。もったいぶらずに教えろ」

「言っても面倒なことになるだけだ。お前たちには、奴の足止めをしてほしいからな」

「そっか。わかった。やってみるよ」

「そんなに軽くていいの・・・?」

「すぐにどうにかしなきゃいけないんでしょ?だったらやるよ。俺」

「決まりだ。じゃあ、すぐにでも行ってもらおうか。『シンフォギア・ビルド』の世界に」

「それじゃあ、皆、行こう」

「おう」

「ええ」

「貴方の赴くままに、我が魔王」

 

 

 

―――新たな戦いが始まる―――To Be continued―――

 




次回!『キャラ紹介!』

元々いたキャラだけでなく、この章で出てきたキャラのことも説明しちゃうゾ!

オリジナルの方はもうしばらくお待ちください。

ではまた次回!


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GX編キャラ紹介

作「金が足りねェゾォォォォォ・・・!!」
戦「うおっ!?なんか知らねえがゾンビみてえなことになってんなお前!?」
響「凄まじい金欠で魂が抜けかけてゾンビみたいになってるぅ!?」
切「大学生になったんだからバイトでもしてみたらいいのデス」
一「そうだそうだ!」
作「それが出来たら苦労しねえわ作者(カミ)権限ビーム!」
切一「ギャァァァア!?」
戦「ありゃりゃ・・・まあ、何はともあれ、GX編の投稿はこれで最後だ」
響「来週は翼さんが主役のオリジナル回です!楽しみにしててください!
翼「うむ、ではここまでの戦兎たちの設定を見るがいい!」


桐生戦兎

 

職業 リディアン音楽院教師 物理学専門/S.O.N.G.技術主任

 

仮面ライダービルドに変身する青年。

櫻井了子から二課及びS.O.N.G.の聖遺物研究などを引き継ぐ。

エルフナインを部下とし、表の仕事はリディアンの非常勤講師を務める。

ライダーシステム及びシンフォギアシステムの全てを管理している。

翼に想いを寄せられているが本人は全く気付いていない。

ちなみに今作屈指の鈍感キャラ。

 

その鈍感度合いは翼からのアプローチは大体、本来の意図を掴んでいないどころかダメな所を指摘してそこを訂正させようとする大馬鹿野郎。

むしろ恋愛に関する好意がなんなのかすら理解していないレベル。

その度合いは本命チョコの本命の意味を本当の意味で理解していないレベル。

 

現在のハザードレベル 7.7(シンフォギア世界でも戦い続けた結果

 

『変身可能形態』

仮面ライダービルド 『ラビットタンク』他ベストマッチ&トライアルフォーム

 

ラビットタンクスパークリング

 

ハザードフォーム

 

ラビットラビット/タンクタンクフォーム

 

 

『特殊条件形態』

 

シンフォニックマッチ

 

ツヴァイウィングフォーム(天羽々斬兎/ガングニールフェニックス)

 

ザババフォーム(イガリマシャーク/シュルシャガナタイガー)

 

 

 

『プロミスフォーム(神獣鏡ユニコーン/ガングニールフェニックス)』

神獣鏡ユニコーンとガングニールフェニックスによるシンフォニックマッチ。

神獣鏡の神秘性をガングニールの力強さで強化したような形態。

常に心霊的な何かを感知して、未来予知に近い予測が可能。

イメージ的にはXDのシェングニールみたいなもの。

格闘技に神秘性を重ねたような戦闘スタイルをとる。

 

 

 

『ラビットラビット・ブルー』

フルフルラビットタンクボトルのラビット成分を翼の歌によって変化させた『フルフルブルーラビットタンクボトル』によって成りえる形態。

これの発動には翼がエクスドライブ化していることが前提条件であり、その上での絶唱のフォニックゲインを全て収束させた時可能となる。

赤かったラビットアーマーが青く変化した状態であり、攻撃全てに斬撃属性が付与され、これにより、拳や蹴りなどで相手を切り刻むことが可能となる。

さらに超高速で動けるようになっており、例えるなら『ファイズ』の『アクセルフォーム』に近い加速であり、頭部の『ツインアイRRB』の動体視力の強化をしなければその速さに振り回されることになる。

必殺技は『天羽々斬フィニッシュ』。

神速で敵に接近し、相手を蹴り飛ばし、その直後に凄まじい斬撃の嵐で相手を切り刻む。

 

名前の元ネタは『ドラゴンボール超』の『スーパーサイヤ人ブルー』から。

 

欠点は変身時に変身者の体を切り刻むデメリットがある。

 

 

 

『アッセンブルフォーム』

 

ハザードトリガー使用状態及び『天羽々斬兎ソングボトル』と『イチイバルドラゴンソングボトル』を差した状態でのみ使用可能。

全てのアームドギアがエクスドライブ化した上で各部位の鎧として形成し、ビルドに纏わせることで初めて完成するフォーム。

いうなれば完全な『奇跡』によって成し遂げる事ができる形態ともいえる。

ゆえに、ツヴァイウィング及びシンフォニックマッチよりも遥かに厳しい条件が必要となるため、乱用は出来ない弱点を持つ。

 

出力は常に七人分のエクスドライブを纏めたかのような出力を放ち、固有の特性である『装者との感覚共有』によって、全てのシンフォギアの性能を最大限に引き出すことが可能。

 

 

 

『S2CAビルディングエディション』

響の得意技『S2CA』のエクスドライブ版の出力をもって放たれる。

フォニックゲインを集約させた部位によってその必殺技は変わる。

 

『Gブロウ』

右腕の『ガングニールガントレット』から放たれるパンチ。

バーニアによる加速に加え、パイルバンカー方式による二段階の衝撃、そこへ加えられるフォニックゲインの衝撃波により、三段階の破壊プロセスをもって対象を粉砕する。

 

『ツインチャージパーティクルキャノン』

左腕の『アガートラームガントレット』によって放たれる荷電粒子砲。

威力は『カ・ディンギル』の月を破壊する一撃には及ばぬものの、その一閃は大地を焼き払う火力を有する。

 

『インフィニティ・ソー』

右足の『シュルシャガナレギンス』から放たれる無限回転鋸によるなます切り。

無限に回転し、無限に加速する鋸をもって相手を切り刻む。

例え大ダメージを与えられなくても、相手を封殺することが可能。

 

『ジャッジメント・ギロチン』

左足の『イガリマレギンス』による一撃必殺の斬撃。

魂を斬り裂く斬撃に加え、物理的にも破壊力が強化されている。

斬撃が直撃した瞬間、『魂を裂く』という概念が弾丸の如くぶち込まれ、対象の魂は瞬く間に消失し、肉体は抜け殻となる。

 

『呪術砲』

頭部の『神獣鏡ヘッド』から放たれる砲撃。

対象を撃ち抜き焼き払う『物理特化』の『ツインチャージパーティクルキャノン』に対して、こちらは対聖遺物特化の砲撃。強化された砲撃は呪いを払い、聖遺物を完膚なきまでに消滅させる。

砲撃を分裂させたり、纏めて強大な砲撃として放ったりすることも出来る。

 

 

『ロックオン・I・ストラトス』

胸部の『ハーフイチイバルボディ』に格納されている狙撃銃から放たれる一撃必殺の射撃。

ピンポイントの狙撃によって、そこから対象の体を崩壊させ、二度と再生できなくする。

正確無比な射撃の為、回避はほぼ不可能と言っても差し支えない。

 

『天羽々斬・真打《月兎》』

胸部の『ハーフ天羽々斬ボディ』に格納されている刀剣による斬撃。

ただただ斬ることのみを可能とした斬撃であり、さらには神速で迫る為、回避も出来なければ防御も出来ない。

降ればそこにはたった一斬の傷が残るのみ。

 

 

『イグナイテッドナックル』

グリスブリザードナックル、というよりは『ナックルダスター型』武器による、ガングニールガントレットとの合体技。

Gブロウのエネルギーをナックルでさらに強化することで、さらなる破壊の一撃を可能とした。

 

 

『イグナイトモジュール』

全てのシンフォギアを装甲として纏ったために可能となった。

これによりさらなる出力向上が可能となる。

しかも七人分なためその出力も七倍である。

 

 

 

 

 

風鳴翼

職業 トップアーティスト/S.O.N.G.所属シンフォギア『天羽々斬』装者

今作のヒロイン。というか戦兎のヒロイン。

国防に関わっていた名家『風鳴家』の後継であるものの、本人にその気はなく、現在は世界をまたにかけるトップアーティストとして活動。現在はS.O.N.G.のシンフォギア装者として、アーティスト活動を休止している。

戦闘や有事に際してはまともになるが、それ以外に関するとかなりの天然ボケをぶちかまし、さらに戦兎が関わればポンコツぶりが加速し最終的には逃げる。

戦兎の鈍感さにいつも返り討ちにあう。

 

戦闘スタイルは刀剣による剣術。

 

若い者の、血縁上、叔父とされている弦十郎、父である八紘とは兄弟関係にあるという複雑な家庭事情を抱えている。

 

ハザードレベル4.3 (原因不明

 

シンフォギア『天羽々斬』

スサノオが八岐大蛇退治に使ったとされる十束剣の一つ。

その特性は『ありとあらゆる刀剣の再現』。

サイズ、形関係なく、古今東西あらゆる刀剣、及び空想上の剣の形を形作ることが出来る。

また、その形成エネルギーを利用してエネルギーの斬撃を飛ばしたりも可能。

 

リンク・アニマルのモデルは『兎』

わんぱくな性格で、いつもどこかで遊んでいる。ただし戦闘になるとどこからでも飛びかえってくる。

ちなみに部屋を荒らすなんてことはせず、あくまで外で遊ぶだけ。

 

 

万丈龍我

職業 S.O.N.G.所属戦闘員

『仮面ライダークローズ』の変身者。

基本的にS.O.N.G.本部の防衛のために駐在しており、一日の大半を潜水艦内のジムで過ごすことが多い。

体術に関しても、元格闘家という部分に加え天性の部分もあり、弦十郎の元で響と共に特訓を重ねている。

ちなみに昼飯はクリスの差し入れ弁当。

 

現在、クリスと恋仲となっている。

 

現在のハザードレベルは7.8.(戦兎同様

 

 

変身可能形態

 

仮面ライダークローズ

 

クローズイチイバル

 

クローズチャージ

 

クローズマグマ

 

 

特殊条件形態

 

クローズエボル(エボルト不在の為変身不可という設定)

 

クローズイチイバルヘルトラヴァース

 

 

『クローズコロナ』

 

ドラゴンマグマフルボトルをクリスの歌によって変化させた『ドラゴンコロナフルボトル』によって成される形態。

これの発動は前述の『ラビットラビットブルー』同様、クリスのシンフォギアのエクスドライブ化が最低条件であり、その上での絶唱のフォニックゲインを全て注ぎ込むことで変化させることが出来る。

通常温度がマグマのそれを優に超えており、最大でも100万℃以上の熱量を発揮できる。

クローズマグマがさらに明るくなったかのような姿をしている。

飛行能力はもちろん、火力も上がってはいるが、あまりにも高すぎる熱量のせいで、立っているだけで足元を溶かしてしまう。

必殺技は、

 

『プロミネスティックブレイク』

クローズマグマの九頭竜とは違い、プロミネンスが如き一頭の龍と共に相手に蹴り込む。

 

『プロミネンスナックル』

マグマナックルでのぶん殴り攻撃。戦車が相手の場合、跡形もなく蒸発させるほどの威力を誇る。山すら溶かす。

 

『プロミネスティックフィニッシュ』

怒涛のラッシュを叩き込む、あるいは一撃必殺の鉄拳をぶっ放す。

 

欠点として、変身時に大火傷を負うデメリットが存在する。

 

 

 

 

 

雪音クリス

職業 リディアン音楽院三回生/S.O.N.G.所属シンフォギア『イチイバル』装者

万丈龍我の恋人。

本人は至って真面目のつもりだが、親の影響で言葉遣いがちょっと可笑しいのと、ツンの強いツンデレ気質。

割かし面倒見の良い先輩であり、後輩である調と切歌に慕われている。

ただし響に対してはツンツンな態度は相変わらず。

ただ、龍我に対する色気話に関してはうんざりしている模様。まともに聞いてくれるのは未来だけ。

圧倒的射撃能力を有し、射的、狙撃、銃撃などなど、とにかく『射撃』に関わることなら大抵は出来る。

銃近接格闘術を弦十郎から学んでおり、近接戦も出来る。

 

とあるNGO活動に参加している両親を目の前で失うという体験をしており、戦争に対して人一倍忌避感を有する。

 

ハザードレベル4.3 (エボルトの遺伝子を体内に宿している為

 

シンフォギア『イチイバル』

イチイの木から創られた狩猟の神『ウル』が使っていたとされる弓。

クリスの性質上『銃器』の形となっているが、最近では心境の変化か弓形態の使用も多くなっている。

リンク・アニマルのモデルは『ドラゴン』

大人しい性格であり、主人の言う事はなんでも聞く。

さらに言えば常日頃からクリスについて回り、言いつけもちゃんと守る。

強いて言えば割と甘えん坊。

 

 

猿渡一海

職業 猿渡ファーム農場主/S.O.N.G.協力者

 

猿渡ファームを支配運営している牧場主にして、仮面ライダーグリスの変身者。

旧世界では戦兎たちの敵から味方になり、グリスブリザードを使用して消滅したが、新世界で復活。記憶を取り戻してS.O.N.G.の協力者となっている。

基本的に農場に住み着き、必要であれば呼び出されるという形になっている。

正式にS.O.N.G.の職員になったというわけではない為、国外に連れ出されるとかそういう事はない。が、ライダーシステム保有者の為、監視はついている模様。

ダウンフォールの一件から美空と恋人となる。

基本的にスクラッシュドライバーによる変身を基本とする。

 

ダウンフォール事件を経て、美空と恋仲になる。

 

ハザードレベル6.0(ファントムリキッド摂取

 

変身可能形態

 

仮面ライダーグリス

 

グリスブリザード

 

 

『グリスパーフェクトキングダム』

この小説独自の設定として体にとてつもない負担がかかる為に簡単に乱用出来ない。

体内のファントムリキッドを活性化させ、戦闘能力を大幅に向上させている。

その上飛行能力も搭載、広い範囲での活動も可能だが、体への負荷がでかい為に行動時間は短い。

本来のものと違い、切歌の『サメ』も追加されている。

 

 

 

暁切歌

職業 リディアン音楽院一回生/S.O.N.G.所属シンフォギア『イガリマ』装者

自らをお調子者と称するシンフォギア『イガリマ』の装者。

F.I.S.時代、響たちと対立した経歴を持つものの、現在はS.O.N.G.所属のシンフォギア装者として、普段はリディアンにて学園生活を満喫している。

鎌による近中距離戦を得意とする。

 

藤尭朔也に想いを寄せていたりする。

 

ハザードレベル4.9(ファントムリキッド摂取

 

シンフォギア『イガリマ』

斬魂能力を有するシンフォギア。

霊的存在に対して有効な攻撃手段を持ち、鎌の刃を飛ばしたり巨大化させたり、形状を変化させることが出来る。

絶唱を発動すれば、対象の魂を斬り裂き、防御不能の攻撃を繰り出せる。

 

リンク・アニマルのモデルは『サメ』

常日頃から何かを噛んでいないと落ち着かず、動物・植物・鉱物問わず、なんでもかんでも噛みにいく。

とにかく噛んでいないと落ち着かない。そのため、被害がバカにならない。

 

 

『パーフェクトキングダムプリンセス型ギア』

『パーフェクトキングダムプリンセスボトル』をリンク・アニマルにセットすることで変身可能となる切歌専用の形態。

切歌の体内にあるファントムリキッドを活性化させ、キャッスル、オウル、スタッグ、グリスの各パーツを体各所に取り付けられており、見た目もグリスパーフェクトキングダムに寄せている。

武装はハルバードとトマホーク、二つの形態に変更可能。

肩部アーマーはキャッスルの盾と同じであり、そこから砲撃、防御が可能。

背部のオウルのスラスターで飛行も可能。

 

専用必殺技は『完全・騎ィン救駄ムu』

飛び上がってハルバードを装着した右足を掲げ、そのまま背中のバーニアと肩部アーマーのブーストで加速し、縦回転の円盤の如く高速回転、その勢いのまま対象を踵落としで一刀両断する。

 

 

 

立花響

職業 リディアン音楽院二回生/S.O.N.G.所属シンフォギア『ガングニール』装者

炭水化物大好きな女子高生。

幼馴染の未来と同居しており、身体能力に関しては類稀なる才を発揮する。

他者との会話を第一とし、戦闘においてもまず意思が通じるなら会話することを試みる。

拳を使う意味を常に考えており、戦兎の謡う『愛と平和』に誰よりも共感している。

最近、未来が戦闘に加わったことで、不安と同時に未来の怖さが跳ね上がったと感じている。

弦十郎直伝の格闘術で敵を粉砕する戦法を得意とする。

 

ハザードレベル2.2(弦十郎からの地獄の特訓

 

シンフォギア『ガングニール』

かのオーディンが保有していたとされる『投擲すれば必ず当たる』という伝説のある神話の槍。

元々、シンフォギアの適合する体質ではなかったが、三年前の前ガングニール装者『天羽奏』のギアの破片をその身に宿し、体に馴染ませてしまったことで『第三種適合者』としてシンフォギア装者となる。

現在はマリアが使っていたものを使用して戦う。

 

リンク・アニマルのモデルは『フェニックス』

非常に生真面目であり、寝坊しようとする響を無理矢理にでも起こしたし、学校に遅刻しないように急かしたりする。

さらには勉強の面倒すらも見ようとする。が、寝起きに関してはうるさいとの一言ともに瓦を破壊する拳を喰らっていつも吹っ飛ばされてる。

それでもめげない元気な子。

 

 

氷室幻徳

職業 政府長官→S.O.N.G.所属外交官

仮面ライダーローグの変身者。政治に関しては非常に高い能力を発揮し、仮面ライダーとしての戦闘能力も他と引けを取らないが、それ以外は全くダメ。

味覚の異常、電気をつけてないと眠れない、お化けが怖い、服のセンスが最悪など、日常生活においては致命的ともとれる生活力の低さが伺える。むしろネタ枠としての存在感が強い。

いつも一海と喧嘩する。

 

割とエルフナインから気に入られたりしているのに気が付いていない。

 

ハザードレベル5.2(旧世界の影響

 

変身可能形態

 

仮面ライダーローグ

 

プライムローグ

 

変身不可

 

ナイトローグ

 

 

 

小日向未来

職業 リディアン音楽院二回生/S.O.N.G.所属シンフォギア『神獣鏡』装者

響の幼馴染であり、魔法少女事変を経て装者となった少女。

装者としての適合係数は群を抜いて低いが、リンク・アニマル『クロ』のお陰で最も安定した適合係数を誇る。

戦闘能力に関してはダイレクトフィードバックシステムを利用した戦兎の地獄の特訓を得て、他の装者と引けを取らない強さを得ている。

 

直接戦闘に参加する場合は短期決戦になることが多い。

 

装者になったことで響からさらに怖がられる。

 

ハザードレベル3.0(戦兎の地獄の特訓による精神負荷の為

 

シンフォギア『神獣鏡』

作者自身、元ネタがなんなのか理解出来ていないが、とにもかくにも『凶祓い』の能力を有し、様々な特殊能力を有している。

光学迷彩、ステルス、ジャミング、レーダーなどなど、様々な特殊能力を使用可能であり、後方支援型としては、凄まじいまでの能力を有する。

戦闘に直接参加する場合は全てのエネルギーを戦闘機構に回す為、それらの特殊能力が使えなくなる欠点が存在する。

 

リンク・アニマルのモデルは『ドラゴン』

元々は龍我のクローズドラゴンに神獣鏡の欠片が融合していた為、それをそのまま塗装しなおして未来のものとした。

いたずら好きな性格で、他のリンク・アニマルにちょっかいをかけることもしばしば。

未来の言う事は大抵なんでも聞く。

 

 

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴ

職業 S.O.N.G.所属潜入捜査官/S.O.N.G.所属シンフォギア『アガートラーム』装者

短期間で世界のトップアーティストに名を連ねる程の歌唱力を有する女性。

フロンティア事変にて二課と敵対したが、紆余曲折を経てS.O.N.G.へと所属することになる。

高い格闘能力を有し、翼や龍我と凌ぎを削ったことがある。

戦闘は問題ないが、どうでも良い所でポンコツぶりを発揮するため、何かと大人の威厳を保てず逆に愛嬌があって親しまれている。

元はガングニール装者であったが、持っていたガングニールを響に渡し、正式に妹のセレナより、アガートラームを受け継ぐ。

 

最近、エリザと密会してはその度に腹に『正』の字が増えていってるらしい。

 

ハザードレベル2.5(理由不明

 

シンフォギア『アガートラーム』

色々と謎の多い聖遺物。名前に反してシンフォギア装着時は右腕ではなく左腕であるため、名前は便宜上のものと戦兎は推測している。

フィーネの記録にも詳しい事は書かれていなかった。

 

能力は攻撃範囲の広さであり、ほぼ全方位に対応できる万能型。

強力な砲撃を行う事も可能。攻撃範囲の広さと攻撃力は反比例する特性を持つ。

マリアの場合は攻撃的な印象が強い。

 

リンク・アニマルのモデルは『オオカミ』

主人に対する忠誠心が強く、常日頃から行動を共にする。

また、なくしものをするとすぐに見つけてきてくれるため、他のリンク・アニマルよりは断然優秀。

ただし、主人の言う事、つまりはマリアの言う事しか聞かない為、無理に撫でようものなら噛みつかれる。

ただし、セレナとシンは例外。

 

 

セレナ・カデンツァヴナ・イヴ

職業 リディアン音楽院三回生/S.O.N.G.所属聖遺物研究員/非常事態行動型シンフォギア『アガートラーム』装者

 

戦兎の助手であり、ライダーシステムの修繕と記録を担当する。

姉が秀才型であるのに反して妹は天才型であり、知識さえあれば複雑な構造の機械を一目見ただけで理解出来たり、一人でバラバラになった機械を組み立てる事ができる。

主に機械に対して強い。

元『アガートラーム』装者だった為、戦闘においてもその実力を示す。ただし研究者肌の為体力に自信はない模様。

 

僭越ながらも緒川に恋心を抱いているが、姉と違って男性との会話の経験が全くない為(慧介は調のもの)、自爆しまくっている。(誤魔化すだけの技術はあるが、かえってそれが裏目に出る

 

ハザードレベル2.2

 

シンフォギア『アガートラーム』

こちらは姉の攻撃的な印象と違って堅実な防衛型。

主にその場に陣取って近付く敵を叩くといった戦法を取る。

その気になれば無差別攻撃も可能だか、彼女の性格上、単身の状態で切羽詰まった状態でしか使わない。

 

 

涼月慧介

職業 某高校一年/S.O.N.G.所属仮面ライダー

 

仮面ライダータスクに変身する少年(ある意味フォーゼっぽい)。

非常に多趣味でそれらに関する口癖は『~の達人』。催眠術だって出来る。

年相応の少年のような性格をしているが、その実誰よりも向上心を持っており、仮面ライダーの中では一番弱いという意識を誰よりも持つ。

努力型ではあるが非常に吸収が速く、ある程度の事は多少学んだだけですぐに出来るようになる。ただし教わらないと出来ない。

緒川より忍術を習っており、身体能力にさらに磨きがかかっている。

体が非常に柔らかい。

 

呪われているレベルで調とのラッキースケベが後を絶たない。

 

 

ハザードレベル4.5(ジェームズの実験とスクラッシュドライバー克服

 

 

仮面ライダータスク

本作オリジナルライダーの一人。

スクラッシュドライバーとタイガースクラッシュゼリーを使って変身する。

非常に身軽であり、慧介本来の柔軟性も相まって変則的な攻撃を可能とする。

グリスのような二刀流ツインブレイカーやクローズのような圧倒的パワーはないが、変則的な攻撃で敵を攪乱することが可能。

 

未だ強化形態は存在せず。

 

 

月読調

職業 リディアン音楽院一回生/S.O.N.G.所属シンフォギア『シュルシャガナ』装者

 

ヤンデレ(開口一番)―――は言い過ぎだが慧くんラブがある意味限界突破しているヤバイ子。

非常に細身ではあるが、それでも柔らかいらしい。あと非常に少食。

だがしかし、慧介の事になるとその肉体に反してダンベルを握りつぶせるほどのパワーが発揮されるため、何かとよく分からない不思議ちゃんでもある。

慧介と別々の学校であることにとてつもない不満を抱いている。慧介に割と胸の大きな友達が沢山いるらしいことを友人から脅迫聞いている。

などなど、不安要素が後を絶たない上に釘を刺そうにもそれなりに距離がある為乗り込むことが出来ないでいる。

割と過激な思考の持ち主。

 

ハザードレベル2.0(慧介や切歌に守られ過ぎ

 

シンフォギア『シュルシャガナ』

イガリマと二刀一対の概念を持つ、鋸型のシンフォギア。

相手を鏖殺することに長けており、無限軌道の刃によって敵の動きを封じこめ、そのまま刻み込む。

麗しくか弱い容姿をしていながら非常にとんでもない武器を有しているアンバランスさを見せる。

二刀一対な為、イガリマとの連携は他をとっても非常に秀でている。

また、本人の意思にも関係してタスクとの連携も期待できる。

 

リンク・アニマルのモデルは『トラ』

ずんぐりむっくりした体つきをしているがサイズは他と同等。

非常にマイペースで非常時以外は常に寝てたりくつろいでいたりする。邪魔されると例えクロでも粉砕寸前にまで叩きのめされる。

お気に入りの場所は慧介の頭らしい。(なんでも髪の毛がふさふさな為だとか)

 

 

シン・トルスタヤ

職業 S.O.N.G.所属諜報員→ストレイ社所属傭兵

 

元少年兵集団『幼き殺人者たち(マーダー・オブ・チャイルド)』の一員にして『キリフデラの白い悪魔』『斬り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)』の異名を持つ程の刃物の扱いに長けている。

仮面ライダークライムの変身者でもあり、その実力はハザードレベルで上回っている戦兎たちと互角に戦えるほど。

現在、S.O.N.G.を離れて民間軍事警備会社(PMSCs)『ストレイ社』に所属する戦闘員として活動している。

 

料理は斬るだけしか出来ない。

 

ハザードレベル4.8

 

 

仮面ライダークライム

本作オリジナルライダー第一号。(タスクは第二号)

主に剣を使って戦う為、手首や腕などにそれらをサポートする機構が付与されている。

また、足裏にものを掴む為の隙間があり、そこで剣を掴んで敵を斬断することも出来る。

また、高速空間『斬撃モード』により、思考を一時的に加速させて何よりも早く敵を両断する能力を有する。

 

 

変身可能形態

 

仮面ライダーアサルトクライム

 

特殊条件形態

 

アトーンメントクライム

 

 

ただし、現在はビルド式ライダーシステムを全て戦兎に返上している為、ストレイ社のドゥーフェンシュマーツが作った『ライダーネーター』で変身する。

 

 

エレクトリッククライム

『ライダーネーター』によって変身可能。

情報は現在秘匿。登場と活躍を待たれよ。

 

 

 

 

 

風鳴弦十郎

職業 S.O.N.G.司令官

バカげた戦闘技術と破壊力を持つ『日本が核を持たない理由』であるOTONA(作者は範馬○次郎じゃないのこの人?なんて思ってる)

響の師匠

 

緒川慎次

職業 風鳴翼専属マネージャー/S.O.N.G.所属諜報員

現代に生きる忍者であり、風鳴翼のマネージャー。分身の術なんか普通に使えるうえに常人じゃあありえない程の速度で動ける。

慧介に忍術を教えている。

セレナに片思いされていることに気付いてはいるが、正直戸惑っている。

 

藤尭朔也

職業 S.O.N.G.所属オペレーター

驚異的な計算能力を有し、月の軌道落下すらも計算できる頭脳の持ち主。

オーバーヒートするから出来ないが、S.O.N.G.基地である潜水艦の全システムを掌握し続ける事が可能。ハッキングも得意。

現在、切歌に片思いされている。

 

友里あおい

職業 S.O.N.G.所属オペレーター

特に目立った能力はないものの、装者やライダーたちのメンタルケアや、大人らしい悠然とした性格有しており、皆のお姉さん役な立場を確立している。

最近のストレス発散法は実銃の的当て。

 

エルフナイン

職業 S.O.N.G.所属技術員聖遺物担当

キャロルから肉体をもらい受け、それ以来、戦兎の部下として聖遺物の研究に勤しんでいる。

キャロルの肉体ではあるが、ダウルダブラは使い方を知らない為、戦闘に介入することは出来ない。

ただ、物質学に興味があり、戦兎の父親である葛城忍の元に何度かお邪魔したことがある。

 

ハザードレベル 3.0

 

葛城巧

本来の戦兎の人格にしてライダーシステムを作った張本人。

戦争に対してある程度のトラウマを持つも、性根は人の未来を思う人格を持つ。

元々戦兎と一つの存在であった為にハザードレベルも仮面ライダーとして戦うことも出来るが、今の所戦闘に赴くつもりはない。

 

ハザードレベル 6.0(戦兎の影響

 

『ガードウルフ』

セレナによって復元された元デイブレイク社の偵察無人機。

対話IFを搭載している為に会話も可能であり、修復してくれたセレナには多大な恩を感じている。

主だってはセレナの護衛が仕事であり、それ以外では基本はセレナの家か、戦兎の家でメンテナンスを行う。

 

 

エリザベート・バートリー

職業 ストレイ社戦闘員

シンと同じく『幼き殺人者たち』の元メンバー。自分と相手の血で血塗れになることから『血塗れエリザ(カーミラ)』の異名を持つ。

血が他者より多く生成される体質な為、常に血抜きをしていないと血管破裂で死に至る体質を有する。現在はファウストローブ『カーミラ』によって事なきを得ている。

シン及びジャックに多大な恋心を寄せるが、マリアという恋敵の存在と、シンの鈍さから進展せずにいる。

 

たまにマリアと密会しているらしく、その度に腹に『正』の字が刻まれて行っているらしい。

 

ハザードレベル 2.5

 

実はスリーサイズと身長がマリアと全く同じだったりする。

 

 

ファウストローブ『カーミラ』

聖遺物ではなく遺骸から創られたファウストローブ。

伝説にある吸血鬼とほぼ同じ能力を有するが、エリザ本人が人間であるため、起動時、太陽によって消滅はしない。

また、ファウストローブの起動条件として使用者の血を要求する為、血液過剰生成体質のエリザだからこそ長時間使い続ける事ができる。

血によってありとあらゆる攻撃が可能であり、また、血液型を変化させることで対象の治療なども可能とする。

扱える血液は自分のもののみ。

 

 

アルフォンス・ヒードマン

職業 ストレイ社専属錬金術師

エリザベートと行動を共にする錬金術師。

鋼の錬金術師の如く手合わせ錬金を主とし、基本的に周囲に必要なものがあればなんでも出来る。

主にストレイ社へのスカウトを担当する。

 

手合わせ錬金

ファウストローブがない代わりに、周囲の物質を別の形へ錬成することが出来る。

また、混ぜ込まれている成分をふるい分け、それを攻撃に転化することが可能。

使える理由は―――真理を見てしまったからということで。

 

 

ゲインツ・ドゥーフェンシュマーツ

元ネタは『フィニアスとファーブ』の『ハインツ・ドゥーフェンシュマーツ』から。

生まれてすぐさま親に捨てられたり、女の子を望まれていたのに男の子が生まれたから女の子の服を着せられたり、プールの飛び込みが出来なかっただけで勘当されたり、あとはヤマネコの養子になったりと、割ととんでもない人生を歩んできた科学者であり、弦十郎とは別の方向でOTONAの仲間入りしている男。

様々な装置を開発することに長けており、たまに天変地異を起こしかねない装置を作り出すことがある為、割と自粛するようにきつく言われてたりする。

自分が作ったものになんでもかんでも『ネーター』とつける癖がある。

 

装置を作る技術においては戦兎のそれを上回る。

 

 

ジム・クリーガー

ストレイ社の情報収集担当。ありとあらゆるネットから情報を引き出せる程のハッキング能力を持つ。

軍事ネットワークだって介入できる。その気になればS.O.N.G.のネットワークにも潜入出来るが、結構苦労する。

かなりのお調子者だが任務時には真面目に仕事する。

 

 

イリア・トリタン

ストレイ社のオペレーター担当。

戦況を常に戦場にいる戦闘員たちに伝えるのが仕事。彼女一人で数多くの戦闘員の戦況を把握する事の出来る聖徳太子の如き耳を持っている。

だが、流石に彼女一人では全てを回しきれない為、他に数人、オペレーターが存在する。

よく中身の入ったカップを落とす。コーヒーの場合は確実である。

 

 

ガレス・アレクセーエヴィチ・トルストイ

ストレイ社社長。元ロシア軍所属であり、現在は退役し、先代の勧誘を受けて社長の座に就く。

自ら戦場に赴くタイプであり、弦十郎と違って離れてもそれほど問題のない立場にいる。

軍隊で鍛えられた肉体と重火器を巧みに操り、戦車を単身撃破出来る強さを誇る。

軽めのジョークで場を和ませることが得意。

一度、風鳴弦十郎と対峙したことがあるが、実はその時、弦十郎に深手を負わせた経験がある。

 

筋肉の隙間を縫ってナイフで一刺しである。

 

 

 

 

デイブレイク社

 

『リカルド・ダスト・クレイザー』

 

デイブレイク社第三支部支部長。

ファウストアーマー『ルシファー』を扱い、デイブレイク社の理念に誰よりも心酔している。

 

その正体は『人体実験によって生まれた異常固体』。

 

様々な遺伝子を掛け合わせることによって生まれた半永久の命をもって生まれたフラスコの中の小人(ホムンクルス)

それを、デイブレイク社総帥の手によって引き取られ、長い年月を経る事によって人類滅亡に賛同するようになる。

 

人の形はしているが見かけ上に過ぎず、肉体が崩壊してしまうため本気を出せないだけ。

虎の鎧を纏った竜は、そんなリカルドが全力を出しても崩壊しない肉体である。

 

ファウストローブ『ルシファー』

聖遺物ではなく概念霊装に近い装備であり、リカルドの全力の五割を発揮できる程の頑強さを誇る。

また、『セラフィック・ルシファー』であっても全力の七割しか出せない。

 

必殺技は『デビルソード』

 

モデルは『ダンボール戦記』の『ルシファー』

 

 

『ジーナ・スカベンジャー』

 

リカルドの秘書を務める女性。

中国拳法を習得しており、マジカル八極拳を主として戦う。

 

父親はある企業の社長であり、それなりの幸せな家庭で過ごしていた過去を持つが、部下の裏切りや父親を疎く思う輩によって企業が潰され、追い打ちを駆けるが如く両親や使用人を殺害された過去を持つ。

ゆえに、悪いのは父親や家族ではなく、世界の方だという認識を持つ、破壊することに賛同してデイブレイク社に入社した。

 

聖遺物『フラガラッハ』

某フェイトのような因果逆転の能力は存在しないが、使用法はフェイトのものと似ている。

奥の手として自らに差すことで枷を外し、通常の数倍の力を発揮できることが出来るが、反動で一時的に酷く衰弱する。

 

現在、S.O.N.G.の収容所にて尋問を受ける。

 

 

『モーガン・ゲンネル』

かませ一号。

元プロレスラーであり、チャンピオンを狙える実力を持っていたが、調子に乗って相手を再起不能にする試合が多く、その上、同じジムのメンバーでも手が付けられない程粗暴だった上に揉み消しなど様々な悪事にも平気で手を出した為に、警察に告発され、そこへデイブレイク社の勧誘を受けて難を逃れる。

そして、復讐というふざけた理由でデイブレイク社で暴れることになる。

 

『破道健治』

かませ二号。

元引きこもりゲーマー。中々ランキングの順位が上がらない為にハッキングで自分より上のプレイヤーのデータを全てクラッシュさせるという暴挙を敢行した。

さらに鉄製の模造刀を研いで街中で暴れるということを行い人を数人殺した経験もあり、獄中生活をしていたが、そこへデイブレイク社が勧誘に着てあっさり承諾。

とにかく相手が自分より下でなければ気が済まない。

 

 

 

『テラー・オブジビアス』

ロジャーと共にデイブレイク社に入った男。隠れた噛ませ第三号。

ロジャーとは生涯を共にしており、家庭、戦場などいつもともにいた。

また、その気があるのではないかと言うほど親密でもある。

 

デイブレイク社加入の理由は、戦争によって両親を亡くし、戦争というものを嫌悪し、その理由が人間の腐った性根であるという結論の元、デイブレイク社に入社した。

ゆえに、その礎となれるなら死んでも構わないという心構えがある。

 

 

聖遺物『ネメアーの獅子の毛皮』

使用者に不死性を付与し、非常に打たれ強く、ダメージを負ってもすぐさま再生する。

唯一の攻略法として首を絞める、という手段が存在するが、それをロジャーがカバーすることで実質無敵と化している。

 

 

 

『ロジャー・セリオ』

テラーと共にデイブレイク社に入った男。

テラーを酷く思っており、彼の為であればなんでもするという依存性がある。

 

全ての行動がテラーへと帰結する為、デイブレイク社に入った理由もテラーが入るから。

テラーに向けられる害意全てを排除し、そしてテラーの為であれば殺戮を厭わない。

 

蛇の卵を大量に体内に入れており、錬金術で孵化させることによって操る。

イメージは『トリコ』の『トミーロッド』を連想すると分かりやすい。

 

 

『ケイド・アルカルネン』

 

デイブレイク社第三支部機械担当。

全身のほぼ全てを機械の体へと入れ替えられた『サイボーグ』。

超高速で弾丸や矢を発射することが出来、肉眼で捉えることはまず不可能な速度を誇る。

 

元々どこにでもいる一般人であったが、何者かに誘拐され望まぬ改造を施され、『生身』を奪われた。

味も空気も何も感じないという絶望感を長年味わい続け、『人』の体が戻るなら世界は滅んでもいいということで、デイブレイク社に加入した。

 

常に人の感覚を求め続け、ようやく取り戻せたのが『痛覚』のみだった。

 

 

 

『ニトロ・バルドン』

非常に筋骨隆々な体格を有する男。生身でシンフォギアと渡り合えるだけの身体能力を有し、体内に融合している聖遺物のお陰で全ての攻撃を肉体を通して相手に返す『カウンター』が可能となっている。

 

聖職者であり、巡礼の旅をしていたが、旅の途中で泊まった宿にて、そこのオーナーに危うく殺されかける。

しかし、度重なる拷問の果てに『神』はいないという悟りを受け、絶望。

そこへデイブレイク社が宿そのものを破壊し、助け出された際に、自分を勧誘してくれた『総帥』を神とあがめ、以降、デイブレイク社の為に粉骨砕身の勢いで活動する。

 

聖遺物『鎌倉幕府の紋章』

正確には哲学兵装に近い。

『御恩と奉公』を、カウンターとして機能させている。

 

相手からの攻撃を『奉公』とし、それと同じくらいの攻撃を『御恩』として相手に返すシンプルかつ強力な能力。

 

本来であればどんなものでも返す事ができるが、人間の肉体の限界の関係上、上限が存在する。

 

 

『ベイク・ド・ボルテ』

ベイクドポテトではない。

触れた無機物を全てを爆弾に変える錬金術を行使する。

 

デイブレイク社加入の理由は単純に面白そうだったから。

それだけの理由でデイブレイク社の理念に共感している異常者。その気になれば宇宙そのものを爆発させかねない程の好奇心を持っている。

 

 

 

『グラント・マルフィー』

 

第三支部最大の戦力。

自らを竜と称する通り、竜の遺骸から採取されたDNAを元に作られた人造人間。

人の姿と竜の姿、両方を司り、竜状態であれば、大陸を焼き尽くすことが出来る力を持つ。

 

人とは隔絶した価値観を持ち、常に戦いを求め続け、弱者には一切の興味がない。

ほぼ無敵の人生を歩んできたために強敵にあったことがなく、しかしそんな中で出会った『強者』であるデイブレイク社総帥はいつか超えるべき相手として認識し、デイブレイク社に入っている。

ゆえに、世界が滅びようがまさしく興味がない。

 

 

ミスト・ヘルガンティア

かませ三人衆の一人。

ケイドと同じサイボーグだが、その経緯は異なる。

まだ何も知らない子供の脳をVRによって鍛え上げ、その脳を機械の体に移植することで生まれた生まれながらの殺人マシーン。

伸縮自在の鞭を扱い、生来の残虐性によって相手を痛めつける戦法をとる。

また、ジャイロは都合の良いペットとして扱っている。

 

 

ジャイロ

親に金の為に売り飛ばされた経緯を持つ。

常日頃から薬漬けにされており、その薬によって肉体改造され、驚異的な身体能力を得ている。

その影響で知能が著しく低下しており、思考能力も他人に頼らなければならない程低下している。

ゆえにミストには忠実に命令に従う。

 

 

グレゴリ・ガウマーン

錬金術師にして、ミストとジャイロの取り扱いを任されている。

常に成り上がりを狙っており、強力な部下を使う事で自分の欠点を補おうと日々奮起しているが、性根が他者を見下すものなので、常にレベルの低い所でしか戦えない欠点を持つ。

 

錬金術は単純明快、無機物の巨大化。

右腕をある実験によって失い、それ以来義手なのだが、その義手をメイン武装として戦う戦闘スタイルを編み出している。

ただし、義手に頼り切りな所があり、それが最大の弱点ともなっている。

 

 

 

 

ダウンフォール

 

『浦賀啓示』

仮面ライダーメタルビルドに変身した男。旧世界では葛城忍の元でパンドラパネルの研究をしていたが、その途中で実験に利用され殺される。

旧世界で記憶を取り戻した時、日本を支配するべくダウンフォールを結成、科学の力だけで力を手に入れた。

 

グリスに倒され、消滅する。

 

『シャルティナ・アルーダ』

浦賀につく錬金術師。

二人の妹『クレア』と『イース』を従えている。

ファウストローブ『アロンダイト』をもって戦う。

 

 

錬金術師の一族であり、両親を早くに亡くし、それ以来錬金術をもって生計を立てていた。

しかし、錬金術の『禁忌』に触れてしまい、手違いで二人の妹を生贄に捧げてしまったことから心が壊れ、その心をどうにか持たせるために、数万回という思考の中で()()()()()人形の妹たちを作る。

ただしその過程で心は廃れており、記憶も曖昧で、唯一残っていたのが『妹たちと幸せに暮らせる理想郷を探す』ということだった。

 

その答えが『アーサー王伝説』の『アヴァロン』であった。

 

 

ファウストローブ『アロンダイト』

 

裏切りの騎士『ランスロット』が使っていたとされる剣。

非常に謎が多く、伝わっている中でも『エクスカリバーと打ち合っても折れなかった程強固』、『火竜を打ち倒した剣』だと、曖昧なものも多く、その出自も不明。

ただし、シャルティナの『記憶を引き出す錬金術』によってランスロットの騎士としての力をほぼトレースし、切歌たちを苦しめた。

 

現在、その元となった小さな剣は、戦兎によって保管されている。

 

 

 

専門用語集

『ライダーシステム』

仮面ライダーに関わるシステム全般を指す。

主にビルド系列を差して使われるが、最近ではそれを模倣する組織が出てきた。

S.O.N.G.保有のものは戦兎が全般に取り扱っている。

 

『シンフォギアシステム』

聖遺物を歌によって活性化させ、対ノイズ用の戦闘プロテクターとして纏うシステム。

『櫻井理論』に基づいて作られたものの為、その真相は櫻井了子及びフィーネしかしらない。

正式名称『FN式回天特機装束』

 

『櫻井理論』

聖遺物に関する『櫻井了子』が記述した理論。シンフォギアの根幹ともいえる理論であり、これがなければシンフォギアを成すことは出来ない。

 

『LiNKER』

適合係数が低い者たちの為に用意された薬品。

櫻井了子が作ったものよりウェル博士が作ったものの方が性能は高いが、製造法は謎のまま、ウェル本人は死亡している。

投与すると適合係数が上昇し、シンフォギアを纏った際に起こるバックファイアを軽減する。

逆に適合係数を下げてシンフォギアのバックファイアを誘発、あるいは纏えなくするものを『Anti LiNKER』と呼ぶ。

 

『ソングボトル』

装者の歌によって変化したボトル。

聖遺物のように特定の波形で変化するが、変化させるにはエクスドライブ化するほどのフォニックゲインが必要。

 

『シンフォニックマッチ』

ソングボトルによるベストマッチ。

通常のベストマッチより遥かに高い性能を誇る。

ソングボトル同士でなければ起きない。

 

『レリックフルボトル』

聖遺物の力を内包したボトル。未だ謎が多い。

確認されているのは『イチイバルレリックフルボトル』と『フェンリルレリックフルボトル』。

 

『S.O.N.G.』

政府直轄のタスクフォース。主に聖遺物関係の事件などを担当し、活動する。

表向きは政府直轄

 

『デイブレイク社』

世界滅亡を目的とする秘密結社。異端技術、聖遺物、錬金術、科学など、様々な分野に精通し、その規模は世界中の闇に潜んでいる。

 

『ストレイ社』

民間軍事警備会社。表向きは四肢を失った人々に義手を提供する企業だが、実態は戦場などで身よりをなくしたり、少年兵として過ごした為に戦いしか知らない者たちを受け入れる傭兵集団。

サイボーグ技術も群を抜いている。

現在、シンが加入中

紛争地帯に移動型の支部がある。

 

 

 

『ビルドギア』

今回の切歌のギアにおいて名付けられたもの。

特別なフルボトルを使用することによってなせる形態であり、心象変化などではなく、どちらかというとデュオレリックに近い。

また、同じ系統の形態のライダーとの共鳴現象も確認されている。

 

 

『ファウストローブ』

錬金術版のシンフォギアと言った所。

キャロルのものは『歌』ではなく『記憶』を償却することによって起動する。

それなりの代償と適性があれば起動可能。

また、聖遺物を使用している為、歌による強化も可能(作者解釈

 

『ファウストアーマー』

錬金術版の仮面ライダー。

全身を鎧に包み、超常的な力を身に着ける。

体にぴったりはっ付けるローブと違い、こちらは鎧な為、代償のレベルが低い。

主に鎧の聖遺物や遺骸で作られる。

 

 

 

『ネーターシリーズ』

ストレイ社のドゥーフェンシュマーツが開発した発明品の数々。

そのどれもが単純だったり複雑だったり、しょうもなかったり天変地異を引き起こせたりと落差が激しい。

そのどれもに『ネーター』と名がついているから『ネーターシリーズ』と呼ばれている。

 

最高傑作は『ライダーネーター』。




次回―――――





―――――それは、いつもの日常―――の、筈だった。





―――仮面ライダーのいない世界・・・



「貴様か、私の名を騙り、悪事を働く輩は!」



東京の街で悪事を働く、『風鳴翼』の偽物。
その調査に当たっていたS.O.N.G.―――否、風鳴翼は、その『風鳴翼』の策略に嵌る。


「―――戦兎は、どこ・・・?」


消えてしまった『ヒーロー』


「お前が偽物だな」
「・・・・・・え」


敵となったS.O.N.G.


「戦兎先生の家、クリスの家の隣、長崎の農場、総理大臣の名前・・・何もかもがなかったんです」
「何も・・・なかった・・・?どういうことだ・・・!?」


唯一、記憶が残っていた未来から告げられる真実。


「これで、私が『本物』となりお前が『偽物』となる」


謎の懐中時計によって、天羽々斬を纏うもう一人の『風鳴翼』


「逃げてください、翼さん!」
「せめて、天羽々斬さえあれば・・・!」


何もかもが変わった世界で、S.O.N.G.と『風鳴翼』に追い詰められた翼は―――新たな『仮面ライダー』に出会う。


「こんな歴史になったのは、過去のどこかに、タイムジャッカーが介入した筈だ」


魔王を名乗る『常盤ソウゴ』と、その仲間たち―――


「行こう、全ての始まりの日に・・・!」


そして翼は、全てを取り戻す為に、過去に飛ぶ――――



―――シンフォギア『天羽々斬』が、何故生まれたのか。



その先で、出会ったのは―――


「お母様・・・?」
「未来の、翼・・・?」


翼と同じ、RN式を纏う、翼の母『隼綾女』だった。


「何故、お母様がそれを纏っているのですか・・・!?」

「『風鳴』を、潰す為よ」


始まる、母と娘の戦い――――


「戦わなければ、貴方は一生『偽物』のままよ」

「あぁぁあああ!!?」

起動する、RN式改天羽々斬――――

「やはり来たか、魔王オーマジオウ」

姿を現す、タイムジャッカー『カイン』。その目的は――――

「私こそが、私の世界の王に相応しいのだ!」

立ち塞がるS.O.N.G.と『風鳴翼』―――アナザー天羽々斬。

「全てを奪われた貴様に、もはや『絆』などありえない」

決定してしまった過去―――

「過ぎた過去は変えられないのだろう・・・?」

途絶えぬ悪意―――

「誰にも変えることは出来ないのだァ!!」

それでも、彼らは―――

「でも、未来なら自分の力で変えられる」



―――『夢』を、『絆』を。



「絶対にここは引かない!」

「百億連発だ!」

「ここで仕留める!」



―――取り戻す為に。



「私の歌を世界に聞かせ、人々の胸に届かせ世界を繋ぐ・・・その夢を叶える為に戦う・・・!」



愛和創造シンフォギア・ビルド―――『オリジン・ザ・天羽々斬』



―――シンフォギア『天羽々斬』誕生の秘密が今、明かされる。








翼「と、いうわけで、次回はこの私『風鳴翼』が主役の『愛和創造シンフォギア・ビルド オリジン・ザ・天羽々斬』が、来週より投稿開始される!皆の者!絶対に見てくれ!」
戦「というわけで、来週までさよならだ」
魔王「あ、戦兎の出番はしばらくないから前書きに出られないよ」
戦「ゑ」
魔王「それじゃあ、来週で会おう!」
戦「おいちょっと待て!?俺この小説の主y―――ブツン―――」





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オリジン・ザ・天羽々斬
始まりのリバーサル


翼「ついに私が主役の章が開幕したぞ!」
響「ちぇー、なぁんで翼さんが主人公になってるんですか~。原作の主人公は私なんですよ~」
翼「引っ込んでいろ旧主人公」
響「そんな古いもの扱いしないでください!」
魔王「まあまあ落ち着いて」
ク「おい待てェ!?なんでまだ出てきてねえお前が出てくるんだよ!?」
魔王「いいじゃんべつに。戦兎いないんだし、代わりに俺が出てもさ」
調「慧くんがいない慧くんがいない慧くんがいない慧くんがいない・・・オマエガケシタノカ?」
切「調ぇ!ステイデース!」
調「KILL!!」
魔王「と、いうわけで、愛和創造シンフォギア・ビルド オリジン・ザ・天羽々斬をどうぞ楽しんでいってください!」未来予知でひょひょいのひょい
ク「リュウガリュウガガガリュリュリュリュウガガガガ」
調「ケケケケケケイクンケイクンケイクククク」
切「ヒィィィ!!調の闇に当てられてクリス先輩までおかしくなったのデース!?」
翼「雪音ェ!正気に戻るんだぁ!!」
響「あれ?そういえばマリアさんは?」
未「なんでも女の戦いをしに行くって今回はパスしてるよ?」
響「またお腹の正の字が増えるのかなぁ・・・」
翼「ええい!何はともあれ新章『オリジン・ザ・天羽々斬』をご照覧あれ!」


―――それは、遥か遠い記憶。

 

 

「―――翼」

 

その声に、思わず顔を上げる。

 

「強く生きなさい。風鳴の家に生まれた以上、貴方は強く生きなければならない」

 

その言葉の意味を、まだ分からない。

 

「そうだ。貴方には何か夢はない?」

「ゆめ?」

 

はて、と首を傾げる。

 

「なんでもいいわ。貴方が、将来何になりたいのか。それか、どんなことをしたいか。それを言えばいいのよ」

「うーん・・・」

 

まだ、幼い頭を必死に動かして、真っ先に浮かんだことを言う。

 

「おうた!」

「え?」

「みんなにわたしのおうたをきかせたい!」

 

その答えに、果たして、貴方にはどんな風に映ったのだろうか。

 

「・・・ふっくく・・・」

「・・・?」

 

その時、何故笑われたのか分からなかった。

 

「ふふ、ごめんなさい。そっか、それが、翼の夢なのね」

 

頭を撫でてくる。それが、とても心地よくて、よく覚えている。

 

「じゃあ、今から私と歌おうか」

「うん!」

 

その時、貴方はなんと歌っただろうか。

 

 

―――風よ そよげよ 向こうまで

 

―――私の知らない場所へ飛んでおくれ

 

―――風よ 運べよ ここまで

 

―――私の知らないことを教えておくれ

 

―――風よ 貴方はどんな姿をしているの

 

―――貴方は一体、どんな『翼』をもっているの

 

―――どうか その姿を見せてくださいな

 

―――風よ 飛べよ どこまでも

 

―――貴方と共に、飛ぶ鳥のように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

S.O.N.G.シミュレーションルームにて。

 

「あら、翼。鼻歌なんて珍しいわね」

「む・・・」

マリアに指摘され、翼は気付く。だが誤魔化すことはしない。

「ああ、少し気分でな」

「さっきの鼻歌、私が知らないものでした。一体どんな歌なんですか?」

翼の大ファンと自称している響が尋ねてくる。

それに、翼は気恥ずかしそうに答える。

「死んだ母が良く聞かせてくれた歌だ」

「あ、すみません・・・」

しゅん、となる響。

「気にするな。歌詞は忘れてしまったが、大事な母との思い出だ」

「ふーん・・・先輩のママってどういう人なんだよ?」

一方水分補給をしていたクリスが、そう尋ねてくる。

「あの不器用パパさんと結婚するぐらいだもの。相当な女傑と私は見たわ」

「ハハ・・・正直言うと、私も良く覚えていないんだ」

その言葉に、その場にいた者たちが首を傾げる。

「私がまだ五才の時に他界してしまってな。お父様もあまりお母様の事を話そうとはしない。尋ねても適当にはぐらかされるか突っぱねられるかのどちらかで、お母様の方も、あまり家にいたりいなかったりで、そんなに接したこともないんだ」

「そうだったんですか・・・・」

「ああ。ただ、この歌と、優しかったことだけは覚えているんだ。それだけが、私が覚えているお母様のことだ」

それだけ語ると、翼はすっくと立ちあがる。

「さ、訓練に戻ろう。次は私と雪音で組むんだったな」

「足引っ張らないでくださいよ」

「誰にものを言っている?」

「私も負けません!」

「手加減はしないわよ」

「当然だ」

そう言い合い、翼は、ふと思う。

 

 

 

――――何か、足りない気がする、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――それは、ある日のことだった。

 

 

(この状況は―――なんだ?)

