2095:逢魔再臨 (常磐ソウゴ推進派Quartzer)
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プロローグ
2095:オーマ・リバース
カチ、カチ、カチという時計の秒針の音が部屋に響く。部屋の中には白髪の壮年の男性とストールを首に巻く青年の二人のみ。
ここは『クジゴジ堂』という時計の修理を専門としていた店だ。店内にはいくつもの時計が正確な時間を刻んでいる。
現在は前店主が他界した為に修理ではなく買い取りをしている。
『………』
「我が魔王、遂に2068年が終わりを告げようとしているようだ」
『この時間軸はどの世界にも繋がらなかったか』
「やはり、1999年のテロを防いだ超能力者の出現に伴う魔法の技術化や2030年の寒冷化が原因かと」
『私がスウォルツやQuartzerの野望を防ぐだけでは駄目なのだな』
「いえ、貴方は最善の最高の未来の『一つ』を造り出した。ここまで『一人』で…」
『我が忠臣『ウォズ』よ。よくここまで、私に付き添ってくれた』
「いえ、我が魔王に尽くすことこそ我が喜び。私の心は今も昔もこれからも変わらず」
『そうか…なら一つ王の戯言を聞いてくれ。久々に夢を見た』
「!…それは予知夢ですか?」
『ああ…恐らくそうだ。2095年、仮面ライダーという存在も過去の物となり都市伝説として語られる時代にアナザーライダーが現れる』
「……あり得ません。タイムジャッカー無き今、アナザーライダーの現れる可能性は…」
『それは私の死後もか?ライダーの歴史を継承するものが居なくなれば、可能性はある』
「………それで我が魔王はどのように?」
『ライダーの力が悪用されているのなら見過ごすことは出来ない』
「しかし、タイムマジーンのないこの時間軸では…」
『ウォズよ、時を統べる私には不可能はない』
壮年の男性が手を前へ掲げると空間が歪み、未来の『クジゴジ堂』へ繋がる。
「我が魔王…何故そこまでして未来へ?」
『それがライダーの歴史を継承した我が役目。例え未来であろうと民を守るのは王の責務だ』
「……やはり、貴方は変わらない」
『……これでも変わったつもりなのだが…』
「それでは我が魔王、未来でまた」
ウォズはストールで全身を包むと姿が見えなくなった。相も変わらず、不思議な男だと壮年の男性は思う。
『2095年か…』
男性が空間の歪みを越えるとその歪みも『クジゴジ堂』もまるで元から存在していなかったかのように消え去った。
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「ククク…思いしれ、俺を利用していた魔法師ども…」
男を中心に魔方陣が展開され、周囲に火炎が拡がる。スプリンクラーが熱を感知し、鎮火するために水を撒くが魔法で展開された火が消えるはずもない。火炎はスプリンクラーも破壊し、拡がり続けるのだった。
『飛電インテリジェンスは新商品として新たな…』
「皆さん、避難誘導に従って速やかに移動してください!」
「押さないでください!」
「現在、一階で火災が発生してます。皆さん、冷静に避難してください!」
休日のショッピングを楽しむ人達も多いビルでの火災。多くの人々は我先にと逃げるのに対して一人の少女は冷静に状況を見据えていた。
「(おかしいです。ただの火災なら耐火性のスプリンクラーがここまで速く壊れるはずは…やはり魔法師の仕業…)」
「おい!君もはやく避難を!」
「私は大丈夫です。貴方ははやく避難を」
そういうと少女、司波深雪は火災の発生する前に感じた。強力な魔法の行使されたであろう場所へ向かう。
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「はははは!燃えろ!燃えろ!全て消えてしまえ!これがお前たちが馬鹿にした力だぁ!」
深雪が魔法の発生源に向かうと黒いフードを被った男が魔法で火災を起こしている犯人を発見した。
「(なんて狂気じみた…気分が悪いわね。でも、今はそんなことよりもあの魔法を止めるのが最優先ね)」
「座標を確認…魔法発動…」
深雪の魔法は現実の事象を書き換え、ホールに拡がる火炎を消し去った。
「馬鹿なぁ!一体何が……誰だ!」
自身の魔法が阻害された驚き、周囲を見渡すと深雪の姿を発見した。
「お前か!何のつもりだ!」
「貴方こそ、こんな事件を起こして何のつもりですか!魔法を使った犯罪を行うなど許されません」
「誰が許さないんだ!国か?軍か?それとも俺を見下したした協会の奴らか?!」
「分からないのですか?魔法師なら理解できる筈です。魔法を行使した犯罪の重さが…」
「ガキの癖に生意気なぁ!俺を見下すなぁ!!」
男は拳銃型のCADを取り出すと深雪へ向ける。そして、もう一度行使しようと
「………何故、魔法が発動しない!まさか、領域干渉か!」
「……これで終わりですか?」
「くっ!?何処か、何処かカバー出来ていない領域が!」
四方八方へCADを向けて魔法を発動するが深雪の領域干渉によって起動することは無かった。
「惜しいですね…これほどの力を手にしておきながら犯罪に走るなんて。最早手遅れですが自首してください」
「(惜しいとはなんだ?まるで既に処理済みの物を見るよう目で俺を見るな!せめて、こいつだけでも道連れに?!)」
男が懐からナイフを取り出し深雪へ駆け寄ると…
「俺の妹に何をする」
「お兄様!」
深雪の兄である達也が飛び出しナイフを素手で掴むと握り潰す。
「ひぃ?!」
その光景に男が驚き隙を晒すと達也は体術で叩き伏せた。
「死んでいませんよね?」
「気を失わせただけだ。後遺症も残らないような箇所を狙ったから大丈夫だろう。それよりも急ぐぞ、深雪。緊急時とはいえ魔法師協会支部の付近で騒ぎ過ぎた」
「はっ、はい!」
二人がその場を去ろうとすると背後から男が立ち上がる気配を感じ、達也は振り返り深雪を庇うように自身の後ろへ隠す。
「(確かに意識を奪った筈だ。こんな短時間で回復するのか…)」
「もうお止めなさい。貴方ももう限界の筈です!」
「ふざけやがって!俺の力はこんなものじゃない!」
深雪の忠告を無視した男は懐から何かを取り出すとスイッチを押す。
『あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!』
男は苦しむようにして蹲ると徐々に体が変化していく。赤い宝石を嵌め込んだ指輪のような頭部に腰には骸骨の掌の意匠があるベルト。
それは正しく化け物と呼ぶべき姿である。この瞬間、2095年にアナザーライダーが誕生した。
『はっはっはぁ!』
アナザーウィザード・フレイムは深雪の領域干渉を無視した魔法を発動して周囲を火の海に変えた。
「その姿は……」
『この力があれば俺を道具のように扱いやがった奴等に復讐出来る!』
「残念だが、その力を使った時点でお前の望みは叶わない…」
達也と深雪との間をアナザーウィザードを挟んだ反対側に青年が現れた。姿格好はごく普通だが言葉は落ち着きの有るものだった。
『貴様はなんなんだ!』
「仮面ライダージオウ……」
青年が腰に機械を腰へ当てるととそれはベルトの様に巻き付く。
「お前にはその力をどのようにして入手したのか訊きたいのだが?」
『この力は俺のものだ!誰にも渡さん!』
「そうか…なら、実力行使といこうか」
青年は男が化け物へ変化する際に使用した物に似た物を手に取るとスイッチを押した。
それを腰の機械へ取り付け構える。すると、背後には時計のような魔方陣?が展開された。
「変身…」
青年は腰の機械にある正面のユニットを回転させた。
魔方陣?に包まれた青年の姿は瞬く間に鎧を纏ったかのように変化した。
「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え、過去と未来をしろしめす時の王者。その名も仮面ライダージオウ。再臨の瞬間である」
『ウォズ……』
鎧を纏った青年の視線の先には先程大声を出していたもう一人の男性の姿がある。いつの間に居たのか、気配を感じることのできなかった達也は警戒した。
「さあ、我が魔王!この『逢魔再臨暦』に新たな一頁を!」
『はぁ!』
『ぐあぁ?!』
ジオウに斬り付けられたアナザー・ウィザードの体から火花が散る。
『俺はぁ!この力でぇ!』
展開された魔方陣からは火山弾のようなものが降り注ぐ。ジオウはその魔法を剣で切り払い、凌いでいる。
『……お前の悔しさは理解しよう。しかし、ライダーの力を復讐の為に利用させはしない』
剣を変形させ、銃にすると降り注ぐ魔法を撃ち落とし隙だらけのアナザーウィザードへも攻撃を行う。
『ぐぅ………』
攻撃を受けたアナザー・ウィザードは地面を転がる。ジオウは『ウィザード・ライドウォッチ』を取り出すとベルトの空いている方へ装着する。
『ウィザードにはウィザードだ』
ウィザード・ライドウォッチのスターターを押すとベルトの正面ユニット『ジクウサーキュラー』を回転させる。
赤い魔方陣がジオウの頭上に現れ、それが足下まで降りるとジオウの姿が変化した。
『さあ、ショータイムだ』
「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え、過去と未来をしろしめす時の王者。その名も仮面ライダージオウ・ウィザードアーマー。ライダーの力を再び継承した瞬間である」
『ウォズ、満足したか?』
「ええ、我が魔王。ご自由に…」
『ならば、早々に決めさせて貰おう』
ジオウとウィザードのライドウォッチのスターターを押すと再び『ジクウサーキュラー』を回転させる。
『ふっ!はぁ!!』
ジオウは助走を付け、アクロバティックに側転やバク転をすると高くジャンプする。
高さの限界点に到達すると急降下キックをアナザー・ウィザードへ放つ。
『ストライク・ブレイクキック!』
『ぐあぁ……』
