イナズマイレブン アテナの楯 (百合マスター)
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プロローグ
ついに妄想を押さえきれず書いてしまいました。
注意点としてタグにもある通り、原作改変した部分がありますので、原作リスペクト者はブラウザーバッグ推奨です。
拙い文章ですが、それでもよろしければどうぞ
千葉県、桜花市……そこは四季ごとの桜が咲いていることから、一年中桜を見ることが出来る観光地として知られている市である。
その桜花市にある中学……桜花学園中等部にはサッカー部があった。大昔は帝国学園や雷門中学と並ぶ程の強豪として知られていたが、現在では退部の危機に陥っていた。
「今年中にフットボールフロンティアで優勝しないと廃部!?」
本校舎から西にある旧校舎の一階にある小さな教室から、少女の叫び声が響き渡る。机をバン! と叩きながら、白い髪の毛を背中まで伸ばしポニーテールにしている少女……
彼女は今年から桜花学園中等部に入部して、部長兼チームのキャプテンを努めている彼女はサッカーが大好きだった。
それこそ暇さえあればサッカーボールを持って一人でボールを蹴っていたし、夢中になり過ぎて夜まで家に帰ってこず、両親に叱られたこともある。
そんな唯那にとってサッカーとは命と同等に大切なものであり、この学校に入学したのも、名門で強い選手がいて、楽しいサッカーが出来ると思ってのことだった。
そして、唯那に残酷な知らせをしたのは桜花学園中等部サッカー部が誕生した初期から監督を努めていて、唯那の叔母にも当たる女性……
常に浴衣を好んで着ており、いつもは柔らかな笑みを浮かべている彼女も今回ばかりは真剣な表情だった。
「何で……去年は少なくとも今年の存続は保証されてるって言ってたよね、桜花姉」
「私も今回の件に関しては不本意だったが……スポンサード制度があってはどうしようもないんだ」
桜花は苦虫を噛んだような表情で唯那にそう告げる。
「スポンサードって何なの?」
「サッカー部を存続するために会社と契約しないといけない制度のことだぜ、ユイ」
「瞬……」
唯那の疑問に答えたのは先程部室に入ってきた茶髪の少年……
「これを見ろ」
彼は一枚の紙を机に静かに置いた。
それは中学サッカーとスポンサードについて、と書かれた丁度、唯那が疑問に思っていたことスポンサードのことが書かれている紙だった。
「雷門中学が去年優勝した話は知ってるだろ?」
「うん、円堂さんのマジン・ザ・ハンドかっこよかったよね!」
「ああ、そうだな。……っと、話を戻すぞ」
唯那は一瞬自分の世界にトリップしそうになったのを瞬夜が止めると、彼は近くにあった古びた椅子に座り、先程の話の続きについて語り始めた。
「雷門中学の活躍は日本の少年サッカーに良い影響を与えた。そこで更に少年サッカーを発展させるために作られたのが、スポンサードだ。さっきも言ったが、サッカー部はスポンサーになってくれる会社を見つけないといけない。スポンサーを見つけた場合は多額の支援金により、選手の練習管理、施設の充実、練習試合の管理など、様々な恩恵が手に入る」
「うー、なかなか難しい話だけど、なんとなく分かった。つまりはサッカー部にスポンサーが無いとダメってこと?」
「そうだ。スポンサーの無いサッカー部は強制廃部となる」
「そんな……」
唯那はまるで頭をハンマーで殴られたような強い衝撃を感じながら、このままだとサッカーが出来なくなることに深い悲しみを覚えた。
彼女の悲しい表情と雰囲気で部室の空気が重たくなる中、くぁ……というアクビをする声が静かな部室に響き渡る。全員が視線を向けると、そこには部室に置いてあるベッドで横になっている白髪の少女……
最初から部室にいたのだが、起こしたら悪いということで放置されていた慧斗だったが、重たくなった空気の変化により、彼女は目を覚ました。
「……随分重たい空気だな、何かあったか?」
「慧斗、このままだとサッカー部が無くなっちゃうだって……」
唯那がそう告げると、慧斗は一瞬だけ目を見開くが、直ぐに鋭い目付きに戻り、唯那のことを嘲笑うように口を三日月に歪めた。
「はっ、なんだそんなことか。どちらにせよ部員がオレ、雪崎、唯那、それからマネージャーの加奈多しかいない以上、もうどうしようもないだろ」
「そんなことって、慧斗は悲しくないの? だってこのままじゃ……」
「何もしないで、この状況が好転するとでも?」
「っ!」
「もう戦いは始まってるんだ。嘆いてる暇があるなら、行動することだ」
慧斗の言葉に唯那はふと我に帰った。先程から唯那は焦りから自分を見失っていることに気が付いた。ただ立ち止まっているだけでは、どうしようもないことに、ようやく気付いたのだった。
(そうだ……元々サッカー部の現状は最悪だったんだ。このまま廃部はもちろん、フットボールフロンティアに出場さえ出来ない)
考えろ、必死になって唯那は頭を働かせた。そんな彼女の姿に瞬夜と監督の桜花も顔を合わせて、微笑ましく見ながら、共に考え始めた。
慧斗は目が覚めて真剣になった唯那の顔を一瞥すると、立ち上がって部室から出ていった。それと入れ替わりに桜色の髪の毛をしてジャージ姿の少女……
ちなみに加奈多は桜花の娘であり、彼女の場合は他の三人とは違い、サッカー部の事情は知っていたが、やはり彼女もまたサッカーが好きだったので、入部したのである。
そんな彼女は不思議そうな表情をしながら、部室に入ってきた。おそらく予想外に重たい空気に驚いてしまったのだろう。
「……お母さん、もしかして廃部のこと話した?」
加奈多はこそこそと桜花に囁きかけると、彼女は頷いてここまでのことを話した。そうして加奈多も重たい表情……になるわけでもなかった。
「あれ、みんなに話さなかったの? 近隣学校の利根川東泉との連合チームが決定したって」
「おま、馬鹿それ言うな……サプライズのつもりだったのに」
加奈多の言葉により、どっと空気が軽くなっていくのを全員が実感した。あの目が据わっていた唯那でさえも、瞳にハイライトを取り戻して、希望を抱いたようなものになっている。
「桜花姉……どういうこと?」
「ふぅ……バレたら仕方ない。喜べ、利根川東泉と連合チームを組んだ。相手の部員は6名、こちらは4名。ギリギリだが試合が出来る」
「じゃフットボールフロンティアにも……」
「まぁ、ベンチ入りメンバーも必死になってくるだろうが、概ね問題は無いな」
「や、やった!!」
桜花の言葉に唯那は安堵と喜びで近くにいた瞬夜に抱きつきながら、感情を爆発させた。それを見た瞬夜たちも喜んだ。
「まぁ、という訳で明日は利根川東泉との合同練習だ。場所は利根川東泉中学にお邪魔させて貰う予定だ」
「フットボールフロンティアに出場出来ることも嬉しいけど、利根川東泉の人たちがどんなサッカーするのかたのしみだね!」
唯那はまだ見ぬ利根川イレブンに心を踊らせながら、想像を膨らませて自分の世界にダイブしていた。その間に瞬夜はふと思い立ったように加奈多に声をかけた。
「そういえば加奈多、大月を見掛けなかったか?」
瞬夜としてはクールながらもサッカーに対して誰よりも真剣で情熱的になっている慧斗にいち早く朗報を知らせてあげようと考えていた。
「慧斗クン? 彼女なら利根川東泉の実力を確かめに行くとか言って、駅の方に出掛けたよ?」
「は?」
加奈多から返ってきた予想外の言葉に、瞬夜は思わず目を見開く。そして慧斗が先程言っていた……もう戦いは始まってるんだ……という言葉からして、彼の思案に辿り着いた。
「あいつのことだ、いきなり喧嘩を吹っ掛けて問題を起こしかねん。さっさと止めに行くぞ!」
「……それで私と利根川の人たちがぁ」
「ユイ! お前もいつまでも妄想してないで、行くぞ!」
こうして波乱万丈な彼らのサッカーストーリーが始まるのであった。
利根川東泉中学校との連合チームが決まって、これでフットボールフロンティアに出られると思った矢先、うちのエースストライカーが相手の学校に乗り込んだ。
あれ、あの人って……。
そこには衝撃の人物が待ち受けていた。
次回、イナズマイレブンアテナの楯
『いざ、利根川東泉!』
イナズマイレブンアテナの楯、今日の格言
『もう戦いは始まってるんだ。嘆いてる暇があるなら、行動することだ』
以上。
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原作前
いざ、利根川東泉へ!
ブックマーク、高評価、しおり、ありがとうございます。励みになります。
一話の前に謝罪を。
前回のプロローグの次回予告で一話ではなく、二話目のタイトルを誤って書いてしまいました。なので、お詫びとして連続で、その回も投稿します。
申し訳ありませんでした。
ではどうぞ。
私……立花唯那はサッカーが大好きな女の子だ。三度の飯よりたくさんのサッカーというくらいに大好きだ。それは置いといて、現在私は利根川東泉中学にバスで向かっていた。
目的は同じサッカー部の部員である大月慧斗が連合チームとして参加することになった利根川東泉のサッカー部に向かってしまったからだ。おそらく、利根川東泉の実力がどれほどのものかを確かめるためだと思う。
それにしても今年中にスポンサーを見つけて尚且つフットボールフロンティアで優勝出来ないと、サッカー部が廃部してしまうということを聞いた時はショックだった。
確かに今の桜花学園のサッカー部は部員がマネージャー兼選手の加奈多を入れても、たった四人しかいなくて、部員探しからしなくてはいけなかった。
本当は去年までは部員が30人ほどいて、実力もそこそこあり、全国大会では初戦敗退を喫した。
「ユイちゃん、そろそろ着くよ」
「え、あ……うん!」
私は加奈多の声で我に帰り、目的地である利根川東泉中学前に着いていた。慌ててバスから降りて、徒歩で数分のところで学校に到着した。
「ここが利根川東泉……」
「創立はうちの学校よりも早くて、比較的真新しい学校だな。ここは今年からサッカー部が出来たらしい。強化委員として円堂守君もいるようだ」
桜花姉からの情報を聞きつつ、正門を潜った。事前に桜花姉が訪問の許可は貰ったらしいので、問題は無い。
急いでジャージのまま来てしまったせいか、なんだか本校の生徒たちからの視線が集まってる。それはともかく、早く慧斗を探さないと。
周りを見てもサッカーグラウンドがない。当然だけど、時刻は既に放課後を迎えており、サッカー部の活動は既に始まっているはずだ。
「あの、私と同じジャージ着た男口調の女の子見かけませんでしたか?」
私は近くを通った女子生徒に声をかけて聞いてみる。一回目から当たりの情報が手に入ったら、嬉しいんだけど、そんなこと都合よくあるわけ……。
「あ、それでしたら校舎裏のあるサッカーグラウンドに行きましたよ。というか、あの子女の子だったんだ。イケメンだと思ったのに……」
あった!!