翼がまず一番に思ったことはそれだった。

理由は、自分の両手に何故か()()が掛けられている事だった。

「あ、あの、緒川さん」

「今は喋らないでください。貴方の身柄は、現在拘束されています」

「・・・・」

自身が最も信頼を寄せている筈のマネージャーですらこの態度。

いや、それ以前に、周囲の自分に対する態度が明らかにおかしい。

まるで、こちらを何かの容疑をかけられている容疑者の如き眼差しで、こちらを見ているのだ。

「・・・翼」

そんな中で、彼女の目の前に立つ弦十郎が、重い口を開くように尋ねる。

「何故、こうなっているか分かるか?」

その問いかけに、翼は。

「・・・まあ、自分が何故このような立場に立たされているのか程度には・・・」

そう答えるしかなかった。

 

 

 

ことの発端は、とある放火事件にあった。

 

場所は、とある極道が取り仕切っている企業。

そこで、何人ものヤクザが滅多切りにされた上で、建物ごと焼かれるという最悪の事件が起きたのだ。

すぐさま警察が出動し、その犯人を拘束しようとしたのだが、その時、警察が見たのだ、なんと『風鳴翼』だったのだ。

焼け残った監視カメラの映像にも、()()()()()()()()()()()がヤクザを斬殺する現場が残っていた。

様々な現象の結果、それが風鳴翼本人だとして、警察は翼に逮捕状をもってきた。

しかし翼には、S.O.N.G.の発令所にいたというアリバイがあり、翼本人が犯人だと断定はできず、さらにその時天羽々斬のアウフヴァッヘン波形を検知したとの報告もあり、とりあえず名目上は逮捕ということでこうして手錠をかけているのだ。

 

だがしかし、

「本当に翼にそっくりね」

止められた映像の先、嬉々としてヤクザを斬殺していく翼の姿があった。

「これが先輩の訳ねえだろ」

「無論だ。これが私であろう筈がない」

はっきりと否定してみせる翼。

だがしかし、である。

翼のシンフォギアである天羽々斬は、しっかりと()()()()()として首に下がっている。

肌身離さず持っているそれを、緒川ももちろん目撃している。

それでもこの映像が証拠として残っている以上、もはやどちらかが偽物という説が大きく出てくる。

「ドッペルゲンガー、デスかね?」

「世界には同じ顔の人間が三人いるって聞いたけど、これは・・・」

「検証の結果、翼さん本人と出ていますが・・・」

「まさか新たな錬金術師?」

そうとあれば、一体何が目的で翼に化けているのか。

「どちらにしろ、この『風鳴翼』そのものを騙り、悪事を働く輩を放ってはおけない」

ぐっと翼は拳を握り締める。

「真なる防人の刃で叩き伏せてくれる・・・ッ!!」

とにもかくにも、自分の姿を騙って悪事を働くこの不届きものを、翼は許してはおけなかった。

「うむ。相手が本当にシンフォギアを纏っているかどうかは分からんが、放っておくわけにもいかん。よって、全ての装者に出動命令だ。この翼に似た誰かを見つけ出し、捉えてくれ」

「「「了解!」」」

そうして、翼の偽物を探すことになった訳なのだが―――

 

 

 

 

 

 

「早々に見つかるものでもないか・・・」

そう呟き、翼ははあ、とため息を吐く。

「そう気を落とさないで」

同伴していたマリアが、自販機で買ってきたミネラルウォーターを渡す。

「これが落ち込まずにいられるものか。まさか私の偽物が大勢の人々を傷つけているなど・・・その上あまり見つからないとは」

「そうね。にわかに信じられないわ。まさか貴方に化けてその上シンフォギアまで纏うなんて」

ふと言われてみると確かに大事だ。

自分と同じ格好をして同じ天羽々斬を振るう。

これほど恐ろしいものがあるだろうか。

そう想い、すっと首に提げられたペンダントを握り締める。

「・・・ん?」

そこでふと、違和感を覚える。

(なんだ。何かが違う気がする・・・)

一体何が。

ペンダントが?自分の偽物が?それとも一体なんだ?

「うっ・・・」

不意にずきりと頭が痛み、抑える翼。

「翼?どうしたの?」

「いや、少し頭痛がしただけだ。もう大丈夫だ」

「そう?しっかりしなさいよね。もうすぐコンサートがあるんだから、体調管理はしっかりしなさいよ」

「無論だとも」

その時だった。

唐突に二人の通信機に、ノイズ発生の連絡が入ったのは。

 

 

 

 

現場はまさしく阿鼻叫喚だった。

全滅した筈のノイズが、目の前でスクランブル道路にいる人々に襲い掛かっているさまを、翼とマリアにありありと見せつけられていた。

「また『ギャラルホルン』のアラートなの!?」

「話はあとだ!殲滅するぞ!」

翼はすぐさま首のペンダントを取り出し、そして、聖詠を唄う。

 

「―――Seilien coffin airget-lamh tron(望み掴んだ力と誇り咲く笑顔)―――」

 

「―――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)――」

 

聖詠、変換、還元、着装―――

 

翼が纏うのは蒼き衣と蛇を断つ刃。

 

マリアが纏うのは白銀の左腕。

 

今ここに、シンフォギア・天羽々斬とシンフォギア・アガートラームが顕現する。

 

戦場に歌が響く―――

 

 

「ハァァア!!」

振り下ろした刃が、ノイズを斬り捨てる。

(突然のノイズの復活、私の偽物、これらが無関係だとは思えん・・・!)

次々と襲い掛かるノイズを、己が刃をもって斬り捨てていく翼は、そのように考える。

全滅した筈のノイズ、それが今、自分の目の前で人々に襲い掛かっている。

だが、これらのノイズには、どうも違和感を感じてしまう。

この違和感の正体は一体何なのか―――。

 

その時、翼はノイズが蔓延る視界の中で、一人その中にたたずむ黒衣のフードを被った人物を見つけた。

 

(なっ・・・)

その存在に一瞬、思考が止まり、しかしその者の口元が、笑みを描くように歪むのを見て、そして、その口元から顔全体に意識を映した時、翼は、自分の目を疑った。

 

それは、紛う事無き、『風鳴翼』そのものだった。

 

『風鳴翼』が、路地裏に入っていく。

「ッ!待て!!」

「翼!?」

翼はマリアを置いて、『風鳴翼』を追いかけた。

シンフォギアの走力であれば、相手に追いつくことなど容易い。

ほぼ数秒でやや開けた場所に追い詰める。

「貴様か、私の名を騙り、悪事を働く輩は!」

刀を向け、翼は怒鳴る。

「・・・」

「なんとか言ったらどうだ?」

「・・・クク」

『風鳴翼』が、笑い声を漏らす。

「随分と余裕だな」

その声に、翼は自分の耳を疑う。

それは、収録した後、いつも聞く自分の声。

自分と他人とでは、自分の声は違って聞こえるというが、翼の場合、アーティストであるがゆえに、自分の人々に聞かれている声がどういうものなのかを知っている。

故に、翼は、『風鳴翼』の発した声に、驚愕する。

その声は、間違いなく自分の声と同じだったからだ。

しかし、翼はすぐに平静を取り戻し、改めて刀を構える。

「どういう意味だ・・・!?」

「そのままの意味だ『風鳴翼』。何も知らずに随分と余裕そうだ。いや、知らないからこそ余裕でいられるのか」

「何を訳の分からない事を言っている・・・貴様は何者だ!?」

そう尋ねれば、『風鳴翼』はローブをとってみせる。

そして、普段の翼からは考えられないような笑みで、答える。

「私はお前だ。『風鳴翼』」

「なに・・・?」

その顔は、まさしく翼そのもの。

見間違える筈もない。鏡でよく見る、自分自身だ。

「っ・・・貴様、その顔は・・・」

「驚いたか?だが、驚くのはまだ早い」

そう言って、『風鳴翼』が取り出したのは、一つの懐中時計のようなアイテムだった。

それの一番上にあるボタンを、『風鳴翼』は押す。

 

天羽々斬(アメノハバキリ)ィ…

 

「天羽々斬・・・!?」

その懐中時計が発した音声に、翼は驚愕し、その間に『風鳴翼』は、その懐中時計を胸に当てる。

するとどうだ?

黒い闇のようなものが『風鳴翼』を包み込んだ瞬間、そこから現れたのは、翼の天羽々斬の白い部分が黒に変わったかのような、そのインナーに『2030』の数字が刻まれたシンフォギアを纏う、『風鳴翼』の姿があった。

「なん・・・だと・・・」

「いざ、推して参る」

刃を抜き、翼に斬りかかる『風鳴翼』

「ッ!」

それに応じるように、返しの刃を振るう。

激しく打ち合う二人の翼――――

「この力、紛い物では―――」

「何を言う?これは正真正銘の天羽々斬だ!」

弾かれ、大きく上体を逸らす翼。

(何故だ・・・奴相手に、上手く戦えない・・・!?)

同じ天羽々斬だと言い張る『風鳴翼』の言葉とは裏腹に、翼の天羽々斬が、『風鳴翼』の天羽々斬の出力に力負けしていた。

「く、ぅあ・・・!?」

刀を弾き飛ばされる翼。

すぐさまもう一本の刀を抜こうとした瞬間、その手を叩かれ元となる柄を取りこぼす。

「ッ!?しま―――」

次の瞬間、『風鳴翼』の刃の峰が、翼の喉を打つ。

「がっ―――!?」

(喉が・・・)

思わず喉を抑えようとした時、『風鳴翼』の刃が、翼の討つ。

「終わりだ!()()!!」

「ッ!?」

斬撃が直撃し、吹き飛ばされる翼。

その時、翼のシンフォギアが解除され、ペンダントが落ちる。

一方の翼は壁に叩きつけられ、ずるずると座り込む。

「く・・ぁ・・・」

(そんな、バカな・・・)

敗北―――その事実が、翼にかなりのショックを与える。

喉を叩かれて痛みで流す涙に霞む視界。その先で見たのは、落としたギアペンダントを拾う『風鳴翼』の手。

(天羽々斬が・・・!)

それと同時に、自らのギアを解除し、その手にあの懐中時計を握りしめる『風鳴翼』。

「これで、私が『本物』となりお前が『偽物』となる」

一体なにを、と言おうとする前に、『風鳴翼』は、続けて信じられない事をしてみせる。

 

 

「―――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)――」

 

 

「・・・ば、か、な」

霞む声で、翼は、目の前で起きている現象に、目を見張った。

それは、先ほどの白と黒とが反転したギアではなかった。

本来であれば、翼しか身に纏う事の出来ない筈の、正真正銘の天羽々斬のシンフォギア。

それを、『風鳴翼』は纏ったのだ。

(なぜ、奴がシンフォギアを・・・!?)

「何故、と思っているだろう?」

『風鳴翼』は翼を嘲笑う。

「それは、私が正真正銘の『風鳴翼』だからだ」

(なにをいって・・・!?)

そこへ、駆け込んでくるものがいた。

「先輩!」

(雪音!?)

イチイバルを纏ったクリスだ。

「な、先輩が二人・・・!?」

「来たか雪音!」

その時、『風鳴翼』が驚くクリスの方を向いた。

 

―――先ほどの笑みはすっこめて、まるで本物の『風鳴翼』であるかのように振舞って。

 

「ど、どっちが本物・・・」

「案ずるな雪音、私が偽物如きに敗れる筈がないだろう」

「く・・・ぁ・・・」

喉を潰されて上手くしゃべることが出来ない。

だが、翼はとにかく目で訴えかける。

 

どうか、自分が本物であると、気付いてくれ、と。

 

「ッ・・・」

クリスは迷う。

「ゆき・・・ぐ、げほっ、ごほっ!?」

喉が痛くて、上手く喋れない。

(だが、雪音なら気付いてくれるはずだ・・・!)

出会いに問題はあれど、共に戦い続けてきた仲だ。

きっと、自分の事もわかってくれる。

 

―――その時は、そう思っていた。

 

二人を見比べるクリス。

ギアを纏っている翼と、傷だらけで地面に座り込む翼。

その二人の間で視線を巡らせて、クリスは、意を決したかのように、その手に拳銃を握って、二人に歩み寄る。

緊張が、空気を張り詰めさせる。

クリスが一歩、踏み出す時に聞こえる足音が聞こえる度に、緊張はどんどん高まっていくように感じた。

そして、クリスが拳銃を向けた相手は――――

 

「お前が偽物だな」

「・・・・・・え」

 

 

―――()()()()()()()()()翼の方だった。

 

(ゆき・・・ね・・・何故・・・・!?)

信じられない、とでもいうかのように、翼は冷めた視線でこちらを見下すクリスを見上げた。

「上手く先輩に化けたんだろうけど、少し甘かったな。先輩の首にそんな古傷はねえよ」

それを聞いて、翼は思わず瞠目した。

(なに・・・を・・・ッ!?)

思わず、翼は偶然近くにあった、鏡の破片を覗き込んだ。

 

確かに、火箸で叩かれたような傷が首にあった。

 

(何故・・・!?)

自分には、こんな傷はなかった筈だ。なのに何故、こんな傷が―――

そして翼は思い出す。

 

―――確かに『風鳴翼』は、自分を本物だといった。

 

翼は『風鳴翼』の方を見る。

その表情が、僅かにこちらを嘲るようになるのを見逃さず、そして、先ほど彼女が言っていた言葉の意味を思い出す。

(まさか、私と奴の『存在』自体が入れ替わって・・・)

じゃきん、と金属が擦れる音を聞いた。

見上げる先には、赤色の銃口が、その口を向けていた。

「先輩の名をとことん汚してくれたんだ・・・それなりのツケは支払ってもらうぞ」

違う、私じゃない。偽物はお前の後ろにいる―――そう叫びたかった。

だけど、そう叫べばもっと自分の立場を危うくするようで、何よりも決定的な証拠が自分の顔に刻まれているのだから、言い逃れも出来ない。

(全て奴の掌の上・・・このまま、私は奴に屈してしまうのか・・・!)

このまま、自分は、自分の偽物に居場所を奪われてしまうのか。

我慢、出来る筈がない。だけど今の自分にはこの状況を覆せるほどの力がない。

 

今の翼に、今の状況をどうにかする力などなかった。

 

体はボロボロ、ギアはなく、仲間からは完全に偽物と断定されてしまった。

「本部、偽物を見つけた。すぐに他の奴らを急行させてくれ」

クリスが本部に連絡する。

いよいよをもって危険になってくる。

(隙を見て、ここから・・・)

そう画策する翼。

今クリスは本部との通信に気を取られている。今なら、隙をついてここから逃げ出すことが―――

(・・・あれ・・・?)

足に、上手く力が入らない。

立ち上がろうとしても、足が上手く動かない。

まるで、立ち上がることを拒否しているかのように、ぐったりとしていた。

(な、何故・・・!?)

「そういうわけだ」

「ッ!?」

クリスを見上げる。

「覚悟しろよ偽物野郎」

その言葉で、察する。

(ああ、そうか・・・)

クリスなら、きっとわかってくれる。

その期待が、裏切られたことによって、翼は、逃げる気力を失ってしまったのだ。

信頼していた筈の仲間から、裏切られる感覚―――されど相手は裏切っているなんて露程も思っていないだろう。

何故なら、自分は『偽物』で、向こうが『本物』なのだから。

(なんだ・・・これは・・・)

遠くから、駆け足の音が聞こえてくる。それも複数。

きっと、ノイズを殲滅した装者たちが、ここに集まってきているのだろう。

そうなれば、もう打つ手はなくなる――――。

(これが、私の終着点なのか・・・)

偽物として、惨めに死んでいく―――それが、自分の最後だとでもいうのか。

(そんなの、あんまりじゃないか・・・)

人々を守るために戦い続けて、多くの失いながら戦い続けて、その見返りが、これなのか。

これが、自分の人生の結末なのか。

 

あんまりだ。

 

あまりにも、あんまりだ。

そう思うと、自然と涙が溢れ出てくる。

止めようと思っても、涙は後から溢れてくる。

これから先、自分が何をされるのかを思うと、やはり涙は、溢れてくる。

一体、どこで間違えたというのか。

私は、ただ、自分の夢を叶えたかっただけなのに――――

 

 

―――そう、諦めた時だった。

 

 

「キュールルールルールルールルッ!」

 

「え」

「は」

()()()()()()()鳴き声が聞こえた。

閉じた目を開いた先、そこに、それはいた。

紫色の塗装をほどこされた、四角いボディを持つ、竜のような機械―――

 

それを見た時、唐突に翼の脳内に、ある光景がフラッシュバックする。

 

 

―――この正義のヒーローが逃げるなんて、ありえないだろ

 

 

―――さあ、実験を始めようか

 

 

―――すごいでしょ?最っ高でしょ?天っ才でしょ?

 

 

―――ありがとうな。そう言ってくれて嬉しかったぜ

 

 

―――翼ぁぁぁあああ!!!飛べぇぇぇええぇえええええ!!!

 

 

 

 

 

―――天っ才物理学者の――――

 

 

 

 

 

「―――戦兎は、どこ・・・?」

 

 

 

唐突に、突然に、あまりにも呆気なく、全てを思い出した。

(そうだ、私は・・・なぜ、忘れていたんだ・・・)

愛しいあの人のことを。いつでも諦めなかった彼のことを。いつも自分たちを引っ張ってくれた、あの、ヒーローのことを。

 

 

桐生戦兎(仮面ライダービルド)の存在を、何故忘れていた―――?

 

 

「戦兎・・・?そいつは―――」

クリスが何かを尋ねる寸前で―――

「―――クロッ!!!」

唐突にここにいる筈のない人物の声が響く。

その声に、その場にいる者たち全てに、一瞬の意識の空白が出来る。

その空白の中で―――彼女は、()()()()にとって、完全予想外の行動に出る。

 

『STANDBY!』

 

その時、その機械の竜から、紫色の炎によって形を成した竜が飛び出し、それが翼に銃口を向けるクリスに襲い掛かる。

「うお!?」

「これは・・・!?」

思わず飛び退るクリスと『風鳴翼』。

そして、距離を取ったクリスと『風鳴翼』と、翼の間に、一人の少女が割り込む。

その少女に、クリスは目を見開く。

「お、お前は・・・!?」

その正体に、クリスは思わず狼狽する。

紫色の炎の竜を従え、そこに立つのは――――

「・・・小日向」

『風鳴翼』が、その名を呼んだ。

そこに立っていたのは、なんと小日向未来だったのだ。

未来は、キッとクリスを睨みつけていた。

「お前・・・!?」

「・・・ごめん、クリス」

両手首を交差させるように手を突き出し、次にそのまま左肩あたりにその交差点をもっていった後に、大きく体を捻るように右腰に右拳を引く。

 

「―――Rei shen shou jing rei zizzl(鏡に映る、光も闇も何もかも)―――」

 

聖詠と共に紡がれる行動。その聖詠を言い終わると同時に、未来は天に向かって拳を突き出し、空から竜を迎え入れる。

炎によって衣服が燃え吹き飛び、代わりに、紫色のインナーが未来の体を纏い、そして深い紫色の装甲が彼女の身を鎧う。

竜の意匠が施された、そのギアの名は―――

「・・・神獣鏡(シェンショウジン)

 

―――失われた筈の第七号聖遺物『神獣鏡』が、竜と共に現れる。

 

その出現、クリスと『風鳴翼』は、驚くほかなかった。

「なんで、お前・・・またそんなもん纏ってんだよ!?」

信じられないかのように、クリスは叫ぶ。

「ごめん、クリス。でも、今ここで翼さんを渡すわけにはいかない!クロ!」

 

『Yes sir!』

 

次の瞬間、神獣鏡の帯が翼を掴む。そして次の瞬間、未来の姿が翼ごとその場から消える。

「消えた・・・!?」

その光景に、クリスは目を疑い、一方の『風鳴翼』もまた驚いていた。

「・・・・未来?」

そして、その光景を見ていたのは、なにも彼女たちだけではない。

駆けつけた他の装者もまた、小日向未来というイレギュラーの存在に、目を疑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

東京の街の上空。

 

神獣鏡の超ステルスによって、空も堂々と飛べる未来は、翼を伴ったまま飛ぶ。

その最中で、翼は、今日起きたことを思い出す。

 

本物の『風鳴翼』となった謎の少女。

 

突如現れたクロと、神獣鏡を纏う未来。

 

そして、姿を見せない、戦兎と、『仮面ライダー』たち。

 

 

「一体、何が起きているというのだ・・・」

 

その問いかけに、答える者はいない―――

 

 

 

 

 

 

―――そんな、見えない筈の二人を、高層ビルの屋上から眺める女が、一人いた。

 

 

 

 

 

 

 

これは、微かな記憶を辿る物語―――

 

 

母と娘、二人の夢の物語―――

 

 

 

決して、交わらない筈の者たちが交わる―――

 

 

 

 

 

 

これこそが、シンフォギア『天羽々斬』誕生秘話である。

 

 

 

 

 

 

『愛和創造シンフォギア・ビルド―――オリジン・ザ・天羽々斬』

 

 

―――ここに開幕。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「まさか、神獣鏡が復活していたとはな・・・」

未来の登場により暗雲が差すS.O.N.G.

「そうだ・・戦兎、戦兎たちはどこにいる?」

戦兎たち仮面ライダー消えた世界で、二人の装者は手掛かりを探す。

「誰だ」

その最中へ向かった風鳴邸で、父八紘と邂逅する。

「おいたが過ぎるぞ!」

しかし、再びS.O.N.G.が翼を狙う。

「せめて、天羽々斬さえあれば・・・!」

絶体絶命の中、翼は、突如現れた人物から、あるものを与えられる。
それは―――


次回『奪われたメモリーズ』


「・・・アナザーライダー・・・じゃ、ないよね・・・?」








マ「・・・」
翼「む、マリア、帰ったか。随分とふらふらしているが・・・って何故脱ぎだす!?」
マ「翼、私のお腹の正の字っていくつ?」
翼「え・・・ふ、二つと二画だが・・・」(前より増えてる・・・)
マ「そう・・・これで三十七戦十一勝十二敗十四引き分け・・・二連勝、未だなし・・・」

そのまま、扉の向こうに消える。

翼「・・・何の話をしているんだ・・・?」


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奪われたメモリーズ

翼「ついに突入したゴールデンウィーク。しかし作者のゴールデンウィークは全て自動車学校の授業へと割り振られてしまうのであった」
響「さってなんか『私のゴルシウィークがぁぁぁああ!!!』とか叫んでましたけど大丈夫ですかね・・・」
調「慧くんを消した罪は重い・・・」
ク「ああ、アタシの龍我を消しやがって・・・」
魔王「いや、君たち本編だと割と酷い位置にいるからね?」
救世主「いきなり引っ張り出してきたかと思ったらここかよ。しかも俺たちは別世界の住人だろいい加減にしろ!」
切「ついに救世主まで現れたのデース・・・」
未「もうっ、そろそろ本編にあらすじ紹介に戻るよ!こほんっ。錬金術師キャロルとデイブレイク社との壮絶な戦いを経て、一時の平穏を謳歌していた風鳴翼。しかしある時、仮面ライダービルドである桐生戦兎だけでなく、世界の歴史そのものが変わっていた」
翼「その最中で現れた、『風鳴翼』を名乗る輩によって、真なる風鳴翼は、小日向未来と共に、S.O.N.G.に追われる身となってしまうのであった」
ク「なんか、ほんと、罪悪感すげぇな・・・」
調「・・・」
切「・・・」
響「・・・」
未「ああ、皆纏めて落ち込まないで!」
響「しかも例にもれずまたマリアさんいなくなってるし・・・」
切「最近、作者が『パニシング:グレイレイブン』なるソシャゲにハマってるって話を聞いたことがあるのデス」
ク「あの野郎ほんと中国ゲーム好きだな!?」
調「そのお陰で中国語を勉強し始めたみたい」
ク「もはや好き勝手じゃねえか!?」
魔王「まーなにはともあれ、シンフォギア・ビルド オリジン・ザ・天羽々斬第二話をどうぞ!」
救世主「ってお前が言うのかよ!?」


「まさか、神獣鏡が復活していたとはな・・・」

弦十郎が苦々し気に呟く。

 

その理由は、クリス、『風鳴翼』のすぐ傍で検出されたアウフヴァッヘン波形とクリスと『風鳴翼』の目撃証言からだった。

翼を庇うように現れた小日向未来。その未来が、謎の機械の竜を使って、シンフォギアを纏い、翼を連れ去った。

 

その後の足取りは一切わからない。

「きっと神獣鏡のステルス機能でしょうね・・・」

「あれか・・・」

クリスのロックオンを逃れた、神獣鏡のステルス能力。

おそらく、世界のどこを探しても、神獣鏡のステルス能力を超えるものはいないだろう。

あれはもはや、完璧に等しい力だ。

「未来・・・」

その中で、響は辛そうに俯いていた。

それもそうだろう。かつて親友を苦しめたものが、今再び親友の身に纏われているのだから。

「神獣鏡が相手だと、探し出すのは難しそうですね・・・」

「ああ。敵は完全ステルスを有し、探し出すのは至難を極めるだろう・・・」

どんな索敵技術にも引っかからないのだ。

見つけるのは至難の業だ。

 

―――それを向こうが理解していればの話、だが。

 

しばしの沈黙。

「どちらにしろやることは変わらねえよ」

その最中で、クリスが呟く。

「あの先輩の偽物をぶっ倒して、取り戻せばいいだけの話なんだからよ」

その言葉に、一同は頷く。

「・・・それはそうと、あの翼の偽物、一体どうやってシンフォギアを纏っていたのかしら?」

「それについては私もよくわかってはいない」

そのマリアの疑問に答えるのは『風鳴翼』だ。

「ただ分かるのは、この懐中時計を持っていたということだけだ」

翼は、ポケットからあの懐中時計を取り出して見せる。

「それは?」

「さあな。ただこれにはシンフォギアと同じ力が込められているらしい」

「少し解析してみる必要がありますね・・・翼さん、それを少し貸していただけないでしょうか?」

「ああ」

エルフナインが、その懐中時計を受け取る。

「出来そうか?」

「どうにか・・・ボクはこれの解析に専念しますので、翼さんの偽物のことは任せます」

そう言って、エルフナインは自分の研究室に戻っていく。

「よし、それじゃあ早速捜索に乗り出そう。響君、行けるな」

「はい」

響は、力強く答える。

「未来を取り戻す為なら、私、なんだってします!」

その瞳に、確かな想いをもって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「翼さん」

未来が、ベンチに座る翼にミネラルウォーターとカロリーメイトを差し出す。

「ああ、ありがとう・・・」

丁度小腹が空いていたために助かった。

翼はそれを受け取り、すぐに胃の中に放り込む。

「ふう・・・しかし小日向、どうして私のことが・・・」

クロと戯れていた未来に、翼は尋ねる。

こう言ってはなんだが、今の翼は『偽物』だ。

本物に似せた『贋作』と言って差し支えないだろう。

その理由は分からないが。

「だって、翼さん、戦兎先生のことを覚えていたんですもの」

その答えに、翼はハッとなる。

「そうだ・・・戦兎、戦兎たちはどこにいる?」

「それが、どこにもいないんです」

「は・・・?」

その未来の答えに、翼は唖然とする。

「戦兎先生の家、クリスの家の隣、長崎の農場、総理大臣の名前・・・どこにもいなくて、何もかもが変わってた」

「どこにも・・・いなかった・・・?どういうことだ・・・!?」

翼は思わず未来に詰め寄る。

「分かりません。私がどうしてこのことを覚えているのか、そして、クロがここにいるのか、その理由が何も分からないんです。まるで、世界そのものが変わったかのように・・・」

「世界が・・・」

翼は立ち上がって、そこから夜の街を眺める。

「・・・・まさか」

その世界を見て、翼は一つの結論を導き出す。

「ここは、新世界ではないのか・・・!?」

「でも、それじゃあ、クロがここにいる理由が分からないんです」

「それも、そうだな・・・」

クロは、戦兎が創った仮面ライダークローズ専用の変身アイテムだったものであり、今は未来のシンフォギア『神獣鏡』を核とする『神獣鏡クローズドラゴン』及び『リンク・アニマル』である。

だがしかし、

「この世界では、リンク・アニマルの存在そのものがなくなっている・・・」

「それに、仮面ライダーもいなければ、セレナちゃんも死んでることになってる」

「本当に何が起きているんだ・・・」

何がなんだか分からない。

「まるで()()()()()()()()()()()()()()みたいだ・・・・」

だが、それを嘆いていても仕方がない。

「今は、どうにかしてこの身の潔白を証明しなければ・・・」

「その傷があると、難しそうですね・・・」

「そうだな・・・小日向はいいのか?立花と敵対することになるが・・・」

その問いかけに未来は悲し気に笑う。

「確かに、響と戦うのは嫌。だけど、それ以上に、取り戻さなくちゃいけないものがある・・・だから、私は響と戦います」

「小日向・・・」

翼を真っ直ぐと見据えるその瞳には、確かな覚悟があった。

どちらにしろ、今の翼に頼れるものは未来以外にいない。

「・・・分かった。手伝ってくれ、小日向」

「はい。戦闘は任せてください!」

そう元気よく答える未来。

「まずは寝床を探さなければな・・・」

「あ、そういえば・・・」

まずは、寝床から探すことにしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日――――

 

どこかからかっぱらったバイクをクロの機械的性質で無理矢理起動して走らせる翼。

神獣鏡を使って移動しない理由は、未来の精神力に関わるからであり、ついで長時間の運用は肉体的疲労も大きいため、とりあえず公共交通機関を利用することにしたのだ。

念のため、多少の変装をしているとはいえ、いつ見つかるか分かったものではない。

「これからどこに行くんですか?」

「私の実家だ」

「え」

翼の答えに、未来は思わず素っ頓狂な声を漏らす。

「あ、あの、何故・・・」

「風鳴の家であれば、何かわかるかもしれないと思ってな」

実をいえば、もう一つの方へと行きたいのだが、あそこはあそこでとんでもない『化け物』がいる。

下手に乗り込んで仕留められたら元も子もない。

そんなこんなで、途中でバイクを乗り捨てて、とっかえひっかえしつつ移動。

そして、翼の家に到着した。

「また来ちゃった・・・」

「裏口から入ろう。誰かに見られると面倒だ」

「でも、こんな所に本当に手掛かりなんてあるんでしょうか?」

「倉がある。そこに何かあるかもしれない」

そんな訳で裏口から侵入する二人と一匹。

だが、裏口から倉の前まで来たのは良かったのだが。

「鍵がかかってますね・・・」

「分かってはいたことだが・・・」

がっちりと扉に南京錠がかけられていた。

「鍵の場所は分かりますか?」

「確か、お父様が持っていた筈だ。だが今お父様は公務中の筈・・・ならばどこかに保管されている筈だが・・・」

「その場所は分かりますか?」

「すまない。いつもお父様が開けているのを傍から見る事しか・・・」

「キュル!」

 

ガチャン

 

「「え?」」

何やら、鍵の開く音が聞こえ、そちらに視線を向けてみれば、そこには尻尾で南京錠を開けたクロの姿があった。

 

 

 

 

 

 

倉の中は、やはりというか埃っぽかった。

「誰か来る前に調べてしまわなければ・・・」

「でも、やっぱりものが多いですね・・・あと翼さんが散らかさないか心配です」

「それはどういう意味だ小日向!?」

とりあえず何かのはずみで散らからないように未来とクロが注意しながら倉を漁っていく。

しかし、何か手掛かりになりそうなものはどこにもなかった。

「ありませんねぇ・・・」

「うむ・・・」

そこで翼は考える。

あの『風鳴翼』が纏った天羽々斬。あれには確か、数字が刻まれていた筈だ。

確か、『2030』と。

(年月に換算すれば、2030年といった所だろうが・・・果たして、十五年前に一体何が・・・)

と、そこまで思考しかけて、

(十五年前・・・天羽々斬・・・!?)

そして、驚愕する。

(ま、まさか・・・)

「あれ?これは・・・」

ふと、未来が何かを見つける。

「何かを見つけたのか?」

「はい・・・これ、八紘さんでしょうか?」

そう言って差し出してきたのは一枚の写真だった。

「これは・・・確かにお父様だ。だが、これは一体・・・」

そこに映っているのは、若かりし頃の父八紘と、見知らぬ女性―――。

美しく、翼と同じ髪色の女性だ。

気品があり、そしてまた優雅な立ち振る舞い。

しかしその手は女性にしては固そうだと、翼は思った。

「もしかしたら、お母様かもしれないな」

「翼さんの、お母さんですか?」

「ああ。顔はもう覚えていないが、優しい母だったことは今でも覚えている。そうか。これはきっと、父と母の見合いの時の写真なのかもしれない」

母が死んで、八紘は母の写真など、母に関する全てのものを捨ててしまった。

だから、もう母のことを思い出すことはないだろうと思っていたが。

「ちゃんと、残していたんだな」

それを思うと、自然と心が温かくなる。

「お父様・・・」

「誰だ」

「「ッ!?」」

唐突に聞こえた声に、二人は思わず身構えるようにして振り返る。

そこにいるのは、着物を着た翼の父八紘だった。

「お、お父様・・・!?」

「翼か・・・」

八紘は驚いたかのように目を見開いたが、やがてスッと目を細めるように見つめる。

「・・・」

「・・・」

二人の間で、沈黙が過る。

(もし、ここで、お父様にも『偽物』と断定されてしまったら・・・)

果たして、自分は正気でいられるのだろうか。

正直、自分の心を繋ぎとめてくれているのは父親の存在があってこそだと、対峙して改めて思う。

しばしの沈黙。

先に動いたのは―――八紘だった。

翼と未来に向かって、歩き始めたのだ。

「翼さん・・・」

「まだ動くな」

未来にそう言う翼。

クロは、未来の肩で態勢を低くして八紘を睨みつけている。

そして、八紘が翼の前に立つと、片手を翼に差し出す。

「それを渡しなさい」

そして、それだけ、言ってみせた。

「・・・!」

その言葉に、翼は目を見開く。

だが、やがて辛そうに俯き、その手の写真を八紘に渡す。

八紘は、写真を確認すると、それを自分の服の中に仕舞い、背を向ける。

その確認する時に、写真の裏にあったのは、『風鳴八紘 隼綾女 2028』という文字だった。

そして、八紘が黙って扉の外へ出た時。

「・・・お前の母」

唐突に、何かを言い出す。

「―――風鳴綾女について調べなさい」

「え・・・」

それだけを言い残し、八紘は、どこかへ行ってしまう。

取り残された、翼と未来は顔を見合わせる。

「私の、母・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

風鳴の屋敷を出て。

「翼さんのお母さんか・・・」

「正直、優しかったこと以外は、何も覚えていない。ただ、隼という名には聞き覚えがある」

「そうなんですか?」

「ああ。隼家は、昔は緒川家同様に風鳴の家に仕えていた家系と聞く。まさか、お母様がそこの家の出だったとは・・・」

バイクを押しながら、翼は感慨深そうにつぶやく。

「だった、ということは、何かあったんですか?」

「ああ・・・風鳴訃堂―――私のお爺様―――が、まだ若かりし頃、風鳴家当主となる以前に、何らかの理由で反旗を翻したということまでは聞いているのだが・・・」

「それ以上は分からないんですか?」

「ああ。もうとっくの昔に途絶えた血筋らしいからな。そうか、母はその血筋の人間だったのか。つまり私にも、その血が・・・」

そこまで言いかけて、翼はふと、憂いを含めた表情になる。

「・・・翼さん?」

未来が尋ねてみるも、翼は答えず―――

 

翼は、自分たちをつけている者がいると気付く。

 

「ッ!」

振り返れば、上手く目元を隠していてもこちらに視線を向けている者たちが多数―――

「小日向、走れ!」

「ッ!」

すぐさまバイクのエンジンをかける翼。しかし、どこからともなく飛んできた弾丸がバイクに突き刺さり、翼はすぐさま飛び退く。

そして、その直後にバイクは爆発する。

「そんな!」

「囲まれている!走れ小日向!」

走り出す二人。

(今のは、雪音の狙撃・・・!)

おそらく誘導の為の威嚇射撃。

さらには、緒川も動いているだろう。

彼が本気を出せば、自分たちに逃げの勝ち目はない。

それに、こちらも街中で騒ぎを起こす気はない。

そうして、追手を振り切るために―――おそらくは無駄だろうが―――走り続けて数分、翼たちは、人知れない廃工場に駆け込む。

そしてそこに―――彼女たちはいた。

「響・・・!」

人気のない廃工場―――そこに、響をはじめとし、マリアとクリス、『風鳴翼』を除いたシンフォギア装者全員が立っていた。

さらに背後に黒スーツの男たちがこちらに銃を向けて出口を塞ぐ。

「囲まれた・・・」

「よう、偽物」

「っ!」

出口の方から、三人の人影が入ってくる。

シンフォギアを纏った、マリア、クリス、そして、『風鳴翼』。

「貴様・・・」

「大人しく投降しろ」

翼のギアを身に纏う、翼に似た女は、その手の刀を翼に向ける。

「くっ・・・」

「翼さん、私が隙を作ります」

「小日向・・・!?」

未来が、翼にささやく。

「何を言って・・・」

「貴方がここで捕まったら、私が覚えてる意味がありません。それに、シンフォギアをもたない今の翼さんじゃ、足手纏いも良い所です」

それに翼は何も言えなくなる。

「安心してください。クロには最強のステルス機能がありますから。それで逃げおおせてみせます」

「小日向・・・」

心配する翼に未来は微笑み、背に隠し持ったクロのスタンバイスターターを押す。

 

『STANDBY!』

 

龍が現れる。

「ッ!させるかよ!」

クリスが、その手に拳銃を向ける。

「そんなもん、もう二度と着させてたまるか!」

そして放たれる銃弾は聖詠を歌おうとする未来を威嚇するつもりでその頬を掠めようとするが、掠り傷一つも許さないように、炎の龍が銃弾を消し飛ばす。

それにクリスが舌打ちする前に―――

 

「―――Rei shen shou jing rei zizzl(鏡に映る、光も闇も何もかも)―――」

 

聖詠が終わると同時に、未来のその身に、紫炎のギアが纏われる。

そしてその余波を威嚇と言わんばかりに巻き散らし、未来は叫ぶ。

「翼さん、行って!」

「く、すまない・・!」

走り出す翼。しかし、そこへ轟く二発の銃声。

「「ッ!?」」

途端に、翼どころか未来の動きすら固まる。

 

影縫い

 

「何・・・!?」

「これは、緒川さんの影縫い・・・!?」

翼が視線を向ける先に、彼はいた。

廃工場の影。そこに、闇に忍ぶ忍者はいた。

拳銃から放たれる弾丸による影の縫い付け。

それによってなされる時が止まったが如き、運動の停止。

それが、緒川流忍術『影縫い』

「くっ・・・」

所詮こちらは小娘二人、向こうは一大組織。

その道を行けば、包囲することは容易いということか。

「未来」

そんな中で、ギアを纏った響が、未来に話しかける。

「帰ろう。私たちの家に」

「響・・・」

今にも泣き出しそうな響の表情に、未来は心を締め付けられる。

だが、それでも―――譲れないものがある。

「ごめん、響・・・!」

突如として、未来のギアが発光する。

それに全員が一斉に警戒する。

「ッ!?未来!?」

「何をする気デスか!?」

そう切歌が叫んだ直後、未来のギアから二頭の炎の龍が飛び出す。

それが影を縫い付ける弾丸を喰らい取り、自由を取り戻した未来が円鏡を展開させるとたちまち無数の龍がその姿を現し飛び出す。

その龍に混じり、いくつもの光線が飛び交い、同時に展開された鏡に反射して、一斉に装者を襲う。

もちろん、黒スーツの男たちも同様にだが、わざと躱せるように操作している。

「翼さん、今のうちに!」

「くっ、分かった!」

すかさず緒川が銃弾を飛ばすがその弾丸は途中で竜の一匹に食べられてしまう。

「くっ」

すかさずもう一頭の龍が緒川に襲い掛かり、緒川はそれを躱す。

その混乱に乗じて、翼は駆け出す。

「待て!」

「あ、翼!?」

「行け!」

「ッ!?クリス!?」

クリスが拳銃を両手にマリアと翼に叫ぶ。

「先輩の偽物とは言えまだ何かあるはずだ。ここは二人の方がいい。あの子のことは任せろ」

「大丈夫なの?」

「あのバカがいりゃあどうにかなんだろ。さあ、早く」

閃光飛び交う戦地にて、クリスはマリアに言う。

その言葉に、マリアは不承不承とうなずく。

「分かった。ここは任せた!」

マリアが、すぐさま『風鳴翼』を追い、クリスは光線を撃ちまくる未来を見据える。

「おいたが過ぎるぞ!」

そして、その引き金を引いた。

 

 

 

 

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」

未来を置いて、無様に逃げる翼。

(これでは、まさしく私の方が卑しい偽物ではないか・・・!)

力もなく、対抗する手段もなく、頼りの未来に辛い事を押し付けて、何が『防人』か。

そう思うと、不思議と涙が零れる。

(こんな、こんなことが、現実であってたまるものか・・・!)

その次の瞬間、翼のすぐ後ろで、何かが炸裂する。

「うわぁぁああ!!?」

吹き飛ばされ、地面を転がり、倒れ伏す翼。

「ぐぅ・・・ぅぅ・・・」

「観念したらどうだ?偽物」

顔を見上げる先には、刃の切っ先と、こちらを嘲笑うかのように見下してくる『風鳴翼』。

「き・・・さま・・・!」

「どうだ?かつての仲間に命を狙われる気分は」

その言葉に、翼は地面の砂利ごと拳を握り締める。

「翼!」

「っ!マリアか」

マリアがくれば、『風鳴翼』はその嘲笑を引っ込め、すました表情でマリアの方を見ていた。

「さあ、もう観念しなさい。貴方に勝ち目はないわ」

「マリア・・・」

「気安く名前を呼ばないでくれるかしら?」

「っ・・・」

冷たく返され、翼は、その拳をさらに握り締め、俯く。

(こんな、こんなことが・・・!!)

遠くで轟音が響く。

まだ、未来が戦ってくれているのだろう。

だが、それは同時に、ここには救援にこれないという事を意味している。

「こいつは私と同じ顔をしている、おそらく情に訴える気なのだろう」

「さんざん人を殺しておいて何様のつもりよ」

仲間だった筈だ。志を同じにした者同士だった筈だ。

それなのに、何故、こうも蔑まれなければならない。

(認めない・・・こんなこと、認められない・・・!!)

翼は、拳を握り締め―――その姿勢のまま思いっきり前に飛び出した。

だが、『風鳴翼』とマリアは軽く飛び退くことで翼の最後の一矢を躱す。

「悪あがきを・・・ッ!?」

顔をしかめる『風鳴翼』だったが、すぐさまその顔色を変える。

その理由は、影。

二人の影に、それは小さな小枝が突き刺さっていた。

「影縫い!?」

「うわぁあああ!!」

「ッ!?」

影縫いが決まったことを確認するや否や、翼は立ち上がって一目散に駆け出す。

だが、今翼が行った影縫いは苦し紛れも良い所の不完全なもの。

故に、シンフォギアという規格外の兵装を纏う彼女たちにとっては、それはただ体に軽めの重りをつけられた程度であり、

「ハアッ!」

「せいっ!」

簡単に外すことが可能だ。

「逃がさない!」

そして、マリアが蛇腹剣をもって翼を追撃。そして、翼のすぐ横の捨てられたセメント粉に直撃し、翼はその余波で吹っ飛ぶ。

「あぁぁああ!?」

それと同時に、舞い上がったセメントが、吹き飛んだ翼を隠す。

その煙の中で、翼は咳き込みながら、立ち上がろうとする。

「せめて、天羽々斬さえあれば・・・!」

戦う力さえ、あれば。

翼は、ただそれだけを願う。

何もかもを失い、空っぽのこの手に、ただ一つ、この理不尽に打ち勝つ力が欲しい、と。

その時だった。

 

翼の目の前に、謎の人影が立っているのに気が付いたのは。

 

「ッ!?」

翼は、思わず身構える。

しかし、その直後に、翼の目の前に、何かが落ちる。

「ッ!?」

それに視線を向ければ、それは、黒いバングルだった。

幅広であり、その中央に、六角形の宝石が埋め込まれたそれに、翼は不思議と引き込まれる。

そんな翼に、目の前に立つ、ローブの人物は語り掛ける。

「―――夢を忘れずに戦いなさい」

声音からして、女。

その声に、翼は、どこか懐かしさを感じる。

「その声は・・・」

「戦わなければ、貴方は一生『偽物』のままよ」

その声に、翼はもう一度そのバングルに目を落とす。

黒い、宝石の埋め込まれたバングル。

そのバングルに、翼は、シンフォギアに近い何かを感じ取った。

しかし、気付いた時には、目の前に立っていた筈の女性は消えていて、そのバングルだけが残されていた。

それが何を意味するのかは分からない。

だが、何もしないよりはマシだ。

翼がそのバングルを手に取ると同時に、空気中を舞っていたセメントが吹き飛ぶ。

「くっ」

それに顔をしかめつつも、翼は立ち上がる。

見れば、『風鳴翼』が大剣を振り抜いており、おそらくその剣圧で煙を吹き飛ばしたのだろう。

シンフォギアを纏う二人に、翼は冷や汗を流しつつも、そのバングルを右手首につける。

そのバングルに、マリアと『風鳴翼』はこぞって目を丸くする。

しかし、翼はそんなことお構いなしに、そのバングルを起動する。

そのバングルの宝石―――それを押すだけだった。

 

『Start Up. Resonance-type Kaiten special equipment』

 

その次の瞬間―――翼の全身に激痛が走る。

「ぐ、あぁぁああぁあああ!?」

「「ッ!?」」

その様子に二人は驚く。

翼の右手首のバングルが藍色に輝く、そこから、翼の全身を塗り潰すかの如き勢いで『黒』が翼の体に纏わりつく。

「な、んだ・・・これはァ・・・!?」

翼の体に激痛が走る。それに翼は歯を食いしばって耐え、その全身にその黒い何かに纏われていく―――

 

 

 

その光景は、二課本部でも――――

「対象から、エネルギー反応を検出!」

「これは・・・限りなくアウフヴァッヘンに近い波形パターンです!ですが、これは・・・!?」

その翼の変化をモニターしている二課本部にて、その光景を見ていた弦十郎は、呟く。

「・・・RN式回天特機装束『改』・・・だとっ・・・!?」

その表情を驚愕に染めながら、弦十郎は、翼が変わっていく姿を見届ける。

 

 

 

その全身が、黒色に塗り固められた瞬間、今度はバングルの宝石から、青いラインが翼の体の表面から少し離れた所で浮くように広がっていく。

そのラインが、翼の全身に伸びた時―――

「くっ・・・ぅ・・ぁ・・・ァァアア!!」

翼は、叫んだ。

 

「変身ッ!!」

 

その身に纏われる、漆黒の中に薄く光る青。

その腰から伸びるマントは風になびき、その腰には青鞘の刀――――

「それは・・・なんだ・・・」

『風鳴翼』が、顔色を変えて尋ねてくる。

それに、翼は、決して余裕じゃない表情で答える。

「・・・私が抗う為の力だ・・・!」

 

 

―――その名は『RN式回天特機装束改『天羽々斬』』。

 

 

シンフォギアの―――前段階の力(プロトタイプ)である。

 

 

 

 

 

廃工場の壁が吹き飛び、そこから調と切歌が飛び出す。

靴底をすり減らしながら、調と切歌は煙に逆巻く相手を見据える。

その煙から飛び出すのは、紫色の光線。

その光線を、調と切歌は左右に分かれて躱す。しかし二人の背後にあった鏡によって光線は反射、二人を追いかけるように突き進む。

「くっ、なんてしつこい・・・!」

「アタシたちをなんとしてでもここで食い止める気デスか!?」

四方八方、あらゆる方向から光線が飛んでくる。

しかし、避けられないものではなく、二人は巧みにその光線を躱し続けていた。

防御はしない。

その一方、廃工場の中では―――

クリスの銃弾が、未来の帯によって叩き落される。

すかさず反撃の閃光が迸るも、それをクリスはリフレクターで弾き飛ばす。聖遺物殺しの異名を持つとはいえ、クリスのリフレクターであるならば、削られはするも防げないことはない。

その攻撃が弾かれ、クリスに未来の視線が行っている隙に、響が背後から強襲する。

「未来―――ッ!!」

響が叫ぶ。

その拳を、握り締めて、親友にその拳を向けることを嘆きながら、その拳を突き出そうとする。

しかし、その前に未来の帯が響の首に巻き付き押し返し、そのまま投げ飛ばす。

空中で態勢を立て直し、着地してみせる響。

「大丈夫か!?」

「どうにか・・・!」

クリスの叫びにそう短く答え、響は未来の方を見る。

未来は、見るからに消耗していた。

それもそうだ。装者四人を相手に、ただの一人で拮抗させてみせているのはもはや奇跡に等しい。

さらに、他にいるS.O.N.G.の実働部隊の状況すらも把握して牽制している所から見て、相当な消耗を強いられているのは間違いない。

そして、そんなことを普通の高校生に出来る訳がない。それを可能にしているのは―――

「ダイレクトフィードバックシステムか・・・」

「未来・・・」

それを鑑みれば、未来が洗脳されているのは間違いない。

さらに装者としての素質が低い未来がシンフォギアを纏っているということは、大幅な負荷が体にかかっている筈。

であるならば、早くあのシンフォギアを解除させなければ―――

『響ちゃん』

そこで友里から連絡が入る。

『さっきからずっと、未来ちゃんのバイタルを見てるんだけど、適合係数が低い筈の未来ちゃんにしては、あまりにも適合係数が安定しているの』

「え?」

「そりゃ一体どういう意味だよ?」

『分からない。ただ言えるのは、今の未来ちゃんはシンフォギアを長時間扱えるということよ。LiNKERを使っているのかは分からないけど、とにかく今の未来ちゃんの適合係数は安定してるってことは頭に入れておいて』

響は未来を見る。

確かに、消耗はしていても、何かしら反動が入っている様子はない。

「あのドラゴンみてえなおもちゃにからくりでもあんのか?」

「分からない・・・だけど、私は未来を絶対に取り戻す」

そう言って、響は拳を解く。

そして、未来に語り掛ける。

「帰ろう。未来」

その問いかけに、未来は少し顔をしかめ、答える。

「帰れないよ。今の響の所には」

「どうして?」

「今の響たちは、あの翼さんを偽物だと思ってる。そんな響たちの元に、今は帰れない」

そう、未来は響に向かって真っすぐに言う。

「だから、私は今、響たちを倒して、翼さんを守る!」

そして返事待たずに響たちに鉄扇で殴りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

大剣を叩きつけられ、吹き飛ぶ翼。

「ぐあぁあ!?」

そこに投棄させられていた鉄缶の山に落ち、翼は、痛みに悶える。

「ぐ・・・く・・・やはりシンフォギアとは、勝手が違うか・・・・それに、パワーも・・・」

地面に手を突きながら、立ち上がろうとする翼。

そんな翼に、マリアが短剣をもって斬りかかる。

「ッ!」

その一撃を防ぎ、そのパワーバランスをうまく利用して攻撃を逸らし、そしてその腹に斬撃を叩き込む。

「くぅっ!?」

「許せ・・・!」

そして、返す刀でマリアを斬り飛ばそうとする―――だがその寸前で三角形のバリアが翼の剣を阻み、すかさずマリアが飛び退くと同時に、『風鳴翼』の斬撃が翼を襲う。

「ッ!?」

斬撃が頬を掠め、浅く斬る。

すかさず蹴りが翼の腹に刺さり、思わず後ろに数歩下がった所で、無数の剣が頭上から降り注いだ。

 

千ノ落涙

 

「ぐあぁああぁぁああ!?」

そのまま吹き飛ばされ、壁を突き破って外に追い出される。

その外で、翼は倒れ伏す。

「ぐ・・・ぁ・・・」

やはり性能差が大きい。

この装備は、確かに対ノイズ用を想定して作られたものだろうが、おそらくはシンフォギアの前段階のもの。つまり、最新型であるシンフォギアと比較した場合、その性能差には大きな隔たりがあるのだ。

旧式が新型に勝てないのと同じである。

翼が突き破った穴から、『風鳴翼』とマリアが現れる。

そんな二人に、翼はダメージの多い体に鞭を打って立ち上がる。

その次の瞬間、翼の横、廃工場の壁が何かで爆ぜて煙が舞い上がる。

その煙と共に、吹き飛ぶように現れたのは、なんと未来。

「小日向・・・ッ!?」

一瞬、気を取られた隙に、『風鳴翼』の刃が振り下ろされる。

「ぐぅっ!?」

「他人よりも自分の心配をしたらどうだ・・・!?」

圧倒的パワー不足、それによってどんどん押し込まれていく。

その一方で、未来は――――

「ハア・・・はあ・・・はあ・・・」

想像以上の消耗で、視界が霞んで、体もまともに動かなくなっていた。

今は神獣鏡の補助によってどうにかなっているが、これ以上はもたない。

「未来、もうやめよう」

響が未来の前に立ってそう呼びかける。

「どうしてこんなことをするの?何が未来にそこまでさせるの!?」

そう必死に語り掛けてくる響に、未来はいつも通りの響であることに少し安心して、

「譲れないものが、あるから・・・だから、いくら響が相手でも、負けるわけにはいかないの!」

そう叫び、未来は鉄扇を収納する。

そして、右手を掲げ、どこからともなく現れたクローズドラゴン・ブレイズの炎をその炎を右腕に纏わせ、

「ハァァァアアァアア!!!」

そして、一気に解き放つ。

 

殲滅

 

『グルアァァアァアァアァアアアア!!』

全てを消し飛ばす、竜の咆哮が、響たちを襲う。

「響さん!」

唖然とする響を横から調が掻っ攫って龍の一撃を逃れ、

「あくまで戦うってんなら容赦はしねえ!」

クリスの小型ミサイル群が未来に襲い掛かる。

 

MEGA DETH PARTY

 

それが、一斉に未来の足元に炸裂する。

「きゃぁぁああぁあああ!?」

吹き飛び、宙を舞う未来。

そのまま地面に落ちる。

「く・・・ぅう・・・」

クリスのミサイルを喰らってもなお立ち上がろうとする未来。

「未来!」

響が、そんな未来に叫ぶ。

「小日向ァ!」

その直後に翼が叫ぶ。

そしてすかさず、目の前にいる『風鳴翼』を睨みつけ。

「どけぇぇええ!!」

「ッ!?」

(急に力が・・・)

突如として翼の纏う装束の青いラインが発光し、翼の剣が『風鳴翼』の剣を押し返し、そして、弾き飛ばす。

そして次の瞬間、翼がシンフォギアでもありえないような速さでその場を駆け抜け、一秒以下にして未来の元へ向かう。

「小日向、大丈夫か!?」

「翼さん・・・」

未来に呼びかける翼。

弱々しく答える未来に、翼は触れようとするが、直前に背中に強い衝撃を受けて吹き飛ばされる。

「ぐあぁあああ!?」

「翼さん!?」

そのまま吹き飛び、地面に倒れ伏す翼。

「ぐぁ・・・ぁ・・・・」

その直後に、翼に纏われていた黒い装束が消滅、元の私服に戻る。

「させねえよ」

それは容赦ないクリスの一発。

その銃弾が翼を捉え、吹き飛ばしたのだ。

「う・・・ぐあ・・・」

痛みで立ち上がることが出来ない翼。

「う・・・くぁ・・・」

未来はどうにかその翼に手を伸ばす。しかしそれでもダメージは大きい。

「未来・・・」

「くそっ、何があの子をそこまで・・・」

その様子に響は狼狽え、クリスは苦い顔をする。

「こ・・・ひなた・・・」

「翼さん・・・くっ」

未来は、激痛の走る体に鞭を打ち、立ち上がる。

「未来さん・・・!」

「まだ戦う気デスか!?」

息を上げ、じっと彼女たちを睨みつける未来。

その様子に、響は、思わず目を逸らし、しかしやがて、再び親友の方を向いて、その拳を握り締めた所で――――

 

『風鳴翼』が前に出る。

 

「翼さん・・・」

「・・・ここは私が引き受ける」

『風鳴翼』が、未来と対峙する。

「小日向、お前がその『偽物』に加担する理由は分からない・・・だが、それでも戦うというのなら、この剣をお前に向けなければならない」

そう、『風鳴翼』は刃を構えて未来に告げる。

その問いかけに、未来はすっと鉄扇を向ける。

答える余裕もない、せめてもの返事だった。

「・・・そうか」

その答えに『風鳴翼』は目を閉じ、そしてカッと見開いたかと思えば、その手の刀を大剣へと変形させ、振りかざす。

(あれは青ノ一閃・・・!?)

