僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ (魔女っ子アルト姫)
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番外編
二つの龍が手を結ぶ日


番外編、リューキュウルート。

今回の番外編において、初期に葉隠さんが怖がらずに話しかけなかった場合というIFになっております。なのでかなり異なっている所があるのでご了承ください。


「ねえねえ二人とも、なんでリュウガ君って二人に対してちょっと距離を置いてる感じなの?不思議だね~」

「えっと、それは……」

「ケロッ……」

 

それはインターン時に聞かれた事だった。インターンとしてリューキュウの事務所にいる時、麗日と蛙吹はねじれからそんな事を問われた。リューキュウから直接誘いを受けて同じ事務所でインターンを行っている龍牙、だが彼は何処か二人に対して距離を置いているように思える。何処か大人しく、線を引きそこから先へと踏み込まないようにしているような印象を受けている。彼を見つけたら取り敢えず確保して撫でるねじれはそれを特に感じた。

 

「それは……ウチらが悪いんです……」

「はい、今思えば本当に悪い事をしちゃって反省してるんです」

「何々何があったの?」

 

バツが悪そう且つ酷く落ち込んでいるような顔つきになってしまった二人に対してねじれは詳しく事情を聴きだしてみた。それはある意味致し方ないとも思えるような事だった。

 

『だああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!』

 

入学直後の個性を含めた上での身体能力や個性の力を確かめる為のテスト、そこで龍牙は皆の前で個性を使用した。その時、A組の皆はその姿を酷く恐れてしまった。誰も声を掛ける事も出来ずただただ委縮してしまった。相澤がその場の進行を行うまで、誰もが龍牙の恐ろしさに飲まれていたのだ。そして龍牙はその時から、全員と距離を置くようになった。

 

唯一仲良く出来ているのは常闇と焦凍程度でその他のメンバーは未だに上手く馴染めていないような状況が続いている。仲良くしようとする者もいるが龍牙の方が遠慮をするような形で距離を取り続けている。過去の経験とその時の状況と瞳が、余りにも似すぎていたのが原因だった。

 

龍牙にとって実の親に捨てられる事になった忌まわしい過去の出来事と、あの時の状況は彼にとってあの時の事を想起させるには十分過ぎた。故か皆に苦手意識を持ってしまったのと同時に怖がらせない為に自ら距離を置くようになってしまった。

 

『何であの時に何も言わなかったって今でも後悔してるんです……龍牙君、常闇君と轟君とだと本当に楽しそうなのに、ウチらと一緒だと……』

『ヒーローを目指してるのにあんなことをしちゃったなんて……本当に、本当に……』

 

二人の言葉は恐らくA組の殆どが持っている総意に近いような物、だが彼らの恐怖も理解出来る物。それほどまでに龍牙の姿は恐怖を掻き立てられる、本能的に恐れてしまう類の物なのだ。ある意味何も思わないねじれが異常とも言える。

 

「―――っていう事らしいよ。不思議だね、そんな龍牙君って怖くないのにね」

「まあそれは色んな経験をしたからだと思うけど、納得はしたわ。それで龍牙君があんな目をしてたのか、分かったわ」

 

今回の事を聞きだしたのはリューキュウからの指示、それを報告をするねじれの言葉を聞きながら同時にリューキュウは納得がいった。ヴィランの確保などで連携を取る際、彼女らとなんらかで接する時に龍牙が何処か辛そうな瞳をする意味を事情を把握する者として。彼はトラウマに等しい過去を想起させてしまう彼女らと接する時に沸き上がるものと必死に戦っていたのだ。表に嫌悪感などを出さないように必死に……。

 

「有難うねじれちゃん、二人のフォローは任せてもいいかしら」

「うん任せて~。後輩のお世話も先輩の役目だもんね~♪」

 

と言った風に先輩として接する事に何処か嬉しさを覚えつつも歩き出していく姿を見つつも龍牙の事を考える。彼とてきっと分かっている筈、仲良くしようと接してきてくれることは重々理解しているだろうがそれ以上にトラウマを刺激されて上手く接する事が出来ない。自分を守る為でもあるし、彼女を守る為にも一歩引いている。同時にそれは凄まじい苦しみとも戦っている。

 

「変わろうとしても変われない……か」

 

席を立って龍牙の元へと向かう事にする、今自分にしてあげられる事、味方になると誓ったのだから精一杯に彼を支えてあげる為に行動をしようと思ったリューキュウは作業を行っている龍牙と対話をする事にした。

 

「今日もお疲れ様リュウガ、紅茶でいいかしら」

「いえお気遣いなく」

「遠慮しないの、子供は大人に甘えるのも仕事よ」

 

丁度作業が終わった龍牙を誘って事務所内にある自分の部屋へと案内した、自分の部屋と言っても私室ではなく事務所にある自分の部屋、執務室のような物だが……。そんな龍牙は普段通りにしながらも何処か暗い表情を隠すように振舞っている。そんな龍牙に素を出しやすいような環境を作ってあげながら紅茶を差し出す。

 

「正直言って貴方がうちに来てくれて本当に助かってるわ。このままサイドキックとして卒業後、入らない?」

「リューキュウさんにお世辞でもそう言って貰えて光栄です、インターンに来て一番嬉しいかもしれません」

「フフフッこれでも本心よ、根津校長とオルカにはこっちから交渉させてもらうわね」

 

そう言いながら紅茶を飲むように勧めてようやく飲み始める龍牙、暖かな紅茶とその香りと味に何処かホッとして一息ついてしまうが直ぐに平静を装うとする姿に何処か悲しさを覚える。彼にとって何かを重ねるのがある種当然になってしまっているのかもしれない。

 

「インターンには慣れたかしら、色々慣れない事もあるでしょ」

「ええまあ……でも師匠との修行に比べたらそこまで苦じゃないですよ」

「あれと比べられたら大抵の事は楽だと思うわよ……」

 

そんな風に雑談を交えながら距離を測るリューキュウ。何処か龍牙も素に近い対応をしているように思える、彼にとっては同年代よりも矢張り年上の方が接しやすいのかもと思いながらも本題に入ろうとカップを置きながら彼の隣に座り直す。

 

「ねぇっリュウガ、無理をしているならもうしなくていいのよ」

「無理なんてそんな……俺は全然」

「ウラビティとフロッピーを前にしてもそれが言える?」

 

そう問いかけた時、動きを止めてしまう龍牙。僅かな沈黙の後に言えると答えるが振り絞るように言葉を出している。それを見て改めて龍牙が抱える物が重いと強く理解する。

 

「貴方が二人に対して如何しても距離を置いているのは分かってたわ、何か事情があるなら聞くわ。私としても何か問題を抱えてるのにそれを放置するっていうのは見逃せない。貴方さえよければ力になるわ」

「……いえ、これは俺自身の問題です。俺も何とかしたいとは思ってます、これは俺自身で何とかしないといけないんです」

 

龍牙も何とかしたいと心から思っているのだろう、だがそれが中々上手くいかない。彼の中でも一線を置いて接するのが苦心の末に出した妥協案のような物。自分を守る為にもあれが譲歩した結果でもある。だがリューキュウはそっと龍牙の肩に手を回して自分に寄せてやる、震える彼を抱きしめるように。

 

「悩んでいるなら素直になりなさい、それが解決のための第一歩よ。一人で難しいなら助けを求めなさい、それも大人になるって事なのよ」

 

優しく、温かく、母のように龍牙に囁く。抱き寄せながら頭を撫でながら促す、龍牙は顔を伏せてしまって答えないが彼女はそのまま頭を撫でながらずっと待ち続けた。彼が心の準備を終えて自分から話してくれるのを。ある程度待っていると、龍牙は漸く口を開いた。

 

「俺は……俺だって二人が俺と仲良くしてくれようと、してくれるのは分かるんです……でも、でも―――それを受け入れるよりも先に……拒否してしまうんです……!!」

 

身体を大きく震わせながら、まるで怯えている小動物のようになりながら、瞳から大粒の涙を流しながら龍牙はずっと胸の内に秘めていた本心を吐露した。

 

「俺の見た目については分かってます、理解もしてますし皆の反応だって正しいって分かります。でも―――あの時の瞳がどうしても、如何しても、あの時と重なって……!!」

 

龍牙だって皆と仲良くしたい、一緒に遊びにいったりお昼を食べたり、談笑をしたりしたい。その事を思えば常闇や焦凍には本当に感謝している。

 

「皆が俺に気を遣ってくれてるのは分かってるんですよ、でもでも……俺がいけないんですよ、俺が俺がいつまでもあの時の事を引きずってるから……!!」

 

光を与えられ、温かさを得ても消える事の無い楔。心の深くに突き刺さった光景が何度も何度も脳裏を過ってくる、あの時の言葉が、光景が、全てが。

 

「また同じ事が起きるんじゃないかって思ってる、そんな事は無いって何度も自分を納得させようとしているのにどうしても……!!!」

 

そこにあったのは恐怖、周りに恐怖を与えてしまった少年が最も恐れていたのは再度の拒絶だった。ただの拒絶ではない、一度仲良くなった者から再び与えられてしまうかもしれない途轍もなく深い深い拒絶。あれをもう一度味わった立ち直れないかもしれないという恐怖があった。だから彼は他人を拒絶する、だがそれでも自分の中にある誰かと仲良くしたい、共に居たい思いで友を作った。それも必死に恐怖と戦いながらの物。

 

ギリギリの所で彼は踏み止まっている、常に恐怖と戦いながら夢に向かって歩き続けている。それほどまでに彼の根本にある恐怖は強大であり、夢は偉大な物であるという事。その狭間で苦しみ続けているのも事実、そんな彼の内側を見たリューキュウは彼を強く抱き寄せて抱きしめた。柔らかい感触に包まれるが龍牙はそうではなく、リューキュウの嗚咽で我に返り、上を向いた。その時にあったのは涙を流しながら自分を抱きしめている彼女だった。

 

「いいのよ、もういいの……貴方は泣いていいの、我慢なんてしないで……。本当に良く頑張ったよ……」

「リューキュウ、さん……」

「私しかいないから、良いよ……」

 

その言葉を聞いて今までの我慢で溜まっていたものが全て流れ出した、塞き止められていたものが全て流れ出してしまったように大粒の涙を流しながら泣いた。涙と共に胸の内にあったものを一緒に。それをリューキュウは抱きしめながら受け止め続けた。大人として、彼の味方として決めた者の責務として。自身も涙を流しながら―――長い時間が流れて、漸く龍牙の雨は止む事が出来た。

 

「すいませんリューキュウさん、その……胸を借りちゃって……」

「いいのよ、胸を貸すのも大人の役目。それとも柔らかくて感触を楽しんじゃった事を謝ってるのかしら」

「ちっ違いますよ!?確かに凄い暖かくて凄い安心出来る感じがしたって言うかああもう何言ってるんだ!?」

 

泣いて彼は今度は大慌てといった様子だった、そんな姿を楽しみつつもリューキュウは微笑んでいる。それは龍牙が元々自分の好みだったからか、それとも彼の胸を内を聞いて親しみを覚えたからか。

 

「というかリューキュウさんも放してくれていいんですから!!存分にお借りしましたから!!?」

「良いって事はまだ貸して欲しいって事よね、なら存分に貸してあげるわよ。ほらっ楽しんじゃないなさいって」

「ちょちょっとお願いですから勘弁を……!!?」

 

そう言って更に強く抱き寄せると龍牙は面白いように取り乱してしまっている。今の行動が自分に対して失礼に当たったりするのだろうと心配しつつも、何処か頬が緩んで安心しているような表情を浮かべている。彼も男なのだと思いつつも心の何処かで何処か母性を求めているのかもしれない、そんな姿にリューキュウは心を刺激されて胸が高鳴っていた。

 

「ううっ大人って意地悪だぁ……」

「そう言いながらも頬が緩んでるわよ、もうっ龍牙のエッチ」

「うぐっ!!?」

 

わざと意地悪な言葉をぶつけてあげると面白いように落ち込んだり、小さくなる姿が余計に愛おしく見えてしまう。母性を刺激する姿が堪らなく愛おしい、リューキュウは思わず少し悪い笑みを浮かべながら次の一手を打つ。

 

「ねぇっ龍牙、意地悪な事を言っちゃう私って嫌いかしら」

「嫌い何てそんな……思った事もないですよ」

「ホント?」

 

少しだけ目を潤ませてそう問いかける、龍牙は初めて見るリューキュウのそんな表情を見て胸が高鳴った。姉替わりであったミッドナイトや自称姉のMt.レディもしなかったからか、酷く胸が高鳴ってしまった。酷く魅惑的なものを感じつつも、少しだけ震えた声を出す。

 

「そんな事ありませんって!!」

「じゃあ―――好き?」

「そりゃもう好き―――ですよ」

 

それを聞いてリューキュウは目を輝かせながら、潤んだ瞳の雫を拭いながら確かめるように本当かと聞く。そして本当だと答える龍牙に笑いかけながら、言う。

 

「嬉しい……私も好きよ龍牙」

 

そして―――リューキュウはそのまま何処か戸惑いを見せ続けていた龍牙の唇を奪う。突然の事に目を見開いて何が何だか理解出来なさそうにしている龍牙は唯々困惑するばかり、一方でリューキュウは龍牙の唇を奪い続けた。そして唇を離すと困惑で震えている龍牙、それを見てまた笑う。

 

「あ、あああああのリューキュウさん……!?な、何をやって、るるんですかぁ!!?」

「キスよ、もしかしてファースト……だったかしら」

「そうですけどそうじゃなくてあのその……!?こ、こういうのは恋人同士でやる事であってその俺なんかとする事じゃ……!?」

「大丈夫よ、私は貴方の事が好きで貴方も私の事が好きなんだから。恋人同士、といっても過言じゃないでしょ?」

 

そう言って再び唇を奪うリューキュウに好きといってもそういう意味じゃないと言いたかったが、再びのキスで言えなくなり、言おうにも全身を満たすような幸福感に思考が溶かされるような感覚に思わず酔ってしまう。長く続くそれに龍牙は思わず身を委ねてしまう。

 

「もう貴方は平気よ、私が貴方を一人にはしないから安心して。私が貴方を支えるから」

「リュー、キュウさん……」

「もうそんな風には呼ばないでね、龍子って呼んでね。二人っきりの時は」

「―――龍子さん……その、なんか恥ずかしいです俺……」

「うふっ可愛いわね、そんな所がまた、そそっちゃうじゃない」

 

そう言うと再びキスをする、が今度は龍牙は自分を抱きしめる彼女のように相手を抱きしめ返して答える。それを感じて更に抱きしめを強くすると彼もまた強くする。

 

「―――何時か、時間が出来たら校長とオルカにご挨拶に行かないとね。貴方と結婚したいって事を」

「あの、早過ぎません……?まだその、交際とか全然なのに……」

「大丈夫よ、貴方がインターンで此処にいる限り一緒に居られるからその時に絆を育みましょ。一緒に居れればそれは交際と一緒よ」

「―――そうかもしれませんね、これからお願いします……龍子さん」

「こちらこそお願いね龍牙」

 

この時から龍牙は新しいスタートを切った。この時から少しずつではあるがA組の皆とも打ち解けあえるようになっていく、過る過去を新しく出来たら強い絆が打ち消して新しい世界へと踏み出す勇気へと変えていく。そんな変化を遂げた彼に皆喜びながら、友情を紡いでいく。一方で龍牙はリューキュウこと、竜間 龍子と愛を育んでいく。ぎこちない彼をリードする龍子とそんな彼女に手を引かれながらも歩調を合わせようと努力する龍牙。

 

「そう、大分リードが上手になってきたわね。あの頃が懐かしいわね」

「先生が凄い上手ですからね、それを真似て俺も上手くなってますから」

 

二人の間には強固な愛という絆の橋が生まれ、それは深く絡み合いながら新しい物を生み出す事だろう。そんな二人は唯一無二のドラゴンヒーロータッグとして―――世界に名前を刻む日も遠くない未来だろう。




―――という訳で番外編第一弾のリューキュウこと竜間 龍子さんが恋人になるという話でした。

……やばい、こういう大人のお姉さん書くの超楽しい。なんだろう、私の性癖的何かが出てるのかな……。こういう大人のお姉さんがリードというか相手をからかう的なの最高過ぎんだろぉぉおおおお!!!龍牙貴様羨ましいんじゃぁぁぁあああああ!!!!


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ねじれて絡まる絆と龍

番外編、ねじれちゃんルート。

今回も、初期に葉隠さんが怖がらずに話しかけなかった場合というIFになっております。なのでかなり異なっている所があるのでご了承ください。


「ねえねえっこんなところで如何したの、お弁当を食べてるの?食堂あるのに不思議だね!」

「……えっと」

 

龍牙はその日も一人で食事を取っていた、初日の一件以来クラスの皆と距離を取り続けている彼は常闇という自分の個性に何処か憧れのような視線を向けてくる一人としか仲良く出来ていない。そんな常闇も他の生徒との交流があるのでそれを邪魔しないように龍牙は食堂を利用せず、外で適当な木陰で作ってきた弁当を独りで食べていた。そんな中、一人の女子生徒が自分を見つけるとすさまじい速度で駆け寄ると興味津々と言いたげに此方を見つめてきた。

 

天真爛漫を絵にかいたような好奇心旺盛な振る舞いと笑顔を浮かべながら此方を見つづける姿に龍牙は呆気に取られて目を白黒させ続けていた。

 

「あっそっかそっか自己紹介がまだだったね、ごめんね。私は波動 ねじれ、雄英の三年生だよ」

「せ、先輩だったんですか……えっと、1-A組の黒鏡 龍牙と申します。宜しくお願いしますえっと、波動先輩……?」

「ん~!!」

 

先輩と呼ばれたねじれはまるで快感に身を震わせるように天を仰いでしまった。そんな姿に龍牙は驚いたが直後に彼女に抱きかかえられるように抱きしめられると彼女は頭を撫で始めた。

 

「うんうんどんどん先輩って言って言って!!私先輩って言われるの憧れてたんだぁっ~♪皆波動さんとかねじれちゃんって呼んでくれるんだけど、だからこそ先輩って呼んで貰いたかったの!!ねえねえもっと、もっと呼んで!!」

「は、波動先輩」

「良い感じ~!今度はねじれ先輩でお願い!!」

「ねじれ先輩ってこんな感じで良いんですか?」

「うんうんいいよ良いよ~!!!龍牙君だっけ、これからも気軽にそう呼んでね~!!私は頭も撫でたいから、不思議だね何でこんなに撫で心地いいの?」

「いやそう言われましても……(汗)」

 

それが始まりだった。自分にぐいぐいと迫ってきて気軽に接してくれる先輩、波動 ねじれとの出会いがそれだった。

 

「ねえねえっっ龍牙君のお弁当って本当においしそうだね!!」

「今度先輩のも作りましょうか、好みの献立とか言ってくれれば入れますから」

「良いの!?やったっ~!!」

 

小さな子供のような天真爛漫さを発揮しながら龍牙と共に居る彼女、変わらないように一人で弁当を食べようとすれば決まって彼女と遭遇して一緒に食べるようになっていた。ねじれ曰く、何となくだけど龍牙の居る場所は分かるとの事。不思議だね!というが龍牙からしたら自分の居場所を完璧に把握する彼女の方がよっぽど不思議である。が、そんな不思議な先輩との一時を何時の間にか龍牙は心待ちにするようになっていった。

 

「ねじれ先輩、今日は重箱に挑戦してみましたよ」

「わぁっ大っきいねっ!!これ全部龍牙君が作っちゃったの?女子力って奴が凄いんだね!!」

「毎日手作りしてたら自然と誰でも出来ますよ、さっ先輩の好物もいっぱい入れましたから思う存分食べてくださいね」

「わぁ~い龍牙君優しい~!!」

 

唯々自分の空腹を満たすだけだった弁当もねじれ専用の物を自分で買ってきて、彼女の為に作った弁当の献立を毎日考えるようになっていた。好きなメニューを考えつつも栄養バランスや見栄えなども確りと計算して作った物を彼女は笑顔で美味しい美味しいと言って完食してくれる、本当に龍牙はそれが嬉しくて堪らなかった。

 

「ねえねえっこの子だよ、前に私が言った大好きな後輩君!!」

「おおっ君が波動さんのお気に入りの後輩君か!前途~……?」

「えっと、多難~……?」

「アハハッそう正解!!結構掴みは良い感じだったね!!!」

「ミリオ、それは如何かと思う。いきなり初対面の後輩に……というかこんな昼食の場に誘われて緊張で作って貰った重箱のご飯が喉を通らない……申し訳なさ過ぎて帰りたい……」

 

それだけではない、ねじれは友人とも言える3年の先輩を自分に紹介してくれた。それが彼女を含めてビック3と称される雄英でも最強の三人のうちの二人、通形 ミリオと天喰 環だった。ねじれに負けず劣らずのインパクトを持つ二人に驚きを隠せなかったが、龍牙は気付けば打ち解けて仲良しになっていた。

 

「その、俺の個性って怖くないですかね……」

「全然怖くないよ、寧ろ凄いイケてるしカッコいいじゃないか!!うん、めっちゃくちゃイケてるよ龍牙君!!」

「うん私は大好きだよその姿!!」

「……インパクトはあるけど怖くはないよ」

 

龍牙にとって大きな意味を持つ言葉もビック3は与えてくれた、それを聞いて龍牙は思わず個性を解除して大粒の涙を流してしまった。それに驚いてミリオは取り乱しながら必死に龍牙をなだめ、環は自分の言葉が傷つけてしまったのかと自虐に走りつつも必死に背中をさすり、ねじれは龍牙を抱きしめてそれを受け止めていた。

 

「頑張ってね龍牙君、私は3年の種目に出ないといけないけど応援してるよ!!」

「はいっ頑張ります!!後で一緒にご飯食べましょうよ、ミリオ先輩と環先輩も一緒に。今日は一段と気合を入れてお弁当作ってきましたから!!」

「期待しちゃうよ~!!」

 

気付けば龍牙はA組の皆ではなくねじれやミリオ、環と言った人たちと一緒に居る時間の方が遥かに多くなっていった。そして体育祭でもねじれの応援を受けて龍牙がそれに臨んだ、そこで自分の唯一とも言えるA組の友人である常闇と激突し、彼をライバルと認めた末に自らの全力を振り絞り個性を完全に発動させた。大勢が見る中でリュウガとしての姿を露わにした。相澤は爆豪と麗日の時のようなブーイングが起るのではと警戒していたが―――それすら起こらなかった。

 

巻き起こったのは静寂、誰も何の言葉を発さない静寂だけがそこにあったのだ。皆が龍牙の恐ろしさに言葉を失い、その力に恐怖を感じていた。誰も口を開けぬ中で戦い続ける龍牙と常闇、だがそんな龍牙を応援する声が観客席から会場全体に響いたのだ。

 

「頑張れ~龍牙君~!!応援してるよぉ~!!!いけいけぇ~!!!!」

 

ねじれだった。自分の出番も近い筈の3年の会場から彼女は1年の会場に駆けつけて精一杯の声援を送っていたのだ。静寂を破った自らへの声援を受けて龍牙が全開の力を発揮して常闇と激突し、満足の行く結果を迎えた。

 

「龍牙君、本当に良く、頑張ったね、本当に、本当に……!!」

「ねじれ先輩……先輩が、応援してくれたからっ―――俺は頑張れたんです……本当に、有難う……!!」

 

龍牙は結果として1年の部では準優勝に終わってしまったが、それをねじれは心から褒めた。そしてそれを龍牙はねじれからの声援があったからこそだという、静寂な場を打ち壊してくれたその声は龍牙の中にあった障害も打ち払い全力を尽くす事が出来た。全てねじれのお陰だった、此処まで自分がこれたのも、全て……。

 

「―――あの、ねじれ先輩……そのえっと」

「何、如何したの龍牙君?」

「……これからも頼っちゃっても、良いですかね……?」

「―――勿論良いに決まってるよ!!私は龍牙君とずっと一緒に居てあげるからね!!」

 

ねじれのそんな言葉に偽りは一つもなかった。その日から二人はより親密で密接な関係を築くようになっていった時折休み時間や放課後に、木の木陰で互いに肩を貸しながら眠りについている姿が目撃されたりするようになった。その時の二人は本当に幸せそうにしながら共に時間を過ごしていた。龍牙は未だにA組の皆とは完全に打ち解けあえてはいないが、今はそんな事は気にもならないのかもしれない。

 

「龍牙くんっ……ムニャムニャ……」

「ねじれ先輩……すぅすぅ……」

 

二人は本当に幸せそうに眠っている。目を覚ませば手を繋いで何処かに遊びに行ったりご飯を食べに行ったりするだろう。龍牙は満足出来ている、ねじれという深い絆で結ばれた相手が出来たのだから。今はきっとそれ以上は望まないのだろう。

 

「行こうか龍牙君」

「ええっねじれ先輩、いえねじれちゃん」




―――という訳でねじれちゃんルートでした。こちらはリューキュウルートとは違って年上というよりも先輩後輩を意識した感じになった感じですかね。

A組とはまだ仲良くなれきれないけど代わりにミリオと環と仲良くなっていく感じですね。多分職場体験もギャングオルカじゃなくてリューキュウの所に行ってますね。ちゃんと許可を取った上で。


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2人の英雄編―――誘われる黒龍

番外編、映画である2人の英雄編に行くぞぉぉお!!!
いやぁ見ましたよあの映画、超面白いですな!!!マジ最高。そしてメリッサさんすげぇ、いいっ……凄い、好きだ。

もっと早くに見ていたら、絶対にヒロイン候補にしてたのに……!!!!


「龍牙、林間合宿までの夏休みの予定はもう決まってるのかい?」

「いえ全く」

「それならこれを上げちゃうのさ!」

 

期末テストも終えて後は林間合宿を待つだけとなった龍牙は自宅で自習をしている時だった。自室に根津がやって来て予定を聞いてきたのでないと答えるとある封筒を取り出し、差し出してきた。それは立派な封がされているもので書かれているのは英語だった。

 

「……アメリカのヒーロー協会からって書いてありますね」

「そう、以前アメリカに行ったときに講演をしてね。その時になんかヴィランが爆弾を設置しちゃってさ、それを僕がちょちょいのちょいで解除した時のお礼みたいなものかな」

「相変わらずのハイスペックですね」

 

その爆弾も知性向上系の個性を持っていたヴィランが制作した物らしいが、根津にとってはお茶を楽しみながら解除出来る程度のものだった。しかも解除の合間に遠隔操作を逆探知してヴィランが潜伏している場所まで特定してしまうという事を行って逮捕に貢献した。その公演に参加していたヒーロー関係の著名人や大企業の社長、大勢の命を救ったとしてそのニュースは大々的に公表されていた。中を見ていいとの事なので開いてみると、そこには根津宛の手紙が入っていた。

 

「これも英語、当たり前か……」

 

そして根津仕込みの教育を受けている龍牙にとって英語など母国語も同じ。因みに根津の教育のお陰で他にも英語、ドイツ語、ロシア語、フランス語、中国語などが喋る。教える側がハイスペックだと教わる側もハイスペックになるのだろうか。因みに現在はスペイン語を勉強中。

 

「要約すると……事件解決と爆弾の処理を心より感謝します、そのお礼というには不釣り合いかもしれませんがI・アイランドにて行われるI・エキスポのプレオープンの招待状を送らせて頂きます。是非お使いください……ってあのI・アイランドに招待されるって凄いですね校長」

「エッヘン!!」

 

I・アイランド。世界中の企業からの出資によって建造された巨大人工都市で海上を移動するでヴィランに行方を掴ませないようにもさせている。世界中の優秀な科学者たちがここに住んでおり、日夜個性の研究やサポートアイテムの作成を行っているという人工島。そんな島への招待状が根津に来たという事になる。しかし、ここで根津は肩を竦めて息を吐く。

 

「僕も是非とも行きたいんだけどねぇ……ヴィラン連合に対する事とかで忙しくて行けそうにないんだよねぇ……念には念を入れて万全にしておきたいから」

「そっか……」

「だからさ龍牙、君代わりに行ってくれないかい?」

「―――へっ?」

 

思わぬ言葉に龍牙の目が点になった。I・アイランドに行く、自分が?

 

「僕の招待状だけどさ、僕が連絡さえしておけば君が行く事も出来るからさ」

「いやでも、良いんですか……?」

「勿論さ。それにこれはいいチャンスでもあるさ、I・アイランドで君の確りとしたコスチュームを作って貰いなよ」

 

龍牙のコスチュームは防刃防弾で耐火性能があるという程度のものハッキリ言って特質するものが一切ない。コスチュームであるならば自身の個性に合わせたものにし、個性を最大限に引き出したり個性にも負けない強靭なものにすべきだろうという物が根津の中にはあった。

 

「君の個性は基本的に上から鎧を着るって感じだからね、だからコスチュームの性能も上乗せできる。でもそれなのに龍牙は基本的な感じにしかしてないからねぇ……僕としてはもっと良いものにした方が良いんじゃないかなっと思ってね」

「いや今のスーツもカッコいいと思うんですけど……」

「(あの超人ロボOVAを見た影響かな……)まあ兎も角行ってきなよ龍牙。僕が良い人に話を通してあげるからさ、ついでに誰かお友達を連れて言って来ても良いよ、同伴者OKってあるし」

 

と内心である事を気にしつつもそう言い残して部屋から出ていく根津は早速連絡を取るのであった。そんな父の背中を見続けた龍牙が折角の機会なのだからI・アイランドに行くことを決めた。そして同伴者について考えだす。誰を誘うのが一番適切なのだろうか、自分にとって友達といえば常闇や焦凍になる事だろう。だが自然と二人に誘いを掛けるよりも先に目に留まった名前があった。

 

「そうだ、葉隠さんを誘ってみよう」

 

そう彼女のであった。自然と手が伸びたのは連絡先は葉隠、なんだかんだで彼女には本当に良くしてもらっているし入学直後のテストで声を掛けて貰えなかったら今頃如何なってしまっていた事だろうか……考えるだけでも恐ろしい。これはそのお礼も出来るのはと思って迷う事無く彼女に電話を掛けた。そして彼女は即答で行く!!という返事をしたので葉隠と共にI・アイランドに行く事になった。

 

「それじゃあ他には誰を誘おうか……」

『え、えっと実はね、百ちゃんのお父さんがI・エキスポのスポンサー企業の株主だからの招待状を貰ったから一緒に他の人を連れて行くって言ってたから多分誘わなくてもいいと思うの!』

「へぇっ流石八百万……それじゃあ行きは二人だね」

『うん、二人っきりだね!!』

 

此処で地味に他人が入らないようにして二人っきりという事を強調する葉隠。恋心に漸く気付き始めた彼女としては出来るだけ二人っきりでいたいのだろうが、それに龍牙が気付けるのは一体いつになるのだろうか……。因みに、この時にピクシーボブやリューキュウと知り合っていた場合龍牙は二人にも誘いを掛けている事だろう。そうなったらある意味面白くも恐ろしい光景が出来上がっていたかもしれない。

 

 

こうして龍牙はI・アイランドへと行く事になった。彼としては父の勧めで自らのコスチュームを作る為に、一方で葉隠としては愛しの彼との距離を一気に縮められるかもしれないという一大チャンスをものにする為、というよりも彼からの誘いを断る理由なんて一ミリもあり得ないのだが……様々な思いを胸に向かう先はI・アイランド、そこで龍牙は夏の思いがけない思い出と―――

 

 

「―――はい、はい分かりました。それじゃあ俺がその龍牙君、でしたっけ、彼のコスチュームを作ればいいんですね」

『そう、お願いできるかな。龍牙なら君を満足させる事が出来ると思う、君のインスピレーションが止まらない位にね。秀才の名をほしいままにしたね』

 

大きな出会いをする事になる、スーパーイベントとなる。

 

「お任せを、この天才に任せてくださいよ。根津先生」




最後に言っておく!!

多分この番外編、結構長くなるよ。

後、最後に出てきた人は分かる人には分かっちゃうと思う。


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2人の英雄編―――天才と龍牙

「龍牙君、本当に招待してくれてありがとうね!!」

「礼なら校長に言っといてよ、そもそも話を持ってきてくれたのはそっちなんだからね」

 

龍牙と葉隠の姿は長い飛行機での時間を経てI・アイランドへとあった。元々が根津への招待だったからか専用機のチャーター便での空の旅、最高級クラスでの超快適な空での旅を経て到着したI・アイランドで今は入島の為のチェックを受けている最中だった。所持している招待状や身分が投影式のモニターで確認されると無事に入島が許可されていよいよI・アイランドへの内部へと足を踏み入れる事が出来る事になった。

 

「ううっもう私楽しみ過ぎてワクワクだよぉ!!だってあのI・アイランドだよ!?私感激だよぉっ!!」

 

I・アイランドでは日夜世界中から集まった科学者たちが個性やサポートアイテムなどの研究が行われている。この都市は日本国外なので、公共の場で堂々と個性を使用するのも違法ではなく、個性を活用した娯楽も充実している。そして様々な施設も大量にある為、衣食住で不便することは全くない。此処で出来ないのは研究での守秘義務などがあるので旅行位しか出来ない事が存在しない程である。

 

「I・エキスポも近いだけあって凄い人だなぁ……後でパビリオンにもいてみようか、日本じゃ見られない個性を最大限に使った娯楽施設もあるみたいだし」

「行こう行こう!!」

「さてとそれじゃあまずはホテルに寄ってから荷物を置いてから、連絡をしないとな……」

「あっそっか、龍牙君は此処でコスチュームを作りに来たんだもんね」

 

と葉隠も超ハイテンションでとても乗り気だった。遊園地顔負けの施設が山ほどあるという事もあるが、それ以上に龍牙と共にそれらを巡れるという事が堪らなく嬉しい模様。と言っても龍牙の本来の目的は此処で自らのコスチューム制作なので遊びに来た訳ではないのだが……その位の時間はあるだろう。そんな風に思っていると此方に一つの影が迫って来ていた。

 

「おっ君が黒鏡 龍牙、かな。待たせるのも申し訳ないから迎えに来させて貰ったよ」

 

不意に自分の名前を呼ばれた事に反応するように振り向いてみると、そこには日本人と思わしき男性がフレミングの法則らしきハンドサインを作りながら此方を見つめていた。そんな男性に龍牙は見覚えがあった。ヒーロー界隈で一世を風靡、数々のヒーローの個性に合わせたサポートアイテムを作り出し、オールマイトに負けない程に平和に貢献し続ける自称天才物理学者に恥じない超が付くほどの大天才の博士がそこにいた。

 

「君の事は根津先生から聞いてるよ、ようこそI・アイランドへ」

「き、きき、桐生 戦兎博士だぁぁぁっっ!!!?」

 

葉隠は思わず大声を出しながら驚愕してしまった。龍牙が現地で合流予定になっている校長の教え子、と言っていた人物がまさかのあの超大天才の物理学者、桐生 戦兎だと思いもしなかった。が、これには流石の龍牙も予想外だったのか緊張しながら挨拶をしながら差し出された手を握り返した。

 

「わぁぁっ凄い凄い!!サポートアイテムとかコスチューム業界だと知らない人がいない位の超有名人と会えるなんて!!」

「俺としては先生からのお願いを聞いたに過ぎないんだけどね、まあそんなに硬くならなくても良いさ。さっ俺の研究室に案内しよう、そこで早速実験を始めようか」

 

そんな大天才に連れられて到着したのは桐生 戦兎専用の研究スペースとして用意された大型のビル。地上15階、地下3階まで完備した超大型施設、それら全てが彼一人の物だというのだから驚きである。そんな一室に通された二人、そこで目にしたは大型の機器がこれでもかというほどに設備されたこれぞ研究室という風な部屋であった。

 

「んじゃ龍牙君にはまずそっちで個性を発動させてくれ、簡単に君の個性数値を測定させてもらうからさ」

「分かりました」

 

指示されるがまま複数の器具の矛先が向けられているガラス張りの部屋へと入っていく龍牙を見送りながら戦兎は共に来た葉隠へと視線を向け直す。

 

「んでそっちの葉隠さんは龍牙の彼女さんか何かなの?」

「か、かかっ彼女なんてそんな!!?」

「フムフム、その反応からすると彼女ではないが好きではあるらしいね」

「あうあうっ……」

 

完全に胸の内に秘めているものを見破られた葉隠、見えないが顔を手で隠しながら思わず声が出てしまっている。そんな姿を見つつ若い子の青春だな、と思いつつそんな事を思う自分の年齢云々で自虐的になりながらも装置のスイッチなどを入れていく。

 

「こっちの準備は済んだ、それじゃあ個性を」

『はい』

 

全身の力を抜き、意識を集中させる……自らの内面に直接訴えかけるかのような感覚で体内にあるそれらを引きずり出す……そしてそれは龍牙の意思に呼応するように眠りから目覚めて黒い炎となって身体中を包み込んでいく。

 

リュウガ……!!

 

「これはっ……!!」

 

初めて目の当たりにする黒き炎から出でた黒龍の姿に思わず息を飲む。その身を覆う黒き鎧、その姿、圧倒的な存在感、そして計測されていく個性数値の値に驚愕を覚える。異常なまでに高い数値、唯才能があるだけではこのような数値には絶対にならない。厳しい訓練を数年、いや最低でも10年は続けないと出せないような数値になっている。根津から龍牙はギャングオルカの弟子でずっと厳しい訓練をし続けてきたという話は聞いた、その努力の結晶とも言える数値がそこにはあった。

 

「素晴らしい……なんて素晴らしいんだ……!!」

 

戦兎の胸に溢れたのは溢れんばかりの称賛と畏敬の念だった。話で個性の見た目について苦労している事も聞いているがそれについてはもう気にしなくなり始めているという事は知っている、だが実力についてはノータッチだった。実際に会って知るのを楽しみにしていた。そして今、こうして改めて凄さを知って感動の嵐。

 

「龍牙君、俺は全力で君の為に動かせてもらうよ。君に相応しい最強のアイテムを作ってみせる!!」

『心強い限りです』

「それにこの数値なら、俺の傑作のあのアイテムのパワーにも耐えられるはずだ!!ああ、なんて良い日なんだ!!先生からのお願いだから引き受けたけど、ああっ最っ高だ!!!」

 

歓喜に震える戦兎は同時に思う、此処まで練り上げるのにどれだけ苦労と努力を重ねてきた龍牙、彼の凄まじさが。そして同時に―――その凄さを知りたいという欲求が生まれる。それらを満たす為、龍牙の為にも自らの成すべきことを行い始める。




っという訳で我らが天っ才物理学者さんのご登場です。
はい、名前ネタです。だってまあ……万丈ではないけど名前は同じだし。

皆、大体万丈って呼ばれてるけど龍我でもあるんだよ万丈って!!まあ呼んでるのかずみんと香澄さん位だったような気がするけど。

万丈が、万丈だ、って呼ばれるのが主流なのも全部エボルトのせいだな。


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2人の英雄編―――天才科学者の個性と黒龍

「おおっ凄いなんて走力なんだ!!いやこれは個性関係なしに彼の実力なのか!!?」

『いえ、この姿だと俺の力が底上げされてるので個性も関係ありますね』

「最っ高だ!!なんて素晴らしい個性なんだ、もっと俺に見せてくれ!!」

 

戦兎の研究室にてコスチュームとサポートアイテムの開発の為に龍牙の詳しいデータを揃えてる為に様々なテストを受けている。今現在は走力の計測の為に高速で稼働しているコンベアの上で全力疾走を行っている。走る速度だけでもかなりの好記録なのか、戦兎の機嫌は更によくなっていく。これだけハイスペックな相手に合うアイテムを製作するというのに興奮しているのだろうか、葉隠と龍牙としては良く分からない世界だと思いつつもテストをこなしていく。

 

「腕部集中……ドラゴン・ストライクゥッ!!!」

「WOW!!パワーもとんでもないなぁ!!これは素材も吟味しないとダメだな、しかもただ強靭なだけでは彼の動きを阻害して機動力を殺してしまいかねないから柔軟性の向上も必須。だがそれだけの素材を作り出すのは容易じゃないな、これは素材の吟味と同時に製作面での新しい機材の設計から始めていく必要があるのか!?」

 

顎に手を当てながら高速詠唱をするかのように言葉を途轍もない速度で呟いている戦兎を見つめる龍牙と葉隠、唯々龍牙の個性に合わせた素材を探すだけではなく、それらのを素材を100%活かせるような機材の開発から入らなければならないという事が聞こえてきてなんだか想像以上にとんでもない事になってきたな、と少しばかり不安になりつつある。そんな時、戦兎に天啓が迸る。

 

「そうだ!!確か龍牙君の個性数値はこれほどまでに高いんだから、素材云々よりも個性に合わせてそれらと同調する系統のアイテムの方が余程合理的だし性能もあげられる!!そうだよ、ついついコスチュームって事にとらわれ過ぎたな!!そうだそうだよ、あのアイテムを彼なら活かせるかもしれないじゃないか!!最っ高だっ!!龍牙君ちょっと待っててくれ!!」

「えっ!?あ、あの戦兎さん一体どこへっ!!?」

 

と思わず声を掛けるが戦兎はそんな声が聞こえなく程に一気に加速して部屋を飛び出して行ってしまう。その際に微妙に彼の靴やらが発光しているように見えたが、それは気のせいだったのだろうか。思わず顔を見合わせてしまう龍牙と葉隠、今まで色々と濃い面子と会った事がある二人が、あれは別のベクトルの濃さだと再認識する。

 

「私、桐生博士の事ってすっごい大天才って事しか知らなかったけどあんな人だったんだね……」

「研究一筋って感じだったね……それと好奇心とかが刺激されたらなんか、それを止める色々なストッパーが一気に外れて暴走するタイプ……」

「だね……ねえ龍牙君、大丈夫かな」

「不安になってきた……」

 

2人も戦兎の事はそこまで詳しいという訳ではない。雄英のOBで自分達にとっての先輩、そしてサポート科に所属していたが雄英体育祭で他の優勝候補者を退けての優勝経験がある規格外な人物。それでヒーロー科への転入の誘いもあったそうだが、結局転入したのは3年になってからで基本的にサポート科の人間だった。そして卒業後、本格的に頭角を現した人物。

 

一時的にプロヒーローとして活躍したが、それも僅かな間で直ぐに研究方面に進んで様々な研究成果を世に送り出し続けている。特に革新的な技術の開発に新素材などの分野での活躍が目覚ましい。彼が開発したものがあるからこそ、今のヒーローのコスチュームとサポート業界が大躍進したのは間違いない事だろう。

 

「ただいまぁっ!!!」

 

とそこへドアを蹴り破りながら帰ってくる戦兎。流石は元プロヒーロー、ドアは大きく拉げた上に深々と蹴った際の痕が残ってしまっている。一体どんな脚力をしているのだろうか……と激しく思ってしまった二人が無残な事になっているドアを見続けていると戦兎がそれに気づいたように自慢げに語りだした。

 

「ほうっ二人とも線が細くて筋肉質じゃない俺が此処まで蹴りがやばいのが気になるか」

「流石にね……だって凄い拉げてますよ?」

「くの字ってレベルじゃない位になってますよこれ……」

「ふふん、それじゃあ改めて自己紹介も兼ねて俺の個性を教えちゃおうかな」

 

そう言うと戦兎は懐から何やら透明なボトルのような物を取り出すとそれを龍牙へと向けた、一体何をするのかと思った直後だった。龍牙の身体から黒い炎の粒子のような物が少しずつ溢れ出した。

 

「な、なんだこれ!?」

「りゅっ龍牙君から光があふれ出てるよ!?これが博士の個性ですか!?」

「ふふん、まあ見てな。大丈夫だ危険はない」

 

そう言いつつも粒子は更に溢れていき龍牙の身体から抜けていく、それらは戦兎の手にしているボトルへと次々と吸い込まれていく。その量に応じるようにボトルは少しずつ膨れ上がっていくのだが、それを見て戦兎は驚いたように声を上げてしまう。

 

「うぉっマジか、此処までボトルにギッチリ入っていくってどんだけ個性の出力がやばいんだ?潜在能力的にもまだまだ先があるって事だな……いやぁ将来が本当に楽しみだなぁっ」

「そ、そうなんですか……?」

「うしっもう終わるな」

 

その言葉通りに身体から粒子は収まり、それらは全てボトルへと飲まれた。指で口を閉めながらパンパンに膨れ上がったボトルを今度は巨大な装置の中へと入れて起動させる。静かだが力強い駆動音を立てながら装置が動き出したのを確認しながらモニターで装置にかけたボトルの状態を見て見ると全ての数値が計測範囲の限界をギリギリを記録している。

 

「うわぁっ~……なんだこれ、どんだけやべぇ出力してるんだよ龍牙君の個性。形容するなら放水しなきゃいけないレベルに溜め込んだダムみたいだぞ」

「そ、そんなに凄いんですか!?」

「そんなにやばい。逆にこれだけの出力があるのに暴走一つしてないって事はそれだけ制御を完璧に出来てるって事だな。改めて脱帽だ……」

「それよりも今のって一体……」

「あっそっか、悪い俺の個性の説明忘れてたな」

 

振り返りながら先程と似たようなボトル、何処か兎のような見た目をしている赤いボトルを見せながら声を出す。

 

「俺の個性は抽出、あらゆる物からその成分の抽出して採取する事が出来る。このボトルも俺の発明品でね、抽出した成分を完璧に保存出来る優れものだ」

「じゃあさっきの光は……」

「そう、さっきのボトルには龍牙君の成分が入ってる。正確に言えば個性の成分がな、こいつを解析すれば君にピッタリなアイテムを作り出す事が出来る。この天っ才物理学者に任せておきなさいって」

 

あらゆる物から成分を抽出する事が出来る個性、それこそが戦兎の個性。先程のキックも兎のボトル、ラビットフルボトルの成分を研究して作ったシューズがキック力を何倍にも増幅させた結果なのだと語る。そんなアイテムを複数持っているらしく、戦兎は現役自体はそれらを活用していたとの事。まあ大半の場合は試作品の実験が主だったらしいが……。

 




元サイエンスヒーロー、現天才物理学者、桐生 戦兎。個性:抽出!!あらゆる物から成分を採取して使用する事が出来る。有機物から無機物まで、あらゆる物から成分を取れるぞ!それらを利用したアイテムこそ戦兎の唯一無二の持ち味だ!!

という訳で、戦兎の個性でした。いろいろ考えた結果、こういう個性になりました。何かを作り出すのは個性というよりも戦兎自身の能力によるものだと思いますので。


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2人の英雄編―――龍と黒龍

「それで龍牙君のアイテムって結局のところ、どんな風になるんですか?」

 

龍牙の成分を抽出し、それを詳しく解析している所でその日は終了し、その後は飛行機での移動時間などの関係もあったのでそのままホテルへと送って貰った二人。彼女は翌日再び訪れた戦兎に気になった事を聞いてみる事にした。そもそも龍牙がこの島にやって来た目的であるそれが一番重要なのだから、聞くのは当然とも言えるのだが……そう言われて戦兎はよくぞ聞いてくれました!!と言わんばかりに表情を煌びやかにした。

 

「フッフッフッ……実は昨日聞いてくれるかと思ってて待ってたのさ……昨日、俺の個性については詳しく話したよな」

「ええ、抽出した個性は一時的に疲弊した状態になって出力が極端に落ちるってことまでは」

 

戦兎の個性である抽出、それはあらゆる物から成分を抽出して採取する事が出来る。生物である有機物から無機物まで、それは人間の個性なども含まれている。が、個性を対象にして抽出行い場合は対象となった個性は酷使した状態と同じになってしまう。現役時代にはこの特性を利用してヴィランの個性を抽出する事で確保を容易くしたこともしばしば……。

 

「まあ確り休めば一日ぐらいで元に戻れるんだけどな。だから龍牙君も倦怠感とかは無いだろ?」

「それはないですね、まあ確かに抽出された後はだるい感じがしましたけど全然動けましたけどね」

「流石あのオルカの弟子……」

 

確かに身体に強い倦怠感こそあったが、そこはタフネスお化けの龍牙。活動するには全く問題はなかった、それでも普段よりも黒炎の温度が下がっていたり、炎の勢いが凄まじく低下しているなどの事は把握していた。しかし戦兎の言う通り、ホテルで確り休んだからかもう全快状態となっている。そんな戦兎は懐から一本のボトルを取り出しながらそれを二人に見せ付ける。それは真っ黒な龍がボトルに刻まれている。

 

「こいつが昨日抽出した龍牙君の個性成分、黒いし龍だし……ブラックドラゴンボトル、長いからBRボトルって呼ぼうか。このボトルに合わせる形でアイテムを調整して龍牙君のサポートに当てるつもりだ」

「そのボトルに龍牙君の成分が……」

「そういう事、んでその為に調整するのがこいつって訳」

 

こいつと呼びながら取り出したのは四角い箱の用のように見える物、それに首を傾げているとそれから折りたたまれていた首と尾が伸びて身体を伸ばすかのように声を上げる。独特な音をまき散らしながら起動したそれは龍牙の周囲を飛び回りながらもこちらを観察しているのか、見つめてくる。

 

「わぁっなんか可愛い!!」

 

四角い胴体にそこから伸びた首にぴょこぴょこと動く短い脚、そして音を出し続けている姿に葉隠は可愛いと思ったのか興味津々と言いたげにしつつも目を輝かせてそれを見つめる。ドラゴンも透明な葉隠に興味を示しているのか首を傾げるようにしながら見つめている。

 

「この龍を調整するってどういう事なんですか……?」

「こいつはボトルを入れるように設計してあってな、入れるボトルによって様々な能力を発動出来る。そして特定のボトルを入れるとエネルギーフィールドを展開してそのボトルの能力をフルに生かす、この場合は龍牙君のボトルを使うと個性と同調して身体を保護してくれるんだ」

 

そう語る戦兎の言葉と裏腹にドラゴンは龍牙の頭の上に収まると暢気に欠伸をすると、そのまま寝息を立てて寝始めてしまった。本当にそんな事が出来るのかと疑問が出てきそうになるのだが、あの戦兎が言うのだからきっとそうなのだろう……多分、きっと、恐らく、メイビー……。

 

「あの桐生博士……何か、ドラゴン君寝始めちゃいましたけど……」

「ああそれ、龍牙君を独自にスキャンしてるだけだから気にしなくていいよ。まあ寝る必要はないんだろうけどさ……自立稼働型のAI積んだけど、なんか変な思考パターン構築してんのかな……」

「これからこいつが俺の相棒になるかもしれないのか……なんだろう、ちゃんとした関係築けるか不安になってきましたよ俺」

 

それを聞いて戦兎は呆気にとられた表情をしてしまった。今彼はドラゴンを明確に独立した一つの存在、一人の人間として扱おうとしている。今まで様々な物を作ってきた戦兎としては珍しいケースだった、AIを搭載したアイテムやコスチュームを作った事もあったが、あくまでアイテムと扱う者ばかりだったのに彼はドラゴンを明確に対等に扱おうとしている。矢張り面白い、そう感じさせる少年だと笑顔を作る。

 

「今はスキャン中なだけだからその内まともなコミュニケーションも取れるさ。今はそっとしてやってくれ、さてと……それじゃあ二人とも、折角I・アイランドに来たんだから色々と回ってみたいんじゃないかな。俺が案内してあげようじゃないか」

「ええええっ良いんですか!?でも桐生博士にそんな事をして貰うなんて悪いですよ!?」

「戦兎で良いって。俺からしたら二人は俺の恩師の紹介で来た相手だから逆に無碍にしたら怒られるってもんさ、それに子供は大人に甘えるもんだぜ」

 

何処か強引ながらも戦兎の好意に甘える事にした二人は研究所から出てこのI・アイランドを満喫する事にするのであった。折角来る事が出来たのだから思いっきり満喫してみたいという思いが少なからずあったためか、葉隠も龍牙も何処かハイテンションにそれらの申し出を受ける事にした。

 

「ほい龍牙、この帽子でも被っときな。それならドラゴンも目立てないだろ」

「有難う御座います」

 

そんな風に帽子を受け取った後に早速このI・アイランドを満喫する為の散策が開始されるのであった。I・アイランドでは日本では見られない有名なヒーローも多く集まっており凄まじい熱気に包まれている。

 

「見て見て龍牙君!!怪獣ヒーローのゴジロだぁ!!凄い凄いよ!!!」

「すっげぇっ迫力ぅ……」

「あれで日本人なんだから個性って本当にすげぇよな」

 

と本来はアメリカで活躍している筈のプロヒーローなども多くいるI・アイランド、加えて多くのパビリオンなども点在しているのでテンションが振り切れそうな勢いの葉隠と龍牙、そんな二人を見て微笑ましく笑っている戦兎。

 

「ねえねえ博士あれって何ですかぁ!!?」

「ああ、あれは個性をフル活用したアトラクションだな。遊園地のジェットコースターの百倍はスリリングだぞ」

「乗りたい乗りたい!!ねえ龍牙君行こうよぉ!!」

「行こう行こうって待って待って引っ張らないで!?」

 

と、珍しく葉隠が龍牙を振りますような光景がみられる中、戦兎は心の中で葉隠の恋が実るようにと秘かな応援を送るのであった。二人が満喫する姿を見ながら次の見どころへと案内している時の事だった、機を見て紹介しようと思っていた人物と遭遇する事になった。

 

「あれっメリッサじゃん、何やってんのよこんなところで」

「戦兎さんこそ、如何したんですか?」

「わぁぁぁぁっっサイエンスヒーロー・ビルドの物理学者、桐生 戦兎博士だぁぁぁ!!?」

「おいおいそこは、天っ才物理学者って呼んでくれよ」

「って緑谷、お前なんで此処に……?」

「りゅっ龍牙君に葉隠さん!!?」




次回から映画の本筋と絡んでいきます。にしても本当にもっと早く映画を見ていれば……メリッサを絡ませられたのに……くそ、なんで早く見なかったんだ……こんな魅力的なキャラを……。


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2人の英雄編―――メリッサと黒龍

一体どれぐらいで終わるんだろ、映画編……凄い長さになりそう……みんな、付いてこれるかな……。だって現段階で一体どれぐらいで終わるんだろ、映画編……凄い長さになりそう……みんな、付いてこれるかな……。だって現段階で映画の進み的に20分前後位でしょこれ。


「凄い凄いまさかあのたった1年のヒーロー活動でヒーロー界隈である種の伝説を打ち立てたサイエンスヒーローのビルドに会えるなんて僕感激です!!!」

「いやぁ俺のヒーローとしてのファンなんて珍しいなぁ。ほいっサインはこんなもんで良いか?」

「感動だぁ!!」

 

と適当なカフェに入った龍牙達一行、偶然出会ったのは緑谷ともう一人の金髪でスタイル抜群な眼鏡美女。戦兎とは顔見知りらしく名前で呼び合っている。

 

「あの博士、如何してヒーローをやめちゃったんですか!?博士ならヒーローとしての両立も楽勝だったんじゃないでしょうか!?」

「そりゃ俺は天っ才物理学者だからな、本当は楽勝なんだけど。あの事は丁度集中したい研究が溜まってたし俺は元々学者志望だったからなぁ……なまじ素の能力も高かったから学校から雄英の推薦をされて、試しに受けたら受かっちゃったのが始まりだったなぁそう言えば」

 

戦兎的には最初からプロヒーローとして活躍する気は薄く、学者としてヒーローを支える側として立つつもりでいたのだが……雄英体育祭で他の実力者を捻じ伏せて優勝してしまった影響で周りが騒ぎ立てたので1年だけプロとして活動して、その後は自分でどうするか決めると宣言してから学者になった経緯が存在している。

 

「結果が出せなかったらまたヒーローとして活動しろって言われてたんだぜ俺、まあそこは天っ才ですから、御存じの通りに結果を出しまくった訳さ」

「凄いご本人からこんなお話を聞けるだなんてぇ!!博士が実用化したものと言えば……形状記憶型の液体金属、多種多様なエネルギーを保存出来る技術、個性に同調して変形するサポートアイテムとか色々ですよね!!」

「そう、俺が今のヒーロー社会の一部を支えてると言っても過言ではない!!」

「凄いやぁぁあ!!!!」

 

と完全に太鼓持ちになっている緑谷と存分に自分を褒めてくれる存在に機嫌を酷く良くしている戦兎。ある意味この二人の関係はベストマッチと言っても過言ではないのだろうか……。そんな二人を見つつ、龍牙はメリッサと呼ばれていた女性と話をする事になった。

 

「それじゃあお二人も雄英の生徒なのね?」

「はいっ葉隠 透です。見ての通りの透明人間です!!」

「黒鏡 龍牙です」

「初めましてメリッサ・シールドです」

 

シールド、そのファミリーネームに聞き覚えがあった。あのオールマイトのヤング・ブロンズ・シルバー・ゴールドエイジのコスチュームの開発を全て行い、ノーベル個性賞を受賞する程の超優秀な科学者。尋常ではないレベルの有名人だ。

 

「龍牙君、失礼かもしれないけど今のそれが貴方のコスチュームなのかしら。見た所スーツだけど」

「ええまあそんな所です」

 

今龍牙が着用しているのは一応コスチューム、と言っても普通のスーツにしか見えないだろうが……しかしメリッサは瞳を鋭くしながら席を立つと龍牙の身体に触れながらスーツを厳しく吟味するかのように触れながらそれらについて考察を始めた。

 

「基本的な防刃と防弾の素材、それに耐火性が高い素材を表面にコーティングしてるのね……他に目立った物は皆無。コスチューム……というよりも寧ろ防弾チョッキとかにプラスαした物をスーツにしているって評価した方が正しいみたい。でもこれは全然龍牙君って存在を引き立ててないわね」

「えっそこまで解るんですか?」

 

一瞬葉隠はまさか新しいライバルが……と僅かながらに思ってしまうのだが、純粋に彼女が龍牙のコスチュームに対する評価を行っていると分かり、ホッとしつつも言葉に驚いた。コスチュームの仕様書などを一切読む事もなく見て触れるだけで龍牙のコスチュームの全てを見抜いてしまっている、技術者として一流であることを感じさせながらも人を観る目もある事を思い知らされる。

 

「ちょっと身体を触らせて貰ったけど本当に良く鍛え抜かれてる、純粋に大きいだけじゃなくて戦い事に適した発達した鍛えた筋肉。これなら所謂マッスルスーツなら更にそれが促進される、マッスルスーツには元々防御面も優れてるからそっちの方がお勧めよ、そっちにすると攻撃にスピードも倍増すると思うけど」

「はへぇっ~……凄いんですねメリッサさん、一瞬しか見てないのにそこまで言えるなんて……」

「まあ今回、このI・アイランドに来た目的もそのコスチュームづくりなんですけど」

「あらっなら丁度いいわね!!あっそっか、それで戦兎さんと一緒だったのね」

 

納得がいったように笑うメリッサに釣られるように笑う。

 

「それに龍牙君の身体って凄いのね、ちょっと触っただけだけど単純なトレーニングだけじゃあ此処までならない。凄い実戦形式の訓練を送って来てるんじゃない?胸の辺りに凄い傷もあるみたい、その感触もあったし」

「ええまあ、というか身体中にありますよ。俺の師匠の訓練は厳しいので」

「へぇっ~……でもそんな訓練を送って来てるんだからきっと凄い個性なのね」

「龍牙君の個性はものすんごいんですよ!!カッコいいですし、頼もしいんです!!」

 

まるで我が事のように葉隠は龍牙の事を語りだしていく、本当に嬉しそうに語るそれにメリッサも笑顔を浮かべてそれに耳を傾ける。

 

「私たち期末試験、タッグを組んで先生と戦うんですけど私と龍牙君はオールマイトが相手だったんですよ」

「ええっ!!?マ、マイトおじ様と戦ったの!!?」

「超圧縮重りのハンデはありましたけどね」

「そして龍牙君はそのオールマイトと真正面からぶつかり合って、スマッシュを何回も受けたのに倒れなかったんです!!」

 

オールマイトの凄まじさを知っているメリッサはそれを聞いて目を丸くする。あのオールマイトのスマッシュを受けて倒れずに立ち向かい続けるという異常とも言える体力、それらも身体中に刻まれている傷に裏付けられている経験が積み上げた物があるからこそなのだろう。

 

「そ、それで試験の結果は!?」

「最後まで龍牙君がオールマイトを引き続けててる間に私がカフスをオールマイトにかけて見事に勝ちました!!」

「す、凄い!!マイトおじ様に勝っちゃうなんて!!?」

「最後は凄い無様だったみたいだけどね俺……」

 

最後の最後は最強の一撃の打ち合いになる一歩手前で葉隠がカフスを掛ける事に成功していた、あれが無ければ多分自分はオールマイトのスマッシュで必殺技ごとぶっ飛ばされていた事だろう。でなくても自分は葉隠の行動を見て安心しきったのかその時点で意識が完全に飛んでしまった墜落じみた事をやらかしている。

 

「龍牙君貴方本当に凄いのね!!」

「いやぁまあ、その……それなりには……」

「それじゃあメリッサ、彼の個性見たくないか?ちょうどこの近くにヴィランアタックって言う施設があるから、そこで実力を見ようじゃないか」

「ぜ、是非見て見たい!!」




―――あかん、メリッサヒロインの話を凄い考えてしまう……!!だって完璧すぎない彼女、本当にヒロインとしての要素がありすぎる……健気で明るくて優秀で美人で……好きだ。


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2人の英雄編―――黒龍の評価

戦兎に連れられるようにやって来た施設はヴィランアタック、岩山を模したフィールドに複数のヴィランロボが設置されており、それらの撃破スピードを競うタイムアタック系の施設。此処なら存分に個性を使用での戦いなどを見せる事が出来る。

 

「龍牙君、是非見せて!!是非、マイトおじ様と戦ったっていう貴方の力を是非!!」

「いやでも……」

「お願いっ!!」

 

ヴィランアタックの施設に来てしまった以上やるしかないような雰囲気になっているが、龍牙の表情は何処か優れない。ヴィランアタックには観客がおり様々な人の目に触れるというのもあるだろうが……それ以上に龍牙は怖がられたりしないだろうかという不安も少なからず抱えていた。

 

戦兎は素晴らしいと肯定してくれた、個性を真正面から向き合っても恐怖どころか好奇心が刺激されてもっと調べたいと言っていた。ならば彼女はどんな反応をするのだろうか、此処まで友好的な彼女が態度を一変させるのではないのだろうかという不安が燻っている時の事、緑谷が無理にはと言おうとした時に彼の背中を戦兎が思いっきり突き飛ばした。

 

「此処まで来ておいて何言っちゃってる訳、お前さんは思いっきり自分の力を見せ付ければいいんだよ。堂々としながらな」

「戦兎さん……」

「大丈夫、見ててやるから」

 

肩を叩きながらそう言う戦兎に不思議と力を貰ったような気がする龍牙が一度だけ深呼吸をすると、覚悟を決めたようにヴィランアタックへの参加を決意する。

 

「本当!?やったぁっ有難うございます!!」

「ふふんっ本当に凄いんだから見ててくださいよメリッサさん!」

「あの、なんで葉隠さんが凄い自慢げなの?」

「パートナーの特権!」

 

そんな風にはしゃいでる姿を後ろ目に簡単に受付を済ませると早速ヴィランアタックのスタート地点に立った。

 

「さあ今度のヴィランアタックの挑戦者はスーツっぽい衣装に身を包んでるナイスな青少年君!!一体どんな記録を出してくれるのか非常に楽しみであります!!」

 

と司会進行のお姉さんが声を張り上げて盛り上げに尽力している最中、龍牙は唯々意識を集中させている。そして十二分に練り上げられた集中力を一気に爆発させるかのように全身から黒炎を溢れ出させる。

 

「もしかして、あれが龍牙君の個性……!?」

「そう、でもあれだけじゃないんですよ!!」

 

 

リュウガ……!!

 

 

自慢げにしている葉隠の言葉通り、直後に黒炎は更なる勢いを見せ付けながら天へと伸びる火柱へとなっていく。そしてその中から龍の咆哮と共に赤い瞳が輝きを見せる、一際大きな低い唸り声が響いた直後炎は四散しそこには個性を完全に発動させた龍牙の姿があった。

 

「こ、これはぁっ……!!!」

 

龍牙の登場を間近に見つめていた視界のお姉さんも言葉を失っていた、凄まじい炎の奔流だけではなく、その炎を突き破るように登場した黒龍の存在に言葉を失っているのか正しく何も言えないような感じだった。龍牙は矢張りこうなってしまうのか、と思い至りそうだったその時だった。

 

「な、なんとぉ挑戦者は雄英体育祭で話題になったあの黒龍、黒鏡 龍牙君だぁぁぁぁっっ!!!!これはなんというサプライズ、雄英体育祭は勿論このI・アイランドでも放送されておりましたがまさかその龍牙君がこの場に来るなんてぇぇええ!!!??」

『おおおぉぉぉぉぉっ!!!!』

 

上がったのは恐怖に歪んだ悲鳴でも助けを求める涙を孕んだ声でもない、歓喜に満ちてた大歓声だった。周囲の観客たちも大興奮と言った様子で立ち上がって様々な声を上げている。そんな大歓声に龍牙は完全に不意打ちを食らったのかポカンとしたリアクションで静止してしまった。心なしか赤い瞳が赤い点のようになっている気がする。

 

「す、凄い大歓声!?龍牙君大人気!!?」

「そりゃそうさ、司会が言ってたけどこっちでも雄英の体育祭は中継されてるんだ。その時に龍牙は凄い人気だったんだぜ」

「そうだったんですか!?」

 

スポーツの祭典、オリンピックに代わって日本中を熱狂の嵐で包み込む雄英の体育祭。それが人気なのは日本だけではなく、国内最高峰のヒーロー科のガチバトルなどを見られるという事で国外でも人気が高くこのI・アイランドでも放送されている。その時に龍牙の事も当然知られているのだが―――それがこのI・アイランドでは非常に受けたらしい。

 

圧倒的な存在感に凄まじい気迫、ダークヒーロー感漂う黒い炎を纏う龍の戦士は主にアメリカでは超絶な人気になっているとの事。プロヒーローの資格が与えられたらアメリカにスカウトするべきでは、という動きも一部で起っている、パワフルなアメリカらしい気風とも言えるかもしれない。

 

「えっと、始めても良いんですかねこれ……?」

「あっそうだったわね、それじゃあヴィランアタックスタートします!!」

 

とまさかの龍牙コールに戸惑いを隠しきれずにオロオロする龍牙はもうさっさと終わらせるべきだなと思い、高々と体育祭の決勝トーナメントでの名場面の紹介などをしているお姉さんに一言を掛けて、漸くヴィランアタックの開始にこぎつける事が出来た。深く腰を落として構えを取る龍牙に合わせるようにレディ……言葉を溜めるお姉さん。そして―――

 

「ヴィランアタック……スタートぉ!!」

「だあああぁぁぁっっ!!!」

 

直後、龍牙は龍頭から炎を溢れ出させると自らの周囲にも同じものを浮かべる。それらは龍牙の意思のままに配置されていたヴィランへと向かっていく、それを確認すると地面を殴って高々と跳躍する。黒炎がヴィランへと直撃したのを確認すると高所からも黒炎を放ち、隠れるように配置されていたそれを破壊すると最後、岩山の頂上付近にいたそれに対して必殺技を叩きこんだ。

 

ド ラ ゴ ン フ ァ ン グ イ ン パ ク ト

 

DRAGON FANG IMPACT(ドラゴンファングインパクト)!!!

 

それを受けたロボヴィランは粉々に砕け散って消滅してしまい、岩山の頂上には黒炎を纏った黒い龍が一人佇んでいた。青空を背後に立ちながら観客席を見下ろしながら龍牙は静かに右腕を空に向けて突き立てる、そして周囲は大歓声に包まれる事になった。

 

「す、凄い!!そしてタイムは11秒、11秒です!!ダントツの最高記録です!!!」

 

岩山に立つ龍牙の姿に大興奮な所に畳みかけるかのような最速タイムにもうその場も凄い事になってきている。龍牙も龍牙で自分の事を良く思ってくれているようだし、ヒーローはある程度のサービス精神が大切だとパワーコングが言っていたのでそれを実践したのだが……どうやらそれが熱狂的なものを生み出してしまったようだ。

 

「(……なんか、降りたいのに降りちゃいけない状況に……)」

 

 

「……龍牙君、凄い……本当に凄いよ龍牙君!!?私今年の雄英体育祭は見れてなかったんだけど生で見たかったよあれ!!?」

「後で俺が録画した奴まわしてやろうか?」

「是非お願いします戦兎さん!!」

「凄いなぁ龍牙君……」

「海外だと凄い人気なんだねぇ……」




という訳で海外だとクッソ人気な龍牙でありました。こういうのってアメリカとかだと受け入れられてるって感じが強いですし、というかアメリカとかだと思わぬキャラが人気とかありますからねぇホント……ゴジラの怪獣とか、えっそれなの?って思うのもありますし。

だから多分、日本よりもあっさり受け入れられるでしょうね多分。怖がられはするけど、そこまでではないと思います。


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2人の英雄編―――困る黒龍と喜ぶ科学者

アメリカとか龍牙が人気が出そうな理由。先駆者。

いやだってハルクとかバットマンとかヴェノムとかがすげぇ人気出てるんですよ、そりゃ龍牙だって大丈夫だわって本当に思いましたわ。うん、感想で言われて自分でもすげぇ納得いったもん。


「ァァッ!!?最高記録が11秒であのヴィラン野郎だぁっ!!?」

「えっこの声って……か、かっちゃん!!?」

「おっ緑谷じゃねぇか!!それに葉隠も」

 

龍牙が戻ってくるのを待っている時、緑谷は聞き覚えがある声に導かれてそちらを見て見るとそこにはまさかの幼馴染である爆豪、そしてそんな爆豪と仲が良い同じくクラスメイトの切島の姿がそこにあったのである。肝心の爆豪は此方を一瞬だけ見ると一々うっせんぇだよクソナードが!!と言った後にヴィランアタックの受付を済ませに行ってしまう。

 

「何だ皆も来てたのか、俺は体育祭で優勝した爆豪が招待されたんだけど俺は付き添いで着させて貰ったんだよ」

「あっそっか、かっちゃん優勝者だもんね」

「んで、龍牙の奴も来てるのか?」

「あそこにいるよ」

 

指が指される先に切島が視線を向けると、そこにはなんと個性を発動させたままの龍牙を取り囲むかのように人だかりが出来ている上にマイクやカメラを向けてインタビューの準備をしている人たちまで控えている。

 

「うおっ何だあれ龍牙何やったんだ!?タイムアタックの1位になるとああなるのか!?」

「それもあるだろうけど……」

「I・アイランドでも雄英体育祭は放送されてたんだけど、その時に龍牙君大人気になったんだって。海外の人達からすると龍牙君って凄いカッコいいみたいだよ」

「へぇっ良かったじゃねえか龍牙の奴!!凄い見た目の事で気にしてたし、万々歳じゃねぇか!!」

 

と切島も龍牙の苦労などを知っているので友として誰も怖がらずに寧ろ自分から寄っていく人々の姿に笑みを零す。肝心の彼は戸惑いの嵐だろうが、それでも避けられたり、面と向かって悲鳴を上げられて脱兎の如く逃げられるよりは遥かにマシという物。

 

「龍牙君サインお願いします!!」

「こっち見て、目線お願いします~!」

「将来有望なヒーロー候補にインタビューを行ってるんですけど一言!!」

「えっえっ!?あ、あのちょっと待って……!?」

 

個性を解除する暇もなく取り囲まれてしまった龍牙は唯々慌て続けてしまっている、体育祭直後に大勢の人に詰め寄られて事もあったが、あれ以来通学時間とルートを変えつつ帽子やらで変装していたのでなかったが、今回のこれはあの時以上の物でもう慌てる事しか出来ない。何時の間にか握られている自分の左手に写真のフラッシュが目潰しの如く降り注ぐ、本気で如何したらいいのか分からなくなってきた。

 

「そろそろ助けてやるか……龍牙君もここでは人気があるんだから気を付けろって事は理解出来た事だろうし」

 

そう言うと戦兎は懐から一本のボトルを取り出した、そしてそれを専用のグリップに嵌め込むとボトルから粒子が溢れ出していく。粒子は刀身がドリル状になっている剣へと変貌して戦兎の手に収まっていた。

 

「うおっなんすかそれ!!?」

「これは俺の発明品の一つ、その名もドリルクラッシャー!!剣と銃を一つにしつつそこにドリルを加えた俺の自信作!!こいつにこのボトルを挿入」

 

そして再度懐から一本のボトルを取り出してそれを振るう。戦兎曰く、ボトルを振ったりするのは内部の成分を刺激する為で振ることで内部の成分が活性化しより力を発揮するように設計されているとの事。それに合わせて刀身のドリル部分を取り外して反対にして差し込むと、そのままガンモードへとチェンジ完了してからそこへと組み込む。

 

Ready go! Voltech break!!

 

差し込まれたクラッシャーから甲高い駆動音が響き始めていく、鍔に相当する部分に存在するメーターは勢い良く回転していき稼働状態が良い事を示し、それらが一気に振り切れた段階を見計らって引き金を引く。銃口からは鎖状エネルギー弾が飛び出していく。それらは器用に龍牙を取り囲んでいる人たちを避けながら真上から龍牙を縛り上げた。それに合わせて戦兎がクラッシャーを持ち上げ、そのまま吊り上げるように彼を引き上げて助け出す。

 

「大丈夫か龍牙君、いやぁもっと早く助ければよかったかな?」

「い、いえ助かりました戦兎さん……いやマジで……」

 

完全に憔悴しきっているような具合になっている龍牙はもうぐったりとしており、漸く個性を解除して一息付けるかのようにその場にへたり込んでしまう。慣れないあの状況は龍牙にとっては酷く応えた様子、それを見て戦兎はもうちょっと助けてあげますか、と親切心を出して新たなボトルを指してからクラッシャーをメガホンのようにしてから声を張り上げた。

 

「あ~あ~……申し訳ありませんねぇ皆さん、龍牙君はこういった状況に慣れてませんのでこの位で勘弁してやってください。それに今回彼はプライベートで此処に来てますので、その辺り御容赦願います。正式な取材申し込みなんかは雄英なんかを通してやってください、それじゃあそういう事で!!」

 

そう言うとボトルを引き抜き、再度クラッシャーをボトルの内部へとしまい込むと龍牙を連れてその場から足早に立ち去る事にした。その際にメリッサや葉隠、緑谷を連れて他の場所に移動する事になったが、他にも雄英のクラスメイト達がいる事が切島経由から分かったのか後々合流する事になった。一同は休憩を兼ねてメリッサが研究で使用している研究室を訪れる事になった。

 

「……」

「お~い龍牙君、大丈夫かお前。ヒーローになるんだったらこの位慣れなきゃだめだぞ」

「わ、分かってるつもりですけど……今までとのギャップって奴が……」

 

部屋へとたどり着いた龍牙だが先程の事でかなりお疲れなのかぐったりとしてしまっている。今までが恐れられるばかりだった故の弊害だろうが、戦兎の言う通り慣れていかなければならない部分も大きい事だろう。と顔を上げた時に手を強く握り込みながら瞳を輝かせているメリッサが映り込んできて思わずビクッ、と身体を震わせる。

 

「龍牙君!!是非、是非私もあなたのコスチュームとサポートアイテムの制作に協力させてほしいの!あんなに素敵でカッコよくて魅力的な個性なんだもの、あの程度のコスチュームなんて駄目よ!!もっと、もっと貴方って事を強調出来るような物じゃないと!!」

「え、ええっ!?」

「だってあんなに素敵でいい個性なのにあれだけなコスチュームは勿体なさすぎると思うの!!」

 

何か、メリッサの中に何かを刺激してしまったのか目が凄いキラキラしている彼女の迫力に押さえて引き気味になっている龍牙。如何やら個人的に龍牙の見た目がツボに入った模様。

 

「戦兎さん、龍牙君のサポートアイテムは私の方で準備したいんですけどいいですか!?丁度今いいのが後ちょっとできそうなんです!!」

「それじゃあ俺の方で取った龍牙のデータ渡してやるよ、それを組みこめば早く終わるだろ」

「有難う御座います!!そうだ、デク君に渡したいものもあるからちょっと待っててね!!」

 

そう言って部屋の奥に駆け込んでいくメリッサを見送った一同だが、戦兎を除いて何処か完全に圧倒され呆然としているような形になってしまった。

 

「メリッサさんって結構夢中になると熱くなる人なんだ……」

「なんか、戦兎さんと似たような物を感じる……」

「私もそう思ってた……」

「いや科学者何て全員あんなもんだぞ」

『いやそれはないでしょ』

「お前ら息合いすぎじゃね?」




何時になったらこれ、映画の良い所に入るんだ……。後ちょっとかな……。後、少し検討中なのですが、この部分を一部本編にリンクさせようかなと考えてます。もしかしたらあり得るかもしれないのでご了承ください。


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2人の英雄編―――胎動する事件に直面する黒龍

「すっかり遅くなっちゃいましたね」

「大体戦兎さんとメリッサさんが白熱したせいだと思いますが」

 

結局あの後、龍牙の個性へのアイテム制作の話やらをしつつも緑谷の手を見てメリッサお手製のアイテムであるフルガントレットが緑谷に譲渡されたりを行っている間にすっかり遅くなってしまった。結果として龍牙にも新しい武器として戦兎とメリッサの合同で開発された新しい剣型の武器、ビートクローザーを入手する事になった。それも戦兎がドリルクラッシャーを仕舞っていたボトルを貰う事で楽々持ち運べるようになった。そして、パーティに出席する為に確りと正装へと着替えた一同は飯田たちが待っている待ち合わせ場所へと足を運ぶ事になった。

 

「すまん待たせたな飯田」

「漸く来たか龍牙君達待ってたぞ!!後来ていないのは八百万君達か」

「あっそっか、葉隠さんが八百万達も来るって行ってたもんな……」

 

此処で隣でドレスを着ている葉隠の言葉を思い出した龍牙、八百万はこのI・エキスポのスポンサー企業の株を持っており、その株主優待で招待状を貰っているとの事だったという事を漸く思い出す。そして待ち合わせを行っている中には焦凍の姿もあった。

 

「あれっ焦凍、お前も来てたのか」

「親父の代理でな」

「そっか、まあ代理でも楽しめればいいって奴だ」

「そうだな」

 

「そしてメリッサさんめがっさお美しいぃ~!!!」

「女神だぁぁっ!!」

「そ、そう言われると照れちゃうわ、有難うね二人とも」

 

と、メリッサのドレス姿にハートを打ち抜けたかのように腑抜けになっている上鳴と峰田、どうやら二人はバイトの募集でこのI・アイランドへとやって来て居た模様。龍牙がもみくちゃにされている間にメリッサが切島経由で渡したパーティの招待券を受け取って参加権利を得た模様。そんな二人がメリッサに夢中になっている間にどうやら八百万達、女性陣が到着した模様。

 

「ご、ごめん遅刻してもうた!!」

「申し訳ありません、耳郎さんが……」

「ウチ、こんな格好何て言ったらいいのか……」

 

全員が可愛らしく美しいドレス姿に身を包んで登場した、これで葉隠を含めた女性陣が勢揃いした事になる。純白のドレスに身を包んだ葉隠が駆け寄って恥ずかし気にする耳郎に声を掛けて大丈夫と励ます。

 

「大丈夫だよ耳郎ちゃん、凄い似合ってるよ!!」

「そ、そうかな……そうかな……?」

 

とチラリと視線でコメントを欲しそうに男性陣に目配せをするのだが……一番近くにいた上鳴と峰田は魅惑なボディと煌びやか且つ美しいメリッサに完全に視線を奪われて何も言わない。それを見て僅かながらに苛立ちを覚えたのだが、龍牙は即座にコメントを述べる。

 

「似合ってるよ耳郎さん。ボーイッシュな感じが一転してお淑やかだけど活発的なお嬢様な感じになって最高にマッチしてるよ。イカしてるよ耳郎さん」

「そうかな、そうかなぁっ……!!」

 

龍牙の言葉は恥ずかしさとこんなドレスが似合っているのかという不安に包まれていた心の靄を吹き飛ばして、煌びやかな笑顔を浮かべさせた。改めて龍牙を見るといい笑顔でサムズアップをしていた。

 

「そうだよ耳郎ちゃん凄いキラキラしてる!」

「うんうん、時間かかっちゃったけど選んだ甲斐があったよね!!」

「はい、お手伝いした甲斐がありましたわ!」

「うん、うんっ!!ウチ、イケてる!!」

 

自信を持つ事が漸く出来たのか、誇らしげに胸を張りながら笑顔を浮かべた耳郎。そんな彼女を見て葉隠は龍牙に向けてナイスコメント!!とサムズアップをすると、それが完璧に見えてるのか龍牙もサムズアップで返す。実は葉隠がコメントしてあげて!と小声で合図をしていたので龍牙はそれを受けたのである。まあ言われなくても彼ならば答えただろうが。

 

「おいおいお前ら何時まで此処で油売ってる気だ?早く行かねぇとパーティに乗り遅れるぞ」

「って戦兎さんその格好のままなんですか!?」

 

とその場にやって来た戦兎だが、彼の服装は全く変化していない。ランダムボーダーのTシャツの上に羽織った上着にジーンズというラフな格好のままで正装を一切していない。が当人は面倒だからな、の一言で済ませてしまう。

 

「俺は学会出る時とかも基本これだから、この島じゃこれが俺の正装みたいなもんだ。さてと、行くとするか」

 

という事らしいので戦兎はこのままの格好で行く事になりそうである。まあ本人がこれで良いと言い張っているのだからそれでいいのかもしれない。そしていい加減向かわなければ時間が危なくなってくる、漸く皆で海上へと踏み出していこうというその時―――真っ赤なemergencyという表示が至る所に表示されると共に隔壁の閉鎖が実行されていく。それと同時にアナウンスが流れてくる。

 

『I・アイランド、警備システムよりお知らせいたします。警備システムにより、I・エキスポエリアに爆発物が設置されたという情報をお知らせします。I・アイランドは現時刻をもって厳重警戒モードへと移行します、主要施設は速やかに閉鎖されますのでご注意ください』

 

「な、何々何が起こってるの!?」

「エマージェンシー……って戦兎さん一体何が!?」

「俺にも分からない、警備システムが爆発物を……いや、だからってこれは異常だ。これだけで警備システムが厳戒モードにはならない筈だ……エラーが発生している可能性があるな」

「私もそう思います、こんなことは絶対に可笑しいです」

 

I・アイランドで何かが起き始めている。それはこの島全土を巻き込んだ凄まじい事件の始まりそして―――

 

「さぁっ戦争(ゲーム)を始めようじゃねぇか……」

「クックック……腕がなるぜぇ……」

 

地獄めいた惨状を生み出しかねない実験の開始時間でもあった。




い、いよいよ動き出すぞ……映画の見せ場に……。


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2人の英雄編―――生み出すヒーローと黒龍

「さて、状況を整理するか」

 

短い時間にかなりの情報と状況に陥っている、故に一旦頭を冷静にする必要がある。戦兎は年長者として率先して周囲を纏め上げる為に情報を口にする。

 

まず、第一に自分達はこの状況の詳しい情報などを知る為とオールマイトとの合流を目的にしてパーティ会場へと乗り込んだ。しかしそこで待っていたのはヴィラン達の手によって身動きが取れなくなっているオールマイトの姿だった。どうやらヴィランが警備システムをジャックしたせいで、この騒ぎが巻き起こり、対ヴィラン用の特殊拘束器具がヒーロー達に使用されてしまっている。

 

そして身動きの出来ないオールマイトに携帯のライトでサインを送る事に成功、耳郎の個性で小声でも状況が把握できることを上手く伝えてオールマイトから情報を取得。タワーが占拠されている上に島民全員が人質にされている最悪すぎる状況、だがそれでもオールマイトは自分が何とかするから逃げろというのだ。本当にそうするべきなのかと皆が迷う中で飯田はいう、そうするべきだと。

 

「俺はオールマイトの指示に従うべきだと思う、俺達が下手に行動するよりも確実だ」

「私も賛成ですわ。ヒーロー免許もない私達が行動するのは余りに危険ですわ」

「だが脱出も容易じゃねぇのも事実だ、此処の警備レベルは高いからなぁ……」

 

重要な研究なども行われているI・アイランド。その為にこの島の警備レベルはヴィラン犯罪者などを収容するタルタロスと同じ防災設計が成されている、警備システムが奪われている以上、脱出も困難。このまま助けを待つしかないのかという選択肢しかないと思われる中で、龍牙の頭の上にいたドラゴンが漸く起きたのか泣き声を上げ始める。

 

「お前、今まで寝てたのか。肝が太いというかなんというか……」

『?』

 

首を傾げつつもじっとこちらを見つめてくるドラゴン、何かを言いたいのかと龍牙もそれを見つめ返す。

 

「龍牙君?」

「……」

『―――』

「成程な、そういう事か」

 

手を差し出すとその上にドラゴンは乗り、キープされ続けていた自らの成分のBRボトルが射出される。それを取りながら戦兎に貰った腰のボトルホルダーに収めながらドラゴンも懐に入れて戦兎に向き直る。

 

「戦兎さん、不躾なお願いをします」

「何だよ藪からスティックに」

「まだ、ヒーロー免許は保持されたままですか」

「―――ああ、勿論。ビルドとしての資格は持ち続けてる」

 

元こそ付くが有事の際にはヒーロー活動が出来るようにと戦兎は資格を持ち続けている。持っていて損が発生する資格でもないからというのもあるが、戦兎も戦兎で誰かを救いたいという思いで今の研究職にいる。そして龍牙の言葉で察したのか葉隠もその隣に立った。

 

「桐生博士、いえ戦兎さん。私も龍牙君と同じ気持ちです」

「……本気だな、その思いに迷いはないか」

「ないです。ヒーローを目指す以前に一人の人間として誰かを救いたい」

「誰かが困っていたら手を差し伸べる、それは当たり前です!!」

 

それを聞いて戦兎は笑った、嬉しそうな表情で顔をくしゃくしゃにした本当に嬉しそうで楽しそうな顔で笑う。二人の肩に手を置きながら口癖を言う。

 

「最っ高だよ二人とも。よし―――今だけは天っ才物理学者の桐生 戦兎の名前は忘れてくれ。今から俺の事は―――悪を壊し、人々の愛と平和を作り出すヒーロー、ビルドの桐生 戦兎って事で宜しく!」

「えっええっ!!?どういうことですか!?」

「プロヒーロー、ビルドの名の元に個性の使用を許可する!!」

「そ、そうか!!プロヒーローであれば一時的に個性使用許可を出す事が出来る!!」

 

そう、飯田も経験がある事。嘗てステイン確保を目的に保須市に赴いた時の事。突発的に起きた脳無との戦闘でチームリーダーであったパワーコングが自らと龍牙に個性を用いた戦闘を許可を出した。プロヒーローであれば緊急における個性使用を許可する事が出来る。その場合の責任は全て許可を出したヒーローが取る事になってしまうが……戦兎はそんな事気にするなと力強いサムズアップで応えた。

 

「俺が全責任は取ってやる。何心配すんなって、何だったら俺が使わなくなってた資格を返上すれば済むだけの話だ。それにな―――お前らヒーローを目指してんだろ、なら俺にその力を見せてくれよ。救ってやろうじゃねぇか平和の象徴を、この島の全てを―――さあ下向いてる顔を上げろ、拳を握れ、ヴィラン共をぶっ飛ばして警備システムを奪還してやんぞ!!」

『おおっ!!!』

 

全員の表情に覇気が宿る、先程まで暗くなっていた全員が。あの平和の象徴までが動けなくなっている現状に絶望すら感じていたのに、戦兎の一言で全員が前を向いた。力を振るって誰かを助けるという意志が全員を統一していく。元々あった灯は小さな物だったが自分が与えた僅かな物でそれが大きな炎へと生まれ変わったのだ。全く頼もしい後輩たちだ、これからのヒーロー社会には良い刺激を与えてくれると確信しつつ、何時か自分が彼らの為にアイテムを作ってあげたいとすら思える。そう思いながら、戦兎はヒーローのビルドとして変身する事にする。

 

取り出したそれを腰へと当てると自動的にベルトが伸びて、ジャストフィットするように腰へと巻き付いた。

 

「さあっ―――久々に実験を始めようか」

「そ、それって戦兎さん専用のアイテムのビルドドライバー!!?それにそのボトルってまさかぁ!!!?」

 

と此処でもヒーローオタクの本領を発揮して大興奮する緑谷、そんな声を聞いてテンションが上がりながらも両手に握った赤と青のボトル。それを振るって内部の成分を刺激していく。そして十分に振るうとそれをベルトへと装填する。

 

RABBIT(ラビット)!!〉〈TANK(タンク)!!

BEST(ベスト) MATCH(マッチ)!!〉

 

ボトルをベルトのスロットへと装填すると宣言される組み合わせによる最高の相性(ベストマッチ)、これが一番力を発揮出来る組み合わせ、そして矢張り自分にはこの興奮を忘れる事など出来ず永遠にこの力と居るしかないという最高の組み合わせ、正しくベストマッチ!! 懐かしい感覚だが、やはりこれは忘れられない。そしてレバーを回していくと戦兎の周囲を取り囲むかのように、成分を形にした物が現れ戦兎は宣言する。

 

ARE YOU READY ?