必殺技を食らったアナザー・ウィザードは暴散し、それを背後にジオウはポーズを決めた。
放火魔法師の体からアナザーウォッチが排出されると粉々に砕け散った。それを見届けるとジオウは肩の緊張を解いた。
『ふぃー…』
「お疲れのようだね?我が魔王」
『そうだな…この時代で初の買い物に来たというのに…。また日を改めるとしよう』
腕のライドウォッチ・ホルダーからバイク・ライドウォッチを取り外し、地面へ放る。すると、ライドウォッチはジオウの専用バイク『ライドストライカー』へ変化した。
『ウォズ、後ろへ乗れ』
「仰せのままに…」
そのまま去ろうとするとする二人へ達也が声を掛ける。
「待ってくれ。貴方達には聞きたいことがある…」
『残念だが、私達には無い。今回の事は悪い夢だとでも思って忘れてくれ』
四人の間に緊迫した空気が流れる。達也も深雪も目の前の二人との戦闘を仮定して魔法式を起動できるように構える。
『我々は君達と敵対するつもりはないのだが……』
ジオウが達也達へ手を向ける。達也も魔法を発動しようとCADを素早く構えるが体が『動かない』。まるで『時が止まった』ようだった。
「(動けない?!これは一体…)」
『先程言ったように君達に危害を加えるつもりはない。我々が去れば、拘束も解ける。では、また何処かで会おう』
そう言うとジオウとウォズの二人は達也達の前から去っていった。二人の姿が見えなくなってから数秒後に二人の拘束も解除され、自由に動けるようになった。
「……お兄様、あの二人は…」
「分からない、戦闘に使われていた魔方陣も未知の物だった。それに最後の力は…」
達也には理解できた。最後のあれは実際に時を止めたのだと。その様なことを実行出来、尚且つその中でも動ける彼らに達也は恐怖するのだった。
達也の最優先事項は妹の深雪を守ること。故にあの力を使われても守ることが出来るのかと考える。
「お兄様、移動しましょう…」
「ああ…そうだな。もう少しすれば警察も来るだろう。監視カメラの映像も『母上』に連絡して手回しして貰わなければいけないな」
「すみません…」
「深雪が謝る必要はないよ。おれは深雪が無事なだけでも嬉しい」
「お兄様……」
二人は手を繋ぎ、まるで恋人のように歩いていった。
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「達也殿は極めて迅速に事態を収束させました」
「実際に働いてくれたのは深雪さんで、達也さんは棚から牡丹餅という気もしますが…。命じた仕事に成果を出したのだから不満を唱えるのは筋違いよね」
「真夜様、それでもう一つの件ですが…」
「ええ…ジオウ…仮面ライダージオウ…」
真夜の脳裏には2062年に行われた少年少女魔法師交流会での崑崙方院によって拉致された時の事を思い出された。
『止めてください!離してぇ!!』
四葉家という優秀な魔法師の血筋であろうと真夜は当時、12歳の少女。抵抗空しく、引き摺られるようにして連れ去られようとしていた。
婚約者であった七草弘一は重症を負いながらも真夜を助けようと抵抗した。弘一も拉致されることは無かったが、真夜を助けるまでに至らなかった。
その結果、真夜一人が拉致されることとなった。拉致された魔法師の末路など想像するだけでも恐ろしい。
良くて人の形を保って、悪ければ人としての最低限の機能を残した状態で標本だろう。真夜自身も理解している為に必死に抵抗しているだ。
更に魔法師とは整った容姿の者が多く。真夜もその例から漏れておらず、12歳の少女の幼さを残しつつも美しい容姿をしている。
そんな彼女が敵対組織に拉致されれば、女性としての尊厳を失う事となるだろう。
『(ごめんなさい…姉さん…もう会えないかも…本当にごめんなさい…)』
最早、無駄だと抵抗も諦め日本に居る双子の姉に謝っていると…
『待て……その少女を何処へ連れていくつもりだ…』
『爺さん、そこを退け』
真夜の前に一人の壮年の男性が現れた。落ち着いた声色に対してその言葉の節々から怒気を感じる。
『お前たちが己の民の為に戦争をするのなら。私にそれを否定することは出来ん。だか、お前たちが今からその少女に対して行う行為は決してそうではないだろう?』
『黙れ、シジイ。さっさと其処を退けぇ!?』
拉致犯達が魔法を発動するが…
『愚かな…』
壮年の男性が手を前へ突き出すと魔法式が停止した。魔法式を阻止するのなら見たことがある真夜も『起動した魔法式』が『消えずに停止』した光景には驚いた。
『何しやがったぁ?!』
『お前達が幼き子供から未来を奪うというのなら。私は止めさせてもらう』
男性の腰にはいつの間にか『黄金のベルト』が装着されていた。
『変……身…』
『な、なんだ!?その姿は?!』
『お前たち!撃てぇ!!』
先程、魔法式が止められた男たちは魔法は効かないと判断したのか今度は銃を放つ。
オーマジオウへ放たれた銃弾は全て、空中で停止する。
「クソっ!だったら、これならどうだぁ?!」
拉致犯の一人が真夜の頭部へ銃を突きつけた。
『な、なんなんだよ!これはあぁぁ……』
オーマジオウが腕を振り払う。すると、空中の銃弾や拉致犯達の姿が泡のように弾けて消え失せた。
真夜が目の前の現実に呆けているとオーマジオウが声を掛ける。
『は、はい!助けてくれてありがとうございました…』
オーマジオウは真夜を空間の歪みへ導く。
『あっ!あの…お名前を訊いても宜しいですか?』
『いえ、そうではなくて…本当の御名前は駄目ですか?』
オーマジオウは少し悩むようにして考え込む。
『待ってください!』
真夜の制止も空しく。空間の歪みは真夜を包み込むと日本へ送り、消えるのだった。
『常磐…ソウゴさん…』
これが四葉真夜と常磐ソウゴ、オーマジオウの出会いだった。
次回の仮面ライダージオウは…
「私達は一科生と二科生の差別を無くし…」
「我々、ブランシュこそ新たな時代の王となる!」
「いいや、彼らは落ちこぼれじゃない。皆、それぞれが何かの天才なんだ」
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入学編
第tan(45°)話:2095:サード・ハイスクール/宵闇の襲撃者
彼は2095年の未来へ向かい、そこで遭遇したアナザー・ウィザードを撃破。
忠臣であるウォズの調査によって『一高』という場所を中心にして事件が多発していることを知る。
そして彼らは一高へ生徒として入学するとことなる。
そして、空室だったクジゴジ堂に新たな入居者が……
おっと、少し先を読み過ぎました。これは皆様にとって未来の事でした
「我が魔王、新たな高校生活に向けた準備は整ったかい?」
「ウォズ……高校への入学は本当に必要なのか?」
「ああ、我が魔王がこの時代に来る少し前から調査したが、この『国立魔法大学附属第一高校』通称『一高』近辺での事件が多いようだからね」
ウォズがこの時代で主に使われている仮想型デバイスで『一高』周辺の地図を映し出す。そして、最近活動しているという反魔法師団体の動きが記されている。
「はぁ…『また』高校へ通う事になるとは…。それもこれも全て『この姿』のせいだ…」
現在の常磐ソウゴは18歳だった頃に近しい姿をしており、ウォズの姿は2018年の頃よりも若々しくなっていた。
「我が魔王、ライドウォッチの修復はどの程度まで?」
「問題ない、基本フォームは一通り修復が完了している。ウォズの方こそ準備は終わってる?」
「勿論」
「……本当に学生として一緒に?」
「我が魔王と同じクラスでないのが残念だがね」
「『一科生』と『二科生』か。優劣を付けるのは判るが
「それは私も同じことを思っていたよ。そもそも、彼らはこれから魔法師として成長をしていくというのに」
「こんなことなら魔法師について学ぶべきだったな。実技は駄目でも筆記はもう少し…」
「我が魔王も現実改変なら得意分野ではないか」
「それは魔法じゃないだろ…。むしろウォズは何で魔法が使えるんだ…」
魔法を使う者は純正の人間は少なく。家系を辿ると研究所が源流だというのが大半である。
常磐ソウゴも少し魔法が使える程度であり、2068年では知識も素人と同様であった。
「我が魔王の忠臣として当たり前のことさ」
「王よりも高性能な家臣……」
「歴史から見ても割りと居るものだよ」
「まぁ、確かにそうだ。魔法師の問題は彼らに任せるべきだろう。それよりも我々はアナザーライダーだ」
「早速、アナザー・ウィザードが現れた訳だが…。我が魔王としてはどの様に感じたかね?」
「そうだな…アナザーライドウォッチの力が弱いのか。昔ほどの驚異は感じなかったな」
「我が魔王の戦闘技術が上がったというのも有るだろうがね。因みにあのアナザーライダーは正確にいうとアナザー・ウィザード・フレイムスタイルだろう」
「力を限定的にしてウォッチにしていたのか。道理であのアナザーライダーは弱い訳だ」
「そうなると面倒かもしれない。仮面ライダーのフォーム数は多いからね。ダブルからビルドまでのライダーは特に」
「アナザー・オーズ・シャゴリーターとか出てきても困惑するぞ?」
ウォズとソウゴの脳裏には100を越えるアナザー・オーズがすらりと並ぶ光景。
「……流石に亜種フォームは出ないことを祈ろう。私はそろそろ寝るとするよ。我が魔王も早い内に眠るように」
「分かった、もう少ししたら寝室へ向かう」
「それではお休み、我が魔王」
「ああ、お休み」
時計の針は止まらない。常に未来に向かっていく。クジゴジ堂の時計も正確に時を刻み12時を知らせる音を鳴らす。
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「ウォズ…その『本』は本当に持っていくの?」
「当然だとも我がまお…『ソウゴくん』の活躍は随時書き記されなければ」