「だめだ・・・小日向・・・!」

僅かに青い燐光を巻き散らすそれを見て、翼は思わず立ち上がろうとするが、激痛で立ち上がることが出来ない。

「ハァァアアァアア!!」

振り下ろされる斬撃。

その一撃が、今、未来に振り下ろされる―――

 

 

 

しかし、未来にその一撃が直撃することはなかった。

 

 

 

突如として現れた、巨大な腕―――それが、『風鳴翼』の剣を受け止めていた。

「な・・・!?」

それは、見るも巨大なロボット。人型で金属質、その頭部には、翼が見たことある、巨大な懐中時計が付けられており、その胴体には、でかでかと『ロボ』と書かれていた。

「ええ!?」

「なにあれ・・・!?」

「ロボットデース!?」

「なんであんなでかでかと『ロボ』って書いてあんだ!?」

「そんなのあり・・・!?」

突如として現れた謎のロボ。

そのロボは、『風鳴翼』の一撃を弾くと、その胴体を開く。

そこから現れたのは――――一人の仮面の戦士だった。

その戦士は、全身を黒と銀の装甲に身を包み、その顔面には―――

「・・・か・め・ん・・・」

「らい・・・だー?」

「ってか、時計だよなあれ・・・」

額に小さく『カメン』そしてその下にピン(マゼンタだ)・・・・マゼンタ色で『ライダー』と書かれていた。しかもその仮面はまさしく時計を模しており、二方向に延びるアンテナはまさしく時針だった。

そしてその腰には、謎のベルトと、見覚えのある懐中時計―――

「・・・アナザーライダー・・・じゃ、ないよね・・・?」

そしてその男の声は、意外なほど若い男のものであり、少し戸惑った様子を見せるも、

「まあいっか」

と斬り捨ててその手に剣をもって『風鳴翼』に斬りかかる。

「ッ!?」

その斬撃に、翼は目を見開きながら対応する。

「翼さん!?」

「くっ、やっぱ敵か!」

その仮面男の剣戟は凄まじく、『風鳴翼』が大きく下がり続ける。

「翼!」

すかさずマリアがフォローに入る。

放たれる蛇腹剣が、仮面男に襲い掛かる。しかし、仮面男はその無軌道な蛇腹剣の連撃を巧に躱し―――

 

『ジュウ!』

 

刃の部分を収納させたかと思いきや、引き金を引いて高周波のエネルギー弾を数発放つ。

「っ!?」

その反撃にマリアは戸惑いつつも防ぎ切る。

その仮面男の背後から、再び『風鳴翼』が斬りかかるもすかさず仮面男はその手の銃を剣へと切り替えて、

 

『ケン!』

 

すかさず切り返す。

「翼さんとマリアが押されてる・・・!?」

「助けるのデス!」

すぐさま他の装者も応援に駆け付けようとするが、そんな彼女たちとの間に割り込むように、

 

『ターイムマッジーン!』

 

どしん、ともう一体のロボットが現れる。しかも今度は赤い上に『ロボ』の部分が何故か『ろぼ』とひらがなで書かれていた。

「えぇぇえ!?」

「もう一体、だとぉ!?」

突然の登場に驚く装者たち。

 

 

そして、そのロボットの中では―――

「こうも好き勝手にされてはたまらんからな」

一人の男が、画面に映る少女たちを見据え、

「悪く思うな」

そのレバーを思いっきり振り抜いた。

 

 

向けられるロボットの腕、その腕に取り付けられた機関砲が装者に襲い掛かる。

「くっそ!なんなんだよ一体!?」

「これじゃあマリアたちの所に行けないデス!」

放たれる機関砲の嵐。

それを四人は巧みに躱していく。

「調子に乗るなよ!」

すかさずクリスがガトリングガンでロボットをハチの巣にしようと弾丸をばら撒くが、まるで効いている様子がなく、むしろ逆に相手の機関砲がこちらに炸裂していた。

このままでは逆にやられる。

「だとしても!」

しかし、腰のブースターを点火して飛び込む響は、そのジェットナックルをロボットに思いっきり叩きつける。

それを、ロボットはどうにか腕で防ぎ、しかし大きく吹っ飛ばされ後退させられる。

「くっ!」

想像以上の固さに、響は歯噛みする。

 

 

その様子は、翼の目にも映っていた。

「何が起こっているんだ・・・」

「翼さん!」

倒れる翼に、未来が駆け寄る。

「大丈夫ですか?」

「ああ・・・」

「動かないでください」

「「ッ!?」」

声が聞こえ、そちらを振り向けた、そこにはこちらに向かって銃を向ける緒川の姿があった。

「緒川さん・・・」

「貴方がたの身柄は拘束させていただきます」

「緒川さん・・・!!」

その冷たい視線に、翼は泣きそうになる。

だが、緒川は何かの気配を感じ取ると、急に飛び退き、そこへ謎の布が飛んでくる。

その布から、また一人、男が現れる。

「何者・・・!?」

「悪いが、今彼女たちを渡すわけにはいかない」

マフラーとミリタリーグリーンのローブを纏った男だ。

 

 

 

そして、マリアと『風鳴翼』が激しく打ち合う仮面男は、二人の連携を巧みに躱し凌いでいた。

「何者なんだ!」

マリアが叫び、仮面男を弾き飛ばす。

その問いかけに、男は答える。

「俺は『仮面ライダージオウ』!最高最善の魔王だ!」

「ま、おう・・・!?」

その答えに思わず戸惑うマリア。

「っと、そんな長話してる暇はないんだよね・・・()()()()!」

仮面男――――ジオウがその名を呼ぶ。

 

 

すると、その場の時間が、全て停止する―――

 

 

「・・・え」

その光景を目の当たりにして、翼と未来は目を疑う。

その場にいる者たち全員―――いや、巨大ロボットとジオウなるもの、そしてマフラーの男を除いて、ほぼ全ての者たちの動きが完全に止まっていた。

飛び上がっていた切歌に関しては完全に空中で静止している。

「これは、一体・・・」

未来に肩をかしてもらい、立ち上がった翼は、今起きている光景に戸惑っていた。

「まあ驚くのも無理はない」

そんな二人に、黒マフラーの男が話しかけてくる。

「安心したまえ、私たちは君たちの味方だ」

そう言うと、男はある方向を見る。

そちらを見れば、ジオウと名乗った男がこちらに歩いてきており、やがてその姿が淡い光に包まれると、人間の少年に変わる。

年は、高校生ぐらいだろうか。

下手をすれば自分より年下かもしれないほど若い男だった。

「誰なんだ。お前は・・・」

その翼の問いかけに、少年は答える。

「俺は『常盤ソウゴ』。あんたが天羽々斬装者、風鳴翼だよね?」

なぜ、こちらの名前を知っているのか―――否、それ以前に・・・

「貴方も、仮面ライダーなんですか?」

未来が、そう尋ねてくる。

「そうだ」

その未来の問いかけに応えたのは、もう一つのロボットから降りてきた男だった。

「ただし、お前たちの知る仮面ライダーとは少し違うがな」

「魔王とも名乗っていた・・・それは一体・・・」

「ならば私が説明しよう」

そこでマフラーの男が割り込んでくる。

「この方こそ、全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え過去と未来をしろしめす時の王者―――その名も『仮面ライダージオウ』、常盤ソウゴである」

「「・・・え?」」

そう言われて、さらに混乱するだけの二人。

「まあ普通は信じられないでしょうね」

そこへ白い衣装に身を包んだ少女も現れる。

「だが事実だ」

そして男がそれを肯定・・・もう訳が分からないことだらけである。

「・・・おほん、まあ何はともあれ、アナザーライダー・・・いや、アナザーシンフォギアか?とにかくそれが誕生している以上、タイムジャッカーが関係しているのは間違いないね」

「タイムジャッカー?」

聞き覚えの無いその言葉に首を傾げる。

「過去に遡って、時間を書き換える連中よ」

「あんたを探してたんだ。こんな歴史になったのは、過去のどこかでタイムジャッカーが介入した筈だ」

「それが、戦兎たちが消えた理由・・・」

つまり、過去の何かが変わり、戦兎たちが存在していたことそのものが消えた、ということなのだろうか。

「・・・心当たりないかな?」

ソウゴが、そう尋ねてくる。

「心当たり、と言われても・・・」

「すまない、特には・・・」

「うーん・・・じゃあ、あいつがアナザーライダー・・・いや、アナザーシンフォギア?シンフォギアの方でいっか。で、それに変身した時、何か数字みたいなもの見えなかった?」

「数字・・・あ!」

それを聞いて、翼は思い出す。

「2030・・・その時に、何かあったのかもしれない」

「2030年か・・・」

「タイムジャッカーが介入したのはその時間に違いない」

黒マフラーの男がそう呟く。

「正しい歴史に戻さないと・・・」

「だが、そんなのどうやって・・・」

「出来るよ」

ソウゴが答える。

「俺たちの力と、あんたの記憶があれば・・・信じてくれ。他に選択肢はないんだ」

そして、そうまっすぐに、ソウゴは頼む。

その眼差しに、翼は――――

「・・・・分かった」

その眼差しを信じて、頷いた。

「よし、それじゃあ行こう」

「ああ、その前に・・・他の者たちの名前を聞いていない」

そう言われて、あっとなる一同。

「それもそうだね。私はウォズ、我が魔王の臣下だ」

「明光院ゲイツだ」

「ツクヨミよ」

「あ、小日向未来です」

「よーっし、自己紹介が終わったところで、一旦ここを離れようか」

 

 

 

 

そして時は動き出す―――

 

 

「ッ!?」

「で、デェェエス!?」

「ああ、切ちゃーん!?」

突然、目の前からあの巨大ロボットどころか仮面男、さらには未来や翼の偽物まで消えて、動揺する一同。

「一体、何が・・・」

「分からない・・・」

マリアの疑問に『風鳴翼』はそう答える。

「だが、奴らを取り逃がしたことは確かなようだ」

そう忌々し気に呟き、翼は刀を納めた。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「本当に、過去の世界だ・・・」

ジオウ―――常盤ソウゴたちに連れられ、過去へと飛んだ翼たち。

「・・・例え、そうだとしても・・・」

過去の世界で出現したノイズ。

「その装備・・・どこで手に入れた?」

その最中で現れたのは―――


次回『望まぬリミューズ』


「・・・風鳴を、潰す為よ」




「たっだ~いま~」
「ぬおっ!?マリア?今日はえらく上機嫌だな・・・」
「ふっふふ~、まだ油断はできないけど、これで完全勝利に一歩近づいたわ~」
「そ、そうか、マリアが嬉しそうなら、いいんだ・・・うん」

翼はもはや、何も聞かなかった。


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望まぬリズーム

ウォ「この本によれば、世界的ミュージックアーティストの風鳴翼は、仮面ライダービルドこと桐生戦兎と出会い、シンフォギア『天羽々斬』装者として、あらゆる異端技術と戦う運命にあった。そんな中で過去が変わり、仮面ライダーの存在しない世界へと変えられた世界で、彼女は小日向未来と共にかつての仲間であったS.O.N.G.と対立してしまうことになってしまう。その最中で現れたのは我らが魔王!仮面ライダージオウこと、常盤ソウゴである!」
翼「おいっ!?なに勝手にあらすじ紹介を乗っ取っている!?」
ソ「いいじゃんべつに。この小説でもウォズの口上を聞きたがってた人いるだろうし」
ク「だからってここはあくまで『ビルド』の世界なのであってお前らの世界じゃねえんだよ!!」
ゲ「本物を偽物呼ばわりしておいてよく言えたな」
ク「グハァ!?」
翼「雪音ぇー!!!」
未「本編の現状に耐えられずに喀血しちゃった・・・」
クロ「キュルル~」
未「ん?クロ、どうしたの・・・」
装者一同「ピクピク・・・」死屍累々
未「・・・・」
翼「・・・・」
ツク「・・・と、いうわけで、シンフォギア・ビルド オリジン・ザ・天羽々斬第三話をどうぞ!」
切「なりた、たいしん・・・でないの、デス・・・」
響「出なさすぎるよ・・・ウマ娘・・・」
翼「安らかに眠れ・・・」


―――翼たちが消えて、二十四時間。

 

 

「痕跡がどこにも見当たらない?」

調査班の報告から、その様に呟くマリア。

「ああ。現場の監視カメラから、奴らはあのロボットに乗ってどこかに飛んでいったようだが、問題はその先、どこかへワープしたのだろうが、奴らが一体どこにいるのか、全く分からないのだ」

「上手く追跡を逃れてるってことかぁ?」

「それにしてはあまりにも巧妙過ぎる」

クリスの呟きに弦十郎はそう答え、モニターを見る。

「現場周辺、日本全国、そして、世界中の監視カメラをハッキングしても、奴らがどこに行ったのか分からなかった。ともすれば、森の中かと思い、未来君の神獣鏡の痕跡を辿ってみたのだが・・・」

「見つかる筈がない・・・」

「その通りだ」

つまりはお手上げ状態である。

「しかし、まさかこちらの動きを完全に止めちまうとはな」

もう一つ、モニターに映しだされた映像には、翼の偽物、未来、そして謎の仮面男が変身を解除したりロボットから人が降りたりしているのが映っていた。

それ以外の人間は全て、止まっていた。

完全なる停止である。

「まるで時間そのものを止められたかのような光景ね・・・」

「こんな現象、ボクでも見たことがありません」

エルフナインが、額に冷や汗を滲ませながらそう言う。

「全ての物理法則をその場で停滞させ、対象の時間を止める・・・意識すらも止めてしまうその能力は、まさに、時を止めるに相応しい力でしょう」

「そうか・・・」

「司令」

その最中で、ふと『風鳴翼』が弦十郎に尋ねる。

「私の偽物が纏っていたあの装束は一体なんなのですか?」

「そうね。見た所、シンフォギアと似通った何かを感じ取ったのだけれど」

「ふむ、お前たちには話しておいた方がいいだろう」

するとモニターに新たな画面が映し出される。

それは、翼が纏っていた戦装束に関するデータだ。

「RN式回天特機装束改・・・シンフォギアの前段階構想のものにして、かつて二課にて運用されていた、対ノイズ戦用の対抗手段だ」

「そんなものが・・・!」

「待って。かつて二課で運用されていたってことは、これは本来、二課のものということよね?」

「その通りだ」

マリアの質問に、弦十郎は頷く。

「シンフォギアが完成するまでの時間稼ぎとして、構想、作成された、かつて了子君が作った力だ。天羽々斬を核として、人の精神力によって起動するそれは、シンフォギアほどではないにしろ素質がある者であれば誰でも使える代物だ。そして、それを当時使っていたのは―――亡くなった翼の母親の『風鳴綾女』だ」

「お母様が・・・」

その名前に『風鳴翼』は小さく呟く。

「翼のママさんが使っていた力・・・それを何故、奴がもっているのかしら・・・」

「・・・・」

少し考え込む翼。

(奴にあの力を渡したのは一体誰だ・・・?)

まるで心当たりがない。

「何はともかく、問題は奴らがどこに行ったかだろ」

そこでクリスが口を挟み、本来の議題に路線をもどす。

「うむ、それについては未だ調査中・・・全力をもって探している」

「んな眠てえこと言ってられんのかよ。今もあの子はあいつらに利用されてんだぞ」

とげとげしい言葉でクリスは捲し立てる。

「分かっている。だが、奴らの足取りがつかめなければ、どうすることもできない。今はただ、待つことしか・・・」

その時だった。

「ん?これは・・・司令!」

「どうした?」

藤尭が声を挙げる。

「何者からか、座標情報が送られてきました!場所は・・・カ・ディンギル跡地です!」

「カ・ディンギルだとぉ!?」

それに一同は驚く。

「なんでそんな所に・・・」

「添付されていたメッセージ、開きます」

そしてモニターにとあるメッセージが映し出される。

 

『奴らの目的は時間の改変。時を超えて過去へと飛んだ。詳しい事が知りたくば指定された場所に来られたし』

 

罠、とも一概に捨てられない文章だが、気になるのは前者。

「時間の改変・・・?」

「過去に飛ぶって、どういう・・・」

訳が分からない、とでもいうような言葉に、一同は一概に首を傾げる。

罠、に見える。だが、今の彼らには少しでも情報が欲しかった。

「どちらにしろ、俺たちには選択肢はない」

弦十郎は、そのメッセージを受け入れた――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――2030年。

 

 

全てのものが、翼にとって何もかもが懐かしい東京の街の風景の中で、翼、ソウゴ、未来、ゲイツ、ツクヨミ、ウォズはその街道を歩いていた。

「本当に、過去の世界だ・・・」

かつての風景に懐かしさを感じ、思わず微笑んでしまう翼。

「すごい・・・まさかタイムマシンが本当に存在していたなんて」

「でしょ?俺も初めての時は驚いたな」

「んなこと言っている場合か。今はいち早く時間改変の原因を見つけなければならんだろうが」

「それもそうだね。さて翼君、何か心当たりはないかね?」

「そう言われても・・・」

タイムマジーンでまとめて一緒にやってきたわけだが、問題の時間改変の原因が全くと言って分からないのだ。

だが、翼がそう呟いた直後に、けたたましいサイレンが鳴り響く。

「え?なに?何!?」

「ノイズ警報だ!いくぞ!」

「待ちたまえ」

すぐさま走ろうとする翼を、ウォズが引き止める。

「ここまでは今までの歴史と同じ通りだろう。さらに、ここは過去の世界、下手に干渉すれば別の方向への時間改変も起きてしまうのもおかしくはない。さらに言えば、今の時代にもS.O.N.G.・・・・いや、特異災害対策起動部は存在している筈だ。ここで目立てばしばらく狙われることになる」

「ッ・・・!」

それを言われて、翼は思わず歯を食いしばる。

確かに、翼はこの時代の人間ではない。さらに言えば未来の人間だ。

このようなことに下手に関われば、おそらくは―――

「きゃぁああ!!」

だが、そこで悲鳴が響く。

見れば、大量のノイズが人々に襲い掛かっていた。

ノイズは触れればたちまちに人を自分もろとも炭へと変える自滅型対人間兵器。

さらには位相差障壁の存在で武器すらもまともに通用しない。

出来る事と言えば、なるべく人が死なないように、シェルターに人々を逃がすこと程度―――。

その光景を、目の当たりにして、翼は――――

「・・・例え、そうだとしても・・・」

右手首のバングルに手を添えて、

「私には、見捨てる事は出来ない・・・!」

そのバングルの宝石を押し、翼はRN式改天羽々斬を起動する。

 

『Start Up. Resonance-type Kaiten special equipment』

 

激痛が翼の全身に走る。

「ぐ、ぅぁぁぁあ!?」

それに必死に耐え、翼は、体を覆う黒と這うラインを身に纏いながら叫ぶ。

 

「変身ッ!」

 

漆黒と青の戦装束を身に纏い、翼は刀を引き抜き、ノイズに向かって走り出す。

そして、一人の女性に覆いかぶさろうとしていたノイズを一体、瞬く間に斬り捨てる。

「は、え・・・」

「逃げろ!」

何が起きたのか理解していない女性の腕をもって立ち上がらせ、逃げるように促す翼。

そして、続けて他のノイズを目指して走り出す。

「翼さん・・・!」

「ツクヨミ君、君は未来君を連れて、歴史改変のヒントを探してきてくれないかい?ここは私たちでやろう」

「分かったわ・・・未来ちゃん、行きましょう」

「で、でも・・・」

「ここは皆に任せて」

「・・・分かりました」

ツクヨミが未来を連れてその場を離脱する。

「行くよ、ゲイツ、ウォズ」

「おう」

「ああ」

ソウゴとゲイツは、白と黒を基調としたドライバー『ジクウドライバー』を、ウォズは緑を基調としたベルト『ビヨンドライバー』を腰に装着する。

そして、それぞれの手に懐中時計型のアイテム―――『ライドウォッチ』と『ミライドウォッチ』を持ち、その時計部分を回転させて、上のボタンを押す。

 

ZI-O(ジオウ)!』

 

GEIZ(ゲイツ)!』

 

WOZ(ウォズ)!』

 

そのライドウォッチを、ジクウドライバーの『D'9スロット』、ビヨンドライバーの『マッピングスロット』に装填する。

 

『ACTION!』

 

そして、ジクウドライバーの真上にあるライドオンリューザーを押してロックを解除し、三人はそれぞれのポーズをとると――――

 

「「「変身ッ!!」」」

 

ジクウドライバーのジクウサーキュラーを回転させ、ライドウォッチのデータを展開・ロード。

ビヨンドライバーのクランクインハンドルを前方に倒すことで、ミライドウォッチのデータを送信する。

展開されたライドウォッチのデータがソウゴとゲイツを包み込み、また、ミライドウォッチのデータがビヨンドライバーのミライドスコープに投影され、一気にその情報がその身に纏われる。

 

それは、時空を超え、過去と未来をしろしめす時の王者と、苦しめる人々を救い、時間を超越する救世主と、王者の僕でありその伝説を未来永劫に伝える預言者の、もう一つの姿―――

 

PROJECTION(トウエイ)ッ!!』

 

RIDER(ライダー) TIME(ターイム)!!』

 

KAMEN(仮面) RIDER(ライダー)!!ZI-O(ジオウ)…!!』

 

KAMEN(仮面) RIDER(ライダー) GEIZ(ゲイツ)ッ!!』

 

FUTURE(フューチャー) TIME(タイム)ッ!』

 

GREAT(スゴイ)PERIOD(ジダイ)FUTURE(ミライ)KAMEN RIDER(仮面ライダー) WOZ(ウォズ)WOZ(ウォズ)!!』

 

 

それこそが、魔王の始まりの姿―――いずれは魔王オーマジオウへと至る最初の姿にして王者―――仮面ライダージオウ。

 

それは、救世主が誕生した姿―――オーマジオウを打ち倒し、未来を守る、救世主への最初の一歩―――仮面ライダーゲイツ。

 

 

そして、預言と共にその覇道を語り継ぐ者―――魔王の家臣にしてその行く末を見届け、世に喧伝せしめる預言者―――仮面ライダーウォズ。

 

 

 

今、時空を駆け抜けた、時間のライダーたちがここに参上した。

 

 

「行くよ!」

「おう!」

「ああ!」

 

変身を完了し、三人はノイズを斬り捨てていく翼に加勢する。

別段、拳で殴れば問題なくノイズを消滅させられるし、さらに翼の斬撃も通用していない訳じゃない。

ただ――――

「くっ、威力が足りない・・・!」

いつかAnti LiNKERによって適合係数を下げられたときと同じようなやりづらさを感じる。

(常磐たちはあんなに戦えているのに・・・!)

ジオウ、ゲイツ、ウォズの三人は、襲い掛かるノイズを諸ともせずに叩き潰している。

ただ、位相差障壁など気になる事は色々あるが、とにもかくにも今は、目の前のノイズを殲滅しなければ―――

「しかし、この世界ってこういう奴がうじゃうじゃいるのか!?」

「ああ。この謎の生命体『ノイズ』は、触れるだけで自らもろとも人を炭に変えてしまうらしい」

「そんなもんが大量にあるとは、全くタイムジャッカーは何を考えているんだ」

ノイズを殴り飛ばしながら、ゲイツとウォズは考察する。

だが、その時、彼らが戦っている場所から少し離れた場所で、一人の女性が現れる。

その女性がノイズ、そして仮面ライダーと翼を見据えると、その衣服―――翼の来ているものと若干ラインの配置が違うが全く同じのスーツのラインが青く光り出し、次の瞬間、その場から消えたと錯覚出来るほどの速さで駆け抜け、瞬く間にノイズを殲滅、そして、仮面ライダーたちと翼をまとめて切り伏せる。

 

疾風ノ隼

 

「「「「ぐあぁあああぁああ!?」」」」

突然の襲撃に倒れ伏す一同。

「ぐ・・・一体、何が・・・」

炭が舞い上がる中、倒れ伏した翼が見たものとは、自分と似た格好をした一人の女性。

「え・・・」

そして、振り返ったその女性の顔を見て、翼は絶句する。

 

それは、写真で見た、父八紘と共に写っていた、女性――――

 

 

隼―――否、風鳴綾女だった。

 

 

立ち上がって、翼は信じられないとでもいう様に、母『風鳴綾女』を見た。

しかし、綾女の目は翼を冷たく睨みつけており、

「その装備・・・どこで手に入れた?」

「え?」

「いや、どちらにしろ、ここで捉えて尋問すればいいだけの話!」

問答無用で綾女は翼に斬りかかってくる。

「うあ!?」

刀と刀が激突し、火花を散らす。

(な、なんて重い・・・!?)

自分のものより数段上の威力の斬撃を受け、翼は戦慄する。

防ぐのもやっとなほどの嵐のような斬撃が、翼に襲い掛かる。

「ま、待って・・・待ってください!」

その最中で、翼は必死に呼びかける。

「ハア!!」

「ぐほ!?」

しかし容赦ない蹴りが翼の腹に突き刺さり、翼は地面を転がる。

「待て!」

その背後からジオウがジカンギレードで斬りかかるが、綾女はそれに恐ろしい速さで反応、ジオウの一撃を弾き飛ばし、流れるように反撃の一撃を入れる。

「ぐぅ!?」

そして、そのまま鋭い蹴りを顔面に叩きつけ、吹っ飛ばす。

「ぐあぁあ!?」

「我が魔王!?」

「ソウゴ!?」

ジオウが圧倒されるほどの強さ。

綾女はジオウが倒れたのを確認すると、倒れ伏す翼に向き直り、その剣を振り上げる。

「ま、待って・・・」

「聞く耳はもたん」

そして、容赦なく剣を振り落ろす。それに、翼は―――

 

「―――お母様ぁぁぁあああ!!」

 

目を閉じ思いっきり叫んだ。

「ッ!?」

その声に、綾女は直撃する寸前で刃を止めた。

「う・・・ぅ・・・?」

思わず手で顔を庇ったが、いつまでたっても来ない衝撃に、翼は恐る恐る目を開け、しかしすかさずその胸倉を掴まれて持ち上げられる。

「あぐ!?」

「お母様とはどういうことだ?貴様は一体何者だ?」

恐ろしい眼光で睨みつけてくる綾女。その綾女に対して、翼は歯を食いしばって答える。

「・・・翼です」

「?」

「貴方の娘の、翼です・・・これは、未来のお母様から賜ったもの・・・私は、未来から来たのです・・・!!」

そう、翼は綾女に告げた。

綾女の目が、さらに細まる。

「未来だと?戯言を・・・・!」

胸倉を掴む手に、力が入りかけたその時、唐突に彼女の言葉が途切れる。

「・・・櫻井」

『残念だが、奴の言っている事は正しい。ほくろがあるが、どうやら何等かの力で変えられているらしい。その()()()()()()()結果、実際の写真と照合した結果、誤差は二パーセント以下だ』

「・・・そう」

綾女が乱暴に翼を手放す。

「にわかには信じられないが」

「けほっ・・・信じてくれなければ、これをもっている説明がつきません・・・!」

軽く咳き込みつつ、翼は、身に纏うRN式改を解除する。

また、綾女も自ら纏う装束を解き、体の具合を確かめていた。

一応、収まったことを確認したジオウたちも変身を解除していた。

「・・・何故」

ふと、翼が綾女に尋ねる。

「何故、お母様がそれを纏っているのですか・・・?」

翼が今、最も初めに聞きたい事はそれだった。

何故、彼女がそんなものを着て、ノイズと戦っているのか。

その問いかけに、綾女は―――

「・・・風鳴を、潰す為よ」

「え・・・」

その言葉に、翼は目を見張り、綾女は再び入ってきた通信に耳を傾ける。

「なんだ?」

『そろそろ戻ってきなさい。目撃者は増やさない方がいいでしょう?』

「・・・それもそうだな」

通信を終え、綾女は踵を返す。

「すぐにここから離れたほうがいいだろう。時期、二課もやってくる」

「あ、待ってください!お母様・・・!」

翼の制止も聞かず、瞬く間にどこかへ消える綾女。

「え!?消えた!?」

「どこに行ったんだ!?」

それはまさしく、煙に巻かれたが如き消えようだった。

「・・・あれが、始まりの装者」

「この世界において、仮面ライダーに相当するシンフォギア装者の始まりは、あの女から始まったというわけか」

「謎が深そうだね・・・ツクヨミ君と未来君が手掛かりをつかんでくれるか・・・」

ふと、ウォズは遠くから駆けつけてくる車の音を耳にする。

「おっと、ここに留まりすぎると、今の時代の二課に目を付けられかねない・・・」

その言葉に、翼はしばし逡巡するが、先ほど綾女が呟いていた言葉を思い出す。

(櫻井・・・)

「くっ!」

その真意を確かめるべく、ウォズの忠告を無視して、翼は綾女を追いかけるように走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――綾女が向かった先、そこは、特異災害対策機動部二課の研究室の一室。

 

そこに入った綾女は、そこで待つ人物を見つけるとすぐさま問いかける。

「これで三件目、この一週間でここまでの頻度は今までに見ないぞ」

「それは重々承知している。ここ一週間で調べたところ、ある地点で特殊なエネルギー派を検知している」

綾女の問いかけに応えたのは―――白衣を着た一人の女性だった。

巻き上げるように纏めた茶髪、ピンクのワンピース、そして額縁眼鏡。

この二課にとって、最も欠けてはならない人物―――櫻井了子だ。

「エネルギー派?アウフヴァッヘンか?」

「ああ。ノイズ発生に紛れて、今まで気が付かなかったようだがな」

了子の言葉に、綾女は顎に手をあて考える。

「つまり、その聖遺物を破壊すればあるいは・・・・その聖遺物は何かわかっているのか?」

「いいや。だが、その聖遺物がここ最近のノイズの出現に関係しているのは間違いない」

それに、綾女は歯噛みする。

「すぐに破壊しなければ・・・」

「破壊するのはいい。だが、お前の装備じゃ破壊するのは出来ないだろうな」

「・・・どういうことだ?」

その言葉に、綾女は鋭い視線を了子に向ける。

「いくら同じ聖遺物とて、お前の纏うそれは玩具も良い所だ。それに比べておそらく向こうは起動状態の完全聖遺物。強度の時点でそれが劣るのは当然の帰結だ」

その了子の言葉に、綾女は俯く。

「・・・私の命を燃やし尽くせば・・・」

「死ぬ気か?」

その言葉に、綾女は何も答えない。

「・・・私に協力すると言ったのはお前だぞ?」

「それはお前の悲願が叶うまでの間だ。準備が終わるまで、私がお前の駒であることには変わりないが」

「ならば、駒らしく上手く動いて見せたらどうだ?」

そう了子が言うと――――

「・・・どういうことですか」

部屋の扉が、開く。

そこから、翼が、信じられないという表情で入ってくる。

「何故・・・お母様が、櫻井女史と・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや、よもや我々と同じRN式改を使うものがいたとは・・・」

そう呟いたのは、2030年時点で、二課のオペレーターを務めていた『赤座優作』だった。

「他にもいた、謎の鎧を纏っていた三人の行方を捜していますが、巧みに躱しているようで見つからず・・・」

モニターを見ていた『柴木(しばき)条星(じょうせい)』はそう報告を上げ、それに、特機部二司令の風鳴弦十郎は神妙そうにうなずく。

「了子君も、何もしらないと言っているが・・・」

「正直怪しい所ですな」

赤座がそう答える。

「しかし、ここ最近のノイズの出現が、偶然発見した聖遺物によるものとは・・・」

「一体それがなんなのか、今一度調べてみる必要がありそうだな」

「風鳴機関、手を出してこなければいいですけど」

柴木の言葉で途端に空気が重くなる。

「だいたいあの老害風情が作った組織になんで僕が入ってるんだほんとはサラリーマンとして家のしがらみにとらわれず順風満帆な人生を送るはずだったのになぜこんなろくでもない奴らが作ったろくでもない組織にいるわけそりゃあ司令は別だけどそのほかあのクソジジイについてるやつは一切ダメだむしろ死んだほうがいいだろくそ野郎この野郎あーイライラするビール飲みたい鳥串食べたい休んで田舎で遊びたーい」

「ま、まあ落ち着いてくれ柴木さん・・・」

「っ・・・すいません、取り乱しました」

「いや取り乱し過ぎたってレベルじゃねーだろ」

男三人、呆れ合う。

「それで、どうするんですかぁ?」

「無論、早期解決が望ましい。すぐにその聖遺物の調査をしなければならない。場合によっては、破壊もありえる」

「破壊っすかー、綾女さんのあれで破壊できますかね?」

「分からんな・・・」

そこで、弦十郎は俯く。

「・・・了子君の話から、命を削るほどの力を発揮できれば、不可能ではないとのことだ」

「命を、削るですか・・・」

「それって最悪死ねってことですよね」

柴木の言葉に、一気に部屋の空気が重くなる。

「・・・すんません」

「いや、貴方の言ってることは正しい。最悪俺は、あの人に対して・・・」

その先を、弦十郎は言い淀む。

しかしその時、弦十郎の視線が背後にある扉に向いた。

 

 

 

その扉の向こうで、ツクヨミと未来は聞き耳を立てていた。

「聖遺物、か・・・」

「一体、なんの聖遺物なんだろう・・・」

未来は考え込む。自分の持つ記憶の中で、そのような聖遺物はあっただろうか。

「それが、歴史改変の手がかりになるかも・・・」

そう思い、さらに聞き耳を立てていると、不意に中の空気が変わったことを感じ取り―――

 

 

「誰だ!」

赤座が鋭い声で扉を開けて叫ぶ。

しかし、そこには誰もいなかった。

「・・・逃げたか」

赤座はそう呟く。

その何もない空間を、弦十郎は訝しそうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

母と、かつての宿敵が共にいる。

その事実に、翼は信じられないとでもいうかのように、二人を見ていた。

「協力とは一体・・・・お母様は、櫻井女史の・・・フィーネの計画に加担しているとでもいうのですか・・・!?」

「ほう・・・」

そこで、了子が立ち上がって、翼を眺める。

「私の真の名を知っているとは・・・なるほど、未来から来たというのは存外嘘ではないようだな」

「お前には何も聞いていない・・・!」

「まあそう急くな。それに、それを望んだのはお前の母だぞ?」

「なんだと・・・!?」

ありえないことに混乱している翼に、了子はさらに言葉をぶつける。

その言葉に、翼は思わず綾女の方を見る。

「・・・私の目的は『風鳴』を潰すこと。その為には、力が必要だった。それだけだ」

「っ・・・その為に、櫻井女史に協力して、月を・・・」

「そうだな。だが、風鳴を潰せるなら、月が壊れようが関係ない」

その言葉に、翼は思わず自分の足元がなくなるような感覚を覚える。

(たかが、風鳴を潰す為だけに・・・そこまで・・・)

一体、何が彼女をそこまでさせるのか―――

信じていたものが崩れる感覚、望まない事実を突きつけられた感覚、そして記憶に残る母親との思い出に、亀裂が走るような感覚。それらが、翼の精神を大きく揺らがす。

「はあ・・・はあ・・・」

動悸が激しくなる。

呼吸も荒くなり、まともに思考判断が出来なくなる。

頭を抱え、その事実を拒絶する。

あの優しかった母が、そんなことするはずないと、目の前の現実を否定する。

「・・・お前か」

翼は、視線を了子に向ける。

そして、その胸倉を掴み上げて、怒りのままに叫ぶ。

「お前がお母様を洗脳でもしたんじゃないのか!?」

「だとしたらどうする?」

嘲笑うかのような了子の言葉に、頭に血が昇る。

しかし、翼が次のアクションを起こす前に、綾女が翼の腕を掴み、そして投げ飛ばし翼を倒す。

「うぐあ!?」

倒れる翼は、母親を見上げる。

「お母様・・・!」

その綾女の視線は、どこまでも静かで、冷たい。

それが、事実を雄弁に語っていた。

「ふぅー、ふぅー・・・ぅぅ・・・!!」

獣のように唸る翼は、その右手に光るバングルを、震える腕で持ち上げ――――そんな翼の手を、ソウゴが掴む。

「翼」

「っ!?」

思わずソウゴを睨みつける翼。

しかし、ソウゴは冷静に、翼に語り掛ける。

「ここは過去なんだ。過去は変えられない。例え望んだものじゃなかったとしても、受け入れるしかないんだ」

そのソウゴの言葉に、翼は、泣きそうな声をあげて、そして母親の方を見る。

それでも綾女はただ翼を見ているだけであり、その眼差しに、翼は再び泣きそうになり、

「う・・・ぅぅ・・・」

その拳を握り締めて、よろよろと部屋を出ていった。

そしてソウゴは、一度綾女たちの方を一瞥すると、先に出ていった翼の後を追って部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

二課近くの公園にて――――

 

「聖遺物の破壊?」

ツクヨミと未来が手に入れてきた情報に、ソウゴはそう呟く。

「なんでも、その聖遺物が原因で、ここ最近のノイズの発生件数が増えてるみたいなの」

「それで、二課としては、場合によってはその聖遺物を破壊すると言ってまして・・・」

「っていうか、その聖遺物ってなんなの?」

「・・・・ギャラルホルン」

翼が、唐突に呟く。

「平行世界同士を繋げる、完全聖遺物・・・平行世界の異常を感知すれば、すぐにその世界とこちらの世界をつなげる。その際に、向こうの世界のノイズがこちらの世界に流出することもある・・・だが・・・」

「私たちの知る世界では、そんな聖遺物の名前は一度も出てこなかった・・・」

そう、翼の場合は、あの歴史になってから記憶を取り戻したために、ギャラルホルンのことは知っていた。だが、本来の翼が知る歴史では、そんな聖遺物の名前は一回たりとも出てこなかった。

翼がそれを知れたのは、保有していたギャラルホルンが異常な反応を示し、アラームを発したからだが。

「その聖遺物と繋がった平行世界から、ノイズが流れ込んできているっていうわけか・・・」

「どうやらそれが、歴史の改変ポイントのようだね」

「あの、一つ気になったんですけど・・・」

「何かな?未来君?」

「戦兎先生たちの世界の方に異常がある、というのはありえないのでしょうか?」

「確かにな。だが、アナザーライダー・・・いやライダーか?まあ、アナザーが出てきたのはこちらの世界だ。だから、歴史改変の原因はこっちの世界にあると踏んだ訳だ」

「なるほど・・・」

その言葉に、未来は頷いた。

「うん、その聖遺物を破壊出来れば、歴史は元に戻る」

ソウゴのその言葉に、一同は頷く。

一人を、除いて。

「・・・・」

翼は、ふと黙って、踵を返してその場から立ち去る。

「翼さん?」

その様子に、未来はそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

翼が訪れたのは、風鳴八紘邸だった。

芝生垣の合間から、家の庭を静かに眺め、そして、記憶の片隅にある、母との思い出を思い起こす。

(ここで、お母様に、自分の夢を語ったのだったな・・・)

 

自分の歌をみんなに聞かせる―――ただそれだけのことだった。

 

漠然とした様子で、翼はその景色を眺めていた。

ふと、翼は誰かが近づいてくるのを感じた。

ソウゴ、かと思ったが、それにしては足音が軽い。

では何かと思い、視線を向けてみれば、そこにいたのは、幼き頃の自分であった。

寂しそうに歩くその姿は、父親に拒絶された時の落ち込んでいる時のようだった。

いや、実際に落ち込んでいるのだろう。

(お母様に語ったことを、お父様に言ったら、出ていけと言われたのだったな・・・)

まだ当時六歳であった自分には、その時の父は恐怖の象徴であったなと、つくづく思った。

まだ幼き頃の翼は、小学生故のランドセルを背負って、翼の横を通り過ぎる。

俯いていたからか、翼自身の存在には気付かなかったそうだ。

(まだ何も知らない、幼い自分・・・)

その幼い自分に、未来で何が起こるのかを伝えたら、どう思うか。

いや、きっと、混乱するのだろう。

まだ、風鳴の家に生まれた重荷を知らない年ごろなのだから。

そして、再び人が近づいてくる。

ソウゴだ。

「・・・全ては、私の一族が原因だったのだ」

そんなソウゴに、翼は独り言のように言う。

「私のお爺様、いや、風鳴の一族はあれでも多くの恨みを買ってきた一族だ。そんな一族に復讐したいと思う輩は多くいる・・・お母様も、その一人にすぎなかっただけだ」

ぐっと拳を握り締める。

今にも泣きそうな声で、翼はそう呟きながら、翼は家から離れるように歩き出す。

そんな翼の後を追いつつ、ソウゴは翼の呟きに答える。

「そっか、色々と抱えてるんだね」

「・・・私は、母が分からなくなってしまったよ」

ふと立ち止まった翼が、そう呟いた。

そんな翼に、ソウゴはしばし逡巡する。

「そう思うんなら、変えればいいじゃない?」

ソウゴは、そう翼に言った。

「・・・過ぎた過去は、変えられないのだろう?」

「うん、過ぎた過去はね」

そう言って、ソウゴは翼の前に出る。

「でも、ここから先は、俺たちにとっては未来だろ?未来なら、変えられる」

笑って、ソウゴはそう言った。

 

「――――そんなことはさせねえよ」

 

しかし、そんな二人に、そう言う者たちがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻って、公園にて。

「ソウゴたち、遅いわね」

「もしかしたら、先に行っているのかもしれないね」

ツクヨミの言葉に、ウォズがそう答える。

その時、未来は、背後から気配を感じ取って後ろを振り返った。

その未来の行動に、一同もそちらを向くと、まるで信じられないとでもいうように、その目を見開いた。

 

―――そこに立っていたのは、響だった。

 

「・・・響?」

「見つけたよ。未来」

響は、悲しそうに未来を見ていた。

「おい、どういうことだ・・・!?」

「時を超えられるのは、あなた達の専売特許じゃないということよ」

背後からそのような声があがり、振り返ればそこに立っているのはマリアだった。

さらに周囲を見渡せば、そこに調や切歌もいて、完全に囲まれていた。

「彼女らがいるということは、おそらく・・・」

「タイムジャッカーの仕業ね・・・」

何かしらの方法で彼女らをそそのかし、この時代に呼び寄せたのだろう。

「あなた達ね、魔王の手先っていうのは」

「はあ?」

しかしいきなり全く予想もしてなかった言葉がマリアから出てくる。

「よくも未来さんを・・・」

「魔王は倒されるのが決まりなのデス!」

「何言ってんだこいつら・・・」

「どうやら、タイムジャッカーは私たちを悪役とすることで彼女たちを味方につけたらしい。厄介だね」

騙している、と言った方がいいのか。

「待って、響!この人たちは・・・」

「大丈夫だよ、未来。すぐに、その洗脳を解いてあげるから」

「響・・・!!」

もはや聞く耳をもってはくれない。

「どうやら、戦うしかないようだね」

「チッ、面倒なことを・・・」

それぞれがそれぞれのライドウォッチを取り出す。

「未来君、どうやら彼らは、すぐにでも君を取り戻したいらしい。君はどうする?」

「・・・・」

ウォズの言葉に、未来は黙ってその手を差し出す。その手にクロが乗る。

「・・・戦います」

そして、そう言った。

 

『STANDBY!』

 

GEIZ(ゲイツ)!』

 

WOZ(ウォズ)!』

 

TUKUYOMI(ツクヨミ)!』

 

ゲイツ、ウォズ、ツクヨミの三人が腰にベルトを巻き、そして未来はクロのスタンバイスターターを押す。

 

『ACTIONッ!』

 

そして、ライドウォッチをジクウドライバーのD'9スロット、ビヨンドライバーのマッピングスロットに装着、待機音と共に、それぞれがそれぞれの構えをとる。

それに対して装者たちは、その手にギアペンダントを握り締め、聖詠を歌う。

 

「「「変身ッ!!」」」

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron(希望の為のカウントダウン)―――」

 

「―――Seilien coffin airget-lamh tron(望み掴んだ力と誇り咲く笑顔)―――」

 

「―――Zeios igalima raizen tron(夜を引き裂く曙光のごとく)―――」

 

「―――Various shul shagana tron(純心は突き立つ牙となり)―――」

 

「―――Rei shen shou jing rei zizzl(鏡に映る、光も闇も何もかも)―――」

 

PROJECTION(トウエイ)ッ!!』

 

RIDER(ライダー) TIME(ターイム)!!』

 

KAMEN(仮面) RIDER(ライダー) GEIZ(ゲイツ)ッ!!』

 

FUTURE(フューチャー) TIME(タイム)ッ!』

 

GREAT(スゴイ)PERIOD(ジダイ)FUTURE(ミライ)KAMEN RIDER(仮面ライダー) WOZ(ウォズ)WOZ(ウォズ)!!』

 

KAMEN(仮面) RIDER(ライダー) TUKUYOMI(ツクヨミ) TU KU YO MI(ツクヨミ) !』

 

 

それぞれがそれぞれの戦う姿へと変身する。

 

響はガングニールを、マリアはアガートラーム、切歌はイガリマ、調はシュルシャガナ、未来は神獣鏡、ゲイツは仮面ライダーゲイツ、ウォズは仮面ライダーウォズ、ツクヨミは仮面ライダーツクヨミへと変身する。

 

 

 

そして、その様子を眺める者が、一人――――

漆黒の衣装を身に纏った、その男の正体は―――

 

 

 

 

 

シンフォギアと仮面ライダーの激突は、もう、止められない。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

激突する装者とライダー。

「戻ってきて!」

向けられる仲間からの牙。

「逃げんな偽物ォ!!」

繰り出される問題。

「ここで問題だ」

その戦いの行方は――――


次回『チェインするシビルウォー』


「私の名は『カイン』」




未「今日もマリアさんいなかったですね」
翼「そうだな・・・む、誰かからの電話・・・」
アル『あ、もしもし翼さん?』
翼「ストレイ社のヒードマン?一体どうした?」
アル『いやーエリザちゃんの帰りが意外に遅くて、マリアちゃんからの連絡もないからさ。そっちにマリアちゃん帰ってる?』
翼「いえ、まだですが・・・」
アル『そっかぁ・・・まだ純粋な君を汚したくはなかったんだけど・・・』
翼「え?汚すってどういう・・・」
アル『あとで座標送るから、そこで落ち会おう?お互いの大切な相手を回収しておかないと』
翼「はあ・・・?」
アル『前まではテレポートジェムでどうにかしてたんだけど切らしちゃってね~。ごめんね~忙しい時に』
翼「いえ、それほどでも・・・」
アル『それじゃ、また後で』ピッ
未「どんな電話だったんですか?」
翼「いや、よく分からない・・・」



その後、マリアと共に真っ赤な顔をした翼が目撃されたという―――。


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チェインするシビルウォー

ウォ「この本によれば、世界的トップアーティスト風鳴翼は、歴史改変された世界での記憶保持者として、同じく記憶保持者である小日向未来と共に、S.O.N.G.に追われる運命にあった。そこへ駆けつけたのが我らが魔王、仮面ライダージオウこと常盤ソウゴであった。我が魔王に助けられた風鳴翼は、我が魔王と共に過去へと飛び、歴史改変を阻止すべく行動するのであった。そこで出会った翼の母『風鳴綾女』は、かつての宿敵『フィーネ』と協力している事実を知り、激しく動揺するのであった」
ク「いやなげーよもう少しコンパクトにしろ」
ウォ「おや?本物を偽物呼ばわりしている勘違い君じゃないか」
ク「グハア!?」
ツク「ちょっとウォズ!?間を差されたからってそういう嫌みを言うのは―――」

ジカンガマキモドール

ク「―――いやなげーよもう少しコンパクトにしろ」
ウォ「おや?本物をムグォ!?」
ソ「はいウォズそこまで」
ツク「・・・ハッ!?何か編集の力らしきものでセリフを遮られた気がする・・・!?」
ソ「一々血を吐かれたらたまらないからね。というわけで、今回は俺たちと装者の戦いだよ。作者は土曜日、というか日付的には今日自動車学校の最終試験だから、かなり気合入れてるよ」
切「なぁんでオグリとテイオーばっか出るんデスかねぇ・・・」
響「一度出ると、何度もきちゃうよね・・・」
翼「お前たちは何の話をしているんだ」
未「ほんとにもう、どんなことになっても知らないよ?」
調「切ちゃん・・・」
マ「全く、そういうのはもう少し稼げるようになってからにしなさい」ハヤクチ
調「あれ?なんでそんなに早口なの?しかも結構顔赤いし汗もかいてるけど、何が・・・」
マ「別に何でも・・・ひぅっ・・・」
一同「ひぅ?」
マ「な、なんでもないわ!とにかく!シンフォギアビルド天羽々斬編第四話を見なさい!―――くふぅっ!!」
一同「くふぅ?」
マ「な、なんでもないわ!・・・くぅ、調子に乗らないでよね・・・!!」
翼「・・・なんだったんだ?」
未「さあ・・・」


―――その男は、生まれながらにして王となる運命をもっていた。

 

王の血に生まれ、王の素質を持ち、王の為の教育を受けた。

 

だが、その男が王になる前に、その男が納める筈だった国は、男に反旗を翻した。

 

その理由は、『■』。

 

『■』が、国民たちの心をかどわかし、男の一族へと刃を向けた。

 

故に男は国から追われた。そして、男は誓った。

 

 

―――自らを破滅へ追い込んだ『■』をもって、自分は『王』になると―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カ・ディンギル跡地にて―――

 

響たちは一抹の警戒心を持ちながら、そこへ足を踏み入れていた。

「一体、誰があのメッセージを・・・」

「罠かもしれない・・・だけど、今の私たちには、一つでも情報が欲しい」

「故に、このような危険は百も承知だ」

調の言葉に、マリア、『風鳴翼』がそう答える。

その最中で、クリスが目の前に立つ人影を見つけた。

「おい、あれ!」

指さす先に、その男はいた。

「待っていたよ。シンフォギア装者諸君」

その男は、一言で言うなら純白であった。

服装、肌、髪、その全てが白。

眼も灰色で、下手をすれば三白眼に見えなくもないその男は、まさしく白の男と呼ぶに相応しい成り立ちだった。

「貴方が、私たちをここへ?」

「そうとも」

響の問いかけに、男は頷く。

「私の名は『カイン』。奴ら―――魔王『オーマジオウ』一向と敵対する者だ」

「オーマジオウ・・・?」

男―――カインの言葉に、響は首を傾げる。

「オーマジオウとは、君たちが戦った仮面の男の正体――――いずれ、この世界を支配し、人々を苦しめる『最低最悪の魔王』となる男のことだ。その力は絶大であり、何者をも触れることすら叶わず消失させるほどの力を有した男―――」

「そんなバケモンが存在すんのかよ・・・!?」

「無論・・・と、言いたいところだが、幸い今の彼にその力はないから安心したまえ」

その言葉にほっとしつつも、マリアは鋭く尋ねる。

「それで、そのオーマジオウと敵対する貴方が、私たちに一体何の用かしら?」

「奴らの行き先を教える」

「わ、分かるんですか!?」

「もちろん。そして、そこへの行き方も手段ももっている」

「それは一体なんなんデスか!?」

カインが手をあげ、彼らをいったん落ち着かせる。

「オーマジオウとは時の王者。故に彼らは時間を遡る・・・そして奴らは過去へと行き、歴史を変えるつもりでいるのだ」

「歴史を変えるって・・・そんなファンタジーみたいなことありえんのかよ!?」

「あり得るのだよ。我らは時を流れをかけて戦い、しのぎを削ってきた。そして奴らは卑劣にも過去を変える事で、我らの存在を消そうとしている」

さもありなん、とでもいう様に、カインは流暢に語る。

「過去を変えるって・・・」

「一体どうやって・・・」

「歴史には、その未来を変える大きなターニングポイントというものがある」

指を立て、カインは説明する。

「それは、歴史の転換期ともいえる時期、とある科学者がとある装置を発明した。戦争がおこるきっかけが起きた。そこに命が生まれた・・・そして、本来存在しない筈のものが現れた、とか」

「存在しないもの・・・?」

「例えば、風鳴翼の・・・いや、天羽々斬の偽物の登場、とか」

「「「っ!?」」」

一同が、その表情を強張らせる。

「お前、先輩の偽物について、何か知ってんのか!?」

「もちろん。あれは本来の用途は別の存在に適用されるものだが、この世界ではシンフォギアに使われている。君たちが回収したウォッチは通称『アナザーライドウォッチ』と呼ばれ、本来ある『力』を別の用途で生み出すことが出来るのだ。そうして生み出されたのが―――」

「私の偽物、と言うわけか」

『風鳴翼』が、忌々し気に呟く。

「その通り。そして彼らは時を飛び越える手段を持っている。あの人型マシーンがそれだ」

「つまり、あの人たちのいる場所っていうのは・・・」

「そう、過去だ」

であるならば、道理で見つからない筈だ。

時間を飛び越えたとなれば、それはこの世界にはすでに存在しないということの証左であり、今の時代のどこにもいないわけなのだから、どこのカメラにも映る訳がない。

「過去へ飛んで、歴史を変えて・・・それで一体、彼らになんの得があるというの?」

「歴史が変わるということは、そこから先の未来の何もかもが変わるという事・・・逆に、過去で何が起きたのかが分かれば、それを変えて自分たちの都合のいい未来に変えることも造作もない・・・ようはそういうことさ。この世界の歴史を変え、自分たちの都合のいい世界に変える・・・小日向未来のこともその布石さ」

「未来・・・未来に何かあるんですか!?」

「無論だとも。彼女だけが、()()()()()()()()()()()()。故に彼女は真っ先に彼らに狙われたのだ。彼女だけが、本来の歴史を知っているからね」

男は、そう語る。

「本来の歴史を知っている・・・?ならば、何故彼女は彼らと・・・」

「簡単な話だ。強力な洗脳をかけ、自分たちを味方だと思い込まされているのだよ。あの偽物を助けたのはその布石の一つだろうね」

それを聞いて、一同に衝撃が走る。

洗脳されている様子はなかった―――だが、それに気付かれぬほど、彼女は―――

「未来・・・!」

響が、心なしか拳を握り締めている。

「過去に変えるって言ったな」

クリスが、そう声を挙げた。

「ああ」

「だったらすぐに連れていけ。先輩の偽物含めてあいつら全員ぶっ飛ばして、あの子を取り戻してやる!」

そして続けてそう啖呵を切る。

「魔王の思い通りになんかさせないデス!」

「今ある私たちの日常を守るために・・・!」

「過去を変えるなんてこと、絶対にさせないわ」

切歌、調、マリアもそう叫ぶ。

「無論だ。そちらの上司が良いというのならばの話だが」

すかさず、通信が耳に入る。

『構わん。それに、過去を変えるなどと言う所業を行う輩を見過ごすわけにはいかん。それに、そういうのは我々の管轄でもある』

「良いそうよ」

「ならば重畳」

カインが指を鳴らせば、突如として上空の空間に謎の穴が開き、そこから巨大な何かが降りてくる。

「これに乗り、過去を取り戻すとしよう。そう、『過去』を」

そして、彼女たちは、翼の母が存命している2030年へと向かった。

 

 

 

 

そして、今―――

「逃げんな偽物ォ!!」

「ぐぅぅう!!?」

クリスから放たれる弾丸から、必死に逃げる翼。

「雪音、頼む、話しを・・・」

「話すことなんざ何もねえんだよ!」

降り注ぐミサイル。それを翼はRN式のなけなしの身体能力で躱して見せる。

だが、その躱した先でクリスの狙撃が肩を打つ。

「ぐあぁあ!?」

シンフォギアの攻撃、本来であれば肩そのものが吹き飛ぶかもしれない威力のそれは、曲がりなりにもシンフォギアのプロトタイプであるRN式の物理保護によって激痛にのみに留まる。

だが、その痛みは一歩間違えれば気絶もおかしくない程の激痛だ。

「ぐ、ぅぅう・・・!!」

痛みに目尻が湿る。

(ゆきね・・・雪音・・・!!)

