戦姫絶唱シンフォギア Nameless (717)
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EP1「Order」


2019/9/24
後書きに用語解説を追加しました。


地下特有の暗さと冷たさ、それと錆びた鉄の匂いが広がる廊下に響く足音が、来客者の到来を知らせる。

音から察するに一人。つまり組織内であっても知られたくない仕事が来たということだ。

私は読書を中断し、使い込まれたベッドに潜り込む。

こんなことをしても意味がないのはわかっているが、これが私にできる最大限の抵抗。この住み慣れた部屋から出たくない。他の人はプライバシーなどないこの部屋を嫌がるだろうが、誰もが自らの行いを正当化し、何もかもが理不尽な仕事場よりかマシだ。そして、それ以上にあの場に立つ私という存在が大嫌いだ。

自害を選びたいところだが、世界はいつも私の願いなど聞いてくれない。今日だってそうなのだろう・・・

 

「仕事だUD。寝たふりは辞めろ」

 

今回も私の小さな抵抗は意味をなさなかった。

 

「アポイントも取らず来たくせに随分と勝手だね。王様」

 

私はのっそりとベッドから起き上がり鉄格子の前に立つ無精髭を生やした男に吐きつける。

 

「無駄話はよして貰おう。それと私は少佐だ。『王様(キング)』などと呼ばないでくれ」

 

彼は鉄格子の隙間からファイルを渡してくる。

受け取ったそれには「TOP SECRET」とスタンプが押され、数十枚の書類と数枚の写真が挟まれている。写真の多くは盗撮したであろう人物像であるが、いくつかは物体であった。その中でも興味を惹かれたのが、

 

「十字架?」

「剣だ。完全聖遺物『デュランダル』。かつてEU連合の経済破綻に伴い日本に渡った『不滅の刃』と称されるそれをパヴァリアに対抗する兵器として上層部が目を付けたとのことだ」

「その言い方だと正規の手続きは踏めないってことね」

「そうだ。さらに言えば今回は単独任務だ」

 

私はため息をつき男を睨む。睨まれた本人は少し申し訳なさそうに立ち続けている。

こいつは上からの指示で動いている私の世話係。そして私はYES WOMAN。

どれだけ彼に愚痴っても仕方ないので話を戻す。

 

「経済破綻って随分前の出来事でしょ。今更どうして」

「情報部の話では、デュランダルはある組織の最重要区画に保管されているとのことだ。だが、アメリカが何度も引き渡しを要求しており、その対抗策としてより厳重な場所に移す計画がされているらしい」

「成程。つまりは引越し中のデュランダルを襲って、奪う。強引過ぎる作戦ね」

「方法は君に任せる。どのようにするかは自由だ」

「そんなこと言ってるけど、この方法しかないから私にやらせるんでしょ。存分にやらせて頂きますよ。にしても、お友達にイチャモンを付けられるなんて日本も可哀想だね。要求の理由は・・・これか」

 

手に取ったのは、デュランダルとは別の写真。

そこには蒼のSFチックな戦闘服を身に纏い、刀を振るう少女が映っている。

 

「シンフォギア」

 

私自身、装者だからこの力はよく知っている。

人類共通の脅威とされている認定特異災害ノイズに対し、数少ない対抗手段であり、使用者が限られるという兵器として重大な欠陥を持つコイツは、その特異性故に極秘扱いされている。

 

「アメリカが独占してるとばかり思っていたけど日本も持っていたなんてね。デュランダルはそのパテント料って感じかしら。それでこんなものを扱っているのだから相手はまともな奴らじゃないんでしょ?」

「察しが良くて助かる。相手は特異災害対策機動部二課。公式には存在しない組織で、前身はあの『風鳴機関』だ」

「ナチスと組んでたあそこか、また面倒な」

 

私は任務の理不尽さに頭を抱え、男はそれに構うことなく淡々と告げる。

 

「出発は明後日の深夜、潜水艦『ドゥ・スタリオン』にて日本に向かう。詳細はレポートに書いてあるからしっかり読んでおけ。わかっていると思うが今回も」

「軍も政府も関与しない。つまり、私は存在しないことになっている。でしょ。聞き飽きたし言い飽きた」

「わかっているならいい。成果を期待しているぞ」

 

男は背を向ける。

 

「一つ質問してもいいかしら少佐?」

「なんだ?」

「今回の任務は本当にこれだけ?」

 

彼はしばしの沈黙の後、「そうだ」と答え足早に去っていく。

「『成果を期待している』ねぇ・・・もう少しマシな言葉を送れないのかしらアイツ」

ぼやきは廊下に響くことなく消え去る。

私はやけくそに再びベッドに倒れ込み、思考に耽る。

完全聖遺物に関する任務、それも伝説のデュランダルと来た。

いくらギアがあるといえたった一人で遂行するにはあまりに無理難題過ぎる。

相手はあの風鳴機関。もしかするとアメリカをも敵に回すかもしれない。

それに彼の最後の言葉から察するに私はもう・・・

だが、

(アレは私の願いを叶えてくれるかもしれない)

ただそれだけが、最後の任務に挑む私の原動力だ。

 

 

 

一ヶ月後、私は極東の地で動き出す。

 





用語解説

・UD
本作の主人公。
シンフォギア「*******」の装者。
なお、「UD」は仮の名である。

・パヴァリア光明結社
経済破綻で国力を失った欧州を中心に暗躍する秘密結社。
その構成員の多くが錬金術師と呼ばれる異端技術の行使者である。

・特異災害対策機動部二課
認定特異災害ノイズが出現した際に出動する政府機関。
ノイズに対抗できるシンフォギアシステムを所有しているが、憲法などの関係で存在は秘匿されている。

・風鳴機関
前大戦時に旧日本陸軍が組織した特務室。
聖遺物の研究を行ってきた。

・潜水艦「ドゥ・スタリオン」
1年前に就航したドゥ・スタリオン級強襲揚陸潜水艦1番艦。
パヴァリア光明結社との全面戦争に備えて建造された最新鋭艦であり、高い隠密性と輸送能力が特徴。
艦名はアーサー王の愛馬から。


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EP2 「Silent hunter」


お気に入り登録ありがとうございます。
リクガメ並みの投稿速度ですが、今後ともよろしくお願いします。
誤字脱字がありましたらご報告お願いいたします。

2019/9/24
後書きに用語解説を追加しました。


桜の花が散り、日没が遅くなりつつある今日この頃。

私は今、夕暮れで赤く染まったアパートの一室で資料を整備している。

この地(日本)に来て早いもので一ヶ月が過ぎ、その間、諜報を中心にひっそりと活動していた。

それは、引越しが行われていないのもあるが、状況が大きく変化したからだ。

 

まず、この街のノイズの発生率

ノイズの発生自体はおかしくないが、発生率は明らかにおかしい。

私が知っているだけでも、10回以上警報が鳴っている。

元々ノイズの出やすい場所なら納得いくが、過去のデータと見比べるとこの一ヶ月は異常としかいえない。

さらに、二課本部を中心にノイズが発生していることも拍車をかけている。

それは、誰かがノイズを召喚しているかのようにも見える。

アルカ・ノイズの可能性も考えたが、偵察ドローンからの映像を見る限り、人以外の物体のすり抜けやプリマ・マテリアを撒き散らさないことからその可能性は潰れた。

ただの偶然と思いたいが、そう思えないのが実情だ。

 

次に二課のシンフォギア装者、「ガングニール」と「天羽々斬」

レポートには、ガングニールの装者は二年前に戦死、以後戦線には天羽々斬しか確認されていないと記されていたが、実際の現場を見てみれば装者は二人いる。

後にわかったことだが、私が日本に到着するほんの少し前に存在が確認されたとのことだ。

ただでさえ適合者を見つけるのは容易ではないのに、よくこのタイミングで見つけたなと敵ながら感心した。

だが、ガングニールの動きは新兵(ヒヨコ)そのもの。ギアを纏える以外では、脅威度は低いと考えられる。

厄介なのは天羽々斬の方だ。

彼女は素早いうえ動きに無駄がなく、目もいい。

さらに表の顔が歌手とシンフォギアとの相性も抜群。

磨き抜かれた剣術に芸能活動で鍛え上げられた歌声から発せられるフォニックゲインの相乗効果は、現代にサムライを蘇らせたと言ってもいいだろう。

間合いに入れば敗北は必須。

狙撃による意識外からの攻撃で仕留めたいが、ギアを纏えばアウフヴァッヘン波形が発生するため対処されかねない。

それに、車内が見えなければデュランダルを誤射する可能性もあり、それだけは避けなければならない。

そもそも目的が奪取である以上、防衛側である相手の間合いに入ることは必然。

戦闘を最低限にしつつ奪わなければならない。

直接的な支援もなく、傭兵を雇ったところで装者の前では無意味。

考えたくなかったが装者の暗殺も案に上がった。

だが、目立つ目立たない関係なく常時護衛が張り付き装者を護っている。

また、下手に手を出せば、警戒どころか私を特定してくる可能性すらある。

そうなれば行動をマークされ強奪どころではない。

つまりはドツボに嵌ってしまった。こういう時に取る方法はただ一つ。

 

