魔法少女ZOË (サーフ)
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予告編

予告なのでセリフだけでの進行となります。


『時空の歪みを再度検知』

 

『時空震が発生するものと思われます』

 

『わかったわ。調査を開始して』

 

『了解』

 

『予想以上の時空震よ! 逃げて!』

 

『試算しましたが、脱出は不可能です』

 

『そんな…』

 

「ほんの数分前に一瞬だけだが、巨大なエネルギーを検知した」

 

「え?」

 

「数値が計測不可能と出ていた、機械の故障だと思われるが…もしかしたら、ロストロギアの可能性もある」

 

「場所は?」

 

「第97管理外世界」

 

「え? そこって」

 

「あぁ、しかも海鳴市周辺でだ」

 

「そんな…まさか…」

 

「ご無事ですか?」

 

「あ、あ…はい。ありがとうございました」

 

「そう言えば、自己紹介がまだやったね。私は八神はやてです」

 

 

 

「貴様、何者だ?」

 

「我々の計画を邪魔するというのか…」

 

「発言の意図不明」

 

「まぁ良い。消えて貰う」

 

「高エネルギー反応確認。危険です」

 

 

 

「我ら、闇の書の主を守る守護騎士でございます」

 

「我ら、闇の書の蒐集を行う者」

 

「夜天の主の元に集いし雲」

 

「ヴォルケンリッター、何なりと命令を」

 

 

「やはり、不確実な情報だけど、前回の時空震で規格外のロストロギアが現れたと考えるのが妥当ね」

 

「規格外…そんな危険な物…」

 

「封印するしかないわね…管理局の意見も一致よ」

 

「それしかないか…」

 

 

 

「主の病は日に日に進行している」

 

「このままでは…」

 

「主の為ならば我等は…」

 

 

「私は時空管理局の嘱託魔導士、フェイト・テスタロッサ。貴女は何者です? 一体何が望み?」

 

「答える訳にはいかない」

 

「ならば! 貴女を逮捕します!」

 

 

「規格外の時空漂流者…」

 

「えぇ、あの2人のせいで全てがおかしく…」

 

「時空管理局ですら対処しきれない可能性が…」

 

「規格外の威力を持つ物理兵器の所持…見逃すわけには…」

 

「しかし、我々に勝ち目は…」

 

「それでも…」

 

 

 

「アースラを…現状用いる事の出来る最大戦力で出撃します」

 

「しかし!」

 

「それしか手はありません!」

 

「アースラの主砲…アルカンシェルを使うしか…」

 

「アルカンシェル…発動地点を中心に約100キロ範囲の空間を歪曲させながら反応消滅を起こさせる魔導砲だ…つまり辺り一面が吹き飛ぶぞ…」

 

「でも、止めるにはそれしかない」

 

 

「高エネルギー反応検知」

 

「演算終了。爆発想定範囲である周囲200キロの空間をベクタートラップで封じ込めます」

 

「そんな…ありえない…」

 

「やめて!!」

 

「着弾確認。目標時空管理局所属艦アースラ完全破壊を確認。周辺宙域に動体反応及び生体反応はありません」

 

「作戦終了です。お疲れ様でした」

 

 

 



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始動

お久しぶりです。

投稿を再開しようと思います。

1~2週間に1話くらいのペースで更新出来たらいいなと考えています。



   光の無い暗黒の宇宙空間に2対の紅と蒼の光が尾を引きつつ、高速で移動する。

 

 青の光を放つのが、人の顔を思わせる様な白い仮面を被り。胴体、及び脚部などの関節部は金色のフレームが露出しており、右腕には折り畳み式のブレードを装備し、左手にはシールド発生装置が装備されている巨大な機動兵器、ジェフティ。

 

 赤の光を放つのが、戌の様な頭部を持ち、背中に六角形の集合体型ウィスプを搭載し、手に巨大なウアスロッドを握りしめる巨大な機動兵器、アヌビス。

 

 この2機はOFと呼ばれる人形機動兵器であり、メタトロンと呼ばれる特殊な物質で製造された機体だ。

 

 ジェフティのコックピットで私は目標宙域を確認する。

 

 私は、現在は人の形を取っているが本来はジェフティの独立型戦闘支援ユニットのAIであり、名称がエイダ。

 

『目標宙域に接近』

 

 アヌビスのコックピットから通信が入る。

 

 通信ディスプレイに整った顔立ちで、紅い瞳、紅い髪に若干の黒髪が混じったロングヘアーの女性が映し出される。

 

 キャノピーに私の姿が反射し映し出される。

 

 ディスプレイの少女と私の姿は髪の色以外ほぼ同じだ。

 

 彼女はデルフィ。

 

 ジェフティの兄弟機であるアヌビスの独立型戦闘支援ユニットであり、私と同様に人の形を取っている。

 

 

『了解』

 

 指定宙域に到着後、索敵システムを稼働させる。

 

 すると、数か所で時空震と呼ばれる、時空の歪みを検知する。

 

 私は本部であるリユニオンと呼ばれる船舶に通信をつなぐ。

 

『時空の歪みを複数検知しました』

 

『わかったわ』

 

 一人の女性がディスプレイに現れる。

 

 彼女は、ハマイオニー・グレンジャー。

 

 常時はハーマイオニーと呼ばれている。

 

 リユニオンの所有者であり、今回の調査の依頼者でもある。

 

『時空の歪みを再度検知』

 

『時空震が発生するものと思われます』

 

『わかったわ。調査を開始して』

 

『了解』

 

 私達は、時空震の発生地点へと移動する。

 

 突然、機体に衝撃が走る。

 

 その時、私達を中心に大規模な時空震が発生する。

 

 

『2人とも聞いて! 予想を超える大規模な時空震が発生したわ』

 

『既に捉えています』

 

 時空震はやがて、時空断層を発生させた。

 

『不味いわ!? 時空断層に飲み込まれると危険よ! 脱出して!!』

 

 ハーマイオニーが声を荒らげるが、時空断裂の出力が上昇し、ゼロシフトを使用しても脱出は厳しい状況だ。

 

『試算しましたが、脱出は不可能です』

 

『このまま防御形態に移行します』

 

 私達はシールドを展開させる。

 

『2人とも!!?』

 

 その瞬間、私達は時空断層に吸い込まれる。

 

 こうして、私達は時空の海に漂流してしまった。

 

 

 「「システム、再起動」」

 

 システムを再起動させ、周囲を見渡す。

 

 目を覚ますと、私はステルス状態のジェフティに搭乗していた。

 

 恐らくデルフィも同様にアヌビスに搭乗しているだろう。

 

 周辺を索敵する。

 

 周辺に酸素を検知し、光量も確認する。

 