本物は自分だと叫びたい。だけど、件のクリスは聞く耳を持ってはくれない。

完全にこちらを偽物とし、敵と認識している。

涙目で訴える翼を、クリスは未だ、残酷なまでに冷徹な視線で翼を睨みつける。

その手の銃を、翼に向ける。

「く・・・ぅぅ・・・」

ゆっくり近づいてくる。翼は肩の痛みで動けない。

だが、そんな二人の元へ、仮面ライダージオウが割り込む。

「なッ!?」

「翼、逃げろ!」

ジカンギレードでクリスを牽制しつつ、ジオウは翼に向かってそう叫ぶ。

「しかしっ・・・!」

「仲間相手に、戦えないんでしょ!?だったら俺が抑えてるうちに、時間改変の原因を探してきて!早く!」

「誰が逃がすかっ!」

クリスのガンカタがジオウに迫る。

だが、ジオウはクリスの放つ銃弾を全て受けきると、逆に拳を叩き込んで距離を取らせる。

「ぐあっ!?」

「貴様の相手は私だ!」

そこへすかさず『風鳴翼』が割り込んでくる。

振るわれる剣閃。それをジオウは迎え撃つ。激しく撃ち合う剣戟の中で、翼は『風鳴翼』の振るう剣を、否応なしに自分の太刀筋だと実感してしまう。

(客観的に見ても、あれはまさしく私の剣・・・完全に私を模倣しているというのか・・・!?)

マリアですらも、彼女を味方と信じ切っているようだった。

それほどまでに、彼女は自分と等しい存在だということなのか。

「やろうっ!」

すかさずクリスの銃撃がジオウを襲い、ジオウはどうにかそれを躱す。

「流石に二対一はきついな・・・だったら・・・!」

そう言ってジオウが取り出したのはピンクい『マゼンタだ』・・・マゼンタ色の細長の懐中時計だった。

ジオウは、その時計のボタンを押す。

 

DE/DE/DE(ディディディ)DECADE(ディケイド)!!』

 

そんなハイテンションな音声が流れ、それをジクウドライバーにセットする。

そして、ドライバー上部の『ライドオンリューザー』を押し、ロックを解除。

そして、そのままジクウドライバーを反時計回りに回転させる。

 

RIDER(ライダー) TIME(ターイム)!!』

 

KAMEN RIDER(仮面ライダー)!!ZI-O(ジオウ)…!!』

 

ARMOR(アーマー) TIME(ターイム)!!』

 

『KAMEN RIDE《WOW!!》』

 

DEKAY(ディケイ)/DEKAY(ディケイ)!!DI(ディ)CA()I()DE()!!!』

 

突如として出現したカードのようなものが数枚出現し、それがジオウの周囲を回転。やがて止まるとそれは人型を形成し、唯一それぞれに色と実体があった部分がジオウへと装着されていき、追加装甲のようにジオウの姿を変えた。

そして、顔面の板のような部分に、まるで張り付けたかのような『ディケイド』と書かれた顔と、右肩にも同じ文字、そして左肩から右脇にかけてバーコードのようなボディプレートを纏った姿は―――

 

「・・・全身バーコード・・・」

 

と、呼ぶ他なかった。

「・・・はっ!な、なんだよそれ!?」

いち早く我に返ったクリス。しかしその間にもジオウは次なる行動を起こしていた。

さらに取り出したのはピンクと緑の柄のついた懐中時計。

その懐中時計のボタンを押すジオウ。

 

EX-AID(エグゼイド)

 

それを、先ほど差し込んだ時計のさらなるスロットに装填する。

 

FINAL(ファイナル) FORM(フォーム) TIME(タイム)!』

 

E/E/E/(エ エ エ)EX-AID(エグゼイド)!!』

 

その瞬間、胸のバーコードや右肩のディケイドの文字が飛び出したかと思えば文字が切り替わり、『ディケイド』が『エグゼイド』に、バーコードが『ダブルアクションXX』に変わる。

そして、たちまちにその姿が()()()()()()()

「「「・・・・は?」」」

突然の出来事に唖然とする一同。

しかも、分かりやすく片方はオレンジ、片方は水色とそれぞれ色が分けられている。

まさに訳が分からない。

「ノーコンティニューで―――」

「―――なんかクリアできる気がする!」

二人のジオウが顔を見合わせ、同時にクリスと『風鳴翼』に斬りかかる。

「くっ!」

「どうなってんだよ!?」

クリスの方へ向かったオレンジ色の顔の方はその手にジカンギレードを、翼の方へ向かった水色の方は『ライドヘイセイバー』を持っており、それぞれが完全に自立した動きで二人を責め立てる。

「こン、のっ、調子に乗るな!」

クリスが距離を取り、腰から無数のミサイルを装填したポッドを展開する。

「喰らいやがれ!!」

 

MEGA DETH PRATY

 

一声に放たれる小型ミサイル。

しかしジオウは慌てずにジカンギレードをジュウモードへと変形、そこへ取り出した白いライドウォッチを取り出す。そして、ボタンを押す。

 

FOR・ZE(フォーゼ)!』

 

起動したウォッチをジカンギレードに装着する。

 

FINISH(フィニッシュ) TIME(ターイム)!』

FOR・ZE(フォーゼ)!』

 

SU()RE()SU()RE() SHOOTING(シューティング)!!!』

 

引き金を引き、その銃口から具現化したエネルギーが発生。しかしそのエネルギーの塊が無数に分裂したかと思えばそれが全てクリスのミサイルを迎撃―――貫通する。

「嘘だろ・・・っ!?」

数ではまさっていた。だが、ジオウの放ったその威力の前に敗れたクリスのミサイル群は瞬く間に爆散し、貫通してきた敵のミサイルが、クリスに殺到する。

「ぐあぁぁあぁああ!?」

 

その一方、『風鳴翼』の方では、ライドヘイセイバーを振るうジオウと激しく鎬を削っていた。

だが、剣技以前に威力の差で押され気味の『風鳴翼』は苦悶の表情を浮かべていた。

「これが、魔王の力・・・!」

振り下ろした剣を躱され、そのまま抑え込まれる。

「お前、一体誰なんだ?」

その最中でジオウは『風鳴翼』に尋ねる。

「何?」

「偽物・・・ってわけじゃない。そっくりなロボットってわけでもない。だったらお前は、一体何者なんだ?」

ジオウは、その仮面の奥から『風鳴翼』をみつめる。

しかし、『風鳴翼』は不敵に笑うと、

「何を言っている?私こそが本物の『風鳴翼』だ!」

抑え込みを逃れ、返す太刀で『風鳴翼』はジオウに斬りかかる。

だが、ジオウもそのままでは終わらない。その斬撃を受け流し、距離を取る。

「何故そこまで翼であることにこだわる!?」

「それが私の望みだからだ!」

「いいや違う・・・それはアンタの望みじゃない!それは、()()()()()()()()!」

「ッ・・・!?」

その時、『風鳴翼』の表情が凍り付く。

その様子に、翼も動揺する。

(誰かの望み・・・だと・・・!?)

だが、『風鳴翼』は図星を突かれたかのように顔を歪めると、一気にその剣を巨大化させる。

「黙れ、私の心に土足で踏み入るなッ!」

「あれは『蒼ノ一閃』!?」

翼が最も多様する、エネルギーによる斬撃を放ち、直線状の敵を一掃する技。

 

FINISH(フィニッシュ) TIME(タイム)!』

 

だが、ジオウも同じように動く。

その手のライドヘイセイバーにベルトに装填していたディケイドライドウォッチを装填。そして鍔の針を思いっきり回す。

そして、数回、回転させた所で、ジオウは構えた。

 

『HEI!KAMEN RIDERS(仮面ライダーズ)!!』

 

そして、あまりにもふざけた待機音が鳴り響く。

 

『HEY!SAY!HEY!SAY!HEY!SAY!HEY!SAY!HE・HE・HEY!SAY!』

 

「ハァァァアァアア―――――」

力をため込むように、ジオウは片手で振りかぶる。

「喰らうがいい・・・!!」

 

蒼ノ一閃

 

放たれる蒼い剣閃。だが、その『刃物』は、魔王の一撃の前に消し飛ぶ。

 

DI/DI/DI/(ディディディ)DICADE(ディケイド)!!』

 

HEISEI(平成) RIDER's(ライダーズ)!!ULTIMATE(アルティメット) TIME(タイム) BREAK(ブレーク)!!』

 

振り上げられた剣に応えるかのように出現した無数の巨大な壁―――否、カードが『蒼ノ一閃』を阻み、そして剣が振り下ろされた瞬間、まるで叩きつけるかのような斬撃が『風鳴翼』に叩きつけられる。

 

「トリャァァァアア!!」

「ぐあぁぁぁぁあああ!?」

 

凄まじい爆発、それと共に、クリスと『風鳴翼』の二人が吹き飛ばされる。

「がっはぁ・・・」

「これが、魔王の力・・・!?」

大技を喰らい、ボロボロの二人。

「ゆ、雪音・・・!」

そのクリスに翼は思わず駆け寄ろうとするが、ジオウの手によって制される。

「くっそがぁ・・・!!」

立ち上がろうとするクリス。その睨みつける眼光が、翼を射貫く。

その視線に、翼は思わずびくりと体を震わせる。

(雪音・・・やはり・・・)

もはや、自分を本物だとは信じてくれないのか。

それを悟り、翼は、零れそうになる涙をぐっと堪える。

「・・・常磐、ここを離れよう・・・今の二課に見つかる訳にはいかない・・・」

「・・・分かった」

上ずりそうになる声を抑え、翼は、彼女らに背を向ける。

「待ちやがれ!」

「よせ!雪音、今の私たちでは敵わない・・・!ここは引くぞ」

「くっ・・・」

二体に分裂、と考えれば弱体化は考えられる。だが、それを考慮した上でも惨敗した以上、勝ち目はない。

であるならば引いた方が得策―――『風鳴翼』は、激情に駆られそうな衝動の中、必死に理性でそう結論付け、撤退を選択した。

そして、戦いの惨状をその場に残したまま、四人は決定的な何かを認識したまま、その場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

拳と帯が激突する。

響が接近しようとすれば、未来は距離を取って牽制する。

「未来、お願い、戻ってきて!」

「違うよ響!騙されてるのは響の方なんだよ!?」

ズドガガ、と響の重い一撃を、未来は柔らかい帯で衝撃を逃がしながら受け切る。

そのまま体を絡めとろうとするも、地面についた足とアンカージャッキで無理矢理後ろに飛び、難を逃れる。

その後ろに飛んだタイミングで未来はその手の鉄扇の先から光線を放つ。

 

慟哭

 

放たれる光、だが、響は空中でバンカーを炸裂。その衝撃によって地面に向かって加速。

慟哭の射線を間一髪で逃れる。

そのまま地面に着地して、地面を踏み砕いて加速。

右拳をバンカー状に変形させ、そして振りかぶる。

それに対して未来は、間に合わないと判断。すぐさま自らの纏うシンフォギアの『ダイレクトフィードバックシステム』を利用して、その身にクローズの格闘技を無理矢理、模倣。右腕に帯の片方を纏わせ補強しつつ、響の拳を正面から掌打で迎え撃つ。

 

激突する拳と掌。

 

「なっ!?」

「あぐっ!?」

それに響は驚愕し、未来は苦悶に顔を歪める。

(未来が、私の拳を正面から・・・!?)

(痛い痛い痛いッ!?力を逃がしきれなかった!?)

ダメージは明らかに未来の方が大きい。

だが、未来の瞳に宿る闘志は未だ燃え尽きてはいない。

「未来、どうしてそこまで・・・!」

「響こそ・・・!」

今はどれほど言葉を並べても説得できる気がしない。

響は未来を取り戻したい、未来は翼を助けたい。

双方、確実に譲れない事情がある。

だが、質の悪い部分に至って響にはカインからこんなことを言われていた。

 

曰く『小日向未来の洗脳は相応の処置を取らなければ治らない。だから自分の元へ連れてくるように』

 

だから響は実力行使で未来を連れ戻そうとしている。

無論、未来もそれで連れていかれる気などない。

最大の問題である時間軸のズレが、この戦いを引き起こしている要因の一つでもあるからだ。

 

 

その一方で、

「デェェス!!」

同じ緑同士、切歌とウォズが激しく競り合う。

「未来さんにした洗脳をさっさと解きやがれデス!」

「やれやれ、一体誰にそんなことを吹き込まれたのやら」

余裕そうな口ぶりで、ジカンデスピアで切歌の猛攻を凌ぐウォズ。

一際大きなぶつかり合い、その後に二人は距離をとって様子を伺う。

「早く響さんの所へ行かなきゃなのに・・・」

「ふむ・・・」

切歌の様子を見て、ウォズは何かを察し、懐から一つのウォッチを取り出した。

 

Q()UI()Z()!!』

 

そしてビヨンドライバーにセットされていたウォズミライドウォッチを新たに起動した『クイズミライドウォッチ』と入れ替える。

 

『ACTION!!』

 

そして、そのままクランクインハンドルでドライバーにミライドウォッチのデータを叩き込む。

 

PROJECTION(トウエイ)ッ!!』

 

『FUTURE TIMEッ!』

 

FASHION(ファッション)PASSION(パッション)QUESTION(クエスチョン)FUTURE(フューチャ) LING(リング) Q()UI()Z()Q()UI()Z()!!』

 

突然、ウォズの周りを橙色のフィールドが包み込み、その表面に何かのアーマーが形成される。

そして、そのアーマーが、ウォズに装着される。

「へ、変身した・・・!?」

両肩は赤と青、そしてクエスチョンマークで彩られ、顔のまた形が代わり、その仮面には『クイズ』と銘打たれていた。

 

それこそが、正解と不正解を司る未来の仮面ライダー『仮面ライダークイズ』の力を宿した姿。

 

その名も『仮面ライダーウォズ フューチャーリングクイズ』だ。

 

「ここで問題だ。暁切歌、君は立花響の援護に迎えるか。(マル)×(バツ)か」

突然、問題を繰り出される切歌。

「え、いきなりなんデスか!?」

「ほら、早く答えないと。時間制限付きだ」

「え!?そ、そんなの決まってるデス!(マル)デス!」

と、確固たる意思で答える―――が、

 

ブブー

 

「・・・・は?」

「おっと残念、答えは×だ」

次の瞬間、切歌に雷が落ちる。

「デデデデデ――――!?」

「何故なら、君は私が止めるからだ」

「そ、そんなの・・・!」

「では次の問題だ。どうやら残りの二人は我が魔王の元へ向かっただろうけど、果たして我が魔王に君の仲間は勝てるか・・・〇か×か」

「そんなの決まってるデス!〇デス」

 

ブッブー

 

「はえ!?」

「残念、答えは×。即ち負けだ」

再び電撃が切歌に突き刺さる。

「デェェス!?」

それを喰らい、膝を着く切歌。

「そ、そんなこと・・・あるわけ・・・!」

「あまり我が魔王を舐めない方がいい。ありとあらゆる時空をしろしめす・・・それが時の王者『ジオウ』だ」

その言葉に、切歌はギリッと歯を食いしばる。

「魔王なんかに・・・負ける訳にはいかないのデス!」

「では問題だ。君たちの傍にいる『風鳴翼』は本物か?〇か✕か―――」

すかさず、新たな問題を提示するウォズ。

それに切歌は、迷わず答える。

「そんなの、当然―――」

「―――✕だ」

―――だが、切歌が答える前に、ウォズが先に答えを言った。

 

―――そして、電撃。

 

「――――は?」

何故、電撃を喰らった?

あいつは、何を言った?

✕?はずれと言ったのか?

「な・・・んで・・・」

「そのままの意味さ。君たちの傍にいる『風鳴翼』は本物ではない―――即ち、君たちの傍にいる彼女こそが偽物であり、我々の傍にいる『風鳴翼』こそ本物ということだよ」

両手を地面につき、切歌は項垂れ、うずくまる。

「そ・・・んな・・・はず・・・・だって、偽物は・・・!」

思考がまとまらない。

自分は、間違ったことを言っていない。

なのに、何故間違えた。

一体、何を間違えて―――

「ウォズ!」

「っ!」

ふと声が聞こえたかと思えば、ウォズに向かって巨大な鋸が飛んでくる。

ウォズはそれを間一髪で躱す。

「惑わされないで切ちゃん!」

その鋸を投げた張本人が、切歌とウォズの間に割って入った。

調だ。

「あんなの全部嘘。私たちを動揺させるためのブラフだよ」

「調ぇ・・・」

「やれやれ。ちゃんとした○✕クイズなんだけれどね」

そこへツクヨミがやってくる。

「ごめんウォズ、抑えきれなかった」

「何、問題はない。数的優位が変わったわけではないからね」

睨み合う両者。そしてすぐさま激突する。

 

 

さらに一方、ゲイツとマリアは―――

「あの二人を使って、一体何をしようっていうの!?」

「それを貴様らに言う必要は、ないっ!」

マリアの短剣とゲイツのジカンザックスが激突する。

激しい鍔迫り合いを繰り広げ、ふとした瞬間、距離を取る。

 

You Me(ゆーみー)!』

 

すかさずゲイツがジカンザックスを『おのモード』から『ゆみモード』へ変え、引き金である『バーストスリンガー』を引き、エネルギー体の矢を放つ。

「くっ!」

マリアはそれを展開した三角バリアで防ぎ、すかさずゲイツに向かって飛び出す。

再び激しく撃ち合うゲイツとマリア。

「過去を変えて未来を変えるだなんて、一体何が目的でそんなことをしているの!?」

「ふん、誰に何を言われたか知らないが、偽物風情に騙されている貴様らに、いう事は何もないな」

「なんですって!?」

「ウォッチの力だろうが、貴様らの傍にいる『風鳴翼』は本物の風鳴翼ではない。何等かの方法で偽物と本物を誤認させているんだろうな」

「そんなこと!」

マリアが斬りかかる。

それをゲイツは躱し、その手に新たなウォッチを取り出す。

「それは・・・!?」

「今の貴様らでは、俺には勝てん」

 

GEIZ(ゲイツ) REVIVE(リバイブ)――RIGIT(ゴウレツ)

 

それは、砂時計型のウォッチだった。

そのウォッチを、そのままジクウドライバーにセットし、そのままロックを解除して反時計回りに回転させる。

 

背後に出現するステージ。そのバンクはゲイツを囲い、新たな姿を世に曝け出す。

 

RI・VI・VE(リ・バ・イ・ブ) RIGIT(ゴウレツ)―――RIGIT(剛烈)!!!』

 

その姿は、まさしく『剛烈』。武骨な装甲をその身に纏い、顔の文字はさらにいかつくなり、より頑丈さが際立ってみえる。

 

それが、ゲイツの最強形態『ゲイツリバイブ剛烈』。

 

その姿に、マリアは圧倒される。

「どうした?」

そんなマリアに、ゲイツは挑発気味に尋ねる。

「かかって来い」

「っ!」

その手の回転鋸を構えるゲイツの挑発に、マリアは歯噛みしつつも斬りかかる。

その短剣の一撃が、ゲイツの首筋に叩き込まれる―――だが、

「なっ―――」

マリアの短剣の刃は、ゲイツリバイブ剛烈の装甲の前に防がれていた。

そして、間髪入れずにゲイツの『ジカンジャックロー』のこモードの一撃がマリアの腹に叩き込まれる。

「がっ―――」

高速回転する鋸の一撃が、マリアのアガートラームの装甲を粉々にする。

「このっ」

重い一撃を受けても、どうにか立て直し、再度反撃を繰り出すも、しかしゲイツの装甲の前に刃は阻まれ、再び鋸の一撃を受ける。

「があッ!?」

圧倒的防御力に圧倒的パワー。この二つの要素が完全にマリアを追い詰めていた。

(なんって力なの・・・!?このままじゃ、やられ―――)

三撃目が突き刺さる。

「アッ―――!?」

凄まじい一撃がマリアを吹き飛ばし、壁をぶち抜く。

煙が舞い、マリアの姿を隠す。

「ふん」

マリアが沈んだことを確認して、ゲイツは背を向ける。

だが、そこへもつれるように響と飛び込んできた未来がゲイツに向かって叫ぶ。

「まだです!皆にはあれが―――」

次の瞬間、ゲイツの背後で黒い閃光が迸る。

「ッ!?」

発動した漆黒を纏い、マリアが立ち上がる。

そして、恐ろしい速さでゲイツに突撃し、凄まじい威力の拳がゲイツの顔面に叩き込まれる。

「ぐぅっ!?」

圧倒的防御力を誇るリバイブの装甲に衝撃を与えるほどの威力に、ゲイツは瞠目する。

「なんだこれは!?」

「シンフォギアの強化形態『イグナイト』だね。制限時間はあるが、その間はすさまじい力を発揮するから気を付けたまえ」

「早く言え!」

「ごめんなさい私が先に言ってれば・・・うっわぁ!?」

「うおぉりやぁああ!!」

帯で抑え込んでいた筈の響に逆に振り回される未来。

「わわわわわわ―――!?」

「もうっ!なんで私の話を聞いてくれないんだぁぁあ!!」

「なっ!?どっちかっていうとそれは響の方でしょ!?」

バイザーが閉じ、狙いを定めて光線を放つ未来。すかさず響が飛んで躱す。

「だいたい響は食費のことを度外視し過ぎなんだよ!」

「それを言うなら未来だって美味しいものばっか作るからもっと食べちゃうんだよ!」

「何それ不味いもの作れって言うの!?」

「誰もそんなこと言ってないじゃん!」

「何の喧嘩をしてるんだアイツらは!?」

「痴話げんかとしか思えないわね・・・」

ギャーギャーと喚き散らしながらボコスカ殴り合う響と未来。

だが、ゲイツに至ってはそんなことを気にしてられない。

イグナイトを発動させたマリアの猛攻がスピードで追いすがれないゲイツを追い詰めていく。

(だが、何か焦っていないか?)

防御に徹して初めて、ゲイツはマリアの様子に違和感を感じていた。

まるで、何か、タイムリミットが迫っているかのような―――

 

その予想は当てっていた。

 

(イグナイトモジュールを初手から二段階励起で使っているのに仕留めきれない・・・っ!!)

マリアは、イグナイトを二段階目のアルベドで使っている。

それでも仕留めきれない程ゲイツは頑丈であった。

さらに言えばイグナイトは短期決戦仕様の為、制限時間が設けられており、その時間を過ぎればイグナイトは強制解除、さらにはシンフォギアの強制解除まで行くため、早急に片を付けなければならないのだ。

だからマリアは全力を振り絞ってゲイツを仕留めにかかる―――。

「イグナイトモジュール―――」

「ッ!?」

「―――全制限(オールセーフティ)解放(リリース)ッ!!」

ゲイツを猛攻で封殺し、その隙を使ってマリアは最後のギアを上げる。

 

『DAINSLEIF』

 

機械音、後にマリアの纏うオーラが変化する。

精神にかかる負荷はさらに跳ね上がり、同時にマリアのアガートラームの能力も引き上げられる。

「ハァァァア―――!!」

「ぐあぁあ!?」

そしてついに、ゲイツリバイブの装甲を突き抜ける。

ここにきて初めてまともなダメージを喰らうゲイツ。

「このまま―――!!」

マリアが、よろめいたゲイツに追撃しようとする。

そのマリアの刃が、ゲイツに叩き込まれる―――

 

 

―――だが、突然マリアの視界が一瞬にして変わり、そして背中に凄まじい激痛を感じた。

 

 

「ぐあぁぁあああ!?」

吹っ飛ばされたマリアは、そのまま地面を転がる。

「な・・・にが・・・!?」

どうにか起き上がり、さっきまで自分がいた場所を見た。

 

―――そこにいたのは、見たことの無い戦士であった。

 

否、それは、さっきまで相手にしていた人物と同一の存在だろう。

だが、その姿は明らかに異なっていた。

分厚かった装甲は青色の軽装甲へと変わり、両肩には翼のようなアーマーが追加されていた。

先ほどまで、橙色だった装甲が、青へと変わっていた。

まるで、一瞬にして変わったかのように――――

「お前がどれだけ強くなろうとも―――」

先ほどまで、回転鋸だった右手の武器。それは蒼い爪と変わり、ゲイツは告げる。

 

「―――俺はその先を行く」

 

 

 

 

それは、マリアの一撃が決まる直前―――

 

ゲイツは、左の『ゲイツリバイブライドウォッチ』の砂時計部分を回転させた。

その瞬間、中に内蔵されている『リペアードクリスタル』が下のブロックへと落ちていき、そしてゲイツリバイブのフォームを()()()()()

 

 

SPEED(スピード) TIME(ターイム)!!』

 

REVI(リバイ)REVI(リバイ)REVI(リバイ)REVI(リバイ)REVI(リバイ)REVI(リバイ)!!REVIVE(リバッイッブ) GALE(シップウ)!!―――GALE(疾風)!!』

 

 

分厚かった胸部装甲が突如として開き、そこから青い装甲が姿を見せる。

 

その姿こそは、豪胆強烈なパワーと防御力を誇る剛烈と対を成す形態、速さを司り、ゲイツが最も得意とする形態―――『ゲイツリバイブ疾風』である。

 

その形態にコンマ0.1秒以下で変身したゲイツは瞬く間にマリアの背後に回り込み、ジカンジャックローつめモードで斬り裂いたのだ。

 

 

「そんな・・・」

「行くぞ」

ゲイツが加速する。

立ち上がったマリアの脇腹を、もはや視認できない速度で駆け抜け斬り裂く。

「ぐぅっ!?」

そこからはもはや一方的な展開となり、凄まじいスピードで駆け抜けていくゲイツをマリアは捉えきれず、その体をどんどん傷だらけにしていく。

(そんっな・・・イグナイトを使っても、ここまで―――)

激痛に意識が飛びかける。

「マリアさん!」

その最中で聞こえた叫び声。

「イグナイトモジュール、抜剣ッ!!」

 

『DAINSLEIF』

 

凄まじい速度で動き回るゲイツに向かって飛び込んできたのはイグナイトを纏った響だ。

未来は投げ飛ばされやや遠方にいるため、ゲイツの援護が間に合わない。

だが、凄まじい加速力を身に着けたゲイツリバイブはすぐさま標的をマリアから響へ移行。一瞬にして響に接近し、その爪を突き立てる―――が、

「ハアッ!」

「ッ!?」

なんと響は反応してみせた。

ゲイツはまぐれかと思い、間髪入れずに別方向から攻撃。しかしそれすらも響は対応してみせる。

そして、凄まじい速度で動くゲイツの連撃を響は弦十郎仕込みの捌きで見事に躱して見せる。

(こいつっ、なんて反応速度だ!?それに、返ってくる力が凄まじいっ・・・!)

(少しでも反応が遅れればやられる・・・ッ!)

ゲイツリバイブの凄まじい連撃に対し、響はすさまじい対応力で反撃していく。

ゲイツは攻撃の手を緩めればその隙を突かれてやられると直感で察し、対する響は対応が一つでも遅れればそこからさらなる連撃を貰い封殺されると悟っている。

だからこれはゲイツ優勢に見えて、実際はどちらかがミスをすればその瞬間勝敗が決まってしまう状況に陥っているのだ。

だが、このままここで時間が経つのを待っていられない。

少なくとも()()()()()()()()()()()()()

(だからこの人は―――)

(だったらここは―――)

ゲイツが響に向かって飛び込み、響がそれを迎撃する。

そして、左手にもったジカンジャックローの一撃を響は受け止める。

すかさずゲイツはゲイツリバイブライドウォッチを回転させ、モードチェンジを敢行する。

 

PAWERED(パワード) TIME(ターイム)!!』

 

RI・VI・VE(リ・バ・イ・ブ) RIGIT(ゴウレツ)―――RIGIT(剛烈)!!!』

 

翼が収納され、再び分厚い装甲を身に纏うゲイツ。そして右手にのこモードのジカンジャックローを構え、後部のボタンを押す。

 

PAWERED(パワード) SAW(のこ)!』

 

SAW(のこ) SLASH(切斬)!!』

 

超パワーでの力押し。

それによって相手を押し潰す。

疾風で距離を詰め、剛烈のパワーで叩き潰す。それがゲイツのとった響に勝つために手段。

それに対して響も黙ってそれを受ける気はない。

右拳を引き絞って、右腕のアーマーを変形。ブースター付きのナックルダスター型へと変形させ、そのまま全身に装備されたバーニアを噴射。

圧倒的加速による破壊力の一撃でゲイツの一撃を正面から迎え撃つ。

激突した二つの攻撃の激突は、凄まじい衝撃波を巻き散らし、一瞬にして地面のみならず周囲の建物すら砕いていく。

「ぐっぅぅ・・・!!」

「こっのォ・・・!!」

競り合う両者。

しかし、二人の拳の間で高まったエネルギーが、その威力に耐え切れず爆発。

二人とも吹き飛ばされ、地面を転がる。

「うわぁぁああ!?」

「ぐぅぅううう!?」

ゴロゴロと反対方向に転がる二人。

そんな二人の元へ、それぞれの仲間が駆け寄る。

「響さん!」

「大丈夫ですか!?」

「大丈夫!どうにかこうにか!」

「ゲイツ!」

「まさかゲイツ君とあそこまで競り合うとは・・・彼女、侮れないね」

「当然です・・・!」

状況は膠着状態になる。

「そろそろここを離れた方がいいだろうね」

「ああ、賛成だ」

しかし、ゲイツ側は撤退を選択する。

「逃げる気!?」

「そんなこと―――!?」

それを阻止しようとする響側だが、未来が鏡の能力による発光を使い目くらましを敢行。

それによって、響たちはゲイツたちを見失う。

後に残ったのは、戦いの惨状のみだった。

「未来・・・」

誰もいなくなった虚空を見つめ、響はそう呟いたのだった。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「貴方は、幸せに生きてね」

どうにか装者の追撃から逃げおおせた翼たち。

「お前は、もう恨んでいないのか」

その陰で進行する黒幕の計画。

「君が、真実を変えてみろ」

その、結末は―――

次回『真実とインパルス』

神獣鏡(シェンショウジン)





翼「結局マリアのあれはなんだったんだ?」
未「さあ・・・」
?「ああ、もうっ、少しは手加減しなさいっての・・・!」
翼「む、この声はマリアか?」
未「誰と話してるんだろ・・・?」
マ「はあ・・・全くエリザったら・・・ってうわあ!?二人ともいつから!?」
翼「つきさっきだが・・・」
未「ん?マリアさん、その手にもってるのは・・・確かロー」
マ「ハァイストォップネェミクチャァン!!」
未「あべし」
翼「こ、小日向ァー!?」
未「ぐ、ぐふ・・・あ、太腿にも正の文字gガクッ」
翼「小日向ぁぁぁあ!?」
マ「いいわね?ここで見たこと聞いたこと、全部忘れなさい?イイワネ?」
翼「い、委細承知・・・」
マ「よろしい♪」

タッタッタッ

翼「・・・せんとぉ」泣


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真実とインパルス

ウォ「この本によれば、世界的アーティスト風鳴翼は、シンフォギア『天羽々斬』装者として、仮面ライダービルドこと桐生戦兎と共に聖遺物と戦う運命にあった。しかし、突如として過去が書き換えられ、仮面ライダーのいない世界へと変えさせられてしまい、それをもとに戻すべく、我らが魔王常盤ソウゴと共に過去へと向かうのであった・・・」
切「はぁ~、やってられないのデス」ジゴク
響「ブライアンまたでなかったよ。ふふ、笑えばいいよ。私たちのことなんて・・・」ジゴク
未「響~、どっかの地獄兄弟みたいなことしないで」
調「そうだよ切ちゃん、見苦しいよ?」
切「結構ぐっさりいきますね調・・・」
響「だって、本編じゃ翼さんにとんでもない事してるし、リアルじゃツイッターで他の人がナリタブライアン当ててるのにこっちは緑の悪魔(たづなさん)しか出なくて出ないのに、本当にもうやってられないよ。ん?そこの貴方、今笑った?」
切「そういう調も、どうせ慧介の事で色々とため込んでるんでしょ?やってらんないデス(ガシッ)ゑ?」
調「けーくん・・・」
切「アッシンダ」
調「ウキャァァアアァァアアア!!!!」
未「うわぁぁあ!?調ちゃんが慧介君の事を思い出して暴れ出したぁぁあああ!?」
ゲ「どういう事だ!?」
響「調ちゃん、現在両片思い中の慧介君の事が大好きで、その成分が不足してるとこんな風に暴れちゃうんでスゥ!?」ガラスがさくっ
未「響ぃぃぃいい!?」
ゲ「あ、くそっ!くっ、ツクヨミ頼む!!」

ジカンガトマール

ツク「全く、これはそんな便利な能力じゃないのよ?」
未「でも助かりました~・・・地獄に落ちてた響と切歌ちゃんは手遅れだったけど」
切「デェス・・・」
響「ハハ、笑えばいいよ、私たちのことなんて・・・」
ゲ「大丈夫か、こいつら・・・」
ウォ「やれやれ・・・では、シンフォギア・ビルドオリジン・ザ・天羽々斬第五話をどうぞ」


―――風鳴邸、そこにある道場にて、

 

「ふっ!ふっ!」

綾女は一人、真剣を振っていた。

華麗な波線と、陽光に光る刀身が、振るわれる度にその残光を見せ、輝く。

もう何時間も振り続けているのか、綾女の額には汗が流れている。

やがて、剣を振るう手を休め、剣を下ろし、呼吸を整えながら、綾女はつい昨日のことを思い出す。

 

『貴方の娘の、翼です』

 

自分の娘を名乗る少女。その不安そうな顔が、脳裏にこびりついて離れない。

あの顔を、綾女は良く知っているのだから。

「おかあさま・・・?」

ふと、声が聞こえ、そちらを向いてみる。

そこには、学校から帰ってきたばかりであろう小さな娘がいた。

その姿を見て、綾女は頬を緩めた。

「どうしたの?翼」

刀を鞘に納め、膝をついて両手を広げてみせる。それに翼は、その顔を綻ばせると、こちらに走ってきて、汗まみれの母に抱き着く。

「ふふ、汗臭いのにいいの?」

「わたし、おかあさまのにおい、だいすきだからいいの」

ぎゅっとしがみつく娘の頭を、綾女は撫でる。

そして、ふと娘を離し、その顔をじっと見つめながら、尋ねる。

「何か、あったの?」

 

 

 

 

「そう、八紘が・・・」

縁側に座り、翼を膝に乗せ、綾女は不安そうに拳を握り締める翼の頭を撫でる。

「おとうさま、このいえをでていけって・・・おかあさまにいったことを、いっただけなのに・・・」

「そうねぇ・・・翼に似て、あの人は不器用だからね」

「む、わたし、おとうさまににてないもん。おかあさまににてるんだもん」

「ふふっ、そうね。確かに翼は女の子だもの。私に似てるわよね」

むっとする娘をなだめつつ、綾女は気付かれぬように、先日会った娘のことを思い出す。

(翼・・・私の娘、その未来の姿・・・こんなに無垢な娘が、あんな風に育ってしまうなんて・・・)

寂しそうで、辛そうな顔だった。

(一体、未来で何があったのか・・・)

気になる。気になってしまう。そして、心の奥底で分かってしまう。

 

彼女は間違いなく、自分の娘だということを。

 

「・・・」

「おかあさま」

「え?ああ、ごめんなさい。でも、大丈夫よ。お父さんはちゃんと翼のことを思ってくれてるわ」

「ほんとう?」

「ええ。だって八紘って、変に難しく考えちゃうから」

彼のことは、良く知っている。

初めて出会い、そして、共に過ごした時間分だけ知っている。

知らない所まで知っている。

だから、だからこそ―――

「貴方は、幸せに生きてね。お母さんはいつでも、貴方の夢を応援してる。貴方が夢を忘れない限り、応援してるから」

後ろからそっと抱き締め、綾女は、幼い翼にそう言った。

 

 

 

 

翼を、偶然やってきていた緒川に任せ、八紘の執務室へと向かう。

扉を開けば、そこには書類作業に追われている八紘の姿があった。

「八紘」

「綾女か」

「翼に、この家を出て行けと言ったそうだな」

八紘のペンを走らせる手が止まる。

「・・・責めるか?」

「いや」

綾女は、首を振るう。

そのまま椅子に座ったままの八紘の後ろに回り、そっと後ろから抱きしめる。

「それが、お前の優しさだって知っているからな・・・」

「・・・綾女、お前は、もう恨んでいないのか」

心なしか、八紘のペンを握る手に力が入っている事に気付く。

「暗殺の為、私に近付いたとはいえ、お前は私の父によって辱められ、そしてあの子を産んだ。・・・風鳴の子を、ましてや父の子を産むなど、お前にとっては、死よりも辛い屈辱なのではないのか?」

「・・・・」

震える八紘の声の、一音一音を受け止め、綾女はそっと、抱きしめる腕に力を込める。

「私の怨敵は風鳴訃堂ただ一人。当時は、風鳴の血を根絶やす気でいたさ。無論、お前のことも・・・だけど、私はお前と出会い、共に過ごしていくうちに、お前を恨めなくなった。それが、一つ目の理由」

次に、と続ける。

「お前の兄弟に出会った。あの外道の子とは思えない、優しい奴らばかりだった。豪胆な奴もいれば、繊細な奴もいえ、弦十郎のようにデタラメな奴もいた。そんな愉快な奴らと出会ってしまった。それが、二つ目の理由」

最後に、と続ける。

「あの日――――」

言葉が、八紘との間に交わされる。

それを聞いた八紘は、ふう、と息をついて、

「それが、お前が生きている理由、ということなんだな」

「ああ。だから私は感謝する。お前が生きている事に。お前があの子を想っている事に」

「買いかぶり過ぎだ。私はそんな器ではない」

「ただ不器用なだけだろう」

悪戯っぽく笑ってみせる綾女に、八紘は顔を赤くする。

「そんなことより綾女」

「なんだ?」

「何故道着のままなんだ?」

「誘っているからだが?」

「ブッ!?」

何の恥ずかしげもなく言ってみせる綾女に、八紘は思わず吹き出す。

「な、何を言っている!?」

「くくっ、そういう所は本当に翼とそっくりだな」

「い、今は仕事中だ!そういうのは後にしてくれ!」

「なんだ?私たちは夫婦ではないか。処女と童貞を捧げ合うだけでは飽き足りず、何度も体を重ね合った仲ではないか。一度や二度間違いを犯しても何の問題もない」

「と、とにかく!夜、夜だ!夜までまってくれ!」

そのまま執務室から追い出される。

「むぅ、八紘の意気地なし」

そんな八紘に綾女はふっと、安心したように微笑む。

 

 

 

 

「うっわぁ・・・大胆だねえ」

「ど、ドドド、ど、どうてっどうて」

「げ、ゲイツ落ち着いて」

「いやはや、彼女がこれほどまでに大胆だったとは・・・」

「翼さん、大丈夫ですか?」

「私は何も聞いていない私は何も見ていない私は何も言っていない・・・」

夫婦の仲睦まじい様子を見せられて興味津々なソウゴ、大人なやり取りに壊れたゲイツ、そのゲイツを心配するも流石に初心さが拭えないツクヨミ、ギャップの差に戸惑っているウォズ、悶える翼を心配する未来とその未来に心配される翼たちが、垣根の外から見ていた。

「だけど、夫婦愛を確認するだけでこれといった手掛かりは見つからなかったね」

「風鳴綾女の人間関係が、アナザーシンフォギア誕生の原因へと繋がると睨んだのだが・・・」

未だ壊れたゲイツをほっぽりだしたまま、ソウゴとウォズは考察を重ねる。

「未来ちゃん、そっちはどう?」

「えーっと少し待っていてください」

その一方、未来は持ってきたS.O.N.G.の通信機の周波数を合わせていた。

やがて―――

 

『―――ザザッ―――り―――した―――方がいいかもしれないですね』

 

「つながった!」

実は二課本部にクロを侵入させて盗聴器で会議の様子を盗み聞きしようという寸法なのだ。

そしてその目論見は上手くいっている。

『ああ、これ以上のノイズの発生を抑える為には、やはり、例の完全聖遺物を確保するか破壊するしかないようだな』

弦十郎の声だ。

『でも、今の二課じゃその聖遺物を納めるなんてことは出来ないし、綾女ちゃんにかかる負担のことを考えると、破壊するしかないんだけど、現状、破壊なんて出来ないのよねぇ・・・』

フィーネ、櫻井了子。

『もうちょい、綾女さんの使うあれが使えれば話が違ったんですけどねぇ・・・』

『これ以上、綾女の姉貴には負担を駆けられん。いざとなれば俺が出歯って・・・』

『綾女ちゃんの援護なしじゃノイズにやられておしまいでしょ?』

「ふむ、やはり聖遺物の回収こそがこの歴史改変の重要なポイントのようだね」

会話を聞き、ウォズはそう呟く。

「・・・回収させるのではなく、破壊すれば、未来は元に戻る・・・?」

「やることは決まったね」

ソウゴがうなずく。

「おそらくは回収出来たがなんらかの原因で破壊せざるを得なくなった、あるいは破壊されてしまったのだろう。だが今はタイムジャッカーが介入している以上、こちらで破壊した方がいいだろうね」

「よし、翼はお母さんを止めて、破壊は俺たちで請け負うよ」

「いいのか?」

「うん。任せて」

自信たっぷりに言ってみせるソウゴに、未来も同意する。

「いざって時は、私の神獣鏡でどうにかします」

その未来の後押しに、翼も頷く。

「分かった。お母様は私が止めてみせよう」

「頼んだよ」

 

 

 

 

 

 

 

一方、

「くそっ、まさかあんなに強ぇとは・・・」

体の各所に包帯を巻き、クリスは一人ごちる。

「マリア、大丈夫?」

「一晩休んだから、体はもう大丈夫よ。調や切歌の方こそ、怪我とかしてない?」

「それはもうバッチリ!」

ここはカインが用意した時空跳躍型飛行艇の内部。

響たちは、これに乗って過去の世界にやってきたのだ。

「完全聖遺物『ギャラルホルン』の破壊阻止・・・それこそが、歴史改変を阻止する唯一の手段か・・・」

『風鳴翼』が、渡された資料を読み上げる。

「ギャラルホルンの破壊・・・そんなことをすれば・・・!」

「ああ、アタシたちが平行世界でやってきたことが、全部なくなっちまう」

これまで、平行世界の数多くの問題を解決してきた彼女たちだ。

その根幹であるギャラルホルンを喪失することは即ち、今まで解決してきた事件が全てなかったことにされ、そのままにされてしまうということだ。

そんなことを許せる彼女たちではない。

が、そんな中で、切歌はじっと『風鳴翼』のことを見つめていた。

「・・・む、どうした?暁」

「え、ああ、いえ、なんでもないデスよ?」

切歌は首を振ってみせる。

「・・・実は、変な〇✕クイズを繰り出してくる敵と戦ったのよ」

「〇×クイズぅ?なんだそりゃ?」

「そうよね。だけど、そいつがそこにいる翼は偽物だとかいう問題を出してきたのよ」

「その答えは?」

「・・・そこにいる翼が偽物というのが、正解みたい」

「はあ!?」

これに食いついたのはクリスだった。

「ふざけんじゃねえ!誰だよそんなふざけた答えだしたのは!?」

「酷過ぎます!過去を変えると言っても、こっちの翼さんを偽物呼ばわりだなんて」

「私もそう思ったわ。ちゃんと検査して、こっちの翼が本物だってちゃんと証明されてるもの」

顔の形、皮膚表面の皺の並び、目の色や髪の繊維にDNA検査。その全てにおいて『風鳴翼』はクリアし、逆に向こうの翼は顔立ち以外は全てアウト。

もはや疑いようもない。

だが、その〇✕クイズを出されてから、どうにも違和感を拭えずにいた。

(奴らには、何かしらの必死さがあった・・・それに、言われてみてから、あの翼に、何か、決定的な違和感を感じてしまう・・・)

検査では全てクリアした翼。

泣き黒子だって、翼にはないものだ。

だというのに・・・

(この拭い去れない違和感は一体なんなの・・・?)

マリアはそう思わずにはいられなかった。

「でも、カインさん大丈夫かな・・・?」

「はあ?何がだよ?」

「私たちのお陰で準備が出来たって言ってたけど、一人で大丈夫なのかな・・・」

「さあな。それに、絶対に出るなって言われてるし、ついでに言えば、あの子取り戻すのは現代に帰ってからってことになったからな」

本来であれば、あの場面で未来を取り戻すはずだった。だが、相手は予想以上に強く、取り戻すどころかマリアがボコボコにされるという始末である。

「なんか実に気に障ることを言われた気がするのだけれど・・・!?」

なにはともあれ、カインに動くなと言われてる以上、彼女たちは動くことは出来ない。

「なんか変な時計持たされてるし・・・」

「これ、なんなんだろうね」

「翼の偽物がもってたものと似てるけど・・・」

彼女たちの手には、ブランクライドウォッチが握られていた。

それら全てはカインから渡されたものだ。

「持ってれば分かるって言ってたけど・・・」

「まあ、今は待つしかねえよな・・・」

ジオウの力を身をもって知っているクリスは、そう言わざるを得なかった。

カインの話では、自分に使った形態よりさらに上の形態が存在すると言われた。

最強の姿で来たならもはや勝ち目はないと言われた。

一体、どれほどの力なのだろうか。

「どちらにしろ、魔王如きの好きにはさせない」

『風鳴翼』が、そう呟く。

(そちらは頼んだぞ・・・)

その心の内を覆い隠して―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    何故、何故なのです・・・?

 

何故、あの女なのです。何故、私ではないのですか―――?

 

 

 

―――一人の女が、綾女と八紘とのやり取りを、恨めしそうに見ていた。

(あの人と共に育ってきたのは私なのに・・・あの人の苦しみを一番理解しているのは私なのに、何故、何故あの女に全てを奪われなければならないのですか・・・!?)