「神よ。どうか私に運気をください」

 

その返答はノイズ警報であった。

 

 

 

偵察ドローンがもたらした映像は、まさしく神からのプレゼントであった。

突如として現れたアメリカ側の少女。

その少女―仮称「ホワイト・ガール」は、天羽々斬を容易くねじ伏せる謎の聖遺物を纏い、そればかりか戦時中のどさくさに紛れて奪われた「ソロモンの杖」まで使いこなし、ノイズを召喚・操りガングニールを磔にしてみせた。

天羽々斬は相手の圧倒的な力の差にボロボロになりながらも後輩を守るため、切り札である「絶唱」を繰り出したところで、映像は途切れた。絶唱の余波でドローンが破壊されたようだ。

確認はできていないが、数ヶ月は絶対安静。当分前線には戻ってこれないだろう。

それはホワイト・ガールにも当てはまる。

いくら圧倒的な聖遺物を纏っているとはいえ、絶唱を直に食らってタダで済むとは思えない。

ガングニールは無事なはずだ。絶唱は破壊の唄であるとともに誰かを守護する唄でもある。絶唱の反動と効果は私自身、よく知っているからこそ断言できる。

何にせよ、強敵二人が手痛いダメージを受けてくれたことは有難い。

 

また、アメリカが裏で糸を引いている証拠を見つけたのも大きい。

そうなるとホワイト・ガールは、確実にデュランダルを奪いに二課を襲う。私と同じタイミングで。

引越しの日は決まっていないが、ホワイト・ガールが負傷しているこの期間を二課が逃すとは思えない。近日中には行われるはずだ。

ガングニールに不安はあるが、襲い掛かってきても今回よりかはマシ、運が良ければ足止めできるだろう。

そして二勢力とも私という存在を知らない。

さらに、一対一になったため、互いは互いに潰し合いをするはずだ。

そうなればデュランダルの守りは薄くなり、奪いやすくなる。

ひっそりと過ごしてきたのが功を奏した。

あとは時が来るまでこの生活を続けるだけのこと。

 





用語解説

・偵察ドローン
隠密性と情報収集能力に特化したドローン。
手のひらサイズでありながら高感度カメラ・生体反応感知センサーが標準搭載されている。
また、彼女のにはシンフォギアを纏う際に出るアウフヴァッヘン波形を感知する特別なセンサーを追加で搭載している。

・アルカ・ノイズ
錬金術によって作り出されたノイズ。
通常のノイズと比べ、防御性能は低いが、分解に特化している。
分解されたものは「プリマ・マテリア」と呼ばれる赤い塵と化す。
バトンによる召喚・操作が可能。


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EP3 「Intruder」

2019/9/19
本文の一部を変更しました。

2019/9/24
用語解説を追加しました。


ホワイト・ガールの介入から二週間近くがたった今日、静かであった状況が大きく動く。

ヒロキ防衛大臣が、何者かにより殺害されたとニュースで報じられた。

それは、アメリカ軍特殊部隊が非公式に日本入りした数日後のことだ。

様々な革命派グループから犯行声明が出ているとのことだが、奴らが関与しているとみて間違いないだろう。

そしてすぐに二課にも動きがあり、彼らの協力のもと至る所で検問が引かれ、外出禁止令が出された。

街は完全封鎖されたゴーストタウンと化した。

この様子だと、今夜にも引越しが行われてもおかしくない。

封鎖範囲と防衛設備の規模から考えて、目的地は永田町の特別電算室。

移送方法は陸路だろう。

ヘリによる空路の可能性も考えたが、ヘリは移動速度が遅く、障害物のない空では狙い撃ちされるため「ない」と判断した。

陸路はヘリよりも遅いとはいえ、小回りが利き、人の動きがない状態であれば移送にかかる時間は最小限となる。

また、自分たち以外の動くものは「敵」と判断し対処もしやすく、建物は長距離からの攻撃を防ぐ障害物にもなる。

マニュアル通りだが、合理的な作戦だ。

私は思考をまとめ、最後の準備へと取り掛かる。

何重にもロックがかかった金庫から2本の矢じりのような宝石を取り出す。

一本はポケットに仕舞い、もう一本は手に握りしめる。

こちらの準備は整った。

戦いに向けて神経を集中させる。

 

 

 

翌日の明朝に始まり、開始早々ホワイト・ガール側が攻撃を仕掛けた。

移送は私の読み通り陸路であり、4台の護衛車がピンクの車を囲って守る。

ありとあらゆる場所に配備させた偵察ドローンは、次々に護衛車がやられていく移送集団を捉え続ける。

かれらは薬品工場に侵入。爆発によるデュランダルの破損を恐れて攻撃してこないと踏んだようだが、ホワイト・ガールはノイズを上手く操り最後の護送車を破壊、メインターゲットであるピンクの車をほぼ無傷のまま転倒させることに成功した。

 

ここで決着がつくッ!

 

そう確信した私は、軍から支給された「行き」のテレポートジェムを床に叩きつけた。

 

 

 

 

 

「♪~絶対に・・・離さないこの繋いだ手はッ!~♪」

 

休業中の薬品工場に少女の歌と衝撃音が響き渡る。

立花響はガングニールを纏い、襲い掛かるノイズを冷静かつ的確に体術で潰していく。その動きは、数週間前まで逃げることしかできなかった少女とは違う。

 

「こいつ、戦えるようになっているのかッ!?」

 

『ネフシュタンの鎧』を纏い、薬品タンクの上で戦いを眺める少女―雪音クリスは驚く。

 

「・・・だが、それがどうしたッ!今度はあたしが相手だッ!」

 

クリスは響に向かって鞭を振るう。

響はその攻撃に気付き、ジャンプで避ける。空振りに終わった攻撃は地面を抉り、土の臭いがより一層濃くなる。

 

(掛かったッ!)

「今日こそはモノにしてやるッ!」

 

空中で身動きの取れない響に、クリスのライダーキックが炸裂する。

 

「くうぅ・・・ッ!」

(まだシンフォギアを使いこなせていないッ!どうすればアームドギアを・・・ッ!)

 

顔面に重い一撃をもらった響は地面に叩き落され、軽く意識が飛ぶ。

それと同時にデュランダルがケースを突き破り、鈍い光を放ちながら取ってくれと言わんばかりに宙に浮く。

 

「響ちゃんの『フォニックゲイン』に反応し、覚醒したというのッ!?」

 

二課の聖遺物研究者であり、先ほどまでデュランダルを載せていたピンクの車の運転手―櫻井了子は驚く。

驚く彼女に目もくれず、クリスはデュランダルを睨む。

 

「こいつがデュランダル・・・ッ!そいつは、あたしがもらうッ!」

 

クリスはデュランダル目掛けて飛ぶ。

人では届かない高さに浮いているが、完全聖遺物を纏った彼女には関係ない。

距離が縮まりあと一歩。勝利を確信し笑みが零れるが、

 

「♪~♪~~♪」

「詠唱だとッ!?一体誰ガッ!?」

 

独特の発砲音と微かな琴の音と共に彼女は姿勢を崩し、立て続けに何者かに顔を踏まれる。

痛みに耐えながら顔を踏みつける不届き者に目をやる。

身長は女性にしては高く褐色肌にベリーショートの銀髪、アジア系の顔に紅の眼を持つそいつは、カーキ色のギアを纏い右手には独特の形をした銃剣が付いた古いライフル銃を、伸ばした左手はデュランダルを掴もうとしている。

 

(奪われるッ!)

 

そう確信したが、

 

「渡すものかぁッ!」

 

本日三度目の衝撃がクリスを襲う。

復活した響による渾身のタックルは、クリスと乱入者の両方に当たり、彼女たちをあらぬ方向に弾き飛ばす。

結果、道を切り開いた響がデュランダルを勝ち取った。

同時に、世界が変わった。

 

 

 

テレポートジェムで薬品工場に転移した私は、ギアを纏い跳躍、今まさにデュランダルを手にしようとしているホワイト・ガールを『マルティニ・ヘンリー』で狙撃、ついでに踏み台として利用させともらった。

手が届くッ!

