転生したら月雲了になってたんだが軽く詰んでる (あけび)
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原作前
転生したら月雲了になってたんだが軽く詰んでる


初投稿です。塾帰りの頭に突如として浮かんだネタで、続くかは未定ですが見ていただければ幸いです。


目が覚めると月雲了(ヤベェ社長)になっていた。

 

 

「…は?」

 

 

朝、いつものようにベッドから身を起こそうとしたところで違和感に気づいた。マットが昨日まで寝ていたものより、明らかに上質なものなのだ。

その上、目に移る部屋の内装が、自宅のごちゃっとした4畳半の寝室でなかったのでビビりまくった。

 

 

(な、ここどこだよ!?こんな金持ちそうな部屋、俺のダチにもいねーし、まさか誘拐とかじゃ__)

 

 

とにかく状況を確認しようと部屋を歩き回ってると、偶然、これまた高そうな鏡に自身が映るのを見て、

 

 

「なんだよコレ…」

 

 

今にいたるというわけだ。

 

 

紫の髪と高級そうなスーツ、日に焼けていなさそうな肌につり上がった目。

鏡の前で唖然としている男は間違いなく、月雲了である。

 

 

「おいおいおい嘘だろ!?なんで月雲社長になって_」

 

 

昨日はいつも通り仲間たちと集まって、スポーツ施設でサッカーしたり、ゲーセンで遊んでいた筈だ。確か、その後カラオケに寄ったら遅くなって終電逃して、それで友達と一緒に歩いて帰ることになって…

 

思い出した。俺はその後突っ込んで来たトラックから友達を庇って、

 

助かるはずもなく呆気なく死んでしまったのだった。

 

 

「でも、こうして違う世界で生き返った。転生ってやつなのか?」

 

 

そうかそうか俺は転生したのか。なるほど。

…ん?

 

マジで転生したのか!! アニメとかだけの世界だと思ってたのに!!!

 

突然のことに戸惑っていたが一気にテンションが上がる。だってあの転生だ。俺も転生ものは一通り読んでハマっていたので、転生した主人公がその世界で地位を獲得して、第二のハッピーライフを送るストーリにはわくわくしたものだ。

わずか二十年で前の人生を終えてしまったのは悔やまれるが、記憶持ちで転生できたのは幸福だ。サンキュー神さま!!

 

 

ただな、一つ言わせてくれ

 

 

「何でよりによって月雲社長なんだよぉ!!!??」

 

 

室内に一つの雄叫びが上がった。

 

 

 

 

俺の前世の話をしよう。

 

俺はどこにでもいる普通の大学生で、顔が良いわけでもなければ、頭がめちゃくちゃ良いわけでもない。趣味はサッカーで、大学内でもやってるし、時々友達ともやったりしている。

そんな俺に他の人と違うところがあるとすれば…

 

 

「やった〜!SSRきたー!!」

 

 

俺が重度のアイナナファンであるということか。

 

 

男子アイドルの育成ゲームなんて、普通男がやる機会なんてないだろうし、俺も最初は興味が無かった。

 

だが、姉が部活の合宿で推しイベを走れないからと、俺にアイナナイベント周回を命令してきた。

断ろうにも俺と姉の家庭内ヒエラルキーは雲泥の差がある。断るという選択肢は選べない。

 

結局、ストーリーも読んでいいからと丸め込まれ、イベント周回をすることになったのだが…

 

 

まぁ、見事にハマってしまいました。

 

 

普通の乙女ゲームかと思いきや、人間関係や芸能界の世界を中心に緻密にストーリーが練られていて、キャラ一人一人に魅力がある。

その上楽曲も素晴らしいときたらハマらないことがあろうか。(いやハマる)

 

キャラデザもドツボにはまってたしさぁ…

 

ちなみに、俺の推しは九条天である。

 

 

とにかくそんな訳で、重度のアイナナファンの俺からしたら、推しや他のメンバーを貶めようとする月雲社長というポジションはなかなか複雑な気持ちなわけで。

 

別に月雲社長のことが嫌いなわけではないのだが、どうせならアイナナ世界のモブとかくらいが良かった…。そしたら、コツコツとお金を貯めてライブとかに行きまくるのになぁ。それに、俺に主要キャラとかいう大役は無理ですって。前世凡人大学生の俺にいきなり社長とか、無理ゲー過ぎだろ。

 

…待てよ? 月雲社長になったって事は__

 

 

 

アイナナの事件を未然に防ぐことが

出来るのでは!!?

 

 

 

そうだ!最近のアイナナの事件って大抵こいつが起こしてるし、俺がやりさえしなければ事件なんてそもそも起きないのでは!?

 

そうと決まれば日付を確認しなければ!この世界での時間がいつかによって、防げる事件の数も変わってくるだろう。

 

 

(えっと、どれどれ…)

 

 

月雲社長のと思われるスマホを確認する。どうやらロックは指紋認証だったらしく、パスコードが分からなくても開くことができた。

 

スマホでスケジュール表に何か書いてないか確認しようとし、謝って検索ページに飛んでしまった。

 

 

(おっとミスった…ってこれって今年のMOPの記事じゃないか?)

 

 

検索ページの下にある、最近ホットなニュースのピックアップ、その中のMOPの記事に、

TRIGGER返り咲き!という見出しが躍っていた。え、つまりそれって__

 

 

「もうやることやった後じゃねぇか!!かなり手遅れなやつだコレ!!!!」

 

 

室内に、本日二度目の咆哮が響いた。

 

 



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とりあえず情報整理は大事だよな

まさかの続きました。次はもっと他のキャラとも絡ませたい。


まさか第3部の時間軸までさえ過ぎていたとは…

 

つまり、やることやっちゃった俺は完全に犯罪者になった事になる。うん、笑えない。

頭を抱えつつ、ついでに誰が来てもいいよう身支度もしつつ、今後の行動について考えることにした。

 

 

(他にも色々調べて、この世界が4部開始直前位なのは分かった。ただ、これからどうするかだよなぁ)

 

 

とりあえず、今分かっている時点での、アイナナ4部以降の各キャラクターの状態を整理してみる。

 

 

グループ単位でまとめてみると

 

 

アイナナ→ナギ脱退の危機

 

TRIGGER→スキャンダルによって世間から失くした信頼が尾を引いている。(月雲社長、もとい俺のせい)

 

Re:valer→ユキの過去の熱愛報道を執拗に取り上げられる&前の相方を見捨てたという疑惑がでる。(これも月雲社…俺のせい)

 

ZOOL→ メンバーの想いがすれ違って仲が険悪になる。自分達が犯した罪の重さを自覚する。(これは4部内で結構解決する)

 

MEZZO"→特になし

 

 

 

…月雲社長よ、あんたやらかし過ぎじゃないですかね。

 

再び頭を抱えたくなるが、ひとまず情報は整理できた。こうして見ると、俺が今から出来ることって結構少ないのな。

 

ナギの脱退…に関しては、展開が分からない上、大手の会社ごときでは国をどうこうなんてできない。

TRIGGERの件にしても、自分からスキャンダルを出しておいて、今更引っ込めても不自然だ。 となると…

 

 

「Re:valerのスキャンダルを流さないようにするしかないかぁ」

 

 

うーん。他にも出来ることがあれば良かったが、今はこれしか出来ないようだ。とその時、

 

ピンポーン

 

インターフォンの音に肩をピクリとさせる。

まだ朝も早いのに、いったい誰だというのだろうか。

 

 

「はいはい、誰ですかっと」

 

 

画面を覗くとそこには、

 

 

ZOOLのリーダー__狗丸トウマがいた。

 

 

 

 

折角のオフだと言うのに、俺は朝早くから了さんに呼び出されていた。

 

了さんの突然の呼び出しはいつもの事ですっかり慣れてしまっていたが、久々にZOOLみんながオフって時に呼び出されては気が滅入る。折角あいつらを誘って出かけようと思ったのに。

 

そんなことを考えているうちに、了さんの住んでる部屋のドアまでたどり着いた。インターフォンを押すと、少し遅れて了さんの声がした。鍵を開けてもらって部屋の中に入る。

 

 

(今日は何言われんだろうな…)

 

 

憂鬱な気持ちの中了さんの方へ向かうと、

 

 

何故か、了さんが奇声を発しながら後ずさっていった。

 

 

 

 

いやいや、インターフォンの画面越しの時点では平気だったんだよ?でもさ、実物見たらさぁ、うん、死ぬ。

 

かっこよすぎるんだよ!!普段は抱かれたい男ランキング上位者どもに囲まれてて話題に上がんないけどめちゃくちゃイケメンだからな!!!顔面の暴力!!!

 

アイドルが目の前で喋っているという事実に思わず奇声を発しながらムーンウォークをしてしまった。直視できん。

 

ふと顔を上げると、トウマが困惑した様子でこちらを見ていた。いかんいかん、今の俺はあくまで月雲社長なのだ。

 

 

「ふん でトウマ、朝から僕に何の用?」

 

「何の用って、了さんが呼んだんだろ?」

 

 

…そーいや月雲社長ってこういう奴だったな。

 

うーむ、どうしようか。呼び出して何もないですってのも変だし、いや、月雲社長ならそんなにおかしくないのか…?何か良い案は__

 

 

ハッ!これだ!!

 

 

実は身支度をする際に、この身体は月雲社長の知識もしっかり共有されていることが分かった。お陰で、洗面所にも一発で行けたし、スーツもどこにあるか分かったわけで。

だからコイツの置き場所もバッチリ分かる。

 

 

出でよ!財布!!!

 

 

俺はやたらと高そうな財布を手に取って開くと、ゼロの多めなお札を何枚かをトウマに突きつける。

 

 

「このお金で、お仲間3人と焼肉とか行けば?」

 

 

苦し紛れの策だが、これで帰ってくれないかなぁ…

 

 

しばらくした後、トウマがだいぶ訝しみながらもお金を受け取った。こんなにいいんすか?とか聞いてくるあたり、良い人を隠しきれていないと思う。

 

 

そのまま見送り、姿が見えなくなって俺は大きく息を吐いた。

 

はぁ〜心臓に悪い。イケメン直視したり誤魔化したりするのは疲れるな。朝からこんなんじゃこれからどうなる事やら。

 

 

疲れた身体に癒しが欲しい。そう思い始めると、頭の中にあることが浮かぶ。

 

月雲社長に転生してから密かに思っていたことだが、悪役の社長だし、という理由で今まで考えないようにしていた。しかし、今はもうなりふり構ってられない。

 

 

「推しのライブに行きたい!!」

 

 

この時の俺の頭からは、今後の展開への不安や、月雲社長としてこれからどうするかなどはすっかりと抜けてしまったのであった。

 




誤字修正しました。


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ライブに行きたいったら行きたいので行きます。

前回のあらすじ。月雲社長に転生し、狗丸トウマにあってイケメン力にやられた俺は、癒しを求めてライブに行こうと決意したのであった…。

 

 

 

「思い立ったが吉日、それ日以降は全て凶日。って誰かが言ってた気がするし、早速ライブに行く準備をするぜ!!」

 

とは言ったものの、あの人気アイドルグループTRIGGERのライブのチケットをそう簡単に手に入れられるのか、そもそも月雲社長って仕事あるからちゃんと休みあるのかなど、色々な問題が頭をよぎる。だが、

 

 

「こういう時こそ行動しなければ!オタク魂を発揮する時!!」

 

 

人は限界まで追い詰められた時、凄まじい力を発揮するというが、俺は正にその状態だったらしい。

 

後に、月雲社長の部下はこう語ったという。

あれはこの世のものでは無かった、と。

 

 

 

 

「サイコーーーー!!!」

 

 

俺は今まさに、TRIGGERのライブに来ていた。

 

会場はファン達の声援で埋め尽くされ、地方のライブなのにその人気っぷりに驚かされる。

 

結論から言うと、チケット買えました!やったね!