いきなり情報を見つけて、私は驚きながらも、瞬夜と加奈多と桜花姉にこの事を報告する。問題を起こす前に急いで向かわないといけない。
「ありがとうございます! みんな行こっ!!」
「「「ああ(ええ)(うむ)」」」
私は女子生徒にお礼を言った後、直ぐに校舎裏にあるサッカーグラウンドに向かって走った。
そして辿り着くと、案の定というか……慧斗がサッカー部の部員たちと話していた。その中には雷門キャプテンで、強化委員として利根川東泉にやって来ている円堂さんの姿もあった。
あれが憧れの円堂さん……あの屈託のない笑顔、そして肌が太陽で直に焼かれているようなピリピリする圧倒的なオーラ……本当に円堂さんは凄い。
「円堂守、貴方と勝負がしたい」
「あはは、そういうクールな中に秘める熱さ……あいつみたいだな」
私たちが止める間もなく、あの円堂さんに宣戦布告しているし、慧斗らしいけど、これは止めないといけない。
「待って、慧斗! ただでさえ、いきなりサッカー部にお邪魔したらダメなのに、更に宣戦布告とか失礼過ぎるよ!」
「そうだぞ大月。すみません……うちの部員が大変失礼しました」
私が慧斗の前に入って止めて、瞬夜がサッカー部の部員に頭を下げる。桜花姉も強化委員として来た響木監督に挨拶をしながら、何やら話し込んでいる。
慧斗は私を無視するようにトン、と手で私を押し退けて円堂さんの目の前に立った。あの鋭い目付き……慧斗は自分が認めた人としかサッカーをしたがらない。
上から目線なのかもしれないけど、あれが素直になりきれない慧斗の悪いところだけど、私自身も確かめたい気持ちがある。
利根川東泉の実力、何より……円堂守さんという巨大な存在の実力を生で見てみたいという願望がある。
ゼウス戦は観覧席からの遠目だったけど、あれだけでも頭がボーッとして、胸がキュンとなって、足がゾクッとするくらいに興奮した。
それを今度は目の前で見た時、どんな超次元な衝撃に襲われるのか楽しみで仕方がない。
部長として止めなくちゃいけないのに……それ以上に見てみたい。自分が知る中で、豪炎寺さんを除いては一番強いと信頼出来る孤高のエースストライカーの慧斗が、伝説のキャプテンである円堂さんにどこまで通用するのか。
「勝負、しろ。これ以上は待てない」
慧斗も、私以上に疼いているはずだ。現に彼女の頬は通常よりも上気して、こっちにまで聞こえてきそうな心臓の鼓動が伝わってくる。
「そこまでた、慧斗」
「……っ! 桜花、さん」
私も止められなかったのに、桜花姉は響木監督、そしてマネージャーの木野さんまで来て、止めに入った。ということは、今日は見られないのかな、二人の勝負は。
「もう、やらなきゃ疼きは収まらないぞ」
「分かってる。一球だけだ。本格的なミニゲームはまた今度だが、一球勝負なら許そう」
「……監督、良いんですか?」
桜花姉からの意外なお許しに瞬夜は不思議そうに問い掛けてきた。私たちの知っている桜花姉は確かにおおらかなところはあっても、礼儀だけには厳しかったはずだ。それなのに許すなんて、これはとても珍しいことだと感じた。
「響木監督と話し合った結果だ。監督の私が一番お前たち選手の性を理解しているからな。特別にご好意で許された。まぁ、あちらの円堂君が良しとしたらの話だがな」
その言葉を聞いて、私たちはもちろんのこと、利根川東泉の部員までもが円堂さんに注目していた。
「ん? オレは最初から受けるつもりだったぞ? まぁ、という訳で勝負だ! 大月……だったよな?」
「……貴方がオレのチームメイトに相応しいか、見極めてやる」
「おう、お互いの熱い想いでぶつかり合う、これもまたサッカーだ!」
相変わらずの上から目線な慧斗の言い方にひやひやしながら、二人の対決が決まったことに内心ではワクワクした。
いよいよ慧斗と円堂の戦いが始まる。どっちが勝つのか凄く楽しみだ。ところが、私達の予想を上回る衝撃の結果が待っていた。
まさかあんなことになるなんて……。
次回、イナズマイレブンアテナの楯
『伝説のキャプテンVS孤高のエースストライカー』
イナズマイレブンアテナの楯、今日の格言
『おう、お互いの熱い想いでぶつかり合う、これもまたサッカーだ!』
以上。
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伝説のキャプテンVS孤高のエースストライカー
ではどうぞ
私……立花唯那はこれから始まる対決の行く末を想像してワクワクが止まらなかった。
グラウンドを両校の部員同士で協力して整備して、完璧な環境に整えた後、私たちはグラウンドから間近なところから観戦することになった。
私は瞬夜と見ることにして、他は利根川東泉の部員(とは言っても部員四人と可愛いタヌキだけだけど)で固まり、桜花姉は響木監督と楽しそうに行方を見守っていて、加奈多は木野さんとマネージャー同士で気が合ったのか、仲良く話しながら、審判としてフィールドに立っている。
一方の当人たちはというと、慧斗は真剣な表情で靴紐を結び直すために、膝をつきながら頭でリフティングをしていた。凄く器用なことしてるけど、その姿がちょっと可愛い。
そして円堂さんはグローブを入念に締めながら、足でリフティングをしてきた。こちらも負けず劣らずの器用さがあるな、と思わず見惚れる。
「円堂君、大月さん、準備は良い?」
「おう! いつでもいいぜ、秋!」
「……ああ」
木野さんの確認に円堂さんは元気良く、慧斗は大人しめのテンションで返事した。
いよいよ始まるのか。慧斗は絶対にあの必殺シュートを撃つだろうし、円堂さんのマジン・ザ・ハンドも見られそうだし、本当に楽しみで仕方ない。
「では、これより円堂さんVS慧斗クンの一球勝負を始めます。ルールは慧斗クンが得点したら、慧斗クンの勝ちで」
「円堂君が止めたら、円堂君の勝ちよ」
まさにシンプルなルールでこれといって思うことはない。二人の実力を見られる良いルールだと思う。
「円堂さん! 勝ってください!!」
利根川東泉の声援の中でも一際声を張り上げていたのは、確か円堂さんが来るまではチームのキャプテンだった坂野上君だ。連合チームのメンバーの一覧に彼の名前と顔写真があった。
彼も相当熱そうなサッカーをしそうで楽しみだ。それは今は置いといて、円堂さんと慧斗に集中しないと。
「瞬夜はどっちが勝つと思う?」
私は勝負が始まる前に瞬夜にそう聞いてみた。彼はサッカー部の黒一点であり、ディフェンスの司令塔として活躍している。それと同時に攻撃的なディフェンダー……リベロでもあるので、その意見が聞きたくなったのだ。
「まぁ、大月は十中八九あの必殺シュートを使うだろうし、円堂さんの性格からして様子見など一切せず、マジン・ザ・ハンドを使うだろう。それにこれだけシンプルな勝負だ、見ての通り、てことになるだろうな」
「そうだよね……」
瞬夜と同じ考えだったので、私はスッキリ納得して、本格的に始まろうとしている二人の方に視線を戻した。
「それじゃ」
「「始め!!」」
ピーっ! というマネージャー二人からのホイッスルにより、勝負は始まった。
「ふっ!!」
慧斗はいきなりボールを高々と天高く蹴り上げた後、グッ、と足に力を溜めてグラウンドにクレーターを作るくらいに力強く飛んだ。
「おぉっ!」
円堂さんはそれを見てワクワクした様子で慧斗の様子を見守る。私たち桜花学園側は既に彼女の必殺シュートは分かっているので、衝撃に備えた。加奈多も木野さんの抱き寄せて衝撃から守るように庇った。
「ハァァッ!!」
そして慧斗は咆哮をあげながらオーバーヘッドの構えからエネルギーを溜めるように上に三回転して、バイシクルシュートの構えに移った。
それはまるで機械仕掛けの騎士が大剣で神々の戦いを終わらせるような強大なる一撃を体現したようなオーラだった。
突風が吹き荒れ、神々しいというよりも邪悪さが混ざった光がグラウンド全体を包み込む。
「ラグナログブレード」
慧斗が必殺シュートの名前を呟きながら、高々と蹴りという名の大剣を振り下ろした。
ザシュッ!! という剣が空気を斬り裂いたような音を響かせながら、天から一気に降下しながら、鋭く速い、超光速のシュートが円堂さんに向かって放たれる。
「はは、良いじゃないか!! 想像以上のシュートだ。豪炎寺のファイアトルネードにも負けてないぞ!! だけどな、絶対に止めて見せる!!」
円堂さんは楽しそうに笑いながらも、直ぐに真剣な表情に戻り、ドシッと両足を開いて豪快に構えた。
円堂さんは後ろを振り向き、心臓にエネルギーを溜め込むようにグググと右手を胸に押し当てている。そして慧斗とは真逆の聖なる神々しい光を放っている。
カッ!! と目を見開いて円堂さんは体全体をしならせながら、右手を高々と上げた。その瞬間、黄金色に輝く魔神の姿が降臨する。
その圧倒的な威圧感に私は見惚れてしまう。その場にいる全員がきっとそうだっただろう。もちろん、慧斗のシュートも凄まじい。
だけど、それ以上に次元が違うような存在がそこにはあった。
「だぁっ!!」
円堂さんは気合いの掛け声と共に両手を大きく広げる。その動作は魔神も同じように取り、オーラがグラウンド全体に解き放たれる。
目前に迫るラグナログブレードに見劣りしない魔神がグッと力をこめている。
そして。
「マジン・ザ・ハンド!!」
円堂さんの叫び声と共に腕が突き出され、二つの大きな必殺技が……激突した。
砂を巻き上げ、この場にいた全員が踏ん張ってないと吹き飛ばされそうな凄まじい衝撃に驚愕しながら、目はしっかり見開いて行方を見守る。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「負けるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
今まで聞いたことが無いような慧斗の叫び声と円堂さんの叫び声が響き渡る中、意外にも円堂さんの魔神が押されていた。
「まさか、円堂さんのマジン・ザ・ハンドが……っ!?」
坂野上君が有り得るかもしれない、どんでん返しな未来に少し顔色を悪くしているが、こっちも決して良いとは思えない。
そう、相手はあの円堂さんだ。スペインの名門であるバルセロナオーブに負けてから、私はもちろんのこと、チームメイトでも想像出来ない程の膨大な特訓をしてきたはずだ。
それこそ文字通り、血の滲むようなものだろう。