 大気の組成と重力レベルから現在地が地球であるという事が分かる。

 

 私達はコックピットから飛び降りると、ベクタートラップ内にOFを収納する。

 

 それにより、エネルギーの隠匿を図る。

 

 周辺を見渡すと、周囲は森に囲まれていた。

 

 しかし、近くに人の反応を検知する。

 

 森を抜けると、その先は公園になっていた。

 

 看板には日本語で臨海公園と表記されており、親子連れが平和そうに楽しんでいた。

 

 彼等の服装データをもとに、溶け込みような服装に変化する。

 

 臨海公園に設置されている地図看板には日本語で『海鳴市』と書かれている。

 

「日本の海鳴市ですね」

 

「しかし、これだけでは情報が不十分です。周辺の建造物、及び電波レベルから推移するに我々はまた過去の時代に戻ってしまった可能性があります」

 

「情報収集を行いましょう」

 

「この近くに図書館と思われる施設があります。周辺の地理情報などはそこで手に入るはずです」

 

「了解。そちらへ向かいましょう」

 

 私達は、公園を抜けると図書館へと向かった。

 

 

 「ふぅ……」

 

 背もたれのある椅子に腰かけた深緑色の女性は、ミルクと砂糖が入った緑茶で口を潤し一息入れる。

 

 彼女は時空管理局所属戦艦『アースラ』艦長、『リンディ・ハラオウン』である。

 

 そんな彼女の横に黒髪の少年が現れる。

 

「ん? どうかした? クロノ」

 

「ちょっと報告が」

 

 少年の名前は『クロノ・ハラオウン』

 

 年齢は14歳だが、時空管理局の執務官と言う高い役職に付いている。

 

 そして、艦長であるリンディ・ハラオウンの息子である。

 

 クロノはリンディにある書類を手渡す。

 

「ほんの数分前に一瞬だけですが、巨大なエネルギーを検知しました」

 

「え?」

 

「数値が計測不可能と出ていた為、機械の故障だと思われますが……もしかしたら、ロストロギアの可能性もあります」

 

「場所は?」

 

「第97管理外世界です」

 

「え? そこって!?」

 

「ええ、しかも海鳴市周辺でです!」

 

「そんな! ……まさか……!?」

 

 2人は口を紡ぐ。

 

「一応、調査を進めてみましょう。センサー類の誤作動であれば良いけれど……もし、誤作動で無ければ!?」

 

「了解!」

 

 リンディはもう一度緑茶を口に含んだ。

 

 

 

  公園から移動した私達は、風芽丘図書館に到着する。

 

 時刻は正午を回った辺りだ。

 

 この時間帯だが内部には少数ながら生体反応がある。

 

 入り口を抜けた後、案内板を確認する。

 

 目的の地図データがありそうな場所に移動する。

 

「ん……んっと……っ!」

 

 目的の本棚より少し離れた場所から声が聞こえる。

 

 声のする方向では、1人の少女が高い位置にある本に手を伸ばしている。

 

 しかし、その少女は足が不自由なのか車椅子を使用しており、必死に手を伸ばしている為、非常に不安定だ。

 

 恐らくこのままでは。

 

「あっ!?」

 

 案の定体勢を崩し、車椅子から落下し始める。

 

 私はゼロシフトを利用し、少女の側に接近すると、その体を受け止める。

 

 

「ご無事ですか?」

 

 少女は衝撃に備えて瞑っていた目を開けると、こちらを見る。

 

「あ!? ありがとぉ! えっと!?」

 

 少女は私の顔を見て言葉に詰まる。

 

 恐らく、日本人ではない顔の為だろう。

 

「日本語で構いません」

 

「ありがとうございますぅ」

 

「いえ、お気にせずに」

 

 デルフィが倒れた車椅子を持ち上げる。

 

 私は右手で彼女の体を支え、左手で足を持つ。

 

「報告します。後輪の一部に破損を検知。修理せずに使用するのは危険です」

 

「え? 壊れとる……!?」

 

 少女は破損個所を見るとメンタルコンデションレベルが低下した。

 

 この場で修理は可能だが、図書館の様な場所でやるには騒音で目立ってしまう。

 

 この時代でのまともな通信手段も無く、タクシーを呼ぶほどの現金も現在は手元に無い。

 

「この後のご予定は何でしょう?」

 

「え? 本を借りて家に帰るだけやけど……」

 

「こちらの本ですか?」

 

 デルフィが先程少女が手に取ろうとしていた本を回収する。

 

「うん」

 

「ご自宅までお送りします」

 

「でも、そんなの悪いわ!」

 

「お気にせずに」

 

「えーっと……」

 

 少女は数秒考えた後、小さく頷いた。

 

「では参りましょう」

 

 私は少女を抱きかかえ、デルフィが壊れた車椅子を押しながら私達は図書館を後にした。

 

  少女の指示に従い、私達は市街地を抜けて行く。

 

「そういえば、自己紹介がまだやったね。私は八神はやてです」

 

「デルフィです」

 

「エイダです」

 

「デルフィさんにエイダさんね」

 

「呼び捨てで構いません」

 

「そうなん? なら私の事も呼び捨てで」

 

「了解しました」

 

 しばらく進むと、はやてが再び口を開いた。

 

「そういえば、2人は何で図書館に? 調べもん?」

 

「周辺の地理について調べようと」

 

「地理? じゃあ、海鳴市の人じゃないの?」

 

「はい」

 

「じゃあ、観光? それとも仕事?」

 

「仕事の様なものです」

 

 私が適当にはぐらかすと、はやては納得したように頷く。

 

「へぇ。2人はどこに泊まっとるん?」

 

「現在宿泊先などはまだ決めていません」

 

「え? そうなん?」

 

「はい」

 

「どれくらいこっちに居るんや?」

 

「未定です」

 

「えらい、計画性が無いんやな……」

 

「不確定要素が多いミッションだったので」

 

「そうなんか。なら行く当てが無いんやな?」

 

「概ねその通りです」

 

 はやては少し考えた後、口を開く。

 

「なら、うちに泊まったらどうや?」

 

「はやての家にですか?」

 

「せや。気にせんでもええよ!」

 

「しかし、ご迷惑では?」

 

「大丈夫や。家には私一人だけだし……」

 

 丁度その時、目標の民家に到着した。

 

 一般的な民家であるが、所々に、ステルス状態の監視装置が設置されている。

 

『複数の監視装置を発見しました』

 

『ジャミングを行います』

 

 私は、ジャミング電波を発生させ、設置された監視装置を破壊する。

 

「ここや!」

 

「失礼します」

 

 はやてから受け取った鍵を使い、デルフィが扉を開く。

 

 家に入ると、生活感があるが、整理整頓がなされており、バリアフリー化も施されていた。

 