「変身!!」

 

その言葉と共に、自らを囲っていたそれらは勢いよく戦兎へと迫っていく。それらは完璧に接続され1ミリの隙間もないように一つとなった。赤と青、それぞれの半身が一つのヒーローの姿へとなった。

 

FULLMETAL(鋼の) MOONSAULT(ムーンサルト) !! RABBIT(ラビット) TANK(タンク) !! YEAH!!〉

 

「うおおおおっっすっげぇっ!!?変身したぁぁぁ!!!」

「かぁぁぁっこれで燃えない奴とかいねぇよずりぃよ戦兎さんよぉ!!!」

「凄いやぁぁあああ!!!もはや幻と化したビルドの変身シーンをこんなに近くで見られるなんてぇぇ!!!」

 

先程までの暗い雰囲気何て何処に行ってしまったのだろうか、兎も角やる事は決まった。やるべきことも決まった、ならば後はそこに向かって突っ走るのみでしかない。その為の道筋なんて自分がビルドしてやる、と戦兎はハンドサインを作りながら言った。

 

「さて諸君―――人助けのお時間だ……行くぞ!!」

『おうっ!!』




―――くっそめんどい。主にビルド変身の時の色変えるの。すっげえめんどい。やりたくない、でもやらなければならないという使命感が私を突き動かすの……ああっでも失敗して、やり直して成功した時の幸福感と陶酔感がやめられないの……ああっ罪な味わい……。

と世迷言はこの位にして、まあ実際色変えるの凄い面倒なんですけど、YOUTUBEとかで字幕の動画って凄い見てて面白いの多いので自分もそれに近づけたいっていうのが主です。マジで凄いよ、平常放送でもこれやろうぜって思うレベル。

そして―――案外耳郎さんとかヤオモモヒロイン編もありかな、と思い始めている今日この頃。


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2人の英雄編―――ビルドと黒龍

「警備システムを管理しているのはタワーの200階―――今はまだ30階か」

「って200階ってマジっすか!?」

「冗談言ってるように見えるか」

 

と表情こそ見えないが、両手を上げているポーズからして自分だって登りたくなんてないわというのが滲み出ている戦兎に皆も同じ気持ちを募らせる。この島を救うために、平和の象徴を救うために戦う決意を固めた一同は警備システムを管理している最上階の管制室を目指す。非常階段を登りながらヴィランと接触しない事を祈りつつ、駆け上がっていく。

 

「はぁはぁっ……メリッサ、さん大丈夫……!?」

「大丈夫、よっ……!葉隠さんこそ、息上がってみたいだけど」

「私はまだ、大丈夫です!」

 

流石にこの二人は他のメンバーに比べて息の上りが早い。葉隠もヒーロー科で学びながら授業などで身体は仕上がっているがそれでも個性は一切身体機能をカバーしてくれないタイプ。どちらかと言ったら一般的な女の子的な体力しかない彼女には30階までの階段を駆け上がるだけでもきつい、そしてそれはメリッサも同じく。インドア系且つ研究者的な彼女もこれは応える事だろう、だが戦兎だけでは警備システムを完璧に元に戻すとは限らないので彼女の協力は必要不可欠……頑張ってもらうしかないだろうか、という時に不意に龍牙は下に駆け下りて膝を曲げた。

 

「ちょっと失礼しますよお二人とも」

「えっ?」「へっ?」

「よっと」

「「キャアッ!!?」」

 

膝を下ろした龍牙はそっと二人の腰に手を伸ばすとそのまま軽々と二人を抱え上げた。仮にも二人の女性となるとかなり重い筈だが……龍牙はまるで重さを感じていないのかそのまま軽快な足音を立てながら階段を一気に登って先に進んでいた皆にあっさり追いついた。

 

「って龍牙テメェ何美味しいことやってんだあ!!?」

「こんな状況下で何だテメェ!!?つり橋効果でも狙ってんのか!!?」

「つり橋……?なんだそれ、どんな効果で何時発動するんだ?」

「「どっかで聞いた事があるようなボケかましてんじゃねぇよこの野郎!!」」

 

と後ろから血涙を流している上鳴と峰田から凄まじい罵声が飛んでくるのだが、それを素で理解しているのか受け流す姿を見てこれを本気で言っているんだから天然とは恐ろしいと思う皆であった。そんな天然の龍牙に抱えられている二人は慌てながら龍牙に降ろして貰えるように掛け合うのであった。

 

「りゅりゅりゅりゅ龍牙君あの、大丈夫だから降ろしてぇ!?」

「わ、私も大丈夫だから!!こんなことしてたら貴方が余計に疲れちゃうわ!!」

「平気さ、師匠との一週間の実戦形式訓練に比べたら疲労のひにも入らない」

「流石のタフネスだね龍牙君!!」

 

この先の事を考えれば葉隠の力もメリッサの力も必要になる可能性が高い、ならば二人の体力も温存するべき。そうであるべきならば消費する体力は一番持久力が優れている龍牙が合理的であると判断したのだろう。龍牙に抱えられた二人はその事を理解したのか甘んじてそれに受け入れる事にするのであった。

 

「あ、あの龍牙君本当に重くないの……?」

「全然軽いですよ。ちゃんとご飯食べてるのかって心配になる位には」

「それは龍牙君が強すぎるからだよぉ……」

「そうかな」

「(……おいおいマジで素面で言ってるのこれ、だとしたらすげぇ乙女殺しだぞあいつ……)」

 

ビルドとしての仮面の下で微妙な表情を浮かべている戦兎、一応龍牙について根津から聞かされてはいるので彼の過去の事も理解している。なので彼に悪意などがあって乙女心を玩んだりしているという訳ではなく、本心且つ善意や良心で言っているのも分かるのだが……余りにも女殺しな事を平然とやらかしている龍牙に呆れた表情が浮かんでくる。

 

そんなこんなでいよいよ80階へと到達しそうになってきたころの事、先に続く階段は完全に封鎖されてそれ以上登れなくなっている。一応非常階段の内部からならば扉のロックを解除して開ける事は出来るが、そうなれば確実に自分達の存在がヴィラン達に筒抜けになる。つまり、これ以上の隠密行動は難しくなってくるという事になる。

 

「くそっ……これ以上バレずに進むのは難しいか……」

「ならやるべきことは決まってますよ戦兎さん、僕たちはもう迷わずに突っ走るって決めてますから!!」

 

戦兎が一瞬だけ、何か策を考えるべきかと迷った時にそれを緑谷が全力で否定する。このタワーに向かうと決めた時から戦闘になるなんて最初から分かり切っていた事。寧ろ此処まで戦闘なしで進めただけでも御の字と言うべきだろう。それを見て戦兎は迷いを捨てる、そうだ分かっていたじゃないか。だから自分は個性の許可を出すと決めたのだから。

 

「よし、なら此処からは俺がこのシェルターをぶち破って囮になる。出来るだけ派手に暴れて多くの敵を引き寄せる、相手も俺だと分かれば警備システムのセキュリティロボで止めようなんて甘い考えはしない筈だ」

「でも大丈夫なんですか戦兎さん!?たった一人で囮になるなんて……!!」

「ヒーローの活動は全然してなかったけど、これでも身体を鍛える事はやめてなかったからな。安心しろ―――と言いたい所だけど俺一人だけだと囮に不安があるな……相手に威圧を掛けて囮としての機能を上げたい所だ」

 

威圧、相手にかける脅しで囮としての精度を上げると言われた瞬間に一人に視線が集中した。そう、龍牙である。相手を威圧して、注目を集めるという点において龍牙ならばそれは適任なのではないか。それを察して龍牙は成程と頷きながらメリッサと葉隠を降ろしながら拳を鳴らす。

 

「付き合いますよ戦兎さん、精々注目を集めてやるとしましょうか。師匠仕込みの対ヴィラン戦闘術……それを見せ付けてやる」

「おしっその意気だ。全員は一旦階段に隠れてくれ、俺達はこのままシェルターをぶち破っておくに行く。そうだ、葉隠ちゃんも悪いけど付き合ってくれ。きっと君の力も必要になる」

「わ、私もですか!?私なんかで良ければ連れてってください!!」

「よしその勢いだ」

 

これで80階から上へと隔壁を突破して登っていく3人が決定した。他のメンバーはシェルターを破って時間をおいてから扉を開けて別ルートから上を目指す事に決めた。そして彼が一旦階段に隠れたのを確認したのちに龍牙の懐からドラゴンが飛びだした。身体と首や足を頻りに延ばして漸く出番かと言いたげな雰囲気だ。

 

「龍牙君、ドラゴンの出番だ。そいつにボトルを十分に振ってから入れてから個性を発動するんだ。後はドラゴンの方が勝手に同調してくれるはずだ」

「分かりました、よし行くぜドラゴン!」

WAKE UP !! BLACK DRAGON !!

 

 

戦兎を真似てボトルを良く振っていく、内部では小気味良い音を立てながら成分が刺激されていく。そしてそれをドラゴンへと装填するとドラゴンの瞳が赤く輝き、黒い炎が漏れ始めた。それらから溢れる炎は自らの黒炎と全く同じものを感じる、ドラゴンは自分と同じ力を持った青い龍。そして徐々にその力が高まっている。それらに合わせるように自らも個性を発動させていく、自然とドラゴンの力も自らのそれと同化している行くような不思議な感覚を味わいつつも龍牙は全開に力を発揮させながら戦兎に倣って叫んだ。

 

ARE YOU READY ?

「―――変身!!!」

WAKE UP BURNING ! GET BLACK DRAGON !! YEAH!!〉

 

黒い炎を纏う青い龍の力を借りて至った黒龍の姿、普段と姿は変わらない。あるとすれば付けていたボトルのホルダーが腰にある程度で姿は全く変化していない。だが―――今までは全く別次元の何かを感じる。感じた事もないような、言葉に表せないような一体感をその身に感じながら龍牙は拳を握った。

 

「この感覚……すげぇっ……!!」

「おおっ流石俺!!一発で完全に同調成功しちゃったよ!!凄いでしょ、最高でしょ、天ぇっ才でしょ!!?」

「マジで凄い……!今の俺はもう―――負ける気がしねぇぜぇええ!!!」

 

葉隠はその言葉に驚いていた。龍牙は日常的にオルカに自信を圧し折られ続けていたために自らを常に第三者視点で見つめ、実力を冷静に判断し続けてきた。自らの力に確信こそ持つが自信は一切持たないタイプ、だが今は違う。全く違う力の感覚に心が躍り自信に溢れてしまっている。そんな彼を見て葉隠がしたのは―――

 

「龍牙君、そんな事言ってるよオルカさんに怒られるよ?」

「―――……そうでした、本当に有難う葉隠さん」

 

龍牙のストッパーであった。

 

「おお、ブレーキの握り方も分かってるとか最高だな!!よし、それじゃあ―――行くぞ」

「貴方とメリッサさんに作って貰ったこいつも活用させて貰いますよ!!」

〈BEAT CROSSER!!〉

 

ボトルを開けるとそこから飛び出したのは一本の剣、刀身には何やらイコライザーのようなメーターが内蔵されており、ボトルを装填できるようなスペースまで完備されている不思議な剣、ビートクローザーを構えてドリルクラッシャーを構えた戦兎と並び立つ。

 

「(……こうやってビルドとして、誰かの隣に立つのも何年振りだろうな……あいつと別れて以来か……いや、今は忘れろ)よし、行くぞ龍牙!!」

「ええ、行きますぜ戦兎さん!!」

 

戦兎は赤いボトル、ラビットフルボトルをクラッシャーに。龍牙は渡されていたもう一本のボトル、金色のロックフルボトルを装填しながら習った通りに装填した後、グリップエンドを引っ張ってパワーをチャージしてから構えた。

 

SPECIAL TUNE!! HIT PARADE(ヒッパレー)!! HIT PARADE(ヒッパレー)! MILLION SLASH!!

Ready go! Voltech break!!

 

二人の一撃がシェルターを意図も容易く吹き飛ばし、葉隠を連れた二人はその先へと駆けあがっていく。3人の戦いが始まろうとしている。




うーん、やっぱり面倒くさい……色変えるだけで一体どれだけ時間使ってるんだか……いやでも完成後のこの陶酔感に浸るのも一興……。

そして最後当たりの戦兎の台詞は別に伏線という訳ではないです、うん多分……過去に個性関係である事があっただけですから。うん。


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2人の英雄編―――暴れるビルドと黒龍

「オラオラオラァッ~天っ才物理学者のヒーロー、ビルドのお通りなんだから隔壁も確り開けなさいってのぉ!!」

 

緑谷達と別れて進む事になった龍牙と葉隠、そして戦兎。緑谷達が動きやすいように派手に暴れて此方に目を引き寄せる為の囮も兼ねる為に兎に角派手に動き回る。進む道を塞ぐ隔壁は破壊して突き進んでいく戦兎ことビルド、破壊した隔壁を補おうと新しい物が降りてくるのだが、それすら粉砕していくビルドの破竹の勢いは止まる事を知らない。一方の龍牙は龍牙で―――

 

「だああぁぁぁぁっっっぅっ!!!俺の、道を阻むなぁ!!!」

 

彼なりに目立とうと荒々しさを全開にして黒炎で隔壁や周囲の壁を燃やしながらビルドに続いていく。そこだけを切り抜いたら完全に龍牙の方がタワーを占拠したヴィランだろ、間違いなく言われるほどには荒々しく暴れている。

 

「もしかして龍牙君、その暴れ方……爆豪君を意識してる?」

「まあね。それに俺を殺すつもりで相対してくる師匠を混ぜてる」

「そりゃ迫力満点だよね……」

 

後ろから着いていく葉隠だが、ビルドは所謂愚連隊を率いるチンピラ的なものに何とか映る。が、龍牙の場合は見た目との相乗効果もあってとんでもない超凶悪ヴィランが暴れているように映る。師匠譲りのヴィランムーブ……というのだろうか、それが確りと受け継がれているのか歩き方に地面の踏みしめ方や息遣い、様々な物に迫力を感じずにはいられない。葉隠的には龍牙の事を理解しているのは全然怖くなどないのだが……何も知らない人が見たら大変だから自分が頑張って説得しないと……と内心で決意するのであった。

 

「おっ、漸くセキュリティロボを出して来やがったか。待ち草臥れたよ」

「他の連中が来るまでの時間稼ぎですかね」

「それが妥当だろうな」

 

そんな風に余裕をかましている戦兎の言葉通り、隔壁が開きそこから人型のロボがゾロゾロと列をなしてきた。機械の身体をむき出しにしながら銃剣を構えながらこちらにそれの矛先を向けている。

 

「葉隠さん、そこの影に隠れて」

「もう隠れてるよ!!」

「あいつらはセキュリティロボのガーディアン、持っている奴はゴム弾とスタンガン内蔵のナイフの銃剣で武装してる」

「随分詳しいですね」

「ちょっと前にあいつの改良案考えて欲しいって言われてさ、ダメ出ししまくったばっかりだからな」

 

あくまでセキュリティロボ、相手を拘束する事に特化しているので相手を殺傷する物は極力装備されないようになっている上に殺害はしてはならないというプログラミングも施されている。正直言って敵などではない。此処はさっさと突破するに限る。

 

「龍牙、折角だ。こいつらでそいつの最高火力を確認しとけ」

「了解です」

 

完全にガーディアンを障害物に思っていない二人、ビートクローザーにロックボトルを、ドリルクラッシャーをガンモードにしてからタンクフルボトルを装填すると構えを取る。それを見てガーディアンは一気に駆け出しながらゴム弾を連射してくるのだが、その程度では止まらないのがこの二人である。

 

SPECIAL TUNE!! HIT PARADE(ヒッパレー)! HIT PARADE(ヒッパレー)! HIT PARADE(ヒッパレー) MEGA SLASH!!

Ready go! Voltech break!!

 

「ォォオオオオリャアアアア!!!」

「いよっと……はぁぁっ!!」

 

刀身に炎が纏ったそれを渾身の力で振り抜かれる、黒い炎と金色の光が混合された一匹の龍が出現しそれらが此方に向けられて放たれてくるゴム弾を燃やし尽くしながらガーディアンへと向かっていく。そしてドリルクラッシャーから放たれたそれは、戦車の主砲から放たれる砲弾のような威圧感を纏い、ビルドがノックバックする程の爆発的な勢いで龍と共にガーディアンへと迫っていく。

 

『ゴアアアアアアッッ!!!』

 

龍が放たれた砲弾を銜えこむとそのままガーディアンの中央部へと突撃していき、ガーディアンを貫いて行きながらその中心部に到達した時に大爆発を引き起こしながらその場にいたガーディアンを飲み込んで消し炭へと変えていく。その爆発で天井の一部が崩落してしまい、上の階が露出してしまうほどの破壊力を発揮してしまい龍牙はマジで?と言いたげにビートクローザーを見つめてしまう。

 

「あ、あの戦兎さん……この破壊力はやばくないですか……?」

「いや流石に今のは俺の奴とのコラボだから、本来の威力はこれの半分ぐらいだから」

「十分にやばくないですかこれ……」

 

ガーディアンを巻き込んだ大爆発という事もあるだろうが、あれだけいたガーディアンを一瞬で灰燼に化すほどの火力に生まれ変わらせる事が出来る武器、それを持つという事に今更ながら強い責任を感じると喉を鳴らしながらそれを腰へと押し付けて固定する。

 

「それじゃあ上行くか、このまま俺達が暴れれば緑谷達が動きやすいだろ」

「分かりました、それじゃあ俺は葉隠さんと一緒に」

「ううっ……またご迷惑かけます……」

「いいっていいって、葉隠さん軽いし楽勝だよ」

 

顔こそ見えないが本当に優しい声色で囁くように、気遣うようにしながら優しい手つきで葉隠の腰?に腕を回しながら割れ物を扱うかのようにしながら多分、お姫様抱っこをする龍牙に戦兎は内心で呆れつつも自分だってあれほど鈍くはなかったと思うと思わずにはいられなかった。

 

「(いや、確かに俺も鈍い方だったとは思うけど流石にあそこまでは……あいつの事はある程度分かったもんな)」

 

当時の自分よりも酷い者を見て根津の苦労を察しつつも左脚に内蔵された強力なバネ(ホップスプリンガー)に力を溜めながら跳躍の体勢を取る。

 

『何も分かってないのはお前の方だろ戦兎ぉ!!』

『あ"あ"っ!?分かりにくいお前の方に問題があるんだろうがよ!!誰があれを告白だと思うんだよこの馬鹿女!!』

『何だとぉ!!?』

 

その時に不意に当時の記憶が思い出されるが直ぐにそれを胸の奥へとしまい込む。もう終わった事で蹴りが付いた事を一々思い出していてはキリがない。どうも同じ雄英生だった過去の事を思い出してしょうがない。そんな思いを振り払って左脚に力を込めて高々と跳躍して上の階へと侵入する、その直後に龍牙も同じように数度の跳躍を繰り返して上へと到着する。

 

「―――さてと、これからもっと目立つ事をするわけだが……今100階。この先にあるでかい広場に行く」

「広場、ですか?」

「そうだ。そこは個性を存分に使うためのホールで1フロワの大半がそのスペースに割かれてる、そこで俺達と戦えるように仕向ける」

「上手く、乗りますかね」

「乗るだろうさ、ロボじゃ俺達を止められないのは実証済み。なら―――全力でやれる場所で俺達を確実に確保したいだろうからな」

 

自信満々な戦兎の言葉を信じて案内の元、その大ホールに向かう事にする。到着したそこは本当に何もない大ホール、純粋に耐久力などに優れている作りになっており思いっきり個性を使用したとしても何の問題もない。そして入ると同時に反対側の隔壁が開き、そこから二つの影が現れる。それは―――蝙蝠のような大きな翼を広げながら胸には蛇の紋章を持つ大男と全身にギアのような物が装着されたアーマーを着込んだ奇妙な男が此方に向かって来ていた。

 

「なっ俺の言った通りだろ?」

「本当だったよ……」

「天才って凄いんですね」

「ノンノン、天っ才物理学者だからさ俺!」




ちょいちょい戦兎の過去を出していくスタイル。この辺りは本編とも絡めようかなぁと思ってます。

そして……もうお分かりですよね、ラストの敵。さあ勝てるかな、龍牙と戦兎、そして葉隠さんは!!


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2人の英雄編―――過去と対峙するヒーロー

「随分と暴れてるみたいじゃねぇか……なぁ桐生……」

「お前ら好き勝手やりすぎだ……」

 

そんな風に出てきたのは筋骨隆々な大男だった、それらは一時的に先程纏っていたものを解除すると顔見せながらそのような言葉を吐いた。その声色に戦兎は聞き覚えがあった、酷く昔に聞いたような気がする……。そして目を見開きながら、声を震わせた。

 

「ま、まさかお前達……!?」

「戦兎さん知ってるんですか!?」

「だ、誰なんです!?」

「あいつらは―――……えっと、あのどちら様でしたっけ」

『えええっっっ!!?』

『だぁぁっっ―――!!?』

 

タップリ溜めていたのにも拘らず、まさかの誰なのか全くわかっていないというオチ。龍牙と葉隠は声を上げて何だよそれ!?となり、目の前の二人は思わず頭からずっこけて軽くヘッドスライディングをかましている。二人からしても流石に覚えているだろうと思っていたのだろうが……戦兎的には全然だったらしい。

 

「桐生てめぇえええ!!!俺達を覚えてねぇってかぁ!!?」

「全然……」

「お前がビルド時代だった時に、お前ともう一人の奴に叩きのめされたんだよ俺達は!!」

「いや俺にとってはもうすげぇ前だし、お前達にとっては凄くても俺にとってはお前たちはただの雑魚って事だったんじゃないの?」

 

ヴィラン相手だからか一切遠慮もせずにズバズバと発言していく戦兎、心を抉るような毒を含んだ言葉にヴィランの二人は顔を真っ赤にしながら拳を握り、地面を踏みしめている。

 

「なら―――強引にでも思い出させてやる!!」

「おうよ、こいつを見てもそれが言えるかな!!」

 

そう言いながら二人の男が取り出したのは何やら銃にも見えるものだが、何やらビルドの腰にあるドライバーにもあるようなスロットが存在している。そして取り出したそれを見て龍牙と葉隠は驚いた、それは戦兎が使用しているフルボトルだったからである。

 

「戦兎さんあれってボトルじゃないですか!?」

「―――思い出した、あれは確か俺が随分前に作ったトランスチームガンにそのプロトタイプのネビュラスチームガン……!!」

 

Bat…! Cobra…!

 

Gear Engine(ギアエンジン)! Gear Remocon(ギアリモコン)! Funky Match!!

 

トランスチームガン、ネビュラスチームガンを手にした男たちはその手に二本のボトルを手にしながらそれぞれを交互に装填する。二本を同時に使うのではなく、一本を指した後にそれを抜いて新しく一本を指す。ビルドとは全く違うそれらを行う光景の中で、男たちは口角を歪ませながら銃口を天に掲げながら叫ぶ。

 

「蒸血……!!」

「潤動!!」

 

トリガーを引いた瞬間、それらを祝うかのような声が響くと一方の銃口からは公害のような煙が立ち込めていく身体を包み込んでいき、内部では火花を散らしながら幻惑の瞳が妖しく輝く。一方は黒い煙と共に無数の歯車が飛び出し空中で踊りながら互いに絡み合い、音を立てながらギアを回す。それらが極限にまで高まるとギアは煙の中へと突入し男へとめり込むように装着される。

 

Bat…Coco…Cobra! Cobra…Ba…Bat……!!TWIN FIRE!!

 

そこに立っていたのは雄々しく蝙蝠の翼を広げた怪人、全身を黒と血のような赤で染め上げた怪人は胸に掲げた蛇の紋章を輝かせながら首を鳴らしながら此方を凝視しながら銃を持つ。

 

Fever!! Perfect!!

 

全身に歯車が埋め込めれたような男、二種類の色違いのギアが身体を作り上げたそれはギアの怪物。顔すらもギアで覆われた怪人は奥に埋め込められた瞳をぬらぬらと妖しく輝かせた。

 

「これで思い出したかぁ……桐生!!」

「お前から奪ったこの力、俺達の力を!!」

「漸く思い出した……お前ら、俺の家を空き巣したヴィランだな、ヘルブロス……でも片方が違うな」

「何時までもあの時のままじゃねえ、今の俺はナイトスタークだ」

 

やっと思い出しやがったか……と思わず落胆するよう二人。ナイトスタークにヘルブロス、戦兎は今のビルドに行きつくまでに様々な物を開発していた。そしてそれらは自らの家の中で保管していたのだがそれが盗難される事があった。その犯人がナイトスタークとヘルブロス、加えてナイトスタークは機械に強いのか、自らトランスチームガンを改良しバットとコブラを組みわせた形態を作り上げている。

 

「気を付けろよ龍牙、仮にもあれは俺の開発した物だからな。下手なヴィランよりも厄介だぞ」

「そんな相手の事忘れたんすか……」

「いやだってその時は全然苦戦しなかったし、その時は俺一人じゃなかったし」

「えっじゃあ戦兎さんって一人で活動してたんじゃないですか?」

「……まあ、コンビがいたよ。あのヒーローオタクな緑谷なら確実に知ってるだろうな」

 

改めて構えを取る龍牙と戦兎、葉隠には下がっていて貰う。そんな二人を見てヴィラン組も構えを取る。

 

「おい桐生、あの時のバニーちゃんは何処だ。あいつにも確りとお返ししてやらねぇと気が収まらねぇ」

「そうだ、あの時俺の顔を蹴りやがったドギツいコスの兎女は何処だ!」

「今は一緒じゃねぇよ、今は隣の龍牙が俺のパートナーだ」

「そういう事だ。何の話かは分からねぇけど……相手してやるから来い、今の俺に勝つのは容易くないと知れ」

 

強気に構えを取りながら威圧する龍牙、矢張りドラゴンとの同調の影響で多少なりとも好戦的になっているのかもしれないが、それでも十分過ぎる程に冷静さを保てている。その点を戦兎は見抜き、後で確りと調整してあげないとダメだなと内心で思っておく。

 

「さてあの時の仕返しだ……あの時の俺と一緒にするなよ……。このナイトスタークの力を思い知らせてやる!!」

「やってみろ蝙蝠蛇野郎、人の発明品でいきってんじゃねぇぞ」

「ツラの悪い龍の兄ちゃんよぉ……テメェを地獄に送ってやるよ」

「生憎、地獄なんて師匠のお陰でもう見飽きてる。代わりにお前に―――冥府を見せてやる……!!」

 

『行くぞぉ!!!』




という訳で大勢の皆さまの予想通りでした。まあ一部は違うけど、折角だからこっちでもやられたらいいなぁと思って。


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2人の英雄編―――作り続けるビルドと超える黒龍

「ふったぁっ!!」

「らぁぁぁっっ!!!」

 

ぶつかり合うビルドとナイトスターク、それぞれの攻撃がぶつかり合いながらも互いにそれらを受け流しつつも相手の喉元に噛みつかんと迫り続けていく。ナイトスタークは片手にはトランスチームガン、片手にはそれらに接続して使用出来るような仕様にしている刀身にバルブが付いた片手剣のスチームブレードを握りしめながら荒々しく切りつけてくる。それらをドリルクラッシャーで受け止めつつも、片足のスプリングで距離を取りながら片足のキャタピラで高速移動しながらの攻撃というヒット&アウェイなどを繰り返していくビルド。

 

「テメェッ……一々逃げてんじゃねぇぞぉ!!」

 

そんなチクチク戦法がお気に召さないのか怒りを露わにしながらも胸部の蛇から大型のコブラ型のエネルギー体を生み出して駆けまわるビルドを追従させていく。それらを見てもビルドは一切の余裕を崩さない、それ所か敢えてアクロバティックなジャンプを見せながらコブラの攻撃を回避して見せる。

 

「戦いに相手の都合を考えてたら面倒だ、自分の得意を押し付けるのが戦い、だぜっ!!」

「だああああぁぁぁっっ!!!!」

 

直後、再度大ジャンプをする。それらは噛みつかんと迫ってくるコブラを回避した、というだけではなく自らの背後から迫ってくる黒炎の奔流を回避する為であった。ナイトスタークはそれに驚くが視線の先では片手でヘルブロスの攻撃を完璧に受け止めながら、黒炎を吐き出した龍牙の姿があった。

 

「流石だな龍牙、俺の動きに合わせられてる!」

「そちらこそよく俺が攻撃する事が分かりました、ねっ!!」

「ガブフッ!!?」

 

直後、攻撃を防がれていたヘルブロスに龍頭でのアッパーカットが炸裂する。それに情けない事を漏らしつつも、そんな自分と出せた元凶である龍牙へと怒りの矛先を向けながら両腕のギアを高速で回転させながら、それらで龍牙を刻もうとするのだが―――そこへなんとビートクローザーが飛んできてそれをキャッチした龍牙は屈みながらブロスを足元を薙ぐような一閃を放って掬い上げた。

 

「なっ!!?」

 

崩れ落ちようとする視線の先では透明なドレスが浮かんでおり、手袋のような物がVサインを形作っていた。そう葉隠である、敢えて手放していたビートクローザーを抜群なタイミングで投げてアシストしたのである。そして龍牙はクローザーのグリップエンドを何度も引っ張る。

 

HIT PARADE(ヒッパレー)!! HIT PARADE(ヒッパレー)! MILLION SLASH!!

「食らええええッッ!!」

 

金色のエネルギーを纏ったビートクローザーを力任せに叩きつけるかのように振るう龍牙。それらは空気を引き裂きながら押し潰すかのように迫り、防御の為に差し向けられた両腕のギアの刃を砕きながらボディへと迫っていく。そして胸部のギアが防御の為に回転してそれらを受け止めるのだが、それでも衝撃を全く殺しきれずに自らも地面に強く叩きつけられた所で漸く刃を受け止め切れた。

 

「ぐっ……!!何だこのパワーは……!?俺は、こいつを使いこなす為に一日だっで欠かさずに使わなかった事なんてなかったんだぞ!!?それなのに何で!!?」

「アンタの努力なんて知った事じゃねぇ……アンタが弱いんじゃねぇ、俺がアンタよりもずっと先に行ってる。ただ、それだけの事だぁぁぁ!!!」

 

ヘルブロスを蹴り上げ、そこへ腰だめにした龍頭を構える。それを見てギョッとするブロスだが直後に一回り巨大になった龍頭が自らの身体へと炸裂する。

 

「ドラゴン・パワーラリアット・ストライクゥッ!!!」

「がぁぁぁっっ!!!」

 

ラリアットの要領で打ち付けた龍頭、そのはずみで軽く浮いた所へ跳躍した龍牙がヘルブロスへと渾身の正拳突き、ドラゴン・ストライクを炸裂させる。浮き上がっていた身体は地面にめり込むほどに打ち付けられた、そして地面には龍の紋章のような物が黒炎によって刻印される。それらを受けたヘルブロスは完全に動かなくなってしまい、重々しい息を吐き出しながら変身が解除されてしまいそのまま意識を手放した。

 

「やったね龍牙君!!戦兎さんが作ったアイテムを使ったヴィランをやっつけちゃった!!」

「葉隠さんのお陰さっ良くあのタイミングで投げてくれたよ!!」

「エッヘン!!伊達に龍牙君と一緒に居ないしパートナーじゃないからね!!」

「「イエーイ!!」」

 

と思わずハイタッチを決める。透明な少女と見た目ヴィランな龍戦士がハイタッチする姿はどことなくシュールな感じがするのである。

 

「な、なんだとぉ!!?ヘルブロスがなんであんなに簡単に!!?」

 

ビルドと戦っていたナイトスタークは相方のヘルブロスが呆気なく倒されてしまった事に驚愕してしまう。だが戦兎はある種当然のようにも思っている。あのギャングオルカの地獄とも言える扱きを受け続けてきた彼が自分の作ったドラゴンによって普段ならば身体に負担がかかる筈の力を何の障害もなくスムーズに出せるようになっている状態、そしてやや好戦的になっているので普段よりも力が出ているのもあるだろう。それらの要因が重なってヘルブロスはあっさり倒されたのだろう、他にも要因はあるだろうが。

 

「お前さ、幾ら俺の発明品とはいえ毎日毎日使ってたなんて事になったら流石に少しずつガタが来ると思わない訳?幾らメンテし続けてもそれを数年続けたなら一から作り直すレベルでオーバーホールしないとダメに決まってるだろ……」

 

呆れ混じれにそんな事を言う戦兎にナイトスタークは思わず、あれのメンテもしていたが特に大した問題もなかったので簡単な物ばかりだった事を思い出す。未だ問題が起きていないのは戦兎が作ったからこそ、だがそれでもシステムの奥深くなどにダメージは蓄積し続けるもの、それらを解消する為に全とっかえレベルのオーバーホールが必要。流石に毎日使い続けていたのならば簡単な物ではなくそれなりのレベルのメンテをしなければならない、でないと次第に劣化していく。

 

「お前さんのトランスチームガンの方は問題なさそうだな、まあ自分で手を加えたらなら当然だな」

「クッ……当然だ、俺のは限界まで出力を上げてるから週に一度はハイレベルなメンテを欠かさなかったからな」

「いい心がけだ、感動的だな、だが無意味だ。それでも俺には及ばない」

 

挑発するような物いいだが現実問題として自らがあっさりとあしらわれている現実が立ちはだかっている。あの時よりも攻撃力、防御力、機動力、各種出力を限界まで高めているのに如何して此処まで劣勢なのかと焦りを感じずにはいられなかった。しかしそれらの答えは余りにも簡単だった。あの日から何年も立っているが戦兎も当時のまま立ち止まっている訳が無いのだから。

 

「俺があの日のままだと思ってたのか。改良と調整を繰り返し続けるのと同時に身体だって鍛え続けてきたんだ。言い方も悪いが昔の発明品に俺と共に過ごしてきたあいつとの最高傑作が負けるわけがないんだよっ!!!」

 

Ready go! Voltech break!!

 

ラビットフルボトルを装填したドリルクラッシャーを握りしめ、それらを渾身の力で振るう。それをトランスチームガンにスチームブレードを接続したトランスチームライフルで受け止めるのだが……ラビットボトルの力で凄まじい回転をするドリルの勢いで連結が外れてしまい、弾かれた所にクラッシャーが炸裂し大きく吹き飛ばされてしまう。

 

「そんな、馬鹿なぁ……!!ナイト、スタークが負けるなんてあり得ねぇ……!あり得てたまるかぁぁぁっ……!!!」

「これで終わりにしてやる……俺から盗んだ物を好い加減返して貰うぞ!!行くぞ龍牙!!!」

「ああ、これで決めてやる!!!」

 

隣に走り込んできた龍牙もドライバーのレバーを回す戦兎の声に呼応するように全身から黒炎を溢れ出させていく、夥しい炎が龍牙を包み込み蜷局のような物を巻いていく。だがそれらはドラゴンのような咆哮を上げて一つの存在へと昇華されていく。それは黒い身体を持つ黒龍となって高らかに咆哮を上げた。

 

「うおっなんか出たぁ!?これも戦兎さんのドラゴンの力!?」

「な、なのかぁ!?ま、まあ詮索は後だ、決める!!勝利の法則は、決まった!!」

「ズァッ!!」

 

Ready Go!!

 

戦兎ともに飛び上がる龍牙、それを追従するように飛び上がっていく黒龍。高らかに跳躍した二人、そしてビルドが飛び上がると同時にX軸とY軸で表示された何かの計算式のような物が出現するとそれがナイトスタークを完全に拘束してしまう。

 

「な、なんだこりゃ!!!?」

 

嘗てこんな攻撃はなかったはずと焦りながらも必死にもがいてそれらを振り解こうとするが、全く外れない。その間に龍牙とビルドは完全に狙いを付けた。そして―――

 

ド ラ ゴ ニ ッ ク フ ァ ン グ フ ィ ニ ッ シ ュ!!

 

DRAGONIC FANG FINISH(ドラゴニックファングフィニッシュ)!!!

Voltech FINISH!!

 

「はぁぁぁぁっっ!!!」

「だぁぁぁぁっっ!!!」

 

黒龍が放つ黒炎を身体に纏いながら、それを推進力にして加速する龍牙と計算式を滑るようにして向かっていくビルド。その二人の必殺のキックが同時にナイトスタークへと炸裂する。爆炎の蹴りと勢いを付けながらも無限軌道が身体を削り蹴り、それらを耐えきる事などは出来ずに大爆発をもってナイトスタークは完全に変身が解除されてしまい、その場に倒れ伏してしまう。それを見た戦兎はヴィランから発明品を取り上げ、それを持っていた空のボトルへと押し込んだ。

 

「よし、ネビュラの方持ってきてくれね?」

「持ってきましたよ~戦兎さん!」

「おっナイス葉隠ちゃぁ~ん」

 

そちらもボトルに入れておく。これにて完全に終了……したと思ったのだが未だに出現し続けている黒龍に目が行く。これは一体何なのか、もしや龍牙の中にある個性の更なる可能性なのかと思案していると突如、龍牙が膝を付いてしまった。

 

「りゅ、龍牙君どうしたの!?」

「わ、分からない……でもなんか身体が……凄い重い……!!」

 

その言葉の直後、龍牙の個性が解除されてしまう。そして同調していたドラゴンも床に転がるとボトルを吐き出しながらもドラゴンはスパークを起こしながら壊れてしまい動かなくなってしまう。

 

「あああっ!?何で壊れたんだぁ!!?」

 

直後、黒龍の姿も消えてしまった。戦兎は取り敢えず龍牙の体調の確認とドラゴンを回収しながら様子を見るのだが、その間にI・アイランドの事態が収拾するという珍事が発生するのであった。三人は顔を見合わせながらも何とも言えない表情にならざるを得なかった。

 

そしてドラゴンの故障の原因は純粋な出力のオーバーフロー。元々龍牙の個性を封じ込めたボトルと同調していた影響で実力以上の力が出せるようになっていた龍牙、その結果眠っていた潜在能力を過剰に引き出してしまったのでドラゴンがそれに耐えきれずにショート。そしてそれによって負担なく行えていた制御が一気に乱れてしまった故に龍牙は動けなくなってしまったとの事。

 

「あ~あ折角龍牙に合わせたのに……これじゃあ修理と調整も踏まえると最低でも1か月は掛かるな」

「うわっ……」




と、まあ雑ですが映画編はこんな感じです。だってあの映画自体ある種完璧じゃないですか。それに手を加えるのはちょっと……というのもありますが、ペース的なものを考えると多分ラストの緑谷とオールマイトの援護位しか出来ないと思ったので。

そして―――好い加減他の番外編も書かねぇとまずいと思ったので。まあこれでメリッサも番外編に出せるし、もしかしたら本編入りもあるかもね!!あと、戦兎云々は多分普通で本編で採用するかもです。

さて次回は如何しようかな……他のクラスメイトがヒロイン編も面白そうだし、アメリカ留学でメリッサ編もありだなぁ……。えっヴィラン編?

―――多分妻曰く、私の本性であるブラック且つダーク全開になるから自重します。原作キャラがエライ事になりかねない……。


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響く音色は龍を癒す香りを告げる

番外編、まさかの耳郎 響香ちゃんルート。

今回も、初期に葉隠さんが怖がりに話しかけなかった場合というIFになっております。なのでかなり異なっている所があるのでご了承ください。


「今日も、一人……」

 

視線の先にいるのは自分と同じくクラスに所属している男子の黒鏡 龍牙。彼は基本的にクラスから常に自ら一人でいる事が多く周囲からも完全に孤立しており、クラスから完全に浮いてしまっている存在。そんな彼は教室でも常に一人、机に向かいながら復習か予習をするか何か難しそうな別の言語書を読み込んでいる事が殆ど。教室から姿を消している時は誰もいないような木陰に身を潜めるようにしながら弁当を口にしており、誰かと共に居るという事が殆ど無い。

 

例外的に常闇とは仲良くしているような節があるが、それも常闇の他の友好関係を尊重しているのか、それとも自分の存在が邪魔になると思っているのか一定の距離を取り続けている。そんな常闇に思い切って龍牙について尋ねた事があった。自分から話しかけたり食事に誘う事は迷惑になってしまうかと、それに彼は少々驚きつつも快く応えてくれた。

 

「否、彼の龍はきっと心からの喜びで応えるだろう。だがそれすらを胸の奥に隠して自らを孤独の闇に押し込めてしまう。それも全て奴が誰よりも優しい故。奴は誰よりも安らぎに飢えている、だが周囲へ無用な遠慮を行う。だからこそただの一度も理解されない、彼の龍は常に独り、孤独の闇にて自らに酔っている」

 

独特な言い回しの影響でハッキリ言って全てを理解する事が出来なかった。だがそれでも常闇がクラスの中で最も龍牙の事を理解しているのは明白だった。だからこそ彼の言葉を信じて自分なりの償いと仲良くしたいという思いを込めて彼を誘う事にする。

 

『―――奴は必ず遠慮する、強引にでも誘え。さすれば道は開く』

 

「―――あ、あのさ黒鏡!!そ、その……一緒にお昼とかどう!?」

「……えっ」

 

その日、耳郎 響香は初日以降常に心に浮かんでいた恐怖を抑えつけ、出来る限りの笑みを作りながら久しぶりに作った弁当を見せながら一緒にご飯を食べようと彼を誘った。外に出て既に影を歩いていた彼に光から声を掛けた自分、それを見た龍牙は暗い表情の中に困惑を浮かべながらも矢張り一歩後ろに引きながら断ろうとする。

 

「いや、俺は構わないけど俺なんかより他の奴と喰った方が楽しいよ。八百万とか飯田とか、ああいう奴の方がさ……」

「(えっと、遠慮するから強引に!!)ウチは今、アンタの食べたいって言ったの!!それともウチと食べるのは嫌な理由でもあるの?」

「そ、そういう訳じゃ……えっと」

「ほらほら文句が無いなら行くよ!時間は有限なんだからさ、アンタ何時も何処で食べてるのさ」

 

何とか断ろうと手探りになっている彼の手を無理矢理引いて歩きだしていく、そんな彼女に目を白黒させながらも漸く観念したのか肩を竦めて溜息を吐きながら、自分が何時も弁当を開いている大きな木の下へと案内をする。木陰でありながらも葉と枝の間から僅かに差し込んでくる光のバランスが程よくて此処で昼寝をするのも悪くないと思えるような場所だった。

 

「あむっ……うぅ~ん、ちょっと焦げちゃった卵焼きだけどこんな場所で食べると不思議と美味しくなるなぁ♪」

「それは多分卵をちょっと厚く入れてその分火を通そうとしたからじゃないかな、フライパンを覆うか覆わないかの境目くらいの量がいいんだ」

「へぇっ~……黒鏡ってやっぱり料理得意なんだ、その弁当も自分で作ってるの?」

「まあね……」

 

覗き込んだ龍牙の弁当箱の中身は綺麗に取り揃えられつつもカラフルで色とりどりな中身になっている。それに比べて自分のは野菜こそ入っているが、茶色系が多くなってしまっている印象がある。これも腕前の差という奴だろうか。今度は言われたとおりにやってみようと、思っていた時に箸を置いた龍牙が尋ねた。

 

「……あのさ、如何して俺なんかと一緒に食べようと思ったのか聞いていいかな。態々慣れない弁当まで作ってきてきたのは理由か俺に話があるんじゃないの」

 

そんな風に問いかけられて思わずビクついてしまった。完全にバレている、自分が弁当を余り作った事が無い事も、そして無理して作ってきたのは話題作りの為であったことも。響香は深呼吸をしながら箸を置いて静かに頷いてから姿勢を正して頭を下げた。

 

「ごめん!!ウチずっと謝りたかったの!!個性把握テストの時、その……怖がっちゃってごめんなさい!!ずっと避けててごめんなさい!!」

 

ずっと謝りたかった、龍牙が個性を発動させた時の見た目に自分は本当に恐怖を感じた。ホラー映画に出てくるラスボス級の相手が近くにいる時の恐怖を体験した様な気分になりそれ以降ずっと龍牙を避けていた。だがそれを改めたいと思った切っ掛けは自分の個性だった。

 

彼女の個性はイヤホンジャック、耳たぶが長いコード状になっておりそれらを使って授業中は集音スピーカーなど接続して先生の声などを聴いたりしているが……その時に龍牙の小さな嗚咽を耳にした事があった。最初は聞き間違いかと思ったが、更に耳を澄ますと自分達のせいで本当に傷ついている事が良く分かった。そして悪いと思いつつもこっそりと彼を付けて彼の小さな声も聞いた。

 

『―――ぁぁっ……』

 

たったそれだけだった、だがそこに含まれていた寂しさに塗れた震えた声は未だに脳裏に焼き付いている。きっとあの時見えなかった顔は悲しさに染まっていた事だろう。

 

「だから、ごめん!!」

「いや、そんな……」

「個性をコンプレックスに思ってる人がどんだけいるとか分かってる筈なのに、それを全然考えなかった……本当にごめん、その、アンタさえよければだけどさ……今からウチと友達になってくれない!?」

 

龍牙は震えながらも頭を上げて欲しそうにするが、それを強引に振り切るようにしながら謝罪と自らの誠意を見せ続ける。そして頭を下げていると地面に水滴が垂れる音が聞こえてきた、それに釣られるように顔を上げてみるとそこには大粒の涙を流し続けている龍牙の姿があった。響香の黒鏡……?という言葉で顔を滴っている涙に気付く事が出来た、無意識に泣いていた。

 

「如何して、如何して泣いてるんだ俺……悲しくないのに、寧ろ嬉しいのに……友達に、なってくれるって言って貰えて本当に、嬉しいのになんでだよ……こんなに、こんなに嬉しい事なんて常闇が友達になってくれるって言ってくれた以来なのに何で……」

 

それを聞いて同時に響香は罪悪感を覚えた。常闇が友達になってくれて以来の喜び、つまり雄英に入学してから彼にとっての喜びはそれしかなかったという事になるのだ。自分が怖がっていたせいで楽しい筈の学校生活を苦しめてしまっていた、そんな思いを抱きつつも龍牙の手をそっと握りしめる。

 

「もう、大丈夫だから……ウチが友達になったからにはアンタを色んな所に連れまわしたり、ご飯食べるとかするからさ!!ウチが―――アンタに楽しい高校生活を送らせてやるからさ!!」

 

そんな力強くも優しい問いかけは、龍牙にとって何にも代えがたい唯一無二の喜びと衝撃を与えてくれる救いを差し伸べる手だった。

 

「龍牙、悪いけど昼食代貸してくれない!?財布忘れてきちゃってさ!!」

「それじゃあ奢るよ、今日は学食だね」

「ホントごめん!今度はウチが奢るから!!」

 

その日から、龍牙の雄英での鬱屈した生活は一転した。自らを振りまわすように手を引いてくれる響香のお陰もあってその日から笑顔を浮かべる事が増え、楽しいと思える事が加速度的に増えて行った。時には食事を奢りあったり、筆記用具を貸しあったりしながら

 

「龍牙此処マジでどうすんの……?」

「そこはこうだよ、此処を応用して」

「いやいやいやちょっと待って早いからもうちょっとゆっくり!!」

 

分からない所を教えて貰ったりと普通の学生らしいことを龍牙は漸く堪能でき始めていた。何より―――響香が仲介してくれることによってクラスの輪に入れる事が出来るようになり、少しずつではあるがクラスの皆が見る目が変化し始めている事が龍牙にとって何よりの喜びだった。

 

「有難う響香。本当に感謝してる」

「何いきなりお礼言ってんのさ水臭いな、ウチとアンタの仲にそんなのはいらないの」

「それでも」

「そう、それじゃあそんなに言うなら―――」

 

彼女は龍牙に抱き付きながら彼の首に手を回しながら満面の笑みで言った。

 

「ずっとウチと一緒に居ろ!そして―――ウチとずっと幸せになれ!!」

「―――喜んで」




―――という訳で響香さんルート、いかがでしたでしょうか。2人の英雄編で絡んだので折角なので書きました。リューキュウやねじれちゃんと違って友達から入ってそこからって感じのルートでした。他と違ってクラスと打ち解けられるのが早いのが特徴ですかね。

因みに最後のは紛れもない告白です、響香ちゃんったら大胆~、そんなのも好きだ。いやぁなんだか等身大の友人を思い出してちょっと泣きそうになりました私。


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創造されるは龍と八百万の物語

番外編、恐らく絡みが少なかった八百万 百ルート。

今回も、初期に葉隠さんが怖がりに話しかけなかった場合というIFになっております。なのでかなり異なっている所があるのでご了承ください。


「いけませんわ、少々集中しすぎてしまいました……でもお陰で良い事も沢山知れましたわ」

 

その日、八百万 百は少々遅れながら家路へと着こうとしていた。クラスの副委員長として就任したのもそうだが、今の雄英の施設で自分の個性をどれだけ試せるのかを知る為に先生から貰った資料を読み込んでいたら日が落ち始めてしまっていた。が、結果として自分の目的を多く知る事が出来たのでリターンも多かったと満足気に家路につこうとしている時の事だった。日も落ち始めており、闇が周囲に広がり始めようとしている中の個性訓練の為のグラウンドがライトで照らされている。

 

「まだ入学から三日ですのに……」

 

とても勤勉で真面目な人がいるんだなと思いつつもどんな生徒でどんな個性を持っているのか、と思い少しだけ寄り道をしてみる事にする。天下の雄英だけあって校内敷地は十分な照明で明るい、明かりに照らされた道を行く先を更に強く照らされている大型の照明のライトで照らされている先を見つめるが―――そこは周囲を黒い炎に包まれた黒い龍が演武を取り行っていた。

 

「あれは―――確か、クラスメイトの黒鏡さん」

 

百の脳裏にはその姿は色濃く残っていた。紛いなりにも彼女はこの雄英に推薦入学を行えている優等生、加えて個性は創造、汎用性と万能性、応用力において誰にも負けない程の力を持っている。初日の個性把握テストでもそれらを存分に活用した、だがそんな彼女は個性把握テストでの順位は2位、そんな自分を抑えつけるように上を取ったのが黒龍の戦士である龍牙であった。

 

部分の成績では自分の方が優れてこそいるが、全体的なアベレージでは劣っている。特に体力的な面では完全な敗北を喫する程の能力を秘めている彼をなんだかんだで負けず嫌いな百は内心で次は負けない、と思っていた。そんな彼の姿を見て、百は直ぐに龍牙の強さは長い時間をかけて積み重ね続けてきた努力のという研磨を重ね続けた結果なのだと理解する。

 

「凄い……」

 

そんな龍牙の演武、というには何処か自らの限界を伸ばす為に自らを苛め抜くかのような動きに百は気付けば目を奪われていた。そして是非とも話してみたい、話した事が無く龍牙がどんな人物なのかは全く分かっていない。出来る事ならば話を聞いてみたいという思いからかそちらへと足を進めた。

 

「だああああぁぁぁぁっっ!!」

 

準備した標的、巨大なブロックのようなそれに向けて黒炎を放射する。黒炎はそれを飲みこむと一瞬のうちに燃やし尽くしてしまう。黒炎を吐き切ると思わず膝を付いてしまう、全力全開の最大出力の放射は鉄をも焼き尽すほどの超高温。しかしその為に身体には大きな負担がかかり、既に何度も使用している為かもう身体が悲鳴を上げていた。師がこの場にいるならば更なる叱咤激励(実際は唯の怒声)が待っている事だろうが、今日は無理を言ってこのグラウンドを使わせて貰っている。軽く限界が来たらやめておけといわれているのでこの位にしておこうと思い、片付けロボのスイッチを入れて片づけを始めて貰いながら個性を解くと後ろからスポーツドリンクが差し出された。

 

「お疲れ様です、そこで買った物ですが宜しければお飲みください」

「ど、どうも……」

 

いきなり現れてドリンクを差し出してきた百に対して龍牙は完全に驚いてしまっていた、目を白黒させながらぎこちなく受け取るが戸惑っていたので、百が微笑みながら飲んでくださいと改めて言われるまで持ったままだった。そして漸く口にして喉が潤った所で何か用かと尋ねてみる事にした。

 

「此方のグラウンドのライトが目に入りまして、それで黒鏡さんが訓練をなされておりました。勝手に見学してしまった事は申し訳ございません、素晴らしいものでしたので……」

「あっいえ、そんな……俺は全く気にしてませんから……その、お目汚しになってなければいいんですけど」

 

龍牙は自分の喋り方に完全に合わせるようにペーシングを行って丁寧な対応を行う、そんな彼に少し交換を覚えながらも龍牙の後ろ向きな言葉を即座に否定する。

 

「汚しなんてとんでもございませんわ!!とても力強くて素晴らしく、見ていて胸が躍るような感覚でした」

「……そう言って頂けると素直に嬉しいです、有難う御座います」

「先程の物は全て我流なのですか?」

「いえ、私には師が居まして。全て厳しい実戦形式で指導されて身に着けた物です」

「まぁっお師匠様が!あのような事が出来るまでにご指導をして頂けるなんてとっても素晴らしい方なのですね」

 

百のそんな言葉に龍牙は心からの嬉しさを覚えた、自分だけではなく師である父を素晴らしいと言って貰えた。それが堪らなくなり笑顔で自分にとって世界最高の師だと断言すると、百は微笑みながら一度会ってみたいと答える。

 

「あの黒鏡さん、実はいきなりこのようなお願いをするのは不躾かと思うのですが……このような機会があるのでしたら私もご一緒させていただく事は出来ないでしょうか」

「八百万さんも一緒に、ですか」

「はい。私も嗜み程度ですが武道を学んだ事があるのですが、それらを実戦形式で個性を交えての物は余り経験が無いのです」

 

所謂総合格闘術という物は学んだ事があるが、あくまでそれら単体が主でそれらに自らの創造の個性を組み合わせたものは経験的には少ない。それらに個性で作った物を合わせる事があるが、個性を組み合わせる事を前提にした事は初めての試み。そう思い立ったのも龍牙が自らの個性の良い所を完璧に引き出しているから自らも出来るだろうかと思った。

 

「それにしてもそれをよく今私に言いましたね」

「万里一空、ですわ」

「ヒーローを目指す上で有益なチャンスは見逃さない、と?」

「その通りです」

「面白い方だ、俺などで宜しければお相手させて頂きましょう」

 

その日から、龍牙と百は共に訓練を行うようになった。雄英での訓練が思わぬ事を生み、龍牙はこの事を師であるギャングオルカと校長に話すと心から喜ばれた。初日から孤立したようになってしまったからか二人は酷く心配していたのだが、全く怖がらずに接してくれたという点も龍牙の事を考えると本当に良いお相手だと。そしてオルカはその時間を大切にすべきだと自分との訓練の時間を見直した結果、百との訓練時間が増えた。

 

「ですので私の個性の強みは相手の出方に合わせ、即座に対応出来ることだと思うのです」

「それは確かに唯一無二かもしれないけど、それはそれで後手後手に回るという事と同義。相手に合わせるだけではダメです」

「ではどのように……?」

 

既に膨大な戦闘経験を積んでいる龍牙は百の戦闘スタイルなどを聞きながら、どのような戦い方を組み立てるべきかという話にも積極的に意見を出していく。幅広い対応能力こそ最大の強みと語る彼女とは違い、龍牙的にはハッキリ言って百は相手にはしたくない相手でしかないと答える。

 

「例えば俺に対して剣などで出して戦っている時に、不意に槍を出してスタイルを変えていく。そして相手が戸惑っている間に次々に新しい物を生み出して相手を困惑させるという事を俺なら真っ先に警戒します」

「つまり、私の最大の強みは手札の多さという事ですね!」

「俺はそう思いますね。手札を敢えて消費して相手の戦法を読み解いて、そこから相手の苦手とする者を選択するだけで苦しくなりますから」

「成程!!では常に考えるのではなく、既に考えてあるものから選択していくのですね。成程、それならば精神的な動揺で揺さぶられる事も少なくなる……」

 

この辺りはギャングオルカの殺意混じりの訓練を経験している龍牙だからこそ即座に気付いた事もかもしれない。精神的な動揺は思考力を一気に食い潰していく、恐怖などで精神が蝕まれると考えられる事が一気に考えられなくなる。常に考え続けることも大切ではあるが既に考えをある程度纏めておくことも重要になってくる。

 

「くっあそこから切り返しを行えるのですか!?ここは矢張り一旦引いてから、いえ逆に距離を詰めてからです!」

 

常に考えて相手に合わせることが主だった百、しかし龍牙の言葉もあってから最初から無数に作ってあったから手札から戦略を組み立てていくようになっていった。単体ではなく複数の手札を組み合わせた物も率先して使うようになり、そして咄嗟の創造の活用も格段に上手くなっていく。

 

「さ、さっきの一撃は驚いた……」

「フフフッ驚いてくれました?」

「躱したと思ったら鎖付きの重りが出てきて脇腹を捉える、正直これはきつい」

 

元々あった対応力にトリッキーさが加わって相手をする身としては非常に辛くなっていく百、時には龍牙を完全に翻弄して手玉に取る事すらあった。そんな百との訓練は浮いてしまっている龍牙にとって大きな救いとなった。だが有難いと思いつつも、自分といる事で周囲から何か思われていないかと不安に思う事もあり、彼女に思い切って自分は怖くないだろうかと尋ねれるのだが……彼女はキョトンとしながら首を傾げた。

 

「龍牙さんが怖い、ですか。いえ全く、個性把握テストでは迫力に圧倒はされましたが怖いとは全く思いませんでした、寧ろ負けたくないなという物の方が強かったですわ」

 

当たり前の事ではないか、と語る彼女に呆気を取られていると百は笑顔を浮かべながら自分の手を取って言うのである。

 

「それに―――私と龍牙さんの関係を周りがとやかく言うなんて可笑しいですわ。私は龍牙さんをとても好いております、そんな殿方に対して私が怖いなんて思うわけありませんわ」

「八百万さん……」

「もう、百で宜しいと言っておりますのに……これからは百でよろしくお願いしますね」

「気を付けますよ、百さん」

 

そんな彼女の言葉もあって龍牙はとても救われた。そして気付けば二人は共に居る事が当たり前になっていく、共に勉強する、食事をする、共に訓練する、帰宅するのが当たり前になる。

 

「百、次はあれだったよね」

「あれですね、用意しておきます」

「んじゃこっちで用意するのは……うん分かった」

『凄い通じ合ってる!?』

 

周囲から見ればその光景は、カップルを通り越して完全に夫婦のそれだったという。

 

「行こうか」

「はい♪」

 

手を繋いで歩く二人、とても仲睦まじく割って入る事こそが憚れるような絵になっている光景を生み出す二人。これから二人はどんな未来を作るのか、それはきっと明るいものなのは間違いないだろう。




―――という訳でヤオモモルート、いかがでしたでしょうか。

友達、というよりも訓練仲間から絆を深める的な感じですかね。いろいろ考えた結果、ヤオモモはご令嬢なので様々な個性についてに教育とかを受けているので怖がるという事はあまりなくそれの個性の特性として捉えるのではないかと思いました。

なんかお嬢様が最終的にこう、幼馴染的になっていって仲良くするって最高だよね。好きだヤオモモ。


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本編
始まりの黒龍


世界総人口の八割が"個性"と呼ばれる不思議な特殊能力である力を持つ超人社会。ある時、中国で光り輝く赤ん坊が生まれ、世界は新しい流れに呑まれていく。不可思議な能力、のちに個性と改められる力を持った人間たち。『超常黎明期』とも呼ばれたその時代の中で徐々に個性という力は超常というカテゴリーから常識というカテゴリーに変化していった歴史を持った世界が存在する。その世界では個性は当たり前、常識であり強い個性で在れば憧れを持たれたり将来への道を開けるという事もある。

 

―――だが、逆に力が強すぎる影響で大きな傷を負ってしまった者もいる。

 

 

この社会には明確な光と闇がある。個性を悪用し犯罪を起こし人々を苦しめる闇であるヴィラン。その脅威から守る為に"個性"を用いてその闇を払い人々の笑顔と平和を守り続ける者、ヒーローの存在。そんなヒーローになる為の人材を育成する為の教育機関、国内最高峰とも呼ばれている学校、雄英高校。その入学試験の実技試験でとある者の姿があった。ロボを仮想敵に設定した実技試験、敵にはポイントが設定され多くのポイントを集める事を要求される試験。

 

「キャアアッ!!」

「おい大丈夫か!?こんなものまであるのかよ!?」

 

だが簡単な試験ではない。邪魔者としてポイントが0の仮想敵が紛れ込んでいると説明がされており誰もが注意している中、巨大な0ポイントが出現しその巨体で周囲を圧倒する中に約6メートルほどの0ポイントも出現し受験生を襲っていた。今も受験生が襲られ危機に瀕していた。

 

「お、俺の個性じゃこんなの倒せない……!!」

「い、いやあああっ!!」

 

自らの力不足を悔やみつつもどうすればいいのかという思考が恐怖で死んでいく中、手を伸ばしてくる仮想敵。ここで自分達のヒーローへの道は閉ざされてしまったかと思った時の事だった、まるで錆びついた歯車が出すような音を発しながら何時までも仮想敵が攻撃してこない。閉じていた目を開いてみるとそこには黒い鎧を纏った戦士が立っていた。

 

「だ、誰……!?」

「俺達を、助けてくれた……!?」

「……はぁっ!!!」

 

低い唸るような声を上げながら右腕を振るう、龍の頭を模した手甲を装着しているのかそれを仮想敵へとたたきつける。装甲を砕くような音と共に手甲から闇のような炎が溢れ出して仮想敵の身体を焼いていく。殴られるたびに身体からは溶けた装甲が鉄となって地面へと落ちていく、殴るたびに木霊する雄叫びは力を誇示する龍のよう。再度龍の雄叫びが木霊すると、戦士の周囲に黒い炎が球体を形どりながら浮遊し、戦士の腕の動きで発射され仮想敵を一気に燃やし尽くしていく。

 

「す、すげぇ……」

 

思わず言葉を漏らした男子に女子も同意見だった。手も足も出なかった仮想敵をいとも簡単に一蹴する力、鉄をも融解させる炎の火力、このような人物こそヒーローになるべきのだろうと思える程に圧倒的で憧れを持たせる。そして完全に仮想敵をねじ伏せた戦士はゆっくりと振り返る。二人はお礼を言おうとするのだが、その姿を見た途端に硬直し先程よりも強く歯を鳴らしながら身体を震わせた。

 

「……無事か」

「助けてぇええええええええええええ!!!!!!」

「ヴィ、ヴィラン、ヴィランがぁあああああああ!!!!」

 

無事を問う戦士に二人は絶叫を上げながら号泣し、走り去っていってしまった。途中何度も足を縺れさせながらも自分達を追っていないかを確認するように振り返りながら逃げていく。その様な事をされた戦士は伸ばしかけた手を引っ込め顔を俯かせながら背後から迫ってきた1ポイントの仮想敵へ腰に下げていた剣を手にする。

 

「……」

 

仮想敵の腕が叩きつけられる、本来ならば吹き飛ばされたりするはずだが戦士は一切動じずにいた。そしてゆっくりと鎌首を持ち上げ、目の前の仮想敵へと手にした剣を振った。刃は豆腐を斬るかのように装甲を切り裂き、内部の回路を断線させ完全に両断してしまった。真っ二つになったそれは地面に落ちながら爆発を起こす、その爆発の影響で近場の建物のガラスが割れ辺り一面に四散しそこに戦士の姿が映し出される。

 

それを形容するならば人の形をした龍、それが鎧を纏っている。全身が黒い闇の龍ともいうべき存在、剥き出しになっている鋭い牙、スリット状のフェイスシールドの奥から爛々と妖しく輝いている真紅の瞳。全身から発散させるのは威圧感、酷く禍々しい非常に凶悪な風貌はヒーローではなくヴィランにしか見えない、だが彼は誰かを助けた。それでも感謝されない、風貌が余りにも恐ろしすぎるから。それでも彼はヒーローになりたくて雄英高校に受験をした、夢をかなえたくて。

 

「それでも俺は、前に進む……」

 

彼は寂しそうな背中を見せながら、他の仮想敵を探すために足を進めていく。その途中、何度も危機に瀕していた他の受験生たちを助けるのだが……その全てに恐れられて逃げられるか、攻撃されることになってしまった。自分が歩むヒーローへの道は苦難しかないと溜息をついた黒き龍こと、黒鏡 龍牙の物語は始まろうとしている。



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入学の黒龍

とある所に少年が居た、少年は愛されていた。紛れもなくそれは事実だ、間違いない。

 

父も母も彼を愛していた。運命は数奇な悪戯をする、それに翻弄される者達を嘲笑う為に。

 

彼が6歳を迎えた時にそれは浮き彫りとなってしまった、両親からの個性を受け継いだ彼の個性が解き放たれた。

 

それまで彼は個性があるのに個性が出せないという事態が続いていた。個性がある筈なのに無個性と変わらない状態が長く続いていた。それがある時、突如として個性が発動したのであった。それは親戚の集まりの真っ只中、突然彼の身体が炎に包まれた。突然の発火に親戚たちは水を掛けて消化を試みた、そしてその蒸気の中からそれが顔を出したのだった。

 

リュウガ……!!

 

母の個性と父の個性、それらが混ざり合った個性は酷く歪んだ物となって顕現した。そこにいたのは黒い龍の化け物、突如として現れたそれに全員がパニックを起こし、逃げ出す者もいれば攻撃できる個性で攻撃したものもいたという。だがそれらを受けても黒龍は消えなかった、それらを悉く跳ね返した上で立ち続ける龍は何故自分がそのような扱いをされているのかさえも理解していないように立ち尽くしていた。そして―――その日から、少年は一つを得て多くを失った。

 

 

「ここが、雄英か……」

 

春のあくる日、正しく出会い始まる春に相応しい晴天が広がる日の中に少年は雄英高校の校門へと立っていた。雄英高校の試験を通過する事が出来た彼、黒鏡 龍牙、入試では向かってくる敵を全て薙ぎ払い、救うべきを救っていた。簡潔に述べるならば自分のやりたい事をやっていたら好成績になって入学する事が出来たというべきなのだろうか、兎も角合格出来た事には安心している。自分を住まわせてくれている人にもこれで面目が立つ。今日から此処でヒーローへの道が開いていく事を自覚すると少しの不安がよぎるがそれ以上の興奮と憧れのヒーローが教師で自分を教えてくれるという喜びが勝る。そんな思いに背中を押されるように足を踏み出して、校舎へと入っていく。

 

流石はヒーロー科最難関校にして多くの有名ヒーローを輩出してきた超エリート高校、内部の設備も整えられており自分が通っていた学校とは格が違う事がうかがえる。龍牙はそのような事にはあまり興味を示さない、ハッキリ言って建物の内部がそこまで気にならない。極端に汚くなければそれでいいという認識で足を進めていき自分のクラスである1-Aを発見する。本来ならばここで緊張の一つでもするべきなのだろうか、龍牙にはそれが無いのだろうか、何の躊躇いも作らずに扉を開ける。

 

「ぼ……俺は私立聡明中学出身、飯田 天哉だ」

「聡明ぃ~?糞エリートじゃねえか、ぶっ殺し甲斐がありそうだなオイィ!!」

「ぶっ殺し甲斐?!君の物言いはなんて酷いんだ。本当にヒーロー志望なのか?」

「(なんだあれ)」

 

教室内では酷くキッチリした格好の眼鏡をかけた少年があからさまにまでに不良で御座いますという風な少年に注意を促していた。だが不良風の彼は一切それを返さずに我が道を行くを貫いている。あんなのでも確りと合格出来ている辺り成績面は優秀なのだろう、それに見た目については自分はとやかく言う資格なんてありはしないだろう。こちらを見つめるような視線を感じながらも席に着きつつも本を取り出して読み始まる。自分の好きなライトノベルである【壊れだした世界の君】というシリーズの3巻である。そんな中の視界の端で眼鏡の彼が此方へと歩み寄り、丁寧に少しいいだろうかと声をかけながら話しかけてくる。

 

「先程から騒がせてしまって済まない、ぼっ―――俺は私立聡明中学出身、飯田 天哉という者だ。これから宜しく頼む」

 

丁寧な挨拶に態度、中々に真面目な印象を受ける。眼鏡は伊達ではないという事だろうか、しおりを挟みながら挨拶を返す。

 

「黒鏡 龍牙です、よろしくお願いします」

「こちらこそ、正直君のような礼儀正しい生徒がいて少しホッとしたよ。先程の彼がヒーロー志望にしては余りにも荒々しかったものでね」

「それでも荒々しいのも悪い事でもないさ、裏を返せばそれだけ勇猛果敢にヴィランに向かっていける。つまりそれだけ迷うことなく人を助けられるという事にも繋がる」

「成程そうか!!俺はただただ表面だけに囚われて、それが齎す結果に目を向ける事が出来なかったというの……流石雄英だ、そこも考慮しているのか!!」

 

と少々適当な持論を語ったのだが、飯田はそれを真に受けた上に盛大に飲み込んでしまったのかそれで納得してしまった。悪い人ではなさそうだがどうにも癖が強いクラスメイトだなと龍牙は少し笑うのであった。その後も次々と生徒らが入ってくるのを見つめていく中、緑色でモジャモジャな髪をした男子生徒が入ってきた所で飯田は挨拶をしてくると去っていく。そんな彼と知り合いだと思われる元気いっぱいな女子生徒が入口前で何やら話をしている時の事だった。

 

「お友達ごっこがやりたいなら他所に行け」

 

そんな彼らの会話をぶった切ったのは廊下から寝袋から顔だけを出した男が立っていた。その風貌は余りにも整っているとは言えない、切らずに放置されている無精髭に伸び放題なぼさぼさの髪の毛、疲れ切った瞳とその周囲に刻まれた深い隈。あれはホームレスだと言われたら素直にそうと思うこと間違いないだろう、高校にいる人間としても相応しい恰好とは思えない。

 

 

「ハイ、静かになるまで八秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠けるね」

 

その男は自分が担任である相澤 消太であると伝えると即座に新しい言葉を飛ばす。それは酷く簡単な指示だった、体操服に着替えてグラウンドに出ろというものだった。そしてグラウンドで告げられた次の指示は……個性把握テストを行う、という趣旨のものだった。

 

「テ、テストっていきなりですか!?あの、入学式とかガイダンスは!?」

「ヒーローを目指すならそんな悠長な行事、出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。それは先生達もまた然り」

 

何処かぽややんとしている一人の少女の意見をあっさりと一蹴した担任、相澤は更に続けていく。先に述べた通り雄英は自由な校風が売り、常軌を逸した授業も教師によっては平然と行われる。そしてそれがいきなり自分たちに適応されるという事に皆戸惑っているが、そんな事なんざ知らんと無視するかの如く、相澤が龍牙を見た。

 

「個性禁止の体力テストをお前ら中学にやってんだろ。平均を成す人間の定義が崩れてなおそれを作り続けるのは非合理的、まあこれは文部科学省の怠慢だから今は良い。今年の実技入試首席は黒鏡、お前だったな」

「多分」

「んだとぉ……!!?」

 

その言葉、首席という言葉に反応したのか飯田と激しい言い合いをしていた男子生徒、爆豪は何やら敵意と怨みのようなものを込めた視線を送り付ける。自分よりも上という事が気に食わないのだろうか、しかし龍牙からすれば困る視線と言わざるを得ない。だがそんな視線も間もなく凍り付く。

 

「お前の中学時代のソフトボール投げの最高記録は」

「66.6です」

「んじゃ個性を使ってやってみろ、円から出なきゃ良いから全力でな」

 

それを言われて龍牙は一瞬言葉を失ってしまった、直後はこれは避けられない事だと分かっていた筈だと自罰的に言い聞かせる。相澤から計測用と思われるソフトボールを受け取る、それをもって円の中へと入る。そして意識を集中するかのように深く深呼吸をする、全身から力を抜き、完全な脱力状態へとなる。同時に心の中身も捨てる、正しく無心へとなる。そして急かすような相澤の言葉を聞いて龍牙は瞳を開いて個性を発動させる。

 

リュウガ……!!

 

途端、龍牙を闇のような炎が覆う。悲鳴のような声が上がる中で炎の中で紅い瞳が煌めいた。そして炎を裂くかのように内部から禍々しく恐ろしげな黒龍がその姿を露わにする。

 

「な、なんだあれ!!?あれが、個性!!?」

「こ、こえええっ……ゲームに出てくるラスボスみてえぇな見た目じゃねぇか……!?」

「怖い……」

 

それを見て誰もが驚き、恐怖や嫌悪感を露わにする。当然だ、これを見てヒーローと答えるものなどいないだろう。誰がどう見てもヴィラン側の存在だからだ。それを一番に自覚しているのは龍牙本人、そんな彼が右腕の龍頭でボールを銜えこむ。そして腰を落としながら腕を構えた。同時に龍の雄叫びにも似た音が周囲に低く響き始めていく。それは次第に甲高くなっていき、龍の頭からは炎が漏れ始めていた。

 

「だああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」

 

雄叫びと共に右腕から放れた闇色の爆炎はボールを一気に押し出しながら噴射された。宛らロケット噴射のような勢いの爆炎、発射と共に周囲に爆風と衝撃波を発生させるほどの威力。それを受けて吹き飛んでいくボール、それはどんどん距離を増していく、そして見えなくなった所で漸く相澤の端末に結果が反映された。それを見せ付けながら相澤は言う。

 

「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの筋を形成する合理的手段だ」

 

そこに記されている記録は2192mというとんでもない記録があった。だがそれを見ても周囲は威圧されたような重い沈黙を纏っていた。クラスメイトが叩き出した凄い記録よりも目の前にいる恐ろしい龍戦士の方がインパクトがある言葉が出ない。恐ろしすぎる存在が周囲を飲み込んでいた。龍牙もそれを理解している、顔を背け離れに移動しようとした時に一人の少女が声をかけた。

 

「ねぇねぇ貴方って凄いね!!」

「……?」

 

声に釣られて視線を向けるがそこには宙に浮いている体操服しかない。一瞬どういう事かと思ったが透明な個性という事かと納得する。

 

「個性もカッコいいし、凄いよ!!」

「……そうか、カッコいいって初めて、言われたよ」

「ええっ嘘!?それじゃあ今までの人たちはセンス悪かったんだよ!!」

 

姿こそ見えないが、袖がブンブンと振られている事から両腕を力強く振るっているのだろう。そして可愛らしいで自分を褒めてくれている。褒められる、カッコいい。自分が受けた中で酷く刺激的で甘美な響きだった。心が一瞬熱くなったのを感じた。

 

「有難う、嬉しいよそう言ってもらえて」

「だってカッコいいんだもん!」

 

この日を龍牙は生涯忘れなかった。この日が葉隠 透との出会いだった。



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テストを受ける黒龍

初めて、カッコいいと言われた。初めて、褒めてくれた。

 

あの時ほど刺激的で喜びを感じた時はなかったかもしれない。

 

俺の個性は恐ろしい。いやそうではないと慰める言葉は幾らでも聞いてきた、それはそれで嬉しくはあったけど。

 

やっぱり……誰かに褒めて欲しかった、認められたいと欲求がある。

 

だけどこの日、俺は……それを叶えられてもらった。一人の少女に。

 

 

 

とても恐ろしく凶悪な風貌をした個性を持つ龍牙、彼の個性を見た生徒達は固まっていた。あのような恐ろしい個性も存在しているのかと、そしてその個性が持つ圧倒的な力も目にした。連想させるのはその力が自分に向けられた場合という最悪の状況が脳裏を過ってしまう。余りにも恐ろしい風貌がそのような事を誘発してしまっている、あの真面目な飯田も汗を流しながらそのような考えをしてしまう。

 

「(……発破をかけるどころか逆効果だったか)」

 

相澤もこの状況は望ましくないものだったのか、如何したものかと思案する。彼の個性が酷く恐ろしい見た目なのは知っている、だがそれでも力を見せ付けるには必要だと判断した。これで多少なりともやる気を出して欲しいと思ったのだが力が予想より強かったせいか、皆委縮してしまっている。大きな力を見たら委縮するのは当然の心理、だがそれはこれからヒーローとしての道を歩もうとする者としてはあまりいい反応ではない。目を細めた時、一人の少女が龍牙に駆け寄っていった。彼女は素直に凄いと彼を褒めた。

 

「私よりもずっと派手でカッコいいし強いって凄いと思うよ!」

「……有難う、えっと……」

「あっそっかまだ名前言ってなかったね、私は葉隠 透だよ」

「黒鏡 龍牙、宜しくね」

 

そう言いながらそっと左手を差し出す龍牙。傍から見れば龍牙は手を差し出したままだが、実際は透明な葉隠の両手が確りと握っている。そこから漏れてくる葉隠の嬉しそうで楽しそうな声、そして龍牙の柔らかい声がする。それを聞いて飯田はハッと我に返った。自分は何を思っていたのかと、見た目で判断してそれが敵だと思い込んでいたというヒーローを目指すものとして非常に恥ずかしい行為に歯ぎしりをさせながら彼も龍牙の元へと駆け寄った。

 

「済まない龍牙君、俺は君が恐ろしく思ってしまっていた!なんて情けない……だが俺は君が凄い力を持っていると尊敬している、それを本当だ。どうか受け取ってほしい!!」

「……大丈夫だ気にしていないから。見た目については勘弁してくれるとありがたい、お化け屋敷にでも就職するのも悪くないと思っている」

「いやそれはそれで仰天して失神者が続出するぞ!!?」

「あははっ龍牙君って面白いね~!!」

 

そんな龍牙の気の利いたジョークと葉隠の笑い声、そして飯田の真面目な言葉で場の空気がいくらか軟化した。個性こそ怖いが本人は面白い奴と思う者、笑い声に釣られて笑う者、真面目な意見に耳を澄ませ自罰的になり反省する者とそれぞれだったが、皆やる気を出し自分も同じような記録を出してやると意気込む者が続出していった。やや遠回りになったが相澤は発破掛けの成功とヒーローとしての道に指を掛けている者達で少し安堵するように息をする。

 

「(黒鏡 龍牙、個性『リュウガ』……自分と同じ名前の個性、自分への戒めか象徴か。お前がどれだけやれるか見せて貰おう)」

 

そんな相澤の期待に応えるかのように龍牙はその力を存分に振るって次々と記録を叩きだしていく。50メートル走、握力、立ち幅跳び、反復横跳び、ボール投げ、次々と大記録を打ち立てていく。ボール投げに関しては先程よりも角度を調整したのか2603mまで吹き飛ばしている。次第にその力を見ていく者たちの印象も変わっていき、恐怖が頼もしさと力強さという物へと変化し始める。個性把握テストからずっと個性を発動させ続けている龍牙だが、気付けば彼の周りには人が居るようになっていた。

 

「黒鏡、同じ闇の者として是非友好的な関係を築きたい」

「俺で良ければ」

「有難う」

 

自分の事を何処か憧れるような視線を向ける常闇という友人も出来ていた。彼の個性は『黒影(ダークシャドウ)』という鳥の形状をした伸縮自在の影っぽいモンスターをその身に宿し操る事が出来る。近しい物を感じるのか常闇は最初から何処かカッコいいものを見るような光を持った視線を向けていた。

 

「その腕の龍、炎を吐けるのか……黒い炎、黒炎、黒炎龍いや闇の炎の龍、闇炎龍……!!」

「カッコ、いいのか?」

「無論!!」

 

と力強く肯定してくれる常闇に釣られるように龍牙はそうかっと嬉しそうな声を出すのであった。

 

「良かったね龍牙君!お友達出来て!!」

「葉隠さんのお陰だと思う、有難う」

「何もしてないのにお礼なんて変なの~♪」

 

そんな風に言い方こそするが、龍牙は本気で葉隠に感謝している。常闇にも感謝はしているが最初に声をかけてくれた葉隠にはそれ以上のものを向けている。誰かに認められた事が心からの喜びとなって心身を満たしていた。満足げに吐き出す息はそのような声色に包まれている。そんな中、龍牙はとある視線を生徒へと送っていた。それは―――指を腫らし苦しげな表情を作りながらもボール投げで700メートル越えの記録を出した緑谷。彼は自分と同じく入試にて0ポイントの仮想敵を倒した超パワーを秘めた個性の持ち主らしい、だがその個性を使用した彼の指は酷く腫れている、コントロールが難しい個性なのだろうか。

 

―――もしかして、彼も自分のように個性の事を苦労してきたのかもしれない……そう思うと緑谷の事が気に掛ったのか龍牙は緑谷へと近づいて行った。

 

「緑谷」

「はっはい!?え、えっと黒鏡、君でしたっけ!?」

 

指に痛みに耐えながら歯を縛っていた緑谷は突然話しかけれた事に驚いていた。しかも話しかけてきたのは見た目が完全にヴィランな龍牙なだけあって流石にビックリしてしまっている。

 

「そうだ。指、大丈夫か」

「へっ!?ゆ、指?」

「ああっ随分と腫れ上がっているな……内部出血も酷そうだ、保健室へ付き合うか」

「う、ううん大丈夫だよ……!この前より痛くないから!」

 

と掛けられる言葉は全て自分の事を気遣ってくれている言葉ばかりだった、心なしか覗き込むかのような体勢での瞳は目を細くしているのか光が優しげになっている。それを聞いて個性による姿こそ恐ろしいが実際は優しい人なんだなぁと緑谷は理解して思わずホッとしてしまった。

 

「そうか……お前も個性で苦労しているんだな」

「お前も……ってもしかして黒鏡君も……」

「どういう事だおい……オイデクテメェ!!」

 

二人が話している所に突っ込んでくる少年が居た、荒々しい口調で飯田と言い争いをしていた龍牙が完全に不良と思っている爆豪だった。手のひらから爆破を連続させて起こしながらこちらへと走りこんでくる。規模が少しずつ大きくなっている爆発を見て龍牙は緑谷の前に立つ。そして殴りかかってくる爆豪の拳を右腕で受け止める、爆破で少なからず痛みを感じるがそこまででもない、そして龍牙は瞳を今まで以上に朱く爛々と輝かせながら爆豪を睨みつける。それを見た爆豪は寒気を感じたのか後ろへと飛んで距離を取った。

 

「問題を起こすな、次何かするならば……俺の牙がお前を噛み砕くぞ」

「テメェッ……ヴィラン野郎!!」

「上等、俺の事は好きに呼べ。先生、ご迷惑をおかけしました」

 

爆豪の言葉を一蹴すると龍牙は静かに頭を下げた。相澤は自分が個性を使わずに済んだからいいと適当に流した。本人曰くドライアイだから個性は使いたくないらしい。この後、テストは円滑に進められていく。流石に上体起こしや長座体前屈などは個性を解いて生身で行った。そして全てのテストが終了し結果が発表される事となった。

 

「あっ因みに除籍は嘘だから、君たちの最大限を引き出す合理的虚偽」

『……はぁっ~!?』

 

このテストで最下位を取ったものは除籍されると脅しを掛けられていたのだが相澤はあっさりと嘘だと白状した。龍牙はこのテストで1位を取る事が出来ていた、が彼は知っていた。自分が世話になっている人が相澤に関する注意をしてくれていた。

 

『君の担任だけどね、ちょっと困った所があるのさっ!!』

『困ったところ、ですか』

『そう、入学初日から除籍されないように気を付けてね!!』

『何それ怖い』

 

「雄英は自由が売り……成程、それも自由という訳か」



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戦闘前の黒龍

雄英高校の学業スケジュールは通常のものよりもハードなものとなっている。通常の高校の授業ならば、授業は平日だけ。しかし雄英は平日と土曜日、これだけでも他の高校と比べるときついと感じる生徒は多い事だろう。そして、平日は7時限まで存在している上に土曜日も6時限だが授業もある。相澤の言葉を借りるのならば、絶えず試練が与えられていく、これもその一つに含まれているのかもしれない。午前は通常の学校などと同じ必修科目、英語などの通常の物などがある。思わず皆、授業は普通だと思うがそれらを担当する教師はプロヒーロー達なのだから凄まじく豪勢な授業といえる。それは龍牙も思っているが、内容自体は確りしているうえにそれなりにレベルが高いので確りと勉学に励んでおく。そんな事よりも龍牙にとってはもっと嬉しい事があった。

 

「龍牙君、昼食を一緒に取らないか?!」

「ああっ分かった」

 

彼にも友達らしい友達が出来た事だった。個性が個性なだけに自分を恐ろしがって友達になろうという人間は殆どいなかった、だが此処では歩み寄って友達として接してくれる人たちがいる。それだけで龍牙にとっては幸せな時間で満たされている。

 

「あれっ龍牙君ってお弁当なの?」

「習慣付いてるんだ、世話になっている人の分と自分の分を作ってるの。良ければみんなの分も作るが」

 

そんな風に提案すると友達は嬉しそうにしながらそれをお願いされ、龍牙はそれを喜んで引き受ける。実際はコックヒーロー・ランチラッシュの作る食事の方が美味しいのは確実、それでも自分の作るお弁当を食べてみたいと言われて嬉しくなった龍牙。帰り道で買い物をして帰り、仕込みをしようと心に強く誓いながら献立を考えたりもするのであった。だが、普通なのはそこまでであった。遂に訪れる午後の授業、即ちヒーロー基礎学。

 

「わぁあたぁあしぃぃがっ……普通にドアから来たぁっっ!!!」

 

筋骨隆々の強靭で完璧と言っていい程に鍛え上げられた肉体、平和の象徴、皆が憧れる№1ヒーローのオールマイトだった。世界が認める程の認知度と皆が大好きである現代の大英雄とも言うべき超ビックネーム。オールマイトがデビューしてからというもの日本の犯罪発生率はどんどん下がり、世界最低レベルを保持し続けているほどの影響を誇る。そんなヒーローが教師として教鞭をとり自分達を見てくれる……これに興奮せずにどうしろというのだろうか。

 

「本当にオールマイトだ!!マジで教師やってるんだぁ!!」

「今着てるのは……銀時代のコスチュームみたいね」

 

つまり午後からのヒーロー基礎学はあのオールマイトからの授業となるのだからこれを興奮せずしてどうしろと言うのだろうか、重要な事なので二回言っておく。龍牙も心なしか拳を強く握りこんでいる。

 

「さてでは早速行こうか!!私が受け持つ授業、それはヒーロー基礎学!!少年少女たちが目指すヒーローとして土台、素地を作る為に様々な訓練を行う科目だ!!正にヒーローになる為には必須とも言える!!単位数も多いから気を付けたまえ!!そぉして早速今日はこれ、コンバット!!戦闘訓練!!!」

 

その手に持ったプレートには「BATTLE」と書かれている。いきなり始まるそれに、好戦的且つ野心家な生徒達はメラメラと炎を燃やす。それと同時にオールマイトが指を鳴らすと教室の壁が稼動をし始めていく。そこに納められているは各自が入学前に雄英へと向けて提出した書類を基に専属の会社が制作してくれた戦闘服コスチューム。

 

「着替えたら各自、グラウンドβに集合するように。遅刻はなしで頼むぞ」

『ハイッ!!』

 

各自は勢いよく自分のコスチュームが入った収納ケースを手に取ると我先にと更衣室へと向かっていった。そこにあるのは自分が思い描いた自らがヒーローである姿を象徴すると言ってもいい戦闘服、それをプロが自分たちの為に制作してくれるなど興奮して致し方ない、なんて素敵なシステムだろうが。

 

「―――形から入るってことも大切なことだぜ少年少女諸君、そして自覚するのさ!!今日から自分は"ヒーローなんだ"と!!!」

 

それぞれが希望したコスチュームを纏い、皆がグラウンドβへと集結する。皆それぞれの個性が生かせるかのような物、又は苦手な分野をカバーする物になっており正に個性が出ていると言ってもいい。が、そんな中で例外的な存在もあった。それは龍牙であった。

 

「あれっ龍牙それってコスチューム……なのか?」

「そうだが」

「いやただのスーツにしか見えないけど……」

 

龍牙の物は見た目は完全にただのスーツにしか見えない。黒の上下に中には薄い紫のYシャツ、そして黒のネクタイを締めている姿は会社勤めのサラリーマンにしか見えない。私服に近いコスチュームは耳郎も当てはまるだろうが、龍牙も龍牙もかなり異質に映る。それはそうである、彼にとってコスチュームは何の意味も無いのだから礼儀正しく映るものとしてスーツ姿になるようにオーダーを出したのだから。

 

「コスチュームなんて俺には意味がない、個性を発動したらどうせ意味がなくなる」

「あっそっか。それならコスチュームの見た目ってあんまり問題じゃないんだな」

「そういう事だ」

 

リュウガの個性を発動させれば自分は完全に姿は変異、それは身に着けているものも完全に巻き込むような形で行われていく。個性把握テストの時も体操服も見えなくなっていた。故に彼にとってコスチュームなんて意味がないに等しいのである。

 

「でも龍牙君かっこいいよ!出来る男って感じがビンビン出てる!なんだろ、やりてのビジネスマンみたい!」

「有難う葉隠さん。君のコスチュームは個性と同化するタイプ……なのか?」

 

自分のスーツ姿を褒めてくれる葉隠に素直にお礼を言いつつも彼女のコスチュームに目を向ける、透明人間である彼女の個性を活かす為ならば見えなくなることは必須。故に個性と同調して見えなくなるタイプの物なのだろうか、手袋と靴だけは見えているが。

 

「ううん違うよ、私は透明人間だから手袋と靴だけだよ。他は脱いだの、本気で行くって決めたからね!」

「え"っそれって……」

「うん。簡単に言えば全裸、かな」

 

思わず龍牙の思考が死ぬ。つまり自分は全裸の女子生徒の姿を真正面から見ただけではなくそれを指摘したという事になるのだろうか、なんという事だとんでもないセクハラではないか。いやそれどころの騒ぎではない、これは訴えられても何も言えなくなるレベルの所業。顔が青ざめていくのが自分でもわかる、がそんな彼を気遣ってか葉隠は言う。

 

「大丈夫だよ龍牙君、気にしてないから。だって透明だから見えないから分からないでしょ?じっと見られ続けるのは嫌だけどワザとじゃないから怒ってないよ?」

「それでも……申し訳ございませんでした……今度何か奢らせてください……」

「別に気にしなくていいのに~」

 

素直に謝罪する龍牙に周りは、飯田ほどではないが真面目なんだなという印象を持つのであった。

 

 

オールマイトから詳しい戦闘訓練での説明が行われていく。今回は皆の基礎を知る為の屋内戦闘訓練、ヒーローチームとヴィランチームで分かれての戦闘となる事になるという。ヒーローチームはヴィランを確保するか、ヴィランが隠し持つ核兵器を確保すれば勝利。ヴィランは制限時間までに核兵器を守りぬく、又はヒーローチームを全員確保が勝利の条件となっている。核兵器は張りぼてだが、これは本物として扱えという事らしい。そして、チームはくじ引きによって決定されるのだが、A組は21人、一人余る計算になる。そんな中、龍牙が引いたくじは【SPECIAL】と書かれていた。

 

「スペシャル……?」

「おおっ黒鏡少年が引いたか。君が引いたのは対戦相手もペアの相手も自分で選べるのさ!但し、一番最初に戦ってもらう事になるけどね。さて君は誰とやってみたいかね!?」

 

そう言われて素直に龍牙は困る。誰とやってみたいというのははっきり言ってなかった、故に困ってしまう。そんな中、鋭く凶暴な視線を送ってくる一人の男が居た。爆豪だった。

 

「おいヴィラン野郎、俺と戦え!!」

「爆豪……だったら爆豪で。後はオールマイトにお任せします」

「うむ了解した!ではそうだな……切島少年、君が爆豪少年のバディをして貰えるかい?」

「うっす了解っす!!」

 

これで龍牙の相手は爆豪と切島のコンビという事になった。後は龍牙の相手を見つけるだけなのだが……ハッキリ言って組みたい相手はいるにはいる。が相手が相手なだけに言い出しづらいので龍牙は提案する事にした。

 

「俺は俺の限界を見てみたいので一人で戦ってみてもいいでしょうか」

「ほほう随分とチャレンジャーだね!!いいだろう、スペシャルを引いた君だから特例で許そう!」

 

戦闘訓練第一戦:黒鏡 龍牙 VS 爆豪&切島ペア




因みに龍牙がパートナーに選びたかったのは葉隠さんです。雄英内で一番信頼出来る人なので。でも全裸の件で言いだしづらかったのでこんな感じに。

コスチュームイメージは、衝撃のアルベルト。


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訓練を始める黒龍

屋内戦闘訓練の舞台となる一棟のビル、その最上階より一階下に龍牙の姿があった。龍牙は自分が守るべき核兵器の張りぼてを見つめながら改めて勝利条件を確認していた。爆豪と切島はヒーローチーム、自分はヴィランチームとして振り分けられた。

 

ヒーローチーム(爆豪&切島):制限時間内に核兵器の確保、又はヴィランチームの確保。

 

ヴィランチーム(龍牙):制限時間までに核兵器を守りぬく、又はヒーローチームを全員確保。

 

先にヴィラン側である自分がビルの中に入り、その5分後にヒーローチームが内部に突入してくるという流れになっている。後3分ほどで訓練が開始される事になる、と言っても自分に出来る事など限られているに等しい。自分の個性に出来る最大の事は二人との全力戦闘が最大になる。ならばそれを取るべきだろう、幸い爆豪は自分に敵対的な意志を持っている事だろうから戦いに持っていくのは簡単、問題は切島だけだが……まあ問題ないだろう。

 

『黒鏡少年、もう直ぐ始めるが準備は良いかい?』

 

耳に装着している通信機からオールマイトの声が聞こえてくる、もしもの場合はこれからオールマイトが戦闘中止の言葉などを出す事になっている。それに頷くと開始の合図を出される事になった。

 

「さて……俺も始めるか……!!」

 

リュウガ……!!