「ほんとっ!! すげぇ……シュートだ……っ!! 今の豪炎寺がどうかは分からないけど、少なくともバルセロナオーブ戦の豪炎寺を遥かに超えるすげぇシュートだ……ぞ!!」
……認めた。
あの円堂さんが、豪炎寺さんを一番近くで見続けていた円堂さんが慧斗のことを認めた。
「だけどなぁ……オレを今までと同じ円堂守だと思うなよ……っ!! オレのサッカーは常に進化し続ける、相手が強ければ強いほどに!」
確かに円堂さんは試合の中でどんどん進化していき、少し前まで格上だった相手とも同等以上に渡り合えるようになっていった。
あれが円堂守という男の子のサッカー……。
「オレは仲間たちと誓ったんだ。絶対に世界一になれるくらいに強くなるって!!」
円堂さんの魔神が……更に大きくなっていく。慧斗も目を見開いて、驚愕したような表情を浮かべていた。
「だから……このシュートを絶対に……止めるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
『グォォォッッ!!!!!』
円堂さんの覚悟がこもった声と共に一瞬、ほんの一瞬だけ魔神が全てを超越したような黄金と闇夜が混ざったようなオーラを出した。
それは直ぐに無くなったが……円堂さんはラグナログブレードを完璧に止めた。あれだけ叫んでいたが、足は一切定位置から引かれることはなく、その場に踏み止まり、グローブから煙を吹き出しながらも、その表情には余裕があった。
「馬鹿……な」
慧斗は地面に着地したと同時に絶望したような表情を浮かべながら、仰向けに倒れ込んだ。
……凄い。
ただただ、円堂さんの凄さに圧倒された。
ラグナログブレードなんて、止められたところは見たことが無かったのに……円堂さんは止めてしまった。いや、内心では何となく予感はしていたんだ。
それでも、こんな結果になるなんて。
「円堂さんの勝ち……か。慧斗クンも凄かったけど、やっぱり円堂さんの方が今は強いね」
加奈多は静かにそう告げながら、慧斗にタオルを顔に落としてやり、地面にソッと水筒を置いた。そのタオルは直ぐに目元の部分が濡れ始めたが、そこは見なかったことにしよう。
慧斗もかなりの悔しさだっただろうけど、これは彼女にとって、物凄い成長に繋がる。そう確信している。
一方の円堂さんは木野さんからタオルと水筒を受け取り、笑顔で木野さんと話している。
いつかは、あの人からゴールを奪ってみたい。そう思いながら、私は円堂さんに歩み寄った。
「円堂さん……改めまして、桜花学園中等部一年生サッカー部キャプテン……立花唯那です。本日の対決ありがとうございました。彼女、慧斗にはとても良い経験になりました」
「ああ、こっちこそ、改めましてだな。利根川東泉三年生サッカー部キャプテンの円堂守だ。オレも今ので本来なら感じられなかったはずのものを感じられたような気がする」
円堂さんは自分の手のひらを見た後、ニカッと笑いながらグローブを外して手を差し出してきた。
「これからよろしくな、立花」
「はい! 円堂さん!」
私も釣られて微笑み、その手をしっかり握り返した。
対決が終わり、円堂さんの凄さを改めて目の当たりにした私達は帰路についていた。え? 私と加奈多の日常を見るの?
次回 イナズマイレブンアテナの楯
『立花家の日常』
イナズマイレブンアテナの楯、今日の格言
『オレを今までと同じ円堂守だと思うなよ。オレのサッカーは常に進化し続ける、相手が強ければ強いほどに』
以上。
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立花家の日常
今回はサッカー要素ありません。
主人公たちのほんの一部分の日常を温かい目で見てあげてください。
ではどうぞ。
私……立花唯那は利根川東泉での一件の後、桜花姉は響木監督と明日のことで相談があるとのことで、先に帰された。帰り道、慧斗は走って帰るとのことで、一人で去っていった。
きっと一人で考え事をしたいんだろうと思い、あえて止めなかった。私、瞬夜、加奈多の三人はバスに乗っての帰り道、円堂さんたち利根川東泉について話していた。
「円堂さんのマジン・ザ・ハンド、かなり進化していたな」
「うん……真、と呼べるくらいには進化してたし、慧斗のシュートを真っ正面から完璧に押さえ込んでた」
「私は秋さんとかなり近くで見てたけど、本当に潜り抜けてきた修羅場が違うんだと思う。ただ必殺技の差だけじゃなくて、経験や特訓の量、なによりメンタルで圧倒的に慧斗クンを上回ってた」
それぞれの意見を出しながら話していると、やっぱり私と瞬夜より近くで見ていた加奈多の方が感じられるものは多かったようだ。
でも、円堂さんがチームのゴールを守ってくれるのは頼もしいけど、同時にいつかは越えなくちゃいけない壁なんだろうな、と思った。
『まもなく桜花学園中等部前~』
「そろそろ着くよ」
話し込んでいたら、いつの間にか学校の前に着いていて、私たちはバスから降りた。そこで家の方向の都合で、瞬夜と別れた後、私と加奈多の二人で家に帰ることになった。
私は家の都合で現在は桜花姉と加奈多の二人が住んでいる家に住まわして貰っている。
「今日は色々なことがあったわね」
「うん、利根川東泉の人達は強そうだし、明日が楽しみだよ」
私は自然と拳に力が入りながら、心の底から沸き上がるワクワクした気持ちを感じていた。そんな私を見て、加奈多はクスリと笑った。
「なんだかユイらしいね」
「そう? まぁでも確かに……私はサッカーしか能がないから」
「あはは、確かに。昔なんてサッカーに夢中になり過ぎて夜遅くまで河川敷にいたわよね」
「うっ、あれは……反省してる」
加奈多から痛いところをつかれて、私はただ反省の意を示すしかなかった。あの後、家族総出で大捜索になったらしく、見つかった時は桜花姉に鬼のような形相で叱られた。
両親からは……あれ、なんか思い出せない。まぁいいか、そこまで大切な出来事でもなかったんだしね。
「さぁ、着いたわよ。お湯湧かして、早く風呂に入りましょう。今日も隅々まで洗うからねー」
「なんか洗う時の加奈多って少し怖いんだけど」
「気のせいだよ」
私たちはそんなことを話しながら、門を潜り、二重ロックの鍵を開けて、中に入る。靴を脱いで揃えて、上がると暗かったので部屋中の明かりをつけた。
昔から暗いところが苦手だから、夜になるとこの作業は必ず最優先で行う。そして明るくなった後、私と加奈多はそれぞれ分担して家事を行った。
私はお風呂掃除とお湯張りをしにお風呂場へ行き、加奈多は料理の準備をするために台所に向かっていった。
この家のお風呂は銭湯……とまではいかないけど、 それなりに広くて五人くらい入っても狭くないくらいには広い。
ジャージとユニフォームを脱ぎ、スポーツブラと短パンだけの服装で、ブラシと洗剤を持って、掃除を始める。掃除をしている間、頭の中では今日の出来事が大きく残っていた。
慧斗のラグナログブレードは溜めが必要になる代わりに、一度放たれれば必ずゴールを奪ってきた強力な必殺シュートだった。
それを円堂さんはあえて改良された素早く出せるマジン・ザ・ハンドを本来の溜めのある状態で対応した。
だから更に強力になった円堂さんに止められた。
私にも必殺シュートはあるけど、慧斗ほど強力ではない。もしかしたらこの先、円堂さんを越えるようなキーパーも出てくるかもしれない。
その日のために今回の連合チームとしての経験は、私たち桜花イレブンを強くする良いきっかけになるはずだ。
私は……桜花イレブンのキャプテンなんだ。もっとしっかりしないと、それこそ円堂さんに負けないくらいのキャプテンシーを持たないと。
キャプテンはチームを表からも裏からも支えられる役者と裏方の二刀流なんだ。
ピチャ、という水滴の音により、私は思考世界から抜け出した。いつの間にか風呂場を隅々まで綺麗にしたし、そろそろお湯を張って、お茶の間に行こう。
脱衣場で足を拭いて、部屋着用のジャージに着替えてお茶の間に向かう。そこでは既に料理が置かれていた。
煮魚、味噌汁、漬物、白米、サラダ、とバランスの良い美味しそうな料理が食欲をそそる。
「ユイ、さっきお母さんから電話があって、先に晩飯済ませて寝てなさいだって」
「わかったー」
二人が食卓に着いたら、いただきます、という言葉と共に食事を始める。私はゆっくりと黙々と食べ進め、加奈多は早くパクパクと食べていく。
そうして20分後には加奈多は食べ終わっていたけど、私はそのまま食事を続けた。私の場合、口が小さいからか一度に口に入れられる量が少ない。その割にはたくさん食べるので、1時間半くらい時間をかけて、白米を三合くらい平らげる。
「ごちそうさまでした」
「うん、それじゃ私は先に風呂場に行ってるから、食器洗ったら来てね」
「はーい」
加奈多は私の食事を見届けると、バタバタと風呂場に向かっていった。せっかちなところあるけど、いつも私と一緒にいてくれる加奈多はお姉ちゃん的な存在だ。
ちなみに慧斗はライバルって感じで、瞬夜は……面倒見の良いお兄ちゃん、桜花姉はもちろん、お母さん。ん? その場合だと、桜花母……いや、桜花ママの方が良いのかな。
まぁ良いか。
私は食器をまとめて台所に持っていき、スポンジを持ち洗剤をつけて、カチャカチャと音をたてながら不器用ながら洗った。
そして水で洗い流して水切りカゴに置いた後、私は脱衣場でそそくさと服を脱いで下着は洗濯機に放り込み、来たばかりのジャージはカゴに突っ込んでおく。
そうして風呂場に入ると、物凄く泡たてたボディタオルを持ち、ニヤニヤした加奈多の姿があった。
あ、ヤバイ。
「や、やっぱり後で入ろうかな……なんて」
「観念して洗われなさーい♪」
その晩、とある少女の悲鳴が響き渡ったとか、渡ってないとか。
いよいよ利根川東泉との合同練習が始まる……。え? 練習じゃなくて先にミーティング? せっかくたのしみにしてたのに……。
でも色々と重要なこと決めないとね……。
次回 イナズマイレブンアテナの楯
『誕生! 桜花With利根川イレブン!』
イナズマイレブンアテナの楯、今日の格言。
『キャプテンはチームを表からも裏からも支えられる役者と裏方の二刀流なんだ』
以上。
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誕生! 桜花With利根川東泉イレブン!
