ライネス・エルメロイ・アーチゾルテの真似をする性転換少女 (ピトーたんは猫娘)
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1話

 FGOにおける福袋ガチャ。3000円の課金で星5確定。排出率が馬鹿みたいに低い悪い文明を相手に残された救済措置。このガチャでメルトリリスを狙い、四騎士+アルターエゴの福袋を購入した。

 確定虹演出に現れたのはライダー……残念がる瞬間、胸が苦しくなり目の前が真っ暗になっていく。

 

「……く、せ、せめて……だれがきたか……」

 

 テーブルに置いていたスマホに頭が激突し、何も見えなくなった。

 

 

 

 光が差し、目を開けると霞んだ視界の中で巨人の女性が覗いていた。慌てて身体を動かして逃げようとするも、身体はろくに動かない。ましてや声をあげようにも声がちゃんとでない。

 

「#=IrORFJO」

「GIDKOERJO+TGWKD」

 

 その女性は意味の分からない言葉を発する。恐怖に慄いていると、持ち上げられて周りが微かに映る。どれも霞んでいるが、ここが豪華な巨人の部屋だということはわかった。続いて自分の身体を確認すると、どうやら俺は赤ちゃんになってしまったようだ。うん、まあこれは仕方ないのかもしれない。色々と未練はある。あのアニメやゲームの続き、ましてやパソコンのハードディスクの中、家族のことなどだ。だが、記憶を持って転生できたことは喜ばしい。可愛い彼女を作ってエロイことをしたい! 平和に安定した生活がおくれるだろうし、王侯貴族っぽいし勝ち組確定だ! それとなにか隣にも同じ恰好の赤ん坊がいるし、可愛い妹も居る。やはり勝ち組は確定だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく時が経ち、視界の霞がだんだんと消えて言葉が理解できるようになってきたら、やばい現状が判明した。まず、父親の顔にどこか見覚えがあった。そして、使われている文字にもまったく読めないが心当たりがある。それらを繋げて必死に記憶を辿るとある一つの結論に辿り着いた。そう、この世界がHunter×Hunterの世界であり、俺がカキン帝国の王子に転生したということに。

 しかし、ここで問題がある。というのも、このカキン帝国はやばい。この世界で屈指のヤバさを持つ暗黒大陸に行こうとするし、王位の継承に壺中卵の儀というカキン帝国王家に代々伝わる儀式を行うのだ。

 これは初代国王などが蠱毒に発想を得て子孫繁栄の為に遺した念能力の名前とされている。遮光器土偶の顔を模した壺に王子がその血を一滴注ぎ、中央の穴に手を入れ王即位の意思を念じると、壺から妖精のような念獣が現れ、守護霊獣の卵をその口に押し入れる。

 この儀式によって、守護霊獣という念獣が生まれ、取り憑いた者のオーラを糧として、その者の人となりに影響を受けた形態や能力に変貌し、その者を守護する。

 本人が創り出したものではない寄生型の念能力であるため、自身の意思で動かすことは出来ないし、念獣固有の系統・主能力と、宿主の王子の素質が別物であり、寄生型の念獣がどうなるか予測不可能という性質が大きく現れている。

 念獣は念獣が憑いたものを攻撃することはなく、念獣同士もお互いを攻撃しない。念能力の有無にかかわらず、本人には自他いずれの念獣も視認できないという曲者だ。

 何が言いたいかというと、この儀式が漫画の知識通りなら100%行われ、その殺し合いに俺も巻き込まれることになるということだ。

 特に暗黒大陸から持ち帰られてくる物によっては死ぬこともありえる。病原菌やウイルスなんかもあるだろうし、キメラアントというこちらでは最強ともいえる種族があちらでは最弱に近いのだから。

 ああ、本当にこれは生半可な事では生き残ることなど無理だ。この世界は命が軽すぎるし、ちょっとしたことで人類を滅ぼす可能性が高い存在が暗黒大陸には五万といる。その内の一体でも俺達が住む場所に流れつくだけで死ぬ可能性が高く、とても安心して過ごせる環境ではない。ならば力を手に入れるしかない。ましてや俺は女性として転生した。

 

 

 そう、私はFGOのガチャをしていたら心臓発作で死んでしまい、気が付いたらハンターハンターの世界に転生していた。何を言っているのかわからないだろうが、私も分からない。

 しかも性転換だぞ! 性転換! 

 男性から女性になるなど最悪だ。男が良かった。使われていない息子ともさよならしたことも悲しい。

 では、改めて判明した事を説明しよう。文字はわからないが、母親や乳母の言葉から私の名前はライネス・ホイコーロだ。ライネス。うん、ライネス。そこで思いだしてもらいたい。俺が最後に引いたガチャはなんだっただろうか? アルターエゴと四騎士のガチャだ。そして、虹の確定演出は中身こそ見ていないが、ライダーだった。

 つまり、私の身体はFateのロード・エルメロイⅡ世の事件簿やFGOことFate/Grand Orderという作品にでてくる美しい金髪のロングヘアーに空色の瞳を持った愛らしい少女ライネス・エルメロイ・アーチゾルテもしくはその身体にサーヴァント司馬懿の力を宿した存在という可能性がある。というか、そうじゃないと死ねる。ただでさえ、Hunter×Hunterの世界に存在するカキン帝国の第13王子(女性でも王子)として生まれたのだから。

 しかし、まだ救済措置は用意されている。神様……いや、存在Xの思惑を超えるために手段を択ばずに鍛えぬかねばならない。なぜなら王子の中には女性にとっては致命的であり、危険すぎる第4王子ツェリードニヒ=ホイコーロがいる。表向きは知的で博学な雰囲気の青年だが、残虐でサディスティックな本性を持っている。

 また、独自の美学に則って若い女性、その中でも聡明な者を虐殺して加工し、壁に飾ったりする事を好む人体収集家だ。つまり、俺が目指すことになるライネス・エルメロイ・アーチゾルテなどこいつにとっては格好の獲物でしかない。

 それと嘘吐きな女性を徹底して憎み、同時にそういった女性から下に見られる事を恐れてもいる。緋の眼を大量に保持する人体蒐集家でもあり、そのうち一つは頭部ごと保存している。このように王子の中でも一際邪悪な人間性の持ち主で、儀式の時に手に入れた2体の念獣にも強く反映されていて危険度は大だ。

 私有の権力と財力を用いて、自身の犯罪行為の痕跡をもみ消しているし、内心では他の王子達をゴミと見下し、継承戦に意欲的だ。本性を知る者は私設兵・実兄ベンジャミン・ミザイストムなどごく一部だ。三大マフィアのエイ=イ一家とも懇意で、女性を融通してもらったりもみ消してもらったりする時の処理も担当してもらっている可能性がある。

 そして、並外れた念の才を秘めており、念の存在を知ってすぐの指南で修行を開始すると、わずか1週間で四大行をマスターするといった化け物だ。こいつはキメラアントの王、メルエムに匹敵する存在かもしないのだ。つまり、そんな相手をぶち殺し、対抗できる手段を用意せねばならないというわけだ。うん、無理! 

 

 可能性があるとすればやはり、Hunter×Hunterの世界における超能力の代名詞。念能力による物だろう。これを鍛えねば勝ち目がない。

 念能力とは自らの肉体の精孔という部分からあふれ出る、オーラとよばれる生命エネルギーを操る能力のことだ。念を使う者を念能力者と呼び、念能力によって自身や他者に様々な影響を与える事ができる。

 一般人の間では念能力の存在自体が知られていないことも多く、無意識に念を習得した者が、霊能力者や超能力者と呼ばれたり、芸術などの専門分野で業績を上げたりしていることもある。

 基本的には戦闘に使用する能力が代表的だが、必ずしも戦いのための能力に限らない。ハンターは仕事柄、未知の領域に踏み込むことが多く、念が使えないと一人前のハンターとして認めてもらえないばかりか、命を危険に晒しかねない。誰でも身につけることができるが、公的には隠された技能であり、習熟度も才能による差が大きい。

 まあ、これはどの王子達もそれなりの実力を持っているのだから、才能はあると思われる。ましてや俺はライネス・エルメロイ・アーチゾルテ(司馬懿)の身体を使っているのだ。才能が無い訳がない。(断言)

 それと念能力による影響は、本人が解除すれば消える。消耗やダメージで能力を維持できなくなっても消えるから安心だ。もちろん能力者本人が死ねば消えるし、他人がかけた念を取り除くことができる者もいる。こちらはきわめて稀少だ。

 一部の例外で、死の未練で能力が残って作動し続けるというケースがある。つまり、念能力は使い手が死んでも能力が解除されるとは限らないということだ。それどころか、術者が強い執着や恨みを持ったまま死ぬと、その念は恐ろしく強くなり、自ずと憎悪や執念の対象へと向かうようになる。すでに念を込めたものがあれば、その能力が強大化する可能性が極めて高い。

 念能力を解除するには事前に設定されている解除条件を満たす以外に除念する方法がある。これが可能な念能力者は除念師と呼ばれ非常に数が少ない。特に死者が遺した念を除念するのは極めて難しく、これが可能な除念師は世界中で10人足らずである。

 除念といっても念の影響を完全に取り除けるわけではなく、現状では除念師が死者の念を代わりに引き受け、その分のリスクを負うという大変に危険な方法でしか行うことができない。

 無論何でも除念できるわけではなく、あまりにも業の深いドス黒いオーラに対しては、除念師も音を上げてしまう。なお、念能力の存在を知らない一般人はこうした現象を霊の仕業と誤解しており、霊能力者によって除霊できると考えている。

 

 俺はこれを利用するつもりである。念能力の修得には時間がかかるから、まだゆっくりと考えることにするけど。

 それよりも念の習得についてだ。未習得の人間が念使いのオーラ攻撃を受けると念に目覚めることがあるが、それはもし生き残ればということであり、仮に覚醒しても身体を壊され後遺症を負っていることも珍しくないので行わない。俺が選ぶのは座禅や瞑想でオーラの流れを体感しながらゆっくりと精孔を開く。赤ちゃんなので時間だけはある。

 ベッドの上で瞑想し、身体の中にある精孔が開き、オーラが噴出して身体の周りを漂うイメージで行う。ライネス・エルメロイ・アーチゾルテなら余裕でできる。だから、できないわけがない。そう思いこんで必死に頑張る。

 

 

 

 

 

 

 

 人間、頑張ればできるもので、五ヵ月で精孔が開いてくれた。周りに漂う物がどんどん抜けていくので、オーラが拡散しないように体の周囲にとどめる(テン)を行う。これは最初からイメージしていたのですぐにできた。

 次に身体の中でオーラを血流に乗せて循環させるイメージをして、どんどん濃度を濃くする感じで行う。一週ごとに増やしていく感じだ。こちらは精孔を広げて、通常以上のオーラを出す(レン)だが、身体の外にオーラをできる限り漏らさずに内部で行う。これならバレる可能性はすくない。

 すぐに気絶しそうになるが、(ゼツ)という精孔を閉じ、オーラが全く出ていない状態にして回復力を上げてから眠る。起きたら纏、錬を実行して気絶しそうになったら絶で回復。食事の時以外はこれに集中する。

 起きたらすぐに気絶するように眠り、ほとんど動かないために病弱だと心配されるようになってしまったようだが、気にしない。それにしても流石はライネス・エルメロイ・アーチゾルテであり、ホイコーロ王家の血を引くだけあって才能が凄い。オーラの質と量がどんどん向上している。二歳になるまではこれを続けるとしよう。

 

 

 

 

 

 二歳になった。母親のセヴァンチがついにこなくなった。俺はほぼ無視していたし、病弱なので何時死ぬかわからないからだろう。だが、妹ではなく、姉だったモモゼと一緒に放置されるのは納得がいかない。

 モモゼは何かと寂しいのか俺にかまってきて、鬱陶しい。彼女も本質的には敵だ。腹黒いし俺を殺しにくるだろう。まあ、彼女の相手はまた今度でいい。

 どうせ最初に殺されるのだ。助けられるのなら、助けてもいいが……違うな。ライネス・エルメロイ・アーチゾルテなら、利益があるならば助ける。これで行こう。

 

 

 

 

 さて、生まれてから二年間の修行でオーラの総量と質はかなり増えていると思う。実際に外に出すわけにはいかないので、水見式もできない。王宮にも念能力者がいるし、まだ原作の第13王子が生まれていないので、母親であるセヴァンチは上位の序列を持つ王妃から、護衛という名の監視が派遣されている。自分で護衛を選ぶことはできないので常に見張られていると思った方がいい。そいつらが念能力者なのは継承戦で派遣されてきた連中や第一王子の手勢が念能力者ばかりなのでほぼ確実だ。

 そのため、隠という隠密性に特化させた応用技も覚える。こちらは絶を使って隠すだけなので練習すればできた。二ヶ月もかかって完全に隠すことはできないが、及第点だろう。

 さて、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテの系統はなんだろうか? 

 二歳の現状では水見式といわれるタイプの測定はできないし、成長したとしても護衛として監視が常に控えている状況になるだろう。念能力者からしたら水見式で行うだけでバレる可能性が高いし、系統を知られる上にこちらの成長状況が筒抜けになる。これは困る。

 念能力者同士の戦いは如何に相手の能力を知っているかによる。どんな強者でもメタられたら負けるのだ。原作で念を覚えて一年ぐらいだったと思うクラピカが幻影旅団という念のスペシャリストを能力を特化させることで殺す事を成功している。念の自由性は無限大といえる。なので、できれば水見式をして適性にあった発を作りたいが、将来的にも難しい。

そこで、俺の身体、ライネスから考える。彼女は月霊髄液という礼装を操る。これは水銀を操作するということを考えると操作系の可能性が高い。しかし、この力は後々開発する。

 いくら天才軍師の司馬懿とライネス・エルメロイ・アーチゾルテといえど、能力を開発するメモリが足りなくなる可能性がある。では、どうするかと言われたら、足りないのならば別の所から強化して持ってくればいい。

 その手段の一つとして念能力には死後の念と呼ばれる手段がある。こいつは前に説明した通り、死んだ時の未練や恨みなどで増幅されるとのことだ。だったら、確実に死後の念になるように調整した制約と誓約を本人に強制させてしまえばいい。

 酷い事だって? 知ったことではない。ライネス・エルメロイ・アーチゾルテは根源を目指す魔術師だ。そして、司馬懿は魏の国で曹操や息子の曹丕らに仕え、頭角を現して後にクーデターで皇族たちを打ち破り、権力を手中にした。この程度は彼女や彼も行うさ。そして、俺は彼女の身体を持つのだから、やることはやる。まあ、女が好きだからそっち方面の事はするだろうけど。

 

 さて、ではここで開発する能力を決めよう。どうせ系統を知ることはできない。賭けにはなるが、メモリを回収できる手段を用意すればいい。というわけでまず、作るのは操作系と具現化系を合わせた念能力だ。

 ライネス・エルメロイ・アーチゾルテの系統が操作系だと仮定すると、操作系が100%。隣の放出系が80%。特質系が0%。具現化系が60%となるが、メインを操作系とするので問題はない。特質系は基本的に0%となるので、これは間違いではないが、カキン帝国の王族として特質系の可能性もある。第4王子がそれだし。特質系なら非常に助かる。

 

 で、肝心の能力だが……諸君等は魔法少女まどか☆マギカを知っているだろうか? 

 

 うん、知らない人もいると思うが、宇宙からやってきたキュゥべぇ達が十代の少女達の願いを叶えて、その代価として魔法少女という生物兵器に加工し、魔女と呼ばれる存在と延々と死ぬまで……否。

 魔女になるまで戦わせ続けるという話だ。そして、魔女は一般人や魔法少女を襲っていく。魔法少女が魔女になるのは深い絶望に襲われ、ソウルジェムと言われる魔法少女の魂が入った物が黒くなるとなる。

 簡単に言うと戦いの中で絶望すると魔女になるわけだ。そうなると、これは魔法少女が投入される限り延々と続いていく。そして、キュゥべえ達インキュベーターの目的は魔法少女が魔女になる時に発せられる感情をエネルギーに変換し、それをもって低下するエントロピーを上げるために行っている。彼等には個々の個体という概念はなく、全体が一つの意識を共有しているという存在だ。詳しくは見るといい。だが、マミられないように気をつけたまえ。俺はもう見れないから、俺の分まで楽しむといい。

 もうわかるだろう。俺が作る能力はキュゥべえをイメージした寄生型の念獣だ。この念獣は生物ならなんでも寄生できるようにする。ただし、寄生には契約が必要で願いを叶えたいかどうかを確認し、契約する場合は意識を読み取って願いを判断する。意識が希薄な場合は強制的に寄生し、対象者に望まれるものを銀の鳥が統計から判断する。

 

これは俗に言う―

 

ボクと契約して念能力者になってよ!

 

もしくは――

 

願いを叶えて欲しくないか?

 

という悪役の台詞である。

 

 

 契約を了承した場合、対象の願いを叶えるために俺が具現化した寄生型念獣が操作系能力で寄生主の身体を操り、念能力を強制覚醒させる。

 次に制約と誓約を結ばせる。制約と誓約は、制約(ルール)を決めてそれを心に誓うことで、そのルールが厳しければ厳しいほど、使う技が爆発的な威力を発揮するという大技、かつ諸刃の剣だ。原作のゴンの場合、命を圧縮することで、ネフェルピトーを倒せる年齢(レベル)まで強制的に肉体を成長させた。それを使わせてもらう。

 八割の能力を契約者の深層心理を読み取って願いを叶える力へと変え、残り二割は死亡する時に感情を操って強制的に死後の念となり、俺が作った銀の鳥に収められる能力を作成する。得られた死後の念によって強化されたオーラを使い、銀の鳥が複製される。複製された鳥は次の宿主を探しに飛び立っていく。

 つまり、魔法少女になった存在は死後、全てを銀の鳥に吸収され、使用者のオーラとスペックの一部は俺に戻って還元されるということだ。戻ってくるのは二割に設定する。残り八割は増殖と無限再生にあてるというわけだ。基本的に他人頼りの能力だが、充分に強いだろう。制約と誓約はこんな感じにする。

 

 

 制約ルール

 

 1.制作者は銀の鳥に対して進む方角を指示し、銀の鳥の視覚情報を見ることしかできない。

 

 2.銀の鳥の大きさは制作者が決められるが、指定しないと込められた念の量によってどんどん大きくなっていく。

 

 3.銀の鳥の活動距離は身体を維持するオーラが二割以下になるまでに寄生対象を見つけなければ消滅する。

 

 4.銀の鳥の活動時間は収められた念のオーラとする。

 

 5.制作者のオーラを永遠に八割消費し続け、絶の使用を禁止する。

 

 6.契約者に制作者だと知り、それを本人に告げた場合、その者にかかっている能力を解除し、その者が願った代価を制作者本人が負担する。負担できない場合、制作者は銀の鳥が運んできた全てのメモリとオーラを失う。

 

 7.契約者は銀の鳥についてどのような手段でも伝える事を禁じ、破った場合は契約者は即時死亡し、死後の念となって制作者の支配下に入る。

 

 8.契約者は制作者に願いの代価を肩代わりしてもらった場合、制作者に対しての絶対命令権が三度だけ与えられる。この命令権は制作者と契約者に危害を与える物はできず、互いへの攻撃行動などを禁じる。また触れながらでないと発動しない。(令呪が与えられる)

 

 9.除念された場合、契約者の念能力は残り、銀の鳥に蓄えられたオーラとメモリは契約者に譲渡され、契約者の願いを叶えたオーラは制作者が負担する。

 

 

 誓約ルール

 

 

 1.制作者が制約を破ると死亡する。

 2.契約者が制約を破ると死亡する。

 

 

 

 発を発動し、銀の鳥を作る。小さな小さな銀の鳥達が生まれてくる。指定する大きさはナノサイズ。大きくても蚊くらいにして数を増やす。その子達を窓から空へと放つ。とりあえず、目指すのは暗黒大陸だ。その為に鳥にしたわけだしな。まあ、その前にこの辺りで色々と力をくれてやろう。

 契約者を念能力者に強制覚醒させ、オーラを無理矢理引き出して願いを叶える発を作り出させる。代価として命を圧縮して作り出すのでこちらに負担はほぼない。八割のオーラが常に取られ続けるだけだから、こちらの総量が格段に増えてもまずばれまい。ああ、ここから出す時にバレるかもしれない。数をかなり少なくして夜にしておけばいいか。ちゃんと隠もしてあるし、大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の幸せを呼ぶ青い鳥ならぬ銀の鳥達よ。契約者にひと時の夢と希望を与えてくるといい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『午後のニュースをお伝えします。街中で魔獣が巨大化したりする事件が発生しています。また、その魔獣はハンター達により討伐されましたが……』

 

 こんなニュースが飛び込んできた──

 

『金山を長年探し求めていたケルヒャーさんが発見した翌日に死亡しました』

 

 命の寿命が足りなかったか。

 

『子供が超能力を使えるようになったと騒ぐ人や──』

 

 さもありなん。子供なら願うだろう。特別な存在となりたいと。

 

『マフィアの抗争が激化し、街が一つが崩壊しました。夥しい死者がでており──』

 

 わ、わるくない。あくまでも使用者に任せているわけだしな、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五年後。私、ライネス・ホイコーロは七歳になった。ロード・エルメロイⅡ世の事件簿アニメ版一話に出て来たライネス・エルメロイ・アーチゾルテと完全に同じ姿となっている。というのも、髪の毛の色とか細部が違ったり、色々とあったりしたのだ。もっともな理由は七歳にもなるとしっかりと王子として相応しい教育がされるわけだ。男である私も遺憾ながら淑女としての勉強も強制され、喋り方からなにまで厳しい指摘を受ける。もう本当に嫌で嫌でたまらなかった。だから、私はせめて念能力で身体を操作して完全にライネス・エルメロイ・アーチゾルテにした。金色の輝く髪の毛に同じく輝く金色の瞳。服装も緑の服に黒いリボン。とても好奇心が旺盛でからかうのが大好きそうな可愛らしい女の子だ。ロールプレイということにすればまだなんとかなる。TRPGと同じだね。

 銀の鳥の制約で絶もできないし、回復は遅いのだけどそれ以上に銀の鳥が回収してくるオーラが増えている。やはり、一体一体は少なくても数が多ければ増える量も馬鹿にならない。もちろん、纏と錬はひたすら続けているし、応用技にも手を出し始めているが、絶ができないので硬や隠は得意ではなくなったが、微かに漏れ出ているぐらいにするぐらいはできた。ああ、こう言おう。オーラを振り分ける流モドキであると。ちなみに流はちゃんとできる。凝も円もできるが、錬の状態を維持する堅はまだ長時間はできていない。たったの七時間程度だ。

 

「ライネス、お母様が呼んでいるわ。晩餐会に出るようにとのことよ」

「碌な事じゃないな。気分がすぐれないから断ると伝えてくれ、お姉様」

「駄目よ。そう言ってこないだも欠席したじゃない!」

「嫌だ嫌だ行きたくない!」

「……出席したら、ライネスが欲しがっていた水銀を大量に用意してくれるそうよ?」

「何をしている。早く行くぞお姉様!」

「はやっ!」

 

 水銀が手に入るのなら構わない。何に使うかなんて言わなかったので、王宮に入れる事を拒否されていた。流石に水銀は危険物なので仕方がない。例えば、ジメチル水銀は1000分の1ミリリットルの量でも死に至る神経毒なのだ。止められるのは当然である。しかし、念能力として月霊髄液を作り、使うにはこれしかない。もちろん、持ち運ぶための念能力も用意する。大量の水銀を使役しなければ勝てない存在は多いだろうからね。うん、点での攻撃を防がれようと、面で圧殺してしまえば勝つ事は可能だろう。例えば海上にある船の上で、相手が未来視を使ってきたとしてもね。

 

「待ちなさい! まずはドレスに着替えないと駄目よ」

「……これでいいじゃないか」

「駄目に決まっているでしょう。王族としてしっかりとしてよね。姉である私まで怒られるのだから」

「やれやれ、面倒だね」

 

 仕方がない。メイドに言ってドレスを用意させよう。しかし、カキン帝国の教育は酷い物だ。ホイコーロの国王は妻と子供達にも王の一族に相応しい行動を強く求める。

つまり、次代の王になる事を信じて疑わない子供を育てることが妻の役目だ。私達は王になれる機会が来て当然と考えている。その機会を自ら放棄すれば王の子ではないとされ、処刑されるだけだ。

もっとも、私はそうなったとしても処刑されるつもりはないし、国王の座に興味が無いといえば嘘になる。王にならねば殺されてしまうのだし、私には司馬懿の力があるのだから有利だろうさ。

司馬懿は中国三国時代の軍師だ。魏の国で曹操や息子の曹丕らに仕え、頭角を現し、蜀に仕えた孔明とはライバル関係として知られている。それから後にクーデターで皇族たちを打ち破り、権力を手中にした。彼の死後、孫の司馬炎が晋を建国して皇帝となると宣帝の称号を贈られた。だから、私にだってできるだろう。彼の力がサーヴァントとしてあるのだからね。

 そんな訳で焦る必要はない。罠を這って確実に他の連中を殺す……いやはや、駄目だな。ライネス・エルメロイ・アーチゾルテや司馬懿の思考に染まってきている。ロールプレイもほどほどにしないとな。私を監視している護衛もいることだし、油断はできない。何れは彼等を処分するつもりだが、まだいいか。私の邪魔にならなければいい。

 

 

 

 

 

 



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2話

 

 諸君、元気か。私は頗る元気だ。気分は非常に悪いが、欲しい物のためならば我慢しよう。私が私であるがために必要な道具が手に入るのだからね。まったく、愚かにも私を侮って水銀を引き渡してくれればいいのだが、残念ながらそうはいかなかった。だから、水銀を渡すかわりに出された条件である晩餐会に出ることとなった。

 

「服装はどうしましょうか、ライネス様」

「黒で頼むよ。その方が私の綺麗な金髪が映える」

「畏まりました」

 

 姉上とは違う色の髪の毛に不貞の子供だと疑われたりもしているが、私が母親である第7王妃セヴァンチの胎からでてきたことは確実だ。まあ、このライネス・エルメロイ・アーチゾルテの身体なのだから仕方があるまい。

 メイドに着替えさせてもらい、黒いドレスを着てから晩餐会に移動する。晩餐会ではお父様であるナスビー・ホイコーロはもちろん、7人の王妃と13人の子供が席についている。モモゼもすでに席についているようだ。

 

「おお、ライネスではないか。よくきたホイ」

「お招きにより、参上いたしました。お父様」

「そんな形式ばった挨拶はいらないホイ。我等は家族だからな」

「はい、ありがとうございます」

 

 完璧な宮廷作法で挨拶をし、席につく。すぐに私の分も料理が運ばれてくるけれど、毒物が入っている可能性がある。まあ、食べるのだが。

 

「うむうむ。久しぶりに家族全員がそろった今日は良い日だホイ!」

「その通りですね、お父様」

「はい」

 

 王子の一部がこちらを睨んでくるが、無視して食事の挨拶を待って食事を始める。毒物が含まれていようと転換の胃袋という念能力を使って食事をしているので、全てが生命力や栄養に変換される。この能力はある人物が毒物しかない場所で、飢えをしのぎ、食事をするために作られた念能力だ。銀の鳥から得た情報を基に再構築したおかげで毒物も平気になったというわけだよ。他にも隠された庭園(シークレットガーデン)という能力を用意してある。これは絶を使えない代わりに用意した念能力で、自分の円という範囲を自らが支配する庭へと変化させ、外にオーラを出来る限り漏らさないようにする力がある。これによって私のオーラがほぼ外にでる事はないし、大量の水銀を花という形で隠してもおける。

 さらにさらに私の可愛い鳥達を収納できるのだ。というか、この能力が無いと鳥達が戻ってくることはないし、オーラが尽きるか半径1キロ以内に生命体がいなければ消えることもない。1キロ以内の生命が死滅することなどまずない。きっと多分。

つまり、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテの固有結界モドキとして発動できる。この能力の代価として銀の鳥達が消費され、巣である庭に強制転移されるということだ。このせいで私がこの五年で手に入れたスペックを月霊髄液と合わせればほぼ使い切ってしまう計算だ。

 

「ライネス、勉強をしているそうだが、順調か?」

「はい、順調ですよ、ベンジャミンお兄様」

「そうか。どんな勉強をしているのだ?」

「おや、不思議な事をお聞きになられますね。護衛を使って私の事を監視しているのですから、全てが筒抜けではありませんか?」

 

 私に声をかけてきたのはベンジャミン=ホイコーロ。第1王子にしてウンマ王妃の第一子。筋骨隆々の巨体の男性でカキンの軍事最高副顧問。その力はライオンを素手で絞め殺す程の筋力で、至近距離から拳銃で撃たれても無傷で済むほど強力なオーラを纏える。直情型な性格だが、部下の進言を受け入れ、適宜に方針を転換できる柔軟性も併せ持つというこの国でやばい奴の一人だ。つまり、私の敵だ。

 

「……」

「な、何を言っているのですか? そのようなことは……」

「カミーラお姉様。私達はこの国の王になるように教育されているのですよ。誰もが自分こそが王に相応しいと思っているでしょう」

「そんなことは……」

「無いとのことですよ、お父様。どうやら、カミーラお姉様は王位継承権を破棄なさるようです」

「なにを!」

「くっくく」

 

 からかって遊んでいるがベンジャミン達、上の王子や王妃の視線がやばい。ああ、なんて面白いのだ。

 

「貴様っ!」

「何を怒っているのか私にはわかりませんね」

「そうかそうか。それで何を勉強しておるホイ?」

「軍事について勉強しております」

「軍事だと?」

「はい。これは必要な事でしょう。ベンジャミンお兄様が順序通りに王になられたとしても、病気や事故にあって死んでしまうかもしれません。ですので、予備として勉強は必須。軍事とは国を守るために必要な事です。そこに穴を開けるべきではありません」

「おお、そうかそうか。確かにベンジャミン以外は軍事の勉強をしておらんかったか」

「俺が居るのだから、必要あるまい」

「あくまでも予備ですよ。私の興味がある事でもありますから。それとお父様。後でお願いがありますが、駄目でしょうか?」

「何か願いがあるのかホイ?」

「留学などをして勉強してみたいのです。この国で学べる事は限界もありますし、なにより国外の事も勉強する必要がありますから」

「考えておこう」

「ありがとうございます。それと動物を飼いたいので庭を用意してもらいたいのですが」

「誕生日にプレゼントしてやるホイ」

「助かります」

 

 さて、暗殺者でも送られてくるか、毒物でも送られてくるか、とても楽しみだ。ああ、楽しみだとも。それと私の可愛い鳥達は今も元気に働いてくれているし、数も順調に増えている。それはもう、数えるのも馬鹿らしいほどで、私の軍団ともいえる。銀の鳥達を放出する場所は私の旅行先で、放出したりしなかったりしている。

 

 

 

 

 

 

 

 アイザック・ネテロ

 

 

 

 

 

 

 わしがいる場所はハンター協会の飛行船じゃ。現在、わしらはある依頼について行動している。

 

「で、状況はどうじゃパリストン?」

 

 わしが聞いたのはハンター協会副会長。三ツ星ハンター。パリストン=ヒル。協会の副会長にして、わしがもっとも苦手とする相手じゃ。

 

「発端の場所は判明しました」

「本当なのか?」

「ええ」

 

 パリストンの言葉に答えたのは二ツ星のクライム(犯罪)ハンター。民間警備会社経営、弁護士じゃ。二人共男性じゃし、女性が欲しいのお。

 

「カキン帝国です。五年前、そこからはじまっています。まだそこまでしか判明しておりません」

「カキン帝国か。やっかいじゃな」

「しかし、処理しなければいけません。今まで起こった事件の件数は71,178,961件。この全てに寄生型の念獣が関わっています」

 

 五年前のあの日から、視認不可といえるほど小さな小さな寄生型の念獣は生物に寄生し、寄生した者の願いを叶えていく。その特性からわしらが気付くまで遅れた。最初は魔獣の暴走だけだと判断したハンターがおり、わしらのところまで情報がくるのが遅かったからじゃ。

 

「対処が遅すぎたのお」

「はい。数が多すぎるため、一体や二体を除念したところで無駄です。目に見えないので見つけて殺すことも難しい。それに加えて除念した存在に念能力が残る事も確認されていますから、保護しないといけません」

「厄介じゃな」

「しかし、そうも言ってられません。どうするのですか会長。V5の方からもせっつかれております」

「暗黒大陸から飛来した新たな災厄か。ガス生命体のアイだったか。そいつに似ておるから、そう考えるのも無理はないが……カキン帝国から始まっているのが不思議でならん」

 

 連中の増える速度と、わしらが討伐する数に限界がきている。わしらが見えるほどに大きくなったものは寄生された者が死んだ時だけだ。その時は膨れあがり、次の瞬間には無数の鳥となって消えていくことが判明しておる。

 

「銀翼の凶鳥。願いを叶える反面。寿命を削る。そして死んだら寄生主のオーラを吸収して身体を分裂させて次の寄生主に向かう。本当によくできとるのお」

「増殖性と見えないほど小さいというのは本当にやっかいです。いっそ都市ごと滅ぼしますか? 活動範囲に限界があるでしょうから、広範囲を殲滅すれば撲滅が可能かもしれません」

「駄目に決まっとるじゃろう」

「ですよね~。では、術者を殺すしかないですね」

「問題の術者はわかっているのか?」

「やだな~わかるはずないじゃないですか。目下捜査中です」

「探知系は?」

「対策されていますね。逆探知に反応なし。注意喚起をして願いを叶えないようにすることもできません」

「深層心理からも読み取るんだったな。人は大丈夫でも、動物などはそうもいかん」

「はい。というわけで、現状はどうしようもありません」

「……もしくは、命を使って願いを叶える事を伝え、叶えた後の行動を促すかじゃな。おそらく、重い制約が使われとるはずじゃ」

「でしょうね」

 

 カキン帝国、カキン帝国か。ふむ。もしかしたら、あの国の王子がかかわっている可能性があるな。よし、調査を開始しようかの。

 

「一つ思い付いたのだが、わざと寄生させて願いとして凶鳥について聞くのはできないのか?」

「心の底から願えますか?」

「無理だな。探し物の念能力をみつけるしかないな」

「うむ。どちらにせよ、我等は念能力者の保護と原因の究明、根絶を行う。全ハンターに指示を出すのじゃ。十二支んも星もちも全てじゃ」

「かしこまりました」

 

 やれやれ、どんな化け物か、楽しみじゃのう。いや、待てよ。

 

「パリストン。この念能力は念獣を育てるものじゃ。それでいいよな?」

「はい。そうですが……」

「じゃあ、育った念獣はどうなるかの?」

「それはもちろん、術者の下へと還るでしょう。そうでないとせっかく育てた念獣が……なるほどなるほど。この凶鳥の特性を考えると大半は増殖と再生に使われていますが、その一部は術者に還っている。そう考えるのは必然です。そうなると還る条件は寄生主の死亡ということですから、作戦は──会長」

「やれ。協会全てをあげて一斉に行うのじゃ。そうでないと意味がないからの」

「わかりました」

「詳しく説明してくれ!」

 

 術者がどんな化け物かわからぬが、ようやく尻尾を掴めるぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くちゅん! む、誰かが私の噂をしているな」

 

 しかし、そろそろハンター協会がこちらを嗅ぎつけてくる可能性がある。鳥達の進行方向をメビウス湖の外へと向けよう。なに、もはや管理もできないほどの数になっている。これ以上、こちらで活動するには限界があるからね。

 ベッドに寝転びながら兵法書を読みつつ脳裏に浮かぶ銀の鳥達への指示を出していく。しかし、流星街がやばい。人外魔境になっているじゃないか。その分、寿命も短いが、とても楽しい事になっている。

 

「ライネス様。水銀が届きました」

「ああ、ありがとう」

 

 起き上がって扉を開けると、メイドが水銀の入った浴槽を運んできた。ああ、本当に素晴らしい。綺麗な水銀がちゃぷちゃぷと揺れている。

 

「ライネス様。水銀は飲んだり入ったりするといいらしいです。不老長寿になると言われておりますから。どうかお召し上がりください」

「ああ、あとでいただくよ。それからしばらく一人にしてくれ。この水銀で遊ぶからね」

「そうですか。かしこまりました」

 

 私がいそいそと服を脱いでいく姿を見て、メイドは服を受け取っていく。

 

「ああ、なんなら君も一緒に入るかい?」

「い、いえ、大丈夫です。仕事がございますし、王族の方と入るなど恐れ多いです」

「そうか。それじゃあ助かったよ」

「はい。失礼いたします」

 

 メイドが出て行ったので、思いっきり声をあげて笑いながら水銀風呂に入る。

 

「くっくく、あはははは! やっとだ、やっと手に入れた!」

 

 皮膚を通して身体の中に水銀がたっぷりと入ってくる。掌で水銀をすくい上げ、身体に塗り込んでいく。当然だが、水銀は毒物だ。なので良い子は絶対に真似してはいけないよ。私がライネス・エルメロイ・アーチゾルテだからこそできるのだ。

 水銀をオーラで包み込んで融合させ、コントロールする。月霊髄液を造るための自らの肌で、全身で感じる。ついでだから穴という穴にも入れてみる。けっしてエッチなことではない。

 

「さて、ここからが勝負だな。死ぬか生きるかの瀬戸際だ。よし、やるぞ。何も問題はない。私の身体はライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。ましてや司馬懿までいる。ならば成功する未来しかありえない。Fervor,mei Sanguis(沸き立て、我が血潮)——術式起動」

 

 そういいながら、掌で掬った水銀を飲み込み大人用の浴槽で私の身体より大きな水銀風呂に全身をつける。頭も含めてだ。生き残るためには月霊髄液を使い、自らの物として操作するしかない。

 全能力と隠された庭園(シークレットガーデン)を使い、水銀を全力で操作する。物質にオーラを纏わせる纏と練の応用技、周を使って水銀を我が物とした。私はライネス・エルメロイ・アーチゾルテなのだから扱えないはずがないので当然だ。次のステップとして、自分の身体のように操作できなくてはライネス・エルメロイ・アーチゾルテとはいえない。

 

「ら、ライネス様……?」

 

 水銀その物になるような感覚の中、メイドが部屋の中に入ってきて浴槽の中に沈んでいる私を見る。

 

「あは♪ 死んだ。死んだ。死んだっ! これで私は王子様の嫁に──」

Fervor,mei Sanguis(滾れ、我が血潮)

「──え?」

 

 水銀が私の言葉と意識に従って動き、柱状の棘へと変形してメイドの身体を貫く。貫かれた腹部から血液が溢れ出し、水銀を通って私に流れ込んで来る。

 

「王子の暗殺は極刑だぞ、メイド君」

「な、なんで生きて──」

 

 浴槽から顔を出し、全身で水銀を楽しむ。

 

「ああ、しかし人を殺すのは初めてだな。これが童貞喪失か。いや、処女になるのかな。ああ、嫌だ。やはり童貞でいこう」

「た、たすけ──」

「裏切り者には死を。残念ながら私は甘くはないのだよ。もっとも、殺しは初めてだから罪悪感がわかない方法でいかせてもらおう」

「そ、そんな、お願いします! なんでも、なんでもしますから!」

「そうか、なんでもか。わかった。安心したまえ」

 

 水銀塗れの身体で引き寄せたメイドの頬を撫でながら、私は彼女の瞳をみつめて笑顔で告げる。

 

「君の身体はしっかりと使わせてもらうよ。私はお兄様と違って人体収集家ではない。だから、無駄にはしないとも」

「な、なんで、たすけてくれるって」

「そうはいっていないさ。君はここで死に、君の身体は私が私であるために隅々までしっかりと使わせてもらう。王子の、カキン帝国の王となる私に使われるのだから本望だろう?」

「ひっ、いやっ、いやぁぁぁぁぁっ!」

Fervor,mei Sanguis(沸き立て、我が血潮)——術式起動。取り込め、トリムマウ」

 

 ライネス・エルメロイ・アーチゾルテにとって、月霊髄液のトリムマウがいるのは当然の事だ。だから、彼女を月霊髄液に取り込ませて使わせてもらう。湯船の水銀に浸かりながら、空中に浮かんだ水銀達がメイド君の身体を覆って取り込んでいく。絶望の表情を浮かべさせながら取り込まれていく姿は見ないようにする。

 

「さてさて、水銀の量が全然足りないな。もっと作らないといけない。しかし、生命力の量にも限界がある。やはりライネス・エルメロイ・アーチゾルテの域にはまだまだ届かない。彼女みたいに魔術刻印が……待て。あるはずだ。無いのはおかしい。つまり、この身体はまだ魔術刻印……魔術回路が開いていないのか。よし、開こう」

 

 全身に魔術回路を作成する。イメージはFateに出てくる聖杯少女イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。私もある意味では願いを叶える聖杯少女だ。何も間違いではない。というわけで全身に大量の魔術回路を作成し、月霊髄液専用にする。生命力を魔術回路に通して魔力を生成する。この魔力は高純度のオーラの塊として精製された感じだ。これで私はよりライネス・エルメロイ・アーチゾルテとなった。

 

「トリムマウ、私はしばらく水銀風呂を楽しむ。君は溢れた水銀を吸収してくれたまえ」

「畏まりました」

 

 イメージ通り、喋れるので月霊髄液は完璧だ。さて、全身で感じている水銀を具現化していく。魔力を使って水銀を増やす。ああ、水銀にも色々と付与しよう。まず水銀からイメージできるのはスライムだ。スライムといえば吸収能力。オーラを吸収する能力を与え、除念というか無効化できるようにする。念弾とかを吸収して自分のオーラへと変更するのだ。

 この世界で本当に恐ろしいのは念能力だ。だからこそ、吸収して無力化できる力が必要だ。物理攻撃は元からある月霊髄液の水銀で防げばいい。防御能力も戦うかもしれないメルエムを考えると、最低でもネテロ会長の百式観音に対応できる自動防御を作成しよう。私が知覚できない速度でも絶対に防いでみせる。ああ、やはり毒性も強化しておこう。吸収した念能力や毒性などを再現できるようにすれば完璧だ。作ってみたが、メモリがオーバーした。考えれば当然だ。流石に念能力の再現や吸収はやり過ぎだったか。今は諦めよう。王や護衛軍を吸収すれば問題ないだろう。

 

「ああ、しかし良い夜だ。そう思うだろう、トリムマウ」

「はい、マスター」

「では、今日は記念日としようか。君の誕生日でもあるしね。おや、おやおや?」

「どうしましたか?」

「私の可愛い鳥達が凄い速度で捕まって一斉に殺されだした。うん、これは‥‥流石はハンター協会。もうたどり着いて来たか。私の予想では後二年ぐらいは大丈夫だと思ったのだが……これは困った。困ったから処分しよう」

 

 全ての鳥達に指示を出し、殺された時に向かう方向を変えさせる。向かう先は例のアソコだ。ネテロ会長達はどう対処するか、私は高みの見物としゃれこもうじゃないか。

 

 

 

 

 

 クロロ

 

 

 

「団長、願いを叶える鳥って知っている?」

「ああ、知っている。それが原因か」

「そう多分それ。そのせいで何人かやられた」

「どうする?」

「これ以上の被害は困るな。クルタ族の一部は見逃す。一時撤退だ」

「了解」

 

 炎に包まれる村の中では現在も戦いが続いている。最初の相手はそれなりの手ごたえがあったが普通の程度だ。だが、中には強かった一人がいた。そいつを殺すと、殺した奴の身体から銀の鳥がでてきた。するとそれが弾けて無数の鳥となり、他のクルタ族の者達へと入っていった。その後は格段に強くなり、こちらの被害が馬鹿にならないほどになってきた。

 

「俺達を殺す事か、退ける事を願ったのだろう」

「だよね。こっちの攻撃がほとんど効かない上に殺しても鳥がでてきて、そいつが他の連中に入って酷いことになる。それに先に操作されているから俺の能力も受け付けない。本当に厄介だよ」

「次のターゲットが決まった。術者を探せ」

「了解。あ、いい情報ゲット。どうやらハンター協会が仕掛けているみたいだよ。って、この進路はまずい!」

「どうした?」

「流星街だ! 流星街に銀の鳥とハンターの大部隊が向かっている!」

「……全員で戻って援護する。これはおそらく、流星街とハンター協会をぶつけて処理するつもりなのだろう」

「流星街にいるかもしれないよ?」

「居ない。それはすでに確認した」

「……じゃあ、戻るしかないね。マチ達に連絡を急いで撤退させるよ」

「頼む」

 

 相手は厄介な奴のようだ。すくなくとも、オート型でありながら、ある程度は操れるのがわかった。ぜひとも欲しい能力だな。寄生される気はないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそったれが! してやられたわい」

「ですねえ。絶対にこれ、流星街に居ませんよ」

「お前はわかっとったようじゃがな」

「あははは、やだな~」

「撤退しますか?」

「流星街からも防衛にでてきていますが……」

「一応、話をつけてくるかの」

「お願いします」

 

 そうしようとした瞬間、銀の鳥達は巨大化してわしらの方から流星街に攻撃を仕掛けた。突撃しただけだといえるが、奴等からしたら攻撃にかわらんじゃろう。突撃していったのじゃから。そうなるともう戦いは止められん。流星街を突き進み破壊した後は分散して我等の方向に戻ってきては再度突撃するといういやらしさ。こちらが攻撃しようにもその巨体でこちらの攻撃を見えないように隠す。まるで掌で踊らされているようだ。

 

「パリストン、わしじゃ無理だ。任せるぞ」

「かしこまりました。こういうのは得意です」

 

 騙し合い化かし合いは任せればよい。ハンター達には攻撃を控えるようにパリストンが言って、ある程度戦ってから白旗をあげて互いに話し合いを設ける。そこで銀の鳥について話していると、上空で集合して巨大化していく。それから鳥はメビウス湖の外へと飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 以降、第六災厄として銀翼の凶鳥が登録されることとなった。

 

 

 

 

 

 

 




なんでネテロ達は勝てないし見つけられないの?
膨大な数まで膨れ上がってメビウス湖全域で活動しているからです。移動方向はコントロールできるので、それを利用することである程度は操作可能です。ネテロ会長と正面から今戦うと確実に敗北します。だから戦いを避ける。軍師としては当然ですよね。
第六災厄認定はアイちゃんがいることからです。そこまで能力は高くはないが、無差別に生物なら願いを叶える可能性から考えてです。どう考えてもこの念獣って災害ですよね。インキュベーターなわけですし。
ただしカキン帝国在住はバレたのでこれからも警戒が必要です。


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3話

諸君。日間ランキングで5位だ。そんなにライネスが好きか! 私も大好きだ!
 そしてごめんなさいお仕事の都合で短いです。それと誤字脱字報告とても助かっております。月曜日は休みなので、二話をもっと読みやすく修正する予定です。
感想で書いていただいたように一話の制約と誓約の部分をみやすくしております。大変助かりました。ありがとうございます。


 

 

 窓から差し込む月の光に映し出されるのは、見慣れてきた幼くも美しい少女の裸体と掌から溢れ出し、零れ落ちて身体をするすると流れ落ちていく銀色の液体金属。金髪白人幼女と銀色の液体。そして月の光。なんて神秘的な光景なのだろうか。流石はライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。なんでも似合うな! 

 ナルシストみたくなってしまっているが、何も問題はない。私はあくまでもライネス・エルメロイ・アーチゾルテの身体を使っているだけの一般人なのだから、ライネスの身体が美しいのは当然の事だ。(断言)

 そして、彼女の裸体をある意味特等席で観賞できる私は勝ち組だな。ちゃんと見れたらだが。やはり恥ずかしく、まじまじとは見られない。顔や全身が赤くなって大事な部分を手で隠してしまう。メイドがいた時はロールプレイの一貫と王族としての教育で羞恥心を押さえ込んだが、一人になると素に戻ってしまう時がある。こればかりは仕方がないな。下手に彼女に寄り過ぎて、男を好きになったりしてはかなわん。私は可愛い女の子が好きなのだ。Hunter×Hunterの世界だとピトーとか、カルトとかな。

 

「しかし、ままならんものだね」

「どうなさいましたか?」

「いや、なに。ハンター協会と流星街の戦いは中途半端に終わってしまった。とても残念だ」

 

 一応、ハンター協会は最優先監視対象だった。だから、鳥達の情報から精査して予測していた。どうやったら銀の鳥達を捕獲あるいは殺せるか。その対策としての増殖能力と再生能力だったのだが、逆用されてしまった。おそらく、こちらに力の一部が集められている事もばれているだろう。そうなるとおいそれと回収もできない。全てを増殖と移動して新たな契約者を得る事に費やすしかない。

 ここまで簡単に特定されてしまうとは、流石は知のパリストン。奴が諸葛亮、お兄様か。ないな。お兄様じゃない。そう、ロード・エルメロイ二世じゃない。厄介な敵である事に変わりはないが……さて、これからどうするべきか、問題点と解決策を考えよう。

 

 1.しばらく銀の鳥達を回収するわけにはいかなくなった。しかも、一部の鳥達は私にオーラとメモリを届けるために帰巣本能がある。それを誤魔化す為には方向を指示してこちらに来ないように誘導しないといけない。こちらは常に指示を出し続けるので非常に辛いが、できない事はない。頭は痛いが、やるしかない。

 解決策は現状ではないのでスルーするしかない。それにオーラの量も念能力で作った礼装・月霊髄液トリムマウがいるので戦闘でもどうにかなるだろう。理想であるネテロ会長の百式観音にはまだ対抗できないが、訓練次第だろう。少なくとも作成段階で対応できるスペックにはしてある。私が扱い切れるかは微妙だが。

 自動防御というのは得てしてパターンを読まれて潰される宿命を負っている。ネテロ会長やメルエム、奇術師ヒソカをはじめとした幻影旅団、ゾルディック家ならそれぐらいはやってのけるだろう。考えるだけで嫌だな! 化け物だらけじゃないか! 暗黒大陸よりはましだが。

 解決策はひたすら訓練と実戦経験を積んで月霊髄液の操作とトリムマウにプログラミングを行い、自動防御の精度を上げ続ける事。最終的には私自身とトリムマウによる完全防御と攻撃を行う事とする。月霊髄液を使った花や動物を作るのもいいかもしれない。か弱い美少女の私に荒事は向かないからな。

 

 2.他の王子と王妃達の対処(表)。こちらは現状維持で問題ないだろう。先の晩餐会で思いっきり喧嘩を売ったが、まあ、なんとかなる。継承戦はまだ始まっていないのだしね。

 解決策はなるようになる。あまり関わって情が移るのはまずい。

 

 3.他の王子と王妃達の対処(裏)。メイドや護衛と偽った暗殺者が派遣されてくるだろう。プロが来るかもしれないな。その辺りはトリムマウが使えるようになったので、歓迎だが……ゾルディック家が来たらやばい。

 対策は身代わりを用意することぐらいだ。正直、ゾルディックにはまだ勝てないから、逃げるしかない。まあ、逃れたら逃れたでまた襲ってきそうだがな。

 

 4.殺したメイドの処理。これが一番の問題だ。他の問題は起こる可能性が高いが、まだ先だ。だが、メイドを殺した事は別だ。次の日にはメイドが居なくなったことを知られるだろう。別に殺したこと自体は問題ではない。どうやって死体を処理したかが問題だ。

 ここは日本ではなくカキン帝国なので、王子である私が殺されそうになったから返り討ちにしたと言えばそれで終わる。問題は死体の方。メイドが逃げたと言えば捜査が始まる。王子の暗殺など、許されることではないので、国の威信にかけて犯人捜しをする。だけど、メイドは王妃達から差し向けられているので有耶無耶にされることは確実だ。

 殺したと伝える方はどうやって殺したか、トリムマウに取り込ませた死体をどうしたか、という説明をしないといけないので、トリムマウの事が知られてしまう。それは私のアドバンテージがなくなる。見せ札として月霊髄液を使えばいいが、ん? これはライネス的には反対の方がいいか。

 どちらにせよ、こちらの場合はベンジャミンお兄様が飼っているペットの餌にして、食べさせてしまえばいい。

 難点は他の連中から恐ろしい存在とみられて色々とやりづらくなる。ただ、逃げられた場合は王子の資格に問題があると言われる可能性が高い。

 

「こう考えると、餌にしてしまうのもいいかと思ったが、逃げられたことにした方が都合がいいな」

 

 逃げられたことにして、王子の資格を問われる。これを利用すれば強さを得るために天空闘技場に行けるかもしれない。お金も欲しいし、ファンとしては行ってみたい。というわけでこのまま逃げられたことにするのがベスト。

 

「よし、殺したことにしよう」

 

 だが、私の行動理念は生き残る事と、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテをロールプレイすること。なら、今回のような場合、ライネスはどう出る?

 舐められたままでいるわけがない。襲ってきた奴にはしっかりとその代償を支払ってもらわねばならない。それこそが魔術師であり、エルメロイだ。

 

「トリムマウ。取り込んだメイドから情報は引き出せるか?」

「不可能です」

「だろうな」

 

 機械的な音声で答えてくれたが、これは仕方ない。そういう用途に作っていない私の失敗だな。メモリが足りなさすぎるのも理由の一つだが……うん、おいおい頑張るとしよう。

 

「よっと。トリムマウ、身体を拭いて服を着せてくれるか?」

「はい」

 

 水銀が入った浴槽から出て、床に素足で立つ。両手を上げて拭いてから服を着せてもらおうとしたが、服が破れて使い物にならなくなった。トリムマウのコントロールがちゃんとできていない。まあ、彼女は学習型だから大丈夫だろう。学習させる能力をつけ忘れたが、取り込んだメイドは人間だ。きっと学習してくれるはずだ。なにせイメージしたのはライネス・エルメロイ・アーチゾルテが使役する私が望むトリムマウだ。なら、問題ない。

 

「とりあえずは自分で着替えるか」

 

 久しぶりに身体をタオルで拭いて、新しい服を取り出す。恥ずかしいが、我慢する。着替えるのは緑色のドレスだ。アニメの一話ででてきたライネスの服装だ。

 しっかりと着替えてから、姿見の前で確認して一回転してみる。ふわりとフリルがついているスカートが浮かび、おちていく。

 

「うむ、完璧だ」

 

 準備は完了した。姿見を見てもショートの可愛らしい女の子が……アレ、これって愛歌ちゃんに似てないか。気のせいだな、気のせい。あの根源接続者と似ているはずがない。髪の毛が伸びたら大丈夫だろう。

 

「トリムマウ、戻れ」

「はい」

 

 机の中から用意しておいた試験管を取り出し、トリムマウを入れて懐に仕舞う。もっとも、この試験管は周でオーラを纏わせて秘密の庭園を繋げているだけだ。

 こうすることで本来は私の身体からなら、自由に出てくることができるトリムマウと月霊髄液を誤認させ、戦闘時に隙を作ることができるかもしれない。クラピカが常に鎖を具現化しているのと同じ理由だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本当はメイドの処理まで終わらせて、少しピンチにしようと思っていたのですが、そこまでいきませんでした。


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4話

王様との話で念について詳しく知らない感じに修正。
メンチについて現状16歳なのでシングルハンターにはなっていないと教えていただいたので修正しました。確かに四年でシングルなんて普通はとれませんよね、うん。


 

 

 

 部屋を出ると何時もとは異なっていた。部屋の外に普段は張り付いて離れないはずの護衛がいなくなっていた。護衛を派遣していた王妃はわかるから、後で調べてみようか。それでどの王妃がかかわっているのかがわかる。

 このような事を考えながら厨房に移動して肉を幾つか貰い、部屋に戻って床に飛び散っていた血液を採取し、肉にぬりたくっておく。続いてベンジャミンお兄様が飼っている猛獣達に与える餌の中に混ぜておく。これで私が死体を処理した方法として伝えても問題ないだろう。

 動物達を見に相手の本拠地に行きたいが、碌なことにならない感じがするから止めておこう。それよりも私には色々とする事がある。

 

「そこのメイド。お父様は今、何処にいる?」

「王様でしたら──」

「ありがとう」

 

 教えられた場所に移動し、扉を守っている兵士の人に伝えて入れてもらう。しばらく待たされたが、無事に中に入れてもらえた。

 

「ライネスが来るとは珍しいホイ」

「お話があってまいりました」

 

 床は畳になっており、上座に王であるお父様が座っている。その近くまで移動し、正座する。

 

「言ってみるがいいホイ」

「実はメイドに水銀風呂に入るように言われて殺されかけたので、ご報告にと」

「ほう。して、そのメイドは?」

 

 お父様から重圧が放たれる。これは念による威圧といった感じかな。普通の子供なら過呼吸とかをおこしそうだ。流石に初代から延々と蟲毒より発想を得て、王位継承戦を延々と行って念能力を鍛えぬいてきた家系なだけある。

 

「返り討ちにしました。死体の処理もしておいたので、そちらは問題ありません」

「なるほどなるほど。七歳にしてはライネスは優秀ホイ」

 

 私の態度に嬉しそうに微笑むお父様。どうやら、気に入られているみたいだ。

 

「ありがとうございます」

「それで、問題とはなんだホイ?」

「止めるべき護衛がその時に限って全員、離れていました」

「ほほう。して、何を願うホイ?」

「役に立たない護衛の処分と、自分で護衛を選びたいと思います。その為にスカウトしに行く許可を頂きたく」

「留学したいともいっていたホイね」

「駄目、ですか? 駄目なら代わりに報復する許可をください」

 

 誰に、とは言わないが、私が言いたいことは伝わっただろう。これで外に出られたら万々歳だ。今の私では上位陣にはまだ届かない。司馬懿のサーヴァントとしての肉体スペックを発揮しきれないし、情報が伝わらない場所で鍛えたい。

 

「報復は駄目ホイ。だが、護衛は好きに選んでよい。そうホイね……護衛をつければ留学も認めてやるホイ」

「それは人限定ですか?」

「いいや、別になんでもよい。用意できるのなら、なんでもホイ。ライネスは使えるはずホイね」

「なんのことですか?」

「嘘は駄目ホイね。ワシは王子達の敵でも味方でもないホイ」

 

 これはもうバレていると考える方が自然か。お父様の立場からしたら、継承戦に生き残りさえすれば跡を継ぐのは誰でもいいのだろう。

 

「念を覚えてるはずホイね」

 

 お父様から漏れることはないだろうし、みせるか。

 

「念というのはよくわかりませんが、もしかして不思議な力を使えるこれの事ですか?」

 

 懐から試験管を取り出して蓋を外し、水銀を溢れ出させる。そして、身体を形成させた。

 

「ほほう。水銀で作られた子ホイね」

「この子はトリムマウと名付けました。私を助けてくれた子です」

「なるほど、護衛扱いとして認めてやるホイ。毎月、小遣いは課題と一緒にやるホイ。それをやり続ける限り、自由にしていいホイよ。行き先と連絡はするように」

「ありがとうございます」

 

 これである程度は自由にできる。定期的に連絡は入れないといけないが、こればかりは仕方がない。暗殺者に狙われる可能性は高いが、生半可な存在ではトリムマウを抜くことはできないし、大丈夫だろう。

 しかし、お父様はよく許可をくれた。普通ならむしろ死ぬ可能性が高くて許可を与えない。いや、違うか。お父様からしたら、死んでも構わないはずだ。私が強くなればそれでよし。弱いままなら継承戦で死ぬだけだ。それに私をここに置いておくと本当に王妃を殺しにかかるとわかっているのだろう。そして、その対象が王子にも向く可能性がある。そうならないためにも認めたと思われる。

 

「王。行事には参加してもらわねばならないので、定期的にお帰りいただきますよう、条件をお願いいたします」

「ふむ。それもそうホイね。ついでに国外に行くのなら、外交も任せるホイ」

「め、面倒な……」

「よろしくお願いいたしますね、ライネス様。必要な事は今から詰め込まさせていただきます。なに、念能力者になられたら数日寝なくても問題ないでしょう。ライネス様の優秀さなら、数年もあれば問題なくなるかと。それとやはり念獣だけでは護衛が足りませんので追加しましょう」

「しれっと数年間拘束されてるじゃないか! というか、念獣? 話の内容的にトリムマウのことかな?」

「そうです。念に関してもお教えします。ですので、ますます監視は必要ですからね」

「ぐっ……お父様!」

「護衛と家庭教師をつけるのは仕方がないホイ。その辺りは執事に任せるホイよ。うん、代わりに家もくれてやるから安心するホイ」

 

 こればかりは受け入れるしか仕方がない。まあいい。他の王妃の監視はなくなるのだし、あったとしても排除すればいいからね。しかし、教師と護衛か。護衛はハンターが無難だろうな。だったらこちらから指定させてもらおう。

 

「護衛について、私からも意見がある。構わないだろうか?」

「どうぞおっしゃってください。先程の話から、ライネス様が選ばれる権利を王から貰ってらっしゃいますので構いませんよ。費用はこちらで持ちますのでお好きにどうぞ」

「でしたら、ハンターを雇ってもらいたい」

「ハンターですか、構いませんよ」

「では、美食ハンター・メンチ。彼女がいい」

 

 彼女の料理は美味しいらしいし、食べてみたい。彼女の戦闘力ならば護衛としても問題ない。それに加えてあわよくばトリムマウに料理の技術を覚えさせられれば私としては大変助かる。

 

「美食ハンターですか」

「料理人兼用でお願いできないかな?」

「依頼してみましょう。一人じゃ不安なので何人か。それで何処にしましょうか? ご指定はございますか、王」

 

 天空闘技場がいいが、そこまで自由にはさせてくれないか。

 

「そうホイね……なら、あそこに派遣するホイ」

「かしこまりました」

 

 本当に面倒な事になったが、確かに公務はしないといけないからこれは仕方がない事と諦めよう。

 



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5話

4話を修正しました。それとシークレット情報を公開します。


ライネス・ホイコーロの発は最初に本人は気づいていませんが、もう一つあります。

 理想の自分への思いこみ

自らの身体と才能、能力をライネス・エルメロイ・アーチゾルテ(司馬懿)となる。

 制約
ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ(司馬懿)になろうとする限り持続する。
 誓約
ライネス・エルメロイ・アーチゾルテになることを諦めた場合、全ての念能力を消失し、精神崩壊する。


この能力の特性はあくまでもライネス・エルメロイ・アーチゾルテになること。つまり、限界は基本的にライネス・エルメロイ・アーチゾルテに依存します。なので、ライネスから離れた念能力を習得しようとすると余計にスペックやオーラを消費します。すくなくとも身体能力はライネス・エルメロイ・アーチゾルテ基準になります。
赤ん坊になって念能力を覚醒してから少しして、強い思いこみによって本人の意思に関係なく生まれた発です。原作でも知らない間に発を開発してしまう人達がいたように記憶しています。そんな感じです。
あと、ホイコーロの素質はゾルディック家に匹敵、もしくはそれ以上の設定です。代々延々と蟲毒を続けて王族達の死の念を受け入れて強化されていっていると考えたからです。



 

 

 

 

 

 さて、一応留学は決まったが、準備に数ヵ月の時間がかかっている。王位継承権を持つ王子の留学ともなれば色々と準備があるのでやることが多いから仕方がない。その間に外交の勉強をしている。

 外交をするのに必要な知識は多岐にわたる。例として他国の礼儀作法、歴史、国民性、産業などなど本当に大変だ。

 そのせいで私は自室に軟禁され、食事と風呂、トイレの時以外は全て勉強についやさせられた。教師は他国からそれ相応の著名人を呼びつけて行い、護衛とメイドはお父様、ナスビー王から派遣された連中だ。

 だから、一応は信用して私は勉強中も練を維持できるように必死に努力する。錬の維持に限界がきたら、その直前にオーラを魔術回路に叩き込んで魔力を生産し、トリムマウや月霊髄液に蓄える。それから自分に戻して魔力を送るパスを拡張しつつ、戻した魔力を普通のオーラとして身体の中に戻す。こんなことは普通なら無理だが、頑張ってできるようになればオーラの操作能力が増していく。

 現状では水見式はするつもりはない。どこから情報が洩れるかもしれないし、留学してから本格的に発を鍛える。今の発はライネス・エルメロイ・アーチゾルテのロールプレイに必要な物と、毒物に耐えるためのものだ。

 故に今は操作能力とオーラの総量を増やすことに頑張る。

 こちとら初代から蟲毒をし続け、死者の念も含めて延々と強化してきた一族の末裔だ。ライネス・エルメロイ・アーチゾルテと司馬懿の身体と合わせて凄まじい才能の塊だ。そんな状態で生まれた時からひたすら鍛えている。それでもトップの連中には勝てない。時間が足りなさすぎる。

 なまじ勝てるようになったとしても、次は継承戦があり、最後には暗黒大陸だ。継承戦でもやばくなれば鳥達の回収は行うが、できる限り暗黒大陸に上陸するまでにオーラを集めておきたい。暗黒大陸では回収しないとまともに戦えない可能性すらあるしね。

 すくなくとも、精神攻撃などの対策を行わなければ即死することすらあり得るし、暗黒大陸から訪れる災厄の流入による人類の滅亡はなんとしても防がなければならない。それが王になった私の役目だろう。

 違うな。こういい変えていい。私が王になるのだから、この国はエルメロイになる。つまり、我が家を守るのは家長であるロードの役目。そうだろう? ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。

 

「手が止まっていますよ」

「ふむ。すまないね。どれにすべきか悩んでいるんだ」

 

 部屋に居る講師に告げる。今は勉強の微かな休憩時間だ。許可を貰ってから訓練と勉強を行っている間も留学の準備は着々と準備は進んでいる。今はあちらの国で住む事になる家を決め、家具を選んでいるというわけだよ。

 高級邸宅に相応しい物だ。うむ、まずは風呂にはこだわろう。水銀風呂は結構気持ちがいいし、身体は別だが魂が日本人なので重要だ。ちなみに水銀は水より13倍も重いのでオーラを使わないと入れないのが難点だ。

 ただ、私の目指す物に水銀を使った固有結界があるので、具現化するためにもできるかぎり入る。トリムマウを使えば全身のマッサージもしてくれるだろうし、そういう意味ではビスケット・クルーガーに会いたいな。彼女のエステも予約してみるか。

 ああ、メンチが来たら彼女用の普通の風呂もいるな。いや、ここは私室に取り付けさせておこう。他の人が入ったら中毒で死ぬ可能性がある。

 メンチと言えば、ハンター協会を通して正式に依頼した。するととんとん拍子に話が決まっていった。彼等にしても銀の鳥の調査としてカキン帝国の王宮には入りたいだろうし当然だろう。

 だが、私の方から指示をして王宮に招く事は拒否し、こちらから直接出会って決めることにした。理由としては私自身が海外に出たいし、ハンター協会の本部もみてみたいということだ。こうすることで私も疑われるだろうが、他の王子達も疑われる。

 では、この状況でハンター協会は、パリストンはどう考える? 奴の考えなど私には完全に理解できない。だが、一般的な考えなら予想はできる。

 現状ではハンター協会が取れる手段としては、出来る限りこちらの要求を聞いて取り入ろうとするだろう。その結果が本来、私が普通に依頼しても雇われることがないメンチの派遣となった。すくなくとも、私の予想がそれだ。あながち外れているとは思わないさ。

 そして、このような理由で派遣されてきたら、トリムマウに技術を叩き込んでくれることだろう。外交なんてくそ面倒な仕事を押し付けられるのだから、これぐらいのご褒美はあったほうがいい。まったく、普通ならお兄様やお姉様達がやるべきことだろうに……まて、お兄様? 

 外交……ああ、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテがロード・エルメロイ二世に投げた時計塔を支配するロード達との折衝じゃないか。そして、これは後々、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテがロードになった時に継承する事。なんだ、そう考えると俄然やる気が湧いて来たな。

 難点としてはハンター協会に探られる事だろうが、銀の鳥を制御し、カキン帝国を経由して移動するように指示をおくっておく。これで私が居ない状態でも銀の鳥はカキン帝国に集まるので容疑者から外れはしないだろうが、候補としては下がる。なに上手くやってみせるさ。

 

「休憩は終わりでいいですか?」

「少し待ってくれ。よし、やろうか」

 

 机の上に置いてあるカップを取って中身の紅茶を飲んでから。勉強を始める。なに、まだ335時間しか経っていない。後144時間は寝ずに仮眠だけで動けるさ。

 

「はい。ではまずは歴史の復習から……」

「テストだね。任せたまえ」

 

 オーラを使って体力を回復させ、脳には大量の魔力を送り込む。脳細胞を活性化させて教えられて覚え込んだ情報を引き出し、答案用紙を埋めていく。

 

「ほら、できたよ」

「確認しますので、その間にこちらの辞書を読んでください」

「辞書、ということは言語が違うのかね」

「そうです。共通語もありますが、外交ではその民族や国の言葉を話せる方が喜ばれます」

「わかった。覚えよう」

「……化け物め……」

「何か言ったかい?」

「いえ、なにも。全問正解です。流石は王子です」

「そうか、ありがとう。よし、覚えた。発音の練習をするよ。修正する点があったら教えてくれたまえ」

「っ!? か、かしこまりました」

 

 速読で丸暗記して覚えた言語を喋っていく。講師が息を呑む中、しっかりと発音するが……講師のオーラが乱れたな。相手の事を観察するに私を恐れているのか。さもありなん。七歳が行えるレベルではないのだから、無理はないだろう。

 

「数ヶ所だけ違う場所があります」

「そうか。ではまずはそちらを直そう」

「は、はい」

 

 修正もすぐに終わり、それから四時間ほどで彼女から教わる事はもうなくなった。次の国についての講師と入れ替わり、教えてもらう。次は経済か。

 

 

 

 しばらく時間が経つと、いつの間にか夜が更けていた。講師も疲れ切っており、本日はこれまでとなった。そして、次の講師が来る。だが、追加で珍しい客がきた。

 

「あ、あの、ライネス。その、ね。い、一緒に寝ましょう?」

「モモゼお姉様。私は忙しいのだが……」

 

 やって来たのはモモゼお姉様だ。手には枕と桃色と金色のクマのぬいぐるみを持ち、大変可愛らしくて愛らしい姿だ。思わず抱きしめたくなる。そんな彼女は私の言葉に涙目になりながら、喋ってくる。

 

「でもね? ライネスも寝ないと駄目よ? 昨日もその前の日も寝ていないわよね?」

「仮眠は取っているさ」

「駄目。一緒に寝ましょう!」

「おい、やめろ! 私はっ! お前達、助けろ!」

 

 モモゼお姉様がこちらにやってきて、腕を掴んでベッドの方へと強制的に連れていこうとするので、助けを護衛やメイドに求める。

 

「申し訳ございません。できかねます」

「残念ながら、ライネス様より、モモゼ様の方が継承権が高いため、モモゼ様の方を優先させていただきます」

「講師を雇っている金は税金なんだぞ!」

「あ、お構いなく。本日は帰らせていただきますので。何、お金もいりませんよ」

「それにスケジュールをどんどん前倒しにしていますので、明日はそのままお休みください」

「ちっ」

 

 あろうことか、護衛は私を抱え上げてモモゼお姉様と一緒にベッドに入れてきた。モモゼお姉様は私に抱き着いて梃子でも動かぬといった感じだ。

 

「はい、これ。ライネスに作ったんだよ。こっちがライネスの代わりで、ライネスの方は私の代わり」

 

 モモゼお姉様が桃色のぬいぐるみを渡してきたので、仕方なく受け取る。手には絆創膏が複数巻かれていて、熊も所々縫目が荒い。

 

「むぅ。ぬいぐるみか。私のイメージに合わないのだが……」

 

 しかし、これは受け取るしかない。だが、男の私にとってこんな可愛い物は必要ないというか、正直いらない。ライネスなら、ライネスなら、ここで毒舌で返すのだろうが……いや、受け取るか。

 

「ふん。解れもあるし、縫目も全然駄目だ」

「うっ……ごめん、なさい……」

 

 私、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテは他人の不幸や真面目な人間が鬱屈して道を踏み外すところが大好きだ。そして、嫌いな物は穏やかな人生、予想通りの出来事、代わり映えのしない展開、詩文だ。詩文は司馬懿の物だがな。

 

「だが、まあ。せっかくモモゼお姉様が作ってくれたものだ。受け取ろう。その、なんだ……一度しか言わないからよく聞いておけよ。あ、ありがとう……」

「うん!」

 

 喜んで抱き着いてくるモモゼお姉様。この表情が継承戦でどうなるか、今から考えるとワクワクしてくるな。絶望か? それともロード・エルメロイ二世のように足掻いてくるか。とても楽しみだ。

 

「ほら、寝るんだろう。ぬいぐるみは飾っておこう」

「わかった。これでいい?」

「ああ」

 

 枕の上に二つを重ねてから置き、モモゼお姉様に抱き着かれながら眠る。この頃、モモゼお姉様もお母様から見放されている。だから私を頼ってくるのかもしれない。私は自分で言うのもなんだが、優秀過ぎて不気味に思われているし、お母様はモモゼお姉様に期待した。

 だけどモモゼお姉様は私と比べられるわけで、普通の子供にしては賢くても叱られるのは当然だ。それによりどんどん歪んでいくかもしれないね。いやはや、本当にどうするか悩ましい。モモゼお姉様を助けるという事は殺さないという事であり、そうなるとお父様、引いては先祖に逆らう事になる。カキン帝国を全て敵に回すと同義だ。

 しかし、こちらのルートもそれはそれで楽しい。司馬懿が行ったクーデターをこの国で私が行うのだ。ああ、お父様やお兄様達の屈辱と絶望に染まる表情は考えただけでも面白いな! これは一考する余地はあり、か。

 どちらにせよ、今は力がない小娘でしかない。もっと鍛えようじゃないか。12歳くらいになれば原作が始まるし、13か14で継承戦だ。おそらく誤差は1年前後。

 それまでにハンターになって、メルエムを倒してピトーを手に入れる。できればコムギと護衛軍を丸々欲しい。うん、王の軍勢みたいな能力を作るのもありかもしれない。いや、流石に無理か。

 それより月霊髄液でトリムマウみたいに再現する方が現実的ではあるな。ただ、メルエムを吸収して彼の力は是非とも手に入れたい。そうなると考えられるのは銀の鳥に寄生させる事か。護衛軍と王が超絶強化されるが……そこをどうするかが問題だ。強化してから貧者の薔薇を撃つべきだな。その前に解決してしまえば鳥の願いで治療される。治療ならましだが、耐性を得られたらそれこそ大変だ。

 うん、やはり死体を回収する事をメインにしつつ、メルエムの戦いには介入しよう。ネテロ会長が死ぬにしても、爆散は止めて欲しい。

 

「ライネス?」

「ああ、悪い。それじゃあ寝よう。お休み」

「おやすみなさい」

 

 不安そうなモモゼお姉様を抱きしめてやり、胸に彼女の頭を抱きながら眠りにつく。一応、トリムマウは警戒モードで待機させておけば安全だろう。

 

 

 

 



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6話

 朝起きたらモモゼお姉様に拉致された。有無を言わさずに連れていかれるが、お父様から派遣された護衛もついてきているので大丈夫だろう。もちろん、警戒は続けさせてもらっている。

 そんな感じで連れていかれたのは私有地の森に作られた花畑だった。そこにシートを引いて座り、周りに護衛の者達を配置しながらお喋りしつつ朝食を楽しむ。ちなみに私は罠を仕掛けるついでにモモゼお姉様をからかって遊ばせてもらう。

 

「それでこれからどうするんだい?」

「おままごとをするのよ!」

「マジで!?」

「いやなの?」

「嫌だ。そういうわけで他の事をしようじゃないか」

「何がいいの?」

「そうだね、花冠でも作ってみるか」

 

 花を摘み、いくつかを合わせて花冠を作ってモモゼお姉様の頭に乗せてあげる。昨日のクマのお礼だと言えばそれだけでとても笑ってくれた。

 

「チョロ」

「? どうしたの?」

「なんでもないさ」

 

 しかし、本当に大丈夫だろうか。お姉様に魑魅魍魎が蠢く宮中でまともに生活ができるかちょっと心配だ。

 

「そういえば……ライネスは海外に行くって言っていたけれど……」

「ああ、留学するから一年に何度しか帰ってこないよ」

「わ、私も行っていい?」

「お父様から許可がもらえればいいが、ここから私達姉妹のうち一人もいなくなるのはまずい。お母様を支えないといけないだろう?」

「そ、それもそうね」

 

 ついてこられると非常に困る。私はこれから結構派手に動く予定だ。まずお金を稼いで信頼できる部下を育成する。その為、彼等には念能力者になってもらわねばならず、お姉様がくるとお姉様にも念能力者になってもらうことになる。

 そして、念能力者になるということはベンジャミンお兄様の警戒対象に入ることになり、お姉様が殺される可能性が高い。また、私に対する人質にされる可能性もある。この場合、助けられれば助けるが、私にとってモモゼお姉様の存在は決めかねている。男の部分としては可愛い妹を助けたいと思うお兄ちゃん心はある。だが、ライネスとしては冷徹に判断して家の、私の為にならないとしたら見捨てる選択肢も十分にありえる。継承戦では敵になるのだし……うぅ、まだわからない。

 ここはやはり、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテならどうするかで考えよう。うん、彼女なら気に入ればさり気なく世話を焼いてやり、他者を受け止めるだろう。なら私もそうしよう。モモゼお姉様の事は……うん、気に入っている。そうじゃないと一緒に寝たりは絶対にしない。

 

「ちゃんと定期的に連絡は入れるし、お土産も送るよ。それに寂しくないように色々と──なんだ?」

「どうしたの?」

 

 話している最中に空気が変わった。まるで身体に圧し掛かるような重圧を感じる。この感覚は悪意や殺意か? 

 護衛達もすぐに臨戦態勢を取って私達を囲み、背を向けてそれぞれの武器を取り出して構えている。

 

「ライネス……」

「大丈夫だ。いざという時は私がなんとかする」

「で、できるの?」

「私はライネスだ。できないはずがない。だから、安心してくれ」

「う、うん……信じる」

「ありがとう。さて、諸君。どうやら敵襲のようだ。どこぞの迷い込んだ魔獣かな? それとも暗殺者かな? どう思う?」

「どちらにせよ、王子達に害意がある存在として排除します」

「いい返事だ。では、よろしく頼むよ」

 

 目を瞑ってなんでもないかのように告げる。しかし、心臓はまるでどこぞのキングのように激しく鼓動している。それでも王子として冷静に振る舞う。軍師は常に冷静であらねばならん。

 では現状を整理してみよう。場所は花畑。周りは森が存在している。おそらく、襲撃者は森の中に潜んでいるので、魔獣か暗殺者の可能性がある。そうなると狙いは前者が私達全員で、後者は王子である私とモモゼお姉様。

 逆にこちらの戦力は護衛の念能力者が六名と私。護衛対象としてお姉様。他の連中の念能力者としての実力はわからないし、不確定要素が多い。もしも裏切られた場合の事を考え、トリムマウと月霊髄液の起動準備をしておこう。基本的には身体能力でのみ挑むが、危なくなれば生き残る事を優先する。

 

「ふむ。円か」

「はい」

 

 考えている間に護衛が円を発動し、三人が残って残りの三人がそれぞれの方角に移動して調べていこうとしているが、効率が悪い。

 

「円は私が担当しようか?」

「王子に動かれては護衛として失格です」

「そうか。やばくなるまで介入はしない。頑張るといい」

「ありがとうございます」

 

 警戒していると、護衛の一人の携帯電話が鳴った。

 

「私が出よう。そのまま警戒していてくれ」

「かしこまりました。どうぞ」

 

 護衛から携帯電話を取り、話を始める。もちろん、警戒を緩めるつもりはない。

 

「ライネスだ。現在、立てこんでいてこの電話の持ち主はでれない。要件を聞こう。誰だい?」

『軍の者です。王子、ご無事ですか?』

「ああ、無事だとも。もっとも、現在進行形で襲われそうになっているがね。何か知らないかい?」

『実は捕獲していた複数の魔獣が檻を破壊して逃亡しました。今から十分ほどで討伐部隊が到着できます。ですので、どうか持ちこたえてください』

 

 軍が捕まえていた魔獣が檻を破壊して逃走、ね。軍はベンジャミンお兄様の管轄だ。お兄様自身が解放して私達を事故にみせかけて殺そうとしている可能性もあるな。そうなると10分間の間が危険だ。

 

「了解した。できる限り気を付けよう。できる限り早く頼むよ」

『はい。どうかご無事で』

 

 電話を切り、護衛達をみてからモモゼお姉様を見る。モモゼお姉様は不安そうにしながら、私の服を掴んでいる。

 

「敵は魔獣のようだ。だが、些か腑に落ちない点もある。我等が城を守る精鋭軍が複数の魔獣を見逃すなど、有り得るだろうか?」

「ないですね」

「まあ、それはわからないが、黒幕が居るのは当然だろう。魔獣以外にも警戒するように」

「はい」

「うむ。ちょうど来た……よう……だ……」

 

 森の中から現れたのは獅子の頭と山羊頭を持ち、尻尾が蛇となった魔獣だった。その姿はどう見てもFGOのキメラだ。何故だ。何故コイツがいる。意味がわからない。

 しかし、相手がバーサーカーだとわかる。どう見ても狂気に染まり暴走している。 

 お、落ち着け。私はライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。冷静に、冷静に対処すればどうとでもなる。護衛もいるし、平気だろう。

 

「五年前に発見された新種の魔獣か、厄介な」

「気をつけろ。コイツは毒を……」

 

 そう喋っていた男が空から降ってきた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()によってぐしゃりと潰された。

 

「ウガル、だと!」

 

 バビロニアにでてきたウガルにキメラが相手とは、これは本当にやばい。念能力の隠匿などと言っている暇はない。キメラぐらいなら護衛達だけでどうにかなるだろうが、ウガルまで現れてはそうも言ってられない。

 護衛対象が二人で相手は二匹だが、その内の一体には防御の内側に入られている。それにモモゼお姉様は一人が頭から潰された光景を見たショックで倒れた。

 私はライネス・エルメロイ・アーチゾルテや司馬懿としてロールプレイしているからこそ耐えられるし、死体など銀の鳥から送られてくる視覚情報で見慣れだしている。

 そうこうしているうちに残っている護衛の一部がモモゼお姉様を抱き上げて逃げようとしている。念能力者である私を置いていくのは正解だな。せめてどちらかでも生き残れる方がいいのだろう。

 

「私から離れたら死ぬと思うよ。大人しくしているといい」

「わ、わかりました」

 

 護衛とモモゼお姉様の前に立ち、ウガルと対峙する。凄く怖くて身体が微かに震えるが、気力で押さえ込む。ここでやらねば、それはライネス・エルメロイ・アーチゾルテではない。この程度の逆境、彼女にとって日常であり、私にとっても日常となる。

 時計塔とカキン帝国と場所は違えど、どちらも魑魅魍魎が跳梁跋扈するような場所だ。研鑽し、ロード・エルメロイを目指すライネス・エルメロイ・アーチゾルテを追いかけ、彼女の身体を使うに相応しくなる……ならねばならん。それが彼女の名前と身体、能力を借りている者の義務だ。それにやるならば徹底的に、だ。もちろん、完全に女になるつもりはないが、後戻りはできない。

 

 それに、さ。目の前に敵がいる。やりあうための手段がある。だったら戦わない理由なんて、私には見いだせない。そうだろ、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。

 

「トリムマウ、頼む」

 

 懐から試験管を取り出すようにして、蓋を弾き飛ばしつつ準備させていた術式(念能力)を発動させる。すると試験管から大量の水銀が溢れだし、トリムマウが現れる。

 本当は身体能力のみで決着をつけたいが、これが私の知るウガルならば私が相手をした時点で挽肉にされてしまう。なら、見せ札になるトリムマウを使えばいい。どうせトリムマウはこれから使う予定だったので、知られることは確実なのだから問題ない。

 

「私とモモゼお姉様を守れ!」

「かしこまりました」

 

 目の前に迫ってくるウガルの大きな口、顎が私の頭のすぐ目の前に迫っており、もうちょっとで頭が噛みつかれて死ぬ。その直前にメイド姿のトリムマウが現れ、腕を変形させて口の中に突き入れる。

 ウガルはそのまま口を閉じようとするが、オーラで徹底的に強化された水銀を貫けずにガジガジしている間に腕から無数の杭が生える。ウガルは口の中から身体中を串刺しにされて死に絶える。

 護衛の方を見ればキメラを必死に防いでいる。一人がライオンの頭を剣で防ぎ、もう一人が前足で攻撃されている。残りが身体に念弾や銃で攻撃しているが、山羊の頭から毒のブレスが吐かれそうになっているのでブレスを受けたら全滅だろう。

 

「トリムマウ、ブレスを防いでキメラを始末してくれ」

「了解」

 

 トリムマウが身体を崩して瞬時に山羊の前に立ちふさがり、壁のように広がってブレスを防ぐ。毒など水銀であるトリムマウに効果はない。キメラの物理攻撃も身体が一部吹き飛ばされるだけで、すぐに元に戻るので意味がない。

 一応、安全が確保されたので私は地面に腰が抜けたようにへたり込む。そして、両手を地面につけながら詠唱する。

 

 

Fervor,mei Sanguis(沸き立て、我が血潮)

 

 この呪文は月霊髄液の制約だ。トリムマウとはまた違うが、私が操る月霊髄液はロード・エルメロイ一世、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトと同じ感じだ。

 

Automatoportum quaerere(自動索敵)Dilectus incrisio(指定攻撃)」」

 

 掌から水銀が溢れだし、起動後の初期設定を行う。月霊髄液の自動索敵は口頭による索敵用の呪文詠唱による指示にて発動する。無数の流滴を触角として張り巡らせ、広範囲を走査することができる。感知方法はこの触覚を主軸にして強化したもので、主に音や温度の変化などを認識する。

 元々が液体であるために有用範囲に優れており、扉の鍵穴といった僅かな隙間から内部に侵入する事も可能。索敵範囲は、Fate/Zeroにおいては広大なアインツベルン城の一階フロア全体を数秒単位で走査しているので、凄まじい索敵範囲を誇っている。もちろん、私が使う月霊髄液も同じだ。

 弱点としては索敵方法が触覚であるために、感知出来るのが音や温度などに限定される点である。そのため、これらに該当する生体反応を隠滅されると感知不能となるのが難点だね。

 今回はこちらを観察しているであろう対象を指定してあるので、向かってくる人以外は襲われることになる。現状で私達を助けに動かない奴は全て敵と判断して処分だ。私の情報ができる限り伝わらないようにしたいから、仕方がないさ。私の予想が外れてくれていればいいのだが……

 

 

 

 

 

 花々の間を薄く広く、駆け抜けていく月霊髄液が対象をみつけたようだ。そのため、月霊髄液が奇襲攻撃を開始した。しっかりと絶望させながら始末してくれているようでなによりだ。ちょっと惨たらしくゆっくりじっくり殺すように指示しておいたからね。もちろん理由はある。

 我々念能力者にフーダニット(誰がやったか)ハウダニット(どうやってやったか)は重要視されない。念能力者が使う念は千差万別であり、フーダニットやハウダニットがまず特定できない。なのでホワイダニット(どうしてやったか)という方が重要だ。

 それを考えると今回の犯人である可能性が一番高いのはベンジャミンお兄様だ。ベンジャミンお兄様の念能力は星を継ぐもの(ベンジャミンバトン)

 この効果は死んだ他人の念能力を継承することで、私の銀の鳥に近い能力といえる。

 候補者の条件は、カキン国王軍学校を卒業しており、彼の私設兵団に属し、忠誠を誓っていること。能力を受け継ぐと、手の指に星型のマークが現れる。私のより制約と誓約によって限定されている? 