 

 

「うしっ時間だぜ!!行こうぜ爆豪!!」

「うるせぇんだよ、てめぇは黙ってろクソ髪野郎!!」

「おいおい過激だな、まあいいから行こうぜ!」

 

突入許可時間となったので爆豪と切島は颯爽とビルの中へと入っていく。荒々しく暴力的な言い回しが多い爆豪に切島は特に気にすることもないように元気を出して絡みながら付いていく。当人も本当に気にしていないらしく、イライラしているような爆豪の言葉も軽く受け流している。薄暗いビルの中を進んでいく、廃墟同然のような作りに薄気味悪さを感じつつも周囲を警戒するように進んでいく。

 

「龍牙何処にいんだろうな……」

「ぜってぇにぶっ飛ばす……!!」

「気合十分だな!うしっ俺も気合入れるぜ!!」

 

そう言いながら切島は腕に力を込めながら拳をぶつけ合う、その時にガキンッ!!という音が鳴る。切島の個性は硬化、身体を硬くする事が出来るというシンプルなもの。故に個性が知られても問題が無いという長所などもある。そして爆豪は音からして金属並みに硬い事を見抜き、いざという時は盾にも使えるなっと軽くヒーローらしからぬことも考えたりもしている。

 

「うおっでっけえ鏡」

「ンなもんどうでもいいだろうが糞が」

 

通路の途中にある鏡に気を取られる切島、先に進む爆豪の続こうとした時、視界の端に何かが映り込んだ。それは黒い影のような物、咄嗟に振り向くがそこには何もいない。爆豪の背中しか見えない。

 

「今のは……待て爆豪!!なんかいるぞ、龍牙の奴かもしれねぇ!!」

「ンだとぉ!?」

 

何の気配もしなかった、何も感じられなかった爆豪はそれを信じられなかったが周囲の警戒に映った。周囲には死角が多い、誰かが隠れているとしてもおかしくはない。

 

「けっならこの辺りぶっ飛ばせいい話だ」

「でもそれじゃあ龍牙にも居場所バレちまうぜ?」

「だったらあいつをぶっ飛ばせばいいだけの話だろうが」

「そうか、正面から戦った方が男らしいもんな!!」

 

と爆豪の意図を理解しているのかが不明な切島だが、取り敢えず警戒のための攻撃は反対ではないようだ。そして爆破を起こそうとした時の事、切島は不意に鏡を見た。その時、鏡の景色の奥いや、鏡の奥から何かがゆっくりとこちらに向かってくるのが見えた。振り返って鏡に見えている風景を見ても何もいない、だが鏡には見えている。意味が解らない、目の錯覚かと思いきやそれは徐に腕を上げると炎を噴射してきた。

 

「ば、爆豪鏡の中からなんか来る!?」

「なんかって何だ!?」

「なんかは何かだ避けろ!?」

 

鏡の真正面から飛び退くとそこから真っ黒な炎が飛び出した。それは個性把握テストで龍牙が使っていた黒い炎、間違い龍牙が仕掛けてきた!咄嗟に切島が鏡をたたき割って炎の出口をふさぐと炎は消え去った。

 

「ビビったぁ!?なんだよ鏡から炎ってありか!?」

「ンなこたぁどうでもいい、どうやって鏡から炎を出すんだよ。そこが問題だ」

 

切島は先程まで龍牙を消し飛ばすだのぶっ飛ばすだのと言っていた爆豪が冷静に割れた鏡の破片を見つめながら考え込んでいる姿を見て少し彼に誤解をしていたと思う。いざという時は沈着冷静に物事を考える事が出来るだけの力を持っているんだと。

 

「鏡は多少なりとも熱を持ってるが溶けちゃいねぇ、鏡の背後の壁にも何の変化もねぇ……」

「つまり龍牙はどうやって攻撃をしたんだよ……?」

「知るかテメェで考えろ」

 

 

「おいおい龍牙の奴どうやって攻撃したんだ!?」

「鏡越しに攻撃したのか!?」

 

それらを見つめるモニタールームでは龍牙の攻撃に対する声が続いていた。突如として行った炎による攻撃、全く正体の掴めない力に皆が困惑する中、麗日は緑谷に聞いていた。

 

「ねぇデク君、龍牙君の個性分かる?」

「ううん全く……龍牙君の個性によるものとしか今は……でも一体どんな物なのかは……」

 

個性オタクと言っても過言ではない程の知識や個性に対する考察などを行う緑谷、彼ならば何か分かるのではないかとも思ったのだが流石に何も分からない。そんな中で唯一何をしたのか理解している人物がいた、オールマイトであった。

 

「(話には聞いていたが此処まで凄まじい個性とは……途轍もない力だ)」

 

 

そして、爆豪と切島が体勢を立て直した時、ゆっくりと廊下を歩くような音が響き始めていた。同時に聞こえてくる龍の雄叫び、それは確信と共に警戒心を持って告げていた。敵が此方に向かっている、立ち向かう体勢を作りながら廊下の奥で紅い瞳が煌めいた。

 

リュウガ……!!

 

「来たか……!!」

「ヴィラン野郎が……!!」

 

廊下の闇を抜けて姿を現した龍牙、黒い龍の騎士は荒々しく唸り声を上げるとゆっくりと首を回しながら唸り声を上げながらこちらを威嚇するように雄叫びを上げる。

 

「ゥゥゥ……ゴアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

周囲を揺らすほどの爆音の咆哮に思わず耳を塞いでしまった、いや強烈な威圧感に本能的な危険を感じて反射的に身体の自由が利かなくなっている。目の前にいるのはヴィランではなく猛烈な威圧感を纏っている凶悪な怪物という印象を深く持ってしまう。

 

「さあヒーロー、俺を倒してみせろよ……凶悪なヴィランを……!!」

 

龍牙は瞳を輝かせながら剣を手に取り、ヴィランとしてヒーローである二人へと向かっていく。



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戦闘を行う黒龍

「聞こえ、無い筈なのに……身体が、震えやがる……」

「な、んだよあれ……あれってなんだよ……」

 

ビルの中に配置されている定点カメラから映される映像をモニターで見つめる他の生徒達、だが龍牙の雄叫びが上がった瞬間に皆が震えていた。音は拾わない筈なのに相手を威圧する龍の咆哮が響いてくるような感覚を味わっている。雄叫びの凄まじさはオールマイトですら驚きを隠せない程のものだった、これ程までの威圧感をまだ大人になり切っていない少年が出せるのかと思うほどに。そして同時に彼のオリジンを思い出し、それにも納得がいってしまい、少し顔を暗くする。

 

「(個性:リュウガ……そのオリジンは彼の感情が引き金となっている、彼に温かさを与えてくれた出会いすらそれを変える事が出来なかった。彼は……永遠にあの自分と向き合っていくしかないのだろうか……)」

 

ゆっくりと足を進めながらヒーローチームへと近づいて行くヴィランである彼、皮肉にもあの場で一番ヴィランらしい姿をしているのは彼だ。ヒーローになりたいと願っている彼こそが最もヴィランに近い場所にいる、なんという皮肉なのだろうか。だからこそ彼は自らの個性を―――リュウガと名付けたのだろう。

 

 

「とんでもねぇ威圧感……!!身体が震えてるぜ……いやこれは武者震いだ!!」

 

咆哮を受け身体が震えている自分を鼓舞しながらも闘志を燃やす切島、確かに震えこそあるがそれは恐怖からではない。凄まじい程の力を秘めている龍牙と戦う事で自分は更に向こうへと歩いてゆけると実感し、その一歩を大きくする為に闘志を燃やす。男らしくも彼らしい闘志の燃やし方だ、一方爆豪は大きく歯ぎしりさせながらも迫ってくる龍牙を睨みつけていた。闘志を燃やしているからではない―――気に入らない、そして苛立っている。

 

「(ヴィラン野郎が俺をビビらせた……ンな訳ねぇだろ……クソがぁ!!!)死ねぇぇぇええ!!!!」

 

苛立ちと共に爆破を推進力に使い一気に加速する、走る事なくかなりのスピードを出しながら龍牙へと迫る。そしてさらに爆破で回転を加えながら大ぶりな右腕のラリアットを龍牙へと放つ。爆破の勢いも加わった一撃は速度だけではなく威力も桁違いに上昇している、その危険性を察知したのか咄嗟に腰を落として回避を行う。だがそれに合わせるかのように真正面から迫る影がある。

 

「行くぞ龍牙ぁぁあああ!!!」

 

切島である。腕を硬化させながら全力の一撃を龍牙の腹部へと叩き込む、重々しい音が響く中、爆豪は追撃を加えんと低くなった龍牙の頭部へと踵落としを加える。さらに重い音と共に炸裂した踵落とし、通常であればそれだけでノックアウトされそうな程の威力。しかし、龍牙の身体が崩れ落ちる事はなかった。何故ならば―――

 

「すげぇ……!」

「クソがぁ!」

「……まともに入れば、危なかったかもな」

 

切島の拳を左手で握った剣で、爆豪の蹴りを右腕で受け止めているからだ。本人としても咄嗟の行動だった、それでも上手くいった。それでも両腕に伝わる二人の力は本物、甘く見ていれば間違いなく倒されるのは自分だろう。

 

「んんんんらぁぁっ!!!」

 

両腕を思いっきり開くようにしながら二人を力任せに、強引に振り払う。自分から離れる二人を見つめながら龍牙は、呻くように言う。

 

「……さあどうする、ヴィランは目の前にいるぞ。掛かってこい、ヒーロー共」

 

まるで自分に言うように、自罰的に、吐き捨てるかのような言葉を口にしながらさらに攻撃を煽るように問いかける。それを受ける爆豪は更に油を注いだ火のように怒る、彼からすれば自分程度も倒せないのかと挑発されているように受け取ってしまったのかもしれない。だが、怒りながら彼は笑っていた。

 

「俺の爆破はなぁ、手の汗腺からニトロみてぇな物質(もん)を出して爆発させんだよ」

「ほう」

 

そう言いながら爆豪は腰を落としながら装着している手榴弾のような籠手にあるピンのような物に指を掛ける、それを聞いて切島はもしかしてと思ったのか後ろに下がる。

 

「要望通りの設計ならこの籠手はそいつを内部に貯められる……!!」

「つまり爆破する物を一気に……っ!!」

「もう遅ぇ食らいやがれぇぇっ!!!」

 

それに気づいたオールマイトが止める間もなかった、爆豪は迷う事もなくピンを引き抜いた。刹那、籠手からは爆破の濁流のような物が一気に放出されていく。爆炎と爆風、その両方を含んだ強い川の流れのような物が一気に龍牙へと向かって流れだしていく。気付いた時にはもう遅かった、龍牙は逃げる事も出来ずにその爆発の激流へと飲み込まれていく。それは龍牙だけではなく、ビルの一部を丸ごと飲み込みながらすさまじい大爆発を起こし一帯を大きく揺らす。

 

「ぐぅぅぅうっっうわぁぁっ!!?」

 

その爆風は爆豪の背後に逃れた切島も軽く吹き飛ばされる程の物、これをまともに受けたらとんでもない事になる。ではこれを避ける間もなく撃たれた龍牙は……と切島は顔を青くしながら爆豪に詰め寄った。

 

「お、おい爆豪お前……!!あいつを殺す気かよ!!?」

「あほかよ、殺したら俺はヴィランじゃねぇか。直撃しねぇように、掠るように撃った」

 

それを聞いてあれほど怒っていたのに冷静だった彼に驚いた。妙な所で冷静というかみみっちいというか、兎に角彼としても龍牙を殺す気などが一切ない事を聞いて少し安心するが、これでは大怪我必至だ。流石にオールマイトも呼び掛けを行った。

 

『爆豪少年これは訓練だぞ!!?黒鏡少年に大怪我をさせるつもりか!?それに今のはヴィランとしてもヒーローとしても大幅な減点材料になる、その技はもう使ってはいけない!!』

「けっ使う気もねぇよ、どうせあいつはもう動けねぇんだからな」

 

ほくそ笑む爆豪、見た目こそ龍牙の方がヴィランに見えるが性格などを含めて考えたら爆豪の方がヴィランだろう。爆豪としてももう同じ技は使う気はないらしく、大人しくトリガーにピンを戻す。そして爆煙の先へと視線を巡らせ倒れている筈の龍牙を探す。何も見えないからか、切島は少し不安になる。

 

「おい龍牙お前大丈夫か!?生きてるか!?」

 

返事が無い、本当に大丈夫なのかという思いが募る中で遂に爆煙が晴れていく。そしてその中に影が見え始める、ほくそ笑む爆豪の顔が更に顕著になっていく。そこには防御の姿勢を取ってはいるが全身から煙を出している龍牙の姿があった。狙い通りに直撃こそはしていない、やはり自分の狙いに狂いはなかったと笑いが止まらなくなりそうになる中で音がした、それは龍牙から聞こえるような気がする。

 

「ンだとぉ……!!?」

「……ぅぅぅ……うぉぉおおお、ウウッアアアアアァァァッ……!!」

 

咆える、龍牙咆える。両腕を激しく動かし、首を鳴らしながら瞳を光らせながら復活を告げる龍牙。それを爆豪は信じられないようなものを見るような瞳で見つめ、切島は素直に龍牙が無事であったことに喜びつつも警戒をし続けた。

 

「……(一歩間違えば俺死んでたかもな。)よくもやってくれたなヒーロー。だが俺はまだ此処にいる、ならばお前らはどうする。俺は―――お前達に復讐する、するだけだ」

 

黒龍は爆発の激流を受け怒りを覚えている、怒りは晴らさねばならない、それが復讐だ。突如として、龍牙の目の前に歪んだ龍の頭部のような形をした鏡によく似たものが出現する。それを見た爆豪と切島は咄嗟にあれはやばいと思い、身を引いた。

 

「―――返すぞ、お前の攻撃……!!」

 

強烈な閃光と共に、三度爆発が一帯を揺るがした。



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訓練後の黒龍

ヒーロー基礎学:屋内対人戦闘訓練、第一戦。黒鏡 龍牙 VS 爆豪&切島ペア。互いに一歩も譲らない戦いを行う中、爆豪が仕掛けた大爆発を凌ぎ切った龍牙は反撃に転じた。それは彼の特殊な力によるものだった。再度巻き起こった大爆発、それによってビルの一角は崩れ落ちていた。そんな中に立ち続けている龍牙は倒れこんでいた二人へと確保のテープを巻き付けて勝利を決定づけていた。その様な事があった訓練後のモニタールームではその講評を行う為に三人が戻っていた。

 

「それでは講評を行うとしよう、さて今回のMVPだが……切島少年だね」

「お、俺っすか!?龍牙じゃなくてですか!?」

 

オールマイトが今回のMVPは切島だと言うと本人は全くそれを理解できていなさそうに困惑する。大したことも爆豪のような大きな攻撃なども全くしていない、自分達を圧倒した龍牙でもなく自分がMVPというのが素直に理解出来ない。そんな中で何故切島がMVPなのか分かるかと皆に問うと八百万が手を上げる。

 

「はいオールマイト先生。それは切島さんがあの場で最も良い行動をしていたからだと思います、比較的と付け加えるべきかもしれませんが」

「うむその通りだ!爆豪少年の時に言ったが、大規模な破壊攻撃はヴィランとしてもヒーローとしても大幅な減点材料、守るべき牙城の崩落にも繋がる。そしてそれを黒鏡少年も行った。故に切島少年がMVPなのだ!それに君は真っ先に龍牙少年の攻撃にも気づいていただろう、そこも評価しているぞ!」

「おおっそう言う事かぁ!!」

 

言われて気付く切島、なんだかんだで優秀な事を連発していたのである。その後の爆豪と龍牙の怪物的なインパクトの影響で影が薄くなってしまっているが……。そんな中でまだ視線を集めているのは未だ個性を解除しようとしない龍牙、腕を組んで壁に寄り掛かるようにしながら黙り込んでいる。機嫌でも悪いのかと思う中で葉隠が近づいて行く。

 

「ねぇ龍牙君、ちょっと個性解除して貰ってもいい?」

「……なんでだ?」

「いいから、怪我してるでしょ」

「……何でバレてるのかな」

 

肩を竦めるようにしながら龍牙は個性を解除する、闇が薄れるかのように元のスーツ姿へとなった龍牙。よく見てみると左腕辺りから出血しているのか色が赤黒く染まっている。めくってみるとそれなりに酷い火傷を負っているのが分かる、流石の龍牙もノーダメージという訳にはいかなかったらしい。

 

「おいおい結構酷い火傷じゃねぇか!?痛くねぇのか龍牙!?」

「気になるレベルの痛みじゃない、放課後に医務室に行こうと思ってはいた」

「今すぐ行った方が良いよ!怪我を後回しにしても良い事なんて一つもないよ!?ねぇそうですよねオールマイト先生!?」

「うむっ葉隠少女の言う通りだ。黒鏡少年、許可上げるから医務室に行ってきなさい」

 

そう言うとオールマイトは医務室使用許可書に一筆認めて龍牙へと渡す、龍牙は大丈夫だと言うが葉隠に押されるように医務室へと向かう事になった。本当に痛くはないのだが……渋々医務室へと歩き出した。溜息をつきながら到着した医務室、扉に手を掛けて中へと入ると中からは見知った人からの声が聞こえてくる。

 

「おやっお前さんかい龍牙」

「世話になりますリカバリーガール」

 

医務室にいたのは小柄だが優しげな笑みを浮かべている老婆、長年雄英に勤めながら多くの生徒達の成長を見守りながら治療を行ってきた雄英の屋台骨、希少な治癒の個性を持つリカバリーヒーロー、リカバリーガール。そんな彼女は龍牙からの言葉を受けて一層笑みを強くしながら言う。

 

「昔みたいでいいよ、今は二人しかいないからね」

「分かりました、じゃなくて分かったよ―――ばっちゃん」

「うんうん。ほら怪我した所を見せてごらんよ」

 

ばっちゃん、親しみを込めたそんな呼び方を聞いて嬉しそうに微笑みながら座るように促しながら患部を見る。火傷と裂傷による少し深い傷、先ず的確な処置をしてからリカバリーガールは自分の個性を発動させる。彼女の個性である癒しは対象者の治癒力を活性化させ、重傷もたちどころに治癒させることが出来る。個性発動の姿はやや個性的だが……。

 

「チユーーーー……これで良しっと。大丈夫かい、アンタの体力なら問題はないと思うけど」

「少し身体だるいけど問題ない、それに本当は来る気なかった。全然痛くなかったから」

「アンタの悪い癖だね。一度受けた大きな物と比較しちゃうのは、怪我は怪我だから遠慮せずに来な」

 

治癒を終わらせながらリカバリーガールは何処か心配そうに龍牙を見る、彼女にとって龍牙は孫のような存在なだけではない。彼のオリジンの奥深くまで知っている数少ない人物の一人でもある。彼女からすればこれからの龍牙の歩む道が心配でならない。

 

「何度も言うようだけど龍牙、アンタの歩む道は大変だよ。ヒーローは見た目を重要視する所もある、助けた人間に安心感を与えるのも大切な仕事。その点アンタは相当不利、それを承知でヒーローになろうとしているのは分かってる。覚悟は決まってるよね」

「何回聞くんだよばっちゃん。俺はなるよヒーローに」

 

何度繰り返したかもわからないようなやり取り、それに龍牙は変わらない答えを提示し続ける。それを聞き此方も肩を竦めながら分かったよと返す。そして医務室から出ようとする孫に一つ言っておくべき事があった。

 

「龍牙、B組にだけどねある生徒がいるんだよ。その子―――鏡 白鳥って言うんだよ」

「―――っ……そう、じゃあまた来るよばっちゃん。今度は治療とかじゃない用事で」

 

一瞬、身体を強張らせた龍牙。しかし直ぐに何事もなかったかのように医務室を後にしていった。そんな背中を見送るとリカバリーガールは溜息をついた。

 

「厄介事にならないと良いんだけどねぇ……」



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厄介事を避けられない黒龍

「オールマイトの授業はいかがでした!?是非一言お願いします!!」

 

戦闘訓練の翌日の登校、そこで待ち受けていたのはオールマイトが教師として雄英に就任した事を嗅ぎまわり自分達の飯の為にしようとするマスコミの山。少しでも情報を得ようとしているのか登校している生徒たちを狙って取材を試みている。生徒達からすれば迷惑極まりない、一部生徒はテレビに映れると喜んでいる者もいるだろうがそれは向こうが有力な情報を口にしている場合のみ。それ以外の生徒など塵芥に等しい。マイクやカメラを押し付けてくるように迫ってくるマスコミ、それらは龍牙は大嫌い、というよりも他人の迷惑も考えずに行動する人間が嫌いとも言える。答える気など無かったのに迫ってくる女性アナウンサーに苛立ったのか鋭い視線を向ける、冷たい氷の刃のような視線に思わずヒッ!という声が漏れるが龍牙は気にしない。

 

「……登校出来ないんですけど」

「す、すいませんでした!!ど、どうぞどうぞ!!」

 

まるで恐れる不良の頂点に道を譲るかの如く、道が開ける。それほどまでに龍牙の冷たい視線は恐怖に値するという事だろう、ため息を一つ付くとそのまま校門を潜って中へと入っていく。こちらを恐れるように見つめるマスコミの視線を背中で受けながらふと思う、自分の個性の事を考えるのならば見た目の事で怖がられるのは当たり前。それに応じた対応をしていては何も変わらない、ならば懇切丁寧な対応をすべきだったのではないか?とこれからの課題の一つとして考える事にするのであった。

 

「やっほ~龍牙君おはよう!」

「葉隠さん、おはよう。今日は曇りじゃないから悪い天気だな」

「青空なお天気だから悪くはないと思うけど?」

「俺にとっては曇りが最高にいい天気なんだ。晴れは暑くなるからあんまり好きじゃない」

 

途中合流した葉隠と適当な会話をしながらも教室に到着する。戦闘訓練では凄かった、カッコよかったという言葉を貰えて龍牙は口角を緩めながら少しだけ笑った。自他共に認める恐ろしい風貌の個性、それをカッコいいと言われるのは彼にとってこの上ない喜びと化し始めていた。それに沿うような行動も大切なのではないかと軽く思い始めていると相澤が教室へとやってきてHRが開始される事になった。初日の除籍云々の関係か、相澤が居る時には酷く静まるのがA組となった。

 

「昨日の戦闘訓練お疲れさん、VTRと成績は見させてもらった。爆豪、お前ヒーローやっていく気なら餓鬼みたいな事やめて客観的に自分と周囲を判断しろ」

「……分かってる」

 

爆豪に釘が刺される、先日の訓練では龍牙との戦闘後に行われた緑谷との戦闘訓練で同じような酷く荒々しくビル内を爆破しまくるような戦いを行っていたらしい。流石に大爆発は控えたようだがそれでもビルの内部がボロボロになるような戦い方だったらしい。そして緑谷もその戦闘でそれなりに深い怪我をしてリカバリーガールの所に担ぎ込まれたらしい。見る限り既に包帯もしていないので良い方向には向かっているらしい。

 

「個性の制御出来ねぇからしょうがないじゃ通させない。それをクリアすれば出来る事も増えて行く、焦れよ緑谷」

「はっはい!!」

 

なんだかんだで認めるべきは認めて伸ばすべきを伸ばす、それが相澤先生である。そして次に彼が口にした言葉でクラスはまた別の熱狂に包まれる事になる。

 

「学級委員長を決めて貰う」

『学校っぽいの来た~……』

 

初日の合理的虚偽による除籍警告で完全に警戒していた皆はやる事を聞かされた改めてホッとしたのか息を付いた。本来学級委員長は雑務のようなイメージがあり誰もやりたがらないようなものなのだが、ヒーロー科においてはトップヒーローに必要な集団を導くという素地を鍛える事が出来る。故に皆が自己推薦を行っていく。唯一自己推薦していないのは興味なさそうにしている龍牙ぐらい、酷く如何でも良さそうに欠伸をしている。本気で如何でもいいのである。

 

「(俺の柄じゃないしな……それに俺みたいなやつが委員長になったら厄介事招きそうだ)」

 

ヴィラン顔負けな姿をする自分が委員長をすれば要らぬやっかみを向けられるかもしれない、本人としてもクラスとしても迷惑だろうから遠慮しておく。

 

「皆静粛に!!!"一"が"多"を導く大変な仕事、それをただやりたいからと、簡単に決めて良い筈がない。だからこそ信頼えるリーダーを決める為、投票を行うべきだ!!」

 

ここで真面目な眼鏡君でお馴染みの飯田が投票で決めるべきだと主張をした。自分もやりたいのか真っすぐ、見事な一直線に伸びている腕に皆からツッコミが入る。が、結局相澤の時間内に決まるなら何でもいいという言葉から投票制は可決される。そして……一番票を獲得したのは緑谷、次点で八百万であった。因みに龍牙は0票だったりする。

 

「あれ龍牙君他に入れたの?」

「ああ、俺は委員長如何でもいいから」

「なっでは君が俺に入れてくれたのか!?」

 

そう龍牙は飯田に入れたのであった、飯田は他の人に入れたらしく0票である事も覚悟していたのか酷く驚いている。理由を聞こうとするのだがそれより前に相澤はぶった切って授業を始めてしまったので、そこまでとなったので飯田は昼休みに絶対聞きに行こうとするのだが……それよりも早く先客が龍牙を訪ねた。

 

「あのすいません、龍牙って人此処にいませんか……?」

 

昼休み、皆が昼食を取ろうと動き出そうとする中A組を訪ねたのは長い白銀の美しい髪をした美少女であった。そんな少女が訪ねたのは龍牙であった。龍牙は顔を上げて自分を訪ねてきた少女へと目を向ける、彼女は漸く会えたと言わんばかりに瞳を輝かせた。

 

「やっと会えた……!!!」

「……はぁっ面倒事か」

 

その少女とは対照的に龍牙は深い深いため息で答えた。クラス内は一体どういう関係なのかと考えで染まる中、龍牙は歩き出し、昼食に誘ってくれた飯田に謝罪をしてから少女を連れて教室から出て校舎近くの森の中へと入っていった。そこで龍牙は面倒くさそうにしながら問う。

 

「それで……お前は誰だ、まあ予想はしてるが……」

「鏡 白鳥、貴方の……妹です」

「やっぱりか……」

 

潤んだ瞳を向ける白鳥、ため息を吐きながら俯く龍牙。二人はどのような言葉を向けあうのか。



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話をする黒龍

過去の遺物、それはどのように捉えられるだろうか。

 

過去の遺恨? 過去からの贈り物? 過去の落とし物?

 

それは物による。本人からすれば邪魔な者、厄介事でしかない事もある。

 

―――そう、自分の妹ですらそれに該当する事もあるのだ。

 

 

目の前にて感動の余韻に浸るかのような涙を流す少女、鏡 白鳥。確かに自分の妹の名前だ、名前を出されるまで思い出す事もなく脳裏に過る事もなかった名前。リカバリーガールに生徒として在籍している事は聞いていた、何れ会う事になるだろう程度には思っていたがまさかこれほどまでに早く出くわすとは思いもしなかった。さて……如何するべきか。

 

「ずっと、会いたかったです……お兄ちゃん……!」

「(お兄ちゃん、ねぇ……)」

 

自分の事を兄と呼ぶ目の前の美少女に何も思わない自分は可笑しいのだろうか。美少女とは思うのだから可愛いと思っておくのが正常なのかとも考えつつも早く昼食を取りたいという欲求が増してきた、純粋に腹が減ってきた。

 

「それで俺に何の用だ鏡」

「えっ……な、何の用って……」

 

何時までもこうしている訳にもいかないので思い切って聞いてみると妹は酷く困惑したようにこちらを見つめている、何を言っているんだと言わんばかりの表情。

 

「わ、私はずっとお兄ちゃんに会いたくて……」

「あ~……10年ぶり……になるのか。んじゃ久しぶり」

「えっえっ……?」

 

素直に自分の心に従って言葉を出したのだが、余計に混乱している様子。では何を言えばいいのだと溜息を吐きながら面倒くさそうにしていると白鳥は震えながら言葉を作る。

 

「だ、だって10年ぶりの兄妹の再開、ですよ……?お兄ちゃんが個性の制御の為に施設に行ってから私がどれだけ寂しくて会いたかったのか……分からないの……?」

「個性の制御……何の話だよ」

 

如何にも豪く話がかみ合わない気がする、白鳥からすれば自分は制御が難しい個性を制御する為に施設に行っているという事になっているらしい。此処からして随分可笑しい、一体何を言っているのか全く理解出来ない―――行ったのではなく捨てたの間違いだろう。

 

「お前、まさか俺が個性を使えた時の事何も聞いてないのか」

「と、当然聞いてます!!親戚の集まりの中で遂に個性の発動を迎える事が出来た。ですが制御が酷く難しくて特殊な個性訓練施設のある研究所に行っていると聞かされています!」

「……成程な、そういうストーリーになってる訳か」

 

それを聞いて再び深々と溜息を吐いた、これで自分と妹の間の話の齟齬の原因が理解出来た。確かにあの場に妹はいなかったし説明するのは両親と親戚たち、それならば自由に話を組み立てる事も出来る。そういう事になっているのか……一筋の光の尾がフッと消えるのを自分の中で感じ取った。もしかしてと思っていた感情の糸が切れた音がする、やっぱり自分の家族は―――

 

 

『うんうん、大分個性の使い方が上達してきたね!今日はお祝いしないといけないのさ!!』

 

『その調子で鍛錬に励めよ、見た目の印象など自分の力と使い方で吹き飛ばしてしまえ』

 

 

あの人達だけだったんだと確信出来た。分かっていた筈なのに一筋の希望に手を伸ばし指を掛けていた。本当の事が分かった時の落差の事を分かっていた筈なのに……そして同時に感じるのは憤りと苛立ち、不思議な事に悲しさや恐ろしさなどは欠片もなかった。純粋な怒りだけがそこにあった。

 

「鏡、お前は何も知らないらしい。だから何も言わない、だが俺にとってはお前はどっちかと言うと他人だ」

「他人……なぜ、如何してなのお兄ちゃん!?」

「気になるなら両親に聞いてみな―――俺を捨てた感想は如何かってな」

「捨てっ―――!?」

 

白鳥は必至に理解に努めようとしている。龍牙自身も彼女には何の責任もないし何も背負う必要もない事は理解している、だが龍牙には彼女が何処か羨ましく見えてしまっている。心の底から望んだものを彼女は何の苦労も悲しみも恐怖も感じる事もなく手に入れている、それを妬んでいる自分が、憎んでいる自分が居る。出来るだけ平静を装うが言葉が荒くなっていく。

 

「まあ落ち着け妹よ。俺はお前と接する事は嫌じゃない、適当な所からスタートして行くとしよう。んじゃ俺はこれで、好い加減腹減ったからな」

 

ひらひらと手を振りながら振り返って龍牙はさっさと歩きだしていく。食事をしたいのは本心であるがそれ以上に離れたいという気持ちが強かった。あれ以上一緒にいたら確実に苛立っていた、いきなりの妹との再会で龍牙も困っている。話をするならば出来れば日を開けて気持ちが落ち着いてからしたいという気持ちに従ってさっさとその場から撤退する。

 

「(……あの二人からの影響、あるかもしれないな……相談とかしとくかな)」

 

この後、龍牙は食堂に向かうのだが話をしている間に何やら緊急事態が起きたらしく食堂利用が出来ない事を知ってショックを受けるが御握り弁当セットを確保する事に成功し、教室でそれを食べるのであった。




次回はUSJ!!


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USJへと向かう黒龍

龍牙が自身の妹、鏡 白鳥と再会してから数日。何も知らない彼女に少し言い過ぎたとも思いつつも龍牙は変わらない学生生活を営み続けていた。彼女が自分に関わる気があるなら関係を持つのは吝かではない、結局は彼女の意志次第で如何にもなる。関わろうとするならば友人的な接し方はするつもりでいるが妹として接するのは難しいかもしれない。

 

彼が妹の対処をしている間にマスコミが雄英のセキュリティを強行突破する厄介事などが発生していたが本人は全く知る由もなくそれを聞いて普通に驚いていた。そして緑谷が委員長を辞退してその代わりに飯田を推薦し、飯田はそれを承諾して委員長に就任した。そんな学生生活をしているとその日のヒーロー基礎学の時間となっていた。

 

「今日のヒーロー基礎学は俺ともう一人も含めての三人体制で教える事になった。授業内容は災害水難なんでもござれの人命救助(レスキュー)訓練。今回は色々と場所が制限されるだろう。ゆえにコスチュームは各々の判断で着るか考える様に」

 

伝える事を伝えたからさっさと行動しろと言わんばかりに相澤は20分後にバスに集合と最後に言い残して教室から出ていった。今までの事を考えれば遅れたら即刻除籍を考える事も考えるからか皆はテキパキと動きながら集合場所へと向かっていく。龍牙も例外ではなくコスチュームをその身に纏う、個性を発動させれば意味がなくなるとはいえコスチューム単体でも役割は持つ事が出来るようになっている。

 

「龍牙君もコスチューム着るんだね?」

「ああっ最初も俺はコスチュームはいらないと思ってた、でもあるのとないとは安全性が段違いって言われてな」

 

龍牙のコスチュームは最新の特殊繊維が使用されており、衝撃吸収性やダメージにもかなり強い作りになっている。関節各部には特殊合金製の物が当てられ保護が成されている。例え勢いを付けてサバイバルナイフをコスチュームを纏った龍牙の胸に突き刺したとしてもコスチュームが盾となって龍牙を守るようになっている。なのでどんなことが起きるのか分からない人命救助の場面でも十分に活躍が見込める。

 

「こ、こういうタイプだったのか……!!」

「全然意味なかったね」

 

委員長へと無事就任した彼の主導の下で出席番号順に席へ着いたのだが、後部はよくあるの二人分の座席、しかし飯田達が座っている中部から前部は左右に座席があって向かい合うタイプだったの出席番号順というのはあまり意味をなさなかった。飯田としても張り切っていたのだが、如何にも空回りしがちだ。

 

「私、思った事は口に出しちゃうの。緑谷ちゃん」

「えっあっはい!……えっと蛙吹さん!?」

「梅雨ちゃんと呼んで」

「え、えっと努力します……はい」

「あなたの個性――オールマイトに似てるわね?」

 

女子と関係をあまり持ってこなかったのか慣れない女子との一対一の会話に狼狽えている緑谷、梅雨ちゃんから言われた言葉に一瞬肝が冷えたかのような感覚を味わう。龍牙も少し気になるのか耳を澄ませながら話慣れていない彼なりの言葉を聞いて行こうと思う、

 

「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトは怪我とかしないぜ?よくある似ている個性とかそんな感じだぜきっと」

「ケロケロッそうかもしれないわね。今の社会だとよくある話だものね」

 

切島の言葉に何処かホッとしているような仕草をしている緑谷、何かあるのかと思いつつも今度は自分へと話題を振られた。

 

「でもやっぱり、派手な個性っつったら轟や爆豪に龍牙だよな!!」

「けど爆豪ちゃんはキレてばかり人気でなさそう」

「んだとてめぇ出すわクソがぁ!!」

「ほらね」

 

梅雨ちゃんの指摘を受けてキレる爆豪だが彼女は納得するような声を出しながら案の定だったわね、と言わんばかりに指をさす。そんな爆豪に対して轟はガンスル―だが龍牙は声を出す。

 

「それなら俺も人気は難しいだろうな。あの見た目だからな、ヴィランっぽいヒーローランキングという意味では人気は出そうだけど」

「マジでヴィラン顔負けの姿だもんな」

 

上鳴の言葉を肯定しながら自分の容姿へと話を持って行った龍牙に皆もそれには同意しか浮かべられなかった。個性:リュウガを発動させた状態を誰かに見せてヒーローかヴィラン、どちらに見えるとアンケートを取ったらぶっちぎりでヴィラン票が独占する事も夢ではない。

 

「でもそんな個性だと大変だったじゃねぇか?ヒーローも見た目を重視する部分もあるし、第一印象ってマジで大切だもんな」

「だな。入試で他の生徒を助けたのは良いんだが、ヴィラン呼ばわりされて泣きながら逃げられたりもした」

『ああっ~……』

 

それはあまりにも失礼だと思う反面、それは致し方ないと思ってしまうのが龍牙の恐ろしい所だろう。オールマイトが龍牙のように恐ろしい見た目で私が来たっと言って誰かが安心するだろうか。絶対にしない、寧ろ自分を襲いに来た新たなヴィランにしか見えない。その様な現実を味わってきた龍牙、それでも彼はヒーローを目指す事を絶対に諦めたりはしない。拳を握りながらそう思っていると上鳴が少し慌てながら話題をそらした。龍牙が何かを我慢しているように見えたのかもしれない。

 

「そ、そういえばさ!!龍牙、この前お前を探しに来た女の子とはどんな関係なんだよ

「そう、それおいらもすげぇ気になってた!!!あんな超ハイレベル美少女と何時の間に知り合ってたんだ!?」

「あああれか。あれ、妹だったみたい」

『妹!?』

 

再び驚きが広がる中で一部生徒は龍牙の言葉に違和感を覚えた。まるで彼女が妹であることを知らなかったような……

 

「でもどうして探しになんか来たんだ?お前を知らなかったって感じだったぜ?」

「会うのは10年ぶりだったからな……互いの顔なんて全然知らんかったからな」

 

それを聞いて皆はどういう事なのかと思う中、相澤がもう着くから静かにしろという言葉で鎮静化させられてしまったのでそこで終わりとなった。龍牙とあの女子は何か複雑な家庭環境があったのだろうと察し、彼らはそれ以上の追及をやめた。救助訓練の会場となる場に到着してバスから降りていき、相澤引率の元、中へと入って行くとそこにあったのは驚きの光景だった。そして思わず口を揃えて言ってしまった。

 

『USJかよ!!?』

「水難事故、土砂災害、火事、etc(エトセトラ) etc(エトセトラ)……此処はあらゆる災害の演習を可能にした僕が作ったこの場所――嘘の災害や事故ルーム――略して“USJ”!!」

『本当にUSJだった……!?』

 

そんな言葉を漏らしながら登場したのは宇宙服のような戦闘服を纏っている一人の教師であった。スペースヒーロー 13号。宇宙服に似ているコスチュームを着用している為に素顔は見えないが、災害救助の場で大きな活躍をしているヒーローの一人だった。そんな13号は言いたい事があるらしく、言葉を綴った。個性には人を殺してしまうほどの力を持っているものがあると。この授業ではそれを人を助ける為に使う事を学んでほしいという強い思いがあった。それらを感じた所で授業に入ろうとした時の事―――

 

龍牙よりも遥かに恐ろしい悪意と敵意が、影を伸ばした。



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ヴィランと遭遇する黒龍

心臓が大きく音をかき鳴らした。突然の事に龍牙は驚きながらも何かを敏感に感じ取った、何かが迫ってくるようなものを感じながら視線を彷徨わせた。ほぼ同時にUSJ内の照明が僅かに暗くなった、直後に相澤は背後の先に噴水広場に反射的に顔を向けた。向けた先には黒い靄が空中で不気味に渦巻き、その中心からは悪意と殺意が漏れ出ていた。活動中に何度も味わったヴィランから向けられるそれと同じものに相澤は顔を顰め、指示を飛ばす。

 

「一塊になって動きな!!13号、生徒を守れ!!」

 

リュウガ……!!

 

「黒鏡、下手に動こうとするな!!」

「分かってます……!!」

 

相澤の指示よりも早く、個性を発動させ皆の盾のように前へと躍り出た龍牙。相澤はそれを嗜めるが龍牙の火力と防御力は折り紙付きなのは知っている、ある意味一番前に出るべき人材ともいえるが生徒を危険に晒すわけにはいかないと、教師の矜持を引き締めながら相澤はゴーグルを装着し13号も動き出す。

 

「皆さん後ろから出ないように!!これは演習などではありません、完璧な非常事態です!!」

 

まだ何が起こっているか分からないという風な生徒達はきょとんとしていたが、ただならぬ雰囲気を察し直ぐに13号の背後へ集まっていた。唯一集まろうとしていなかったのは縄張りを犯した侵入者へと牙と爪を研ぎ澄ませているかのように唸りを上げている龍牙だけ。

 

「どこだよ、オールマイト…せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ…子どもを殺せば来るのかな?」

 

身体の各所に手を付けている男から悪意が放たれる。思わず龍牙は腰を落とすが相澤が制止を掛けるとゆっくりと後ろへと下がり13号の隣に立つ。

 

「黒鏡、お前も期を見て引け」

「……了解です。剣、お貸ししますか?」

「俺は剣は使えん、自分で持っとけ…13号、お前は生徒達を連れて避難させろッ!!俺はあいつらを食い止める」

 

捕縛武器を手に取りながら前へと一歩出る、敵は此処にオールマイトが来ることを知っていた。彼はこの授業に参加する予定だったが諸事情で今はいない状態、それを知らずいや授業に参加する事を知っているという事は先日のマスコミはあれらが手引きして雄英のカリキュラムを盗んだのだろう。侵入した来た者達へ苛立ちを持ちながら一歩進むと緑谷が声を上げて止める。

 

「でも先生!!先生(イレイザー・ヘッド)の戦闘スタイルは個性を消してから捕縛!正面戦闘は危険すぎます!!」

「一芸だけじゃヒーローは務まらん」

 

力強い言葉を言い残し、相澤は飛び出していく。これからは教師:相澤 消太ではなくプロヒーロー・イレイザーヘッドとして活動を開始する。飛び出していく相澤へとヴィラン達が笑いながら攻撃態勢に入る、最初に射撃能力を持ったヴィランがその銃口を向け、いざ意識(トリガー)を引こうとするが―――全く攻撃が出来ない。

 

「個性が使えねぇ!?」

「おいどうなってんだ!?」

「フンッ!!」

 

個性が消され浮足立っている。日常的に使用している自分の身体の一部がいきなり使用不能になる、これ程までに混乱する事もないだろう。その隙を突きイレイザーヘッドは捕縛武器でヴィランらを絡めとり、それぞれの頭部を激突させるようにしながら意識を奪って無力化していく。迫ってくる異形系個性持ちには、相手の動きの勢いを利用したカウンターを決めながら捕縛武器とのコンビネーションによる見事な体術で無力化していく。

 

「す、凄い……!!」

「緑谷感心するのは後だ、後ろは任せて早く行け!!」

「わ、分かったよ!!」

 

感激する緑谷の気持ちもわかるが此処は避難を優先するべきだと急かす龍牙、それに従って走り出すのを見て自分もその後に続いていく。

 

「逃しませんよ、生徒の皆様方」

 

瞬時に移動し、出口への道を封鎖するかのように立ち塞がる霧のような姿をしているヴィラン、他のヴィランをここに連れてくる役目も背負っている黒い霧のヴィランは何処か紳士的な口調をしながらも明確な敵意と悪意を向けてくる。それらから守る為のように13号が一歩前に出る。

 

「はじめまして生徒の皆様方。我々は"敵連合"と申します、以後お見知りおきを。この度、ヒーローの巣窟であり、未来のヒーロー候補生の方々が多くいる雄英高校へとお邪魔致しましたのは他にはない目的があるからです。我々の目的、それは平和の象徴と謳われております№1ヒーローであるオールマイトに息絶えて頂く為でございます」

「オールマイトを……随分な事を言いますね」

「大体不敵でしょう、それもヴィランの特権という奴です」

 

不敵に笑い続けている黒い霧のような男に13号は意識を集中する、一瞬でも隙を見つける事が出来れば自分の個性で最低でも動きを制限して生徒たちを逃がす事が出来る。身体を動かす瞬間、個性発動の瞬間でもいい、そこを見逃さないと意識を集中した時だった。自分の後ろから二人の生徒が飛び出して攻撃を繰り出さんと向かった、爆豪と切島だった。不意打ちに値する筈のそれ、命中すると思った瞬間に二人の目の前に自らと同じ黒い霧を展開すると二人を飲み込み姿が見えなくなってしまう。

 

「危ない危ない……。いけませんね幾ら生徒と言えど金の卵、という訳を失念していましたか。だが所詮は――卵、私の役目は貴方達を散らして、嬲り殺す事ですので」

 

そして今度はすさまじい勢いで霧が伸びていく、今度は自分達を包み込んでいく。身体が何処かに飛ばされているかのような感覚を味わうが直後に凄まじい暑苦しさと息苦しさを感じる。周囲は火の海、あちこちから火の手が上がっている。

 

「あつぅ!?ここって火災のエリアなのか?!」

「アチアチアチッ!!?」

「尾白に葉隠さんか!?無事か!?」

 

周囲を確認してみるとそこには尾白と葉隠がいた、如何やら自分は二人と共にUSJの中にある火災エリアに飛ばされたらしい。そして周囲には自分達を包囲しているヴィラン達が見えている。

 

「おい来たぞ獲物だ!!」

「っておいあんな奴集まりに来てたか……?」

「いや俺は見てないが……だがあれはどう見ても俺達の仲間だろ」

「だよな、あれでヒーロー野郎とか正気を疑うぞ俺」

 

とヴィラン達からは龍牙の見た目についてのコメントが次々と漏れてくる。それは龍牙の心を抉るだけではない、逆鱗を殴りつけているようなものであった。流石に尾白と葉隠も次第に唸り声が酷くなっている龍牙を見てやばいと思い始めた。

 

「……もう我慢の限界だ、俺だって好きでこんな姿じゃねぇんだゴラァアアアアアアアアアア!!!!!」



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否定される黒龍

俺はヴィランじゃない、ヒーローを志している。絶対にヴィランなんかじゃない。

 

 

―――あれはどう見ても俺達の仲間だろ。

 

―――あれでヒーローやろうとか正気を疑うぞ俺。

 

 

……だけど、目の前のヴィラン達は俺は自分達の側にいる者だと言う。一般人だけではなく、ヴィランにも―――俺が、間違っているのか……?

 

 

「違う、俺の道は俺が決めるんだ。俺は―――ヒーローになりたいんだ……」

 

そう思う龍牙、だが彼の心は深く傷ついていた。

 

 

「こいつ好い加減にしやがれ!!」

「自分だけ取り分を多くとろうってのか!!」

 

常時発動異形系と思われる巨漢のヴィランがその巨体に釣り合っていないような巨大な腕を差し向けてくる。人間一人を簡単に握り潰せるかのような大きさが迫る中で龍牙はそれに向けて右腕の龍頭で殴りつける。インパクトの瞬間に龍の口から漏れる黒炎が腕に燃え広がる。通常の炎よりもずっと高温なのか、周りが火の海なのにも関わらずに悲鳴を上げながらのたうち回り始める。

 

「あぁぁぁあぁあつぃ、あつぃぃいい!!!?」

「み、水水ぅぅぅうう!!!」

 

―――ヒィッ!!?なんだこれは……悪魔、いや怪物!?

 

―――ヴィ、ヴィランだ、ヴィランが龍牙をっ……!!

 

―――ヴィランだ早く通報しろ!!

 

「違う、違う違う違う……俺は……ヴィランなんかじゃないんだぁぁあああ!!!」

 

悲鳴のような声を上げながら龍牙は全力で地面を殴りつけた。個性を発動させているからか、地割れと共に黒炎が地割れから間欠泉のように溢れ出していき周囲を飲み込んでいく。周囲を囲んでいたヴィラン達は何の抵抗も出来ぬままにそれに飲み込まれていく。

 

「俺は、俺は唯……あぁぁああああああああああああ!!!!!!」

 

 

「は、葉隠さん俺に摑まって!!」

「う、うんっ!!」

 

黒炎の危険性を見抜いた尾白は葉隠の手を掴んだまま尻尾で地面を叩きつけて跳躍し、建物の一部を尻尾で掴んで黒い炎から逃れる。そして地面はあっという間に黒い炎が支配していく、紅い炎を飲み込んで更に力を増していくかのような黒い炎は龍牙の叫び声に呼応するかのように勢いを増していく。龍牙が自身の姿を気にしているのは既にA組の中では当たり前と化し、余り弄らない事も決まっている。

 

「龍牙君、マジでキレてるみたいだ……」

 

本物のヴィランから自分達と同じだ、ヒーローの側にいる事などあり得ないなどと言ったことを言われた事で龍牙の中にあった黒い感情を刺激してしまったのだろう。我慢してきた怒りを爆発させているというのが正しいような光景に尾白は息を呑んだ。黒炎の中で咆哮を上げながら黒い龍戦士、自分の目にもヴィランのように映ってしまっている。

 

「違う……泣いてるよ龍牙君」

「えっ?そ、そりゃ確かに咆える事を鳴くともいうけど……」

「違う!!龍牙君、泣いてるよ……苦しいって」

 

透明であるが故に抱えられている事が分かりにくいが、尾白は感覚で分かる。葉隠は龍牙が泣いていると呟く。あれは咆哮ではなく慟哭。怒りではなく悲しみで吼えている、透明であるが故に気付けているのか、見えない筈の龍牙の心を見た葉隠。そこにあるのは悲しみと寂しさによる迷子の子供のような叫び声。

 

「俺は、俺はぁぁぁあああ!!!」

「―――龍牙君!!龍牙君、私たちは感謝してるよ!!龍牙君のおかげで助かってるよ!!有難う!!」

「は、葉隠さん今それ言うのかい!?」

「いいから尾白君も言って!!」

「えっええっ!?わ、分かった!龍牙君本当に有難うお陰で僕も葉隠さんも大丈夫だよ!」

 

尾白は何が何なのか理解も出来ないままに龍牙への礼を口にする。今の龍牙が恐ろしいのは確かだが感謝しているのは本心から、それを素直に言葉にして伝える。叫び続けている彼にも聞こえるように大声で。

 

「―――っ……!」

 

その声が届いたのか、それとも正気に戻ったのか龍牙は叫ぶのをやめた。それに連動するかのように黒い炎も同時に鎮火され消えていった。黒い炎に焼かれたヴィラン達の炎も収まり激痛にのた打ち回ってこそいるが意識と命は確りあるようだ。龍牙は周囲を確かめるかのように見まわしている、一体何をしていたのか自分で理解する為に情報を集まるかのように。

 

「俺、は……」

「いてぇ……いてぇよぉ……」

「だ、誰か助けて……」

 

周囲から呻きを上げているヴィラン達の姿を見る、どれも火傷による痛みで動けなくなっている者達ばかり。誰もが苦しみにもがく声を出しながら自分を見つめると決まってある声を出す。

 

「く、来るな……こっちに来るなぁ……!!」

「や、やめてくれ、もうやめてくれっ……!!」

 

絶対的な恐怖におびえ、身体を震わせている。そこにいるのはもうヴィランではなかった、絶対的な力を身体に刻み込まれ怯え切った哀れな者達しかいない。そしてそれを成したのが自分だという事も察してしまう。先程まであれほどまでに威勢があり、自信と悪意に満ち溢れていたヴィラン達がである。自分の動作の一つ一つに脅えているのか、視線を彷徨わせるだけで悲鳴のような声を上げる。

 

「(ヴィランって、誰なんだ……この場におけるヴィランって俺じゃないのか……?)」

 

次第に呼吸が速くなっていく、心臓が早鐘を打つ。心臓の音だけが増幅されてそれと呼吸音だけが強く聞こえてい来る、思考が巡る、巡って巡り続けていく。認めたくもない事実が自分に迫ってくるような気がする、いや襲い掛かってきたヴィランに攻撃を返した……いやそれでは済まないかもしれない、いよいよ思考が麻痺してくるような苦しさを感じ始めた時―――

 

「―――君、龍牙君!!」

「龍牙君大丈夫かい!?」

 

葉隠と尾白の言葉でハッと我に返る事が出来た、顔を上げた先には心配そうに顔を覗き込んでくる尾白とギュッと握りしめられている葉隠の手袋があった。葉隠も手を握りこんで心配してくれていたのかもしれない。

 

「ごめん心配を掛けた」

「う、ううん大丈夫ならいいけど」

「龍牙君大丈夫なの本当に?」

「大丈夫だよ、もう大丈夫……それよりも早くここから出よう、暑いし」

 

そう言いながら先導するかのように先を歩きながら出口を目指す龍牙だが、葉隠は聞いていた。小さく、自分に言い聞かせるように大丈夫と何度も繰り返しているのを……。



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乗り越えたい黒龍

雄英高校の施設、通称USJにヴィランが襲撃を行った。のちにこれはUSJ事件として警察内部で処理される事になった。この事件の主犯と思われるのが(ヴィラン)連合を名乗る組織の存在、それらの目的は平和の象徴となっているトップヒーローたるオールマイトの殺害。が、奇しくもそれは標的であるオールマイトの奮戦によって阻止され生徒達に大きな怪我を負った者は居なかった。いたとすれば個性の反動で怪我をした緑谷位であった、が、もう一人医務室を訪れていた生徒が居た。黒鏡 龍牙であった。

 

「……ばっちゃん、俺ってまだまだだよね……受け入れなきゃいけないって分かってる筈なのに……」

「そうだね。お前さんはまだまだ若造だよ、未熟な若造だよ」

 

医務室、ではなく談話室にて龍牙とリカバリーガールの姿があった。治療が必要となる者の治療を済ませたリカバリーガールが訪れた談話室には思い詰めているかのような龍牙は腰を下ろしていた。顔に深い影を落としながら視線を彷徨わせている。

 

「ヒーローは誰かを助けるって思いで動くもんだよ、でもアンタは自分の感情で動いた。どっちかって言えばヴィランのそれに近いねぇ……今回は状況が状況だから結果的には良かったかもしれないけど」

「ううっ……」

 

ヒーローとして長い時間活動してきたリカバリーガールとしても龍牙の行動ははっきり言って褒められた物ではない、龍牙の個性に対するコンプレックスは根深い。人生を狂わされた要因ともいえる、それを他でもないヴィランに自分達と同じと言われたら当人としては我慢できない物が渦巻くのも理解出来る。

 

「仮にプロだとしてその行動は正しかったかい?自分の思いで暴走してヒーロー仲間をも巻き込みそうになったのは如何かと思うよ」

「……うん、俺もそう思う。俺も何とかしたいよ、自分の中で気にしない気にしないって思ってきたのに……」

 

強く手を握りこんだ時の事、談話室の扉が開け放たれた。目をやってみるとそこに立っているのは……白い毛並みをしたネズミだった。

 

「こ、校長先生……」

「YES!ネズミなのか熊なのか隠してその実態は……校長さっ!!」

「それ龍牙に言う必要ないんじゃないかい?」

「お約束は守らないとね!!」

 

そんな風に言葉を漏らしているネズミはこの雄英高校の校長を務めている根津であった。根津は人懐っこそうな笑みを浮かべながら龍牙の隣に腰を下ろした。

 

「今回は本当にお疲れ様だったね、個人的には君が無事で本当に良かったよ」

「……校長先生、俺ってヒーロー失格ですかね」

「随分と早急な答えだね。それを決めるのはあまりにも早すぎるよ、君はまだ子供だ。子供であるという事は成長の可能性があるって事だよ。これから大きくなっていけばいいんだよ」

 

暗い声を出す彼を慰める根津、片手でお茶を淹れながら彼なりの意見を出す。このような言い方は失礼かもしれないが龍牙が失格なら普段から酷く荒々しく平然と殺すと連呼する爆豪の方が失格になりそうな気もする。彼だってこれから丸くなっていく事もあり得るのだから、龍牙とて変わっていく事も出来る。

 

「でも君は今までは我慢出来てきた筈、妹さんに会って昔の事を思い出しちゃったのかい?」

「それもある、とは思います……あの二人からの干渉があるかもって思うと……」

「……ないとも言えないからね」

 

根津も少しだけ表情を硬くして龍牙の意見に同じものを浮かべる、龍牙にとって本当の両親はトラウマを強く刺激してしまう存在でしかない。過去の事で大きく取り乱さなくなってきたとはいえ、まだまだ幼く精神的にも未熟な所が目立つ彼が再び両親と会った時どうなるだろうか、そんな両親が過去の事を忘れて寄りを戻そうとしたらどうなるのかは根津ですら想像できない。

 

「それじゃあ今君はあの二人の事をどう思ってるんだい?」

「……正直分からないです。でもよくは思ってません」

 

逆に良く思え、というのが難しいかもしれない。突如個性が発現し、皆が龍牙の事をヴィランだと決めつけた。そしてまともな確認をすることもなく恐怖に囚われたまま攻撃や拘束を行い、彼らは警察に龍牙を引き渡し引き取らずに施設へと預けてしまった。全ては龍牙の姿がヒーロー一家としての名前に傷をつけるかもしれないという、愚かなエリート的な思考故に生まれている。いっその事、本当に無個性の方が幸せだったかもしれない。

 

「でも俺は校長先生に会えた事は幸せだと思ってます、素晴らしい個性だって言って貰えましたし」

 

家族からの事で破滅的に暗く絶望していた龍牙にそっと手を差し伸べたのが他でもない根津だった。出会いこそ偶然が引き起こした物だったが、それが新しい希望を手繰り寄せた。

 

「そう思ったのは事実だし本当の事だと思うよ、君の個性は出来る事の幅が広い。見た目だけじゃないって事を証明すればみんなに愛されるヒーローになれると本気で思ってるよ」

 

そんな龍牙にも温かく接してくれる人たちとの出会いもあった、でなければ間違いなく姿かたちだけではなく心までヴィランに堕ちてしまっていた事だろう。ヴィランとの遭遇は不意にもそんなIFの姿を彼に幻視させた、自分が恐れた物を。だからこそヒーローになりたい、自分を超える為に、この力でも人を助けられることを証明する為に。

 

「……すいません校長先生、初心忘れてたみたい。師匠の教え忘れてたかも」

「大丈夫かい、忘れたら後が怖いよ」

「全くです。だからもう忘れません、恐ろしくても大切なのは心ですからね」

 

そう言いながら拳を握る、そして決める。ヴィランだ何だと言われても、それを制したうえでヒーローとして動く事をやって見せる。その為にこれから師匠に連絡をしてみようと思っている。

 

「ちょっと俺、電話して着ます。師匠に叱って貰おうと思って」

「そりゃいいねぇ存分に叱られてきなさい」

「うんうんっ美しい師弟愛ってやつだね!」

「んじゃまた後で―――有難う父さん」

「うんっ気にしなくていいのさ」

 

 

 

『……そうだな、間もなく雄英体育祭だ。それまでの間……また扱いてやる』

「お願いしますっ……師匠!」



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体育祭に心躍る黒龍

ヴィランのUSJ襲撃後、雄英は処理やヴィランが敷地内が潜んでいないかの調査などで数日が休校となっていた。入念な調査の結果として問題が無いことが発覚し無事に授業は再開される運びとなった。無事に授業が再会されたことに安心する中、襲撃を受けたA組も何処か安心したような気持とこれからの課題のような物を見つけたものも多くいる。龍牙も必然的に登校してくるのだが、如何にも普段とは様子が違うように見える。

 

「ねぇねぇ龍牙君、ほっぺに絆創膏貼ってあるけどどうかしたの?」

「よく見たら包帯もしてあるな、怪我してるのか?」

「少しあってな、ヴィランに襲われてなったわけじゃないから安心してくれ」

 

龍牙が手当てを受けたような姿になってやってきた事だった。皆、USJでその様な怪我を受けたのかと心配するが、当の本人は全く平気そうな顔を作りながらも満足感に満たされているかのような笑みを浮かべていた。頻りに拳を握りは開くを繰り返すのを見つめ、何かを反芻するような仕草。何かあったのだろうかと皆が思う中で葉隠は近づいて行って笑顔で告げる。

 

「ねえ龍牙君、今とってもいい顔してるよ!」

「んっそうかな……」

「うんうんっキラキラしてる!あっでも私が行っても説得力無いかな?」

「ははっ確かに透明だもんね、でも鏡には葉隠さんの姿は映ってるよ。身も心も鏡みたいに綺麗って事だよ」

「おっ~それっていい響き~!よしこれからそれ、フレーズに使っていく!」

 

普段よりも饒舌に会話も進んでいる、明らかに機嫌がいいように見える。本当に何かあったらしい。尾白もそれを聞こうとするのだが、もう相澤が来る時間になってしまったので葉隠にそれを言って席に着く。全員が席について間もなく、直ぐに相澤がやってきた―――全身包帯でぐるぐる巻きにされているミイラ男状態で。

 

『相澤先生復帰早!?』

「大した怪我じゃない、婆さんが大袈裟だから包帯を巻いてるだけだ。気にするな」

 

相澤はUSJにてオールマイトと互角の戦いをやってのけるヴィランを連れた主犯格のヴィランらと戦闘、その際に大怪我を負っている。それによる傷はリカバリーガールによって治癒されているがそれでも重症患者なのは変わりはない。それなのに授業を行おうとしている辺り、動けるなら問題と思っている合理的主義者の相澤らしい。だがリカバリーガールはいう事を聞かないかなぁと溜息をついているだろうなぁと内心で思う龍牙であった。

 

「先日の件で色々言いたい事があるとは思うがそんな暇がない。新しい戦いが迫っている、覚悟しておけ」

 

そんな言葉に思わず一同は身体に力を入れてしまう。先日のUSJでのヴィラン襲撃、それがまだ続いているのかと皆に緊張が走っていく。誰もが自分達に危機が及ぶのではと緊張感を持っていた、そして相澤の口から語られる言葉に―――

 

「雄英体育祭が迫っている」

 

『クソ学校っぽいの来たあああ!!!』

 

大声をあげて歓喜する。どうやら危険ではなかったらしい。この言葉にクラス全員が少なからず興奮していた。雄英の体育祭と言えば学校規模のイベントというわけではない一大イベントなのだから。

 

嘗て存在した世界規模のイベントであるオリンピック、がそれらは個性の出現によって廃れてしまい今は存在しない。故に今はヒーロー達が個人の技などを競ったりする物がそれらに代わっている。プロヒーローによる競技も人気だが、学生が行うそれも人気。そしてその中でも雄英の体育祭はそれらの中でも規模も内容も群を抜いている。全国規模で放送される訳でここで結果を残すか目立つかしてプロの目に留まれば、将来目指すヒーロー像への近道が生まれてくる。己の力をアピールするチャンスなのだ。だからこそ、この雄英体育祭に向けられる熱意は内側からも外側からも並大抵のものではない。皆がこの体育祭で全力を発揮する。

 

USJ襲撃があったにも関わらず敢えて開催に踏み切ったのも理由がある。

 

「開催に否定的な意見もあるが、開催はする。雄英の管理体制や屈しない姿勢を見せつけるいいチャンスでもある。警備やらは例年の5倍以上だ、生徒諸君は安心して体育祭に挑んでくれ」

 

そんな言葉もあるA組の意識は一気に体育祭へと向けられていた。それに龍牙も熱くなっているのか龍らしい好戦的な笑みを浮かべながら拳を掌に叩きつけ力を込めていた。そんな中であっという間に放課後になってしまう、龍牙は放課後は行く場所が居るので荷物を引っ手繰って廊下に飛び出そうとするのだが、廊下にいる大勢の生徒達が此方を覗き込むようにしているので通る事が出来ずに急ブレーキを掛ける。

 

「と、通れない……」

「すっごい人だね!」

「これも多分、僕たちがヴィランの襲撃を受けたからだろうね……」

 

と葉隠と尾白が呟く。既にヴィラン事件の事は広まっており廊下には大勢の生徒が詰めている。野次馬目的なのか、それとも敵情視察なのか……それは定かではないがこれでは通れない。これでは約束している相手を待たせてしまう、出来れば直ぐにでも出たいのだが……。

 

「おいモブども、退け……邪魔だ。他人の迷惑も考えられねぇマスゴミかてめぇら」

 

そんな中、爆豪が罵声を浴びせながらも自分達の都合も考えろと遠回しに伝えたからか生徒達が少し道を作り始めた。それを見た爆豪は舌打ちをしながら邪魔だと呟きながらさっさと帰っていく、自分もそれに続くべきかと考えていると一人の生徒がそんな彼を見ながら言う。

 

「ふぅ~ん……あんなのがヒーロー科の生徒ねぇ……幻滅だな」

 

その生徒は爆豪を見ながらお前らもそんな感じかと挑発的に言葉を続けていく。が、流石に龍牙も声を出す。

 

「いや流石に全員あれと同一視されるのは勘弁願いたい、だがクラスメイトとして謝罪する。申し訳なかった」

「……いや俺も悪かった。ただ一言だけ言っておく。調子に乗ってると足元ごっそり掬われるぞ」

「肝に銘じておくよ、忠告有難う」

 

そう言い残すと満足したかのように、少し気だるげそうな彼は去っていく。しかし龍牙は彼の言葉にも一理あると思いながらも自分も気を引き締めなければと思い直す。そして時計を見てやばいと汗を流す。

 

「って時間がやばい!?ちょっと失礼、全力でダッシュゥゥウ!!!!」

 

凄まじい勢いで走り出していく龍牙、一体何があるのだろうか。龍牙が凄まじい勢いで走り抜けていく中、一人の少女がA組を訪れた。龍牙の妹である白鳥であった。

 

「あ、あの……」

「えっと、確か白鳥……さんだっけ」

「は、はい。お兄ちゃん……じゃなくて龍牙さんはいらっしゃいますか……?」

「龍牙君ならさっきすごい勢いで帰っちゃったよ」

 

それを聞くと白鳥は頭を上げて彼を追うように大急ぎで廊下を駆けだしていく。彼女も龍牙に用があったのだろう、しかし龍牙に会う事は叶わず肩を落とす姿が見られた。

 

「お兄ちゃん……お父さんとお母さんが会いたいって言ってるの伝えたいのに……」

 

そんな思いを抱くが龍牙は知る事もなく、とあることに勤しんでいた。それは―――

 

「がはぁっ……!!」

「如何した龍牙、この程度か!?立て、まだまだ終わりになどせんぞ!!」

「はいっ師匠……!!オオオリャアアアア!!!!」

 

師との特訓であった。




尚、約束の時間に間に合わず、ものごっつ怒られてメニューを倍にされた黒龍。


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決めた黒龍

「龍牙、お前血縁上の両親と会ったら如何する気だ」

「なんですか師匠いきなり」

 

体育祭に向けて毎日特訓を行っている龍牙、ひたすらまでに実践訓練を繰り返して個性のレベルと戦闘技術を、精神面などを徹底的に鍛え上げる特訓に弱音を吐くこともなく食らい付いて糧にしていく龍牙。そんな龍牙へと師匠が一つの事を訪ねた。それは龍牙の両親、肉親の事だった。数日前、妹である白鳥が両親が自分に会いたいと伝えて欲しいという事を言っていたことを聞いた。それに対しては急いでいたので詳しいリアクションはしなかった。

 

「ヒーローになる、いや体育祭に出るのであるならば確実にお前は多くの人間の目に映る。その結果で肉親がお前の事を知るのも必然、接触も間違いなくしてくる。その時お前はどうする?」

「あ~……どうでしょう、会ってみないと分からないですねぶっちゃけ」

 

分からない、それが素直な龍牙の本音。

 

「俺を捨てた事に対しての怒りならありますよ、妹に嘘吹き込んだのもムカつきます。いろいろと聞きたい事もあります、でも会いたいか会いたくないかって言われたら会いたくはないかも」

「ほう」

「だって今まで俺に会いに来てくれなかったんですよ、それなのにいきなり会いたいっていわれたら何か考えてるんじゃないかって疑ってる自分がいるんです。曲がりなりにも俺の肉親にそんなので会っていいのかな~って」

 

彼も彼なりに自分の感情を処理しながら考えを纏めようとしている。施設に預けられ、一度も会いに来て貰えなかった彼としては言いたい事はあるだろう。しかしそれよりも先に何故このタイミングで会いたいなどと言ってくるのかという点に目が行ってしまって如何にも微妙な物がこみあげてくるらしい。

 

「それに俺にとっての親って言えば根津校長と師匠ですから。何時も親の顔は見てますよ」

「……ふんっ小僧が」

 

そう言いながらも師の頬は少しだけ緩んでいるように映っていた。

 

「休憩は終わりだ、続きをするぞ」

「了解です」

「もっと厳しくしてやる、体育祭には俺も行く。無様な姿を見せたら……分かってるな」

「分かってますよ。休みなしで組手0セットですよね」

「50だ」

「絶対に活躍します!!」

 

 

「んで鏡、なんで俺に会いたいんだよ」

「あ、あのお兄ちゃんお願いですから白鳥と……」

「ああ悪い。まだ感覚が抜けてなくてな……」

 

体育祭まであと少しと迫ってきた日の昼休み、龍牙は件の話を持ってきた白鳥と話をする為に二人だけで言葉を交えていた。交流自体はしており少しずつではあるが絆のような物が出来始めている、が、矢張り10年振りに会う妹という事で龍牙は改善しようとしているがまだ他人という感覚が抜けないのか兄と妹の会話にはまだまだ遠い物であった。

 

「以前、私がお兄ちゃんと会った時に聞いた事をお父さんとお母さんに問い詰めたんです。話が全然違うじゃないかって」

「俺が施設で個性制御特訓的な事してるって奴か」

「はい。でも漸く制御が上手くいって今は雄英に居るって……これも嘘、なんですか」

「まあ嘘だな」

 

淡い期待を乗せたかのような言葉も龍牙があっさりと砕いた。彼女にとっての両親の像が壊れていく、その事に遅くながらも気付き謝罪するが、白鳥は気にしないでと少しつらそうに答える。彼女にとっての両親と自分の中の両親は違う、その事を忘れていた。

 

「それでお兄ちゃんと話して謝りたいって」

「謝るって何を謝るつもりなんだよ。個性発現時の事か、それとも一度も会いに来てくれなかった事か」

 

どれも龍牙にとっては今更過ぎる。過去の事になりすぎている、今謝られても昔が変わる訳でもない。もう気に病むのをやめることを決めた自分としては謝れても困る。前なら気にかけたかもしれないが、師との特訓や根津やリカバリーガールの言葉を受けてもう気にすることをやめている自分には意味のない事だ。

 

「どうせ断ったとしても体育祭には来るんだろ、あの人らだってプロだしな」

「はい、その時に話せたらいいなとも言ってました」

「何を話すつもりなんだ、今更帰って来いとでもいうつもりか?」

 

感情に言葉が乗らない、何をしに来るのか分からなそうにする兄に妹は苦しそうな表情をする。彼女からしても兄と再会しこうして話せることは非常に嬉しい事だ、だからこそ両親ともそうして欲しいと思っているが自分が思っている以上に兄と両親の間には溝がある事を感じ取る。

 

「お兄ちゃんは、帰って来たくはないんですか……?」

「う~ん……複雑だな。んじゃ鏡、じゃなくて白鳥、伝言を頼めるか」

「伝言、ですか?」

「ああっ。俺は会ってもいい、紹介したい人もいるって言っといてくれ」

 

それを聞いて白鳥は喜ぶ半面顔を赤くした。

 

「しょ、紹介したい人って……お兄ちゃん彼女いるの!?」

「へっ?いないけど……今の俺の保護者の事なんだけど……」

「あっえっそ、そうだよね!!いや分かってたよ!?うん今のボケだから!!」

「いや今の完全に素……」

「わぁ~わぁ~!!!」

 

図らずも、兄と妹のようなやり取りが出来た瞬間であった。



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体育祭に臨む黒龍

いよいよやってきた体育祭当日、開催までの時間を各自が使って今日まで備えてきた。その結果が今日明らかにされようとしている。雄英の体育祭には通常の体育祭とは比べ物にならない規模の人間が集ってくる、純粋に楽しむ為に、警備のために、未来のヒーローへのスカウトと全てがバラバラ。全てを含めたならば数千では効かなくなるような人数だ。そしてUSJの事件を受けてヴィランへの警戒を強める為に、雄英が様々なヒーローに呼びかけを行った結果として多くのヒーローが警備として参加してくれている。今までよりもすさまじい大規模、その中で行われるのだから生徒たちの緊張も一入だろう。

 

「……ふぅぅっ~……」

 

控室にて深い息を吐きながら気持ちを落ち着けようとしている、今日という日を覚悟と強い気持ちを持って迎えたつもりだったが矢張り緊張はする。落ち着いているつもりだが妙にそわそわしてしまっている自分がいる、そんな気持ちを落ち着けるかのように息を吐く。

 

「ねえ大丈夫龍牙君、凄い息してるけど」

「大丈夫、流石に緊張してね」

 

そんな彼を心配するかのように声をかける葉隠のこれも多少なりとも震えている。当然、雄英体育祭は全国へと放送されるお祭りイベント。何かへまをしたらそれがあっという間に日本中に知れ渡る。それらを加味してもこんな大規模な舞台で緊張するなという方が酷だろう。

 

「TVに映るとか私もう緊張しっぱなしだよ!!あ~これで何か言われたらどうしよう!?」

「だよねぇ。自分の名前を広めるチャンスでもあるけど、同時に怖い機会でもあるからね」

「でも葉隠は大丈夫じゃねぇか?だって透明だろ」

「ハッそう言えば!?でも少しは目立ちたい乙女心ぉ……!!」

 

そんな風に呻くような言葉を出しながら唸っている葉隠を見つめながら龍牙は息を吐く。そう、今日この日、自分は日本中に自らの姿をさらけ出す。ヴィランと恐れられ、逃げられる自らの姿を世間の波に晒すのだ。この日については根津とリカバリーガール、そして師匠から何度も言葉を貰って来た。だがヒーローになるつもりなら結局は世間の目に触れる事になる。それが早いか遅いかの違いでしかない。なら―――思いっきり目立つように映ってやろうではないかと半ば開き直る事にした。

 

「そう言えばよ、龍牙は大丈夫なのか?お前の個性って俺達は慣れてるけど、見慣れない奴からしたらめっちゃ怖いんじゃねぇの?」

「ちょ、ちょっと峰田君!?」

 

恐らく心配からきた言葉だろう、峰田がそう尋ねて緑谷が止めるように言う。龍牙が個性の見た目の事を気にしているのは皆が知っている事。それを指摘するのは明らかに拙い事、だが彼の言葉は正しいとそれに轟も続いた。

 

「だけどその通りだろ。黒鏡、お前の個性を慣れてねぇ奴に見せたらどんな反応が来るかはお前が一番分かってるんじゃねぇのか」

「轟君まで!?」

「いやいい、その通りだからな。入試の時には助けた相手に逃げられた、USJではヴィランに仲間扱いされた。それほどまでに俺の見た目はそっち側なのは承知してる」

 

100人に聞いたら確実に全員がヴィランと答える事だろう、そんな事は分かっている。そんな龍牙が、ヒーローになりたいと思ったのは最も尊敬するヒーローの背中を見たから。自分の個性や変えられない、だから―――

 

「だからこそ見て欲しい。俺を、俺の心を」

 

見せ付けてやるんだ。ヒーローになりたいと心から思っている自分の姿を。

 

 

『全開にして刮目しろオーディエンス!群がれマスメディア!今年もおまえらが大好きな高校生たちの青春暴れ馬…雄英体育祭が始まディエビバディアァユウレディ!!?』

 

解説席から聞こえてくるプレゼント・マイクの声、それが知らしめるのは開始の合図。開幕の号砲となって観客たちの熱狂を増していく。同時に出場生徒の間に一気に緊張が走って行く。入場を控えている1年達の間にもそれは広がっている、マイクの言葉と共に入場が行われるが矢張りと言わんばかりに視線と歓声が集中しているのはA組だ。まだ未熟な身でありながらヴィランの襲撃に遭遇しながらも生き延びたクラスに注目が集まるのは必然。大観衆が声援を上げて出迎えてくる。それをプレゼント・マイクの気合の篭った実況が更に加速させていく。それらの勢いに飲まれそうになる生徒、物ともしない生徒に別れる中で全1年が集結した時、一人の教師が鞭の音と共に声を張り上げた。

 

「選手宣誓!!」

 

全身を肌色のタイツにガーターベルト、ヒールにボンテージ、色んな意味でエロ過ぎて18未満は完全に禁止指定のヒーロー、18禁ヒーロー・ミッドナイトが主審として台の上へと上がった。思わず思春期真っ盛りな男子生徒だけではなく観客の男たちもボルテージがMAXになっていく。何時の時代もエロは強いという奴だろうか。

 

「18禁なのに高校にいていいものなのか?」

「良いっ!!」

「峰田自重しろ」

 

そんな中、選手宣誓として入試でトップを飾った爆豪が宣誓に呼び出された。入試首席な辺り、爆豪の優秀さが光るがA組の皆は全く別な事を心配していた。爆豪の性格から考えて真面目な選手宣誓になるなんて欠片も思っていないのである。

 

「せんせー、俺が一番になる」

『やりやがった……!!』

 

心配した通り、予想のど真ん中を剛速球のストレートでぶっちぎる様な所業をやってのける爆豪に皆ですよね、的な顔を作る。彼らしいと言えば彼らしいかもしれないが……。それによって生まれるのは生徒達からのとんでもない大ブーイング、観客からは笑いや引いている者もある。そんな物を受けながらも爆豪は顔色一つ変えずに元の列に戻っていく。矢張り大物だ。

 

 

「面白いクラスメイトが居る者だな龍牙。さてっ―――俺との訓練が無駄ではないところを見せて貰うぞ」




次回から種目開始!


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障害物競走に挑む黒龍

爆豪の肝の座っている選手宣誓から始まった雄英体育祭、A組は周囲からのヘイトを感じつつもそれらに負けないようにと強く気持ちを持ち直す。そして主審ミッドナイトから第一種目の内容が明かされる。

 

「第一種目はいわゆる予選、毎年ここで多くの者が涙をのむ(ティアドリンク)!!さて運命の第一種目、今年は障害物競走!!一学年の全クラスによる総当たりレース、コースはこのスタジアムの外周で距離は約4㎞よ!!コースを守れば何でもあり!!全力を尽くすように!!」

 

振られた鞭の先、ゲートがスタジアムの奥の青空とコースを映し出す。これから自分達が走る事となる先へと続くロード、すぐさま誰もが自分に有意な場所へと陣取ろうと動き出していく。矢張り皆スタート地点ギリギリの場所へと進んでいくので満員電車状態と化しているので龍牙は後ろへと回る。

 

「満員電車みたいでいやだし……初動が明らかに遅くなる」

 

前半の方が恐らく本心であるだろうが、初動の事も気にしているのも事実。あれだけの人数なら明らかにもみくちゃになる。だったらいっその事後ろで体力温存やら動きを見ていた方がお得という奴だ。そして間もなくスタートを告げるランプが点灯始まる、一つまた一つと色が変わっていく。誰かがつばを飲み込む音が木霊しそうなほどの静寂、点灯音が重く響く。そして今―――それが始まる!!