ブクマ登録ありがとうございます、励みになります。
書いててタイトル詐欺になってないかと思った、きょうこのごろ。
では、どうぞ。
私……立花唯那は未だにくすぐったい感触の残る体を自分の手で抱き締めるように包みながら、放課後の利根川東泉中学校のグラウンドに立っていた。
あの風呂場の一件は……もう何も言うまい。とにかく酷い目にあった、それだけだ。それは置いといて、今日は待ちに待った利根川東泉との合同練習の日だ。
朝の家での食事中、昼の授業、放課後のここまでくるまでの間の全てがサッカー、サッカー、サッカーで頭の中が埋め尽くされていた。
そしてようやくサッカーが出来ると思うと、心が踊るし顔が自然と綻びを見せてしまう。そんな私を横目に瞬夜、慧斗は準備運動を行っていた。
ちなみに私は既にこれでもかって、くらい準備運動を行っているので問題は無い。本来なら今日が土曜日なら朝から晩までサッカー出来たのにな。
今日は金曜日だからたった三時間くらいしか出来ないのが非常に残念だ。
「どうもー、桜花イレブンの人達!」
「あ、坂野上君」
そこへ坂野上君達……利根川東泉サッカー部の面々がやって来た。その中には昨日見かけなかった何となくタヌキっぽい女の子の姿もある。
確か利根川東泉の部員は強化委員の円堂さん、正規部員は坂野上君、六豹君、要君、下町君、そしてあの女の子……狸ヶ原ちゃんだったはずだ。
「立花さん! 今日から連合チームとしてよろしくお願いしますね」
「うん、よろしく! 後、私も一年生だからタメ口で大丈夫だよ。名前も気軽にユイで良いからね」
「わかった、ユイちゃん!」
私と坂野上君はお互いに握手を交わした。瞬夜も他の部員たちとコミュニケーションをはかっていたけど、慧斗だけ隅の方でポツリと一人で立っていた。
……慧斗がチームに溶け込めるかどうかも、チームとして強くなるために重要になってきそうだな。
「そうだ、今日は初回だからミーティングを最初に行うから、練習は後半だって」
「あ、そうなんだ……了解」
よくよく考えたら、チーム名とか、ユニフォームとか、フォーメーションとか、ポジションとか、決めること盛り沢山だったんだった。
私は少し落ち込みながら、瞬夜たちと利根川東泉の部室に向かうのだった。というか、二人も昨日のこともあってか、準備運動してたよね、監督に確認もしないで珍しい。
「あらあら三人とも、これからミーティングなのに気が早いわねー」
その途中でニヤニヤといじわるな笑みを浮かべたジャージ姿の加奈多の姿があった。その隣には強化委員としてやってきた木野さんの姿もある。
「加奈多ぁ……知ってるなら教えてくれても良かったじゃん」
「あはは、ごめんごめん」
謝りながらも、あまり悪びれた様子が無い。木野さんまで苦笑いしているし……。桜花姉もいい、加奈多といい、立花の人間はイタズラ好きなのかな。
私は別にイタズラしたことないけど。
皆で話しながら古びた小屋のような部室に行くと、そこには外見とは異なり、複数のパソコン、たくさんの座席、液晶ビジョンなど、最新の設備が揃った部室だった。
自分たちの古い部室より真新しい設備に、なんだか時代の流れというのを感じつつ、響木監督と桜花姉のいる先頭の席に向かう。
「おはようございます、桜花姉、響木監督」
「来たか。その様子だと待ちきれずに入念な準備運動をしたようだな」
「お前らしいよ、ユイ」
「あはは……」
もう二人にも知られていたようで、なんだか生暖かい眼差しを向けられて、別の意味でむず痒くなる。
「もうすぐミーティングを始めるから、席についておけ。お前は桜花学園のキャプテンだから、先頭の二つあるキャプテン用の席にな」
「うん、わかった」
桜花姉に指定された座席に座ると、隣にはこっちにニカッと明るい笑みを向けてきてくれる円堂さんの姿があった。その額からは僅かに汗が流れており、少し体から湯気が出ていた。
「よっ、立花。あはは、オレ……いきなり練習だと思って早朝から準備運動してて、さっき監督から知らされるまで放課後も色々と準備してたんだよな」
「円堂さんもですか。実は私も……」
円堂さんが少し照れ臭そうに秘密を話してくれて、だから私も同じだと言ったら、驚いたように目を見開いていた。
なんか驚いた顔の円堂さんって新鮮かも。それに……可愛く見えてしまった。
「ほんとか!? そうだよな! やっぱり連合チームて聞いたらワクワクしたし、お前らとサッカーするのも楽しみだったからなぁ」
「ですよね!!」
お互いに身を乗り出して共感するように大きく頷き合う。それがどうしようもなく嬉しくて笑ってしまう。そして円堂さんも釣られて笑っている。
「全員揃ったようだな。ではこれより第一回連合チームのミーティングを行う」
全員が席についたところで桜花姉が口を開いて、ミーティングが始まった。目の前の液晶ディスプレイから今回話し合うことの一覧が出てきた。
ちなみにディスプレイは加奈多と木野さんの操作で行われている。私は機械には疎いし苦手なので、そういうことが出来る二人を尊敬した。
「まずは自己紹介から始めようか。そうだな、学年、名前、ポジション、得意なプレイ、を言ってくれ」
まずはキャプテンから、ということで私は立ち上がる。比較的少ない人数とはいえ、こうも視線が集中してると、かなり緊張する。
深呼吸を一度してから精神の乱れを無くして、平常心を整える。今は波一つ無い水面のように落ち着いたものとなった。
「桜花学園一年、立花唯那です! ポジションはMFです。得意なプレイは……チームプレイだと思ってます。よろしくお願いします!」
私の自己紹介が終わった瞬間、ドッと割れんばかりの拍手喝采が巻き起こった。少し恐縮しながらも、ペコリと頭を下げて席についた。
次に利根川東泉のキャプテンである円堂さんが立ち上がる。やっぱり、三年生ということもあって、落ち着いた雰囲気だな。
「利根川東泉三年、円堂守だ。ポジションはGK。得意なプレイはもちろん、がむしゃらに相手に立ち向かう熱いサッカーた!! という訳でよろしくな!!」
先程より大きな拍手が起こりながら、円堂さんは席ついた。流石は円堂さん、とてもかっこいいな、と私は思いつつ、次のメンバーの自己紹介も見る。
「次は部員だからな、ざっと素早く頼む」
響木監督の言葉に全員が頷きつつ、桜花学園側の瞬夜たちが立ち上がる。
「桜花学園一年、雪崎瞬夜だ。ポジションはDFで、得意なプレイは相手からボールを奪ってからの前線への攻撃参加だ」
「それって……」
瞬夜の言葉に坂野上君が反応する。少し驚いている様子からして、同じプレイスタイルなのかな。ということは坂野上君もDF……リベロである可能性が高いね。
「桜花学園一年、マネージャーも兼任してる立花加奈多です! ちなみに唯那とは従姉妹です! ポジションはMFで、得意なプレイは魅せるドリブルです! よろしく♪」
加奈多は手慣れたような自然で明るい口調で、すらすらと自己紹介を終えた。それは良いんだけど、問題は慧斗……ちゃんと自己紹介出来るか、少し心配だ。
桜花学園側はいつ慧斗がやらかしてもフォロー出来るように心掛けを持ちながら、当人である彼女がゆっくり席を立った。
そのオーラからは円堂さんと再び戦うことが出来てなくて少し不機嫌なのが伺える。円堂さんにやられた後から、眠らずに早朝まで練習してたらしいからな。
ちなみに情報源は心配で付き添って、同じく寝不足になっている瞬夜からだ。
「……桜花学園一年、大月慧斗。漢字は名字が大きい月に、名前は賢いという意味の慧、北斗七星の斗、だ」
あれ、意外と丁寧な自己紹介だ。名前を覚えて貰うためにわざわざ漢字の説明までしてるし。慧斗の慧って難しいから書きにくいんだよね。
「ポジションはFW」
このまま平和に終わって欲しい…………。
「得意なプレイはオレの完璧なプレイから生まれる個人技だ。だから貴様らはさっさとオレにボールをよこせ。そうすればチームは勝つ。貴様らはただ突っ立てればいい。以上だ」
……やらかした。
慧斗の最後の言葉に部室に吹雪が巻き起こったかのように凍りついた。まるで白恋中の吹雪士郎さんのアイスグランドを食らったような気分だ。
しーん、という痛いくらいの静穏がこの場を支配する。さっきまで利根川東泉側は女の子選手多い、とか、可愛いとか、楽しいサッカー出来そう、とか盛り上がってたのに、慧斗の言葉に困惑半分、怒り半分、といった様子で彼女のことを睨んでいる。
「……あ、えーと、慧斗クンはツンデレさんだから、その仲良くしてあげて!」
加奈多が一番先に硬直が解けて、必死にフォローしてみるが、もうこの空気からマイナスな印象をプラスに補正するのは難しいだろう。
「……突っ立てればいい、てどういうことだよ」
ガタッ、と音をたてながら、さっきまで明るい表情だった坂野上君が険しい表情で立ち上がった。怒気のこもった坂野上君の言葉に慧斗は冷たい表情のままだった
「言葉通りだ。オレが得点を決める。仮に円堂守……先輩がゴールを守りきれなくても、オレがいくらだって点を取るから問題は無い」
「ふざけるなよ! サッカーは11人全員が力を合わせないと勝てない!!」