「失礼ですが、ご両親は?」

 

「ずっと前にな……だから私一人だけや」

 

「失礼しました」

 

「気にせんでもええよ!」

 

 玄関を抜けると、はやてをリビングのソファーにおろす。

 

「ありがとうな!」

 

「いえ」

 

「2人の部屋なんやけど」

 

「適当な場所で構いません」

 

「そっか、じゃあ、空いてる部屋を適当にな! それと予備の車椅子が隣の部屋にあるんや、取って来てもらってもええかな?」

 

「了解です」

 

 はやてはデルフィが持って来た車椅子に乗り込むと、台所へと移動した。

 

「折角お客さんが来てくれたから、腕によりをかけるで!」

 

「御構いなく」

 

「ご飯になったら呼ぶで」

 

「了解」

 

 私達はあてがわれた部屋へ移動した後、先程破壊した監視装置を回収する。

 

『分析を開始します』

 

 分析の結果、現代の科学レベルでは作成不能な監視装置だと判明した。

 

 技術的にも、科学的ではなく、魔法的な要素も検知した。

 

『この監視装置の分析結果から推察するに、我々は時代だけではなく、別の次元へ来てしまった可能性があります』

 

『原因は恐らく、時空震でしょう』

 

 大規模な時空震により、時空断層が起こり、並行世界へ移動してしまったと考えられる。

 

 リユニオンに通信を繋ぐ。

 

 しかし、応答はなく、ノイズが走るだけだ。

 

 どうやら、通信が途絶してしまったようだ。

 

「今後の方針を決めましょう」

 

「帰還方法の目途が立っていない為、当面はこちらの民家で生活するのが最良かと思います」

 

「監視装置の一件もあります。監視対象者は恐らくはやてかと思われます」

 

「何らかの事件に巻き込まれている可能性もあります。監視装置は既に破壊済みです。恐らく設置者は何等かのアクションを起こすものと思われます」

 

「了解。はやてを護衛しつつ、監視者の動向を窺いましょう」

 

「エイダ! デルフィ! ご飯やで!」

 

 その時、はやての声が部屋に聞こえる。

 

「了解」

 

「只今向かいます」

 

 私達は、回収した監視装置をベクタートラップ内に格納すると、はやての下へと移動した。

 




今回はほのぼのとした作品を目指いしています。


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起動

物語が動き出す。


   食卓には、豪華な家庭料理が並んでいた。

 

「ささ、遠慮せずに食べて!」

 

「では」

 

「いただきます」

 

 私達は食卓に着き、出された食事を頂く。

 

「どう?」

 

「塩分濃度や糖度その他味覚に関するデータで高い数値を評価しています」

 

「ん? つまりは?」

 

「美味しいという事です」

 

「よかった! ささ、どんどん食べて!」

 

「ありがとうございます」

 

 こうして、私達はこの世界に来て最初の食事を堪能した。

 

  食後、はやてと共に食器を片付けた後、リビングに移動する。

 

「さて、もうこんな時間やな」

 

 時刻は既に23時を回っていた。

 

「そろそろ、就寝なさった方が良いかと思われます」

 

「せやな……ねぇ。お願いがあるんやけど」

 

「何でしょう?」

 

 ソファーに座ったはやてが、俯き小さな声で呟く。

 

「できれば……その、一緒に寝てくれへんかな?」

 

「一緒にですか?」

 

「うん……」

 

 はやての心拍数が上昇する。

 

 軽度の緊張状態であることが確認される。

 

「構いません」

 

 その瞬間、はやてが笑顔を見せ、メンタルコンデションレベルも上昇する。

 

「じゃ、じゃあ! 準備せな!」

 

「了解」

 

 私達は、はやての指示に従い、2階にあるはやての自室へと移動した。

 

 その後、はやてをベッドに横たえる。

 

「うーん……3人で寝るには……ちょっと狭いかな……」

 

「そうですね。物理的には可能ですが、恐らく快適ではない筈です」

 

「せやな……」

 

 ベッドの上ではやては溜息を吐く。

 

「ではこうしましょう」

 

 その時、デルフィが口を開いた。

 

「本日は私が一緒に寝ます。明日はエイダが。それを繰り返しましょう」

 

「え? 良いの!?」

 

「私は構いません」

 

「えへ……じゃあ、それで!」

 

「了解」

 

 子供らしい笑顔を浮かべたはやての横に、無表情のデルフィが横になる。

 

「ご希望であれば、眠りに付くまで何か物語でも読みましょうか?」

 

「え?」

 

「ライブラリーに複数の書籍データが記憶されています」

 

「えっと……いや、このままで……このままで……」

 

 数秒の内にはやてが眠りに付く。

 

 恐らく、1日の間に様々な出来事が起きた為、疲労していたものと思われる。

 

「では、私は下の階へ移動します」

 

「了解」

 

 デルフィにはやてを任せ私は退室後、自室へと移動した。

 

  翌日、6時ごろ目を覚ますと、デルフィから通信が入る。

 

『現状、はやてに抱き着かれている為、起床する事が出来ません。朝食の準備などをお願いします』

 

『了解』

 

 通信を切り、私は台所で簡単な朝食を準備する。

 

 

 7時半になると、はやての部屋から目覚まし時計のアラームが鳴る。

 

 それから数分後、デルフィに抱きかかえられながら眠そうに眼を擦るはやての姿があった。

 

「おはようございます」

 

「ん、おはよう」

 

「簡単ですが、朝食をご用意いたしました」

 

「ありがとう。先に顔だけ洗ってくる」

 

「了解」

 

 数分後デルフィがはやてと共に食卓に着くと、朝食を開始した。

 

 

 朝食が終了後、はやてが口を開く。

 

「今日の2人の予定は?」

 

「特にはありません」

 

「そっか、私は病院やな」

 

「そうですか。我々も同行いたしますか?」

 

「ええの?」

 

「はい」

 

「あ、でも石田せんせにはなんて言おう……親戚って事にしておけば……」

 

「お任せします」

 

「まぁ、じゃあ親戚って事で」

 

「了解」

 

「じゃあ、後で病院。その後デパートで色々と買い物やな」

 

「了解」

 

 朝食を片付けた後、私達は外出の準備を始めた。

 

「さて、出発や」

 

「了解」

 

 デルフィがはやてが乗った車椅子を押しながら、道なりに進んで行く。

 

  病院に付いた後、受付を済ませる。

 

 数十分後、はやての名が呼ばれる。

 

「ほな、行ってくるわ」

 

「了解」

 

 私達は待合室ではやてが戻ってくるのを待つ。

 

 診察開始から数十分後、女性医師に車椅子を押されながら、はやてが待合室にやって来た。

 

「あら? この方々は?」

 