 

『スタートだぁぁああっっ!!!』

 

開幕の知らせ、それと共に土石流のごとくスタートへと殺到していく選手たち。皆が他人より少しでも早く前へ前へと焦りを持っているからこそ起きている。一歩引いていて正解だったと胸をなでおろしながらも龍牙はスタートの形を見る。スタートの道はアーチ状になっており、その奥が外へと通じている。そしてそこへと通じる道は人が殺到しているが上は全く人が居ない。ならば選択は一つしかないも同じ。

 

「さあ行くぞ……師匠との地獄の特訓で得た俺の新技……部分出現(パーツ・アドベント)!!」

 

それは龍牙が師との文字通りの地獄に等しい特訓で得た新しい技術、言葉と共に足が部分的に黒い炎に包まれる。だが炎はすぐに収まるとそこには個性を発動させているときの龍牙の脚部があった。体操着の一部から脚が変化し変貌している。

 

「よしっ行ける……!!」

 

発動異形型に分類される龍牙の個性、発動させる場合は常に全身を変化させている訳だが師匠から部分的には無理なのかと言われ、自身も何度も挑戦し続けていた。時に師匠の言葉を受けながら、根津に意見を貰いながら試行錯誤を続ける事言われてから5年。遂に部分的に個性を発動させることに成功したのである。全身変化と比べると力も弱まるが、それでも発動していない時と比べると雲泥の差。

 

「よっほっだぁぁっ!!」

 

脚部を個性発動させ、一気に跳躍しながら壁を蹴りながら下の人ゴミを超えていく龍牙。下では轟が個性を使ったのか多くの生徒が氷に足を取られていた。そして目の前ではA組のクラスメイト達が各々の個性を活用し、氷を突破し轟を追従する姿がある。これは負けてられないと龍牙も気合を入れながら壁を蹴り、上手く着地しながら走り出していく。

 

「でたらめな出力な個性だな……」

 

と素直に轟の個性の出力に驚きを覚え、驚愕する龍牙。恐らく個性の最高出力で言えば轟はトップ独走、氷と炎を使えるというのだからなんという超パワーな複合属性な個性だろうか。氷と炎という組み合わせにトキメキを覚えつつも、龍牙が必死にその後を追っていく。追従する先、トップを張り続けている轟がいよいよ第一の関門へと足を踏み入れると思わず足を止めた。彼だけではなく全員が足を止めていた。

 

『さあさあ遂に来た来たやっと来たぜ!!!ただの長距離走じゃねぇのがわが校だぜ!!手始めの第一関門、駆け付けいっぱいで全力だせる戦闘はいかが!?イッツァ、ロボインフェルノ!!!此処を超えないと次にはいけねぇぜぇえエエエイエエイ!!!』

 

熱の籠っている実況で状況説明と周囲のボルテージを上昇させるマイク、障害物として出場選手たちを遮ったのはヒーロー科を受験した者達ならば誰もが目にした物。様々な感情を呼び覚ます赤い眼、入試にて登場しそれらを倒して得られるポイントを競った仮想敵が立つ。宛ら自立可動式の高いハードルと言った所だろう。

 

「おいおい嘘だろ!?ヒーロー科こんなのと戦ってるのかよ!!?」

「冗談だろこれを突破しろってか!?」

 

ヒーロー科以外のクラス、普通科や経営科にサポート科は流石の障害に驚きと恐怖を抱く。最低でも自分達よりも大きなロボが自分達を標的にして襲い掛かってくる、それだけでも相当恐ろしい。故かもしれない、それに真っ先に動いたのは轟であった。

 

「折角ならもっとすげぇのを用意してほしいもんだ、クソ親父が見てんだからよぉ!」

 

腰を落としながら左手を振るう、共に空気が一気に冷却されながら地面から息吹を持つかのように氷の山脈が芽吹く。それらは一際大きい仮想敵を飲み込むと一瞬で凍結させてしまい、動きを完全に停止させる。正しく一瞬の事だった、そして駆けだしていく轟。白い息を吐き出しながら前へと進んでいく彼を追うかのように次なる物が飛び出していった。それは―――黒い龍の脚で地面を駆ける龍牙だった。

 

「成程……突破、しかないよな!!」

 

改めて状況を確認しつつ、一気に駆け出す。彼も入試にて仮想敵を相手にしている、あれよりも大型の物も混ざっているが大した恐怖心は抱かないし寧ろ障害にも思わない。ハッキリ言ってあんな物よりも遥かに師匠の方が怖いしやばい、自分にとっての最大級の恐怖よりも格下の物に恐れる訳もない。ならば―――押し通りのみ。

 

部分出現(パーツ・アドベント)攻撃(ストライク)!!」

 

右腕が炎に包まれる、そこには黒い龍の頭が出現する。それは闇の炎を纏いながら迫る仮想敵へと叩きつけられる、仮想敵は一瞬にして地面に沈められその先へと龍牙は足を進めていく。

 

「もっと先へっ……更に、向こうへ!!」



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集中する黒龍

『第一種目の障害物競走!!首位は轟ィ!!それを猛追するのは威勢のいい選手宣誓を放った爆豪、そして猛ダッシュする黒鏡ィ!!どれもA組だ、どう思うよ解説のイレイザーヘッド!!』

『……さあな。但し、轟の天下は長くは続かせないように爆豪と黒鏡は動くだろうな』

『おっとンな事聞いてる間に第二関門に近づいて来たぜ、フゥゥウゥウウ!!!』

『もう俺要らんだろ』

 

 

「……あれが龍牙」

「やっぱりだけど、大きくなってる、わね……」

 

白熱していく障害物競走を更に熱くしていくプレゼント・マイクの実況に会場はヒートアップ。オーブンのような熱気に包まれている中で、それとは真逆な空気に包まれている所があった。とある夫婦が座っている観客席だった。それは何処か幽霊を見つめてるかのような懐疑的で冷たい視線をモニターの龍牙へと送り続けている。

 

「思った以上に元気でやってるんだな……白鳥から話を聞いた時は驚いたが……」

「ヒーローを目指してるなんてね……でもそれならやっぱり」

「ああっ話しておく必要がある―――確りとな」

 

何処が歪んだ会話を続けている二人は何かを決めたかのように龍牙の映るモニターから目をそらす。それが何の感情によるモノかは分からない、だが兄を想う妹が望む物とは遠い物であるのは間違いない。

 

『落ちれば即アウト、それが嫌なら這いずりなっ!!!ザ・フォォォオオオオオル!!!!』

 

いよいよ先頭の集団が第二の関門へと足を踏み入れた。そこへと姿を現したのは巨大な峡谷のように大口を開けている地の底へと向かっているような真っ黒い闇、下を見れば引きずり込まれそうなほどに深い深い谷。切り立った崖のような足場とそれらへと架けられているロープの橋渡し。つまり、ロープを綱渡りの要領ので渡っていく事で奥へと進んで行けという事になる。

 

「この程度っ……!!」

『おっとぉ流石推薦入学者!!轟は足でロープを凍らせてその上を滑って移動していく!!中々に速いしこりゃ有利ぃ!!』

 

足を押し付けるようにしながらも同時にロープを凍てつかせ、氷の上をすべるように移動していく轟。あっという間に先へと進んでいく彼を見つめながら龍牙は部分出現を解除する。そして今度は右腕に意識を集中させていく。流石にこれほどの距離は個性を完全に使わないと超えられない、だがそれでは師匠との特訓で得た技が意味をなさなくなる。その対処法は確りと考えていた。

 

「一点集中……部分出現・攻撃!!」

 

右腕が先程よりもより激しい炎へと包まれていく、轟々と唸りを上げるかのように燃え盛る。そして出現する右腕の龍の頭、だが通常時とは異なっているのは常に黒い炎を纏い続けている事。それを見て龍牙はニヤリと笑うと一気に駆け出していく。

 

「だぁぁぁぁっっ!!!」

 

全力で右腕の龍で地面を殴りつけた。殴られた地面は一気に罅割れていき崩れていく、だがそこに龍牙の姿はない。龍牙は宙に舞いながらロープの先にある足場へと向かい、着地する代わりに地面を殴りつけて再び高々と跳び上がっていく。

 

『こりゃクレイジー&ファンキー!!なんとA組の黒鏡 龍牙の突破方法は自分の膂力で地面を殴りつけてその勢いで空に飛びあがるって芸当!!なんつぅパワー!!こりゃ轟とは違った意味でスーパーパワーだぜ!!』

 

部分的な個性の発動が可能になった事で発動の幅が広がり、その応用として見つけたのが一点集中。龍牙は個性のパワーの多くを右腕に集めて発動させる事で、通常時よりも遥かに力を発揮するような使い方を見出していた。それによる力は自らを腕力で空へと打ち出すのも可能にするほど。それを数度繰り返すとザ・フォールを突破すると先に突破した轟、自らの爆破で空を飛んで楽々と突破した爆豪を追いかけるが、鈍い腕の痛みに顔を顰める。

 

「つっ……ええい今は無視!!」

 

鈍い痛みを感じつつも、それを完全に無視して全力で疾走する。一点集中にも矢張りデメリットは存在しており、通常よりも多くの力を一つの場所に集めるので、通常の許容量を超えてしまい自分の身体を傷付けてしまう。加減すれば痛みは抑えられるので運用は慎重さが求められる。そんな龍牙も遂に最後の関門に到達する。

 

『さぁあて遂にやってきた来たマジで来た!!これが最後、即ちファイナル!!ラストの障害!その先は一面地雷原!!他にもトラップあるかもな!そこは正しく紛争地帯!!強いて言うならば怒りのアフガン!だけどeverybody もし踏んでも安心しな、競技用だから威力は控えめで殺傷力はマジ皆無!!だが音と爆発は派手だから失禁しねぇように精々気を付けやがれってんだYAAAAHAAAAA!!!!』

「高校に地雷って自由過ぎるか……?」

 

と思わず呟く龍牙は間違っていないだろう。まあロボやら断崖絶壁を用意している辺りからもうあれな気もする。だが此処を超えなければ先へは進めない、流石の轟も慎重に進んでいる。下手に凍結させて地雷が反応しないようにすれば速度こそ出るが後続にも道を作る事を把握しているからだ。それを見て龍牙はもう一度地面を殴って進もうとするが、そうはさせないと言わんばかりに周囲から空へと向けられたバルカン砲のような物が一斉に顔をこちらへと向けた。

 

『あっ忘れてたけどそこを高く飛び越えるってのはお勧めしないぜ!!一定高度に達したらそこらに仕掛けられてる対空ミニガンが火を噴くぜ!!因みにこれも弾は殺傷力皆無だから安心しな!』

「ミニガンってマジかよ!?ってそうか、爆豪が低空で進んでるのはそういう事か……!!」

 

「退きやがれってんだ半分野郎!!」

「お前がどけっ……!!」

 

視界の先では爆豪が轟と小競り合いをしながらも器用に両手で爆破を起こしながら地面から少しだけ浮いた状態を維持しているのが見えている。彼もミニガンの存在に気付いて一気に飛び越える事をせずにああして進んでいるのだろう。このままでは一気に距離を離されるだけ……ならば取るべき手段は一つだけ―――あいつら纏めて吹き飛ばす。

 

「部分出現・攻撃……行くぜ、はぁぁっ……だぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

右腕を身体の内側に隠すかのように身体を丸め、一気に腕を伸ばすと同時に右腕の龍から獄炎の炎を一気に放出する。炎は地面を焼きながらどんどん進んでいきながら地雷の爆破を引き起こしていく。連鎖的に起爆していく地雷は遂に轟と爆豪の付近にまで到達する。

 

「なっぐああっ!!?」

「ンだこりゃあああ!!?」

 

爆破に威力こそないが、衝撃自体はある。それが一気に巻き起こった事で轟と爆豪は吹き飛ばされていく、特に爆豪は宙に浮いていただけあって轟よりも強く爆風を受けて吹き飛ぶ。そしてトップ二人の邪魔をするだけではなく自身が全力で駆けだせる道も作る事が出来た龍牙はそこを一気に突破していく。

 

『どんでん返しだぁぁぁ!!!!轟と爆豪のツートップかと思いきや、それに待ったをかけた黒鏡!!避ける筈の地雷を敢えて起爆させて妨害しやがったぁぁぁ!!!!』

「うおおおおおおっっ!!!」

 

二人が怯んでいるうちに一気に距離を稼いでいく。あの二人の事だ直ぐに持ち直してくる、その間だけでも距離を稼ぐんだと全力で走り抜けていく。そしてついに二人を追い抜きトップに躍り出た龍牙、それでも油断せず全力で走る中、背後で自分が起こした物よりも遥かに巨大な爆風が巻き起こり頭上を何が飛んでいく。それは―――

 

「僕だって、負けないんだぁぁぁ!!!」

 

緑谷だった。第一関門であった仮想敵の装甲を盾にしながら、それで爆風から身を守りつつもそれで爆風を受けて一気に吹き飛んで自分の遥か先を進んでいく。装甲はミニガンの射撃を物ともせず緑谷を守る、距離を稼ぎながら周囲には爆風による妨害、そして装甲で自分はダメージを最低限に抑える。なんという手を使うんだと素直に龍牙は驚いた。

 

「何か凄い負けた感じ……!?」

 

結果、緑谷はそのままトップに躍り出て逃げ切る事に成功し1位で障害物競走を通過した。龍牙は緑谷に続いた2位。まさかのライバル出現に龍牙は困ったような表情を作りながらも嬉しそうにする。

 

「……凄いな、お前に勝ちたいぜ俺は」



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仲間を組む黒龍

第一種目である障害物競走、それを第2位で突破した龍牙。今日まで彼も師匠に扱いて貰い力を付けたつもりだったのだがそれでもまだまだ不十分いや、力は十分に付けている。新しい技術に技も身に着けている、それらよりも自分の上に立ったあの少年の方が上手だっただけ。

 

「緑谷、お前の機転には驚かされる。改めて感服する」

「そ、そんな事ないってば龍牙君!僕は僕に出来る事を精いっぱいやっただけだって!!」

「その成果がお前の1位通過だ、胸を張れ。でないと俺も胸を張れんよ」

 

とまだ何処かおろおろしている彼の背中を叩くように応援を送るが龍牙としてもこれは敗北の味。だがそこに屈辱の雑味はない、あるのは清々しい心地よさの敗北感。これは師に一矢報いる事が出来た後の敗北の後によく似ている。ならばそれを糧にして自分はどんどん成長するとしよう。自分はまだまだ弱く、脆いのだから。

 

『さあこの調子でどんどん行くわよ!次の競技は協力が光る競技、それは―――騎馬戦よ!!』

 

個人競技ばかりだと思っていた彼らには驚きだった。そしてどのようなルールなのかと疑問が募る中、メインモニターに開設が流された。オールマイトが先生達の騎馬に乗っている画面でインパクトがやばかったがルールを箇条書きにすると以下のようになる。

 

・人数は二人から四人でチームの騎馬を作る。

・ルールは基本的に通常と同じ騎馬戦。

・順位によってPがあり、騎手は騎馬を含めた合計のPのハチマキを首から上に巻く。

・ハチマキを奪われる。騎馬を崩される。そのどちらになっても失格にはならない。

・個性の使用は当然のごとく可能、攻撃も可。

・悪質な崩しは一発退場。

・制限時間は15分。

 

それらを聞いて龍牙は誰と組むかも大切だがポイントやらがどのぐらいなのかが気になる所だった。先程の障害物競走での順位がポイントの基準になるとすれば自分にはかなりの高ポイントが設定されるのではないかとも思う。となると矢張り誰と組むかが鬼門となってくる。そんな思考をしている龍牙のリクエストに応えるがごとく、ミッドナイトがポイントを発表する。矢張り順位が肝になるらしい、そして―――第1位の緑谷のポイントは……

 

『2位は205ポイントだけど、ここからが肝よ!!何事にも一発大逆転はある物、そう、1位のポイントは1000万ポイント!!!』

「うわっ」

 

一瞬にて周囲の目が緑谷へと集中した。1000万ポイント、それさえ取れば勝ちも同然のような法外な設定。エンターテインメントとしては一発逆転が公式から準備された方が盛り上がるのも確かだろうが……これはこれで緑谷が酷く不憫に思えてきた。彼の緊張は尋常じゃないだろう。殺気が凄い事になっている。

 

『それじゃあここから15分、作戦タイム&チームの編成タイムよ!!』

 

龍牙の取った行動は酷くシンプルだった、一斉に周囲から人が居なくなり本気で焦っている緑谷へと近づいていく。そして彼の肩へと優しく手を伸ばし手を置く。震えている事が分かり益々不憫になってくる。

 

「りゅ、龍牙君……」

「お前さえよければ俺と組まんか」

 

弱まったメンタル、周囲からの殺意による緊張で震えていた緑谷。そんな彼には優しい声色と頼りになる手を差し伸べてくれた龍牙は最早天の使いのように思えてしまった。しかも自発的にチームを組んでくれると言ってくれている。これほどまでに嬉しい言葉なんてない……。

 

「り"ゅ"う"が"ぐ"ん"!!」

「ひと先ず落ち着こうか、号泣で顔面が崩壊してる」

「デク君!!ウチと組もうよ~!!」

「麗日さん……!!」

「み、緑谷顔が何か凄い事に!?」

 

麗日も緑谷にチームを組もうと笑顔で誘いをかけてくれた。理由は仲が良い人と組んだ方が良いから!という事らしい、確かに意思の疎通もあるだろうから良い線をいっている。

 

「まあこれで三人、出来ればあと一人居ることが望ましいな」

「うん。デク君あんまり重くないから二人でも支えられるけど、出来ればもう一人欲しいもんね」

「いやそうじゃないんだけど……まあいいか、緑谷誰に声をかける?」

 

総合的に個性を見れば、重量などを軽くして機動力の確保が出来る麗日。部分出現にて攻撃にも防御にも移動にも活用できる汎用的な強みを持つ龍牙と中々な面々が揃っている。となると選択すべきは防御面、それに適した個性を持っている人物を自分は知っている。緑谷は迷うことなく彼の元へと歩みを進めて言葉を掛けた。

 

「あの常闇君!!僕たちのチームに入ってくれないかな!?」

 

緑谷が選んだのは常闇だった。声をかけられた常闇は落ち着き払った雰囲気を纏まった静かにこちらを一瞥すると静かに良いだろうと答える。

 

「この戦いは例えどれと組もうが修羅の道であるのは違いなし、であるならば強い者と手を組み成果という花を華々しく咲かせるのみだ」

「宜しくね常闇君!!」

「闇炎龍と共に戦える、光栄だな」

「此方も宜しく頼むぞ常闇」




次回、騎馬戦本番。


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影と繋がる黒龍

「作戦は決まった……常闇君!!」

「ああっ俺が成す事、完璧にこなして見せよう」

 

間もなく始まる騎馬戦、それに備えてチームを組んだ緑谷は騎馬となった皆へと声をかけた。まずは先頭を務める常闇、個性の黒影(ダークシャドウ)による防御を期待しての勧誘。前以て作戦の伝達も完璧、常闇も万全になすとやる気を出してくれているのも非常に頼もしく、自分達を巨大な強い影が覆ってくれているような安心感がある。

 

「麗日さん!!」

「準備はOKだよデク君!」

 

左後を務めるのは麗日。彼女の個性によって各人の重さをなくしてスピードを上げる事が主目的、重量が減る事で格段に動きやすくなるので彼女の役割はかなり重要になる。

 

「そして、龍牙君!!」

「分かっている。存分に俺を使ってくれ、お前ならきっと使いこなせる」

 

最後の龍牙。前以て緑谷に全身の個性発動ではなく、部分出現による使用を主にしたいという事を願ったのだが緑谷はそれに対して嫌な顔一つせずに承諾した。完全発動すれば部分出現に比べて大きな力を使える、だがそれを敢えて抑えた使用で止めたいという我儘に近い願い出を彼だけではなく麗日や常闇も快諾した。それは龍牙が自分の個性の事で悩んでいる事を深く理解しているから。

 

『うん分かったよ龍牙君。そういう方針で行こう』

『……いいのか、俺は全力は出したくないと言っているのと同義だぞ。そのせいでミスを犯すかもしれない』

『でも龍牙君はその方が良いんでしょ?だったらそうしようよ!!だとしても龍牙君は手を抜いたりはしないって判るもん!』

『然り。全力を出さないのと手を抜かないのは異なる物、お前ならば出せる範囲で俺達に全力に協力してくれると分かっている』

 

そんな言葉を聞いて本気で嬉しくなった。自分の個性を配慮してくれているだけではなく、自分を完璧に信頼してくれている事に涙を零してしまった。涙もろくなったことに嬉しく思いつつも龍牙は力の限り、チームに貢献する事を誓う。

 

『さぁ、上げてけ鬨の声!!血で血を洗う雄英の関ケ原!!その開幕を告げる狼煙を上げるぜYAAHAA!!行くぜ、残虐バトルのカウントダウン!!』 

『物騒すぎるだろ』

 

マイクの実況と共に騎馬戦の開始が告げられた。各々が決めた組み合わせの騎馬、それらが一斉に動き出していき自らの勝利へと向かって進んでいこうとする。そしてそれは1000万を超えるポイントを保有する緑谷チームへの牙となって襲い掛かってくる。だが当然それらは想定済み、麗日は予め触れていた皆へと個性を発動させて重さを軽減させていく。その結果、緑谷チームの騎馬の重量は30キロ台になっている。

 

「龍牙君、早速お願い!!」

「任せろ緑谷。部分出現……たぁぁっ!!」

 

脚に炎を纏い個性を部分発動させ、地面を思いっきり蹴る。龍牙の体重は70キロ台、それよりも半分以下に近い状態では遥かに高い跳躍となり緑谷達は天高く舞った。

 

「うわわわっ!!?お、思ってた以上に飛んだぁ!?」

「凄い空飛んでるみたい!!龍牙君って本当に凄い!!」

「有難うな、常闇手筈通りに頼むぞ!」

「御意。黒影、仕事だ!!」

『アイヨ!!任セトケ!!』

 

常闇の身体から影が、いや闇が伸びる。それは鳥にも似た頭部のような形になりながらも鋭い指先を持った腕を携えながら地面へ腕を伸ばし見事なクッションの役割を果たしながら全員を着地させた。

 

「凄いよ常闇君!あんな高い所からの落下なのに全然衝撃とかが無かったよ!」

「この程度雑作もない、さあ次へ備えるぞ黒影。俺達を守れ!」

『アイヨ!!』

 

常闇 踏陰の個性、黒影。鳥の形状をした伸縮自在の影っぽいモンスターをその身に宿している。その身体は伸縮自在、常闇の指示などを受けて自在に動き指令を全うする。攻撃、防御、移動と汎用性に優れており創造という個性を有する八百万とは違った意味で高い状況対応能力を持っている。だが黒影には弱点も存在する。

 

『日ガ強クナッタ……痛イ……』

「不味いな、曇りが晴れ始めている……!」

 

それは光にような明かりに弱いという事。暗い場所であればあるほどに凶暴性と攻撃能力が格段に上昇する反面、明るい場所ではそれが下降していくという性質を持っている。日光下で活動するのであれば操作こそ容易いが攻撃能力は激減し、常闇曰く中の下程度の力しかないらしい。だが緑谷はその対策も考えてあった。

 

「龍牙君お願いできる!?」

「任せろ。部分出現・攻撃!!黒影、受け取れ!!」

 

片手のみで緑谷を支えながらも右腕の龍で黒炎を吐き出す、それは黒影の傍を通り過ぎていく。本来炎は明るさを齎す、人類の進化の象徴。だが龍牙の炎は黒く闇その物と言っても過言ではない。光が弱点という黒影にとってその炎がどのように作用するだろうか、それは―――

 

『闇ノ炎……力ガ、高マル、溢レル……!!』

「ぐっ落ち着け黒影、そうだそのまま俺達の死角を見張りつつ迎撃をしろ!!」

『ウオォヨォオオ!!!』

 

黒影が闇の炎を受けた結果、闇の帳に包まれているときのような力を得た。まるで吸い込まれていくかのように黒い炎を飲み込むとそれらを身体に纏うようにしながら黒影は巨大化しながらも好戦的な言葉を口にしながら、周囲へと猛烈な威圧感を発散させていく。

 

「デク君凄いね!!これも分かってたの!?」

「そ、想像以上だよ。僕は龍牙君の黒い炎なら常闇君の言ってた黒影の弱点を補えるかもって位しか……」

 

緑谷の考えは黒い炎を壁のようにして黒影が受ける光を軽減させて少しでも力が弱まるのを防ごう程度だった。だが実際は違う。黒影は龍牙の炎を自ら吸収して自らの力へと還元させている。常闇も制御に少し苦労しているがまだまだ許容範囲内、真夜中のような力強さを発揮しながらもまだまだ確りと制御出来る程に黒影にも理性がある事に彼も驚く。まさか過ぎるシナジーが龍牙と常闇の間に存在した。

 

『グォオオオオオ!!!』

「ダメだ黒影、その力は人に振るうな!!地面を、割れ!!」

『グォオオオオヨォオオオ!!』

 

荒々しい黒影、それが暴走しないように抑えつける常闇。人に振るえば危うい力を咄嗟に地面へと振るう。その一撃は地面を割り、深い溝を作り出すほどの破壊力を見せ付け周囲を牽制している。暴走一歩手前の凶獣、それが今の黒影には相応しい表現。日光があるからこそ常闇が指示を出せば確りと従うのだろう。

 

「俺の黒影にこんな力があるとはな……闇の炎を司りし龍牙、お前との出会いに感謝を」

「いや俺もこれは予想外なんだが……」

 

この後、定期的に龍牙が提供する炎を吸収した黒影が大暴れし緑谷達はなんとかポイントを守り切ることに成功するのだった。そして―――常闇は多くのトップヒーローの目に留まるのであった。




黒影の強化、というよりもある種のアンチ龍牙能力。

闇っぽい?個性の力であれば吸収して自分の物にする。が、どの程度のものならば吸収できるか今のところ全く不明。

常闇ならば龍牙に勝つ事は十二分に可能。


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対話する黒龍

見事に騎馬戦で優秀な成績を見せ付ける事が出来た龍牙、そんな自分を導いてくれた緑谷に礼を言いつつも次に行われるガチバトルトーナメントではライバル同士という事を伝え、必ず勝つ事を宣言して彼は一人廊下を歩いていた。今現在は任意参加のレクレーション大会のようなものが行われている、トーナメントに参加する自分は任意で参加するかを選択できるので、その場の気分で決めようと思っている。だが今は生憎出る気はない。

 

「……よぉ白鳥、察するに―――そっちが」

「―――久しぶりだな龍牙」

「……」

 

龍牙はとある場所である人物たちと出くわしていた。トイレも終えてこれから観客席にでも行こうとしていた時の事だった。顔を少し青くして気まずそうにしている妹の両肩に手を置きながらこちらを見つめる二人の人物が此方を観賞用の芸術を見るかのように見つめてきている。彼らは良く知っている、ああよく知っているとも。

 

「こういう場合は初めましてっていうのが正解なのかね」

「久しぶりでいいのよ龍牙、本当に大きくなったわね」

「あれから10年ぐらいだからな、そりゃでかくもなる」

 

何処か素っ気ないようにも思えるような言葉遣いをする龍牙、相手の事を余り思っていないような感情の乗せ方に白鳥は矢張り会わせないほうが良かったのだろうかと後悔し始めている。そう、彼女の傍にいるのは―――彼女の両親、即ち龍牙の実の父と母でもある。

 

 

「う~んねぇ居たぁ?」

「ううんまだだよ、葉隠さんは?」

「ダメ何処にいるんだろう」

 

廊下を共に歩いているのは龍牙と共に騎馬戦を勝ち抜いた緑谷、そして透明である為に体操着だけが緑谷の隣を歩いているように見えてしまう葉隠。

 

「う~んクラス対抗の男女混合の二人三脚は龍牙君にお願いしたいんだけど……」

「まだ時間があるから大丈夫だよ、こんな事なら龍牙君の連絡先を聞いておけばよかったかなぁ……」

 

二人は共に龍牙を探していた。理由は葉隠が出場する男女混合型の二人三脚リレーのパートナーを龍牙に是非お願いしたいからであった。他の男子にお願いするという選択肢もあったのだが、葉隠としては是非とも龍牙と組みたかったらしい。ちょうど探しているときに緑谷に遭遇し、彼も龍牙の捜索に手を貸していた。

 

「身長的にも龍牙君とはいい感じだからなの?」

「う~んそれほどでもないんだけど、一番仲が良いからかな?」

「成程ねってあっ葉隠さんあそこ!」

 

そんなこんなで捜索を続けている緑谷と葉隠だが、中々見つからないので一旦観客席に戻ろうとした時の事だった。龍牙の姿を見つける事が出来た、誰かと話しているようだが物陰で相手が見えない。話の邪魔をすると悪いからとそっと近づいて曲がり角の壁の身体を隠すように覗き込むとそこには龍牙の外にも白鳥、そして二人の人物が居た。そんな人物は良く知っている人物だった。

 

「あ、あれって変身ヒーローのビーストマンに反射ヒーローのミラー・レイディ!!?凄いどっちも超凄腕で有名なプロヒーローだ……!!」

「でもそんなヒーローが如何して龍牙君と一緒なんだろ……?」

 

そう、龍牙の両親はプロのヒーローであった。しかも確かな実力と人気を兼ね備えた超実力派ヒーロー、誰もがその強さを認める程のヒーロー。二人は何故そんな二人と一緒なのかと首を傾げつつも会話に耳をつい傾けてしまった。聞くべきではなかったかもしれない、会話を。

 

 

「……それで何の御用ですかね、かの有名ヒーローに声を掛けられるとは俺も捨てたもんではないようですが。貴方方と俺は関係が無い筈ですが」

 

わざと仰々しい身振りで礼をして見せる、軽い煽りもあるがそこには本心も含まれている。白鳥という関係もあるがそれを頼りにして話しかけるのは違和感がある。そんな事を言う龍牙に二人は苦笑をしながらも話しかける。

 

「そんな他人行儀な事を言わないで欲しいな、私達は家族だろうに」

「そうよ龍牙。私達は家族じゃない」

「家族、ねぇ……白々しくないかい、一度も会いに来てくれなかった割には」

 

ギロリと瞳で睨みつけるようにする、龍牙からすればこの二人は家族、ではない。生みの親ではあるのだが自分にとっての親とは育ての親である根津や師匠の事を指す。そんな言葉を受けても目の前の二人は顔色一つ変えない。溜息を吐きながら龍牙は言う。

 

「まあプロヒーローですし、忙しかったのかもしれないしそれは良い。俺の疑問は何の用かって事なんですけど」

「―――用事は簡単だ。俺達との関係を誰かに言ったか」

「随分な物言いだな、俺はヴィランか。まあ個性の見た目はそうだしな、それに合わせてるのかな」

「茶化さないでくれるかしら、龍牙」

 

その声色は酷く低くまるでヴィランに対して掛けられるような威圧感のある声だった。到底子供にかけるようなものではない、脅しをするような言葉にファンでもあった緑谷は顔を青くした。

 

「(いったい何の話をしてるんだ……!?あのビーストマンとミラー・レイディが龍牙君に何を……)」

「(緑谷君、これって……)」

「(分からない、分からないけどこれって……)」

 

それを向けられている龍牙は余り気にも留めていない、というよりもこうなる事を考えていたかのようにまた一つ、重い息を吐く。

 

「言ってねぇよ。俺の保護者は知ってるが言いふらす気はない」

「そうか、ならいい」

 

それを聞くとまるで台風が過ぎ去ったように穏やかで優しい声に変貌する。余りの切り替えの早さに緑谷と葉隠は寒気を覚えた、態度が一変しすぎている事に不気味さを覚えてしまった。そしてそれは白鳥も同じだった。

 

「これからも誰にも言わないことを望むよ」

「そうですか」

「龍牙、私達と一緒にまた暮らしたい?私たちは一緒に居たいと心から思ってるわ」

 

久方振りに向けられる母からの瞳は優しかった、甘い花の香りのような印象を持たせる。そして白鳥の肩から自分の肩へと移る手、10年ぶりに感じる母の温もりに不思議と胸がざわついた。

 

「お前にした事は心から悪いと思っている、本当に済まないと思っている。だからそれを埋め合わせる為にも俺達のところに来ないか。やはり家族は一緒にいるべきだ、白鳥もそれを望んでる」

「あっえっその……」

 

言葉を振られた白鳥はしどろもどろに言葉に詰まる。確かに望んでいた、兄と一緒に居たいという純粋な気持ちが彼女にはあった。あったのだが……両親の言葉やその振る舞いを目の前にして戸惑いを隠せずにいる。父はそれを照れていると解釈したのか、白鳥を龍牙へと近づける。

 

「ほらっお兄ちゃんと一緒が良いって言ってたじゃない」

「で、でもその……」

「ほらっ白鳥、遠慮なんかしないで―――」

 

「悪いけど断る」

 

拒否、拒絶の言葉に二人は龍牙を見つめる。

 

「いやだって俺の保護者に一言もなしで決めるとか流石にないだろ。普通顔合わせて話すべき内容でしょ」

「そ、そうよねそう言う事よね。ごめんねお母さんたち焦っちゃって……」

「そうだよな!!うんまずは今までお世話になった事をお礼しないと……」

「んじゃ俺悪いけどそろそろ行くわ、友達と約束してるから」

「あっじゃ、じゃあ私も……」

 

そう言って龍牙と白鳥は二人から離脱していく、その後姿を見つめる両親は笑いながらそれを見送っていくが白鳥は背中の影で俯いた表情を作っていた。

 

「……悪いな白鳥、俺も出来るだけ歩み寄りたいがあれは……」

「ううん、いいの……お兄ちゃんは悪くないから、悪く、無いから……」

 

 

「龍牙君……君は、君って……」

「私達、聞いちゃいけないことを……聞いちゃったんじゃ……」




エンデヴァーとはまた違う親をイメージしてます。


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大切な友達と黒龍

「あの、龍牙君、そのちょっといいかな……?」

「ふぇっ?」

 

観客席に戻り、そこで適当な出店で購入した出し物を頬張りながら観戦している龍牙。そんな彼の元に緑谷と葉隠がやってきて話しかけた。重く食らい面持ちをしていた二人だが焼きそばを啜っている最中だったのか、口から大量の麺を加えているままの龍牙は酷く間抜けに見えたのか思わず吹き出してしまう。

 

「あはははっ龍牙君今の状態凄い面白い!!あははははっ!!!」

「むぐむぐ……焼きそば食べててごめんごめん、お腹すいててさ」

「でもすごい面白い絵だったよ、写真撮ればよかったかも」

「あぶなっ弱み握られるところでした」

 

思わぬ光景に少々和んだ二人、先程まであった緊張が薄れた所で少し話したい事があると言って観客席から離れて適当な場所へと移動する。龍牙も話したい事があると聞いて、何かを察したのかそれに従って素直について行った。廊下の物陰に隠れ、光から避けるようにしながら周囲の目が無いことを確認する二人に何を話すのだろうかと少々ドキドキしてしまう龍牙。これで恋愛相談やらされたらどうしようと本気で緊張している。

 

「そ、それで俺に話って何なんだ?」

「うっうん、本当に話をするかどうか迷ったんだけど……」

「でも言うべきだって思ったの、だってだってそうしないといけないって」

 

次の言葉までの間、ほんの僅かな時間である筈なのに3人の間に流れる時間の流れは酷く遅くなっているように思えた。空気が汚泥のような粘性を得ているかのように息苦しい。心臓が早鐘を打っている。そんな時間を破ったのは薄々と気づき始めた龍牙だった、きっと言いづらく緑谷と葉隠も大きな決心をして自分に会いに来てくれたのだろうと、それを労うように自分から問いかけた。

 

「そっか。有難う二人とも、態々言いに来てくれて。本当に良い人だな」

「りゅ、龍牙君……」

「聞いちゃったかな、俺に関する事」

 

直接的ではないが本質的な事を問いかける。二人は思わず俯いた、葉隠はそうかは分からないがそうしているように思える。そしてぎこちなく首を縦に動かして頷いた、葉隠は小さくうんと呟いた。それを確認して溜息混じりにそっか~と軽く言う龍牙は天井を見つめる。

 

「そうか、んじゃ緑谷なんか驚いたんじゃないか?だって俺の親がトップヒーローの二人なんだからさ」

「そ、そりゃ驚いたよ。ヒーロービルボードチャートJPでも上位に毎回入ってる超実力派ヒーローだから、体育祭には来るかもとは思ってたけどまさかこんな風に会うなんて……」

「ははっそりゃ驚きだよな、あっしまったなサインをお願いしておくべきだったな。緑谷欲しいだろ」

 

ヒーローマニア的な印象を持っている緑谷を気遣っているのかそんな風に語り掛ける龍牙、普段ならば目を輝かせ鼻息を荒くして大きく頷く事だろうが今は全くそんな気分ではなく引き攣ったような笑みしか浮かべられない。何処か誤魔化しているような言葉だが、龍牙はそれをやめて頭を下げた。

 

「悪い、気分を悪くさせた」

「龍牙君が謝る事なんてないよ、だって私たちが勝手に……」

「いや俺はそんなこと気にしてない。二人はもう謝ってくれたじゃないか、謝る必要もないのに自分達から。俺を気遣ってくれてありがとう」

 

龍牙に二人を攻めようとする感情は欠片も存在していない。当然、責めるなんて筋違い。寧ろ此処まで誠意を感じさせる二人には好感しか沸かない。

 

「緑谷、葉隠さん。二人には言っておく方が良いだろう、分かるかもしれないけどあの二人は俺の両親だ」

「やっぱり……もしかしてと思ったけど」

「でも、でも龍牙君。その、その話してる時は全然家族らしくないっていうかその……」

 

しどろもどろになっている葉隠、なんとか龍牙を傷付けないように必死に言葉を選びながら話そうとしているがどうすればいいのかわからずにオロオロしてしまう。龍牙は笑って落ち着いてと問いかけてくるがそんな事は出来ない。彼女は両親から大きな愛を貰っている、雄英入学が決まった際には強く抱きしめて貰ったし学校での話をすると自分の事を様に嬉しそうにして聞いてくれる。だが龍牙と二人との間にそんな物はない、家族愛といった物を感じられなかった。

 

「まあ、家族らしくはないだろうな。あの2人と会うのは10年ぶりだ、俺も正直何をどう話せばいいのか分からないのか素直な本音でさ。茶化しながらじゃないと訳わかんない事ぶつけちゃいそうで」

「10年振りって……だってご両親、なんだよね……?」

 

10年という年月は言葉にするのは簡単だろうが、実際にそれを経験したことがあるならば長い時間だ。生まれたばかりの赤ん坊が大きく成長して学校に入って勉強しながら友達と遊ぶほどに成長する時間。長い長い時間を両親と会っていなかった、何故そうなっているのか。

 

「両親……いやそれは間違いないだろうな。今の俺にとっての両親ってのはあの2人じゃなくて今の保護者なんだ。まあ失礼かもしれないけど俺はそうだと思ってる」

「如何して、なの……?」

 

殆ど反射的に出た言葉だった、それを口にした直後に両手で手を塞ぐがそんなものは龍牙に映らない。気にも留めないだろう、彼にとって両親は今のところその程度の存在でしかないのかもしれない。これから変わるだろう、が今はそれが限界。そして問いかけた時、龍牙の瞳が少しだけ、変わった。

 

冷たくなった、そう表現すればいいだろうか。そこには氷のような視線とそれを発する表情がある。

 

「―――聞いて後悔しないか。俺がこれから話す事は二人の中にあった物を壊すかもしれない、憧れの存在への侮辱かもしれない。話す事は良い、だけどそれを聞くのは二人が決めてくれ」

 

話す事に抵抗などない、両親はあの時誰かに言ったかと言っていた。それを破るような形になるかもしれない、それでもいい。だが抵抗があるのは二人だ。自分の馴れ初めは劇薬に近い、トップヒーローとして認知されているビーストマンとミラー・レイディ。この二人に対する認識を覆してしまいかねない。その事が酷く不安だ。問いかけられた二人はわずかに顔を見合せたようにすると覚悟を決めたかのように言葉を連ねる。

 

「……優しいよね龍牙君って。私たちの心配をするなんて、大丈夫だよ。全然」

「うん本当だよね、僕は君さえよければ聞かせて欲しい。そして君の本当の友達になりたい」

「―――ああっ分かったよ」

 

そして龍は語りだしていく、自らの過去を。自らが有する力を得た代償として支払った物、そして自らを取り巻く環境を。

 

「俺は―――鏡 龍牙、ビーストマンとミラー・レイディの実の息子だ。そして二人にとっては忌まわしい存在だ」



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過去を語る黒龍

―――ヒィッ!!?なんだこれは……悪魔、いや怪物!?

 

―――ヴィ、ヴィランだ、ヴィランが龍牙をっ……!!

 

―――ヴィランだ早く通報しろ!!

 

 

『それが個性を発動させて初めて聞いた両親の、いや家族たちの声だった。喜びとかそんな感情は微塵もない恐れと不安に満たされた声。同時に向けられてくる敵意が怖かった、いや両親のあの目が……怖かったんだ』

 

個性は既に当たり前のもの、最初こそ異端である恐ろしい力である物が何時の間にか当然のように広がっていた。そして逆にそれを持たないものが異端として扱われる。龍牙は個性こそ持っていたが使う事が全く出来ないという状況が続いていた。病院の検査で個性はあるという診断が下されているのにもかかわらず全く使えないという事実が続いた。

 

その事で虐められもした。無個性と馬鹿にされ、仲間はずれにもされてきた。そんな彼にとって安らぎを得られる場所は家族の中でしかなかった。龍牙の両親、鏡 獣助と鏡 乱は変わらない愛情を注ぎ続けていた。龍牙の為に病院を巡り、個性を研究する権威にも龍牙を見て貰った。時には医療として使用される個性因子誘発物質を投与し、個性が色濃くさせる事もしたが何をしても龍牙が個性を使える時は来なかった。

 

両親はそれでも龍牙を愛していた、自分達の子供なのだからと。きっと何時か個性を使えるようになると励ましながら。そして龍牙6歳、彼の個性が遂に発現した時が訪れた。

 

『な、なんだ!?』

『龍牙が、龍牙が!!?』

 

数年に一度、親戚が集まる席で楽しく過ごしていた時の事だった。突如として龍牙の身体が炎に包まれた、阿鼻叫喚になりつつもプロヒーローとして息子を救おうとする獣助と乱は水を浴びせて炎の消化を試みる。だが炎は消えない、息子の安否が気になる中で炎が弱まっていきその奥に影が見え始めた。不安がよぎる中、遂に炎が晴れて姿が見えようとした時に、そこに居たのは可愛い息子ではなく恐ろしい姿をした龍の姿をした人の姿。

 

『ぅぅっ……これって、もしかして個性、なの?僕の個性……?』

 

炎が晴れた先に居る者は確かめるように、一つ一つを数えるように自らの姿を見る。見慣れた洋服ではなく鱗を積み重ねられた鎧、右手には禍々しい龍の頭。何もかもが理解を超えていたが幼い龍牙の頭にはある答えがよぎる。自分に遂に個性が使えるようになったのではないか!?使えないことがコンプレックスだった龍牙は思わず、喉を震わせながら笑った。

 

やった、自分にも個性が出たと。これでもう仲間外れにされない、両親も喜んでくれると思うと笑いが出た。嬉しさで笑わずにはいられなかったのだ―――その姿のまま。

 

『ヒィッ!!?なんだこれは……悪魔、いや怪物!?』

『ヴィ、ヴィランだ、ヴィランが龍牙をっ……!!』

『ヴィランだ早く通報しろ!!』

 

家族や親戚には突如として目の前に現れた謎のヴィランが不気味に高笑いしているようにしか見えなかった。そして事態は彼にとって最悪な方向へと進み続けていった。プロヒーローである両親からの攻撃、確保のための行動などなど……それらは家族こそ唯一の安らぎとして思っていた龍牙の心を著しく傷つけていった。

 

「笑っちゃうよな、夢にまで見てた個性が発動したら俺は一番大切だったものを簡単に失ったんだよ。あの時ほど俺は悲しかった時はなかったなぁ……」

 

フッと虚空を見つめる龍牙の瞳は何も映していない、何も見ようとしていない。過去も、今も、未来も何も映らない。それこそあの時の自分の瞳。過去の経験から、今失ったものを、未来をどうするのか、何も考えられずにただただ虚空を見つめていた。

 

「そ、そんな……」

 

緑谷は慰めの言葉を向けたかった、今彼が纏っている悲壮感はかつて自分が味わった物を遥かに超えている。だからこそ何かの言葉を掛けてあげたかったのに、何も出てこなかった。何を言っても何の利益も、為にもならないと分かってしまっている。

 

「あんまり、じゃないか……!!だって龍牙君は嬉しかっただけ、なんでしょ!?ただそれだけなのに何でそんな風に言われなきゃいけないんだよ!!?可笑しいじゃないか、誰だって嬉しいに決まってるじゃないか!!?」

「緑谷……」

「ずっと個性があるって分かってるのに使えなくて、苦しんできて、だからその時漸く分かったんだからそんなの当り前じゃないか!!?」

 

彼も特殊な経験をしている、今まで無個性と言われ様々な苦しさを味わってきた。今でこそ個性を使えるが、それと龍牙は大きく異なっていた。それでも龍牙の喜びは強く理解出来るし共感できる。

 

「それなのに、それなのに……!!」

「……そう言って貰えるのは嬉しいけどさ、その時の両親達からすれば俺は謎のヴィランでしかなかったんだよ。いきなり子供が炎に包まれたと思ったらそこにいたのは化け物みたいな見た目をした奴が居たんだ。しかも俺は個性が使えなかった、それを俺とどうやったら認識出来るんだ?」

「それは……!!」

 

客観的に考えればその状況で龍牙が個性を使えるようになったと考えるのは難しく、ヴィランが出現したと考える方が自然。

 

「……続けるぞ。その後、俺は一時的に警察に拘束された後に預けられる事になった。その中、個性の制御が出来ない奴らが集められるそんな施設にな」

 

個性が蔓延している世の中、しかし中には制御出来ない者達もいる。龍牙も個性を制御しきれなかったという事でその施設に預けられる事になった。

 

「ま、待ってよ龍牙君!?お父さんとお母さんは!?何でそんな施設に行くの!!?行く必要なんてないんじゃないの!?」

 

葉隠が大声でそう問いかける。その時だけのすれ違い、それで済む筈。その筈なのに施設に行くのか分からない葉隠、それに龍牙は溜息を吐きながら俯いた。

 

「拒否したんだよ。俺を引き取る事を」

「えっ……」

「……これは推測だけど俺の個性の見た目は醜悪で邪悪な化け物。それを理由に自分達の立場が揺らぐのが恐れたの、かもしれない。マスコミが騒ぎそうなネタだし」

 

両親というのには多少なりともエリート的な思考があった、自分を愛していたのも将来への期待や自分達が利用する事も考えていたのかもしれない。どれも結局は推測の域は出ない、だが先程との両親との会話で可能性としては高いと龍牙は考えている。そんな期待を込めた息子がヴィラン顔負けな化け物のような姿になる個性を持った、となればマスコミは大喜びで騒ぎ立てる事だろう。そしてそれは自分達の立場を揺るがす物にもなる得ると思ったのかもしれない。

 

「ああでも、施設に行ったのは俺にとっては幸運だったのかもしれない」

「如何して……?」

「―――俺を救ってくれたヒーローと出会えたから」



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出会った黒龍

虚空を見つめ続けていた。何もせずに唯々何もないそこを見つめ続けていた。それが施設に預けられた龍牙が唯々行い続けていた事の全てだった。彼にとっての全てが崩壊したとも言える状況で廃人のような抜け殻となった龍牙、何も話さず、唯々虚空に何も見出す事もなく見つめる事に全てを費やし続ける。

 

『龍牙君、一緒に遊ばないかい?ほらっ玩具にゲームとかもあるんだよ?』

 

そこの職員元ヒーローが多かった為に善意に溢れている人たちだった。自らが生まれ持った素晴らしい才能、しかし幼いために制御などが出来ない為に社会から弾かれてしまった子供達を支え、新しい未来へと導くことに誇りを持って仕事をしている人たちばかり。そんな彼らは龍牙を放っておく事が出来ずに何とかしようと努力し続けた。だが―――龍牙は何も興味を示さなかった。

 

瞳すら動かさず、目の前にいるのにもかかわらずに視ようともしない彼に職員達は困惑と心配を募らせ続けた。形容するならばエネルギーが切れたロボット、そこにいるだけの存在と化している。困り果ててしまった職員の一人がとある人に対して意見を求めた、意見を求められた者は快く施設を訪れ龍牙へと会いに来た。その人物が―――

 

『やぁっ龍牙君、いい天気だね。折角だから僕と一緒に散歩しないかい?』

 

龍牙の今の保護者である根津だった。根津は龍牙が素晴らしい才能を両親から受け継いでいる事を知っていた、だが両親はそんな龍牙を拒絶してしまった事を酷く悲しんだ。大人として、親としての役目を放棄した事への失望を感じつつも龍牙へと問いかけを続けた。龍牙は当然として何の反応を示す事もなかった、普段通りに虚空を見つめ続ける。

 

『おっとごめんね、今日はもう時間が無いみたいだね。それじゃあまた来週来るからね』

 

そう言って根津は去っていった。彼も忙しい身であるので長いこと一緒にいる事は叶わなかった、それで根津は龍牙の事を救ってあげたいと出来る限りの手を尽くし、時間を作っては彼へと会いに行き続けた。毎週毎週、欠かす事もない来訪と続けられる問いかけ。

 

『それで気の毒なのがさ、そのヒーローのラストなんだよ。ヴィランを見事に捕まえたのに足を滑らせて股間をフェンスに強打する所をお茶間に大公開しちゃったのさ!!不謹慎だけど僕も笑っちゃったね、飲んでたお茶を噴き出して!』

 

『最近は利益追求のヒーローが多くなっちゃって、ちょっとげんなり気味なのさ。それでも少しずつだけど正しくヒーローと言える志を持ってるのも増えてきてるんだよ』

 

そんな日々が半年も過ぎようとした時の事だった。根津が毎週欠かさず来訪して会いに来た龍牙が初めて、視線を動かし、自分から根津に目を合わせた。

 

『……如何して、如何して僕に……会いに来て、くれるの……?』

 

初めて返ってきた言葉、根津は驚くこともなく笑顔を浮かべたまま話した。

 

『君に笑顔になってほしいからだよ。ヒーローって言うのは誰かを助けたり笑顔にするのが仕事だからね』

『ヒーロー……?』

『そう、僕は君のヒーローになりたいんだ』

 

根津には何の打算もなかった。純粋に龍牙の心を救いたいと思ったから毎週通い続けていた。彼の瞳の中の虚空を取り払い、光で満たしてあげたいと思ったからこそ半年間も一度も欠かす事もなく会いに来た。根津は龍牙が幸せになる事を心から願っている、そんな根津の誠意と思いが彼の心を動かした。

 

『カッコ、いい……んだね、ネズミさん……?』

『ネズミなのか熊なのかは君にとっては如何でもいいだろうが敢えて言おう、僕は根津。君に笑顔を届けに来たヒーローなのさ!!』

 

 

「それが俺にとって最高のヒーローとの出会いだったんだよ」

 

半年間もの間、見ず知らずの子供に会いに来て話しかけ続けた酔狂なヒーロー。傍からすれば信じられない行動かもしれないが根津の行動は一人の少年の心を救い上げて光を与えた。そんなヒーローに憧れてヒーローになりたいと思ったのだ。

 

「根津って雄英の校長先生……それが龍牙君の保護者なの!?」

「ああっそうだよ……一応言っておくけど、入学は自力合格だからな」

「いやいやいやそんな事疑ってないってば!?」

 

ジト目で此方を見つめてくる龍牙に葉隠は慌てるが龍牙は分かっている、分かっていてそう言ったのだから。軽いギャグのつもりなのだから真剣に取り合わないで欲しいと言うと、透明で見えないがポコポコと叩かれてしまい謝罪する。

 

「それから俺は少しして根津校長に引き取られてな、そこから個性の制御やらを教わっていったんだ」

「それも校長先生に?」

「いや、とある人を紹介されてな。その人が俺の師匠になってくれたんだよ、俺が尊敬する偉大なもう一人のヒーローだよ」

 

そう語る龍牙の笑みは本当にまぶしい。心からそのヒーローの事を尊敬し慕っているのがよく伝わってくる笑顔、緑谷も心から尊敬しているヒーローが居る、それは平和の象徴と呼ばれるヒーロー・オールマイト。そんなオールマイトのような存在がその師匠という事なのだろう。

 

「なあ二人とも、色々話したんだけどお願いがあるんだ。ビーストマンやミラー・レイディに対して変な考えは持たないでくれると助かる」

「ど、如何して!?」

「どうだよ龍牙君にそんなひどい事をした人たちなのに何で!!?」

 

緑谷は驚きを、葉隠は怒りを持って問いを返した。話を聞いて猶更思った、一方的に突き放しておいて今度は家族として迎え入れようとしている。余りにも勝手が過ぎる上に虫が良すぎるじゃないか、大切な友達の事ならば猶更二人のヒーローにいい感情は抱けない。

 

「俺の事を思ってくれるのは嬉しい、だけど俺は同情を誘いたくて話したんじゃないんだ。それに俺はもう決めてる―――俺は両親を見返したい、皆に愛されるヒーローになってね」

 

そんな龍牙の笑みと言葉を聞いた二人は口を閉ざすしかなかった。そして思った、龍牙を応援しようと。



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高揚する黒龍

昼休み、全員参加のレクレーションも終了して間もなく始まる事になる雄英体育祭最大の目玉イベントである騎馬戦で獲得したポイントが上位4組で行われる個性ありのガチバトルのトーナメント大会。当然龍牙もそのトーナメントに挑む事になる、そしてその組み合わせを見た時に少々仕組みでも行われているのではないかと軽く疑ってしまった。

 

 

第一試合:緑谷VS心操 第二試合:轟VS瀬呂

 

第三試合:常闇VS飯田 第四試合:黒鏡VS鏡

 

第五試合:芦戸VS青山 第六試合:塩崎VS八百万

 

第七試合:切島VS鉄哲 第八試合:麗日VS爆豪

 

 

このようになっているのだが、龍牙の対戦はいきなりの白鳥になっているのである。少し前に両親から話しかけられたりした直後にこんな結果になるなんて、何かの嫌がらせだろうか。トーナメント初戦から妹との激突とは何とも因果的な物を感じずにはいられない。それを心配しているのか周囲にいた緑谷が不安そうな瞳を向けてくるが、サムズアップで返して安心感を与えていく。

 

「白鳥が相手か……確か、俺と似た感じの個性だった、と思うんだけどなぁ……やべぇ想像以上に記憶が曖昧だ」

 

控室にて龍牙は対白鳥の戦術を考える為に白鳥の個性の事を過去の記憶からサルベージしようとするのだが……妹と一緒のいたのは幼かった頃だけ、その時も自分の個性の事でいっぱいいっぱいだったりしたので記憶が酷く曖昧……何か変身して自分が凄い凄い言っていたような記憶をギリギリで覚えている程度……。

 

「冷静に考えればビーストマンとミラー・レイディの個性の掛け合わせで俺っぽくて変身……分かるかぁ!!?」

 

ハッキリ言って全く対策なんて考えられるわけがなかったのであった、しかも幼い頃の記憶なので全くと言い程参考にもならない。なので初戦はその場の勢いで突破する事にして警戒すべき常闇の事を考える事にしたのであった。

 

「このトーナメントで俺にとって一番厄介なのは常闇だな……まさか黒影にあんな能力があるなんて思いもしなかったからな……」

 

騎馬戦での事を思い出す、自分の黒い炎で黒影の能力低下を防ぐための炎の放射。だがそれを黒影は吸収して自らの力に還元して大幅なパワーアップを遂げていた。しかも日光下である為に常闇が十二分に制御が利くというのが酷く厄介。自分の最高火力は炎を使用した攻撃なので必然的に自分の火力を無力化されたも同じ、それ所自分を不利にする材料でしかない。

 

そうなると自分が取るべき選択は接近戦よる直接攻撃、幸い剣を出す事は出来るのでそれを主として立ち回るのが良いかもしれない。すると課題となるのは常闇自身の実力の大きさ、黒影と共に挟撃を仕掛けられると個人的には苦しい所だが上手く捌いていくしかないだろう。考えれば考える程に常闇と黒影は自分の天敵だ、協力している間は酷く頼もしかったが、敵になるとなるとこれほどまでに恐ろしいこともないだろう。

 

「それでも俺は接近戦には自信がある、そう易々と負けたりはしねぇよ」

 

師匠との訓練は殆どの場合、偶にを除いて実戦形式でのものだった。対凶悪ヴィラン戦を想定した野外戦闘訓練、対凶悪ヴィラン屋内戦闘訓練、それらを全て実戦形式で行った。一歩間違えば大怪我必至な事も多かった程。そんな訓練の中で必死の個性制御訓練や新たな技術の獲得など酷く厳しい師匠だった、そんな訓練でも自分に対する思いやりを感じていた龍牙はそれらに必死に食らい付いていった。今日それを師匠に披露すべき日だと、前向きに考えながら笑みを作る。

 

「いざとなればあれを切るしかないか……いやでもあれ未完成だからなぁ……成功率4割切ってるから除外が安定かな……」

 

実は体育祭に向けて師匠と共に新技の研究と行っている時にある技が出来そうになっていた。威力こそお墨付きなのだが……少しでも調整をミスると自分にとんでもない竹箆返しを食らう恐れが危険があり師匠にも成功率を高めなければ使用は禁ずると言われている物。だが炎を封じる常闇相手ならば切らなければいけない場面もあるかもしれない……考えるだけにしておく事にした龍牙、そんな時に控室の扉が開いた。そこには自分と戦う事になった白鳥の姿があった。

 

「あっお兄ちゃん……えっとその……今回はよろしくお願いします……」

「おう。いきなりのぶつかり合いとはなんか仕組まれてるんじゃねぇかこれ」

「や、やっぱりそう思うよね……私お兄ちゃんとは戦いたくはないんだけど……」

 

妹は何処か乗り気ではないのか消極的な姿勢を取っている。彼女からすれば10年ぶりに会う事が出来た大好きな兄で最近漸く兄妹らしく会話ができるようになってきた事、やりにくさがあるのも致し方ない事だろう。

 

「それでさ、白鳥はやっぱり二人に指導とか受けてたのか?」

「うん、お父さんとお母さんに色んな事を教わったよ。だからハッキリ言って―――私は強いよ」

 

そう言い放つ妹の表情には強さを裏付ける自信があるように見えた。プロヒーローの二人に扱かれたのだからかなりやるのだろう。だがその言葉には何やら裏があるように思えた、ならば自分はその言葉を超えるだけ。

 

「だから」

「白鳥、言っておくが俺はお前より強いぞ」

「っ!!」

「俺の師匠は―――あの二人よりも遥か先にいる、その人に教えられたものを見せてやる」

 

そう言うと龍牙は控室から出ていく、徐々に高まってくる戦闘への高揚感。それをただ座っているだけでは抑えられなくなってきてしまった。だから少し歩いて発散してくるよしよう―――牙を磨きながら。



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妹と戦う黒龍

トーナメントは既に三回戦までが行われている、そんな中で龍牙は応援にはいかずに唯々控室で心を落ち着けて集中していた。緑谷には前以て自分は試合に集中するので応援できないと断っている、しかし彼はそれを快くOKしてくれた上に絶対に勝つと宣言までしてくれた。そして彼は約束通りに勝ち、龍牙もそれを聞いて思わず微笑んだ。そして自分にとって重要な第三回戦、常闇対飯田の対決は常闇が勝利をおさめた。自分が勝った場合に戦うのは常闇、苦しい戦いになるだろうが全力を尽くすだけだと龍牙は割り切る。そして―――

 

「行くか」

 

遂に龍牙の出番が回ってくる。

 

『続く第三試合!!ここまで優秀な成績で勝ち上がってきた黒き龍、その牙で相手を噛み砕け!!黒鏡 龍牙ぁぁぁ!!!!』

 

マイクの実況にも熱が乗っている、その熱がスピーカーを通じて会場のボルテージを更に過熱させていく。ステージへと足を進めていく龍牙の心もその熱に乗っかり、気分が高揚する。矢張りプロの実況は場を熱くして舞台に上がる人間の心をも熱する力がある。マイクに力を貰いながら戦いのステージへと立った龍牙。そして目の前からは覚悟を決めたような表情をしながら、体操着の腕を捲る妹の姿。

 

『対するは可憐に飛び立つ白鳥、名は姿をも冠するって奴だな!鏡ぃ白鳥ぃ!!!』

 

確かに改めて言われてみると妹ながらに見た目はかなりいいと龍牙も思う。長身で整ったスタイル、艶やかなロングヘア―に愛くるしい顔。人気が出る要素しかないと思う。

 

「鏡と黒鏡……もしかして親戚同士か?」

「かもしれないな」

 

観客席からは龍牙と白鳥の名字に首をかしげる者が多く何かしらの関係があるのではないか、と考えられている。それは正しく正解だ、二人は実の兄妹である。だがそれは一般的には分からない、名字が違えば別の家族としてみられる。そんな中でも龍牙は自分を貫き通してマイペース、対する白鳥は硬い表情のまま此方を見つめ続けている。

 

「一言言っておきます―――私、負けませんから」

「そうか、俺も負けん」

『おおっと、鏡此処で負けない宣言!!やる気は十分と見えるぜYEEEAH!!対する黒鏡ぃの方は如何だ!!?う~んイッツァマイペース!!!自分を保ち続けてやがるぜこの大物めぇっ!!!』

 

淡白な返しに白鳥は少しムスッとする。これでも結構気持ちを込めて、覚悟を込めて言ったつもりだったのだろう。しかし肝心の兄はそれを簡単にリターン、なんだか自分が空回りしているような気分になる。そんな肝心の兄へと視線を向け、構えを取る。それに合わせるように龍牙も構える。腰を低く落とし身体を半分そらすような構えに白鳥は思わず汗が出る。

 

『さあ気合は十分みたいだな!!それじゃあ行くぜぇぇ……試合、スタァァアアアト!!!』

「はぁっ!!」

 

先手必勝、その言葉を忠実に実行するかのように飛び出す白鳥。しなやかな足のばねからの跳躍、そしてそこからの鞭が撓るような回し蹴りが龍牙へと襲い掛かる。

 

「はぁっはぁっはぁぁっ!!」

『鏡連続の回し蹴りィッ!!こりゃ痛烈だ、鞭でぶったたいたみたいな音が周囲に響き渡るぅ!!』

 

駒のように回転し続ける白鳥、その姿は回転のせいかブレているのか妙なように映っている。体操服にはない筈の白い翼のようなマントが出現し始めていく、それは翼のように広げられていき周囲に白い光をまき散らしながら白鳥を包んでいく。

 

『おっとっ鏡が変化していくぅ!!これこそ鏡の個性、さあ見せてくれその完璧なプロポーションをよぉ!!』

「はぁっ!!」

 

最後の一撃と言わんばかりに鋭い一撃を放つ、そしてその勢いのまま高々と跳躍すると翼を広げながらゆっくりと舞い降りていく。優雅な白鳥を連想させるような静か且つ美しい降り方に皆が魅了されていく、白い翼に優美な金の装飾のようなパーツ、それらを纏いながら自身に満ち溢れた表情は皆を虜にする。それこそが白鳥の個性、白鳥(ファム)

 

「……成程、綺麗なもんだな。俺にはない物をもってやがる」

 

その言葉に含ませるのは羨望か、はたまた嫉妬か。静かに優雅に舞い降りる妹を見つめながら呟く龍牙は真っすぐと相対し続ける。左腕に禍々しい黒い炎とその奥にある自らの力を発現させながら、立ち続ける。

 

『おっとぉ黒鏡も全く平気そうだ!!にしても黒と白、対照的な戦いだなぁ!!』

 

マイクの言う通り、黒と白。正反対の戦いになっている、色だけではなく境遇もそうなのかもしれない。ならばこの対決は必然が引き起こしているのだろうか、それは分からないが龍牙はそんな事は気にせずに右腕にも炎を纏わせ龍の首を出現させる。それを見た白鳥は後ろへと飛び距離を取る。

 

「それが、お兄ちゃんの個性……少し、怖いね」

「お前に比べたらな。俺に優雅さはない、だが―――だぁぁぁぁっっ!!!!」

 

叫び声が周囲を劈く。叫びと共に龍牙の右腕から黒い炎が吐き出され白鳥へと向かっていく。黒炎を見た白鳥は大きく跳び上がりそれを回避する、だが炎は地面を焦がすように燃え続け周囲に熱を発散させている。

 

「力強さなら負けん。本気で来い、鏡 白鳥……!!」

 

そう言われた白鳥は息を飲みながらも翼を広げ、空から龍牙へと向かっていく。兄と妹の対決は始まったばかり、黒龍と白鳥の戦いは激しさを増していく。



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進む黒龍

迫りくる白い翼、それを強く振るう腕で空気と共に吹き飛ばす。優雅に美しく舞う白鳥は完全に会場の全てを支配するかのように魅了していた。周囲を魅了するのもヒーローの素質の一つというのは聞いた事がある、確かに自分だってオールマイトの戦う現場を見たら確実に釘付けになってみる。それほどのカリスマがオールマイトにはある、それと似たようなものなのだろう。

 

「やぁぁぁっっ!!」

 

宙に浮きながら連続で蹴りを繰り出してくる白鳥、それらを腕を払うようにしながら防御する龍牙。一見すれば攻撃をし続けている白鳥の方が有利のようにも映っている。龍牙に反撃の隙を与えずに連撃を与え続けている事こそその証拠、それは間違っていない。実際龍牙も攻撃の合間の隙を狙う事は完全に諦め防御に徹している。ペースは完全に白鳥が握りしめている―――その筈、その筈なのに。

 

「たぁぁぁっっ!!」

 

鋭い蹴りが龍牙の首元へと炸裂する。部分出現によって防御されていない部位への攻撃が遂に叶った、それによってグラリと身体を揺らしながら俯く龍牙、だがすぐに体を起こして此方へと構えを取る。異常と言っても過言ではないタフネスさに白鳥は嫌気すら感じ取っている。

 

『さあ既に試合開始から15分が経過しているが白鳥がペースを握り続けているぞぉ!!だが黒鏡もよく耐えているぞぉ!!この膠着状態を破った方に試合の決定権があると言っても過言じゃねぇ状況!!』

「(どうして、どうして攻めきれない……!?)」

『いや、不利なのは鏡だな』

 

そう、解説として無理矢理席に座らされている相澤が此処で漸く言葉を発した。それに会場からも疑問の声が漏れるが矢継ぎ早に言葉を挟む。

 

『確かに鏡の連撃は素晴らしい、連携も技の合間の隙も非常に少なく完成された連撃と言っていいだろう』

『おおっ超高評価!!』

『だがそれらを完璧に防御している黒鏡の方がその上を行っている。奴は完璧な連撃を完全に防ぎきっている』

「そんな、事はっ……!!」

 

再度、白鳥は跳躍する。先程よりも数段素早く攻撃の密度を増した連撃を繰り出していく。両腕のラッシュに比べて蹴りなどをタイムラグを踏まえた攻撃は対処が非常に難しいと言わざるを得ない。しかしそれらを龍牙は防御していく、先程のリプレイを見せ付けられているかのような攻撃に白鳥も顔に淀みが生じ、焦りからか大振りの攻撃を仕掛ける。それを身体を回転させながら受け流す。

 

「はぁっ!」

「がはぁっ……!!」

 

無防備となった背中へと裏拳が炸裂する、それを受けて地面へと転げ落ちながら苦しげに息を吐きながら必死に立ち上がり兄を見つめるが、そこには背を向けたまま動こうとしない兄が居た。まるで自分などそこまで真剣にやる程でもないと言われたような気分になってしまった。僅かながらの怒りを感じつつ飛び出しながら再び得意の回し蹴りを放つ、が

 

「動きが一気に雑になってるぞ」

「あっぁっ……」

 

振り向きざまに放った龍牙のハイキックが白鳥の腹部へと突き刺さった。片足で身体を支えながらのハイキックは通常よりも勢いが劣るが、白鳥が此方へと迫ってきている勢いでそれを代用した。言うなれば彼女の移動コースにキックを置き、勝手にキックに刺さるように仕向けたと言った所だろうか。凄まじい痛みが身体を突き抜ける、意識が飛びそうになる中で白鳥は腹部へと刺さる足を掴みながら、残った腕で殴りつける。

 

「……悪いけど利かないな」

 

片足を軸に、身体を回転させながら足振いをしがみ付いている白鳥を振り払う。妹が振りほどかれ地面を転がり苦しそうに呻いているのを見つめる。必死に身体を立て直しながら構えを取ろうとするのは非常に健気に映る。いい根性を持っていると素直に感心する。故に自分も加減はしない、したら妹を侮辱する。右腕に炎を溜め、それを一気に発射する。

 

「くぅぅぅうっっっ……!!」

 

黒い炎を翼を盾にように使用して防御する白鳥、翼は炎によって燃えていく。何とか防ぐことには成功しているが、それによって翼は一部が燃えて黒くなっている。あれではもう飛ぶ事も叶わないだろう、それでも白鳥は立ち続ける。腕を出すとそこには翼の一部を模したような刀身の細い剣が生まれそれを構える。レイピアのように見える剣を構える姿は非常に絵になる。

 

「はぁはぁはぁっ……負け、ない……お父さんとお母さんの、ためにも……私は負けない……!!」

 

覚悟を言葉にし、身体と心にそう言い聞かせ力を作る。駆けだしながら剣を強く握りしめる、まだ戦える。今日まで必死に力を付けてきたんだからそれを無駄にはしないという意志、両親の為にもという想い、兄に勝ちたいという願いが身体を突き動かす。そしてそれらを力に変えて渾身の力で剣を振るう、それは確かに龍牙の身体を捉える―――だが

 

「……悪いが俺も負けるつもりはない」

「くっ……!!」

 

左手に握られた剣が、白鳥の剣を受け止める。そして白鳥の(それ)を弾き大きな隙を作りながらそこへ黒炎をぶつける。炎に飲み込まれ吹き飛ばされる白鳥はバウンドするように地面を転がっていく。爆発のような勢いで放たれた黒い炎、それをまともに受けた白鳥のダメージは尋常ではない筈。苦しい感情の込められた荒い息を吐くながらもまだまだだと立ち上がった。

 

美しかった白い身体は砂埃と黒い炎によって汚されて、見る影もない程に汚れている。龍牙の攻撃を何度も浴びているのにもかかわらず必死に立ち上がる不屈さ、可憐な少女がそんな事になりながらも必死に戦っている姿は観客質の心を掴み、龍牙へのヘイトを強めていく。龍牙の攻撃は容赦の無いように映っている、それはある意味正しいが全力を出すのが礼儀だと思っている龍牙からすれば少々困った感情、だがそれらが観客全体が持っている、持ってしまっている。

 

「鏡ちゃん頑張れ~!!」

「まだまだ行けるぞいけいけ~!!!」

「負けるなぁ~!!!」

「黒鏡も少しは加減しやがれ!!相手女の子だろうが!!」

「そうだそうだ~!!」

「それでも男かぁ~!!?」

 

募り始めた思いが言葉になり始めた。龍牙の容赦の無さと白鳥の健気な姿が観客を誘ってしまった。だが白鳥はそれらを聞いて喜ぶどころか困惑していた。

 

「ど、どうして……如何してお兄ちゃんを悪く言うの……?全然、悪くないじゃん……!?」

 

彼女からすれば龍牙の攻撃は全て当たり前、対戦相手なのだから攻撃は当然だと思っている。下手に女性だからと手を抜かれるよりも遥かに気分が良いとさえ思っている。寧ろ兄も自分と真剣に全力を出してくれていると好感すら覚える、まあ多少なりとも怒りは覚えたりもしたがほんの些細な物。だから観客の言葉が全く理解出来なかった。なぜこんな風になっているのかと。

 

「ごめん、なさいお兄ちゃん……私の、せいで……」

「気にしてない、と言ったら嘘になるかもしれないけど大して響いてないから気にするな」

「……それでも、ごめんなさい……」

 

白鳥はこの場の空気に耐えられなくなった。なにも理解していない観客に、知らず知らずのうちにこんなことにしてしまった自分に。観客の声が更に大きくなろうとした時の事、白鳥は手を上げて宣誓した。

 

「ミッドナイト主審……私、ギブアップします。流石にもうきついので……」

『許可します。この試合、鏡さんギブアップにより黒鏡君の勝ち!!』

 

白鳥は自ら負けを認め、龍牙に頭を下げて足早に去っていった。一秒でも早く此処から立ち去りたかったのだろう。そんな辛そうな背中を見て実況席では立ちあがった相澤が苛立ちを抑えきれずにはなった舌打ちがマイクに拾われスピーカーから伝わった。

 

「(なんでもっと早く声を出さなかった……ちっ合理的じゃない)」

 

そんな風に思案する相澤、彼は観客を黙らせようと言葉を出そうとした。それよりも先に白鳥が降参する意思を表明してしまい、言えなかった。この事がどんな事になるだろうか、龍牙へ集中する事も考えられる。生徒を守る事も、彼らの気持ちをフォローする事も出来ない自分に相澤は苛立っていた。そんな彼が見つめる龍牙の背中は何処か達観しているように見えた。



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見えない気持ちと見える気持ちの黒龍

「世の中見た目ってか……」

 

控室に戻った龍牙は自虐的に言葉を吐きながら、足をテーブルの上に放り出しながら天井を見上げていた。三回戦、自分は加減する事は無く正面から白鳥と戦った。全力こそ出していなかったが加減は一切していなかった、それこそが白鳥に対する礼儀だと思っていたからだが……如何やら観客からすると自分の行動は美少女を痛めつけている不良程度にしか見られていないらしい。

 

「スッキリしない……」

 

自分としては白鳥との戦いはそれなりに高揚感があったし、あのまま彼女が立ち向かい続けるならば自分はリュウガを解禁して全力を出すつもりもあった。だがその前に浴びせ掛けられた言葉が白鳥の気持ちを邪魔してこのような結果となってしまった。自分が何かすれば妹は最後まであそこに立ち続けていたのだろうか、そう思うと申し訳ない事をしてしまったような気分になってしまう。

 

「……望まれないのかな」

 

不意に口から漏れてしまった弱気な言葉、既に覚悟は決めていた筈の彼だが観客からの反応を見て思わず出てしまった。自分だって美少女と不良、どっちを応援するかと言われたら前者を応援するだろう。しかし勝負という場でそれを持ち出して確りとした試合を行わないのは白鳥に失礼に当たる、そう思っていた。確りとぶつかり合えれば皆が納得するだろうと思っていたのだが―――

 

「これ以上、考えるのはやめておこう。考えるべきは次の常闇だ」

 

悪い流れをし始めた思考を一旦リセットして次の常闇戦の事を考え始める。自分にとって最悪の相性ともいえる常闇を倒すために思案を巡らせる、近接格闘での攻撃などの組み立てを行っている時に控室の扉があけられた。目をやるとそこには体操着だけが浮いている、一瞬何事かと思ったが直ぐに理解する。

 

「葉隠さんか、如何したんだ?」

「……そのえっと、大丈夫かなって……」

 

 

「なんで、なんで?龍牙君何も悪くないじゃん、それなのに何であんなこと言うの……!?」

 

生徒観客席で観戦していた葉隠は試合の終盤、フラフラになりながらも必死に立ち上がった白鳥に凄いという感想を抱いていた。同じ女としてもだが、あそこまでの攻撃を受けても意志などが折れずに立ち上がって構えを取れるという彼女の精神面も凄いと思っていた。見習わなければいけないなと思っていた時だった。龍牙へのブーイング一歩手前の物に困惑を浮かべてしまっていた。

 

「龍牙に対する風当たりが強いな……なぜ奴らは正々堂々と戦う奴らを侮辱する」

 

静かに怒りを募らせているのは次に当たる相手を見つめていた常闇だった。常闇は二人が正々堂々とぶつかり合っている二人に気持ちを昂らせていた。黒龍たる龍牙との対決も、純白の白鳥との対決もどちらも心が躍ると思いながら二人の戦い方を観察しながら観戦していた、が、突如として上がった二人への観客の言葉に怒りが溜まってきていた。何も分かっていない、これは試合。手加減などをしない正々堂々たるものの美しさが何故わからないのだと。

 

「私は、今のこの会場の雰囲気が嫌ですわ。龍牙さんは間違いなく白鳥さんに向き合っていました、女だからと手加減などせずに実直に戦っていました。それなのに……!」

 

八百万の言葉に思わずにクラスの皆が納得した、あの峰田ですら頷いていた。逆に問うが此処で女性だからと加減してヴィランをしっかりと相手に出来るのだろうか。ヴィランには女性もいる、それを相手にしたときに加減して戦えと言うのだろうか、何も分かっていないと気持ちが燻っていく。そんな中で白鳥は降参をして足早に去っていく、その後にそれを見送った龍牙が去っていくのを皆が見送った。

 

「龍牙君……大丈夫かな、私ちょっと行って来る!!」

「葉隠さん!?」

 

葉隠は静かに去っていく龍牙の背中を見て我慢が出来なくなった、あの背中は前にも見た事がある。USJでヴィランに仲間扱いされていた時の姿に似ている気がした。今の彼を一人にしておく事なんてできないと葉隠は駆け出した。必死に走り、控室へと到達し扉を開けた時、天井を力なく見つめている姿に思わず胸が締め付けられるような感覚を覚えてしまった。だが勇気を出し、言葉を出す。

 

「……そのえっと、大丈夫かなって……」

 

 

 

「ああっ大丈夫だよ、この位大した事ない」

 

そこに嘘はない、本当に大した事ではないと龍牙は思っている。自分がヒーローを目指す中でこれは避けることが絶対に出来ない問題と思っている。出来るのはその問題に向き合って戦う事だけ、その気持は決まっている。だがそんな姿が葉隠にはやせ我慢しているように映った。

 

「龍牙君、その上手く言えないんだけど……私はあんなの本当に気にしなくていいと思う。だって龍牙君は優しくてカッコいいもん。私は知ってる、龍牙君は凄いって」

「―――」

 

シンプルな言葉、そこに込められた葉隠の想い。カッコいい、優しい、そんな風に自分を形容してくれるのは葉隠が初めてだったかもしれない。根津や師匠とも違う優しさと明るさに満ちている、嬉しくてしょうがない。そんな風に思っているとぎゅっと身体に温かい熱を感じる、よく見ると体操着が自分のすぐそばまで来ていた。これは恐らく、自分は―――

 

「葉隠、さん……!?」

「ごめん龍牙君、でもこうしたら元気その、出るかなって……」

 

葉隠の胸に自分は抱き寄せられるようになっていた。恐らくだがそんな風になっている、彼女が透明なので分かりにくいが恐らくそんな風になっている。一瞬混乱仕掛けるが、今まで味わった事の無いような温かさに心地よさを覚える。これはなんだろうか、懐かしさを覚えるような不思議な温かさに酔いそうになる。

 

「葉隠さん、我儘言っていいかな……?」

「うんいいよ」

「……少し、このままでいてもいいかな

「うんっいいよ。私はそばにいるから……」

 

そうして龍牙は少しの間、葉隠に抱きしめられながらその温かさと彼女の優しさに酔う事にした。瞳を閉じれば眠れそうな程に心地よいそれに包まれている龍牙は、先程の事なんて完全に忘れていた。




透明な姿な葉隠さんを生かすのって想像以上にムズイ……。


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漆黒の影と黒龍

葉隠からの温かさを貰った龍牙は続く対戦を観戦していたが矢張り目を見張ったのは麗日対爆豪、そして緑谷対轟の対戦だった。麗日と爆豪の戦いは一方的且つ爆豪の容赦がなく執拗な爆発の攻撃で観客から直接的なブーイングまで起きるまでにすさまじい戦いだった。だがそれでも麗日は諦めずに個性を最大限に使った攻撃を繰り出し逆転を図るが、爆豪はそれを正面から堂々と粉砕して乗り切り勝利を収めた。

 

そして緑谷対轟。緑谷の個性はまだコントロールが上手く効かないのか自らの指を個性発動の回数券として使用するという一見狂気じみた戦法で轟の桁外れの個性出力に対抗。今まで氷しか使わなかった轟の炎を引き出し、最後の激突はミッドナイト主審と副審であるセメントスが止めに入るレベルの凄まじい激突であった。そんなとんでもない試合だったからか、試合のステージは完全に粉砕されてしまっており今はセメントスによる修復作業が行われている。そして―――それが終われば間もなく常闇との試合が待っている。

 

「―――」

 

意識を集中して戦いに備える、常闇は自分が最も警戒している相手でもある。自分の最大火力である黒炎を無力化して黒影の力に転化させられてしまうので必然的に封じられてしまう。取るべきは直接攻撃になるのだが……日光下で弱体化している黒影の速度はかなり優れているので、本体である常闇の元に飛び込むのも一苦労だろう。それに常闇本人の実力が未知数なので何とも言えない部分が強い。

 

「大丈夫だよ龍牙君!!きっと勝てるって!!私応援してるからね!!」

「っ―――有難う、本当にうれしいよ」

 

垣根なしの本音で明るい声でそのように言ってくれる葉隠に礼を言う。きっと笑顔で言ってくれているのだろうが彼女が透明であるので確認する事が出来ない。だが笑顔であることが不思議と確信出来た、優しく明るい彼女だからそう思えるのかもしれない。もう考えるのはやめるとしよう、自分は兎に角彼女の応援に応える為に精一杯にやろう。それが最適だろう。

 

「それじゃあそろそろ俺行くね」

「うんっ頑張ってね!!」

 

最後に自分の手が握られるような感触を最後に葉隠は去っていった。遠ざかっていく彼女に手を振りながら見送ると静かに息を吐きながら入場ゲートへと足を進める。気持ちは落ち着いている、最高のコンディションとも言える状態をキープ出来ている。こんな静かに闘志に満ちた精神状態は初めてかもしれない、そう思える程に充実している。

 

「葉隠さんに感謝しよう、今度何がお礼をしないとな」

 

そんな事を決意しながら遂に始まりの時間となり、入場ゲートから一歩足を踏み出して光の下へと足を進める。観客からの歓声やら様々な視線が向けられてくるがそんなものは気にならない。ただ一直線に前から歩いてくる常闇へと視線が行った。

 

「この時を待ち続けた、お前と矛を交えるこの時を」

 

静かに刃を研ぎ続けた侍が、ゆっくりと鞘から刀身を覗かせるように常闇が呟く。普段から物静かな彼だが、今の彼は静かだが熱い心を火力全開にしている。

 

「俺はこのトーナメントでお前が一番手強い相手だと思ってる。そんなお前にそう言われるとは光栄だ。それにこたえる為に俺も力の限りを出してお前に挑む」

 

嘘はない。様々な意味で常闇の強さは大きな壁。そんな壁を必ず破ってみせると龍牙も自らの牙を磨いて準備をしていた。必ず牙で食い込ませてみせる。

 

「闇炎龍、貴殿にそう言われるとは俺も悪くないらしい。だが俺の闇の深さを舐めるなよ―――さあ今こそ雌雄を決する時だ闇炎龍、俺はお前を超える」

「来い漆黒の影。龍の持ち味は炎だけではない事を見せ付けてやる」

 

互いに開始の合図を待たずに闘志を燃やし、それをぶつけ合っている。彼らにはマイクの実況すら耳に入っていない、目の前の存在に集中している。僅かにでも意識をそらした方が負ける、そんな確信めいたものが互いに存在していた。腰を低くし構えを取る二人、静かに開始の合図を待つ、そして―――開始の合図が鳴る。

 

黒影(ダークシャドウ)!!!」

『アイヨッ!!』

部分出現(パーツ・アドベント)攻撃(ストライク)!!」

 

常闇の身体から闇が伸びる、個性である影のモンスター・ダークシャドウが瞳を光らせながら迫る。伸縮自在な腕が龍牙を捉えようとするのを右腕の龍頭が防ぐ。連続して切り裂くような攻撃を繰り出し続ける黒影、攻撃の威力ではなく連続攻撃に主眼を置いた攻撃を龍牙に浴びせ掛ける。

 

「ぐっ……むぅっ!!」

 

龍頭での防御で何とか立ち回っているが明らかに手数が足りずに防御しきれていない、押し切られている。本人曰く攻撃は中の下らしいが、それでも攻撃を集中させられれば後方へ押される事は避けられない。

 

(ソード)出現(アドベント)!!はぁっ!!」

 

龍頭で黒影の攻撃を力を込めて弾く、一瞬だけ生まれた僅かな隙、そこを突き左手に龍の剣を出現させる。剣に名称など無かったが常闇がドラグセイバーと名付けてくれた剣を握りしめて迫る黒影の爪を弾く。

 

「はぁっ!!」

『イテェッ!?』

「流石の威力……!!」

 

迫る腕を斬り付ける、それに痛みを感じたのか声を上げながら少し下がる黒影と威力を褒める常闇。黒影を少し下げながら睨みあう。すり足をするように互いで円を描くように動く、間合いを測るように、相手の動きを伺うように。

 

「「―――」」

「ダークシャドウッ!!」

『オオヨッ!!』

「うおおおおおっっ!!」

 

全く同時に動く。一気に加速させた黒影を打ち出すか如く突進させる常闇、真っ直ぐに常闇へと飛び出していく龍牙。迫ってくる黒影へと渾身の右ストレートを打ち放つ、それと黒影の一撃がぶつかり合う。

 

「おおおおっ……腕部集中、ドラゴン・ストライク!!!」

『オオオッッ!!?』

 

龍頭ではなく、それを支える腕への一点集中。それによって押し出す力が激増し黒影の一撃を押し退けていく。そして遂に黒影を押し退け無防備に近い常闇へと龍の牙が届こうとした。龍牙も決まると思った刹那

 

「ウオオオオオッッ!!!」

「ッ!?」

 

常闇が動いた。彼自身が動いて迫る龍牙の右ストレートを真下からのアッパーを決め、軌道をそらして頬を掠る所へと攻撃を通した。その腕には黒影の一部のような影が纏っており、それが龍牙の一撃を弾く事を可能としていた。

 

「……流石は闇炎龍、重い一撃だ。ギリギリ直撃を避けるのが精々とは……」

「この一撃を避けられるとは思わなかった……やるな常闇」

「この技はまだまだ未完成だ、咄嗟だったが上手く安心している」

 

そんな会話を終えると二人はバックステップを踏んで互いに距離を取った、同時に会場中から莫大な歓声が沸き上がった。白熱した戦いに皆がヒートアップしているのか、生徒も観客も皆が興奮していた。だがそれらを常闇は冷めた目で見つめながら龍牙に問う。

 

「勝手なものだ、お前と鏡の対決は素晴らしい物だったのにこんな歓声は沸かなかった」

「なら俺とお前の対決はそれだけのものって思えばいい、心を動かす程素晴らしい物だってな」

「ふんっ……物は言いよう考え物という奴だな、だが―――そうだな、その通りだ」

 

そう言い放つと常闇は上着を脱ぎ捨てた。日光を浴びると黒影が弱体化するというにも関わらずだ、それは侮りか、いや違う。彼の瞳には確固たる意志がある、此処から自分の全てを見せてやると言う強く崇高な意志に満ち溢れている。それに影響されたのか、龍牙も同じように上着を脱ぎ捨てた。

 

「闇炎龍、いや龍牙と呼ばせてくれ」

「ああっ構わない」

「お前には俺の全てをぶつけたくなった、今までそうではなかった訳じゃない。此処からは本当の全力全開、正真正銘の俺の全力だ」

 

そう告げる常闇の瞳は美しかった。闇という名があるのにもかかわらずまるで太陽のような輝きに満ちていた、本当に綺麗だと思いながら龍牙も言う。

 

「なら常闇、いや踏陰。俺も此処からは制限なしのMAXで行く。覚悟は出来てるか」

「ああっとっくに出来ている」

「「―――さあ行くぞ!!!」」

 

第二ラウンドが―――

 

「リュウガ……変身!!!」

 

リュウガ……!!

 

 

「漆黒の帳の闇、我が身に宿りて真の力を見せろ……!!!」

『オウヨッ!!!』

「発動―――深淵闇躯……!!



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ライバルを得る黒影と黒龍

「……やっぱり理解出来ない」

 

一人、廊下の影にいた少女、白鳥は漸く落ち着いたのかゆっくりと立ち上がった。幽霊のようにふらふらとした足取りで観客席へと向かっているが心中は穏やかではなかった。

 

『気にする事は無い白鳥、あの時お前は周囲を味方につけていた。それはヒーローには必要な素質で力だ!お前にはそれがあると証明された瞬間なんだからな』

『そう、流石は私とお父さんの子よ。これで将来はきっと安泰ね』

 

「……子供なら、なんでお兄ちゃんの事を何も言わないのよ……そんなの親じゃない……」

 

募っていくのは両親への不信感。自分を慰めてくれたのは感謝すべきかもしれないが、二人は龍牙に対しては何も口にしなかった。家族だって言っていたのにこれでは全然違う、都合のいい時にしかそのようにしか繕っていない……兄が両親にいい顔をしないのも理解出来た。

 

「如何すればいいの……?」

 

観衆が兄へと向けた感情や視線、両親の言葉と自分が今まで受けていた愛とは違った面を見てしまった影響か彼女の内面は穏やかなものではなかった。そして真剣に立ち会ってくれた兄との勝負を自分から投げ出してしまった自分への嫌悪感が圧し掛かる。兎に角兄には確りと謝る事を心に決めながら観客席へとたどり着いた時、白鳥は見た。黒い炎に包まれている龍牙の姿を。

 

「あれ、は―――」

 

炎の先にあったのは爛々と輝く不気味な朱い瞳、恐怖を増長させるかのような凶悪な風貌を持った黒い龍が立っていた。白鳥は龍牙が完全に個性を発動させている場面を見た事が無かった、始めた見た凶悪なヴィランその物と言ってもいい見た目をした龍牙。見た事もない兄の全く別の側面、それを見た白鳥が抱いた物は―――

 

「凄いっ……」

 

感嘆だった。

 

 

 

リュウガ……!!

 

「オオオオオオッッッッ!!!!」

 

天へと向けて捧げられる龍の咆哮、力強くも待ち望んでいたかのような歓喜もあった。方向と共に炎が弾け飛び、そこには個性を完全発動させた龍牙の姿があった。完全に開放された黒龍は喜びを表すような咆哮を捧げ終わると真正面へと意識を向ける、が周囲はそれでは済まなかった。

 

「お、おいなんだあの個性!!?あれが個性なのか!!?」

「蜥蜴、いや龍か!?黒い龍だ!」

「な、なんて面だ……まるでヴィランだぜ」

 

龍牙が個性を発動させた状態、それが公衆の面前に晒される。観客たちは思わずそのヴィラン顔負けの凶悪さを見せ付けている龍牙に様々な感想を勝手に述べていく。プロヒーロー達はどちらかと言えば冷静に見ているが、それでも自分達が相対してきたヴィランとも遜色もないレベルの恐ろしさを持つ龍牙に素直に恐怖に似た物を抱える。

 

『……黒鏡、迷いはないって事か』

『あれが噂に聞く龍牙の個性か、いやぁ俺的にはすげぇクールな個性ってマジで思うんだけどなぁ……』

『……あいつ、黒鏡はその個性の見た目上にそれをコンプレックスに思ってきた筈。だがそれをここで使ったという事は覚悟が出来たって事だな。個性:リュウガ、己の全く別の側面を発現させた個性……とでも言うのか』

 

相澤の言葉を聞いた観客たちは言葉を失いながらもどんな言葉を口にしたらいいのか迷っていた。恐ろしく凶悪な姿をしている龍牙、真っ先に恐怖とヴィランじゃないのかという言葉が出そうになった時にそれらを遮った大きな歓声が生徒観客席から上がった。

 

「龍牙ァァァ!!!いいぞそのままいけぇぇぇっっ!!!!今のお前めっちゃくちゃカッコいいぞぉぉお!!!」

「龍牙君行けぇぇええ!!!」

「龍牙君頑張れぇぇええええ!!!」

 

会場全体に響くようなA組の応援の言葉だった、それらは静まっていた会場を劈くように響き渡った。同じクラスで過ごしてきた彼らはこの場であの姿になる龍牙の事を気にかけていた、如何すれば龍牙の為になるだろうかと。簡単な事だった、全力で声援を送ってあげればいいんだ。周りの声なんて聞こえなくなるほど大きな声で。

 

「ウチ全然龍牙君の事怖くないよぉ!!!寧ろ超イケてるよぉぉ!!!」

「頑張ってください龍牙さん!!常闇さんも負けないでぇ!!!」

「いっけえええ龍牙ぁああ!!勝ったらオイラ秘蔵のコレクション見せてやるからぁぁ!!!」

「常闇もその姿超イケてるぞぉおお!!このイケメン影野郎ぉぉお!!!」

「龍牙君も常闇君も全力を尽くすんだぁぁああ!!雄英の生徒として胸を張れる戦いをするんだぁぁああああ!!!」

 

八百万が創造したと思われる大弾幕、何処からか持ってきたのか切島は大漁旗を振り回している。メガホンなども使って周囲の声を打ち消すような大声でエールを送っている皆。そして龍牙には一番届いている声があった。

 

「龍牙君頑張ってぇぇぇええええ!!!!今の龍牙君凄いカッコいいよぉぉぉおお!!!」

「―――ぁぁっ心に、染みるなぁ……」

 

葉隠さんの言葉だった。A組皆の言葉が温かさをもって自分を包む中で彼女の言葉は胸の中に入り身体の中から温めるような感覚、本当に優しいクラスメイト達で涙が出そうだ。この状態では涙は流せないが、心でそれを流しておこう。

 

「我らがクラスは矢張り温かい。影の俺でもあの日向の心地よさには酔いを覚える」

「奇遇だな。俺もそう思ってる」

「やはり気が合うな」

 

そう答える中、常闇の準備も済んだようだ。自らの身体に黒影を纏った形態、深淵闇躯。あれが今の自分と同じ最強の状態なのだろう。

 

「深淵闇躯……今まで試してきたが初めて成功した。お前のお陰だ」

「いや純粋にお前の才能だろ」

「違う、お前が与えてくれた心が躍る胸の高ぶりが俺を成功に導いた。改めて礼を言うぞ」

「そうか……んじゃ覚悟は良いんだよな―――第二ラウンドの始まりだ」

「ああっ―――行くぞっ!!!」

 

一瞬、互いの視線が合った、それが開始の鐘となる。駆けだす二人、ぶつかり合う互いの攻撃。互いの身体に直撃し倒れこみながらもすぐさま立ち上がり組み合う。

 

「オラァァア!!!」

「オオオッッ!!!」

 

鋭いストレート、ジャブを交えたラッシュを常闇が。龍頭による重い一撃と鋭い剣戟を龍牙が。互いの身体へとぶつけていく。

 

「らぁぁっっ!!!」

「おおっっ!!」

 

首元を薙ぐような一撃を身体を反らせて回避する常闇は素早く身体に纏わせていた黒影を操作し、龍牙の顎へと影の一撃を加える。上体が大きくブレた所に腰を入れた鋭いラリアットが決まっていく、鎧のようになっている硬い龍牙の身体を吹き飛ばすかのような一撃。後方に飛ばされる龍牙、だが素早く体勢を立て直すと今度は常闇へと重い蹴りを浴びせ掛ける。

 

「ぐぅっ!!負けるかぁぁ!!」

「こっちの台詞だぁぁ!!!」

 

殆どノーガードに近い攻防、完全に防御を捨てた超攻撃特化の攻め方をする互い。相手の身体に突き刺さる一撃を放てば相手もそれに負けじと身体に攻撃が刺さったまま、相手にも攻撃を突き刺していく。

 

「取ったぞ龍牙ぁぁぁあああ!!!」

「ぐはぁっ……!!」

 

龍牙の一撃、通常のパンチよりも遥かに重々しい両腕の攻撃を受けた常闇は意識が飛びそうになりながらも不敵に笑っていた。深淵闇躯の神髄はその身に黒影を纏っている事、即ち黒影の力をそのまま行使出来る。身体に突き刺さっている龍牙の腕には黒影の腕がガッチリと抱え込んで固定してしまっている。そして常闇はそのまま龍牙の頭部へと拳を振るう、振るう、振るう、振るう。何度も何度も腕を振るっていく。硬い鎧の感触で拳の感覚がなくなりかけていくがそんな事は知った事かと腕を振るい続けていく。

 

「これでぇっ!!」

「どっせぇぇえええいっっっ!!!」

「何っがぁぁっ!!?」

 

両腕が固定されている、ならば取る手段は一つと言わんばかりに龍牙は上体を反らし、そのままの勢いで頭を常闇に叩きつけた。即ち頭突き、それを受けた常闇は怯んでしまったが独立しているに近い黒影は龍牙の腕を離さない。ならばと龍牙はそのまま跳躍して自分諸共、常闇を地面へと思いっきり身体を叩きつけた。

 

「これでぇっ……如何だぁっ!!!」

「がはっごはっ……無茶をする、奴だ……!!」

 

大きく亀裂の入ったステージ中央、そこから這い出るかのように立ち上がる二人。拘束から解かれた龍牙と脱出した龍牙を見て笑う常闇。本当に楽しいと二人の胸には歓喜が渦巻いていた、此処までの激闘、全身全霊を込めた戦いに二人は心が躍り、本気で喜んでいた。

 

「なぁっ踏陰……俺此処まで楽しいって思った事ねぇよ……」

「ああっ俺もだ龍牙……ライバルとの対決は此処まで素晴らしいとはな……」

「ライバルか、そりゃいいなぁ……最高の、響きだぁ……」

 

何処か陶酔しているかのような言い方をする龍牙、倒れそうな身体を必死に立て直して構えを取る常闇。既に互いの身体はボロボロで立っている事もやっとな状態になっていた。互いに攻撃を全く防御せずに来たのだから、ガタが身体の奥底まで来てしまっているようだ。気を抜けば気を失いそうなほどにダメージが蓄積しているのに二人は笑っていた。

 

「踏陰……流石に俺ももう余裕がない……次で、決めさせて貰うぜ……!!」

「良いだろう、俺も次で全てを絞り出すとしよう……!!」

 

既に限界を超えている、それを理解しているからこそ次がラストショットであることを宣言する。だが恐らく二人の頭の中にはそれを避けて対処する事なんて存在していない。回避するだけの余力はない、ならば全てを出して相手にぶつかった方がよほどいいと分かっているからかもしれない。そんな答えが自然に同時に出た事に笑いがこみあげるが、次には笑いは消えていた。

 

「さあ行くぜ、今なら―――行ける気がする……!!」

 

天高く掲げた腕、交差させながら胸の前で開き右腕の龍頭へと意識を集中させていく。この姿の象徴ともいえる龍の頭部の腕、自分の最高の一撃と言えばやはりこれしかない。聞くが如何かも分からない、だがこの相手には今できる最大限をぶつけたいと思った。

 

「はぁぁぁぁぁっっっっ……!!!アアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

叫ぶ、叫ぶ。咆哮と共に龍牙の身体から夥しい量の黒い炎が沸き上がっていく。それらは流血のように地面へと落ちると途端に爆発的に燃え上がっていく。次第に炎の量は増していき、遂には龍牙を飲み込むほどの大火となっていく。そしてそれは次第に何か、蜷局を巻く何かの形を作り出していく。

 

「はあああああぁぁぁぁぁ……行くぞぉぉおおお!!!ズァァッ!!!」

 

猛々しい宣言と共に、龍牙は炎と共に跳躍する。天高く、空へと舞い上がった龍牙を取り巻く炎は次第に一体の黒い龍となりながら勇ましい咆哮を上げながら共に天へと昇っていく。それを見つめる常闇も自信が繰り出せる最高の一撃を放つ構えを取る。深淵闇躯の切り札として考えるだけ考えていた取って置き、使った事がある所か試した事さえない。だが博打上等、彼の頭に失敗の文字は存在しない。

 

「闇の帳を一つに束ねる……冥府の闇と成りて、全てを薙ぐっ!!」

 

常闇の全身から黒影が飛び出し、それが腕へと収束していく。影は全てを飲み込む闇へと化し、漆黒の影を調節した冥府の輝きへと昇華される。顕現せしは死神の鎌、生者の魂と命の灯を刈り取る禍々しい一振りの鎌。

 

深淵闇躯……冥府凱閃!!」

 

「流石に拙い、セメントス!!」

「ああっ!!止めますよミッドナイト!!」

 

このまま激突させては流石に拙いと判断した審判の二人が動いた。だが遅すぎた。

 

 

「だあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

甲高い龍の咆哮と共に吐き出される極大の黒炎、それを推進力にして一気に加速した龍牙は天から落ちる流星のような勢いで落下しながら常闇へと向かいながら全力の蹴りを放つ。それを見ても常闇は不敵な笑いを浮かべたまま腕を構え、全力を持って振るう。

 

「ウオオオオオオオッッッッ!!!!」

 

冥府の鎌が振るわれる、黒龍の流星を受け止めるのではなく薙ぐように振るわれる。最強の一撃がぶつかり合う、全身全霊が込められた一撃同士の激突は途轍もない衝撃を周囲に発散させながらもなおもぶつかり続ける。

 

「ダアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!」

「オオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!!!!!」

 

絶叫の中、衝撃と共に互いの一撃が砕け散り天へと延びるような黒炎の火柱を上げる。天穿つような火柱、青空へと放たれたそれが消えると空に浮かぶ太陽が陰り、雨が降り出していく。雨が降り出し舞い上がった炎を消していく。視界を奪っていたそれが消えた時、皆が目にしたのは……倒れこんでいる龍牙と常闇の姿だった。

 

黒鏡 龍牙 VS 常闇 踏陰

 

ダブルノックアウト、よって引き分け。



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師匠と弟子たる黒龍

『現在龍牙と常闇との戦いでステージがぶっ壊しちまったから修復中!ちょっとの間待ってくれよな!!』

 

雨が降りしきる中、セメントスがステージの修復を行っている中でマイクが先程の龍牙と常闇の戦いについてのコメントやらを行っている。唯々時間が立つのも勿体ないし何かすべきだろうと、自分のラジオ番組を持っている彼なりの配慮だろう。

 

『にしてもあの二人の対決は最高にCOOLだったぜ!!まさに互いが全力を出し尽くした末のダブルノックアウト!!最高に燃えたぜ!!』

『普通なら真正面からやりあうのは愚策だが、あの場合は互いに避けるだけの余力が完全になかった。故の正面衝突、あれはあれで合理的な判断だ』

『おおっ意外に絡んでくるなイレイザーヘッド!』

『……』

 

マイクが一方的にしゃべるだけになると思いきや、相澤もちょいちょい話に参加してコメントを残している。相澤も相澤で龍牙と白鳥の対戦で介入出来なかった事を悔いている、その代わりという訳ではないが少しでも龍牙のフォローアップをしようとしているのかもしれない。

 

『にしてもイレイザーヘッド、お前の教え子たちの熱い声援も二人のNICE FIGHTに影響していると俺は思うぜ!!周囲の声を押し退けるぐらいだったからな!!』

『それはあるだろうな。黒鏡が戦いに集中出来たのはあいつらの応援があったからこそだろうな、他の物なんて聞こえなかっただろう』

 

暗に龍牙に対するブーイングや侮辱を牽制する相澤、それを受けて一部の観客たちはバツの悪そうな顔をしている。プロヒーローは逆に圧倒的な力に目を向け、それに対する議論に夢中になったりもしている。

 

「これは早速サイドキック争奪戦が白熱するだろうな」

「だな。龍牙君の姿は確かに怖いけど、あれはあれで俺カッコいいと思うけど」

「万人受けは難しそうだけど、ダークヒーロー感はあるな」

 

そんな風に龍牙を認める、評価する意見が飛び出す中で一人のプロヒーローが立ち上がった。彼も異形系なのか非常に体格が大きく他のヒーローの数倍は巨大な身体をしている。

 

「あれっ何処へ?」

「少しな―――馬鹿弟子の所に行くだけだ」

 

 

「いてててっ……ちょっとやりすぎたな……」

「同じくだ……流石に無茶を重ねすぎたな」

「全くもってその通りだよ大馬鹿坊主共」

 

医務室に担ぎ込まれた龍牙と常闇、リカバリーガールによって治癒や治療を施されてた二人は念の為にとベットに横になっている。龍牙は全身を変化させる異形系な個性なので身体に対した傷はなく、疲労や身体の内部ダメージになどが溜まっているだけが、常闇はそうはいかずに治癒が掛けられているのに関わらず各部に包帯などが巻かれている。

 

「龍牙、アンタの方はもう治癒終わってるよ。アンタの馬鹿体力なら大丈夫だろうね」

「なんか投げやり過ぎない……?」

「一週間連続実戦形式訓練とどっちが楽だい?」

「こっちです」

「ほらね」

 

即答する龍牙、彼の中で半分トラウマと化している地獄の訓練、それが一週間連続実戦形式訓練である。廃屋となった廃ビルを舞台にして行われた訓練で、常に緊張状態と臨戦状態を維持した状態を強要される地獄のような訓練だった。終わった時には心身からの疲れが溢れ出してしまい、龍牙は2日間は眠り続けてしまったほど。

 

「龍牙、リカバリーガールとは親しいのか。随分お前との会話に親しみを感じるが……」

「ああっまあ……リカバリーガールは俺の保護者経由で昔から世話になっててさ、俺のばあちゃんみたいな人なんだよ」

「そうだったのか……いや納得した。確かに今の会話は祖母と孫の会話のそれだ」

 

納得する常闇は改めてベットに深く身体を預ける。身体の節々の痛みと疲労感はいっその事心地良い、瞳を閉じれば直ぐにも思い出せる自分の全てを出し切って望んだ死戦と言っても過言ではなかったあの試合。心の奥底から楽しく素晴らしい物だった……。

 

「龍牙、一つ頼みごとを聞いて貰っていいか」

「んっなんだ」

「お前、身体は大丈夫なのか。動けるか」

「まあ動けるな、疲労感はあるけど痛みとかは完全にない。流石にあの時のふらつきはノーガード戦法で無茶したからだからな」

「ははっ確かにあれはやりすぎたな」

 

軽く笑いながら改めて自分のライバルの凄さには驚かされる。自分なんて身体の痛みと疲労で動かせる気がしない、歩く程度は出来るだろうが走るなんて以ての外で戦える気なんてしない。これも個性の差という奴だろうか、自分の深淵闇躯も鍛えれば龍牙のように慣れるのだろうか……?