「それはオレのいないチームでの話だ。現にオレは今まで相手がどのチームであろうと、オレのシュートは止められたことがないし、勝ってきた」
慧斗の言っていることは確かに事実だ。私が慧斗と知り合って一緒にサッカーを始めたのは小学生五年生の時だった。
学校は一緒だったけど、何故か瞬夜に近寄ることさえ止められていたので、とある偶然が無ければ出会えなかった。それは今語ることではないけど。
彼女のいたチームは彼女以外はやる気が無くて、特訓もしないし、当然ながら実力は無い。毎試合10失点以上は当たり前のチームだった。
だけど、無敗だった。それは大月慧斗という一人の天才プレイヤーがいたからだ。彼女は必ず毎試合20得点以上をあげて勝ってきた。
そう、頼れず存在が一人もいなくて、一人でサッカーをやるしかない環境にいた彼女にはそれしか出来なかったからだ。
パスをすれば、誰もとってくれず、パスを要求しても見当違いな方向に飛んでいき届かない。味方にシュートを任せてもゴールを決められず、逆に得点される。
そんなチームにいたからこそ生まれた究極にして孤高の個人技。あまりにも悲しくて、やるせない気持ちになってしまう。
今喧嘩してるのだって、慧斗はチームに頼れず、それしか出来なかったからだ。もっと早く慧斗と出会ってれば、チームの大切さをもっと早く教えていれば、こんなことになっていないのかもしれない。
「貴様らがどうしようが勝手だが、足は引っ張るな。それだけだ」
慧斗は席を立ったまま、部室の扉に手をかけた。
「待て慧斗、どこへ行く。まだミーティングのミの部分しかしてない」
「知るか。全て任せる。オレは昨日の時点でキーパーがまともであれば、それで知りたいことは達成された。後はオレの邪魔さえしなければ、どうでもいい」
桜花姉の制止を聞くことなく、慧斗は言いたいことだけ言って、そのまま部室から出ていった。桜花姉は少しだけ悲しそうな目をしていたが、直ぐに元の表情に戻った。
「響木さん、うちの教え子が粗相な真似をしてしまい申し訳ない。私は彼女を追いかけなければならないので、ここは任せても良いか?」
「ああ、問題無い。あいつにも訳がありそうだしな。オレにもそんな時代があったから分かる。行ってこい」
「ありがとうございます」
桜花姉はそのまま部室から飛び出した。和服でどうやったらあそこまで早く動けるのか、というくらいに早かった。
「さて、まだ利根川東泉の自己紹介は終わってないな。続けよう」
「……はい」
こうして最悪の空気のまま自己紹介は続いた。
私は利根川東泉の自己紹介をメモにとって覚えつつ、頭の隅では慧斗が心配で仕方が無かった。きっと桜花姉が何とかしてくれるだろうけど、それでも心配だ。
しかし。
「……」
一瞬、ゾクッと背筋が凍るような視線を感じた。まるで死さえも予見させるような冷徹なものだ。思わず、周りを見渡したけど、目が合ったのは私を心配する目を向ける瞬夜だけだった。
うん、きっと気のせいだ。
だから利根川東泉の自己紹介に集中しないと。
そう思いながら、私はメモを取るのを再開した。
こうして最悪な形でイレブンが結成された。
慧斗の言葉に深まってしまう溝。そんな険悪な空気を払拭するようにスポンサー紹介が始まる。
あれ、この子って……。
次回 イナズマイレブンアテナの楯
『アテナの降臨』
イナズマイレブンアテナの楯、今日の格言。
『サッカーは11人全員が力を合わせないと勝てない!』
以上。
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アテナの降臨
書き貯めが無くなり、少し時間がかかりました。やはり書き貯めは事前に20、30話は用意しないといけないのかな……。
更新する度に見てくださる人の数が増えて、ついニヤニヤしてしまいますね。
作者による完全妄想ですが、よろしくお願いいたします。
ではどうぞ。
利根川東泉側の自己紹介が終わり、学校という枠を越えてお互いに理解し合ったところで問題は次の議題に入ろうとしていた。
「三年生一人、二年生二人、一年生が七人か」
響木監督の言葉にふと気付いた。そういえば桜花姉が昨日の部室で試合にギリギリ出られると言っていたけど、メンバーは十人しかいない。つまりは一人不足している。
興奮し過ぎて、あの時は気付かなかったけど、桜花姉はもう一人のメンバーが誰なのか言っていなかった。どちらかの学校に属しているのか、桜花学園でも利根川東泉でも無いのか、誰なんだろう。
「……監督、うちの連合チーム一人足りませんよね。それはどうするんですか?」
先程より冷静さを取り戻した坂野上君が不思議そうな様子で響木監督に問い掛けた。私が気になっていたことなので、丁度良かった。
「それに答える前に、我々の連合チームに興味を持ってくれたスポンサーがいて、それを紹介しようと思う」
そうだ、それも気になってなんだ。そもそもメンバーが仮に集まってもスポンサーがいないとフットボールフロンティアには出られないのだから。
「木野、頼む」
「はい、監督。皆、ディスプレイに注目してね。これからスポンサーの紹介動画を流すから」
そう言って、木野さんはカタカタとパソコンを操作して動画が流れる。電気が消えて、フッと一瞬だけディスプレイも暗くなったと思えば、直ぐに落ち着いたBGMが流れ始めた。
無限に広がる宇宙の映像が映り、流星が地球に降り注ぐ様子をカメラが追いかけると、湖のほとりで水色のドレスを着て華麗に踊る少女の姿が映る。
流星と少女の踊りが重なり、まるで女神のようなイメージが浮かび上がる。そんな少女が両手を広げると、二つの惑星をイメージさせる球体が浮かび上がり、彼女の手に落ちる。
左は利根川東泉で、右は桜花学園のチームロゴがあった。そして少女が両手を高々と天に向けて上げると、その二つが重なる。
そして球体が日食のように白と黒になり、新しく浮かび上がったのは……月と少女のシルエットだった。
『最高級のドレスを創造するアテナクレッセントは利根川東泉中学と桜花学園を応援致します』
ソプラノボイスの美しい少女の声がそう告ると、映像の少女がどんどん近付いてきた。まるでこちらに飛び出てきそうな勢いでいると……バリバリ! という壁が突き破られる音と共に本当にディスプレイから少女が飛び出してきた。
「皆様、ごきげんよう」
まるでドッキリ番組みたいな登場の仕方をした少女はドレスのスカートを捲し上げて、私達に一礼をした。あまりにもインパクトが強いから、周りは固まっている。
「紹介しよう。彼女は桜花学園の生徒であり、アテナクレッセントの社長令嬢でもあり、11人目のメンバーの天乃川アテナだ」
「よろしくお願い致しますわ、皆様。桜花学園二年生、ポジションはメインがDFで、他にもGK以外なら一通りこなせますので、皆様のお力になれればと思います」
響木監督の言葉には驚きだし、アテナさんがスポンサーさんの令嬢なのも驚きだし、その人が11目のメンバーなのも驚きだし……もう頭が混乱しまくりだ。
それにアテナさんくらいの有名人な美少女なら、桜花学園にいたら、必ず気付くはずなのに噂すら聞いたこと無い。
私は加奈多に視線を送ってみるが、彼女は首を横に振った。かなり人脈の広い彼女でも分からないとなると、転入生? でも、転入生がいることすら聞いたこと無い。
「メンバーも揃ったことだし、各ポジションとフォーメーションを確認するぞ」
とりあえず今は響木監督の話に集中しよう。
確か桜花学園と利根川東泉を合わせると。
FW
大月慧斗
要瑞保
下町駆
MF
立花唯那
立花加奈多
六豹条
狸ヶ原ぽん子
DF
雪崎瞬夜
天乃川アテナ
坂野上昇
GK
円堂守
こうして確認してみると、奇跡的にバランスが取れてるね。強いて言うなら、瞬夜と坂野上君の二人がリベロだから、フォーメーションが超攻撃型になってしまい、守備が円堂さん任せになりそうで、そこだけが唯一怖いところかな。
「まぁ、いざとなれば私とユイでフォローしてあげれば問題無いよ」
「確かにそうだけど、加奈多もどちらかといえばストライカーの傾向が強いMFじゃないかな?」
「あ、あはは……ソウダッタカナ」
加奈多は目を泳がせながら、木野さんに寄り掛かって誤魔化すように口笛を吹いている。カヒューカヒュー、とあまり上手く吹けてないけどね。
「最後にキャプテンについてだが……
これについては納得しかない。このメンバーでキャプテンと言ったら、円堂さんしかいないし、むしろ円堂さんがキャプテンやらないなんて、違和感しかない。
円堂さんのキャプテン就任を喜び、私たち全員で惜しみ無い拍手を送る。当人はなんだか照れ臭そうにしている。
「ということで、ミーティングは以上だ。残りの時間は交流も兼ねて、5対5のサッカーバトルを行う」
「「やった!!」」
私と円堂さんは同時に喜びの声をあげる。またもや気が合ってしまい、お互いに顔を合わせて苦笑いした。
三人称side
桜花学園側の監督である立花桜花は浴衣の裾を上げて、汚れないようにしながら駆け足で、部室から出ていった大月慧斗を探していた。
桜花にとって、長年の付き合いである彼女の行動は読めていたので、あまり動揺はしていないが、それでも心配の念は強かった。
(慧斗……?)