 確かにそうだ。だが、私は命を賭けているし、お兄様は確かに対象者は少ないが、死ぬことはない。

 加えてこちらは見付かれば弱体させられ、制約を破れば死ぬ。どちらが強いかはわからない。簡単に言えばベンジャミンお兄様のはロウリスク・ロウリターン。私のはハイリスク・ハイリターンというわけだね。

 それと念能力は千差万別なので、手に入れる能力によって全てがかわる。だから、月霊髄液の対策を取れる念能力を作られ、それをお兄様に習得されると非常に困るのだ。

 というわけで、こちらの情報が伝わらないようにしつつ、絶望させて忠誠心を下げてから始末するのが一番というわけだ。下げられるかは微妙だけどね。

 

 しかし、罠を仕掛けるのは楽しいねえ。キメラとウガルがでてきたのは予想外だったけれど、それでもお兄様かお姉様の手勢を削ることができた。まあ、ベンジャミンお兄様は念能力が増えてしまった可能性もあるが……ああ、そうか。私の物にしてしまえばいいんだ。

 銀の鳥を寄生させ、願いを叶えさせる。それも生命力を徹底的に奪った状態で。そうなれば願いは叶えられてもすぐにオーラ不足で死亡するし、寄生ができた瞬間に殺せばいい。体内に水銀を仕込み、複数の手段で確実に、早急に殺せるようにしておけば可能性がある。やってみるか。とくと我が策を御覧じよってね。

 

 成功か失敗かはわからないけれど、こればかりはどうしようもない。例え相手がお兄様達に情報を伝えることを願ったとしても、トリムマウの情報なら別に痛手はない。私の念能力か、それともキメラや護衛達に始末された可能性もあるのだから。

 

「流石はライネス様です。よもや、これほどとは……」

「助かりました」

「感謝は受け取るが、まだ終わっていないよ」

「そうですね」

 

 キメラはトリムマウと戦っている。相手はトリムマウを攻撃すると、自ら怪我を負っていく。牙や爪は折れている状況でひたすらトリムマウに斬り刻まれている。

 

「これで勝ち……いや、しまったな」

 

 身体が見えるほど大きな銀の鳥がキメラに飛び込み、キメラが咆哮をあげる。すると身体の色が白くなり、身体も巨体化していく。身体からは煙がでていて、オーラが急激に消費していく感じがする。

 そんなホワイトキメラが口を大きく開けて雄叫びを上げる。大咆哮と呼ばれるべきそれは自身の攻撃力などを上げる効果だったはずが、現実となった今では咆哮に衝撃波がともなっており、身体が吹き飛ばされる。

 トリムマウが盾となって身体を波打ちさせながら必死に防いでくれるが、体勢が崩れる。そのタイミングでホワイトキメラがペトロブレスを放ち、トリムマウが地面に足を引き摺りながら移動させられる。そこにホワイトキメラが突撃してきて追い打ちをかけた。

 トリムマウの身体に穴が空き、ホワイトキメラがそのままの勢いで地面に倒れている私に迫ってくる。

 

「いやぁ、困った。まさかトリムマウを突破されるとは……」

 

 今度こそ、ここで終わるのか。まさか自ら作った念能力によって殺されるとは、これもある意味では誓約による死亡かな? 

 

「だが、まあ……足掻かせてもらうよ! まだ勝ち目は残っているしねぇ!」

 

 月霊髄液が反応して私の周りを水銀の壁が円形に覆う。ホワイトキメラの爪と牙が月霊髄液に襲い掛かり攻撃を貫いてくる。

 この水銀の壁は厚さ1mmにも満たなくとも、四方から降り注ぐ対人地雷クレイモアの鉄球や、至近距離から放たれた9mm弾のマシンガン掃射すら完全に防ぎきる性能を持っているのだが、ホワイトキメラの攻撃力の方が高いということだ。銀の鳥によりここで死んでも私を殺そうとする願いでも叶えたせいかもしれないね。

 

「で、ホワイトキメラ君。ゴールを目の前にして殺される思いってどうかな? まあ、わからないだろう」

 

 月霊髄液の中に顔を突っ込んできたホワイトキメラの顔をみつめながら、笑う。

 

「どちらにせよ、エルメロイの至上礼装、とくとご覧あれ!」

 

 宣言と同時にトリムマウがホワイトキメラの身体を覆って身体の中に侵入し、内部から破壊していく。さらに月霊髄液を操作して首の部分に重金属たる水銀を高圧で圧縮してから高速駆動させて鋭利な刃へと変化させる。

 チタン鋼からダイヤモンドまでなんでも斬れると言われる刃だ。ホワイトキメラの身体だってそれなりのダメージになるはずだ。

 苦しむホワイトキメラの苦しむ顔を至近距離から楽しむ。今回の勝負、私の勝ちのようだ。

 

「うんうん、他人の不幸は蜜の味だねぇ。いや、獣の不幸かな?」

 

 ニコニコしながら見詰めながら、ホワイトキメラの目や耳、口から水銀が溢れ出し、私の目前に集まってトリムマウになっていく。力が失われてミイラのようになっていくホワイトキメラの身体から銀の鳥がでてくる。私は手を伸ばして銀の鳥を掴み、体内に取り込むとホワイトキメラの身体は灰となって崩れ落ちた。全ての生命力が切れたせいだと思われる。

 

「うむ。やはり努力は裏切らないね。そうだろう、トリムマウ」

「はい、マスター」

 

 月霊髄液をトリムマウに取り込ませて回収する。視界が開けて周りをみると、うん。色々と酷い事になっている。とりあえず、花畑は消滅した。

 

「モモゼお姉様と護衛諸君。生きているかい?」

「は、い……どうにかモモゼ王子は守ることができました」

「そうかそれは良かった。では後始末はベンジャミンお兄様の部隊に任せて、私達は戻るとしよう。治療しないといけないからね」

「お願いいたします」

「うむ」

 

 トリムマウに指示して、怪我人を運ばせる。死亡した者は可哀想だが、どうしようもない。私でも流石に死者蘇生はできないからね。

 それにしても、今回の事を考えると……やはりそろそろ身体を鍛えて体術を身に着けないといけないか。

 

 

 

 

 

 

 

「王子、ただいま報告がありました」

「結果は?」

 

 ライネス・ホイコーロとは普通なら泣きわめく赤子が滅多に泣きもせず、ひたすら何かに打ち込んでいる異常な存在。考えられるのは赤子に死者の念が乗り移ったぐらいだろう。だからこそ、脅威になるのか確認させた。国外に出すのなら、それ相応の力を持っていないと俺が継ぐ国の恥になるからな。

 

「お二人共、ご無事のようです」

「そうか。それなりの実力はあるようだな」

「はい。それと監視につけていた者も死亡しました」

「ライネスの仕業か?」

「不明ですが、獣のような攻撃跡でした」

「操り切れずに死んだか、ライネスに殺されたか。まあ、どちらでもいい。ライネスは外に出しても恥ずかしくない程度の戦闘力は持っているようだ」

「そのようです。しかし、突然変異した個体から繁殖させた稀少なものを殺してよかったのですか?」

「かまわん。それよりも準備しておけ。俺の障害になる可能性がでてきた」

「かしこまりました」

 

 ふん。これは少し面白くなってきたな。一度戦ってみるのも面白いかもしれん。

 

 

 

 

 




キメラ君、ホワイトキメラ君に進化。強さ的にキメラ君はゴレイヌさんなみ。ホワイトキメラ君、ゲンスルーなみ。ウガル君はキメラ君以上でツェズゲラなみ。
つまり一ツ星ハンタークラス。


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7話

お気に入り、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。大変助かっております。



 

 

 襲われてから王宮に戻り、モモゼお姉様を医務室に送り届けるとすぐに診察が始まった。王宮の専属医達が治療しているので大丈夫だと思う。

 私は軽く見てもらった後、モモゼお姉様が眠っている病室の外にある廊下。そこの壁に背中を預けてじっと目の前のガラス越しに覗けるベッドを見ている。

 ここでお母様を待っていたけれど、お母様はやって来ない。すでに連絡は入れたというのにだ。

 お父様は一応、こちらに来てモモゼお姉様の無事を確認した。もっとも、私の方を一瞥してからすぐに戻ってしまったけれどね。

 うん、やはりお母様の関心は私達から離れている。そろそろ生まれてくるであろう弟の方に関心が移っているのだろうね。

 それでも、今回のような場合なら来てもおかしくはないと思うのだがね? 

 他にも懸念事項がある。ホワイトキメラ君の攻撃が念能力扱いだった場合、モモゼお姉様が念能力に目覚める可能性がある。コントロールできない場合、死んでしまうのでここから離れる事もできない。

 

「……ふぅ……」

 

 溜息をついた後、トリムマウを何時でも出せるように試験管を反対にし、袖に仕込む。蓋を掴みながら何時でも指で弾き飛ばせるようにしておく。

 そのような状態を維持しつつ目を瞑りながら今回の事を整理する。犯人が誰かなんてどうでもいい。いや、どうでもよくはないが、それよりもキメラ君の事の方が大事だ。HUNTER×HUNTERの世界でキメラがいるかどうか、正直わからない。

 だが、それが私の念能力、銀の鳥によって引き起こされた物なら話は別だね。

 何故なら、念能力とは前にも言った通り千差万別であり、人のイメージが強く関わる。

 発だと特に具現化系などはこれが顕著だよ。クラピカが鎖を具現化するのにずっと触っていたように、私が水銀風呂なんて無茶をして身体に取り込んだように、かなり無茶をしないといけない。

 少なくとも常に具現化する物質が身近にあるイメージが必要だったり、命を賭けないといけないような状況に追い込んでみたりすればいい。少なくとも私は常日頃から水銀の、月霊髄液とトリムマウをイメージし、水銀中毒という命を脅かす危険を承知でオーラを使いながら入って成功した。

 うん、人は追い込めば追い込むほど力を発揮する。本物のお兄様(ウェイバー)がそれを実証してくれている。

 なんせ魔術師として三流でしかないのにロード・エルメロイ二世としてロードの地位を維持していたのだから。このロードというのは組織の指導者的な立場だ。簡単に言ってしまえばその名の通り王様だ。

 そして、時計塔は連合王国。そう考えれば理解できるだろう。他の王は強国で、戦略級兵器を持っているのにこちらは持っていない。その状況でどうにか国を潰さずに運営し、国家をどうにか立て直そうとしているというわけだ。こんなもの生半可な覚悟ではできない。

 だからこそ、私もライネスもお兄様の事は大好きだ。

 っと、話が逸れているね。戻そう。念能力にはイメージが重要だというのは理解できるだろう。ここではそういうことだと思ってくれたまえ。

 では銀の鳥に話を戻そう。キメラ君は前の状況が理解できないから知らんが、ホワイトキメラ君は仮説が立てられる。あの子は銀の鳥が入る事で変化、進化した。これは事実だ。オーラとメモリの回収も行えているから間違いない。

 問題はキメラ君は何を願い、銀の鳥は叶えたか。

 あの現状ではキメラ君は生き残る事と勝つ事を望んだ。術者はすでに死に、支配から解放されていたのだから獣として考えると当然だろう。人のように理性があれば他の為に犠牲になることを選べるかもしれないがね。

 ではハウダニット(どうやってやったか)を考えよう。銀の鳥の特性は深層心理を読み解き、願いを叶えること。だが、明確に願いが決まっていない場合はどうなる? 

 例えばHUNTER×HUNTERのお金であるジェニーが欲しい。この願いの場合は1ジェニーが与えられるかもしれないし、数億ジェニーかもしれない。基本的に曖昧だとランダムになる。つまり、銀の鳥の匙加減次第というわけだ。その銀の鳥の匙加減は基本的に制作者であり、念能力を維持し続けている私に繋がっている知識から選ばれていると考えられる。

 今回の場合はキメラ君がトリムマウに勝ち、生き残るために強さを求めた。その結果、銀の鳥は私の知識からキメラ君の上位種族であるホワイトキメラ君へと進化させたという感じだと思うね。これはキメラ君以外にもウガルまで居たことからあながち間違ってはいないだろう。

 意識がしっかりとせず、漠然と願って私の知識からFGO製のエネミーへと進化。それから繁殖したとしたら、この世界に新たな種が生まれたと考えられる。

 何せ、銀の鳥が叶えるのは死を強制し、死後もエネルギーとして使われる事。これは制約としてはかなり重いだろう。

 種族を次のステージに叩きあげる事もできないことはないのかもしれない。

 しかし、キメラ君やウガル君の事を考えると……これはもしかして私がキメラアントの特殊個体を作り出したのかな? 

 それはそれで面白いが、可能性は低いか。銀の鳥が叶える規模は生命力に比例する。小さな虫達にはそれほどの生命力があるだろうか? 

 ムカデなどはあるだろうが、蚊などはない。蟻はどうだろうか? 

 おそらく簡単な願いしか叶えられない。それこそ数世代に渡って女王に憑依でもしない限りは大丈夫だ。

 この世界にはハンター達もいる。彼等がきちんと危険な奴等は殺して、私のサイクルを早めてくれる。彼等は私にとって兵隊アリだ。最終的に私の得になるのだからこちらからも支援させてもらおう。

 まあ、全ては仮説だ。本当に存在しているのかもしれないし、違うかもしれない。卵が先か、鶏が先か、なんて私にはわからないさ。ましてやこの世界には暗黒大陸まである。

 どちらにせよ、銀の鳥は私や人類に福音を与えてくれる。簡易的な念能力者の量産と敵生体の強化による練度の上昇。来たるべき暗黒大陸との戦いにおいて、何よりも必要な事だろう。

 私とて人はあまり殺すつもりはない。オーラとスペックの回収は動物や虫の方がメインだ。人よりも巨大で強靭な海洋生物とかの方が効率良くオーラを回収できるのだからね。だから、除念されることによってハンター達が増えてくれることはありがたい。

 ハンター達からしたらたまったものではないのだろうし、止めたいのだろうが……人の欲望とはとどまることなどないのだから止められないだろう。それに銀の鳥によって救われる者達もいる。例えば──

 

「やあ、ライネス」

 

 ──この変態人体収集家のお兄様に殺されていく女達とかね。本当、さっさと死んでくれないかな。そうすれば私の相手はベンジャミンお兄様だけになるのだけど。

 

「ツェリードニヒお兄様、お見舞いにきてくれたのかな?」

「当然じゃないか。可愛い妹が魔獣に襲われて意識不明だと聞いたのだ。来ないわけにはいかないだろう?」

 

 どうせ死んだら死体を回収し、刺青とか入れて標本にするんだろう。少なくとも生きた女性を拘束して刺繍や器具などを生体に植え付けてから殺し、飾っていた。今回でも同じだろう。

 

「それで、ライネスの様子からして君は大丈夫みたいだが、モモゼはどうなんだい?」

「意識が戻らないが、大丈夫だよお兄様。明日には目覚めるはずさ。目覚めなければ私がこのまま国外に連れていって治療するからね」

「この国の医者では信用できないのかな?」

「これはおかしな事を言うね。護衛として監視をつける王妃に、暗殺者を差し向ける者達もいるのだから、当然の処置だろう。お兄様が私の立場でも同じ事をするんじゃないかな?」

「オレの事を信じられないの? 今回の件はベンジャミンの仕業だろ」

 

 信じられるかと言われたら絶対に信じられない。アマイマスクの下にある本性を私は知っているのだからね。原作通りじゃないかもしれないが、それでも警戒に値するのは事実だ。

 

「そう見せ掛けた他の誰かかもしれないよ。何せ今回の件で不利になるのは私達を除けばベンジャミンお兄様なのだからね」

「確かにそうだな。で、答えてないけどどうなの?」

「嘘と本当、どっちがいいかな?」

「本当で」

「じゃあ、信じられない」

「へぇ~」

 

 堂々と言ってやると、お兄様の表情が一瞬だけ崩れて物凄い形相になったね。これは楽しませてもらおう。現状では私がツェリードニヒお兄様に負ける事はない。無能力者なのだから、襲われたら返り討ちにできる。

 

「むしろ、信じられる要素があるとでも思っているのかな? お兄様、マフィアと協力して何人もの女性を殺して飾っているだろう?」

「そんなことはしていないさ。誤解だよ」

「表情が引きつっているよ、お兄様。まあ、私も人の事を言えないがね。すでに何人も間接的とはいえ、殺しているわけだし。それに今日も私のせいで護衛が死んだんだ。彼等の場合は仕事だが、巻き込んだのは事実だ」

「……ライネス、お前は……そんなに死にたいのか……?」

 

 ツェリードニヒお兄様が怖い怖い顔で近付き、私の横の壁を叩きつけて至近距離から覗いてくる。

 

「やれるものならやってみるといい。ただし、その場合はツェリードニヒお兄様は最低でも継承権を失っているだろう。最悪は言うまでもないね」

「自分の兵力を持たないお前が何をできると思っているんだ?」

「私が何もしなくてツェリードニヒお兄様が手を出せば失脚するよ。なにせ、ベンジャミンお兄様が見逃さないだろう?」

「ちっ」

「それに私は私達に被害がなければ別にどちらが王になっても構わないさ。その場合はしっかりとカキン帝国が続く限りは仕えてあげるさ。もっとも、チャンスがアレば奪いにいくけどね。だから、継承戦で遊ぼうじゃないか。むしろ、私にチャンスがあるのはそれぐらいかな」

「……というか、誰からその与太話を聞いたのかな?」

「誰だったかな。詳しくは何年も前だからわからないけれど、軍人さんだったよ」

「……それ、アイツの策略だよ。踊らされているよ、ライネス」

「そうなのかな? そうなのかもしれないね。私が直接確認したことではないのだし、断定はできないか。うん、ごめんなさいお兄様。私が悪かったよ」

「いいさ、気にしないでくれ」

 

 これでツェリードニヒお兄様は私を潜在的な敵と認識し、ベンジャミンお兄様との対立を更に深くした。襲ってきたらその手勢を減らすことができるし、証拠を残せば糾弾だって可能だ。

 流石にゾルディック家に暗殺を依頼されたら無理だが、その時はこちらも依頼すればいい。ただ、こちらに関してはあまり危惧していない。

 ツェリードニヒお兄様の事だから、自分の手で私を殺そうとしてくるだろうしね。それに私達に手を出せば他の連中も黙っていない。今は手を出さない確率の方が高い。ベンジャミンお兄様と互いに牽制しあってくれている方が大変助かる。それに私はベンジャミンお兄様の方がまだましだ。

 

「ライネスにツェリードニヒか。ライネスはともかく、お前まで来るとはな」

「ベンジャミン……妹の事なんだから来るのは当然だろう?」

 

 ベンジャミンお兄様が現れたことで、私からツェリードニヒお兄様が離れ、二人が対峙する。

 

「どうだかな。ライネス、話がある。来い」

「断る。私はモモゼお姉様の傍から離れるつもりはないよ」

「オレの部下を護衛につける」

「悪いけれど、信じられない。今日のようなことがあったんだからね」

「ライネスは疑心暗鬼になっているのさ。日を改めた方がいい」

「……なら、これだけは聞こう。お前は誰の味方だ?」

「私は私とモモゼお姉様の味方だよ。それが王位継承権に関することなら、順序通りでいいと思うよ。私は王になりたいとも思うが、軍師になりたいとも思っているからね。だから、軍部を頂けるのなら正直に言って誰が王になっても構わないさ。全てはお父様が決める事。私達が決める事ではないのだから」

 

 王の統治を確認してから、それが司馬懿として不合格ならばクーデターを起こし、簒奪してやる。なので私としてはどっちが取ろうと変わらない。

 

「なら、軍部を手に入れてどうする?」

「決まっている。この地に更なる繁栄をもたらす。それが私が生まれてきた役割だと思っているさ。少なくともV5は並ぶか超える。それだけは決めている」

「よかろう。お前がこの国のために尽くすというのなら構わない。ライネスのようなはねっかえりを使えてこそ王といえるだろう」

「おや、これは思ったよりも高評価だね」

「聞いてる話じゃライネスはとっても優秀みたいだからね」

「うむ。俺の代わりに軍を預かるというのは問題ないかもしれない。父上も乗り気のようだしな。まずは外交からとの話だろう?」

「ああ、そうだ。外交官として他国との折衝だよ。面倒だけどね」

「まあ、精々励むがいい。働き次第で望み通り軍の権限をくれてやる」

「本当かい、お兄様!」

「ああ、そうだ」

「やった! じゃあ、演習とか指揮してみたいなぁ!」

「……コイツ、戦争狂か?」

「……人の事は言えない、ね」

 

 ふふふ、本当に楽しみだ。二人が私の掌で踊ってくれるさまを想像するだけで楽しい。私達三人は誰もが自らが勝ち抜くと信じて疑っていない。だから、何れは激突する。それまでにしっかりと準備を整えないとね。それまでは精々困らせて胃に穴を開けてやろうじゃないか、オニイサマ。

 

 

 

 

 




ベンジャミンもツェリードニヒもライネスを警戒しています。それをライネス自身も知っています。今回の事件でより準備を加速させます。

問題はモモゼの念能力をどうするかです。彼女、念能力を覚える前に死んでいるんですよね。ですから、マチみたいな糸使いか、布使い、ぬいぐるみ使いを考えています。どれがいいと思いますか? というわけでアンケートです。


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8話

 

 

 さてさて、内心では怒り狂っているであろうオニイサマ達を見送った後、私はモモゼお姉様の病室へと入る。ベッドの上で眠っているお姉様は眠り姫の状態だ。なら、起こすのはキスがいいかな? 

 女の子の身体だが、心は男だし、身分も王子だ。この国では王位継承を持つ者は全て王子という扱いだから何も間違っていない。

 

「しかし、懸念していた事が現実となったか」

 

 常にしている凝に全身のオーラを集めて込めて行うと、微かにだが眠っているお姉様の身体からオーラが洩れている。生きられたとしてもこのままだと脳死判定にされる可能性もある。念能力者じゃない人の身体とはとても、とても脆いからね。

 お姉様の頬を撫でながら、これからどうするか考える。可愛いお姉様は愛でるに値するし、思考が加速する。

 

 感情を排して軍師である司馬懿として考えるのなら、現状でお姉様に死なれたら私が困る。私はお姉様の事を大切にしているとお兄様達には植え付けることができた。

 お兄様達は今回の事でお姉様の身柄さえ確保しておけば私が牙を向くことはないと考えるだろう。逆にお姉様に危害が有れば王位継承権などかなぐり捨てて殺しにくる可能性も考えるはずだ。故に私とお姉様、双方の安全は確保できる。特にベンジャミンお兄様は今回の件で私が念能力者である可能性を考慮しているはずだ。していないのなら容易く食い殺せる。

 そういうわけでお姉様に死んでもらうのも困るが、起きてもらうも困る。現状なら私が治療目的として連れ出せるが、起きていたらそうはいかない。お父様もお兄様も治療目的で連れ出すのなら納得してくれるだろう。なにせ医療費が莫大になる。それを私個人で賄わなくてはいけないのだから、国に頼らざるをえない。もっとも、これは希望的観測だ。そこまで甘くないだろうね。

 そうなると国に残しておかなければならず、その間にお兄様やお姉様に教育され、私の敵になられたら例え親愛なるお姉様でも殺さなくてはいけない。また私が殺される場合も考えて予備は必要だ。

 

「答えは決まっている。お姉様を私の物にするだけだ」

 

 作りたい発はホワイトキメラ君から回収したスペックとオーラだけでは足りないので、ちょっとこの辺りに集めている回収済みの子達を取り込むことにする。

そのために王宮の窓から複数の銀の鳥達を侵入させる。その間に私はテラスから外に出て星を眺めつつ跪いて両手を頭の前で組んで願う姿勢をとる。

 この時、大きさは最小で隠も使いながら高高度から一気に集める。念能力者に傍から見られていても願いを叶えたように見えるだろうから問題ない。ましてや、今はモモゼお姉様がこんな事になっているしね。

 

 

 メモリとオーラを回収してからモモゼお姉様の部屋に戻り、それらを使って発を作り出す。作り出す発は銀の鳥を基礎にしているが、願いを叶える力はない。

 どちらかというと傀儡術と降霊術だ。基本的な力は肉体操作と念能力者の操作。自動的に念能力を鍛えるようにしておく。

 もう一つは私が死んだ場合に発動するようにしておく。私はライネス・ホイコーロではあるが、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテでもある。だからこそ、死後にサーヴァント(念獣)としてお姉様の下に現れても何もおかしくはない。

 お兄様やハンター達はさぞや驚くだろう。頑張って私を殺したとしても強くなってコンテニューしてくるのだからね。逆にお姉様が死んだ場合は私のサーヴァント(念獣)となるように設定しておく。

 

「うんうん、やはり罠も仕掛けておかないとね」

 

 トラップとして貧者の薔薇でも埋め込んでおきたいな。だが、手に入れるのは少し大変だ。代わりにティアマトでも顕現させてやろうか。まあ、オーラが足りないけどね。頑張ればワンチャンあるかもしれないが、確実に私は死ぬのでやらない。

 罠というわけではないが、お姉様の身体を私が遠隔から操れるようにはしておき、その場合は私のオーラも使えるように制約と誓約を作る。これらの能力はお姉様の許可もしくはお姉様の命が危ない時、意識が無い時に発動するようにしておく。デメリットは私のオーラをお姉様が勝手に使える場合もあるってことかな。

 

「さて、それではしばらくお休み、我が愛しのお姉様」

 

 胸元を開けさせて心臓に念を打ち込む。しっかりとお姉様の全身に行き渡り、全てを操作できるか確認する。まるでマリオネットを操っているみたいだが、操作系にとっては朝飯前だ。

 

「ふむ。やはりオーラの流れが悪いな。鍛えてないから仕方がないが……強制的に拡張するか」

 

 私のオーラを与えて器を少しずつ拡大していく。お姉様が痛みにのたうち回り、身体を跳ねさせるが無視する。どうせ意識はないのだ。それに──

 

「苦しむお姉様の表情、いいね。そそられるよ」

 

 Sっ気たっぷりに言ってみるが……なんだろう。あんまり興奮しない。からかう方が楽しい。それとも意識がないからなのかな? 

 どちらでもいいか。今はお姉様の身体を魔改造する時だ。片手を上げて操作し、徹底的に念能力を強化してふと思った。私が今まで取り込んできた生物の念能力者達の力を一部とはいえ発現させたらとっても強い発ができるのじゃないだろうか。うん、いいね。

 お姉様は裁縫が好きだし、そういうのもありかもしれない。帰国したら相談してみるか。

 

「はい、完成。流石は我が家の家系だ。才能が半端ないね」

 

 ちょっと弄るだけで一流に近い念の総量を保有できるまでに上がってしまった。これなら私のマスターとしても問題ないだろう。

 

 

 

 

 

 あれから一ヶ月。お姉様は目覚めない。やはりお父様達は国外に連れていくことは反対され、私だけが国外に向かう事になった。

 私の見送りは盛大なセレモニーが行われ、お父様まできている。移動は王室専用の飛行船がしっかりと準備されているから移動中は快適だ。こんな状況なので国軍もでてきていて、それを指揮するベンジャミンお兄様も現場にいる。

 

「ベンジャミンお兄様」

「ライネスか、どうした?」

「しゃがんでくれ。届かない」

「なんだ?」

「わっ」

 

 しゃがんでくれと言ったのに、私の脇に手を入れて持ち上げてきた。

 

「やれやれ、こんなことをされて喜ぶ歳ではないのだが……」

「七歳だろう」

「それもそうか。うん。お兄様は使えるから先に言っておく。お姉様に念というものを仕掛けておいた。ちゃんと治療されるから護衛だけお願いするよ。もちろんただとは言わないから安心してくれたまえ」

「ほう」

「私はツェリードニヒお兄様だけは王にしたくないし、さっさと殺したいと思っている。ツェリードニヒお兄様は私達を、他の王族を確実に殺すだろう。でも、私はチャンスが無い限り、軍師としていさせてくれるのならお兄様に従ってもいいと思っている。もちろん、統治に問題があれば話は別だが、お兄様はそこまで考えなしじゃないだろう?」

「……つまり、お前は俺と共同戦線をはりたいと?」

「私は軍師として軍事を扱いたい。お兄様は王になりたい。共同で邪魔な存在を排除する。別におかしなことはないとおもう。それに私はこれから外交を担当するんだ。外堀を埋めるにはとてもいい立場だろう?」

「……わかった。俺もツェリードニヒは殺してやりたいと思っているから乗ってやる。モモゼの護衛は俺の部隊を派遣してしっかりと守ってやる。だが、軍師になりたいのなら士官学校を卒業しろ」

「……七歳だからね。まだ入れないよ」

「それもそうか。特別に用意しておいてやる」

「それは凄く嬉しい! だが、飛び級制度も用意しておいてくれよ」

「いいだろう」

「契約成立だ」

 

 お兄様は継承戦となれば自分が一番有利だとわかっている。だから、邪魔者を排除した後、私を殺すか、飼い殺しにするか、どちらかにするつもりなのだろう。その前提を崩す用意をしっかりとしておかないとね。

 うん。例えばゾルディック家を引き入れるとか。モモゼお姉様とキルアを結婚させてみたら、とっても強い子供が生まれてきそうじゃないか。ちなみにモモゼお姉様を私の物だと言ったが、性的な意味は一切ない。流石に血の繋がった相手だからね。これが義妹ならわからなかったが! 

 そういう意味だとカルトは君かちゃん、どっちだろう。アルカも気になるね。

 

「どうした?」

「なんでもないよ。それじゃあ行ってくる」

「ああ、精々励んで来い」

「もちろんさ。任せてくれたまえ」

 

 お父様やお兄様、お姉様達と流石にでてきているお母様と軽く挨拶してから飛行船に乗る。席に着く前にトリムマウを出して椅子の上に座らせ、その上に私が座る。トリムマウが私の身体にフィットした椅子になった。これで疲れる事はないし、いざという時にトリムマウがすぐに助けてくれる。飛行船が爆発したとしても私は生き残れるだろう。海の上だと鳥人間コンテストみたいにするしかないが、どうにかできる。

 

「ライネス王子、準備はよろしいでしょうか?」

「ああ、出してくれ」

「かしこまりました」

 

 ハンター協会でメンチと実際に会って話をしないといけないが、すぐにはいけないだろうな。本当はもっと前に会ってからしっかりと相談したがったが、そうもいかなくなった。お姉様にかかりきりになったからね。本当に世界は思い通りにはいかない。だからこそ面白いのだが──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拍子抜けだ。何事もなく無事に他国についてしまった。当然、空港に降り立って飛行船から出ると大量のフラッシュが焚かれるので手を振って笑顔で挨拶する。歓迎パレードまであり、その後は国のお偉いさんたちと会談し、さりげなく婚姻の事や言質をとろうとしてくるのでとても面倒だ。

 夜になり、ようやく公務から解放されてホテルにあるスイートルームの前に立った。念の為に月霊髄液で部屋の中を探査する。すると中に誰かいる気配がした。

 トリムマウを服の下に纏ってから部屋の中に入り、ベッドにダイブする。淑女にあるまじき行為だが、私は男なのでセーフ。

 

「づがれた~」

 

 そんな風にぐだった瞬間、上から降ってきた誰かが私の上に乗り、ナイフを当ててくる。

 

「誰かな。今日、ここは私の寝室なのだがね」

「答えるね。銀の凶鳥について知っていることを……」

 

 この特徴的な喋り方に身のこなし、もしかしてアイツか? なんで私の所に来るのか理解できない。そもそも銀の凶鳥ってなに? 私の鳥の事かな?

 

「ふむ。答えてもいいが、まずは顔を見せるのが礼儀ではないかな?」

「黙るネ。聞いているのはコッチネ。始めは指ね。軽く爪はぐ」

「そうか。では下郎に答える事はない。大人しくここで死にたまえ」

「後悔する──ネ!」

 

 背中から串刺しにされる前に飛びのき、天蓋を粉砕して距離を取る暗殺者。私の背中から無数の杭が生えているままで立ち上がり、トリムマウが私の前に立つ。

 

「やれやれ、招かれざる客は盗賊か。王族の寝室に侵入するとは無礼千万だ。程度が知れるな幻影旅団。こんな幼気でか弱い女の子を襲うなんて君はその身長と合わせてロリコンなのかな」

 

 私は月霊髄液の準備をしつつベッドから起き上がり、伸びをしながら振り向く。やはり幻影旅団だ。

 

「オマエ!」

「そう憤るなよ、少年。君では私に勝てないし、ただで逃がすつもりもない。まあ、メッセンジャーとしては使ってあげようか」

「クソが 調子に乗りやがって!」

 

 すごい速度で突撃してくるが、サーヴァントとしての力を手に入れている私はしっかりと視認できるし、なによりもトリムマウからは逃れられない。

 突撃してきた盗賊、フェイタンはトリムマウを簡単に貫く。すぐに違和感を感じたのか離れようとするが、その前に再生したトリムマウがしっかりとフェイタンの腕を固定し、足に絡みついて身体を固定していく。

 

「両手を斬り落とせ」

「ぐ! 馬鹿、ネ!」

「馬鹿は君だよ」

 

 許されざる者(ペインパッカー)という反射技を使ってくる。トリムマウが一瞬で粉々にされて周りに巻き散らかされていく。私も例外ではないが、月霊髄液で全面を覆って防ぐ。

 ある程度は蒸発してしまうが、そこは隠された庭園から水銀をトリムマウと月霊髄液に供給して防ぐ。クラスター爆弾の直撃すら耐える月霊髄液なので安心だ。もっとも、ホテルのスイートルームは吹き曝しの屋上になってしまった。

 直撃を受けたトリムマウは瞬時に収束して元に戻る。幻影旅団の念能力は知っているし、トリムマウはフェイタンにとって天敵だ。

 人よりも早く動き、液体金属であるがゆえにナイフは効かない。また瞬時に再生するから壊す事もできないし、私が具現化する水銀によって私のオーラが続く限り無限に再生できる。

 他に仲間がいないのは最初に月霊髄液で確認してある。幻影旅団であろうと相性で完封できる。幼い餓鬼だと思って侮って一人で来たんだろうが、それが間違いだ。そもそも今の警備状況はかなり悪い。本来の護衛であるメンチは明日に合流予定だ。

 一応、本国から連れてこられた護衛は他の王妃達にねじ込まれて派遣されてきた一般人だけだ。彼等は簡単に突破できて油断したのかもしれないね。最後に現れたのが私のような幼女の皮を被った化け物だったのだから仕方がないのかもしれないが。

 

「まあ、安心したまえ。君は殺しはしないよ。団長に伝えたまえ。君達が私の配下になるか、ビジネスなら応じるとね。それとこの両手は今回の慰謝料としてもらっておく。返して欲しければそれ相応の品、そうだね……クルタ族の緋の目を全て頂こう」

「殺す殺すコロス!」

「君では無理だよ。相性が悪すぎるからね。それに保険は打たせてもらうよ。トリムマウ、彼の身体に君の一部を埋め込みたまえ。そうだね、心臓の辺りがいい。私に危害を加えようとしたら殺せ。それとお帰りだ。窓から放り捨ててあげなさい」

「かしこまりました」

 

 ホームコードを書いた紙を彼の手を覆う水銀に突き刺して、窓をあけて解放する。すごい勢いで飛んで行ったが、幻影旅団なら大丈夫だろう。いやはや、フェイタン一人で助かったね。彼なら私でも完封できる。彼の念能力はカウンター型であり、与えたダメージを返してくる上に戦闘技術はかなり高い。だが、それはあくまでも人としてだ。

 人を殺す事に特化しているがゆえにトリムマウは天敵となりうる。これが団長や筋肉だるま君とかなら私が負けていた可能性が非常に高い。いや、筋肉だるま君ならなんとかなるか。水銀を相手の体内に入れて操作してしまえばいいのだから。

 おやおや、幻影旅団って結構どうにかなるのかな? うん、無理だね。一人ならどうにかできるかもしれないが、もっと人数がいたらどうしようもない。これはちょっとネテロ会長かゾルディック家を少しの間だけ護衛に引き入れるか。

 でも、ゾルディック家を雇うお金なんてないしなあ。待てよ。稼ぐ手段はあるじゃないか。というか、やばい。原作が、原作が致命的に崩壊する可能性がでてきた! 

 

 

 

 グリード・アイランド編が消滅する! 

 

 

 

 

 

 




あの富豪さん、銀の鳥の効果があれば絶対に助けようとするよね!

フェイタンはまだ原作ほど強くないです。あと相性悪すぎ問題。


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幻影旅団

幻影旅団のキャラ崩壊に注意。


 

 クロロ=ルシルフル

 

 

 

 フェイタンが返り討ちにあったとフィンクスから聞いて何人かが集まった。ジャージを着た男性、フィンクスに抱き抱えられているフェイタンは暴れているが、しっかりと押さえられているので大丈夫だろう。

 だが、両手は無く、肩の辺りが謎の銀色の金属に覆われており、まだ油断はできない。

 

「ぎゃはははは、七歳の餓鬼に返り討ちにあうたぁ、腕が落ちたんじゃねえか!」

「五月蠅いね! クルタ族との戦いがなければ勝ていたヨ!」

 

 巨大な大男であるウボォーギンが笑いながらからかい、小柄なフェイタンが反論している。確かにクルタ族との戦いでかなりの痛手を負った。死んだ団員だけでなく、生き残った俺達も怪我や一部の呪いとも呼べる念を受けて回復が阻害されている。

 

「はいはい、そこまでだよ。今回の問題はオレ達の油断が引き起こしたことだ。まさか、天才とは言われているとしても七歳の子供が念能力者だとは思わないだろう。ましてや実力が下がっているとはいえフェイタンを返り討ちにできるなんて予想していなかった。そうだろう?」

 

 シャルナークの言葉に五月蠅かったのが静かになったな。これで本題にいけるか。

 

「ちっ」

「そうだな。それもオーラを一般人のように隠蔽してやがる。ありゃ、かなりの使い手だぞ」

「団長、次は俺にいかせてくれ。ぶっ殺してやるからよ」

「駄目だよ。ウボォーじゃ殺しちゃうじゃん。俺達は情報を聞きたいの」

「そうだ。それに向こうも言っていたじゃないか。配下になるか、ビジネスの関係になりたいと。つまり、それなりの筋を通せば交渉してくれるとのことだ」

「ふざけた餓鬼ネ。ワタシタチの事、舐めてるよ」

「それはどうかわからないが、パク。フェイタンの記憶を読んで俺達に送れ。七歳の時点でフェイタンを圧倒できたのだ。これからの事を考えて相手の念能力は全員見ておいた方が良い。殺す時に被害が減る」

「そんな事ができるのか?」

「可能よ。でも、これは私の切り札だから、新しく入ってくる人には黙っておいてよ」

「ああ、わかったよ。確かに強力な能力だから黙っていた方がいいしね」

「確かにその方がいいわね」

「さて、皆。今からこのリボルバーで撃つけれどダメージはないから、安心してね」

 

 スーツ姿の女性であるパクノダがフェイタンに触れ、特質系の念能力で記憶を読んでいく。次に拳銃に弾丸を込めて俺達に撃ち込んでくる。記憶弾(メモリーボム)という力で記憶を弾丸として具現化するものだ。

 この力によってフェイタンが戦った相手が見えてきた。金髪碧眼の幼く可愛らしい一般人のように見える少女。オーラの量は普通より少し多い程度だが、これは王族と考えれば英才教育を受けているのだから当然だろう。

フェイタンがベッドの上に寝転がった彼女の背中に降りてから、少し話して印象はがらりと変わる。彼女の使う念能力は殺傷性が高く応用性もある。身体から出て来たということは事前に身に纏っていたか、具現化したかだろう。

 

「幼子でここまで戦えるのか……オレじゃ勝てないな」

 

シャルナークじゃ確かに相性が悪い。おそらくあの念能力は操作系の可能性が高い。操作するにも相手がすでに操作しているから、操ることもできない。他の人間を人形にして挑もうにも水銀を突破できる火力がない。

 

「というか、どう見ても水銀じゃない。中毒性とかあったはずだけど、フェイタンは大丈夫なの?」

「やばいな。心臓に打ち込まれているのはどうしようもないが、腕のはどうにかしないといけない」

「まあ、とりあえず話してみていいんじゃないかな? 緋の目が欲しいみたいだし、交換にフェイタンの腕を返してくれるみたいだしさ。腕が戻ってきたらマチだったら繋げられるよな?」

「余裕よ。でも緋の目を渡すって事は前の稼ぎがゼロになるわよ」

「その分は、ワタシが奪って返すネ」

 

 交渉して取り返すか、それとも奪い返すか、だ。

 

「シャルナーク、まずは王女の居場所を探せ」

「ああ、それなんだけどさ……すぐわかる。何せ有名人だし」

 

 テレビをつけるとライネス・ホイコーロの泊っているホテルが襲撃されたというニュースが速報で流れている。続きを見ていくと、彼女は堂々とマスコミの前に立ちながら事情を説明し、後はこの国に任せる事を告げた後、車に乗っていく。その時の質問でどこに行くかという内容が伝えられていた。

 

『何処に行くのかって? ハンター協会の本部だよ。今回の件でまた襲われてもかなわないからね。しばらくはハンター協会の会長さん達と一緒に居て守ってもらおうと思うよ。どうせ会談する予定は決まっていたんだ。前倒しになってもこの事情なら許してくれると思うからね。なんせ泊まるところがなくなったから』

 

 そう言って笑っている。これは明らかに俺達に対するメッセージだ。襲ってくるのなら、ハンター協会の会長、アイザック・ネテロをぶつけると告げている。国も今回の事で他国の王子……こちらでは姫か。姫が暴漢に殺されかけたとなると国の威信をかけて守るだろう。

 ハンター協会は二つの国からの要求を突っぱねることはできない。できたとしてもしない。ニュースで全国的に報道されている中で突っぱねればかなり叩かれる。それを理解してやっているのだろう。

 

「本当に七歳なのかな?」

「違うでしょ」

「それはマチの勘?」

「勘っていいたいけど、なにか微妙におかしい」

「で、どうするんだ。実際にハンター協会に殴り込むか?」

「いや、今回は大人しく彼女の提案に従おう。こちらの戦力をこれ以上減らすのはいただけない。少なくともフェイタンは確実に死ぬ。そして、アイザック・ネテロが相手なら後数人は確実に死ぬだろう。下手をしたら全滅だ」

「ちっ、仕方ないか」

 

 全員を見渡してから、フェイタンを見る。

 

「フェイタン、不服ならコインで決めるか?」

「いいネ。今回はワタシの不手際ヨ。団の存続の為には仕方ないネ。デモ、アイツはワタシが必ず殺すヨ」

「私は反対。コイツは今、殺しておいた方がいい」

「マチが反対か」

「勘だけど、手に負えなくなる気がする」

「マチの勘は当たるからな……」

 

 さて、どうするか。いっそ、ゾルディック家に依頼だけしてみるか? それもありかもしれないが、ライネス・ホイコーロはまるでフェイタンと彼の念能力を知っているかのように喋っている。もしもこちらの念能力を知られていた場合、相手はどう動く? 

 こちらの念能力を知られていて、戦力があるのなら敵対者を排除するだろう。ましてやカキン帝国の特性を考えるに報復は絶対に行う。今回は国もなんとしても解決しようとするだろう。なら、取る手段は……

 

「ゾルディック家に俺達の暗殺依頼が出されている可能性が高い」

「ゾルディック家か……厄介だな」

「やらないのか?」

「ウボォーやマチには悪いが、やはり今回は相手の提案に乗ろう。情報源であるライネス・ホイコーロを殺すのはできなくはないが、こちらの被害が大きい。ましてや殺しては情報を得ることもできずに意味がない。情報を得るには誘拐になるが、現状ではそちらは不可能に近い。よって、交渉につこう」

「それはいいが、配下になるとか言うんじゃないだろうな?」

「それはない。あくまでもビジネスの関係になろうと思う。彼女の立場的に戦力は欲しいだろうが、こちらに無理な命令をして俺達が死ぬのを覚悟して殺しにこられても叶わないだろう」

「そういうことならいいかもしれないね」

「シャル、携帯とホームコードを取ってくれ。それと盗聴についても妨害してくれ」

「はい。でも、大丈夫だとは思うよ。これ、王族とかが使ってる秘匿用の回線みたいだし」

 

 シャルナークから携帯を受け取り、水銀に挟まっていた紙に書かれたホームコードを入力し、電話をかける。すぐに電話が繋がった。

 

『誰かな? 愛しのお姉様かお兄様かい? それとも……幻影旅団団長、クロロオニイチャンかな?』

 

 俺の名前もバレているか。やはりこちらの情報が抜かれている可能性が高い。もしかしたら、パクと同じ記憶を読む力もあるのかもしれないな。

 

「正解だ。ライネス・ホイコーロ」

 

 スピーカーボタンを押して全員に聞こえるようにする。

 

『おや、ツッコミはなしかい。悲しいね』

「御託はいい。こちらが求めているのはフェイタンの腕だ」

『オーケーオーケー。ビジネスの話をしようか、オニイチャン。だが、少し待っていてくれ。こちらは今ハンター協会にいるからね。数分後に連絡を入れるから、それまで待っていて欲しい。すまないね』

「わかった」

 

 オニイチャンと呼ばれた時に何人かが噴き出した奴がいたので、電話を切ってから殴る。少しすると電話ではなく声がフェイタンから聞こえてきた。

 

『やあ、待たせたね。あ、あ~。トリム、音声は私のになっているかな?』

「問題、ありません」

 

全員で観察して注意深く確認すると、フェイタンの腕に取り付いていた水銀から聞こえてきている。遠隔操作に音声すら通じさせることができるのか。とんでもないオーラの量だな。やはりあのオーラは偽装されていたか。

 

『では交渉を再開しようか、クロロオニイチャン』

「それは決定なのか」

『だって、私よりも年上だろう? もしかしてオネエチャンだったのかな? それなら失礼した』

「あははは、腹いてえ! 団長がオネエチャンって! 女装したら似合いそうだよな!」

「ぷっ! た、たしかに……」

「黙れ」

 

 殺気を込めて笑い転げている奴等を睨み付ける。すぐに大人しくなったのでよしとしよう。だが、声を殺して笑っているのはわかる。

 

「オニイチャンであっている。で、腕は?」

『しっかりとオーラで包んで保存してある。水銀による汚染もないよ。私の目的は記憶を読んだのだからわかるだろう。緋の目と交換だ。君達が持っていることはわかっている』

 

 ライネス・ホイコーロの言葉に全員が一瞬で静まり、周りを警戒しだす。先程まで俺以外には知らなかったパクの能力まで知られているという事はこちらの情報が確実に抜かれている。秘匿しなければいけないパクの念能力までバレているとなると、尚更警戒しないといけない。まずはジャブから行こう。

 

「買い手は君の兄だったのだがね」

『ああ、やはりお兄様か。予想通りの趣味だ。生憎と私はお兄様が嫌いでね。お兄様が欲しがっている品物を横から掻っ攫って悔し涙を流しながら怒り狂う姿をとても楽しみにしているんだ。だからくれ』

 

 ああ、理解した。コイツ、性格が悪いな。嫌がらせのためだけに手に入れようとしてやがる。価値観がおかしいのは王族だからか。

 

「わかった。くれてやろう。フェイタンの腕と交換だ。だが、その前にフェイタンについている水銀を取ってくれないか?」

『心臓のは断るが、止血させるのと連絡用に着けているのだったら構わないよ。ああ、中毒なら心配してくれなくていい。私がしっかりとコントロールしているからね』

 

 指を鳴らす音がご丁寧に水銀から響くと、フェイタンに憑りついていた水銀が一人でに動き出して地面に落ち、俺達の前で小さなメイド姿の念獣が現れた。

 同時にフェイタンの傷口から血液が噴出するが、すぐにマチが念で作った糸を使って縫い付けて止血する。

 

「もしかして、この念獣で情報を抜かれているのか?」

『その通り。ああ、その子には手を出さないでくれよ』

「もし壊したらどうするつもりだ?」

『交渉決裂になるね。私が知っている君達幻影旅団の情報を全世界に公開し、ゾルディック家に暗殺依頼を出させるし、ハンター協会も動かす。ああ、これだけじゃ君達は死なない可能性の方が高いね。

 うん、貧者の薔薇を使って自爆特攻でもさせようか。これなら死ぬだろう。ああ、逃げようとしても無駄だ。我等カキン帝国の、ホイコーロの情報収集能力を甘くみないでくれたまえ。なにせ、我が家にはとびっきりの情報通がいるからね』

 

 俺達を殺すために何個もの都市を灰塵にすると宣言してきた。こいつは明らかに危険だ。流石はツェリードニヒの妹か。

 

「俺達の念能力をどこまで知っている?」

『それを答えるには配下になるか、ビジネスとして代価を払ってもらわないとね。情報にお金がいるのは常識だろう?』

「そこまで脅しておいて配下になれと強制はしないのか」

『何人かは道連れにできたとしても、私が殺されるのは確実だろう。私も死にたくはないから、ビジネスをしようじゃないか。

 互いに利益が出る関係でいいと思うんだ。どうかな?

 そちらは戦力を提供する。こちらは情報を提供する。互いに欲しい物を交換する合理的な関係だ。まあ、私としてのベストは君達が盗みをやめて私の部下となってくれるのが一番いいが、それは無理だろう?』

「無理だな」

 

 全員が殺気を出して拒否している。俺達は誰かの下に入るつもりはない。

 

『だったらやはりビジネスで行こう。ツェリードニヒお兄様はマフィアと繋がっている。だったら、私は君達、幻影旅団と繋がろう。悪い取引ではないだろう』

「正気か?」

『ああ、正気だとも。だからこそ、フェイタン君を殺さずに帰した。本来なら王子を襲ったのだから極刑だ。だが、クロロオニイチャン達と敵対する気はないから、腕で勘弁してあげた。ちなみに最初は言葉で交渉しようとしたのだよ? それを問答無用で拷問しようとしてきたから反撃した。私、なにかおかしいことを言っているかな?』

「……正論だな。だが、兄がマフィアと繋がっているからというそれだけの理由か?」

『マチお姉ちゃんがそっちにいるからだよ。彼女を見かけた時に惚れてね。是非とも欲しい。だから、敵対したくはない』

「ガールズラブとか嫌よ」

「らしいぞ」

『おやおや、フラれてしまったね。まあ、分かりきっていたことだが。とりあえずこちらの条件は……ああ、もう一つ、いや二つあった。クルタ族に手を出さないで欲しい。こちらが話を付けにいくから、その結果次第では好きにしてもらっていい』

「いいだろう。二つ目は?」

『こちらは簡単だ。ツェリードニヒお兄様の依頼や情報を全て欲しい。それと依頼次第ではキャンセルしてくれ。代わりに私は君達の情報を公開しない。それと私が知っているのはクロロオニイチャンの念能力も含まれている。流星街から一緒に来た人達の念能力は全て知っていると思ってくれていい。手付金代わりに戸籍や隠れ家なんかも提供しよう』

 

 流星街の方からも抜かれたようだな。これはもう決まりだ。ハッタリやブラフはあるだろうが、こちらの思惑とも離れていない。

 

「契約成立だ。こちらが欲しい情報は銀翼の凶鳥についてだ」

『ああ、アレか。それでアレの何が知りたい?』

「術者についてだ」

『悪いがソレは禁則事項だ。この情報はカキン帝国の継承戦に影響する。私は王位継承権を手放すつもりはないからね』

「いいだろう」

 

 情報は出せないと言いながら、できる限りの情報は伝えてきたか。この銀翼の凶鳥にはカキン帝国の王子か王妃が関わっている。継承権に関係があるとなると王子と王妃しかいないからな。

 

『じゃあ、緋の目は数日中に届けてくれたまえ。代わりにこちらはフェイタン君の腕を渡そう。それと持ってくるのはマチお姉ちゃんとフェイタン君、身元がバレていない人でハンター協会まで来てくれ。くれぐれもクロロオニイチャンやパクノダさんを連れてこないように。私は触れないし、本にも絶対に触らないからね。では、来る前に一報をいれてくれ。公務で時間がとれないかもしれないから、これだけはよろしく頼むよ』

「これは完全にバレているわね」

「ああ、そうだな」

 

俺が念能力を奪う条件の一つが本に相手を触れさせることだ。それを知られているということは盗む事も難しい。

 

『それとこれはサービスの情報だ。あと数分もしないうちにロケットランチャーが複数、そこに撃ち込まれる。急いで逃げた方がいいよ』

「おい」

『私だってクロロオニイチャン達みたいな怖い人との交渉に保険を用意するのは当然だろう? なんせ私はか弱い七歳児なのだから』

「「「こんな七歳児が居てたまるか!」」」

『あははは、これがホイコーロクオリティーだよ。ちなみに毒ガスも用意されているから、本気で攻撃して壊さないように逃げるのをお勧めする。チビトリム、先導してセーフティーハウスの一つに案内してあげてくれ』

「了解」

「ではクロロオニイチャン達、楽しい鬼ごっこを堪能してくれたまえ」

 

 それから二日ほど、逃げ続けた。連中は本当に毒ガスなどを準備してきていたので、下手に攻撃するわけにもいかない。襲ってきたハンターについてはウボォー達が処理したが、下水道なども使うことになってしまった。

 それに加えて定期的にライネス・ホイコーロから連絡がきて楽しそうにチビトリムなるもので俺達を導いていく。ナビゲーションは確かに完璧だが、下水道で変異した魔物とかを相手にしなくてはいけない上に数が多かったので大変だった。

 また楽しそうにこの場にいない状況で遊んでいるライネスのせいで胃に久しく感じていなかった痛みが走った。

 

 

 

 

 




ライネスちゃんのハッタリ。貧者の薔薇なんて用意できなくはないが、色々と大変だからやらない。ましてや被害がちょっと目も当てられない。だけど、クロロ達にはツェリードニヒのせいで本当にやる可能性があると思われている。
だが、情報網は確かである。なにせ銀の鳥達の視界が奪えるからね。クロロオニイチャンへの回答も嘘は言っていない。

幻影旅団のライネスに対するヘイトが上昇。一応ビジネスとして付き合う事は決定。相手は国家と金の力を全力で使ってくるから仕方ないね!


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10話

ハンター協会との交渉
パリストンがメイン。
UA10万、お気に入り4000・・・・ガクガクブルブル


「あ~怖かった。凄い怖かった!」

 

 暗闇に包まれている月霊髄液の中で、冷汗が雫となって震える色白の肌を流れ落ちていく。そんな状態の身体を両手で抱きしめながら、冷静に荒くなりそうな呼吸を元に戻す。

 かなり危ない橋だったが、どうにか交渉は成功した。こちらが幻影旅団の情報を握っているという事を知らしめれば警戒して手を出しにくくなる。それに加えて団員一人の命を握っているし、どんなに犠牲を出したとしても幻影旅団を滅ぼす方法と、それが可能な情報網がある事を伝えれば聡明なクロロは蜘蛛の為に手を出さずにこちらを利用する事を決めるだろう。たとえ私が死んだとしても情報は公開されるようにしておけば、幻影旅団は私を守るしかなくなる。

 もちろん、彼等にもメリットが色々とある。まず戸籍や隠れ家などを提供できるし、何より様々な情報を得る事ができる。盗賊である彼等にとってお宝の情報はとても助かるだろう。

 もっとも、交渉に失敗したら消すつもりではあった。ハンター協会とゾルディック家を向かわせ、同時に軍隊も動かす。街を2,3個消し飛ばしても確実に殺す。その罪は全て幻影旅団に押し付ければいいだけだしね。

 ちなみにチビトリムはしばらくその場で待機させる。こちらからパスを定期的に開いてオーラを供給しさえすれば大丈夫だ。遠隔操作になるからとても使い勝手が悪いし弱い上にオーラの消費量も半端ない。だが、それだけの価値はある。

 

「全身汗だらけで嫌になる。でも、なんとか話は纏まった。私は一先ず賭けに勝てたしよしとしよう」

 

 すぐに別の賭けがあるが、それはそれだ。とりあえず幻影旅団は緋の目とフェイタンの腕を上手く交換さえできればそれで問題はない。こちらをしばらく襲ってはこないだろうし、その時間を使ってこちらも幻影旅団やベンジャミンお兄様の軍に対抗できるだけの戦力を集める。時間との勝負だが、やるしかない。

 

「さて、これ以上は待たせるわけにはいかないな」

 

 指を鳴らして私の身体と一部融合していた月霊髄液を回収する。現在、私が居るのはハンター協会にある宿直室の一室だ。そこを無理を言って借りている。ちなみに場所はお風呂であり、裸で浴槽に入って水銀に浸かっていた。むしろ一体化していたという方が正しい。この状態でないとトリムの遠隔操作などできはしない。

 さて、浴槽から出て水銀を全て庭園に回収。元の可愛いロリライネスに戻り、シャワーを浴びてから頬叩き、顔を洗ってタオルで拭く。鏡に映る本当に可愛らしい少女は青い表情だったのが、元気そうなものに変わっている。

 よしよし、これでなんとかなる。幻影旅団との交渉は終わったから、次はハンター協会だ。相手はパリストンとネテロ会長。相手にとって不足はないどころか、私の方が不足しまくっている。

 なんで外交初心者が百戦錬磨の化け物と交渉しなきゃいけないんだ。死ぬぞ! だが、まあ……ライネスがロード達と交渉するのはこんな感じなのだろうし、仕方ない。

 

「トリム、拭いてくれ。それと着替えを頼むよ」

「かしこまりました」

 

 私は目を瞑りながら全てをトリムに任せる。自分の身体とはいえ、やはりライネスの身体なのだから直視する機会はゆっくりと鑑賞できる時だけだ。基本的にみないようにしてメイドに任せる。興奮したら色々と処理が大変だからな。

 

「これでよろしいでしょうか?」

「ふむ」

 

 目を開けて全身を確認する。今回の服は普段着であるロリライネス、ロリネスのアニメででてきた服だ。先程までは式典用のゴシックドレスだったが、やはりこちらの方がしっくりとくる。

 

「よくできた。ありがとう、トリム。これからもよろしく頼むよ」

「イエス、マスター」

「では行こう。戦争(政争)の始まりだ」

 

 この部屋が監視されているとしても、事前に潰してあるが発言には気をつける。潰し方は月霊髄液による探査とオーラを大量に使っての凝だ。なので見逃しがある可能性も無いとは言えない。故に気をつけて月霊髄液の中で幻影旅団と話をしたわけだ。

 借りている部屋から出ると、護衛であるハンターが控えてくれている。二人共女性でハンター協会の幹部、十二支んだ。一応、カキン帝国とこの国からの正式な要請だからね。政治力が乏しい彼等にはどうしようもない。ハンターが様々な特権が認められているのは国々の、大国V5を始めとした連合による後押しがあってこそだ。

 我が国もそれなりの寄付金、それこそ数億ではきかないぐらい出しているし、これぐらいは当然の権利だ。もっとも、一国や小国程度では跳ね除けられるぐらいの力をハンター協会は持っているが、それはあくまでも一国や小国だけだ。カキン帝国とV5に数えられるこの国の要求を退ける事はできない。

 

「待たせたね」

「本当にまった~」

 

 携帯電話を弄りながらこちらに伝えてくるバニーガール風の格好をした女性。強い事は強いが、本当に大丈夫か、ハンター協会。

 

「こら、失礼でしょう。申し訳ございません、ライネス姫。いえ、そちらでは王子でしたか」

 

 謝ってきたのは蛇のように瞳孔が細くスタイルの良い女。こいつも十二支んの一人だ。女性二人なのは私が女性だから。嫌だったが、未婚の女性ということで男性が側に控えているのは嫌だと力説した。だって仕方ないだろう。男性を許可するとパリストンが絶対にやってくる。そんなのは嫌だ。もちろん、ハンター協会全体が厳戒態勢になってくれている。相手は幻影旅団だと伝えてあるからね。

 

「ああ、そうだよ。それに気にしていないから構わないよ。今回はこちらが無理を言ったのだからね」

「本当だよ~とっても忙しいのに~」

「おや、そうなのかい? 歩きながらでいいから教えて欲しいね」

「だめ~ハンターじゃない人には教えられない~」

「そうか、それは残念だね。まあ、私も十二歳になったらハンター試験を受けるつもりではある」

「え~? 裏口合格とかないよ~?」

「こら! 王族としてハンターになられるのはまずいのでは……」

「まずいだろうねえ。だから偽名を使うよ。王族とハンターの二重生活なんてすごく刺激的で、最高じゃないか。私は様々な事件をこの目で直接見てみたいんだ。美食を始めとした秘宝を求めて魔獣の住処に突撃し、血沸き肉躍る戦いやマフィアの拠点を叩き潰すとか、特等席で見ていたいんだよ!」

 

 キラキラとした表情で両手を叩きながら語る。これこそライネス・エルメロイ・アーチゾルテの願望だ。実はすでに特等席で見学できる手段はあるんだけどね。命懸けで何かをなそうと全力を尽くす者達の命の輝きというか、なんというか、とても素晴らしいものがあると思わないかね? 

 特に幻影旅団の連中なんて見学するのは楽しいだろう。今まではどの鳥が近いかなんてわからなかったが、これからは違う。じっくりと観察させてもらい、私に娯楽を提供してもらう。それとドラマや映画には困難が付きものだろう。だから、それを私がしっかりと用意してあげようと思うんだが、戦闘狂の彼等は大変喜んでいただけるだろうこと請け合いだ。

 

「か、変わった趣味ですね」

「良い趣味だと思うんだけどね。まあ、そんなわけで私はハンターになるつもりだ。よろしく頼むよ、先輩方」

「戦闘能力が必要ですが……」

「はっはっはっ、カキン帝国の王族を舐めないでもらおうか。にわかとはいえ、ちゃんとした念能力者なんだよ」

「にわか、ですか……」

「しっかりと教えてもらってから一年と経っていないからね。でも、私の子はとっても強い子だし、多分大丈夫だと思うよ。もちろん、これからも鍛えるつもりだ。それにあれだよ、魔法少女みたいでとっても楽しいじゃないか!」

 

 両手を広げてくるくると回りながらニコニコと話す。二人はなんとも微笑ましい感じでみている。七歳のロールプレイ、これは地獄だな。後で黒歴史確定だ。だが、ロリネスは可愛いからよしとする。

 

「その力、どうして目覚めたんですか?」

「ああ、それは簡単だよ。メイドに殺されかけた時に生きたいと願ったらできたんだ。そうしたら、メイドが運んできた水銀がそのメイドを殺して、取り込んでくれた。それが私の念能力になったというわけさ。いやぁ、メイドが居なくなるのも困るから、彼女に世話をしてもらえて助かっているよ」

「そ、そうですか……」

「あははは~」

 

 二人はドン引きしているね。だがまあ、問題はない。事実だ。嘘は言っていない。

 

「到着しました。ここで会長がお待ちです」

「どうぞ~」

「ありがとう」

 

 中に入るとまるで極寒の地に放り込まれたような感じがする。目の前にはまるで神様のような百の手を持つ観音が顕現しているが、無視してなんでもないかのように笑いながら前に進む。

 

「ハンター協会のアイザック・ネテロ会長。この度は私の無理を聞いていただきありがとうございます。また、英雄のような貴方様に出会えたことを大変嬉しく存じます」

 

 スカートを摘まんで頭を下げ、宮廷作法に則ってしっかりと挨拶をする。相手は和服に身を包むネテロ会長とスーツ姿の胡散臭い青年。

 

「見えてないのか、感じていないのか、それとも……」

「どうしましたか? 私、何か間違ってしまいましたか?」

 

 小首を傾げて可愛らしく伝えると、気配は霧散したがこのまま猫を被り続ける。

 

「まあ、立ち話もなんですから、どうぞこちらにお座りください」

「ありがとうございます」

 

 席に座りながらニコニコとお話しをする。相手も座り、私と対峙する。

 

「さて、ライネス・ホイコーロ様。形式的な挨拶は止めて実務的な話をしましょうか」

「それと猫被りはする必要はないぞ。そんな話し方でもないだろう」

「これでも一応、目上の人を敬ったんだがね。それとネテロ会長は英雄だと思っているし、尊敬しているのは事実だよ」

「会った事はないんじゃがな」

「まあ、伝え聞いた事だよ。一日一万回の正拳突きだったかな。格闘家としてもとても素晴らしい。賞賛に値するよ。いや、本当に。できれば後でサインが欲しいくらいだ」

 

 手振りしながら伝えていく。私の言葉に護衛の二人は頷いている。

 

「それは後でくれてやるわい」

「本当かい! それはとても嬉しいよ!」

「会長との歓談はその辺りにして、実務的なお話をしましょう。幻影旅団についてです。襲われる心当たりは?」

「ホワイダニットかい。心当たりはまるでない。とは言い切れないね。これでも私はご存知の通り、カキン帝国の第13王子だ。それ相応に恨みも買っているし、他の王子や王妃から命を狙われることなんてざらだよ」

「確かにそうじゃの」

 

 本当に殺し合いぐらい平気でするからね。でも、彼等の求めているのはそれじゃないだろう。

 

「そもそも本当に幻影旅団でしたか?」

「特徴から危険人物とされている幻影旅団の団員と一致したから、そう判断したよ」

「なるほどなるほど。確かに彼等のようですね。彼等は何かを言っていましたか?」

 

 ここで伝えてメリットがあるかないかだね。メリットはネテロ会長を護衛にし、トリムマウを鍛えてもらうこと。うん、ここで幻影旅団とぶつけるのはよくない。

 それにハンター協会としての目的はおそらく、銀の鳥についてだろう。それ以外は金か。

 どちらかもしれないし、どちらじゃないかもしれない。わからない。ただ、嘘を見抜く念能力者がいたら困るから、ここは誤魔化しておこう。

 

「詳しい話を聞こうとしたら拷問されそうになった。だから反撃したんだ。ただ、鳥がどうとか言っていたね」

「鳥、ですか」

「まあ、幻影旅団とは盗賊なんだろう? それだったら、我がカキン帝国に存在する貴重な鳥でも盗むつもりだったのかもしれないね。詳しくは知らないけれど」

 

 そもそも私はネットで調べるまで銀の鳥が銀翼の凶鳥なんて呼ばれているのも知らなかった。だって、私のネットって基本的に王妃達に検閲されてるんだよ? 

 だから、エロいワードを入れて検索したり、好みの画像を収集する事もできない。そんなことをしようものなら、弱みになるし色々と不都合な事が起こる。

 そんなわけでひたすら本を読んで知識を蓄え、習い事をして教養を身に付け、念を鍛え続けていたわけだね。いやぁ、自由って素晴らしい。ちなみに盗み見はしたりしているがね。アッハッハッハ。まったく面白くもないが。やはり音声は必須だ。

 

「カキン帝国の国内で銀翼の凶鳥について聞いたことは?」

「こちらに来るまで知らなかったよ。私、ほら王子だろ? 基本的に王宮で勉強漬けさ。知識は本と家庭教師達が教えてくれることだけだ。それも検閲が入っているから、国外の事なんて外交特使として勉強してから詳しく知ったぐらいだよ。

 で、だ。君達はそれについて知っているみたいだね。教えてもらおうか。幻影旅団の言う鳥は、君達の言い方からして銀翼の凶鳥だという事は確定なんだろう?

 だったら教えてくれ。特に我が国から私の好きな銀色を奪い取ろうなど、それは私の怨敵だ。なんならカキン帝国の外交特使として、正式にハンター協会に情報開示を請求してもいい」

「ふむ」

「会長。ここは開示した方がよろしいかと」

「そうじゃな。嘘はついておらんようじゃし、いいじゃろう。パリストン、頼む」

「かしこまりました。銀翼の凶鳥とは第六災厄と認定された念能力だと思われるものです。人の目では見えないほど小さな物から大きな物まで存在し、寄生した相手が同意すると発動します。効果はその者が深層心理で願っていることが念能力として叶えられます。念能力については知っていますよね?」

「ああ、知っているとも。うろ覚えの部分もあるだろうが、しっかりと習ってきているからね。この子の事だろう?」

 

 試験管を取り出して蓋を開き、中身を落とすと体積が急激に膨れ上がってメイドの姿になる。殺したメイドではなく、私がイメージした通りのトリムマウだ。

 

「そうじゃな。しかし、銀か」

「銀ですね」

 

 警戒度が跳ね上がったね。臨戦態勢に入ったけれど、無視する。ここで私に手を出したらハンター協会は終わりだ。政治的にも物理的にも潰されるだろう。少なくともカキン帝国はこれを理由に宣戦布告までする可能性がある。また、私の念は私が死んだ程度では止まらない。何故なら保険があるからね。

 

「綺麗だろう? 二年前だったかな。王宮の庭に銀色の鳥が居たんだ。その姿に惚れこんでしまってね。それ以降、金より銀の物を集めるのが趣味になった。殺されかけた時も常温で液体となる銀色の金属があると聞いて取り寄せさせたんだよ。まさか赤ん坊の時から仕えていてくれたメイドが裏切るとは思わなくて油断した」

 

 思い出しながら目尻に涙を浮かべる。しかし、ネテロ会長もパリストンも平気な顔をしている。やはり効果はなしか。

 

「そのメイドはどうしたんじゃ?」

「うん? もちろん殺したよ。我がカキン帝国では王族の殺害や殺害しようとするのは当然、極刑だ。だから、私もこのトリムマウに取り込ませた。私は自分の事なんてほとんどメイド任せだからね。そんな時間があれば勉強する方が効率がいい。ともかく、メイドが居ないと困るから、水銀なら形が自由だろう? だからメイドの形にしてみたんだ。これが色々と便利でね」

「一つ聞きたい事があるんじゃが、よいかな?」

 

 話していると、ネテロ会長に遮られた。まあ、いいけどね。

 

「答えるかはわからないが、何かな?」

「その鳥はカキン帝国の王宮で確認されたのじゃな? 周りに他の人は――」

「私が見た時は──おっと、サービスタイムはここまでだ。私ばかり情報を提供するのは頂けないな」

「……それもそうですね。ですが、銀翼の凶鳥については貴国でも問題になっているはずですが……」

「はっはっはっ、たとえそうだとしても教えないよ。こちらの要求も聞いてもらわないとね。さっきまでのは現在、保護してくれているお礼だ。あまり譲歩しすぎると私が無能の烙印を押されてしまう。そうなれば王位の継承がしづらくなる。困るんだよね。それとも、継承戦になった時にハンター協会は私に全面協力をしてくれるのかな?」 してくれたら凄く嬉しい。まあ、無理だろうけど。

「なるほど、それは無理ですね。会長」 うん、知っていたとも。だから悲しくなんてないさ。本当だよ。

「まあ、確かにこちらだけが聞いても悪いな。そっちの願いを言ってみな」

「ありがとう、ネテロ会長。要求は三つだ。一つ目は護衛だ。それもただの護衛じゃない。ネテロ会長を護衛として数年ほど連れ歩きたい」

「「それは駄目!」」

 

 十二支んの二人が即座に否定してきた。まあ、そうなるのはわかっていたけどね。

 

「仕事に支障がでますから駄目ですね」

「では一ヶ月だけでどうだろうか? ただし、ここにネテロ会長による訓練を取り入れてもらいたい。ネテロ会長の念能力を使って私のトリムマウと戦ってもらい、念能力者として鍛えて欲しい。幻影旅団と戦っても死なないようにね」

「なるほどのう」

「一ヶ月くらいならいけないかな? 基本的にそちらの用事に合わせていいからね」

「それぐらいなら構いませんね。会長がそちらを頑張ってくれている間に私がやっておきますので」

「そうかそうか。なら良いかの」

「本当かい! それじゃあ、次だ。確か、念には神字というものがあるんだろう? 我が国にはそれについて知っている人はいても、詳しい人が居なかったから教えていただきたい。

 もしかしたら、私が習う時間がなかっただけかもしれないけどね。なんせ念というのを知ったのはこないだだし。

 それと三つ目のお願いは一日だけ、全力で私を護衛していただきたい。指定する日は後程連絡するし、訪問場所はククルーマウンテン。ゾルディック家だ。なので、ネテロ会長は当然として後数人は欲しいな。まあ、何事もなければ戦いにすらならないが」

「ゾルディック家か。ゼノが相手となると、確かにわし以外の適任はおらんじゃろう」

「そちらの方も了解しました」

 

流石にゾルディック家に一人で乗り込むつもりはない。ネテロ会長を連れていければ私が相手をするのはイルミ君ぐらいだろう。それでも厳しいが、平和的に話し合いをしようと思うので戦うことはないといいな。

 

「うん、私のお願いはこれぐらいかな」

「ゾルディック家の相手はともかく、神字とかでしたら構いませんね。よろしいですよね?」

「わしは護衛と実戦形式の修行をつけてやったらいいだけなんじゃろ? ゾルディック家に関しては茶を飲みにいくだけになるじゃろうし、構わんよ」

「ではそれで。こちらの要求は銀翼の凶鳥についての情報と、カキン帝国にある王宮の捜査ですね」

 

 まあ、当然だろうね。こちらの要求は概ね受け入れられているのである程度は受け入れないといけないが……

 

「王宮の調査については無理だ。私の決められる権限から逸脱している。といっても、私が帰国する時なら護衛として数人のハンターなら連れていけるだろう。だが、くれぐれも問題は起こさないでくれたまえよ。人選次第では拒否するからね」

「調査は勝手にしろということですか」

「内密にね。ただ、見付かった場合は処刑されるかも知れないから気をつけるように。私は庇うつもりはないよ。むしろ、率先して殺しにかかる。そうしないと私の立場がなくなるからね」

 

 ニコニコしながら告げると、後ろの二人は引いているようだけどパリストンと会長は普通だ。私は気にせず両手の指を合わせながら話していく。

 

「カキン帝国の調査は好きにするといい。入国許可はだしておこう。もちろん、他の王子について調べてくれてもいいよ。むしろ大歓迎だ」

「そりゃそうでしょうね。政敵ですもんね」

「うむ。むしろ失脚させるネタを掴んでくれたら言い値で買い取ってもいいぐらいだ。それと……ああ、そうだ。ハンターが作ったグリード・アイランドっていうゲームがあるよね。アレを二つほど欲しいな。くれたらベンジャミンお兄様に紹介してあげよう」

「それはそれは、第一王子を紹介していただけるなどありがたいですね。どんな感じでですか?」

「ハンターを王宮に入れたいんだろ? だったら十二支んや会長が軍事教練の名目でやってきたらお兄様は大喜びするだろう。何せ我が国の武力が上がるのだから。紹介した私にもメリットがある。もっとも、やりすぎても困るが」

「それは考えさせていただかないと駄目ですね」

「だろうね。その辺りは好きにしてくれ。一ヶ月間はここに居て訓練するから何時でもいいよ。その後は学校に入学したり、外交したりと忙しいだろうがね」

「学校ですか」

 

 全員が信じられないと言った感じだが、れっきとした事実だ。

 

「私は七歳だよ。これから学校に行って勉学に励むんだ。表向きは」

「表向き、ですか」「もちろんだとも。色々と行きたいところがあるからね。天空闘技場とか、ククルーマウンテンとか」

「ゾルディック家ですか」

「そうだよ。あそことコネを作っておいた方が都合がいいからね。なんなら彼等の血を欲しいとも思っている」

「そうですか、そちらはご自身で頑張ってください。それよりも銀翼の凶鳥についてです。貴女は知りませんか?」

 

 おや、話を戻されてしまったね。まあ、構わないが。

 

「銀翼の凶鳥かどうかは知らないが、私は知っている。多分、その力を使ってトリムマウを生み出しているんだろうからね。そして、噂だが我がカキン帝国でも不自然に死亡している案件があるとメイド達が話していたのを聞いた覚えがある。

 また、それによってライオンが進化したであろう生物が繁殖し、その生物にさらに銀翼の凶鳥が取り憑いて進化した場面を目撃している。襲われたから殺したけれどね。その時にモモゼお姉様が……ん? 待てよ。ねえ、念能力者なら意識不明になっている人を助けたりできるかな?」

「可能性はありますね。ただ、どういう状況かによりますね」

「その進化した奴に襲われた時にね。攻撃を受けて気を失ったまま意識が戻らないんだ」

「洗礼ですか。そのままなら死にますね」

「少し前に習ったが、確かオーラが洩れて死ぬんだろう? それなら大丈夫だ。王宮に居る念能力者に協力してもらいながら、私の力でお姉様の身体を操作してオーラが漏れ出ないようにしてある」

「会長」

「それなら可能性はあるな」

「そうか、よかった。うん、それじゃ、モモゼお姉様を治療できたら私からも他の王子を調べたり、銀翼の凶鳥について調べたりしよう。なにせ師匠のお願いだからね」

 

 ああ、調べるとも。銀翼の凶鳥によってもたらされた被害がどの程度であり、それによっては救済などの匙加減を変えなければいけない。しかし、代価が嫌なら彼等は願わなければいい。自らの力で願いを叶えるために努力するか、楽な方を命懸けで叶えるか。実に素晴らしい二択じゃないか。私と同じく命を賭けたまえ。そしてその輝きを見せてくれ。

 

「ふふふ、モモゼお姉様が助かる道筋ができて嬉しいよ。私の命が尽きる前に助けてあげたいからね」

「除念しましょうか?」

「除念か。した場合はどうなるんだい?」

「念能力は残りますが、コントロールができなくなるので弱体化します」

「なら、断るよ。どうせ私の願いはまだまだ叶わないだろうし、現状では弱体化すると困る。一ヶ月間の修行を終えて、しばらく様子をみてからかな。そうじゃないと幻影旅団に殺されてしまうかもしれないしね」

「なるほど。しかし、貴女の願いは生き残ることではない?」

「私はカキン帝国の王族、ライネス・ホイコーロだぞ。なら、願うのは一つだろう。私が王になる事だ。逆説的に考えたら、私が王になるまで死なないという可能性もあるかもね。だから解除はしない。本当にやばければ頼むけどね」

「なるほどなるほど。貴女は我々を徹底的に利用するつもりですね」

「おや、嫌なのかい? そちらも私を利用してくれたらいい。とてもいい感じじゃないか」

「ええ、そうですね。同意します」

「いいね、君。私の下に来ないかい? 給料はハンターだからわからないが、面白い事を色々と教えてあげられるよ。王族の裏話とか、ドロドロの宮廷喜劇とかね」

「コイツを勧誘されるのは困るぜ、嬢ちゃんよ」

「おっと失礼。とりあえずパリストン君とネテロ会長には私のホームコードを渡しておく。用事があればかけてきてくれたまえ。出られるかは保証できないが。それでメンチ君はどこにいるのかな。彼女と会うことも私の目的なのだが……」

「専属の護衛と料理人ですね」

「ああ、そうだ。もちろん、条件次第だけどね。彼女が秘境に行きたいというのなら、私もついていこう。とても楽しそうだしねえ」

「「やめろ!」」

 

 王族を連れて魔獣があふれる人外魔境といえる秘境に食材求めて旅をする。うん、意味がわからないよ。

 

「あははは、とても面白いお人のようですね」

「褒めても何もでないよ。むしろこっちが要求する。ハンターライセンスが欲しいなあ~」

「駄目だ。12歳まで待って試験を受けな」

「残念だよ、本当に。後五年、待とうか。で、彼女は?」

「彼女は今、貴女を歓迎する料理を急遽作っていますよ。本当は明日の予定でしたからね」

「それは失礼したね。うん、本当に楽しみだ」

「絶対に唸らせてやるといっていたわい」

「彼女にとっても自らの腕がどこまで通用するかを試せる機会ですからね」

「指定したかいがあるというものだよ。そうだ、ネテロ会長。私を本気で鍛えてくれたら……良い情報を貴方にあげよう。あげた情報はくれぐれも漏らさないでくれるという前提だけどね」

「ほう。わしに関わることか?」

「ああ、関わっている事だとも。私達カキン帝国と、アイザック・ネテロにね」

「いいぜ、徹底的に鍛えてやる。言っておくが、王族だからって容赦しないからな」

「もちろんだとも。そうじゃないと意味がない。では、早速やろうじゃないか。メンチ君の料理ができるまでね」

 

 立ち上がって会長をみると、彼も納得してくれたようで立ち上がって私の前を歩いていく。それに後ろからちょこちょこと小走りでついていく。

 

 

 

 

 

 

 

「で、あの子はどうだったの~?」

「いや~凄いですね。ほとんど嘘をついていませんよ」

「じゃあ、あの子は白ですか?」

「グレーですね。嘘はついていないし、真実も告げています。ですが、関係ないとはいっていませんし、否定したのは銀翼の凶鳥について知らなかったということだけです。ですが、政治家として考えると言質を取らさないように立ちまわったともいえます」

「その銀翼の凶鳥について知らなかったというのは否定した事にならないのかな~?」

「なりませんよ。そもそも銀翼の凶鳥という名前は我々が勝手につけた名前だ。制作者が知らなくても何もおかしくありません」

「だが、彼女も契約者だろう?」

「そう擬態しているだけかもしれませんし、契約者とも言っていませんね」

「あ~っ!?」

「どう考えても七歳児じゃないわよね!」

「ですね。すくなくとも七歳ではありません。会長の威圧にも内心はわかりませんが、流していました。念能力について一通り知っているのなら、感じていたはずです。それがオーラの乱れすらありませんでした」

「それはこちらからも確認した。気付いていないだけかと思ったが……」

「隠蔽能力かな~? それでも態度に出さないのは凄いけど~私、すこし~な、なんでもない~」

 

 

「くっくく、彼女も会長と同じ領域に辿り着ける逸材ですね。ああ、これは楽しくなってきました。会長の次の遊び相手にしてもいいかもしれませんね

 

 

 

 

 

 



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11話

毎日投降間に合わなかったぁぁぁっ!


 

 

 

 

 アイザック・ネテロ

 

 

 

 ライネス・ホイコーロを連れてハンター協会にある訓練所まで移動していくのじゃが、彼女はあっちにふらふら、こっちにふらふらと興味がありそうなところに意識がやられておる。見た感じは本当に七歳の子供じゃが、そのオーラは一切乱れていない。

 演技かと思えるが、それもない。本当に楽しそうに笑顔でくるくる回りながら見学しておる。こんなところ見ても何も面白い物はないと思うんじゃがな。

 

「そんなに興味深いかの?」

「もちろんだとも! ハンター協会だよ、ハンター協会! まっ、ま……」

「ま?」

「こほん。お母様にハンターの事を教えられてから、とても興味深くてね。是非とも自分の眼で見てみたいと思っていたのだよ。いやぁ、願いが叶ってよかったよ」

 

 ママと言いかけて慌てて戻したんじゃな。今のように楽しんでいるところで不意を突けば情報をボロっと零してくれるとありがたいが……流石にありえんか。そのような奴を外交特使にするはずもないの。

 

「ネテロ会長の……ああ、差し支えなければおじいちゃんと呼んでいいかな? それとも師匠の方がいい? どちらがいいだろうか」

「そうじゃなぁ……」

 

 アイツ、孫を作ったのか知らんし、このぐらいの子供におじいちゃんと呼ばれるのもいいものではあるが、本性がわからんしの。

 

「とりあえず一ヶ月は師匠じゃな」

「なんだ、おじいちゃんが良かったんだが、仕方ないね。祖父というのは私に居なかったから、少し楽しみだったんだがね」

「そうじゃのぉ……わしに勝てたら考えてやってもよいぞ」

「無理難題だね。いや、もちろんそのつもりではあるがね」

 

 クスクスと笑いながら表情豊かに接してきおる。

 

「お主はオーラを隠蔽しているのかの?」

「ん~ライネスでいいよ、師匠。師匠だから教えるけれど、その答えはイエス、だ。念能力者はオーラを見て色々と判断できると聞いた。だからさ、外交特使になるという事で教えてくれた者達に言われたんだ。私はまだまだ念の初心者で子供だ。だから、オーラを読まれない発を作れとね。もっとも、メモリの関係で制約と誓約をしたがね。私の力はほぼトリムマウに注ぎ込まれているから当然だ。この効果はすでに実証された。あの幻影旅団だって油断してくれたんだ。おかげでこうして私は今も生きている」

「確かに一般人のように偽装されておるのぉ。整いすぎている感はあるが」

「そこは修正すべき点だね。私の環境では念能力者を見る為には危険を冒さないといけない。だから、今まではできなかったが、ここでなら他の念能力者と一般人を見て統計が取れる。後はそれに合わせて微調整をすれば何処にでもいる七歳の幼くか弱い女の子の完成だ」

 

 両手を合わせて言ってくるが、内容がとんでもないの。こいつを本当に鍛えていいのか、悩むのぉ。

 

「どうしたのかな? 悩み事なら聞いてあげるよ? 解決できるかはわからないがね」

「そうじゃな。まあ、それは後じゃ。お主の系統は?」

「それは秘密だ。いや、答えてもいいんだが……実は私も知らないのだよ。なんせ念能力者というのは相手に特化すればジャイアントキリングが可能だろう? だから、こちらに来てからやろうと思っていたんだ。まあ、操作系か具現化系だと思うけどね」

「なら、まずは水見式からじゃな」

「水見式ってオーラの系統を調べる方法だね。それは時間が勿体無いからトリムの相手を頼むよ。一ヶ月でどれだけ強くなれるか、そこで私の生存戦略が変わってくるんだ。時間が無い」

 

 どんなタイプか教えるつもりはないということか。互いに警戒しながらやっとるしの。

 

「あ、やっぱりやろうか。師匠がトリムと戦っている間にすればいいだけだしね。師匠になら教えても大丈夫だろう」

「用意はさせるかの」

 

 思い直したか。次の願いを叶えやすくする手段かもしれんが……どうでるかの? 

