僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ (魔女っ子アルト姫)
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番外編
二つの龍が手を結ぶ日


番外編、リューキュウルート。

今回の番外編において、初期に葉隠さんが怖がり話しかけなかった場合というIFになっております。なのでかなり異なっている所があるのでご了承ください。


「ねえねえ二人とも、なんでリュウガ君って二人に対してちょっと距離を置いてる感じなの?不思議だね~」

「えっと、それは……」

「ケロッ……」

 

それはインターン時に聞かれた事だった。インターンとしてリューキュウの事務所にいる時、麗日と蛙吹はねじれからそんな事を問われた。リューキュウから直接誘いを受けて同じ事務所でインターンを行っている龍牙、だが彼は何処か二人に対して距離を置いているように思える。何処か大人しく、線を引きそこから先へと踏み込まないようにしているような印象を受けている。彼を見つけたら取り敢えず確保して撫でるねじれはそれを特に感じた。

 

「それは……ウチらが悪いんです……」

「はい、今思えば本当に悪い事をしちゃって反省してるんです」

「何々何があったの?」

 

バツが悪そう且つ酷く落ち込んでいるような顔つきになってしまった二人に対してねじれは詳しく事情を聴きだしてみた。それはある意味致し方ないとも思えるような事だった。

 

『だああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!』

 

入学直後の個性を含めた上での身体能力や個性の力を確かめる為のテスト、そこで龍牙は皆の前で個性を使用した。その時、A組の皆はその姿を酷く恐れてしまった。誰も声を掛ける事も出来ずただただ委縮してしまった。相澤がその場の進行を行うまで、誰もが龍牙の恐ろしさに飲まれていたのだ。そして龍牙はその時から、全員と距離を置くようになった。

 

唯一仲良く出来ているのは常闇と焦凍程度でその他のメンバーは未だに上手く馴染めていないような状況が続いている。仲良くしようとする者もいるが龍牙の方が遠慮をするような形で距離を取り続けている。過去の経験とその時の状況と瞳が、余りにも似すぎていたのが原因だった。

 

龍牙にとって実の親に捨てられる事になった忌まわしい過去の出来事と、あの時の状況は彼にとってあの時の事を想起させるには十分過ぎた。故か皆に苦手意識を持ってしまったのと同時に怖がらせない為に自ら距離を置くようになってしまった。

 

『何であの時に何も言わなかったって今でも後悔してるんです……龍牙君、常闇君と轟君とだと本当に楽しそうなのに、ウチらと一緒だと……』

『ヒーローを目指してるのにあんなことをしちゃったなんて……本当に、本当に……』

 

二人の言葉は恐らくA組の殆どが持っている総意に近いような物、だが彼らの恐怖も理解出来る物。それほどまでに龍牙の姿は恐怖を掻き立てられる、本能的に恐れてしまう類の物なのだ。ある意味何も思わないねじれが異常とも言える。

 

「―――っていう事らしいよ。不思議だね、そんな龍牙君って怖くないのにね」

「まあそれは色んな経験をしたからだと思うけど、納得はしたわ。それで龍牙君があんな目をしてたのか、分かったわ」

 

今回の事を聞きだしたのはリューキュウからの指示、それを報告をするねじれの言葉を聞きながら同時にリューキュウは納得がいった。ヴィランの確保などで連携を取る際、彼女らとなんらかで接する時に龍牙が何処か辛そうな瞳をする意味を事情を把握する者として。彼はトラウマに等しい過去を想起させてしまう彼女らと接する時に沸き上がるものと必死に戦っていたのだ。表に嫌悪感などを出さないように必死に……。

 

「有難うねじれちゃん、二人のフォローは任せてもいいかしら」

「うん任せて~。後輩のお世話も先輩の役目だもんね~♪」

 

と言った風に先輩として接する事に何処か嬉しさを覚えつつも歩き出していく姿を見つつも龍牙の事を考える。彼とてきっと分かっている筈、仲良くしようと接してきてくれることは重々理解しているだろうがそれ以上にトラウマを刺激されて上手く接する事が出来ない。自分を守る為でもあるし、彼女を守る為にも一歩引いている。同時にそれは凄まじい苦しみとも戦っている。

 

「変わろうとしても変われない……か」

 

席を立って龍牙の元へと向かう事にする、今自分にしてあげられる事、味方になると誓ったのだから精一杯に彼を支えてあげる為に行動をしようと思ったリューキュウは作業を行っている龍牙と対話をする事にした。

 

「今日もお疲れ様リュウガ、紅茶でいいかしら」

「いえお気遣いなく」

「遠慮しないの、子供は大人に甘えるのも仕事よ」

 

丁度作業が終わった龍牙を誘って事務所内にある自分の部屋へと案内した、自分の部屋と言っても私室ではなく事務所にある自分の部屋、執務室のような物だが……。そんな龍牙は普段通りにしながらも何処か暗い表情を隠すように振舞っている。そんな龍牙に素を出しやすいような環境を作ってあげながら紅茶を差し出す。

 

「正直言って貴方がうちに来てくれて本当に助かってるわ。このままサイドキックとして卒業後、入らない?」

「リューキュウさんにお世辞でもそう言って貰えて光栄です、インターンに来て一番嬉しいかもしれません」

「フフフッこれでも本心よ、根津校長とオルカにはこっちから交渉させてもらうわね」

 

そう言いながら紅茶を飲むように勧めてようやく飲み始める龍牙、暖かな紅茶とその香りと味に何処かホッとして一息ついてしまうが直ぐに平静を装うとする姿に何処か悲しさを覚える。彼にとって何かを重ねるのがある種当然になってしまっているのかもしれない。

 

「インターンには慣れたかしら、色々慣れない事もあるでしょ」

「ええまあ……でも師匠との修行に比べたらそこまで苦じゃないですよ」

「あれと比べられたら大抵の事は楽だと思うわよ……」

 

そんな風に雑談を交えながら距離を測るリューキュウ。何処か龍牙も素に近い対応をしているように思える、彼にとっては同年代よりも矢張り年上の方が接しやすいのかもと思いながらも本題に入ろうとカップを置きながら彼の隣に座り直す。

 

「ねぇっリュウガ、無理をしているならもうしなくていいのよ」

「無理なんてそんな……俺は全然」

「ウラビティとフロッピーを前にしてもそれが言える?」

 

そう問いかけた時、動きを止めてしまう龍牙。僅かな沈黙の後に言えると答えるが振り絞るように言葉を出している。それを見て改めて龍牙が抱える物が重いと強く理解する。

 

「貴方が二人に対して如何しても距離を置いているのは分かってたわ、何か事情があるなら聞くわ。私としても何か問題を抱えてるのにそれを放置するっていうのは見逃せない。貴方さえよければ力になるわ」

「……いえ、これは俺自身の問題です。俺も何とかしたいとは思ってます、これは俺自身で何とかしないといけないんです」

 

龍牙も何とかしたいと心から思っているのだろう、だがそれが中々上手くいかない。彼の中でも一線を置いて接するのが苦心の末に出した妥協案のような物。自分を守る為にもあれが譲歩した結果でもある。だがリューキュウはそっと龍牙の肩に手を回して自分に寄せてやる、震える彼を抱きしめるように。

 

「悩んでいるなら素直になりなさい、それが解決のための第一歩よ。一人で難しいなら助けを求めなさい、それも大人になるって事なのよ」

 

優しく、温かく、母のように龍牙に囁く。抱き寄せながら頭を撫でながら促す、龍牙は顔を伏せてしまって答えないが彼女はそのまま頭を撫でながらずっと待ち続けた。彼が心の準備を終えて自分から話してくれるのを。ある程度待っていると、龍牙は漸く口を開いた。

 

「俺は……俺だって二人が俺と仲良くしてくれようと、してくれるのは分かるんです……でも、でも―――それを受け入れるよりも先に……拒否してしまうんです……!!」

 

身体を大きく震わせながら、まるで怯えている小動物のようになりながら、瞳から大粒の涙を流しながら龍牙はずっと胸の内に秘めていた本心を吐露した。

 

「俺の見た目については分かってます、理解もしてますし皆の反応だって正しいって分かります。でも―――あの時の瞳がどうしても、如何しても、あの時と重なって……!!」

 

龍牙だって皆と仲良くしたい、一緒に遊びにいったりお昼を食べたり、談笑をしたりしたい。その事を思えば常闇や焦凍には本当に感謝している。

 

「皆が俺に気を遣ってくれてるのは分かってるんですよ、でもでも……俺がいけないんですよ、俺が俺がいつまでもあの時の事を引きずってるから……!!」

 

光を与えられ、温かさを得ても消える事の無い楔。心の深くに突き刺さった光景が何度も何度も脳裏を過ってくる、あの時の言葉が、光景が、全てが。

 

「また同じ事が起きるんじゃないかって思ってる、そんな事は無いって何度も自分を納得させようとしているのにどうしても……!!!」

 

そこにあったのは恐怖、周りに恐怖を与えてしまった少年が最も恐れていたのは再度の拒絶だった。ただの拒絶ではない、一度仲良くなった者から再び与えられてしまうかもしれない途轍もなく深い深い拒絶。あれをもう一度味わった立ち直れないかもしれないという恐怖があった。だから彼は他人を拒絶する、だがそれでも自分の中にある誰かと仲良くしたい、共に居たい思いで友を作った。それも必死に恐怖と戦いながらの物。

 

ギリギリの所で彼は踏み止まっている、常に恐怖と戦いながら夢に向かって歩き続けている。それほどまでに彼の根本にある恐怖は強大であり、夢は偉大な物であるという事。その狭間で苦しみ続けているのも事実、そんな彼の内側を見たリューキュウは彼を強く抱き寄せて抱きしめた。柔らかい感触に包まれるが龍牙はそうではなく、リューキュウの嗚咽で我に返り、上を向いた。その時にあったのは涙を流しながら自分を抱きしめている彼女だった。

 

「いいのよ、もういいの……貴方は泣いていいの、我慢なんてしないで……。本当に良く頑張ったよ……」

「リューキュウ、さん……」

「私しかいないから、良いよ……」

 

その言葉を聞いて今までの我慢で溜まっていたものが全て流れ出した、塞き止められていたものが全て流れ出してしまったように大粒の涙を流しながら泣いた。涙と共に胸の内にあったものを一緒に。それをリューキュウは抱きしめながら受け止め続けた。大人として、彼の味方として決めた者の責務として。自身も涙を流しながら―――長い時間が流れて、漸く龍牙の雨は止む事が出来た。

 

「すいませんリューキュウさん、その……胸を借りちゃって……」

「いいのよ、胸を貸すのも大人の役目。それとも柔らかくて感触を楽しんじゃった事を謝ってるのかしら」

「ちっ違いますよ!?確かに凄い暖かくて凄い安心出来る感じがしたって言うかああもう何言ってるんだ!?」

 

泣いて彼は今度は大慌てといった様子だった、そんな姿を楽しみつつもリューキュウは微笑んでいる。それは龍牙が元々自分の好みだったからか、それとも彼の胸を内を聞いて親しみを覚えたからか。

 

「というかリューキュウさんも放してくれていいんですから!!存分にお借りしましたから!!?」

「良いって事はまだ貸して欲しいって事よね、なら存分に貸してあげるわよ。ほらっ楽しんじゃないなさいって」

「ちょちょっとお願いですから勘弁を……!!?」

 

そう言って更に強く抱き寄せると龍牙は面白いように取り乱してしまっている。今の行動が自分に対して失礼に当たったりするのだろうと心配しつつも、何処か頬が緩んで安心しているような表情を浮かべている。彼も男なのだと思いつつも心の何処かで何処か母性を求めているのかもしれない、そんな姿にリューキュウは心を刺激されて胸が高鳴っていた。

 

「ううっ大人って意地悪だぁ……」

「そう言いながらも頬が緩んでるわよ、もうっ龍牙のエッチ」

「うぐっ!!?」

 

わざと意地悪な言葉をぶつけてあげると面白いように落ち込んだり、小さくなる姿が余計に愛おしく見えてしまう。母性を刺激する姿が堪らなく愛おしい、リューキュウは思わず少し悪い笑みを浮かべながら次の一手を打つ。

 

「ねぇっ龍牙、意地悪な事を言っちゃう私って嫌いかしら」

「嫌い何てそんな……思った事もないですよ」

「ホント?」

 

少しだけ目を潤ませてそう問いかける、龍牙は初めて見るリューキュウのそんな表情を見て胸が高鳴った。姉替わりであったミッドナイトや自称姉のMt.レディもしなかったからか、酷く胸が高鳴ってしまった。酷く魅惑的なものを感じつつも、少しだけ震えた声を出す。

 

「そんな事ありませんって!!」

「じゃあ―――好き?」

「そりゃもう好き―――ですよ」

 

それを聞いてリューキュウは目を輝かせながら、潤んだ瞳の雫を拭いながら確かめるように本当かと聞く。そして本当だと答える龍牙に笑いかけながら、言う。

 

「嬉しい……私も好きよ龍牙」

 

そして―――リューキュウはそのまま何処か戸惑いを見せ続けていた龍牙の唇を奪う。突然の事に目を見開いて何が何だか理解出来なさそうにしている龍牙は唯々困惑するばかり、一方でリューキュウは龍牙の唇を奪い続けた。そして唇を離すと困惑で震えている龍牙、それを見てまた笑う。

 

「あ、あああああのリューキュウさん……!?な、何をやって、るるんですかぁ!!?」

「キスよ、もしかしてファースト……だったかしら」

「そうですけどそうじゃなくてあのその……!?こ、こういうのは恋人同士でやる事であってその俺なんかとする事じゃ……!?」

「大丈夫よ、私は貴方の事が好きで貴方も私の事が好きなんだから。恋人同士、といっても過言じゃないでしょ?」

 

そう言って再び唇を奪うリューキュウに好きといってもそういう意味じゃないと言いたかったが、再びのキスで言えなくなり、言おうにも全身を満たすような幸福感に思考が溶かされるような感覚に思わず酔ってしまう。長く続くそれに龍牙は思わず身を委ねてしまう。

 

「もう貴方は平気よ、私が貴方を一人にはしないから安心して。私が貴方を支えるから」

「リュー、キュウさん……」

「もうそんな風には呼ばないでね、龍子って呼んでね。二人っきりの時は」

「―――龍子さん……その、なんか恥ずかしいです俺……」

「うふっ可愛いわね、そんな所がまた、そそっちゃうじゃない」

 

そう言うと再びキスをする、が今度は龍牙は自分を抱きしめる彼女のように相手を抱きしめ返して答える。それを感じて更に抱きしめを強くすると彼もまた強くする。

 

「―――何時か、時間が出来たら校長とオルカにご挨拶に行かないとね。貴方と結婚したいって事を」

「あの、早過ぎません……?まだその、交際とか全然なのに……」

「大丈夫よ、貴方がインターンで此処にいる限り一緒に居られるからその時に絆を育みましょ。一緒に居れればそれは交際と一緒よ」

「―――そうかもしれませんね、これからお願いします……龍子さん」

「こちらこそお願いね龍牙」

 

この時から龍牙は新しいスタートを切った。この時から少しずつではあるがA組の皆とも打ち解けあえるようになっていく、過る過去を新しく出来たら強い絆が打ち消して新しい世界へと踏み出す勇気へと変えていく。そんな変化を遂げた彼に皆喜びながら、友情を紡いでいく。一方で龍牙はリューキュウこと、竜間 龍子と愛を育んでいく。ぎこちない彼をリードする龍子とそんな彼女に手を引かれながらも歩調を合わせようと努力する龍牙。

 

「そう、大分リードが上手になってきたわね。あの頃が懐かしいわね」

「先生が凄い上手ですからね、それを真似て俺も上手くなってますから」

 

二人の間には強固な愛という絆の橋が生まれ、それは深く絡み合いながら新しい物を生み出す事だろう。そんな二人は唯一無二のドラゴンヒーロータッグとして―――世界に名前を刻む日も遠くない未来だろう。




―――という訳で番外編第一弾のリューキュウこと竜間 龍子さんが恋人になるという話でした。

……やばい、こういう大人のお姉さん書くの超楽しい。なんだろう、私の性癖的何かが出てるのかな……。こういう大人のお姉さんがリードというか相手をからかう的なの最高過ぎんだろぉぉおおおお!!!龍牙貴様羨ましいんじゃぁぁぁあああああ!!!!


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続・二つの龍が手を結ぶ日

番外編、リューキュウルート……の続き的な物です。


「最近さ、黒鏡……いや龍牙の奴ってなんか変わったよな」

「やっぱ切島もそう思うか?」

 

ある日の事だった、唐突に呟いた切島の言葉に瀬呂が同意を浮かべながら同じく今はインターンにて開けられている龍牙の席を見つめながら。A組にとっての龍牙は聞こえは悪いが恐怖の存在だった、入学直後の個性把握テストの一件でそれが鮮明に刻み込まれた事によってほぼ全員がその印象を持った。

 

「この前食堂で隣に座ったんだけどよ、結構笑って話を聞いてくれたし天丼のエビフライ一匹くれたんだぜ。しかも一番でかい真ん中の奴」

「ああ俺もあるわ、食堂で金出そうとしたらさ教室に財布忘れて右往左往してたら後ろから500円出して立て替えてくれたんだよ。しかも釣りは取っておいてくれていいって、なんかあいつの方から歩み寄ってくれてる感じだよな」

 

そんな言葉を聞きながら周囲の皆も龍牙の変化が脳裏を過るようになってきた、前は顔を背けながら此方を避けて通りながら此方が歩み寄っても逆に遠ざかってしまって行ってしまった。だがそれが今では龍牙から歩み寄ってなんかコミュニケーションを取ろうと努力している姿が見えるようになっていた。

 

「なぁ轟に常闇は何か知らねぇの?お前らは前からあいつと仲いいだろ」

「いや知らねえ」

「我もだ。黒炎龍は己で変化を遂げている、奴の変化に我らは介在していない」

 

A組の中で唯一龍牙が対して友好的だった焦凍も常闇も龍牙の変化に関しては全く心当たりがない、逆に彼らも良く笑うようになったことに疑問を持ったが明るくなって嬉しそうな笑顔を見せるように成った事は良い傾向だと思い特に疑問にも止めなかった。

 

「麗日と梅雨ちゃんは何か知らねぇの、一緒にリューキュウの所でインターンしてんでしょ?」

「いやぁウチらもさっぱりで……」

「リューキュウが何か言ってくれたのかもしれないけど良く分からないわ」

 

そう、龍牙が変われた大きな要因こそが―――若きトップヒーローの一角であるリューキュウであった。スケジュールと体調管理の一環で麗日と蛙吹はインターンには出ていないが龍牙は今日も彼女の下でのインターンに勤しんでいる。

 

 

「こっちの整理と決算終わりましたよ、続いてこっちの書類やっちゃいますね」

「助かるわ、リュウガのお陰で仕事がどんどん片付くわ」

「この位お安い御用です」

 

そんなリューキュウ事務所では主である彼女の部屋にてテーブルの上に重ねられている書類や決算を片付けていく龍牙と自分でやらなければいけない仕事を片付けていくリューキュウの姿がある。新進気鋭のレディースヒーローとして名が売れている彼女だが独立して日が経っていない為に事務員こそいるがサイドキックが全く足りていないという問題を抱えている。

 

サイドキックは単純な事件解決や冒険をする相棒や親友という意味合いではなく、ヒーローでなければ捌く事が出来ない書類をヒーローと共に処理するサポートなども含まれる。事務員とはいえ機密性が高い書類も存在するのでその場合などはサイドキックが処理を行う。

 

「それにしても本当に決算速いわね……算盤でそこまで出来るなんてすごいわね……音も凄いし」

「あっ煩いですか?」

「いえ全然気にならないけど、今時そんな音を立てながら算盤を使う光景も珍しいわねと思っただけよ」

「根津校長の仕込みです、指を使う事は頭の体操にもなるんです」

 

そう言いながらも片手間に弾きながら決算書類を始末していく姿に頼もしさと自慢げに胸を張っている姿に微笑ましさを感じてしまう。本来予算などの書類はリューキュウ自身がやるのだが、龍牙に任せる程に彼を信用している上に彼の方が処理能力的に適任だと信頼している。

 

「あれ、これって……リューキュウさん、此処の予算ってちょっと食い違い出てますよ、なんか計算すると逆に多いですけど」

「ああ多分この前出た新しいスポンサーからの奴ね、服のデザインに急に私をモチーフにしたいって言われちゃってね。それだと思うわ、近くにその書類があると思うわ」

「えっと……あっこれですね、それじゃあこれも踏まえて修正して起きますね」

「お願いするわね」

「了解です」

 

即座に数字の修正を行い種類を一緒にしながら一緒に確認できるように纏めていく龍牙を見ながら本当に今からサイドキックとして働いてほしいと本気で思い始める半面である思いが胸の内で募り始めていた。

 

「(……凛々しくてカッコいい、いいわね)」

 

真剣に書類に向かいながら作業を進めていく横顔を眺められる瞬間瞬間を彼女は存分に楽しんでいた。それに染まりすぎる事もなく仕事をこなすが矢張り内面は彼に対する感情は大きかった。そして時計を見て見るともう休憩するにいい具合の時間になっていた、声を掛けてお茶を飲みながら一息入れようかと思ったのだが此処で少しばかりの悪戯心が働いてしまう。

 

「ねぇっ龍牙」

「ハイ、なんです―――」

 

唐突に背後から手を回され抱きしめられるような形になった龍牙、柔らかな感触と甘い香りが鼻腔を擽り身体を強張らせると好機と言わんばかりに頬にリューキュウは口づけをする。

 

「リュゥッリューキュウさん!!?」

「連れない事言わないで……二人っきりの時は、名前で呼んでねって言ったじゃない……」

「い、今は仕事中で……」

「今貴方に名前を呼んで欲しいのよ、お願い龍牙……」

 

そっと、彼にだけ聞こえるように囁いた。優しく、熱を冷ますような口遣いで息を耳に吹きかけると龍牙は生娘みたいな声を上げて身体を更に震わせるように強張らせるのだがそれを拘束するように抱きしめて逃がさぬようにする。

 

「リュッ……龍子……さん、意地悪過ぎませんか……?」

「女って言うのは愛する男を前にするとね―――どうしても意地悪とかしたいたくなっちゃうのよ」

 

満足気に笑いながらも頬を染めてその響きに酔いしれながら彼の耳に口を当てるようにしながら囁き続ける。息と声が直接耳を震わせていくと面白いように龍牙は硬直させながら自分の視線から紅潮した顔を背けて逃れようとする。そんな姿に加虐心と庇護欲が刺激されて身体の奥からゾクゾクと刺激されていく。どうしてもこう、私の恋人は可愛くて素敵なのだろうかと自慢したくなる。

 

「フフフッ……そろそろ休憩しようと思ったのよだからこうしてるのよ」

「そ、そにゃら普通に……」

「それだと面白くないと思ってね……こういうのも好き、でしょ?」

「わ、分かりませんよ初めてですもの!!」

「声大きいと他に聞こえちゃうわよ」

 

指摘に縮こまるようになりながら声を潜める。下手に声を上げて此処に人が来てこの場面を見られたリューキュウにも余計な噂などが立ってしまい迷惑になるかもしれない、龍牙とリューキュウは交際こそしているがそれは現状では表沙汰にはせずに秘密裏になっている。故に龍牙はリューキュウは抜け抜けも良く言えるなと思いつつも実際そうだから声を顰めなければならない。そんな彼女に少なからず反撃したい気持ちがあった龍牙は座っている状態から身体を回転させてリューキュウへと向き直り真っ直ぐ見据えながら言う。

 

「そ、それなら龍子さんが俺の口を塞いでくださいよ!!」

「えっ?」

 

瞳を閉じながら彼女の正面になるように唇を差し出すように向けた。何処か反撃したげな強気を装っているが良く見るまでもなく震えている、龍牙としても恥ずかしいが同時に彼女に対する愛情表現且つ反撃の一手のつもりなのである。何処か微笑ましくも勇気を出した行動に龍子は呆気に取られてしまう、自分が誘う側だったにもかかわらずこれは予想外だった。

 

「……したく、ないんですか?」

「あっいえそんな訳じゃなくて、龍牙からそうされるなんて意外だったから」

「俺だって立派な男です、龍子さんに相応しい男になろうとする度量ぐらいあります」

「それもそうね」

 

これも彼なりの勇気と自分に対する好意に基づいている行動、それを受けないのは彼に対する侮辱である。何よりこんな場面を逃すほどにリューキュウは奥手ではない。ガッツリ行く系でもないが行ける時には確りと行ってチャンスを掴む程度には勇猛なのである。

 

「―――舌、いれてもいいかしら」

「入れたらエスカレートしちゃうから駄目です」

「……龍牙のケチ」

「仕事終わりなら良いです」

「流石分かってるわね―――愛してるわ」




―――龍牙、お前……クソがぁぁああああ!!!羨ましいんじゃ貴様ぁぁぁ!!!
完全に心通じ合っててなんかもう、書いててこっちがあれだわ今ちきしょぉおがぁぁ!!!!



―――まあうん、こんな感じでIFルートの続きをちょくちょくやっていきます。

活動報告にて番外編の募集をしてますのでお時間があれば覗いてみてください。
↓こちらから飛べますのでご利用ください。


https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=239485&uid=11127


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ねじれて絡まる絆と龍

番外編、ねじれちゃんルート。

今回も、初期に葉隠さんが怖がり話しかけなかった場合というIFになっております。なのでかなり異なっている所があるのでご了承ください。


「ねえねえっこんなところで如何したの、お弁当を食べてるの?食堂あるのに不思議だね!」

「……えっと」

 

龍牙はその日も一人で食事を取っていた、初日の一件以来クラスの皆と距離を取り続けている彼は常闇という自分の個性に何処か憧れのような視線を向けてくる一人としか仲良く出来ていない。そんな常闇も他の生徒との交流があるのでそれを邪魔しないように龍牙は食堂を利用せず、外で適当な木陰で作ってきた弁当を独りで食べていた。そんな中、一人の女子生徒が自分を見つけるとすさまじい速度で駆け寄ると興味津々と言いたげに此方を見つめてきた。

 

天真爛漫を絵にかいたような好奇心旺盛な振る舞いと笑顔を浮かべながら此方を見つづける姿に龍牙は呆気に取られて目を白黒させ続けていた。

 

「あっそっかそっか自己紹介がまだだったね、ごめんね。私は波動 ねじれ、雄英の三年生だよ」

「せ、先輩だったんですか……えっと、1-A組の黒鏡 龍牙と申します。宜しくお願いしますえっと、波動先輩……?」

「ん~!!」

 

先輩と呼ばれたねじれはまるで快感に身を震わせるように天を仰いでしまった。そんな姿に龍牙は驚いたが直後に彼女に抱きかかえられるように抱きしめられると彼女は頭を撫で始めた。

 

「うんうんどんどん先輩って言って言って!!私先輩って言われるの憧れてたんだぁっ~♪皆波動さんとかねじれちゃんって呼んでくれるんだけど、だからこそ先輩って呼んで貰いたかったの!!ねえねえもっと、もっと呼んで!!」

「は、波動先輩」

「良い感じ~!今度はねじれ先輩でお願い!!」

「ねじれ先輩ってこんな感じで良いんですか?」

「うんうんいいよ良いよ~!!!龍牙君だっけ、これからも気軽にそう呼んでね~!!私は頭も撫でたいから、不思議だね何でこんなに撫で心地いいの?」

「いやそう言われましても……(汗)」

 

それが始まりだった。自分にぐいぐいと迫ってきて気軽に接してくれる先輩、波動 ねじれとの出会いがそれだった。

 

「ねえねえっっ龍牙君のお弁当って本当においしそうだね!!」

「今度先輩のも作りましょうか、好みの献立とか言ってくれれば入れますから」

「良いの!?やったっ~!!」

 

小さな子供のような天真爛漫さを発揮しながら龍牙と共に居る彼女、変わらないように一人で弁当を食べようとすれば決まって彼女と遭遇して一緒に食べるようになっていた。ねじれ曰く、何となくだけど龍牙の居る場所は分かるとの事。不思議だね!というが龍牙からしたら自分の居場所を完璧に把握する彼女の方がよっぽど不思議である。が、そんな不思議な先輩との一時を何時の間にか龍牙は心待ちにするようになっていった。

 

「ねじれ先輩、今日は重箱に挑戦してみましたよ」

「わぁっ大っきいねっ!!これ全部龍牙君が作っちゃったの?女子力って奴が凄いんだね!!」

「毎日手作りしてたら自然と誰でも出来ますよ、さっ先輩の好物もいっぱい入れましたから思う存分食べてくださいね」

「わぁ~い龍牙君優しい~!!」

 

唯々自分の空腹を満たすだけだった弁当もねじれ専用の物を自分で買ってきて、彼女の為に作った弁当の献立を毎日考えるようになっていた。好きなメニューを考えつつも栄養バランスや見栄えなども確りと計算して作った物を彼女は笑顔で美味しい美味しいと言って完食してくれる、本当に龍牙はそれが嬉しくて堪らなかった。

 

「ねえねえっこの子だよ、前に私が言った大好きな後輩君!!」

「おおっ君が波動さんのお気に入りの後輩君か!前途~……?」

「えっと、多難~……?」

「アハハッそう正解!!結構掴みは良い感じだったね!!!」

「ミリオ、それは如何かと思う。いきなり初対面の後輩に……というかこんな昼食の場に誘われて緊張で作って貰った重箱のご飯が喉を通らない……申し訳なさ過ぎて帰りたい……」

 

それだけではない、ねじれは友人とも言える3年の先輩を自分に紹介してくれた。それが彼女を含めてビック3と称される雄英でも最強の三人のうちの二人、通形 ミリオと天喰 環だった。ねじれに負けず劣らずのインパクトを持つ二人に驚きを隠せなかったが、龍牙は気付けば打ち解けて仲良しになっていた。

 

「その、俺の個性って怖くないですかね……」

「全然怖くないよ、寧ろ凄いイケてるしカッコいいじゃないか!!うん、めっちゃくちゃイケてるよ龍牙君!!」

「うん私は大好きだよその姿!!」

「……インパクトはあるけど怖くはないよ」

 

龍牙にとって大きな意味を持つ言葉もビック3は与えてくれた、それを聞いて龍牙は思わず個性を解除して大粒の涙を流してしまった。それに驚いてミリオは取り乱しながら必死に龍牙をなだめ、環は自分の言葉が傷つけてしまったのかと自虐に走りつつも必死に背中をさすり、ねじれは龍牙を抱きしめてそれを受け止めていた。

 

「頑張ってね龍牙君、私は3年の種目に出ないといけないけど応援してるよ!!」

「はいっ頑張ります!!後で一緒にご飯食べましょうよ、ミリオ先輩と環先輩も一緒に。今日は一段と気合を入れてお弁当作ってきましたから!!」

「期待しちゃうよ~!!」

 

気付けば龍牙はA組の皆ではなくねじれやミリオ、環と言った人たちと一緒に居る時間の方が遥かに多くなっていった。そして体育祭でもねじれの応援を受けて龍牙がそれに臨んだ、そこで自分の唯一とも言えるA組の友人である常闇と激突し、彼をライバルと認めた末に自らの全力を振り絞り個性を完全に発動させた。大勢が見る中でリュウガとしての姿を露わにした。相澤は爆豪と麗日の時のようなブーイングが起るのではと警戒していたが―――それすら起こらなかった。

 

巻き起こったのは静寂、誰も何の言葉を発さない静寂だけがそこにあったのだ。皆が龍牙の恐ろしさに言葉を失い、その力に恐怖を感じていた。誰も口を開けぬ中で戦い続ける龍牙と常闇、だがそんな龍牙を応援する声が観客席から会場全体に響いたのだ。

 

「頑張れ~龍牙君~!!応援してるよぉ~!!!いけいけぇ~!!!!」

 

ねじれだった。自分の出番も近い筈の3年の会場から彼女は1年の会場に駆けつけて精一杯の声援を送っていたのだ。静寂を破った自らへの声援を受けて龍牙が全開の力を発揮して常闇と激突し、満足の行く結果を迎えた。

 

「龍牙君、本当に良く、頑張ったね、本当に、本当に……!!」

「ねじれ先輩……先輩が、応援してくれたからっ―――俺は頑張れたんです……本当に、有難う……!!」

 

龍牙は結果として1年の部では準優勝に終わってしまったが、それをねじれは心から褒めた。そしてそれを龍牙はねじれからの声援があったからこそだという、静寂な場を打ち壊してくれたその声は龍牙の中にあった障害も打ち払い全力を尽くす事が出来た。全てねじれのお陰だった、此処まで自分がこれたのも、全て……。

 

「―――あの、ねじれ先輩……そのえっと」

「何、如何したの龍牙君?」

「……これからも頼っちゃっても、良いですかね……?」

「―――勿論良いに決まってるよ!!私は龍牙君とずっと一緒に居てあげるからね!!」

 

ねじれのそんな言葉に偽りは一つもなかった。その日から二人はより親密で密接な関係を築くようになっていった時折休み時間や放課後に、木の木陰で互いに肩を貸しながら眠りについている姿が目撃されたりするようになった。その時の二人は本当に幸せそうにしながら共に時間を過ごしていた。龍牙は未だにA組の皆とは完全に打ち解けあえてはいないが、今はそんな事は気にもならないのかもしれない。

 

「龍牙くんっ……ムニャムニャ……」

「ねじれ先輩……すぅすぅ……」

 

二人は本当に幸せそうに眠っている。目を覚ませば手を繋いで何処かに遊びに行ったりご飯を食べに行ったりするだろう。龍牙は満足出来ている、ねじれという深い絆で結ばれた相手が出来たのだから。今はきっとそれ以上は望まないのだろう。

 

「行こうか龍牙君」

「ええっねじれ先輩、いえねじれちゃん」




―――という訳でねじれちゃんルートでした。こちらはリューキュウルートとは違って年上というよりも先輩後輩を意識した感じになった感じですかね。

A組とはまだ仲良くなれきれないけど代わりにミリオと環と仲良くなっていく感じですね。多分職場体験もギャングオルカじゃなくてリューキュウの所に行ってますね。ちゃんと許可を取った上で。


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続・ねじれて絡まる絆と龍

「……なぁっやっぱり声かけないか」

「いやでも……今まで声かけなかったのに急に声かけたって……」

 

何も変わらずに時間が進み続けていくことに焦りと戸惑い、そして気まずさを覚えながらも不変に進んでいく関係は何時の間にか歪な繋がりを生み出していった。勇気を出そうとする者もいるが思わず尻込みをしてしまう者も多いが、それらを向けられている者は一切気にも留めていない。いや、興味すら持っていないのだろう。

 

「龍牙、親父ととも話し合ってその……少しだけ前に進めた気がする」

「そうかよかったじゃないか、これからエンデヴァーにワザとか教えて貰えよ」

「……実は週末に教えて貰う事になってんだ、赫灼熱拳を。お前も一緒に如何だって誘えってよ」

「週末か……ああ、その日なら多分大丈夫だ」

 

あの日から一人の少年はもう一人の大切な友人を得ていた。誰もがその圧倒的な力と姿に脅えて声を出さなかったあの日から、あの時から自分達との溝が決定的になったのかもしれない……歩み寄った轟は自らの境遇と相手、龍牙の境遇に共感しつつも支えたいと思った。それは確かな絆を構築していた、二人目の友人として彼も喜ばしく受け入れている最中でその光景が自分達の胸に突き刺さっていくのである。

 

「今日は」

「先輩に誘われてる、悪いな」

「いやいいさ、またな」

 

そう言って寮から足早に出て行く表情は明るく眩しい物だった……林間合宿、神野事件を乗り越えて尚……黒鏡 龍牙はA組との距離を取り続けていた。その例外といえるのが体育祭にてライバル関係にして親友の関係を築けた常闇、そして複雑な両親によって生み出された絆によって手を取り合った轟の両名のみ。だがそれだとしても龍牙に何の後悔も寂しさも無かった。何の戸惑いも無いままに……彼は喜び勇みながら向かって行く。A組の皆からの声など聞こえない、それでも構わないと言いたげにしながらそのまま―――

 

「ねじれ先輩お待たせしました」

「ううん全然待ってないよ~、それと先輩呼びはダメって言ったよね、私言ったよね?」

「すいませんつい―――それじゃあ行きましょうかねじれちゃん」

「うんいこいこ龍牙君♪」

 

自分を待っていた彼女の手を取りながら、腕を組んで身体を密着させて互いの体温を感じながら、楽しみながら進んでいく。

 

「ミリオ先輩に環先輩はいないみたいですし今日は二人っきりですねねじれちゃん」

「うん一緒一緒~♪」

 

夏休み、神野事件後に導入された学生寮。そして今行われているのは仮免試験へと向けての必殺技の構築、その日は既に教員達指導の時間は既に終わっており自主練に龍牙はねじれと共にやってきていた。一緒と喜びながら背中ら抱き付いてくる彼女の力は強く、自分の身体に龍牙を一体化させようとしているかのようにも思える。あの日から、毎日行っているそれを龍牙は優しく手を置きながら囁く。

 

「大丈夫ですよ、俺はもうどこにも行きません……絶対に」

「……うん、わかってるよ。でもね、私こうしていたいの……不思議だよね、分かってるのにね……」

 

弱弱しい声に少しずつ生気が宿るように力が入っていく。ヴィラン連合による龍牙誘拐は解決したとはいえ、ねじれはそれを知った時、リューキュウの事務所にて心の奥底から後悔と絶望を溢れ出させていた。それは少し前から龍牙の事を意識するようになったからか、直接の接触を避けたり龍牙の視線に頬を赤らめて目をそらしてしまう事が増えたのもあっただろう。もう会えなくなるかもしれない、そんな不安でいっぱいになったねじれは、無事に戻って来た龍牙に何処か執着するようになっている。

 

「でも俺、こうしてねじれちゃんに抱きしめられるの大好きです……俺も此処にいるんだなって思えて……」

「うん。私も大好き、私には龍牙君が必要なの、ずっと一緒にいてね、約束だからね……」

「ハイ約束です」

「うん……」

 

じっくりと、互いの存在を確かめ合うかのような硬く熱い抱擁の後に漸く離れると先程まで影があった彼女の顔は普段と変わらぬ輝きで満ちている。

 

「それじゃあそれじゃあ、今日も頑張っていこうか!!」

「ええ、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたしますよ先輩」

「んもう~ワザと言ってるなぁ~♪」

「アハハハッ」

 

笑い声が響きながらも特訓を返しする。既にインターンでプロの現場に出ているねじれによって鍛えられて行く龍牙、それは今日に至るまでミリオに環といった先輩方の力も借りていたからこそだろうか。より強くなった力も完璧に制御しながらもよりハッキリ出るようになったら黒龍も共に成長していく。

 

「ドラゴンウェイヴ!!!」

「わぁっ凄い!!黒い炎が私の波動みたいに進んでるぅ!!お揃いだねお揃い!!」

「そうしたくて黒炎の制御訓練頑張りましたからね」

 

新しく完成した必殺技、それは黒炎によって衝撃波を発生させる事で遠距離の相手を迅速に攻撃する為の攻撃。そしてそれはねじれの波動の道筋にもなる事が出来る、それによってなぜかねじれるのでスピードはあまりないという欠点がある彼女の個性を補強するだけではなく黒炎の威力を上乗せできるという技。

 

「ねえねえ、絶対に仮免取ったらリューキュウの所にインターン来ようよ、それで一緒に必殺技を撃ってリューキュウ驚かせちゃおうよ!!」

「いやいやいや、そこはせめて驚かせるのはヴィランにしときましょうよ。まだまだ改良の余地ありですし実戦で使うにはまだまだですよこれ」

「それでもやるの~!!」

「ちょっと分かったから後ろから抱き付くのは……!?待って待ってまだブラッカーの上でバランスとるの慣れて―――わぁぁぁぁっっっ!!!!!??」

 

自分の身体から落ちて行く龍牙を見ながら黒龍はやや呆れたような瞳を作りながらあ~あ落ちやがった、と言いたげに口を開けていた。そして咄嗟に床に落ちる彼女を庇うように下になって落ちた龍牙を見届けた後に彼の影の中へと戻って行くのであった。

 

『―――っ』

 

思わずやってしまった、ついつい悪戯心と自分のお願いを断れたに近い答えにムスッとして自分の個性で飛ぶのを忘れていた。そして彼に抱き付きながらそのまま落ちてしまった、咄嗟に浮き上がるより先に龍牙が自分を守るように下になって焦ってしまった。そして―――今に至る。

 

『―――っ』

 

互いの顔が零距離、互いの瞳の虹彩が良く分かるほどの距離。そんな距離で……自分達は偶発的に唇を重ねていた。頬にするキスならいっぱいしてきた、だが……こんなことはした事は無かった。だが不意に感じた感触と温かさに思考が停止したのか暫しの間、二人は重なり合い続けていた。そして漸く離れた時……それが酷く愛おしくなった。

 

「あ、あの龍牙君……もっと、しない……」

「―――こっそり、俺の部屋で続きしません……?」

「うん、しよ……」

 

その日の特訓は切り上げながら、龍牙は部屋へと戻りながら彼女が窓からやってくるのを待った。周囲にバレないように気を遣いながらこっそりと部屋へとやって来た彼女を迎え入れながら、静かにまた唇を重ねると……室内に水音を木霊させながら強く抱きしめ合いながら……思いを囁き合いながらそれに酔う。




ねじれちゃんルートのその続きでした。結構幸せそうだけど結構歪な愛になってしまっている感じ。この感じだとA組に馴染むのは一体何時のになるのやら……。


活動報告にて番外編の募集をしてますのでお時間があれば覗いてみてください。
↓こちらから飛べますのでご利用ください。


https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=239485&uid=11127


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響く音色は龍を癒す香りを告げる

番外編、まさかの耳郎 響香ちゃんルート。

今回も、初期に葉隠さんが怖がりに話しかけなかった場合というIFになっております。なのでかなり異なっている所があるのでご了承ください。


「今日も、一人……」

 

視線の先にいるのは自分と同じくクラスに所属している男子の黒鏡 龍牙。彼は基本的にクラスから常に自ら一人でいる事が多く周囲からも完全に孤立しており、クラスから完全に浮いてしまっている存在。そんな彼は教室でも常に一人、机に向かいながら復習か予習をするか何か難しそうな別の言語書を読み込んでいる事が殆ど。教室から姿を消している時は誰もいないような木陰に身を潜めるようにしながら弁当を口にしており、誰かと共に居るという事が殆ど無い。

 

例外的に常闇とは仲良くしているような節があるが、それも常闇の他の友好関係を尊重しているのか、それとも自分の存在が邪魔になると思っているのか一定の距離を取り続けている。そんな常闇に思い切って龍牙について尋ねた事があった。自分から話しかけたり食事に誘う事は迷惑になってしまうかと、それに彼は少々驚きつつも快く応えてくれた。

 

「否、彼の龍はきっと心からの喜びで応えるだろう。だがそれすらを胸の奥に隠して自らを孤独の闇に押し込めてしまう。それも全て奴が誰よりも優しい故。奴は誰よりも安らぎに飢えている、だが周囲へ無用な遠慮を行う。だからこそただの一度も理解されない、彼の龍は常に独り、孤独の闇にて自らに酔っている」

 

独特な言い回しの影響でハッキリ言って全てを理解する事が出来なかった。だがそれでも常闇がクラスの中で最も龍牙の事を理解しているのは明白だった。だからこそ彼の言葉を信じて自分なりの償いと仲良くしたいという思いを込めて彼を誘う事にする。

 

『―――奴は必ず遠慮する、強引にでも誘え。さすれば道は開く』

 

「―――あ、あのさ黒鏡!!そ、その……一緒にお昼とかどう!?」

「……えっ」

 

その日、耳郎 響香は初日以降常に心に浮かんでいた恐怖を抑えつけ、出来る限りの笑みを作りながら久しぶりに作った弁当を見せながら一緒にご飯を食べようと彼を誘った。外に出て既に影を歩いていた彼に光から声を掛けた自分、それを見た龍牙は暗い表情の中に困惑を浮かべながらも矢張り一歩後ろに引きながら断ろうとする。

 

「いや、俺は構わないけど俺なんかより他の奴と喰った方が楽しいよ。八百万とか飯田とか、ああいう奴の方がさ……」

「(えっと、遠慮するから強引に!!)ウチは今、アンタの食べたいって言ったの!!それともウチと食べるのは嫌な理由でもあるの?」

「そ、そういう訳じゃ……えっと」

「ほらほら文句が無いなら行くよ!時間は有限なんだからさ、アンタ何時も何処で食べてるのさ」

 

何とか断ろうと手探りになっている彼の手を無理矢理引いて歩きだしていく、そんな彼女に目を白黒させながらも漸く観念したのか肩を竦めて溜息を吐きながら、自分が何時も弁当を開いている大きな木の下へと案内をする。木陰でありながらも葉と枝の間から僅かに差し込んでくる光のバランスが程よくて此処で昼寝をするのも悪くないと思えるような場所だった。

 

「あむっ……うぅ~ん、ちょっと焦げちゃった卵焼きだけどこんな場所で食べると不思議と美味しくなるなぁ♪」

「それは多分卵をちょっと厚く入れてその分火を通そうとしたからじゃないかな、フライパンを覆うか覆わないかの境目くらいの量がいいんだ」

「へぇっ~……黒鏡ってやっぱり料理得意なんだ、その弁当も自分で作ってるの?」

「まあね……」

 

覗き込んだ龍牙の弁当箱の中身は綺麗に取り揃えられつつもカラフルで色とりどりな中身になっている。それに比べて自分のは野菜こそ入っているが、茶色系が多くなってしまっている印象がある。これも腕前の差という奴だろうか。今度は言われたとおりにやってみようと、思っていた時に箸を置いた龍牙が尋ねた。

 

「……あのさ、如何して俺なんかと一緒に食べようと思ったのか聞いていいかな。態々慣れない弁当まで作ってきてきたのは理由か俺に話があるんじゃないの」

 

そんな風に問いかけられて思わずビクついてしまった。完全にバレている、自分が弁当を余り作った事が無い事も、そして無理して作ってきたのは話題作りの為であったことも。響香は深呼吸をしながら箸を置いて静かに頷いてから姿勢を正して頭を下げた。

 

「ごめん!!ウチずっと謝りたかったの!!個性把握テストの時、その……怖がっちゃってごめんなさい!!ずっと避けててごめんなさい!!」

 

ずっと謝りたかった、龍牙が個性を発動させた時の見た目に自分は本当に恐怖を感じた。ホラー映画に出てくるラスボス級の相手が近くにいる時の恐怖を体験した様な気分になりそれ以降ずっと龍牙を避けていた。だがそれを改めたいと思った切っ掛けは自分の個性だった。

 

彼女の個性はイヤホンジャック、耳たぶが長いコード状になっておりそれらを使って授業中は集音スピーカーなど接続して先生の声などを聴いたりしているが……その時に龍牙の小さな嗚咽を耳にした事があった。最初は聞き間違いかと思ったが、更に耳を澄ますと自分達のせいで本当に傷ついている事が良く分かった。そして悪いと思いつつもこっそりと彼を付けて彼の小さな声も聞いた。

 

『―――ぁぁっ……』

 

たったそれだけだった、だがそこに含まれていた寂しさに塗れた震えた声は未だに脳裏に焼き付いている。きっとあの時見えなかった顔は悲しさに染まっていた事だろう。

 

「だから、ごめん!!」

「いや、そんな……」

「個性をコンプレックスに思ってる人がどんだけいるとか分かってる筈なのに、それを全然考えなかった……本当にごめん、その、アンタさえよければだけどさ……今からウチと友達になってくれない!?」

 

龍牙は震えながらも頭を上げて欲しそうにするが、それを強引に振り切るようにしながら謝罪と自らの誠意を見せ続ける。そして頭を下げていると地面に水滴が垂れる音が聞こえてきた、それに釣られるように顔を上げてみるとそこには大粒の涙を流し続けている龍牙の姿があった。響香の黒鏡……?という言葉で顔を滴っている涙に気付く事が出来た、無意識に泣いていた。

 

「如何して、如何して泣いてるんだ俺……悲しくないのに、寧ろ嬉しいのに……友達に、なってくれるって言って貰えて本当に、嬉しいのになんでだよ……こんなに、こんなに嬉しい事なんて常闇が友達になってくれるって言ってくれた以来なのに何で……」

 

それを聞いて同時に響香は罪悪感を覚えた。常闇が友達になってくれて以来の喜び、つまり雄英に入学してから彼にとっての喜びはそれしかなかったという事になるのだ。自分が怖がっていたせいで楽しい筈の学校生活を苦しめてしまっていた、そんな思いを抱きつつも龍牙の手をそっと握りしめる。

 

「もう、大丈夫だから……ウチが友達になったからにはアンタを色んな所に連れまわしたり、ご飯食べるとかするからさ!!ウチが―――アンタに楽しい高校生活を送らせてやるからさ!!」

 

そんな力強くも優しい問いかけは、龍牙にとって何にも代えがたい唯一無二の喜びと衝撃を与えてくれる救いを差し伸べる手だった。

 

「龍牙、悪いけど昼食代貸してくれない!?財布忘れてきちゃってさ!!」

「それじゃあ奢るよ、今日は学食だね」

「ホントごめん!今度はウチが奢るから!!」

 

その日から、龍牙の雄英での鬱屈した生活は一転した。自らを振りまわすように手を引いてくれる響香のお陰もあってその日から笑顔を浮かべる事が増え、楽しいと思える事が加速度的に増えて行った。時には食事を奢りあったり、筆記用具を貸しあったりしながら

 

「龍牙此処マジでどうすんの……?」

「そこはこうだよ、此処を応用して」

「いやいやいやちょっと待って早いからもうちょっとゆっくり!!」

 

分からない所を教えて貰ったりと普通の学生らしいことを龍牙は漸く堪能でき始めていた。何より―――響香が仲介してくれることによってクラスの輪に入れる事が出来るようになり、少しずつではあるがクラスの皆が見る目が変化し始めている事が龍牙にとって何よりの喜びだった。

 

「有難う響香。本当に感謝してる」

「何いきなりお礼言ってんのさ水臭いな、ウチとアンタの仲にそんなのはいらないの」

「それでも」

「そう、それじゃあそんなに言うなら―――」

 

彼女は龍牙に抱き付きながら彼の首に手を回しながら満面の笑みで言った。

 

「ずっとウチと一緒に居ろ!そして―――ウチとずっと幸せになれ!!」

「―――喜んで」




―――という訳で響香さんルート、いかがでしたでしょうか。2人の英雄編で絡んだので折角なので書きました。リューキュウやねじれちゃんと違って友達から入ってそこからって感じのルートでした。他と違ってクラスと打ち解けられるのが早いのが特徴ですかね。

因みに最後のは紛れもない告白です、響香ちゃんったら大胆~、そんなのも好きだ。いやぁなんだか等身大の友人を思い出してちょっと泣きそうになりました私。


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創造されるは龍と八百万の物語

番外編、恐らく絡みが少なかった八百万 百ルート。

今回も、初期に葉隠さんが怖がりに話しかけなかった場合というIFになっております。なのでかなり異なっている所があるのでご了承ください。


「いけませんわ、少々集中しすぎてしまいました……でもお陰で良い事も沢山知れましたわ」

 

その日、八百万 百は少々遅れながら家路へと着こうとしていた。クラスの副委員長として就任したのもそうだが、今の雄英の施設で自分の個性をどれだけ試せるのかを知る為に先生から貰った資料を読み込んでいたら日が落ち始めてしまっていた。が、結果として自分の目的を多く知る事が出来たのでリターンも多かったと満足気に家路につこうとしている時の事だった。日も落ち始めており、闇が周囲に広がり始めようとしている中の個性訓練の為のグラウンドがライトで照らされている。

 

「まだ入学から三日ですのに……」

 

とても勤勉で真面目な人がいるんだなと思いつつもどんな生徒でどんな個性を持っているのか、と思い少しだけ寄り道をしてみる事にする。天下の雄英だけあって校内敷地は十分な照明で明るい、明かりに照らされた道を行く先を更に強く照らされている大型の照明のライトで照らされている先を見つめるが―――そこは周囲を黒い炎に包まれた黒い龍が演武を取り行っていた。

 

「あれは―――確か、クラスメイトの黒鏡さん」

 

百の脳裏にはその姿は色濃く残っていた。紛いなりにも彼女はこの雄英に推薦入学を行えている優等生、加えて個性は創造、汎用性と万能性、応用力において誰にも負けない程の力を持っている。初日の個性把握テストでもそれらを存分に活用した、だがそんな彼女は個性把握テストでの順位は2位、そんな自分を抑えつけるように上を取ったのが黒龍の戦士である龍牙であった。

 

部分の成績では自分の方が優れてこそいるが、全体的なアベレージでは劣っている。特に体力的な面では完全な敗北を喫する程の能力を秘めている彼をなんだかんだで負けず嫌いな百は内心で次は負けない、と思っていた。そんな彼の姿を見て、百は直ぐに龍牙の強さは長い時間をかけて積み重ね続けてきた努力のという研磨を重ね続けた結果なのだと理解する。

 

「凄い……」

 

そんな龍牙の演武、というには何処か自らの限界を伸ばす為に自らを苛め抜くかのような動きに百は気付けば目を奪われていた。そして是非とも話してみたい、話した事が無く龍牙がどんな人物なのかは全く分かっていない。出来る事ならば話を聞いてみたいという思いからかそちらへと足を進めた。

 

「だああああぁぁぁぁっっ!!」

 

準備した標的、巨大なブロックのようなそれに向けて黒炎を放射する。黒炎はそれを飲みこむと一瞬のうちに燃やし尽くしてしまう。黒炎を吐き切ると思わず膝を付いてしまう、全力全開の最大出力の放射は鉄をも焼き尽すほどの超高温。しかしその為に身体には大きな負担がかかり、既に何度も使用している為かもう身体が悲鳴を上げていた。師がこの場にいるならば更なる叱咤激励(実際は唯の怒声)が待っている事だろうが、今日は無理を言ってこのグラウンドを使わせて貰っている。軽く限界が来たらやめておけといわれているのでこの位にしておこうと思い、片付けロボのスイッチを入れて片づけを始めて貰いながら個性を解くと後ろからスポーツドリンクが差し出された。

 

「お疲れ様です、そこで買った物ですが宜しければお飲みください」

「ど、どうも……」

 

いきなり現れてドリンクを差し出してきた百に対して龍牙は完全に驚いてしまっていた、目を白黒させながらぎこちなく受け取るが戸惑っていたので、百が微笑みながら飲んでくださいと改めて言われるまで持ったままだった。そして漸く口にして喉が潤った所で何か用かと尋ねてみる事にした。

 

「此方のグラウンドのライトが目に入りまして、それで黒鏡さんが訓練をなされておりました。勝手に見学してしまった事は申し訳ございません、素晴らしいものでしたので……」

「あっいえ、そんな……俺は全く気にしてませんから……その、お目汚しになってなければいいんですけど」

 

龍牙は自分の喋り方に完全に合わせるようにペーシングを行って丁寧な対応を行う、そんな彼に少し好感を覚えながらも龍牙の後ろ向きな言葉を即座に否定する。

 

「汚しなんてとんでもございませんわ!!とても力強くて素晴らしく、見ていて胸が躍るような感覚でした」

「……そう言って頂けると素直に嬉しいです、有難う御座います」

「先程の物は全て我流なのですか?」

「いえ、私には師が居まして。全て厳しい実戦形式で指導されて身に着けた物です」

「まぁっお師匠様が!あのような事が出来るまでにご指導をして頂けるなんてとっても素晴らしい方なのですね」

 

百のそんな言葉に龍牙は心からの嬉しさを覚えた、自分だけではなく師である父を素晴らしいと言って貰えた。それが堪らなくなり笑顔で自分にとって世界最高の師だと断言すると、百は微笑みながら一度会ってみたいと答える。

 

「あの黒鏡さん、実はいきなりこのようなお願いをするのは不躾かと思うのですが……このような機会があるのでしたら私もご一緒させていただく事は出来ないでしょうか」

「八百万さんも一緒に、ですか」

「はい。私も嗜み程度ですが武道を学んだ事があるのですが、それらを実戦形式で個性を交えての物は余り経験が無いのです」

 

所謂総合格闘術という物は学んだ事があるが、あくまでそれら単体が主でそれらに自らの創造の個性を組み合わせたものは経験的には少ない。それらに個性で作った物を合わせる事があるが、個性を組み合わせる事を前提にした事は初めての試み。そう思い立ったのも龍牙が自らの個性の良い所を完璧に引き出しているから自らも出来るだろうかと思った。

 

「それにしてもそれをよく今私に言いましたね」

「万里一空、ですわ」

「ヒーローを目指す上で有益なチャンスは見逃さない、と?」

「その通りです」

「面白い方だ、俺などで宜しければお相手させて頂きましょう」

 

その日から、龍牙と百は共に訓練を行うようになった。雄英での訓練が思わぬ事を生み、龍牙はこの事を師であるギャングオルカと校長に話すと心から喜ばれた。初日から孤立したようになってしまったからか二人は酷く心配していたのだが、全く怖がらずに接してくれたという点も龍牙の事を考えると本当に良いお相手だと。そしてオルカはその時間を大切にすべきだと自分との訓練の時間を見直した結果、百との訓練時間が増えた。

 

「ですので私の個性の強みは相手の出方に合わせ、即座に対応出来ることだと思うのです」

「それは確かに唯一無二かもしれないけど、それはそれで後手後手に回るという事と同義。相手に合わせるだけではダメです」

「ではどのように……?」

 

既に膨大な戦闘経験を積んでいる龍牙は百の戦闘スタイルなどを聞きながら、どのような戦い方を組み立てるべきかという話にも積極的に意見を出していく。幅広い対応能力こそ最大の強みと語る彼女とは違い、龍牙的にはハッキリ言って百は相手にはしたくない相手でしかないと答える。

 

「例えば俺に対して剣などで出して戦っている時に、不意に槍を出してスタイルを変えていく。そして相手が戸惑っている間に次々に新しい物を生み出して相手を困惑させるという事を俺なら真っ先に警戒します」

「つまり、私の最大の強みは手札の多さという事ですね!」

「俺はそう思いますね。手札を敢えて消費して相手の戦法を読み解いて、そこから相手の苦手とする者を選択するだけで苦しくなりますから」

「成程!!では常に考えるのではなく、既に考えてあるものから選択していくのですね。成程、それならば精神的な動揺で揺さぶられる事も少なくなる……」

 

この辺りはギャングオルカの殺意混じりの訓練を経験している龍牙だからこそ即座に気付いた事もかもしれない。精神的な動揺は思考力を一気に食い潰していく、恐怖などで精神が蝕まれると考えられる事が一気に考えられなくなる。常に考え続けることも大切ではあるが既に考えをある程度纏めておくことも重要になってくる。

 

「くっあそこから切り返しを行えるのですか!?ここは矢張り一旦引いてから、いえ逆に距離を詰めてからです!」

 

常に考えて相手に合わせることが主だった百、しかし龍牙の言葉もあってから最初から無数に作ってあったから手札から戦略を組み立てていくようになっていった。単体ではなく複数の手札を組み合わせた物も率先して使うようになり、そして咄嗟の創造の活用も格段に上手くなっていく。

 

「さ、さっきの一撃は驚いた……」

「フフフッ驚いてくれました?」

「躱したと思ったら鎖付きの重りが出てきて脇腹を捉える、正直これはきつい」

 

元々あった対応力にトリッキーさが加わって相手をする身としては非常に辛くなっていく百、時には龍牙を完全に翻弄して手玉に取る事すらあった。そんな百との訓練は浮いてしまっている龍牙にとって大きな救いとなった。だが有難いと思いつつも、自分といる事で周囲から何か思われていないかと不安に思う事もあり、彼女に思い切って自分は怖くないだろうかと尋ねれるのだが……彼女はキョトンとしながら首を傾げた。

 

「龍牙さんが怖い、ですか。いえ全く、個性把握テストでは迫力に圧倒はされましたが怖いとは全く思いませんでした、寧ろ負けたくないなという物の方が強かったですわ」

 

当たり前の事ではないか、と語る彼女に呆気を取られていると百は笑顔を浮かべながら自分の手を取って言うのである。

 

「それに―――私と龍牙さんの関係を周りがとやかく言うなんて可笑しいですわ。私は龍牙さんをとても好いております、そんな殿方に対して私が怖いなんて思うわけありませんわ」

「八百万さん……」

「もう、百で宜しいと言っておりますのに……これからは百でよろしくお願いしますね」

「気を付けますよ、百さん」

 

そんな彼女の言葉もあって龍牙はとても救われた。そして気付けば二人は共に居る事が当たり前になっていく、共に勉強する、食事をする、共に訓練する、帰宅するのが当たり前になる。

 

「百、次はあれだったよね」

「あれですね、用意しておきます」

「んじゃこっちで用意するのは……うん分かった」

『凄い通じ合ってる!?』

 

周囲から見ればその光景は、カップルを通り越して完全に夫婦のそれだったという。

 

「行こうか」

「はい♪」

 

手を繋いで歩く二人、とても仲睦まじく割って入る事こそが憚れるような絵になっている光景を生み出す二人。これから二人はどんな未来を作るのか、それはきっと明るいものなのは間違いないだろう。




―――という訳でヤオモモルート、いかがでしたでしょうか。

友達、というよりも訓練仲間から絆を深める的な感じですかね。いろいろ考えた結果、ヤオモモはご令嬢なので様々な個性についてに教育とかを受けているので怖がるという事はあまりなくそれの個性の特性として捉えるのではないかと思いました。

なんかお嬢様が最終的にこう、幼馴染的になっていって仲良くするって最高だよね。好きだヤオモモ。


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黒き龍は輝くような盾と共に前へ

番外編、メリッサ・シールドルート。


「龍牙、留学をしてみないかい?」

「留学……ですか?」

 

それは間もなく中学生になろうという時の事だった、突然根津から留学を勧められた。

 

「I・アイランドは知ってるよね、そこに僕の教え子がいるんだけど彼に君の事を知らせたら是非とも会いたいと言われてね。何ならこっちでいろいろ学んでみないかって言われたのさ」

「あのI・アイランド、ですか……でも大丈夫ですかね」

「大丈夫か。言語の壁だった直ぐに超えた君なら向こうでも上手くやれるよ」

 

この時点で根津の仕込みを経て既に英語、ドイツ語、ロシア語をマスターしている龍牙。きっと言葉の問題で困る事もないだろうと確信している。加えてI・アイランドは何方かと言えばアメリカ寄りな所もある場所、日本よりも遥かに個人を尊重し、力があればどこまでも行ける自由な気風もある。それに―――I・アイランドならば個性による差別を受けづらいという利点もある。

 

そんな勧めを受けた龍牙はそのままI・アイランドに留学を行う事になった。この事に一番反対したのはギャングオルカであり、彼としては弟子以上に可愛い息子を一人で行かせて大丈夫なのか、後会えないのがさみしいという理由もあったがこれも龍牙の為だと涙をのんで送り出した。尚、1週間に一度は絶対にメールと電話をしろという事は言われている。

 

「よぉっ君が龍牙君だな、君の事は根津先生から聞いてるよ、ようこそI・アイランドへ」

「あっこれから宜しくお願いします、桐生博士」

「気軽に戦兎でいいって、これから一緒に生活するんだぜ?」

 

I・アイランドに到着した龍牙を待っていたのは根津の教え子であり既にI・アイランドに活動拠点を移して日夜研究に打ち込んでいる戦兎であった。彼が現地で龍牙の世話をする事になると同時に留学先を引き受ける事になっている、そこで龍牙は個性について修練や勉学に励む事になる。

 

「おおっすげぇ個性だな!!良いな最っ高だ、もっと俺に個性を見せてくれよ。そしてこの個性はもっともっと伸ばしていくべきだ!!!」

 

根津やギャングオルカに続くかのように自らの個性を大いに肯定する存在に龍牙は嬉しさを覚えながら、戦兎の研究にも全力で協力しながら戦兎の教えてくれる物を全て吸収しながら成長していく。そしてI・アイランドに留学を始めてから3か月が経とうという時の事だった、戦兎がある人物を紹介してくれた。

 

「紹介するよデヴィット、こいつが今俺の助手を務めながら最高の相棒をやってくれてる龍牙だよ。やっと紹介出来た」

「ハッハッハ、紹介出来たのは君が研究に熱中しすぎたからじゃないのかい戦兎。僕としてはもっと早く紹介して欲しかったところだよ」

「いやぁ面目ない、龍牙の個性が今俺が研究してるテーマにベストマッチしやがってもうイメージがスパークしてギュインギュインのズドドドドッ!!!って感じで止まらなくなっちゃって」

「君らしいよ全く」

 

そう、あの超有名な科学者であるデヴィット・シールドに助手として紹介してくれた。デヴィットとして前々から龍牙の事は噂で聞いており、是非とも会いたかったのだが戦兎のスケジュールが研究やらで埋まったいた為に此処まで伸びてしまった。

 

「会いたかったよリュウガ・クロカガミ君。君の事は以前から噂で聞いていたよ、あの自意識過剰でナルシストな孤高の天才、桐生 戦兎が助手を取ったって僕たちの間では結構話題になってたんだよ」

「ちょっと待ってデヴィット!!俺そんな風に言われてる訳!?否定する気ないけどさ!?」

「否定出来る要素が無いの間違いじゃないかな、研究成果の発表の時に毎回毎回あのフレーズを言ってれば誰だってそう思うさ」

「まあ確かに」

「うぉい龍牙までそう言っちゃう訳!?」

 

あのフレーズとは〈凄いでしょ、最高でしょ、天っ才でしょ!?〉の事である。龍牙もこの三か月で聞き飽きる程に聞いた言葉だったりする。まあ実際大天才を超える程の天才なのだから言ってもいいとは思うが……流石に言い過ぎなのである。そんな中気になったのはデヴィットの隣の女性で笑顔を浮かべ続けている、そんな視線を分かったのかデヴィットは紹介をする。

 

「私の娘だよ、きっと仲良くなってくれると思うよ」

「メリッサ、メリッサ・シールドよ。宜しくねリュウガ君」

「此方こそ宜しくお願いします、黒鏡 龍牙です」

 

弾けるような明るい声を浮かべつつも優しい微笑みを絶やさないメリッサと握手をする。そんな出会い方が彼女とのファーストコンタクト、そしてこれから続く関係のオリジンでもあった。

 

「本当にリュウガ君の個性ってカッコいいわっ!!それにこの個性の出力、素晴らしいの一言では言い表せない!!」

「全くだ、俺の研究にも龍牙はすげぇ影響を与えてくれてる」

 

それからメリッサは時々戦兎の研究室に出入りするようになり、龍牙についての事柄を手伝うようになっていた。メリッサも科学者の端くれとして龍牙の個性には興味もあったし、自分の研究に生かせる物があれば取り組みたいという思いもあっただろう。だが、そんな思いはあっという間になくなる程に龍牙に対する好奇心が沸き上がる。

 

「よし龍牙、次はお前とどれが相性を良いのかを調べていくぞ」

『了解です』

 

彼女にとって龍牙の個性は全く恐怖の対象などではなかった、寧ろ様々な意欲をかき立てられる素晴らしい存在としてしか映らなかった。そんなメリッサに龍牙も最初こそ何処か戸惑いこそあったが、徐々にそれも無くなり初めての年の近い友人が出来たと根津やギャングオルカに報告を行った。

 

「ねえリュウガ君、今度私の研究も手伝って貰えないかしら。実は炎に関する事だから是非とも力を借りたいの」

「炎ですか、俺の黒炎は普通の方とはだいぶ違いますけど大丈夫ですか?」

「大丈夫寧ろ好都合!黒炎は普通の炎よりも火力も高いから逆に良いデータが取れるわ!!」

 

そんなメリッサと龍牙は日に日に近い距離を取るようになっていた。休日になれば共に出掛けたり、メリッサの研究に龍牙が付き合ったり、メリッサが龍牙の勉強を見ると言った事も少なくなかった。そんな二人を戦兎は何処かニヤニヤとしながら見守って自主的にいなくなって二人っきりの状態をちょくちょく作ったりもしていた。

 

「ねぇっこれなんてどうかしら?」

「こっちの方がいいと思いますよ」

「あっやっぱり!?」

 

そんな風に何時の間にか二人は共に居る事が多くなり、当たり前のようになっていく。気付けば、カップルのような関係を築いていたがそんな時間が過ぎていく中で龍牙は間もなく高校の受験を控えるようになってきた時の事。I・アイランドにはあくまで留学の為に来ているのであって高校は雄英に行くつもりだった。そして受験と共に日本へと戻る予定、だったのだが……

 

「あの、メリッサ……?」

「いや」

「いやあの、そろそろ離れて貰わないと準備が出来ない……」

「いや」

 

龍牙が自室にて荷物の整理を始めようとしていた時の事、メリッサが無言でしがみ付くように抱き付いてきた。突然の事に驚きつつも離れて欲しいのだが、彼女は意固地になって離れようとしてくれない。帰国のスケジュールもあるので好い加減に準備を進めないといけないのだが……。

 

「いや本当に準備しないと帰れなくなっちゃう……」

「帰らないで」

「いやそういう訳には……」

「いや、帰らないで……」

 

何処か震える声のまま、彼女は懇願するかのように言った。このI・アイランドに来てからもう数年になっている、何度か日本に帰ったりもしていたが、今度は本当に日本へと帰ってしまう。そう思うとメリッサはこの腕を離したくなどはなかった。そんな彼女の気持ちを龍牙とて理解していない訳ではない、自分だって出来る事ならば離れるなんてことはしたくはない……だがヒーローになる為に雄英に入るというのは以前から決めていた事でもあり、根津に約束したことでもある。

 

「メリッサ、俺は日本に戻らないと。それは分かってくれてたじゃないか」

「そうだけど、それはまだ貴方と今みたいじゃなかった時だし、あの時と今じゃ全然違う」

 

あの時は友人程度だったかもしれない、だけど今は違う。好き合っている相手が遠くに行ってしまう、それが彼女にとっては堪らなく苦しい事。龍牙の夢は分かっているしその為にも必要な事なのも分かっているが感情を止めきれない。そんな彼女を龍牙は静かに抱きしめる。

 

「もう会えなくなる訳じゃないよ、長期休暇中は絶対に会いに来るしメールとかも毎日する」

「ビデオ電話もする?」

「するよ絶対に」

「……うん」

 

漸く彼女は渋々と言った様子だが龍牙を離した、そんな様子に少しだけ安心した表情を浮かべるが直ぐにもう一度メリッサが抱き付いた。そしてそのままキスをする。時が止まったかのような感覚に陥りながら固まっていると頬を赤くしたメリッサは潤んだ瞳を向けながら言う。

 

「約束だからね、守ってくれないと許さないから。日本に乗り込んで龍牙を無理矢理I・アイランドに連れて行っちゃうから!!」

「そりゃ怖いな、絶対に守るよ」

 

そうやって見つめあい、少しだけ笑うと二人は自然ともう一度口づけを交わす。今度は互いが互いの存在を噛み締め合うように、体温を共有し合うような長く蕩けあいそうな程に熱に満ちた深いキスだった。

 

 

素敵な恋人を得て日本へと戻った龍牙、そんな彼はどんな物語を綴っていくのだろうか。決まっている、愛する者の思いを受けた龍はラブ&ピースを齎す英雄になるのだろう。そんな龍の傍らには星のような笑みを浮かべる女性がいると皆が知るだろう。その輝きを背に受けながら龍は天を舞う、その光と共に。




―――という訳でメリッサさんルートでした。いやぁね、本当に素敵ですよね。そして今までのとはちょっと違った物を入れてみたつもりです。

本当にもっと早く映画を見ればよかったと後悔しかなかった。


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蛙が吹く歌は梅雨の中で龍が舞う

番外編、梅雨ちゃんルート。

今回の番外編において、初期に葉隠さんが怖がり話しかけなかった場合というIFになっております。なのでかなり異なっている所があるのでご了承ください。


入学から少し立った頃、龍牙は普段通りに一人でいた。初日の一件、自らの個性の見た目に関しては致し方ないと思っている。これから変えていけばいい、自らの在り方で変えるのだと思っていたが―――それでも矢張り、目の前であのような光景があると辛さが滲み出ていた。恐ろしげな表情の下で表情は沈み、涙すら零れそうになるほどにその瞬間は辛かった。

 

それでも前に進むという選択肢しか持てない、ヒーローになりたいと彼は雄英で頑張るつもりだった。それでも孤立してしまった、常闇という存在が歩み寄ってくれてはいるがそれだけで龍牙の心に広がって雨は晴れる事は無い。雄英でも一人で居続ける彼は殆ど無表情、機械のように淡々と過ごしていた。そんな時、一人の少女が歩み寄ってきた。

 

「少しいいかしら、龍牙ちゃん」

「ああ、えっと……蛙吹さん……でしたっけ」

「そうよ蛙吹 梅雨。梅雨ちゃんと呼んで」

「あっはい、分かりました……」

 

唐突に話しかけられた事で何処かおっかなびっくりに受け答えする龍牙は少女の事を少しだけ知っていた、といっても教室にいる時に耳に入ってきた話で名前を知っている程度。そんな少女、蛙吹 梅雨は梅雨ちゃんと呼んでと話しかけながら皆が昼食を取る為に食堂に行ってしまい、教室で一人残っていた龍牙へと声を掛けた。

 

「お昼は食べに行かないの?」

「いや、弁当を作って来てるから食堂には行けないよ。後で適当に食べておくつもり」

「あらっそれなら一緒に食べないかしら、今日は私もお弁当なの」

 

女の子らしい可愛らしいケースを片手に持っている梅雨、そんな一緒に食べようと誘ってくる。今まで孤立していた龍牙にとっては驚きの誘いであると同時に戸惑いが訪れた。何故ならばクラスの女子が向けてくる視線は恐怖か戸惑いの何れでしかなかった。

 

「……俺なんかで良いなら」

「そんな言い方はしない方がいいわ、それじゃあちょっと机近づけるわね」

 

そんな日、初めて龍牙は誰かと昼食を取る事になった。

 

「龍牙ちゃんのお弁当って彩り豊かね、色合いのバランスが凄い良いわ。お料理の本に乗ってる見本みたい」

「そうかな、特に意識してないから何とも言えないけど。そっちだって可愛いものがいっぱいじゃないか」

「ケロッそうね。今日はお母さんが作ってくれたの、一緒にお弁当を作ってくれたの」

 

そんな会話を行いながらの昼食は龍牙にとっては楽しかった、常闇は何方かといえば言葉少なめなので此処まで喋った事もないからか何処か愉しさが滲み出ていた。普段ならば食べるというよりも淡々と処理するような食事もその日は時間をかけた物だった。

 

「今度は一緒に学食に行きましょうよ」

「それも、良いかもね……。今日はありがとう、蛙吹さん」

「梅雨ちゃんと呼んで。それと今日だけみたいな言い方はしないで、また明日も誘うから」

 

そう言ってウィンクをしながら一旦教室から立ち去っていく姿を見送った龍牙は自分の物を仕舞いながら、楽しかったという思いの心地よさからか薄っすらと浮かべた笑顔に気付かずに次の授業の準備を行った。

 

そんな風に龍牙の孤立していた日々は彼女によって少しずつ楽し気のある物へと変化していた。共に取る食事の楽しさやその時にする会話の楽しさなどもあり少しずつ笑うようになっていった。未だに彼女の事を梅雨ちゃんと呼べずに蛙吹さんと呼んでしまうのが、彼女からすれば不満だったがそれぐらいしかなかった。

 

「龍牙ちゃん、何か私に言いたい事があるんじゃないの?」

「えっ―――」

 

それも唐突でいきなりの事だった。その日は天気も良い事だから外で一緒に弁当を食べようと決めていたのか、二人ともに外にいた。そんな時に彼女の言葉に思わず龍牙は詰まってしまった、突然何を言うのかと問おうとするのだが彼女の何処か鋭くも自分の心を見透かすような瞳が言葉を詰まらせる。

 

「私、思った事を何でも言っちゃうの。龍牙ちゃん、何かあったのかしら」

「……」

 

その言葉通り、何かあった。だがそれを話していいのか、話してしまったら今のこの楽しい時間が壊れてしまうのではというそんな小さな恐怖が付き纏っていたために言葉に出せなかった。しかし、彼女にそう聞かれたならば言わなければならないという義務感があった。それは彼女に対する礼儀であり今日まで楽しかった時間を受け取っていた自分が言うべきだと思った。

 

「―――この前に、聞いたんだ。蛙吹さんがその……俺といる事に対して心配されてるって話をしてるのを……」

「あの時、聞いちゃったのね」

 

不意の事だった。龍牙は教室に忘れていた物を取り返った時の事だった、その時に聞いてしまった。彼女とクラスメイトが話をしていた事に。話をするのは当然だろうからそのまま、自分の用を済ませようともしたがその時の話は自分の事だった。思わず、身体が動かなかった。

 

そこにあったのは自分と共に居るのかに対する問、彼女を案じる声だった。彼女以外からすれば自分は恐ろし気な姿を持つ良く分からない存在、そんな相手と共に居る事に対しての不安があったのだろう。それを尋ねていた。

 

「だから龍牙ちゃんは私といない方がいいと思ったの、でも私が自分から一緒に居るって事も分かってくれたから悩んでたのね」

「……」

「そうなのね」

 

自分の思いを見透かすように語る彼女に龍牙は沈黙を作る事しか出来なかった。彼女の言葉は全てがあっている、その通りだから。そんな彼に蛙吹は何も言わずに手を上げて、彼の頬にそっと手を当てた。少し大きな手が頬に触れた時に顔を下に向けていた龍牙は不意に上げてしまったがそこにあったのは暖かみのある表情を作っていた蛙吹の姿だった。

 

「私は龍牙ちゃんと本当に仲良くなりたくて一緒に居るのよ、あの時だって龍牙ちゃんは優しくて良い人だってことを伝えてたの。皆は本当はそれを分かってるけど初日を事を気にしててなかなか前に踏み出せなかっただけなの」

「―――」

「有難う龍牙ちゃん、私の事を思ってくれて。この時間が楽しかったから話したくないって言うのも分かってた、龍牙ちゃんならそう思ってくれるって」

 

そこまで言われて本当に何も言えなくなっていた。彼女は長くはないと言える時間の中で自分の事を此処まで理解していた。そこまで自分に歩み寄ってくれた、それが信じられないという思いと共に喜びが溢れてきてしまった。不安の中で自分が離れようとしたことさえも自分への歩み寄りと受け取って、感謝を述べてくれた。それを感じると涙が溢れてきて止まらなくなった、それを見た彼女はそっとハンカチでそれを優しく拭う。泣かないで、笑ってと笑いかけてくる、それに応えるように龍牙は不器用な笑みを作った。

 

「―――これからも、一緒に居てもいいかな……梅雨ちゃん」

「勿論よ、こちらからお願いするわ龍牙ちゃん。ケロケロ♪」

 

この時、初めて呼んだずっと呼んで欲しいと言われていた呼び方をした。梅雨ちゃんと、まだぎこちなく恥ずかしさがある呼び方だったが彼女は嬉しそうにしながら笑顔で答えた。

 

この日から龍牙は自分から他のクラスメイトに歩み寄ろうという努力をするようになる。不安もあるようだがそこを梅雨ちゃんが上手くフォローし支える事で龍牙の気持ちが相手に上手く伝わっていったのか、徐々にA組の皆と打ち解けあうようになっていった。そんな風に導いてくれた梅雨ちゃんに龍牙は心からの感謝を述べながら、彼女と共に居るようになっていく。

 

「梅雨ちゃんちょっと近くないかい?」

「そうかしら、そんな事は無いわよ。この位が普通よ」

「そうかな」

 

徐々に距離が狭まっていく二人、歩み寄り手を取る彼女とそんな彼女の手を取って歩む彼。気付けばいつも一緒に居るようになっており、龍牙の暗さは失われていた。明るい梅雨ちゃんのように明るくなっていく。

 

「好きよ龍牙ちゃん、大好き」

「―――えっあのその……お、俺も大、好きです……」

「龍牙ちゃんったら顔が真っ赤よ、可愛いわね♪」

「そ、そんな事言わないでよ……」

 

彼女の言葉に顔を真っ赤にしながら自分の気持ちを吐露するが、龍牙の言葉を聞いて改めて笑顔を作りながらも龍牙をからかう。少し悪女っぽさを見せながらも顔を隠す彼に抱き付いた。やわらかな感触に戸惑う龍牙、そんな彼を見て彼女は―――

 

「龍牙ちゃん」

「もう、勘弁してよ梅雨―――」

 

その先の言葉が出なかった、それは何故だろうか。それは―――二人の影が一つになっていたからだろう。暫ししてから龍牙は更に顔を真っ赤にしながらも梅雨ちゃんの背中に手を回して抱きしめるようにして顔を隠していた。そんな彼に抱かれている彼女も顔を赤くしつつも幸せそうな表情を浮かべる。

 

「今度は龍牙ちゃんからお願いね♪」

「うううっ~……」




―――という訳で番外編、梅雨ちゃんと恋人になるという話でした。

何を隠そう、ヒロアカの中で一番好きな女性キャラが梅雨ちゃんだ。故か自然と筆が乗って長くしようと思わなくても長くなる。やっぱり好きだなぁ彼女……。



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過去に囚われた時間は龍と共に未来へと

まさかの壊理ちゃんルート。といってもそのままではなく龍牙と同年代的な設定になっている壊理ちゃんルートです。そのままだと……流石に、ね。

ご希望された方、なんか違ったらすいません、今度日常系で龍牙と壊理ちゃんをほのぼのさせるので。


「はぁはぁはぁっ……」

 

走る走る走る、暗闇の中を必死に両足を動かして走り続けていく。走る度に不安と恐怖が渦巻く、それにさえ背を向けて走り続ける。もうあそこに居たくない、耐え続けてきた思いが爆発したかのようにその衝動に身を任せるように駆けだしていった。もう一寸先も見える事が無い程の暗闇を駆けて行く。

 

 

―――何処に行ったんだ、早く探せ。

 

 

息が詰まる、足が止まりそうになる、全身が凍り付くかのような感覚が全身を縛り上げていく。そんな中、突如として足元が瓦解して重力に引かれるがままに落下していく感覚があった。もしかしたらこのまま自分は死ぬのではないかという恐怖があった、でも同時に深い深い安堵も存在した。もう怖い思いなんてしなくていいんだ、自分はもう何も怯える必要なんてないんだと深い安堵と共に身体を引っ張る疲労にも似たそれに身を委ねた。

 

 

―――……、……!?―――、―――!!!

 

―――……!?……、―――!!!

 

 

深い深い闇の中を揺蕩い続ける身体は不意に何かに抱き止められたかのような感触があった。それは暖かな心地良さと安心感を齎してくれた。それに身を預けながらその心地良さに酔ってしまう、此処が天国なのだろうかと誤認するかのような温かさがあった、そして時々優しくて甘い頭を撫でられる。自分が望んでいた物があった。そんな安らぎの中ならば瞳を開けても良いのではと思いながら瞳を開けるとそこには此方を見つめている一人の少年がそこにいた。

 

「あっ目、目を覚ました!?ちょっちょっと待っててよ、其のままで良いからというかちゃんとじっとしてるんだぞ!?師匠ぉ~校長~目を覚ましたぁ~!!」

 

覚醒を待ちわびていたかのように大慌てで駆け出していく少年に呆気に取られていると次々と人が駆け寄ってくる。周囲を見回してみると小綺麗な内装に良く分からない機械が何かの表示をしている、首を傾げながら戻って来た少年に尋ねるのであった。

 

「あ、あの……此処は……?」

「覚えてない、君山道で傷だらけで倒れこんでたんだよ」

 

正しく偶然且つ奇跡とも言える出会いだった。その日、山間部にて行われる訓練に望んでいた龍牙と師であるギャングオルカ。ギャングオルカの一撃でぶっ飛ばされて崖下に落とされて痛みの中で歯を食いしばっていると隣には僅かに出来ている血だまりの中で倒れこんでいる少女の姿があったのだから。

 

『えっ、ええええええッッ!?師匠、師匠大変です女の子が大怪我してます!!!』

『な、なんだとぉ!?今行く……これはまずいな、訓練は中止だ急いで病院に連れて行くぞ!!俺は車を回す、お前は応急処置だ出来るな!?』

『はいばっちゃんに叩きこまれてます!!』

 

二人は大層驚きながらも崖下にて大怪我をしていた少女を救助、龍牙はその場で応急処置をしている間にオルカが車を回し彼女をヒーロー御用達の大病院へと担ぎこんだ。医者の話ではかなり危険な状態だったらしく、崖から落ちた事で骨折に加えて身体に合った傷が開いた出血も合わさって大量出血死が迫っていたとの事。実際こうして目覚めたのも奇跡に近いとの事。

 

「龍牙の処置が的確だったから確り止血出来たのも大きい、出なければ確実な失血死だっただろうな」

「ばっちゃんの教え方が良かったですから」

「そのリカバリーガール自身が君のお手柄だと言ってたんだから大人しく受け取っておきなって」

 

自分の視線の先で大きくて少し怖そうな男(ギャングオルカ)白い小さなネズミみたいな人(根津)から褒められている少年(龍牙)の姿が何処か眩しく羨ましく映った。どうして彼はあんな風に笑えるのだろうかと深く疑問に思っているとその彼が此方を向いた。思わず身体が震えてしまった、何か不快にさせてしまったのだろうか。不安になっていると龍牙は笑いながら頭をそっと撫でてくれた。

 

「大丈夫、俺達がいる限りもう君は傷つかないよ。頼もしいヒーローが付いてるからね」

 

柔らかで暖かな笑みは胸の中にあった不安と疑心を解きながら素直な自分の本心を出せるように導いた。

 

「個性でか……そうか、俺と同じなんだな壊理」

「同じ……えっ?」

「俺も捨てられた身だからさ」

 

少女、壊理は自らの個性によって母によって捨てられた。彼女は引き取られた先にて日常的な暴力などを受け続けながら生きてきた、その理由となっているのが彼女の個性だった。壊理の個性は両親とは全く異なっている突然変異系の個性、巻き戻し。触れた対象の構造を過去の構造へと直す個性。以前は生物だけだったが成長と共に無機物にも作用するようになった個性、がこれによって母親からは捨てられ引き取られた先でも酷い日常を送り続けてきた。

 

そんな壊理に歩み寄ったのは同じように親から見捨てられてしまった龍牙。彼は個性を発動させながら彼女を見た、壊理は突然の龍牙の変貌に驚きながらもそれを見据えていた。自罰的に笑いながらも龍牙は言う。

 

「壊理ちゃん、確かに君の個性は凄い力だ。暴走してしまったのは使い方が分からなかったからだろ、ならこれからゆっくり学んでいけばいい。それに君の個性は本質は戻す事じゃない、癒す事だ」

「癒す……?」

「そう。君の力なら大怪我をした人やもう手の施しようがない人を助けられる、多くの人たちに未来を生きる時間を戻してあげる事が出来る」

「……初めて、そんな風に言われたの」

「なら俺と一緒にその……頑張らない?」

「―――頑張る……!」

 

壊理にとって龍牙の言葉がどれだけ彼女の中に合った価値観を破壊して新しいものを与えただろうか、彼女の個性を使い続ければ対象は無へと帰って消滅する。破壊よりも性質が凶悪な物だと言われ続けてきたのに無へと戻すのではなく未来へと進む力だと表現された事は正しく祝福に福音だった。

 

「よし頑張れ壊理、こっちだ」

「ま、待って……うん頑張る!」

 

壊理はその日から涙を見せなくなった、笑顔と共に歩み龍牙の隣にいるようになった。

 

「おやつにアップルパイを作ってみたんだけど食べる?」

「食べるっ……!」

 

そんな壊理との日常は龍牙にも好ましい変化を齎した。境遇も近く歳も近い事も関係しているのか龍牙もまたよく笑い社交性が良くなっている事が保護者らから見ても分かった。そして壊理の個性の訓練には龍牙の怪我を治すのも含まれているので壊理も龍牙と共に訓練をするようになり、何時しか彼女もヒーローを志すようになっていた。

 

「いこっ龍牙、今日から高校生。頑張ろうね」

「ああ、頑張ろうな壊理」

 

だが彼女には何時しか試練の時が訪れるだろう、彼女の過去が今に手を伸ばし彼女を犯そうとするだろう。その為に龍牙は力を振るう、家族として彼女を守る為に……。

 

何時か黒鏡 壊理って名乗れたらいいのに……

「どした壊理、緊張しちゃった」

「う、ううん気にしないで!?」




……何か凄いムズムズする、何でだろうか……。


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流れた先にあった物を得た黒龍

ピクシーさん事、土川 流子ルート。
本編はまあうん……あれだからね、是非もないよね!!