一高へ向かう通学路、ソウゴとウォズは肩を並べて歩いている。他にも同じ一高の制服を着た生徒達が登校している。
「はぁ…ここが一高か」
「それでは講堂に行こうか『ソウゴくん』」
「……駄目だ、魔王呼びに慣れ過ぎて名前呼びに違和感が…」
「慣れてくれたまえ」
そうな雑談をしながら歩いていると目的の講堂に辿り着く。そこには二つに分かれた生徒達が始業式をの始まりを待っている。
「どうするの、ウォズ?」
「勿論、私には一科生や二科生は関係ないのでソウゴくんの側に居させてもらうよ」
「だろうと思った。取り敢えず、後ろの方が空いているからそこに座ろう」
ウォズに対する二科生の視線が一科生のウォズに集まるがそれも徐々に薄れていき、講堂の席もほぼ埋まる頃には時間が来たのか入学式が始まった。
生徒会や校長の話が終わると壇上に新入生総代として首席の少女が上がる。
『それでは、新入生総代の司波深雪さんによる答辞てす』
「ん?ウォズ、あの子って……」
「アナザーウィザードの際に会った少女のようだね」
「また何処かでとは言ったけどこんなに早く会うとは」
首席の少女は司波深雪というらしい。講堂にいる多くの男女が司波深雪の美しさに目を奪われている。
「あの子、中々肝が座ってるよね」
「『等しく』、『一丸となって』、『魔法以外にも』とこの一科生と二科生による壁がある中で言えるのは豪胆だ」
「まぁ、殆どの新入生は彼女の美貌に気を取られてて、発言自体には気が向いてないようだけどね」
彼女の答辞で入学式は終了のようで皆が席を立ち、彼女とお近づきになろうと彼女の前に人垣が出来上がる。
「ウォズ、今日はこれで終わりだよね?」
「クラスのIDカードを受け取れば終わりという話だ」
「受け取ったら、さっさと帰ろう。今日はこれ以上居ても意味がない」
「……………そうしようか。そういえば、クジゴジ堂の空き部屋に入居者が来るのは今日の夕方だったね?」
「そうそう、同じ『一高』の生徒なんだって」
「つまり、何処かで会ってたのかもしれないということか」
「先に戻って、夕御飯の準備をしよう」
そんな会話をして去る二人を司波深雪の兄、司波達也は観察していた。
「(あのウォズと呼ばれていた男子生徒……ビル火災の際に居た男と同じ名前……)」
「司波君!カード取りに行こう!」
「ああ…行こうか」
達也も先程知り合った柴田美月や千葉エリカ達と歩いていく。
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高校生活の初日を終えた司波兄妹。深雪もエリカや美月と仲良くなり、順調な滑り出しだと言えるだろう。
現在、彼らは親元を離れて四葉から与えられた住居で二人暮らしを楽しんでいた。
「お兄様、どうぞ」
「ああ、すまない深雪」
達也に珈琲を渡すと深雪は達也の横へ腰かけた。達也は手元の機械で先日発生した魔法師によるビル火災事件についての資料を読み漁っている。
「それはこの前の…」
「ああ、本家から資料を送ってもらった。しかし、あの怪人やジオウを名乗る青年に関する情報は俺でも制限されているようだ」
「……四葉にとって秘すべき事ということですね」
「叔母上も暗に関わるなと言ってるのだろう」
「『仮面ライダー』という存在はどうでした?」
「調べてみた。21世紀初頭に話題になった都市伝説みたいだ」
「都市伝説ですか?」
達也は深雪の言葉に頷くと仮面ライダーについての情報を端末に表示する。
「色々な場所で確認されていたが何時からか姿を表さなくなり、今はその存在自体信じる人は殆んどいないみたいだ」
「それでお兄様は何故仮面ライダーの情報を?」
「仮面ライダーが深雪の害にならないとしても怪人は別だろ?深雪の領域干渉を上回るあの魔法だけでも驚異だ」
「彼らにもう一度会うにはどうすればいいのでしょう」
「案外、直ぐに会えるかもしれないな。今日の一高で『ウォズ』という男子生徒を見掛けた」
「それはあの時をバイクの後部座席に座っていた人物と同じ」
「今後、彼らと接触する機会もあるだろう」
「そうですね…」
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同時刻のクジゴジ堂ではソウゴとウォズの二人が入居者を待っていた。
「遅いね」
「ふむ、道に迷っているのかもしれないね」
「うーん…ここら辺って迷いやすい訳でもないんだけどな。ちょっと外を見てくる!」
「もう直ぐに暗くなるので気を付けるんだね」
「了解」
ウォズの忠告を受けて、暗くなる前に探そうと急ぎつつクジゴジ堂を出る。しかし、捜索するが入居者を見つけることは出来ず、周囲は暗くなり始めた。
「何処にいるんだ。夕御飯も冷めちゃうなぁ…唐揚げも美味しく出来たのに」
トボトボと肩を落としながら入居者が既にクジゴジ堂へ辿り着いていることを願って戻ろうとすると…
「きゃあ!!」
「!?悲鳴!」
突如聞こえた悲鳴が場所へ向かうとそこにはキャリーバッグを振り回しながら、何者かから抵抗している少女の姿が見えた。
「貴方、何者!」
『……………』
「あっちへ行きなさい!?」
少女を襲っている人物を見るとそれはアナザーライダーだった。肩にはBILDと2095という文字が刻まれている。
「あれはアナザー・ビルドか?目以外が黒いが……いや、今はそんなことよりも!」
ジオウライドウォッチを取り出してドライバーへ取り付ける。
「変身ッ!」
『はぁ!!』
『!!……』
『君は早く逃げて!』
「ご、ごめんなさい。腰が抜けて……」
『(なら、こいつを引き離すしかない)』
銃モードでアナザー・ビルドへ射撃するが、まるで効いていないかのように突っ込んでくる。
『………』
『?!こいつ…痛覚がないのか?』
『………』
アナザー・ビルドはドライバーに付いている装置のスイッチを押す。
『不味い、必殺技を打つつもりか!』
ジオウもアナザー・ビルドに対抗するためジカンギレードのスイッチを押す。
アナザー・ビルドは足へパワーを貯めながら必殺技を撃ち込もうと近づいてくる。対してジオウは冷静に狙いをアナザー・ビルドを向ける。
ジカンギレードから機関銃の様に連続して発射されるがそれを効いていないかのように突っ込んできた。
ジカンギレードの最後の強力な一撃とアナザー・ビルドのハザードフィニッシュが拮抗。
『…!?』
『くっ?!』
強力なエネルギーが衝突したことで二人は吹き飛ばされる。土煙が周囲に舞いアナザー・ビルドが見えなくなり、土煙の向こうをジカンギレードを構えて警戒する。
『くそ…逃げられたか…』
しかし、土煙が消えた向こう側にはアナザー・ビルドの姿は見えなかった。少しの間、周囲を警戒するが襲ってくる様子はなかったので変身を解除した。
「君、大丈夫?」
「え、ええ……助けてくれてありがとう。貴方は一体…」
「俺は常磐ソウゴ、君は?」
「私は明光院ツクヨミ。宜しくね、ソウゴ君」
「明光院……ツクヨミ……」
「えーと…何か疑問が?」
「お父さんがゲイツって名前だったりする?」
「え?!ソウゴ君、お父さんのこと知ってるの?!」
「…………(明光院って名字とツクヨミって名前。よく見ると『ツクヨミ』の面影がある…)。一方的に知ってるだけだよ。それよりも何でツクヨミはどうしてこんな時間まで歩き回ってるの?」
「えっとね?学校が終わって、新しい友達と喫茶店でお話した後に下宿先に向かってたらあの怪人に襲われたの…」
「成る程、それで下宿先は?(この先の展開が大体、分かったという顔)」
「クジゴジ堂って言うんだけど知ってる?」
「ああ…知ってるよ。それは俺の家だからね…」
「ええ!!ソウゴ君の家だったの?!」
「案内するよ」
「………あっ!待ってよ!」
ソウゴはそういうとツクヨミのキャリーバッグを持ってクジゴジ堂へ向かう。ツクヨミも少し呆然とした後、ソウゴの後を追いかける。
『…………』
少し離れた場所で二人が去るのを赤と青の瞳が見つめていた。襲撃者は闇に紛れて徐々に消えていった。
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第√4話:才能のボーダーライン
彼は2095年で三度目となる高校生活を送ることとなる。
その三度目の高校は国立魔法大学附属第一高校という特殊な高校。
そこでは一科生と二科生という分け方で生徒を区別していた。
我が魔王はアナザーライダーを探すなか、そうした魔法師達のいざこざにも巻き込まれるのだった。
「ただいまー」
「お帰り、随分と遅かったね」
「それなんだけど、彼女がアナザー・ライダーに襲われてて…」
「初めまして、今日からここでお世話なります。明光院ツクヨミです」
「私の事はウォズと呼んでくれたまえ。ツクヨミく……明光院…ツクヨミ?」
彼女の名字と名前にウォズも驚きの表情を隠せておらず、ウォズの表情にツクヨミが首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「いや、何でもないさ。それよりもアナザー・ライダーの事を」
「えーっと…」
「まあまあ、それよりツクヨミもお腹空いてるよね?夕御飯も温め直すから食べようよ。唐揚げも美味しく出来たんだよ?」
「えっ!?ソウゴ君、料理できるんだ…」
「HAR(ホーム・オートメーション・ロボット)は掃除くらいにしか使ってないからね」
「我が魔…ソウゴ君の料理は絶品でね。特にアップルパイは私のお気に入りさ」
「さあ、遅くなったけど夕御飯の食べよう。明日も早いんだから」
三人での食事を終えるとツクヨミは、明日の準備や部屋で荷ほどきをすると言って二階の自室となる部屋へ行った。
一階の談話室に残ったのはソウゴとウォズの二人のみ。
「それで我が魔王。ツクヨミ君を見つけた際の状況を教えて貰えるかな?」
「ツクヨミがアナザー・ビルドの襲われてる最中に遭遇した。あとアナザー・ビルドの姿は目以外が真っ黒だった」