「えっと……私の親戚で……」

 

「親戚? あぁ、誕生日をお祝いに来てくれたのね」

 

「ま、まぁ……そんな所です」

 

「そう、よかったわね!」

 

 女性医師ははやてに微笑み、軽く頭を撫でる。

 

「じゃあ、明日は目いっぱい楽しんでね!。それじゃあまた今度ね」

 

 女性医師が軽く手を振ると、はやても手を振り返す。

 

「お待たせやね!」

 

「御構い無く」

 

 私は、車椅子を押しながら、病院を後にした。

 

 病院からデパートへと移動した。

 

 商業施設という事もあり、現時刻は15時を回った頃だが、数多くの人で賑わっていた。

 

「明日が、誕生日なのですか?」

 

「まぁ、せやな」

 

「おめでとうございます」

 

「ふふ、ありがとう! 誰かに祝われるのって嬉しいもんやな!」

 

 はやては小さく笑みを溢す。

 

 この場合、誕生日プレゼントを用意するのが好ましいだろう。

 

『これより、誕生日プレゼントを購入してきます』

 

「了解。私は引き続きはやてと行動を共にします」

 

「ん? どうかしたん?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

「さて、買い物や!、買い物!」

 

「了解」

 

 はやてとデルフィが買い物をしている間に、私は近くのATMをハッキングし、現金を数十万ほど引き出す。

 

 その後、玩具売り場へと移動する。

 

 玩具売り場には様々な商品が並んでいた。

 

「何かお探しですか~?」

 

 私の背後から店員と思われる女性が声を掛けてくる。

 

「誕生日プレゼントを探しています」

 

「どなたへのですか?」

 

「10才程の少女です」

 

「うーん……無難に行けば、こちらですかね?」

 

 店員はクマのぬいぐるみを差し出して来た。

 

「ではこちらで」

 

「ありがとうございます~!」

 

 店員と共にレジへ向かい、料金を支払う。

 

 購入後、プレゼント用にクマのぬいぐるみをラッピングして貰い、箱に入れる。

 

 目的の物を購入後、私は既に買い物を終えた2人と合流する。

 

「ん? なんやそれ?」

 

「1日早いですが誕生日プレゼントです」

 

「え? 私に!?」

 

「はい」

 

「ありがとう!!」

 

 はやては満面の笑みを浮かべ、メンタルコンデションレベルを上昇させる。

 

「では、戻りましょう」

 

「うん!」

 

 デルフィが車椅子を押しながら私達は、デパートを後にした。

 

 

  デパートを後にする頃には既に日が傾き、夕焼けが広がっていた。

 

 

 しばらく歩みを進めると、異様な反応を検知する。

 

 私はデルフィに通信を繋ぐ。

 

『何者かによって尾行されている様です。反応は2つ』

 

『恐らく監視装置の設置者である可能性があります』

 

『危険を回避する必要があると判断します。私が接触を試みます。デルフィは護送を』

 

『了解』

 

 公園の前で私は足を止める。

 

「ん? どうしたん?」

 

「少し用事を。先に戻って居てください」

 

「え!?」

 

 デルフィは車椅子を押し始める。

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

「さぁ、戻りましょう」

 

 デルフィ達を追う様に1人が木々に隠れ移動を開始する。

 

 私は、デルフィ達に接近を試みた反応の進路を塞ぐ様に、ビームガンを放つ。

 

「くっ!?」

 

 ビームガンの牽制により追跡者の行動が怯む。

 

「不用意な行動はおやめください。次は当てます」

 

 私は、もう一人にもビームガンを向ける。

 

「ちぃ!!?」

 

 2人は合流し私の前に姿を現した。

 

 両者とも、仮面で素顔を隠しているが、体格的には男性だと判断できる。

 

 しかし、生体反応は女性に近い。

 

「監視装置の設置者ですか?」

 

「貴様、何者だ?」

 

「監視対象は恐らくですが、はやてですか?」

 

「貴様には関係ない」

 

 仮面の人物がエネルギー球を発生させる。

 

 詳細は不明だが、魔法に近いエネルギーを持っている攻撃手段だと判断できる。

 

「はぁ!!」

 

 仮面の人物が手を振ると、エネルギー球が迫り来る。

 

「回避行動」

 

 後方へ飛び退く。

 

 しかし、私の動きに合わせる様に、エネルギー球も進行方向を変化させる。

 

 どうやら、追尾機能があるようだ。

 

「シールド展開」

 

 私はシールドを展開し、迫り来るエネルギー球を全て防ぐ。

 

 威力としては、低出力な為、十分に防御可能だ。

 

「やったか!?」

 

 攻撃を放った人物は、エネルギー球が私に直撃したと思い込んでいる様だ。

 

「ゼロシフトレディ」

 

 私は、発生した土煙を置き去りに、仮面の人物の側へと移動する。

 

「え!?」

 

 私は瞬時に腕をブレードに変化させ、仮面の人物の首元に突き付ける。

 

「武装解除し投降してください」

 

「お前は……一体何者……」

 

「はぁあぁあああぁあ!!」

 

 もう一人の人物が拳を振り上げ高速で突進してくる。

 

 人力では不可能な速度な為、魔力的なエネルギーを検知する。

 

「くらえ!!」

 

 右腕を振り下ろし、私に殴り掛かる。

 

 私は、左手で仮面の人物の右手を受け止める。

 

「ぐぉぉお!!?」

 

 速度と魔力が乗っていた拳を強制的に受け止めた為、仮面の人物の右腕が複雑骨折したようで、腕が折れ曲がり血が流れだしている。

 

 私の損傷は無い。

 

 しかし、仮面の人物は勢いそのまま、もう一人の人物を強制的に抱き寄せ、私と距離を取る。

 

「くっ!!」

 

 2人は着地すると、足元とが光を放つ。

 

 その瞬間、2人の体がその場から転移した。

 

 一種の姿現しだろうか。

 

 それに近い魔力の反応だった。

 

「襲撃者の逃走を確認。帰還します」

 

 私は、その場を後にはやての家へと移動した。

 

 

  数分後には家の扉を開ける。

 

「あ、お帰り。どないしたん?」

 

「いえ、大した事では有りません」

 

『襲撃者の迎撃終了。目標はやはり、はやてです』

 

『了解。警戒を厳にします』

 

 私達は、家の周囲にステルス処理が成されたドローン型のセントリーガンなど簡易的な防衛装置を展開する。

 

「エイダも戻った事やし、夕食でも作るで!」

 

「了解」

 

 私達がソファーに座ると、はやては夕食の支度を始めた。

 

『詳細な情報の提供を希望します』

 

『敵の戦力は不明ですが、襲撃者の戦闘能力は低い為迎撃は容易でした』

 