「フフフ~ンフン、フッフフフフンフンフフ~ン♪」

 

気分よさげな鼻歌を響かせながら手早く且つ繊細な掃除を続けていく、足取りからもご機嫌なのが伺えるほどにウキウキしているのが分かる。変わらぬ日常の一ページだが変わらぬもの事が一番尊くて大切なのは良く分かっている、だからこそ一日一日を大切に過ごしている。久しぶりの非番を自宅で悠々自適に家事をしながら過ごす、これも一つの贅沢な時間の使い方、である。

 

「よし、家全部の清掃終わり!!」

 

仕事の関係もあり掃除も出来ない時もある、幸いな事に明日も休み。明日はこの綺麗になった我が家で昼寝をしたりのんびり音楽でも聴きながら甘いものを嗜むのも悪くはない。気付けばもう既に日も暮れている、そろそろ夕食の準備を始めるとしよう。エプロンを付けて包丁を握って食材を切っていく、メニューは既に決まっているので迷う事もなく作業を進めていくと辺りは完全に夜の帳に包まれた。そして―――漸く玄関の扉の鍵が回った音がした、鍋の火を止めながら手を拭きそちらへと足を向ける。

 

「お帰りなさい流子さん」

「ただいま~……ああ~もう疲れたよぉ~……龍牙君慰めてぇ~」

「よしよしよく頑張りましたね」

「ムフフフ~ン♡」

 

出迎えた自分の姿を見ると繕っていた凛々しく魅力にあふれていた表情はあっさりと破顔し、そこにあったのは疲れと浮き彫りにさせているが愛しの旦那様に出迎えて貰えた事に対する喜びに溢れている表情だった。素直に疲れた事を吐露して抱き付くと甘く抱き止めてくれながら優しく撫でてくれる、この瞬間がたまらない。

 

「あと少しでご飯も仕上がりますけど先にお風呂にしちゃいます」

「―――そこはもう一声あってくれてもいいんじゃないの?」

 

チラチラっと物欲しげな瞳を向けながらも胸を寄せながら誘惑するような魅惑的な声を掛けてその先を要求する。だが旦那である龍牙は妻のそれをあっさりと受け流す。

 

「普通それ言うのはそちらだと思いますけどねぇ、というか前にお相手したばっかりですよ」

「えぇっ~しようよ~」

「はいはい我儘言わないで上がらないとご飯抜きにしちゃいますよ」

「上がりますぅ~」

 

困り顔の旦那様を堪能するのも悪くはないのだが疲れ切っている身体に耐えがたい空腹の今の自分にご飯抜きは辛すぎる、自分でも料理は出来るが腕前で言えば龍牙の上が遥かの上なのである。それを抜きというのは些か辛い、なので素直に従いながら部屋で服を脱いでラフな部屋着になってリビングの席に着くと直ぐに料理がやって来たの見て煌びやかな表情を作りだす。

 

「もう出来ちゃったの!?」

「後は最後の一手間だけでしたからね、後は盛るだけだから直ぐですよ。今日はチーズハンバーグですよ」

「わぁ~い流子、龍牙君のチーハン大好きィ~♪」

 

疲労と余りの空腹からか若干の幼児退行している妻を見て少しだけ笑いを浮かべながら自分も席について共に手を合わせて食事を始める事にする。今日も会心の出来、そんな料理を妻である流子は美味しい美味しいと子供のような笑みを浮かべて食べていく。余程空腹なのか喉を詰まらせるほどに食べていくので慌ててお茶を手渡したりといった事もあった食事は本当に楽しい一時であった。

 

「プハァ~……んもうお腹いっぱい、大満足ぅ~……」

「お粗末様でした、今日もいっぱい食べましたね」

「んもう現場が大混乱でお昼も食べる暇も無くて……あ~もうあそこでマスコミが要救助者にならなければもっと早く終わってたのにぃ~……」

 

結婚しても尚、土川 流子ことピクシーボブはプッシーキャッツにてヒーロー活動に勤しんでいる。今回も出動したのだが現場中継を行っていたマスコミが愚かな真似をして自らも要救助者になるという事をしてくれたおかげで現場の混乱は更に酷くなった上に、それらの救助も困難を極めた為に凄まじい時間が取られた。その為に何時も異常に疲れた上に昼食もまともに取れなかった、そりゃボリューム満点なチーハンを3つ、そしてご飯も3杯もお代わりする筈である。

 

「お疲れ様です」

「んもう龍牙君の言葉だけで私の苦労は報われるのぉ~ン……」

 

一人だった頃では考えられない幸福感に身体が溶けそうになりながらも視線を少し前に向ければ洗い物をしている愛しの旦那様がいる。雄々しい背中に思わずムラっとしたのかごくりとなどが鳴った、その名の如く猫のような俊敏さと隠密を発揮して背後を取ってそっと抱き付いた。個性を使って温風で洗い物を乾かしていた龍牙は声を出しつつもそれを受け止める。

 

「ねぇやっぱりしようよぉ~……疼いちゃってもう抑えられないよん♪」

「いや今日はなんか特に酷くないですか、何かあったんですか?」

「人工呼吸の場面があったんだけど、それを私と貴方で置き換えて妄想してました♪」

「救助現場で何やってんだアンタ」

 

本当に何をやってんだといいたくなるような思いで洗い終わったそれらを纏めながら背中に抱き付かれたまま棚へと閉まっていく。そんな妄想しながらでも腕は鈍らないしブレる事なんて事もないと取るべきなのだろうか……。

 

「それじゃあせめて一緒にお風呂入ろうよぉ~」

「庭の草むしりした後に入っちゃいました」

「イケズゥ~!!」

 

そんな彼女だが、次にそんな態度を一変させた。何故ならば突然深く深く抱きしめられて耳元で囁かれた。

 

「―――お風呂の後、一緒に寝ましょう。その時にご存分にお相手しますよ」

「流子ちゃん存分に身体を洗ってそれに備えてきます!!!」

 

敬礼をしながら駆けだしていく姿を見つつ溜息混じりにコップに麦茶を入れてのどを潤す。きっと今日は色んな意味で大変な最後になるのだろう、明日が休みで本当に良かったと思いつつ珈琲を淹れるためのお湯を準備する。なんだかんだ言いつつも心から愛している妻からの申し出を断るつもりなど彼には毛頭なかった。

 

 

何も映さない黒い鏡は何時しか消え去ってそこには穏やかな笑みを浮かべる黒龍とそんな黒龍と歩む流れを作った女性がいる。そんな二人は駆け寄ってくる我が子を抱き止めながら、抱き上げながらカメラに向けて笑みを浮かべて―――今ある幸せを噛み締める。




という訳でちょっと趣向を変えて既に結婚済みな所から始めてみました。
こんな物もありかなぁと思いまして、まあピクシーさんと絡ませたり途中を書くのは難しいかと思いまして、こっちの方が膨らませやすいかなぁっと。

あとなんか流れが全体的にあれな感じがするって?ピクシーさんらしいでしょ、この作品の。


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2人の英雄編―――誘われる黒龍

番外編、映画である2人の英雄編に行くぞぉぉお!!!
いやぁ見ましたよあの映画、超面白いですな!!!マジ最高。そしてメリッサさんすげぇ、いいっ……凄い、好きだ。

もっと早くに見ていたら、絶対にヒロイン候補にしてたのに……!!!!


「龍牙、林間合宿までの夏休みの予定はもう決まってるのかい?」

「いえ全く」

「それならこれを上げちゃうのさ!」

 

期末テストも終えて後は林間合宿を待つだけとなった龍牙は自宅で自習をしている時だった。自室に根津がやって来て予定を聞いてきたのでないと答えるとある封筒を取り出し、差し出してきた。それは立派な封がされているもので書かれているのは英語だった。

 

「……アメリカのヒーロー協会からって書いてありますね」

「そう、以前アメリカに行ったときに講演をしてね。その時になんかヴィランが爆弾を設置しちゃってさ、それを僕がちょちょいのちょいで解除した時のお礼みたいなものかな」

「相変わらずのハイスペックですね」

 

その爆弾も知性向上系の個性を持っていたヴィランが制作した物らしいが、根津にとってはお茶を楽しみながら解除出来る程度のものだった。しかも解除の合間に遠隔操作を逆探知してヴィランが潜伏している場所まで特定してしまうという事を行って逮捕に貢献した。その公演に参加していたヒーロー関係の著名人や大企業の社長、大勢の命を救ったとしてそのニュースは大々的に公表されていた。中を見ていいとの事なので開いてみると、そこには根津宛の手紙が入っていた。

 

「これも英語、当たり前か……」

 

そして根津仕込みの教育を受けている龍牙にとって英語など母国語も同じ。因みに根津の教育のお陰で他にも英語、ドイツ語、ロシア語、フランス語、中国語などが喋る。教える側がハイスペックだと教わる側もハイスペックになるのだろうか。因みに現在はスペイン語を勉強中。

 

「要約すると……事件解決と爆弾の処理を心より感謝します、そのお礼というには不釣り合いかもしれませんがI・アイランドにて行われるI・エキスポのプレオープンの招待状を送らせて頂きます。是非お使いください……ってあのI・アイランドに招待されるって凄いですね校長」

「エッヘン!!」

 

I・アイランド。世界中の企業からの出資によって建造された巨大人工都市で海上を移動するでヴィランに行方を掴ませないようにもさせている。世界中の優秀な科学者たちがここに住んでおり、日夜個性の研究やサポートアイテムの作成を行っているという人工島。そんな島への招待状が根津に来たという事になる。しかし、ここで根津は肩を竦めて息を吐く。

 

「僕も是非とも行きたいんだけどねぇ……ヴィラン連合に対する事とかで忙しくて行けそうにないんだよねぇ……念には念を入れて万全にしておきたいから」

「そっか……」

「だからさ龍牙、君代わりに行ってくれないかい?」

「―――へっ?」

 

思わぬ言葉に龍牙の目が点になった。I・アイランドに行く、自分が?

 

「僕の招待状だけどさ、僕が連絡さえしておけば君が行く事も出来るからさ」

「いやでも、良いんですか……?」

「勿論さ。それにこれはいいチャンスでもあるさ、I・アイランドで君の確りとしたコスチュームを作って貰いなよ」

 

龍牙のコスチュームは防刃防弾で耐火性能があるという程度のものハッキリ言って特質するものが一切ない。コスチュームであるならば自身の個性に合わせたものにし、個性を最大限に引き出したり個性にも負けない強靭なものにすべきだろうという物が根津の中にはあった。

 

「君の個性は基本的に上から鎧を着るって感じだからね、だからコスチュームの性能も上乗せできる。でもそれなのに龍牙は基本的な感じにしかしてないからねぇ……僕としてはもっと良いものにした方が良いんじゃないかなっと思ってね」

「いや今のスーツもカッコいいと思うんですけど……」

「(あの超人ロボOVAを見た影響かな……)まあ兎も角行ってきなよ龍牙。僕が良い人に話を通してあげるからさ、ついでに誰かお友達を連れて言って来ても良いよ、同伴者OKってあるし」

 

と内心である事を気にしつつもそう言い残して部屋から出ていく根津は早速連絡を取るのであった。そんな父の背中を見続けた龍牙が折角の機会なのだからI・アイランドに行くことを決めた。そして同伴者について考えだす。誰を誘うのが一番適切なのだろうか、自分にとって友達といえば常闇や焦凍になる事だろう。だが自然と二人に誘いを掛けるよりも先に目に留まった名前があった。

 

「そうだ、葉隠さんを誘ってみよう」

 

そう彼女のであった。自然と手が伸びたのは連絡先は葉隠、なんだかんだで彼女には本当に良くしてもらっているし入学直後のテストで声を掛けて貰えなかったら今頃如何なってしまっていた事だろうか……考えるだけでも恐ろしい。これはそのお礼も出来るのはと思って迷う事無く彼女に電話を掛けた。そして彼女は即答で行く!!という返事をしたので葉隠と共にI・アイランドに行く事になった。

 

「それじゃあ他には誰を誘おうか……」

『え、えっと実はね、百ちゃんのお父さんがI・エキスポのスポンサー企業の株主だからの招待状を貰ったから一緒に他の人を連れて行くって言ってたから多分誘わなくてもいいと思うの!』

「へぇっ流石八百万……それじゃあ行きは二人だね」

『うん、二人っきりだね!!』

 

此処で地味に他人が入らないようにして二人っきりという事を強調する葉隠。恋心に漸く気付き始めた彼女としては出来るだけ二人っきりでいたいのだろうが、それに龍牙が気付けるのは一体いつになるのだろうか……。因みに、この時にピクシーボブやリューキュウと知り合っていた場合龍牙は二人にも誘いを掛けている事だろう。そうなったらある意味面白くも恐ろしい光景が出来上がっていたかもしれない。

 

 

こうして龍牙はI・アイランドへと行く事になった。彼としては父の勧めで自らのコスチュームを作る為に、一方で葉隠としては愛しの彼との距離を一気に縮められるかもしれないという一大チャンスをものにする為、というよりも彼からの誘いを断る理由なんて一ミリもあり得ないのだが……様々な思いを胸に向かう先はI・アイランド、そこで龍牙は夏の思いがけない思い出と―――

 

 

「―――はい、はい分かりました。それじゃあ俺がその龍牙君、でしたっけ、彼のコスチュームを作ればいいんですね」

『そう、お願いできるかな。龍牙なら君を満足させる事が出来ると思う、君のインスピレーションが止まらない位にね。秀才の名をほしいままにしたね』

 

大きな出会いをする事になる、スーパーイベントとなる。

 

「お任せを、この天才に任せてくださいよ。根津先生」




最後に言っておく!!

多分この番外編、結構長くなるよ。

後、最後に出てきた人は分かる人には分かっちゃうと思う。


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2人の英雄編―――天才と龍牙

「龍牙君、本当に招待してくれてありがとうね!!」

「礼なら校長に言っといてよ、そもそも話を持ってきてくれたのはそっちなんだからね」

 

龍牙と葉隠の姿は長い飛行機での時間を経てI・アイランドへとあった。元々が根津への招待だったからか専用機のチャーター便での空の旅、最高級クラスでの超快適な空での旅を経て到着したI・アイランドで今は入島の為のチェックを受けている最中だった。所持している招待状や身分が投影式のモニターで確認されると無事に入島が許可されていよいよI・アイランドへの内部へと足を踏み入れる事が出来る事になった。

 

「ううっもう私楽しみ過ぎてワクワクだよぉ!!だってあのI・アイランドだよ!?私感激だよぉっ!!」

 

I・アイランドでは日夜世界中から集まった科学者たちが個性やサポートアイテムなどの研究が行われている。この都市は日本国外なので、公共の場で堂々と個性を使用するのも違法ではなく、個性を活用した娯楽も充実している。そして様々な施設も大量にある為、衣食住で不便することは全くない。此処で出来ないのは研究での守秘義務などがあるので旅行位しか出来ない事が存在しない程である。

 

「I・エキスポも近いだけあって凄い人だなぁ……後でパビリオンにもいてみようか、日本じゃ見られない個性を最大限に使った娯楽施設もあるみたいだし」

「行こう行こう!!」

「さてとそれじゃあまずはホテルに寄ってから荷物を置いてから、連絡をしないとな……」

「あっそっか、龍牙君は此処でコスチュームを作りに来たんだもんね」

 

と葉隠も超ハイテンションでとても乗り気だった。遊園地顔負けの施設が山ほどあるという事もあるが、それ以上に龍牙と共にそれらを巡れるという事が堪らなく嬉しい模様。と言っても龍牙の本来の目的は此処で自らのコスチューム制作なので遊びに来た訳ではないのだが……その位の時間はあるだろう。そんな風に思っていると此方に一つの影が迫って来ていた。

 

「おっ君が黒鏡 龍牙、かな。待たせるのも申し訳ないから迎えに来させて貰ったよ」

 

不意に自分の名前を呼ばれた事に反応するように振り向いてみると、そこには日本人と思わしき男性がフレミングの法則らしきハンドサインを作りながら此方を見つめていた。そんな男性に龍牙は見覚えがあった。ヒーロー界隈で一世を風靡、数々のヒーローの個性に合わせたサポートアイテムを作り出し、オールマイトに負けない程に平和に貢献し続ける自称天才物理学者に恥じない超が付くほどの大天才の博士がそこにいた。

 

「君の事は根津先生から聞いてるよ、ようこそI・アイランドへ」

「き、きき、桐生 戦兎博士だぁぁぁっっ!!!?」

 

葉隠は思わず大声を出しながら驚愕してしまった。龍牙が現地で合流予定になっている校長の教え子、と言っていた人物がまさかのあの超大天才の物理学者、桐生 戦兎だと思いもしなかった。が、これには流石の龍牙も予想外だったのか緊張しながら挨拶をしながら差し出された手を握り返した。

 

「わぁぁっ凄い凄い!!サポートアイテムとかコスチューム業界だと知らない人がいない位の超有名人と会えるなんて!!」

「俺としては先生からのお願いを聞いたに過ぎないんだけどね、まあそんなに硬くならなくても良いさ。さっ俺の研究室に案内しよう、そこで早速実験を始めようか」

 

そんな大天才に連れられて到着したのは桐生 戦兎専用の研究スペースとして用意された大型のビル。地上15階、地下3階まで完備した超大型施設、それら全てが彼一人の物だというのだから驚きである。そんな一室に通された二人、そこで目にしたは大型の機器がこれでもかというほどに設備されたこれぞ研究室という風な部屋であった。

 

「んじゃ龍牙君にはまずそっちで個性を発動させてくれ、簡単に君の個性数値を測定させてもらうからさ」

「分かりました」

 

指示されるがまま複数の器具の矛先が向けられているガラス張りの部屋へと入っていく龍牙を見送りながら戦兎は共に来た葉隠へと視線を向け直す。

 

「んでそっちの葉隠さんは龍牙の彼女さんか何かなの?」

「か、かかっ彼女なんてそんな!!?」

「フムフム、その反応からすると彼女ではないが好きではあるらしいね」

「あうあうっ……」

 

完全に胸の内に秘めているものを見破られた葉隠、見えないが顔を手で隠しながら思わず声が出てしまっている。そんな姿を見つつ若い子の青春だな、と思いつつそんな事を思う自分の年齢云々で自虐的になりながらも装置のスイッチなどを入れていく。

 

「こっちの準備は済んだ、それじゃあ個性を」

『はい』

 

全身の力を抜き、意識を集中させる……自らの内面に直接訴えかけるかのような感覚で体内にあるそれらを引きずり出す……そしてそれは龍牙の意思に呼応するように眠りから目覚めて黒い炎となって身体中を包み込んでいく。

 

リュウガ……!!

 

「これはっ……!!」

 

初めて目の当たりにする黒き炎から出でた黒龍の姿に思わず息を飲む。その身を覆う黒き鎧、その姿、圧倒的な存在感、そして計測されていく個性数値の値に驚愕を覚える。異常なまでに高い数値、唯才能があるだけではこのような数値には絶対にならない。厳しい訓練を数年、いや最低でも10年は続けないと出せないような数値になっている。根津から龍牙はギャングオルカの弟子でずっと厳しい訓練をし続けてきたという話は聞いた、その努力の結晶とも言える数値がそこにはあった。

 

「素晴らしい……なんて素晴らしいんだ……!!」

 

戦兎の胸に溢れたのは溢れんばかりの称賛と畏敬の念だった。話で個性の見た目について苦労している事も聞いているがそれについてはもう気にしなくなり始めているという事は知っている、だが実力についてはノータッチだった。実際に会って知るのを楽しみにしていた。そして今、こうして改めて凄さを知って感動の嵐。

 

「龍牙君、俺は全力で君の為に動かせてもらうよ。君に相応しい最強のアイテムを作ってみせる!!」

『心強い限りです』

「それにこの数値なら、俺の傑作のあのアイテムのパワーにも耐えられるはずだ!!ああ、なんて良い日なんだ!!先生からのお願いだから引き受けたけど、ああっ最っ高だ!!!」

 

歓喜に震える戦兎は同時に思う、此処まで練り上げるのにどれだけ苦労と努力を重ねてきた龍牙、彼の凄まじさが。そして同時に―――その凄さを知りたいという欲求が生まれる。それらを満たす為、龍牙の為にも自らの成すべきことを行い始める。




っという訳で我らが天っ才物理学者さんのご登場です。
はい、名前ネタです。だってまあ……万丈ではないけど名前は同じだし。

皆、大体万丈って呼ばれてるけど龍我でもあるんだよ万丈って!!まあ呼んでるのかずみんと香澄さん位だったような気がするけど。

万丈が、万丈だ、って呼ばれるのが主流なのも全部エボルトのせいだな。


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2人の英雄編―――天才科学者の個性と黒龍

「おおっ凄いなんて走力なんだ!!いやこれは個性関係なしに彼の実力なのか!!?」

『いえ、この姿だと俺の力が底上げされてるので個性も関係ありますね』

「最っ高だ!!なんて素晴らしい個性なんだ、もっと俺に見せてくれ!!」

 

戦兎の研究室にてコスチュームとサポートアイテムの開発の為に龍牙の詳しいデータを揃えてる為に様々なテストを受けている。今現在は走力の計測の為に高速で稼働しているコンベアの上で全力疾走を行っている。走る速度だけでもかなりの好記録なのか、戦兎の機嫌は更によくなっていく。これだけハイスペックな相手に合うアイテムを製作するというのに興奮しているのだろうか、葉隠と龍牙としては良く分からない世界だと思いつつもテストをこなしていく。

 

「腕部集中……ドラゴン・ストライクゥッ!!!」

「WOW!!パワーもとんでもないなぁ!!これは素材も吟味しないとダメだな、しかもただ強靭なだけでは彼の動きを阻害して機動力を殺してしまいかねないから柔軟性の向上も必須。だがそれだけの素材を作り出すのは容易じゃないな、これは素材の吟味と同時に製作面での新しい機材の設計から始めていく必要があるのか!?」

 

顎に手を当てながら高速詠唱をするかのように言葉を途轍もない速度で呟いている戦兎を見つめる龍牙と葉隠、唯々龍牙の個性に合わせた素材を探すだけではなく、それらのを素材を100%活かせるような機材の開発から入らなければならないという事が聞こえてきてなんだか想像以上にとんでもない事になってきたな、と少しばかり不安になりつつある。そんな時、戦兎に天啓が迸る。

 

「そうだ!!確か龍牙君の個性数値はこれほどまでに高いんだから、素材云々よりも個性に合わせてそれらと同調する系統のアイテムの方が余程合理的だし性能もあげられる!!そうだよ、ついついコスチュームって事にとらわれ過ぎたな!!そうだそうだよ、あのアイテムを彼なら活かせるかもしれないじゃないか!!最っ高だっ!!龍牙君ちょっと待っててくれ!!」

「えっ!?あ、あの戦兎さん一体どこへっ!!?」

 

と思わず声を掛けるが戦兎はそんな声が聞こえなく程に一気に加速して部屋を飛び出して行ってしまう。その際に微妙に彼の靴やらが発光しているように見えたが、それは気のせいだったのだろうか。思わず顔を見合わせてしまう龍牙と葉隠、今まで色々と濃い面子と会った事がある二人が、あれは別のベクトルの濃さだと再認識する。

 

「私、桐生博士の事ってすっごい大天才って事しか知らなかったけどあんな人だったんだね……」

「研究一筋って感じだったね……それと好奇心とかが刺激されたらなんか、それを止める色々なストッパーが一気に外れて暴走するタイプ……」

「だね……ねえ龍牙君、大丈夫かな」

「不安になってきた……」

 

2人も戦兎の事はそこまで詳しいという訳ではない。雄英のOBで自分達にとっての先輩、そしてサポート科に所属していたが雄英体育祭で他の優勝候補者を退けての優勝経験がある規格外な人物。それでヒーロー科への転入の誘いもあったそうだが、結局転入したのは3年になってからで基本的にサポート科の人間だった。そして卒業後、本格的に頭角を現した人物。

 

一時的にプロヒーローとして活躍したが、それも僅かな間で直ぐに研究方面に進んで様々な研究成果を世に送り出し続けている。特に革新的な技術の開発に新素材などの分野での活躍が目覚ましい。彼が開発したものがあるからこそ、今のヒーローのコスチュームとサポート業界が大躍進したのは間違いない事だろう。

 

「ただいまぁっ!!!」

 

とそこへドアを蹴り破りながら帰ってくる戦兎。流石は元プロヒーロー、ドアは大きく拉げた上に深々と蹴った際の痕が残ってしまっている。一体どんな脚力をしているのだろうか……と激しく思ってしまった二人が無残な事になっているドアを見続けていると戦兎がそれに気づいたように自慢げに語りだした。

 

「ほうっ二人とも線が細くて筋肉質じゃない俺が此処まで蹴りがやばいのが気になるか」

「流石にね……だって凄い拉げてますよ?」

「くの字ってレベルじゃない位になってますよこれ……」

「ふふん、それじゃあ改めて自己紹介も兼ねて俺の個性を教えちゃおうかな」

 

そう言うと戦兎は懐から何やら透明なボトルのような物を取り出すとそれを龍牙へと向けた、一体何をするのかと思った直後だった。龍牙の身体から黒い炎の粒子のような物が少しずつ溢れ出した。

 

「な、なんだこれ!?」

「りゅっ龍牙君から光があふれ出てるよ!?これが博士の個性ですか!?」

「ふふん、まあ見てな。大丈夫だ危険はない」

 

そう言いつつも粒子は更に溢れていき龍牙の身体から抜けていく、それらは戦兎の手にしているボトルへと次々と吸い込まれていく。その量に応じるようにボトルは少しずつ膨れ上がっていくのだが、それを見て戦兎は驚いたように声を上げてしまう。

 

「うぉっマジか、此処までボトルにギッチリ入っていくってどんだけ個性の出力がやばいんだ?潜在能力的にもまだまだ先があるって事だな……いやぁ将来が本当に楽しみだなぁっ」

「そ、そうなんですか……?」

「うしっもう終わるな」

 

その言葉通りに身体から粒子は収まり、それらは全てボトルへと飲まれた。指で口を閉めながらパンパンに膨れ上がったボトルを今度は巨大な装置の中へと入れて起動させる。静かだが力強い駆動音を立てながら装置が動き出したのを確認しながらモニターで装置にかけたボトルの状態を見て見ると全ての数値が計測範囲の限界をギリギリを記録している。

 

「うわぁっ~……なんだこれ、どんだけやべぇ出力してるんだよ龍牙君の個性。形容するなら放水しなきゃいけないレベルに溜め込んだダムみたいだぞ」

「そ、そんなに凄いんですか!?」

「そんなにやばい。逆にこれだけの出力があるのに暴走一つしてないって事はそれだけ制御を完璧に出来てるって事だな。改めて脱帽だ……」

「それよりも今のって一体……」

「あっそっか、悪い俺の個性の説明忘れてたな」

 

振り返りながら先程と似たようなボトル、何処か兎のような見た目をしている赤いボトルを見せながら声を出す。

 

「俺の個性は抽出、あらゆる物からその成分の抽出して採取する事が出来る。このボトルも俺の発明品でね、抽出した成分を完璧に保存出来る優れものだ」

「じゃあさっきの光は……」

「そう、さっきのボトルには龍牙君の成分が入ってる。正確に言えば個性の成分がな、こいつを解析すれば君にピッタリなアイテムを作り出す事が出来る。この天っ才物理学者に任せておきなさいって」

 

あらゆる物から成分を抽出する事が出来る個性、それこそが戦兎の個性。先程のキックも兎のボトル、ラビットフルボトルの成分を研究して作ったシューズがキック力を何倍にも増幅させた結果なのだと語る。そんなアイテムを複数持っているらしく、戦兎は現役自体はそれらを活用していたとの事。まあ大半の場合は試作品の実験が主だったらしいが……。

 




元サイエンスヒーロー、現天才物理学者、桐生 戦兎。個性:抽出!!あらゆる物から成分を採取して使用する事が出来る。有機物から無機物まで、あらゆる物から成分を取れるぞ!それらを利用したアイテムこそ戦兎の唯一無二の持ち味だ!!

という訳で、戦兎の個性でした。いろいろ考えた結果、こういう個性になりました。何かを作り出すのは個性というよりも戦兎自身の能力によるものだと思いますので。


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2人の英雄編―――龍と黒龍

「それで龍牙君のアイテムって結局のところ、どんな風になるんですか?」

 

龍牙の成分を抽出し、それを詳しく解析している所でその日は終了し、その後は飛行機での移動時間などの関係もあったのでそのままホテルへと送って貰った二人。彼女は翌日再び訪れた戦兎に気になった事を聞いてみる事にした。そもそも龍牙がこの島にやって来た目的であるそれが一番重要なのだから、聞くのは当然とも言えるのだが……そう言われて戦兎はよくぞ聞いてくれました!!と言わんばかりに表情を煌びやかにした。

 

「フッフッフッ……実は昨日聞いてくれるかと思ってて待ってたのさ……昨日、俺の個性については詳しく話したよな」

「ええ、抽出した個性は一時的に疲弊した状態になって出力が極端に落ちるってことまでは」

 

戦兎の個性である抽出、それはあらゆる物から成分を抽出して採取する事が出来る。生物である有機物から無機物まで、それは人間の個性なども含まれている。が、個性を対象にして抽出行い場合は対象となった個性は酷使した状態と同じになってしまう。現役時代にはこの特性を利用してヴィランの個性を抽出する事で確保を容易くしたこともしばしば……。

 

「まあ確り休めば一日ぐらいで元に戻れるんだけどな。だから龍牙君も倦怠感とかは無いだろ?」

「それはないですね、まあ確かに抽出された後はだるい感じがしましたけど全然動けましたけどね」

「流石あのオルカの弟子……」

 

確かに身体に強い倦怠感こそあったが、そこはタフネスお化けの龍牙。活動するには全く問題はなかった、それでも普段よりも黒炎の温度が下がっていたり、炎の勢いが凄まじく低下しているなどの事は把握していた。しかし戦兎の言う通り、ホテルで確り休んだからかもう全快状態となっている。そんな戦兎は懐から一本のボトルを取り出しながらそれを二人に見せ付ける。それは真っ黒な龍がボトルに刻まれている。

 

「こいつが昨日抽出した龍牙君の個性成分、黒いし龍だし……ブラックドラゴンボトル、長いからBRボトルって呼ぼうか。このボトルに合わせる形でアイテムを調整して龍牙君のサポートに当てるつもりだ」

「そのボトルに龍牙君の成分が……」

「そういう事、んでその為に調整するのがこいつって訳」

 

こいつと呼びながら取り出したのは四角い箱の用のように見える物、それに首を傾げているとそれから折りたたまれていた首と尾が伸びて身体を伸ばすかのように声を上げる。独特な音をまき散らしながら起動したそれは龍牙の周囲を飛び回りながらもこちらを観察しているのか、見つめてくる。

 

「わぁっなんか可愛い!!」

 

四角い胴体にそこから伸びた首にぴょこぴょこと動く短い脚、そして音を出し続けている姿に葉隠は可愛いと思ったのか興味津々と言いたげにしつつも目を輝かせてそれを見つめる。ドラゴンも透明な葉隠に興味を示しているのか首を傾げるようにしながら見つめている。

 

「この龍を調整するってどういう事なんですか……?」

「こいつはボトルを入れるように設計してあってな、入れるボトルによって様々な能力を発動出来る。そして特定のボトルを入れるとエネルギーフィールドを展開してそのボトルの能力をフルに生かす、この場合は龍牙君のボトルを使うと個性と同調して身体を保護してくれるんだ」

 

そう語る戦兎の言葉と裏腹にドラゴンは龍牙の頭の上に収まると暢気に欠伸をすると、そのまま寝息を立てて寝始めてしまった。本当にそんな事が出来るのかと疑問が出てきそうになるのだが、あの戦兎が言うのだからきっとそうなのだろう……多分、きっと、恐らく、メイビー……。

 

「あの桐生博士……何か、ドラゴン君寝始めちゃいましたけど……」

「ああそれ、龍牙君を独自にスキャンしてるだけだから気にしなくていいよ。まあ寝る必要はないんだろうけどさ……自立稼働型のAI積んだけど、なんか変な思考パターン構築してんのかな……」

「これからこいつが俺の相棒になるかもしれないのか……なんだろう、ちゃんとした関係築けるか不安になってきましたよ俺」

 

それを聞いて戦兎は呆気にとられた表情をしてしまった。今彼はドラゴンを明確に独立した一つの存在、一人の人間として扱おうとしている。今まで様々な物を作ってきた戦兎としては珍しいケースだった、AIを搭載したアイテムやコスチュームを作った事もあったが、あくまでアイテムと扱う者ばかりだったのに彼はドラゴンを明確に対等に扱おうとしている。矢張り面白い、そう感じさせる少年だと笑顔を作る。

 

「今はスキャン中なだけだからその内まともなコミュニケーションも取れるさ。今はそっとしてやってくれ、さてと……それじゃあ二人とも、折角I・アイランドに来たんだから色々と回ってみたいんじゃないかな。俺が案内してあげようじゃないか」

「ええええっ良いんですか!?でも桐生博士にそんな事をして貰うなんて悪いですよ!?」

「戦兎で良いって。俺からしたら二人は俺の恩師の紹介で来た相手だから逆に無碍にしたら怒られるってもんさ、それに子供は大人に甘えるもんだぜ」

 

何処か強引ながらも戦兎の好意に甘える事にした二人は研究所から出てこのI・アイランドを満喫する事にするのであった。折角来る事が出来たのだから思いっきり満喫してみたいという思いが少なからずあったためか、葉隠も龍牙も何処かハイテンションにそれらの申し出を受ける事にした。

 

「ほい龍牙、この帽子でも被っときな。それならドラゴンも目立てないだろ」

「有難う御座います」

 

そんな風に帽子を受け取った後に早速このI・アイランドを満喫する為の散策が開始されるのであった。I・アイランドでは日本では見られない有名なヒーローも多く集まっており凄まじい熱気に包まれている。

 

「見て見て龍牙君!!怪獣ヒーローのゴジロだぁ!!凄い凄いよ!!!」

「すっげぇっ迫力ぅ……」

「あれで日本人なんだから個性って本当にすげぇよな」

 

と本来はアメリカで活躍している筈のプロヒーローなども多くいるI・アイランド、加えて多くのパビリオンなども点在しているのでテンションが振り切れそうな勢いの葉隠と龍牙、そんな二人を見て微笑ましく笑っている戦兎。

 

「ねえねえ博士あれって何ですかぁ!!?」

「ああ、あれは個性をフル活用したアトラクションだな。遊園地のジェットコースターの百倍はスリリングだぞ」

「乗りたい乗りたい!!ねえ龍牙君行こうよぉ!!」

「行こう行こうって待って待って引っ張らないで!?」

 

と、珍しく葉隠が龍牙を振りますような光景がみられる中、戦兎は心の中で葉隠の恋が実るようにと秘かな応援を送るのであった。二人が満喫する姿を見ながら次の見どころへと案内している時の事だった、機を見て紹介しようと思っていた人物と遭遇する事になった。

 

「あれっメリッサじゃん、何やってんのよこんなところで」

「戦兎さんこそ、如何したんですか?」

「わぁぁぁぁっっサイエンスヒーロー・ビルドの物理学者、桐生 戦兎博士だぁぁぁ!!?」

「おいおいそこは、天っ才物理学者って呼んでくれよ」

「って緑谷、お前なんで此処に……?」

「りゅっ龍牙君に葉隠さん!!?」




次回から映画の本筋と絡んでいきます。にしても本当にもっと早く映画を見ていれば……メリッサを絡ませられたのに……くそ、なんで早く見なかったんだ……こんな魅力的なキャラを……。


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2人の英雄編―――メリッサと黒龍

一体どれぐらいで終わるんだろ、映画編……凄い長さになりそう……みんな、付いてこれるかな……。だって現段階で一体どれぐらいで終わるんだろ、映画編……凄い長さになりそう……みんな、付いてこれるかな……。だって現段階で映画の進み的に20分前後位でしょこれ。


「凄い凄いまさかあのたった1年のヒーロー活動でヒーロー界隈である種の伝説を打ち立てたサイエンスヒーローのビルドに会えるなんて僕感激です!!!」

「いやぁ俺のヒーローとしてのファンなんて珍しいなぁ。ほいっサインはこんなもんで良いか?」

「感動だぁ!!」

 

と適当なカフェに入った龍牙達一行、偶然出会ったのは緑谷ともう一人の金髪でスタイル抜群な眼鏡美女。戦兎とは顔見知りらしく名前で呼び合っている。

 

「あの博士、如何してヒーローをやめちゃったんですか!?博士ならヒーローとしての両立も楽勝だったんじゃないでしょうか!?」

「そりゃ俺は天っ才物理学者だからな、本当は楽勝なんだけど。あの事は丁度集中したい研究が溜まってたし俺は元々学者志望だったからなぁ……なまじ素の能力も高かったから学校から雄英の推薦をされて、試しに受けたら受かっちゃったのが始まりだったなぁそう言えば」

 

戦兎的には最初からプロヒーローとして活躍する気は薄く、学者としてヒーローを支える側として立つつもりでいたのだが……雄英体育祭で他の実力者を捻じ伏せて優勝してしまった影響で周りが騒ぎ立てたので1年だけプロとして活動して、その後は自分でどうするか決めると宣言してから学者になった経緯が存在している。

 

「結果が出せなかったらまたヒーローとして活動しろって言われてたんだぜ俺、まあそこは天っ才ですから、御存じの通りに結果を出しまくった訳さ」

「凄いご本人からこんなお話を聞けるだなんてぇ!!博士が実用化したものと言えば……形状記憶型の液体金属、多種多様なエネルギーを保存出来る技術、個性に同調して変形するサポートアイテムとか色々ですよね!!」

「そう、俺が今のヒーロー社会の一部を支えてると言っても過言ではない!!」

「凄いやぁぁあ!!!!」

 

と完全に太鼓持ちになっている緑谷と存分に自分を褒めてくれる存在に機嫌を酷く良くしている戦兎。ある意味この二人の関係はベストマッチと言っても過言ではないのだろうか……。そんな二人を見つつ、龍牙はメリッサと呼ばれていた女性と話をする事になった。

 

「それじゃあお二人も雄英の生徒なのね?」

「はいっ葉隠 透です。見ての通りの透明人間です!!」

「黒鏡 龍牙です」

「初めましてメリッサ・シールドです」

 

シールド、そのファミリーネームに聞き覚えがあった。あのオールマイトのヤング・ブロンズ・シルバー・ゴールドエイジのコスチュームの開発を全て行い、ノーベル個性賞を受賞する程の超優秀な科学者。尋常ではないレベルの有名人だ。

 

「龍牙君、失礼かもしれないけど今のそれが貴方のコスチュームなのかしら。見た所スーツだけど」

「ええまあそんな所です」

 

今龍牙が着用しているのは一応コスチューム、と言っても普通のスーツにしか見えないだろうが……しかしメリッサは瞳を鋭くしながら席を立つと龍牙の身体に触れながらスーツを厳しく吟味するかのように触れながらそれらについて考察を始めた。

 

「基本的な防刃と防弾の素材、それに耐火性が高い素材を表面にコーティングしてるのね……他に目立った物は皆無。コスチューム……というよりも寧ろ防弾チョッキとかにプラスαした物をスーツにしているって評価した方が正しいみたい。でもこれは全然龍牙君って存在を引き立ててないわね」

「えっそこまで解るんですか?」

 

一瞬葉隠はまさか新しいライバルが……と僅かながらに思ってしまうのだが、純粋に彼女が龍牙のコスチュームに対する評価を行っていると分かり、ホッとしつつも言葉に驚いた。コスチュームの仕様書などを一切読む事もなく見て触れるだけで龍牙のコスチュームの全てを見抜いてしまっている、技術者として一流であることを感じさせながらも人を観る目もある事を思い知らされる。

 

「ちょっと身体を触らせて貰ったけど本当に良く鍛え抜かれてる、純粋に大きいだけじゃなくて戦い事に適した発達した鍛えた筋肉。これなら所謂マッスルスーツなら更にそれが促進される、マッスルスーツには元々防御面も優れてるからそっちの方がお勧めよ、そっちにすると攻撃にスピードも倍増すると思うけど」

「はへぇっ~……凄いんですねメリッサさん、一瞬しか見てないのにそこまで言えるなんて……」

「まあ今回、このI・アイランドに来た目的もそのコスチュームづくりなんですけど」

「あらっなら丁度いいわね!!あっそっか、それで戦兎さんと一緒だったのね」

 

納得がいったように笑うメリッサに釣られるように笑う。

 

「それに龍牙君の身体って凄いのね、ちょっと触っただけだけど単純なトレーニングだけじゃあ此処までならない。凄い実戦形式の訓練を送って来てるんじゃない?胸の辺りに凄い傷もあるみたい、その感触もあったし」

「ええまあ、というか身体中にありますよ。俺の師匠の訓練は厳しいので」

「へぇっ~……でもそんな訓練を送って来てるんだからきっと凄い個性なのね」

「龍牙君の個性はものすんごいんですよ!!カッコいいですし、頼もしいんです!!」

 

まるで我が事のように葉隠は龍牙の事を語りだしていく、本当に嬉しそうに語るそれにメリッサも笑顔を浮かべてそれに耳を傾ける。

 

「私たち期末試験、タッグを組んで先生と戦うんですけど私と龍牙君はオールマイトが相手だったんですよ」

「ええっ!!?マ、マイトおじ様と戦ったの!!?」

「超圧縮重りのハンデはありましたけどね」

「そして龍牙君はそのオールマイトと真正面からぶつかり合って、スマッシュを何回も受けたのに倒れなかったんです!!」

 

オールマイトの凄まじさを知っているメリッサはそれを聞いて目を丸くする。あのオールマイトのスマッシュを受けて倒れずに立ち向かい続けるという異常とも言える体力、それらも身体中に刻まれている傷に裏付けられている経験が積み上げた物があるからこそなのだろう。

 

「そ、それで試験の結果は!?」

「最後まで龍牙君がオールマイトを引き続けててる間に私がカフスをオールマイトにかけて見事に勝ちました!!」

「す、凄い!!マイトおじ様に勝っちゃうなんて!!?」

「最後は凄い無様だったみたいだけどね俺……」

 

最後の最後は最強の一撃の打ち合いになる一歩手前で葉隠がカフスを掛ける事に成功していた、あれが無ければ多分自分はオールマイトのスマッシュで必殺技ごとぶっ飛ばされていた事だろう。でなくても自分は葉隠の行動を見て安心しきったのかその時点で意識が完全に飛んでしまった墜落じみた事をやらかしている。

 

「龍牙君貴方本当に凄いのね!!」

「いやぁまあ、その……それなりには……」

「それじゃあメリッサ、彼の個性見たくないか?ちょうどこの近くにヴィランアタックって言う施設があるから、そこで実力を見ようじゃないか」

「ぜ、是非見て見たい!!」




―――あかん、メリッサヒロインの話を凄い考えてしまう……!!だって完璧すぎない彼女、本当にヒロインとしての要素がありすぎる……健気で明るくて優秀で美人で……好きだ。


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2人の英雄編―――黒龍の評価

戦兎に連れられるようにやって来た施設はヴィランアタック、岩山を模したフィールドに複数のヴィランロボが設置されており、それらの撃破スピードを競うタイムアタック系の施設。此処なら存分に個性を使用での戦いなどを見せる事が出来る。

 

「龍牙君、是非見せて!!是非、マイトおじ様と戦ったっていう貴方の力を是非!!」

「いやでも……」

「お願いっ!!」

 

ヴィランアタックの施設に来てしまった以上やるしかないような雰囲気になっているが、龍牙の表情は何処か優れない。ヴィランアタックには観客がおり様々な人の目に触れるというのもあるだろうが……それ以上に龍牙は怖がられたりしないだろうかという不安も少なからず抱えていた。

 

戦兎は素晴らしいと肯定してくれた、個性を真正面から向き合っても恐怖どころか好奇心が刺激されてもっと調べたいと言っていた。ならば彼女はどんな反応をするのだろうか、此処まで友好的な彼女が態度を一変させるのではないのだろうかという不安が燻っている時の事、緑谷が無理にはと言おうとした時に彼の背中を戦兎が思いっきり突き飛ばした。

 

「此処まで来ておいて何言っちゃってる訳、お前さんは思いっきり自分の力を見せ付ければいいんだよ。堂々としながらな」

「戦兎さん……」

「大丈夫、見ててやるから」

 

肩を叩きながらそう言う戦兎に不思議と力を貰ったような気がする龍牙が一度だけ深呼吸をすると、覚悟を決めたようにヴィランアタックへの参加を決意する。

 

「本当!?やったぁっ有難うございます!!」

「ふふんっ本当に凄いんだから見ててくださいよメリッサさん!」

「あの、なんで葉隠さんが凄い自慢げなの?」

「パートナーの特権!」

 

そんな風にはしゃいでる姿を後ろ目に簡単に受付を済ませると早速ヴィランアタックのスタート地点に立った。

 

「さあ今度のヴィランアタックの挑戦者はスーツっぽい衣装に身を包んでるナイスな青少年君!!一体どんな記録を出してくれるのか非常に楽しみであります!!」

 

と司会進行のお姉さんが声を張り上げて盛り上げに尽力している最中、龍牙は唯々意識を集中させている。そして十二分に練り上げられた集中力を一気に爆発させるかのように全身から黒炎を溢れ出させる。

 

「もしかして、あれが龍牙君の個性……!?」

「そう、でもあれだけじゃないんですよ!!」

 

 

リュウガ……!!

 

 

自慢げにしている葉隠の言葉通り、直後に黒炎は更なる勢いを見せ付けながら天へと伸びる火柱へとなっていく。そしてその中から龍の咆哮と共に赤い瞳が輝きを見せる、一際大きな低い唸り声が響いた直後炎は四散しそこには個性を完全に発動させた龍牙の姿があった。

 

「こ、これはぁっ……!!!」

 

龍牙の登場を間近に見つめていた司会のお姉さんも言葉を失っていた、凄まじい炎の奔流だけではなく、その炎を突き破るように登場した黒龍の存在に言葉を失っているのか正しく何も言えないような感じだった。龍牙は矢張りこうなってしまうのか、と思い至りそうだったその時だった。

 

「な、なんとぉ挑戦者は雄英体育祭で話題になったあの黒龍、黒鏡 龍牙君だぁぁぁぁっっ!!!!これはなんというサプライズ、雄英体育祭は勿論このI・アイランドでも放送されておりましたがまさかその龍牙君がこの場に来るなんてぇぇええ!!!??」

『おおおぉぉぉぉぉっ!!!!』

 

上がったのは恐怖に歪んだ悲鳴でも助けを求める涙を孕んだ声でもない、歓喜に満ちてた大歓声だった。周囲の観客たちも大興奮と言った様子で立ち上がって様々な声を上げている。そんな大歓声に龍牙は完全に不意打ちを食らったのかポカンとしたリアクションで静止してしまった。心なしか赤い瞳が赤い点のようになっている気がする。

 

「す、凄い大歓声!?龍牙君大人気!!?」

「そりゃそうさ、司会が言ってたけどこっちでも雄英の体育祭は中継されてるんだ。その時に龍牙は凄い人気だったんだぜ」

「そうだったんですか!?」

 

スポーツの祭典、オリンピックに代わって日本中を熱狂の嵐で包み込む雄英の体育祭。それが人気なのは日本だけではなく、国内最高峰のヒーロー科のガチバトルなどを見られるという事で国外でも人気が高くこのI・アイランドでも放送されている。その時に龍牙の事も当然知られているのだが―――それがこのI・アイランドでは非常に受けたらしい。

 

圧倒的な存在感に凄まじい気迫、ダークヒーロー感漂う黒い炎を纏う龍の戦士は主にアメリカでは超絶な人気になっているとの事。プロヒーローの資格が与えられたらアメリカにスカウトするべきでは、という動きも一部で起っている、パワフルなアメリカらしい気風とも言えるかもしれない。

 

「えっと、始めても良いんですかねこれ……?」

「あっそうだったわね、それじゃあヴィランアタックスタートします!!」

 

とまさかの龍牙コールに戸惑いを隠しきれずにオロオロする龍牙はもうさっさと終わらせるべきだなと思い、高々と体育祭の決勝トーナメントでの名場面の紹介などをしているお姉さんに一言を掛けて、漸くヴィランアタックの開始にこぎつける事が出来た。深く腰を落として構えを取る龍牙に合わせるようにレディ……言葉を溜めるお姉さん。そして―――

 

「ヴィランアタック……スタートぉ!!」

「だあああぁぁぁっっ!!!」

 

直後、龍牙は龍頭から炎を溢れ出させると自らの周囲にも同じものを浮かべる。それらは龍牙の意思のままに配置されていたヴィランへと向かっていく、それを確認すると地面を殴って高々と跳躍する。黒炎がヴィランへと直撃したのを確認すると高所からも黒炎を放ち、隠れるように配置されていたそれを破壊すると最後、岩山の頂上付近にいたそれに対して必殺技を叩きこんだ。

 

ド ラ ゴ ン フ ァ ン グ イ ン パ ク ト

 

DRAGON FANG IMPACT(ドラゴンファングインパクト)!!!

 

それを受けたロボヴィランは粉々に砕け散って消滅してしまい、岩山の頂上には黒炎を纏った黒い龍が一人佇んでいた。青空を背後に立ちながら観客席を見下ろしながら龍牙は静かに右腕を空に向けて突き立てる、そして周囲は大歓声に包まれる事になった。

 

「す、凄い!!そしてタイムは11秒、11秒です!!ダントツの最高記録です!!!」

 

岩山に立つ龍牙の姿に大興奮な所に畳みかけるかのような最速タイムにもうその場も凄い事になってきている。龍牙も龍牙で自分の事を良く思ってくれているようだし、ヒーローはある程度のサービス精神が大切だとパワーコングが言っていたのでそれを実践したのだが……どうやらそれが熱狂的なものを生み出してしまったようだ。

 

「(……なんか、降りたいのに降りちゃいけない状況に……)」

 

 

「……龍牙君、凄い……本当に凄いよ龍牙君!!?私今年の雄英体育祭は見れてなかったんだけど生で見たかったよあれ!!?」

「後で俺が録画した奴まわしてやろうか?」

「是非お願いします戦兎さん!!」

「凄いなぁ龍牙君……」

「海外だと凄い人気なんだねぇ……」




という訳で海外だとクッソ人気な龍牙でありました。こういうのってアメリカとかだと受け入れられてるって感じが強いですし、というかアメリカとかだと思わぬキャラが人気とかありますからねぇホント……ゴジラの怪獣とか、えっそれなの?って思うのもありますし。

だから多分、日本よりもあっさり受け入れられるでしょうね多分。怖がられはするけど、そこまでではないと思います。


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2人の英雄編―――困る黒龍と喜ぶ科学者

アメリカとか龍牙が人気が出そうな理由。先駆者。

いやだってハルクとかバットマンとかヴェノムとかがすげぇ人気出てるんですよ、そりゃ龍牙だって大丈夫だわって本当に思いましたわ。うん、感想で言われて自分でもすげぇ納得いったもん。


「ァァッ!!?最高記録が11秒であのヴィラン野郎だぁっ!!?」

「えっこの声って……か、かっちゃん!!?」

「おっ緑谷じゃねぇか!!それに葉隠も」

 

龍牙が戻ってくるのを待っている時、緑谷は聞き覚えがある声に導かれてそちらを見て見るとそこにはまさかの幼馴染である爆豪、そしてそんな爆豪と仲が良い同じくクラスメイトの切島の姿がそこにあったのである。肝心の爆豪は此方を一瞬だけ見ると一々うっせんぇだよクソナードが!!と言った後にヴィランアタックの受付を済ませに行ってしまう。

 

「何だ皆も来てたのか、俺は体育祭で優勝した爆豪が招待されたんだけど俺は付き添いで着させて貰ったんだよ」

「あっそっか、かっちゃん優勝者だもんね」

「んで、龍牙の奴も来てるのか?」

「あそこにいるよ」

 

指が指される先に切島が視線を向けると、そこにはなんと個性を発動させたままの龍牙を取り囲むかのように人だかりが出来ている上にマイクやカメラを向けてインタビューの準備をしている人たちまで控えている。

 

「うおっ何だあれ龍牙何やったんだ!?タイムアタックの1位になるとああなるのか!?」

「それもあるだろうけど……」

「I・アイランドでも雄英体育祭は放送されてたんだけど、その時に龍牙君大人気になったんだって。海外の人達からすると龍牙君って凄いカッコいいみたいだよ」

「へぇっ良かったじゃねえか龍牙の奴!!凄い見た目の事で気にしてたし、万々歳じゃねぇか!!」

 

と切島も龍牙の苦労などを知っているので友として誰も怖がらずに寧ろ自分から寄っていく人々の姿に笑みを零す。肝心の彼は戸惑いの嵐だろうが、それでも避けられたり、面と向かって悲鳴を上げられて脱兎の如く逃げられるよりは遥かにマシという物。

 

「龍牙君サインお願いします!!」

「こっち見て、目線お願いします~!」

「将来有望なヒーロー候補にインタビューを行ってるんですけど一言!!」

「えっえっ!?あ、あのちょっと待って……!?」

 

個性を解除する暇もなく取り囲まれてしまった龍牙は唯々慌て続けてしまっている、体育祭直後に大勢の人に詰め寄られて事もあったが、あれ以来通学時間とルートを変えつつ帽子やらで変装していたのでなかったが、今回のこれはあの時以上の物でもう慌てる事しか出来ない。何時の間にか握られている自分の左手に写真のフラッシュが目潰しの如く降り注ぐ、本気で如何したらいいのか分からなくなってきた。

 

「そろそろ助けてやるか……龍牙君もここでは人気があるんだから気を付けろって事は理解出来た事だろうし」

 

そう言うと戦兎は懐から一本のボトルを取り出した、そしてそれを専用のグリップに嵌め込むとボトルから粒子が溢れ出していく。粒子は刀身がドリル状になっている剣へと変貌して戦兎の手に収まっていた。

 

「うおっなんすかそれ!!?」

「これは俺の発明品の一つ、その名もドリルクラッシャー!!剣と銃を一つにしつつそこにドリルを加えた俺の自信作!!こいつにこのボトルを挿入」

 

そして再度懐から一本のボトルを取り出してそれを振るう。戦兎曰く、ボトルを振ったりするのは内部の成分を刺激する為で振ることで内部の成分が活性化しより力を発揮するように設計されているとの事。それに合わせて刀身のドリル部分を取り外して反対にして差し込むと、そのままガンモードへとチェンジ完了してからそこへと組み込む。

 

Ready go! Voltech break!!

 

差し込まれたクラッシャーから甲高い駆動音が響き始めていく、鍔に相当する部分に存在するメーターは勢い良く回転していき稼働状態が良い事を示し、それらが一気に振り切れた段階を見計らって引き金を引く。銃口からは鎖状エネルギー弾が飛び出していく。それらは器用に龍牙を取り囲んでいる人たちを避けながら真上から龍牙を縛り上げた。それに合わせて戦兎がクラッシャーを持ち上げ、そのまま吊り上げるように彼を引き上げて助け出す。

 

「大丈夫か龍牙君、いやぁもっと早く助ければよかったかな?」

「い、いえ助かりました戦兎さん……いやマジで……」

 

完全に憔悴しきっているような具合になっている龍牙はもうぐったりとしており、漸く個性を解除して一息付けるかのようにその場にへたり込んでしまう。慣れないあの状況は龍牙にとっては酷く応えた様子、それを見て戦兎はもうちょっと助けてあげますか、と親切心を出して新たなボトルを指してからクラッシャーをメガホンのようにしてから声を張り上げた。

 

「あ~あ~……申し訳ありませんねぇ皆さん、龍牙君はこういった状況に慣れてませんのでこの位で勘弁してやってください。それに今回彼はプライベートで此処に来てますので、その辺り御容赦願います。正式な取材申し込みなんかは雄英なんかを通してやってください、それじゃあそういう事で!!」

 

そう言うとボトルを引き抜き、再度クラッシャーをボトルの内部へとしまい込むと龍牙を連れてその場から足早に立ち去る事にした。その際にメリッサや葉隠、緑谷を連れて他の場所に移動する事になったが、他にも雄英のクラスメイト達がいる事が切島経由から分かったのか後々合流する事になった。一同は休憩を兼ねてメリッサが研究で使用している研究室を訪れる事になった。

 

「……」

「お~い龍牙君、大丈夫かお前。ヒーローになるんだったらこの位慣れなきゃだめだぞ」

「わ、分かってるつもりですけど……今までとのギャップって奴が……」

 

部屋へとたどり着いた龍牙だが先程の事でかなりお疲れなのかぐったりとしてしまっている。今までが恐れられるばかりだった故の弊害だろうが、戦兎の言う通り慣れていかなければならない部分も大きい事だろう。と顔を上げた時に手を強く握り込みながら瞳を輝かせているメリッサが映り込んできて思わずビクッ、と身体を震わせる。

 

「龍牙君!!是非、是非私もあなたのコスチュームとサポートアイテムの制作に協力させてほしいの!あんなに素敵でカッコよくて魅力的な個性なんだもの、あの程度のコスチュームなんて駄目よ!!もっと、もっと貴方って事を強調出来るような物じゃないと!!」

「え、ええっ!?」

「だってあんなに素敵でいい個性なのにあれだけなコスチュームは勿体なさすぎると思うの!!」

 

何か、メリッサの中に何かを刺激してしまったのか目が凄いキラキラしている彼女の迫力に押さえて引き気味になっている龍牙。如何やら個人的に龍牙の見た目がツボに入った模様。

 

「戦兎さん、龍牙君のサポートアイテムは私の方で準備したいんですけどいいですか!?丁度今いいのが後ちょっとできそうなんです!!」

「それじゃあ俺の方で取った龍牙のデータ渡してやるよ、それを組みこめば早く終わるだろ」

「有難う御座います!!そうだ、デク君に渡したいものもあるからちょっと待っててね!!」

 

そう言って部屋の奥に駆け込んでいくメリッサを見送った一同だが、戦兎を除いて何処か完全に圧倒され呆然としているような形になってしまった。

 

「メリッサさんって結構夢中になると熱くなる人なんだ……」

「なんか、戦兎さんと似たような物を感じる……」

「私もそう思ってた……」

「いや科学者何て全員あんなもんだぞ」

『いやそれはないでしょ』

「お前ら息合いすぎじゃね?」




何時になったらこれ、映画の良い所に入るんだ……。後ちょっとかな……。後、少し検討中なのですが、この部分を一部本編にリンクさせようかなと考えてます。もしかしたらあり得るかもしれないのでご了承ください。


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2人の英雄編―――胎動する事件に直面する黒龍

「すっかり遅くなっちゃいましたね」

「大体戦兎さんとメリッサさんが白熱したせいだと思いますが」

 

結局あの後、龍牙の個性へのアイテム制作の話やらをしつつも緑谷の手を見てメリッサお手製のアイテムであるフルガントレットが緑谷に譲渡されたりを行っている間にすっかり遅くなってしまった。結果として龍牙にも新しい武器として戦兎とメリッサの合同で開発された新しい剣型の武器、ビートクローザーを入手する事になった。それも戦兎がドリルクラッシャーを仕舞っていたボトルを貰う事で楽々持ち運べるようになった。そして、パーティに出席する為に確りと正装へと着替えた一同は飯田たちが待っている待ち合わせ場所へと足を運ぶ事になった。

 

「すまん待たせたな飯田」

「漸く来たか龍牙君達待ってたぞ!!後来ていないのは八百万君達か」

「あっそっか、葉隠さんが八百万達も来るって行ってたもんな……」

 

此処で隣でドレスを着ている葉隠の言葉を思い出した龍牙、八百万はこのI・エキスポのスポンサー企業の株を持っており、その株主優待で招待状を貰っているとの事だったという事を漸く思い出す。そして待ち合わせを行っている中には焦凍の姿もあった。

 

「あれっ焦凍、お前も来てたのか」

「親父の代理でな」

「そっか、まあ代理でも楽しめればいいって奴だ」

「そうだな」

 

「そしてメリッサさんめがっさお美しいぃ~!!!」

「女神だぁぁっ!!」

「そ、そう言われると照れちゃうわ、有難うね二人とも」

 

と、メリッサのドレス姿にハートを打ち抜けたかのように腑抜けになっている上鳴と峰田、どうやら二人はバイトの募集でこのI・アイランドへとやって来て居た模様。龍牙がもみくちゃにされている間にメリッサが切島経由で渡したパーティの招待券を受け取って参加権利を得た模様。そんな二人がメリッサに夢中になっている間にどうやら八百万達、女性陣が到着した模様。

 

「ご、ごめん遅刻してもうた!!」

「申し訳ありません、耳郎さんが……」

「ウチ、こんな格好何て言ったらいいのか……」

 

全員が可愛らしく美しいドレス姿に身を包んで登場した、これで葉隠を含めた女性陣が勢揃いした事になる。純白のドレスに身を包んだ葉隠が駆け寄って恥ずかし気にする耳郎に声を掛けて大丈夫と励ます。

 

「大丈夫だよ耳郎ちゃん、凄い似合ってるよ!!」

「そ、そうかな……そうかな……?」

 

とチラリと視線でコメントを欲しそうに男性陣に目配せをするのだが……一番近くにいた上鳴と峰田は魅惑なボディと煌びやか且つ美しいメリッサに完全に視線を奪われて何も言わない。それを見て僅かながらに苛立ちを覚えたのだが、龍牙は即座にコメントを述べる。

 

「似合ってるよ耳郎さん。ボーイッシュな感じが一転してお淑やかだけど活発的なお嬢様な感じになって最高にマッチしてるよ。イカしてるよ耳郎さん」

「そうかな、そうかなぁっ……!!」

 

龍牙の言葉は恥ずかしさとこんなドレスが似合っているのかという不安に包まれていた心の靄を吹き飛ばして、煌びやかな笑顔を浮かべさせた。改めて龍牙を見るといい笑顔でサムズアップをしていた。

 

「そうだよ耳郎ちゃん凄いキラキラしてる!」

「うんうん、時間かかっちゃったけど選んだ甲斐があったよね!!」

「はい、お手伝いした甲斐がありましたわ!」

「うん、うんっ!!ウチ、イケてる!!」

 

自信を持つ事が漸く出来たのか、誇らしげに胸を張りながら笑顔を浮かべた耳郎。そんな彼女を見て葉隠は龍牙に向けてナイスコメント!!とサムズアップをすると、それが完璧に見えてるのか龍牙もサムズアップで返す。実は葉隠がコメントしてあげて!と小声で合図をしていたので龍牙はそれを受けたのである。まあ言われなくても彼ならば答えただろうが。

 

「おいおいお前ら何時まで此処で油売ってる気だ?早く行かねぇとパーティに乗り遅れるぞ」

「って戦兎さんその格好のままなんですか!?」

 

とその場にやって来た戦兎だが、彼の服装は全く変化していない。ランダムボーダーのTシャツの上に羽織った上着にジーンズというラフな格好のままで正装を一切していない。が当人は面倒だからな、の一言で済ませてしまう。

 

「俺は学会出る時とかも基本これだから、この島じゃこれが俺の正装みたいなもんだ。さてと、行くとするか」

 

という事らしいので戦兎はこのままの格好で行く事になりそうである。まあ本人がこれで良いと言い張っているのだからそれでいいのかもしれない。そしていい加減向かわなければ時間が危なくなってくる、漸く皆で海上へと踏み出していこうというその時―――真っ赤なemergencyという表示が至る所に表示されると共に隔壁の閉鎖が実行されていく。それと同時にアナウンスが流れてくる。

 

『I・アイランド、警備システムよりお知らせいたします。警備システムにより、I・エキスポエリアに爆発物が設置されたという情報をお知らせします。I・アイランドは現時刻をもって厳重警戒モードへと移行します、主要施設は速やかに閉鎖されますのでご注意ください』

 

「な、何々何が起こってるの!?」

「エマージェンシー……って戦兎さん一体何が!?」

「俺にも分からない、警備システムが爆発物を……いや、だからってこれは異常だ。これだけで警備システムが厳戒モードにはならない筈だ……エラーが発生している可能性があるな」

「私もそう思います、こんなことは絶対に可笑しいです」

 

I・アイランドで何かが起き始めている。それはこの島全土を巻き込んだ凄まじい事件の始まりそして―――

 

「さぁっ戦争(ゲーム)を始めようじゃねぇか……」

「クックック……腕がなるぜぇ……」

 

地獄めいた惨状を生み出しかねない実験の開始時間でもあった。




い、いよいよ動き出すぞ……映画の見せ場に……。


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2人の英雄編―――生み出すヒーローと黒龍

「さて、状況を整理するか」

 

短い時間にかなりの情報と状況に陥っている、故に一旦頭を冷静にする必要がある。戦兎は年長者として率先して周囲を纏め上げる為に情報を口にする。

 

まず、第一に自分達はこの状況の詳しい情報などを知る為とオールマイトとの合流を目的にしてパーティ会場へと乗り込んだ。しかしそこで待っていたのはヴィラン達の手によって身動きが取れなくなっているオールマイトの姿だった。どうやらヴィランが警備システムをジャックしたせいで、この騒ぎが巻き起こり、対ヴィラン用の特殊拘束器具がヒーロー達に使用されてしまっている。

 

そして身動きの出来ないオールマイトに携帯のライトでサインを送る事に成功、耳郎の個性で小声でも状況が把握できることを上手く伝えてオールマイトから情報を取得。タワーが占拠されている上に島民全員が人質にされている最悪すぎる状況、だがそれでもオールマイトは自分が何とかするから逃げろというのだ。本当にそうするべきなのかと皆が迷う中で飯田はいう、そうするべきだと。

 

「俺はオールマイトの指示に従うべきだと思う、俺達が下手に行動するよりも確実だ」

「私も賛成ですわ。ヒーロー免許もない私達が行動するのは余りに危険ですわ」

「だが脱出も容易じゃねぇのも事実だ、此処の警備レベルは高いからなぁ……」

 

重要な研究なども行われているI・アイランド。その為にこの島の警備レベルはヴィラン犯罪者などを収容するタルタロスと同じ防災設計が成されている、警備システムが奪われている以上、脱出も困難。このまま助けを待つしかないのかという選択肢しかないと思われる中で、龍牙の頭の上にいたドラゴンが漸く起きたのか泣き声を上げ始める。

 

「お前、今まで寝てたのか。肝が太いというかなんというか……」

『?』

 

首を傾げつつもじっとこちらを見つめてくるドラゴン、何かを言いたいのかと龍牙もそれを見つめ返す。

 

「龍牙君?」

「……」

『―――』

「成程な、そういう事か」

 

手を差し出すとその上にドラゴンは乗り、キープされ続けていた自らの成分のBRボトルが射出される。それを取りながら戦兎に貰った腰のボトルホルダーに収めながらドラゴンも懐に入れて戦兎に向き直る。

 

「戦兎さん、不躾なお願いをします」

「何だよ藪からスティックに」

「まだ、ヒーロー免許は保持されたままですか」

「―――ああ、勿論。ビルドとしての資格は持ち続けてる」

 

元こそ付くが有事の際にはヒーロー活動が出来るようにと戦兎は資格を持ち続けている。持っていて損が発生する資格でもないからというのもあるが、戦兎も戦兎で誰かを救いたいという思いで今の研究職にいる。そして龍牙の言葉で察したのか葉隠もその隣に立った。

 

「桐生博士、いえ戦兎さん。私も龍牙君と同じ気持ちです」

「……本気だな、その思いに迷いはないか」

「ないです。ヒーローを目指す以前に一人の人間として誰かを救いたい」

「誰かが困っていたら手を差し伸べる、それは当たり前です!!」

 

それを聞いて戦兎は笑った、嬉しそうな表情で顔をくしゃくしゃにした本当に嬉しそうで楽しそうな顔で笑う。二人の肩に手を置きながら口癖を言う。

 

「最っ高だよ二人とも。よし―――今だけは天っ才物理学者の桐生 戦兎の名前は忘れてくれ。今から俺の事は―――悪を壊し、人々の愛と平和を作り出すヒーロー、ビルドの桐生 戦兎って事で宜しく!」

「えっええっ!!?どういうことですか!?」

「プロヒーロー、ビルドの名の元に個性の使用を許可する!!」

「そ、そうか!!プロヒーローであれば一時的に個性使用許可を出す事が出来る!!」

 

そう、飯田も経験がある事。嘗てステイン確保を目的に保須市に赴いた時の事。突発的に起きた脳無との戦闘でチームリーダーであったパワーコングが自らと龍牙に個性を用いた戦闘を許可を出した。プロヒーローであれば緊急における個性使用を許可する事が出来る。その場合の責任は全て許可を出したヒーローが取る事になってしまうが……戦兎はそんな事気にするなと力強いサムズアップで応えた。

 

「俺が全責任は取ってやる。何心配すんなって、何だったら俺が使わなくなってた資格を返上すれば済むだけの話だ。それにな―――お前らヒーローを目指してんだろ、なら俺にその力を見せてくれよ。救ってやろうじゃねぇか平和の象徴を、この島の全てを―――さあ下向いてる顔を上げろ、拳を握れ、ヴィラン共をぶっ飛ばして警備システムを奪還してやんぞ!!」

『おおっ!!!』

 

全員の表情に覇気が宿る、先程まで暗くなっていた全員が。あの平和の象徴までが動けなくなっている現状に絶望すら感じていたのに、戦兎の一言で全員が前を向いた。力を振るって誰かを助けるという意志が全員を統一していく。元々あった灯は小さな物だったが自分が与えた僅かな物でそれが大きな炎へと生まれ変わったのだ。全く頼もしい後輩たちだ、これからのヒーロー社会には良い刺激を与えてくれると確信しつつ、何時か自分が彼らの為にアイテムを作ってあげたいとすら思える。そう思いながら、戦兎はヒーローのビルドとして変身する事にする。

 

取り出したそれを腰へと当てると自動的にベルトが伸びて、ジャストフィットするように腰へと巻き付いた。

 

「さあっ―――久々に実験を始めようか」

「そ、それって戦兎さん専用のアイテムのビルドドライバー!!?それにそのボトルってまさかぁ!!!?」

 

と此処でもヒーローオタクの本領を発揮して大興奮する緑谷、そんな声を聞いてテンションが上がりながらも両手に握った赤と青のボトル。それを振るって内部の成分を刺激していく。そして十分に振るうとそれをベルトへと装填する。

 

RABBIT(ラビット)!!〉〈TANK(タンク)!!

BEST(ベスト) MATCH(マッチ)!!〉

 

ボトルをベルトのスロットへと装填すると宣言される組み合わせによる最高の相性(ベストマッチ)、これが一番力を発揮出来る組み合わせ、そして矢張り自分にはこの興奮を忘れる事など出来ず永遠にこの力と居るしかないという最高の組み合わせ、正しくベストマッチ!! 懐かしい感覚だが、やはりこれは忘れられない。そしてレバーを回していくと戦兎の周囲を取り囲むかのように、成分を形にした物が現れ戦兎は宣言する。

 

ARE YOU READY ?

「変身!!」

 

その言葉と共に、自らを囲っていたそれらは勢いよく戦兎へと迫っていく。それらは完璧に接続され1ミリの隙間もないように一つとなった。赤と青、それぞれの半身が一つのヒーローの姿へとなった。

 

FULLMETAL(鋼の) MOONSAULT(ムーンサルト) !! RABBIT(ラビット) TANK(タンク) !! YEAH!!〉

 

「うおおおおっっすっげぇっ!!?変身したぁぁぁ!!!」

「かぁぁぁっこれで燃えない奴とかいねぇよずりぃよ戦兎さんよぉ!!!」

「凄いやぁぁあああ!!!もはや幻と化したビルドの変身シーンをこんなに近くで見られるなんてぇぇ!!!」

 

先程までの暗い雰囲気何て何処に行ってしまったのだろうか、兎も角やる事は決まった。やるべきことも決まった、ならば後はそこに向かって突っ走るのみでしかない。その為の道筋なんて自分がビルドしてやる、と戦兎はハンドサインを作りながら言った。

 

「さて諸君―――人助けのお時間だ……行くぞ!!」

『おうっ!!』




―――くっそめんどい。主にビルド変身の時の色変えるの。すっげえめんどい。やりたくない、でもやらなければならないという使命感が私を突き動かすの……ああっでも失敗して、やり直して成功した時の幸福感と陶酔感がやめられないの……ああっ罪な味わい……。

と世迷言はこの位にして、まあ実際色変えるの凄い面倒なんですけど、YOUTUBEとかで字幕の動画って凄い見てて面白いの多いので自分もそれに近づけたいっていうのが主です。マジで凄いよ、平常放送でもこれやろうぜって思うレベル。

そして―――案外耳郎さんとかヤオモモヒロイン編もありかな、と思い始めている今日この頃。


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2人の英雄編―――ビルドと黒龍

「警備システムを管理しているのはタワーの200階―――今はまだ30階か」

「って200階ってマジっすか!?」

「冗談言ってるように見えるか」

 

と表情こそ見えないが、両手を上げているポーズからして自分だって登りたくなんてないわというのが滲み出ている戦兎に皆も同じ気持ちを募らせる。この島を救うために、平和の象徴を救うために戦う決意を固めた一同は警備システムを管理している最上階の管制室を目指す。非常階段を登りながらヴィランと接触しない事を祈りつつ、駆け上がっていく。

 

「はぁはぁっ……メリッサ、さん大丈夫……!?」

「大丈夫、よっ……!葉隠さんこそ、息上がってみたいだけど」

「私はまだ、大丈夫です!」

 

流石にこの二人は他のメンバーに比べて息の上りが早い。葉隠もヒーロー科で学びながら授業などで身体は仕上がっているがそれでも個性は一切身体機能をカバーしてくれないタイプ。どちらかと言ったら一般的な女の子的な体力しかない彼女には30階までの階段を駆け上がるだけでもきつい、そしてそれはメリッサも同じく。インドア系且つ研究者的な彼女もこれは応える事だろう、だが戦兎だけでは警備システムを完璧に元に戻すとは限らないので彼女の協力は必要不可欠……頑張ってもらうしかないだろうか、という時に不意に龍牙は下に駆け下りて膝を曲げた。

 

「ちょっと失礼しますよお二人とも」

「えっ?」「へっ?」

「よっと」

「「キャアッ!!?」」

 

膝を下ろした龍牙はそっと二人の腰に手を伸ばすとそのまま軽々と二人を抱え上げた。仮にも二人の女性となるとかなり重い筈だが……龍牙はまるで重さを感じていないのかそのまま軽快な足音を立てながら階段を一気に登って先に進んでいた皆にあっさり追いついた。

 

「って龍牙テメェ何美味しいことやってんだあ!!?」

「こんな状況下で何だテメェ!!?つり橋効果でも狙ってんのか!!?」

「つり橋……?なんだそれ、どんな効果で何時発動するんだ?」

「「どっかで聞いた事があるようなボケかましてんじゃねぇよこの野郎!!」」

 

と後ろから血涙を流している上鳴と峰田から凄まじい罵声が飛んでくるのだが、それを素で理解しているのか受け流す姿を見てこれを本気で言っているんだから天然とは恐ろしいと思う皆であった。そんな天然の龍牙に抱えられている二人は慌てながら龍牙に降ろして貰えるように掛け合うのであった。

 

「りゅりゅりゅりゅ龍牙君あの、大丈夫だから降ろしてぇ!?」

「わ、私も大丈夫だから!!こんなことしてたら貴方が余計に疲れちゃうわ!!」

「平気さ、師匠との一週間の実戦形式訓練に比べたら疲労のひにも入らない」

「流石のタフネスだね龍牙君!!」

 

この先の事を考えれば葉隠の力もメリッサの力も必要になる可能性が高い、ならば二人の体力も温存するべき。そうであるべきならば消費する体力は一番持久力が優れている龍牙が合理的であると判断したのだろう。龍牙に抱えられた二人はその事を理解したのか甘んじてそれに受け入れる事にするのであった。

 

「あ、あの龍牙君本当に重くないの……?」

「全然軽いですよ。ちゃんとご飯食べてるのかって心配になる位には」

「それは龍牙君が強すぎるからだよぉ……」

「そうかな」

「(……おいおいマジで素面で言ってるのこれ、だとしたらすげぇ乙女殺しだぞあいつ……)」

 

ビルドとしての仮面の下で微妙な表情を浮かべている戦兎、一応龍牙について根津から聞かされてはいるので彼の過去の事も理解している。なので彼に悪意などがあって乙女心を玩んだりしているという訳ではなく、本心且つ善意や良心で言っているのも分かるのだが……余りにも女殺しな事を平然とやらかしている龍牙に呆れた表情が浮かんでくる。

 

そんなこんなでいよいよ80階へと到達しそうになってきたころの事、先に続く階段は完全に封鎖されてそれ以上登れなくなっている。一応非常階段の内部からならば扉のロックを解除して開ける事は出来るが、そうなれば確実に自分達の存在がヴィラン達に筒抜けになる。つまり、これ以上の隠密行動は難しくなってくるという事になる。

 

「くそっ……これ以上バレずに進むのは難しいか……」

「ならやるべきことは決まってますよ戦兎さん、僕たちはもう迷わずに突っ走るって決めてますから!!」

 

戦兎が一瞬だけ、何か策を考えるべきかと迷った時にそれを緑谷が全力で否定する。このタワーに向かうと決めた時から戦闘になるなんて最初から分かり切っていた事。寧ろ此処まで戦闘なしで進めただけでも御の字と言うべきだろう。それを見て戦兎は迷いを捨てる、そうだ分かっていたじゃないか。だから自分は個性の許可を出すと決めたのだから。

 

「よし、なら此処からは俺がこのシェルターをぶち破って囮になる。出来るだけ派手に暴れて多くの敵を引き寄せる、相手も俺だと分かれば警備システムのセキュリティロボで止めようなんて甘い考えはしない筈だ」

「でも大丈夫なんですか戦兎さん!?たった一人で囮になるなんて……!!」

「ヒーローの活動は全然してなかったけど、これでも身体を鍛える事はやめてなかったからな。安心しろ―――と言いたい所だけど俺一人だけだと囮に不安があるな……相手に威圧を掛けて囮としての機能を上げたい所だ」

 

威圧、相手にかける脅しで囮としての精度を上げると言われた瞬間に一人に視線が集中した。そう、龍牙である。相手を威圧して、注目を集めるという点において龍牙ならばそれは適任なのではないか。それを察して龍牙は成程と頷きながらメリッサと葉隠を降ろしながら拳を鳴らす。

 

「付き合いますよ戦兎さん、精々注目を集めてやるとしましょうか。師匠仕込みの対ヴィラン戦闘術……それを見せ付けてやる」

「おしっその意気だ。全員は一旦階段に隠れてくれ、俺達はこのままシェルターをぶち破っておくに行く。そうだ、葉隠ちゃんも悪いけど付き合ってくれ。きっと君の力も必要になる」

「わ、私もですか!?私なんかで良ければ連れてってください!!」

「よしその勢いだ」

 

これで80階から上へと隔壁を突破して登っていく3人が決定した。他のメンバーはシェルターを破って時間をおいてから扉を開けて別ルートから上を目指す事に決めた。そして彼が一旦階段に隠れたのを確認したのちに龍牙の懐からドラゴンが飛びだした。身体と首や足を頻りに延ばして漸く出番かと言いたげな雰囲気だ。

 

「龍牙君、ドラゴンの出番だ。そいつにボトルを十分に振ってから入れてから個性を発動するんだ。後はドラゴンの方が勝手に同調してくれるはずだ」

「分かりました、よし行くぜドラゴン!」

WAKE UP !! BLACK DRAGON !!

 

 

戦兎を真似てボトルを良く振っていく、内部では小気味良い音を立てながら成分が刺激されていく。そしてそれをドラゴンへと装填するとドラゴンの瞳が赤く輝き、黒い炎が漏れ始めた。それらから溢れる炎は自らの黒炎と全く同じものを感じる、ドラゴンは自分と同じ力を持った青い龍。そして徐々にその力が高まっている。それらに合わせるように自らも個性を発動させていく、自然とドラゴンの力も自らのそれと同化している行くような不思議な感覚を味わいつつも龍牙は全開に力を発揮させながら戦兎に倣って叫んだ。

 

ARE YOU READY ?

「―――変身!!!」

WAKE UP BURNING ! GET BLACK DRAGON !! YEAH!!〉

 

黒い炎を纏う青い龍の力を借りて至った黒龍の姿、普段と姿は変わらない。あるとすれば付けていたボトルのホルダーが腰にある程度で姿は全く変化していない。だが―――今までは全く別次元の何かを感じる。感じた事もないような、言葉に表せないような一体感をその身に感じながら龍牙は拳を握った。

 

「この感覚……すげぇっ……!!」

「おおっ流石俺!!一発で完全に同調成功しちゃったよ!!凄いでしょ、最高でしょ、天ぇっ才でしょ!!?」

「マジで凄い……!今の俺はもう―――負ける気がしねぇぜぇええ!!!」

 

葉隠はその言葉に驚いていた。龍牙は日常的にオルカに自信を圧し折られ続けていたために自らを常に第三者視点で見つめ、実力を冷静に判断し続けてきた。自らの力に確信こそ持つが自信は一切持たないタイプ、だが今は違う。全く違う力の感覚に心が躍り自信に溢れてしまっている。そんな彼を見て葉隠がしたのは―――

 

「龍牙君、そんな事言ってるよオルカさんに怒られるよ?」

「―――……そうでした、本当に有難う葉隠さん」

 

龍牙のストッパーであった。

 

「おお、ブレーキの握り方も分かってるとか最高だな!!よし、それじゃあ―――行くぞ」

「貴方とメリッサさんに作って貰ったこいつも活用させて貰いますよ!!」

〈BEAT CROSSER!!〉

 

ボトルを開けるとそこから飛び出したのは一本の剣、刀身には何やらイコライザーのようなメーターが内蔵されており、ボトルを装填できるようなスペースまで完備されている不思議な剣、ビートクローザーを構えてドリルクラッシャーを構えた戦兎と並び立つ。

 

「(……こうやってビルドとして、誰かの隣に立つのも何年振りだろうな……あいつと別れて以来か……いや、今は忘れろ)よし、行くぞ龍牙!!」

「ええ、行きますぜ戦兎さん!!」

 

戦兎は赤いボトル、ラビットフルボトルをクラッシャーに。龍牙は渡されていたもう一本のボトル、金色のロックフルボトルを装填しながら習った通りに装填した後、グリップエンドを引っ張ってパワーをチャージしてから構えた。

 

SPECIAL TUNE!! HIT PARADE(ヒッパレー)!! HIT PARADE(ヒッパレー)! MILLION SLASH!!

Ready go! Voltech break!!

 

二人の一撃がシェルターを意図も容易く吹き飛ばし、葉隠を連れた二人はその先へと駆けあがっていく。3人の戦いが始まろうとしている。




うーん、やっぱり面倒くさい……色変えるだけで一体どれだけ時間使ってるんだか……いやでも完成後のこの陶酔感に浸るのも一興……。

そして最後当たりの戦兎の台詞は別に伏線という訳ではないです、うん多分……過去に個性関係である事があっただけですから。うん。


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2人の英雄編―――暴れるビルドと黒龍

「オラオラオラァッ~天っ才物理学者のヒーロー、ビルドのお通りなんだから隔壁も確り開けなさいってのぉ!!」

 

緑谷達と別れて進む事になった龍牙と葉隠、そして戦兎。緑谷達が動きやすいように派手に暴れて此方に目を引き寄せる為の囮も兼ねる為に兎に角派手に動き回る。進む道を塞ぐ隔壁は破壊して突き進んでいく戦兎ことビルド、破壊した隔壁を補おうと新しい物が降りてくるのだが、それすら粉砕していくビルドの破竹の勢いは止まる事を知らない。一方の龍牙は龍牙で―――

 

「だああぁぁぁぁっっっぅっ!!!俺の、道を阻むなぁ!!!」

 

彼なりに目立とうと荒々しさを全開にして黒炎で隔壁や周囲の壁を燃やしながらビルドに続いていく。そこだけを切り抜いたら完全に龍牙の方がタワーを占拠したヴィランだろ、間違いなく言われるほどには荒々しく暴れている。

 

「もしかして龍牙君、その暴れ方……爆豪君を意識してる?」

「まあね。それに俺を殺すつもりで相対してくる師匠を混ぜてる」

「そりゃ迫力満点だよね……」

 

後ろから着いていく葉隠だが、ビルドは所謂愚連隊を率いるチンピラ的なものに何とか映る。が、龍牙の場合は見た目との相乗効果もあってとんでもない超凶悪ヴィランが暴れているように映る。師匠譲りのヴィランムーブ……というのだろうか、それが確りと受け継がれているのか歩き方に地面の踏みしめ方や息遣い、様々な物に迫力を感じずにはいられない。葉隠的には龍牙の事を理解しているのは全然怖くなどないのだが……何も知らない人が見たら大変だから自分が頑張って説得しないと……と内心で決意するのであった。

 

「おっ、漸くセキュリティロボを出して来やがったか。待ち草臥れたよ」

「他の連中が来るまでの時間稼ぎですかね」

「それが妥当だろうな」

 

そんな風に余裕をかましている戦兎の言葉通り、隔壁が開きそこから人型のロボがゾロゾロと列をなしてきた。機械の身体をむき出しにしながら銃剣を構えながらこちらにそれの矛先を向けている。

 

「葉隠さん、そこの影に隠れて」

「もう隠れてるよ!!」

「あいつらはセキュリティロボのガーディアン、持っている奴はゴム弾とスタンガン内蔵のナイフの銃剣で武装してる」

「随分詳しいですね」

「ちょっと前にあいつの改良案考えて欲しいって言われてさ、ダメ出ししまくったばっかりだからな」

 

あくまでセキュリティロボ、相手を拘束する事に特化しているので相手を殺傷する物は極力装備されないようになっている上に殺害はしてはならないというプログラミングも施されている。正直言って敵などではない。此処はさっさと突破するに限る。

 

「龍牙、折角だ。こいつらでそいつの最高火力を確認しとけ」

「了解です」

 

完全にガーディアンを障害物に思っていない二人、ビートクローザーにロックボトルを、ドリルクラッシャーをガンモードにしてからタンクフルボトルを装填すると構えを取る。それを見てガーディアンは一気に駆け出しながらゴム弾を連射してくるのだが、その程度では止まらないのがこの二人である。

 

SPECIAL TUNE!! HIT PARADE(ヒッパレー)! HIT PARADE(ヒッパレー)! HIT PARADE(ヒッパレー) MEGA SLASH!!

Ready go! Voltech break!!

 

「ォォオオオオリャアアアア!!!」

「いよっと……はぁぁっ!!」

 

刀身に炎が纏ったそれを渾身の力で振り抜かれる、黒い炎と金色の光が混合された一匹の龍が出現しそれらが此方に向けられて放たれてくるゴム弾を燃やし尽くしながらガーディアンへと向かっていく。そしてドリルクラッシャーから放たれたそれは、戦車の主砲から放たれる砲弾のような威圧感を纏い、ビルドがノックバックする程の爆発的な勢いで龍と共にガーディアンへと迫っていく。

 

『ゴアアアアアアッッ!!!』

 

龍が放たれた砲弾を銜えこむとそのままガーディアンの中央部へと突撃していき、ガーディアンを貫いて行きながらその中心部に到達した時に大爆発を引き起こしながらその場にいたガーディアンを飲み込んで消し炭へと変えていく。その爆発で天井の一部が崩落してしまい、上の階が露出してしまうほどの破壊力を発揮してしまい龍牙はマジで?と言いたげにビートクローザーを見つめてしまう。

 

「あ、あの戦兎さん……この破壊力はやばくないですか……?」

「いや流石に今のは俺の奴とのコラボだから、本来の威力はこれの半分ぐらいだから」

「十分にやばくないですかこれ……」

 

ガーディアンを巻き込んだ大爆発という事もあるだろうが、あれだけいたガーディアンを一瞬で灰燼に化すほどの火力に生まれ変わらせる事が出来る武器、それを持つという事に今更ながら強い責任を感じると喉を鳴らしながらそれを腰へと押し付けて固定する。

 

「それじゃあ上行くか、このまま俺達が暴れれば緑谷達が動きやすいだろ」

「分かりました、それじゃあ俺は葉隠さんと一緒に」

「ううっ……またご迷惑かけます……」

「いいっていいって、葉隠さん軽いし楽勝だよ」

 

顔こそ見えないが本当に優しい声色で囁くように、気遣うようにしながら優しい手つきで葉隠の腰?に腕を回しながら割れ物を扱うかのようにしながら多分、お姫様抱っこをする龍牙に戦兎は内心で呆れつつも自分だってあれほど鈍くはなかったと思うと思わずにはいられなかった。

 

「(いや、確かに俺も鈍い方だったとは思うけど流石にあそこまでは……あいつの事はある程度分かったもんな)」

 

当時の自分よりも酷い者を見て根津の苦労を察しつつも左脚に内蔵された強力なバネ(ホップスプリンガー)に力を溜めながら跳躍の体勢を取る。

 

『何も分かってないのはお前の方だろ戦兎ぉ!!』

『あ"あ"っ!?分かりにくいお前の方に問題があるんだろうがよ!!誰があれを告白だと思うんだよこの馬鹿女!!』

『何だとぉ!!?』

 

その時に不意に当時の記憶が思い出されるが直ぐにそれを胸の奥へとしまい込む。もう終わった事で蹴りが付いた事を一々思い出していてはキリがない。どうも同じ雄英生だった過去の事を思い出してしょうがない。そんな思いを振り払って左脚に力を込めて高々と跳躍して上の階へと侵入する、その直後に龍牙も同じように数度の跳躍を繰り返して上へと到着する。

 

「―――さてと、これからもっと目立つ事をするわけだが……今100階。この先にあるでかい広場に行く」

「広場、ですか?」

「そうだ。そこは個性を存分に使うためのホールで1フロワの大半がそのスペースに割かれてる、そこで俺達と戦えるように仕向ける」

「上手く、乗りますかね」

「乗るだろうさ、ロボじゃ俺達を止められないのは実証済み。なら―――全力でやれる場所で俺達を確実に確保したいだろうからな」

 

自信満々な戦兎の言葉を信じて案内の元、その大ホールに向かう事にする。到着したそこは本当に何もない大ホール、純粋に耐久力などに優れている作りになっており思いっきり個性を使用したとしても何の問題もない。そして入ると同時に反対側の隔壁が開き、そこから二つの影が現れる。それは―――蝙蝠のような大きな翼を広げながら胸には蛇の紋章を持つ大男と全身にギアのような物が装着されたアーマーを着込んだ奇妙な男が此方に向かって来ていた。

 

「なっ俺の言った通りだろ?」

「本当だったよ……」

「天才って凄いんですね」

「ノンノン、天っ才物理学者だからさ俺!」




ちょいちょい戦兎の過去を出していくスタイル。この辺りは本編とも絡めようかなぁと思ってます。

そして……もうお分かりですよね、ラストの敵。さあ勝てるかな、龍牙と戦兎、そして葉隠さんは!!


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2人の英雄編―――過去と対峙するヒーロー

「随分と暴れてるみたいじゃねぇか……なぁ桐生……」

「お前ら好き勝手やりすぎだ……」

 

そんな風に出てきたのは筋骨隆々な大男だった、それらは一時的に先程纏っていたものを解除すると顔見せながらそのような言葉を吐いた。その声色に戦兎は聞き覚えがあった、酷く昔に聞いたような気がする……。そして目を見開きながら、声を震わせた。

 

「ま、まさかお前達……!?」

「戦兎さん知ってるんですか!?」

「だ、誰なんです!?」

「あいつらは―――……えっと、あのどちら様でしたっけ」

『えええっっっ!!?』

『だぁぁっっ―――!!?』

 

タップリ溜めていたのにも拘らず、まさかの誰なのか全くわかっていないというオチ。龍牙と葉隠は声を上げて何だよそれ!?となり、目の前の二人は思わず頭からずっこけて軽くヘッドスライディングをかましている。二人からしても流石に覚えているだろうと思っていたのだろうが……戦兎的には全然だったらしい。

 

「桐生てめぇえええ!!!俺達を覚えてねぇってかぁ!!?」

「全然……」

「お前がビルド時代だった時に、お前ともう一人の奴に叩きのめされたんだよ俺達は!!」

「いや俺にとってはもうすげぇ前だし、お前達にとっては凄くても俺にとってはお前たちはただの雑魚って事だったんじゃないの?」

 

ヴィラン相手だからか一切遠慮もせずにズバズバと発言していく戦兎、心を抉るような毒を含んだ言葉にヴィランの二人は顔を真っ赤にしながら拳を握り、地面を踏みしめている。

 

「なら―――強引にでも思い出させてやる!!」

「おうよ、こいつを見てもそれが言えるかな!!」

 

そう言いながら二人の男が取り出したのは何やら銃にも見えるものだが、何やらビルドの腰にあるドライバーにもあるようなスロットが存在している。そして取り出したそれを見て龍牙と葉隠は驚いた、それは戦兎が使用しているフルボトルだったからである。

 

「戦兎さんあれってボトルじゃないですか!?」

「―――思い出した、あれは確か俺が随分前に作ったトランスチームガンにそのプロトタイプのネビュラスチームガン……!!」

 

Bat…! Cobra…!