「恐らく、それはハザードフォーム。本来はハザードトリガーという装置で基礎戦闘能力を爆発的に上昇させるフォームだね」
「………それだけじゃないだろ?」
「流石、我が魔王。安易な強化には代償が付き物さ。ハザードフォームは薬物投与による脳への強化、闘争本能を上昇させ刺激に敏感にすることで戦闘に特化させている」
「通常時の何倍もの刺激に脳が耐えられるはずがない。脳が麻痺していたのか…」
アナザー・ビルドの攻撃に対する反応が少なかったのは防御力の上昇と変身者の痛覚が麻痺していたのだろう。
「脳の機能停止程度ならまだ良い方さ。最悪の場合は周囲の存在が味方か敵かも区別がつかなって暴れまわるだろう」
「代償という話ではゲイツ・リバイブを思い出すな。いつの間にか普通に使用してたけど」
「……そういえば、彼はいつからか代償無しに使いこなしていたね」
使用初期は体から血を流したりと副作用が強そうだったのに当たり前のように使用していなと二人は思い出した。
「話は戻るけどアナザー・ビルドは取り逃がした」
「ふむ、アナザー・ビルドの狙いが何か分からない以上はツクヨミ君の周囲を警戒すべきだろう」
「前のアナザー・ビルドは確か…」
2018年に出現したアナザー・ビルドは交通事故によって選手生命を断たれる事となるはずのバスケット選手が変身。
能力はクラブ活動などをしている生徒をフルボトルへ吸収。すると『水泳』『弓道』『テニス』『空手』など才能をフルボトル化させるというもの。
「あの時と同じようにフルボトルで能力が増えるのなら時間を掛けるのは悪手だな」
「ベストマッチがそう簡単に見つかるとも思えないが…」
「あれは理屈じゃないって戦兎も言ってたし。龍我が試した適当な組み合わせとかも多いらしいから感覚でやった方がいいのかも」
「少し周辺での事件に関してもう一度調べ直してみるとするよ。アナザー・ビルドが動けば何かしらの痕跡は残るだろうからね」
「私はタカライドウォッチを監視役として放っておくか…」
___________________________________________
現在、ソウゴ・ウォズ・ツクヨミの三人は歩きではなく、車で通学している。
「便利な時代になったものだな」
「何、ソウゴ君。お爺ちゃんみたいなこと言って?」
「自分の中で通学は電車や自転車のそういうイメージだったから」
2095年には『キャビネット』と呼ばれるリニア式の小型車両が主流になっており、それが都市の各地を走り回っている。
敢然自動運転で免許も必要でなく、目的地を指定で勝手に移動する。この時代、ガソリン燃料や人力で動かす機械は減っている。
「それ、何時の時代の話?2050年頃には完全自動運転車が走ってたんだから家が近い人以外は自転車とか使わないよ」
「ぐぅ………」
「二人ともそうしている内に学校へ着いたようだ」
降りると周囲には同じ一高の制服を着た生徒達で溢れている。そんな彼らのいくつか視線は『ツクヨミ』へ向いている。
「?何で私が見られているのかな」
「ツクヨミ君の容姿に看取れているのだろう。黒髪ロングの大和撫子のような風貌は一年首席の司波深雪と並ぶのではないかな?」
「ふーん……ソウゴ君はどういう女の子が好み?」
「外見に関しては特に無いけど。芯の通った考えと強い意思を持った人かな?」
「むぅ……なんか抽象的でありつつ、個人を指定してるような。ソウゴ君って好きな人がいるの?」
「…………居ないよ、少なくとも『今』はね」
一科生であり美少女のツクヨミと話していると周りの一科生男子からの嫉妬の視線が鬱陶しく。ソウゴは足早に自分の教室へ向かう。
「自分は1-Eで二科生だから教室の階層が違うみたい」
「私はAでツクヨミ君と同じくだ」
「Bだから教室は別だけどね」
「授業は合同の時もあるからさ。それよりもツクヨミも何かあったら俺達に電話して直ぐに助けに行くから」
「うん、じゃあまたね!」
ソウゴは二人と別れて1-Eを目指す。廊下を歩くと殆んどが二科生であり、一科生と二科生のクラス配置が意図的に区別していると理解出来た。
「せめて同じく階層に教室を配置した方がいいと思うけどなぁ」
生徒同士の競争力を高めたいといえば立派だが、これでは安易な衝突を産み出す切っ掛けにならないだろうか。
「おはよう」
1-Eの教室に入ると既に昨日の時点で仲良くなったのかいくつかの小さな集団が出来ている。
人付き合いの上手そうな何人かはソウゴの挨拶に返事を返してくれる。ソウゴもそれに返事をしながら自分の席へ座った。
すると斜め前の男子生徒が凄いスピードでタイピングをしていてるのが目に入った。
「あれ?キーボードオンリーって珍しいね」
ついソウゴの口から言葉が溢れる。仮想型で視線ポインタによる入力が主になってからキーボード操作は廃れてしまっている。その為、こうして入力する若者はほぼ居なくなった。
「慣れればこっちの方が早いからな。視線ポインタや脳波アシストはいまいち正確さに欠ける」
「あー…分かる。特に視線ポインタはスピードを重視すると入力ミスが多くなるんだよね」
タイピングをしていた男子生徒は手は止めずに此方へ言葉を返してくれた。そんな二人の会話に前方の男子生徒が話しかけてくる。
「お前ら、すげえなそれで食っていけるんじゃないか?」
「いや、アルバイトが精々だろ」
「そうかぁ?……おっと、そういえば自己紹介がまだだった。西城レオンハルト、親父がハーフでお袋がクォーターだから見た目は純日本人風で名前が洋風。得意術式は硬化魔法で志望は体を動かす山岳隊や警察の機動隊だ。気軽にレオって呼んでくれ」
「司波達也。俺も達也でいい」
「常磐ソウゴ、ソウゴでいいよ」
「OK、それで二人の得意な魔法は?」
「実技は苦手でな。魔工技師を目指してる」
「なるほど、ソウゴは?」
レオの質問にどう答えようか悩む。ソウゴの魔法能力は技術的なものでなく先天性なものであるため、こう答えた。
「俺もそこまで実技は得意じゃないんだ。俺、BS魔法を主に使ってきたからさ」
「ほう…因みにどんな魔法か訊いてもいいのか?」
「いいよ、どうせ今後見られるだろうしさ」
ソウゴはそういうと財布からコインを取り出して上へ放り投げる。コインは天井に当たる寸前で最高点に到達し、落下を始める。
「おっ、おい!」
「まあ、見てなって」
コインが机へ衝突する寸前、ソウゴが手を翳すとコインが空中で停止する。
「!?……これは……」
「簡単に言うとBS魔法による停止かな?」
「おお……ほんとに止まってやがる…」
達也は目の前の光景に驚きながらも思案し、レオは面白そうにコインの周囲に糸がないか昔のマジックショーのように確かめている。
「でさ、これって凄いことなのか?」
「ああ、従来の魔法でこれを再現するには落下するコインの減速・停止、移動魔法による浮遊、硬化魔法による机とコインの相対位置の固定が必要になる。ソウゴはその工程を無視して行っている」
達也は説明の途中も興味深そうにコインを観察していた。そんな彼の後ろから二人の女子生徒が歩いてくる。
「えっ!何それ!」
「達也、コイツ誰だ?」
レオは朝からハイテンションに首を突っ込んできた女子生徒の事をやや引き気味にしながら訊ねる。
「うーわ、いきなりコイツ呼ばわり?失礼なヤツね…これだからモテない男は…」
「はぁ?!失礼なのはテメーだろうが!少しくらいツラが良いからって調子に乗りやがって」
「ルックスは大事なのよ?だらしなさと……」
その後も二人の口論は続き、達也と美月という女子生徒が間にはいるまで続いた。
その後、女子生徒二人(エリカ、美月)と自己紹介を終えると丁度予鈴がなり、生徒たちは自分の席に戻る。
机に備え付けられているディスプレイには五分後にレクリエーションを始めると表示されており、五分後に一人の女性が教室に入ってきた。
美人というよりは可愛らしい容姿で制服ではなく、スーツ姿である事から生徒ではなく教員であると分かる。
「皆さんはじめまして、私は…」
女性は小野遥と名乗り、自身がこのクラスの担当カウンセラーであるとこを話した。柔らかな雰囲気と穏やかな口調で話す為か緊張していた生徒たちも自然と笑顔になっている。
もう一人の男性カウンセラー柳澤の自己紹介が終わると履修に関するレクリエーションが始まる。先に終わっている人は退出してもいいという話が遥から語られると一人の男子生徒が部屋を退出した。
その後は特に何も起こることはなく、ソウゴは説明に従いながら午前のレクリエーションを終えたのだった。
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「ソウゴ、達也。昼までどうする?」
「昼食まで資料でも眺めて暇潰しするつもりだったが付き合うよ」
「俺も昼食までならいいよ」
「じゃあ、工房へ行こうぜ!」
「戦闘訓練室とかじゃなくて?」
ソウゴの言葉にレオは後頭部を掻きながら『やっぱ、そう見えるか』と呟きながら答える。
「それも大事だが。硬化魔法はその時々で発揮できる力が違うからな。自分の武器くらいメンテナンス出来るようにしときたい訳よ」
「なら、私たちと一緒に行きませんか?」
「美月も工房へ行くんだ」
「はい、私も達也さんと同じで魔工技師を目指してるので」
「美月って、それっぽいわよね」
「お前はバリバリの戦闘系だろ?闘技場に行けよ」
「アンタだって同じじゃない、バカの癖して」
「バカはないだろ!せめて、筋肉バカって言えよ!」
また二人の口論は始まり、それを止めるために達也と美月が間に入る。そんな流れが一日目にして出来上がったのであった。
ソウゴはそんな彼らの様子を微笑みながら眺める。2018年の高校生活では得られないものが得られそうだと感じた。
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「貴方たちは何なんですか!」
「うるさいぞ!