 

とは言っても、月雲社長の部下の友人が当日行けなくてどうしようか悩んでいたものを買い取っただけなのだが…。

ちなみに俺があまりに必死だったためか部下も部下の友人もビビりまくっていた。ごめんね。

 

後、月雲社長の仕事の件に関してだが、本人はあまり社長らしいことはしてないんだとか。なんでも部下がほとんどやってくれているらしい。

三部の様子を見る限りある程度察してはいたけれど、月雲社長よそれはあんまりじゃないかね。部下の人、マジでごめんね。

 

 

「まだまだ盛り上がっていこうぜ!」

 

 

八乙女楽の声に合わせて、観客もさらに熱い声援を送る。力強い声と溢れるオーラ、流石である。

 

 

本日ラストの曲が始まり、三人の息のあったダンスと歌声がここら一帯を支配する。

 

おー!十龍之介のダンスはやっぱ迫力があるし上手いな。

 

 

そして曲が終わり、達成感のある笑顔で、九条天が会場を見渡す。

 

 

「今日は僕たちのライブに来てくれてありがとう!」

 

 

こうして、今をときめくアイドル、TRIGGERのライブは幕を下ろしたのであった…。

 

 

 

とまぁ紳士な態度で楽しんだように思えるかもしれないが、実は終始、最高…だの、好き…だのとしか言えてない。

もう叫びまくったし、ペンライト猛烈に振り回しまくった。(もちろん近くの人の迷惑にならない範囲で)

 

というか、天!なにあの笑顔!?天使なの!?天使なのね!!!推しが現実にいるって素晴らし過ぎる!!!!

 

楽のクールに振る舞いつつも、カリスマオーラと時々顔を出す熱い男って感じがカッコ良かったし、龍之介のめちゃくちゃなエロさと優しさのギャップが俺の心をかき乱しまくった。

 

ん〜癒し!やっぱり俺のあの時の選択に間違いはなかったという訳だな。次はファンクラブに入って、もっと確実にチケットを入手出来るようにしなければ。

 

 

ライブの余韻に浸りつつも会場から出ようとすると、若い女の子二人にぶつかった。

 

 

「あっ、すみません!大丈夫ですか?」

 

 

出来るだけ紳士的に対応した筈だが、相手の方は何故か俺を見て固まってしまった。

もしかして、人相が良くないから怖がらせてしまったのかもしれない。

 

 

「あの…」

 

「もしかして、天くん推しですか!!」

 

 

興奮している女の子二人に、目をパチクリとしてしまう。

 

これはなんていうか、予想外だ。

 

 

 

 

私は収録が終わったので、近くのカフェに休憩しようと立ち寄りました。

 

 

今日の収録は少し遠出だったので、「一織、これで何か好きなもの買えよ!」と兄さんにお小遣いを貰ったのですが、私も一応社会人なのに良いのでしょうか…?

 

まぁ、「そうだけど、たまには俺にも兄貴らしいことさせてくれよ」などと笑顔で言われてしまっては断る理由もありませんし、受け取っておきました。兄さんには後でお土産を買ってきてあげなければ。

 

 

店内に入ると、お洒落な内装と、看板に描かれた色とりどりのスイーツが目に入りました。

 

折角ですし、このお店オススメのラビットいちごパフェでも頼みましょうか。普段はこういった可愛らしいものは食べれませんし…

 

 

「あそこの天くんがホントに天使!って感じで可愛かった〜!」

 

「分かる!カッコよく歌いきった後にフッと見せる笑顔がクるんだよね〜!」

 

 

ふと隣の席から、九条さんについて熱く語り合う声が聞こえました。確か近くでTRIGGERのライブがやっていたみたいですし、その帰りでしょうか。

 

流石TRIGGERと言ったところでしょうか。ライブのことについて語る声は興奮冷めやらぬといった感じで…

 

 

「そうそう!やっぱ天は凄いよな!!」

 

 

…なんだか随分と聞き覚えのある声が聞こえたのは気のせいでしょうか。

きっとTRIGGERの男性ファンは少ない方だから意外に思って耳に残ったからというだけで、決してあの人ではない筈です。そうであってください。

 

しかし、声の先にある光景が、それが決して勘違いではないということを示していました。

 

 

 

女性二人と混じって、楽しそうに九条さんについて語る月雲社長。

 

 

 

それはあまりにも信じがたい光景でした。

 




一織くんの口調難しい…
主人公はアイドル達の名前は基本下の方で呼んでいます。


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俺 悪い社長じゃないよ!

更新遅くなりました。私が書く一織はどことなく頭が良くなさそう…


時間は1時間ほど前に遡る。

 

 

 

俺がぶつかった相手は、どうやらTRIGGERの_特に九条天のファンらしい。

 

 

俺の格好(TRIGGER公式Tシャツにタオル、リストバンドとうちわは、天のイメージカラーのピンクで統一してある)を見るなり、同志を見つけたと目を輝かせ、嬉しそうに話しかけてきた。

 

俺も悪い気はしなかったので、二人と楽しく話した。なんせ前世では、男友達が多いためかアイナナを語り合う相手は居らず、正直そういう事に関して飢えていたのだ。

 

そのまま道端で話すのもなんなので、カフェで続きは話す事になり…

 

いや〜急に語れる相手ができるとこんなにもテンションが上がるんだな。

注文したコーヒーがすっかりぬるくなっているのに気づかないくらいには夢中になっていた。

 

 

ついつい盛り上がりすぎて、近くの席のお客さん、迷惑してないかなんて思って見てみたら…見てみたらさぁ…

 

 

 

「何故、貴方が…!?」

 

 

 

それはこっちが言いたい。

 

 

 

 

 

 

和泉一織に気づかれた!月雲社長はどうする?

 

 

・無視

 

・他人のフリ

 

・神頼み

 

 

…よし!とりあえず3番目はないな!俺を月雲社長に転生させるようなヤツだし(?)

 

ここは無難に2番にするか!

 

 

 

「お、俺、悪い社長じゃナイヨー」

 

「いえ、どう見ても悪い社長(月雲社長)です」

 

 

ですよねー 変装をしてるというのに、やっぱりこの無駄なイケボは誤魔化せないっていうのか…

もう仕方がない、こうなりゃこっちから挑んでやる!

 

 

俺は一織の腕を掴むと、早口でまくし立てた。

 

 

「あはは久しぶりだね、ごめん二人とも俺こいつと話すからここまで楽しかったよありがとうばいばい!」

 

「ちょっと!何をするんですか!?」

 

「大人しくついてきてくれ!!」

 

 

唖然とする二人をよそに、俺は一織を連れてカフェを後にした。

 

 

 

 

「はぁ はぁ、人気のないところで私をどうするつもりですか」

 

 

しばらく走ったところで、一織に睨まれながらそう言われた。

別に人気のないところでどうこうするつもりはないのだが、ほら、アイドルだから顔バレしたらまずいかなって。

 

 

「別に、今日の僕はプライベートだ。特に何かするつもりはないよ」

 

 

澄ました顔で答えれば、さらに怪訝な顔をされた。やっぱコイツだからかな…

 

それでも、俺は誤解を解く必要があった。

 

なんたって相手はパーフェクト高校生一織なのだ。アイドル(特に陸)の為なら何でもするマンの彼を必要以上に刺激したら、本気で消されかねない。それに…

 

 

「折角ライブに行ってオタクの友達もできたのに、無駄に顔が良すぎて直視できないイケメン引きずってわざわざ面倒ごとに巻き込まれにいくわけないだろ!!!!」

 

「え…」

 

 

おいそこドン引くな。とりあえず今言ったことが俺がここにいる理由だ。別に君が考えてるようなやましいことなど思ってないのだよ。

 

…ふぅ仕方がない。ここまで言ってもなお疑う伊織に対して、俺は一枚カードを切ることにした。

 

 

「これなーんだ?」

 

「これは、期間限定発売のお座りロップちゃん!?」

 

 

目の前に差し出したのは、うさぎのキャラクターロップちゃんのマスコット__そう、和泉伊織が愛してやまない、人気キャラクターのグッズである。

 

 

「賢い君なら、これがどういう意味か分かるよね?」

 

 

ニヤリと笑えば、一織は俺の意図を察して顔を青くした。いやー話が早くて助かる。

 

 

「僕は君が隠したがっている事を知ってる。もちろん、君だけじゃなく他のメンバーのも…ね?」

 

「秘密を世間に公開されたくなければ、あなたの先程までの行動を見逃せということですか…」

 

 

一織は深く考え込んでいる。恐らく、二階堂大和の件もあり、俺がメンバーの秘密をかなり把握していると思っているんだろう。

 

だがな一織、お前の可愛いもの好きは別に秘密事項でもなんでもないぞ。

 

転生してから数日、情報収集や癒し(割合は3:7)の為にアイナナキャラ関連のTV番組を観ていたのだが、一織は可愛いものを見ると、僅かだが顔に出る。

ファンなりたての人ならともかく、ファン歴の長い人はとっくに気づいている。

その証拠に、一織と直接分かる表現で、彼が可愛いもの好きという旨の発言を控えることは、界隈内の暗黙の了解になっているくらいだ。

 

 

そんなどことなく残念な感じの一織は、真剣な顔つきで、今回のことは無かったことにします。と言った。

まぁ今後も普通に警戒してくるだろうから、大して意味は無いのだけど。

それでも、俺がTRIGGERのライブではしゃぎまくっていたことが外部に漏れる可能性は低くなった。

 

 

「それじゃ僕はこれで失礼するよ。それ、貰ってていいから」

 

「えっ、あなたから物を貰うわけには!で、でも、物に罪は無いし…」

 

 

ちなみに、このロップちゃんは駅前の店でたまたま見つけたものであり、一織のことを思い出してなんとなく買った代物である。それが一織の追求を逃れる為に使われるのだから万々歳だ。

 

葛藤する一織をよそに、俺は代金を払い、そさくさと退散することにした。

 

 

 

はぁ〜疲れた。

 



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原作開始
始まったし、決意を固める


色々あって前更新よりだいぶ空いてしまった…
いよいよ本編開始です。


ある日の九条鷹匡と桜春樹の会話

 

昔の仲間と夢を追いかける狗丸トウマ、デビューしたTRIGGER、MEZZO、ZOOL、そしてIDOLiSH7のライブ

 

そして、アイナナ7人とマネージャーが揃った記念撮影

 

 

 

4部の始まりは確かこうだった気がする。あまりに不穏過ぎて画面前で震えまくっていたような…

 

 

とうとう、4部の時間軸に追いついてしまった俺は、思わずため息をついた。とは言っても、部屋には俺しかいないので問題は無い。

 

ん?何で4部が始まったか分かるのかって?

それは4部のあるシーンが関係する。

 

 

 

 

『みんなといれば楽しい!なんも怖くない!約束するよ…!おじいちゃんになっても、ユキの隣で、踊ってるって…!!』

 

 

そう言って眩しい笑顔を見せるモモに、月雲社長は不敵に笑って指でピストルを作る。

 

 

「ふふ…。そんな約束は守れないよRe:valer

ピアノ線で宙に吊られたアイドル。次は必ず撃ち落とす」

 

「BANG!」

 

 

 

 

…いや、まさか念願の初Re:valerライブにきたら、こんな重要シーンに遭遇するとは思わなかった。

 

俺はもちろん、撃ち落とすとか言ういかにも悪役な台詞ではなく、「やっぱRe:valer最高!!」とか言って盛り上がりまくった。

当たり前だよなぁ?

 

 

何はともあれ、4部の始まりを察知した俺は、今こうして頭を悩ませているのである。

 

 

「結局当日まで大した事は出来なかったな。精々、月雲に便乗してTRIGGERの批評記事書いたところを黙らせたくらいか?」

 

 

とは言っても、4部は始まったばかり。この身(月雲社長)に転生したからには、きっとできることがある筈だ。

 

 

「よーし!やるぞ!!」

 

 

俺は拳を挙げて声高らかに宣言した。

 

 

 

 

 

 

九条鷹匡は考えていた。

 

 

『どちらも大事です。九条さんかTRIGGERか、ボクには選べません。どちらも手放したくないし、どちらとも幸福な関係でいたい。TRIGGERもあなたも、ボクが心から尊敬してやまない人たちだから。』

 

 

天の言葉が心に引っかかる。

 

今までは鷹匡のことや弟のことばかり考えていたのに、最近では、TRIGGERやファンのことも全て抱え込もうとしている。

 

九条天は素晴らしいアイドルだ。

信用が地に落とされた時だって、天使が空を高く舞い上がるように、より眩い美しさを持って復活した。

 

 

(天はゼロのようになれる。でも、ゼロのような素晴らしいアイドルなんて現れない)

 

 

矛盾した思いが胸に広がるが、それを無視し、さらに思考を回転させる。

 

胸ポケットにしまった写真を取り出す。

 

 

(今天が僕を選んでくれなくても、不安要素は消すべきだ)

 

 

写真の中に写る楽しそうに笑う男。あるTRIGGERのライブ会場の近くで、2人の女と、TRIGGERについて談笑する姿が目撃されている。

 

 

TRIGGERを地に堕とした悪魔__月雲了

 

 

写真の悪魔を睨みつけて、鷹匡は口角を歪め笑った。

 

 

 

 

 

月雲社長はTRIGGERを、九条天をどうするつもりなのか?