 

「……俺の代わりにトーナメントを進んでくれ」

「お前、意味分かってんのか?俺とお前のあれは引き分け扱い、この後なんかの方法で決着をつけて勝者を決める筈だろ」

「ああっだが俺はもう限界だ。まともに黒影に闇を供給してやる事も出来ん、だからお前が先に進んでくれ」

 

常闇は黒影を身体に纏っていたとはいえ、深淵闇躯は不完全な技だった為にムラが出来ており身体を十分にガードしきれていなかった。故にダメージや疲労は常闇の方が非常に大きかった。

 

「俺と黒影、その思いを共に連れて行ってくれ。お前が行くその先にな」

「おう。お前が望むなら背中に乗っけてやる、乗り心地は悪いかもしれない黒龍の背中にな」

「何、お前という背に乗せて貰えるのだ、安心して身を預けられるという物だ」

 

互いに突き出した拳をぶつけ合う、男として互いの心意気をぶつけそれを胸に秘める。自然と笑みを浮かべて笑う二人の光景にリカバリーガールは青春だねぇ……と思わず呟いて笑みを作って渋い緑茶を口にする。濃くして苦みが強い筈の茶だが、何処か何時もよりも美味しく感じられた。そんな時だった、医務室の扉を叩く音が木霊する。誰だろうか、A組のクラスメイト達は試合が終わるとなだれ込んできたが、治癒の邪魔だからと追い返したはず……とリカバリーガールは首を傾げつつ、入っていいと許可を出すと一人のヒーローが入室した。

 

「失礼するリカバリーガール」

「おやアンタだったのかい」

「龍牙は……そこか」

 

入ってきた人物にリカバリーガールは笑みを零しながら目で龍牙と常闇が青春をやっている所を示す。その声を聞いて龍牙と常闇は顔を上げてそちらを見ると思わず硬直してしまった。スーツこそ纏っているが隠しきれない巨体、黒いと白の身体。鋭く凶悪そうな指先の鋭利な爪、伸びている背鰭は誇らしく強さと猛々しさの象徴。鋭い瞳の中にある視線は睨みつけた相手を硬直させる程の恐怖を植え付ける。

 

「―――し、師匠……!?」

「及第点だったな、龍牙」

 

その人物こそ龍牙の師匠にしてヒーローランキング10位にランクインする程の強者にして海の覇者、ギャングオルカその人である。

 

「ギャ、ギャングオルカ……!?ヒーローランキングトップテンに入るトップヒーロー……それが、師匠!!?」

「ああうん……ごめん踏陰、そういう事一切話してなかったけど俺の師匠なんだよギャングオルカ」

「―――いや納得した。それならばお前の強さも理解出来る、しかし……これは驚きを隠せないな」

 

冷静を装っているが常闇は興奮と驚きに支配されていた。流石にオールマイトに比べてしまったら劣るが、それでも凄まじい強さと人気を誇るヒーローであるギャングオルカ。強面故に『(ヴィラン)っぽいヒーローランキング』なる物で三位になってしまっているが、常闇としては好きなヒーローであった。そんなギャングオルカは常闇を一瞥すると静かに言う。

 

「―――寝ておけ、今のお前の仕事は身体を休め次の鍛錬に励む事だ」

「分かりまし……」

 

そんな言葉を掛けらけると自然と疲れからか、瞳を閉じてしまい眠りに入ってしまった。流石に限界が来ていたのだろう、それがギャングオルカの言葉で出てしまいそれに従って意識を手放した。寝息を立てる常闇から離れた龍牙は師匠に相対した、及第点だという師匠の言葉を聞きたかった。

 

「お前は炎を使うことを明らかに避けていた、彼の個性はお前の炎を吸収出来るからだろうが何故最後には炎を使った。それで相手を強くし自分を不利にする。加えてあの技は成功率が5割を切る危険性が高い技、下手をすれば自爆した上に彼に大きな恥を欠かせる事にも繋がる事が理解出来ないようだな」

「そ、それは……ですけど常闇の技も同じだったんです。それなら俺だって負けるわけには……!!」

「それで競う意味はない。あれを使わずに真正面から乗り越えていく事、それも敬意に当たるだろう」

「うううっっ……」

「次にだな」

 

そこから溢れてくるのは如何に龍牙の攻め方、対処の仕方、実力の見極めの甘さなどなどが出てきた。龍牙は戦っているうちにライバルともいえる相手が初めてできた嬉しさで確かに疎かになっていると分かった。故に何も言わずにそのまま真摯に師匠からの叱責を受ける事にした。

 

「聞いているのかこの馬鹿弟子がぁ!!!」

「ちゃ、ちゃんと聞いてますぅ!!」

「いいや聞いていないな!!大体お前は何時も何時も下らんことでウダウダ悩みおって、それなら俺なんてな……」

 

途中から龍牙に対する叱責から龍牙が抱える個性による見た目の悩みへ、そしてギャングオルカも共通して抱えている見た目のお陰で苦労している事の愚痴へと変化していた。実は子供好きな上に努力する若者に賞賛と激励を、悩む若者にはアドバイスを贈りたいと真摯に思っている、だがキャラと立場がそれを許さない。

 

「全く……なんで敵っぽいヒーローランキングなんて存在するんだ……」

「本当ですよね、絶対俺も乗りますよね……」

「「はぁっ……」」

「(やっぱり師弟だねこの二人は……)」

 

だから二人は強い絆で結ばれているのかもしれない。互いに抱える物に対して深い理解を持つ事が出来るからこそ良好な関係を築き、互いに尊敬しあえているのだろう。生暖かい視線を向けているとそれに気付いたギャングオルカが大きく咳払いをする。

 

「ま、まあ兎に角だ!!お前はまだまだ未熟なひよっこだという事を忘れるな。驕り昂るなど言語道断だ!!これからも俺はお前のプライドを圧し折り続けるから覚悟しておけ」

「そもそも俺はそんなプライドないですよ……何回築き上げた自信を貴方にぶっ飛ばされたと思ってるんですか……」

「……それは、正直すまんと思ってる……」

 

師として弟子を正しく導く為に龍牙が慢心しないように指導してきたギャングオルカだが、その過程で龍牙が持つべき自信を何度も完全に粉砕してしまっている。故に一時期には龍牙が完全に自信を喪失してしまった事件があり、その事を根津から怒られもした。怒られてからは加減はするようになってはいるが、それでも龍牙の自信は定期的に打ち砕かれている。

 

「だがな、俺は嬉しく思っている……お前は自分の個性を自信を持って使った。それはお前にとって大きな一歩になった、違うか」

「―――ええっ間違いなく。今の俺は今までの俺とは違うって胸を張って言えます」

「そうか……そうか」

 

感慨深そうにギャングオルカは龍牙の頭を撫でる、そこにあったのは先程までの厳しい師としての姿はない。弟子が大きくなったことを喜ぶ優しい師だった。そんな師匠の大きな手で撫でられる事に心地よさを覚えながら龍牙は頬を欠いた。

 

「龍牙、思いっきり暴れてこい。お前の力を見せ付けてやれ!!!」

「はいっ師匠!」



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大きく進んだ黒龍

「龍牙君龍牙君!!ホント、ホントにカッコよかった!!こう、炎がぐわぁ~ってなってごぉ~と炎と一緒にだぁあ!!って感じになって、えっとえっと!!」

「葉隠さん、ごめん抽象的過ぎて全然分からない」

 

ギャングオルカとの一幕、精一杯の応援と温かさを受けた龍牙は身体に残る疲労など吹き飛ぶような良い気分で医務室を後にした。事実、身体は綿のように軽くなっており何時でも全力戦闘が出来そうな程。病は気からというが、その逆も然りという奴だろう。そんな龍牙が廊下を歩いていると葉隠に遭遇した。彼女は自分を見つけるなり常闇との戦いの感想を並べ始めていく。余程刺激的で言葉に出来ないのか、擬音のオンパレードになっている。

 

「兎に角カッコ良かったよ本当に!!」

「そう言われると素直に照れるな……カッコいいか、そうか俺ってカッコいいのか……」

 

何度も何度も深く噛み締めるように言葉を繰り返す。個性を完全に発動させた場合、自分に飛んでくる言葉なんて罵倒や恐怖、助けを求める物ばかりだった。そんな龍牙にとってカッコいいという言葉は酷く刺激的且つ甘美、魅惑的な表現になる。頬が緩み、口角が上がっている。

 

「うんっとっても素敵だったよ龍牙君!流石は私の憧れってあっ!!?」

 

見えない筈の彼女が思わず両手で口を塞いでしまった。失言だった、言うつもりはなかったのに言ってしまった。なんて言えばいいのだろうかと思う中で龍牙は変わらずに笑いながら呟き続けていた。

 

「素敵、素敵……ふふふっ俺は、そうなのか……♪」

 

酷く上機嫌にしている龍牙。またもや言われた言葉に感激してその言葉の味に酔っている。何度も何度も繰り返している姿に思わずホッとする葉隠だが、同時に少し位は気にかけてくれてもいいじゃないかという想いも沸く。自分がどれだけ龍牙に魅了され、憧れているのかも少しは知ってほしいという複雑な乙女心がそこにあった。

 

「んもう、少しは聞いてくれたって……」

「えっごめん何か聞き逃しちゃったかな俺」

「ううん何でもないっ」

「?」

 

見えない頬を膨らませて少し拗ねる、こういう時自分の顔を見られないのは個性の利点だが逆に、自分の感情を伝えにくいのもこの個性の欠点だと葉隠は真剣に思う。

 

「と、所でさ、次は轟君とだけど大丈夫?」

 

強引に話を変えて次の対戦について持っていく事にした。これ以上自分の事に関わる事を言うとボロを出しそうと思ったからだ。次の龍牙の相手はA組最強と呼び声高いあの轟。第一試合ではその圧倒的な個性の出力で瀬呂を瞬殺し、次の緑谷との対戦では今まで使わなかった炎を完全解禁して更に強さを増している。

 

葉隠としては常闇との激戦の記憶が新しい故か龍牙の負ける姿など想像できない、絶対に負けないという確信こそあるが心配はあった。だが龍牙は力強くサムズアップでそれに応えた。

 

「負けるつもりなんてないさ、今度は最初から全開で俺は行く」

「じゃあ最初からの姿で?」

「ああ」

 

リュウガ、龍牙のもう一つの姿である彼にとっては様々な意味を持つ姿。忌避される姿をされている故に、葉隠はこのトーナメントでは余りならないのでは?という予想を立てていたのだが、それから真っ向から立ち向かうような力強い言葉が返ってきた。

 

「ずっと俺は怖かったんだ。あの姿が、あれになるのが怖かった。でもさ、今日それが変わったんだよ。全部葉隠さんのお陰だよ」

「わ、私の?」

 

正確に言えばA組のお陰だろうが、一番大きな影響を与えてくれたのは間違いなく彼女だ。自分の姿をカッコいいと言ってくれた、素敵と言ってくれた、あの言葉が、自分への恐れを口にする者達の声を全て跳ね除けた。自分の事を此処まで思ってくれる人たちが出来た。心からの歓喜だった。

 

『校長に師匠聞いてよ!俺、俺の個性をカッコいいって言ってくれる人に会えたっ……!』

『おおっそれは素晴らしいじゃないか!!僕も嬉しいよ、君が笑顔でいてくれると』

『そうか、そうかぁ……良かったな本当に良かったな龍牙ぁ……!!』

 

歓喜は更に大きく激変する。歓喜は力に変わり、不安を打ち消していった。恐怖を切り裂いて、恐怖によるブレーキを打ち壊す。

 

「もう俺は自分を恐れない、俺はあれを俺の物にする。その切っ掛けをくれたのは葉隠さんなんだ、だから次の俺の試合も見ててくれ」

「―――うん。絶対に見る」

 

そう言われ笑みが浮かぶ。葉隠からそんな言葉を受けて胸の奥がじぃんと熱くなるのを感じる、そしてその熱さに引かれるように手を伸ばした。伸ばした先は葉隠の手だった、女の子らしい柔らかくて暖かい手を握りながら龍牙は改めて礼を口にするが、葉隠は酷く困惑したような声を出した。

 

「ど、どうして私の手が分かったの!?透明で見えないのに!?」

「なんとなくそこかなって……勘かな、まあ兎に角俺頑張るから応援してね!」

 

そう言うと龍牙は一度強く握りしめると、そのまま控室の方へと歩いていていく。その足取りは軽く、スキップを踏んでしまいそうなほどに軽かった。次に戦うの轟がいかに強かろうがそんな事はもうどうでもよくなっていた、自分は最初から全力で立ち向かうだけなのだから。

 

「りゅ、龍牙君の手……大きくて硬くて熱くて……うううっっいきなり手を握るなんて反則だよぉ……龍牙君のばかぁぁぁっ……」



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獄炎の英雄と黒龍

「……済まないな黒鏡君、いきなり話しかけた上に時間まで取って貰って」

「いえ、ステージの修復で時間はありますから。それで話って何でしょう―――エンデヴァーさん」

「エンデヴァーで構わない」

 

控室近くの廊下、そこでは龍牙がトイレの帰り道にとある人物に声を掛けられていた。それはオールマイトに次ぐ実力を持つヒーロー、№2ヒーローであるエンデヴァーだった。ランキングだけで語るならば自分の師であるギャングオルカを上回る物を秘めているヒーロー、そんなヒーローとの遭遇は何を生むのかと龍牙は少々ドキドキしていた。

 

「無用は前置きは不要だろう、率直に言おう。君はビーストマンとミラー・レイディをどう思っている」

「―――っ!!」

 

下手な言葉は自分の気分を損なうだろう、とエンデヴァーは前置きを捨てて何故こうして会いに来たのかその理由を口にした。二人のヒーロー、トップヒーローとして挙げ連ねられる夫婦ヒーローであるビーストマンとミラー・レイディ。何故その事を自分に問うのかと思っているとそれが顔に出たのか、エンデヴァーが答える。

 

「先程の事だ、二人が俺の下に来てな―――俺の娘の相手に君を推してきた」

「推す……相手……?」

「簡単に言うならば許嫁に如何かという事だ」

「それってつまり、俺の結婚相手!?」

「その認識で間違いないだろうな」

 

それを聞いて龍牙は頭痛と眩暈を覚えてしまった。ハッキリ言って結婚とかそんなものは考えた事なんてない、それ所か自分は初恋もまだした事が無い。友達はまともにいなかった上に根津に引き取られてからもまともに接する異性なんてリカバリーガールぐらいしかいなかった。異性の友達も雄英に入学してから漸く出来たぐらいだ。

 

「だが俺としては一度も顔を合わせた事もない奴を娘の相手にする事は出来ん、その位の親心はあるつもりだ。それで君に会いに来たのだが……その様子では矢張りあの二人は君に無断で話を進めようとしたのだな」

「全然知りませんよ!?一言も言われてないですし、まともに話したのだって今日が久しぶりの事なんですから!!?」

「……そうか」

 

龍牙の様子を見てエンデヴァーは溜息混じりにあの馬鹿夫婦と毒づいた。

 

「君の名字から察しはしていたが……君はあの二人の息子なのか」

「……一応そうなると思いますよ、でも俺には別に親が居ます。その人達が今の俺の親です」

 

その瞳は力強い光があった、敬愛、信頼、親愛、愛情、様々な物を孕んでいる光。それを見ていると少し自分の心が痛くなるような気もするが続けて名前を聞いていいかと尋ねると龍牙は喜んで名前を言った。

 

「根津校長とギャングオルカです。まあギャングオルカは師匠ですけど、俺の中では親です」

「校長とあいつがか……成程、君の強さの理由が分かったぞ」

 

あのギャングオルカが師匠ならばあの洗練された強さを持っているのも納得がいく。試合を見る限り相当鍛えこんでいるのだろう、最初こそ許嫁は断るつもりだったのが正直言ってエンデヴァー個人としては龍牙の事を気にいりそうになっていた。普通にこの瞳の光は頼りになる力強さを持っている、個性の恐ろしさに反して優しい光だ。

 

「成程。あの二人については俺の方で適当にあしらっておこう、君は次の試合に集中するといい」

「でも迷惑になるんじゃ……」

「気にするな、俺としてはあの二人のやり方が気に食わんだけだ」

 

純粋にエンデヴァーはビーストマンとミラー・レイディに対して良い感情を抱けなくなっただけ、それだけ。エンデヴァー自身は自分の事を立派な親だとは思っていない、それでもこの龍牙という少年に対して少しばかり力になりたくなっただけ。それだけだった。

 

「次に君は俺の息子と戦う事になる、だが君も応援させて貰う事にしよう」

「有難う御座います、でも応援して俺が勝っても知りませんよ?」

「大きな口を叩くの勝手だが、そう簡単には勝てんと思うがな。そう焦凍にはな……」

 

と僅かばかりに歪んだような表情を見せたエンデヴァーだが、彼は直ぐに踵を返して軽く腕を上げて龍牙の健闘を祈り観客席へと戻る事にした。

 

「意外にエンデヴァーって優しい人なのか……?」

 

聞いていた評判とは何処か違った印象を受ける、純粋に親として自分に会いに来たようなと思う龍牙。そして同時に両親への懐疑心が深まっていく。恐らく両親もエンデヴァーが自分に会いに来ると思ったりはしなかったのか、それとも話すとは思わなかったのかは分からないが、それでも勝手に縁談を設けようとしていたなんてハッキリ言って気分が悪い。

 

「つぅ~かエンデヴァーさんだって困るだろ、俺みたいな奴を娘さんの相手にされても」

 

何処かズレている龍牙。矢張り自分の個性に対する印象は変わらない、自分は確実に忌避されると思い相手にいいと思われる訳がないと思っているようだ。

 

「……これは校長と師匠に話して、早めにガツンと言って貰った方が良いかもな」

 

この後試合が控えているので、この事をメールに纏めて二人に送信するのであった。そしてそれを見た二人は無言で鏡夫妻へ青筋を立てるのであった。




「許嫁にするにしても彼と冬美では歳も……いや、本人同士がいいならば……」

と少しだけ許嫁について悩むエンデヴァーであった。


今作のエンデヴァーは何処か親らしい一面を見せる感じにしようと思っています。


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氷炎と黒龍

間もなく始まるは準決勝第一試合、轟 焦凍 VS 黒鏡 龍牙。今トーナメント注目の一戦としてプロアマ問わず注目を集めている。

 

轟は言わずもがなの№2ヒーローのエンデヴァーの息子としての知名度、その圧倒的な個性出力による実力によって注目され、1年の優勝候補と言われ既にサイドキックとして狙いを定めているヒーローも多数いる程の逸材。氷と炎という二つをあの大出力で扱える、これに注目せずして何に注目しろというのか。だがそれは戦う相手も同じ、注目度で言えば負けはしない。

 

対するは黒鏡 龍牙。全く注目されなかったが個性はヴィラン顔負けの凶悪な風貌、だがそれが秘める力はすさまじく常闇との激戦は観客の頭にまだこびり付いている。何よりも、あれほどの恐ろしさであるのにもかかわらずクラスからの人望は強く、彼を応援する声は会場の声を圧倒する程だ。そんな二人の激突に皆が注目していた。会場の全ての視線が、と向けられたカメラの映像を見つめる視線が、戦いの場に立つ二人へと注がれている。

 

「轟、お前姉さんっているか」

「居る。それが如何した」

「いや少し前にエンデヴァーさんが俺のところに来てよ」

 

それを聞いて轟の表情が硬くなる。ハッキリ言って焦凍とエンデヴァーの関係は悪いの一言に尽きる。憎悪していると言ってもいいかもしれない関係をしている、そんな彼に対してエンデヴァーが訪ねてきたと言えばどんな反応が返ってくることだろうか……。

 

「……何を言ってた」

「いや世間話をしただけ。単純に俺の応援もしてくれるとも言ってた、後はまあ……ここでする話じゃねぇな。後でする、お姉さんの事を聞いた理由もその時に」

「……分かった。兎に角今俺達がすべきなのは戦う事だ」

 

互いに構える。腰を深く落とす龍牙と半身を反らすような構えを取る轟、そして一直線に向けられる集中力。既に二人の中に周囲の雑音は消え失せていく、対戦相手しか映らない。唯一聞こえるのは開始を告げる合図程度だろう、それ以外の音に反応出来ない程に集中してしまった。凝縮された時、刹那が永遠にまで延長されているかのような開始前の重苦しい空気。

 

時間が停止しているかのような静寂、それを破るのは―――開始の合図。

 

 

「っ―――!!!」

 

解凍された時、動き始める時間が最初に刻むのは―――轟の速攻。大気が凍り付くと同時に、龍牙の周辺を一気に凍結させていく。龍牙が周辺への景色を視界に捉えて脳が命令を出すよりも早く、彼の身体に氷が纏わりつき拘束するとともに周囲から伸びている氷の柱が上る。そしてその柱の合間の空気を凍らせるように橋が繋がり、柱は巨大な氷山への変貌した。

 

半冷半燃。右で凍らせ左で燃やす、それが轟 焦凍の個性。温度も範囲も未知数、あれほどの出力でありながらまだまだ先があるという恐ろしさ。その大出力が一瞬で龍牙を凍結させたうえに氷山に封印するという力技を可能にした。

 

『ひょっ氷山に黒鏡が飲まれたぁぁああああ!!!??というかあいつも凍り付いてんじゃねぇのかこれ!!?』

 

マイクの驚きに見た絶叫に皆が同意しつつ、氷山へ意識が向く。観客席にいる人間までも凍てつくような寒さを感じるというのに、その中心地である龍牙が感じる物は尋常ではない筈。最早完全に凍り付いて死んでいるのではないかという考えすら及ぶ程の零度。絶対零度という言葉も連想させる寒さの中、葉隠は一人、全く心配もしていなかった。

 

「大丈夫、龍牙君なら絶対に大丈夫!!だって言ってたもん!!」

 

―――もう俺は自分を恐れない、俺はあれを俺の物にする。

 

あの言葉は嘘なんかじゃない、ならば龍牙は絶対に負けない。そう信じている。ほらっ聞こえてくるもの―――龍の咆哮が。

 

「お、おいいくらなんでもこれはやばいだろ!!?」

「主審も副審も何で止めない!!?」

「おい救助に行くぞ!!」

 

凍死を心配する一部のプロヒーローが席から飛び出そうとしていた。経験からこの温度は確実に拙いと思っての行動だろう、だがそれを静止する二つの影があった。

 

「「黙って見ていろ」」

 

ギャングオルカとエンデヴァーの二人だった。低い声で唸るような威圧する声に思わず怯む、動くのをやめたのを見ると氷山へと目を移しながら互いに声を掛ける。

 

「お前の弟子と聞いた、如何なんだ」

「自慢の弟子、いやそれ以上だ」

「そうか。話がある、根津校長も交えてな」

「了解した」

 

短い言葉のやり取りを終えると、再び氷山へと意識を向ける。二人は同時に思う。

 

「「来るぞ」」

 

ビシィィッ!!

 

大きな音を立てながら氷山に亀裂が入っていく。次第に亀裂が氷山全体へと拡散していく、地震で震えているかのように氷山全体が揺れる。揺れるたびに激しく亀裂が蠢いていく、深く深く入った罅からは黒い物が溢れようとしていた。

 

『ゴアアアアアアアアアアッッッ!!!!!』

 

そして氷山の上部の全てに亀裂が入った瞬間、爆音のような龍の咆哮が響く。咆哮と共に氷山の上部が完全に吹き飛びそこから黒い炎が天へと目掛けて昇っていく。氷山の噴火、世にも奇妙な光景がその場に広がっている。炎は氷山を融かしながら、その中央部には氷を突き破りながら姿を見せた影があった。

 

リュウガ……!!

 

朱い瞳を爛々に輝かせながら現れる黒い龍。力任せに氷塊を殴り割りながら、完全に氷山を消し去る。お前の氷なんて俺には効かないという意思表示だろうか、氷山から脱した黒龍は見た目に負けない程の迫力と威圧感を周囲に発散させながら自分に向けて敵意を向けながら吼える。

 

「悪いが轟、俺はもう止めらない。ノンストップで行く、黒龍は止まらないってな」

 

笑いながらそう龍牙は左手に剣を握りしめながら構えを取る。轟としても龍牙が今の姿を投入してくることは想定していた。だからこそ氷での速攻を仕掛けた、変身する前に完全に動きを殺してしまえばいいと。だがそれは甘かった。龍牙の炎は恐らく自分の炎と同程度の力を誇っているのだろう、でなければ氷山を融かす事なんて出来る訳がない。

 

「出し惜しみ、なんてしてる暇はねぇらしいな……行くぜ龍牙!!」

 

轟は左腕に炎を纏わせ自身の体温を調節しながら地面から雪崩のように迫る氷塊を放つ。その氷塊は龍牙を閉じ込めた物と同規模、それを龍牙は右腕の龍頭から炎を放ち融かし、そして言い放つ。

 

「来やがれ轟。躊躇いと恐怖を捨てた俺を見せてやる!!」

 



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決着をつける焦凍と黒龍

「……強いな、彼は」

「当然だ。俺の弟子だ」

 

地面から次々と伸びていく巨大な氷柱、貫かんと迫るそれを自らの刃と龍の頭で砕き、融かし尽くす。連続しての大氷結、普通ならば身体が冷えきってしまっても可笑しくはないが轟は炎で体温を調節する事で最大の氷を何度も放ち続けている。それをいとも簡単に融かす黒い炎を放ち続ける龍牙、炎を吐き続ける彼にも疲労の色は一切見えない。

 

「奴が最も優れているのは総合持久力、スタミナだ。俺はそれを重点的に伸ばした」

「成程……戦う相手にとって一番キツい事だな」

 

如何なる攻撃を仕掛けようが、戦いを仕掛けようが立ち続ける相手程厄介なものはない。立ち続け、戦い続ける持久力と精神、それらを重点的に鍛え上げたギャングオルカ。故に龍牙を倒すのに一番必要とされるのはそのタフネスさを上回る程の大火力かタフネスを無力化出来る戦い方でしかない。ギャングオルカも毎回毎回それらを駆使して龍牙をねじ伏せている。

 

「奴は強いぞ、お前の息子よりもな」

「なんだ息子自慢かオルカ、堅物のお前にしては珍しいな」

「誇れる息子を誇って何が悪い」

 

そんな風に胸を張って龍牙を見つめているギャングオルカにエンデヴァーは少し目を見張った。仕事での付き合いしかなくそこまで親交が深いという訳ではない相手だが、仕事に実直で堅物だと思い込んでいたギャングオルカが親馬鹿じみた事を言うとは思ってもみなかった。どうやら龍牙とはかなり深い絆があるようだ。

 

「そうか、ならばその息子関連の事で話がある」

「あの馬鹿夫婦の事だな」

「そうだ、あの腐れ馬鹿夫婦の事だ」

 

ギャングオルカも龍牙からのメールで事情は把握している。龍牙に一切の理もなく話を進めた事を知っている、実の息子に対する労いの言葉が一つもない上に勝手に縁談を進めている。許せる行為ではない、あの二人は一体何を考えているのか。確かにあの夫婦にはエリート思考があったが、それが悪化しているのが原因なのだろうか……。

 

「根津校長も親らしいな、是非とも共に話をしたい」

「いいだろう。この後時間取れるか」

「問題ない」

「では決まりだな」

 

そこで話を打ち切ると二人は試合へと意識を向け直した、今は息子たちの戦いに集中するとしよう。あの夫婦への対応はその後からでいい。

 

 

「ちぃっ!!」

「だぁっ!!」

 

津波のような勢いのまま迫りくる氷の波を炎で融かしていく龍牙。それが幾度もなく繰り返されている、轟も何時までもこんな応酬をしていたとしても無駄なのは理解出来るがハッキリ言って近接戦で龍牙勝てる根拠は全くない。格闘にはそれなりの自信はあるがハッキリ言って龍牙を圧倒出来るものではない、故に個性で押すしかないと思ったのだが……龍牙の個性の力強さは予想以上。

 

黒い龍、龍と言えば力強く圧倒的な存在だと皆が思うだろう。それを轟は誰よりも強く感じていた、目の前にいる龍の強さは尋常な物ではない。自分に匹敵いや、超える程の炎をもう何度も使い続けているのにも関わらず衰える気配が全くない。轟も氷による体温低下というデメリットを炎で打ち消しているが、それでも疲労は溜まっていく。やがて氷の生成速度も落ちていくだろう、だが龍牙はそんな様子を全く見せない恐ろしさがあった。

 

「だぁっ!!」

「ま、まだまだぁ!!」

 

再度、氷が粉砕される。再び氷を生み出して襲わせるが、一瞬だけ隙が出来た。変わらない状況、衰える事の無い炎の勢い、無尽蔵と思えるほどの力の奥底に寒さとは無関係な震えが起きる。そこを突くかのように龍牙動く。保持していたドラグセイバーに自らの黒炎をを纏わせていった。轟々と唸りを上げて燃え盛る炎を食らうかのように自らの力に変える剣、徐々に炎が固形化するかのように刀身が伸びていく。大太刀を思わせるような長さとなったドラグセイバー、それを大きく振り回しながら龍牙は吼える。これが俺の力だ、受けてみろと言わんばかりの咆哮を上げながら振り抜かれる。

 

「ぐぅっあああっっ……!!」

 

振るわれた黒き爆炎の剣の一閃、本能的な危険を感じて最大級の氷を発生させ盾の役割を持たせながら攻撃をする。だが刃はそれをあっさりと両断した、果物をナイフで斬るかのようにあっさりと両断して見せる。そして切り口から黒炎が舞い上がり爆発するように周囲を燃やし尽くしていく。

 

「バーニングセイバー……決める……!!うぉぉぉおおおおお!!!」

 

黒炎に染まった剣、先程の刀身の長さこそない。それでも通常時の2倍ほどの長さを維持したまま駆けだしてくる龍牙。一歩一歩迫ってくる黒龍はすさまじいまでの威圧感を纏っている、危機感が増す中で轟は氷を放ってなんとか龍牙の足を止めようとする。氷の弾丸、氷の壁、様々な手段を用いて龍牙へと攻撃を仕掛けていく。その中、遂に体温調節だけにとどめていた炎にも手を伸ばした。

 

「ぐぉっ……!」

「はぁぁぁぁっっ!!!」

 

氷と炎、それらを同時に繰り出して龍牙へと浴びせ掛けていく。氷の濁流と炎の激流、それらが同時に龍牙へと襲い掛かっていく。それに対する龍牙は全力で黒炎を帯びるドラグセイバー、曰くバーニングセイバーを振るってそれらを打ち払っていながら前へ前へ進んでいく。それでも回避しきれないのかその身に炎と氷を受けるが全く速度が落ちない。無類のタフネスさに物を言わせた猛進、恐ろしいまでの力となって嵐を掛き分けていく。

 

「ゴアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

迷いと恐怖を捨てた龍牙は躊躇なく、龍としての咆哮を上げる。もう黒龍の力を忌避する姿はない、完全にそれを受け止めている。自身と龍を一体化させ、一つの命として進んでいく龍牙。身に受ける氷結と炎熱を全て無視して直進する、そして間もなく刃が届く所まで来た。あと一歩!!と思った時だった、足元から氷が伸び自らの顎を捉えた。その直後背後から氷の壁が迫り自らを圧し潰すかのようにして固定する。

 

「はぁはぁはぁはぁ……漸く止まったな龍牙……!!」

「やってくれるなっ……」

 

轟も負けていない。一切引かない強さをもって龍牙に立ち向かっている、止める事が出来た。ならば後はこのまま場外に押し出すだけだととどめの一撃を放とうとした時だった、自らの目の前に歪んだ鏡のような物が出現した。歪んだ龍の頭部のような鏡、一体何かと刹那、轟の思考が死んだ。そして思い出した、これは以前戦闘訓練の時に龍牙が使っていた技の一つだと。

 

「龍は執念深い、やりすぎると逆鱗に触れるぞ」

「てめぇまさかっ!!!」

「―――いやお前はもう触れてるんだよ、逆鱗にな」

 

鏡は形を完全に作った。そこには自分の姿が映っている、いや自分の攻撃が映し出されている。自身が龍牙に向けて行った濁流のような氷河、それが映っている。そしてそれは鏡を突き破るかのように溢れ出して自身へと襲いかかってきた。

 

「ぐああああっっ!!?このぉおお!!!」

 

鏡の内部から迫ってくる氷、感覚的にそれが自分が放った氷と全く同じであることを感じ取る。受けた攻撃を相手に返す能力まで持っている事に驚きながらも轟は炎を開放して迫る氷を融かす。そして龍牙へと反撃をしようとした瞬間、目の前に迫っている龍牙を見た。

 

「なっ―――!?」

「ドラゴン・ストライク!!!」

 

黒炎を纏った龍頭が自らの身体に叩きこまれた。炎は当たった瞬間に、龍の頭部を形どると爆発的に膨れ上がって轟を吹き飛ばした。それを受けた轟は吹き飛ばされながらも氷を発生させて何とか留まろうとするが、余りにも勢いが強すぎるのか作った氷を突き破っていく。それでも何度も何度も氷壁を突き破りながらもなんとか自分を食い止める事に成功する、だが―――既に轟は場外へと出てしまっていた。

 

「くそっ……!!」

「俺の勝ちだな」

 

 

「どうだエンデヴァー、俺の息子が勝ったぞ」

「何勝ち誇ってる、さっさと根津校長の所に行くぞ」

「なんだ悔しいのか?」

「焼かれたいのかこのチンピラシャチ……!!」




「常闇、鏡の技ってどんな名前にしたらいいと思う?」
「そうだな……復讐する龍の鏡、リベンジ・オブ・ドラゴンズ・ミラーというのは如何だ」
「何それカッコいい、お前天才か」

というやり取りが龍牙と常闇の間で、試合後あったとかなかったとか。


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新しい絆を得る黒龍

「……お前の親、大丈夫か」

「やっぱりそう思うか……?」

「当たり前だろ。10年ぶりにあった子供に対してなんだそれ、胸糞悪い話だ」

 

試合後、龍牙は轟に何故姉の事を聞いたのかの説明を行っていた。その過程で自分の身の上や両親についても詳しく話した。轟は顔を二転三転させながら話を静かに聞き続けて、時には龍牙に同情し、両親にキレ、今の親に驚きを繰り返しながら話を聞き続けた。そしてエンデヴァーの話を聞いて少し意外に思った。

 

「……あいつなら、縁談を受けそうなもんだけどな。お前の個性を手に入れる為に」

「顔を見た事が無い相手に娘はやれないって言ってたけど」

「あいつが言うのかよ」

 

と轟のエンデヴァーに対しての辛辣な言葉は止まらない。矢張り関係は最悪なのだろう、だがそんなエンデヴァーが縁談について知らせてくれたのも事実、それは間違いないのだから。

 

「師匠と校長にはもうメールで伝えてあるから大丈夫だとは思う。試合前に変な事聞いて悪かった」

「いや大丈夫だ、そんな事情ならしょうがねぇ。寧ろ聞いて当然だろ」

「悪いな轟」

「―――焦凍、それでいい」

「えっ?」

 

思わず聞き返した。

 

「何かあれば俺を頼れ。直ぐに力になってやる」

「有難いけどなんで……?」

「……なんとなくだ、兎に角そう言う事だ」

 

何処か照れくさそうにしながら焦凍は去っていってしまう。龍牙は兎に角分かったと伝え、自分も龍牙でいいからと返すと腕を上げてそれに答えられた。それを見た龍牙思わず思った。

 

「なんだかんだで似てるんだな……エンデヴァーさんと」

 

 

「……くそっ!!」

 

力任せに廊下の壁を殴りつける、僅かに凹み亀裂が走る。酷く苛立つ自分を上手く抑えながらもそれでも怒りが沸き上がってくる。思わず身体から炎が舞い上がる、冷気が迸る。

 

「ふざけんなよ……親父以上のクズかあいつの実の親は……!!」

 

焦凍は龍牙に自身を重ねていた。境遇が似ているように思える、彼の場合は最初こそ両親には愛されていたが個性が発現した瞬間に捨てられているので違いこそあるが、親から酷い仕打ちを受けている。そしていきなり再会したと思ったら家族だ何だの言っておきながら、縁談を決める。自分よりも酷いとさえ焦凍は思っている。今彼が普通に生活出来ているのは今の親がとても深い愛情を注いでくれた結果なのだろう。

 

雄英校長の根津、そしてトップヒーローとしても名が通っているギャングオルカが今の親。特にギャングオルカは師匠でもあるらしい。その二人が龍牙の親として相応しいと焦凍は思ってさえいる。

 

「俺も何かしてやりてぇ……」

 

焦凍が思い立ったのも龍牙の両親の事が単純に気に食わなかっただけではなく、自分に重ねている部分もある。両親の勝手な都合でこれほどまでに振り回された上に、個性婚のような事まで強要されかかっている龍牙の事が余りにも放っておけないとさえ思った。彼に自分のようになってほしくないからかなのかは分からない、だが焦凍は今まで登録だけ登録していた連絡先に電話を掛けた。

 

「……親父、龍牙の事で話がある」

『そうか、聞こう』

 

 

「次は決勝、相手は爆豪か……戦闘訓練以来だなあいつとは」

 

轟、いや焦凍から力になってくれるという言葉を受けてまた一人友達が増えたと笑みを作りながらも自分が上り詰めたトーナメントの頂上にて、自分を待ち受ける最後の相手の事を思う。一度、戦闘訓練にて手合わせをした相手が今度の対戦相手。爆破というシンプルな強さと高い身体能力、流石に戦闘訓練で行ったような大爆発は容易には行えないとは思っているがそれでも相手にするのは大変な事は変わりないだろう。

 

「最初から全開で行ったとしてもあいつはそう簡単には倒せない、となると……如何しようかな」

 

爆破のダメージはそこまで問題にはならないが、爆風による場外判定負けに気を付けるべきなのかもしれない。だとしても自分には真正面から向かっていくのが矢張り最善手になるのだろう。

 

「にしても……観客受けがわりぃ決勝戦だなぁ……」

 

自分と爆豪の共通点を探すとなれば確実に人相が悪い事、そして観客からブーイングなどを受けている点。自分は個性を発動させればヴィラン顔負けの姿になり、爆豪は爆豪で素でヴィランっぽいと思えるほどに人相が悪い。まあある意味それは羨ましい気もするのだが……そんな二人の頂上決戦、なんとも受けが悪そうな……。

 

「そんな事言っても無駄かぁ……まあ俺は俺で全力尽くすだけにしとこ」

 

そんな風に完結した思考を終わらせた時の事、廊下の向こう側から二人の影が見えた。それを見た瞬間に龍牙は顔を顰めながら舌打ちをした。

 

「何の用だよ、この後決勝を控えてんだ。集中の邪魔なんだけど」

「それは済まなかった、でもまさか龍牙が此処まで強いなんて思いもしなかったんだよ」

「ええっ本当よ。でも流石は私たちの子供ね、だって私の反射(リフレクション)まで使えるなんて思いもしなかったもの」

 

そう、向かってきた二人はビーストマンとミラー・レイディだった。自分を褒めるように矢継ぎ早に言葉を羅列していくが龍牙はそれら全てを聞き流しながら適当に相手をする。

 

「それでだ、今日の放課後は記念に一緒に食事なんてどうかな?最高級のレストランを予約してあるんだ」

「ええっ三ツ星の最高のレストラン、私たちの行きつけよ」

「……生憎俺は貧乏舌でね、そんな物の味は分からないからいい」

 

龍牙はそう言いながら二人の間をすり抜けて去ろうとする、そしてすれ違いざまに言う。

 

「それに今日はもう予定が入ってる―――残念だったな」

 

龍牙にとっては高級なレストランなんてどうでもいい。そんな物よりも―――根津と師匠と共に囲む家の食卓の方が何百倍も良い。




ビーストマンとミラー・レイディにいい所ってあるの?

……実力?


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決勝を迎える黒龍

『さあ盛り上げれテメェら!!いよいよトーナメントの決勝だぁあ!!』

 

間もなく始まるトーナメントの決勝戦、マイクの熱すぎると言っても過言ではない実況の影響もあってか龍牙の予想に反して途轍もない熱気に包まれている。幾ら見た目が悪かろうとそんな事は関係なしだと言わんばかりの歓声が響き渡る。当然だ、ここまで勝ち上がってきた猛者同士の対決に興奮し無い物などいない。もう既に龍牙や爆豪に飛ばしていた野次など掻き消えている。いや、そうではないのかもしれない。

 

確かに興奮している者も確実にいるだろう、この二人のどちらが強いのかと気になり早く戦う所が見たいという欲求に駆られ、ジュースの氷をガリガリと噛む者、口角が上がるもの、既に立ち上がっている者といる。プロヒーローに多く見られる。そんな中でギャングオルカは一般客の席を見て舌打ちをしながら入場口に目を下ろす。同時に隣のエンデヴァーが口を開く。

 

「気付いたか」

「最初からな」

「そうか、辛いな」

「当然のような物だ」

 

短い言葉のやり取りの中に全てが詰まっている。エンデヴァーは隣に冷えた麦茶を差し出し、ギャングオルカはそれを受け取り苛立たっているかのように喉の奥へと流し込んでいく。龍牙の師である彼は苛立っていた、現状に、深い苛立ちを感じていた。

 

『この決勝戦はちょっと趣向を変えてみる事にしたぜ!!互いがステージに入った瞬間から試合が開始される!!この事については爆豪と龍牙の了承も得てる!!つまり、速攻も可能!!思う存分にやりやがれってんだ!!』

 

ステージに立った時点での試合開始、ステージに入りさえすれば攻撃が認可される。それまでは個性を発動させようが攻撃しなければいい。つまり龍牙も最初から個性を発動させた状態でステージに立てる、速攻を受け個性発動を完了させるまでにやられる心配をされずに済むという事。一見龍牙の方に有利になっているようにも思えるが、これは龍牙と爆豪を対等にさせる為のルール。二人もこのルールでの決着を強く望んだ、そしてそれを肯定するかのように真っ先に爆豪が入場口から爆破で空を飛びながらステージへと入った。

 

「来たぁぁぁ!!」

「ダイナマイトボーイ、爆豪の登場!!」

「思いっきり頼むぞ爆豪!!」

「派手な勝負期待してるぞ~!!」

 

と声援を受けると爆豪は不気味に口角を上げながら腕を上げてそれに応える。プロヒーローの間では爆豪の評価は悪いどころか寧ろ良い。どんな相手だろうと真正面から向かって行って粉砕するかの如く相手を撃破する、その物怖じしない度胸と誰であろうと平等に相手を薙ぐ姿勢が高評価を受けている。

 

ヴィランには女もいれば子供もいる、そんなヴィランを相手にヒーローは戸惑っていいだろうか。否、答えはNO。例え相手が子供だろうが女だろうがヴィランとして脅威を見せたのならば倒さなければならないのが当然。それが出来ないヒーローは逆にヴィランに倒され、ヴィランの経験という栄養になる。言うなれば爆豪はある意味でヒーローに酷く向いている逸材と言える。

 

そして、間もなく現れる。靴が地面を叩くような音が聞こえてくる。そして入場の奥から聞こえてくる物がある―――龍の唸り声だ。

 

リュウガ……!!

 

 

妖しく光る瞳を輝かせながら、入場口の暗闇の中らから姿を現した正しく黒き龍の異形の姿。細かい息遣いは戦いに高揚しているかのようにも聞こえてくる。個性を完全に発動させている状態の龍牙、それを見た爆豪は好戦的で鋭い笑みを浮かべながら両手から小規模の爆発を起こす。早く、早く上がってこいという気持ちの表れ。

 

「ブラックドラゴン来たぁ!!」

「待ってましたぁっ行けぇっ龍牙ぁ!!」

「サインくれ!!」

「プロがそれ言っていいのか?」

 

と龍牙もかなりの高評価を纏っている。爆豪と同じく相手を区別する事なく戦う姿、見た目とは裏腹に熱いハートを秘めているというのも評価点になっている。何より常闇と焦凍との戦いで見せ付けてくれた圧倒的な戦闘能力なども大きな魅力となっている。見た目が大きなウェイトになっているかもしれないが、それを跳ね除ける程の物を持っているとプロ達は思っている。が、それと裏腹に一般客らはそこまで盛り上がっていない、いや盛り上がってはいるが如何にもプロらとは違った雰囲気に思える―――全く別の興奮。

 

「……龍牙大丈夫だ、お前の良さは俺達が良く分かっている」

 

と思わずギャングオルカが拳を強く握りながらそう呟いてしまった。隣のエンデヴァーもそれを耳にしながらも敢えて聞いていないふりをした。それがいったい何を意味しているかを彼も長くヒーローをしているが故に理解している。

 

「エンデヴァー」

「なんだチンピラ」

「ぶっ飛ばすぞ、お前も良ければあいつの力になってくれ」

「元よりそのつもりだ」

 

ギャングオルカの言葉に即答する。そして間もなくステージに上がる龍牙に対してエールを送る。

 

「戦闘訓練以来か……」

「あん時は止められたが、今度はそうはいかねぇ……ぜってぇてめぇを潰す……!!!」

「やってみろ……龍のアギトに砕かれる前になぁ!!」

 

一気に駆け出した龍牙、まだステージまで少しあるがその距離を一気に駆け抜けていく。そしてステージに到達すると爆豪は興奮しきった表情のまま、爆破で推進力を得ながら突撃。勢いのままの飛び蹴りを龍牙に放つ、それに対する龍牙は龍頭で迎え撃つ。

 

「てめぇに勝ってテッペンに立ってやらぁぁっっ!!!」

「そこに昇るのは、俺だぁぁぁッッ!!!!」



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優勝決定を巡る黒龍

「ゼリャアアアア!!!」

「ゴアアアアッッッ!!!」

 

爆発と爆炎、それらが絶えることなく上がり続けていく。ステージの範囲内を自由自在に飛行しながら、蹴りやパンチなどに交えて爆破を織り交ぜながら攻め続けていく爆豪。それとは対照的に爆豪の攻撃を完璧に受け切りながら爆煙を切り裂き、爛々と瞳を輝かせながら前へと進みカウンターを狙うようにしていく龍牙。斬と音が立つ、爆風を切り裂きながら振るわれたドラグセイバーが爆豪を捉えようとする。

 

「クソがぁっ!!」

 

咄嗟に刀身を蹴って後ろへと飛び退く、油断などしていなかったしカウンターも十分に警戒していたのに相手の警戒を突破して挟み込まれてくるカウンターの上手さに表情が引き攣る。苛立ちではない、口角が嬉しそうに吊り上がっている。

 

 

―――これだ、これこそ俺が求めていた戦いだ!!

 

 

そう言わんばかりに爆豪の表情は歓喜に染まっている。今まで爆豪は余りの天才っぷりに周囲から持ち上げられてきた、自分に比類する相手など存在もしなかった。だが今目の前に存在する黒い龍は自分に比類する力を秘めながら全力で自分と戦っている。それが愉しくてしょうがない、愉悦の極みだ。

 

「だぁぁぁああああ!!!」

「がぁっ!?」

 

力強く、空気を焦がすような熱を纏った剣によって上着の一部が切断され燃やされていく。それを脱ぎ捨てながら爆豪は思う。そうでなければ面白くない、圧勝するのもいい、圧倒するのもまた一つの楽しみ。だが互角の相手と此処までギリギリの戦いをする事の楽しさに比べたらカスのような物、爆豪自身も何処かで望んでいたのだろう。互角の相手という物を。

 

「まだまだ行くぞクソがぁぁあああ!!!」

「来やがれぇっ!!」

 

爆豪が三度突進する、それに合わせたようなカウンターパンチが襲い掛かるが咄嗟に身体を回転させつつも爆破で空中で制動を掛けていく。龍牙のパンチの上を滑るように転がって回避すると彼の首へと膝蹴りを連続で決めていく。重々しい打撃音、流石の龍牙もよろめくが、そのよろめいた勢いのまま身体を沈ませると爆豪の身体に無理矢理身体を回しながらの蹴りを炸裂させる。

 

「テメェッ……!!」

「俺のタフネスを舐めんな、ダイナマイト野郎!!」

「んだとぉヴィラン野郎がぁ!!!」

 

立ち上がった男たちの拳が互いの身体に炸裂する。

 

 

迫力満点の大激戦、絶えず爆発と炎が上がっているからか見栄えはある上に肝心の両者の激しい格闘戦、爆発と黒炎のぶつかり合いも凄まじい。両者のアクション一つ一つに観客たちは声を上がる、互いの身体が地面に沈めば大規模の歓声が上がる。会場は凄まじい熱気に包まれている。

 

「……ちっ」

 

だがそんな空気を嫌っている者もいた、龍牙の師匠で親であるギャングオルカだった。個性の関係で乾燥に強くないという事情があるから、という訳ではない。彼は見抜いている、何故ここまでの大熱狂になっているのかを。

 

「こいつら、龍牙がどんな思いをしているのかも知らずによくもいけしゃあしゃあと……!!!!」

「落ち着けチンピラ、水掛けるか」

「舐めてんのかこの蚊取り線香丸……!!」

 

と互いを煽りあっているギャングオルカとエンデヴァー。仲が良いのか悪いのか良く分からないが、エンデヴァーもこの会場の現状には良い思いは抱いていない。何故ならば、プロヒーローらは違うだろうが、観客たちの多くが抱いている感情は二人への罵声に近い物なのだから。

 

全員がそうではないだろうが、それでも多くはこう思っている筈だ。爆豪と龍牙、この二人が互いに戦っている姿を見て嬉しいと。ハッキリ言って今戦っている二人は受けは良くはない、爆豪は試合内容、龍牙は見た目などで受けは良くない。そんな二人が決勝まで勝ち上がっていて優勝を争っている光景は面白くないと思う者も多い事だろう。

 

『受け入れられない者同士が潰しあう、そんな光景を見て愉しんでいる』

 

そのようにエンデヴァーとギャングオルカは感じ取っていた。ギャングオルカも今でこそ広く認められているヒーローであるがデビュー当初はそれは酷評されていた、それに負けずに活動を続けて漸く受け入れられた。今の光景はまるで過去の自分を見つめているかのような物に等しかった。

 

「だが彼はこれを跳ね除けると信じているんだろう、これら全てを自らへの声に変えてみせると」

「……ああ。あいつの夢は誰からも愛されるヒーローになる事だからな」

 

ギャングオルカから聞いた龍牙の夢に口角が上がった。見た目からは読み取れない程に子供っぽく純粋な夢だ、しかし龍牙にとっては何物にも変えられない程に壮大な夢なのだろう。

 

「愛と平和を謳うヒーローとも言ってたな、俺は絶対になれると思っている」

「……あの見た目でか」

「あいつにそれを言うな、絶対傷つく」

「分かった」

 

エンデヴァーは内心でギャングオルカの事を親馬鹿認定したのであった。

 

「ダァァァアアアッッッ!!!」

「ドリャアアアア!!!!」

 

互いの身体に、爆破と黒炎、それぞれを纏った一撃が炸裂して吹き飛びながらも立ち上がり休む暇も絶えない連撃が加えられていく。だがそんな中、それを裂くような一撃が加えられた。

 

「ぐっ……!!」

「食らいやがれぇぇぇぇッッ!!」

 

一瞬怯んだ隙を見逃さぬ爆豪の怒涛の連打。爆破の連打に少しずつだが龍牙が押されだし始めている、爆豪の身体は最高潮にエンジンがかかっている。爆破を繰り出せば繰り出す程に威力が上がっている、それもあるだろうが流石に龍牙にも限界が近づいてきていた。

 

常闇と焦凍、この二人との激戦が想像以上に龍牙の体力を蝕み疲労を蓄積させている。そこに爆破にダメージが畳みかけてきている。頭部で炸裂する爆破、それを受けた龍牙は遂に膝を地につけてしまった。

 

「ぐっ……(やばい、流石にまずい……!!)」

「ドラァァァアアア!!!」

「がぁっ!!」

「ここだぁぁぁぁっっ!!」

 

爆破で押し出すかのように吹き飛ばす爆豪、身体が浮いた龍牙へ飛び膝蹴りを命中させた。流石の龍牙も空中では対処しきれない、吹き飛ばされあと少しでステージから出てしまう。そんな所で踏ん張って耐える。

 

「流石の龍牙も体力の限界か……常闇君とお前の息子で大幅に体力を失っている状態では流石にきついか」

「対して爆豪はそれほど相手に苦戦していない、体力は十分に残っているだろうからな」

 

それでも龍牙は立ち続ける、負けは認めない。瞳を輝かせながら爆豪に向かい続ける。爆豪もそれを見て笑う、矢張りこいつは良い相手だと思いながら。

 

「ヴィラン野郎……テメェはヴィランみてぇでムカつくが、本物だな」

「褒めてんのか貶してるのかどっちだよ……」

「だからこそ、テメェとは別の場所で完全な決着をつけてやる。互いに完全完璧な状態でな―――だから、それまで俺以外に負けんじゃねぇぞ」

「―――好き勝手言いやがって……良いだろう、今は預けておくぞ。この王座をな」

 

それを言い切った龍牙はゆっくりと後ろへと倒れこんでいった。ダメージが蓄積しすぎた、流石に彼も限界だと悟った。リカバリーガールの治癒の影響で溜まった疲労も身体を蝕んで動かなくなってきた。故に彼は倒れる事を選び、爆豪もそれを了承してそれを受けた。龍牙の身体がステージから出た、それによって決定するのは―――

 

勝利という栄光を得るのは爆豪という事。



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親と話す龍牙

「すいません校長……あれだけ優勝するって息巻いて置いて準優勝なんて……」

「いやいや立派なもんさ。常闇君にエンデヴァーの息子、その二人とあれだけやっておいて準優勝は立派なものだよ。親としては本当に誇らしいよ」

 

トーナメントは宣誓で優勝宣言をした爆豪がその宣言通りに優勝を決めた。そしてのその表彰の場面で爆豪はオールマイトからメダルを受け取りながら2位の龍牙に向かって布告した。

 

『おい、今日の奴じゃ俺は満足してねぇからな。疲労とダメージが溜まってるてめぇに勝ったところで俺の完璧な勝利じゃねぇ、何時か完璧に叩きのめしてやる……!!』

『上等だ、何時でも来やがれってんだ』

 

という宣戦布告に会場は更なる熱気に包まれた。爆豪がそんな事を言うのも驚きだが、龍牙を完璧にライバル視しているのも驚きだった。肝心の龍牙は今日一日で競い合えるライバルだけではなく自分の力になってくれると宣言してくれた友が出来た事を非常に嬉しく思っている。

 

「ライバルが出来てよかったね龍牙。常闇君と爆豪君、後轟君もそうかな?」

「轟は多分、友達ですかね……?なんか困った事があったら直ぐに言えって言われました。友達ってそんな感じでしたっけ?」

「そうだと思うよ」

 

根津は嬉しそうな顔をする龍牙を見つめながらも少しだけ申し訳なさに駆られていていた。施設から彼を引き取って家族として迎えてから基本的に龍牙は家に留まっている事が多かった。自宅学習で学校には通わせていなかった、それでも教職にある身であるので勉強などは確り教えていた。が、過去の出来事からか龍牙は友達を作らなかたし家に誰かを連れて来なかった。故に友達とどう接するべきか迷う面が見られる。

 

「じつはクラスメイトの葉隠さんと今度一緒に出掛ける事になってるんですけど……女の子って何処に行けば喜ぶんですかね?」

「う~ん……その辺りはまた今度一緒に考えよう、折角だからミッドナイトにも相談してみよう」

「あっそっか女の人に聞けばいいのか、ばっちゃんにも聞いた方が良いかな……」

 

後日、リカバリーガールに相談に行くのだが流石に若い子の喜ぶのは分からないと苦笑いで返されてしまい、素直にミッドナイトに相談しに行くと目を輝かせながらデートプランの構築指導をされるのだが、余りにもノリノリな姿に女の人はこんな感じなのかという妙な勘違いをするのであった。

 

「龍牙……準優勝だったな」

「し、師匠……」

 

応接室に入ってきた龍牙の師でもあるギャングオルカ、見た目故か強い威圧感を纏ったまま入室する。低い声で優勝出来なかった事を指摘され龍牙は委縮した。絶対に優勝すると誓っていたのに準優勝になってしまった事を責められる、自分がもっと強かったら優勝出来たと素直に反省している。これからどんなツッコミやらが待っていると身構えていると頭の上にポンと優しく手が置かれた。

 

「良く、よくやったぞ龍牙……俺はお前を誇りに思うぞ!!」

「えっ」

「何あのエンデヴァーの息子にも勝ったからな!!あの蚊取り線香丸の息子にな!!」

 

とギャングオルカは笑いながら龍牙の頭をガシガシと力強く撫でまわす。てっきり自分の不出来な所を指摘されるとばかり思っていた龍牙としては全く予想外の反応だった。

 

「流石は俺の息子、あんなクズ夫婦の子などでは断じてないぞ!!ハハハハッッ!!」

「えっちょちょちょ師匠!!?」

「此処には僕たちしかいないからな、キャラを繕う必要も無いからさっ!」

「えっじゃあ父さんって呼んだ方が良いんですか?」

 

今そこにいるのは師匠としてのギャングオルカではなく親としてのギャングオルカという事。普段は師匠として威厳やらを保つ為、だが今はそれをする必要もない。家族しかいないのだから素の自分でいられる場所、そこに自分の弟子であり息子である龍牙の活躍で我慢していた物が溢れてきてしまったのだろう。プライベートでも見た事の無いようなギャングオルカの姿に龍牙も困惑する。しかし好い加減正気に戻ったのか、ハッとなって赤くなりながら龍牙から顔を反らすのであった。

 

「い、いいか今のは忘れろ。いいなっ!!?」

「分かったよオルカ父さん」

「っ―――!!し、師匠と呼ばんか馬鹿弟子ぃぃっ!!」

「頬緩んでるよ」

「言わんでください校長!!」

 

基本的に龍牙に尊敬されたいという思いが強かったギャングオルカ、基本的に師匠として威厳ある姿を崩さなかったのだが……遂にここで崩してしまったと内心で落ち込むのだが龍牙は接し方を全く変えなかったので内心で酷くホッとするのであった。

 

「それで君の実の両親が縁談を持ちかけてきた事について、エンデヴァーからも話が来てる」

「胸糞が悪いな……今すぐにでもあれらを潰したい気分だ」

 

そう言うと根津も表情を鋭くしながら同意を示す、不愉快極まりない。自分達との関係を他人に漏らしたことに気にしていたのにそれからいつの間にか元の家族に戻ろうとする処など本当に気に入らない。白鳥が何故あそこまでまっすぐに育っているのか疑問に思うレベルだ。

 

「それでねエンデヴァーとも詳しく話をしたんだけど、ちょっと仕返しをしたくないかい?」

「仕返しって……何をするんですか?」

「簡単な事だよ―――あの二人が描いた絵、その通りに進んでいると思い込ませるのさ」

 

そんな風に言う根津は少々あくどくなっていた。




尊敬される気持ち、だけど本当はお父さんと言われたい気持ちが同居して割とモンモンしてるギャングオルカであった。


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お見合いをする黒龍

「えっと、こういった場合は初めましてで良いんでしょうか……?」

「多分それでいいと思うわ。それじゃあまずは自己紹介からね」

「あっはい。黒鏡 龍牙です、本日はお時間を作っていただいて有難う御座います。こうしてお会い出来る事を嬉しく思います」

 

とある料亭の一室、そこを貸し切ってとある二人が顔を合わせていた。一方は龍牙、その隣には根津が腰かけている。その反対側にはエンデヴァーともう一人、焦凍によく似ている白髪と少しだけ混ざっている赤い髪が何処かマッチしてて優しそうな雰囲気を纏っている眼鏡をかけている女性が此方に笑いかけている。丁寧に挨拶をすると女性は少しだけはにかみながら肩から力を抜いていいよと言って来る、どうやら他人から見ても力が入ってしまっているのが分かるらしい。

 

「改めまして轟 冬美です、今日はお会い出来て光栄です。弟からお話は聞いています、とても仲良くしてくださってるみたいで」

「仲良くし始めたのは最近でして、それにどっちかと言ったら私の方が焦凍には世話になる事が多いような……」

 

体育祭から数日経っている、そんな日の中で設けられた席。今行われている龍牙とエンデヴァーの娘である冬美とのお見合いである。と言ってもあくまで形式上だけの物でありそれは冬美も理解したうえでここに来ている。

 

「それにしても今回は本当にご迷惑をかけてしまって申し訳ありません冬美さん」

「いえお話は父からも聞いてます。私なんかで良ければ力にならせてください、弟のお友達ですし」

「そう言って貰えると僕としても嬉しいのさ!」

 

と根津はニコニコしながらも内心では冬美の協力的な態度に胸を撫で下ろしている。同じく教職にある冬美のスケジュールもそうだが、形式だけの見合いをしてくれという頼みをしている手前、罪悪感に似たものが付き纏っている。彼女としては弟に漸く出来た友達の為と思って参加しているので余り気には病んでいない。

 

「俺としても冬美には済まないと思っている。態々休日を潰してしまってすまん」

「いいのよこの位。それに話を聞けば龍牙君も被害者なんだし、放っておけないわ」

 

と、少しだけ胸を張る冬美に龍牙は良い人だなぁと素直に好感を寄せる。教師がこんな人ばかりならば虐めにも真剣に向き合ってくれるだろうし、問題行動を起こす生徒も激減するだろうなぁと思ったりする。

 

「にしても校長、形式上と言っても見合いをやる意味ってあるんですか?冬美さんに態々御足労頂いちゃったのもありますし、開いたって言えばいいだけなんじゃないですか?」

「いやいやいや確実にそこで行われたという事実が必要なんだよ、それに言い方が悪いけどこの見合いは完全に罠なんだよね」

「罠、ですか」

「そうだ、あの馬鹿夫婦には開始時間が2時間ほど後と伝えてある」

 

鏡夫婦には見合いの開始時間はあと2時間ほど後と伝えており、自分達はそのタイミングで料亭を出て夫婦と対面するだけでいい。それだけでいい、龍牙の親とエンデヴァーと冬美で確りと見合いを行ったのだから。

 

「焦るだろうねぇ……焦るだろうねぇ。龍牙、君は彼らに僕たちの事は言ってないよね?」

「校長と師匠が親って事ですよね、全く言ってないですよ。未だにあれは自分達が親だと思ってますよ」

「上々。こちらは龍牙がエンデヴァーから縁談の話を持ち掛けられたから、親の僕に相談した結果として今がある。それだけで良いんだよ、僕は全て知ってるからねぇ……」

 

悪どく笑っている根津に冬美も思わず教職にあるべき顔じゃないですよと言ってしまう。そう言われて笑って誤魔化そうとしているが明らかに無理な話だ。彼も彼で息子に対する侮辱的な行為でキレている。でなければこのような罠なんて仕掛けはしない。

 

「それじゃあ後はここで少し時間を潰すだけだね、折角だから此処でご飯でも食べていこうか」

「元よりそのつもりでここを予約したんだ。冬美と龍牙君も遠慮しないで好きな物を頼んでくれ、ここは俺の奢りだ」

「えっいいのお父さん、私お財布持ってきてるよ?」

「……偶には父親らしい事をさせてくれ」

 

そう言ってお品書きに目を向ける父に冬美は珍しそうな目を向けながらも、父親の中で何かが変わっているのかもしれないという小さな予感を持った。父に話をされた時は驚いた、自分に申し訳なさそうにしながらできれば力を貸して欲しいと言ってきた父の姿には本当に。それだけ龍牙の実の両親というのは酷いのだろうか、あまり深くは踏み込まなかったが一先ず肝心の龍牙は今の親に愛されている事が分かって少しホッとしている。

 

「あ、あの校長……お品書きが読めないんですけど……」

「いや本当に達筆だね、これは慣れてないと確かに読めないね。どれどれ僕が龍牙が好きそうな奴を頼んであげようか」

「お願いします。マジで読めません……」

 

目の前では自分もお品書きを見ようとするのだが、肝心の内容が全く読めずに根津にそれを見せながらどうしたらいいのか相談している龍牙の姿がある。微笑ましい光景に自分の頬も緩む。

 

「そうだね、この御膳なんていいじゃないかな。魚を使った奴みたいだよ」

「いやでもこれ値段が凄いですよ……なんかクラクラしてきました」

「なんだそれじゃあ足りんだろう、もっと頼め。そうだな、この牛御膳も追加しておこう」

「あの、値段が凄い事に……」

 

値段の心配をしているのか、自分が食べる事になるだろう物に顔を青くしている姿にクスリとしてしまう。話は聞いていたが本当に良い子のようだ。暫しすると料理が運ばれ、超一流の味に舌鼓をする。冬美も絶賛する美味しさだが龍牙は余りのおいしさに完全に言葉を失い、貧乏舌が食べるような物じゃないと肩を落とす。

 

「……言葉にならない美味しさで御座いました……」

「久しぶりに来るが味が変わって無いようで安心だ。中々の物だったでしょう校長」

「う~ん実に素晴らしい物だったのさ!!偶にお邪魔しようかな此処」

 

食後の余韻を楽しみながらも話をしながら時間を潰していく、冬美も雄英での焦凍について尋ねる。龍牙もそれに関しては快く話す。そんな事をしているとあっという間に時間は流れていく、気付けば間もなく時間になっているころだ。

 

「さてそろそろ行こうか」

「もうそんな時間か、では行くか。龍牙君、気を楽にな」

「大丈夫です。美味しいご飯のお陰か今凄い幸せな気分です」

「結構かわいいところあるのね龍牙君って」

 

そんな会話をしながらも料亭の女将さんへの挨拶や料金の支払いをエンデヴァーは済ませる。その際に聞こえてきた金額に龍牙は顔を青くさせる、そんな龍牙にエンデヴァーは気にするなとサムズアップするのであった。そして支払いを済ませて外に出た時、表情が凍り付いてくのを目にする。

 

「おやおやここでお食事かな―――ビーストマンにミラー・レイディ」

「「ね、根津校長……!?」」

 

わざとらしく、笑いながら根津がそう告げると鏡夫妻は驚いたように、身体を硬直させながら言葉を口にする。如何して校長が此処にいるのかという思いもあるが、周囲にいるエンデヴァーや龍牙にも目が行く。

 

「お、お久しぶりです校長。以前の体育祭ではご挨拶もせずに申し訳ございません……」

「いいさいいさ、君たちだって忙しいんだろ?来てくれただけで有難いってもんさ、本当にね」

 

含みのある言い方に寒気を感じる。

 

「そ、それで如何して校長は……?」

「いや大した事じゃないさ、エンデヴァーからお見合いの相談を受けてね。今それをやってその帰りなんだよ」

「「お見、合い……!?」」

 

それを聞いて二人の顔が一気に青ざめていく、自分達がしようとしたことが完璧にバレている事を理解する。そして同時に分かった、龍牙が言っていた今の保護者が一体誰なのか……。

 

「そう―――君たちさ、僕の息子に何してくれるのかな?」



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話す黒龍の親

「にしても……良いんですかね、俺達は外にいて」

「色々と難しい話があるからきっと龍牙君も退屈するって配慮ね、まあここは親同士の話し合いの場って事で一つ」

「あっはい」

 

近場に繰り出して公園のベンチに腰掛けながらソフトクリームを食べている龍牙はそんな事を口にする、それをいちご味を食べながら気にせずに楽しもうという冬美の言う通りにアイスの味を楽しむ事にした。因みに抹茶とブドウのミックス、美味である。

 

「龍牙君にとっては根津さんってどんな人?」

「最高のヒーローです」

 

即答で返す龍牙、笑顔で返されて冬美は余程深い絆で結ばれている事を理解する。

 

「俺にとってただの親ってだけじゃなくて笑顔をくれた人です。多分、根津校長に会ってなかったら俺はヴィランに堕ちてたのは確実でしょうね」

「そこまで断言出来ちゃうんだね……」

「荒れてましたから。いや荒れてたって言うか……完全な無気力状態って言うべきなのかな……」

 

自分も小学校で教職についているので様々な生徒と接する、元気な子供もいればひたすらに静かな子、ちょっとしたことで落ち込んでしまう様々な子がいる。故に分かる、龍牙は昔相当に酷い状態だった。そこから救い上げたのが根津というヒーローなのだろう、その出会いが無ければ堕ちていたと断言出来るほどにその出会いは救いだったのだろう。

 

「まあ校長だけじゃないんですよ俺を救ってくれた最高のヒーローは。もう一人いるんですよ」

「へぇっどんな人?」

「ギャングオルカって知ってます?」

「ああっあのヴィランっぽいヒーローランキングで何時も上位をキープしてる……」

 

冬美のそんな言葉を聞いて師匠の世間的な認識はやっぱりそこに行ってしまうのかと思いつつ、自分も何れこんな認識をされるのだろうかと軽く思うのであった。

 

「その人が俺の大切なヒーローでその……師匠でもあり親なんです」

「えっそうなの!?あっえっとそのごめんなさい……」

「いえ、俺も師匠の見た目はそういう系だって事は分かってますから」

 

笑っているが、その笑いが乾いている事に気付いた冬美は申し訳ない事をしたと思いながら必死に話題を変えた。なんとか雄英での事に切り替える事が出来た時には思わずホッとしていた、そして流れは……

 

「そういう時はやっぱり洋服とかジュエリーショップだと思う。女の子はそういうの気を使うし、その子が透明だっていうなら猶更気になると思うの」

「成程……んじゃこういうのは如何でしょう?」

 

葉隠と遊びに行くときにはどんな場所に行ったらいいのかという相談へと変わっていた。そこにはお見合いをしていた二人ではなく、教師と生徒のような立場の二人が座りながら会話を続けていた。

 

 

「一つ聞いてもいいかな、君たちの行動がどれだけ愚かな事なのか理解しているのかな……ねぇっビーストマン、ミラー・レイディ」

 

敢えてヒーローネームにて目の前の二人へと呼びかける根津の瞳には冷たい光が宿っている、鈍い光を放つ瞳に見つめられる二人は身体の神経が凍り付いてしまっているかのように動かない。同様に根津の隣のエンデヴァーも同じような視線を送り続けている。何時まで経っても何も言おうとしない二人に痺れを切らしたのか、次のカードを切る。

 

「黒鏡 龍牙。旧姓、鏡 龍牙。確かに血縁上は君たちと親子だ、君達夫婦はそれを10年以上前にそれを放棄している。態々専門の弁護士やらコネやらを使って徹底的に自分達との関係を絶ってまでね」

「そ、それは……」

「ですがあの子は私たちの息子である事は事実です……!!」

「事実なだけだよ。そこにあるのは血縁上の親子という情報でしかない、法的には彼は君たちの息子じゃない」

 

淡々と突きつけていく事実は嘗てこの夫婦が行ってきた事象、それを聞いてエンデヴァーは少し肩身を狭くしながらもそれを受け止める。自分も親としては失格だろう、今からでも変われるだろうかと思い始めた。

 

「確かに龍牙の個性はヴィランのような見た目、だがただそれだけだろう。君達も望んでいた筈だろう、彼が個性を使う事を」

「望んではいましたが……あんな恐ろしい個性なんて……思いもしなかったんです」

「ああっあれを見た時、俺達は龍牙が龍牙ではない物に変わってしまったと思った。そして怖かったんです……あいつが」

 

震えながらの独白だがそれは全く根津とエンデヴァーの心に届かない。此処にギャングオルカが居たらどうなっていただろうか、最低でも全力で殴っていた事だろう。

 

「怖かったのは龍牙じゃなくて世間からの反応だろう、マスメディアは面白可笑しく騒ぐだろうね。あの鏡夫婦の息子はヴィラン!?ってね」

「自分達の立場が崩れる事を恐れた、という訳か……俺が言えた義理ではないが、よくもまあそれで娘がまともに育ったもんだ」

 

正しく龍牙の推測通りだった。この夫婦はエリート思考が今も残っている、二人は自分が今ある社会的な地位や人気に誇りを持っているだけではなく執着している。それが弛まぬ鍛錬や努力に繋がっているのは事実、だがそれが悪い方向に結び付いた。何れは家を、ヒーローとしての地位を譲ろうとしていた息子の個性がヴィラン顔負けの姿、それによって自分達の立場が悪くなることを危惧し、龍牙を遠ざけようとした。

 

だが10年ぶりに再会した龍牙はヒーローを目指していた、しかも恐ろしげな見た目であることを吹き飛ばすかのような力強さを纏って……。それを見てやり直したいと思ったのだろうがそれは親としての感情ではない……龍牙を物として見ている人間のそれと同じだ。

 

「僕は彼の見た目なんて気にしない、世間の目が何だって言うんだい?親ならそれと戦って子供を守るのが役目だろう、君達はそれを放棄したんだ。今更なんだ、君達は龍牙を馬鹿にしてるのかい」

「「―――……っ」」

「しかも今回龍牙に一言も無しに縁談を進めるなんて言語道断。親どころか一人の人間として失格だよ」

 

そこまで言い切ると根津はもう一度、冷たい視線を浴びせ掛ける。

 

「二度と愛する息子に近づくな、今度何かしたら―――僕の全てを捧げてでも君たちを潰す。覚悟しておくんだね」

 

そう言って去っていく根津、それに続くようにエンデヴァーも二人へと言葉を投げかける。

 

「俺としては感謝しておく、お前たちのお陰で俺は俺を見直す事が出来た。お前たちのような親にはならないようにこれから変わる。ではな」

 

そう言って去っていく二人を目で追う事も出来ないまま、二人は血が出る程に拳を握りしめるが、何も出来ないまま、影を落とし続けていた。




一旦決着……な訳はない。

これが、何か嵐を呼ぶ……?


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体育祭後の黒龍

エンデヴァーの娘であり焦凍の姉、冬美との形式上のお見合いの翌日。体育祭後初めての登校日となったその日、龍牙は普段通りに制服を纏って登校をしていた。龍牙が住んでいる家は雄英から程々に近い距離にある為、バス一本で十二分に通える。音楽を聴きながら冬美おすすめの小説を読みながらバスを待っていた時の事。制服の袖を引っ張られているような気がするのでそちらを見てみると、小さな男の子が輝く目をしながら自分を見ていた。イヤホンを外して如何したのかと尋ねてみる。

 

「あくしゅしてくだしゃい!!」

 

と輝いた目のまま明るい声で言われてしまうのだが、龍牙は別の人に言っているのかと周囲を見るが如何やら違うよう。そこで自分を指さしてみると益々目を輝かせながら頷いた。思わず目を白黒させながらも手を差し伸べてみると男の子は嬉しそうにしながら手を握ってくる。子供らしい柔らかく温かい手の感触が伝わる。

 

「ありがとうっ!!ママ、りゅうのおにいちゃんにあくしゅしてもらえた!!」

「あらあらよかったわね、すいませんいきなり」

「い、いえこちらこそ……?」

 

隣にいた母親と思われる背中に翼を背負っている女性に頭を下げられるのだが全く理解が追い付かない、なんでこの子は自分に握手を求めたのだろうか。首を傾げているとバスがやってきたのでそれに乗り込む、が、驚きは連続してやってきた。座るまでもないだろうと立って本の続きを読もうとした時の事、隣のサラリーマン姿の男性が声を掛けてきた。

 

「あのごめん、雄英の体育祭で準優勝した龍牙君、だったりしないかな」

「まあ、そうですけど……?」

「おおっやっぱり!!俺君の大ファンなんだよ!!サイン貰えないかな!!?」

「……へっ?」

 

間抜けな声が漏れた。本当に理解が追い付いていない、ファン?サイン?それは本当に自分に対していっているのだろうか、もしかして他にも龍牙という名前の人が居てそっちに言っているのではないかと軽く逃避しているとそれが現実だと教え込んでくる声が出てきた。

 

「あっやっぱりあの子だ!!超熱い激闘してた黒鏡君!!」

「ホントっ!?えっやば写真良い!?」

「優勝惜しかったな!!でも次は行けるぜ!!」

「えっえええっ!!?」

 

見ず知らずの人達から向けられている感情、自分に対する好意に困惑してしまう龍牙。今までいきなりこのような物を向けられたのは葉隠以来だろうか。だが今回は数が余りにも多い。バスに乗っている全員と言っても過言ではない人達からそれを向けられてしまっている、それに如何したら良いのか分からずあわあわしつつもなんとか誠実に対応しようと心掛けて接するのだが……その丁寧で誠実な対応がより向けられるものが激しくなってしまい龍牙は内心で悲鳴を上げるのであった。

 

「―――」

「りゅっ龍牙君大丈夫!?」

「―――」

 

教室の自分の席に辿り着いた時、そこには完全に燃え尽きてしまっている龍牙の姿がそこにはあり葉隠は酷く心配したように駆け寄ってきた。声を掛けても小さな呻き声しか返さない龍牙に困惑する。

 

「つ、疲れた……なんだなんだよ何で皆俺に寄ってくるんだ……」

「……あっ~成程そういう事ね!」

 

葉隠は漸く龍牙が憔悴に近い程の疲労をしているのか解せる事が出来た、龍牙は今まで浴びた事が無い程の好意や称賛を受けた。此処に来るまで応援やサインなどを強請られてしまったのだろう、個性の関係で怖がられてばかりだったのにそれがいきなり大人気になったのだから対応しきれなかった、という所だろう。

 

「でもよ、龍牙の熱さなら人気が出て当然だぜ!!実際くそカッコいいしな!!」

「そうそう、漫画だと主人公と双璧を成すダークヒーロー枠みたいな感じだよな」

 

切島と瀬呂の言葉にそういう物なのだろうかと軽く首を傾げつつも、それは自分の個性が受け入れられているという事なのかと思い直して気持ちを立て直す。

 

「俺の個性ってそんなにカッコいいのか……?」

『くそカッコいい!!!』

 

とクラスの男子勢から力強い肯定が返ってくる、想像以上の反応に困惑しつつもカッコいいと言われて素直に嬉しくなる龍牙であった。

 

「龍牙、姉さんから話は聞いてるが大丈夫か」

「大丈夫だ、特に気にもとめてない」

 

先日の見合いの件を話をする焦凍と龍牙。焦凍しても龍牙は放っておけない、姉に言われずとも仲良くするつもりではいた。焦凍自身も龍牙とは何処か仲良くなれるような予感があった、それから龍牙と焦凍は昼食をともに取るようになっていた。その時は決まって二人ともざるそばだったりする。

 

「そうか。後姉さんが妙にお前を大事にしろって言われたんだが、お前姉さんに何言った」

「いや特には……お前に寧ろ世話になりそうって事ぐらいしか……」

 

「「……フッ」」

 

一方、互いにライバルと意識している常闇とは軽く視線を合わせた後に揃って小さく微笑むだけであったが、二人は妙に満足げな表情を浮かべていたのを葉隠は見ていた。そんなやり取りをしていると何時の間にか相澤がやってくる時間がやってくるのであった。皆は相澤が来る前に席に着く、ある種恒例行事である。

 

「ヒーロー情報学はちょっと特別だ」

『特別?』

 

ヒーロー情報学、ヒーローに関連する法律や事務を学ぶ授業で個性使用やサイドキックとしての活動に関する詳細事項などなど様々とを学んで行く。他のヒーロー学とは異なり苦手とする生徒も多いが、今回は何か異なる模様。

 

「コードネーム、いわゆるヒーローネームの考案だ」

『胸膨らむヤツきたあああああ!!!』

 

ヒーローネーム、即ちヒーローとしての自分を示す名前の決めるという事。自分の事に関する故にヒーロー足る者として絶対的に必要な物にクラス中からテンションが爆発して行った。オールマイトを始めとしたそれらはヒーローの象徴ともいえる物、テンションがMAXゲージになって行くが相澤が睨みを利かすと一瞬で静かになる辺り本当に慣れてきているというか、相澤の怖さが良く分かる。

 

「ヒーローネームの考案、それをするのも先日話したプロからのドラフト指名に密接に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積んで即戦力と判断される2年や3年から……つまり今回来た指名は将来性を評価した興味に近い物だと思っておけ。卒業までにその興味が削がれたら、一方的にキャンセルなんてことはよくある。勝手だと思うがこれをハードルと思え、その興味を保たせて見せろ」

 

幾ら体育祭で素晴らしい力を見せたと言ってもまだまだ経験も足りない物を採用などはしない、これから力を付けていかなければ今の評価など簡単に引っくり返る。そして相澤は手に持ったリモコンを押してある結果を黒板に表示した。

 

「その指名結果がこれだ、例年はもっとバラけるんだが今年は偏ってるなある意味で」

 

黒板に示されている氏名数は矢張りと言うべきか体育祭のトーナメントの結果を反映したものだという事が良く分かる。しかし相澤のある意味での偏りというのも理解出来る結果となっている。それは―――

 

――A組・指名件数。

 

  爆豪:2483

 

  黒鏡:2303

 

   轟:2264

 

  常闇:2182

 

集中しているのがこの4人であるからである。




次回、ヒーローネーム決定!!