「そうよ!そうよ!」
ソウゴたちの目の前では一科生と二科生が言い争っている。普段ならそのまま放置すればいいが言い争っている二科生が達也たちではそうもいかない。
「どうしてこうなった……」
「少々、不愉快だね。彼らの言動は」
「(今日の晩御飯は何だろう)」
ソウゴは何故こうなったと眉間を揉み。ウォズは不快そうに眉をひそめ。ツクヨミは目の前の光景から現実的逃避していた。
騒動は本日これで三度目であり、一度目は昼食をソウゴ達が取っているとそこへ達也の妹である深雪が到着。
深雪と既に知り合っているエリカが同席を勧めるが、深雪と同じでクラスの森崎が席を譲れと強要。エリカと一触即発の危機になるが達也が早々に食事を済ませ立ち去ることで危機を逃れた。
二度目は演習室見学、本日の演習は現生徒会長である七草真由美による射撃訓練。
日本の魔法師をを代表する十師族の一つである七草家の長者であり、元々アイドル的な人気がある彼女の演習を見学希望する一年生は多く。
演習室に入れる人数は限られ、二科生は一科生に遠慮してのが大半の中、達也達は早めに到着して最前列を陣取った。その為、当然のように悪目立ちした。
そして今、三度目が絶賛進行中なのであった。因みに絡んできている面子は昼食のときとほぼ同じであった。
「いい加減、諦めたらいいじゃないですか。深雪さんはお兄さんと帰りたがってるんですから。何の権利があってお二人の家族としての交流を邪魔するんですか?」
最初の内は丁寧に対応していたが一科生の失礼な言動や深雪を物とでも考えているような発言の数々に穏和な美月が真っ先にキレた。
「僕たちには深雪さんに相談することがあるんだ!」
「深雪さんは悪いけど少し時間を貸してもらうだけよ!」
「そういうのは自活(自治活動)の時にやれよ。放課後じゃなくても学校は時間を取ってるはずだ」
「そもそも、相談なら事前に深雪に予定を訊いてからしなさいよ。相手の同意もなしに連れていくって、高校生にもなってすること?」
レオの指摘や明らかに挑発を目的としたエリカの言葉に一科生の男子生徒が反応する。
「うるさい!別のクラス、ましてや落ちこぼれのウィードごときがブルームに口出しするな!」
「私たちはまだ入学して二日目の新入生じゃないですか。今の時点で貴方たちが私たちより、どれだけ優れているっていうんですかぁ?」
差別的な一科生の発言に反応したのは口喧嘩に馴れていない美月だった。声を張り上げた訳ではなく、落ち着いたトーンで喋った美月の発言は不思議と校庭に響いた。
「………あれ?この状況って不味くないか?」
ソウゴは周囲に漂う不穏な空気を感じて、両者に冷静になるよう言おうとするが。
「そんなに知りたいなら教えてやるよ」
「はっ!おもしれぇ、是非とも教えてもらおうか」
完全に買い言葉に売り言葉で彼らの間に広がる空気は最早止められはしない。
「だったら教えてやる!」
一科生の森崎という男子生徒は一歩前に出で、瞬時にCADを取り出すと魔法式を展開。
照準はレオに向けられており、速度を重視する特化型CADからは既に魔法が発動しそうである。しかし、その魔法が発動するよりも先に森崎のCADが宙を舞う。
「この距離ならさ、身体を動かす方が速いのよねぇ」
いつの間にか森崎との距離を詰めていたエリカが伸縮警棒で弾き飛ばしたのである。
「それは同感だが。お前、俺の手ごとぶっ飛ばそうとしなかったか?」
「そんなことないわよ。アンタの動きを観察すればそれ位できると確信してたし。バカだけど身のこなしは確かだもの」
「だから!筋肉を付けろって言ってるだろ!」
二人は先程争っていた一科生の前でいつものコントを始めた。ふと、ソウゴが足元を見ると先程弾き飛ばされたCADが落ちている。
ソウゴはそれを拾うと森崎の方へ歩き出す。森崎の方もエリカの攻撃で呆けていたがソウゴが目の前に来ると意識を取り戻した。
「何だよ…落ちこぼれに負けた俺を笑いに来たのか?」
「いいや、彼らは落ちこぼれじゃない。皆、それぞれが何かの天才なんだ」
ソウゴは森崎にCADを握らすと背を向けて戻る。その発言が気に入らなかったのか生徒の一人がソウゴへ向けて魔法を発動しようとした。
「下郎……。我が魔王の忠告に耳を傾けないとは烏滸がましいにも程がある。跪け…」
そこへウォズが割って入り、普段の声色よりも数段低くなったドスの効いた口調で喋った。男子生徒の腕を掴むと捻り上げ、足払いすると土下座させるように地面に押さえ付ける。
「……ウォズ、やり過ぎ。俺はそんなこと望んでないよ」
「おっと、これは失礼した。少々、冷静さを欠いたようだ」
ソウゴから苦言を言われるとウォズはいつもの不敵な笑みと慇懃無礼な口調へ戻る。
「あれ……もう、終わっちゃったかしら?」
「1-Aと1-Eの生徒たちだな?先程まで起こっていた事に関しては話して貰うぞ?」
「はぁ……何だかんだ、面倒な気がする…」
こうして騒動が収まりかけた時、生徒会長である七草真由美とキリッとした冷たい印象を受ける女性とが現れた。この騒動はもう少し長引きそうだとソウゴは肩を落とす。
「三度目の高校生活、前の時代と違って割りとあっさり友人が出来たことに安堵するが、早速一科生と二科生で争いが発生。更には生徒会長も現れ、面倒な事に巻き込まれたなと肩を落とす常磐ソウゴであった…」
「…………ソウゴ君、友達いなかったの?」
「い、いや、居なかった訳じゃない!親友はいたから!」
「騙されてはいけないよ、ツクヨミ君。この逢魔降臨暦には我が魔王が高校生活で親しい友人が居たとは全く記されてはいない。ゲイツ君やツクヨミ君を除けば、友達は0だったはずさ」
「ソウゴ君、ぼっち?」
「いやいや…ぼっちではないから!ほら、エグゼイド編の小和田とか響鬼編の鼓屋ツトムとか!ツトムに関しては割りといいエピソードもあったよ!お互いの夢について語り合うシーンとかさ!」
「しかし、幼少時代も友達は少なかったようで玩具のロボに『BFF』。ベスト・フレンド・フォーエバーと言っていたと記されている」
「大丈夫!わたしはソウゴの友達だよ?」
「少なくとも今はぼっちじゃないよ!」
「そういえば、さっき『ツクヨミ』『ゲイツ』って名前が出てきたけど。これって、私の両親だよね?」
「この子、さらっとスルーしたよ…」
「そうとも、我が魔王のライバル兼ヒロイン兼相棒兼家臣のゲイツ君。そして割りと一話の時点で戦士としての風格が出ていたオカンのツクヨミ君さ」
「なんでお母さんがヒロインじゃなくて、お父さんがヒロインなの?」
「正直、ゲイツは言動がヒロインだったからね」
「ここでゲイツ君の言動を抜き出してみよう」
『この時代のお前に恨みはない。でも未来のためだ。消えてもらう!』
『運命か。そんなものは俺が変えてやる。あいつが魔王になるのは、この俺が止めてやる!』
『ジオウが魔王になるだと?そんな訳あるか!コイツは誰より優しく、誰より頼りになる男だ。そして……俺の親友だ!』
「やだ、お父さんのヒロイン力が高過ぎ……まるでツンデレヒロイン」
「対して、ツクヨミ君だか…」
『少なくとも今のソウゴが魔王にならないように導きたい。そう思ってる。』
『ここで終止符を打つ!』
『何か言った?!』
『貴方のような王はいらない!』
「やだ…お母さん、勇まし過ぎ…」
「何かツクヨミのチョイスおかしくない?」
「そうかい?こんな感じだと思うけどね」
「
「成る程、お父さんがヒロインと言われる理由は分かった。じゃあ、この小説のヒロインは?」
「元々はツクヨミ君をヒロイン(TV版)をヒロインにする予定だったがプロットや年代の問題で没となった。そこでゲイツ君とツクヨミ君の娘という設定のキャラクターを作ったのさ!」
「
「じゃあ、私はお父さんとお母さんの属性を引き継いでるわけですし。仮面ライダーゲイツやツクヨミに変身…」
「するかは未だ決まってないよ。そもそも、アナザーライダーの配役は割りと決めてるけど、その他は瞬間瞬間を必死に生きてるからね!」
「駄目じゃん…それ…」
「初期案が変わるくらいは良くある。今回のサブタイトルの初期案だって、『魔王はチャリでやって来る』さ」
「だっさ…そもそも、自転車に乗ってないし…」
___________________________________________
ようこそ、我が魔王を推すQuartzerの諸君。
ここは
我が魔王すら立ち寄らないそんな場所さ。
さて、君たちの支援の甲斐もあって、我が魔王の威光を示す事が出来た。
祝え!お気に入り100人突破、日刊ランキング61位を!