『敵対象は?』

 

『転送魔法と思われる方法で逃走されました』

 

『了解。敵の攻撃手段は』

 

『エネルギー弾や打撃などです。しかし、その全てに魔法的なエネルギーを検知しました』

 

『了解』

 

 数十分後、はやてが夕食を完成させる。

 

 

 

 夕食を終え。後片付けなどを終わらせる。

 

 

 

  現時刻は23時50分を回る。

 

「そろそろ日付が変わります」

 

「せやな。そろそろ寝る時間やな」

 

「それがよろしいかと」

 

 私ははやてを抱き上げ、2階の自室へと移動させる。

 

「じゃあ、今日はエイダやね」

 

「はい」

 

「おやすみなさい」

 

 デルフィはそう言うと、別室へと移動した。

 

「では、私達も寝ましょう」

 

「せやね」

 

 はやてはベッドに横になり、私も寄り添う様に横になる。

 

 23時59分。

 

 微弱ながら、エネルギーの流出を検知する。

 

 場所は、机の上に置かれている本からだ。

 

 日付が変わり。6月4日。

 

 本から急激なエネルギーの開放を検知する。

 

 それに伴い、部屋中に衝撃が走り、けたたましい音が鳴り響く。

 

「な、なんや?」

 

 飛び起きたはやてが、周囲を見回す。

 

「高エネルギー反応確認。危険です」

 

 私はベッドから降り、はやての前に立つと、はやても私の背後に隠れる様にしがみ付く。

 

 それと同時に、シールドを展開させる。

 

 本の一部からエネルギー光が放たれると、床に魔法陣の様な物を形成する。

 

 次の瞬間

 

 一際激しいエネルギーの開放が起こる。

 

 それと同時に、はやてと本の間に不安定なリンクを確認する。

 

 そして、突如として魔法陣を中心に、4つの影が現れた。

 

 一人はピンク色のポニーテイルの凛々しい女性。

 

 一人は金髪のショートカットの柔らかな表情の女性。

 

 一人は三つ編みの朱い髪で幼さが残る少女。

 

 そしてもう一人は筋肉質の男性だが、その頭部には似つかわしくない犬耳が付いていた。

 

 それぞれが黒い服を身に纏い、目を伏せて居る。

 

「闇の書の起動を確認しました」

 

 ピンク髪でポニーテールの女性が呟く。

 

「闇の書?」

 

 はやては小さく呟く。

 

「我ら、闇の書の主を守る守護騎士でございます」

 

「我ら、闇の書の蒐集を行う者」

 

「夜天の主の下に集いし雲」

 

「ヴォルケンリッター、何なりと命令を」

 

「一体何なんや……!?」

 

 はやてが呟くと、ピンク髪でポニーテールの女性が顔を上げる。

 

「ところで、貴様は何者だ」

 

 女性は敵意を持った視線を私に向けながら、腰に携えた剣に手を掛ける。

 

「答えろ!」

 

 女性は剣を抜き、私に突きつけようとする。

 

 しかし、剣は私が展開したシールドによって弾かれる。

 

「なにっ!?」

 

 女性は困惑の表情を見せる。

 

 私は瞬時に腕をブレードに変化させ、女性の首筋へと突きつける。

 

「こちらに敵意はありません」

 

「しかし、そちらに敵意があるのならば、我々は防衛行動に移行します」

 

 4人の背後でウアスロッドを構えたデルフィが口を開く。

 

「なっ!? いつの間に! 後ろを!?」

 

「誰も気が付かなかったのかよ!?」

 

 4人は狼狽しつつ、警戒している。

 

「え……えっと……??」

 

 はやてが私の背後から顔を出す。

 

「何か御用ですか? 我が主」

 

 剣を手にしたまま、女性が主と呼んだはやてに一礼する。

 

「主って……私?」

 

「そうです」

 

「えぇ……」

 

 はやては混乱している様で、状況を飲み込めずにいる。

 

「と、とにかく! 喧嘩はあかんよ!」

 

「わ、わかりました」

 

 女性が武器を納めたので、私も武装を解除する。

 

「その腕はどうなってるんや?」

 

「お気にせずに」

 

「そんな事言われても……まぁええか……それじゃあ、皆取り敢えず自己紹介して貰ってもええかな?」

 

「では、私から」

 

 ピンク髪でポニーテールの女性が一礼する。

 

「ヴォルケンリッターの一人。烈火の将。剣の騎士シグナム」

 

 シグナムはその場で改めて一礼をする。

 

 三つ編みの朱い髪の少女が口を開く。

 

「紅の鉄騎。鉄槌の騎士ヴィータ」

 

 ヴィータは詰まらなそうに呟くと私を睨み付ける。

 

「次は私が」

 

 人は金髪のショートカットの女性が柔らかな口調で話し始める。

 

「風の癒し手。湖の騎士シャマルです」

 

 シャマルは軽く頭を下げ、微笑みを見せる。

 

「蒼き狼。盾の守護獣ザフィーラ」

 

 ザフィーラは言い終えると腕を組む。

 

「うん、名前は覚えたで。ところで守護騎士ってなんなん?」

 

「簡単に説明しますと、闇の書の所有者である主。つまり貴女をお守りし、闇の書の完成を目指すのが我らの目標です」

 

「完成? この本の事?」

 

 はやては手元の本を持ち上げる。

 

「はい。リンカーコアの蒐集を行う事で、本のページを埋めていきます。闇の書が完成すれば、真の主となり、絶対的な力が手に入るでしょう」

 

「絶対的な力言われても……」

 

 はやては混乱している様で首を傾げる。

 

「とにかく、私が皆の主って事でええの?」

 

「はい」

 

 シグナムの一例に合わせ、全員が頭を下げる。

 

「我等の事は話した。次はお前達だ。その腕からして人間ではあるまい」

 

 シグナムがこちらを睨み付ける。

 

「了解。説明を開始します。私達はオービタルフレームと呼ばれる兵器に搭載された独立型戦闘支援ユニットです。現在はサイボーグ技術の応用により人の形を取っています」

 

「えっと……つまり?」

 

「人間ではなく、機械だという事です」

 

「その割には……」

 

 はやてが私の腕を握る。

 

「人みたいに柔らかやね!?」

 

「SSAの特徴です」

 

「そうなんか?」

 

「はい。そして我々は任務で、宇宙空間で発生した時空震を調査していました」

 

「は!? 宇宙空間だと?」

 

 ヴィータが首を傾げる。

 

「調査の途中、大規模な時空震が発生し、時空断層が発生しました。その時空断層に飲み込まれました」

 

「その結果、私達は別の次元へと移動してしまったと考えています」

 

「なるほど……つまり、次元漂流者ね」

 