そう思ったのもつかの間、ガングニールの妨害により、手に取るどころか逆に取られてしまう。

しかも当たり所が悪かったのか、背中がかなり痛い。

おかげで着地もままならず地面を転がる羽目になった。追い打ちに「帰り」のテレポートジェムが破損する失態までしてしまった。

だが、奪うチャンスはあるはず。テレポートジェムが壊れることも想定内で、予備の逃走路も考えてある。

再びデュランダルを奪おうとガングニールに目を向けるが、事態が急変していることに気付く。

 

「・・・U、UUUUUUUUUUUッ!AAAAAAAAAAAAAAッ!」

 

彼女の叫びと共にデュランダルは、必死に抑え込まれていたエネルギーが爆発したかのように光線が空へと伸び、形状が変化する。

先程まで錆びだらけのみすぼらしい剣が、今や神聖な光を放ち完全聖遺物としての格の違いを見せつける。

私の本能が「今すぐ逃げろッ!」と騒いでいる!

だが、同時に美しいとも感じてしまう。

これほどの力を有するのだ。これなら私の願いだって叶えられるはず!

パヴァリアに対抗するだのデュランダルを奪ってこいだのそんなことはどうでもいい!

 

『願いが叶う』

 

今の私には、それだけしか頭にない。

恐怖、もしくは興奮によるものなのか身体が動かず、ただ聖なる見つめることしかできない。

だからお願いだ、デュランダルッ!

その刃で私をッ・・・私をッ!

 

「k「そんな力を見せびらかすなッ!」

 

私の願いは一瞬にして砕け散る。あろうことか隣のホワイト・ガール(デカ乳)は、私の告白を邪魔するだけに留まらず、ノイズまでも呼び出した。

 

「UAAAAAAAAAAAAAAッ!」

 

ガングニールは挑発に答え、ノイズと薬品工場の一掃という形で完全聖遺物の本気を私たちに見せつけた。

 

 

 

 

「ゲホッゲホッ、オエェェッ!とんだ癇癪持ち(スピットファイア)だぜあのクソガキッ!」

 

息が絶え絶えになりながら岸に這い上がる。

振り降ろされた一撃は私にかすりもしなかったが、衝撃波と薬品の爆発で遠く離れた海まで吹き飛ばされ、今に至る。

作戦は失敗。それどころか、私という装者の存在をバラしてしまった。次、ギアを纏えば波形で特定されるため無暗に使えない。

顔も見られているかもしれず、防犯カメラに引っかかる可能性すらある。

虎の子のテレポートジェムはもうない。

下手に動くことができなくなった以上、今すぐに対処する必要がある。

私は傷ついた身体を引きずりながら、海岸近くのセーフハウスへと向かった。

 




用語解説

・テレポートジェム
距離に関係なく空間をゼロ移動するアイテム。
低確率であるが、転送事故を起こす。

・マルティニ・ヘンリーライフル
「*******」のアームドギア。
モデルは19世紀にイギリスで採用された、後装式・レバーアクション式の軍用小銃。
ズールー戦争・ボーア戦争で用いられ、少数ながら第一次世界大戦でも使用された。
単発かつ黒色火薬と古さが目立つが、威力は絶大。
本銃に装着されている銃剣には、鋸のような刃が付いている。


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EP4「Failnought」

大変、長らくお待たせして申し訳ありません。
初の戦闘シーンに苦戦しておりました。

追記

シンフォギア完結おめでとうございます。
7年間、本当にお疲れ様でした。
素晴らしい作品に出合えたことを心から感謝いたします。



 

二課本部の発令所に喪服を着た司令官-風鳴弦十郎は、少し疲れた顔で帰ってきた。

 

「あぁ、亡くられた広木防衛大臣の繰り上げ法要でしたわね」

「あぁ、ぶつかることもあったがそれも俺たちを庇ってくれてのことだ。心強い後ろ盾を失ってしまったな・・・」

 

彼はネクタイを緩め気持ちを切り替える。亡くなった大臣のためにもやれることをやらねばならない。

 

「こちらの進行はどうなっている?」

 

問いを投げかけられた櫻井了子は笑顔で答える。

 

「予定よりプラス17%!」

「デュランダル移送計画が頓挫して正直安心しましたよ」

「そのついでに防衛システム、本部の強度アップを行うことになるとは」

「ここは設計段階から限定解除でグレードアップしやすいように織り込んでいたの。それに、この案は随分前から政府に提出してあったのよ」

「でも確か、当たりの厳しい議員連に反対されていたと・・・」

「その反対派筆頭が、広木防衛大臣だった・・・非公開の存在に血税の大量投入や無制限の超法規的措置は許されないってな・・・」

 

彼は溜息を一つつく。

 

「大臣が反対していたのは、俺たちに法令を遵守させることで余計な横やりが入ってこないよう取り計らっていたからだ・・・」

 

彼は一息入れるため紙コップにコーヒーを注ぐ。

 

「司令、広木防衛大臣の後任は?」

 

作戦発令所付きオペレーターの一人-友里あおいが尋ねる。

 

「副大臣がスライドだ。今回の本部改造計画を後押ししてくれた立役者でもある・・・あるんだが・・・」

「どうかしましたか?」

「協調路線を強く唱える親米派の防衛大臣誕生・・・つまりは、日本の国防政策に対し米国政府の意向が通りやすくなった訳だ」

「まさかッ!防衛大臣暗殺の件にも米国政府が・・・」

「あくまで可能性の話だ」

「それじゃあ司令は、ネフシュタンの少女か『装者X』に米国が関わっていると?」

 

装者X-デュランダル移送作戦にて突如現れた謎の装者。

彼女の纏うカーキのシンフォギアは、データベース上に存在するどのアウフヴァッヘン波形にも該当せず、二課の面々に衝撃を与えた。

現在、目撃証言や防犯カメラの解析で得られた情報をもとにモンタージュを作成、行方を追っている。

 

「それもあくまで、だ・・・」

 

幾度となく行われてきた二課本部へのハッキングに防衛大臣の暗殺、ネフシュタンの少女や装者Xの存在。何よりも内通者が未だに見つかっていないのが大きな痛手だ。

今回の本部強化も聖遺物を纏う彼女たちの前ではどの程度持つか見当もつかない。

そもそも内通者がいる以上、「抜け道」をつくられる可能性は十分にある。

それに対して有効策を出せないことが何よりももどかしい。

弦十郎はコーヒーを一口飲む。

突如、発令所に火災警報が鳴り響く。

 

「大変ッ!トラブル発生みたい。ちょ~っと見てきますわね」

「あぁ・・・」

 

弦十郎はある可能性を思い浮かべながら、現場へと向かう櫻井了子を見送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デュランダル強奪作戦以降、私は「逃げ」の生活を送っている。

二課の包囲網は想像以上に広く、数時間前までエージェントに追われていた。

今は市街地から外れた林の中に身を潜めている。

身を潜めてからいくらか経ち、奴らの気配は感じなくなった。

 

「何とか撒けたみたいね・・・」

 

念の為、スキャナーで周りを調べる。

生体反応、電磁場共に検知されず。

人もいなければ防犯カメラもいないことがわかるとどっと疲れが溢れ出てきた。

 

(そういえば、ここ数日はまともに寝ていなかったわね・・・あの時の傷もまだ治りきっていないし・・・少しだけなら・・・)

 

私は草木に身を潜めながら久々の休息を取ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「♪~その場しのぎの笑顔で、傍観してるより~♪」

 

歌が聞こえる。

ガングニールの少女が奏でる歌が・・・歌が・・・歌・・・歌・・・?

 

「歌ッ!?」

 

眠りから覚め、隠し持っていた銃-MP17を引き抜く。

この歌が聞こえるということは、近くにガングニールが居るといううことだ。

ノイズが出たのか?

だが、計器には何も反応がない。それにノイズ警報も出ていない。

まさか、私を捕らえに?

寝ていたのをわざわざ起こすとは思えない。

 

「ならば何故?・・・グッ!?」

 

突如、衝撃波と砂煙が襲い掛かる。

 

(何が起きてるか分からないけど、巻き込まれるのはゴメンよッ!)

 

戦闘音が鳴り響く方向とは逆に走り出す。

だが、音は私を追うかのように近づいてくる。

逃げろッ!逃げろッ!巻き込まれたら終わりだッ!全力で逃げろッ!

 

「吹き飛べよッ!アーマーパージだッ!」

 

その叫びが耳に届いた瞬間、咄嗟に木の陰に隠れ伏せた。

伏せると同時に辺りに破片が散乱、木々は倒れ、地面は抉られる。

降りかかる衝撃と恐怖を堪え、じっと耐える。

ほんの一瞬、されどとてつもなく長く感じた衝撃が収まり顔を上げる。

幸い負傷はない。静かになった今のうちに距離をッ!