 

Gear Engine(ギアエンジン)! Gear Remocon(ギアリモコン)! Funky Match!!

 

トランスチームガン、ネビュラスチームガンを手にした男たちはその手に二本のボトルを手にしながらそれぞれを交互に装填する。二本を同時に使うのではなく、一本を指した後にそれを抜いて新しく一本を指す。ビルドとは全く違うそれらを行う光景の中で、男たちは口角を歪ませながら銃口を天に掲げながら叫ぶ。

 

「蒸血……!!」

「潤動!!」

 

トリガーを引いた瞬間、それらを祝うかのような声が響くと一方の銃口からは公害のような煙が立ち込めていく身体を包み込んでいき、内部では火花を散らしながら幻惑の瞳が妖しく輝く。一方は黒い煙と共に無数の歯車が飛び出し空中で踊りながら互いに絡み合い、音を立てながらギアを回す。それらが極限にまで高まるとギアは煙の中へと突入し男へとめり込むように装着される。

 

Bat…Coco…Cobra! Cobra…Ba…Bat……!!TWIN FIRE!!

 

そこに立っていたのは雄々しく蝙蝠の翼を広げた怪人、全身を黒と血のような赤で染め上げた怪人は胸に掲げた蛇の紋章を輝かせながら首を鳴らしながら此方を凝視しながら銃を持つ。

 

Fever!! Perfect!!

 

全身に歯車が埋め込めれたような男、二種類の色違いのギアが身体を作り上げたそれはギアの怪物。顔すらもギアで覆われた怪人は奥に埋め込められた瞳をぬらぬらと妖しく輝かせた。

 

「これで思い出したかぁ……桐生!!」

「お前から奪ったこの力、俺達の力を!!」

「漸く思い出した……お前ら、俺の家を空き巣したヴィランだな、ヘルブロス……でも片方が違うな」

「何時までもあの時のままじゃねえ、今の俺はナイトスタークだ」

 

やっと思い出しやがったか……と思わず落胆するよう二人。ナイトスタークにヘルブロス、戦兎は今のビルドに行きつくまでに様々な物を開発していた。そしてそれらは自らの家の中で保管していたのだがそれが盗難される事があった。その犯人がナイトスタークとヘルブロス、加えてナイトスタークは機械に強いのか、自らトランスチームガンを改良しバットとコブラを組みわせた形態を作り上げている。

 

「気を付けろよ龍牙、仮にもあれは俺の開発した物だからな。下手なヴィランよりも厄介だぞ」

「そんな相手の事忘れたんすか……」

「いやだってその時は全然苦戦しなかったし、その時は俺一人じゃなかったし」

「えっじゃあ戦兎さんって一人で活動してたんじゃないですか?」

「……まあ、コンビがいたよ。あのヒーローオタクな緑谷なら確実に知ってるだろうな」

 

改めて構えを取る龍牙と戦兎、葉隠には下がっていて貰う。そんな二人を見てヴィラン組も構えを取る。

 

「おい桐生、あの時のバニーちゃんは何処だ。あいつにも確りとお返ししてやらねぇと気が収まらねぇ」

「そうだ、あの時俺の顔を蹴りやがったドギツいコスの兎女は何処だ!」

「今は一緒じゃねぇよ、今は隣の龍牙が俺のパートナーだ」

「そういう事だ。何の話かは分からねぇけど……相手してやるから来い、今の俺に勝つのは容易くないと知れ」

 

強気に構えを取りながら威圧する龍牙、矢張りドラゴンとの同調の影響で多少なりとも好戦的になっているのかもしれないが、それでも十分過ぎる程に冷静さを保てている。その点を戦兎は見抜き、後で確りと調整してあげないとダメだなと内心で思っておく。

 

「さてあの時の仕返しだ……あの時の俺と一緒にするなよ……。このナイトスタークの力を思い知らせてやる!!」

「やってみろ蝙蝠蛇野郎、人の発明品でいきってんじゃねぇぞ」

「ツラの悪い龍の兄ちゃんよぉ……テメェを地獄に送ってやるよ」

「生憎、地獄なんて師匠のお陰でもう見飽きてる。代わりにお前に―――冥府を見せてやる……!!」

 

『行くぞぉ!!!』




という訳で大勢の皆さまの予想通りでした。まあ一部は違うけど、折角だからこっちでもやられたらいいなぁと思って。


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2人の英雄編―――作り続けるビルドと超える黒龍

「ふったぁっ!!」

「らぁぁぁっっ!!!」

 

ぶつかり合うビルドとナイトスターク、それぞれの攻撃がぶつかり合いながらも互いにそれらを受け流しつつも相手の喉元に噛みつかんと迫り続けていく。ナイトスタークは片手にはトランスチームガン、片手にはそれらに接続して使用出来るような仕様にしている刀身にバルブが付いた片手剣のスチームブレードを握りしめながら荒々しく切りつけてくる。それらをドリルクラッシャーで受け止めつつも、片足のスプリングで距離を取りながら片足のキャタピラで高速移動しながらの攻撃というヒット&アウェイなどを繰り返していくビルド。

 

「テメェッ……一々逃げてんじゃねぇぞぉ!!」

 

そんなチクチク戦法がお気に召さないのか怒りを露わにしながらも胸部の蛇から大型のコブラ型のエネルギー体を生み出して駆けまわるビルドを追従させていく。それらを見てもビルドは一切の余裕を崩さない、それ所か敢えてアクロバティックなジャンプを見せながらコブラの攻撃を回避して見せる。

 

「戦いに相手の都合を考えてたら面倒だ、自分の得意を押し付けるのが戦い、だぜっ!!」

「だああああぁぁぁっっ!!!!」

 

直後、再度大ジャンプをする。それらは噛みつかんと迫ってくるコブラを回避した、というだけではなく自らの背後から迫ってくる黒炎の奔流を回避する為であった。ナイトスタークはそれに驚くが視線の先では片手でヘルブロスの攻撃を完璧に受け止めながら、黒炎を吐き出した龍牙の姿があった。

 

「流石だな龍牙、俺の動きに合わせられてる!」

「そちらこそよく俺が攻撃する事が分かりました、ねっ!!」

「ガブフッ!!?」

 

直後、攻撃を防がれていたヘルブロスに龍頭でのアッパーカットが炸裂する。それに情けない事を漏らしつつも、そんな自分と出せた元凶である龍牙へと怒りの矛先を向けながら両腕のギアを高速で回転させながら、それらで龍牙を刻もうとするのだが―――そこへなんとビートクローザーが飛んできてそれをキャッチした龍牙は屈みながらブロスを足元を薙ぐような一閃を放って掬い上げた。

 

「なっ!!?」

 

崩れ落ちようとする視線の先では透明なドレスが浮かんでおり、手袋のような物がVサインを形作っていた。そう葉隠である、敢えて手放していたビートクローザーを抜群なタイミングで投げてアシストしたのである。そして龍牙はクローザーのグリップエンドを何度も引っ張る。

 

HIT PARADE(ヒッパレー)!! HIT PARADE(ヒッパレー)! MILLION SLASH!!

「食らええええッッ!!」

 

金色のエネルギーを纏ったビートクローザーを力任せに叩きつけるかのように振るう龍牙。それらは空気を引き裂きながら押し潰すかのように迫り、防御の為に差し向けられた両腕のギアの刃を砕きながらボディへと迫っていく。そして胸部のギアが防御の為に回転してそれらを受け止めるのだが、それでも衝撃を全く殺しきれずに自らも地面に強く叩きつけられた所で漸く刃を受け止め切れた。

 

「ぐっ……!!何だこのパワーは……!?俺は、こいつを使いこなす為に一日だっで欠かさずに使わなかった事なんてなかったんだぞ!!?それなのに何で!!?」

「アンタの努力なんて知った事じゃねぇ……アンタが弱いんじゃねぇ、俺がアンタよりもずっと先に行ってる。ただ、それだけの事だぁぁぁ!!!」

 

ヘルブロスを蹴り上げ、そこへ腰だめにした龍頭を構える。それを見てギョッとするブロスだが直後に一回り巨大になった龍頭が自らの身体へと炸裂する。

 

「ドラゴン・パワーラリアット・ストライクゥッ!!!」

「がぁぁぁっっ!!!」

 

ラリアットの要領で打ち付けた龍頭、そのはずみで軽く浮いた所へ跳躍した龍牙がヘルブロスへと渾身の正拳突き、ドラゴン・ストライクを炸裂させる。浮き上がっていた身体は地面にめり込むほどに打ち付けられた、そして地面には龍の紋章のような物が黒炎によって刻印される。それらを受けたヘルブロスは完全に動かなくなってしまい、重々しい息を吐き出しながら変身が解除されてしまいそのまま意識を手放した。

 

「やったね龍牙君!!戦兎さんが作ったアイテムを使ったヴィランをやっつけちゃった!!」

「葉隠さんのお陰さっ良くあのタイミングで投げてくれたよ!!」

「エッヘン!!伊達に龍牙君と一緒に居ないしパートナーじゃないからね!!」

「「イエーイ!!」」

 

と思わずハイタッチを決める。透明な少女と見た目ヴィランな龍戦士がハイタッチする姿はどことなくシュールな感じがするのである。

 

「な、なんだとぉ!!?ヘルブロスがなんであんなに簡単に!!?」

 

ビルドと戦っていたナイトスタークは相方のヘルブロスが呆気なく倒されてしまった事に驚愕してしまう。だが戦兎はある種当然のようにも思っている。あのギャングオルカの地獄とも言える扱きを受け続けてきた彼が自分の作ったドラゴンによって普段ならば身体に負担がかかる筈の力を何の障害もなくスムーズに出せるようになっている状態、そしてやや好戦的になっているので普段よりも力が出ているのもあるだろう。それらの要因が重なってヘルブロスはあっさり倒されたのだろう、他にも要因はあるだろうが。

 

「お前さ、幾ら俺の発明品とはいえ毎日毎日使ってたなんて事になったら流石に少しずつガタが来ると思わない訳?幾らメンテし続けてもそれを数年続けたなら一から作り直すレベルでオーバーホールしないとダメに決まってるだろ……」

 

呆れ混じれにそんな事を言う戦兎にナイトスタークは思わず、あれのメンテもしていたが特に大した問題もなかったので簡単な物ばかりだった事を思い出す。未だ問題が起きていないのは戦兎が作ったからこそ、だがそれでもシステムの奥深くなどにダメージは蓄積し続けるもの、それらを解消する為に全とっかえレベルのオーバーホールが必要。流石に毎日使い続けていたのならば簡単な物ではなくそれなりのレベルのメンテをしなければならない、でないと次第に劣化していく。

 

「お前さんのトランスチームガンの方は問題なさそうだな、まあ自分で手を加えたらなら当然だな」

「クッ……当然だ、俺のは限界まで出力を上げてるから週に一度はハイレベルなメンテを欠かさなかったからな」

「いい心がけだ、感動的だな、だが無意味だ。それでも俺には及ばない」

 

挑発するような物いいだが現実問題として自らがあっさりとあしらわれている現実が立ちはだかっている。あの時よりも攻撃力、防御力、機動力、各種出力を限界まで高めているのに如何して此処まで劣勢なのかと焦りを感じずにはいられなかった。しかしそれらの答えは余りにも簡単だった。あの日から何年も立っているが戦兎も当時のまま立ち止まっている訳が無いのだから。

 

「俺があの日のままだと思ってたのか。改良と調整を繰り返し続けるのと同時に身体だって鍛え続けてきたんだ。言い方も悪いが昔の発明品に俺と共に過ごしてきたあいつとの最高傑作が負けるわけがないんだよっ!!!」

 

Ready go! Voltech break!!

 

ラビットフルボトルを装填したドリルクラッシャーを握りしめ、それらを渾身の力で振るう。それをトランスチームガンにスチームブレードを接続したトランスチームライフルで受け止めるのだが……ラビットボトルの力で凄まじい回転をするドリルの勢いで連結が外れてしまい、弾かれた所にクラッシャーが炸裂し大きく吹き飛ばされてしまう。

 

「そんな、馬鹿なぁ……!!ナイト、スタークが負けるなんてあり得ねぇ……!あり得てたまるかぁぁぁっ……!!!」

「これで終わりにしてやる……俺から盗んだ物を好い加減返して貰うぞ!!行くぞ龍牙!!!」

「ああ、これで決めてやる!!!」

 

隣に走り込んできた龍牙もドライバーのレバーを回す戦兎の声に呼応するように全身から黒炎を溢れ出させていく、夥しい炎が龍牙を包み込み蜷局のような物を巻いていく。だがそれらはドラゴンのような咆哮を上げて一つの存在へと昇華されていく。それは黒い身体を持つ黒龍となって高らかに咆哮を上げた。

 

「うおっなんか出たぁ!?これも戦兎さんのドラゴンの力!?」

「な、なのかぁ!?ま、まあ詮索は後だ、決める!!勝利の法則は、決まった!!」

「ズァッ!!」

 

Ready Go!!

 

戦兎ともに飛び上がる龍牙、それを追従するように飛び上がっていく黒龍。高らかに跳躍した二人、そしてビルドが飛び上がると同時にX軸とY軸で表示された何かの計算式のような物が出現するとそれがナイトスタークを完全に拘束してしまう。

 

「な、なんだこりゃ!!!?」

 

嘗てこんな攻撃はなかったはずと焦りながらも必死にもがいてそれらを振り解こうとするが、全く外れない。その間に龍牙とビルドは完全に狙いを付けた。そして―――

 

ド ラ ゴ ニ ッ ク フ ァ ン グ フ ィ ニ ッ シ ュ!!

 

DRAGONIC FANG FINISH(ドラゴニックファングフィニッシュ)!!!

Voltech FINISH!!

 

「はぁぁぁぁっっ!!!」

「だぁぁぁぁっっ!!!」

 

黒龍が放つ黒炎を身体に纏いながら、それを推進力にして加速する龍牙と計算式を滑るようにして向かっていくビルド。その二人の必殺のキックが同時にナイトスタークへと炸裂する。爆炎の蹴りと勢いを付けながらも無限軌道が身体を削り蹴り、それらを耐えきる事などは出来ずに大爆発をもってナイトスタークは完全に変身が解除されてしまい、その場に倒れ伏してしまう。それを見た戦兎はヴィランから発明品を取り上げ、それを持っていた空のボトルへと押し込んだ。

 

「よし、ネビュラの方持ってきてくれね?」

「持ってきましたよ~戦兎さん!」

「おっナイス葉隠ちゃぁ~ん」

 

そちらもボトルに入れておく。これにて完全に終了……したと思ったのだが未だに出現し続けている黒龍に目が行く。これは一体何なのか、もしや龍牙の中にある個性の更なる可能性なのかと思案していると突如、龍牙が膝を付いてしまった。

 

「りゅ、龍牙君どうしたの!?」

「わ、分からない……でもなんか身体が……凄い重い……!!」

 

その言葉の直後、龍牙の個性が解除されてしまう。そして同調していたドラゴンも床に転がるとボトルを吐き出しながらもドラゴンはスパークを起こしながら壊れてしまい動かなくなってしまう。

 

「あああっ!?何で壊れたんだぁ!!?」

 

直後、黒龍の姿も消えてしまった。戦兎は取り敢えず龍牙の体調の確認とドラゴンを回収しながら様子を見るのだが、その間にI・アイランドの事態が収拾するという珍事が発生するのであった。三人は顔を見合わせながらも何とも言えない表情にならざるを得なかった。

 

そしてドラゴンの故障の原因は純粋な出力のオーバーフロー。元々龍牙の個性を封じ込めたボトルと同調していた影響で実力以上の力が出せるようになっていた龍牙、その結果眠っていた潜在能力を過剰に引き出してしまったのでドラゴンがそれに耐えきれずにショート。そしてそれによって負担なく行えていた制御が一気に乱れてしまった故に龍牙は動けなくなってしまったとの事。

 

「あ~あ折角龍牙に合わせたのに……これじゃあ修理と調整も踏まえると最低でも1か月は掛かるな」

「うわっ……」




と、まあ雑ですが映画編はこんな感じです。だってあの映画自体ある種完璧じゃないですか。それに手を加えるのはちょっと……というのもありますが、ペース的なものを考えると多分ラストの緑谷とオールマイトの援護位しか出来ないと思ったので。

そして―――好い加減他の番外編も書かねぇとまずいと思ったので。まあこれでメリッサも番外編に出せるし、もしかしたら本編入りもあるかもね!!あと、戦兎云々は多分普通で本編で採用するかもです。

さて次回は如何しようかな……他のクラスメイトがヒロイン編も面白そうだし、アメリカ留学でメリッサ編もありだなぁ……。えっヴィラン編?

―――多分妻曰く、私の本性であるブラック且つダーク全開になるから自重します。原作キャラがエライ事になりかねない……。


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EP EXTRA Unknown:アナザー、ミライ、セカイ

クロスオーバー、ジオウ編

……いやでもアナザーリュウガって元々ジオウだしこれってそう言っていいのか……?


―――とある時間、とある場所にてある現象が確認された。それを確認したのはパトロール中のプロヒーロー。天に奇妙な穴が開きそこから巨大な物が降って来た、全速力で確認に向かったがそれらは直ぐに見えなくなり無関係と思われる無個性の一般市民が数名居ただけだという。それを受けて周辺のプロヒーローは警戒を強め、パトロールの範囲を拡大した程度しか変化はなかった……だが着実に変化はあった。

 

「何々何なのあれ、あのド派手なコスチューム!?あれで平然と歩いてたよ!?」

「正気を疑うが……他にも複数いた、此処は別の時代というだけではなさそうだな」

「兎に角早く見つけて元の時代に戻るべきよ、そのルートは確定してるから解決するだけでいいんだから」

「では迅速に行動しよう、まずは情報収集と行こう。おやっ―――これは珍しい」

 

その現場近くにはとある4人が居た、少年二人に少女一人、そして一人の男性。周囲の光景に驚き目を見張りながら興奮する少年に鋭い目を作りながら周囲への警戒を強め続けている少年、そんな二人を上手く纏めつつも計画を立てる少女。そんな三人に続きながらも手にしていた本への変化に気付いてそれを読み、口角を上げる男。そして、三人から少しだけ距離を取りながら振り向き、本を開いた。

 

「そうか、なるほどなるほど……我が魔王、如何やらこの世界はきっと魔王の心を満たす程の魅力溢れているようだよ」

「えっそれってどういう事なの、いやでも確かになんか楽しそうな世界っぽいよね!アニメのヒーローみたいな人があんなにいる世界って!!」

 

あり得ない世界から訪れたあり得ない彼ら、本来ある筈もない事が起きようとしている。だがそれはこの世界においてあり得てしまうのかもない、様々な超常を身に宿す人々が営むこの世界においては……そうこの個性社会であり得ないという事は絶対にありえないという事はない。

 

 

時代を駆け抜けた平成仮面ライダー達。全ての力を受け継ぎ、時空を超えた真の時の王者。時空を超え黒龍の英雄が出会った時、新たな時が創造される。祝え、時王と英雄の新たな物語を!!

 

 

ビヨンド・ザ・リュウガ

 

×

 

仮面ライダージオウ

 

 

 

ANOTHER FUTURE WORLD

 

 

 

「個性社会……なんだか意味の分からない世界に来ちゃったわね」

「取り合えず俺達は無個性の人間って事で通すがベターだな、無い能力をあると言い張っても無駄だ」

 

道行く人達、4本腕の主婦に翼を携えた少年に4メートル強の巨漢。通常の常識で測ろうとしても図り切れない事ばかりが広がっている。最初こそ小さな波紋だったのかもしれないがその小さな波紋は次第に巨大さを増していき今は世界全体を包み込むほど大きな波となった。総人口の8割が何らかの特殊体質である超人社会、個性社会に戸惑いと溜息をもらす二人。と対照的に目を輝かせて色んな人々を見つめている少年にそんな少年に余り見つめ過ぎるとマナー違反だと注意する男性。

 

「ごめんごめん、でもさウォズ。この世界って俺達のアニメとか漫画の世界そのものじゃん。ワクワクもしちゃうさ」

「それには同意せざるを得ないかもしれないな我が魔王。我々風に言い換えるとすれば総人口の8割がライダーの特殊能力の一部を宿していると思えば驚きたくもなるという物だ」

「確かにそう認識したら多少なりとも腑に落ちるが……ツクヨミ、この世界の過去で奴らが干渉したという可能性はないのか」

「ゲイツの考えは分からなくもないけどそれはあり得ないと思う。奴らが干渉したとしても此処まで大規模に膨れ上がったのを望むとは思えないわ、ソウゴも何かちゃんと考えてよ」

 

ウォズ、ゲイツ、ツクヨミ、そして魔王と呼ばれた少年ソウゴ。それが彼らの名前、彼らの目に映る個性社会はあり得ないものでしかなくこれからの行動指針にも迷いと戸惑いが生まれてしまう。彼らがこの世界に来たのは自分達の世界で悪事を起こした人間がこの世界に逃げ込んだ為、他の世界に自分達の世界の悪人を放置するわけにはいかずに乗り込んできたのだが……どうやって探し出したものかと悩んでしまう。

 

「う~ん……だったらこの世界で協力者を探すって言うのは如何かな」

「それがベターかもしれんがどういって協力して貰うつもりだ」

「いきなり他の世界から悪人、こちらの世界流に言えばヴィランだろうね。それが来たと語ったとしても狂人の戯言と受け流されかねない」

「でも私たちがこの世界で活動する為に如何しても協力者が必要だし……」

 

幾ら超常的な力が日常の一部となっていると言っても時空を超えてやってくるなんて事が信じられるのだろうか、加えてある意味自分達は過去の人間であり異世界人でもある、それを信じてくれる相手がいるとは思えない。そんな時だった。

 

「グアアアアアアア!!!」

「うわっ何あれ!!?」

 

突如、地面が大きく避けてそこから全身が熱く燃え滾っておりあちこちからマグマが噴火しているな身体をしている人間と思わしきものが出現してきた。尋常ではない熱を放出しているのか地面は融解し、凄まじく熱い。彼らは思わず距離を取る。

 

「恐らくこれがヴィランという奴だろう、個性を無許可で使用し悪用し犯罪を行う者。成程分かり易い」

「言ってる場合じゃないでしょ!?如何するの、この辺りは人気はないけど大通りは凄い人混みよ!?」

「戦うしかないか」

「うん、だろうね」

 

ソウゴとゲイツが前に出る、それを見たマグマヴィランは凶悪な笑みを浮かべながら両手にマグマを蓄えるように圧縮しながら歩みを進めてくる。それに対抗するように彼らも自らの武器を取り出そうと―――その時

 

「伏せろっ!!!」

 

唐突に聞こえてきた声に全員がそれに反射的に従った、そして

 

『ゴアアアアアアアアアアッッッ!!!!』

 

彼らの頭上を黒炎を纏った黒龍が通り過ぎながらマグマヴィランを吹き飛ばした、そして黒龍は彼らを守るように唸り声を上げながら蜷局を巻くが彼らがはその存在を知っているかのように驚愕した。

 

「こ、これってなんか見た事がある気がする!?」

「ドラグレッダー、いや色が違う。黒いぞ!」

「黒いドラグレッダー……って」

「ドラグブラッカー……仮面ライダーリュウガが契約していた黒き龍……」

「大丈夫ですかぁ~!?」

 

黒龍に驚愕していると後ろから一人の少年が走り込んできた、少年は彼らの無事を確認すると黒龍の前へと立つ。そして同時に何処からかもう一人の青年が降り立ったがその声に全員が聞き覚えがあった。

 

「ナイス龍牙、やれやれまさかまたヒーローとして活動する事になっちゃうとはねぇ……」

「戦兎兄さん目の前にヴィランいるんですから真面目にやって下さい」

「はいはい分かってるよ、んじゃ行くぞ」

「ええ」

 

二人は同時に腰へとドライバーを押し付け装着した、その光景は正しく自分達が知っているそれと全く同じ。龍牙と呼ばれた一人の少年が手にしているそれも自分達が知っている者が持っていると同じものだった、そして二人はボトルをベルトへとセットしてレバーを回して叫んだ。

 

「「変身!!」」

 

FULLMETAL(鋼の) MOONSAULT(ムーンサルト) !! RABBIT(ラビット) TANK(タンク) !! YEAH!!〉

 

 

WAKE UP BURNING ! GET BLACK DRAGON !! YEAH!!〉

 

変身した二人は構えを取り、そして振り返ってサムズアップして此処は任せろと言った。そして駆けだしてマグマヴィランとの交戦に入るのだが……そんな事は彼らの頭には入らなかった。何故ならば―――

 

「ビルド!?何でこの世界にってクローズじゃないのっ!!?」

「この姿にドラグブラッカー、まさかリュウガいや違う!!」

「そんなこの姿って!?」

「あれは正しくアナザーリュウガ……」




FULLMETAL(鋼の) MOONSAULT(ムーンサルト) !! RABBIT(ラビット) TANK(タンク) !! YEAH!!〉


これをやる為に何文字必要か分かる人、正解は67文字です。めんどくせえ……。

WAKE UP BURNING ! GET BLACK DRAGON !! YEAH!!〉


尚、龍牙は38文字。あら短い(当社比)。皆、一回特殊タグ編集の為の説明ページ行って見ようぜ、変化付けられてる文章見ると見方変わるよ、主に作者の苦労を察する(遠い目)。

こっからジオウとかゲイツもやらんきゃいけねえんだよ、あ"あ"あ"ッッッ!!!素直に面倒臭いけどやりたいって思える私って何なの!?


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EP EXTRA Unknown:チカイ、チガイ、セカイ!!

「全く別の世界、時代からやって来たねぇ……パッと言われて信じられないんだがさっき見せて貰ったこのデバイス……確かに今の俺でも作れないような代物、真実とみるしかないだろうな」

「パラレルワールド……って奴ですね」

 

マグマヴィラン、ヴィランネーム:マグマ・ドーパントを確保した戦兎と龍牙はそれを警察へと引き渡すと自分達が助けて4人組から是非とも話をしたいと言われたので場所を移して話を行う事にしたのだが、そこで語られたのは驚きの言葉の連続だった。異世界の存在、そして異なる時代の話にそこにも戦兎が存在していたという事。だがそれを簡単に信じる二人ではなかったのだがウォズと名乗る男から異世界の戦いの一部を見せ付けられた、そこでは戦兎がビルドへと変身して敵と戦っている光景を見せ付けられ、ソウゴからこれを解析して見てと渡された手に収まる程の時計のような物……それらを総合して話は信じられると判断するに至った。

 

「やっぱりそっちの戦兎は俺達があった戦兎と違いは殆ど無いみたい、俺が初めて会った時の戦兎も同じような事を言ってたよ」

「ビルドになってると言い、俺は世界が変わっても俺って訳か……ああいやそっちだと仮面ライダーって言うのか。まあ大差ないだろ、まあビルドは俺が、俺自身の力で一から作ったから俺の方が凄いと思うけどな!!」

「こっちの戦兎が聞いたらなんていうかなぁ……」

 

と少し気まずそう笑っているソウゴ、彼は向こう側の戦兎とは短い時間だったがそれなりに親しかったゆえにここの戦兎がほぼ完全に同一人物だと理解出来る故にこの言葉をそのまま届けたらどんな反応をするのか思い当たる。まあ伝えたりはしないのだが……。そんな中で優雅に紅茶を嗜んでいるウォズがゲイツを嗜めるように言葉を掛ける。

 

「ゲイツ君、少し落ち着いたらどうだい。流石にそこまで敵意にも似た物を彼に向けるのは失礼という物に当たるよ」

「おい龍牙に文句があるなら相手してやるぞ」

「ちょっと戦兎兄さん……」

「いや、済まない。だが……少し思う所があってな」

 

頭を下げつつ紅茶を口へと運ぶが、熱さで声を上げるゲイツ。彼は此処に来るまで龍牙に何処か怪訝そうな瞳を向け続けていた。龍牙は何か気に喰わない事をしてしまったのか謝罪しているのだが、ゲイツからから帰ってくるのは何処か煮え切らないものばかり、こうしてようやく謝罪をされたが此処で龍牙はもしかして向こう側の自分が何かをしてしまったのかと思い辺り頭を下げる。

 

「すいませんもしかしてそちらの俺がそちらにご迷惑を……」

「あっその違うの龍牙君、別に貴方が私達に何かをしたって事じゃなくてその貴方の変身した姿が、そのさっき話したアナザーライダーの一人に余りにそっくりなだけで」

 

アナザーライダー。ソウゴ達の世界で敵対していた此方で言う所のヴィラン。それらは本来ある歴史を捻じ曲げ、正規のライダーの力を奪い捻じ曲げた末に生まれる存在。アナザーライダーは元の仮面ライダーに成り替わる形で歴史改変を行い、名実ともにその歴史における本物の仮面ライダーとなる。ビルドもそれよってアナザービルドとして改変された事もあったとの事。そして龍牙の姿は所謂アナザーリュウガに瓜二つなのである、名前も同じなのでソウゴ達からすればややこしく困惑するばかりだった。

 

「そのアナザーリュウガのに本当に龍牙そっくりなんだよ!!いや本当にびっくりしたよ」

「ああよかった、俺の姿が怖くて驚かれたわけじゃなかったんだ……」

「そ、そこなの……?」

「だけど敵と一緒な姿ってだけでそんなに敵意向ける事ないだろ」

 

戦兎にそう言われるとバツの悪そうな顔をするゲイツに悪戯心が働いたが流石に言わない方がいいかなと微妙な顔をするソウゴに対して代わりに私が説明しようじゃないかとウォズが申し出る。

 

「彼、ゲイツ君はアナザーリュウガと激しい戦いを繰り広げていた。だがアナザーリュウガの反射能力や格闘能力に酷く苦戦した。加えてアナザーライダーは先程言った通り、核であるアナザーウォッチを破壊しなければならない」

「正規のライダーからその力とかを奪ったのがアナザーウォッチって奴ですよね」

「その通り」

 

だがアナザーリュウガはアナザーリュウガを撃破するには必然的にリュウガの力が宿ったウォッチ、ライドウォッチ必要となるのだが、とある理由からリュウガライドウォッチは絶対に入手できない為、アナザーリュウガを撃破する手段は実質存在しない。故にゲイツは自分の命と引き換えとリュウガを撃破しようとしたのだが……それが失敗しゲイツは一度死んでしまっている。

 

「しかしそれは我が魔王の力によって時間が逆転し、無かった事になりアナザーリュウガはジオウの力によって撃破されたという訳さ。これでゲイツ君の事情も理解して貰えないかな」

「いえ良く分かりました、それなら俺に対してそれを向けるのも理解出来ますし俺も許容できます」

「すまない、俺も分かってはいるのだが……」

 

ウォズを忌々し気に見つめるがその前に龍牙からの言葉を受けた釈明しなければと、頭を下げる。それを見てウォズは微笑みながら再び紅茶を口へと運ぶ。ツクヨミはウォズの行動に少しハラハラしながらも溜息を吐きながら龍牙に改めて謝罪する。

 

「んで話を戻すがお前達はこっちにそのヴィランを追いかけてきたって訳か」

「はい。本当は私達が決着をつけるべきなんですが……こちら側の世界については全く分かりません、ですのでお力を貸していただけないでしょうか」

「まあそんな話を聞いてNOなんでヒーローとしては言えないよな」

「ですね」

 

じゃあっ!!と顔を上げて喜ぶソウゴに戦兎と龍牙は頷いた、凶悪なヴィランの存在を伝えてくれたというだけでも十二分に役に立つ情報。ならば次はそのヴィランを確保する為に行動を起こせばいい、そしてその為に彼らと協力する。加えて彼らだけでは他のヒーローから余計な厄介を受けたりヴィジランテ扱いされて面倒な事になりかねない。ここは手を組むのが合理的という物だろう。

 

「宜しくね戦兎に龍牙!!」

「此方こそ、宜しくねソウゴ」

 

 

―――さて、そろそろいただきに行こうか……黒龍の力を、あのライダーの力ならきっとジオウ達にも勝てる……。



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EP EXTRA Unknown:タイムスペース、クラッシュ!!

「んでまあそっちの事情は完璧に把握した、そっちからこっちに質問とかない訳。お前さん達からしたらこの世界って常識外れも良い所だろ、漫画アニメ世界に飛び込んできたようなもんに近いだろ」

「まあな……いきなりピチピチなコスチュームのおっさんが来て動揺した」

「もう顎が外れるかと……」

 

と素直な感想を吐露するゲイツとツクヨミ。超人社会は彼からしたら別世界である上に未来である世界、そんな世界に突然やって来てその時代の環境に適応しろというハッキリ言って無理な話だ。そのヴィランを確保するか倒すまでは彼の面倒も見なければならない、その為には此方から情報を提供して認識と理解を持って貰う事が手っ取り早い。幸いな事に今、この場所は戦兎が所有しているビルなので此処を活動の拠点にして貰えばいいだろう。

 

「後1階にはカフェあるけどそっちは完全な一般人だからな」

「こっちでもカフェあるんだ……」

「名前も一緒だぞ、後珈琲は旨いからな。そっちのエボルトとかいうド畜生と一緒なんかにするなよ」

 

と若干言葉に迫力を含めて強く言う戦兎に一同は押さえながら頷いた。そちら側の自分の話を聞くと同時にエボルトという存在についても聞いた、それに戦兎は凄まじい怒りを覚えている。可能ならば自分も一発加えてやりたい所だがそれそちら側の自分がやったという事なので怒りは飲み込んでおくとしよう。

 

「知りたい事はあるか」

「それについてはある程度は私の方で情報を集めたが流石に出来なかった部分もある、一つ一つ質問を行って我々が知りたい部分を明らかにしておく他無いだろうな」

「ウォズさんって言ったっけ。アンタ中々やり手みたいだな」

「フッそれほどでもないさ。私は何処まで自分が出来るかを見極め把握しているだけに過ぎない」

 

何やら得意げになりながら褒められた事に満更でもなさそうにしているウォズに舌打ちするゲイツ、如何やら二人はそれほど仲が良いという訳ではなさそうだ。それ所か嫌悪しあっている可能性まであると察して上手く接しようと思う戦兎と龍牙であった。

 

「へぇっ~それじゃあ龍牙ってヒーローを目指す養成学校のトップクラスの生徒さんなんだ!!カッコいいなぁ~!!」

「雄英高校って言うんだけどさ、まあそこで日夜頑張ってるよ」

「すっげえ!!ねえねえどんな力を持った人たちがいるの!?」

「透明化出来たり手から爆発起こしたり触れた物を無重力にしたり影っぽいモンスターを操ったり氷と炎を出したり本当に千差万別さ」

「すっげええ!!!ライダーの力の一部がマジで使えるみたいじゃん!!」

 

と興奮気味のソウゴ、確かにそちら側からすれば驚きの連続かもしれない。特別な戦士の力の一部がほぼすべての人たちが使えると思えばそうもなるだろうがソウゴの場合は純粋にそれだけの力を持つ人間がいる事と雄英のような学校の存在などに興奮している。

 

「じゃあ龍牙って何が出来んの!?ほとんどアナザーリュウガと同じと思っていいの?」

「そのアナザーリュウガとやらがどんな奴かは俺は分からないけど……まあ基本的に黒炎を出したり剣とか盾を出したり、ドラグブラッカーと一緒に攻撃したり受けた攻撃を反射したりとか……」

「話だけ聞くと益々あいつとおなじだな……お前、相当強い部類だろ」

「そうでもないさ、師匠にはいつも怒られてばっかり」

 

肩を竦める龍牙にゲイツは目を顰めつつ苦々しい顔を作る、自分を殺したと言っても過言ではないあのアナザーライダーとほぼ同じ能力を持っていて10年以上ヒーローを目指し鍛錬をし続けていて弱いという事はあり得ない。それはマグマ・ドーパントとの戦いを眼前で見ているからこそ分かる、がそんな男が師匠には怒られ続けていると語る。それは謙遜なのか事実なのか、事実だとしたら龍牙以上の実力が居るという事になる。凄まじい世界だと言わざるを得ない。

 

逆なのかもしれない、この世界にはライダーのように少数ではなく多くの人が力を持つ。人が多ければそれだけ研究や追及が捗っていきそれらの応用技術も次々と生み出されていく。この世界ではそれがずっと続いている、それだけ長い時間があればそれに関する者のレベルは上昇していくのは自明の理。それは悪にも言える、だが善と悪、ヒーローとヴィランが互いを競わせるように技術を向上させていった結果が今というのもあるのかもしれない。皮肉な話だとも思うがそれが真理。善は悪があるからこそ善であり、悪は善があるからこそ悪である。

 

「しかしそのヴィランがどんな奴なのかは知らんけど、潜伏されると厄介だな……どうやって探し出すか」

「俺達は一応顔は知ってるけど、変えられたりしたら探し出すのも一苦労だもんね」

「だが奴は必ず行動を起こすに決まっている、そこを虱潰しに行くしかないだろ」

「しかしなゲイツ君、この世界だとそれはそれで難しくないかね」

「ソウゴ達はそのヴィランを追いつめてたんだよね」

 

ソウゴ達が追っていたのは歴史の改変を目論み、様々な時代へと干渉し続けたタイムジャッカーそしてクォーツァー、その二つが時代という大きな時間の流れに対して攻撃をし続けた事による影響。時間は一直線にしか流れず支流などは一切ない大きな川の流れのような物、それを強引に塞き止めて別の流れを生み出そうとし続け果てには時代を丸々一つを破壊しようとした事さえもあった。それらを何とか阻止したソウゴ達だがそれらの累積が溜まった結果として生まれたのが今回のヴィラン。

 

言うなれば時間の流れの中で生まれたバグ、特異点のような物。それにあるのは強い力に惹かれ、それを写し取るような悪性の鏡。写し取った力を蓄積させ増幅し、複数の姿と形をとって襲い来る影のような存在がソウゴたちが追う存在。本来は放置すれば自然と消える筈だったが、それらが写し取った最初の力の存在が異世界から異世界へと転移し旅をし続けるライダーの力だった故に消える事が無かった。

 

「それでソウゴ達がそいつを倒そうとしてたって訳なのか」

「うん。それで何とか追いつめたんだけど不意を突かれて逃がしちゃって……それでこの世界に至るって事」

「そのライダーってのもとんでもない存在だな」

「アハハハッ……世界の破壊者って名乗る位の存在だからね」

「何それ、本当にそれライダーなの。ヴィランじゃなくて?」

 

龍牙の中ではライダーとは人々の平和の為に戦い続ける正義のヒーロー的なイメージが構築されていた、自分が目指しているヒーローと似通っているような存在だと勝手に思っていたのだが……そこだけ聞いたら完全にヴィランである。

 

「まあ完全に良い人ではないね、俺もメシを横取りされたし」

「ソウゴ、それまだ根に持ってるのね……」

「当たり前だよ!!凄いお腹すいててやっと美味しいご飯にありつけると思ったら俺の飯を完食してたんだよ!!?」

「分かる、分かるよソウゴその気持ち。自分が空腹のときに目の前で自分だけ旨そうに食事を取られた時の気持ちは……!!」

「だよね、悔しいよね、辛いよね、お腹すくよね!!」

「ああ、本当だよな!!」

 

何故かここですさまじく通じ合ったソウゴと龍牙が今までにない位に固い握手をして強い友情を結んだ。それを見てゲイツはまともだと思ってた相手がまともじゃないのかと落胆しツクヨミは苦笑い、ウォズは愉快そうに微笑んでいる。そんな中―――

 

「ヴィ、ヴィランだ、ヴィランが暴れてるぞぉ!!!」

 

と外からそんな声が聞こえてきた、戦兎は素早く指を鳴らすと近くにあったモニターが起動する。モニターには戦兎が打ち上げた衛星からの映像が直接送られてくる。素早く自分達の座標を入力して地点を探してみる、するとそこには何やら物々しいヴィランが暴れている。

 

それは赤い鎧のような物に身を包みながらも胸部中心部分には、元の線路を思わせるラインがあるが上へ登るにつれて裂けているのが特徴的。そして最も目を引くのが山羊の角のように湾曲している長い形状をした瞳、恐怖を煽るというよりも何か嫌悪感を与えるような印象をしたヴィランの姿がそこにあった。それを見たソウゴ達は声を上げながら立ち上がった。

 

「あいつだ!!あいつだ、間違いない!!」

「矢張り残っていた最後のアナザーライダーの力は電王だったか!!奴が時空を超えたのも納得がいく」

「早く倒さないと不味い事になるわ!!」

「では行こうか、我々の世界の事は我々でケリをつけるのが筋だ」

「まあ必然的に俺達も行かないとな、お前達で行かせると後処理が面倒そうだし協力するって決めてるし」

「んじゃ行きましょう戦兎兄さん」




一番怖いアナザーライダーで意見が分かれるのがリュウガとデンオウ、カブトとヒビキって聞きます。私的にはリュウガが一番かな……他は所謂怪物的な怖さというかなんというか、リュウガからはホラー的な物を強く感じます。

私、ホラー駄目なんです。


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EP EXTRA Unknown:ヴィジッティング、ライダーズ

電王……!!

 

 

「どけぇっ邪魔ぁ!!」

 

酷く長い瞳で辺りを睨みつけるようにしながらその手に持った短刀を握りしめながらそれを力任せに振り回している、がその延長線上には赤い稲妻のようなエネルギーのような物が飛んでおり、それらがそこいらじゅうの物を片っ端から切り裂いていた。ビルを切り裂き、地面を引き裂く、自動車を割るという圧倒的な切れ味を誇りながらエネルギーが伸びる限り何処までも望む物を斬れると言ったことを強調しながらソウゴたちが追っていたヴィラン、アナザー電王。

 

「そこまでだヴィラン!!」

「大人しくするんだ!!」

 

そこへ近くをパトロールしていたヒーロー達が確保の為に駆けてくる、だがそれらの存在を無視するように歩みを止める事は無い。それにプロとしてのプライドを刺激されたのか二人のプロヒーローはアナザー電王へと向かって攻撃を開始してしまう。真っ向勝負を得意とするヒーロー―――だがその拳と蹴りは確かにアナザー電王の背中へと炸裂するのだが、それは歩みを止めるだけで全く身動ぎ一つしなかった。

 

「ば、馬鹿!?」

「手応えはあるのになんで……!?」

「ぁ"ぁ"ぁ"……?」

 

その攻撃に苛立ちを更に募らせたのか荒々しさに拍車をかけたのような唸り声を上げるアナザー電王、そしてチンピラのように鎌首をもたげながらゆっくりと振り返った。それが纏う威圧感に二人は飲まれ掛けてしまうが必死に耐えて真正面からそれを見据えるのだが、それが怒りを増長させる。

 

「邪魔を、するなぁああああああ!!!」

 

 

FULL CHARGE……!!

 

 

不気味な雄叫びにも似た声が響き渡ると握りしめていた短刀が禍々しい光を放っていた、すると刀身が一気に伸びて行き大太刀の程の物へと変化するとそれが一気に飛び出していく。

 

「ゼリャアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

混濁した声と共に振るわれてしまう邪悪な一太刀は二人のヒーローを容易く天高く打ち上げてしまう、が直後にそのヒーロー達の身体が変化していく。まるで一瞬で何億年という月日が経過したかのように身体が劣化するように崩壊していき、まるで砂のようになり風にさらわれてそのまま消失してしまったのである。それを見たアナザー電王は愉快そうに声を上げると次なる獲物を探すかのように練り歩いていく―――そしてその僅かな後に、自らを痛めつけてくれたソウゴ達を遭遇する。

 

「見つけたっ!!」

「アナザー電王でいいのかしら……」

「奴に残っているのは既にその力のみ、ならばそういうのが正しいだろう」

「呼び名などどうでもいい、倒す相手であることに変わりはない」

 

その場へと到達したソウゴ達を見て歪み切った笑い声を上げながら歓喜する、矢張りあれらは自分を追いかけてきた。何れ消えるであろう運命(さだめ)であろう自分を追って時空を超えて此処へと至って来た。それがどれほどにまで嬉しいのかあれらは理解していないだろう、何故自分が態々世界を超えたのかもそれも分からない。そして目の前に新たに現れた龍牙と戦兎を見つめて更に笑いを高めながらそれは言った。

 

「役者が揃ったか、待っていたジオウ」

「今度こそ決着をつける、確実に!!」

「ここまで追って貰えると嬉しいねぇ……なら場所を変えるとしよう、此処は邪魔が多い―――ああそうだ、お前も付き合え」

 

指が鳴らされる、するとアナザー電王の背後から銀色の幕のようなものが出現した。それは徐々に速度を増していきながらアナザー電王の背後から一気に迫ってくる、そしてそれは生みだした者ごとソウゴと龍牙を飲み込むとその場からその場から姿を完全に消え去ってしまう。

 

「龍牙!?おい何処に行った?!」

「今のはディエンドやディケイドの力……まさかまだ残っていたというのか!?」

 

 

「こ、此処は……!?」

 

銀のカーテンのような物が自分達を包んだ瞬間、思わず目を閉じてしまった龍牙が漸く瞳を開くのだがそこにあった光景は全く別の物だった。何処かの山中の開けた場所、街中とは全く別の場所に転移していた。

 

「何だ、あいつ転移系の個性でもあるのか!?」

「今のって確か、俺やツクヨミを未来に送ったり別の場所に送ったりするディケイドの力……!!」

「ディケイドって確か世界の破壊者っていうライダーの……じゃあその力が残っていたという事か……」

「いや―――今ので最後のカーテンだ」

 

その言葉の力、未だ展開されて続けていた銀の垂れ幕に一気に罅が入っていく。その亀裂は全体へと広がっていきやがてそれは亀裂によって自重に耐えきれなくなったかのように崩壊し砕け散ってしまった。同時にアナザー電王は何処か苦しそうにすると身体から何かの力が抜けたように光が漏れた。それはまるで引き寄せられるかのようにソウゴへと向かって行き、彼のウォッチの一つへと吸い込まれていく。

 

「今のってもしかしてディケイドの力……確かこれには力の半分しかって話だし……あいつから抜けた力がウォッチに吸い寄せられたって事なの……?」

「だがこれは悪い展開じゃないぞソウゴ、さっきのカーテンで一気に逃げられる心配がない」

 

そう語るとアナザー電王はケタケタと気味の悪い笑いを上げながらまるで挑発するかのような手の動きをさせた後に短刀を構えた。掛かってこいと言いたげな姿に二人はやるしかないな、互いにドライバーを腰へと巻き付けた。もうここまで来たら戦うしかない、その選択肢しか存在していない。

 

「ソウゴ、俺は多分サポート位しか出来ないだろうからメインは頼んでもいいか」

「勿論。アナザー電王の倒し方は完璧だからね、俺に任せてよ!!」

「頼もしい限りだ」

 

 

WAKE UP !! BLACK DRAGON !!

 

 

ソウゴは己のドライバー、ジクウドライバーを装着すると一つの時計を取り出した。唯の時計ではない、彼にとってそれがライダーの証明であり彼が時を統べる時の王者と呼ばれる所以でもある。

 

ZI-O!!

 

それをドライバーへとセットする。その瞬間、彼の周囲に変化が起きる。背後に巨大な時計のようなもの出現し時を刻んでいく、過去から今へ、今から未来へと刻んでいく時計。大きな時間の流れを示しながら、隣にて黒龍の戦士が黒炎のサークルに包まれるのをまるで祝福するかのように音を立てている。そして二人の戦士は互いに叫んだ。

 

「「変身!!!」」

 

WAKE UP BURNING ! GET BLACK DRAGON !! YEAH!!〉

 

 

RIDER TIME!!

 

〈KAMEN RIDER!!〉

ZI-O!!

2018

 

回る時間の流れのようなエネルギーに包まれるソウゴ、その流れの果てに現れるのは時空を超え、過去と未来をしろしめす時の王者。そして我こそはと名乗りを上げるように刻まれた長い歴史を受け継いだ証たるそれ、ライダーという名であり称号であり証である。

 

「行くよ龍牙、俺達なら行ける気がする!!!」

「ああ、行こうぜソウゴ!!」



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EP EXTRA Unknown:ジオウ×リュウガ、オン・ザ・バトル

〈ジカンギレード!ケン!!〉

 

時の王者、ジオウが使う得物はジクウドライバーから出現した銃剣(ジカンギレード)ケンとデカデカと自己主張するような文字が刻まれているそれをジオウは握りしめながらアナザー電王へと向かって行く。時間の流れのバグが最後に残していた力は時の運行を守る仮面ライダー電王、そのアナザーライダーは短刀を手にしながらそれを迎え撃つ。

 

「此処でケリをつける、今度こそ確実に!!」

「出来るといいなぁ……!!」

「やるんだよ、俺がそれを手伝う!!」

 

ジオウは咄嗟に身体を屈める、とその背後から黒炎が放射されアナザーライダーを焼いていく。前に飛び出したジオウで隠れていた龍牙が援護の黒炎を飛ばした、それに怯んでしまった隙を突いて足を掬うように剣を振るって相手を転ばせる。ジオウの視野角は270を誇る、背後で動きながら構えを取っていた龍牙の動きは途中まで見えていたのでそこから次を読み取る事は多くの戦いを積んできたソウゴには容易い事。

 

「だぁぁぁっっ!!」

 

転ばせ体勢が崩れたアナザー電王へと刃を突き立てる、だがその刃は身体を庇う様に差し出された腕によって防がれてしまう。刃が腕を貫通するが胴体へと到達する前に停止する、激痛に悶える事もなくジオウを殴りつけて強引に引かせながら刃も同時に抜かせる。立ち上がりながらも構えを取るアナザー電王に対して今度は龍牙がジオウのバックアップの為に斬りかかる。

 

「いい加減観念したらどうだ、もうお前も限界が近いんじゃないのか!?」

「―――さあ、如何かな」

 

ドラグセイバーを受け止めながら不敵に笑うが龍牙にはそれが虚勢にしか見えない、先程の力はこの世界から来る前に所持していた物だがそれがここに来て崩壊した。それはソウゴ達との戦いによるダメージによる影響が大きく徐々に身体が崩れ始め、力の保持が難しくなっている事に他ならない。

 

「だがライダーですらないお前に負ける程に俺は弱くはない!」

「ぐっ!!」

 

急激に力が増すかのようにドラグセイバーを押し込んでくる、それを受け流すが次々と我武者羅に剣を振るって来るがその一太刀一太刀が酷く重く感じられる。一太刀一太刀が大質量の大剣で斬りかかってくるかのような凄まじさを感じる、だが龍牙とて10年間剣を握り続けてきた男。そう簡単に手玉に取られる訳には行かない。全身に力を込めながら振り下ろされてくるそれらを上手く捌きながら龍頭に力を集中させた。

 

「腕部集中……ドラゴン・ストライクゥ!!」

「ぐぁ!!?」

「今だっ!!」

 

軽く打ち上げられたアナザー電王、そこへ駈け込んでくるジオウ。龍牙は軽く身体を下げ、ジオウはそれを踏み台にしながら勢いを付けた跳び蹴りを叩きこんだ。それによって吹き飛ばされるアナザー電王は大きなダメージを受けながらも未だに健在だった、矢張りアナザーライダーを倒すにはオリジナルのライダーの力で対抗するしかないらしい。如何するのかとジオウを見ると、彼は大丈夫といいながら腕に着けていたウォッチの一つを取り、起動させた。

 

〈DEN-O!!〉

 

それをジオウのライドウォッチが入れられているのとは反対側にへとセットする、そしてジクウドライバーを回転させそれを起動させる。それによって起こるのは嘗て時を駆ける電車に乗車し特異点と呼ばれる性質を持った少年と共に時の運行を守った怪人から譲り受けた力。それが今発動する。

 

ARMOR TIME!!

 

鳴り響くのは列車が到着を知らせる音色、ジオウの背後からレールのようなエネルギーが足元へと敷かれていく。そしてそのレールを通って赤い列車が駆け抜けてくる、その列車こそ時の電車"デンライナー"。デンライナーはジオウを通り過ぎていくと次第のデンライナーの色が抜けていくかのように透明な物へとなっていく。そしてその中でジオウはそのエネルギーを受けて列車の鎧を身に着ける。

 

〈SWORD FORM DEN-O!!〉

〈2007〉

 

仮面ライダージオウ・電王アーマー。電王の力を受け継いだ姿、この姿ならば確実にアナザー電王を屠る事が出来るだろう。その手には電王の刃であるデンガッシャーとジオウの剣であるジカンギレードが握りしめられている、それを見た龍牙は笑いながら隣に立つ。

 

「さあ、龍牙行くよ」

「決めてやろう」

「うん、よぉし行こう行こう行こう~!!」

 

此処で本来の電王ならばちげぇだろうが!!と叫んでいた事だろうがそれは与り知らぬ事、駆け出していくジオウと龍牙は立ち上がったアナザー電王へと次々と連携の取れた剣戟をぶつけていく。

 

「だぁぁりゃああ!!」

「だぁっ!!」

 

鋭く振るわれた剣を再度翻しながら短刀を受け止める、そこを的確に突くようにデンガッシャーの刃が次々と決められて行く。豊富な経験がある二人、そして互いが互いの動きを予測しあいながらジオウが前に出れば龍牙はその隣に立ちながらも相手の動きを阻害する。ジオウが引けば代わりに龍牙が前進し足止めを行い、ジオウは次の攻撃の準備に入る。抜群の呼吸が確実にアナザー電王を追いつめ始めていた。

 

「グアアアアッッ……負けるか、負けるものかぁぁっっ!!」

「「だぁあああああああああ!!!!」」

 

叫ぶそれへと同時に決められた回し蹴り、大きく吹き飛ばされるアナザー電王は既に限界を迎え始めているのか装甲の各部が崩壊し始めていた。既に過去にジオウだけではなくゲイツやウォズといったライダーに追いつめられ、命からがらこの世界に逃れた来た身。それが特攻を持つ電王の力によって大きく揺るがされている。

 

「決めるよ龍牙!!」

「分かった!!」

 

龍牙は自らの剣を置きデンガッシャーのみを構えたジオウに合わせるようにドラグセイバーを構える、そしてそれに黒炎を纏わせ刀身を伸ばすように炎の刃を形成する。そしてジオウはドライバーにあるウォッチのボタンを押し必殺の時へと移行する。

 

fINISH TIME!!

〈DEN-O!!〉

 

全身からエネルギーが激流のごとく溢れ出していく、それらはデンガッシャーへと稲妻のように走っていく。エネルギーの供給を受けたデンガッシャーの刃はそれらを纏ったまま射出される。

 

〈俺の TIME BREAK!!〉

 

「いっけええええええええ!!!」

「だあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

共に振るわれた剣ら、黒炎の刃(バーニングセイバー)は渾身の力で振るわれ飛翔する斬撃としてアナザー電王へと向かって行くがその斬撃を自らの力に還元するかのようにデンガッシャーの刃がそれを纏い直して飛翔する。

 

「グアア、ギュアアアアアアア!!!」

 

大きく斜めにアナザー電王を切り裂いた刃は一度地中へと潜ったが直ぐに飛び出すと今度は真横に飛び切り裂く。そして最後には頭部から真っ二つに引き裂くかのように自らを切り裂いた、斬り口を焼くかのように黒炎が走った身体は小規模の爆発を起こしながら、大爆発を引き起こした。そして爆炎の中からは稲妻のような光が抜けて行き、その光は電王ライドウォッチへと吸い込まれていく。それを確認したソウゴはガッツポーズを取った。

 

「よぉし倒したぁ!!」

「ふぅっ……これで一件落着って奴か……」

 

何とか無事に倒せたことに一息を吐く龍牙、ジオウのお陰で有利に立ち回る事が出来ていたがジオウが居たからこそ取れた勝利だと剣を交えた龍牙は確信した。

 

「本当に有難う龍牙、凄いお世話になっちゃったよ」

「俺は何もしてないよ魔王様」

「最善最高の魔王ね」

 

と笑い合った二人、これにてソウゴ達がこの世界に来た目的は完遂された。これでソウゴ達は元の世界に戻る事が出来る。出来ればもう少し一緒に居たいなという気持ちもあるがそれは我儘だろうと思った直後だった、身体が重くなってきた。流石に疲れたのかと思ったが違う、身体が重くなったのではなく身体全体の動きがどんどん鈍く遅くなっているのである。

 

「何、だこれ……身体が動かない……!?」

「これって重、加速……!?まさか、なんで……!?」

 

―――詰めが甘かったな、ジオウ。

 

龍牙の背後から声がする、あり得ないいやあり得てしまっている。その声の主は先程自分達が倒したアナザー電王の声だった。その姿はもうボロボロになり何時朽ち果てても可笑しくないような姿だがまだ健在していた。

 

「お前、なんで……!?これはアナザードライブの……!!」

「残していたんだよ、これもこれっきりだが充分……リュウガ、貰うぞ。お前の力を―――!!」

 

それが手に持っていたのはアナザーウォッチ、それはアナザーライダーを生み出すライドウォッチ。ソウゴはその狙いに気付けたようだが身体が動かずにそれを止めらない。アナザーウォッチは龍牙の身体へと押し当てられる、するとアナザーウォッチは妖しく輝きながら起動するが、奇妙な音を立てる。

 

「矢張りライダーの力とは違う、だがほぼ同質だ。出来ん事は無い、ムゥン!!」

「ガアアアアアアア!!?」

「龍牙!!!」

 

龍牙は全身から力が抜かれていくかのような感覚を覚える、激痛と共に身体に稲妻が走り個性が強制的に解除されてしまった。そしてアナザーウォッチは妖しく輝きながらも何処か不安定そうに震えているが、それを無理矢理押さえ込むように握り込むとウォッチは姿を変えていた。

 

リュウガサバイブ……!!

 

「さあ続けようかジオウ……戦いをな」



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EP EXTRA Unknown:リュウガ、ファイナリー!!

「はぁはぁっ……何だ、今の……!?」

 

激痛から目を覚ますかのように我に返る、だがそこにあった景色が変貌し自分の、自分から『何か大切なもの』がなくなっていくのを感じてしまった。まるで内臓の一つが抜き取られたような感覚に等しい。それに対する痛みこそないが強い喪失感が胸へと襲ってくる。いない、自分の身体の中にいた筈の存在を感じない。

 

「ドラグブラッカー……が居ない……い、やそれ、だけじゃ、ない……!?」

「龍牙っ!?まさかアナザーウォッチで龍牙の個性を……!」

 

駆け寄ったジオウ、そこから映り込んでいる龍牙の顔色は酷く悪い。青を通り過ごして灰色へとなっている、唯単にライダーがアナザーウォッチによってライダーとしての力を奪われたのとはわけが違う。個性は生まれてからずっと共にあったもの、それが抜き取られた。それによるショックはソウゴには推し量る事も出来ない、唯々呆然と胸の辺りを抑え続けている龍牙を庇いながらアナザーウォッチを見続けている敵に向かい直る。

 

「これもそいつの個性が仮面ライダーに極めて近い性質を持っていたからだな、感謝しなければ……俺の力で安定させればこれはアナザーウォッチとして機能する、そしてそいつは自力でサバイブにまで至っていた―――素晴らしい」

 

サバイブ、「生き残る」という意味の名の通り、そのライダーの力を、他のライダー達を圧倒するほどまでに強化する力を持つ。それは龍騎ともう一人のライダーのナイトが所有していた力だが、その力自体は他のライダーから齎された物であり自力で決して至れない領域。だが龍牙はそこへと自らの力で踏み入れた、様々な助けを借りながらも努力し続けた結果として黒龍と一つになる事で更に一つ上の次元へと手を掛けた。その力がそのウォッチに宿っている。

 

「さあ始めようか―――!」

 

リュウガサバイブ……!!

 

ウォッチを起動させながらそれを自らに埋め込むかのように押し付けていく、爆炎のような黒い炎が巻き起こりそれらが鎧となってアナザーリュウガよりも遥かに禍々しく恐ろしい怪物であるアナザーリュウガサバイブとなって顕現してしまった。それに対してソウゴは龍牙の背中をさすった後、彼を庇う様に前へと出ながらあるウォッチを取り出す。

 

ZI-OⅡ!!

 

それは表と裏に分かれるウォッチ、過去と未来、それらを統べるウォッチ。それは魔王たるジオウの力の一端を開放する大いなる時を刻む物。

 

「龍牙の力を好きになんてさせない。それは龍牙が今まで努力して手に入れた力だ、お前が好き勝手に使っていいものじゃない。だから―――お前を倒す、変身!!」

 

表と裏が備えられた、それによって巻き起こる二つの時を刻む時計の出現。それらは魔王の呼び声と共に金色に輝きながら荘厳な鐘の音色を奏でながらジオウを新たな次元へと押し上げていく。

 

〈RIDER TIME!!〉

 

KAMEN RIDER!!
RIDER!!

ZI-O!!
ZI-O!!

ZI-OⅡ!!

NEXT

 

姿を合したジオウは現在だけではなく未来と過去を刻む為のようの針を複数持っている、ジオウよりも遥か先へと進む力を持つそれは魔王として光と闇を全てを受け入れた姿。彼が言う最高最善の魔王として、己の善も悪も全てを受け止めた末に辿り着いた姿、その名も仮面ライダージオウⅡ。嘗てアナザーリュウガを撃破した力こそがこのジオウなのである。

 

「フッ!!」

「ザァァァ!!!」

 

互いに走り出したジオウⅡとリュウガサバイブ、龍牙のように右腕に龍頭と左手には剣が握られている。鋭くも重々しい剣の一撃は嘗てのアナザーリュウガよりも遥かに洗練されているように思え、防御した腕が痺れるような感触がするがジオウはそれを受け止めきりながらカウンターでパンチを入れる。が、直後に右腕が異常なまでに肥大化した。

 

「ドラゴン・スマッシャー!!」

「はぁぁぁっっ!!」

 

肥大化したそれを向けられたジオウ、一歩後ろに引きながらその手にジオウⅡの剣を握る。その名もサイキョウギレード、時計の針を模した剣にはジオウの顔面が備え付けられている。それを握りしめながら迷う事無くトリガーを引き必殺技を発動させる。

 

RIDER!! RIDER SLASH(斬り)!!

 

必殺の斬撃と必殺の一撃が炸裂しあう、アナザーリュウガすら反射しきれない一撃を放つジオウだがその一撃とリュウガサバイブが放った一撃は完全に互角。対消滅するように互いを打ち消し合って消滅してしまった、それにソウゴは内心で汗をかいた。それほどまでに龍牙の力が凄まじい事の証明であり同時にこのアナザーライダーの厄介さを物語っている。

 

「まだまだぁ!!」

「フンッ!!」

 

直後、目の前に歪んだ鏡が出現しそこから自らの攻撃が反射されてくる。だがジオウはそれを冷静に回避しながら前に出続ける。素早い連撃を組み立てながら相手に反射の隙を作らせないようにしていく、リュウガサバイブもその狙いに気付いているのか反射を極力使わないようにしつつも此方に大きな隙を作らせようとするような力強い連撃を加えてくる。

 

「フンッ!!」

「まずい!!?」

 

突如、リュウガサバイブは身体の向きを変えて龍牙へと黒炎を放った。それに気づいたジオウはその間に入ってサイキョウギレードでその黒炎を打ち払う。龍牙は茫然自失になってしまっており動けるような状態ではない、そんな彼を狙ったリュウガサバイブに対して怒りがわいてくる。

 

「お前……!!」

「情けないな、それでヒーローを目指すなど笑わせるな。それでもお前はライダーなのか、仮にもライダーと同じ力を宿す男とは思えんな。これで貴様には何もない、唯の人間だ」

 

煽るような言葉を投げかけるリュウガサバイブ、確かに龍牙にとってその力は象徴そのもの。自らの人生そのものの象徴であり様々な物の起点になって来た。岐路に必ず関わってきたそれがなくなるという事は龍牙の人生の歴史を奪われたのと同意義、夢を奪われ、居場所すら無くすに等しい状態に陥った。何もない―――ただの人間……だがその言葉を受けて同時に龍牙の瞳に光が宿る。拳を握りしめ立ち上がるとそのまま駆け出し、リュウガサバイブへと殴り掛かった。

 

「何のつもりだ」

 

当然、普通の人間よりも鍛えられている拳だがリュウガサバイブにはそよ風に等しい。文字通り意味を成さない、それでも龍牙は続けて拳を振るい続けた。

 

「そうだ…そうだ、俺は情けない男だ。お前に今俺の全てを奪われた、でも、でも俺はそれでも前に進めるんだ!!絶望を味わって無に落ちた俺でも前に進めた!!!それは色んな人が俺の背中を押してくれたからだ!!」

 

リュウガ、それこそ龍牙にとって全て―――いや全てだった。良くも悪くもそれしかなかった自分だが今は違う、それがくれた出会いが自分を支えている、大切な人達が自分と繋がってくれた。その繋がりは力を、温かさをくれた。それさえあれば龍牙は前に進める、例え個性がなくとも前に進む事は出来るんだと龍牙は拳を振るう。

 

「お前の言う通り、俺に、ソウゴ達と同じライダーと同じような力があったのなら―――本当に、俺もそのライダーを名乗っていいのなら戦えるはずだ、世界を蝕む悪意と―――お前のような悪と戦えるはずだ!!」

「龍牙……熱っ!?」

 

思わずジオウは熱さを感じた、その根源は一つのライドウォッチ。それは龍騎のウォッチ、それが赤く激しい光を放っていた。まるで龍牙に共鳴しているかのように―――同時に龍牙の身体を走るように黒炎が少しずつ溢れている。

 

「例え、お前に個性を奪われたとしても―――俺は戦う!!愛と平和を齎す為に、平穏を望む人たちの為に……俺は―――ギャングオルカの弟子、ドラゴンライダー・リュウガだああぁっ!!!」

「馬鹿な、お前から力は奪った筈……!!」

「だああああああぁぁぁ!!!!」

 

その時、龍牙の全身を黒炎が走った。それは腕へと集中し龍頭を形成しリュウガサバイブを殴り飛ばした、それに動揺しまともに受けてしまう。ダメージこそないがあり得ない状況に驚きを隠せない、確かにアナザーウォッチで個性を完璧に奪った筈なのにどうして個性が使えているのか……だがそれは如何でもいい、龍牙にとってはまだ自分が戦えるという証明になりならばそれでいいと思った時だった、自分に赤いウォッチが飛んできた。

 

「行ける気がする、龍牙それを使ってみて!!」

「これって―――」

 

龍騎のライドウォッチ、それを手に取るとそこへと自らの黒炎が流れ込んでいく。残り火のようになっていた黒炎を全て吸収していくライドウォッチはそれらを受けて変質していく、そしてそれは赤い龍から黒龍へと変じていた。それは即ち―――リュウガのライドウォッチとなった。

 

「やっぱり―――やっぱり龍牙もライダーなんだよ、それが証明だよ。そこに個性なんて関係ない、誰かの為に戦おうとする心がライダーなんだよ。だから一緒に戦おう龍牙、そしてあいつを倒そう!!」

「ソウゴ……ああ、戦おう。借りるぞこのウォッチ!!」

「存分に使って、俺もこっからは全力で行く!!」

 

RYUGA!!

GRAND ZI-O!!




龍牙が黒炎を出せた訳、それはドラグブラッカーを戻される前までは投与された個性活性因子がその力を保存していた、アナザーウォッチにて個性の力も殆ど奪われてしまったが、活性因子は個性とは別の物なので、奪われずに済んだ。がそれでも大本の個性が完全に抜かれてしまったので上手く出せなかったがそれを龍牙が強い意志で引き出したので出す事が出来た。

ご都合主義と笑れば笑え!!だが、こういう展開私は大好きなのだ!!

そしてさり気に魔王様、もう相手をぼこぼこにする気満々である。


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EP EXTRA Unknown:最高最善のゴール

RYUGA!!

 

本来存在しない筈のリュウガライドウォッチ、龍牙という存在と個性の力で一時的に龍騎ライドウォッチが力を貸してくれているような存在。それを龍牙は知らない、だが感謝はしている。嘗てオール・フォー・ワンが言っていた。黒龍は嘗て赤い龍だったと、ならば自分は本来龍騎という存在であったかもしれない。それもこのライドウォッチが力を貸してくれている理由の一つなのかもしれない。そしてウォッチを起動させるとウォッチは龍牙へと力を与える、手には何かケースのような物と自分にはバックルのような物が装着された。

 

「―――分かる、分かるぞ……ライドウォッチが教えてくれてる。これがリュウガの―――」

 

右腕を水平にするように伸ばしながら構えを取る、そして宣言する。自分が今までしてきたようにしてきたそれを、そしてそれはライダーにとって特別な意味を持つ言葉であるという事もウォッチが教えてくれている。脈々と受け継がれてきた歴史、原初のライダーから繋げられたバトン。悪と戦う自分へと決意する言葉、それが―――

 

「変身!!」

 

腰にあるバックル、Vバックルへと手にあったそれ、デッキを装填する。デッキは輝きを放ちながら複数の鏡の虚像が龍牙へと重なり合って行くとそれを超えて一人の戦士の姿へと龍牙を昇華させる。それがリュウガ、それがある意味龍牙の本当の姿であるかもしれないそれへと姿を変えた。

 

 

ZI-O!!

GRAND ZI-O!!

 

ソウゴはジオウライドウォッチと共にそれを起動させた、ウォッチというには巨大なそれを。それは黄金のように輝く歴史がそこに集約されている偉大な力、それをジクウドライバーへとセットすると荘厳な音を立てながら嘗てのライダー達が共に歩んできた言葉が、音が、叫びが、魂が溢れ出してくる。それらは巨大な黄金に輝く宮殿のような時計台が出現する、そしてそれらを守護するかのように並び立つライダー達。それがジオウ、時空を超え、ライダーの歴史を受け継いできた物だけが纏う力―――最善最高の魔王の力。

 

「変身!!」

 

GRAND TIME!!

 

その掛け声と共にソウゴはジオウの姿へとなる、そして同時に―――背後のライダー達が黄金のレリーフとなりソウゴの身体と一体化していく。一体化したライダーたちはそれぞれが象徴とも言える姿を取りながらジオウと一体化していきながら全身を黄金へと包み込んでいく。魔王へと相応しい姿へと。

 

KUUGA(2000)! AGITO(2001)! RYUKI(2002)! FAIZ(2003)! BLADE(2004)!

HIBIKI!(2005) KABUTO(2006)! DEN-O(2007)! KIVA(2008)! DECADE(2009)!

W(2009)! OOO(2010)! FOURZE(2011)!

WIZARD(2012)! GAIM(2013)! DRIVE(2014)!

GHOST(2015)! EX-AID(2016)! BUILD(2017)!

―――祝え!!―――

 

KAMEN RIDER GRAND ZI-O!!

 

受け継いだライダーらによって作り出された黄金の鎧、その頂点たる王冠には己のレリーフが刻み込まれた。グランドジオウ、魔王には自らの力も含まれそれらを全てを含めて最高最善の魔王。その神々しい美しさと王者に相応しい圧倒的な存在感、その場にいる龍牙ですらそれに飲み込まれそうなほどの膨大なオーラと力を感じる。これが魔王と呼ばれる男の本当の力、今までの物などその一端にしか過ぎなかった。これからが本当のジオウなのだと理解させられる。

 

「行こう、龍牙」

「―――ああ、供をするよ魔王様」

「ソウゴって呼んでよ、ウォズみたいに言わないで」

「分かったよ、んじゃソウゴ―――行くぞ!!」

 

駆けだす黒龍の戦士と最高最善の魔王、それを迎え撃つリュウガサバイブ。右腕を肥大化させ、ドラゴン・スマッシャーを黒炎と共にそれを放つ。腕から龍頭が離脱し黒炎が身体を形どって黒龍がそのまま咆哮しながら駆けてくる。それでも二人は止まるつもりなどはない、二人に負けるかもしれないという考えは欠片もない。

 

龍牙は前へと飛び出しながらバックルへと手を掛ける。バックルへと嵌めたデッキからカードを抜き取りそれを左腕に装備されている龍頭のようなガントレットへと装填する。無意識に分かる、ウォッチが今の姿の力の使い方を全て教えてくれている。

 

<STRIKE VENT>

 

その右腕に黒龍の頭部、ドラグクローが装着される。見た目こそ違うが勝手は龍頭と同じだと察する。龍牙はクローから炎を溢れ出させながら向かってくる黒龍を迎え撃った。

 

「ドラゴンクロー・ストライク!!」

 

渾身の力を込めた一撃が黒龍と激突する、リュウガサバイブのそれとは明らかに力の差は大きい。大きい筈なのに龍牙はそれに対して対抗出来ている。それに持ち堪えている、押し込まれそうになるが必死に対抗する。

 

「俺の力、その凄さは俺が一番知ってる……だからこそ負けられないっ……!!」

 

押し込まれそうになるのを強引に身体全体を押し込むようにしながら自ら黒龍へと体当たりするかのように進む。すると黒龍は僅かに微笑んだように顔を緩ませると自らそれを受け入れるように崩壊していく。

 

「ドラグブラッカー……おおおおおおおっっ!!!」

「馬鹿な、何故リュウガの力でサバイブを!?」

「それが龍牙の思いと力だからだ!!」

 

龍牙が引きつけている間に接近したジオウ、懐に飛び込んで戻りかかっている右腕の龍頭を肘と膝で挟み込むように叩き潰して破壊する。その激痛に悶え苦しみながらもドラグセイバーを振るって来るが、素早くグランドレッグアーマーにあるライダーの一つへと触れる。

 

BLADE!!

 

そこから一本の大剣が出現する。黄金の刃に青の装飾が施された見事な一振り、"重醒剣キングラウザー"。それを握りしめドラグセイバーを受け止めながら逆に弾き飛ばしながらサバイブの身体に重々しい斬撃を叩きこんでいく。王者の剣が次々と決まっていく中でそこへ黒炎の斬撃が飛来し、ドラグセイバーを弾き飛ばした。ジオウが振り返るとそこには剣に黒炎を纏わせて振るった龍牙の姿があった。そして走り込んでくる彼に合わせて大剣を振るってリュウガサバイブに斬撃を浴びせる。

 

「ぐあああああっっ!!」

「俺達の力を、ライダーの力を思い知れぇ!!」

 

KIVA!! GAIM!!

 

キングラウザーに変わって新たな剣が出現する。皇帝の剣"魔皇剣ザンバットソード"、大将軍が手にする無双剣"無双セイバー"。真紅に染まる剣で食い千切ったような深い傷跡を残し、そこを的確に無駄のない剣の一閃が切り裂き、黒龍の炎と刃がそこを焼き切る。その連撃を受けるリュウガサバイブは遂に膝を付き、苦しみに悶えながらジオウとリュウガを見つめる。

 

「「はぁぁぁぁっっ!!!!」」

 

共に放たれた飛翔する斬撃が身体中を抉っていく、奪った力を上回る力がそこにある。同時にリュウガサバイブは口角を上げながら理解する、これが本当のライダーの力かと。理解していた筈だったが如何やら浅はかな理解だったと自嘲する。そしてリュウガサバイブの身体が崩れ始めていく、グランドジオウの攻撃一つ一つは正しく必殺、それと龍牙の攻撃でもう身体が維持出来なくなってきている。

 

「これで終わらせる!!」

「最後だ!!」

 

FINAL VENT

ALL TWENTY TIME BREAK!!

 

龍牙はバックルからカードを引き抜いた、そこにはリュウガの紋章が刻まれている。それを装填するとドラグブラッカーが自らの影から出現しとぐろを巻きながら咆哮を高らかに上げている。分かっている、これは自分の知っているドラグブラッカーではない。龍騎のドラグレッダーが一時的に黒く染まっているだけの姿だが、その黒龍は自分に向けて頷き、自分もそれに頷きで返し共に天へと昇っていく。そして―――黒龍の吐き出すブレスと共にリュウガサバイブへと向かって行く。

 

ジオウも黄金に輝く光を纏いながら天へと昇っていく、その途中にて身体に宿っているライダー全ての影がジオウと重なっていき、それと共に光も増していく。そしてそれらが頂点となった時―――龍牙と共に一気にリュウガサバイブへと向かって行く。

 

「「だあああああああぁぁぁぁぁっっっ!!!!」」

 

黒炎を纏った龍牙の一撃、黄金の輝きに満ちた魔王の一撃。それらがリュウガサバイブへと突き刺さる、衝撃は全身に拡散しエネルギーが駆け巡る。既に崩壊しかけていた身体にその一撃は余りにも強すぎる、耐えられる訳が無い。そして崩壊は一気に進行し二人のライダーはリュウガサバイブを蹴り破った。

 

「―――完敗だ」

 

そんな小さな言葉と共にリュウガサバイブは塵と消えていった。光と伴った塵へと変換されて時間の中へと同化するかのように消えていく、身体が崩壊していきその中からアナザーウォッチが放り出され粉々に砕け散った。そしてそこからドラグブラッカーが飛び出し、龍牙の中へと戻っていく。それを確認するとソウゴと龍牙は変身を解除する。

 

「―――お帰り」

 

感じていた虚無感がなくなった、心から安心出来る。奪われた物はすべて取り戻せたと確信できる、そんな満足気な笑みを浮かべながら龍牙はソウゴへと元に戻った龍騎ライドウォッチを返す。

 

「有難うソウゴ、君がいたから俺は戦えた」

「いや龍牙自身の力で最後まで戦ってたよ、俺の力なんて関係ない」

 

ウォッチを受け取りながらソウゴは遠くを見つめる、そこには此方に向かって来ているゲイツ達の姿が見えている。戦兎も一緒なのに気付きソウゴは改めて龍牙に向き直る。

 

「龍牙、君は絶対にヒーローになれるよ。君なら行ける気がするよ―――最高最善のヒーローに」

「最高最善の魔王様に言われると光栄だね、有難う。なるよ必ず―――」

 

二人は固い握手を結ぶと笑顔を浮かべた後に共にこちらに向かって来ている仲間達の下へと歩いていく。本来あり得ない筈の邂逅と事件は終わりを告げる、互いはそれぞれの存在を確かに胸に刻む。

 

記憶こそが時間、誰が覚えている限り確かにそこに存在はする。その記憶を二人は絶対に忘れない、時間に感謝を込めながら。

 

 

ANOTHER FUTURE WORLD 完。




―――すげぇ疲れた……。グランドジオウの変身だけで265て……。

でもまあこれで終わりですかね、番外編、ANOTHER FUTURE WORLDは終了です。

少しでも楽しんでいただけたなら私も満足です。

では次は本編でお会いしましょう!


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ヴィランパート:闇の黒龍編 その1

番外編、もしも龍牙がヴィランだったら編。

尚、ヒロインはトガちゃん。


世界総人口の八割が"個性"と呼ばれる不思議な特殊能力である力を持つ超人社会。ある時、中国で光り輝く赤ん坊が生まれ、世界は新しい流れに呑まれていく。不可思議な能力、のちに個性と改められる力を持った人間たち。『超常黎明期』とも呼ばれたその時代の中で徐々に個性という力は超常というカテゴリーから常識というカテゴリーに変化していった歴史を持った世界が存在する。その世界では個性は当たり前、常識であり強い個性で在れば憧れを持たれたり将来への道を開けるという事もある。

 

―――だが、逆に力が強すぎる影響で大きな傷を負ってしまった者もいる。

 

「リュウ君、リュウ君起きてください」

「……ぁぁっ……」

「大丈夫ですか、魘されてましたよ」

 

響くように頭痛が脳裏を揺るがしている、悪夢の中に無理矢理付け込まれて強引に身体を染められたかのような不快感が身体にべったりと張り付いて気色悪い。理性を鈍らせる眠気を無理矢理頭を振るって消し去ると目の前で不安と心配が入り混じった表情を作っている連れが此方を見つめている、如何やら長い時間魘されていたらしい。

 

「悪い心配かけたか」

「少しだけ……だからずっと手を握ってました、握ったらリュウ君の顔が少しだけ安らかになってたので」

「……悪いな」

 

 

―――ヒィッ!!?なんだこれは……悪魔、いや怪物!?

 

 

―――ヴィ、ヴィランだ、ヴィランが龍牙をっ……!!

 

 

―――ヴィランだ早く通報しろ!!