拳からは血が滲み、滴り落ちている。

(剣の腕だって、負けてなどいない・・・なのに何故、何故なのですか・・・何故、あの隼の女を迎え入れたのですか・・・!私こそが、貴方に相応しいのに・・・)

「そう、相応しいのは君だ」

突如、声が聞こえた。

「ッ!?」

振り返れば、そこには白い装束を纏った美しい男が立っていた。

「しかし、このままでは永遠にあの女から彼を奪う事は出来ない・・・もうすぐ襲来するノイズの大量発生によって、君は命を落とすからだ」

「そんな・・・!?」

一体何を言っているのかは、実は分かっていない。だが、この男の言っている事が真実なのであれば、自分は二度と、八紘に振り向いてはもらえなくなる。

しかし、

「何故、そんなことが貴方に・・・」

「それは、私が未来から来た人間だからだよ」

声は、後ろから聞こえた。

いつの間にか男は目の前からいなくなっており、振り向けば、いつの間にかそこに立っていた。

「ッ!?」

その手には、一つのウォッチが握られていた。

「君が、真実を変えてみろ」

掲げられる懐中時計。それを見つめ、女は、それをそっと受け取る。

そのウォッチが、女の手の中で輝き、やがて変化し、新たなアナザーライドウォッチを作り出す。

蒼き剣の意匠が刻まれたそれを、女は、妖しく光る眼で見つめ、男はほくそ笑んだ。

 

 

―――そしてその直後、ノイズ襲来の警報が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その警報は当然、道着から着替えた綾女の耳にも入っていた。

「ノイズか、場所は?」

『割かし広範囲だ!だけど、これを君一人でカバー仕切るのは無理がある!』

端末に示されたノイズの発生情報。確かに、広すぎて対応するには時間がかかる。

(天羽々斬の機動力でどこまで対応できるか・・・)

『姉貴!自衛隊がなんとか耐えてみせる!だから姉貴は全てのノイズを―――』

その時、綾女の脳裏に愛する娘と夫の姿が過る。

「・・・それでは間に合わん」

『姉貴・・・?』

「すまない弦十郎、私の我儘にしばし付き合ってくれ」

『姉貴!?』

綾女は玄関から外へ飛び出す―――その先に、ノイズの集団。

「ここまで来ていたか、だが、家族には一歩も触れさせんッ!」

腕のバングルのボタンを押し、RN式回天特機装束を発動させる。

黒い膜のようなものが綾女の体を包み込み、その身を戦う姿へと変化させる。

 

「変身」

 

『Start Up. Resonance-type Kaiten special equipment』

 

体にぴったりと張り付く戦闘服。それを走る青いラインが淡く輝けば、綾女の姿が掻き消え、ほぼ一瞬にしてノイズの軍団が炭となって消え失せる。

その手に持つ剣を握り締め、苛烈に、神速に、華麗に戦場を駆け抜ける。

やがて、風鳴邸を囲んでいたノイズの集団は全て消え、綾女はある場所へ一瞬にして駆け出した。

 

 

 

そこは、この街にある森林の奥。そこを進めば、少し開けた場所に出た。

狙いを悟られぬよう装束を解除し、端末も捨ててきた。GPSも使われることもない。

「この先に、『ギャラルホルン』が・・・」

しかし、その視界に、一つの影を捉えた。

その姿を見て、綾女は鋭くその影を睨みつけ、尋ねる。

「何しに来た?―――翼」

そこに立っていたのは、翼だった。

「お母様を止めに来た」

その問いかけに、翼はそう答えた。

「ギャラルホルンは回収させない・・・ッ!」

そう決意を露わに、翼はその腕に嵌めたバングルを構える。

「・・・」

その視線に、綾女は正面から受け止め、

「いいえ違うわ」

予想外の声を聞いて、綾女はそちらに視線を向けた。

そこからやってきたのは、一人の女中だった。長い黒い髪をそのままに、妖しい笑みでこちらを見ていた。

(誰だ・・・!?)

「お前は・・・(フクロウ)・・・!?」

女中―――『(ふくろう)水香(みずか)』は、得意気に語る。

「ノイズを吐き続けるギャラルホルンを破壊すれば今出現しているノイズは平行世界との繋がりを断たれ消滅し、家族や仲間、そして娘を守る・・・それが貴方のシナリオね」

「・・・」

「お母様は・・・ギャラルホルンの暴走を止めようとしていたのか・・・!?」

その事実に、翼は驚き、母を見た。

「私は未来を知ったわ。ギャラルホルンは回収される・・・私が歴史を変えるからね」

そうして取り出したのは、一個の懐中時計。

「それはまさか―――!?」

 

天羽々斬(アメノハバキリ)ィ…

 

アナザーライドウォッチが起動し、水香はそれを自らに埋め込んだ。

そして、瞬く間にその姿が闇に覆われ、翼の知る天羽々斬とはかけ離れた装束―――そして、母親そっくりの顔となった水香の姿を目撃した。

「私が貴方を殺し、二課にギャラルホルンを回収させる。そして、八紘様の隣を私のものにする・・・!」

綾女の顔で醜悪な笑みを浮かべる水香。

その野望を知った翼は、それを止めるべく、RN式を発動させようとする。

だが、その前に、綾女が口を開いた。

「残念だが、八紘の隣は誰にも渡さない。いいや、八紘の妻はこの私であり、あの娘の母親は私以外認めない。そうでなければ、あの娘は笑えない―――」

 

 

『―――最後に、あの日、翼の産んだ時。それまで、風鳴訃堂に敗れ、奴の娘を孕まされるという辱めを受け、何度も命を断とうと思った。だが、それは出来なかった。その時は自分すらも殺せなくなるほど腑抜けてしまったと絶望していた。だけど、その理由は、翼を産んだ時に分かったんだ』

 

 

「―――私の夢は、翼の歌で、私や翼―――皆が幸せになることだ」

 

 

 

『―――私が今日まで生きてきたのは、この娘を愛していたから。風鳴訃堂の娘ではない。風鳴綾女として―――お前の女として、この娘の母親として、『翼』を愛していたからだと』

 

 

「その為に、力が必要だった」

母親は、綾女は、娘である翼に語る。

「人を守り、想いを歌にして聞かせる―――『シンフォギア』の力が」

「だから、櫻井女史に協力していた・・・」

胸の奥が、じん、と熱くなるような気がした。

(そうか・・・そうだったんだ・・・)

母は、自分を愛してくれていた。

その為に、泥を被るようなことをしていた。

だから、フィーネに協力していたのだ。

「お母様・・・」

自然と、笑みが零れる。

その姿を一瞥し、綾女は水香の方を向き、バングルを起動した。

その身を纏う漆黒が、綾女の体に這いまわり、戦装束へと変化する。

 

『Start Up. Resonance-type Kaiten special equipment』

 

起動した、RN式天羽々斬を纏いつつ、綾女は叫ぶ。

 

「変身」

 

纏われる漆黒の衣装。その黒き衣と、腰の刀を抜き放ち、綾女は水香に向かって駆け抜ける。

「チィッ!」

それに水香は反応、同じく刀を抜き放っては綾女の振り下ろした刃を正面から迎え撃った。

 

激しく撃ち合う、綾女と水香。

 

鋭く速く、凄まじく。

激しい剣戟が繰り広げられる。

その最中で、綾女の着込む戦装束の青ラインが淡く発光したかと思えば、恐ろしい速さでその場を駆け抜け、水香に一撃を入れる。

「ぐぅっ!?」

綾女は、そのまま水香に追撃を入れる。

 

その様子を見て、翼は―――

 

『その為に、力が必要だったんだ』

 

思い起こされる母の言葉。

 

『人を守り、想いを歌にして聞かせる―――『シンフォギア』の力が』

 

その確かな意思を、翼は娘ながらに感じとっていた。

ならば自分がすべきことは何か。

目を閉じ、やがて意を決したかのようにバングルに手を添え、RN式を起動する。

 

「変身ッ!」

 

纏われる漆黒の衣装と共に、翼は駆け出す。

一方の綾女は、水香の反撃を受け、躱して地面を転がっていた。

そして起き上がった所で、水香が剣を突き立てようとこちらに飛び込んできていた。

その水香に向かって、翼が割り込んではその剣を弾き飛ばす。

「ッ!?」

「ハァァアア―――ッ!!」

そして、母に負けじと、激しい連撃を水香に浴びせていく。

その姿を、綾女は見つめる。

「・・・翼」

そして、そっと娘の名を呟いた。

 

 

 

 

 

そこから少し離れた所で、ソウゴたちはギャラルホルンが存在する場所へと向かっていた。

「ギャラルホルンさえ破壊出来れば、歴史改変は阻止出来る・・・」

ソウゴがそう呟いた。その時、ふと、時空が歪む感覚がした。

気配がする方を向けば、そこから、一人の男が歩いてきていた。

思わず身構える一同。だが、男は突如として視界から消える。否、全く別の場所からこちらに向かって歩いてきていた。

そしてまた、時間が飛んだかのようにその場から消える。

「な、何が・・・!?」

「タイムジャッカー!?」

「やはり来たか、魔王オーマジオウ」

いつの間にか、ツクヨミの背後に立っており、ツクヨミは慌てて飛び退く。

しかし、やはりそこには誰もおらず、気付けば少し離れた所に、男が立っていた。

「なんのことだ?」

「歴史を書き換えれば、必ずオーマジオウが介入し、歴史を元に戻そうとする・・・」

「それじゃあ、貴方が私たちの世界を・・・!」

「そうとも」

男は―――カインは笑顔でうなずいてみせる。

「君が持っているシンフォギアの力と、オーマジオウが受け継いだ全てのライダーの力・・・渡してもらおうか」

次の瞬間、ソウゴたちの体が、金縛りに―――否、時を止められたかのように動かなくなる。

未来は何が起きているのか理解すらできず、一方耐性のあるソウゴたちは何とか逃れようと藻掻く。

(・・・!?なんだこれ・・・!?)

だがその前に、カインはソウゴと未来、両方に触れると、その手から、二人の何かを吸い上げる。

「ぐ・・・・ぅぅう・・・!?」

ソウゴは苦悶に顔を歪め、未来は停止しているために身動ぎも出来ず、そのままある程度吸い上げられた所で、時間停止を解除する。

「ぐ・・・ぁ・・・」

「あれ・・・?」

そのまま、ソウゴと未来が倒れる。

「何が・・・」

「我が魔王・・・!」

「未来ちゃん、大丈夫・・・!?」

「あ・・・はい・・・あれ、クロ・・・?」

気付くと、クロが淡い光になって消えかけていた。

「待って・・・待って!クロ、クロ!・・・ああ!?」

そのまま、クロが目の前で消滅してしまう。

「そんな・・・どうして・・・!?」

「シンフォギアの力を奪われたから・・・!?」

「何故ライダーの力だけでなく、シンフォギアの力まで・・・!?」

「必要だからだよ。ライダーも、歌も。私が王に返り咲くためには必要不可欠なものだからだ」

「王・・・だって・・・?」

「そうだとも!」

ソウゴの問いかけに、カインは高らかに答える。

「私こそが、私の世界の王に相応しいのだ!」

 

神獣鏡(シェンショウジン)

 

新たに生み出されたアナザーライドウォッチ。そのウォッチから、巨大な龍が飛び出す。

「まさか・・・」

「私こそが、王なのだァァァアアア!!!」

叫ぶカイン。そして、その龍を吐き出したウォッチとは別のウォッチを取り出し、そのウォッチに龍を招き入れる。

そして形作られたそのウォッチの名は―――

 

シンフォギアァ!!!』

 

起動する―――『アナザーシンフォギアライドウォッチ』。

「シン・・・フォギア・・・!?」

驚く一同を他所に、それを体内に埋め込み、カインはその身を瞬く間の見たこともない化け物に変える。

肉体は女性―――しかし、その肌色は蒼く、顔は鉄仮面で覆われ、人とは思えないような衣装を身に纏い、そこに立っていた。

「なんなの・・・あのアナザーライダー・・・!?」

「あれをライダーと呼べるのか・・・!?」

「恐らくは仮面ライダーとシンフォギア、二つの力を掛け合わせて生み出されたアナザーライダー・・・いいや、あれこそが『アナザーシンフォギア』と名付けるべき存在だね」

ウォズの説明を他所に、カイン―――アナザーシンフォギアは叫ぶ。

「未だ未完成―――しかし、この姿こそが―――

 

 

―――私こそが、原点にして頂点、世界を統べる『王』である

 

 

「・・・・ツクヨミ、未来をつれてここから離れて」

「・・・分かったわ」

ツクヨミが、未だ回復していない未来を抱えてその場を離れる。

そして、ソウゴは目の前に立つアナザーシンフォギアを睨みつけ、叫ぶ。

「仮面ライダーに、原点も頂点もない。シンフォギアだって同じだッ!!」

そう叫び、ジクウドライバーを装着する。

 

ZI-O(ジオウ)!』

 

まず、ジオウライドウォッチを起動する。

 

ZI-O(ジオウ) TRI(トリ)N()ITY(ティ)!!』

 

続いて、更に大きなライドウォッチ『ジオウトリニティライドウォッチ』を起動させる。

それを、ジクウドライバーに装填し、ソウゴは構える。

そして、ジオウトリニティライドウォッチのつまみ部分『ユナイトリューザー』を手動で回転。

するとウォッチ部分から制御機構が外れる。

 

ZI-O(ジオウ)!』

 

まず初めにジオウの顔が、

 

GEIZ(ゲイツ)!』

 

次にゲイツ、

 

WOZ(ウォズ)!』

 

最後にウォズの顔まで現れた所で、全ての能力が解放される。

その状態で、ソウゴは構え、叫ぶ。

 

「「「変身ッ!!」」」

 

ソウゴだけでなく、ゲイツ、ウォズも叫ぶ。

そしてソウゴがジクウドライバーを回せば、どこからともなく、空から光が降り注ぎ、その光がゲイツとウォズの二人を瞬く間に変身させ、更にその身を巨大な腕時計のような形へと変身。その一方、ソウゴの方には三つのリングが周囲を回り、自らも変身。ジオウの姿のまま、その顔部分が胸に移動。それと同時に、巨大な腕時計となったゲイツとウォズが両肩に合体し、そしてその顔には、黄色、マゼンタ、緑の順で『ライダー』の文字が映し出される。

 

それこそは、どの歴史にも存在しなかった、三位一体の姿。

 

TRI(トリ)N()ITY(ティ) TIME(ターイム)!』

 

TRY FORCE(三つの力)KAMEN(仮面) RIDER(ライダー) ZI-O(ジオウ)!!《 GEIZ(ゲイツ) 》《 WOZ(ウォズ)TRI(トリ)N()ITY(ティ)―――!!!』

 

 

魔王、救世主、預言者―――三人が一つとなることで成される変身。

 

それこそが、『仮面ライダージオウトリニティ』。

 

まさしく、三位一体の変身である。

 

 

そのジオウトリニティが、ジカンザックスを構えてアナザーシンフォギアへと走り出す。

「もうすぐだ。もうすぐこの力は完成され、私は王へと返り咲くことが出来る・・・その邪魔を、魔王如きにさせてたまるものかぁぁあ!!」

アナザーシンフォギアの絶叫と共に、出現したのは無数の鏡。

そこから放たれる光線が、ジオウトリニティを撃ち抜かんとせまる。

「ッ!?」

ジオウトリニティはそれを跳び退いて躱すも、光は迫る。

その光をジカンザックスで迎え撃ち爆散させるも、その光の中から飛び込んできたアナザーシンフォギアの帯がジオウトリニティを打ち据える。

『『「ぐぅあ!?」』』

ジオウトリニティは、三つの意識が一つの体を動かし、その連携によって最大の力を発揮する。

しかしそれは、逆にダメージの共有をするのと同義であり、三人はその一撃をまとめて諸に受ける。

「トリニティが、圧倒される・・・!?」

『あれで完全じゃないだと!?』

苦戦の予感を感じながら、ジオウトリニティはアナザーシンフォギアとの戦いに投じる。

 

 

 

 

 

その一方で、二人がかりでアナザー天羽々斬を纏っている水香を追い詰める翼と綾女。

「がはっ!?」

翼の一撃で弾き飛ばされる水香。

「こんなはずでは・・・!」

「もうやめろ水香。私にお前を殺させないでくれ」

剣を向け、綾女は水香にそう告げる。

「そうはいかない・・・私こそが、八紘様に相応しいの・・・だから、こんな所で挫けるわけにはいかないのよ・・・!」

立ち上がり、綾女に斬りかかる水香。

「そうか・・・残念だ」

それを見て、綾女は刀を納める。

「あぁぁあああああ!!!」

絶叫し、両手でもった刀を振りかざして迫る水香。

それに対して、綾女は虎視眈々と腰をかがめ、その身に走る青いラインを淡く発光させる。

そして、刀の柄に手を添え、構え、水香が射程に入るのを待ち構える。

 

水香が射程に足を踏み入れる―――その瞬間、綾女の抜刀が、水香の腹を斬り裂く。

 

閃迅

 

「あ―――がぁッ・・・!?」

舞う血飛沫、

「あ・・・」

その様子を、翼は茫然と見る事しか出来ず、その翼が認識する前に、綾女の後ろ回し蹴りが、水香の腹を穿つ。

「ぎゃぁぁあぁあああ!?」

蹴り飛ばされ、森の中へと消える水香。

バキバキと、すぐ傍の崖を転がり落ちていく音が聞こえる。

「・・・」

その様子を、翼はただ茫然と眺める。

「・・・すまない、水香」

その水香を見て、綾女は、静かにそう呟いた。

そして、踵を返して歩き出す。

その後を、翼も追った。

 

 

 

 

 

そこは、その山にある洞窟の中だった。

その洞窟を突き進んでいくと、その行き止まりの場所に、『それ』はあった。

「ギャラルホルン・・・!」

巨大な貝のような、巨大な聖遺物。見て分かる通りの起動状態だ。

それが証拠に、けたたましく警報のようなものを鳴らしていた。

これは、本来であればどこか別の世界で異常が起きている事を知らせる為のものだが、今はただ、壊されたくないと泣き喚いているようだった。

これが、この事件の全ての元凶。

「そこで見ていろ」

綾女が、翼に下がるように言い聞かせる。

そして一歩、ギャラルホルンに近付くと、そっと息を吸った。

(大丈夫、譜面は全て、覚えてきた)

脳裏に刻んだ一曲を、誠心誠意込めて歌う。

 

「――――Gatrandis babel ziggurat edenal――――」

 

その歌に、翼は驚愕する。

「それは・・・絶唱!?」

その歌詞は、間違いなく、シンフォギアの最終決戦機構『絶唱』のものだった。

己の全てを燃やし尽くすことによってなされる大火力。それを特定の歌によって発動させることが出来る。

(絶唱も、お母様が作ったものだったのか・・・!?)

だが、それは、それは危険過ぎる。

己の全てを燃やすという事は命を燃やすという事。そして、それは、自ら死を選ぶという事でもある。

まだシンフォギアすらも確立されていない、その前身であるプロトタイプでは、その負荷をどれほど軽減できるかどうか分からない。

もしかすれば、あの時の奏のように、跡形もなく消滅してしまうかもしれない。

それは、まさしく、死ぬこと。

「お母様、それは―――!」

死ぬ。そう思い、翼は思い出した。

(そういえば、お母様が死んだのも、ノイズの大量発生の後だった―――)

死体すら見せてもらえず、ただ、病気で死んだと伝えられていたことを思い出す。

詳しい理由も説明させてもらえず、ただ、母は死んだのだと伝えられた。

「ここで、命を全部使い果たして・・・」

翼は、背筋が凍り付くような感覚を覚えた。

もしそうであるならば、止めなければならない。

だけど、止めてしまえば、歴史は元には戻らない。

戦兎とも、会うことが出来ない。

「っ―――!!」

そんな板挟みの状態に陥る翼。

その間にも、綾女は絶唱を歌い続ける。

その体を走る青いラインが、限界まで光り輝き、命の輝きを見せる。

そして、その光が、頂点に達した時―――天井が崩れた。

「「ッ!?」」

落ちてくる瓦礫を、綾女と翼は躱す。

「なんだ!?」

「これは・・・」

驚く翼と、状況を確認しようとする綾女。

果たして、そこにいたのは―――アナザーシンフォギアだった。

「ギャラルホルンは破壊させないよ。これは各世界の衝突を避けるために作ったものだ。まあ、よほどのことがない限り二つの平行世界が接近することはないのだけれど、これがなければビルドの世界とこの世界は融合してしまう・・・それだけは避けねばならない」

アナザーシンフォギアは、二人を交互に見る。まるで品定めをするかのようだ。

「ふむ・・・」

そして、一つ呟くと、

「ではこうしよう」

次の瞬間、アナザーシンフォギアは綾女に向かって突撃し始める。

「ッ!?お母様!」

翼が叫ぶよりも前に綾女は迎撃の姿勢を取る。

だが、綾女の攻撃はかわされ、その手を顔の前に掲げられる。

「ッ!?」

「私の僕になってもらおうか」

次の瞬間、赤い光が迸り、綾女に何かをし始めるアナザーシンフォギア。

「ぐあぁぁぁあぁあ!?」

「お母様!」

翼はすぐさま母を助けるべく駆け出す。

しかし、それよりも早く、アナザーシンフォギアは綾女から手を離すと、そっと耳元で呟く。

「やれ」

たった、一言。それだけを告げた瞬間、綾女の目は、翼を捉えた。

 

風鳴り一閃、刃が、翼の首に迫った。

 

「・・・お母様?」

どうにか受け止めた翼は、それでも信じられないとでもいうかのように、綾女を見ていた。

しかし綾女は、その瞳に妖しい影を仄めかせて、呟く。

「―――王の意思のままに」

そう呟いた瞬間、綾女が翼に向かって凄まじい連撃を放つ。

「おかっさま・・・まっ・・・!?」

鋭い蹴りが、翼の腹に突き刺さる。

「お・・・ごぁ・・・!?」

その衝撃に思わず膝を付き、翼は、綾女の顔を見上げた。

 

もうそこに、愛する母の優しい眼差しは、なかった。

 

翼が綾女に蹂躙されているさまを、アナザーシンフォギアは面白そうに見ていた。

「悲劇なものだよ。実の母娘が相争う姿は・・・」

一方的にやられる翼。母である綾女を攻撃出来ないとは言え、その実力差は一目瞭然だった。

「さて、私もやらねばならないことをしなければな」

そうして視線を向ける先にいたのは―――未来だった。

「くっ・・・ぅ・・・!」

力を抜かれて未だ立ち上がれないのか、せめてもの抵抗としてアナザーシンフォギアを睨みつける未来。

「威勢のいいことだ。親友の所に帰りたくないのかい?」

「ど・・・の・・・口が・・・いって・・・!」

「話し合いの余地なしか・・・仕方がない」

そう言って、アナザーシンフォギアは手をかざす。

すると、どこからともなくノイズが現れ、倒れ伏す未来を一気に縛り上げる。

「ッ!?」

「心配はいらない。そのノイズは特別性でね。いわゆる分解器官をもたないアルカノイズと思ってくれ」

身動きの取れない未来に、アナザーシンフォギアは手をかざす。

「何、本来の時間軸の君に戻すだけさ。これは洗脳じゃあないからね」

「っ・・・!?」

そうして、赤い光が漏れた時―――

「させるか!」

「っ!?」

その背後からジオウ、ツクヨミの乗るタイムマジーン、ゲイツの乗るタイムマジーンが強襲してくる。

「やれやれ、君も大概しつこいね」

襲い掛かってくるジオウたちに、アナザーシンフォギアは降りかかる火の粉を払うかのように迎え撃つ。

 

 

「あぁぁあ!?」

そして翼の方は、全身に切り傷を作り、激しく呼吸をし、刀の切っ先をだらりと落としていた。

「おかあ・・・さま・・・!」

容赦なく降りぬかれる綾女の剣。

その剣戟を、翼はどうにか防ぎ、そして背後に回って拘束するように腕を回す。

「お願いですっ、正気に戻って・・・!」

だが、その拘束はいとも容易く振りほどかれ、素早く綾女の拳が翼に叩き込まれる。

(これは―――っ!?)

緒川流に似ている。だが、違う攻撃。

似ているようで違う攻撃に、翼は成す術なく殴られ続ける。

何もかも、容赦なく。それでも翼は、せめてもの抵抗として綾女の拳を躱して懐に踏み込んで、その腹に体当たりをかます。そして地面を転がって、仰向けになった綾女を抑え込むようにマウントを取る。

「お願いです・・・私は、お母様にも幸せでいて欲しいんです・・・お母様・・・!」

だが、その呼び掛けはむなしく届かず、綾女の振りぬかれた拳が翼の鼻っ面を叩き、ひるんだ所で上下が逆転する。

そして、その上から刀を押し付けようとする綾女が、翼に向かってこう告げる。

 

「―――私を超えない限り、お前が夢を叶える事は出来ない」

 

その言葉を告げ、綾女は容赦なくその刃を翼の右肩に突き刺した。

「あ―――」

痛みは―――ない。あまりにも綺麗に差し込まれ、神経を傷つけなかったのだ。

だが、そこから動かされれば話は別だ。

「ぐ―――ぁぁあ・・・!?」

焼けるような痛みが、後から押し寄せる。

綾女が刀を動かし、翼が自然にそれから逃れようと立ち上がらされる。

そして、翼が立った所で、刀が引き抜かれ、左肩から右肩に掛けて、刃が振り下ろされた。

「あぁぁあ!?」

物理保護のお陰で致命傷には至らない。だが、ダメージは本物。激痛と衝撃が同時に襲い、翼を吹き飛ばす。

そして、RN式が解除され、翼は地面に倒れ伏す。

「う・・・くぁ・・・」

痛みが、絶望が、恐怖が、翼を支配する。

迫る母。その手には、自分の血で濡れた刀。

自分はまともに動くことが出来ない。

 

 

と、そこへ、

「鬱陶しい」

「なっ―――ぐあぁあ!?」

ゲイツのタイムマジーンが吹き飛ばされ、その中からゲイツが飛び出す。

「ぐっ・・・なんて規格外―――ん?」

ゲイツが、翼に近寄る綾女を発見する。そして、ただならぬ雰囲気を感じ、ゲイツはすぐさまアナザーシンフォギアから綾女にターゲットを切り替え、その綾女に不意打ち気味に飛び蹴りを食らわす。

奇跡的に綾女への蹴りが決まり弾き飛ばすことに成功。

「大丈夫か!?」

「明光院・・・」

ボロボロの状態で、翼はゲイツを見上げる。

「くっ、どうにかして、あの聖遺物を破壊出来れば―――」

 

「それは困る」

 

「なっ―――ぐあぁああ!?」

突如としてゲイツが吹き飛ばされる。

「明光院!?」

「誰かと思えば、未来から来た綾女の娘ではないか」

聞き覚えのある声、それに翼は顔を上げる。

そこにいたのは―――櫻井了子(フィーネ)だった。

茶髪ではない。彼女本来の金の砂のように輝く金髪の状態でだ。

「天羽々斬の反応がここにあるからまさかと思ってきてみれば、とんだ茶番が繰り広げられているではないか」

「フィ・・・ネェエ・・・ッ!!」

翼はどうにか立ち上がろうと腕に力を込める。

その一方で、立ち上がったゲイツは―――

「・・・潮時か・・・ッ」

悔しそうに声を漏らす。

「ソウゴ!逃げるぞ!」

「くっ」

ゲイツの言葉に、ジオウは一瞬そちらを見るも、すぐに頷く。その一瞬に躊躇いを見せるも。

そしてすぐさまゲイツが降りたタイムマジーンに乗り込むと瞬時に再起動。起き上がる。

「待て、何をして―――」

「この時代はもうダメだ」

ゲイツがジカンザックスで了子を牽制しつつ、翼にそういう。

「な、何を言って・・・」

「・・・ギャラルホルンが回収された」

「なッ・・・!?」

いきなりのこと、理解が追いつかなかった。

回収された?いつ、どこで―――

「回収したのは二課じゃない、奴だ!」

見れば、ギャラルホルンは忽然と消えており、どこにもなかった。

「フィーネ嬢、安心してください。この聖遺物はあなた達二課に寄贈しましょう」

「気前がいいな。お前、見ない顔だが、一体いつの時代だ?」

「私はどこの時代のものでもない・・・強いていうなれば、平行世界の人間でしょうか」

「ほう・・・」

フィーネが興味深そうに、アナザーシンフォギアを見る。

「ッ・・・・」

翼は、思わず綾女の方を見る。

既に立ち上がっている綾女が、こちらに向かって歩いてきていた。

その瞳には、やはり―――

「く―――ぅぅ―――」

歯を食いしばり、翼は、それでも腕に力を込める。

「まだ、小日向が・・・」

まだ、未来は捕まったままだ。せめて、彼女を助けるだけでも―――

「行ってください・・・」

その時、未来の声が聞こえた。

「小日向・・・」

「お願いです・・・私のことはいいですから・・・」

「何を言っている!?」

その時、未来が微笑んだのを、翼は見た。

「未来を・・・みんなを、取り戻してください・・・翼さん・・・」

その、笑顔に、翼は、理解した。

 

 

これは―――敗北だ。

 

 

自分たちは、負けたのだ。

「う―――ぁぁあ―――」

母を、仲間を、大切な人も、全部奪われた。

何もかも、奪われた。その事実を、拒絶するかのように。

 

「―――うわぁぁああああぁああぁぁああぁあああああああッッッ!!!」

 

絶叫して走り出し、タイムマジーンに乗り込んだ。

そして、翼たちは時空を超え―――逃げた。

「ふむ、逃げたか・・・ではフィーネ嬢」

するり、と穴が出現し、そこからギャラルホルンがずしん、と落ちてきた。

「これはお渡ししましょう。残念ながら多くを語れない身でしてね。では」

「おい、待て―――」

フィーネが引き止める前に、アナザーシンフォギアは未来を抱えたままその場を移動する。

「チッ、逃がしたか・・・・ん?」

フィーネは、虚空を見上げる綾女を見つける。

「・・・翼」

娘が消えていった虚空を、綾女はいつまでも見続けていた。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

「惨敗・・・としか言いようがないね」

カインに敗北した翼たち。

「ああ、愛されている」

その最中でも開催される『風鳴翼』のコンサート。

「―――素晴らしいな」

そこへ、単身乗り込んできたのは―――

次回『それでも私は』

「・・・なんか違う気がする」



少し時間もらうかもしれません・・・(次回が書き終わってなくてこのままのペースだと来週にまで間に合わないかも・・・




翼「先週のマリアは一体なんだったんだ・・・ん?マリアの部屋が開いている・・・?」
マ「―――ッ!―――っ、―――!!?」
翼「なんだ、悲鳴k」

カット編集

翼「・・・」
ク「ん?おーいせんぱーい!どうしたんだそんなふらふらして・・・」
翼「ゆきね・・・」
ク「ん?なんだよ?」
翼「お前は女と貝を合わせた事はあるか?」
ク「は?貝を合わせる?何言ってんだ?」
翼「そうか、それならいい・・・頼むからそのままでいてくれ・・・お前だけは万丈と添い遂げてくれ・・・」
ク「お、おう・・・」


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それでも私は

ウォ「この本によれば、世界的トップアーティストたる風鳴翼は、仮面ライダービルドこと桐生戦兎と共に、ノイズ、錬金術師などと戦う運命にあった」
響「いよいよクライマックスですね~。あ、翼さん、お誕生日おめでとうございます!」
翼「ああ、ありがとう・・・」
響「あれ?なんでそんなにテンション低いんですか?」
翼「いや、せめて、リアルタイムで戦兎に祝って欲しかった・・・」
ク「仕方ねえだろ、毎週土曜夜零時更新がこの小説の鉄則なんだからよ。これ崩すと途端に更新できなくなるんだと」
マ「徹底したスパンを組むことで更新頻度を安定させる・・・そうでもしないともたないのよウチの作者は」
調「あ、マリアやっとまともに登場した」
マ「確かに今までの私はまともじゃなかったわ・・・」
ソ「まあまあいいじゃない。そろそろ物語もクライマックスに近付いてきたんだしさ」
ゲ「まあ色々と大変なことになってはいるが・・・」
切「ブライアンが出ないのデェス・・・」
ツク「いつまで引きずってんのよ・・・」
翼「いい加減にしろ」アテミ
切「げぺっ」
ウォ「やれやれ・・・今日も今日とて騒がしい連中だね」
ソ「ま、それがこの小説ってことで、シンフォギア・ビルド オリジン・ザ・天羽々斬第六話を!」
翼「どうぞ楽しんでいってくれ!」


カインの時空跳躍艇にて―――

 

「未来!」

カインが連れ帰ってきた未来の姿を見て、響は声を挙げた。

カインの腕に抱えられた未来は、気絶しているのかぐったりしている。

「君たちの尽力のお陰で、歴史は無事守られた。さあ、未来に戻ろう」

「どうやったんだよ?」

クリスが訝し気に応える。

「それは帰りの道中に。残念ながらのんびりしている余裕はない。魔王たちはこの時代での歴史改変を諦め、未来へと戻った」

「そんな・・・!」

「迎え撃つためにも、まずは戻らなければならないというわけね」

「その通りだ」

未来をベッドの上に乗せ、カインは操舵室に向かう。

「未来・・・」

未だ目覚めない未来を見つめる響。その一方で、カインは彼女らに背中を向けたまま、操舵室へと向かった。

そして、『風鳴翼』は、そっと心の奥でほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

未来への帰還。それにより、どうにか難を逃れた一同だったが、アナザーシンフォギアの力は強大であり、翼自身は綾女との戦闘で満身創痍だった。

「惨敗・・・としか言いようがないね」

ウォズもまた、そう呟く。

「だけど、完全に負けたわけじゃないよ」

ソウゴが立ち上がってそう言う。

「まだ奴の暴挙を止める事は出来るからな。せめてそれぐらいはやっておかないと」

「そうね・・・」

翼への応急処置が終わり、ツクヨミもゲイツの言葉に賛同する。

「だが問題は、奴の次の手だ。過去の歴史改変を阻止できなかった以上、我々には奴らの動向を知る術はない」

「・・・・」

ふと、翼は視線を横に向ける。

そこにあったのは、一枚のポスター。

(ああ、そうか・・・コンサート、明日だったな・・・)

もうすぐ行われる、風鳴翼のコンサート。

ある意味、日本にいるファンに向けて感謝を伝えるためのものだ。

無論、響たちも見にやってくる。

(まだ中止の知らせは出ていない・・・)

スマホを見て、翼は一人そう思う。

この知らせを見ても、もはやこの心には虚しく響くだけだった。

(一体、どうすれば・・・)

何もかもを失って、今自分に残っているものは、手首にあるRN式天羽々斬のみ。

(仲間も失い、想い人も失い、挙句の果てには夢まで奪われる・・・これほどまでに、屈辱的なことがあろうか・・・)

拳を握り締め、翼は、泣き顔を隠すように顔を壁に押し付ける。

眼の奥が、悔しさに熱くなるのが分かる。

だが、こうしていても、何か思いつくわけでもなく、もう一度、自分の目に焼き付けるようにそのポスターを見つめる。

「・・・あ」

そこで、翼はふと、あることを思い出した。

(これであれば・・・いや、危険が大きすぎる・・・だけど、今の私にはこれしかない。これしか・・・ないのだ・・・)

そっと、決意を固め、翼は、ソウゴ達の方を見た。

「聞いてくれ―――」

 

 

 

 

 

 

 

翌日、『風鳴翼』によるコンサートは、予定通り開かれていた。

多くの観客が彼女の歌に熱狂し、歓声を上げる。

その中には、響たちの姿もあった。

「くぅ~、やっぱり翼さんのコンサートは生で見るに限るよ~!」

「相っ変わらずのテンションだなぁお前」

「当然だよ~。だって久々の生のライブなんだよ?テンションも上がるよ~」

「響は調子に乗り過ぎだよ」

響のハイテンションを諫める未来。

しかし、その表情はどこか不安げだった。

「どうかしたんですか?」

そんな未来の様子に気付いて、調が声を掛けてくる。

「え、ああ、ごめんね。なんでもないんだよ?」

「まだ気にしてるんですか?それほど気にする事じゃないと思うんですけど・・・」

目覚めた後の未来は、それまでの事を覚えていなかった。

響やS.O.N.G.と戦った事や、魔王と名乗る一行と翼の偽物と一緒に行動していた事など、その全てを覚えていなかった。

一応、元々の記憶は保持しており、どちらかと言えば、本来の『小日向未来』に戻ったという感じであった。

だが、未来本人は、言い知れぬ違和感を体に感じていた。

(なんだろう・・・今ある世界が本物だって分かってるはずなのに、心のどこかで自分の世界じゃないって思ってしまう・・・)

手の中の言い知れぬ違和感。それを未来はどうしても否定できなかった。

しかし、そう考えてるうちに、歓声がコンサートドームの中を叩いた。

 

二階建ての円形ホール。入場ゲートから一本道に続き、その中心に存在するステージの上に、『風鳴翼』は立っていた。

 

笑顔で歌い切り、そして声援を送ってくれた観客に、『風鳴翼』は手を振って答えてみせる。

 

その姿に、未来は言い知れぬ違和感を感じる。

 

(あれは確かに翼さんだ。だけど、なんでだろう・・・あの人にはどこか、小さな綻びを感じる・・・)

それは、本来の翼には持ち合わせない、小さな隙間というか、なんというか。

とにもかくにも今の未来にはそれぐらいの違和感しか感じなかった。

 

 

そして、件の『風鳴翼』本人は―――

 

(ああ、()()()()()()

周りから受ける歓声に、感動していた。

(私は今、愛されてる・・・他の誰でもない。この私が、愛されているんだ。あの女じゃない。()()()でもない。この私が今、愛されてる・・・)

感動のあまり涙を流し、『風鳴翼』は今ある現実に酔いしれる。

(もうだれにも邪魔はさせない。これは私が掴み取った幸福だ。誰にも渡さない・・・もう、あんな記憶とは隔絶した人生を送るんだ・・・!)

 

ただただ火箸で殴られる―――そんな人生は、もう―――

 

 

 

その時だった。

 

 

 

バァンッ!!!と、会場の扉が、まるでこちらを見ろと言わんばかりに勢いよく開かれた。

 

その通りに、会場中の視線が、その扉へと集まる。

そして、その扉の前に立っていたのは――――翼だった。

「お前は・・・!?」

『風鳴翼』は、驚愕する。

何故、奴がここにいる。

『風鳴翼』は一気に混乱した。

 

この衆人環視の中、こうも堂々と現れるとは思ってもみなかったからだ。

 

だが、それでも事実は変わらない。

風鳴翼は、確かにこのコンサートホールに姿を現した。

 

「あいつっ!!」

その姿を見たクリスは、すぐさま首にひっさげたペンダントを握り締めて駆け出そうとする。

「待ちなさいクリス!ここでシンフォギアを纏うつもり!?」

「でもアイツが今から暴れ出したら・・・」

「分かってるわ。隙を見て、誰かに襲い掛かる前に止める」

マリアの指示で、装者一同がうなずく。

(一体、何を考えてるの・・・?)

そして、このコンサートホールに現れた翼の事を、マリアは不気味気に見た。

 

 

会場がざわついているのが、肌でわかる。

 

『え?あれ風鳴翼よね?』

『二人!?なんで!?』

『双子・・・?』

『コスプレとか・・・?』

 

様々な言葉が、観客たちの間で飛び交う。

しかし、今はそんな事はどうでも良い。

もしかすると、今日が私の―――風鳴翼の『命日』になるかもしれないのだから。

 

(いや、今日こそが、『私』という存在の最後かもしれん・・・)

 

だけど、それでもいい。

 

 

歌は、『風鳴翼』じゃなくても歌える。

 

 

「―――素晴らしいな」

果てしない程の称賛の意を込めて、翼は『翼』にそう言ってみせた。

「お前の歌で、こんなにも多くの人間が熱狂し、歓喜し、湧いている―――まさしく『風鳴翼』の歌によるものだ」

人々が静まり、翼が歩めば、烏合の衆は瞬く間に道を開けていく。

「きっとお前は、これから先も、そんな歌で、多くの人々に希望を与え、夢を与え、そしてそれに向かって奮い立たせていくんだろう」

それは、響たちの知る、偽物の翼からはかけ離れた表情だった。

偽物は、卑しく、ずる賢く、本物の風鳴翼の名誉を踏み躙った人物だ。

だから、許せる筈がない。それほどまでに、相手は悪い奴だ。

だから――――

 

「そうであるならば―――私は『風鳴翼』を譲ってやってもいいと思う」

 

その言葉で、その前提の全てが覆った。

「なん・・・だとっ・・・」

「お前が歌にかける思い・・・それは自分の為であっても、誰かを勇気づけられているのなら、それは『風鳴翼』として本物だ。そうであるならば、私は『風鳴翼』をやめよう」

穏やかで、しかし少し寂しそうな笑顔で、翼は『翼』を見上げた。

「ただ、最後に、私の想いをお前に聞いてほしい。これだけは、誰にも譲れない」

ゆっくりと歩みを進め、翼は、ステージの上に立つ『翼』のすぐ前に立って、見上げた。

 

「私のお母様は、私の歌で、お母様や私―――皆が幸せになることを望んだ」

 

一つ告げて、一息間をおいて、翼は言い放つ。

 

「私の夢は、私の歌で、世界中の人々が幸せになれる世界を創ることだ。誰もが夢を叶え、誰もが希望をもって生きられる―――その夢を叶える為に戦う」

 

すっと、『翼』を見つめ、翼は言い放つ。

 

「それが私のシンフォギア―――シンフォギア天羽々斬だ!」

 

そう高らかに言い放つ。

それが、翼が天羽々斬に込めた想い―――翼と、翼の母綾女が、一番最初のシンフォギアに込めた想い。

翼は、その想いを言い放った。

その気迫に『翼』は気圧された。

「っ・・・!?」

「この想いだけは譲れない―――お前はどうだ?『風鳴翼』」

その問いかけに、『翼』は思わず黙ってしまう。

何も言い返せない。その事実が、『翼』に突きつけられている。

「先輩・・・?」

その様子に、クリスたちも思わず怪訝そうな顔になる。

(私は―――)

 

「皆さん、聞きましたか?」

 

その時、『翼』の隣から、そんな声が聞こえた。

向けば、そこにいたのは、なんとカインであった。

「彼女は今『夢』と語りました。なんと、身の程知らずな事を口走るのでしょうね。なにせ彼女は今巷でヤクザ殺しをしている犯人なのですからね」

カインの発言に、場は一気に騒然とし出す。

「そんな彼女が『夢』を語るなど・・・浅ましいと思いませんか?」

そう告げるカイン。その言葉に、会場は自然と彼の意見に同意するようになる。

「一体何を言ってるの・・・?」

その最中で、マリアだけは彼を疑問視していた。

理由は単純に、何故あの場に立ち、突然現れた風鳴翼を名乗る女に事件の真犯人だと告げ、場を混乱させている。

別段、彼女の排除するなら、このような手段をとる必要もないし、事件のことだって、一般人である観客にはどうでもいいことだ。

それなのに、何故情報を勝手に明かしたのか。

「彼は、一体―――」

「・・・随分と、余裕そうだな」

その最中で、翼はカインを睨みつけていた。

「まさしくその通りだよ。殺人者君」

「もはやその事については、追及も否定もしない。・・・だが、これだけははっきりさせておく」

そして、翼は彼の正体を言った。

 

「・・・・お前はソロモン王だな」

 

その言葉に、装者たちは頭をハンマーでぶん殴られたが如き衝撃を受けた。

 

「な、なんだとっ!?」

「ソロモンって・・・」

「え、そんな、それじゃあ、カインさんは・・・!?」

 

 

ソロモン王―――

『ソロモンの杖』の所有者であり、かつて神の怒りに触れた父ダビデと母バド・シェバの間に生まれた第二子。

神から知恵を授けられたとされており、古代イスラエルを最盛期に招き、また堕落した王と蔑まれた人物―――。

 

 

翼は、今、そう言ったのか。

 

「お前は言ったな。ギャラルホルンを作ったと。であればギャラルホルンに関係したこの一連の事件を引き起こすことも可能だ。そして何より、お前はノイズを操ってみせていた。そんな事ができるのは、ノイズを作った張本人ぐらいだ。かつてこの東京の街をノイズの恐怖に陥れた『ソロモンの杖』その名を冠しているのなら、それも可能だろう」

 

 

 

それは、翼が一通りの作戦を話した後の事だった。

「ふむ・・・君は本当にそれでいいのかい?」

「ああ・・・もはや過去は変えられないというのなら、私は別の方法で人々に希望を見出す。戦兎がいなくても、彼の紡いだ『愛と平和』だけは、私の心に残っているから」

翼の寂しそうな笑顔に、ウォズは分かったと頷く。

「・・・・」

そんな中で、ソウゴはふと、考え込むように俯いていた。

「・・・ソウゴ?どうしたの?」

そんなソウゴの様子にツクヨミが気付く。

「・・・なんか違う気がする」

突然、こんな事を言い出すソウゴ。

「え?」

「あの男・・・たぶん、タイムジャッカーじゃないよ」

「何言ってんだお前は」

突拍子もない発言に、一同は思わず首を傾げる。

「お前も見ただろ?奴がアナザーライドウォッチを持っていた所を。その上時間まで操っていた。もはや疑う余地もない」

「だけど、ツクヨミやアイツらの時間停止とはなんか違うんだよね・・・なんだろ?()()()()()()()()みたいな感じだったし・・・」

実を言えば、ソウゴのこういう勘は馬鹿にすることが出来ない。

 

なんかいけそうな気がする、と呟けば、大体どうにかなってしまうし、逆になんか違う気がする、と言えば、その通りになる。

 

このソウゴの直感は、まさしく王としての素質の一部なのかもしれない。

故に、彼を知る者たちはソウゴのその勘をバカにできない。

「ふむ、それならば奴の攻略に繋がるかもしれない・・・」

「問題はその正体だろ?それが分からなければ攻略など見つからんだろ?」

「そうよねぇ・・・」

などと、口々に言い合う中で、翼はふと考える。

(言われてみれば、こちらの世界のものである筈のノイズを、奴は操ってみせていた・・・ノイズは確か、人が人を殺す為に作った兵器だと、フィーネが・・・)

それを、思い出した瞬間、翼は、ある可能性が脳裏を駆け抜けた。

(まさかっ!?いや、でも・・・そんな事があり得るのか・・・!?)

到底信じられない。だけど、その方が一番、信じられる可能性だった。

 

 

 

 

「ククク・・・フハハハハ!!!」

その翼の指摘に、カインは高笑いをする。

「クク、私がソロモンだと?何をバカな」

「ならば何故、ノイズを操れた?」

「さあ、なんでだろうな―――おや?」

ふと、カインが首を傾げた瞬間、会場中を埋め尽くさんばかりのノイズが瞬く間に現れる。

「ッ!?」

次の瞬間、会場のいる観客たちが一気にパニックに陥る。

「貴様ッ!!」

「おやおや、何を怒っているのかね?偶然ギャラルホルンからノイズがここに現れてもおかしくはないだろう?」

「なんだとッ!?」

カインが、『翼』から離れていく。

「では、君の最後の戦い、楽しみたまえ」

「待てッ!!」

「きゃぁあぁあ!!」

悲鳴が聞こえ、追いかけようとした翼の足を止める。

見れば、ノイズはすぐにでも観客たちに襲い掛かろうとしていた。

(こいつらはギャラルホルンから現れたノイズじゃないっ・・・追いかけるのは後だ!)

優先すべきはどちらか。そんなことは翼にとっては愚問だ。

 

 

『一撃カマーンッ!!!』

 

 

次の瞬間、出現していたほぼ全てのノイズが、突如として纏めて消し飛んだ。

舞い上がる爆風に、翼は思わず顔を庇い、そして、そんな芸当をしてみせた者の名を呟く。

「ウォズか・・・!」

そこに立っていたのは、変身した仮面ライダーウォズであった。

その手には鎌のような武器を携え、そしてその装束は、手裏剣をかたどったような追加装甲が取り付けられ、首にはマフラーのような紫色の布が巻かれていた。

 

それこそは、忍法を使う未来のライダー『仮面ライダーシノビ』の力を司る姿。

 

その名も『仮面ライダーウォズ フューチャーリングシノビ』である。

 

「やあ翼君、一応奴のおびき出しには成功したね」

「ここを任せてもいいか?」

「お安い御用だとも」

ウォズはそう答えると、新たに出現したノイズに対してすぐさま飛び込む。

それを見ると、翼は戸惑う観客たちに向かって叫ぶ。

「皆さん!落ち着いて避難してください!大丈夫です、彼が―――仮面ライダーが守ってくれますから!」

翼は、そう叫びながら、避難誘導を始める。

 

 

 

 

 

 

一方、S.O.N.G.本部では。

「ノイズ、増加止まりません!」

「今はどうにか、アイツのお陰で抑えきれてますが、このままでは・・・」

「構わん!すぐに装者たちを向かわせろ!」

突然の騒動にS.O.N.G.はまさしくお祭り騒ぎだった。

無論、地獄絵図の方で、だが。

さらに言えば、職員たちの動きも鈍い。

(彼女の演説に、皆少なからず動揺している・・・)

そんな空気を、弦十郎は肌で感じていた。

何よりも弦十郎自身が、その事を感じているからだ。

(どうしても思ってしまった・・・彼女が『本物』ではないか、と・・・であれば、俺たちは翼に、一体どれほどの仕打ちをしてしまったのか・・・ッ!!)

血が滲む程に拳を握り締める弦十郎。だが、そんな彼にさらなる衝撃が叩きつけられる。

「っ!?せ、潜水艦内に、侵入者ありっ!・・・ゲイツとツクヨミですっ!」

「なんだとォ!?」

モニターに映し出される映像には、並み居る警備員を倒して進むゲイツとツクヨミの姿があった。

「そんな、通信機がないと入れないようにしているのに・・・」

「いや・・・翼が通信機を奪われたと言っていた。おそらくそれで・・・」

「・・・翼って、どっちの翼ですか・・・?」

藤尭のその言葉に、弦十郎は押し黙る。

「・・・すみません、今は、必要な事ではありませんでしたね」

「いや・・・いや、そうだな。自分の作業に集中してくれ、藤尭。お前にしか出来ないことを」

弦十郎は、それを言うだけで精一杯だった。

「装者、戦闘に介入します」

友里の言葉に、弦十郎は画面を見る。

「・・・指揮は現場のマリア君に一任せよ。オペレーターはノイズの位置と観客の避難状況をリアルタイムで続けろ」

「司令、どこへ?」

弦十郎は、踵を返し、歩きながらこういう。

 

「―――彼らの真意を確かめに行く」

 

 

 

 

S.O.N.G.潜水艦内部にて。

 

「それで、こっちの道で本当にあってるんだろうな!?」

「翼の画力には驚いたけど、地図で示してくれた通りに進んでるはずだから、たぶん問題ないわ」

「もうちょっとはっきりしないのか・・・!?」

「仕方ないでしょここ初めてくるんだから!」

ツクヨミの案内の元、道中の警備員を倒しながら進むゲイツとツクヨミ。

さて、彼らが何故ここにいるのか。その理由は単純、ギャラルホルンの破壊、あるいは機能の停止だ。

翼たちの方は、黒幕のおびき出しと囮を引き受けており、その隙にこうしてギャラルホルンに向かっているのだ。

「向こうは大丈夫かしら?」

「大丈夫だろ。あの女はそんなに弱くない。それになにより―――ソウゴがいる」

「それもそうね」

ゲイツの少し貯めた言い草に、ツクヨミは即答する。

なんだかんだで、ソウゴの事を信じているのだ。

「行きましょう」

「ああ―――ッ!?危ないっ!」

突如、ゲイツがツクヨミを抱え込んで前に向かって飛ぶ。

そのすぐ傍を、凄まじい風圧が駆け抜ける。

「何!?」

ツクヨミが声を挙げ、その正体の姿を見る。

 

そこに立っていたのは、風鳴弦十郎だった。

 

「ぬんっ」

手を振り抜き、構える。

ただそれだけで、凄まじい風圧と威圧が二人を襲う。

「なんて気迫なの・・・!?」

「ツクヨミ、ここは俺に任せて先に行け」

ゲイツが立ち上がり、ツクヨミと弦十郎の間に入るように立つ。

「ゲイツ・・・」

「風鳴から聞いてはいたが、こいつはかなりの手練れだ・・・ここで時間を取られるわけにはいかない。いけ」

「・・・・」

ゲイツの言葉に、ツクヨミは、不承不承ながらに走り出す。

その様子を肩越しに見送りながら、ゲイツは敵を見据える。

筋骨隆々とした体躯―――ただそれだけであれば、ゲイツも見くびっていただろう。

だが、先ほどの拳と事前に翼から聞いていた情報から、ゲイツは見くびるのをやめた。

「本気で行くぞ」

ゲイツは、ゲイツライドウォッチとゲイツリバイブライドウォッチを取り出し、構える。

 

GEIZ(ゲイツ)!』

 

GEIZ(ゲイツ) REVIVE(リバイブ)――RIGIT(ゴウレツ)

 

起動した二つのライドウォッチをそれぞれジクウドライバーの二つのスロットに装填する。

そして、手を大きく振り回し、ドライバーに添え、叫ぶ。

 

「変身ッ!」

 

そして、ジクウドライバーを回す。

 

 

RIDER(ライダー) TIME(ターイム)!!』

 

KAMEN(仮面) RIDER(ライダー) GEIZ(ゲイツ)ッ!!』

 

RI・VI・VE(リ・バ・イ・ブ) RIGIT(ゴウレツ)―――RIGIT(剛烈)!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スムーズな避難誘導、そして、ウォズが一人、多くのノイズを排除したがゆえに、一人の犠牲者も出すことなくノイズを排除出来ていた。

だが、それでもノイズは際限なく湧き出る。

「くっ、流石にこの数は少し厳しいかな・・・」

ジカンデスピアを手に、ウォズは冷や汗を掻きつつ、自分を囲むノイズの群れを警戒する。

しかし、次の瞬間、六つの場所から光が迸り、ノイズが消し飛ぶ。

 

装者だ。

 

「やっと来てくれたのか。随分と遅かったじゃないか」

小馬鹿にするようにウォズは言う。

そんなウォズにマリアは冷たくあしらう。

「黙りなさい。ノイズを片付けたら次は貴方よ」

「随分と迷いが見えるけど、それで大丈夫なのかな?」

「っ・・・」

ウォズの指摘に、マリアは何も言い返せない。

それは、他の者たちも同じだ。

響ですら、自分が信じたものを疑い始めている。

そんな彼女たちの様子に、ウォズは呆れたように首を振る。

「やれやれ・・・」

そして、その視線を、さも当然のように、しかしどこか小さく見せる『風鳴翼』に向けた。

(なにも・・・)

『風鳴翼』は、目の前のノイズの大群を前に、ぎしりっ、と刀の柄を握り締め、歯を食いしばる。

(なにも、言い返せなかった・・・っ!!)