 

「♪~Killter Ichaival tron~♪」

(詠唱ッ!?それにイチイバルってあの『イチイの弓』ッ!?つまりあのギアは私のと同じ、銃になるんじゃッ!?)

 

再び身を伏せ、匍匐前進で逃走をはかる。

この行動は功を奏した。

先程まで頭のあった場所を低い唸り声を上げるハリケーンのごとく弾丸が過ぎ去っていく。

さらに、ロケットブースターの金切り声も追加される。

 

「ミサイルは流石に不味いわよッ!?って、嘘ッ!?」

 

思わず後ろを振り向くと、目の前にはミサイルの追尾から逃れようとこちらに向かって走ってくるガングニールの姿があった。

彼女も私の存在に気付いたらしく驚きのあまり足を止める。

それが決定打となった。

ガングニールは自らの失態に気付くも時すでに遅し、無慈悲なミサイルは達はその隙を逃さず、一斉に襲い掛かる。

 

林は巨大な爆炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身体が重い・・・耳鳴りも酷い・・・頭もクラクラする・・・焦げた臭いも相まって吐き気が込みあげてくる・・・

 

それでも私は必死に立ち上がる。

 

(あれ?・・・私、立てる・・・)

 

あれだけの攻撃を受けて欠損どころか傷一つない。

まだ混乱から立ち直っていない頭だが、そのことは理解できた。

そして、その訳もすぐに分かった。

後ろにそびえる巨大な盾

 

(つるぎ)だッ!」

 

訂正、(つるぎ)が私たちを守った。

 

「蒼いシンフォギア・・・天羽々斬ッ・・・!」

 

天羽々斬は剣の頂点から私を一睨みし、目線をホワイト・ガールもといイチイバルへと移す。

 

「ふんッ、死に体でおねんねと聞いていたが、足手まといを庇いに現れたか?」

「もう何も、失いものかと決めたのだッ!」

「ぅ・・・翼さん・・・?」

「気付いたか、立花。だがわたしも十全ではない・・・そいつを頼んでもいいか?」

「は・・・はいッ!、さあ、こっちにッ!」

 

ガングニールは私の腕を掴み避難させる。

その顔はとても真剣に、しかしどこか焦りが感じられた。

 

(まさか、私の正体に気付いていない?ならば・・・)

 

「ちょ、ちょっと貴女ッ!」

「は、はいッ!?」

「私は大丈夫。だからさっきの人に加勢してあげて」

「でも、また巻き込まれるかもしれないんですよッ!」

「それでも、よ。あの人には貴女が必要なんだと思う。だから、行ってあげて」

「どうしてそう「そう思うのかって?長年の勘・・・かな?」

 

私は軽く微笑む。

ガングニールはしばし迷っていたが、意を決し「気をつけてくださいねッ!」と言い残し、天羽々斬の加勢へと向かった。

少女の情けに付け入るのは心苦しいが、これも戦略。許せ。

二課の監視もなくなったところでこの場から離れようとする。

だが砲弾が降り注ぐような音が聞こえ、すぐさま回避行動を取る。

同時に先程までいたところにドリル状のノイズが突き刺さる。

さらに2体が上空から狙いを定め、襲い掛かる。

ギアを纏う暇もない。

私は後先考えず走り出した。

ノイズは連続砲撃のごとく降り注ぎ、私は寸のところでかわし続ける。

そして、開けた場所へと出た。

そこは先程まで装者たちが争い合っていた場所。

 

(嵌められたッ!)

 

この際だ、利用できるものは利用してやるッ!

私は天羽々斬の後ろに隠れる。

その後ろでは、イチイバルが敵であったはずのガングニールを介護している。

あの一瞬でどうしてこうなったのか理解できないが、ガングニールは戦闘不能に陥っている。

 

「命じたこともできないなんて、あなたはどこまで私を失望させるのかしら・・・?」

 

突如、林に女の声が響く。

その声が聞こえる方角には、全身黒服に身を包みソロモンの杖を持つブロンドの髪の女がいた。

 

「フィーネッ!」

 

イチイバルが叫ぶ

 

(フィーネだとッ!?まさか、たった一人でパヴァリア幹部とやり合ったあのフィーネなのかッ!?)

「こんな奴がいなくたって、戦争の火種ぐらいあたしひとりで消してやるッ!そうすれば、あんたの言うように人は呪いから解放されて、バラバラになった世界は元に戻るんだろッ!?」

 

イチイバルは抱きかかえていたガングニールを突き飛ばす。

まともに立つことのできないガングニールは崩れ落ちそうになるが、天羽々斬によって抱えられる。

 

「ふぅ・・・もうあなたに用はないわ・・・」

「な・・・なんだよそれッ!?」

 

フィーネと呼ばれた女は、それに答えることなく右手を光らせた。

するとアーマーパージであちこちに散らばった聖遺物の破片が光の粒となり、彼女の右手へと集まる。

光の粒を集め終えるとフィーネは私たちにソロモンの杖を向ける。

その動きに応え、上空にいたノイズが一斉に襲い掛かった。

 

「援護する、確実に仕留めてッ!」

「承知ッ!」

 

襲い掛かるノイズに銃撃を加える。

シンフォギアで実体化しているノイズなら通常兵器でも多少、ダメージを与えられる。

私の目的はあくまで天羽々斬の支援。

少しでもダメージを与え、ガングニールの介護で片腕が塞がった天羽々斬が仕留めやすくする。

銃撃で落下速度が落ちたノイズは、一刀両断され次々と炭へと変わっていく。

私たちがノイズを相手しているなか、フィーネは逃走。

イチイバルもそれを追うように戦線離脱した。

 

「ラストッ!」

「はぁぁぁッ!」

 

最後のノイズが消滅する。

 

「お疲れ様、天羽々斬。それじゃあ私はこれで・・・」

 

MP17を収め、さり気なく立ち去ろうとする。が、

 

「待て、貴様は報告にあった装者Xだな」

 

天羽々斬は、私に切っ先を向ける。

なるほど、私は装者Xと呼ばれているのか。

 

「だったら何?」

「貴様のシンフォギアについて聞きたいことがある。私たちと共に来てもらおうか」

「断れば?」

「力尽くで連れていくまでッ!」

 

戦闘態勢に入る天羽々斬。だが、私は「待った」を掛ける。

 

「動けないガングニールを背負ったままで?その気になれば、その子を人質に取ることもできるのよ。それに貴方言ってたわよね、『十全ではない』って。悪いことは言わない。今日は引きなさい」

「それには心配に及ばぬッ!緒川さんッ!

「響さんは任せてくださいッ!」

 

突如現れたスーツの男。

状況が理解できぬまま銃を引き抜くも、男に向けるよりも先にガングニールを連れて残像を残し、去ってしまった。

驚く暇もなく天羽々斬は距離を詰める。

やむを得ないッ!

 

「♪~Tear flood Failnought tron~♪」

 

土色のシンフォギアを纏い、一閃をかわす。

同時に洋弓のアームドギアを形成、距離を取りつつ矢を放つ。

照準は外れている。だが、問題ない。

琴の音と共に放たれた矢は、天羽々斬に向かってあり得ない軌道を描きながら突き進む。

不意を突かれた彼女は足を止め、矢を弾く。

傷を負わせられなかったが、間合い(キルゾーン)から逃げることには成功した。

 

「フェイルノートッ、それが貴様のシンフォギアかッ!」

「ご名答。私のシンフォギアは『必中の弓』ッ!間合いさえ取ればこっちのもんよッ!」

「ならば詰めるまでッ!」

 

天羽々斬が再び距離を詰める。

私は矢を放ち迎撃するも、足止めには及ばない。

ならば、次の手を使うまでッ!