 

 

自分の中にある中で最低最悪の悪夢、幻でありながらもそれは未だに身体を蝕み続ける幻肢痛となって激痛を与え続けてくる。解放されたはずなのにいまだに囚われた自分がいる事にため息が出てしまう、そんな自分を助けるように寄り添う一人の少女の気遣いがそれを癒してくれていた。途中から悪夢が一転して彼女との出会いに変わった、そんな彼女が自分を救ったのだろう、あの悪夢から。

 

「いいんです、私はリュウ君と一緒に居れるだけで幸せなんです♡リュウ君大好きですから、でもリュウ君が辛そうなのは嫌ですからそれから救います」

「もう救われたんだよ俺は」

「いえ今だけでも……忘れさせてあげますから」

 

そう言って彼女が覆い被さって来た、手首を抑えつけるかのようにベットに押し付けるようにしてマウントを取ってくる。そして同時に彼女の瞳の中にあるのはある種の狂気的な愛情だけである事に気付くとこれはもう何をしても無駄だという事に肩を落としながらも下手に抵抗する事はしなかった。

 

「一応言っておくけど……朝飯遅くなるぞ」

「いいんです朝ごはんはリュウ君の後で♪」

「はぁっ……まあいいか、おいで―――トガちゃん」

「はいリュウ君♡」

 

そんな事を言われた彼女、トガちゃんこと渡我 被身子(トガ ヒミコ)は理性を投げ捨てながら押し倒した彼の唇に自分のそれを強く押し付ける。それを受けたリュウ君、 龍牙は受け止めながらもそっと彼女の口内へと舌を入れながら彼女の愛に応えていきながら食欲よりも愛欲を優先させた。

 

 

『―――やぁっ調子は如何だい、慣らしは上々かい?』

「アンタか……ああまあまあって所だ、黒龍と一体化したアンタが言う所のサバイブの力は既にものにした」

『流石だね……僕が認めた次代の僕の器なだけはある』

「そりゃ弔に言ってやれよ、喜ぶぜ。俺はあいつの右腕なだけだ」

 

結局朝食は昼食に化けてしまった、全身に不快感こそなくなったのだが代わりに疲労感が纏わりついている。同時に幸福感もあるから何とも言えないのだが……その後に丁度昨日漁港で買い付けてきた海鮮を使った特製チャーハンを共に食べていると携帯が鳴り響いた。彼女にも聞こえるようにスピーカーをONにしてテーブルの上に置く。

 

スピーカーから響いてくる優し気な声色だがその奥秘めている悪性が抑えきれていないのか、トガちゃんも僅かに眉を顰めるようにしている。彼女としては龍牙にとっての恩人である彼に対して敵意を向けるつもりはないのだが本能が危機を察知して警戒せざるを得ないのかついつい構えを取ってしまっている。

 

「それで今日は態々連絡をくれたのは何か用があるって事だろ、何も用がないのにも関わらずにアンタが俺に声を掛けるなんて事は無いだろうからね」

『ンフフフ……正論だけどね、僕としては保護者としていや父親として君の声を聞きたかったというのもあるのさ』

「そりゃまた……んでどうだい、父さんだったら声だけでも俺の強さが測れるんじゃないのか?」

『随分と言うようになったじゃないか……そうだね、今の君なら……オールマイトも本気で戦わなければいけないレベルだろうね』

 

平和の象徴(オールマイト)、現代における生きる伝説(レジェンド)。文字通りの規格外、その全力の一撃は天候すら変化させるほどの莫大な力を秘めている超人社会の英雄の象徴(イコン)。彼が居る事で日本のヴィランによる犯罪発生率は他国と比べると雲泥の差、一桁に留まっている。それが本気で対処しなければいけないレベルにまで自分の力は高まっていると自分の義父にそう言わせる、自分は漸くそこまで上り詰める事が出来たのだろう。

 

だがそれは同時に今の自分ではオールマイトを倒しきれないという事の証明でもある、今の自分がいくら戦った所でオールマイトの全力を引き出す事が精々で倒しきる事は不可。分かっていた事だが些か腹立たしい事でもある。

 

『そして君には近々雄英高校に行うつもりの襲撃作戦に参加して欲しい』

「雄英高校……ってあの雄英ですか?あの超エリート校の」

『そうだよ渡我君、そこにオールマイトが教師として赴任する事になっている』

「成程……にしても随分と思い切った作戦だな」

 

ヒーローを目指す人間にとっての試練にして憧れの地、最難関のヒーロー科が存在している高校こそが雄英高校。そこは同時に多くのプロヒーローが教師として在住している場所でもありそこを襲撃するなんて愚かな事、としか言いようがないかもしれない。だが逆でもある、だからこそやる価値がある。そこを襲撃する、という事だけで大きな意味を成し、ヒーロー社会を揺るがす一石に成り得る。

 

「可能であればオールマイトの殺害、そして雄英の失墜か……無理ならば即座に退いて危機感を煽りつつ此方の名前を売るだけでも良いってか」

『そう、弔は君という右腕を得てからどんどん成長しているさ。オールマイトと互角に打ち合える脳無さえもその為の捨て石にするのもありだと考えているそうだからね、今回はあくまで此方の力を見せ付ける事が真の目的、他の事なんて何時でも出来る事さ』

「成程な……まあ弔が出るなら俺が行かない訳にも行かないだろ、んで決行日は?」

『追って知らせるさ、それまでに準備を済ませておいてくれ。じゃあまた連絡させて貰うよ』

 

直後に連絡は途切れた、遂に本格的な動きをする時が来た。今日までひっそりと影に潜みながら力を蓄え続けてきたかいがあった。間もなく始まる動乱の嵐の時代にこそ自分の力は輝きを放つ黒い太陽と化す、黒い炎を纏いながら闇を照らす黒き灯、それが照らすものこそが望む未来を見せてくれる人間の道を指し示す。

 

「トガちゃんも来るかい、俺的には君にいて欲しいんだけど」

「行くに決まってます、私はリュウ君のフィアンセで黒い太陽の隣で微笑む黒き月の女神です♡」

「聞いて見ただけだ、だからそんな顔するなって」

 

闇へと堕ちた黒龍は闇の中にてなおも輝き続ける、炎は常に光と熱を放つ。だがその光は悪を導き闇を灯す元となる。闇の黒龍は隣にて微笑み彼を愛する黒き月の女神と共に闇を照らす黒き天の星となる。それが重なり一つとなった今―――超人社会が揺るがされる大事件の引き金となる。



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ヴィランパート:闇の邪悪龍編 その2

薄暗い光だけが頼り無さげに照らされているバー、カウンターの奥では頭部は黒と紫が入り混じったような霧のようなものから僅かばかりに二つの光が瞳のような物を模っているおかげなのか顔である事が認識できるものがグラスを磨いている。そんなバーカウンターに腰掛け、ショットグラスを傾けているのは全身の各部に手を付けている男、そんな彼はバーの入り口が開くベルの音に瞳を向けるとそこには待っていた二人組がそこにいた。

 

「よぉっ遅かったじゃねえか」

「こっちもこっちで役割がある事を忘れてないだろ、意地悪だぜその言葉」

「弔君こんにちわ~黒霧さんも」

「ええお元気そうで何よりですトガ ヒミコ、そして龍牙」

 

目の前にてグラスを傾けながら中で揺れている氷の音を楽しんでいるかのような男、死柄木 弔は龍牙の上位者。いや立場としては対等に近いが意図的に彼の右腕に徹している。本人としても上に立つ気質でもないのもあるが弔を立てた方が良いと判断した。

 

「準備は万端なのか」

「勿論、脳無の準備もな」

 

中指だけを反らすようにしてグラスを持つ手で隅を指すとそこには脳みそ剥き出しになっている巨漢が鎮座している。それこそが脳無、改人脳無。これからの襲撃計画の中核をなす存在であり別段捨て駒にしても構わないとさえ認識している程度の中核。

 

「んじゃ行くか―――ヴィラン連合、行動開始。目標は雄英」

 

その言葉の直後、全員が歪んだ表情とそこから底知れない悪意と敵意を露わにさせながら一歩を踏み出しながら次のヒーローを育て上げる教育機関の最高峰の雄英への一歩を踏み出してしまった。

 

 

行動が開始された。雄英高校への襲撃、大胆不敵過ぎる行動は万全な下準備によって支えられていた。襲撃の標的としたのは雄英高校にある施設の一つである嘘の災害や事故ルーム……通称USJ。セキュリティを妨害する事でそこを外界とは隔絶したクローズドサークルへ、そして雄英への移動にも用いた黒霧の個性(ワープゲート)によって生徒らをエリアの各地に生徒が散らさせておく。そんな状況を作り出してそこにてオールマイトを襲う……計画だったのだが少々計画に狂いが起きた。

 

「……いねぇなオールマイト、遅刻かよ平和の象徴が」

「いねぇならいないで行動するだけだろ、いなくても出来る事なんて幾らでもある」

「それもそうだな―――手始めに、捻じ伏せてやれ脳無」

 

この授業に参加すると事前調査で判明していたオールマイトの姿が全くない。予定外の事でも起きたのか、それとも単純な遅刻なのか……兎に角理解の範疇を出ないが行動は起こす。数を揃える目的で連れてきた小物を蹴散らすように倒していく雄英教師のプロヒーローのイレイザーヘッド、最後の一人を倒したところに脳無が襲い掛かっていく。イレイザーヘッドは自らの個性(抹消)で脳無の個性を消してカウンターを仕掛けるつもりだったのだがそんな物を無視するかのような圧倒的な怪力でカウンターすら無に帰し、イレイザーヘッドを抑えつけてしまう。その際に腕の骨や顔面を強く地面に叩きつけた影響か痛々しい音が響いてきたが如何でもいい。

 

「そのまま抑え付けとけ脳無、絶対に顔は上げさせんな。そいつの個性は面倒だ」

「さてと……これから如何するか」

「私誰かの血を採取したいです、役に立つかもしれませんし。手始めにイレイザーヘッドの血でも採っておきましょうか」

 

懐からチューブが繋がっている注射器に似た物を取り出しながらその矛先を伏せられたそれに向けて狂気じみた笑みを浮かべた時だった。彼らの背後に黒い靄のような霧が広がった、それは黒霧がワープしてきた証拠。彼は生徒らを散らす役目の筈だが……弔は不審そうな瞳を向けながら問う。

 

「問題か」

「申し訳ありません死柄木弔、13号は戦闘不能にしましたが生徒の一人に逃げられてしまいました。直此処にプロヒーローの教員たちが来るでしょう」

「ぁぁっ~……想定してたが流石は雄英ってとこか、想定内だがオールマイト一人とプロヒーロー多数じゃ条件が違い過ぎる。撤退が妥当か……」

 

首筋を指先で摩るようにしながらも想定通りに物事は進まないことと予想自体は当たるもんだと溜息を洩らす弔は冷静に撤退すべきだと判断する。そもそも最低限の目的は達成されている、オールマイトの殺害や雄英の失墜などは次いでの目的程度に過ぎないのだから。

 

「えっ~もう帰っちゃうんですか、私全然働いてないです」

「そう言うなトガ、最低限の目的は達成した。それに黒霧、13号はそれなりの手傷は負わせたんだろ」

「はい、彼の個性を逆に利用して」

「んじゃそれなりの手傷って事だな。それらを総合すると……あと一押しが欲しいな」

「ならよ―――そこで覗き見している餓鬼を血祭りにでも上げるか……?」

 

その言葉の直後、龍牙の全身は黒い炎に包まれながら黒い龍の戦士と化した。爛々と輝く血のように赤い瞳は獲物を決めた肉食獣のように凶悪な眼光をそちらへと向けた。同時に出現する黒い龍も獰猛な唸り声を上げながら水難エリアの岸近くから此方にバレないように隠れ見ているかのようにしている生徒らへと瞳を向ける。最初からバレている、あの程度で気配を殺しているつもりなんて片腹痛いにも程がある。例えそれに気配を殺しているにしても視線に込めている感情まで殺さないと自分達にはばれてしまう。

 

「バ、バレてッ―――!!?」

「ケ、ケロォッ……!!」

「か、身体が動かねぇ……!!」

 

バレてしまった、逃げないとまずいと分かった瞬間に叩きつけられた混じりけが無い純粋な殺意と敵意が全身を貫いた。本能を直撃するかのようなそれらは彼らの原始的な部分を刺激した、全身が動けなくなり思考が凍り付いてしまうほどの圧倒的な恐怖が三人の雄英生徒へと襲い掛かった。異形の龍戦士は右手の龍の頭から黒炎を溢れさせながら一歩、また一歩と彼らへと近づいて行った。

 

「あっリュウ君、私は血が欲しいです。だからある程度の原型は遺して欲しいです」

「了解、精々上半身が吹き飛ぶ程度にしておく」

 

まるで彼女が彼氏に対してプレゼントにバッグが欲しいと強請ってそれに対してOKを出すかのような軽い空気で口にしている言葉は酷く残虐で残酷な言葉の羅列だった。より一層の恐怖が迫ってくると言うのに身体は愚か口すら動かない、喉が枯れ舌が乾いていく感覚があり震えが止まらなくなってくる。そして逃がさないようにと自分達の背後に黒龍が回り込みながら迫った龍牙は最後の慈悲と言わんばかりにこういった。

 

「解放してやるよ―――恐怖からな」

 

引かれる腕は引き絞られる矢の如く、正確に自分達へと狙いを定めた矛先。向けられたそれが迫り手始めに緑髪の少年を焼き尽くそうという所で爆発のような凄まじい音が巻き起こった。その出所はUSJの入り口、そこから一つの希望が現れた。生徒にとっては希望、ヴィランにとっては絶望であり終わりのそれが常に浮かべている筈の笑顔ではなく険しい表情で登場した。

 

「もう大丈夫―――私が来たッ!!!」

 

 

 

「―――弔」

「ああ、ちょっと狂ったが……始めよう、ゲームの始まりだ」



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ヴィランパート:闇の邪悪龍編 その3

「ふぅん……速いな、流石は平和の象徴ってか」

「だけど思ったほどではないですね」

「ああ、如何やら本当らしいな―――弱ってる話は」

 

絶望を希望に変え挫き悪を討つ正義のヒーロー、平和の象徴、№1ヒーロー、オールマイト。それがUSJへと現れた。瞬く間にイレイザーヘッド、ヒーロー科1-A担任の相澤を救い出すと同時に龍牙が迫っていた三人の生徒をも救い出し自らの大きな身体で隠すようにしながら襲撃を掛けた弔たちを睨みつけていた。その最中にイレイザーヘッドや生徒らを逃がしていくがそれを見送るヴィランにオールマイトは言葉を叩きつけた。

 

「彼らを逃がす時間をくれるとは―――随分優しいじゃないか」

「優しいんじゃない、もう用がないだけさ平和の象徴様。俺達の標的は最初っからアンタなんだからな」

「私をか、大きな口を叩くじゃないか」

 

常に浮かべる笑みは恐怖に脅える人々に安心を、悪事を働くヴィランには恐怖を与える両側面。唯の笑う男ならばよかったがその男の行動が与えるのは絶対的な安心感とそれによる平和。それを成し得るだけの力を持ち得る絶対的なヒーロー、それに対して龍牙は首を鳴らしながら脳無と共に並び立った。

 

「黒い龍とは中々な強面だな、だがその程度で私が怯むと思ったら大間違いだぞ」

「―――ははっ」

 

聞いたか、聞いたぞ、聞いたな。俺の見た目はオールマイト公認の恐ろしさなんだ、そうかそうなんだだからあれらの反応は正しいのかならば完全に関係を絶った上で捨てるという行為も黙認されるのかそうかそうか仕方がないのかそうかそうかそうかそうかそうか―――。

 

突如として龍牙は口角を歪めながら閉ざされていた口部(クラッシャー)を大きく開きながら狂気に染まり切った高い高い笑い声を上げ始めた。狂ったようでありながら何処か悲しさに染まっているようで寂しさに染まっている、そんな叫びがUSJ中に木霊していく。慟哭に満ちた叫びに流石のオールマイトも驚いた、まるで目の前にいる凶悪なヴィランが―――助けを求めている幼い少年に見えた。

 

「あ~……こうなっちまったか、やっぱりあいつのトラウマが根が深いなぁ……しょうがねぇとは思うけどよ、トガ」

「はいはい分かってます、リュウ君には私がいる。私という存在が傍に居る、だから気にしなくていい、狂気に染まったままでも私は貴方を愛しますから―――だから私とあなたは一心同体なんですから」

 

突然の絶叫に弔はこれも必要経費かと思いつつもトガに委ねられていた役目をするように促す、そのままトガは愛する龍牙へと接近するとそのまま口づけを交わした。唐突なラブシーンの開始に顎が外れそうになるオールマイトだが目の前では狂気に染まっていた龍牙のオーラが徐々に収まりを見せて行き、僅かな沈黙ののちに彼女の頭を撫でる龍牙の姿がそこにあった。

 

「……悪いトガちゃん、分かってたつもりなんだけど染まっちまった。くそ胸糞が悪い、何時まであれに縛られたらいいんだろうな」

「大丈夫ですリュウ君、私がいる限りリュウ君が独りぼっちで苦しむ事なんてありえませんから。だって私達は―――」

「「一心同体、だから」」

 

重なった言葉にトガは満足気な笑みを浮かべると弔の近くへと下がった、直後に入れ替わりのように黒龍が龍牙の周囲でとぐろを巻き始めた。彼を守るようにしながらもそれは溶けるかのように龍牙へと一体化しながら更なる高みへと導いていき、龍牙は更なる力を発揮する形態へと移行する。

 

「オールマイト、アンタに恨みはない―――だが俺の目的を果たす為の礎になって貰う」

「君は……いや少年は何者なんだ、君は本来ヴィランに成り得る存在ではないと今私の直感が感知した。何が君を悪へと導いた!?」

「英雄によって虚無へと叩き落とされた、だが俺は導かれたんじゃない、誘われたんだ」

 

脳無と並び立つ更に巨大化した悪意と敵意を纏いながら更に黒炎が唸りを上げながら全身から溢れ出していく。それらを纏う邪悪龍、それとタッグを組むかのように脳無は共にオールマイトへと駆けだしていきながら襲い掛かった。

 

「SHIT!!止むを得ん、来いヴィラン共!!」

 

 

 

「ぁぁっ~……強かった」

「リュウ君ボロボロです」

 

USJにて行われたオールマイトとの激突、オールマイトの攻撃を受け切る事が出来る改人脳無と攻撃を担当する龍牙。それらのタッグはUSJの一角を完全に崩壊させてしまうほどの超激戦、その末に勝利したのは平和の象徴たるオールマイトであった。ショック吸収と超再生、オールマイトの攻撃を受け切るには最適な個性を持つ脳無をも捻じ伏せるほどの力をオールマイトは発揮して龍牙共々圧倒したのである。

 

戦いは途中現れた教員のプロヒーローの応援が現れた事によって撤退を弔が選択したので着く事は無かったが、最終的な総評はオールマイトの勝利と言わざるを得ない。龍牙も深手を折ってしまい無事に撤退出来たのは素直に幸運だった。

 

『ご苦労だったな龍牙、暫くは療養しといてくれて構わない。こっちは色々と課題が出来たからな』

「んじゃ遠慮なくそうさせて貰うわ、こっちはもうボロボロだ」

「リュウ君、弔君と話すのは良いけどちゃんと手当させてくださいよぉ」

「分かってるって、んじゃ弔これで」

 

連絡を終わりにすると頬を膨らませていたトガに向き合って素直に治療を受ける事にした。防御は脳無が請け負っていたとはいえ終盤はその脳無でも防御が間に合わずに多くの攻撃を身に受ける事になってしまった。だが同時にそれで分かる事もあった、矢張りオールマイトは衰えている。脳無だけでは解りづらかっただろうが龍牙自身が攻撃を受けた事でそれを理解した。

 

仮にもう一度戦うとしてもより万全な布陣と作戦を立案した上で挑めば倒せる可能性は十二分とあると断言出来るほどには衰えている。その準備も凄まじい時間が掛かるだろうが倒せるレベルではある。倒せないと倒せないでは大きな違いが存在する、それをハッキリさせられただけでも大収穫だと弔も満足気に龍牙を称賛しゆっくり養生してくれと言葉を残したのである。

 

「リュウ君、何か引っかかってるんですか?」

「……まあな」

 

そんな龍牙には引っかかっている事があった、オールマイトの言葉にあった自分がヴィランに成り得る存在ではないというもの。自分はヴィランにしかなり得ない、そんな確信が龍牙の中には存在していた。だがオールマイトはそれを否定するような言葉を掛けてきた、それに揺らぐつもりなどはないが仮にヒーローの側に立っていたとしたらどんな風になっていたのだろうかと僅かながらに疑問に思ったに過ぎなかった。そんな思考をシャットダウンさせると手当をしてくれていたトガが頬を赤くしながら興奮するような自分を抑えるような息をしているのに気付いた。その視線は手当された部分である事に気付き察した。

 

「ははぁん……トガちゃん、俺の血欲しいんだろ」

「ほ、欲しいです……で、でもリュウ君の迷惑になっちゃう……」

 

彼女の個性、本人の都合で血液という物は重要な物。それが思い人の物ならばそれはさらに加速していく、だが彼女とてそれを優先させるほど愚かではなく、重傷を負っている彼に無理をさせるなんて事はさせない。そんな姿を見て龍牙は先程の思考を投げ捨てた。仮にヒーローになっていたら彼女と出会えなかった、その一点だけであり得ない。絶対的にあり得ない。

 

「それなら―――実は口の中も切っちゃってるみたいなんだよね、それで我慢出来るかトガちゃん」

「ッ―――リュウ君、大好きです♡」

 

あり得ない、愛する彼女と共に居られないならば自分は喜んで悪の闇に沈もう。それこそが自分にとっての幸福。これこそが―――自分の生きる道だ、そして彼女と共に目的を果たすのが自分の夢なのだから。




ある意味此方の方が龍牙の素の部分が全面的に出てる感じですかね、ある種本編の龍牙は根津やギャングオルカに教育と矯正をされているみたいな感じですから。

そして……こっちの場合、本編のビヨンド・ザ・リュウガに既に近い実力を備えています。まあオール・フォー・ワンが居て根津やオルカに変わって指導してますからね。因みにトガちゃんも強化されてて彼女一人でもフッつうに強い上にいざという時は龍牙の血を使って龍牙に変身して戦いますからマジヤバでちゃけパねぇ事になってます。

っという訳で番外編、もしも龍牙がヴィランだったら?でした。
活動報告にて番外編の募集をしてますのでお時間があれば覗いてみてください。
↓こちらから飛べますのでご利用ください。


https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=239485&uid=11127


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ヴィランパート:闇の邪悪龍編 その4

需要があるか不明ですが、もうちょっとだけ続くヴィランパート。


「……何これ」

「雄英体育祭の推薦招待チケットだ、先生から貰ったがお前ら二人で行って来いよ」

「いやそう言う事を聞いてんじゃねえよ何でこれを渡してきたかを聞いたんだよハンドマン」

 

雄英を襲撃した集団、通称ヴィラン連合が根城の一つとしているとあるビル下にあるバー。そこに足を運んでいた龍牙はカウンターの向こう側で腕を振るって自分が右腕として、力の一つとして仕えている人間である死柄木弔とその補佐役である黒霧に料理を振舞っていると唐突に弔が美味い飯の礼だと言わんばかりに懐から二枚のチケットを取り出して此方へと放り投げた。それは近々行われる雄英体育祭への特別招待推薦チケットであった。

 

「雄英はこれからの活動で確実に絡んでくる、今回襲撃したA組は近年でも特に粒ぞろいのヒーロー志望が揃ってる。それがどんな風に力を使うのか興味はあるし情報としてもいいだろ」

「いやまあそうだろうけどよ……だからって殴り込み掛けた俺とトガちゃんに行けってっか?」

「問題ないだろ、その時にお前らは顔を隠してた」

「確かに隠してたけどよ……」

 

龍牙とトガには表舞台での資金集めや情報収集という役目がある為にUSJを襲撃した時にはマスクやサングラスで顔を隠していた。ひょんな事からバレたりしたらまた新しく活動基盤の制作から始めなければいけなくなる、そんな面倒な事は出来ればしたくないのである。

 

「だから行け、デートでもして来い。この前お前を怪我させた詫びだと思って行ってこい」

「……まあお前が行けって言うなら行くけどさ……ヴィランがヒーロー校の体育祭にねぇ……」

 

普通ならば頭が可笑しい行為だろう、だが彼には拒否する権利なんて持ち合わせていない。断るつもりもない。これに乗じて雄英の内部を合法的に見る事が出来るし1年だけではなく他学年の実力の調査なども並行して行えるので悪い事ばかりではない。但し絶対にバレないように気を付けないとならない。

 

「っという訳だけどトガちゃん行く?」

「リュウ君が行くなら行きます、デートしてもいいなんて弔君も優しいですね♪」

「……まあなんだかんだで気遣ってくれたのかもな」

 

そんなこんなで雄英体育祭へと潜入する事になった龍牙とトガ。二人は同年代と比べて大人っぽく落ち着いた服装と言葉をさえ整えれば大人と疑われる事もない、加えて推薦チケットのお陰でチェックなどもなくあっさりと雄英へと入る事が出来た。

 

「緩いですね、本当に私達に襲撃されたって自覚あるんですかね?」

「あるにはあるだろうがそれを消すように普段通りの日常で覆ってるんだよ」

 

広がっている光景は正しく祭り、辺りには露店が並び様々な物が売り買いされている祭りさながらの光景が続いているのだがトガとしてはよくもまあいけしゃあしゃあと此処までの事が出来るものだと白けを感じさせる。かといってそれはある種の恐怖を持ったから、USJ襲撃は十二分に効果を発揮したことを意味する。辺りをよく見れば警備中と思われるプロヒーローの数が非常に多い。例年の4~5倍の警備が施されていると見て間違いないだろう。

 

「如何するトガちゃん、なんか食うか?」

「いいです、こんな所で食べたくなんてありませんよ」

 

表情にへばり付いた娯楽への興味と本質を何も見据えようとしない愚かな大衆、それらの流れを正す訳でもなく唯々助長するしかない雄英の方針にトガは既にこの場への興味は失せているに等しかった。龍牙と一緒でなければきっと今すぐにでも立ち去りたいだろう。

 

「デートにしてもこんな所でなんてリュウ君だってヤですよね」

「仕事じゃなきゃきたくはねぇはな。まあ弔も軽い気分で行って帰りたくなったら帰っていいって……」

 

そんな言葉を続けようとした龍牙は言葉を止めてしまった、視界にとある二人が映り込んだことが要因だった。突然硬直した彼に首を傾げつつも同じように視線を巡らせるとその意図を察し、隠れている瞳が鋭くなった。その先にあったのは―――龍牙にとって因縁深く、虚無へと自らを堕とし込んだ原因がそこにあった。

 

―――居た、居たぞ、居たな、其処に居たか……。ぁぁっ会いたかったよ、会いたかった、会いたかったぜ、夢にまで出てくるほどに会いたいと……思っていた。

 

 

気付けば龍牙の口角は歪んでいた、三日月のように吊り上がったそれは狂気を孕みながらも正確な敵意を燃やしながら黒き炎を巻き上げていく。それを内に留めながらも一旦視線を外しながら耳に着けていた通信機のスイッチを入れて弔に連絡を入れる。

 

『如何した、緊急事態以外は入れないと言ったのはお前だぞ』

「〈ぁぁっ……悪い弔、雄英の体育祭は楽しめそうにない……他で俺は楽しませて貰うぞ〉

『他に良い獲物でも見つけたのか』

「〈ああ、極上のな……俺は漸く―――鏡という姓を捨てられる!!〉」

 

それを聞いた弔は理解を示したように声を上げながら抑えきれないと言わんばかりに震えている右腕(龍牙)狂気(高揚)を感じ取ると同調するように高らかな笑い声を上げていった。

 

『俺が許可する。存分にやれ、好きにやれ。思うがままに動け、今日をもってお前はお前を縛り続けてきた鎖を焼き切るんだ』

「〈―――感謝するぜ大将……〉」

 

それを最後に龍牙は通信を切断した。そして隣を見るとそこには笑みを浮かべて抱き付いてくるトガの姿があり瞳にある意思を読み取ると行動を開始した。

 

その日―――雄英には不思議な噂が流れた。低く唸るような声と共に現れる黒い龍が目撃されたという、誰もまともに取り合わなかった。何故ならばもっと大きなニュースがそれをかき消したのだから。

 

トップヒーローの一角、ビーストマンそしてミラー・レイディ、意識不明の重傷による緊急入院……その後ビーストマン、本名鏡 獣助。ミラー・レイディ、本名鏡 乱はこの世を去ったという。



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ヴィランパート:闇の邪悪龍編 その5

「ビーストマン、ミラー・レイディ~!?おっかしいな何処行っちゃったんだろう。もう直ぐお嬢さんの試合が始まるのに……もしかして激励かな」

 

雄英体育祭のラスト、それはトーナメント方式のガチバトル。そんなバトルの試合にてビーストマンとミラー・レイディの娘でもある鏡 白鳥の手番が迫ってきているというのに席を離れてから全く帰ってこない二人を探しに御付きが探し回っていた。溺愛する娘、御付のヒーローも二人がどれだけ娘を愛する良い親なのか理解している。唯溺愛するだけではない完璧な育て方で育った白鳥は見る者を魅了する完璧なヒーローになるに値する存在になっている。そんな娘の試合を見ないというのは不自然だったのだが激励に行ったのかもしれないと思う。

 

「まああのお二人なら心配する必要もないか……親馬鹿だけど実力者だし」

 

それは放置ではなく完全な信頼故だった、それだけの力を二人は備えている。それに此処は天下の雄英、そんな場所でヴィランが出る訳も無いだろうと思いつつも足を戻していくのだが……それを彼は後悔する事になった。その道をほんの僅か進んだ通路の角、そこにビーストマンとミラー・レイディの痕跡があったのだから。

 

飲みかけのカップから零れた氷とイチゴのジュースはまるで凄惨な殺人現場にて流れ出た血痕のように床に広がっていた。静かに振動している携帯電話、その画面には白鳥、と表示され娘が連絡を持ちかけて来た事が伺えるがそれに答える事は無かった。そしてそれを―――

 

『ゴァァァァッ……』

 

一瞬だけ、それを一瞥した黒い龍がいた。外からの光を中へと入れるガラスの中にいたそれは黒い身体をくねらせながら姿を消した―――そして、全くの異次元の場所にて二人の姿はあった。

 

あらゆるものが反転したかのような世界の中の雄英にて、その姿があった。そこは鏡の中の世界(ミラーワールド)、そこは完璧に現実の世界と全く同じ。強いて言うならばそこにいるのは龍牙のみで他の生命体は存在しておらず、全ての物が鏡に映るように反転している事がその世界の特徴。だが彼と共に入るか引きずり込んだ場合のみ他者がその世界に入る事が出来る。

 

「がぁぁぁっっ!!!」

「ぐっううううっっ……ぁぁぁぁあっっっ!!!」

『ゴアアアアアアアアアア!!!』

 

上がる悲鳴と痛みに悶える悲痛な叫びに愉悦の極みのような咆哮を上げる黒龍(ドラグブラッカー)、それは巨大な手で両者を掴みながらそれを地面に押し当てるようにしながら飛行をし続けている。地面へと突き立てるかのように押し込みながらの飛行は地面を割るかのような勢いで二人を苦しめていく。

 

「この怪物がぁ……離せっがああああああああ!!!!」

「ぁぁぁぁっっ!!!!」

 

抵抗しようとすれば力を強められ強靭な爪が皮膚を裂き肉へと食い込んでくる、かといって無抵抗のままでもなぶり殺しな状況。一切の手心なんて加える気もなく嬲られ続けていく内に二人の肉体はもう限界な所まで来ていた。それを察知したのか黒龍は二人を放り投げそれを見下ろすかのように静止した。その背中から見下ろすかのような人影、それは無様な姿をさらすトップヒーローと言われる夫婦を嘲笑する。

 

「アハハハッ見てくださいリュウ君あの姿、笑っちゃいますよ」

「全くだな、こんな連中にトラウマを抱えてたなんて俺は如何かしてたのかもしれないな」

「それはしょうがないですよ、だってその時リュウ君は子供だった訳ですし今と昔じゃ大分違います」

 

そんな言葉を漏らしながら二人は地面へと降りた、彼らと同じ土俵へと立った。それを見た夫婦はチャンスだと思った、自分達はもう死に体の無様なヒーローだと思って慢心していると顔を上げて最後の反撃に移ろうとした時に―――二人は硬直した。そこにあったヴィランの姿を見た時に思考が凍り付いた、過去の亡霊が今になって蘇ったかのような……そんな感覚を味わっていた。そこにあったのは最悪の過去の想起させるに十分過ぎる姿をしていた。忘れる訳もない、黒い龍の戦士のヴィランはそれを見て個性を解除し素顔を晒しながら笑った。

 

「よぉっ―――10年振りって所か、俺の顔は分からなくても個性の顔は分かるよなぁ」

「う、嘘だ……なんでお前が……」

「リュッ……龍牙、なの……?」

 

瞬間、ミラー・レイディの首筋に一本のチューブに繋がれた注射器のようなものが放れた。それはあっさりと彼女の首筋を貫いた。トガは冷めたような激怒したかのような表情を浮かべたままそれを引き抜いて手元に戻しながら言った。

 

「汚らわしい存在がリュウ君の名前を呼ばないでください、不愉快です」

「乱……ラァァアアン!!」

「ァ、ァァッ……」

 

既にボロボロの肉体にそれは決定打に近い一撃だった事だろう、声を上げる事もなく倒れこんだ彼女からとめどなく血が溢れ出していく。愛する妻に叫びを上げながら身体を引きずっていくビーストマン、そして彼は彼女の懐から包帯のような物を取り出すとそれを傷口に当てる。するとそれは即座に彼女の傷へと巻き付いて止血を行った。応急処置のアイテムだろうか、だとしても意味はないだろうがと龍牙は心の中で呟いた。

 

「貴様ぁっ龍牙ぁぁぁ!!!なに、何をしやがるぅ!!!」

「何、とは随分と頭の悪い質問をするなビーストマン。お前らが言ったんだぞ、俺はヴィランだとな」

「なっーーーッ!?」

 

忘れる事も出来ないあの忌まわしい日、あの日に鏡 龍牙という一人の少年は死んだのだ。死んで虚無へと至り闇に堕ちた。そう彼ら自身の言葉で追いつめたヴィランという悪の存在へと。

 

「お前、本当にヴィランに堕ちたのか……!?」

「さあて如何なんでしょうねぇ……そんな問答に意味なんてないさ、何せ―――お前らは此処で死ぬんだからな」

「何を言ってっ……!!」

 

直後、ビーストマンの胸部に一本の刃が生えた。龍牙が手にした剣が彼の身体を貫いた、胸から溢れ出る血と熱病のような激痛が全身を駆け巡る中で薄まっていく意識の中でビーストマンは妻の乱へと手を伸ばそうとするが彼が剣を引き抜いた事で倒れこみ動かなくなった。

 

「お前も後を追えよ、ミラー・レイディ」

 

首を狙って無造作に足を叩きつけた。低く鈍い音を立てて骨が砕ける音が周囲に響き渡った、もう彼らは再起不能だろう。病院に運び込んだところで意味がない、確実な死が待っている。そんな二人を見てトガが言った。

 

「リュウ君これら如何します?このままミラー・ワールドに放置しときます?」

「敢えて外に放り出す、適当な所にな。どうせだ、こいつらが愛した者も奪ってやろう」

「それってもしかして妹ちゃんですか?」

「ああ、トガちゃんお義姉ちゃんになりたくない?」

「なりたい!!」

 

そんな無邪気な言葉の掛け合いの最中で二人は静かに眠っていた、そして二人は黒龍の手によって何処かへと適当に外の世界へと投げ捨てられた。最後に奇しくもその手は重なり合い手を取り合っていたという、それを発見した者が大急ぎで救急車を呼んだがそれも空しく彼らはこの世を去り、愛された愛娘は一人絶望に暮れる。

 

両親に愛され、大好きな兄も近くにいない彼女にはもう拠り所はないに等しかった。親戚の言葉も無意味に胸に響くばかり。虚無の中で揺蕩う彼女へと手を差し伸べたのは―――同じ虚無を味わった兄であった。

 

「久しぶりだな白鳥、俺が分かるか」

「―――お兄ちゃん……?」




……いやぁゾクゾクしますな。やっぱ筆が乗るなぁこういうのは。
多少の自重はしてますけど私が書く基本プロットなこんなダークな感じです。

普段はこれを何とかして捻じ曲げて本編にしてます。
活動報告にて番外編の募集をしてますのでお時間があれば覗いてみてください。
↓こちらから飛べますのでご利用ください。


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ヴィランパート:闇の邪悪龍編 その6

覚悟はしていた、もしかしたらこんな日が来るかもしれないと心の何処かで抱きながらもそれが実際に来るなんて事は無いだろうと否定を重ね続けていた。何故ならば迫りくるそれを跳ね除けてしまう程に父と母は強く聡明で勇敢で優しかったから。そんな二人ならばそれに相対したとしても揺らぐこともなく立ち向かって突破するだろうと思い続けていた、だからこそ自分にも訪れるかもしれないそれにも恐れこそ抱いたとしても立ち向かう事を誓った、筈だった―――。

 

「―――。」

 

少女、鏡 白鳥は一人自宅の自室にて抜け殻同然に床に腰を下ろしながら四肢を投げ出すかのようにしながら虚空を見つめ続けた。彼女は雄英体育祭の最終トーナメントにて優秀な成績を収め父と母の期待に応えられたと自分でも思うほどの力を出し切ったと確信していた。そんな自分を見て欲しいと会場で二人を探し続けたが何処にもいなかった。緊急の出動要請でも入ったのかと思っていたが御付のヒーローがそれを否定した、仄かに胸が騒めく中入って来た凶報―――両親が緊急入院の後、息を引き取ったという。

 

現場は雄英から遠く離れたビル街の裏路地だったという、雄英に出向いていた筈の二人が何故そんな所で倒れこんでいたのかは不明。だが全身に重傷を負わされている彼らは通報を受けて直ぐに病院へと緊急搬送されたが手の施しようがない状態で延命処置すら意味を成さず、白鳥が病院へと足を踏み入れた時には既にこの世を去っていた。

 

覚悟はしていた、ヒーローである以上人の命と真剣に向き合い救い戦うのは運命(さだめ)と言ってもいい。もしかしたら来るかもしれないそれに対して覚悟は二人が固めていた事は知っている、故に自分にもそれを固める覚悟がなければヒーローにはなれない方が良いとも言われたりもした。覚悟はしていた、していたが……彼女にとってビーストマンとミラー・レイディは大好きで優しい父と母、そんな二人が冷たくなりもう二度と目を覚まさなくなったという厳しい現実が容赦なく襲い掛かると彼女の心は一気に脆く弱くなってしまった。

 

涙を流す事もなく、脱力し抜け殻のように瞳から光が消えてしまった。彼女の事を知る事務所に所属するヒーローはこのまま二人の傍においておくのは彼女の心象に悪いと判断して彼女を家まで送り届け、彼女の代わりに様々な対応に動く事にした。それが最善だと思ったからだ―――それは最善であり最悪の同居であったが。

 

 

奇しくも嘗て兄が味わった虚無、それとほぼ同じ虚無へと心身ともに叩き落とされてしまった白鳥は文字通りの思考停止状態になって唯其処に居るだけの存在に成り果ててしまった。余りにも強い感情によって彼女の理性のキャパシティが超えてしまい廃人に近い状態へとなってしまった、何も考えず何もしない。唯の人形同然のそれが見つめている鏡、唯前にあるだけの鏡には彼女の姿が映し出されている―――だがそれが変化する。

 

「―――。」

 

反応も示す事すらないが映り込んでいた彼女の姿が歪み黒い龍と共に歩む一人の男とそれに従うようにする一人の女がそこにいた。それは鏡の鏡面に手を触れながら白鳥を見つめながら口角を上げるようにすると力を込めるように手を押し込むと鏡面が水面のように波打たせながらそこから現実の世界へと侵食して現界した。男は人形の姿の彼女を見て言う。

 

「まるで昔の俺だな……そこまで同じなんてやっぱり俺とお前は兄妹なんだな……」

「でもやっぱり似てるね、目元とか」

「そうか、少しでも共通点があって良かった」

 

膝を折りながら彼女と目を合わせながら少しだけ顔の向きを矯正しながら優しく頭を撫でてやる。その手付は何処か以前にもやった事があるような慣れた物だった、艶やかな髪を僅かに掻き分けるように指を入れながら撫でる癖が龍牙にはあった。それは昔から―――それに反応したのか僅かに白鳥の瞳に光が戻り目の前にいる姿を凝視しした。

 

「久しぶりだな白鳥、俺が分かるか」

 

投げかける言葉には呆れが混ざっている、幼い頃以来に顔を合わせる。あの時と比べて互いに成長している。面影もない程に変わっている自分に気付くわけもないのに何を言っているのかと。

 

「―――お兄ちゃん……?」

 

そんな思いを打ち砕き否定するかのように目の前の成長した妹は兄である事を看破し、答えた。姿こそ変わっているが彼女の中には確かに兄との思い出が存在していた。個性が凄いと褒めて貰えた時に撫でて貰った事も多くあった、それらが会えなくなった兄との大切な思い出として刻み込まれていた。それは姿が変わろうが分からなくなる事などあり得なかった。

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん……なの、りゅうがお兄ちゃん……?私の、私のお兄ちゃん……?」

「ああそうだよ白鳥、10年振りか……大きくなって綺麗になっちゃってまあ……」

「―――っ」

 

言葉に応え頭を撫でる力を少しだけ強くしてくれた、それが夢ではなく現実だと教えてくれた。瞬間、白鳥の瞳に光が戻ると両親の死で流れなかった涙が豪雨のように降り注ぎながら飛びつくように抱き付いた。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!!!龍牙お兄ちゃん……会いたかった、ずっとずっとずっと会いたかったよぉォぉっ……寂しかったよぉ怖かったよぉ……!!」

 

力いっぱい、しがみ付くように、もう離さぬようにとめいっぱいの力で兄の身体に抱き付きながらその体温に歓喜し其処に居る喜びに感謝し必死に縋った。白鳥は兄の事が大好きだった、幼い頃から大好きだった。仲良しで一緒に居るだけで楽しかった、そんな兄がある日突然個性の関係で遠くの地に行かなければいけなくなったしまった時には泣いて泣いて涙が枯れて泣けなくなるほどに泣いた。

 

寂しさで兄を求めた事があった、悲しさで傍に兄に居て欲しかった、そんな兄が今目の前にいる現実が心を理性を融かすように自分を満たしていった。そんな縋るように迫る妹を出来るだけ甘く、優しく抱きしめてやる。そして彼女が泣き止むなど龍牙は静かに彼女の頭を撫で続けてやった。

 

「大丈夫か、白鳥」

「うん……お兄ちゃんずっと、会いたかったよぉ……」

「悪いな俺も会いに行けなかったんだ」

「もういいの、だって今こうして居てくれるんだもの……」

 

白鳥は唯無邪気に喜んでいた、両親を失った事によって彼女の精神は極めて衰弱し正常な状態とは言えなくなっていた。理性も弱まり精神も脆く崩れやすくなっている、それを龍牙と言う兄の存在だけが既に支えになってしまった、もう彼女は龍牙なしで生きられなくなった。

 

「あのお兄ちゃん、それでこっちの人は……?」

「ああ俺の彼女のトガちゃんだ」

「お兄ちゃんの、彼女……っ?」

「どうも初めまして白鳥ちゃん、トガです♪リュウ君とは結婚もする予定ですのでお義姉ちゃんって呼んでくれたら嬉しいです♪」

 

笑いかけながら頭を撫でてくる彼女、本来なら久しぶりに会えた兄に彼女がいてそれは兄と結婚が決まっている。それを肯定するように頷く兄、普通ならば納得がいかなかったり拒絶する所だろうが……衰弱した彼女はそんな事は出来なかった。逆に兄が結婚すると決めた相手ならば信頼出来るのでは、信じて良い人なのだろうとすんなりと受け入れてしまった。

 

「それじゃ、トガお姉ちゃんって呼んだ方が、良いですかね……?」

「うんうんそう呼んでくれると私も嬉しいです♪わ~い可愛い妹ちゃんが出来ました~!!」

 

抱き付きながら頬ずりしながらよしよしと撫でる彼女から伝わる無邪気な嬉しさの感情がより一層、警戒心を薄れさせ完全に味方だと認識させていく、そんな中で龍牙は白鳥を抱きしめながら言う。

 

「なぁ白鳥、お前さえよければ俺と一緒に来ないか。俺はもうお前を一人にはさせない、一緒に居よう。トガちゃんと一緒に仲良くな」

「行きましょう白鳥ちゃん、私達と一緒に仲良く暮らしましょ♪」

 

悪魔の甘言、闇からの誘い、悪へと堕ちる選択。だが白鳥にとってはそうとは思えなかった、大好きな兄とその兄が好きな人が自分を受け入れてくれるという喜びが脳を蕩けさせ支配する。迷う事無くその手を取って、龍牙とトガと共に彼女は―――我が家を去ってしまった。

 

トップヒーロー・ビーストマン、ミラー・レイディの娘である白鳥の失踪はすぐさま報道させ、彼女の捜索が開始される。自殺したのではという懸念もある全力で捜索が行われるのだが……見つかる事はあり得ない。何故ならば―――

 

「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん♪トガお姉ちゃんだけじゃなくて私も~撫でて撫でて♪」

「はいはい、甘えん坊だなお前は」

「えへへっ~……幸せ、です♪」

「私たちの妹ちゃん凄い可愛いです♡」

 

悪に染まった黒龍の庇護下に置かれた彼女は徐々に闇へと、悪へと染まっていく。黒龍の漆黒がまるで墨汁を垂らした染みのようにじわじわと純白の翼を犯していく。高みに鎮座した英雄の父と母に育てられた純白の女英雄は何れ―――兄と同じ悪へと堕ちる、闇に堕ち悪に染まる。だがそれが幸せなのである。

 

それはまるで―――悪には悪の救世主が必要だと世界に問いかけるかのように。




これにて書きたかった心残りであった鏡夫婦と白鳥に関してはOKかな。

これにてヴィランパートは終わりですかね、書くにしても不定期になると思います。

っという訳で番外編、もしも龍牙がヴィランだったら?でした。
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もし、龍牙がカルデアに呼ばれた場合―――のマテリアル。

召喚時

 

「ヒーロー……いや此処ではライダーのサーヴァントって言うのか、まあよく分からないから普通に行かせてもらう。

 ドラゴンライダー・リュウガ、此処に参上した。

 にしてもよくこんなことに巻き込まれるな……。

 だけどまあ……もう大丈夫、何故かって?俺が此処にいる。」

 

 

会話1

 

「今、この世界の為に君がすべきこと分かってるか、己の鍛錬だ。

 何だったら俺が師匠譲りの特訓をやろうか。大丈夫だよ死にはしないさ―――多分ね。」

 

 

会話2

 

「君は事務所のオーナーで俺はその事務所と契約している一般ヒーローって所じゃないかな。

 ヒーローな時点で一般じゃない?あ~……まあこの世界だとそうか。」

 

 

会話3

 

「まあやれって言うならやるが……俺は俺なりの正義というか矜持って奴がある。

 それにそぐわない場合は従わない、これでも人を救うヒーローなんでね。」

 

 

会話4

 

「いや、俺なんか未熟過ぎて笑い話にもならねぇよ。俺の世界だと……もっと凄い人がいたよ。

 ―――そう言えば、考えた事は無かったけど、もう帰らねぇのかな……会いたいな……君に」

 

 

会話5 マンドリカルド

 

「あっはぁっえええっ!?何で切島が……ってあれ別人……!?

 あっごめんなさい声が凄い似てたもんで!!?ビックリした……

 別世界の英雄と俺の友達が同じ声……

 別世界って凄いな。あっすいません、お詫びにご飯作りますから一緒にどうです?」

 

 

会話6 ジークフリート、シグルドなどのドラゴン関連。

 

「あれがこの世界での龍の戦士……凄い、俺なんかとは比べ物にならない……。

 いや比べる事自体が烏滸がましいのかな……あの域に達すれば、師匠にも互角になるのかな……。」

 

 

会話7 エミヤ

 

「……確かに、貴方からすれば俺達のヒーローは紛い物でしかない。

 それでも人々には希望がいる、その為の希望になる為に自らを捧げ続けた強い人を俺は知っている。

 その人があり続けた在り方を俺も貫く、貴方の言葉は有難く受け取っておきます。」

 

 

 

会話8 スカサハ

 

「成程、そんな感じで……はい、うちの師匠もそんな感じで……やっぱりその位ですよね。

 おっマスター。いや今ケルト流と俺の師匠の教えがなんか似てるなぁと話してたんだよ。

 類似点が結構あってさ、これから手合わせするんだけどマスターも如何、世界を救う為には強くあれ、だよ。」

 

 

会話9 ナポレオン

 

「ナポレオンさんか、そうだよな、ある種強い縁はあるのか。いや彼自身とはないよ。

 でも彼が遺した言葉は俺達にとって大切な言葉なんだ、更に向こうへ―――Plus Ultra!!」

 

 

会話10 シャルロット・コルデー

 

「―――……いや、君である筈がない、よね……分かってはいるさ、此処は全く別の世界だ。

 いたとしてもそれは俺の知っている君じゃないんだ。それは分かってる、うん……いや大丈夫ですよ。

 でもシャルロットさん、俺は―――今此処であなたに逢えてよかったと心から思ってます。」

 

 

 

好きなもの

 

「好きな物?う~ん……笑顔とご飯と……修行?」

 

 

嫌いなもの

 

「それなら……いや止めておく、あれとの縁は切れてるからな。言及する意味も無い。

 強いて言うなら平和を脅かす悪と敵かな。」

 

 

聖杯について

 

「願いが叶う……と言われても眉唾物っぽいよそれ。叶ったとしてもそれって本当に俺が望んだそれになるの?

 夢は自分で叶えるべきだよ。」

 

 

イベント期間中

 

「何時の時代も変わらないのは祭りでの熱狂なのかもね、俺の世界でもそうだったよ。

 さあ行こうか、体育祭みたいな大騒ぎを期待しても良いよな!!」

 

 

絆レベル1

 

「ああ、無理に気を遣ってくれなくていいから。孤独は割かし慣れてる。」

 

 

絆レベル2

 

「俺が言えた言葉は無いかもしれないけどさ、大概君も変わってるな。

 よくもまあこんな化け物染みた奴に好きこんで接近するね。他にもいっぱいいる?

 あっ~……慣れって怖いよね、分かる分かる。」

 

 

絆レベル3

 

「平和の享受こそヒーローが戦う意味だよ、だからこそこうしていられる事が何より尊いんだ。

 ヒーローにとっての最良は……己の存在意義の否定だよ、それは間違いないだろうね。」

 

 

絆レベル4

 

「んっおおマスター、最近妙に落ち着くんだよね。君といる時が一番。

 何だろうねこれは……ああ、あれだ。師匠とか父さん。戦兎兄さんやミルコ姉さんたちといる時に近いな。」

 

 

絆レベル5

 

「ああ、良いだろう―――マスター、俺は覚悟を決めたよ。君の為いや―――世界を救う為の礎になろう。

 この世界の平和の象徴になってやる、その覚悟で君の戦いに力を尽くそう。だからさ―――

 偶にで良いからさ、お疲れ様って俺を労ってくれるかい?」

 

 

 

第二部突入後

 

「―――この戦いの正当性は何処にあるのか、正義と悪の境界なんて分からない。

 だけど……君は君自身の為に戦え、辛いかもしれないけどそれが君の生存に繋がる。

 生き抜いた先に答えを見出せばいいんだ、俺の黒炎で闇は照らせないだけど

 君の行く道の辛さを和らげる事は出来る。さあ、更に向こうへ。」

 

 

レベルアップ時

 

「師匠の特訓以外で成長を実感するとは……」

 

「これズルじゃないよね……だったら師匠に殺される……」

 

「もう負ける気がしねぇ!!……やっぱりやめとこ」

 

 

 

通常再臨 雄英高校の制服。部分的に黒炎を纏っており戦闘時は黒炎が龍の鎧を生み出す。

 

 

第一再臨 通常時の黒龍の戦士、彼にとってはスタンダートな姿。

 

「これが本当の本性って奴さ、恐ろしいが力だけは保証する」

 

 

 

第二再臨 変わらず。内部的にはドライバーが付いた。

 

「変わってない?これでも大幅にパワーアップしてるのさ、覚醒!って奴だよ」

 

 

第三再臨 ビヨンド・ザ・リュウガの姿。

 

「ドラゴンライダー・リュウガ、またの名をビヨンド・ザ・リュウガ。

 これで漸く子供から怖がられずに済むかな。」

 

尚、カルデアの男性陣からは元から高評価。

 

 

 

最終再臨 黒龍の吐く黒炎を背に受けながら必殺の一撃を放つ瞬間。

 

「―――ああ、これだ。これこそが俺の本当の力か……なんか懐かしくもあるな。

 それじゃあこれからはサーヴァントではなくヒーローとして君に力を課そう。

 さあ世界を救いに行こう、ヒーローにとって最大の仕事にね。」

 

 

 

キャラクター詳細

 

異世界より来訪した黒龍の戦士。捻じ曲げられた運命へと立ち向かった結果

自ら望んだ物を手に入れたヒーロー。次代を担ったヒーローの全盛期。

決して苦しみに屈しず、鍛錬を行い続けるある種の狂人。

それを本人に言うと素直に拗ねて口を利いてくれなくなるので注意。

 

 

パラメーター

 

 筋力:A  耐久:A+

 

 敏捷:C  魔力:D+

 

 幸運:D  宝具:B

 

 

身長/体重:190cm / 90kg

地域:日本 クラス:ライダー

属性:中立・善  性別:男

 

 

 

○師の修練:B

自身の攻撃力、防御力を20%上昇(3ターン)+ガッツ付与。

 

偉大な師によって与えられた数多の修練の果てに得た実力の証明。

不甲斐ない結果を見せた場合更に厳しい修練が課せられる。

 

 

 

〇黒炎放出:A

自身のBusterカード性能アップ(2ターン)。

+スターを獲得&自身のスター集中度アップ(1ターン)。

 

自らが宿す黒龍の力たる黒炎を全身から溢れ出させる、通常の炎よりも圧倒的な強さを誇り

数多を敵をその炎にて焼き尽し、数多の人を救ってきた彼の象徴。

 

 

 

〇部分出現:C

自身のQuickカード性能アップ(3T)&Artsカード性能アップ(3T)+防御力を15%上昇。

 

黒龍の一部を自らの身体に顕現させ、自らを強化する。剣、盾、大砲などなど種類豊富。

 

 

 

黒龍戦士飛翔脚(ドラゴンライダーキック)

ランク:C~A 種別:対人宝具  カード:Buster

レンジ:1~50  最大捕捉:1人

 

敵単体に超強力な攻撃。

+敵単体の強化状態を解除&敵単体の防御力をダウン(3ターン)。

+火傷状態付与(5ターン)&延焼状態(やけどの効果量がアップする状態)を付与(5ターン)。




如何でしょうか、実は前々からカルデアに呼ばれた!?みたいな番外編希望があったのですがその時の為のネタというかマテリアルと言いますか……。その時が来たらこれをフル活用する時が来るかも。

他にもサーヴァント関連の会話は増やしても良いかもなぁ……。


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もし、リュウガがカルデアに呼ばれた場合―――のマテリアル

召喚時

 

「……ぁぁっ、俺を呼ぶのは誰だ。俺を呼ぶとは、余程悪意に満ちているらしい……

 そうでなくても構わない。俺は俺だ、俺でしかない。だが、此処は則るか。

 我は我は常世総ての悪と成る者、我は常世総ての悪に秩序を敷く者。

 バーサーカーのサーヴァント、闇の邪悪龍……リュウガ」

 

 

会話1

 

「清濁を併せて吞む、にしては敵である俺を呼ぶとは……貴様、愚者か道化か」

 

 

会話2

 

「マスターか……俺の上役はあいつだけだ、お前なんぞはそれ以下でしかない。

 隣の眼鏡にも言っておけ、俺はお前らのヴィランだとな。」

 

 

会話3

 

「悪法もまた法なり、良い言葉とは思わないか。悪を成し善を成す……これも良い言葉だ。

 悪に満ちた世界も素晴らしいのだろうが……悪には悪の秩序が必要だ。

 一辺倒だけではつまらんし飽きる。」

 

 

会話4 

 

「悪意の頂点は奴だ、それ以外ありえん。俺はその右腕だ。

 悪に秩序を齎し、平和を脅かす。それが俺だ、その傍らで彼女と生を重ねる……それで満足だ。」

 

 

会話5 バーサーカー関連。

 

「バーサーカー、即ち狂戦士は文字通り狂った戦士が選ばれると聞くが……成程、納得だ。

 何故俺が狂っていないのか、だと?狂っているさ、制御された狂気だ。」

 

 

会話6 ジークフリート、シグルドなどのドラゴン関連。

 

「この世界での龍の戦士……フフフッハハハハッそうかあれが龍か。

 いいぞ、このような下らない召喚に応じた価値も多少なりともあったようだな!!」

 

 

会話7 エミヤ

 

「お前には分かるのではないか、正義だけで世界は成立するのか。悪意もまた必要だと。

 何強がるな、理解しているのだろう。正義が齎す平和は何れ腐敗し未来を奪う。

 だからこそ悪がいる、ハハハッ矢張り正義の味方が顔を歪ませるさまが愉快だな。

 あと一つ言わせろ、お前本当にアーチャーか。セイバーかキャスターの間違いだろ。」

 

 

 

会話8 ジャンヌ・オルタ

 

「竜の魔女……嫌いではないが奴は苦手だ。奴は俺を見ると嬉々として迫ってくる。

 貴方こそ私の新しい(ファヴニール)に相応しいわっ黒龍とか適材適所過ぎるわ!!だとさ……出会った頃のトガちゃんより激しいぞあれ……。

 いい女ではある、だが俺は苦手なタイプだ……あれなら普通の聖女の相手の方がマシだ。」

 

 

会話9 モードレッド

 

「反逆の騎士、ああ奴とは仲がいいぞ。偶に俺の黒龍を貸してやっている。

 よく分からんが赤い稲妻と黒い炎は相性がいいと言っていた、どういう意味だ?」

 

 

会話10 シャルロット・コルデー

 

「ほう、あれが垣間見あり得た俺の彼女か……何違う?顔がそっくりなだけ、似たような物だろ。

 成程……別世界で会っても良い趣味をしている俺で安心した。だがこの俺が愛した女も最高だぞ。

 何せ―――黒龍の狂気を唯一収める事が出来る黒き月の女神だ。」

 

 

 

会話11 オリオン(アルテミス)

 

「あの方が俺の彼女のヴィランネームの大本になった女神様か……ならば俺はさしずめオリオンか。

 存外似ているな、俺もちょくちょく良い女を褒めていたが……その度拗ねるみたいになってな、

 ナイフを首に突きつけられてた。フフフッ……重い愛情って奴は素晴らしいぞ。」

 

 

会話12 龍牙(騎)

 

「そうか、俺がヒーローに……そんな可能性もあったんだな。お前は良い運命に選ばれたらしい。

 気にするな、俺はこの運命も中々に気に入っている、お前が気に病んだ処で意味はない。

 どこの世界でも腐っている夫婦の割を食うのは俺達か……だが彼女では俺の方が上だ

 何、それなら勝負をするか―――どちらの愛する女の方が素晴らしいのかをな!!」

 

 

好きなもの

 

「好きな物……彼女ではない、あれは愛する者だ。強いて言うなら失意に塗れたヒーローの顔だ。」

 

 

嫌いなもの

 

「俺の両親だ、もう一人の俺もそう言うだろうよ。」

 

 

聖杯について

 

「聖杯ねぇ……興味が無い、というかそれ大丈夫か。アーチャーなのにセイバーの正義の味方が

 聖杯は願いを悪意に浸した上で叶えるって言ってたぞ。」

 

 

イベント期間中

 

「稼ぎ時だな、さあ荒稼ぎと行こう!!俺の時はそうだな……

 俺の部下と共に街一つを完全に取り込むスタンピードを起こした事があるな。」

 

 

絆レベル1

 

「敵になれると感覚麻痺するぞ、いやもう麻痺してるのか……哀れな……。」

 

 

絆レベル2

 

「随分しつこいなお前……逆鱗に触れる一歩手前だぞそれ♪分かればいい。」

 

 

絆レベル3

 

「馬鹿過ぎてもう呆れる、逆鱗に触れると警告したのになんで近寄る、馬鹿なの死ぬの。

 殺すと逆に殺されると分かってるから殺さない?チッ……よし分かったこれ以上来るなら考えがある。

 おい頼光の姐さんに姫さん、あと静謐の!!マスターが……うんうん分かればいいんだよ♪」

 

 

絆レベル4

 

「……何度言えば理解出来る、一つ一つ説明してやるか。ヴィランはそもそもが敵だ。

 お前に分かりやすく言えば反英雄だ、お前を破滅させる存在だ、それに同調しようとするな。

 理解したいだけだぁっ?余計意味不明だ。」

 

 

絆レベル5

 

「もう理解が果てに消え失せた、お前を追い払うのは諦めた……。

 何を言っても無駄の愚者が此処まで厄介とは……だが一言だけ言っておく。

 此処にトガちゃんが来る事があったらお前殺されるぞ。」

 

 

 

第二部突入後

 

「―――この戦いこそヴィランの役目だろう。世界を殺す、大いに結構。

 世界を壊し新たな世界を創造するのを夢見るはヴィラン究極のヴィジョンだ。

 クリプターといったか――――その椅子、俺に寄こせ。」

 

 

レベルアップ時

 

「いいぞ、悪くない。」

 

「悪意の真価こそ人間の真価だ。」

 

「黒龍の爪はまた鋭く……!!」

 

 

 

通常再臨 全身黒のコーディネートで統一されている、がその黒は黒炎である。

 

第一再臨 黒龍の戦士、彼にとってはスタンダートな姿だがライダーの龍牙と比べると瞳が禍々しい。

 

「これが本当の本性って奴さ、恐ろしいが力だけは保証する」

 

 

 

第二再臨 変化なし。

 

「おいマスター、何がっかりしてんだ水泳部に通報すっぞ。」

 

 

第三再臨 ビヨンド・ザ・リュウガ……だがその姿は禍々しく邪悪な炎を背負う。

 

「この姿の名称は決まっていないが……もう一人の俺はビヨンド・ザ・リュウガって呼んでたか。

 だったらそうだな……俺は素直に邪悪龍で良い。」

 

 

 

最終再臨 夜空に浮かぶ黒い月の祝福を背中に受けながらも黒い炎の中心で狂気に満ちた笑いを上げる。

 

「これだ、これこそが完璧なオレか……!!そうか、これは君の想いか……

 フフフッ世界を越えて尚俺を見守ってくれるのか……有難う俺もその愛に応えなければなぁ!!」

 

 

 

キャラクター詳細

 

異世界より来訪した黒龍の戦士。捻じ曲げられた運命に翻弄され、悪意の権化によって

邪悪に堕ちた黒龍の戦士の在り得たかもしれない可能性の姿。

邪悪に染まったの筈だが、本質は同一の為か本来の彼との差異は少ないが……

彼が自らの中に宿す狂気は闇の色。

 

 

パラメーター

 

 筋力:A+  耐久:A++

 

 敏捷:C  魔力:C

 

 幸運:B  宝具:A

 

 

身長/体重:190cm / 90kg

地域:日本 クラス:バーサーカー

属性:中立・善  性別:男

 

 

 

○黒き女神の祝福:EX

自身の攻撃力、防御力、NP上昇率を20%上昇(3ターン)+ガッツ付与。

 

彼が唯一にして絶対的に愛した女の狂気的な愛による祝福。

 

 

〇黒炎放出:A

自身のBusterカード性能アップ+攻撃力を15%上昇。(2ターン)。

+スターを獲得&自身のスター集中度アップ(1ターン)。

 

自らが宿す黒龍の力たる黒炎を全身から溢れ出させる、圧倒的な強さを誇る彼の象徴。

その黒い炎は悪の秩序の証であり、それを犯した者は黒炎に焼かれ地獄に墜ちる。

 

 

〇敵の秩序:B

味方全体のQuickカード性能アップ(3T)&Artsカード性能アップ(3T)+防御力、攻撃力を10%上昇。

+悪属性の味方は更にスターを獲得。

 

彼が齎した悪の中で絶対的な秩序。それは無用な行いを抑制しながらも平和を脅かす脅威となった。

 

 

黒龍戦士飛翔破壊撃(ドラゴンライダーブレイカー)

ランク:A 種別:対人宝具  カード:Buster

レンジ:1~50  最大捕捉:1人

 

敵単体に超強力な攻撃。+自身の攻撃力をアップ。

+敵単体の強化状態を解除&敵単体の防御力をダウン(3ターン)。

+火傷状態付与(5ターン)&延焼状態(やけどの効果量がアップする状態)を付与(5ターン)。




前回のあれに引き続き、ヴィランの龍牙をカルデアのマテリアル風に纏めてみました。こうしてみると此方の方が個としては絶対的に優れてますね。
まあ単純に強いだけじゃなくてもオール・フォー・ワンからも個性を受け取っている可能性もあり得ますからこの位はね。

そしてサラッとマスターにとっての外道ロールを出来る人でもある。溶岩水泳部召喚とかね。後、この世界だと多分トガちゃんも追ってきますね、その場合マスタ―は……マシュちゃん頑張ってブロックしようか。


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もし、龍牙が祖父に引き取られたら その1

もしも、龍牙が本家である神使の家に引き取られたらのIFルート。

多分、長くなる。


その日、鏡の家にて数年に一度親戚が集まる席で楽しく過ごし宴が催されていた。大きく親戚が集まる中で突如として龍牙の身体が炎に包まれた、阿鼻叫喚になりつつもプロヒーローとして息子を救おうとする獣助と乱は水を浴びせて炎の消化を試みる。だが炎は消えない、息子の安否が気になる中で炎が弱まっていきその奥に影が見え始めた。不安がよぎる中、遂に炎が晴れて姿が見えようとした時に、そこに居たのは可愛い息子ではなく恐ろしい姿をした龍の姿をした人の姿。

 

「ぅぅっ……これって、もしかして個性、なの?僕の個性……?」

 

自分に遂に個性が使えるようになったのではないか!?使えないことがコンプレックスだった龍牙は思わず、喉を震わせながら笑った。この時まで個性があるのにも拘らず使う事が出来ずにいた龍牙は……笑ったのだ。当然だ、身体機能である筈のもの、走れるはずなのに走れない状況が続けていたのにも拘らず、突然だが走れるようになったに等しい状況、嬉しくなって当然。これでもう仲間外れにされない、両親も喜んでくれると思うと笑いが出た。嬉しさで笑わずにはいられなかったのだ―――その姿のまま。

 

「ヒィッ!!?なんだこれは……悪魔、いや怪物!?」

「ヴィ、ヴィランだ、ヴィランが龍牙をっ……!!」

「ヴィランだ早く通報しろ!!」

 

家族や親戚には突如として目の前に現れた謎のヴィランが不気味に高笑いしているようにしか見えなかった。そして事態は彼にとって最悪な方向へと進み続けていった。プロヒーローである両親からの攻撃、確保のための行動などなど……それらは家族こそ唯一の安らぎとして思っていた龍牙の心を著しく傷つけていった―――だが、その声を一喝する重々しく大気を震わせるような声が風圧と共に駆け巡っていた。

 

「愚か者……貴様ら、神使の家に名を連られる家の者か、恥を知れぃ!!」

 

唐突だった、それは其処に居る全員からしてもあまりにもイレギュラーすぎる事態だった。そこに現れたのは鏡を始めとする分家の源流にして偉大なるオリジン、今も尚世界を影より支え続ける日本が誇る神、天皇へと仕え続ける家の当主、神使 翁の姿があったのであった。

 

「お、お父さん何故ここに!?」

「戯れにて孫への挨拶をするつもりだったが……まさかこのような場へと遭遇するとはな」

「お、御待ち下さいお義父様あれは間違いなくヴィランで……!?」

「―――目まで曇り切ったか。獣助、貴様も老いそして腐臭に塗れたか」

 

一瞥をするとその場にいた全てが金縛りを起こしたかのように動けなくなる中、困惑と失望と絶望の中に沈もうとする龍牙へと足を進めていく翁はそっと、その肩に手をおいた。優しく置かれた手の温かみは黒炎の鎧に包まれていようが伝われる不思議な暖かさ、瞳に光が戻るように顔を上げるとそこには少しだけ微笑んでいる翁がいる。

 

「初見であるな、愛しき孫よ」

「ま、ご……?」

「我は神使 翁、汝の父の父、祖父である」

「お、じいちゃ、ん……?」

 

その時の龍牙の姿はプロヒーローやヒーロー業界にいる人間から見てもヴィランにしか見えないそれだった、それが首を傾げる姿もまるで此方を品定めしつつも、自らの欲求を満たしているようで恐怖を煽るというのに翁は何ともないのかまだ幼い孫の弱弱しい声に心を痛めながらも笑いながら頭を撫でてやる。

 

「愛しき孫、龍牙よ。汝の個性は汝の父が体現出来ずにいる大いなる幻想の頂点、それを身に宿す素晴らしきもの、その場に居合わせる事を心から喜ばしく思う」

「えっお父さん、でも……?」

「汝の個性はその名が示すが如く龍となる個性、龍が如く猛き空へと昇り、天から全てを支配する個性である」

 

例え個性が使えなくても確りと教育自体はされていた為か、言葉の意味を理解している龍牙に翁はいった。お前の個性は素晴らしい物だと、トップヒーローであるビーストマンですら使えない龍の個性を使える事を胸を張っていいと。

 

「―――」

 

その言葉が今の龍牙にとってどれほどまでに有難かった事だろうか、両親だけではなく今まで親しく自分に真摯になってくれていた親戚までが自分の事をヴィランと叫んでいた。ヒーローである両親に憧れていた彼にとってヴィランだと言われる事がどれほどまでに心を抉った事だろうか……だが初めて会う祖父は自分の事を全く怖がらない所か平然と目の前まで来てそっと肩に手を当てる、そして自分の個性を素晴らしいと語りかけた……。

 

「ぅぁ……ぁぁぁぁっっ……」

「泣くが良い、今は唯々泣いてよい。我がそれを受け止めよう」

 

その言葉に従うように、唯々泣き続けてしまった。初めて会う祖父だが龍牙にとっては世界中で一番安心して自分を受け止めてくれる人の懐で年相応の涙を流し続けていた。それを黙って受け入れながら背中を摩りながら頭を撫でる翁に周囲は何も出来ず、沈黙と静止したまま、そして気付けば龍牙は元の姿、いや個性が解除されていた。泣き疲れたのだろう、そしてそんな龍牙を見て改めてその場の全員が本当に龍牙だったという事実を認めた。そして獣助と乱が手を伸ばそうとするが、同時に―――翁の周囲に出現した黒い外套に纏った翁の側近が出現してそれを阻んだ。

 

「あ、アンタらは……!!」

「お義父様の……!!」

『然り、我ら神使の剣、神使の盾。世界を影より守護する無数の腕にして狩人』

 

その側近こそ現代の神使の家が行うべき任務を主に行う精鋭達の中でも最高クラスの力を保持する者達。当主である翁が守護の為に参上したそれらは既に分家の者達へとその刃を、腕を向けていた。

 

『それより一歩より此方へと近づくのであれば我らが刃が心の臓腑を穿つと知れ』

「な、なにを言っているんだ!?分家の私達に何故刃を!?」

「……愚かになった者だな、神使 獣助であった者よ」

 

側近たちの中の一人、外套の奥にまるではめ込まれているかのように付けられている髑髏を模した白色の仮面を付けた男が蔑んだ視線で見つめながら言った。その男の事は獣助はよく知っていた、何故ならば……自分と共に神使の家で育ちながら自分とは違った道を選んだ弟……だがその声色は到底弟が兄へと向ける物などではない。

 

「貴様が選んだのは光の道、そしてその為の鍛錬を積み続けた結果として貴様は英雄としての栄光を掴んだ。その果てにお前は愛する我が子をヴィランと叫んだ、その瞳は随分と濁ったと見える」

「お、お前っ……た、確かに龍牙には済まない事をしたとは思ってる。だが俺達はその子の親だ!!」

「その親に龍牙殿は敵意を向けられ、己の憧れと親愛な親類からヴィランだと叫ばれたのだ。その心中を察せぬほどに鈍くなったとは……神使の分家として情けない」

 

その言葉に全員が言葉に詰まった。突然の事に対する動揺や恐怖は理解出来なくはないが、神使の家にて産まれ光の道を選んだ分家らは無数の鍛錬と多くの経験を積んでいる。それらが何も思考せずにヴィランだと叫んだ、誰もあれが龍牙だという可能性を模索すらしなかった、その果てが龍牙の心を著しく傷付けてしまった現実という結果を生んだ。

 

「愚かな分家らよ、汝らに指し示される道は―――」

「その先は我が語る」

「出過ぎた真似を……申し訳御座いませぬ」

「良い、龍牙は汝からすれば甥。その為の言の峰、汝が抱くが良い」

「―――感謝いたします、当主様……」

 

そっと、寝息を立てる孫を起こさぬように抱き渡される叔父は甥の小さな身体を抱きながらも未だに震えている事に気付いた。涙を流し尽くした末にまだ怯えている、そんな甥を護るように外套の内側に入れながら優しく、だが確りと抱きかかえる。そして翁は出現させた剣を突き刺しながら言葉を作った。

 

「聞け、神使の分家たる光の役目を授かりながらも自ら幼子に大きな闇を植え付けし愚か者達。汝らに神使の分家という役目は過分、よってこの時を以て汝らよりその地位を剥奪するものとする」

『そ、そんなっ……!?』

「光を望み光の使徒として世界を照らす役目は不要。それを望む事すら烏滸がましい」

 

翁の怒りは単純な物ではない、彼は神使の家の役割を恐らく歴代当主の中でも随一と言っていい程の順守している。それは世界を守る為の覚悟にしてその為に身を捧げた男だからこそ、光の役目を担った者達の行動が赦し難かった。

 

「相応しき者を選び汝らを束ねる家の分家とする事とする、不服だと言うのであるならば……自らの力にてそれを払拭するが良い」

 

分家の地位を失うという事は分家にとっては酷く重い処分、一般的には神使の家は認知されていない闇の一族。だがその存在は政府からは認知されており、それを外されるという事は政府との関係を断たれると同時に自分達のブランドや信頼性を失うに等しい事になるのである。政府と提携しているサポート会社の家もあるので、これは洒落にならない処分となる。だが、翁は最低限のパイプだけは残してやる事にした。下手に断ち過ぎると後にヴィランになるかもしれないという可能性が0ではないからである。

 

「そして―――我が孫、龍牙は神使の預かりとしこの時を以て神使 龍牙となる」

「そ、そんなっ……その子は私達の子なんですよ!!?」

「お父さんそんな横暴が許されると……!!」

「学習されませぬな」

「「っ―――!?」」

 

思わず、前へと出てしまった二人。子を持つ親としては当然の反応だったかもしれないが……それは警告に違反する。故にその首筋と心臓の前へと刃が添えられた、あと一歩踏み出せば容赦なく刃が命を奪う事だろう。そしてそれを躊躇する事も無く実行するだろう。唯一、龍牙を抱く叔父はその場を動いていないがその瞳はあからさまな程に失望の色が浮き出ている。

 

「龍牙殿が貴方達といる事はもう正しくない、共に居れば確実にその心は病んでいき闇への誘いを受けてしまう」

「だから、神使の家に行かせる事だった闇の道だろうが!!」

「闇とは心外ですな、我らは影。世界を照らす大いなる光が生み出す影、影の中より闇を見張る狩人。一緒にしないでいただきたいですな……ああ―――言っても理解出来ないのでしょうかね、当主の息子という役目を放り出しどこぞの娘と家を飛び出した面汚しには」

「お前ぇっ!!!」

 

殴り掛かりそうになる獣助を静止したのは当主たる翁の瞳、一睨みでたちまち動けなくなってしまうそれを受けながら刃の冷たさを思い出したかのように舌打ちをしながら静止する。

 

「言葉を慎め、その言葉を掛けるにも値もせぬ者に語る言葉など無用」

「承知致しました」

「この決定は揺るがぬ、自らの愚かさを悔いろ。そして―――何れ落ちるやも知れぬ幽谷の淵に恐れながら生を重ねるが良い」

 

刹那、姿が掻き消える。実の子供であるのにも拘らず、未だ知らぬ翁の力を目の当たりにして獣助は膝を突く。そして―――龍牙が味わったであろう困惑、そして絶望の中で生きていく事になる事に声にもならぬ声を上げた……僅かに心に浮かべた父ならば手心を……という思惑すら意味を成さず、分家の全てはそれを奪われ、新たに作られた家の分家とさせられながら生きていく事となった。

 

―――そして、大きく異なった歴史を生きる事となった黒龍は……神の使いとしての生きていく事となる。




―――詰め込んだら4500突破したぜおい……。

白鳥如何するかなぁ……後ヒロイン如何しようかなこのルート。


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もし、龍牙が祖父に引き取られたら その2

もしも、龍牙が本家である神使の家に引き取られたらのIFルート。


『標的は500m先を高速移動中、確保は不要。排除せよ』

「―――命令承諾、バラウール行動を開始する」

 

闇の帳が降り、漆黒の闇の中の樹海を突き進む男が一人。全身が枝などで傷ついていくのも気が付かない程に必死になって走り続けていた。男はヴィランだった。罪状は強盗、強姦、暴行、殺人、テロと手広く起こってなっていた第一級危険指定ヴィランとして全国指名手配を成されていた超極悪ヴィラン・エレクトロ、そんなヴィランを確保したのは平和の象徴たるオールマイトだった。そしてその男は3度目の脱獄に成功した。

 

「掴まって、たまるか……俺は、もうヴィランなんてやめるんだ……足を洗って、誰にも迷惑を掛けないようにして暮らすんだ……!!」

 

全身から閃光を迸らせながら駆け抜けていくエレクトロ、その個性は高圧電流を自在に放出し操る。故に付けられた名前こそがエレクトロ、だがその稲妻を纏うヴィランは顔いっぱいに恐怖を張り付けながら少しでも遠くへ、一歩でも遠くへと逃れようとしているかのように動き続けている。電気と共に前に進む中、不意に―――辺りが闇に包まれた、自らの電撃で照らしているのにも拘らず闇に閉ざされたそれにエレクトロは錯乱した。

 

「ぁぁ、ぁぁぁっっ……来るな、来るなぁ……頼む、俺りゃもう個性なんて使えなくていい、だから頼む……殺さないでくれ……!!」

 

―――罪深き者、懺悔は意味を成さず既に汝の命運は無、既に晩鐘は汝の名を指し示した。この時を以て……永劫の淵へと焼け堕ちろ。

 

「ぁぁぁぁっっ―――」

 

闇が閃光を飲み込んでいく、闇を照らす光である筈のそれを侵食し消していく。そして闇は遂にエレクトロにまで到達し喚くヴィランを飲み込んでいく。悲鳴すら聞こえない程に包み込まれた闇は瞬時にそれを消してしまい、後には何も残っていなかった。それを見届けた天を舞う黒龍に座する黒い外套の男は静かに報告する。

 

「此方バラウール、任務完了。ヴィランネーム・エレクトロの排除完了」

『了解。帰還せよ』

「バラウール、了解……帰るぞ」

『ゴアアアアァァァッッ!!』

 

黒龍は声を上げるとそのまま空を舞うようにして樹海を後にするように行く、そして黒龍がまた一つ咆哮を上げると眼前に歪んだ龍の紋章の形を模った鏡が出現しその中へと飛び込むように突撃する。鏡の中へと入っていくかのように龍の姿が消えていくと鏡も砕け散って後には何も残らなかった。

 

 

神使一族は遠い昔より神に仕える一族、それは形を変えながらも確かに神に尽くし続けている。政府直轄のヒーロー公安委員会の実働部隊という役目を与えられており、それは闇へと潜む悪へ視線をやりながらも時には確保が失敗されたヴィランの始末をする事。影から世界の平穏を守る彼らの仕事は常に命懸けであり、命を奪い続ける事でもある。

 

決して褒められる事ではないそれらを神使は実行し続ける、それが世界の平穏を守る手段の一つであると許容しながらも自分達の行いが世界を守っている事を理解しているからである。陰と陽、表と裏、表裏一体、何方が欠けてもいけないこの世の中において彼らの仕事は絶対に求められる事、そんな神使の家に平和を守る新たな男が参入した。それは神使 翁が直々に鍛え上げたという存在、その力は圧倒的。

 

天を我が物顔で舞い昇り、あらゆる障害を焼き尽くし、天より悪を見張る龍が如く―――バラウール。

 

 

「やぁっお邪魔してるよ」

 

任務を終えた男に声を掛ける何処か軽薄そうな男、その実は確りとした芯があると分かっている筈なのに如何にもそんな印象を受けてしまう。その男は通称"速すぎる男"№3ヒーローのホークスだった。

 

「ホークス、報告書なら上げたが」

「いや上がってくる物より直接話聞きに来た方が早いからさ」

「……相変わらずだな」

「まあまあそう言うなよ龍牙君」

「その名で呼ぶな、今の俺はバラウールだ」

 

隣に座り込んだバラウールの外套を無理矢理払うようにしつつも肩を組むホークス、その下にあったのは何処かうんざりしているような表情を作っている神使 龍牙の姿。当主への報告も書類を統べて上げたというのにこの男は毎回毎回自分の部屋に話を聞きにやってくる、ある意味自分の同僚とも言える存在ではあるが、如何にもホークスからかなり気に入られてしまっているらしくやや困っている。

 

「エレクトロの脱獄を阻止したの俺だしさ、その責任というか後始末させちゃったようなもんじゃん。だからお詫びを含めてきたんだよ、ほらっお土産に博多いちごフロマージュとパティスリー・ジョルジュマルソーのチーズケーキ・フォンデュ買ってきたから自由に食べてよ」

「はぁっ……」

 

龍牙が神使の家に入ってから既に10年が経過している。龍牙は真の意味で神使の家にはいる事を望み、その為の鍛錬を祖父であり、歴代最強当主と名高い翁に直接指導を受けてきた。その過程で自らの個性に欠けていた黒龍を取り戻し、真の黒龍へと至ったりする過程ではホークスに酷く世話にもなった。その時は祖父と共に前線へと出てオールマイトと共に悪の帝王とも戦った、その末に真の黒龍へとなった。

 

「それで何しに来たんだ」

「親友に会いに来ちゃ駄目だったかい?」

「……駄目じゃないけどさ」

 

本心、だった。祖父の役に立ちたいと思い個性を徹底的に鍛え上げながら異常な肉体改造を行った末に龍牙の身体は16の少年とは思えぬほどに仕上がっていた。ややガタイが小さいオールマイト、と言えばその異常性が分かるだろうか、その過程で本来得るはずだった物を捨てて神使の家に奉仕し続けているその姿は痛々しい。だがそれを癒すように使用人や神使の使徒として活動する者達が支え続けている、それはホークスも同じ。唯一無二の親友というホークスは自称しているが龍牙自身もホークスを絶対的に信頼し慕っている。

 

「ンで高校にはやっぱり通う気0?」

「通って意味がない、それに俺が抜けると問題が起きる」

「起きるならカバーすればいいだけの話、俺が最速でするさ」

「世話は掛けられない」

 

龍牙は高校には通っていない、家にて受けられた学習で既に高等学校卒業資格を取得しているので通う意味を無くしているし本人としても興味すら湧いていない。彼にとって大切なのは神使の家の役割を全うする事、それが結果的に自分の守りたい家族を守る事にも繋がると思い任務をし続けている。だがホークスとしては通うべきだと思っている、だが事実として龍牙に抜けられると辛いのも事実であった。

 

「龍牙も青春に勤しむ年頃なんだからなんかしたらしいじゃん、次期当主って言われてるんだからせめて相手位作ったらどうよ」

「この家の事を許容出来る相手がいるならいいけどな」

「ああまあそれはあるけど、何だったら俺の方で手配して見合いでもする?」

「まだ16だぞ」

「いや今の龍牙を見て16だと思う奴はいない」

 

身長208㎝、体重145kg、そして肉体は筋骨隆々で無駄な脂肪なんて付いていない龍牙を見て誰も未成年なんて思う事は無いだろう。以前食事の際に悪戯で度数がかなり強い酒を黙って飲ませた事があるがケロッととしていたので酒にも相当強いので誰が如何にも成人にしか見えない。

 

「それとホークス、異能解放軍が勢力を伸ばそうとしている情報を掴んだ。以前言っていた潜入はこれに乗じるべきだ」

「おっマジで?いやぁ俺も速すぎる男なんて言われてるけど龍牙も相当早いよね、本当に助かるわ」

「その名で呼ぶな、今の俺はバラウールだ」

「はいはいバラウールバラウール」

 

歪んでいるがその歪みは世界を守る為に彼が全てを承知して飲み込んだ物、それだとしてもホークスは友人として知って欲しいのだ。人としての幸せを、人に愛される事の意味を。神使 龍牙という名はもう殆ど使われない、バラウール、使徒となった際に与えられた名を真の名として名乗り続ける―――だが、自分といる時は使徒ではなく人としてそこにいる。それをもっと表に出して欲しいというのがホークスの願いだった。

 

「んじゃバラウールの好みのタイプってどんな人なん?」

「……考えた事ない」

「え"っマジで?」

「マジで」

「おおう……これは翁さんに言ってちょっとお願いしないとなぁ……重症だ」




このルートのヒロイン、どっすっかなぁ……。


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もし、龍牙が祖父に引き取られたら その3

もしも、龍牙が本家である神使の家に引き取られたらのIFルート。



神使 龍牙、新たな使徒の名は政府からの覚えも良い。何方かと言えば正確無比に仕事をこなす神使に足りない物があるとするならばそれは瞬間的な圧倒的な火力に限られる事になる、それだとしても与えられた任務を失敗した事が無い彼らに寄せられる信頼は絶大、だが当主たる翁の孫の力は圧倒的の一言だった。僅か齢11の時に今の最強形態の基礎を完成させ、その力は№3ヒーローのホークスすら誇張を抜きにして称賛するしかない程。そして彼は進学する事も無く使徒として活動をし続ける、そんな彼に対して政府はとある命を出した。

 

「おいホークス、お前だろ」

「あはっバレた?」

 

手元へとやって来た新たな命令書へと目を通した後に目の前で神使の超一流シェフお手製の鳥尽くしのミートスパゲッティに舌鼓を打ちながらも悪戯成功と言いたげなVサインを送ってくるので仕返しと言わんばかりにミートボールを一個奪ってやる。相変わらずこの家のシェフの腕前は最高、ランチラッシュ以上という自負は伊達ではない。命令書にあったのは―――

 

【ヴィラン襲撃を受けた雄英高校に短期間への強化指導員として赴任】

 

という者が書かれていた。一応拒否する事も可能で命令書というよりも意見書というニュアンスが強い内容になっている。かのヒーロー科最高峰の雄英がヴィラン連合という集団によって殴り込みを受けた事件は記憶に新しい、そこに赴任するという事はそこでの情報収集とヴィランの襲撃を生き延びたヒーロー候補生たちの底上げを目的にする事になるのだが、それなら暗部である自分がする意味はない。実績も人気もあるプロヒーローにさせる方が良いだろうに、主に目の前にいる№3ヒーローがやっても良い事……そしてこんなものが自分に来たのも目の前のこれが要らんお節介を回したのだろう。

 

「態々俺が行く意味がない、他のプロヒーローに生かせた方が十二分に合理的だ」

「いやいやいや、改めてそこで対ヴィランに特化した授業をする為にヴィランの恐ろしさや厄介さを承知している人間が適切なんだよ。追い込まれたヴィランの真の恐ろしさ、そしてそれらを抑え込んで闇に葬る力を秘めた人間が必要でね、それに雄英には№2のエンデヴァーさんの息子さんもいるらしくし上になんか問題児もいるらしいから矯正してあげるべきらしいよベストジーニスト曰く」

「自分でやれ」

 

様々な言葉に誘導やら説得をするホークスだが内部に鉄の芯が入っているかのごとく揺らぐ事のない親友に思わずため息をついてしまう。彼の事を深くまで理解しているが強情で融通が利かないのは美点ではあるが欠点でもあると思わずにはいられない……これだから黒龍を取り戻した時に悪の帝王からの誘惑を受けなかった訳だが……。

 

「だって君、魅力的な女性に全く反応しないじゃん。下手したら神使の家断絶だよ」

「他にも血筋あるからそれは無い」

「だからってこの前の特殊任務でミッドナイトの全裸一歩手前を目の当たりにして眉一つ動かさないと流石に心配になるんだよ俺としても」

 

別段魅力を感じないわけではないが、それで揺らぐような精神を持ち合わせていないだけでしかない。加えて使徒として動く上で女性ヴィランも相手にしてきた。中には絶世の美女や傾国の美女というべき存在もいた上に相手を魅了して虜にしてしまう個性持ちもいた、だがそれすら跳ね除けてしまう頑強な精神で相手を殺してきた。故か、女性に対する興味などはハッキリ言って皆無に近い。

 

「何なら政略結婚でも構わない、その場合は抱きもするし子供だって拵えてやる。それで十分だろ」

「いやまあ……」

 

スパゲッティを食べつつも改めて本当にこれが16の少年なのかと疑いを持ってしまう、彼の過去を知っているが血縁によって歪められた生き方をする彼は本当に人間なのかと思いたくなる。あのオールマイトですら多少なりとも女性に関するニュースはある、と言ってもファン対応をした程度での内容だが……龍牙の場合はそれすらない。もしかしたら使徒の女性メンバーと良い仲なのか?とも思って、翁に最も信頼されている使徒に尋ねてみたが……

 

『いえバラウール、いや龍牙殿が誰かと好き合っているという話はありませんな。龍牙殿を好ましく思う者は少なからずいるのですが……我らは神使の使徒として徹する、それらがと共に愛し合う事は任務の失敗を招きかねませんから皆自重して叶えようとはしないでしょう。故に使徒は外の者と恋愛をしますが……彼は誰ともそう言った事になる気が無いようですね』

 

任務中の失敗、使徒らは基本的に単独ではなく集にて任務に挑む。それは個が不備を起こしても他がそれを補い達成する為。だがそれは時にして全体で挑まなければならない時が来る、その時に互いを愛しあっていた場合、何方がか危機に陥った場合にそちらを優先するかもしれない、使徒にとって絶対なのは任務の成功にも拘らず。故にそれは禁じられている。他にも女性使徒にも話を聞くが酷く好意的な意見だが……使徒らしく禁欲的でホークス的には不満な答えであった。

 

「影に生きる者としては見ておく必要があるんじゃないのかな、これからの光を担う子供たちをさ。影から見た光って奴を定められるって言うのは貴重な機会だと思うけど」

「……そこまで俺を雄英に行かせたいか」

「勿論。俺の親友が中卒とか嫌だし」

「中卒じゃない、高卒資格は所有している」

「実際通ってねぇじゃん」

 

と軽く喧嘩腰になって会話が進んでいく、これはこれで良い傾向だと思いつつもそれを進めていくホークス。政府としても自分の龍牙に青春を楽しませてやりたいという意見は理解を得られている、何せ自分達の不甲斐なさの尻拭いを16の少年が自分の全てを擲ち、平和の奉仕しているのだから何も言えなくなるのである。だから使徒である彼に少しでも高校生活を感じて貰う為にこのような形の命令書を出したという訳である。

 

「全くもう分からず屋だな龍牙はぁ……」

「その名で呼ぶな、今の俺はバラウールだ」

「はいはいもう何度も聞いて耳にタコだわ。だが敢えて言おう、龍牙、俺は君の親友として言う。君は平和を味わうべきだ、その平和の味を知らずに平和を守るなんて絶対に出来ないさ、俺が保証する。そしてそれを知って感じて誰かを愛した時、君はもっと強くなる」

「詭弁だな、相変わらず口が軽い上に口が上手い奴だ」

 

そう言いながらバラウールは改めて命令書へと目をやる、詭弁だと言いつつもその意見にも一理あると思っている自分がいるのである。平和を知る事、自分が知っていた平和は所詮偽物、いや本物であったはずだが個性が発動した時を以て虚構であったと認識してしまった。改めて本当の平和という物を知ってそれを守る為に命を賭している事を知る事も悪くはないのではないか……と思い始めた。そして溜息混じりに命令書を閉じながら懐にしまった。

 

「おっ受けてくれんの!?」

「……妹がそこに通っている事を思い出した、それに会いに行くだけだ」

「いやいやいやそれでも十分!!流石龍牙話が分かるぅ~!!」

「但しお前も道連れ」

「いいよ~予想通りだしその位お安い御用」

「……一応聞くがあれらは」

「今ん所真面目らしいよ、監視も全く緩められてないし妹さんも変な事吹き込まれてないし寧ろお兄ちゃんに会いたすぎてブラコン拗らせるとか」




逆に考えるんだ、ヒロインが居ないなら妹を超絶ブラコンにしちまえばいいと。

今日、夢の中でジョースター卿がこんな事言ってた。思いつかなければもうこの案でいいんじゃねぇかなと思ってます。


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もし、龍牙が祖父に引き取られたら その4

もしも、龍牙が本家である神使の家に引き取られたらのIFルート。


「やぁっ神使 龍牙君!あの時以来かな、その節は本当にお世話になったよね。改めてお礼を言わせて貰うよ!!」

「お気になさらず」

 

ホークスの粘り強く詭弁のような説得によって渋々承諾するように雄英への赴任を受け入れた龍牙はその条件として提示したホークスの同行と共に雄英を訪れていた。手始めに校長先生への挨拶をしているのだが、校長である根津は溢れんばかりの感謝の気持ちを示そうとなっているのがホークスからも理解出来た。

 

「いやいや君はそう言うけどあの一軒でオールマイトは致命傷を避けられたと言っても過言じゃないんだ、彼も酷く感謝していた君には何度もお礼を言おうとしていたんだけど神使の家の特殊性を考慮して今まで止めていたのさ。君の家の言い方を借りるならば世界を照らす大いなる光であるオールマイトの感謝を受け取ってあげてくれないかな」

「……」

「ハハハッいいじゃない龍牙、受け取れよ。君の仕事なんてハッキリ言って公に評価される事でもないし誰かにお礼を言われる事なんて滅多ない事柄だ、その一環で感謝されるなんてレアだし感謝するのがあのオールマイトだよ、受け取れないなんて選択肢はなしでしょ」

「うるさいホークス……分かりました、そこまで言うならば受け取りましょう。ですから部屋の前で待機している方を早く呼んでください」

「私がぁぁぁぁっ~……呼ばれたので来たぁぁぁぁっっ!!」

 

流れるようなテンポで登場したのはホークスの二つ上、全世界が認めるスーパーヒーロー、平和の象徴と言われるオールマイト。改めて凄い体格をしているがそれに拮抗するかのような身体つきをしている龍牙は一体どうなっているのだろうかと内心で思うホークスであった。それにこんな大男が応接室前で待機していた目立つだろうに。

 

「おおっホークスじゃないか!!君も来ていたんだね、校長先生の話では龍牙少年だけが来ると聞いていたが」

「どーもどーも、この分からず屋が来る条件として俺も偶に雄英に顔出す事になったので宜しくオナシャス」

「HAHAHAこちらこそよろしくお願いしたいね!!私も此処で教師をやっているがまだまだ新米だからね、君からも色々意見が貰えると助かるよ!!」

「まさか№1ヒーローに意見を言う立場になれるとは、案外こいつに付いてきて正解でしたよ」

 

握手をしながら思わぬ体験をして素直に嬉しそうにしているホークス、そしてオールマイトは龍牙を前にしてその手を取って握ると万感の思いを込めるかのようにしながら感謝の気持ちを吐露した。

 

「龍牙少年、私は君に助けられた。あの時の君とホークスの魂の一撃で反らされた奴の攻撃、あれをまともに受けていたら今の私はきっともっとひどい状態だったに違いない、君のお陰で私は―――いや、兎に角本当にありがとう!!」

 

言いたい言葉はいっぱいあった、もしも彼に会えたのならば聞いて欲しい言葉を幾つも考えていた、今日この時の事を聞いたから前夜に至るまで考え続けていた。だがそんな言葉はきっと不相応、彼からしたら任務の一環として祖父である神使 翁と共に悪の帝王の討伐へと出向いた際に奪われていた自分の個性を取り戻し、その時に放てる最強の一撃を親友と共に放っただけに過ぎない、ならば飾り気の無い言葉が一番相応しい。それを受けたバラウールは目を白黒させつつも、それを咀嚼するように瞳を閉じる。

 

 

―――兎に角ありがとう!!