そうして校舎裏に行くと、暗がりの中で座り込んでいる慧斗を発見した。声をかけようとしたが、何やら様子がおかしく、目が虚ろだった。
「慧斗、こんなところにいたのか」
「……」
桜花が声をかけても、彼女は決して反応することなく、ボーッと一点を見つめていた。桜花は慧斗の隣に座り込み、彼女を見つめて言葉を待った。
「オレ、は」
そうして待つこと数分、ようやく口を開いた彼女は震えていた。どうしようもなく何かを恐れるように桜花の目を見ていた。
「オレは……間違っているのか?」
「……」
「ずっと一人でやるのが当たり前だった。だって、周りにどんなに言葉を交わしても答えてくれなかったから。だからオレ一人が頑張ればチームは勝てる、みんな喜んでくれると、思った」
それは慧斗の心からの本音だった。
彼女がずっとここまで孤高にやってきたのは、チームに対するトラウマと不信感。それでもサッカーを愛する気持ちと勝ちたいという渇望、そして何よりチームのためを思ってのことだった。
それを今日初めて坂野上の怒りの反応を見て、彼女は内心で大きく動揺していた。今まで慧斗のやり方は肯定こそされなかったが、ずっと受け入れられていた。
それが彼女のやりたいことなら、と唯那たちもフォローしながらも付いてきてくれた。
「……そうだな、お前は間違っていないが、
「え?」
「お前は孤高でありながら、孤高じゃない。一人で戦っていながら、
桜花は一見して矛盾したような言葉を繰り返す中、慧斗はその言葉が自然と頭の中に入っていた。確かにしっくり来ると。
(オレはずっと正しいと思ってやってきた。そして一人で戦っていると思っていた。だが、一人じゃない? 何故だ。一人なのに一人じゃない?)
「悩めよ若者。時間はいくらでもある。これからの人生の中で答えを見つければいい。頼れる仲間もいるのだから」
「っ! ……そうだな、分かった」
慧斗は立ち上がりグラウンドの方へ歩いていった。その背中には迷いがありながらも、もう下は向いていなかった。
「ふふ、……ゴホッゴホッ」
桜花は彼女の背中を見届けながら、校舎裏のこもった空気に咳き込むのだった。
ついにミーティングが終わりサッカーバトルをすることになった。あ、慧斗も戻ってきたんだ、良かったぁ。
謎の少女アテナさんや利根川東泉の人たちがどんなサッカーをするのか、とても楽しみ!!
次回 イナズマイレブンアテナの楯
『虚空の女神』
イナズマイレブンアテナの楯、今日の格言。
『悩めよ若者。時間はいくらでもある。これからの人生の中で答えを見つければいい。頼れる仲間もいるのだから』
以上。
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虚空の女神
サッカーバトルとはいえ、やはりサッカー描写って難しいですね。これが試合になったら、一体何千文字になるのか……。
オリキャラには出来るだけ、オリジナル必殺技でいきたいですが、メガネさん程のネーミングセンスないんですよね……。
では、どうぞ!
私……立花唯那は改めて軽いウォーミングアップのために加奈多たちとパス練習をしていた。三角形に広がり、トラップやダイレクトなどを交えながら行っていると、そこへ二人の少女が姿を現す。
一人は途中でいなくなっていた慧斗だ。なんだか憑き物が落ちたように晴れ晴れした表情をしている。もう一人は天乃川アテナさんだ。慧斗を背中から抱き付いている。
「……さっきは単独行動して悪かった。もう坂野上には謝罪した」
「それなら良いんじゃないかな。さ、二人もパス練習しよ?」
どういう心境の変化なのか分からないけど、きっと桜花姉が色々と話してくれていたのだろう。それなら、私がやることは、素直に慧斗を受け入れて、またいつも通りに接することだけだ。
後ろを向けば加奈多と瞬夜も頷いてくれた。
「良かったですね、ケイちゃん」
「……ケイちゃん言うな」
それにしても、いつの間にアテナさんと慧斗はこんなに仲良くなったんだろう。それとも二人共知り合いなのかな。
「大月、天乃川と知り合いなのか?」
気になっていたことを瞬夜が代わりに聞いてくれた。その問いかけに当人の二人は顔を合わせると、慧斗は嫌そうに、アテナさんは微笑みながら、同時に頷いた。
「オレの親父とアテナの母親は幼馴染だから、ついでに知り合っただけだ」
「うふふ、ケイちゃんからお三方の話は伺ってました。ケイちゃんったら、普段は仏頂面なのにとても楽しそうに話してたので、いつかはお話したいと思ってたんですよ♪」
慧斗がそっぽを向いてツーンとした口調で話す中、アテナさんは慧斗に抱きついたままだった。仲良しなのは良いことだね。
「それなら練習終わりにたくさん話しましょう、ね!」
私はなんとなく強烈なパスをアテナさんに送ると、素早く慧斗から体を離した後、足を蹴りあげて、その力でボールの勢いを相殺し、受け止めた。
そうしてつま先にあるボールをふわりと浮かせると、ボレーで私に同じくらい強烈なパスを返してきた。
もはやシュートに近いパスを私は胸でトラップを試みる。バァン! と胸を貫通するような強い衝撃を感じながら、その衝撃を殺してボールを地面に落とした。
「へぇ……お可愛い顔してますけど、中身は中々のタフな姫君ですわね」
「ありがとう。アテナさんも振る舞いは御淑やかなのに、とても熱いパスだったよ!」
アテナさんがニコニコとしていたので、釣られて私もニコッと微笑む。それにしてもユニフォームの胸部が少しだけ焦げて僅かに煙がシュウ……とあがっていた。
何故か周りが私たちを固唾を飲んで注目されていた。不思議に思いながらも、私は自然と慧斗の方へ行き、抱き寄せていた。
自分でもよく分からないし、慧斗も不思議そうにしているけど、アテナさんにボディタッチされてる慧斗を見てたら、なんか心がモヤモヤした。
「お前ら、準備が出来てるならグラウンド中央に集合しろ」
そこへ響木監督が桜花姉と共にグラウンドに現れて、集合をかけていた。そうだ、こっちのポジションとか決めておかないといけないんだった。
「とりあえずポジションどうしようか?」
「……FWは当然オレのワントップだ」
「じゃ、私とユイでMFね!」
「私はDFが良いですねぇ」
「じゃあ、俺がキーパーをやるか」
私が問いかけると、上から慧斗、加奈多、アテナさん、瞬夜が答えてくれた。皆の希望通りにすれば、ちょうどフォーメーションが完成するから、これで良いかな。
「じゃあ、ポジションはそれで良いとして、フォーメーションはダイヤで良いかな?」
ダイヤとは単純にダイヤのように前に一人、中には左右に別れて二人、後は中央に一人、そしてGKという攻守でバランスの取れたフォーメーションのことだ。
私の提案に全員が頷いたので、それで決定した。準備が整ったのでグラウンドの中央へ行くと、既に利根川東泉側がいた。
相手のメンバーは六人なので、そこからぽん子ちゃんが抜けてるみたいだ。木野さんと一緒にいて何やら話し込んでる。
「揃ったな。これより桜花学園チームと利根川東泉チームのサッカーバトルを始める。勝利条件は1点先取したチームの勝ちだ」
響木監督からの説明を聞き終えると、それぞれがポジションについた。ちなみに相手のフォーメーションはイナズマをイメージされたようにジグザグの配置だった。
「では、キックオフ」
ピーッ! と木野さんが笛を吹き、私がボールに触り試合は始まった。それと同時に慧斗がボールを受け取り、前線に一気に走り出す。
「いかせるか!」
FWの下町さんと要さんが立ち塞がるが、これを慧斗は冷静にボールを上に蹴って、ムーンサルトのように飛んで華麗に抜いた。
「「なに!?」」
二人が驚くけど、慧斗はFWとして必要な能力が全てアベレージ以上に高い。だからこれくらいは出来て当然なんだ。
「慧斗!」