 

「話している間に到着じゃ。ここが訓練所じゃよ」

「ありがとう」

 

 ハンター協会にある地下訓練所。ここは神字を使って強化を施してあるから、簡単には壊れん。

 

「ふむ。中には誰も居ないが、これが神字か。大変興味深い」

「さて、まずは着替えるとするか。お主は着替えはあるかの?」

「私はないが、見ているだけなのでいらないよ」

「ふむ。それならまずはこのままでやって実力を見るか」

「了解した。それじゃあ、始めよう」

 

 わしが真ん中に立つと、彼女は端に移動して試験管を取り出す。その中身は水銀じゃな。蓋を開けて中身を床に零しながら可愛らしい声でつぶやく。

 

Fervor,mei Sanguis(沸き立て、我が血潮)―術式起動。さあ、訓練の始まりだ。相手は格上だが、全力で相手をし、技術を盗めトリム」

「かしこまりました、お嬢様」

「その呪文みたいなのはいるのかのう?」

「何を言っているんだい! 魔法少女みたいでカッコイイじゃないか」

「そ、そうかの……」

 

 やっぱり子供じゃな、うん。

 

「それで師匠。一つ聞きたいのだが、こちらは殺す気でいいのかな? どうせ敵わないのだから、殺す気でいきたいのだが……」

「もっともな意見じゃが、あくまでも訓練じゃしの。うむ、互いの念を攻撃対象としようかの。わしも間違って王族を殺してしまうのはまずいしの」

「了解した。では、よろしく頼むよ」

「行くぜ」

 

 合掌して自らの背後に血涙を流す巨大な千手観音像を顕現させる。幻影旅団を退けられたのなら、百式観音(ひゃくしきかんのん)を使わないと危ない実力じゃろう。まずは様子見として壱乃掌じゃな。

 

「何時でも来るといい」

「トリム、行け」

 

 わしを指さしたライネスの指示に従い、水銀でできたメイド、トリムマウというらしいのが突撃してくる。わしは百式観音を動かし、掌打を叩き込む。0.1秒未満の攻撃に対応できずに粉砕される。床は陥没し、手応えがあったが、果たしてどうなるかのお。

 

「流石だねぇ。私のトリムが瞬殺か。うん、とっても素晴らしい。これがかの英雄が至った領域なんだね。目指しがいがあるよ」

 

 何時の間にか銀色の椅子を生み出し、そこに座りながらこちらを鑑賞……いや、観察しておるライネスが拍手をしながら声を発する。すると陥没した床の周りから中心部に弾け飛んだ銀色の粒が集まっていき、メイドの女性へと姿が元に戻っていく。

 

「それじゃあ、続きをお願いしようかな」

 

 まあ、潰せんよな。水銀は水と金属の性質を持つから、蒸発させたりせんかぎりは潰しようがないか。こういう時こそ、念能力者を狙うのが一番じゃが、今回はそういう戦いではないしの。狙うはライネスのオーラ切れじゃが、試してみるか。考えようによっては無限サンドバッグのようなもんじゃし。

 

「やるぞ」

「では、行こうか。トリム、今度は潰されても突撃してみてくれ。もちろん、回避も試みるように」

「かしこまりました」

 

 突撃してくるので、参乃掌を発動する。観音像が二つの手を打ち合わせて挟み込んで潰す。トリムマウと呼ばれた念獣が回避のためか、姿が瞬時に崩れる。だが、崩れ切る前に挟み込むが、掌から抜け落ちる。

 逃れた部分は別に動いてこちらに突撃してきている事から、あくまでも水銀の集合体と考えるべきか。これはかなり厄介じゃな。物理攻撃がほぼ意味をなさん。

 

「乱打ならどうじゃ?」

 

 叩き潰し、弾き飛ばし、一切近づけない。全てライネスの方向へと帰していく。だというのにライネスは楽しそうにこちらを見詰めている。

 

「トリム、散弾だ。全てを高速で撃ちだしてみてくれ。そうだね。大きさは一ミリだ」

「イエス、マスター」

 

 今度はメイドの身体が無数の粒となって高速に飛んでくるが、対処は可能だ。全て壱乃掌で叩き落してやる。するとライネスは口元に手をやりながら笑いだす。

 

「次だ。加速が足りない。速度が圧倒的に不足している。前に球体を一つ形成。後ろにも爆発用の球体を形成。発射後、後者を爆破してみてくれ」

 

 ライネスが言った通りにメイドが行うと、加速が急激に上がった上に部屋中に散らばって室内をボロボロにしていきやがる。

 

「ううむ、これはコントロールが無理そうだね。トリム、速度を覚えて通常でも出せるようにしたまえ。それとその状態から百式観音に向かって収束してみたまえ。私の方への被害は気にしなくていい」

「ほう」

 

 百式観音の名を知っておるということは誰かから聞いたか、調べたか。それとも見て判断したか。わしのファンじゃと言うておったし調べたのが濃厚そうじゃな。色んなところでわしは戦ってきたのじゃし、どこで漏れていても不思議ではない。どちらにしても油断はできんがの。

 部屋中から、床も合わせてほぼ全方位からの攻撃。しっかりとわしは避けられておるが、まだまだ甘いの。全て掌打の連打で撃ち落とす。

 

「なるほど。現状では私に勝ち目はないようだ。面制圧でも駄目となると、奇襲攻撃や罠の必要性もある。うん、これは後々考えよう。トリム、人型で挑んでくれ。そうだね、打ち返してみようか」

「かしこまりました、お嬢様」

 

 メイド姿で突撃してくるので、掌打を放つ。相手は反応して腕をハンマーへと変化させて殴ってくる。威力が足りずにそのまま叩き潰したが、次の瞬間には百式観音の手が無数の銀の杭により串刺しになり、出てきた杭から人型へと戻る。こちらも手を消せば何の問題もない。

 

「私の場合は攻撃の瞬間を知覚してからでは遅いな。予測しなくてはいけないが、トリムなら可能だろう。君は城だって数秒で探査できるんだ。その精度を全て百式観音に向けてくれ」

「本当に優秀な奴じゃな」

「だろう? トリムは私の至高だとも。自己学習もしてくれるからね。この一カ月で百式観音と同等の力を与えてみたいと思っている。まあ、無理だろうが」

「やられたらたまったもんじぇねえよ」

「まったくだ」

 

 切り札は切らずに戦いながら攻略法を探すかの。この嬢ちゃんは黒の可能性が高い。ただの契約者かもしれないし、同じホイコーロだからこそ、スケープゴートとしているのかもしれないしの。銀色を使うとか、あからさますぎるじゃろ。それにそもそもハンター協会まで乗り込んで来るというのも変な話じゃ。大人しく王宮に籠って居ればバレる可能性は低いんじゃからの。それにこやつはまるで操り人形みたいにも見える。

 どちらにせよ、わしがやることはかわらん。こいつを徹底的に鍛えぬいて信頼を勝ち取り、情報を引き抜く。そして、カキン帝国の内部へ探りを入れる足掛かりとする。利用させてもらうぞ、小娘。それがお主の望みでもあろう?

 

 

 

 

 

 




ネテロ会長から見たライネス。まるで人形。間違っていない。理想の自分。ライネス・エルメロイ・アーチゾルテになるためにロールプレイをしているので、誰かの操り人形にみえてしまうという感じ。

戦えているようにみえますが、あくまでもこれは本体、ライネスへの攻撃が禁止だからです。ライネスに攻撃がありになると瞬殺に近いことになります。


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12話

身近いです。次はどれぐらいになるかわかりませんが、旅団サイド


 

 

 

 あははは、素晴らしい! 本当に素晴らしい! これが百式観音! 鍛え抜かれて圧縮された膨大なオーラ。それに伴う確固たるネテロ会長の自信。ああ、確かに念能力とは想いの力で強化される。それを行うためには確固たる自分の主柱がないといけない。

 おそらく、ネテロ会長の主柱は一日一万回の正拳突きだろう。私にとっての主柱とは私がライネス・エルメロイ・アーチゾルテであるということ。しかも英霊と至った司馬懿がライネス・エルメロイ・アーチゾルテを器として乗り移った疑似サーヴァントだ。また、トリムマウと月霊髄液はエルメロイの至上礼装だ。それも脈々と受け継がれてきた魔術刻印を利用し、稀代の天才魔術師ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが作り出した様々な魔術礼装のなかでも、最強の一品だ。

 そのようなエルメロイの至上礼装は百式観音に劣るだろうか? 否! 断じて否。エルメロイは延々と十世代も根源を目指して延々と魔術刻印を強化してきたのだ。

 ホイコーロも同じであり、その質はエルメロイに劣るかもしれないが合わせれば十分だ。だからこそ、素質という面では私はネテロ会長に劣っていることはないし、トリムマウが百式観音に劣っているとも思わない。

 劣っているのは念の習熟度と戦闘経験などだ。操っているのが私という劣化コピーだからこそ、起こりうることは理解している。ならばやるしかないだろう。

 圧倒的な気配と殺気に押し潰されそうになろうと、屈服などしない。ましてやHUNTER×HUNTERの漫画でも好きだった人が相手だ。こんなところで終わっては勿体ない。そうだろう、私。

 

「さあ、どんどん行こうじゃないか。私のオーラはまだまだあるぞ。トリム、君ならできるはずだ。受け取るがいい」

 

 私のオーラは膨大だ。本当に膨大だ。もうすぐ億に届くほどの生命体から願いの代価として死者の念を貰っている。代償の数はかなり酷いが、それでも集めている桁が違う。例え八割が消えたとしても、残り二割は相応に膨大な量になる。それこそネテロ会長の総量を超えるほどに。

 

「まあ、扱いきれないのだがね」

 

 私の使えるオーラの半分を与えたトリムが先程よりも高速で移動し、身体を壊しながら前に進み、その度に破壊され、再生する。その間に私は四分の一を瞳に回してネテロ会長の操作能力をお手本にしていく。

 

 

 

 

 

 三時間。ネテロ会長とのバトルで私のオーラが切れた。正確にはトリムマウに与えた半分のオーラが、だ。まだ余裕はあるが、流石に私が使える全オーラの四分の一では何かあれば危険だ。

 トリムマウの動きは開始とは違い、拙い攻撃手段だったのが洗練されてきていた。まあ、それでもネテロ会長の百式観音には届かない。

 

「いやはや、とても素晴らしい時間だ。私のトリムは耐久性は高いが速度と火力が不足しているね」

「わしからしたら、その年齢でここまでやれるのは末恐ろしいんじゃがな」

「何を言っているんだい。実際の戦闘になったら、私は瞬殺だろうよ。トリムごと殴り飛ばされたら終わりだ。吹き飛ぶ方向が壁なら本当に終わりだろうよ」

「じゃが、そのままで終わるつもりはないんじゃろ?」

「当然だとも。私は負けず嫌いでね」

「まあ、わしも楽しませてもらえとるしいいがの。続きはしなくていいのかの?」

「私も流石に疲れたよ。もうオーラがほぼ無い。それに開始からそろそろ三時間だ。料理ができているんじゃないかな?」

「それもそうじゃな。食堂に案内するかの~」

「頼むよ、師匠。トリムはお休み」

 

 試験管にトリムマウを吸い込ませ、蓋を閉じる。随分と小さくなってしまったが仕方があるまい。

 

「こっちじゃよ」

 

 ネテロ会長の後ろを歩きながら、食堂を進んでいく。

 

「そういえば、お主はわしの百式観音を知っておったようじゃな」

「ああ、もちろんだとも。私は貴方のファンだからね。国の諜報部まで使って出来る限りは調べたよ。もちろん、他のハンターについても調査している。その中でメンチ君について知ったんだ」

「カキン帝国の諜報部は優秀なようじゃの」

「もちろんだとも。国を維持し、大きくするには情報が何よりも大事だ。そちらに関してはどこの国も力を入れているだろう? むろん、ハンター協会もね」

「ああ、そうじゃな。パリストンが詳しいはずじゃよ」

「なら、色々と教えてもらうのもありかもしれないね」

「アイツに教えを乞おうとするとはライネス嬢ちゃんはチャレンジャーじゃな」

「否定はしないよ」

 

 話している間に食堂に到着した。ネテロ会長が扉を開けると、とても良い匂いが漂ってくる。部屋の中には女性と大きな、巨大な男性が待っていた。

 

「来たわね」

「メンチ、言い方に気をつけないと」

「そうだった。お待たせ致しました」

「別に普段通りで構わないよ。私も堅苦しいのは苦手でね」

「それは助かるわ」

 

 自己紹介を聞いていく。彼女はメンチ。彼女は一度食べたものの味は忘れない。短気で食に対するプライドが高く、キレると殊更に融通が利かなくなる。もう一人はブハラ。大柄な体格で、恐ろしいほどの大食漢だ。

 

「フルコースを用意してみたけど、口に合うかしら?」

「大丈夫だとは思うが、量はあまり食べられないよ」

 

 この身体になってから小食になっている。女の子だし、あまり食べて太るのも困る。太ったライネスとかありえない。

 

「それはわかっているわ。会長も食べますよね?」

「よいかの?」

「もちろんだとも。一人で食べるよりも皆で食べる方が美味しいからね」

 

 席について皆で食事を開始する。私はカキン帝国の王子であり、専属の料理人もいる。だけど、毒物が入っている可能性もあるし、警戒しながらマナーを守りつつの食事はとても大変だ。だが、今は少なくともマナーを守るだけでいい。

 メンチは料理に対する情熱は何があっても信頼できる。彼女は料理に毒なんて絶対に入れない。だからこそ、私の料理人とするに相応しい。そして、何より──

 

「うん、あまり食べられないがとても美味しいよ。これほどの料理を食べたのは生まれてから初めてだ」

「本当!」

「もちろんだとも。なので、これからしばらくよろしくお願いしたい。私達王族にとって信頼できる料理人というのは得難いものでね。もちろん護衛としても期待しているよ」

「それは……」

「だが、王族を殺すには食事に少量ずつ毒物を混ぜるのが手っ取り早く安全なんだ。バレない程度に毒物を蓄積させる。私もこれをやられていた。だから、メンチ君を雇っている間に私の念獣に料理を教えてやってくれ。もちろん、相応の礼金は支払うし、私が居ればハンターでも入りにくい場所だって入れる可能性がある。どうだろうか?」

「わかったわ。いいわよ、乗ってあげる。私の料理の腕を気に入ってくれたみたいだしね。ただ、数日いなくなる日があるのはいいかしら? 食材の確保に行ったりもするし……」

「それはむろん、私もついていくとも」

「ちょっ!」

「なに、護衛は気にしなくていい。一ヶ月間、ネテロ会長に鍛えてもらうからね」

「会長、大丈夫なんですか?」

「ああ、現状でも普通の魔獣なら相手にもならんじゃろう。メンチ君でも勝てないかもしれないぞ」

「そ、そんなに……」

「そういうわけでよろしく頼むよ。なに、どうしても嫌ならついていかないから安心してくれたまえ」

「そういうことならわかったわ」

 

 そのまま食事を行い、楽しい時間を過ごす事になった。

 

 

 

 

「メンチ、大丈夫なの?」

「パリストンからは彼女を餌付けしておけって言われたから、できる限り頑張るわよ。護衛の時は一緒に頼むわね」

「任せておいて」

 

 

 

 

 



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13話

休日出勤つかれた。
しかし、五千字・・・少なく感じるね。ほぼ会話文なしだと。

誤字脱字報告ありがとうございます。感想もとても嬉しいです。それと幻影旅団サイドまでいけなかったです。休日出勤がなければ・・・・


 

 楽しい楽しい食事会が何事もなく終わる。とても楽しく、料理にも満足した私は予定通りにメンチ君を雇う事にする。そんな訳で彼女をハンター協会から借りている部屋に連れこみ、二人っきりになって事前に作成しておいた契約書を渡す。

 彼女は契約内容を何度も確認してから、互いに署名と実印を押してくれた。これで次の準備に入れる。というのも、彼女が望む最高のキッチンを購入して我が家に取り付けないといけない。もちろん、お金に糸目はつけるつもりはない。これは私のためでもあるのだからね。

 

「さて、メンチ君。好きなようにキッチンや冷蔵庫などを整えてくれ」

 

 メンチ君をパソコンが有る場所まで連れていき、私のIDとパスワードであるホームページにアクセスする。彼女に見せたホームページは王室などVIPが自らの家で雇っている料理人が使う専用ページで、カキン帝国以外にも様々な国の最高級キッチンなどが載っている。

 どれをとっても千万ジェニーは軽く超え、億単位のもざらにある。また、いくらお金を積んでも買えないような物まで載せられているので、シングルハンターになっていないメンチ君にとっては宝の山だろう。だからか、彼女はキラキラした表情で……否。鬼気迫る勢いで表示されているカタログを見ていく。

 

「一応、見本を持ってこさせたり、使用感覚を試したりもできるはずだ」

「マジ!?」

「本当だ。それとここで購入する包丁やフライパンなどは契約期間が終われば、持っていってもらっていい。だから、本気で選んで欲しい」

「よっしゃー!」

「それと予備を含めて包丁やフライパンは五本ずつ購入してくれ。トリム用にも必要だからね」

「任せて。念獣に料理を覚えさせようなんて、馬鹿みたいに思うけれど包丁をくれるならなんでもいいわ」

「そうかそうか。ちなみにお勧めはジャポンの職人が丹精込めて鍛造した包丁だね。刀と同じ作り方をしていると聞いた事がある」

 

 馬鹿と言われたが、私もその通りだと思うので仕方がない。だけど、メイドさんの料理を食べたいじゃないか。メイドさん、メイドさん……いい事を思いついた。

 

「へぇ~」

 

 メンチ君はこちらに視線もやらずにホームページを見ているので、その間に携帯を取り出して彼女のスリーサイズを諜報部から寄越させる。

 護衛にすると決めて依頼をした時点で、私が誤魔化しているなんちゃって諜報部ではなく、カキン帝国が誇る本物の諜報部が調べて全て把握しているのだ。そんな訳でメンチ君が購入した服からサイズを逆算したらいいだけの簡単な仕事だね。さあ、彼女の仕事着を依頼しよう。

 

「私は詳しい事は知らないから、ホームページに載っている電話番号で担当を呼び出して聞けばいいと思うよ。見本を送ってくると思うし、プレゼンをしに来るだろう」

「わかったわ」

 

 携帯を操作して注文を終わらせたので、私は部屋にあるコップを自分で取る。トリムマウは現在、休眠状態だ。百式観音との戦いに伴って得た経験を自己に適応させているのだろう。簡単に言えばアップデート中という感じか。急激に私のオーラが吸われているが、気にしても仕方あるまい。どうせトリムマウがアップデートしたら、今度は月霊髄液にフィートバックさせるのでオーラの消費量は跳ね上がること請け合いだ。

 

「メンチ君。私は風呂に入っているから、何かあれば呼んでくれ」

「ええ、ゆっくりしてくるといいわ。私もこれに集中するから」

「了解した」

 

 さて、着替えのパジャマを取ってから風呂場に移動し、鍵をかける。

 服を脱いで洗濯用の籠に入れ、浴室に移動する。浴室に移動し、ノズルを回してシャワーを浴びて汗を流しながらゆっくりと気を抜いていく。すると嫌な汗が次々と溢れ出ては流れていく。

 

 百式観音、怖すぎ! ネテロ会長の殺気やばい! メルエム戦とかカッコよくて好きだし、死んで泣いちゃったけどアレはやばい! アレは勝てない! 

 

 身体全体からとめどなく冷汗が流れ出てはシャワーから出るお湯で流されていくが、身体が急激に震えてくる。

 ライネス・エルメロイ・アーチゾルテのロールプレイを止めたらこれだ。それにトリムマウが弾き飛ばされて来た時は、こっちまで散弾みたいに襲ってきたので命中していれば死んでいたかもしれない。いや、月霊髄液があるから大丈夫だけど、死ぬかと思った。

 本当に会長に勝てるのかわからないが、やるしかない。メルエムにネテロ会長が殺されることが、暗黒大陸編に進む要因の一つだと思われるからだ。

 ネテロ会長がその気になればビヨンド・ネテロだって止められるかもしれないし、パリストンも離れないだろう。なんせ遊び相手の会長が生きているのだから。アレ、なんだろう……なんだか寒気が更にしてくるけれど気のせいのはずだ。きっとそうにチガイナイ。

 と、とにかくメルエムをどうにかして殺すか、懐柔してネテロ会長が死なないようにする。無理だったら……ハンター協会を乗っ取る事も考慮するべきかも。うん、無理かな。ハンターとして活動する時間が足りなさすぎるしね。

 となると、やはり自前の戦力が必要になる。そもそも私の、トリムマウの天敵とかも現れるだろうから、その対策を部下……弟子達にさせる予定だ。何も私一人で解決することはないのだからね。

 よし、やる事は決まった。予定通り私個人の所有戦力を増やそう。候補は色々とあるが、男としてはやはり男性よりも女性がいい。この身体自体は女性だし、襲われてもかなわないからね。私に精神的BLはない。相手がいる男性はよしとしてもいいが。

 では、誰を手に入れるかだ。ネフェルピトーとカルトはまず現状では無理だ。そもそも性別もわからないしな。そう考えると、HUNTER×HUNTERの世界で死亡して悲しんだ相手がいい。

 第一候補はポンズ。彼女の付属品としてポックルも一応、候補には入れておこう。彼も死んでしまうからね。

 第二候補はネオン・ノストラード。彼女の占いは有用だ。また、明言はされていないが、クロロの本から念能力が消えたという事は死んだということだ。どうせ死んでしまうのだから助けてもいいだろう。クロロに利用される前にこちらで確保すればどうにかなる。問題は彼女の趣味をどうするかだね。人体収集家とかツェリードニヒお兄様と同じ趣味とかない。

 当然、原作にはでていない子供達も、今から鍛えることで十分に使い物になるだろう。願望としては事件簿ででてくる弟子のグレイやジャック・ザ・リッパーとかが望ましい。うん、やはり孤児や流星街から子供を引き取って育てるのがベストか。

 他にも銀の鳥で念能力を覚醒させ、除念された子達を仲間に率いれる。それなら私の制約と誓約が発動する事はない。願いを叶えるのは銀の鳥に寄生されていることが条件の一つなのだから。

 それともう一つ。銀の鳥で死んだ者達を私の念で念獣として再現するのを本格的に考えてみよう。イスカンダルが使っていた王の軍勢みたいに。いや、どちらかというとDies irae(ディエス・イレ)の獣殿か。まあ、一番手っ取り早いのは暗黒大陸の生物を銀の鳥に寄生させ、そいつが死んだ後に念を回収して念獣にすることだろう。こちらは銀の鳥が、暗黒大陸まで到達できていないので時間がかかる。

 

 やはり、現状で出来る限りの事をするしかない。王になり、生き残り、この世界を楽しむためにもライネス・エルメロイ・アーチゾルテとして突き進もう。

 

 決意を新たにしてから鏡を見ると、綺麗な金色の髪の毛をボブカットにした可愛らしい女の子が青白い表情で恐怖に震えているのが見える。見ているだけで庇護欲や母性本能を掻き立ててきそうだ。だが、そんなものは必要ない。

 

「私は(ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ)だ」

 

 鏡に触れてあちらの私と掌を、額を、瞳を合わせて告げる。そも、鏡とはロード・エルメロイ二世(ウェイバー・ベルベット)曰く、人類が手にした異界を覗く道具だ。鏡の中の私は本物ではないが、本物である私と照応していると考えられる。鏡に映し出された影は本質と照応していても、それその者ではない。

 だが、影に干渉する事によって本質そのものを書き換えることができる。これが呪いの本質であり、魔術とは根源の影にすぎないこの世界を変質させる技術とのことだ。

 では、異界に写っている私とは、それすなわちこの身体の持ち主であるライネス・エルメロイ・アーチゾルテに他ならない。

 そう思えば鏡の中にいる(ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ)はニヤリと笑う。いつの間にか表情も小悪魔的な笑顔になり、金色の瞳には力が自信に裏付けされた力が宿っているし、身に纏う生気(オーラ)が溢れ出ているように見える。なら、鏡の中に居る私を現実に居る私と照応させ、書き換える。

 

「ライネス・ホイコーロにして、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。それが今の私だ。そうだろう?」

 

 鏡の中に居る私は瞳を見開き、楽しそうに、本当に楽しそうにしている。だから、くるりと回り、何も入っていない浴槽に入っていく。何も入っていない状態のまま、座って身体を横たえる。

 小さな身体では大人用の浴槽は身体のほぼ全てが入るので、そのまま天井を見ながら水銀を具現化していく。

 次第に身体が水銀によって浮かび上がり、頭が出せるようなところで自分の上からも水銀を生み出す。

 水銀に浸かりながら鏡を見ると、あちらのライネス・ホイコーロ(ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ)も楽しそうにしている。

 問題無い事を確認してから、月霊髄液を触手のようにして携帯を手繰り寄せる。この触手も愛嬌があって可愛らしいので、携帯を受け取ってから軽く撫でてやる。すると私の頬に擦りつけて甘えてきたので可愛がる。

 

「さて、と」

 

 携帯からクロロ達に電話を行う。この会話は聞かれてもなんの問題も無い内容にするから大丈夫だ。もちろん秘匿回線ではある。

 

『取引の準備ができたか』

「ああ、できたよ。一応、こちらにしばらく住むだろうから、配送を願いたい。私の荷物と一緒に持ってきてくれ。受け取り場所は……」

 

 住む場所をハンター協会だとしっかりと教えて牽制しておく。それと、ホテルで駄目になった荷物を配送してもらう。着替えや下着とか、生活雑貨が必要だからだ。これらを持ってきてもらうついでに緋の目も混ぜて運んでもらうというわけだ。

 

『配送か。受けたまわろう』

「お願いするよ」

 

 クロロは聡明なので、業者として潜り込んで来ればいいと理解してくれる。後は実際にこちらが手配して、幻影旅団が受け取って運んでくる。中身を受け取って箱の中にフェイタンの腕を入れて返せば取引は終わりだ。

 

「服装も相応しいのでお願いする」

『準備しておく』

 

 集合場所などの軽い相談を終えてから電話を切る。すぐに別の者に電話して必要な品を手配し、合流場所を伝えて、幻影旅団を配送員ということにして向こうにも伝えたのでこれで大丈夫だ。本当に必要という理由をつけるためにジャポンの民族衣装、和服を注文しておいた。マチお姉ちゃんがいるから、和服の着付けをしてもらえる。この時は必然的に、二人っきりになれるだろう。なれないかもしれないけど、渡す方法はいくらでもある。それこそこちらはコインロッカーに入れておいてもいいのだしね。

 

 

 

 

 

 



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14話

あれ、なんか後半がモンハンになってる。

後半のラストは汚い表現が一部含まれます。嫌な人は流し読みしていいです。ライネスちゃんの大事な物が汚され、汚されるだけです。


 

 

 マチ

 

 

 ライネス・ホイコーロから連絡があり、私とフェイタン。それとシャルナークがハンター協会へと向かう事になった。私とフェイタンは指定されているし、逆に来るなと禁止されている団長とパクは来れない。なので私達の中で比較的、ちゃんと対応ができるシャルナークが選ばれたというわけね。

 選ばれた私達は現在、スーツ姿で街中にあるカフェでお茶をしながら相手を待っている。予定としてはここでホイコーロの関係者と落ち合い、品物を受け取ってからハンター協会に向かう予定だ。

 実際に注文している様々な品物に緋の目を混ぜて届け、中身が無くなった空箱にフェイタンの腕を入れて返してもらう。つまり、堂々と正面からハンター協会に侵入して帰る事ができる簡単な仕事だね。フェイタンが暴走しなければだけれど。

 

「フェイタン、ぐれぐれも攻撃をしかけないでくれよ」

「しつこいネ。ワタシだて分かてるヨ。アイツは油断している時に殺すネ」

「ならいいけどさ」

「それより、シャルナーク。お前は、ちゃんと調べてくれたカ?」

「もちろんだよ。具現化か操作系かはわからないが、ライネス・ホイコーロの念能力は水銀が使われている可能性が高い」

「弱点は何ネ?」

「水銀は水と銀の特性を持つんだけど、金属としては熱に弱くて蒸発しやすいってことかな」

「熱、ネ。なら、ワタシの力を更に強化するヨ。もと高温で、広範囲を一気に焼き尽くす。そう、まるで太陽のように……」

「それ、防火服とかも必要になりそうだね」

 

 一応、今は力を蓄える事にしたみたいだし、よしとするか。ここで何かあれば困る。団長の決定は絶対だ。私としてはここでライネス・ホイコーロを処分してしまいたいが、彼女に手を出す危険性も理解している。

 彼女は他の人間がいくら死のうとも私達を確実に殺す手段を平気で選択できる人間だ。そして、それを選ぶのに躊躇もないだろう。だからこそ、毒ガスなんてものを使うように指示をしてくる。

 シャルナークが調べた限りじゃ、神経系のガスで麻痺を起こす物が用意されていたようだ。私達念能力者にも効く濃度になると、この国の住民が数百人が死ぬことになる。カキン帝国と戦争になる事を示唆しながら、毒ガスの自国での使用を国に認めさせた。その時の言葉が──

 

『数百人の犠牲か、数万の犠牲、どちらがいいか選ぶといい』

 

 ──だったそうだ。楽しそうに笑っていた彼女はカキン帝国の軍隊を実際に動かす指令を出そうとしていた。王子同士が不仲だと聞いていたが、それはそれ。これはこれとの事で、国外に舐められたまま泣き寝入りするつもりはない。というのが王子達の共通見解のようで、カキン帝国の方でも進軍の準備が進められていた。こちらは軍事演習という事で今は大人しくしているそうだけれど、何時動くかはわからないのでこの国の軍も警戒している。

 こちらとしては戦争になっていくら死のうが知ったことではないけれど、私達蜘蛛の念能力を抜いてきたホイコーロの情報網なら居場所だって把握される可能性が高い。そこを戦車などで集中砲火でもされたらウボォーはともかく、私達は耐えられない

 

「マチ」

「ああ、気付いてる」

「ようやく来たようネ」

 

 私達の方に歩いてくる数人の男性と女性。男性はスーツ姿で、女性はスーツと着物を着ている人で分かれている。どいつも一般人だけど、ライネス・ホイコーロのような事もあるから油断できない。

 

「失礼します。マチ様でしょうか?」

「そうだよ。アンタ達はライネス・ホイコーロに物を売りに行く商人って事で間違いないのかい?」

「はい。私共もライネス・ホイコーロ様より、ご注文を頂いた商品を届け、売り込むために参りました。ですから、くれぐれも無礼な事はおやめください。互いに足を引っ張らず、競合する商品は正々堂々品質で勝負するようお願い致します」

 

 私の態度で釘を刺してきたか。まあ、呼び捨てにしているし仕方ないのもあるね。

 

「もちろんです。こちらの商品はすでにライネス・ホイコーロ様よりご購入の確約を頂いておりますので、そちらの方々と競合する事はありません」

「なるほど。それは助かります。それではこちらにどうぞ。女性の方はトラックで、男性の方は車の方でお願いします」

「別、ですか」

「何か企んでるカ?」

「勘違いしないでいただきたい。そちらが嫌なら一緒でも構いませんが、そちらの女性はライネス・ホイコーロ様に着付けをすると、ご連絡を頂いております。ですので、こちらの商品を実際に着ていただいて、勘違いしているような場所があれば指摘しなくてはいけません」

「ああ、なるほど。つまり、わけるのはマチがオレ達の前で着替えられるかって事が重要なんだね」

「そうです。その女性の方にとって嫌な事でしょうから、このような対応にさせていただいております。ですので、そちらの方がよろしければこちらとしては何の問題もありませんが……」

「嫌よ。絶対にイ・ヤ」

 

 何でコイツらに着替えている姿を見られないといけないのよ。そんなの緊急時以外は嫌よ。今はライネス・ホイコーロが仕掛けてくることもないはずだし、ハンター協会も動きはない。なら、罠の可能性は低い。それに定時連絡がなければ団長達が襲撃する手筈になっているから大丈夫なはず。

 

「じゃあ、トラックの助手席などに乗せてもらうというのは構いませんか?」

「そちらは構いませんが、揺れますよ。荷台は改造しているので快適ですが……」

「大丈夫です」

「では、そのように」

「マチ様、こちらへどうぞ」

「ええ」

 

 着物を着た女性達とトラックの荷台に入る。その前に一応、シャルナークの念能力で見えないアンテナをつけてもらう。これで私がどこかに飛ばされても追跡はできるし、操作される事もない。

 

 

 

 

 大きなトラックの荷台は和室に改造されていて、沢山の綺麗な着物が飾れている。どれも職人の手によって丹精込めて作られた物だ。

 

「今回、ライネス様にご購入頂けましたら、マチ様には一着差し上げます。ですので、どうかよろしくお願いいたします」

「ええ、わかったわ。私としてもやる気が湧いてきたし、確実に買わせるわ」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべる着物の女性に私も着物を選んで着替えていく。やはり、知っていると思っていたところでも、プロの目から見たら間違っていたり、より綺麗に見せる手段があった。

 

「しかし、普通の着物じゃないのもあるけど、これは……」

「ライネス様のご注文の品ですね。袖を大きくしてフリルをあしらうようにと。なんでも、萌え袖とのことです」

「確かに可愛い」

 

 トラックが動いていく中、そちらのタイプも着てしっかりと勉強する。彼女達もボーナスがかかっているから、必死で教えてくれる。

 

 

 

 それから何事もなくハンター協会に到着して駐車場に入った。ここで荷物を調べられるみたいね。私達が持ち込んでいる荷物も例外ではないが、ぬいぐるみの中にでも入れて持ってくるように指示されている。それとハンターにならバレても構わないから、正直に話して緋の目を購入した事も告げていいとも言われているので、何の心配もない。

 

「これは中に何か入っているな」

「ライネス・ホイコーロ様がご購入の品よ。一般人には見せないようにってね」

「……開いて中身を見せてくれ。それだけでいい」

「OK」

 

 見せると、驚いた表情をした後にハンターは納得したように他の品も確かめていく。

 

「流石は王族というか、緋の目をこれだけ買い集めるか。だが、七歳でこの趣味は……」

「否定はしないけど、こちらは配送を依頼されただけなのでね」

「ああ、すまない。聞かなかった事にしてくれ」

「わかった。それで、危険な物ではない事はわかった? ある意味では危険だけど」

「もちろんだ。通ってくれ」

「あいよ」

 

 シャルナーク達と合流して進んでいくと、何時の間にか駐車場からハンター協会の内部へと入る入口に化け物が居た。顔と名前は知っているけれど、直接は見た事はない相手。ハンター協会の会長、アイザック・ネテロ。

 

「お前等、かなりの使い手だな。もしかして──」

 

 バレた。まずい、殺される。コイツには勝てない。何をしても殺される。赤子の手を捻るように簡単にやられる未来しか見えない。シャルナークもフェイタンも必死に恐怖を押し込めている。

 

「っ~~~~!?」

 

 私は急に何かが飛び降りてきて後ろから抱きしめられる。その感覚に思いっきり飛び上がろうとしたが、ネテロの前でそんな事をしたら殺されるのがわかりきっていて、必死に我慢する。

 

「やあやあ、よく来たね、マチお姉ちゃん。待っていたよ」

 

 横を向くと、テレビやフェイタンの記憶で見たライネス・ホイコーロが、私の首に手を回して抱き着いていた。降ってきたのはこいつのようで、気配は一般人程度だが、感じる事ができる。だというのに見逃したのはアイザック・ネテロの存在が大きすぎたからだ。

 

「師匠、彼女達は私が呼んだ知り合いでね。凄腕の配送屋なんだ。とある高価な、とても危険な品物を運んできてもらっていてね。だから、安心して欲しい。彼女達は敵ではないよ」

「ふむ。そうか……まあ、お主がそういうのなら、良かろう。下手な事さえせねばこちらからは手を出さん」

「感謝する」

 

 アイザック・ネテロから放たれるオーラが消え、重圧から解放された私達はほっとした瞬間、私にぶら下がって頬擦りしてくるコイツをどうするか悩む。

 

「とりあえず、アイアンクローでもしていい?」

「我慢だよ、マチ」

「ふざけた奴ネ」

「あっはっはっ。アイアンクローはされたくないから離れよう」

 

 そっと降りて私達の前に出た後で両手を広げてクルリと回り、笑顔でスカートの裾を掴んで挨拶をする。

 

「ようこそ、ハンター協会に。ライネス・ホイコーロだ。よろしく頼むよ」

「おい、それはワシの台詞じゃろ」

「まあまあ、いいじゃないか。一応、私も住んでいるのだしね」

「たく、こいつは……」

 

 楽しげに談笑している姿は祖父と孫だ。だが、師匠か。それならライネス・ホイコーロが年齢の割に強いのも理解できる。

 そんな風に話しているアイザック・ネテロにハンターが報告している。おそらく、緋の目の事だろう。

 

「それよりライネスよ。お前さんが持ってこさせた物について聞きたいことがあるんだが……」

「そうだね。とりあえず、それらを持ってついてきてくれ。それとネテロ会長、パリストンぐらいには伝えておこう。一部屋、用意して欲しい」

「では、第三会議室を空けてありますから、そちらに向かいましょう」

「うわ、何時の間にいたんだパリストン副会長」

「おもし──愉快な事がありそうなところに私はいるのです」

「最悪だね」

「まったくのう」

 

 私達三人は頷いてから移動していく。シャルナークは彼女達に伝えて携帯でハンター協会に着いたという定時連絡だけを送る。

 

 

 

 第三会議室。そこでぬいぐるみから取り出した数々の緋の目を見せる。秘宝と謳われるだけあってとても綺麗ね。

 

「まさか全部、緋の目かよ」

「そういえば少し前にクルタ族が襲撃されていましたね」

 

 二人の視線は私達に向いている。やはり、私達が幻影旅団だというのがバレているのかもしれない。

 

「ああ、そうだ。そいつらが奪った緋の目がこれだ。これは醜聞になるから黙っていて欲しいが、人体収集家のツェリードニヒお兄様が依頼していたのか、買い取ろうとしていたのかはわからない。どちらにせよ、それを私が横から掻っ攫って彼等に運んできてもらった」

「いいのかよ、怒られるんじゃないか?」

「知らないねえ。こんな物を買おうとするなんて、露見したら外交特使としてやってきている私に不利になる。勝手にツェリードニヒお兄様が自爆してくれる程度であればいいが、緋の目ともなれば各国の要人がこぞって狙ってくるだろう。国を叩く恰好の餌にもされるし困るんだよね」

 

 両手をあげてやれやれと手を振るうライネス・ホイコーロ。まるでハンター達にツェリードニヒ王子がどんな奴か伝えているみたいだ。

 

「じゃが、それはお主も同じじゃろう」

「ですよね。盛大に返還でもしない限りは……」

「ああ、そうだね。だから、盛大にクルタ族に返すよ。襲撃されて無残にも殺された部族の慰問と復興、それに加えて彼等の同族の瞳を王族が購入して取り返した。美談だろう?」

「人気取りの手段、ですね」

「その通りだよ、シャルナーク君。クルタ族がどう思おうが、国内と国外に対するアピールにはなる」

 

 シャルナークの言葉にフェイタンがイライラしている。私も同じだ。つまり、このライネス・ホイコーロは私達が苦労して手に入れた緋の目を使い、フェイタンの腕と交換することで元手をほぼ無料で手に入れながらそれで人気を獲得するというのだ。悪魔かね。

 

「ツェリードニヒお兄様への嫌がらせにもなるし、ベンジャミンお兄様は大喜びだろう。そして、私も嬉しい」

「それほど嫌いなのかの?」

「ああ、嫌いだとも。さっさと死んで欲しいぐらいだ。だってアイツ、私をいやらしい目で見てくるし、私の綺麗な身体に入れ墨とか入れた後で剥製にして飾ろうとか考えてるんだ。間違いない」

「おいおい、マジかよ」

「ぶっちゃけるとツェリードニヒお兄様が繋がっているマフィアが何人もの若い女性を攫って殺しているね。揉み消されたり、死体を処理されたりしているけど」

「それはそれは、調査しがいがありますね」

「是非とも捕まえてくれたまえ。陰ながら全力で協力するよ。いや、本当に。だから、マチお姉ちゃんはカキン帝国には近づかないようにね。剥製にして飾られる趣味があるのなら、別に構わないが……」

「ないわよ!」

 

 本当に碌なのがいないわね、カキン帝国の王族は。ライネスも含めてだけれど。

 

「で、返還するという話じゃが、どうするんじゃ?」

「まずはクルタ族の位置を調べてから使節を送り込むんだが、正直言って我が国の者では上位の王位継承を持つツェリードニヒお兄様に抵抗できない。だからさ、ハンター協会にカキン帝国外交特使として正式に依頼しようと思う。クルタ族との交渉と緋の目の保管、復興支援をお願いしたい。いくらぐらいになるかな?」

「パリストン」

「そうですね。値段は……50億ジェニーで」

「高すぎるよ。もっと安くして欲しいな。王族とはいえ、予算は無限ではないのだからね。国税なんだよ、国税」

「それなら稼げばいいじゃないですか」

「ほほう。なら、ハンターライセンスをくれるか、秘宝や素材を買取をしてくれるのかね?」

「買取はかまわんが、ライセンスはやらん。12歳まで待つんじゃ」

「ちっ、どちらにしろ高すぎる。10億だ、全て含めてそれぐらいで頼む」

 

 パリストンとライネスがやりあっているのを見学しているが、相場とかよくわからないのでシャルナークに聞いてみる。

 

「どんな感じなの?」

「ライネスが遊ばれてるね」

「ざまぁないネ」

「まあ、子供だから仕方ないよ。というか、10億ってのも護衛を含んだ場合はかなり高いんだけどね。何想定しているのかわからないけどね」

 

 私達のような連中、だろうね。

 

「わかった。50億でいい。かわりに護衛としてダブルハンターや十二支んを派遣してくれるんだろうね? これだけの金額を出すのなら、それ相応の質を求めるのは当然だよね」

「はっはっはっ、それは無理な相談ですね」

「なら、ぼったくるだけで金に合うだけの護衛を出さないと。それは出資者として問題を提議しないといけなくなるねぇ」

 

 あ、普通の交渉から外の力を使いだしたね。パリストンの奴は笑顔だけど、感じがかわった? 

 

「まだまだ交渉が甘いから、そのような外堀の力に頼らないといけなくなります。そればかり使っていると痛い目をみますよ?」

「わかっているよ。だから、普通に交渉していたら君が……」

「では、駄目な点をあげていきましょうか」

「え」

「これも勉強です」

 

 それからパリストンの攻撃……口撃は容赦なく、ライネスは涙を浮かべてしょんぼりするまで続いた。その間、私達は放置されているので、他の部屋で食事と休憩をしていく。もちろん、団長にも連絡を取った。

 

 

 

 

「パリストンめぇ、パリストンめぇ……アイツなんか虫を埋め込まれて脳をぐちゃぐちゃにされてしまえ!」

 

 ご機嫌斜めなお姫様がこちらにやってきたのは優に二時間が経ってからだった。

 

「やっと終わったのかい」

「遅すぎるネ」

「すまないね。でも、美味しい食事だったろ?」

「それは確かにそうだね」

「ええ、これはいい味を出している」

 

 私達に提供されている食事はグルメハンターが私達と一緒にきたトラックの一部に積まれていたキッチンで作っている。購入前に試しに作っているみたいだが、食材も腕も機材も全てが一級品であり、私達の口を満足させてくれる。必要以上に。

 

「さて、こちらの商談を終わらせようか。緋の目は確かに受け取った。数も間違いないし、頭部のもあった。確かに君達が手に入れた全ての緋の目のようだ。コピー品でないことも除念師を使って確かめさせてもらったし、こちらも品物を渡すとしよう」

 

 コピー品の対策に除念師を用意していたのか。もしも知り合いにコピーを頼んでいたら、交渉が決裂していた可能性が高いね。

 

「じゃあ、ワタシの腕を返すネ」

「それはちょっと待ってくれたまえ。まずは私とマチお姉ちゃんの和服のファッションショーだ。それが終わってからだ」

「そんなものはどうでもいいネ」

「あははは」

「いや、ここは従いましょう。もめてもいいことないから」

「マチ、お前は服が欲しいだけネ」

「なんのことかわからない。ほら、さっさと終わらせるわよ」

「オーケーだ」

 

 二人で別室に移動し、様々な服を選んでいく。トリムマウというらしい彼女の念獣が着付けを手伝って覚えていく。

 そんな中で何着も着せ合い、彼女が着けている銀のアクセサリー達に似合う奴を選んでいく中で一つ思った事がある。ライネスが選ぶ奴は男が見て可愛いや綺麗だと思われる服装で、女としては微妙な感じだ。

 

「あなたって男?」

「何を言っているんだ。私は生物学的に女性だよ」

「いや、心がだけど。勘だけどそんな感じがする」

「ああ、そちらか。どうだろうね。私は男性より女性の方が好きだから、男性といえるのかもしれないね。まあ、女性でもあるのだが」

「そうなのね。よし、近づかないでくれる」

「失礼だね」

「絡めとるわよ」

「ふむ。私のトリムとマチお姉ちゃんの念糸。どちらが強いか、試してみるのも一興ではあるが……止めておこうか。私としては君達と戦うつもりはない。よいビジネスパートナーとして歩んでいきたいと思っているからね」

「こちらもよ」

「それは良かった。よし、この緑のにしよう。あと、何着か予備も買っておくとするか」

 

 緑色の布地に花柄の着物で、萌え袖がある奴を選び、それを着たままこちらにやってくる。

 

「今日はありがとう。良い取引だった。次の依頼は電話でするよ。ただ、個人的にマチお姉ちゃんには治療を頼むかもしれない。だから、そちらのホームコードを教えてくれ」

「わかった。でも、高いわよ」

「それは理解しているとも」

 

 ホームコードを渡し、私が持って帰る荷物を片付けていく。

 

「それで腕は何時渡してくれるの?」

「今渡してもいいんだが、その場合は問題があるし……そうだね。トリム、彼女達を送っていってくれ。別れる時にマチお姉ちゃんに抱き着いて、その時に身体を密着させてこっそりと渡してくれ」

「かしこまりました」

「マチお姉ちゃんもそれでいいかな?」

「確かにその方が安全か」

「それと言うまでもないが、気をつけて帰るようにね」

「ええ、そうね」

 

 何気に私には好意的なのよね、この子。油断は微塵もしていないけれど。いえ、正確には念獣の方が一切の油断をしていない。本人の方は隙だらけだけど、手を出そうとした瞬間に私が死ぬ予感がする。

 彼女が身に着けている銀のアクセサリー、あれも水銀だろう。つまり念能力で武装して何時でも身は守れるようにしている。彼女自身が素人のようだから、おそらく念獣による自動防御とかそういった感じなはず。フェイタンの速度に対応できる時点で私の速度では対処不可。諦めるしかないわね。

 

「それじゃあ、また会おう。個人的にまた私の服を見て欲しい」

「いいわよ」

 

 そっちの方が都合がいいしね。ちびトリムなる物も返したし、他に用事はない。

 

 

 

 シャルナークとフェイタンの二人と合流し、無事にハンター協会を出てトリムマウという念獣の体内から念によって保護されているフェイタンの腕を受け取る。念獣と別れたらカラオケボックスに入り、団長達と合流する。

 

「どうだった?」

「やっぱり彼女からはなにかをしてくるつもりはないね。問題はハンター達だよ。おそらく、アイザック・ネテロとパリストン・ヒルにはオレ達が幻影旅団だという事がバレている可能性が高い。その上で見逃されたね」

「ライネス・ホイコーロがわざとばらした可能性はあるか?」

「あるだろうね。そして、自分がもうオレ達とは話を付けたという事を伝えたのかもしれない」

「目的はわかるか?」

「アイザック・ネテロを師匠と呼んでいたから、修行をつけてもらっている可能性がある」

「俺達を使って契約を取ったから、後は修行に集中したいということか」

「それぐらいか。まあ、どちらにせよ腕は取り返したよ」

 

 団長達が話ている間にフェイタンの腕を念糸を使って縫合していく。綺麗に縫って神経までしっかりと繋げる。フェイタンの腕はかなりボロボロではあったけれど、保存状態はよかったみたい。

 

「これはしばらく治療に専念しないと駄目だな」

「ワタシの攻撃でこうなたから、わかているヨ」

「水銀で攻撃されたわけじゃないのか」

「斬り落とされただけネ」

「しかし、これからが大変だな。腕の治療と除念師を探さないといけない。フェイタンの心臓に貼り付いている奴を剥がさないと……」

「それだけど、除念と同時に手術もしないといけない。もし、それが具現化された念ではなく、本物の水銀を使っていたら除念しても水銀は残る。それも保護しているオーラも効かないから、中毒が発生するだろう」

「腕のいい外科医と除念師だな。各自、仕事をしながら探すようにしてくれ。フェイタンには悪いが、しばらくは諦めてくれ。ライネス・ホイコーロから来る依頼をこなしつつフェイタンの楔を外す。奴を殺す為に戦うにしてもそれからだ」

「他に報告は……」

「あの念獣についてネ。アイツ、ワタシと戦た時よりも格段に強くなているヨ」

「この短期間でか。アイザック・ネテロとの修行はそれほどか。俺達も負けていられない。現状、俺達は雌伏の時とする。修行を怠らず、銀翼の凶鳥の調査も継続する。やる事は沢山あるが、必ずやり遂げるぞ」

「「「「了解」」」」

 

 さて、これから忙しくなってくる。そう思っていると団長の携帯が鳴り出した。団長は表情を歪めながら、電話に出てスピーカーにする。

 

『やあやあ、会議は終わったかな?』

 

 まるでこちらの作戦会議が終わるタイミングを待っていたかのようで、団長は頭に手を当てている。私達も周りをみるが、おかしなところはフェイタンの心臓ぐらいしかない。これはわかりきったことではあるけれど、なにもこのタイミングでかけてくるとはね。

 

「ああ、終わった。聞いていたんだろう?」

『まあね。それで早速依頼をしたい。パリストンのせいで、パリストンのせいでお金が足りないんだ。私のポケットマネーを足しても足りない。だから、稼ぐ事にした』

 

 二回言ったのは相当に頭に来ているようね。

 

「それで依頼はなんだ?」

『二つ用意した。困難でハイリスクハイリターンの依頼か、ローリスクローリターンの依頼だ。どちらがいい?』

「断るという選択肢は?」

『あるけれど、この儲け話を他の人に振るだけだよ』

「両方教えてくれ。それを聞いてから判断する」

『了解した。では、まずローリスクローリターンから。マフィアを襲撃して金を巻き上げる。奴等が上位組織に上納金を運ぶルートと時間はこちらで調べる。この程度は君達なら余裕だろう』

「確かにそうだな。次だ」

『ハイリスハイリターンの方だが、こちらは捕獲依頼だ。とある山脈でドラゴンが確認された』

「は?」

「え?」

 

 私を含めて全員が聞き返す。

 

「待て。今なんと言った」

『だからドラゴンだよ、ド ラ ゴ ン ! ワイバーンじゃないガチのドラゴンだ。こいつを捕獲してくれ。代金はドラゴンを売った金を折半だ』

 

 ワイバーンなんて初めて聞いたよ。ドラゴンも本当にいるの?

 

「高いな」

『場所の情報と販売、輸送などは全てこちらでやる。君達はこちらの手勢が到着するまでの護衛と倒す以外は普通にお金を受け取るだけだ。嫌なら別の人に情報だけを売るよ。欲しがる人はいっぱい居るだろうしね。どうするクロロ。時は金なりだよ』

「確かにそうだな」

「いやいや、ちょっと待とうよ! ドラゴンだよドラゴン! 実在するとしたらからなりやばいから。そいつって火を吐いたりするだろ!」

『するねぇ。牙も爪も尻尾も巨大だ。下手をしたら街どころか、国がピンチだね』

「尚更面白いじゃねえか」

「よし、コインで決める。表ならマフィア、裏ならドラゴンだ」

 

 出たコインは裏だった。

 

「ドラゴン狩りだ。今回の緋の目の穴埋めもしないといけない。行くぞ!」

「よっしゃぁああああああああああああ!」

 

 ウボォーがうるさいので耳を防ぐ。さて、依頼を受けるのはいいけれどドラゴンってどれだけ強いのだろうか? 

 

 

 

 

 

 

 険しい山を駆け抜け、立ち入り禁止の場所も抜けて秘境中の秘境。そこに奴は居た。全長10メートルを軽く超える緑色の鱗を持つドラゴン。その巨大な口から放たれる吐息は灼熱の業火であり、周りの木々を燃やしつくして地面を結晶化していく。

 

「うわ、駄目だろこれ」

 

 ウボォーの一撃が少しよろける程度しか効いていない。他の攻撃なんてほとんど効きやしない。代わりに相手の攻撃はウボォー以外が喰らったらほぼ即死。ウボォーでも吹き飛んで腕が折れる。

 

「無茶苦茶だ。なんだこの化け物」

『だから言っただろう! ハイリスハイリターンだってね!』

「限度がある!」

 

 団長が声を荒げつつ胃の辺りを触るのも無理はない。私だっていきなりこんなのを相手にするなんて思ってもいなかった。ちなみに私は腕とかが切り飛ばされたら、繋げて戦線復帰させる役割だから後ろにいる。シャルナークはその辺の動物を操って肉壁にしているけれど意味をなしていない。

 

『どうしても無理そうなら、こちらの軍を増援として派遣する。当然、金額はかなり減るがね』

「買い手はカキン帝国の第一王子か」

『その通りだよ、クロロ。輸送も全部彼等にやってもらう。私はどちらでもいいが……』

「お前も手伝え。どうせできるんだろう?」

『仕方ないね。このままやられても困るし。これ、結構疲れるんだが……フェイタン君、君に力を貸してやろう。受け取り給え、これが倒せる可能性がある力だ』

 

 電話からの声が聞こえると、フェイタンが苦しみだす。それから馬鹿みたいにオーラの量が跳ね上がり、フェイタンの身体の中、腕から水銀が溢れ出てくる。それと同時にフェイタンの増えたオーラは全てその水銀へと移った。

 

「お前! ワタシの身体に水銀を潜ませていたカ!」

『腕に仕込まないとは言っていないからね。それと心臓の水銀を通して私のオーラを少しくれてやる。頑張って戦いたまえ。それとウボォー君といったね。君は自分のオーラを身体以外に纏わせられるか?』

「できるぜ! おっと、あぶねっ!」

 

 ウボォーが避けたドラゴンの腕により、大地が裂けて巨大な爪痕が作られる。フェイタンのオーラの上からライネスのオーラが覆って鎧みたいな感じになったみたい。

 

『そうか。なら、天元突破だ。螺旋の力をトカゲ風情に思い知らせてやれ、ウボォー君』

「うぉっ、腕に水銀が纏わり付いてきやがったぜ」

 

 水銀が腕に纏わりつき、それが高速回転するドリルとなる。それがウボォーのオーラによって徹底的に強化される。

 

『正直に言おう。コントロールがすっごい大変だから後は任せるよ』

「ああ、わかった。フェイタンとフィンクス、ノブナガが前衛。俺が遊撃をする。マチとシャルナークは動物でドラゴンの目線を妨害。ウボォーの一撃を決める。狙うのは目や口、尻穴とかだ」

『待て待て、やめたまえ! そんな汚い事を私の銀にやらせないでくれ!』

「知らん。それが一番勝てる見込みがある。お前も苦しめ!」

「ひゃっはー!」

『いやぁああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

 

 電話からライネスの悲鳴が聞こえる中、私達は死闘を繰り返す。

 

天元突破・超破壊拳(ビッグバン・ドリルインパクト)ぉおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!」

 

 ウボォーの一撃がライネスの悲鳴と共にドラゴンに叩き込まれ、二人のオーラのジョイントにより、絶大な威力を発揮したソレはドラゴンを内部から粉砕していく。

 その状態でも攻撃を続けてくるドラゴンに、私達は生命活動に必要な物を除いてほぼ全てのオーラを振り絞って戦い、なんとか勝利した。

 周りはクレーターだらけで、ドラゴンの巨体は酷い事になっている。ウボォーもだけど。臭いから近付きたくない。それでも私から近付かないといけない。ドリルでウボォーの腕もねじ切れたし、繋げないとやばいから。

 

「やはり分厚い装甲は内側から攻めるに限るな」

『ぐすっ、汚された。私の大事な銀が穢れたぁぁぁぁっ!』

「馬鹿め。武器は使ってなんぼだろうが」

「団長、生け捕りが依頼だったわけだけど、これって生きてるの?」

「あ」

 

 ドラゴンを見ると、身体が光って巨大な銀翼の凶鳥が飛び立ち、複数に分裂して拡散していく。ドラゴンの身体は皮と爪、牙を残して消滅してしまった。やっぱりコイツのセイカ。

 

「ら、ライネス……この場合はどうなる?」

『ぐすっ……か、買取はできるよ……でも、生け捕りよりはやすくなる、かな……むしろ、これならオークションに出すのもありかも……この戦闘映像もセットであげたら、もっと高く売れそうだけど、念がばれちゃうし……』

「くそ、最悪だ。だが、仕方ないか。それと戦闘映像は却下だ。販売は任せる」

『はぁ……私の銀がぁぁぁぁ……汚物まみれに……』

 

 可哀想だけど、仕方ないわね。ちなみにこの戦闘映像は私がライネスに依頼され、団長の許可をもらって撮っている。ちゃんと依頼達成の証拠映像としてだ。

 

「ちょと待つネ! まさか、それをワタシの腕に戻そうなんて……」

『ふん。恨み言は指示を出した団長のクロロに言うんだね!』

「知らん。この依頼を持ってきたライネスに言え」

「とりあえず、川を探して身体とその銀を洗おうよ。流石にこのまま入れたらフェイタンが病気になるし」

「そうね、それがいいわ」

「まあ、そうだな」

「あ~疲れたが、いい敵だったな」

 

 本当に酷い戦いだった。さっさとライネスの所に行ってご飯を食べさせてもらおう。それぐらいしてもバチは当たらない。

 

 

 

 

 

 

 




ドラゴンぇ。君はいい奴だった。ただ、その身体の硬さが仇になったんだよ。
何気にフェイタンが一番の被害者かも。

ライネスからの依頼は厄介で危険がいっぱい。これはライネス・エルメロイ・アーチゾルテを目指しているから仕方がないね。

それとトリムが汚されたわけではないです。ただ、増やした銀がやられただけ。トリムは泣きわめいているライネスの横でオロオロしています。


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15話

 

 私の水銀がドラゴンの汚物で汚されてしまった。一応、水浴びさせたが、それだけでは取れない。水中で高速回転させて取り払い、匂い消しに草を使ったが……どれだけ取れたかはわからない。まあ、後で解除しよう。

 それまではフェイタン君の中に入れておけばいい。無茶苦茶拒否されて逃げられているが、知った事ではない。どうせ恨まれているのだから、嫌がらせしても構わないさ。それにあの水銀はドロップアイテムを受け取ってこちらに持ってくる役割もある。私の水銀に包まれていたら、ただ単に注文した水銀を持って来たと思われるだけだしね。

 

「ライネス、大丈夫なの? 気分が悪くなったみたいだけど、何か嫌な連絡だったの?」

「ああ、大丈夫だよ」

 

 部屋に入ってきたのは動きやすい服装をしたメンチ君だ。彼女は私の護衛だから、ここに居ても問題ない。

 

「ちょっと私の大事な物が汚されただけだ」

「それって大丈夫じゃないじゃない! 女の子の大事な物って……」

「メンチ君が想像している物じゃないよ。私が大事にしている銀製品を貸していたんだが、それが汚物まみれになったと言われてね……」

「あ~なるほど。確かに嫌ね」

「この鬱憤は運動して晴らすとしよう」

「そうね。それがいいわ」

 

 服を脱いで体操服に着替える。私は中身が男で身体は女だ。これってライネス・エルメロイ・アーチゾルテと司馬懿の関係なんだよね。司馬懿がメインで動いている感じ。まあ、それはおいておいて、何が言いたいかというとだね……

 

「本当にその恰好でやるの?」

「動きやすい服装だろう?」

「確かにそうだけれど、露出が……」

 

 白いシャツに紺色のブルマだ。ブルマは女性が運動する際に下半身に着用する衣服のことをさす。長年、日本の女学生の指定体操服になっていたが、ある理由から絶滅した。問題は脚全体を露出するまるっきりショーツ同様の形になっており、ちょっと股下のある下着だとはみ出してしまう。つまり、ほぼショーツや水着と変わりなく、女性からのネガティブキャンペーンが起こったほどだ。

 

「別に幼児体型の私が着ていても問題ないさ」

 

 ライネス本人に殺される可能性はあるが、好奇心には勝てなかった。ちなみに凄く可愛いのでやってみた価値はあったね。

 

「まあ、私と会長ぐらいだし平気か。流石に会長もライネスに欲情したりしないだろうし……」

「なんならメンチ君も着てみるかね?」

「絶対に嫌」

「残念」

 

 更衣室から出て訓練所に入る。そこでは既に師匠であるネテロ会長とトリムマウの激しい攻防が行われている。トリムマウはドラゴン戦で使った私のドリルが有効だと理解したのか、腕を高速回転するドリルにして百式観音の掌打と打ち合っているようだ。

 といっても、百式観音の攻撃をずらして避ける程度にしかできていない。また、前に集中したら横から来る挟み撃ちに対抗できないので、瞬時に自爆して飛散し、同時に床に広がって回避してよりネテロ会長の近い位置で集合して攻撃を開始する。

 ネテロ会長も容赦ない乱打を放ってトリムマウの接近や無数の礫による攻撃を防ぐ。やはり、念能力を解除、または浸食する能力が必要そうだね。

 

「あの念獣、頭おかしいんじゃないかしら?」

「私の至上礼装だからね」

「礼装?」

「切り札ということだよ。しかし、師匠も楽しそうにしているね。まるで遊んでいるようだ」

「ああ、確かに」

 

 ネテロ会長は真剣な表情をしながらも、口元は楽しそうに笑っている。

 

「というか、ネテロ会長も明らかに強さが増しているんだが……」

 

 メルエム戦の時のようにオーラを練り上げて全盛期に近付いているだけかもしれないけど、成長している可能性もある。

 

「今までよりも更に強くなるとか、会長もおかしいわ」

「まったくだね」

「アンタが言うな。あの念獣はアンタのでしょうが」

「そうだが、正直なところアレは私が作ったわけではないのでね」

 

 元ネタがあるし、天才魔術師ロード・エルメロイのケイネス先生が作り出したものを我が兄、ロード・エルメロイ二世が改造した物だ。つまり、私のオリジナルであるライネス・エルメロイ・アーチゾルテが作ったともいえない。この世界でもそれは変わらないだろう。

 

「確か、銀翼の凶鳥で生み出された念能力だったわよね」

「うちの家系は念獣を代々継承して使役してきているから、その才能は十分にあったんだろうね」

「そうなのね。それって教えていいの?」

「別に私が困る事でもないし、問題はないよ。それに念獣なんて能力は様々だろう?」

「それもそうね。で、運動するんだっけ?」

「ああ、今の私は急激に成長できるからね」

 

 子供にはゴールデンエイジが存在する。ゴールデンエイジとは、子供の身体能力、運動能力が著しく発達する時期のことだ。

 具体的には5歳から12歳の期間。体の動かし方、動作、技術を短時間で覚えることができる、一生に一度だけの貴重な年代をゴールデンエイジと呼ぶ。5歳から9歳は神経系の発達で、10歳から12歳の特徴は即座の習得が可能。

 七歳である私は神経系の強化がやりやすい。反射神経とかなどを今から徹底的に鍛える。また、脳に容赦ない負荷もかける。情報の並列処理とかできないと銀の鳥による情報収集が大変だ。

 

「様々な運動をして身体を徹底的に鍛え上げる。そんなわけで相手を頼むよ」

「わかったわ。じゃあ、まずはランニングね」

「うむ。ついでに練をして腕や足で攻撃しながらする。メンチ君は適当にボールで攻撃してきてくれ」

「任せて」

「では、始める」

 

 細胞の一つ一つをオーラで包み込み、成長を促進させるイメージを行う。同時に全神経を集中させ、走りだす。下手をしたらトリムマウの身体が散弾のように吹き飛んでくる危険地帯だ。それを回避しながら走らないといけないし、メンチ君からボールも飛んでくる。正直に言って念能力が使えないと普通に死ぬ。まるで地雷原でランニングするようなものだ。

 走りだしてから少しすると、ボールが飛んでくる。避けようとして飛ぶと、頭を天井に打ち付けて、頭を抱えてしゃがみ込む。

 

「ひぎゅっ!?」

「大丈夫?」

「ら、らいじょうぶ、わ、わたしは、やればできる子だから……」

「そ、そう……頑張ってね」

「うん……行く」

 

 走り出すと今度はトリムが飛んできた。避けると百式観音の掌打が飛んできて、慌てて身体を丸めて防ぐ。弾き飛ばされた私は壁に激突して死亡……なんてことはなく、月霊髄液が瞬時に身体を覆って球体となる。その状態で壁に埋め込まれてことなきを得た。

 腕? 

 アイツは良い奴だった折れたよ。水銀を体内から生成して強制的に元の位置に戻してオーラを注ぎ込んで急速再生させる。一般の念能力六〇人分くらいのオーラが一瞬で消費されたが、まあ問題ない。

 

「おい、生きてるか?」

「うむ、大丈夫だよ」

「本当に平気?」

「大丈夫大丈夫。ほら、怪我はないさ」

「いや、感覚的に折れたはずなんだが……」

「治療したし、今は怪我はない。さあ、続きだ。時間がないんだからやるよ」

「んじゃ、ある程度は気にせず戦っていいんだな」

「メンチ君が死ぬ可能性があるからやめてあげてほしい」

「私!」

「あ~メンチ、おめえもついでに鍛えてやる。念獣を含めた三人で纏めてかかって来い」

「え、死ぬんだけど」

「手加減はしてやるよ」

「そもそも私は普通に運動したいだけなんだが……」

「死ぬ気でやりゃあ、効率良く鍛えられんだろ」

「ふむ。一理あるね。よし、私も参加してやろうか。全力だ」

「いや、私を巻き込まないでよ!」

 

 メンチ君の言葉を無視して、トリムマウと月霊髄液を使う。月霊髄液は身に纏うことで鎧の代わりとして扱う。これでサーヴァントと同等のステータスは発揮できるので、突撃する。思いっきりネテロ会長を殴るが、避けられる。床にはクレーターができたが、それだけだ。

 

「腰が入ってないし、フォームが無茶苦茶だ」

「教わってないからね!」

 

 纏っている月霊髄液が自動攻撃を開始するが容赦なく百式観音で弾き飛ばされるので、自分から飛んでダメージを少なくする。空中で回転しながら壁を蹴って天井を蹴って加速する。その間にトリムマウも襲い掛かるが全て弾かれる。

 

「こんなん相手できるか!」

「一ヶ月でネテロ会長に一撃を与えられたらボーナスだ。好きな物をなんでも買ってあげよう。ネテロ会長が」

「わしかよ。まあ、いいけどな」

「マジで! よ~し、頑張ってみようかな」

「死ぬ気でやればどうにかなる! 合わせろ、トリム!」

「イエス、マスター!」

 

 百式観音は攻撃速度もさることながら、大きさという利点もある。だったら、こっちも大きくしてやる。

 

「喰らえ、シルバーハンマーぁぁぁっ!」

 

 先端の片方がドリルとなり、反対側が爆発する巨大なハンマーを打ち付ける。天井の限界、10メートルより少し小さいぐらいの一撃だ。込められたオーラの量も魔力に加工して濃度を上げてある。なので手加減されている百式観音よりも上だ。私のオーラの限界値はネテロ会長より少し下程度に設定してある。つまり、全力だ。

 

「はっ、あめえよ」

 

 座禅も組まずに連打でドリルを横から叩いて軌道を変えさせられる。私の身長よりも遥かに大きなハンマーを爆発させて更に加速したことでコントロールが一切利かない。つまり、どうなるかというと──

 

「うそ、やばいやばい!」

「死ぬぅううう!」

「トリム解除!」

 

 メンチ君に直撃する直前に分解され、液体として崩れてそのままメンチ君に襲い掛かる。彼女は飛び上がって回避を試みるが、上から呑み込まれた。壁に到達し、跳ね返ってくる津波のような量で私も呑まれる。

 

「馬鹿だろ。武器を扱うには技術が足りなさすぎるぞ」

「いやいや、普通はあれで止まらないだろう!」

「馬鹿はアンタ達よ! 殺す気か!」

 

 水銀の海から水面を吹き飛ばして顔を出した私達は文句を告げる。ネテロ会長は百式観音の手に乗って難を逃れたようだ。

 

「生きてるじぇねえか」

「そうだね」

「それにしても……」

「だが、まあ……」

 

 私達はメンチ君を見詰める。さて、話は変わるが、液体金属とはいえ、念能力で強化されている水銀だ。念能力者であるので防御力は非常に高い。また水銀はトリムマウの支配下にあるので、出来る限りダメージはないが、それはあくまでも本体である身体に限ってだ。何が言いたいかというと……

 

「いい身体をしているな」

「まったくだね」

「え?」

 

 私とメンチ君の服はボロボロで役に立っていない。ちなみに私は水銀で大事な部分は隠している。ライネスの裸は安くはないのだ。

 

「水銀の滴る身体というのも、エロいね」

「まったくだな」

「殺す!」

「うぉっ!?」

 

 会長に向かって包丁を投げるが、それをキャッチされる。ふむ。現状、下は私の水銀、トリムマウで埋まっているわけだが……これって全面攻撃ができるんじゃないかな? 

 

「トリム」

 

 百式観音の足を水銀の中から串刺しにして、身体中に杭を生やす。まるでヴラド三世の極刑王(カズィクル・ベイ)だ。

 

「おっと、あぶねえな」

 

 もっとも、百式観音を一度消されて空中に再展開され、徹底的に叩き潰されるが。本当に勝てるのかな、これ。思わず半眼になって見詰めてしまう。

 

「ううむ、いっそ天井も壁も全部覆ってみるか」

「おいおい、流石にそれは……」

「無理だよ。少なくとも今のオーラ量では足りない。先程のハンマーにほとんど持っていかれたからね。なけなしのオーラでやってみたが、まるで敵わない」

 

 懐から試験管を取り出して水銀を回収する。水銀の海が無くなったことで、メンチ君は更衣室に走っていった。

 

「やれやれ、わかってはいたが……これは色々と強化しないと駄目だね」

「いや、十分じゃろ。七歳なんじゃろ」

「私の目標として、来年にはネテロ会長と並びたいのだがね」

「どんだけじゃよ」

「成長期だからね。出来る限り、鍛えておきたいし。それに全盛期ならともかく、衰えているんだろ?」

「まあ、否定はせんよ」

「なら三年だ。10歳で全盛期を超えよう」

「子供は言う事が大きいのお~」

「目標は大きくもたないとね」

「そんなに強くなってどうするんじゃ?」

 

 真剣な表情で聞いてくる。これは下手な事を答えたら殺されそうだ。正直に答えよう。両目をしっかりと見開いて、両手を使いながら身振り手振りも加えて伝える。

 

「会長は知っているだろう? 私達が居るのは箱庭だという事を……」

「……」

「貴方が逃げ帰ってきた場所だよ、アイザック・ネテロ。私はあそこから生物が渡ってくると思っている。何時までもこの箱庭は続かないよ。あちらから来るか、こちらから行くかはわからないが、人の欲望はとどまることをしらない」

「ライネスはなんで知っているのかの?」

「実家にある資料を読んだし、何処かの馬鹿が渡航しようと計画を進行中だ」

「何処かの馬鹿か」

「詳しい情報は私を鍛えてくれた後だ。少なくとも、私はあそこからやって来る生物に対抗する手段と戦力を用意しないといけないと思っている」

「やっぱり、アイツかの」

「ご想像にお任せする。ちなみにこれ以上の情報は渡さない。やる気が満ちてきただろう?」

「そうじゃな。ああ、いいとも。お前の思惑に乗ってやる、ライネス。覚悟するんじゃな。わしは厳しいぞ」

「や、やだなぁ、私はか弱い女の子なんだから手加減をだね……」

 

 なんだかネテロ会長に火が付いたみたいで、感覚的に若返っている気もしてくる。

 

「阿保抜かせ。もうオーラが限界とか言っているが、まだまだあるじゃろ」

「本当にそうなんだがね」

「自分で嵌めた枷の中では、だろ」

「やれやれ、本当に限界なんだが……」

 

 精神的に、ね。

 

「ほら、やるぞ。まずは身体の動かし方からだ」

「うん、基礎からお願いするよ、本当に」

「任せな。まずは型を千回からじゃな。一日ごとに千回増やすぞ。終わるまで睡眠も食事も抜きじゃ」

「死ぬわ!」

「死なん。わしは実行した。わしにできたんじゃから、お主にもできよう」

「え~何その光の使徒の理論。そんな根性論……好きだけど」

 

 手を握られて型をしっかりと教えられるが、私に格闘の才能なんてないんだが……

 

「というか、服を着替えなさい」

 

 戻って来たメンチ君から服を渡される。これは私が依頼して作らせたチャイナ服だ。司馬懿としては中国の服も着ないとね。もちろん、再臨の衣装も用意するつもりだが、そちらは神字を刻む予定だからね。

 

「あ、お帰り」

「ほほう、メイド服とな」

「これしかなかったのよ!」

「どうだ、師匠! 似合うだろう! 私が超特急で仕上げさせた」

「うむうむ、よきかなよきかな」

「よいしょっと」

 

 水銀の上から服を着て、着替え完了だ。もっとも、下着類は水銀のままだが構わない。私の身体にしっかりとフィットしてくれるし、動かしてくれるから……待てよ。

 

「師匠、ライネス、すっごく聞いて欲しいお願いがあるな~」

「なんじゃ、気持ち悪い」

「ひど! まあ、いいか。トリムを身に纏って型をやって欲しい。それからトリムを身に纏って私がやれば自動で修正してくれるし……」

「駄目じゃな」

「いいよ、それなら自分に纏ってやるし。まあ、トリムも男の身体に巻きつくのとか嫌だろうしね」

「そんな感覚あるのか?」

「さあ?」

 

 トリムマウを身体に纏わせ、しっかりと型を教えてもらい、それを強制的に実行させて身体に教え込む。すっごい楽だけど、身体中を襲う痛みと急速再生を繰り返していく。白と赤の力を持つ桃色力とか目指してみるか。マッチョなライネスとか嫌だし。

 

「ついでじゃ、メンチ君もやるぞ」

「え、私は……」

「私の護衛でもあるんだからしっかりと鍛えてくれたまえ」

「雇用主からの依頼じゃ。ほれ、ちゃんとやらんと触るぞ」

「くそ爺!」

「ほっほっほ」

 

 高速で千回を終わらせると、色々とやばかった。筋肉が断裂したり、本当にもう痛すぎる。まあ、繋げて再生させたけどね。水銀を補助とし、オーラで再生能力を極限まで高めたら余裕だよ。

 

「血飛沫を出しながら高速で身体を動かし、泣く幼女とか、どう思うかの?」

「ノーコメントで」

 

 ネテロ会長ができたのなら、私にだってできる! なんせ私はライネス・エルメロイ・アーチゾルテに司馬懿を入れた身体だ。できないはずがない! 

 

「それはそうと、これは思考が辛くなるけど暇だから、勉強をしよう。トリム、本を開いてくれ。神字の勉強も同時にやる」

「かしこまりました」

「正気か、こいつ」

「狂ってる。遅すぎたのよ……」

「失礼な。これは将来のために行う投資だよ。私、王様になったら国を好き勝手に動かして富国強兵にして、今のカキン帝国をぶっ壊すんだ」

「どうぶっ壊すんじゃ?」

「教えてもいいか。とりあえず、兄弟同士で憎しみ合うのをどうにかしたいね。次の代からは、だけど」

 

 私達の代でそれができるなんて一ミリも思っていない。だから、基本的にモモゼお姉様と一部の兄弟姉妹以外は殺す。

 

「聞いた限りじゃとってもやばい状況みたいだし、仕方ないか」

「そうじゃの」

「本当になんでカキン帝国の王子なんかに生まれたのかな。王族ならもっと別のところがよかった。王族ですらなくてもいいけれど」

「他の人が聞いたら怒り狂いそうな奴ね」

「子供は生まれる先を選べんからの。それにお主、結構現状を楽しんどるじゃろ」

「当たり前だよ。楽しまないと損じゃないか。民を導く重圧とか色々とあるんだしね」

「やっぱり大変なんだ」

「そうだよ。念能力が使えるようになったからって一週間以上寝ずに勉強させられる苦労を味わってみたまえ。狂うよ」

「確かにの。それとそこ、間違っとる」

「は、はい」

 

 雑談しながらメンチ君とプラストリムマウで訓練をつけてもらう。ついでに思考の一部を情報収集にあててクロロに投げる次の獲物と目的の人物を探していく。探す相手はまだ旅団に入っていないシズクと、コルトピ。またハンターになっていないであろうカイト。ポンズ達だ。

 しかし、人間に拘る必要は無い。

 例えばFateのジャック・ザ・リッパーなら、HUNTER×HUNTERの世界でも作れると思う。堕胎させられ、捨てられて死んでいった子供の魂を、念を吸収して収束し、統合。それらを念獣として産み落とせば……可愛い子供ジャック・ザ・リッパーの完成だ。あれ、本当に作れそうな気がしてきた。銀の鳥が叶えてきた中には当然、幼い子供達の願いもある。暴力にさらされ、親や相手を得た念能力で殺してそのまま食事をとれずに息絶えた子や、盗む能力を開花させたが、撃ち殺された子達は多い。そういう子達の念を材料にすれば作れそうだ。

 

 

 私がお母さんになって救ってあげるのいいかもしれない。

 

 

 



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16話

 

 アイザック・ネテロ会長との修行を行い、一ヶ月が経った。契約期間が終わり、最後の戦いを行ったのだけれど、私、ライネス・ホイコーロはネテロ会長と共に床に倒れ、トリムマウも動けずに身体が保てていない。結果からみれば一撃を入れる事が……できたと思うかもしれないが、できなかった。

 いや、無理なんだよ! 

 だって、このお爺ちゃんあきらかに強くなってるんだよ。新しい技だって編み出してきたしね。

 具体的に言うと前方からは足を組み両手をそれぞれ9の形にすることで凄まじい速度で敵に連射砲のごとく掌打を浴びせる九十九乃掌(つくものて)でこちらの動きを封じ、背後からは追加で顕現された百式観音が九十九乃掌(つくものて)を放ってくる。つまり、前後から強烈な連打を放たれ、押し潰されるのだ。

 お陰で私も月霊髄液で防御したというのに身体中が痛いし、複数本の骨も折られている。月霊髄液が無ければ挽肉になっていた。間違いない。

 

「ししょぉ~君は馬鹿だろう」

「あ?」

「最後くらい弟子に勝利を譲ってくれてもいいのに、なに新技の実験台にして自分まで倒れてるのかな?」

「オーラ切れだよ、ちくしょうが」

 

 百式観音を一瞬とはいえ、二体も作り出すのは練り込んだオーラを全て一瞬で消費するみたいだ。そう、開始直後にやりがったのだ。このお爺ちゃんは! 開幕ぶっぱは基本とはいえ、酷すぎる。

 顕現時間はたったの1秒。しかし、その間に数百を軽く超える連打を前後から叩き込まれた私はなすすべもなくやられたというわけだね。うん、無理だ。

 

「てめぇ、まだ余裕あるだろうが」

「いや、ないから。いくら私でも死ぬよ」

「全然衰えている感じはしねえけどな」

「そりゃ、隠しているからね」

 

 絶をして急速に回復していっているネテロ会長と違い、私は使えない。使えば死ぬからだ。だからこそ、オーラの総量は常に余裕を持って活動している。だが、私は常に8割のオーラが存在しない。残り二割のオーラを更に小分けして使っている。

 それでも量が一般念能力者の数百倍はあるから、半分の1割ほどでもネテロ会長の総量を軽く超えられるのだが、今回私が防御に使った量は2割を100%と考えて約80%。現在、死なないために回復で15%も使っている。残り5%はトリムマウと月霊髄液の維持だ。

 正直、幻想種であるドラゴンを始めとした奴等をクロロ達に投げて始末させ、そいつらを喰べていなければ死んでいたね。

 

「そういえば、なにか忘れているような……」

「うう~む」

「えい♪」

「いてぇっ!」

 

 いつの間にか現れたメンチ君が会長の頭に容赦のない肉包丁をたたきつけてから首筋に添える。開始の時に離れていたし、先の攻撃を喰らわなかったんだろう。いや、少しは行っていたはずだからよけたのかな? 彼女もこの一ヶ月で実力を格段に上昇させているからね。

 

「はい、これで勝ちよね」

「そういえば、メンチ君を忘れておったな」

「ふ、主人の私を囮にするとは駄目な護衛メイドだな、君は……一人勝ちかい?」

「何言ってるのよ。今回も二対一なんだから、私達の勝利でしょ」

「ふむ。それもそうか」

「いやいや、ちょっとわし、死に掛けなんじゃから病院に……」

「弟子に負けないために死に掛けるとか、笑えない冗談だね。それも卒業試験で……」

 

 しかし、予定では勝つはずだったのだが、これはもっと厳しい修行方法を考えないといけないね。

 

 

 

 

 

 馬鹿みたいな戦いから少しして、ネテロ会長はメンチ君の呼んだ救護班によって病院に搬送された。まあ、オーラがほぼ無くなった程度なら、栄養補給して大人しくしていればいいだけだ。ご老体なので念の為ということが大きい。

 私はといえば、ハンター協会から専用車でメンチ君を連れて自宅になる邸宅に移動中だ。まだ動くのは辛いが、骨は水銀で補って再生させているので問題ない。お陰でトリムマウは出せないのだが、色々と忙しいので仕方あるまい。

 

 話している間に車は警備が厳重な門を抜け、林の中を進んでいく。しばらくすると庭園になり、先の方に大きな豪邸が見えてくる。

 

「ここが家?」

「そうなるね。職員は他の場所に宿舎があるので、基本的にあの家に住むのは私達だけだ」

 

 ここはカキン帝国が国から借り受けている土地であり、治外法権だ。つまり、カキン帝国の法律が適応される。そのため、邪魔な連中は宿舎の方に移動してもらった。

 

 

 迎えに出て来ている者達が玄関からずらりとレッドカーペットの左右に別れて並んでいる。その前に車が止まり、扉が開けられていく。

 

「じゃあ、行こうか。荷物は置いておいていいから、武器だけでお願い」

「了解」

 

 メンチ君が出てから左右を警戒してくれている。普通なら手を差し出してくれるのだが、護衛は彼女一人なので両手を空けさせている方が良い。

 

「ライネス・ホイコーロ様、ようこそお越しくださいました」

「うむ。出迎えご苦労。これからよろしく頼むよ」

 

 軽く手を上げながら、頭を下げてくる彼等の間を進んでいく。扉の前に到着し、くるりと回って後ろで手を組みながら皆をみる。同時に試験管を後ろに隠した袖から出し、水銀を垂らして扉から邸宅を探索してもらう。

 

「それじゃあ、もういいから仕事に戻ろうか」

「て、庭園の方にか、歓迎パーティーの用意が……」

「あ~そういうのはいいよ。ここに居るのは我がカキン帝国の者達だけだ。来賓を招く式典以外はいらない。だから、用意されている食事とかは君達で食べてくれ。請求とかもしないし、家族を呼んでもいい。少ししたら忙しくなるから、今日と明日は休みとし、一人二万ジェニーを与えるので英気を養ってくるといい。私は執務室に居ると思うから何かあればそちらに連絡をくれ」

「「「かしこまりました」」」

 

 指示を出してから邸宅に入り、月霊髄液を回収する。爆発物が四ヶ所も仕掛けられていた。私の部屋と執務室、天井と床だ。この邸宅が崩壊するほどの仕掛けだ。

 

「ねえ、メンチ君。爆発物が仕掛けられている。解体できる?」

「流石に専門外よ」

「そうか。では、私が解体しよう。メンチ君はキッチンとかを調べて欲しい。毒物が含まれている可能性がある」

「了解。犯人は?」

「色々な人に狙われているからね。まあ、一番の候補はツェリードニヒお兄様だろうが。私に緋の目を掻っ攫われた事に気付いたのかもしれない」

「あ~確かに恨まれるわね。了解。私が犯人にされてもかなわないし、ちゃんと調べるわ」

「よろしく頼むよ」

 

 オーラが少ないが、やれないことはない。月霊髄液で覆わせて爆破処理すればいいだけだしね。

 

「失礼します。ライネス様」

「おや、君は……」

 

 現れたのは顔が長く丸刈りで大柄な男性ともう一人、若い青年がいるね。どちらも念能力で彼等は原作で見たことがあるような気がする。

 

「王室警護兵のビンセントと申します」

「同じくバビマイナと申します」

「共にベンジャミン王子よりライネス様を護衛するようにとご命令を受けております」

 

 ベンジャミンお兄様が監視として送り込んできたか。お父様には一応、護衛は要らないと言ってあるんだが、ここの警備も兼ねて送られてきたのなら、護衛という扱いではないと言い逃れられるか。それに幻影旅団の事もあったから流石に派遣しないと外聞が悪いしね。

 

「そうか。それではよろしく頼むよ。でも、私は未婚の女だからね。男性を侍らせるつもりはないから、離れて護衛を頼む。ちゃんと女性の護衛も用意しているし、優秀な念獣もいるからね」

「しかし……」

「これは命令だよ。君達がベンジャミンお兄様から護衛として派遣されてこようが、ここでは私が最高責任者だ。命令が聞けないのなら、帰りたまえ。二つの指揮系統が存在するなど混乱するだけで害悪の極みだ」

「ですが……」

「失礼いたしました。そのようにいたします」

 

 バビマイナがビンセントに手で遮られる。ビンセントの方は私の命令を認め、受け入れたようだ。やはり、彼の方が年齢がいっているだけあって私が本当にやると理解しているのだろう。

 

「それで頼むよ。それと君達は爆発物の解体ってできるかな?」

「「は?」」

「だから、爆発物。俗に言う爆弾だね。それが仕掛けられてるんだよ。一時間以内に解除したい。無理ならこちらで対処するが……できるかな?」

「ええ、可能です。軍学校で一応、習っています」

「なら大丈夫か。念能力者なのだから万が一もないし任せるよ。場所はこっちだ」

「「はっ!」」

 

 二人を四ヶ所に案内し、爆弾を任せる。といっても、無理な物は無理だと伝えてもらう。爆破されたら住む場所がなくなるしね。

 というわけで、髪の毛をかき上げながら覗き込んで何時でも覆えるようにはしておく。ここで死なれたらベンジャミンお兄様に何を言われるかわかったものではないしね。

 

「解除できました。これはカキン帝国で使われている物ではありませんね」

「まあ、そりゃそうだろうね。足が簡単につく物を使ってくるはずがない」

「ええ、そうでしょう。ライネス様は誰が仕掛けたとお考えなのですか?」

「ツェリードニヒお兄様。証拠はないけれど、可能性は高いね。まあ、この程度で私が死ぬと思われているのだから、悲しくなるね。私達念能力者を殺すなら、もっと強い爆弾じゃないといけない」

「確かに」

「すぐに犯人を捜します」

「よろしく頼むよ。私は仕事を始めるから。Fervor,mei Sanguis(沸き立て、我が血潮)。トリム、護衛をよろしくね」

「かしこまりました」

 

 試験管から水銀を出し、トリムマウを呼び出す。それから、彼女を私の護衛として引き連れて執務室に戻る。

 

 執務室は本や書類が沢山あり、応接用のテーブルなどもある。隣の部屋は簡易なキッチンだ。もう一つの部屋には巨大なスーパーコンピューターが設置され、壁がほぼモニターになっている。

 早速起動して、IDとパスワードを入れて仕事を始める。この一ヶ月の資料も取り寄せて頭に叩き込んでいるので問題なく仕事ができる。

 月霊髄液の水銀ハンドもつかってキーボードを数十個使い、訓練しながら仕事を処理する。まず不正経理がないか、カキン帝国を裏切っているものがいないかを調べていく。銀の鳥達とハッキングを使った監視網で洗いだす。税金の無駄遣いは許さん。私はパリストンのせいで借金塗れなんだ! 