 

 

感触を味わい、香りを楽しみ、味を感じ、咀嚼し味わい尽くしたと言わんばかりに飲み込んだ言葉は酷く甘美で価値のある言葉だった。この言葉の意味を知れただけでこの雄英に来た価値があったと思えるほどの物だった、この感謝も使徒として活動し続ける意味でもある。

 

「受け取りましょう」

「うむ是非受け取ってくれたまえ!!」

「嬉しそうにしちゃってまぁ……こりゃやっぱりヒーロー向きな性格だったな龍牙ってば」

 

からかうような言葉を掛ける親友に対してその名で呼ぶなと再三問いかける彼の表情はオールマイトと根津から見ても全く変化しない鉄仮面、それでもホークスだからこそ読み取れる感情の変化は確りと感謝のそれを喜んでいるらしい。

 

「それで神使君、いやバラウール君と呼んだ方が良いみたいだね」

「是非そうしてください、俺にとっては既に其方が真名です」

「おっとそれでは私も気を付けないとな……」

「そうですね~オールマイトは特におっちょこちょいな所ありますからね~」

「HAHAHAホークスに言われると痛いなぁ~」

 

話は直ぐにバラウールが務める事になる強化指導員としての内容へと移り行く、単純に一部授業内容を変更をするだけではなく専用の教科を一部持つ事で使徒として果たしてきた役目を彼らにも伝えていくつもりで根津は考えている。今回のヴィランの殴り込むで改めてヒーローは命懸けの仕事である事を認識した、更にその先に行かせようとしている。

 

「君さえよければ新しく君の編入を許可しても良いんだよ、君の年齢を考えれば高校に通うなんて可笑しくもなんともないからね!!」

「……えっちょっとお待ちください校長、龍牙少年は高校生である筈の年齢なのですか!?だって私とほぼ変わりないですよ!?あの時だって既に少年の身長はホークスと同じぐらいありましたが!?」

「今彼は16歳なのサ!!」

「OH MY GOD!!?」

 

今日一番の驚きの声を上げてしまうオールマイト、余りの衝撃に軽く腰を抜かしている平和の象徴にバラウールは思わずホークスに尋ねる。自分はそんなに老けてみるのかと。

 

「いや老けて見えるっつうかさ、異形型でもないのにその見た目で高校生には見えない。筋骨隆々の大男が流石に16の子供とはみられない」

「いやマジでビビった……っここ数年で一番ビビったかも!!マジで16なの!?」

「はい、10年前に神使に入りました」

「WOW……」

 

思わずアメリカンが全開になってしまうオールマイトを横に置きながら根津はそれを聞いて、平和の中で自分達も光になろうとしている子供たちを育てているこの瞬間を作り上げている一端を担う存在となった若人に複雑な面持ちを浮かべてしまった。僅か6歳で神使の家で使徒として育てられた、しかもそれを彼は望んで上で今の立場にある。影から平和を守る平和の使徒、その果てが平和を守りながらも平和の味を理解しない哀れな少年。だからこそホークスは無理を言ってこの雄英に連れてきたのだろう。

 

「ああっそうだ忘れるところだったよ、バラウール君には妹さんがいるだったね」

「えっいるの!?」

「ええ、鏡という姓です」

「ああっ鏡少女か、あの子が君の妹さんなの!?」

「らしいっすよ、俺も直接会った事は無いですけどマジで兄妹らしいです。諸事情でずっと会ってないらしいですけど」

「大丈夫さ―――実はもう呼んでるのサ!!」

「「えっ?」」

 

思わずオールマイトとホークスの間抜けな声が響いた、直後に校長室の扉をノックする音が響いた。

 

『鏡 白鳥です、先生に言われて来ました』

「えっ校長先生まさかここまで読んで!?」

「この位お茶を淹れるより簡単だよ」

「いやマジで凄いですよそれ」

「まあまあ、入っていいよ」

「失礼します」

 

そう言って部屋の中に入って来たのは幼い頃を最後にもう会う事も無くなり、今の姿すら見た事も見せた事も無い関係性に落ちてしまった兄と妹。幼い頃よりもずっと美しく可憐に成長した妹はきっと誰もが羨望の眼差しを向ける事だろう、客観的に見ても魅力的な女性だと彼自身もそう思った。そんな少女は―――自分を視界に捉えると目を見開きながら……確かめるようにつぶやいた。

 

「お兄、ちゃん……?」

「っ……白鳥、お前……」

「お兄ちゃんッッ!!!」

 

なんでわかるんだと聞くよりも先に白鳥は駆け出していた、そして大きくなった龍牙の腹部に顔を埋めるようになりながらも必死に外套の奥になる身体を抱きしめるように縋った。大粒の涙を流しながらも兄の名を何度も何度も呼びながらそこに確かに存在している兄に、喜びを込めた言葉を送り続ける。10年という月日は無慈悲な程に自分達を引き裂き、互いが分からぬほどに歪めたというのに……白鳥は龍牙の事を分かった。それに応えるように―――

 

「背、伸びたな……元気か白鳥」

「うん、うんうんっ……!!」

 

精一杯兄らしい言葉をかけてやる、それが本当に精一杯だった。そして彼女が泣き止むまでそのままだった、だったのだが……。

 

「……」

「あ、あのぉ……鏡少女?」

「(ヒシッ)何ですかオールマイト先生?」

「いや何じゃなくて君は何時までお兄さんに抱き付いているのかなと……」

 

ホークスが依然チラッと言っていたように白鳥は龍牙に対する思いを相当に拗らせていた、両親に問ってもまともな兄に関する答えは返ってこず、唯々悶々とした日々を過ごした結果……元々兄が大好きだった白鳥は―――超絶なブラコン少女と化した。

 

「妹が兄に抱き付くのは変じゃないと思います」

「いやまあそうかもしれないけど……」

「僕は微笑ましくていいとは思うけど……」

「ならいいですよね、ねっお兄ちゃん♪私幸せ♪」

「……そうか」

「―――っ……!!」

「おいトリ、てめぇ言いたい事があるならハッキリ言え」

「アハハハハハハハアハハハハッッッ!!!こ、これをは笑わずにはいられないよ、あの龍牙が超困惑してんだもん笑うなって方が無理ぃィィぃ!!!!ダァハハハハハハハ!!!!」

「黙れトリィッ!!!」

「お兄ちゃんホークスに構わないで私に構ってください!!」

「ほらほらお兄ちゃん妹さんからお願いが来てますよぉ~?」

「……殺す!!」




恐らく、次回辺りで終了かなぁ……。


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龍牙の異世界探訪記:パート1

全てはある日突然に。


余りにも唐突にそれは現れた事だった、インターン中の最中に龍牙はヴィランが炎系の個性で相性が最悪なので圧倒されたヴェノムに強制的に一体化をさせられた。久々の一体化に龍牙は溜息を吐きながらも己の鎧で炎が完全無効化されている事に自分を嬲っていたヴィランが劣勢に追い込まれている事に大笑いするヴェノムを諫めつつ、最後の一撃を加えた直後であった。増援のヴィランに不思議な光を浴びせ掛けられた、その光を掛けたヴィランはリューキュウが即座に捕縛したので問題は起きなかった―――筈だった。

 

「力が、入らな……」

 

龍牙の全身から力が抜けた、目も眩み思考が出来なくなった。倒れ伏した感覚の直後に意識はすぐさまに覚醒した。それはヴェノムも同じなのが叱責を食らいながら立て直すとそこには―――なんと戦闘態勢を取っているマッスルフォームのオールマイト、雄英の教師の方々が此方を見つめていたのである。

 

「え、ええっまって何これ夢のなの。何でオールマイトマッスルフォームを……!?」

「な、何故その名前を、マッスルフォームの事を知っているんだ君は!?」

『おいおいなんか面倒な事になってねぇかこれ……』

 

ヴェノムの言葉通り、非常に面倒な事になっていた。

 

 

「……俄かには信じられんがこの仮免許も日付こそ未来だが間違いなく本物だな、この生徒証もな」

「でもあり得るのか、この子が雄英(ウチ)の生徒で全く別の世界から着ているというのは……」

 

雄英の応接室、龍牙的に既に慣れた場ではあるがそこでは自分はソファに拘束具付きで座らせている。今の自分の状況は雄英への不法侵入者という事になっている、ならばその扱いには納得しなければいけない……何故ならばこの世界は明らかに自分がいる世界ではない。言うなれば平行世界なのだから。目の前では相澤とブラドキングが提出した身分証明になる物の見分を行っている。そんな時に応接室の扉が開きそこから影が入ってくる、それを見た時思わず龍牙は腰を浮かしてしまった。それに相澤とブラドキングが武器を向けそうになるが龍牙の表情を見ていた影、ミッドナイトとオールマイト(マッスルフォーム)を伴った根津は手でそれを止める。

 

「やぁっ君が異世界からの来訪者の黒鏡君だね!知ってるかもしれないけど雄英の校長さっ!!」

 

聞きなれた言葉に全く同じ声色、それが彼の心を癒す傍らで黒鏡君という他人行儀な呼び方が龍牙を沈ませる。頷きながら座り直す、二人は龍牙の変貌に驚きつつも再度警戒に移る。この世界は違うんだと改めて思い知らされる。

 

「調べさせてもらったけど間違いなくその仮免許証も生徒証も確実に正式発効された物と同じ、つまり本物って事だね。君はどうやってこれを手に入れたのかは聞くまでもないだろうね、元の世界で正当な手続きを踏んで入手しただろう」

「……ええ。そうです」

「ねえ貴方、如何したのそんなに落ち込んじゃって」

 

あからさまなまでに気落ちしている龍牙へとミッドナイトが声を掛ける、だがそれが余計に心を沈ませる。大好きな姉までもが全く違う人間だと思い知らされる、これがヴィランが作り出した虚像の世界だとしても自分にとってこの世界は何処までも残酷で厳しい世界だ。

 

「―――俺にとっては此処は過去でもあり別の世界でもある、それだけです。誰も俺を知らなくて孤独な世界、虚無と変わらねぇな……」

 

自傷するかのように呟いた言葉に根津は何かを察した、もしかしたら自分やミッドナイトは彼にとって非常に親しく家族のような暖かな関係にあったのではと。だとしたらその言葉は確かに彼にとっての今の現状を的確に表す言葉だと理解した上でどれだけ今が辛いのかを理解するには十分過ぎる材料となった。そこから根津たちは龍牙の事を少しずつ、聞いていく。彼がどんな世界で生きてきたのか、そして―――彼にとって根津とミッドナイトがどんな人なのかも。

 

「成程……知らなかったとはいえ僕は息子に酷い事を言ってしまったんだね、ごめんね龍牙」

「そう呼んで貰えるだけで大分救われます……まあ師匠は無理でしょうが」

「うぅぅぅぅっっ……私は、私はこんなにいい弟を傷付けちゃうなんてぇぇ……」

「ミ、ミッドナイトハンカチ使うかい?」

 

龍牙が話してきた人生の旅路、それを聞いた彼らは彼に同情を、尊敬を、様々な感情を向けた。それはオールマイトも同じくだった、彼の言葉を疑う物などこの場にはいない。何故ならばオールマイトの真実や彼の個性に関する事も……その部分は上手く暈かして後継者を探し、検討を付け育てようとしているとしてくれた。

 

『んでこれから龍牙は如何なんだ』

 

話が進まないのでそうヴェノムが尋ねると身柄については雄英、根津自身が保証してくれる事になり取り合えず何とかなる事にはなった。

 

「黒鏡、お前はA組の所属だって言ってたな」

「はい相澤先生、個性把握テストを初日にやりましたよ」

「……お前の事は疑っていない、それで校長こいつの事ですが―――俺のクラスの副担任って事にしてくれませんか」

「ほう、それは面白そうだね」

 

龍牙から齎された様々な情報、それは異世界での事ではあるがこの世界でも適応される可能性は極めて高い。神野での事件やUSJ襲撃、それらを基に根津は対策を立てるつもりではいるが完璧に適応されるとは限らずズレる事も考えられる。その為の対策に龍牙にも協力して欲しい、との事。幸いな事に仮免許もありギャングオルカの弟子という事も実力は十二分にあると思われる。

 

「よし龍牙、君は今日からこの雄英の新しい教員だ。頑張ろうね」

「……はいぃっ!?」

『あ~まさか過ぎるだろこの展開』




まさかの原作編、唯そこでバトルのも芸がないので教員としての参加。
ちょっと長めに続くかも、不定期でやっていきます。


活動報告にて番外編の募集をしてますのでお時間があれば覗いてみてください。
↓こちらから飛べますのでご利用ください。


https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=239485&uid=11127


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龍牙の異世界探訪記:パート2

思わぬ事象によって夢か現か分からぬ世界へと飛ばされてしまった龍牙とヴェノム、そこは自分がいた世界と酷く似ているが異なる世界だった。その世界は自分がいない世界で自分が雄英に入学する1年ほど前だった、そんな彼は雄英の教員の一人として働いていた。気付けば教員としての仕事にも随分となれていた。

 

「相澤先生、此方の書類全部終わりました」

「結構、お前が優秀で非常に助かる。俺の苦手な方面を纏めて処理して貰えるからな」

「逆に時間がかかる俺の仕事を先生に処理して貰った方が合理的で美しいですからね、それじゃあ―――この後は教室ですか」

「ああ、お前だけで良い気もするが一応な……」

 

元の世界では自分が所属していたクラスの副担任として勤める事になってしまった事へは多少の抵抗こそあったが何とか許容する事にした。元々背が高い上にガタイも良い事が幸いした事と顔の傷もあって同年代には見えにくいから問題は無いだろうと相澤に投げやりに言われてしまい、ヴェノムに笑われる事になった。因みにヴェノムは雄英のセキュリティスタッフ扱いで、専用の待機室でチョコをお茶請けに待機している。

 

「お前、あの子は良くなったのか」

「多少ですね……少しずつ、前に進もうとしてます」

「そうか……何かあればすぐに言えよ、安定しているとは思うが」

「はい」

 

龍牙はこの世界にて何処までが自分と世界と同じなのか、という事を酷く警戒していた。何処まで同じなのか、既に自分が体験したり知っていたりした事件に対して先手を打って良いのか……という点である。そもそもがこの世界が本当の並行世界なのかそれともヴィランの個性によって自分が見ている夢なのか、それすらわからない状況なので下手に動くのは危険という考えもあった。それでも個人的にやっておきたい事だけは確りとこなした、それは確かだった。

 

「ちっ、煩いもんだ」

 

と流石に自分の時とは違って寝袋には入らずにいる相澤はA組の目の前までくると教室内から聞こえてくる喧騒を聞いて舌打ちをしてしまった。あの時もこんな感じだったのかなぁと思いつつもこの世界では入手困難であろう戦兎製のサングラスを掛けながら開け放たれて視界に広がった1年振りに見る友人たちに頬が緩みそうになるのを引き締めた。サングラスを掛けて正解だったと思っていると、飲料ゼリーを飲み込んだ相澤が自分の時も聞いた言葉を口にする。

 

「ハイ、静かになるまで八秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠けるね」

 

相澤の言葉運びにああそうだこれこれ、と内心で何故かウキウキと閉まっている自分がいる。何が楽しくて面白いのか分からないが何故か酷く面白く感じられている。体操服を押し付けるようにして一方的に体操服に着替えてグラウンドに出るように指示を飛ばしてくる、当時は自分も驚いたものだと思っていると相澤はさっさと立ち去っていく。自分もその後を追うかと思っていると背後から一人の少女が声を掛ける。

 

「あ、あの……副担任の先生、ですか……?」

 

鈴のように綺麗で、可憐で、何時までも聞いていたくなるような声が、聞こえてきた。振り返ればそこには透明な四肢に瞳に映らない身体、そして何故か自分には認識出来る少し困っているような不安そうな表情を向けている少女―――葉隠 透がそこにいた―――龍牙はそれを必死に押し殺しながら、答える。

 

「ああ、そんな所」

「あっ良かったあっ……スーツだけどサングラス掛けてるからどうしたらいいのかなって不安になっちゃって……それでその、えっと、私達ってどうすればいいんですか?入学式とかあると思うんですけど……でも担任の先生に従った方が良いんですか?」

 

余りにも不安そうな声に思わず頭を撫でて落ち着かせたくなる、如何やら自分の中の彼女というにはとんでもない重要な人だったらしい。それを自覚するとこれではピクシーさんに会ったらどうなるのだろうと僅かな不安が過るのであった。

 

「さてね、唯一つだけ助言をさせて貰うよ―――君たちはヒーローになりに来たんだろ、だったらその過程は既にスタートしてるって事を自覚した方が良い。何故ならば雄英はフリーダムだからねぇ」

 

そう言い残して龍牙はそれじゃあと去っていく。教室では自分の言葉を聞いて慌ただしく着替え始めている音が聞こえてくるのであった。あれでも十二分に通じる事だろう、そして知るだろう―――この雄英がどれだけ非常識なレベルで自由で破天荒なのかを。そしてグラウンドで相澤に合流しながら待っていると話を振られた。

 

「お前の時も俺は同じだったか」

「全く同じでしたよ、その時は俺が首席でしたから最初にソフトボール投げやりました」

「成程な……世界が違えど同じか」

 

そしてそれを知る事になるのは龍牙も同じだった、いやそれはそれで初見あろう……雄英の校風は教員同士にも適応されるという事を……。個性把握テストも恙無く進行し最後まで進攻した時だった。そこで相澤が突然、龍牙に話を振った。

 

「さて、皆も順位を確認したようだしこれにて終わり、と言いたいところだが本番はここからだ。こいつの事だ」

「こいつて……まあいい、そこの透明の美人さんとは話したね」

 

と意識して本来の自分とは違うキャラを混ぜて口調を変えてみる、尚、意識しているのは戦兎だったりする。

 

「1年A組の副担任をする事になってる、黒鏡 龍牙だ。これでも一応プロヒーローだ、ヒーローネームはドラゴンライダー・リュウガ、好きなように呼んでくれ」

 

そして龍牙は仮免しか保有していなかったのだがその実力を根津とオールマイトに披露した結果、活動するにあたってプロの資格に値するという事でプロ資格を取得できた。因みにプロ資格を取る際にまたオールマイトと戦う事になった時には思わずうわっまた……と声を漏らしてしまった。

 

「そして君達にはこれからプロヒーローの凄さを実感して貰う、誰でもいい。こいつと戦いたい奴は前に出てこい」

「え"っちょっと相澤先生……」

「言っただろ、雄英の校風は自由だとな」

「それって教員にも適応していいんですか……はぁっまあいいですけど」

 

そう言いつつもビルドドライバーを装着しながら懐から飛び出したドラゴンにボトルを装填して構えを取った。

 

WAKE UP BURNING ! GET BLACK DRAGON !! YEAH!!〉

 

 

黒炎の渦を破るかのように登場した黒龍の戦士に思わずA組の皆は驚愕と恐怖を面に出すが直後に聞こえてきた龍牙の明るい声にそれは中和された。そして次に沸き上がったのは―――

 

「さあ誰か始まる、誰からでもいいぞ―――掛かって来いヒーロー志望」

 

歓喜と好戦的な笑みだった。



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龍牙の異世界探訪記:パート3

「さあ誰から始まる、誰からでもいいぞ―――掛かって来いヒーロー志望」

 

リュウガとしての側面になった龍牙。凶悪なヴィランという風貌である筈なのにその内面が気さくで柔らかな言葉遣いをするからこそだろうか、恐怖に感じる事は薄く、それよりもプロヒーローにいきなり手合わせして貰えるという喜び満ち満ちている。これを喜ばずして何に喜べというのだろうか。

 

「いきなりプロヒーローと戦えるのか!!流石雄英!!」

「これは、一流の力をこの目に焼き付ける千載一遇の機会ですわね!」

「是非ともプロのお力を目に焼き付けさせていただきたい!!」

「ずっと試したかったことがあるんだよなぁ!!」

「いやでも怖くね!?本当にヒーローかよ!?」

「うんそこのグレープヘッド黙ろうか、次言ったら除籍するからな」

「理不尽すぎる!?」

 

既に気にしていないし諦めているに近いが出来れば触れて欲しくない事だってあるのである、それに相澤のようにいきなり除籍せずに警告で済ませているのだから十二分に優しいだろうと思っている龍牙は相澤の指導方針に大分染まっているのだと自覚する。

 

「さてそれじゃあルールは如何するかな……よし、それじゃあこいつだ」

 

手合わせをするのならばルールを決めておく必要がある、それならば勝利の判定を決めておくのも良いだろう。至極簡単なルール、自分に膝を突かせるか倒れ伏せさせる事が出来たのならば生徒達の勝利。逆に龍牙は生徒達を10秒ほど組み伏せた状態を維持して勝利とする事にする。

 

「しかし先生、それでは先生がかなり不利になるのではないでしょうか!?」

「一見すればそう見えるかもな、だからここで一つ言っておくぞ―――俺は強いぞ、オールマイト相手でもそれなりに戦えるとだけ言っておく」

『オールマイト相手に!?』

「それに関しては本当だ、つい先日に手合わせをしたらしい。終わった後オールマイトに、お前がヴィランはじゃなくて本当に良かったって言わせたらしい」

 

それは龍牙がプロライセンスを得る為にオールマイトとの戦った際の事、それを相澤は見ていないがオールマイトと根津からそう聞いて龍牙の強さの証明とした。そして出来る事ならばそれをまじか見て見たいというのが素直な感想だった。それに生徒達は驚きながらも素直に闘志を燃やしていく。

 

「流石にオールマイト相手だと流石に勝つ事はきついが、真に迫る事は出来る―――さあ誰でもいいぞ。掛かってきな、後輩共」

 

 

「やっ龍牙先生、仕事には慣れたかい?」

「これでも師匠たちに色んな事を仕込まれてますからね、インターンでも事務仕事とか一杯やってたんで特段問題はありませんよ」

 

初日の日程も無事に終了した龍牙は教師としての仕事を片付けているとトゥルーフォームのオールマイトが声を掛けてくる。教師陣は承知の事実だが、当然龍牙もそれについては知っているので問題なく触れている。

 

「相澤君から聞いたよ、いきなりみんなと戦ったらしいじゃないか」

「皆じゃないですよ、緑谷以外ですよ。あいつは此処でも怪我すんのかって溜息出ましたよ」

「ハハハッ如何やら君の世界でも同じだったらしいね」

 

個性把握テスト後の手合わせ、という名の一方的な蹂躙。入学当初の彼らでは龍牙の膝を曲げるどころか衝撃で後ろに引かせる事すら出来ない程の実力差があった。それらを一人一人に体感させつつも心が折れない程度に手心を入れながら相手をしてやったつもりである。流石に師であるギャングオルカのような事はしない、やったら別の意味で除籍扱いになる生徒が急増する。

 

「それと覗いてましたね、主に緑谷に注視して」

「き、気付いてたのかい!?」

「相澤先生もきっとでしょうけど、こっちから見てたらバレバレでしたよ。オールマイト、自分が目立つ事を理解した方が良いですよ」

「いやぁ参ったなぁ……」

 

きっと自分がテストをしていた時もオールマイトは見ていたのだろう、彼の目的は自分の個性を受け継いだ緑谷の事を心配してだろう。だが遠目から見ているとガタイが良いオールマイトは目立ってしょうがなかった。

 

「それで書類整理が終わったらもう帰宅かい?」

「ええ、家には待ってる子もいるんで」

「そうか……あの子はどんな様子かな」

「良い方向に向かっている、と思いますよ。幸い救出が早かったのが助かった……オールマイトの協力のお陰ですよ」

「私は何もしてないさ、君の情報があったからこそだよ」

 

この世界にとって龍牙は完全な部外者だ、本来は干渉すべきではないかもしれないがそれでも彼はヒーローだ。行動せずにはいられない事も多くある、それでも如何するべきなのかは慎重に考えていく必要があるとヴェノムとの協議で決めた上に根津からも自分の知識に頼り切るのは拙いので必要になったら聞くという事に落ち着いている。そしてそれを決めた直後に龍牙はオールマイトに頭を下げて行動を起こした。

 

「俺が行動を起こす事がこの世界の為にはならない……校長から言われた時は少し堪えましたが……それでも救いたい命があった。それがあの子、そして……あの人」

「それに関しては本当にお礼を言わせて貰いたい、まさかそのような未来が待っていたと思うとゾッとするよ……お陰で私は仲直りが少し出来たからね」

「しようと思えばずっと出来たんですよオールマイト、今日だって一緒に飲みに行くんでしょ。仲直りの証に、俺にもお礼のメールが来てますよ。ちゃんと行ってあげてくださいよ」

「分かっているよ、君がくれた機会だからね」

 

そんな会話をしつつも副担任として仕事を終わらせるとオールマイトに別れを告げて、根津が紹介してくれた雄英近くの一軒家へと足を踏み入れる。此処がこの世界での自分の住居であり、守るべき者が待つ家なのである。鍵を開けて入るとリビング辺りから中々に楽しそうな声が聞こえてくる。

 

「ただいま、随分と楽しそうだね」

「あっお帰りなさい、えっとドラゴンさんと遊んでたの」

「そうかそうか、悪いな」

 

そんな風に問いかける言葉の先にいるのはピンクと赤で塗装されている自身のドラゴンを模して造られた小さなロボット。自分の世界にてそれを与えてくれた人はこの世界には残念ながら存在しない、故に根津に頼んで有数の科学者に作って貰った子守ロボ。それでも十分なのだ、一人の少女の笑顔を作って一緒に過ごしてくれる家族としては。

 

「寂しくなかったかい」

「ううん大丈夫。お昼まではヴェノムさんが居たから」

「そうか、あいつ今日は夜勤だからな。よし、それじゃあ今日はハンバーグにしちゃおうか。チーズ入りが良いかな」

「チーズ入り……大好き!」

 

と少々控えめながらも嬉しそうにしている少女を抱き上げて、冷蔵庫の中を見て一緒に献立を決めていく。

 

「それじゃあデザートはリンゴのシャーベットでいいかな」

「リンゴ……やったっ♪」

「よしよし―――それじゃあお手伝いしてくれるかな、壊理ちゃん」

「うん」



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本編
始まりの黒龍


世界総人口の八割が"個性"と呼ばれる不思議な特殊能力である力を持つ超人社会。ある時、中国で光り輝く赤ん坊が生まれ、世界は新しい流れに呑まれていく。不可思議な能力、のちに個性と改められる力を持った人間たち。『超常黎明期』とも呼ばれたその時代の中で徐々に個性という力は超常というカテゴリーから常識というカテゴリーに変化していった歴史を持った世界が存在する。その世界では個性は当たり前、常識であり強い個性で在れば憧れを持たれたり将来への道を開けるという事もある。

 

―――だが、逆に力が強すぎる影響で大きな傷を負ってしまった者もいる。

 

 

この社会には明確な光と闇がある。個性を悪用し犯罪を起こし人々を苦しめる闇であるヴィラン。その脅威から守る為に"個性"を用いてその闇を払い人々の笑顔と平和を守り続ける者、ヒーローの存在。そんなヒーローになる為の人材を育成する為の教育機関、国内最高峰とも呼ばれている学校、雄英高校。その入学試験の実技試験でとある者の姿があった。ロボを仮想敵に設定した実技試験、敵にはポイントが設定され多くのポイントを集める事を要求される試験。

 

「キャアアッ!!」

「おい大丈夫か!?こんなものまであるのかよ!?」

 

だが簡単な試験ではない。邪魔者としてポイントが0の仮想敵が紛れ込んでいると説明がされており誰もが注意している中、巨大な0ポイントが出現しその巨体で周囲を圧倒する中に約6メートルほどの0ポイントも出現し受験生を襲っていた。今も受験生が襲られ危機に瀕していた。

 

「お、俺の個性じゃこんなの倒せない……!!」

「い、いやあああっ!!」

 

自らの力不足を悔やみつつもどうすればいいのかという思考が恐怖で死んでいく中、手を伸ばしてくる仮想敵。ここで自分達のヒーローへの道は閉ざされてしまったかと思った時の事だった、まるで錆びついた歯車が出すような音を発しながら何時までも仮想敵が攻撃してこない。閉じていた目を開いてみるとそこには黒い鎧を纏った戦士が立っていた。

 

「だ、誰……!?」

「俺達を、助けてくれた……!?」

「……はぁっ!!!」

 

低い唸るような声を上げながら右腕を振るう、龍の頭を模した手甲を装着しているのかそれを仮想敵へとたたきつける。装甲を砕くような音と共に手甲から闇のような炎が溢れ出して仮想敵の身体を焼いていく。殴られるたびに身体からは溶けた装甲が鉄となって地面へと落ちていく、殴るたびに木霊する雄叫びは力を誇示する龍のよう。再度龍の雄叫びが木霊すると、戦士の周囲に黒い炎が球体を形どりながら浮遊し、戦士の腕の動きで発射され仮想敵を一気に燃やし尽くしていく。

 

「す、すげぇ……」

 

思わず言葉を漏らした男子に女子も同意見だった。手も足も出なかった仮想敵をいとも簡単に一蹴する力、鉄をも融解させる炎の火力、このような人物こそヒーローになるべきのだろうと思える程に圧倒的で憧れを持たせる。そして完全に仮想敵をねじ伏せた戦士はゆっくりと振り返る。二人はお礼を言おうとするのだが、その姿を見た途端に硬直し先程よりも強く歯を鳴らしながら身体を震わせた。

 

「……無事か」

「助けてぇええええええええええええ!!!!!!」

「ヴィ、ヴィラン、ヴィランがぁあああああああ!!!!」

 

無事を問う戦士に二人は絶叫を上げながら号泣し、走り去っていってしまった。途中何度も足を縺れさせながらも自分達を追っていないかを確認するように振り返りながら逃げていく。その様な事をされた戦士は伸ばしかけた手を引っ込め顔を俯かせながら背後から迫ってきた1ポイントの仮想敵へ腰に下げていた剣を手にする。

 

「……」

 

仮想敵の腕が叩きつけられる、本来ならば吹き飛ばされたりするはずだが戦士は一切動じずにいた。そしてゆっくりと鎌首を持ち上げ、目の前の仮想敵へと手にした剣を振った。刃は豆腐を斬るかのように装甲を切り裂き、内部の回路を断線させ完全に両断してしまった。真っ二つになったそれは地面に落ちながら爆発を起こす、その爆発の影響で近場の建物のガラスが割れ辺り一面に四散しそこに戦士の姿が映し出される。

 

それを形容するならば人の形をした龍、それが鎧を纏っている。全身が黒い闇の龍ともいうべき存在、剥き出しになっている鋭い牙、スリット状のフェイスシールドの奥から爛々と妖しく輝いている真紅の瞳。全身から発散させるのは威圧感、酷く禍々しい非常に凶悪な風貌はヒーローではなくヴィランにしか見えない、だが彼は誰かを助けた。それでも感謝されない、風貌が余りにも恐ろしすぎるから。それでも彼はヒーローになりたくて雄英高校に受験をした、夢をかなえたくて。

 

「それでも俺は、前に進む……」

 

彼は寂しそうな背中を見せながら、他の仮想敵を探すために足を進めていく。その途中、何度も危機に瀕していた他の受験生たちを助けるのだが……その全てに恐れられて逃げられるか、攻撃されることになってしまった。自分が歩むヒーローへの道は苦難しかないと溜息をついた黒き龍こと、黒鏡 龍牙の物語は始まろうとしている。



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入学の黒龍

とある所に少年が居た、少年は愛されていた。紛れもなくそれは事実だ、間違いない。

 

父も母も彼を愛していた。運命は数奇な悪戯をする、それに翻弄される者達を嘲笑う為に。

 

彼が6歳を迎えた時にそれは浮き彫りとなってしまった、両親からの個性を受け継いだ彼の個性が解き放たれた。

 

それまで彼は個性があるのに個性が出せないという事態が続いていた。個性がある筈なのに無個性と変わらない状態が長く続いていた。それがある時、突如として個性が発動したのであった。それは親戚の集まりの真っ只中、突然彼の身体が炎に包まれた。突然の発火に親戚たちは水を掛けて消火を試みた、そしてその蒸気の中からそれが顔を出したのだった。

 

リュウガ……!!

 

母の個性と父の個性、それらが混ざり合った個性は酷く歪んだ物となって顕現した。そこにいたのは黒い龍の化け物、突如として現れたそれに全員がパニックを起こし、逃げ出す者もいれば攻撃できる個性で攻撃したものもいたという。だがそれらを受けても黒龍は消えなかった、それらを悉く跳ね返した上で立ち続ける龍は何故自分がそのような扱いをされているのかさえも理解していないように立ち尽くしていた。そして―――その日から、少年は一つを得て多くを失った。

 

 

「ここが、雄英か……」

 

春のあくる日、正しく出会い始まる春に相応しい晴天が広がる日の中に少年は雄英高校の校門へと立っていた。雄英高校の試験を通過する事が出来た彼、黒鏡 龍牙、入試では向かってくる敵を全て薙ぎ払い、救うべきを救っていた。簡潔に述べるならば自分のやりたい事をやっていたら好成績になって入学する事が出来たというべきなのだろうか、兎も角合格出来た事には安心している。自分を住まわせてくれている人にもこれで面目が立つ。今日から此処でヒーローへの道が開いていく事を自覚すると少しの不安がよぎるがそれ以上の興奮と憧れのヒーローが教師で自分を教えてくれるという喜びが勝る。そんな思いに背中を押されるように足を踏み出して、校舎へと入っていく。

 

流石はヒーロー科最難関校にして多くの有名ヒーローを輩出してきた超エリート高校、内部の設備も整えられており自分が通っていた学校とは格が違う事がうかがえる。龍牙はそのような事にはあまり興味を示さない、ハッキリ言って建物の内部がそこまで気にならない。極端に汚くなければそれでいいという認識で足を進めていき自分のクラスである1-Aを発見する。本来ならばここで緊張の一つでもするべきなのだろうか、龍牙にはそれが無いのだろうか、何の躊躇いも作らずに扉を開ける。

 

「ぼ……俺は私立聡明中学出身、飯田 天哉だ」

「聡明ぃ~?糞エリートじゃねえか、ぶっ殺し甲斐がありそうだなオイィ!!」

「ぶっ殺し甲斐?!君の物言いはなんて酷いんだ。本当にヒーロー志望なのか?」

「(なんだあれ)」

 

教室内では酷くキッチリした格好の眼鏡をかけた少年があからさまにまでに不良で御座いますという風な少年に注意を促していた。だが不良風の彼は一切それを返さずに我が道を行くを貫いている。あんなのでも確りと合格出来ている辺り成績面は優秀なのだろう、それに見た目については自分はとやかく言う資格なんてありはしないだろう。こちらを見つめるような視線を感じながらも席に着きつつも本を取り出して読み始まる。自分の好きなライトノベルである【壊れだした世界の君】というシリーズの3巻である。そんな中の視界の端で眼鏡の彼が此方へと歩み寄り、丁寧に少しいいだろうかと声をかけながら話しかけてくる。

 

「先程から騒がせてしまって済まない、ぼっ―――俺は私立聡明中学出身、飯田 天哉という者だ。これから宜しく頼む」

 

丁寧な挨拶に態度、中々に真面目な印象を受ける。眼鏡は伊達ではないという事だろうか、しおりを挟みながら挨拶を返す。

 

「黒鏡 龍牙です、よろしくお願いします」

「こちらこそ、正直君のような礼儀正しい生徒がいて少しホッとしたよ。先程の彼がヒーロー志望にしては余りにも荒々しかったものでね」

「それでも荒々しいのも悪い事でもないさ、裏を返せばそれだけ勇猛果敢にヴィランに向かっていける。つまりそれだけ迷うことなく人を助けられるという事にも繋がる」

「成程そうか!!俺はただただ表面だけに囚われて、それが齎す結果に目を向ける事が出来なかったというのに……流石雄英だ、そこも考慮しているのか!!」

 

と少々適当な持論を語ったのだが、飯田はそれを真に受けた上に盛大に飲み込んでしまったのかそれで納得してしまった。悪い人ではなさそうだがどうにも癖が強いクラスメイトだなと龍牙は少し笑うのであった。その後も次々と生徒らが入ってくるのを見つめていく中、緑色でモジャモジャな髪をした男子生徒が入ってきた所で飯田は挨拶をしてくると去っていく。そんな彼と知り合いだと思われる元気いっぱいな女子生徒が入口前で何やら話をしている時の事だった。

 

「お友達ごっこがやりたいなら他所に行け」

 

そんな彼らの会話をぶった切ったのは廊下から寝袋から顔だけを出した男が立っていた。その風貌は余りにも整っているとは言えない、切らずに放置されている無精髭に伸び放題なぼさぼさの髪の毛、疲れ切った瞳とその周囲に刻まれた深い隈。あれはホームレスだと言われたら素直にそうと思うこと間違いないだろう、高校にいる人間としても相応しい恰好とは思えない。

 

 

「ハイ、静かになるまで八秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠けるね」

 

その男は自分が担任である相澤 消太であると伝えると即座に新しい言葉を飛ばす。それは酷く簡単な指示だった、体操服に着替えてグラウンドに出ろというものだった。そしてグラウンドで告げられた次の指示は……個性把握テストを行う、という趣旨のものだった。

 

「テ、テストっていきなりですか!?あの、入学式とかガイダンスは!?」

「ヒーローを目指すならそんな悠長な行事、出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。それは先生達もまた然り」

 

何処かぽややんとしている一人の少女の意見をあっさりと一蹴した担任、相澤は更に続けていく。先に述べた通り雄英は自由な校風が売り、常軌を逸した授業も教師によっては平然と行われる。そしてそれがいきなり自分たちに適応されるという事に皆戸惑っているが、そんな事なんざ知らんと無視するかの如く、相澤が龍牙を見た。

 

「個性禁止の体力テストをお前ら中学にやってんだろ。平均を成す人間の定義が崩れてなおそれを作り続けるのは非合理的、まあこれは文部科学省の怠慢だから今は良い。今年の実技入試首席は黒鏡、お前だったな」

「多分」

「んだとぉ……!!?」

 

その言葉、首席という言葉に反応したのか飯田と激しい言い合いをしていた男子生徒、爆豪は何やら敵意と怨みのようなものを込めた視線を送り付ける。自分よりも上という事が気に食わないのだろうか、しかし龍牙からすれば困る視線と言わざるを得ない。だがそんな視線も間もなく凍り付く。

 

「お前の中学時代のソフトボール投げの最高記録は」

「66.6です」

「んじゃ個性を使ってやってみろ、円から出なきゃ良いから全力でな」

 

それを言われて龍牙は一瞬言葉を失ってしまった、直後はこれは避けられない事だと分かっていた筈だと自罰的に言い聞かせる。相澤から計測用と思われるソフトボールを受け取る、それをもって円の中へと入る。そして意識を集中するかのように深く深呼吸をする、全身から力を抜き、完全な脱力状態へとなる。同時に心の中身も捨てる、正しく無心へとなる。そして急かすような相澤の言葉を聞いて龍牙は瞳を開いて個性を発動させる。

 

リュウガ……!!

 

途端、龍牙を闇のような炎が覆う。悲鳴のような声が上がる中で炎の中で紅い瞳が煌めいた。そして炎を裂くかのように内部から禍々しく恐ろしげな黒龍がその姿を露わにする。

 

「な、なんだあれ!!?あれが、個性!!?」

「こ、こえええっ……ゲームに出てくるラスボスみてえぇな見た目じゃねぇか……!?」

「怖い……」

 

それを見て誰もが驚き、恐怖や嫌悪感を露わにする。当然だ、これを見てヒーローと答えるものなどいないだろう。誰がどう見てもヴィラン側の存在だからだ。それを一番に自覚しているのは龍牙本人、そんな彼が右腕の龍頭でボールを銜えこむ。そして腰を落としながら腕を構えた。同時に龍の雄叫びにも似た音が周囲に低く響き始めていく。それは次第に甲高くなっていき、龍の頭からは炎が漏れ始めていた。

 

「だああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」

 

雄叫びと共に右腕から放れた闇色の爆炎はボールを一気に押し出しながら噴射された。宛らロケット噴射のような勢いの爆炎、発射と共に周囲に爆風と衝撃波を発生させるほどの威力。それを受けて吹き飛んでいくボール、それはどんどん距離を増していく、そして見えなくなった所で漸く相澤の端末に結果が反映された。それを見せ付けながら相澤は言う。

 

「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの筋を形成する合理的手段だ」

 

そこに記されている記録は2192mというとんでもない記録があった。だがそれを見ても周囲は威圧されたような重い沈黙を纏っていた。クラスメイトが叩き出した凄い記録よりも目の前にいる恐ろしい龍戦士の方がインパクトがある言葉が出ない。恐ろしすぎる存在が周囲を飲み込んでいた。龍牙もそれを理解している、顔を背け離れに移動しようとした時に一人の少女が声をかけた。

 

「ねぇねぇ貴方って凄いね!!」

「……?」

 

声に釣られて視線を向けるがそこには宙に浮いている体操服しかない。一瞬どういう事かと思ったが透明な個性という事かと納得する。

 

「個性もカッコいいし、凄いよ!!」

「……そうか、カッコいいって初めて、言われたよ」

「ええっ嘘!?それじゃあ今までの人たちはセンス悪かったんだよ!!」

 

姿こそ見えないが、袖がブンブンと振られている事から両腕を力強く振るっているのだろう。そして可愛らしい声で自分を褒めてくれている。褒められる、カッコいい。自分が受けた中で酷く刺激的で甘美な響きだった。心が一瞬熱くなったのを感じた。

 

「有難う、嬉しいよそう言ってもらえて」

「だってカッコいいんだもん!」

 

この日を龍牙は生涯忘れなかった。この日が葉隠 透との出会いだった。



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テストを受ける黒龍

初めて、カッコいいと言われた。初めて、褒めてくれた。

 

あの時ほど刺激的で喜びを感じた時はなかったかもしれない。

 

俺の個性は恐ろしい。いやそうではないと慰める言葉は幾らでも聞いてきた、それはそれで嬉しくはあったけど。

 

やっぱり……誰かに褒めて欲しかった、認められたいと欲求がある。

 

だけどこの日、俺は……それを叶えられてもらった。一人の少女に。

 

 

 

とても恐ろしく凶悪な風貌をした個性を持つ龍牙、彼の個性を見た生徒達は固まっていた。あのような恐ろしい個性も存在しているのかと、そしてその個性が持つ圧倒的な力も目にした。連想させるのはその力が自分に向けられた場合という最悪の状況が脳裏を過ってしまう。余りにも恐ろしい風貌がそのような事を誘発してしまっている、あの真面目な飯田も汗を流しながらそのような考えをしてしまう。

 

「(……発破をかけるどころか逆効果だったか)」

 

相澤もこの状況は望ましくないものだったのか、如何したものかと思案する。彼の個性が酷く恐ろしい見た目なのは知っている、だがそれでも力を見せ付けるには必要だと判断した。これで多少なりともやる気を出して欲しいと思ったのだが力が予想より強かったせいか、皆委縮してしまっている。大きな力を見たら委縮するのは当然の心理、だがそれはこれからヒーローとしての道を歩もうとする者としてはあまりいい反応ではない。目を細めた時、一人の少女が龍牙に駆け寄っていった。彼女は素直に凄いと彼を褒めた。

 

「私よりもずっと派手でカッコいいし強いって凄いと思うよ!」

「……有難う、えっと……」

「あっそっかまだ名前言ってなかったね、私は葉隠 透だよ」

「黒鏡 龍牙、宜しくね」

 

そう言いながらそっと左手を差し出す龍牙。傍から見れば龍牙は手を差し出したままだが、実際は透明な葉隠の両手が確りと握っている。そこから漏れてくる葉隠の嬉しそうで楽しそうな声、そして龍牙の柔らかい声がする。それを聞いて飯田はハッと我に返った。自分は何を思っていたのかと、見た目で判断してそれが敵だと思い込んでいたというヒーローを目指すものとして非常に恥ずかしい行為に歯ぎしりをさせながら彼も龍牙の元へと駆け寄った。

 

「済まない龍牙君、俺は君が恐ろしく思ってしまっていた!なんて情けない……だが俺は君が凄い力を持っていると尊敬している、それは本当だ。どうか受け取ってほしい!!」

「……大丈夫だ気にしていないから。見た目については勘弁してくれるとありがたい、お化け屋敷にでも就職するのも悪くないと思っている」

「いやそれはそれで仰天して失神者が続出するぞ!!?」

「あははっ龍牙君って面白いね~!!」

 

そんな龍牙の気の利いたジョークと葉隠の笑い声、そして飯田の真面目な言葉で場の空気がいくらか軟化した。個性こそ怖いが本人は面白い奴と思う者、笑い声に釣られて笑う者、真面目な意見に耳を澄ませ自罰的になり反省する者とそれぞれだったが、皆やる気を出し自分も同じような記録を出してやると意気込む者が続出していった。やや遠回りになったが相澤は発破掛けの成功とヒーローとしての道に指を掛けている者達で少し安堵するように息をする。

 

「(黒鏡 龍牙、個性『リュウガ』……自分と同じ名前の個性、自分への戒めか象徴か。お前がどれだけやれるか見せて貰おう)」

 

そんな相澤の期待に応えるかのように龍牙はその力を存分に振るって次々と記録を叩きだしていく。50メートル走、握力、立ち幅跳び、反復横跳び、ボール投げ、次々と大記録を打ち立てていく。ボール投げに関しては先程よりも角度を調整したのか2603mまで吹き飛ばしている。次第にその力を見ていく者たちの印象も変わっていき、恐怖が頼もしさと力強さという物へと変化し始める。個性把握テストからずっと個性を発動させ続けている龍牙だが、気付けば彼の周りには人が居るようになっていた。

 

「黒鏡、同じ闇の者として是非友好的な関係を築きたい」

「俺で良ければ」

「有難う」

 

自分の事を何処か憧れるような視線を向ける常闇という友人も出来ていた。彼の個性は『黒影(ダークシャドウ)』という鳥の形状をした伸縮自在の影っぽいモンスターをその身に宿し操る事が出来る。近しい物を感じるのか常闇は最初から何処かカッコいいものを見るような光を持った視線を向けていた。

 

「その腕の龍、炎を吐けるのか……黒い炎、黒炎、黒炎龍いや闇の炎の龍、闇炎龍……!!」

「カッコ、いいのか?」

「無論!!」

 

と力強く肯定してくれる常闇に釣られるように龍牙はそうかっと嬉しそうな声を出すのであった。

 

「良かったね龍牙君!お友達出来て!!」

「葉隠さんのお陰だと思う、有難う」

「何もしてないのにお礼なんて変なの~♪」

 

そんな風に言い方こそするが、龍牙は本気で葉隠に感謝している。常闇にも感謝はしているが最初に声をかけてくれた葉隠にはそれ以上のものを向けている。誰かに認められた事が心からの喜びとなって心身を満たしていた。満足げに吐き出す息はそのような声色に包まれている。そんな中、龍牙はとある視線を生徒へと送っていた。それは―――指を腫らし苦しげな表情を作りながらもボール投げで700メートル越えの記録を出した緑谷。彼は自分と同じく入試にて0ポイントの仮想敵を倒した超パワーを秘めた個性の持ち主らしい、だがその個性を使用した彼の指は酷く腫れている、コントロールが難しい個性なのだろうか。

 

―――もしかして、彼も自分のように個性の事を苦労してきたのかもしれない……そう思うと緑谷の事が気に掛ったのか龍牙は緑谷へと近づいて行った。

 

「緑谷」

「はっはい!?え、えっと黒鏡、君でしたっけ!?」

 

指に痛みに耐えながら歯を縛っていた緑谷は突然話しかけれた事に驚いていた。しかも話しかけてきたのは見た目が完全にヴィランな龍牙なだけあって流石にビックリしてしまっている。

 

「そうだ。指、大丈夫か」

「へっ!?ゆ、指?」

「ああっ随分と腫れ上がっているな……内部出血も酷そうだ、保健室へ付き合うか」

「う、ううん大丈夫だよ……!この前より痛くないから!」

 

と掛けられる言葉は全て自分の事を気遣ってくれている言葉ばかりだった、心なしか覗き込むかのような体勢での瞳は目を細くしているのか光が優しげになっている。それを聞いて個性による姿こそ恐ろしいが実際は優しい人なんだなぁと緑谷は理解して思わずホッとしてしまった。

 

「そうか……お前も個性で苦労しているんだな」

「お前も……ってもしかして黒鏡君も……」

「どういう事だおい……オイデクテメェ!!」

 

二人が話している所に突っ込んでくる少年が居た、荒々しい口調で飯田と言い争いをしていた龍牙が完全に不良と思っている爆豪だった。手のひらから爆破を連続させて起こしながらこちらへと走りこんでくる。規模が少しずつ大きくなっている爆発を見て龍牙は緑谷の前に立つ。そして殴りかかってくる爆豪の拳を右腕で受け止める、爆破で少なからず痛みを感じるがそこまででもない、そして龍牙は瞳を今まで以上に朱く爛々と輝かせながら爆豪を睨みつける。それを見た爆豪は寒気を感じたのか後ろへと飛んで距離を取った。

 

「問題を起こすな、次何かするならば……俺の牙がお前を噛み砕くぞ」

「テメェッ……ヴィラン野郎!!」

「上等、俺の事は好きに呼べ。先生、ご迷惑をおかけしました」

 

爆豪の言葉を一蹴すると龍牙は静かに頭を下げた。相澤は自分が個性を使わずに済んだからいいと適当に流した。本人曰くドライアイだから個性は使いたくないらしい。この後、テストは円滑に進められていく。流石に上体起こしや長座体前屈などは個性を解いて生身で行った。そして全てのテストが終了し結果が発表される事となった。

 

「あっ因みに除籍は嘘だから、君たちの最大限を引き出す合理的虚偽」

『……はぁっ~!?』

 

このテストで最下位を取ったものは除籍されると脅しを掛けられていたのだが相澤はあっさりと嘘だと白状した。龍牙はこのテストで1位を取る事が出来ていた、が彼は知っていた。自分が世話になっている人が相澤に関する注意をしてくれていた。

 

『君の担任だけどね、ちょっと困った所があるのさっ!!』

『困ったところ、ですか』

『そう、入学初日から除籍されないように気を付けてね!!』

『何それ怖い』

 

「雄英は自由が売り……成程、それも自由という訳か」



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戦闘前の黒龍

雄英高校の学業スケジュールは通常のものよりもハードなものとなっている。通常の高校の授業ならば、授業は平日だけ。しかし雄英は平日と土曜日、これだけでも他の高校と比べるときついと感じる生徒は多い事だろう。そして、平日は7時限まで存在している上に土曜日も6時限だが授業もある。相澤の言葉を借りるのならば、絶えず試練が与えられていく、これもその一つに含まれているのかもしれない。午前は通常の学校などと同じ必修科目、英語などの通常の物などがある。思わず皆、授業は普通だと思うがそれらを担当する教師はプロヒーロー達なのだから凄まじく豪勢な授業といえる。それは龍牙も思っているが、内容自体は確りしているうえにそれなりにレベルが高いので確りと勉学に励んでおく。そんな事よりも龍牙にとってはもっと嬉しい事があった。

 

「龍牙君、昼食を一緒に取らないか?!」

「ああっ分かった」

 

彼にも友達らしい友達が出来た事だった。個性が個性なだけに自分を恐ろしがって友達になろうという人間は殆どいなかった、だが此処では歩み寄って友達として接してくれる人たちがいる。それだけで龍牙にとっては幸せな時間で満たされている。

 

「あれっ龍牙君ってお弁当なの?」

「習慣付いてるんだ、世話になっている人の分と自分の分を作ってるの。良ければみんなの分も作るが」

 

そんな風に提案すると友達は嬉しそうにしながらそれをお願いされ、龍牙はそれを喜んで引き受ける。実際はコックヒーロー・ランチラッシュの作る食事の方が美味しいのは確実、それでも自分の作るお弁当を食べてみたいと言われて嬉しくなった龍牙。帰り道で買い物をして帰り、仕込みをしようと心に強く誓いながら献立を考えたりもするのであった。だが、普通なのはそこまでであった。遂に訪れる午後の授業、即ちヒーロー基礎学。

 

「わぁあたぁあしぃぃがっ……普通にドアから来たぁっっ!!!」

 

筋骨隆々の強靭で完璧と言っていい程に鍛え上げられた肉体、平和の象徴、皆が憧れる№1ヒーローのオールマイトだった。世界が認める程の認知度と皆が大好きである現代の大英雄とも言うべき超ビックネーム。オールマイトがデビューしてからというもの日本の犯罪発生率はどんどん下がり、世界最低レベルを保持し続けているほどの影響を誇る。そんなヒーローが教師として教鞭をとり自分達を見てくれる……これに興奮せずにどうしろというのだろうか。

 

「本当にオールマイトだ!!マジで教師やってるんだぁ!!」

「今着てるのは……銀時代のコスチュームみたいね」

 

つまり午後からのヒーロー基礎学はあのオールマイトからの授業となるのだからこれを興奮せずしてどうしろと言うのだろうか、重要な事なので二回言っておく。龍牙も心なしか拳を強く握りこんでいる。

 

「さてでは早速行こうか!!私が受け持つ授業、それはヒーロー基礎学!!少年少女たちが目指すヒーローとして土台、素地を作る為に様々な訓練を行う科目だ!!正にヒーローになる為には必須とも言える!!単位数も多いから気を付けたまえ!!そぉして早速今日はこれ、コンバット!!戦闘訓練!!!」

 

その手に持ったプレートには「BATTLE」と書かれている。いきなり始まるそれに、好戦的且つ野心家な生徒達はメラメラと炎を燃やす。それと同時にオールマイトが指を鳴らすと教室の壁が稼動をし始めていく。そこに納められているは各自が入学前に雄英へと向けて提出した書類を基に専属の会社が制作してくれた戦闘服コスチューム。

 

「着替えたら各自、グラウンドβに集合するように。遅刻はなしで頼むぞ」

『ハイッ!!』

 

各自は勢いよく自分のコスチュームが入った収納ケースを手に取ると我先にと更衣室へと向かっていった。そこにあるのは自分が思い描いた自らがヒーローである姿を象徴すると言ってもいい戦闘服、それをプロが自分たちの為に制作してくれるなど興奮して致し方ない、なんて素敵なシステムだろうが。

 

「―――形から入るってことも大切なことだぜ少年少女諸君、そして自覚するのさ!!今日から自分は"ヒーローなんだ"と!!!」

 

それぞれが希望したコスチュームを纏い、皆がグラウンドβへと集結する。皆それぞれの個性が生かせるかのような物、又は苦手な分野をカバーする物になっており正に個性が出ていると言ってもいい。が、そんな中で例外的な存在もあった。それは龍牙であった。

 

「あれっ龍牙それってコスチューム……なのか?」

「そうだが」

「いやただのスーツにしか見えないけど……」

 

龍牙の物は見た目は完全にただのスーツにしか見えない。黒の上下に中には薄い紫のYシャツ、そして黒のネクタイを締めている姿は会社勤めのサラリーマンにしか見えない。私服に近いコスチュームは耳郎も当てはまるだろうが、龍牙も龍牙でかなり異質に映る。それはそうである、彼にとってコスチュームは何の意味も無いのだから礼儀正しく映るものとしてスーツ姿になるようにオーダーを出したのだから。

 

「コスチュームなんて俺には意味がない、個性を発動したらどうせ意味がなくなる」

「あっそっか。それならコスチュームの見た目ってあんまり問題じゃないんだな」

「そういう事だ」

 

リュウガは個性を発動させれば完全に姿は変異、それは身に着けているものも完全に巻き込むような形で行われていく。個性把握テストの時も体操服も見えなくなっていた。故に彼にとってコスチュームなんて意味がないに等しいのである。

 

「でも龍牙君かっこいいよ!出来る男って感じがビンビン出てる!なんだろ、やりてのビジネスマンみたい!」

「有難う葉隠さん。君のコスチュームは個性と同化するタイプ……なのか?」

 

自分のスーツ姿を褒めてくれる葉隠に素直にお礼を言いつつも彼女のコスチュームに目を向ける、透明人間である彼女の個性を活かす為ならば見えなくなることは必須。故に個性と同調して見えなくなるタイプの物なのだろうか、手袋と靴だけは見えているが。

 

「ううん違うよ、私は透明人間だから手袋と靴だけだよ。他は脱いだの、本気で行くって決めたからね!」

「え"っそれって……」

「うん。簡単に言えば全裸、かな」

 

思わず龍牙の思考が死ぬ。つまり自分は全裸の女子生徒の姿を真正面から見ただけではなくそれを指摘したという事になるのだろうか、なんという事だとんでもないセクハラではないか。いやそれどころの騒ぎではない、これは訴えられても何も言えなくなるレベルの所業。顔が青ざめていくのが自分でもわかる、がそんな彼を気遣ってか葉隠は言う。

 

「大丈夫だよ龍牙君、気にしてないから。だって透明だから見えないから分からないでしょ?じっと見られ続けるのは嫌だけどワザとじゃないから怒ってないよ?」

「それでも……申し訳ございませんでした……今度何か奢らせてください……」

「別に気にしなくていいのに~」

 

素直に謝罪する龍牙に周りは、飯田ほどではないが真面目なんだなという印象を持つのであった。

 

 

オールマイトから詳しい戦闘訓練での説明が行われていく。今回は皆の基礎を知る為の屋内戦闘訓練、ヒーローチームとヴィランチームで分かれての戦闘となる事になるという。ヒーローチームはヴィランを確保するか、ヴィランが隠し持つ核兵器を確保すれば勝利。ヴィランは制限時間までに核兵器を守りぬく、又はヒーローチームを全員確保が勝利の条件となっている。核兵器は張りぼてだが、これは本物として扱えという事らしい。そして、チームはくじ引きによって決定されるのだが、A組は21人、一人余る計算になる。そんな中、龍牙が引いたくじは【SPECIAL】と書かれていた。

 

「スペシャル……?」

「おおっ黒鏡少年が引いたか。君が引いたのは対戦相手もペアの相手も自分で選べるのさ!但し、一番最初に戦ってもらう事になるけどね。さて君は誰とやってみたいかね!?」

 

そう言われて素直に龍牙は困る。誰とやってみたいというのははっきり言ってなかった、故に困ってしまう。そんな中、鋭く凶暴な視線を送ってくる一人の男が居た。爆豪だった。

 

「おいヴィラン野郎、俺と戦え!!」

「爆豪……だったら爆豪で。後はオールマイトにお任せします」

「うむ了解した!ではそうだな……切島少年、君が爆豪少年のバディをして貰えるかい?」

「うっす了解っす!!」

 

これで龍牙の相手は爆豪と切島のコンビという事になった。後は龍牙の相手を見つけるだけなのだが……ハッキリ言って組みたい相手はいるにはいる。が相手が相手なだけに言い出しづらいので龍牙は提案する事にした。

 

「俺は俺の限界を見てみたいので一人で戦ってみてもいいでしょうか」

「ほほう随分とチャレンジャーだね!!いいだろう、スペシャルを引いた君だから特例で許そう!」

 

戦闘訓練第一戦:黒鏡 龍牙 VS 爆豪&切島ペア




因みに龍牙がパートナーに選びたかったのは葉隠さんです。雄英内で一番信頼出来る人なので。でも全裸の件で言いだしづらかったのでこんな感じに。

コスチュームイメージは、衝撃のアルベルト。


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訓練を始める黒龍

屋内戦闘訓練の舞台となる一棟のビル、その最上階より一階下に龍牙の姿があった。龍牙は自分が守るべき核兵器の張りぼてを見つめながら改めて勝利条件を確認していた。爆豪と切島はヒーローチーム、自分はヴィランチームとして振り分けられた。

 

ヒーローチーム(爆豪&切島):制限時間内に核兵器の確保、又はヴィランチームの確保。

 

ヴィランチーム(龍牙):制限時間までに核兵器を守りぬく、又はヒーローチームを全員確保。

 

先にヴィラン側である自分がビルの中に入り、その5分後にヒーローチームが内部に突入してくるという流れになっている。後3分ほどで訓練が開始される事になる、と言っても自分に出来る事など限られているに等しい。自分の個性に出来る最大の事は二人との全力戦闘が最大になる。ならばそれを取るべきだろう、幸い爆豪は自分に敵対的な意志を持っている事だろうから戦いに持っていくのは簡単、問題は切島だけだが……まあ問題ないだろう。

 

『黒鏡少年、もう直ぐ始めるが準備は良いかい?』

 

耳に装着している通信機からオールマイトの声が聞こえてくる、もしもの場合はこれからオールマイトが戦闘中止の言葉などを出す事になっている。それに頷くと開始の合図を出される事になった。

 

「さて……俺も始めるか……!!」

 

リュウガ……!!

 

 

「うしっ時間だぜ!!行こうぜ爆豪!!」

「うるせぇんだよ、てめぇは黙ってろクソ髪野郎!!」

「おいおい過激だな、まあいいから行こうぜ!」

 

突入許可時間となったので爆豪と切島は颯爽とビルの中へと入っていく。荒々しく暴力的な言い回しが多い爆豪に切島は特に気にすることもないように元気を出して絡みながら付いていく。当人も本当に気にしていないらしく、イライラしているような爆豪の言葉も軽く受け流している。薄暗いビルの中を進んでいく、廃墟同然のような作りに薄気味悪さを感じつつも周囲を警戒するように進んでいく。

 

「龍牙何処にいんだろうな……」

「ぜってぇにぶっ飛ばす……!!」

「気合十分だな!うしっ俺も気合入れるぜ!!」

 

そう言いながら切島は腕に力を込めながら拳をぶつけ合う、その時にガキンッ!!という音が鳴る。切島の個性は硬化、身体を硬くする事が出来るというシンプルなもの。故に個性が知られても問題が無いという長所などもある。そして爆豪は音からして金属並みに硬い事を見抜き、いざという時は盾にも使えるなっと軽くヒーローらしからぬことも考えたりもしている。

 

「うおっでっけえ鏡」

「ンなもんどうでもいいだろうが糞が」

 

通路の途中にある鏡に気を取られる切島、先に進む爆豪の続こうとした時、視界の端に何かが映り込んだ。それは黒い影のような物、咄嗟に振り向くがそこには何もいない。爆豪の背中しか見えない。

 

「今のは……待て爆豪!!なんかいるぞ、龍牙の奴かもしれねぇ!!」

「ンだとぉ!?」

 

何の気配もしなかった、何も感じられなかった爆豪はそれを信じられなかったが周囲の警戒に移った。周囲には死角が多い、誰かが隠れているとしてもおかしくはない。

 

「けっならこの辺りぶっ飛ばせいい話だ」

「でもそれじゃあ龍牙にも居場所バレちまうぜ?」

「だったらあいつをぶっ飛ばせばいいだけの話だろうが」

「そうか、正面から戦った方が男らしいもんな!!」

 

と爆豪の意図を理解しているのかが不明な切島だが、取り敢えず警戒のための攻撃は反対ではないようだ。そして爆破を起こそうとした時の事、切島は不意に鏡を見た。その時、鏡の景色の奥いや、鏡の奥から何かがゆっくりとこちらに向かってくるのが見えた。振り返って鏡に見えている風景を見ても何もいない、だが鏡には見えている。意味が解らない、目の錯覚かと思いきやそれは徐に腕を上げると炎を噴射してきた。

 

「ば、爆豪鏡の中からなんか来る!?」

「なんかって何だ!?」

「なんかは何かだ避けろ!?」

 

鏡の真正面から飛び退くとそこから真っ黒な炎が飛び出した。それは個性把握テストで龍牙が使っていた黒い炎、間違いなく龍牙が仕掛けてきた!咄嗟に切島が鏡をたたき割って炎の出口をふさぐと炎は消え去った。

 

「ビビったぁ!?なんだよ鏡から炎ってありか!?」

「ンなこたぁどうでもいい、どうやって鏡から炎を出すんだよ。そこが問題だ」

 

切島は先程まで龍牙を消し飛ばすだのぶっ飛ばすだのと言っていた爆豪が冷静に割れた鏡の破片を見つめながら考え込んでいる姿を見て少し彼に誤解をしていたと思う。いざという時は沈着冷静に物事を考える事が出来るだけの力を持っているんだと。

 

「鏡は多少なりとも熱を持ってるが溶けちゃいねぇ、鏡の背後の壁にも何の変化もねぇ……」

「つまり龍牙はどうやって攻撃をしたんだよ……?」

「知るかテメェで考えろ」

 

 

「おいおい龍牙の奴どうやって攻撃したんだ!?」

「鏡越しに攻撃したのか!?」

 

それらを見つめるモニタールームでは龍牙の攻撃に対する声が続いていた。突如として行った炎による攻撃、全く正体の掴めない力に皆が困惑する中、麗日は緑谷に聞いていた。

 

「ねぇデク君、龍牙君の個性分かる?」

「ううん全く……龍牙君の個性によるものとしか今は……でも一体どんな物なのかは……」

 

個性オタクと言っても過言ではない程の知識や個性に対する考察などを行う緑谷、彼ならば何か分かるのではないかとも思ったのだが流石に何も分からない。そんな中で唯一何をしたのか理解している人物がいた、オールマイトであった。

 

「(話には聞いていたが此処まで凄まじい個性とは……途轍もない力だ)」

 

 

そして、爆豪と切島が体勢を立て直した時、ゆっくりと廊下を歩くような音が響き始めていた。同時に聞こえてくる龍の雄叫び、それは確信と共に警戒心を持って告げていた。敵が此方に向かっている、立ち向かう体勢を作りながら廊下の奥で紅い瞳が煌めいた。

 

リュウガ……!!

 

「来たか……!!」

「ヴィラン野郎が……!!」

 

廊下の闇を抜けて姿を現した龍牙、黒い龍の騎士は荒々しく唸り声を上げるとゆっくりと首を回しながら唸り声を上げながらこちらを威嚇するように雄叫びを上げる。

 

「ゥゥゥ……ゴアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

周囲を揺らすほどの爆音の咆哮に思わず耳を塞いでしまった、いや強烈な威圧感に本能的な危険を感じて反射的に身体の自由が利かなくなっている。目の前にいるのはヴィランではなく猛烈な威圧感を纏っている凶悪な怪物という印象を深く持ってしまう。

 

「さあヒーロー、俺を倒してみせろよ……凶悪なヴィランを……!!」

 

龍牙は瞳を輝かせながら剣を手に取り、ヴィランとしてヒーローである二人へと向かっていく。



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戦闘を行う黒龍

「聞こえ、無い筈なのに……身体が、震えやがる……」

「な、んだよあれ……あれってなんだよ……」

 

ビルの中に配置されている定点カメラから映される映像をモニターで見つめる他の生徒達、だが龍牙の雄叫びが上がった瞬間に皆が震えていた。音は拾わない筈なのに相手を威圧する龍の咆哮が響いてくるような感覚を味わっている。雄叫びの凄まじさはオールマイトですら驚きを隠せない程のものだった、これ程までの威圧感をまだ大人になり切っていない少年が出せるのかと思うほどに。そして同時に彼のオリジンを思い出し、それにも納得がいってしまい、少し顔を暗くする。

 

「(個性:リュウガ……そのオリジンは彼の感情が引き金となっている、彼に温かさを与えてくれた出会いすらそれを変える事が出来なかった。彼は……永遠にあの自分と向き合っていくしかないのだろうか……)」

 

ゆっくりと足を進めながらヒーローチームへと近づいて行くヴィランである彼、皮肉にもあの場で一番ヴィランらしい姿をしているのは彼だ。ヒーローになりたいと願っている彼こそが最もヴィランに近い場所にいる、なんという皮肉なのだろうか。だからこそ彼は自らの個性を―――リュウガと名付けたのだろう。

 

 

「とんでもねぇ威圧感……!!身体が震えてるぜ……いやこれは武者震いだ!!」

 

咆哮を受け身体が震えている自分を鼓舞しながらも闘志を燃やす切島、確かに震えこそあるがそれは恐怖からではない。凄まじい程の力を秘めている龍牙と戦う事で自分は更に向こうへと歩いてゆけると実感し、その一歩を大きくする為に闘志を燃やす。男らしくも彼らしい闘志の燃やし方だ、一方爆豪は大きく歯ぎしりさせながらも迫ってくる龍牙を睨みつけていた。闘志を燃やしているからではない―――気に入らない、そして苛立っている。

 

「(ヴィラン野郎が俺をビビらせた……ンな訳ねぇだろ……クソがぁ!!!)死ねぇぇぇええ!!!!」

 

苛立ちと共に爆破を推進力に使い一気に加速する、走る事なくかなりのスピードを出しながら龍牙へと迫る。そしてさらに爆破で回転を加えながら大ぶりな右腕のラリアットを龍牙へと放つ。爆破の勢いも加わった一撃は速度だけではなく威力も桁違いに上昇している、その危険性を察知したのか咄嗟に腰を落として回避を行う。だがそれに合わせるかのように真正面から迫る影がある。

 

「行くぞ龍牙ぁぁあああ!!!」

 

切島である。腕を硬化させながら全力の一撃を龍牙の腹部へと叩き込む、重々しい音が響く中、爆豪は追撃を加えんと低くなった龍牙の頭部へと踵落としを加える。さらに重い音と共に炸裂した踵落とし、通常であればそれだけでノックアウトされそうな程の威力。しかし、龍牙の身体が崩れ落ちる事はなかった。何故ならば―――

 

「すげぇ……!」

「クソがぁ!」

「……まともに入れば、危なかったかもな」

 

切島の拳を左手で握った剣で、爆豪の蹴りを右腕で受け止めているからだ。本人としても咄嗟の行動だった、それでも上手くいった。それでも両腕に伝わる二人の力は本物、甘く見ていれば間違いなく倒されるのは自分だろう。

 

「んんんんらぁぁっ!!!」

 

両腕を思いっきり開くようにしながら二人を力任せに、強引に振り払う。自分から離れる二人を見つめながら龍牙は、呻くように言う。

 

「……さあどうする、ヴィランは目の前にいるぞ。掛かってこい、ヒーロー共」

 

まるで自分に言うように、自罰的に、吐き捨てるかのような言葉を口にしながらさらに攻撃を煽るように問いかける。それを受ける爆豪は更に油を注いだ火のように怒る、彼からすれば自分程度も倒せないのかと挑発されているように受け取ってしまったのかもしれない。だが、怒りながら彼は笑っていた。

 

「俺の爆破はなぁ、手の汗腺からニトロみてぇな物質(もん)を出して爆発させんだよ」

「ほう」

 

そう言いながら爆豪は腰を落としながら装着している手榴弾のような籠手にあるピンのような物に指を掛ける、それを聞いて切島はもしかしてと思ったのか後ろに下がる。

 

「要望通りの設計ならこの籠手はそいつを内部に貯められる……!!」

「つまり爆破する物を一気に……っ!!」

「もう遅ぇ食らいやがれぇぇっ!!!」

 

それに気づいたオールマイトが止める間もなかった、爆豪は迷う事もなくピンを引き抜いた。刹那、籠手からは爆破の濁流のような物が一気に放出されていく。爆炎と爆風、その両方を含んだ強い川の流れのような物が一気に龍牙へと向かって流れだしていく。気付いた時にはもう遅かった、龍牙は逃げる事も出来ずにその爆発の激流へと飲み込まれていく。それは龍牙だけではなく、ビルの一部を丸ごと飲み込みながらすさまじい大爆発を起こし一帯を大きく揺らす。

 

「ぐぅぅぅうっっうわぁぁっ!!?」

 

その爆風は爆豪の背後に逃れた切島も軽く吹き飛ばされる程の物、これをまともに受けたらとんでもない事になる。ではこれを避ける間もなく撃たれた龍牙は……と切島は顔を青くしながら爆豪に詰め寄った。

 

「お、おい爆豪お前……!!あいつを殺す気かよ!!?」

「あほかよ、殺したら俺はヴィランじゃねぇか。直撃しねぇように、掠るように撃った」

 

それを聞いてあれほど怒っていたのに冷静だった彼に驚いた。妙な所で冷静というかみみっちいというか、兎に角彼としても龍牙を殺す気などが一切ない事を聞いて少し安心するが、これでは大怪我必至だ。流石にオールマイトも呼び掛けを行った。

 

『爆豪少年これは訓練だぞ!!?黒鏡少年に大怪我をさせるつもりか!?それに今のはヴィランとしてもヒーローとしても大幅な減点材料になる、その技はもう使ってはいけない!!』

「けっ使う気もねぇよ、どうせあいつはもう動けねぇんだからな」

 

ほくそ笑む爆豪、見た目こそ龍牙の方がヴィランに見えるが性格などを含めて考えたら爆豪の方がヴィランだろう。爆豪としてももう同じ技は使う気はないらしく、大人しくトリガーにピンを戻す。そして爆煙の先へと視線を巡らせ倒れている筈の龍牙を探す。何も見えないからか、切島は少し不安になる。

 

「おい龍牙お前大丈夫か!?生きてるか!?」

 

返事が無い、本当に大丈夫なのかという思いが募る中で遂に爆煙が晴れていく。そしてその中に影が見え始める、ほくそ笑む爆豪の顔が更に顕著になっていく。そこには防御の姿勢を取ってはいるが全身から煙を出している龍牙の姿があった。狙い通りに直撃こそはしていない、やはり自分の狙いに狂いはなかったと笑いが止まらなくなりそうになる中で音がした、それは龍牙から聞こえるような気がする。

 

「ンだとぉ……!!?」

「……ぅぅぅ……うぉぉおおお、ウウッアアアアアァァァッ……!!」

 

咆える、龍牙咆える。両腕を激しく動かし、首を鳴らしながら瞳を光らせながら復活を告げる龍牙。それを爆豪は信じられないようなものを見るような瞳で見つめ、切島は素直に龍牙が無事であったことに喜びつつも警戒をし続けた。

 

「……(一歩間違えば俺死んでたかもな。)よくもやってくれたなヒーロー。だが俺はまだ此処にいる、ならばお前らはどうする。俺は―――お前達に復讐する、するだけだ」

 

黒龍は爆発の激流を受け怒りを覚えている、怒りは晴らさねばならない、それが復讐だ。突如として、龍牙の目の前に歪んだ龍の頭部のような形をした鏡によく似たものが出現する。それを見た爆豪と切島は咄嗟にあれはやばいと思い、身を引いた。

 

「―――返すぞ、お前の攻撃……!!」

 

強烈な閃光と共に、三度爆発が一帯を揺るがした。



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訓練後の黒龍

ヒーロー基礎学:屋内対人戦闘訓練、第一戦。黒鏡 龍牙 VS 爆豪&切島ペア。互いに一歩も譲らない戦いを行う中、爆豪が仕掛けた大爆発を凌ぎ切った龍牙は反撃に転じた。それは彼の特殊な力によるものだった。再度巻き起こった大爆発、それによってビルの一角は崩れ落ちていた。そんな中に立ち続けている龍牙は倒れこんでいた二人へと確保のテープを巻き付けて勝利を決定づけていた。その様な事があった訓練後のモニタールームではその講評を行う為に三人が戻っていた。

 

「それでは講評を行うとしよう、さて今回のMVPだが……切島少年だね」

「お、俺っすか!?龍牙じゃなくてですか!?」

 

オールマイトが今回のMVPは切島だと言うと本人は全くそれを理解できていなさそうに困惑する。大したことも爆豪のような大きな攻撃なども全くしていない、自分達を圧倒した龍牙でもなく自分がMVPというのが素直に理解出来ない。そんな中で何故切島がMVPなのか分かるかと皆に問うと八百万が手を上げる。

 

「はいオールマイト先生。それは切島さんがあの場で最も良い行動をしていたからだと思います、比較的と付け加えるべきかもしれませんが」

「うむその通りだ!爆豪少年の時に言ったが、大規模な破壊攻撃はヴィランとしてもヒーローとしても大幅な減点材料、守るべき牙城の崩落にも繋がる。そしてそれを黒鏡少年も行った。故に切島少年がMVPなのだ!それに君は真っ先に龍牙少年の攻撃にも気づいていただろう、そこも評価しているぞ!」

「おおっそう言う事かぁ!!」

 

言われて気付く切島、なんだかんだで優秀な事を連発していたのである。その後の爆豪と龍牙の怪物的なインパクトの影響で影が薄くなってしまっているが……。そんな中でまだ視線を集めているのは未だ個性を解除しようとしない龍牙、腕を組んで壁に寄り掛かるようにしながら黙り込んでいる。機嫌でも悪いのかと思う中で葉隠が近づいて行く。

 

「ねぇ龍牙君、ちょっと個性解除して貰ってもいい?」

「……なんでだ?」

「いいから、怪我してるでしょ」

「……何でバレてるのかな」

 

肩を竦めるようにしながら龍牙は個性を解除する、闇が薄れるかのように元のスーツ姿へとなった龍牙。よく見てみると左腕辺りから出血しているのか色が赤黒く染まっている。めくってみるとそれなりに酷い火傷を負っているのが分かる、流石の龍牙もノーダメージという訳にはいかなかったらしい。

 

「おいおい結構酷い火傷じゃねぇか!?痛くねぇのか龍牙!?」

「気になるレベルの痛みじゃない、放課後に医務室に行こうと思ってはいた」

「今すぐ行った方が良いよ!怪我を後回しにしても良い事なんて一つもないよ!?ねぇそうですよねオールマイト先生!?」

「うむっ葉隠少女の言う通りだ。黒鏡少年、許可上げるから医務室に行ってきなさい」

 

そう言うとオールマイトは医務室使用許可書に一筆認めて龍牙へと渡す、龍牙は大丈夫だと言うが葉隠に押されるように医務室へと向かう事になった。本当に痛くはないのだが……渋々医務室へと歩き出した。溜息をつきながら到着した医務室、扉に手を掛けて中へと入ると中からは見知った人からの声が聞こえてくる。

 

「おやっお前さんかい龍牙」

「世話になりますリカバリーガール」

 

医務室にいたのは小柄だが優しげな笑みを浮かべている老婆、長年雄英に勤めながら多くの生徒達の成長を見守りながら治療を行ってきた雄英の屋台骨、希少な治癒の個性を持つリカバリーヒーロー、リカバリーガール。そんな彼女は龍牙からの言葉を受けて一層笑みを強くしながら言う。

 

「昔みたいでいいよ、今は二人しかいないからね」

「分かりました、じゃなくて分かったよ―――ばっちゃん」

「うんうん。ほら怪我した所を見せてごらんよ」

 

ばっちゃん、親しみを込めたそんな呼び方を聞いて嬉しそうに微笑みながら座るように促しながら患部を見る。火傷と裂傷による少し深い傷、先ず的確な処置をしてからリカバリーガールは自分の個性を発動させる。彼女の個性である癒しは対象者の治癒力を活性化させ、重傷もたちどころに治癒させることが出来る。個性発動の姿はやや個性的だが……。

 

「チユーーーー……これで良しっと。大丈夫かい、アンタの体力なら問題はないと思うけど」

「少し身体だるいけど問題ない、それに本当は来る気なかった。全然痛くなかったから」

「アンタの悪い癖だね。一度受けた大きな物と比較しちゃうのは、怪我は怪我だから遠慮せずに来な」

 

治癒を終わらせながらリカバリーガールは何処か心配そうに龍牙を見る、彼女にとって龍牙は孫のような存在なだけではない。彼のオリジンの奥深くまで知っている数少ない人物の一人でもある。彼女からすればこれからの龍牙の歩む道が心配でならない。

 

「何度も言うようだけど龍牙、アンタの歩む道は大変だよ。ヒーローは見た目を重要視する所もある、助けた人間に安心感を与えるのも大切な仕事。その点アンタは相当不利、それを承知でヒーローになろうとしているのは分かってる。覚悟は決まってるよね」

「何回聞くんだよばっちゃん。俺はなるよヒーローに」

 

何度繰り返したかもわからないようなやり取り、それに龍牙は変わらない答えを提示し続ける。それを聞き此方も肩を竦めながら分かったよと返す。そして医務室から出ようとする孫に一つ言っておくべき事があった。

 

「龍牙、B組にだけどねある生徒がいるんだよ。その子―――鏡 白鳥って言うんだよ」

「―――っ……そう、じゃあまた来るよばっちゃん。今度は治療とかじゃない用事で」

 

一瞬、身体を強張らせた龍牙。しかし直ぐに何事もなかったかのように医務室を後にしていった。そんな背中を見送るとリカバリーガールは溜息をついた。

 

「厄介事にならないと良いんだけどねぇ……」



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厄介事を避けられない黒龍

「オールマイトの授業はいかがでした!?是非一言お願いします!!」

 

戦闘訓練の翌日の登校、そこで待ち受けていたのはオールマイトが教師として雄英に就任した事を嗅ぎまわり自分達の飯の為にしようとするマスコミの山。少しでも情報を得ようとしているのか登校している生徒たちを狙って取材を試みている。生徒達からすれば迷惑極まりない、一部生徒はテレビに映れると喜んでいる者もいるだろうがそれは向こうが有力な情報を口にしている場合のみ。それ以外の生徒など塵芥に等しい。マイクやカメラを押し付けてくるように迫ってくるマスコミ、それらは龍牙は大嫌い、というよりも他人の迷惑も考えずに行動する人間が嫌いとも言える。答える気など無かったのに迫ってくる女性アナウンサーに苛立ったのか鋭い視線を向ける、冷たい氷の刃のような視線に思わずヒッ!という声が漏れるが龍牙は気にしない。

 

「……登校出来ないんですけど」

「す、すいませんでした!!ど、どうぞどうぞ!!」

 

まるで恐れる不良の頂点に道を譲るかの如く、道が開ける。それほどまでに龍牙の冷たい視線は恐怖に値するという事だろう、ため息を一つ付くとそのまま校門を潜って中へと入っていく。こちらを恐れるように見つめるマスコミの視線を背中で受けながらふと思う、自分の個性の事を考えるのならば見た目の事で怖がられるのは当たり前。それに応じた対応をしていては何も変わらない、ならば懇切丁寧な対応をすべきだったのではないか?とこれからの課題の一つとして考える事にするのであった。

 

「やっほ~龍牙君おはよう!」

「葉隠さん、おはよう。今日は曇りじゃないから悪い天気だな」

「青空なお天気だから悪くはないと思うけど?」

「俺にとっては曇りが最高にいい天気なんだ。晴れは暑くなるからあんまり好きじゃない」

 

途中合流した葉隠と適当な会話をしながらも教室に到着する。戦闘訓練では凄かった、カッコよかったという言葉を貰えて龍牙は口角を緩めながら少しだけ笑った。自他共に認める恐ろしい風貌の個性、それをカッコいいと言われるのは彼にとってこの上ない喜びと化し始めていた。それに沿うような行動も大切なのではないかと軽く思い始めていると相澤が教室へとやってきてHRが開始される事になった。初日の除籍云々の関係か、相澤が居る時には酷く静まるのがA組となった。

 

「昨日の戦闘訓練お疲れさん、VTRと成績は見させてもらった。爆豪、お前ヒーローやっていく気なら餓鬼みたいな事やめて客観的に自分と周囲を判断しろ」

「……分かってる」

 

爆豪に釘が刺される、先日の訓練では龍牙との戦闘後に行われた緑谷との戦闘訓練で同じような酷く荒々しくビル内を爆破しまくるような戦いを行っていたらしい。流石に大爆発は控えたようだがそれでもビルの内部がボロボロになるような戦い方だったらしい。そして緑谷もその戦闘でそれなりに深い怪我をしてリカバリーガールの所に担ぎ込まれたらしい。見る限り既に包帯もしていないので良い方向には向かっているらしい。

 

「個性の制御出来ねぇからしょうがないじゃ通させない。それをクリアすれば出来る事も増えて行く、焦れよ緑谷」

「はっはい!!」

 

なんだかんだで認めるべきは認めて伸ばすべきを伸ばす、それが相澤先生である。そして次に彼が口にした言葉でクラスはまた別の熱狂に包まれる事になる。

 

「学級委員長を決めて貰う」

『学校っぽいの来た~……』

 

初日の合理的虚偽による除籍警告で完全に警戒していた皆はやる事を聞かされた改めてホッとしたのか息を付いた。本来学級委員長は雑務のようなイメージがあり誰もやりたがらないようなものなのだが、ヒーロー科においてはトップヒーローに必要な集団を導くという素地を鍛える事が出来る。故に皆が自己推薦を行っていく。唯一自己推薦していないのは興味なさそうにしている龍牙ぐらい、酷く如何でも良さそうに欠伸をしている。本気で如何でもいいのである。

 

「(俺の柄じゃないしな……それに俺みたいなやつが委員長になったら厄介事招きそうだ)」

 

ヴィラン顔負けな姿をする自分が委員長をすれば要らぬやっかみを向けられるかもしれない、本人としてもクラスとしても迷惑だろうから遠慮しておく。

 

「皆静粛に!!!"一"が"多"を導く大変な仕事、それをただやりたいからと、簡単に決めて良い筈がない。だからこそ信頼えるリーダーを決める為、投票を行うべきだ!!」

 

ここで真面目な眼鏡君でお馴染みの飯田が投票で決めるべきだと主張をした。自分もやりたいのか真っすぐ、見事な一直線に伸びている腕に皆からツッコミが入る。が、結局相澤の時間内に決まるなら何でもいいという言葉から投票制は可決される。そして……一番票を獲得したのは緑谷、次点で八百万であった。因みに龍牙は0票だったりする。

 

「あれ龍牙君他に入れたの?」

「ああ、俺は委員長如何でもいいから」

「なっでは君が俺に入れてくれたのか!?」

 

そう龍牙は飯田に入れたのであった、飯田は他の人に入れたらしく0票である事も覚悟していたのか酷く驚いている。理由を聞こうとするのだがそれより前に相澤はぶった切って授業を始めてしまったので、そこまでとなったので飯田は昼休みに絶対聞きに行こうとするのだが……それよりも早く先客が龍牙を訪ねた。

 

「あのすいません、龍牙って人此処にいませんか……?」

 

昼休み、皆が昼食を取ろうと動き出そうとする中A組を訪ねたのは長い白銀の美しい髪をした美少女であった。そんな少女が訪ねたのは龍牙であった。龍牙は顔を上げて自分を訪ねてきた少女へと目を向ける、彼女は漸く会えたと言わんばかりに瞳を輝かせた。

 

「やっと会えた……!!!」

「……はぁっ面倒事か」

 

その少女とは対照的に龍牙は深い深いため息で答えた。クラス内は一体どういう関係なのかと考えで染まる中、龍牙は歩き出し、昼食に誘ってくれた飯田に謝罪をしてから少女を連れて教室から出て校舎近くの森の中へと入っていった。そこで龍牙は面倒くさそうにしながら問う。

 

「それで……お前は誰だ、まあ予想はしてるが……」

「鏡 白鳥、貴方の……妹です」

「やっぱりか……」

 

潤んだ瞳を向ける白鳥、ため息を吐きながら俯く龍牙。二人はどのような言葉を向けあうのか。



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話をする黒龍

過去の遺物、それはどのように捉えられるだろうか。

 

過去の遺恨? 過去からの贈り物? 過去の落とし物?

 

それは物による。本人からすれば邪魔な者、厄介事でしかない事もある。

 

―――そう、自分の妹ですらそれに該当する事もあるのだ。

 

 

目の前にて感動の余韻に浸るかのような涙を流す少女、鏡 白鳥。確かに自分の妹の名前だ、名前を出されるまで思い出す事もなく脳裏に過る事もなかった名前。リカバリーガールに生徒として在籍している事は聞いていた、何れ会う事になるだろう程度には思っていたがまさかこれほどまでに早く出くわすとは思いもしなかった。さて……如何するべきか。

 

「ずっと、会いたかったです……お兄ちゃん……!」

「(お兄ちゃん、ねぇ……)」

 

自分の事を兄と呼ぶ目の前の美少女に何も思わない自分は可笑しいのだろうか。美少女とは思うのだから可愛いと思っておくのが正常なのかとも考えつつも早く昼食を取りたいという欲求が増してきた、純粋に腹が減ってきた。

 

「それで俺に何の用だ鏡」

「えっ……な、何の用って……」

 

何時までもこうしている訳にもいかないので思い切って聞いてみると妹は酷く困惑したようにこちらを見つめている、何を言っているんだと言わんばかりの表情。

 

「わ、私はずっとお兄ちゃんに会いたくて……」

「あ~……10年ぶり……になるのか。んじゃ久しぶり」

「えっえっ……?」

 

素直に自分の心に従って言葉を出したのだが、余計に混乱している様子。では何を言えばいいのだと溜息を吐きながら面倒くさそうにしていると白鳥は震えながら言葉を作る。

 

「だ、だって10年ぶりの兄妹の再開、ですよ……?お兄ちゃんが個性の制御の為に施設に行ってから私がどれだけ寂しくて会いたかったのか……分からないの……?」

「個性の制御……何の話だよ」

 

如何にも豪く話がかみ合わない気がする、白鳥からすれば自分は制御が難しい個性を制御する為に施設に行っているという事になっているらしい。此処からして随分可笑しい、一体何を言っているのか全く理解出来ない―――行ったのではなく捨てたの間違いだろう。

 

「お前、まさか俺が個性を使えた時の事何も聞いてないのか」

「と、当然聞いてます!!親戚の集まりの中で遂に個性の発動を迎える事が出来た。ですが制御が酷く難しくて特殊な個性訓練施設のある研究所に行っていると聞かされています!」

「……成程な、そういうストーリーになってる訳か」

 

それを聞いて再び深々と溜息を吐いた、これで自分と妹の間の話の齟齬の原因が理解出来た。確かにあの場に妹はいなかったし説明するのは両親と親戚たち、それならば自由に話を組み立てる事も出来る。そういう事になっているのか……一筋の光の尾がフッと消えるのを自分の中で感じ取った。もしかしてと思っていた感情の糸が切れた音がする、やっぱり自分の家族は―――

 

 

『うんうん、大分個性の使い方が上達してきたね!今日はお祝いしないといけないのさ!!』

 

『その調子で鍛錬に励めよ、見た目の印象など自分の力と使い方で吹き飛ばしてしまえ』

 

 

あの人達だけだったんだと確信出来た。分かっていた筈なのに一筋の希望に手を伸ばし指を掛けていた。本当の事が分かった時の落差の事を分かっていた筈なのに……そして同時に感じるのは憤りと苛立ち、不思議な事に悲しさや恐ろしさなどは欠片もなかった。純粋な怒りだけがそこにあった。

 

「鏡、お前は何も知らないらしい。だから何も言わない、だが俺にとってはお前はどっちかと言うと他人だ」

「他人……なぜ、如何してなのお兄ちゃん!?」

「気になるなら両親に聞いてみな―――俺を捨てた感想は如何かってな」

「捨てっ―――!?」

 

白鳥は必至に理解に努めようとしている。龍牙自身も彼女には何の責任もないし何も背負う必要もない事は理解している、だが龍牙には彼女が何処か羨ましく見えてしまっている。心の底から望んだものを彼女は何の苦労も悲しみも恐怖も感じる事もなく手に入れている、それを妬んでいる自分が、憎んでいる自分が居る。出来るだけ平静を装うが言葉が荒くなっていく。

 

「まあ落ち着け妹よ。俺はお前と接する事は嫌じゃない、適当な所からスタートして行くとしよう。んじゃ俺はこれで、好い加減腹減ったからな」

 

ひらひらと手を振りながら振り返って龍牙はさっさと歩きだしていく。食事をしたいのは本心であるがそれ以上に離れたいという気持ちが強かった。あれ以上一緒にいたら確実に苛立っていた、いきなりの妹との再会で龍牙も困っている。話をするならば出来れば日を開けて気持ちが落ち着いてからしたいという気持ちに従ってさっさとその場から撤退する。

 

「(……あの二人からの影響、あるかもしれないな……相談とかしとくかな)」

 

この後、龍牙は食堂に向かうのだが話をしている間に何やら緊急事態が起きたらしく食堂利用が出来ない事を知ってショックを受けるが御握り弁当セットを確保する事に成功し、教室でそれを食べるのであった。




次回はUSJ!!