私がパスを要求すると、慧斗は直ぐにパスをくれる。トラップして受けとると、そのままドリブルで持ち込んでいく。
そして終盤まで持っていくと、慧斗にパスして戻す。
「行かせないよ」
慧斗の目の前に六豹君が立ち塞がり、ボールを奪いに来る。それを彼女は立ち止まってボールを細やかに動かして、六豹君の追撃を避けていく。
「……鬱陶しい」
何度も慧斗は降りきろうとしても、六豹君の諦めないしつこい守りにイラついたように舌打ちをする。そして一歩だけ後退した。
「……アルカムフォース」
慧斗は胸に手を押し当てた後、片手で目の前に円を描くように動かすと、空間が歪んでいき闇で覆われる。その空間を走り抜けると、六豹君の後ろにあった同じ空間から、慧斗が抜け出てきた。
無事にドリブル技で六豹君を振り切ったが、次にDFの坂野上君が立ち塞がった。
「行かせないぞ!」
「慧斗! 戻して!」
「……分かった」
ドリブル技の後だから、慧斗に僅かな綻びがあったので、そう指示を出すと直ぐにパスを出してくれた。私はそれをダイレクトにオーバーラップしていた瞬夜にパスを出す。
「えぇ!? ゴールキーパーがここまで来てたの!?」
神出鬼没の如く突然現れた瞬夜に坂野上君は六豹君とダブルで慧斗のマークにつきながら、驚きの表情を浮かべている。
こういうオーバーラップは強力な攻撃に繋がるけど、その代わりに守備がかなり疎かになる。一応、加奈多がフォローとしてゴール前に立ってるけど、彼女もシュートが大好きだからなぁ。
「円堂さん! 胸を借りた気持ちで行きます!」
「よし、来い! 雪崎!!」
瞬夜は勢いのままゴール前に迫っていく。瞬夜のコントロールは酷いけど強力なパワーシュートがある。それが円堂さんにどこまで通用するのか気になっていた。
「うおぉぉぉぉッ!!」
ボールを持ったまま足を上げて、振り落とすように地面にボーンを落としながら擦り付けるようにスピンを加える。
強烈なスピンのかかったボールが地面を削りながら待機してると、そこに瞬夜は全力で蹴り込む。スピンボールに対してトゥキックをしたことで、ボールの回りには強烈な回転の威力が残りながらボール自体は無回転となる。
ボール回りに渦が出来たまま放たれた無回転シュートの名前は……。
「ソロアルカム!!」
コントロールに難のあるシュート技だが、威力の高いシュートが奇跡的にゴールの隅ギリギリに向かっていく。
「隅っこか……っ!!」
円堂さんはキーパー技を出そうとしていたが、それが守備範囲外だったのか、少しだけ焦ったような表情をしている。
「やるな……だが……だぁぁっ!!」
円堂さんが気合いをいれるように両方の拳を突き出してから、両手を広げると二つの魔神が現れた。私たちから見て左側が本来の魔神で、右側には新しい赤色の魔神が姿を現していた。
そんなF○の召喚獣を呼び出すみたいなノリで、こんな荒業をしようとしているなんて、円堂さん凄すぎる! 多分、円堂さんのことだから、閃きだけでやってるんだろうけど。
「はぁぁ!! スーパーダブルマジン・ザ・ハンド!!」
「……えぇ」
円堂さんのネーミングセンスに少しだけ呆れながらも、あれは本当に凄いと驚愕した。
左の魔神が片手を大きく伸ばしてボールをガッチリ掴んだ。本来ならそこで止められるんだろうけど、まだ姿が薄くて不完全だらか、瞬夜のシュートを完全に止めきれず、弾かれた。
それが丁度私のところに飛んで来る。
「決めろユイ!!」
「……うん!!」
私は瞬夜の言葉に答えてボールを受け取ろうとした時、目の前に影が差し込んだ。あれ、そういえばアテナさんってキックオフした瞬間にどこかに行っちゃったよね。
それに何でアテナさんじゃなくて加奈多がゴールをフォローしてたんだろう。
その答えに行き着いた瞬間、目に入ったのは、目の前でボールを横から膝に挟んで奪い取るアテナさんの姿だった。
「え?」
「申し訳ありませんが、ここはわたくしが決めさせて頂きますね」
アテナさんは地面に着地した後、直ぐにシュート体勢に入る。前に地面すれすれで飛ぶ、背中からは蛇を模様した銃を持ち、アテナさんが着てたようなドレスを着た女性のような虚像が現れる。
彼女はアテナさんに向かって銃を撃つと、赤と青の二つの光線が彼女を包み込む。
「アテナアサルト」
必殺技の呼び声と共に矢の如く速いシュートが放たれた。それは赤色の魔神がいる方に飛んでいく。円堂さんも既に反応して待ち構えていた。
「決めさせて頂きます」
「させるかぁぁぁッ!!」
そして赤色の魔神が片手を突き出してシュートをガッチリと掴んだ。しかしこれもまた姿が薄く、まだ完全には力を出し切れていない。
「ぐぅぅ……っ!」
円堂さんは後退りしそうになりながらも、足腰にしっかり力をいれてその場から一歩たりとも動いていない。これだけ強烈なシュートを二発も放たれても、まだ笑っていた。
「へへ、本当に……
円堂さんがなんだかおじいちゃんみたいなこと言ってる。
そんな円堂さんも限界が来たようで、不完全だった魔神たちが完全に消失してシュートが円堂さんの顔面に衝突した。
「ぐはっ!!」
そのままボールは円堂さんごとゴールに突き刺さった。あの慧斗でも止められたのに、こぼれ球なのと、あの人の技が未完成なのもあるけど、あの威力は本当に凄い。
でもアテナアサルトって……アテナさんと同じ名前なんだね。
「いてぇ……けど、アテナのシュート凄かったぞ!」
「うふふ、ありがとうございます」
「大月のラグナログブレードにも迫る威力だな。ナイスシュート、天乃川」
「アテナちゃんって、凄いね!」
皆がアテナさんに駆け寄る中、アテナさんから受けたどこか冷たい瞳が未だに目に焼き付いて離れなかった。あれはミーティングの時に感じた凍てつくような視線と同じだった。
「皆さんのアシストがあったからこそですよ。こんな素敵なチームでプレー出来るなんて、わたくしは幸せですわ」
アテナさんが微笑むと、全員が見惚れていた。なんだろう、この蚊帳の外に出されたような感覚は。
「……♪」
一人で立っている私を見て、何故かアテナさんはニヤリと今まで見たことの無い歪んだ笑みを浮かべていた。どうして、あんな顔してるのかな。
「サッカーバトルは桜花学園の勝ちだな。もう時間もおしているし、今日はここまでだな」
「「「ありがとうございました」」」
全員で号令をした後、各々解散となった。それなのに私はその場から一歩動けなかった。何かをされた訳ではない。
ただ、たまたまアテナさんが飛び出してきて、私に渡る予定のボールをカットされただけだ。だけど、胸に穴が空いたように、私の頭は真っ白になった。
「ユイ! 大丈夫……?」
「え……ぁ」
加奈多に声を掛けられただけで、驚いて体の力が抜けてしまった。膝から崩れ落ちて、意識が遠退いていく。
意識が無くなる直前に再び冷たい視線を感じた後、私は意識を完全に手放した。
初日から倒れるなんて、なんだか情けないな……。そう落ち込んでいると、円堂さんからとある場所に連れていってもらうことに。
次回、イナズマイレブンアテナの楯
『始まりの場所』
イナズマイレブンアテナの楯、今日の格言。
『一年生(ルーキー)って良いな。これだけ強いのに、まだまだ成長の余地があるんだからな』
以上。
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始まりの場所
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原作をリスペクトして、次回予告や今日の格言してますが、格言て作るの難しいですね……。
ところで、オリオンの刻印……終わってしまいましたね。それに伴い、ゲームタイトルも変更されたとのことなので、タグを追加しました。
それではどうぞ!