 

 

 

 

 

 さて、不正の洗い出しは終わったので、次は各国との交渉だ。だが、こちらは武器が必要になる。そのために依頼していた品物が来ないと話にならない。なので各国の情報を収集し直して欲しい技術や、人材、スキャンダルなどを掴んで証拠と同時にデータに書き込んでいく。証拠品は監視カメラの映像などでも充分だし、相手が認めなくてもこちらが秘密を知っているということを告げればいいだけだ。

 

「ん?」

 

 ついでに各国で欲しい弟子候補も探していると、外が騒がしくなってきた。そのタイミングで携帯電話に連絡が入る。相手はクロロだ。

 

「はいはい、どうしたのかな? クロロから電話をかけてくるなんて珍しいじゃないか。勝手に入ってきたらいいのに」

『警備の兵が入れてくれないんだ。それに検分させろって言われてたんだが……問題ないか?』

「あ~別に水銀は問題ないが、手持ちのは困るね。それ、外部に知られる心配はない方がいい。迎えに行くよ」

『頼む』

「しかし、なんでクロロが来ているのかな? マチお姉ちゃんだけのはずが……」

『今回の報酬が本だからな』

「納得の理由だね、うん」

 

 携帯電話で話しながら執務室から出てバルコニーに向かう。そこから下を見れば複数の大型トラックが停車している。近くにはバビマイナとビンセントが必死の表情で止めている二人の姿が見えた。瞬殺されるというのに、頑張っている姿には好感が持てるね。

 

「二人共、お待たせしたね」

「ライネス、引越し祝いも持ってきた」

 

 マチお姉ちゃんは袋を掲げるが、中身はわからない。

 

「おお、それはありがたい。では、指示を出して中に入ってくるといい。ああ、水銀は設置されているプールにでも注ぎ込んでおいてくれ。入り切らなければ周りに置いておくだけでいい」

「了解した」

「いやいや、待ってください! 水銀が排出口から流れ出たら駄目ですよ!」

 

 業者の人が慌てて告げてきたが、一般人からしたらしかたないね。

 

「だそうだ。どうする?」

「そうだねえ、プールの底は排水できないように溶接してしまっていいが……ああ、こうしよう。トラックごと置いていきたまえ。車は貸すし、レンタル代も支払おう。明後日にでも取りにきてほしい。どうだろうか?」

「こ、こちらとしても代金さえいただければ構いませんが……」

「ではそれでいこう。バビマイナ君とビンセント君。その二人は構わないからそのまま通してくれ。私の友人だ」

「それは……」

「命令だよ。気にしなくていい」

 

 私はそれだけ言ってバルコニーから玄関の方へと移動する。二人も玄関から扉を開けて入ってくるので、階段の辺りで合流できた。

 

「それで引越し祝いというのは何かな」

「蕎麦粉と塩」

「……それはマチお姉ちゃんが食べたいだけじゃないのか?」

「否定はしない」

「まあ、いいけど」

「そんな事よりも本だ」

「本は後だ。まずはメンチ君の所に……」

「呼んだ?」

 

 何時の間にか隣に現れていた。護衛なだけあって素早い。

 

「メンチ、これって作れる? 蕎麦の材料なんだけど……」

「ジャポンの料理ね。作れるけど、流石に本職並みにはできないわよ」

「メンチの料理なら大丈夫よ」

「じゃあ、作ってみるか。お昼はこれでいい?」

「いいよ。ついでに護衛二人の分も作ってあげてくれ。私達は執務室にいるから」

「了解」

 

 さて、二人を執務室に連れていき、対面になるようにソファーに座る。するとクロロとマチお姉ちゃんがそれぞれリュックから木箱を取り出して中身を見せてくる。

 

「依頼されていた物だ。確認してくれ」

「ふむ……確かに国々から盗まれた重要文化財や秘宝だね」

「このナイフなんて手に入れるの、すっごく苦労したんだから」

「そうなのかい?」

「そうよ。ゾルディック家と鉢合わせして、取り合いになったんだから」

「確かシルバ・ゾルディックがナイフを集めるのが趣味だったか」

 

 手にしたのはオーラが込められているナイフはベンズナイフ。これは刀鍛冶兼殺人鬼のベンニー・ドロンが殺人を犯し、殺人によって得たインスピレーションで独特なナイフを作ってきた。合計288本のナイフが生み出され、その全てが不思議な形状をしている。そして、シルバ・ゾルディックはこのナイフのコレクターだ。

 

「これは裏目に出たかな」

「どういうことだ?」

「このナイフを頼んだのはシルバ・ゾルディックへの手土産だったんだよ」

「あ~そういうことか」

「残念だったわね」

「まあいいさ。必要な物は手に入った。代金は何時もの通り、口座に振り込んでおく。次の依頼だが……」

 

 クロロが胃が痛くなるような依頼を出してあげた。もっとも断られたが。流石にメビウス湖の中に居る巨大生物の討伐は不可能だね。仕方ないのでとある兎の捕獲と薬草の入手を依頼する。

 

「俺達の仕事じゃないんだが……」

「それがそうでもない。兎は密漁業者に捕まっている。ああ、兎は出来る限り彼女の要望を叶えて連れてきてくれ。薬草の方はこちらに保管されている」

 

 兎の写真と薬草が保管されている場所が書かれた紙を渡す。二人はそれを見て驚いたようだ。

 

「兎人間か」

「へぇ~面白いわね」

「ああ、突然変異の個体だ。元は人間だよ」

「つまり、銀の凶鳥が関係していると?」

「さあ、わからないが、その可能性は否定できない」

「それにこの薬草って……頭に生えてる植物の奴じゃない」

「モンスターごと捕獲されて国立研究所に入れられている。君達らしい仕事だろう?」

「確かにな。だが、裏があるのだろう?」

「兎に関しては裏などない。ただ、薬草に関してだが、国立研究所に入れられている、というより囲われている。また、研究結果ではそのモンスターから取れる薬草はとても素晴らしく、色々な治療薬になるそうだ」

「……わかった。手に入れてこよう」

「団長、いいの?」

「かまわない」

「ではよろしく頼むよ」

「ああ」

 

 私は立ち上がり、クロロに報酬の本と前金としての本を渡す。

 

「ちなみにその国立研究所では非合法な実験が行われているので、研究員は皆殺しにしてくれても構わないよ。君達が事を起こした後は警察や軍が突入する予定だ。だから、その前に奪える物は奪ってきてほしい。カキン帝国で買い取ろう」

「いいだろう」

 

 世界で10冊しかない原書を大切そうに持ち上げ、読みだしていくクロロ。マチお姉ちゃんは呆れた表情でみている。そんな中、お昼の蕎麦がワゴンで運ばれてきた。

 

「おまちどうさま。蕎麦よ」

「待ってました」

「うむ。いただこう」

 

 メンチ君には私が知る前世にあった日本の料理もしっかりと教えてあるのでレパートリーが多い。うん、蕎麦もとても美味しい。夢中で食べられるし、薬味まであって満足だ。二人もそれは同じみたいで、すぐになくなってしまった。もちろん、そば茶まで出してもらえた。

 

「晩御飯は希望がある?」

「オムライスがいいね!」

「オムライスか。いいな。俺達の分も頼む」

 

 オムライス、美味しい。トロトロの蜘蛛鷲卵は素晴らしい。

 

「いいでしょ?」

「まあ、いいけど……」

「いや、君達は今から夕方まで居るつもりなのかな?」

「そうだが?」

「今日は用事もこれで終わりだから」

「まあ、いいが……私はやる事があるから大人しくしていればいいが……」

「やる事?」

「ああ、この邸宅を魔改造する」

「魔改造って何をする気なのよ?」

「この邸宅には足りない物がある。それも致命的なほどに……」

「良い家みたいだけど……」

「確かにそうね」

 

 マチお姉ちゃんもメンチ君も納得しているようだが、私にとっては納得できないのだよ。

 

「この邸宅には圧倒的に銀が足りない!」

「待て。お前、まさか……」

「うわぁ……」

「ちょっと止めてよね! 私も一緒に住むのよ!」

「知らないね! ここの家主は私だ! 故に改造する! そのために水銀を運ばせてきたのだから!」

 

 ガチで引かれているが気にしない。私の安全上とここを抜け出すために必要な措置なのだ。仕方ないじゃないか。そんなわけで、私は三人を無視して邸宅中に計算尽した配置で神字を刻んでいく。ちゃんと裏に隠したりもしていくし、人手はトリムマウにも手伝ってもらうことで一気に刻む予定だ。

 我が家はトリムマウの中になるのだよ。つまり、ここで私を倒せると思わぬことだ。どこからでも攻撃してくるし、全て監視できる。また私の身代わりも用意できるようにするので抜け出して水銀人形(ライネス人形)を置いておけば大丈夫だろう。

 

 

 必死に頑張った。クロロ達が帰った後も寝ずに沢山の月霊髄液で作って手を使って休まずの作業だ。

 邸宅中に強化を施してオーラを込めまくることで建物自体を強化すると同時に内部をある種の異界とする。邸宅全てがトリムマウの管理下に置かれ、普段は大量の水銀が壁に擬態していたりするモンスターハウスとなった。別名スライムハウスとも言う。だいたいそんな感じだ。

 具現化した水銀と実物の水銀を合わせて通路が埋まり、水没するかのような馬鹿みたいな水銀の量だ。それらの水銀が月霊髄液と同じような機能を持ち、常に索敵と自動防御を行ってくれる。一度攻撃指示がでたら容赦なく相手を殺してくれるだろう。トリムマウの腹の中に居るようなものだから、全方位からの攻撃はもちろんのこと、中毒症状も発生する。いや、これは住んでいたら当然か。

 

「はい、これ」

「なんだねこれは……」

「退職願い?」

「……」

「中毒死するのは嫌なのよね」

「大丈夫。ちゃんと対策は取るから、敵以外は中毒にならないよ」

「そう、ならいいけど……」

 

 まあ、オーラで覆って中毒にならないように閉じ込めておけばいい。それにちゃんと敵味方の識別はできるし大丈夫なはずだ。うん、念の為に壁などには別の板を張り付けたり、家具や美術品に擬態させたりしておこう。どちらにせよ、この邸宅の中で起こることは全て把握できる。また、これによって地下に抜けだ……脱出するための隠し通路なども作れるからいいことづくめだ。

 

 

 

 

 

 

 




ネテロ会長は負け嫌い。

水銀屋敷(邸宅) この中でならきっとネテロ会長にも……無理くさい。

さて、グレイを出そうかと思いますが、カイトの妹辺りにして、カイトの設定も捏造や弄ろうかと思っています。


次はジャックの話かな。

その次はアンケート。いい感じの念能力を考えてくれてもかまいません。正直、考えてると結構大変ですので使わせてもらえると幸いです。

ジャックちゃんのメインは37の女性を殺害した少女殺人鬼。







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恵まれない不幸な少女1

この話にはカニバリズムなどが一部含まれます。幼い女の子がかなり不幸な目にあいます。アポ基準なのでご容赦ください。嫌な方は次の話の冒頭にでも簡単にあらすじを載せます。


 

 

 

 

 

 

 痛い。痛い痛い。痛い痛い痛い。

 必死に身体を丸めてママから蹴られるのを耐える。身体中が痛くて涙を流しながら何度も、何度も止めてとお願いしても聞いてくれない。声を上げたらまた熱いのを押し付けられる。

 

「アンタなんか産まれてこなければよかったのに……」

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

 

 ひたすら蹴られていると、ママの電話が鳴る。ママは電話に出ている間は頭を踏みつけるだけで許してくれる。痛いけれど、蹴られるよりは凄くまし。

 

「はい。お金は必ず……はい、はい。それなら、構いません。ええ、年齢は6歳です。は、はい、もちろんです。あ、ありがとうございます!」

 

 ママの声が嬉しそうな感じになる。良かった。機嫌がよくなったらご飯がもらえる。もう痛いこともしばらくはされない。

 

「いいところに連れていってあげるから、そこに居る人達の言う事ちゃんと聞くのよ?」

「……え?」

「後でママが迎えに行ってあげるから」

「う、うん……わかったよ、ママ……」

「良い子ね。愛しているわよ」

「うん! わ、わたしもママのこと、大好きだよ」

「ええそうね。じゃあ、お出掛けしましょうか」

「やった!」

 

 久しぶりのお出掛けで、小さくなった綺麗なお洋服を着せてもらえる。それから、ママと一緒に良い所に行くの。隣に住んでいる友達と途中で会って話すと、エレナちゃんもとても喜んでくれた。どうやら、彼女も一緒に行くみたい。

 

 

 

 

 黒い大きな車に乗って移動するみたいだけど、外の景色が見えないようになっていて、とても楽しみ。

 

「楽しみだね」

「うん、そうだね」

「二人共、このジュースを飲みなさい」

「ご厚意でお菓子も貰えたの、美味しいわよ」

「「わ~い!」」

 

 ママたちからジュースとお菓子をもらう。痛い身体を我慢しながら食べると、とっても甘くて美味しくて、涙がでてきちゃう。二人で全部食べると、なんだか眠くなってきちゃった。こんな幸せな時間、もっと起きていたのに……

 

「うにゅ……」

「ん~」

「眠いなら寝なさい。起こしてあげるから」

「そうよ。ゆっくりとおやすみなさい」

「「ん~おやすみなさい……」」

 

 ママ達に言われて、そのまま眠りについていく。

 

 

 

 起きた時にも楽しい事があればいいな……

 

 

 

 

 

 

 次に起きた時にはママ達が居なかった。お仕事が入ったらしい。残念。それから、私達は何処かわからない部屋に連れていかれる。他にも私達みたいな年齢の子や大きな子達もいるみたい。お友達になれたら嬉しい! でも、女の子ばっかり。なんでだろ? 

 

「よろしくね」

「よろしく……」

 

 色んな人達と話して友達になっていくと、複数の大人の人達が入ってきてお風呂に入れてくれるらしい。私は碌に入れていなかったから、とても嬉しい。ママの言う通り、ここはいいところかも。

 

 

 そう、思っていた……でも、違った。お風呂から出た私達は服を取り上げられて、痛い事をいっぱいされた。注射をされたり、殴られたり、変なのを飲まされたり、首を絞められたり……友達になった子達の数がどんどん減っていく。早く迎えにきて、お母さん……ここに居たくないよぉ……

 

 

 

 お母さんは迎えにきてくれない。どんなに待っても、皆の両親も来てくれない。友達になった子もほとんど死んじゃった。死んじゃった子を解体させられて、食べさせられたりもした。お客さんの前で解体ショーとかいうのをしたりもした。私達が戦って、負けた方が解体されて食べられるの。

 死んじゃった子達の分だけ、新しく連れてこられる子達がいるから、数はかわらない。その子達と友達になり、数を揃える。私達は自分からママ達のところに逃げる事にしたの。皆で協力してやってくる人を襲って倒し、一斉に逃げる。

 何人も捕まっちゃったけれど、皆で必死になって外を目指し、外の光が洩れている通路を走って光の中に飛び込み……私とエレナちゃんは逃げられた。そう思ったけれど、後ろから大きな音がして足が熱くなったと思ったら倒れちゃった。

 

「行って!」

「っ!?」

 

 エレナちゃんだけは外に押して、後ろから追ってきた人達に飛びついて噛みついてやる。

 

「この野郎!」

「いいからお前はそいつを捕まえておけ! 逃げられたら十老頭に何を言われるかわかったもんじぇねえ!」

「おう!」

「いかせない!」

 

 痛い足を使って男の人の足にぶつけて、転倒させる。すぐに殴られて動けなくさせられるけれど、掴んだ腕と歯で必死に抵抗する。次第に何も分からなくなってくるけど、逃げていったエレナちゃんが無事であることを祈る。

 

 

 

 

 

 次に気が付いたら……私の手足がなかった。一緒に逃げた子達も捕まっていて、同じように手足がなくなっていた。そんな私達を見て怯えている子達がいる。エレナちゃんを探すけれど、いないみたいでほっとした。

 

「たく、余計な手間をかけさせてくれたな」

「こいつらの処分はどうするんですか? 好き者連中にくれてやるとか?」

「それもありだが、一つ実験をするそうだ。陰獣からコイツを渡された」

 

 男達の手には変な文字が刻まれた鳥籠があった。その中にはとても綺麗な()()()()()()が入って出ようと暴れている。

 

「そいつは銀の凶鳥ですか。流石陰獣ともなると、手に入れられるんですね。でも、それって……」

「そうだ。使えば願いを叶えて死ぬ事になる。その代価をこいつらに払わせればいい。それにこいつらは一定時間、寄生させないと消えちまうからな」

「なるほど」

 

 ママに会いたい。友達にも会いたい。ずっと一緒にいたい。

 

「お母さん……」

「なんで、迎えにきてくれないの?」

「ママ……」

「お父さん……」

「はっ、お前達に迎えなんてくるわけねえだろ。お前達は両親から売られたんだよ。そもそも娼婦の餓鬼なんて親はわからないし、愛情なんてねえだろうよ」

「客の趣味で産まされただけだろうしな」

「そんなことないもん! ママは大好きだってぇ……」

「最後だからな。それに俺達の言う事をよく聞くように言われただろ?」

 

 涙が溢れてくる。本当にママに売られたのかな? ううん、そんな事はない。ママは私の事を大好きだっていってくれたもん。だから、信じる! 

 

「どちらにせよ、これで終わりだ」

 

 お願い、神様。私達を助けて皆、一緒にママの所に連れていって! 

 

「ママに会いたい」

「皆と一緒にここを出たい」

「一緒がいい」

「許さない……殺してやる……」

「いやだいやだ……」

 

 皆で必死に神様に願う。でも、叶わない。だって、この世界に神様なんていないもん。いたら、私達がこんな目に遭うはずがない。ママと一緒に幸せに……

 

「さあ、銀の凶鳥よ。餌の時間だ」

 

 男性から何か変な感じがするのが飛んできて、それが身体に巻きついてから鳥籠が開けられる。変なのは銀色の鳥さんにもついているみたい。銀色の鳥さんはこちらにやってこようとするけれど、そのまえに男の人達に捕まれて動けなくなったようで、苦しんでいる。助けてあげたいけれど、両手と両足がない私達ではどうすることもできない。

 泣いていると、銀色の鳥がこちらをジッと見詰めてくる感じがした。次の瞬間──

 

外部からの干渉を確認。自己防衛モードを起動。創造主の知識と接続を開始……完了。オーラの供給を確認。これより防衛システムの構築に入る。対象者を選別開始……確認完了

 

 ──不思議な声が聞こえてきた。

 

「鳥さん?」

「なに、この声?」

「あ、たまに……」

「やぁ、こわい……」

「何が起こっている!」

「知るか! 俺の念能力は操作系だ! こいつらのオーラを利用して銀の凶鳥に願いを叶えさせるだけのはずだ!」

 

力が欲しくないか? 

 

「「「欲しい!」」」

 

 私達は一斉に声を揃えて答える。

 

なら、僕と契約して魔法少女(サーヴァント)になってよ

「よくわからないけどなる!」

「私も!」

「ボクも!」

「やめろおい!」

契約はなった! 君達の心の底からの願いは成就される! 自己防衛システム起動! ボク達を閉じ込めて利用しようとした報いを受けるがいい、人間共! 汝らはボク達が創造主に送る供物のくせに生意気だ! 

 

 その言葉が聞こえた私達は、苦しみだしていく。その上、勝手に身体が浮いて中心部で皆の、ここに居た子供、皆の身体が合わさる。それから、だんだんと溶け合うように一つになってきて、私達は──

 

 

 

 

ボクという個体を構成する力の全てを持っていくといい。新たな魔法少女(サーヴァント)に産まれた君達に祝福を与えよう! 創造主の知識より、名と力を与えるのだから感謝してくれ。そして、殺して殺して殺しまわれ! 魔法少女ジャック・ザ・リッパー

 

 

 

 

 ──新しく産まれなおした。複数のわたしたちは一つに統合され、身体も新しくなった。意識も一つだけど、同時に複数でもある。私達は一にして全。全にして一。堕ろされた胎児達や恨みながら死んでいった子供達。その魂の集合体として産まれた悪霊のような念獣(魔法少女)とかいうのになった。

 だから、わたしたちは目的が与えられている。わたしたちの目的は本当のおかあさんを探して、邪魔者を殺して、排除する事。その代価にわたしたちは願いを叶えてもらう。本当のおかあさんをみつけて、おかあさんと幸せになるの。

 

だから、邪魔者と偽物は……死んじゃえ

「っ!? 避けろ!」

 

 憎い、憎い憎い男の人が驚いている間に接近しながら、具現化された解体用のナイフを片手で掴んで逆手に持って斬りつける。身体が凄く軽くてまるで線をなぞるかのように高速かつ、綺麗に十六分割できた。きっとおかあさんに褒めてもらえるね! 

 

「くそ、こんなことをしてただで済むと思っているのか! マフィアンコミュニティーがお前の家族を……」

 

 飛んでくる銃弾を視認して、身体を少し横に飛ぶ。そうしようと思ったら四倍くらいの距離を移動して、もう少しで壁に激突しそうになっちゃった。わたしたちの身体能力にまだ感覚が追いついていないみたい。

 

「? わたしたちに家族はおかあさん以外いないよ」

「なら、そのお母さんとやらを殺し──」

 

 男の人が何か言う前に身体を回転させながら銃弾を避け、左手と右手のナイフで一気に両手両足の腱を切って動けなくする。男の人は倒れ込んで動けなくなったから、上に乗ってニコニコと笑ってあげると恐怖で引きつった顔になっちゃった。

 

「ど、どうするつもりだ……」

「不思議な事を聞くね? あなた達がわたしたちに教えてくれたようにするんだよ?」

「そ、それって……」

「解体して食べるの♪ おかあさんの知識によると、わたしたちの身体を維持しているオーラを得るには心臓を食べるといいんだって! だから、あなたの心臓、もらうね?」

「や、やめてくれ……」

「なんで? あなたたちはわたしたちがどんなにお願いしても、やめてくれなかったよね? だから、わたしたちもやめないよ。だから、ゆっくりと解体していってあげる。大丈夫、とっても痛くしてあげるから、安心してね!」

「やめ、やめてくれぇえええええええええええぇぇぇぇっ!」

「あはっ♪」

 

 ゆっくり、じっくりと解体しようとしたけれど、叫び声を聞きつけていっぱい人がやってくる。仕方ないから殺すのは最後にしよう。

 男の人を壁際に押しやってから、魔法少女の力の一つ。気配遮断を使って壁際にしゃがみ込んで隠れる。すぐに拳銃を持った人が入ってきて、生き残ってる男の人に近付いていく。

 

「おい、何があった!」

「た、たすけてくれ! すぐそこに……」

「あは♪」

 

 気配遮断は完全に気配を断つと、ほぼ発見は不可能となる。攻撃態勢に移ると見つかっちゃうけれど、関係ない。手早く解体してあげる。

 

「ちっ、撃て!」

 

 沢山の弾丸が飛んでくるので、解体した人を盾として、武器として蹴る。その間に射線から退避して、気配を消して待つ。銃弾は盾を貫通して助けにきた人を穴だらけにしちゃった。

 

「くそ、どこ行きやがった!」

「相手はおそらく銀の凶鳥で念能力者になった奴だ、気をつけて時間を稼げ! そうしたら自滅する!」

 

 そうなのかな? そうかもしれないね? だったら、はやくおかあさんを探さないといけない。

 

「俺様に任せろ! 強化系の俺なら一撃だ! なら、ここで防御を固めていれば……」

 

 オーラを溜めてこちらが来るのをまっているみたい。うん、それならこれだね! 

 

「からん、からん、からん。くるくる、くるくるまわって遊びましょう。みんな、どろどろ、どろどろ溶けちゃうの」

 

 古いランタンを具現化させ、振り回しながらくるくると回る。ランタンから硫酸の霧、スモッグが溢れ出してきて室内に充満していく。これは強酸性のスモッグなんだよ。だから、呼吸するだけで肺を焼き、目を開くだけで眼球を爛れさせるの。一般の人は時間経過で、数分以内に死亡するね。念能力者(?)たちも対抗手段を取らないと、能力を行使することも難しいらしいよ。

 

「ぎっ、ぎゃあああああああああああああぁぁっ!」

「あがぁぁぁぁぁっ!」

 

 目や喉などを押さえている人達に近付いて、ナイフで殺していく。殺した後はお金を貰ってからお外にでる。霧を出しながら進んでいると、簡単に殺せるからとってもらくちん。

 お外に出たら友達のエレナちゃんも探さないと。でも、まずはおかあさん! 

 

 

 

 わたしたちのおかあさんの一人に会いに来た。家にちゃんといてくれて良かった。

 

「おかあさん、ただいま。やっとみつけたよ!」

「だ、だれよアンタ?」

「え? わからないの? わたしたちはクレアだよ」

「そんな名前の子、知らないわ」

「そんなはずないよ! クレアだよ! ちゃんと思いだして!」

「知らないっていってるでしょ! たとえ知っていたとしてもどうでもいいわよ。そもそも私は母親じゃない!」

「そっか。おかあさんじゃないんだね」

「そうよ! わかったらさっさと……」

「じゃあ、偽物は要らないや。解体しちゃお」

「え?」

「此よりは地獄。わたしたちは炎、雨、力──殺戮を此処に。解体聖母(まりあざりっぱー)

 

 一瞬で粉々にしてから、次のおかあさんとエレナちゃんを探しにいく。

 

 

 

 

 

 エレナちゃんをみつけた。エレナちゃんは……死んで、いた。エレナちゃん本人に話を聞いてみると、わたしたちを助けようと、道行く人達に必死にお願いしていたみたい。でも、誰も助けてくれないし、それどころか邪魔だと車道に押し出されて……車に轢かれちゃったらしい。

 だから、わたしたちはエレナちゃんをわたしたちの中に迎え入れることにした。エレナちゃんも喜んでくれた。そうすると、オーラの量が増えた。その事を知ったわたしたちは積極的に勧誘していく。ここ、ヨークシンとかいう場所ではおかあさんたちがわたしたちを作っては捨てて殺していく。

 生き残った子供達もストリートチルドレンになって、結局はみんな酷い目に遭って死んでいく。お姫様みたいな贅沢な暮らしをしてみたいけど、それは無理。だから、わたしたちはおかあさんを探して勧誘と偽物を殺していく。

 

「待って! 私だって捨てたくないの! でも、お金がなくて育てられないの! だから、誰かに拾ってもらえるように川に……」

 

 川に赤ん坊を流そうとしているおかあさんをみつけた。

 

「その赤ちゃんはわたしたちがちゃんと育てるよ」

「そ、そう、よかった……」

「ばいばい」

「え?」

 

 偽物は処分。首を刎ねて赤ちゃんの魂と同一化する。

 

「じゃあ、次に行ってみよう!」

「待ちな。お前が街を騒がしている連続殺人犯だな。情報が一切ないが、現行犯だ」

「おじさん、誰?」

「俺はプロハンターの……」

「そうなんだ。どうでもいいや。わたしたちとおかあさんの邪魔をする奴は排除するだけ!」

「来い」

 

 ハンターの人と戦う。でも、負けそうになるほど強かった。だから、逃げながらランタンで霧を出して建物の隙間を縫って移動する。霧と速度で相手の視界から外れたら、気配遮断で接近して後ろから首を切って落とす。ハンターの人はオーラの塊みたいで、とても美味しかった。

 

 

 気配遮断を使いながら、街を歩いていると大きなテレビである式典の報道がされていた。そこにカキン帝国ということろからきたお姫様がうつっていた。わたしたちとそう変わらない年齢で、なぜだかとっても引き寄せられる。うん、次の人はあの人にしよう! 

 

 

 

 

 

 

 

 




魔法少女(?)ジャック・ザ・リッパー
クラス:アサシン
属性:混沌・悪
賞金額:507万ジェニー
数十人の不幸な子供達と殺された子供達の集合体。銀の凶鳥と契約して魔法少女となった。死者の念により、強化もされているジョイント型念獣。
ジャック・ザ・リッパーとの問答で失敗すると、即座に殺される。

戦闘能力は一流より下。二流止まり。奇襲攻撃を除く。相手がおかあさんであり、オーラの供給を潤沢に受けている場合は一流となる。

現在の殺害数:おかあさん37人。その他25人。合計62人を殺害。また、彼女による硫酸をうけた負傷者は96人。
しかし、情報が抹消されているため、詳しい内容は不明。

銀の凶鳥には意思が芽生えております。元がきゅうべぇだしね。防衛システムを構築・起動すると、願いを曲解して叶える場合もある。今回の場合、一緒に居たいという思いを曲解してこのように一つの身体に纏めた。そのため、ジョイント型でもあり、オーラの量は跳ね上がっています。

ジャックたんのおかあさん検査!
「あなたはおかあさんですか?」
「はい、おかあさんです」
次の質問へ
「いいえ、違います」
野生のジャック・ザ・リッパーが現れた。解体聖母! あなたが死亡した。

だいたいこんな感じ。正解を引かないと死ぬ。正解を引いても女性で悪属性なら死ぬ。つまり、ライネスは……戦闘不可避





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18話

 

 

 

 

 さて、我が邸宅を私の支配下に置いて二ヶ月少々。地下施設の改造も完了し、各国への外交特使などと会談して折衝を何度も行ってきた。

 手に入れたお土産もあり、カキン帝国に有利な契約を結ぶことも無事にできた。相手は国外に盗みだされた重要文化財などが戻り、カキン帝国と共同で技術開発などを行うだけだ。資金も両方から均等に出すことになるが、こちらが劣っている分野なら、存分に学ばせてもらえるというわけだね。

 もっとも、外交が忙しくて私の本来の目的は果たせていない。理由としては子供である私を侮って、有利な条件を引き出そうと馬鹿共がやってきているからだ。それ相応の見返りを頂いてお帰り願ったが。

 国以外にもマフィアや売り込みにやってくる大手の企業を相手にするなど本当に忙しい。大手は特にパーティーに呼ばれるので、国内企業の重役達と共にでないといけない。コネクションを作り、カキン帝国内部の事業を進めるには他国の技術で作られた部品を使う場合もあるからね。

 それらもようやく落ち着いてきて、ある程度は遊ぶ余裕がでてきた。そんなわけで久しぶりにお仕事の終わりにメンチ君とお買い物をしにヨークシン最大のデパートへと来たわけだ。ちなみに今日の服装は和装だ。ジャポンの人がパーティーの主催者だからね。もっとも、上は萌え袖有りの緑色の和服で下は赤いスカートだ。

 

「これなんかも似合うかもしれないわね」

「ほほう……なら、着てみようかな」

 

 本日買うのは外出用の普段着だ。ドレスぐらいしかないから、一般人に紛れ込むにはそれなりの服が必要というわけだ。それにライネスは女の子なのだから、着飾るのは当然だ。霊基再臨でも服装を変えていたしね。

 

「ん~やっぱりどれを着ても似合うわね」

「メンチ君も似合っているよ。あ、そろそろ小腹が空いてきたから、クレープでも食べようじゃないか」

「そうね」

 

 護衛を連れて移動し、最上階のフードコートでクレープを購入して食べる。口いっぱいに広がるクリームの甘さと果物の酸味が合わさり、とても旨い。席に座りながら、メンチ君と談笑していると設置されているテレビからニュースが聞こえてくる。

 

『また、ヨークシンシティで連続殺人が起こりました。被害者は20代の女性。これで女性は37人目になりました。警察は一万三千人の警察官を投入していますが、未だに犯人は捕まっておりません。また、目撃者の情報も曖昧であり、犯人の断定もできておりません……』

 

 目撃者が居てなお情報があるというのに犯人が絞り込めていないのは異常じゃないか? ヨークシンほどの都会ならば、監視カメラはそこら中にある。だというのに犯人の写真やモンタージュすらないというのはね。

 

『この事件は不可解な事が多すぎます。それにプロハンターにも被害がでているようで、死体で発見されたそうです』

『プロのハンターですら殺されるということは我々一般人では……』

『はい。ですので、現状では犯人が出没する夜には出歩かないようにするしか対策がありません。特に女性は危険です。女性以外の被害者は警察官や助けに入ろうとした人達であることが判明しています』

『なるほど。そ、それでは家から出ないようにします』

『それがいいでしょう。もしくは職場に泊まり込むといいかと思います』

 

 これは、これは……とっても面白そうだね。うん、興味が湧いてきた。少し調べてみるか。

「メンチ君。この犯人の情報は何かあるかな?」

「ブラックリストハンターが数人殺されているわ。中にはシングルもいる」

「おや、よく知っているね」

「私はアンタの護衛なのよ? 危険人物の情報は即座にハンター協会から教えられるわ」

「それもそうか。では、その情報を私にも教えてくれ。そうでないと危険だろう? 怖くて夜も眠れないよ」

 

 両手を広げてから、目元に持っていって震えるふりをする。すると、メンチ君は冷めた表情でこちらを見詰めてくる。

 

「却下よ。アンタ、絶対に自分から首を突っ込むでしょう」

「そんなことはないさ。ただ、襲われたら返り討ちにはするつもりだがね」

「やっぱり」

「まあ、私も情報を探してみるか」

 

 携帯を操作しながらオーラを込めていく。意味はないが、銀の鳥達に接続して情報を探す。探す場所はヨークシン。そこに存在している小さな鳥達から情報を集める。

 

「まったく……」

「最低限の情報がないと、本当に詰むからね。シングルのプロハンターを殺したのなら、相手は念能力者だろう。能力の予測を立てないと弱点をつけないじゃないか」

 

 相手の情報さえあればなくても弱点を作り出す事が可能なのだけどね。司馬懿殿なら。

 

「わかったわ。今判明している情報は、被害が始まったのはマフィアが運営する店からってこと。そこの従業員と客は全滅していたわ」

「ほほう。どんな具合にだい?」

「バラバラにされていたのもあったけれど、そのほとんどが溶けていたわ」

 

「溶けていた? 斬り殺したのではなく?」

「そうよ。切断された死体も溶けていたわ」

「成分分析は?」

「硫酸だったそうよ」

「なるほど」

 

 相手は切断系の武器を使い、硫酸を使う。これぐらいなら一般人でも可能だが、それではプロハンターは殺せない。ましてやシングルなんて夢のまた夢だ。

 

「それと商品にされていた子供達が一人も見付かっていない」

「おいおい、子供達を商品にしていたのかい?」

「それも最低最悪の扱いよ。年齢だって一番下はライネスとそう変わらないわ。その子達に客を取らせて、客は子供を拷問したり、仲の良い子供を解体させたり、食べさせたり……胸糞悪い映像が残っていたわ」

「監視カメラは?」

「あったけれど途中から何も映っていないそうよ」

「途中まででいい。どうなっているのかな?」

「一度しか言わないからね。そいつらは逃げだそうとした子供達の手足を奪い、最後は実験台として使ったみたい。何か、子供達と捕らえていた銀の凶鳥が結び付けられていたから、操作系か何かで操ろうとしたのでしょうね」

「待て待て! それなら原因はわかっているじゃないか。何故ここまで被害が広がっている。その前にハンター協会なら手を打てただろう」

「無理よ。私達が知ったのは少し前。マフィアが隠蔽していたのよ。ガサ入れして強制的に開示させたってわけよ」

「ちっ」

 

 思わず舌打ちがでた。だが、まあこのタイミングならメンチ君は私と変わらない子供達を実験にしたことについてだと思うだろう。それだって思うところはある。例えば私が助けてやりたかったとかね。そんな不幸な子供達を助けて幸せにしてあげると、私にも色々とメリットがある。

 彼女達は感謝するだろうし、私の私兵として教育してもいいのだからね。それに借金生活脱出の近道になる。何故って? 念能力者にしてから身体能力を上げて天空闘技場に叩き込んでおけばいいからだ。

 まあ、こういった理由もあるが、一番の理由は……何、人の可愛い可愛い鳥達を勝手に許可なく捕まえているのだ。いや、捕まえることは百歩譲って許してもいい。だが、干渉して操作し、不正に使おうなどと許せない。願いの代価は自分で支払うべきだ。私はちゃんと彼等の願いを叶えてあげている鳥達を維持している。全オーラの八割に加えて絶が使用不可だぞ。これ、結構、オーラの量を分配するのは大変なのだ。回復が遅いからね。

 

「つまり、その子供が契約者となったわけだ」

「そうよ。そして、ナニカになった」

「なるほどね。ハンター協会はどう動くんだい?」

「一応、上層部には報告しているそうだけど、本格的な介入は止められているそうよ」

「またなんで……」

「国の上層部と繋がっているマフィアからの横槍ね」

「やれやれ、愚かだね。この相手の危険性を考えるのならば、私はネテロ会長や十二支んを投入するが……」

 

 呆れた表情でメンチ君を見詰めるとあちらは驚いているようだ。そんな表情を見ながら、鳥の視界を使って色々な場所を確認していく。頭が痛くなるが、我慢する。

 

「そこまでとは思わないけれど、なんで?」

「そうだね。ヒントはあげよう。消えた複数の子供達。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それらを合わせた結果、どうなるかね?」

「……まさか。ジョイント型の死者の念?」

「最悪の可能性はそれだ。普通ならこんな事はまず起きない。だが、願いを叶える銀の凶鳥が介入し、子供達の誰かが一緒に、それこそ死んだ子達とも一緒に居たいと望めばどうだい? 完成するのは死者の念とジョイント型というハイブリッドな化け物だよ」

 

 私と同じ理論だ。一人で足りないのなら、他所から持ってくる。私は一人を基準としてあくまでもハードやメモリを増設しているが、彼女達の場合は並列コンピュータだ。一つ一つは小さくても、繋げて増幅する事で能力を格段に上昇させる。そして、死者の念という通常の念が1ギガバイトとすれば1テラバイトのようなものを並列したら……あはは、笑っちゃうな! 

 

「ああ、それと悲しいお知らせだ」

「なによ……」

「ヨークシン周辺でストリートチルドレンや親に虐待されていた子供、家出した子供が消えているそうだね。ハンター専用サイトで調べてみたので確実な情報だ」

「待ちなさい。なんでライネスが入れるのよ」

「決まっているじゃないか。メンチ君のIDを使っているからだよ」

「……あんたねえ……」

「君のハンターライセンスは確認して暗記してあるし、パスワードも我が家で入力しただろう。そうなればトリムに全部筒抜けだぞ」

「……あの子の腹の中みたいなものだったわね……で、今も巨大化していっていると」

「そうだね。その可能性がある」

 

 しかし、武器、複数の子供、殺された子供、消えたストリートチルドレンや家出少女など。そして硫酸と銀の鳥。これらから導き出される答えは一つ。しかし、そんなことはあり得るのだろうか? 

 可能性としては私と同じような転生者もしくは転移者。そして、銀の鳥が作り上げた……そういえばフラグを立てていたか。確か、私はジャックを作りたいとも願い、必要な素体が集まれば実行に移そうとも考えていた。護衛にも暗殺にもアサシンは便利だからね。しかし、銀の鳥が私の願いを聞き届けて作るか? 私の知識を使うならジャックかハサンの可能性があったが……静謐ちゃんとかもかわいいしね。そういえば初代様欲しかったなあ。

 

「ねぇねぇ、ちょっといい?」

「なにかしら?」

 

 金色の髪の毛をしたボブカットの見慣れた可愛い幼女(断言)とピンク色の少女を見つめている私と同じぐらいの銀髪をした可愛い幼女が話しかけていた。

 

「あなたはわたしたちのおかあさん?」

「え、違うけど──」

「メンチ君っ!」

「っ!」

 

 私が飛ばした全力の殺気で、メンチ君の身体は瞬時に私とネテロ会長のせいで慣れ親しんだ行動を起こす。それすなわち、0.3秒の包丁の超高速抜刀。普段から警戒している彼女は迫り来るナイフを弾く。相手ももう片方の手で逆手に持ったナイフで攻撃してくるが、そちらも別の包丁を高速で抜刀して弾き、後ろに倒れるようにして襲撃者の幼女の腹を蹴りつける。

 

「くぅっ!」

 

 腹を蹴られた幼女は念能力者としてネテロ会長に鍛え抜かれた彼女の一撃をもって、複数のテーブルを巻き込んで吹き飛び、壁に激突。する直前で方向転換して壁を蹴って戻ってくる。

 

「トリムっ!」

 

 私の袖から出た水銀がトリムマウの姿となり、腕をハンマーとして横合いから殴りつける。相手はこちらの奇襲に気付いてナイフをクロスさせて吹き飛んでいく。そのついでとばかりに複数のナイフを飛ばしてくるが、ハンマーから腕を剣に変えたトリムが弾いてくれる。

 

「きゃああああああああああああああああぁぁぁっ!」

「に、にげろぉおおおおおおおおおぉぉっ!」

 

 一般人が気付いたようで、すぐに逃げだす。それを見た彼女は──

 

邪魔! 

 

 ──当然、周りの人間を細切れにしようとナイフを振るう。私はトリムに指示を出して攻撃を行わせることで妨害させる。幼女とトリムの斬り合いは拮抗しているといえるが、それは彼女が戦い方の素人で、オーラをちゃんと使いこなせていないからだ。逆にトリムマウはネテロ会長との修行で戦えるようにはなっている。また、斬られてもすぐに再生するので対処は可能、と思えるが……宝具を使われたらトリムが消される可能性もあるな。

 それほどに彼女から感じるオーラは禍々しく、膨大だ。

 

「わたしたちは本当のおかあさんを探しているだけなの! だから、邪魔しないで!」

「ちょっと、だったらなんで私に……」

「君が母親かと聞かれて否定したからだろうね」

「え、それって当たり前じゃない」

「そうだね。でも、それが彼女達にとってホワイダニットになるのだろうね」

「殺害する動機がそれだけってたまったもんじゃないわよ」

「彼女達は狂っているのさ。母親に捨てられ、拷問され、友達を殺され、その死体を……その、ね?」

「ああ、確かに狂ってもおかしくないけれど! どうするのよ!」

「どうもこうもない。逃げる。彼女と戦うにはここは場所が悪すぎる。それとも被害を気にせずに戦うかね? あまり立場的にしたくはないが……」

「逃げるわよ!」

「心得た。ただ、この持ち方には文句があるが」

「知るか!」

 

 私は包丁を片方仕舞ったメンチ君に荷物のように抱え上げられる。彼女はそのまま扉ではなく近くの窓を目指していく。このまま彼女を放っておいたら、被害は拡大して手が付けられなくなる。だが、一つだけ方法がある。世間体を気にすると死ぬかもしれないが、まあ男と結婚するつもりはないから私は未婚のままだろう。子供なんてそれこそ念能力で作ってしまえばいいのだし。妊婦ライネスか……それも想像妊娠だろう? やばいな。

 

「逃げるのはいいけれど、追ってくると思う?」

「気は乗らないが、私に秘策がある」

「声が楽しんでいるのをわかるのだけど?」

「いやいや、そんなことはないさ。王族としては致命的になるのだし」

「やりなさい。王族とは国民を守るためにあるんでしょ。ノブレスオブリージュよ」

「ここは私の国じゃないのだが、まあいい。彼女も救ってみせようじゃないか。私は我が儘なお姫様だからね」

「国では王子でしょう」

「まったくだ。変な国だよ、本当に」

「もう到着よ」

 

 後少しで到着する。話しながらもこちらに投げられてくるナイフを水銀で迎撃し、トリムマウを引き戻す。彼女は片手に古いアンティーク調のランタンを取り出していた。アレはまずい。もうやるしかない。

君の母親は私だ!

え? あなたがわたしたちのおかあさん?

「ちょ、ちょっと!?」

「そうだよ。だから、私と鬼ごっこをしようじゃないか。家まで競争だね。はい、スタート! 行け!」

「ああもう!」

 

 メンチ君が片手の包丁で窓を切り裂き、外に飛び出す。ちなみにここは五八階だ。上にはもうない。すくなくともそういうことになっている。そんなところから飛び出したら、そら落ちるね。

 

「メンチ君、これは大丈夫なのかな?」

「ライネス頼りね!」

「君と言う奴は……」

「私じゃ速度を落とすぐらいしかできないし」

 

 オーラで強化した包丁を突き刺し落下速度を落としていくメンチ君。これ、後で私が弁償するのかな? うわぁ、借金がものすごく増えるな。

 

「ちなみに追ってきているわよね?」

「わかりきったことを聞かないでくれるかな?」

「そうよね。上から馬鹿みたいなオーラが降ってきているし……」

 

 私は抱えられているので上が見える。我等が相手の彼女……どう見ても姿がFateのジャック・ザ・リッパーなので、ジャックちゃんと呼称しよう。そのジャックちゃんも何のためらいもなく、飛び降りてきている。

 

待ってよ、おかあさん!

 

 凄く良い笑顔で楽しそうに両手を後ろに下げて壁を蹴って加速しながら追ってきている。それにナイフを投擲してくるのでトリムマウで防ぐしかない。相手がジャック・ザ・リッパーなら、ナイフに当たった瞬間、呪いで即死だってあり得る。

 

「このままじゃ追いつかれるね」

「迎撃は!」

「してもいいが、民間人が馬鹿みたいにいる高層デパートが崩壊するよ。そうなると大惨事だ」

「しなくていいわ! だから、このまま空を逃げるわよ!」

「空、ね。了解だ。トリム、私達を固定してハンググライダーになりたまえ」

「かしこまりました。お嬢様」

 

 やはり、トリムからの呼称はこれだね。こっちの方がライネス・エルメロイ・アーチゾルテに感じられる。

 

「思いっきり蹴ってビルから離れてくれ」

「了解!」

 

 力強く高層デパートの壁を蹴り、空に投げだされる。ジャックちゃんはこちらを不思議そうに見ているが、すぐにトリムマウがハンググライダーに変化したのを見て飛び出してきた。

 

ずるい!

「トリム、乗せるなよ」

「はい」

わわっ!

 

 ハンググライダーの上に無数の杭を生成して貫こうとするが、ジャックちゃんは身体を捻って斬り捨てて着地しようとする。このタイミングでトリムマウを離脱させ、ジャックを包み込むようにさせる。

 

え? え?

「ちょっ、聞いてないんだけど!」

「敵を騙すには味方からだろう?」

 

 月霊髄液を起動し、パラググライダーを再度作りあげる。同時にプロペラも作成してそのままデパートから離れる。その間にジャックちゃんを覆ったトリムマウは内部から切り裂かれて空中で分解されるが、再集結して串刺しにしていくが、中から煙がでてくると事態は変化する

 

「ちっ、ここまでか。戻れ、トリム」

「ちょ、どうしたの?」

「彼女、私の天敵なんだよね」

 

 硫酸の霧を発生させる彼女は水銀にとって天敵ともいえる。硫酸水銀に変化させたとしても、彼女が対象を選べる時点で彼女には効かないし、高濃度の硫酸で変色が起きて毒素が強まる。私にとって致命的だ。

 サーヴァントとしての相性を考えるとさらに最悪だな。彼女はアサシンで私はライダーだ。二倍ダメージな上に女性特攻が入る。

 さて、彼女の弱点はなんだろうか? 実は物理的に倒すか、洗礼詠唱などで浄化してしまうしかない。だが、私に洗礼詠唱など使えるはずもない。アレは聖人とかの力だ。ここに怨霊特化のグレイでもいればよかったんだが……そうも言っていられない。

 

「それでどうするの?」

「このまま家に向かうよ。何処かで足を手に入れられれば勝てるが……」

「なら、車ね」

「頼む」

 

 ハンググライダーで移動していてもエンジンを搭載しているわけではないので速度はでない。ジャックちゃんは普通に走って追いついてくるだろう。鳥の視界を確認すると、空から落ちて車を叩き潰してから即座にこちらを追いかけてきている。

 私達も地面に降りてその辺の車を購入する。どうやるかって? 

 

「この車、ちょっと売ってくれ。緊急事態なんだ」

「そ、そう言われても……」

「600万ジェニーで買ってやる。足りなければ追加もだす。これ、身分証だ」

「こ、これって……」

「追われているからね。後はこの携帯の奴と話してくれ」

「いくわよ!」

「ああ」

 

 パリストンに繋げた携帯を渡して札束を押し付け、さっさと逃げる。後ろからジャックが走っておいかけてきているが、流石に車は大丈夫だろう。そう思ったのだが、メンチ君の運転がやばい。

 

「もっと速度を出せ!」

「無理よ!」

「オーラで強化すればいけるだろう!」

「アンタ達みたいな出鱈目と一緒にするな!」

「なら運転を代われ!」

「馬鹿言ってんじゃないわよ! 子供に運転させるわけがないでしょう!」

「私はライダーだぞ!」

「しるか! なによそのライダーって!」

「ちっ」

 

 高速に入って時速100キロを出すが、普通に追いついてきやがった。流石はジャックちゃん! 化け物か! 原作より強いんじゃないかな! 

 次第に距離が近付いてきて、車の上にガンッという音がしたら、ナイフの先端が現れて穴が開けられる。

 

みつけたよ、おかあさん!

「メンチ君、フルアクセル!」

「了解!」

わわっ!

 

 前方に水銀を具現化し、わざと跳ね上がるようにする。目の前はトンネルだ。そうなると跳ね上がった車は天井ぎりぎりを通過し、その上に居たジャックちゃんは後方に吹き飛ばされていく。

 

「やれやれ、これぐらいで止まってくれたらいいのだが……」

「アンタ、それ……」

 

 鞄から取り出したのは爆弾だ。起爆装置は水銀を使った装置だ。それを窓から後ろに捨てる。何回か跳ねた後、激しい爆発がしてくる。まったく、ツェリードニヒお兄様の殺意は怖いね。

 

「メンチ君、携帯を借りるよ」

「いいけど、どうするの?」

「お爺ちゃんを呼ぶ」

 

 電話をかけてみると、数コールで繋がった。

 

『もしもし、わしじゃ。何の用じゃ?』

「今さ、とんでもないのに追われているんだ。場所はヨークシンだけど、助けてくれないかな?」

『無理じゃな。だってわし、療養に温泉に来ているんじゃ。どんなに急いでも二日はかかるのう』

「そうか。それならいい。会長は駄目か。じゃあ、マチ達は……」

 

 電話をしてみると、こちらもすぐにでた。

 

『なんネ』

「団長は?」

『今、携帯を預けて読書中ヨ』

「繋いでくれ。ピンチなんだ」

『知らないネ。そのままくたばるがよろシ』

「ちょっ!?」

 

 電話を切られた。かけ直しても無駄だ。フェイタン君が出た時点でわかっていたけれどね。仕方ないなあ。ジャックちゃんのおかあさんになるために、ライネスちゃん、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテとして本気を出そうか。ようは浄化属性を水銀に付与したらいいんだろう? ぶっちゃけていえば聖銀、ミスリルの水銀を作ればいいだけだろう。やってやるよ! 

 

「大丈夫なの?」

「自分で解決するしか……前だっ!」

「っ!?」

あは♪

 

 何時の間にか前方にジャックちゃんが現れてこちらに駆けてくる。私達は即座に扉を開けて外に飛び出す。ついでに残っていた爆弾も爆発させる。私は月霊髄液で身を守り、トリムマウにメンチ君を守ってもらう。

 ごろごろと球体で地面を転がり、止まったところで解除して立ち上がると周りは盛大に炎上してトンネルは崩壊している。メンチ君は頭から血を流して気絶しているが念能力者なのだから死ぬほどの怪我ではない。

 問題は炎の中からてくてくと笑いながら歩いてくる幼い少女、ジャックちゃんだ。正直、やばすぎだろう、君。

 

やっと追いついたよ、おかあさん! さあ、わたしたちと一緒になろう!

「断る」

なんでなんで、お母さんなのに! おかあさんじゃないの! おかあさんじゃない? そんなことない! でも、断られた! どうして? どうして? ねえ、なんでなの?

「私はおかあさんだからね。君達と一つになるつもりはないよ。君達は愛される側で、私は愛する側だからだ!」

 

 事実だ。子供である彼女達は愛されるべき存在だ。決して虐げられて殺されるべきではない。私? 私はライネス・エルメロイ・アーチゾルテだが、中身は既に成人している……男性だ。うむ、男性といって違和感がでてきたが、男性だ。取り敢えずアタランテの姉御は良い事を言った。モフモフしてやりたいな。

 

っ!?

「愛する側と愛される側が一つになれば、それはどちらかにしかなれない。君達が求めているのはそういうことじゃないだろう? 私は君を可愛がって愛でたいんだ。故に同一化は断る!」

で、でも……そ、それじゃあどうしたら、いいの?

「簡単なことだ。そのまま私の娘となり、私の庇護下に入ればいい」

おかあさんはわたしたちを捨てない? ちゃんと迎えにきてくれる?

「当然だとも。もしも君達に手を出す輩がいたら、そいつは私の敵だ。全力を以て、大人げない力も使って排除してやろう」

本当に、本当にわたしたちのおかあさん(ますたぁ)

「そうだね。そうなるよ。ああ、そうだとも。私が、おかあさん(マスター)だ。君達の中にいる一人は……」

 

 一瞬言いよどむ。ここにはメンチ君がいる。二人っきりなら大丈夫だが、この真実は知られたらまずい。もしも彼女が気付いていて、この話を聞かれたら? 私の計画が大幅に狂う。

 

……言いよどんだ……言いよどんだな……!

「まちたまえ。私は……」

嘘つき! 嘘つき! お前もやっぱり偽物だ!

「違う、本物だよ!」

信じない! 信じないったら、信じない! お前も死んじゃえ!

「ああくそっ!」

 

 本当に私は彼女の母親なのだが、これは叱らないといけないか。

 

「トリム撤退だ」

「はい」

 

 水銀を極薄にして作り上げた刃をもって周りを切断して崩落させる。この時にチビトリムマウを生成してメンチ君の横に残して守らせ、私は月霊髄液を馬の形に変更して逃げる。

 

待て、待てぇぇぇっ!

「殿を頼むよ」

「かしこまりました。ですが、お嬢様。別に倒してしまってもかまわんだろう?」

「……ああ、できるのならそうしてくれ、()()()()()

「任せたまえ」

 

 トリムが弓を生成して口にしたネタに合わせて魔力は多分に送っておいてやる。しかし、あの子は何故アーチャーにしたのだろうか? 

 そう思っていると後ろから爆発音が聞こえて振り返ると、水銀の弓に水銀の矢を添えて射ていく。その姿はまさにアーチャーだ。それと言うのなら、劣化壊れた幻想(ブロークンファンタズム)。私の膨大なオーラから生成された魔力を起爆剤として放ち、内部からの爆発で粉砕された礫が弾幕となって襲い掛かる。

 いくら素早いジャックちゃんでも面の攻撃では耐えられないだろう。そして、この攻撃は内包する魔力を消費するので矢に使われた水銀は消失する。つまり、トリムの大部分が使用不可になるという自爆特攻攻撃。もっとも、私の月霊髄液が無事なら相互バックアップで復活は可能だが、死なないでくれよ、トリムマウ。

 

 

 

 




あえていおう。本当にジャックちゃんはライネス・ホイコーロの娘だと!

どうしてこうなった。水銀について硫化水銀とか調べたのですがよくわからない。濃度があれば分解されるのかな?
ちなみにアーチャーにした理由? ジャックちゃんはライネスにとってヘラクレスなみ。


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恵まれない不幸な少女2

あれ、なんだかジャックちゃんがおかしいよ? でも、きにしないでね。あくまでもジャックちゃんも本人じゃないからね! だから、あんな詠唱をしてもおかしくないんだよ!


 

 

 

 トンネルが炎で激しく燃え盛る中、わたしたちの目の前から偽物が逃げていく。追おうとしても、銀色が邪魔をする。

 銀色が放つ矢は遅くて避けられるけれど、避けた瞬間に爆発してきてわたしたちを吹き飛ばすからめんどくさい。

 通り抜けるために全速力で駆け抜ける。周りの景色がどんどん遅くなっていく中、矢が放たれてきた。わたしたちはナイフを作り、投擲してぶつける。するとその直前で爆発して礫が飛んでくるので、わたしたちは飛び上がってトンネルの壁を走って避けていく。

 そんなわたしたちの進む先に矢が飛んできて妨害され、後ろに飛び退って相手の攻撃から避ける。速度を殺し切れずに地面をナイフで切り裂きながら止まろうとするけれど、そこに矢が飛んできてわたしたちは地面を蹴って左右に移動して回避するしかない。

 急いで突撃しても、的確にわたしたちの行動を先読みされてせっかく進んでもどんどん炎で燃え盛り、ひびが入って何時崩れてもおかしくないトンネルの中に下がるしかなくて、辛い。

 

「むぅ~通してよ~」

「それはできません。マスターより、殿を申し付けられておりますので」

 

 ナイフを構えながら隙を伺う。でも、相手に隙はない……と思う。

 

「どうしよう? どうすればいいかな?」

 

 考える。考える。それしかできなかったし、わたしたちは得意。そうだよね。わたしたちは考えて、望んで手に入れた。だから、諦めない。絶対におかあさんを見つけて幸せになるんだ。だから、こんなところで止まれないよね? うん、そう。わたしたちは止まらない。

 

「降伏をお勧めします」

 

 考え事をしている間も矢が飛んでくる。それらを両手のナイフで切り落とし、駆け抜ける。矢が爆発するよりも速く、速く駆け抜けて多少の傷は無視する。身体から力が抜けていくけれど、気にしない。

 

「残念です。マスターの娘になればあなたは幸せになれますのに……」

 

 どんなに壁や地面を高速で移動し、トンネルを崩して礫を放っても相手の身体をすり抜けて意味をなさない。逆にわたしたちは無茶な突撃をしているから、身体に無数の矢が突き刺さる。起爆されたら普通なら終わり。

 

「そうかな? そうかもね。でもね?」

「む……」

「抜けたよ?」

 

 銀色の横をボロボロになりながら、倒れながら抜けた。何度も何度も地面に身体を打ち付けて顔を擦りつけて泣きそうになるほど痛いけれど、我慢する。おかあさんに会いたいから。

 

「ですが、それだけです」

「うん、そうだね。でもね? わたしたちにはこれがあるの」

「っ!?」

 

 首と腕を180度、くるりと回しながら銀色に抱き着いて身体を内部から爆発させる。ぼふん、という音と共に身体から硫酸の霧を発生させていく。わたしたちには効かないから大丈夫。

 銀色は腕を剣にして突き刺してくるけれど無駄。それはわたしたちであってもわたしたちじゃない。

 

「どろどろに溶けちゃえ」

 

 銀色はわたしたちの全力で力を籠めた霧を受けて、身体が薄い黄色に変化していく。そうしたら、身体をぷるぷると震わせて、人の形が保てなくなってきているし、何か水蒸気みたいなのもでている。

 

「……汚したな……」

「ふえ?」

「……マスターから貰った、大事な銀色を……汚しましたね……」

「え、えっと……」

「殺します」

「っ!?」

 

 即座に身体が吹き飛ばされる。トンネルからは出られたけれど、空が薄い黄色に覆われていく。わたしたちの上に覆いかぶさり、無数の杭を打ちだしてくる。わたしたちは空中で回転して足から地面に立ち、即座に蹴って移動して回避する。ナイフでも斬りながら偽物を追いかける。

 ナイフは片手にして、ランタンを作ってくるくると振り回す。中から沢山の霧がでてきて、高速道路を覆っていく。霧の中で銀色はわたしたちの幻影と戦っているけれど、無視する。今はおかあさんが優先だから。正直、これはもの凄く疲れるから使いたくない。

 

「むっ」

 

 銀色を抜けて移動すると、黒い車がいっぱいきていて、黒服の人達が銃を構えている。でもね。でもね? 

 

「撃て!」

 

 放たれる銃弾に運動能力をあげて突撃する。銃弾をナイフで弾き、車を飛び越えて撃って来た人を細切れにする。続いて車を蹴り飛ばして盾にしつつ、霧に取り込んであげる。対象に指定せずにわたしたちの姿を乗せて銀色に相手をさせれば時間稼ぎも大丈夫。銀色の相手をするよりも、今は偽物を追う事の方が大事な気がする。

 

「くそがっ! マフィアに逆らったことを後悔させてやる! ロケットランチャーなら流石に大丈夫だろう!」

 

 発射される前にナイフを投げて、発射された直後に命中させる。すると爆発が起きた。とっても綺麗だね。

 

「おかあさんがいないから、この人達はどうでもいいよね。そうだよね」

 

 通り抜けながら、車と人を幾つか切断しておく。偽物の姿を探すけれど気配は感じない。でも、どうしてかな? 不思議と居る方向と場所は感じられるよ? だから、そっちに向かうかな。

 

 

 

 

 高速道路から飛び出してビルの上を全速力で駆け抜けていく。しばらく進んでいくと、馬に乗ってビルの上を走っている偽物を見つけた。相手はこちらに気付いていない。だから、そのまま飛び上がって上から奇襲する。

 

「此よりは地獄。わたしたちは──」

 

 殺戮を……と繋げようとして偽物がこちらを見てニヤリと笑った。その瞬間、嫌な予感がしてオーラを込めた全力攻撃をキャンセルする。その瞬間、周りから一斉にとても小さな銀色の礫が集まってきた。それを避けるためにナイフを消してランタンを取り出して振るい、硫酸の霧で吹き飛ばす。

 飛ばし切れないものが身体を貫いてくるけれど、再生させる。力がごっそりと抜けていくけど、仕方ないよね。この銀色は偽物が操作していて、わたしたちの体内に入れられると困るから排除するしかない。

 

「ふむ。やはりこれだけでは狩り切れないようだね。流石は我が娘だ」

「あなたはわたしたちのおかあさんじゃない」

「いやいや、それはどうかな? どちらにしろ、ついてきたまえ。決着は我が家で付けようじゃないか。まだゲームは終わっていない」

「あなたじゃわたしたちには勝てない。一撃で殺せるんだから」

「やってみたまえ」

 

 偽物が乗っている銀色の馬を撫でると、それが蜘蛛みたいな足になって飛び上がる。ビルとビルの間を蜘蛛の足を使って高速で駆け抜けていく。わたしたちはすぐに追うけれど、建物がいっぱいある場所では動きにくいし、偽物が両手に持つ銃を用意して撃ってくる。

 

「邪を払う銀の弾丸は君達には効くのかな?」

「そんなの……えっ!?」

 

 偽物が銀色の上に筒みたいな大きなのが現れて、物凄い速度で銃弾が飛んでくる。身体が無数の銃弾を受けて吹き飛ばされていく。

 

「GAU-8 Avenger。魔術師としてはこんな物、使いたくはないのだがね。だが、私は魔術師であると同時に王子であり、軍師だ。だから、勝つためには色々と取り入れさせてもらうよ」

「何言ってる、の?」

「気にしないでくれていい。君はただ、この弾幕を抜けてきたまえ」

「こんなの、何時までも続くはずない!」

「その通りだ。サーヴァントの相手を生身でするのだ。なら、全てを燃やさねばならぬだろう」

 

 相手の力はわからないけれど、凄い勢いで力を使っているのはわかる。わたしたちの数人分の力を一瞬で消費している。

 

「なに、君達のためならば惜しくはない」

「うっ」

 

 霧をいっぱい出して、気配遮断も使って隠れる。それから方向から逆算して先回り。奇襲して仕掛ける。でも、その前にまた別の邪魔者が現れた。

 

「ハンター協会だ。双方、そこまでにしろ!」

「待って!」

「止まれ!」

 

 偽物は気にせずに進んでいくので、わたしたちも追う。邪魔な連中は霧に閉じ込めてしまえばいい。そう思ったら、霧が吹き飛ばされた。

 

「流石にこの状況になればハンター協会を止めていられないか。だが、まあ……」

 

 大きく飛び跳ねた偽物はビルが途切れたとても広い土地の場所に着地する。わたしたちも邪魔者もそこに着地する。

 

「ここは私の、カキン帝国の領土だ。ハンター協会の方々にはご遠慮いただこう」

「ちょっと待て!」

 

 偽物は蜘蛛の上に立ちながら、周りいっぱいに現れた邪魔者達に指示をだしていく。全員が銃で武装していて、中には怖い気配の奴もいる。

 

「彼女以外にはお帰り願う。君は私の家で決着を付けようじゃないか。それとも、逃げるかね?」

「……そうだね。逃げるのもいいかもね。でもね、わたしたちはおかあさんを探しているの」

「そうだろうとも。さあ、鬼ごっこは終わりだ。ここから勝負を決めようじゃないか」

「いいよ」

 

 偽物は蜘蛛を飛ばしてそのまま大きな家の中に入っていく。わたしたちも中に入ると……そこは嫌な気配がいっぱいする。振り返ると、入った扉は文字通り消えていた。あるのは銀色の壁だけ。前を向くと、楽しそうに偽物がくるりとこちらを向く。

 

「さて、ゲームをしようか。ジャック・ザ・リッパー。おっと、この名前であっているのかな?」

「わたしたちは魔法少女ジャック・ザ・リッパー」

「ぶっ!? 待ちたまえ。魔法少女?」

「そうだよ?」

「魔法少女……ああ、魔法少女……そうか、魔法少女か……これも私の業という奴か。あはははは……」

 

 片手を顔に当てて笑いだすおかしな偽物。わたしたちは不思議に思いながらもナイフを構える。

 

「おっと、その前にルールを決めよう。私が勝てば君達は私の物になる。君達が勝てば私は君達の望むおかあさんになってあげよう」

「……? あれ、なにかおかしい、ような……?」

「どこもおかしくないよ。それよりも始めようではないか」

「いや、やっぱりおかしいよね? そうだよね?」

「なら、勝った方の願いを叶えるということでいいかな?」

「うん、それならいいよ」

「じゃあ、改めて始めようか」

「行くよ!」

「来い、ジャック・ザ・リッパー」

 

 どちらにしても、偽物を倒さないと外には出れない。だから、足を踏みだして、全力で床を蹴って加速する──はずった。わたしたちが踏み込んだ足先には銀色の杭が現れていて、それを思いっきり踏み抜いた。杭の先端がわたしたちの足を貫通すると先端から無数の返しの付いた針がでてきて抜けなくなる。

 そんなわたしたちに周りから、円錐状の高速回転している槍が無数に伸びてきて、片手のナイフで弾こうとすると巻き取られて吹き飛んだ。身体中が貫かれて仕方ないから身体を霧に変換して室内を硫酸の霧で充満させる。

 どうしたらいいのかな? 逃げればいいかな? お外に出られるかな? 試してみよう。

 窓をナイフで斬りつけようと思ったけれど窓もなくなっていて、あるのは銀の壁と通路だけ。何時の間にか偽物も居ない。その上、どんどん襲われていく。

 

「トリム、教育の時間だ。殺さないように気をつけてくれ」

「かしこまりました」

 

 あの銀色がどんどん出てくる。一人、二人、三人、いっぱい。そいつらは槍と盾を持っていて、こちらに突撃してくる。逃げられないし、敵は強い。

 

「痛いけど我慢!」

 

 わたしたちは一旦逃げる。四方八方、全方位から襲い来る銀色を駆け抜けて切り裂き、傷を負いながらもどうにか隙間を抜ける。頬が削り取られ、腕は千切られる。でも、すぐに再生するから大丈夫。問題はこのままじゃ勝てないこと。わたしたちの力が通用していない。もっと、もっと強くならなきゃ。

 

「何処へ行こうというのだね。我が家に入った者は私の許可なく外に出る事など不可能だよ。ここは私、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテの魔術工房。神殿とは行かなくても一種の異界は形成できている。故に外部から干渉も観測も受け付けないし、助けもこない。そう、ここはもう私と君達、トリムだけしかいない。なら、私が全力を出してもなんの問題もないわけだ」

「ひっ!?」

 

 なんだかよくわからないけれど、凄く怖い。

 

「創生せよ、天に描いた星辰を──我らは煌めく流れ星。巨神が担う覇者(ホイコーロ)の王冠。太古の秩序(カキン帝国)が暴虐ならば、その圧制を我らは認めず是正しよう。勝利の銀光で天地を照らせ。清浄たる王位と共に、新たな希望が訪れる。

 百の腕持つ番人よ、汝の鎖を解き放とう。鍛冶司る独眼よ、我が手に炎を宿すが良い。大地を、宇宙を、混沌を(暗黒大陸を)──偉大な銀炎で焼き尽くさん。

 聖戦は此処に在り。さあ、人々よこの足跡へと続くのだ。約束された繁栄を新世界にて齎そう。超新星──天霆の轟く地平に、闇はなく」

 

 なにか凄い勢いで相手のオーラが消費されている気がしているけれど……なにもおきない。

 

「ちっ、流石に無理か。増幅しているからできたと思ったのだけど、残念だ」

「し、失敗?」

「まあ、失敗作ができた程度だ」

 

 偽物が指を鳴らすと、銀色の巨人が現れる。そいつは鎖がいっぱい取り付けられていて、その鎖がどんどん外れていく。

 

「本当は千手観音を水銀で作りたかったのだが、一ヶ月程度の時間ではデータが足りなかった。だから、こちらにした。申し訳ないが、我慢してくれ。というわけで、言うのならこの台詞かな。殺っちゃえ、トリムマウ(バーサーカー)

「──■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!」

 

 巨大な剣を持った巨人が突撃してくる。巨大な剣の一撃は床を粉砕し、クレーターを作り上げる。底を見ると、数メートル深くまで銀色が吹き飛んだのに、まだ下に銀色があった。

 

「ああ、幼い女の子が恐怖で歪むさまというのは、あまり興奮しないね。やはり、成人している自尊心たっぷりの大人達を虐める方が楽しそうだ。だが、ジャックちゃんも散々私を殺そうと追いかけ回してくれたし、お仕置きは必要だろう。だが、諦めて降参するのならば何時でも受け入れよう」

「わたしたちは負けない!」

 

 わたしたちで話し合ってから、恐怖を押し込めて前に出る。床から攻撃されないかを気をつけながら全速力ではなく、速度の強弱をつけて巨大な剣の一撃を避けて、回転するようにそこに飛び乗って首をナイフで交差するように切り裂いてからすぐに首を蹴って弾き飛ばし、バックステップで巨人の身体から降りる。

 わたしたちが斬った首は空中で断面の両方から糸が紡がれて接触し、結びついて引っ付いていく。そして、何事もなかったかのように赤い瞳が光り輝いて巨大な剣を持ち上げる。

 

「言っただろう。ここは私の魔術工房だ。ほぼ全てに水銀を染み込ませ、屋根や天井に無数の馬鹿みたいな数の神字を天体に見立てて刻み、その他には大地を模して刻み、増幅に増幅を重ねている。つまり、ここは一つの世界であり、私が神だ。ジャックちゃん……ジャック君が勝つには全ての水銀を消滅させるか、術者である私を殺す、または敗北を認めさせる必要がある。うん、そうだね。こう言おう。不死の化け物を討伐し、英雄になってみせるといい。私のトリムマウ(ヘラクレス)は最強だけどね!」

「そうだね。わたしたちの負けかもね。でもね、負けるのは嫌かな。またあんなところに行きたくないもん……だから、だからね……もっと力をちょうだい!」

「おや、おやおや?」

 

 威力が足りない。速度が足りない。なら、どうする? わたしたちが完全になればいい。

 

「ここがお前の世界なら、上書きすれば勝てるよね?」

 

 巨人の攻撃と銀色の攻撃を避けながら聞いていく。

 

「できるかな?」

「できないかな? できるよね? わたしたちはジャック・ザ・リッパー。それなら、できないはずがないよね? あなたがいうように、こんな感じかな? 創生せよ。天に煌めく星はなく、空は滅びの雲に覆われ、地に流れるは全てが溶ける霧。踊るは血が詰まった肉人形。わたしたちは愛されず、ただ消費され、生まれる事も許されずに殺されていく」

 

 首を絞められ、殺される。殴られて殺される。手足を引き千切られて口に入れられ、殺される。生きながら食べられて殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。

 

「おかあさんが迎えに来る日はなく、わたしたちは醜く穢れてしまった。ああ、悲しい。蒼褪めて血が抜けて動かなくなる死人の躯よ、おかあさんに抱きしめられたとしても二度と熱は灯らない。だから、朽ち果てぬ微かな幸せを思い出に、せめて願う。

 わたしたちは、おかあさんたちに、言い残した、遣り残した未練があるから。歩いて、歩いて、冥府を抜け出す。物言わぬわたしたちの骸を一つにしてどうしようもなく切に切に、(おかあさん)の零落を願う。怨みの叫びを天へ轟けと虚しく闇へ吼える。

 いくら願ってもおかあさんは迎えにきてくれないから、わたしたちを苦しめる絢爛たる輝きなど、一切滅びてしまえばいい。苦しみ嘆けど産み落とされるのは万の呪詛。喰らい尽くすは億の希望。死に絶えろ、死に絶えろ、すべて残らず溶けて混ざれ。

 ──暗黒霧都(ザ・ミスト)

 

 無数のカンテラが浮かび出てきて、そこからいっぱいの霧を放出する。わたしたちの力がごっそりと抜けていくけれど、大丈夫。世界は──書き換えられた。

 家だった場所は地下室に代わり、わたしたちが閉じ込められていた場所になる。すると巨人は崩れて銀色の液体になった。それらはどんどん黄色くなっていく。

 

「いやはや、宝具の再現か。これはまいったね。トリム、行けるかい?」

「問題、ありません」

「子供達の呪詛。硫酸の霧なんて生温い物じゃない。呪いの霧そのもの。一般人なら確実に即死だ。ハンターでも生半可な連中は即死だろう。うん、これは予定変更だ。彼女はなんとしても手に入れるか、殺すよ。外に出したら被害が甚大になる。それこそ災厄になれるポテンシャルを持っている」

「マスター?」

「そう、それに……私の銀をここまで汚したんだ。生半可な事で許すと思うなよ」

「知らない。お前はさっさと解体されちゃえ!」

「そうか。そうか。なら、私も容赦しない。隠された庭園(シークレットガーデン)限定解放。鳥達よ、我が呼びかけに答え、集え」

 

 銀色の風がどこからともなく現れる。距離なんて関係ない。まるでそこに居るのが当たり前かのように現れた。銀色の風だけじゃない。銀色の鳥さん達もいっぱい。それも視界を埋め尽くすくらい、いっぱい。

 

「災厄には災厄だ。本来なら継承戦か暗黒大陸に行くまでは取っておくつもりだったが予定変更だ。さあ、ここからが本番だ」

 

 鳥さん達が偽物にいっぱい入っていく。馬鹿みたいに力が膨れ上がった。わたしたちは即座にわたしたち全員で挑む。無数のわたしたちが殺到する。いろんな角度から女性を即死させる呪いを乗せたナイフで斬りかかる。でも、わたしたちは全て銀色でつくられた薔薇の鞭によって迎撃されていく。それにわたしたちの霧は鳥さん達には効かないみたい。なんでかな? 

 それなのに空に残っている鳥さん達からも無数の弾幕が放たれてくる。わたしたちは必死で避けながら、近付いて斬る。何人も何人も犠牲にして、ようやく近づけた。でも、片手以外の手足は全部なくなっちゃった。それでもいい。

 

「此よりは地獄。わたしたちは炎、雨、力──殺戮を此処に」

「させぬよ。月霊髄液」

 

 銀の閃光が煌めいて、わたしたちの腕を切り落とす。でもね、でもね? 

 

「まだだよ」

 

 飛んで行く腕からナイフを噛んで、解体聖母(マリア・ザ・リッパー)を放つ。顔だけになっちゃったけれど、隙をつけた。

 

「ちっ、しまっ──」

 

 解体聖母(マリア・ザ・リッパー)が偽物が頭を守るために上げた腕に命中した。これでわたしたちの勝ち。

 

「──なんてね」

 

 そのはずなのに弾かれて、偽物はピンピンしてわたしたちを蹴り飛ばす。膨大な力が込められたその一撃で骨が折れて壁に埋まる。その衝撃でナイフを落としてしまう。

 

「なんで、なんでっ! なんで効いてないの!」

「いいや、効いているさ。ただ、届いていないだけなのだよ」

 

 偽物の腕は黒く変色していく銀色に覆われていた。それが外れていくと、綺麗な傷一つない腕が見える。

 

解体聖母(マリア・ザ・リッパー)は対象に命中。正確にいえば命中すれば、という条件が与えられる。つまり、自らと水銀との間に一定の距離を設け、命中した時に廃棄すればそれはもう私の身体ではない。故に呪いが発動するのは水銀の部分のみ」

「そっか。そうなんだね。でもね!」

 

 瞬時に再生して皆で霧に紛れ、気配遮断も使って駆け抜ける。色んなわたしたちが武器を持って挑む。次々に薔薇の鞭に絡めとられ、吊るされていく。それだけではなく、解体聖母(マリア・ザ・リッパー)の盾にもされる。条件は同じ。わたしたちも解体される。でも、すでに死んでいるわたしたちには意味がない。

 四方八方から襲い掛かる鞭と銀の弾幕。それに加えて偽物も近接戦闘が強い。わたしたちが一対一なら瞬殺できるけれど、その前に銀色達が邪魔をしてくる。

 でも、偽物を盾にすればある程度は防げる。わたしたちの力が切れる前に高速で斬りかかる。相手も銀を使って防いでくる。千日手みたいにいくら攻撃しても防がれる。だから、わたしたちはわたしたちを盾にして突撃する。

 

「なに!? ジャックの中にジャックだと!」

 

 身体を貫かれたわたしたちの中から、もう一人のわたしたちを生み出して押し倒す。ナイフを顔に突き刺そうとしたら、両手を掴まれて動けなくなった。このままナイフを放しても、不思議な力で弾かれる。しっかりと押し込まないと駄目。

 

「捕まってしまったね」

「これで終わり。わたしたちの中から、またわたしたちを呼び出せば勝てる」

 

 わたしたちの中からナイフを持ったわたしたちがでてくる。わたしたちは何度もわたしたち自身を食べた。だから、お腹からでてきても不思議なことなんてなにもない。

 

「やはり私は戦闘タイプではないのかな。いや、ジャックちゃんが強すぎるだけか。死の念のジョイント型とか、反則すぎるね」

「何を言っているのか、わからないけれど、これで解体だよ♪」

「私も死にたくないのでね。だから、切り札を使おう」

「まだ何か有るの?」

「ああ、あるとも。私は銀の鳥の制作者だ」

「? わからない。何を言っているの? まあいいや。バイバイ!」

 

 ナイフを突き刺そうとしても身体が動かない。

 

「なんで、なんでなんで!?」

「まあ、落ち着きたまえ。大丈夫。危害は加えないさ」

「これ、あなたの仕業!」

「ああ、そうだよ。さて、2、3質問に答えてくれれば解放してあげよう」

「な、なに? 聞くだけなら聞いてあげる」

「君達の目的はおかあさんをみつけたいという願いだね?」

「そうだよ。わたしたちはおかあさんを探している」

「わかった。では次だ。そのおかあさんを見つけてどうしたい? 幸せに過ごしたいのかな?」

「過ごしたい! わたしたちはおかあさんに愛されたいだけ!」

「最後だ。お母さんに迎えに来てほしいかい?」

「来て欲しいよ!」

「その願い、聞き届けよう……こふっ」

 

 偽物が何もしていないのに血を吐いた。その状態でわたしたちを抱きしめて頭を撫でてくる。するとわたしたちの身体が凄く楽になってくる。

 

「あははは、これはまいったね。溜め込んだ物がほぼ消えているが……まあいいか」

「な、なにを言っているの……?」

「ジャック。あの時言いよどんだのはね……私が銀の鳥の生みの親だからだよ」

「え?」

「君達の願いを叶え、一つの存在として統合したのは私の子供だ。つまり、ジャックも私の本当の子供といえる。だから嘘はついていない。ただ、あの場所には他の人も居たから伝えられなかっただけだ」

「本当に、本当に、お母さんなの?」

「ああ、そうだ。それに喜びたまえ。君の先程の願いは成就された。私は君を愛そう。君と共に幸せに過ごそう。君が望むのなら、どこでも迎えに行こう。これは絶対の制約と誓約だ。私はそれを裏切れば死ぬ事になる。これは証となるのではないかな?」

「……」

「それで、どうかな? 私の家族に、娘になるのは嫌ならその、じょ、除念してもいいが……」

 

 偽物……ううん、おかあさんが不安そうにこちらを見詰めてくる。わたしたちはわたしたちで話し合う。

 

『多数決をとります!』

『鳥さんに助けてもらった』

『地獄から救ってもらったからいい』

『やだ。解体したい』

『鳥さん、わたしたちの一人だから、間違いじゃない』

『おかあさん。おかあさん!』

『おぎゃあ、おぎゃぁあぁっ!』

『どうでもいい。お腹空いた』

『えっと、うんと……おかあさんはお姫様だよね? だったら、わたしたちは……』

 

 話し合いの結果、決定。

 

「ううん。わたしたちはおかあさん(マスター)(魔法少女)になるよ!」

「そうかそうか!」

 

 不安そうな表情が一転してニコニコして、笑顔で頬擦りしてくる。ちょっとくすぐったい。でも、とっても温かいや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




力尽きた。本当はシークレットガーデンからジャックちゃんがなんとかして逃走。そこをハンター達に襲われて、ライネスが迎えに来て、消滅仕掛けのジャックちゃんを助ける。という構想でしたが、アレシークレットガーデンからどうやって抜け出すの? 逃げる=死だからライネスが逃がすはずもないし、逆にライネスが瀕死になってもジャックちゃんが止めをささないはずもなし。計画は頓挫。

ジャックちゃんを説得できるフラグ。
1.女性であり、ジャックちゃんに襲われても凌げる程度の力があり、ジャックちゃんを守る力(権力、財力など)があること。
2.実際に統合されている子供の母親であること。
3.大量殺人犯のジャックちゃんを受け入れ、愛すること。
4.必ず迎えにいくこと。迎えにいかないと殺される。

以上の条件を達成すると、星5ジャック・ザ・リッパー(ヨークシン)が手に入ります。難易度? 超高難易度で、聖杯という名のジャックちゃんがもらえるから、聖杯本体と伝承結晶はなし。やったね!