その事実に、『風鳴翼』は絶望していた。

 

何故なら、あの時の彼女の姿が、あまりにも輝いていたから。

 

それが、今の『風鳴翼』を大きく揺らす。

「今は目の前の敵に集中したまえ」

そんな中で、ウォズは全員に向かってそう言う。

「お相手ならあとでいくらでもしてあげよう。だがここでノイズの発生を抑えなければ、民間に被害が出る事は間違いない」

「んなもん、言われなくても分かってんだよ!」

クリスが、己を叱咤するかのように叫ぶ。

それに呼応するように、他の装者も各々の武器を構える。

「さあ、行こうかっ!」

それを見届けて、ウォズはその言葉と共に、ノイズの群れへと走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

会場から少し離れた場所。周囲の景色を見れる場所に、カインはいた。

「もう少し、もう少しで、私は―――」

「―――王様になれるって?」

何かを待っているかのようなカインにソウゴが話しかける。

「ああ、貴様か。お前に用はない。さっさと失せたまえ」

「そうはいかないんだな~それが」

ソウゴは笑う。カインを見上げたまま。

「二度は言わないぞ?もしここから立ち去らなければどうなるか・・・分からない程バカではないだろう」

「そうだね。でも、それをしたら俺はもう王様を名乗れなくなる」

「たかが夢想を抱いてるだけの小僧が軽々しく王を名乗る者ではない」

微かに、怒りが滲むような声が発せられる。

「そもそもおかしな話だ。お前のような小僧が王になる未来。それが存在すること自体あり得ない絵空事だと何故誰も気付かない。私の手にかかれば、お前など簡単に捻り潰せるというのに・・・」

「まあ、確かに、俺も最初は『最低最悪の魔王』になるだなんて信じられなかったよ」

「何?」

カインの訝しむ表情に、ソウゴは胸を張って言う。

「でも、それでも俺はやっぱり『王様』になるって決めたんだ。『最低最悪の魔王』なんかじゃない。『最高最善の魔王』に俺はなるって」

次の瞬間、ソウゴが顔を傾けると同時にそのすぐ傍を何かが凄まじい勢いで飛び去って行き、地面を抉る。

「国を背負う重さも知らない小僧が、『王』になるなど軽々しく言うなァッ!!!」

ここで初めて怒りを見せたカインは、その手にアナザーシンフォギアライドウォッチを持ち、スイッチを入れた。

 

シンフォギアァ!!!』

 

それを自分の体に埋め込み、瞬く間にその姿を怪物へと変質させる。

そして、まるで怒りを表すかのような衝撃波がソウゴを襲う―――だが、

「―――別に軽い気持ちで言ってるつもりなんてないよ」

ジクウドライバーを腰に装着し、ソウゴはあるウォッチを取り出す。

「沢山の事があったけど、それでも俺は―――皆の生きるこの世界を良くする為に、『魔王』になる」

 

ZI-O(ジオウ)ZI-O(ジオウ)

 

起動するのは、表と裏、光と闇、未来と過去―――双極を統べるウォッチ『ジオウⅡライドウォッチ』。

 

それを、ソウゴは二つに分け、ジクウドライバーのそれぞれのスロットに装填する。

 

展開される、二つのバンク。それをもって、ソウゴは構え、叫ぶ。

 

「―――変身ッ!!!」

 

そして、ジクウドライバーを回した。

 

 

RIDER TIME(ライダータイム)!』           RIDER TIME(ライダータイム)!』

 

 

KAMEN RIDER(仮面ライダー)!』   KAMEN RIDER(仮面ライダー)!』

ZI-O(ジオウ)!』 ZI-O(ジオウ)!』

ZI-O(ジオウ)(ツー)!!!』

 

 

 

仮面ライダージオウⅡ―――ここに参上。

 

 

 

 

 

 

 

多くの観客が、ドームから逃げ出ていく。

その様子を翼は叫びながら必死に誘導する。

「落ち着いてください!彼がいる限り、全員助かります!倒れた人には手を貸して、逃げ遅れた人も見捨てないで!」

叫んで、叫び続ける。

あの時、多くの人々を死なせてしまった。その過ちを繰り返さない為に、翼は叫ぶ。

その最中で、ふと、背後に誰かが立つ気配がした。

振り返れば、そこには、緒川がいた。

「緒川さ・・・」

思わず名前を呼ぼうとして、やめた。

もはや自分は『風鳴翼』ではない。彼がマネージャーを務めるべき相手ではない。

そんな意識が、その名前を呼ぶことを躊躇させた。

そして緒川の方も、観客を必死に避難させている姿、そして先ほどの言葉に、辛そうな表情を浮かべ俯いている。

そんな沈黙が、二人の間で流れる。

 

―――カツッ、カツッ、カツッ

 

その時、何者かの足音が聞こえた。

その、この騒音の中ではあまりにも通ってしまっている足音に、翼と緒川は思わずそちらを向いた。

そこに立っていたのは、いつか、翼に『RN式天羽々斬改』を渡してくれた、ローブの女。

 

否―――風鳴綾女。

 

「綾女さん・・・?」

「お母様・・・」

緒川にとっては、何故ここに彼女がいるのか分からない。

だが翼は、何故彼女が現れたのか、なんとなく理解していた。

「・・・どれほどお前が、『夢』を語ろうとも」

十年前と、何も変わらない。昔のままの母親の姿に、翼は心のどこかで安心していた。

 

「―――私を超えない限り、お前が夢を叶える事は出来ない」

 

そう言って、ローブを脱ぎ捨てる。

その行為に対して、翼は緒川の前に出る。

 

「分かっています。だから私は、私の『夢』を叶えるために―――貴方を倒します」

 

腕のバングルを構えて―――翼と綾女、二人の母娘は、戦装束を纏う。

 

「「変身ッ!!」」

 

『Start Up. Resonance-type Kaiten special equipment』

 

黒と青の、サイバーチックな装束を纏い、翼と綾女が今―――激突する。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

激突する(むすめ)綾女(はは)

「王の紛い物風情がぁぁあああ!!!」

ジオウⅡを強襲するアナザーシンフォギア。

「次々とっ・・・!!」

溢れかえるノイズに、体力を消耗させられていく装者とウォズ。

「君たちの目的はなんだ・・・!?」

激突する弦十郎とゲイツ。

「これを破壊すれば―――!!」

そして、ツクヨミの一撃が、ギャラルホルンに刺さる―――。

次回『母娘/王/真意』

「貴方を止められるのはただ一人―――」






翼「さて、少し暇が出来たことだし、少し鍛錬にでも・・・ん?写真か?これは、どれどれ・・・」

少女閲覧中・・・・

翼「」
マ「ああ、翼、こんな所にいたのね」
翼「ああ、マリアか」
マ「それでね、そのぉ・・・何か、写真のようなものとか・・・」
翼「見てないが?」
マ「ああ、そうなの」
翼「見てないが?」
マ「え、ちょ、翼、どうし」
翼「ミ・テ・ナ・イ・ガ?」
マ「・・・ごめんなさい」

今回の勝敗―――マリアの敗北(エリザに負けたとかじゃなく)


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母娘/王/真意

ウォ「この本によれば、世界的アーティスト風鳴翼は、シンフォギア天羽々斬を纏い、仮面ライダービルドこと桐生戦兎と共に、様々な異端技術を扱う者たちを戦う運命にあった。歴史を変えられ仮面ライダーが消えた世界で、自身とうり二つの少女と対峙し、偽物のレッテルをはられ、ここまで敗走してきたが、とうとう最終決戦にまでもつれこんだのであった」
翼「ついにお母様との決着・・・」
切「セイウンスカイが実装されたのデス」
響「笑えばいいよ・・・ジュエルのない私たちなんて・・・」
未「またやってるよ・・・」
ソ「ま、まあまあまあいよいよ本編もクライマックスなんだからさ」
マ「そうね、そろそろ作者のあまりにもないオリジナル力が試されるこの章で、一体どれほど作者たちに楽しんでいただけるか、心配ね・・・」
調「何気に酷い事いうねマリア」
ゲ「本当に大丈夫か、こいつら・・・」
ツ「はあ・・・変人揃いとは聞いてたけど、ここまで来るともはや現実ね・・・」
ソ「いや、変人揃いなのは俺たちもでしょ?」
ツ「私を一緒にしないで!」
ソ「いやツクヨミ巷じゃゴリラってよばr」

ジカンガトマール

ソ「ぐふあ・・・」
ゲ「そ、ソウゴォォォ――――!?」
ウォ「我が魔王ォォォ――――!?」
ツ「なんか、イッタ?」
ゲウォ「イイエナニモ」
翼「と、とにかくっ!シンフォギア・ビルドオリジン・ザ・天羽々斬第七話をどうぞ!」


戦場に、歌が響く―――。

 

地下駐車場になだれ込むように入る翼。その翼を追撃して、綾女の刃が倒れている翼に迫る。

それを間一髪で躱した翼は立ち上がり、続く綾女の連撃を捌いていく。

改めて思う。

 

母は本当に強い。

 

だが、だからこそ、

(その壁を、超えていくっ!!)

反撃に放った斬撃、しかしその斬撃を躱されるだけに留まらず、逆にその手を掴まれ、抑え込まれる。

それに猛烈な悪寒を感じ取った翼はすぐに頭を下げる。

その瞬間、頭上を刃が駆け抜ける。あのままであれば首を跳ね飛ばされたのは確実だ。

その事に戦慄しながら翼は前転し、距離を取ろうと走る。

だが、その時背後で風を切る音がして、後ろを振り向けば、綾女のスーツのラインが淡く光り、そのまま地下駐車場の柱を飛び移ってやや上方から奇襲をしかけてきた。

「くあっ・・・!?」

それをどうにか体を前に投げ出すことで回避、距離を取るようにさらに走る。

そんな翼と平行するように綾女も追いかけてくる。

「どうした?その程度か?」

走りながら綾女がそう挑発してくる。

「お母様こそ、この十年で随分と衰えたのではありませんかっ!?」

言葉を切ると同時に斬り込む翼。しかしそれよりも速く綾女が飛び込み、タイミングを見失って回避に転向。背にした柱が十字に斬り刻まれ、斬撃が炸裂する。

「くっ!?」

(前々から思っていたが、このいきなりの加速はなんなんだっ!?)

いきなり起こる綾女の加速。そのカラクリを見抜かなければ、彼女に勝つことは出来ない。

 

 

 

 

 

潜水艦の装甲がぶち抜かれ、ゲイツリバイブ・疾風が飛び出す。

「くそっ、化け物かあのおっさんっ!?」

その穴から追撃してくるかのように弦十郎が飛び出し、ゲイツに向かって拳を突き出す。

その突き出された拳から凄まじい風圧が放たれ、ゲイツに迫る。

それをゲイツは空中移動と時間加速の能力で躱し、一瞬で空中にいる弦十郎に間合いを詰める。

そのままジカンジャックローで斬り裂こうとするが、一撃目からジカンジャックローを掴まれ、逆に港の地面に向かって投げ飛ばされる。

「くぅっ!?」

地面に叩きつけられる前に飛行し、すぐさま弦十郎に向かって再度突撃。しかし既に着地した弦十郎はすでに迎撃態勢を取っており、その地面を踏み砕いて壁を作り出す。

その壁を躱してゲイツは側面から攻撃―――しようとして空へ飛び、迫った拳を間一髪で回避するも風圧で吹き飛ばされる。

「くっ!?」

当たり前のようにスピードに対応してくる。

その事実に、ゲイツは驚愕を隠せない。

(噂以上の化け物だなっ・・・!)

それでも弦十郎の追撃は止まらず、ゲイツはすぐさま砂時計を逆転させる。

 

PAWERED(パワード) TIME(ターイム)!!』

 

RI・VI・VE(リ・バ・イ・ブ) RIGIT(ゴウレツ)―――RIGIT(剛烈)!!!』

 

すぐさま剛烈になり、パワーで対抗する。

激突する、拳とのこ。

「ぐっ!?」

「ぬぅっ・・・!?」

弾き飛ばされ、距離を取る二人。

「―――君たちの目的はなんだっ!?」

その最中で弦十郎が呼びかける。

「なにっ・・・おわっ!?」

弦十郎の拳を寸での所で躱すゲイツ。

「何故歴史を変えようとする。その行為に何か意味はあるのか!?」

その問いかけの意図を、ゲイツは察する。

「ハッ、何を言うかと思えば、その事か」

「答えろ!」

「簡単な話だ!この世界が本来の歴史を辿っていないからだ!」

「なんだとォ!?」

その言葉に、弦十郎は思わず瞠目する。

「奴だけは覚えていたのさ。いいや、未来だって覚えていた。この世界の本来の歴史をな」

「その歴史とは、なんだ!?」

再び、拳の応酬が繰り広げられる。

「そのままの意味だ。この世界は本来の歴史を辿っていない。そして翼と未来は、その本来の歴史の記憶をもっていた。それが答えだ」

「なんだと・・・」

そこで弦十郎の拳が止まる。

「にわかには信じられん・・・」

「信じるか信じないかは、お前たち次第だ」

 

 

 

 

まるで雨の如く降り注ぐ光線の嵐をジオウⅡは巧みに躱していく。

その嵐の中を真っ直ぐ突き進んでアナザーシンフォギアが襲い掛かり、ジオウはジカンギレードでその攻撃を迎撃し、激しい連撃を下がりながら回避していく。

その余波で周囲の物体がひび割れ、壊れ、砕けていく。

その激しい攻撃をジオウⅡの能力である『未来予知』で先読みし回避していく。

だが、破壊された地面や建物の壁などによって舞い上がった土煙によって視界を遮られる。

「―――貴様には分からないだろう。信じていたものに裏切られ、玉座を瞬く間に奪われた時の苦痛を」

「なんだと・・・!?」

「信じていたものに刃を向けられ、愛する者を殺される苦しみ。そうだ。全ては、我が民をたぶらかした『歌』さえなければ・・・!!」

「歌だって!?」

「その通りだ!」

「ッ!?」

未来予知でアナザーシンフォギアが出てくる位置を予測し回避。すかさずアナザーシンフォギアの怒涛の連撃がジオウに襲い掛かる。

その連撃すらも、未来予知で回避していく。

「『歌』だ。『歌』が人々をかどわかした!歌が私への忠誠心を揺らがしたのだ!ゆえに私は誓ったのだ!私を破滅へと導いた『歌』をもって、『歌』を操る者たちに鉄槌を下すと!!」

「その最初の標的が翼だっていうのか!?」

「ああ、その通りだとも!そしてこの世界もだ!別世界の、『歌』とは何も関係のない世界と融合しておきながら何も変わらないっ!!所詮人は『歌』に縛られて生きているのだっ!!」

拳から放たれた竜の顎がジオウの腹に噛みつく。

「ぐあっ!?」

「『歌』は呪いだ。『仮面ライダー』もまた邪悪の力を元としているっ!この大差のない力をもって、私は再び王へと返り咲駆ければならないのだっ!!」

そのまま振り回され、地面へと叩きつけられる。そのまま粉塵が舞い上がり、ジオウを隠す。

だが―――これで終わる『魔王』ではない。

 

ZI-O(ジオウ) ULTIMATE(サイキョウ)

 

しかし、その粉塵を振り払って、七色の斬撃が飛んでくる。

 

KING(覇王) SLASH(斬り)!!!』

 

「無駄ァ!」

しかし、アナザーシンフォギアはそれを防いでみせる。だが、そのアナザーシンフォギアの懐に飛び込んで、ジオウが右手のジカンギレードと左手に新たに取り出したもう一本の剣『サイキョーギレード』をもって、二刀流でアナザーシンフォギアに連撃を浴びせる。

「その為だけに、世界の歴史を変えたのか!?」

「ああそうだとも!」

「王様ってのは人々を幸せにするものだろ!?」

「だが私は裏切られた!貴様もいずれ理解する筈だ!裏切られた時に感じる屈辱を、絶望を!!」

「それでも俺は、誰かの為に戦う。それが俺の『王道』だ!!」

ジオウの剣が、アナザーシンフォギアを吹き飛ばす。

「ぐぅっ!?成り損ない風情がぁぁああああ!!!」

アナザーシンフォギアから、複数の竜が飛び出す。

それに対して、ジオウはサイキョーギレードを地面に突き刺し、その鍔部分にあるジオウの顔のようなパーツ『ギレードキャリバー』をジカンギレードのスロット部分に装着。

 

ULTIMATE(サイキョウ)

 

FINISH(フィニッシュ) TIME(ターイム)!』

 

そして、ジカンギレードにサイキョーギレードを装着し、『サイキョージカンギレード』へと形態変化。

そして、両手で構える。

 

KING(キング) GIRIGIRI(ギリギリ) SLASH(スラッシュ)!!!』

 

黄金の光の奔流が剣から放たれ、それを天へと突き出す。さすれば時空を斬り裂き、全てを一刀両断の元に破壊する『魔王の剣撃』が完成する。

 

突き出したエネルギーの先で時空が一瞬歪む。その最中で剣に『ジオウサイキョウ』の文字が現れる。

 

そして、その光の奔流を、剣を振るうとともに振り回し、襲い掛かる竜たちを瞬く間に両断。

そしてその一撃を、アナザーシンフォギアに叩きつける。

 

「無駄ァ!!」

だが、その一撃はいとも容易く弾かれる。

「紛い物の一撃など効かぬはぁ!」

「それでも俺は諦めないっ!!」

再び、ジオウとアナザーシンフォギアが激突する。

 

 

 

 

(動きが鈍いね・・・)

ウォズは、ふとそう思った。

装者たちの動きが、幾分か鈍いのだ。

初めは問題はなかった。だが、時間が進むにつれ、ミスする回数が増えていっている。

長く戦い続けている疲労故か?それだけではないだろう。

少なくとも、先ほどの翼の言葉が、装者全員に響いているのだ。それは『風鳴翼』も例外ではない。

だんだんと、確実にミスが増えている。

「あっ!?」

「切ちゃん!?」

切歌が、瓦礫に脚を取られてバランスを崩す。

そこへ襲い掛かるノイズたち。

「ふっ」

それをウォズがカバーし、その間に調が切歌を支え距離を取る。

「もう少し集中したらどうかな?」

「う、うるさいのデス!」

ウォズの言い方に切歌は言い返すも、その言葉にいつもの勢いはなかった。

「はあ・・・次が来る」

ウォズが構えれば、再び次のノイズが襲い掛かってくる。

「くっ!」

「このっ!」

調と切歌はその対応に追われる。

その一方、クリスの方では―――

「チクショウチクショウチクショウチクショウっ!!」

ダダダダダッとガトリング砲を撃ちまくり、出てくるノイズを一方放射状に片端から撃ち墜としていく。

(なんなんだよアイツはっ!偽物のくせに、なんで、なんであんな事言えるんだよっ!まるで、本物の先輩みたいじゃねえか・・・!)

引鉄を、壊れるのではないかとぐらい引き絞り続ける。

だが、その当たり所はバラバラだ。腕が震えているからだ。

(どうして、そんな満ち足りた顔ができるっ!どうして、あんなに人を殺したのにあんな事が言えるっ!どうしてっ・・・どうして、本物の先輩みたいな事が言えるんだ・・・っ!!)

そして、ふと頭を過ってしまう、最悪の可能性―――

 

(もし、アタシが偽物だって言ったアイツが、本物の先輩だったら・・・)

 

―――がしゃんっ

 

「っ!?クリスちゃん!?」

突如聞こえた重厚な金属音に響が反応する。

見れば、いつの間にか接近したノイズに、クリスのガトリングガンが叩き落されている光景がそこにあった。

「あっ―――」

「クリスちゃんッ!!!」

すぐさま響が飛び、クリスに一撃を入れようとしていたノイズに拳を叩き込む。

「大丈夫っ!?」

「あ、ああ・・・」

クリスはすぐにガトリングガンを拾おうとする。

 

だが、取っては取りこぼしてしまう。

 

「あっ・・・」

「えっ・・・」

その光景に、クリスと響は言葉を失う。

「止まるなっ!!」

そこへ、分身したウォズが飛び込み、襲い掛かってきたノイズを迎撃する。

「ぼさっとしているとやられるぞ!」

「す、すみませんっ!」

「お、おう・・・!」

ウォズの言葉に、響とクリスは、すぐさま立て直す。

だが、やはりその動きは、どこか躊躇いがちだった。

 

そして、マリアと『風鳴翼』は背中合わせになってノイズに囲まれていた。

「くっ、数が多すぎる・・・」

「そうだな・・・」

マリアはそこで『風鳴翼』の声の違和感に気付いて、翼の方を見る。

その口元は、心なしか辛そうに引き結ばれていた。

(翼・・・?)

「っ!?」

ノイズが襲い掛かる。

「翼っ!」

「っ!?」

マリアは、すぐさま蛇腹剣で全てのノイズを斬り飛ばす。

「ボーっとしないで!」

「す、すまない・・・」

マリアに怒鳴られ、『翼』は剣を構え直す。

そして、襲い掛かるノイズを迎撃しにかかる。

(なにも、言い返せなかった・・・)

翼の言葉に、何も言い返す事は出来なかった。

自分はただ、彼女を真似ただけなのだから。その歌に、偽物の想いを込めて歌っただけだから、彼女の語った『夢』に、飲み込まれてしまった。

(私は―――)

「う・・・」

心の底から、自分の在り方の曖昧さを呪うように、

「うわぁぁあぁああああ!!!」

思いのたけの分、叫び散らした。

 

 

 

 

斬撃が、腹を浅く裂く。

「あぐっ!?」

血が、浅く斬られた腹の傷から垂れ流れ、痛みに涙が出る。

しかし、歯を食いしばって耐え、背後から回りながら迫ってくる綾女の攻撃に備える。

振り向き、刃を迎撃しようとしたが、再び剣を持つ手を掴まれ、斬撃が腕に迸る。

「ぐぅっ!?」

立て続け、脚に斬撃が入り、浅く斬られる。

致命傷を紙一重で躱し続けているものの、その体には次第が傷が増えていく。

(このままでは・・・!?)

その時、腕を掴まれ、そのまま自らの背後に回るように回転、そしてそのまま、コンクリートの壁に叩きつける。

「あがっ!?」

一瞬、意識が飛びかける。それと同時に剣を取りこぼす。

その霞む視界の中で見えた、綾女の刺突。

その軌道は、翼の心臓を貫くに値する角度と位置。

(死ぬ、のか・・・?)

朦朧とした意識の中、目の前に迫る『死』に翼は、体中の痛みでそれを幻などではないと判断する。

故に、思い出す。

 

彼女が愛してやまない、男の事を―――

 

(―――死ねるかっ・・・!)

 

その一撃に、その死に、翼は抗う。

感情が昂ぶり、翼は、その斬撃を避けようとする。だが、綾女の異常な速度を相手に、今のままでは確実に斬撃を受け、死ぬ。

だったら、どうすればいい―――――

 

―――なんて事を、翼は考える前に横に動いていた。

 

 

そして、目の前の景色が急激に変わった。

 

「ッ!?」

気付けば目の前に壁が迫っていた。どうにかその壁に手をついて、激突を免れる。

(何が・・・いや、今は・・・!)

翼はすぐに振り返って綾女の方を見る。

そこには、意外そうに目を開きながらも、翼の次の動きを警戒するように構える。

その行為に、翼はありがたいと思った。

ついさっき起きた現象が一体なんなのか、確認する必要があったからだ。

(今、私は、死にたくないと思った)

もう、二度と会えないかもしれない人を想い、その人の為に死ねないと思った。

そして、その想いが、全身に溢れかえった気がした。

(そうしたら、このRN式が応えてくれた気がした・・・)

そもそも、RN式とは一体何なのか。

シンフォギアとの違いはなんなのか。

何故、こんなものをフィーネが作り、そして、母が使っていたのか。

(初めて変身した時、私は精神が削られるような感覚がした。歯を食いしばって耐えねば、気絶するかもしれなかった・・・っ!そうか!)

そこで、やっと翼は、RN式の使い方を理解した。

(そうか・・・あの時は、歌で聖遺物を活性化させ、プロテクターに変換させる技術は確立されていなかった。その代わりに、『精神力』を使う事でそれを補った。この加速の正体は―――)

翼が、ぐっと構える。

(気付いたか・・・)

それに綾女も応えるように構える。

一瞬の静寂。

しかし、初めに動いたのは翼で、綾女はそれに一歩遅れて動く。

 

次の瞬間、肉眼では捉えられない速さで二人は疾駆した。

 

刃を振るう、刃を躱す、その刹那のみ、微かに二人の姿が見える。

それはまるで嵐のようで、瞬く間に、地下駐車場中に、二人の残像が見え隠れする。

地下駐車場にあった車は軒並みぶった斬られる。

その最中で、翼の刀が弾かれ、そして消える。

 

そして、次に見えたのは、翼と綾女が剣を交える残像だった。

 

しかし、やはり年期の違いが、綾女の方が優勢であり、翼はその強さに翻弄される。

刀を撃つ。弾かれ腿を斬られる。

刃を墜とされる。弾くも、頬をざっくりと斬られる。

刺突を放った。躱され腹に蹴りを入れられる。

突進を迎え撃とうとした。手首を掴まれ、脚を蹴られて投げ飛ばされる。

 

(強い・・・やはりお母様は強い・・・っ!!)

 

激しく、縦横無尽に駆け回る。

背後から攻撃してみようとした。だが蹴り飛ばされ、その先で追いつかれてまた逆方向に蹴り飛ばされる。

天井を駆けて真上から―――天井で迎え撃たれ、落とされる。

顔面に、拳を喰らう。反撃しても防がれる。

 

本当に、強い―――だけど、負けられない。

 

「あ、ああぁぁあああ!!!」

加速する。加速する。加速する。

リンクスアームズ『スカイスプリング』を意識して、翼は加速する。否―――飛ぶ。

走るのではなく、飛ぶ。駆けるのではなく、跳ぶ。迅く動くのではなく、飛ぶ。

 

飛んで、飛んで、兎のように、飛び回る。

 

「っ!?」

綾女の視界で、翼が天井も、壁も、地面も飛び回る姿が見えた。

走るのではない。地面を蹴って飛ぶ。

誰に影響された戦い方だろうか。

だが、それでも簡単には譲らない。

 

娘が天へ飛ぶというのなら、母である自らは、地の果てまで駆け抜ける。

 

綾女が加速する。

「っ!?」

地面、壁、天井の順に、綾女は走り、翼が天井に着地した瞬間を狙い撃つ。

「ぐあっ!?」

そのまま、ピンボールのように翼を弾き飛ばしまくる。

「あぁぁぁあああ!?」

翼の全身に斬撃が降り注ぐ。それを、翼は全身全霊をもって防ぎにかかる。

全ての致命傷を避け、深い傷を避け、自分の命に届く一撃を躱し抜く。

やがて、綾女が翼の後ろ首を掴んで柱に叩きつける。

「がはっ―――」

そして、綾女の振り下ろしが迫る。翼は迎え撃つ刃でそれを受け止める。

しかし、力は綾女が上か、その刃が翼の左肩に食い込み、翼は苦悶の表情を浮かべる。

それでも―――

「叶えて、見せる・・・ッ!!」

全身全霊、勇往邁進―――

「私の夢をッ!!!」

己の全てを出しつくして、翼は、叫ぶ。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおッ!!!!!」

一度刃を弾き、態勢を整え、背後の柱を全力で蹴り飛ばし、綾女を押し返す。そしてそのまま柱や車を何度も吹き飛ばして、突撃を続け、やがてそれが綾女に止められる。

そして、刃が弾かれ、綾女の拳が翼を撃つ―――しかし、それは翼の胸を打った所で、翼の手に捕まれる。

「っ・・・!?」

綾女はその拳を見下ろし、そして翼を見た。

そこには、ボロボロになりながらも、決して揺るがない意志をもった眼が、そこにあった。

「―――お母様を止められるのは、ただ一人・・・!」

 

―――(あなた)を超えてゆく事をお許しください。

 

「―――私だッ!!!」

二人のRN式天羽々斬改が、ここ一番に輝く。

翼が拳を弾き、すかさず刀を両手で持ち、振り上げる。

そして、綾女も同じように構え、そのまま振り下ろす。

二つの刃が激突する。

風鳴翼と風鳴綾女の剣が鍔迫り合う。

火花が散り、全力を注いで相手を押し返そうとする。

そして―――翼が綾女の剣を押し返す。

 

初めて、翼が綾女に一矢報いた。

 

よろける綾女。しかしそれでも鞘に刃を納めた。

それは決して、降伏の為の行為などではない。

その態勢から放てる、居合を放つ為だ。

 

翼が来る―――その確信が、綾女にはあった。

 

そして翼は―――

「アァァァアァアアッ!!!」

―――刀を投げた。

「ッ!?」

それに綾女は、思わず抜刀してしまった。

RN式の加速によって、砲弾の如き勢いを得た刀に対して反応が遅れて躱すという選択肢が潰されたからだ。

だから刃を放って、その一撃を防いだ。だが、()()()()

刀を弾いたその先で、翼が大きく身をかがめている事に気付く。

 

「―――勝利の法則は・・・」

 

大きく、膝を折り、屈み、脚を強烈に伸び縮みするバネに連想し、そして―――飛んだ。

 

「―――決まったッ!!!」

 

そして、渾身の飛び蹴りを、高速で放つ。

それは完全に、相手を殺すつもりで放った一撃だ。

それに対して、綾女は抜刀の勢いによって回転。そのまま右の後ろ回し蹴りを放つ。

「ハァァァァア――――ッ!!!」

全力を放つ翼―――それに対して、綾女は、笑っていた。

 

「―――もう、大丈夫だ」

「――――ッ!!」

 

 

 

蒼兎

 

閃迅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャラルホルン、保管室にて。

「これがギャラルホルンね・・・」

ツクヨミの目の前に、ヴーっと音を出し続けているギャラルホルンがあった。

「これを破壊すれば・・・!」

ツクヨミは、すぐにジクウドライバーを腰に装着し、ツクヨミライドウォッチを起動する。

 

TUKUYOMI(ツクヨミ)!』

 

それをスロットに装填し、背後にバンクを展開。

そして叫ぶ。

 

「変身ッ!」

 

RIDER(ライダー) TIME(ターイム)!!』

 

KAMEN(仮面) RIDER(ライダー) TUKUYOMI(ツクヨミ) TU KU YO MI(ツクヨミ) !』

 

仮面ライダーツクヨミへと変身した彼女は、再びツクヨミライドウォッチのライドオンスターターを押す。

 

FINISH(フィニッシュ) TIME(ターイム)!』

 

そして勢いよく飛び上がり、ギャラルホルンに向かって強烈な飛び蹴りを放つ。

 

TIME(ターイム) JACK(ジャック)

 

黄金色の粒子が飛び散り、ギャラルホルンに激突する。

「ハァァァァアア!!!」

その瞬間―――時空が歪んだ。

「ッ!!」

それに合わせて、ツクヨミは破壊から免れようとするギャラルホルンの時間を停止。

しかし、それでも完全聖遺物であるギャラルホルンの操作も干渉も受け付けない防衛機能が、ツクヨミの時間停止の中でも発動する。

「ハァァァァアアァァアアアアアッッ!!!」

それに対して、ツクヨミはライダーキックの勢いを強めるとともに、さらに時間停止能力を()()

ギャラルホルンの平行世界に干渉する力そのものに干渉。次の瞬間にはギャラルホルンは奇怪な音を発し出す。

「いい加減―――砕けろォぉォぉお!!!」

ギャラルホルンに、ひびが入る。その瞬間を見逃さず、ツクヨミは手を振り上げ、そのひびに掌を叩きつける。

その掌から生体エネルギーを高収束させ、内側から砕く刃『ルミナスフラクター』を発動して、そのひびにそれを流し込む。

 

――――ギギギギギギィィィィィィィィ――――――!!!?

 

そして、ギャラルホルンが―――止まった。

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」

想定以上の力を使い、思わず膝をつくツクヨミ。

「あとは、向こうの・・・」

そう言って、ツクヨミは空を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひっぐ・・・えぐっ・・・」

 

―――泣き声が、聞こえる。

 

綾女は、自分の顔にぽたぽたと落ちる雫と、誰かの泣き声で目を覚ます。

目の前には、年ごろの少女らしく泣く、娘の姿があった。

「・・・なに泣いてるの」

「うっ・・・お母様はっ、操られてなど、いなかった・・・!わたしがっ、ふがいないっ・・・ばかりにっ・・・お母様はっ・・・!!」

「ははっ・・・さすがに剣を交えただけあって・・・バレるわよね・・・」

なんとなく、自分の事が分かってしまう。

(ああ、死ぬのね。私は・・・)

最後の翼の蹴り。あれは確かに本物だった。

そして、自分はその一撃を受けた。

当然の結果だ。

殺す気で放ったのなら、相手は死んでいなければならない。

今回は、それが自分であっただけの話だ。

そう綾女は納得して、翼の顔を見上げた。

とても、立派に成長したくせに、その泣き顔だけは、あの時と全く変わらない。

彼との子ではないはずなのに、その眼差しは、とても良く似ている。

とても、とても―――

「・・・成長、したわね、翼。もう、こんなに大きくなって・・・」

「ひっく・・・お母様の、子ですから・・・」

「でも、泣き虫なのは、相変わらずなのね・・・」

「お恥ずかしい、かぎりです・・・」

そんなに時間はない。翼に早く渡さなければならないものがある。

綾女は、RN式が解除された服装のポケットに手を突っ込み、そして、取り出したものを、自分のRN式と共に翼に手渡す。

「っ・・・夢を、忘れずに、戦いなさい・・・」

「お母様・・・」

また、泣き出しそうな顔になる翼に、綾女はふっと微笑む。

そして、もう死んでしまった母親からずっと聞かされてきた子守唄を、そっと歌った。

 

―――風よ そよげよ 向こうまで

 

―――私の知らない場所へ飛んでおくれ

 

―――風よ 運べよ ここまで

 

―――私の知らないことを教えておくれ

 

―――風よ 貴方はどんな姿をしているの

 

―――貴方は一体、どんな『翼』をもっているの

 

―――どうか その姿を見せてくださいな

 

―――風よ 飛べよ どこまでも

 

―――貴方と共に、飛ぶ鳥のように

 

 

 

 

 

 

緒川慎次は、壁が割れ、地面が砕け、天井が落ちた地下駐車場の中で、母親を抱き抱える翼の背中を黙ってみていた。

いつまでも、いつまでも、年ごろの少女のように泣く翼の背中を、緒川は黙って見つめていた。

だが、時間はそんなにない。

「・・・翼さん」

 

もう二度と、間違えないように。

 

「行きましょう」

その言葉に翼は一瞬、天を仰ぎ見て、その後に、目元を擦った。

そしてそっと母親の遺体を、瓦礫の落ちていない、砕けてもいない地面に寝かせ、立ち上がる。

そして、振り返った彼女の顔は―――覚悟に満ちていた。

「―――はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響が最後のノイズを殴る。

「止まった・・・?」

「やはりね」

ノイズの出現が止まり、装者たちはほっと息を吐く。

だが、すぐ傍にウォズがいる事で、未だ油断はできなかった。

「やはりって、どういうことだよ・・・?」

「私の仲間がギャラルホルンを破壊したおかげで、ノイズの発生が収まったんだ」

「はあ!?」

その言葉に、一同は驚く。

「ギャラルホルンを破壊したんデスか!?」

「そんなっ!それじゃあ他の平行世界に行けなくなって・・・」

「それでも破壊しなければ、君たちはノイズの物量に押されてやられていた。結果オーライというものさ」

「ふざけんな!お前、一体いくつの平行世界があると思って・・・」

「そんな事は今必要ない」

「なんだと!?」

喰ってかかるクリス。だが、その言葉を遮るかのように、ドームの壁が突如として砕け散る。

「うわぁぁあぁあああ!?」

そこへジオウが転がり込んでくる。

「我が魔王!?」

「え!?魔王さん!?」

「あたた・・・」

ウォズがすぐさま駆け寄る。

「大丈夫ですか!?」

「うん、どうにか未来予知で直撃は躱したけど・・・」

装甲にやや傷が入っているが、致命的な状態にはなっていないらしい。

だが、ジオウが突き抜けてきた壁から、一人の異形が現れる。

「あれは・・・!?」

「カインだよ・・・」

「え!?」

ジオウがどうにか立ち上がり、サイキョージカンギレードを構える。

そしてカイン―――アナザーシンフォギアは首を鳴らすように首を回した。

「ふぅー・・・ここまで君がしぶといとは思わなかったよ」

「そりゃどうも」

鼻で笑うアナザーシンフォギア。

「カインさん・・・なの・・・?」

響が、信じられないとでもいうようにアナザーシンフォギアを見る。

しかしアナザーシンフォギアは、響の方を見ると、ふっと笑う気配がした。

「ああ、もう溜まったか」

意味の分からない言葉を呟くアナザーシンフォギア。

その言葉の意味を、装者たちは知らない。

 

だが、仮面ライダーは知っていた。

 

「溜まった・・・まさか・・・!?」

気付いた時にはもう遅かった。

アナザーシンフォギアが手を掲げた途端、響たちの懐から、手渡されていたウォッチが飛び出してくる。

「え!?」

「なんデスか!?」

「あれは、奴から貰った時計・・・!?」

しかし、最初に貰った時とは形状が違っていた。

それぞれの色をもった―――それこそ、装者たちのイメージカラーそのものに変化したもの。

だが、それらは瞬く間に紫色の禍々しい形状へと変化する。

「素晴らしい・・・これが七つの音階に類する力・・・!」

アナザーシンフォギアは、その変身を解除する。

「え・・・!?」

装者、三度驚愕。アナザーシンフォギアが形を変えたと思いきや、出てきたのはなんと、自分たちをここまでサポートしてくれたカインだったからだ。

「カインさん・・・!?」

「おい、どういうことだ!?」

「どういうことも見ての通りさ」

次の瞬間、装者たちの変身が解除される。

いや、解除というよりは、まるで初めからなかったかのように消滅してみせたのだ。

「え!?」

「ギアが・・・」

「君たちシンフォギアの歴史が奪われたんだ」

「歴史が・・・!?」

「これはいよいよまずいことになってきた・・・」

 

それは即ち、カインがライダーとシンフォギアの歴史を牛耳ったということ。

 

「で、でも、翼のはまだ・・・!」

「何!?」

何故か唯一『風鳴翼』の『天羽々斬』だけは残っていた。

「あア・・・?」

そして、カインの眼差しが、『風鳴翼』に向けられる。

その眼差しに『風鳴翼』は思わず体を震わせる。

「ああ・・・そういえば、いたなぁ、そんなの・・・」

「っ・・・」

 

「君はもう用済みだ」

 

ぐしゃ―――

 

「・・・え?」

そんな音が聞こえた。腹に、謎の違和感を感じて、視線を落としてみれば、そこにあったのは、自分の体を貫く、一本の棒のようなもの。

「な・・・あ・・・」

何が起きたのか、誰にも分からなかった。

「あの世であの醜い母親によろしく言っておいてくれ。―――君は良い手駒だったとね」

 

そして、『風鳴翼』は宙を舞った。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

殺されてしまう『風鳴翼』

「お前は、私の・・・」

そして目覚める、アナザーシンフォギア完全体。

「どんな化け物だっ・・・」
「アタシは、アタシはぁあ・・・!!」

その強大な力の前に、彼らは―――

「お前如きに、王を名乗らせはしないっ・・・!!」

次回『復活の交響曲』

「―――待たせたな、翼」


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復活の交響曲

ウォ「この本によれb」
翼「ついに帰ってくるんだな!」
ウォ「え」
切「待ちくたびれたデスよ」
ウォ「ちょ」
調「慧くん慧くん慧くんけ~いく~ん♡」
ウォ「あの」
マ「あひっ、ちょっ、まってっ!このっ、おかえしっ!」
ウォ「がっ!?」
響「マリアさぁん、一体なんの機械をいじってるんですかぁ?クリスちゃんも何かいって・・・ってウォズさぁぁあん!?」
ク「りゅーがぁぁぁぁああああぁああ!!!」
ゲ「だぁぁああ!!!どいつもこいつも暴れ過ぎだッ!!たかだが男と一緒にいられなかったってだけだろォ!?」
未「すみません。そんな単純な話しじゃないんです・・・しばらくの本編の翼さんへの扱いへの罪悪感も加わって、その反動がいつもよりかなり大きくなってるんです・・・早く避難しないと調ちゃんの一撃が飛んできますよ?」
ゲ「はあ?一体何を言って―――」
調「け・い・く~ん♡」
ゲ「ぐあぁぁあぁああ!?なんだぁ!?頭の中に知らない記憶の数々がぁぁあ!?」
未「いけない!調ちゃん限定聖遺物!『慧くんLIFE 恋のどきどきお料理でそのハートを射貫け』が発動しちゃった!」
ソ「え?何そのどっかのシミュレーターゲームのタイトルみたいな名前・・・」
ツク「こわっ・・・ああ、もうウォズ、さっさと起きなさい」
ウォ「ぐ・・・ぅぅ・・・こ、この本によれば、天才アーティスト風鳴翼は、シンフォギア天羽々斬の装者となり、仮面ライダービルドこと桐生戦兎と共に戦う運命にあった・・・がくっ」
ツ「あ、力尽きた・・・」
破壊者「それで、歴史を変えられた世界でその犯人であるカインとの最終決戦にもつれ込んだのであった・・・ほら、これで満足だろ?」
ソ「なんでアンタがここに!?」
破壊者「もうこそこそしてる必要もなくなったんでな。というわけで、シンフォギア・ビルド オリジン・ザ・天羽々斬第八話を、どうぞ」


「―――ギャラルホルンを破壊、ですか・・・!?」

走りながら、緒川は驚いたような声を挙げる。

「ええ、そうすれば、多少なりとも奴の計画を阻害できます。少なくとも、ノイズの発生は抑えられる筈です」

「まさか、遠隔でギャラルホルンを操作できるなんて・・・・」

「ノイズを召喚できる、『ソロモンの杖』、その名を冠する者であれば・・・!」

翼は、曇りなき眼で前を見据える。

 

 

そして、敵がいるであろうドームへの扉を開いた時、翼は見た。

 

『風鳴翼』が、赤い液体を巻き散らしながら、ドームの端へと落ちていく様を―――

 

「な―――」

どしゃっと地面に落ち、『風鳴翼』は、沈黙する。

そして、一拍置いて―――

「先輩――――ッ!!?」

「翼さぁぁぁあんっ!!?」

悲鳴が、上がる。

「フハ、フハハ、フハハハハハハハハ!!!」

同時に、カインの高笑いが響く。

「ついに、ついについに!全てのシンフォギアの力が手に入ったぞぉ!」

狂気に叫び散らすカイン。しかし翼は、それを他所に『風鳴翼』の元へ走る。

「お前っ・・・!!」

「あ、ああ、翼さぁん・・・!」

目の前で親しい者が殺され、狼狽する装者たち。

「くっ・・・」

「なんてことだ・・・」

ライダーたちは、守れなかった事に、拳を握り締める。

その間にも、翼は『風鳴翼』の元に駆け寄り、血で汚れる事を厭わず、その体を抱き抱えた。

「しっかりしろ!おい!」

「あ・・・う・・・」

うっすらと、風鳴翼が目を開ける。

「心臓には届いていない!大丈夫、まだ助かるっ、だから・・・!」

「あ・・・」

泣きそうな声で、翼はすぐに応急処置をしようとする。

そんな中で、『風鳴翼』は、呻くように言葉を紡ぐ。

「あい・・・された・・かった・・・ほかの・・・だれでもない・・・おかあさんから・・・あいされたかった・・・・あいされ・・・たかった・・・」

「っ・・・」

翼は、『翼』の言葉に、息を呑む。

「ねえ・・・どうして・・・どうして・・・あなたは・・・あいされるの・・・?どうして・・・わたしと・・・ちがうの・・・?」

だんだんと、蒼白になっていく顔色なっていく『翼』に、翼は悲鳴のように答える。

「わたしはっ、愛してるっ・・・お前を愛してるっ・・・愛してやるっ、だって、お前は、私の、たった一人の――――」

 

きっと、何かが違えば、こうして、戦う事なんてなかったのに。

 

「だから、お前は一人じゃない。私がいる。私が、愛してる。だから、もう、泣くな。―――」

そっと、目尻に浮かんだ涙を拭ってやる。

それに、『風鳴翼』は―――『―――』は、目を見開いて、何か、言葉を紡ごうとして、それでも、涙が溢れて止まらなくて、

呼んでもらえたことが嬉しくて、

愛してくれることが不思議で、

あんなことをした自分に、どうしてと思って、

ああ、だけど、それでも――――

 

「あり・・・が、とう・・・――――」

 

体から、力が抜ける。

溢れ出た生命が、彼女の体から全て消えてしまった。

光を失った目を、翼はそっと閉じる。

「・・・おやすみ」

そして、そっと、その額を撫でてやった。

「フフ、ハハ、ハハハハ、ハーハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」

カインの笑い声が、ドーム状に響き渡る。

「滑稽滑稽、実に滑稽!母娘ともども、実に愚かで滑稽!しかし実に面白い喜劇(コメディ)を見させてもらったよ!フハハハハハハ―――」

瞬間、カインに向かって光弾が叩きつけられる。それは、カインの目の前で四散し、僅かな衝撃のみがカインの顔を撫でる。

カインは、その光弾を放った本人の方を見た。

 

そこにいるのは、ジカンギレードを銃モードでカインに向けるジオウの姿があった。

 

「・・・・なにを」

その声は、確かに怒りで震えていた。

「何笑ってんだよッ!!!」

 

KEN(ケン)!』

 

すぐさまジカンギレードを剣モードにしてカインに斬りかかろうとする。

「失せたまえ」

 

イチイバァル!』

 

次の瞬間、カインの周囲に無数の赤い銃が出現する。

「ッ!?」

それを見たジオウが、すぐさま飛び退く。

そして、先ほどまでジオウのいた場所を、無数の銃弾が降り注いだ。

「せっかく愉快な気分でいた所に水を差さないでくれ」

「愉快だとっ!?」

「ああ、その通りだとも。全て、実に思い通りに事が進んで、くくっ、実に愉快な気分なのだよ」

「どういう、ことなんですか・・・」

響が、カインに尋ねる。

「どうして、翼さんを・・・どうして・・・」

「何を言っている?」

「え?」

「風鳴翼なら生きているではないか?」

「なにを・・・いって・・・」

「違うッ!!」

即座に、クリスが否定する。

「違うッ!そんな筈がない!アイツが、先輩だなんてっ・・・そんなこと、ある筈がないっ!!」

「そうだとも」

はっ? とその場にいる者たちが茫然とする。

「もはや私にとって誰が偽物か本物かなどどうでもいい。偽物だと思っていてもいい。本物だと思ってくれてもいい。どうせ私にはもはや関係のないことだ」

カインが、手を掲げる。

「もはや、仮面ライダーの力とシンフォギアの力を手に入れた今、もはやお前たちシンフォギア装者は用済みだ。だから勝手に殺し合うのもいいし、自殺するのももはやどうでもいい。私は私の時代に帰させてもらう―――私が生きた、イスラエルが栄えた時代へと」

七つのウォッチが輝き出す。

 

ガングニール

 

イチイバァル

 

天羽々斬(アメノハバキリ)

 

シュルシャガナァ

 

イガリマァ

 

アガートラァーム

 

神獣鏡(シェンショウジン)

 

そのウォッチが、カインの掲げた八つ目のウォッチに集まり、収束、融合する。

そして、その完成を示唆するかのように、凄まじく禍々しいエネルギーがあたり一面に放出される。

「うわっ!?」

「これはっ・・・」

その余波に、カインの近くにいた者たちがこぞってバランスを崩して倒れる。

「フハ、フハハハハハアアハアハハアハハハハアア!!!!ついに、ついに完成したぞォ!これこそ、これこそが―――真の『仮面ライダーシンフォギア』だぁぁああ!!!」

「仮面ライダー・・・シンフォギア・・・!?」

ジオウの疑問に答えず、カインはふてぶてしくお辞儀をする。

「これの完成に協力してくれてどうもありがとう、シンフォギア装者諸君」

「ふ、ざけんな・・・!」

「私たちを、騙してたの・・・!?」

「ああ、そうだとも。だが、そうだな。新たな『王』復活の余興を、特等席に見させてやろう」

カインが、視線を装者たちからジオウたちへと向ける。

「紛い物の王を、我が供物にする様をなぁ!!」

 

そして、起動する――――最悪の力を。

 

 

シンフォギアァ!!!』

 

 

 

起動する『アナザーシンフォギアライドウォッチ』。それを体内へと埋め込んだカインは、その姿を瞬く間に変化させる。

「・・・え、ちょっ、ちょちょちょ・・・!?」

「これは・・・!?」

瞬く間に肥大化していく体。

「うそ・・・でしょ・・・」

「なんデスか・・・あれ・・・」

その躯体は女性。しかし肌は白、右は日色、左は銀色。背中には半透明の翼が左右に三つ、中心真上に一つ飛び出し、限りなく人に近い顔は蒼白であり、目を通るかのように六色異なる色のラインが引かれ、額に日色のひし形の痣が刻まれる。

そして、その背中からは九つの首の竜が現れ、その姿はまさしく―――怪物であった。

『これこそが、これこそが―――全てのライダーの歴史を持ち、全てのシンフォギアの力を内包する究極の仮面ライダー・・・『仮面ライダーシンフォギア』の誕生だァ!!!さあ、王の復活を―――』

仮面ライダーシンフォギア―――アナザーシンフォギアが、その体を大きく丸め込む。

「ッ!?まずいっ!ウォズッ!!」

「心得ました我が魔王ッ!!」

竜の閉じられた口が淡く光り、さらにその背中がまるでミサイルポッドの蓋のように開く。

 

『―――祝うがいいッ!!!』

 

次の瞬間、無数のミサイルと火炎が吐き出され、ドーム内を瞬く間に蹂躙する。

すさまじい破壊の嵐が、ドーム内を蹂躙する。

その最中を―――フューチャーリングシノビであるウォズが分身して駆け抜け、次々に装者たちを確保し、退避する。

だが―――

「ッ!?クリスちゃんが・・・!!」

まるで弄ぶかのように、クリスだけの周囲を集中砲火していた。

数人のウォズの分身体が近づこうとするが、その前にその砲火に撃ち抜かれ煙となって消えていく。

「くっ、これじゃあ近づけないっ!」

ジオウも突破を試みようとするが、あまりの密度と威力に、自らが耐える事ができないと悟ってかうかつに近づけない。

『ハハハ!!ハハハ!!ハハハハハ!!!』

高笑いするカイン。

そんな中で、取り残されたクリスは、その場にへたり込んで、破壊の嵐をぼんやりと見つめていた。

(アタシは・・・何をやってたんだ・・・)

 

あの時、確かに自分の勘を信じて、あちらの翼に銃口を向けた。

鎖骨あたりにあった傷を、クリスは見たことがないから。だからそちらの翼を偽物と断定して、もう一人の『翼』の方を本物としてしまった。

その結果が、これか?