 

 

パーフェクト高校生の頭脳をもってしても解決できない問題に、頭を悩ませる。

 

月雲社長は掴みどころのない、まるで子供のような人物だ。1度手にした喜びも、飽きたら玩具のように簡単に捨ててしまう。

 

モモにかつて執着していたようだが、裏切られたと感じたために酷く痛めつけようとしていた。今夢中になっている七瀬陸に関しても、気に食わないことがあれば苦しめようとするかもしれない。

 

もし彼が九条天を気に入ったのならば、何かの拍子で嫌悪することがあったならば…

 

 

(信頼を失うどころでは無い、もう芸能界にさえいられなくなる、そうなれば…)

 

 

 

" 七瀬さんは二度と歌えなくなる ”

 

 

 

「一織ー!」

 

 

「な、七瀬さん、どうして…」

 

「どうしてって、夕飯の時間だから呼びに来ただけだけど」

 

「もうそんな時間でしたか」

 

「なぁ一織、最近調子悪そうだし、大丈夫か?」

 

「大丈夫です。七瀬さんこそ無理をし過ぎないように気をつけてください」

 

 

心配そうにこちらを見つめる七瀬さんに、心配させぬよう笑って答える。

 

 

「もう、俺だって大丈夫だよ!…ほんとに困ったことがあったら言うんだぞ!」

 

「お気遣いありがとうございます」

 

「一織が珍しく素直だ…」

 

「失礼な人ですね!」

 

「だってホントに珍しかったし!」

 

 

七瀬さんとくだらない言い合いをして、兄さんのご飯をメンバーの皆と食べて。それは日常のただの一場面でしかないかもしれないけれど…

 

 

 

私はこの幸せを壊させるわけにはいかない。

その為だったら__

 

 

 

「何だってしましょう。あなたにこれ以上好き勝手はさせませんから」

 

 

 




月雲社長に死亡フラグが建ちました


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誘拐はいかんと思うんですよ

 

今俺は気分が良い。もしここがテレビ局出なければスキップして踊り出すところだが、一応社長という身分もあって鼻歌でおさめる。

 

何故こんなにも上機嫌かというと、ZOOLのレッフェスへの出場が決まったからだ。

レッフェスというのはレッドヒル・フェスティバルの略称で、デンマークで行われる世界的なロックフェスだ。

 

ZOOLがレッフェスへ出場することは、本来のアイナナ4部のストーリーで決まっていたことだが、いざ出場させようとなると結構大変だった。

なにせ海外のフェスなので、大幅なスケジュール変更や国外に出るための準備など、やることがてんこ盛りなのだ。

 

そう考えると、月雲社長のアイドルを邪魔することにかけての情熱がいかに凄まじいかを実感する。いや、もっと他のことに情熱を注いで欲しかったのだが…

 

まぁそんなこんなでルンルン気分で楽屋のドアを開けると、どこか空気の沈んだZOOLの面々がいた。更に言うと、俺が来たことで余計に嫌そうな顔をした。地味に傷つく。…とにかく報告するか。

 

 

「レッドヒル・フェスティバルへの参加が決まったよ!おめでとう!」

 

「レッドヒル・フェスティバル?」

 

「あっ花束もプレゼントしちゃう」

 

「デート中にレストランでグロテスクな話をして突き返されたのかと思いました」

 

「えっそんな人で無しなことしない…」

 

「了さんにしては珍しく言い返さないな…」

 

 

別に言い返さないよっ!生憎本物と違って皮肉に皮肉を返せるような人種ではないのだ。

 

 

「レッドヒル・フェスティバルってデンマークでやる世界的な規模の野外ロックフェスだろ?」

 

「熱狂的なロックファンが世界中から集まるイベントですね。バンド演奏をしない私たち、まして、新人アイドルは歓迎されないのでは?」

 

 

ここでZOOLは、この高いハードルを越えようとする中で自分達の過ちに向き合い、心から歌うことで大歓声を浴びる。だが、その感激をグッと堪え、4人を煽るように歪んだ笑みを浮かべる。

 

 

「いいよ、泊がつくから」

 

「ブーイングされてもか」

 

 

悠が眉を顰めるが、構わず言葉を紡ぐ。

 

 

「たとえ海外のロックフェスで非難されようが、メディアは大規模なフェスに出場した手柄だけを取り上げるからね。世間にも良い噂だけが届く」

 

「俺は嫌だ。俺を振った女をデートに誘うようなものじゃないか。突き返されるとわかってる花束は用意したくない」

 

 

虎雄が反対し、他のメンバーがそれに対してバラバラな感想を述べたりしたが、全て無視してもう決まってしまったと不満を打ち切った。

 

 

「どうせ3年のファッドだから、賞賛されようがされまいが関係ないだろう?お前たちは、今のアイドルをめちゃくちゃにしさえすれば良いんだから」

 

 

 

「そんなのは、嫌だ」

 

 

 

「俺は、もっとこいつらと一緒に、本気で歌いたい」

 

「ロックフェスにでて本物の喝采起こさせてきてやるよ!そしたらあんたも考えを変えるはずだ、俺たちは3年間で終わりじゃない」

 

「ZOOLが新しい時代を作るシンガーだってな!」

 

 

俺の言葉は、トウマの心に火をつけたようだ。

 

俺は内心ほくそ笑むと、精々頑張ればいいさと言ってそさくさと楽屋を後にした。

 

 

ふふ、これでZOOLは新たな一歩を踏み出す準備ができただろう。楽屋に入った時と同じようにルンルン気分で帰ろうとすると、ふと嫌な予感がした。

 

頭の中に浮かぶのは、前世の俺が3部をプレイしていた時に見た、Sakura Massageを歌うナギを見て憤る巳波、そして今日の出来事__

 

 

もしかして今日は、ナギの誘拐される日なのでは…!?

 

 

 

 

 

 

「見つけたよ」

 

 

ゼロアリーナの前に佇むナギは、こちらを振り向くと、険しい顔つきになった。

 

 

「…ワタシに何の用があるんですか?」

 

 

あれから色々と考えたが、結局大した案は浮かばず、こうして連れ去られる前のナギに直接会いに行く案しか思いつかなかった。それにしても顔が怖い。

 

鋭い氷のように冷たい雰囲気にたじろぎかけるが、気を持ち直して1歩前に踏み出す。

 

 

「単刀直入に言う…もうすぐここにノースメイアからお前を連れ戻しに男達が来る。だから見つかる前についてきて欲しい」

 

 

ナギは一瞬驚いたが、すぐに俺を睨みつける。

 

 

「何故ワタシが追われていることを知っているかは聞きません。ですが、そう言われて大人しくついていくわけがないでしょう?」

 

 

だよな。今まで自分の仲間達を散々傷つけた奴だし、信用するわけがない。

でもな、それでも何とかしてやりたい。たとえ罪を犯した身だとしても、放っておくなんて出来ない。

 

 

「だからって連れ去られるのに黙って見ているなんてしたくない。とにかく追手が来る前に急いで来るんだ!」

 

 

そう言って俺はナギの手を取って連れていこうとする。

とは言ってもナギの方が力が強くて無理やり連れていくことは出来ないので、これで断られたら俺は撤退するしかない。

 

部下を連れていくのも考えたが、個人のデリケートな問題に対して事情を知らない人が関わるのは気分が良くないだろうし、俺の独断にあまり部下を巻き込みたくはなかった。

 

あまりにも低い賭け。身勝手で、悪あがきにも等しい行為。

 

 

 

そんな可能性にかけたどうしようもない男の手を、ナギは振り払わなかった。

 

 

「あなたが何を考えているかは分かりません。ですが、聞き入れましょう」

 

 

その瞳には確かな決意が灯っていた。

 




原作と流れはほぼ同じなのに月雲社長中心にセリフが変わっているのは、月雲社長の中身が違うからです。本編よりややマイルドな言い回しになっています。


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たとえ変えられなくても


4部の更新を見るたびに、胸が痛い…。しかしこっちの月雲社長は通常通りです。


 

俺はナギを連れて、あらかじめ停めておいた車に向かった。これなら、追手が来てもそうそうバレることは無いはずだ。

 

 

「ねぇ、自分で言うのもなんだけど、どうしてついてきてくれたんだい?」

 

 

恐る恐る聞いてみると、意外にもナギは素直に答えてくれた。

 

 

「もしワタシを嵌めようとしていたとしても、あなた1人ならどうにかできます」

 

 

…さいですか。

 

 

「それに…いえ、何でもありません。

それで、ワタシをわざわざ追っ手から匿った理由は?」

 

「君が今追われている理由をメンバーは知らないんだろう?ちゃんと伝えといた方がいいんじゃないかと思ってさ」

 

 

 

___俺がナギを連れてきたのは、彼の真意をアイナナに伝えられるようにする為であった。

 

アイナナの事件を未然に防ぐなんて言っときながら、こんな事しかできない自分に嫌気がさす。

それでも、本編で何も分からぬまま引き離された彼らの気持ちを思えば、やらないという選択肢は無かった。

突然メンバーが欠けてしまった彼らは、莫大な不安に押しつぶされてしまうだろうから…

 

 

俺の返答にナギは苦い顔つきになる。

 

 

「そこまで把握しているんですね…」

 

「どう調べたかは企業秘密ってやつだよ。さて、僕は追っ手をまくとするかな」

 

 

ナギの返答も待たずに、俺はそさくさとその場を後にした。

 

 

          *

 

 

用意された高級そうな車には、何も仕掛けられていない上に、鍵も、ドアを開けたっきり車内に放置してあった。やはり罠にかけようという気は無いようだ。

ひとまずは落ち着いて座席に座ることにした。

 

 

(ちゃんと伝えたほうがいい…ですか)

 

 

自分とノースメイアを取り巻く問題は複雑だ。だからこそ直接伝えたかったのだが、あの社長の様子を見る限り、そんな悠長なことを言ってる暇もないのだろう。

 

スマホを取り出して通話ボタン押す。普遍的なコール音がひどく長く感じた。

 

 

『おっ、ナギ!帰りが遅いから心配してたんだぞ!』

 

「すみません。しかし、聞いて欲しいことがあるので、みんなを呼んできて欲しいです」

 

 

三月は困惑した様子だったが、すぐにみんなを呼んできてくれた。

 

それを確認し、小さく息を吸って伝えるべく口を開く。

 

 

 

「ワタシは、アイドリッシュセブンを辞めてしまうかもしれません」

 

 

『え…』

 

 

驚いたような声が、次第にザワザワと大きくなっていく。

 

 

「何でなんだよ!そんな辞めちゃうって…!」

 

「どういうことだよナギっち!」

 

「落ち着いてください!事情があるなら聞くのが先です」

 

 

みんなの悲痛な声。しっかり者の一織でさえ声が震えていた。

それを聞いてしまって、この先を話すのを躊躇う。でも、伝えなければならない。

 

 

「先程も言ったように、ワタシはノースメイアの第2王子なのです。国の、いえ、兄上の意思でノースメイアに戻らなければならなくなりました。…いつ帰れるかは分かりません」

 

『ナギくん…』

 

「今まで皆さんとアイドリッシュセブンとして活動できてとても嬉しかったです。貴方達はとっても大切なフレンドです。だから…」

 

 

告げようとしたお別れを、三月の声が遮った。

 

 

『なぁナギ、それでお前の気持ちはどうなんだよ』

 

「気持ち…?」

 

『色々あるかもしれないけどさ、お前はどう思ってるんだよ!?本気で、アイドリッシュセブンを辞めるのはしょうがないって思ってるのかよ!!!』

 

 

 

ワタシの…気持ち

 

 

 

「ワタシは、ワタシはまだ皆さんと一緒に歌っていたいです。まだ、アイドリッシュセブンでいたいです!!」

 

 

 