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名前を定める黒龍

「すっげえな4人が殆ど独占状態だぜ!!」

「4人とも2000件オーバーの指名って……やべぇな普通に」

「それで他は500切ってるって事はマジで集中してるって事なんだな……」

 

黒板に表示されている指名が入っている各人、その中でも爆豪、龍牙、轟、常闇はぶっちぎりの数値を叩きだしている。全員がトーナメントではすさまじい活躍と戦いを披露したことが起因している事は間違いない、全員が激戦を披露し自らの力の最大限を出し尽くしたと言っても過言ではない、それを評価しないプロなど存在しないという事だろう。

 

そしてこれらの指名を出したヒーローの元へ出向きヒーローの活動を体験するという。プロの活動を自らの身体を持って体験し、より実りある訓練をするため。そしてその為にヒーローネームの考案をするという、仮にもプロヒーローの元に行く事になる、それはつまり将来的な自分の立場のテストケースにもなる。

 

「つまりはこれらを使って職場体験をさせてもらうって事だ。そこでヒーローネームを決めるって流れだ、適当なもんは―――」

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!この時の名が世に認知されてそのままプロ名になってる人は多いからね!!!」

『ミッドナイトォ!!!』

 

教室に参上したのは18禁ヒーロー事ミッドナイト、龍牙にとっては根津経由で知り合った数少ない異性。葉隠についての相談や学校生活で友達が出来た時は如何すればいいなどとそんな相談も持ち掛けたりもした。それをミッドナイトは年の離れた弟が出来たような気持ちになりながらも快く相談に乗っていた。龍牙としてもお姉さんと思っている。

 

「まあそういう訳でミッドナイトさんに来てもらった。俺はそういうの無理だからな」

「さあこれからあなたたちの未来へのイメージを形にするのよ!変な名前だとやばい事になるから真剣にね!!」

 

龍牙の師であるギャングオルカ、これが仮にチンピラオルカという名前だったらどうだろうか。ヒーローとしての威厳もないしヴィランへの威圧にも何もならない。故に様々な意味でヒーローネームは大切になるのである。因みにチンピラオルカについてはお見合いの時にエンデヴァーがそう呼んでいたので、龍牙は一応報告すると……

 

『あの万年2位の蚊取り線香がぁぁぁああああああ!!!!俺の息子に何吹き込んでやがんだぁああああああああ!!!!!』

『し、師匠お願いだから落ち着いて!?根津校長ヘルプ、ヘルプゥゥウウウ!!!!!』

 

とガチギレしながらエンデヴァーの事務所に突撃しようとしていたのを必死に止めたりもした。そんなこんなで龍牙も名前を考える、自分にある要素と言えば常闇が言うように闇炎龍というのが全てに凝縮しているような気がする。闇のような炎を吐く龍、正しく自分だ。といってもこれをそのままヒーローネームに採用するのは常闇も気分が悪いだろうし、参考にする程度にしておこう。

 

「……ギャング・ブラックドラゴン……あっいいかも」

 

自分が参考すると言ったら矢張り師匠たるギャングオルカ、そのギャングというフレーズを少々失敬して自分を組み込んでみると中々にかっこいい字面になっている。しかしギャングというのは本来ヴィラン側、ギャングオルカにマッチしているのは鯱が海のギャングと言われるからで自分には合わないと没にする。次々と案は出てくるが如何にもしっくりこないのか没にしていく、自分にはそういうセンスが無いのかなと軽く落ち込む中、ミッドナイトから驚きの発言が飛び出した。

 

「そろそろ時間的にもいい頃かしらね、それじゃあ出来た人からレッツ発表!!」

『!?』

 

まさかの発表形式に驚きの声が上がる、だが結局ヒーローとして活動をするならば注目されるのは自明の理。今の内に慣れていくという意味ではいい方法なのかもしれない。しかし全く進んでいない龍牙からするともう決めなければならない状況になってしまい、焦りが出てくる。幾ら頭をひねってもいいのが出ず、抱え込んでしまう。

 

「梅雨入りヒーロー・フロッピー」

「可愛い~!!親しみやすくてお手本みたいなヒーロー名ね!!」

 

「親しみ……」

 

「武闘ヒーロー・テイルマン!」

「名が体を表してる、いいわね!!」

 

「名が体を表す……」

 

「インビジブルヒーロー・ステルスガール!!」

「良いわね最高!」

 

「やっぱり……」

 

「漆黒ヒーロー・ツクヨミ、それが俺の名だ」

「夜の神様!常闇君にピッタリね!」

 

「自分にピッタリ……」

 

次々とヒーローネームが決まっている中、それらを参考しながら自分の名前を組み立て上げようとする龍牙。ヒーローとしての親しみやすさ、分かりやすさ、自分に合っているなどなど参考にする部分が多聞にある中で必死に考える。やっぱり自分の龍という部分を強調するべきなのかと思いつつもペンが動かない。

 

「俺だ……ダイナブラスト!!!」

「おおっダイナマイトにブラストを合わせたのね!!」

 

続いて壇上に上がったのは爆豪、彼は自分の爆発にダイナマイトなどを掛け合わせたいかにも強そうな物になっている。だが彼曰くそれだけではなくダイナミックを合わせているとのこと、渾身のネーミングらしく本人は良い感じと言われて自慢気にしている。尚、此処に決まるまでヴィランのような名前ばかり考えていたのだが、声援の中にダイナマイトボーイという物が混ざっていたのを思い出してこれに行きついた。

 

「ショート」

「あれ名前でいいの?」

「思いつかなかった。それでも俺は俺の名前でいい」

「まあそういうのもありよね、事実自分の名前をヒーローネームにするヒーローもいるし」

「そういうのもあるのか……!!」

 

焦凍は自身の名前で活動すると言う、しかし龍牙はそれを感銘を受けた。自身の名前、龍牙。それこそヒーローネームに相応しいのではないかと。龍であり悪を砕く牙を持つヒーロー……確かにこれはこれでいいかもしれないと龍牙は手を上げた。

 

「はいっ龍牙君!君はどんな名前にしたの?」

「凄い悩みました。俺名前とか碌に考えられないみたいなんで、色々候補は合ったんですけど……やっぱこれが一番だと思います」

 

そう思い、ボードを掲げる。そこにあるのは自分の名前、自身の個性と同じである自分の名前をヒーローネームとして胸を張って使っていくつもりだ。

 

「貴方も名前なの?」

「はい。やっぱりこれが一番俺らしいって思いまして―――敵を牙で砕いて誰かを救い、炎で誰かを温める龍。そんなヒーロー……リュウガ、それが俺の名前です!!」




結局リュウガにするしかない……だって思いつかないだもん!!!私毎回毎回名前で苦労してるんですよ!!誰が良い名前があったらそんな思考を教えて欲しいもんだぜ……。


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体験先を決める黒龍

ヒーローネームも決定した一同、そこからは彼らの問題へと切り替わっていく。指名を受けた物は指名先から自分が行く職場体験先を決めて相澤に申し込んでおく必要がある。複数の指名がある場合はその選定に急がなければならない、指名がない者は事前に雄英が受け入れ可能なヒーロー事務所から選んでそこを申し込む運びになる。しかし、多くの指名を受けている者はある意味で地獄を見る羽目になる。

 

「龍牙君そのファイル全部指名先が書いてるプリントなの!?」

「そうなんだ。凄い量だよね……」

 

と軽く汗を流しながら机の上に置かれているファイル、しめて23個。ファイル一つにつき約100件の指名先の名前や情報などが分かりやすく纏められているのだが……それでも龍牙は2303件という凄まじい数の指名を受けているので量も凄い事になる。一体どれから見たらいいのかも困ってしまうほど。

 

「一応相澤先生が目安にしろってランキング順に纏めてくれた奴もあるからね、見た目以上ほどの量ではないかな多分」

「へぇっ~見てもいい?」

「勿論」

 

相澤が簡単に纏めてくれた紙、それは龍牙に指名を出したヒーロー事務所がヒーローランキング順位、主な活動内容などを纏めてあるもの。これだけ大まかなヒーロー事務所の傾向と力が分かるようになっている。興味をひかれた葉隠がそれを見てみるがそれを見て驚く。

 

「えっ凄い何これ!?トップヒーローの指名ばっかり!!?」

「マジかよ!?うおっすげぇいきなりエンデヴァーからの指名あるぞ!!」

「エンデヴァーだけじゃねぇ……ランキングトップテンに入ってるヒーロー全員から来てる!?」

 

その言葉にクラス中からその紙を見ようと集まってくる皆、それもその筈。オールマイトを除いたトップヒーローの中のトップヒーロー集団全てから指名を受けていると言っても過言ではない指名を受けている。龍牙の実力と将来性などがそれだけ多くのヒーローに評価されているという事になる。龍牙が凄い事は知っていたが改めてそれを思い知らされると驚くしかない。

 

「おい龍牙お前Mt.レディから貰ってるのかよ!!?その指名オイラにくれよ!!」

「いや流石にそれは相澤先生に相談しないと……というか峰田、優……じゃなくてレディさんのファンなのか?」

「当たぼうよ!!!」

 

と力強くサムズアップする峰田。新人ヒーローとして売り出し中の女性ヒーローMt.レディ。巨大化という個性で女性ながら力強い戦いを繰り広げるヒーローなだけではなく、非常に美しい美女である事も有名でファンも多い。どうやら峰田もその一人らしい。

 

「龍牙ちゃん、峰田ちゃんは多分Mt.レディをそっち系の目で見てるだけよ」

「そうなのか?」

「違うし!?」

 

と梅雨ちゃんの言葉に素直に聞いてみる龍牙、それを慌てながら否定する彼を見る龍牙。実はそれなりに仲が良い二人、しかし体育祭終了直後に自分の自慢の物を貸してやる!と言われてしまい、どんな反応をすればいいのか困って未だに返答をしない龍牙であった。

 

「んっというか龍牙、なんでお前Mt.レディの事、レディさんって呼んでんだよ!?っつうかその前もなんか言いかけてたろ!?」

「保護者経由だけど面識があるんだよ。今度サインお願いしてみようか?」

「龍牙お前……オイラとお前はズッ友だぜ!!!」

 

Mt.レディは師匠こと、ギャングオルカ経由で面識がある。対巨大ヴィラン戦闘訓練として相手となって貰ってからはそれなりなやり取りをしている。新人ヒーローとして苦労もしているのか、愚痴も多いが龍牙はそれらを真剣に聞いたうえで相談に乗ったりもしているからか、彼女からの評価は高い。一方的だが弟認定されて少し困っている面もあるが、良い人だと彼は思っている。

 

因みに最近会った時には、個性が暴発してしまい、事務所再建の間だけで良いから泊めて欲しいというお願いだったりした。

 

「でもまあ俺は行く処は決めてるんだ」

「マジで、こんなにあるのに」

「来てたら行こうって思ってたんだ。でも来ててちょっと安心した」

 

そう言いながら龍牙はファイルを開きながら目当てのヒーローのページを開く。そこにあったヒーローの写真を見て安心したような表情を浮かべる龍牙に事情を知っている常闇は納得したように微笑んだ。開かれてたページにあるのはギャングオルカの事務所である。

 

「ギャングオルカか、成程かなりいいチョイスだな!」

「見た目関係もありそうだな」

「それだけじゃないだろ、なぁ龍牙」

「まあな」

 

短い言葉のやり取りだが、常闇には龍牙の心の中を全て見通りしていた。今の龍牙にあるのは喜びと安心、師匠からの指名が来なかったら如何しようとでも思っていたのだろう。

 

「何だよ何だよ何だってんだよ、お前ら勝手に分かった風にしやがって!!おい常闇教えろよぉ!!」

「言っていいのか龍牙」

「俺は別にいいけど」

「そうか、ギャングオルカは龍牙の師匠だ」

『……えええええええっっっっ!!!??』

 

直後、教室中に悲鳴のようなボリュームの声が響いた。直後に龍牙に対する追求じみた質問攻めが行われるのであった。

 

 

「やぁっやっぱり龍牙に指名を出したんだね」

『やめた方が良かったですかね』

「いやいや正解だよ、実地でしか教えられないことだってあるからね!!」

 

雄英の校長室にて根津は携帯でギャングオルカに連絡を取っていた。龍牙に指名を出した件についての電話、ギャングオルカとしては実地でしか教えられない事もあるので、改めて鍛える為に指名を出している。確かに自分が教えたらある意味問題が生じるかもしれないが、それでも指名は出すべきだと彼は思っている。

 

『……恐らく、多くのヒーロー達は龍牙の事を戦力としてしか考えてないでしょう。俺は奴自身を見て教え込むつもりです』

「そうだね。まだまだ龍牙は幼くて未熟者だ、信頼出来る人間がビシバシ扱いてやるべきだね。実地では遠慮せずに新米サイドキックを育てるつもりでやってやりな。その方が龍牙も喜ぶだろうし」

『分かりました、では―――心を折りすぎない程度には厳しくやりましょう』




個人的にMt.レディは普通に好きです。なんて言うんだろう、うん好きです。
だって素敵やん、えっ主に何処が好きかって?そりゃ……やめておきます、妻が目を光らせて睨んできそうなので。

あと最近葉隠さんってどんな感じなのかって想像が止まらない。こんなに想像をかき立てられるですね。いやぁ……すげぇな透明ヒロイン。


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職場体験に臨む黒龍

職場体験初日、龍牙達の姿は雄英から最寄りの駅にあった。此処から各自の職場体験先へと出発していく。担任の相澤から簡単な挨拶と体験先に迷惑を掛けすぎない事や本来公共の場などで着用が許されないコスチュームなどは絶対に落とすなと厳命される。自分だけのコスチュームを落とす間抜けなどいないとは思うが、盗まれる可能性もあるので確りと持っておくのに越した事は無い。なので龍牙はコスチュームケースに鎖のようなアクセサリーをつけ、それと制服と繋いで対策しておく。

 

「んじゃ踏陰、遠いから気を付けろよ」

「ああ分かっている。精々プロにしがみ付いて技術を得て見せる」

 

腕をぶつけ合って互いの無事を祈るライバル二人、常闇の行き先は九州。なので此処から最寄りの空港へと行きそこで飛行機に乗って九州まで行く手筈になっている。他のメンバーに比べて断然遠い、遠い分大変だろうがそれだけ声援を込めておく。

 

「龍牙、お前も師匠に世話になって来い。俺も親父の技術を吸収しに行って来る」

「師匠には普段から世話になってるけどな、後自信も普段からバッキバキに折られてるから……」

「おい目が死んでるぞ」

 

教室でギャングオルカが師匠であることを明かした後、当然のように自分に待っていた質問攻め。普段どのような指導を受けているのかと言われて龍牙は正直にそれを話した。師匠からは話のタネ程度にはしてくれていいと言われているので遠慮せずに話した―――師匠の鬼っぷりを。話していくうちに目からハイライトが失われていき、死んだ魚のようになっていく龍牙を周りは必死に話すのを止める程には、龍牙はギャングオルカに日常的に扱かれているのである。

 

「さて、俺も行くか……」

 

別れもそこそこに自分も職場体験先に向かう事にした。自分を指名した師匠ことギャングオルカは都心から1時間ほど離れた場所に事務所を構えている。街中ではあるが道を行けば直ぐに海に行く大通りに出れる、ギャングオルカは基本的には海か海から程近い場所を活動の範囲にしている。場合によってはそんなもの関係に活動はするが、個性の関係であまり乾燥しやすい場には出向かない。

 

電車を乗り継いで事務所へと向かっていく龍牙。改めて考えてみると師匠の事務所に足を踏み入れる事は初めてになる、仕事の邪魔になる事も考えて足を運んだこともなかったし基本的にはギャングオルカの方が出向いてきてくれることが大半だったのも理由の一つ。そんなこんなで事務所の前へと到達した龍牙。8階建てのオフィスビル、このビル丸ごと一つが事務所だと言うのだから驚かされる。一つ深呼吸をするとビルの中へと入る。

 

「あのすいません。雄英高校から職場体験に来ました黒鏡 龍牙と申します」

「ああはいはいお話は伺っておりますよ、それでは此方にどうぞ」

 

受付に話をすると直ぐに案内を受ける。矢張り前もって話がされていたらしい。素直にそれに従ってついていき、ギャングオルカが待っているという部屋に案内される。

 

「シャチョー、黒鏡君をお連れしました」

「入れ」

「(シャチョー……?)」

 

扉があけられるとそこは応接室、多くのプロヒーロー達の姿があった。20人以上のヒーロー達が規則正しい隊列を組み、その中央にはギャングオルカが堂々とした姿で仁王立ちをしていた。見慣れた師匠だが不思議と緊張を覚えてしまい背筋が伸びていく。

 

「よく来たな黒鏡 龍牙、事務所の主としてお前を歓迎しよう」

「雄英高校1-A所属、黒鏡 龍牙です、1週間お世話になります!!」

 

と頭を大きく下げる龍牙。綺麗な礼を見てサイドキックのヒーロー達は礼儀がなっていると小声を漏らす。彼らは龍牙がギャングオルカの弟子である事は一応は知ってはいる。ギャングオルカが龍牙を鍛える際には彼らの協力も仰いだりもしている、だが詳細は知らずギャングオルカが龍牙の事を息子として可愛がっている事は一切知らない。

 

「龍牙、お前のヒーローネームは何だ。1週間の間は仮とはいえお前もウチの事務所のメンバーだ、コスチュームを纏う間はヒーローネームで呼ぶ」

「リュウガです。俺はリュウガです」

「……そうか、お前らしい」

 

自身の名前と同じヒーロー名を聞いて師は少しだけ笑った、彼がどんな名前にするかはある程度予想はしていたが矢張り大本命はリュウガという名前だった。

 

「最初に言っておくぞ、俺はお前を甘やかすつもりはい。職場体験のつもりで来たのならばその認識は捨てろ、俺はお前をサイドキック同然の扱いをしていく」

「ちょシャチョー何言ってるんですか!!?」

「そうですよ!!それって彼を俺達と同じ活動をさせるっていってるようなものですよ!!?」

 

思わぬ言葉にサイドキック達からは驚きと焦りの声が溢れていく。龍牙はまだヒーローとしての免許はおろか仮の免許すら取得していない一般人に近い立場にある。そんな子供をプロのサイドキック同然に扱うという事は彼を命の危険に晒す事を意味する。流石に全く同じ活動はさせられないだろうが、それでも新しく採用したサイドキック育成コースは適応させる気満々なギャングオルカに周囲は焦る。

 

「彼はまだ俺達が守るべき立場にいるんですよ!?それをヴィラン確保最前線に連れて行くつもりですか!?」

「当然だ。こいつには才能とそれを開花されるだけの力がある、それを埋もれさせるなど愚の骨頂だ」

「だからって余りにも……!!」

「決定事項だ、やる気がないなら他の事務所に行けばいいだけの話だ」

 

弟子だから、それだけでは済まない厳しさ。ただ厳しいだけではない、苦痛に満ちた道を歩み気が無ければ俺の弟子をやめろと言うニュアンスも含んでいるであろうギャングオルカの方針にサイドキック達は動揺する。だが龍牙は、リュウガとして一歩前に出て言った。

 

「俺は噛みついてでも行きますよギャングオルカ。それが茨の道だろうが修羅の道だろうが」

「……口先だけではない事を期待する、こいつに事務所を案内しておけ」

 

そう言って出ていくギャングオルカにサイドキック達は追いかけていく。今すぐにでも方針を変えさせるために、だがギャングオルカは変えるつもりなど無かった。これで弟子に恨まれようが構わないとさえ思っている、龍牙が成ろうとしているヒーローがどれだけの苦難が待っているのか、誰かに頼られるというのがどれだけ辛いのかを彼自身に教え込む為に。

 

「俺の期待を超えてみせろ、龍牙」




「……校長、これで俺、嫌われたりしませんよね……?」
『そこら辺はまあ上手くやるしかないね、それで嫌われたら自業自得だよ』

内心、不安まみれなギャングオルカであった。


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目を付けられる黒龍

職場体験初日、ギャングオルカの事務所へとやってきたリュウガは早速師から厳しい言葉を受けながらもそれを飲みこんで前へと進んでいく覚悟を決めて一時的ではあるが事務所の仲間入りを果たした。周囲のサイドキック達が本当に大丈夫なのかという不安を胸にしつつも、ギャングオルカの指示でリュウガの実力を把握する為に軽い模擬戦を行っておけという指示を受けていたので地下に設置されているトレーニングルームにて一戦を行う事になった。

 

「だぁぁっっっ!!」

「ぐっ想像以上に手強い……!!」

 

リュウガの相手を申し出たのはギャングオルカのサイドキックとしてはまだまだ若いと称されるサイドキック3年目を迎えるヒーロー、パワーコング。ギャングオルカやリュウガと同じく異形系の個性のゴリラを持つヒーローでゴリラのパワーや握力をフル活用したダイナミック且つパワフルな戦い方が光るヒーロー。だが

 

「ドラゴン・ストライクゥ!!!」

「がっぐああああ!!!!」

 

一回り巨大となった右腕の龍頭、それを焼印を押すかのような勢いで叩きつけられる。胸に歪んだ龍の頭部のような模様が一瞬だけ浮き出るとパワーコングは吹き飛ばされ壁へと叩きつけられた、余りの勢い故か壁に罅を入れながら凹ませており軽くクレーターのようになっている。

 

「ま、まだまだっ……っ!?」

「いえ、これで終わりですよ」

 

フラフラになる身体を必死に起こしながらもファイティングポーズを取ろうとしたパワーコングだが、自分の目の前へと突きつけられたドラグセイバーを見て息を詰まらせながら硬直してしまった。サイドキックとしての経験はまだまだだろうが、プロヒーローの一人として、ギャングオルカのサイドキックとして精一杯務めてきて成果もあげている筈の自分をあっさり超える程の強さを誇るリュウガに驚きしか沸かなかった。

 

「シャチョーの弟子って事は知ってたけど……まさかここまでとは、ここまで個性を鍛え上げてるなんて……凄いよ本当に」

「苦労しましたから、ええっ苦労しましたから……」

 

と一瞬で瞳が死んだように赤く輝いていた筈の瞳が沈んでいってしまった。色が落ち着いているという訳ではなく、本当に色が死んでいる。一体どんな苦労を重ねていたのだろうか、それを聞いてみたかったのだがこの瞳を見てしまったら聞いてはいけない事なのだと頭ではなく、心と魂で理解出来たのでパワーコングは追及をやめた。

 

最初こそパワーコングは龍牙の事をよくは思わなかった。幾ら弟子とはいえ自分達サイドキックと同じ立場―――までとはいかないにしてもほぼ同等に近い立場に立たせるのは流石に納得しかねたが、この実力を考えればある意味当然ともいえる。

 

「パワーコング、如何だい龍牙君の実力は」

「……ぶっちゃけ近接戦には絶対の自信があったのに、自信無くしそう」

「うわぁっ……」

 

素直に引いた。パワーコングの持ち味と言えばゴリラのパワーを生かした近接戦、相手を正面から捻じ伏せていく。それを上回るだけの力を龍牙は備えている、伊達に弟子をやってはいないという事だろう。

 

「ハッキリ言って、彼の訓練って相当過酷だったと思う。多分一日中、シャチョーと一騎打ちしてたとかだ。じゃなきゃあれだけの力は出せないし、明らかに経験が物をいう瞬間だってあった」

「格上相手に戦い続けてたって事か……それなのに彼全く慢心しない、どころか自慢の一つもあげないよね」

 

それには周囲の同僚も頷いていた。リュウガは酷く謙虚、というか自分に対する自信が全くないような節がある。誇るべき技術や恐ろしいまでの反応速度、経験でしか培えない直感的な動きまであるのにそれらを一切誇らずにストイックすぎるレベルで自分と向き合い続けている。それだけ自分に厳しいとパワーコングも思っていた、先程の瞳を見るまでは。コングは顔を青くしながら、リュウガに同情するように言う。

 

「ありゃ確実にシャチョーに自信という自信をぶっ壊されてるな……多分調子に乗る数歩前で完全に殴り付けられて泥舐めさせられてるな」

『うわぁっ……』

 

思わず、続けてサンドバックに向かいながらパンチを放っているリュウガへと向けられる視線が全て一色に染まった。少なからず新人のヒーローが陥る危機や関門と言えば増長などによる実力の見極めの失敗、自分の身丈に合ってない現場に赴いて大怪我をするなどが圧倒的に多い。だがリュウガにはそんな影すら見えない。コングの予想通りに龍牙は調子に乗る前にギャングオルカによって自信を完全に圧し折られ、現実を強制的に見せられている。

 

「それって、つまりあれだよな……お前のパンチングブラストでヴィランをやっつけるぞ!!って思った矢先にシャチョーがそれを完全に受け切った上に真正面からパンチ一撃でお前をぶっ飛ばす的な」

「なんでそこで俺を出すかなぁ!!?実際そんな例えで正解だと思うけどさぁ!!!」

 

実際そんな経験がマジであるコングにとっては辛い言葉であった。そして、同時にリュウガに向けて過去への自分へと向けるような瞳を向けながらある事を決意する。

 

「決めたわ。俺、彼が此処にいる間出来るだけフォローに入るわ。多分それが一番だろうし」

「ああっそれが一番だろうな、幾らシャチョーの決定だからって俺達には適応されてる訳じゃないし。俺達も普段の互いのフォローアップに彼を重点的に組み込む形で行こう」

 

そんな風に気付けばサイドキックメンバー内でリュウガのフォローを全力で行おうという流れになりつつあったのであった。幾ら強いと言ってもまだまだ高校生なのだから、大人である自分達が守ってあげなければいけないんだから……そんな風に誓い位あった時であった、翼を持ったサイドキックの一人がトレーニングルームへと飛び込んできた。

 

「たたたたたっ大変だぁ!!?」

「何だ凶悪事件の発生か!?」

「ある意味正解!!あの人が、あの人が戻ってきた!!?」

 

それを聞いた途端、サイドキック全員の血の気が引いた。顔にはマジで?と書いてあった。流石にリュウガも場の空気が可笑しくなっているのに気付いたのか尋ねようとするのだが、その瞬間にトレーニングルーム入り口の扉が吹き飛んで一つの影が入室してきた。

 

「此処か……オルカの弟子が居るってのは……!!」

 

そこに居たのは、爆豪以上に凶悪で狂気に染まっていると言っても過言ではないような笑みを浮かべている蛇のような舌を伸ばしている蛇革のジャケットを着た男が居た。その男は龍牙を見ると一段と嬉しそうな笑いをするとこう言った。

 

「お前か……俺のストレス解消に付き合え」




多分絶対に誰か分かる、最後の人は。


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王蛇と黒龍

「げぇっマジで来ちまったよ!!?」

「だ、誰かヒーロー呼んで!!?」

『いやお前もヒーローだろ!!』

「あっそっか俺ヒーローだった!!」

 

「……相変わらず腑抜けた馬鹿どもだ」

 

全く状況が読めないリュウガ、突如としてトレーニングルームへと入ってきた人物にサイドキックの皆が大慌てになっている。何が何だか分からないが、目の前の男は自分に相手をしろと言ってきた。事情は把握できないが兎に角相手をするしかないだろう。構えを取ろうとした時に、自分の前にパワーコングが出た。

 

「下がるんだリュウガ……彼は、まずい……おい直ぐにシャチョーに連絡を!!」

「俺はそのギャングオルカに言われてきたんだ、あいつに何を言う気だ」

「くそっシャチョー正気かよ!!よりにもよってこの人に自分の弟子をぶつけるとか何を考えてるんだよ!?」

 

両手をぶつけ合わせながらコングは毒づいた。話を聞く限り、この男もサイドキックの一員なのだろうか。少なくとも師匠とは面識があり、師匠の言葉でここに来たという事は自分もこの男と戦えばいいという事になるのだが……それにしても周囲のサイドキックの反応が異常すぎる。

 

「というかなんでいるんだよ!?地方に飛ばされたはずだろ!?」

「その地方での仕事が終わったから戻って来た、麻薬の密造と密売ヴィラン共を全員潰しせて愉しかったぜ……お前も一度行ってみろ」

 

そんな風に語る男の表情はありったけの快楽と快感に染まったような歓喜に染まっている。男にとってはヴィランとの戦闘は唯の快楽や自分の欲求を満たすただのイベントでしかない。コングはリュウガに対して目の前の男の危険性を教える為も含めて詳細を語りだす。

 

「コブラヒーロー・王蛇、シャチョーことギャングオルカのサイドキックだけど実力はほぼ互角。ヒーローとしての実力はハッキリ言って化け物レベル。だけどこいつはハッキリ言ってヴィラン側と言っても過言じゃないんだ」

「どういうことですか……?」

「ダークヒーローなんて生易しい言葉は適応されないぐらいに外道だからさ」

 

王蛇、龍牙もわずかながらに聞いた事があるヒーローネームだ。ヒーローとは思えない程のヒールっぷりでヴィランを恐怖のどん底に叩きこむヒーローだと何かで読んだ記憶がある。そんな男が師匠のサイドキックとは……ハッキリ言って驚き以外の何物でもない。

 

「倒したヴィランを必要ない程に攻撃して再起不能にする、ヴィランからの攻撃を自分が倒したヴィランで防ぐ、既に降参しているヴィランに対して攻撃を叩きこむ、単身でヴィランのアジトの殴りこんだと思ったらヴィラン全員を半殺しにしてたなんて事も良くあった位だよ」

「う、うわぁっ……」

 

思わずリュウガもそんな声を上げてしまうほどの所業を王蛇は重ね続けている。本当にヒーローと問いただしたくなるレベルの行いを続けている男、最早ヴィランになってくれた方がいっその事諦めがついて確保出来るのだが……この男、逆にその行いによってヴィランに対する絶大な抑止力にもなり得ているのも事実で平和に大きく貢献してしまっているのが質が悪い。

 

「人聞きの悪いことを言うなよぉ……俺は、世間が認めた悪を叩き潰してやってるんだ」

「だから質が悪いって言ってんだよ!!アンタが急行したって現場に俺も急行したら、血だらけのヴィランが号泣して俺に助けを求めてきたんだぞ!初めての経験だったわ!!」

「いい経験したなぁ」

「お陰様でな!!」

 

しかも、ヒーローという合法的に相手を叩き潰しせる上に金やらも手に入れられる現状に酷く満足している。故にヴィランになろうなんて気持ちは全くないらしい、自分がしたい事をやっているだけなのに周囲がそれに対して勝手に謝礼などを用意してくれる。これほどまでに都合が良い仕事が他にあるか、と本人は言っている。

 

「下らねぇ話はもういい、おいオルカの弟子さっさとやろうじゃねぇか……ちょうどさっき潰したヴィランが物足りなかったところだからなぁ……」

「ってちゃんと通報とかしたんでしょうね!!?」

「鎖で簀巻きにして街灯に吊るして通報はしたぞ、じゃねぇとオルカがうるせぇからな……」

「街灯に吊るすなぁ!!!子供が見たらトラウマ物じゃねぇか!!」

 

大慌てでコングは周囲のサイドキックと連携して現場近くでパトロールをしているであろう者達に連絡を取って現場の確認などを指示をする。そんな中で王蛇は一瞬のスキを見つけてコングの隣をすり抜けて、その背後にいたリュウガへと回し蹴りを繰り出した。

 

「重いっ……!!」

 

それを上手く防御する、だが何の個性を発動させてもいない筈の姿でこの威力の蹴りは余りにも異常すぎる。余りにも一撃が重い、増強系の個性なのかと思うがそんな思考は意味をなさない。相手が自分の間合いにいながら攻撃を仕掛けてくる場合には特に意味をなさない。

 

「はぁっ!!」

「ふったあっ!!」

 

続けて一気に駆け寄ってくるような勢いのまま連続のパンチとキックの連打。流れるような連打の嵐、防御に努めるリュウガだが一撃一撃がまるで師匠のように非常に重い。いや、師匠の方が遥かに重く威力もあるだろうがこの男のラッシュは速度が段違い、幾ら威力が劣るとしてもこんな速度で打ち込まれるのが相当にまずい。

 

「だぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

状況打破の為に黒炎を吐き出すが、王蛇はそれを予測していたのか軽く跳躍しながら後方へと飛び退いてそれをあっさりと回避して見せた。恐ろしいまでの戦闘センスとそれを支えている異常なまでの戦闘経験からくる直感、相手の次の動きを直感で読み取って即座に対応する。厄介すぎる。黒炎を容易く回避する王蛇は一度高笑いをすると指をさしてきた。

 

「お前……悪くない、またやろうじゃねぇか。今度はガチでな……」

 

一度、鋭くさせた瞳をすると王蛇はトレーニングルームから去っていくのだが、リュウガはとんでもない相手に目を付けられたんじゃないかと冷や汗を流すのであった。初日から色々と不安になる職場体験はまだまだ始まったばかりである。




ギャングオルカと王蛇。

一応ギャングオルカがストッパー的な立場……まあそれでも抑制しきれてないけど。


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現場で活動する黒龍

「……主犯と思われるヴィランを確認。8本腕、腕部巨大、刃腕、長腕の4名確認。指定警戒ヴィランチーム、アームズだと推測。これより帰投する」

 

「……んッ?」

「おい如何した」

「今、なんか鏡に変な物が見えたような……気のせいか?」

 

「戻りました。ビルを占拠してるのは指定警戒ヴィランチームのアームズだと推測されます、全員の特徴が腕に関する個性でしたし資料とも一致します」

「そうか、お前は次に行け。王蛇、一応言っておくが殺すな」

「分かってるさオルカ、任せておけ……ははっさあ祭りの始まりだ……」

 

職場体験初日、ギャングオルカの事務所にヴィラン出現による出動要請が入った。当然のようにリュウガもそれに駆り出され自身の能力を活用した情報収集を行うように伝えられた。リュウガは物陰に隠れながらも個性を発動させながら、ビルのガラスへと飛び込んでいった。ガラスへと飛び込んだリュウガはそれへと溶け込んでいくかのように虚構の鏡合わせのように反転している世界へと入りこんでビルの中を駆けていく。

 

これがリュウガとしての個性として最も異常とも言われる能力、鏡だけに限らずガラスや窓など姿が映るものであれば自由に行き来することが可能であるという余りに常識離れした超人社会でも異常と称される能力。根津をして人知を超えているリュウガの固有能力と称する力。

 

鏡の世界、リュウガはそれをミラーワールドと称しており、そこは完璧に現実の世界と全く同じ。強いて言うならばそこにいるのはリュウガのみで他の生命体は存在しておらず、全ての物が鏡に映るように反転している事がその世界の特徴。そしてこの能力を使用すれば、ミラーワールドから現実の世界を覗き見る事が出来、安全に情報収集などを行い、ヴィランの現在位置や人質の位置などを正確に割り出す事が出来る。

 

「はぁはぁはぁっ……」

「大丈夫かいリュウガ君?疲れたなら少しぐらい……」

「いえ、大丈夫です……!まだ、やるべきことが残ってるので……!!」

 

コングが膝を付きながら荒い息をしている彼を心配する、明らかなほどに彼は疲労している。ミラーワールドに入るだけならば、彼に負担は皆無に近いのだがその中で長時間活動するのは相当身体に負荷がかかるらしくリュウガは次第に疲労を募らせていた。それでもリュウガは休むことなくミラーワールドへと入り、不測の事態に備える為に待機する事になった。

 

「シャ、シャチョー……リュウガ君の疲弊の様子は明らかに異常ですよ。これで5件目の出動ですけど、既に彼は限界が近いように思えるんですが……」

「当然だ。リュウガのあの能力にも代償がある、これはあいつがそれに耐える為の訓練でもある」

 

ミラーワールドでの活動、リュウガにも限界が存在しており今のところの限界は最長で5分程度。それ以上残ろうとすると体力を大幅に持っていかれていってしまう。最終的にはミラーワールドから弾き出されてしまうのだが、全身疲労で一日はまともに動けなくなってしまう事が分かっている。既にリュウガがミラーワールドでの活動を行って累計で15分を超えているだろうか、一体どれだけの疲労がリュウガに蓄積されている事だろうか……。

 

コングがリュウガへの心配を募らせている中、包囲されていたビルから王蛇がゆっくりと出てきた。頬についている返り血が内部であった戦いを物語っているかのよう、王蛇は笑いながら無事に鎮圧して事件を収束された事を報告する。

 

「生きてるんだろうな……」

「半殺しで止めておいてある、まあ腕と足を全員一本ずつ折ってはある。今頃激痛でもがき苦しんでる頃だ」

「うへぇっ……」

 

恐らく王蛇の語り方からして単純に腕と足を折っただけではないだろう、この後確認しに行く自分達の事も考えて欲しい物だ。余りにも凄惨過ぎる現場だとハッキリ言って自分も気分が悪くなりかねない、そう思っている王蛇が悪そうな笑みを浮かべながらこちらを見る。

 

「何甘い事考えてんだ、あのヴィラン共は善良な一般市民を人質に取った上に数人の骨を折ってやがったクズだぞ。そんな連中に遠慮なんかいらねぇだろ、これ以降同じことをするならば同じかそれ以上の事をされるっていい教訓になった事だろうよ」

「……ヴィラン顔負けのアンタがそれ言うかよ」

「聞こえねぇなぁ……じゃあなオルカ、俺は飯食いにいって来る」

「はぁっ……勝手にしろ。面倒事は起こすなよ」

「わぁってる。面倒な事になるとテメェがうるせぇからな……」

 

そう言うと王蛇はバイクに乗るとそのまま去っていってしまう、ギャングオルカはそれを黙って見送ると溜息を吐きながら現場確認の為に向かう警官に護衛としてサイドキックを数名付けて行かせる。

 

「シャチョー、前々から聞きたかったんですけど……なんで王蛇はシャチョーだけには従うんですか」

「あいつとは昔からの腐れ縁でな……対等な関係だったからだと思う」

 

まさかの幼馴染、という訳ではないらしい出がそれでもギャングオルカと王蛇は同期であるらしい。そのせいなのかギャングオルカは王蛇のかじ取りの仕方を心得ており、王蛇もギャングオルカに下手に逆らうと面倒事になると理解しているから一応従っているらしい。

 

「よくまああんなのと付き合ってられますね……」

「俺以外にあいつとまともに話す奴もおらんかったからな……」

「そりゃそうでしょあんな奴と……」

「も、戻りましった……」

 

近場の鏡からリュウガが姿を現すが既に言葉に込める力もないのか、ヘロヘロになった状態で這い出てきた。鏡から出るとすぐさま個性が解除されてしまったのか元の姿に戻ってしまった。ミラーワールドで活動するだけで殆どの力を使い果たしてしまい、もうまともに立っているのもやっとなようにも見える。

 

「お前はもう邪魔になる、事務所に戻り事務作業の説明でも受けておけ」

「ちょっとシャチョーそんな言い方ないでしょ!?こんなに頑張ってくれたリュウガ君に対して……」

「解りました、この後事務所に戻るサイドキックの皆さんと一緒に戻ります……」

 

そう言うと移動用の車両に乗り込んだリュウガはぐったりしながらも端末を開きながら自身の活動報告をレポートに書き込んでいく。コングはギャングオルカの指導方針に嫌な顔一つせずに従っているリュウガに一種の畏敬の念を覚えつつも、厳しすぎるだろとギャングオルカに複雑そうな視線を送るのであった。




ギャングオルカの内心。

「(すまん龍牙、すまん……!!本当は、褒めてやりたいんだ、だけどすまん……!!)」


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嵐へと迫る黒龍

「うううっ……うぁっ……」

 

小さな呻き声と共に身体から力が抜けかける、それを必死に食い止めるように足に力を籠めるが身体のふらつきが止まらない。足が震え、重力が何倍にもなっているように感じてしまうほどに身体が弱っている。

 

「ミラーワールドでの活動時間、大体は24分ぐらいだったかな……。大分限界が伸びてるな……ははっ」

 

ミラーワールドでの活動は限界を超えれば超える程に自分の身体を蝕んでいく、身体や個性を鍛えれば鍛える程に限界は増してはいくがそれでも身体に掛かる負担が和らぐ事は一切無い。あくまでミラーワールドから弾き出されるタイムリミットが増えて行くだけなので、様々な意味で戦いに組み込んでいけるような便利な物ではない。裏を返せば苦しい時間だけが増すだけ。

 

「ぐっ……やっぱり、プロの活動ってきついなぁ……ほかのみんなも大変なのかな……」

 

此処まできついのが龍牙だけだろうが、実際に他の皆は龍牙よりも遥かにマシになるだろう。龍牙に課せられているのは通常のサイドキックとほぼ同じと言っても過言ではないスケジュール、守るべき生徒としてではなく共に戦う仲間として動いているのだから差があまりに大きい。それでもこれは自分を大きく成長させる事が出来るいいチャンスだと前向きに捉えながら、喉の奥に栄養ドリンクを流し込んで気合を入れると事務作業へと入る事にした。

 

「すいません、遅くなりました」

「いやいやいや大丈夫だよ。それにしても計算とか早いなぁ……電卓とか一切使ってないのに暗算早くない?」

「算盤使った方が流石に速いですよ?」

「何故に算盤……?」

 

プロヒーローの仕事は単純なヴィラン退治だけではない。ヴィラン退治に関する書類仕事、報告のレポート、各自治体た警察組織との連携、CMなどの副業を行っている場合のスケジュール管理に他事務所の連携の為に様々な仕事が待っている。その一つ一つをリュウガは頭に叩き込んでいく。

 

「はいっギャングオルカヒーロー事務所です。はいっではただいまお電話をお繋ぎしますので少々お待ちください……コングさん、スポンサーの水族館からです。今度のイベント出演に関する事とのことでしたので4番のに繋ぎました」

「うしっそれでOK!!それにしても随分手馴れてる感じするね。敬語も凄い丁寧だし」

「いえっ家にいた時もなんかこういう系統の電話多かったので」

 

自宅学習をしている時、根津目的のヒーロー関係の電話などが特に多かったので内線程度ならば慣れた物。敬語の事も言われるが、それは一重に今まで接してきた相手が基本的にほぼ全員が年上だったのが原因。加えて殆どが尊敬に値する程に素晴らしかったので敬意を払うという意味でも敬語を多用してきたのが身についている理由だ。まあ一番の理由は師に敬語を徹底されていたからなのだが……。

 

「全員揃っているな」

 

事務仕事を次々と片付けている中、主であるギャングオルカが戻ってきた。どうやらヴィラン現場の事後処理やらは終わったようだ。

 

「いいか、三日後に保須に向かう事が決定した」

「保須って東京のあの保須ですか」

「ああそうだ―――ヒーロー殺しを狩る」

 

短い言葉に集約されている決定の決意だけでサイドキックの皆は気を引き締めるのだが、その目的が更に顔に険しくしわを作らせる。リュウガもそれを聞いて目的に喉を鳴らした。ヒーロー殺し、プロヒーローのみに狙いを絞ったように連続殺人を行い続けているヴィラン。つい最近も東京の保須市においてプロヒーローを殺害し、合計で17人を殺害、22人を再起不能に陥れている。その凶悪ヴィランの確保に動き出す事をギャングオルカが宣言した。

 

「先日、インゲニウムから応援の要請が入った。それを正式に受理し三日後に向かう運びになった。奴も奴で深手を負ったとのことだ」

「ええっあのインゲニウムがぁ!?マジっすかシャチョー!!」

「残念ながらマジだ。だが大事には至らずに軽い入院程度で済んだそうだ」

 

インゲニウムといえば65人というサイドキックを雇い、それら全員の総合力で勝負する大人気ヒーロー。全員の個性を適切かつ的確に運用して大きな力にして動いてヴィランを確保するヒーローチームの一つの完成形とまで称されるの司令塔であり実力派ヒーロー。そして何より、龍牙のクラスメイトの飯田のお兄さんでもある。

 

「ちょうど共に行動していたビーストマンとミラー・レイディのお陰で危機を脱したとのことだ。だがインゲニウムはこれでヒーロー殺しの危険性を一気に引き上げてウチにも要請を出した来たという訳だ。俺達の役目はインゲニウム本人の穴埋めにもなるが、やる以上は全力で確保にも動く。覚悟しておけ!!」

『はい!!』

 

龍牙はビーストマンとミラー・レイディの名前を呼ぶときに僅かに舌打ちをしたのを見逃さなかった。インゲニウムを助けた事は評価すべきことかもしれないが、龍牙の親としては矢張りあの二人は好きになれないのが、子煩悩なギャングオルカの素直な本音なのだろう。

 

「にしてはなんかシャチョー、あの二人の事嫌いっぽいですよね。何か凄い忌々し気に言ってますし」

「……悪いか、個人的だがあの二人は気に食わんのだ」

「エリート思考嫌いなんでしたっけ、ああだからエンデヴァーとも仲悪いのか」

「あんの蚊取線香丸とは無関係だ!!!ああったくあいつの顔を思い出したらムカムカしてきやがった……!!俺はしばらくトレーニングルームに籠る!!誰も入ってくるな!!!」

 

そう告げるとギャングオルカは苛立ったように扉を叩きつけるように閉めていく。如何やらギャングオルカとエンデヴァーの相性は非常に悪いらしい。

 

「やれやれ……こりゃ忙しくなるかもな……リュウガ君、君は今事務所に来てるヒーローとの打ち合わせに行って来て貰えるかな。シャチョーから君にやらせろって言われててね」

「あっはい解りました……」

 

この後、リュウガは向かった応接室にて打ち合わせをするヒーローこと、Mt.レディと遭遇して思いっきり絡まれるのであった。自称姉の彼女はリュウガが酷く疲れている事に即座に気付いてリュウガに休みなさいと強く言いつけ、話し合いを伸ばして休息を取らせるのであった。

 

「因みにこれはオルカさんも了承済み、ヒーロー同士の打ち合わせが長くなるなんて何時もの事だし」

「そうなんですか……」

「(実際は龍牙を休ませるの口実でしょうけど、なんだかんだで子煩悩なんだから)さて龍牙、それじゃあお姉ちゃんの膝でお昼寝でもしましょうか!!」

「……ちゃんと仕事しに来てるんですよね……?」




「これで龍牙も休めるだろ……俺がもっと素直になれたらあいつをもっと……クソがぁぁあああ!!!!エンデヴァーくたばれぇぇえええ!!!!」

完全に八つ当たりである。


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父の思いに応えたい黒龍

龍牙のリュウガとしての職場体験は鮮烈且つ過激を極めていた。彼の保護者であるギャングオルカと根津が決定した彼を徹底的に鍛え上げる計画は、まだ雄英生徒として発展途上且つ未熟なリュウガをとことん苛め抜くような厳しすぎる物だった。

 

午前5時からは早朝のパトロール、軽い朝食の後に事務仕事をこなしつつも出動要請があれば直ぐに飛び出していく。リュウガの能力は現場の情報を引き出す物としては酷く上物であり、他のヒーローがヴィラン退治を行うのを極めて円滑に、確実な物にしていく。故にその能力はどんどん活用されていく、限界を迎えれば休憩を挟み再び活動をするを何度も何度も繰り返し続けていく。

 

「ぐっぁぁぁっ……!!」

「如何したリュウガ、お前が行かねば他のヒーローが確実に救出を行えんぞ。いいのか、お前が動けば確実に救える命を不確実にするのか」

「行くにっ……決まってるでしょ……目を閉じてたら、救えなくなる……!!」

 

周囲のサイドキックは見てはいられないような有様だった。地面に倒れこみ、まともに立てないような有様になっても厳しい言葉で現実を突きつけるギャングオルカとそれを受けて、身体に鞭を打って強引に身体を起こしてはリュウガとなって鏡面(ミラーワールド)へと入って情報を収集して、倒れこむようにして這い出てきては情報を伝え、限界を迎えている筈なのに立ち上がり次に備える。

 

ある時はミラーワールドから飛び出し、ヴィラン退治をやらされる。本来ならばプロ資格のないリュウガがそれを行う事は完全にアウトなのだが……共にギャングオルカが突入する事で彼が自分でヴィランを倒したという言い訳を構築しリュウガは実戦を積むという事を重ねていく。どちらにせよミラーワールドを多用するのでリュウガの体力はガリガリと削られ、疲労は積み重なっていく。しかしその程度だけではギャングオルカはリタイアを許さない。

 

「―――ねぇオルカ、本当に良いの」

「構わん、全ては龍牙の為だ」

 

ギャングオルカの事務所の専任ドクター、ヒーリングヒーロー・スィーツァ。至福の癒しという回復系の個性を持つヒーローで健康改善・疲労回復促進を齎し、対象の疲れを短時間で抜き切らせる力を持つ。但し怪我の回復などは一切しないのが弱点だが、リュウガに関しては酷く効果的で限界まで酷使した身体を1~2時間で活動可能まで回復させ、再び現場へと戻らせるというループを龍牙に施している。

 

「幾ら何でもこれは狂気に近いわよ、身体は持つだろうけどこの子の精神面が持たない」

「持つさ。こいつは俺の息子だ、龍牙は俺の予想を超え続けていく。ならば俺もそれ相応の壁を用意するだけだ」

「……アンタもアンタだけど、この子もこの子よ。如何して泣き言一つ言わないのよ……」

 

龍牙は弱音を一つも吐こうとしない、辛いという言葉すら言おうとしない。それはギャングオルカが自分の為を思って此処までの事をさせていると心から理解しているから。父さんは自分にこれだけ期待をかけてくれている、自分を信じてくれている、だったらそれに応えるのが自分だろうと龍牙は頑なに信じて前に進んでいく。

 

「リュウガ、動けます……!!」

「次の現場に行け。さっさとしろ」

「はいっ!!」

 

疲労から動けるようになったリュウガを見てスイーツァは悲しい子だと素直に思う。リュウガにとってこの職場体験は楽しくはないし辛い事でしかない、でもそれに向き合い続けている。ギャングオルカはきっとプロの厳しさを1週間の間に叩き込むだろう。最早職場体験で感じる筈の現場の空気をではなく、現場に関わる当事者としての感覚を覚えさせる。もう―――プロヒーローと何ら変わらない所にリュウガは立ってしまっている。

 

「オルカ、アンタの事だから分かってると思うけど一番つらいのはアンタだろ。アタシに言ってたもんね、自慢の息子だって。だからなんだろ、敢えてプロの厳しさを思い知らせてる。ヒーローが人の命を救う瞬間と救えなくなるかもしれない瞬間を何度も何度も」

「……」

 

ヒーローになれば嫌になるほど思い知るだろう、もっと力があれば、あの時頑張っていれば……そんな場面に何度もぶつかる事になる。ギャングオルカが行っているのはその寸前、自分が動けば確実に救える、救えないのラインでの活動。如何に個性が強かろうが身体が強靭だろうが、結局最後に物を言うのは精神力。それを鍛える為にギャングオルカは龍牙を現場に連れて行くのだ。

 

「俺は不器用な男だ、息子にこんなエールしか送れん。将来の為に……あいつが夢に見るヒーローに成れる為の手伝いしか出来ないんだ……」

 

酷く不器用で不格好な愛情、彼としても息子にこんなことをするのは不本意だろう。子煩悩で本当は息子を大手を振って褒めてあげたいと心から願う男なのに、敢えて冷たく厳しく息子に接している。龍牙が必ず乗り越えると信じながら未来に進むだけの力を付けさせてあげる為に……。

 

「それなら偶にでもいいから褒めてやりな、それだけでもきっとあの子は涙を流して喜ぶよ」

「……出来ればそうしている……だから、あいつが乗り切ったら一緒に飯を食いながら褒めてやりたいと思ってる……親子として」

 

そんな風に言葉を漏らすギャングオルカの背中は父親のそれと全く同じだった。そんな姿を見てスイーツァは呟いた。

 

「なんで男ってこうも面倒くさいんだろうねぇ……」




「それに……いざ褒めようとすると、嫌われたり恨まれていないか不安でつい……」
「お前は子供かぁぁぁあああああ!!!!!」

次回、保須市へ!!


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保須へ乗り込む黒龍

ポケモン超楽しい……。すいません、ポケモンに熱中しすぎました。


東京・保須市。ギャングオルカはインゲニウムからの応援要請を受けて、合流場所へと足を踏み入れていた。自身が選りすぐった精鋭、その中には王蛇の姿もあるのだがギャングオルカの指示さえあれば大人しくしているし戦力としてはこの上ない程に頼もしい男、故にメンバーに加えたのだろう。そしてその中にリュウガの姿もあった。リュウガを連れて行くのは多くのメンバーが反対の意見を出すが、ギャングオルカは全く譲らない上にリュウガも志願したので連れていく事になった。

 

「龍牙君!!君も来たのか!!」

「飯田、いやえっと……インゲニウム・アクセルだったか?」

「ああっそうだ。気軽にアクセルで構わないさ」

 

インゲニウム事務所での打ち合わせの最中、そこにあったのはクラスメイトの飯田の姿がそこにあった。彼が最も尊敬し目標としているヒーローであるのが自身の兄であるインゲニウム。当然の帰結として兄の所に職場体験にやってきたとの事。

 

「リュウガ君、グループチャットにも全く反応を示さないから少し心配していたんだぞ」

「えっチャット?」

 

そう言われてリュウガはスマホを確認してみた。するとチャット通知が溜まっている事に漸く気付いた。皆のそれぞれの職場体験の事やら色んな事が書いてあった。が、自分が全く返信しない事がある種の話題になっていた。特に葉隠さんからのメッセージが一番多く、心配を掛けてしまったのか罪悪感を覚える龍牙であった。

 

「……色々と大変でさ、スマホ見てる暇なんてなかったんだ」

「矢張りヒーローランキング10位以内に入るギャングオルカの事務所はそこまで凄まじいという事か……それなのにリュウガ君は大丈夫そうとは流石だな!俺からも弁明の手伝いはさせてもらうよ」

 

ハッキリ言ってリュウガの場合は大変という言葉だけでは収められない。肉体的な疲労はスイーツァの個性で無くなるが精神的な疲労は全く取れないのでそれはどんどん蓄積されていき眠るときは、ベッドに座り込むとそのまま熟睡してしまうのである。故にスマホなんて見ている暇なんてない。

 

「所でアクセル、インゲニウムは大丈夫なのか」

「ああ、怪我はそこまで深くはないみたいで直ぐに退院出来るみたいなんだ。今は検査入院だ」

「それでもインゲニウムを倒すなんて相当やばいなヒーロー殺し……保須市も相当ピリピリしてる」

 

リュウガが保須市に入った感想で真っ先に上がってくるのは既に多くのヒーローが現地入りしている事、そしてそれらのヒーロー全てが強張った表情を浮かべながらピリピリしている空気。ヒーローによる完全警戒態勢が敷かれている保須市、それだけヒーロー殺しに対する意識が高いという事。

 

「しかし矢張りビーストマンとミラー・レイディは凄いヒーローだった!!夫婦という事もあるのだろうがとんでもないコンビネーションだったらしい!!」

「……その場にいたのか?」

「いや、その後にお二人とパトロールをしたときに二人のヴィラン退治を見る事が出来たんだ」

 

ビーストマンは自らの名が示すようにその身を複数の獣に変化させながらヴィランを誘導しながら追い込んでいき、最後の突破口にはミラー・レイディが待機していた。ヴィランはそこを突破する為に渾身の一撃を放つのだがミラー・レイディはその攻撃を反射させてヴィランの顎へと叩き込んで意識を失わせて確保した。その一連の流れは前もってそうするように指示されていた番組内の殺陣のような美しさ、洗練さにアクセルは言葉を失ったという。

 

「流石はトップヒーローと言われるだけあると思ったな、俺も何時かその域に行けるかと思ったほどだ」

「……そうか」

「どうかしたかリュウガ君、気分でも悪いのか?」

「……いや、なんでもない」

 

思う事なんて特にはない。ただ、ヒーローとしての実力は矢張りお墨付きなのだなと思っただけの話である―――親としてのレベルは最低だとギャングオルカが言っていたのに。

 

「リュウガ、アクセル。これからの保須市での活動内容を決める、こっちへ」

 

そう言われてそちらへと向かう。そしてそこで決められた内容は徹底したチームでの行動であった。ヒーロー殺しは通常のヴィランと明確に違う点が存在している、それはヒーローを標的に据えている点。今までを含めてヒーロー殺しは一般人に害意を見せた事が無く、自らが向ける対象をヒーローのみに定めている。それこそがヒーロー殺しと言わしめる点であるのだが……故にヒーロー達はそれを確保する為に自らを餌にした作戦を取らざるを得なくなっていた。

 

「被害を最小限にする為に単独での活動を徹底的に避けろ、今回のインゲニウムの負傷も裏路地に入り込んだヴィラン確保の為に単独行動をしてしまったからだ。故にチーム編成を徹底する、いいか決して油断をするな!!」

『はい!!!』

 

ヒーロー殺し確保に向けて大きく動き出していくヒーロー達、大きなうねりとなって保須を包み込んで一丸となってヒーロー殺しを襲うだろう。だがこの保須に迫るのはヒーロー殺しだけではない、もっと深い影のような物が迫っている事を誰も理解していなかった。

 

「黒き龍、そろそろ君の力を見せて貰おうかな―――ねぇ、鏡 龍牙君」



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保須でパトロールをする黒龍

「という訳で君たち二人は俺が受け持つ事になったんだけど……アクセル君、君に聞いておきたいのはお兄さんがやられた事で相手に復讐したいとか思ってないよね」

 

保須市での活動チームの振り分けの結果、リュウガはコングがチームリーダーを務めるチームに入る事になった。チームメイトはインゲニウム・アクセルこと飯田になる事になった。ギャングオルカの采配でこのようなチームになったのだが、なんだかんだでパワーコングは事務所内では未だに新人扱いを受けているが、サイドキック内では王蛇を除外した場合のランキングでは上から6番目に数えられる実力者。そんな彼が飯田にある事を聞いた。それを聞いた飯田は少しだけ顔を曇らせるが、少しだけ深呼吸をすると答えた。

 

「何も思わないと言ったら嘘になります。兄の敵を討ちたい、と言えばそう答えるでしょう。ですが仮に俺がヒーロー殺しを討ったとしても兄は喜んではくれません、寧ろ私情で先走って危険を冒した俺を叱咤します」

「良く分かってるじゃないか」

「復讐はヒーローがしてはいけない行為の一つだと思っています、俺がすべき事なのは―――兄さんが守りたいと強く願った人たちを俺が守る事です!!」

 

そんな風に強く答えるアクセルにコングは背中を強く叩きながらそんな意気込みを大きく称賛する。まだまだ若さ故の真っすぐすぎる面も見えるが、だからこそいい。真っ直ぐな強い思いなほど崩しにくい物になっていく、自分はそれを上手く導いてその強さを更なるものに昇華させてあげる事。

 

「では―――これより保須市でのパトロール活動を行う、アクセルには言うまでもないがパトロールはヒーロー活動としては基本にあたる。ヴィランへの警告並びに市民の皆様に自分達が居るからという安心感を与える重要な役目だ。故に目を光らせる事と笑顔を忘れずに!っとアクセルには言う必要なかったかな?」

「そうか、笑顔が必要ならばヘルメットは外さなければ……!!では脇に抱えて笑顔でいます!!」

「真面目か!!?」

 

そんなこんなでパワーコングチームの保須市でのパトロールが行われる事になったのである。矢張りヒーロー殺しの影響で同じようにパトロールを行っているヒーロー達は酷くピリピリしている。

 

「コングさん、一つ聞いていいですか」

「何だいリュウガ君」

「あの……今回王蛇って何をするんですか……?」

 

リュウガが一番気になっているのは目を付けられてしまった王蛇、僅かな会話と軽い手合わせしかしていないがそれだけでも王蛇の人柄や行動指針なんかは完全に理解出来ているつもり。既にヴィランが事件を起こしている現場なら良いだろうが、今回のようにヴィランがどこに潜伏しているのか分からない今回の場合は一番扱いに困るのでは……とリュウガは思っている。

 

「王蛇ならほれっそこでパトロールしてる」

「え"っ」

 

視線の先では気だるげにしつつも確りとパトロールを行っている王蛇の姿があった。どちらかと言ったら目的もないのに買い物に来てしまった感があるのだが……視線は細かく裏路地やらヴィランが狙いそうな所にピンポイントに向けられているのでかなり確りとパトロールを行っているのが分かる。

 

「あの人もヒーローなのかリュウガ君」

「ああうん……ギャングオルカのサイドキックなんだけど……あの人パトロールするんだ……」

「どっちかと言ったら獲物を探してる蛇ってかな……」

「ああ成程……パトロールじゃなく、索敵なのね……」

 

そう言われて素直に納得する。下劣非道上等の外道ヒーロー・王蛇、そんな風に呼ばれる彼だがなんだかんだでヒーローとしての活動自体は確りしている。まあその内容の全ては自身のストレスを合法的にヴィランで発散する為に帰結するのだが……。結果的に平和に貢献するならばそれも善とされるのだから困ったものである。

 

「何か起きたとしても多分大丈夫だろう、あれなら何が起きたとしても……」

「キャアアアアアッ!!!」

 

その時だった、大通りに巨大なヴィランが出現した。全身が鈍い銀色に輝くような肌をしつつも頭部にはサイを模している巨大な角を持った余りにも巨漢なヴィランが車をひっくり返して大暴れを行っていた。コングはそちらに身体を向けた瞬間、そばを通り過ぎる紫色の影を見た。それは―――個性を発動させ、戦闘態勢に入った王蛇の姿だった。王蛇はそのヴィランの前に立つと首を回しながら声を出す。

 

「ぁぁっ~……漸く相手が見つかった……」

「何だお前はぁ……!!まあいい、どんな奴だ折るがこのライノ様がぶっ潰してやるだけだ!!」

「いいぜぇっお前みたいに血気盛んな奴とやるのは嫌いじゃねぇ……来いよ」

 

ライノ、そう名乗るヴィランは凄まじい勢いで突進を行い距離を詰めていく。3メートル近い巨体での突進、それだけでも十分過ぎる武器になるのに装着していると思われるアーマーが更なる凶悪な凶器へと変貌させる。途中に連なる車などは容易く吹き飛ばしながら粉砕する異常な力、それを見ても王蛇は焦る所か益々嬉しそうな声を漏らしながら突進してくるライノを見つめ続ける。

 

「フッはぁっ!」

「ぐわぁっ!?」

 

軽く跳躍すると王蛇はライノの首筋に正確にキックを叩きこみ地面へとめり込ませる。突進の勢いのままに地面を削りながらも漸く体勢を立て直すライノだが、怒り心頭と言った様子で更に勢いを付けて王蛇へと突進を繰り返していく。だがそんな時である、再び迎え撃とうとした王蛇が何かに吹き飛ばされた。

 

「なんだぁ……新しい客かぁ……?」

 

そんな風に鎌首を擡げた王蛇が目にしたのは、脳が丸見えになっているヴィランだった。それは王蛇にも目もくれずにリュウガ目掛けて一気に襲い掛かってきた。

 

「こっちに来る!?」

「くそっヒーロー殺しの事でも大変なのに、面倒事が多いな!!気を付けろリュウガ君にアクセル!!」

「「はいっ!!」」

 

長い、保須の一日が始まろうとしていた。



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謎のヴィランと相対する黒龍

「グォォォオオオ!!?」

 

突如として迫ってきた脳みそ剥き出しの謎のヴィラン、それに対してリュウガはその突進を受け止める事に成功したが、ヴィランは肩辺りから炎を噴き出し推進力としながら更に迫ってくる。力を込めているのに全く止まる事を知らない、とんでもない推進力だと感心しつつも個性を一部発動させる。

 

「部分出現ォォオオ!!!」

 

脚部のみ個性を発動させることで部分的にだが力を増す。何とか踏み止まれるようになるリュウガ、それが完全発動状態での彼の力が凄まじいことを物語る。そして敢えて脚だけにしたのは踏ん張りを強くするため、そして―――状態を反らしやすくするため。

 

「オンドリャアア!!!」

 

迫ってくるヴィラン、それを受け止めるリュウガはそのまま強く踏ん張りながら勢いよく上体を反らし始めた。それは宛らジャーマンスープレックスのような身体の反り、炎の推進力で進み続けていたヴィランを空を掴むかのようにリュウガの背後へと飛んでいく。空中で体勢を調整しながら着地するヴィランは再度突進をしてくるのだがそれを阻止するように飯田とコングがフォローに入る。

 

「リュウガ君!!」

 

アクセルとして、個性を発動させて一気に加速したアクセルはリュウガをヴィランの直線状から退避させつつ、コングは力強いドラミングをする。周囲には鐘を打ち鳴らすかのような重々しい低い音が木霊する。空気がビリビリと音を掻き立てながら震えている。

 

「俺のチームメンバーに何しやがんだこの脳みそ野郎!!」

「グアアアアアア!!!!」

 

ファイティングポーズを取るコングに対してヴィランは雄叫びを上げながら退かなければ貴様から殺すと言わんばかりに迫ってくる。パワーコングはそれに全く退かない。迫ってくるヴィラン、炎の勢いが更に増して速度が更に上がっていく。それを身体を沈ませながらヴィランの真下を取ると力を込めた拳を、全力で顎を捉えながら振り抜いた。

 

「ゼリャアアアアア!!!!!」

 

一瞬、パワーコングの腕が巨大になりその剛腕がヴィランの顎を捉える。その絶大な破壊力を秘めた一撃はヴィランの顎を粉砕する勢いで突き刺さった。顎どころか口ごと圧し潰したかのようにも見える超剛腕による圧力。凄まじいアッパーカット、この一撃こそパワーコングがパワーコングという名前の由来にもなった必殺の一撃、彼もその名前に誇りを持っており高らかに叫ぶ。

 

POWER PUNCHING BLAST(パワーパンチングブラスト)!!!

 

その叫びと共に振り抜かれた剛腕は空へと打ち放たれる。拳が突き刺さったまま天へと昇ったヴィランはそのまま隕石のように地面へと落下した。パワーコングの剛腕の一撃にとって完全に頭部がつぶれているかのようになっており、時折ビクビクと痙攣しているがそれを見たパワーコングは信じられないような物を見たように目を見開く。

 

「嘘だろ。俺の必殺技をクリティカルヒットしたんだぞ」

 

パワーコングは直感で感じ取っていた。このヴィランは普通ではない、脳が露出している事からまともな人間ですらないと察知した。上に手加減抜きの最大火力を叩きこんだ、それなのにこのヴィランは潰れた筈の頭部が少しずつ元の形に戻り始めているではないか。再生系の個性であったとしても頭部を潰されて再生出来るなんて話は少なくともコングは聞いた事が無い。

 

「コングさん!!こいつまだ動いてますよ!?今の全く加減してませんよね!?」

「間違いなく俺の全力の必殺技だ、それなのにもう潰れた顎が治りかけてやがる……炎を放出する個性だけじゃなくて再生の個性持ち……個性の複数持ちなんて聞いた事ないぞ」

「そう言えばUSJでヴィランが襲い掛かって来た時に、オールマイトが倒したというヴィランも似たような奴だと……」

 

それを聞いてリュウガも漸く思い出した。話を聞いただけだが、USJではオールマイトと対オールマイトの切り札とされるヴィランが大激突したという。しかもそのヴィランはショック吸収と超再生という二つの個性を併せ持っていると、緑谷から聞いた。そしてそのヴィランの最大の特徴は脳が剥き出しになっている事だという。

 

「……こんな状況だ、致し方ない。リュウガ及びアクセル、個性の限定使用をプロヒーロー・パワーコングの名において許可する!!」

 

本来プロヒーロー資格を所持していない者が個性を用いて人物を対象にした使用は固く禁じられている、だがコングの判断はそれを容認する事になる。

 

「こいつは確実にやばい!!俺のサポートに徹してくれ、ここでこいつを潰さないといけないんだ!王蛇の件もあるのに早急にこいつを拘束する!!」

「了解しました。リュウガ、パワーコングのサポート任務を了解しました!!」

「同じくインゲニウム・アクセル、個性限定使用を了承しました!!そして全力で任務を執行します!!」

「二人とも、遠慮なくやれ!!責任は俺が全部取ってやるから気にするな、このヴィランに戸惑いは命取りになるぞ!!」

「「はいっ!!」」

 

パワーコングとしての直感が叫んでいる、このヴィランを完全に沈黙させて拘束するには二人の助けがいる。後方で戦っている王蛇の事も考えると出来るだけ手早く終わらせる必要も出てくる。そして再生を終了したのかヴィランは再び炎を放出しながら迫ってくる。

 

「奴の動きを殺すんだアクセル、リュウガ!!」

「「了解!!」」

 

それを聞いたアクセルは自慢のスピードを生かしながらヴィランに迫る、当然アクセルに注意が向き拳を振るう。だが直撃する寸前で身体を沈めてそれを回避するアクセル、そしてその後に続くように迫ったリュウガは意識が反れて動きが乱れているヴィランを今度は全力で背後に向けてヴィランを投げつけた。

 

「良いコースだ!!行くぞ本日二回目ぇ!!!」

 

 

POWER PUNCHING BLAST(パワーパンチングブラスト)!!!

 

 

再度、コングの必殺技が炸裂する。だが打ち上げられたヴィランは即座に体勢を立て直すと威嚇するような雄たけびを上げながら再び3人に向かって襲い掛かった。



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恐ろしさを目の当たりにする黒龍

「ドラゴン・ストライクゥ!!!」

 

全力での龍の鉄拳が脳みそ剥き出しのヴィラン、脳無とUSJに殴り込みをかけたヴィランの主犯と思われる男が呼んでいたものと同様の物だと思われるヴィランへと突き刺さる。同時に龍の口が開きそこから炎が溢れ出し、脳無の身体を焼く。師匠以外に対して一度も使った事の無い遠慮の欠片もない彼の必殺技、パワーコングの指示通りに一切の遠慮などしていない。

 

「コングさん、回します!!」

 

龍の一撃で身体を焼かれた脳無、その首へと足を引っかけるようにしながらアクセルはエンジンを吹かしながら一気に勢いを付けて回る。首に引っかけた足を解き放つかのように脳無をコングの方へと飛ばす。そこには更なる力を込めて攻撃態勢を取った森の賢者がいる。

 

「っしゃあ!!さあ全力の更に向こうへ、Plus Ultra!!」

 

通常以上に力を込め、渾身の力を、最大限の力を込めて三度剛腕を振るう。コングにとってリュウガとアクセルは初めて自分を敬ってくれるだけではなく確りと上として見てくれる相手である、それほどまでにコングの事務所内での新人扱いは深刻。実際5年経つまでは新人扱いはされると言われていたし経ったら完全な同格扱いでサイドキック内での上下関係はなしと言われている。故に、ある意味でリュウガとアクセルの存在は彼にとって感激物だった。だからか、限界以上の力が引き出され、二人の働きに報いる為に腕を脳無に炸裂させた。

 

「らぁぁぁぁっ!!!」

 

先程よりも確か手応えを感じつつも腕を振りぬいた。最初のクリティカルヒットよりも更に深く突きさせた今ならば行けると確信があった。思いっきり振り抜いた腕から離れる脳無は完全に意識が死んでいるような表情、いや姿をしていた。だがそれは最後の足掻きと言わんばかりに未だ戦闘を続けている王蛇とライノに向けて極太な火柱を吐き出して攻撃をした。

 

「なんだとっ!!?王蛇さんに当たるぞ!?」

「王蛇さんあぶねぇ!!」

 

二人の注意の言葉も空しく火柱は二人を飲み込んだ。炎の津波にも見えるそれを吐き出し終わった脳無は力尽きたかのように地面に落ちると完全に沈黙した、死んでおらず生きてはいる。動かなくなったというのはが正しい表現だ。そして火柱に飲み込まれた王蛇に不安を募らせる二人に応えるように影が見えた、だがそれは余りにも巨大な影だった。ライノだ、王蛇と戦い続けていたライノがそこにいた―――のだが、それはゆっくりと崩れ落ちた。

 

「て、めぇっ……!!」

 

ライノは酷い火傷を負っているのか、苦痛に声を歪ませながら背後に恨みを込めた声を放つ。背後には全く火傷の一つ負っていない完全無傷の王蛇が笑いながらライノを見下ろしている。

 

「近くにいた、お前が悪い」

「クソがぁっ……!!!」

 

凶悪ヴィラン認定を施されるライノ、彼が齎した被害の累計は大きな町のビルの数に相当する数の建築物をその巨体と怪力で破壊した。そんな強大なサイは外道卑怯上等のプロヒーロー・王蛇によって確保した。

 

 

「ぁぁっ~……面白いなこいつ、まだ生きてるじゃねえか。おい起きろ、今度は俺とやろうじゃねぇか」

 

ライノが完全に伸びてしまい、遊び相手がいなくなったので興味が脳無へと伸びる王蛇。彼も彼で脳無の異常性を把握しているのか酷く面白がっている。頻りに起きろ、俺と遊ぼうじゃねぇかと足で突くようにしながら、時折蹴っ飛ばしながらも反応をしないそれに対して、いいサンドバックだなと笑みを零しながら椅子代わりに腰かけた。

 

「おいおいおい良くそれ座れるな……脳丸見えのそれに……」

「如何せヴィランだ。世間様を騒がして市民を危険にする外道畜生だ、この位扱ったって誰も文句言わねぇ」

「むむむっ……過激だが一理ある、だがしかしいやでも、リュウガ君にいきなり襲いかかった上にこのヴィランはあのオールマイト先生と戦った者と同じであることも考えると妥当なのか……!?」

「真面目な考察はしなくていいと思うぞ……王蛇はこんなもんらしいから……」

 

ヒーローと言えば一般的なイメージを言えば、清廉潔白までとは行かないまでも正義感に溢れて善に徹する者だろう。だが王蛇それに真っ向から反している。ヴィランを盾にしたり、平気で相手の急所を何度も何度も攻撃したりなどは当たり前なヒーロー。ある意味アクセルが目指す物とは真逆の存在なのだから。

 

「兎に角、このヴィランはこのまま確保して貰えるか王蛇。アンタなら仮に暴れだしたとしても捻じ伏せられるだろ」

「まあいいだろう。俺もこいつには興味がある、暫くはこいつで遊んでおいてやる」

 

更に歪み切った笑みを浮かべる王蛇、興味は完全に脳無に向いており本気でそれを玩具にして遊ぶ気らしい。まあ下手なヒーローにこのまま見張るように依頼するよりも確実にこのまま拘束し続けてくれるという確信はあるが、妙にそれはそれでいや感じがする。そんな時である、コングの端末に緊急援護要請の通知がやってきた。

 

「これは……近くで他のヒーローが助けを求めてるのか」

「ならいけ、俺は行かね」

「分かってるよ!!龍牙、アクセル行くぞ!!」

 

最初から王蛇には期待していなかったコングはそのまま駆け出して要請があった地点へと向かっていく。此処からそれほど遠くはない、走って2分もしないうちにそこへと到達したのだが思わずその場面を見て凍り付いた。

 

「ぐっ身体が動かない……!!レイディ、君だけでも早く!!!」

「ダ、ダメ私も全く……!!せめて、ファムとデク君だけでも……!!」

「はぁっ……贋作が、今更高潔ぶるのはやめろ。貴様らの本性が見抜けないとでも思っているのか……?」

 

ビルとビルの間の狭い裏路地、そこでは全身から血を流しつつもまだ意志が折れていない二人のヒーロー、ビーストマンとミラー・レイディが必死に白鳥と緑谷を守るように自信を盾にするように立ち塞がっていた。だがそれを嘲笑いながら更なる冷たい物を送る男がいた。その名は―――ヒーロー殺し。

 

「醜く見るに堪えないクズの境地の贋作……いや、ヴィラン以下の偽物が。粛清する」



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問われる黒龍

「貴様ら、先程そこの奴よりも自分の娘を何よりも優先した。優先するだけではない、そいつを囮同然に使った。はぁっ……腐っているな、ビーストマンとミラー・レイディ……だったか」

 

数多くのヒーローをその手にかけてきたヒーロー殺し・ステイン。そんな彼が敏感に感じ取った鏡夫妻の本性に近いどす黒い内面、他人よりも自分の娘を優先するのはある種当然かもしれない、だがその為の行いがヒーローとは思えない。未だ未熟ながらも本物として物を秘めている少年、それを捨て駒のように誘導して自分達は娘を安全に逃がそうとしたのだ。親の愛……いや、価値あるものを守ろうとする守銭奴に映った。

 

「貴様らと違い、そこの二人は本物に成り得る。生かすだけの価値がある……だが、貴様らにはない。腐敗した世界の象徴に等しい……」

「黙れヴィランが!!お前の言葉など聞く耳持たんわ!!」

「貴方みたいな存在に人間を判別する資格なんてないわ!!」

「醜く見るに堪えないクズの境地の贋作……いや、ヴィラン以下の偽物が。粛清する」

 

刃こぼれした日本刀を構え、その切っ先を手始めにとビーストマンの心臓へと向ける。生かす価値もない屑は滅さなければならない、これは最たるものだとステインは思考しながら今まさにそれを実行しようとする。

 

「だああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

 

危険察知、咄嗟にビーストマンを蹴って後ろへと飛び室外機へと飛び乗る。先程まで自分が居た位置へと黒い炎の奔流が迫った。ゆらり、幽鬼のように視線を彷徨ませ、黒炎の主へと目を向ける。そこには右腕に龍の頭を装着したリュウガ、ファイティングポーズを取るパワーコングに何時でも走り出せるようにしている飯田の姿がある。

 

「りゅ、リュウガ君!!?」

「緑谷君無事か!?まさか君までいるとは!!」

「知り合いみたいだな、よし全員纏めて助けるぞ!!」

 

助けが来たっ!と軽く笑っている二人、救援要請を出していたからこそ直ぐに助けが来るという確信であそこまでの余裕のあったのかは分からない。だがこれで二人の粛清が面倒になってきた、そう思う中で鏡夫婦は助けに来た中に龍牙が居る事に気付くと目を見開いた。

 

「りゅ、龍牙……!?」

「嘘、どうしてあの子が……!?」

 

それを見たステインは少しだけ瞳を輝かせながら、地面に降りながら真っすぐリュウガへと目をやった。

 

「はぁっ……黒鏡 龍牙……そうか矢張りそうなのか……貴様、何故こいつらを助けた」

 

問いを投げた。ステインの矛先はリュウガへと向けられていた、興味がわいたのか、それとも最初から気にかけていたのか。どちらにせよ理解出来なさそうに問いただした。

 

「こいつらは真性のクズだ、自らの地位や名誉の為にあらゆるものを利用する。娘を守る為に他に犠牲を強いた、そこの奴はその結果だ」

 

そう言いながら緑谷へと視線を向ける、緑谷もそれはなんとなく理解していた。ビーストマンとミラー・レイディの指示で少しだけ攪乱を狙いつつも隙を見計らうつもりだったが、ステインをそれを易々と上回って白鳥に迫った。それを緑谷は全身を使って庇った、それによって腕に浅くはない傷を負っている。だがそれは逆にステインには自身を犠牲をする事を厭わない姿が本物として判断された。

 

「何故、助けた。お前にこれらを救う理由があるのか」

「あるさ、俺はヒーローになりたいんだ。手を伸ばせば救える命があるなら助ける、それだけでしかない」

 

単純でシンプルな答えでしかない。確かに龍牙にとってはこの二人を救う意味なんてないかもしれない、だけどそれは龍牙自身の個人的な理由であってヒーローを目指すリュウガには当てはまらない。ヒーローが手を伸ばさないなんて馬鹿げている、自分は自分を救ってたヒーローと同じように手を伸ばすだけ。

 

「はぁっ……良い答えだ……今の問答だけで理解出来る、お前は紛れもない本物だ。いやそれ以上だ、未来の大英雄候補……お前は狙わない」

「ヒーロー殺し、ヴィランネーム・ステイン。そのまま大人しく確保されてくれ、俺としては大人しくしてくれると嬉しいんだけどな……」

「無理な相談だな……俺の成すべき事の邪魔はさせん」

 

そう言いながら再び日本刀を構えるステインに構えを取る一同、そんな時だった。自分達の背後に緑谷が白鳥を抱えるようにして落ちてきた。

 

「はぁはぁはぁっ……ごめん白鳥さんを連れてくるしか無理だった……!!」

「いや上出来だよ君!!君たちは下がっていろ、ここは俺達が何とかする!!」

「気を付けてください!!あいつに血を舐められちゃだめです、舐められたら動きが封じられます!!」

 

緑谷も血をステインに舐められていた、だが時間経過でそれが解除されて漸く動けるようになっていた。だがビーストマンとミラー・レイディはまだ動けない様子。ならば邪魔にならないようにと緑谷は白鳥を抱えて此処まで退避してきた、見事な判断だ。

 

「血を舐められたらアウト……しかも確かビーストマンの防具って普通の鉄以上だったと思うけど……それを突破するって相当やばい……アクセル、君は早急にその二人を抱えて退避しろ。君の脚なら確実に退避できる」

「承知しました、ですがコングさんとリュウガ君、気を付けて!!行こう緑谷君!!」

 

アクセルは少しばかり思う所があったが、直ぐに頭を振ってそれを振り切って緑谷に肩を貸しながらその場から離れていく。残された者たちは戦う意志を見せながら一歩も引こうとしない。

 

「リュウガ君、ステインに対して加減をしている暇なんてない。全力で行くぞ!!」

「ええっ全開で行きますよ!」

 

 

リュウガ……!!

 

 

黒炎を纏ったリュウガ、完全な戦闘態勢。完全に個性を発動させながらコングと呼吸を合わせるように並び立つ。それを見た鏡夫婦は完全に顔が引き攣っていた、何を思っているのか知らないが誰もそれを気に留めなかった。ステインはリュウガのその姿を見たとしても何も変わらずに刃物を構え続ける、寧ろ何処か喜んでいるような節すらあった。

 

「はぁっ……いいぞ、さあ来てみろ……ヒーロー!!」

「行くぞリュウガ!!!」

「ええっパワーコング!!!」



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ステインと黒龍

闇に染められた身体、妖しく禍々しく輝く血のような瞳、全てをねじ伏せる強靭な四肢、身体に宿す龍は相手を威圧するかのように黒炎を吐き出す。それらを自分達は酷く恐れたのだ、あれだけ願った息子が恐怖をまき散らし全てを捻じ伏せるヴィランのようだと思えてしまったから。親なのに、子供を恐れ手放した。

 

 

『怖かったのは龍牙じゃなくて世間からの反応だろう、マスメディアは面白可笑しく騒ぐだろうね。あの鏡夫婦の息子はヴィラン!?ってね』

 

『僕は彼の見た目なんて気にしない、世間の目が何だって言うんだい?親ならそれと戦って子供を守るのが役目だろう、君達はそれを放棄したんだ。今更なんだ、君達は龍牙を馬鹿にしてるのかい』

 

 

同時に思いこされるのは根津に言われた言葉。自分達が恐れたのは息子ではない、それによって齎される厄介事だった。自分達の家が築き上げた地位や名誉の心地よさに酔っていた、それで息子を捨てたのだ。だがそれも本当の強さを持った相手には意味がなさない、それは自分達を守る盾にならない。今自分達を守っているのは―――

 

「だぁぁぁぁっっ!!!」

「むっ……!!」

 

自分達が、切り捨てた息子なのは酷い皮肉なのだろうか。

 

 

「オラァァァッッ!!!」

「せぇいっ……!!」

 

唸りを上げる剛腕を受け流しつつも背負い投げ、そして間髪を入れずにほぼ同時にナイフを投擲するステイン。それを腕に装着している巨大な拳の形をしたガントレット『ナックルデモリッション』で咄嗟にガードする、地面に叩きつけられる刹那、地面を殴りつけて身体を浮かび上がらせながら立ち上がるコングだが、そこへステインが鋭い蹴りを放つ。瞬間にブーツの先端から刃が飛び出した。

 

「でぇい!!」

 

その間にリュウガが割り込み、龍頭で刃を真上から殴りつけて圧し折ってコングのサポートをする。それに対してステップを踏んで後ろに引いた。

 

「すまん!!」

「ヒーローは助け合いでしょ!!」

「仰る通りってな!!んじゃ反撃行くぜぇぇえええ!!!!」

 

名誉挽回と言わんばかりにパワーコングは満身の力を込めて地面を殴りつけた。殴りつけられた衝撃は地面を駆け巡りながら、大地を抉る波動となりながらステインへと向かっていく。しかしここは裏路地、周囲は建物に囲まれている。回避は容易だと言わんばかりに跳躍して壁へと飛びついてそれを避けるステインだが次の瞬間目を見張った。

 

「なっ!!?」

 

コングのガントレットが目の前まで迫っていた、それを回避しようと壁から離れるが余りにも咄嗟な事だったので体勢が崩れ、落下するように地面に向かうがその先にはコングが残った左腕を構えながら待機していた。

 

POWER PUNCHING BLAST(パワーパンチングブラスト)!!!

「チィィィィィッッ!!」

 

落下している最悪と言っても過言ではない体勢のまま、ステインは迫る腕を横から蹴って無理矢理身体の向きを変えてみせた。それでも完全に避けきることは難しく脇腹を強く擦るようにコングの必殺技が掠った。

 

「くそっこれでも駄目か!!」

「今の連携を避けるんだなんて……!!」

「ぐっ……流石に今のは危険だった」

 

ステインは再度引きながらも掠った脇腹を押さえる。掠る、と言ってもパワーコングのパワーは文字通り岩を砕き鋼鉄にすら拳の跡を残すほどの強烈な物。掠る程度だったとはいえ身体へのダメージは尋常ではない、肋骨に罅が入っている。鈍痛が重く響いてくる、目の前でガントレットを装備し直すコングを見てステインは笑った。

 

「素晴らしい……お前も本物だな、パワーコング……」

「本物ねぇ……俺にはアンタの言う本物だとか贋作だとかは分からない」

「本物、贋作……今のヒーローは腐っている……オールマイトのようなヒーロー、それこそが真のヒーロー……俺は贋作が蔓延る世界が許せん……!!」

 

鈍痛が走る身体に力を入れながらステインが叫んだ、それはヒーロー殺しの源泉(オリジン)。『ヒーローとは見返りを求めてはならない。自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない』、それこそがステインが心に宿す真のヒーロー、オールマイトのようなヒーローこそが本物と語る理由であった。

 

「贋作が……ヒーローという称号を汚すのだ!!!ヒーローとは、目的であり手段ではない!!だから俺が正す、贋作が蔓延る世界の粛清する!!」

 

その様に思いの丈を叫ぶステインに少なからずコングは理解と納得を示してしまった。今の世の中にいるヒーロー達は本当に心から誰かを救いたいと思ってなった者がどれだけいるのだろうか。多くがヒーローというネームバリューが齎す物に目が行って本来すべき事を見失っているのではないか、そう思う。だからと言ってステインの行いを肯定してはいけない、どんな事だろうと彼は人を殺めているのだ。そう思う中でリュウガは言った。

 

「可愛そうな人だ、貴方は……」

「何だと……?」

 

リュウガの言葉から出たのはステインへの同情、思わぬ言葉に不信感を持った声が出た。

 

「貴方は本当のヒーローを知らないんだ」

「何をっ……」

 

リュウガは続ける、ステインに言葉を述べさせない。

 

「オールマイト、大きすぎる光だけを見つめてそれだけが正しいと思っている。違う、大きすぎる光じゃ全てを照らせない。小さな光だっているんだよ、俺を救ってくれたのは小さな思いやりって光だったんだよ。貴方はをそれを知らないんだ」

「……」

「確かにオールマイトは凄いヒーローだよ、俺もそう思うよ。平和の象徴として活動し続けるあの人を俺も尊敬している、だけどオールマイトだけが世界の真実みたいな言い方をしていいわけじゃない」

 

龍牙、彼を失意と絶望の奥底から救い上げたのはたった一人の温かい思いやりだった。その光は影を落として心に芽を出すだけの木洩れ陽を作った。そこから眼を出し、成長を促し未来という先を見せてくれたのは優しげな思いだった。決して大きくない、誰でも施せる小さな光。だがそれによって龍牙は救われた。

 

「貴方だって理解している筈だ。貴方の行動で齎すのは影だ、光じゃないって事は」

「黙れ……」

「現実と理想の狭間で苦しみ続けてる貴方は苛立ちを今の社会にぶつけてるに過ぎない」

「黙れっ……!」

「ただただ自分が認めたヒーロー以外は認めないと駄々を捏ねている、なりたいヒーローになれなかった子供なんだよアンタは!!」

「黙れぇぇぇえええ!!!!」

 

雄叫びを上げた、ステインは荒々しい息を吐きながらもリュウガを黙らせようと刃を差し向けた。黙らなければ殺すという明確な殺意の中でリュウガは一層瞳を鋭くしていた。

 

「黙れっ……何も知らぬ子どもが、理解もせぬ子どもが……俺の、俺の信念を侮辱するなぁぁぁぁぁ!!」

 

ステインはあからさまな程に取り乱していた、自分の心の中を搔き乱されたかのような気分になっていた。目の前の少年に自分が理解されたと僅かながらに思いながらも、それを振り払うかのように否定する。龍牙は読み解いた、ステインの心の中に燻っているヒーローへの憧憬の心を。今の社会に絶望しきっているその心を感じ取った、本当に沈み切ったからこそ感じ取れた。

 

「ァァァァアアアア!!!!」

 

迫るステイン、構えを取るコングよりも先にリュウガが飛び出した。そして龍頭を構え、ステインの斬撃を紙一重で回避しながらそれを叩きこんだ。インパクトの瞬間にステインの身体に龍の紋章のような物が浮かび上がりながらもそれを全力で殴り飛ばした。

 

DRAGON FANG IMPACT(ドラゴンファングインパクト)!!!