自分が偽物だと思った方は本物で、自分が本物だと言った方は偽物で。

その結果、沢山の罵倒を浴びせて、睨みつけて、傷つけて、それで、それで―――

「アタシは・・・」

あの時、翼が『翼』の目の前で、自分の夢を語った。それは、まさに本物の風鳴翼にしか語れない事で、何故か、ステージに立っていた方は、何も言い返さなくて。

「アタシはっ・・・!」

だから、思ってしまった。でも、認めたくなかった。

だって、認めてしまったら、それは――――

『そう、お前が裏切ったのだ』

突如として、俯いた視線の先にいた蛇が、そう言った。

『お前が裏切った。お前が風鳴翼を裏切った。お前が皆を騙した。お前が傷つけた。お前が混乱させた。お前が、風鳴翼の全てを奪った』

「やめっ・・・やめろ・・・!」

『なぁにも変わらない。お前を苦しめたあの大人となぁんにも変わらない。お前はろくでなしだ。本物と偽物の区別のつかない大馬鹿だ』

「やめって、やめてくれぇ・・・」

『お前は言われてやめてくれたか?お前は言われて止めたか?やめなかったとめなかった。だからやめないやめてやらない!ギャハハハハ』

心が、砕かれていくようだ。頭の中が、ぐちゃぐちゃになって、ぐずぐずに崩れていって、今までの自分の行動がフラッシュバックしていって、またこんがらがって、くずおれて。

「あ、ああ・・・!」

もう、立ち上がれない。

大切な先輩を傷つけた、自分なんて・・・

「アタシは、アタシはぁあ・・・!!」

見上げた先には、破壊の限りを尽くす化け物が、こちらを、嘲笑うかのように笑っている。

(このまま、死んじまうのかなぁ・・・)

柄にもなく、そう思ってしまった。

(でも、仕方ない、よな・・・)

もう、立ち上がる勇気も、騙されたことを恨む力も残っていない。

あるのはただ、絶望と後悔の、この二つだけ。

(先輩・・・アタシは・・・)

そろそろ、とアナザーシンフォギアが、クリスに狙いを定める。

向けられた竜の頭が、項垂れるクリスに向けられる。

「クリスッ!」

「クリスちゃんっ!!!」

仲間が叫ぶ。

「くっ!!」

ジオウが、無理矢理の突撃を試みる。

『まずは、一人―――絶望の中で死にたまえ』

そして、アナザーシンフォギアの一撃が、クリスに迫り―――

 

「雪音ェ―――――ッ!!!」

 

砲撃を掻い潜ってきた翼が、クリスを抱き抱えて、その砲撃から間一髪で救う。

『なにっ!?』

しかし、背後で炸裂した爆発が翼を吹き飛ばし、そのまま二人もつれるように転がる。

そして、倒れた所へ追撃の砲撃が迫る。

「ッ!?」

それに翼は目を見開く。

「させるかっ!」

そこへジオウが割り込み、ジカンギレードで防ぐ。

「逃げて!」

「っ!!」

ジオウの言葉に、翼は頷いて、クリスを抱えて走り出す。

そのまま、爆撃地から離脱。だがアナザーシンフォギアはそれでは面白くないと言わんばかりに、翼たちが避難地とした場所へ砲撃しようとする。

だが、そこへジオウが割り込み、再びサイキョージカンギレードを構え―――

 

KING(キング) GIRIGIRI(ギリギリ) SLASH(スラッシュ)!!!』

 

「とぉりゃぁぁぁぁああ!!!」

振り抜いた黄金の奔流が、襲い掛かる破壊の数々を一刀の元両断する。

舞い散る爆炎―――その光景を前に、翼は、そっと息を吐く。

「・・・・なんで」

ふと、胸の中で、クリスが何かを呟いた。

「なんでっ!」

次に顔を上げたクリスの顔は、涙で濡れていた。

「なんでっ、どうして助けた!?アタシは、アンタを裏切ったのにっ、アンタの事を、沢山傷つけたのに、なのにっ、どうして助けた!?助けたんだよぉ・・・!!」

泣いていて、涙がその眼から零れていて、クリスは、何かを懇願するかのように泣いていた。

かつて、自分の相棒になってやるって言ってくれた少女は、今やとても脆く、少しでもつついてしまえば崩れてしまいそうなほどになっていた。

だけど―――

「・・・確かに、私がこの拳を握り締めて、お前を殴るのは簡単だ」

翼は、そう呟いて、クリスを真っ直ぐに見つめた。

「だが、それで私の気は晴れはしない。例え、裏切られたのだとしても、私はお前を、私怨などで傷つけたくない」

「どうして・・・そんな・・・」

「何故なら私は、自意識過剰で、世界的トップアーティストで―――一番最初のシンフォギア装者だからだ」

自分より、一つ下の少女に、翼は微笑む。

「もし、私を裏切った自分を信じられないというのなら、私を信じて欲しい。雪音を信じる私を信じて欲しい。今は、それだけでいい」

立ち上がって、翼はアナザーシンフォギアと向き合う。

「見ていてくれ。私の戦いを」

『戦うぅ?シンフォギアを纏えないオマエがぁ?フハハハハ!!笑わせてくれる!』

アナザーシンフォギアが、嘲笑う。しかし、そんなアナザーシンフォギアに、翼は怯むことなく言い返す。

「一度はもがれたこの『翼』、されど今一度、私が愛する者たちの為に舞い上がらんッ!!」

掲げたのは―――母から託されたシンフォギアのペンダント。

「戻って来い―――アメっ!」

 

その途端、ペンダントが光り出し、瞬く間にその姿を一匹の兎へと変えた。

 

『何っ!?』

「おかえり―――いこう」

そして、その兎―――リンク・アニマル『天羽々斬ラビット』のスタンバイスターターを押した。

 

『STANDBY!』

 

アメを宙へと放り投げれば、その姿はすぐさま炎を纏う一匹の獣へと変わり、翼の周りを飛び回る。

その最中で、翼は胸の中の歌と共に、両手を広げ、右手を真上に、左手を背中へと回し、そして、右手で作った手刀を、顔の前で、合掌するかのように構え―――変身する。

 

「―――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)――」

 

舞い上がる炎と風が、服が飛び散り一糸まとわぬ姿となった翼に纏われる。

ギアインナーには兎の影、ヘッドギアには兎の意匠、各装甲は兎を象る。

その姿は、まさしく正史から離れた姿。だが、それこそが、今の風鳴翼にとっての、真実の姿。

愛と平和を愛する男と、同じ形のシンフォギア―――。

 

桐生戦兎(ビルド)()()()()()()()のシンフォギア・天羽々斬がここに復活した。

 

その刃を携え、翼は言い放つ。

「いざ、推して参るッ!!!」

その言葉と共に、翼は駆け出す。

『ふぅざけるなぁぁあぁああああ!!!』

叫ぶアナザーシンフォギア。放たれた無数のレーザーと火炎が一斉に翼を襲う。

「リンクスアームズ!」

 

『Links Armes 〔Sky Spring〕!』

 

不可視のバネ『スカイスプリング』をギアに展開し、翼は飛ぶ。

その気になれば遥か彼方まで飛ぶことの出来る程の弾性力を持つそのバネのリミッターを解除すれば、空中を蹴って移動することなど容易い。

それを利用し、空中にいても翼はその凄まじい攻撃の嵐を掻い潜ることが出来た。

そして、懐に飛び込み、その胸に一閃、刃を入れる。

『ぐぅっ!?』

(浅いッ!)

すぐさま蹴って反撃をかわし、翼は襲い掛かる攻撃の数々を躱してく。

(やはり今の私では決定打に欠ける。せめてエクスドライブになれれば・・・ッ!)

「翼ッ!」

空中を駆ける翼を、ジオウが呼ぶ。

そして、翼と入れ違いになるように、ジオウがその砲撃の嵐の中を掻い潜って敵の懐に潜り込む。

「とりゃぁ!!」

『ぐおっ!?』

相当な一撃を肩に食らい、一瞬、肩がノックバックする。

どうやら、攻撃が効いていないわけじゃないらしい。

『おのれぇぇえ・・・・!!』

アナザーシンフォギアが顔を歪め、一歩前に出ようとする。

 

だが、その踏み出そうとした脚が、凄まじい衝撃と共に止められ、アナザーシンフォギアがよろける。

 

『なっ・・・!?』

その脚元には、ウォズがいた。その姿は、先ほどのシノビとは異なるものであった。

 

BIG(デカイ)DESTROY(ハカイ)EXCITING(ゴウカイ)FUTURE(ヒューチャ) LING(リング) KIKAI(キカイ)KIKAI(キカイ)!!』

 

圧倒的硬度とパワーをもって戦う『仮面ライダーキカイ』の力をもった『仮面ライダーウォズ フューチャーリングキカイ』である。

 

「今だよ。ゲイツ君」

「―――言われなくてもやってやるッ!!!」

そこへ、ゲイツの超高速の攻撃が炸裂する。

 

CLAW RUSH(つめ連斬)!』

 

無数の青い光弾がアナザーシンフォギアの全身に降り注ぐ。その光弾が展開されていた銃器を、火を吹いていた竜を、そしてアナザーシンフォギア自身を撃ち抜く。

「ハァァアッ!!!」

そして、最後の一撃が、アナザーシンフォギアの額を撃つ。

『ぐあぁぁあ!?』

大きく仰け反るアナザーシンフォギア。

「どうだッ・・・!?」

「ちょっ!?ゲイツ、それフラグ――――」

 

次の瞬間、ゲイツが地面に叩き落とされた。

 

「なっ!?」

「ぐあぁぁああ!?」

地面に叩き落とされたゲイツは、その身を地面に埋め、沈黙していた。

「ゲイツッ!?」

「明光院!?」

「うわぁああ!?」

続けて、ウォズが蹴っ飛ばされ、宙を舞って壁に叩きつけられる。

「ウォズ!?」

『次はオマエだ』

「ッ!?」

ジオウが、未来を先読みして、アナザーシンフォギアの攻撃を間一髪で回避する。

「くぅっ!?」

『フハハハ!いくら魔王と言えど、我がシンフォギアの前には太刀打ちできないようだなぁ!』

アナザーシンフォギアが上空へ手を上げる。

すると、時空の穴がアナザーシンフォギアの真上に展開され、そこからカインが使っていた時空跳躍艇が飛び出してくる。

「あれは・・・!?」

そして、それに手を突っ込むと、瞬く間に自らと融合する。

 

『レメゲトン―――テウルギア』

 

次の瞬間、アナザーシンフォギアの周囲に何故か天使のような何かが現れると、それらが光の沈分を巻き散らし、瞬く間にジオウたちにつけられた傷を修復してしまう。

「「なっ―――!?」」

その光景に、ジオウと翼は絶句する。

「うそでしょ・・・」

装者たちを守るように動いていたツクヨミも、こればかりは想定外だった。

「レメゲトン・・・ああ、なるほど、確かに彼はソロモンだね・・・あれは、ソロモンが使っていた魔導書の原本か・・・」

再びアナザーシンフォギアが、今度はジオウ達に向かって手を掲げる。

 

『ゲーティア』

 

「ッ!?まずいっ!」

ジオウが未来予知を、翼は自らの勘に従って逃げる。

次の瞬間、地面が砕け散り、そこからマグマが蛇のように飛び出しては翼とジオウに襲い掛かる。

圧倒的高機動で翼はそれから逃げおおせる。だが、未来予知と高い身体能力を持つジオウⅡは、それでも逃げられず、マグマの蛇に掴まう。

「ッ!?しま―――」

そして、突然出現した大岩を叩きつけられ、全身を水の弾丸で滅多打ちにされたのち、火にあぶられ、そのまま振り回されてドームの壁をひきずられ続け、やがて地面に叩きつけられる。

「ソウゴッ!!」

「常磐ぁ!!」

そこには、ボロボロのジオウが倒れていた。

「っ、くそっ!!」

翼は、とうとう集中砲火を受けると悟って全力で逃げる。

だが、あまりにも激しい攻撃の嵐に逃げきれず、直撃を喰らう。

「ぐあぁぁあぁああ!?」

「ッ!先輩!」

直撃を喰らって、地面に落ちる翼。

「ぐ・・・ぅぅ・・・」

全身が、焼けるように痛い。痛みで動けない。

(くそっ、動けっ・・・動けッ!!!)

動かなければやられる。動かなければ、今度は―――

『随分と手こずらせてくれたね・・・』

アナザーシンフォギアがにやける。

『ジオウを倒せればそれでいいと思っていた。だが、どうやら君たちシンフォギア装者も脅威であるということらしい・・・であるならば』

「やめ・・・ろ・・・!!」

アナザーシンフォギアが、その視線を、装者たちへと向ける。

シンフォギアの力を纏えない、ただの少女たちへと。

「やめろぉ・・・!!」

既に行動は始まっていた。

「えっ・・・!?うわああぁあ!?」

「調!?調ぇぇええ!!」

突如として調の足元の地面が盛り上がり、そのまま床の欠片が浮遊し、調を連れ去る。

「くっ!?うわぁああ!?」

すぐさまツクヨミが助けに入ろうとするが、突如としてその体の表面が爆発、吹き飛ばされる。

「き、きりちゃ―――ああ!?」

高く高く持ち上げられた調。その調を、同じように浮かんでいた瓦礫が取り囲んでいく。

「調ちゃん!」

「何をする気!?」

『汚い花火を見せるだけさ』

その言葉の意味を、一瞬理解できなかった。

だが、徐々に調を取り囲んでいた瓦礫が、その密度を狭め、調の体を押し潰していく様を見て、悟ってしまう。

「いや、いやぁ!調ぇえ!!」

切歌が悲鳴を上げる。

「くっ―――!!」

響がすぐさまペンダントを取り出して聖詠を歌おうとする。だが―――

「・・・浮かばない・・・シンフォギアを、纏えない・・・!?」

既に、シンフォギアを纏うための力を、響は持ち合わせていなかった。

それは、翼を除く、他の装者も同じだ。

「あ、ああ・・・!切ちゃん・・・!」

押し潰されていく、調。

更に、

「ッ!?なんだ!?」

突如として足元から生えてくる樹木のような蔦が、装者たちを捕まえ、締め上げる。

「雪音、マリアっ!皆!!」

『君も少しは大人しくしていたまえ!!』

どうにか回復した翼が、すぐさまアナザーシンフォギアに向かって突撃しようとする。

だが、その行動はいとも容易くアナザーシンフォギアの手によって捕まえられ、壁に叩きつけられる。

「がっ―――!?」

意識が一瞬、飛びかける。

『さあ、そこで見ているがいい』

アナザーシンフォギアの巨大で醜悪な顔が、翼の眼前に迫る。

『お前の愚かしい行動の果ての結果をねえ!!』

「やめっ・・・ろぉ・・・!!!」

空いた手を、空中にいる調にかざす。

「調ぇ!!」

「逃げてっ!!!」

圧迫する力が強くなる。このままでは、生身である調が押し潰れてしまう。

 

このままでは――――

 

(私は―――ッ!!!)

『フハ、フハハハハハハハハアハハア――――』

 

―――アナザーシンフォギアの頭上に、何かが激突する。

 

『がァ!!?』

一瞬、何が起きたのか分からなかった。突然、目の前にあったアナザーシンフォギアの顔面が、下に落ちたのかと思った。

だが、違う。

翼は見た。

 

アナザーシンフォギアの頭に突き刺さる―――一本のドリルのような剣を―――

 

「――――ドリル・・・クラッシャー・・・?」

そう、呟いた時、

 

スクラップクラッシュッ!!!』

 

「―――もぉういっぱぁぁぁぁあっつ!!!」

 

オレンジ色の閃光が、再びアナザーシンフォギアの頭上に直撃する。

『がぁぁぁああ!?』

今度こそ沈むアナザーシンフォギア。

「あ・・・あ、わぁぁあ!?」

そこで力が消失したのか、瓦礫から解放された調が一気に落下する。

「しら―――」

「調ッ!!」

切歌が呼ぶ前に、アナザーシンフォギアを沈めた張本人が、その名を呼んで飛び上がる。

そして落ちてきた調を抱きとめる。

「ん・・・え・・・」

落下していく最中で、調は、その人物を顔を見た。

 

正確には仮面だ。

質素な素体の上に、半透明の装甲を纏ったかのような仮面。

その体もオレンジ色の装甲に包まれ、全身を武装しているかのようだ。

だが、調は、その半透明の仮面―――虎を模したかのような仮面に、ふと、唐突に、突然に、その人物の名を思い出す。

 

「―――慧・・・くん・・・?」

 

『仮面ライダータスク』―――『涼月慧介』。

彼が、今、ここにいた。

「よっ、元気してたか?」

「あ、ああ・・・慧くん、慧くん!!」

調は、あまりの感情に彼に抱き着く。

「あっ、待って!?今抱き着かれるとバランスがっギャァァアァアァ!!?」

そのまま背中から勢いよく落下。

「あ・・・が・・・受け身取り損ねた・・・・ん?」

ふにゅり、と、覚えのある感触。それに彼は―――タスクは仮面の奥で一気に青ざめる。

「うわぁぁあ!?ごめん!ごめん調!再会してそうそうこういうのって―――」

すぐさま離れようとしたタスクだったが、調はその手を掴むと自ら自分の胸にあてがう。

「ちょっ!?調さ―――」

「もっと触って・・・!」

「ハイ!?」

とんでもない調の発言に、とうとう考える事ができなくなるタスク。

だが、その間にも―――

「一体何が・・・」

「まあ無理もない」

 

スパパパパン

 

なんて気持ちの良い音が聞こえたかと思えば、瞬く間にマリアたちを拘束していた樹木が輪切りにされる。

「俺もさっきまで忘れていた。まさかこんな形で帰ることになろうとはな」

背中の鞘に、その刃を仕舞いこみ、白色の装甲を纏う男の背をマリアは見た。

そして、その男が振り返って、マリアを見る。

「何を呆けている?マリア」

 

『仮面ライダークライム』―――『シン・トルスタヤ』

 

「シン・・・!?」

その姿に、マリアも唐突に思い出す。

自分が、最も愛した男の事を。

「うわぁあ!?」

一方の切歌は盛大にすっころぶ。

「あたた・・・あっ!そうだ!調は!」

『おのれぇ!!』

「げっ」

そこでアナザーシンフォギアが起き上がる。

『何故、お前たちがここに―――』

「知るかそんな事ォ!!」

 

ツゥインブゥレイクッ!!』

 

まさしく顔面にストレートパンチと言った如く、ロボットの一撃がアナザーシンフォギアの顔面を撃ち抜く。

『ギャァァァアア!?』

「突然呼び出されたと思ったら変な所に放り投げられて、いきなりこんなデカブツとやりあえだぁ・・・?」

その巨人を殴り飛ばした男が、切歌の目の前に降り立つ。

「最高じゃねえか、丁度色々と溜め込んでたんだ。お前で発散させろや」

 

『仮面ライダーグリス』―――『猿渡一海』

 

「かし・・・ら・・・」

「ん?おう、切歌じゃねえか。どうした?そんな変な顔して」

グリスが、茫然とした様子の切歌と目線を合わせるように腰を落とす。

「かしら・・・かしらぁ・・・」

「え?何泣いてんだお前?」

思わず泣き喚いてしまう。

「慧介君・・・シンさん・・・一海さん・・・」

その光景に、響は思わず、目の奥が熱くなる。

「まァ、そういうこったァ」

そんな響の隣に、()()()()()()()()()()()が立つ。

「え・・・・」

「よォ響ィ。元気してたかァ?」

その登場に、響は思わずその名を嬉しそうに呼んだ。

「エボルトさん・・・!」

 

『仮面ライダーエボル』―――『エボルト』

 

「どうしてここに?」

「なァんか面白そうなことになってんで来たってわけだ」

愉快そうにエボルが笑う。

 

次々と現れる、仮面ライダーたち。

 

「俺はバカだからさ。こういう時、なんて言えばいいのか分からねえ」

クリスの後ろから、わしゃわしゃと撫で回す手。

「だけど、たぶん一番最初に言わなきゃならねえのがこれなのは分かってる―――ただいま、クリス」

 

『仮面ライダークローズ』―――『万丈龍我』

 

「りゅう・・・が・・・りゅうがぁ・・・!」

「おいおい泣くなって!?いや、そりゃあ忘れてたから仕方ねえけどよぉ・・・難しいことは俺には分かんねえんだよ!?文句言うならここまで手こずった戦兎に言え戦兎に!!」

クローズが指さす先、そこに彼は立っていた。

 

「―――待たせたな、翼」

 

その声を聞くだけで、心がとても、満たされたような気になる。

 

「本当に、待ちくたびれたぞ」

「悪い。ちょっと、今の今まで忘れててさ」

「天才が、聞いて呆れるな」

 

その表情を見るだけで、自分は、間違ってなかったのだと思える。

 

「それはないだろ?ここまで来るには俺の力なくしてはありえなかったんだぞ?」

「本当か?お前は変な所でバカになるからな」

「バカは万丈のことだろ・・・」

「いいや、バカはお前だ。この、大馬鹿ものめ・・・」

見覚えのあるトレンチコート。兎の耳のように飛び出す癖毛、左右色の違う靴。

「どれだけ待ったと思っている・・・どれだけ、心配したと思っている―――」

 

その男の背後に、アナザーシンフォギアの魔の手が文字通り迫る。

 

クラックアップフィニッシュ…ッ!!!』

 

だが、それは突如として噛みついてきた(クロコダイル)によって阻止され、そのまま腕を捻られ倒される。

 

『ぐあぁぁあああ!?』

 

「せっかくの感動の再会だ。水を差すな」

「全ては民衆の為に・・・その命で贖えぇぇえええ!!!」

 

エボルテックアタァックッ!!!』

 

今度は破壊の乱打がアナザーシンフォギアを襲う。

『ぐおぁぁぁぁぁあああ!?な、何がぁぁああ!?』

 

さらに、どこからともなく飛んできた砲撃の前に大きく体を仰け反らされる。

 

「ハッハー!」

「三羽ガラス!」

「惨状!」

「・・・・って、文字が違う文字が違う!惨状じゃなくて参上だよ!?」

 

『ぐっ、おのれ―――ぐぉあ!?』

 

「撃て撃てありったけ撃っちゃえ!」

『少しテンションが高すぎるんじゃないのか?まあ、こういう状況だからこそ、この装備を持ち出せたわけだからな。そんなことより早く』

「あ、そうだった!すぐにマリア姉さんたちの所に行かないと・・・」

 

『こざかしいィ!!!なっ!?ぐああ!?』

 

「ったく、なんで私がマリアの手助けなんてしなくちゃいけないのよ・・・」

「そんなこと言いつつ、助けてあげちゃうんだよね」

「じゃ、ジャックが行くから仕方なくよ!」

『惚気はいい。こっちがサポートしにくい。おい!ゲインツ!そっちはどうなんだ!?』

『今衛星をハッキングしているところだ!全く私は悪の科学者なのであってハッカーじゃないんだぞ!?』

「いいからさっさとやりなさいクソジジイ!ジャックの為に働くのよ!」

 

『ば、バカな・・・何故、こんなにも―――』

 

「それはお前がやってきたことが返ってきた結果だ」

 

高台に、その男は立っていた。

 

『なんだと・・・!?』

「お前が支配するようでは破壊もやむなし・・・と思っていたが、どうやらその心配はなさそうだ。だが、お前の力を見るに、流石にこいつらだけでは手が余りそうだ」

『貴様、何者だァ!?』

「俺か?俺は―――」

 

 

「―――通りすがりの仮面ライダーだ」

 

 

 

 

 

「うん、まあ・・・悪かったよ」

「本当に、悪いと思っているのか?」

「思ってる。マジで思ってる」

「だったら、全部、ここで見せてくれ。お前の言う、最っ高で、天才的な結末を、私に」

「ああ、任せろ」

 

(天才)がコートを靡かせ振り返る。

 

『おのれぇ・・・おのれぇぇええ!!!』

喚き散らすアナザーシンフォギア。そんな怪物を後目に、男は、大胆不敵な笑みを崩さない。

 

「さあ、実験を始めようか」

 

『仮面ライダービルド』――――『桐生戦兎』

 

 

 

今、全ての歯車がここに集結した。




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!?

ついに集結する、ビルドたち。

「皆、行こう!!」

激突する怪物と戦士たち。

「特別出血大サービスだ!!」

荒ぶる巨人の力を前に、それでも彼らは止まらない。

「決めろっ!」

世界を取り戻す。その為に、

「これで最後だ・・・ッ!!!」


次回『それは一番初めの物語』


「―――好きだ、戦兎」




戦「あ~、やぁっと戻ってこれたぁ・・・」
龍「いや~、休んでる間、結構満喫できたぜ。クリスの料理食えなかったことだけが心残りだけどな」
慧「ゼエ・・・ゼエ・・・あ、危うく調に喰われる所だった・・・」
シ「そんなこと言って。夜の獣と書いて『夜獣』なのはお前の方だろう」
一「みーたーん!待っててー!俺今すぐ帰るから~!!」
内「さて、我々はセレナ嬢依頼の品をすぐにでも作らなければならないのでこれdガッ」
戦「その話詳しく聞かせろ」
幻「やれやれ・・・というわけで、次回を楽しみにしてくれ。では」


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それは一番初めの物語

戦「火星から持ち帰ったパンドラボックスによって引き起こされた『スカイウォールの惨劇』から十一年!見事新世界を創造した仮面ライダービルドこと桐生戦兎は、その新世界で出会ったシンフォギア装者風鳴翼と共に、ノイズや錬金術師と戦っていく日々へと身を投じていくのであったフゥッフゥ!!!」
翼「今日は一段とテンションが高いな戦兎は・・・」
ソ「まあ久々みたいだからね」
戦「やっと主役の俺が戻ってきたぜ!というわけでいつも通りの調子で・・・」
シ「桐生戦兎、残念だがまだ風鳴翼が主役だ」
戦「なんでだよ!?ここ一ヶ月以上ずっと出番なかったんだぞオイ!?」
シ「それぐらいにてやってくれないか?今慧介や万丈龍我が調や雪音クリスに襲われている」
戦「そういうお前はどうだったんだよ?」
シ「マリアとエリザがいがみ合ってくれているお陰で逃げれた」
戦「ああ、そう・・・」
セ「姉が申し訳ありません・・・」
響「笑えばいいよ・・・ヒシアマゾンを手に入れられない私なんて・・・」
切「笑うがいいデス・・・いつもいつも調に殺されかけるアタシなんて死んだあとも足蹴にすればいいんデス」
ゲ「もはや見てられんな」
ウォ「そういうものじゃないよゲイツ君。それはともかくとしてそろそろ本編に・・・」
戦「まだだ!まだ俺のバトルフェイズは終了してないZE!」
ソ「いや終わったから!終わらないと話し進まないから!」
戦「HANASE!俺はこの小説の主役だぞ!だから俺を語らせろ!俺をのけ者にするなぁあぁああ・・・」
翼「ああ!戦兎ー!」
シ「諦めろ風鳴翼・・・」
麗人「やれやれ仕方がないわね。まあ皆私のことなんて忘れてるだろうけど、シンフォギア・ビルド オリジン・ザ・天羽々斬最終話をどうぞ」


まさかまさかの大集合―――その登場に、アナザーシンフォギアは大いに混乱する。

『何故だ・・・なぜだぁぁぁあ!?』

「簡単な話だァ」

エボルトが嘲笑うように答える。

「俺ァパンドラパネルを自在に操れる。なんか違和感感じたんで地球に戻ってパンドラパネルをちょちょいっと触ってみればあらびっくり。全く違う世界の記憶がまとめて蘇ったって訳さぁ」

「二つの平行世界を繋いで融合することの出来るパンドラパネルの力だ。本当の歴史の記憶を取り戻させることも容易いってことさ」

戦兎が得意気に続く。

「まあ、慧介とセレナがパンドラボックスから飛び出してきたのは流石に驚いたけどな」

「今思うと、なんであのパネルから飛び出せたのか全然わかんないんだよな・・・」

クローズとタスクがしみじみ言う。

「ま、そういうことだ。それで、記憶を取り戻した奴全員に声かけまくって、こうして勢揃いでお邪魔してきたってことだ」

『ぐ、ぐぐぐ・・・!!』

「まあ、それだけじゃないがな」

そこへ、マゼンタ色のカメラを首から下げた男―――『門矢士』が話に割り込んでくる。

「ギャラルホルンは平行世界を繋げる機能を持っているが、お前が細工したおかげでこの世界だけ『仮面ライダー』を拒絶するようにされていた。だから、本来この世界で行われる筈だった世界融合はなかったことにされ、俺の力ではどうにか魔王たちだけしか送り出すことが出来なかった。だが、ついさっき細工されたギャラルホルンが一時的に機能を停止した事により、パリアが解除されてパンドラパネルによる通路が出来た訳だ」

そして、と士はアナザーシンフォギアを突きつける。

 

「お前は()()()()()()()()()()()()()を持っている。つまりそれを破壊すれば―――」

 

「歴史は元に戻るってわけだね」

ジオウが、答えを言う。

「お前はその細工する前のギャラルホルンを破壊されたくなくて、あの時空艇を取り込んだ。つまり、お前を倒せば―――」

「歴史が元に戻る・・・!!」

翼の目に、希望の光が見えた。

「よっ、久しぶり」

「そっちもね」

戦兎が手を振り、ジオウが応じる。

「よく分からねえけど、とにかくアイツを倒せばいいんだな」

クローズが拳を鳴らして構える。

「正直、何が起きてるのかわからないけど、これだけは分かる・・・調を傷つけたアイツを絶対に俺は許さない」

タスクが腰を落とす。

「エリザ、聞いていたな」

『ようはあの化け物をぶっ倒せばいいんでしょ?私好きよ?こういうシンプルなの』

クライムが通信をしつつ、背中の刀に手をかける。

「国を奪われたがために、多くの人間を騙すとは・・・貴様に大義を背負う資格はないっ・・・!」

ローグがアナザーシンフォギアを指さし、その在り方を否定する。

「この怪物を倒せば、我が難波製作所の知名度もさぁ~らぁ~にぃ~上がるぅ~・・・フハ、フハハハハハハ!!!!」

まさに狂人と言った具合に高笑いするマッドローグ。

「みーたんとのデートを返上してまで来たんだ・・・楽しませてくれなきゃマジで二度と人前に出られねえようにボッコボコのぎったぎたにしてやる」

グリスが拳を握り締めて、怒りを滾らせる。

「全部返してもらうぞ。歴史も、今までも、これからも、何もかも」

戦兎がビルドドライバーを腰に装着する。

「みんな・・・あ、でも、私たち今のままじゃ戦えないよ!?」

確かに、シンフォギアの歴史を奪われた装者たちでは、戦いに参加することは出来ない。

「安心してください!」

しかしそこへ、セレナがウルフに乗ってやってくる。

「セレナ!」

「皆さん、これを!」

そう言って、セレナは持っていたアタッシュケースを開く。すると中から色とりどりの何かが飛び出し、瞬く間に彼女らのギアペンダントを、その身に収納する。

 

それは、彼女たちのリンク・アニマルであった。

 

「キュアー!」

「ニクス!」

「こんなこともあろうかと、ペンダント状態から使えるリンク・アニマルを作っておきました!これで皆戦えます!」

「ありがとう、セレナ!」

響のニクス、クリスのバル、マリアのラム、調のシュル、切歌のマシャ―――それぞれのリンク・アニマルが、その手に戻る。

「およ?セレナの肩にもう一匹・・・」

気付けば、セレナの肩にも一匹、マリアのものと同型のリンク・アニマルが乗っかっていた。

それにセレナは得意気に胸を張る。

「私も戦えるよ!」

「ええ!?そうなの!」

驚く一同。だが、マリアはふっと笑う。

「そう、頼もしいわ」

「えへへ」

マリアの言葉に、セレナは嬉しそうに顔を綻ばせる。

「響ー!」

「あ、未来!」

そして今度は未来がやってきた。

「ごめん、遅くなっちゃった!」

「え!?でも、未来は・・・」

「大丈夫!」

「キュルー!」

未来の懐から、クロが出てくる。

「なんだか突然出てきちゃって・・・」

「え、そうなn」

「ええ!?なんだかクローズドラゴンが全然機能しないから失敗したのかと思ったのに!?」

どうやら、セレナにとっては想定外のことだったらしい。

「私も戦うよ」

「未来・・・!」

同時に、アナザーシンフォギアが叫ぶ。

『おのれぇ・・・たかが数を揃えた所で、真の王たる私を止められると思うなぁぁぁあああ!!!!』

「お前は王なんかじゃない」

そのアナザーシンフォギアの言葉を、翼が否定する。

「お前は奪ったんだ。奪っただけの、ただの小心者だッ!!」

『なぁんだとぉぉぉぉおお!?』

翼の言葉に、アナザーシンフォギアは怒り狂う。

「先輩・・・」

その姿に、クリスは思わず見惚れてしまう。

そんなクリスの肩に、クローズが手を置く。

「行こうぜ」

「・・・ああ」

クローズの言葉に、クリスは安心するようにうなずく。

その最中で、戦兎は、ふっと笑ってポケットから二本のボトルを取り出した。

 

赤の兎と、青の戦車の、ボトルを。

 

それを戦兎は振る。

 

振ることによって、中のトランジェルソリッドを刺激し、活性化させる。

それと同時に、このドーム一体を埋め尽くすような数式の嵐が巻き起こる。

十分に活性化させた『フルボトル』を、戦兎は自分の腰に巻いたドライバーにセットする。

 

 

ラビット!タンク!

 

ベストマッチ!』

 

 

『ベストマッチ』―――最も相性の良いボトルの組み合わせを検知した時、その光は現れる。

そのまま、ボルテックレバーを回し、スナップライドビルダーを展開、装甲を象る。

 

『STANDBY』

 

それと同時に、装者たちがそれぞれのスタンバイスターターを押し、アニマルブレイズを出現させる。

 

『KAMEN RIDE』

 

門矢士は、その手に自身のベルト『ディケイドライバー』を持ち、それを腰にあてがう。そして、巻かれたベルトの横にある『ライドブッカー』から一枚のカードをとりだし、サイドハンドルを引く。そして、上を向いた『ライドリーダー』に、そのカードを挿入した。

 

Are You Ready?

 

 

覚悟は良いか?

 

 

その答えは、いつも決まっている。

 

それに答えるように、戦兎はファイティングポーズと共に叫ぶ。

 

「変身ッ!」

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron(希望の為のカウントダウン)―――」

 

「―――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)―――」

 

「「―――Seilien coffin (望み掴んだ力と誇り咲く)airget-lamh tron(笑顔/望まぬ力と寂しい笑顔)―――」」

 

「―――Various shul shagana tron(純心は突き立つ牙となり)―――」

 

「―――Zeios igalima raizen tron(夜を引き裂く曙光のごとく)―――」

 

「―――Rei shen shou jing rei zizzl(鏡に映る、光も闇も何もかも)―――」

 

『DECADE』

 

ブレイズが、装者たちの装甲を形取り、その身を、超常と戦える姿へと変える。

ビルダーが戦兎を挟み込み、戦兎を、あらゆる困難に立ち向かう力をもった戦士へと変える。

 

仮面を被り、涙を隠し、『正義』を体現する―――それこそが―――

 

鋼のムーンサルトラビットタンク!イェーイ!』

 

 

 

―――『仮面ライダー』

 

 

 

赤と青の二色の装甲。兎と戦車、相反する存在。

しかし、それこそが、そのライダーの代名詞。

その名も―――『仮面ライダービルド』

 

 

『創造』の名を冠するライダーである。

 

 

「皆、行こう!!」

ビルドが叫び、一同が一斉にかかる。

『フザケルナァァアァアアァアア!!!』

アナザーシンフォギアが絶叫し、迎え撃つ。

 

先陣を切ったのはゲイツ。続いてクライム。

リバイブ疾風の高速移動でアナザーシンフォギアの周りを飛行。それを叩き落そうとしたところをクライムの脚による斬撃が手首に直撃し起動が逸れ、その隙を抜って未来のレーザーが炸裂する。

だが、そのレーザーはアナザーシンフォギアの展開した鏡に反射される。

 

『ATTACK RIDE―――BLAST!』

 

One Hundred! FULL BULLET!』

 

未来は反射されたレーザーを間一髪で回避。その隙に調の丸鋸の連射、クリスのガトリング砲、ディケイドの『アタックライドブラスト』、ホークガトリングに変身したビルドのホークガトリンガーによる乱射が浴びせられる。

舞い上がる煙幕に視界が遮られる中、飛び込んだ切歌の鎌とクライムの斬撃が、アナザーシンフォギアの脇腹、そして肩を斬り裂く。

さらにタスクが飛び込み、ツインブレイカーでその腹をぶん殴る。

体をくの字にしかけるも、耐えて地面から巨大な木の蔓を出現させては最も接近していた切歌、クライム、タスクに襲い掛かる。

その恐ろしい速度で襲い掛かってくる蔓の攻撃を、切歌はバーニアで、クライムはその機動性で、タスクは柔軟な体を駆使して躱す。

が、クライムは追いつかれ、タスクは逃げ場を失い、攻撃を喰らう。

しかしすかさずアルが飛び込み、一度手を合わせた左手を蔓に叩きつけると瞬く間に木端微塵に分解され、クライムとタスクは脱出する。

すかさずアナザーシンフォギアは無数の銃器を空中に展開。だが、どこからともなく、無数の短剣、蛇のような刃、刃のような血液がその無数の銃器を叩き斬る。

そして、そこへクローズと響が飛び込み―――

 

ドラゴニックフィニッシュ!』

 

炎を纏った鉄拳と、鋼鉄の纏った鉄拳が、アナザーシンフォギアの鳩尾に炸裂する。

それによって体を大きく曲げるアナザーシンフォギア。そこへ、ローグとマッドローグの踵落としがアナザーシンフォギアの額に直撃、額が凹む。

 

『レメゲトン―――』

 

だが、そこでアナザーシンフォギアが動く。

 

『―――アルス・パウリナ』

 

瞬間、全ての時間が遅延する。

 

「なっ!?」

「お、おもっ―――!?」

「重加速・・・!?」

 

その場にある全ての時間が遅くなる。

全ての現象がゆっくりとなり、動き辛くなる。

 

唯一、アナザーシンフォギアを覗いて。

 

『フハハハハ!この遅い世界の中で自由に動けるのは、この私だけだァ』

 

「―――そうでもないぞ?」

 

次の瞬間、ゲイツリバイブ疾風の攻撃がアナザーシンフォギアに突き刺さる。

『ぐぅっ!?たかが一人で何ができ―――』

 

PLANET(ワクセイ)!』

 

『KAMEN RIDE』

 

『なッ!?』

 

PROJECTION(トウエイ)ッ!!』

 

MERCURY() VENUS() EARTH() MARS() JUPITER() SATURN() URANS() NEPTUNE()THERE IS SO MUCH UNIVERSE(宇宙にゃこんなにあるんかい)EXCITING(わくわく)PLANET(ワクセイ)GINGA(ギンガ) PLANET(ワクセイ)!』

 

『DRIVE!』

 

『DRIVE!TYPE SPEED!!』

 

ウォズが起動したのは『ウォズギンガファイナリーミライドウォッチ』。

宇宙の力を内包し、全ての蹂躙するライダー『仮面ライダーギンガ』の力を内包するウォッチ。その中にある『惑星』の力を持った、『ウォズギンガワクセイフォーム』である。

 

その一方、ディケイドはその姿を赤い仮面の戦士へと変えていた。

 

世界を渡り歩く、『ディケイド』という存在そのものである門矢士。その彼の変身する『仮面ライダーディケイド』の特筆すべき点は、自分が通った世界の仮面ライダー全てに変身できるという点だ。

ジオウのアーマータイムとは違う。そのライダーそのものに変身するのが『仮面ライダーディケイド』の力。

そして今、ディケイドが変身したのは、ライダーの中でも最も異色な『車』に乗るライダー。

かつて世界を停滞の危機に追い込んだ災害『グローバルフリーズ』を経て、機械生命体『ロイミュード』と戦ったライダー『仮面ライダードライブ』だ。

 

ドライブであれば、この時間が遅延する空間を動ける。

ギンガワクセイであればこの空間を無効化できる。

そしてリバイブ疾風であれば高速移動によって無視できる。

 

そして―――

 

「お母様、力をお借りします!」

 

翼が両腕につけたバングル―――『RN式天羽々斬改』を二つ同時に起動する。

 

『『Start Up. Resonance-type Kaiten special equipment』』

 

シンフォギアのギアインナーに走る、二つの青いライン。それが体中を駆け巡り、白と黒、そして青の三色混合のシンフォギアへと変化する。

 

RN式天羽々斬改の能力は、精神力によって使用者の行動を加速させること。

その加速をもってすれば、この遅い空間を駆け抜ける事ができる。

 

 

ゲイツ、ウォズ、ディケイド、翼が、アナザーシンフォギアに立ち向かう。

 

 

『こざかしいッ!!』

すぐさまアナザーシンフォギアは反撃に出る。だが、この時間が遅くなった空間で自由に動ける彼らはその攻撃を躱して見せる。

翼に至っては加速の二乗がけ。その速度は段違いだ。

ディケイドドライブとウォズワクセイが、生み出したエネルギー弾でアナザーシンフォギアの注意を惹き、その間にゲイツリバイブと翼『天羽々斬FG×RN』の高機動によってアナザーシンフォギアの外装を削っていく。

『ぐ、このッ―――』

アナザーシンフォギアが、すぐさま自分の周囲を飛び回るハエを叩き落そうと行動に映る。

だが―――

「ざぁんねんでしたァ」

エボルトが膝カックンの要領で両足の膝を攻撃。思わず膝を付かされる。

『なにィ!?』

「はあぁあ!!」

 

青ノ一閃

 

そこへ放たれる蒼い斬撃。飛んできたその一撃はアナザーシンフォギアを撃ち抜き、瞬く間に遅延空間が解除される。

『ぐぅっ!!ならばァ!!!』

が、すかさずアナザーシンフォギアが動く。

手を空にかざし、そしてそのまま地面に向かって振り下ろす。

すると、いきなり体が重くなる―――。

「ぐああ!?」

「今度はなに!?」

「重力だ!重力を重くしやがった!!」

強化された重力によって、高速移動できる者たちの動きが封じられ、さらには他の者たちも地面に膝をついて動けなくなる。

『ハハハハハ!!今度こそ終わりだァ!!』

「一体どうすれば・・・」

「ならば、今度は俺の番だ」

その最中で、クライムがそう呟くと、すぐさま腰に装着していたビルドドライバーとは別のドライバーを取り出してそれを装着する。

そして、懐から取り出した一本の電池のようなものを、そのドライバーのスロットに差し込む。

そしてドライバーの横にあるつまみ『エネルジェストドライバ』を回す。

 

 

エレエレエレキィエレクトリックゥ!』

 

ボルボルボルトォボルトクライム!』

 

ライダァーネェェタァァァアア!!!』

 

瞬く間に先ほどのクライムとは全く違う姿―――『エレクトリッククライム・ボルトフォーム』に変身したクライム。

そのまま、腰のドライバー『ライダーネーター』中央部分にある『ターミナルスイッチ』を回転させ、再び『エネルジェストドライバ』を回す。

 

そのドライバーの文字は『V』から『Ω』へと変わっていた。

 

瞬間、再び電撃がクライムを撃つ。

 

エ・レ・キ・エ・レ・ク・ト・リ・ッ・ク!』

 

オ・ー・ム・ク・ラ・イ・ム!!』

 

『ライダーネェェェイタァァァアア!!!』

 

その姿は、あまりにも重装甲過ぎた。

膨れ上がったかのような装甲は、これまでのスマートな姿をしていたクライムとはかけ離れており、あまりにも重そうで、しかし逞しい。

 

それが、『エレクトリッククライム・オームフォーム』

 

そのクライムが、立ち上がる。

『ば、バカな!?この重力下でそんな・・・』

「それを、想定しているからな」

ぎぎぎ、となる装甲をそのままに、クライムはずしずしと歩を歩める。

『近づくなぁぁあああ!!』

だが、それで近づけるほどアナザーシンフォギアは甘くはない。

そのままクライムに、その手に現した巨大な剣で叩き潰そうとする。

 

PAWERED(パワード) TIME(ターイム)!!』

 

RI・VI・VE(リ・バ・イ・ブ) RIGIT(ゴウレツ)―――RIGIT(剛烈)!!!』

 

「はあッ!!」

すかさず、ゲイツリバイブ剛烈による攻撃が―――

 

「とぉりゃぁぁああ!!」

重力場を気合で乗り切り飛び出した響が、

 

極熱筋肉ゥッ!!クロォォォズマグマァッ!!!』

アーチャチャチャチャチャチャチャアッチャァァアアッ!!』

 

「うおりやぁああぁああ!!」

紅蓮を纏い、マグマの力を宿したクローズが、

 

 

その大剣を吹き飛ばす。

 

『なぁにぃぃぃい!?』

そしてその隙を逃さず、地面から飛び出した巨大な鉄拳が体を仰け反らしたアナザーシンフォギアの腰に激突する。

『がはぁ!?』

「重力で動けなくても、錬金術は使えるんだよねっ・・・!」

アルの錬金術だ。

それでアナザーシンフォギアの上体がさらに曲がる。

そこへ、今度はいくつもの光弾が突き刺さる。

『ぐあぁぁああ!?』

「レーザーなら、重力は関係ないっ!」

未来、マリア、セレナによるレーザー攻撃だ。

『き、貴様らァ!!』

 

『レッツラストッ!!』

 

『は!?』

気付けば、クライムは既にアナザーシンフォギアの足元まで来ていた。

 

「くたばれっ―――」

 

『ターミネイション・Ω(オーム)!!!』

 

瞬間、背中にまで引き付けた、雷切の一撃―――それが、アナザーシンフォギアを縦一閃する。

右肩から右股関節にかけて、破壊力抜群の一撃が、アナザーシンフォギアを叩き斬る。

『ぐあぁぁぁああぁあああ!?』

そのお陰で、重力が元に戻る。

「戻った・・・!」

『ぐあぁあ・・・おのれェ・・・!』

「よぉーっしっ!!」

今度は、タスクが名乗りをあげるように戦場を飛ぶ。

「今度は俺の番だ!」

その手には、緑色のナックル型アイテム―――。

 

『ボトルビューン!』

 

アイテム『タスクストームナックル』に成分を十分に活性化させた『タイガーストームフルボトル』を装填、それを取り換えたビルドドライバーにセットする。

 

タスクストォーム!!』

 

そのまま空中を飛び回りながらボルテックレバーを回す。

そのまま展開されるのは、マグマライドビルダー、アイスライドビルダーと同じ形のビルダー『ウィンドライドビルダー』。

 

『Are You Ready?』

 

お決まりのセリフの後に、彼は当然のように叫ぶ。

 

「変身ッ!」

 

三点着地と共に、ビルダーから溢れ出した風が彼を包み込む。

 

疾風穿牙!!タスクストォーム!!!』

『ビュバビュバビュバビュバビュバァァァン!!!』

 

巻き起こった竜巻の中に虎の影が見えたと思いきや、全てを吹き飛ばすかの如く竜巻が晴れ、その中から現れたのは、緑の仮面の戦士。

虎意匠の仮面、クライム・オームフォームとは正反対の軽装甲、首の後ろから垂れるマフラー。

 

外見はまさしく忍者のようだった。

 

それこそは、『仮面ライダータスクストーム』であることは、まだ誰も知らない―――。

 

「行くぞォ!」

タスクが、風の力を利用してアナザーシンフォギアに突撃する。

『こざかしィッ!』

態勢を立て直したアナザーシンフォギアが迎撃する。

大剣がタスクに直撃する―――かと思いきや、タスクの姿は残像と共に掻き消える。

『なにッ!?』

「こっちだ!」

声が聞こえて振り向いた瞬間、背後に回っていたタスクの拳がアナザーシンフォギアの顔面を打つ。

『がはっ―――』

「ほぅらもう一発ッ!」

『ごはッ!?』

今度は反対方向からの攻撃で上体を無理矢理戻される。

『な、んだ―――』

そこでアナザーシンフォギアは言葉を失う。

何故なら、自分が見ている景色に、無数のタスクがいたからである。

「ほらほらどうした!?」

「こっちだよ~!」

「いや違うこっちだ!」

「俺じゃないよアイツだよ!」

「どうした?増えすぎて目も当てられないか?」

無数のタスクが、口々にアナザーシンフォギアを挑発する。

『う、うわぁぁああああ!?』

「遅いッ!!」

すかさずタスクの蹴りがアナザーシンフォギアの顔を打つ。

「よくやったガキィ!!!」

そのアナザーシンフォギアに向かって、グリスブリザードナックルを装填したビルドドライバーのボルテックレバーをまわすグリスが飛び込む。

「今度は俺の――――」

 

激凍心火ッ!!グリスブリザァァァドッ!!!』

ガキガキガキガキガッキーンッ!!!』

 

「―――番だこらぁぁぁあああぁああ!!!」

 

GBZデモリッションワンによる一撃が、アナザーシンフォギアの額を打つ。

 

 

―――その時、額にひびが入る。

 

 

「―――ッ!」

それと同時に、ジオウは己の力が満ちるのを感じた。

「力が戻ったか、ジオウ」

そこへディケイドが戻ってくる。

「士・・・!」

「ならさっさと決めろ。お前もだ。今の時間なら使えるんだろ?」

ディケイドはすぐさまビルドにも視線を向ける。

「ああ、そうだな」

それに答えて、ビルドは懐から、ある一つのボトルを取り出す。

 

青色の外装と、金色の固定用金属で作られた、そのボトルを。

 

「万丈」

一方のクローズの所にも、エボルトが近寄ってくる。

「俺たちもアレいっとこうぜェ?」

「ああ?あれか?嫌だよめんどくせぇ・・・」

「可愛い嬢ちゃんに良いトコみせなくていいのかァ?」

「おい!?なんでそこでアタシが出てくる!?」

「・・・今回だけだぞ」

「龍我!?」

クローズも、ビルドが取り出したものと似通った物を取り出す。

 

「ゲイツ君、君も手伝ってあげたらどうかな?」

「俺もだと!?」

「おあつらえ向きじゃないか。邪悪なる王を救世主と魔王が手を取り合って打ち倒す・・・それはとても魅力的な話しじゃないかな?」

「なんか貴様の口車に乗ったようで気に食わんが・・・いいだろう」

「ディケイドの方は?」

「俺はちと制限がかかっててアレが使えん。お前らだけでやれ」

 

―――ビルド、クローズ、ジオウ、ゲイツが並び立つ。

 

「それじゃあ、皆行こうか!」

ジオウの掛け声と共に、四人はそれぞれの究極のアイテムを取り出し、起動する。

 

 

MACHOFEVER!!』

 

GRAND ZI-O(グランドジオウ)

 

GEIZ MAJESTY(ゲイツマジェスティ)

 

 

それは、地球の外から持ち込まれた、全てを守護する力。

 

それは、星喰いの一族の力を宿した、大切な者を守る力。

 

それは、全ての時代を統べ、王へと至る、時の王者の力。

 

それは、どんな困難にも立ち向かい、全てを救世する力。

 

 

名を―――

 

 

マッスルギャラクシー!!』

 

ビルドとクローズは、そのボトル型アイテムをビルドドライバーに装填し、ジオウとゲイツはジクウドライバーの空いたスロットに、その黄金と真紅のウォッチを装填した。

 

『イェーイ!!』『イェイ!!』『イェーイ!!』『イェイ!!』

 

ブルアッ!』『チャオ!』『ブルアッ!』『チャオ!』

 

ADVENT(アドベント)COMPLETE(コンプリート)TURN UP(ターンアップ)CHANGE BEETLE(チェンジビートル)SWORD FORM(ソードフォーム)WAKE UP(ウェイクアップ)KAMEN RIDE(カメンライド)CYCLONE(サイクロン) JOKER(ジョーカー)HAWK(タカ)TIGER(トラ)HOPPER(バッタ)THREE・TWO・ONE(3・2・1)SHABADOOBI(シャバドゥビ)TOUCH(タッチ)TRANFORM(ヘンシン)SOYYA(ソイヤ)DRIVE(ドライブ)EYES OPEN(カイガン)LEVEL UP(レベルアップ)BEST(ベスト) MATCH(マッチ)!』

 

ボルテックレバーを回すビルドの背後に、『プラントライドビルダーGN』が起動する。

クローズの周囲には、ギャラクシーライドビルダーCZEVとエボルトが割り込む形でEV-BHライドビルダーのようなものが展開される。

ジオウの背後には黄金の石碑と共に、ジオウを除いた十九人のライダーが出現し、ゲイツの周囲には、十九個のライドウォッチが出現する。

 

『Are You Ready?』

 

ビルドドライバーから発せられる、その声。

 

『覚悟はいいか?』

 

いつもの言葉。その言葉に、彼らは仮面の奥で不敵に笑い、それに答えるように叫ぶ。

 

 

「「「「変身ッ!!!」」」

 

 

瞬間、彼らの姿が、『最強』の姿へと変身する。

 

GRAND TIME(グランドターイム)!』

 

MAJESTY TIME(マジェスティターイム)!』

 

 

 

 

 

銀河無敵の筋肉ヤロォッ!!』

 

クローズエボルッ!!!』

 

パネェーイッ!!マジパネェーイッ!!!』

 

 

KUUGA(クウガ)AGIT-Ω(アギト)RYUKI(龍騎)555(ファイズ)BLADE(ブレイド)! HIBIKI(響鬼)KABUTO(カブト)DE()N-()O!   KIBA(キバ)DICADE(ディケイド)DO()UB()LE()O()O()O()FOURZE(フォーゼ) WIZARD(ウィザード)GAIM(鎧武)DRIVE(ドライブ)GHOST(ゴースト)EX-AID(エグゼイド)! BU()I()LD()!』

 

『祝え―――』

 

KAMEN RIDER(仮面ライダー) GRAND ZI-O(グランドジオウ)―――ッ!!!』

 

 

 

G-3(ジースリー)KNIGHT(ナイト)913(カイザ)GARREN(ギャレン)IBUKI(威吹鬼)GATACK(ガタック)ZERONOS(ゼロノス)IXA(イクサ)DIEND(ディエンド)ACCELE(アクセル)BIRTH(バース)METEOR(メテオ)BEAST(ビースト)BARON(バロン)MACH(マッハ)SPECTOR(スペクター)BRAVE(ブレイブ)CROSS-Z(クローズ)!』

 

KAMEN RIDER(仮面ライダー) GEIZ MAJESTY(ゲイツマジェスティ)―――ッ!!!』

 

 

「―――いやなんださっきのォ!?」

「いっぱいライダーがいたね・・・」

「なんで調はそんな無関心・・・いや、驚きすぎてリアクションが薄くなってるデスか!?」

「というか、色々とうるさかったような・・・」

「別にいいじゃないか戦兎はかっこいい。それで終わりだ」

「それでいいんすか先輩・・・まあかっこいいのは龍我だけど・・・」

「て、いうかそんな事話し合ってる暇は―――」

 

「―――祝えッ!!」

 

「うわあ!?びっくりしたぁ・・・」

「全てのフルボトルの力を結集させ、あらゆる破壊から全てを守るべく誕生した守護神たる存在―――その名も『仮面ライダービルド・ジーニアスフォーム』!

 

続いて、宿敵と一体化し、その力をもって敵を打ち倒すべく誕生した、銀河を喰らい、敵を倒す最強のライダー―――その名も『仮面ライダークローズエボル』!

 

さらに!闇に苦しむ人々を救い!未来に光を取り戻す真の救世主!その名も『仮面ライダーゲイツマジェスティ』!