そっか。 そう呟いた三月の声は穏やかで、でもとても暖かいものだった。

 

 

『俺さ、お前が辞めるって聞いて、本人がそう思うなら諦めるしかないのかなって思ってた。けどさ、ホントは辞めたくないって聞いてなんか安心したっていうか。…俺たちにも力にならせてくれよ、仲間だろ』

 

『俺が親父のことで悩んでた時、ミツが自分の人気で悩んでいた時、他にもメンバーが困ってた時、お前はいつも力になろうとしてくれてた。だから、俺も諦めたくない。今まで本気で他人の為に全力を出したことないけどさ、ここで出さなかったらきっと後悔しちまう』

 

『俺たちも、ナギともっと一緒に歌っていたいから!』

 

 

暖かい言葉に、自然と涙が溢れる。

 

 

「ミツキ、ヤマト、それに皆さん。ありがとう…」

 

 

胸の中が熱くなって、心の中にある未来への不安も溶かされていく。

 

もう少し話していたい。でも、時間切れを告げるかのように、こちらに向かってくる足音が聞こえてくる。

 

 

「ワタシがノースメイアに行く理由については、『Sakura Massage』が関わっています。皆さん…また、会いましょう」

 

 

電話を切ると同時に、月雲社長が車の前にたどり着いた。

 

 

「伝えたられた?」

 

「えぇ、とても大切な人達に」

 

 

 

きっと、もう一度アイドリッシュセブンとして歌ってみせる。

 

 




ナギくんの心情とか書くの難しい…。
いずれ月雲社長には、物語に大きな変化をもたらしてもらう予定なのでそこに至るまでどうにか執筆し続けられるよう頑張ります。


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やらねばならぬ、何事も



更新話の月雲社長を見る度に、こっちの月雲社長をどうしようかと迷ってしまいます




 

 

ナギの穏やかな顔を見て、俺は胸を撫で下ろした。こりゃ頑張って時間稼ぎしたかいがあった。

とは言っても、捜索しているノースメイアの人と話して足止めさせたり、こことは違う目撃情報を教えたりしただけだが。

 

 

「追っ手がここも探し始めてる。逃げるなら今のうちだけど…」

 

「もう逃げ回る必要はありません。ワタシから向かいます」

 

 

やっぱり。ナギはこれ以上逃げ回っても意味が無いと分かっているのだ。

彼らが躍起になって探せば、他の人にも迷惑がかかるかもしれないから。

 

 

「1つ聞きたいことがあります」

 

「なんだい?」

 

「あなたは、何者なんですか?」

 

 

 

「えっ…」

 

 

 

驚く俺の反応を見て、ナギは更に続ける。

 

 

「あなたは焦っている時、いつもと口調や一人称が違います。気づいていましたか?」

 

 

 

あっ

 

やっちまったぁぁあ!!!!

 

やべぇ全然気づかなかった!でも思い返してみるとそうだったかもしれない…

 

行動だけでなく、喋り方まで変わると流石に混乱させてしまうと思って月雲社長の口調に合わせていたのだが、まさかボロが出ていたとは…

 

 

 

「あなたに何があって性格が変わったのかは分かりませんが…助けてくれてありがとうございます」

 

 

 

最後に少しだけ微笑えんでこの場を立ち去ったナギの背中を、俺は複雑な顔で見つめることになったのであった。

 

これからどう誤魔化そうかなぁ…

 

 

 

          *

 

 

 

次の日、俺は歌番組で6人のアイドリッシュセブンを観た。ナギの欠席をインフルエンザだとするアイナナの顔はどこか曇っている気がする。

 

6人の歌うメロディが、ナギを助けてやれなかったことを思い出させた。でも、

 

 

『…ありがとうございました!』

 

 

ステージのライトが消える間際に見えた、みんなの表情。

不安げな表情をしつつも、決意を固めた彼らの顔を見て、全くの無駄じゃなかったんだと思わされた。

 

 

 

アイナナの出番終了を告げる声、そして、ZOOLの入場が促される。

 

 

「確かZOOLは、アイナナにナギのことを聞かれて喧嘩になったんだっけ?」

 

 

まぁ、喧嘩になったのは巳波と悠と虎雄なんだけども。

 

歌う彼らの姿はいつも通りだが、きっと内心は揺らいでるんだろうな…

 

 

ZOOLの歌を聞きつつ、外に出る支度をする。この後ある番組がやるのだが、移動中に車内にある小型テレビで観ることができるだろう。

 

 

__ある番組とは、悠と虎雄の出るお悩み相談番組である。

 

 

 

 

 

 

「テレビ観たよ。てっきり炎上すると思ってたのに、若いご意見番ZOOLだって」

 

「知らねぇよ。…ダセぇ」

 

 

俺が4人の元に訪れ、早速番組の感想を伝えると、虎雄に心底嫌そうな顔をした。

若いのに色々な経験を積んでいてこういうことに向いてそうだけど、本人は気に入らないようだ。

 

 

「了さんは俺たちに嫌がらせしたかったみたいだけど、何も起こんなくて残念だったな」

 

 

…単にお悩み相談をする悠と虎雄、楽しそうにラーメンの大食いをするトウマと巳波が見たかっただけなのだが、そういうことにしておこう。そ れ よ り だ。

 

 

「ラーメンうまかったし、今度ハルとトラも行こうぜ。ミナも連れてさ…」

 

「ふん」

 

「あらあら、お嫌いみたいですねぇ。とっても残念です」

 

「お前らいい加減仲直りしろよ」

 

 

いつの間にかまた険悪なムードになっていた。おいおい俺をほっとくなって。泣くぞ。

 

 

「なになに?ケンカしたの?…どうせ大したことじゃないんでしょ?早く仲直りした方が良いよ」

 

「了さんには関係ないし…」

 

「あぁ、今仲良くなった問題ない」

 

「つれないなぁ。…折角デンマークのフェスの後、一週間くらいの休暇をあげようと思ってたんだけど、やめようかなぁ」

 

「ちょっ、休暇くれるのか!?」

 

「ハワイとかどこでも良いよー。フェスで生卵投げられて、落ち込んだまま仕事されても困るしね」

 

 

「あのさ、ハワイとかじゃなくてノースメイアでいい?虎雄のホテルがあるんだって」

 

「あぁ、巳波が留学してたとこね。この時期に寒い所に長期滞在とか風邪ひきそうだけど」

 

 

なんか悠がさぁ、こう拒絶されても、どこか諦めてないところにぐっときてしまう。みんなが少しずつ歩みよろうとしている証だよなぁ。

…それでもここは、これからのZOOLの為に突き放さなければならない。

 

 

「まぁ場所は任せるよ。せいぜいフェスで頑張って、ブーイング浴びて傷心旅行でも楽しみなって」

 

 

"傷心"ってところをこれでもかという程強調して、ニタリといかにも悪役っぽく笑うと、虎雄の顔が強ばった。

 

 

「了さん、いい加減にしろよ…。あんたが俺が必要だからってついてきたが、降りてもいいんだぞ」

 

「トラっ!」

 

「へぇ、でもあんまり役に立ってないじゃないか。お互い使い捨ての関係だし、降りたって構わないけど」

 

 

巳波、フェス用の新曲よろしくね。なんて言って部屋から出たら、去り際にみんなの悔しそうな顔が見えた。

 

 

これでみんなが、お互いのこと、ZOOLのことを見つめ直すことができれば良い。

 

変えられる未来もあれば、変えちゃいけない未来もきっとあるだろうから。

 

 

 

 

 

 

了さんが退室した後、ハルは絶叫した。誰もが自分を必要にしない、1番にしないのだと。

 

俺はハルが1番だと思ってるし、それはミナもトラもきっと同じだろう。

それでも、この空気が、そう言うのを躊躇わせてる。

 

…思えば、了さんの言葉はいつも俺たちを掻き乱した。

その手ですくい上げてくれたのに、ステージに上がった途端、めちゃくちゃにされた。いや、俺たちの中に僅かに残っている希望を、要らないものだって握りつぶしたんだ。

 

でも、

 

今の了さんは何かが違う気がする。

 

 

 

さっきだって、俺たちを傷つける言葉を言うことを、どこか躊躇っているように感じた。

自然に言うのではなく、まるで言わなくてはならないといった感じだった。

…俺たちを、わざと高ぶらせるように。

 

掌の上で転がされているような不吉な感じがしたが、それでも首をふってそれを打ち消す。

 

 

了さんが俺たちの気持ちを引き出すなら、それに乗ってやったら良い。

 

 

胸の中で燻っていた言葉を、更に自信を持って発する。

 

 

 

 

「4人で歌おう」



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この尊さを守りたいって思う

 

 

 

「××って自分勝手だよな」

 

「ちょっと他より上手いからって偉そうだし」

 

 

これは…昔の記憶…なのか?

 

 

「俺たちは××のことを信頼してません。キャプテンにするのは反対です!」

 

「俺も!」 「私達も、反対です!」

 

 

随分と昔の、しかもかなり嫌な記憶だ。

 

その時、先程言葉を発した面々がこちらをギロっと睨みつける。

 

 

「ゲームのキャラになって未来を変えようとしてるけど、今ごろって感じだし…」

 

 

 

 

「結局自分の為にやってるんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガバッ

 

 

驚き身体を起こすと、最近見慣れてきた月雲社長の寝室が広がっていた。

スマホのボタンを押すと、午前4時44分と映し出される。不吉か。

 

 

(嫌な夢を見た…いつぶりだろ)

 

 

とにかく一旦落ち着こうと、ベットから起き上がり、汗でびっしょりと濡れた服を着替えて、水を飲む。

冷えたお茶を飲んだことで頭が冴えていく。

 

 

(3、4年くらい前の夢だよな。でも、最後のは今の俺(月雲社長)に向けての言葉だった…。俺は、後悔しているのか…?)

 

 

起床まで時間があるため再び寝ようしたが、また悪夢を見るのを恐れて、眠りに落ちることは無かった。

 

 

 

 

  *

 

 

 

「どうしたんですか?」

 

「あーいや、ちょっと寝不足なだけだよ」

 

 

心配そうにこちらを見つめる女性の手には、TRIGGERの団扇が握られている。

 

 

 

俺は今、最初にTRIGGERのライブに行った時に知り合った、2人組の女性とカフェで雑談をしていた。

 

知り合って以来、ラビチャで度々連絡を取っていて、今日こうして同じライブに行くことができたというわけだ。

 

 

「いや〜またこうやってお話しできて良かったです!ねぇ〜瑠奈!」

 

「うん!私も碧も楽しみにしてたんですよ!」

 

「俺も、同じ趣味の人と喋れて嬉しいよ」

 

 

二人は会社員らしいが結構自由が効く職らしい。こうして度々ライブに行ったりしているらしい。一方俺の方は、変に遠慮されたくないのでどっかの会社の部長くらいで通してる。

 

ちなみに、俺がタメ口なのに対し彼女達が敬語なのは、単純に俺が年上なのと、なんか見た目から社長感を醸し出してるらしい。まぁ一応社長だもんね。…職偽ってる意味無くね?

と言ったって、我ら同士に敬語からくる距離感などなく、結構普通に話したりしているのだが。

 

 

「Bang!してって団扇掲げた時に、ほんとにやってくれるとは思わなかった〜!」

 

「尊すぎた…死ぬ」

 

「いや生きてよ!その尊さ糧にして生き返って!?」

 

 

いやあの時は、天と目が合ってドキリとした。変装してるといえどバレる可能性はゼロじゃないから…というのは建前で、実際は最推しに撃ち抜かれたからだ。おかげのその後のライブを生き残るのに苦労した。

 

 

「もう、まじでカッコよくて無理だわ…」

 

「そっちも!!?」

 

 

…ところでBangといえば一織を思い出すな。前会った時に思わず脅してしまったけれど、大丈夫なんだろうか?