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USJへと向かう黒龍

龍牙が自身の妹、鏡 白鳥と再会してから数日。何も知らない彼女に少し言い過ぎたとも思いつつも龍牙は変わらない学生生活を営み続けていた。彼女が自分に関わる気があるなら関係を持つのは吝かではない、結局は彼女の意志次第で如何にもなる。関わろうとするならば友人的な接し方はするつもりでいるが妹として接するのは難しいかもしれない。

 

彼が妹の対処をしている間にマスコミが雄英のセキュリティを強行突破する厄介事などが発生していたが本人は全く知る由もなくそれを聞いて普通に驚いていた。そして緑谷が委員長を辞退してその代わりに飯田を推薦し、飯田はそれを承諾して委員長に就任した。そんな学生生活をしているとその日のヒーロー基礎学の時間となっていた。

 

「今日のヒーロー基礎学は俺ともう一人も含めての三人体制で教える事になった。授業内容は災害水難なんでもござれの人命救助(レスキュー)訓練。今回は色々と場所が制限されるだろう。ゆえにコスチュームは各々の判断で着るか考える様に」

 

伝える事を伝えたからさっさと行動しろと言わんばかりに相澤は20分後にバスに集合と最後に言い残して教室から出ていった。今までの事を考えれば遅れたら即刻除籍を考える事も考えるからか皆はテキパキと動きながら集合場所へと向かっていく。龍牙も例外ではなくコスチュームをその身に纏う、個性を発動させれば意味がなくなるとはいえコスチューム単体でも役割は持つ事が出来るようになっている。

 

「龍牙君もコスチューム着るんだね?」

「ああっ最初も俺はコスチュームはいらないと思ってた、でもあるのとないとは安全性が段違いって言われてな」

 

龍牙のコスチュームは最新の特殊繊維が使用されており、衝撃吸収性やダメージにもかなり強い作りになっている。関節各部には特殊合金製の物が当てられ保護が成されている。例え勢いを付けてサバイバルナイフをコスチュームを纏った龍牙の胸に突き刺したとしてもコスチュームが盾となって龍牙を守るようになっている。なのでどんなことが起きるのか分からない人命救助の場面でも十分に活躍が見込める。

 

「こ、こういうタイプだったのか……!!」

「全然意味なかったね」

 

委員長へと無事就任した彼の主導の下で出席番号順に席へ着いたのだが、後部はよくあるの二人分の座席、しかし飯田達が座っている中部から前部は左右に座席があって向かい合うタイプだったの出席番号順というのはあまり意味をなさなかった。飯田としても張り切っていたのだが、如何にも空回りしがちだ。

 

「私、思った事は口に出しちゃうの。緑谷ちゃん」

「えっあっはい!……えっと蛙吹さん!?」

「梅雨ちゃんと呼んで」

「え、えっと努力します……はい」

「あなたの個性――オールマイトに似てるわね?」

 

女子と関係をあまり持ってこなかったのか慣れない女子との一対一の会話に狼狽えている緑谷、梅雨ちゃんから言われた言葉に一瞬肝が冷えたかのような感覚を味わう。龍牙も少し気になるのか耳を澄ませながら話慣れていない彼なりの言葉を聞いて行こうと思う、

 

「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトは怪我とかしないぜ?よくある似ている個性とかそんな感じだぜきっと」

「ケロケロッそうかもしれないわね。今の社会だとよくある話だものね」

 

切島の言葉に何処かホッとしているような仕草をしている緑谷、何かあるのかと思いつつも今度は自分へと話題を振られた。

 

「でもやっぱり、派手な個性っつったら轟や爆豪に龍牙だよな!!」

「けど爆豪ちゃんはキレてばかり人気でなさそう」

「んだとてめぇ出すわクソがぁ!!」

「ほらね」

 

梅雨ちゃんの指摘を受けてキレる爆豪だが彼女は納得するような声を出しながら案の定だったわね、と言わんばかりに指をさす。そんな爆豪に対して轟はガンスル―だが龍牙は声を出す。

 

「それなら俺も人気は難しいだろうな。あの見た目だからな、ヴィランっぽいヒーローランキングという意味では人気は出そうだけど」

「マジでヴィラン顔負けの姿だもんな」

 

上鳴の言葉を肯定しながら自分の容姿へと話を持って行った龍牙に皆もそれには同意しか浮かべられなかった。個性:リュウガを発動させた状態を誰かに見せてヒーローかヴィラン、どちらに見えるとアンケートを取ったらぶっちぎりでヴィラン票が独占する事も夢ではない。

 

「でもそんな個性だと大変だったじゃねぇか?ヒーローも見た目を重視する部分もあるし、第一印象ってマジで大切だもんな」

「だな。入試で他の生徒を助けたのは良いんだが、ヴィラン呼ばわりされて泣きながら逃げられたりもした」

『ああっ~……』

 

それはあまりにも失礼だと思う反面、それは致し方ないと思ってしまうのが龍牙の恐ろしい所だろう。オールマイトが龍牙のように恐ろしい見た目で私が来たっと言って誰かが安心するだろうか。絶対にしない、寧ろ自分を襲いに来た新たなヴィランにしか見えない。その様な現実を味わってきた龍牙、それでも彼はヒーローを目指す事を絶対に諦めたりはしない。拳を握りながらそう思っていると上鳴が少し慌てながら話題をそらした。龍牙が何かを我慢しているように見えたのかもしれない。

 

「そ、そういえばさ!!龍牙、この前お前を探しに来た女の子とはどんな関係なんだよ

「そう、それおいらもすげぇ気になってた!!!あんな超ハイレベル美少女と何時の間に知り合ってたんだ!?」

「あああれか。あれ、妹だったみたい」

『妹!?』

 

再び驚きが広がる中で一部生徒は龍牙の言葉に違和感を覚えた。まるで彼女が妹であることを知らなかったような……

 

「でもどうして探しになんか来たんだ?お前を知らなかったって感じだったぜ?」

「会うのは10年ぶりだったからな……互いの顔なんて全然知らんかったからな」

 

それを聞いて皆はどういう事なのかと思う中、相澤がもう着くから静かにしろという言葉で鎮静化させられてしまったのでそこで終わりとなった。龍牙とあの女子は何か複雑な家庭環境があったのだろうと察し、彼らはそれ以上の追及をやめた。救助訓練の会場となる場に到着してバスから降りていき、相澤引率の元、中へと入って行くとそこにあったのは驚きの光景だった。そして思わず口を揃えて言ってしまった。

 

『USJかよ!!?』

「水難事故、土砂災害、火事、etc(エトセトラ) etc(エトセトラ)……此処はあらゆる災害の演習を可能にした僕が作ったこの場所――嘘の災害や事故ルーム――略して“USJ”!!」

『本当にUSJだった……!?』

 

そんな言葉を漏らしながら登場したのは宇宙服のような戦闘服を纏っている一人の教師であった。スペースヒーロー 13号。宇宙服に似ているコスチュームを着用している為に素顔は見えないが、災害救助の場で大きな活躍をしているヒーローの一人だった。そんな13号は言いたい事があるらしく、言葉を綴った。個性には人を殺してしまうほどの力を持っているものがあると。この授業ではそれを人を助ける為に使う事を学んでほしいという強い思いがあった。それらを感じた所で授業に入ろうとした時の事―――

 

龍牙よりも遥かに恐ろしい悪意と敵意が、影を伸ばした。



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ヴィランと遭遇する黒龍

心臓が大きく音をかき鳴らした。突然の事に龍牙は驚きながらも何かを敏感に感じ取った、何かが迫ってくるようなものを感じながら視線を彷徨わせた。ほぼ同時にUSJ内の照明が僅かに暗くなった、直後に相澤は背後の先に噴水広場に反射的に顔を向けた。向けた先には黒い靄が空中で不気味に渦巻き、その中心からは悪意と殺意が漏れ出ていた。活動中に何度も味わったヴィランから向けられるそれと同じものに相澤は顔を顰め、指示を飛ばす。

 

「一塊になって動きな!!13号、生徒を守れ!!」

 

リュウガ……!!

 

「黒鏡、下手に動こうとするな!!」

「分かってます……!!」

 

相澤の指示よりも早く、個性を発動させ皆の盾のように前へと躍り出た龍牙。相澤はそれを嗜めるが龍牙の火力と防御力は折り紙付きなのは知っている、ある意味一番前に出るべき人材ともいえるが生徒を危険に晒すわけにはいかないと、教師の矜持を引き締めながら相澤はゴーグルを装着し13号も動き出す。

 

「皆さん後ろから出ないように!!これは演習などではありません、完璧な非常事態です!!」

 

まだ何が起こっているか分からないという風な生徒達はきょとんとしていたが、ただならぬ雰囲気を察し直ぐに13号の背後へ集まっていた。唯一集まろうとしていなかったのは縄張りを犯した侵入者へと牙と爪を研ぎ澄ませているかのように唸りを上げている龍牙だけ。

 

「どこだよ、オールマイト…せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ…子どもを殺せば来るのかな?」

 

身体の各所に手を付けている男から悪意が放たれる。思わず龍牙は腰を落とすが相澤が制止を掛けるとゆっくりと後ろへと下がり13号の隣に立つ。

 

「黒鏡、お前も期を見て引け」

「……了解です。剣、お貸ししますか?」

「俺は剣は使えん、自分で持っとけ…13号、お前は生徒達を連れて避難させろッ!!俺はあいつらを食い止める」

 

捕縛武器を手に取りながら前へと一歩出る、敵は此処にオールマイトが来ることを知っていた。彼はこの授業に参加する予定だったが諸事情で今はいない状態、それを知らずいや授業に参加する事を知っているという事は先日のマスコミはあれらが手引きして雄英のカリキュラムを盗んだのだろう。侵入した来た者達へ苛立ちを持ちながら一歩進むと緑谷が声を上げて止める。

 

「でも先生!!先生(イレイザー・ヘッド)の戦闘スタイルは個性を消してから捕縛!正面戦闘は危険すぎます!!」

「一芸だけじゃヒーローは務まらん」

 

力強い言葉を言い残し、相澤は飛び出していく。これからは教師:相澤 消太ではなくプロヒーロー・イレイザーヘッドとして活動を開始する。飛び出していく相澤へとヴィラン達が笑いながら攻撃態勢に入る、最初に射撃能力を持ったヴィランがその銃口を向け、いざ意識(トリガー)を引こうとするが―――全く攻撃が出来ない。

 

「個性が使えねぇ!?」

「おいどうなってんだ!?」

「フンッ!!」

 

個性が消され浮足立っている。日常的に使用している自分の身体の一部がいきなり使用不能になる、これ程までに混乱する事もないだろう。その隙を突きイレイザーヘッドは捕縛武器でヴィランらを絡めとり、それぞれの頭部を激突させるようにしながら意識を奪って無力化していく。迫ってくる異形系個性持ちには、相手の動きの勢いを利用したカウンターを決めながら捕縛武器とのコンビネーションによる見事な体術で無力化していく。

 

「す、凄い……!!」

「緑谷感心するのは後だ、後ろは任せて早く行け!!」

「わ、分かったよ!!」

 

感激する緑谷の気持ちもわかるが此処は避難を優先するべきだと急かす龍牙、それに従って走り出すのを見て自分もその後に続いていく。

 

「逃しませんよ、生徒の皆様方」

 

瞬時に移動し、出口への道を封鎖するかのように立ち塞がる霧のような姿をしているヴィラン、他のヴィランをここに連れてくる役目も背負っている黒い霧のヴィランは何処か紳士的な口調をしながらも明確な敵意と悪意を向けてくる。それらから守る為のように13号が一歩前に出る。

 

「はじめまして生徒の皆様方。我々は"敵連合"と申します、以後お見知りおきを。この度、ヒーローの巣窟であり、未来のヒーロー候補生の方々が多くいる雄英高校へとお邪魔致しましたのは他にはない目的があるからです。我々の目的、それは平和の象徴と謳われております№1ヒーローであるオールマイトに息絶えて頂く為でございます」

「オールマイトを……随分な事を言いますね」

「大体不敵でしょう、それもヴィランの特権という奴です」

 

不敵に笑い続けている黒い霧のような男に13号は意識を集中する、一瞬でも隙を見つける事が出来れば自分の個性で最低でも動きを制限して生徒たちを逃がす事が出来る。身体を動かす瞬間、個性発動の瞬間でもいい、そこを見逃さないと意識を集中した時だった。自分の後ろから二人の生徒が飛び出して攻撃を繰り出さんと向かった、爆豪と切島だった。不意打ちに値する筈のそれ、命中すると思った瞬間に二人の目の前に自らと同じ黒い霧を展開すると二人を飲み込み姿が見えなくなってしまう。

 

「危ない危ない……。いけませんね幾ら生徒と言えど金の卵、という訳を失念していましたか。だが所詮は――卵、私の役目は貴方達を散らして、嬲り殺す事ですので」

 

そして今度はすさまじい勢いで霧が伸びていく、今度は自分達を包み込んでいく。身体が何処かに飛ばされているかのような感覚を味わうが直後に凄まじい暑苦しさと息苦しさを感じる。周囲は火の海、あちこちから火の手が上がっている。

 

「あつぅ!?ここって火災のエリアなのか?!」

「アチアチアチッ!!?」

「尾白に葉隠さんか!?無事か!?」

 

周囲を確認してみるとそこには尾白と葉隠がいた、如何やら自分は二人と共にUSJの中にある火災エリアに飛ばされたらしい。そして周囲には自分達を包囲しているヴィラン達が見えている。

 

「おい来たぞ獲物だ!!」

「っておいあんな奴集まりに来てたか……?」

「いや俺は見てないが……だがあれはどう見ても俺達の仲間だろ」

「だよな、あれでヒーロー野郎とか正気を疑うぞ俺」

 

とヴィラン達からは龍牙の見た目についてのコメントが次々と漏れてくる。それは龍牙の心を抉るだけではない、逆鱗を殴りつけているようなものであった。流石に尾白と葉隠も次第に唸り声が酷くなっている龍牙を見てやばいと思い始めた。

 

「……もう我慢の限界だ、俺だって好きでこんな姿じゃねぇんだゴラァアアアアアアアアアア!!!!!」



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否定される黒龍

俺はヴィランじゃない、ヒーローを志している。絶対にヴィランなんかじゃない。

 

 

―――あれはどう見ても俺達の仲間だろ。

 

―――あれでヒーローやろうとか正気を疑うぞ俺。

 

 

……だけど、目の前のヴィラン達は俺は自分達の側にいる者だと言う。一般人だけではなく、ヴィランにも―――俺が、間違っているのか……?

 

 

「違う、俺の道は俺が決めるんだ。俺は―――ヒーローになりたいんだ……」

 

そう思う龍牙、だが彼の心は深く傷ついていた。

 

 

「こいつ好い加減にしやがれ!!」

「自分だけ取り分を多くとろうってのか!!」

 

常時発動異形系と思われる巨漢のヴィランがその巨体に釣り合っていないような巨大な腕を差し向けてくる。人間一人を簡単に握り潰せるかのような大きさが迫る中で龍牙はそれに向けて右腕の龍頭で殴りつける。インパクトの瞬間に龍の口から漏れる黒炎が腕に燃え広がる。通常の炎よりもずっと高温なのか、周りが火の海なのにも関わらずに悲鳴を上げながらのたうち回り始める。

 

「あぁぁぁあぁあつぃ、あつぃぃいい!!!?」

「み、水水ぅぅぅうう!!!」

 

―――ヒィッ!!?なんだこれは……悪魔、いや怪物!?

 

―――ヴィ、ヴィランだ、ヴィランが龍牙をっ……!!

 

―――ヴィランだ早く通報しろ!!

 

「違う、違う違う違う……俺は……ヴィランなんかじゃないんだぁぁあああ!!!」

 

悲鳴のような声を上げながら龍牙は全力で地面を殴りつけた。個性を発動させているからか、地割れと共に黒炎が地割れから間欠泉のように溢れ出していき周囲を飲み込んでいく。周囲を囲んでいたヴィラン達は何の抵抗も出来ぬままにそれに飲み込まれていく。

 

「俺は、俺は唯……あぁぁああああああああああああ!!!!!!」

 

 

「は、葉隠さん俺に摑まって!!」

「う、うんっ!!」

 

黒炎の危険性を見抜いた尾白は葉隠の手を掴んだまま尻尾で地面を叩きつけて跳躍し、建物の一部を尻尾で掴んで黒い炎から逃れる。そして地面はあっという間に黒い炎が支配していく、紅い炎を飲み込んで更に力を増していくかのような黒い炎は龍牙の叫び声に呼応するかのように勢いを増していく。龍牙が自身の姿を気にしているのは既にA組の中では当たり前と化し、余り弄らない事も決まっている。

 

「龍牙君、マジでキレてるみたいだ……」

 

本物のヴィランから自分達と同じだ、ヒーローの側にいる事などあり得ないなどと言ったことを言われた事で龍牙の中にあった黒い感情を刺激してしまったのだろう。我慢してきた怒りを爆発させているというのが正しいような光景に尾白は息を呑んだ。黒炎の中で咆哮を上げながら黒い龍戦士、自分の目にもヴィランのように映ってしまっている。

 

「違う……泣いてるよ龍牙君」

「えっ?そ、そりゃ確かに咆える事を鳴くともいうけど……」

「違う!!龍牙君、泣いてるよ……苦しいって」

 

透明であるが故に抱えられている事が分かりにくいが、尾白は感覚で分かる。葉隠は龍牙が泣いていると呟く。あれは咆哮ではなく慟哭。怒りではなく悲しみで吼えている、透明であるが故に気付けているのか、見えない筈の龍牙の心を見た葉隠。そこにあるのは悲しみと寂しさによる迷子の子供のような叫び声。

 

「俺は、俺はぁぁぁあああ!!!」

「―――龍牙君!!龍牙君、私たちは感謝してるよ!!龍牙君のおかげで助かってるよ!!有難う!!」

「は、葉隠さん今それ言うのかい!?」

「いいから尾白君も言って!!」

「えっええっ!?わ、分かった!龍牙君本当に有難うお陰で僕も葉隠さんも大丈夫だよ!」

 

尾白は何が何なのか理解も出来ないままに龍牙への礼を口にする。今の龍牙が恐ろしいのは確かだが感謝しているのは本心から、それを素直に言葉にして伝える。叫び続けている彼にも聞こえるように大声で。

 

「―――っ……!」

 

その声が届いたのか、それとも正気に戻ったのか龍牙は叫ぶのをやめた。それに連動するかのように黒い炎も同時に鎮火され消えていった。黒い炎に焼かれたヴィラン達の炎も収まり激痛にのた打ち回ってこそいるが意識と命は確りあるようだ。龍牙は周囲を確かめるかのように見まわしている、一体何をしていたのか自分で理解する為に情報を集まるかのように。

 

「俺、は……」

「いてぇ……いてぇよぉ……」

「だ、誰か助けて……」

 

周囲から呻きを上げているヴィラン達の姿を見る、どれも火傷による痛みで動けなくなっている者達ばかり。誰もが苦しみにもがく声を出しながら自分を見つめると決まってある声を出す。

 

「く、来るな……こっちに来るなぁ……!!」

「や、やめてくれ、もうやめてくれっ……!!」

 

絶対的な恐怖におびえ、身体を震わせている。そこにいるのはもうヴィランではなかった、絶対的な力を身体に刻み込まれ怯え切った哀れな者達しかいない。そしてそれを成したのが自分だという事も察してしまう。先程まであれほどまでに威勢があり、自信と悪意に満ち溢れていたヴィラン達がである。自分の動作の一つ一つに脅えているのか、視線を彷徨わせるだけで悲鳴のような声を上げる。

 

「(ヴィランって、誰なんだ……この場におけるヴィランって俺じゃないのか……?)」

 

次第に呼吸が速くなっていく、心臓が早鐘を打つ。心臓の音だけが増幅されてそれと呼吸音だけが強く聞こえてい来る、思考が巡る、巡って巡り続けていく。認めたくもない事実が自分に迫ってくるような気がする、いや襲い掛かってきたヴィランに攻撃を返した……いやそれでは済まないかもしれない、いよいよ思考が麻痺してくるような苦しさを感じ始めた時―――

 

「―――君、龍牙君!!」

「龍牙君大丈夫かい!?」

 

葉隠と尾白の言葉でハッと我に返る事が出来た、顔を上げた先には心配そうに顔を覗き込んでくる尾白とギュッと握りしめられている葉隠の手袋があった。葉隠も手を握りこんで心配してくれていたのかもしれない。

 

「ごめん心配を掛けた」

「う、ううん大丈夫ならいいけど」

「龍牙君大丈夫なの本当に?」

「大丈夫だよ、もう大丈夫……それよりも早くここから出よう、暑いし」

 

そう言いながら先導するかのように先を歩きながら出口を目指す龍牙だが、葉隠は聞いていた。小さく、自分に言い聞かせるように大丈夫と何度も繰り返しているのを……。



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乗り越えたい黒龍

雄英高校の施設、通称USJにヴィランが襲撃を行った。のちにこれはUSJ事件として警察内部で処理される事になった。この事件の主犯と思われるのが(ヴィラン)連合を名乗る組織の存在、それらの目的は平和の象徴となっているトップヒーローたるオールマイトの殺害。が、奇しくもそれは標的であるオールマイトの奮戦によって阻止され生徒達に大きな怪我を負った者は居なかった。いたとすれば個性の反動で怪我をした緑谷位であった、が、もう一人医務室を訪れていた生徒が居た。黒鏡 龍牙であった。

 

「……ばっちゃん、俺ってまだまだだよね……受け入れなきゃいけないって分かってる筈なのに……」

「そうだね。お前さんはまだまだ若造だよ、未熟な若造だよ」

 

医務室、ではなく談話室にて龍牙とリカバリーガールの姿があった。治療が必要となる者の治療を済ませたリカバリーガールが訪れた談話室には思い詰めているかのような龍牙は腰を下ろしていた。顔に深い影を落としながら視線を彷徨わせている。

 

「ヒーローは誰かを助けるって思いで動くもんだよ、でもアンタは自分の感情で動いた。どっちかって言えばヴィランのそれに近いねぇ……今回は状況が状況だから結果的には良かったかもしれないけど」

「ううっ……」

 

ヒーローとして長い時間活動してきたリカバリーガールとしても龍牙の行動ははっきり言って褒められた物ではない、龍牙の個性に対するコンプレックスは根深い。人生を狂わされた要因ともいえる、それを他でもないヴィランに自分達と同じと言われたら当人としては我慢できない物が渦巻くのも理解出来る。

 

「仮にプロだとしてその行動は正しかったかい?自分の思いで暴走してヒーロー仲間をも巻き込みそうになったのは如何かと思うよ」

「……うん、俺もそう思う。俺も何とかしたいよ、自分の中で気にしない気にしないって思ってきたのに……」

 

強く手を握りこんだ時の事、談話室の扉が開け放たれた。目をやってみるとそこに立っているのは……白い毛並みをしたネズミだった。

 

「こ、校長先生……」

「YES!ネズミなのか熊なのか隠してその実態は……校長さっ!!」

「それ龍牙に言う必要ないんじゃないかい?」

「お約束は守らないとね!!」

 

そんな風に言葉を漏らしているネズミはこの雄英高校の校長を務めている根津であった。根津は人懐っこそうな笑みを浮かべながら龍牙の隣に腰を下ろした。

 

「今回は本当にお疲れ様だったね、個人的には君が無事で本当に良かったよ」

「……校長先生、俺ってヒーロー失格ですかね」

「随分と早急な答えだね。それを決めるのはあまりにも早すぎるよ、君はまだ子供だ。子供であるという事は成長の可能性があるって事だよ。これから大きくなっていけばいいんだよ」

 

暗い声を出す彼を慰める根津、片手でお茶を淹れながら彼なりの意見を出す。このような言い方は失礼かもしれないが龍牙が失格なら普段から酷く荒々しく平然と殺すと連呼する爆豪の方が失格になりそうな気もする。彼だってこれから丸くなっていく事もあり得るのだから、龍牙とて変わっていく事も出来る。

 

「でも君は今までは我慢出来てきた筈、妹さんに会って昔の事を思い出しちゃったのかい?」

「それもある、とは思います……あの二人からの干渉があるかもって思うと……」

「……ないとも言えないからね」

 

根津も少しだけ表情を硬くして龍牙の意見に同じものを浮かべる、龍牙にとって本当の両親はトラウマを強く刺激してしまう存在でしかない。過去の事で大きく取り乱さなくなってきたとはいえ、まだまだ幼く精神的にも未熟な所が目立つ彼が再び両親と会った時どうなるだろうか、そんな両親が過去の事を忘れて寄りを戻そうとしたらどうなるのかは根津ですら想像できない。

 

「それじゃあ今君はあの二人の事をどう思ってるんだい?」

「……正直分からないです。でもよくは思ってません」

 

逆に良く思え、というのが難しいかもしれない。突如個性が発現し、皆が龍牙の事をヴィランだと決めつけた。そしてまともな確認をすることもなく恐怖に囚われたまま攻撃や拘束を行い、彼らは警察に龍牙を引き渡し引き取らずに施設へと預けてしまった。全ては龍牙の姿がヒーロー一家としての名前に傷をつけるかもしれないという、愚かなエリート的な思考故に生まれている。いっその事、本当に無個性の方が幸せだったかもしれない。

 

「でも俺は校長先生に会えた事は幸せだと思ってます、素晴らしい個性だって言って貰えましたし」

 

家族からの事で破滅的に暗く絶望していた龍牙にそっと手を差し伸べたのが他でもない根津だった。出会いこそ偶然が引き起こした物だったが、それが新しい希望を手繰り寄せた。

 

「そう思ったのは事実だし本当の事だと思うよ、君の個性は出来る事の幅が広い。見た目だけじゃないって事を証明すればみんなに愛されるヒーローになれると本気で思ってるよ」

 

そんな龍牙にも温かく接してくれる人たちとの出会いもあった、でなければ間違いなく姿かたちだけではなく心までヴィランに堕ちてしまっていた事だろう。ヴィランとの遭遇は不意にもそんなIFの姿を彼に幻視させた、自分が恐れた物を。だからこそヒーローになりたい、自分を超える為に、この力でも人を助けられることを証明する為に。

 

「……すいません校長先生、初心忘れてたみたい。師匠の教え忘れてたかも」

「大丈夫かい、忘れたら後が怖いよ」

「全くです。だからもう忘れません、恐ろしくても大切なのは心ですからね」

 

そう言いながら拳を握る、そして決める。ヴィランだ何だと言われても、それを制したうえでヒーローとして動く事をやって見せる。その為にこれから師匠に連絡をしてみようと思っている。

 

「ちょっと俺、電話して着ます。師匠に叱って貰おうと思って」

「そりゃいいねぇ存分に叱られてきなさい」

「うんうんっ美しい師弟愛ってやつだね!」

「んじゃまた後で―――有難う父さん」

「うんっ気にしなくていいのさ」

 

 

 

『……そうだな、間もなく雄英体育祭だ。それまでの間……また扱いてやる』

「お願いしますっ……師匠!」



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体育祭に心躍る黒龍

ヴィランのUSJ襲撃後、雄英は処理やヴィランが敷地内が潜んでいないかの調査などで数日が休校となっていた。入念な調査の結果として問題が無いことが発覚し無事に授業は再開される運びとなった。無事に授業が再会されたことに安心する中、襲撃を受けたA組も何処か安心したような気持とこれからの課題のような物を見つけたものも多くいる。龍牙も必然的に登校してくるのだが、如何にも普段とは様子が違うように見える。

 

「ねぇねぇ龍牙君、ほっぺに絆創膏貼ってあるけどどうかしたの?」

「よく見たら包帯もしてあるな、怪我してるのか?」

「少しあってな、ヴィランに襲われてなったわけじゃないから安心してくれ」

 

龍牙が手当てを受けたような姿になってやってきた事だった。皆、USJでその様な怪我を受けたのかと心配するが、当の本人は全く平気そうな顔を作りながらも満足感に満たされているかのような笑みを浮かべていた。頻りに拳を握りは開くを繰り返すのを見つめ、何かを反芻するような仕草。何かあったのだろうかと皆が思う中で葉隠は近づいて行って笑顔で告げる。

 

「ねえ龍牙君、今とってもいい顔してるよ!」

「んっそうかな……」

「うんうんっキラキラしてる!あっでも私が行っても説得力無いかな?」

「ははっ確かに透明だもんね、でも鏡には葉隠さんの姿は映ってるよ。身も心も鏡みたいに綺麗って事だよ」

「おっ~それっていい響き~!よしこれからそれ、フレーズに使っていく!」

 

普段よりも饒舌に会話も進んでいる、明らかに機嫌がいいように見える。本当に何かあったらしい。尾白もそれを聞こうとするのだが、もう相澤が来る時間になってしまったので葉隠にそれを言って席に着く。全員が席について間もなく、直ぐに相澤がやってきた―――全身包帯でぐるぐる巻きにされているミイラ男状態で。

 

『相澤先生復帰早!?』

「大した怪我じゃない、婆さんが大袈裟だから包帯を巻いてるだけだ。気にするな」

 

相澤はUSJにてオールマイトと互角の戦いをやってのけるヴィランを連れた主犯格のヴィランらと戦闘、その際に大怪我を負っている。それによる傷はリカバリーガールによって治癒されているがそれでも重症患者なのは変わりはない。それなのに授業を行おうとしている辺り、動けるなら問題と思っている合理的主義者の相澤らしい。だがリカバリーガールはいう事を聞かないかなぁと溜息をついているだろうなぁと内心で思う龍牙であった。

 

「先日の件で色々言いたい事があるとは思うがそんな暇がない。新しい戦いが迫っている、覚悟しておけ」

 

そんな言葉に思わず一同は身体に力を入れてしまう。先日のUSJでのヴィラン襲撃、それがまだ続いているのかと皆に緊張が走っていく。誰もが自分達に危機が及ぶのではと緊張感を持っていた、そして相澤の口から語られる言葉に―――

 

「雄英体育祭が迫っている」

 

『クソ学校っぽいの来たあああ!!!』

 

大声をあげて歓喜する。どうやら危険ではなかったらしい。この言葉にクラス全員が少なからず興奮していた。雄英の体育祭と言えば学校規模のイベントというわけではない一大イベントなのだから。

 

嘗て存在した世界規模のイベントであるオリンピック、がそれらは個性の出現によって廃れてしまい今は存在しない。故に今はヒーロー達が個人の技などを競ったりする物がそれらに代わっている。プロヒーローによる競技も人気だが、学生が行うそれも人気。そしてその中でも雄英の体育祭はそれらの中でも規模も内容も群を抜いている。全国規模で放送される訳でここで結果を残すか目立つかしてプロの目に留まれば、将来目指すヒーロー像への近道が生まれてくる。己の力をアピールするチャンスなのだ。だからこそ、この雄英体育祭に向けられる熱意は内側からも外側からも並大抵のものではない。皆がこの体育祭で全力を発揮する。

 

USJ襲撃があったにも関わらず敢えて開催に踏み切ったのも理由がある。

 

「開催に否定的な意見もあるが、開催はする。雄英の管理体制や屈しない姿勢を見せつけるいいチャンスでもある。警備やらは例年の5倍以上だ、生徒諸君は安心して体育祭に挑んでくれ」

 

そんな言葉もあるA組の意識は一気に体育祭へと向けられていた。それに龍牙も熱くなっているのか龍らしい好戦的な笑みを浮かべながら拳を掌に叩きつけ力を込めていた。そんな中であっという間に放課後になってしまう、龍牙は放課後は行く場所が居るので荷物を引っ手繰って廊下に飛び出そうとするのだが、廊下にいる大勢の生徒達が此方を覗き込むようにしているので通る事が出来ずに急ブレーキを掛ける。

 

「と、通れない……」

「すっごい人だね!」

「これも多分、僕たちがヴィランの襲撃を受けたからだろうね……」

 

と葉隠と尾白が呟く。既にヴィラン事件の事は広まっており廊下には大勢の生徒が詰めている。野次馬目的なのか、それとも敵情視察なのか……それは定かではないがこれでは通れない。これでは約束している相手を待たせてしまう、出来れば直ぐにでも出たいのだが……。

 

「おいモブども、退け……邪魔だ。他人の迷惑も考えられねぇマスゴミかてめぇら」

 

そんな中、爆豪が罵声を浴びせながらも自分達の都合も考えろと遠回しに伝えたからか生徒達が少し道を作り始めた。それを見た爆豪は舌打ちをしながら邪魔だと呟きながらさっさと帰っていく、自分もそれに続くべきかと考えていると一人の生徒がそんな彼を見ながら言う。

 

「ふぅ~ん……あんなのがヒーロー科の生徒ねぇ……幻滅だな」

 

その生徒は爆豪を見ながらお前らもそんな感じかと挑発的に言葉を続けていく。が、流石に龍牙も声を出す。

 

「いや流石に全員あれと同一視されるのは勘弁願いたい、だがクラスメイトとして謝罪する。申し訳なかった」

「……いや俺も悪かった。ただ一言だけ言っておく。調子に乗ってると足元ごっそり掬われるぞ」

「肝に銘じておくよ、忠告有難う」

 

そう言い残すと満足したかのように、少し気だるげそうな彼は去っていく。しかし龍牙は彼の言葉にも一理あると思いながらも自分も気を引き締めなければと思い直す。そして時計を見てやばいと汗を流す。

 

「って時間がやばい!?ちょっと失礼、全力でダッシュゥゥウ!!!!」

 

凄まじい勢いで走り出していく龍牙、一体何があるのだろうか。龍牙が凄まじい勢いで走り抜けていく中、一人の少女がA組を訪れた。龍牙の妹である白鳥であった。

 

「あ、あの……」

「えっと、確か白鳥……さんだっけ」

「は、はい。お兄ちゃん……じゃなくて龍牙さんはいらっしゃいますか……?」

「龍牙君ならさっきすごい勢いで帰っちゃったよ」

 

それを聞くと白鳥は頭を上げて彼を追うように大急ぎで廊下を駆けだしていく。彼女も龍牙に用があったのだろう、しかし龍牙に会う事は叶わず肩を落とす姿が見られた。

 

「お兄ちゃん……お父さんとお母さんが会いたいって言ってるの伝えたいのに……」

 

そんな思いを抱くが龍牙は知る事もなく、とあることに勤しんでいた。それは―――

 

「がはぁっ……!!」

「如何した龍牙、この程度か!?立て、まだまだ終わりになどせんぞ!!」

「はいっ師匠……!!オオオリャアアアア!!!!」

 

師との特訓であった。




尚、約束の時間に間に合わず、ものごっつ怒られてメニューを倍にされた黒龍。


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決めた黒龍

「龍牙、お前血縁上の両親と会ったら如何する気だ」

「なんですか師匠いきなり」

 

体育祭に向けて毎日特訓を行っている龍牙、ひたすらまでに実践訓練を繰り返して個性のレベルと戦闘技術を、精神面などを徹底的に鍛え上げる特訓に弱音を吐くこともなく食らい付いて糧にしていく龍牙。そんな龍牙へと師匠が一つの事を訪ねた。それは龍牙の両親、肉親の事だった。数日前、妹である白鳥が両親が自分に会いたいと伝えて欲しいという事を言っていたことを聞いた。それに対しては急いでいたので詳しいリアクションはしなかった。

 

「ヒーローになる、いや体育祭に出るのであるならば確実にお前は多くの人間の目に映る。その結果で肉親がお前の事を知るのも必然、接触も間違いなくしてくる。その時お前はどうする?」

「あ~……どうでしょう、会ってみないと分からないですねぶっちゃけ」

 

分からない、それが素直な龍牙の本音。

 

「俺を捨てた事に対しての怒りならありますよ、妹に嘘吹き込んだのもムカつきます。いろいろと聞きたい事もあります、でも会いたいか会いたくないかって言われたら会いたくはないかも」

「ほう」

「だって今まで俺に会いに来てくれなかったんですよ、それなのにいきなり会いたいっていわれたら何か考えてるんじゃないかって疑ってる自分がいるんです。曲がりなりにも俺の肉親にそんなので会っていいのかな~って」

 

彼も彼なりに自分の感情を処理しながら考えを纏めようとしている。施設に預けられ、一度も会いに来て貰えなかった彼としては言いたい事はあるだろう。しかしそれよりも先に何故このタイミングで会いたいなどと言ってくるのかという点に目が行ってしまって如何にも微妙な物がこみあげてくるらしい。

 

「それに俺にとっての親って言えば根津校長と師匠ですから。何時も親の顔は見てますよ」

「……ふんっ小僧が」

 

そう言いながらも師の頬は少しだけ緩んでいるように映っていた。

 

「休憩は終わりだ、続きをするぞ」

「了解です」

「もっと厳しくしてやる、体育祭には俺も行く。無様な姿を見せたら……分かってるな」

「分かってますよ。休みなしで組手30セットですよね」

「50だ」

「絶対に活躍します!!」

 

 

「んで鏡、なんで俺に会いたいんだよ」

「あ、あのお兄ちゃんお願いですから白鳥と……」

「ああ悪い。まだ感覚が抜けてなくてな……」

 

体育祭まであと少しと迫ってきた日の昼休み、龍牙は件の話を持ってきた白鳥と話をする為に二人だけで言葉を交えていた。交流自体はしており少しずつではあるが絆のような物が出来始めている、が、矢張り10年振りに会う妹という事で龍牙は改善しようとしているがまだ他人という感覚が抜けないのか兄と妹の会話にはまだまだ遠い物であった。

 

「以前、私がお兄ちゃんと会った時に聞いた事をお父さんとお母さんに問い詰めたんです。話が全然違うじゃないかって」

「俺が施設で個性制御特訓的な事してるって奴か」

「はい。でも漸く制御が上手くいって今は雄英に居るって……これも嘘、なんですか」

「まあ嘘だな」

 

淡い期待を乗せたかのような言葉も龍牙があっさりと砕いた。彼女にとっての両親の像が壊れていく、その事に遅くながらも気付き謝罪するが、白鳥は気にしないでと少しつらそうに答える。彼女にとっての両親と自分の中の両親は違う、その事を忘れていた。

 

「それでお兄ちゃんと話して謝りたいって」

「謝るって何を謝るつもりなんだよ。個性発現時の事か、それとも一度も会いに来てくれなかった事か」

 

どれも龍牙にとっては今更過ぎる。過去の事になりすぎている、今謝られても昔が変わる訳でもない。もう気に病むのをやめることを決めた自分としては謝れても困る。前なら気にかけたかもしれないが、師との特訓や根津やリカバリーガールの言葉を受けてもう気にすることをやめている自分には意味のない事だ。

 

「どうせ断ったとしても体育祭には来るんだろ、あの人らだってプロだしな」

「はい、その時に話せたらいいなとも言ってました」

「何を話すつもりなんだ、今更帰って来いとでもいうつもりか?」

 

感情に言葉が乗らない、何をしに来るのか分からなそうにする兄に妹は苦しそうな表情をする。彼女からしても兄と再会しこうして話せることは非常に嬉しい事だ、だからこそ両親ともそうして欲しいと思っているが自分が思っている以上に兄と両親の間には溝がある事を感じ取る。

 

「お兄ちゃんは、帰って来たくはないんですか……?」

「う~ん……複雑だな。んじゃ鏡、じゃなくて白鳥、伝言を頼めるか」

「伝言、ですか?」

「ああっ。俺は会ってもいい、紹介したい人もいるって言っといてくれ」

 

それを聞いて白鳥は喜ぶ半面顔を赤くした。

 

「しょ、紹介したい人って……お兄ちゃん彼女いるの!?」

「へっ?いないけど……今の俺の保護者の事なんだけど……」

「あっえっそ、そうだよね!!いや分かってたよ!?うん今のボケだから!!」

「いや今の完全に素……」

「わぁ~わぁ~!!!」

 

図らずも、兄と妹のようなやり取りが出来た瞬間であった。



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体育祭に臨む黒龍

いよいよやってきた体育祭当日、開催までの時間を各自が使って今日まで備えてきた。その結果が今日明らかにされようとしている。雄英の体育祭には通常の体育祭とは比べ物にならない規模の人間が集ってくる、純粋に楽しむ為に、警備のために、未来のヒーローへのスカウトと全てがバラバラ。全てを含めたならば数千では効かなくなるような人数だ。そしてUSJの事件を受けてヴィランへの警戒を強める為に、雄英が様々なヒーローに呼びかけを行った結果として多くのヒーローが警備として参加してくれている。今までよりもすさまじい大規模、その中で行われるのだから生徒たちの緊張も一入だろう。

 

「……ふぅぅっ~……」

 

控室にて深い息を吐きながら気持ちを落ち着けようとしている、今日という日を覚悟と強い気持ちを持って迎えたつもりだったが矢張り緊張はする。落ち着いているつもりだが妙にそわそわしてしまっている自分がいる、そんな気持ちを落ち着けるかのように息を吐く。

 

「ねえ大丈夫龍牙君、凄い息してるけど」

「大丈夫、流石に緊張してね」

 

そんな彼を心配するかのように声をかける葉隠のこれも多少なりとも震えている。当然、雄英体育祭は全国へと放送されるお祭りイベント。何かへまをしたらそれがあっという間に日本中に知れ渡る。それらを加味してもこんな大規模な舞台で緊張するなという方が酷だろう。

 

「TVに映るとか私もう緊張しっぱなしだよ!!あ~これで何か言われたらどうしよう!?」

「だよねぇ。自分の名前を広めるチャンスでもあるけど、同時に怖い機会でもあるからね」

「でも葉隠は大丈夫じゃねぇか?だって透明だろ」

「ハッそう言えば!?でも少しは目立ちたい乙女心ぉ……!!」

 

そんな風に呻くような言葉を出しながら唸っている葉隠を見つめながら龍牙は息を吐く。そう、今日この日、自分は日本中に自らの姿をさらけ出す。ヴィランと恐れられ、逃げられる自らの姿を世間の波に晒すのだ。この日については根津とリカバリーガール、そして師匠から何度も言葉を貰って来た。だがヒーローになるつもりなら結局は世間の目に触れる事になる。それが早いか遅いかの違いでしかない。なら―――思いっきり目立つように映ってやろうではないかと半ば開き直る事にした。

 

「そう言えばよ、龍牙は大丈夫なのか?お前の個性って俺達は慣れてるけど、見慣れない奴からしたらめっちゃ怖いんじゃねぇの?」

「ちょ、ちょっと峰田君!?」

 

恐らく心配からきた言葉だろう、峰田がそう尋ねて緑谷が止めるように言う。龍牙が個性の見た目の事を気にしているのは皆が知っている事。それを指摘するのは明らかに拙い事、だが彼の言葉は正しいとそれに轟も続いた。

 

「だけどその通りだろ。黒鏡、お前の個性を慣れてねぇ奴に見せたらどんな反応が来るかはお前が一番分かってるんじゃねぇのか」

「轟君まで!?」

「いやいい、その通りだからな。入試の時には助けた相手に逃げられた、USJではヴィランに仲間扱いされた。それほどまでに俺の見た目はそっち側なのは承知してる」

 

100人に聞いたら確実に全員がヴィランと答える事だろう、そんな事は分かっている。そんな龍牙が、ヒーローになりたいと思ったのは最も尊敬するヒーローの背中を見たから。自分の個性や変えられない、だから―――

 

「だからこそ見て欲しい。俺を、俺の心を」

 

見せ付けてやるんだ。ヒーローになりたいと心から思っている自分の姿を。

 

 

『全開にして刮目しろオーディエンス!群がれマスメディア!今年もおまえらが大好きな高校生たちの青春暴れ馬…雄英体育祭が始まディエビバディアァユウレディ!!?』

 

解説席から聞こえてくるプレゼント・マイクの声、それが知らしめるのは開始の合図。開幕の号砲となって観客たちの熱狂を増していく。同時に出場生徒の間に一気に緊張が走って行く。入場を控えている1年達の間にもそれは広がっている、マイクの言葉と共に入場が行われるが矢張りと言わんばかりに視線と歓声が集中しているのはA組だ。まだ未熟な身でありながらヴィランの襲撃に遭遇しながらも生き延びたクラスに注目が集まるのは必然。大観衆が声援を上げて出迎えてくる。それをプレゼント・マイクの気合の篭った実況が更に加速させていく。それらの勢いに飲まれそうになる生徒、物ともしない生徒に別れる中で全1年が集結した時、一人の教師が鞭の音と共に声を張り上げた。

 

「選手宣誓!!」

 

全身を肌色のタイツにガーターベルト、ヒールにボンテージ、色んな意味でエロ過ぎて18未満は完全に禁止指定のヒーロー、18禁ヒーロー・ミッドナイトが主審として台の上へと上がった。思わず思春期真っ盛りな男子生徒だけではなく観客の男たちもボルテージがMAXになっていく。何時の時代もエロは強いという奴だろうか。

 

「18禁なのに高校にいていいものなのか?」

「良いっ!!」

「峰田自重しろ」

 

そんな中、選手宣誓として入試でトップを飾った爆豪が宣誓に呼び出された。入試首席な辺り、爆豪の優秀さが光るがA組の皆は全く別な事を心配していた。爆豪の性格から考えて真面目な選手宣誓になるなんて欠片も思っていないのである。

 

「せんせー、俺が一番になる」

『やりやがった……!!』

 

心配した通り、予想のど真ん中を剛速球のストレートでぶっちぎる様な所業をやってのける爆豪に皆ですよね、的な顔を作る。彼らしいと言えば彼らしいかもしれないが……。それによって生まれるのは生徒達からのとんでもない大ブーイング、観客からは笑いや引いている者もある。そんな物を受けながらも爆豪は顔色一つ変えずに元の列に戻っていく。矢張り大物だ。

 

 

「面白いクラスメイトが居る者だな龍牙。さてっ―――俺との訓練が無駄ではないところを見せて貰うぞ」




次回から種目開始!


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障害物競走に挑む黒龍

爆豪の肝の座っている選手宣誓から始まった雄英体育祭、A組は周囲からのヘイトを感じつつもそれらに負けないようにと強く気持ちを持ち直す。そして主審ミッドナイトから第一種目の内容が明かされる。

 

「第一種目はいわゆる予選、毎年ここで多くの者が涙をのむ(ティアドリンク)!!さて運命の第一種目、今年は障害物競走!!一学年の全クラスによる総当たりレース、コースはこのスタジアムの外周で距離は約4㎞よ!!コースを守れば何でもあり!!全力を尽くすように!!」

 

振られた鞭の先、ゲートがスタジアムの奥の青空とコースを映し出す。これから自分達が走る事となる先へと続くロード、すぐさま誰もが自分に有意な場所へと陣取ろうと動き出していく。矢張り皆スタート地点ギリギリの場所へと進んでいくので満員電車状態と化しているので龍牙は後ろへと回る。

 

「満員電車みたいでいやだし……初動が明らかに遅くなる」

 

前半の方が恐らく本心であるだろうが、初動の事も気にしているのも事実。あれだけの人数なら明らかにもみくちゃになる。だったらいっその事後ろで体力温存やら動きを見ていた方がお得という奴だ。そして間もなくスタートを告げるランプが点灯始まる、一つまた一つと色が変わっていく。誰かがつばを飲み込む音が木霊しそうなほどの静寂、点灯音が重く響く。そして今―――それが始まる!!

 

『スタートだぁぁああっっ!!!』

 

開幕の知らせ、それと共に土石流のごとくスタートへと殺到していく選手たち。皆が他人より少しでも早く前へ前へと焦りを持っているからこそ起きている。一歩引いていて正解だったと胸をなでおろしながらも龍牙はスタートの形を見る。スタートの道はアーチ状になっており、その奥が外へと通じている。そしてそこへと通じる道は人が殺到しているが上は全く人が居ない。ならば選択は一つしかないも同じ。

 

「さあ行くぞ……師匠との地獄の特訓で得た俺の新技……部分出現(パーツ・アドベント)!!」

 

それは龍牙が師との文字通りの地獄に等しい特訓で得た新しい技術、言葉と共に足が部分的に黒い炎に包まれる。だが炎はすぐに収まるとそこには個性を発動させているときの龍牙の脚部があった。体操着の一部から脚が変化し変貌している。

 

「よしっ行ける……!!」

 

発動異形型に分類される龍牙の個性、発動させる場合は常に全身を変化させている訳だが師匠から部分的には無理なのかと言われ、自身も何度も挑戦し続けていた。時に師匠の言葉を受けながら、根津に意見を貰いながら試行錯誤を続ける事言われてから5年。遂に部分的に個性を発動させることに成功したのである。全身変化と比べると力も弱まるが、それでも発動していない時と比べると雲泥の差。

 

「よっほっだぁぁっ!!」

 

脚部を個性発動させ、一気に跳躍しながら壁を蹴りながら下の人ゴミを超えていく龍牙。下では轟が個性を使ったのか多くの生徒が氷に足を取られていた。そして目の前ではA組のクラスメイト達が各々の個性を活用し、氷を突破し轟を追従する姿がある。これは負けてられないと龍牙も気合を入れながら壁を蹴り、上手く着地しながら走り出していく。

 

「でたらめな出力な個性だな……」

 

と素直に轟の個性の出力に驚きを覚え、驚愕する龍牙。恐らく個性の最高出力で言えば轟はトップ独走、氷と炎を使えるというのだからなんという超パワーな複合属性な個性だろうか。氷と炎という組み合わせにトキメキを覚えつつも、龍牙が必死にその後を追っていく。追従する先、トップを張り続けている轟がいよいよ第一の関門へと足を踏み入れると思わず足を止めた。彼だけではなく全員が足を止めていた。

 

『さあさあ遂に来た来たやっと来たぜ!!!ただの長距離走じゃねぇのがわが校だぜ!!手始めの第一関門、駆け付けいっぱいで全力だせる戦闘はいかが!?イッツァ、ロボインフェルノ!!!此処を超えないと次にはいけねぇぜぇえエエエイエエイ!!!』

 

熱の籠っている実況で状況説明と周囲のボルテージを上昇させるマイク、障害物として出場選手たちを遮ったのはヒーロー科を受験した者達ならば誰もが目にした物。様々な感情を呼び覚ます赤い眼、入試にて登場しそれらを倒して得られるポイントを競った仮想敵が立つ。宛ら自立可動式の高いハードルと言った所だろう。

 

「おいおい嘘だろ!?ヒーロー科こんなのと戦ってるのかよ!!?」

「冗談だろこれを突破しろってか!?」

 

ヒーロー科以外のクラス、普通科や経営科にサポート科は流石の障害に驚きと恐怖を抱く。最低でも自分達よりも大きなロボが自分達を標的にして襲い掛かってくる、それだけでも相当恐ろしい。故かもしれない、それに真っ先に動いたのは轟であった。

 

「折角ならもっとすげぇのを用意してほしいもんだ、クソ親父が見てんだからよぉ!」

 

腰を落としながら左手を振るう、共に空気が一気に冷却されながら地面から息吹を持つかのように氷の山脈が芽吹く。それらは一際大きい仮想敵を飲み込むと一瞬で凍結させてしまい、動きを完全に停止させる。正しく一瞬の事だった、そして駆けだしていく轟。白い息を吐き出しながら前へと進んでいく彼を追うかのように次なる物が飛び出していった。それは―――黒い龍の脚で地面を駆ける龍牙だった。

 

「成程……突破、しかないよな!!」

 

改めて状況を確認しつつ、一気に駆け出す。彼も入試にて仮想敵を相手にしている、あれよりも大型の物も混ざっているが大した恐怖心は抱かないし寧ろ障害にも思わない。ハッキリ言ってあんな物よりも遥かに師匠の方が怖いしやばい、自分にとっての最大級の恐怖よりも格下の物に恐れる訳もない。ならば―――押し通りのみ。

 

部分出現(パーツ・アドベント)攻撃(ストライク)!!」

 

右腕が炎に包まれる、そこには黒い龍の頭が出現する。それは闇の炎を纏いながら迫る仮想敵へと叩きつけられる、仮想敵は一瞬にして地面に沈められその先へと龍牙は足を進めていく。

 

「もっと先へっ……更に、向こうへ!!」



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集中する黒龍

『第一種目の障害物競走!!首位は轟ィ!!それを猛追するのは威勢のいい選手宣誓を放った爆豪、そして猛ダッシュする黒鏡ィ!!どれもA組だ、どう思うよ解説のイレイザーヘッド!!』

『……さあな。但し、轟の天下は長くは続かせないように爆豪と黒鏡は動くだろうな』

『おっとンな事聞いてる間に第二関門に近づいて来たぜ、フゥゥウゥウウ!!!』

『もう俺要らんだろ』

 

 

「……あれが龍牙」

「やっぱりだけど、大きくなってる、わね……」

 

白熱していく障害物競走を更に熱くしていくプレゼント・マイクの実況に会場はヒートアップ。オーブンのような熱気に包まれている中で、それとは真逆な空気に包まれている所があった。とある夫婦が座っている観客席だった。それは何処か幽霊を見つめてるかのような懐疑的で冷たい視線をモニターの龍牙へと送り続けている。

 

「思った以上に元気でやってるんだな……白鳥から話を聞いた時は驚いたが……」

「ヒーローを目指してるなんてね……でもそれならやっぱり」

「ああっ話しておく必要がある―――確りとな」

 

何処が歪んだ会話を続けている二人は何かを決めたかのように龍牙の映るモニターから目をそらす。それが何の感情によるモノかは分からない、だが兄を想う妹が望む物とは遠い物であるのは間違いない。

 

『落ちれば即アウト、それが嫌なら這いずりなっ!!!ザ・フォォォオオオオオル!!!!』

 

いよいよ先頭の集団が第二の関門へと足を踏み入れた。そこへと姿を現したのは巨大な峡谷のように大口を開けている地の底へと向かっているような真っ黒い闇、下を見れば引きずり込まれそうなほどに深い深い谷。切り立った崖のような足場とそれらへと架けられているロープの橋渡し。つまり、ロープを綱渡りの要領ので渡っていく事で奥へと進んで行けという事になる。

 

「この程度っ……!!」

『おっとぉ流石推薦入学者!!轟は足でロープを凍らせてその上を滑って移動していく!!中々に速いしこりゃ有利ぃ!!』

 

足を押し付けるようにしながらも同時にロープを凍てつかせ、氷の上をすべるように移動していく轟。あっという間に先へと進んでいく彼を見つめながら龍牙は部分出現を解除する。そして今度は右腕に意識を集中させていく。流石にこれほどの距離は個性を完全に使わないと超えられない、だがそれでは師匠との特訓で得た技が意味をなさなくなる。その対処法は確りと考えていた。

 

「一点集中……部分出現・攻撃!!」

 

右腕が先程よりもより激しい炎へと包まれていく、轟々と唸りを上げるかのように燃え盛る。そして出現する右腕の龍の頭、だが通常時とは異なっているのは常に黒い炎を纏い続けている事。それを見て龍牙はニヤリと笑うと一気に駆け出していく。

 

「だぁぁぁぁっっ!!!」

 

全力で右腕の龍で地面を殴りつけた。殴られた地面は一気に罅割れていき崩れていく、だがそこに龍牙の姿はない。龍牙は宙に舞いながらロープの先にある足場へと向かい、着地する代わりに地面を殴りつけて再び高々と跳び上がっていく。

 

『こりゃクレイジー&ファンキー!!なんとA組の黒鏡 龍牙の突破方法は自分の膂力で地面を殴りつけてその勢いで空に飛びあがるって芸当!!なんつぅパワー!!こりゃ轟とは違った意味でスーパーパワーだぜ!!』

 

部分的な個性の発動が可能になった事で発動の幅が広がり、その応用として見つけたのが一点集中。龍牙は個性のパワーの多くを右腕に集めて発動させる事で、通常時よりも遥かに力を発揮するような使い方を見出していた。それによる力は自らを腕力で空へと打ち出すのも可能にするほど。それを数度繰り返すとザ・フォールを突破すると先に突破した轟、自らの爆破で空を飛んで楽々と突破した爆豪を追いかけるが、鈍い腕の痛みに顔を顰める。

 

「つっ……ええい今は無視!!」

 

鈍い痛みを感じつつも、それを完全に無視して全力で疾走する。一点集中にも矢張りデメリットは存在しており、通常よりも多くの力を一つの場所に集めるので、通常の許容量を超えてしまい自分の身体を傷付けてしまう。加減すれば痛みは抑えられるので運用は慎重さが求められる。そんな龍牙も遂に最後の関門に到達する。

 

『さぁあて遂にやってきた来たマジで来た!!これが最後、即ちファイナル!!ラストの障害!その先は一面地雷原!!他にもトラップあるかもな!そこは正しく紛争地帯!!強いて言うならば怒りのアフガン!だけどeverybody もし踏んでも安心しな、競技用だから威力は控えめで殺傷力はマジ皆無!!だが音と爆発は派手だから失禁しねぇように精々気を付けやがれってんだYAAAAHAAAAA!!!!』

「高校に地雷って自由過ぎるか……?」

 

と思わず呟く龍牙は間違っていないだろう。まあロボやら断崖絶壁を用意している辺りからもうあれな気もする。だが此処を超えなければ先へは進めない、流石の轟も慎重に進んでいる。下手に凍結させて地雷が反応しないようにすれば速度こそ出るが後続にも道を作る事を把握しているからだ。それを見て龍牙はもう一度地面を殴って進もうとするが、そうはさせないと言わんばかりに周囲から空へと向けられたバルカン砲のような物が一斉に顔をこちらへと向けた。

 

『あっ忘れてたけどそこを高く飛び越えるってのはお勧めしないぜ!!一定高度に達したらそこらに仕掛けられてる対空ミニガンが火を噴くぜ!!因みにこれも弾は殺傷力皆無だから安心しな!』

「ミニガンってマジかよ!?ってそうか、爆豪が低空で進んでるのはそういう事か……!!」

 

「退きやがれってんだ半分野郎!!」

「お前がどけっ……!!」

 

視界の先では爆豪が轟と小競り合いをしながらも器用に両手で爆破を起こしながら地面から少しだけ浮いた状態を維持しているのが見えている。彼もミニガンの存在に気付いて一気に飛び越える事をせずにああして進んでいるのだろう。このままでは一気に距離を離されるだけ……ならば取るべき手段は一つだけ―――あいつら纏めて吹き飛ばす。

 

「部分出現・攻撃……行くぜ、はぁぁっ……だぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

右腕を身体の内側に隠すかのように身体を丸め、一気に腕を伸ばすと同時に右腕の龍から獄炎の炎を一気に放出する。炎は地面を焼きながらどんどん進んでいきながら地雷の爆破を引き起こしていく。連鎖的に起爆していく地雷は遂に轟と爆豪の付近にまで到達する。

 

「なっぐああっ!!?」

「ンだこりゃあああ!!?」

 

爆破に威力こそないが、衝撃自体はある。それが一気に巻き起こった事で轟と爆豪は吹き飛ばされていく、特に爆豪は宙に浮いていただけあって轟よりも強く爆風を受けて吹き飛ぶ。そしてトップ二人の邪魔をするだけではなく自身が全力で駆けだせる道も作る事が出来た龍牙はそこを一気に突破していく。

 

『どんでん返しだぁぁぁ!!!!轟と爆豪のツートップかと思いきや、それに待ったをかけた黒鏡!!避ける筈の地雷を敢えて起爆させて妨害しやがったぁぁぁ!!!!』

「うおおおおおおっっ!!!」

 

二人が怯んでいるうちに一気に距離を稼いでいく。あの二人の事だ直ぐに持ち直してくる、その間だけでも距離を稼ぐんだと全力で走り抜けていく。そしてついに二人を追い抜きトップに躍り出た龍牙、それでも油断せず全力で走る中、背後で自分が起こした物よりも遥かに巨大な爆風が巻き起こり頭上を何が飛んでいく。それは―――

 

「僕だって、負けないんだぁぁぁ!!!」

 

緑谷だった。第一関門であった仮想敵の装甲を盾にしながら、それで爆風から身を守りつつもそれで爆風を受けて一気に吹き飛んで自分の遥か先を進んでいく。装甲はミニガンの射撃を物ともせず緑谷を守る、距離を稼ぎながら周囲には爆風による妨害、そして装甲で自分はダメージを最低限に抑える。なんという手を使うんだと素直に龍牙は驚いた。

 

「何か凄い負けた感じ……!?」

 

結果、緑谷はそのままトップに躍り出て逃げ切る事に成功し1位で障害物競走を通過した。龍牙は緑谷に続いた2位。まさかのライバル出現に龍牙は困ったような表情を作りながらも嬉しそうにする。

 

「……凄いな、お前に勝ちたいぜ俺は」



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仲間を組む黒龍

第一種目である障害物競走、それを第2位で突破した龍牙。今日まで彼も師匠に扱いて貰い力を付けたつもりだったのだがそれでもまだまだ不十分いや、力は十分に付けている。新しい技術に技も身に着けている、それらよりも自分の上に立ったあの少年の方が上手だっただけ。

 

「緑谷、お前の機転には驚かされる。改めて感服する」

「そ、そんな事ないってば龍牙君!僕は僕に出来る事を精いっぱいやっただけだって!!」

「その成果がお前の1位通過だ、胸を張れ。でないと俺も胸を張れんよ」

 

とまだ何処かおろおろしている彼の背中を叩くように応援を送るが龍牙としてもこれは敗北の味。だがそこに屈辱の雑味はない、あるのは清々しい心地よさの敗北感。これは師に一矢報いる事が出来た後の敗北の後によく似ている。ならばそれを糧にして自分はどんどん成長するとしよう。自分はまだまだ弱く、脆いのだから。

 

『さあこの調子でどんどん行くわよ!次の競技は協力が光る競技、それは―――騎馬戦よ!!』

 

個人競技ばかりだと思っていた彼らには驚きだった。そしてどのようなルールなのかと疑問が募る中、メインモニターに開設が流された。オールマイトが先生達の騎馬に乗っている画面でインパクトがやばかったがルールを箇条書きにすると以下のようになる。

 

・人数は二人から四人でチームの騎馬を作る。

・ルールは基本的に通常と同じ騎馬戦。

・順位によってPがあり、騎手は騎馬を含めた合計のPのハチマキを首から上に巻く。

・ハチマキを奪われる。騎馬を崩される。そのどちらになっても失格にはならない。

・個性の使用は当然のごとく可能、攻撃も可。

・悪質な崩しは一発退場。

・制限時間は15分。

 

それらを聞いて龍牙は誰と組むかも大切だがポイントやらがどのぐらいなのかが気になる所だった。先程の障害物競走での順位がポイントの基準になるとすれば自分にはかなりの高ポイントが設定されるのではないかとも思う。となると矢張り誰と組むかが鬼門となってくる。そんな思考をしている龍牙のリクエストに応えるがごとく、ミッドナイトがポイントを発表する。矢張り順位が肝になるらしい、そして―――第1位の緑谷のポイントは……

 

『2位は205ポイントだけど、ここからが肝よ!!何事にも一発大逆転はある物、そう、1位のポイントは1000万ポイント!!!』

「うわっ」

 

一瞬にて周囲の目が緑谷へと集中した。1000万ポイント、それさえ取れば勝ちも同然のような法外な設定。エンターテインメントとしては一発逆転が公式から準備された方が盛り上がるのも確かだろうが……これはこれで緑谷が酷く不憫に思えてきた。彼の緊張は尋常じゃないだろう。殺気が凄い事になっている。

 

『それじゃあここから15分、作戦タイム&チームの編成タイムよ!!』

 

龍牙の取った行動は酷くシンプルだった、一斉に周囲から人が居なくなり本気で焦っている緑谷へと近づいていく。そして彼の肩へと優しく手を伸ばし手を置く。震えている事が分かり益々不憫になってくる。

 

「りゅ、龍牙君……」

「お前さえよければ俺と組まんか」

 

弱まったメンタル、周囲からの殺意による緊張で震えていた緑谷。そんな彼には優しい声色と頼りになる手を差し伸べてくれた龍牙は最早天の使いのように思えてしまった。しかも自発的にチームを組んでくれると言ってくれている。これほどまでに嬉しい言葉なんてない……。

 

「り"ゅ"う"が"ぐ"ん"!!」

「ひと先ず落ち着こうか、号泣で顔面が崩壊してる」

「デク君!!ウチと組もうよ~!!」

「麗日さん……!!」

「み、緑谷顔が何か凄い事に!?」

 

麗日も緑谷にチームを組もうと笑顔で誘いをかけてくれた。理由は仲が良い人と組んだ方が良いから!という事らしい、確かに意思の疎通もあるだろうから良い線をいっている。

 

「まあこれで三人、出来ればあと一人居ることが望ましいな」

「うん。デク君あんまり重くないから二人でも支えられるけど、出来ればもう一人欲しいもんね」

「いやそうじゃないんだけど……まあいいか、緑谷誰に声をかける?」

 

総合的に個性を見れば、重量などを軽くして機動力の確保が出来る麗日。部分出現にて攻撃にも防御にも移動にも活用できる汎用的な強みを持つ龍牙と中々な面々が揃っている。となると選択すべきは防御面、それに適した個性を持っている人物を自分は知っている。緑谷は迷うことなく彼の元へと歩みを進めて言葉を掛けた。

 

「あの常闇君!!僕たちのチームに入ってくれないかな!?」

 

緑谷が選んだのは常闇だった。声をかけられた常闇は落ち着き払った雰囲気を纏まった静かにこちらを一瞥すると静かに良いだろうと答える。

 

「この戦いは例えどれと組もうが修羅の道であるのは違いなし、であるならば強い者と手を組み成果という花を華々しく咲かせるのみだ」

「宜しくね常闇君!!」

「闇炎龍と共に戦える、光栄だな」

「此方も宜しく頼むぞ常闇」




次回、騎馬戦本番。


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影と繋がる黒龍

「作戦は決まった……常闇君!!」

「ああっ俺が成す事、完璧にこなして見せよう」

 

間もなく始まる騎馬戦、それに備えてチームを組んだ緑谷は騎馬となった皆へと声をかけた。まずは先頭を務める常闇、個性の黒影(ダークシャドウ)による防御を期待しての勧誘。前以て作戦の伝達も完璧、常闇も万全になすとやる気を出してくれているのも非常に頼もしく、自分達を巨大な強い影が覆ってくれているような安心感がある。

 

「麗日さん!!」

「準備はOKだよデク君!」

 

左後を務めるのは麗日。彼女の個性によって各人の重さをなくしてスピードを上げる事が主目的、重量が減る事で格段に動きやすくなるので彼女の役割はかなり重要になる。

 

「そして、龍牙君!!」

「分かっている。存分に俺を使ってくれ、お前ならきっと使いこなせる」

 

最後の龍牙。前以て緑谷に全身の個性発動ではなく、部分出現による使用を主にしたいという事を願ったのだが緑谷はそれに対して嫌な顔一つせずに承諾した。完全発動すれば部分出現に比べて大きな力を使える、だがそれを敢えて抑えた使用で止めたいという我儘に近い願い出を彼だけではなく麗日や常闇も快諾した。それは龍牙が自分の個性の事で悩んでいる事を深く理解しているから。

 

『うん分かったよ龍牙君。そういう方針で行こう』

『……いいのか、俺は全力は出したくないと言っているのと同義だぞ。そのせいでミスを犯すかもしれない』

『でも龍牙君はその方が良いんでしょ?だったらそうしようよ!!だとしても龍牙君は手を抜いたりはしないって判るもん!』

『然り。全力を出さないのと手を抜かないのは異なる物、お前ならば出せる範囲で俺達に全力に協力してくれると分かっている』

 

そんな言葉を聞いて本気で嬉しくなった。自分の個性を配慮してくれているだけではなく、自分を完璧に信頼してくれている事に涙を零してしまった。涙もろくなったことに嬉しく思いつつも龍牙は力の限り、チームに貢献する事を誓う。

 

『さぁ、上げてけ鬨の声!!血で血を洗う雄英の関ケ原!!その開幕を告げる狼煙を上げるぜYAAHAA!!行くぜ、残虐バトルのカウントダウン!!』 

『物騒すぎるだろ』

 

マイクの実況と共に騎馬戦の開始が告げられた。各々が決めた組み合わせの騎馬、それらが一斉に動き出していき自らの勝利へと向かって進んでいこうとする。そしてそれは1000万を超えるポイントを保有する緑谷チームへの牙となって襲い掛かってくる。だが当然それらは想定済み、麗日は予め触れていた皆へと個性を発動させて重さを軽減させていく。その結果、緑谷チームの騎馬の重量は30キロ台になっている。

 

「龍牙君、早速お願い!!」

「任せろ緑谷。部分出現……たぁぁっ!!」

 

脚に炎を纏い個性を部分発動させ、地面を思いっきり蹴る。龍牙の体重は70キロ台、それよりも半分以下に近い状態では遥かに高い跳躍となり緑谷達は天高く舞った。

 

「うわわわっ!!?お、思ってた以上に飛んだぁ!?」

「凄い空飛んでるみたい!!龍牙君って本当に凄い!!」

「有難うな、常闇手筈通りに頼むぞ!」

「御意。黒影、仕事だ!!」

『アイヨ!!任セトケ!!』

 

常闇の身体から影が、いや闇が伸びる。それは鳥にも似た頭部のような形になりながらも鋭い指先を持った腕を携えながら地面へ腕を伸ばし見事なクッションの役割を果たしながら全員を着地させた。

 

「凄いよ常闇君!あんな高い所からの落下なのに全然衝撃とかが無かったよ!」

「この程度雑作もない、さあ次へ備えるぞ黒影。俺達を守れ!」

『アイヨ!!』

 

常闇 踏陰の個性、黒影。鳥の形状をした伸縮自在の影っぽいモンスターをその身に宿している。その身体は伸縮自在、常闇の指示などを受けて自在に動き指令を全うする。攻撃、防御、移動と汎用性に優れており創造という個性を有する八百万とは違った意味で高い状況対応能力を持っている。だが黒影には弱点も存在する。

 

『日ガ強クナッタ……痛イ……』

「不味いな、曇りが晴れ始めている……!」

 

それは光にような明かりに弱いという事。暗い場所であればあるほどに凶暴性と攻撃能力が格段に上昇する反面、明るい場所ではそれが下降していくという性質を持っている。日光下で活動するのであれば操作こそ容易いが攻撃能力は激減し、常闇曰く中の下程度の力しかないらしい。だが緑谷はその対策も考えてあった。

 

「龍牙君お願いできる!?」

「任せろ。部分出現・攻撃!!黒影、受け取れ!!」

 

片手のみで緑谷を支えながらも右腕の龍で黒炎を吐き出す、それは黒影の傍を通り過ぎていく。本来炎は明るさを齎す、人類の進化の象徴。だが龍牙の炎は黒く闇その物と言っても過言ではない。光が弱点という黒影にとってその炎がどのように作用するだろうか、それは―――

 

『闇ノ炎……力ガ、高マル、溢レル……!!』

「ぐっ落ち着け黒影、そうだそのまま俺達の死角を見張りつつ迎撃をしろ!!」

『ウオォヨォオオ!!!』

 

黒影が闇の炎を受けた結果、闇の帳に包まれているときのような力を得た。まるで吸い込まれていくかのように黒い炎を飲み込むとそれらを身体に纏うようにしながら黒影は巨大化しながらも好戦的な言葉を口にしながら、周囲へと猛烈な威圧感を発散させていく。

 

「デク君凄いね!!これも分かってたの!?」

「そ、想像以上だよ。僕は龍牙君の黒い炎なら常闇君の言ってた黒影の弱点を補えるかもって位しか……」

 

緑谷の考えは黒い炎を壁のようにして黒影が受ける光を軽減させて少しでも力が弱まるのを防ごう程度だった。だが実際は違う。黒影は龍牙の炎を自ら吸収して自らの力へと還元させている。常闇も制御に少し苦労しているがまだまだ許容範囲内、真夜中のような力強さを発揮しながらもまだまだ確りと制御出来る程に黒影にも理性がある事に彼も驚く。まさか過ぎるシナジーが龍牙と常闇の間に存在した。

 

『グォオオオオオ!!!』

「ダメだ黒影、その力は人に振るうな!!地面を、割れ!!」

『グォオオオオヨォオオオ!!』

 

荒々しい黒影、それが暴走しないように抑えつける常闇。人に振るえば危うい力を咄嗟に地面へと振るう。その一撃は地面を割り、深い溝を作り出すほどの破壊力を見せ付け周囲を牽制している。暴走一歩手前の凶獣、それが今の黒影には相応しい表現。日光があるからこそ常闇が指示を出せば確りと従うのだろう。

 

「俺の黒影にこんな力があるとはな……闇の炎を司りし龍牙、お前との出会いに感謝を」

「いや俺もこれは予想外なんだが……」

 

この後、定期的に龍牙が提供する炎を吸収した黒影が大暴れし緑谷達はなんとかポイントを守り切ることに成功するのだった。そして―――常闇は多くのトップヒーローの目に留まるのであった。




黒影の強化、というよりもある種のアンチ龍牙能力。

闇っぽい?個性の力であれば吸収して自分の物にする。が、どの程度のものならば吸収できるか今のところ全く不明。

常闇ならば龍牙に勝つ事は十二分に可能。


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対話する黒龍

見事に騎馬戦で優秀な成績を見せ付ける事が出来た龍牙、そんな自分を導いてくれた緑谷に礼を言いつつも次に行われるガチバトルトーナメントではライバル同士という事を伝え、必ず勝つ事を宣言して彼は一人廊下を歩いていた。今現在は任意参加のレクレーション大会のようなものが行われている、トーナメントに参加する自分は任意で参加するかを選択できるので、その場の気分で決めようと思っている。だが今は生憎出る気はない。

 

「……よぉ白鳥、察するに―――そっちが」

「―――久しぶりだな龍牙」

「……」

 

龍牙はとある場所である人物たちと出くわしていた。トイレも終えてこれから観客席にでも行こうとしていた時の事だった。顔を少し青くして気まずそうにしている妹の両肩に手を置きながらこちらを見つめる二人の人物が此方を観賞用の芸術を見るかのように見つめてきている。彼らは良く知っている、ああよく知っているとも。

 

「こういう場合は初めましてっていうのが正解なのかね」

「久しぶりでいいのよ龍牙、本当に大きくなったわね」

「あれから10年ぐらいだからな、そりゃでかくもなる」

 

何処か素っ気ないようにも思えるような言葉遣いをする龍牙、相手の事を余り思っていないような感情の乗せ方に白鳥は矢張り会わせないほうが良かったのだろうかと後悔し始めている。そう、彼女の傍にいるのは―――彼女の両親、即ち龍牙の実の父と母でもある。

 

 

「う~んねぇ居たぁ?」

「ううんまだだよ、葉隠さんは?」

「ダメ何処にいるんだろう」

 

廊下を共に歩いているのは龍牙と共に騎馬戦を勝ち抜いた緑谷、そして透明である為に体操着だけが緑谷の隣を歩いているように見えてしまう葉隠。

 

「う~んクラス対抗の男女混合の二人三脚は龍牙君にお願いしたいんだけど……」

「まだ時間があるから大丈夫だよ、こんな事なら龍牙君の連絡先を聞いておけばよかったかなぁ……」

 

二人は共に龍牙を探していた。理由は葉隠が出場する男女混合型の二人三脚リレーのパートナーを龍牙に是非お願いしたいからであった。他の男子にお願いするという選択肢もあったのだが、葉隠としては是非とも龍牙と組みたかったらしい。ちょうど探しているときに緑谷に遭遇し、彼も龍牙の捜索に手を貸していた。

 

「身長的にも龍牙君とはいい感じだからなの?」

「う~んそれほどでもないんだけど、一番仲が良いからかな?」

「成程ねってあっ葉隠さんあそこ!」

 

そんなこんなで捜索を続けている緑谷と葉隠だが、中々見つからないので一旦観客席に戻ろうとした時の事だった。龍牙の姿を見つける事が出来た、誰かと話しているようだが物陰で相手が見えない。話の邪魔をすると悪いからとそっと近づいて曲がり角の壁の身体を隠すように覗き込むとそこには龍牙の外にも白鳥、そして二人の人物が居た。そんな人物は良く知っている人物だった。

 

「あ、あれって変身ヒーローのビーストマンに反射ヒーローのミラー・レイディ!!?凄いどっちも超凄腕で有名なプロヒーローだ……!!」

「でもそんなヒーローが如何して龍牙君と一緒なんだろ……?」

 

そう、龍牙の両親はプロのヒーローであった。しかも確かな実力と人気を兼ね備えた超実力派ヒーロー、誰もがその強さを認める程のヒーロー。二人は何故そんな二人と一緒なのかと首を傾げつつも会話に耳をつい傾けてしまった。聞くべきではなかったかもしれない、会話を。

 

 

「……それで何の御用ですかね、かの有名ヒーローに声を掛けられるとは俺も捨てたもんではないようですが。貴方方と俺は関係が無い筈ですが」

 

わざと仰々しい身振りで礼をして見せる、軽い煽りもあるがそこには本心も含まれている。白鳥という関係もあるがそれを頼りにして話しかけるのは違和感がある。そんな事を言う龍牙に二人は苦笑をしながらも話しかける。

 

「そんな他人行儀な事を言わないで欲しいな、私達は家族だろうに」

「そうよ龍牙。私達は家族じゃない」

「家族、ねぇ……白々しくないかい、一度も会いに来てくれなかった割には」

 

ギロリと瞳で睨みつけるようにする、龍牙からすればこの二人は家族、ではない。生みの親ではあるのだが自分にとっての親とは育ての親である根津や師匠の事を指す。そんな言葉を受けても目の前の二人は顔色一つ変えない。溜息を吐きながら龍牙は言う。

 

「まあプロヒーローですし、忙しかったのかもしれないしそれは良い。俺の疑問は何の用かって事なんですけど」

「―――用事は簡単だ。俺達との関係を誰かに言ったか」

「随分な物言いだな、俺はヴィランか。まあ個性の見た目はそうだしな、それに合わせてるのかな」

「茶化さないでくれるかしら、龍牙」

 

その声色は酷く低くまるでヴィランに対して掛けられるような威圧感のある声だった。到底子供にかけるようなものではない、脅しをするような言葉にファンでもあった緑谷は顔を青くした。

 

「(いったい何の話をしてるんだ……!?あのビーストマンとミラー・レイディが龍牙君に何を……)」

「(緑谷君、これって……)」

「(分からない、分からないけどこれって……)」

 

それを向けられている龍牙は余り気にも留めていない、というよりもこうなる事を考えていたかのようにまた一つ、重い息を吐く。

 

「言ってねぇよ。俺の保護者は知ってるが言いふらす気はない」

「そうか、ならいい」

 

それを聞くとまるで台風が過ぎ去ったように穏やかで優しい声に変貌する。余りの切り替えの早さに緑谷と葉隠は寒気を覚えた、態度が一変しすぎている事に不気味さを覚えてしまった。そしてそれは白鳥も同じだった。

 

「これからも誰にも言わないことを望むよ」

「そうですか」

「龍牙、私達と一緒にまた暮らしたい?私たちは一緒に居たいと心から思ってるわ」

 

久方振りに向けられる母からの瞳は優しかった、甘い花の香りのような印象を持たせる。そして白鳥の肩から自分の肩へと移る手、10年ぶりに感じる母の温もりに不思議と胸がざわついた。

 

「お前にした事は心から悪いと思っている、本当に済まないと思っている。だからそれを埋め合わせる為にも俺達のところに来ないか。やはり家族は一緒にいるべきだ、白鳥もそれを望んでる」

「あっえっその……」

 

言葉を振られた白鳥はしどろもどろに言葉に詰まる。確かに望んでいた、兄と一緒に居たいという純粋な気持ちが彼女にはあった。あったのだが……両親の言葉やその振る舞いを目の前にして戸惑いを隠せずにいる。父はそれを照れていると解釈したのか、白鳥を龍牙へと近づける。

 

「ほらっお兄ちゃんと一緒が良いって言ってたじゃない」

「で、でもその……」

「ほらっ白鳥、遠慮なんかしないで―――」

 

「悪いけど断る」

 

拒否、拒絶の言葉に二人は龍牙を見つめる。

 

「いやだって俺の保護者に一言もなしで決めるとか流石にないだろ。普通顔合わせて話すべき内容でしょ」

「そ、そうよねそう言う事よね。ごめんねお母さんたち焦っちゃって……」

「そうだよな!!うんまずは今までお世話になった事をお礼しないと……」

「んじゃ俺悪いけどそろそろ行くわ、友達と約束してるから」

「あっじゃ、じゃあ私も……」

 

そう言って龍牙と白鳥は二人から離脱していく、その後姿を見つめる両親は笑いながらそれを見送っていくが白鳥は背中の影で俯いた表情を作っていた。

 

「……悪いな白鳥、俺も出来るだけ歩み寄りたいがあれは……」

「ううん、いいの……お兄ちゃんは悪くないから、悪く、無いから……」

 

 

「龍牙君……君は、君って……」

「私達、聞いちゃいけないことを……聞いちゃったんじゃ……」




エンデヴァーとはまた違う親をイメージしてます。


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大切な友達と黒龍

「あの、龍牙君、そのちょっといいかな……?」

「ふぇっ?」

 

観客席に戻り、そこで適当な出店で購入した出し物を頬張りながら観戦している龍牙。そんな彼の元に緑谷と葉隠がやってきて話しかけた。重く食らい面持ちをしていた二人だが焼きそばを啜っている最中だったのか、口から大量の麺を加えているままの龍牙は酷く間抜けに見えたのか思わず吹き出してしまう。

 

「あはははっ龍牙君今の状態凄い面白い!!あははははっ!!!」

「むぐむぐ……焼きそば食べててごめんごめん、お腹すいててさ」

「でもすごい面白い絵だったよ、写真撮ればよかったかも」

「あぶなっ弱み握られるところでした」

 

思わぬ光景に少々和んだ二人、先程まであった緊張が薄れた所で少し話したい事があると言って観客席から離れて適当な場所へと移動する。龍牙も話したい事があると聞いて、何かを察したのかそれに従って素直について行った。廊下の物陰に隠れ、光から避けるようにしながら周囲の目が無いことを確認する二人に何を話すのだろうかと少々ドキドキしてしまう龍牙。これで恋愛相談やらされたらどうしようと本気で緊張している。

 

「そ、それで俺に話って何なんだ?」

「うっうん、本当に話をするかどうか迷ったんだけど……」

「でも言うべきだって思ったの、だってだってそうしないといけないって」

 

次の言葉までの間、ほんの僅かな時間である筈なのに3人の間に流れる時間の流れは酷く遅くなっているように思えた。空気が汚泥のような粘性を得ているかのように息苦しい。心臓が早鐘を打っている。そんな時間を破ったのは薄々と気づき始めた龍牙だった、きっと言いづらく緑谷と葉隠も大きな決心をして自分に会いに来てくれたのだろうと、それを労うように自分から問いかけた。

 

「そっか。有難う二人とも、態々言いに来てくれて。本当に良い人だな」

「りゅ、龍牙君……」

「聞いちゃったかな、俺に関する事」

 

直接的ではないが本質的な事を問いかける。二人は思わず俯いた、葉隠はそうかは分からないがそうしているように思える。そしてぎこちなく首を縦に動かして頷いた、葉隠は小さくうんと呟いた。それを確認して溜息混じりにそっか~と軽く言う龍牙は天井を見つめる。

 

「そうか、んじゃ緑谷なんか驚いたんじゃないか?だって俺の親がトップヒーローの二人なんだからさ」

「そ、そりゃ驚いたよ。ヒーロービルボードチャートJPでも上位に毎回入ってる超実力派ヒーローだから、体育祭には来るかもとは思ってたけどまさかこんな風に会うなんて……」

「ははっそりゃ驚きだよな、あっしまったなサインをお願いしておくべきだったな。緑谷欲しいだろ」

 

ヒーローマニア的な印象を持っている緑谷を気遣っているのかそんな風に語り掛ける龍牙、普段ならば目を輝かせ鼻息を荒くして大きく頷く事だろうが今は全くそんな気分ではなく引き攣ったような笑みしか浮かべられない。何処か誤魔化しているような言葉だが、龍牙はそれをやめて頭を下げた。

 

「悪い、気分を悪くさせた」

「龍牙君が謝る事なんてないよ、だって私たちが勝手に……」

「いや俺はそんなこと気にしてない。二人はもう謝ってくれたじゃないか、謝る必要もないのに自分達から。俺を気遣ってくれてありがとう」

 

龍牙に二人を攻めようとする感情は欠片も存在していない。当然、責めるなんて筋違い。寧ろ此処まで誠意を感じさせる二人には好感しか沸かない。

 

「緑谷、葉隠さん。二人には言っておく方が良いだろう、分かるかもしれないけどあの二人は俺の両親だ」

「やっぱり……もしかしてと思ったけど」

「でも、でも龍牙君。その、その話してる時は全然家族らしくないっていうかその……」

 

しどろもどろになっている葉隠、なんとか龍牙を傷付けないように必死に言葉を選びながら話そうとしているがどうすればいいのかわからずにオロオロしてしまう。龍牙は笑って落ち着いてと問いかけてくるがそんな事は出来ない。彼女は両親から大きな愛を貰っている、雄英入学が決まった際には強く抱きしめて貰ったし学校での話をすると自分の事を様に嬉しそうにして聞いてくれる。だが龍牙と二人との間にそんな物はない、家族愛といった物を感じられなかった。

 

「まあ、家族らしくはないだろうな。あの2人と会うのは10年ぶりだ、俺も正直何をどう話せばいいのか分からないのか素直な本音でさ。茶化しながらじゃないと訳わかんない事ぶつけちゃいそうで」

「10年振りって……だってご両親、なんだよね……?」

 

10年という年月は言葉にするのは簡単だろうが、実際にそれを経験したことがあるならば長い時間だ。生まれたばかりの赤ん坊が大きく成長して学校に入って勉強しながら友達と遊ぶほどに成長する時間。長い長い時間を両親と会っていなかった、何故そうなっているのか。

 

「両親……いやそれは間違いないだろうな。今の俺にとっての両親ってのはあの2人じゃなくて今の保護者なんだ。まあ失礼かもしれないけど俺はそうだと思ってる」

「如何して、なの……?」

 

殆ど反射的に出た言葉だった、それを口にした直後に両手で手を塞ぐがそんなものは龍牙に映らない。気にも留めないだろう、彼にとって両親は今のところその程度の存在でしかないのかもしれない。これから変わるだろう、が今はそれが限界。そして問いかけた時、龍牙の瞳が少しだけ、変わった。

 

冷たくなった、そう表現すればいいだろうか。そこには氷のような視線とそれを発する表情がある。

 

「―――聞いて後悔しないか。俺がこれから話す事は二人の中にあった物を壊すかもしれない、憧れの存在への侮辱かもしれない。話す事は良い、だけどそれを聞くのは二人が決めてくれ」

 

話す事に抵抗などない、両親はあの時誰かに言ったかと言っていた。それを破るような形になるかもしれない、それでもいい。だが抵抗があるのは二人だ。自分の馴れ初めは劇薬に近い、トップヒーローとして認知されているビーストマンとミラー・レイディ。この二人に対する認識を覆してしまいかねない。その事が酷く不安だ。問いかけられた二人はわずかに顔を見合せたようにすると覚悟を決めたかのように言葉を連ねる。

 

「……優しいよね龍牙君って。私たちの心配をするなんて、大丈夫だよ。全然」

「うん本当だよね、僕は君さえよければ聞かせて欲しい。そして君の本当の友達になりたい」

「―――ああっ分かったよ」

 

そして龍は語りだしていく、自らの過去を。自らが有する力を得た代償として支払った物、そして自らを取り巻く環境を。

 

「俺は―――鏡 龍牙、ビーストマンとミラー・レイディの実の息子だ。そして二人にとっては忌まわしい存在だ」



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過去を語る黒龍

―――ヒィッ!!?なんだこれは……悪魔、いや怪物!?

 

―――ヴィ、ヴィランだ、ヴィランが龍牙をっ……!!

 

―――ヴィランだ早く通報しろ!!