「がぁっはっっ……!!!」

 

渾身の一撃、それを受けたステインは壁へと叩きつけられながら意識を手放した。自身が認めた龍の牙、その名を冠する若きヒーローによって、討ち取られた。




なんか、ゼロワン要素が多くなってきたな……。


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少しだけ、嬉しい黒龍

「随分嬉しくなさそうだね、リュウガ君」

「なんというかまあ、複雑な気持ちでして」

 

リュウガが最後の一撃を放って仕留める事に成功したヒーロー殺し・ステイン。誰もがその成果を称賛する事だろうがリュウガは何処か全く別の見方をしながらこの事件にピリオドを自分の気持ちに打ち込んだ。

 

「ステインは分かってたんです。本当はヒーローになって変えるべきだった事は、だけどそれに背中を見せて殺しの手段を取ってしまった。それはたった一人でも彼に理解者が、いや共感してくれる人がいたらそうなってたんですよ」

 

言うなればステインが道を違える事になってしまった理由に対する思いだった。それが酷く自分に似ているように思えたのであった。根津という人が優しさを向けてくれたからこそ今の自分が居る、だが根津が来てくれなかっただけで自分は間違いなく悪からの誘惑に負けてしまって最低最悪なヴィランに堕ちてしまった事だろう。ステインだってそうなのだ、彼のヒーローは手段ではなく称号でなければならない、崇高な意志がない物にヒーローになる資格などはないという事に少しだけでも共感しただけでも道は大きく変わっていた事だろう。そんな瞳を新聞で大きく騒ぎ立てられている記事へと向けた。

 

『ヒーロー殺し・ステイン。遂に確保!』

 

そんな風に大きく取り上げられている記事、そんな記事を吐き捨てるかのようにリュウガは目をそらした。今回の一件ではリュウガの顔は世間には一切出ていない、パワーコングがビーストマンとミラー・レイディと協力して奮戦の結果の確保、と世間的にはなっている。

 

「俺も正直納得いかんよ、なんてリュウガ君の事の手柄を取らなきゃいけんのさ……これじゃあ嫌な上司だよ」

「俺にとってはそっちの方が良いんですよ。それにコングさんだってヒーロー免許持ってない人間に対して、全力での個性使用許可出したペナルティを受けなくて済んだんだからいいじゃないですか」

「むぅっ……それは否定しないけどさ」

 

このような処置が行われた理由としてはパワーコングが下した個性使用許可のペナルティを誤魔化す為、そして―――一番の理由はビーストマンとミラー・レイディに貸しを作る為であった。今回の一見の手柄を得て夫婦のヒーローとしての格は間違いなく上がった、二人が最も気にする社会的地位と名誉を更に大きくした。その代償として本当の意味でリュウガとの決別を約束させられた。

 

「にしてもあの夫婦があんなに屑だったなんて……そりゃシャチョーも嫌う筈だよ。苦労したんだねリュウガ君」

「まあそれなりに」

 

今回の一件でパワーコングも黒鏡 龍牙と鏡一家との一連の事情を把握する事になり、龍牙の理解者の一人となった。同時に今まで尊敬の対象として見ていた鏡一家への見方が激変し、最早嫌悪の領域に入っていた。

 

「兎に角、君は貴重な経験を積んだって事は喜んでおこうね。絶対にいい糧になった筈だから」

「ええっそう思ってますよ、それより早くこの反省レポート終わらせないと……」

「あれっそれ何のレポートだっけ」

「ヒーロー殺し・ステインとの戦闘レポートです。今回の俺の戦闘行動に関して師匠からまだまだ詰めが甘すぎる!!って怒られてその反省文と改善レポートの作成中です」

「うわぁっ厳しいなぁ。俺も手伝うよ」

「有難いですけどコングさんは良いんですか取材とか」

「いいんだよ。だって俺、世間的にはサポートでメインはあの夫婦って事になってるから」

 

コングの申し出を素直に受け入れながらもリュウガはレポートの作成に力を入れる事にした。そんな中、二人のお茶を差し入れる一人の影があった。

 

「ああ悪いね―――ファムちゃん」

「いえっ代わりの職場体験を引き受けて頂いて有難いのはこちらですので」

 

そこには龍牙の実の妹の白鳥の姿があった。彼女は本来、鏡夫婦ことビーストマンとミラー・レイディの事務所で職場体験を行っていたのだが今回のヒーロー殺し確保の一件で様々な事に対応しなければいけなくなってしまい、職場体験どころではなくなってしまった。そんな彼女の職場体験を引き受けたのはギャングオルカの事務所であった。

 

「ファム、お前こっちに来てよかったのか。あっちでも充分貴重な経験出来た筈だろ」

「……うんいいの。私は広報とかああいうのは興味全くないから」

 

何処かそっぽを向くような仕草をしているが、その対象はリュウガではなく両親へと向けられている。今回の一件、白鳥は両親に対する懐疑心がより一層深まった。龍牙の事で既に尊敬の思いが薄れていた所にステインに襲撃された時に緑谷を囮をするかのような指示である種の見切りをつけたような状態へと入った。

 

「ファムちゃん、君はパトロールに行くメンバーが居るからそれに同行して貰う予定だよね。もうそっちに回って貰って構わないよ」

「はいそれじゃあ失礼してそちらに回らせていただきますね」

 

礼儀正しく頭を下げるとそのままパトロール組が待機している部屋へと向かっていく。そんな後姿を見送りながらも思わずリュウガを見つめ直すコングは呟いた。

 

「なんであんなに良い子に育ったんだろうね」

 

龍牙の分まで愛情を受けたからこそあんなに真っ直ぐ成長したのだろうか、そうなのかと考える意味なんてないのだろうが考えずにはいられなくなる。取り合えずそんな考えは一旦打ち切って、リュウガのレポートの作成に思考を切り替えるのであった。

 

だが、その時の龍牙は気づきもしなかった。自分しか入れない鏡の世界の中から、自分を見つめる視線があった事に……。



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日常を興じる黒龍

職場体験も終了し龍牙は普段通りの学校生活に戻っていた。教室に入ると早速皆が自分達の体験がどんなものだったのかを武勇伝のように語っている。

 

「やっぱりだけど避難誘導とかが主だったな、それでも現場の空気感じられてやばかったぜ!!すげぇびりびり来た!!」

「アタシもそうだったなぁ。人質の場所の確認とかやったりはしたけど、やっぱり直接的な戦闘とかはなかった感じ」

 

矢張りと言うべきか、職場体験というからはあくまで体験させるに留める。普通に考えればまだ高校生に過ぎない雄英の生徒達に同じ活動をさせる訳はなく、守るべき対象とされているのが一般的なのだが……そんな話を聞いて龍牙は本気で衝撃を受けているかのような表情を作っていた。

 

「龍牙如何したんだよ、すげぇショック受けてるみたいな顔しやがって」

「……だって俺凄いスケジュールで、ええっ……?」

「いや俺達が行ったのって職場体験だぞ。そんな凄い事させて貰えるわけないだろ」

 

それじゃあ自分が1週間の間行ってきたあれは何だったんだろうか。数回マジで死ぬかと思った事もあったのだが、主に王蛇関連でだが、それでも危険と隣り合わせでサイドキック扱いされて1週間を過ごしてきた龍牙にとって安全で無理のない1週間を送ってきた皆には驚きしか覚えていなかった。

 

「そうだ龍牙君、君はあの後大丈夫だったのかい?コングさんと一緒だったが」

「大丈夫だったよ。まあ俺はサポートしかしてなかったから記事にはされなかったけどな」

「それでも僕は君を本気で尊敬しているぞ!!君はあのヒーロー殺しと相対していたんだからな!!」

 

飯田の発言を聞いて皆がそうだそれを聞こうぜ!!となった。如何やら龍牙が来るまでの間に緑谷と飯田が自分達の体験で龍牙に助けられたことを話したらしいのだが詳しい話は本人が来てからにしようと待っていたらしい。一応記事になっている事に反するような事にならないように事を話しておく、後さり気なくコングの事をよいしょしておく。

 

「ビーストマンとミラー・レイディはどんな感じだったの?」

「さあっ見ている余裕なんてなかったからな……ぶっちゃけコングさんが一番働いてた気がする」

 

この後は本当な上に全くもって嘘をついていない。見ている余裕なんてなかったし本当にコングが一番頑張っていたのだから。

 

「それにしても皆は結構いい経験出来たんだな……麗日さん見たらわかるわ」

「ええっ……本当に、とても……有意義だったよ」

 

と何やら悟りでも開いたかのように呼吸音を立てながら演武を行っている彼女を見ればわかる、というかなんかもう別人レベルで凄い迫力になっている。

 

「龍牙君はどんな感じだったの?」

 

そんな風に聞いてくる葉隠に皆が同意見だった。トップヒーローの事務所に行った龍牙、同じく轟にも訪ねたらしいがそこまでの事は教えてくれなかったらしくならばとこちらに尋ねてきている。思わず龍牙は言ってしまった。

 

「一言で表すなら……」

『表すなら!?』

「別次元かな、色んな意味で」

『おおっ~!!』

 

何やら好意的な解釈をしてくれているようだが、活動内容的にも色んな意味で別次元なのであった。だがそれをここで言ってしまうとギャングオルカに迷惑を掛けかねないので口にチャックをしておく事にする。一応コングからもヴィランと戦った云々などの事や口外しない欲しいと釘を刺されている。

 

「朝の5時から早朝のパトロールの後に軽い朝食の後は事務仕事とか、その他にもやる事いっぱいあったな……。ぶっちゃけスマホ見てる暇なんて本当になかったよ」

「うわぁ流石ギャングオルカの事務所だな、すげぇ忙しいんだ……」

「っという訳だ葉隠君、龍牙君も多忙だったから勘弁してやってくれないか?」

「もう分ってるってば!!もう言わなくていいよぉ~!!」

 

グループチャットの事で龍牙からの返信が全くない事に対して一番反応していたのが葉隠だった。彼女は個人メッセーを龍牙に何度も送っていた、中身は返信が無い事に対する心配などや何処か怒っていますアピールなどだったりした。結局龍牙はそれに対して返信出来なかった。

 

「なんかごめんなさい……」

「もういいってば~!!」

 

酷く照れながらも嬉しそうにしている葉隠。なんだかんだで彼女は龍牙の事を心配していた、だがそれが杞憂に終わって良かったという所だろう。そして龍牙は改めて思う、ヒーローというのは当たり前の日常を守る為に居るのだと。そんな風に思った直後、視界の端の窓に一瞬だけ何かが映った。

 

「……?」

 

ほんの僅かな切れ目、そこにいた何かを自分は知っているかのような気がした。だが一瞬の出来事だったので結局気に留める事もなくそのまま友達との雑談に興じてしまい、意識の外側にそれを弾き出していた。だがそれは常に龍牙を見つめ続けていた、獰猛に獲物に狙いを定める怪物のように瞳を輝かせながら……。それは蜷局を巻きながら今か今かと牙を研き続ける、その時が来るまで。

 

「―――さあ君の才能を抉じ開けよう、君から奪った物を返そうじゃないか。鏡君」



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テスト前の黒龍

「勉強全然してねぇ!!!」

「「してな~い!!」」

 

上鳴と芦戸、そして葉隠の悲鳴のような声が聞こえてくる、そんな悲鳴を上げたのも間もなくに迫っている期末テストが大きく関係している。雄英高校のヒーロー科と言えど此処は高校、当然期末テストは存在するのである。体育祭やら職場体験やらで忙しかったので致し方ないと言えばそうだが……この雄英には筆記だけではなく実技に当たる演習もある。頭と身体を同時に鍛えなければならない。

 

「如何しよう!?私、中間やばかったから今回低かったら大変だよぉ!!」

「私も~!!」

「マジでやべえよ!?」

「演習試験もあるのが、辛えとこだよな。勉強ばっかりしている場合じゃねぇし」

 

と葉隠と芦戸、上鳴が慌てている中、一人どや顔を浮かべている峰田。なんだかんだで全開中間でクラス内順位は9位なのでそれなりに成績自体は良い峰田。上鳴曰く、お前のようなキャラは馬鹿で需要があると語るが、当人は世界に需要があると謎の余裕を見せる。

 

「でも峰田、お前演習大丈夫なのか。寧ろ心配すべきなのはそっちなんじゃ」

「オイラなら完ぺきにこなせるさ」

「何その謎の自信」

「うわ~ん龍牙君どうしよう~!!!」

 

と龍牙に泣きつく葉隠。透明なので分かりにくいが制服を見る限り、龍牙の目の前で懇願するように手を組んでいる……と思われる。

 

「勉強、見ようか?」

「良いの!?そうだ龍牙君って頭良いもんね!!」

「そうでもない、と思うけど」

 

と当人が言っているが中間の結果は飯田と同率3位なので相当に頭がいい部類である。自宅学習の外にも根津に勉強を見て貰ったりもしていたのでその影響もあって頭の中も鍛えられている。教える方もハイスペックの根津であるので全科目を完璧に教え込んでいる。

 

「俺なんかで良かったら」

「うわぁ~ん龍牙君は私の救世主だぁっ~!!!」

「大袈裟だなぁ……」

 

と龍牙の手がブンブンと上下に振られる、葉隠が握って感謝を示すように振るっているのだろう。

 

「それじゃあ勉強会……って感じで良いのかな」

「うんっそれでいいよ!!それじゃあ今度の御休みに何処かのカフェとかで」

「よしそれじゃあ頑張っていこうか葉隠さん」

「うん!!(あれこれってもしかして……)」

 

デートって奴なのでは!!?と葉隠の脳内が一気に染まってしまった。全く意識こそしていなかったのだが勉強会をする為に二人で外出をしてカフェに行く、これは少女漫画で見た伝説のお勉強デートと言う奴なのでは!!?と一瞬で頬が熱くなっていく、先程まで何も思わなかったのに急に顔が熱くなっていく。

 

「―――さん、葉隠さん」

「うわぁっ何!?」

「いやこれからお昼ご飯行くけど、如何する?」

「あっうん行く行く!!」

 

龍牙は緑谷達に誘われたらしくそれについて行くのだが、葉隠は龍牙に連れられるように昼食に行くのだが……その間に葉隠は顔を真っ赤にしながら龍牙の事をチラチラと見ながら後に続いて行った。

 

「(ううっ何でこんなにドキドキしちゃうのぉ……ううっただ勉強教えて貰うだけなのにィ……)」

 

 

「でもまあやっぱり、問題は峰田も言ってたが演習試験だろうな。何をするのか把握出来ないのが怖い所だ」

 

食堂に付いた面々はそれぞれ食べたいものを注文してテーブルに着き、食べながら話を続ける。因みに龍牙が頼んだのは海鮮丼セットである。

 

「流石に突拍子の無い事はしないとは思うが……普通科目は授業範囲内だからそっちは何とかなる」

「うん。ノートも確りとってあるし、それと一緒に教科書を見直せば何とかなるよね」

「なんとかなるんや……」

「龍牙君も、何とかなるの……?」

「まあなると思う」

 

そんな話をしつつも龍牙は葉隠との勉強内容を決めていていく。そんな中、緑谷の背後から迫る影がトレイをぶつけそうになるのを間一髪のところで隣に座っていた龍牙が手を上げて止める。

 

「気を付けろ。食事中だ」

「……ああっすまないね」

 

まさか止められるとは思ってもみなかったのか、口角をひく付かせながらも謝罪するB組の物間。龍牙からすれば悪意に満ちている彼のような存在の行動は簡単にセンサーに引っかかる。龍牙としては分かりやすい相手なのである。

 

「所でさ、龍牙君だっけ?君、ギャングオルカの事務所に行ってる時にパワーコングの活躍に居合わせたって言うじゃないか。注目を浴びる要素ばかり増えていくよねA組って…ただ、その注目って、期待値とかじゃなくてトラブルを引きつける的なものだよね。特に君なんて個性を発動させた時なんて完全にヴィランじゃないか!何時か、君がヴィランと間違われて退治されない事を願うよ!!」

「ちょっとなんてことを!!」

 

物間の嫌味ったらしい発言が進んでいく中で流石に看過できない物が出た。それは龍牙の個性に関する事、彼とて好きで今の個性の見た目になったわけではない、これは全ての異形系個性に当てはまる事。これは嫌味ではなく完全な差別だ、と葉隠は怒りながら言い返そうとするのだが龍牙は緑茶を啜りながら返す。

 

「それで結局何を言いたいんだ、B組の物間……だったか。今の発言はヒーローとしてアウトな事気付いてるのか?」

「はぁっ?何処かアウトなのか教えて欲しいねぇ、寧ろ君の無事を祈ってるんだけどねぇ!!」

「そうか、ならば次から気を付けておけ。俺はもう気にしていないが、個性の見た目云々は異形系の個性を持っている人たちに対する差別になってしまう恐れがある。ヒーローが差別的な事を口にするのは良くないぞ」

「うっ……!!」

 

本人も言われて気付いたのか後ずさりをする。

 

「無事を祈って貰えるのは感謝しておく、有難う」

「ま、まあそういう事だよそれじゃあ……」

 

毒気を抜かれたように少し気落ちしながら去っていく物間、龍牙にとってはあの程度の言葉では心が揺らぐ事などあり得ない。

 

「大人だね龍牙君~!」

「葉隠さんもありがとうね、態々怒ってくれて」

「当たり前だよこの位!」



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演習試験に臨む黒龍

三日間に渡って行われた期末筆記試験、1学期の集大成的なテストに皆が顔を青くしたり勉強した所が出たと一喜一憂したりする中漸くそれが終わりを迎えた。テストの回収も済んだところで実技試験前の少しの休憩時間に葉隠は龍牙の元へとすっ飛んで行った。

 

「龍牙君ありがとうぉぉっっ~!!!問題殆ど分かったよぉ~!!」

「そりゃよかった、為になった?」

「なりまくりだよぉ~!!やっぱり龍牙君は私の救世主だぁ~!!」

 

実は中間の結果がクラス内で18位の葉隠、今回の期末は絶対的にやばいと思っていたらしい。そんな葉隠は期末までの1週間をみっちり龍牙と勉強をしてきたのである。時にはカフェで、時にはお弁当を持ち寄って高台の公園で、場所を変えながら分からない場所があれば丁寧に解説と簡単な解き方を教えながら葉隠は頑張って勉強をしてきた。そのお陰でもあってか、問題を全て埋めたどころか殆どの出題が理解出来た程だった。

 

「龍牙君の予想ドンピシャだったよ、なんであんなにぴったりだったの!?」

「……勘?」

「凄い勘!!今度お礼にアイス奢るね!」

 

勘。実際勘なのだが……実は今まで龍牙は根津に勉強を見て貰っていた。その根津は教材として過去の雄英のテストから出題した事があったのでテスト傾向が龍牙には何となく読み取れていた。それに合わせてラスト二日の模擬テストとして龍牙が予想問題にかなり近い物が多く出題されたのであった。そのお陰もあって葉隠は大きな手応えを感じる事が出来ていた。

 

「龍牙君って先生の才能あるよ!!凄い解りやすかった!」

「葉隠さんが元から頭が良いんだよ。俺はそれに合わせてちょっと調整しただよ、自分に合ったやり方さえすればどんどん伸びていくのが人間だからね」

「兎に角ありがとうぉ~!!これで赤点回避だ~!!」

 

余談であるが、葉隠の点数は全教科で最低でも70点台で、クラス内では9位という好成績だったという。尚、龍牙は緑谷と同率3位だった。

 

「それでは演習試験に入る。当然これにも赤点はある、補修地獄に遭いたくなきゃ死ぬ気で乗り越えてみろ」

「あれ、先生多い……?」

 

全員がコスチュームを纏っている中で集合、間もなく行われる演習試験に向けて気合を入れるのだが……明らかに先生の数が多い。相澤にエクトプラズム、セメントスにミッドナイト、13号にパワーローダーと雄英が誇る教師陣が集結している。

 

「尚、君達なら事前に情報を仕入れてこの試験の事を聞いてるかもしれんが生憎その情報は無駄になった」

「「……えっ」」

 

その言葉に絶望し真っ白になったのは上鳴と芦戸であった。情報ではロボ相手の演習という話だった、この二人に共通しているのは対人相手では全力で個性を使いづらいという事。だがロボ相手ならば一切の加減をする事なくぶつかっていけると踏んでいたのだが……どうやら変わっているらしい。

 

「今回から内容を変更しちゃうのさ!!」

『校長先生!!?』

「(父さんお茶目……!!)」

 

相澤の捕縛布の中から顔を出す根津、それを見て龍牙は軽く可愛いなと思ったりするのであった。変更するのは試験をロボから対人戦、つまり教師との対決へと変更。ヴィランの活性化を警戒してより実戦的な物に変更し、より高みを目指した教育の為との事。そして、これから行われるのは二人一組(ツーマンセル)か、三人一組(スリーマンセル)での教師と戦う試験となる。

 

「ペアの組と対戦する教師は既に決まっている。動きの傾向や成績、親密度…その他諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから発表してくぞ」

 

発表されていく組み合わせ、龍牙は一体どうなるのかとドキドキしながら待っていると遂に自分の名前が呼ばれた。その相手とは……

 

「黒鏡」

「はいっ!」

 

 

数日前。学校の一室では教師らが集まりA組の演習試験によるペアの検討が行われていた。

 

「次に黒鏡ですが、個人的にはこいつをどうするべきかと思っています」

「彼カ……確カニナ」

 

相澤の意見に賛同するエクトプラズムに続くように殆どの教師がそれに同調した。それは龍牙が飛び抜け過ぎている実力と鍛え上げられ過ぎた個性が関係している。

 

「言わずもがな、攻撃防御機動力の全てにおいて完璧と言っていいでしょう。黒炎に剣、個性の部分発動、攻撃の反射……それでいながら力押しに頼らず、それなりに頭を回した小細工も出来る上にかなり周りを見る。ハッキリ言って1年で此処まで個性を鍛え上げている奴は滅多にいない。加えて1年が躓きがちな持久力においてはそれが最も優れている」

「アハハハッいやぁ全く息子が優秀だと困っちゃうよね!!」

 

と笑っている根津だが、他の教師たちからも同じような笑いがこぼれる。確かに教師からすれば課題を用意するのが大変だがそれだけ将来有望でこれからも期待が出来るという事になるのでこれはこれで相手をするのが楽しみになる。

 

「僕が相手をしようかい、僕は龍牙の苦手コースは全て知り尽くしているよ!」

「私でもいいわよ。龍牙君相手なら私の個性は十分通用するし」

 

と根津とミッドナイトが名乗りを上げる。龍牙の相手としてはこの二人が最も効果的なのは明白、二人に決定するべきと思ったのだがそれに相澤は待ったをかけた。

 

「ですので、こいつの課題はパートナーと如何に歩調を合わせ、如何に相手を活かせるのかにするつもりです」

「成程……確かに龍牙君単体で見た場合はかなり厄介ですが、それを抑え込んで相手に合わせる、如何にその中で全力を出すかにシフトするんですね」

 

13号の言葉に相澤も頷く。龍牙一人だけの能力はギャングオルカに鍛えられているだけあって申し分ない。だが相澤はそこに目を付けた。根津から聞いたが基本的に龍牙の訓練は一対一か一対多が殆どで自分の方が数的な優位にあった事は無い。ステインの時に経験こそあるが、あれはパートナーが経験豊富なパワーコングだったからこそとも言える。だから実力的に大きく劣る相手と組ませる事にする。

 

「その相手は葉隠を当てるつもりです。当人の個性は透明化のみで戦闘向きではありません、故にそれが黒鏡の足枷にもなる。そこを如何フォローするのかを見ます」

「では相手は如何するんだい?」

「黒鏡に最も通用するのは搦め手でしょうが、敢えて―――全力で叩き潰す方向で行きます。ですので相手は―――」

 

 

「私がする!!さあ黒鏡少年、葉隠少女、全力で掛かっておいで!!」

「オ、オールマイト先生が相手なの!!?」

「おいおい冗談きつくねぇか……?」

「HAHAHA!!」



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試験で頑張る黒龍

「それにしても……オールマイト先生が相手なんて予想外だねぇ……」

「いやはや全くだ……合格させる気ってあんのかね……」

 

試験の担当がオールマイトである事が判明して早々に困ってしまっている龍牙と葉隠。あの№1ヒーロー、平和の象徴たるオールマイトが相手、これの受難に感謝しよという事なのかもしれないがそれでもその受難が余りにも強大過ぎる。幸いなのがこの試験の内容が担当試験官の打倒ではない所。

 

制限時間は30分、生徒は事前に渡されているハンドカフスを教師にかけるかチームの一人が試験場から脱出する事が出来れば条件を達成した事になる。逃げる事も許可されている、ある意味戦闘訓練に似ているのだが問題は実力差が激しい教師陣が相手という事。ただ逃げるだけでもある種至難の業ともいえる、なので教師陣はハンデとしてサポート科制作の超圧縮重りを装着する。重さは各教師の体重の半分、古典的なハンデだが動きづらさは増していくし体力も削られていく。

 

「……だけどオールマイト先生に体重の半分程度って意味あるのか……?」

「うん、それ私も思った」

 

あの超絶パワーを発揮するオールマイト、あの人ならば体重の半分程度の重りなど苦にもせずに動いてきそうなのが頭の中で再生される。恐らく余裕で動いてくる、ある意味自分達が一番ハンデが無い状態。これは本当にちゃんと考えられて組まれているのか、問い質したくなってきたのだがもう何を言っても無駄なのでやるしかない。

 

「葉隠さんハッキリ言うけどさ、先生に相対した時に取るべき行動って何でしょうか」

「逃げの一択!!」

「うん俺もそう思うわ」

 

ヒーローにとって大切なのは見極め。自らの実力と相手の実力の考慮し、それを見極めたうえで自身がどんな行動を取るべきなのかを思案し行動する事。余りにも相性が悪い個性、実力差がありすぎる場合にはサポートや援軍を呼びに行くのが最善。つまり自分達が取るべき行動は如何にオールマイトを突破して脱出判定となるゲートを突破するか。

 

「でも私は透明だからきっと行けると思うよ!!」

「俺もそれは一瞬考えた、オールマイトには葉隠さんは見えない……だからこそ取る選択肢は限られるんだよ、オールマイトは多分―――待ち構える」

 

 

『黒鏡・葉隠チーム、演習試験……Ready Go』

 

遂に始まった演習試験。ビルが密集している地域が再現されている演習場を舞台に平和の象徴を相手にする試験が始まった。龍牙はいきなり完全に個性を発動して臨戦態勢を取る、葉隠と共に慎重にゲートへと迫っていく。

 

「ぅぅぅっ……緊張するよぉ……コスチュームは先生から指摘を受けて個性同調型にしたから全裸にならなくて良くなったけどそれでもなんか寒気が止まらないよぉ~……」

 

ビル影に隠れながら慎重に進んでいく中で、思わず葉隠が弱音を吐いた。彼女は個性の関係上で個性をフル活用しようとした場合には全裸にならなければいけないというハンデがあったのだが、それでは現場で身体を傷付けて怪我をして透明の意味がなくなるうえに危険という事で、個性同調型の物へと変えられていた。彼女の意志一つでコスチュームは消えたり、現れたりする。そんな中、龍牙の手が消えている筈の葉隠の手を強く包み込む。

 

「ぴゃっ!?」

「大丈夫だよ、俺が付いてる。寒かったら俺が温める、怖かったら俺が抱きしめる。だから安心して、一緒に頑張ろう」

「りゅっ龍牙君……う、うっうん私頑張る!!」

 

力強い言葉を受けて葉隠は頬を叩いて気合を入れながら返事をする。気付けば震えは止まっていた、代わりに顔が凄い熱くなっているが、本当に透明で良かったと思いながら龍牙の後に続いていく。10分ほどを掛けて漸くゲートが視認出来る場所に到達する。が、そこにはオールマイトの姿が無かった。

 

「あっあれっ?先生いないよ?」

「まさか……どっかから見張ってるのか?いやでもなんでだ、そんな事したら何時葉隠さんがゲートを通過するのかも分からないのに……」

 

予想に反して姿が見えないオールマイト。葉隠の事を考えるとゲート前で待機するのが最も妥当な筈、それなのに姿が無いというのは自分達がそう考えていると予想して敢えて隠れているという事なのだろうか。だとするとこれは罠なのだろうか、それだとしても態々ゲート前の優位性を捨てるとは思いにくい。

 

「ど、どうする龍牙君。このまま行っちゃう?」

「……いやオールマイトがゲート前で待機するっていう優位性を捨ててるのかが分からない。だって、一歩間違えたら葉隠さんをスルーさせる事になる」

「だよね……って事はワザとで罠って事?」

「そう思うのが妥当だろうね……このまま突っ込めば何をされるのか分からない、だけど待ち続けてもタイムアップでジ・エンドか……」

 

透明人間の葉隠がいるのにもかかわらず、それを活かしきれない。寧ろこれではオールマイトの方が透明人間の優位性を保持している。全く真逆の立場に立たされているような気分になってくる。

 

「残りは15分……半分か。ねぇ葉隠さん、自分の姿が見えないのを見えるようにする場合ってどうすると思う?」

「えっどういう事?」

「先生は罠を張ってる、それは葉隠さんを把握する手段を持ってるって事。それって何だと思う?」

「う~ん……何かを被せるとかかな、色を付けたりとか」

「色を付ける、被せる……何を……」

 

突破まであと少しという所、だが姿なきオールマイトを警戒する二人。一体どうするのか……!?




「後の緑谷少年と爆豪少年の試験の事を考えると少しでも温存しないと思ったけど、やっぱり正解だったなぁ……警戒心が素晴らしいぞ、黒鏡少年に葉隠少女!」

実はオールマイト、全く罠張ってません。


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死力を尽くす黒龍

「後、10分……もう考えてる時間はなさそうだ」

 

話し合いを進めながら作戦を考えていたがもう時間が迫ってきている。これ以上のロスは拙いと判断し龍牙はもう動くことを決意する。姿を一向に見せないオールマイト、罠だと分かっていたももう飛び込んでそれを乗り越えていくしか選択肢が存在しない。やるしかない、気合を入れて臨むしかない。

 

「このまま待ってても無駄。葉隠さん対策に赤外線やら温度探知系の物でチェックしてる事も考えるとやっぱりこれしかない」

「うっうん。でも幾らなんでも無茶なんじゃ……」

「俺だって無茶だって思ってる、でも食い止める事は出来る筈、手筈通りに行こう」

「うん……頑張ってね!!」

「ああっそっちも気を付けて」

 

葉隠と龍牙はハイタッチをした後に拳を上下からぶつけ合いながらもう一度ぶつけてから硬く握手をする。この時、龍牙からすれば一切葉隠の手は見えていないのに完璧に合わせているのに葉隠は気付いて、胸の前で手を当てて少しだけ顔を赤くしながら笑ってから配置に付いた。

 

「……来るっ」

 

ゲートの前、あと少しでゲートを潜り抜けられる所まで歩み出た瞬間凄まじい存在感が一帯を包み込んだ。とんでもない威圧感と存在感が発散されていた。それは龍牙の目の前でスーパーヒーロー着地をしながらゆっくりと立ち上がりながらこちらを見据えた。常に浮かべられた笑顔と筋骨隆々たるマッスルボディ、平和の象徴、オールマイトがゲートを塞ぐように立ち塞がっている。

 

「HAHAHA!!待ってたよ黒鏡少年、もう誰も来ないんじゃないかって少し心配しちゃってたよ!!」

「俺としては来てくれないほうが嬉しかったですよ、全くどっちが透明人間なんだか……」

「葉隠少女だよ透明人間は、面白い事を言うね!HAHAHA!!」

 

とアメリカンな笑いを上げているオールマイトだが、龍牙的にはこの笑いもきっと分かっていたやっているんだと思わざるを得ない。此処まで来て分かった事だが赤外線や温度探知機のような物は見当たらない、という事はオールマイトは感覚的に気配を察知できる能力がある、いや経験で把握出来るのだろう。これが№1ヒーローという物なのかとつくづく思い知らされる。

 

「どっちみちあなたとの直接戦闘は避けられなかった。ならば―――すべき手は真正面から貴方を突破するしかない!!」

「実にシンプルだ!!良いよいいよそう来なくちゃ、その間に葉隠少女はゲート通過させるつもりかな?」

「さて如何だか……行くぞ平和の象徴、ギャングオルカ仕込みの戦闘を見せる!!」

「来いよ少年、胸を貸してあげよう!!」

 

龍が咆える。幻想の生き物、それが吼えた。そして駆けた。明らかな格上であるオールマイトにカウンターは無謀、超スピードに超パワーを併せ持つ規格外のスーパーヒーローに対して待ち戦法は悪手、攻めの一手しかない!!

 

「攻めか!!流石に豪胆だね!!」

 

龍牙渾身の右ストレート、それに合わせるようにオールマイトも腕を振るう。地面に足がめり込むほどの力を込めながら放たれる一撃、龍牙は龍の口を開きながら炎を吐きながらそれを纏わせながら威力を咄嗟に上げながら振り抜く。

 

「腕部集中、ドラゴン・ストライクゥ!!!」

TEXAS SMASH!!!!

 

オールマイト必殺の右ストレート、尋常ではない膂力によって振るわれるそれは爆風のような風圧を纏いながら放たれる。龍牙の炎を完全にかき消しながら龍頭とぶつかり合った。双方の一撃のぶつかり合い、大気を震わせる一撃、それを受けた龍牙の腕が弾き飛ばされるように震えた。

 

「っっっ!!!」

 

骨の髄まで痺れるような感覚、一瞬腕そのものが消し飛んだような錯覚を覚えながらも龍牙は歯を食いしばって眼前のオールマイトを睨みつけながら更に一歩前へと出た。もう一度、右での一撃を放とうとしている。だがそれを嘲笑うように更なる一撃を龍牙の顔面に炸裂される。

 

「―――っっ!!!うぅぅぅぅ!!!!」

 

それでも龍牙は前へと出てオールマイトの顔面へと龍頭をぶち当てた。神経が麻痺しているのか力を込められているのかもわからない、それでも全力で殴りつけるとオールマイトは一歩後ろに下がる。流石にオールマイトも顔面を殴られれば退くと思ってた、だが龍牙は前へと逆に足を踏みしめた。自分が引いたら誰がヒーローを信じる人達を守るんだと言わんばかりの行動に感動しながらもそれに応えるように新たな技を繰り出す。

 

OKLAHOMA SMASH!!!!

 

宛ら竜巻のような高速回転をしながら両腕でのラリアットを龍牙へとぶち当てていく。顔の次は肩、そして腹部と次々と剛腕がクリティカルヒットしていく。本来なら一撃当たっただけで吹き飛ぶはずだが龍牙のタフネスさがそれに耐えてしまったがために、連続ヒットに繋がってしまっている。

 

一撃一撃が身体を揺さぶる、超巨大なハリケーンと戦っているかのような気分になりながら龍牙は剛腕の連打を浴び続けた。鎧の役目をしている筈の身体が罅割れていく、身体の芯まで衝撃と痛みが突き抜けていく。最後の一撃と言わんばかりに振り抜いた剛腕が龍牙の顔を捉える。それは凶悪な龍の頭部を叩き潰し、その奥にあった龍牙の瞳を露わにさせながら遂に龍牙を地に伏せた。

 

「―――ガフゥ……!!」

「……やべっちょっとやりすぎちゃった……かな」

 

声を上げながら痙攣しているように身体を震わせる龍牙を見て思わずそんな声が漏れた。前へと進んでくる龍牙に一応ヴィランを演じて演習の担当をしているオールマイトは、危険だと思い攻撃を行った。だが流石にやりすぎたと思い、声を掛けようと手を伸ばした時だった。

 

「―――!!!」

「おいおいおいおいおい、マジかよ……結構本気で打ち込んだんだけど」

 

朽ちかけている龍頭を地面に突き刺し、膝を立てそこに腕を置くようにしながら、身体を震わせながら立ち上がろうとしている龍牙の姿がそこにあったのだ。自身の必殺技を2つも披露し、それを完璧に食らっておきながらまだ立ち上がろうとしている龍牙にオールマイトは一種の恐ろしさと敬意を持った。確かに龍牙が最も優れているのはその精神力とタフネスさというのは聞いているが、此処までの物なのかと思い知らされる。

 

「ま、だっ動ける、ぞぉっ……ウォォル、マイッドォォ……!!!」

 

露出している瞳は血が入り込んでいるからか、赤くなっている。そんな瞳はまだ折れていない、まだ自分と戦う気満々と言わんばかりだ。

 

「まいったな……こういう相手が一番やばいんだよなぁ……!!」

 

何が何でも立ち向かってくる相手、それが何よりも厄介でやばい。長いヒーロー活動でそれを知っているオールマイトは改めて構えを取る、がその直後に目の前に歪んだ鏡が出現する。

 

「これは……そうか反射か!!」

 

そう、龍牙のとっておきとでも言うべき攻撃の反射能力。それをここで切った、そして同時に悟った。何故龍牙が前に出たのか、それは敢えて自分の攻撃を受けて反射するつもりだった。力の差は明白、ならばオールマイトには自分の力をぶつけてやろうと考えたのだろう。鏡からはハリケーンのように迫ってくる自分が現れる。

 

「だけど、自分の技なんて怖くはないのさ!!フゥゥウウン!!!」

 

軽くジャンプしながら迫ってくる自分を上から両腕を叩きつけて強引にかき消すように粉砕する。確かにある程度本気で撃ったがそれでもまだまだ上の力がある。それで捻じ伏せればいい、とオールマイトが顔を上げた時、そこに龍牙の姿はなかった。

 

「何っまさかゲートに!?い、いや上っ!!?」

 

真上を向くとそこには黒い炎の龍を背負いながら自分を見下ろしている龍牙の姿があった。反射すら囮、時間のかかる必殺技の発動までの時間稼ぎに過ぎない。全ては自分の最強の一撃を放つための布石。

 

「だああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

甲高い龍の咆哮と共に吐き出される極大の黒炎、それを受けながら天から落ちる流星のような勢いで落下しながらオールマイトへと向かっていく。常闇との技とのぶつかり合いで天候をも捻じ曲げた龍牙渾身の一撃、それをオールマイトは受けて立つかのように腰を落としながら構えを取った。

 

「いいぜ黒鏡少年、私も全力で君を迎え撃とうじゃないか!!さあ受けてみろ!!!DETORIT SMASH!!!!

 

オールマイトが放つ、彼も本気で龍牙を迎え撃った。その一撃、それは天候すら自らの力だけで変化させる馬鹿げた領域の力、それと龍牙の必殺の一撃が今衝突する―――その時

 

「オ、オールマイト先生確保ぉ!!」

「えっ嘘ぉ!!?」

 

それは唐突に現れた。オールマイトの脚にはハンドカフスが掛けられており、葉隠だと思われる手袋が浮かんでいた。それを見た龍牙は安心したように身体から力を抜いたのかあらぬ方向へと向かって突っ込んでいき、倒れこんでしまった。

 

「わああああ龍牙君大丈夫ぅ~!!!??」

「参ったなこりゃ……」

 

走っていく葉隠を見つめながらオールマイトは思わず頭を欠いた。龍牙の存在感と異常なタフネスさと迫力故か葉隠の事が頭から抜けてしまっていた、これもまた龍牙が仕掛けた罠だった。そもそもが龍牙本人自体が囮で葉隠はずっと隙を伺ってハンドカフスを掛けるタイミングを見計らっていた。そして自分が龍牙とぶつかり合いを見せる瞬間の切れ目を見事に突いて葉隠はオールマイトを確保したのだ。葉隠の透明と言う神出鬼没さと龍牙の存在感と耐久力が無ければ成立しない作戦に見事にやられてしまったという事だ。

 

『黒鏡・葉隠チーム、条件達成!!』

 

「やったぁぁぁ!!!龍牙君、私たちオールマイト先生相手に勝ったよぉおお!!!」

「……」

「りゅ、龍牙君……?えっだ、大丈夫!!?えっ個性解除されて……わぁぁああああっ龍牙君血塗れぇぇええええ!!!?オ、オオオオオオールマイト先生ェェェェェ医務室に運ばなきゃあああ!!!!?」

「マジでやりすぎたぁ!!?確りしろ黒鏡少年んんんんんん!!!!??」

 

この後医務室に運ばれた龍牙だが、オールマイトの攻撃を受けて骨の髄までボロボロになっており、ギャングオルカ事務所からスイーツァを呼ばなければ治癒させられないという緊急事態が発生して暫く医務室はぎゃあぎゃあと大騒ぎとなり、オールマイトは根津に次の受け持つ試験までお説教を受ける事になった。



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試験後の黒龍

『お前の個性、全く怖くない』

『怖くない……って嘘だ、そんなの嘘だ……』

『嘘なんかじゃない』

 

根津と共に見つめる二つの影があった。今や自分の親であり師匠でもあるギャングオルカ、その二人に初めて個性を見せた時、二人は全く怖くないと言ってくれた。だがそれを自分は全く信じなかった。彼にとってその時の個性というのは自分を地獄の底に追いやった力の事でしかなく、自分の一部でなく忌むべく対象でしかないのだ。

 

『いいか、よく聞け。個性の力というのはそれをもって何を成すかで決まる。お前は何かを成したのか、何もしていない。正義でも悪でもないのが今のお前だ、如何したいのかはお前自身で舵を取れ』

『自分で……』

「うん。龍牙君、君がヒーローになりたいなら僕は精一杯その手伝いをする、道を示そう、だけど逆にヒーローなんかになりたくたくはないしただただ平穏に暮らしたいだけならそう出来るように手配もしよう』

 

それが龍牙にとってのオリジン。二人のヒーローから貰った物が龍牙をヒーローの道へと導いた。そんな光が―――黒い炎に飲まれる。黒い炎を纏った龍がそれを胸の内にしまいながら前へ進み始めた。

 

 

「―――……ぅぁっ……」

 

酷く懐かしい物を見ていた気がする、そんな気がするだけで一体何を見ていたのか全く思い出せない。でもなんだかとても気分がいい気がする、良く分からない。意識が定まらない、長い時間をかけてそれを少しずつ修正していって漸く意識が定まった時に龍牙は口元にあった透明のマスクのような物に気付いた。

 

「……んぁだ、これっ……?」

「龍牙君……?」

 

聞き覚えのある声、耳に馴染んだ声。それに導かれてそちらを見ると透明で手袋だけが浮かんでいるのが見えたが、龍牙には全く違うようが見えているかのように少しだけ微笑んだ。

 

「葉隠さん……如何して泣きそうなんだ……?」

「龍牙君!!リカバリーガール先生、龍牙君が起きましたぁ~!!!」

「本当かい!!?」

 

握られ続けていた手袋が開け放たれると直ぐに大きな声が挙げられた、それを聞いたリカバリーガールが傍にある椅子に飛び乗って自分の顔を見つめながら意識がはっきりしているのか、自分が誰なのか分かるのかという問答を繰り返す。それに逐一答えながら大丈夫だと判明するとリカバリーガールは張っていた気が緩んだのか、深く息を吐きながら肩の力を抜いた。

 

「本当に焦ったよ……アンタが此処までボロボロになって医務室に担ぎ込まれた時にはもう生きた心地がしなかったよ……スイーツァが来てくれなかったら治癒させられない位に消耗してたんだよ」

「スイーツァ……さんが来たんですか……?」

「そう。アタシの治癒は治癒力を活性化させるだけだからね、当人に体力が無い状態じゃ死んでしまう。だからスイーツァに来て貰ったのさ」

 

スイーツァの至福の癒しは体力を回復させ疲労を消す力、リカバリーガールの治癒は治癒力を活性化させて傷を回復させるが当人に体力が無ければ使えない。故にこの二人がいれば体力が無いに等しい患者でも治癒を掛けてやる事が可能になるのである。

 

「それにしても問題なのはオールマイトの奴さね!!全くあいつは加減ってものを知らないのかい!!」

「えっえっ?」

「えっと龍牙君、オールマイト先生は今お説教を食らってるんだって。なんかオールマイト先生、試験を完全に逸脱する力を出しちゃったみたいで……」

 

逆に今回よくぞまあクリア出来たと教員の皆が称賛の嵐を二人に送った。今回のオールマイトはハッキリ言って期末テストの壁としては余りにも高すぎていた、最早クリアさせる気が無いクソゲーのような状態。それを逆にクリア出来たのは龍牙の決死の行動と自分の全てを囮と罠に使った豪胆な作戦で葉隠の存在を完全に隠しきったからこそ。この二人でなければ確実にクリアできなかった。

 

そして龍牙も龍牙でなければやばかった。いや龍牙のタフネスさ故の結果と言うのもあるが、それでも瀕死の重傷を負っていった。それをスイーツァが自身の体力を明け渡すという回復技を行い、その体力でリカバリーガールが治癒を行うというコンボで漸く回復させる事が出来た。

 

「そ、それでオールマイト先生は……?」

「あの大馬鹿は説教中だよ!!今は根津が試験をやってるから代わりでギャングオルカがね」

「えっ師匠まで来てるんですか!?」

「当たり前さね、スイーツァはオルカの事務所にいるんだよ。来るのにはどうしてもオルカの許可がいる、でも理由を聞いて我慢出来ずに奴も一緒に飛んできたのさ」

 

普通ならばやってこないギャングオルカ、だが今回はスイーツァに事情を聞いた時に顔を真っ青にさせながら飛んできたとの事。そしてやってきて話を聞けばオールマイトが龍牙と相対し、危機感を感じてしまい思わず力を出してしまったという事を聞いて、ある意味誇らしくもなりながらも息子を瀕死に近い状態にされて切れない親などいないという事でオールマイトに殴りかかるように迫ったとの事。

 

「肝心のスイーツァは流石に疲れたからって寝てるよ。アンタも後でお礼を言っておきな」

「そりゃ勿論」

「体力自体はスイーツァがかなり譲渡してくれたおかげでMAXに近い状態筈だよ、後でもう一度検査するからそれで大丈夫なら教室に戻ってクラスメイトに大丈夫って所見せてやりな。大勢医務室に来て大パニックだったんだから」

「う、うわぁ……」

「だって龍牙君凄い血塗れで呼吸器を付けてたんだよ?そりゃ心配するって」




「オールマイト貴様ぁ……覚悟は出来ているんだろうなぁ……よくもよくも龍牙を……やっぱり我慢出来ん!!ここで貴様は殺すぅぅうううううう!!!!」
「冷静になるんだギャングオルカ!!気持ちは分かるが落ち着いてくれ!!」
「お気持ちは本当にお察しします!!ですが、ですが落ち着いてください!!」
「ああもう私が眠らせるからみんな下がって!!」

「本当に、本当にすいませんでした……」


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謝罪を受ける黒龍

「皆……土産話っ……ひぐっ……楽しみに……ううっ、してるっ……がらねっ!!」

「お、落ち着いて皆!!まだ採点基準が明かされてないからまだ大丈夫って可能性も……」

「緑谷、言いたい事は分かるがそれは逆効果だ」

 

そんな風に教室内は実技で赤点を取った芦戸、上鳴、切島、砂藤が大雨は降りだす前の曇天並みに落ち込んでいる。緑谷は何とか慰めようとするのだが、瀬呂にそれは逆効果だと窘められる。彼自身も合格はしているが、それは相方の峰田のお陰なのが大部分で当人は速攻でミッドナイトに眠らせられてしまっているので、赤点ではないかと内心ではひやひやしている。そんな所に相澤が入ってくるのだが……右腕をだらしなくだらんとさせている龍牙とそんな彼を支えるかのようにしている葉隠が入ってくる。

 

「りゅっ龍牙君!!?もう動いて大丈夫なの!?」

「凄い大変だったのにもう大丈夫なん!?」

「ああっ心配かけた……だぁっくそ、まだ右腕が痺れてやがる……葉隠さんも悪い」

「この位なんでもないよ、龍牙君のお陰だしね」

 

そう言って龍牙が席に着くまでのサポートを終えると彼女は自分の席に着いた。龍牙と葉隠の試験は2番目、皆の試験の中でも序盤も序盤だった。しかもその相手があのオールマイト、それをモニターで観戦していた緑谷と麗日は特に驚いている。最後のボロボロになった姿も見ているのでその驚きは凄い。

 

「さて、黒鏡と葉隠も席に着いた事で今回の期末テストだが……残念ながら赤点が出た。したがって……林間合宿は全員行きます!!」

『どんでん返しだぁぁあああああ!!!!』

 

そもそもが林間合宿は強化合宿の側面があるので赤点者ほど合宿にいき、力を高めなければ意味がないと相澤は語る。今回の試験はプロヒーローの教員たちはヴィランとして対峙しながらも敢えて勝ち筋を残してくれていた、そこを如何突破するかを審査するのが主な審査基準。故に、瀬呂も赤点者に含まれるとの事。

 

「まあ一応言っておくが赤点なのは事実だ。赤点者には別途の補修時間を設けてある、学校に残っての補修よりもきついから覚悟しておけ」

『―――……』

 

歓喜から一変、沈み込む補修組。

 

「そしてまあ最後に言っておくが黒鏡」

「はい」

「お前、よくもまあオールマイト相手にあそこまで食らいついたもんだ、お前と葉隠に対してプラスα採点をやっといたからお前らの単独トップだ。それと、ほらっオールマイト」

「わ、私が心に溢れる申し訳なさいっぱいで潰れそうになりながら、来た……!」

 

教室にやってきたオールマイトは普段の堂々たる姿ではなく、冷や汗をダラダラとかきながら身体を震わせていた。リカバリーガールが終わった直後からずっと説教をされていると聞いていたが、一体どんな説教をされていたのだろうか……。普段は画風の違いすら感じる姿も酷く小さく感じられる。

 

「今回黒鏡と葉隠の試験においてオールマイトはぶっちゃけやってはいけない事をやった」

「や、やってはいけない事……?」

「試験としての逸脱、試験だってことを忘れて力を出し過ぎた。その結果黒鏡は急遽、ギャングオルカ事務所のスイーツァに来て貰わないと治癒させられない程の重傷だった、確り反省してくださいよオールマイト」

「く、黒鏡少年本当にすいませんでしたぁぁっ!!」

 

誠心誠意を込めた謝罪の言葉と共に思いっきり頭を下げるオールマイトだが、頭を教壇にぶつけるのだがそれを大きく凹ませてしまった。頭突きでスマッシュをした場合、一体どんな名前になるのだろうか……。

 

「いや俺は気にしてませんよ。いい経験が出来たと思っておきますよ」

「黒鏡、お前よく瀕死の重傷になっておいてそんな事言えるな」

「えっ訓練とか試験で怪我するのって当然じゃないんですか、俺のはたまたまその比率が重かっただけで」

『どんな当然だよ!?』

 

思わずぽかんとするオールマイト、そして相澤は不憫な者を見るような目で龍牙を見た。長年ギャングオルカに扱かれてきた龍牙にとって怪我なんて日常の一ページ、次の段階に進む為の試験では怪我なんて当たり前であった。そんな龍牙にとっては今回の怪我もそれに分類される物と認識しているのか、そんな気にしなくても……と感じているのだろう。

 

「(これもギャングオルカの指導方針の弊害か……哀れだな、これは根津校長に報告した方が良いだろうな。痛みに慣れ過ぎてる)」

 

兎に角厳しく辛いギャングオルカの指導、それを受け続けてきた龍牙はある種痛みに耐性が付いているのか怪我などに対して反応が可笑しくなりがちになっている。仮に龍牙の皮膚をナイフで軽く切ったとしても彼はそれに動じる事無く行動を起こして相手を確保する。そんな事も可能なレベルで痛みに慣れてしまっている。ある意味、鎧を展開するような個性に依存しない為とも言えるが……まだ15~16の子供が持つべき感性ではないのは確かだろう。

 

そんなこんなでオールマイトの謝罪やら必要事項の通達も終了したので相澤はオールマイトとともに姿を消すのであった。そしてその直後に龍牙は皆からどんな試験だったんだと問い詰めるような質問攻めを受けるのであった。そして翌日の休みにみんなで林間合宿に必要な物を買い物に行くことを決めるのであった。

 

 

「さてとっ……君に聞きたい事がある―――鏡 龍牙君。君は……親を恨んでいるかい?」

「何、をっ……!?」

 

時計の針が、進む。



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―――と邂逅する黒龍

期末試験の翌日、芦戸曰くナウでヤングな最先端ショッピングモールへと拒否した爆豪と見舞いだからと欠席している轟以外のメンツでやってきた。もう既にヤングじゃないだろと内心で思う龍牙だが敢えて口にはしないでおいた。体育祭の影響もあるのか、まだ自分達の顔を覚えている人もいるのか此方を見つめる声は何処か明るい。

 

「おおっ!!龍牙君凄いカッコいいんだね私服!!」

「そう、なのか……?知り合いの人が選んでくれたんだけど良く分からないんだファッションって奴は」

 

白いポロシャツに紺色のジャケット、ライトグレーのジーンズと清潔感のある物でコーディネートされている龍牙の服装。小物入れとして下げているショルダーポーチは何処かギャップのような魅力を引き出している。因みにこのコーディネートは休日にMt.レディこと、岳山 優が龍牙を連れだした際に散々着せ替え人形にした上で似合うという事で買ってくれた服である。

 

「でも似合ってるよぉ~!普段の黒ってイメージの龍牙君とは逆にホワイトメインで」

「そうか、俺はこんなのが似合うのか……覚えておこうかな、葉隠さんも活発的な感じがして可愛いよ」

「えへへへっ~そうでしょ~♪」

 

葉隠の纏っているのはピンクと水色のシャツとグレーのショートパンツ、透明であるので何とも似合ってるのか良く分からないが、龍牙的には元気な葉隠のイメージに合うのでそんな風に言うのである。

 

「龍牙君は何か買うものあるの?」

「強いて言うなら……林間合宿だからトレッキングシューズかな」

「ああっアウトドア系の奴だね!私も丁度みたかったんだぁ~。一緒に行こうよ」

「そうだね」

 

そんなこんなでそれぞれが買いたいと思っている物がバラバラだったために別行動となる事になったのであった。龍牙は葉隠と共に靴などを見る事になり、共にシューズショップへと足を進めていくのであった。

 

「やっぱり龍牙君は黒?」

「まあ黒で良いかなとは思ってるんだけど、いやでもこのグレーも良いかな……」

「こっちの赤も似合うんじゃない?」

「いやそういう赤いのは葉隠さんみたいな可愛い子向けだよ」

「いやぁ照れちゃうよ~!」

 

明るい声で笑っている葉隠だが、本当は頬が赤くなっていて本当は自分が凄いドキドキしていてウキウキしているのが龍牙にバレないかで冷や冷やしてしまっている。葉隠にとって龍牙のようなタイプは出会った事が無い人物だった、透明と言う個性の関係上で可愛いや似合ってるなどは全くと言っていい程に言われてこなかった。両親にはそこまで言われた事が無いのに、龍牙は違っていた。

 

「あっこのオレンジなんていいと思うよ、葉隠さん向けじゃないかな」

「私が良いと思ってた奴だ~!やっぱりこれが良いかな~!?」

 

まるで自分の事が見えているかのように接する龍牙、葉隠にとっては酷く新鮮で初めての存在だった。特に自分の手を、直ぐに握れる所など最たるものだった。両親ですらできない事を簡単にやる龍牙に葉隠は日に日に胸の高鳴りが増していくのを感じていた。

 

「え、えっとごめんね龍牙君、ちょっとお手洗いに……」

「んっ分かった、んじゃその辺にいるからさ」

 

買い物も終わったタイミングで葉隠は我慢出来なかったのか龍牙の前から姿を隠してしまった。少しばかり行きたいなとは思っていたが完全に建前、本当は此処まで自分と接してくれる異性がいなかったのでもういっぱいいっぱいだったのであった。

 

「うぅぅぅぅっ……ど、どうしよう、顔が赤いのバレてないよね、心臓の音とか聞こえてないよね……?」

 

と少し間、トイレに籠って気持ちを落ち着ける事に集中する葉隠であった。

 

 

「待ってる間にジュースとか買ってあげてた方が喜ぶかなぁ……いや女の子は甘いアイスの方が喜ぶって冬美さん言ってたな……なんだっけ、ストロベリーチョコナッツ……だっけ?」

 

葉隠を待っている間、適当に携帯でも弄りながら待っていようかと龍牙。皆で決めた集合時間まではまだまだ時間がある、取り敢えずジュースでも買いに行ってその後にアイスでもと思った龍牙だが、そんな時に一人の男が転んでしまい杖を手放してしまったのが見えた。ヒーロー志望云々は関係ないが力になりたいと思い駆け寄る。

 

「あの大丈夫ですか、手貸しますよ」

「んっ……ああっすまないね。僕は目が良くなくてねぇ……杖は何処かな」

「あっ此処ですよ」

 

黒いスーツに身を包んだ長身の男、深々と山高帽を被っており更にサングラスのような眼鏡をかけているせいか人相は分からないがそれなりに歳を重ねているのか何処か、老いを感じさせる声をしている。杖を取って握らせてあげると男はゆっくりとだが立ち上がる事が出来た。

 

「苦労を掛けてすまないね、本当に優しい少年だ。おっとっと」

「大丈夫ですかフラついてますけど」

「恥ずかしい所を見せてしまったね、久しぶりに外出の許可が下りたから散歩とでも思ったんだが……やれやれ僕も歳かな」

「近くに腰を下ろせるところあります、あのご迷惑じゃなければ手を貸しましょうか?」

「……良いのかい?友達と来てるとかじゃないのかい?」

「この位大丈夫です」

 

そう言うと男は感謝しながら龍牙の手を借りながら近場の腰を下ろせる場まで移動して腰を下ろした。目だけではなく足腰も弱いのか、歩いている際も少々ふらついていた。

 

「いやはや助かった、手間を掛けさせてしまったね。何かお礼をしたいんだけど」

「いいですよお礼なんて。誰かが困っていたら助けるのは当たり前ですよ」

「これはこれは一本取られたかな、君は本当に良い子だね。親御さんも鼻が高いだろう、君のような息子さんがいたら」

「い、いやぁ照れますよ……」

 

そう言われると本当に照れてしまう、確かに根津とギャングオルカのお陰で今の自分がある。二人には感謝しかないし、そんな二人の自慢の息子だと胸を言えるのならばこれほどに嬉しい事なんてないのだろう。そう、龍牙がそう思った時だ、鏡夫妻の事など欠片も浮かばなかったその時だ。

 

「さてとっ……君に聞きたい事がある―――鏡 龍牙君。君は……親を恨んでいるかい?」

「何、をっ……!?」

 

そう、問いかけられた。一瞬、思考が死んだように固まった。それは恨んでいるかという事を問いかけられたからか、いや違う。鏡 龍牙と言う名前を出されたからだろう。自分の旧姓を、以前の名前を知っている。ならばこの男は根津やギャングオルカの知り合いなのかと一瞬思うのだが違うという確信があった。何故だ、そんな事は如何でもいいんだ、何を言っているんだと言おうとした時、男の手が頭に触れた。

 

「良いんだ分かっているからね、意地悪な事を聞いて済まなかった。そう君も分かっている筈だからね……」

 

そう言いながら頭を撫でる男、まるで祖父が孫を撫でるかのような優しい手つきに不思議と妙な感触を覚えた。そして次の瞬間……

 

「―――っ!!?」

 

身体の中がカッと熱くなるのを感じた、身体の中で炎が巻き起こったかのような熱さに言葉を失った。胸に手をやりながらも苦しみに耐える、崩れ落ちそうになる身体を必死に立てていると男がそっと自分を先程まで自分が腰かけていたスペースに座らせた。

 

「今日は会えて良かったよ。君から預かっていた物を返さなければいけないとずっと思っていたからね、これで君は完全だ。これで君は完全になった」

「なに、をっ―――!!」

「さよなら龍牙君、次に会える時を楽しみにしているよ。それじゃあね」

 

更に熱くなっている身体の奥、重くなっていく瞼と薄れていく意識の中で反抗しながら顔を上げて男を追おうとするのだが男の姿はもうそこにはなかった。そこで龍牙は意識を保てなくなり、意識を失ってしまった。

 

その直後、麗日の警察への通報が行われた。USJにて殴り込みをかけてきた(ヴィラン)連合の頭目とされる死柄木弔が緑谷と接触したというのだ。そこで龍牙は保護されたのだが意識不明であった為に病院へ緊急搬送された。



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説明する黒龍

木椰区総合病院、意識を失ってしまった龍牙はその病院へと運び込まれた。その病院の個室の中で、今龍牙は眠り続けている。そんな龍牙を見つめるようにリカバリーガールや根津の姿があった。二人の心配そうな瞳が向けられ続ける中、龍牙は漸く目を覚ました。

 

「ううっ……俺、は……?」

「目が覚めたかい、龍牙」

「校長……?それにばっちゃんも……なんで……?」

「覚えてないかい?」

 

目覚めたリュウガはボンヤリとした意識の中でまだ舟をこいでいた。何がどうしてこうなったのか、如何して今ベットの上で横たわっているのかさえ分からない。それを少しずつ紐解いていくしかない、そしてそれらを行っていくうちに思い出してきたことがあった。

 

「そうだ、確か俺は……葉隠さんと別れてそれから眼と足が不自由な人に手を貸してそれから……っ!!!」

 

―――君から預かっていた物を返さなければいけないとずっと思っていたからね、これで君は完全だ。これで君は完全になった。

 

「あの男は!!?」

「落ち着くんだ、ここは病院だよ。君のいう男はいない」

 

飛び上がるかのように身体を起こした龍牙を根津は諭すように落ち着かせる、そして何故龍牙が病院にいるのかという経緯を話す。麗日の通報によりショッピングモールは一時的に封鎖され捜査が行われている時に警察が意識を失っている自分を発見し、病院へと搬送された。そして根津とリカバリーガールは駆けつけてくれた、ギャングオルカは本当は来たかったらしいのだが……如何しても外せない仕事があり来られないとの事。

 

「そうか……緑谷はそんな奴と……あいつもあいつで修羅場だったって事か……」

「ああっ。彼は凄いよ、自分だけではなく周囲の人間の命を握られていたのに冷静に判断して行動出来た。パニックを起こしても可笑しくないのにね」

「本当に大した子だと思うよ」

 

そんな風に話をしていると個室の扉をノックする音が聞こえてきた。根津が入っていいと言うと入ってきたのは花と果物の入ったバスケットを持ったオールマイトだった。

 

「私がお見舞いに来たっ!大丈夫かい黒鏡少年、試験のお詫びも兼ねてお見舞いに来たぞ!」

「ああいえあれは本当に気にしなくていいのに……でも着てくださって嬉しいです。有難う御座います」

 

お見舞いの果物と花を受け取りながらも龍牙は少し嬉しそうにする。ギャングオルカの代わりではないがこうして誰かが自分の見舞いに来てくれると言うのに嬉しさを感じている。そんなオールマイトは少しだけ根津と目を合わせて頷きあった。

 

「さて、オールマイトも来た事だし話を続けようか。龍牙、どんな男だったんだい?」

「ああはい、えっと……目が悪いって言ってたんですけど足も悪いのか凄いフラフラしてたんです。それでちょっと手を貸して座れる所までその人を連れて行ったんです」

 

そこまでは龍牙の優しさが出ている話だ、ヒーローを目指している者としてよい行動だと根津も思う。だが問題はこの後なのだ。

 

「それで少しだけ話をしたんです、そしたらその男は……」

「如何したんだい龍牙、言いにくいのかい?」

「……あの、校長。オールマイトにこの事を話していいのか分からないんですが……そいつは俺の事を知ってたんです。昔の事を……」

「「っ!!」」

 

龍牙なりに配慮した言葉、恐らく事情を知らないオールマイトには分からないだろう程度の事を伝えると根津とリカバリーガールは強張った。昔の事、つまり龍牙の身にあった事、旧姓を知っているという事になる。過去の事を知っているとなると限られてくる。しかしそれらは鏡夫妻が様々な手を使って隠している事、それをどうやって知ったという話にも繋がる。

 

「根津校長にリカバリーガール、少年の過去の事とは……?」

「それは何れ話すよオールマイト。龍牙、その男はどんな人だったんだい」

「えっと、山高帽を深く被ってた上にサングラスみたいな眼鏡かけてたんで顔は……でもなんて言ったら良いんだろう……」

 

あの男に撫でられた時に感じたあの不思議な感覚、あの感触に自分は覚えがあるような気がしてならなかった。だがそれが分からない、何故そんな覚えがあるのか……。

 

「そうだ、あの男、何かを俺に返すって言ってました!」

「返す……?」

「確かにそう言ったのかい?」

「そうだ、その後急に体の中が熱くなって苦しくなって……それでそいつは俺が完全になるって……」

 

その時、龍牙を除いた全員がとある男を連想した。敵連合の頭目たる死柄木弔、その背後にいると思われる邪悪な影を強く連想させた。不敵に笑いながら闇に座する邪悪なる影を……。だがそれを連想すると同時に謎も浮かび上がってくる。何を龍牙に返し、何故返したのかという事である。

 

「……龍牙、今日一日はこのまま病院で身体を休めていなさい。明日迎えに来るから、ゆっくりとね」

「えっ校長……わ、わかりました……」

「しっかり休みなよ」

「うむっではな黒鏡少年」

 

そう言って去っていってしまった根津らを呆然に近い形で見送った龍牙は如何したのかと思いながらも、既に日が沈み夜となってしまった窓の外を見る。一体自分に何が起きているのだろうか、何も分からないが良からぬ事が始まっているのではという予感だけが不気味に脈動している。

 

「俺は、何を返されたんだ……?」

 

そう呟いた時、何かがあった。何かが―――頷いた。



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プールに行く黒龍

「よぉ緑谷、今日は誘ってくれてありがとうな」

「お礼なら上鳴君と峰田君に言ってよ、このプールでの体力強化の言い出しっぺは二人なんだから」

「そうか、有難う二人とも。プールなんてあんまり来た事なかったからちょっと楽しみだったんだ」

 

入院も終えて龍牙は家で自主トレをしている時の事だった。雄英は一学期の課程を修了し夏休みに入った、そして林間合宿に入るまでの間の休みを家で過ごしながらできる事をしていた龍牙に緑谷からメールが来たのである。学校のプールにて体力強化訓練をするから来ないか、という物だった。龍牙は本来校長に留守番を頼まれていたので行ってもいいかと電話すると

 

「勿論いいに決まってるよ!!行っておいで、友達との一時を楽しんでおいで!!」

 

と許可をくれたので学校指定の水着をもって雄英のプールへとやってきていた。他にもA組の男子が勢ぞろいしており、皆既に準備運動を始めている。龍牙もそれに続いてストレッチを開始して身体を動かす、所謂動的ストレッチという物である。

 

「龍牙、お前のストレッチなんか違うな。意味あんのか?」

「所謂動的ストレッチって奴、普通の奴だと寧ろ身体を痛めるし筋肉の活動も悪くなるんだって」

「そうなのか、どうやるんだ?」

「肩回し、肩甲骨回し、屈伸、足の付け根を回すとか、後ラジオ体操とかが良いらしいぞ」

「そうなのか……」

 

感心するように言葉を漏らす焦凍は龍牙と同じように身体を痛めない動的ストレッチを開始する。そんな風に身体をストレッチさせていると向こう側のプールサイドに女子たちが現れて同じくストレッチを開始していた。どうやら同じようにプールを使うらしいが、どうにも上鳴と峰田にテンションの落差がある。実は体力強化という名目だが二人は水着姿の女子が見たかったというのが本音であった。

 

しかし、女子たちは学校指定の水着、所謂スク水だったのでビキニなどを夢見ていた上鳴にとっては余りに良くなかったらしい。尚峰田はこれはこれで……と喜んでいる。そんな中で葉隠が声を出した。

 

「ねぇ龍牙君、龍牙君って上着も着るの?」

 

そう、龍牙は男子では唯一水着は上も纏っているので上半身も隠している。どちらかと言ったらウェットスーツに近いような見た目になっている。

 

「そう言えばそうだね」

「ああいや……俺の身体は結構傷だらけだから目に入ったら不快かなぁと思って……」

 

龍牙が上も着ているのは周囲を気遣っての事だった。ギャングオルカとの訓練で自分の身体は傷だらけになっている、時には酷く深い傷まで負った。その痕が物にもよるが痛々しく残っている、自分にとっては傷の一つ一つに意味があり自分の戒めと共に文字通りの糧としているが他人から見たら唯の醜い傷跡でしかない。だから隠している、気遣いのつもりだったのだが周囲は全く気にしないと返してきた。

 

「傷なんて気にしないよ、だってそれが龍牙君なんだもん」

「うむ!!それに此処には誰かの傷を見て卑劣な事を思う者など一人もいないぞ!!」

「……有難う、えっとそれじゃあ……脱ぐ」

 

此処まで言われて脱がないのは逆に失礼に当たると思った龍牙は上着を脱ぐことにした。上着を脱いでそれを端へと投げると露わになった龍牙の上半身に皆は驚いた。男子は更衣室などで見慣れていると思われるが、基本的に龍牙は今までも身体を隠すようなインナーを着ていたので見る機会はなかった。そこにあったのは龍牙の成長の軌跡を描くかのような無数の傷跡があった。

 

年齢に不相応な程に鍛え上げられた肉体、当然のように割れた腹筋に大きく発達している腕の筋肉。戦う時の彼の怪力に納得が行く程のマッシブな身体付きに深々と残る傷跡たち。幾重に走る傷、まるで抉れでもしたかのような傷跡までがあちこちに点在している。だが逆にそれが逞しさを増長しているのかワイルドさまで強調しているように見える。

 

「うおっすげぇっ傷……」

「こりゃ確かに気を使うのも頷けるな」

「でもかっけぇな!!なんかこう、熱いぜ!!」

「……歴戦の証」

 

拒絶されたりするのを想定していた龍牙を待っていたのは意外にも受け入れたり憧れの目線だった。年頃の男子にとっては身体の傷というのはある種の憧れであり、歴戦を潜り抜けた証明でもある。故に男子は傷に憧れたりする。

 

「うおっこの傷なんかすげぇな!?」

「それは期末試験でオールマイトのスマッシュで出来た傷」

「お前、良く生きてたな……」

「我ながらそう思うわ」

 

そんな生々しさが残る傷についての説明をしながらオールマイト相手に戦った龍牙に同情と尊敬のまなざしを送っている男子、しかし女子らの話題はそちらではなく尋常ではなく鍛え上げられていた龍牙の身体つきについて。

 

「無駄のない筋肉ってあんな風に言うんだろうね、超マッシブ!!」

「本当に素晴らしいですわ……あそこまで鍛え上げるのは容易ではありませんでしょうに……」

「師匠がギャングオルカだもんね、しかも訓練の殆どが戦闘訓練だったって言うし、本当に凄いわ……」

「なんか凄い眩しいわ……」

 

彼女らも少なからず身体は鍛えているが、龍牙のそれは正しく別次元。所謂筋トレなどを積んで仕上げて物ではなく戦いの中で積み上げて完成させた戦士の身体、試しに切島にリクエストされてボディビルダーなどがするポーズのサイドチェストをやってみているが本当に凄い。ああいうのを筋肉が躍動するというのだろうか。そんな中、梅雨ちゃんが無言になっている葉隠を見た。

 

「ケロッ葉隠ちゃん如何したの?ボッ~としているみたいだけど……」

「ピャッ!!?い、いやなんでも無いよ!!?べべべべべっ別に龍牙君の身体に見惚れてたわけじゃないから!?」

「葉隠ちゃん、全部自爆で出しちゃってるわ」

「あっ……!!?」

 

慌てて口元に手をやるが時すでに遅し、目を輝かせている耳郎に芦戸、何か嬉しそうな顔をしている麗日に微笑ましい物を見るような顔をする八百万。完全にやってしまったと葉隠は一歩後ろに引く。

 

「ほほう、見惚れてた……ほうほうほう!!」

「いやぁこれはいけないねぇ……いけないねぇ」

「あ、あの耳郎ちゃんに芦戸ちゃん目が、目が怖い……」

「そう言えば龍牙君と勉強会してたんだよねぇ……?」

「それも含めて詳しく聞かないとねぇ……?」

「え、ええと……りゅっ龍牙君助けてぇぇえええ!!!」

「「そこで直ぐに名前が出るのも怪しい!!待てぇぇえええ!!!」」

 

この後、葉隠は耳郎と芦戸から追い回されたり、龍牙の背後に回って庇って貰ったり、様々な事が起きた。しかし龍牙は友達と過ごせた何気ない日常に明るい笑顔を浮かべ、最近付け始めた日記に本日の出来事を嬉しそうに書くのであった。




動的ストレッチについてはダンベル何キロ持てる?を見よう。


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バスの中の黒龍

いよいよ始まる林間合宿、A組の全員はバスへと乗り込んで林間合宿の舞台へと道路を突き進んでいた。バスの中はA組にしては珍しく騒がしいままだった、相澤は敢えて黙らせる事もなく好き勝手に騒がせている。何故かと言われたらこの林間合宿において今の内しか休める間は無いのだから。

 

「なぁ龍牙、お前菓子食う?」

「いや大丈夫だ。持ってきてる」

 

龍牙もなんだかんだで少しだけワクワクしながらも年相応な表情をしながらこの空気を楽しんでいた。基本的に自宅学習で学校には行かなかった上にギャングオルカの指導もあったので友達など雄英に入るまでまともに出来なかった。強いているなら近所の将棋好きのお爺ちゃんぐらいだった、同じ年の友達がいるこの空間とワイワイ出来ているだけで龍牙としては非常に楽しい。

 

「音楽流そうぜ!!龍牙、お前普段に聞いてるんだ?」

「そうだな……ホルストの組曲、惑星の火星とか」

「えっなんだそれ」

 

そう上鳴に言われ思わず龍牙は少しショックを受けた。根津が聞いていて自分も好きになってよく聞いていた物で有名な物だと言われていたので知っているものとばかり……と思っていると八百万が声を上げる。

 

「クラシック音楽ですわ、龍牙さんはそちらのご趣味が?」

「家だとよく流れてるんだ。後は……ドヴォルザークの新世界よりとか……」

「いやお前アニソンとか聞かないのかよ!!?」

「聞いたりはするけどそっちの方が気分が落ち着くんだ」

 

今まで接してきた相手が基本年上で落ち着いた雰囲気の人たちばかりだった影響もあるのか、龍牙は年齢に釣り合わない所を持っている。クラシックを否定するわけではないが、若者らしいアニソンよりもクラシック系統の方が好みあう模様。そんな龍牙にそれではいかんっと上鳴は自前のプレーヤーにある曲を龍牙に聞かせてこういうのを聞いて行った方が良い!と推していく。気付けば龍牙の時間はクラスの皆のお勧めの曲を教えて貰う時間へと変化していた。

 

「おい龍牙、お前には今度オイラ一押しのアイドル声優の奴を貸してやるぜ!」

「い~や龍牙にはこの熱い魂の叫びの方が似合うぜ!!」

「いや、我がライバルにはこの静かだが熱い鼓動を送る物が似合う」

「待って待って流石に一気に聞けないって!!?」

 

そんな光景が後ろの席で起こっているのを相澤は聞きながらまた一つ根津に報告する事が増えたと内心で溜息を吐くのであった。自分がA組の担任としてそれなりの時間を経過した時に龍牙について尋ねた事があり、その時に頼まれた事がある。

 

『相澤君、出来ればでいいんだけど龍牙が子供らしくない行動とか言動をしていたら教えてくれないかな』

『構いませんが如何して』

『僕は保護者として龍牙を育ててきたけど、ハッキリ言って僕は親としては余りレベルが高くはなくてね……出来る限りの愛情を注いでるつもりだけど龍牙は何処か同年代の子とズレているんだ。僕は出来るだけ年相応な幸せを送ってほしいからそのね、出来れば協力して欲しいんだ』

 

「(そう思って誰かに相談して、改善と努力を重ねているだけ貴方は立派な親だと俺は思いますがね……)」

 

本人がヒーローになりたい、個性を十全に使えるようになりたいと強く願ったからこそそれを尊重して訓練などをさせてきた。しかしそれによって何かを経験せずにいる、と根津とギャングオルカはずっとそんな思いを重ねていた。自分達も出来るだけプレゼントやら子供の喜びそうな玩具などを買ったりしてあげたつもりだが……それでは矢張り足りないらしい。

 

両親の事で精神的に不安定なのでは、心のケアなどが出来るなどの理由で自宅学習させたのは失敗だったと根津は考えているようだが相澤はそうは思っていない。龍牙の事を考えると個性の事を必ず弄る馬鹿は居る、下手にトラウマを刺激させずに伸ばす事に専念できたのは良い事。それに―――

 

「へぇっこれいいな……切島、これなんて名前だっけ?」

「おおっ流石だな、これの良さが分かるなんて!!」

「次はオイラのだ!」

「って峰田それエロゲの奴じゃねぇか」

「馬鹿野郎!!!エロゲには、エロゲなのに超カッコいい曲とかあんだよ!!寧ろストーリーとBGM良すぎてエロが邪魔って事さえあるんだぞ!!」

「それ本末転倒じゃねぇか」

 

今、龍牙は十二分に楽しそうにしている。クラスの連中と楽しんで年相応な事をしている、今からでも遅くはないだろう。親に捨てられた悲劇の少年の姿はもうない、そこにあるのは少しだけ変わっているが、皆に愛される事を目指す愛と平和のヒーローを目指す少年の龍牙。それを今度の報告の際には根津に進言して今のままで大丈夫と伝えておくことにしよう。

 

「……」

「如何したんだ、お気に召さねぇか?」

「いやそうじゃないんだ瀬呂。何か……こういうのっていいなぁって思って」

「そっか、んじゃ次はこれだ!!フフフフッ……ダークな曲を選んでみたぜ」

「黒龍繋がりでモンハンのあれも良いんじゃねぇの?」

 

そんな風に楽しげに過ごしている龍牙、不意に彼は窓の外を見ながら言った。

 

「こういうのって本当に良いんだな」

 

それに周囲の皆が笑みを作る中で龍牙は無意識に―――窓の中にいたそれに微笑んでいた。それは龍牙の言葉を聞くと直ぐに消えてしまった故に彼はそれに気づく事は無かった。そしてすぐに知る事になる、彼の中にあるべきはずだったそれが戻ってきた事を。



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現れる黒龍

「おい、ここで一旦休憩だ。お前ら一度降りろ」

「はーいってB組は」

「つうか、なんだ此処。パーキングエリアじゃねぇな」

 

バスはとある場所で止まった。そこで相澤が降りるように通達すると、生徒たちは疑うこと無くそれに従う。逆らうのが怖いのもある。外に出て身体を伸ばしほぐしながら辺りを見渡すとそこは崖の上の何の変哲もない空き地。確かに景色の良い場所ではあるが、公衆トイレも何も無い。ただ、普通車が一台止まっているだけだった。特に峰田はジュースを飲み過ぎたからかトイレに行きたいと訴えるが相澤はそれをパーフェクトスルー。

 

「やっほ~イレイザー!!」

「ご無沙汰してます」

 

相澤が丁寧に頭を下げた相手は小さな少年を一人連れている猫のようなコスチュームを纏った女性が二人。しかし龍牙は見覚えがあるのかあっと小さく声を漏らすのであった。

 

煌めく眼でロックオン!!

キュートにキャットにスティンガー!!

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!

「今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ」

 

見事なポーズを決めながらもヒーローらしい口上を述べる二人の綺麗な女性がそこに居た、クラス一のヒーローマニアが食いついた。

 

「連名事務所を構える4名一チームのヒーロー集団!!山岳救助を得意とするベテランチームだよ!!今いるのはマンダレイとピクシーボブだぁ!!」

「緑谷、緑谷興奮するのは分かるがストップ」

 

と興奮しっぱなしの緑谷を龍牙は何とか抑え込む、特にベテランと言ったあたりから地味にグサッと来ているプッシ―キャッツのマンダレイとピクシーボブ。そんなとき緑谷は思い出した、龍牙は自分達の中ではプロヒーローと一番関わりが強いのだと。

 

「もしかして龍牙君知り合いなの!?」

「いや、師匠が新聞読みながらチームワークのがいいなって言ってたから覚えてた程度」

 

流石に龍牙の師匠経由でもプッシ―キャッツとは関わりは存在しない、龍牙もギャングオルカが読み終わった後の新聞を見てみたらそこにあった彼女らの活躍記事を読んだ程度。尚この時のギャングオルカは対集団ヴィラン戦闘訓練の相手にいいなと言う意味で言ったのであった。

 

「でも凄いやもうキャリアは12年にもなるあのベテランチームのプロヒーローに遭えるなんt」

「心は18ぃ!!!心はぁ……?」

「じゅっ、18ぃ!!」

『必死かよ……』

 

緑谷にピクシーボブのアイアンクローめいたものが炸裂する。こうかはばつぐんだ。尚この時、龍牙はミッドナイトに初めて会った時にお姉さんと呼んだ時に滅茶苦茶喜んで抱きしめられた事を思い出す。矢張り女性は年を気にするんだなと思いながら、自分も気を付けようと思うのであった。そんな僅かにカオスになりつつある空間でマンダレイが説明を始めた。

 

「ここら一帯は私らの私有地なんだけどね、あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」

『遠っ!!?』

 

そんな彼女が指さしたA組の宿泊施設の行方、それは鬱蒼としている森の先にあった。勘のいい物ならばここで思うだろう、何故そんなに遠い此処でバスから降りさせられたのかを。龍牙は場所を指差された時点で察していた。何故ならば―――

 

『龍牙、俺はこの無人島の中心で待つ。日暮れまで着かなければ……夕飯抜きだ』

 

既に体験済みだからである、この時は直後に海に向けてぶん投げられてまず海外まで泳ぐ工程が挟まれていたので特にやばかった。因みにその時は日暮れの30分後辺りに到着して夕飯を抜きにされた、目の前で焼き魚を美味しそうに食べられて辛かった。

 

「今は午前9時30分。そうね、早ければ12時前後かしらん。12時半までにこれなかったキティはお昼抜きね♪」

「やっぱりそういう系。まあうん、この後はピクシーボブの個性に飲まれて下に落とされるとかかな」

「大正解!!そこの子、目聡い子は……大好きよ、中々にイケてるし♪」

「―――悪いね諸君、既に、合宿は―――始まってる」

 

直後、ピクシーボブが地面に手を当てる。そこからまるで土石流のごとく地面が盛り上がってA組を飲み込みながらそのまま崖の下へと叩き落としていく。唯一巻き込まれていないのは海へと投げられた経験がある龍牙のみで、それを回避した後に自主的に崖の下へとジャンプしていった。

 

「ネコネコネコ……いいわね、彼」

「ちょっとやめときなさいって。見境なくなってきたんじゃないの?」

「いいえこれは、本気の愛の炎がバーニングオンしちゃうかもね……」

「……私は止めたからね。この辺りは私有地だから個性の使用は自由だよ!!今から3時間、自分の足で施設においでませ!!この、魔獣の森を越えてね!!」

 

そんな風に何か危ない方向性に駆け出していきそうな同僚(ピクシーボブ)を軽く牽制した後に個性を活用して宿泊施設に来るように伝えるマンダレイ、しかしその直後に驚いて変な声が出てしまった。何故ならば……崖下からぬるりと龍牙が顔を覗かせたからである。

 

「すいません。相澤先生、炎とかはあんまり使わない方向性の方が良いですよね、山火事怖いですし」

「当然。轟と爆豪にもいっとけ、仮に火事起こしてら自分達で始末付けろって」

「分かりました」

 

そして下へと戻っていく龍牙だが思わずマンダレイとピクシーボブはそれを目で追った。その時には龍牙は既に地面に降りていたが僅かながらに見えた、彼の周りに蜷局を巻くようにしながら彼を守護する黒い龍の姿を。

 

「何々最近の雄英の子ってあんなのまで出せるの……?」

「黒い龍を従える年下イケメン彼氏……じゅるり」

「うぉいアンタ流石にいい加減にしなさいよ」

 

 

「龍牙君、もしかして分かってたの?」

「何となく。師匠に無人島で海にぶん投げられた経験があるから、それが生きたんだと思う」

「どんな経験だそれ……」

 

地面に降りて周囲を見回すとそこにあるのは薄暗い森だけ、だが龍牙は敏感に感じ取っていた。嘗ての1週間耐久訓練のように此方を見つめ続けている存在の視線に。それに対応する為のように龍牙は個性を完全発動させる。

 

「兎に角に頑張っていくしかないな、多分オールマイトとの死闘で目覚めたこの力を存分に使ってやる……!!」

「それってもしかしてさっきの……!!」

「ああっ……召喚(アドベント)……黒龍!!!」

『グオオオオオォォォォッ!!!』

 

その時、龍牙の身体から一匹の黒い龍が飛び出し龍牙を守るかのように現れた。この龍は一体、何なのかという考えを行うよりも先に魔獣の森と呼ばれる所以が襲い掛かってくるのだが、黒龍はそれと対峙するのであった。しかし龍牙は知らなかった、何故この力を存分に使えるのか、何故龍を呼び出せるのか、その意味を……。




龍の詳細は次回辺りにでも。

でもこれ、詳細いるかな。


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黒龍を使役する龍牙

その龍の存在に気付いたのは本当につい最近だった。自分の身体の中に何か不思議な充実感が満ち満ちていた。足りなかった身体のピースが当てはまっているかのような奇妙な満足感があった。そんな感覚を味わいながらも鍛錬を続ける中で龍牙は鏡の中の世界からまるで何かが自分を見つめているかのような視線を気付いた。そして、思い切って単身でミラーワールドへと足を踏み入れる事にした―――そしてそこであったのが、自らと同じ黒い龍。

 

『グオオオオオォォォォォッッッ!!!』

 

ミラーワールドに自分以外の存在がいた事に驚きを隠せなかったが、その龍はまるで自分が会いに来るのを待っていたかのように頭を下げた。そして―――龍牙は真の意味で一つとなった。

 

 

「おっ~来た来た!随分早かったね、関心関心!!でもまあお昼抜きからは逃げきれなかったかぁ」

 

笑っているピクシーボブの視線の先には森の木々の間から、姿を現してくる1組の生徒達の姿があった。現在時間は午後4時50分、約3時間とマンダレイが語っていた道のりを更に時間掛けて到達した1組生徒は全員が全身から疲労を滲ませて個性の酷使による疲労でフラフラしているものが多い。あの轟と爆豪にも大きな疲れが見えているらしく、疲れきっている。そんな中でマンダレイとピクシーボブは驚きの光景を見ながらあれは見間違いではなかったと思う。

 

「大丈夫か皆、乗り難くないか」

「い、いえ乗せて頂けるだけでも有難いという物ですわ……」

「ほ、ホントに、ありがっ……うぷっ……」

「お茶子ちゃん無茶しないでね……?」

 

森の木々の間を縫うようにして抜けてくるのは黒い龍、節々には黄金の模様が浮かびながら獰猛な紅い瞳を輝かせているが、今は全く凶悪さを感じさせない。それ所かもう動けないレベルに疲弊しているメンバーをその身体に乗せながらゆっくりと浮遊しながら龍牙の隣を飛行している。そんな龍牙自身も背中にはウェイ顔になっている上鳴を背負いながらも全然応えていなさそうな表情を作りながら山道を突破してきた。

 

「降ろすぞ上鳴」

「ウェ、ウェ~イ……サンキュ~……」

「なんか色々とダメになってないかお前……」

 

上鳴を下ろしながらも周囲へと視線を向ける龍牙はA組の中で唯一まだまだ平気そうに振舞っている。実際、ギャングオルカにそのように鍛えられている故にまだまだ龍牙は動く事が出来る。多少なりとも疲労は溜まっているがそこまでの物ではなく、今から戦って見せろと言われれば龍牙は平然と戦闘態勢を取って戦い始める事だろう。そこまでに龍牙のタフネスさは際立っている。

 

「それより黒鏡、お前それなんだ」

「何だと言われましても……俺の個性の一部……としか言いようがないと思います」

「一部、か……」

 

ゆっくりと地面に身体を下ろし、自身の身体に乗っていたメンバーを下ろす黒い龍。常闇の黒影に近い何か、かもしれないがこれが個性の一部として見るのは非常に難しい。黒い龍の騎士に姿を変えるという個性を持っているのにも関わらず、更に黒い龍を呼び出して使役する……。これが本当に一つの個性が持ち得る力なのかと素直に相澤は眉を顰めてしまう。

 

「龍牙、その黒龍の名はあるのか」

「シンプルにドラグブラッカーって名前にしようかなって思ってる。ネーミングセンスないし俺、あんがと、戻っていいぞ」

 

その言葉を受けると黒龍ことドラグブラッカーは一吼えすると身体をくねらせながらも龍牙の足元の影に飛び込むようにしながら消えていった。ドラグブラッカーは基本的に龍牙の身体の中にいるらしく、鏡に映ったりするのはその影のような物、と龍牙は考えている。それでも自分と同じくミラーワールドに入れる事は変わりないようだが。

 

「ネコネコネコ……ミステリアスでクールなイケメン……いい、実にいい……!!」

 

とピクシーボブは龍牙の持つ黒龍を見ても妙な事は思わずに、単純に魅力が増したと思っている。更に瞳を輝かせながら龍牙を見るのだが……肝心の龍牙は何であそこまで見つめられているのかと全く分かっていないのか、取り敢えず頭を下げるのであった。

 

「まずはバスから荷物を降ろして来い、部屋に運び込んだら食堂にて食事。そのあとは入浴し、自由時間。本格的なスタートは明日だ」

『はいっ!!』

 

相澤の号令もあり各自は何とか体を起こしながらバスへと向かって自分の荷物を確保して、施設の中へと入っていくのだが、最後に入ろうとした龍牙を見て物陰から何かの声が漏れた。龍牙は余り気にも留めずに中へと入っていくがマンダレイとピクシーボブはその影へと向かうと心配そうに声を掛ける。そこにはプッシーキャッツのメンバーの一人であるラグドールが居たのだが……彼女は何処か怒りに震えているようだった。

 

「……ごめん流石にこれは、あの子の事を考えると無暗に言っちゃ駄目」

「……何かやばい物でも見た?」

「極上にやばいのを見た、あの子……どうしてあんなにちゃんと出来てるのかな……」

 

と彼女は最後に施設に入った龍牙の事を思いながら、自らの個性が見てしまったものをそっと胸の内へとしまい込んだ。

 

「龍牙、後でまたドラグブラッカーを見せて貰う事は出来るか」

「出来るけど、如何して?」

「……カッコいいからだ」

「分かる、分かるぞ踏陰」

 

そんな風にラグドールが心配する龍牙はライバルと認め合った男と何やらを深めつつあった。




龍牙、病への兆候。


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合宿開始な黒龍

「ドラグブラッカー、良い夜空だな」

『―――』

 

夜、疲れ切った身体を満たす食事や癒す湯舟での一時を終えて各自はもう寝る支度などに入っている頃。龍牙は一人で外に出て施設の壁に寄り掛かりながら夜空を見上げていた。身体に募る疲労感はあるが動きを鈍らせるものではない為に平気で起きている彼は、近くのガラスの中に潜むように蜷局を巻くドラグブラッカーに声を掛ける。山奥故か周囲に明かりなどが少ないからか夜空がハッキリと見える、何時しか見た無人島の夜空に似ている。

 

「俺の個性にはまだまだ先があったなんてな……ずっとお前俺と一緒にいてくれたのか?」

『―――』

 

問いかける龍牙に対してドラグブラッカーはただただ静かにそれを聞き続けている、唸る事もなく静かにそれに耳を傾け続けるかのように静止し続けている。

 

「だったらごめんな。友達がいなかったと思ってたのにお前がいてくれたって事に気付けなかった、でもこれからは違うな。宜しくなこれから」

 

そう笑いかけると龍はまるで照れているかのようにガラスの中から姿を消してしまった。彼の意図は分からないが龍牙は決してドラグブラッカーが悪いようには思ってはいないと感じ取れた、それだけ解れば満足だと言わんばかりにそろそろ寝る事にする。

 

 

いよいよ始まる林間合宿の本番は朝早く開始されていく。A組の全員は早朝に集合を掛けられた。そこで学校の入学時にやらされた身体能力把握テストにて行われたハンドボール投げを試しに爆豪が行う事になった。USJやら体育祭やら職場体験などで自分達も成長している、さぞかしとんでもない記録が出るんだろうと皆が期待する中で爆豪が叩き出したのは709.6m、ハッキリ言って期待外れに近い結果。

 

「確かに君達は成長したことだろう、3ヶ月間様々な事を経験して成長しているのは確かだ。だがそれは主に精神面や技術面、後は体力面と言った所だろう。個性そのものは今通りで成長の幅は狭い。今日から君達の個性を伸ばす、死ぬほどキツいが……くれぐれも死なないように―――……」

 

其処までにきつい事がこれから先に待っている、という事に全員が思わず喉を鳴らした。死なないように気を付けなければいけない訓練がこれから待っている……唯一顔色が変わっていないのは龍牙ぐらいだろう。普段からギャングオルカに扱かれている彼にとっては余り脅しにならない。

 

「それじゃあ早速始めるぞ」

 

と相澤が言葉を切った途端にその隣に4つの影が降り立ってきた、一糸乱れる動きで降り立った影に思わず全員が身構えた。現れたのは……。

 

煌めく眼でロックオン!!

猫の手、手助けやって来る!!

何処からともなくやってくる……!!!

キュートにキャットにスティンガー!!

ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!!

 

と先日マンダレイとピクシーボブが行ったポーズに二人を加えた本来のフルバージョン、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツの本来の状態とも言える。一人だけ、女性たちの中に屈強な男性である虎が混ざっている事については恐らく突っ込んではいけないのだろう、多分きっと恐らく……。

 

「それでは詳しく説明する。筋肉は負荷をかけて壊し、超再生させる事で大きくなるように個性も同じように強くなる。故に林間合宿ではそれぞれが個性の限界を突破する事で更なる個性の強化を図る。限界を超えて鍛えるんだ。それでは皆さん、宜しくお願いします」

 

そんなこんなで始まる事になった合宿だが、龍牙はここで思う。自分の個性の限界突破とは一体何なのかと。自分の個性は言うなれば発動と異形の複合型の個性。異形型や複合は個性に由来する器官・部位の更なる鍛錬が基本と説明されたのだが……その場合の鍛錬とはどうすればいいのだろうか。そんな時にラグドールが肩を優しく叩いた。

 

「大丈夫だよ、あちきがちゃんと説明してあげるから!」

「よろしくお願いします、えっと……ラグドール先生」

「あはははっ先生っていい響き~!んじゃピクシーちょっと来て~」

「はいは~い」

 

そんな風に笑っているラグドールだが、彼女の瞳はまるで母親が子供を見守るかのように酷く温かく優しい物だった。それは彼女の個性が龍牙を捉えたのが理由だった。ラグドールの個性は『サーチ』。目で見た人間の居場所、弱点などの情報を100人まで知ることが出来るという情報系個性。本人が把握しきれない個性情報すら把握する事が出来る、しかし個性以外の事は把握しきれない……が、彼女が目にした情報には何故龍牙についての情報があった。

 

過去に個性因子誘発物質を投与したからか、何故投与したかという情報に加えて―――彼が個性のせいで家族に捨てられたという情報まで得てしまった。確かに個性に関する事だ、だがこれは知ってはいけない事だった。その情報を見た時に初めて自分の個性が少し嫌になった。その後に相澤から事前に渡されていた生徒個人情報を確認して今は幸せに暮らしている事も分かったが……ラグドールの龍牙に対する印象は変わらなかった。

 

「さあさあレッツプルス・ウルトラ~!!」

 

願っていた個性のせいで両親に捨てられた悲劇の少年。だがそんな少年は真っすぐに生きようとしている、ならば自分はその手伝いをしようと思って全力で力を貸す事を誓う。

 

「ではでは君の訓練方法を伝えるよ!!まず、君は個性を完全に発動させたうえで黒い龍を出した状態を維持したままでピクシーの出す土魔獣と戦い続けて貰うよ!」

「そして私が不定期に戦う地形を作り替えていくから、それに上手く適応しながら戦う事!!」

 

ピクシーボブの個性『土流』。土を自由に操作できる個性で土を操作する事で獣の姿を模った土魔獣を作り出し、遠隔操作する事も可能。施設に行くまでの魔獣の森にはこの土魔獣が無数に配置されており、A組はその魔獣を突破しながら施設を目指さなければいけなかった。

 

「因みに最初にサービスで言うけど、足場は基本悪い状態だからね!」

「あと龍にずっと乗って戦い続けるのはダメね!」

「分かりました、じゃあ……お願いします!!」

 

 

リュウガ……!!

 

後ろに引きながら個性を発動させて姿を変じさせる龍牙、体育祭を見ていた二人はその姿を見ても特に怖がったりはしないが生で見る迫力もあり少しだけ驚く。そして龍牙が意識を集中すると右腕にあった龍頭から炎が溢れていき、龍頭が分離するように飛び出してドラグブラッカーとなって龍牙の周囲を飛ぶ。そして直後に龍牙の足元が大きく隆起して戦闘の足場の悪いバトルフィールドを形成しながら、周囲を十数体の土魔獣が取り囲んだ。

 

「この受難に感謝を……!!行くぞぉ!!!」

『グオオオォォォッッ!!』

 

龍牙の咆哮と共に叫びをあげるドラグブラッカー、迫りくる土魔獣へとその拳を向けながら立ち向かっていく。




ドラグブラッカーを出現させる際には、右腕の龍頭が分離、それを基点としてドラグブラッカーとなる。故に今まで龍頭を使用しての技が使えなくなるので状況によって危機に陥る。


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猛特訓する黒龍

『グオオオォォォォッッ!!』

「チェストォォオオオオ!!」

 

刻一刻と変化し続けていく足場が不安定なフィールド、周囲への注意を解かないまま足場の微小な変化にも気を配りながら迫ってくる土魔獣一体一体の特徴を判別して的確な攻撃を導き出し、その攻撃を当てるまでの身体の動かし方を即座に思考し身体に反映させる。それを何度何度も行いながら個性を限界まで酷使するという地獄に近しい特訓を行っている龍牙だが、既に早朝から昼食を挟んでも7時間以上が経過しているが彼は真摯にそれに向かい続けながら全力を振るい続けている。

 

「あの子凄いスタミナ……もうプロの中堅クラスを超えるぐらいのタフネスを持ってる」

 

新たに土魔獣を作り出してそれらを送ると同時にフィールドを崖に幾つかの足場が点在する物へと変化させるピクシーボブが思わず呟いた。他の生徒らも頑張っているが龍牙のそれは他を凌駕している。肉体面もそうだが精神的なタフネスさが異常の一言では済まない、強靭な肉体を強固な精神が支えている。

 

「ピクシー、ハイドリンク。貴方も適度に休憩挟まないときついでしょ」

「悪いわねラグドール、でも大丈夫。私のトレーニングにもなるから結構為になる」

「本当に凄いね……あの龍もコントロールしてるなら、マルチタスクなんて話じゃない」

 

ピクシーボブも土魔獣を操る為のマルチタスクには慣れている、無意識的な操作も含めるとA組が宿泊施設に到達するまでに繰り出した数など目ではない数を制御して操る事を可能にしている。だが龍牙のそれは異なる。対する敵への考察などを一切やめずに身体を動かして考えを即座に実行する、それでありながら龍へ最適と思われる指示などを飛ばして活用する、どんな脳内活動をしているのかある種気になってくる。

 

「これは負けてられないねぇ……!!よぉ~し新技、超大型土魔獣行くよぉ~!!」

「ちょっとやりすぎないようにね?」

「ムフフフッ……見た目こそ怖いけど本当は純粋無垢な青少年……じゅるり」

「ちょっと……それにしても……」

 

ラグドールはサーチで見た情報を再び回覧する、それは彼と近い位置で特訓している鏡 白鳥についての物。個性としても酷く似通っている、自らを動物を模したかのような鎧で包み込みながらもした動物の特徴を使用出来るという個性。その情報を見て真っ先に連想したのがビーストマンの個性だった。一度だけ会った事があるが、ビーストマンの個性は複数の動物の身体的特徴を発現させ使用出来るもの。それに酷く似ている。

 

「(……駄目、これ以上見ちゃ駄目。それは明らかに逸脱しちゃう)」

 

そう思いながら情報を閉じる、ラグドールはサーチで気付いてしまっている。龍牙と白鳥が血の繋がっている兄妹である事、龍牙の個性に関する情報で分かってしまっている。龍牙は個性が原因で両親に捨てられ、妹とも会えなかった事を……だからこれ以上は見ないと決めた。

 

「だぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「おおおおっっマジでっ!!?」

 

ピクシーボブの驚く声に引かれて顔を上げるとそこには黒炎を纏った龍牙は天から彗星のごとく駆け抜けながら巨大な土魔獣の頭部を撃ち貫いている姿があった、そして彼はそのまま着地すると素早く倒れこむ土魔獣の下へと潜り込むと一度ドラグブラッカーと一体化すると龍頭を土魔獣へと振り抜いた。

 

ドラゴンファングインパクト

 

DRAGON FANG IMPACT(ドラゴンファングインパクト)!!!