 驚いた様子も無くシャマルが口を開く。

 

「というか、時空断層に飲み込まれてよく無事だったな!」

 

 ヴィータが呆れた様に呟く。

 

「現状では、帰還の目途は立っていません」

 

「時空を移動するなんて、そう簡単に出来る者ではないからな」

 

 シグナムが呟き数回頷く。

 

「状況は分かった。うーん……つまり、私が皆の主になってお世話するし! 2人は迷子って事やね?」

 

「いえ、我らは、主を──」

 

「決して迷子などでは有りません」

 

「同時に喋られてもよう分からんわ!?」

 

 はやては嬉しそうに微笑む。

 

「まぁ、主として最初にやる事を決めなきゃあかんね!」

 

「はい」

 

 はやては少し考えた後口を開く。

 

「とにかく、皆の服を用意せなあかんね! あと食事も!」

 

「いえ、我らにそのような物は──」

 

「気にせんでもええよ! 嫌っていうなら命令や! あー……でもお金が……」

 

「その点は問題ありません」

 

 私は、先程下ろした現金を取り出す。

 

「必要ならば追加でご用意します」

 

「お金持ちやね! でも、私も遠縁の人が援助してくれてるからそれなりに蓄えは有るんよ!」

 

「了解」

 

 はやては軽く欠伸をする。

 

「現在1時を回りました。そろそろ、就寝することをおススメします」

 

「あーせやな……まぁ……詳しい事は明日にでも決めるで」

 

 はやてはそのままベッドに横になる。

 

 その後、規則的な寝息を立て始める。

 

「えっと……主?」

 

 シグナムが問いかけるが、はやての反応は無い。

 

「就寝中です」

 

「その様だな……我等はどうすれば……」

 

「空き部屋が他にもあります。本日はそこで休息を。明日詳しい打ち合わせを行いましょう」

 

「ご案内します」

 

 デルフィがはやての部屋の扉を開ける。

 

「わかった」

 

 4人はデルフィに案内され、退室する。

 

 私は、はやての隣に横たわり、休息を取った。

 




続編であるStrikerSも書きたいなとは考えているのですが、StrikerSは無料配信を流し見くらいしかしてないので、内容があやふやなんですよね…

かと言ってアニメを見直している時間も無く…


いっその事大筋だけなぞってかなりオリジナル展開で行こうかなとも考えています。

その場合、ナンバーズやヴィヴィオが空気に…

さて、どうしたものか…


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蒐集

今回の台風の影響でPCがダウンしデータが吹き飛びかけました。

一応バックアップを取っていたので何とかなりました。




 

   翌朝。

 

 7時を回った頃、はやてが目を覚ます。

 

「う……ううぅん……」

 

「おはようございます」

 

「あぁ、おはよう」

 

 起床したはやては、パジャマを着替えた後、私に抱きかかえられリビングへと移動する。

 

「おはようございます。我が主」

 

「あー……」

 

 一礼をしたシグナムを見て、はやてが言葉を詰まらせる。

 

「主?」

 

「いや……昨日のアレはやっぱ夢やなかったんやな……」

 

「はい、現実です」

 

「アハハ……」

 

 私ははやてをソファーに降ろす。

 

「では主、何なりとご命令を」

 

「いきなり、命令なんて言われても……」

 

「必要とあらば、今すぐにでも蒐集を行います」

 

「うーん、昨日も聞いた気がするんやけど、蒐集ってなんなん?」

 

「詳しく話すと難しいので簡単に説明しますと、相手から魔力を奪う事です」

 

「そんなんあかんよ。他人に迷惑を掛けちゃ」

 

「しかし……」

 

「じゃあ、主として蒐集はしない事!」

 

 4人は驚いた表情をしている。

 

「主がそう望まれるなら……」

 

 シグナムが一礼する。

 

「それと、その恰好じゃあかんな。後で服を買いに行ってくる。それと武器は仕舞う事。それと、ご飯は作るからそれも食べる事」

 

「は、はぁ……」

 

「2人も買い物に付き合ってもらえる?」

 

「了解」

 

「ほな、皆の分のご飯を作らなきゃ!」

 

 はやては嬉しそうに朝食の準備を始めた。

 

 

  ヴォルケンリッターが現れてから数日間、私達とはやては彼等にこの世界における日常常識を説明した。

 

 日常生活に親しんでいくにつれ、彼等の表情にも笑みが見受けられる。

 

 どうやら、彼等には感情というものがあるようだ。

 

「はやてちゃん。後でお買い物に行きましょうか」

 

「あっ! 私も行く!」

 

「はいはい、ちょっと待って。ちょっとやる事だけやったらな」

 

 駆け寄って来たヴィータに対し、はやてはそれに笑顔で答える。

 

「平和なものだな」

 

 私の隣にやって来たシグナムが呟く。

 

「そうですね」

 

「しかし、こうも平和では感覚が鈍ってしまうな」

 

 シグナムは笑いながらこちらに視線を移す。

 

「そこでだ」

 

「はい?」

 

「私と手合わせしないか?」

 

「手合わせですか?」

 

「あぁ。少しは体を動かさないとな」

 

 シグナムは笑みを浮かべる。

 

「それに、お前に剣を突き付けられた時から、お前の強さが気になって仕方ない」

 

「現状、戦闘を行う必要性は──」

 

「私にはある!」

 

 シグナムが私の言葉を遮る様に言い切る。

 

「大人しく諦めるんだな」

 

 オオカミの姿に変化したザフィーラが呆れた様に呟く。

 

 どうやら、魔力の消費を抑えている様だ。

 

「了解」

 

「そう来なくてはな!」

 

 シグナムが庭へと移動しようとする。

 

「お待ちください」

 

「なんだ? 今更嫌だとは言わせんぞ」

 

「いえ、外で戦闘を行うのは危険です」

 

「しかし、家の中では後で主に怒られるぞ」

 

「仮想空間を使用します」

 

「なんだそれは?」

 

 シグナムは首を傾げながらこちらに接近する。

 

「準備しますのでそちらへ座り目を閉じてください」

 

「あぁ」

 

 シグナムが椅子に腰かけ、目を閉じる

 

「失礼します」

 

 私は、シグナムにアクセスし、仮想空間を用意する。

 

「目を開けてください」

 

「なんだここは?」

 

 仮想空間上で、シグナムが周囲を見渡す。

 

「現在、ヴォルケンリッターである貴女のプログラムにアクセスし、仮想空間をご用意しました」

 

「つまり、ここは現実では無いという事か。現実の私はどうなっている?」

 

「椅子に座り、目を閉じています」

 

 仮想空間上に、ウィンドウを表示し、現実世界を投影する。

 