変に怪しまれて本編より警戒されるオチは避けたいのだが…

 

 

俺がそう考えている内に、話題は最近のアイドル事情___ナギの休みに移っていた。

 

 

「ナギくん、もう10日も休んでるけど大丈夫かな?」

 

「インフルってこんなにやばかったっけ?」

 

「……ん〜インフルって繁殖力高いし、大事をとって休ませてるんじゃない?」

 

「そうかな…」

 

 

やっぱ直接のファンじゃなくてもナギのインフルエンザは話題になっているらしい。そりゃあ10日近くも休めば不審がるのも無理はない。だからこそ、アイナナにはあまり時間が無い。

 

 

「天くんもインフルかからなきゃいいけど…」

 

「あんた結局そこに行き着くのね。佐藤さんはアイナナも好きって言ってましたけど、らやっぱり心配ですか?」

 

 

あっ、佐藤というのは俺の偽名だ。月雲なんてごつい名前使えないし、1発で身元バレそうだしな。

 

 

「心配ではあるよ。でも、きっと大丈夫だって信じてるから」

 

 

ナギを日本に留めることができなかった俺が言うことではないけれど、後はアイナナ達を信じるしかない。

 

 

「きっと良くなりますよ。絶対に…」

 

 

彼女の言葉は、TRIGGERの事務所脱退やスキャンダルを乗り越えてきただけあって、どこか重みがあった。

 

 

 

 

___俺は俺自身の手で、これらの悲劇を変えられるんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

「あっつ!!」

 

 

 

そう思いつつコーヒーを飲めば、口に含む量を間違えてやけどした。

 

 

やはり俺にシリアス展開は無理なようだな!

 






名前ありのモブキャラはちょくちょく増える予定です。

ちなみに、

瑠奈(るな)→ラテン語で月
碧(あお)→ハワイ語で雲 という感じで名付けました。


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地道にコツコツが大事だと、改めて認識した今日この頃



テスト期間のため、だいぶ遅くなりました。
空咎楽しみですね。




 

 

 

あい変わらず指紋認証でしか開けられないスマホを操作し、メモを開く。

そこには、今まで俺がしてきた行動や、今後起こると予想される事などを記している。

 

 

俺は引き続き、TRIGGERの過剰な批判記事を消すように努めたり、ZOOL以外のタレントの育成に力を入れたり(だってZOOLばかりに頼っていたら何だか悪い気がするし、他の人にもチャンスをあげたい)しているが、アイナナ達も色々な行動を起こしているはずだ。

 

ノースメイアへ行く準備、曲作り、三日月狼のオーディション、対ツクモ勢力ハッピーアワーのメンバー集め等など…

 

 

 

…こいつらホントにアイドルかってくらい色々やってるな。何個かは月雲社長(俺)のせいだけど。

 

 

ちなみに、俺がZOOL以外のアイドルを育成に力を入れようとした時、何人かの社員(どうやら、月雲社長の手が回らないところや細かいスケジュールは彼らが対応していたらしい)がアドバイスをくれた。

 

本編で、恐喝、殺人未遂、社員を顧みない行動、単純に奇行etc.....をやらかしている月雲社長に口出しするなんて、よほど勇気があるのだろう。

 

ただ、俺の行動に感銘を受けたのか、結構嬉しそうに色々教えてくれるのでこちらも何だか悪い気がしない。

むしろ、月雲社長の人望が無さすぎて逃げられるとさえ思っていたので、助かっている。

 

 

「いやぁ、月雲社長はココ最近で随分変わらられたな」

 

「しっ!声が大きいぞ。…まぁ確かに、私達の意見を聞いてくださるようにはなったが」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「ななな、何でもありません!!」

 

「ならいいけど…」

 

 

うーん、俺の気のせいか? めっちゃ焦ってたけれど。

 

少し疑問に思ったが、アイナナ達やZOOLの事に気が回っていたので、それ以上気にする事はなかった。

 

 

 

      *

 

 

 

仕事が終わり、帰宅しようと大通りを歩く。

最近では家よりも外にいる時間の方がはるかに長いので、やっと帰れるという感じだ。

 

ついでにと、帰り道が一緒だった社員を飲みに誘ってみたのだが、顔を真っ青にして断られた。傷つく。

 

 

 

どんなに月雲社長らしく振舞おうとしても、アイナナの事件を止めようとする限り月雲社長から外れた行動をしなければならない__

 

その事実を認知してからは、アイナナの主要キャラ以外の前では自分のまんまで行動している。

 

だからこそ、こうして社員からの好感度を上げるために飲みに誘ってみたりもしたのだが、効果はなかったようだ。

 

…やたらと難易度の高い乙女ゲーをやらされているような気分である。

 

 

 

肩を落として歩いていると、街中の大型テレビから、軽快な音と共に明るいハツラツとした声が聞こえてきた。

 

 

『みんなで自由な…○○ッシュセブンはじめよう!』

 

 

○○ッシュセブン__アイナナ本編で流行っていたアプリだ。

7人もやる人がいるかはともかく、俺なら絶対に九条天ドリッシュセブンに入るだろう。

 

…もうあるかな?ないなら作るか。

 

 

 

プルル

 

 

「おっ、トウマからか」

 

 

電話に出ると、細々とした連絡と、休暇はノースメイアにするという事が聞けた。

 

 

「良かった。ノースメイアに行くって決めたんだな」

 

 

この世界でも、ZOOLはノースメイアに行くことを決めたらしい。

正直、原作の月雲社長ほどZOOLを煽れた自信が無かったので、これにはホッとした。

 

 

「順調順調!この調子で頑張らないとな」

 

 

頑張るぞー!と声を上げたら、不審者を見るような目を通行人にむけられた。…すみません。

 

 

「明日の予定もチェックしないとな」

 

 

スマホを開き、メモを開こうとすると、注目のニュース欄が更新されていた。

ふと気になって記事の詳細を押してみる。ニュース欄に書かれた内容には、

 

 

 

 

【Re:valerのユキ、相方を余所に熱愛疑惑!?】

 

 

 

 

 

「…は?」

 

 

 

 

それは、月雲社長がRe:valerを陥れるために仕組んだ、ユキを責め立てるような記事そのものであった。

 

 

 



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時間の修正力だか何だか知らないが割とピンチなやつなのでは??



ようやくひと段落したので、投稿できました。お久しぶりです。
次からは、なるべく投稿ペースを戻していけるようにしたいです。




 

 

 

前回のあらすじ。俺が抑えていたはずのRe:valerを叩く目的の記事(しかも千だけ過剰にバッシング)が復活していた。

 

 

何故…?

 

 

 

一瞬頭がフリーズしたが、これは由々しき事態である。

なんていったて自分の改変したはずの事象が元に戻っている可能性があるのだ。

 

他にもRe:valer関連の記事を調べてみるが、やはりある一定の時期からそういった物が急速に増えていた。まるで誰かが仕組んでいるかのように…

 

 

「あいつらなら分かるか…?」

 

 

そう言って慌てて部下に電話をする。彼らならアイドル界の内部事情に詳しいはずだ。

月雲社長に付き合わされて詳しくなってしまいました。と前にも言ってたし。

 

あれ、もしかして俺のせい?

 

 

「もしもし、今手空いてるか?」

 

「問題ありません。それで、一体どのようなご要件で__」

 

「Re:valerを叩く記事が急激に増えてる。なんでか分かるか?」

 

 

少しの沈黙の後、部下は重苦しく答えた。

 

 

「やはり社長もお気づきになりましたか。…これは、星影反対派によって仕組まれたものです」

 

 

 

 

 

さて、アイナナ本編を見ている人なら知っているだろうが、ツクモと星影はライバル関係にある。お互いが芸能界の巨大勢力なのだからある意味当然なのかもしれない。

3部でその存在が知られると、アイナナのキャラ達の複雑な事情が分かってくる。

 

まず俺こと月雲了は、ツクモの社長だ。本人自体はアイドルを滅茶苦茶にしたかったようだが(事情を知らないものからしたら子供の癇癪そのものである。いや、事情を知ってても結構こど(以下略)、他の連中はツクモ所属というプライドを持っている。

好んで喧嘩をふっかけることはないだろうが、星影をよくは思っていないだろう。

 

一方、二階堂大和は星影の柱とも言うべき存在__千葉志津雄の隠し子で、大和の住んでいた家は星影の人々が集まる、芸能界の闇がある場所だった。

 

 

 

そして、重要となるのがRe:valer。百はツクモ、千は星影にそれぞれ関わっている。

 

何故2人がそれぞれ別の所に関わっているかというと、まだまだ小規模の岡崎事務所が、二つのうちどちらかに取り込まれる可能性が高いからだ。

 

 

星影側の千の評判が落ちれば、Re:valerがツクモ側に傾いてしまう。

つまり、Re:valerを主体とする岡崎事務所がツクモに乗っ取られてしまうということだ。

 

 

(なんっで原作よりややこしくなってるんだよ!!?)

 

 

ツクモ内の星影反対派が仕組んでいるのなら、社長である俺が止めてしまえば解決すると思うかもしれない。しかし実際はそう簡単にはいかない。ハッキリいってしまうと、月雲社長に全ての社員を従わせる程の人望が無いのだ。

 

 

(俺が元の月雲社長と違って急に悪巧みを止めたのも、反対派を刺激しているんだろうな…)

 

 

汚い手を使ってでも星影を陥れたい連中からしたら、(月雲社長)の心変わりは許せなかったに違いない。どう足掻いても自業自得になるんじゃねぇか。泣けてくる。

 

とにかく、対策を取らねばならない。ふぅと息を吐き調子を整える。帰ったらやるべきことを考えなければ。

 

 

『いつまでも、仲間と一緒に走っていたい』

 

『Re:valer 《永遠性理論》発売中』

 

 

街頭ビジョンに映るRe:valerを見上げる。

 

 

(今度こそ2人を守るんだ!)

 

 

 

月雲社長の夜は長い。

 

 

 

 

 

僕は、トウマが僕らの楽屋から出ていくのを確認した後、モモを問いただした。

 

 

「相談しにおいでなんて、モモは人がいいな…。ベランダから落とされかけたんだぞ」

 

 

トウマはあくまでツクモの人間。その上、月雲了直々にプロデュースしているZOOLのメンバーだ。

ついさっきだって、月雲社長をどうにかしようと話し合いをしていたというのに…。

 

しかしモモは、笑顔を崩さぬまま答えた。

 

 

「芸能界の先輩が、それだけなワケないじゃーん。打算だってあるよ」

 

「ZOOLは今やツクモのドル箱__了さんの生み出した得点王でエースストライカーだ。ZOOLが売れているからこそ、新社長の了さんに発言権がある、いわば了さんの翼みたいなもんだよ」

 

「なくなれば、地上に落下する」

 

 

そう言って銃をうつ真似をして、不敵に笑う。でも…、

 

 

「そんなこと言って、本当は気にかけているんだろう。モモは面倒見がいいから」

 

 

モモは驚いて目を丸くした後、少し俯いて話し出した。

 

 

「まあね。了さんのこと知ってたのに、積極的に助けてやれなかったし…了さんがこんなこと始めたのも、半分くらい、オレのせいかもしれない」

 

「…どんな理由でも、モモのせいじゃないよ。あいつがどんな悪巧みをしてようと、僕がモモを守ってあげる」

 

「ユキ、格好いい…」

 

 

その後僕らはいつものような、ふざけているような、楽しいようなやり取りをした。自分の気持ちが伝わって、モモがいつもの調子に戻ったと安心した。

でも、そんな一時も一瞬で崩される。

 

 

「週刊誌やネットニュースで、今までにない数のバッシングが出てます!……しかも、千くんのスキャンダルだけ異様に…」

 

 

おかりんの予想外の報せは、僕らを動揺させるには充分だった。

 

モモが歯を食いしばって怒りを堪えているのが見える。

 

僕は、よくある物語の鈍感な主人公じゃないから、自分がモモにすごく大切にされてるってことが分かる。そして、モモが自分より誰かを傷つけられるのを嫌うことも。

 

相手の狙いが、モモへの嫌がらせなのか、それとも別の目的があるのかは分からない。

 

 

それでも、すぐそばまで黒い雲が迫ってきているのを感じざるを得なかった。







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I'm Tukumo. I’mbusy.



オリジナル展開多め。月雲社長以外の視点が割と長めになりました。




 

 

 

アイドリッシュセブンinノースメイア〜!!