うん、普通は無理。性別を除けばネテロ会長とか、いけそうだが……性転換薬がないと無理。



ライネスのオーラが使用できる割合が一割になりました。以降、ジャックちゃんの維持に一割が消費されます。銀の鳥がリセットされました。暗黒大陸をめざして再度、解き放ってください。(ふりだしにもどる)
オーラ不足により、トリムマウの戦闘力が約70%減少しました。月霊髄液はそのままです。
事後処理でライネスの借金が58億ジェニー加算されました。(ジャックちゃんの引き取りや手配などに関する事を含めて)



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20話

 

 

 暗い、暗い地下室。私は何時の間にかそこに居た。部屋の中には子供達が居て、大人の男が私の腕を掴んで来る。抵抗しようにも力が使えない。それから広い会場のような場所に連れていかれて、複数の男達に──汚され、殺された。

 

「っ!?」

 

 身体が急激に起き上がり、周りをみると邸宅にある自分の部屋だった。設置されている鏡には顔面蒼白な私の、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテの顔がある。慌てて身体を触ってみるが、刻まれた手の跡など、痛々しい痕跡は存在しない。それでも不安になり、寝間着として着ている大きな男性用のワイシャツを開けて素肌を確認すると、とても綺麗な肌がみえた。ただし、汗でワイシャツが張り付いて気持ち悪い。

 

「ん~どうしたの、おかあさん……」

 

 声が聞こえて、横を見ると目を擦って起き上がってくるジャックの姿が確認できた。

 

「なんでもない。ゆっくりとお休み」

「ん~」

 

 身体を横たえてから頭を撫でてやると、幸せそうに笑い、私の身体に抱き着いて眠っていくジャック。彼女の首には首輪が嵌められていて、服装は私と同じ感じだ。この首輪はハンター協会からの要請だ。私が引き取る条件の一つが爆弾の装着だった。ジャックは大量殺人鬼だ。なので、私が何時でも殺せるようにする事が必要ということだ。また、フェイタン君と同じように心臓に水銀を打ち込んである。これらはジャックの許可を取っているので問題はない。

 ハンター協会はジャックが一時的に身体を霧にできることを知らないからこその処置だ。そもそも情報隠蔽によってジャックの記憶はどんどんと薄れていき、機械にも映らない。なので犯行の実証もできない。そういうわけで、私の権力で引き取らせてもらった。代わりに復興費用として58億ジェニーが求められたので、支払う。まるでガチャだ。星5のジャックを引くのに使った代金がこれだと思うと涙がでてくるが……幸せそうに眠っている彼女をみれば安い買い物だろう。

 

「……おか、あさん……いかないで……」

「わたしはここに居るよ」

 

 私も彼女を抱きしめて先程の夢を考える。アレはジャック達の記憶だと思われる。サーヴァントはマスターに自分の体験を夢として見せてくる事がある。もちろん、彼女達は本当のサーヴァントじゃない。それでも、銀の鳥が融合して作り出している存在だ。それは私との明確な繋がりだ。元々銀の鳥には視界を私に飛ばす機能があるのだから、疑似体験が起こるのは不思議ではない。

 

「それにしても、まあ……」

 

 一週間前の戦いは想定外が多い。本来の想定なら、工房である我が邸宅に誘い込んで誰にも見られずに倒すつもりだった。ここに貯蓄されている水銀とトリムマウの実力ならヘラクレスとはいかないまでも、本物ではないジャックちゃんならば勝てるはずだった。

 それが結果はどうだ。逆に私が追い込まれ、隠された庭園(シークレットガーデン)まで使わされた。この隠された庭園(シークレットガーデン)を展開すると、浮遊している寄生していない鳥達を強制的に戻し、戦力とする。寄生している子達は離れられないけれど、それは仕方がない。つまり、私の切り札だ。なのに負けた。

 こちらから銀の鳥についての情報を伝え、互いに攻撃などで被害を与える事を禁止させたからこそ、ジャックちゃんに解体される事はなかった。あそこで止めていなければ、彼女の身体から出て来たもう一人の彼女に解体されていただろう。それから、私が彼女達の母親である事が間違いないと、なんとか説得に成功し事無きを得た。

 本当にこの世界は化け物だらけだ。たった数瞬の間に相手がどんどん強くなっていく。鳥達のせいかもしれないが、本当に止めて欲しい。

 まあ、もう終わった事だ。お金を稼ぐ事と、ジャックが世話になったマフィアに報復することだね。他にも色々とやる事はあるが、最優先項目はすでに終えている。

 その一つが銀の鳥達を再度、放つことだ。放つ場所が現在地からになるので、私が術者だと見付かる可能性が非常に高くなるから、見つからないための方法はしっかりと考えて実行している。虫などに寄生させ、冷凍させてから列車や車でいろんな場所に運ばせて羽化させるのだ。

 更に複数の人達の手で移動させれば見つかる可能性は低くなる。基本的に私があずかり知らないようにすることで無関係にできる。なに、こちらにはジャックがいるんだ。気配遮断と情報隠蔽を使って運んでもらえばどうにかなる。船に乗せるのだってありだ。いろんな場所を経由してきた荷物なら、どこから虫がついているか判別は難しい。ましてやメビウス湖の中にだって契約者はいるのだから、そこからも増える。まあ、増える量はかなり少ないけれどね。

 

「ふにゃ~」

 

 ジャックの耳を弄りながら、オーラとメモリを調べる。メモリはほぼ無い。ジャックが願いを叶えた代価を支払い、更に令呪まで作成したからね。令呪は絶対命令権であり、一画ずつ行使できる。これはジャックに対する保険だよ。それと彼女の願いは誘導して私が問題なく叶えられる三つにしたから、オーラやメモリは消費していないのが救いか。

 それでも、ジャックの願いの対価は……複数の子供達の分を纏めた対価である。正直、想定以上の対価を支払った。まさかいきなりこんなに支払うことになるとは思わなかった。まあ、彼女にはその価値が十分にある。

 どちらにせよ、オーラの残量が一割を切っている。鳥達を回収して増やしたけれど、それだけジャックの消費が多い。また、ジャックに消し飛ばされた水銀の補給もできていない。ジャックとの戦いに馬鹿みたいな量のオーラを使ったから、トリムマウの戦力は70%も減少している。そう、圧倒的な水銀不足だ。絶もできないからオーラの回復量も少ないし、具現化もできない。

 ほとんどの水銀は私の防御の要である月霊髄液に充てて、トリムマウは普通に活動できる程度にはする。もちろん、ネテロ会長や超一流の念能力者には敵わない。一流ですら怪しいかもしれない。だが、その代わりにジャックがいるから大丈夫だろう。それにしばらくは大人しく回復に専念し、戦いはジャックに任せるとしよう。

 

「朝よ。起きてる?」

「ああ、起きているよ」

「入るわね」

「うむ」

 

 メイド服を着たメンチ君がワゴンを持って入ってくる。彼女はこちらを見るなり、なんとも言えない表情をする。

 

「そんな格好で寝て……」

「可愛いじゃないか」

「感性が男ね」

「否定はできない」

「まあ、なによりも一番驚くのはその子だけどね。もう、記憶がかなり薄れているけれど、あの犯人なんでしょう?」

「そうだよ」

「そうだよって……よく一緒に寝れるわね」

「ジャックは良い子だからね」

「まったく、護衛の身にもなって欲しいわよ」

 

 そう言いながら、起き上がった私に準備されていたカップに紅茶を入れて渡してくれる。貰った紅茶はとても美味しい。紅茶を味わっていると、メンチ君が服を用意してくれる。私とジャックの身長や体型はそんなに変わらないから、私の服を着せる。やはり、ライネスも可愛いが、ジャックも可愛いのでよい。

 

「おかあさん……おはよう……」

「ああ、おはよう。ほら、紅茶だ」

「うん……」

 

 ジャックの身体を抱きしめながら、紅茶を息で冷やしてから飲ませる。次第にジャックも覚醒してきたようで、ベッドから出て猫のように伸びをする。

 

「今日の予定はどうするの?」

「ん? マフィアから奪った会社の整理かな」

「ちょっと待ちなさい」

「マフィア?」

「うむ。ジャック達を酷い目に遭わせた連中に報復をしているところだよ」

 

 表向きは別の人間を使って動かしているから、暗殺は大丈夫だとは思うが、ゾルディック家がきたら大変なのでやりすぎには注意。

 それと既に調べたマフィアの傘下企業を叩いている。こちらは株の空売りを行い、今回の事件についての情報が流れ、国から査察が入ると同時に株価が下落する。そこで買い戻して空売りした代金を支払う。株価が最低になれば逆に株を購入して会社を乗っ取っていく。こうして複数のマフィア傘下の会社を奪ってやった。

 十老頭が動くだろうが、いざとなればジャックに暗殺させればいいだけだ。これはアサシンの運用として何も間違っていないしね。あちらが示談を持ち込んでくればそれ相応の金額をもらって終わりだ。マフィアはカキン帝国を相手にする力はない。故に搾り取れるまで搾り取ってやる。

 

「じゃあ、今日は家にいるの?」

「その予定だが……ジャックはどうする?」

「わたしたちは解体しに行きたいかな?」

「そうか。じゃあ、解体しにいくか。掃除もしないといけないからね」

 

 警察と連携してマフィアの会社や店を襲撃すれば楽しいことになるだろ。そう思いながら、メンチ君が用意してくれた服に着替えて食堂で朝食を食べる。三人でテーブルを囲み、美味しいパンを味わっていく。もうちょっと大きくなったらジャックを膝の上に乗せて食べさせたりもできるんだろうが、私とほとんど変わらないし残念ながら無理だ。

 

 

 

 

 

 

 

 十老頭

 

 

 

 

 

 

「どうしてこうなった!」

「運が悪かったとしかいいようがない。実験の結果、生まれた化け物がカキン帝国の王族を襲撃するなど予想できるはずもないからな……」

「それはそうじゃが、報復されているこちらはたまったもんじゃないの」

「そもそも報復対象が広すぎる。下部組織だけじゃなく、わしらの店まで対象じゃ」

「ならばどうする? いっそ暗殺でもするか?」

「それはできない。手を出せば我等は確実に滅ぼされるぞ」

「国が威信をかけて潰しに来るか」

「そうでなければ戦争じゃからな。カキン帝国は王子同士の仲が悪いらしいが、王子が殺されたとなると一つになるだろう。戦争を仕掛ける口実にはなるのじゃろうし、国としては犯人を血祭りにあげる方が痛手ではない。それもカキン帝国が納得する規模となればのぉ……」

「暗殺も駄目となると人質か。そういえば、子供を一人引き取ったそうだ。そいつを人質に取れば……」

「それか、示談じゃな。どうする?」

「決まっておる。まずは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイザック・ネテロ

 

 

 

 

「会長」

「尻尾を出したか?」

「微妙、ですね。メンチ君は気絶していましたし、彼女の家の中は相変わらず外からはわかりません。メンチ君に持ち込ませた盗聴器などは全て排除されていますし、戦闘中は侵入もできませんでした」

「そうか。それだけか?」

「いいえ、まだあります。戦闘中、銀の凶鳥が消失する現象がありました。確認された場所は複数です」

「偶然か必然か、どちらだと思う?」

「さあ、私にはわかりませんね。どちらにせよ、V5の中でも意見が割れているようです。このまま容認するか、それとも消すか」

「消せと言ったのはアイツらなんだがのう……」

「対処するのが遅すぎましたね。ここしばらくの研究で有用な活用方法が判明してきています。彼等はその利益を考えているのでしょう」

「有用な活用方法ねぇ……なにがあるかわかるか?」

「例えば赤子から育て、心から望むように教育すれば望む力を手に入れられるでしょう。特に権力者なら欲しいでしょうね。病気の時に治療したいでしょうから」

「愚かじゃな。このまま放置して手が付けられないようになるかもしれんのにのう」

「いざという時は貧者の薔薇とかで殺すつもりなのでしょう。殺せるかはわかりませんが」

「それぐらい対策してそうじゃし、カキン帝国の王子なら簡単には手が出せんしのう……まあいい。このままわしが殺せる状態を維持すればいいだけだしな」

「他の可能性も捨てきれませんし、彼女の立場だと下手をしたら被害が甚大になりますからね」

「うむ。やはり現状維持じゃな」

「そうですか。腹案もあるんですけどね」

「腹案かの?」

「そうです。今なら、マフィアのせいにしてメンチさんごと殺してしまえばいいんです。そうすれば恨みや被害はマフィアに向かうだけです。我々はメンチさんの犠牲を理由に協力し、全力で叩いてやればいい。これで我々は多少の犠牲で最大の効果が得られます」

「却下じゃ。メンチ君を犠牲にするつもりはないぞ」

「ですよね。まあ、あらゆる角度から可能性を検討いたします」

「頼むぞ。他の王子も可能性は十分にあるからの」

「お任せください」

 

 

 

 

 



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21話

 

 

 

 

 さて、楽しい楽しいピクニックの時間だ。ジャックとメンチ君を連れてきている。私の服装は原作通りの感じで、ジャックは紫色のシャツに黒のパーカー。赤色の白いフリルがついたスカート。黒のニーソックスに運動靴。背中には赤いランドセルだ。赤い可愛らしい首輪には鈴がついている。中身が爆弾だが。

 そんな可愛らしいジャックと一緒にやってきたのはマフィアのアジトだ。周りは既に武装した警官達によって包囲しており、逃げ道はない。また、私の護衛として派遣されているベンジャミンお兄様の私兵に守らせている。

 正確には地下に脱出用の隠し通路があるようだが、そちらに私とジャック、護衛にメンチ君がいるので逃げ道はない。ここは円などで見つけたということにしているので大丈夫なはずだ。実際に隠し通路の図案も手に入れたからね。

 

「ブレイク~ブレイク~あなたの腹を解体だ~♪ か~いたい、か~いたい、臓物を解体だ~♪」

 

 物騒な歌を歌いながら、ジャックがまるで庭でも歩いているように下水から入る隠し通路を進む。当然、そこには罠や獰猛な犬が放たれていて、こちらに襲い掛かってくるが……なんでもないかのようにジャックが両手に持つ銀色と紫色のナイフで犬を解体していく。

 首、前足、後足、三枚おろしにされた胴体から血液が噴き出すが、ジャックにかかった血液はジャックの持つナイフに吸われていく。

 

「そのナイフ、血液を吸収するの?」

「えへへ~おかあさんから貰った大事なお洋服だもん。汚したくないから、吸うようにしたんだ~えらい?」

「ああ、えらいぞ」

「いや、そもそも解体しなければいいのに……」

「あとね、あとね。こっちのナイフはわたしたちが許可するまで死なないんだよ! 鮮度を抜群に保つの!」

 

 完全に拷問用のナイフじゃないか。ジャックのナイフは具現化されていて、それぞれが特殊効果を与えられている。これは私がジャックに念能力についてしっかりと説明したら、そのように作り出したからだ。解体聖母で使われるナイフは子供数十人分の念によって具現化され、まさに宝具と呼べるまでに強化されている。

 他には子供一人一人が全てのメモリを使って作成された面白ナイフなどがあるらしい。一つは赤原猟犬(ふるんてぃんぐ)。追尾型投擲ナイフで、オーラが込められた分だけ目標を狙い続ける。トリムマウとの戦闘で遠距離攻撃手段が欲しいと作られた物らしい。ちなみに撃ち落とされるとその場で止まるので簡単に防げる。

 複数人で作られた発の一つはお菓子屋さんの短剣(ないふ・おぶ・ぱてぃしえ)。これは解体した相手を操作し、お菓子に作り変えるというとんでもナイフだ。ジャックが今まで食べた味が再現されるので、メンチ君の味が再現されている。これはまともにお菓子を食べられなかった子供達が、感激のあまり作成したものとのこと。できるお菓子はジャックの中で多数決が行われ、その中からランダムに選ばれるとのこと。

 ちなみに私が食べたジャックのお菓子は原材料がちゃんと生食用のお魚のものだけだ。流石に人を喰うつもりはない。

 

「金平糖、食べる……?」

「いや、いいよ。メンチ君はどうだね?」

「材料が犬でしょ。別に問題ないわね」

「そういえば、犬も一応食べられるんだったか……」

「ええ、そうよ」

「なら貰ってみようか……」

 

 口に入れてみると、少し前にメンチ君が作ってくれた味が口に広がる。甘さと硬さが丁度良い感じだ。ちなみにジャックはジャーキー作れたりする。

 

「む、罠があるな」

「どこどこ?」

「あそこだ」

「えい♪」

 

 罠がある場所を教えると、ジャックがナイフを投げて発動させる。左右の壁から矢が放たれてくるが、全てナイフで斬り落とされる。更に奥から現れた機関銃を持った念能力者の攻撃を、壁や天井を蹴って的を絞らせずに回避し、それを操る男を解体していく。私達はトリムマウで守ってもらっているので問題ない。戦闘能力はダウンしている状態だが、それはあくまで攻撃力とストックによる馬鹿げた耐久性だ。防御力自体は健在なのだよ。

 

「降伏するつもりはないようだね」

「殺すの?」

「いやぁ、ジャック次第じゃないかな?」

「ん~おかあさんが殺しちゃ駄目だって言うなら殺さないよ? おかあさんに嫌われたくないから、わたしたちはなんでもする……よ?」

「そうか。それならできるだけ殺さなくていいよ。今回は恐怖を与える方が都合がいい」

「は~い! よかったね。まだ生きてられるよ……」

「こ、ころしぢて……くれ……」

「だ~め。おかあさんが殺しちゃだめって言ったから、諦めてね」

 

 手足が解体され、血液も出ずに死ぬ事も許されないマフィアの男は可哀想だ。だが、放置だ。このまま置いておけば銀の鳥によって助けられる可能性は十分にあるのだから。願え、願えば助かるのだ。そして、貴様の鍛えたオーラとメモリを私に寄越せ。

 

「悪い顔をしているわよ?」

「おっと。これはいけないね。うん。トリム、機関銃を持ってついてきたまえ。君の攻撃力不足を補える」

「かしこまりました」

 

 トリムマウが機関銃を装備したところで、ジャックを撫でてからそのまま進む。ちなみに相手がここまで待ち構えているのは、絶ができない私のオーラを感知しての事だろう。隣の二人は絶と気配遮断を使えるからね。また、相手側の円による探知もされている。

 さて、隠し通路の壁は鬱陶しいのでメンチ君に斬りとってもらって、アジトの中に入る。アジトは豪華な屋敷だ。そこには武装した黒服と刀を持っている男性、念獣達がいた。

 

「ライネス・ホイコーロ!」

「様をつけるべきだよ。まあ、我が国民ではないので、寛大な私は許してあげるがね」

「わたしたちも……つけた方が……いい?」

「いや、ジャックは私の子供だからいらないよ」

「そっか。そうだよね。わたしたちはおかあさん(マスター)の子供だもんね!」

「うむ」

「アンタ達、真面目にやりなさいよ」

「いや、この程度の連中など、私の可愛いジャックに敵うはずがないからね。なにせ私の全力を、それこそ神字まで使って待ち構えていた対策を力でねじ伏せたような子だよ?」

「あの家の中でアンタに勝つとか、頭おかしい子よね」

 

 メンチ君も納得してくれたようだ。そのジャックといえば、ランドセルから色々なナイフを取り出して選んでいる。そのナイフは具現化された物で、ほとんどが血塗れだ。また、ジャックが望めばすぐに手元に現れるのだが、わざわざランドセルに入れているのは相手に恐怖を与えるためだ。

 なぜナイフを見せることが恐怖を感じるか……それは、そのナイフ、一つ一つに死者の念が宿っているからに他ならない。つまり、凝が使える奴からしたら馬鹿みたいな禍々しいオーラが込められたナイフを楽しそうに選んでいる幼い気配を感じない女の子に見えるというギャップが起こる。

 

「な、何の用だ」

「用件は伝えているだろう。君達を殺人、恐喝、強盗など、様々な罪で逮捕する」

「ふざけるな! それは建前だろう!」

「ああ、そうだとも。建前だよ。これはマフィアに対する報復だよ。君達だってやられたらやり返すだろう? 目の前にやりあうための手段と理由があるのだから、やり返さない理由なんて、私には見いだせないよ」

「俺達は関係ないだろう!」

「いやいや、君達が繋がっているマフィアにやられたんだ。下部組織だろうが、上位組織だろうが、関係ないのだよ。それに君達に私が告げられる内容は、降伏か死か。降伏するのなら、多少は便宜を図ってやろう。特に念能力者は貴重だからね」

「こらこら、秘匿しなさいよ」

「なに、ここに居るのは降伏以外だと全員死ぬのだから、問題ないよ」

 

 正直、この刀を持つ奴……なんて名前だったか忘れたが、必要ない者だ。殺してしまっても問題はない。

 

「これにき~め~た!」

「ちょっと待て」

「ふえ?」

 

 ナイフを選んでいたはずが、何故かアンティークのランタンを取り出していた。あれはまずい。まずすぎる。

 

「は~い、ジャックちゃんはおやすみね」

「え~」

「お母さんと遊んでなさい」

「わかった! 遊ぼ!」

「やれやれ」

 

 メンチ君が代わりに包丁を抜き、ジャックをこちらに引き渡してきた。だから、私は彼女を抱きしめて、背伸びしながら頭を撫でてあげる。するととても気持ちよさそうにしながら、嬉しそうに微笑む。

 

「大人しく投降なさい。アンタ達の実力じゃ、私はもちろん、この二人には敵わないわよ」

 

 絶を解除したメンチ君が錬をして、かなり高いオーラだと思われるぐらいの力を放出する。思われる理由は私にとっては小っちゃいからだね。私とジャックのオーラ量から比べるとおかしいだけだが。

 

「気配遮断解いたんだ~。なら、わたしたちも隠さなくていいよね!」

「ああ、いいよ」

「えい♪」

「「「っ!?」」」

 

 ジャックが気配遮断を解いた瞬間。一般人は気絶した。そして、刀を持った男は座り込み、他の男達は失禁して気絶した。極寒の地に放り込まれたような、自分達では逃れようのない死を感じたのだろう。

 

「褒めて褒めて」

「うん、良い子だ」

 

 そんな可愛らしいジャックのサラサラふわふわヘアーと触れ合っていると、相手の男が武器を手に必死で斬りかかってくる。だが、メンチ君が一閃すると、神字を使った刀があっさりと切断された。

 

「その気概は買うけど、実力差がハッキリしているのだから諦めなさい。まだやるって言うのなら、次はないわよ」

「わ、わかった。主人に話を通す。待ってくれ」

「早くしなさいよ」

「ああ……」

 

 しばらくすると、大人しく降伏を選んだようで、話し合う事になった。

 

「私はライト・ノストラードだ。この組の組長をしている」

「ライネス・ホイコーロだ。といっても、私の紹介はいらないだろう。こちらは護衛のメンチ君と、ジャックだ」

「魔法少女のジャックだよ! おかあさんを虐めたら許さないからね!」

「あ、ああ……魔法少女?」

「そこは突っ込まなくていい。それよりもだ。こちらの条件を飲んだら、便宜を図ってあげるよ」

「ほ、本当か?」

「ああ、本当だとも。まず、君達には捕まってもらうが、減刑になるよう手配しよう。代わりに君達の持っている会社などの資産は半分を貰う」

「は、半分だと!?」

「全てを貰わないだけありがたく思いたまえ。それと娘も貰おうか」

「む、娘を……」

「それが資産を半分残し、命を助けてやる条件だよ。もちろん、人も含めるからね」

「ぐ……わかった」

 

 ライト・ノストラードにとって娘は道具だ。だからこそ、簡単に引き渡せる。また、環境のせいで我儘に育ち、人体収集家になった。それなら、彼女をこっちで引き取って矯正したらいい。それに占い師として囲い込んだ方が賢いからね。

 

 

 

 

 

 




ジャックちゃんのお菓子になっちゃえ! お菓子にされた後は美味しく幼女に食べられます。

ロード・エルメロイ二世の事件簿が終わりました。とっても悲しいです。ライネスとオルガマリーがよかった。あとグレイが可愛い。


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22話

ネオン君が酷い扱いをうけますが、人格矯正のためなのでご容赦ください。ライネスちゃんに殺す気は一切ありません。

アンケートありがとうございます。
邪ンヌの扱いですが、フェイトなど他作品のキャラはほぼ全て銀の鳥による改造です。本人がでてくるわけではありません。なので、三姉妹全員というのは、別人になります。ただ、家族構成は似せます。名前も別で与えますが、性格をトレースするぐらいです。
混乱させて申し訳ございません。


 詳しい内容を話し合い、私は彼等が保有する資産の半分とネオン・ノストラードと、ネオンの侍女エリザ。それにスクワラを貰うことにした。この二人は恋仲になるが、スクワラが幻影旅団に殺されてしまうからね。他の人材は選ばず、有用そうな資産だけもらうのだ。こちらはちゃんと契約書を交わしておいた。法律上、問題ないようにね。

 

「それで、ここに彼女がいるのかな?」

「ああ、そうだ……ネオン、入るぞ」

 

 ライト・ノストラードが扉を開け、中に入る。私も後ろについて中に入り、部屋の中を見ると原作で見たよりも幼い、ピンク色の髪の毛をした女の子がベッドの上に座りながらこちらを見詰めてくる。そんな彼女の手にはミイラの手が入っているケースが抱きしめられていた。遅かったんだ。腐ってやがる! 

 

「その人は? 新しい侍女?」

「この私が侍女なんかになるわけがないだろう。王族だぞ。それこそ国が崩壊しないかぎりは有り得ないね」

「じゃあ……」

「逆だよ。君が私のメイドになるんだよ」

 

 そう、メイド。侍女ではなく、メイド。そっち方面の役割も与えてやろう。だって、その方が面白そうだからね。

 

「パパ?」

「すまない。これからネオンは彼女に引き取られるんだ」

「え?」

「簡単に言えば私が君を買った。これから私の物、奴隷として馬車馬のように働いてもらう。なに、衣食住と福利厚生はしっかりとしてやるさ」

「ど、どういうことなの!」

「すまない。本当にすまない……」

 

 ライト・ノストラードに縋り付くネオンを見ながら、エリザを探す。彼女に一緒にこの家から出る準備をさせないといけないからね。

 

「エリザというのは誰だい?」

「わ、私ですが……」

「君は私がネオン君と一緒に連れて行く。準備をしてくれ。ああ、契約条件は住み込みで月50万ジェニー。週休二日で社会保険を完備。有休は月一日。昇給は君次第だ」

「い、いいんですか?」

「ああ、他にも色々と兼任してくれるのなら追加手当もだすからね」

「か、かしこまりました」

 

 後はスクワラ君かな。

 

「スクワラ君」

「は、はい……」

「君は犬達や動物と移動する準備をしておいてくれ。君も私の下で彼女に告げた条件で雇う。もっとも、彼女共々、君達は鍛え直しだがね」

「わ、わかりました」

 

 これでエリザ君とネオン君を念能力者にして、スクワラ君を魔改造して戦力を増やす。犬に念能力をかけるのはいい。だが、その犬自体の能力が如何せん低すぎるのが問題だ。ならば、犬自体を改造すればいいのだよ。例えば念能力者にしてロボ君にしてしまうとかね! 

 もちろん、そんなに強くして裏切られたら困るので全員の心臓に水銀を打ち込んで、何時でも処分できるようにしておく。よく言うだろう、裏切り者には死の裁きをってね。

 軍や国、組織における最大の敵は身内だ。これに対する対処を怠ればどんなに強い軍隊でも簡単に瓦解する。実際に司馬懿殿はクーデターを起こして国を落としたのだからね。

 

「悪い顔をしているわよ」

「おっと、これはいけないね。ところでジャックはどこに行ったのかな?」

「あの子なら探検だって行ったけれど……」

「危なくないかな?」

「ジャックに危険があるなんて思わないけれど……」

「いや、相手がだよ」

「あ……」

「よし、探すか。トリム、この家に隠されている資産とジャックを探してくれ」

「はい」

 

 ジャックは楽し気に庭で犬を追いかけ回していた。犬達は必死に逃げている。それを見てスクワラ君は必死に止めようとしているが……これは止めた方がいいな。

 

「ジャック。その子達はこれから仲間になるのだから殺さないようにね」

「は~い! 撫でまわしたいだけだから大丈夫だよ!」

「そうか。ふむ。なら、私も撫でるとしようか。スクワラ君、いいかな?」

「か、構いませんが、犬達に酷い事は……」

「しないよ。敵対しない限りはだけどね」

「ほっ……」

 

 やってきた犬達を二人で撫でていく。しばらくは楽しいふれあいタイムだ。

 

 

 

 そんな風にやっていると、警察が入ってきてしっかりと調べていく。ライト・ノストラード達は一度逮捕され、後々保釈金を支払い出てくるだろう。

 私はライト・ノストラードが連れていかれ、その間に隠された金庫を開けて中身を貰っていく。もっとも、麻薬など危ない物は全て警察に渡して現金や金塊、通帳などをもらったというわけだ。これはネオンの養育費だね。

 

 

 それから自宅である邸宅に戻り、庭で儀式を行う。儀式と言ってもネオン君の教育だ。コレクションを全て奪われ、目の前で燃やしていく事によって泣きわめくネオン。もちろん、私は容赦しない。歴史的価値がある物と家族が分かる物は返却し、それ以外の人体は全て焼却して墓を建てて供養するのだ。それを家から持ちだした赤い豪華な椅子に座りながら見学している。

 

「ふふ、いい表情だ。ほら、これを自分の手で火の中に入れるんだ」

 

 ネオンは大きくなったトリムマウに足を掴まれて逆さづりにされ、手にはミイラの手を握っている。もちろん、私が握らせた。

 

「いやっ、いやぁぁぁぁっ! 高かったの! すごくおねだりして買ってもらったのに!」

「却下だ。ほらほら、早く入れないと死んじゃうよ。知っているかね? 人間は逆さづりにされると、長くは持ちこたえられないそうだ」

「え?」

 

 ネオンの逆さづりになっている顔を両手で掴み、上から覗き込むようにして視線を合わせる。

 

「正確な数字は諸説あるが……まあ、三時間もすると血流が上下逆転する負担に耐えられず……心臓が、止まる」

「そ、それって……」

「死ぬだろうね。ちなみに私はこれが終わるまで君を降ろすつもりはない」

「そ、そんな……お願い、許して……」

「許さないさ。覚悟したまえ。君はこれから私と関係を続ける。なので、いささかならず、私の好みに思考と人生を歪めてもらうぞ、ネオン・ノストラード。差し当たっては私の大っ嫌いな人体収集の趣味を止めてもらう」

「わ、わたしは人体を収集することが生き甲斐なの!」

「知らないね。というか、うん。人体を収集するのが趣味なら、君の片手と両足を斬り落としてホルマリン漬けにして飾るかね。ああ、片方の瞳もいらないね。私が欲しいのは君の念能力、占いの力だけだ。自分で自分の身体を保存して眺めるというのなら、まあ、我慢しようじゃないか」

「そ、それは……」

「うん、それがいい。よし、斬り落としてそうしようか。ジャック」

「は~い! わたしたちに任せて!」

 

 うむうむ、ジャックは良い子だね。私の言葉にネオン君は引きつり、涙を流しながら懇願してくるが、知らないね。

 

「やりたまえ」

「解体するよ!」

 

 スパッと足が切断され、トリムマウが持つ場所を変える。続いて腕も片方を除いて斬り落とされ、ネオン君の絶叫が響く。血は一切でないし、死ぬ事はない。

 それを見てエリザ君はスクワラ君に抱きしめられて涙を流している。二人は私に逆らわない。逆らえばどうなるかなど、わかっているのだから。

 

「ほら、人体を収集するのが趣味なのだろう? 自分の人体を収集し、保管しておくといい」

「ライネス、やり過ぎよ……」

「いいんだよ。まずは彼女の性格を矯正しないといけないからね。それに占いは片手と片目だけでいいからね。さあ、次は目だ。君が人体収集を諦め、止めるまで君自身を解体し続けるのも一興だ。私は他人の不幸を見るのが大好きなんだ。とりわけ真面目な人間が鬱屈して道を踏み外すところなんて最高なんだが……君はそれから外れているが、綺麗な顔立ちの少女が涙ながらに懇願し、絶望に歪んで狂う姿というのもなかなかにいい」

「ライネス、冗談よね?」

「冗談? いいや、マジさ」

 

 ライネス・エルメロイ・アーチゾルテの趣味と嗜好はこんな感じだ。もっとも、私は味方には優しくするつもりではある。それにからかう方が楽しいしね。

 

「ほらほら、人体を収集するの止めて全部処分するか、ここで死ぬか。好きに選ぶといい。私は寛大だからね。仲間になるというのなら、君のこれからの生存は約束するし、手足も元に戻してあげよう。どちらにせよ、選ぶのは君だよ、ネオン君」

 

 ネオン君の瞳を開き、そこに指を近づけて抉るような手つきをしていく。彼女は恐怖から失禁し、身体中を穢していく。

 

「ゆ、ゆるじてぇ……やめるりゅっ、やめるりゅからぁっ!」

「では、炎の中に投げ入れたまえ。言っただろう? 終わるまで解放はしないと」

「はい……」

 

 片腕だけで必死に炎の中へと収集した人体を投げ込んでいくネオン君。私は椅子に座ってからしっかりと終わるまで見詰める。まあ、退屈になって片手を横にして、その上に肘を乗せ、顎を置いて眺めたりもしていたが。

 途中で飽きたジャックは犬と遊び回っているし、エリザ君とスクワラ君は相変わらず抱き合っている。メンチ君は一応、テーブルを用意して私に紅茶やお菓子を提供してくれている。そして、もう一人、客人として呼んだ奴が美味しそうに食べている。

 

「ご、ごれでいい、でしょう、かぁ……」

「よしよし、上出来だ。私の仲間、いや、弟子として認めてあげよう。歓迎するよ、ネオン・ノストラード君」

「あ゛、あ゛りがとう、ございます……」

 

 拍手をしながら告げてあげるとお礼を言ってきた。うんうん、良い子になってくれて私は嬉しいよ。

 

「で、私の出番?」

「ああ、治せるだろう?」

「余裕よ。右腕800万、両足1700万。全部で2500万でいいわよ」

「わかった。支払おう」

 

 私が呼んだマチおねえちゃんだ。簡単に斬り落とした理由は治せるからだよ。流石に不可逆ならやらなかった。

 マチおねえちゃんがあっさりと降ろされたネオン君に近付き、止まってから水をぶっかけて綺麗にしてから接合していく。

 

「まったく、惚れ惚れする腕だね。私の仲間に欲しいくらいだ」

「嫌よ」

「残念だ。よし、お金を振り込んだよ」

「そう」

 

 しかし、見ていると思うのだが……私でもできないだろうか? トリムマウを、水銀を使って針と糸を形成する。それで縫い合わせ、傷口が結合してから具現化を解除すれば治療完了だ。問題は水銀の毒性だが、こちらはオーラで防げばいいし……問題は技術か。こればかりは訓練しないといけないだろうが、試してみる価値はあるね。

 

「さて、では改めて君達を歓迎しよう。メンチ君は歓迎の料理を頼む。スクワラ君、こっちにきたまえ」

「な、なんですか?」

「脱ぎたまえ」

「え!? お、俺には付き合っている彼女が……」

 

 勘違いしているみたいだが、これは都合がいい。メンチ君はすぐに料理を作りに行ってくれたし、こちらに危険はないと判断したんだろう。まあ、ジャックが護衛としているから、マチおねえちゃんが私に襲ってきても問題はないだろう。

 

「ほほぅ! 興味があるな。誰だい?」

「わ、私です」

「ふむ。エリザ君とか。それなら二人の部屋は一緒にしよう。励んで子供を作ってくれたまえ」

「「ちょ(ふぇ)!?」」

 

 二人が赤くなって互いを見ている。ネオン君は呆然としたままだが、仕方ない。

 

「でだ。脱ぐのは上だけでいい。今から裏切り防止のために君達の心臓に私の水銀を装着する。裏切った瞬間、私は君達を即座に殺す。それだけは覚えておくといい」

「わ、わかりました。エリザにもですか?」

「そうだ。だが、基本的に害も毒性もないし、私からオーラの供給もできる。安全性が格段に上がると思ってくれ」

「エリザに念を教えるつもりなんですか?」

「そうだよ。私の所は人材不足なんだ。これから増やす予定ではあるがね」

 

 基本的に銀翼の凶鳥が願いを叶えた子供で形成しようと思っている。彼等の弱点であるオーラが無くなることは私が与えるオーラで補えばなんとかなるだろう。まあ、それだけなら足りないだろうが、しっかりとした念能力者に鍛え上げ、自分でオーラを賄えるように育てればどうにかなるという希望的観測もある。確実に足りないだろうから、聖杯みたいな魔力タンクならぬオーラタンクを作らねばならないだろう。

 聖杯を作成する方法は簡単だ。この世界にもレイライン。地脈や龍脈などと呼ばれる星の力が流れる場所があるはずだ。なにせ星も生き物なのだから、オーラがあっても不思議ではない。それもとても膨大なオーラだ。その力を聖杯で吸い上げ、私が使えるようにする。まずは亜種聖杯。続いて疑似聖杯。最後に小聖杯と大聖杯のセット。完成すれば私の力は跳ね上がる。まあ、まだ計画段階だ。

 

「わ、わかりました。どうぞ……」

「では行くよ」

 

 スクワラ君に銀を打ち込んだ後、犬達にも打ち込む。

 

「エリザ君とネオン君は風呂に行こうか。マチおねえちゃんは適当にゆっくりとしておいてくれ。どうせご飯を食べていくだろう?」

「もちろんよ。むしろ、私も風呂に入るわ」

「まあ、それでいいなら構わないがね。じゃあ、スクワラ君を除く全員で風呂だ。スクワラ君は犬達にトイレをしていい場所などを教え込んでくれ。それが終わったら、部屋の片付けかな。部屋は先に案内しよう」

 

 その後はスクワラ君を部屋に案内し、着替えを持ちだしてから風呂へいく。そこで裸になったネオン君とエリザ君に水銀を打ち込んで、身体を綺麗に洗っていく。もちろん、ジャックも来ているので二人で洗いっこだ。

 身体が綺麗になったら、湯船でゆっくりと他の人の肌を見ないようにしつつ、ジャックと子供らしく遊ぶ。両手を組んで水鉄砲ならぬ湯鉄砲として撃って掛け合いっこをする。キャッキャウフフな楽しい時間だ。

 マチおねえちゃんは呆れていて、エリザ君とネオン君の二人は私を見てかなり驚いていた。幼女同士で遊ぶライネスとジャック。とっても尊いね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライネス・ホイコーロの暗殺を依頼します」

『高いぞ』

「構いませんよ。ただし、一度の襲撃で殺し切れなければ撤退してください」

『条件付きか』

「はい。できれば彼女の実力を出させ、その情報を持ち帰らせてください」

『ふむ。了解した。それとお主、わしらの家に何かしておらんかの?』

「そちらには何もしておりませんよ。はい、なにも」

『わしらの家以外にはしとる、と。まあええわ。予想される相手は?』

「超一流の念能力が三人。一流の護衛が二人。後は雑魚でしょう」

『なら、868億じゃな』

「高すぎませんか?」

『王族が相手じゃからの。これぐらいは当然じゃ。本当はこの三倍は欲しいのじゃが、一度狙った後は撤退してよいとのことじゃからな。ちなみに金額は下げんぞ』

「かしこまりました。それではよろしくお願いいたします」

『承った』

 

 

 

「さて、さて、どうなるか楽しみですね」

 

 

 

 

 




抑止力があっても、あの人ならあえてやる。どちらにも負担をかけさせられるのだから。






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23話

 

 お風呂から上がり、メンチ君が作ってくれた歓迎用のご飯を食べる。どの味も美味しくて、怖がっていたネオン君は恐る恐る食べ始めると気に入ったようでどんどん食べていく。エリザ君やスクワラ君も一緒で安心しているようだ。

 ただ、ネオン君は時折、腕や足を撫でていてホッとしている。もちろん、接合部には触れないようにしているようだ。順調にトラウマになってくれたようでなによりだ。これで彼女は人体を収集するなんてことはないだろう。手に取ろうとするだけで今回の事が思い出されるだろうしね。

 

「ところで、マチおねえちゃんは泊っていくのかな?」

「そうね……依頼は終わったから、帰るわよ。団長に伝えておく仕事はある?」

「ああ、あるよ。資料を渡しておこう」

「わかったわ」

 

 食事が終われば、マチおねえちゃんを見送る。それから、メンチ君は片付けをしてお風呂に行くので、その間にジャック、ネオン君、エリザ君、スクワラ君、犬達を地下にある訓練所に連れ込む。地下に向かうにつれて三人は不安がっていたが、気にしない。

 

「ここで訓練をする。エリザ君を覚醒させ、ネオン君には正しい力の使い方を教える。スクワラ君は犬達を操作して念能力者にするんだ。ジャックはトリムと訓練をしようか」

「は~い」

 

 ジャックをトリムマウに任せ、私はエリザ君とネオン君に触れながら、彼女達に打ち込んだ水銀からオーラを供給し、身体中に行き渡らせる。しかし、この水銀はまるで間桐が使っている虫のような感じだな。

 

「んっ、んんっ! こ、これはっ……」

「あっ、あぁっ、身体がっ、熱く……」

 

 荒い吐息がえっちぃ。二人の女性が見悶える姿を見ながら、彼女達の身体を操作する。操りながらしっかりと彼女達のオーラと私のオーラを捏ねて捏ねて混ぜ合わせ、全身にオーラを細胞の一つ一つまで染み込ませていく。モモゼお姉様に使った念の応用で彼女達も覚醒させることができる。

 

「私が生命力、オーラを操っている。この感覚を慣れてくれ。慣れたら次は自分の身体に纏う感じで──」

 

 身体で体験させながら色々と教えていくと、二人はおっかなびっくり頑張って纏をしていく。纏の次は錬をさせていく。しばらくはこれの訓練だ。エリザ君は初心者なので時間をかけないといけないが、ネオン君は知識はなくても占いで念能力者を使っていた。だからか、習得が早い。

 スクワラ君の方もそう簡単にはいかないようだ。まあ、犬を念能力者にするなど普通は無理だが、操作系であり、犬を自由にできる彼なら可能だろう。それに犬の食事に魔獣や幻想種の肉体を与えれば面白い変化が起きるかもしれない。

 ジャックの方は楽しそうにトリムマウと戦っており、トリムマウと高速で斬り合っている。トリムマウの方は腕を剣に変え、ジャックのナイフでだ。有利なのはジャックで、トリムマウには一切手加減する必要がない上に強いのでどんどん成長していっている。斬り刻まれながらも反撃する上に復活してくるので、実戦形式の特訓相手に丁度いい。ただ、ジャックが身体能力という意味で全力を出してきている。私のオーラだけでなく、自分のオーラも使っているから禍々しい気配が辺りを覆っている。

 

「さて、私は……」

 

 携帯を取り出して調べてあるゾルディック家に連絡を入れてみるが……繋がらない。繋がったとしても執事がでてきて繋いでもらえない。手紙で出しても返還されてくるか、返事がこない。まるで誰かに止められているかのようだ。かと言って、飛行船に乗ってまで遠くには向かえない。

 ネオン君を回収するのにも仕事の予定を頑張って空けたが、予想以上にジャックの件で仕事が増えすぎた。本国からジャックに関する追求を受けて説明したり、復興支援の手配や被害者に対する治療費などなど、本当に大変なのだ。それに加えて会社を奪い取り、改めて不正経理や犯罪があれば告発して処分し、複数の会社を統合して複合企業を作成したのも理由の一つだ。企業の名前はエルメロイにしてある。何れは時計塔も作りたいね。

 しかし、こうなるとゾルディック家に対する監視強化をしておかなければならない。明らかに誰かの意図が介入している気がするし、さっさとお宅訪問するべきか。誰かに暗殺依頼でもされたらかなわないしね。シルバ・ゾルディック相手ならトリムマウは吹き飛ばされて終わる可能性がある。いや、ゼノ・ゾルディックもそうか。こちらで戦えるのはジャックぐらい。そうなると、私は外部の戦力に頼るしかない。幻影旅団とハンター協会だ。

 逃走経路はすでに作成しているし、ジャックをちゃんと運用すれば勝てる可能性はある。正面から挑んだら確実に負けるだろうけど、何も戦う必要はないのだ。相手が私を殺しに来るというのなら、私も容赦なく相手の嫌がる事をしよう。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。私の策が発動すれば、撤退か壊滅を相手は選ぶ事になるだろうし、引いてくれるとありがたい。まあ、しばらくは雲隠れするけどね。

 

「……あの、これでいい……?」

「ふむ。素質はあるようだね。よろしい。では次だ」

 

 さて、ネオン君が順調すぎるので、コップと水、葉を用意して水見式をしてみる。私もやるので、メンチ君が降りてくる前に終わらせないといけないからね。

 

「両手を当てて増やしたオーラを流し込むんだ。すると系統がわかる」

 

 私のオーラはかなり特殊だ。水は黒くなり、渦を巻く。葉は中心に進むに連れて黒と溶け合って銀色に変化していく。混沌といった感じだが、最終的にそこから、小さなトリムマウがコップの縁に手をつけて外に出てくる。

 また、私は全ての特性が常に変動する。これは私の中には三人が居るからだ。まず、私、いや、この場合は俺だ。もう一人は私、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。最後の一人は俺、司馬懿。この三人を混ぜて人格を形成したということではない。俺と私を合わせてライネス・ホイコーロという感じだ。司馬懿殿は別人格みたいな形で実行しているが、その領域まで私は進んでいない。

 何れは司馬懿殿を作成するつもりではあるので、その生涯をトレースしなくてはいけない。これはライネス・エルメロイ・アーチゾルテも同じだ。基本的な資料はロード・エルメロイ二世の事件簿とFGOのレディ・ライネスの事件簿だ。

 まあ、なんというか、パーソナルデータが三人+複合一人という意味の分からない状態になっている。念能力で作り出しているのだから、尚更だろう。銀の鳥によってオーラとメモリが運ばれてくるから、変化が起きていたのかもわからない。どちらにせよ、私の水見式は過程はどうあれ、最終的にトリムマウになって机の上をゴロゴロしてからぐてーと溶けてメタルスライムみたいになると消滅する。

 

「では、やってみたまえ」

「は、はい……こう?」

 

 全力で錬を行うと、葉が分解されて破片が星図に変化していく。やはり彼女は特質系だ。まあ、これは原作通りなのでわかりきっていたことだ。

 

「こ、これって何?」

「君は特質系だ。占いなんて特殊な事をしていたのだから当然だね。ネオン君は占い師に興味があるのかな?」

「ある……あります」

「じゃあ、ネオン君。私を占ってくれ」

 

 隅に置かれている机に案内し、そこに座らせてペンと私の名前、生年月日、血液型を書いた紙を渡す。

 

「わ、わかりました……では、はじめます……」

「頼むよ」

「はい」

 

 彼女の手が勝手に動き、紙に詩が書きこまれていく。ネオン君の能力は天使の自動筆記(ラブリーゴーストライター)

 自動書記による詩という形式で、他者の未来を占う特質系能力だ。予言を書き込む紙に、予言する対象者の名前、生年月日、血液型を書いてもらい、本人もしくは本人の写真を目の前に置いて能力を発動する。

 予言詩は四〜五つの四行詩から成り、その月の週ごとに対象者に起こる出来事を暗示している。悪い出来事には警告が示され、その警告を守れば予言を回避できる。ただし、自分の未来は占えない。

 自動書記であるため、書かれた詩の内容は書いている本人には分からない。本人はなるべく自分が関わらない方が当たる気がする。との理由で、占った結果を見聞きしないようにしているが、これはポリシーなのかもしれない。また、自分の能力が念であることを自覚していないが、私が説明してしっかりと理解させる。

 

「おそらく、占いの結果を知らない事と、自分を占えないのは制約と誓約によるものだろう」

「なんですか、それ?」

「自分で決めたルールを守る事で念能力が強化される。君の場合は先程言った感じだろうね」

「なるほど……はい、できました」

「ありがとう……ほほう、これはこれは……」

 

 不幸な少女達は願いを叶え、切り裂き魔として街を彷徨う。

 空高くで行われる交換に油断してはいけない。

 貴女の隣には死が這い寄っている。

 切り裂き魔の願いを叶えるしか貴女が光を得る道はない。

 

 貴女は新たな駒を手に入れて順調だと思われるが、貴女の横には変わらず死が這い寄っている。銀とその眷属が現れ、貴女達を地獄へと誘うだろう。狩人達は時間に間に合わずに野に咲く花を咲かせ、新たなる生を得る。

 

 

 三週目と四週目は存在していない。新たな生を得るというのは、サーヴァントとして蘇るということだろう。つまり、三週目には私は死んでいる。残り三日。それが私の命のタイムリミット。やれやれ、本当に人気者だ。

 携帯を取り出して連絡を入れる。まずは一応、ハンター協会からだ。予言では間に合わないと言われているが、どうかな? 

 

「あの、どうでしたか……?」

「すまないが、用事ができた。訓練を続けていてくれ。ジャック、全力で周りを警戒。霧を薄く出しておいてくれ」

「了解だよ、おかあさん」

 

 コールが複数鳴り、相手が出た。

 

『わしじゃ』

「今、何処にいるのかな、おじいちゃん」

『うむ。ハンター協会じゃが……』

「今すぐそちらに行く」

『構わんが……む?』

「どうしたのかな?」

『どうやら緊急案件が起きたようじゃ。わしは飛行船に乗って出かけることになる』

「なら、同行させてくれ。こちらも緊急事態なんだ」

『わかった。迎えに行ってやるか』

「いや、こちらから行くから、準備だけしてくれれば……」

『む。部外者は駄目とのことじゃな』

「誰がいっているのかな?」

『パリストンじゃが……』

 

 そういうことか。なら、いいだろう。もう一つの電話を取りながら、会話を続ける。

 

「どこの国でどこの組織かな? こっちで話をつけるよ」

『だそうじゃよ?』

 

 あちらもとても嬉しそうに話している。おじいちゃんも理解したようだ。電話で教えてもらった国に連絡して、脅して同行を認めさせた。依頼内容は単なるハントだから、大丈夫だ。これでこちらは問題ない。後は隠し通路を使って移動すればいい。保険としてクロロ達も呼び寄せておこう。

 

「政治能力で劣っていても、権力は私の方が大きい!」

 

 クロロ達に連絡して、即座に蜘蛛を集めてもらう。とりあえず、マチおねえちゃんとクロロ、それにウボォーギンが近くにいるそうですぐにこれるそうだ。これで大丈夫だろう。隠し通路はハンター協会に知られていない。国の上層部にも作ることだけは伝えて、一部以外は知らないようにしてある。

 

「あっはっはっ。本当は教えるつもりなんてなかったけれど、これは仕方ない!」

「大丈夫です、か?」

「大丈夫じゃないさ。全員、逃げるから、そのつもりで」

 

 指示を出してから、メンチ君と合流して急いで準備する。いざとなれば邸宅ごと爆破だね。

 

 

 

 

 六時間後にクロロ達を迎え入れ、地下に運び込んだ車を使って移動する。他の人はウボォーギンに怖がっているが、私は大歓迎だ。

 

「おい、今回の相手は強いんだよな?」

「ああ、相手は特大の大物だ。どちらにしてもね」

「お前、相手は誰だ」

「ゾルディック家だね♪」

「帰るぞ」

「ニガサナイヨ」

 

 トリムマウで、クロロを拘束する。これでどう足掻こうが巻き込める。

 

「大丈夫、大丈夫。ネテロ会長も巻き込むから」

「それならなんとかなるか」

「ちなみにその代わりに討伐依頼が来ている巨人を狩りに行くが、大丈夫だろう」

「ほう、巨人か! いいねいいね! 滾ってきたぜ!」

「そうだろう! 君ならそう言ってくれると思っていたよ!」

「待て。巨人、だと……」

「私、医療班ね。前衛は任せるわ」

 

 クロロが驚愕している中、マチおねえちゃんはさっさと逃げる。ネオン達は震えているけれど、知らない。

 

「あ、おかあさん。侵入者が来たよ」

「なら、ジャック。頼むよ。後で合流しよう」

「は~い。行ってくるね!」

 

 ジャックが走っている車から飛び降りて、カンテラから霧を放出しながら外へと向かっていく。殿はジャックに任せる。死なないだろうし、大丈夫だと思う。後は護衛の二人がどこまで頑張ってくれるかだね。彼等が稼いだ時間の間に霧を充満させつつ本気で暗殺させる。

 

 

 

 

 

「くそっ、胃が……巨人なんてどうすればいいんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに相手の方が上手です。基本的に相手の掌の上。
幻影旅団を三名、呼び寄せました。参戦はマチ、クロロ、ウボォーギン。ウボォーギンはライネスからの依頼が基本的に無理難題に近く、狩り系統が多い為に積極的に参加。戦闘狂にとってはとっても嬉しい相手ばかりをチョイスして投げてくれるから、近くにいます。
クロロはマチと別れてホテルで本を読んでいただけ。ライネスから希少本を何個か提供されているので、近くにいます。マチはホテルに戻ってから少ししてとんぼ帰り。


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24話

 

 

 ジャック

 

 

 

 霧を出しながら、隠し通路に陣取ってやってくる人達を待つ。わたしたちからおかあさんを奪おうとする人達なんて、許しておけない。だから、わたしたちは全力で排除する。

 

「はやくこないかな? こないね。なんでかな?」

 

 霧で充満させた地下に来ないなら、このまま外に広げちゃえ。ゆっくりと、確実に家の中も満たして外に出る。

 お外には護衛の二人が倒れているだけで、他に人はいない。手を触れてみるけれど、ちゃんと息をしていた。広げた霧で確認してみるけれど、やっぱり誰もいない。

 

「えっと、おかあさんに伝えないと……う~ん、これ、どうするんだったかな?」

 

 小さい箱を取り出してポチポチ押してみるけど、わからない。教えてもらったけれど、よくわかんない。うん、仕方ないよね。だから、走って行こう。

 

 

 隠し通路を駆け抜け、おかあさんの下へと急ぐ。出口を通ると、そこは何処かわからない場所だけれど、おかあさんの居場所はなんとなくわかるから大丈夫。待っていてね、おかあさん。

 

 

 

 

 

 

 ???? 

 

 

 

「失礼します」

「首尾はどうでしたか?」

 

 ライネス・ホイコーロの下へと送り出した部下が戻ってきました。私はワインを楽しみながら聞かせてもらいます。

 

「警備の二名を無力化しました。しかし、家からは出てきませんでした」

「そうですか。ですが、こちらの予定通りに動いているようですよ。護衛を増やしてハンター協会に来ましたから」

 

 どうやら、あちらの手はこちらには及んでいないようですが、色々と符合しないことがあります。依頼した時間から侵入者がゾルディック家だと思うはずはありません。ですが、実際に行った行動は即座に撤退。まるで相手がゾルディック家だとわかっていたかのように。まあ、この情報は予測できます。彼女、ライネス・ホイコーロは占いが百発百中のネオン・ノストラードを手に入れていますから、占いの可能性は否定できませんね。

 しかし、彼女からの報告ではあそこには神字が大量に刻まれ、ライネス・ホイコーロの念能力をかなり増幅する仕掛けになっているようですが……先の戦いで水銀が足りないのかもしれませんね。彼女の発注は私が手を回して封鎖していますから。

 

「地下通路ですか」

「こちらが知らぬ間に色々とやってくれているようですね。まあ、それも予想していましたが」

 

 王族が脱出用の隠し通路を用意するのは当然ですから。

 

「追った方が良かったですか?」

「いいえ。追えば貴女達は殺されていたでしょう。その時点で襲撃者がゾルディック家ではないとバレてしまいます。ですので、撤退で構いません。後はゾルディック家に予定通りだと告げれば問題ありませんので」

「かしこまりました。そのように手配します」

「お願いしますね。私は特等席で見学させていただきますので」

「わかりました」

 

 さてさて、巨人とゾルディック家を相手にお二人がどう戦うか、非常に楽しみですね。

 

 

 

 

 

 

 ライネス・ホイコーロ

 

 

 

 

 

 ハンター協会に逃げ込み、飛行船に乗り込むとジャックが追いついてきた。彼女の情報を教えてもらうと、護衛の念能力者は気絶していたらしい。そう私に抱き着きながら報告してくれた。

 

「ああ、くそっ! してやられた!」

「おかあさん? わたしたち、何か駄目なことしちゃった?」

「いや、ジャック達はなにもしていないよ。ありがとう」

 

 占いの結果から急いで出て来たが、アイツの狙いは私達をこの飛行船に私を乗せる事だろう。それも私がネテロ会長を頼る事を知って、巨人討伐の依頼を投げてきた。実際に銀の鳥で確認しよう。

 情報から銀の鳥の視界で巨人の居場所を確認すると、山に手をかけ()()()()()()()()街へと向けて進んでいる。進むにつれて植物が絡みついていく。そう、植物が。おかしくないかね。なんで巨人の足に植物が絡みついているんだ。

 これはもしかして……と、思ったら面白い物が居た。巨人だけではない。そう、巨人だけではないのだ。それはそうだ。一匹ずつ相手できるなど、運がいいだけだ。巨人だけが存在するわけがない。山とは動植物の楽園なのだから。それにしても、私の知識から進化先が選ばれるのなら、なにもFateの世界から選ばれることはない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。なら、強力な植物の魔物が選ばれてもおかしくはない。植物は生命力が高いしね。

 まあ、危険な巨人と植物が居ることもわかった。いや、それ以外にも居る可能性があるし、襲われる可能性が高い。これなら死の予言も納得できるのだが……銀とその眷属。これが私を殺しに来る存在なのだろう。だが、巨人も植物も銀ではない。いや、銀の鳥という意味なら間違いではないかもしれないが……ないだろう。わざわざ眷属と書かれているのだ。

 なら、私が彼等をゾルディック家だと判断した理由が正しい可能性がある。銀とはシルバー。更に彼の髪は銀色だ。つまり、シルバ=ゾルディックが銀色だと判断した。その眷属とはゾルディック家の事だと考えると納得できる。そして、王族である私の暗殺ならば相手はシルバ・ゾルディックだけでなく、ゼノ・ゾルディック。今の年代から考えるとイルミ・ゾルディック。また、最悪の可能性としてはマハ・ゾルディックが来る可能性がある。

 この四人の相手をするとなると、生半可な手段じゃ生き残れない。ジャックやメンチ君が居ても死ぬはずだ。よし、ならば私も手段を選ばないでいこう。さて、どんな感じにしようかな。やはり、ライネスとしては罠に嵌めるべきだろう。うん、それなら誘導しようか。

 

「ジャック、おかあさんの言う事を聞いてくれる?」

「うん! わたしたちはお母さんの言う事なら、なんでもするよ!」

「本当に良い子だね。それじゃあ、今から指示する通りにしてくれるかな?」

「任せて! でも、おかあさんは大丈夫? 魔力、いっぱい使うよ?」

「平気へっちゃらさ。おかあさんだからね!」

「そっか。やっぱりすごいね、おかあさん!」

「そうだろう、そうだろうとも」

 

 ジャックに褒められて、私は撫でまくる。ジャックは嬉しそうにスリスリしてくる。本当に可愛い子だ。

 

「さて、ジャック。少し離れてくれ」

「うん、わかった」

「月霊髄液、私を取り込め。トリム、形態変化だ」

「かしこまりました」

「ジャック、頼むよ」

「任せて、おかあさん!」

 

 さあ、殺ろうか。相手にとって不足はない。全てを騙し、罠に嵌めるだけだ。今までと何も変わらない。私を演じ、演じさせるだけだ。まずは精神力を高めよう。

 

 

 

 

 

 飛行船が目的の空域に到着した。巨人は大分森に近付いており、私達は飛行船から飛び降りて戦場に突入することになる。

 

「さて、どうするかのう……」

「まずは俺が突っ込む」

「それはいいんだがね。クロロは何か提案はあるかね?」

「相手がでかすぎるから、まずは一撃で押し倒したいが……」

「それならいい手がある。おじいちゃんがウボォーギン君をぶん投げて、加速を乗せた私の水銀と合わせた全力の一撃を足に決める。これで倒れるだろう」

「おもしれえ。まずは全力攻撃か」

「確かに開幕で足を崩せるとかなり楽だな」

「外は毒で攻撃すればいいだろう。もしくは窒息させるとかね」

 

 霧の巨人ならフレーバーテキストが適応されて物理攻撃が効かない可能性がある。そうなるとお手上げかもしれない。現在、私達の戦力は物理攻撃に偏重しているからね。百式観音は微妙かもしれないけどね。

 

「巨人って言っても生物にはかわりねーか」

「だろうな」

「なら、早速行かせてもらうぜ! おい、寄越せ」

「はいはい。くれてやるから受け取れ」

 

 水銀をドリルにしてウボォーギンに装備させる。もっとも、何時もより込められている魔力の量は少ないのだがね。

 

「なんか弱くなってないか?」

「残念ながらどっかの誰かのせいで素材不足だ。オーラも回復しきっていなくてね。だから、私はあまり戦力にならないと思ってくれ。サポートはするがね」

「ちっ、役に立たねえのかよ」

「そもそも私は後衛だよ、後衛。本来は前線に出ること自体が間違いなのだよ」

「いやいや、ありえねえだろ」

「まったくだな」

「ひどいな! 私はまだ七歳で王族だぞ!」

「確かにここに来るのはおかしいが、今更だな」

「そうじゃな」

「まったくだな」

 

 まあ、仕方ない。私が望んでいることでもあるしね。全ては借金が悪い。自分で動かないといけないしね。

 

「んじゃ、行くぜ!」

「行って来い」

「じゃ、ぶん投げるぞ!」

「おうよ!」

 

 ネテロ会長がオーラを練りまくったウボォーギンを百式観音で投げ、全力で巨人の足へと攻撃を放つ。一撃は見事、足の関節を砕き、破壊した。巨人は倒れ、土煙をあげる。そこにネテロ会長達と一緒に降下する。

 ネテロ会長は起き上がろうとする巨人に連打を叩きつけていく。ウボォーギンは必死に逃げ、巻き込まれないようにしている。しかし、私達が地上に降りるころには足が再生し、巨人は起き上がろうとしていた。

 

「おいおい、まじかよ」

「再生能力がすさまじいな」

「じゃが、やりようはあるの」

 

 あちらは三人をメインにメンチ君たちで頑張ってもらおう。他のネオン君達は飛行船で待機だ。

 私も水銀を操作して爪の間に差し込んで痛みを与えていく。メンチ君も同じだ。ウボォーギンも攻撃を再開して()()()()()()()()()()攻撃していく。ジャックは周りに薄い霧を展開しているので、カンテラを持って踊っているようだ。

 

「連打では効かんの」

「こっちも毒はあまり効かないな……」

「俺の一撃でふっ飛ばしても再生されるが……」

 

 馬鹿みたいな再生能力だけじゃないんだよね。巨人本来の強みは圧倒的な物理攻撃力だ。

 

「「「再生を超えればいいだけだ(じゃな)」」」

「そう上手くいけばいいけどね」

 

 巨人が寝返りを打ちながら、百式観音を吹き飛ばす。そのついでに地面を掌に打ち、巨体を浮かび上がらせて膝立ちになる。

 

「──■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

 

 雄叫びを上げて拳を地面に叩き付ける。私達は飛び退く。その場所が半径数十メートルが陥没する。その衝撃波だけで私達は吹き飛ばされ、ジャックの霧も移動していく。

 

「ああくそ、どう考えても化け物だろう!」

「いいじゃねえか、だんちょー! 無茶苦茶楽しいぞ!」

「そうじゃな。限界を超えればいいだけじゃし」

「この脳筋共め!」

 

 メンチ君はマチの護衛をしているが、その表情は暗い。まあ、私も同じだがね。あんなのにまともに挑もうとは、おかしすぎる。まあ、私にとって、今回の依頼はどうでもいい。問題はゾルディック家だ。そちらの対処はジャックと罠でどうにかするしかないが、やってみせよう。

 

 

 

 

 

 




霧の巨人ってどうやって倒すんだろうか? やっぱり百式観音って命中するのかな? まあ、今回は普通の巨人ですけどね!


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ゾルディック家

 

 

 

 

 ゼノ・ゾルディック

 

 

 

 

 知らされた場所にわしの念能力、龍頭戯画(ドラゴンヘッド)で移動する。龍頭戯画(ドラゴンヘッド)はオーラを物理的攻撃力を持つほどに圧縮し、龍の形に顕現させる変化系能力じゃ。移動に便利なんじゃ。

 

「目標を見つけたぞ」

「爺ちゃん、本当かい」

「ああ。あそこじゃ」

「シルバ、双眼鏡をくれ」

「ああ」

 

 息子のシルバから双眼鏡を貰い、強化系である爺ちゃんから教えられた場所を確認する。かなり距離が離れている場所では数人の念能力者による激しい戦いが行われとる。濃い霧が出ていて、見えにくいがその中に金色の髪を持つ一人の幼い少女が居る。

 

「顔はよく見えんの」

「参加しているメンバーからしたら、おそらくアレじゃろうて」

「確かに可能性があるか」

「近づけばわかるだろうが、あの霧は……」

「念能力じゃの」

 

 凝で確認すると隠で隠されてはいるが、オーラが確認できる。霧はまず間違いなく、あの巨人か討伐メンバーの誰かじゃろうて。

 

「で、あの銀色がライネス・ホイコーロの念能力か」

「そう聞いているが、どうじゃシルバ。殺れるか?」

「余裕だ。とはいえない。奴はマハ爺と戦えるネテロの弟子なのだろう。なら、油断はせん」

「それが正解じゃな。爺ちゃんはどうする?」

「ネテロの相手をしたいが止めておくかの。巨人はタフなだけじゃし、攻撃も遅い。潰す方法はいくらでもあるから、急がねば機を失うぞ」

「そうか。まあ、そうじゃの。なら、行くとするか」

「ああ」

 

 全員で地上に降りようとしたタイミングで、ライネス・ホイコーロがこちらに振り返り、ニヤリと笑った。

 

「っ!?」

「親父、どうした?」

「視線が合った。気付かれたわい」

「この距離でか。彼女は強化系なのか?」

「依頼主から渡された資料では不明じゃが、特質系だろうとのことじゃ。具現化系か操作系の可能性もある」

「この距離で気付くということはおそらく、この霧は円も兼ねておるんじゃろう」

「ま、それしかないかの」

「なら、さっさと強襲するべきだ」

 

 相手を確認すると、即座に討伐メンバーから離れて逃走にかかっていた。他のメンバーを守るためにしても怪しい。自分が狙いだとわかっているかのような動きじゃな。

 

「罠、じゃな」

「だろうの」

「どうする?」

「わしらの依頼はあくまでもライネス・ホイコーロの暗殺。なら、罠でも行くしかあるまいて」

「このまま引いてはゾルディック家の名折れじゃ」

「では、狩りの時間だ」

 

 わしらは森に降りてから、絶をして森の中を駆け抜ける。目標のライネス・ホイコーロは絶を使わないようで、一般人のようなオーラしか感じないが、そんなことはありえない。おそらく何かの制約と誓約じゃろう。

 

「しかし、霧は害がないとはいえ鬱陶しいの」

「そうじゃな」

「確かに」

 

 走り続けること数分。ライネス・ホイコーロはかなりの速さで森の中を駆け抜けておる。わしらとしても、討伐メンバーから離れてくれる方が暗殺の確率が上がるので泳がせておるが……嫌な予感がするの。

 

「ゼノ。そろそろよいか?」

「そうじゃな。爺ちゃん、先行してくれ。シルバは少し離れておれ」

「了解した」

 

 森の中、巨人が歩いて木々を踏みつぶしたような歪な広場に到着し、そこにある折れた木にライネス・ホイコーロが肩を揺らしながら座る。周りを確認するために円を展開するも、霧が邪魔をして精度が著しく弱い。阻害されておる。地形から山と山の間にある谷間じゃが……ここに何かがあるのかの? 

 わしらが確認しながらライネス・ホイコーロの様子を伺っていると、緑色の服についているポケットに手を入れてから、こちらを振り返る。彼女の手には試験管が握られておるの。中身は揺れる銀色……おそらく水銀かの。

 

「居るのはわかっているよ。ゾルディック家の諸君。こんなか弱い幼女を相手に三人とは、伝説の暗殺一家と聞いたが、随分とまあ落ちた物だね。これは前評判に踊らされたかな?」

 

 クスクスと楽しそうに笑っている小娘。わしらは奴の挑発には応じず、オーラを練って最高潮まで上げる。

 

「やれやれ、本当に出てこないとは。なら、出てこざるをえないようにしてあげよう」

 

 警戒するが、奴が取り出したのは携帯と薔薇だった。助けを呼ぶのか? 

 

「さてさて、綺麗だろう? 君達は貧者の薔薇という物を知っているかな? 知らなくてもいいが、そいつをククルーマウンテンにぶち込む用意をしてある」

 

 貧者の薔薇。戦略級の兵器じゃな。国際条約では禁止されているはずじゃが……。

 

「ああ、もちろん。私が関与した証拠は残していないし、依頼したのは流星街の住民だ。君達の行動次第でこいつをぶっ放すし、私の体内にも仕込んである。意味がわかるかな? 私を殺した瞬間。君達は家とここに居るメンバー全員が死ぬ事になる。ああ、一人を残して逃がしもしないよ。わかっているとは思うが、この霧は円の効果もあって君達の動きは全て把握している」

 

 ハッタリの可能性があるが、どうじゃろうな。オーラは何の変化もないし、事実か? ここは出ていって会話するかの。

 シルバとマハ爺に合図を出してから森から出ていく。龍頭戯画(ドラゴンヘッド)を発動し、横に現しながら、ゆっくりと出ていく。

 

「やあ、初めまして。私はライネス・ホイコーロ。カキン帝国第13王子だ」

「わしは……」

「ああ、知っているよゼノ・ゾルディック殿」

「ほう」

「こちらから接触しようと思っていたが、誰かに妨害されているようでね。執事にも面会のアポイントメントを断られたし、メールも届いていない。せっかく手土産にベンズナイフまで用意したというのに」

 

 やれやれと言った感じで手を振るライネス・ホイコーロの表情は変わっていない。無機質な物だ。まるで作り物みたいじゃな。

 

「それは調べないといけないのう」

「そうしてくれたまえ。さて、では交渉と行こうじゃないか」

「交渉か」

「そうだ。貴方達が望むのは共倒れか? それとも共存かな?」

「お主が持っているそれが事実だという証拠はどこじゃ?」

「なら試してみるといい。その時は全滅だろうがね」

「命が惜しくないのかの?」

「惜しいとも。だから、こうして交渉している。私にスイッチを押させないで欲しい。というか、君達は何故私の暗殺を受けたのかな? カキン帝国を甘く見るなよ、ゾルディック! 報復の為に数億人程度、殺してやるぞ」

 

 彼女が盛大に両手を広げると、周りの霧から禍々しいオーラが無数に発せられる。普通の念能力者なら、受けるだけで気絶したり死ぬような念じゃ。

 

「貴様等が手を出したのは民主主義の国ではなく、帝政を敷いている国だ。当然、何を置いても報復する。私はお前達の家族構成も粗方把握している。故に今いる場所も知っている。イルミ・ゾルディックはN市で暗殺の仕事中だな。その建物ごと爆破する準備もしてある。キルア・ゾルディックの居場所も把握しているし、こいつはまだ念能力者じゃない。殺すのに軍人を数人で狙撃させれば可能だ」

 

 こいつを殺すのは容易い。自らの命すら、こちらを滅ぼす手段とすることで攻撃を封じておるの。何故、こちらの場所を知られているかはわからんが、少なくともイルミの居場所は合っておる。

 

「これは確かに安請け合いし過ぎたの。じゃが、そちらこそ舐めるんじゃないわい。わしらゾルディック家は一度受けた依頼は依頼主が死なない限り、キャンセルはせん」

「そうか。つまり交渉決裂ということかな?」

「そうじゃ。故に──」

「まあ、待ちたまえ」

「なんじゃ。死が惜しいか?」

「いやいや、その心情に敬意を表して賭けをしないかい?」

「賭けだと?」

「ああ、そうだ。勝負内容は簡単だ。私が生き残れば君達ゾルディック家は私に仕える。キルア君を私の姉であるモモゼの婚約者にする。これで君達は私達の血も入るし、我々は戦力が手に入る。もちろん、暗殺を続けてもらっていい」

「お主が負けた場合は?」

「私は大人しく死のう。今から貧者の薔薇を解除し、今出しているここに居るメンバー以外へのゾルディック家への報復を無しとする。悪い取引ではなかろう?」

 

 ニヤリと笑う表情はまさに悪魔そのもの。だが、こいつは現状をしっかりと理解しておるのか? もしかして、銀翼の凶鳥を頼るつもりか? わからぬが、どちらにせよ、わしらが取る手段は変わらぬ。

 

「良かろう。その契約、わしが生き残っておれば叶えてやろう」

「あはは、生き残っていたらかね。じゃあ、精々頑張って生き残ってくれ」

「まるで勝つことが確定しておるようじゃの」

「ああ、そうだとも。ここに来た時点で私の勝ちは揺るがないさ」

「ほう……」

「まあ、私が用意した宴を楽しんでくれたまえ。それでは解除スイッチをそちらに投げる。スタートは好きにしたまえ」

 

 本当に機械を投げてきおった。受け取ると画面とボタンがあり、画面には解除コードと書かれている。罠かも知れぬが、押さねば始まらぬな。ボタンを押そうとすると、その前にライネス・ホイコーロが動き、そちらを警戒する。彼女は手を上げただけだ。手の甲には()()()()。だが、嫌な予感がしてボタンを押す。しっかりと機械の画面には解除されたと映った。

 

「その件に関しては事実だよ。さて、ゲームスタートだ。令呪を以て命ずる。降参するまで誰一人として逃がすな。重ねて令呪を以て命ずる。計画通り勝利せよ、ジャック・ザ・リッパー」

「任せて、おかあさん!」

 

 その言葉と同時に声が聞こえ、禍々しい気配がより一層強くなり、霧の性質が変化した。周りの木々が溶けだし、わしらの身体も少しヒリヒリしだした。ライネス・ホイコーロを見ると、その背後から爺ちゃんが迫っていて、拳を振るう。相手は拳が届く前に後ろに倒れて回避しようとするが、その前に拳が届いて顔を貫通する。

 

「ちっ、そういうことか!」

 

 貫通された拳は銀色に変化した肌により高速回転し、爺ちゃんの腕を切り裂き、身体を覆っていく。奴の体内から確かに貧者の薔薇と思われる機械と携帯がでてきた。

 

『あはははは、私は罠に嵌めるのが大好きでね。最初からそこには居ないのだよ。そもそも私がそこに居るとは言ってないだろう?』

「お主、性格が悪いといわれんか?」

『よく言われるよ』

 

 話していると、オーラの爆発が起きておそらく水銀であろう物が吹き飛ばされる。爺ちゃんはピンピンしておるが、再度からみついてくる水銀を鬱陶しそうにしておる。

 

「大丈夫か、爺ちゃん」

「うむ。体内に入られん限りは大丈夫じゃな」

『やれやれ、流石はネテロ会長と渡り合えるだけはある。私ではどうしようもないようだ』

「諦めるのかの?」

『まさか。だからこそ、罠に嵌めたと言っただろう? ちゃんと相手は用意しているさ。諸君等の健闘を祈るよ。本当に』

「む?」

 

 地面が、大地が揺れていく。次第に地割れが起き、内部から無数の植物の蔦や蔓がでてくる。それはわしらに襲い掛かり、龍頭戯画(ドラゴンヘッド)を使うが、どんどん増えてきて襲い掛かってくる。

 

「シルバ!」

「わかった!」

 

 シルバがオーラの塊を放ち、地面を盛大に破壊する。すると、中から悲鳴が聞こえ、煙と同時に巨大な何かが浮き上がってくる。それは色とりどりの巨大な花束に緑髪の女性の上半身が付いたような、華美かつ派手な姿をしている存在だった。

 

「人間共、よくもやってくれたわね! ここは我らの領域! 巨人も含めて我等の敵め、もはや容赦はせぬ!」

「ぬう! これは魔獣か?」

「警戒せよ。生半可な手段で倒せるかはわからんぞ」

「シルバは行け! 術者であるライネス・ホイコーロを殺せば止まるかもしれん!」

「わかった」

 

 シルバを行かせるが、これはちと不味いかもしれんの。本当にここでわしらを殺す気なようじゃの。

 

「というか、こいつは念獣のようじゃが、ライネス・ホイコーロの物とは思えんな」

「おそらく違うかの」

 

 植物でできた触手の攻撃だけではなく、様々な状態異常の攻撃をしてくる。霧が濃霧に変わり、それと合わせてわしらのオーラを削っていく。オーラを節約した瞬間に動けなくされて耐性をつけた毒の上から殺される事は確定じゃ。

 

「ぐっ!」

 

 シルバがこちらに吹き飛ばされてくる。周りを見ると、完全に触手の壁に覆われていて、逃がすつもりはないみたいじゃ。

 

「親父、この濃霧は生きている」

「……濃霧とこの植物の怪物で確実にわしらを降伏させる、または殺すということかの」

「おそらくな。ふむ。触手程度はどうにもなるが……物量が厄介じゃ」

「うん、そうだよ」

 

 真後ろの濃霧から子供が現れ、わしらに斬りかかってくる。少し身体を動かして回避しながら回し蹴りを放って粉砕するが、霧となって霧散する。周りをよく見れば沢山の子供が居た。彼女達も触手に攻撃されているが、身体が霧のせいか効いていない。

 

「ねえねえ、お姉さん。お姉さんはあるるんって言うんだよね?」

「否。我に名はない。我は植物たちの代弁者。踏みにじられ、殺され、燃やされる同胞の恨みを晴らす者」

「そっか。でも、今はわたしたちと協力してこの人達を倒そう? そうすれば、わたしたちはここから撤退するし、巨人を倒したら帰るよ?」

「ふむ……汝らは人ではない。だが、我らを攻撃したことはかわらぬ故に排除する」

「そっか。なら、皆で遊ぼう! 此よりは地獄。殺戮をここに! わたしたちの遊びを始めよう! 全てはおかあさんに褒めてもらうために! だからね。死んで?」

 

 濃霧で覆われているありとあらゆる場所から複数の子供達がナイフを持って襲い掛かる。その上、彼女達の後ろから触手や葉の攻撃が飛んでくる。一人一人は雑魚じゃが、どちらも数が多い。植物の化け物に近づこうにも、その前に冷気を発して凍らせてくる。おかげで気温もどんどん下がっておる。

 

「二人共、こいつらはちと不味いぞ。植物よりも餓鬼に警戒せねばならぬ」

「どういうことだ?」

「こいつらの動きはキレを増し、攻撃力が高くなってきておる」

「「「「「おかあさんから言われてるの。あなたたちを見て、体験して学習するようにって。だからね? わたしたちは強くなるよ。それとね? あなたたちが殺してきたわたしたちも復讐するんだ♪ 」」」」」

「こやつら、死の念が集合した存在か」

「厄介な……」

「「「「「わたしたちを消費し、殺してきた人はみんな、みんなね? 死んじゃえ」」」」」

 

 身体が急激に重くなってくる。わしらの腕や足に子供達が縋り付いて噛みつき、爪を立ててくる。同時にどんどん身に纏う黒いオーラによって浸食されていく。わしらの中では爺ちゃんが一番多くて、次にわし。最後にシルバじゃ。

 

「こいつは殺した子供の数だけ動きを阻害するか」

「因果応報じゃな」

「くだらぬわ!」

 

 爺ちゃんがオーラで逆に子供達を吹き飛ばし、接近して植物の怪物を殴り飛ばす。身体の半分以上が消し飛んだが、植物が周りから生えてきて身体を再生していく。霧の子供も同じじゃ。

 

「こやつらのオーラが切れるまで殺しまくれば良いだけよ」

「それもそうか」

「うむ」

 

 本当にとんだ依頼じゃな。割に合わなさすぎるわい!

 

 

 

 

 




ライネスちゃんの影武者レシピ:ジャックの霧による誤認。トリムマウを等身大ライネスへ変化。かつらとなどをつけ、基本的にジャックの霧と化粧で肌色を誤魔化し、音声は喉に仕込んだ携帯。ご本人様は月霊髄液を身に纏い、トリムマウの姿で巨人戦。

あるるん:世界樹の迷宮シリーズにでてくるアルルーナ(弱体化)。無数の植物たちが意思を持ち、銀翼の凶鳥によって生み出した守護者の念獣。ちなみに意思を持ったのはとある植物学者などが、心の底から植物を慈しみ、彼等と対話できたらいいなと願ったから。だから、銀翼の凶鳥は植物に意識を与えた。そうした植物たちは環境破壊などで怒り心頭。つまり、アルルーナが生まれる事は必然(ぁ
現状のメビウス湖内部はハンター達が本気で冒険し、様々なリターンが回収できる大冒険時代である。正直、暗黒大陸に無理していくより、ある程度、リターンが近くで見込める上にハンター達は着実に強化されていっているのでハンター協会的にはかなり儲かっている模様。ジンさん大歓喜

探せ! お宝は転がっているぞ! なお、死亡率は……おさっし


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26話

途中から視点がかわります。一般の念能力から見たライネスの恐怖。
今回は賛否両論あると思います。許してください。なんでもしますから……たぶん


 

 

 

 

 さて、アルルーナことあるるんがゾルディック家の相手をしてくれる。その戦いで隙を見せれば容赦なくジャックが殺しにかかる。あるるんとジャックではゾルディック家を殺すことはできず、敗退するだろうが……時間を稼ぐ事はできる。

 それまでに巨人を始末すれば私の勝利……とはならない。ゾルディック家が依頼をキャンセルするのは依頼主が死んだ場合のみ。故に、殺すべきはパリストン。既に権力を使用し、電力会社から通信のデータを受け取っている。暗号を使ったとしても、制作者が作った鍵を使えば解読は容易いし、手に入らなくても状況証拠を利用して証拠を捏造するなど私にとっては容易い。また、パリストンの配下が襲撃に加担していたことはわかっている。

 私の邸宅は色々な場所から監視されているし、治外法権の施設に近付く者は念能力者、一般人関係なく全て監視対象だ。ネットワークによる監視カメラや遠くからネットワークにアクセスしない望遠鏡を利用した監視カメラなど様々なものが仕掛けられている。中には私が関与していない物も大量にある。それらは他の王族が用意したものだ。それに私がハンター協会のメンバーを警戒しないはずがないだろう。メンバーのほとんどは所在地を監視している。

 特にパリストンなどは要注意警戒対象だ。だからこそ、彼の手駒が私の領域に入ってきたのはジャックの情報から考査し、連絡を入れて調査させたら判明した。他の王族連中にも協力を要請し、全ての監視映像を提出させた。彼等も王族の暗殺となれば他人事ではなく、動くしかない。お父様にも話を通せば文句も言えない。

 ただ、これをやってしまえばパリストンを殺すしかない。そこに生かすメリットや殺すデメリットは一切関係ない。キッチリと報復せねば私が殺されるだけだ。パリストンを殺してゾルディック家が止まればそれが何よりの証拠となるし、止まらなくても関わっている事は確実なのだから処断すればいい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。故にそれだけで私が全力を以って殺す理由になる。

 

「あ?」

 

 ウボォーギン君が巨人と拳を合わせ、弾き飛ばした巨人の腕を月霊髄液で思いっ切りぶん殴る。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。同時に爆発が起きて飛行船はそれによって地面に落ちだす。もちろん、爆発は私が仕掛けた爆弾だ。同時に連絡を入れてこの辺り一帯の電気と電波を遮断させる。これで通話もできない。

 

「おいおい、なにしてやがる」

「帰りの船はどうするのよ!」

 

 月霊髄液をトリムマウの姿から馬に変えて即座に飛行船の方へと目指す。他の人は私の下へと向かったと思うだろう。

 

「ライネスは何処に行った?」

「途中から何かに気付いて走っていったわよ。多分、あそこで戦ってるんじゃない?」

「あの濃霧か。まあ、放置でいいだろう。会長もそれでいいか?」

「ああ、わしの目的ははなっから巨人よ。自分で招いたことは自分で尻拭いをせねばな」

「どういうこと?」

「なんでもないさ、嬢ちゃん」

 

 会長にはバレてそうだけど、まあどうとでもなる。むしろ、ハンター協会に責任追及をして解任させてもいいしね。

 

 

 

 飛行船が落ちてきている場所に移動し、月霊髄液から糸を伸ばして私が具現化して積み込んでおいた水銀と接続させる。ここからやることは簡単だ。私が必要と思える者達だけを救助する。助けるのはネオン君達だけだ。彼女達は水銀を身体に打ち込んであるので居場所はすぐにわかる。他の船員は誰がパリストンと繋がっているかなどわからない。だからさ、悪いけど死んでくれ。

 飛行船の一部が壊され、ネオン君達が犬達と一緒に水銀に包まれてでてくる。彼等がある程度落下したところで指示を出す。飛行船というのはガスで浮いている。そのガスがいっぱいになっているところに瞬間的に体積を増やさせ、火花を散らせばどうなる? 