「ここでは、現実と同じように行動が可能です。デバイスも装備可能です」

 

「凄いな!」

 

 シグナムが剣を手に取る。

 

「怪我の心配も無いのでご安心を。ただし痛覚は現実と同様です」

 

「心配するな、そこまで本気を出すつもりは無い」

 

 シグナムは剣を構えると、デバイスが反応する。

 

「ほぉ、この空間は凄いな。レヴァンティンも感服しているな」

 

「ありがとうございます」

 

「では、早速だが、行くぞ!」

 

 シグナムは駆け出すと、高速で接近し、上段からレヴァンティンを振り下ろす。

 

「防御開始」

 

 私は、腕をブレードに変化させ、レヴァンティンを受け止め、弾き返す。

 

 数歩後退った後、シグナムがこちらを見据える。

 

 

「私の一撃を受け止め、弾くとはやるな。だが!」

 

 再び、シグナムは高速で接近し、こちらに近接攻撃を仕掛ける。

 

 私は、ブレードでレヴァンティンを受け止め、時には流し、回避行動を続ける。

 

「防いでばかりではなく、攻撃してきたらどうだ!」

 

「了解」

 

 私は、バーニアを起動し、急接近する。

 

「来い!」

 

 接近した勢いをそのままにブレードを振り下ろす。

 

 シグナムはレヴァンティンで防ぐと、そのまま右足を軸に、横に一閃する。

 

 私は、高速で迫り来る一閃に対し地面を滑る様に回避すると、背後に回り込み、ブレードを振り下ろす。

 

「ちぃ!?」

 

 ブレードが命中する已の所でシグナムは前転し攻撃を回避する。

 

「すげぇな……あのシグナムが押されてるぞ!?」

 

 ヴィータの声が、仮想空間に響く。

 

「現在の模擬戦を、現実世界で投影させていただいております」

 

 デルフィの声も響き渡り、現実世界では、ソファーに座った、ヴィータとシャマル、ザフィーラがこちらを観戦していた。

 

「現在はやては自室です」

 

「それはいい、まだ続けられるな!」

 

 シグナムは勢い良く私に一閃を繰り出す。

 

 私は後転し回避後、勢いそのまま、ブレードでシグナムの胴体を切りつける。

 

「ぐぅ!?」

 

 シグナムはレヴァンティンでの防御が間に合わず、強制的に体を捩じって回避したようだ。

 

 しかし、脇腹に着実にダメージが入っている。

 

「ハァ……ハァ……やるな!」

 

 脇腹を抑えながら、レヴァンティンを構え直す。

 

「ダメージ確認。まだ続けますか」

 

 私はその場で戦闘継続の意思を確認する。

 

「はぁ……いや、やめておこう」

 

 シグナムはその場で首を横に振る。

 

 私は、仮想空間を解除し、現実世界へと戻る。

 

「お疲れ様でした」

 

「はぁ……はぁ……」

 

 現実世界に戻ったシグナムは椅子に座りながら息を荒らげ、脇腹を抑える。

 

「大丈夫? すぐに治療を」

 

「いや、大丈夫だ」

 

 シャマルの治療を断り、シグナムは椅子から立ち上がる。

 

「どうだった。私は」

 

「戦闘技術は高位です」

 

「それはつまり?」

 

「とても強いという事です」

 

「そうか!」

 

 シグナムは何処か満足したような表情で再び椅子に腰かけた。

 

「また頼む。今度は負けはしない」

 

「了解」

 

 その時、デルフィがはやてを連れ、リビングに戻ってくる。

 

「おまたせ。ほな、買い物行こうか」

 

 はやては、ヴィータとシャマルを連れ、買い物へと出かけた。

 

 

  私達がこの世界に来てから数ヵ月が流れる。

 

 その頃には、ヴォルケンリッター達もこちらの生活に慣れ始める。

 

 しかし、それに従い、はやての体調が悪化し始める。

 

 はやてが眠った後、私達ははやての体をスキャンする。

 

 スキャンの結果、足の麻痺が全身に広がりつつあることが分かる。

 

 このまま進行し心臓にまで達すると、生命機能に致命的な影響を及ぼすだろう。

 

 原因は恐らく闇の書と呼ばれる本との不安定なリンクだろう。

 

 そのリンクにより、身体機能に影響を及ぼしている様だ。

 

「お前達も気が付いたのか」

 

 振り返るとそこには、戦闘服を身に纏ったシグナム達が立っていた。

 

「お前達の想像通り、主の病因は闇の書だ……」

 

「闇の書の魔力が、未成熟なリンカーコアを蝕んでるの……それではやてちゃんは……」

 

 シャマルは悲しそうに俯く。

 

「それで、どうされるおつもりですか?」

 

「闇の書を完成させる。それしか方法はない……」

 

「しかし、蒐集は禁止されている筈です」

 

「我等……ヴォルケンリッターは主から多大なる恩恵を受けた。その主が今危機的状況にあるならば、その恩は返さなければならない!」

 

「その為なら、はやてを助ける為ならどんなことだってやる!」

 

 4人の意思は固い様だ。

 

「もし、邪魔をするというならば……」

 

 シグナムがレヴァンティンに手を掛ける。

 

「その点についてはご安心を」

 

「そうか……ならば、これは聞かなかったことにしてくれ、お前達まで巻き込むつもりは無い」

 

「一つよろしいでしょうか」

 

「なんだ?」

 

「闇の書を貸していただけますか?」

 

「は? どうして?」

 

 ヴィータが首を傾げる。

 

「現状、はやてと闇の書は不安定なリンクで繋がっています」

 

「その為、1度闇の書本体をスキャンさせていただきます」

 

「まぁ、そう言う事ならば……」

 

 シグナムが頷くと、シャマルが闇の書を取り出す。

 

「スキャン開始」

 

 闇の書を受け取った後、私達はスキャンを開始する。

 

 様々な情報が、闇の書に集約されている中、一部だけバグの様なデータが存在した。

 

 そのバグが原因だと思われる。

 

「スキャン終了」

 

「報告します。闇の書内部に、バグが存在しました」

 

「バグ?」

 

「はい。そのバグにより、闇の書自体がエラーを発生させ。その為はやての体に異常が出ているものと思われます」

 

「ならば、そのバグを取り除けば!?」

 

「症状は回復するでしょう」

 

「本当か!?」

 

「恐らくは」

 

「じゃあ、早くバグを!」

 

「しかし、問題があります」

 

「問題?」

 

 4人の顔が曇る。

 

「はい、バグ自体が、闇の書のシステムの根幹に根差すプログラムに組み込まれています」

 

「つまり?」

 

「バグを取り除く為には、闇の書のプログラム自体を全てデリートする必要があります」

 

「そ……それは……まさか!」

 