振り降ろされる一撃に対し、弓を変化させ防ぐ。

(天羽々斬)と相対するのは、大英帝国が生んだ傑作ボルトアクション式ライフル『|SMLE《ショート・マガジン・リー・エンフィールドMk.Ⅲ》』。

その銃身の先に付いた銃剣が、刀と張り合う。

金属と金属が擦れ、不快な音が手から伝わる。

 

「銃剣とは妙な得物をッ!」

「本職は選抜射手(マークスマン)ッ!されど、銃剣(こっち)も得意なのよッ!」

 

絶唱の傷が完全に癒えきっていないためか、想定していたよりも攻撃に重みがない。

されど、こちらは所詮銃剣。

本職相手には分が悪く、鍔迫り合いは徐々に天羽々斬が優勢となっていく。

この状況を打開するため、私は無理やり引き金を引く。

銃身は明後日の方向に向いている。

だが、放たれた銃弾は木に当たり跳弾を繰り返し天羽々斬の左肩に直撃する。

彼女の力が弱まり、こちらはフェイルノートの特性でフォニックゲインが上昇。

その一瞬を逃さず銃剣に力を籠め、鍔迫り合いを無理やり中断。

ライフルを反転させ、銃底で天羽々斬を殴りつける。

彼女はそれを刀の腹で防ぎ、流れるように反撃へと繋げる。

私はバックステップで回避しつつ、ボルトを引く。

着地と同時に照準を合わさず発砲。

銃弾は彼女のヘッドホンを擦る。

私はすぐさま次弾を装填。

今度は確実にダメージを与えるため狙いを定める。

発砲、サイドテールに穴を開ける。

発砲、刀で弾かれる。

さらに3発続けて発砲、全て切り払われる。

 

(まさか、最初の3発で着弾のタイミングを掴んだのかッ!)

 

『必中の弓』の名を持つフェイルノートは、視界に標的が入っていれば必ず遠距離攻撃が当たる特性を持つ。

それは、相手に「確実に当たる」と宣言していることであり、銃弾を防ぐ術・タイミング・軌道を掴まれると簡単に無効化される大きな弱点を持つ。

私が最も得意とする攻撃を封じた天羽々斬の勢いは止まらない。

10発目の装填が終えたところで彼女の侵入を許し、片手だけで刀を振るう。

私は銃剣を駆使し、刀を弾く。

その衝撃で刀は右手から弾き飛ばされる。

だが、彼女はそれを予想していたかのようにそのまま私の懐に入り、蹴り飛ばした。

私の身体は大きく吹き飛び、大木に打ち付けられる。

意識が刈り取られそうになるも、必死に耐え反撃に移るために力を籠める。

しかし、

 

「身体が・・・動かないッ!?」

 

まるで何かに固定されたかのように動けなくなった。

 

「貴様の影を縫わせてもらったわ」

 

《影縫い》

 

見れば、私の影に短刀が刺さっている。

短刀を抜こうとするが、追加で二本。両腕の影が縫われる。

 

「トンデモにも程があるでしょッ!」

 

空間に貼り付けにされるという初めての感覚に嫌悪感を抱きながら、今できる精一杯の反撃をする。

反撃された当の本人は、一切表情を変えることなく左腕をだらけさせながら刀を拾い、ゆっくりと近づく。

 

「さて、もうすぐ日が暮れる。こちらもあまり手荒な真似をしたくないが故、大人しくギアを解除してもらおうか」

「貴女にYESと言うとでも?」

「ならば・・・」

 

切っ先が私の胸、正確にはシンフォギアのペンダントに向けられる。

 

「ギアを壊し、脱がすまでだ」

 

流石に本気みたいね・・・

現状、胴体を動かすことは不可能。

切っ先はペンダントの目の前にあり、今の状態で狙いを外すことを願うのは大馬鹿野郎だ。

幸い指先は動く。

SMLEは最後の一発が装填済み。

刀は片刃、しかも刃を下向きに突き出している。

逃げ道は見えた。

あとはタイミングを合わすのみ。

天羽々斬が切っ先に力を籠め、軽い突きを繰り出す。

 

(ここッ!)

 

突きと同タイミングで目線を左腕の影に刺さった短刀に移し、引き金を引く。

跳弾でUターンした銃弾は短刀を弾き飛ばす。

捕縛から解放された左手でギアを穿とうとする刀をわざと軽く触れ、軌道を逸らし・・・

 

「グゥッ!?」

「な・・・貴様ッ!?」

 

切っ先は私の右肩を抉る。

鎖骨が易々と切り裂かれ、痛みのあまり声が漏れる。

だが、全ては狙ったこと。

天羽々斬は、私を殺すつもりがない。

そして、刃を下向きにして突いた。

この二つが大きな仇となった。

彼女が驚いている隙に右腕の捕縛を解除、それを縛っていた短刀を投げつける。

彼女は肩に刺さった刀を抜き、雑に返却された短刀を弾く。

その間に私は自由になった右手で三本目の短刀を引き抜き、自由の身になる。

 

「逃がすものかッ!」

「逃げさせてもらうッ!」

 

私は、スタングレネードを投げつける。

グレネードは天羽々斬の目の前で爆発。

強烈な音と光が彼女の感覚を狂わす。

それでも彼女は己の勘を頼りに天羽々斬を振るう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

混濁していた視界と聴覚が戻り、風鳴翼は辺りを見渡す。

戦闘によって大きく切り開かれた林に装者Xの気配は感じられなかった。

 

(影縫いまで使って逃すとは・・・わたしもまだまだ未熟だ・・・)

 

だが、確かなことがある。

最後の一撃は、浅いが手ごたえはあった。

 

(次は本気で行かせてもらうぞ、装者Xッ!)

 

再戦を胸に秘め、彼女は二課本部へと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




EP4「Failnought」 用語解説

・フェイルノート
UDの使用するシンフォギア。
メインカラーは「カーキ(土色)」
トリスタン卿が竪琴を弓に改造して使用したものと言われており、狙った場所に必ず当たる「必中の弓」とされている。
その特性はシンフォギアになった今でも残っているが、性能は落ちて狙った「相手」に必ず当たる弓となっている。
また元が竪琴であったため、遠距離攻撃時には少量ながらフォニックゲインを生み出すことができる。
アームドギアは「洋弓」であるが、UDの心象(使い慣れている)に影響されて「銃火器」に変化することがほとんど。
その点はイチイバルと同じだが、イチイバルが長距離広範囲攻撃を得意にしているに対し、フェイルノートは長距離精密攻撃を得意とする相違点がある。

・MP17
UDが所持するピストルカービン。
SIG P320/M17を専用キットでカービン化した銃。
高い拡張性を持つ。

・SMLE
フェイルノートのアームドギア。
モデルは1907年にイギリス陸軍で採用され、長きに渡って使われ続けたボルトアクション式ライフル。
独特の構造により、ボルトアクション式としては例外的な速射が可能。



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EP5「Stop that Nois!」

まさか二ヶ月も放置してしまうとは・・・
待っていただいた方、本当に申し訳ありません。



「これで何とか・・・グッ!?」

 

僅かなしかないコンテナの中で痛みから漏れる声が反響する。

天羽々斬の一閃を貰った右太ももに新しい包帯を巻きなおす。

何度もやってきた作業であるため時間はかからないが、痛みだけは慣れない。

たまらず鎮痛剤を打ち、壁に身をゆだねる。

天羽々斬との戦闘から数日が経った。

想定外の戦闘と傷を負った私は、港のコンテナの中で傷を癒している。

ここ最近は市街地を中心に小規模なノイズの反応とイチイバル、稀にガングニールの反応を確認した。

ノイズの規模やイチイバルがギアを纏う場所やタイミングから推察するに、彼女は操られたノイズによって追われているのだろう。

よりにもよって雇い主に。

自らが信じたモノに裏切られ、命まで狙われる。

あの少女がどこまで手を染めたかは分からないが、一般人を巻き込んだことは確かだろう。

どんな理由があろうとも許されることではない。

だが、同時に彼女の気持ちもよくわかる。

林の中で叫んでいた言葉。

呪いというのがよくわからないが、彼女が本気で争いを憎み、無くそうと躍起になっているのは感じられた。

最小限の犠牲で最大限の平和をもたらす。

信じて疑わないその姿はまるで・・・

 

「私と同じだな・・・」

 

私は願いを叶えるため多くの者を傷つけ続けるだろう。

だが、その行為を子供がするのは見ていられない。

それが敵対する者であっても・・・

心を落ち着かせるため瞼を閉じるが一向に収まる気配はなかった。

 

 

 

 

 

嘘か真か第六感というものが存在するという。

そんな存在があやふやなものが、仮眠を取ってた私に働いた。

目に映るものは乱雑に投げ捨てられた空の医療品と僅かな明かりのみ。

だが、この手の感覚は外れたためしがない。

警戒し続けているとノイズセンサーが危険度5を示す警告音を発する。

危険度5はノイズがすぐそばにいることを表す。

コンテナの中では逃げ道が少ない。

急いで扉を開け、外の様子を確認する。

 

「なによ・・・これ・・・」

 

周りにはノイズ、ノイズ、ノイズ・・・

コンビナートを埋め尽くすほどのノイズがこちらに気付き、迫ってくる。

逃げたいところだが、包囲され逃げ道はない。

本調子とは程遠いがやるしかない。

 

「無人兵器ごときが、私を殺せると思うなよッ!」

♪~Tear flood Failnought tron~♪

 