 

龍頭を激突させた部分からは龍の頭部のような紋章が刻まれると同時に黒炎が走っていき、全体へと浸透すると同時に土魔獣を完全に粉砕して見せた。そして即座にドラグブラッカーを分離させると、それと同時に背後から迫ってきていた土魔獣を一蹴する。

 

「まだまだぁっ!!!」

 

「……やばい、本気でキュンと来た」

「マンダレイに報告しとこ……」

 

 

「さあさあ昨日言ったよね!!世話を焼くのは今日だけだって!!」

「己で食う飯は己で作るのだ!!」

「こんな時のド定番カレー!!」

 

日も大きく傾き始めた夕暮れ、夏なのでまだまだ日の光はあるがそれでも暗くなってきたのは事実。夕暮れ時にその日の特訓は終わりとなってそれぞれが食事の準備をする時間となったのだが……皆、特訓の厳しさ故か元気がなく疲れ切っている。唯一元気そうなのはもっときつい経験をした事がある龍牙ぐらいだろう。

 

「にしても龍牙君君本当にタフだね、なんでそんなにタフなの?」

「師匠に鍛えられてますから、それに食事がちゃんと出来るなら良い事尽くめです。以前、散々苦労した挙句に飯抜きにされたのに師匠は俺の目の前で焼き魚を頬張ってましたから……」

 

ギャングオルカには本当に感謝している龍牙だが無人島での訓練、その一点は未だに根に持っているらしい。まあ海にぶん投げられた上に自分が目標を達成出来なかったせいではあるのだが……見せ付けるかのようにして食事をされたら根に持たない方がおかしいのだが。余談だが、その日から少しの間、龍牙はギャングオルカに対する反応がキツくなって、そんな態度を取られてギャングオルカは嫌われた!?と本気でショックを受けており、根津が言葉を掛けるまで仕事に影響する程に消沈していた姿がそこにあった。

 

「……苦労、してるのね」

「いえ、それほどでもないです」

 

尚、軽く目が死んでいたのは言うまでもない。

 

「ジャガイモ凄い多いな……ポテトサラダにでもするか、砂藤に障子手伝ってくれないか。ジャガイモを洗うの。それだけやってくれれば後は俺が全部やる」

「それだけでいいのか、お前だって疲れてる筈だろ」

「その後も俺達もやるぞ。お前だけにやらせるのは気が引ける」

「A組とB組の分のポテトサラダだから大変だぞ。ざっと40人前」

「「いいからいいから」」

「じゃあお願いする、有難う」

 

カレーを作りながらもその時間の合間に一番量が多くあったジャガイモを洗ったり蒸かしたり、人参なども加えたりして作っていく。流石の量に砂藤も障子も多少ウンザリするのだが、自分からやると言い出したのだから責任を持って確り遂行するのであった。龍牙はそんな二人に感謝しながら、黙々とジャガイモを潰していくのであった。そしてそんな苦労もありながら作ったポテトサラダは皆に好評で作った甲斐があったと三人は笑顔になりつつ、カレーを食べるのであった。




カレーとポテトサラダは鉄板だと思っております。

というか毎回毎回カレーとワンセットで家だと出てきました、ので私も毎回毎回カレーを作る時はジャガイモを多く買い込んでおります。


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沈む黒龍

「そうだ、一度聞きたかったんだけど龍牙君、君の龍って操作型?それとも自動操縦型?」

「だぁぁぁっっ!!ふうっ……えっはい」

 

今日も今日とて地獄のような日々が続いている林間合宿、B組のメンバーも悲鳴を上げる中、黙々と自分のノルマをこなしながら着実と力を付けている龍牙。矢張りギャングオルカとの特訓が聞いているのだろう。今もドラゴン・ストライクで一体の土魔獣を撃破した所だったのだが、そこへピクシーボブが話しかけた。背後から一体の魔獣が迫っていたが裏拳で沈める。

 

「ドラグブラッカー……どうでしょうね、勝手に俺の意志に合わせてくれる感じはありますけど俺がこう動かしたいと思ったらその通りに動いてくれますし……わかんないですね」

「基本自動で任意操作系って事かな……それとも単純に意思があるって事かな」

 

常闇の黒影のような物なのかは分からない、それはそれでも個性とは幅広く出せるのでこれからの訓練内容の変更に繋がってくる。それを想定して一部変更を考えていた、如何やら進めておいた方がよさそうだと思う。

 

「少しだけ休憩しましょうか、ちょっと龍牙君だけハイペースすぎるし。まあ貴方が凄いタフだから飛ばしても問題ないとは言えばないんだけどね」

「師匠に鍛えられましたから、俺は持久力が一番優れてるらしいので」

 

そう言われて納得しか出てこない。体力の多さはあらゆる面に応用がきいてくる、単純な持久戦だけではなく短期決戦方式でも存分に体力を使える事に繋がるし、撤退などの成功率も大幅に上がってくる。いい育て方と龍牙の長所を完璧に知り尽くしている良い師匠だと素直に感心するピクシーボブだった。

 

「ふぅっ……」

「本当に自在なのね、異形系と言うよりも鎧なのかしら」

「身体をそう置き換えているって感じですかね……実際に鎧みたいなもんですし、オールマイトに破壊寸前までやられましたし」

 

個性を解いて身軽になっている龍牙を見ながら矢張り不思議な個性だと思う。炎に包まれ、その中で鎧を纏い力を使う。それでいて龍を使役する、どちらかと言えばあの龍そのものが力の原動力のような物なのだろうか。そう思いながらもピクシーボブは隣に座る。

 

「ねぇ龍牙君、君っては好きな子っているの?お姉さん気になるなぁ~龍牙君結構イケメンだし」

「好きな人……ですか、そりゃ師匠とか父さんとか……」

「ああいやいやそうじゃなくて、異性で好きな人」

 

そう言われても正直な話、龍牙には分からない以外の選択肢が存在していない。同年代の友人が出来たのも雄英がやっと、それ以外の異性と言えばリカバリーガールにミッドナイト、Mt.レディのような年上の人ばかりで初恋なんて物も経験した事が無い。ミッドナイトもMt.レディも美女だが、龍牙にとっては親しいお姉さんという印象が強い。まあMt.レディは自称姉だが。

 

「……分からないですね、俺初恋とかも分からないです」

 

龍牙にとっての愛情は根津やギャングオルカから向けられた物、鏡夫妻から向けられた愛は確かな物だった事だろうが彼にとってはあの一件でそれが完全に消え去ってしまっているに近い。加えて同年代の友人がいなかった期間が長かったので恋にも距離が遠かったので、それらに対して鈍感になってしまっている節がある。それを聞いて見えない所でガッツポーズをする肉食系が一人。

 

「そちらは如何なんですか」

「えっ私?い、いやぁその全然ねぇ……仕事とかもあるし、あんまりそういう話はないっていうか……」

 

何とも答えにくい質問だがこちらが聞いたのに返さないのも駄目だろうと考えて顔を引き攣らせながらもギリギリの所を探りながらも濁らせるような答えを返す。

 

「そうなんですか……美人でお綺麗なのに変な話ですね」

「っ―――そ、そう思う?」

「はい」

 

龍牙は何の打算もなく素直な感想をもってピクシーボブに言う、それを聞いてよし好感触!!と胸を熱くする。

 

「それじゃあさ、私が付き合ってって言ったらどうする?」

「嬉しいと思います、と言っても俺はそういう経験とかないので上手くリード出来ないと思いますし、ピクシーボブ先生だったらもっと良い人に出会えますよ」

 

そろそろ休憩は終わりと立ち上がりながら軽く腕を回している龍牙を見つめながらピクシーボブは素直に惹かれた。全く打算もなく此処まで自分を褒めてくれる男には出会った事は無いし、素直に胸がドキドキして熱くなってきてしまった。これはマジ恋かもしれないと思いつつ、一緒に立ち上がって訓練の続きを始まる事にした。

 

「そうだ、今日の夕食の後はクラス対抗の肝試しがあるよ!!龍牙君は怖いのって平気?」

「怖いの……う~んさあ?」

「それも分からない?」

「単純な怖い奴って俺の個性が怖いのと同じですかね」

「(ああっ確かに……どっちかと言えば怖がらせる側だもんね……)」

 

 

「という訳で肝試しの時間だよ!!」

 

そんなこんなでやってきた肝試しの時間。クラス対抗で先にB組が脅かす側、A組が脅かされる側。二人一組で3分置きに出発。ルートの真ん中に名前を書いた御札があるから、各自それを持って帰ることがルール。脅かす側は直接接触する事は原則禁止だが、個性を使用してでの脅かしはあり。

 

「肝を試す時間だ~!!」

「「「「おう、試すぜぇ!!!」」」」

 

芦戸、切島、瀬呂、上鳴、砂藤は非常にやる気満々で楽しみにしていた模様。辛い事が多い林間合宿だがこの肝試しは所謂飴なのだからある意味当然なのかもしれない。特に彼らは補修組なのでそれが強く出ている、が―――そこに相澤の捕縛布が彼らを拘束する。

 

「その前に、大変心苦しいのだが……補修連中はこれから俺と授業だ」

『嘘でしょ先生!!?』

「生憎マジだ。日中が疎かになってたのでこちらを削る」

『勘弁してぇぇぇぇッッ!!!!』

「こういう時ってなんていうんだ、御愁傷さま?」

「龍牙君、それ確実に煽ってる」

 

そんな風に補修連中を見送った龍牙たち、そして今度は自分達が肝試しに出発する順番を決める事になった。男女混合の二人一組、龍牙がくじを引くと初手且つパートナー葉隠であった。

 

「一緒だね龍牙君!」

「そうだね、葉隠さんが一緒なら怖くないかな」

「それはこっちの台詞だよ~、私実は怖いの得意じゃないんだよ~」

 

葉隠も相手が龍牙で非常に嬉しそうにしている、気心知っている相手である上に龍牙の優しさや強さを重々承知しているからだろう。だが龍牙と一緒ならばきっと怖くないという不思議な実感があった。そんな風に仲良そうにしている二人だが、それをピクシーボブは見て直観的にライバルだっと思ったりするのであった。

 

「それでさ龍牙君、ちょっとお耳を拝借していい?」

「んっ如何したの」

「今のルールを聞いてちょっと思ったんだけど、ごにょごにょ……」

 

膝を曲げて耳元に声を当て易くする龍牙、それに感謝しながら相談する葉隠。周囲はもしかして葉隠の事が見えてるのかと軽い疑問を持っているうちに相談事は終わった模様。

 

「それじゃあ最初のペア、龍牙君&葉隠ちゃんゴッー!!」

「ゴー」

「あっ言った方が良い?それじゃゴー!!」

 

此処でも天然のような物を炸裂させる龍牙は元気よく声を出して隣を歩く葉隠と共に森へと入っていく。道はループを描いた一本道で迷う事は無い。中間地点にはラグドールも待機しているのでいざという時も安心、次の常闇と障子が準備に掛かろうとした次の瞬間―――!!!

 

『ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッッッッッッ!!!!』

『ビャアアアアアアアアアアアア!!!!!????』

『キャアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!??』

 

尋常じゃない絶叫と泣き叫ぶ声が森から木霊した。思わず待機組は身体を強張らせ、スタッフ的な立場のピクシーボブ、マンダレイ、虎も思わず顔を見合わせてしまうほどの大絶叫。そして一番なのは明らかに悲鳴の数が夥しいという点だった。龍牙と葉隠の悲鳴、とは考えられなかった。

 

「ねえこれどういう事だと思う……?」

「ラグドールからの連絡もないし緊急事態ではない、と思うけど……」

「だがこの悲鳴の数、明らかにあの2人だけではないぞ」

 

そんな風に様子を見に行くべきかと会議をしつつ、次のペアの出発を待って貰ってもらう。そして時間が少し経った頃の事、森の出口から人影が見えた。それを見て安心する皆だったが、そこにはドラグブラッカーの背中に大量に気絶しているB組の面々に申し訳なさそうにしながらも数名の生徒を背負っている龍牙、苦笑いを浮かべるとラグドールと何処かウキウキしているような葉隠の姿があった。

 

「一体何があったのこれ!!?まさかのB組の皆全滅なの!!?」

「いやぁそれがね……どうやら龍牙君、脅かされた時にうっかり個性を発動させちゃったみたいで……それでそのまま発動させてたまま進んじゃったみたいで……」

『ああっ……』

 

ラグドールの説明を聞いて皆納得してしまった。普通に進んでいた龍牙と葉隠だったが、B組の驚かし方が上手かったので龍牙は驚いてしまい、うっかり自己防衛意識が働いてしまい個性を発動させてしまったのだ。ご存じの通り、龍牙の見た目は恐ろしい物。此処にいる皆は既に慣れているが……B組は慣れているかと言われたらそうではない上に暗闇の森の中というシチュエーションも相まってとんでもない相乗効果を発揮してしまったのだ。

 

暗闇の中でボンヤリと輝く赤い瞳をした恐ろしい風貌をした龍戦士が森の中を歩いていた光景に、ビビりまくった結果、気絶者が大量に出る結果となった。

 

「すいません……その、結構怖くて……」

 

と当人は顔を反らしていた、本人も悪気があったわけではないという事で龍牙は怒られなかった。そんなこんなで肝試しはある意味で龍牙の一人勝ちという結果になってしまった。

 

「龍牙君って結構怖いの駄目なんだね」

「……なんか、すいませんでした……」

 

因みに、葉隠の話は逆にこっちが驚かせようか!?という趣旨の話で龍牙もそれに賛成して個性を使うつもりではいたのだが……想像以上にB組の驚かし方が上手く、龍牙は怖くて個性を解除出来なかったのである。

 

 

その影で、動く出す者がある。

 

 

「さあ行くぞ、敵連合開闢行動隊―――目的を果たせ」



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狙われる黒龍

「取り合えずドラグブラッカーに宿泊施設に行くように指示出しました……」

「うん、こっちもブラドキングに事情はテレパスで伝えておいたから。えっとさ、龍牙君元気出して?」

「……いえ落ち込んでないですよ、ええ落ち込んでないです」

『絶対気にしてる……』

 

空を飛びながら気絶してしまったB組連中を施設へと送っていくドラグブラッカーを見送りながら、皆は顔を俯かせながら沈んだ声をしている龍牙を気にかけた。彼自身、もう自分の見た目についてはある種のあきらめもついているし気になどはしていなかった。しかし、流石にB組全員が気絶した事は流石に心に来るのか普段の元気は数割減っていた。

 

「大丈夫だって龍牙君、それにほらっ君だって悪気があった訳じゃないんだからさ。ネッ!?」

「そうだ、奴らがお前に慣れればそれも無くなるという物だ。気にしていると前に進めんぞ」

「……分かってます」

 

とマンダレイと虎が励ましの言葉を掛ける。龍牙も分かってはいるのだろうが……それでも気になる物は気になるのだ。A組の皆は完全に慣れきっているので何も思わないが、慣れていない者からしたら暗闇で個性発動中の龍牙に遭ったら卒倒してしまうのも分かる気がする。

 

「……どうやら戻ってくるみたいですね、送り届け終わったみたいだ」

「そう、それなら次はどうしようかしら……」

「恋バナでもする?」

「うぉいラグドール、それ私に対する当てつけなの?」

「おいやめておけ、ピクシーがキレるぞ」

 

そんな風な長年連れ添ったチームメイトの絆を感じさせるようなやり取りの最中に、妙な焦げ臭さを感じた。何かが燃えるかのような焦げ臭さと迫ってくる煙のような物、一瞬思考が遅れる中で誰かが叫んだ。

 

「や、山火事!!?」

「なんでいきなりっ!!?」

「消防呼ばねぇとやばくねぇか!?」

 

突然の山火事にパニックになりかける中、龍牙は直感的に何かを感じ取った。それは敵意と殺意、ギャングオルカとの本気の殺意を交えた訓練の中で培った経験と感覚がそれを捉えたのか、個性を発動させながらピクシーボブを守るかのように立った。

 

「如何したの龍牙君ってな、何身体がっ!!?」

 

突然の龍牙の行動に困惑するが、それよりも先に身体がいきなり引っ張られるような強い感覚に襲われる。だがそれを守るように立っていた龍牙の背中に押し付けられるような形で留まる。

 

「俺に掴まって下さい!!」

「う、うんっ!!」

 

背中に抱き付くような形で自分を引き付ける引力のような物に耐える、龍牙も腰を落としながら自分事引っ張るような力に耐える。

 

「何だ、そこの茂みか!!?」

「ドラグブラッカー……そこだぁっ!!!」

『グオオオオオォォォォッッ!!』

 

耐える龍牙の声に応えるかのようにドラグブラッカーが帰還し虎が見定めた場所の少し手前に黒炎を吐き出した。

 

「熱っ!!?」

「いきなり放火って本当にヒーロー志望のやる事かしら!?」

 

龍牙とドラグブラッカーの黒炎は通常の炎よりも火力は高い、その温度に軽く悲鳴を上げつつも茂みから二人組の人影が出てくる。それと同時にピクシーボブを引っ張っていた引力が消え去り、龍牙と隣に並び立つかのようにして構えを取る。

 

「何者だ貴様ら!!この山火事も貴様らの仕業か!!」

「その通り、そしてご機嫌よう雄英高校!!我ら(ヴィラン)連合開闢行動隊!!!」

「敵連合……!?」

「USJで襲い掛かってきた連中の仲間か!!?」

 

敵連合、USJを襲撃してきた者達と同じ組織。だがそれだけではないよう様子、正式な部隊名を持ったチームがここに来ている。明確な目的があるとプッシーキャッツの面々は感じ取る、しかも最初に狙ったのが自然の中からならば最大の力を発揮出来るピクシーボブを奇襲で潰そうとしていた。それも恐らくラグドールのサーチに掛からないようにする為、だがそれは龍牙によって潰され、致し方なく出てきたのだろう。

 

「貴様ら何のつもりだ、何をしに来た」

「言っただろう。開闢行動隊だと、我らが齎すのは天地の始まり。そして新たな創成を呼ぶ」

「何だこいつ、頭おかしいのか」

「……」

 

何やら黙り込む常闇、開闢という言葉の響きに何かを感じつつも今の状況で何を考えてるんだと若干辟易している模様。プッシーキャッツの面々には目の前のヴィランの情報も頭に入っている。ヴィラン、スピナーとマグネ。どちらも多くの事件の参考人として手配されているヴィラン。そんな一人、スピナーが懇切丁寧な礼を行いながら頭を上げる。

 

「我らの目的は―――君だ。ステインが認めし男、そしてステインを継承する男。黒き龍を従える竜騎士―――黒鏡 龍牙」

「俺、だと……?」

「そう、我らの目的は君なんだよ。君さえ来てくれるならば我々は何もせずに帰るが……如何かな?」

 

顔を歪めながらそう問いかけるスピナーの返答に応えるかのように、ヒーロー達が盾になるように構えを取る。行かせる訳がないという返答その物、だがそれも想定済みと言わんばかりにスピナーとマグネの背後から何かが現れる。それは余りにも異形すぎる存在、異常に膨張した筋肉が模ったかのような蜘蛛のような8本の脚を生やした身体に人間の上半身が接続されているかのような脳みそが剥き出しのヴィランがいた。

 

「あ、あれって!!?」

「USJでオールマイトに倒された奴と同じ!!?」

「保須でパワーコングさんにぶっ飛ばされたのと同じ……!!」

 

「さあ行くぞ、偽りのヒーロー共!!」

 

混沌に満ちた、夜が始まる。



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否定する黒龍

「全員落ち着いて、施設へ避難行動開始!!ラグドール、一緒に護衛を!!」

「了解!!皆こっち!!」

 

敵連合の襲撃とその目的に驚かされたが直ぐに気持ちを取り直し、避難指示を行う。それに生徒たちは素直に従う、彼らに個性を使用する許可は出ない、下手に使えば問題に発展する。それを分かっているからこそあの爆豪も苛立ちながらも指示に従っている。が、龍牙は下手に動かなかった。正確には動けない、蜘蛛の身体に上半身が生えている、所謂アラクネのような脳無の集中力が此方に向かっている為に下手に動けば施設側にそれを連れていく事に繋がる。逆に言えば自分はここにいるならば脳無は動く事は無い。

 

「……龍牙、隙を見てお前も撤退しろ。我がそれまでお前を守る盾になろう」

「私だって守られっぱなしじゃないんだから!!」

 

龍牙の意図を察すると同時に判断を褒めながら護衛に付く虎とピクシーボブ。脳無とやらの実力は分からないが雄英のUSJに乗り込んできたうえにオールマイトと一戦交えた者と同じような存在、それと生徒がまともに戦えるとは思えない。

 

「そうだ、龍牙君ドラグブラッカーを貸して!!洸汰君を助けないと!!!」

「ああっ連れてけ!!ドラグブラッカー、緑谷に従え!!」

『グオオオオォォッ!!』

 

龍牙は即決で緑谷にドラグブラッカーを貸し与えた。この合宿に共に居たマンダレイの従甥、緑谷は今彼が居るであろう場所を知っている。ヴィランが襲撃してきているこの状況で一人きりにしているのは絶対に拙いと判断し、空を飛べる黒龍を借りたいと言ってきて、龍牙はそれを即決で頷いた。

 

「やばいよマンダレイ、あの子マジで一人でいる!!」

「ええっ!!?それじゃあ私も一緒に行くから、その間にテレパスで状況を全体に伝える!!」

「分かりました、行けっ!!!」

 

龍牙の指示を聞き、緑谷とマンダレイを背中に乗せた龍は咆えながら空へと舞いながら凄い速度で緑谷が指さす後方へと駆ける。

 

「ダメね速すぎるし身体をくねらせてるから狙いにくいったらありゃしない……」

「流石はステインを継ぐもの……!!」

「誰が継ぐかってんだ……!!」

「継ぐさ!!お前はステインに認められ、その素質がある者だからな!!」

 

とスピナーはまるで歓喜するかのように叫ぶ、龍牙と会えて本気で喜んでいるかのように。本気で龍牙がステインの継承者となると信じているかのようだ。

 

「成らねぇよ!!それにお前はあの人の何を知っている、何を思っている!?」

 

今も偶に夢に見る、ステインと相対したあの日の出来事を。

 

 

―――贋作が……ヒーローという称号を汚すのだ!!!ヒーローとは、目的であり手段ではない!!だから俺が正す、贋作が蔓延る世界の粛清する!!

 

 

誰か一人が理解してあげれば、彼は同じヒーローを志しただろう。それほどにヒーローに憧れ、希望を持っていた。だからこそ彼は許せなかったんだ、ヒーローとは思えない人たちを、だからこそ元に戻したかった。自分が憧れたヒーローのように、夢と希望を与えてくれるそんな存在に。

 

「何も知らずに、少しだけ聞きかじった程度で憧れた奴があの人を侮辱するな!!」

 

龍牙はキレた。彼自身、ステインの事は好きではないが嫌いではない。道を選び間違えただけの人だった。その程度の認識だがステインの中に遭った信念だけは本物だったと思っている。

 

「俺はあの人とは違う、違う道を歩いている。俺は―――ヒーローになる!!」

「交渉決裂ね、完全に……だったら脳無、殺さない程度にやっちゃいなさい!!」

 

マグネの指示を受けて脳無は一気に行動を開始した。その八本の脚を巧みに使いながら一気に加速してピクシーボブと虎を突破して龍牙の元へと駆けていく。

 

「しまった!!」

「龍牙君ってあらぁっ!!?」

 

急いでカバーに入ろうとしたピクシーボブと虎だが、今度は互いに引き合うかのように身体が激突した。身体が磁石のように接着され、まるで動けなくなった。マグネの個性である磁力の影響、男性はS極、女性はN極を纏わせる事が可能で範囲は自分の半径4.5m以内。それによる虎とピクシーボブを完全に接着したかのようにして拘束してしまった。脳無はそのまま迫ってくるが咄嗟にピクシーボブは叫んだ。

 

「龍牙君!!私の名において戦闘を許可する!!戦って!!!」

「―――ピクシーボブ……了解!!」

 

迫ってくる脳無、それに対しながら龍牙は後方へと飛んだ。脳無はすかさず糸を吐いて龍牙を捕まえようとするのだがそこへ火球が飛来し、糸を瞬時に燃やし尽くしながら地面へと突き刺さる。ドラグブラッカーが二人を送り届け終わり、戻ってきた。そして主を攻撃された事に対して怒りを感じているのか今まで以上に低い唸り声を上げながら脳無を威嚇する。

 

「―――!!」

 

そんな事知った事かと言わんばかりに迫る脳無、それをまるで一蹴するかのように尻尾の一撃で払い飛ばしながら特大の火球をぶつける。大爆発を起こしながらその炎はまるで硬質化でもしたかのように脳無の全身を包み込み、固めてしまう。それを見ながらドラグブラッカーは嘲笑うかのような声を上げる。

 

「―――行くぞ」

 

短い言葉に頷くかのように周囲でとぐろを巻き始め甲高い咆哮を上げる。その中心で龍牙は構えを取る、全身の力を解き放つかのようの如く。そして軽く跳躍するとドラグブラッカーが吐き出した黒炎を纏いながら脳無へと突撃していった。脳無は必死に硬質化した炎の中でもがくが炎は離れないそして―――

 

「だああああぁぁぁぁっっっ!!!」

 

そのまま龍牙は黒炎を纏ったまま脳無へと蹴りを炸裂させた。黒炎を推進力だけではなく攻撃の強化にも用いたこれが正真正銘、自分だけの必殺技。ドラグブラッカーが発現したからこそ出来るようになっていた技、身体の奥底まで響く一撃を脳無へと叩き込んだ―――

 

「―――そう、そう来るわよね」

「―――最大の好機に最大の一撃、予想通り」

 

それが失敗だった。直後、脳無の上半身が爆ぜ、そこから途轍もない量の糸が自らとドラグブラッカーを縛り上げていく。

 

「ガッ……!!?糸ぉっ……!!?」

『グオオオォォォン!!?』

 

糸はまるで生きているかのように的確に足や腕を身体に密着させるかのようにしながら縛り上げていく。完全に身動きを封じる生きた罠、蜘蛛脳無。爆ぜた部分から噴き出た糸はドラグブラッカーさえも脱出不可能な程に頑強で異常な粘度を持つ。それによって全身を雁字搦めにされてしまった龍牙とドラグブラッカーは地面へと落ちた。かろうじて動く頭を上げるとそこには黒い闇のような物が広がっていた。

 

「貴方の力は体育祭で承知しております、ですので―――徹底的に封じさせていただきますよ。鏡 龍牙君」

 

そんな声が聞こえた直後に、龍牙の意識は―――闇へと落ちた。



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黒龍、敵中にて。

龍牙君は私にとって、憧れだった。最初会った時は確かに凄い個性だと思ったけど、怖くはなかった。だって今の社会、色んな個性があるしそれによって見た目だって色々、それで驚いてたら駄目だし何より見るべきなのはその人の内面だってお母さん言ってたもん。

 

それから龍牙君と友達になって分かった、龍牙君はとっても優しくて暖かい人だって。ちょっと天然ぽいけど、凄く周りの人のことまで考えてる人で、私の……憧れの人。

 

何時の間にか龍牙君とよくいるようになってた、勉強を教わったり一緒にご飯食べたりするのが当たり前になってた。見えない筈の私の手を握って貰うのも当たり前に近くなって、すごくうれしかった……今まで私の手を直ぐに握ってこれる人なんていなかった。お母さんとお父さんだって何か持ってないと分からないのに……。

 

―――何時の間にか、龍牙君の笑顔も大好きになってた。

 

そして、林間合宿で気付いた。なんか猛アピールしてるみたいなピクシーボブを見てて分かったの、私―――龍牙君の事が、好きなんだって。だからそれを伝えたい、だからだからお願い―――!!

 

「ダメダメダメ……龍牙君を連れて行かないでぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!!」

「駄目今行ったら貴方まで危なくなる!!」

「龍牙君っっっっ!!!!」

 

その日、雄英高校1年の林間合宿にて事件が起きた。敵連合による襲撃が発生。怪我人はA組のみ、不幸中の幸いとも言える事だった。だが―――その大きな代償としてA組所属生徒、黒鏡 龍牙は連れされられてしまった。

 

 

こんなにも気分が悪いのもそうそう無いだろう、そんな苛立ちを抱えながらも龍牙は何とか気分を落ち着かせながら目の前の現実と相対していた。所持していた携帯などは取り上げられてしまった上で椅子の上で拘束具を付けさせられている。龍牙は一応ギャングオルカからヴィランに拘束された際の訓練なども受けているが、それの経験を実際に使う事になるとは思ってもみなかった。

 

「それがお前の姿か、成程。ステインの継承者に相応しい顔立ちだ!!」

「あんたさ、それ連呼してるけど意味不明よ。確かに中々に良い顔立ちしてるけど♪」

 

薄暗いバーの中と言った所だろうか、狭い室内の中に複数人のヴィランが此方を見つめるように監視しながら腰かけたりしている。この状況で暴れたとしても直ぐに抑えられる、ドラグブラッカーを暴れさせる案もあるが流石に狭すぎて力を発揮しにくい。また一緒に拘束されるのは明白だろう、ここは大人しくしているのが最善策。

 

「はぁっ……何がステインの継承者だよ、要するに自分の推す相手が欲しいだけだろ……」

「違う、俺はこのヒーロー社会を壊す為の象徴を欲しているだけだ!!それこそステイン!!」

「他当たれ」

 

呆れたような声を出しながら対応する龍牙にいよいよをもってボスのような存在が此方に声を差し向けた。身体中の至る所に手のような物を付けている男、顔すらも手のマスク、いや手その物が掴みかかっているかのようになっていてわからない。

 

「初めましてだな、黒鏡 龍牙、いや鏡 龍牙。歓迎するぜ」

「……」

「そう警戒するなよ、俺達はお前に危害を加えるつもりはない」

「あんな化け物トラップを差し向けてくるような奴らが言っても説得力ねぇだろ」

「出なきゃお前を連れてくる事は出来なかったからな、必要経費って奴だ。おっと名乗るのが遅くなったな、死柄木弔だ」

 

これだけでもかなりの情報を得られている、敵連合は自分の情報をかなり集めているらしい。自分の戦闘能力を詳しく分析してその為に最適な脳無を差し向けて確実に確保に出向いてきた、それだけを自分を評価しているともとれる。そして何より―――自分の旧姓を知っている事、紛いなりにものあのヒーロー夫婦が手を尽くして法律的にも関係を絶たれたの名前、それを知っている時点で油断の一つも出来ない。

 

「んで俺を如何する気だ」

「簡単だ、俺達の仲間になれ。鏡 龍牙」

「……はぁっ?」

 

完全に本音が出た、何言ってんだこいつ的な声がでた。

 

「お前は今のヒーロー社会の犠牲だ、偽物のヒーローによってお前は捨てられた。高々個性の見た目が恐ろしいってだけで自分にある地位や名誉に目がくらんだ愚か者が、お前を捨てたんだ。お前は拒絶されたんだ、だからこそお前がすべきものはなんだ。そう、同じような犠牲者を作らねぇために今の歪んだ体制をぶっ潰す事だ。俺達はそれをやる、勝ち続けて今の社会を崩壊させる。俺の右腕になれ、龍牙君」

 

目の前の男、死柄木は自身に誘いをかけている。自分の中にあるだろう両親への報復を願う心、怒り、憎悪を刺激しながらそれを今の社会へ向けろと言って来ている。しかもそれは自らの為ではなく他の為に使えと言っている。己ではなく自らと同じような思いをしたであろう者達の為に使えと。上手い揺さぶり方だ。

 

「……死柄木弔、聞きたい事がある」

「ああ勿論。これはスカウトだからな、対等じゃなきゃフェアじゃねぇ」

「そうか、なら聞くが―――何故俺の旧姓を知っている」

「ああそれか、先生が知ってた」

 

先生、そう言った時に死柄木弔の背後のモニターが動き、SOUND ONLYとだけ表示された。そしてそこから声が聞こえてきた。

 

『久しぶりだね、龍牙君。こうして君とまた会えてうれしいよ――――以前は親切にしてくれてありがとうね』

「この声、あの時の―――!!!」

 

確信した、過去を今に結び付けた犯人はこいつだと。



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黒龍、渦中へ。

林間合宿前のショッピングモール。

 

―――鏡 龍牙君。君は……親を恨んでいるかい?

 

そうだ、同じように旧姓で呼ばれた事があった。根津にギャングオルカしか知らない筈の自分の旧姓を知っている者がいた。あの時の男だ、そして同時に記憶が飛んだ、何かが記憶の奥底へと導いている。今まで鍵が開かずに開かなった閉じていた扉が開く。そこにあったのは―――幼い自分が病院にいる場面だ、鏡 乱もいる。つまりこれは個性が発動せずに様々な病院を巡っていた時の頃の事。

 

『ふむ……矢張り個性は確りと存在しておりますね、原因は矢張りご夫婦の個性を上手く扱い切れていないのでしょうな』

『それだけなのでしょうか、何か病気とか……』

『前の病院での検査結果はこちらにも来てますが特に異常はないですね、寧ろ完璧な位に健康体です』

 

過去、自らの個性があるにも関わらず発現せず自らも両親も不安がっていた。妹は確りとした個性があるのになぜ自分だけと当時の同級生にも馬鹿にされたりもしていた。両親もその事を深く受け止め有名どころの病院を幾つも回った、そしてまた何時もの通りとある病院から紹介を受けて今の所でも検査を受ける。

 

『それならこちらでも個性因子が活性化する薬を使いましょう。少し強めですので注射になりますが……龍牙君、注射は大丈夫かい?』

『うん、だいじょうぶ。いたいけどこわくない』

『おおっ強い子だ、それじゃあ……すいません先生、そちらの方から取って貰えますか?』

『ああっ少し待っていて』

 

個性因子誘発物質は日本では一部合法的なものとして使用が許可されている薬物、脳内物質やホルモンなどに働きかけて結果的に個性因子を誘発活性化させる薬。それを自分も打つ事になった。そんな時にその薬を持ってきたもう一人の先生がこれから注射をするからねと言いながら頭を撫でた。

 

『大丈夫、大丈夫だよ。君は立派なヒーローになれるさ』

 

優しい手つき、祖父が孫を撫でるかのような……そうだ、ショッピングモールで感じた不思議な感触はこれだった。以前にもこの男に頭を撫でられている、だからあの時の感触があった。同じような感覚があった……!!

 

「まさか、お前が……お前が原因で俺は個性を使えるようになったのか!!?」

 

龍牙が導き出した答えはそれだった。個性因子誘発物質を投与してから約半年、じっくり様子を見て行きましょうという事で病院はそこだけ通っていた、そしてその半年後に自分の運命の日になった。個性が遂に発動、発現し自らの姿が変化した。ならばその原因は打たれた薬かこの男の二択しかない、自分の個性はこいつから与えられたものなのかと龍牙は軽く頭に血が上ってきた。そんな龍牙を鎮めるように声を出しながら男は笑っていた。

 

『そうでもあり、そうでもないと言える。君は元々個性を使えた、だが使い方が分からなかったみたいだからね。折角だから個性の一部を僕が貰わせてもらったよ』

「ンだとぉ……!?」

 

龍牙の個性、それはビーストマンとミラー・レイディの二つの個性が混ざり合った結果急激に個性としての質が上昇した物。しかしそれは余りにも強すぎた個性故に幼い龍牙ではエンジンを掛ける事すらできなかった、だから個性を奪った……個性を奪う、つまりそれがこの男の力であり個性。それを考えた瞬間に脳無を連想してしまった。

 

「まさか、個性を奪った上で誰かに与えられる……!?」

『ほうっ中々に頭の回転が速いね、その通り。ショッピングモールではそれを君に返させてもらったよ』

 

個性を奪った上でそれを他人へと譲渡出来る、なんてとんでもない個性だと思いつつも龍牙は個性を返したという部分に覚えがあった。そう、ドラグブラッカーだった。自分はオールマイトとの激戦で眠っていた部分が起きたと思っていたが違う、この男の話が本当ならば時期的にも合うからだ。ドラグブラッカーを出せるようになったのはショッピングモールでの出来事の直後……!!

 

「ドラグブラッカーは元々俺の個性だったのか……!!」

『その通り、寧ろ君の個性の源泉と言っても過言ではない。それを奪った結果として君は大きく変化した、龍から離された結果どうなるか僕も気になっていたんだよ。そして結果が今までの君という訳さ!!』

 

龍牙の個性は元々ドラグブラッカーの力を身体に纏わせているような物に近い、だがその元になる力が奪われてしまうと本来は個性が使えなくなるはずなのだが……そこで個性因子誘発物質が利いた。因子は身体に残っていたドラグブラッカーの力を保存した。それが時間を経る毎に、変質し歪んだものとして形を成し遂に発現した。それが今の龍牙の個性の姿の正体、つまりこの男こそが龍牙の全てを狂わせた元凶ともいえる。

 

『そして君は十分に成長した!!その龍、君のいうドラグブラッカーがいない状態でもその力を引き出せるほどに!!そんな状態の君に本来の力の源泉を返す……その意味が分かるかな』

「何を言ってっ―――」

『更に向こうへ、更なる高みへだよ―――鏡 龍牙君』

「がぁっ!!?」

 

その時、自分の身体に何かが突き刺さった。鋭い何かが身体を貫かんとした、それは身体の内部へと侵入していく。そして何かを刺激すると直ぐにそれは外れた。

 

「はぁはぁっ……何をっした……!!」

『大きくなった器に嘗て奪った中身を返す、するとどうなるかな。君はさらに成長するのか、それとも―――パンクするのかな?』

 

直後、龍牙は全身を凄まじい熱病に襲われたかのような熱さと激痛に襲われる。声すら出ないような苦しみが全身を突き抜けていく、そして勝手に個性が発動し姿が変じる。だがその姿になっても炎が消える事が無い、闇のような黒炎の中で龍牙は自らを焼かれ続けていく。

 

「ぁぁぁぁぁぁっっっ……!!!」

『黒霧、彼を例の場所へ』

「承知しました」

『さあ龍牙君、頑張ってくれよ。戦わなければ、君は生き残れないのだから』

 

 

龍牙は決して弱まる事の無い激痛と苦しみの中でもがきながら、更なる闇へと身体を沈めていく。

 

「ぁぁっっ……闇が、ドラグブラッカーが、俺を……!!」



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叫ぶ鯱

龍牙が奪われた事、それは世間的にも大きな揺らぎとなっていた。雄英の管理体制の脆弱さやプロヒーローがいながら生徒を奪われる事や大けがを負った者がいる、この事をマスコミは大きく騒ぎ立て雄英はその対処で精一杯になっていた。それでもヒーローは動こうとしている、攫われた龍牙を救うために、敵連合を叩く為に。多くの優秀なヒーローを警察は緊急招集、龍牙救出と敵連合を一気に叩く為の作戦を練っていた。

 

「納得いかん、何故俺がそちらなのだ!!?龍牙を助けに行かせろぉ!!」

「落ち着くのだギャングオルカ!!?」

「黙れぃ虎ぁ!!貴様に俺の何が分かるぅ!!!??」

「私ならわかります!!それに私だってお姉ちゃんとして龍牙君助けに行きたいけど我慢してるんだからそっちも我慢してくださいよ!!」

「喧しいわMt.レディ!!貴様は自称だろうがぁ!!」

 

会議室に集まった一同、№1ヒーローオールマイトを始めとした超精鋭。エンデヴァー、ベストジーニスト、エッジショット、グラントリノ、虎、シンリンカムイ、Mt.レディ、実力派を集めた中で最も殺気に溢れ今すぐにも飛び出していくそうなギャングオルカを周囲が必死に抑えながら話をしようとしていた。

 

「落ち着いてくれギャングオルカ、龍牙君を確実に救うためにこれは必要なチーム分けなんだ!!ラグドールのサーチで割り出した脳無の現在地は恐らく他にも脳無がいる。なら龍牙君救出の際にこれらが邪魔するのは自明の理だ。ならばそちらにも戦力を裂くのは当然だろう?」

「感情が理解出来んわぁ!!息子を助けるのは親の役目に決まってるだろうがぁぁぁっっ!!!!」

「本気で落ち着いてくれ!!オールマイト頼む抑えるの手伝ってくれ!!」

 

ギャングオルカは龍牙が敵連合に連れされたという知らせを聞いた時、本気で血の気が引いた。そして直後に暴風のような怒りの渦に飲まれ、思わず自分の執務室の机を全力で殴りつけて粉砕してしまった。それほどまでに彼は龍牙を愛している、単純な弟子というではなく親として心から大切に思っているのだ。だからこそ龍牙を助ける為の可能性を高める為に自分が脳無を潰しに行くチーム分けにも納得は行く……だが誰よりも龍牙を助けたい思いは変わらない。

 

「大体なぁなんでそいつらまで呼んだんだ塚内ィ!!!」

 

虎、オールマイト、シンリンカムイが総出になってギャングオルカを羽交い締めにして食い止めている時に牙と憎悪をむき出しにしながら叫んだ。その指先にはバツの悪そうな顔をするビーストマンとミラー・レイディの姿がある。それに対して何を言っているだと言わんばかりに応える。

 

「何を言うんだギャングオルカ、二人の実力は知っているだろう」

「そうだっステインを確保したのもこの二人だ!」

「貴様らは何も知らんからそんな戯言を宣う事が出来るのだ……いいかよく聞け、こいつらはなぁ!!!」

 

―――黙って聞いていれば随分と愚かになったものだな、チンピラ。

 

「―――あ"あ"っ……?」

 

鏡夫妻が行った龍牙に対する事を言おうとした時、ギャングオルカに冷や水が掛けられた。それを行ったのは燃える男、№2ヒーローのエンデヴァー。諫めるのではなくオルカを侮辱するような言い回しをしながら此方に注意を向けさせた。

 

「お前の親馬鹿による駄々を何時まで見せられば良いんだろうな此方は、好い加減先に進ませろ」

「何だと貴様……!!!」

「貴様が騒いでる間こそが一番の無駄だ!!好い加減に黙れ、貴様が無駄に時間が彼を苦しめる事に繋がりかねん!!!」

「んぐぅ……!!」

 

ギャングオルカの憤りはエンデヴァーも深く理解出来る、この夫婦の罪の大きさも深さも分かっている。だが今はそれを追求している時ではない、している暇があるならばさっさと救出のための手筈と攻撃のタイミング合わせを行った方が有益。それこそがギャングオルカの望みである龍牙の救出にも繋がる。此処まで言って漸くギャングオルカは落ち着いたのか周囲に謝罪した。

 

「ちっ蚊取線香丸に言われるとは俺も老いたか……」

「―――貴様今なんと言った、誰が蚊取線香丸だこのチンピラがぁ!!!」

「やるかぁ蚊取り線香がぁぁ!!!」

「だからなんでまた喧嘩になるんだぁ!?」

「いい加減にしろぉ!!喧嘩両成敗SMASH!!」

「「ぐはぁっ!!?」」

 

此処まで漸く会議がスタートした、グダグダである。

 

 

「今回の目的は攫われた雄英生徒、黒鏡 龍牙君の救出はもとより敵連合の確保となる。だが敵連合には未だ多くの手札があると思われる。そこで今回はワイルド・ワイルド・プッシーキャッツのラグドールの協力によって判明した敵連合の拠点と思われる二か所を同時攻撃する」

 

今回の事件において不幸中の幸いとも言えるのが龍牙の居場所がハッキリしている点である。それはラグドールの個性のサーチの範囲にまだ入っていた事によって居場所が丸わかりになっている。今現在龍牙は神奈川県横浜市の 神野区にいる事が分かっている。そして敵連合の生物兵器のようなヴィランである脳無の一帯の居場所も判明、これによって敵連合の戦力を大きく削り取る事も可能になっている。

 

オールマイトやエンデヴァーを始めとしたヒーロー達が龍牙の居る地点へ殴り込みをかけ、救出とそこにいる敵連合のメンバーの確保。ギャングオルカを始めとしたヒーローは脳無の居る地点へ向かい救出の成功率を高めさせる。

 

「奪われたものを取り戻そう、そして奴らに目に物を見せてやろう。さあ流れを変えろ、覆せ!!ヒーロー!!!」



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鯱、動く。

「があああああああぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

地獄の業火が身を焼き焦がす、だがそれらを何かが直し再び壊していく。破壊と創造の無限ループ、それが齎すのは無限の苦しみ、激痛と苦痛のデュアルショック。声すら出せなかった龍牙は増していく痛みに耐えきれずに絶叫を上げ続けていた。身動きも出来ない闇の中で黒い炎が身を焦がし続けていく。

 

 

―――ふむっ……悪くない傾向だ、その調子だよ。その調子で自らを焼き続けるんだ龍牙君。

 

 

それを見つめながら笑みを浮かべる影がある、苦痛に悶える龍牙を見ながら何か興味深い研究成果を見つめる科学者のような振る舞いで見つめ続けている。

 

「あああああぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

次第に龍牙の身体に変化が起き始めていく、完全にリュウガとしての鎧が砕け散り黒煙が龍牙自身の身体を焦がす中で少しずつではあるが龍牙に新しい鎧が生まれ始めていた。今までの物と似ているが明らかに違う何かが生まれ始めている。より刺々しくもありながらも美しいそれを見た男は大きく笑いながら言った。

 

 

―――素晴らしいよ龍牙君、そうで無くは困る。君の才能はそんなものではないんだよ、さあもっと見せてくれ。君の奥底に眠っている本当の才能を。その為に僕は君を地獄に落とそう、さあ地獄の奥底の炎の中から這い上がって生き残って見せてくれ。その時、君の本当の才能が開花するんだからね……そう、生きるという才能がね。

 

 

「―――っ……!!!!」

 

無限の牢獄のような苦しみと地獄のような炎の中で龍牙は叫び続けた、空間に木霊し続ける叫びは次第に弱くなり始めている。一体何時間叫び続けているのだろうか、そんな龍牙にも限界が近づいているのか、それを暗示しているのか次第に声が、か細くなっていく。それでも地獄は弱まる事は無く、余計にそこを漬け込むかのように強く身体を焦がしながら心さえも灰にしていくように、火を灯す。

 

 

「龍牙、待っていろ。もうすぐお前を助けてやる、本当は俺が救いたい所だがな……!!」

 

ギャングオルカはチームを率いて脳無がいるとされる地点へとやってきていた。ベストジーニスト、虎、Mt.レディ、そしてビーストマンとミラー・レイディのチーム。ギャングオルカは最後の二人の参加に対して舌打ちこそしたが戦力として考えれば確かなのも事実だからか、苛立ち混じりに了承した。彼の目的は敵連合なんてどうでもいい、大切な息子が助かる為に少しででオールマイト達が行う作戦の成功率を引き上げる。ただそれだけの為に此処にいる。ヒーローとして立っているのにもかかわらず、彼は一人の子供を持つ親としてそこにいた。

 

「周囲への避難勧告と配置終了しました」

「うむっMt.レディ準備は」

「何時でもいいですよ、愛する龍牙の為に私だって張り切りますから!!」

「おい貴様、親である俺がいるのにも拘らずその発言とは舐めてるのか」

「いやいやいや分かってるでしょ!?私が言ってるの姉としてですぅ!!?」

「自称だろうが」

 

そんな事を言いつつも内心ではギャングオルカはMt.レディには感謝している。自分の知り合いを紹介する中で龍牙に対して恐怖を覚える者も少なくなかった中で彼女は龍牙に対して恐怖を一切抱かなかった稀な人物だった。それ所か姉のように振舞って龍牙に感じる事が無くなっただろう姉弟愛という物を与えて寂しさを消した。そういう意味では感謝している、自称姉ではあるが。

 

そんな中で最もバツの悪そうな顔をしているのはビーストマンとミラー・レイディの二人だった。実の親である二人は龍牙に関わる事を根津から禁止されている上に自分達はそれを飲んでいる、加えて自分達は龍牙を捨てた上に龍牙が攫われたと言われても大きく取り乱す事もなかったのに、義理の親であるギャングオルカはあそこまで龍牙の事で激情を浮かべていた。これではどちらが本当の親なのか分からない。

 

「いいかビーストマンとミラー・レイディ、そろそろ時間だ」

「―――分かってるさ、役目を果たそう」

「ええっ……未来ある子供を助けましょう」

 

間もなくと迫った時間、それは作戦の決行時間。Mt.レディは個性を発動、巨大化しながら瞳を鋭くしながら足にはめ込むようにしておいた軽トラごと足を持ち上げた。そして全力で踏み抜くかのように目の前の建物に対して踵落としを繰り出した。

 

「ッシャァ!!!」

 

建物はあっけなく崩落しでかでかと巨大な穴を作った、そこからは建物の内部が見える。そこにあったのは無数の水槽のような培養槽、そこに繋げられた無数のケーブルやらが内部にも伸びている。

 

「皆さんそこの箱の中にいっぱい脳無が!!」

「捕らえるっ!!」

 

前へと出たベストジーニスト、その途端にまるでセンサーが感知したかのように動き出した脳無は一斉に進撃を開始する。我先にとヒーローを殺す為に迫ってくる脳無の一体の頭部をトラのような爪が切り裂いたうえで蛇のような身体をしたビーストマンが拘束する。

 

「舐めるな脳無し共!!」

「簡単にやらせるとお思いで!?」

 

迫る脳無の攻撃を完璧にいなしながらも後ろへと投げ飛ばしつつも、その背後に鏡を形成するミラー・レイディ。その鏡からは脳無の一撃が出現し、鏡の位置から放たれたそれは脳無の後頭部を的確に捉えた。地面で転げるそれを目を凝らしてようやく見える程の細い細い繊維の嵐が縛り上げていく。ジーンズのようなコスチュームを纏っていたベストジーニスト、そのコスチュームから伸びた繊維が脳無たちを縛り上げていく。的確に動きを封じていく中でジーニストが呟いた。

 

「脳無格納庫、制圧完了」

 

これでオールマイトの方に脳無が行く事は無い、自分達の任務は成功になる。少々あっさりだったが難易度と重要性は=ではないとそんな考えを捨てて待機していた機動隊にすぐさま確保用の檻を用意するように頼む。後は脳無を全て檻へと放り込み、状況を見てオールマイトの方へ応援に行くかだが……そんな時だ、突然周囲が一気に崩壊し始めた。

 

「な、なんだ!!?」

「全員退避だ!!」

 

ギャングオルカの素早い指示で全員がその場を離れるが同時に大爆発が巻き起こった。建物だけではない、その辺り一帯を吹き飛ばすかのような物が引き起こされた。粉塵で周囲の視界が死ぬ中、痛みと共にギャングオルカは目を覚まし周囲に声を掛けた。

 

「全員、無事か……?」

 

それに帰ってくる声はない、呻き声こそあるが無事だと返す者は居ない。今の衝撃で気を失っているのか、そう思い身体を起こすと周囲は完全に瓦礫の山と化していた。そんな中央に一つの影があった、それは正しく闇その物だった。黒い身体に頭全体を覆うかのような不気味且つ髑髏のようなマスクは異様な存在感を発しながらそこに鎮座していた。そしてそんな闇が隣に置いている影があった。

 

「っ―――!!!」

 

それを見た瞬間に全身に力が漲ってきた、そうだ自分はその為に此処に来たんだ。ある意味で最悪だがある意味ではよかった、この手で助けてやれる、絶対に助けると誓ったものがそこにいるからだ。

 

「龍牙ァァァァッッッッ!!!!」

 

「―――ぅぁっ……」

 

瞳には光はなく、闇だけを映していた龍牙はギャングオルカの叫びを聞いたからか少しだけ、動いた。そして―――それを見た男、いや龍牙を狂わせた元凶は大きく笑い声を上げた。

 

「祝福しようじゃないか龍牙君、今日こそが君の本当の誕生日だ!!」




ビーストマン、個性:干支
自身の身体を干支の動物の特徴を身体に反映させて使用する事が出来ぞ、但し龍だけはコントロール出来ないのか使用出来ない!!それでも11の動物の特徴を使いこなす事が出来るから十分凄い個性だ!!

ミラー・レイディ、個性:反射
受けた攻撃を反射する鏡を作り出す。但し反射するには攻撃を受けなければならず、常にダメージのリスクを抱えている!!本人はそれを流しの技術で危険を避けているぞ!!

マイク風な紹介、ここでやらなきゃ多分絶対紹介なんてしないと思うので。


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鯱、凌駕する。

「貴様ぁ俺の息子から離れろぉ!!!」

「息子、おや奇妙だね。この子の親はそこに転がっている二人だと思っていたけどね」

 

男はギャングオルカの方を向きながらわざとらしいアクションをしながらそう聞き返した。ビーストマンとミラー・レイディは未だに伸びているのかピクリとも動くもしない、確かに親という意味ではそれが正解なのかもしれないが彼はそれと強く否定しながら地面を踏みしめながら叫んだ。

 

「こいつらが親だと、笑わせるなぁ!!!高々子供の見た目で、世間体だけでその子供を捨てたド畜生だ!!!龍牙の親は俺だぁ!!!」

 

今すぐにも飛び出していきそうな身体を無理やり抑えつけながら構えを取るオルカ、本当ならば今すぐにでも龍牙の元へと駆け寄って助け出して思いっきり抱きしめてやりたいほどなのだがあの男が邪魔過ぎる。これほどまでに周囲を支配するような威圧感を放出する男が弱い訳が無い、全身全霊を出し尽くす覚悟で戦わなければならない。

 

「貴様龍牙に何をしたぁ!!!俺の息子に何をした、如何してそこまで苦しんでいる!!」

「何もしていないさ、ただ彼の才能を抉じ開けただよ」

「抉じ開けた、だと……!?」

「そうだよ、ギャングオルカ。君はよくぞここまで彼を成長させてくれた、だけど君では彼の奥の底にある真実にはたどり着けない。だから僕が辿り着かせてあげるんだ、さあ龍牙君、君の生誕を祝おう」

 

座り込んでぐったりしている龍牙に声が掛けられた、その声に呼応するように龍牙はゆっくり瞳を開くと前を向いた。うつろな瞳、光など無い瞳で辺りを見渡していく。そして目の前のギャングオルカを視界に捉えると不気味な操り人形のように動きで立ち上がった。

 

「龍牙……貴様何をした!?」

「軽い催眠状態なだけだよ、余りにも苦しそうだったからねぇ……今それを解いてあげよう」

 

指を打ち鳴らすと龍牙の瞳に光が戻る、一瞬なにも理解出来なさそうだったが直ぐに思い出す。そしてオルカの姿を見ると思わず声を出してしまった。父さんと。

 

「っ―――師匠だ馬鹿もん、だが無事でよかった……龍牙今すぐこちらに来い!!」

「はいっ!!」

 

何が何だか龍牙には理解しきれていない、だが敬愛する父の言葉に間違いなど無いと迷うことなくそれに従った。だが直後に龍牙の動きが止まる、その背中に男から伸びていた赤黒い棘のように伸びた指が突き刺さる。

 

「がぁっ……!?」

「龍牙ぁぁぁぁ!!!貴様ぁああああああ!!!!」

 

ギャングオルカは正しく激昂した、目の前で自分の息子を攻撃された。それだけで激怒するには理由としては十分だと地面を抉るように地面を蹴って一気に接近してその男へと殴り掛かった、だが男はギャングオルカの突進を片腕で受け止めてしまった。片方の一撃も龍牙から指を引き抜いて軽々と受け止めて見せる。

 

「中々のパワーだね、だけどそれだけじゃあ僕には勝てないよ」

「黙れぇい!!!俺と龍牙の事を何も知らん貴様がほざくなぁ!!それに貴様は何も知らんようだなぁ……!!」

「ほう」

 

直後、ギャングオルカのパワーが急激に上昇していく。筋肉が脈動しえげつないレベルにまで高まっていく、それを抑え込むのは困難、先程まで完全にパワーで圧倒していた筈の男を上回る程の怪力を発揮しながら男を捻じ伏せるかのように押し込んでいく。

 

「これは驚いたね、この膂力を抑え込むなんて」

「子供を守る親はなぁ……世界最強なんだよ……だから、今の俺は!!」

 

更に力が増す。目の前で龍牙を守り切れなかった自分への不甲斐なさ、もっと冷静に判断すれば龍牙を確実に助けられたのではという苛立ち、だから今だけでいい。全てを覆す、善を覆う悪を圧倒する、今だけでいい。限界を超える、更に向こうへ行く!!

 

「オールマイトさえ、俺の足元にも届かんわぁぁ!!!!」

 

悪を捻じ伏せる、そのまま連続で拳や蹴りを炸裂させていく。殴りつけるたびに空気が爆発しているかのような音を立てていく。目の前のそれに不甲斐ない自分を重ねながら今それを乗り越えていく。一撃を炸裂させた後に頭部から全力で超音波を放出する。

 

「むぅっこれ程の威力をっ……!!」

 

初めて男の声に焦りが見えた、周囲の瓦礫を粉砕しながら吹き飛ばす程の威力の超音波。それに耐えようとするが、下手に耐えていては身体に深刻なダメージを追う事になると判断した男は、その激流のような勢いのそれに身体を委ね、敢えて吹き飛ばされる。瓦礫をなぎ倒すように吹き飛ばされていくそれを見つめるとギャングオルカはすぐさま龍牙の元へと駆け寄る。

 

「無事か龍牙!!」

「だ、大丈夫です……動けます……!!それより父さん、あそこにレディさんが……!!」

「ああっお前を助けに来た救出チームだ、全員連れて此処から撤退する!!」

「分かり、ました……!!ドラグブラッカー……!!」

 

動けると言っても身体は酷く思い、故にドラグブラッカーを呼び出し自分はその上に飛び乗った。そしてギャングオルカと共にヒーロー達を担ぎ上げて大急ぎでその場から撤退する。

 

「参ったなぁ……ギャングオルカがあそこまでやれるとは計算外だ。う~ん如何しようか、彼には弔の右腕になって貰おうと思ったんだけど……いや、今は放置しておくべきか。君が真実に到達した時、周囲はそれを受け入れられるかな。その時こそ改めて君を誘う時だ。それまでは―――仮初の正義に酔いしれておくといいよ龍牙君」

 

不穏な言葉を残しながら男は立ち上がりながら、放置されていた脳無達を自らの力で遠くへと転送する。そして自らは少しだけ笑いながら自らを殺した相手に思いをはせる。

 

「さあオールマイト、君は本当に平和の象徴として彼を導けるかな……光で闇を導けるか楽しみにさせてもらうよ」



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助けを求める黒龍

「お願いだから、龍牙君の事を流して……!!」

 

頻りにテレビではオールマイトを讃えるニュースが放送され続けている、林間合宿の一件で自宅に戻された葉隠は部屋にこもり続けていた。目の前で憧れであり初恋の人ともいえる龍牙が闇に飲まれ連れ去らわれるところを目撃してしまいすさまじいショックを受けてしまっていた。家に戻ってからもずっと部屋に籠ってただただ只管龍牙の無事を祈り続けていた。だがそんな彼女に齎されていたのは偶然ついてしまったテレビだった。

 

そこにあったのは壊滅的な被害を受けていた神野区にてオールマイトが巨悪を打ち砕いたというニュースだった。その巨悪は敵連合のブレインとされる凶悪なヴィラン、凄まじい激戦の末に変わらぬ平和の象徴だったオールマイトは衰えた姿を世間に見せてしまったが、それでも尚変わらぬ光をもって闇を打ち破った。悪を滅ぼされた。だがそれから流れるニュースはオールマイトの事に関する事ばかりで龍牙の事を全く報じなかった。彼女はテレビを付けたままネットニュースなどでも情報を必死に集め、龍牙の事を探すが全く見つからない。

 

―――彼はどうなったのか、世間だって龍牙の事で雄英をあんなに攻めていたのに、オールマイトが活躍したからそっちは如何でも良くなってしまったのか、なんで。

 

と様々な思いが交錯していく中で不安な気持ちでいっぱいになってしまい、涙が零れ落ちてしまう。涙は必死にマウスを動かす手の上に落ちて弾ける。

 

「龍牙君……」

 

オールマイトの事も重要だが彼女にとっては龍牙の方が何倍も大切だった。少しで良いから情報が欲しい、保護されたという文字だけでもいいから自分に見せて欲しい、そんな思いが募っている中で携帯が鳴っている事に気付いた。履歴を見てみるとこれで5回目の着信でどれも同じ番号だった。取り合えず出てみる事にする、酷い声になりながらも通話を繋げてみると電話の主はピクシーボブだった。

 

『葉隠ちゃん今大丈夫!?』

「大丈夫じゃ、ないです……」

『えっ大丈夫なの!?』

 

と心配するような声で聞こえてくるが葉隠は涙ながらに話した。龍牙が心配で堪らない、世間はオールマイトの勝利でいっぱいだけど自分はそれよりも龍牙の事について知りたいんだと、そう告げた。その直後にピクシーボブから力強い返事がやってきた。

 

『それなら大丈夫よ!!さっき虎から連絡があったの、龍牙君は無事だって!!!』

「えっ……?」

 

待ち望んでいた筈の言葉、龍牙の安否。それが知れた筈なのに葉隠はそれをハッキリと認識できずに間抜けな声を出してしまった。直ぐに理解出来ずに数秒の時が立ってから我に返ったように携帯を押し当てるようにしながら大声を出した。

 

「ほ、本当なんですか!!?龍牙君が無事だって!!!?」

『マジもマジの大マジよ!!虎が龍牙君の救出メンバーに入ってて、それでさっき連絡をくれたのよ!!龍牙君は無事よ!!今は病院で検査を受けてるんだけど軽傷で済んでるって話よ!!葉隠ちゃん今から出れる!?一緒に病院に行きましょう!!』

「す、直ぐに行きます!!」

 

直ぐに待ち合わせ場所を決めると葉隠は身支度を整えると弾丸のように部屋から飛び出していった。

 

「透!?ずっと部屋に籠ってたと思ったら如何したの急に!?」

「出掛けてくる!!」

「えっええっ!?ちょ、ちょっと待って!!?今オールマイトさんのニュースが……」

「そんなのずっとやってたでしょ!!?そんなの如何でもいいから行ってきます!!」

 

と家を飛びしていく愛娘を呆然を見送っていくしかなかった母を尻目に葉隠は全速力でピクシーボブとの待ち合わせ場所へと急いだのであった。

 

「あ、貴方……透がなんかすごい勢いで出掛けて行ったんだけど……」

「彼氏でも出来たのかな、お赤飯の材料買っといた方が良いかもね」

「まぁっ!!それは素晴らしいわね♪」

 

そんな一幕が葉隠家であったり。

 

 

「すまん龍牙、俺がもっと確りしていればお前に怪我なんぞさせなかったのに……」

「気にしすぎですよ師匠、怪我って言っても普段の訓練よりずっと軽症ですよ」

「……今は父さんと呼んでくれ」

「えっ……あっはい父さん」

 

龍牙が入院している病院の病室、そこでは検査などを終えたが体力の回復の為に一時的な入院をしている龍牙がベットにいる隣でギャングオルカが酷く落ち込んでいるかのように項垂れながら、普段ならば師匠と呼べと言う筈なのに態々父さんと呼んで欲しいという始末。今回の事件において、あの男、巨悪 オール・フォー・ワンに最後、龍牙を攻撃させてしまった事を酷く悔いているらしい。

 

「俺は……父親失格だ……」

「え"っなんですいきなり」

「俺はお前が連れて行かれたと聞いた時、血の気が引いた。お前を取り戻さなければならないと焦って作戦会議の邪魔をしてお前が苦しむ時間を伸ばしてしまった……お前は苦しみ続けたのだろう……」

「いやまあ、その……そんな所です……」

 

此処で否定しても意味はなく寧ろ落ち込むのではと思ったので此処は素直に答えておく。それを聞いて矢張りなと肩を落とす姿を見てこんな弱気な所は見た事が無いと動揺する。

 

「それだけじゃない。お前を守る守ると言っておいて最後の無様はなんだ……奴の攻撃を受け止めるどころか何も出来ずに……」

「あれは完全な不意打ちと言うか、俺が避けられなかったせい……」

「お前は催眠状態を解かれた直後だった、そんなお前がまともな回避などできる訳が無い。お前は悪くない」

「(……えっ誰この人、本当に師匠……いや、父さんなの?)」

 

龍牙は困惑していた。普段から厳しいギャングオルカが此処まで弱気且つ自分の責任を一切追求せず、寧ろ己を責めるような事を繰り返すなんてことは今まで数える程度……その位しかなかった。龍牙が一番覚えているのは無人島訓練後、少し態度をキツくした後、根津から落ち込んでるからその位にしてあげなといわれるまでの間位の事だろう。

 

「それに俺は改めて思い直した……俺は、俺は……親としてお前に飴をやった事があったか!?」

「……飴?」

「そうだ!!俺は今までお前に何回飴をやった!!?やっていたのは殆ど校長の方だろう!?」

 

飴と言われて何のことか分からなかったのだが、龍牙はもしかして飴と鞭の事を指せているのではと察する。この場合は厳しく接するギャングオルカが鞭で飴は優しく接する根津の事を指しているのではないだろうか。まあ確かにギャングオルカに優しくされた事はあまりない、厳しさこそが優しさだと龍牙は理解している。だから何も思わなかった。

 

「そうだろう!!?俺はお前に厳しくばかりでお前を遊びに連れて行ってやった事も家で遊んだやった事も全然無いだろう!!?これは親か、ただの師匠で俺は親じゃないだろ!!?」

「え~っと……」

「対して校長は校長で忙しい筈なのに、確り休みにはお前と一緒に居て遊んでやったという話もあるし誕生日のケーキを一緒に選びに行ったらしいじゃないか!!あの人の方がよっぽどいい親じゃないか!?じゃあ俺はなんだ、これじゃああの夫婦以下ではないかぁぁ!!!!」

「(誰か助けて)」

 

慟哭するギャンクオルカを尻目に龍牙は素直に助けを求めた。そんな所に向かうピクシーボブと葉隠、ある意味の修羅場は近い。




悩むギャンクオルカ。


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知らぬ間に逃げ場がない黒龍

「俺はお前に親らしいことなんて一つも……」

「いやあのだから訓練とかあれら全部くれたものじゃないですか、厳しいのは確かでしたけど全部必要な事だったからこそで……」

「だから我が子を無人島で海にぶん投げて、その日の夜に腹が減ってるお前の目の前で飯を食う奴が親か!?」

「それに関しては弁解不可ですね……あっ」

「やっぱり、お前もそう思っていたんだな……」

「いや今の本音が漏れたというか、その事に関してだけは根に持っていたというか……!?」

 

病室では未だにギャングオルカの懺悔めいた弱気な言葉が続いていた。自分のいう事に従え、お前はこれを乗り越えなければならないと様々な困難を差し向けてきたとは思えない程に身体を小さくさせながらマジ凹みをしているギャングオルカに龍牙もハッキリ言ってどうすればいいのか分からない状況が続いていた。本気で如何したらいいの分からず、身体を休めるべきなのに全く休まらない。本当に如何しようかと思案している時の事、扉がノックされた。

 

「あっはい!!」

「俺は、俺は親として……」

 

もう思考停止状態に近いギャングオルカは一旦そのままにして龍牙は来客と思われるノック音に対して返事をした。その直後に扉が開けられるのだがそこにあったのは浮いている服、一瞬思考が凍り付くのだがすぐさまに意味を理解した。来たであろう人に声を掛けようとするだが、それよりも早くに何かが自分に抱き付いていた。透明で何も分からないが確かな感触と体温が身体に伝わってきていた。

 

「葉隠さん……?」

 

やってきてくれたと思われる友人へと声を掛けるが返ってくる声はなく、ただただ身体へと回されている腕が静かに力を増して自分の身体をぎゅっと抱きしめた。そして静かに嗚咽が響いていた。

 

「良かった、本当に……もう龍牙君に会えないんじゃないかって思ったよぉっ……」

 

囁くような小さな声で聞こえたそれを聞いた時、龍牙は静かに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。きっと彼女は自分が連れて行かれる所を見て酷く不安になったに違いない、それからずっと自分の事を祈っていてくれたのかもしれない。そんな彼女は自分の姿を見るまで心の中に会った不安に押しつぶされそうになりながらずっと耐えていた。しかし改めて龍牙の姿を見て耐えきれなくなって全てが溢れ出してしまったのだろう。

 

「ごめん、それとありがとう」

「うぇぇぇん……良かったよぉぉぉっっ……」

 

大粒の涙を流しながら号泣する葉隠を抱きしめながら優しく頭を撫でてやる位の事しか出来ないが、そんな行為は彼女にとっては龍牙が確かに存在しているという証明に他ならないので益々号泣する。そんな彼女を龍牙は唯々抱きしめ続けるのであった。

 

「うううっっ私だって、私だって龍牙君が攫われて本当に辛かったのにぃ……葉隠ちゃんだけでずるいよぉ……!!」

 

と受付で手続きをしていたピクシーボブは先に駆け出してしまった葉隠にようやく追いついたのだが、病室では龍牙が優しそうな表情を浮かべながら葉隠を抱きしめているであろう光景を見て素直に嫉妬した。彼女も彼女で自分が不甲斐なかったせいで龍牙を攫われた当事者であった為に、龍牙を心配していた。だから素直に意中の男に抱きしめられている彼女に嫉妬していた。

 

「……龍牙何をして……ピ、ピクシーボブお前が何故ここにってなんでハンカチを噛んでいる……後なんか泣き声が……待てなんだこの状況は」

 

漸く正気戻ったギャングオルカは病室の状況に困惑していた、まあ龍牙の困惑の比ではないが。

 

 

「成程、龍牙の見舞いにな……それには感謝する、すまんな恥ずかしい所を見られてしまったか」

「い、いえ私なんていきなり龍牙君に、だだだ、抱きちゅいて……しにゃって……うううっ……」

「恥ずかしいならやらなきゃよかったのに……寧ろ私も抱き付くべきだった……何であそこで躊躇を……」

 

龍牙は再度の検査の為に少々離れる事になったのでギャングオルカ、葉隠、ピクシーボブは病院内のカフェテラスへと移動する事になった。この病院はそもそもがヒーローを専門的にみる病院なので人は少なく出来るだけ聞かれたくはない話をするのにも向いている、此処ならば軽くぶっちゃけた話も出来るようになっている。

 

「改めて挨拶をしておこう、ギャングオルカだ。龍牙の保護者をやっている、まあ……実際は根津校長が実質的な親で俺は師匠的な立場なんだけどな……」

「は、葉隠、透でしゅ!龍牙君にはい、いつもお世話になってます!!!」

「そうか、君が葉隠さんとやらか……龍牙が前に話していたな、可愛いクラスメイトが居ると言ってたが……成程な、あいつらしい」

 

透明な姿を見て可愛いと表現するには少々苦しいかもしれないが、龍牙にとっては彼女の仕草や行動、思いやりなどを含めてそう思っているのだと即座に感じ取る。可愛いという言葉を聞いて更に顔を赤くなり、茹蛸状態になる葉隠にピクシーボブは素直に脹れっ面になる。矢張り既に結構な差が付けられていると自覚せずにはいられなかった。

 

「あのオルカさん、率直に言っていいですか」

「何だ」

「龍牙君を私に下さい」

「ピクシーさん!!?」

 

なんというド直球な宣言だろうか、葉隠は此処に来るまで龍牙の事を好いている云々の話をピクシーボブから聞いている。だがまさかこんなことを言い出すなんて思いもしなかった、そして葉隠は龍牙からギャングオルカの厳しさをよく聞いているので大丈夫なのか!?と酷く不安になるのだが……帰ってきたのは

 

「ああっ構わんぞ」

「良いんですか!!?」

「うおっしゃぁああああ!!!言質、言質取りましたからね!!ボイスレコーダーに録音しましたからね!!」

「まさかのボイレコ!!?」

 

まさかの了承の言葉だった。そしてピクシーボブも準備が周到すぎる。

 

「但しだ、俺は龍牙は認めた相手ならば認めるつもりだ。そもそもあいつの事だ、あいつ自身が決めるのが一番筋が通っているだろう」

「成程、つまり私が龍牙君を口説き落とせたら認めてくださると」

「まあ平たく言えばな」

 

もうここまで来たらピクシーボブは完全に自重なんてかなぐり捨ててマジで龍牙を狙いに行く事だろう、もう取り返しの付きそうにない状況になってきてしまってもう如何したら良いのか分からなくなってきた葉隠はテーブルに手を叩きつけながら叫んだ。

 

「そんなの駄目です!!龍牙君には私が告白するんですから!!!」

「ほうっ」

「むむむっ矢張りライバル……!!」

 

それを聞いて酷く愉快そうにするオルカに予想通りにライバルになったと警戒するピクシー、そんな視線を受けて息を荒くしながらも我に返った葉隠はあわわわわわっと困惑の声を漏らす。彼女自身、龍牙に恋をしているというのは僅かながらにしか自覚出来ていない幼い恋心だった。しかしそれが龍牙が攫われた事で一気に大きくなって完全な燃え滾るような恋情へと変化していた。それを乗りこなせないままに叫んでしまったのだが、ギャングオルカは嬉しそうに言った。

 

「そうか、そうか……あいつはそんなに好かれていたのか……。二人とも、これは親としては失格かもしれない俺の言葉だが聞いてほしい。俺はあいつに幸せな人生を送ってほしいと思っている、だから俺はあいつが素直に恋をしたいというのならば応援するつもりだ。極論あいつを心の底から好いてくれる奴なら良いんだ、だからな―――あいつを頼むな」

「任せてください!!もう龍牙君は私の煌めく眼でロックオンなんですから!!絶対に逃がしませんから!!」

「わ、私だってぇ!!!ピクシーさんなんかには負けません!!!」




「ぶしぇくしぇええい!!!」
「大丈夫かい?風邪かな」
「いえなんか急に鼻が……」


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平和の象徴と黒龍

未だ病室での入院を強いられている龍牙。事件の被害者として今龍牙の顔は全国に広まっている、体育祭の一件もあり龍牙が攫われたのはヴィランとしての適性があるからでないのかと世論で騒がれたりもしており、なんとか龍牙にインタビューをしようとするマスコミが多い。龍牙の入院先は秘匿されている為、見つかる心配はないがその対処の為に根津は走り回り、それを変えようとしている。そんな父の頑張りを受けながら病室で大人しく龍牙の元に来客が訪れた。

 

「私が来た!!」

「オールマイトォ!?」

 

そう、巨悪であるオール・フォー・ワンを打ち砕いた平和の象徴、オールマイトであった。だがオールマイトは既に限界を迎えており、まるで骸骨のようにガリガリに痩せ細った姿のトゥルーフォームと呼ばれる姿だった。その姿は龍牙も何度か雄英でも見かけた事のありその時は、オールマイトの親戚で彼が無理をしないか近くで見ている八木 俊典と名乗っていたが……如何やらがそれが本名だったらしい。

 

「オールマイト、如何して……!?」

「休んでいるのにすまないね、是非とも君に話を聞きたくて」

「俺なんかで良ければ……」

 

そう言ってオールマイトは部屋に入ってきた。身体中に包帯を巻き片腕をギブスで固めて吊るしている状態なのに話を聞きに来た。その背後からは警察官の塚内とオールマイトとは長い付き合いで担任だったというグラントリノまでやってきていた。それを見て自分の話を随分と真剣に聞きに来たと背筋を正すとオールマイトは椅子に腰かけながら言った。

 

「まず、君から言いたい事は無いかい。ナチュラル・ボーン・ヒーロー、平和の象徴がこんな姿になって」

「……んじゃ一言」

「何でも言ってくれ」

「オールマイト、貴方……」

 

どんな事を言われる覚悟もある、もっと早く助けて欲しかったという責める言葉も確りと受け止めるつもりでここに来た。例えどんな罵声を浴びせ掛けられようとも―――

 

「日本人だったんですね」

「そこなの黒鏡少年!!?」

「だってどう見たってザ・アメリカンじゃないですか」

「いやもっとあるでしょ!?何でこんな姿なの的な質問!?」

「オールマイトは何でもありでもおかしくないでしょ的な所ありますから」

 

龍牙的なオールマイトは何でもありのスーパーヒーロー、ある種の理不尽の塊的なものになっている。そこには少なからず自身をボッコボコにしてくれたことに対する事もないようである。

 

「そう言えば俊典……お前、この小僧の試験の相手をしたときに瀕死寸前の重体にしたらしいじゃねぇか……オルカから聞いてるぞおい」

「ギクゥ!!?」

「おいおいオールマイトそれマジなのか、教師に向いてないとは正直思ってたけど流石にそれは……」

「龍牙っつったよな小僧、試験の時こいつは加減してたか?」

 

グラントリノの問いかけに龍牙は正直困った、目の前の平和の象徴はまるで捨てられそうな子犬のようなウルウルした瞳で此方を見つめている。言わんとしている事は分かる、オールマイトはグラントリノを酷く恐れている。自分にとってのギャングオルカ的な立場であると同時に相当に厳しくされたのだろう。だからこの場面で良いから自分の味方をしてほしいという懇願だ。

 

「正直言って、俺にとってオールマイトの加減って言うのは分かりません。まあ確かに俺は瀕死になってたらしいです。その事でばっちゃん、いえリカバリーガールや根津校長がオールマイトに説教したっていうのも聞きました」

「やっぱりか……」

 

ギロリッ!!と擬音が付きそうな程に鋭い視線が投げかけられる、それに漫画のような怯え方をするオールマイトに少しだけ笑いがこみあげるが言葉を続ける。

 

「でもそれはオールマイトが俺の相手を真摯にしてくれたんだと思います。確かにオールマイトはちょっと教師的な意識が欠けてるともいえるかもしれませんが俺にとっては良い先生ですよグラントリノさん」

「何でそう言い切れる、お前さんを重傷にした奴だぞ?」

「ぶっちゃけた話、俺は師匠に何度も大怪我させられてますから」

 

それを言われてグラントリノは呆気にとられたような顔になった。オールマイトは顎が外れんばかりにあんぐりと口を開け、塚内はうわぁっ……と言わんばかりに引いている。

 

「骨折、打撲、脱臼、切り傷擦り傷、もうどんだけの怪我をしたやら……それらに比べたらオールマイトから受けた傷なんて優しいもんですよ」

「……おい小僧、俺がオルカに一言言ってやろうか。弟子の育て方見直せって」

「いえ大丈夫ですよ。あれが父さん、いえ師匠なりの優しさなんです。俺の事を思って厳しくしてくれてるんですよ」

 

そんな事を笑いながら言う龍牙にグラントリノは何も言えなくなった、痛みに慣れているのと厳しい訓練に秘められている師の意思を完璧に汲み取っているからこそ言える事だ。これ以上は完全な藪蛇だ。

 

「俺はオールマイトは何事にも全力投球で、プロとしてアマチュア以下の俺にも向き合ってくれた先生だって思ってます。俺個人としては……好きな先生です」

「く、黒鏡少年……!!」

 

素直にオールマイトは感激していた、まだまだ教師として未熟であることを自覚している身としては此処まで自分の事を認めてくれている生徒がいる事に感動を覚えずにはいられない。それを聞いてグラントリノは溜息混じりに言う。

 

「ったく良かったな俊典、俺は小僧が少しでもお前が駄目だと言えば徹底的にシバくつもりだったからな」

「ヒィィッ!!?ご、御勘弁を先生!!?」

「……平和の象徴がヒィィッ……って言っちゃ駄目でしょ……というかグラントリノさんに何されたんですか」

「何、徹底的に実践訓練でゲロ吐かせただけだ」

「えっそれだけで恐れてるんですか、師匠の方がよっぽど恐ろしいんですけど」

「ちょっと待って黒鏡少年、おじさん少し君が恐ろしくなってきたんだけど!!?」

 

この後、龍牙は話をしたが大した事は無くそのまま解散となった。龍牙はゆっくりと身体を休める事になる―――筈だったのだが

 

「龍牙君っお見舞いに来たわよ!!」「龍牙君来たよ!!」

「ちょっと葉隠ちゃん押さないでよ入れないじゃない!!」

「それはピクシーさんでしょ!?」

 

部屋に飛び込んできて、互いに部屋に入るのを邪魔しあっているピクシーボブと葉隠を見て休める暇なんてないなと思いながら二人の相手をするのであった。



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退院前の黒龍

「しかしまあ好き勝手言ってくれるな……そりゃ父さんだって好きになれるわけがない」

 

退院を間もなくと言った所でやって来た葉隠とピクシーボブ、二人の相手をしつつも龍牙は朝の散歩がてら病院の売店で買ってきた新聞を読みながら思わずそんな言葉を浮かべずにはいられなかった。

 

「『雄英高校生徒、黒鏡 龍牙がヴィラン連合に誘拐されたのは当人自身がヴィランとして勧誘するに相応しい物がある為である。彼自身の個性風貌を鑑みるに他と逸脱している為である』ねぇ……悪かったな悪人面で」

 

少なからず龍牙を非難する世間の流れは存在する。ヒーローに相応しくない、させるべきではない、そんな主義主張が新聞だけではなくテレビ番組でも行われている。当人としては非常に面白くないのが素直な感想で根津のマスコミは余り信じない方が良いという言葉には同意を浮かべずにはいられない。

 

「でも嫌いすぎるのも問題なのが実情よね、良くも悪くもヒーローの活躍を広めるのもマスコミの仕事だから。だからこそ一社ぐらいは味方をしてくれるマスコミを作るっていうのがある位だからね」

「それじゃあピクシーさんも仲良しな所があるんですか?」

「一応ね。後は山岳関係の旅行誌とか出版社なんかとは仲が良いわね」

 

当然のように来客用の椅子に腰掛けながらリンゴを剥くピクシーボブと葉隠、慣れているのかすいすいと皮を剥いて行くピクシーボブに対して葉隠は一生懸命にゆっくりと慎重に果物ナイフを持って皮を少しずつ剥いている。そんな様子に少しだけの優越感を感じる、これでもプッシーキャッツの中でも家庭的だという自信がある。きっと龍牙もそんな女性も好きかもと思いながらもリンゴを剥く。

 

「でも酷くないですか!?異形系の人たちを完全に差別してるじゃないですか!!」

「そうね、だからこの新聞は酷く不快なのは私も同意見。でも大丈夫よ、今時こんな新聞を出すなんてこの新聞社は血迷ったわね。多分夕方か明日辺りには謝罪が出るわね」

 

ピクシーボブの言う通り、この新聞社に対してその日のうちに抗議の電話が殺到していた。全て異形系の個性を持つ者とそれらの個性を持つ者と関りが強い者から、この一件によって新聞社は大きく信用を落とす結果となったという。

 

「それに非難されるべきは私よ、龍牙君に交戦許可を出したのは私なんだから」

「それ以上は言わなくていいよピクシーボブ」

 

そんな言葉を放ちながら扉が開かれる、そこには龍牙の親である根津が果物を乗せたバスケット共に姿を見せていた。

 

「校長先生」

「やぁっ龍牙!ちゃんと療養しているかい、後ここでは父さんと呼んでくれて構わないよ」

「してますよ、もう直ぐ退院なのに二人に見張られてベットで寝るしかやる事なくて暇な位なんですから」

「それが入院という物だよ、それに世論の事もあったからね。でも大丈夫、全寮制の準備は整ってるからもう直ぐ出られるさ」

 

そんな風に笑みを浮かべている根津の言葉にひと先ず安心を漏らす。雄英はヴィランの襲撃を酷く重く受け止めている、こんな状況だからこそ全寮制を取り入れる事を決めて生徒たちを守る決断をした。それは龍牙にとってはマスコミからのやっかみも無くなるという事にも繋がる、安心して熟睡できる。

 

「やぁっ葉隠 透さん、龍牙と仲良くしてくれて本当に有難うね。親としてお礼を言わせてもらうよ」

「い、いえとんでもない!!私なんて龍牙君に勉強を教えて貰ったり寧ろ迷惑かけてばっかりで……」

「僕としてはもっと龍牙を振りまわしてくれて構わないよ、もう両手を掴んでジャイアントスイングする位に」

「ちょっと父さん、それじゃあ俺武器みたいじゃないですか」

 

おっとこれは失敬、とそう言うと皆が笑う。根津なりのジョークはそれなりに受けた、そしてそれとなく目線をやると酷く不格好で凸凹になっているリンゴを見つける。ピクシーボブが剥いたと思われる綺麗な物に比べると料理になれていない女の子が好きな男の子の為に頑張って挑戦しているという物が透けてみえると、根津は何処か暖かな気持ちになった。

 

「(そうか、龍牙ももうそんな歳になるのか……)」

 

龍牙を引き取ってもう10年は経つだろうか、気付けば龍牙は大きく成長して今や雄英の一年生でヴィランの襲撃から無事に帰ってきた。大きくなってきた息子にこれからも幸せな事があってくれて欲しいと願う。

 

「そしてピクシーボブ、君も龍牙を必死に守ろうとしてくれて本当に有難う」

「私なんて何も……龍牙君を守る筈なのに何も出来ませんでしたし」

「それでもだよ。君があの時咄嗟に交戦許可を出したのは本気で龍牙を守ろうとした意思があったからこそだよ、責任の追及やらがあるかもしれないから普通は物怖じするのに君は迷うことなく許可を出した。それは龍牙ならきっと危機を脱せるだけの力があると分かっていたからさ、龍牙の事を本当に分かってくれてたって事になるんだよ。有難う」

「ヒーローにとって最高の報酬です」

 

ヒーローにとって一番の報酬は矢張り感謝の言葉だ。金や名誉は確かにあったら嬉しい物だがヒーローとしては矢張り感謝の気持ちが一番大きな報酬になる、山岳救助で多くの人たちを救ってきた身としては矢張り笑顔や有難うという言葉が一番うれしいのだ。その後、根津が帰ろうとした時にピクシーボブと葉隠は彼を引き留めて、別の場所である宣言をした。

 

「私は龍牙君に本気で恋をしております、なので本気で口説き落とすつもりです」

「わ、私も龍牙君の事が大好きです!!ですからその……頑張ります!!」

「僕の息子って意外にそういう才能があるのか」

 

と素直に驚く根津がいた。



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寮へ入る黒龍

林間合宿のゴタゴタもあってから初めて1-A組が全員集合する事になった。集まっているのは築三日の新築学生寮、途轍もなく完成までが短いがそこは雄英が持てる力を使って建築したからである。集まった皆がまず思ったのが龍牙の身の安全であった。助けられたという事はオールマイトの一件に比べるとかなり遅く報道されたので皆知っているが、改めてこうして顔を合わせる事で実感として現れる物があった。

 

「さて諸君、無事にまた集まれて何よりだ。取り合えず俺から一言だ、本来あの場では俺達大人がお前たちを守るべきはずだった。そのせいで皆には迷惑を掛けた、特に黒鏡お前にはな」

「気にしてませんよ相澤先生、あの状況なら致し方ないですしヴィランの用意も周到でした」

「ああっそれは事実と言わざるを得ない。だからこそ、今回の寮制の導入は一方的だが皆を守る為に必要な物だった。皆、ご家族を説得するのは苦労したと思うが此処にいる事を感謝しておこう」

 

相澤本人も林間合宿の一件ではかなり責任を感じていた、あの場に居れば龍牙を捕縛した脳無や連れ去ったワープの個性持ちを完全に無力化出来ていた。あの時自分は赤点を取ったものの補修を行っていて何も出来なかった、結果として龍牙は連れて行かれてしまった。

 

「だが今度は大人が君たちを守る、それを信じて欲しい。そして君たちは俺達の保護下の元で仮免習得の為に精を出して欲しい。さて……長々と話したがこの位にしておこう、では中に入ろう、元気に行こう」

『はい先生!!』

 

皆が相澤に続いて中へと入っていく中、龍牙を相澤を引き留めて一言を伝えた。

 

「B組の担任のブラドがお前に感謝をしていた。経緯はどうあれ、お前がいたからB組の生徒は事実上無傷で済んだ。その事に感謝していた」

「……喜んでいいんですかねそれ」

 

B組のブラドキング先生的にはB組の生徒に一切の被害が出なかったのは龍牙が物間を除いた全員を気絶させたうえで施設まで送り届けてくれたからこそ。理由はどうあれ大切な教え子を救ってくれたことに関しては感謝しかないと相澤は口にするのだが……龍牙的には複雑なものがあるのも事実である。

 

肝心の寮は地上5階地下1階建、2階から左右に分かれており向かって右が女子用、左が男子用となっている。1階は共同エリアになっていて食堂も完備されていて此処で調理して食事を用意する事も出来る。朝と夜はランチラッシュが食事を届けてくれる事になっているので、使うとしたら昼食時だろう。そんなこんなで各自の部屋も割り当てられ、それぞれの荷物が運び込まれているのでこの日は部屋づくりになる事になった。

 

「みんなお疲れ様、部屋出来た?」

「おう漸くな」

「やっぱ時間かかるなぁ~」

 

共同スペースの一角に男子は集まってそれぞれの部屋について話している。既に日は落ちているので後は寝る程度の事しかない、そんな所へ女子も漸く終わったのがやって来た。ワイワイと話をする中で何処かソワソワしている龍牙に目が留まる。

 

「おい龍牙お前如何したんだ?なんかソワソワしてるけど」

「あ、ああ……基本的に家には人いなかったから。休みの時は一緒に居て買い物とかしてたけどそれ以外は大抵一人か師匠と訓練だったからその、なんていうのかこういう感じが、なんかその落ち着かなくて……」

 

龍牙の親は根津とギャンクオルカ、どちらも基本的に多忙。そんな龍牙の休日の過ごし方は家で家事をしながらの留守番か自主トレか自習ぐらいしかなく一人で何か出来る事ばかりでこんなに誰かと一緒に居た事など無い。今日から此処に住む、A組の皆と一緒に居るのは嬉しい事だろうが矢張りどこか慣れない所があるのだろう。

 

「あ~でもなんか解るわそれ、これからは部屋出たらすぐに顔合わせるもんな。寮なんて全然経験ないから俺もワクワクしてるわ」

「僕もだよ切島君。ちょっとそわそわしちゃうのも分かる」

「それに俺、雄英に来るまで友達いなかったから……」

『さらっと重いのが来たぁっ―――!?』

 

緑谷と葉隠は知っているが皆にとっては全く知らぬ事、根津に引き取られてから全く友達がいなかったゆえに如何したら良いのか分からないというのもある。そんな彼に芦戸と葉隠がある提案をした、これから寮生活を行う上で大切な事、皆の部屋の場所を知っておく事と行く事に慣れる事。

 

「という訳で……お部屋披露大会をしませんか!?」

『えっ』

 

という訳で龍牙を励ます&皆の部屋が気になると言う女子によって決まったお部屋披露大会が始まってしまった。トップバッターは緑谷から。当人は必死になって止めようとしたのだが抵抗も空しく部屋の扉が開け放たれてしまった。

 

「オールマイト部屋だぁ!」

「オタク部屋やね!!」

 

予想のど真ん中を突き抜けるかのような部屋全体がオールマイト一色。ポスターにタペストリー、人形何でもござれと言った雰囲気の部屋。どれだけ彼がオールマイトに憧れているのかが良く分かる、そんな部屋を見ながら龍牙は男子の部屋というのはこういう物なのかと間違った認識を持ちそうになるが、切島や上鳴が違うからと言われて持たずに済んだ。

 

「そういえば俺もオールマイトのポスターあったな……緑谷いる?」

「えっ良いの!?」

「ああっ俺も貰ったはいいけど、飾っていいのか良く分からなくて、それだったら緑谷が持っていてくれた方が多分いいと思う」

 

という訳で緑谷にポスターを渡すのであったが……それはオールマイトのヒーロー活動10周年を記念したタペストリー、非売品で手に入れるのは非常に困難でオークションに出せば凄まじい値が付くとさえ言われている品。根津から貰ったものなのだがまさかそこまでの物とは本人は全く知らなかった。

 

「そして男子最後は龍牙君の部屋!!」

 

龍牙の部屋は5階、部屋披露大会、男子は残るは龍牙を残すのみとなっていた。皆、龍牙がどんな部屋なのかドキドキしている中で最も緊張しているのは葉隠だった。

 

「(ど、どんな部屋何だろう!?やっぱり凄い知的な感じの部屋、それとも器具とかいっぱいあったり……ううっ緊張してくるよぉ……)」

 

思い人の部屋に合法的に入れる、こんな機会が来るなんてと思いながらも龍牙の部屋へとやって来た。

 

「正直言って多分、皆が期待するような物はないと思うけど……まあどうぞ」

 

そう言って扉を開けて中を見せる、ワクワクとした装いで皆が中へと視線を伸ばしてみるとそこにあったのは……酷く大きなソファチェア、赤やオレンジなどで何処か派手な印象のある家具や大きなぬいぐるみ、ロングコートが掛けられたハンガーに何処か女性っぽさを感じさせる小物などが置かれてあった。男の部屋と言うよりは、恋人と同棲している部屋と言った方が良いのだろうか。

 

「へぇっ~こんな風になってるのか、お前の部屋」

「これなんか女の人っぽいけどどうしたの?」

「それはレディさんからの贈り物、そっちはミッドナイト先生でそっちはリカバリーガール」

 

そう、龍牙の部屋は交友のあるMt.レディやミッドナイト、ばっちゃんであるリカバリーガールに根津やギャンクオルカなどがプレゼントした物ばかり。これらが無ければ龍牙の部屋は雄英が支給した品だけで構成されていただろう。因みに酷く大きなソファチェアはギャングオルカ、普段の感覚で自分の身体に合ったサイズの物を注文してしまったのだが当人は気に入っている模様。

 

「ねえねえ龍牙君あのぬいぐるみは!?」

「あれもレディさんから、なんだっけな……確かMt.レディベアって言ってたような……」



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必殺技を磨く黒龍

入寮も終了し夏休みももう終わりが近づき始めている頃、1-Aの皆は教室へと集まっていた。相澤から集合するようにと言われているからである、これから仮免の向けての事が始まるのかと皆様々な思いを胸にしながらも相澤を到着を待ちわびていると普段と同じ時間通りに相澤がやってくる。

 

「先日言った様に諸君には仮免の取得を目標として貰う。ヒーロー免許は人命に直接関わる責任重大な資格、その取得の為の試験