 

 

 

…俺自体はノースメイアに居ないんだけどね。うん。原作だとここくらいで大和がコスプレしてたよね。寒いとこでも頑張れよ。

 

仕事が無ければ、ZOOLのライブを見に行って、ついでにこっそり着いて行こうとも考えていたが…

 

 

「社長。仕事をなさらないでどこへ行くおつもりですか?」

 

 

という部下の一言によって打ち消された。そうだよね、俺がアイナナのキャラを守ろうと奮闘してるから仕事増えてるんでしたね。

…ごめんね。

 

俺のあまりの落ち込みっぷりに、以前からプロデュースしていた他の新人アイドル達に慰めてもらう始末。こんな情けない社長に着いてきてくれるのだから、いつかデビューさせてやりたいなぁ。

 

 

まぁという訳で、Re:valerの事件があってから、俺はその鎮圧に奮闘していた。Re:valerを陥れようとする反星影派の人達を説得したりとかね。失敗したけど。

いや、失敗というか未遂というか。下手に刺激して会社から独立されても、かえって動向が分からくなるので迂闊なことは出来ないのだ。

 

よって、コネを使いまくって、出版社の人達に記事を書くのを辞めてもらったりしているのだが…まるで効果が無い。

 

 

(正直しんどいな。…そう考えると、Re:valerのお姫様だっこってすげー破壊力だったんだなぁ…)

 

 

原作ではこのスキャンダルを、千が百をお姫様だっこするという(しかし千は非力なので百が体を最大限に仰け反らせて、片足立ちをしている)荒業で乗りきった。

大抵の人間がそうだが、推しの確証もないスキャンダルよりも、公式からの供給の方がよっぽど魅力的なのだ。やはり萌えが世界を救うのか…ナギも萌えに心を救われてたし、この世界の人達そうゆうコンテンツに耐性ないな??(俺も含めて)

 

やがてSNSに上がるであろうお姫様だっこの写真に思いを馳せた。

 

 

 

           *

 

 

 

俺は今、やるせない気持ちでいっぱいだった。

 

大々的なミュージカル作品、『クレセント・ウルフ』のオーディションに俺は全力で挑み、そして敗れた。

 

主演を勝ち取ったのは、有名な大物俳優でもなければ、最近人気の若手俳優でもない。

 

 

 

かつてその評判が地の底まで落ちた、大人気アイドルのTRIGGERの3人であった。

 

 

 

(クソッ!なんでアイツらなんだよ!!?)

 

 

アイツらは確かに実力がある。アイドルが本業とは思えないほどの演技力に、思わず震えたものだ。

でも、俺だってアイツらに負けないほどの演技をみせたはずだ。それなのに…

 

 

 

俺の頭の中には、1つの嫌な可能性がよぎっていた。

 

それは、俺が月雲の人間であることが審査に響いたのではないかという事だ。

 

 

クレセント・ウルフの元となった舞台、『三日月狼』の主演は千葉静雄__つまり星影の代表とも言える人間だ。

 

月雲と星影はライバル関係であり、最近は新社長の月雲了によってその争いは激化している。そんな中で月雲出身の俳優となれば良い印象はもたれないだろう。

オーディションでは新人だろうがベテランだろうが平等に扱っていたが、関係者は、最近の月雲に対する不信感を完全に考慮しないで審査などできたであろうか?

 

 

(これも全て、勝手なことばかりしている新社長のせいだ!そのせいで俺は…)

 

 

俺の最近の俳優業は上手くいっていなかった。新人の頃は上手いと言われた演技も、段々と個性が無く凡庸だも言われることが増えた。ハッキリいって伸び悩んでいた。だからこのオーディションは、そんな俺の評判を変える絶好のチャンスだったのだ。

 

とは言っても、今更オーディションの結果が変えられるわけでもなく、この結果を甘んじて受け入れるしかない。明日からまた、頑張らなければ。

 

 

 

そう思っていると、目の前になんと、月雲了が歩いているではないか。

 

先程落ち着こうとしていた心が、一瞬で怒りに染まる。ありとあらゆる劣情が心の中を支配した。

 

 

そうだ、コイツのせいじゃないか。コイツが余計なことをしたせいで俺の人生が…

 

 

気がついたら、俺は目の前の男に早歩きで向かっていた。その時には、今から行うことによって俳優人生が危ぶまれるかもしれないということも、TRIGGERだってスキャンダルを抱えていたにも関わらず受かったという事実も、頭から消し飛んでいた。

 

 

 

そして、俺は目の前の男を突き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

ドサッ

 

 

 

 

 

鈍い音、しかしそれはヤツが階段から転がり落ちた音ではない。

 

 

 

 

「何を…するつもりだったんですか?」

 

 

 

 

月雲了を抱えた音。そしてヤツを抱え、俺を睨みつけている人物は紛れもなく、TRIGGERの九条天であった。

 

 

 



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また俺なにかやっちゃいました?(死亡フラグ)

 

 

 

 

時は少し遡る。俺はようやく仕事を終わらせ、一時の休息を手にしていた。

 

 

(運良く手に入れたRe:valerのライブのチケット、無駄にならずにすんでよかった〜!)

 

 

社長になって色々苦労してきたが、様々なコネとライブにいっても痛まない財布の存在には感謝したいと思う。金持ちバンザイ。

 

それはそうと、こう仕事が早く終われたのもひとえに部下達のおかげである。今度お土産を買ってあげよう。なんか高級そうなお菓子にでもしようかな。

 

 

 

ところで、俺が出かけようとする時に部下から、「護衛を連れていかれないのですか?」とかなり不穏なことを聞かれたのだが…護衛をつけて出かける奴って本当にいるんだな。

 

しかし、せっかく仕事がひと段落したのに、俺の趣味にまで付き合わせるのはなんだか可哀想だ。最近は素の俺を出てきたといえ、いきなりライブモードになればあまりの違いに怯えられそうではある。

せっかく仲良くなってきた(俺以外もそう思っていると信じたい)ところなので、これ以上好感度が下がる事態は避けたい。

 

その上ライブ終わりには、Re:valerファンの仲間(新たにできた同士である)と感想を語り合おうと約束しているのだ。

後ろにいるムキムキの人は誰ですか?とは言われたくない。

 

 

 

という訳で、部下の提案を丁重に断り、俺はRe:valerのライブ会場に向かっていた。

 

レンタカーを運転し、早く着きすぎた為途中で降りて、周辺の商業施設を散策する。

車自体は持っているのだが、あんな高級そうな車を運転するのは気が引ける上、ぶつけたらと思うと自然にこの選択肢になっていた。

月雲社長ならさっさと運転手を連れて向かうんだろうが、やはり、"俺"という意識はそうすぐに変えられないようだ。

 

 

 

そして、俺は月雲社長がどういう人間であるかも理解できていなかったのかもしれない。

 

彼がいかに影響力のある人物で、いかに恨まれているかを。

 

 

 

 

 

気がついた時には、体を強く押され、階段から突き落とされようとしていた。

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 

背中に感じる衝撃と、宙に浮く感覚。そして目の前に広がる階段。

 

悪意を持ったそれに、息が詰まりそうになる。やばい、どうしよう。頭が恐ろしいほど回らない。

 

やがてくるであろう衝撃にそなえ、受身だけでもとろうともがくが、いつまで経ってもその衝撃はおとずれなかった。

 

 

「…?」

 

 

恐る恐る目を開けると、目の前に映し出されたのは、九条天の顔。

 

 

「えっ、無理」

 

 

そしてあまりの顔の良さと、推しに急接近しているという事実に頭をやられ、疑問を持つまでもなく意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、見知らぬ天井があった。自身は仰向けで、どうやらソファの上に寝かされているようだ。

恐る恐る辺りを見渡すと、どこかで見たことあるような家具の配置だなぁとぼんやりと思った。

 

 

「そういや俺、どうしてこんなとこに…」

 

「目は覚めた?」

 

 

ビクッと声のした方を振り向くと、案の定(俺が聞き間違える筈ないのだ)九条天がそこにいた。 推しとの邂逅に脳がショートしかける。

 

 

「えっあっ…その…」

 

「あなたは階段から突き落とされて、気絶したんですよ」

 

 

…そういえばそうでしたね。情報量過多ですっかり忘れていた。

 

というか突き飛ばされたのって絶対私怨だよな…一瞬見えた相手の顔はなんだか見覚えがあるような気がする。大丈夫だろうと思っていた矢先こんな目に会うとは、不覚である。

 

そしてそこにたまたま居合わせた天が、気絶した俺を天達の家まで運んできたと。

ふむ。このリビングに妙に見覚えがあるのも、ゲーム内で見ていたからか。納得納得。

 

しかし、そうだとすると疑問が残る。俺はとりあえず月雲社長に取り繕って尋ねてみることにする。

 

 

「なんで僕を助けたわけ?君にメリットなんて無いんじゃないの?」

 

 

対して天は、予想通りという顔で答えた。

 

 

「そうですね。あなたは僕にとって、いや、僕らにとって許せない相手だ。でも、これはチャンスだとも思った」

 

 

天はスっと目を細めた。それはまるで獲物を捉えようとする肉食獣のような目。自然と背筋が凍る。

 

 

 

 

「僕はあなたに聞きたいことがある。今、ここで答えてもらいましょうか」

 

 

 

 

ひょっとしなくても死亡フラグなんじゃねぇかこれ?

 

 



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ターニングポイント


だいぶ遅れてしまいました。オリジナル要素多めだと描くのに時間がかかる…




 

 

 

「僕はあなたに聞きたいことがある。今、ここで答えてもらいましょうか」

 

 

 

 

ひぇぇえ…し、死ぬやつじゃんコレ。終わった…。でも、抵抗くらいさせてくれ!!

 

 

「僕に君に教える義務があるとでも?」

 

「その台詞は、この状況を理解してから言ってもらいたいですね」

 

 

あっ、ダメそう。そうだよな、天にとって絶好のチャンスなのだ。それをみすみす逃すはずはない。

 

俺だって、みんなに本当のことをいってあげたいと思う。そしたら、みんなが思い悩んでいることも解消されるだろう。これ以上苦しむことだってなくなるかもしれない。

 

でも、それじゃあ駄目だ。今まで散々酷いことをしてきたのに、急に改心したなんて信じられるわけが無い。

苦しめてきたのにも関わらず、事情は全部知っているから協力してくれなんて虫がよすぎる。

 

それに、きっと彼らにとって今必要なのは、中途半端な偽物()じゃない。

良くも悪くもアイナナに影響を与え、成長させた本物(月雲了)に、みんなは向かい合わなきゃいけないんだ。

 

 

 

 

俺が言葉に詰まっていると、天はふぅと溜息をついた。

 

 

「あなたの身に何が起きたかは大体予想がつきます。それを話したくないということも」

 

「…」

 

「口をとざすというのならこちらから言わせてもらいます。あなたは、何らかの理由で記憶が無い…」

 

 

 

 

「もしくは、誰かが成り代わっている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー…ここまで言われちゃ話すしかないよな…」

 

 

「信じてもらえないかもしれないけど、俺が知ってること、話すよ」

 

 

 

俺は覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

それから話した。俺が転生して月雲社長になったこと、この世界は俺の世界では架空の存在であるということ、物語に歪みを生み出しかねないから、転生について黙っていたこと。そして、これから起こる悲劇を食い止めたくて行動していたことを。

 

こんな嘘のような話を、天は笑わずに聴いてくれた。おかげで最後まで話すことができた。

 

 

「…ってのが以上だ」

 

「つまりあなたは、月雲社長の身体を使って色々と行動していたということですね」

 

「…信じてくれるのか?」

 

「にわかには信じ難いではあります。でも、あなたが嘘をついているようには見えないから」

 

 

言ってしまった…。しかし、それでこれからどうすれば良い?天はこのことを言いふらすようなやつじゃないから、口止めをする必要は無いと思うが、他に何かすべきことがあっただろうか?

 

 

 

「…その上で、あなたに言いたいことがあります」

 

 

 

 

 

「いつまでもこんな中途半端なことを続けるつもりなの?」

 

 

 

 

 

「は…?」

 

 

 

俺が、中途半端…?

 

 

 

 

「きみがこれから起こる事を防ぐために暗躍してるのは分かった。けれど、その行動に責任が感じられない」

 

「お、俺は必死に__」

 

「必死だとしても、きみがやってる事って上辺だけじゃないの?自分が知っている物語を壊したくないからってビクビクしながら行動して、それのどこが"必死にやってる"なの?」

 

 

 

 

あぁ、そうか。俺はずっと恐れていたんだ。俺は転生してからも、心のどこかで月雲社長と俺は別人だって思っていたんだ。この世界に要るのも、この世界に向き合うのも本物(月雲了)なんだって。

だから中途半端なことしかできなかった。自分の行動で、アイナナのキャラがより不幸になるのではないかと怯えてた。

 

悲劇を知っていながら、本当に止めようとはしなかった。

 

 

 

何があったとしても、今この世界に生きているのは偽物()なのに…

 

アイナナだってTRIGGERだってRe:valerだってZOOLだって、もっと別の方法で助けてやれたかもしれない…だから!