 答えは盛大な爆発だ。それも体積が増えた水銀が飛び散り、散弾どころか隕石のような威力になる。私が持つ魔力をたっぷりとくれてやった爆発だ。同じ水銀に守られていなければ即死だろうよ。

 

「うん、綺麗な花火だ」

 

 爆発四散する飛行船から落ちてくる球体を確認し、それ以外の物を強化した瞳でしっかりと確認して、それが落ちた場所に移動する。飛び散った水銀達は月霊髄液の一部だ。故に命令されているのはAutomatoportum defensio(自律防御)Automatoportum quaerere(自動索敵)Dilectus incrisio(指定攻撃)だ。

 爆発し、散り散りになった月霊髄液は周りの生物を自動で索敵し、見つけた対象を殺していく。爆発を至近距離で受けた後に私の月霊髄液に襲われれば、たとえ念能力者といえども生き残れるはずがない。そもそもの行動プロトコルとして、体内に入ればそこでその場に留まり、刃を持つ球体となって高速回転して振動が伝わる中心部へと移動するように設定してある。つまり、心臓に向かって体内を斬り裂きながら移動し続けるんだ。

 イメージとした先は機動戦士ガンダムF91に登場した自律型の無人兵器バグだ。これはラフレシア・プロジェクトの一環として製作され、人間の体温と呼気に含まれる二酸化炭素を検知して人間を攻撃するようプログラムされている。丸ノコや歯車を髣髴とさせる形状をしており、原理は不明だが宇宙空間・大気圏内の飛行が可能だが……流石に宇宙空間や大気圏内は無理だ。

 どちらにせよ、300万人を2,3日で殺害し尽くすことが可能と言われる兵器だ。流石に誰の良心も痛むことのない良い作戦とは言えず、心が痛いが……君達の思いはしっかりと受け止めて糧にさせてもらうよ。もう一つの作戦を実行する方が被害が大きいしね。もう一つはハンター協会を貧者の薔薇を改良した戦略兵器でパリストンとその配下ごとぶっ飛ばす作戦なんだ。一般人や無関係の人は依頼などで外に出し、それ以外の人は渋滞や信号などを狂わせたり、停電させたりしてハンター協会から遠ざけ、爆破。出来る限り無関係の者は助けるようにしたが、被害が尋常じゃなくなるので没にさせてもらった。街の機能が完全に死んじゃうしね。うん。その点では見学に出て来てくれたパリストンには感謝だ。まあ、彼は高みの見物を決め込むと思っていたさ。

 月霊髄液をランスロット卿の鎧にして着こみ、身長を誤魔化した上で本当に嫌だが、スプレーで色を卿の鎧に変える。

 その状態で爆心地となった森の中を歩く。悲鳴が轟く中を悠然と歩み、生きている者達を観察する。彼等は身体中を穴だらけにされ、更に体内に残った月霊髄液達によって内部から壊されていく。

 

「……い、やだ、し、しにたくな……」

 

 必死で逃げようとしている念能力者達。即死しなかった分だけ、苦しみがあるのだろう。そこで一つ思い付いたことがあった。パリストンの一味か関係無い者か、わからない者達にはチャンスをくれてやろうじゃないか。

 こちらに来ないように調整していた鳥達を呼び寄せ、パリストン以外の者達に囁かせる。私が殺したいのはパリストンだけだ。彼等はいずれ死ぬだろうが、その猶予を与えるだけで私には得がある。なら、現状では生き残らせてから調査し、パリストンと関係がなければ除念して助けてやればいい。もっとも、念能力者は既にメモリを使い切っていれば願いを叶えることはほんの微かにしかできない。それとパリストンには近づけないのだから、その近くに居る人には悪いが、諦めてもらおう。

 そうこうしている間に目的の人物を見つけた。彼は身体中から血を流しながらも倒れている木に手をついて立ち上がっていた。しかも、その状況でニコニコ笑っているじゃないか。

 

「その鎧はライネス・ホイコーロですか……なるほど、私を殺しにきましたか。姿を隠しても無駄ですよ」

 

 無視して倒れている丸太を掴み上げ、振り上げる。パワードスーツみたいなものなので、非力な私でも可能だ。そいつで問答無用にパリストンを斜め上から足に殴りつけて骨を砕く。当然、流で防御してくるが、丸太に纏わせている魔力は相当な上に魔力爆発を利用して加速させているので、貫通できる。

 

「やれやれ、問答無用ですか。これは貴方の仕業でしょう。しかし、私を殺してはあなたの計画が壊れますよ? クルタ族についてどうするつもりで……」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―ッ!」

 

 当然、無視してもう片方の足を潰す。続いて右手だ。その次は左手。手足を粉砕してから、丸太を横に置いてゆっくりと転がして麺棒で平らにするみたいに身体を潰していく。その途中で気絶してしまったようだ。やはり、ネテロ会長にやられてわかっていたが、開幕ぶっぱは正解だね。

 

「きさまぁぁぁっ!」

 

 横から飛んできた何かに吹き飛ばされ、地面を削りながら止まる。襲われた方を見れば、そこには白い人型の虎が居た。その虎からは血がどんどん流れ出ている。ソイツはすぐにパリストンをかばうように立ちはだかる。他にも身体を再生させた何人かの連中がこちらにやってきた。

 

「ここは私に任せてお前達はパリストン様をお助けしろ!」

「しかし、我等では……」

「時間がない! いけ!」

「わかりました! 命に代えてもお助けします!」

 

 四人がパリストンを連れて歩き出す。残ったのは一人だけだ。舐められたものだね。手負いでこの私を相手にしようなど……いいだろう。相手になってやる。まあ、それはそれとして、猟犬は放つし、罠を用意するけどね。まあ、結果は御覧じろってね。

 

「行くぞ!」

 

 こちらに接近し、殴ってくると思えば急停止して方向を変え、周りを高速で移動していく。こちらが対応できない速度で殴りかかってくるが、月霊髄液が自動防御を行い、カウンターで殴り飛ばす。丸太がないのが残念だ。

 私? 私はあれだ。ただ乗っているだけだ。ぶっちゃけ魔力タンクでしかないんだよね、うん。それに私はマスター(軍師)だからね。戦うのは本職である月霊髄液(サーヴァント)に任せるよ。

 だから、球体の中に作った椅子に座りながら優雅に見学しているだけだ。ちなみに真っ暗なので周りの鳥から視界を得ている。今も白虎人間が高速で接近しては殴り飛ばされている。こいつらは銀の鳥がついているから、放っておいたら勝手に死ぬんだよね。

 

「まだだ。我が命を捧げ、パリストン様の守護者とならん! この者を喰らい尽せッ! ■■■■■■──ッ!!」

 

 身体が急激に膨張し、人型から白い毛並みの虎へと変じていく。その姿に私は見覚えがある。ああ、あの作品もみたね。主人公が敵か。厄介だ。まあ、いいさ。さっさと殺そう。宝具の使用を許可する。

 

「──Arrrrrrrrrthurrrrrrrrrrrrr!」

 

 腕からガトリング砲を取り出し、ぶっ放す。放たれるのは水銀の弾丸。全ての軌道が効率良く白虎を撃ち貫く。白虎はこちらにジグザグに進みながら、両手で襲い掛かってくるがガトリング砲で殴り飛ばして、空中で更に撃つ。相手は空中で虚空を蹴って移動し、回避するが、すぐに照準を合わせて殺しにかかる。私の月霊髄液はネテロ会長の百式観音を相手に迎撃戦をして経験値を得ている。この程度の動きについてこれずして何が月霊髄液か。エルメロイの至上礼装をなめるなよ。いや、うん、ちょっと自己進化しまくってるけど、エルメロイの至上礼装なら是非もないよな! なんせバンド名を呟いたら歌い出す機能や自らを未来から来た殺人機械と勘違いして、部屋を出て行く間際に親指を立てて「すぐ戻る」と機械的な音声で呟いた事だってあるんだからな! 

 

「ぐぎゃっ!? ぎゃいんっ!」

 

 倒れた白虎の上に乗り、口にガトリング砲の砲身を突っ込んで引き金を引く。口の中で高速回転して吐き出された弾丸はしっかりと白虎の頭部を粉砕し、身体を痙攣させながら色々な体液を噴き出して死亡した。その身体は銀の鳥に変換され、一部が私の中に流れ込んでくる。もっとも、踏みつけている鎧から回収したのでばれはしない。

 

 

 ご馳走様。さあ、次に行こうか。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 逃げる。逃げる。逃げる。パリストン様を抱えて必死に逃げる。木々の間から飛び出してくる銀色の塊は仲間が迎撃してくれる。必死にネテロ会長の下へと向かう。ネテロ会長なら、ライネス・ホイコーロにだって、あの銀の化け物にだって勝てるはずだ! 

 

「治療はどうだ!」

「頑張っているけれど、死んでないのが不思議なぐらいなの!」

 

 私の念能力は治療に特化している物だ。私と相手を繋げて命を共有し、私自身が特化させた再生する力で対象を回復させることができる。これによって、どうにかパリストン様の命を繋いでいる。でも、私のオーラが、命が持たない。私も銀翼の凶鳥の力によって再生能力を高め、どうにか生き残ることができた。でも、それは寿命を削ることであり、力が急速に衰えていっている。何時まで持つかなんてわからない。そもそも銀翼の凶鳥は命を蝋燭に例えると、急激に燃やして火力を得ているだけでしかない。蝋が溶けていけば燃え尽き、死ぬだけだ。その蝋が寿命であり、炎が力だ。だから、自らの寿命を燃やして生き残った私達はおそらくすぐに死ぬ事になるだろう。特に私は……すでに一度契約している。除念してもらってから、二度目の契約だ。

 

「除念できる奴がいれば……」

「無理よ。除念師はハンター協会から動かせないし……」

「ちっ」

 

 ハンター協会の除念師は銀翼の凶鳥が現れた事によってあまり動かせないようになった。本部と大きな支部にだけ配置し、緊急時のみ除念する方向で動いている。そうでないと数が多すぎてまともに除念できないのだ。除念にはそれ相応の代価が必要だから、こればかりは仕方がない。

 

「また来たぞ!」

 

 高速回転する刃のついた銀色の飛翔物。これによって私達は思うように進めない。小さなそれは無数に存在し、私達を逃がさないように誘導していっている。突破しようにも撃ち落としてもすぐに戻ってくるし、こちらの攻撃を学習して回避されることが多くなり、皆が傷つく。また私達以外の生き物も襲われているため、逃げてくる生物とそれを追ってくる飛翔物に何度も邪魔をされた。

 

「オレが突破口を開く。お前等は一気に突っ込め。パリストン様とかみさんを頼む」

「わかった。さらばだ」

「っ!? さようなら……」

「元気でな……うぉおおおおおおおおおおぉぉっ!」

 

 太っている彼は全身を燃やし手に持っていた大砲を厚い層に向けて引き金を引く。光線のような砲撃が放たれ、目の前の銀色や森が全て消し飛ばされる。残ったのは結晶化して煙を上げる地面だけ。彼の身体は脂肪が全てなくなり、痩せ細って骨となり……そして、身体が光って銀翼の凶鳥へと変化して飛び去っていく。残ったのは大砲だけ。

 

「行くぞ」

「はい……」

 

 私達は涙を流しながら必死で移動し、目の前に広場が見えた。これで助かったと思うと──

 

「おや、お帰り」

 

 ──紺色の鎧に身を包んだアイツがいた。聞こえてきた声は機械の合成音で、血塗れたそいつはこちらに歩いてくる。私は恐怖に身体をガタガタと揺らしながらも、必死で助けてもらったパリストン様を支えて下がる。

 

「アイツはどうした! なんでここにいる!」

「あの世じゃないかな? なんでと言われても、お前達が戻ってきただけだ」

「そんな……っ!」

「そもそも、方角はしっかりと確認したか? 木々の配置だけで判断したか? それとも、適宜に襲撃されて道がわからなくなったか?」

「まさか……」

「楽しい狩りだったよ。もっとも、あの砲撃は予想外だった。こちらの手駒が消し飛ばされた。しかし、見事に誘導されてくれたね。厚い層をぶち破り突破するなど定石だろう? なんで裏をかかれないと思ったのか……」

「嘘だろ……」

「逃げろ!」

 

 必死に森に逃げ込もうとして、足が止まった。

 

「何処へ行こうというのだね。もう逃げ場はないというのに……」

 

 後ろを見ると、木々に銀色の足が生えて私達の後ろを封鎖していた。左右も同じで、どんどん近付いていき、木々が銀色の壁へと変化し、壁の表面に杭が現れる。それが近付いてきて、思わず地面にしゃがみ込む。恐怖で身体が震え、歯がガチガチと鳴り響く。

 

「では、さようならだ。まあまあ楽しめたよ」

 

 複数の筒が回転していく。私とパリストン様の前に他の皆が立ち塞がり、彼等の身体が揺れて次第に穴が空いて倒れる。彼等の身体は見るに堪えない状態で、すぐに銀翼の凶鳥へと変化して飛び去った。

 

「やっぱり自分で潰すか。それにしても君は……ああ、そうだな。ねえ、君。私の物になるのなら、助けてあげるよ。今すぐその念能力を止めて、ソイツを殺したまえ」

「そんなっ!」

「嫌ならここで忠義と共に果てるがいい」

 

 近付いてくる彼が私達に筒を向ける。

 

「やれやれ……あなたはひどいことをしますね……助ける気なんてないでしょう……」

「失礼だね。私はあるよ。それよりも、疑問がある。ねえ、パリストン。なんでこんなことをしたんだい? 私にゾルディック家を差し向けなければ君を殺そうなどしなかったのに」

「決まって、るじゃないですか……その、方が……おもしろ……っ」

「そうかい。まあ、予想通りの言葉だね」

「こち、らは……予想外、でしたね……いくら、王族としても、こんな、報復をすれば、デメリット、がおお……い……」

「そんなものはくそくらえだね。目の前に私を殺そうとした敵がいる。殺すための手段や策略がある。だったら殺らない理由なんて、私、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテには見いだせないよ」

「……そういう、ことですか……ぷろ、ふぁいりんぐが、間違っている、はずだ……あなたは、何人、演じて……」

「メインは一人。二人、三人……何人かな?」

「人形、とは言い得て妙です、ね」

「ライネスとして生まれたのなら、彼女を目指さなくてはいけない。それが私が彼女になった最大の理由であり、彼女に対する愛と敬意だよ」

 

 引き金が引かれ、弾丸が発射されて私は死んだ。そう思ったけれど、パリストン様が身体を地面に打ち付けて反動だけで浮き上がり、私の服を噛んで投げ飛ばした。飛ばされる中、パリストン様の表情を見ると笑っていた。そして、彼の口が生きろと告げているような感じがして──

 

「やれやれ、残ったか。まあいいさ。すぐに後を追わせてあげるよ」

 

 ──近付いてくる悪魔に私は必死で周りを見て逃げる。前に突撃し、前転することで振るわれる砲を腕に受けて向こう側に吹き飛ばされる。腕は折れて、転がって身体中が痛いけれどなんとか抜けた。

 これで後はなんとかなる。なんて思えない。すぐに足が撃ち抜かれる。それでも必死に腕だけで逃げる。皆の為にも生きないといけない。だけど、現実は非情で……

 

「だから何処に行こうというのかな? 君達の終焉はここだよ。正直、君達には恨みはないが、パリストンに属する者は皆殺しだ。別に恨んでくれてもいいよ」

「いやだ、死にたくない、死にたくないっ!」

「そう言った人をパリストンは何人も殺してきているよ」

「嘘よ! パリストン様がそんな事をするはずない! 私を、私達を助けてくれたの!」

「そりゃ、駒になるからだね。私でもそうするんだから、パリストンなら絶対にやるさ」

「あなたに何が分かるっていうのよ!」

「何って、彼とは基本的に同族だからね。一緒に愉悦部とかに入っていてもおかしくなかった」

「信じない!」

「人は信じたいものを信じるのだから、それでいいよ。どちらにせよ、さようならだ。せめてもの慈悲として、苦しまずに一瞬で殺してあげるよ」

 

 振り上げた砲が私の頭の上に振ってくる。これで終わりかと、目をつぶる。何かが激しく衝突する音が聞こえて、死んだと思ったけれど痛みもなにも起きない。恐る恐る目を開けてみると、鎧が吹き飛ばされていて、目の前にはネテロ会長がいた。

 

「か、かいちょぉ……」

 

 私は思わず、抱き着いてしまう。

 

「ほっほっほ。無事で良かったわい」

「ネテロ会長。随分と早いお着きだね」

 

 鎧の大部分が壊れていて、中から小さな金髪の少女が降りてくる。彼女は伸びをしてから、こちらを見詰めてくる。

 

「巨人はどうしたのかな?」

「倒したぜ。内部からあの大男が心臓をぶっ壊しやがった」

「ああ、なるほど。身体の中に入ったのか。大型種なら確かにその方が効率がいいね」

「で、てめぇは何をやってやがる」

「何って、処刑だよ、処刑」

「あ?」

「パリストン・ヒルとその一味には私の暗殺依頼と権力者及び複数のハンターへの恐喝と殺害などの容疑がかけられている。そして、私の暗殺依頼については事実だよ。証拠も掴んでいる。だから、殺した。この件はすでに諸外国に通達し、V5の首脳陣へと我が国から根回し済みだ。それに伴い、ハンター協会にも査察が入る。同時に会長。あなたの権限も凍結されるだろう」

「手回し済みってか?」

「まあ、手を回したのは私ではなく、お父様だがね。たいそうお怒りのようだ。それにあっちでの戦いはゾルディック家がいる。なんなら私と同行して確認するといい。今からパリストンの首を持って彼等の居場所に行くからね」

「そうか。だが、仲間を殺られて黙っていると思うか?」

「仲間? 仲間だというのなら、彼のコントロールをもっとちゃんとすべきだったね。これは貴方の管理ミスが起こした結果だよ?」

 

 そんな事はない。パリストン様は素晴らしいお方なんです。この人が言うようなことがあるはずありません! 

 

「……」

「どちらにせよ、その子を渡してくれるかな。パリストンに与する者は殺す。それが決定事項だ」

「裁判もなしでか」

「裁判をしても死刑は確定だよ。私達がそうするからね」

「ハンターには殺人が認められているが?」

「その権限を凍結させると言っているんだ。あくまでも、それらの特権は国々が与えたものだよ。だというのに、権力者の身内で、権力者でもある私を殺そうとした。こうなれば他の連中も次は自分達の番となると思うだろう? 後は簡単だよ」

「ちっ。わかった。だが、こいつは引き渡さん。まずは本当にパリストンの奴がお前を暗殺しようとしたのかを確かめる。その後でこいつが関わっているかどうかを調べる。これからゾルディック家に会いに行くなら護衛は必要じゃろ」

「それはこないだ、条件でつけていたはずだけどね」

「じゃあ、別の貸しにしてやる」

「まあ……いや、駄目だ殺そう。私の勘が言っている。今、そいつを殺さないと厄介な事になると」

「おいおい、勘で殺すのかよ?」

「し、死にたくないです!」

「だそうだ。こいつを殺そうというのなら、わしがお前の相手をしよう」

「正気かい? アイザック・ネテロ。それは国連を敵に回すよ」

「はっ、かまいやしねえよ」

「……いいだろう。あなたと戦えば私が死ぬのは目に見えている。ただ、彼女に私の水銀を打ち込ませてもらう。これで彼女を私が自由に殺せる。生かすにはそれが最大の譲歩だ」

「そこまで警戒するかよ」

「だって、彼女。パリストンと繋がっていたんだよ? それに彼女の資料を確認したが、生命共有系の能力だろう? パリストンが死ぬ直前に切ったとしても、彼から何らかの影響を与えられている可能性を排除できない。すくなくとも私なら、生き残る為の保険をしかける」

「確かにあいつならやりそうではあるが……わかった。それぐらいはいいだろう。だが、理由なく殺したらオレがおめぇを殺す。いいな?」

「わかった。それじゃあ、やらせてもらおう」

「……わかりました……」

 

 それしか生き残る道がないというのなら、なんとしてでも生き残ってみせます! 見ていてくださいパリストン様。貴方の無実は私が証明してみせます! 

 

 

 

 

『はい。私が楽しむ(愉悦)ために頑張ってください』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




パリストン様は死亡(?)しました。殺されそうになったら、ライネスちゃんはちゃんと相手を殺します。パリストン様も流石に人質という保険、ネオン達がいるのに飛行船もろとも爆破するとは思ってもいませんでした。
ネオンの能力からしてかなりレアなので手元に残すという判断ですね。でも、ライネスちゃんはこういう時、損得勘定で動かない。それにゾルディック家が戦ってから帰るなんて思わないしね。そりゃ、殺すしか自分が助かる道がないと思います。得に原作を知っていたらね。


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ランクアップすると、パワードスーツ・なんちゃってヘラクレス(バーサーカー)になるよ! 現在は使えないけどね!



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27話

魔眼アンケートを追加。現在のアンケート上位の魔眼二つと他の魔眼三つを含んでどんどん追加していきます。アンケートわくがたりないからね。


 

 パリストンの始末はできたが、協専ハンターの始末は一時中断することになった。やはり、私はまだまだみたいだ。命は握ったが、パリストンがこの程度で死ぬなどとは思えない。

 殺してしまうのが一番手っ取り早いのだが、ネテロ会長がそれをさせない。会長の立場からしてこれ自体は当然の事だ。

 問題は予想以上に巨人が弱かったことだ。いや、幻影旅団の連中が原作に近付いて強くなっているのかもしれない。

 どちらにせよ、巨人では足止めにもならなかったか。やっぱり一流の使い手は化け物だらけだね。

 

「やれやれ、まだ精進がたりないね。目指す先はなんと遠い事か……」

 

 使っている円で他に生命活動をしている存在が居ない事を確認し、死体などを取り込ませる。体内で磨り潰し、痕跡をしっかりと消してから、終わったタイミングで指を鳴らして森から複数の水銀達を回収する。

 私の円は現在1キロ。ネフェルピトーとやり合うには全然たりない。目標はこの100倍だ。それだけの距離を詳細に把握できれば戦場を支配することもできるだろう。

 森から戻ってきた月霊髄液を回収し、パリストンの首を斬り落としながらジャックの情報を確認する。彼女は令呪によって発した通り、降参するまで誰一人として逃がしていない。また、重ねて命令した通りに計画を遂行している。

 

「で、これからゾルディック家に会いに行くのか?」

「そうだよ。あちらはまだ戦っているからね」

「そうか。んで、こいつはどうする?」

「連れていくさ。このまま放置して逃げられても困るからね。私としては逃げてくれれば殺す理由ができて助かるのだが……」

「逃げません!」

「やれやれ、面倒だが致し方あるまい」

 

 ジャックとゾルディック家。それにアルルーナが戦っている戦場へとパリストンの首を水銀で覆って持ちながら歩いて向かう。予想以上にオーラと水銀の消費が激しい。オーラはジャックに送っている分もあるから仕方がない。

 

「ほら、嬢ちゃん行くぞ」

「はい」

 

 後ろから二人もついてくるが、その途中で球体になってネオン達を保護している水銀を見つける。これはこのまま放置しておく。

 万が一、ゾルディック家と戦闘になったら邪魔だからだ。まあ、すでに日も落ちてきているし、夜ともなればジャックの本領発揮だ。

 

「濃霧がでてきたな」

「こ、怖いです……これ、全部念能力……」

 

 森の中を進んでいくと、濃い霧が辺りに充満して森全体を覆いだしている。全てジャックの念能力によって作られ、彼女が選んだ対象を溶かす硫酸の霧だ。

 ガタガタと震え、女性がネテロ会長の腕に抱きつき、豊満な胸部装甲を押し付けている。会長はそれにだらしない表情をしているが、円はしっかりと展開している。

 この辺りはスケベ爺といえども流石は超一流の念能力者だ。うらやまけしからん。どっちかと言われたらどっちもだが。うむ。後でジャックとイチャイチャしよう。メンチ君やクロロ達をからかって遊ぶのもいいかもしれん。

 

「ああ、忠告しておくよ。私に敵意をできる限り持たない事をお勧めする。彼女が私の敵だと判断した瞬間、この霧は牙を剥いて殺しにかかってくる」

「モラウと似たような能力か」

「さぁ、その人がどんな能力かはわからないが、気をつけた方が良い」

「わかったわい。嬢ちゃんもいいな?」

「は、はい……」

 

 さて、濃霧の中を歩いていくと場所が一転する。そこは爆心地のような場所だ。上から無数の大きな念弾が放たれ、地面を抉り取って霧を吹き飛ばしていく。

 吹き飛ばされた霧は即座に補充され、霧の中に子供達の声が響いてくる。霧から飛び出してくる子供達が飛び上がっていた大男に斬りかかる。

 相手はジャックと同じく、ナイフで攻撃を防ぐが、数十人の子供から攻撃されて身体に傷を負っていく。

 

「「「できた。できたね? できちゃった」」

「っ!?」

「「「繋がった。繋がっちゃったね?」」」

 

 複数の子供達から一人の幼い少女がでてくる。その子は武器をもっておらず、何も気にせずに大男の方へと向かっていく。

 

「ねえ、なんでおとうさんとおかあさんを、ころしたの?」

「仕事だから」

「なんで、なんで、なんで……」

「依頼だ」

「そっか。それなら、おじさんも殺されても文句は言わないよね?」

「当然だ。殺し、殺される覚悟がなくて殺し屋などできん」

 

 てくてくと進む女の子に大男は攻撃しようとしてやめた。何時の間にか彼女の身体と男の身体がラインで繋がっていた。そして、変化が起きた。

 大男の胸が膨らみだし、身体が柔らかく変化していく。少女は逆に筋肉質になっていく。

 

「なんだこれは……女になったのか? なんの意味が……」

「意味なら、あるよ? やっちゃえジャック・ザ・リッパー(わたしたち)!」

 

 すぐに大量の声が周りから響いてくる。

 

「「「「「此よりは地獄。わたしたちは炎、雨、力──」」」」」

 

 炎の玉が無数に現れ、空からは雨が降ってくる。そして、周りのオーラが跳ね上がる。

 

「「「「「殺戮を此処に。解体聖母(マリア・ザ・リッパー)」」」」」

 

 雨の水滴一つ一つが子供となり、馬鹿みたいな数の子供が襲ってくる。手に持っているのは夜で霧がでていて、女性なら即死する呪いのナイフ。

 斬り傷を無数に与えた相手と繋がった相手の性別を入れ替える能力かな? 制約と誓約は相手によって殺された子供が必要ということなのかもしれないね。ジャックの弱点を補う限定的な能力だ。

 

「おい、なんだこいつは……」

「ん? 私の可愛い娘だよ」

「いや、ありえないじゃろ。年齢を考えろよ」

「ひぃ!? ま、まわりにこ、子供がっ! 降って来て、囲まれて……!」

 

 私達の周りにも虚ろな瞳をしたジャック達がナイフを持って包囲していて、不思議そうにみてくる。私の所には数人の女の子や男の子が抱き着いてきているので、優しく頭を撫でてあげると、とても嬉しそうに微笑む。

 女性は恐怖でガタガタと震えているが、それを面白く思ったのか、つんつんしている。これで妊娠していたり、子供を堕ろしていたり、殺していたりしたら……終わりだな。

 それにしても、複数のジャックが同時に解体聖母を放つとか、絶望しかないじゃないか。いくらなんでも厳しい制約と誓約がない限り無理だろう。参加していない子もいるから、もしかしたら相手が殺した子供の数だけしか参戦できないのかもしれない。もしそうなら殺し屋にとって最悪の能力だな。殺してきた分だけ相手が強くなるのだから。

 

「とんでもなく禍々しい餓鬼じゃな」

「おいおい、私の可愛い娘だぞ。酷い事は言わないで欲しいね。ま、それはそれとして……ねえ、シルバ・ゾルディック。その攻撃にあたったら即死するよ」

「ちっ!」

 

 念弾でジャック達を吹き飛ばし、こちらにも、私に攻撃を放ってくる。私は即座に移動する。

 

「こわいー」

 

 棒読みでネテロ会長の後ろに隠れる。ジャック達もキャーキャー言いながら隠れる。ネテロ会長は呆れながらも念弾を吹き飛ばしていく。

 

「自分で防げるじゃろ」

「やだよ、めんどくさい。それよりも、シルバ・ゾルディック。投降しなよ。依頼がパリストンからなら、ほら、この通り。殺したよ。つまり、この私の勝利だ」

「……」

「それとも死ぬまでやりあうかい?」

「いいだろう。引かせてもらう」

 

 この時点でパリストンが依頼主なのは間違いなしか。だが、ここで逃がすつもりはない。

 

「おいおい、逃がさないよ。私が勝った場合の条件は覚えているよね?」

「……それは親父に言え」

「うむ。それもそうだね。だから、一緒に行こうか」

「わかった」

「え~殺したい!」

「殺したい殺したい!」

「そうだそうだ~」

「駄目だよ、ジャック。彼を殺したら大変な事になる。だから、これから子供達の被害がでないように交渉しようじゃないか。決裂すれば殺したらいい」

「むぅ~ちょっと待っていてね!」

 

 ジャック達は集まって何やら話し合いをしだした。

 

「えっと、要求! これが終わったら、わたしたちと遊ぶこと!」

「うん、それぐらいは当然だね。他に叶えて欲しいことは?」

「やった! えっと、他はどうする?」

「うんとね、ピクニックいきたい!」

「いや、動物園がいいよ」

「遊園地!」

「そうか。じゃあ、遊園地を貸し切って皆で遊ぼうか。動物園はジャック達じゃあまり楽しめないだろうし、そんなところに行くより、秘境の探検をしたほうが面白いさ。ピクニックは一緒にお弁当を作って何処かにでかけるか。キャンプもいいね」

「「「お~~~!」」」

 

 満面の笑顔を浮かべて走り回る子供達。彼女達はすぐに一人の少女へと集約して私の手をとってくる。ニコニコしながら、手を繋ぎながら引っ張ってくる姿はまさに子供だ。その姿にシルバ・ゾルディック達はなんともいえない表情をしている。

 

「後は二人のゾルディックを説得すれば終わりだ。案内してくれるかな? 私達ではこの霧の迷宮を突破できない」

「は~い」

 

 ジャックの先導で歩いていくと、盛大な音が響いて何かが打ち上げられた。それは丸い形をしている気がするが、なんなのだろうか? 

 しばらくすると、倒れ伏した巨大な植物の上に座っている二人の人影が見えてきた。マハ・ゾルディックとゼノ・ゾルディックだ。

 

「やあやあ、討伐ご苦労様だね!」

「戻ってきおったか。いや、やって来た方が正解かの」

「その様子だと、シルバも失敗したか。というか、なんじゃその面白い姿は……」

「先に依頼者を殺された。この姿はこいつらにやられた」

 

 パリストンの首を投げ渡すと、しっかりと確認した彼等は即座に興味がなくなったようで、放り捨てる。それを女性が大事そうに抱きしめた。

 

「つまり、君達の負けだよ。こちらは見ての通り、ネテロ会長がいるし、他の連中もすぐにやってくるだろう。それにシルバ君が死ぬところを助けてあげたから、その事も考慮して欲しいね」

「ほう、つまりその餓鬼はシルバに勝ったのか」

「そうだよ。私の娘達は凄いだろう!」

「えへへ~」

 

 ジャックを後ろから抱きしめて頬を擦り合わせる。本当に愛い子だ。

 

「親父、こいつは俺達の天敵だ。子供を殺していた分だけ強くなる」

「なるほどのう。確かにわしらの負けのようじゃ。爺ちゃんも構わないか?」

「今のままネテロとやり合うのは被害が大きい。依頼もなくなったんじゃし、かまわんよ」

「じゃあ、君達は私の配下になってもらう。といっても、暗殺の仕事を続けてもらっていいし、どちらかというと、仲間といった感じかな。少なくとも、私とお姉様、仲間の暗殺依頼は受けないでくれ」

「それとそっちの暗殺依頼を優先的に引き受けることか」

「後はキルア君をお姉様の婚約者にして、親族になることかな。それで私達が争う理由はないだろう?」

「嬢ちゃんやそっちの子じゃなくてか」

「おいおい、ジャックは私のものだし、私は女が好きなんだ。だから男性はいらないね」

「おお、まじか」

「うむ。そういうわけでお姉様だ。それとこちらが集めた情報も渡すから、仕事がやりやすくなるよ。ああ、それと条件を一つだけ追加させてくれ」

「なんじゃ?」

「子供の暗殺は引き受けず、殺さないでくれ」

「その子のためじゃな」

「連れて帰ってきてもいいよ。こちらで引き取るからね」

「……もし、断ればどうなるのかの?」

「この子がもっと強くなるだけだ。そして、私のコントロールから離れれば……」

「わしらを殺しにくる可能性がある、と」

「今の所は大丈夫だけどね」

「いいじゃろう。別に困りはせんしの」

「ありがとう」

 

 その後も詳しい条件を擦り合わせていく。配下といったが、キルア君とモモゼお姉様の婚約、結婚によって同盟という感じになる。配下というのはゾルディック家としても受け入れられず、何れは隙を見て殺しにくるだろう。

 だが、配下を解消することを条件に二人を結婚させればどうだろうか? 受け入れられない要求から受け入れやすい要求に変えて関係を変化させる。それも嫁入りという形にすれば文句はでない。婿入りにしたとしても、産まれてくる子供を差し出す条件とすればなんら問題はない。

 同時にゾルディック家としては、密かに国家の後ろ盾を得られて装備の充実や情報の提供などを得られる。デメリットは我が国での暗殺がしにくくなり、依頼が減ることだ。まあ、こちらは私の仲間や派閥に属する者達以外なら好きにしてくれていい。

 というか、バレないようにお兄様達を殺して欲しい。いっそジャックにツェリードニヒお兄様を暗殺させるか。情報隠蔽があるし、ばれないんじゃないかな? 

 後はお姉様か。お姉様は殺した相手を逆に殺して蘇ってくるし、密室に閉じ込めて毒ガスを放てばいい。ボタンを押したものは死ぬだろうけれど、逆に言えばそれだけだ。蘇った所で部屋に充満している毒ガスが殺してくれる。その後は生贄対象がいないのだから復活できないだろう。なにせ、そいつは既に死んでいるのだから。

 

「契約成立だね」

「ああ、いいだろう。じゃが、キキョウとキルアが認めるかどうか……」

「私のお姉様なら大丈夫だよ。邪魔をするならばOHANASHIするだけだしね」

「その子をけしかけてかの?」

「うん。何も問題ないね」

「お主はぶっそうじゃな。まあ、好きにせい」

「ああ、好きにさせてもらうとも。というわけで、数ヶ月したらそちらに行かせてもらうよ」

「了解した。直通のホームコードを教えておくよ」

「ありがとう。こちらもどうぞ」

 

 名刺交換をして話を終わらせ、周りをみると……マハ・ゾルディックとネテロ会長が二人でお茶をしながら話をしている。隣には女性が恐る恐る会長の世話をしている。離れたら殺されると思っているのだろう。あながち間違いではない。

 シルバの方はジャックと遊んでいた。互いにナイフで斬り合う事を遊びと言っていいかは問題だが、これからの関係を考慮して技術を教えてくれているようだ。もしかしたら、ジャックが一方的に突撃しているだけかもしれないが。

 うん。ジャックをゾルディック家に弟子入りさせた方がいいね。だけど、護衛の関係で私の横には居て欲しい。今回の事で何時メンチ君やハンター協会が敵になるかわからないしね。ゾルディック家から護衛を派遣してもらうとなると、ゼノさんだろうが、彼等を長時間拘束することはできないし、したくない。

 

「どうした?」

「ねえ、ゾルディック家に数ヶ月、護衛もかねてお世話になることってできるかな?」

「金を払ってくれるのなら構わんぞ」

「じゃあ、それでお願いしようかな。モモゼお姉様を連れてくるから、そこで匿って欲しい。私と一緒にね」

「キルアの婚約者にする子か。何か問題があるのか?」

「今は昏睡状態なんだよね。魔獣の念を喰らってね」

「大丈夫なんじゃろうな?」

「もちろんだよ。治療するための準備はできている。問題はタイミングだよ。今、起きたら確実に私に対する人質にされるんだよ。そこでね」

「ふむふむ」

 

 医者をゾルディック家に用意してもらい、治療という名目でゾルディック家に滞在できるようにする。そこで念能力者としての基礎を教え込む。問題はお父様の説得だが……ゾルディック家の事を伝えれば歓迎されるだろう。

 我が帝国にとっても、ゾルディック家の血筋は十分に価値があるものだ。この事を盾にして継承戦から抜けられるかもしれないし、最悪卵子を取り出して保存しておけばホイコーロとしても、ゾルディック家としても問題はない。

 この事をしっかりと伝えればゼノさんから快く快諾してくれた。ただ、キルアに念能力を教えるかは相談してゾルディック家の方で決めるとのことだ。そればかりは私が関与する事ではないが……念能力者になった婚約者がいれば、頭が上がらなくなるだろうな……頑張れキルア君! 

 まあ、あれだ。貸し切りにした遊園地とかにも連れていってあげるから勘弁してくれ。

 

「さて、回収するものを回収して帰ろうか」

「そうじゃな。わしらは先に帰らせてもらう」

「そこのお爺ちゃん達、帰るよ」

「先に帰っておれ」

「わしはこいつと少し遊んでから帰るから、迎えは後でいい」

「……わかった」

 

 トリムマウを復活させて、見張りをさせよう。二人の戦闘データなんて無茶苦茶欲しいからね! 

 私達はネオン君達と巨人、あるるんのドロップアイテムを回収し、外交用の飛行船を呼び寄せて帰還する。

 暗黒霧都は解除され、シルバ・ゾルディックの変化も元に戻っている。あの能力は霧の中でしか発動できない力なのだろう。

 

「おかあさん、おかあさん!」

「どうしたのかな、ジャック」

 

 ジャックは両手に抱えている大きな球根を見せる。

 

「この子、飼っていい!?」

 

 球根とは植物の種だ。こんなところにある球根がまともなはずがない。しかもかなり大きい。

 

「その辺に捨ててくるんだ」

「え~! ちゃんと育てるよ!」

 

 ジャック達が言うのなら、ちゃんと育てるだろうが……球根か。

 

「ジャック、それはどこからもってきた?」

「あそこ!」

「ん?」

「これはね、あの植物の人が戦っていた時にいっぱい飛び出したうちの一つだよ」

「飛び出した……まさか、アルルーナの種子か」

 

 アルルーナは植物であり、地面に根を張る。それはつまり、レイラインの力を得られる可能性もある。聖杯を生み出す調査に丁度いい。問題は大きくなりすぎると動かし辛いことだな。後、食費。

 周りをみると、広範囲に破壊された奥にある樹海と生物がいなくなった手前の森。請求はこないだろうが、文句を言われることはありそうだ。

 う~む。いいか。使えそうだし、育てればドロップアイテムが手に入るかもしれない。

 

「ねえねえ、いいでしょ?」

「ジャックに命を育てさせるのなんて……まあいいか。しっかりと世話をするんだよ」

「うん! ありがとうおかあさん!」

 

 ジャックの笑顔には勝てない。まあ、よしとしよう。さて、帰ったら会社の整理とか、モモゼお姉様の移送とか、ハンター協会の調査とか、忙しいな。まあ、会社運営はネオン君の占いを参考にしてやればいい。

 ハンター協会の調査はV5が主体になるだろうし、私はさわりていどでいい。なにせ被害者だから、公正な調査なんてできはしない。モモゼお姉様の移送はお父様の説得か。頑張るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 NGL グリード・アイランド

 

 

 

 飛来物あり。

 

 

 

 

 

 

 




グリード・アイランド:来るな!
NGL:やめてくださいっ!
なお、どちらも排除されないもよう。グリード・アイランドはまだ産まれていないので生物とは判断されず、そもそも人じゃないので排除対象ではない。NGLは回収されようにも場所が場所だし、そのまま地中深くで眠っていますね。何か変なことが起きないかぎり。

シルバの性別変更は霧がなくなれば解除されます。


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狩人の少女1

修正しました。

魔眼アンケートの場所を勘違いしておりました。本文に載せるのが駄目だったのですね。申し訳ございませんでした。
後書きとかにアンケート内容を乗せるのはせーふみたいなので、これからはそちらにさせていただきます。
今から魔眼アンケートを追加しますので、少々お待ちください。それとページが長くなるので、効果を知りたい方はGoogleで検索してください。もし訳ないです。

検索ワード:魔眼 TYPE-MOON Wi○○

そしてもう一つ。邪ンヌちゃんの前にこの方。許してください。なんでもしますからぁ

※ポックルに関する捏造設定があります。本SSのみの設定です。以下略




 狩人の少女アルテミシア

 

 

 

 

 

 私の名前はアルテミシア。16歳になる。親には捨てられ、拾ってくれたシスターの下で過ごしていた。私が過ごしている教会は孤児院も兼ねていて、そこでは沢山の子供達と一緒に過ごしているのだ。

 ただ、貧しいためにまともな食料を得ることもできない。だから、年長者である私がどうにかしないといけない。このままではまた誰かが餓死するし、都会に働きに出ないといけない。

 都会に行った兄や姉達達は誰も帰ってきておらず、手紙とお金が最初に来るだけだった。

 私達の事を忘れて幸せに生きていてくれればいいと、毎日シスターや子供達と祈り続けていた。

 だが、信仰で腹は膨れない。いくら願っても神様は助けてくれない。だから、幼馴染であるポックルの親であるクックルさんに頼み込んだ。クックルさんは村の狩人をしていて、弓の名手だ。

 そんな彼に弓を教えてもらい、狩人として生活を始めた。幼い妹達を食わせるためだ。シスターは動物を殺す事に良い顔はせず、教会から出て行くことになったが構わない。

 私が取った獲物を寄付として教会に渡し、兄弟達と一緒に食事を取る。肉が並んだ食卓を囲む子供達の笑顔をみればシスターも渋々だが納得してくれた。貧しくとも信仰を大事にしながら一生懸命に生活している。

 朝から弓の練習を兼ねてポックルとクックルさんの三人で、狩りを行い、午後からは取った獲物を解体して、それから水浴びをして子供達と一緒に遊ぶ。

 森の中での追いかけっこをしたり、おままごとをしたり、私には子供達の笑顔が何よりの幸せだ。子供達も私によくなついてくれる。この子達のためなら生涯を賭けてもなんの後悔もない、私の大事な妹や弟達。こんな日が続き、私は老衰ともいかずとも子供達に看取られて眠りにつくと思っていた。あの時までは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──子供達と平和に過ごしていたなんの変哲も無い日。思えばあの日に狩った猪が原因だったのかもしれない。

 私とポックル、クックルさんの三人は雪が降り積もる雪の森に入り、食料を求めて村の近くにやってきた巨大な黒い毛皮の猪を数日かけて追い詰めて、毒まで使って何とか追い詰めて討伐した。

 罠を喰い破られ、目の前までやってこられた。両目を潰し、鼻から矢を入れたというのに、木々を粉砕し、岩を砕いて迫ってくる光景に私は死んだと思った。だが、子供達の笑顔や待っている子達の為に私は一か八か、身体を後ろに倒しながら雄叫びをあげながら突撃してくる大猪の鼻に矢を放った。

 矢は先に突き刺さっていた矢を貫通し、鏃を喰いこませて脳まで到達できずとも、近くまでは到達させることができた。そのお蔭か、毒が効いてきて私が倒れた上を通ってから倒れた。

 奴はそれでも必死に立ち上がり、空虚な瞳でこちらへと見詰めてくる。私は起き上がり、同じように見詰め返し、しばらくすると奴は咆哮を上げてから座り込み、頭を差し出してきた。まるで勝者の私に敬意を表するかのようだ。

 だから、私は油断せずに矢を射る。今度こそ脳へと矢を到達させ、大猪は死んだ。

 

「やっぱり変異種だったな」

「ああ、そうじゃないとここまで強いはずはねえよ」

「変異種、か。原因はわかるか?」

「わからん。お偉方はわかっているのかもしれないがな」

「オレ達が住んでいるような田舎まで情報はこないんだろうよ。本当、ハンターになって都会に出たいぜ」

「ポックルはそればかりだな」

「アルテミシアこそ、俺と一緒に都会に行けばいいじゃないか」

「私はここにいる。子供達を養わねばならない」

「捨てられた奴を見つけたら、毎回拾って連れて帰っているな」

「当然だ」

 

 育てられないのに子を作り、捨てるなど大罪だ。子供に罪はないというのに、なんと酷い事だろうか。だから、私は見つけたら連れて帰ってきている。もちろん、より多くの食料やお金が要ることになるが、私が頑張ればいいだけだ。

 

「それよりもコイツをどうするかだ」

 

 変異種は肉体が光り、消滅するという不思議な光景が起こる。こいつも例外ではない。いや、例外だった。毛皮が残ったのだ。

 

「あ~最後のアレを見る限り、アルテミシアが持つべきだろう」

「え、オレも欲しいんだけど……」

「止めをさしたのは私だ。だから、私が貰おう」

「ちぇ~」

 

 クックルさんは私が貰うべきだと言っているし、ポックルが反対してもこれは私の物だ。子供達に見せてやった後は服にするか、好事家連中に売り払おう。やはり売るべきだな。売れば今年の冬は誰一人として子供が死なずに越せるだろう。

 

「何時ものルートで売り払う。確か、明後日までは商人が滞在しているはずだ」

「確かにそうだな。それがいい」

「自分達で売った方が儲かると思うがな」

「それができれば苦労しないさ」

「難しいことはわからん」

 

 大きい毛皮を持ち、村へと戻る。村にはすでに商人達がやってきていた。何時も商人達と、普段は見かけない商人達まできていた。そいつの護衛はどうやら、狩人ではない本物のハンターのようだ。

 

「おお、戻ったか! クックルさん! 大猪はどうだった!」

「この通り、アルテミシアが倒した。もう大丈夫だろう」

「それは良かった! ぜひ見せてくれ」

「ああ、わかった」

 

 私はやってきた村長に見せる。村長はしっかりと見てから、私達に聞いていく。

 

「肉はどうした?」

「変異種だった。これしか残っていない」

「やはりそうだったか。わかった」

 

 村長は振り返ると、大猪の毛皮をハンター達に見せる。

 

「皆さん、折角お越しいただいたところ、申し訳ございません。ですが、どうやら大猪は無事に退治されました。せめてものお礼として今日は歓待させていただきます」

 

 村長の言葉に不思議がっていると、クックルさんがボソっと呟いた。

 

「まさか、村長の奴。オレ達がやられると思ってハンター達に依頼を出していたのか?」

「かもしれないな」

「まったく、ふざけた奴だな」

「だが、これで村長の計画はご破算だろう」

 

 村長は何かと私達の、私の獲物を格安で奪い自分の物にしようとする。当然、私は断固として拒否する。余るのならちゃんと売るが、買い叩かれるのは困る。こちらも食料や金に余裕はないのだ。やばい時など一週間どころか、一ヶ月以上も山に籠って獲物を取らねばならないんだ。ましてや税金でかなり取られているのだから、渡すつもりはない。

 

「そちらのお嬢さんが討伐なされたのですかな?」

「そうだ。私が討伐した」

 

 毛皮を村長から取り戻し、商人達にしっかりと見えるように毛皮を広げる。彼等は隅々まで見て、貪欲な、強欲と言えるかのような瞳をしだす。

 

「この毛皮は一番高く買ってくれる奴に売る。ただし、こちらの最低額を超えたらだ。超えない場合は街に売りに行かせてもらう。使った消耗品などを含めて最低金額は……」

 

 私が提示した金額に商人達は顔をしかめる。値段が高いのはわかっている。だが、売れる値段はもっとするのもわかっているのだ。

 

「もちろん、現金以外にも保存食や毛布、衣服など物々交換での取引も応じる。そちらが売った利益も含めれば決して高い値段ではないはずだ」

「なるほど。確かにそうですね」

「うむ……」

 

 私が落札者から商品を購入するので、差額はそれなりに出る。私は即物が欲しいし、彼等は毛皮が欲しいがお金は出来る限り手元に残したい。どちらも折り合いができる値段になるだろう。それに彼等もわかっている。値段が上がっても、私が手に入れた金はすぐに別の商人から品物を買うのでその人達も利益がでるので、他の商人からも比較的恨みは買わないだろう。

 

「ただ、売るのは明日だ。今日中に決めておいてくれ。こちらが欲しいリストは事前に渡すので、そちらも合わせて考えてくれ」

「了解した」

 

 何時もの人が納得すると、後の人も渋々ながら頷く。私はそれを確認してから孤児院に戻り、子供達に大猪の毛皮を見せる。

 

「どうだ、凄いだろう!」

「すげー!」

「お姉ちゃん、さすがー!」

「うむ。ただ、売り物だから見るだけだぞ。触らないようにな」

「「「は~い」」」

 

 子供達に見せた後、あの子達が届かない場所に飾ってシスターに合う。シスターはすでに高齢だ。だが、次のシスターは私の姉に当たる人達がしっかりとしているので大丈夫だろう。

 

「すまないが、必要な物のリストを作ってくれ。こいつを売った金で買う」

「ありがとう、アルテミシア。何時も助かっているわ」

「いや、私もここには世話になっているからな」

「そうね。それにしても随分と怪我をしているみたいだけど……」

「大丈夫だ。止血もしたし、薬草も塗った。後は安静にしていたらいい」

「これほど大きい猪なら無理はないわね」

「ああ。それじゃあ、狩りの成功を神様に祈ってくる」

「いってらっしゃい。今日は泊っていくのよね?」

「そのつもりだ。子供達と一緒に寝る」

「そう、わかったわ」

 

 何時もなら確認をしないのだが、何か不思議な感じがする。まあ、たいした事ではないだろう。死にかけたことで過敏になっているのかもしれない。

 教会に移動し、神像の前で跪いて弓を隣に置いて両手を組みながら神様に祈る。獲物を与えてくれた事と無事に戻れた事に感謝し、子供達の幸せを願う。

 

「おやおや、存在しない神によくもまあ、そこまで願いますねぇ」

「っ!?」

 

 振り返ると、190センチはあろう大男が何時の間にか居た。そいつは司祭様のような服を着ていたが、色は黒色で銀色の綺麗な鳥が至る所に刺繍されている。手には()()()()()()()()()()()()()()()が付いた杖を持つ私より30センチは大きい存在だ。

 

「だっ、誰だ」

 

 そいつが何時の間にか私のすぐ横にいて、手を握ってきていた。思わず弾き飛ばすと、その前にするりと離れられた。

 

「私の名前はプラチドゥスゥゥ・クルトォォォォ! と、申しますぅ」

「そ、そうか。しかし、ここは教会だ。我等が神を愚弄するのならば、立ち去るがいい」

「本当によろしいのですかぁ?」

「何?」

「私ぃはぁ、真なる神を崇める銀翼教団の司教としてぇ、騙されて迷える愚かな子羊を助けにきたというのにぃ!」

「なんのことだ?」

「貴女と貴女の大切なぁ、者達をぉ、すぅぅくいにきたのですぅぅ! 我等が神の神託によりぃ!」

 

 バッと両手を広げて大げさに宣言する奴は、空の鳥籠に頬を擦りつける。意味が分からない。こいつはアレだ。変態だ。子供達の悪影響にしかならない。即座にご退場願おう。

 

「消えろ。さもなければ殺す」

「おやおやぁ、本当によろしいぃのですかぁ?」

「くどい!」

「わかりましたぁ。我が神は偽物の神と違いぃ、何時でもおそばにおりますればぁ、心の底からお願いぃぃ、するといいでしょぉぉぉ!」

 

 弓を構え、矢を引くと、奴は大げさに頭を下げて片手を腹にやってからくるりと後ろを向いて歩き出すと、何時の間にか消えていた。銀翼教団と言ったか。変態共の集団のようだが、私に気付かれずに背後を取り、また警戒して注視していたのに姿を消した。ただ者ではないだろう。これは村の者達にも報告して警戒してもらった方がいいな。

 その後、変態の事を伝えて、私は子供達と遊んで食事を取り、教会で子供達と一緒に寝る。私が泊まる時は私を慕う子供達が一緒に寝ようと集まってくるので、広いここに毛布に包まって皆で寝るのだ。

 シスターからお菓子や果実水の差し入れもあり、夜遅くまで話すが、何人かの幼い子供達は皆、眠りにつきだしたのでお開きにする。私も疲れからか、凄く眠い。

 

「さて、眠くなってきたし寝ようか」

「は~い~」

「う~おはなししたいけど、ねむい~」

「だね~おきてようとおもったのに~」

「なに、また明日に話せばいい。今はお休み」

「うん……」

「は~い」

 

 子供達が私に抱き着き、眠りにつく。私も背中を像の台座に預け、子供達を膝枕してあげながら睡魔に身を任せて眠りについていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きなさいぃぃぃぃ……起きるのですぅぅぅぅぅ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なん、だ……?

 

 

 

 

 

「貴女の大事な物が壊されていっていますよぉ?」

 

 

 

 

「っ!?」

 

 脳内に響く変態の声に飛び起きる。周りを見ると──

 

 

 

そこは地獄だった

 

 

 

 寝ていた子供達は床から生える剣で串刺しにされたり、身体をゆっくりと燃やされたり、瞳をえぐりとられたりといったおぞましい光景が目の前に広がっていた。

 

「痛い痛い痛いぃぃぃっ!」

「やめてやめてやめてぇえええええええええぇぇぇっ!」

「いぎゃぁああああああああああぁぁぁぁっ!」

「ほらほら、もっと泣き叫べよ」

「おいおい、しっかりと解体して保存しておけよ。子供でも臓器は売れるんだからな」

「了解!」

「助けて、助けてお姉ちゃん!」

「お姉ちゃんはおねんねしてるぜ」

「いや、起きたみたいだぞ」

「マジかよ。かなり強い睡眠薬をジュースや菓子に混ぜさせたんだがな」

 

 男達がこちらを見るが、私はあまりの光景に理解が追いつかない。

 

「なにを、なにしているっ! 子供達に何をしている!」

「何をって、解体?」

「遊んでいるだけだよ。オレとしてはお嬢さんに相手をして欲しいんだがなぁ……」

「依頼はそいつには手をだすなって事だ。諦めろ」

「きっ、貴様らぁあああああああああああああぁぁぁぁっ!」

 

 必死に弓を掴もうとして手を伸ばすが、そこには何も無い。ならば、殴りかかろうとするが、途中で苦しくて止まってしまう。

 今まで気がつかなかったが、私の首と両手両足に枷が嵌められ、神様の石像に繋がれていた。

 

「おお、まるで狂犬だな」

「ワンコはしっかりと繋いでおかないとなぁ」

「ほら、また一人死んだな。頑張らないとどんどん死ぬぞ」

「あっ、ああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 苦しいのも構わず、全力で子供達の下へと向かうために力を込める。

 何故だ。何故こんな事になった。子供達にこんな風に殺される罪はない。

 

『ええ、ええぇぇ。無垢なる子供達にはありませんともぉぉ』

 

「おいおい、大切な神様の像がぶっ壊れちまうぞ」

「まあ、その前に死ぬだろうがな」

 

 息が上手く吸えずに苦しくて、身体から力が抜けていく。神様……神様……どうか、子供達を助けてくれ。私はどうなってもいい。だから、頼む。

 

『無駄ですねぇぇ。真なる神である幸せを運ぶ銀翼様でなければ、貴女の、子供達の願いは叶えられませぇぇぇん! 何故ならば、貴女達が祈っていたのはただの偶像なのでぇぇぇす! そう、偶像ぅぅっ! 偶像なのでぇぇぇす! つまりぃぃっ、まったくの無意味ぃぃぃっ!』

 

 そんな、アレだけ願っていたのに、子供達を助けてくれないのか。ましてや、なんで子供達がこんな目に遭わなくてはいけないんだ! 

 

『簡単な理屈ですねぇ。人は嫉妬し、羨む者でぇす』

 

 そんなことはない! 

 

『ならば彼等の声を聞かせてさしあげましょう!』

 

 頭の中に声が響いてくる。

 

『何故、何故、あの親の居ない子供達は肉を喰える。俺達は飢えて死にそうだっていうのに』

『なんで私達にはわけてくれないの?』

『あいつらなんて役にも立たないいらない奴等なのに……俺達の事を優先しろよ』

 

 村の大人達がそう言っている姿がみえ、聞こえる。だが、大人である私達が子供を優先するのは当たり前だろう。

 

『だったら、なんで子供のボク達にはわけてくれないの?』

『私達もお腹が空いて、死にそう……なんで、なんであの子達だけなの?』

 

 そ、それは親がいるから、子供を食べさせるのは親の役目で……私達には、あの子達には親がいないから……

 

『『だったら、そいつらなんかいらない』』

『『そうだ必要ない。むしろ邪魔だ。害悪だ』』

『ならば、殺してしまおう。臓器や身体を売れば金になる。アルテミシアにはこのまま猟師として我が村にお金を降ろしてもらおう。なに、目の前で子供達が殺されれば目も覚めよう』

 

 

『『『それがいい』』』

 

 

 そ、そんな……わ、私のせいだと言うのか。この子達がこんなに無残な最期を遂げるなんて……

 

『いいえぇぇぇっ! いいえぇぇぇっ! 貴女のせいでも、子供のせいでもあぁぁりませぇぇぇん! 全て悪いのは偽りの神を信仰させ、救いの手を差し伸べもしないのにただ強請る強欲にしてぇぇぇ、たぁぁぁいだぁな存在ぃぃぃ! すなわちぃぃ、この村の者達でぇぇす!』

 

「あっ、ァァァァァァァァァァァッ!」

 

『子供達は真なる神にぃぃ、死の間際や恐怖に震えながらもぉぉっ、貴女の事を思いましたよぉぉっ! 貴女には生きて欲しいとぉぉっ! 貴女と共に居たいぃぃ! 一緒にぃぃ生きたいとぉぉぉっ! 貴女はどうですかぁぁっ!』

 

 子供達を助けたい! 

 

『では、真なる神に願いなさぁぁい。貴女には我等が真なる神の加護がついておりますよぉぉ!』

 

「……頼む。私はどうなってもいい。子供達を、子供達を助けてくれぇえええええええええええぇぇぇぇぇっ!」

「あ? 無理にきまって……」

「待て。凝と円をしろっ!」

「は? 無能力者相手に……」

「銀翼の凶鳥があるだろうが!」

「いや、ここは念空間で封鎖しているから大丈夫なはずだろ」

 

 私の目の前に何時の間にか、あの変態が居て、その背後には銀色の大きな、大きな鳥が舞い降りた。変態はその鳥に大猪の毛皮を恭しく差し出していく。

 

『ああ、あぁぁ、我等が神ヨ! 神託は成就されましたぁ! 願い奉るぅ、我等が神よ! 哀れなる子羊達に真なる祝福をぉぉぉ!』

『我に勝利した者がこのような生物を愚弄する者に負けるなど許さぬ。呪え、喰らえ! 奴等に思い知らせてやれっ!』

 

 

『一定以上のオーラを確認。一定条件を達成。最適な魔法少女の姿を生成。神の信者。狩人。弓使い。魔猪の討伐者。魔猪のオーラが譲渡されたのを確認。アルテミシア……ギリシア神話の月の女神アルテミスに由来するギリシア語。該当アリ。該当条件の魔法少女を生成。オーラが不足しています』

『なぁぁぁらばぁぁぁ、狩ればよろしぃぃぃぃっ! かの者は我が神に捧げる巫女なのだからぁっ、我等も快く差し上げましょうぞぉぉぉぉっ!』

『契約条件を確認。確認完了。銀翼教団の祈りに乗せられたオーラの供給を確認。不足分は……こいつらから奪えばいいさ。その方が効率的だね』

 

「ぁっ、あぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 肉体が、身体が膨れ上がり、小さくなり、大きくなり、作り変えられていく激痛。私が私でなくなっていく。

 

「嘘だろ!? なんでだ!」

「そこか!」

「おやぁぁぁ、バレてしまいましたねぇぇっ!」

「何時からそこに居やがった!」

「最初からですがぁぁぁっ! 私は彼女の中に居たのですからぁぁっ!」

「待て、その姿は銀翼教団……狂信者かっ!」

「狂信者とは失礼ですねぇ! 我等は真なる神の威光を知らしめ、救われぬ者達に救いの手を差しのべる崇高なるぅぅぅ一団でありますぅぅ!」

「どこがだ! てめえらのせいでどれだけの犠牲が……」

「それがどうしましたかな? 多数の幸せ、大いに結構。ですが、報われない小にも幸せになる権利があるのですぅ! ましてや、ましてやぁぁぁ、自らの為に小を犠牲にしようとするのなら、自らが犠牲になる覚悟をしなくてはなりません。だから、我等は願うのですぅぅっ! どちらも幸せになれるように、願いを叶えられるようにぃぃぃっ! そう、貴方達も願いなさい。我等が神にぃぃ!」

「ふざけっ」

 

殺すコロス殺すコロス殺すコロス殺すコロス殺すコロス殺すコロス殺すコロス殺すコロス殺すコロス殺すコロス殺すコロス殺すコロス殺すコロス絶対にコロスゥゥゥゥゥッ! 

 

「おお、新たなる巫女、魔法少女の誕生です! いやぁ、素晴らしい。これでまた我等が神のお役にたてましたねぇ~」

「魔法少女だと!? そんな禍々しいのが……」

「おや、こうしたのは貴方達なのですがねぇ~」

 

 

 

 

「──■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、お気づきになられましたかぁぁぁ。いやはや、流石はぁ、我等が神の寵愛を受けし巫女さまぁぁっ! 素晴らしいぃ、素晴らしいぃぃ!」

 

 周りを見ると、そこは月明かりに照らされる廃墟だった。いや、廃墟になったばかりだ。周りには夥しい数の肉片があり、血の跡がしっかりとわかる。私の手は銀色に光る金属のような何かに覆われていて、髪の毛も伸びて銀色になっていた。

 その手は人を貫き、心臓を握り潰している。そいつの顔を見ると、それは首無しの死体だった。不思議に思って周りをみると、半分ほど獣に食われたような跡がある村長の頭があった。更に周りをみると、建物は爪で切り裂かれていて死体に関しては大部分が食べられていた。

 

「うっ……」

 

 手を振るって村長の死体を外そうとすると、村長の死体は吹き飛んでいって残っていたまともな家屋を吹き飛ばしてそのまま貫通し、遠くの木に激突して血溜まりを作りだした。

 私は気持ち悪くなって口元をもう片方の手で拭うと、口にも血が、肉片がついていた。

 

「な、なんなんだこれは……」

「喰らっただけですよぉぉ。足りないオーラを、他者の命で食事をする。まさに獣の魔法少女ですねぇ。しかしぃ、狩人が獣になるとは、これも因果応報と言うのですかねぇ?」

「っ!?」

 

 頭を抱えると、頭部に耳の感触があった。それもふさふさでどう見ても獣の耳だ。前髪も変化しているし、後ろを見れば獣の尻尾だってあった。ただ、手を除けば他は普通の人間で黒い首輪をつけ、白い肌着に黒に暗い水色のアクセントが施されたドレスのような物を着ていた。腕もアームカバーに覆われていて、一部の姿だけをみれば高貴なお嬢様にもみえるが……

 

「この姿はいったい……」

「それは子供達の願いが反映されたんでしょうねぇぇ」

「なに?」

「子供達はぁ、貴女に着飾ってもらいたいとも思っていましたよぉ。なんせ、貴女と来たら、女なのに女らしい恰好なんてしていませんものね」

「狩りには邪魔だ。人の匂いは邪魔になる。獣の臭いをつけねばならぬ。服は毛皮で十分だ」

「まあまあ、子供達の遺言ぐらい聞いてあげたらどうですかねぇ」

「遺言だと!? そうだ。子供達はどうなった!」

「自らの胸に聞けばよろしぃ」

「ま、まさか……喰った、のか……」

「彼等の場合は統合という感じですねぇ。魔法少女とはその性質上、一人の力では成りえませんからぁ。複数人のオーラがいかなる手段においても必要なのですよぉぉ。例えばぁ、貴女は子供達の願いと貴女の願いによりオーラと融合しぃ、共に生きたいと。故に我が神は貴女達を統合した。しかし、それでもオーラが足らない。だから、そこに居た念能力者と村人を殺して喰らい、不足分を回収したのですよぉ」

「そんな、私はなんてことを……」

「それよりも、食い残しがございますねえ」

「っ!?」

 

 プラチドゥス・クルトが指さした方向には震えて逃げようとするポックルの姿が見えた。その近くにはクックルさんもいる。私はそちらに近付くと──

 

「来るなっ! 化け物めっ!」

「ひっ、ひぃぃっ! ゆ、許してくれぇっ!」

「くっ、クックルさん、ポックル……?」

 

 ──彼等は怯えていて、近付こうとすると矢を放ってくる。その矢には毒が塗られていて、反射的に掴み、何時の間にか持っていた弓に番えて放っていた。

 

「お、おやじぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃっ!」

「ぐっふっ……に、逃げろっ、ポックル、母さんや俺のぶん、まで生きて、くれ……頼む。どうか、どうかポックル、を、安全な場所にぃいいいいいいいぃぃぃぃっ!」

「すっばらしぃいいいぃぃっ! 我が神は貴方の願いを聞き届けました!」

 

 ポックルの身体が光り、何処かに消えていった。クックルさんの身体は銀色に変化していく。

 

「喰らうといいですよぉ。それでオーラが回復されますのでぇ」

「っ!? そんなことできるか! あれは、クックルさんなんだぞ!」

「そうですか。では、失礼して。ひょいっと」

「なっ!」

 

 変態が鳥に変化する途中の者を捕まえて身体に取り込んだ。

 

「なん、だと!?」

「改めてぇ、私はぁ、銀翼教団、司教ぅ、私の名前はプラチドゥスゥゥ・クルトォォォォ! と、申しますぅ。役目は各地を回りぃ、銀翼教団の素晴らしさを説き、正しき魔法少女を生み出すことでぇ、あります。はいぃ」

「ま、まさか、貴様が手引きしてっ!」

「いいえ、いいえ、滅相もありませぇん。我等が教義は願いを叶えることぉでありますればぁ、自らが起こすことなどありませぬぅ。導くことはあれ、そのようなことはしないと誓っておりますぅ。えぇ、命にかけてぇぇ!」

「そ、そうか……」

「我等はぁ、教団員の一部がぁ魔法少女の誕生しそうな場所についての神託を受けてぇ、その場所に転移いたしますぅ」

「さっきのポックルみたいにか」

「はいぃ。そこで、今回のように可能性がある方に近付き、お助けしております」

「助けるだと! なら何故子供達を助けてくれなかった!」

「我等はぁ、誠に残念ながらぁ、直接的に干渉できませぬぅ。できるのはあくまでも、導いて願いを叶えやすくすることでありますぅ。故にこそぉ、我等は我が神の代行者として力を貸し与えられておるのですぅ。これは制約と誓約というものでしてぇ……」

 

 詳しい話を聞くと、自ら枷を作り、力を得るかわりにそのルールに従うようだ。こいつらは魔法少女の誕生を導く代わりに誕生しそうな場所を教えてもらい、魔法少女について教え、自ら干渉して魔法少女になるように仕向けることはできない。もし行うと死ぬそうだ。

 これらの代わりに様々な特殊能力を共有しているとのこと。ただし、一人でも破ると死ぬ上に神について誰かに話すと私も死ぬらしい。

 また、例外として魔法少女となった者には情報を与えても死なないようだ。いや、一部についてのみ知る事が許されていると言った感じだ。

 一つは死後、その魂と力は神の下へと召され、仕えることになるらしい。もう一つは神の本体を探せば願いを叶えてもらえる上に支払った願いの代償を戻してもらえるとのことだ。これらの情報は司教から魔法少女にのみ伝える事が許される。それ以外の者には聞こえないし、何を言っているかも理解できないようにされているとのこと。念能力というのは不思議なものだな。

 

「では、洗礼を行いましょうぅぅ。貴女は新たなる魔法少女、神罰の野猪(アグリオスメタモローゼ)アタランテェェェ! それが神より与えられしその身体と力の名ですぅ!」

「アタランテ……そうだな。アルテミシアは死んだ。願いを叶え、子供達を蘇らせるまではアタランテとして生きよう」

 

 それが無理なら死のう。それが私が背負った罰だ。もう、私はポックルが言った通り、化け物なのだ。人ではない。魔獣だ。狩人に狩られて死ぬ魔獣なのだ。そう、だな……ポックルに殺されて、仇を討たせてやるのも一興かもしれない。

 

「ではぁ、ではぁ、これで失礼しますぅ。我が教団は何時でも魔法少女をお助けいたしますので、困ったことがあればこちらを使って教団本部までぇ、連絡をくださいぃ」

「あ、あぁ……」

 

 そう言って携帯電話? 確か、そんな風に言うのを渡された。私は機械には疎い。全てクックルさんやポックルに任せていた。だが……クックルさんは私が殺し、ポックルはいなくなった。彼にはもう、私をアルテミシアと認識すらできないだろう。それほど姿が変わってしまった。

 

 

『『『生きて。一緒に生きて、幸せになろう』』』

 

「ああ、そうだな……私はお前達を蘇らせるまで止まらない。魔猪よ、貴様の力も貸してもらうぞ。我が名はアタランテ。神罰の野猪(アグリオスメタモローゼ)アタランテだ!」

 

 叫ぶ事で自らの存在を決定つける。同時に咆哮となって周りを吹き飛ばしたが、もはや碌な物は残っていないのだ、問題は──

 

「……回収する物は回収するか」

 

 ──あったので、大切な物だけ回収する。まずは教会を探して子供達の遺体を探す。一部だけ見つかったが、大部分は私の中にあるようだ。だから、墓を作って皆の名前を刻む。それからペンダントに皆で取った写真をいれて首からかける。首輪はどうしても外れないので、そこにつけて胸元に入れておく。鎖なのでますます飼われた獣みたいだな。

 まあ、いい。金や食料を回収し、旅立とう。目的はただ一つ。神たる者に会い、子供達を蘇らせてもらう。それができないようならば……狩る。確かにこの力は子供達を救う事もあるが、同時に野生動物や魔獣を劇的に強化し、子供達を怖がらせ、最悪は殺されてしまうのだ。ならば私が止めてみせる。

 

 

 

 

 

 




アタランテ・オルタ。第一再臨。
そして銀翼の凶鳥を信仰する狂信者達 キャスターのジ・ル元帥を改造した感じ。戦う事はない。何故なら、ジャンヌ(魔法少女)を生み出すだけだから。制約と誓約によって自ら進んで魔法少女になるよう強制したりはしない。願いを叶えませんか?と誘導はする。あくまでも本人の意思が重要なため。

そして、周りがそうなるようにも誘導して調整する。しかし、過度な干渉はできず、あくまでも選択肢は本人に委ねる状況にしないと彼等自身が死亡する。
彼等が保有する念能力はライネスも知りません。何故なら、銀の鳥が勝手に、自らの意思で力を与えて魔法少女を増やすために日夜頑張っているからです。

銀の鳥「魔法少女が増えたらマスターが喜んでくれるよね!」
銀の鳥「魔法少女が死んでもマスターの力が増えるし大丈夫、大丈夫!」
銀の鳥「魔法少女がマスターを探して、会いに来てくれたら嬉しいよね!」
銀の鳥「会いに行ってもらうために、少しぐらい情報をあげないと駄目だよね!」
銀の鳥「制約と誓約で決めたんだから間違いないね!」

ライネス「orz」

このような思考回路です。なお、ライネスが破ったわけでもないし、司教はあくまでも教団員として銀の鳥本人より許可を貰ったもののみ、情報を伝えても死なないというものを得ています。
銀の鳥をたたえる言葉が思いつかなかった。


ひとつ思い付いたのですが、ハンター試験にでてくる人をソードアートオンラインのシノンにするというのを考えたので魔眼の次にアンケート取ります。


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29話

クルタ族への繋ぎ


 

 あ~面倒だ。ゾルディック家と交渉は終わり、ハンター協会にも査察が入って徹底的に調べられる。一応、ハンターになる前の犯罪歴やハンターになってからの犯罪歴を調べ、続いて功績で減刑する形を取るそうだ。暗殺に関しての証拠はゾルディック家から状況証拠として引き出してあるし、通話記録もあるので問題ない。

 問題は私が今、居る場所に起因している。私がどこに居るか、そんなの決まってるじゃないか。カキン帝国の王宮だよ。そこで王であるお父様や、色々と国内の仕事について日夜頑張っているのか知らないお兄様やお姉様、それに王妃達を前にしている。つまり、何が言いたいかというと──

 

 

今回の件と前回の件などで本国に緊急招集された

 

 

 ──という訳だよ。うん、面倒だ。放っておいてくれればカキン帝国へ利益を出し続けてあげるんだけどね。それにわざわざ来なくても、電話会談とかできるしね。まあ、秘匿性の観点からしたら会って話した方がいいけれど。

 

「以上がカキン帝国内の経済状況となります。順調に成長し続けているといえるでしょう」

「チョウライ、ご苦労だったホイ」

「はい」

 

 トウチョウレイ王妃の子である第3王子が報告し、席に座る。彼はチョウライ=ホイコーロ。色黒の肌をしている王族然とした小柄な男性だな。

 

「次はベンジャミン」

「はい。諸外国からの干渉を防ぎ、防衛するために訓練と変異種の討伐を行っております。何度か我が国の領海に侵入してきた船もありますが……」

 

 お兄様方がお父様に報告しているのを、足をぶらぶらさせながら聞く。私が座っている椅子は大人用の物で、高いからね。足がつかないんだよ。

 会議の内容はしっかりと聞いているし、報告用の資料も用意した。ジャックとメンチ君には外で待機してもらっているが、いざとなれば呼び出すこともできる。

 

「さて、ではライネスの報告を聞くホイ。随分と色々とやってるホイね。暗殺されかけたという報告が何度か来ているホイな」

「はい。全て排除しました」

「俺からの護衛を断るからだ」

「護衛は自前で用意していますので、必要ありませんよ。ですが、ありがとうございます。心配していただけて」

「ふん」

 

 寝首をかかれる可能性があるベンジャミンお兄様の護衛などお断りだ。こちらの勢力がもっと増えてからなら使わせてもらうが。

 

「私もお兄様に感謝しておりますよ。輸送に色々と使わせて頂いておりますから」

「確か、ハルケンブルグの所に変異種から出た物を送っているんだったホイね」

「はい。研究して頂いております。ハルケンブルグお兄様、そちらの方はどうですか?」

「今の所はまだ基礎研究の段階だ。ツベッパ姉様にも協力してもらっている」

「新しい物質も発見されていますので、もうしばらくかかります」

「なるほど、なるほど。外交の方はどうなってるホイ?」

「そちらは顔見せを終えて、費用は使いましたが幾つか成果を上げています。カキン帝国が所有していない技術について、共同研究という形で技術者を派遣できるようにしました。貿易に関してですが……」

 

 私に被害を出した国からはかなりの譲歩を頂いたが、ある程度に調整しておいた事も伝える。絞り尽そうとしたら駄目だ。恨みを買って戦争になれば結果的に損をする。あくまでも戦争は最後の手段だ。

 

「温いぞ」

「最悪、かの国の同盟国を含めて、V5を全て相手にせねばなりません。やるなら確実に勝つ根拠などが必要です。一国ならまだしも、全てを相手にするには国力がまだ足りません」

「今は技術を研鑽し、国を強くする事こそが重要だホイ。それも気づかれないようにやるホイな」

「わかりました」

「しかし、ライネス。それ以外にも報告があるはずだホイ」

「そうですね。幾つかお父様に許可を頂きたい案件もありますので、先にお父様の気分を良くさせてもらいましょう」

「ほう、それは気になるホイね」

「他国の造船所を手に入れました。技術者諸共買収し、私の支配下にありますので国に送りつけることも可能です」

 

 他の王子達が鼻で笑う中、ベンジャミンお兄様は忌々しそうにしている。

 

「そこの君。こちらの資料をお父様だけに渡してくれ。これをどう伝えるかはお父様に全てを任せるのでね」

「かしこまりました」

 

 執事を呼び、資料を渡す。執事はすぐにお父様に全てを渡し、しばらく私達はそれを待つ。

 

「くっくっく、これは本当かホイ?」

「はい。資料と実物は全て破棄されていましたが、その技術は継承され、技術者も生きていました。もっとも、本人達はそれに関わっているなどとは知らないでしょうが。どちらにせよ、国の監視下には置かれていますので連れてくるには一度殺してから、別の人間として甦らせる必要があります」

「いい土産だホイ。ベンジャミン、すぐにそいつらと……」

「お待ちください。今、やられますと困ります」

「ん?」

「せっかく手に入れた造船所が国に睨まれます。ですので、一部の技術者を受け入れて技術を継承し、来年と再来年辺りに決行すべきです。現状はハンター協会への査察で忙しいでしょうが、それだけに徹底的に調べられる可能性も否定できません。また、無理矢理拉致するよりも、こちらを裏切らない者に接近させ、篭絡させてから技術を教えてもらった方が安全です」

「ふむ……確かにその方が裏切らないホイな。時間がかかるが……」

「今の現状ではアチラに向かうよりも、変異種を解析して力を得る方がよろしいかと」

「ふむ。確かに国内でもまだ猛威を振るわれているホイな。他国に全ての旨味を持っていかれるのも許容できんホイ。変異種の力を取り込んでからの方が確実か。ベンジャミン。ライネスと協力して変異種をどんどん捕まえていくホイ」

「了解」

「さて、直近ではなく時間が経つにつれて利益を出す方をライネスは好んでいる感じホイ」

「そちらの方がリターンが多いですからね。駄目なら修正させていただきますが……」

「いや、それで問題ないホイ。国を運営するには直近だけを考えていも駄目ホイな」

「はい」

 

 どうにかなったか。問題は次だ。

 

「ライネスのお願いというのは、ライネスの事をおかあさんと呼んでいるあの娘の事ホイ?」

「それもありますが、あの子が呼んでいるだけなのでそこまで問題はありません。実際に国内外に孤児院を運営するつもりですので、そこ出身の子ということで呼ばれても問題なくします」

「そういえばライネスは結婚するつもりはないんだったホイな」

「ありませんね。子供を作る方法なんていくらでもありますから。しても人工授精で、他の者に産ませる程度でしょう」

「王族として問題ある発言だな」

「まあ、理解はしていますが今の所は変える必要もありません。お兄様とお姉様の子供がいますしね」

「ふん。そういうことにしておいてやる」

「じゃあ、ライネスの願いは何ホイ?」

「モモゼお姉様を好きに使わせて頂きたいのです」

「どういうことホイな?」

「まず、ゾルディック家というのをご存知でしょうか?」

 

 私はゾルディック家について説明し、世界最高の暗殺者一家だと伝えて彼等が実際に行ってきたと思われる暗殺のリストをお父様達に見せる。同時に巨人との戦闘映像をお父様とベンジャミンお兄様の端末にだけ流して確認してもらう。

 それ以外のお兄様、お姉様達には巨人が居た国が軍隊をだして戦っている映像をハンター教会のもの混ぜて、まるで指揮をとっているかのように編集して流した。

 

「今回、私はハンター協会のアイザック・ネテロ会長と共に居たので助かりましたが、次はどうなるかわかりません。ベンジャミンお兄様、正直に客観的に見てアイザック・ネテロ会長に少人数で勝てる者は我が国の護衛にいますか?」

「勝てる」

「本当に? と聞いてもそれ以外答えられないでしょう。お父様」

「うむ。本音でいうホイな。それによってなんらベンジャミンに問題は起きないことをナスビー=ホイコーロの名で宣言するホイ」

「……なら、無理だ。俺と部下たちを合わせてもまだ届かない。数年後はわからんが、現状では勝てん。それこそ広域破壊兵器を使わねばならん。だが、それでは我等の敗北には変わりがない」

「そうです。確かに戦略級兵器を使えば倒す事は可能かもしれません。ですが、暗殺者の特性上、何時、何処で、誰が暗殺をしてくるかわかりません。可能性が高いのは外出中か王宮です。技術的に王宮への侵入も彼等は可能としています。こちらが気付いてもその瞬間に殺されている場合があるのです。それに戦略級兵器を使うわけにも、普段から近くに置いておくわけにもいきません。敵対している存在に操られた者がスイッチを押すかもしれないし、それこそ機械のミスで発動してしまうかもしれない。緊急時に使うのなら、何時でも発動させる段階にして置いておかないといけないのですから」

「厄介な相手というわけだな。だが、それなら先に滅ぼす事はできないのか?」

「大義名分がありません。今回のように私が、王族が殺されればそれを理由に戦争でも、報復として流星街の人間に貧者の薔薇を持たせて特攻もさせられましょう。ですが、大義名分なくそれをすれば戦争は不可避です」

「他国は確実に黙っていないか」

「はい」

 

 ゾルディック家を潰すにはそれ相応の犠牲が必要だ。ツェリードニヒお兄様達も、改めて映像を見てアイザック・ネテロ達が化け物だと知る。ちなみに私の映像はカットしてある。

 

「さて、このアイザック・ネテロと少なくともまともに戦えるのがゾルディック家に居ます。マハ・ゾルディック。ネテロ会長と同じ強さか、その下だと予想されますが、彼には一族がいます。その強さはベンジャミンお兄様に勝るとも劣らないでしょう。それだけ、彼等は我々と同じく代々優秀な者を取り込み、暗殺という技術に一極集中してきました」

「つまり、ライネスはゾルディック家にモモゼをやる事で不可侵にするか、それに近い事をするつもりホイね?」

「はい。ゾルディック家の次期当主とする予定だと伺ったキルア・ゾルディックとモモゼお姉様を婚約、結婚させます。産まれてくる子供については暗殺者の素質がある者をゾルディック家の者とし、王位継承権を与えないことにすることで話はついています。それ以外の子供はこちらかあちらで相談しますが、王位継承権についてはお父様に任せる事なので、ゾルディック家の子供になる者は破棄だけは確実にさせます」

「ふむ。こちらのメリットはゾルディック家がホイコーロに対する暗殺依頼を受けない事と、血筋かホイ?」

「はい。連中も私達も、優秀な血を欲しています。それに暗殺者の視点から護衛の穴や暗部を鍛えてもらうことも交渉次第では可能でしょう。その人材の確保に孤児院を運用しようかと思っております」

「ライネス、それは……」

 

 お兄様もお姉様も私を睨み付けてくる。そりゃそうだろうね。暗部を、言ってしまえば諜報機関を作って自分で運用すると言っているのだから。

 

「運用はお父様に任せますが、その特性上、必要なのは内政と外交です。それにゾルディック家と渡りをつけたのは私です。ですので、関わりがある私が作り上げます。それに大切な姉を捧げるのですから、お姉様の幸せのために動かせてもらいます。また、起きたお姉様も私の言葉なら安心なさってくれるでしょう」

「だが……」

「おや? お兄様やお姉様達は私がお父様を裏切るとお考えですか? それはない。私はカキン帝国の、ひいてはお父様の利益となる行動しかしませんよ。それにこれはおいおいお姉様達の利益にもなります。暗殺者の事は暗殺者がわかります。ですので、護衛としてつければ尚更安全でしょう」

 

 お父様以外が、何処が利益だと言いたそうな憎々しい顔を向けてくる。ああ、最高にいい気分だ。お父様はゾルディック家の血を入れることにとても喜ばれるだろうしね。

 

「ライネス。自分で自分の首を絞める可能性もあるホイよ?」

「構いませんよ。モモゼお姉様に寝首をかかれるのなら、くれてやります。もっとも、ただでやるつもりもないですが」

「ふむ。しかし、モモゼは目覚めておらんが、あちらはよいのかホイ?」

「問題ありません。最悪、眠っていても子供は産めますからね。もちろん、その前に治療法をなんとしても見つけます。その為にも暗部を作り、情報を収集させることも考えております」

「良かろう。ゾルディック家の血はわしにとっても価値ある物だホイ。全てライネスに任せるホイ。報告と監視だけは怠るなホイ」

「もちろんです。お父様には包み隠さずお伝えするつもりです」

 

 あくまでもこの部隊に関しては全て教えるさ。銀の鳥は教えないけどね。

 

「他に何かあるホイ?」

「では、私から。ライネス。お前、緋の目を手に入れたようだな」

「アレですか、ツェリードニヒお兄様。それが何か?」

「渡せ。あの秘宝は我が国の宝物庫で管理する」

「お断りします」

「なに?」

「緋の目は全てクルタ族に返還します。その式典の準備もしています」

「どういうつもりだ」

「どうもこうも、カキン帝国のイメージアップ戦略ですが」

「は?」

「少数部族が不幸な目に遭い、瞳を奪われるという悲惨な事件が起きました。それを王族が購入または討伐して手に入れ、返還するというのは美談になります。国民の感情は国内外でよりいっそうホイコーロを称えるでしょう。もしも何かあったら助けてくれるかもしれないですしね。それに私はまだこの通りのか弱い若輩者。名を売るために実を捨てたまでです。

 おかげでハンター協会からの覚えもめでたくなりましたし、諸外国との交渉も便利になりました。なにせ秘宝の価値をわかっていない小娘だと侮ってくれましたからね。大々的に告示して回収もさせます。お兄様もお持ちですよね? 国の為に提出していただけませんか? 式典にはお父様もお呼びする予定でいますし、お兄様もどうぞお越しください。あ、後でお兄様が持っている物もお父様に教えておきますね。場所も含めて」

「わしを呼ぶホイな?」

「はい。国の顔はお父様ですから。そちらの方がより強く印象づけられ、我が国の狙いについても目を逸らす効果もあるでしょう。どちらにせよ名声が高められるので利益になります。お父様、どうでしょうか?」

「ふむ……スケジュールを空けておくホイ。後で執事に知らせるホイよ。お前達も持っているなら出すホイ。ライネスの言う通り、そっちの方が利益がでるホイよ」

「ありがとうございます」

 

 視線をツェリードニヒお兄様の方へと向けると、物凄い形相で見ていた。一瞬だけですぐに笑顔に変わったけれど、机の下では拳を握りしめて血を流しているし、目が一切笑っていない。ベンジャミンお兄様はそれを見ながら、手で顔を覆って笑っている。

 ツェリードニヒお兄様の心が手に取るようにわかる。怒りで腸が煮えくり返っているかもしれないね。それにお父様に逆らうわけにもいかないし、絶対に提出するしかない。更に式典に誘ったことで皮肉もとても効いている。

 これが愉悦と言わずしてなんという! いやぁ、楽しいなあ。やっぱり来て良かったかもしれないね! 

 

 

 

 

 



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30話

つ、繋ぎ2。3までありそう。


 

 

 会議が終わり、私は先に退出する事になった。お父様達はこれからも話し合うことがあるのだろう。生憎と七歳である私にはまだ関わらせてもらえない。

 そんな訳で外に出ると、すぐにジャックがこちらに寄ってきた。メンチ君の姿が見えないが、探りに行ったのかな? 

 

「おかあさん! 終わった?」

「ああ、終わったよ。待たせたね」

「それじゃ、あそぼ!」

「遊ぶのはまだ少しやる事がある。だから、待っていてくれるかな?」

「うん、いいよ~」

 

 二人で手を繋ぎながらモモゼお姉様の居る場所に移動する。彼女はカプセルに寝かされていて、最新の治療を受けている。

 モモゼお姉様を見詰めると、彼女のオーラがかなり増大している事がわかる。私と繋がっている事もあり、魔術回路の作成も問題はなさそうだ。後はタイミングを見て起こすだけでいいだろう。

 

「飛行船の手配と運び出す準備をしてくれ。お父様の許可は取ってある」

「かしこまりました」

 

 医師や護衛に指示をだし、万が一が起こらないようにお願いする。ジャックは不思議そうにモモゼお姉様を見ているので、彼女に頼み事をしよう。

 

「ジャック、少し席を外す。モモゼお姉様を見ていてくれないか?」

「うん、わたしたちに任せて」

「ありがとう」

「ふにゃ~」

 

 ジャックを撫でてから、私は弟の部屋に移動する。弟の部屋の前には護衛が数人立っている。私がそれを無視して部屋に入ろうとすると、止めて来た。

 

「なんのつもりだ?」

「マラヤーム様にお会いになるにはセヴァンチ様の許可が必要です」

「私はマラヤームの姉だが?」

「それでも、です」

 

 押し問答をしていると、お母様が走ってやってきた。おそらく、護衛から連絡を受けたのだろうね。

 

「ライネス! マラヤームになんの用ですか!」

「おや、ここを離れるので弟の様子を見に来ただけなのだが、いけないのかな?」

「いけないわ! 貴女は私の可愛いマラヤームに悪影響を及ぼすの! モモゼもそうだったわ! 貴女に関わらないように言ったのに、あの子は私の言いつけを無視して! 挙句の果てに意識不明の重体よ!」

「それは私のせいでは……」

 

 いや、私のせいか。

 

「ほら、やっぱり! それにモモゼの婚約者だって私が有力者の人と話をつけていたのに!」

「それに関しては知らなかったからね。もっとも、ソイツがお姉様に相応しいかどうか、しっかりと調べるが」

「暗殺者風情の子供がカキン帝国の王子を嫁に迎えるのが相応しいというの!」

「少なくとも武力では相応しいね。それにこれはお父様がお認めになったことだ。異義を唱えるの?」

「っ!? わかったわ。モモゼに関しても貴女に関しても好きにしなさい! でも、マラヤームには関わらないで!」

「そうか、わかった。それがお母様の意思ならば従おうじゃないか」

 

 大人しく踵を返す。しかし、お母様はわかっているのかな? 私が関わらないということは、マラヤームの後ろ盾にはなれないのだが……まあ、いいさ。

 マラヤームに念能力を与えようかと思って会いに来てみたが、お母様が関わるなと言うのなら切り捨てよう。モモゼお姉様以外の親族はやはり、どうでもいいな。障害になるなら排除し、ならないのなら放置という方針でいこう。

 

「何故、ライネスに暗部を任せるの!」

「諜報機関の一つはわしが握っとるから問題ないホイ。それにできる部隊はライネスのコネがあるからホイ」

「それなら、カミィがライネスからそのコネを貰えばいいわね」

「できるのなら、構わんホイ」

 

 誰が渡すか。というか、カミーラお姉様は相変わらず傲慢だ。私も人の事は言えないが、さっさと退散しよう。

 

「あ、ライネス」

「こ、こんばんは」

「ああ、こんばんは。カチョウお姉様とフウゲツお姉様。ご機嫌は如何かな?」

 

 私達姉妹とは別の母親から生まれた双子の姉妹。会議に呼ばれていないので、偶然だろう。手にはヴァイオリンケースが握られているから、稽古に向かう途中かな? 