今後の投稿スピードは私の
感想、お気に入り、評価は私の活力なのだよ。今後も君たちからの支援を待っている!
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第198/66話:アンコントロールな科学
三度目の高校生活は友人に恵まれ、順風満帆のように思えた。
しかし、一科生と二科生のいざこざに巻き込まれ、そこへ生徒会長や風紀委員会まで現れた。
まるで事件を引き寄せているのかと思うほどだが、それとは別にまた新たな騒動が起こり始める。
様々な事件に巻き込まれる我が魔王の未来はどうなる?
「私は風紀委員の渡辺摩利。さっきまで起こってた争いについて話がある」
渡辺摩利と名乗った女子生徒は既に起動式を展開している。ここで抵抗すれば実力行使で連れていくということだろう。
摩利の雰囲気に飲まれた一年生は蛇に睨まれた蛙の如く硬直している。そんな一年が大半の中、達也が摩利の前へ躍り出る。
「すみません、悪ふざけが過ぎました」
「悪ふざけだと?」
「ええ、森崎一門の『クイックドロウ』は有名ですから、後学の為にと見せてもらったんです。ですが、彼があまりにも真に迫っていたものでつい手が出てしまったんです」
エリカと森崎に視線を巡らすと摩利は達也の言い訳に冷笑を浮かべてる。
「では、そこの男子生徒がもう一人の男子生徒に行った件とそちらの女子生徒が攻撃魔法を発動しようとした件はどうなんだ?」
「女子生徒の方は攻撃魔法と言っても目眩まし程度の閃光魔法。咄嗟の争いに反応して発動してしまったのでしょう。流石は一科生、条件反射で起動プロセスを実行するとは」
「ほう…君は展開された起動式が読み取れるようだな」
「実技は苦手ですが、分析は得意なので」
達也は事も無げに言っているが最低でも三万字にもなる起動式を読み取るというのは常人では不可能と言ってもいい。
そんな達也を摩利は値踏みするように見詰めた後、ウォズの方を向く。
「それで君はどうなんだ?そこの一科生を組伏せていたが」
「ソウゴ君にCADが向けられたから無意識の内に」
「まるでボディーガードのようだな?」
「そんな大したものではありません」
ウォズは摩利の問い詰めるような目線を涼しげに受け流している。ウォズの飄々とした態度にこれ以上は聞き出せないと思ったのか会話を打ち切った。
「摩利もそれくらいでいいんじゃない?達也君、本当に見学だったのよね?」
達也の名前呼びに深雪はムッとするが真由美の出した助け船を無碍に出来ない。達也が静かに頷くと真由美は『貸し1つ』とでも言いたげな笑みを浮かべる。
「生徒同士で教え合うことが禁止されている訳ではありませんが、魔法の行使には細かい規則があります。これについては一学期の授業で教わる範囲ですので、それまでは魔法を行う自主学習は控えた方がいいでしょう」
「会長もこう仰られるので不問としますが、今後はこのような事が起きないように努めるように」
そう言って去ろうとする摩利と真由美に呉越同舟ながら皆が姿勢を正して頭を下げる。しかし、摩利が途中で歩みを止め、背を向けたまま問いかける。
「そういえば、君たち二人の名前は?」
「E組の司波達也です」
「A組のウォズです」
「……覚えておこう」
二人の名前を聞き終えると摩利もその場から居なくなった。その場を支配していた重苦しい空気が失くなると一同は深く息をした。
その後、森崎駿という一科生と達也のやり取りが合ったが一科生達もこれ以上は深雪に付きまとうのは止めて解散した。
「お兄様、そろそろ帰りませんか?」
「ああ、ソウゴたちもいいか?」
「俺は大丈夫だよ。帰るよウォズ」
「その前に彼女達が話したいそうだよ」
「ウォズの友達?」
「同じクラスメイトではあるね」
ウォズの隣に居るのは二人の女子生徒。その内の一人は達也が展開された起動式を読み取った女子生徒だった。
「あ、あの!先程はありがとうございました!森崎君はああ言ってましたけど大事にならなったのはお兄さんのおかげです」
先程まで居た一科生とは真逆の態度に二科生の皆は呆然とした。達也も予想外だったようで、少し戸惑ったような素振りを見せた後に会話を続けた。
「どういたしたして。でも、お兄さんは止めてくれ。これでも同じ一年生なんだから」
「では、何てお呼びすれば?」
「達也でいいから」
「分かりました。それで……その……私たちも駅までご一緒しても宜しいですか?」
恐る恐る同行を提案した女子生徒。達也達も特に邪険にする理由もないので彼女達と一緒に駅へ向かうこととなった。
___________________________________________
駅までの帰り道は少し混沌としていた。主に一科生、二科生、ソウゴ達の3グループから女子達が集結して、ソウゴ達男子生徒の前を歩きながら楽しそうに話している。
「じゃあ、深雪さんのCADの調整は達也さんがなさってるのですね」
「ええ、お兄様に任せるのが一番安心ですから」
「へぇー!達也君『も』CADの調整が出来るんだね」
「ツクヨミさんも誰かにCADの調整を?」
「昨日が初めてだったんだけどね?ソウゴ君に調整して貰ったの!そしたら、いつもより調子が良かったんだ」
「ソウゴ、お前も魔工技師を目指してるのか?」
ツクヨミの発言に興味を持った達也がソウゴにそう質問した。
「いや、CADの調整は興味本意だよ?『ウチ時計屋なんだけど』、昔から時計以外の修理を頼む人が来るんだよ。だから、いつかCADを修理してって来る人を警戒して先に学んだわけ」
「………それ、断ればよくないか?」
「前店主からこんな感じだからもう伝統なんだよ」
「CADといえばエリカやソウゴにウォズは珍しいタイプのを持ってるな」
「なになに、私のホウキ*1も調整してくれるの?」
「流石にそんな特殊な形状の物を調整する自信はないよ」
エリカが取り出したのは先程の言い争いで森崎のCADを弾き飛ばした警棒。それをCADだと認識してなかった面々は驚きの表情をする。
「ソウゴのは時計型の特化型でウォズは汎用型か?」
ソウゴの腕には金と黒の腕時計。ウォズには半世紀程前によく使われていた複数のアプリが入っているタイプの腕時計がある。
「よく分かるね。自分は補助機みたいな扱い方だけどね」
「それらのメンテナンスはソウゴがしてるのか?それらって半世紀以上前の初期型CADに近いんじゃないか?」
「まあね、こんな骨董品に片足突っ込んでる物を見てくれる人は殆んどいないから」
それからは達也とソウゴのCADの談義が始まり、皆もそれに興味があったのか目的地に辿り着くまで二人の会話が続いた。
「それじゃあ、自分達は用事があるから」
「ああ、また明日」
司波兄妹と二科生組は電車で一科生の女子生徒、光井ほのかと北山雫は自家用車で帰っていった。
ソウゴ達は帰る前に今日の夕飯の買い出しなどの為に彼らとは別に帰ることとした。
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「今日はシチュー!」
「作り置きが出来るし、明日の朝もこれでいいからね」
「ちなみに我が魔王に負担を掛けないために食事当番などの家事は交代制だ」
「私、あんまり料理できないよ?」
「ツクヨミには俺が教えるよ」
「ソウゴ君が教えてくれるの?やった!」
大量の食材や日用品を買い足した為、大荷物になってしまい電車よりも車の方が良いとの事でターミナルで車を待っていた。
『きゃあー!!』
「!今の声は?!」
突如、三人の耳に女性の甲高い悲鳴声が聞こえた。周囲の人達もその悲鳴が聞こえたようでざわついている。
「ウォズ、ツクヨミを頼んだ」
「了解した」
「ソウゴも気を付けてね?」
「ああ」
悲鳴の上がった場所へ向かうと先日のアナザー・ビルドが女性へフルボトルを向けてフルボトルへ変換していた。
「ちっ!遅かったか!」
既にアナザー・ビルドは別の人物に標的を定め始めている。野次馬が増えればそれだけアナザー・ビルドの被害者が出やすくなる。
「変身!」
『はぁ!!』
『…!?』
『早速だけど場所を移させて貰う!』
アナザー・ビルドの背後に灰色のオーロラのような物が出現する。それはディケイドであった門矢士がよく使用していたものと一緒である。
ジオウはジカンギレードでアナザー・ビルドをオーロラへ斬り飛ばし、自分もその後に続く。
オーロラを通るとそこは廃工場で周りには人影はなく、ここなら野次馬が集まる事はないだろう。
『何故、私の邪魔をする。これはこの街の為に必要な事だ』
『アンタ、自我を失ってないのか?』
『先日の話か…あの少女にはすまないことをした。あれが初めての変身でな、暴走についてもあの時に知った。止めてくれたお前にも礼を言う』
『……なんで、アンタみたいな人がその力を必要とする』
『この街に蔓延る奴らを駆逐するため』
『その力は誰から受け取った?』
『白いスーツのセールスマンだ。詳しくは私も知らんが
先日の一件とは違って落ち着いた言動からは理性を失ってないない変身者の人間性が垣間見えた。アナザー・ウィザードのようなジオウに対する害意はほぼ感じない。
『やっぱり、その力は使わせない。それ以上はアンタの身体が危険だからな!』