 

 

 

 

 

本来の物語に遠慮している場合じゃない。

俺は、(月雲了)としてこの世界を変えていくんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだか悩みが吹っ切れた顔してるね」

 

 

あっ、天の存在をすっかり忘れていた。

天はここにきて初めて笑顔を見せた。oh......天使スマイル…

 

 

「俺もそう思うよ。ありがとう」

 

 

なんとか耐えたものの、やはり推しの唐突なスマイルはダメージがデカい。

 

 

「…前々から思ってたんだけど、きみってもしかしなくても僕のファンだよね?」

 

「なななんで分かるんディスカ!!??」

 

「だってきみってよくTRIGGERのライブ来てたでしょ?グッズまで揃えてさ。…僕がきみが違う人になってるかもって疑ったのも、それが切っ掛けだからね」

 

 

えっ、ばれてたのか!!??変装してたのに!!?やっぱこの顔目立つんですね!!

 

 

「お、お恥ずかしい…」

 

「別に良いじゃない。どうして僕のファンになったの?」

 

 

天は面白いものを見つけたと言わんばかりに、こちらと距離を縮めてきた。あの、心臓に悪いんですが。

しかし答えなければ解放してくれそうにもないので、恥を忍んで喋る。

 

 

「天の生き方が、カッコイイって思えたから…かな?」

 

「あっ!もちろん顔とか笑顔とか、歌声とかダンスとか、全部好きなんだけれど!!」

 

 

「ふふっ」

 

「え?」

 

 

慌てて弁明する俺に、天は吹き出していた。その顔は子供らしく、そういえば天はまだ未成年なのだということを思い出す。

 

 

「ってか、そんなに笑わないでくれますか!恥ずかしい!!」

 

「あはは、ごめんね。だって君の慌てぶりが面白かったし、そんなこと言われたの、初めてだから」

 

 

優しげな笑顔だ。

 

年相応に笑う天を見て、やっぱり天のことが好きだなと思えた。

 

 

 

 

 

 

この後お茶をご馳走になって(高級そうな茶葉なので、貰い物なのかもしれない)帰る支度をする。ライブに行けなかったのは残念だが、早く連絡を入れなければ心配されてしまうだろう。

 

 

「今日はその、本当にありがとう!」

 

「どういたしまして。それに、お礼を言いたいのは僕もだから」

 

「…なんで?」

 

「僕も、迷っていたことがあったから。現状のままじゃいけないって分かっていてもつい目を背けていたから。このままじゃ、仲間も恩人もどっちも傷付けるところだった」

 

「TRIGGERと九条鷹匡のことか?」

 

「やっぱりそういうことも分かるんだね」

 

「といっても、これに関しては続きの話が分からないから解決方法とかも分からずじまいなんだけどな」

 

「大丈夫。自分で物語の結末を掴んでみせるから」

 

 

 

天の顔を見て俺も自信がみなぎってきた。

 

よし!俺も頑張るぞ!!

 

 

 

まずは何をするべきか。頭の中に考えを巡らせながら帰路についた。

 

 

 

 





今回抽象的な内容も結構あって分かりづらい気がする…他の話で補完していくかもしれないです。



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月雲了いっきまーす!



アニナナ2期(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク


 

 

 

 

天と話して吹っ切れた俺は、早速状況打破に向けて動き出そうとしていた。

 

 

(あそこまで啖呵切っちまったんだ、やるしかねぇよな)

 

 

 

片付けるべきは星影反対派___原作にはない新たな敵だ。

 

 

 

今までは活発に動くことを躊躇していたのだが、原作をぶち壊す覚悟のできた今なら迷わない。

 

というか前の自分を振り返ると泣けてくる。月雲社長が恨まれてるのに呑気にライブに行くとか穴が入りたい…。いや落ち込んでる暇はないぞ。

 

まず手始めに、モモたちが手を結ぼうとしている反ツクモの勢力に、俺の部下を幾人か紛れ込ませる。反ツクモ勢力の動向を詳しく知り、会社内での勢力をさらに強める為だ。

部下の中でも、あまり俺に従っているそぶりがなかったり、一緒に行動してないやつを選んだから怪しまれることは無いだろう。

 

次に、星影反対派を説得する。というかこれが一番難しい。

 

いくら社長といえども、クビ覚悟で向かってくる相手に言うことは聞かせられない。

むしろ月雲社長の悪行を考えれば、逆に会社を追い出されかねない。

 

 

(だからこそ、利用する!)

 

 

いきなり止めることは不可能。なら相手を騙せばいい。

 

幸いにも、月雲社長の威厳は保たれている。チャンスは今しかない。

 

 

「本当にやられるのですか…?」

 

 

張り切る俺に、部下の1人が心配そうに声をかける。…俺ってそんなに信用ねぇのかなぁ。

 

 

「大丈夫だって!月雲了いっきまーす!なんてな!」

 

 

場を和ませるためにおちゃらけだが、異物を見るような目で見られた。本当に穴があったら入りたい。

 

 

 

 

 

 

会議室のドアを前に深呼吸をする。呼び出したのは俺だが、それでも緊張してしまう。

 

 

(ここで上手くいけば、今後の行動もしやすくなる。がんばれ俺!)

 

 

意を決してドアノブを捻る。中に入ると、時間前だが俺を除く全員が席に着いていた。

 

俺が席に着くと、代表の1人が話し出した。

 

 

「本日はわざわざ足を運んでくださりありがとうございます。えぇー私達としては___」

 

「前置きはいいよ。さっさと話し合いを始めようじゃないか」

 

「…では、何故社長は私達の計画を妨害するのでしょうか」

 

「あなたとて、今までにTRIGGERやRe:valerを貶めてきたはずでしょう。それをどうして今になってやめようとするのですか」

 

 

俺に問いかける声には、わずかだが怒気が漏れていた。そりゃそうだ。急に手のひらを返したように行動されれば、不満の1つや2つ出てくる。だがこっちにも考えがある。

 

 

「別に嫌がらせをやめようって訳じゃないよ。ただ、タイミングが悪いって言ってるんだ」

 

「タイミング…ですか?」

 

 

案の定相手は困惑した。また月雲社長に振り回されると思っていた彼らにとって、嫌がらせ自体の肯定は驚くべきものだろう。

 

 

「そう、タイミング。君らはデマの記事やスキャンダルで貶めようとしてたみたいだけど、そんなにちまちまやったんじゃ意味がない。現にRe:valerの2人は自分達の仲良し度を示すことでこれを克服してしまっている」

 

「ですが元Re:valerと、ユキが相方を捨てたという疑惑は世間に相当効いて___」

 

「2人がなんで5年も王者で居られたと思う?どうしてこけら落としの直前に口パク疑惑がでてもステージを成功できたと思う?…2人の絆がそれだけ強いってことだよ」

 

「元Re:valerの疑惑だって、解散が事実でも何を理由に解散したかまでは定かでない。そんなものでは完全にRe:valerを切り裂けない」

 

 

俺の言葉に場は静まり返った。困惑や驚き、焦りといったところか。

だって、今までのどの方法よりも上手くいっている今回のスキャンダルでさえ、Re:valerを追い込むには不十分だと言っているのだから。

 

 

「なら、ならどうすればいいと言うのです!?これ以上に有効な手段があるのですか!?」

 

 

社員のうち1人が睨んできた。めっちゃ怖い。しかし俺は社長!ここでビビってるわけにはいかない。

 

 

「ブラホワ終わり___世間のアイドルに対する熱がピークになった時に一気に悪い噂を流せばいい。ブラホワを超えるような栄光はそうそう来ない。それこそ不穏な噂を覆い隠せるほどの栄光なんてね」

 

「それに、ZOOLやIDOLiSH7が盛り上がれば盛り上がるほどRe:valerに対する好意が移ろいでいく。Re:valerを擁護するような声も減るというわけさ」

 

 

俺を睨みつけた社員は暫く唸る。話に乗ろうか迷っているのだろう。

 

 

「しかし、ならどうして社長は、アイドルを助けるような真似をしたのですか!TRIGGERのスキャンダルも貴方が抑えたと聞きました。スキャンダルを起こさせたのは貴方だというのに!」

 

「それはあれ以上TRIGGERのスキャンダルを流しても、大して効果が見込めないからだよ。世間の印象は悪くなっても、ファンは支えようとますますTRIGGER協力的になる。」

 

「それに、君たちを試したかったんだ」

 

「私達を…試す?」

 

「僕が主導でやってもよかったんだけど、星影が気に入らない人間も多くいると思ってね。それを確かめたかったんだ」

 

「そのようなことを、考えていらしたのですね」

 

 

あっぶねぇぇえ!! 一瞬ドキリとしたが、何とかアドリブで誤魔化した。

俺の行動なんて傍から見ればマッチポンプ(マッチは月雲社長で、ポンプは俺だが)だからな。怪しいことこの上ない。

 

しかし、これで説得できた気がする。みんなの雰囲気も少し柔らかくなっているように感じた。

えっ貶める計画?ブラホワ終わる前にカタはついちまうんだよ!

 

秘密裏に動いている反ツクモ勢力がこのままバレなければ、原作通りだとブラホワ前か開始直後には問題が解決する。というかもっと頑張ればその前にケリがつく。

 

要は星影反対派をその気にさせて、時間稼ぎが出来ればいいのだ。ユキの交渉だってスムーズにいけば、きっと上手くいく!

 

 

「それじゃあ詳しいことはおいおい話すよ。今後の月雲の為にもね」

 

 

ふっ、決まったな。いやまぁ不安も残るが最善を尽くせただろう。後はこの時間稼ぎをいつまで通用させるかだ。

 

 

 

…ところで退出して部下達に連絡を取ると、何故かめちゃくちゃ心配されて褒められた。

 

やっぱり俺は情けないのかもしれない。だから、

 

 

 

 

 

 

『随分面白いことしてるじゃないか』

 

 

 

 

頭の中に一瞬聞こえた声に気づくことはなかった。

 

 

 



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番外編
番外1 入手経路が非常に怪しいお金の使い道




ふと番外編のアイデアが思いついて書いてみたら、いつもより長くなってしまった…

時系列は、2話の後くらいです。


 

 

 

俺は今、非常に困っていた。

 

 

「どうすんだよコレ」

 

 

手元にあるのは、『学問のすゝめ 』だか何かを書いた偉い人のお札__つまり万札が5枚。

 

それだけなら別に問題は無い。少々リッチな臨時収入というだけである。

ただし、これをくれたのはあの"月雲了"だというだけで。

 

 

__正直、かなり怪しい。

 

 

たがしかし、このお札に罪は無い。

 

黙って自分の懐に入れるのも気が引けるし、やはり使う他ないようだ。

 

 

「アイツら、来るかなぁ」

 

 

ZOOLを結成してからすぐに作ったラビチャグループ(本人達はあまり乗り気ではなかったが)に用件を打ち込む。

 

送信ボタンを押しつつも、1人も来ないだろうと思っていた。

 

 

 

 

…のだが、

 

 

 

 

『どーせ仕事終わりだしいいよ』

 

『まぁ、折角の機会ですし』

 

『一度普通の店の肉を食ってみたいと思っていたんだ』

 

 

 

まさかの全員OKであった。このお金には魔力がかかってんのか?