フェイルノートを纏い、ハッキリと認識できるようになったノイズを弓で打ち抜いていく。

近くにいるヤツ、急速接近してくるヤツを優先的に素早く確実に仕留めていく。が、如何せん数が多い。

そこでアームドギアをルイス軽機関銃に変形させ、狙いは程々に引き金を引く。

特徴的なパンマガジンが回転しながらノイズを薙ぎ払い、5秒ほどで空となる。

それを素早く交換し、再度弾幕を張る。

できるだけ絶え間ない攻撃を行い近づけさせないようにする。

それでもリロードの隙と圧倒的な物量の前に徐々に接近を許し、体術を繰り出す回数が増えていく。

疲労と怪我も重なりいつもより体力の消耗が激しい。

数百体は倒したはずだが、ノイズの数は減ってないようにすら思える。

 

「それがどうしたッ!私はここで止まるわけにはいかないんだッ!」

 

そのとき、周囲にいたノイズが爆ぜる。

驚く私の目の前に深紅のギアを纏ったイチイバルが降り立つ。

 

「派手な登場だね。でも助かった」

「別に助けたわけじゃねぇ。ただ、ミサイルがこっちに飛んで行っただけだ」

「なら貴方のギアに感謝するよ。正直、この数を一人で相手するのはキツイから」

「ハッ!イギリスの装者様は大したことねぇなッ!」

(何故そのことを知っている!?)

 

再び驚いた顔をしている私にイチイバルは、何もかもお見通しと言わんばかりの勝ち誇った顔をしている。

 

(まさか、フィーネの正体は・・・いや、今はそれどころではない)

「貴方にいろいろと聞きたいことはあるけど、今は目の前の騒音を黙らせましょう」

「アタシを踏み台にした奴と協力すると思うか?」

「協力じゃない、どちらが最後の一体を倒せるかの勝負よ。それに理由はどうあれ貴方が自ら戦いに参加したってことは何か思うことがあるのでしょ?」

「・・・気に食わねぇ。アンタがアタシを知ってるかのようなその口調ッ!」

「気に食わなくて結構。それで乗るの?乗らないの?」

「乗ってやるよ、その勝負ッ!」

 

二人の装者は背中を合わせる。

空気を読んだのか、はたまた二人相手にどう立ち回るか練っていたのか先程まで膠着していたノイズが滲みよる。

 

「Three count!」

 

気持ちが切り替わる。

 

「「Three!!」」

「「Two!!」」

「「One!!」」

「「Fire!!」」

 

二つの銃声()が重なり鳴り響く。

戦場(ライブ会場)に舞うのは鉛玉と空薬莢と炭。

華々しさも客もいない。

ただ生き延びるための野外ライブは敵同士であるはずの二人組により、盛り上がりを見せる。

高まる歌声は新たな(アームドギア)を作り、さらに盛り上がる。

あるときは片方が担当し、またあるときは片方のミスをカバーずる。

掛け声などいらない。

なぜなら、仲間ではなく敵なのだから。

カンとノリとテンションだけで調律し、戦う原動力となる。

だが、ペースを乱す者はいつも突然現れる。

突如、戦場に響いた砲撃音。

驚いたのも束の間、私たちは爆炎に飲まれる。

 

「「グワァァァッ!!」」

 

砲撃音は海の方向から。

見れば要塞型ノイズが港に上陸してくる。

その光景は昔観た日本の怪獣映画そのもの。

 

「クソッ、これでも喰らいやがれッ!」

≪MEGA DETH PARTY≫

 

イチイバルが腰部のアーマーを展開し、マイクロミサイルを要塞型に放つ。

だが、目立った効果はない。

それどころか私たちに砲身を向けてくる。

 

「散開ッ!」

 

叫びと共に鳴り響く砲撃。

直撃は避けたものの、爆風からは逃れられず吹き飛ばされ、倉庫の壁に叩きつけられる。

衝撃に意識が飛びそうになるのを堪え、立ち上がるが、再び砲撃が行われる。

迫りくる砲弾が目に映る。

弾道は直撃コース、避けることは不可能。

私は覚悟した。

 

「はあッ!!」

 

雄たけびと共にガングニールが空から舞い込み、迫りくる砲弾を粉砕する。

唖然とする私をよそに地面を割りながら着地する彼女は、一呼吸整え次の攻撃に移る。

なんとノイズの群れの中を駆け抜けた!

残像を残しながら!

彼女が駆け抜けたところには大量の炭が出来上がる。

 

「これが・・・ガングニールの力・・・」

 

二人で戦っても厳しかったあの数を彼女はたった一人で蹴散らした。

装者になって数ヶ月しかたっていない少女が・・・

 

「ッ!、危ないッ!」

 

あらかたノイズを倒し、立ち止まった彼女に要塞型が砲撃する。

咄嗟に私はルイスで、イチイバルはガトリングガンで砲弾を迎撃する。

 

「勘違いするなッ!これで貸し借りはナシだッ!」

 

イチイバルは捨て台詞を吐き、戦闘に戻る。

 

「助けてくれてありがとうガングニール」

「間に合ってよかったです!えっと・・・」

「名前は無い。好きに呼んで」

「じゃあエックスさん、私と一緒に戦ってください!」

 

ガングニールは真剣で敵意が一切籠っていない目で私に頼み込む。

人手が多いことに越したことはない。

だが私は彼女の厚意を利用し、仲間を傷つけた。

それでもなお、わざわざ私に頼む意図が分からない。

 

「いいわよ。でも、貴方の戦う理由を教えて」

「・・・私は翼さんの夢を守りたい。翼さんは今、一人で戦っています。私は拳で殴ることしかできないけど、今はそれで守れる!だから私は戦うッ!」

「貴方は・・・とても歪な人ね・・・」

「え・・・」

「合格ってこと。やるわよ、ガングニールッ!」

「ッ、はいッ!あ、あと私の名前はガングニールではないですッ!立花響ですッ!」

「了解よヒビキッ!」

 

私たちはイチイバルの加勢に向かう。

彼女がガトリングガンで薙ぎ払い、撃ち漏らしをヒビキと私が処理する。

近距離も遠距離も揃ったチームの前にノイズは消え去っていく。

もちろんノイズたちも黙ってやられる訳でも無く、要塞型含め必死に抵抗するが、私たちは容易く躱す。

要塞型の一撃を躱した響は空中で腕のパイルバンカーを引き延ばし、力を籠める。

そして重力も追加した一撃を地面に叩きつけた。

衝撃波は真っ直ぐ要塞型に向かい足場を破壊、動きを封じる。

 

「チャンス!トリは任せたッ!」

「了解ですッ!」

 

私とヒビキは、貯まったエネルギーをアームドギアにまわす。

私が形作るは装甲をもブチ破る貫通力をもつ武器。

上部に付いたマガジンに特徴的なT字単脚、全長1.5m以上ある巨体なライフル-ボーイズ対戦車ライフルを形成する。

ヒビキはできる限りパイルバンカーを引き延ばし、一直線に駆ける。

私はすぐさま初弾を叩き込み、狙いを定める。

狙うはヤツの砲身。

 

(そこッ!)

 

≪.55 TANK STOPPER≫

 

最期のあがきに向けられる4門の砲を的確かつ素早く潰す。

マガジンに残った最後の一発は、本体の中心に突き立てる。

意図を読んだヒビキは、突き立てた銃弾目掛けて鉄拳を叩き込み、間髪入れずにパイルバンカーが作動する。

鉄拳で無理やり体内に入れられた弾丸は、圧縮されたエネルギーによって爆発・粉砕した。

結果、ノイズの体内で破片が飛び散り、内部と外部の両方から形を崩していった。

 

 

 

 

 

 

「やりましたよエックスさんッ!って、あれ?クリスちゃんは?」

 

ヒビキが満点の笑みで私に駆け寄ってくる。

 

「イチイバルなら先に帰ったわよっと」

 

私はボーイズを杖代わりにし、立ち上がる。

 

「もしかして何処か怪我を!?って、よく見れば肩や足に血が!止血止血、止血の方法はえぇっと・・・」

 

言われて気付いたが、天羽々斬に付けられた傷口が開きインナーから血が滲んでいる。

 

(そういえばギアを纏うと包帯も取れるんだった)

「傷口が開いただけだから大丈夫よ」

「えぇッ!それ全然大丈夫じゃないですよッ!早く病院に」

「本当に大丈夫。あとで治しとくから」

「・・・わかりました。でも、無理だけはしないでくださいね!」

(全く・・・本当に変わった奴だ)

 