 

 

『それが個性を発動させて初めて聞いた両親の、いや家族たちの声だった。喜びとかそんな感情は微塵もない恐れと不安に満たされた声。同時に向けられてくる敵意が怖かった、いや両親のあの目が……怖かったんだ』

 

個性は既に当たり前のもの、最初こそ異端である恐ろしい力である物が何時の間にか当然のように広がっていた。そして逆にそれを持たないものが異端として扱われる。龍牙は個性こそ持っていたが使う事が全く出来ないという状況が続いていた。病院の検査で個性はあるという診断が下されているのにもかかわらず全く使えないという事実が続いた。

 

その事で虐められもした。無個性と馬鹿にされ、仲間はずれにもされてきた。そんな彼にとって安らぎを得られる場所は家族の中でしかなかった。龍牙の両親、鏡 獣助と鏡 乱は変わらない愛情を注ぎ続けていた。龍牙の為に病院を巡り、個性を研究する権威にも龍牙を見て貰った。時には医療として使用される個性因子誘発物質を投与し、個性が色濃くさせる事もしたが何をしても龍牙が個性を使える時は来なかった。

 

両親はそれでも龍牙を愛していた、自分達の子供なのだからと。きっと何時か個性を使えるようになると励ましながら。そして龍牙6歳、彼の個性が遂に発現した時が訪れた。

 

『な、なんだ!?』

『龍牙が、龍牙が!!?』

 

数年に一度、親戚が集まる席で楽しく過ごしていた時の事だった。突如として龍牙の身体が炎に包まれた、阿鼻叫喚になりつつもプロヒーローとして息子を救おうとする獣助と乱は水を浴びせて炎の消化を試みる。だが炎は消えない、息子の安否が気になる中で炎が弱まっていきその奥に影が見え始めた。不安がよぎる中、遂に炎が晴れて姿が見えようとした時に、そこに居たのは可愛い息子ではなく恐ろしい姿をした龍の姿をした人の姿。

 

『ぅぅっ……これって、もしかして個性、なの?僕の個性……?』

 

炎が晴れた先に居る者は確かめるように、一つ一つを数えるように自らの姿を見る。見慣れた洋服ではなく鱗を積み重ねられた鎧、右手には禍々しい龍の頭。何もかもが理解を超えていたが幼い龍牙の頭にはある答えがよぎる。自分に遂に個性が使えるようになったのではないか!?使えないことがコンプレックスだった龍牙は思わず、喉を震わせながら笑った。

 

やった、自分にも個性が出たと。これでもう仲間外れにされない、両親も喜んでくれると思うと笑いが出た。嬉しさで笑わずにはいられなかったのだ―――その姿のまま。

 

『ヒィッ!!?なんだこれは……悪魔、いや怪物!?』

『ヴィ、ヴィランだ、ヴィランが龍牙をっ……!!』

『ヴィランだ早く通報しろ!!』

 

家族や親戚には突如として目の前に現れた謎のヴィランが不気味に高笑いしているようにしか見えなかった。そして事態は彼にとって最悪な方向へと進み続けていった。プロヒーローである両親からの攻撃、確保のための行動などなど……それらは家族こそ唯一の安らぎとして思っていた龍牙の心を著しく傷つけていった。

 

「笑っちゃうよな、夢にまで見てた個性が発動したら俺は一番大切だったものを簡単に失ったんだよ。あの時ほど俺は悲しかった時はなかったなぁ……」

 

フッと虚空を見つめる龍牙の瞳は何も映していない、何も見ようとしていない。過去も、今も、未来も何も映らない。それこそあの時の自分の瞳。過去の経験から、今失ったものを、未来をどうするのか、何も考えられずにただただ虚空を見つめていた。

 

「そ、そんな……」

 

緑谷は慰めの言葉を向けたかった、今彼が纏っている悲壮感はかつて自分が味わった物を遥かに超えている。だからこそ何かの言葉を掛けてあげたかったのに、何も出てこなかった。何を言っても何の利益も、為にもならないと分かってしまっている。

 

「あんまり、じゃないか……!!だって龍牙君は嬉しかっただけ、なんでしょ!?ただそれだけなのに何でそんな風に言われなきゃいけないんだよ!!?可笑しいじゃないか、誰だって嬉しいに決まってるじゃないか!!?」

「緑谷……」

「ずっと個性があるって分かってるのに使えなくて、苦しんできて、だからその時漸く分かったんだからそんなの当り前じゃないか!!?」

 

彼も特殊な経験をしている、今まで無個性と言われ様々な苦しさを味わってきた。今でこそ個性を使えるが、それと龍牙は大きく異なっていた。それでも龍牙の喜びは強く理解出来るし共感できる。

 

「それなのに、それなのに……!!」

「……そう言って貰えるのは嬉しいけどさ、その時の両親達からすれば俺は謎のヴィランでしかなかったんだよ。いきなり子供が炎に包まれたと思ったらそこにいたのは化け物みたいな見た目をした奴が居たんだ。しかも俺は個性が使えなかった、それを俺とどうやったら認識出来るんだ?」

「それは……!!」

 

客観的に考えればその状況で龍牙が個性を使えるようになったと考えるのは難しく、ヴィランが出現したと考える方が自然。

 

「……続けるぞ。その後、俺は一時的に警察に拘束された後に預けられる事になった。その中、個性の制御が出来ない奴らが集められるそんな施設にな」

 

個性が蔓延している世の中、しかし中には制御出来ない者達もいる。龍牙も個性を制御しきれなかったという事でその施設に預けられる事になった。

 

「ま、待ってよ龍牙君!?お父さんとお母さんは!?何でそんな施設に行くの!!?行く必要なんてないんじゃないの!?」

 

葉隠が大声でそう問いかける。その時だけのすれ違い、それで済む筈。その筈なのに施設に行くのか分からない葉隠、それに龍牙は溜息を吐きながら俯いた。

 

「拒否したんだよ。俺を引き取る事を」

「えっ……」

「……これは推測だけど俺の個性の見た目は醜悪で邪悪な化け物。それを理由に自分達の立場が揺らぐのが恐れたの、かもしれない。マスコミが騒ぎそうなネタだし」

 

両親というのには多少なりともエリート的な思考があった、自分を愛していたのも将来への期待や自分達が利用する事も考えていたのかもしれない。どれも結局は推測の域は出ない、だが先程との両親との会話で可能性としては高いと龍牙は考えている。そんな期待を込めた息子がヴィラン顔負けな化け物のような姿になる個性を持った、となればマスコミは大喜びで騒ぎ立てる事だろう。そしてそれは自分達の立場を揺るがす物にもなる得ると思ったのかもしれない。

 

「ああでも、施設に行ったのは俺にとっては幸運だったのかもしれない」

「如何して……?」

「―――俺を救ってくれたヒーローと出会えたから」



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出会った黒龍

虚空を見つめ続けていた。何もせずに唯々何もないそこを見つめ続けていた。それが施設に預けられた龍牙が唯々行い続けていた事の全てだった。彼にとっての全てが崩壊したとも言える状況で廃人のような抜け殻となった龍牙、何も話さず、唯々虚空に何も見出す事もなく見つめる事に全てを費やし続ける。

 

『龍牙君、一緒に遊ばないかい?ほらっ玩具にゲームとかもあるんだよ?』

 

そこの職員元ヒーローが多かった為に善意に溢れている人たちだった。自らが生まれ持った素晴らしい才能、しかし幼いために制御などが出来ない為に社会から弾かれてしまった子供達を支え、新しい未来へと導くことに誇りを持って仕事をしている人たちばかり。そんな彼らは龍牙を放っておく事が出来ずに何とかしようと努力し続けた。だが―――龍牙は何も興味を示さなかった。

 

瞳すら動かさず、目の前にいるのにもかかわらずに視ようともしない彼に職員達は困惑と心配を募らせ続けた。形容するならばエネルギーが切れたロボット、そこにいるだけの存在と化している。困り果ててしまった職員の一人がとある人に対して意見を求めた、意見を求められた者は快く施設を訪れ龍牙へと会いに来た。その人物が―――

 

『やぁっ龍牙君、いい天気だね。折角だから僕と一緒に散歩しないかい?』

 

龍牙の今の保護者である根津だった。根津は龍牙が素晴らしい才能を両親から受け継いでいる事を知っていた、だが両親はそんな龍牙を拒絶してしまった事を酷く悲しんだ。大人として、親としての役目を放棄した事への失望を感じつつも龍牙へと問いかけを続けた。龍牙は当然として何の反応を示す事もなかった、普段通りに虚空を見つめ続ける。

 

『おっとごめんね、今日はもう時間が無いみたいだね。それじゃあまた来週来るからね』

 

そう言って根津は去っていった。彼も忙しい身であるので長いこと一緒にいる事は叶わなかった、それで根津は龍牙の事を救ってあげたいと出来る限りの手を尽くし、時間を作っては彼へと会いに行き続けた。毎週毎週、欠かす事もない来訪と続けられる問いかけ。

 

『それで気の毒なのがさ、そのヒーローのラストなんだよ。ヴィランを見事に捕まえたのに足を滑らせて股間をフェンスに強打する所をお茶間に大公開しちゃったのさ!!不謹慎だけど僕も笑っちゃったね、飲んでたお茶を噴き出して!』

 

『最近は利益追求のヒーローが多くなっちゃって、ちょっとげんなり気味なのさ。それでも少しずつだけど正しくヒーローと言える志を持ってるのも増えてきてるんだよ』

 

そんな日々が半年も過ぎようとした時の事だった。根津が毎週欠かさず来訪して会いに来た龍牙が初めて、視線を動かし、自分から根津に目を合わせた。

 

『……如何して、如何して僕に……会いに来て、くれるの……?』

 

初めて返ってきた言葉、根津は驚くこともなく笑顔を浮かべたまま話した。

 

『君に笑顔になってほしいからだよ。ヒーローって言うのは誰かを助けたり笑顔にするのが仕事だからね』

『ヒーロー……?』

『そう、僕は君のヒーローになりたいんだ』

 

根津には何の打算もなかった。純粋に龍牙の心を救いたいと思ったから毎週通い続けていた。彼の瞳の中の虚空を取り払い、光で満たしてあげたいと思ったからこそ半年間も一度も欠かす事もなく会いに来た。根津は龍牙が幸せになる事を心から願っている、そんな根津の誠意と思いが彼の心を動かした。

 

『カッコ、いい……んだね、ネズミさん……?』

『ネズミなのか熊なのかは君にとっては如何でもいいだろうが敢えて言おう、僕は根津。君に笑顔を届けに来たヒーローなのさ!!』

 

 

「それが俺にとって最高のヒーローとの出会いだったんだよ」

 

半年間もの間、見ず知らずの子供に会いに来て話しかけ続けた酔狂なヒーロー。傍からすれば信じられない行動かもしれないが根津の行動は一人の少年の心を救い上げて光を与えた。そんなヒーローに憧れてヒーローになりたいと思ったのだ。

 

「根津って雄英の校長先生……それが龍牙君の保護者なの!?」

「ああっそうだよ……一応言っておくけど、入学は自力合格だからな」

「いやいやいやそんな事疑ってないってば!?」

 

ジト目で此方を見つめてくる龍牙に葉隠は慌てるが龍牙は分かっている、分かっていてそう言ったのだから。軽いギャグのつもりなのだから真剣に取り合わないで欲しいと言うと、透明で見えないがポコポコと叩かれてしまい謝罪する。

 

「それから俺は少しして根津校長に引き取られてな、そこから個性の制御やらを教わっていったんだ」

「それも校長先生に?」

「いや、とある人を紹介されてな。その人が俺の師匠になってくれたんだよ、俺が尊敬する偉大なもう一人のヒーローだよ」

 

そう語る龍牙の笑みは本当にまぶしい。心からそのヒーローの事を尊敬し慕っているのがよく伝わってくる笑顔、緑谷も心から尊敬しているヒーローが居る、それは平和の象徴と呼ばれるヒーロー・オールマイト。そんなオールマイトのような存在がその師匠という事なのだろう。

 

「なあ二人とも、色々話したんだけどお願いがあるんだ。ビーストマンやミラー・レイディに対して変な考えは持たないでくれると助かる」

「ど、如何して!?」

「どうだよ龍牙君にそんなひどい事をした人たちなのに何で!!?」

 

緑谷は驚きを、葉隠は怒りを持って問いを返した。話を聞いて猶更思った、一方的に突き放しておいて今度は家族として迎え入れようとしている。余りにも勝手が過ぎる上に虫が良すぎるじゃないか、大切な友達の事ならば猶更二人のヒーローにいい感情は抱けない。

 

「俺の事を思ってくれるのは嬉しい、だけど俺は同情を誘いたくて話したんじゃないんだ。それに俺はもう決めてる―――俺は両親を見返したい、皆に愛されるヒーローになってね」

 

そんな龍牙の笑みと言葉を聞いた二人は口を閉ざすしかなかった。そして思った、龍牙を応援しようと。



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高揚する黒龍

昼休み、全員参加のレクリエーションも終了して間もなく始まる事になる雄英体育祭最大の目玉イベントである騎馬戦で獲得したポイントが上位4組で行われる個性ありのガチバトルのトーナメント大会。当然龍牙もそのトーナメントに挑む事になる、そしてその組み合わせを見た時に少々仕組みでも行われているのではないかと軽く疑ってしまった。

 

 

第一試合:緑谷VS心操 第二試合:轟VS瀬呂

 

第三試合:常闇VS飯田 第四試合:黒鏡VS鏡

 

第五試合:芦戸VS青山 第六試合:塩崎VS八百万

 

第七試合:切島VS鉄哲 第八試合:麗日VS爆豪

 

 

このようになっているのだが、龍牙の対戦はいきなりの白鳥になっているのである。少し前に両親から話しかけられたりした直後にこんな結果になるなんて、何かの嫌がらせだろうか。トーナメント初戦から妹との激突とは何とも因果的な物を感じずにはいられない。それを心配しているのか周囲にいた緑谷が不安そうな瞳を向けてくるが、サムズアップで返して安心感を与えていく。

 

「白鳥が相手か……確か、俺と似た感じの個性だった、と思うんだけどなぁ……やべぇ想像以上に記憶が曖昧だ」

 

控室にて龍牙は対白鳥の戦術を考える為に白鳥の個性の事を過去の記憶からサルベージしようとするのだが……妹と一緒のいたのは幼かった頃だけ、その時も自分の個性の事でいっぱいいっぱいだったりしたので記憶が酷く曖昧……何か変身して自分が凄い凄い言っていたような記憶をギリギリで覚えている程度……。

 

「冷静に考えればビーストマンとミラー・レイディの個性の掛け合わせで俺っぽくて変身……分かるかぁ!!?」

 

ハッキリ言って全く対策なんて考えられるわけがなかったのであった、しかも幼い頃の記憶なので全くと言い程参考にもならない。なので初戦はその場の勢いで突破する事にして警戒すべき常闇の事を考える事にしたのであった。

 

「このトーナメントで俺にとって一番厄介なのは常闇だな……まさか黒影にあんな能力があるなんて思いもしなかったからな……」

 

騎馬戦での事を思い出す、自分の黒い炎で黒影の能力低下を防ぐための炎の放射。だがそれを黒影は吸収して自らの力に還元して大幅なパワーアップを遂げていた。しかも日光下である為に常闇が十二分に制御が利くというのが酷く厄介。自分の最高火力は炎を使用した攻撃なので必然的に自分の火力を無力化されたも同じ、それ所自分を不利にする材料でしかない。

 

そうなると自分が取るべき選択は接近戦よる直接攻撃、幸い剣を出す事は出来るのでそれを主として立ち回るのが良いかもしれない。すると課題となるのは常闇自身の実力の大きさ、黒影と共に挟撃を仕掛けられると個人的には苦しい所だが上手く捌いていくしかないだろう。考えれば考える程に常闇と黒影は自分の天敵だ、協力している間は酷く頼もしかったが、敵になるとなるとこれほどまでに恐ろしいこともないだろう。

 

「それでも俺は接近戦には自信がある、そう易々と負けたりはしねぇよ」

 

師匠との訓練は殆どの場合、偶にを除いて実戦形式でのものだった。対凶悪ヴィラン戦を想定した野外戦闘訓練、対凶悪ヴィラン屋内戦闘訓練、それらを全て実戦形式で行った。一歩間違えば大怪我必至な事も多かった程。そんな訓練の中で必死の個性制御訓練や新たな技術の獲得など酷く厳しい師匠だった、そんな訓練でも自分に対する思いやりを感じていた龍牙はそれらに必死に食らい付いていった。今日それを師匠に披露すべき日だと、前向きに考えながら笑みを作る。

 

「いざとなればあれを切るしかないか……いやでもあれ未完成だからなぁ……成功率4割切ってるから除外が安定かな……」

 

実は体育祭に向けて師匠と共に新技の研究と行っている時にある技が出来そうになっていた。威力こそお墨付きなのだが……少しでも調整をミスると自分にとんでもない竹箆返しを食らう恐れが危険があり師匠にも成功率を高めなければ使用は禁ずると言われている物。だが炎を封じる常闇相手ならば切らなければいけない場面もあるかもしれない……考えるだけにしておく事にした龍牙、そんな時に控室の扉が開いた。そこには自分と戦う事になった白鳥の姿があった。

 

「あっお兄ちゃん……えっとその……今回はよろしくお願いします……」

「おう。いきなりのぶつかり合いとはなんか仕組まれてるんじゃねぇかこれ」

「や、やっぱりそう思うよね……私お兄ちゃんとは戦いたくはないんだけど……」

 

妹は何処か乗り気ではないのか消極的な姿勢を取っている。彼女からすれば10年ぶりに会う事が出来た大好きな兄で最近漸く兄妹らしく会話ができるようになってきた事、やりにくさがあるのも致し方ない事だろう。

 

「それでさ、白鳥はやっぱり二人に指導とか受けてたのか?」

「うん、お父さんとお母さんに色んな事を教わったよ。だからハッキリ言って―――私は強いよ」

 

そう言い放つ妹の表情には強さを裏付ける自信があるように見えた。プロヒーローの二人に扱かれたのだからかなりやるのだろう。だがその言葉には何やら裏があるように思えた、ならば自分はその言葉を超えるだけ。

 

「だから」

「白鳥、言っておくが俺はお前より強いぞ」

「っ!!」

「俺の師匠は―――あの二人よりも遥か先にいる、その人に教えられたものを見せてやる」

 

そう言うと龍牙は控室から出ていく、徐々に高まってくる戦闘への高揚感。それをただ座っているだけでは抑えられなくなってきてしまった。だから少し歩いて発散してくるよしよう―――牙を磨きながら。



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妹と戦う黒龍

トーナメントは既に三回戦までが行われている、そんな中で龍牙は応援にはいかずに唯々控室で心を落ち着けて集中していた。緑谷には前以て自分は試合に集中するので応援できないと断っている、しかし彼はそれを快くOKしてくれた上に絶対に勝つと宣言までしてくれた。そして彼は約束通りに勝ち、龍牙もそれを聞いて思わず微笑んだ。そして自分にとって重要な第三回戦、常闇対飯田の対決は常闇が勝利をおさめた。自分が勝った場合に戦うのは常闇、苦しい戦いになるだろうが全力を尽くすだけだと龍牙は割り切る。そして―――

 

「行くか」

 

遂に龍牙の出番が回ってくる。

 

『続く第三試合!!ここまで優秀な成績で勝ち上がってきた黒き龍、その牙で相手を噛み砕け!!黒鏡 龍牙ぁぁぁ!!!!』

 

マイクの実況にも熱が乗っている、その熱がスピーカーを通じて会場のボルテージを更に過熱させていく。ステージへと足を進めていく龍牙の心もその熱に乗っかり、気分が高揚する。矢張りプロの実況は場を熱くして舞台に上がる人間の心をも熱する力がある。マイクに力を貰いながら戦いのステージへと立った龍牙。そして目の前からは覚悟を決めたような表情をしながら、体操着の腕を捲る妹の姿。

 

『対するは可憐に飛び立つ白鳥、名は姿をも冠するって奴だな!鏡ぃ白鳥ぃ!!!』

 

確かに改めて言われてみると妹ながらに見た目はかなりいいと龍牙も思う。長身で整ったスタイル、艶やかなロングヘア―に愛くるしい顔。人気が出る要素しかないと思う。

 

「鏡と黒鏡……もしかして親戚同士か?」

「かもしれないな」

 

観客席からは龍牙と白鳥の名字に首をかしげる者が多く何かしらの関係があるのではないか、と考えられている。それは正しく正解だ、二人は実の兄妹である。だがそれは一般的には分からない、名字が違えば別の家族としてみられる。そんな中でも龍牙は自分を貫き通してマイペース、対する白鳥は硬い表情のまま此方を見つめ続けている。

 

「一言言っておきます―――私、負けませんから」

「そうか、俺も負けん」

『おおっと、鏡此処で負けない宣言!!やる気は十分と見えるぜYEEEAH!!対する黒鏡ぃの方は如何だ!!?う~んイッツァマイペース!!!自分を保ち続けてやがるぜこの大物めぇっ!!!』

 

淡白な返しに白鳥は少しムスッとする。これでも結構気持ちを込めて、覚悟を込めて言ったつもりだったのだろう。しかし肝心の兄はそれを簡単にリターン、なんだか自分が空回りしているような気分になる。そんな肝心の兄へと視線を向け、構えを取る。それに合わせるように龍牙も構える。腰を低く落とし身体を半分そらすような構えに白鳥は思わず汗が出る。

 

『さあ気合は十分みたいだな!!それじゃあ行くぜぇぇ……試合、スタァァアアアト!!!』

「はぁっ!!」

 

先手必勝、その言葉を忠実に実行するかのように飛び出す白鳥。しなやかな足のばねからの跳躍、そしてそこからの鞭が撓るような回し蹴りが龍牙へと襲い掛かる。

 

「はぁっはぁっはぁぁっ!!」

『鏡連続の回し蹴りィッ!!こりゃ痛烈だ、鞭でぶったたいたみたいな音が周囲に響き渡るぅ!!』

 

駒のように回転し続ける白鳥、その姿は回転のせいかブレているのか妙なように映っている。体操服にはない筈の白い翼のようなマントが出現し始めていく、それは翼のように広げられていき周囲に白い光をまき散らしながら白鳥を包んでいく。

 

『おっとっ鏡が変化していくぅ!!これこそ鏡の個性、さあ見せてくれその完璧なプロポーションをよぉ!!』

「はぁっ!!」

 

最後の一撃と言わんばかりに鋭い一撃を放つ、そしてその勢いのまま高々と跳躍すると翼を広げながらゆっくりと舞い降りていく。優雅な白鳥を連想させるような静か且つ美しい降り方に皆が魅了されていく、白い翼に優美な金の装飾のようなパーツ、それらを纏いながら自身に満ち溢れた表情は皆を虜にする。それこそが白鳥の個性、白鳥(ファム)

 

「……成程、綺麗なもんだな。俺にはない物をもってやがる」

 

その言葉に含ませるのは羨望か、はたまた嫉妬か。静かに優雅に舞い降りる妹を見つめながら呟く龍牙は真っすぐと相対し続ける。左腕に禍々しい黒い炎とその奥にある自らの力を発現させながら、立ち続ける。

 

『おっとぉ黒鏡も全く平気そうだ!!にしても黒と白、対照的な戦いだなぁ!!』

 

マイクの言う通り、黒と白。正反対の戦いになっている、色だけではなく境遇もそうなのかもしれない。ならばこの対決は必然が引き起こしているのだろうか、それは分からないが龍牙はそんな事は気にせずに右腕にも炎を纏わせ龍の首を出現させる。それを見た白鳥は後ろへと飛び距離を取る。

 

「それが、お兄ちゃんの個性……少し、怖いね」

「お前に比べたらな。俺に優雅さはない、だが―――だぁぁぁぁっっ!!!!」

 

叫び声が周囲を劈く。叫びと共に龍牙の右腕から黒い炎が吐き出され白鳥へと向かっていく。黒炎を見た白鳥は大きく跳び上がりそれを回避する、だが炎は地面を焦がすように燃え続け周囲に熱を発散させている。

 

「力強さなら負けん。本気で来い、鏡 白鳥……!!」

 

そう言われた白鳥は息を飲みながらも翼を広げ、空から龍牙へと向かっていく。兄と妹の対決は始まったばかり、黒龍と白鳥の戦いは激しさを増していく。



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進む黒龍

迫りくる白い翼、それを強く振るう腕で空気と共に吹き飛ばす。優雅に美しく舞う白鳥は完全に会場の全てを支配するかのように魅了していた。周囲を魅了するのもヒーローの素質の一つというのは聞いた事がある、確かに自分だってオールマイトの戦う現場を見たら確実に釘付けになってみる。それほどのカリスマがオールマイトにはある、それと似たようなものなのだろう。

 

「やぁぁぁっっ!!」

 

宙に浮きながら連続で蹴りを繰り出してくる白鳥、それらを腕を払うようにしながら防御する龍牙。一見すれば攻撃をし続けている白鳥の方が有利のようにも映っている。龍牙に反撃の隙を与えずに連撃を与え続けている事こそその証拠、それは間違っていない。実際龍牙も攻撃の合間の隙を狙う事は完全に諦め防御に徹している。ペースは完全に白鳥が握りしめている―――その筈、その筈なのに。

 

「たぁぁぁっっ!!」

 

鋭い蹴りが龍牙の首元へと炸裂する。部分出現によって防御されていない部位への攻撃が遂に叶った、それによってグラリと身体を揺らしながら俯く龍牙、だがすぐに体を起こして此方へと構えを取る。異常と言っても過言ではないタフネスさに白鳥は嫌気すら感じ取っている。

 

『さあ既に試合開始から15分が経過しているが白鳥がペースを握り続けているぞぉ!!だが黒鏡もよく耐えているぞぉ!!この膠着状態を破った方に試合の決定権があると言っても過言じゃねぇ状況!!』

「(どうして、どうして攻めきれない……!?)」

『いや、不利なのは鏡だな』

 

そう、解説として無理矢理席に座らされている相澤が此処で漸く言葉を発した。それに会場からも疑問の声が漏れるが矢継ぎ早に言葉を挟む。

 

『確かに鏡の連撃は素晴らしい、連携も技の合間の隙も非常に少なく完成された連撃と言っていいだろう』

『おおっ超高評価!!』

『だがそれらを完璧に防御している黒鏡の方がその上を行っている。奴は完璧な連撃を完全に防ぎきっている』

「そんな、事はっ……!!」

 

再度、白鳥は跳躍する。先程よりも数段素早く攻撃の密度を増した連撃を繰り出していく。両腕のラッシュに比べて蹴りなどをタイムラグを踏まえた攻撃は対処が非常に難しいと言わざるを得ない。しかしそれらを龍牙は防御していく、先程のリプレイを見せ付けられているかのような攻撃に白鳥も顔に淀みが生じ、焦りからか大振りの攻撃を仕掛ける。それを身体を回転させながら受け流す。

 

「はぁっ!」

「がはぁっ……!!」

 

無防備となった背中へと裏拳が炸裂する、それを受けて地面へと転げ落ちながら苦しげに息を吐きながら必死に立ち上がり兄を見つめるが、そこには背を向けたまま動こうとしない兄が居た。まるで自分などそこまで真剣にやる程でもないと言われたような気分になってしまった。僅かながらの怒りを感じつつ飛び出しながら再び得意の回し蹴りを放つ、が

 

「動きが一気に雑になってるぞ」

「あっぁっ……」

 

振り向きざまに放った龍牙のハイキックが白鳥の腹部へと突き刺さった。片足で身体を支えながらのハイキックは通常よりも勢いが劣るが、白鳥が此方へと迫ってきている勢いでそれを代用した。言うなれば彼女の移動コースにキックを置き、勝手にキックに刺さるように仕向けたと言った所だろうか。凄まじい痛みが身体を突き抜ける、意識が飛びそうになる中で白鳥は腹部へと刺さる足を掴みながら、残った腕で殴りつける。

 

「……悪いけど利かないな」

 

片足を軸に、身体を回転させながら足振いをしがみ付いている白鳥を振り払う。妹が振りほどかれ地面を転がり苦しそうに呻いているのを見つめる。必死に身体を立て直しながら構えを取ろうとするのは非常に健気に映る。いい根性を持っていると素直に感心する。故に自分も加減はしない、したら妹を侮辱する。右腕に炎を溜め、それを一気に発射する。

 

「くぅぅぅうっっっ……!!」

 

龍牙の黒い炎を翼を盾のように使用して防御する白鳥、翼は炎によって燃えていく。何とか防ぐことには成功しているが、それによって翼は一部が燃えて黒くなっている。あれではもう飛ぶ事も叶わないだろう、それでも白鳥は立ち続ける。腕を出すとそこには翼の一部を模したような刀身の細い剣が生まれそれを構える。レイピアのように見える剣を構える姿は非常に絵になる。

 

「はぁはぁはぁっ……負け、ない……お父さんとお母さんの、ためにも……私は負けない……!!」

 

覚悟を言葉にし、身体と心にそう言い聞かせ力を作る。駆けだしながら剣を強く握りしめる、まだ戦える。今日まで必死に力を付けてきたんだからそれを無駄にはしないという意志、両親の為にもという想い、兄に勝ちたいという願いが身体を突き動かす。そしてそれらを力に変えて渾身の力で剣を振るう、それは確かに龍牙の身体を捉える―――だが

 

「……悪いが俺も負けるつもりはない」

「くっ……!!」

 

左手に握られた剣が、白鳥の剣を受け止める。そして白鳥の(それ)を弾き大きな隙を作りながらそこへ黒炎をぶつける。炎に飲み込まれ吹き飛ばされる白鳥はバウンドするように地面を転がっていく。爆発のような勢いで放たれた黒い炎、それをまともに受けた白鳥のダメージは尋常ではない筈。苦しい感情の込められた荒い息を吐くながらもまだまだだと立ち上がった。

 

美しかった白い身体は砂埃と黒い炎によって汚されて、見る影もない程に汚れている。龍牙の攻撃を何度も浴びているのにもかかわらず必死に立ち上がる不屈さ、可憐な少女がそんな事になりながらも必死に戦っている姿は観客質の心を掴み、龍牙へのヘイトを強めていく。龍牙の攻撃は容赦の無いように映っている、それはある意味正しいが全力を出すのが礼儀だと思っている龍牙からすれば少々困った感情、だがそれらが観客全体が持っている、持ってしまっている。

 

「鏡ちゃん頑張れ~!!」

「まだまだ行けるぞいけいけ~!!!」

「負けるなぁ~!!!」

「黒鏡も少しは加減しやがれ!!相手女の子だろうが!!」

「そうだそうだ~!!」

「それでも男かぁ~!!?」

 

募り始めた思いが言葉になり始めた。龍牙の容赦の無さと白鳥の健気な姿が観客を誘ってしまった。だが白鳥はそれらを聞いて喜ぶどころか困惑していた。

 

「ど、どうして……如何してお兄ちゃんを悪く言うの……?全然、悪くないじゃん……!?」

 

彼女からすれば龍牙の攻撃は全て当たり前、対戦相手なのだから攻撃は当然だと思っている。下手に女性だからと手を抜かれるよりも遥かに気分が良いとさえ思っている。寧ろ兄も自分と真剣に全力を出してくれていると好感すら覚える、まあ多少なりとも怒りは覚えたりもしたがほんの些細な物。だから観客の言葉が全く理解出来なかった。なぜこんな風になっているのかと。

 

「ごめん、なさいお兄ちゃん……私の、せいで……」

「気にしてない、と言ったら嘘になるかもしれないけど大して響いてないから気にするな」

「……それでも、ごめんなさい……」

 

白鳥はこの場の空気に耐えられなくなった。なにも理解していない観客に、知らず知らずのうちにこんなことにしてしまった自分に。観客の声が更に大きくなろうとした時の事、白鳥は手を上げて宣誓した。

 

「ミッドナイト主審……私、ギブアップします。流石にもうきついので……」

『許可します。この試合、鏡さんギブアップにより黒鏡君の勝ち!!』

 

白鳥は自ら負けを認め、龍牙に頭を下げて足早に去っていった。一秒でも早く此処から立ち去りたかったのだろう。そんな辛そうな背中を見て実況席では立ちあがった相澤が苛立ちを抑えきれずにはなった舌打ちがマイクに拾われスピーカーから伝わった。

 

「(なんでもっと早く声を出さなかった……ちっ合理的じゃない)」

 

そんな風に思案する相澤、彼は観客を黙らせようと言葉を出そうとした。それよりも先に白鳥が降参する意思を表明してしまい、言えなかった。この事がどんな事になるだろうか、龍牙へ集中する事も考えられる。生徒を守る事も、彼らの気持ちをフォローする事も出来ない自分に相澤は苛立っていた。そんな彼が見つめる龍牙の背中は何処か達観しているように見えた。



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見えない気持ちと見える気持ちの黒龍

「世の中見た目ってか……」

 

控室に戻った龍牙は自虐的に言葉を吐きながら、足をテーブルの上に放り出しながら天井を見上げていた。三回戦、自分は加減する事は無く正面から白鳥と戦った。全力こそ出していなかったが加減は一切していなかった、それこそが白鳥に対する礼儀だと思っていたからだが……如何やら観客からすると自分の行動は美少女を痛めつけている不良程度にしか見られていないらしい。

 

「スッキリしない……」

 

自分としては白鳥との戦いはそれなりに高揚感があったし、あのまま彼女が立ち向かい続けるならば自分はリュウガを解禁して全力を出すつもりもあった。だがその前に浴びせ掛けられた言葉が白鳥の気持ちを邪魔してこのような結果となってしまった。自分が何かすれば妹は最後まであそこに立ち続けていたのだろうか、そう思うと申し訳ない事をしてしまったような気分になってしまう。

 

「……望まれないのかな」

 

不意に口から漏れてしまった弱気な言葉、既に覚悟は決めていた筈の彼だが観客からの反応を見て思わず出てしまった。自分だって美少女と不良、どっちを応援するかと言われたら前者を応援するだろう。しかし勝負という場でそれを持ち出して確りとした試合を行わないのは白鳥に失礼に当たる、そう思っていた。確りとぶつかり合えれば皆が納得するだろうと思っていたのだが―――

 

「これ以上、考えるのはやめておこう。考えるべきは次の常闇だ」

 

悪い流れをし始めた思考を一旦リセットして次の常闇戦の事を考え始める。自分にとって最悪の相性ともいえる常闇を倒すために思案を巡らせる、近接格闘での攻撃などの組み立てを行っている時に控室の扉があけられた。目をやるとそこには体操着だけが浮いている、一瞬何事かと思ったが直ぐに理解する。

 

「葉隠さんか、如何したんだ?」

「……そのえっと、大丈夫かなって……」

 

 

「なんで、なんで?龍牙君何も悪くないじゃん、それなのに何であんなこと言うの……!?」

 

生徒観客席で観戦していた葉隠は試合の終盤、フラフラになりながらも必死に立ち上がった白鳥に凄いという感想を抱いていた。同じ女としてもだが、あそこまでの攻撃を受けても意志などが折れずに立ち上がって構えを取れるという彼女の精神面も凄いと思っていた。見習わなければいけないなと思っていた時だった。龍牙へのブーイング一歩手前の物に困惑を浮かべてしまっていた。

 

「龍牙に対する風当たりが強いな……なぜ奴らは正々堂々と戦う奴らを侮辱する」

 

静かに怒りを募らせているのは次に当たる相手を見つめていた常闇だった。常闇は二人が正々堂々とぶつかり合っている二人に気持ちを昂らせていた。黒龍たる龍牙との対決も、純白の白鳥との対決もどちらも心が躍ると思いながら二人の戦い方を観察しながら観戦していた、が、突如として上がった二人への観客の言葉に怒りが溜まってきていた。何も分かっていない、これは試合。手加減などをしない正々堂々たるものの美しさが何故わからないのだと。

 

「私は、今のこの会場の雰囲気が嫌ですわ。龍牙さんは間違いなく白鳥さんに向き合っていました、女だからと手加減などせずに実直に戦っていました。それなのに……!」

 

八百万の言葉に思わずにクラスの皆が納得した、あの峰田ですら頷いていた。逆に問うが此処で女性だからと加減してヴィランをしっかりと相手に出来るのだろうか。ヴィランには女性もいる、それを相手にしたときに加減して戦えと言うのだろうか、何も分かっていないと気持ちが燻っていく。そんな中で白鳥は降参をして足早に去っていく、その後にそれを見送った龍牙が去っていくのを皆が見送った。

 

「龍牙君……大丈夫かな、私ちょっと行って来る!!」

「葉隠さん!?」

 

葉隠は静かに去っていく龍牙の背中を見て我慢が出来なくなった、あの背中は前にも見た事がある。USJでヴィランに仲間扱いされていた時の姿に似ている気がした。今の彼を一人にしておく事なんてできないと葉隠は駆け出した。必死に走り、控室へと到達し扉を開けた時、天井を力なく見つめている姿に思わず胸が締め付けられるような感覚を覚えてしまった。だが勇気を出し、言葉を出す。

 

「……そのえっと、大丈夫かなって……」

 

 

 

「ああっ大丈夫だよ、この位大した事ない」

 

そこに嘘はない、本当に大した事ではないと龍牙は思っている。自分がヒーローを目指す中でこれは避けることが絶対に出来ない問題と思っている。出来るのはその問題に向き合って戦う事だけ、その気持は決まっている。だがそんな姿が葉隠にはやせ我慢しているように映った。

 

「龍牙君、その上手く言えないんだけど……私はあんなの本当に気にしなくていいと思う。だって龍牙君は優しくてカッコいいもん。私は知ってる、龍牙君は凄いって」

「―――」

 

シンプルな言葉、そこに込められた葉隠の想い。カッコいい、優しい、そんな風に自分を形容してくれるのは葉隠が初めてだったかもしれない。根津や師匠とも違う優しさと明るさに満ちている、嬉しくてしょうがない。そんな風に思っているとぎゅっと身体に温かい熱を感じる、よく見ると体操着が自分のすぐそばまで来ていた。これは恐らく、自分は―――

 

「葉隠、さん……!?」

「ごめん龍牙君、でもこうしたら元気その、出るかなって……」

 

葉隠の胸に自分は抱き寄せられるようになっていた。恐らくだがそんな風になっている、彼女が透明なので分かりにくいが恐らくそんな風になっている。一瞬混乱仕掛けるが、今まで味わった事の無いような温かさに心地よさを覚える。これはなんだろうか、懐かしさを覚えるような不思議な温かさに酔いそうになる。

 

「葉隠さん、我儘言っていいかな……?」

「うんいいよ」

「……少し、このままでいてもいいかな

「うんっいいよ。私はそばにいるから……」

 

そうして龍牙は少しの間、葉隠に抱きしめられながらその温かさと彼女の優しさに酔う事にした。瞳を閉じれば眠れそうな程に心地よいそれに包まれている龍牙は、先程の事なんて完全に忘れていた。




透明な姿な葉隠さんを生かすのって想像以上にムズイ……。


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漆黒の影と黒龍

葉隠からの温かさを貰った龍牙は続く対戦を観戦していたが矢張り目を見張ったのは麗日対爆豪、そして緑谷対轟の対戦だった。麗日と爆豪の戦いは一方的且つ爆豪の容赦がなく執拗な爆発の攻撃で観客から直接的なブーイングまで起きるまでにすさまじい戦いだった。だがそれでも麗日は諦めずに個性を最大限に使った攻撃を繰り出し逆転を図るが、爆豪はそれを正面から堂々と粉砕して乗り切り勝利を収めた。

 

そして緑谷対轟。緑谷の個性はまだコントロールが上手く効かないのか自らの指を個性発動の回数券として使用するという一見狂気じみた戦法で轟の桁外れの個性出力に対抗。今まで氷しか使わなかった轟の炎を引き出し、最後の激突はミッドナイト主審と副審であるセメントスが止めに入るレベルの凄まじい激突であった。そんなとんでもない試合だったからか、試合のステージは完全に粉砕されてしまっており今はセメントスによる修復作業が行われている。そして―――それが終われば間もなく常闇との試合が待っている。

 

「―――」

 

意識を集中して戦いに備える、常闇は自分が最も警戒している相手でもある。自分の最大火力である黒炎を無力化して黒影の力に転化させられてしまうので必然的に封じられてしまう。取るべきは直接攻撃になるのだが……日光下で弱体化している黒影の速度はかなり優れているので、本体である常闇の元に飛び込むのも一苦労だろう。それに常闇本人の実力が未知数なので何とも言えない部分が強い。

 

「大丈夫だよ龍牙君!!きっと勝てるって!!私応援してるからね!!」

「っ―――有難う、本当にうれしいよ」

 

垣根なしの本音で明るい声でそのように言ってくれる葉隠に礼を言う。きっと笑顔で言ってくれているのだろうが彼女が透明であるので確認する事が出来ない。だが笑顔であることが不思議と確信出来た、優しく明るい彼女だからそう思えるのかもしれない。もう考えるのはやめるとしよう、自分は兎に角彼女の応援に応える為に精一杯にやろう。それが最適だろう。

 

「それじゃあそろそろ俺行くね」

「うんっ頑張ってね!!」

 

最後に自分の手が握られるような感触を最後に葉隠は去っていった。遠ざかっていく彼女に手を振りながら見送ると静かに息を吐きながら入場ゲートへと足を進める。気持ちは落ち着いている、最高のコンディションとも言える状態をキープ出来ている。こんな静かに闘志に満ちた精神状態は初めてかもしれない、そう思える程に充実している。

 

「葉隠さんに感謝しよう、今度何がお礼をしないとな」

 

そんな事を決意しながら遂に始まりの時間となり、入場ゲートから一歩足を踏み出して光の下へと足を進める。観客からの歓声やら様々な視線が向けられてくるがそんなものは気にならない。ただ一直線に前から歩いてくる常闇へと視線が行った。

 

「この時を待ち続けた、お前と矛を交えるこの時を」

 

静かに刃を研ぎ続けた侍が、ゆっくりと鞘から刀身を覗かせるように常闇が呟く。普段から物静かな彼だが、今の彼は静かだが熱い心を火力全開にしている。

 

「俺はこのトーナメントでお前が一番手強い相手だと思ってる。そんなお前にそう言われるとは光栄だ。それにこたえる為に俺も力の限りを出してお前に挑む」

 

嘘はない。様々な意味で常闇の強さは大きな壁。そんな壁を必ず破ってみせると龍牙も自らの牙を磨いて準備をしていた。必ず牙で食い込ませてみせる。

 

「闇炎龍、貴殿にそう言われるとは俺も悪くないらしい。だが俺の闇の深さを舐めるなよ―――さあ今こそ雌雄を決する時だ闇炎龍、俺はお前を超える」

「来い漆黒の影。龍の持ち味は炎だけではない事を見せ付けてやる」

 

互いに開始の合図を待たずに闘志を燃やし、それをぶつけ合っている。彼らにはマイクの実況すら耳に入っていない、目の前の存在に集中している。僅かにでも意識をそらした方が負ける、そんな確信めいたものが互いに存在していた。腰を低くし構えを取る二人、静かに開始の合図を待つ、そして―――開始の合図が鳴る。

 

黒影(ダークシャドウ)!!!」

『アイヨッ!!』

部分出現(パーツ・アドベント)攻撃(ストライク)!!」

 

常闇の身体から闇が伸びる、個性である影のモンスター・ダークシャドウが瞳を光らせながら迫る。伸縮自在な腕が龍牙を捉えようとするのを右腕の龍頭が防ぐ。連続して切り裂くような攻撃を繰り出し続ける黒影、攻撃の威力ではなく連続攻撃に主眼を置いた攻撃を龍牙に浴びせ掛ける。

 

「ぐっ……むぅっ!!」

 

龍頭での防御で何とか立ち回っているが明らかに手数が足りずに防御しきれていない、押し切られている。本人曰く攻撃は中の下らしいが、それでも攻撃を集中させられれば後方へ押される事は避けられない。

 

(ソード)出現(アドベント)!!はぁっ!!」

 

龍頭で黒影の攻撃を力を込めて弾く、一瞬だけ生まれた僅かな隙、そこを突き左手に龍の剣を出現させる。剣に名称など無かったが常闇がドラグセイバーと名付けてくれた剣を握りしめて迫る黒影の爪を弾く。

 

「はぁっ!!」

『イテェッ!?』

「流石の威力……!!」

 

迫る腕を斬り付ける、それに痛みを感じたのか声を上げながら少し下がる黒影と威力を褒める常闇。黒影を少し下げながら睨みあう。すり足をするように互いで円を描くように動く、間合いを測るように、相手の動きを伺うように。

 

「「―――」」

「ダークシャドウッ!!」

『オオヨッ!!』

「うおおおおおっっ!!」

 

全く同時に動く。一気に加速させた黒影を打ち出すか如く突進させる常闇、真っ直ぐに常闇へと飛び出していく龍牙。迫ってくる黒影へと渾身の右ストレートを打ち放つ、それと黒影の一撃がぶつかり合う。

 

「おおおおっ……腕部集中、ドラゴン・ストライク!!!」

『オオオッッ!!?』

 

龍頭ではなく、それを支える腕への一点集中。それによって押し出す力が激増し黒影の一撃を押し退けていく。そして遂に黒影を押し退け無防備に近い常闇へと龍の牙が届こうとした。龍牙も決まると思った刹那

 

「ウオオオオオッッ!!!」

「ッ!?」

 

常闇が動いた。彼自身が動いて迫る龍牙の右ストレートを真下からのアッパーを決め、軌道をそらして頬を掠る所へと攻撃を通した。その腕には黒影の一部のような影が纏っており、それが龍牙の一撃を弾く事を可能としていた。

 

「……流石は闇炎龍、重い一撃だ。ギリギリ直撃を避けるのが精々とは……」

「この一撃を避けられるとは思わなかった……やるな常闇」

「この技はまだまだ未完成だ、咄嗟だったが上手く安心している」

 

そんな会話を終えると二人はバックステップを踏んで互いに距離を取った、同時に会場中から莫大な歓声が沸き上がった。白熱した戦いに皆がヒートアップしているのか、生徒も観客も皆が興奮していた。だがそれらを常闇は冷めた目で見つめながら龍牙に問う。

 

「勝手なものだ、お前と鏡の対決は素晴らしい物だったのにこんな歓声は沸かなかった」

「なら俺とお前の対決はそれだけのものって思えばいい、心を動かす程素晴らしい物だってな」

「ふんっ……物は言いよう考え物という奴だな、だが―――そうだな、その通りだ」

 

そう言い放つと常闇は上着を脱ぎ捨てた。日光を浴びると黒影が弱体化するというにも関わらずだ、それは侮りか、いや違う。彼の瞳には確固たる意志がある、此処から自分の全てを見せてやると言う強く崇高な意志に満ち溢れている。それに影響されたのか、龍牙も同じように上着を脱ぎ捨てた。

 

「闇炎龍、いや龍牙と呼ばせてくれ」

「ああっ構わない」

「お前には俺の全てをぶつけたくなった、今までそうではなかった訳じゃない。此処からは本当の全力全開、正真正銘の俺の全力だ」

 

そう告げる常闇の瞳は美しかった。闇という名があるのにもかかわらずまるで太陽のような輝きに満ちていた、本当に綺麗だと思いながら龍牙も言う。

 

「なら常闇、いや踏陰。俺も此処からは制限なしのMAXで行く。覚悟は出来てるか」

「ああっとっくに出来ている」

「「―――さあ行くぞ!!!」」

 

第二ラウンドが―――

 

「リュウガ……変身!!!」

 

リュウガ……!!

 

 

「漆黒の帳の闇、我が身に宿りて真の力を見せろ……!!!」

『オウヨッ!!!』

「発動―――深淵闇躯……!!



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ライバルを得る黒影と黒龍

「……やっぱり理解出来ない」

 

一人、廊下の影にいた少女、白鳥は漸く落ち着いたのかゆっくりと立ち上がった。幽霊のようにふらふらとした足取りで観客席へと向かっているが心中は穏やかではなかった。

 

『気にする事は無い白鳥、あの時お前は周囲を味方につけていた。それはヒーローには必要な素質で力だ!お前にはそれがあると証明された瞬間なんだからな』

『そう、流石は私とお父さんの子よ。これで将来はきっと安泰ね』

 

「……子供なら、なんでお兄ちゃんの事を何も言わないのよ……そんなの親じゃない……」

 

募っていくのは両親への不信感。自分を慰めてくれたのは感謝すべきかもしれないが、二人は龍牙に対しては何も口にしなかった。家族だって言っていたのにこれでは全然違う、都合のいい時にしかそのようにしか繕っていない……兄が両親にいい顔をしないのも理解出来た。

 

「如何すればいいの……?」

 

観衆が兄へと向けた感情や視線、両親の言葉と自分が今まで受けていた愛とは違った面を見てしまった影響か彼女の内面は穏やかなものではなかった。そして真剣に立ち会ってくれた兄との勝負を自分から投げ出してしまった自分への嫌悪感が圧し掛かる。兎に角兄には確りと謝る事を心に決めながら観客席へとたどり着いた時、白鳥は見た。黒い炎に包まれている龍牙の姿を。

 

「あれ、は―――」

 

炎の先にあったのは爛々と輝く不気味な朱い瞳、恐怖を増長させるかのような凶悪な風貌を持った黒い龍が立っていた。白鳥は龍牙が完全に個性を発動させている場面を見た事が無かった、始めた見た凶悪なヴィランその物と言ってもいい見た目をした龍牙。見た事もない兄の全く別の側面、それを見た白鳥が抱いた物は―――

 

「凄いっ……」

 

感嘆だった。

 

 

 

リュウガ……!!

 

「オオオオオオッッッッ!!!!」

 

天へと向けて捧げられる龍の咆哮、力強くも待ち望んでいたかのような歓喜もあった。咆哮と共に炎が弾け飛び、そこには個性を完全発動させた龍牙の姿があった。完全に開放された黒龍は喜びを表すような咆哮を捧げ終わると真正面へと意識を向ける、が周囲はそれでは済まなかった。

 

「お、おいなんだあの個性!!?あれが個性なのか!!?」

「蜥蜴、いや龍か!?黒い龍だ!」

「な、なんて面だ……まるでヴィランだぜ」

 

龍牙が個性を発動させた状態、それが公衆の面前に晒される。観客たちは思わずそのヴィラン顔負けの凶悪さを見せ付けている龍牙に様々な感想を勝手に述べていく。プロヒーロー達はどちらかと言えば冷静に見ているが、それでも自分達が相対してきたヴィランとも遜色もないレベルの恐ろしさを持つ龍牙に素直に恐怖に似た物を抱える。

 

『……黒鏡、迷いはないって事か』

『あれが噂に聞く龍牙の個性か、いやぁ俺的にはすげぇクールな個性ってマジで思うんだけどなぁ……』

『……あいつ、黒鏡はその個性の見た目上にそれをコンプレックスに思ってきた筈。だがそれをここで使ったという事は覚悟が出来たって事だな。個性:リュウガ、己の全く別の側面を発現させた個性……とでも言うのか』

 

相澤の言葉を聞いた観客たちは言葉を失いながらもどんな言葉を口にしたらいいのか迷っていた。恐ろしく凶悪な姿をしている龍牙、真っ先に恐怖とヴィランじゃないのかという言葉が出そうになった時にそれらを遮った大きな歓声が生徒観客席から上がった。

 

「龍牙ァァァ!!!いいぞそのままいけぇぇぇっっ!!!!今のお前めっちゃくちゃカッコいいぞぉぉお!!!」

「龍牙君行けぇぇええ!!!」

「龍牙君頑張れぇぇええええ!!!」

 

会場全体に響くようなA組の応援の言葉だった、それらは静まっていた会場を劈くように響き渡った。同じクラスで過ごしてきた彼らはこの場であの姿になる龍牙の事を気にかけていた、如何すれば龍牙の為になるだろうかと。簡単な事だった、全力で声援を送ってあげればいいんだ。周りの声なんて聞こえなくなるほど大きな声で。

 

「ウチ全然龍牙君の事怖くないよぉ!!!寧ろ超イケてるよぉぉ!!!」

「頑張ってください龍牙さん!!常闇さんも負けないでぇ!!!」

「いっけえええ龍牙ぁああ!!勝ったらオイラ秘蔵のコレクション見せてやるからぁぁ!!!」

「常闇もその姿超イケてるぞぉおお!!このイケメン影野郎ぉぉお!!!」

「龍牙君も常闇君も全力を尽くすんだぁぁああ!!雄英の生徒として胸を張れる戦いをするんだぁぁああああ!!!」

 

八百万が創造したと思われる大弾幕、何処からか持ってきたのか切島は大漁旗を振り回している。メガホンなども使って周囲の声を打ち消すような大声でエールを送っている皆。そして龍牙には一番届いている声があった。

 

「龍牙君頑張ってぇぇぇええええ!!!!今の龍牙君凄いカッコいいよぉぉぉおお!!!」

「―――ぁぁっ心に、染みるなぁ……」

 

葉隠さんの言葉だった。A組皆の言葉が温かさをもって自分を包む中で彼女の言葉は胸の中に入り身体の中から温めるような感覚、本当に優しいクラスメイト達で涙が出そうだ。この状態では涙は流せないが、心でそれを流しておこう。

 

「我らがクラスは矢張り温かい。影の俺でもあの日向の心地よさには酔いを覚える」

「奇遇だな。俺もそう思ってる」

「やはり気が合うな」

 

そう答える中、常闇の準備も済んだようだ。自らの身体に黒影を纏った形態、深淵闇躯。あれが今の自分と同じ最強の状態なのだろう。

 

「深淵闇躯……今まで試してきたが初めて成功した。お前のお陰だ」

「いや純粋にお前の才能だろ」

「違う、お前が与えてくれた心が躍る胸の高ぶりが俺を成功に導いた。改めて礼を言うぞ」

「そうか……んじゃ覚悟は良いんだよな―――第二ラウンドの始まりだ」

「ああっ―――行くぞっ!!!」

 

一瞬、互いの視線が合った、それが開始の鐘となる。駆けだす二人、ぶつかり合う互いの攻撃。互いの身体に直撃し倒れこみながらもすぐさま立ち上がり組み合う。

 

「オラァァア!!!」

「オオオッッ!!!」

 

鋭いストレート、ジャブを交えたラッシュを常闇が。龍頭による重い一撃と鋭い剣戟を龍牙が。互いの身体へとぶつけていく。

 

「らぁぁっっ!!!」

「おおっっ!!」

 

首元を薙ぐような一撃を身体を反らせて回避する常闇は素早く身体に纏わせていた黒影を操作し、龍牙の顎へと影の一撃を加える。上体が大きくブレた所に腰を入れた鋭いラリアットが決まっていく、鎧のようになっている硬い龍牙の身体を吹き飛ばすかのような一撃。後方に飛ばされる龍牙、だが素早く体勢を立て直すと今度は常闇へと重い蹴りを浴びせ掛ける。

 

「ぐぅっ!!負けるかぁぁ!!」

「こっちの台詞だぁぁ!!!」

 

殆どノーガードに近い攻防、完全に防御を捨てた超攻撃特化の攻め方をする互い。相手の身体に突き刺さる一撃を放てば相手もそれに負けじと身体に攻撃が刺さったまま、相手にも攻撃を突き刺していく。

 

「取ったぞ龍牙ぁぁぁあああ!!!」

「ぐはぁっ……!!」

 

龍牙の一撃、通常のパンチよりも遥かに重々しい両腕の攻撃を受けた常闇は意識が飛びそうになりながらも不敵に笑っていた。深淵闇躯の神髄はその身に黒影を纏っている事、即ち黒影の力をそのまま行使出来る。身体に突き刺さっている龍牙の腕には黒影の腕がガッチリと抱え込んで固定してしまっている。そして常闇はそのまま龍牙の頭部へと拳を振るう、振るう、振るう、振るう。何度も何度も腕を振るっていく。硬い鎧の感触で拳の感覚がなくなりかけていくがそんな事は知った事かと腕を振るい続けていく。

 

「これでぇっ!!」

「どっせぇぇえええいっっっ!!!」

「何っがぁぁっ!!?」

 

両腕が固定されている、ならば取る手段は一つと言わんばかりに龍牙は上体を反らし、そのままの勢いで頭を常闇に叩きつけた。即ち頭突き、それを受けた常闇は怯んでしまったが独立しているに近い黒影は龍牙の腕を離さない。ならばと龍牙はそのまま跳躍して自分諸共、常闇を地面へと思いっきり身体を叩きつけた。

 

「これでぇっ……如何だぁっ!!!」

「がはっごはっ……無茶をする、奴だ……!!」

 

大きく亀裂の入ったステージ中央、そこから這い出るかのように立ち上がる二人。拘束から解かれた龍牙と脱出した龍牙を見て笑う常闇。本当に楽しいと二人の胸には歓喜が渦巻いていた、此処までの激闘、全身全霊を込めた戦いに二人は心が躍り、本気で喜んでいた。

 

「なぁっ踏陰……俺此処まで楽しいって思った事ねぇよ……」

「ああっ俺もだ龍牙……ライバルとの対決は此処まで素晴らしいとはな……」

「ライバルか、そりゃいいなぁ……最高の、響きだぁ……」

 

何処か陶酔しているかのような言い方をする龍牙、倒れそうな身体を必死に立て直して構えを取る常闇。既に互いの身体はボロボロで立っている事もやっとな状態になっていた。互いに攻撃を全く防御せずに来たのだから、ガタが身体の奥底まで来てしまっているようだ。気を抜けば気を失いそうなほどにダメージが蓄積しているのに二人は笑っていた。

 

「踏陰……流石に俺ももう余裕がない……次で、決めさせて貰うぜ……!!」

「良いだろう、俺も次で全てを絞り出すとしよう……!!」

 

既に限界を超えている、それを理解しているからこそ次がラストショットであることを宣言する。だが恐らく二人の頭の中にはそれを避けて対処する事なんて存在していない。回避するだけの余力はない、ならば全てを出して相手にぶつかった方がよほどいいと分かっているからかもしれない。そんな答えが自然に同時に出た事に笑いがこみあげるが、次には笑いは消えていた。

 

「さあ行くぜ、今なら―――行ける気がする……!!」

 

天高く掲げた腕、交差させながら胸の前で開き右腕の龍頭へと意識を集中させていく。この姿の象徴ともいえる龍の頭部の腕、自分の最高の一撃と言えばやはりこれしかない。聞くが如何かも分からない、だがこの相手には今できる最大限をぶつけたいと思った。

 

「はぁぁぁぁぁっっっっ……!!!アアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

叫ぶ、叫ぶ。咆哮と共に龍牙の身体から夥しい量の黒い炎が沸き上がっていく。それらは流血のように地面へと落ちると途端に爆発的に燃え上がっていく。次第に炎の量は増していき、遂には龍牙を飲み込むほどの大火となっていく。そしてそれは次第に何か、蜷局を巻く何かの形を作り出していく。

 

「はあああああぁぁぁぁぁ……行くぞぉぉおおお!!!ズァァッ!!!」

 

猛々しい宣言と共に、龍牙は炎と共に跳躍する。天高く、空へと舞い上がった龍牙を取り巻く炎は次第に一体の黒い龍となりながら勇ましい咆哮を上げながら共に天へと昇っていく。それを見つめる常闇も自信が繰り出せる最高の一撃を放つ構えを取る。深淵闇躯の切り札として考えるだけ考えていた取って置き、使った事がある所か試した事さえない。だが博打上等、彼の頭に失敗の文字は存在しない。

 

「闇の帳を一つに束ねる……冥府の闇と成りて、全てを薙ぐっ!!」

 

常闇の全身から黒影が飛び出し、それが腕へと収束していく。影は全てを飲み込む闇へと化し、漆黒の影を調節した冥府の輝きへと昇華される。顕現せしは死神の鎌、生者の魂と命の灯を刈り取る禍々しい一振りの鎌。

 

深淵闇躯……冥府凱閃!!」

 

「流石に拙い、セメントス!!」

「ああっ!!止めますよミッドナイト!!」

 

このまま激突させては流石に拙いと判断した審判の二人が動いた。だが遅すぎた。

 

 

「だあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

甲高い龍の咆哮と共に吐き出される極大の黒炎、それを推進力にして一気に加速した龍牙は天から落ちる流星のような勢いで落下しながら常闇へと向かいながら全力の蹴りを放つ。それを見ても常闇は不敵な笑いを浮かべたまま腕を構え、全力を持って振るう。

 

「ウオオオオオオオッッッッ!!!!」

 

冥府の鎌が振るわれる、黒龍の流星を受け止めるのではなく薙ぐように振るわれる。最強の一撃がぶつかり合う、全身全霊が込められた一撃同士の激突は途轍もない衝撃を周囲に発散させながらもなおもぶつかり続ける。

 

「ダアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!」

「オオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!!!!!」

 

絶叫の中、衝撃と共に互いの一撃が砕け散り天へと延びるような黒炎の火柱を上げる。天穿つような火柱、青空へと放たれたそれが消えると空に浮かぶ太陽が陰り、雨が降り出していく。雨が降り出し舞い上がった炎を消していく。視界を奪っていたそれが消えた時、皆が目にしたのは……倒れこんでいる龍牙と常闇の姿だった。

 

黒鏡 龍牙 VS 常闇 踏陰

 

ダブルノックアウト、よって引き分け。



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師匠と弟子たる黒龍

『現在龍牙と常闇との戦いでステージがぶっ壊しちまったから修復中!ちょっとの間待ってくれよな!!』

 

雨が降りしきる中、セメントスがステージの修復を行っている中でマイクが先程の龍牙と常闇の戦いについてのコメントやらを行っている。唯々時間が立つのも勿体ないし何かすべきだろうと、自分のラジオ番組を持っている彼なりの配慮だろう。

 

『にしてもあの二人の対決は最高にCOOLだったぜ!!まさに互いが全力を出し尽くした末のダブルノックアウト!!最高に燃えたぜ!!』

『普通なら真正面からやりあうのは愚策だが、あの場合は互いに避けるだけの余力が完全になかった。故の正面衝突、あれはあれで合理的な判断だ』

『おおっ意外に絡んでくるなイレイザーヘッド!』

『……』

 

マイクが一方的にしゃべるだけになると思いきや、相澤もちょいちょい話に参加してコメントを残している。相澤も相澤で龍牙と白鳥の対戦で介入出来なかった事を悔いている、その代わりという訳ではないが少しでも龍牙のフォローアップをしようとしているのかもしれない。

 

『にしてもイレイザーヘッド、お前の教え子たちの熱い声援も二人のNICE FIGHTに影響していると俺は思うぜ!!周囲の声を押し退けるぐらいだったからな!!』

『それはあるだろうな。黒鏡が戦いに集中出来たのはあいつらの応援があったからこそだろうな、他の物なんて聞こえなかっただろう』

 

暗に龍牙に対するブーイングや侮辱を牽制する相澤、それを受けて一部の観客たちはバツの悪そうな顔をしている。プロヒーローは逆に圧倒的な力に目を向け、それに対する議論に夢中になったりもしている。

 

「これは早速サイドキック争奪戦が白熱するだろうな」

「だな。龍牙君の姿は確かに怖いけど、あれはあれで俺カッコいいと思うけど」

「万人受けは難しそうだけど、ダークヒーロー感はあるな」

 

そんな風に龍牙を認める、評価する意見が飛び出す中で一人のプロヒーローが立ち上がった。彼も異形系なのか非常に体格が大きく他のヒーローの数倍は巨大な身体をしている。

 

「あれっ何処へ?」

「少しな―――馬鹿弟子の所に行くだけだ」

 

 

「いてててっ……ちょっとやりすぎたな……」

「同じくだ……流石に無茶を重ねすぎたな」

「全くもってその通りだよ大馬鹿坊主共」

 

医務室に担ぎ込まれた龍牙と常闇、リカバリーガールによって治癒や治療を施されてた二人は念の為にとベットに横になっている。龍牙は全身を変化させる異形系な個性なので身体に対した傷はなく、疲労や身体の内部ダメージになどが溜まっているだけが、常闇はそうはいかずに治癒が掛けられているのに関わらず各部に包帯などが巻かれている。

 

「龍牙、アンタの方はもう治癒終わってるよ。アンタの馬鹿体力なら大丈夫だろうね」

「なんか投げやり過ぎない……?」

「一週間連続実戦形式訓練とどっちが楽だい?」

「こっちです」

「ほらね」

 

即答する龍牙、彼の中で半分トラウマと化している地獄の訓練、それが一週間連続実戦形式訓練である。廃屋となった廃ビルを舞台にして行われた訓練で、常に緊張状態と臨戦状態を維持した状態を強要される地獄のような訓練だった。終わった時には心身からの疲れが溢れ出してしまい、龍牙は2日間は眠り続けてしまったほど。

 

「龍牙、リカバリーガールとは親しいのか。随分お前との会話に親しみを感じるが……」

「ああっまあ……リカバリーガールは俺の保護者経由で昔から世話になっててさ、俺のばあちゃんみたいな人なんだよ」

「そうだったのか……いや納得した。確かに今の会話は祖母と孫の会話のそれだ」

 

納得する常闇は改めてベットに深く身体を預ける。身体の節々の痛みと疲労感はいっその事心地良い、瞳を閉じれば直ぐにも思い出せる自分の全てを出し切って望んだ死戦と言っても過言ではなかったあの試合。心の奥底から楽しく素晴らしい物だった……。

 

「龍牙、一つ頼みごとを聞いて貰っていいか」

「んっなんだ」

「お前、身体は大丈夫なのか。動けるか」

「まあ動けるな、疲労感はあるけど痛みとかは完全にない。流石にあの時のふらつきはノーガード戦法で無茶したからだからな」

「ははっ確かにあれはやりすぎたな」

 

軽く笑いながら改めて自分のライバルの凄さには驚かされる。自分なんて身体の痛みと疲労で動かせる気がしない、歩く程度は出来るだろうが走るなんて以ての外で戦える気なんてしない。これも個性の差という奴だろうか、自分の深淵闇躯も鍛えれば龍牙のように慣れるのだろうか……?

 

「……俺の代わりにトーナメントを進んでくれ」

「お前、意味分かってんのか?俺とお前のあれは引き分け扱い、この後なんかの方法で決着をつけて勝者を決める筈だろ」

「ああっだが俺はもう限界だ。まともに黒影に闇を供給してやる事も出来ん、だからお前が先に進んでくれ」

 

常闇は黒影を身体に纏っていたとはいえ、深淵闇躯は不完全な技だった為にムラが出来ており身体を十分にガードしきれていなかった。故にダメージや疲労は常闇の方が非常に大きかった。

 

「俺と黒影、その思いを共に連れて行ってくれ。お前が行くその先にな」

「おう。お前が望むなら背中に乗っけてやる、乗り心地は悪いかもしれない黒龍の背中にな」

「何、お前という背に乗せて貰えるのだ、安心して身を預けられるという物だ」

 

互いに突き出した拳をぶつけ合う、男として互いの心意気をぶつけそれを胸に秘める。自然と笑みを浮かべて笑う二人の光景にリカバリーガールは青春だねぇ……と思わず呟いて笑みを作って渋い緑茶を口にする。濃くして苦みが強い筈の茶だが、何処か何時もよりも美味しく感じられた。そんな時だった、医務室の扉を叩く音が木霊する。誰だろうか、A組のクラスメイト達は試合が終わるとなだれ込んできたが、治癒の邪魔だからと追い返したはず……とリカバリーガールは首を傾げつつ、入っていいと許可を出すと一人のヒーローが入室した。

 

「失礼するリカバリーガール」

「おやアンタだったのかい」

「龍牙は……そこか」

 

入ってきた人物にリカバリーガールは笑みを零しながら目で龍牙と常闇が青春をやっている所を示す。その声を聞いて龍牙と常闇は顔を上げてそちらを見ると思わず硬直してしまった。スーツこそ纏っているが隠しきれない巨体、黒いと白の身体。鋭く凶悪そうな指先の鋭利な爪、伸びている背鰭は誇らしく強さと猛々しさの象徴。鋭い瞳の中にある視線は睨みつけた相手を硬直させる程の恐怖を植え付ける。

 

「―――し、師匠……!?」

「及第点だったな、龍牙」

 

その人物こそ龍牙の師匠にしてヒーローランキング10位にランクインする程の強者にして海の覇者、ギャングオルカその人である。

 

「ギャ、ギャングオルカ……!?ヒーローランキングトップテンに入るトップヒーロー……それが、師匠!!?」

「ああうん……ごめん踏陰、そういう事一切話してなかったけど俺の師匠なんだよギャングオルカ」

「―――いや納得した。それならばお前の強さも理解出来る、しかし……これは驚きを隠せないな」

 

冷静を装っているが常闇は興奮と驚きに支配されていた。流石にオールマイトに比べてしまったら劣るが、それでも凄まじい強さと人気を誇るヒーローであるギャングオルカ。強面故に『(ヴィラン)っぽいヒーローランキング』なる物で三位になってしまっているが、常闇としては好きなヒーローであった。そんなギャングオルカは常闇を一瞥すると静かに言う。

 

「―――寝ておけ、今のお前の仕事は身体を休め次の鍛錬に励む事だ」

「分かりまし……」

 

そんな言葉を掛けらけると自然と疲れからか、瞳を閉じてしまい眠りに入ってしまった。流石に限界が来ていたのだろう、それがギャングオルカの言葉で出てしまいそれに従って意識を手放した。寝息を立てる常闇から離れた龍牙は師匠に相対した、及第点だという師匠の言葉を聞きたかった。

 

「お前は炎を使うことを明らかに避けていた、彼の個性はお前の炎を吸収出来るからだろうが何故最後には炎を使った。それで相手を強くし自分を不利にする。加えてあの技は成功率が5割を切る危険性が高い技、下手をすれば自爆した上に彼に大きな恥を欠かせる事にも繋がる事が理解出来ないようだな」

「そ、それは……ですけど常闇の技も同じだったんです。それなら俺だって負けるわけには……!!」

「それで競う意味はない。あれを使わずに真正面から乗り越えていく事、それも敬意に当たるだろう」

「うううっっ……」

「次にだな」

 

そこから溢れてくるのは如何に龍牙の攻め方、対処の仕方、実力の見極めの甘さなどなどが出てきた。龍牙は戦っているうちにライバルともいえる相手が初めてできた嬉しさで確かに疎かになっていると分かった。故に何も言わずにそのまま真摯に師匠からの叱責を受ける事にした。

 

「聞いているのかこの馬鹿弟子がぁ!!!」

「ちゃ、ちゃんと聞いてますぅ!!」

「いいや聞いていないな!!大体お前は何時も何時も下らんことでウダウダ悩みおって、それなら俺なんてな……」

 

途中から龍牙に対する叱責から龍牙が抱える個性による見た目の悩みへ、そしてギャングオルカも共通して抱えている見た目のお陰で苦労している事の愚痴へと変化していた。実は子供好きな上に努力する若者に賞賛と激励を、悩む若者にはアドバイスを贈りたいと真摯に思っている、だがキャラと立場がそれを許さない。

 

「全く……なんで敵っぽいヒーローランキングなんて存在するんだ……」

「本当ですよね、絶対俺も乗りますよね……」

「「はぁっ……」」

「(やっぱり師弟だねこの二人は……)」

 

だから二人は強い絆で結ばれているのかもしれない。互いに抱える物に対して深い理解を持つ事が出来るからこそ良好な関係を築き、互いに尊敬しあえているのだろう。生暖かい視線を向けているとそれに気付いたギャングオルカが大きく咳払いをする。

 

「ま、まあ兎に角だ!!お前はまだまだ未熟なひよっこだという事を忘れるな。驕り昂るなど言語道断だ!!これからも俺はお前のプライドを圧し折り続けるから覚悟しておけ」

「そもそも俺はそんなプライドないですよ……何回築き上げた自信を貴方にぶっ飛ばされたと思ってるんですか……」

「……それは、正直すまんと思ってる……」

 

師として弟子を正しく導く為に龍牙が慢心しないように指導してきたギャングオルカだが、その過程で龍牙が持つべき自信を何度も完全に粉砕してしまっている。故に一時期には龍牙が完全に自信を喪失してしまった事件があり、その事を根津から怒られもした。怒られてからは加減はするようになってはいるが、それでも龍牙の自信は定期的に打ち砕かれている。

 

「だがな、俺は嬉しく思っている……お前は自分の個性を自信を持って使った。それはお前にとって大きな一歩になった、違うか」

「―――ええっ間違いなく。今の俺は今までの俺とは違うって胸を張って言えます」

「そうか……そうか」

 

感慨深そうにギャングオルカは龍牙の頭を撫でる、そこにあったのは先程までの厳しい師としての姿はない。弟子が大きくなったことを喜ぶ優しい師だった。そんな師匠の大きな手で撫でられる事に心地よさを覚えながら龍牙は頬を欠いた。

 

「龍牙、思いっきり暴れてこい。お前の力を見せ付けてやれ!!!」

「はいっ師匠!」



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大きく進んだ黒龍

「龍牙君龍牙君!!ホント、ホントにカッコよかった!!こう、炎がぐわぁ~ってなってごぉ~と炎と一緒にだぁあ!!って感じになって、えっとえっと!!」

「葉隠さん、ごめん抽象的過ぎて全然分からない」

 

ギャングオルカとの一幕、精一杯の応援と温かさを受けた龍牙は身体に残る疲労など吹き飛ぶような良い気分で医務室を後にした。事実、身体は綿のように軽くなっており何時でも全力戦闘が出来そうな程。病は気からというが、その逆も然りという奴だろう。そんな龍牙が廊下を歩いていると葉隠に遭遇した。彼女は自分を見つけるなり常闇との戦いの感想を並べ始めていく。余程刺激的で言葉に出来ないのか、擬音のオンパレードになっている。

 

「兎に角カッコ良かったよ本当に!!」

「そう言われると素直に照れるな……カッコいいか、そうか俺ってカッコいいのか……」

 

何度も何度も深く噛み締めるように言葉を繰り返す。個性を完全に発動させた場合、自分に飛んでくる言葉なんて罵倒や恐怖、助けを求める物ばかりだった。そんな龍牙にとってカッコいいという言葉は酷く刺激的且つ甘美、魅惑的な表現になる。頬が緩み、口角が上がっている。

 

「うんっとっても素敵だったよ龍牙君!流石は私の憧れってあっ!!?」

 

見えない筈の彼女が思わず両手で口を塞いでしまった。失言だった、言うつもりはなかったのに言ってしまった。なんて言えばいいのだろうかと思う中で龍牙は変わらずに笑いながら呟き続けていた。

 

「素敵、素敵……ふふふっ俺は、そうなのか……♪」

 

酷く上機嫌にしている龍牙。またもや言われた言葉に感激してその言葉の味に酔っている。何度も何度も繰り返している姿に思わずホッとする葉隠だが、同時に少し位は気にかけてくれてもいいじゃないかという想いも沸く。自分がどれだけ龍牙に魅了され、憧れているのかも少しは知ってほしいという複雑な乙女心がそこにあった。

 

「んもう、少しは聞いてくれたって……」

「えっごめん何か聞き逃しちゃったかな俺」

「ううん何でもないっ」

「?」

 

見えない頬を膨らませて少し拗ねる、こういう時自分の顔を見られないのは個性の利点だが逆に、自分の感情を伝えにくいのもこの個性の欠点だと葉隠は真剣に思う。

 

「と、所でさ、次は轟君とだけど大丈夫?」

 

強引に話を変えて次の対戦について持っていく事にした。これ以上自分の事に関わる事を言うとボロを出しそうと思ったからだ。次の龍牙の相手はA組最強と呼び声高いあの轟。第一試合ではその圧倒的な個性の出力で瀬呂を瞬殺し、次の緑谷との対戦では今まで使わなかった炎を完全解禁して更に強さを増している。

 

葉隠としては常闇との激戦の記憶が新しい故か龍牙の負ける姿など想像できない、絶対に負けないという確信こそあるが心配はあった。だが龍牙は力強くサムズアップでそれに応えた。

 

「負けるつもりなんてないさ、今度は最初から全開で俺は行く」

「じゃあ最初からの姿で?」

「ああ」

 

リュウガ、龍牙のもう一つの姿である彼にとっては様々な意味を持つ姿。忌避される姿をされている故に、葉隠はこのトーナメントでは余りならないのでは?という予想を立てていたのだが、それから真っ向から立ち向かうような力強い言葉が返ってきた。

 

「ずっと俺は怖かったんだ。あの姿が、あれになるのが怖かった。でもさ、今日それが変わったんだよ。全部葉隠さんのお陰だよ」

「わ、私の?」

 

正確に言えばA組のお陰だろうが、一番大きな影響を与えてくれたのは間違いなく彼女だ。自分の姿をカッコいいと言ってくれた、素敵と言ってくれた、あの言葉が、自分への恐れを口にする者達の声を全て跳ね除けた。自分の事を此処まで思ってくれる人たちが出来た。心からの歓喜だった。

 

『校長に師匠聞いてよ!俺、俺の個性をカッコいいって言ってくれる人に会えたっ……!』

『おおっそれは素晴らしいじゃないか!!僕も嬉しいよ、君が笑顔でいてくれると』

『そうか、そうかぁ……良かったな本当に良かったな龍牙ぁ……!!』

 

歓喜は更に大きく激変する。歓喜は力に変わり、不安を打ち消していった。恐怖を切り裂いて、恐怖によるブレーキを打ち壊す。

 

「もう俺は自分を恐れない、俺はあれを俺の物にする。その切っ掛けをくれたのは葉隠さんなんだ、だから次の俺の試合も見ててくれ」

「―――うん。絶対に見る」

 

そう言われ笑みが浮かぶ。葉隠からそんな言葉を受けて胸の奥がじぃんと熱くなるのを感じる、そしてその熱さに引かれるように手を伸ばした。伸ばした先は葉隠の手だった、女の子らしい柔らかくて暖かい手を握りながら龍牙は改めて礼を口にするが、葉隠は酷く困惑したような声を出した。

 

「ど、どうして私の手が分かったの!?透明で見えないのに!?」

「なんとなくそこかなって……勘かな、まあ兎に角俺頑張るから応援してね!」

 

そう言うと龍牙は一度強く握りしめると、そのまま控室の方へと歩いていていく。その足取りは軽く、スキップを踏んでしまいそうなほどに軽かった。次に戦うの轟がいかに強かろうがそんな事はもうどうでもよくなっていた、自分は最初から全力で立ち向かうだけなのだから。

 

「りゅ、龍牙君の手……大きくて硬くて熱くて……うううっっいきなり手を握るなんて反則だよぉ……龍牙君のばかぁぁぁっ……」



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獄炎の英雄と黒龍

「……済まないな黒鏡君、いきなり話しかけた上に時間まで取って貰って」

「いえ、ステージの修復で時間はありますから。それで話って何でしょう―――エンデヴァーさん」

「エンデヴァーで構わない」

 

控室近くの廊下、そこでは龍牙がトイレの帰り道にとある人物に声を掛けられていた。それはオールマイトに次ぐ実力を持つヒーロー、№2ヒーローであるエンデヴァーだった。ランキングだけで語るならば自分の師であるギャングオルカを上回る物を秘めているヒーロー、そんなヒーローとの遭遇は何を生むのかと龍牙は少々ドキドキしていた。

 

「無用は前置きは不要だろう、率直に言おう。君はビーストマンとミラー・レイディをどう思っている」

「―――っ!!」

 

下手な言葉は自分の気分を損なうだろう、とエンデヴァーは前置きを捨てて何故こうして会いに来たのかその理由を口にした。二人のヒーロー、トップヒーローとして挙げ連ねられる夫婦ヒーローであるビーストマンとミラー・レイディ。何故その事を自分に問うのかと思っているとそれが顔に出たのか、エンデヴァーが答える。

 

「先程の事だ、二人が俺の下に来てな―――俺の娘の相手に君を推してきた」

「推す……相手……?」

「簡単に言うならば許嫁に如何かという事だ」

「それってつまり、俺の結婚相手!?」

「その認識で間違いないだろうな」

 

それを聞いて龍牙は頭痛と眩暈を覚えてしまった。ハッキリ言って結婚とかそんなものは考えた事なんてない、それ所か自分は初恋もまだした事が無い。友達はまともにいなかった上に根津に引き取られてからもまともに接する異性なんてリカバリーガールぐらいしかいなかった。異性の友達も雄英に入学してから漸く出来たぐらいだ。

 

「だが俺としては一度も顔を合わせた事もない奴を娘の相手にする事は出来ん、その位の親心はあるつもりだ。それで君に会いに来たのだが……その様子では矢張りあの二人は君に無断で話を進めようとしたのだな」

「全然知りませんよ!?一言も言われてないですし、まともに話したのだって今日が久しぶりの事なんですから!!?」

「……そうか」

 

龍牙の様子を見てエンデヴァーは溜息混じりにあの馬鹿夫婦と毒づいた。

 

「君の名字から察しはしていたが……君はあの二人の息子なのか」

「……一応そうなると思いますよ、でも俺には別に親が居ます。その人達が今の俺の親です」

 

その瞳は力強い光があった、敬愛、信頼、親愛、愛情、様々な物を孕んでいる光。それを見ていると少し自分の心が痛くなるような気もするが続けて名前を聞いていいかと尋ねると龍牙は喜んで名前を言った。

 

「根津校長とギャングオルカです。まあギャングオルカは師匠ですけど、俺の中では親です」

「校長とあいつがか……成程、君の強さの理由が分かったぞ」

 

あのギャングオルカが師匠ならばあの洗練された強さを持っているのも納得がいく。試合を見る限り相当鍛えこんでいるのだろう、最初こそ許嫁は断るつもりだったのが正直言ってエンデヴァー個人としては龍牙の事を気にいりそうになっていた。普通にこの瞳の光は頼りになる力強さを持っている、個性の恐ろしさに反して優しい光だ。

 

「成程。あの二人については俺の方で適当にあしらっておこう、君は次の試合に集中するといい」

「でも迷惑になるんじゃ……」

「気にするな、俺としてはあの二人のやり方が気に食わんだけだ」

 

純粋にエンデヴァーはビーストマンとミラー・レイディに対して良い感情を抱けなくなっただけ、それだけ。エンデヴァー自身は自分の事を立派な親だとは思っていない、それでもこの龍牙という少年に対して少しばかり力になりたくなっただけ。それだけだった。

 

「次に君は俺の息子と戦う事になる、だが君も応援させて貰う事にしよう」

「有難う御座います、でも応援して俺が勝っても知りませんよ?」

「大きな口を叩くの勝手だが、そう簡単には勝てんと思うがな。そう焦凍にはな……」

 

と僅かばかりに歪んだような表情を見せたエンデヴァーだが、彼は直ぐに踵を返して軽く腕を上げて龍牙の健闘を祈り観客席へと戻る事にした。

 

「意外にエンデヴァーって優しい人なのか……?」

 

聞いていた評判とは何処か違った印象を受ける、純粋に親として自分に会いに来たようなと思う龍牙。そして同時に両親への懐疑心が深まっていく。恐らく両親もエンデヴァーが自分に会いに来ると思ったりはしなかったのか、それとも話すとは思わなかったのかは分からないが、それでも勝手に縁談を設けようとしていたなんてハッキリ言って気分が悪い。

 

「つぅ~かエンデヴァーさんだって困るだろ、俺みたいな奴を娘さんの相手にされても」

 

何処かズレている龍牙。矢張り自分の個性に対する印象は変わらない、自分は確実に忌避されると思い相手にいいと思われる訳がないと思っているようだ。

 

「……これは校長と師匠に話して、早めにガツンと言って貰った方が良いかもな」

 

この後試合が控えているので、この事をメールに纏めて二人に送信するのであった。そしてそれを見た二人は無言で鏡夫妻へ青筋を立てるのであった。




「許嫁にするにしても彼と冬美では歳も……いや、本人同士がいいならば……」

と少しだけ許嫁について悩むエンデヴァーであった。


今作のエンデヴァーは何処か親らしい一面を見せる感じにしようと思っています。


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氷炎と黒龍

間もなく始まるは準決勝第一試合、轟 焦凍 VS 黒鏡 龍牙。今トーナメント注目の一戦としてプロアマ問わず注目を集めている。

 

轟は言わずもがなの№2ヒーローのエンデヴァーの息子としての知名度、その圧倒的な個性出力による実力によって注目され、1年の優勝候補と言われ既にサイドキックとして狙いを定めているヒーローも多数いる程の逸材。氷と炎という二つをあの大出力で扱える、これに注目せずして何に注目しろというのか。だがそれは戦う相手も同じ、注目度で言えば負けはしない。

 

対するは黒鏡 龍牙。全く注目されなかったが個性はヴィラン顔負けの凶悪な風貌、だがそれが秘める力はすさまじく常闇との激戦は観客の頭にまだこびり付いている。何よりも、あれほどの恐ろしさであるのにもかかわらずクラスからの人望は強く、彼を応援する声は会場の声を圧倒する程だ。そんな二人の激突に皆が注目していた。会場の全ての視線が、と向けられたカメラの映像を見つめる視線が、戦いの場に立つ二人へと注がれている。

 

「轟、お前姉さんっているか」

「居る。それが如何した」

「いや少し前にエンデヴァーさんが俺のところに来てよ」

 

それを聞いて轟の表情が硬くなる。ハッキリ言って焦凍とエンデヴァーの関係は悪いの一言に尽きる。憎悪していると言ってもいいかもしれない関係をしている、そんな彼に対してエンデヴァーが訪ねてきたと言えばどんな反応が返ってくることだろうか……。

 

「……何を言ってた」

「いや世間話をしただけ。単純に俺の応援もしてくれるとも言ってた、後はまあ……ここでする話じゃねぇな。後でする、お姉さんの事を聞いた理由もその時に」

「……分かった。兎に角今俺達がすべきなのは戦う事だ」

 

互いに構える。腰を深く落とす龍牙と半身を反らすような構えを取る轟、そして一直線に向けられる集中力。既に二人の中に周囲の雑音は消え失せていく、対戦相手しか映らない。唯一聞こえるのは開始を告げる合図程度だろう、それ以外の音に反応出来ない程に集中してしまった。凝縮された時、刹那が永遠にまで延長されているかのような開始前の重苦しい空気。

 

時間が停止しているかのような静寂、それを破るのは―――開始の合図。

 

 

「っ―――!!!」

 

解凍された時、動き始める時間が最初に刻むのは―――轟の速攻。大気が凍り付くと同時に、龍牙の周辺を一気に凍結させていく。龍牙が周辺への景色を視界に捉えて脳が命令を出すよりも早く、彼の身体に氷が纏わりつき拘束するとともに周囲から伸びている氷の柱が上る。そしてその柱の合間の空気を凍らせるように橋が繋がり、柱は巨大な氷山への変貌した。

 

半冷半燃。右で凍らせ左で燃やす、それが轟 焦凍の個性。温度も範囲も未知数、あれほどの出力でありながらまだまだ先があるという恐ろしさ。その大出力が一瞬で龍牙を凍結させたうえに氷山に封印するという力技を可能にした。

 

『ひょっ氷山に黒鏡が飲まれたぁぁああああ!!!??というかあいつも凍り付いてんじゃねぇのかこれ!!?』

 

マイクの驚きに見た絶叫に皆が同意しつつ、氷山へ意識が向く。観客席にいる人間までも凍てつくような寒さを感じるというのに、その中心地である龍牙が感じる物は尋常ではない筈。最早完全に凍り付いて死んでいるのではないかという考えすら及ぶ程の零度。絶対零度という言葉も連想させる寒さの中、葉隠は一人、全く心配もしていなかった。

 

「大丈夫、龍牙君なら絶対に大丈夫!!だって言ってたもん!!」

 

―――もう俺は自分を恐れない、俺はあれを俺の物にする。

 

あの言葉は嘘なんかじゃない、ならば龍牙は絶対に負けない。そう信じている。ほらっ聞こえてくるもの―――龍の咆哮が。

 

「お、おいいくらなんでもこれはやばいだろ!!?」

「主審も副審も何で止めない!!?」

「おい救助に行くぞ!!」

 

凍死を心配する一部のプロヒーローが席から飛び出そうとしていた。経験からこの温度は確実に拙いと思っての行動だろう、だがそれを静止する二つの影があった。

 

「「黙って見ていろ」」

 

ギャングオルカとエンデヴァーの二人だった。低い声で唸るような威圧する声に思わず怯む、動くのをやめたのを見ると氷山へと目を移しながら互いに声を掛ける。

 

「お前の弟子と聞いた、如何なんだ」

「自慢の弟子、いやそれ以上だ」

「そうか。話がある、根津校長も交えてな」

「了解した」

 

短い言葉のやり取りを終えると、再び氷山へと意識を向ける。二人は同時に思う。

 

「「来るぞ」」

 

ビシィィッ!!

 

大きな音を立てながら氷山に亀裂が入っていく。次第に亀裂が氷山全体へと拡散していく、地震で震えているかのように氷山全体が揺れる。揺れるたびに激しく亀裂が蠢いていく、深く深く入った罅からは黒い物が溢れようとしていた。

 

『ゴアアアアアアアアアアッッッ!!!!!』

 

そして氷山の上部の全てに亀裂が入った瞬間、爆音のような龍の咆哮が響く。咆哮と共に氷山の上部が完全に吹き飛びそこから黒い炎が天へと目掛けて昇っていく。氷山の噴火、世にも奇妙な光景がその場に広がっている。炎は氷山を融かしながら、その中央部には氷を突き破りながら姿を見せた影があった。

 

リュウガ……!!