 

「めんどくさいの」

「あははは……ライネスは弾ける?」

「そうだね……弾けるかどうかと言われれば弾けるよ。習ったからね」

「じゃあ、手本を見せてよ。妹なんだからいいでしょ」

「それは……よし、今すぐ移動して演奏しようか」

 

 二人の手を取ってすぐにその場を離れようとすると、肩を掴まれた。もちろん、肩の下には月霊髄液を身に纏って身体が痛くならないようにする。それから見上げると、凄い形相のカミーラお姉様がいた。二人もちょっと引いている。

 

「ねえ、ライネス。暗部を作ったらカミィに献上しなさい。子供のライネスには過ぎたものよ」

 

 ここは普通に断るよりも、逆上しやすいお姉様を貶めるため怒らせた方がいいか。

 

「そうだね。そうかもしれない……」

「ええ、そうよ。カミィにこそ相応しいの」

「でも、考えてみるよ」

「いますぐ答えをだしなさい。答えなんて決まり切っているでしょう?」

「そうだね……お姉様、耳を貸して。答えるから」

 

カミーラお姉様がしゃがみ込み、耳を近づけたところで声を上げて答えてあげる。

 

お・こ・と・わ・り・だ!

「なぁっ!?」

「欲しければ自分で作るんだね。私が命を賭けて手に入れたコネクションを何故お姉様に渡さなければいけない。代価はなんだい? それ相応の代価をもらわないと納得できないね。うん、差し詰め、お姉様の持つ王位継承権破棄か、私の順位との交換かな」

「ふざけて……いるの?」

「いやいや、大真面目さ」

「そう、悪い子ね」

 

 肩から私の首に手が回され、そのまま持ち上げられる。

 

「なな、なにやってるの!」

「そ、そうですよ、お姉様!」

「お仕置きよ」

 

 苦しいし、足も付かない。よって両手でお姉様の腕を掴んでジタバタするふりをする。

 

「ねえ、もう一度聞くわ……カミィに寄越しなさい?」

い・や・だ・ね

「ぐっ!?」

 

 ジタバタ攻撃。それもオーラを込めた一撃がたまたまお姉様の腹に良い感じであたり、何かが潰れる音が響いてお姉様が蹲る。ああ、これでもう子供が産めないかもしれないが、事故だよねぇ? 

 

「けほっ、けほっ」

 

 カミーラお姉様は悶絶しているけれど、流でガードされたか。込めた量的に壁ぐらい普通に粉砕できる量を入れたしね。それなのにただ苦しんでいるだけ……壊れているかどうかも微妙だな。

 

「ライネス!大丈夫!?」

「ああ、平気だよ。それよりも人を呼んでくれるかな?」

「わかった。行くわよフウゲツ!」

「う、うん!」

 

 さて、二人が人を呼びに行ったので、私は首を撫でながら待つとすぐに兵士がやってきて説明する。私の首筋にハッキリとお姉様の手の跡が残っているし、私以外にもフウゲツお姉様とカチョウお姉様が目撃者だから問題ない。

 すぐにカミーラお姉様がこちらを睨み付けてくるけれど、拘束されて運ばれていく。だから、私は口パクでバ・カ・メと伝えてあげたら、余計に怒り心頭になった。

 

「平気?」

「ああ、平気だよ。それより、演奏だったね。モモゼお姉様が眠っている隣でなら演奏できるよ」

「え? この状況で?」

「何かおかしいかな?」

「……えっと、大丈夫……?」

「では行こう」

 

 二人を連れてモモゼお姉様の所に向かい、ジャックを紹介すると尚更呆れられた。まあ、私が引き取って育てている子供だと言われたら、何とか納得された。そこでモモゼお姉様を運び出すまでヴァイオリンの演奏をしていく。

 そこでふと思いついたのだが……演奏によって攻撃する指示とか出せればトリスタン卿みたいにできるかもしれない。彼は戦闘に矢を一切用いず、弓の弦を弾くことで空気を弾き飛ばし、それを刃に変えて飛ばす。私の場合は水銀を展開し、それによって指示を出す事で言葉を発せずに高速攻撃を行う事ができるかもしれない。うん、今度試してみるのもいいかもしれないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゾルディック家に行った時に試してみたが……演奏に指示している暇がなかった。指示しても私の貧弱な身体能力では対応できない。そもそも、トリムマウと月霊髄液の操作方法からして、自動戦闘と自動迎撃だ。

 彼女達の学習能力を利用した高速戦闘の方が圧倒的に強かったよ。私が指示するにしても、指を鳴らす程度でも十分だ。わざわざ楽器を持つ行程が一切いらないし、メリットがないから没だな。

 いや、メリットかデメリットか、わからないが……トリムマウが演奏を覚えた副産物があった。一人楽団とかもできるかもしれない。ん? 一人楽団……もしかして、アレって使えるか?

 取り寄せてみるか。いざという時の切り札に使えるだろう。私は絶対に演奏もしたくないし、聞きたくもないがね!

 

 

 

 

 



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31話

繋ぎの最後? 次回はジャンヌダルク・オルタもとい】惑う鳴鳳荘の考察から名前を拝借してエリス予定だけど、エリザがいるからややこしいな。いっそレティシアか。でも、お姉ちゃんの名前にレティシアを使いたい。

前話の最後にやや未来の事になりますが、楽器についての説明を入れました。結論から言うと、試して没になります。ただ、トリムマウが演奏を覚えるだけのお話です。
本当はゾルディック家で修行する時に試す話でも書いて、没にする予定だったのです。試行錯誤しているところとか、書こうと思いまして。ごめんなさい。

狩人の少女の部分も読みやすいように修正しております。

なお、後半部分。キルア君、モモゼさんごめんなさい!



 とある大富豪

 

 

 

 最愛の恋人が交通事故により、昏睡状態になってから5年の歳月が経った。私はグリード・アイランドにある大天使の息吹と魔女の若返り薬を欲している。だが、それと同時にもう一つの手段も考えていた。だが、こちらを使えば彼女と共に過ごす事はできない。

 

『……ボクと……契約して……願いを叶えないの……?』

「叶えない。私が契約したら意味がない」

 

 私の肩に止まっている他人には見えない銀色の鳥。これは銀翼の凶鳥と呼ばれる存在だ。その者の命を使って心から願った事を叶える。その性質上、年老いた我が身では使えないと教えられた。

 

「旦那様。お客様がお見えです」

「通せ」

 

 執事が連れてきた者は少女だ。彼女の髪の毛は青紫であり、瞳は水色をしている。巫女という役割のためなのだろうか、服装は扇情的だ。彼女の美しい容姿と合わさり、神秘的な雰囲気を醸し出している。身長は150くらいだろうか? どちらにせよ、身長以上の杖を持ち、肩に銀翼の凶鳥を乗せている。

 

「初めましてバッテラ様。この度は我が教団に多額の寄付を頂き、誠にありがとうございます。私は銀翼教団の巫女をしております。以後、お見知りおきを……」

「うむ。それで、そなたならば治せると聞いたが、間違いないか?」

「はい。私ならば如何なる傷も病も治して御覧に入れましょう。ですが、それはあくまでも我が教団員のみでございます。我等が神を信仰し、我等の活動を支援していただけるのならば、若返る奇跡も得られることでしょう」

 

 ニコニコと笑う巫女の言葉は普通ならば有り得ないと断言できる。だが、銀翼の凶鳥を操る事ができるといわれているこの者達ならば、確かに可能なのかもしれない。グリード・アイランドという夢物語に縋るよりも、こちらの方が確実なのかもしれない。

 

「いいだろう。ただし、彼女が目覚めて若返ったらだ」

「奇跡を先に渡せということでしょうか?」

「そうだ。ペテン師に用はない。私が求めている事を叶えてくれるのなら、悪魔にだって捧げてやる」

「かしこまりました。それでは治療を行いましょう」

「契約書を交わさないのか?」

「必要ありません。私は貴方様を信じます。ですが、今度でよろしいので恋物語を教えていただけると幸いです」

「わかった。それぐらいならおやすいごようだ」

「ありがとうございます。では、蓋を開けてくださりますか? 死者の蘇生は無理ですので、生きている事を確認せねばなりません」

「ああ、開けてくれ」

「はっ」

 

 巫女が彼女の身体に触れ、生きている事を確かめていく。そして祈りを捧げていく。

 

「どうか誰も傷つけぬ、傷つけられぬ世界でありますように……」

 

 祈りを捧げ終えると、何時の間にか握っていた短剣を彼女に突き刺した

 

「なっ、何をする!」

 

 彼女の下に向かうが、心臓にしっかりと突き刺さっている。これではもう、助からない! 

 

修補すべき全ての疵(ペインブレイカー)

 

 巫女を睨み付けると、彼女は微笑む。次の瞬間、巫女から溢れる光が部屋を埋め尽くし、その全てが突き刺された短剣を通して彼女へと流れ込んでいく。するとみるみる内に彼女の身体が若返っていくではないか。

 

「はい。治療を完了しました」

「し、信じられん……本当に、本当に目覚めるのか?」

「もちろんです。我が信徒、18人分の生命力を使いました。一般の方に換算すれば180人分の生命力を使いましたので、しっかりと治療できていますよ」

「ひゃ、180人?」

「ああ、一般の方ならともかく、我が教団の信徒達なら死ぬ訳ではありません。血液が抜けて怠くなるような感じです。数日も栄養ある物を食べればもどります」

 

 一般人なら死ぬような力を使ったという事か。

 

「そ、そうなのか」

「私の力は生命力(オーラ)を多数の人から貰い、オーラを溜め込んで治療の力に変換する事ができます。ですので、この力を使用するのに教団員の命を使ったということです。

 運が悪ければ何人か死んだかもしれません。ですから、我が教団員限定で治療を施しております」

 

 確かにその通りなら、教団員限定にするのも納得できる。

 

「本当は他の方々も無料で治療したいのですが、そうすれば本当に教団員の皆様が死んでしまいます。ですので、教団員を増やし、誰も傷つかない優しい世界を作るためにバッテラ様のお力をどうか、お貸しください。私の治療の力は教団員が増えれば増えるほど、代償が少なくなるのです」

「ああ、わかった。いくらでも力を貸そう」

「ありがとうございます。それでは、お次はバッテラ様の治療を開始しますね」

「ま、待て。それで刺すのか?」

「はい。痛みも何もございません。神の愛を受けるだけです」

「ま、まっ」

修補すべき全ての疵(ペインブレイカー)♪」

 

 身体に短剣を突き刺される。痛くはないが、身体が熱くなっていき、急速に力が湧き上がってくる。腕の皮膚が若返り、筋肉もついていく。

 

「治療を完了しました。これで癌なども治療したので問題はないと思いますが、身体を動かしてみてください」

「あ、ああ」

 

 動かしてみると、若い頃の身体みたいに自由に動かせるし、まったく痛くない。

 

「あの方が目覚めるのは1、2時間ほどかかるでしょうが、その前に私は帰らせていただきますね。どうかゆっくりと恋人同士でお過ごしください」

「感謝する。送ろう」

「はい」

 

 外まで送ると、巫女が携帯を取り出してあたふたしながらボタンを押していく。

 

「あ、あれ? かからないです……おかしいですね。こ、これでいいはずなんですが……」

「間違っているのではないかね」

「こ、ここのボタンですよね?」

「むぅ。私もよくわからんからな……」

「あっ、ああぁぁぁっ! 画面が消えてしまいました! 壊れてしまったのでしょうか!」

「あ、あの、それ電源が消えただけです。私がやりますので貸してください」

「お、お願いします……寝たきりの生活だったので、機械には疎い物で……」

「そうなのか」

「私も神様に助けて頂いたんです。本来なら、死んでいるはずの身を父が願って助けてくれたのです」

「私と同じか」

 

 執事が巫女に質問し、父親にかけるとのことだ。少しすると電話が通じて、巫女が話していく。

 

「迎えはくるのか? 送らせようか?」

「いいえ、大丈夫です。迎えがすぐに来てくれますから」

「そうか」

「あ、来たみたいです」

「ん?」

 

 周りには何も無い。いや、目の前に黒い渦みたいなのが現れ、それが次第に門へと変化していく。その門が開くと、中から司教のような服を着た男性がでてきた。

 

「お父様、お迎えありがとうございます」

「ええ、無事にお役目が果たせたようでなによりですぅよぉ」

 

 彼が巫女の父親のようだが、生きているのか。

 

『早くして。何時までも開けていられないのよ』

「ああ、すいませんねぇ。それでは我々はこれで失礼いたしますぅぅ。後程、ご連絡いたしますねぇ」

「もちろんだとも」

「一応、警告はさせていただきますぅよぉ。我等が神を裏切ればぁ……このように殺されますぅ」

「っ!?」

 

 門から名状しがたい不気味な触手が現れ、彼の首に巻き付いていく。巫女の身体にも巻き付いているが、彼女は楽しそうにしながら、門へと何の抵抗もせずに引きずり込まれた。

 

「では、さよならですぅぅぅぅ!」

 

 男性も吸い込まれると、門が一人でに閉じて鍵が閉まる音がすると門は消えていった。

 

「だ、旦那様……悪魔と契約したのでは……」

「……構わん。悪魔であろうと、契約を遵守すればいいだけだ」

「かしこまりました」

「旦那様! お目覚めになられました!」

「そうか!」

 

 メイドの言葉に私はすぐに走っていく。ようやく、再会できるのだ。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「ラヴィニアや創造神様の反応はあったのかしら?」

「ありませんでしたよ。あそこは外れでした」

「そもそも、貴女の探し人はまだ産まれていないのではないですかぁぁぁ?」

「そんなはずはないもん。きっといるもん。再会するって約束したんだから……」

「いえ、それは貴女の記憶ではぁ……いえぇ、なんでもありませぇん」

「とりあえずパンケーキを食べましょう! 難しい事はパンケーキを食べれば解決します!」

「……それ、材料不明の無限に現れるパンケーキ……」

「美味しいですよ?」

「元はオーラなので、きっと大丈夫です。オーラをストックするアイテムでもありますしぃ……きっと、たぶん」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 飛行船に乗り、数日かけてカキン帝国からゾルディック家にやってきた。メンバーは私、ジャック、メンチ君、エリザ君、スクワラ君、ネオン君、わんこ達。そして、モモゼお姉様が入っているカプセルだ。

 

「さて、やってきたのはゾルディック家だが、あの門から入ったら襲われる。私達はこの壁みたいな門を動かさないといけないというわけだね」

「これ、重量はいくらよ……」

「良い質問だよ、メンチ君。軽い扉でも4トンらしいね!」

「無理! 私には絶対に無理!」

「ネオン君は無理だろう。この中でできそうなのは私とジャック、メンチ君くらいだろう。スクワラ君達は要修行だ」

「まじか。本当に開くのか?」

「まあ、私が試してみよう」

 

 門番の人はこちらに気付いて慌てて連絡をしているが、しらん。私は両手をつけて、思いっきり押してみる。うん、ビクとも動かない。

 

「駄目じゃない」

「非力な七歳児だからね。ふぅ~」

 

 オーラを使って全身を強化。スカートから足を前に出して全体重もかけて押してみる。すると、1の扉が動き、開いていく──

 

 

 ──と、思ったんだが、弾き飛ばされた。

 

 

「駄目じゃない」

「……トリム!」

「はい、マスター」

「開けてくれ」

「かしこまりました」

 

 トリムが試しの門に近付き、腕を振り上げて変化させる。それは円錐状の螺旋が刻まれた物、ドリルであった。

 

「待つんだトリム。それは何かな?」

「ドリルです。開けるのには最適です」

「誰に教わったんだ……」

「ウボーさんです」

「……扉は押して開ける物だ。決して穴を開ける物じゃない」

 

 まったく、なんて物を教えてくれる。確かに狩りの時にドリルにして硬い奴を貫かせたりもしているが──

 

「マスター、開きました」

 

 ──考え事をしている間に6の扉まで開かれた。6は確か128トンだ。順調に化け物になってきているね。

 

「どうだ。凄いだろう!」

「はいはい、凄いわね。トリムマウが」

「トリム、凄い」

「凄いです」

「よね~」

「うっ」

 

 トリムマウは私の力なのに認めてもらえない。こうなれば、月霊髄液を使うか? それなら多分、可能だが……意味がないな。

 

「おかあさん、わたしたちもしていい?」

「ああ、いいけどジャックならどこまで開けられるかな?」

「えいっ!」

 

 ジャックは4の扉、32トンまで動かせた。もちろん、オーラで強化ありだ。流石はサーヴァント(魔法少女)だ。

 

「メンチ君もやってみるかい?」

「やらないわよ。私は護衛なんだから、疲れたら動きが鈍るわ」

「わかった。それじゃあ、さっさと進もう」

 

 トリムマウと月霊髄液で扉を全て開かせて中に入る。全員で入ると、目の前の森から大きな魔獣がでてきた。とりあえず、睨んできて進路を邪魔されたから睨み返す。

 

「消えろ。き・え・ろ!」

 

 魔獣君はメンチきったらしっかりと消えてくれた。怯えながらだけど問題ない。シークレットガーデンで隠していても、私の膨大なオーラは獣だてらに感じ取れるようだ。

 

「何をやっとるんじゃ」

「邪魔だから退かしただけだよ」

「ただの八つ当たりじゃろ」

「見てたのかい?」

「うむ」

「ちっ」

 

 舌打ちしてから、迎えにきてくれたゼノ・ゾルディックに改めて向き直り、遊びは止める。

 

「キルア君と婚約するモモゼお姉様を連れてきた。しばらく滞在許可を頂きたい」

 

 手を上げて、お土産を運び込ませる。結納品ではないが、婚約に送る品としてはトラック一台分は十分な品物だ。

 

「どれも高級品じゃな」

「王族が利用している物だからね」

「まあ良い。滞在を許可する。案内するからついてこい」

「あ、執事の人を呼んで荷物を運び込ませてくれ。いっぱいあるから」

「これだけじゃないのか」

「お姉様の荷物がね。私達の分もあるが、他にも依頼したい事があるからね」

「わかったわい。おい、ゴトーに連絡して取りにこさせろ」

「は、はい!」

 

 さて、ゼノ・ゾルディックについて歩いていく。いや、私は月霊髄液を馬にしてそれに乗って移動する。トリムマウはお姉様が入っているカプセルを運ばせているからね。ネオン君達はばててしまうので、先に私達だけで移動する事にした。彼女達については執事用の館に行ってもらう。メンチ君もだ。彼女はハンター協会と繋がっているから、ここで待ってもらう。

 本人は渋っていたが、護衛はジャックがいればどうにかなる。相手もここで私を殺しにはこないだろう。いや、お兄様達から依頼がきてたらわからないがね。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 森の中を駆け抜け、険しい道を軽く踏破していく。私とジャックにとってはピクニックだ。いや、私は乗っているだけだけどね。

 

「そっちの嬢ちゃんは軽くついてくるな」

「彼女、百キロを超えて出せるから、余裕だよ」

「うん、わたしたちはこれぐらい、らくしょーだよ?」

「……スペックが完全に人間を止めとるの」

「魔法少女ジャック・ザ・リッパーだからね」

「なんじゃそれ」

「わかんない。でも、頭の中に浮かんでくるの」

「そうか。まあいいわい」

「確かにどうでもいいね。それよりも、さっさと行こうじゃないか。遠回りなんてせずにね」

「気付いておったのか」

「私の円は広くて隠蔽が可能だ。戦いたいのなら、戦うが……」

「戦うつもりはないぞ。ただのう……」

「ん?」

「早く着きすぎるんじゃ。あちらの準備ができとるかが……」

「ああ、なるほど。では、お茶でもして待つのはどうだい?」

「あるのかの?」

「紅茶なら」

「それでいいわい」

 

 そんなわけで、水銀を操作してテーブルとイスを作り、トリムマウに紅茶を入れさせる。ジャックにはお菓子をあげる。

 

「おかあさん、探検してきていい?」

「そちらに聞いてくれ」

「おじいちゃん、いい?」

「構わんよ。ただ、あまり遠くにいかんようにの」

「は~い」

 

 ジャックがすごい勢いで魔獣を追い出した。魔獣にとっては災難だろうね。

 

「それで、何時目覚めさせる気じゃ?」

「気付いたのかい?」

「お主が操って眠らせてるだけじゃろ」

「それなんだけどさ。私に考えがあるんだ。ちょっと協力してくれないかな?」

「内容によるのぉ~」

「私達って本国では王子だけど、本質はお姫様なんだよね。だからさ、やっぱり──」

 

 ゼノ・ゾルディックにお話しすると、呆れられた。ただ、彼女の母親に相談するらしい。

 

「いや、誰か来たね」

「そうじゃな」

 

 森の方から二人が出てきた。一人は帽子を被り、ゴーグルをつけた女性。もう一人は小さな着物を着た女の子だと、思われる子だ。

 

「初めまして。私はライネス・ホイコーロだ。そちらはキキョウ・ゾルディックとカルト・ゾルディックで間違いないかな?」

「ええ、お初にお目にかかります。キキョウ・ゾルディックと申します」

「カルト」

「よろしくね」

「よろしくするかどうかは、見極めさせて頂いてからにします」

「戦いは止めておけ。怖い護衛の悪霊に殺されちまうぞ」

「……そのようですわね」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この時点で彼女に勝ち目はない。ジャックが少しでも力を入れれば死ぬ事になる。

 

「この子はなんでも女性を殺す事に特化した能力を持っているのでしたか……」

「女性には即死攻撃だよ」

 

 カルトは何時の間にか現れたジャックに驚いているが、動こうとしてもトリムマウが肩に手を置いて押さえつけているので動けない。ゼノ・ゾルディックは優雅に私と紅茶を飲んでいるし、月霊髄液は私とモモゼお姉様をちゃんと守ってくれている。

 

「まず、愛しいキルアを攫っていく憎い子を見せてもらいましょうか」

「誤解があるが、攫う事はないよ。むしろ、ここで生活させてもらおうと思っているぐらいだからね」

「そうなんですの?」

「言ったはずなんじゃが……」

「あの時は怒っていましたから」

「こちらとしては基本的にモモゼお姉様の安全を確保できたらいい。ゾルディック家とのコネクションもそうだけどね。ただ、結婚は本人達に任せるとして、婚約はしてもらう。そうでないとお父様を説得できなかったのでね」

「ホイコーロの血が私達に相応しいか、どうかですわね」

「相応しいさ。互いに同じような血なのだから」

 

 継承戦について話すと、愉快そうに笑って取り入れようかと、真剣に考えだした。うん、隣のカルト君はガタガタと震えながら、涙目で余計な事を教えるなって睨んできている。

 

「ところで、その子の性別はどっちかな?」

「カルトか?」

「女じゃよ」

「よし!」

「な、なにっ!?」

 

 思わずガッツポーズをすると、カルト君が驚愕してゼノ・ゾルディックの後ろに隠れてしまった。これでとりあえず、グリード・アイランドに連れていく必要はなくなったか。外道? 知らないね。女の子ではなく、男の子なら、女の子に変えてしまえばいい。この世界にはその力が存在しているのだから! 

 

「そうじゃ、キキョウ。彼女から提案を受けたんじゃが……」

「なんですか?」

 

 内容を教えていくと、大いに策には賛成してくれた。ただ、その後の教育方針については互いに譲る事はなかった。

 

「だから、念能力は早急に覚えさせる必要があるんだ」

「それはそちらの理由です。キルアにはまだ早い」

「平行線じゃから、もう互いに望むようにすればええじゃろ」

「だが、それをするとキルア君が可哀想だよ? 念能力者とそうじゃない者には明確な差が生まれる。つまり、キルア君はモモゼお姉様に勝てない。男なのにね」

「そんなものいらないわ」

「いや、男の子として考えると必要だろう。そうだよね、ゼノ・ゾルディック」

「うむ。そうじゃの。それとゼノでええぞ」

「わかった。私の事もライネスでいい」

 

 私達が教育方針について話し合っている間にジャックはカルトと一緒に鬼ごっこをしている。鬼? 当然ジャックで、追われるのはカルトだ。楽しそうなジャックの笑い声と、カルトの悲鳴が聞こえてくるのがアクセントだね。殺人鬼VS暗殺者。どっちが勝つかなんてわかりきっているけれど、楽しそうだ。

 

「妥協点として、念能力については教えず、オーラを伸ばす訓練はさせるとかかの?」

「それ、無理だ。お姉様は既に覚醒させている。後は意識を戻すだけなんだ」

「……やはり、キルアについてはこちらの方針を優先させてもらいます。そちらはそちらで行いましょう」

「ふむ……それしかないか」

「というかじゃ、その子はライネスのコントロール下なら、そのまま操って修行をさせればええじゃろ。記憶を残らんようにできるかはしらんが」

「それは考えたけど、流石に……」

「なら、妥協して発展は教えずに基礎だけを教えるべきじゃな」

「それでなら私も納得しよう」

「……こちらもいいでしょう」

「じゃあ、計画を始めよう」

「ええ」

「やれやれ。わしは子供を連れていくから、先にいっとれ」

 

 ゼノの言葉に従い、先に屋敷へと向かう。そこでキルア君と初めて出会ったが、ちっちゃい生意気な少年だ。隣に居るシルバ・ゾルディックに紹介してもらい、こちらも紹介していく。

 

「キルア、話した通り、お前の婚約者になる者の妹だ」

「ライネス・ホイコーロだ。こちらはモモゼ・ホイコーロ。今は眠っているが、起こす役目は君に担当してもらう」

「いや、待てよ! 俺はまだ婚約なんて認めてないぞ!」

「では、私と勝負して、私が勝てば婚約者になって言う事を聞いてもらう。君が勝てば好きにすればいい」

「いいぜ。聞いた限りじゃ同い年だからな。俺が負けるはずない」

「では、勝負開始の合図をお願いする」

「いいだろう。開始だ」

 

 シルバ・ゾルディックの言葉に私に向けて飛び上がってくるが、私は彼の後ろから月霊髄液に押さえ込むように命令し、同時に言葉を放つ。

 

「跪け」

「なっ!?」

 

 隠を行った月霊髄液がキルア君を押し倒し、顔をこちらにしか向けないように固定していく。当然、月霊髄液は彼からは見えない。だらだらと汗を流していく彼は、必死に抵抗するが、無意味だ。月霊髄液のオーラを解放してやれば気絶するだろう。

 

「私の勝ちだ」

「ま、まだ俺は負けてない!」

「そうか。なら、次は頭を踏みつけてぐりぐりしてあげよう。それでも負けを認めなければ尻でも叩くか。だが、それぐらいじゃあゾルディック家の者が屈するはずもなし。よし、負けを認めるまで水銀に埋め込んでオブジェにし、試しの門に飾ろう。それとも母親と常に一緒にいてもらい、下の世話とかも──」

「俺の負けでいい! だから止めてくれ!」

「うむ。いいだろう」

「ライネス・ホイコーロの勝ちだ」

「では、これからキルア君はモモゼお姉様の婚約者だ。早速、私のお願いを聞いてもらう。拒否権はないからね」

「な、何をさせる気だよ! 変な事だったら親父が止めるからな!」

 

 解放してあげると、すぐに父親の後ろに隠れるキルア君はまだまだ可愛らしいね。

 

「簡単な事だよ。すごく、ね」

「ええ、そうよ。あ、準備しないといけないわね」

 

 私が彼に伝えた内容は簡単だ。私達は別室に引き上げ、同じくキルア君の部屋へと運ばれたモモゼお姉様。隠しカメラでキルア君の部屋にあるベッドに移されて残されたモモゼお姉様の様子をワクワクしながら見る。

 キルア君は顔を真っ赤にしながら、モモゼお姉様に近付いて、その唇に……キスをする。そのタイミングで操作して、お姉様を目覚めさせる。

 

「やっぱり、お姫様を起こすのは王子様の役目だろう」

「ええ、そうよね!」

 

 キキョウ・ゾルディックと二人でモニターを見詰めて楽し気にしているが、シルバ・ゾルディックは呆れていた。肝心の現場では──

 

『っ!? っ~~~~~~~~~!!』

『いってぇええええええええぇぇぇぇぇっ!』

 

 ──目覚めたモモゼお姉様に思いっきりビンタされてキルア君が吹き飛んだ。

 

「キルアっ!」

「あ~よくよく考えたら……お姫様側からしたら、いきなり知らない男にキスされているわけだし、こうなるのは必然か」

 

 二人で部屋に突入して、ベッドの上でシーツを身体に手繰り寄せて涙目で怯えているモモゼお姉様の所に向かう。キルア君にはキキョウ・ゾルディックが向かっているので大丈夫だ。

 

「ら、ライネスぅぅぅぅっ」

「あ~ごめんね、お姉様」

 

 お姉様を抱きしめて撫でていると、キキョウ・ゾルディックの悲鳴が聞こえてきた。また、聞き捨てならない言葉と一緒だ。

 

「キル! そのオーラを身体に纏うイメージをするのよ! イルミ、イルミィィィィ! キルが、キルがぁぁぁ!」

 

 ビンタが洗礼になってしまったようだ。そりゃ、モモゼお姉様は念能力者として覚醒しているわけだから、そうなる可能性は十分にあった。これは悪ノリした私のミスだな。しっかりと謝ろう。とりあえず、キルア君をコントロールして、死なないようにしてあげようか。イルミ君にコントロールされていなければだけど、その時は許可を取ってから針を抜いて改めてコントロールしよう。

 

 

 

 




お姫様は王子様のキスで目を覚ます。これを実際にやったら、どうなるかということを、キルア君とモモゼにやってもらいました。ごめんなさい!

き・え・ろについては知っている人がいるはず。傘を持った天族の方。

教団員の魔法少女は二名。アタランテを入れれば三名。
回復と神託担当の巫女(侵食率49%)
移動担当及び攻撃担当の魔女(侵食率86%)
なお、回復担当は信者のオーラを集めて保存する事ができます。その集めたオーラを無限のパンケーキにもできます。食べたら他の人もオーラを回復できるよ! 材料に何が使われているか、知っている人なら知っている。だが、彼女達はよく知らない。

アタランテ(侵食率13)
ジャック(侵食率92%)



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32話

気付いたらかなりの時間が経っていた。時間泥棒が怖いです。


 

 

 

 

 

 

「すまなかった」

「ライネスぅ~」

「怖かったよね」

 

 モモゼお姉様を抱きしめて頭と背中を撫でながら、あちらを確認する。覚醒したキルア君は即座にやってきたイルミ君によって操作され、事無きを得た。

 こちらが操作しても良かったが、彼にはすでに針が埋め込まれているようだし、手を出せない。いざという時は引き抜いてから私が操作するつもりではあったが、それをやれば関係は致命的になりうる可能性が多分にあるからね。

 

「そちらも無事なようで何よりだ」

「そっちも大丈夫みたいね」

「ああ、こちらは元々覚醒させていたからね」

 

 殺気と共に針を飛ばそうとしてくるが、それはすでにトリムマウが取り押さえた。首に剣に変えた両手をあてて、動けば殺すと伝えている。私はモモゼお姉様を慰めながら、キルア君とキキョウ・ゾルディックの二人と話すとしよう。

 

「さて、まずキルア君。悪かった。お姉様を起こすのにはどうしても必要な事だったのでね。悪い魔女に呪いをかけられていたんだ」

 

 悪い魔女とはもちろん、私の事だがね。私は自分が善良な存在なんてとてもじゃないが言えない。魔術師なのだから当然ともいえるが。

 

「そ、そうよ。ごめんなさいキルア。これも必要な事だったの」

 

 キキョウ・ゾルディックも乗ってきたな。さて、お姉様にもしっかりと説明しておこう。

 

「お姉様、お姉様はピクニックに行った日から気を失っていたんだ。起こす方法を調べていたが、その方法が判明した。それが運命の相手に口付けしてもらう事だったんだよ」

「「え?」」

 

 キルア君とモモゼお姉様、それに他の人も驚いているが、このまま騙してしまう。肝心な所は二人の知らないところで話し合いをすればいいだけだ。今はこの二人の関係が壊れず、順調に進むように誘導する。

 

「私の配下に百発百中の占いをする子が居てね。その子に占ってもらって複数ある候補から、お姉様に相応しい相手を選別した。もちろん、これはお父様の許可もいただいている」

「それって、私は王位継承から外れるって事……?」

「まあ、結婚した時の形態にもよるだろうね。婿入りならば継承権は残るだろうが、ゾルディック家との契約では嫁入りだ」

「それって、ライネスは私が王になる事を無理だというの?」

 

 お姉様が顔を上げて涙目で睨んで来る。可愛らしくて虐めたくなる。よし、虐めよう。

 

「そうだよ、お姉様。そもそもお姉様は私に勝てると思っているのかな?」

「無理!」

「即答か」

「だって、ライネスには勝てないもの。私はライネスに何一つとして勝った事はないんだよ?」

 

 年齢の差もあるから仕方が無い事だが、お姉様から見たら妹が優秀過ぎたのか。まだ理解できる範囲で近ければ嫉妬したかもしれないが、私とお姉様では隔絶した差が生まれている。追い付く事は普通なら不可能だ。

 

「まあ、そうだね」

「でも、わからないからちゃんと説明して欲しい。こういうことは嫌だよ……」

「ああ、それはもうしないさ。それと先程言った事だけど、お父様が認めたという事は事実で、婚約は正式に成立した。後はお姉様が成人したら結婚してホイコーロから籍を抜いてもらう」

「婚約はどうしてなの?」

「お父様は私達兄弟姉妹で殺し合いをさせるつもりだ。これは我が家が代々行ってきた儀式で、お父様も経験なされているから確実だ。だから、私にとって大事なお姉様を婚姻という形を取って逃がさせてもらうことにした」

「……私が近くにいたら邪魔なんだね?」

「今のお姉様では邪魔かな。私の力で守り切れない」

「わかりたくないけれど……私わかった……邪魔したくないから……」

「お姉様、私を手伝いたいのなら、力をつける事だよ。幸い、ここは力を蓄えるには持って来いの環境だ。それに婚約者である彼もいるしね」

「あの子が……?」

「切磋琢磨する相手は大事だよ。それに私達の血筋に相応しい相手だ。悪いけれど、これはお父様も決められた事だから、相手は変えられない」

「キルアが不足だとでも?」

「まさか。素晴らしい相手だと思っているよ。だからこそ、お姉様の相手に選んだのだから。それに幼い頃に会ったのだから、互いに話し合って悪い所を直し合っていけばいい関係を築けるだろうさ。言ってしまえば相手を好みになるように育てればいい」

「「無茶いうな! /言わないで!」」

 

 二人は同時に発言した後、溜息をついた。

 

「お前も苦労してそうだな」

「あなたも……」

「ああ、それとキルア君もお姉様を娶るメリットはある」

「なんだよ?」

「私が力を上げるし、金銭的にも支援してあげよう。例えば、そこに居る怖いお兄さんを圧倒する力とか、興味ないかい?」

「ある! 無茶苦茶ある!」

「両親を超える力も手に入るかもしれない」

「まじか!」

「私は現時点で一時的とはいえ、ゾルディック家に勝利したから、証明は十分だろう?」

「おお、本当なのか?」

「この婚姻は勝利した時の条件だ。勝負に持ち込んだ対価はこの国もろともゾルディック家を皆殺しにしないことだ」

「ちょ、お前……母さん、事実なの?」

「そうみたいね。業腹だけど、私達が人質に取られ、それでも依頼を遂行しようとしたらしいわ。そこで彼女が持ち掛けた勝負に乗り、シルバ達が負けたの」

「どうやったんだよ?」

「これから教える力についてだから、まだ詳しくは教えない。交渉に持ち込んだ方法は簡単だ。とても強力な爆弾をこの辺りに仕込ませ手勢に爆発させるだけの簡単な仕事さ」

「わかった。お前がやばい奴だってことは理解した」

「か弱い幼女の自衛手段だよ。暗殺者一家に狙われたら死ぬのは間違いないからね。報復する準備は整えておかないとね?」

「ライネスがか弱い……?」

「何か言ったかな、お姉様?」

「ナンデモナイ」

 

 身体強化して、お姉様を抱き上げてキルア君の横に運んで座らせる。すると二人は至近距離で見つめ合った後、すぐに目を逸らした。頬はほんのりと赤くなっているので、キス作戦は意識させるのには成功したようだ。

 

「初々しいキルアも可愛いわね」

「うむ。だが、ほんのりと照れているお姉様も……」

 

 そう言うと二人に睨まれたので、大人しく出ていこう。

 

「さて、後は若い二人に任せて私達は外に出ませんか?」

「でも……」

「話し合わないといけない内容がありますからね。護衛は外に待機させておけばいいでしょう」

 

 キルア君の育成について相談があると、オーラで文字を作って見せれば、凝を使っている彼女は納得してくれたようだ。

 

「それもそうね。イルミ、操作だけはしっかりとしておきなさい」

「わかったよ、母さん」

「ああ、トリム。君も残ってお姉様の護衛を頼む」

「かしこまりました」

 

 私の護衛はジャックと月霊髄液で十分だ。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 移動している最中もイルミ君に殺気を向けられたり、針を飛ばされそうになったりしたが、ジャックが遊び相手と認識したみたいで、後ろから首元に抱き着いてナイフをあてようとしたり、飛ばされた針を撃ち落としたり、とても楽しそうに遊びだした。イルミ君も沢山の汗を流しながら楽しそうに駆け回っている。

 

「それで、あの子にも着物を着せていいと思うのよ」

「確かに似合いそうだ。私はそういう事に疎いから、全部そちらに任せるよ」

「あら、それじゃあ貴女も一緒に選びましょうか」

「え!? そ、それは遠慮したいのだが……」

「駄目よ」

「ま、まあ、じ、時間があればね」

「あら、時間は作る物よ」

「あ、はい」

 

 駄目だ。逃げられそうにない。正直、女性の服を着るのは違和感がある。ライネスが着ているような服ならロールプレイの一環として何ら問題はないのだがね。下着とか、見えない部分はやはり抵抗がある。

 

「さて、ついたわね。入るわよ」

「うむ。開いている」

「ええ」

 

 扉の中には既にシルバやゼノ・ゾルディック達が座って待っていた。マハ・ゾルディックは我関せずのようで、こちらに干渉するつもりはないようだ。

 

「さて、キルアが念能力に覚醒したようだな」

「ごめんなさい」

「すまない」

 

 まず、座ってから二人でしっかりと謝る。これに関しては私達が悪乗りした結果だしね。

 

「まあ、覚醒しちまったもんは仕方ないわい。それよりもこれからどうするかじゃ」

「そうだな。親父の言う通り、育成計画がかなりずれた。その責任は取ってもらうぞ」

「わかってるよ。こちらは元々、お姉様を鍛えるつもりだったんだ。一緒に面倒を見ようじゃないか」

「キルアの育成について、私もしっかりと参加させてもらいますからね」

「むしろ、この四人でお姉様も含めて話し合おうじゃないか。掛かる施設や物資などの資金は全てこちらで用意するし、教材も準備できている」

「まあ、それが一番無難じゃの」

「ああ。これが元々キルアを育成する計画だ」

「拝見する」

 

 キルア君の育成について渡された書類を見て確認していくと、なんというか厳しすぎる。逃げだしたくなるのもわかるね。鞭ばかりで飴がほぼない。

 

「訓練にゲームや遊びを入れるとして、ご褒美を入れた方がいいね。自分から頑張るように誘導した方が成長しやすいし」

「そうじゃが、どうするんじゃ?」

「遊園地とかに連れていったらいいんじゃないかな。防衛の観点から買い取って運営し、こちらが必要な時に貸切るか。普段は一般客に開放すれば資金調達もできるし、珍しい生物の研究と展示をすれば喜んでもらえるだろう」

「その辺は任せる。俺にはわからん」

「私も男の子の事はあまり……」

「まあ、そっちは任せてくれたらいい。逆に戦闘技術に関しては私はよくわからないから、そちらに任せる。互いに得意分野を持ちよって教育しようじゃないか」

「うむ。それでキルアの能力についてだ」

「そちらが想定していたのはなにかな? この計画書からして電撃に関する事だろうが……」

「その通りだ。素早く移動し、敵の命を刈り取る。だが、計画の変更によってキルア本人の意思が重要になる」

「それは任せてくれないか。私に考えがある。少しミルキ君を借りるが、キルア君が電撃に興味あるように誘導してみせよう」

「どうするんだ?」

「何、アニメとゲームを一本ずつ作るだけだ」

 

 ちょっと多額の金を投資して、雷系の主人公が活躍する話を作る。それに敵として針使いとかも出せばベストだ。利益など必要ない。最新技術と念の技術をふんだんに使ったアニメとゲームだ。それにキルア君をプロファイリングして、彼の好みそうな要素を突っ込みまくってやる。

 

「こんなので誘導できるのかしら?」

「間違いなくできる」

「では、それが完成するまでは基礎訓練でいいな」

「ああ、基礎はとても大事だ。私も未だに続けているしね」

「まだまだ幼いじゃろ」

「まあね」

 

 詳細を詰めていこう。ちなみにキルア君とお姉様だけでは可哀想だから、他の皆も同じ訓練をさせる。オーラが足りなければ私が供給してやればいいだけだから、なんの問題もない。自前のオーラを限界まで使い尽し、私のオーラで身体を維持して訓練を続けさせる。操作能力はとても上がるだろうし、私のオーラに刺激されて容量も増えるかもしれない。とっても楽しみだ。ああ、本当にスクワラ君、早く犬の魔改造をしてくれないかな。モフモフしたいぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ キルア

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、何を話したらいいんだ?」

「……自己紹介からお願い、します……」

「そっか。俺はキルア・ゾルディック。よろしくな」

「モモゼ・ホイコーロよ。よろしく」

 

 とりあえず、自己紹介は終わった。キスの事は謝った方がいいのだろうか? でも、俺が悪いわけでもないし……

 

「ごめんなさい。その、ぶってしまって……私を起こしてくれるためだったのに……」

「あ~いや、俺も悪かった。言われた通りにしただけなんだ。だから、その……な?」

 

 先に謝られて、泣き出したので慌てる。

 

「それに婚約者なんて親が言っているだけだし、気にするなよ」

「わ、わたしの初めてを取ったのに、責任を取ってくれないの……?」

「そ、それは……」

「……もう、死ぬしか……」

「なんでそうなるんだよ!」

「婚約者として相手の所に滞在して、身体の接触を終えたのよ? このまま戻されたら、出戻りと言われて……」

 

 詳しい話を聞いていくと、お姫様として色々と仕来りとかがあるみたいだ。このまま連れ戻されると、殺されるか、数十歳は年の離れたおっさんとかに嫁がされて、酷い事をされるらしい。よくわからなかったが、何が嫌なのか聞いたら、自分の母親と裸で一緒に寝たり、風呂に入ったり、四六時中一緒にいたりしないといけないらしい。それは凄く嫌だ。母親以外にも色々と説明されたらマジで嫌だった。

 

「悪かった。俺が悪かった。最悪だな」

「だから、捨てないで……」

 

 縋り付いて泣いてくるモモゼに悪い気はしない。俺が面倒をみてやればいいだけだしな。こいつも出来過ぎる妹を持って凄く苦労しているらしい。俺の場合はくそ兄貴や親の期待だけど。逆にこいつとあのライネスっていう妹は母親から見捨てられているらしい。羨ましいとは思うが、周りが敵だらけの所らしいので、俺よりもひどい状況だと思う。

 

「捨てないから泣き止めって。泣かれると困るんだ」

「わ、わかったわ」

「それでいい」

 

 少し離れると、さっきまでモモゼを抱きしめている部分が温かくて、少し濡れている。それに良い匂いもして、ドキドキしてきた。

 

「で、これからどうしたらいいんだ?」

「わからないの」

「では、僭越ながら私がお教えします」

「トリム、だったかしら」

「はい。このお見合い項目をどうぞ」

「えっと、ご趣味は……? 私は編み物やぬいぐるみを作る事です」

「俺は……なんだろ? お菓子を食べる事か?」

 

 それから、お見合いとかいうのに必要な項目について互いに話し合い、嫌いな事や止めて欲しい事。逆に好きな事ややって欲しい事とかを話していった。それでわかったのだが、アルカみたいに接すればいいのかもしれない。アルカと同じく、モモゼは本当に弱いから、俺が守ってやらないと駄目だろう。

 

 

 

 

 

 半年ほどが経った。モモゼと一緒に過ごしながら親父から教えられた念とかいうのについて修行する。ちなみにくそ兄貴はライネスに喧嘩を売って俺達の教材代わりによくボコられていた。ジャックという子供と親父や爺ちゃん達。それにライネスも戦っていたりするので、ライネスの強さがやばいという事はだんだんと理解しだした。いや、アイツの場合はトリムってのがやばい。トリムを攻略すればライネスはくそ弱かった。多分、俺でも勝てそうだ。本人もトリムがやられたら負けると言っていたので事実だろう。

 モモゼの方が寝ている間に修行させられていたらしくて感じる力は大きくて嫉妬するが、それ以外は順調に仲良くなっていると思う。

 

「ずるいよな。寝ている間も修行できるなんて……」

「ライネスに聞いてみればいいんじゃないかしら?」

「ライネスか……アイツ、こっちにあんまり居ないんだよな」

「ライネスなら、こっちに居るわよ」

「わかるのか?」

「双子だから、なんとなく?」

「そんなもんか」

 

 モモゼが案内していった先に、爺ちゃんと二人で赤い傘をさして庭に敷かれた畳とかいうのの上で座ってお茶を飲んでいる姿があった。二人共、着物を着ていて、お菓子を食べている。

 

「ずるいぞ!」

「お、キルアにモモゼか。丁度ええわ。お前達も座るといいぞ」

「ふむ。二人か。お菓子は充分だが、飲み物は子供が飲めるような物ではないな。ジュースを持ってこさせよう」

「いや、俺だって飲める! なめんな!」

「いいだろう。モモゼお姉様はどうする? お勧めはジュースだが……」

「キルアと同じで挑戦してみるから、お願いできる?」

「わかった。二人の挑戦に敬意を表して入れてあげよう」

「やれやれ。じゃあ、作法を教えてやるわい」

 

 爺ちゃんに教えてもらいながら、正座というのをしながら待つ。拷問の訓練でやった事があるから平気だ。逆にモモゼは辛そうだ。観察していると、ライネスが正座しながら変な形の大きなコップっぽい物に緑の粉を入れてお湯を入れてからシャカシャカとかき混ぜていく。

 爺ちゃん曰く、回して互いに飲んでいくようだ。飲んでみると無茶苦茶苦い。でも、ああ言った手前、ここで諦めたらかっこ悪い。

 

「菓子を一緒に食べると苦味が減るぞ。そのためにかなり甘く作られとるしの」

「そうなんですね」

「うむ。ほら、食べるとええ」

「はい」

「わかった」

 

 二人でお菓子を食べると、確かに甘くて不思議な感じがした。わざわざ苦い思いをして甘い物を食べるなんて不思議だ。

 

「ところで修行は順調かな?」

「ああ、それなんだけどモモゼだけずるいんだ!」

「ずるい? 何かしたのかの?」

「ライネスがしているというか……」

「ああ、もしかして寝ている間に自動で訓練してくれるアレか」

「そんなのがあるのか。便利じゃな」

「操作系能力で無理矢理操っているだけさ。寄生型の念だと思ってくれ。だから、キルア君には使えない」

「なんでだよ!」

「それにはシルバお義父さん達の許可がいるからだよ。それに聞いたかも知れないが、操作系能力はすでに操作されている場合は受け付けないんだ」

「それってもしかして、俺って……」

「イルミ君の仕業だよ」

「あのくそ兄貴!」

「ライネス、どうにかできないの?」

「それに関してはあくまでもゾルディック家の事だしね。私はあまり関与できない。お姉様についてはさせてもらうが、その辺はどうかな?」

「シルバに相談するしかないの。キルアを殺さんための安全装置じゃし」

「ちっ」

 

 まあ、親父を説得すればいいだけだな。それに疑問に思った事についても色々と聞いてみるか。ライネスに質問していくと、色々と教えてくれた。

 

「私は今、君がイルミ君を圧倒して倒せるように育成計画を進行している。だから、基礎訓練をしっかりとして欲しい」

「本当に俺が兄貴を倒せるのか?」

「ああ、むしろ私の想定通りに行くと相手にすらならんよ」

「まじか!」

「マジだ。丁度いい。完成した物を見せてあげるよ」

「なんだ?」

「ライネス、私には?」

「お姉様の分もちゃんとあるよ。私の個人資産から数億だして作らせたからね」

 

 そう言って、どこかに連絡するライネス。少しすると執事の奴が大きなテレビを持ってきた。デッキもセットだ。そして、カルトも来た。

 

「なんで兄さんたちがいるの?」

「それはこっちの台詞だ」

「ボクはライネスに呼ばれたの」

「うむ。カルト君は和服を着ているからね。こういう催しはいいと思うんだ。それに彼女にとっても今から見せるのはためになるからね」

「なんでカルトは特別なんだよ」

「義妹だからだよ。何か問題があるかな?」

「あ~」

「ライネス……」

「なんで私の方が後に生まれてきたんだ……そうしたら、ジャックのようにかわいがるのに」

「いや、あれは遠慮したいよ」

「まあいいか。それより、今から見せる映像はこれから能力を開発するのに勉強になる」

 

 そう言って、渡された眼鏡をつけて見せられたのはアニメだった。もう一度言う。アニメだった。登場人物は雷使いと人形使い、紙使いが邪悪な針使いを倒すというストーリーで立体的なアクションシーン。派手なエフェクト。雷を身に纏った奴が針使いの攻撃を避けたり、飛んできた針を電磁波で止めて跳ね返したりと、やりたい放題だ。

 人形使いは様々な特殊能力を持つ人形を操り、戦うタイプみたいだ。こっちも結構強いけど、速さが圧倒的に雷使いの方が高いので勝てるようだ。紙使いは色々とえげつない戦法とかが多かった。紙を折り紙にして飛ばすのは普通で、その折り紙が爆発したり、発火したり、凍ったり、紙で巨人を作ったり、攻防一体の便利さだった。逃げる時も紙吹雪でかく乱し、大きな鶴にのって逃げるなど本当にすごかった。

 

「どうかな。これが私なりにキルア君がイルミ君を攻略する方法として考えてみた」

「なるほど。確かに針を防ぐか回避すればいいわけだ」

「当たらなければどうということはないのだ」

「当たりそうになったところで、電磁波で撃ち落とすと。確かに考えられとるが、これはちと難しくないかの?」

「イメージしきれないだろう。だから、ゲームも作ってみた。VR用対戦格闘ゲームだ。オンラインで多種多様なプレイヤーと対戦できる……といいたいが、流石にそれは無理だ。これは念能力者専用ゲームだからね。しかも自分の念能力を登録しないとできない。私の配下達や執事達の訓練ツールとして開発した。だから、ゼノお爺ちゃんも登録して欲しい」

「よかろう。孫のためじゃしの」

「三人は一応、こちらで能力を考えてみたので試してみて使い勝手が悪ければこちらのツールで改造及び修正してくれ。君達のメモリよりは少なくしてあるから大丈夫だとは思う」

「では、キルア君。質問だ。君は直流と交流、どちらが好きだね?」

「何言ってんだ?」

「いや、これからビリビリ訓練が始まるからね」

 

 ライネスに説明された内容は単純だった。念を電気に変えるためには電流を浴び続けないといけない。そんなわけで小型のビリビリ君なる装置を開発してきてくれたらしい。持っているだけでバッテリーから大量の電気を流し続けてくれるという優れ物。本当は体内に小型の炉心を搭載するのがいいらしいが、そこまで小型化には成功していないようだ。話を聞いて思ったのは、ライネスはガチでやばい奴だ。

 

「ちなみに自分の身体で試してみたがすご~く痛くていっぱい泣いた。電磁加速砲はロマンなので、諦めはしないが……私の柔肌が大変な事になっているよ。やれやれ」

「解決法はないのかの?」

「個人で完結しなければあるよ。要は電力を生み出す装置があればいいんだ。なら答えは簡単だ。お姉様の人形に搭載して、キルア君が溜めた電力が無くなればそこから補充すればいい。いざという時は装置ごと人形を自爆させれば特攻兵器としても使えるから一石二鳥だね」

「ら、ライネスぅ~」

「ああ、泣かないでくれお姉様。お姉様の大切なぬいぐるみだと理解はしているが、お姉様やキルア君の安全の為ならば使い捨てるべきものだ。そうすればまた作り直せるからね。でも、お姉様やキルア君は死んだら戻らない。それをしっかりと覚えてくれ」

「う、うん……」

 

 モモゼはぬいぐるみを作るのが趣味との事でもらった。俺とモモゼが手を繋いで中心にいるもので、俺達の隣にはカルトとライネスがいて、後ろには親父達がいる。ちなみに俺や親父達にはそれぞれ小さいぬいぐるみのキーホルダーと大きいぬいぐるみが贈られていて、母さんは喜んでいたけど親父達は扱いに困っていた。くそ兄貴はモモゼの前で捨てやがったけど。ブタ君はなんともいえない表情だったが、フィギュアと一緒に置かれているのが前に訪ねた時に見えた。モモゼは特に気にせずにブタ君とも付き合っているし、ライネスに至っては何故か意気投合しているからな。たまに言い合ったりもしているけど。ちなみにアルカの事を話して、アルカのぬいぐるみを作ってもらったりもしている。

 

「ミルキ君に作らせた電子回路と動力炉を搭載し、ミサイルとか積み込んだら面白いと思うのだが……」

「それもうぬいぐるみじゃないだろ!」

「ライネス……怒るよ?」

「……戦闘用にいくつかは作ってくれ、素材は提供するからさ。モモゼお姉様達を護衛する戦力は必要だから。イルミ君に狙われる可能性もあるからね。もし、それでお姉様が死んだら、ゾルディック家と戦争になるからね。ホイコーロとしても、妹としても、手段や犠牲を厭わずに報復する事になってしまう」

「わかった。ライネスが私の為に色々と考えてくれているのも理解しているから、頑張ってみる」

「お願いする。さて、カルト君はどうだね?」

「うん、凄い。これ為になる」

「他にもこんな物がある。ザ・ペーパーと言ってね……」

 

 ライネスがカルトに世話を焼いている。それを少し嫉妬したような視線で見ているモモゼ。そこまで思われているライネスに俺は……いや、何を考えている。それよりも今はくそ兄貴を叩き潰す方法を身に付ける事が先決だ。

 

 

 それからしばらくして、俺は無事に電撃を覚える事ができたし、モモゼもぬいぐるみを操る事ができた。カルトも折り紙を操るようになって、成長が凄く速くなった。最初は勝てていたのに電撃が切れるまで勝てないようになってきた。モモゼの協力があれば勝てるが、なければやばい。成長したカルトの能力に親父や母さん達はかなり喜んでいて、カルトも満更ではないようだ。

 ただ、常に本を読んでいないと落ち着かなくなるほど本好きになったのは問題だと思う。後、元にしたザ・ペーパーよりも明らかに強い。だって、陰陽師みたいな事までできるようになってるし。その上に式神召喚ってなんだよ。この式神はブタ君とライネスが作ったロボットらしいけど、装備がやばい。ガトリング砲にミサイルとか、どこの戦艦だよっていうレベルだ。ちなみに動力はライネスが事前に貯めておいたオーラだ。カルトじゃすぐに枯渇するらしい。親父達でも無理な量のオーラが使われている。それほど、ライネスのオーラは総量が馬鹿みたいにあるようだ。

 まあ、カルトは強くなったおかげか、俺とも普通に話すようになったし、モモゼと良くおしゃべりして、母さんと買い物に行くようになった。俺もたまに付き合わされるが、その時はモモゼが基本的に横で話し相手になってくれているので助かる。

 そんな日々が過ごす中、理不尽なイベントが巻き起こった。

 

「ちょっと三人で狩りに行こうか」

 

 俺達が訓練と称してライネスにボッコボコにされた後で気絶する前に告げられた言葉だ。そして、次に気付いたら三人で無人島に放り込まれていた。手紙が残されていて、自力で指定された獣を狩ったり、獣の角を取って帰ってくるようにとの事だ。相手は仮面の怪物でくそ強く、何時襲撃してくるかもわからない危険な存在だった。島全体も常に霧がでていて、視界も悪く、恐怖しかない。

 

 

 

 

 

「じゃあ、後はよろしく頼むね。シルバ・ゾルディック」

「了解した」

「一応依頼だが、殺さないように頼むよ」

「当たり前だ」

「この前、実験でうちの部下と執事達を叩き込んでやったら殺しかけたじゃないか」

「アレは、まさかネオン・ノストラードまでいるとは思わなかったからだ」

「まあ、事無きを得たからいいけどね」

「おかあさん。わたしたちも遊んでいいんだよね?」

「姿を変えて遊んでおいで。ただし、禁止事項は覚えているね?」

「うん! 殺さない! 手足を切り落とさない! 軽く斬ったり痛めつけるだけ!」

「そうだ。これはあくまでも遊びであって殺し合いでもない。仮面の角を取られたら終わりだからね。それと島に設置した宝箱はくれぐれも壊さないように」

「は~い。じゃあ、いこー!」

「ああ」

「肩に乗ってると、まるで親子だね」

「おとうさん?」

「待て。それをキキョウに聞かれると俺がやばい」

「おじいちゃんが正解だね。まあ、楽しんでおいで。私がやばくなれば召喚するから、それまで決まり事さえ守れば好きにやるといい」

「うん。またね、おかあさん!」

「いってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

 

 




カルトの能力を見てザ・ペーパーだと思った人は少なくないはず……
ちなみに書くつもりは今の所ないですが、キルア君達三人の訓練はハガレンで師匠によって無人島に放り込まれた感じです。
鬼はシルバ・ゾルディックとジャック・ザ・リッパー。手加減はしてくれるけれど、強さはとんでもないです。

カルト君の念能力、式神召喚はゾルディック家の倉庫にある式神ロボットを召喚、転送及び送還するだけの力です。事前に神字を書き込んだ札で陣を形成して、ロボットを置いておきます。続いて呼び出すところに陣を作って召喚する感じです。つまり、趣味的な感じなのでほぼ使えない。兄と義理の姉のお願いだから仕方なく聞いているだけです。なので普段はこれを使って本や紙を召喚します。
キルア君は原作通りで、神速と放電を覚えたぐらいです。ヨーヨーはまだありません。
モモゼの念能力は自分で作ったぬいぐるみを操作するだけ。現状では三体までです。一つは発電機搭載型。もう一つは竜の爪装備の近接戦闘タイプ。最後はガトリング砲装備の射撃タイプ。念弾を放つ感じですね。ライネスのオーラがないとまともに運用できない物です。


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33話

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。(おそ)



 

 

 

 お姉様達を島に閉じ込めて鍛えてもらっている間、私はクルタ族復興のためにかの村を視察に向かう途上に居る。というのも、パリストン・ヒルを処分してハンター協会にもメスを入れたから、そちらの方にまで手が回らないのだ。

 まあ、ちゃんと緋の目は確保してあるから問題ないのだが、式典の方を行うために私が直接出向いて指揮を執った方が手っ取り早い。そんな訳でクルタ族の村へと向かう事になった。

 もっとも、寄り道はする。クルタ族の近くには欲しいものがあるからね。それにお姉様やキルア、カルトが頑張ったご褒美としてある物を手に入れるためでもある。

 そんなわけで、例の物がある田舎へとやってきたんだが、すでにちょっと涙目だ。なんでこんな悪路をはるばる高級車に乗って自分できたんだろうか。人に頼んでおけばよかった。それこそハンターに頼んでもいいレベルだ。

 まず、悪路によって揺れ動いて私の、ライネスの可愛らしいお尻が痛くなるだろう。気分的に。あっ、今も何かに乗り上げて上下に揺れた。月霊髄液をクッションにして安全を確保しているが、これでは車内で仕事ができない。それに──

 

「ライネス、また襲撃よ」

「今度はなんだい? 巨大な狼かね? それとも巨大な猪? もしかして目玉の生物かね?」

「ワイバーンね」

「話の途中だが、ワイバーンだ。という奴か」

「いえ、何を言っているのかわからないんだけど?」

「なんでもないよ。トリム、排除しろ」

 

 ──FGOのネタは運転手であるメンチには伝わらない。一応、ベンジャミンお兄様から派遣されている施設警備の人は施設に置きっぱなしなので、気楽にトリムに命じてGE製の30mm ガトリング砲、GAU-8 Avenger(アヴェンジャー)を使わせて迎撃させる。

 口径30mm、銃身長2,299mm、使用弾薬30x173mm、装弾数1,350発、全長6.40m、銃本体の重量が281kg、システム重量1,830kg。毎分3,900発。銃口初速1,067m/s、有効射程1,220m。空を行くワイバーンでもトリムの銃弾を空にばら撒くことで撃ち落とし、落ちたワイバーンをトリムの体内に取り込んで銀の鳥をトリムごと回収する。

 

「なんでこんなに襲われるのよ!」

「さあ、わからないが……案外、私達が美味しそうだからかもしれんよ」

「食べられるのとか、絶対に嫌よ」

「むしろ食べる側だしね。今回の目的も……」

「ええ、美味しい物を求めてよ。っと、到着したみたいね」

 

 私達がここまでやってきた理由は一つ、皆のご褒美に買おうとした物は高級品で人気の商品だ。だが、流通ルートが魔獣に寸断されて供給が途絶えたらしい。だから、生産する村へ出向いて直接、買い付けに来たわけだ。まあ、少し遠回りするだけだと思ったからだが、それが魔獣に襲撃を受けまくっているわけなのだよ。

 

「やっとか。歓迎は……されていないわけではないようだ」

 

 簡易的なバリケードと門を抜けると車の近くに村人達が武器を持ってやってきていた。彼等の表情は恐怖と安堵がごちゃ混ぜになったような感じだね。

 

「ちょっと事情を聞いてくるから、護衛対象のライネスは出ないようにね」

「ん~そうだね……いや、私も出よう」

「危険は……いや、ライネスなら問題ないか。見た感じ、使い手は……居るわね」

「居るね。だからこそ、私も出た方がいい。室内では戦い方が限られるしね」

「わかったわ」

 

 外にメンチが扉を開いてくれるので、外に出る。すぐに視線が集まってくるので、私は着ている緑色のワンピースを掴んで挨拶をする。挨拶は基本だしね。

 

「私はライネスという。面倒な事は嫌だから家名は伏せさせてもらう。こちらは護衛のメンチ君だ。それで、これはどういう状況かな? 事と次第によってはこちらも対応しないといけない。一番偉い人が教えてくれると助かるのだが……」

「それならわしじゃ。わしはこの村で村長をしておる」

「なるほど。では、まずはその物騒な物を下げて文明人らしく話し合いをしようじゃないか。こちらに戦闘をする意思はないのだが、降りかかる火の粉は払わなくてはいけないのでね」

「ああ、これは失礼しました。我々も連日、魔獣の襲撃と先に響いた爆音で警戒しておったのですじゃ」

「なるほどね」

 

 村長が指示を出すとすぐに武器を下げて散っていった。おそらく、警戒に戻ったのだろうね。何人かはこちらを監視しているのがわかるし、間違いはないだろう。

 

「それでライネス様は国が派遣してくださった役人の方でしょうか? それともハンターの方でしょうか?」

「違うね。私はただのしがない買い物客さ。こちらの村で作られている物を買いに来たんだ。都会の方で買おうとしたが、流通ルートが寸断されて品切れと伺ったのでね」

「そ、そうですか……で、ですが、魔獣を突破できる実力はあるのですよね?」

「私の護衛は優秀だからね。彼女は私が雇っているハンターだし」

「ま、まことですか!」

「ええ、確かにアタシはハンターよ」

「それでしたら魔獣の討伐をお願いできませんか!」

「ライネス……」

「おいおい、駄目に決まっているだろう。メンチ君は私の護衛だ。二重契約は感心しないなぁ~」

 

 こちらを縋るように見てきた村長とメンチ君の視線に片手を後ろにやってもう片方の手の親指を唇にあてながら笑う。

 

「ま、そうよね。アタシは無理だけど、ハンター協会や国に依頼は出しているんでしょう?」

「国には依頼しましたが、国の持つ戦力では対処できないので、ハンター協会を頼れと……」

「まあ、ここの国は軍事力が低いしね」

 

 この国は経済を優先し、軍事力は港を守る事に特化させている。国内の事はハンター協会に依頼して解決しているので問題はなかった。軍事力を維持するよりも、ハンターを金で雇った方が格段に安いからだ。それに警備隊や警察ぐらいはちゃんと存在しているのだが、魔獣に対抗するには練度も火力も足りないだろう。

 

「じゃあ、ハンター協会でいいじゃない」

「それが……」

「依頼料が馬鹿高いのよ!」

「こ、これっ! 下がっていなさい!」

 

 少女が口を出してきた。彼女は黄緑色の髪の毛をしていて、赤い頭巾を頭に巻いている。服装は白いワンピースに赤い上着で田舎娘といった感じだ。私は彼女を見て、思わずニヤリと笑ってしまう。

 

「いやいいよ。事実だろう?」

「そうね。アタシ達が来る時に出会った魔獣を基本にするとランクCからBってぐらいね。ワイバーンがBね」

「確か依頼料は数千万か」

「群れてるみたいだしね」

 

 狼と猪だけならまだ安いだろうが、ワイバーンまで出るとなると必然的に空への警戒も必要だ。銃弾が効けばいいが、鱗で弾かれる事もあり得る。

 

「とてもじゃないが、払いきれません。国から支援を受けようにも助成金も安くて……」

「なるほど、ちなみに魔獣の規模はわかっているのか?」

「それは……狼と猪の群れに……」

「後は竜よ」

「竜?」

「これっ!」

「私、聞いたの。あの遠くの山に大きな竜が飛んでいるの」

「聞けるわけなかろう。嘘をつくんじゃない。蜂の話なんて……」

「聞けるわよ。何で信じてくれないのよ」

「そんな事は不可能じゃ!」

 

 もう彼女が誰かわかっただろう。そしてここに来た目的も。そして、先の会話からわかるように、彼女はすでに感染しているか潜在的に覚醒している。

 

「まあ、落ち着きたまえ。ワイバーンではない大きな竜が居るというのなら、その竜を恐れた魔獣達がこちらに押し寄せてきたというだけだろう」

「その可能性は十分にあるわね」

 

 確か、パリストンから押収した報告書に竜の存在が明記されていたね。クルタ族の誰かが竜に変わって幻影旅団を撃退したとか。その後、しばらく経って村から出て行ったとも書かれていたはずだ。クルタ族が住んでいる場所は彼女が指さした山を越えて少し行った先にある。あながち間違いでもないだろう。

 

「参考までにメンチ君、竜の討伐代金はいくらかね?」

「億単位は間違いないでしょうね」

「無理です! ですから、せめて魔獣だけでも倒していただけないでしょうか! 出来る限りのお礼はさせていただきますので!」

「群れ二つで数千万ジェニーはいくのだが、払えるのかね?」

「それは……四百万ジェニーが村で集めた限界でして……」

「ライネス、どうにかできない?」

「相場の十分の一以下か。これで依頼を出しても物好きが来ると思うかい?」

「無理でしょうね」

「だそうだ。諦めたまえ。私は買い物に来たのであって、魔獣を討伐しにきたわけではないのだよ」

「そんな……」

「勝てるなら助けてよ! 力があるんでしょ!」

「お嬢ちゃん、何事にも代価は必要なのだよ。私がお金を出すだけの価値が見いだせない」

 

 実際、銀の鳥が関わっているのだから、私の責任だ。助けるつもりはあるが、安請け合いはできない。もし、私が安請け合いをすればその値段でやってくれたのだから、次もその値段でとごねる可能性がある。他のハンターが迷惑を被るというわけだ。もっとも、私達を襲ってきた奴等は排除させてもらうが。

 

「さて、私は蜂蜜を買いにきたのだ。先程の話を聞く限り、君は蜂の話を聞けるらしい。それなら、美味しい蜂蜜を売っている店を教えてくれるかな?」

「それならうちだけど、アンタに売るものなんてないわよ!」

「それは困った」

「蜂蜜と交換で助けてくれるならいいわよ」

「流石に対価があわないな。ああ、そうだ。とりあえず、君のご両親の所に案内してくれるかな? 話をしたら、もしかしたらお金を出せるかもしれないよ」

「わ、わかった……」

 

 さて、彼女の家に案内してもらうとしよう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 彼女の家はカフェもやっているようだ。蜂蜜茶や蜂蜜酒なんてのもある。

 

「ポンズ、お帰りなさい。あら、お客さんかしら?」

「ええ、蜂蜜を買いにきました」

「それはありがとうございます」

「売っちゃ駄目だからね! こいつは……」

「こら! そんな事を言ってはいけません!」

「ご、ごめんなさい」

 

 ロリポンズがしょげている姿は彼女のファンからしてくるものがある。ああ、安心したまえ、ちゃんと君は助けてあげるし、悲惨な運命を辿らないようにする。

 

「とりあえず、蜂蜜茶とお菓子を適当にくれないか?」

「わかりました」

「メンチ君もそれでいいかね?」

「いいわよ。味を確かめてから買うかどうかを決めるから」

「食事はメンチ君に任せているから、好きにするといい」

「むぅ~」

 

 12歳前後のポンズは大変可愛らしい。まだクールで冷静な性格をしていないようだ。

 

「どうぞ」

 

 出されたのはホットケーキと紅茶だ。蜂蜜を好きなようにかけて頂けばいいらしい。紅茶を何も入れず香りを確認してから飲んでみるが、やはり余り美味しくない。普段から高級茶葉に慣れていると仕方がない。

 蜂蜜を少し入れると、味が全然違う。格段に美味しくなった。ホットケーキにも蜂蜜を垂らして食べてみるが、これはいい。

 

「素晴らしい蜂蜜だ。在庫を売れるだけ買い取りたい」

「ありがとうございます。出荷ができないので沢山ありますが……」

「全部買わせてもらう。メンチ君、味はどうだい?」

「ええ、これならライネスの食事に使っても問題ないレベルだし、合格よ」

「なら個人用だけじゃなくて、お土産として確保かな」

 

 蜂蜜に満足したので次の話をしようか。

 

「ポンズだったか」

「なによ」

「君、蜂と話せるんだったね」

「そうよ。どうせ嘘だって言うんでしょ……」

「いいや、私は信じるよ。私もメンチ君も君と同じ特殊な力を持っているからね。私達が魔獣を倒しているのも君と同じ力だ」

「ちょっとライネス!」

「このまま下手に覚えられるよりは教えた方がいいだろう。下手をして洗礼を振りまかれてもかなわんからね」

「それは……」

「信じられない」

「うむ。もっともだ。先に私の力を見せよう」

 

 パチンと指を鳴らしてトリムマウを呼び出す。彼女は一礼をしてから私の後ろに控える。

 

「この子が私の能力だ。君は蜂と会話したり操ったりできるようだが、大元は同じ力だ。その力は非常に危険でね。正しい使い方を知らないと最悪、死に至るし沢山の人を殺す事になる。だから、私の下で修行してみる気はないかね?」

「え?」

「あの、話が見えないのですが……」

「簡単に言えば彼女のスカウトだよ。代金はそうだね……10年。10年間、私の下で修行し、私に仕えてくれるなら現状、この街で起こっている魔獣の件を解決しよう。それとこの店を買い取るか、資金援助をしてもいい。もちろん、給料もしっかりと支払う」

 

 10年もあれば原作も大幅に進んでいるし、ポンズの強化も終わっているからそう簡単に死ぬ事はなくなるだろう。

 

「本当に?」

「ああ」

 

 私の個人通帳を見せて実際にお金がある事を確認させる。

 

「こう見えても王子様……いや、わかりやすく言うとお姫様だから、お金は持ってるわよ」

「こう見えては余計だよ。お母様の方はまだ理解できていないだろうから詳しく説明させてもらおう」

 

 念能力についてもしっかりと教えていく。実践して教えると理解してくれた。危険性もしっかりと教えたので、すぐに夫も呼んで話し合いが行われた。交渉に交渉を重ねていく。

 

「私、ハンターになりたい」

「正式なハンターはもれなく全員が念能力者と言っても過言ではないよ」

「でも、この話を受けたらハンターにはなれないのよね?」

「試験を受けるのは自由だよ。休みの間に取りにいってもいいし、私が12歳になったら取りに行くつもりだから、その時にでも一緒に受ければいいんじゃないかな? サポートしてあげられるし、そんなに欲しいというわけでもないからポンズを優先してもいいし」

「なるほど……」

「つまり、ポンズの夢のため、修業期間というわけだ。後、メイドとして教育もするし嫁の貰い手は十分にできるだろう」

 

 あの手この手で説得し、メリットとデメリットを伝えていくとしっかりと納得してもらえた。その過程で両親も念能力を覚える事になった。蜂の世話をしてより良い蜂蜜を作るのに便利であり、蜂や村を守るためだね。それにポンズが操る蜂を選別し、強い個体を生み出す必要もあるので、そこの管理人としては丁度いい。

 メンチ君は反対したいようだが、現状では魔獣が増加しているためにハンターが不足している。その事を考えると致し方あるまい。ご両親もハンター登録してもらうか、契約を交わして外部に漏らさないことを誓ってもらうことで納得していただいた。ハンター試験の協力者となったりもできるだろう。

 

「では、契約はなった。明日は散歩に出かけてくるからメンチ君は適当に過ごしていていいよ」

「待ちなさいよ。アタシは護衛なんだけど?」

「竜相手にメンチ君を守りながら戦うのはしんどいんだが……」

「竜までやるつもりなの!?」

「まあ、その予定だが、流石に村の周りを片付けてからだ。その間、メンチ君はポンズの修行を見てほしい」

「まあ、確かに護衛は要らないかもしれないけど、駄目よ」

「むぅ」

「それにポンズも連れて行ってどんな力が必要か見せた方がいいでしょう」

「それもそうだね。なら、三人でピクニックといこうか」

 

 楽しいピクニックだ。それと宿がなかったのでここで泊めてもらう事にした。皆が寝ている間に例の竜について調べる──

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 山の山頂にある洞窟。そこに視界が飛ばされた。

 

『もうここに来るなと言っただろう』

「嫌よ。なんでお父さんに会いにきたら駄目なのよ」

『私がもはや人ではないからだ』

「関係ないわ。人じゃなくなっても私の、私達のお父さんなのよ。それなのにお姉ちゃんもエリスも、村の奴等も何も分かっていない! お父さんが竜になるぐらい頑張ってくれたから助かったのに!」

『仕方のないことだ。私はもうまもなく私ではなくなる。ただの本能に生きる獣となってしまい、最後には死ぬだろう』

「お父さん?」

『そうなれば愛しい娘であるジャンヌを襲って食べてしまう。それだけは避けなくてはいけない。だから、ここにはもう来るな』

「いやよ。絶対に何か方法があるはずなんだから、私は諦めないわ!」

 

 どうやら、少女の名前はジャンヌというらしい。金髪の素朴な少女だ。父親が竜へと変じても変わらず会いにきているようだな。ただ、どう見ても私の知っているジャンヌには見えない。

 

『無理だ。銀翼の凶鳥で一度変化したら戻る事はない』

「それこそ、ソイツの主を見つければ願いが叶うって言われてるじゃない!」

『眉唾物だ。それに七年以上の月日が経っているが、誰も見つけていない』

「それでもお父さんを諦めない。それにいざとなったら……」

『やめなさい。私はお前達を守れただけで満足だ。それに母さんの所に行くだけだ』

「お父さん……」

『さあ、帰りなさい。これ以上ここに居たら下山する途中で夜になってしまう』

「わかったわよ。また来るからね」

『もう来るなと言っているだろう』

「い・や・よ」

『まったく、レティシアと同じように素直に成長してくれればよかったのに』

「ふんだ。どうせ聞き分けは悪いわよ。じゃあ、またね」

 

 ジャンヌと呼ばれた少女が洞窟から出て山を駆け下りていく。その身体能力は高く、流石はクルタ族といえる。

 

『私の理性が持っている間に……誰か、私を殺してくれ。頼む……娘を襲いたくはない。私はファヴニールでは……いや、ファヴニール……違う! 私は人間だ! 人間は食料……わからない。くそ、くそっ、誰か、誰か! 頼む、私を止めてくれ! 獣に落ちる前に!』

 

 悲鳴をあげる竜の声は周りには雄叫びにしか聞こえず、意味を理解していない魔獣は恐怖にかられて少しでも距離を空けようと移動していく。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 やれやれ、これは竜退治が決定だ。銀の鳥をばら撒いた私の責任だろう。しかし、一人でファヴニールとバトルとは、流石に無理じゃないか? 

 せめてジークフリートかアサシンが欲しい。いや、アサシンは居るな。ジャックを呼び出して、幻影旅団も……駄目だな。クルタ族を余計に刺激するだけだ。やはり、まずは責任を取って一人で戦ってみるか。無理そうならジャックを呼ぶとしよう。

 

 

 

 

 




三姉妹決定。
父親:ジークがファヴニール化
母親:死亡
長女:レティシア
次女:ジャンヌ
三女:エリス


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34話

もう忘れられてるかもしれないけれど、やっぱり、ライネスは可愛いです。


 

 今夜はポンズの家でお世話になることになった。彼女とその両親を念能力者として覚醒させ、基本的な事は教えた。それから基礎訓練の方法をしっかりと私とメンチ君で実演しながら教え、何度もやってもらう。はやく能力()を開発してもらった方がいいからね。

 さて、教えた後はこの家にある食材でメンチ君が奥様と美味しい蜂蜜料理を作ってくれたので、それを食べた後はテラスで紅茶を飲みながら優雅にお茶を楽しむ。

 内心ではファフニールをどう相手するかを考えて悩ませている。だが、ろくに思いつかない。なのでまずは相手を知る事から始めないといけない。彼を知り己を知れば百戦殆うからずとも言うし、間違いではないだろう。

 ファフニールは北欧神話に登場するドラゴンに近い怪物だ。ファフニールはドヴェルグだ。*1

 確か、神々から奪った財宝を独占するためドラゴンへと変身し、鋼のような鱗を持ち毒の息を吐く存在だった。だが、魔剣グラムを携えた英雄によって倒される。ジークフリートとシグルドの双方の伝承に登場し、どちらでも彼らによって打ち倒されたとされている。

『Fate/Grand Order』では第一特異点にジャンヌ・ダルク〔オルタ〕に聖杯の力で召喚された。最終的にジークフリートによって倒されたが、逆に言えば竜殺しの力を持つジークフリートでないと倒す事は出来なかった。複数の英雄が居たとしてもだ。

 もちろん、私には竜殺しの力なんてない。相手も流石に本物ではないが、竜種としての力は持っている。まあ、私も英雄クラスの力は手に入れられていると……思う。今、この時もオーラの容量とスペックは増え続けているしね。

 

「ライネス、お風呂が空いたわよ」

「ありがとう。入ってくるよ」

 

 立ち上がり、メンチ君と別れてお風呂へと入る。脱衣所で服を脱いで小さな湯船に入る。いや、私の身長的には大きいが、館やゾルディック家にある物を使っていると一般家庭での大きさが小さく思うのだ。もっとも、私の身長ではほぼ湯の中に沈むけどな! 