『優しいな……だが、私は身体が崩壊しようとこの街から奴らを駆逐する為にこの力を手放すわけにはいかんのだ!』
アナザー・ビルドのベルトからプランナーが延びるとドリル状の剣『ドリルクラッシャー』が形成された。
『何でそこまでしてその力に固執する。暴走するのはアンタも望んでないはずだ!』
『私には力が無い!奴らを止めるには力が必要なんだ!』
工場内には金属同士の衝突する音が響く。ジオウもドリルクラッシャーにジカンギレードで対抗する。
しかし、常回転するドリルクラッシャーに攻撃を上手く逸らされ、アナザー・ビルドへ攻撃が届いていない。
『強いな、これでも剣術には自信があったのだが…』
『(…暴走状態とは別で厄介だ。さっきから攻撃を見極められてる。しかも、攻撃を止めれば的確にそこを突いてくるからビルドアーマーに変身できないな…)』
『グッ………こ、これ以上は暴走の可能性がある。それに私は君と戦いたくない。なら、戦闘は無意味だ』
アナザー・ビルドは二つのフルボトルを取り出すとベルトに取り付けた。
ベルトのレバーを回して回転させると工場が揺れ始め、天井から色々なものが落下してくる。長らく放置されていた工場はギシギシと音を立てる。
『はぁぁぁぁ!!』
『系統魔法のフルボトル!工場ごと押し潰すつもりか!?』
『ジオウ……気を付けろ、この街は既に悪に汚染されている…』
『待て!………消えた、逃げられたか』
追おうとするが二人の間に瓦礫が落ち、それを避けるために下がるとアナザー・ビルドの姿はもう無い。工場の倒壊は始まっている為、それ以上の追跡を止めた。
『アナザー・ビルドは何と戦っている?……いや、それよりも今はここを離れないと』
遠くからパトカーのサイレンが聞こえる。恐らく、先程の工場が倒壊した音で通報が入ったのだろう。
ウォッチを放り、変形したライドストライカーに跨がると足早に現場を去った。後には残ったのは跡形もなく崩れた廃工場。その日の夕方にはニュースで倒壊事故として報道されるのだった。
___________________________________________
『本日のニュースです。近頃、魔法師が行方不明になる事件が多発しています。魔法師の皆さんはお出掛けの際は一人で出歩かず、多人数での行動を心掛け』
「騒ぎが大きくなりつつある。それにアナザーライダーも活動を開始したか。……被験体にネビュラ・ガスを注入しろ」
「んーー!!」
「さぁ…お楽しみはこれからだ…」
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第ln(e^4)話:悪意のパンデミック
日本でも十校しかない魔法科高校への入学や新たな友人達。
新生活を楽しむ我が魔王であったが、一科生と二科生の差別意識による衝突やアナザー・ビルドの出現など問題は山積みであった。
更にはアナザー・ビルドの意味深な言葉に街で暗躍する影など物語は動き始める。
新たな闘いが彼らを待ち受けるのであった。
「そろそろ、学校の監視システムの外に出るね…」
「家がこっちの方角なのかな?」
「朝、キャビネットで登校してるのを見たから違うと思う」
放課後の街中、少女達がコソコソと一人の男子生徒を尾行している。
雫、ほのか、そしてB組の明智英美の三人である。彼女達は部活勧誘期間に深雪の兄である達也に魔法を発動して、攻撃を行った生徒を突き止めるためにここ数日調査していた。
そして遂に尾行している男子生徒、剣道部部長だと突き止めたのだった。
「あっ!路地裏に入っていった…」
「どうする?追う?」
「うん…行こう」
三人は追うようにして路地裏に入っていく。複雑な路地裏を進んでいくと、男子生徒は急に走り出した。
「気付かれた?!」
「わからない、とにかく追うよ!」
男子生徒の走り去った方向へ追うが角を曲がるとそこは行き止まりだった。
「あれ?いない…」
ほのか達が急に消えた男子生徒について思案していると背後からエンジンの音が近づいてくる。
咄嗟に壁際へ避けるがバイクの軌道は避けなければ確実に彼女達を轢いているものだった。
「なんなんですか!貴方たち!」
「お前達か我々を嗅ぎ回っていたネズミは…」
バイクの不審者は黒のライダースーツにフルフェイスヘルメットが四人。彼女達を取り逃がさないよう囲みながら通路を防いでいる。
「(二人とも合図したら走って。後はCADの準備も…)」
「(わかった、エイミィは退路の確保をお願い)」
「(オッケー)」
ほのかは少し動揺しているが三人とも冷静に状況を見定めて、逃げ出す算段を考えていた。
「………GO!」
「ッ!コイツらを逃がすな!」
雫の合図で三人は駆け出す。合図と共にほのかが閃光魔法を発動し、目眩ましをするとエイミィが加重魔法で退路の人間に攻撃を行う。
「ただの女子高生だとは思わないでよね!」
退路側の人間はマトモに受け身を取ることも出来ずに地面に叩きつけられ気絶する。
退路を確保し、追手も目が眩み追跡できない。三人は素早く逃げようとするが…。
「魔法師がぁ!!……これならどうだ!」
一人が手袋を外すと指輪を彼女達に向ける。すると急に立ち眩みのような症状と激しい頭痛が彼女達を襲う。
「なに…これ…」
「頭が割れるように痛い…」
雫とエイミィは何とか耐えたが、影響を強く受けたほのかは地面に伏せてしまう。
「お前ら魔法師はキャスト・ジャミングがある限り無力だ」
「(キャスト・ジャミング…だったら、あの指輪はアンティナイト…)」
かつて、ボディーガードが同じものを使用していたのを見たことがあるほのかや雫は直ぐに指輪に使用されている物を理解した。
「始末するか?」
「ああ、手はず通り我々の邪魔をするものには消えてもらう。魔法師なら尚更だ」
襲撃者の内の一人がナイフを手に近づいてくる。ほのかの目の前に立つとそれを振り下ろす。
「(ごめんなさい…お母さん…お父さん…)」
ほのかがこれからやって死を怯えて待っているが一向に痛みはやって来ない。それを不思議に思い、勇気を振り絞り目を開けると彼女と襲撃者の間に一人の男性が居た。
「大丈夫かい?君達は早く逃げるんだ」
「でも…貴方が…」
「私は問題ない。むしろ、君達が居ると危険なんだ」
「行こう、ほのか…」
ほのかは雫に肩を借りて、その場を後にする。ほのかの目には最後まで自分達を守ってくれた男性の後ろ姿が写っていた。
「なんのつもりだ?」
「………貴様らはこの周辺で活動している反魔法師団体だな?」
「てめぇ…どこでそれを!」
「ふっ!」
「ぐほぉっ」
男性は腹部を強く蹴り飛ばすと蹴られた側は壁際まで吹き飛ばされる。
「ならば、最早手加減も必要ないな。貴様らには洗いざらい情報を吐いて貰う」
「はっ!言うわけ無いだろ馬鹿かぁ?」
「……そうか、なら死ぬがいい。この街にお前達は必要ない」
男性の雰囲気が先程とは全く別に変わり、懐からあるものを取り出した。それは真っ黒なビルドの描かれたライドウォッチ。
「変身…」
「そ、その姿は…うわぁ!!」
男性の姿が赤と青の目に全身が黒い怪物へ変化する。襲撃者達はその姿を知っているようで蜘蛛の子を散らすよう逃げ出す。
『逃がすと思っているのか?愚か者ども…』
アナザービルドは目にも止まらない速さで動くと的確に四人の襲撃者の頭部へ蹴りを入れる。
普通の人間に耐えられる筈もなく、霧散するように頭部が消し飛ばされた死体が4つ出来上がる。
『…急がなければ…これ以上はあの娘に危険が…』
アナザービルドが姿を消すと路地裏には四つの死体以外はもう何もない。
数分後に現れた警察は頭部の無くなった死体が転がるという猟奇的殺人現場を見ることとなった。
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1:名無しさん変身です 2095/4/13 ID:2NbStxi
このスレは最近、噂になっている『仮面ライダー』について語るスレです。
規約や禁止事項に触れることは控えましょう。荒らしは無視し、NG、報告にて対応してください。
画像の貼り付けは節度・内容に注意してください。
【前スレ】
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【過去ログ】
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必ず前スレを使いきってからお使いください。
2:名無しさん変身です 2095/4/13
ID:VhHY0Ca
スレ立て乙、前スレの消費早かったみたいだけど何かあった?(今北産業)
3:名無しさん変身です 2095/4/13 ID:dOULn1S
>>2
仮面ライダー以外にも
色々な存在が
多数報告された
4:名無しさん変身です 2095/4/13 ID:pDpnPFZ
都市伝説なのに多数報告されるのか…(困惑)
4:名無しさん変身です 2095/4/13 ID:MGSwWjT
正確には仮面ライダーじゃ無くて
ビル火災の時に居たっていう『怪人』みたいなのらしい
5:名無しさん変身です 2095/4/13 ID:YmYz28F
そもそも、『仮面ライダー』と『怪人』の違いは何よ
顔にライダーって文字が入ってるのが
仮面ライダーだっていうのは分かる
全身が真っ黒いやつは『怪人』?