 

朱い瞳を爛々に輝かせながら現れる黒い龍。力任せに氷塊を殴り割りながら、完全に氷山を消し去る。お前の氷なんて俺には効かないという意思表示だろうか、氷山から脱した黒龍は見た目に負けない程の迫力と威圧感を周囲に発散させながら自分に向けて敵意を向けながら吼える。

 

「悪いが轟、俺はもう止めらない。ノンストップで行く、黒龍は止まらないってな」

 

笑いながらそう龍牙は左手に剣を握りしめながら構えを取る。轟としても龍牙が今の姿を投入してくることは想定していた。だからこそ氷での速攻を仕掛けた、変身する前に完全に動きを殺してしまえばいいと。だがそれは甘かった。龍牙の炎は恐らく自分の炎と同程度の力を誇っているのだろう、でなければ氷山を融かす事なんて出来る訳がない。

 

「出し惜しみ、なんてしてる暇はねぇらしいな……行くぜ龍牙!!」

 

轟は左腕に炎を纏わせ自身の体温を調節しながら地面から雪崩のように迫る氷塊を放つ。その氷塊は龍牙を閉じ込めた物と同規模、それを龍牙は右腕の龍頭から炎を放ち融かし、そして言い放つ。

 

「来やがれ轟。躊躇いと恐怖を捨てた俺を見せてやる!!」

 



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決着をつける焦凍と黒龍

「……強いな、彼は」

「当然だ。俺の弟子だ」

 

地面から次々と伸びていく巨大な氷柱、貫かんと迫るそれを自らの刃と龍の頭で砕き、融かし尽くす。連続しての大氷結、普通ならば身体が冷えきってしまっても可笑しくはないが轟は炎で体温を調節する事で最大の氷を何度も放ち続けている。それをいとも簡単に融かす黒い炎を放ち続ける龍牙、炎を吐き続ける彼にも疲労の色は一切見えない。

 

「奴が最も優れているのは総合持久力、スタミナだ。俺はそれを重点的に伸ばした」

「成程……戦う相手にとって一番キツい事だな」

 

如何なる攻撃を仕掛けようが、戦いを仕掛けようが立ち続ける相手程厄介なものはない。立ち続け、戦い続ける持久力と精神、それらを重点的に鍛え上げたギャングオルカ。故に龍牙を倒すのに一番必要とされるのはそのタフネスさを上回る程の大火力かタフネスを無力化出来る戦い方でしかない。ギャングオルカも毎回毎回それらを駆使して龍牙をねじ伏せている。

 

「奴は強いぞ、お前の息子よりもな」

「なんだ息子自慢かオルカ、堅物のお前にしては珍しいな」

「誇れる息子を誇って何が悪い」

 

そんな風に胸を張って龍牙を見つめているギャングオルカにエンデヴァーは少し目を見張った。仕事での付き合いしかなくそこまで親交が深いという訳ではない相手だが、仕事に実直で堅物だと思い込んでいたギャングオルカが親馬鹿じみた事を言うとは思ってもみなかった。どうやら龍牙とはかなり深い絆があるようだ。

 

「そうか、ならばその息子関連の事で話がある」

「あの馬鹿夫婦の事だな」

「そうだ、あの腐れ馬鹿夫婦の事だ」

 

ギャングオルカも龍牙からのメールで事情は把握している。龍牙に一切の理もなく話を進めた事を知っている、実の息子に対する労いの言葉が一つもない上に勝手に縁談を進めている。許せる行為ではない、あの二人は一体何を考えているのか。確かにあの夫婦にはエリート思考があったが、それが悪化しているのが原因なのだろうか……。

 

「根津校長も親らしいな、是非とも共に話をしたい」

「いいだろう。この後時間取れるか」

「問題ない」

「では決まりだな」

 

そこで話を打ち切ると二人は試合へと意識を向け直した、今は息子たちの戦いに集中するとしよう。あの夫婦への対応はその後からでいい。

 

 

「ちぃっ!!」

「だぁっ!!」

 

津波のような勢いのまま迫りくる氷の波を炎で融かしていく龍牙。それが幾度もなく繰り返されている、轟も何時までもこんな応酬をしていたとしても無駄なのは理解出来るがハッキリ言って近接戦で龍牙勝てる根拠は全くない。格闘にはそれなりの自信はあるがハッキリ言って龍牙を圧倒出来るものではない、故に個性で押すしかないと思ったのだが……龍牙の個性の力強さは予想以上。

 

黒い龍、龍と言えば力強く圧倒的な存在だと皆が思うだろう。それを轟は誰よりも強く感じていた、目の前にいる龍の強さは尋常な物ではない。自分に匹敵いや、超える程の炎をもう何度も使い続けているのにも関わらず衰える気配が全くない。轟も氷による体温低下というデメリットを炎で打ち消しているが、それでも疲労は溜まっていく。やがて氷の生成速度も落ちていくだろう、だが龍牙はそんな様子を全く見せない恐ろしさがあった。

 

「だぁっ!!」

「ま、まだまだぁ!!」

 

再度、氷が粉砕される。再び氷を生み出して襲わせるが、一瞬だけ隙が出来た。変わらない状況、衰える事の無い炎の勢い、無尽蔵と思えるほどの力の奥底に寒さとは無関係な震えが起きる。そこを突くかのように龍牙動く。保持していたドラグセイバーに自らの黒炎をを纏わせていった。轟々と唸りを上げて燃え盛る炎を食らうかのように自らの力に変える剣、徐々に炎が固形化するかのように刀身が伸びていく。大太刀を思わせるような長さとなったドラグセイバー、それを大きく振り回しながら龍牙は吼える。これが俺の力だ、受けてみろと言わんばかりの咆哮を上げながら振り抜かれる。

 

「ぐぅっあああっっ……!!」

 

振るわれた黒き爆炎の剣の一閃、本能的な危険を感じて最大級の氷を発生させ盾の役割を持たせながら攻撃をする。だが刃はそれをあっさりと両断した、果物をナイフで斬るかのようにあっさりと両断して見せる。そして切り口から黒炎が舞い上がり爆発するように周囲を燃やし尽くしていく。

 

「バーニングセイバー……決める……!!うぉぉぉおおおおお!!!」

 

黒炎に染まった剣、先程の刀身の長さこそない。それでも通常時の2倍ほどの長さを維持したまま駆けだしてくる龍牙。一歩一歩迫ってくる黒龍はすさまじいまでの威圧感を纏っている、危機感が増す中で轟は氷を放ってなんとか龍牙の足を止めようとする。氷の弾丸、氷の壁、様々な手段を用いて龍牙へと攻撃を仕掛けていく。その中、遂に体温調節だけにとどめていた炎にも手を伸ばした。

 

「ぐぉっ……!」

「はぁぁぁぁっっ!!!」

 

氷と炎、それらを同時に繰り出して龍牙へと浴びせ掛けていく。氷の濁流と炎の激流、それらが同時に龍牙へと襲い掛かっていく。それに対する龍牙は全力で黒炎を帯びるドラグセイバー、曰くバーニングセイバーを振るってそれらを打ち払っていながら前へ前へ進んでいく。それでも回避しきれないのかその身に炎と氷を受けるが全く速度が落ちない。無類のタフネスさに物を言わせた猛進、恐ろしいまでの力となって嵐を掛き分けていく。

 

「ゴアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

迷いと恐怖を捨てた龍牙は躊躇なく、龍としての咆哮を上げる。もう黒龍の力を忌避する姿はない、完全にそれを受け止めている。自身と龍を一体化させ、一つの命として進んでいく龍牙。身に受ける氷結と炎熱を全て無視して直進する、そして間もなく刃が届く所まで来た。あと一歩!!と思った時だった、足元から氷が伸び自らの顎を捉えた。その直後背後から氷の壁が迫り自らを圧し潰すかのようにして固定する。

 

「はぁはぁはぁはぁ……漸く止まったな龍牙……!!」

「やってくれるなっ……」

 

轟も負けていない。一切引かない強さをもって龍牙に立ち向かっている、止める事が出来た。ならば後はこのまま場外に押し出すだけだととどめの一撃を放とうとした時だった、自らの目の前に歪んだ鏡のような物が出現した。歪んだ龍の頭部のような鏡、一体何かと刹那、轟の思考が死んだ。そして思い出した、これは以前戦闘訓練の時に龍牙が使っていた技の一つだと。

 

「龍は執念深い、やりすぎると逆鱗に触れるぞ」

「てめぇまさかっ!!!」

「―――いやお前はもう触れてるんだよ、逆鱗にな」

 

鏡は形を完全に作った。そこには自分の姿が映っている、いや自分の攻撃が映し出されている。自身が龍牙に向けて行った濁流のような氷河、それが映っている。そしてそれは鏡を突き破るかのように溢れ出して自身へと襲いかかってきた。

 

「ぐああああっっ!!?このぉおお!!!」

 

鏡の内部から迫ってくる氷、感覚的にそれが自分が放った氷と全く同じであることを感じ取る。受けた攻撃を相手に返す能力まで持っている事に驚きながらも轟は炎を開放して迫る氷を融かす。そして龍牙へと反撃をしようとした瞬間、目の前に迫っている龍牙を見た。

 

「なっ―――!?」

「ドラゴン・ストライク!!!」

 

黒炎を纏った龍頭が自らの身体に叩きこまれた。炎は当たった瞬間に、龍の頭部を形どると爆発的に膨れ上がって轟を吹き飛ばした。それを受けた轟は吹き飛ばされながらも氷を発生させて何とか留まろうとするが、余りにも勢いが強すぎるのか作った氷を突き破っていく。それでも何度も何度も氷壁を突き破りながらもなんとか自分を食い止める事に成功する、だが―――既に轟は場外へと出てしまっていた。

 

「くそっ……!!」

「俺の勝ちだな」

 

 

「どうだエンデヴァー、俺の息子が勝ったぞ」

「何勝ち誇ってる、さっさと根津校長の所に行くぞ」

「なんだ悔しいのか?」

「焼かれたいのかこのチンピラシャチ……!!」




「常闇、鏡の技ってどんな名前にしたらいいと思う?」
「そうだな……復讐する龍の鏡、リベンジ・オブ・ドラゴンズ・ミラーというのは如何だ」
「何それカッコいい、お前天才か」

というやり取りが龍牙と常闇の間で、試合後あったとかなかったとか。


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新しい絆を得る黒龍

「……お前の親、大丈夫か」

「やっぱりそう思うか……?」

「当たり前だろ。10年ぶりにあった子供に対してなんだそれ、胸糞悪い話だ」

 

試合後、龍牙は轟に何故姉の事を聞いたのかの説明を行っていた。その過程で自分の身の上や両親についても詳しく話した。轟は顔を二転三転させながら話を静かに聞き続けて、時には龍牙に同情し、両親にキレ、今の親に驚きを繰り返しながら話を聞き続けた。そしてエンデヴァーの話を聞いて少し意外に思った。

 

「……あいつなら、縁談を受けそうなもんだけどな。お前の個性を手に入れる為に」

「顔を見た事が無い相手に娘はやれないって言ってたけど」

「あいつが言うのかよ」

 

と轟のエンデヴァーに対しての辛辣な言葉は止まらない。矢張り関係は最悪なのだろう、だがそんなエンデヴァーが縁談について知らせてくれたのも事実、それは間違いないのだから。

 

「師匠と校長にはもうメールで伝えてあるから大丈夫だとは思う。試合前に変な事聞いて悪かった」

「いや大丈夫だ、そんな事情ならしょうがねぇ。寧ろ聞いて当然だろ」

「悪いな轟」

「―――焦凍、それでいい」

「えっ?」

 

思わず聞き返した。

 

「何かあれば俺を頼れ。直ぐに力になってやる」

「有難いけどなんで……?」

「……なんとなくだ、兎に角そう言う事だ」

 

何処か照れくさそうにしながら焦凍は去っていってしまう。龍牙は兎に角分かったと伝え、自分も龍牙でいいからと返すと腕を上げてそれに答えられた。それを見た龍牙思わず思った。

 

「なんだかんだで似てるんだな……エンデヴァーさんと」

 

 

「……くそっ!!」

 

力任せに廊下の壁を殴りつける、僅かに凹み亀裂が走る。酷く苛立つ自分を上手く抑えながらもそれでも怒りが沸き上がってくる。思わず身体から炎が舞い上がる、冷気が迸る。

 

「ふざけんなよ……親父以上のクズかあいつの実の親は……!!」

 

焦凍は龍牙に自身を重ねていた。境遇が似ているように思える、彼の場合は最初こそ両親には愛されていたが個性が発現した瞬間に捨てられているので違いこそあるが、親から酷い仕打ちを受けている。そしていきなり再会したと思ったら家族だ何だの言っておきながら、縁談を決める。自分よりも酷いとさえ焦凍は思っている。今彼が普通に生活出来ているのは今の親がとても深い愛情を注いでくれた結果なのだろう。

 

雄英校長の根津、そしてトップヒーローとしても名が通っているギャングオルカが今の親。特にギャングオルカは師匠でもあるらしい。その二人が龍牙の親として相応しいと焦凍は思ってさえいる。

 

「俺も何かしてやりてぇ……」

 

焦凍が思い立ったのも龍牙の両親の事が単純に気に食わなかっただけではなく、自分に重ねている部分もある。両親の勝手な都合でこれほどまでに振り回された上に、個性婚のような事まで強要されかかっている龍牙の事が余りにも放っておけないとさえ思った。彼に自分のようになってほしくないからかなのかは分からない、だが焦凍は今まで登録だけ登録していた連絡先に電話を掛けた。

 

「……親父、龍牙の事で話がある」

『そうか、聞こう』

 

 

「次は決勝、相手は爆豪か……戦闘訓練以来だなあいつとは」

 

轟、いや焦凍から力になってくれるという言葉を受けてまた一人友達が増えたと笑みを作りながらも自分が上り詰めたトーナメントの頂上にて、自分を待ち受ける最後の相手の事を思う。一度、戦闘訓練にて手合わせをした相手が今度の対戦相手。爆破というシンプルな強さと高い身体能力、流石に戦闘訓練で行ったような大爆発は容易には行えないとは思っているがそれでも相手にするのは大変な事は変わりないだろう。

 

「最初から全開で行ったとしてもあいつはそう簡単には倒せない、となると……如何しようかな」

 

爆破のダメージはそこまで問題にはならないが、爆風による場外判定負けに気を付けるべきなのかもしれない。だとしても自分には真正面から向かっていくのが矢張り最善手になるのだろう。

 

「にしても……観客受けがわりぃ決勝戦だなぁ……」

 

自分と爆豪の共通点を探すとなれば確実に人相が悪い事、そして観客からブーイングなどを受けている点。自分は個性を発動させればヴィラン顔負けの姿になり、爆豪は爆豪で素でヴィランっぽいと思えるほどに人相が悪い。まあある意味それは羨ましい気もするのだが……そんな二人の頂上決戦、なんとも受けが悪そうな……。

 

「そんな事言っても無駄かぁ……まあ俺は俺で全力尽くすだけにしとこ」

 

そんな風に完結した思考を終わらせた時の事、廊下の向こう側から二人の影が見えた。それを見た瞬間に龍牙は顔を顰めながら舌打ちをした。

 

「何の用だよ、この後決勝を控えてんだ。集中の邪魔なんだけど」

「それは済まなかった、でもまさか龍牙が此処まで強いなんて思いもしなかったんだよ」

「ええっ本当よ。でも流石は私たちの子供ね、だって私の反射(リフレクション)まで使えるなんて思いもしなかったもの」

 

そう、向かってきた二人はビーストマンとミラー・レイディだった。自分を褒めるように矢継ぎ早に言葉を羅列していくが龍牙はそれら全てを聞き流しながら適当に相手をする。

 

「それでだ、今日の放課後は記念に一緒に食事なんてどうかな?最高級のレストランを予約してあるんだ」

「ええっ三ツ星の最高のレストラン、私たちの行きつけよ」

「……生憎俺は貧乏舌でね、そんな物の味は分からないからいい」

 

龍牙はそう言いながら二人の間をすり抜けて去ろうとする、そしてすれ違いざまに言う。

 

「それに今日はもう予定が入ってる―――残念だったな」

 

龍牙にとっては高級なレストランなんてどうでもいい。そんな物よりも―――根津と師匠と共に囲む家の食卓の方が何百倍も良い。




ビーストマンとミラー・レイディにいい所ってあるの?

……実力?


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決勝を迎える黒龍

『さあ盛り上げれテメェら!!いよいよトーナメントの決勝だぁあ!!』

 

間もなく始まるトーナメントの決勝戦、マイクの熱すぎると言っても過言ではない実況の影響もあってか龍牙の予想に反して途轍もない熱気に包まれている。幾ら見た目が悪かろうとそんな事は関係なしだと言わんばかりの歓声が響き渡る。当然だ、ここまで勝ち上がってきた猛者同士の対決に興奮し無い物などいない。もう既に龍牙や爆豪に飛ばしていた野次など掻き消えている。いや、そうではないのかもしれない。

 

確かに興奮している者も確実にいるだろう、この二人のどちらが強いのかと気になり早く戦う所が見たいという欲求に駆られ、ジュースの氷をガリガリと噛む者、口角が上がるもの、既に立ち上がっている者といる。プロヒーローに多く見られる。そんな中でギャングオルカは一般客の席を見て舌打ちをしながら入場口に目を下ろす。同時に隣のエンデヴァーが口を開く。

 

「気付いたか」

「最初からな」

「そうか、辛いな」

「当然のような物だ」

 

短い言葉のやり取りの中に全てが詰まっている。エンデヴァーは隣に冷えた麦茶を差し出し、ギャングオルカはそれを受け取り苛立たっているかのように喉の奥へと流し込んでいく。龍牙の師である彼は苛立っていた、現状に、深い苛立ちを感じていた。

 

『この決勝戦はちょっと趣向を変えてみる事にしたぜ!!互いがステージに入った瞬間から試合が開始される!!この事については爆豪と龍牙の了承も得てる!!つまり、速攻も可能!!思う存分にやりやがれってんだ!!』

 

ステージに立った時点での試合開始、ステージに入りさえすれば攻撃が認可される。それまでは個性を発動させようが攻撃しなければいい。つまり龍牙も最初から個性を発動させた状態でステージに立てる、速攻を受け個性発動を完了させるまでにやられる心配をされずに済むという事。一見龍牙の方に有利になっているようにも思えるが、これは龍牙と爆豪を対等にさせる為のルール。二人もこのルールでの決着を強く望んだ、そしてそれを肯定するかのように真っ先に爆豪が入場口から爆破で空を飛びながらステージへと入った。

 

「来たぁぁぁ!!」

「ダイナマイトボーイ、爆豪の登場!!」

「思いっきり頼むぞ爆豪!!」

「派手な勝負期待してるぞ~!!」

 

と声援を受けると爆豪は不気味に口角を上げながら腕を上げてそれに応える。プロヒーローの間では爆豪の評価は悪いどころか寧ろ良い。どんな相手だろうと真正面から向かって行って粉砕するかの如く相手を撃破する、その物怖じしない度胸と誰であろうと平等に相手を薙ぐ姿勢が高評価を受けている。

 

ヴィランには女もいれば子供もいる、そんなヴィランを相手にヒーローは戸惑っていいだろうか。否、答えはNO。例え相手が子供だろうが女だろうがヴィランとして脅威を見せたのならば倒さなければならないのが当然。それが出来ないヒーローは逆にヴィランに倒され、ヴィランの経験という栄養になる。言うなれば爆豪はある意味でヒーローに酷く向いている逸材と言える。

 

そして、間もなく現れる。靴が地面を叩くような音が聞こえてくる。そして入場の奥から聞こえてくる物がある―――龍の唸り声だ。

 

リュウガ……!!

 

 

妖しく光る瞳を輝かせながら、入場口の暗闇の中らから姿を現した正しく黒き龍の異形の姿。細かい息遣いは戦いに高揚しているかのようにも聞こえてくる。個性を完全に発動させている状態の龍牙、それを見た爆豪は好戦的で鋭い笑みを浮かべながら両手から小規模の爆発を起こす。早く、早く上がってこいという気持ちの表れ。

 

「ブラックドラゴン来たぁ!!」

「待ってましたぁっ行けぇっ龍牙ぁ!!」

「サインくれ!!」

「プロがそれ言っていいのか?」

 

と龍牙もかなりの高評価を纏っている。爆豪と同じく相手を区別する事なく戦う姿、見た目とは裏腹に熱いハートを秘めているというのも評価点になっている。何より常闇と焦凍との戦いで見せ付けてくれた圧倒的な戦闘能力なども大きな魅力となっている。見た目が大きなウェイトになっているかもしれないが、それを跳ね除ける程の物を持っているとプロ達は思っている。が、それと裏腹に一般客らはそこまで盛り上がっていない、いや盛り上がってはいるが如何にもプロらとは違った雰囲気に思える―――全く別の興奮。

 

「……龍牙大丈夫だ、お前の良さは俺達が良く分かっている」

 

と思わずギャングオルカが拳を強く握りながらそう呟いてしまった。隣のエンデヴァーもそれを耳にしながらも敢えて聞いていないふりをした。それがいったい何を意味しているかを彼も長くヒーローをしているが故に理解している。

 

「エンデヴァー」

「なんだチンピラ」

「ぶっ飛ばすぞ、お前も良ければあいつの力になってくれ」

「元よりそのつもりだ」

 

ギャングオルカの言葉に即答する。そして間もなくステージに上がる龍牙に対してエールを送る。

 

「戦闘訓練以来か……」

「あん時は止められたが、今度はそうはいかねぇ……ぜってぇてめぇを潰す……!!!」

「やってみろ……龍のアギトに砕かれる前になぁ!!」

 

一気に駆け出した龍牙、まだステージまで少しあるがその距離を一気に駆け抜けていく。そしてステージに到達すると爆豪は興奮しきった表情のまま、爆破で推進力を得ながら突撃。勢いのままの飛び蹴りを龍牙に放つ、それに対する龍牙は龍頭で迎え撃つ。

 

「てめぇに勝ってテッペンに立ってやらぁぁっっ!!!」

「そこに昇るのは、俺だぁぁぁッッ!!!!」



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優勝決定を巡る黒龍

「ゼリャアアアア!!!」

「ゴアアアアッッッ!!!」

 

爆発と爆炎、それらが絶えることなく上がり続けていく。ステージの範囲内を自由自在に飛行しながら、蹴りやパンチなどに交えて爆破を織り交ぜながら攻め続けていく爆豪。それとは対照的に爆豪の攻撃を完璧に受け切りながら爆煙を切り裂き、爛々と瞳を輝かせながら前へと進みカウンターを狙うようにしていく龍牙。斬と音が立つ、爆風を切り裂きながら振るわれたドラグセイバーが爆豪を捉えようとする。

 

「クソがぁっ!!」

 

咄嗟に刀身を蹴って後ろへと飛び退く、油断などしていなかったしカウンターも十分に警戒していたのに相手の警戒を突破して挟み込まれてくるカウンターの上手さに表情が引き攣る。苛立ちではない、口角が嬉しそうに吊り上がっている。

 

 

―――これだ、これこそ俺が求めていた戦いだ!!

 

 

そう言わんばかりに爆豪の表情は歓喜に染まっている。今まで爆豪は余りの天才っぷりに周囲から持ち上げられてきた、自分に比類する相手など存在もしなかった。だが今目の前に存在する黒い龍は自分に比類する力を秘めながら全力で自分と戦っている。それが愉しくてしょうがない、愉悦の極みだ。

 

「だぁぁぁああああ!!!」

「がぁっ!?」

 

力強く、空気を焦がすような熱を纏った剣によって上着の一部が切断され燃やされていく。それを脱ぎ捨てながら爆豪は思う。そうでなければ面白くない、圧勝するのもいい、圧倒するのもまた一つの楽しみ。だが互角の相手と此処までギリギリの戦いをする事の楽しさに比べたらカスのような物、爆豪自身も何処かで望んでいたのだろう。互角の相手という物を。

 

「まだまだ行くぞクソがぁぁあああ!!!」

「来やがれぇっ!!」

 

爆豪が三度突進する、それに合わせたようなカウンターパンチが襲い掛かるが咄嗟に身体を回転させつつも爆破で空中で制動を掛けていく。龍牙のパンチの上を滑るように転がって回避すると彼の首へと膝蹴りを連続で決めていく。重々しい打撃音、流石の龍牙もよろめくが、そのよろめいた勢いのまま身体を沈ませると爆豪の身体に無理矢理身体を回しながらの蹴りを炸裂させる。

 

「テメェッ……!!」

「俺のタフネスを舐めんな、ダイナマイト野郎!!」

「んだとぉヴィラン野郎がぁ!!!」

 

立ち上がった男たちの拳が互いの身体に炸裂する。

 

 

迫力満点の大激戦、絶えず爆発と炎が上がっているからか見栄えはある上に肝心の両者の激しい格闘戦、爆発と黒炎のぶつかり合いも凄まじい。両者のアクション一つ一つに観客たちは声を上がる、互いの身体が地面に沈めば大規模の歓声が上がる。会場は凄まじい熱気に包まれている。

 

「……ちっ」

 

だがそんな空気を嫌っている者もいた、龍牙の師匠で親であるギャングオルカだった。個性の関係で乾燥に強くないという事情があるから、という訳ではない。彼は見抜いている、何故ここまでの大熱狂になっているのかを。

 

「こいつら、龍牙がどんな思いをしているのかも知らずによくもいけしゃあしゃあと……!!!!」

「落ち着けチンピラ、水掛けるか」

「舐めてんのかこの蚊取り線香丸……!!」

 

と互いを煽りあっているギャングオルカとエンデヴァー。仲が良いのか悪いのか良く分からないが、エンデヴァーもこの会場の現状には良い思いは抱いていない。何故ならば、プロヒーローらは違うだろうが、観客たちの多くが抱いている感情は二人への罵声に近い物なのだから。

 

全員がそうではないだろうが、それでも多くはこう思っている筈だ。爆豪と龍牙、この二人が互いに戦っている姿を見て嬉しいと。ハッキリ言って今戦っている二人は受けは良くはない、爆豪は試合内容、龍牙は見た目などで受けは良くない。そんな二人が決勝まで勝ち上がっていて優勝を争っている光景は面白くないと思う者も多い事だろう。

 

『受け入れられない者同士が潰しあう、そんな光景を見て愉しんでいる』

 

そのようにエンデヴァーとギャングオルカは感じ取っていた。ギャングオルカも今でこそ広く認められているヒーローであるがデビュー当初はそれは酷評されていた、それに負けずに活動を続けて漸く受け入れられた。今の光景はまるで過去の自分を見つめているかのような物に等しかった。

 

「だが彼はこれを跳ね除けると信じているんだろう、これら全てを自らへの声に変えてみせると」

「……ああ。あいつの夢は誰からも愛されるヒーローになる事だからな」

 

ギャングオルカから聞いた龍牙の夢に口角が上がった。見た目からは読み取れない程に子供っぽく純粋な夢だ、しかし龍牙にとっては何物にも変えられない程に壮大な夢なのだろう。

 

「愛と平和を謳うヒーローとも言ってたな、俺は絶対になれると思っている」

「……あの見た目でか」

「あいつにそれを言うな、絶対傷つく」

「分かった」

 

エンデヴァーは内心でギャングオルカの事を親馬鹿認定したのであった。

 

「ダァァァアアアッッッ!!!」

「ドリャアアアア!!!!」

 

互いの身体に、爆破と黒炎、それぞれを纏った一撃が炸裂して吹き飛びながらも立ち上がり休む暇も絶えない連撃が加えられていく。だがそんな中、それを裂くような一撃が加えられた。

 

「ぐっ……!!」

「食らいやがれぇぇぇぇッッ!!」

 

一瞬怯んだ隙を見逃さぬ爆豪の怒涛の連打。爆破の連打に少しずつだが龍牙が押されだし始めている、爆豪の身体は最高潮にエンジンがかかっている。爆破を繰り出せば繰り出す程に威力が上がっている、それもあるだろうが流石に龍牙にも限界が近づいてきていた。

 

常闇と焦凍、この二人との激戦が想像以上に龍牙の体力を蝕み疲労を蓄積させている。そこに爆破にダメージが畳みかけてきている。頭部で炸裂する爆破、それを受けた龍牙は遂に膝を地につけてしまった。

 

「ぐっ……(やばい、流石にまずい……!!)」

「ドラァァァアアア!!!」

「がぁっ!!」

「ここだぁぁぁぁっっ!!」

 

爆破で押し出すかのように吹き飛ばす爆豪、身体が浮いた龍牙へ飛び膝蹴りを命中させた。流石の龍牙も空中では対処しきれない、吹き飛ばされあと少しでステージから出てしまう。そんな所で踏ん張って耐える。

 

「流石の龍牙も体力の限界か……常闇君とお前の息子で大幅に体力を失っている状態では流石にきついか」

「対して爆豪はそれほど相手に苦戦していない、体力は十分に残っているだろうからな」

 

それでも龍牙は立ち続ける、負けは認めない。瞳を輝かせながら爆豪に向かい続ける。爆豪もそれを見て笑う、矢張りこいつは良い相手だと思いながら。

 

「ヴィラン野郎……テメェはヴィランみてぇでムカつくが、本物だな」

「褒めてんのか貶してるのかどっちだよ……」

「だからこそ、テメェとは別の場所で完全な決着をつけてやる。互いに完全完璧な状態でな―――だから、それまで俺以外に負けんじゃねぇぞ」

「―――好き勝手言いやがって……良いだろう、今は預けておくぞ。この王座をな」

 

それを言い切った龍牙はゆっくりと後ろへと倒れこんでいった。ダメージが蓄積しすぎた、流石に彼も限界だと悟った。リカバリーガールの治癒の影響で溜まった疲労も身体を蝕んで動かなくなってきた。故に彼は倒れる事を選び、爆豪もそれを了承してそれを受けた。龍牙の身体がステージから出た、それによって決定するのは―――

 

勝利という栄光を得るのは爆豪という事。



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親と話す龍牙

「すいません校長……あれだけ優勝するって息巻いて置いて準優勝なんて……」

「いやいや立派なもんさ。常闇君にエンデヴァーの息子、その二人とあれだけやっておいて準優勝は立派なものだよ。親としては本当に誇らしいよ」

 

トーナメントは宣誓で優勝宣言をした爆豪がその宣言通りに優勝を決めた。そしてのその表彰の場面で爆豪はオールマイトからメダルを受け取りながら2位の龍牙に向かって布告した。

 

『おい、今日の奴じゃ俺は満足してねぇからな。疲労とダメージが溜まってるてめぇに勝ったところで俺の完璧な勝利じゃねぇ、何時か完璧に叩きのめしてやる……!!』

『上等だ、何時でも来やがれってんだ』

 

という宣戦布告に会場は更なる熱気に包まれた。爆豪がそんな事を言うのも驚きだが、龍牙を完璧にライバル視しているのも驚きだった。肝心の龍牙は今日一日で競い合えるライバルだけではなく自分の力になってくれると宣言してくれた友が出来た事を非常に嬉しく思っている。

 

「ライバルが出来てよかったね龍牙。常闇君と爆豪君、後轟君もそうかな?」

「轟は多分、友達ですかね……?なんか困った事があったら直ぐに言えって言われました。友達ってそんな感じでしたっけ?」

「そうだと思うよ」

 

根津は嬉しそうな顔をする龍牙を見つめながらも少しだけ申し訳なさに駆られていていた。施設から彼を引き取って家族として迎えてから基本的に龍牙は家に留まっている事が多かった。自宅学習で学校には通わせていなかった、それでも教職にある身であるので勉強などは確り教えていた。が、過去の出来事からか龍牙は友達を作らなかたし家に誰かを連れて来なかった。故に友達とどう接するべきか迷う面が見られる。

 

「じつはクラスメイトの葉隠さんと今度一緒に出掛ける事になってるんですけど……女の子って何処に行けば喜ぶんですかね?」

「う~ん……その辺りはまた今度一緒に考えよう、折角だからミッドナイトにも相談してみよう」

「あっそっか女の人に聞けばいいのか、ばっちゃんにも聞いた方が良いかな……」

 

後日、リカバリーガールに相談に行くのだが流石に若い子の喜ぶのは分からないと苦笑いで返されてしまい、素直にミッドナイトに相談しに行くと目を輝かせながらデートプランの構築指導をされるのだが、余りにもノリノリな姿に女の人はこんな感じなのかという妙な勘違いをするのであった。

 

「龍牙……準優勝だったな」

「し、師匠……」

 

応接室に入ってきた龍牙の師でもあるギャングオルカ、見た目故か強い威圧感を纏ったまま入室する。低い声で優勝出来なかった事を指摘され龍牙は委縮した。絶対に優勝すると誓っていたのに準優勝になってしまった事を責められる、自分がもっと強かったら優勝出来たと素直に反省している。これからどんなツッコミやらが待っていると身構えていると頭の上にポンと優しく手が置かれた。

 

「良く、よくやったぞ龍牙……俺はお前を誇りに思うぞ!!」

「えっ」

「何あのエンデヴァーの息子にも勝ったからな!!あの蚊取り線香丸の息子にな!!」

 

とギャングオルカは笑いながら龍牙の頭をガシガシと力強く撫でまわす。てっきり自分の不出来な所を指摘されるとばかり思っていた龍牙としては全く予想外の反応だった。

 

「流石は俺の息子、あんなクズ夫婦の子などでは断じてないぞ!!ハハハハッッ!!」

「えっちょちょちょ師匠!!?」

「此処には僕たちしかいないからな、キャラを繕う必要も無いからさっ!」

「えっじゃあ父さんって呼んだ方が良いんですか?」

 

今そこにいるのは師匠としてのギャングオルカではなく親としてのギャングオルカという事。普段は師匠として威厳やらを保つ為、だが今はそれをする必要もない。家族しかいないのだから素の自分でいられる場所、そこに自分の弟子であり息子である龍牙の活躍で我慢していた物が溢れてきてしまったのだろう。プライベートでも見た事の無いようなギャングオルカの姿に龍牙も困惑する。しかし好い加減正気に戻ったのか、ハッとなって赤くなりながら龍牙から顔を反らすのであった。

 

「い、いいか今のは忘れろ。いいなっ!!?」

「分かったよオルカ父さん」

「っ―――!!し、師匠と呼ばんか馬鹿弟子ぃぃっ!!」

「頬緩んでるよ」

「言わんでください校長!!」

 

基本的に龍牙に尊敬されたいという思いが強かったギャングオルカ、基本的に師匠として威厳ある姿を崩さなかったのだが……遂にここで崩してしまったと内心で落ち込むのだが龍牙は接し方を全く変えなかったので内心で酷くホッとするのであった。

 

「それで君の実の両親が縁談を持ちかけてきた事について、エンデヴァーからも話が来てる」

「胸糞が悪いな……今すぐにでもあれらを潰したい気分だ」

 

そう言うと根津も表情を鋭くしながら同意を示す、不愉快極まりない。自分達との関係を他人に漏らしたことに気にしていたのにそれからいつの間にか元の家族に戻ろうとする処など本当に気に入らない。白鳥が何故あそこまでまっすぐに育っているのか疑問に思うレベルだ。

 

「それでねエンデヴァーとも詳しく話をしたんだけど、ちょっと仕返しをしたくないかい?」

「仕返しって……何をするんですか?」

「簡単な事だよ―――あの二人が描いた絵、その通りに進んでいると思い込ませるのさ」

 

そんな風に言う根津は少々あくどくなっていた。




尊敬される気持ち、だけど本当はお父さんと言われたい気持ちが同居して割とモンモンしてるギャングオルカであった。


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お見合いをする黒龍

「えっと、こういった場合は初めましてで良いんでしょうか……?」

「多分それでいいと思うわ。それじゃあまずは自己紹介からね」

「あっはい。黒鏡 龍牙です、本日はお時間を作っていただいて有難う御座います。こうしてお会い出来る事を嬉しく思います」

 

とある料亭の一室、そこを貸し切ってとある二人が顔を合わせていた。一方は龍牙、その隣には根津が腰かけている。その反対側にはエンデヴァーともう一人、焦凍によく似ている白髪と少しだけ混ざっている赤い髪が何処かマッチしてて優しそうな雰囲気を纏っている眼鏡をかけている女性が此方に笑いかけている。丁寧に挨拶をすると女性は少しだけはにかみながら肩から力を抜いていいよと言って来る、どうやら他人から見ても力が入ってしまっているのが分かるらしい。

 

「改めまして轟 冬美です、今日はお会い出来て光栄です。弟からお話は聞いています、とても仲良くしてくださってるみたいで」

「仲良くし始めたのは最近でして、それにどっちかと言ったら私の方が焦凍には世話になる事が多いような……」

 

体育祭から数日経っている、そんな日の中で設けられた席。今行われている龍牙とエンデヴァーの娘である冬美とのお見合いである。と言ってもあくまで形式上だけの物でありそれは冬美も理解したうえでここに来ている。

 

「それにしても今回は本当にご迷惑をかけてしまって申し訳ありません冬美さん」

「いえお話は父からも聞いてます。私なんかで良ければ力にならせてください、弟のお友達ですし」

「そう言って貰えると僕としても嬉しいのさ!」

 

と根津はニコニコしながらも内心では冬美の協力的な態度に胸を撫で下ろしている。同じく教職にある冬美のスケジュールもそうだが、形式だけの見合いをしてくれという頼みをしている手前、罪悪感に似たものが付き纏っている。彼女としては弟に漸く出来た友達の為と思って参加しているので余り気には病んでいない。

 

「俺としても冬美には済まないと思っている。態々休日を潰してしまってすまん」

「いいのよこの位。それに話を聞けば龍牙君も被害者なんだし、放っておけないわ」

 

と、少しだけ胸を張る冬美に龍牙は良い人だなぁと素直に好感を寄せる。教師がこんな人ばかりならば虐めにも真剣に向き合ってくれるだろうし、問題行動を起こす生徒も激減するだろうなぁと思ったりする。

 

「にしても校長、形式上と言っても見合いをやる意味ってあるんですか?冬美さんに態々御足労頂いちゃったのもありますし、開いたって言えばいいだけなんじゃないですか?」

「いやいやいや確実にそこで行われたという事実が必要なんだよ、それに言い方が悪いけどこの見合いは完全に罠なんだよね」

「罠、ですか」

「そうだ、あの馬鹿夫婦には開始時間が2時間ほど後と伝えてある」

 

鏡夫婦には見合いの開始時間はあと2時間ほど後と伝えており、自分達はそのタイミングで料亭を出て夫婦と対面するだけでいい。それだけでいい、龍牙の親とエンデヴァーと冬美で確りと見合いを行ったのだから。

 

「焦るだろうねぇ……焦るだろうねぇ。龍牙、君は彼らに僕たちの事は言ってないよね?」

「校長と師匠が親って事ですよね、全く言ってないですよ。未だにあれは自分達が親だと思ってますよ」

「上々。こちらは龍牙がエンデヴァーから縁談の話を持ち掛けられたから、親の僕に相談した結果として今がある。それだけで良いんだよ、僕は全て知ってるからねぇ……」

 

悪どく笑っている根津に冬美も思わず教職にあるべき顔じゃないですよと言ってしまう。そう言われて笑って誤魔化そうとしているが明らかに無理な話だ。彼も彼で息子に対する侮辱的な行為でキレている。でなければこのような罠なんて仕掛けはしない。

 

「それじゃあ後はここで少し時間を潰すだけだね、折角だから此処でご飯でも食べていこうか」

「元よりそのつもりでここを予約したんだ。冬美と龍牙君も遠慮しないで好きな物を頼んでくれ、ここは俺の奢りだ」

「えっいいのお父さん、私お財布持ってきてるよ?」

「……偶には父親らしい事をさせてくれ」

 

そう言ってお品書きに目を向ける父に冬美は珍しそうな目を向けながらも、父親の中で何かが変わっているのかもしれないという小さな予感を持った。父に話をされた時は驚いた、自分に申し訳なさそうにしながらできれば力を貸して欲しいと言ってきた父の姿には本当に。それだけ龍牙の実の両親というのは酷いのだろうか、あまり深くは踏み込まなかったが一先ず肝心の龍牙は今の親に愛されている事が分かって少しホッとしている。

 

「あ、あの校長……お品書きが読めないんですけど……」

「いや本当に達筆だね、これは慣れてないと確かに読めないね。どれどれ僕が龍牙が好きそうな奴を頼んであげようか」

「お願いします。マジで読めません……」

 

目の前では自分もお品書きを見ようとするのだが、肝心の内容が全く読めずに根津にそれを見せながらどうしたらいいのか相談している龍牙の姿がある。微笑ましい光景に自分の頬も緩む。

 

「そうだね、この御膳なんていいじゃないかな。魚を使った奴みたいだよ」

「いやでもこれ値段が凄いですよ……なんかクラクラしてきました」

「なんだそれじゃあ足りんだろう、もっと頼め。そうだな、この牛御膳も追加しておこう」

「あの、値段が凄い事に……」

 

値段の心配をしているのか、自分が食べる事になるだろう物に顔を青くしている姿にクスリとしてしまう。話は聞いていたが本当に良い子のようだ。暫しすると料理が運ばれ、超一流の味に舌鼓をする。冬美も絶賛する美味しさだが龍牙は余りのおいしさに完全に言葉を失い、貧乏舌が食べるような物じゃないと肩を落とす。

 

「……言葉にならない美味しさで御座いました……」

「久しぶりに来るが味が変わって無いようで安心だ。中々の物だったでしょう校長」

「う~ん実に素晴らしい物だったのさ!!偶にお邪魔しようかな此処」

 

食後の余韻を楽しみながらも話をしながら時間を潰していく、冬美も雄英での焦凍について尋ねる。龍牙もそれに関しては快く話す。そんな事をしているとあっという間に時間は流れていく、気付けば間もなく時間になっているころだ。

 

「さてそろそろ行こうか」

「もうそんな時間か、では行くか。龍牙君、気を楽にな」

「大丈夫です。美味しいご飯のお陰か今凄い幸せな気分です」

「結構かわいいところあるのね龍牙君って」

 

そんな会話をしながらも料亭の女将さんへの挨拶や料金の支払いをエンデヴァーは済ませる。その際に聞こえてきた金額に龍牙は顔を青くさせる、そんな龍牙にエンデヴァーは気にするなとサムズアップするのであった。そして支払いを済ませて外に出た時、表情が凍り付いてくのを目にする。

 

「おやおやここでお食事かな―――ビーストマンにミラー・レイディ」

「「ね、根津校長……!?」」

 

わざとらしく、笑いながら根津がそう告げると鏡夫妻は驚いたように、身体を硬直させながら言葉を口にする。如何して校長が此処にいるのかという思いもあるが、周囲にいるエンデヴァーや龍牙にも目が行く。

 

「お、お久しぶりです校長。以前の体育祭ではご挨拶もせずに申し訳ございません……」

「いいさいいさ、君たちだって忙しいんだろ?来てくれただけで有難いってもんさ、本当にね」

 

含みのある言い方に寒気を感じる。

 

「そ、それで如何して校長は……?」

「いや大した事じゃないさ、エンデヴァーからお見合いの相談を受けてね。今それをやってその帰りなんだよ」

「「お見、合い……!?」」

 

それを聞いて二人の顔が一気に青ざめていく、自分達がしようとしたことが完璧にバレている事を理解する。そして同時に分かった、龍牙が言っていた今の保護者が一体誰なのか……。

 

「そう―――君たちさ、僕の息子に何してくれるのかな?」



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話す黒龍の親

「にしても……良いんですかね、俺達は外にいて」

「色々と難しい話があるからきっと龍牙君も退屈するって配慮ね、まあここは親同士の話し合いの場って事で一つ」

「あっはい」

 

近場に繰り出して公園のベンチに腰掛けながらソフトクリームを食べている龍牙はそんな事を口にする、それをいちご味を食べながら気にせずに楽しもうという冬美の言う通りにアイスの味を楽しむ事にした。因みに抹茶とブドウのミックス、美味である。

 

「龍牙君にとっては根津さんってどんな人?」

「最高のヒーローです」

 

即答で返す龍牙、笑顔で返されて冬美は余程深い絆で結ばれている事を理解する。

 

「俺にとってただの親ってだけじゃなくて笑顔をくれた人です。多分、根津校長に会ってなかったら俺はヴィランに堕ちてたのは確実でしょうね」

「そこまで断言出来ちゃうんだね……」

「荒れてましたから。いや荒れてたって言うか……完全な無気力状態って言うべきなのかな……」

 

自分も小学校で教職についているので様々な生徒と接する、元気な子供もいればひたすらに静かな子、ちょっとしたことで落ち込んでしまう様々な子がいる。故に分かる、龍牙は昔相当に酷い状態だった。そこから救い上げたのが根津というヒーローなのだろう、その出会いが無ければ堕ちていたと断言出来るほどにその出会いは救いだったのだろう。

 

「まあ校長だけじゃないんですよ俺を救ってくれた最高のヒーローは。もう一人いるんですよ」

「へぇっどんな人?」

「ギャングオルカって知ってます?」

「ああっあのヴィランっぽいヒーローランキングで何時も上位をキープしてる……」

 

冬美のそんな言葉を聞いて師匠の世間的な認識はやっぱりそこに行ってしまうのかと思いつつ、自分も何れこんな認識をされるのだろうかと軽く思うのであった。

 

「その人が俺の大切なヒーローでその……師匠でもあり親なんです」

「えっそうなの!?あっえっとそのごめんなさい……」

「いえ、俺も師匠の見た目はそういう系だって事は分かってますから」

 

笑っているが、その笑いが乾いている事に気付いた冬美は申し訳ない事をしたと思いながら必死に話題を変えた。なんとか雄英での事に切り替える事が出来た時には思わずホッとしていた、そして流れは……

 

「そういう時はやっぱり洋服とかジュエリーショップだと思う。女の子はそういうの気を使うし、その子が透明だっていうなら猶更気になると思うの」

「成程……んじゃこういうのは如何でしょう?」

 

葉隠と遊びに行くときにはどんな場所に行ったらいいのかという相談へと変わっていた。そこにはお見合いをしていた二人ではなく、教師と生徒のような立場の二人が座りながら会話を続けていた。

 

 

「一つ聞いてもいいかな、君たちの行動がどれだけ愚かな事なのか理解しているのかな……ねぇっビーストマン、ミラー・レイディ」

 

敢えてヒーローネームにて目の前の二人へと呼びかける根津の瞳には冷たい光が宿っている、鈍い光を放つ瞳に見つめられる二人は身体の神経が凍り付いてしまっているかのように動かない。同様に根津の隣のエンデヴァーも同じような視線を送り続けている。何時まで経っても何も言おうとしない二人に痺れを切らしたのか、次のカードを切る。

 

「黒鏡 龍牙。旧姓、鏡 龍牙。確かに血縁上は君たちと親子だ、君達夫婦は10年以上前にそれを放棄している。態々専門の弁護士やらコネやらを使って徹底的に自分達との関係を絶ってまでね」

「そ、それは……」

「ですがあの子は私たちの息子である事は事実です……!!」

「事実なだけだよ。そこにあるのは血縁上の親子という情報でしかない、法的には彼は君たちの息子じゃない」

 

淡々と突きつけていく事実は嘗てこの夫婦が行ってきた事象、それを聞いてエンデヴァーは少し肩身を狭くしながらもそれを受け止める。自分も親としては失格だろう、今からでも変われるだろうかと思い始めた。

 

「確かに龍牙の個性はヴィランのような見た目、だがただそれだけだろう。君達も望んでいた筈だろう、彼が個性を使う事を」

「望んではいましたが……あんな恐ろしい個性なんて……思いもしなかったんです」

「ああっあれを見た時、俺達は龍牙が龍牙ではない物に変わってしまったと思った。そして怖かったんです……あいつが」

 

震えながらの独白だがそれは全く根津とエンデヴァーの心に届かない。此処にギャングオルカが居たらどうなっていただろうか、最低でも全力で殴っていた事だろう。

 

「怖かったのは龍牙じゃなくて世間からの反応だろう、マスメディアは面白可笑しく騒ぐだろうね。あの鏡夫婦の息子はヴィラン!?ってね」

「自分達の立場が崩れる事を恐れた、という訳か……俺が言えた義理ではないが、よくもまあそれで娘がまともに育ったもんだ」

 

正しく龍牙の推測通りだった。この夫婦はエリート思考が今も残っている、二人は自分が今ある社会的な地位や人気に誇りを持っているだけではなく執着している。それが弛まぬ鍛錬や努力に繋がっているのは事実、だがそれが悪い方向に結び付いた。何れは家を、ヒーローとしての地位を譲ろうとしていた息子の個性がヴィラン顔負けの姿、それによって自分達の立場が悪くなることを危惧し、龍牙を遠ざけようとした。

 

だが10年ぶりに再会した龍牙はヒーローを目指していた、しかも恐ろしげな見た目であることを吹き飛ばすかのような力強さを纏って……。それを見てやり直したいと思ったのだろうがそれは親としての感情ではない……龍牙を物として見ている人間のそれと同じだ。

 

「僕は彼の見た目なんて気にしない、世間の目が何だって言うんだい?親ならそれと戦って子供を守るのが役目だろう、君達はそれを放棄したんだ。今更なんだ、君達は龍牙を馬鹿にしてるのかい」

「「―――……っ」」

「しかも今回龍牙に一言も無しに縁談を進めるなんて言語道断。親どころか一人の人間として失格だよ」

 

そこまで言い切ると根津はもう一度、冷たい視線を浴びせ掛ける。

 

「二度と愛する息子に近づくな、今度何かしたら―――僕の全てを捧げてでも君たちを潰す。覚悟しておくんだね」

 

そう言って去っていく根津、それに続くようにエンデヴァーも二人へと言葉を投げかける。

 

「俺としては感謝しておく、お前たちのお陰で俺は俺を見直す事が出来た。お前たちのような親にはならないようにこれから変わる。ではな」

 

そう言って去っていく二人を目で追う事も出来ないまま、二人は血が出る程に拳を握りしめるが、何も出来ないまま、影を落とし続けていた。




一旦決着……な訳はない。

これが、何か嵐を呼ぶ……?


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体育祭後の黒龍

エンデヴァーの娘であり焦凍の姉、冬美との形式上のお見合いの翌日。体育祭後初めての登校日となったその日、龍牙は普段通りに制服を纏って登校をしていた。龍牙が住んでいる家は雄英から程々に近い距離にある為、バス一本で十二分に通える。音楽を聴きながら冬美おすすめの小説を読みながらバスを待っていた時の事。制服の袖を引っ張られているような気がするのでそちらを見てみると、小さな男の子が輝く目をしながら自分を見ていた。イヤホンを外して如何したのかと尋ねてみる。

 

「あくしゅしてくだしゃい!!」

 

と輝いた目のまま明るい声で言われてしまうのだが、龍牙は別の人に言っているのかと周囲を見るが如何やら違うよう。そこで自分を指さしてみると益々目を輝かせながら頷いた。思わず目を白黒させながらも手を差し伸べてみると男の子は嬉しそうにしながら手を握ってくる。子供らしい柔らかく温かい手の感触が伝わる。

 

「ありがとうっ!!ママ、りゅうのおにいちゃんにあくしゅしてもらえた!!」

「あらあらよかったわね、すいませんいきなり」

「い、いえこちらこそ……?」

 

隣にいた母親と思われる背中に翼を背負っている女性に頭を下げられるのだが全く理解が追い付かない、なんでこの子は自分に握手を求めたのだろうか。首を傾げているとバスがやってきたのでそれに乗り込む、が、驚きは連続してやってきた。座るまでもないだろうと立って本の続きを読もうとした時の事、隣のサラリーマン姿の男性が声を掛けてきた。

 

「あのごめん、雄英の体育祭で準優勝した龍牙君、だったりしないかな」

「まあ、そうですけど……?」

「おおっやっぱり!!俺君の大ファンなんだよ!!サイン貰えないかな!!?」

「……へっ?」

 

間抜けな声が漏れた。本当に理解が追い付いていない、ファン?サイン?それは本当に自分に対していっているのだろうか、もしかして他にも龍牙という名前の人が居てそっちに言っているのではないかと軽く逃避しているとそれが現実だと教え込んでくる声が出てきた。

 

「あっやっぱりあの子だ!!超熱い激闘してた黒鏡君!!」

「ホントっ!?えっやば写真良い!?」

「優勝惜しかったな!!でも次は行けるぜ!!」

「えっえええっ!!?」

 

見ず知らずの人達から向けられている感情、自分に対する好意に困惑してしまう龍牙。今までいきなりこのような物を向けられたのは葉隠以来だろうか。だが今回は数が余りにも多い。バスに乗っている全員と言っても過言ではない人達からそれを向けられてしまっている、それに如何したら良いのか分からずあわあわしつつもなんとか誠実に対応しようと心掛けて接するのだが……その丁寧で誠実な対応がより向けられるものが激しくなってしまい龍牙は内心で悲鳴を上げるのであった。

 

「―――」

「りゅっ龍牙君大丈夫!?」

「―――」

 

教室の自分の席に辿り着いた時、そこには完全に燃え尽きてしまっている龍牙の姿がそこにはあり葉隠は酷く心配したように駆け寄ってきた。声を掛けても小さな呻き声しか返さない龍牙に困惑する。

 

「つ、疲れた……なんだなんだよ何で皆俺に寄ってくるんだ……」

「……あっ~成程そういう事ね!」

 

葉隠は漸く龍牙が憔悴に近い程の疲労をしているのか解せる事が出来た、龍牙は今まで浴びた事が無い程の好意や称賛を受けた。此処に来るまで応援やサインなどを強請られてしまったのだろう、個性の関係で怖がられてばかりだったのにそれがいきなり大人気になったのだから対応しきれなかった、という所だろう。

 

「でもよ、龍牙の熱さなら人気が出て当然だぜ!!実際くそカッコいいしな!!」

「そうそう、漫画だと主人公と双璧を成すダークヒーロー枠みたいな感じだよな」

 

切島と瀬呂の言葉にそういう物なのだろうかと軽く首を傾げつつも、それは自分の個性が受け入れられているという事なのかと思い直して気持ちを立て直す。

 

「俺の個性ってそんなにカッコいいのか……?」

『くそカッコいい!!!』

 

とクラスの男子勢から力強い肯定が返ってくる、想像以上の反応に困惑しつつもカッコいいと言われて素直に嬉しくなる龍牙であった。

 

「龍牙、姉さんから話は聞いてるが大丈夫か」

「大丈夫だ、特に気にもとめてない」

 

先日の見合いの件を話をする焦凍と龍牙。焦凍しても龍牙は放っておけない、姉に言われずとも仲良くするつもりではいた。焦凍自身も龍牙とは何処か仲良くなれるような予感があった、それから龍牙と焦凍は昼食をともに取るようになっていた。その時は決まって二人ともざるそばだったりする。

 

「そうか。後姉さんが妙にお前を大事にしろって言われたんだが、お前姉さんに何言った」

「いや特には……お前に寧ろ世話になりそうって事ぐらいしか……」

 

「「……フッ」」

 

一方、互いにライバルと意識している常闇とは軽く視線を合わせた後に揃って小さく微笑むだけであったが、二人は妙に満足げな表情を浮かべていたのを葉隠は見ていた。そんなやり取りをしていると何時の間にか相澤がやってくる時間がやってくるのであった。皆は相澤が来る前に席に着く、ある種恒例行事である。

 

「ヒーロー情報学はちょっと特別だ」

『特別?』

 

ヒーロー情報学、ヒーローに関連する法律や事務を学ぶ授業で個性使用やサイドキックとしての活動に関する詳細事項などなど様々とを学んで行く。他のヒーロー学とは異なり苦手とする生徒も多いが、今回は何か異なる模様。

 

「コードネーム、いわゆるヒーローネームの考案だ」

『胸膨らむヤツきたあああああ!!!』

 

ヒーローネーム、即ちヒーローとしての自分を示す名前の決めるという事。自分の事に関する故にヒーロー足る者として絶対的に必要な物にクラス中からテンションが爆発して行った。オールマイトを始めとしたそれらはヒーローの象徴ともいえる物、テンションがMAXゲージになって行くが相澤が睨みを利かすと一瞬で静かになる辺り本当に慣れてきているというか、相澤の怖さが良く分かる。

 

「ヒーローネームの考案、それをするのも先日話したプロからのドラフト指名に密接に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積んで即戦力と判断される2年や3年から……つまり今回来た指名は将来性を評価した興味に近い物だと思っておけ。卒業までにその興味が削がれたら、一方的にキャンセルなんてことはよくある。勝手だと思うがこれをハードルと思え、その興味を保たせて見せろ」

 

幾ら体育祭で素晴らしい力を見せたと言ってもまだまだ経験も足りない物を採用などはしない、これから力を付けていかなければ今の評価など簡単に引っくり返る。そして相澤は手に持ったリモコンを押してある結果を黒板に表示した。

 

「その指名結果がこれだ、例年はもっとバラけるんだが今年は偏ってるなある意味で」

 

黒板に示されている氏名数は矢張りと言うべきか体育祭のトーナメントの結果を反映したものだという事が良く分かる。しかし相澤のある意味での偏りというのも理解出来る結果となっている。それは―――

 

――A組・指名件数。

 

  爆豪:2483

 

  黒鏡:2303

 

   轟:2264

 

  常闇:2182

 

集中しているのがこの4人であるからである。




次回、ヒーローネーム決定!!


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名前を定める黒龍

「すっげえな4人が殆ど独占状態だぜ!!」

「4人とも2000件オーバーの指名って……やべぇな普通に」

「それで他は500切ってるって事はマジで集中してるって事なんだな……」

 

黒板に表示されている指名が入っている各人、その中でも爆豪、龍牙、轟、常闇はぶっちぎりの数値を叩きだしている。全員がトーナメントではすさまじい活躍と戦いを披露したことが起因している事は間違いない、全員が激戦を披露し自らの力の最大限を出し尽くしたと言っても過言ではない、それを評価しないプロなど存在しないという事だろう。

 

そしてこれらの指名を出したヒーローの元へ出向きヒーローの活動を体験するという。プロの活動を自らの身体を持って体験し、より実りある訓練をするため。そしてその為にヒーローネームの考案をするという、仮にもプロヒーローの元に行く事になる、それはつまり将来的な自分の立場のテストケースにもなる。

 

「つまりはこれらを使って職場体験をさせてもらうって事だ。そこでヒーローネームを決めるって流れだ、適当なもんは―――」

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!この時の名が世に認知されてそのままプロ名になってる人は多いからね!!!」

『ミッドナイトォ!!!』

 

教室に参上したのは18禁ヒーロー事ミッドナイト、龍牙にとっては根津経由で知り合った数少ない異性。葉隠についての相談や学校生活で友達が出来た時は如何すればいいなどとそんな相談も持ち掛けたりもした。それをミッドナイトは年の離れた弟が出来たような気持ちになりながらも快く相談に乗っていた。龍牙としてもお姉さんと思っている。

 

「まあそういう訳でミッドナイトさんに来てもらった。俺はそういうの無理だからな」

「さあこれからあなたたちの未来へのイメージを形にするのよ!変な名前だとやばい事になるから真剣にね!!」

 

龍牙の師であるギャングオルカ、これが仮にチンピラオルカという名前だったらどうだろうか。ヒーローとしての威厳もないしヴィランへの威圧にも何もならない。故に様々な意味でヒーローネームは大切になるのである。因みにチンピラオルカについてはお見合いの時にエンデヴァーがそう呼んでいたので、龍牙は一応報告すると……

 

『あの万年2位の蚊取り線香がぁぁぁああああああ!!!!俺の息子に何吹き込んでやがんだぁああああああああ!!!!!』

『し、師匠お願いだから落ち着いて!?根津校長ヘルプ、ヘルプゥゥウウウ!!!!!』

 

とガチギレしながらエンデヴァーの事務所に突撃しようとしていたのを必死に止めたりもした。そんなこんなで龍牙も名前を考える、自分にある要素と言えば常闇が言うように闇炎龍というのが全てに凝縮しているような気がする。闇のような炎を吐く龍、正しく自分だ。といってもこれをそのままヒーローネームに採用するのは常闇も気分が悪いだろうし、参考にする程度にしておこう。

 

「……ギャング・ブラックドラゴン……あっいいかも」

 

自分が参考すると言ったら矢張り師匠たるギャングオルカ、そのギャングというフレーズを少々失敬して自分を組み込んでみると中々にかっこいい字面になっている。しかしギャングというのは本来ヴィラン側、ギャングオルカにマッチしているのは鯱が海のギャングと言われるからで自分には合わないと没にする。次々と案は出てくるが如何にもしっくりこないのか没にしていく、自分にはそういうセンスが無いのかなと軽く落ち込む中、ミッドナイトから驚きの発言が飛び出した。

 

「そろそろ時間的にもいい頃かしらね、それじゃあ出来た人からレッツ発表!!」

『!?』

 

まさかの発表形式に驚きの声が上がる、だが結局ヒーローとして活動をするならば注目されるのは自明の理。今の内に慣れていくという意味ではいい方法なのかもしれない。しかし全く進んでいない龍牙からするともう決めなければならない状況になってしまい、焦りが出てくる。幾ら頭をひねってもいいのが出ず、抱え込んでしまう。

 

「梅雨入りヒーロー・フロッピー」

「可愛い~!!親しみやすくてお手本みたいなヒーロー名ね!!」

 

「親しみ……」

 

「武闘ヒーロー・テイルマン!」

「名が体を表してる、いいわね!!」

 

「名が体を表す……」

 

「インビジブルヒーロー・ステルスガール!!」

「良いわね最高!」

 

「やっぱり……」

 

「漆黒ヒーロー・ツクヨミ、それが俺の名だ」

「夜の神様!常闇君にピッタリね!」

 

「自分にピッタリ……」

 

次々とヒーローネームが決まっている中、それらを参考しながら自分の名前を組み立て上げようとする龍牙。ヒーローとしての親しみやすさ、分かりやすさ、自分に合っているなどなど参考にする部分が多聞にある中で必死に考える。やっぱり自分の龍という部分を強調するべきなのかと思いつつもペンが動かない。

 

「俺だ……ダイナブラスト!!!」

「おおっダイナマイトにブラストを合わせたのね!!」

 

続いて壇上に上がったのは爆豪、彼は自分の爆発にダイナマイトなどを掛け合わせたいかにも強そうな物になっている。だが彼曰くそれだけではなくダイナミックを合わせているとのこと、渾身のネーミングらしく本人は良い感じと言われて自慢気にしている。尚、此処に決まるまでヴィランのような名前ばかり考えていたのだが、声援の中にダイナマイトボーイという物が混ざっていたのを思い出してこれに行きついた。

 

「ショート」

「あれ名前でいいの?」

「思いつかなかった。それでも俺は俺の名前でいい」

「まあそういうのもありよね、事実自分の名前をヒーローネームにするヒーローもいるし」

「そういうのもあるのか……!!」

 

焦凍は自身の名前で活動すると言う、しかし龍牙はそれを感銘を受けた。自身の名前、龍牙。それこそヒーローネームに相応しいのではないかと。龍であり悪を砕く牙を持つヒーロー……確かにこれはこれでいいかもしれないと龍牙は手を上げた。

 

「はいっ龍牙君!君はどんな名前にしたの?」

「凄い悩みました。俺名前とか碌に考えられないみたいなんで、色々候補は合ったんですけど……やっぱこれが一番だと思います」

 

そう思い、ボードを掲げる。そこにあるのは自分の名前、自身の個性と同じである自分の名前をヒーローネームとして胸を張って使っていくつもりだ。

 

「貴方も名前なの?」

「はい。やっぱりこれが一番俺らしいって思いまして―――敵を牙で砕いて誰かを救い、炎で誰かを温める龍。そんなヒーロー……リュウガ、それが俺の名前です!!」




結局リュウガにするしかない……だって思いつかないだもん!!!私毎回毎回名前で苦労してるんですよ!!誰が良い名前があったらそんな思考を教えて欲しいもんだぜ……。


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体験先を決める黒龍

ヒーローネームも決定した一同、そこからは彼らの問題へと切り替わっていく。指名を受けた物は指名先から自分が行く職場体験先を決めて相澤に申し込んでおく必要がある。複数の指名がある場合はその選定に急がなければならない、指名がない者は事前に雄英が受け入れ可能なヒーロー事務所から選んでそこを申し込む運びになる。しかし、多くの指名を受けている者はある意味で地獄を見る羽目になる。

 

「龍牙君そのファイル全部指名先が書いてるプリントなの!?」

「そうなんだ。凄い量だよね……」

 

と軽く汗を流しながら机の上に置かれているファイル、しめて23個。ファイル一つにつき約100件の指名先の名前や情報などが分かりやすく纏められているのだが……それでも龍牙は2303件という凄まじい数の指名を受けているので量も凄い事になる。一体どれから見たらいいのかも困ってしまうほど。

 

「一応相澤先生が目安にしろってランキング順に纏めてくれた奴もあるからね、見た目以上ほどの量ではないかな多分」

「へぇっ~見てもいい?」

「勿論」

 

相澤が簡単に纏めてくれた紙、それは龍牙に指名を出したヒーロー事務所がヒーローランキング順位、主な活動内容などを纏めてあるもの。これだけ大まかなヒーロー事務所の傾向と力が分かるようになっている。興味をひかれた葉隠がそれを見てみるがそれを見て驚く。

 

「えっ凄い何これ!?トップヒーローの指名ばっかり!!?」

「マジかよ!?うおっすげぇいきなりエンデヴァーからの指名あるぞ!!」

「エンデヴァーだけじゃねぇ……ランキングトップテンに入ってるヒーロー全員から来てる!?」

 

その言葉にクラス中からその紙を見ようと集まってくる皆、それもその筈。オールマイトを除いたトップヒーローの中のトップヒーロー集団全てから指名を受けていると言っても過言ではない指名を受けている。龍牙の実力と将来性などがそれだけ多くのヒーローに評価されているという事になる。龍牙が凄い事は知っていたが改めてそれを思い知らされると驚くしかない。

 

「おい龍牙お前Mt.レディから貰ってるのかよ!!?その指名オイラにくれよ!!」

「いや流石にそれは相澤先生に相談しないと……というか峰田、優……じゃなくてレディさんのファンなのか?」

「当たぼうよ!!!」

 

と力強くサムズアップする峰田。新人ヒーローとして売り出し中の女性ヒーローMt.レディ。巨大化という個性で女性ながら力強い戦いを繰り広げるヒーローなだけではなく、非常に美しい美女である事も有名でファンも多い。どうやら峰田もその一人らしい。

 

「龍牙ちゃん、峰田ちゃんは多分Mt.レディをそっち系の目で見てるだけよ」

「そうなのか?」

「違うし!?」

 

と梅雨ちゃんの言葉に素直に聞いてみる龍牙、それを慌てながら否定する彼を見る龍牙。実はそれなりに仲が良い二人、しかし体育祭終了直後に自分の自慢の物を貸してやる!と言われてしまい、どんな反応をすればいいのか困って未だに返答をしない龍牙であった。

 

「んっというか龍牙、なんでお前Mt.レディの事、レディさんって呼んでんだよ!?っつうかその前もなんか言いかけてたろ!?」

「保護者経由だけど面識があるんだよ。今度サインお願いしてみようか?」

「龍牙お前……オイラとお前はズッ友だぜ!!!」

 

Mt.レディは師匠こと、ギャングオルカ経由で面識がある。対巨大ヴィラン戦闘訓練として相手となって貰ってからはそれなりなやり取りをしている。新人ヒーローとして苦労もしているのか、愚痴も多いが龍牙はそれらを真剣に聞いたうえで相談に乗ったりもしているからか、彼女からの評価は高い。一方的だが弟認定されて少し困っている面もあるが、良い人だと彼は思っている。

 

因みに最近会った時には、個性が暴発してしまい、事務所再建の間だけで良いから泊めて欲しいというお願いだったりした。

 

「でもまあ俺は行く処は決めてるんだ」

「マジで、こんなにあるのに」

「来てたら行こうって思ってたんだ。でも来ててちょっと安心した」

 

そう言いながら龍牙はファイルを開きながら目当てのヒーローのページを開く。そこにあったヒーローの写真を見て安心したような表情を浮かべる龍牙に事情を知っている常闇は納得したように微笑んだ。開かれてたページにあるのはギャングオルカの事務所である。

 

「ギャングオルカか、成程かなりいいチョイスだな!」

「見た目関係もありそうだな」

「それだけじゃないだろ、なぁ龍牙」

「まあな」

 

短い言葉のやり取りだが、常闇には龍牙の心の中を全て見通りしていた。今の龍牙にあるのは喜びと安心、師匠からの指名が来なかったら如何しようとでも思っていたのだろう。

 

「何だよ何だよ何だってんだよ、お前ら勝手に分かった風にしやがって!!おい常闇教えろよぉ!!」

「言っていいのか龍牙」

「俺は別にいいけど」

「そうか、ギャングオルカは龍牙の師匠だ」

『……えええええええっっっっ!!!??』

 

直後、教室中に悲鳴のようなボリュームの声が響いた。直後に龍牙に対する追求じみた質問攻めが行われるのであった。

 

 

「やぁっやっぱり龍牙に指名を出したんだね」

『やめた方が良かったですかね』

「いやいや正解だよ、実地でしか教えられないことだってあるからね!!」

 

雄英の校長室にて根津は携帯でギャングオルカに連絡を取っていた。龍牙に指名を出した件についての電話、ギャングオルカとしては実地でしか教えられない事もあるので、改めて鍛える為に指名を出している。確かに自分が教えたらある意味問題が生じるかもしれないが、それでも指名は出すべきだと彼は思っている。

 

『……恐らく、多くのヒーロー達は龍牙の事を戦力としてしか考えてないでしょう。俺は奴自身を見て教え込むつもりです』

「そうだね。まだまだ龍牙は幼くて未熟者だ、信頼出来る人間がビシバシ扱いてやるべきだね。実地では遠慮せずに新米サイドキックを育てるつもりでやってやりな。その方が龍牙も喜ぶだろうし」

『分かりました、では―――心を折りすぎない程度には厳しくやりましょう』




個人的にMt.レディは普通に好きです。なんて言うんだろう、うん好きです。
だって素敵やん、えっ主に何処が好きかって?そりゃ……やめておきます、妻が目を光らせて睨んできそうなので。

あと最近葉隠さんってどんな感じなのかって想像が止まらない。こんなに想像をかき立てられるですね。いやぁ……すげぇな透明ヒロイン。


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職場体験に臨む黒龍

職場体験初日、龍牙達の姿は雄英から最寄りの駅にあった。此処から各自の職場体験先へと出発していく。担任の相澤から簡単な挨拶と体験先に迷惑を掛けすぎない事や本来公共の場などで着用が許されないコスチュームなどは絶対に落とすなと厳命される。自分だけのコスチュームを落とす間抜けなどいないとは思うが、盗まれる可能性もあるので確りと持っておくのに越した事は無い。なので龍牙はコスチュームケースに鎖のようなアクセサリーをつけ、それと制服と繋いで対策しておく。

 

「んじゃ踏陰、遠いから気を付けろよ」

「ああ分かっている。精々プロにしがみ付いて技術を得て見せる」

 

腕をぶつけ合って互いの無事を祈るライバル二人、常闇の行き先は九州。なので此処から最寄りの空港へと行きそこで飛行機に乗って九州まで行く手筈になっている。他のメンバーに比べて断然遠い、遠い分大変だろうがそれだけ声援を込めておく。

 

「龍牙、お前も師匠に世話になって来い。俺も親父の技術を吸収しに行って来る」

「師匠には普段から世話になってるけどな、後自信も普段からバッキバキに折られてるから……」

「おい目が死んでるぞ」

 

教室でギャングオルカが師匠であることを明かした後、当然のように自分に待っていた質問攻め。普段どのような指導を受けているのかと言われて龍牙は正直にそれを話した。師匠からは話のタネ程度にはしてくれていいと言われているので遠慮せずに話した―――師匠の鬼っぷりを。話していくうちに目からハイライトが失われていき、死んだ魚のようになっていく龍牙を周りは必死に話すのを止める程には、龍牙はギャングオルカに日常的に扱かれているのである。

 

「さて、俺も行くか……」

 

別れもそこそこに自分も職場体験先に向かう事にした。自分を指名した師匠ことギャングオルカは都心から1時間ほど離れた場所に事務所を構えている。街中ではあるが道を行けば直ぐに海に行く大通りに出れる、ギャングオルカは基本的には海か海から程近い場所を活動の範囲にしている。場合によってはそんなもの関係に活動はするが、個性の関係であまり乾燥しやすい場には出向かない。

 

電車を乗り継いで事務所へと向かっていく龍牙。改めて考えてみると師匠の事務所に足を踏み入れる事は初めてになる、仕事の邪魔になる事も考えて足を運んだこともなかったし基本的にはギャングオルカの方が出向いてきてくれることが大半だったのも理由の一つ。そんなこんなで事務所の前へと到達した龍牙。8階建てのオフィスビル、このビル丸ごと一つが事務所だと言うのだから驚かされる。一つ深呼吸をするとビルの中へと入る。

 

「あのすいません。雄英高校から職場体験に来ました黒鏡 龍牙と申します」

「ああはいはいお話は伺っておりますよ、それでは此方にどうぞ」

 

受付に話をすると直ぐに案内を受ける。矢張り前もって話がされていたらしい。素直にそれに従ってついていき、ギャングオルカが待っているという部屋に案内される。

 

「シャチョー、黒鏡君をお連れしました」

「入れ」

「(シャチョー……?)」

 

扉があけられるとそこは応接室、多くのプロヒーロー達の姿があった。20人以上のヒーロー達が規則正しい隊列を組み、その中央にはギャングオルカが堂々とした姿で仁王立ちをしていた。見慣れた師匠だが不思議と緊張を覚えてしまい背筋が伸びていく。

 

「よく来たな黒鏡 龍牙、事務所の主としてお前を歓迎しよう」

「雄英高校1-A所属、黒鏡 龍牙です、1週間お世話になります!!」

 

と頭を大きく下げる龍牙。綺麗な礼を見てサイドキックのヒーロー達は礼儀がなっていると小声を漏らす。彼らは龍牙がギャングオルカの弟子である事は一応は知ってはいる。ギャングオルカが龍牙を鍛える際には彼らの協力も仰いだりもしている、だが詳細は知らずギャングオルカが龍牙の事を息子として可愛がっている事は一切知らない。

 

「龍牙、お前のヒーローネームは何だ。1週間の間は仮とはいえお前もウチの事務所のメンバーだ、コスチュームを纏う間はヒーローネームで呼ぶ」

「リュウガです。俺はリュウガです」

「……そうか、お前らしい」

 

自身の名前と同じヒーロー名を聞いて師は少しだけ笑った、彼がどんな名前にするかはある程度予想はしていたが矢張り大本命はリュウガという名前だった。

 

「最初に言っておくぞ、俺はお前を甘やかすつもりはい。職場体験のつもりで来たのならばその認識は捨てろ、俺はお前をサイドキック同然の扱いをしていく」

「ちょシャチョー何言ってるんですか!!?」

「そうですよ!!それって彼を俺達と同じ活動をさせるっていってるようなものですよ!!?」

 

思わぬ言葉にサイドキック達からは驚きと焦りの声が溢れていく。龍牙はまだヒーローとしての免許はおろか仮の免許すら取得していない一般人に近い立場にある。そんな子供をプロのサイドキック同然に扱うという事は彼を命の危険に晒す事を意味する。流石に全く同じ活動はさせられないだろうが、それでも新しく採用したサイドキック育成コースは適応させる気満々なギャングオルカに周囲は焦る。

 

「彼はまだ俺達が守るべき立場にいるんですよ!?それをヴィラン確保最前線に連れて行くつもりですか!?」

「当然だ。こいつには才能とそれを開花されるだけの力がある、それを埋もれさせるなど愚の骨頂だ」

「だからって余りにも……!!」

「決定事項だ、やる気がないなら他の事務所に行けばいいだけの話だ」

 

弟子だから、それだけでは済まない厳しさ。ただ厳しいだけではない、苦痛に満ちた道を歩み気が無ければ俺の弟子をやめろと言うニュアンスも含んでいるであろうギャングオルカの方針にサイドキック達は動揺する。だが龍牙は、リュウガとして一歩前に出て言った。

 

「俺は噛みついてでも行きますよギャングオルカ。それが茨の道だろうが修羅の道だろうが」

「……口先だけではない事を期待する、こいつに事務所を案内しておけ」

 

そう言って出ていくギャングオルカにサイドキック達は追いかけていく。今すぐにでも方針を変えさせるために、だがギャングオルカは変えるつもりなど無かった。これで弟子に恨まれようが構わないとさえ思っている、龍牙が成ろうとしているヒーローがどれだけの苦難が待っているのか、誰かに頼られるというのがどれだけ辛いのかを彼自身に教え込む為に。

 

「俺の期待を超えてみせろ、龍牙」




「……校長、これで俺、嫌われたりしませんよね……?」
『そこら辺はまあ上手くやるしかないね、それで嫌われたら自業自得だよ』

内心、不安まみれなギャングオルカであった。


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目を付けられる黒龍

職場体験初日、ギャングオルカの事務所へとやってきたリュウガは早速師から厳しい言葉を受けながらもそれを飲みこんで前へと進んでいく覚悟を決めて一時的ではあるが事務所の仲間入りを果たした。周囲のサイドキック達が本当に大丈夫なのかという不安を胸にしつつも、ギャングオルカの指示でリュウガの実力を把握する為に軽い模擬戦を行っておけという指示を受けていたので地下に設置されているトレーニングルームにて一戦を行う事になった。

 

「だぁぁっっっ!!」

「ぐっ想像以上に手強い……!!」

 

リュウガの相手を申し出たのはギャングオルカのサイドキックとしてはまだまだ若いと称されるサイドキック3年目を迎えるヒーロー、パワーコング。ギャングオルカやリュウガと同じく異形系の個性のゴリラを持つヒーローでゴリラのパワーや握力をフル活用したダイナミック且つパワフルな戦い方が光るヒーロー。だが

 

「ドラゴン・ストライクゥ!!!」

「がっぐああああ!!!!」

 

一回り巨大となった右腕の龍頭、それを焼印を押すかのような勢いで叩きつけられる。胸に歪んだ龍の頭部のような模様が一瞬だけ浮き出るとパワーコングは吹き飛ばされ壁へと叩きつけられた、余りの勢い故か壁に罅を入れながら凹ませており軽くクレーターのようになっている。

 

「ま、まだまだっ……っ!?」

「いえ、これで終わりですよ」

 

フラフラになる身体を必死に起こしながらもファイティングポーズを取ろうとしたパワーコングだが、自分の目の前へと突きつけられたドラグセイバーを見て息を詰まらせながら硬直してしまった。サイドキックとしての経験はまだまだだろうが、プロヒーローの一人として、ギャングオルカのサイドキックとして精一杯務めてきて成果もあげている筈の自分をあっさり超える程の強さを誇るリュウガに驚きしか沸かなかった。

 

「シャチョーの弟子って事は知ってたけど……まさかここまでとは、ここまで個性を鍛え上げてるなんて……凄いよ本当に」

「苦労しましたから、ええっ苦労しましたから……」

 

と一瞬で瞳が死んだように赤く輝いていた筈の瞳が沈んでいってしまった。色が落ち着いているという訳ではなく、本当に色が死んでいる。一体どんな苦労を重ねていたのだろうか、それを聞いてみたかったのだがこの瞳を見てしまったら聞いてはいけない事なのだと頭ではなく、心と魂で理解出来たのでパワーコングは追及をやめた。

 

最初こそパワーコングは龍牙の事をよくは思わなかった。幾ら弟子とはいえ自分達サイドキックと同じ立場―――までとはいかないにしてもほぼ同等に近い立場に立たせるのは流石に納得しかねたが、この実力を考えればある意味当然ともいえる。

 

「パワーコング、如何だい龍牙君の実力は」

「……ぶっちゃけ近接戦には絶対の自信があったのに、自信無くしそう」

「うわぁっ……」

 

素直に引いた。パワーコングの持ち味と言えばゴリラのパワーを生かした近接戦、相手を正面から捻じ伏せていく。それを上回るだけの力を龍牙は備えている、伊達に弟子をやってはいないという事だろう。

 

「ハッキリ言って、彼の訓練って相当過酷だったと思う。多分一日中、シャチョーと一騎打ちしてたとかだ。じゃなきゃあれだけの力は出せないし、明らかに経験が物をいう瞬間だってあった」

「格上相手に戦い続けてたって事か……それなのに彼全く慢心しない、どころか自慢の一つもあげないよね」

 

それには周囲の同僚も頷いていた。リュウガは酷く謙虚、というか自分に対する自信が全くないような節がある。誇るべき技術や恐ろしいまでの反応速度、経験でしか培えない直感的な動きまであるのにそれらを一切誇らずにストイックすぎるレベルで自分と向き合い続けている。それだけ自分に厳しいとパワーコングも思っていた、先程の瞳を見るまでは。コングは顔を青くしながら、リュウガに同情するように言う。

 

「ありゃ確実にシャチョーに自信という自信をぶっ壊されてるな……多分調子に乗る数歩前で完全に殴り付けられて泥舐めさせられてるな」

『うわぁっ……』

 

思わず、続けてサンドバックに向かいながらパンチを放っているリュウガへと向けられる視線が全て一色に染まった。少なからず新人のヒーローが陥る危機や関門と言えば増長などによる実力の見極めの失敗、自分の身丈に合ってない現場に赴いて大怪我をするなどが圧倒的に多い。だがリュウガにはそんな影すら見えない。コングの予想通りに龍牙は調子に乗る前にギャングオルカによって自信を完全に圧し折られ、現実を強制的に見せられている。

 

「それって、つまりあれだよな……お前のパンチングブラストでヴィランをやっつけるぞ!!って思った矢先にシャチョーがそれを完全に受け切った上に真正面からパンチ一撃でお前をぶっ飛ばす的な」

「なんでそこで俺を出すかなぁ!!?実際そんな例えで正解だと思うけどさぁ!!!」

 

実際そんな経験がマジであるコングにとっては辛い言葉であった。そして、同時にリュウガに向けて過去への自分へと向けるような瞳を向けながらある事を決意する。

 

「決めたわ。俺、彼が此処にいる間出来るだけフォローに入るわ。多分それが一番だろうし」

「ああっそれが一番だろうな、幾らシャチョーの決定だからって俺達には適応されてる訳じゃないし。俺達も普段の互いのフォローアップに彼を重点的に組み込む形で行こう」

 

そんな風に気付けばサイドキックメンバー内でリュウガのフォローを全力で行おうという流れになりつつあったのであった。幾ら強いと言ってもまだまだ高校生なのだから、大人である自分達が守ってあげなければいけないんだから……そんな風に誓い位あった時であった、翼を持ったサイドキックの一人がトレーニングルームへと飛び込んできた。

 

「たたたたたっ大変だぁ!!?」

「何だ凶悪事件の発生か!?」

「ある意味正解!!あの人が、あの人が戻ってきた!!?」

 

それを聞いた途端、サイドキック全員の血の気が引いた。顔にはマジで?と書いてあった。流石にリュウガも場の空気が可笑しくなっているのに気付いたのか尋ねようとするのだが、その瞬間にトレーニングルーム入り口の扉が吹き飛んで一つの影が入室してきた。

 

「此処か……オルカの弟子が居るってのは……!!」

 

そこに居たのは、爆豪以上に凶悪で狂気に染まっていると言っても過言ではないような笑みを浮かべている蛇のような舌を伸ばしている蛇革のジャケットを着た男が居た。その男は龍牙を見ると一段と嬉しそうな笑いをするとこう言った。

 

「お前か……俺のストレス解消に付き合え」




多分絶対に誰か分かる、最後の人は。


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王蛇と黒龍

「げぇっマジで来ちまったよ!!?」

「だ、誰かヒーロー呼んで!!?」

『いやお前もヒーローだろ!!』

「あっそっか俺ヒーローだった!!」

 

「……相変わらず腑抜けた馬鹿どもだ」

 

全く状況が読めないリュウガ、突如としてトレーニングルームへと入ってきた人物にサイドキックの皆が大慌てになっている。何が何だか分からないが、目の前の男は自分に相手をしろと言ってきた。事情は把握できないが兎に角相手をするしかないだろう。構えを取ろうとした時に、自分の前にパワーコングが出た。

 

「下がるんだリュウガ……彼は、まずい……おい直ぐにシャチョーに連絡を!!」

「俺はそのギャングオルカに言われてきたんだ、あいつに何を言う気だ」

「くそっシャチョー正気かよ!!よりにもよってこの人に自分の弟子をぶつけるとか何を考えてるんだよ!?」

 

両手をぶつけ合わせながらコングは毒づいた。話を聞く限り、この男もサイドキックの一員なのだろうか。少なくとも師匠とは面識があり、師匠の言葉でここに来たという事は自分もこの男と戦えばいいという事になるのだが……それにしても周囲のサイドキックの反応が異常すぎる。

 

「というかなんでいるんだよ!?地方に飛ばされたはずだろ!?」

「その地方での仕事が終わったから戻って来た、麻薬の密造と密売ヴィラン共を全員潰しせて愉しかったぜ……お前も一度行ってみろ」

 

そんな風に語る男の表情はありったけの快楽と快感に染まったような歓喜に染まっている。男にとってはヴィランとの戦闘は唯の快楽や自分の欲求を満たすただのイベントでしかない。コングはリュウガに対して目の前の男の危険性を教える為も含めて詳細を語りだす。

 

「コブラヒーロー・王蛇、シャチョーことギャングオルカのサイドキックだけど実力はほぼ互角。ヒーローとしての実力はハッキリ言って化け物レベル。だけどこいつはハッキリ言ってヴィラン側と言っても過言じゃないんだ」

「どういうことですか……?」

「ダークヒーローなんて生易しい言葉は適応されないぐらいに外道だからさ」

 

王蛇、龍牙もわずかながらに聞いた事があるヒーローネームだ。ヒーローとは思えない程のヒールっぷりでヴィランを恐怖のどん底に叩きこむヒーローだと何かで読んだ記憶がある。そんな男が師匠のサイドキックとは……ハッキリ言って驚き以外の何物でもない。

 

「倒したヴィランを必要ない程に攻撃して再起不能にする、ヴィランからの攻撃を自分が倒したヴィランで防ぐ、既に降参しているヴィランに対して攻撃を叩きこむ、単身でヴィランのアジトの殴りこんだと思ったらヴィラン全員を半殺しにしてたなんて事も良くあった位だよ」

「う、うわぁっ……」

 

思わずリュウガもそんな声を上げてしまうほどの所業を王蛇は重ね続けている。本当にヒーローと問いただしたくなるレベルの行いを続けている男、最早ヴィランになってくれた方がいっその事諦めがついて確保出来るのだが……この男、逆にその行いによってヴィランに対する絶大な抑止力にもなり得ているのも事実で平和に大きく貢献してしまっているのが質が悪い。

 

「人聞きの悪いことを言うなよぉ……俺は、世間が認めた悪を叩き潰してやってるんだ」

「だから質が悪いって言ってんだよ!!アンタが急行したって現場に俺も急行したら、血だらけのヴィランが号泣して俺に助けを求めてきたんだぞ!初めての経験だったわ!!」

「いい経験したなぁ」

「お陰様でな!!」

 

しかも、ヒーローという合法的に相手を叩き潰しせる上に金やらも手に入れられる現状に酷く満足している。故にヴィランになろうなんて気持ちは全くないらしい、自分がしたい事をやっているだけなのに周囲がそれに対して勝手に謝礼などを用意してくれる。これほどまでに都合が良い仕事が他にあるか、と本人は言っている。

 

「下らねぇ話はもういい、おいオルカの弟子さっさとやろうじゃねぇか……ちょうどさっき潰したヴィランが物足りなかったところだからなぁ……」

「ってちゃんと通報とかしたんでしょうね!!?」

「鎖で簀巻きにして街灯に吊るして通報はしたぞ、じゃねぇとオルカがうるせぇからな……」

「街灯に吊るすなぁ!!!子供が見たらトラウマ物じゃねぇか!!」

 

大慌てでコングは周囲のサイドキックと連携して現場近くでパトロールをしているであろう者達に連絡を取って現場の確認などを指示をする。そんな中で王蛇は一瞬のスキを見つけてコングの隣をすり抜けて、その背後にいたリュウガへと回し蹴りを繰り出した。

 

「重いっ……!!」

 

それを上手く防御する、だが何の個性を発動させてもいない筈の姿でこの威力の蹴りは余りにも異常すぎる。余りにも一撃が重い、増強系の個性なのかと思うがそんな思考は意味をなさない。相手が自分の間合いにいながら攻撃を仕掛けてくる場合には特に意味をなさない。

 

「はぁっ!!」

「ふったあっ!!」

 

続けて一気に駆け寄ってくるような勢いのまま連続のパンチとキックの連打。流れるような連打の嵐、防御に努めるリュウガだが一撃一撃がまるで師匠のように非常に重い。いや、師匠の方が遥かに重く威力もあるだろうがこの男のラッシュは速度が段違い、幾ら威力が劣るとしてもこんな速度で打ち込まれるのが相当にまずい。

 

「だぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

状況打破の為に黒炎を吐き出すが、王蛇はそれを予測していたのか軽く跳躍しながら後方へと飛び退いてそれをあっさりと回避して見せた。恐ろしいまでの戦闘センスとそれを支えている異常なまでの戦闘経験からくる直感、相手の次の動きを直感で読み取って即座に対応する。厄介すぎる。黒炎を容易く回避する王蛇は一度高笑いをすると指をさしてきた。

 

「お前……悪くない、またやろうじゃねぇか。今度はガチでな……」

 

一度、鋭くさせた瞳をすると王蛇はトレーニングルームから去っていくのだが、リュウガはとんでもない相手に目を付けられたんじゃないかと冷や汗を流すのであった。初日から色々と不安になる職場体験はまだまだ始まったばかりである。




ギャングオルカと王蛇。

一応ギャングオルカがストッパー的な立場……まあそれでも抑制しきれてないけど。


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現場で活動する黒龍

「……主犯と思われるヴィランを確認。8本腕、腕部巨大、刃腕、長腕の4名確認。指定警戒ヴィランチーム、アームズだと推測。これより帰投する」

 

「……んッ?」

「おい如何した」

「今、なんか鏡に変な物が見えたような……気のせいか?」

 

「戻りました。ビルを占拠してるのは指定警戒ヴィランチームのアームズだと推測されます、全員の特徴が腕に関する個性でしたし資料とも一致します」

「そうか、お前は次に行け。王蛇、一応言っておくが殺すな」

「分かってるさオルカ、任せておけ……ははっさあ祭りの始まりだ……」

 

職場体験初日、ギャングオルカの事務所にヴィラン出現による出動要請が入った。当然のようにリュウガもそれに駆り出され自身の能力を活用した情報収集を行うように伝えられた。リュウガは物陰に隠れながらも個性を発動させながら、ビルのガラスへと飛び込んでいった。ガラスへと飛び込んだリュウガはそれへと溶け込んでいくかのように虚構の鏡合わせのように反転している世界へと入りこんでビルの中を駆けていく。

 

これがリュウガとしての個性として最も異常とも言われる能力、鏡だけに限らずガラスや窓など姿が映るものであれば自由に行き来することが可能であるという余りに常識離れした超人社会でも異常と称される能力。根津をして人知を超えているリュウガの固有能力と称する力。

 

鏡の世界、リュウガはそれをミラーワールドと称しており、そこは完璧に現実の世界と全く同じ。強いて言うならばそこにいるのはリュウガのみで他の生命体は存在しておらず、全ての物が鏡に映るように反転している事がその世界の特徴。そしてこの能力を使用すれば、ミラーワールドから現実の世界を覗き見る事が出来、安全に情報収集などを行い、ヴィランの現在位置や人質の位置などを正確に割り出す事が出来る。

 

「はぁはぁはぁっ……」

「大丈夫かいリュウガ君?疲れたなら少しぐらい……」

「いえ、大丈夫です……!まだ、やるべきことが残ってるので……!!」

 

コングが膝を付きながら荒い息をしている彼を心配する、明らかなほどに彼は疲労している。ミラーワールドに入るだけならば、彼に負担は皆無に近いのだがその中で長時間活動するのは相当身体に負荷がかかるらしくリュウガは次第に疲労を募らせていた。それでもリュウガは休むことなくミラーワールドへと入り、不測の事態に備える為に待機する事になった。

 

「シャ、シャチョー……リュウガ君の疲弊の様子は明らかに異常ですよ。これで5件目の出動ですけど、既に彼は限界が近いように思えるんですが……」

「当然だ。リュウガのあの能力にも代償がある、これはあいつがそれに耐える為の訓練でもある」

 

ミラーワールドでの活動、リュウガにも限界が存在しており今のところの限界は最長で5分程度。それ以上残ろうとすると体力を大幅に持っていかれていってしまう。最終的にはミラーワールドから弾き出されてしまうのだが、全身疲労で一日はまともに動けなくなってしまう事が分かっている。既にリュウガがミラーワールドでの活動を行って累計で15分を超えているだろうか、一体どれだけの疲労がリュウガに蓄積されている事だろうか……。

 

コングがリュウガへの心配を募らせている中、包囲されていたビルから王蛇がゆっくりと出てきた。頬についている返り血が内部であった戦いを物語っているかのよう、王蛇は笑いながら無事に鎮圧して事件を収束された事を報告する。

 

「生きてるんだろうな……」

「半殺しで止めておいてある、まあ腕と足を全員一本ずつ折ってはある。今頃激痛でもがき苦しんでる頃だ」

「うへぇっ……」

 

恐らく王蛇の語り方からして単純に腕と足を折っただけではないだろう、この後確認しに行く自分達の事も考えて欲しい物だ。余りにも凄惨過ぎる現場だとハッキリ言って自分も気分が悪くなりかねない、そう思っている王蛇が悪そうな笑みを浮かべながらこちらを見る。

 

「何甘い事考えてんだ、あのヴィラン共は善良な一般市民を人質に取った上に数人の骨を折ってやがったクズだぞ。そんな連中に遠慮なんかいらねぇだろ、これ以降同じことをするならば同じかそれ以上の事をされるっていい教訓になった事だろうよ」

「……ヴィラン顔負けのアンタがそれ言うかよ」

「聞こえねぇなぁ……じゃあなオルカ、俺は飯食いにいって来る」

「はぁっ……勝手にしろ。面倒事は起こすなよ」

「わぁってる。面倒な事になるとテメェがうるせぇからな……」

 

そう言うと王蛇はバイクに乗るとそのまま去っていってしまう、ギャングオルカはそれを黙って見送ると溜息を吐きながら現場確認の為に向かう警官に護衛としてサイドキックを数名付けて行かせる。

 

「シャチョー、前々から聞きたかったんですけど……なんで王蛇はシャチョーだけには従うんですか」

「あいつとは昔からの腐れ縁でな……対等な関係だったからだと思う」

 

まさかの幼馴染、という訳ではないらしい出がそれでもギャングオルカと王蛇は同期であるらしい。そのせいなのかギャングオルカは王蛇のかじ取りの仕方を心得ており、王蛇もギャングオルカに下手に逆らうと面倒事になると理解しているから一応従っているらしい。

 

「よくまああんなのと付き合ってられますね……」

「俺以外にあいつとまともに話す奴もおらんかったからな……」

「そりゃそうでしょあんな奴と……」

「も、戻りましった……」

 

近場の鏡からリュウガが姿を現すが既に言葉に込める力もないのか、ヘロヘロになった状態で這い出てきた。鏡から出るとすぐさま個性が解除されてしまったのか元の姿に戻ってしまった。ミラーワールドで活動するだけで殆どの力を使い果たしてしまい、もうまともに立っているのもやっとなようにも見える。

 

「お前はもう邪魔になる、事務所に戻り事務作業の説明でも受けておけ」

「ちょっとシャチョーそんな言い方ないでしょ!?こんなに頑張ってくれたリュウガ君に対して……」

「解りました、この後事務所に戻るサイドキックの皆さんと一緒に戻ります……」

 

そう言うと移動用の車両に乗り込んだリュウガはぐったりしながらも端末を開きながら自身の活動報告をレポートに書き込んでいく。コングはギャングオルカの指導方針に嫌な顔一つせずに従っているリュウガに一種の畏敬の念を覚えつつも、厳しすぎるだろとギャングオルカに複雑そうな視線を送るのであった。




ギャングオルカの内心。

「(すまん龍牙、すまん……!!本当は、褒めてやりたいんだ、だけどすまん……!!)」


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嵐へと迫る黒龍

「うううっ……うぁっ……」

 

小さな呻き声と共に身体から力が抜けかける、それを必死に食い止めるように足に力を籠めるが身体のふらつきが止まらない。足が震え、重力が何倍にもなっているように感じてしまうほどに身体が弱っている。

 

「ミラーワールドでの活動時間、大体は24分ぐらいだったかな……。大分限界が伸びてるな……ははっ」

 

ミラーワールドでの活動は限界を超えれば超える程に自分の身体を蝕んでいく、身体や個性を鍛えれば鍛える程に限界は増してはいくがそれでも身体に掛かる負担が和らぐ事は一切無い。あ