 身体の汗を流し、トリムマウを呼び出して身体を洗ってもらう。自分で洗うよりも、トリムマウに洗ってもらう方が気持ちいいので、全てを任せる。

 身体を綺麗に洗ってもらえば、湯船に入る。蜂蜜風呂のようでとても気持ちがいい。で、ファヴニールだ。まずは一当てしてみるか。弱点がなければ作り出す必要がある。それに今なら、奴自身が死にたがっているのだから、私一人でも殺せる可能性がある。

 

「まあ、最悪……お花を持ってトリムに行ってもらおう。それで瀕死にはできるだろう」

 

 構造はしっかりと勉強したし、元居た世界の知識も使って貧者の薔薇を魔改造して新しい物を作ろうとはしている。だから、今ある物は処分してしまってもいい。

 目標はファフニールの討伐もしくは捕獲。それとあの少女の確保だ。上手く掌で転がせれば私の手駒にできるだろうし捕獲優先でいいだろうね。その為には一人で解決しないといけない。

 本当は幻影旅団とかジャック達を投入すればいいんだろうが、幻影旅団はクルタ族の関係で呼ぶのは無理だし、ジャックもお姉様との修業で忙しいので無理だね。

 そうなると最悪、依頼という感じで手伝ってもらおう。ニ、三億ジェニーは軽く吹き飛ぶだろうから使いたくはない手だ。

 

「あの、大丈夫、ですか?」

 

 声が聞こえて扉の方を見ると、脱衣所と浴室の扉の方に人影が見えた。どうやら、思ったよりも考え込んでいたようだ。

 

「ああ、大丈夫だよ。少し考え事をしていただけだからね」

「それは良かったです」

 

 声をかけてきたのはポンズ君だし、これは丁度いいかもしれない。

 

「ポンズ君はもうお風呂に入ったのかな?」

「ううん、まだだけど……」

「では一緒に入ろうじゃないか。洗ってあげるよ」

「け、結構です!」

 

 振られてしまったようだ。ポンズの肌を堪能しようと思ったのだが、仕方がない。流石にまだまだそんな関係でもないし、断られる可能性は高いと思っていたので別に構わない。

 さて、トリムマウを投入するにしても、問題点はある。経験値を積ませれば勝つのは問題ないのだが、この村の周りに居るワイバーン共の排除も考えないといけない。そちらはメンチ君を護衛として私自身が月霊髄液を使って排除してもいい。

 だが、トリムマウを派遣したとして彼女の説得が出来るかが問題だ。いや、そもそもファフニールを殺す事で考えていたが、仲間に引き入れても問題は……あるね。私の力が二割ほど消えてしまいそうだ。これは非常に困る。ネテロ会長二人分くらい消えてしまうのだしね。逆に考えればネテロ会長二人分の力が手に入るという事だが……まあ、実際はオーラの総量から考えてなので、一人分にもならんだろうが。

 やはり情報を集めないといけない。しかし、それをするためにはトリムマウだけでは足りないだろう。トリムマウは基本的に戦闘に特化させているようなものだし。

 

「やはり、作るしかないか」

 

 新しい念能力を作ろうと思うが、どんな物かは既に考えている。原作のHUNTER×HUNTERで出て来たカストロの分身(ダブル)とFateのサーヴァント、プリンセスコネクト! Re:Diveのキャラを参考に考えている。

 まず、分身(ダブル)は自分の分身を具現化して操る能力だね。具現化系・操作系・放出系能力の複合技で、本体と連携することで相手の不意をついたり、身代わりや攻撃を防ぐ盾にするなど数的有利を作り出すことが出来る。ただ、かなりの集中力を要する上、自分が想像する姿を再現してしまうため、戦闘中にできた傷や汚れなどは再現できないという弱点がある。原作ではこれでヒソカに見破られているので、このままでは正直言って使えない。

 次はFateのサーヴァントシステム。要は英霊を呼び出すのではなく、作り出す。作り出す存在は当然、私のオリジナルであるライネス・エルメロイ・アーチゾルテが疑似サーヴァントとなった司馬懿殿だ。しかし、彼を作り出す事は不可能だ。能力のメモリが足りない。そもそも英霊の座どころか司馬懿殿という存在自体が世界に記されていない。銀翼の鳥ならば、彼女達が保有している八割の量から可能だろうが、私に流れてくるのは二割のみ。そこからトリムマウやジャック達への供給やらなんやらしているのだから仕方がない。正直、私のほぼ全てのメモリは銀翼とトリムマウ、月霊髄液に使われているからね。強化に強化を重ねているからこそ、一級の存在となっているわけだから後悔はない。

 そもそもまだ成長途中である私には生み出すなど土台おかしい話だ。故にカストロの分身(ダブル)を参考に劣化サーヴァントを作るのが関の山だ。だが、先にも言った通り、分身(ダブル)には問題点が多い。

 そこで、もう一つ言ったプリンセスコネクト! Re:Diveのキャラだ。参考にするのは七冠(セブンクラウンズ)と呼ばれる世界の支配者の一人。変貌大妃(メタモルレグナント)。彼女はこの世に存在するあらゆる生物、様々な無機物に変身することができる権能を持つ。また、自身の分身を生成できる能力も備わっており、拠点の警備や情報収集などに用いている。この権能を使って生み出された分身は彼女と同じ能力を得る。

 まあ、簡単に言ってしまえば変身能力を持った分身を生み出し、遠隔操作できるようにする。分身(ダブル)の問題点は変身能力でカバーし、サーヴァントシステムを利用することでオーラさえ供給できていれば単独で動くことができるし、使い魔の魔術を合わせる感じで視界や声を届けたり、身体を操作できたりもするようにしておく。

 使う能力は私と同じ。つまり、月霊髄液とトリムマウだ。単純計算で戦力は四倍になる……わけではない。オーラの量や水銀の量は共通だからね。だが、考えてみてくれ。それでも手数が四倍になって殲滅力が馬鹿みたいに上がるだろう。しかも広域殲滅型がだ。もはやヤバイ能力と言える。実際、ゲームでもネネカママも凄く強くて猛威を振るっている。

 能力名はやはり鏡の鏡(ミラーミラー)だろう。ライネス・エルメロイ・アーチゾルテの真似をしている偽物()である私の偽物()。凄く納得するね。それにどうせなら本来のライネス・エルメロイ・アーチゾルテをイメージして具現化するので、私の師匠となるだろう。

 さて、制約と誓約は何にしようか。まず、変身能力はあるが、基本的に私以外にはなれないようにする。うん、そうだね……傷などはそのまま適用させ、それ以外としては……ライネス・エルメロイ・アーチゾルテの霊基再臨の姿を全て適用しよう。ようは未来の私の姿にもなれるようにする。同時に私の方にも変身能力を得られるようにしておこうか。

 幼い姿というのも可愛らしいからね。これなら私が(ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ)を愛でる事が可能だし、あるるんや巨人などから貰ったメモリなどを消費する価値は充分にある。

 ルールとしてはこんな感じとして、代償はそうだね……分身が負ったダメージは痛みとして私に帰ってくるというのもいいか? 少し弱いな。分身がやられたら私が保有する水銀の10%を支払う。これでも軽いかもしれないが、私が保有する水銀はすでに数百トンまで膨れ上がっている。これは土地を買取って工場を作り、大量生産しているからだ。毎月数千万ジェニーは消えていってしまっているが、まあ必要経費だ。

 やはりこれだけでは想定した効果は得られないか。令呪の三画を消費する事でのみ復活とし、ミラーミラーの使用にも令呪を一画使う事にしよう。だいたい令呪一画が一ネテロぐらいだし、運用するのは大変だ。まあ、私は毎日使わない量のオーラを令呪に変えて保存しているので数には余裕がある。すでに服の下にはイリヤスフィールみたいに沢山の令呪が刻まれているから……あ、他の人に肌を見せるのはまずいね。変な噂がたってしまう。これは変身能力を手に入れるのはよかったか。

 とりあえず、作成っと。

 水銀風呂から出て、着替えをして髪の毛をトリムマウに乾かしてもらう。それからお外に出てテラス席に座り、ゆっくりと紅茶を嗜むが、その前にやる事がある。

 

鏡の鏡(ミラーミラー)

 

 手を差し出すと、令呪が無くなり、私の身体からも膨大なオーラが消費される。即座に錬で増産には入るけれど、消費量が凄まじいので、回復には時間がかかる。

 ただ、目の前に大量の水銀が現れてそれから身体が形成される。次第に姿は成長した原作通りのライネス・エルメロイ・アーチゾルテの姿へと変わっていった。綺麗なエメラルドの瞳に金色の長い髪の毛。服装は軍服みたいな感じの奴だ。霊基で言えば二番目かな。そんな彼女と両手で握り合って生まれてきた。こうしないと生まれてこないのも制約と誓約の一つとした。

 

「どうかな、私」

「ああ、問題ないよ私」

「そうか。それじゃあ、髪の毛を梳いてくれ」

「何をやらせるんだ、まったく……」

 

 櫛を渡して椅子に座りながら両手を膝の上に置いて髪の毛を整えてもらう。可愛いライネスと綺麗なライネスを堪能できる素晴らしい能力だね。

 

「トリム、私の分も紅茶を用意してくれ」

「「かしこまりました」」

 

 想定通り、トリムマウも二人に増えた。水銀は身体の形成で20t、追加で攻撃や防御用として80tの計100tがあちらに渡ったが、まだ300tくらいは簡単に生み出せるし、トリムマウにはそれ以上を圧縮してあるので問題はない。本当にこの世は権力と金、そして力が重要だと痛感する。水銀が大量になければ私が望むように運営なんてできないだろうしね。

 

「しかしあれだな。身体は水銀で出来ている。とでも言えそうだ」

「実際、君の身体は水銀なわけだし、間違ってはいないね」

「「私の仲間ですね」」

「まあ、これはこれで便利だから構わない」

 

 ああ、とっても気持ちいいのだが、流石に仕事をしないと分身に怒られそうなので、お仕事の話をしよう。

 

「ロリの私がこの村を守りつつ、辺り一帯を排除しておくから、そちらはファフニールをよろしく頼むよ」

「わかっている。しかし、相手があのファフニールか。まともに戦っても勝てなさそうだ」

「最悪、四人で全力攻撃だね。それでも無理ならトリムを薔薇で自爆させる事も視野に入れる」

「果たしてファフニールに毒が効くかどうかという問題もある」

「はっはっはっ、そこまで行くともうジャックやゾルディック家、幻影旅団やハンター協会も合わせた総力戦だろうね」

「それは困るな。そうなる前に弱点を作り出してどうにかしよう」

「まあ、助ける方向でもいいから、説得を頼むよ」

「正直、期待はしないでほしい」

 

 実際問題として、ファフニールによる精神汚染が難敵だ。仲間に入れようとしても暴走する可能性が高い。それこそ竜を操るような力でもない限りは無理だ。私には殺す事が可能かもしれないが、無理なら竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の能力を用意しないといけない。そうなると、ジークフリートの能力者を生み出さなくてはいけない。

 第二再臨の私は一応、サーベルみたいな剣は持っているが、使えはしないし、流石に竜殺しの力は付与できない。そもそも人の身で竜を殺すなど生半可な事ではなし得ない。といっても、幻影旅団や私達なら討伐は可能だ。普通の竜が相手ならね。だが、ファフニールは当然のように普通の竜種ではない。ネームドであり、伝説に謳われる存在だ。そんな存在に竜殺しの力が無くても勝てるだろうか? 

 

「私の懸念はわかるが、問題あるまい」

「まあ、そうだよね。本物でもあるまいし、流石に殺せるか」

「そもそもピースは既に揃っているのだから、殺す必要もないだろう」

 

 髪の毛を持ち上げられ、梳かれて綺麗に整えられた。その後、彼女は私の対面に座って優雅にお茶を飲んでいく。まさしくその姿はライネス・エルメロイ・アーチゾルテであり、私達マスターの師匠である。

 

「弟子。操れないのであれば操れる奴を用意すればいいだけだろう?」

「まあ、確かに名前的にもピッタリだしね。しかし、それは余りにも外道じゃないかな?」

「魔術師が倫理観を語るなど片腹痛いね。そもそも君は既に何人殺した? たいして気にもしていないだろう。そうでないと私を目指すはずがない」

「いやいや、気にはしているとも。悪いとは思っているよ。だからこそ、代価はちゃんと与えているし、私が強くなる事で世界は蟻の支配や暗黒大陸からの襲撃から守られるんだ。彼等の命は決して無駄にならない。彼等の一部は私の中で延々と生き続ける」

「まさに根源を目指す魔術師然としているね」

「根源を目指すのも楽しそうではあるよね。うん、暗黒大陸の連中は解き明かし甲斐がありそうだ」

「止めろよ? 流石にそれはまずい」

「暗黒大陸から精神支配を受ける可能性もあるし、見ただけで卵を植え付けられるのは困る。私は清い身体でいたいからね」

「私としてはお兄様になら身体を許してもいいがな」

「マジで!?」

「ああ、一応言っておくが、お兄様は本当のお兄様だぞ」

「ああ、なるほどね。ロード・エルメロイ二世の方か。まあ、私はそっちもお断りだが……」

 

 紅茶を一口飲みながら、ふと先程の言葉を考えると色々とやばい事が判明した。この分身、私よりも本物に近い! ああ、そうか、そうだよな。その部分に関しては絶対に私は受け入れられない。その点、分身である師匠は本来のライネス・エルメロイ・アーチゾルテにより近い存在だ。まあ、私がそのように具現化したからだが。

 

「あ~アレだ。一つだけ言うけれど、私が認めた男以外に身体を許さないでくれよ?」

「はっはっはっ、当然だね。私とてそう簡単に許すつもりはないよ。それに私は君の分身だ。基本的に女の子が大好きさ」

「それなら安心だね」

 

 お茶を楽しんでいると、師匠が立ち上がった。そして、指を鳴らすとトリムマウの姿が馬へと変化していく。

 

「おや、もう行くのかい?」

「ああ、情報を集めて準備を整えるのには時間がかかるからね。ファフニールに関しては任せてくれたまえ」

「任せるよ。それじゃあ、私は安全圏から楽しませてもらおう。行ってらっしゃい、師匠」

「行ってくるよ、弟子」

 

 馬となったトリムマウに乗って師匠が飛び出していく。これでファフニールの相手は問題ないだろう。後は外敵の排除だ。

 

「トリム、狩りに行っておいで。敵はワイバーン……害獣だ」

「マスターの護衛は……」

「この子達が居るから大丈夫だよ」

 

 月霊髄液をスライム化して膝の上に乗せながら撫でていく。銀色のスライムはスベスベでぷにぷになのでとても気持ちがいい。

 

「かしこまりました。お気をつけて」

「ああ、問題ないさ」

「I'll be back」

「はいはい、行ってらっしゃい」

 

 手を軽く振ると、トリムマウも馬になって駆けていった。これで私は起きて水銀を量産しておけばいい。どうせなら、綺麗になるようにしよう。

 

「量産型トリムマウも考えるのもありかな」

 

 水銀を空中に生み出し、操作してスライム化していく。グルグル回してとても綺麗だ。散弾としても扱うし、訓練にもなる。月霊髄液の手動操作は色々と大変だからね。いっぱい練習しないと念能力だけが強い存在になってしまう。殺されるわけにもいかないし、もっと鍛えないといけない。強制的に絶にされる能力者は存在しているのだから、全身を水銀やオーラでコーティングして触れさせないようにするか、瞬時に展開して防御できるようにしないといけない。それぐらい鍛えないといけないわけだ。身体は水銀で出来ているというのもあながち間違いではないようにしないとね。

 

 

 

 

*1
ドヴェルグは人間よりも少し背丈の小さい伝説上の種族と言われている。民話、神話、童話、ファンタジー作品などに登場することが多く、基本的に高度な鍛冶や工芸技能をもつとされており、外観は男女共に背丈が低いものの力強く屈強だ。特に男性はその多くで長い髭をたくわえているとされる。ドワーフ小人、矮人、侏儒、あるいは単に小人と訳されることもある。



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35話

感想、誤字脱字報告などなどありがとうございます。感想と評価をくれたら頑張ります(ぇ



 

 月に照らされながら、森の中を馬となったトリムマウに騎乗して突き進む。

 今回の目的は弟子から頼まれてたファヴニールの対処だ。普通ならこの私が自ら動くことなんてしないが、可愛い弟子の為だから、師匠である私が頑張ってやらないとな。

 まあ、どちらも()なのだからこそ、やる気になっているだけなのだがね。そうでないとこんな面倒な仕事は誰かに丸投げしてやる。例えば親愛なる兄上(ロード・エルメロイ二世)とかね。

 こちらの世界ではまだ居ないのが残念である。弟子が用意した代用品はあるが、アレはまだ駄目だ。裏切る可能性がとっても高いからね。そう考えるとここでぶつけてある程度始末するのも妙手かもしれない。

 ただ、あれらは他のホイコーローに対抗するための札に成りえるから今、消すのは得策じゃない。ベンジャミンお兄様の手勢と殺し合って欲しいからね。ツェリードニヒお兄様の方は直ぐにでも殺すのがベストだろうが、そうするとベンジャミンお兄様や他の連中に隙を作る事になるからこちらも保留だ。

 それに最悪、どこぞの魔術使いがやったように船ごと沈めてしまうのも手だろう。邪魔な王族は弟子と姉以外は全て排除できる。その後は弟子が舵取りをすればいいが……被害がとんでもない事になるんだよ。

 流石に私としても生活に国税を使わせてもらっているのだから、国が文字通り消える確率が高い手は実行したくはない。そんなわけでファヴニールの相手は私自身でまずはやってみよう。何、どうにかなるだろう。

 おっと、考え事の途中だが、ワイバーンだ。

 

 

 

 

 

 

 さて、空から森の中へと急降下してくる三体のワイバーン。ワイバーン以外にもそれなりの数の魔獣が私を目掛けて襲い掛かってくる。

 いや、正確にはワイバーンから逃げている魔獣の群れの進路に私が居るといったところだろう。一メートルクラスに巨大化したネズミやカマキリなど多種多様だが、どれも私の敵じゃない。

 

「これはお兄様のものなんだが、我がエルメロイが引き継ぐ遺産ではあるので使わせてもらおう。Fervor,mei Sanguis(沸き立て、我が血潮)

 

 オーラを込めて術式(念能力)を起動させる。すると私の身体から水銀が溢れ出し、空中で停止しながら指示を待つ。それもまるで小動物みたいな感じでだ。

 

Automatoportum defensio(自律防御)Automatoportum quaerere(自動索敵)Dilectus incrisio(指定攻撃)

 

 月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)の起動後に行われる初期設定を行う。弟子の月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)の能力を引き継いではいるが、初期設定はしないといけない。

 

Fervor,mei Sanguis(滾れ、我が血潮)

 

 柱状の棘へと変形させ薙ぎ払わせる。月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)は指示通りに魔獣の群れを吹き飛ばす。何匹は空中にあがったので、柱を操作して空中に居るワイバーンへと打ち出すが普通に回避された。

 

「やはり、速さが足りないか」

 

 弟子が考案した通り、散弾のように飛ばす方がオーラのコストは上がるが効率的だろう。しかし、やってみたい事もある。丁度いいので試してみよう。

 まず、上空に大量の水銀を具現化し、それらを複数の六角形の柱型に形成して地上に落とす。空を飛ぶワイバーンを囲むように巨大な柱を作り上げて隙間なく六角形の陣に囲みいれる。何匹かは形成途中に叩き潰したが問題あるまい。

 ワイバーンは当然のように外へと逃げようと上を目指すので、その上から蓋のようにして巨大な六角形の柱を叩き落す。

 

石兵八陣(かえらずのじん)なんてね」

 

 銀の囲いで作った処刑器具だ。地面も水銀で覆っているので、無数の杭でも形成しておけばこれでワイバーンも魔獣の群れも終わりだ。

 後はこのまま磨り潰して月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)の中に取り込んでオーラに変えてしまえばいい。念のため、銀の鳥に関してはこのまま解放すれば疑われることなくオーラとメモリを回収できると言ったわけだ。

 

「お兄様の真似をしてみたが……効率的じゃないな。そもそもお兄様の宝具は私と同じで攻撃系じゃないからね。どう思う?」

「おっしゃる通り、無駄かと」

「だよね。うん、止めだ止め」

 

 手を叩いて解除し、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を手元に呼び寄せる。空中や地面から戻ってきた血塗れなそれらを見て次の指示を出す。

 

命令(オーダー)ire:sanctio(追跡抹殺)だ」

 

 月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を細かく分離させ、バグと言ったか。アレと同じ形状にして吹き飛ばした生き残りに向けて追跡させる。そのついでに地形を把握する。

 これが出来れば作戦が立てやすくなるし、村へと向かうかもしれない危険生物を排除できる。その上、オーラの回収にもなる。

 

「トリム、このまま狩りながら山へと散歩しに向かうよ」

「かしこまりましたお嬢様」

 

 トリムマウに乗りながら山へと駆ける。乗馬経験はライダーの騎乗技能で問題ない。この身はサーヴァントでもあるのだから騎乗スキル程度は持っているのだし、運転はトリムマウにお任せだからね。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 無事に山の八合目ぐらいへと到着し、人の出入りを示す足跡がある洞窟を見つけた。おそらく、ここがファヴニールの住処へと繋がっているのだろう。情報にあった少女の背丈から考えられる大きさの靴跡と一致しているし、間違いないだろうね。

 普通なら彼女はここに来る事はできないだろう。何せ、無数のワイバーンを始めとした魔獣が無数に居たのだ。だが、山に近付くにつれて魔獣はおろか、普通の生物すら居なくなってきた。そのため、彼女は普通にこれるのだろう。

 また、山に近付くにつれて緑も少なくなって空気も淀んできている。これらの影響は考えるまでもなく、ここにファヴニールが居るからだろう。かの邪竜を恐れて魔獣や動物、虫などが逃亡し、邪竜ファヴニールが発する毒素で空気が淀んでいるというわけだ。

 このまま放置すれば山を中心としてこの辺り一帯の草木は毒に汚染されて枯れた大地となり、毒がそこかしこに湧く地獄へと変わるかもしれない。ファヴニールは毒のブレスも吐くから、普通の人間じゃ近付く事すらできない危険生物だ。

 まあ、彼女が近付いていたという情報があるから、今はそこまで竜化は進んでいないみたいだが、時間の問題だろうね。

 

「トリムマウ。掃除を頼むよ」

 

 馬状態のトリムマウから降りた私は彼女に指示を出して先に進んでもらう。

 探査用としても使える銀の鳥は如何せん、動き回るので視界がコロコロ変わってしまう難点があるので詳しく知る場合にはやはり複数の運用とトリムマウや月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)による探査が必要だ。

 

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 トリムマウが銀色の水、スライム化して洞窟へと進んでいく。

 私はしばらく待機になるので、護衛を月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)に任せて銀の鳥を使ってこの辺り一帯をもう一度調べ直す。

 俯瞰すると山頂には大きな穴が空いているのが確認できた。休眠状態の火山なのだろうが、これは開発すれば色々と使えそうだ。

 

「まあ、捕らぬ狸の皮算用か」

 

 呟くと同時に視界に月の光に照らされた黒色の鱗に覆われた巨大なドラゴンの姿が見えた。全高だけでも6メートルから7メートルはありそうだ。ドラゴンにしてはまだ小振りなのかもしれない。これ以上成長したら手が付けられないかもしれないが、その前に寿命で死にそうだね。巨体を維持するにも相応のエネルギーが必要だし、あくまでも銀の鳥はその者が持つ生命力とスペック、寿命を対価に願いを叶えている。

 今回の場合は明らかに必要なエネルギー量が不足して、一般人じゃ維持できるはずがない。だが、素体は特殊な魔眼を持つ化け物な才能を持つ種族なんだから維持されているのかもしれない。なんせ、クルタ族は念能力が使えないのにウボォーギンに強かったと言わしめたほどの者達だ。

 

「まあ、生物には変わりないのだからやりようはあるさ」

「お嬢様、お待たせいたしました。目標が居る場所までの安全は確保致しました」

「お帰り、トリム。それとありがとう。じゃあ行こうか。エスコートを頼むよ」

「はい。どうぞこちらに……」

 

 トリムマウに案内を任せて洞窟の中を進んでいく。既に夜になっている上に洞窟は光源など無くて真っ暗なのでトリムマウに手を引いてもらわなくてはいけない。彼女の視界をもらえば問題ないだろうが、こっちの身体が無防備になってしまうからできない。

 

「ひゃうっ!?」

「大丈夫ですか? 一応、地面は均しておきましたが……」

「だ、大丈夫だ、問題ない! 気にせず進みたまえ」

「はい」

 

 その上、たまに水滴が落ちてきて背中や髪の毛に当たって不覚にも悲鳴が出て身体が飛び上がってしまう。こんな声を出すのは嫌なので、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を傘にして進む事にしよう。ただでさえ、トリムマウが地面を削り取って歩きやすくしてくれているし、これ以上迷惑はかけられない。それにひ弱な令嬢の身体と違ってこの身はサーヴァントだ。身体能力の強化もされているのだし、大丈夫だろうさ。

 

「お嬢様、到着いたしました」

「ご苦労様だった」

 

 洞窟の先に広い空間が見える。そこは天井から月の光が差し込んでいる幻想的な場所なのだが、月の光を浴びているのは漆黒のごつごつした鱗を持つ巨大なドラゴン。鱗に覆われた巨体とそれに見合う鋭い爪や牙を具え、毒や火のブレスを吐いてくる。

 その内包している生命力は強く、一目で人との格が違う事を見る者にわからせる。ブレスの一撃で街を吹き飛ばし、防衛がしっかりとしているオルレアンを消し飛ばす事が可能と言われるだけはある。空飛ぶ戦車などの戦術兵器などではなく、まさしく戦略兵器と言えるだろう。

 そんな相手の顔がこちらを見詰めていて、しっかりと私を認識している。それも待ち構えていたかのように口を開いていた。

 

「トリムマウっ!」

「Yes,Master」

「■■■■■■■■■■■■──ッ!!」

 

 あちらは通路に居る私に向かっていきなり火炎のブレスを放ってきた。その対応としてトリムマウが盾を展開するが、即座に水銀が泡だって消失していく。

 

「形状を変更し……いや、必要ないか」

 

 私が指示をする前にトリムマウが円錐状に盾を変形させ、なおかつ高速回転する事で炎を後ろに流し込んでいく。高速回転させる事で熱を流すと同時に冷やしているのだろうが、後ろはファヴニールの炎に煽られて地面が結晶化していっている。

 水銀のドリルが壊れそうになったら、もう片方の手をドリルにして防ぎつつ修復する。物凄い勢いでオーラを消費しているが、余裕はまだまだある。いざという時は弟子から奪えばいいだけだし大丈夫だろう。

 

「■■■■■■■■■■■■──ッ!!」

 

 ファフニールがこれでは埒が明かないと判断したのか、更に火力を上げてくる。だが、なんというかトリムマウの方も可笑しかった。

 

「無駄です。わたしたちは一分前のわたしたちよりも進化します。一回転すればほんの少しだけ前に進む。 それがドリルなんです!! 」

「弟子はトリムマウに何を教えているんだ」

 

 グレンラガンの台詞のようだが、実際に水銀のドリルは熱で完全に崩れる事はなくなっている。どうやら、より硬質化して回転速度を上げ、更には耐熱コーティングのように本体部分を守る膜を作り、それが剥がれる直前で交換しているようだ。

 私自身、何もしないわけではなく、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)の一部を地面からあちらへ流し込んでいる。だから、こんな事もできる。

 

「っ!?」

 

 地面から月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を突撃させ、ブレスを吐いているファヴニールの顎を六角形の柱で叩きあげる。当然、ブレスの方向は上に逸れたのでそのまま突撃だ。

 

「マスター、そこはドリルで……」

「五月蠅いぞトリムマウ!」

 

 確かに私もその方が良かったかと思ってしまった。だって、相手は無傷だしね。それよりもファヴニールは即座にブレスを諦めてドラゴンテイルを振るってくる。

 

「無駄です」

 

 トリムマウがドラゴンテイルを受け止めている間に私は全力ダッシュをして広場の端へと移動する。トリムマウの方は身体を叩き潰されたが、逆に尻尾に絡みついてその身を刃に変えてチェーンソーみたいな形状へと変えて切断しようとする。

 

「貴様こそ無駄だ」

 

 ファヴニールの言う通り、尻尾の鱗とチェーンソーの刃から金属音が響くだけで切断できていない。

 

「マスター、対処方法を変えます」

「許可する。存分にやりたまえ」

「Yes,Master」

 

 トリムマウの両手がガトリング砲へと変化して重低音を響かせながら銃弾をまき散らしていくが、そのほとんどが強靭な鱗によって弾かれていく。弾かれた弾丸は壁を貫通して遠くへと飛んでいく。

 生物の弱点である目を狙うも、腕でガードされる。比較的に柔らかく見える腹や喉を狙うも、こちらも弾かれるので対処ができない。では、ハンマーによる物理攻撃はどうか? 

 

「っ!?」

 

 少し吹き飛ぶ程度で普通に対処されてしまう。体内から入れば問題はないのだろうが、定石は口からだろうな。だが、それは当然のように相手も警戒している。そうなると……やはり、アソコか。

 

「小さき者共よ、我が財宝を狙いに来たカァァァァッ! 万死に値する! 誰にも渡さぬぅぅぅっ!」

「財宝などどこにもないのだがね」

 

 片腕でもう片方の肘を支えながら頬に手を当てて考える。もちろん、周りは月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)でガードしているし、とある作戦を実行中だ。

 

「否! 我が財は……財は……無いっ! 無い無い無いないないないぃぃぃ! 何処へやったぁぁぁぁっ!」

 

 ファヴニールは周りを見渡すが、そんな物は何処にもない。そもそもファヴニールが言っている財とはなんだ? 金貨か? 宝石か? それとも……

 

「いや、知らないよ。トリムマウは知っているかい?」

「いえ、知りません」

「だよね。というわけだ。私達じゃない」

 

 トリムマウは片手をハンマーにして、もう片方の手を細い剣にする。それでファヴニールを殴り、体勢を崩した所で剣を鱗と鱗の間に突き刺す。しかし、傷がつかないようだ。皮膚ですらかなりの硬さを誇っているように見える。

 

「嘘だ、嘘だ! また貴様等は俺から! ()()()! 大切な者を奪っていく!」

 

 やはり、物ではなく者なのだろうね。まあ、あくまでも仮説だが、弱点は判明したな。彼女達を利用したら殺す事も懐柔する事もできそうだ。

 

「ふむ……」

「次はこれです」

 

 またトリムマウが腕をガトリング砲に変えて弾幕を展開するが、今度は跳弾せずに相手に貼り付いていく。鳥もち弾と言ったところかな? 

 

「無駄だ! こんな物!」

 

 身体を回転させて貼り付いた水銀を振るい落としてくる。それも高速回転なためにドラゴンテイルも一緒でちょっとした台風のようになって吹き飛ばされた。

 私とトリムマウはそれぞれで壁に着突しながらも水銀を操作してクッションに変化させる事でダメージを防ぐ。だが、そのまま何度も吹き飛ばされてビリヤードやパチンコの玉のようにあっちこっち行かされて目が回ってくる。

 

「鬱陶しい! こうなれば……」

 

 ファヴニールが空へと飛び上がりながら、口を大きく開いて紫色の物体を口の中へと集めていく。

 

「おっと、それを放っていいのかい? 君の宝も()()()()()()()?」

「っ!?」

「彼女はまた明日も来るんじゃないのかな? 果たして君が放つ毒に耐えられようか? まあ、結果はわかるだろう。不可能だ」

 

 ファフニールが両手を口にあてながら、口に溜めた物を必死に飲み込んでいく。これで確定だ。色々と仕込みはしておいたし、現場を()()()()()してから帰るとするか。

 

「トリムマウ、帰るよ。次は君のお宝を確保してから来るとしよう。それならば話を聞いてくれるだろうしね」

「Yes,Master。次は倒します」

「ではさらば。また会おう」

「■■■■■■■■■■■■──ッ!!」

 

 ファフニールが激怒して普通のブレスを放ってくるが、その前に戦闘で空いた壁の穴から飛び降りて逃げる。当然、相手が追ってくるが、その前に距離を取ればいい。

 

「トリムマウ、箒になってくれ」

「Yes,Master」

 

 箒に乗ったら、アーバレストの形に月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を変化させてセットする。矢は箒だ。馬鹿みたいな力で引き絞った状態で崩壊するのも気にせず放てばいい。

 

「逃がさぬぞ盗人!」

「私は言ったぞ。また会おうとね。だが、今じゃない。さらばだ」

 

 矢を放たせる。音速を超えて衝撃波を放ちながら空を駆け抜けていく私とそれを見たファヴニールが雄叫びを上げる。

 

「あはははははははっ!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■──ッ!!」」

 

 愉快な旅だ。とてもとても楽しい。そのままオーラで身体を強化しながら突き進んでいると島を超えていく。

 

「おっと、行き過ぎたね」

 

 うん、いやな事を思い出した。

 

「……ねえ、トリムマウ……」

「なんですか?」

「これ、どうやったら止まるのかな?」

「知りません。マスターが考えた方法では?」

「私が確かに考えたが……これはお兄様が考案した方法を真似したのだが、上手い事はいかないね」

 

 こいつは本当に困ったね。魔術じゃないのだから、到着地点なんて設定できない。つまりこのまま飛び続ける事になる。うん、アレだ。トリムマウを戻しても慣性が働いてそのまま飛んでいく。パラシュートみたいなのを後ろに展開すればどうにかなるかな? 

 

「いや、それよりも解除した方が……もったいないな」

 

 それ以上にかなりやばい。このままだと暗黒大陸まで行ってしまうかもしれないし、仕方がない。まずは月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)でパラシュートを作り、トリムには箒の後ろからオーラを放出して移動できるようにしてもらおう。箒の方も航空力学を考えなければいけない。翼を作って風を下へと流せばいいはずだ。

 

「よし、減速と方向転換だ……」

「マスター、敵です」

「……マジか……」

 

 雲の上から数十メートルは超える巨大な白い鮫が降りてきて、大きな口を開いてくる。私とトリムマウはそのまま食べられた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「コフッ。師匠が死んだ。何故なんだい?」

 

 血を吐きながら、後ろを見る。私を膝の上に乗せて後ろから抱きしめている綺麗な身体の師匠が答えてくれる。

 

「巨大な空飛ぶ鮫なんて想定外さ。一応、体内から攻撃してみたんだが、ろくにダメージが入らなかったし。頑張ってみたんだが……アレは駄目だ。元となったのが本物の幻想種では相手にならん」

 

 師匠の頭が私の上に乗ってくる。少し重たい。

 

「それで、どうなったのかな?」

「水銀の散弾を大量に用意して薔薇を連鎖爆発させた」

「それで殺せたのかな?」

「知らないが、確認してみるといい」

 

 銀の鳥を向かわせて確認してみたのだが……生きてやがる。全身から血を流しながらもフラフラと飛んでいるが、すぐに死にそうな感じはしない。

 

「もっと強い兵器が必要だね」

「まったくその通りさ。薔薇がこの程度しかダメージを与えられないとは驚きだったよ」

「この世界は魔境だね」

「ところで弟子よ。あの鮫に銀の鳥をまとわりつかせておくといい」

「死にそうにないけどね」

「自然界には食物連鎖があってね。弱った者を狙うのは当然だろう?」

「それもそうかも」

 

 白鮫に銀の鳥をまとわりつかせながらしばらくすると、他の小さな魚やクラゲと戦いだした。空の上にある雲海は危険生物がいっぱいみたいだ。その時に囁かせて白鮫を強化させ、周りの連中を処理させる。相手が弱ったら、相手にも憑依させて延々と殺しあってもらう。

 しかし、ちょっとメビウス湖から出るとこれだ。ここが楽園だというのがわかるね。やれやれ、本当にどうしようか。あ、今の間に精神操作とか卵の植え付けとかされないように対策だけ施しておこう。師匠と私をバックアップ同士にして、外部にも身代わりを用意しておくとしよう。どちらにせよ、白鮫のオーラとメモリが来たら、それで月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を強化してみるか。銀の海に生息する具現化生物。とても面白いね。

 

 

 

 




現状、ファフニールは正面から倒せません。体内からならウボォーさんやネテロ会長クラスならなんとか倒せます。例外は竜殺しの能力です。つまり、狙いはアレ。

白鮫:数十メートルもの巨大な白い鮫さん。雲海にて生息中。暗黒大陸を浮遊しているもよう。たまにメビウス湖の高高度も通るぞ。現在は毒状態でありながら、銀の鳥を憑依させて他の生物としのぎを削っております。体内には大量の水銀と薔薇の毒、傷が残されており色々と大変。拾い食いするからこうなった。

「私は悪くない」



ライネス・ホイコーローは武器開発に万進します。
火山での爆発。高速の飛行物体。またメビウス湖の外縁部での爆音。これらによりV5国の警戒度が上昇しました。
ちなみにライネス自身はダメージを受けましたが、毒は身体が違うので受けません。幻痛みたいな感じですね。



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36話

難産。


 

 

 昨日、山でお父さんが居る山に向かおうとしたら、姉であるレティシアに止められた。何時も止めてくるけれど、今日は私を家からすら出す気がないみたいで私達の部屋にある扉の前で陣取っている。というか、部屋からすら出す気がないのかもしれない。

 

「ですからもう行ってはいけません! 今日という今日はなんとしても行かせませんからね!」

「なんでよっ! 私は絶対に行くの!」

「絶対に駄目です!」

 

 無理矢理外に出ようとしてもレティシアがブロックしてくる。次第に取っ組み合いになってしまう。けれども諦める訳にはいかない。

 

「いい加減理解してください! お父さんは……お父さんはもう……」

「ふざけんな! 絶対に助けてみせるんだから!」

「無理です……無理なんですよ! 私だって大切な家族の事なんですから必死に方法を探しました! でも、無理なんです……」

「銀翼の凶鳥があるじゃない! お父さんが変化したのがアレのせいなら、戻せないわけないでしょ!」

「それも無理なんです。いえ、できるかもしれませんが、代償が大きすぎます」

「そんなもの私が支払ってやるわよ! 例えこの命に代えても構わないわ!」

 

 そう言うと、レティシアに頬を打たれた。逆に殴り返してやろうかと思ったけれど、泣いているお姉ちゃんの姿を見て手が途中で止まった。

 

「お父さんは私達を守るために竜の力を手に入れたんです。その代償にお母さんは死にました。二人が命を賭けて手に入れた力を無効化するというのなら、こちらも私とジャンヌの二人は必要だと思います。私はそれでも構いませんが、残されたエリスはどうなりますか? 助けられる保障がないし、最悪の場合はエリス一人になります。それにお父さんがそんな事を望むと本気で思っていますか?」

「ちっ」

 

 確かにレティシアの言う通り、銀翼の凶鳥に賭けるのは分が悪すぎる。お父さんとお母さんはクルタ族の中でもかなり強い人だった。その二人の娘だけれど私一人の命でお父さんを助けられるとは思えない。少なくともレティシアの命が必要というのも納得できる。

 

「でも、それだとエリスが成長してからなら別に構わないんじゃないの? 確かに今の私達だと二人でも足りないかもしれないけど、成長すれば一人でも可能でしょう」

「いいえ、それは無理です。昨日の夜に響いた爆音。アレはお父さんが暴れた物だと思います。もう限界なんです。お父さんの意識は竜に飲み込まれて消えるでしょう。それにもう手遅れです……」

 

 手遅れ? どういう事? 今日に限って徹底的に私を外に出さない事と何か関係があるの? そうなると考えられるのは……

 

「まさか、お父さんを!」

「お父さん自身が討伐依頼を出されていたそうです。それを受けたハンターの人達がやってきました。今、長と挨拶しています」

「させない! お父さんを殺させてたまるか!」

「駄目です! ここでお父さんを倒さないとどれだけの被害が出るかわかっているのですか! 幻影旅団ではなくお父さんがクルタ族を滅ぼす事になるかもしれないんですよ!」

「知るか! お父さんやお母さんが居ないなら滅んでしまえばいいのよ!」

「ジャンヌ!」

 

 二人で平手打ちなんて生温い事はせず、殴り合う。伊達に森で狩りをしたり、農作業をしたりしていない。それにもしものためにお父さんから武術をしっかりと習っている。

 

「オッラァッ!」

「このっ、わからずやっ!」

「どっちがよっ!」

「喧嘩は駄目ぇぇぇっ!」

 

 殴り合っていると、横から幼いエリスが飛び出してきて私とレティシアは必死に軌道をエリスから外す。すると互いの頬に拳が入り、互いに後ろに吹き飛んだ。

 

「クロスカウンターによる相打ちですか……痛い」

「こっちの台詞よ……女の顔を殴るなんて何を考えてんのよ」

「二人共、お姉ちゃんなんですから喧嘩は駄目です!」

「ごめんなさい。私達が悪かったですわね」

「ちっ。確かに悪かったわ。それにこうすれば良かったんだからね」

 

 壁に掛けてあった剣を腰に差し、同じく壁から槍を取る。

 

「ジャンヌ、貴女まさか……」

「ふんっ!」

 

 そして思いっきり、窓に槍を振るって枠ごと壁を切断し、最後に蹴りを入れて粉砕する。これで大きな穴が空いたので外に出られる。

 

「私は絶対にお父さんを殺させない。お父さんを殺そうとする奴は全員殺してやる!」

「それは困るな」

「っ!?」

 

 声が聞こえて振り返ると、そこにはクルタ族の族長になった金髪碧眼の青年、クリストファーが居た。彼の顔の中心に左から右にかけて刀傷がついている。幻影旅団の一人につけられたらしい。ただ、その代わりに幻影旅団の首を斬り落としている強者。

 

「アンタっ!」

「村の者にも被害が及ぶなら、例えジークの娘だろうと殺す。だから、ジークの望む通りに大人しく過ごせ。安心しろ。散っていった同胞達の願いを引継ぎ、クルタは俺が守る」

「ふざけんな! お父さんを見捨てて何が守るよ!」

「致し方無い犠牲だ。ジークはもはや戻れん。ならば友の願い通り殺してやるのが筋だ」

「ならアンタが死になさいよ! アンタを生贄にしたら叶うでしょ!」

「それはクルタ族の未来の為にできない。例え戻ったとしてもその先にあるのは急激な生命力の衰えによる死だ。それに私とジークの立場が変わっていたなら、ジークも私を殺していただろう。全ては大切な者達を守るために」

「そんなの認められるかぁっ!」

 

 槍を振るうが、簡単に避けられてしまう。コイツと私では実力が違いすぎる。

 

「致し方あるまい」

「っ!?」

 

 何時の間にか手に持っていた刀が鞘に入ったまま振るわれ、私は槍を縦に構えて防ぐ。けれど、力の差が圧倒的でそのまま吹き飛ばされて家の壁に激突してしまう。

 

「事が終わるまで拘束しておけ」

「はっ」

「くそっ、くそぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 クリストファーの腰巾着共が私を縄で縛りつけていく。

 

「触るな変態が! 止めろっ! 止めなさいっ!」

 

 叫びながら抵抗するけれど、クリストファーにやられたせいでまともに抵抗する事もできなくて三人の男共に好き勝手にされていく。

 

「へっへっへ、覚悟しろよ。後でたっぷりと可愛がってやるからな」

「何時も村を出る時にボコボコにしてくれやがって……覚悟しろよ?」

「レティシアさんが何度謝ってきてるのかわかってんのか?」

「う……だって、出してくれないし……」

 

 そんな会話をしていると、何処からか風切り音が聞こえてきた。それに反応したクリストファーが刀であっさりと迎撃すると、矢はどんどん増えてまるで雨のようになっていく。

 

「何者だ」

「寄ってたかって女性を嬲る者達に名乗る名などない」

「待て、誤解があるようだ」

「助けて! 犯される!」

「やはりそうか! 問答無用!」

「ちっ」

 

 チャンスとばかりに叫んだら、少し離れた場所にある家の上に立っていた獣耳が生えた奴は弓を構えて次々と放ってくる。しかし、その矢を男の一人が手に持つ大きな団扇で突風を起こして吹き飛ばし、一人が私を押さえつけて最後の一人は突撃していく。手に持つ棍棒を地面についてから上に浮かび上がって振り下ろす。その棍棒は長くなり、ケモ耳女を頭上から迫る。けれど、ケモ耳女は横にずれると矢を連射してくる。それに対して棍棒を短くしてから大きくして回転させることで矢を弾き飛ばした。

 

「ほう、暴漢にしてはなかなかやるな」

「こちとら幻影旅団とも戦って生き残った精鋭だぜ。当然だな!」

「幻影旅団か。面白い」

 

 ケモ耳女が瞬時に消えると、棍棒を持っていた奴に蹴りを入れて吹き飛ばす。更にそれに追いついて殴ることで地面に叩き付けた。そう思ったらもうそこに居なくて扇形を持っていた奴の頭を鉤爪のようになっている鉄の手で掴んで壁に埋め込んでいる。

 

「おいおい、マジかよ?」

「私がやる。お前達は他の者を守れ。外敵は排除する」

「ほう、面白い。やれるものならやってみろ」

 

 クリストファーが腰に作り出した複数の刀の内、二つに手をつけて抜刀する構えをする。

 

「創生せよ天に描いた星辰を──」「燃ゆる影……裏月の矢……」

 

 二人が同時に何かを口ずさむ。そして、次の瞬間にはケモ耳女が文字通り消えて衝撃波を巻き散らかす。それに対してクリストファーは抜刀して見えない何かをこちらも見えないような速度で刀を抜刀して弾く。空中で何度も何度も金属音が響いているけれど、やっぱり見えない。

 クリストファーの方は抜刀術で使った刀は消してまた新たに生み出しているみたいだけど相手の速さも充分におかしい。

 

「周りの被害を考えろよ……」

「まったくね」

 

 そう言いながら、こっそりと縄から抜けて槍を掴んでから今の間に村から逃げる。こんなところで止まっている暇はない。私はお父さんを助けないといけないんだから。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 村を抜け出して山を駆けのぼる。何時追手が来るのかもわからないし、既にお父さんを討伐する為にハンターが入ってきているかもしれない。それにあのケモ耳女もハンターでしょうしね。もう時間はない。あんな化け物達だと本当にお父さんが殺される。

 

「どうしよう……」

『願い、叶える?』

『力が欲しくない?』

「アンタ達の力でお父さんを確実に助けられて元に戻せるのなら、それでもいいけれど無理でしょ」

『代価、不足』

『無理ですにゃ~』

「本当、役に立たないわね」

 

 コイツ等、私が願いを叶える可能性が高いと感じたのか集まってきた。ある程度の質問には答えてくれるみたいだけど、肝心の事は答えてくれない。

 

「アンタ達の主人が居る場所に案内しなさいよ」

『禁則事項です』

『ですです。ボク達は願いを叶えるだけ。後の事は知らない~』

「ちっ、本当に使えないわね」

 

 しかし、本当に鬱陶しいわね。ここ数日、特に数が増えているのよね。本当に群れで存在しているみたい。明らかに可笑しいわ。まるで一匹みたら数十匹いるみたいな……いや、どう考えてもありえないでしょ。こんな不思議生物が大量にいるのなんて……まるで幻影旅団に襲われた時みたい。

 こんだけの数が居るってことはそれだけ願いを叶える存在が居るってことよね。そもそもコイツ等の存在ってなんなの? 他人の願いを寿命を引き換えに叶えるだけ叶えて消える。でも、これって叶えた奴に得はあるの? 

 そもそも聞いた限りではコイツ等には主人が存在する。その主人に会えば失った寿命すら戻した上で願いを叶えてくれる。そんな魔法使いのような存在。七年前はコイツ等はろくに話もしなかったけれど今は確実に進化していっている。寄生した人から何かを得ているみたいに──

 

「ああ、そういうことね」

 

 ──多分、ピンハネされているんでしょうね。そう考えるとこんな得にもならない混沌を巻き散らかすようなことをしているのもわかるわ。生命体の生命力を集めて収束させて自らの物へと作り変える。おそらく、銀翼の凶鳥でワンクッション置くことで自分に使い易いようにしているんでしょう。

 そして、これだけ銀翼の凶鳥が増えているってことはここに主人が来て居るのかもしれない。コイツ等が集まって居る場所に向かえばいいかもしれないわね。

 そう思いながら銀翼の凶鳥が集まっている場所に向かって移動していくと、山の方から轟音が聞こえてくる。

 慌てて山頂が見える場所に移動する。森がある部分を抜けて岩肌になっている場所へと出た。そこで目したのは無数の魔獣がお父さんに突撃し、そのまま足で踏み潰され、爪で斬り殺され、ブレスで焼かれて食べられていってる姿が見えた。そんな恐ろしい状況だというのに魔獣達は一切気にせず自ら身体を差し出していくみたい。

 

「ナニコレ、気持ち悪い……」

「そうかな? とても合理的な判断だと我ながら思うのだがね」

「っ!?」

 

 声が聞こえて少し視線をずらすと、近くの岩に座りながら片手で帽子をクルクルと回している私ぐらいの人形のような綺麗な女の子がいた。長く綺麗な黄金の髪の毛に翡翠のような碧眼。着ている服は本でしか見た事はない青色の軍服とかいう物だと思う。腰には剣を持ち、胸には花の飾りもあって明らかに高貴な身分の者だとわかる。身長は150㎝くらい。

 

「ああ、それと余り前に出ると死ぬから気をつけるように」

「何?」

「おや、見えないのか。もしかしてハンターじゃないのかな?」

「見えない?」

 

 何を言っているのかわからなくて近付こうとしたら、直にこちらを手で止めてきた。そして、彼女が指を鳴らすと彼女の周りにあった岩や地面の形が崩れて銀色の物体に変化し、集まっていく。不定形なその物体は波のように彼女の周りを漂う。

 

「貴女が銀翼の凶鳥の主人……なの?」

「違うね。()()()()()()()()()()()()()()()

「本当に?」

「ああ、違うとも。私は弟子の頼みであの竜に対処しにきたしがないアマチュアハンターさ」

「っ!?」

「今やっているのも倒す為の布石さ。昨日、戦ってみたのだがこちらの攻撃が通らなくてね。仕方ないから方法を変える事にした。今やっているのはその下準備だね」

「今すぐ止めなさい!」

 

 槍を突きつけるようにして近付くけれど、彼女は一切気にしていない。完全にこちらを舐め切っている。その証拠に私を楽しそうにいやらしい笑みで見詰めてくる。

 

「これはこれは困った。正当防衛という事で殺してしまってもいいかな。それとも傀儡として実験台にするか。どちらにしろ、面白い事ができそうだ」

 

 銀色の物体に座りながら、肘を膝の上に乗せた上に顎を置きながら見詰めてくる彼女からは不気味な雰囲気が伝わってくる。

 

「っ!?」

 

 怖い。凄く怖い。コイツは得体の知れない奴だ。クリストファー達と同じ。そんな化け物だ。それでもお父さんを助ける為に一歩踏み出して槍を突き出す。次の瞬間、槍は彼女の周りに漂う銀色の物体に細切れに切断された。

 

「なるほど。これは私達の思惑通り、使い捨てにするには勿体ないかもしれないね。まあ、でも立場はわきまえようか」

 

 そう言った瞬間、私の手足は銀色の物に拘束された上に逆さまに吊るされる。両手を後ろに拘束され、足を閉じた状態になった。その状態で彼女の方へ近付くことになり、剣が銀色の触手に取られて彼女に渡される。

 

「は、離しなさい!」

「い・や・だ・よ。それにまずは攻撃してごめんなさいはどうした? 君がやったことは恐喝だとわかっているのかな?」

 

 そう言いながら剣を鞘から抜いて私の頬をペチペチと剣の腹で叩いてくる。ムカつくので唾をペッと吹きかけてやると銀色の壁が現れて何時の間にか防がれた。

 

「これはお仕置きが必要だな」

「っ!? ちょっ、止めなさい!」

 

 無数の銀色の触手が私の身体に巻き付いてくる。そして胸を強調するような縛り方で全身を拘束されていく。

 

「メタルスライムの亀甲しばり。なかなかにエロイね」

「この変態が!」

「いやぁ、私は変態じゃないよ。ただ他人の不幸、とりわけ真面目な人間が道を踏み外すところを見るのが好きなんだよ」

「最低の人間じゃない!」

「まあ、君は真面目というわけではないが……これはこれで玩具にするのは面白そうだ」

「ふざけんな! 私はお父さんを……」

「ああ、お父さんというのはあの竜の事かね?」

「そうよ! お父さんを絶対に助けるんだから!」

「ふむふむ。君は家族思いのようで大変結構。よし、君は私の物になれ。そうすれば助けてあげようじゃないか」

「誰が……」

 

 私が声を上げようとすると、風切り音が聞こえる。すると空から大量の矢が雨のように降ってきた。それをなんでもないかのように彼女は銀色の傘で覆って耐える。

 

「どうやら招かれざる客のようだ」

 

 そう言いながら立ち上がった彼女は森の方へ視線をやる。そちらに私も視線をやるとあのケモ耳女と族長のクリストファーが立っていた。どちらも臨戦態勢だ。

 

「あ~君達は何かな? 私は今、この子に折檻をしている所なんだ。邪魔をしないで欲しいのだが、それとも君達は盗賊か何かかな?」

「ふざ、け……る……な……子供?」

「見ての通り、15歳だ」

「事情を聴いていいか?」

「山頂に住む竜の討伐準備をしていたら彼女にいきなり襲われた。だから、拘束した。それから唾を吐かれたので折檻中だ。何か問題があるかね?」

「ないな」

「ああ、ない」

「ちっ。助けなさいよ!」

 

 とりあえず地面には降ろしてもらえたけれど、私の口には猿轡がされて喋れなくなった。その間に三人は集まっていく。

 

「一応、発見の知らせを送る」

「頼む」

 

 ケモ耳女が空に向けて音の鳴る矢を放つ。

 

「それで、お前は何者だ。私はクルタ族の族長をしているクリストファーだ」

「私の名前は司馬懿。ライネス・ホイコーロ―の頼みであの竜への対処をしにきた」

「そうか。本人は何処に居る?」

「今は少し離れた村で待機中だ。道中の安全を確保してからじゃないととても王族を移動させられないのでね」

「もっともな意見だ。それでジークを倒す手段はあるのか?」

「ああ、とりあえず外からでは攻められなかったからね。内側から攻める事にした。その下準備中だよ」

「あの魔獣達は?」

「私の水銀をたっぷりと含ませて操っているだけだ。アレを喰らったら水銀ごと体内に入る。後はわかるだろう?」

「えげつないな」

「効率重視だ。だが、まあ……これはあくまでも殺す為の方法だ。助ける事も可能だ」

「っ!」

「だが、もちろん無料(ただ)とはいかないな。正直、助けてあげたとしてもすぐに殺す事になるだろう」

 

 コイツの言葉に思わず口にあるのを噛み切って飲み込んで声を出す。

 

「ぷふぁっ! どういう事よ! 助けられるなら助けてくれてもいいじゃない!」

「君、ご飯は食べないのかな?」

「は? 食べるに決まってるんですけど!」

「ジャンヌ。司馬懿殿が言っている事は単純だ。ジークの巨体を維持できるほどの食料をどうやって調達するか、という事だ。村にはそんな余裕は一切ない」

「森で狩りをすればいいじゃない!」

「無理だね。生物が数ヶ月で喰い尽されるだろう」

「獲物の維持ができなければ村の食い扶持も稼げないだろうな」

 

 私の隣にやってきたケモ耳女がそう言ってきた。私は三人の言葉に反論する事はできなかった。ここの食べ物を食べ尽くしたら次の場所に移動する。そう考えたけれど、そうなればお父さんは確実に殺される。何せ手っ取り早く数が居てそれなりに大きな食べ物って人なのだから。

 

「その顔は正解にたどり着いたようだね。彼の巨体を維持するための食事量は凄まじい事になるだろう。そんなもの、大金持ちぐらいしか維持できないだろう」

「村には不可能だ。そして、ジークを人に戻す事もまた不可能。よって殺すしかない。そうしなければジークを生み出したクルタ族自体が排除する対象となるだろう」

「それでも、お父さんなの……助けてよ……」

「確かに助けられるのならば助けた方がいいに決まっている」

「まあ、そうだね。我々としてもかの竜の力は魅力的だ。幸い我が弟子……ライネス・ホイコーロは金と地位を持っている。竜の一匹や二匹ぐらい飼う事は可能だろう。だが、なんの利益も提供せずに趣味として飼うには少々金がかかり過ぎる」

 

 ここまで言われたら、流石の私でもわかる。コイツはさっき言っていた。狙いは私だ。

 

「私がアンタの物になればいいの?」

「いや、それだけじゃ足りないな。君の家族全員も頂こう」

「二人まで……」

「いや、正直に言うとだね。竜の宝は家族だというのは調べてわかっている。なのでその宝を全て手に入れないと操る事もままならない。それに世話をするのは君達にお願いしたいからね」

「家族と一緒に過ごさせてやるって事だな?」

「まあ、簡単に言えばそうだね」

「なら、問題ないわね」

 

 四人で一緒に居られるのなら、お母さんだって喜んでくれるだろうし大丈夫よね。

 

「方法を聴いてもいいか?」

「簡単だ。銀翼の凶鳥を使う」

「でも、それは無理だって……」

「無理なのは竜を人に戻す事だ。変化した物は戻せない。だが、外部からの刺激で操作する事はできる。竜を操る魔女とかね」

「わかりました。それについては我々も協力させて頂きましょう」

 

 何時の間にか銀翼の凶鳥が描かれたローブを着た連中が周りに居て驚いた。その中から一人の綺麗な水色の髪の毛をした少女が出てくる。

 

「君達は誰かな?」

「我々は教団の者です。そちらのアタランテ様に依頼を伝えて紹介したのは我々です」

「ほう」

「お前達が協力する目的を教えてくれ」

「布教活動と共に救われない者に救いの手を。それが我々銀翼教団の目的です。それに新たな魔法少女が生まれるのです。何の問題もありません」

「その魔法少女というのは止めてくれ……」

「嫌です。いいじゃないですか、魔法少女。何が嫌なんですか?」

「それはその……」

「こほん。こちらとしても問題ない。それでどうする? 全ては君の決断次第だ」

「……まずは相談させてちょうだい。お姉ちゃんやエリスと話して決めないとなんとも言えないわ。私だけでいいならすぐに決められるけど……」

 

 これからの事を決めるのなら、流石に相談しないといけない。本当に私の命でお父さんが助かるのなら別に構わないけれど、お姉ちゃんやレティシアも含まれるなら一人だけで決められない。

 

「わかった。ではまず村に戻るとしよう。それでいいか?」

「ああ、こちらとしても問題ないよ族長。私もそろそろオーラがきついのでね」

「アレだけ操っておられればそうでしょうね。むしろ、貴女も魔法少女では?」

「私はどちらかと言えば魔法軍師になるかな?」

 

 何言ってんのコイツ等……宗教関係はやばい奴が多いってのは本当なのね。でも、お父さんが助かるのならなんだってしてやるわ! 魔法少女? その程度受け入れてやろうじゃない! 後悔する事になりそうだけど……。

 

 

 

 




族長はクリストファー・ヴァルゼライドの能力を弱体化して持ってます。名前も考えるのが面倒なのでそちらから。ただし閣下じゃないのでまだだはそんなにできません。ただのクルタ族の守護者ですので村からは動きませんし寿命もそんな残っていないので、クルタ族を戦闘集団に作り変えて原作前には居なくなります。ソシテ、クラピカのオニイサマ設定。つまり、クラピカ強化フラグなだけ。
ちなみにクリストファーさんの能力は具現化系で、オリハルコン製の刀を作り出し、それにガンマ線を放つ能力が付与されています。なお、この刀は自らの命と引き換えに具現化したまま残るようにもしておられます。故にクルタ族の守護者として延々とその意思は引き継がれていくのです。
クラピカの初期装備がオリハルコン製の刀、二刀になるだけ。ナニモモンダイナイね!


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37話

終わらなかった。スマホの電波が不安定で再起動を勝手にするのと、古戦場が悪いのです。

アルフィミィちゃんがスパロボ世界で暗躍する。
https://syosetu.org/novel/221426/


こちらも書いているせいですけどね!



 

 

 

 

 

 村に戻った私は早速、レティシアやエリスの居る自宅へと戻る。家に入るのに少し躊躇して扉を開けると、家の中でレティシアがエリスと一緒に並びながらお母さんの位牌の前で祈りを捧げていた。

 

「……ジャンヌが無事でありますように……お母さん、お父さんどうか、あの子をお守りください……」

「……お姉ちゃん……」

 

 凄く入りづらい。確かにあの状況で出たら心配をかけてしまうのは無理もないけれど……どうしたらいいの? 

 背中を押されて開いていた扉の中へと倒れこんでしまう。その瞬間に後ろを振り向けばニヤニヤと笑っている青服の司馬懿と名乗った女がいた。

 

「おっと足が滑った。ごめんごめん。大丈夫かな?」

 

 いけしゃあしゃあとこんな事をのたまう奴に悪態をつきながら立ち上がる。

 

「アンタ、絶対にわざとでしょう!」

「いや~そんな事はないよ。ああ、何時までもうじうじしている君が鬱陶しかったなんて事はないとも」

「この野郎!」

「野郎では……いや、間違いではないのかな?」

「意味わか──っ!?」

 

 背後から衝撃を受けて振り返ればそこには妹であるエリスが私のお腹に抱き着いていた。それも結構な衝撃で正直、吐きそうになった。だから文句を言ってやろうかと思ったけれど、涙を浮かべながら頭をぐりぐりと擦りつけてくるエリスの姿に何も言えなくなった。

 

「お姉ちゃん……良かった……」

「うっ……」

「あぁ、良かった……ジャンヌ、無事に帰ってきてくれて……あっ、怪我はありませんか!」

 

 お姉ちゃんまでこっちにやって来て私の身体をペタペタと触りながら確認してくる。鬱陶しいけれど多少は好きにさせたらいいかもしれない。私が少しは……ちょっぴり悪いわけだし? 

 そう思ってされるがままにしていたら、今度はお姉ちゃんが私の頭を胸に抱きしめて埋めてきた。エリスも相変わらずだし、10分ぐらいそのままにされていた。気が付けばアイツは家の中に入っていて、椅子に座りながらいつの間にか現れていた銀色のメイドが用意した紅茶を飲みながらこちらをニヤニヤしながら見詰めている。

 

「って、いい加減鬱陶しいわよ! 特にアンタは離れなさい! 殺す気か!」

「こら、お姉ちゃんでしょう! それともちろん殺すつもりはありません。大切な妹であるジャンヌを殺すなんてありえません! とっても心配したんですからね!」

「悪かったわよ……エリスも悪かったわね」

「お姉ちゃん……どこにもいかないでください……パパやママのように帰ってこないの嫌です……」

「喜びなさい。お父さんは帰ってくるわよ」

「本当ですか?」

「ええ」

「待ってください。それは無理です」

「アンタが無理って言ってた理由はわからなかったけれど、今ならわかるわ。食事の関係よね?」

「……はい、そうです。私達には、村ではお父さんを養う事はできません。お父さんもそれを理解しているから離れた場所で眠る事を選んだんです」

 

 お姉ちゃんだってお父さんを助けたいと思っていたはずだ。それでもお母さんが死ぬ前から私と違って家事を手伝っていたし、お母さんが死んでからはお姉ちゃんが家の家事を一手に引き受けてくれている。もちろん、私だってお父さんの代わりに畑の方をしている。まあ、こっちもお姉ちゃんは手伝ってくれていたのよね。本当、冷静に考えたら色々とわかるのに。そもそもお姉ちゃんってファザコンだし。今だにお父さんと一緒に寝たりしようとする奴だし。

 

「それなら解決できる方法が見つかったわ」

「本当ですか!?」

「本当? 本当にお父さんとまた一緒に居られるのですか?」

「ソイツが話を持ってきてくれたわ」

 

 司馬懿の方を見るといつの間にかそこには人数が増えていた。ケモ耳女とローブを着た水色の髪の女。その二人もお茶とお菓子を食べながら私達をニコニコしながら見ている。司馬懿の方はニヤニヤしているけどね。

 

「あ……お客様……これは失礼しました」

「何、構わないよ。勝手に寛がせてもらっているからね。それよりも、君達も座るといい。お茶をしながら君達のお父さんを助ける方法を話そうじゃないか」

「わかりました。エリスは……」

「そちらの子も一緒に聞くといい。お菓子を食べながらね」

「お菓子ですか!」

 

 ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶエリスは机の上にあるお菓子に釘付けみたい。まあ、無理もないわね。砂糖とかもっと高いから滅多に食べれる物ではないのよね。

 

「こら、エリス」

「あ、ごめんなさい……」

「構わないさ。なあ?」

「ええ、こちらは問題ありません」

「ほら、こっちに来て食べるといい」

 

 そう言ったケモ耳女がエリスを持ち上げて膝の上に乗せ、焼き菓子のクッキーをエリスの口元へと運んでいく。エリスもパクリと食べると頬を緩ませて嬉しそうにしている。

 

「エリス……」

「ご、ごめんなさい」

「いや、構わない。この子の面倒は私に任せてそちらはそちらで話を進めてくれ」

「ですが……」

「まあいいじゃない。食べさせてくれるって言ってんだから。今はエリスの事よりもお父さんの事よ」

「……わかりました。それでは話を伺いましょう」

 

 それからお父さんを助ける方法を説明していく。といっても詳しい方法はわからないので、教えたのはお父さんを助けた後の事なのよね。

 

「なるほど。私達が奉公に出ればお父さんが必要としている食事を用意してくれるのですね」

「少し違うが、だいたいはそうだ。こちらは食料や住む場所、身分を保証する代わりに君達のお父さんと三人には身体と心を提供してもらう。身も蓋もなく簡単に言ってしまうと奴隷契約だな。君達にかかった費用が完済されるなら一部の規制はするだろうが、基本的にこちらから縛ることはないので好きに暮らせるだろう。完済するまではこちらに従ってもらう」

「その金額は膨大なものになりますよね?」

「巫女殿の言う通り、一般人どころかハンターでもおいそれと支払えない額になるだろうね」

 

 つまり、私達は自分から奴隷になれって言われてるのよね。それに身体と表現しているって事は客を取らされる可能性も……。

 

「わかりました。ですが、危険な事や嫌な事は私だけにしてください」

「それはできないね。一人だけではこちらのメリットが得られない」

「待て。幼子に酷い事をするのは許さんぞ」

「酷い事はするだろうね」

「ほぅ」

 

 何時の間にかケモ耳女の手に鋭い刃のような爪が現れていて、それを金髪に向ける。けれどアイツに到達する前に銀色の手によって阻まれる。

 

「少なくとも念能力はともかくとして、礼儀作法はしっかりと覚えてもらうわけだし、厳しい修行をさせる事になる。だから決して酷い事にならないとは言えないね。仮にも王族のメイドになるんだ。そこは厳しくいかせてもらうさ」

「礼儀作法か……それならば……ううむ……」

「ねえ、一つ聞きたいんだけど」

「なんだい?」

「客とか取らされるの?」

 

 私がケモ耳女の後ろに立ち、エリスの耳を塞いで聞くと、アイツは納得したような表情になった。ケモ耳女も私が言った内容で納得したのか、邪魔はしなかった。

 

「それはない。だが、そういう事は否定できないね。関係を持つとしても私の弟子だろう。その場合は私も入るだろうが」

「アンタ、弟子とそういう関係なの?」

「ひ、避妊はさせていただけるのですか?」

「そもそも生まれんよ。なんせ弟子も女だからな!」

「そういう趣味なの!?」

「アッハッハッ! 弟子は結婚する気なんて一切ないぞ。男に身体を許すとか虫唾が走るとも言っていたし、その時になったら潔く死ぬか、相手を殺すだろうな」

「笑い事ではないのでは……」

「良くはわかりませんが、王族としてそれは問題では……」

「大丈夫だ。姉がいるからな。弟子は姉にそういう事は任せると宣言して婚約者すら作るつもりがない」

「つまり姉を生贄に捧げたのですね」

「身も蓋もない言い方をすればそうだな。まあ、相手は優秀になる事が確定しているような相手だ。問題はあるまい。少なくとも王族内で殺し合いを始めた時の味方や逃げ込む先になってくれるからな」

 

 アイツの弟子は身内同士で殺し合うのね。私がエリスやレティシアと殺し合いをするかと言われれば……しない。エリスはともかく、レティシアはわからないけどね! まあ、そんな事はないでしょうけれど。

 

「とりあえず、そういう事は気にしなくていい。そもそも年齢は七歳だからね。エリスと同じぐらいだ」

「その年齢でレズって……」

「魑魅魍魎の中で育ってきているのだから仕方がないさ。といっても恋愛は基本的に禁止だ。君達がハニートラップでもかかったら困るからね。最低でも相手はしっかりと調査を入れて問題が無ければ我等の陣営に招き入れる事を条件で許可は出す。問題があればそれ相応の対応はとらせてもうがね」

「その辺りは問題ありません。今はそのような事は考えられませんし、お父さんと一緒に居られる事の方が大事ですから」

「……君、レティシアだったか。ファザコンとか言われないか?」

「いえ、言われてません。それにこれぐらい普通ではないでしょうか。ですよね?」

「私はお父さんとお母さん、お姉ちゃん達が大好きです!」

「ノーコメントで」

「そうか。まあ、好きにすればいい」

 

 話しながら詳しく労働条件などを聞いていくと、週休二日制で休みもしっかりと貰えるみたい。お給料は基本給が40万。それに念能力とかを習得したり、与えられた任務をこなしたりしていくと別途に追加で100万から1000万ぐらいは貰えるらしい。良く分かって居なかったけれど、私達が一ヶ月で食べる食事の代金とかを計算すると1万もいかないぐらいみたい。それを知ってお姉ちゃんは固まっていた。

 

「私共の方に勧誘したいですが、流石に竜である方を養う資金は出せても土地がありませんし国に働きかける力もまだございません。非常に残念でありますが、今回は後方支援をさせていただきます」

「ただの宗教団体が竜を維持できる金額を出せるだけで恐ろしいのだがね」

「いえいえ、私達は救いを求める人に救いの手を与える集団なだけです。全ては我等が神、銀翼様の想いのままに」

「そ、そうか……まあいい。今はあの竜をどうにかする方法だ。銀翼の凶鳥を……」

「凶鳥ではありません」

「だが……」

「凶鳥ではありません。凶鳥ではありませんとも」

「わかったわかった。銀翼を使って願いを叶える。君達三人がメインだ。私達は君達の願いに力を貸すだけだ。それで聞くが……君達三人は本当に父親の為に自らの人生を捧げてまで叶えたい願いかな?」

 

 宗教って本当に怖いわね。でもお父さんが助かるのなら……いや、やっぱり嫌ね。

 

「もちろんよ」

「私とジャンヌはともかくエリスは……」

「まあ、今日一日ゆっくりと考えるといい。こちらの準備はまだ終わっていないからね。やる気があるのならば明日、儀式を行う場所にやってくればいいさ」

「わかりました」

「ええ、しっかりと考えるわ」

「それがいいだろう。ほら行くぞ。儀式の準備をしないと不味いだろう。しないとしたら殺さないといけないからね」

「了解しました。それでは行きましょう。アタランテはどうしますか?」

「私は私で行動させてもらう。合流時間は明日の早朝だな」

「日の出と共に……とはいかないが、正午には決行する。それまでに事前の打ち合わせをするから、早めに来てくれると助かるかな」

「わかった。では失礼する」

 

 三人が出て行く。おそらく族長の所に向かって儀式の場所とやらを作るのでしょう。私がやるべき事はお姉ちゃん達を説得するって事ね。

 

「で、どうするのよ?」

「決まってます。お父さんを助けます。ですが、問題はエリスです」

「そうよね……」

 

 私は自分の身体を差し出す程度でお父さんを助けられるのなら構わない。どうせ幻影旅団に殺されたような命だ。お父さん達が助けてくれた命だけれど、アイツ等に復讐するために使うよりもお父さんを助けるために使った方がいいと思うわ。

 

「エリス、今から言う事をしっかりと聞いて貴女はどうしたいかを考えてください」

「うん」

 

 私とお姉ちゃんでしっかりと教えていく。労働条件もかなり良い感じみたいだし、エリスと近い子供もいるらしい。少なくとも一緒に遊べる娘はいるのだから、寂しくはないでしょう。それに仕える相手が七歳だってことも大きいわね。色々と楽に……いや、逆にそれは無理かもしれないわね。でも無理な命令に関しては出来るだけ私達で頑張り、どうしても無理な物はエリスだけは守り通せばいい。

 

 

 

 

 

 

 夜通しの話し合いは終わり、私達は司馬懿の提案を受け入れる事にした。この村から出て行くのは不安だけれど、それも仕方がないわ。まあ、私のせいで居づらくなっているのもあるんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 私達は朝、司馬懿達に受け入れる事を告げるとすぐに準備を始めるらしく、彼女と共に私達の家へと出戻りした。家の前に立つと彼女は銀色のメイドに家その物を覆い隠させた。銀色の流体の中に入っていくと、中は真っ暗で何も見えないけれど司馬懿がランタンを何処からか取り出して灯りを生み出した。

 

「さて、そこに並んでくれ。うんうん。良い感じだ。今からする事は他言無用だ。絶対に外部に漏らしたら駄目だからな」

「はい。わかりました」

「ええ、わかったわ」

「は、はい。黙ってます」

「よしよし。それじゃあ、服を脱いでくれ」

「は?」

 

 彼女は私達を並んで立たせてとんでもない事を言いだした。思わず言ってしまったけれど無理はない。エリスは気にせず脱ぎだしているし、レティシアもちょっと躊躇してから脱ぎだしている。

 

「ああ、上だけでいいよ。それと安心していい。ここに居るのは女だけだし、外部には漏れないように全てを遮断しているからね。だから、この中に居られる時間はあまりないのだが……いや、これじゃわからないか。酸素の、呼吸できる時間は限られている。手早く終わらせよう。今からやるのは私が編み出した銀翼の願いをより確実に思った通りに叶える方法だ。だから部外秘の物だし、君達は裏切らないとは思うのだが……もしもの場合の保険はかけさせてもらう」

「保険ですか?」

「碌な物じゃなさそうね」

「痛いのは嫌ですよ……?」

「なに、ちょっと心臓に私の水銀を打ち込ませてもらうだけだ。裏切ったらその水銀が君達の心臓を破壊して殺す。死人に口なしだ」

「「「っ!?」」」

「裏切り者は許さん。それと苦しませて苦しませて、自分から死を魂願するようになっても殺してやらん場合もある。私は本気だからな」

「う、裏切らなければいいのよね?」

「そうだ。こちらもお前達を裏切らないし、互いに意見交換をするのは問題ない。嫌な事があれば改善もするし、絶対に拒否させられない命令以外なら拒否してもいい。肉体関係とかも普通に拒否していい案件だからな。もし強制されたら私に言えば弟子を折檻してやろう」

「アンタが怒られないの?」

「それはない。私と奴は一心同体と言えるような関係だからな。私以外の女と楽しむのならばしっかりと教育してやらねばなるまい。それはそれでありかもしれん。ライネスの涙目で懇願してくる姿というのも……悪くはない」

 

 あっ、コイツが原因なのかもしれないわね。理解した。コイツ、ヤバイ奴だ。

 

「ジャンヌ、早くしないと……」

「そうね。わかったわ」

 

 恥ずかしいけれど、服を脱いで素肌を見せる。すると奴は家の中にあった木のコップを三つ取り、テーブルの上に置く。それから腰に下げている剣を少し抜き、剣を持っていない方の手に装着している手袋の先を口で噛んで剥がし、剣身に指を添わせて切った。

 

「ん……まあこれぐらいか」

 

 剣を鞘の中に収め、切った指をコップの方へと持っていく。真っ赤な色の血液が指から溢れ出してコップへと注がれていく。

 

「さて、これで準備は完成だ。で、誰から行くかね?」

「私から行きます」

「いや、私からよ。私が連れてきたんだから。やってちょうだい」

「では、飲んでくれ」

「飲むの?」

「ああ、飲むんだ。体内から直接操作するからね。飲め」

 

 コップの中には血が、銀色の血液が入っていた。待って、銀色? なにこれ? コイツの血液っておかしくない? 

 

「血液を水銀へと変化させた物だ。飲むのが嫌なら腕などに傷をつけてそこから入れてもいい。体内に入ればどちらでも構わないよ」

「わかったわ」

 

 意を決して飲み込むと、すぐに司馬懿が手を胸の中央にあててきた。同時に痛みが走ってくる。身体中から嫌な汗が噴き出してくるけれど、それを我慢して耐えていると少しの時間で終わった。けれど気が付いたら力が抜けていて床にしゃがみ込んでいたみたい。

 

「大丈夫ですか?」

「お姉ちゃん、平気?」

「ええ、大丈夫よ」

「時間がないから次だ。誰がやる?」

「私が」

「いいだろう」

 

 すぐにお姉ちゃんもエリスもやった。エリスは少し涙を流したけれど、頑張って声は上げる事はなかった。

 

「次は念能力を覚醒させる。ああ、もう服は着ていい」

「わかりました。エリス、ジャンヌ」

「ええ」

 

 着替えが終わったら、次に身体の中を何かが掻き回される感覚がしてから急激に何かが膨れ上がっていく。自分の身体が自分の物でないかのような感覚に襲われ、今度は気が付いたら床に私達は寝ていた。

 

「うむ。クルタ族だけはあるな。弟子が育てているポンズと違って急増品としては才能がある分だけ及第点だ。問題なかろう。これなら計画通りに進められるだろう。まあ、足りない分は()()()が補ってやればいい」

 

 視界がだんだんと暗くなっていく中、私は司馬懿を見詰める。彼女の周りには何か見えない壁のような物凄く大きくて巨大な物が存在し、心の底から恐怖が湧いてくる。

 

「おやおや、私の秘密を覗く悪い目だ。流石はクルタ族か。だが、良いだろう。君の力は私の物になるのだから、今は許そう。この力は君達も使えるようになるのだからな。我が新しい弟子()よ、せいぜい私を楽しませてくれたまえ。君達が()()()の願いを叶える限り、こちらも君達の願いを叶えようじゃないか」

 

 コイツは私達とは存在そのモノが違う。正真正銘の化け物だ。お父さんがなった竜よりも、あの幻影旅団よりもヤバイ。混沌とした生命の坩堝。混ざりもので本当に気持ち悪い……。

 

 

 

 

 

 





ジャンヌちゃんは魔眼に適正あり。真名看破持ち。ジャンヌから見た司馬懿はヒソカがゴンとキルアに天空闘技場200階入口でやったあんな感じに見えてます。この師匠というかライネス、どう考えてもネロ・カオスかメルトリリス。
次回はペット(ファヴニール)捕獲作戦です


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38話

難産。魔法少女の変身台詞が大変です。


 

 

 

 

 ジャンヌとレティシア、エリスの三人もしっかりと話し合いをして私達の陣営に入る事を選んだのだし、願いを叶えるために必要な物は準備してやった。後は彼女達が叶えたいと本当に思っているかどうかだ。

 だから、私も私で儀式場の構築をしている横で紅茶を飲みながらオーラを弟子に練らせてこちらに供給させている。流石に自前でオーラを生み出す事はできない。それができればもはや念獣などではなく、受肉したサーヴァントと言える。残念ながらそこまでのキャパシティーはまだない。そんな訳で弟子の方に頑張ってオーラを生産してもらっている。正直、ここまで必要なのか微妙なぐらい桁違いの量が集まっているのだが……あって困る事はないしいいだろう。

 

「ゆっくりしているみたいですが、準備はよろしいのですか?」

「メディアだったか。こちらは問題ない。そうだろうトリム?」

「はい。問題なく事態は進行しております」

「だそうだ。こちらは既に用意が出来ている。後はそちらの儀式が終わり次第、開始できる」

「わかりました。では、後は眠られている方々が起きたら開始ですね」

「そうなるな」

 

 用意された台座の上には三人。彼女達は念能力に覚醒してから眠ったままだ。体内に仕込んだ水銀から彼女達のオーラを操作して強制的に力を受け入れる素体を作ったのだから仕方がない。

 

「しかし、本当にお一人でよろしいのですか?」

「ああ、問題ないさ。むしろ、他は邪魔になる。精々、彼女くらいだが、彼女には難しい役目を担ってもらうのだから、メインのアタッカーは私でいい」

「アタランテさんは確かにお強いですが、大丈夫でしょうか?」

「平気だろう」

 

 アタランテ君にはファヴニールをここまで連れてきてもらった後、三人の護衛をしてもらう。私がある程度は防ぐが、全ては防げない。そこで迎撃が得意な彼女に任せるというわけだ。

 

「マスター」

「どうした?」

「起きられたようです」

「そうか。では合図を出すとしよう。頼めるかな?」

「はい。お任せください」

 

 メディアに頼み、狼煙を上げてもらう。これで少しすればファヴニールがやってくるだろう。私は私で彼女達の様子を確認するとしよう。

 祭壇の方に移動すると、三人は丁度目を開けて起きだしていた。なのでトリムマウに指示を出し、紅茶を入れさせる。

 

「気分はどうかな?」

「最悪ね」

「頭がグラグラします……」

「うぅ……」

 

 三人を凝で確認してみるけれど問題はなさそうだ。とりあえず紅茶を飲ませて落ち着かせよう。そう思っていたら、ジャンヌが身体をペタペタと触っていく。

 

「ねえ、服ってアンタが着せてくれたの?」

「トリムにさせたから、安心するといい。男性に肌を曝させてはいないさ」

「よかったわ」

「ありがとうございます。それで、これからですが……」

「まあ、とりあえず一息つきたまえ。どうせすぐに忙しくなる」

「わかりました」

 

 三人はトリムマウからコップを受け取って飲んでいく。エリスにはお菓子もあげると、嬉しそうに頬を膨らませて食べていく。その間にこれからやる事を簡単に説明する。

 

「まず、ファヴニールの操作だが、まともな方法では確実に失敗する。これは銀翼を使っても不可能だ。ドラゴンが簡単に支配を受け入れるはずがないからだ。君達の父親が意識を保っていればできるだろうが、期待はできない」

「だったらどうするのよ? まさか諦めるなんて言わないわよね?」

「もちろんだとも。まずやる事は徹底的に弱らせる事だ。支配を受け入れないのは力が有り余っているのもあるのだしね」

「ファヴニールの意識を弱まらせて、お父さんの意識を呼び覚ますんですか?」

「そうだ。命の危機まで追い詰め、弱まらせたところで三人と契約させる。君達三人を基準として私達が力を注ぎ込めば足りないキャパシティーを補う事ができるだろう」

 

 話していると、山の方で咆哮が上がって大気が震える。私達が居る場所は少し離れているというのに衝撃が伝わってきた。

 

「始まったか」

 

 爆音と共に炎の塊が吐き出され、その中から小さな影が飛び出して後ろの炎に矢を放ちながらこちらに移動してくる。炎の中から巨大な影が現れ、それが翼を広げて空へと上がると火は吹き飛ばされた。

 

「アレがお父さん……」

「エリスは見た事がありませんでしたね」

 

 怖がっているエリスをレティシアが抱きしめ、優しく撫でている。その隣でジャンヌはしっかりと父親の方を見詰めている。

 

「司馬懿、さっさとやっちゃって。苦しんでるお父さんを見たくないわ」

「どうかお願いします」

「お父さんを……助けてください……」

「いいだろう。しっかりと心の底から父を救いたいと願え。そうすれば助けられる」

「「はい(ふん)」」

 

 さあ、竜退治と行こうじゃないか。何、気負う必要は一切ない。もう勝敗はついている。ただ殺すか、手に入れるかの違いだけだ。

 

「頭が高いぞ、トカゲ。トリム、叩き落せ」

「イエス、マスター」

 

 弟子から貰った膨大なオーラを使い、トリムマウと月霊髄液を徹底的に強化する。同時に空を飛んだファヴニールを見詰めながら指示を出す。トリムマウは私の指示に従い、巨大な砲を作成する。

 

「トリム、一つ聞くが……それはなんだ?」

「全長5,791mm、砲身長4,938mm、全高2,100mm、重量7,407kg、口径88mm。発射速度は毎分15から20発。有効射程が対地目標14,810m。対空目標7,620m、最大射程11,900m。名称を8.8cm FlaK 36と言います。愛称はアハト・アハトでございます」

「待て。私が弟子から頂いた知識ではドイツ軍が開発した物ではなかったか?」

「イエス、マスター。私も貰いました」

「オーケー、わかった。好きにしていいから叩き落せ」

「お任せを。硬芯徹甲弾装填。ふぉいやーっ‼︎」

 

 トリムマウが照準を行い、引き金を引くと轟音と共に銀の砲弾が発射される。しかし、ドラゴンの少し上を通って後ろにある山に着弾し、周りを破壊する。

 

「外れました。修正致します。硬芯徹甲弾再装填完了。ふぉいやーっ‼︎」

「装填というより生成ではないか?」

「様式美でございます」

「そうか。まあいい」

 

 ゴリゴリとオーラが削られていく。生成された砲も弾丸もどちらも水銀とオーラを使って実体化しているのだから仕方がない。しかし、人のサイズで平気な顔してアハト・アハトを撃つとか馬鹿じゃないのか? いや、ちゃんと足は地面を貫いてアンカーとして使っているようだがね。

 

「こういう時はなんて言うんだったか……地球なめんなファンタジーか」

「マスター、あたりません」

「……仕方ないな。援護してやる。勝負に奇計も切り札もいらぬ。ただ十全に調え、当然に勝てばよい。混元一陣(かたらずのじん)

 

 宝具の名前を唱えると同時に月霊髄液に指示を出し、ファヴニールの体内に巣食っている月霊髄液を暴れさせる。中で集まり、ドリル状の刃となって高速回転しながら内部を採掘していく。

 

■■■■■■■■■■■──―!? 

 

 悲鳴を上げて墜落してくるファヴニールの落下予想地点に仕込んであった水銀を使って高速回転するドリルの山を作成し、鱗を削りにかかる。外部だけなら鱗にはたいしてダメージが入らないだろうが、内部から同時に攻める事によって確実に抉り取る。

 

「お。お父さんが死んじゃう……」

「ちょっと大丈夫なのよね!」

「この程度では死なんよ」

 

 その証拠に私が攻撃している事に気付いたファヴニールはこちらに向けてブレスを放ってきた。私は手を振るって目の前に水銀の壁を生み出して受け止める。すぐに蒸発していくので、流動させて上へと流させていく。蒸発した水銀を補填する事で大量のオーラを喪失したが、まだまだ問題ない。

 ブレスを防いだら水銀の海を生み出し、津波と化して襲わせる。当然、トリムマウはその中を移動しながらアハト・アハトを撃っていく。接近したらトリムマウごと取り込んで巨大な銀の球体となり、中身を削り取っていく。中からファヴニールの悲鳴が聞こえるが無視する。

 

「うんうん、結果は上々と言ったところかな?」

「殺す気か!」

「生きてるじゃないか、アタランテ」

 

 水銀塗れになった彼女は荒い呼吸をしながら私の前に現れた。私は彼女の身体についている水銀を回収してケラケラと笑う。

 

「お前……」

「そう怒らないでくれ。ちゃんと敵と味方の識別はしているさ。なんなら君もあの中に入って戦ってくるかね?」

「断る。それにここからでも攻撃はできる」

 

 彼女はそう言うと、ファヴニールが暴れる事によってできる微かな水銀の隙間へと矢を通して的確にダメージを与えていく。

 

「君も大概だね」

「お前にだけは言われたくない」

「失礼だな。私は大概じゃない。規格外なだけだ」

「ちっ」

「おやおや、どうしたのかな~?」

 

 ニヤニヤしながらアタランテを見ていると水銀が全て吹き飛ばされた。そちらを確認するとファヴニールが自爆覚悟で近距離ブレスを放ったようだ。体内ごと焼いて水銀を全て蒸発させたようだね。

 

「どっちも化け物か」

「酷いな」

 

 指を鳴らして再構築する。今度はトリムマウの真似をしてアハト・アハトを大量生産して一斉射撃を行う。構造をしっかりと弟子が理解しているからこそできる。といっても、プラモデルとかそんな物だが。流石に精密な電子機器やネットワークを使った物は再現不可能だ。精々が第二次世界大戦中の物ぐらいだ。

 

「ジャンヌ、レティシア、エリス。準備しろ。そろそろ頃合いだ」

「わかったわ。でもどうすればいいの?」

「願うだけで構いません。我等が主は皆様のおそばにいます」

『呼んだ?』

『呼ばれてとびでてきました』

『既に待機していますです』

『全裸待機していまちた』

 

 わらわらと大量に寄ってくる銀の鳥達。それに対して彼女達は祭壇で真摯に祈りだす。そして鳥達は奇跡を生み出す。メディアを始めとした信者たちから吸収されたオーラと私が現在進行形で巻き散らかしている大量のオーラ、それに弟子から供給されるオーラ。この三種類のオーラが三人のキャパシティーとメモリを超えて新たな存在へと作り変えていく。

 鳥達は魔法陣まで再現し、その上に居た三人の服が弾け飛んで違う服へと再構築されていく。しっかりと謎の光の代わりとして自らの身体でガードしている辺り、配慮しているようだ。

 

「風は空に、星は天に、不屈の心はこの胸に、この手に主の御業を! 神風魔法少女ジャンヌダルク、見参です!」

「聖なる夜、ステキでムテキなキセキの一瞬。聖歌魔法少女ジャンヌサンタリリィ。ここに、召喚に応じ参上しました! え? もう一度名前を言って欲しい? 今度は早口で? ええと……ジャンヌダルクおるたしゃんたりゃりゃ……ふぎゃ! 舌、かんじゃいました……」

「我が憎しみ、我が恨み。憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮を知らしめてあげましょう。闇落ち魔法少女ジャンヌダルク・オルタ。張り切って楽しむわよ」

 

 三人の姿が私の知っている姿へと変化した。衣装もそれぞれ変化しているのでサーヴァントの姿に間違いはない。

 

「え? え? なんですかこれ?」

「うわっ、とっても可愛いです!」

「ちょっ、ざけんなぁっ! なによこれ! 誰が闇落ち魔法少女よ!」

 

 混乱している三人がジャンヌ・ダルクとなったのは基点としたのが竜の魔女としようとしたジャンヌだから、ジャンヌ系統で統一されたのだろう。農民だったというのもあるかもしれない。

 

「ほらほら、今はそれどころじゃないだろう。さっさと契約しないと死んでしまうぞ」

「了解です」

「わかりました!」

「それでどうしたらいいの?」

「決まっている。接続するんだ」

 

 こちらに突撃してくるファヴニールを水銀の壁で受け止めて拘束し、ファヴニールの身体に空いている穴に彼女達を入れてやる。ファヴニールにとって彼女達が宝だ。なら、帰してやってから契約させればいい。

 

『……■■■……レティシア……ジャンヌ……エリス……俺は……』

「お父さん! 頑張って」

「死なないでください!」

「帰ってきて!」

 

 三人が必死に説得して頑張っているようなので、こちらもオーラを大量に送り込んでファヴニールの身体を浸食する。元は銀の鳥によって変化したのだから、ライネスのオーラでなら乗っ取れる。ましてやそのオーラは彼の宝である三人の娘から流し込まれるのだから抵抗などできようはずもない。

 ついでにサービスとして人の身体に作り変えてやろう。ジャンヌダルク・オルタ達、三人娘と一緒ならドラゴン形態になれるようにしておけばこちらとしても困らないだろうね。

 

 



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