6:名無しさん変身です 2095/4/13 ID:F8YdWNX
>>5
黒いのは人によって変わるんだよな
助けられたって人もいれば
襲われたって人もいるから
近頃、目撃情報が殆んどないけどな
7:名無しさん変身です 2095/4/13 ID:ZBHNQmA
それよりも『怪人』の話だよ
ここ数週間で何体か目撃情報があったじゃん
仮面ライダーと戦ってとか
倒された『怪人』から人が出てきたって話も…
8:名無しさん変身です 2095/4/13 ID:9VJhGfL
>>7
ニュースでも魔法師が行方不明とか言ってたし
怪人の正体は魔法師とか?
研究所で人体改造された魔法師が…とか
9:名無しさん変身です 2095/4/13 ID:JiuCQ9w
ネット記事の読みすぎ
今時、魔法師の陰謀論なんて使い古されたネタ
オカルト系のまとめ記事でも見ないよ
10:名無しさん変身です 2095/4/13 ID:WBhPJaF
だったら、何で仮面ライダーや怪人が
ニュースで大きく取り上げられないんだよ
魔法師に都合の悪いことがあるからなんじゃねぇの?
11:名無しさん変身です 2095/4/13 ID:mfnB32c
ないとは言い切れないからな
仮面ライダーの画像は凄い早さで情報規制されるし
前も写真撮ったっていう奴が上げた画像は
数十秒もしない内に削除されたよな?
12:名無しさん変身です 2095/4/13 ID:zifQXn4
画像を保存した奴等の端末からも消えたらしいし
ある意味、仮面ライダーの存在よりも
徹底された情報規制の方が恐ろしいわ
13:名無しさん変身です 2095/4/13 ID:p7hkzzc
まあ、結局殆んどの人は姿を見てないし
大半の人間からしたら与太話でしかないからな
ニュースで報道なんてされる訳がない
14:名無しさん変身です 2095/4/13 ID:E3LdQkA
スレにいる奴も殆んどが居るとは思ってたいでしょ
目撃情報も嘘っぽいし、証拠は何も残ってないからな
15:名無しさん変身です 2095/4/13 ID:EDC5ye5
現状はよくあるオカルト話で終わり
『仮面ライダー』って名称も元は都市伝説からだし
16:名無しさん変身です 2095/4/13 ID:E3LdQkA
>>15
自分はよく知らないけど2000年初頭くらいに
語られてた都市伝説なんだっけ?
17:名無しさん変身です 2095/4/13 ID:EDC5ye5
警察の使用しているGシリーズのパワードスーツは
過去に現れた『仮面ライダー』をモチーフに作られたとか
それっぽい話も残ってはいるけど
『仮面ライダー』についての話は殆んどないんだよな
18:名無しさん変身です 2095/4/13 ID:k4QELHd
オカルト雑誌ならともなく報道では
こんな未確定な情報は流れんわな
仮面ライダー探しいいけど、お前らも気を付けろよ
魔法師が行方不明になったりと物騒なのは本当だからな
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アナザー・ビルドが雫たちを助けたのと同時刻、郊外から外れた採石場。
既に作業員も退去しているようで周囲にはジオウとウォズ。そして空高く飛び回る『フライングスマッシュ』の姿しかない。
フライングスマッシュは鷹の成分を持つスマッシュであり、先程から上空からの急降下攻撃を繰り返していた。
『ピィーー!』
『またスマッシュか……』
「やっかいだね、あんな高く飛ばれると使えるウォッチは限られる」
すれ違いざまにジカンギレード・ケンで斬りつける。すると今度は攻撃の届かない上空からの羽根を飛ばして攻撃してきた。
『あー!うざったい!』
「空を飛べるフォーゼのウォッチを使っては如何かな?」
『出来るだけ手の内は明かしたくないんだが…』
「スマッシュ出没は何者かの差し金だと?」
『考えすぎかもしれないが。……まぁ、だれの差し金だろうとそれは人を助けない理由にはならないな』
ジオウは通常のウォッチとは形状の異なるものを取り出した。それはウォッチの横にもう一つ、ウォッチを装着できる形状をしている。
「おや、それを使うのかい?我が魔王」
『門矢士…ディケイドの力は扱い方が難しい。使えるウォッチが限られてる現状では慣れておかないと』
ディケイドライドウォッチのスターターを押すとベルトへ装着する。
ジクウドライバーのメインユニットである『ジクウサーキュラー』が回転する。フライングスマッシュが羽根を飛ばして攻撃するが突如現れた灰色のカードがそれを弾き飛ばす。
カードに写し出されたアーマーがジオウヘ重なり、ジオウの姿は顔には巨大なタッチパネル『ディメンジョンフェイス』には仮面ライダーディケイドの顔が写し出され、胸の『コードインディケーター』に『バーコード』の模様がある戦士へと変化した。
「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え、過去と未来をしろしめす時の王者……その名も仮面ライダージオウ ディケイドアーマー。再臨の瞬間である」
『これじゃあ、まだ飛べないでしょ?終わってないよ』
ジオウはもう一つのウォッチを取り出すとディケイドライドウォッチのスロットへ装着する。
ジオウはディケイドアーマーウィザードフォームへ変身すると背中のドラゴウィングを羽ばたかせ空へ舞い上がる。
フライングスマッシュは向かってくるジオウを羽根で迎撃しようとするが効いておらず、ドラゴヘルクローによる反撃を受ける。
『逃げようとしても無駄だ』
『ピィ!?』
ジオウから逃げようとしたフライングスマッシュの背後に巨大な魔方陣が現れると竜巻がフライングスマッシュを吸い込み始める。
フライングスマッシュは逃れようとするがそれよりも竜巻の方が強く、徐々に吸い込まれている。
『機動力を失えば、お前は相手に成らん』
『ピィギィ…』
スマッシュの頭上に現れた魔方陣によって発生した重力によって地上へ叩きつけられる。
しかし、地面に叩きつけられたダメージが無いかのようにスマッシュはもう一度飛び立とうと羽ばたき始めた。
『おっと!また空へ逃げられるのはゴメンだな』
『はぁ!』
『キィ!』
ジオウは身を翻すとドラゴテイルを叩きつける。すると瞬く間に地面が凍り付き、飛び立とうとしていたスマッシュは地面に縫い付けられた。
バタバタと翼をはためかせるが地面と一緒に凍り付いた足元の氷が壊れるとはない。
飛び立つことが不可能だと分かるとスマッシュは大量の羽根をジオウへ飛ばしてくる。
『悪あがきもそこまでだ。さぁ、フィナーレといこうか』
胸部のアーマーにドラゴンの顔が現れると口から炎のブレスを吐き出し、飛ばしてくる羽根ごとスマッシュを燃やし尽くすような炎の嵐が巻き起こる。
『ピィーーー!!』
スマッシュはブレスを正面から受けると地に伏せて動かなくなった。
『フィー……』
「お疲れだね、我が魔王」
「そりゃあ、これで五体目だよ?これからも出ると思うとね」
ジオウは変身を解き、ソウゴの姿に戻るとブランクウォッチをスマッシュへ押し付けた。するとスマッシュの成分がブランクウォッチへ吸収され、スマッシュの姿から人間の姿に戻る。
「全く…ブランクウォッチもそこまで数を用意してないんだけど」
「我が魔王、間違ってもそのウォッチは解放しないでくれ。今の我々ではネビュラガスを浄化するのは無理だからね」
「せめて、戦兎の持ってたボトルみたいに使い道が出来ればいいんだけどね。ウォズ、帰るよ」
ソウゴがスマッシュになっていた人を背負うとウォズのストールが三人を包み、採掘場には人一人居なくなった。
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「ふぁー……」
「ソウゴくん…お疲れですか」
「何々?夜更かしでもしてたの?」
教室でソウゴが背伸びをして大きな欠伸をすると美月とエリカから声を掛けられた。尤も、心配そうに声を掛けた美月と違いエリカはからかうような感じである。
「うん、ちょっと修理の依頼が来ててね。久々に時計の修理で張り切っちゃった。その後も色々とあって寝たのが真夜中の3時頃になっちゃった」
「駄目ですよ?体は大切にしないと」
「ありがとう、美月。心配してくれて」
「いえいえ」
「へぇ…美月ってさ。ソウゴくんみたいなのがタイプなの?」
「エ、エリカちゃん!そんなんじゃないよ!私は本気でソウゴさんの事を心配して…」
二人のやり取りを可笑しそうに眺めていると急に耳を劈くような放送が流れる。
『全校生徒の皆さん!』
「何だ!何だ!っ!いってぇ…」
教室に居る生徒達は耳を塞ぎ何事かと驚いている。授業からずっと居眠りをしていたレオは爆音に目を覚まし、飛び起きたが運悪く机に足を強打した。
『あっ…失礼しました…全校生徒の皆さん!』
放送者も爆音で放送されたことを理解したのか、先程とは違い音量のボリュームを下げて放送が開始された。
「達也、これって不味いんじゃない?」
「……そうだな、今の風紀委員の呼び出しが来た。行ってくる」
「はい、お気を付けて」
達也が教室から出るのを見送るとソウゴは帰宅の準備を始めた。他の生徒達は放送の事もあってか困惑して帰宅していいのか悩んでいる。
「俺は予定があるから帰るね」
「えっ、帰るんですか?ソウゴさんは気にならないのですか?」
「気にはなるけどね。今日は何も分からないんじゃないかな?明日、達也に訊くよ。じゃあ、皆も気を付けてね。最近、物騒だし」
纏めた荷物を手にソウゴは教室を出ていった。その姿を見た生徒達も少し時間を置いて続々と帰宅していく。
最終的に教室に残ったのは不安よりも好奇心や興味が勝った。エリカやレオなどの極一部の生徒のみであった。
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