夢を見ていた……。
それは私がまだ小さかった頃、家庭の事情で外国で暮らしていた時の風景だった。草原が広がり、奥には森があり、自然や動物たちが溢れる豊かな場所だった。
当時の私は人見知りで、泣き虫で、暗くて、どうしようもなく弱い自分だった。でも、ある日……両親に連れていって貰って、とあるサッカーのプロリーグの試合を見たことがあった。
そこには1人の日本人選手が活躍していた。粘り強いディフェンス、相手を抜き去る華麗なドリブル、最後に強力無比なシュート。
そして、その人に対しての熱い声援と拍手が巻き起こる。私も、あの人みたいに輝けるサッカーがしてみたい。
そうして始めたサッカーは楽しくて、サッカーを通してどんどん仲間や友達が出来て、とても嬉しかった。
そんな楽しい思い出が流れていたが、突然目の前が真っ暗になる。私は誰かの掌に立っていた。誰なのかを確認するために顔を上げる。
そこにいたのは…………。
────な。
──ちばな。
誰かが私の名前を呼んでいる。なんだか温かくて、自然と目が覚めていく。ぼんやりとした視界の中、オレンジ色のバンダナが映る。
「立花」
靄が無くなり、完全に視界がクリアになると目の前には心配そうな表情をしている円堂さんの姿があった。
「あれ、円堂さん……どうしてここに?」
「覚えてないのか? お前、練習終わりに倒れたんだぞ。一応うちの学校の保健室で寝かせてたけど、俺が看病するからといって、加奈多には先にお前の分の荷物持たせて帰らせた」
「すみません……円堂さん。あはは、いきなり倒れちゃって、私ったら情けないなぁ」
コツン、と自分の頭を軽く叩いておどけてみせたけど、心の中では己の未熟さと恥ずかしさでいっぱいだった。おまけに円堂さんや加奈多にも迷惑と心配をかけちゃったし。
こんなことで皆の足を引っ張っちゃいそうで怖い。慧斗のことだって、本当なら桜花学園側のキャプテンとして、私が解決しないといけないことだった。
それなのに、何でアテナさんにボール奪われた程度で、あんなに頭が真っ白になっちゃったんだろう。ズキズキとトゲが刺さったようなモヤモヤとした気持ちになってしまう。
「立花……お前、なにそんなに悩んでるんだ?」
「え?」
「お前、今、酷い顔してるぞ。まるで魚の骨が喉に何百本も刺さってるみたいな感じだろ」
「……はい、まさにそんな感じです。」
円堂さんの例えは意外と当たっていた。まさに色々な悩みという名の骨がたくさん刺さっていて、物凄く苦しい気分だ。
「……だったら、ご飯食ったら取れるかもな。じゃあ、ちょっと付き合えよ。最高に美味いラーメン屋知ってるからさ!」
「え、えぇ!? そ、それって……デデデ……っ!」
「ん? どうしてそんなに顔真っ赤にしてるんだ?」
私はあられもない想像をしてしまった。男の子が女の子を二人っきり、つまりは男女だけで食事に誘う行為はデートという恋人同士がするものだと、桜花姉が言っていた。
そう意識してしまったら、恥ずかしくなって顔に血が昇り、おそらく赤リンゴみたいに真っ赤になっているのだろう。
「その、デート……の誘い、ですか?」
「ん? デート? ……あ、いやいや! そういう意味じゃないぞ!? オレはただ悩みを聞こうとしていただけで……とにかく行くぞ!」
私が問い掛けると、予想外といった様子で慌てて否定すると、私をベッドから起こして、強引に手を引いて歩き出した。
ちょっと病み上がりでフラフラするけど、後ろ姿から見てる円堂さんの耳が僅かにだけど、赤くなっていることに気付いて、やっぱり円堂さんって可愛いな、と思った。
私は円堂さんに連れられて利根川中学を後にして、そこから最寄りの駅から電車で稲妻町に向かうことになった。
あまり地元から離れたことが無かった私は千葉は東京から近いとはいえ、少しだけ胸を昂らせながら、窓から外の景色を眺めていた。
町は夕日の色に染まっていて、その景色がとても美しかった。私が無言で眺めていると、隣にいた円堂さんが笑っていた。
「円堂さん、どうして笑ってるんですか?」
「あ、いや……なんか立花がキラキラした目で外の景色を眺めてる姿が微笑ましくてな」
「むー、子供扱いですか……?」
「あはは、そんなことないぞ。単純に笑顔が可愛かっただけだ」
そう言って、円堂さんも窓の景色に目を向けた。もしかして、私が気付く前から円堂さんは私のことを見つめていたのだろうか。
それに笑顔が可愛いとか、さりげなく褒めてくるし。確か元々の雷門イレブンには三人のマネージャーさんがいたよね。
もしかして彼女たちにも、こんな風なことを言っているのだろうか。だとしたら、円堂さんは相当な天然ジゴロなのかもしれない。
私は制服のスカートをギュッ、と手で握りながら、円堂さんの可愛いという言葉からの照れ臭さを堪えた。そして稲妻町に着くまで無言の状態が続いた。
ようやく稲妻町に着くと、円堂さんは町案内をしてくれながら、目的地のある商店街に入った。そこにはコンビニや肉まん屋さんなど、色々と食欲を刺激されるような店が並んでいた。
「円堂さん、稲妻町って良い町ですね」
「だろ? オレも元々は雷門中でサッカーやってて、帰りはよく仲間と今向かってる店に寄ってたんだ」
「それってイナズマイレブンの原動力となってそうですね」
「なってるさ。オレたちだって最初は前途多難で、だけど諦めず自分たちのサッカーを信じて、優勝までしたんだ。その勝因の一つとして、その店で皆で作戦会議したりとかもあるからな」
そのことで話している円堂さんの表情は輝いていた。三年生になった円堂さんはフットボールフロンティアで見ていた姿よりも落ち着きを持ち大人びていたけど、やっぱり、円堂さんは円堂さんなんだと再認識した。
そうこう話している内に少しだけ古びたラーメン屋が見えてきた。その看板には雷雷軒と書かれており、おそらくこれが円堂さんの言っていた店だと思う。
「よし、着いた。ここが雷雷軒だ。響木監督! 店もう空いてますかー?」
円堂さんはそう言いながらガラガラ、と店の扉を開けて中に入っていく。私もそれに続いて恐る恐る入ると、年季の入った歴史溢れる内装が目に入った。
「おお、円堂と立花……さっきぶりだな。まぁ座れ、今日は俺の驕りにしておいてやるから、たんと食え」
「流石、響木監督! 太っ腹!」
私と円堂さんはカウンター席に座り、メニュー表を眺める。ラーメン、チャーハン、餃子など一通りあり、どれも美味しそうだ。
「じゃ、オレはラーメンと餃子。立花は?」
「あ、えーと……」
「遠慮するなよ、腹一杯になるまで食べて良いんだぞ?」
「っ!」
……普段は食費の事とか、色々と考えてるから家でも少なめで食べていたけど、今日は響木監督のおごりだから、遠慮する必要は無いのかな。
いやいや、と私は首を振った。ここでがっついたら、何だか女の子としていけない気がする。だけど、円堂さんは食べて良いと言ってくださってるし、何より空腹も限界まで来ている。
……私はメニューを再び見た。そして意を決して口を開いた。ドン引きされないことを願いながら。
「……じゃあ遠慮なく」
「響木監督、ラーメンおかわりお願いします」
私はゆっくりと確実に目の前に皿を積み上げていく。十杯を超えたあたりから数えていない。隣の円堂さんは口をあんぐりと開けていて、響木監督も冷や汗をかいた様子でラーメンを作っている。
「た、立花……お前見た目に似合わず、凄く食べるんだな」
「モグモグ……んぐ。そう、ですね。大きくなりたくて食べていたら、いつの間にか、こんなに食べるようになりました」
円堂さんの問いかけに答えながら、大盛のチャーハンを平らげて、餃子を頬張った。あまりにも美味しくて頬っぺたが落ちそうだった。
「た、立花すまん。……もう材料が無い」
響木監督が最後の一杯のラーメンを出してくれたところで、そう言ってきた。流石にこれ以上は迷惑だろうし、桜花姉にも腹八分目が良いと言われてきたからね。
「分かりました。ちょうど腹八分目くらいだったので、それで終わりにします。ありがとうございます」
「ははっ、なんか立花の意外な一面が見られて嬉しいぞ!」
「円堂……お前他人事だと思って……」
円堂さんは楽しそうに笑って、響木監督は苦笑いを浮かべている中、私はラーメンをゆっくりと食べ終わり、手を合わせた。
「ご馳走様でした……」
私はお腹を撫でながら、久しぶりにたくさん食べて満足感に包まれていた。家でも最低でも三合は食べてるけど、それでも足りなささはあったから……。
円堂さんと響木監督が何やら話していたけど、先に外に出るように言われてるし、立て込んだ話かもしれないから、静かに外に出た。
ガラガラ、と扉を開けて外に出ると辺りは少し暗くなっていた。こんな時間まで外にいるのはサッカーをしたり、たまに旅行した時以外でそんなに無かった。
「お待たせ……っと、そろそろ暗くなってきたな。悪いんだけど、もうひとつ付き合ってくれ」
「はい、良いですよ」
腹を満足させた後はどこに行くのかな。もしかして河川敷でサッカーとか、それとも雷門中でサッカー? それとも秘密の場所でサッカーかな。
私はサッカーのことばかり考えながら、円堂さんについていった。商店街を出て、街中を抜け、そして森林がある場所に着いた。
湖があったり、近くには鉄塔や古びた倉庫等があった。この場所でサッカーするのかと思ってたけど、円堂さんは鉄塔に登り始めた。
「立花、あともう少しで着くから、ついてきてくれ」
私は言われるがままに円堂さんに続いて鉄塔を登った。下から誰かに見られないようにスカートをおさえて登り切った。
そして私の目の前には……絶景が広がっていた。稲妻町の全体を見渡せて、更には丸い夕日がしっかり見ることが出来た。
あまりにの絶景に、私は口をポカーン、と開けて惚けながら見つめていた。こんな素敵なところにつれてきてくれるなんて、円堂さんはロマンチストなのだろうか。
「すごい、ですね……素敵、素敵なところです……」
「だろ? オレも強化委員として役割もあって、しばらくここには来てなかったんだけどな。悩みがある時はいつもここに来て、考え込んでた」
少しだけ、驚いた。あの伝説のゴールキーパーの円堂さんでも悩むことはあるんだな、と思っていた。そんな一面も知れて嬉しい気持ちもあった。
「円堂さんも悩む時があるんですね? なんだかサッカーしてる時の円堂さんは頼もしくて、かっこよくて、オーラも凄くて、あまりそういうイメージありませんでした」
「あはは、オレだって人間だ。悩みなんていくらでもあるさ。最初はゴッドハンドどころか、必殺技さえ満足にマスター出来なかった時もあったし、特にマジン・ザ・ハンドは苦労したなぁ」
円堂さんはここには無い過ぎ去った思い出を見つめるような遠い目をした。私もサッカーを始めた頃は必殺技なんて遠い夢のような話に感じたし、たくさん悩みもした。
そんな悩みは自分が凡人だから、と卑下していたけど……円堂さんを見て、最初はどんな天才でも出来ないこともあったんだな、と知った。
「お前が悩んでる姿見てたら、昔のオレを思い出してな。それで、ここに連れてきた訳だ。どうだ、少しは悩みから来る不安は薄れたか?」
「……そうですね、はい……薄れました!」
これだけ広大な景色を見たら、悩みがちっぽけに感じられてきたし、何より円堂さんがこうして心配してくれたことが何よりも嬉しかった。
「それじゃ、円堂さん! 私とサッカーしてください! 不安が薄れたら、なんだかサッカーしたくなりました!」
「おっ、そうかそうか! じゃ、今度はサッカーしようぜ! 下に特訓出来るスペースもあるからさ!」
その後、私たちは時間を忘れてサッカーに明け暮れた。そして夜の八時になったところで、私は加奈多から、円堂さんはお母さんから電話が掛かってきて、大目玉を食らうことはここだけの話にしてください……。
ちなみに、私は夜遅いということで円堂さんの家にお泊まりすることになった。円堂さんのお母さんのご飯も美味しかったのは言うまでもない。
円堂さんとのサッカー楽しかったなぁ。余韻に浸ることなく、桜花姉が迎えに来てくれた車内で、練習試合の相手を探す話題に。
その候補の中にはある学校の名前があった。この人たちの目……。
次回、イナズマイレブン アテナの楯
『闇の中の月』
イナズマイレブン アテナの楯、今日の格言
『腹八分目が良いらしい』
以上。
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