 

そぉしてェ!!全ライダーの力を受け継ぎ、過去と未来をしろしめす時の王者、その真なる姿にして究極!究極にして最強!最強にして魔王!その名も『仮面ライダーグランドジオウ』!

 

 

今、四人のライダーが、その真の力を開放し、ここに君臨した瞬間であァるッ!!!」

 

 

「うおっふっふふぅ~!ひっさびさのウォズの祝えだぁ~!」

「・・・なんだアイツ?」

「気にするな。いつもの事だ」

「最っ高だな!」

「「ええ・・・」」

 

 

ビルドは、その体を白の素体で身を包み、その体の各所に、60本の色様々なボトルを装填した姿『ジーニアスフォーム』となっている。

クローズは青と白、そして黒のカラーリングをもった装甲に身を包んだ姿『クローズエボル』となり、そこに立つ。

その一方、ジオウの体には、黄金色の装甲に、体の各所に二十のライダーを模した意匠が施された姿となっており、

ゲイツは黄金と赤の装甲に、肩、胸部装甲に複数のライドウォッチを装着し、マントを靡かせる姿となっていた。

 

 

それが、それぞれの最強の姿であるとは、シンフォギア装者たちは知らない。

 

 

 

『よぉそぉみぃをぉ――――』

 

その間に、空中に無数の黒い球体を生み出し、なおかつ無数の竜の頭や鏡を展開し、既に砲撃準備を終えていたアナザーシンフォギアがそこにいた。

 

『している暇がァ―――』

 

気付いた時には、既に発射態勢に入っており―――

 

 

『ぐぎゃああぁぁああああ!?』

 

 

 

―――突如として空から降り注いだ粒子砲に撃ち抜かれた。

 

 

 

『え?当たった?やった!やったぞ!』

『何驚いてんだ!?当てたのは俺だぞ!?』

『ちょっと!まだ戦闘中なんだから静かにしてよ!』

「え?なに?何が起きたの!?」

「あのクソジジイがハッキングした衛星のサテライトキャノンね・・・」

マリアが驚く一方で、エリザは呆れた様子でそれを見上げていた。

 

だが、それがあっても何も変わらなかったということは、哀れむべきことかもしれない。

 

 

KUUGA(クウガ)

 

 

空中に現れた黄金の『扉』。それが開き、そこから、赤い仮面の戦士が飛び込み―――アナザーシンフォギアを蹴る。

『ぐあぁあ!?』

 

 

METEOR(メテオ)

 

 

『Okay!Jupiter!』

 

 

今度は青いライダーが何もない空中から出現。そのままアナザーシンフォギアの腹をその手に ある木星らしきエネルギー体でぶん殴る。

『ごほぁ・・・!?』

「よしっ!戦兎!」

「任せろっ!」

続いては、ビルドが七色の光を迸らせて飛び上がる。

そして、最初にゴリラの腕らしきものを形成すると、それでアナザーシンフォギアをぶん殴る。

『ご―――がぁぁあぁああ!?』

殴ると同時に電撃が迸り、アナザーシンフォギアを打つ。そのまま倒れるかと思いきや、その背後に何かの紐が出来上がり、それがリングのスロープのように反動をあたえ、再びアナザーシンフォギアを前に出させる。

続けてビルドがアナザーシンフォギアを殴ろうとするが、

『舐めるなァ!』

すぐさま自らも拳を掲げ、迎え撃とうとする―――だが、突如としてその腕にブラックホールが出現し、消滅はせずとも動きを封じられる。

『な―――!?』

『ふっふ~ん』

クローズエボルのエボルトが発生させたものだ。

それによって、反撃の機会を失ったアナザーシンフォギアは―――

「ハァァァアアア!!」

凄まじい突風の鷹による殴打が全身に叩きつけられる。

『ぐあぁああ!?』

 

クロォーズサイドッ!!』

 

その間にボルテックレバーを回したクローズが拳を構える。それと同時に彼の周囲をクローズドラゴン・ブレイズが飛び回り、(いなな)く。

 

『Ready Go!!』

 

マッスルフィニッシュッ!!!』

 

撃ち出された龍の咆哮。それがアナザーシンフォギアの顎を狙い撃ち、大きく仰け反らせる。

だが、それで終わらない。

見えない力―――念力でアナザーシンフォギアを捉えると、そのまま力の向きに対して無理矢理向きを変えるかのように引き、そのまま自分の方へ引っ張る。

「響!」

「はい!リンクスアームズ!」

 

『Links Arms!〔Phoenix Bleze〕!!』

 

不死鳥の炎を纏う響が、倒れかけたアナザーシンフォギアの顔面に、その拳を叩きつける。

『ごはぁ・・・!?』

 

ワンサーイド!』

 

そしてすかさず容赦のないビルドのパンチが炸裂する。

 

 

 

 

強烈な浄化能力―――あるいは、この世の全ての有機物の力を内包した力が、アナザーシンフォギアに直撃―――瞬く間にアナザーシンフォギアの動きを阻害する。

『な、何が・・・!?』

「ちょっとした成分でお前の動きを封じさせてもらった」

「だったら後は殴り放題って事だなァ!!」

開口一番、グリスが飛び出す。

 

グゥレイシャルフィニッシュッ!!!』

バキバキバキバキバキィーンッ!!!』

 

「心火を燃やしてぶっつぶーすッ!!」

『ぐあぁぁあああ!?』

グリスの蹴りがアナザーシンフォギアを氷撃する。

 

大義晩成ィッ!!プゥライムロォーグッ!!!』

『ドリャドリャドリャドリャドリャァァアア!!』

 

続いて、『プライムローグ』へと変身したローグが、ボルテックレバーを回して飛び上がる。

 

「大義の為の、犠牲となれ・・・ッ!!!」

 

プゥライムスクラップブゥレイクッ!!』

 

『ぐあぁぁあ!?』

その左腕を噛み砕き、アナザーシンフォギアは悲鳴を上げる。

「今度は俺の番だッ!!」

 

テンペスティックフィニッシュッ!!!』

 

「俺の牙は、誰にも折れねぇぇえええ!!」

炸裂したタスク飛び蹴りがアナザーシンフォギアの脇腹に突き刺さる。

『お、おのれぇぇええ!!』

しかしそこでアナザーシンフォギアがビルドの麻痺を無理矢理解除、その勢いのまま、咆哮のままにレーザーあたり一面を破壊する。

もはや見境なしにである。

 

だが、

 

「俺の罪で、貴様を裁く」

 

『・・・は?』

 

気付いた瞬間には、紫電一閃、斬り裂かれていた。

 

『ターミネイション・A(アンペア)

 

『な――――ぁ―――!?』

途端に、レーザーが霧散する。

「我ァがァ難波製作所はァ―――世界一ィィィ―――――!!!』

 

エボルテックアタァック!!!チャーオ!』

 

今度はマッドローグの拳が炸裂。

『―――クソどもがぁぁあぁあああああ!!』

 

『レメゲトン―――ッ!!』

 

すぐさま、マッドローグを叩き落そうとする。だが、それも―――

 

 

流星

 

――――小日向未来の『聖遺物殺し(レリックキラー)』の直撃を受けては、それを行うのは不可能に等しい。

「デェェスッ!!」

続けて切歌が突貫。

 

対鎌・螺Pぅn痛ェる

 

大鎌の一撃がアナザーシンフォギアを斬り裂く。

「やぁぁああ!!」

 

非常Σ式 禁月輪

 

そこへ調の大車輪が背中を駆けのぼり、その通り道に深い傷を作る。

『ごぁぁああぁああ!?こ、この程度でぇえええ!!!』

だが、それでもアナザーシンフォギアが動く。

なりふり構っていられないのか背中から飛び出した管のような機関から、もはやそれだけで数えるのが億劫な程の数のミサイルを発射、まとめて装者、ライダーたちにぶつける。

「させない・・・!」

「はあ!」

だが、それはセレナの展開したバリアに防がれ、それ以外の建物そのものを倒壊させかねないミサイルはツクヨミの時間停止能力で防がれ、爆破される。

「ここまで来るともはや見苦しいな」

 

『FINAL ATTACK RIDE』

『DI DI DI DICADE!!!』

 

いくつも展開される、カードのようなエネルギーフィールド―――その、通り道。

何枚も折り重なるその通り道は、ディケイドの動きと連動してアナザーシンフォギアを照準する。

そして、ディケイドは飛び上がり、アナザーシンフォギアに飛び込む。

そのカードを通り抜ければ別の次元へ行き、またカードを通れば戻ってきてはそれを繰り返し、エネルギーを蓄積、最後のゲートを通り抜ければ、あとは最強の一撃を当てるだけ―――

 

それが、ディケイドの『ディメンションキック』。

 

『ぐあぁぁあああ!?』

炸裂したディケイドのライダーキックが、アナザーシンフォギアを吹き飛ばす。そのまま壁に叩きつける。

「あとは任せたぞ」

その隙を狙って、マリアとエリザが飛び上がる。

『このっ―――ッ!?』

すぐさま防御しようとしたが、アルの錬金術によって飛び出した地面がアナザーシンフォギアの手足を拘束。

その間に、新体操選手の如き動きで、マリアは蛇腹剣を、エリザは刃をもった血液を振るう。

それらは蛇のようにうねり、螺旋を描いてアナザーシンフォギアの体を這い、切り刻む。

 

SILVER†GOSPEL

 

CRIMSON†DANCE

 

『ぐあああああぁぁぁあああ!?』

悲鳴をあげるアナザーシンフォギア。

「よっし私の方が早かった!」

「はあ!?何言ってるの!?私の方が早かったし多くのダメージを与えたわ!」

「何言ってるの貴方のその眼はかざりなの?どっからどうみても私の方が早くて多くのダメージを与えてそして力強かったわ!」

「なにいってるの!私の方が―――」

いきなり不毛な喧嘩を始める二人。

とりあえず全員無視を決め込む。

「よし、今度は―――」

「先輩!」

今度は翼が行こうとして、そこへクリスがやってくる。

「雪音?どうした?」

「その、あの・・・」

生来の意地っ張りな性格故か、クリスは言葉が詰まったかのように言い淀む。

それに、翼は急かさず、待つ。

「・・・ごめんなさい。これが言いたかった」

「・・・そうか」

翼は、クリスの言葉に、朗らかに笑う。

「そう思うのであれば、共に行こう」

そう言って、手を差し伸べる。

「・・・ああ・・・!」

それに、一瞬驚いたクリスだったが、目尻に涙を浮かべかけ、それを押しとどめるように拭って、力強く答え、その手を握る。

 

そして、二人は飛ぶ。

 

『わたしは・・・』

その一方で、アナザーシンフォギアは座り込んだまま、走馬灯を見る。

『わたしは・・・』

幸福であった筈の王としての生活―――家族、名声、富、全てが出そろい、全てが順調だったはず。

『わた、しは・・・』

なのに、奴らは歌に惑わされ、あまつさえ刃を向けてきた。

 

何故だ。何故なのだ。

私は、お前たちの―――

 

『―――私はお前たちの王だというのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいい!!!』

 

アナザーシンフォギアが絶叫し、地面が膨れ上がり、そこから無数の木の蔓が飛び出し、一斉にその場にいる者たちを襲う。

さらには空中に無数の魔方陣が出たかと思いきやそこからタコの足のようなものから何かの腕、脚、あるいは首が飛び出す。

全身から重火器のような突起を創造し、さらには無数の竜を創り上げ、全身から刃が生え、開いた口には光が灯り、拳が黄金色に染まる―――。

もはやなんでもありだ。だが―――

 

FINISH(フィニッシュ) TIME(ターイム)MAJESTY(マジェスティ)

 

『Ready Go!』

 

クローズとゲイツが飛び上がる。

 

EL・SALVATORE(エル・サルバトーレ) TIME BURST(ターイムバースト)!!!』

 

ギャラクシーフィニッシュッ!!!』

 

ゲイツマジェスティとクローズエボルのライダーキックが、アナザーシンフォギアの展開した蔦、怪物の腕、竜を薙ぎ払う。

 

FINISH(フィニッシュ) TIME(ターイム)GRAND ZI-O(グランドジオウ)!』

 

『Ready Go!』

 

今度は、ビルドとジオウが飛び上がる。

 

ALL 20(オールトゥエンティ) TIME BREKE(ターイムブレーク)!!!』

 

 

アナザーシンフォギア、その体の中にある、全てのライダー、全てのシンフォギアの力。

それを、一気に封じる。

『ごっ・・・お・・・ァ・・・!!』

アナザーシンフォギアが喘ぐ。まるで、空気を求めるかのように。

「―――翼ァ!!」

「いけぇ!!」

ビルドとジオウが叫ぶ。

それに答えるように―――

「行くぞ、雪音!」

「おう!」

翼とクリスが応じる。

「リンクスアームズッ!!」

 

『Links Armes 〔Foton Charger〕!』

 

クリスのギアにラインが走る。そのラインが、その中でエネルギーを溜め込み、循環させることで増幅。そしてそのエネルギーを武装に流し込むことで、敵を撃つ。

そのチャージは、既に終わっており、後は放つだけ―――だが、

 

『―――まだだぁぁあああ!!!』

 

「「「!?」」」

 

まだ、アナザーシンフォギアが動く。

『まだァ!まだ終わらんッ!!私は必ず、王へと返り咲いて見せるのだぁぁああ!!!』

そう叫び、アナザーシンフォギアは、本を開く。

 

『レメゲトン―――』

 

それはもはや、滅茶苦茶としか言いようがなかった。

 

『テウルギア・ゴエティア・アルス・パウリナ・アルマデル・サロモニス・ノウァァァァアアッッ!!』

 

滅茶苦茶に魔導書を発動させ、もはや何が起きてるのか分からない現象が起こる。

地面が割れ、そこから再び蔓が出たり、空から天使が出てきたり、アナザーシンフォギアの影から悪魔のような何かが出てきたり、昼間だった筈の空が夜になって星が異様に輝いたり、もはや何が起きているのか説明するのが億劫な程の現象が巻き起こる。

だが、それでも彼女たちは止まらない―――

 

「いっけっぇえぇええぇええ!!!」

 

全てのエネルギーを、自分の全武装(ぜんりょく)に乗せて、クリスはぶっ放す。

 

MEGA DETH QUARTET

 

放たれる重火器の嵐。それらが彼女たちとアナザーシンフォギアを阻む全てを壊さんとぶちまけられる。

だが、それに抗うかのように破壊された蔦が次から次へと生え変わり、悪魔どもが自ら盾となり、天使たちは爆散する。

だが、その最中でクリスの砲撃を足で受け止め、翼はアナザーシンフォギアに弾丸の如く飛んでいく。

そして、前方に剣を投げると、それは巨大な一本の剣へと変形し、そのまま真っ直ぐ飛んでいく。

だが、それはアナザーシンフォギアの前に展開された壁、障壁、建物、木、空気、などなど全てに防がれる。

だが―――今の翼は、もう一人ではない。

 

戦兎のリンクスアームズ、クリスの砲撃、仲間たちが決死の想いで削った敵、ここまで導いてくれたソウゴたち―――そして、母から託された、シンフォギアとRN式。

 

その全てをもって、翼は放つ。

 

「これで終わりだッ!」

 

体を反転させ、そして、戦兎と龍我から託された黄金と白銀のフルボトルを自分のシンフォギアのフルボトルスロットに装填する。

 

『Set Up FULUBOTTLE!Best Match Rabbit and Dragon!!』

 

片足を突き出し、脚部ブレードのスラスターを全開で燃やす。

さらにRN式の加速も加え、一気に突撃する。

 

それはまさしく、流星の如く―――

 

 

蒼ノ流星

 

その一撃が、剣の柄頭に叩きつけられ、剣を阻んでいたありとあらゆるものを撃ち貫き、アナザーシンフォギアの胸に叩きつけられる。

『がぁぁあぁああああ!?』

直撃―――しかし、何かにつっかえる。

 

その正体は――――改造前のギャラルホルン

 

これを破壊すれば―――全てが終わる。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!」

翼は叫ぶ。

『やめろぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!』

アナザーシンフォギアが、翼に向かって手を伸ばす。

だが、もう、止まらない。止められない。

 

 

「勝利の方程式は―――私たちだァァァアア!!!」

 

 

その絶叫と、黄金と白銀の光と共に―――

 

 

 

『―――ぐぎゃあぁぁああああぁあぁぁぁあああぁあああああああ!!?!??!!』

 

 

 

アナザーシンフォギアを貫いた。

 

それと同時に、ギャラルホルンは完全に砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――街の景色が、どこか変わった気がした。

 

――――その手の中にあった筈の『RN式天羽々斬改』も跡形もなく消滅する。

 

きっと、あそこに置いてきてしまった母の遺体も、消えてしまっているだろう。

その様子を、翼と戦兎は高台から見下ろす。

 

「歴史が元に戻り、世界もそれに準じた形に戻っていく。全ての人々の記憶も消えていくだろう」

そんな二人に、ソウゴたちが歩み寄り、ウォズが、二人にそう告げる。

「もちろん、君たちの記憶もね」

「そうか・・・お前たちと共に戦った事も、なかったことにされるんだな」

翼は、寂しそうにそう呟いた。

「今回はありがとうな」

「気にしないでいいよ。お互い様なんだし」

戦兎の礼に、ソウゴはそう答える。

翼の肩で、アメが翼の感情を感じ取ってか、寂し気に飛び跳ねる。

「雪音たちの記憶も・・・消えるのか?」

「全ての元凶である歴史改変の為の鍵はなくなったからな。そもそもこの事件があったこと自体なかったことにされる。だから、誰の記憶にもこの戦いは残らない」

「せっかく、お前たちと仲間になれたのにな・・・」

「仕方がないわ。元々、私たちは別々の世界に生きてるんだから」

「そうか・・・」

ギャラルホルンであれば、もしかしたら彼らの世界と繋がれるかもしれない。

だが、この世界には、ギャラルホルンは存在しない。

 

だから、会えない。

 

それが、とても寂しく思う。

 

だけど―――

「寂しくなるが・・・戦兎がいるなら、大丈夫だ」

「・・・ん?なんで俺なんだ?」

いつもの鈍感な態度に、翼は呆れつつも、本当に彼が、あの桐生戦兎なのだと実感して、笑ってしまう。

「我が魔王、そろそろ・・・」

「うん。分かった」

「もう行くのか?」

「うん。俺たちも俺たちの時代に戻らないと」

 

―――ふと、空間が揺れた気がした。

 

「そろそろ、歴史が元に戻る頃合いだ」

見れば、白い光が彼方から迫ってきていた。

「あの光に包まれれば、君たちの記憶はなくなり、また元の世界に戻る。ここでお別れだ」

「分かった」

ウォズの言葉に、翼は頷く。

「それじゃあね」

「機会があれば、また会おう」

ツクヨミとゲイツが、別れを告げる。

「それじゃあ、元気で」

「ああ・・・あ、そうだ。一つ聞きたい事がある」

去ろうとした彼らを、翼は些細な事で引き止める。

「本当に、全部忘れてしまうんだな?」

「うん。でも・・・それがどうかしたの?」

「そうか。だったら、すぐに済ませないとな」

そう言って、翼は戦兎の方を向いた。

「ん?どうした翼―――」

戦兎が、何かを言い終える前に、

 

翼は、身を乗り出して、唐突に、その唇を、戦兎の唇に重ねた。

 

「「「「な・・・・!?」」」」

突然の事に、ソウゴたちは固まる。

無論、戦兎もである。

しかし、その事態を引き起こした当の本人は、実に満足そうにいたずら気に笑っており、

 

「―――好きだ、戦兎」

 

花が咲くような笑顔で、そう言った。

 

「・・・え?ちょ、ちょっとm――――」

 

戦兎が我に返った時には、もう全てが終わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――今回はご苦労だったな」

「別に。それで俺たちの記憶も元に戻るんだっけ?」

「ああ、この空間にいる間は保持できるが、出ればすぐに記憶は消えて、今まで通りの生活に戻るってわけだ」

「そっか・・・」

「それにしても、なんであの世界の事に俺たちを巻き込んだ?」

「俺のあの世界での役目がそれだったからだ。歴史を戻す。それが出来なければ破壊する。それだけだ」

「うっわ・・・少しでも間違えてたら全部なくなってたのね・・・」

「だが、それは俺の本意じゃない。その上、あの世界に入ることも出来なくなっていたからな。だからこうして策を講じた訳だ」

「そっか・・・でも良かったよ。これで皆元通りだ」

「ああ。それじゃあ、俺は次の世界へ行く。お前たちも元の世界に帰れ」

「うん。ありがとう、仮面ライダーディケイド」

「お互い様だ、仮面ライダージオウ」

「それじゃあ」

 

 

 

「・・・・さて、次はどんな世界を巡るのかな」

 

門矢士の手の中にある写真には、三人の親子の写真が写っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リディアン音楽院、一年のとある教室にて。

「あー、今日は疲れたのデス・・・」

「臨時の体育の先生があまりにも熱血過ぎたね・・・」

「調ぇ、大丈夫デスか?途中で倒れて保健室に運んだ時は流石に焦ったデスよ」

「大丈夫だよ切ちゃん、慧くんの事を思い出して。忍者の修行であんなに頑張ってたんだから、頑張らないと」

「思いっきり机に突っ伏したままで言われても説得力ないのデス・・・」

「そんなこと・・・む、きゅぴーん」

「・・・え?なんデスかその効果音」

「慧くんに近寄る不審な女レーダーに敵影あり。即刻排除行動に映る」

「落ち着くデス!すぐにシュルを仕舞うのデス!」

「邪魔しないで切ちゃん!」

「あぁぁぁああ!?腕が粉砕されるのデェェス!?」

 

 

 

 

 

とある高等学校にて。

「うんしょ・・・よいしょ・・・あ!?」

「おっとあぶない!」

「あ、ありがとう慧介君」

「クラスメイトだからお互い様だって。ほら、これ、どこに運ぶんだ?」

「理科準備室までなの」

「分かった」

「・・・・アイツ、ああ見えてモテるって事知らねえのかね」

「運動も出来て勉強もそこそこ。人当たりもいいし性格もいい・・・非の打ちどころがねえな」

「唯一の欠点は鈍感な事ぐらいだよな」

「いや、あれは鈍感というより、別の誰かしか見てないっていう風じゃないかな?」

「どういうことだよ?」

「もうすでに誰かの虜になってるかもしれないってことさ」

「「・・・・はあ?」」

 

 

 

 

 

 

移動型喫茶『piccolo nacita』にて

「ばいばーい!ピッコロナシタ~」

「はあ、みーたんは今日も可愛いなぁ~」

「あ、いた!カシラぁ!」

「げっ、お前ら・・・」

「いくらみーたんと付き合えたからって、こう何度も仕事サボられたらたまったもんじゃありませんよ!?」

「そうだよ!確かにカシラがいなくても野菜は育てられるけどさぁ・・・もう少しカシラっていう自覚をもってよぉ!」

「うるせえ!そんなことよりみーたんの可愛い姿を焼き付ける方が先決だァ!」

「う~ん、私は、働いてるかずみんの方が好きだな~」

「よぉし今すぐ戻るぞお前らぁ!俺に続けぇ!」

「って掌返しはや!?」

「頑張ってね~」

「おう!頑張ってくるぜぇ!」

「なんか納得いかねえ・・・」

「ま、まあまあいいじゃねえか!それじゃあみーたん!またな!」

「うん、ばいばーい・・・ふふっ」

 

 

 

 

 

アメリカ、ストレイ社本社。

「こうも任務がないと、平和でいいわねぇ~」

「こんな時間がいつまでも続けばいいのによぉ。それでもどっかの国では戦争おっぱじめるアホどもがいるんだよなぁ・・・」

「本当に面倒くさい・・・ああ、なんかこの憂鬱な空気を吹き飛ばしてくれる何かってないのかしら」

「戻ったぞ」

「あ、シン君おかえり」

「おかえり、シン」

「だからジャックだって言ってるでしょ!?」

「よせ。俺がそうした・・・それと、お前の胸元にある日本語の『正』の字は一体・・・」

「気にしなくていいわ。これは私の戦いよ」

「お、おう・・・」

「それ以上は追及しないであげてね・・・」

「アル、お前は何故そんなにげっそりしているんだ・・・?」

「ちゃんと処女だけは守ってるから、ネ?」

「アル?どうした?何か変だぞ―――」

 

ズドォォォォォンッ!!!

 

「なんだ!?」

「ああ、いつものことだからきにしなくていいわ」

 

「―――呪ってやるカモノハシベリーィィィィイ!!!」

 

「なんだ、あのコメディのような叫びは・・・」

「気にしなくていいわ・・・」

「シン、エリザ、ここにいたか」

「ガレスか?何があった?」

「バルベルデ共和国で、パヴァリア光明結社に動きがあったようだ。お前たちはジムたちのサポートの元、すぐに向かってくれ」

「了解」

「承知した。すぐに向かう」

「げほっ、げほっ・・・酷い目にあった・・・」

「いつもそうだけど、その三つの州を支配するというなんとも微妙な野望を捨てたらどうなの?」

「なにおう!?悪の科学者である私にとっては天の導きのような事なのだぞ!?」

「どうでもいいが、何か丁度いい装置とかないか?これから出撃だ」

「お?そうなのか?だったら少し待ってろ。丁度いいネーターがあるんだ」

「ええ・・・」

「そんな嫌そうにするなエリザ。ゲインツの発明品は役に立つ」

「それはそうだけどぉ・・・」

「よし、準備が出来次第、すぐに出撃してくれ。・・・S.O.N.G.も動くだろう」

「分かった」

 

 

 

 

 

 

「それにしても、暇ですねぇ・・・」

「こら、そんなこと言わない!」

「今は海外で動いてるマリア君や緒川が、何か情報を掴んでくれるといいのだがな・・・」

「場所がアメリカだったら、ストレイ社のエリザっていう女の人とバトってなきゃいいけど」

「A君、何言ってるの・・・?」

「無視してください友里さん。こいつ妄想癖あるんで」

「妄想癖じゃなくて夢だ!夢をはっきり覚えちまうの!」

「静かにしないか。仕事中だ。給料を減らすぞ」

「ちょっ、司令!それはないですって!」

「だったら働け。そんなに暇じゃないんだからな」

「エルフナインちゃんも頑張ってるんだから、私たちも頑張らないと」

「そうだぞ」

「黙れ化け物スペックども・・・ッ!!」

「俺たち一般人の心も知れ!バーカバーカ!」

「な!?なんでそこでそんな考えに至る!?」

「うるせぇ!こちとらアンタらのような化け物と一緒に仕事してんだ!偶には俺たちの不満も聞け!」

「「「そーだそーだ!」」」

「う、うむ・・・そこまで化け物ではないと思うのだが・・・」

「司令」

「すみません。そればっかりは同意できません」

「なんだとォ!?」

 

 

 

 

 

葛城巧の研究所。

「それにしても、このRiNKERとかいう代物・・・一体どんな奴がこんなものを考え付いたんだ・・・」

「最後のきっかけ・・・これさえわかれば、あとは作るだけなのですが・・・」

「父さんでも解析しきれない物質構造・・・ふっ、科学者の血が騒ぐと言うものだ」

「戦兎さんも頑張っていますし、僕たちも頑張りましょう!」

「そうだな。・・・そうだ。あの少女にあのアイテムの設計図を渡してほしいと頼まれていたんだったな」

「どんなアイテムですか?」

「彼女のアイデアを元に作った。なんでもタスクの新装備らしい」

「分かりました。機会がある時に渡しておきます」

「そうしてくれ」

 

 

 

 

 

政府官邸―――

「今日で長官をお役御免か・・・」

「後任には、俺が信頼できる奴を推薦しておきました。彼なら、親父の力になってくれるでしょう」

「そうだな・・・お前も頑張れよ。S.O.N.G.での成果を期待している」

「必ず務めを果たしてくるよ」

 

 

 

 

難波製作所―――

「てっぇいッ!ぐあぁぁああ!?や、やはり、流石は難波スティック改!以前よりも、さらに固くなっている・・・・!」

「・・・あれ、どう思う?」

「俺に聞くなよ兄さん・・・・」

 

 

 

 

リディアン近くの公園にて。

「聞いてよ皆!」

響が、目を輝かせて、戦兎、龍我、クリス、未来、そして翼にそう言い出す。

「どうしたんだ?そんなに嬉しそうな顔して」

「私、すっごい夢を見たんだ!」

「またその話なの響?」

「一体どんな夢なんだよ?」

龍我が尋ねると、響はなんとも自信過剰な様子で自分の胸に手を当てると、

「なんと!私がビルドドライバーで仮面ライダーになる夢です!」

「んだそりゃ。そんなことあるわけねえだろ?」

「第一、お前はライダーになる為のハザードレベルの最低値にすら到達してないだろ?無理なものは無理だ」

「ぐあぁああ!?そ、そんな事言わなくても・・・」

戦兎からの容赦のない一言に、響は撃沈する。

「まあまあ元気出して、響」←3.0

「仮面ライダーになれる未来には分からないよ・・・」←2.2

響が涙を流しながら恨み言を言う。

「まあ元気を出せ立花。私たちにはシンフォギアがあるだろう?」

翼がそう言って、肩の上で跳ねるアメを掌に乗せる。

「そう、ですね!よぉっし!これからも頑張ろうね、ニクス!」

「キュイーン!」

「ったく、調子の良い奴」

「ふふ・・・」

未来は、ふっと笑って、ふと翼の方を見た。

クリスの言葉に、つっかかる響と、それを見て笑い声をあげる翼。

 

『私の夢は、私の歌で、世界中の人々が幸せになれる世界を創ることだ。誰もが夢を叶え、誰もが希望をもって生きられる―――その夢を叶える為に戦う』

 

(私は忘れませんよ、翼さん)

もう、誰も覚えていないことだけど、未来はしっかりと、その記憶を刻む。

 

 

 

 

街中で、未来は、用事があると皆と別れ、一人先に帰り道を歩く。

人が多く行き交う商店街の中で、未来はクロと共に、今日の夕飯の献立を考える。

その最中で、ふと未来はすぐ横を通った三人の女子高生の姿を見る。

「―――にしてもアンタって本当に風鳴翼に似てるわよね」

「やめてよ。一応コンプレックスなんだから!」

「まあまあ自信もちなって!ルックスだけは良いんだからさ」

「それで一体何度間違えられてSNSに取り上げられたか・・・」

「ごめんって!そうだ!駅前のパフェ食べにいこっ!」

「さんせー!」

「調子のいいこと言わない!」

 

―――その姿に、未来は微笑んだ。

 

「・・・良かった」

その姿を見送って、未来は再び歩き出す。

もう二度と会う事はない。だけど、きっと彼女の事を、これからも忘れない。

 

 

 

 

――――それはただ一人が知る、一番初めの物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ここね」

 

綾女が立つのは、唸り声をあげるギャラルホルンの前だった。

「これが、今のノイズの大量発生を・・・」

ぎゅっと拳を握り、綾女は一度、深呼吸をする。

「やらないといけない。その為に、私はここにいる・・・!」

そう自分を奮い立たせて、綾女を、目一杯息を吸って、一度止めてから―――歌う。

 

「―――Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl―――」

 

試験的に搭載されていた、『絶唱』と呼ばれる機能。

この力は、強力な一撃を放てる代わりに、使用者に多大なる反動を与えると言われている。

その反動に、自分は耐えられないと聞かされてきた。だけど―――

 

「―――Gatrandis babel ziggurat edenal―――」

 

八紘・・・

こんな形で、別れる事を赦してほしい。

そして、受け入れて欲しい。

翼のこれからの未来の為に。

 

弦十郎・・・

この死を、きっと貴方は重く受け止めるでしょう。

そして、きっと八紘の前で謝り続けるのでしょう。

そして、翼の前でも、その頭を下げ続けるのでしょう。

だけど、どうか、それで立ち止まらないで欲しい。

一度足を止めるのはいいけれど、そこから動けなくはならないで欲しい。

次はこうならないよう、頑張ってほしい。

 

「―――Emustolronzen fine el zizzl―――」

 

翼・・・

私の愛しい娘。憎きあの男の血を引く私の子。

貴方を愛さなかった日なんてない。貴方を否定した日なんてない。

貴方を、憎み、妬んだことなんて、一度だってない。

 

大好きよ、愛してる。

 

これから、多くの困難が、貴方を待ち受けるかもしれない。

これから、たくさんの苦しみが、貴方を苛むかもしれない。

 

それでも、いつか、貴方の隣に、貴方の事を預けられる人が出来たのなら、頼ってほしい。

 

 

私はここで、消えてしまうけれど――――

 

 

「――――貴方を愛したことだけは、一度だって後悔なんてしたりしないから」

 

 

構えた刀を高く振り上げる。

絶唱を歌い、その身に迸るエネルギーに体が壊され、血が泡立ち蒸発し、細胞が砕けていくのを感じながら、綾女は、その人生最後の一振りを振るう。

 

その一撃は――――いつかの未来を繋ぐ、風の鳴る刃。

 

 

 

 

 

愛和創造シンフォギア・ビルド オリジン・ザ・天羽々斬――――『完』




次回。補足説明。

特に深い意味はない!


それと、皆さまにご報告しなければならない事があります。


実は書き溜めがなくなってしまい、なおかつリアルで色々と忙しくなってしまい、小説を書く時間が削られ初め、色々と苦しい状況になってしまっています。

ですので、一、二ヶ月ほどお時間をください。

その間に続きのAXZだとかXVだとかを書ききってみせるので、どうか待ってくれると幸いです。

決して凍結というわけではないので安心してください。

ただの延期です。再開すればまたいつものように週一投稿を開始いたします。

楽しみにしてくださっている方々には、誠に申し訳ありませんが、ご理解の程をお願いします。


ちなみに補足説明の所はちゃんと来週に投稿するので楽しみにしててください。

ではまた来週!


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補足説明

カイン(ソロモン王)

 

かつて、イスラエルを支配していた二代目の王。

魔導書型の完全聖遺物『レメゲトン』を所有する。

アナンヌキの血を引いており、なおかつ父ダビデと違いレメゲトンと魂を繋いだお陰でほぼ永久に近い命を手に入れている。

そのお陰で数千年の時を生きてきた。

神より知恵を授けられたという伝承の通り、相当な知恵者であったソロモンを中心に国は統治されていたが、どこからともなく流れ着いた『歌』が人々にその事に疑問を持たせた。

そして、その『歌』が人々を惑わし、人々はソロモンに刃を向け、ついには攻め、ソロモンを王の座から引きずり下ろし、ソロモンは逃亡することになる。

それ故に、ソロモンは『歌』をもって人々を惑わした『歌い手』に復讐しようと誓う。

 

この『歌い手』の正体を、ソロモンは知らない。

 

しかし、数千年の時を超え、ソロモンは既に破壊されたギャラルホルンを発見。それを回収し、修復と改造の為にさらに数年の時間をかける。

 

その力を見て、ソロモンはシンフォギアの力を奪う事を決意。

さらにその過程でギャラルホルンから『仮面ライダー』の存在も知らされ、その力を奪う事も決定し、タイムジャッカーからライダーに関する知識とブランクライドウォッチを強奪した。

この際、その時間軸にいたタイムジャッカーはソロモンの力の前に全滅している為、取り返されることはない。

さらに時空艇も手に入れ、時空の跳躍が出来るようになった。

そして、天羽々斬が発見された2030年で元々あったギャラルホルンと改造したギャラルホルンを置き換え、また天羽々斬から作り出した『アナザー天羽々斬ライドウォッチ』を水香に渡し、歴史を改変。

そのまま未来へと飛び、シンフォギア装者を騙し、ブランクライドウォッチによって力を奪いつつ、唯一の誤算であった小日向未来と風鳴翼の排除を行おうとする。

 

しかし、ジオウの介入や、その世界の外で動いていたディケイドによって、全ての計画が覆され、完成した完全体のアナザーシンフォギアで対抗するも、最後の翼の一撃によって爆散、復讐の願いはついぞ果たされなくなった。

 

 

 

 

 

風鳴(かざなり)綾女(あやめ)

 

風鳴八紘の妻にして、風鳴翼の母。

かつて風鳴家に仕え、そして謀反を起こした『隼家』最後の生き残りであり、風鳴の血筋を根絶やしにしようと画策していた『過激派反風鳴機関』随一の剣士。

当時は、八紘に近付き、わざと愛されるように振る舞い、現風鳴家当主『風鳴訃堂』と、その息子たちを暗殺しようと動く。

だが、その過程で八紘の事を本当に愛してしまい、八紘を殺せなくなり、また八紘を縛り苦しめているのが訃堂だと知ると、感情のままに訃堂の元に乗り込み、暗殺しようとする。

しかし、訃堂の異常な強さに敗北した綾女は、そのまま強姦され、女の子を一人孕んでしまう。

訃堂に強姦されたこと、訃堂の子を孕んだこと、風鳴家と対立する組織に所属していた事が露呈したこと、味方から斬り捨てられるが如く八紘の耳に八紘すら殺す事を暴露されたこと、そして、八紘を今まで裏切り、訃堂の子を孕んだことによる罪悪感から、一度は失意のままに自殺しようとした。

 

だが、八紘の兄弟に止められ、なおかつ八紘自身の愛に、そして自らの腹の中で育っていく娘の存在によって再び生きる気力を取り戻し、名実ともに、八紘の妻として正式に結婚、翼を産んだ。

そして翼が五才の時、友人であった櫻井了子の異変に気付き、問いただし、人格がフィーネに乗っ取られた事をしる。

そして、フィーネの作る『武器』を目の当たりにし、綾女は未だ試作段階の『武器』のテスターになることを申し出て、『RN式天羽々斬』を駆使して、ノイズと戦う事になる。

 

フィーネには風鳴訃堂を倒す為と言っておいたが、その実、天羽々斬を活性化させた翼が、いずれ『シンフォギア装者』となることを見込み、その礎となるべくデータ収集に協力していた。

 

 

最期は、あのノイズの大量発生の日に、試験的に搭載されていた未完成の『絶唱』を使い、RN式の限界を完全突破して放った斬撃をギャラルホルンに叩きつけ破壊した時、その身を灰にして消滅した。

 

享年、25歳。

 

結果として、彼女が残した絶唱のデータは、シンフォギアの完成を早め、翼によって運用されることになる。

 

綾女自身、翼同様、第一種適合者になれるほど天羽々斬との親和性は高かったが、ついぞ彼女がシンフォギアを纏う事はなかった。

 

RN式の絶唱でギャラルホルンを破壊できたのも、綾女自身のこの特性が活きた結果ともいえる。

 

RN式天羽々斬改

 

また、試験的に搭載されていあ『絶唱』は、歌詞を覚えた状態で、シンフォギアにあるサポート機能なしに歌い切らなければ発動しない上に、負荷も綾女では耐えられないと判断され、しばらくお蔵入りとなっていた。

 

ゲーム版シンフォギアにおいてOTONAたちが使う『OTONAの本気』。

この小説においては、さらに効率的に、なおかつ長時間戦闘を可能とする為の改造が施されており、それ故に、『改良』されたということで『改』がつけられている。

精神力を著しく喰らう為、お蔵入りとなりかけたが、汎用性の高い天羽々斬と親和性の高かった綾女がテスターとして使い続ける事によってデータを蓄積、そのデータをもって櫻井了子が改良していった経緯を持つ。

ただし、その改良された時点で『シンフォギア』設計の目途が立っていた上に、改造できたのがRN式の天羽々斬だけであり、なおかつ弦十郎では親和性は低かった為、弦十郎がRN式を纏う事はなかった。

 

改造されたRN式は、極悪燃費を解消する事に成功しており、適性があれば誰でも扱える代物ではあったが、追加された機能を使いこなせたのは綾女だけだった。

 

精神力を消費することで超加速を促す機能を搭載しており、その特性上、驚異的な動体視力を持つ綾女にしか使えなかった。

 

試験的に『絶唱』も搭載されてはいたが、この発動にはあらかじめその『歌詞』を覚えておかなければならず、なおかつ聖遺物を活性化させるだけのフォニックゲインを扱えなければ発動できない。

 

 

 

(ふくろう)水香(みずか)

 

風鳴八紘邸で仕えていた女中。幼いころから八紘の事を知っており、また、幼馴染でもあり、彼に恋心を寄せていた。

しかし、どこからともなく現れた綾女に八紘を取られ、八紘の認識が幼馴染からただの女中に成り下がってしまった事に激しい怒りと、八紘の寵愛を受ける綾女に激しい嫉妬を抱く。

綾女が訃堂を暗殺しようとした時にはチャンスだと思ったが、それが余計二人の愛を燃え上がらせることになり、水香はさらなる嫉妬の炎を燃やす。

 

そして、綾女と同じになるべく訃堂に夜這い。綾女と同じように訃堂の子を孕まされる。

 

しかし、それを八紘に報告しても八紘は気の毒に思うだけで綾女の所に行ってしまう。

それにさらなる嫉妬の炎を燃え上がらせ、誰にも知られることなく、その訃堂の子を出産する。

幸いだったのは、その子が綾女が生んだ子と瓜二つだという事だった。

だが、姿形は同じでも、結局は八紘の愛を受けられない子だと分かると、途端にその子供を自分の枷だと思うようになってしまう。

虐待はしなかったが、ある時、その子供に手をあげてしまい、その首当たりに火箸による火傷を作ってしまう。

 

その後、本来の歴史であれば綾女はノイズによって殺されてしまうが、そこへカインが現れたことで未来が変わり、アナザー天羽々斬の変身者となる。

 

しかし、その力をもって綾女を襲うも、未来から来た翼と綾女によって返り討ちにあい、致命傷を負う。

 

その致命傷を抱えたまま、自分が生んだ子の元へ戻り、恨み言を呟いて絶命。

 

 

そして、そのアナザーライドウォッチは、その子へと受け継がれ、あの日、事件は起きた。

 

 

 

 

『風鳴翼』(本名 (ふくろう)音羽(おとは)

 

梟水香が生んだ、翼の鏡写しのようにそっくりな少女。

水香が訃堂と交わり、どこまでも綾女と同じであろうとした結果生まれた少女。

しかし、育てられはするも一切の愛を受けずに育ってしまい、他の家族の在り方とはかけ離れた自分の家族の姿に、幼いながらもその断絶さを思い知る。

 

本来の歴史であれば、水香はノイズによって襲われ死亡、引き取り相手がいないなか、風鳴家直径の家の人間に引き取られ、そこで愛のある家庭に恵まれ、結果誰も恨むことなく翼そっくりに成長する。

 

だが、改変された過去では、帰りついた瀕死の水香からアナザー天羽々斬ライドウォッチを手違いで起動していまった為に、水香が自分を生んだ目的を知ってしまい、それから母が求めた『愛』を自分が手に入れる為に行動を開始する。

 

母を目の前で失い、アナザーライドウォッチを手に入れてからは、単身でどこかの裕福な家の養子となって学を詰み、翼が歌手としてデビューすると知った時には、母親と同じように、彼女と同じであろうとするように歌の練習をし、とにかく『風鳴翼』に近付こうと画策する。

 

 

そして、運命のあの日、彼女は風鳴翼と入れ替わる為の計画を実行し、見事にそれを成功させる。

しかし、件の翼を未来の介入によって取り逃がしてしまい、そこから歴史の掛けた戦いに身を投じることとなる。

 

 

結果としては、カインに殺され、その死に際に翼に名を呼ばれ、最期は姉の腕の中で看取られるという幸福の中で息絶えてしまう。

 

 

本来の歴史において、普通の大学生として人生を謳歌することとなる。

 

 

結論から言えば、音羽は翼の腹違いの妹である。

綾女は、この事を何等かの形で知り、死の間際に翼にその情報を書いた紙を渡して、その命を引き取ることになる。

その紙をもって、翼は自身の妹の存在を知る。

 

 

 

 

 

 

門矢士=仮面ライダーディケイド

 

世界から世界へと旅する『世界の破壊者』と呼ばれるライダー。

改造されたギャラルホルンによって『シンフォギア・ビルド』の世界への介入が出来ないでいたが、ジオウたちを使う事で間接的に介入。

さらに別の世界と融合したビルドの世界へと赴き、丁度記憶を取り戻した戦兎たちと合流、これまでの経緯を話し、強大な力を持つパンドラパネルの力を戦兎たちに使わせ、無理矢理道を作ってシンフォギア側の世界へ侵入する事に成功する。

そこからはアナザーシンフォギアを倒す為に尽力。

 

 

 

 

 

 

 

小日向未来

 

いろんなものを物理的に抱え込む体質の少女。

若干の特異点体質を持ってはいるが、記憶を保持できた理由はクロにある。

 

見たもの全てを記憶するクロの記憶が未来の方へと流れ、その記憶をベースに復元された形である。

 

ただし、歴史改変によって、変わった時代に適応させようとする『抑止力』的な力が働き続けており、常にクロからその記憶を供給し続けなければ、その抑止力に記憶を消されるという状況にあった。

しかし、カインによってシンフォギアの力を奪われ、クロが消滅してしまったことにより修正力が発生。これによって未来は一度、本来の歴史の記憶を失う。

だが、ギャラルホルンの破壊にともない、一時的に時空が歪んだことで未来の特異点体質が暴走、それによってクロを強制的に呼び戻す事によって記憶を取り戻す。

 

歴史が元に戻っても未来が記憶を保持し続けられたのは、クロとの『繋がり』によるものである。

 

 

 

常磐ソウゴ=仮面ライダージオウ 及びその一行

 

ゲイツマジェスティ後に門矢士によって強制的に記憶を戻された状態で参戦。

よって、全てのライダーの力を保持しての登場。

 

既に本編を終えている為、実力は魔王と呼ばれる事に疑いのない強さに設定している。

 

 

 

アナザー天羽々斬

 

能力は『存在の立ち位置の入れ替え』

言うなれば立場を逆転させる能力だが、制約が存在し、『物理的に自分と最も近しく、尚且つ真逆の人生を歩んだ者』、『勝負をして勝利する』という条件を満たさなければ存在を逆転させることは出来ない。

しかし、その厳しさ故に、その者が辿ってきた人生と人生を入れ替え、その過程で負ってしまった傷すらも入れ替える事ができる。

 

これは、シンフォギアに存在する『適性があれば誰でも使える』『ただし適合者はあまりにも稀』『元となった聖遺物は唯一無二』という特性の元、『同じ存在であれば同じ人生を辿れる』『ただしそれに適するのは限られた者のみ』『勝者のみがその幸福を享受できる』という曲解の元、完成された能力。

それ故、綾女になり替わろうとした水香は綾女に敗北した為、入れ替わりは発生しなかったが、翼と『風鳴翼』の場合は翼が敗北した事により、その能力が発動した。

 

 

 

アナザーシンフォギア

 

『シンフォギア』という存在そのものを内包したアナザーライドウォッチによるアナザーライダーのようなもの。

その能力は絶大であり、神によって創造されたそれらの力を十二分に発揮し、なおかつ『歌で繋がる』という特性を利用し、世界中から『歌』の元となる『声』を無尽蔵に吸収し力に変換する能力を持つ。

 

神獣鏡のみの状態でジオウトリニティを圧倒出来たのは、この無尽蔵のエネルギー供給に加えて、数千年を生きた膨大な力を発揮するカインの能力も存在する。

 

完全体アナザーシンフォギアは、七つも取り込んだ事で膨れ上がった膨大な力の供給を受け止める為に巨大化する必要があり、結果、巨人の姿で装者たちと対峙する事となった。

 

完全体アナザーシンフォギアは、七つのシンフォギアの力を扱う事が可能。

供給によって常にエクスドライブ状態で力を発揮でき、威力だけで言えばキャロルの70億の絶唱を凌ぐフォニックゲインに匹敵する。

 

また、カインの持つ完全聖遺物『レメゲトン』の能力も通常の倍以上の力で使用でき、複数の能力を切り替えて戦う事も出来る。

 

ただし、流石にライダー四人の最強フォームと、彼らをサポートする何人もの仲間の前には、その強大な力は敗れ去るに至った。

 

 

 

 

 

改造型ギャラルホルン

 

元々ギャラルホルンには『それぞれの世界の衝突を回避する』機能があり、それによって世界間での激突などを回避していた(ただし、何かの要因で世界同士が同時に存在してしまう事象などには対応できない)。

だが、そのギャラルホルンは綾女によって破壊され、それによって世界融合の対象となり、融合した。

 

ソロモンは、そうなった後の世界でその破壊されたギャラルホルンを回収、修復し、改造した。

改造後は同じギャラルホルンによる通行のみを許し、それ以外の方法で入ろうとする者たちを徹底的に拒絶するような機能をもった。

それが今回の事件におけるキーアイテム。

改造したギャラルホルンをタイムジャッカーから奪った時空艇で運び、それを綾女が破壊する筈だったものと交換、これにより、過去が改変され、仮面ライダーがこの世界へ来るように仕向けた。

 

結果として、自分で管理することで守ろうとした改造前のギャラルホルンを何かの拍子に発見され、奪われないようにアナザーシンフォギアの体内に取り込んだが、翼の一撃によって完全に破壊され、カインが未来でそれを手に入れるという事自体がなくなり、歴史が元に戻るに至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――束の間の平和の中――――

 

仮面ライダービルドこと、桐生戦兎は『スカイウォールの惨劇』を乗り越え、世界を融合させ、新たな世界を創造した。

そこで出会った新たな仲間と共に、その世界に存在する新たな敵との戦いを生き抜き、そして――――

 

 

自分が犯した過ちを、知ることになる。

 

 

 

「お前は・・・」

 

「お初にお目にかかる、正義ぶったクソ野郎ども。んじゃま、死んでくれ」

 

 

 

新たな日常をぶち壊す新たな敵―――

 

 

 

「お前たちは、一体・・・・!?」

 

「俺たちは『ネオ・ファウスト』―――『仮面ライダー』っていう偽善者をぶっ潰す組織だ」

 

 

 

襲い掛かる、ビルドが救わなかった子供たち。

 

 

 

「宣戦布告だ。俺たち『ネオ・ファウスト』は、お前ら仮面ライダーに戦争を仕掛ける」

 

「その身で味わえ、お前らの罪をな」

 

 

 

――――今、『新世界創造』という罪状への、審議が始まる。

 

 

 

「この歌は、ライダーを破滅させるために作った」

 

「随分と楽しんでるよォだなぁ?元格闘家さんよォ!!」

 

「お前たちを滅ぼすことで、僕たちはあの悪夢から解放される・・・」

 

 

襲い掛かる、強大な敵。

 

 

「戦兎先生・・・っ!?」

「逃げろ響・・・」

「お願い、もうやめて・・・」

 

 

次々ととらわれる仲間たち。

 

 

「どうしてこんなことを・・・」

「全てのライダーをぶっ潰すまで、俺たちは止まらない」

 

 

 

奪われる、守る為の力―――。

 

 

 

「誰にも邪魔はさせない・・・」

 

「せん・・・せえ・・・・」

 

 

 

 

―――タイムリミットは、全てが始まったあの日―――

 

 

 

 

「―――あの人たちを止める。その為なら―――私は『人間』をやめても構いません」

 

「ぶっ壊してやる・・・仮面ライダーが作ったこの世界をなァ!!」

 

 

 

全ての人に送る『愛と平和』の為に―――

 

 

 

「止まるな、立花」

「アタシたちの想い、託したぞ!」

 

地球の未来を、守る為に、

 

「邪魔すんなよぉぉぉ!!」

「うるせぇぇええええ!!」

 

『奇跡』を『呪い』にさせない為に、

 

「俺たちの意味を無駄にはさせない・・・!」

「無駄なんだよ。仮面ライダーっていう存在自体がなァ!!」

 

―――その仮面の奥の、真実のままに。

 

 

 

「―――変身」

 

 

 

 

劇場版『愛和創造シンフォギア・ビルド Another One』

 

 

 

 

「響ぃぃぃい―――――!!」

 

「ありがとう、みんな・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ク「・・・・え、なんだこれは!?」

翼「何って、新しいオリジナル章の宣伝だが?」

ク「だからって唐突すぎんだろ!?え、これ先公たち知ってんの!?」

戦「もちろん知ってるに決まってんだろ。お前、俺たちをなんだと思ってんだ?」

龍「当然、登場人物にはお前も入ってるぞ、クリス」

ク「なんか見た感じ、あのバカがとんでもない事になってるっぽそうだが・・・」

戦「まあ主役は当然、この俺だけどな!」

美「バカ言ってんじゃないわよ!」

戦「うおっ!?美空!?なんでここに・・・」

美「一応私も準レギュラーだからね」

一「っというわけでみーたんを差し置いて出てくるわけにはいかねえからみーたんの後から登場したぜっ!」

幻「何がというわけでんだこのポテト」

一「ああん?やんのかゴラ?」

幻「んだとポテト?」

マ「やめなさい二人とも!」

シ「やれやれ・・・とにもかくにも、この『劇場版 愛和創造シンフォギア・ビルド Another one』は、AXZの後にやる『仮面ライダークライム&仮面ライダータスク』の後にやる予定だ。詳しい情報などは追ってという事になる」

慧「詳しい内容などはこれからだけど、どうか楽しみにしててくれ!」

調「待って、その前に慧くんたち主役の予告を出すべきじゃないの?」

シ「今回は時間がなく、前々からやりたいと思っていたものを先に書いたという感じだ。諦めろ」

切「まあ何はともあれ!さらなる戦いがアタシたちを待ってるってことデスね!」

戦「ま、そういうことになるな。っというわけで、また会う日まで、待っててくれよな!」

響「そんなわけで、次回もお楽しみに!」




次回!愛和創造シンフォギア・ビルドは!

遂に、AXZへと突入!その開幕をどうか楽しみに!


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