敵であるはずの私を心配する彼女の姿がどうしようもなく眩しい。

戦う覚悟を決め、武術を習得した彼女ならすぐにでも私を組み伏せることができるはずだ。

何より、私の身体はここ数日の疲労と傷の影響で抵抗すらもままならないだろう。

だが、彼女はその気すらを見せない。

本気で私の事を思ってくれている。

その気持ちだけで十分だ。

 

「それでその・・・」

 

先程と打って変わって彼女は歯切れ悪く口を開く。

 

「エックスさんデュランダルが欲しいのですよね。訳を聞かせてくれませんか?」

 

緩んでいた空気が張り詰める。

 

「無理にとは言いませんし私なんかが役に立てるかどうかはわからないです。けど、誰かを助けるためなら私も師匠にお願いします。だからッ!」

「どうしてそこまで加担する?私は貴方の仲間を傷つけたのよ」

「それは・・・そうですけど・・・でも、翼さんは言っていました。気を失っていた私を翼さんと一緒にノイズから守ってくれたって。さっきだって私を守ってくれたじゃないですか」

「両方とも状況が状況だっただけよ」

「それに私たちは同じ人間です!言葉で通じ合えます!なら、「ガングニールッ!」ッ!」

 

思わず叫んでしまい気まずくなる。

だが、これだけは彼女に伝えなくてはならない。

 

「ごめんなさい。貴方の気持ちは嬉しい。でも、これは私個人の問題、他人が、特に貴方達に関わって欲しくないの」

 

暗くなるガングニールの顔が、私の胸を締め付ける。

しかし、こればかりは私がケジメを付けなくてはならない。

例え、

 

「私たちと戦っても・・・ですか?」

「戦っても、よ・・・」

「協力し合えたのに・・・」

「それでも、よ・・・」

 

ガングニールが俯き、地面が濡れる。

戦場に立つにはあまりに優しすぎる。

余計に巻き込みたくない。

だが、自ら踏み込んだ者にそれを言うのは無礼だ。

だから、

 

「だから、貴方は全力でデュランダルを護りなさい。アレがどれほど危険か貴方は知っている。あんなモノが、何しでかすか分からない奴に取られないように護ることが貴方の使命であり、誰かを護ることに繋がるはずよ。タチバナヒビキ」

「・・・そう、ですよね」

 

彼女は乱暴に涙をぬぐい、顔をあげる。

 

「約束しますッ!私が、いえ、私たち二課がデュランダルを誰にも奪わせない、護ってみせるとッ!」

 

彼女は宣言した。

なら、返答は一つ。

 

「その約束、私が破ってあげるわッ!」

 

宣戦布告と共にヒビキに背を向け、夜の街へと向かう。

だが、闇に消える前に一言

 

「助けてくれてありがとう、ヒビキ」

 




用語解説

・ルイス軽機関銃
第一次世界大戦期にイギリスで生産された軽機関銃。
パンマガジンと銃身に覆われた冷却筒が特徴。
故障は多かったが、同時期の機関銃と比べ軽量かつある程度の信頼性があったため幅広く使われた。

・ボーイズ対戦車ライフル
1937年にイギリス軍で採用されたボルトアクション式対戦車ライフル。
36インチ(914.44mm)の銃身から発射される13.9mm弾は、通常の小銃と比べ破格の貫通力と破壊力を持つ。


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EP6「Adult」

どんどんと伸びる投稿期間・・・
本当に申し訳ないです。


 人里離れた森の中にそびえたつ大きな洋館。

湖の傍に立てられたその立派な建物の大広間は、

 

「うッ、酷いな・・・」

 

胴体に大きな穴を開けた死体がいくつも転がり、血と硝煙の匂いが充満した地獄と化していた。

割れたガラスや壁に残る数えきれないほどの銃痕が、ここで起きた戦いの激しさを、そして死体は一方的であった事を物語る。

私は死体を踏まないよう奥へと進む。

ここに来たのは死体を見るためではない。

彼女に関する情報を得るためだ。

ことの始まりは今朝。

返信不可能なデバイスに届いたメッセージには、この地で暗躍する米軍特殊部隊の行き先が綴られていた。

そこは衛星写真では湖しかない森の中。

だが、実際には違った。

どうやら世界中の衛星を乗っ取り、巧妙に隠していたようだ。

 

(流石としか言えないわね)

 

ここまで徹底している彼女の事だから情報は消されているだろう。

それでも傷だらけの身体に鞭打って来たのだ。

タダで帰るのは割に合わない。

少しでも情報が残っていることを祈りながらボロボロのコンソールにデバイスを繋げようとしたとき、廊下に足音が響く。

私はすぐさま物陰に隠れ、隙間から様子を窺う。

 

「はぁッ、はぁッ・・・なッ!」

 

部屋に駆け込んで来たのはイチイバルだった。

 

「何が、どうなってやがるんだ・・・?」

 

彼女は惨劇を前に戸惑いながらゆっくりと部屋を進む。

そしてもう一人、赤シャツの大男が現れ、彼女を見据える。

アイツは資料に載っていた。確か、二課の総司令のゲンジュウロウ・カザナリだ。

 

「あ、ち、違うッ!あたしじゃないッ!やったのは―」

 

狼狽える彼女が言い終える前に銃を手にした黒服(二課捜査員)が部屋になだれ込む。

イチイバルは身構えるが、彼らは彼女の横を通り過ぎ、死体やコンソールの操作を行う。

 

「誰もお前がやったなどと、疑ってはいない。すべては、君や俺たちの傍にいた彼女の仕業だ。・・・隠れてないで出てきたらどうだ『エックス』」

「なッ!?アイツがッ!」

 

彼の鋭い視線が私を射抜き、思わず身を隠す。

同時に黒服たちの銃口が私に向く。

 

「よせ、銃を降ろせ」

 

赤シャツが一人の黒服の銃を降ろす。

他の黒服も渋々納得したようでこちらに向けられていた殺気が消えた。

ここは下手に逃げない方がいい。

無意識に握りしめていた銃を離し、両手を上げながら姿を見せる。

 

「よく見つけたわね。隠れるのには自信があったのだけど」

「前の職が職だったものでな。人の気配には敏感なのさ」

「流石、カザナリの血が流れてるだけあるわね」

「ほう、随分と詳しいようだな」

「まあね。貴方も元気そうで何よりよイチイバル」

「お、おう・・・」

 

さて、挨拶は済ませた。

 

「それで」

 

こちらに争う気がないことが伝わり、

 

「お前さんはどこまで知っているんだ?」

 

赤シャツが本題に移す。

 

「せいぜい彼女の正体、あとはそこに転がっている死体についてぐらいわ」

「彼らの仲間だと思っていたが」

「寧ろ追われている身よ」

 

私は死体に目をやる。

 

「彼らは公に存在しない部隊の者たち。名前も、家族も、魂でさえも米国に捧げた人間よ」

「やはり一連の事件、米国政府が手を引いていたか。そして彼女も―」

「繋がっていた、それも何年も前からね」

 

真実を告げられた彼の表情は変わらなかった。それでも何処か悲しそうで、悔しそうだ。

今はこれ以上、彼女について語るのはやめておこう。

 

「まぁあの国が相手なんだ。寧ろよくここまで拗れずに持ったと思うよ」

「それはどういう―「風鳴司令、これをッ!」

 

一人の黒服が何かを見つけたらしく声をかける。

見れば死体に置かれたメッセージカードに手を掛けようとしていた。

 

「よせッ!」

 

私は止めに入るが、遅かった。

カードに仕込まれたワイヤーが引っ張られ、起爆装置が作動、部屋の至る場所に仕込まれた爆弾が一斉に爆発する。

私たちは爆炎に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

「う、くッ・・・まだ耳鳴りがする」

 

爆発でやられた聴覚が大方治り、頭が無事であることを実感すると各部位の確認に移る。

 

(足もよし、痛みもないし立っている。腕は・・・ん?)