 

まぁ、これでみんなと外で食事ができるのだから嬉しい限りである。

少々浮かれながら仕事へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お肉美味しい!」

 

「こういう店も悪くないな」

 

「久しぶりに来たけれど、美味しいですね」

 

 

焼肉は案外好評だった。

この店は、番組のスタッフと打ち上げに行った時に来た店で、結構美味しかったのでここにした。

 

3人が同じ場所で食べているのをみると、最初の頃に比べて、着実に仲良くなっているのだと実感する。

だが、ほっとしたのもつかの間、

 

 

「ところでさ、全部俺の奢りって言ってたけど、臨時収入でもあったわけ?」

 

 

ハルの素朴な疑問にうっと声を漏らす。体のいい理由を考えるが、そう思いつくはずもなく、思わす目を泳がせてしまう。

 

たちまち向けられた疑念の目に耐えきれず、俺は観念することにした。

 

 

「…実はそのお金は、了さんから、焼肉にでも行ってきたら?って言われて渡されたやつなんだ」

 

 

その瞬間、3人の箸の動きが合わせたようにピタリと止まった。

 

 

「はぁ!?トウマ、俺たちのこと騙してたのかよ!」

 

「べべ別に、聞かれなかったから…」

 

「それでこの重大情報を黙ってたってわけか?」

 

「そうやって私達を巻き込んだわけですね」

 

 

みんなからの圧が凄い。そりゃそうか。普段から数々の嫌がらせを受けている相手からのプレゼントなんて、いい気分はしないよな。でも…

 

 

「でも!俺は本当にお前たちと焼肉が食べたかったんだ!…黙ってたのは悪かったかもしれないけど、良い機会だなって思ったんだ。ダメ元で呼んだら、みんな来てくれたし」

 

 

あーくそ、まるで言い訳だ。いや、実際そうなのだが、この気持ちまで嘘だと思われたくはない。ZOOLを大事にしたいのに。

 

恐る恐る3人の方を向くと、何故か全員どこか呆れたような顔をして笑っていた。

 

 

「別に、そんなに怒ってないよ。そりゃあ騙したなって思ったけどさ」

 

「まぁなんだかんだ言って了さんのくれるもので、質の悪いものは無かったしな。大丈夫だろ」

 

「お前ら…」

 

 

感動のあまり少しウルっときてしまう。こんだけで泣くとか恥ずかしーなどとからかわれても、今はただ、安堵の感情だけが身を包んでいた。

 

 

「感動しているところで悪いのですが、店長らしき人物が近づいてきていますが」

 

 

廊下の方に目をやれば、眉を寄せ、険しい顔つきでこちらを見る強面の男が1人。

 

 

感動が一瞬で恐怖に変わる。

 

 

 

 

「あっ、もしかしてうるさかったっすか?すみません」

 

 

とりあえず相手の怒りを和らげようとできるだけ笑顔で対応するが、声が震えてしまう。

それはハルやトラも同じようで、どことなく表情が固い。

逆にミナは澄ました顔をしているので、こういう時に演技派が羨ましく感じる。

 

しかし、相手は表情を変えることなく、ずんずんとこちらに進んできた。

 

 

(このまま出禁なんかになったら、色んな人に迷惑をかけちまう。それだけはどうか…)

 

 

「あんた達__」

 

「ひっ」

 

「もしかして、ZOOLか!?」

 

 

 

 

「…は?」

 

 

 

 

「おぉ!やっぱりそうだ。実は俺、ファンなんだよ!」

 

 

 

 

まさかの展開だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜悪いねぇ。お邪魔かと思ったんだが、つい声をかけちまった」

 

 

そう屈託なく笑う店長は、本当に嬉しそうだった。

…どうやら、顔が怖いのは素らしい。

 

 

「いえいえ、こちらこそ」

 

 

店長と話しているミナは、最初から彼が怒っていないことに気づいていたらしく、ビビる俺たちを見て笑っていた。

何で気づいたんだと聞けば、店長の手首に、ZOOLのメンバーカラーのネックレスをはめていたらしい。よく分かったな。

 

 

「あんた達のことは、最初は気に食わなかったんだ。態度の悪い連中だってね。でも違った。あんた達の歌は理不尽な世の中に立ち向かってやろうっていう強いものだった。最近の若者は辛いことがあっても声を上げない子が多い。そんな中でここまでやれるのは凄いと思ったんだ」

 

 

思わず涙が出そうだった。

俺たちは、ZOOLはまだバラバラで、ぶつかり合って歪な存在だけれども、こうして誰かに認められていたんだ。

 

 

「ありがとう…ございます」

 

 

照れながらお礼を言うハルも

 

 

「そこまで言われるなんて光栄だな」

 

 

ハッキリ答えつつもどこか嬉しそうなトラも

 

 

「嬉しいです。ありがとうございます」

 

 

いつもの皮肉めいたものじゃなくて、本当に心からの笑顔を浮かべるミナも

 

 

「ありがとうございます!これからもがんばるんで、応援してください!」

 

 

今日一番の笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り際に、店長にサイン色紙をプレゼントとして帰る。もう冬だからか、外はすっかり暗くなっていた。

 

 

「楽しかった!またみんなで外で食べたりとかしたいな!」

 

「そんな暇じゃないし」

 

「女との予定が入ってるから無理だな」

 

「休日は有効に使いたいタイプなので」

 

 

みんなと仲良くなれたと思ったが、流石にそう簡単にはいかないらしい。それでも、最初から考えると、随分と進歩したと思う。

 

 

「ところでトウマ、さっき"これからも"なんて言ってたけど…」

 

 

 

そうだ。俺たちは"これから"なんだ。

 

 

 

「だってそうだろ、俺たちは止まらない。3年のファッドで終わらせたりなんてしない。

 

________ 俺たちなら、できる」

 

 

 

 

もう諦めまいと、固く拳を握って決意する。

 

 

 

俺たちを見下ろすように、大きな満月が輝いていた。

 

 



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番外編 2 最近知り合ったアイドルオタクについて



今回は月雲社長のお友達の話。ちょっとだけr-15っぽい際どい表現があります。ご注意を。


*アンケートの結果、本編はシリアス多めで、番外編はギャグを入れて(入れれるとは言ってない)みたいな感じでやりたいと思います。




 

 

「佐藤さん、元気にしてるかなぁ」

 

 

街の休憩スペースにあるベンチで、思わずそう呟いた。佐藤さんというのは、最近知り合ったアイドルオタクの友達である。

 

知り合ったのは、ある日のTRIGGERのライブ後。幼馴染であり同じTRIGGERファンの碧と帰る途中の事だった。

2人でライブについて熱く語っていると、誰かの肩にぶつかってしまった。慌てて謝ると、その人もまたTRIGGERの__特に天くんのファンであったのだ。

 

それからは早かった。碧と日々推しについて語ってはいたが、それ以外にアイドルオタクの知り合いなんてほとんどいなかった。

だからこそ、この機会を逃すまいと声をかけたのだ。

 

正直言うと、最初は怖い感じの人かなと、早くも声をかけたことを後悔したものだったが、相手は意外にも紳士的であった。そして、面白い人でもあった。

 

基本丁寧に話すし、話をしたカフェでのコーヒー代も払ってくれた。本人は会社の部長だと言っていたが、身につけているものからしてもっと偉い地位の人ではないのだろうか?

 

しかしその割には、TRIGGER、特に天のことになると途端に熱く語り出した。その姿は、アイドルを応援するファンの姿と何ら変わりないものだった。

 

 

「今じゃすっかり同士だもんなぁ」

 

 

連絡先を交換してからは、時々やり取りもしている。仕事の合間の癒しになりつつあった。

 

 

「るーなーコーヒー飲むー?」

 

「あお!飲む〜!」

 

 

声の方を振り向くと、碧がコーヒーの缶を2つ持ってやってきた。そういえば碧がトイレに行くからまってたんだっけ。

 

 

「なんかぼーっとしてたけど何考えてたの?」

 

「佐藤さんのことー。最近どうしてるのかなー?って」

 

「確かに。なんか忙しいみたいだし、仕事が佳境なのかな」

 

 

持ってきた缶を飲んでると、若い男達が声をかけてきた。

 

 

「君ら可愛いね〜俺らと遊ばない??」

 

「えっと…」

 

 

いかにもチャラそうな男達がナンパしてきた。きっと羽目を外した大学生か新社会人なんだろうが、あまりこういう人種は好きではない。

 

 

「でも私たち結構歳いってるよー。若い子がいいんじゃないの?」

 

「良いの良いの!おねーさんらキレイだし大丈夫だって!」

 

 

そんなこと言っといてどうせ身体目当てだろ。

男達の舐め回すような視線に不快感を覚える。ちょっと年上だからってすぐヤレるとでも思っているのだろうか?

 

 

「悪いけど君らに付き合ってるヒマないの。他当たってくれるかしら?」

 

 

碧が目の笑ってない笑顔で言い返した。碧はこういう輩嫌いだもんね。この態度をとると大体不埒なナンパ野郎は逃げ出すのだが…

 

 

「ちっ!ちょっと可愛いからって調子乗りやがって!」

 

「立場分かってないんじゃねぇーの?俺らと行こうぜ?今なら悪いようにはしねぇからさぁ」

 

 

相手は人数も多いからか強めに出てきた。なんなのこの妙な自信!しかも強引に手まで掴んできたし!!

 

どうしよう。周りに人居ないし…誰か助けて…

 

 

「お前たちは何をしているんだい?」

 

 

聞き慣れた声に思わず振り返ると、そこには佐藤さんがいた。

 

 

「佐藤さん!?」

 

「どうしてここに…?」

 

 

男達は一瞬たじろいだが、佐藤さんが1人だと分かると、大笑いしだした。

 

 

「おっさ〜ん、正義のヒーローのつもりかぁ?」

 

「ハハッ!マジでウケるな!」

 

「俺らと姉ちゃん達が遊ぶ時のおサイフになってくれなぁい?金持ちそうだし?」

 

「ギャハハ!!傑作だな!!」

 

 

でも、佐藤さんはというと意に介さず、ずんずんと歩み寄ってきた。

 

 

「佐藤さんっ!危ないって__」

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

「さ、佐藤さん??」

 

 

さらに歩みを進める佐藤さん。

 

 

「なっなんだよ!近寄ってきてよぉ!」

 

「君らって見たところ、内定もらって羽目はずしちゃってる学生さんって感じだよね?

もしくは新入社員とかかな?」

 

「それがどうしたって…」

 

 

たじろぐ男達に、佐藤さんはとてつもなく悪い笑みを浮かべる。ヒッという引きつった声が聞こえた。

 

 

「僕って結構有名なとこの社長でさ、子会社も何個か作ってるんだよねぇ。…もし君らの勤め先が僕が関わってるところだったら、どうなるんだろうね?」

 

「えっ、いや、その」

 

「君らの華やかな人生はそこでしゅーりょー!…1度ケチのついた人間を採用する会社ってそう多くないよ?」

 

「あー、えっと…」

 

「特定される前に帰った方がいいんじゃないの?まぁモタモタしてたら、僕の部下がゴミ掃除に来ちゃうかもね」

 

 

分かってるよね?と圧をかければ、男達はたちまち逃げ出した。逃げ足は存外速い。

 

 

「佐藤さん!ありがとうございます!」

 

「本当に助かりました」

 

「いや良いよ。知り合いが困ってるとこ見たら放っておけないでしょ?」

 

 

そう言って笑う佐藤さんは、さっきとはうって変わって、いつも通りの優しい雰囲気を出していた。

 

 

「というか佐藤さん、社長だったんですね」

 

「あっ!言っちゃった…。嘘ついてごめんね」

 

「いいですよ。薄々そうじゃないかって思ってたんです。なんというか、オーラが只者じゃないので」

 

 

碧が容赦なく言うと、お願い他の人には秘密にしといて!と言ってきた。わざわざ頭を下げて頼み込むなんて、やっぱり人が良い。

 

 

「買い物もある程度したし、帰ろっか」

 

「良かったら駅まで送っていこうか?さっきみたいなのに会ったら大変だし」

 

「ありがとうございます。じゃあお願いします」

 

 

 

 

この後、近況や推しのことを語り合いながら駅まで歩いた。

 

 

「やっぱ相手を脅すには、月雲社長の真似が1番だな」

 

「?何か言いましたか?」

 

「いっ、いや、何でもない!」

 

 

色々あったけど、これでしばらく仕事も乗り切れそうと思った。

駅まで送ってもらい、佐藤さんに別れを告げた後、碧に言った。

 

 

「佐藤さん、良い人だね!」

 

 

 

 






ここでモブの説明

瑠奈→明るく社交的。推しを語れる人がいなくて悶々としていたところ月雲了に会う。手先が器用で手作り団扇のクオリティも高い。

碧→落ち着いた性格。しかし推しの話になると別。ネット関係に強く、アイドル情報の把握から、瑠奈の分のチケット獲得もこなす。




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