 

ふと、妙な事に気付いた。

あれ程の爆発を喰らったのに立った状態で無傷、というより私の周りだけやたら被害が少ない。

そして私は何かに抱き着いている。

まさかッと思い、ゆっくり視線を上げると

 

「すまないがそろそろ離れてくれると助かる。これを置きたいのでな」

 

そのまさか、片手で巨大な瓦礫を持つ赤シャツがいた。

 

「えっと・・・その手で支えているモノって・・・」

「さっきので落ちてきたヤツだ。衝撃波は発頸で掻き消したが、これだけはどうにもならんくてな」

 

・・・何言ってるのこの人・・・・・

 

「?何を驚いているか知らんがそろそろ離れてくれ。彼女も苦しがっている」

 

彼の視線は私の胸元に向けられる。

その視線を追うと

 

「~~~~~ッ!~~~ッ!」

 

苦しそうな声を上げるイチイバルの姿があった。

 

「ッ!?ご、ごめんなさいッ!」

 

すぐさま拘束を解き、彼女を開放する。

 

「プハッ、危うくサンドイッチになるとこだったぞッ!」

 

解放された飛び退くように私たちから距離を開け、睨む。

 

「その様子だと怪我はなさそうだな」

「そういう問題じゃねえッ!どうしてギアを纏えない奴がアタシを護ってんだよッ!お前もだッ!ギアを纏える奴がなんで使わねえんだッ!」

「俺がお前を守るのはギアの有る無しじゃなくてお前よりか少しばかり大人だからだ」

「確かにギアを纏えば私は助かった。でも、それだと貴方を見殺しにしてしまう。それは大人として恥ずべき行為よ」

「大人・・・?」

 

私たちを睨む目がより一層きつくなる。

 

「アタシは大人が嫌いだッ!死んだパパとママも大嫌いだッ!」

 

彼女の叫びが私の奥底で木霊する。

 

「とんだ夢想家で臆病者ッ!あたしはあいつらとは違うッ!戦地で難民救済?歌で世界を救う?いい大人が夢なんか見てるんじゃねーよッ!本当に戦争をなくしたいなら、戦う意思と力を持つ奴らを片っ端からぶっ潰せばいいッ!それが一番合理的で現実的だッ!」

 

違う。

それで平和と思えるのはほんの一瞬、憎しみや悲しみに目を背けられる間だけ。そこで生まれた負の感情はやがて新たな戦争の火種となる。屍を積み上げて築いた仮染めの平和は誰も笑顔にしない。

そう言おうとした。だが、

 

『分かっていながら何故銃を持つ?』

 

声に出す前に誰かが頭の中で囁いた。

 

「そいつがお前の流儀か。なら聞くが、そのやり方で、お前は戦いをなくせたか?」

 

赤シャツがイチイバルに尋ねる。

 

「―ッ!?それは・・・」

「いい大人は夢を見ない、と言ったな。そうじゃない。大人だからこそ夢を見るんだ」

 

『血で染まりきったお前が彼女に説教とはな』

殺したくて殺したんじゃない、仲間のために仕方なくッ!

 

「大人になったら背も伸びるし、力も強くなる。財布の中の小遣いだってちっとは増える。子供の頃はただ見るだけだった夢も、大人になったら叶えるチャンスが大きくなる。夢を見る意味が大きくなる。お前の親は、ただ夢を見に戦場に行ったのか?・・・違うな。歌で世界を平和にするって夢を叶えるため、自ら望んでこの世の地獄に踏み込んだんじゃないか?」

「なんで、そんなこと・・・」

「お前に見せたかったんだろう。夢は叶えられるという揺るがない現実をな」

「あ・・・」

 

『助からないことは分かっていたッ!解放されたかったッ!なのにどうして地獄を見せ続けたッ!』

死んでほしくなかったッ!生きるのを諦めてほしくなかったッ!だからッ・・・

 

「お前は嫌いと吐き捨てたが、お前の両親は、きっとお前のことを大切に思ってたんだろうな」

 

彼はイチイバルをやさしく抱きしめ、

 

「う、うう・・・ああ・・・うッ、ひぐ・・・ッ!う、うわあああんッ!あああ、あああああッ!」

 

彼女は腕の中で泣きじゃくる。

 

『お母さんとは大違い』

お願いだ、やめてくれ・・・そんなこと言わないでくれ・・・・・

 

私は逃げるように他の部屋の調査に向かった。

 

 

 

 

 

調査も終わり館から出ればイチイバルと赤シャツが話し合っている。

イチイバルは申し訳なさそうな顔をし、赤シャツはやれやれっといった感じだが、何処か嬉しそうな顔で何かを手渡した。

一瞬だったが小型の機械のようだった。おそらく通信機だろう。

彼は私に気付くと歩み寄ってきた。

 

「お前さんも調査が終わったか。収穫は・・・その顔では無かったようだな」

「元から期待してなかったけどね」

 

同じく調査を終えたのでだろう、私たちの横を黒服たちが通り過ぎ、車へと乗りこんでいく。

 

「あの子は」

 

私はイチイバルに目を向ける。

 

「まだ俺たちとは来れないとのことだ」

「そう・・・」

「何、いずれ道は交わる。その時まで陰から護ってやるよ」

 

彼の自信にほっとした。

同時に逃げ出した自分が情けなくて悔しい。

子供を守りたい、助けたい。なのに目の前の一人すら救えない私が―

 

「お前さんもな」

「え・・・?」

「大人といえども所詮俺たちは人の子、限界だってある。だからこそ、あまり無理はするなよ」

「ハハッ、生身でトンデモを見せつけた貴方がそれを言う?」

 

全く、敵対しているのに

ヒビキといい、この男といい二課にはおかしな奴が多い。

だが、

 

「ありがとう。少し楽になったよ」

 

誰かに気にかけてもらえると救われる。

 

「そういえば」

 

唐突に、彼は何かを思い出したらしい。

 

「爆発する前に米国との関係がどうこう言っていたがあれはどういう意味だ?」

「どうもこうも米国からシンフォギアを借りる代わりにデュランダルを譲るのでしょ?あの国は親譲りのあくどい外交だし、こっちはこっちで貴方の爺さんがいるから揉めるのはわかるけど、もうちょっt」

「待ってくれッ!米国もシンフォギアを保持しているだとッ!?あれは我々が極秘裏に開発したものだぞ。それにギアを作れるのは彼女しか・・・ッ!」

 

彼のこの反応、想像以上に面倒な事になってしまったようだ。

 

「そういうことか。だが、これで君のギアの説明もつく」

「私も随分といいように使われてたみたい」

 

情報戦が十八番な上層部がこのことを知らないはずがない。

以前にも偽情報を渡され、作戦行動したことはあるが、今回は理解不能だ。

 

「なあ、深刻な顔してるとこ悪いがちょっといいか?」

「あ、ああ」

 

いつの間にやら、すぐ傍まで近づいていたイチイバルが私たちに声をかける。

 

「フィーネが言ってたんだ『カ・ディンギル』って。それがなんだかわからないけど、そいつはもう完成しているみたいなことを・・・」

「『カ・ディンギル』・・・」

 

二人の視線がこちらに向くが私も分からず首を横に振る。

謎ではあるが、収穫がまた一つ増えた。

期待してなかった分、嬉しい限りだ。

私は二課の面々を見送り、イチイバルとも別れた後『カ・ディンギル』について調べる。

 

(『カ・ディンギル』・・・シュメール語で『高みの存在』。転じて、『天を仰ぐほどの塔』を意味しているとも伝えられる)

 

この近辺で最も高い建物と言えば東京スカイタワーがある。

日本で最も新しい電波塔で、日本政府の非公開組織が情報統制に使っている場所でもある。

『カ・ディンギル』の正体の可能性はある。

だが、

 

(そう易々と察せられるようなものなのか?)

 

この名からまず思いつくのはそこだろう。

それは本人も分かるはずだ。

イチイバルに漏らしたこと、仮に口が滑っただけだとしても分かりやすい名を付けていることを考えると、よほど隠し場所に自信があるのか、ブラフの可能性がある。

それに『完成しているみたいなこと』と言っていた。

つまり完成したのは最近で、それまで作っていた可能性がある。

誰にも気付かれず、巨大な物を作る。

そんなことが可能なのは、

 

(地下か水中ッ!)

 

確かに、この街で一番高い建物は東京スカイタワーだ。

だが、地下を含めると話は別。

本当にこの街で一番長い建物は、

 

「特異災害対策機動部二課本部、それ自体が『カ・ディンギル』だというのかッ!」

 

しかも、その奥底には無尽蔵のエネルギーを有するデュランダルが奮起状態で保管されている。

 

(『カ・ディンギル』の正体って、まさかッ!)

 

それが答えと言わんばかりにノイズセンサーが鳴る。

観れば空母型ノイズ4体が東京スカイタワーに向かって真っ直ぐ、何も攻撃せずに進んでいるとのこと。

空母型がノイズも放出せずにただ直進するだけでも怪しいのに、それが4体同時、しかもこのタイミングで場所が場所。

間違いなく陽動だ。

そしてここまでお膳立てしたのだ。フィーネが動かないわけがない。

 

(攻めるなら今しかないッ!)

 

私は二課本部がある私立リディアン音楽院高等科に向かって走る。

英国の思惑がどうであれ、私にはデュランダルが必要だ。

それに読みが当たっているならフィーネに渡すことも使わすことも出来ない。

何としてでも奴より早く、刺し違えてでもデュランダルを奪わなければッ!

 



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