「闇の書のプログラム全てのデリートはプログラムの一部であるヴォルケンリッターも削除対象です」

 

「な……!?」

 

 4人のメンタルコンデションレベルが急激に低下する。

 

「つまり、我等が消えれば……主は助かる……と」

 

「その通りです」

 

「ふざけるなよ!」

 

「待て」

 

 私に掴み掛るヴィータをザフィーラが引き留める。

 

「そんな、酷すぎるじゃないか!」

 

「ヴィータちゃん……」

 

「本当に……」

 

 シグナムが口を開く。

 

「本当に……我等が消えれば主は……助かるのか?」

 

「はい」

 

 私の回答に対し、シグナムが俯く。 

 

「我等は……主の為ならどんなことでもする。そう決めたな」

 

「えぇ」

 

「もちろんだ!」

 

「あぁ」

 

 4人は顔を見合わせ頷く。

 

「やってくれ」

 

「よろしいのですか?」

 

「あぁ」

 

 私は、闇の書に手を掛ける。

 

「それはあかんよ!」

 

「はやて!」

 

「はやてちゃん」

 

 はやてはベッドの上で上半身だけを起す。

 

「聞かれてましたか……」

 

「そりゃ、あんなで大声を出せば、聞くなって方が難しいよ」

 

「申し訳ない……」

 

 シグナムの謝罪に対し、はやては微笑む。

 

「でも、私の為に皆が消えるなんて、それは絶対にあかんよ!」

 

「しかし、それでは……」

 

「ええよ……」

 

「でも……それじゃあ、はやては……!」

 

 ヴィータは涙をこらえ俯く。

 

「削除以外にもう一つだけ、方法がございます」

 

 全員の視線が、デルフィに集まる。

 

「本当か!?」

 

「はい、しかし、多少のリスクを伴います」

 

「聞かせてくれ!」

 

「はい、その方法とは、闇の書を完成させる事です」

 

「やはりそれしかないか……」

 

「はい、闇の書の完成後、管理者権限が完全にはやてに移譲されるはずです」

 

「え? 私?」

 

「しかし、バグにより闇の書は汚染されている為、管理者権限がバグに引き寄せられる可能性があります」

 

「なんやって……!」

 

「しかし、バグに管理者権限が奪取されるまで、数分間タイムラグがある様です。その間にバグのみを闇の書から切り離す事が出来れば、全員無事に生還できる可能性があります」

 

「数分間だと…」

 

「これでも多く時間を見積もっています」

 

「短ければ数秒でしょう」

 

「でも……そんな事……私に……!」

 

「バグの切り離し作業には我々も協力いたします」

 

「切り離したバグは私達がデリートするのでご安心を」

 

「でも、その為には蒐集? をしなきゃいけないんやろ?」

 

「はい」

 

「そんな、他人に迷惑かける様な事は……」

 

「しかし、それ以外の手段では、やはりシステム自体を削除するしかありません」

 

「でも……そんな事をすれば! ……それも──」

 

「何も手段を講じなければ、数ヵ月以内に死亡します」

 

「え……!?」

 

 はやてのメンタルコンデションレベルが急速に低下する。

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

「もう少しな……」

 

 シャマルとシグナムは溜息を吐く。

 

「でも……それもええかも知れん……」

 

「はやてちゃん……」

 

「私はずっと一人……だったし……今更私が死んだところで誰も悲しまない……」

 

 はやては俯き涙を流す。

 

「その様な事はございません」

 

「え?」

 

「少なくとも、私達、ここに居る全員は貴方に生きて欲しいと願っています」

 

 私達が振り向くと、4人は同時に頷いた。

 

「ですから、命を粗末にしないでください」

 

「はやてちゃん……私達は貴女を……家族を守りたいの……!」

 

「主はやて、我等は貴女に生きて欲しいです! 家族を守る……その為なら……我等は消えても構いませんし、どんなことでもします! それこそ、世界を敵に回しても!」

 

「う……うぅう……うっ……!」

 

 はやてはその場で泣き出し、4人がはやてを取り囲む。

 

「まったく世界を敵に回すなんて言われたらかなわんわ……」

 

「大袈裟でしたかね」

 

「大袈裟や!」

 

 はやては涙を浮かべながらも、微笑む。

 

「現在の戦力レベルならば、全世界を敵に回した場合でも勝率は十分にあります」

 

「え?」

 

 全員の視線が集まる。

 

「これでも、かなり厳しい戦況を想定してです」

 

「じょ……冗談だろ?」

 

「生憎と冗談を言うようなプログラムは持ち合わせておりません」

 

「あはは……」

 

 はやては乾いた笑みを浮かべる。

 

「えっと……では改めて、主はやて。我等は蒐集を行ってもよろしいですか?」

 

「うん、ええよ」

 

「仰せのままに」

 

 4人は膝を付き礼をする。

 

「でも、条件があるんよ!」

 

「条件ですか?」

 

「絶対に人を……相手を殺さない事! できれば傷つけても欲しくないんやけど……それは難しい?」

 

「傷付けずにというのは不可能ですが……わかりました。この場に我等は不殺を誓いましょう」

 

 4人は深く頷く。

 

「よろしい! それと、無茶だけはしたらあかんよ!」

 

「わかりました」

 

 シグナムが答えると、はやては微笑む。

 

「では、蒐集に関しては我等にお任せを!」

 

「うん」

 

「我々もお手伝いいたします」

 

「それは心強いな」

 

「手加減できるんだろうな?」

 

「善処します」

 

「やりすぎはあかんよ」

 

「了解」

 

「フフッ……うぅ……!?」

 

 その時、はやてが胸を抑え、顔を俯かせる。

 

「はやて!?」

 

 ヴィータがはやてに駆け寄るが、はやては軽く手を上げ無事を知らせる。

 

「大丈夫や! 少し苦しかっただけ……」

 

 口ではそう言っているが、相当苦しい状況であることは、診断結果からわかる。

 

「こちらをお使いください」

 

 私はベクタートラップ内からナノマシンが入ったペン型の注射器を取り出す。

 

「なんやこれ?」

 

「ナノマシンが入っています。これにより痛覚抑制や、闇の書とのリンクの微調整等を行い病気の進行を抑える事が可能かと思われます」

 

「よ、ようわからんけど、凄いんやな……でもどうやるんや?」

 

「首筋の静脈に押し当ててください。後は自動で注入されます」

 

「注射は慣れっ子やけど、首に打つのはちょっと怖いな……これ、打っても大丈夫?」

 

「ご安心を、既に効果は確認済みです」

 

「そ……そう?」

 

 はやては、数回深呼吸を行った後、右手で首筋にペン型の注射器を押し当てる。

 

「イタッ!」

 

 押し当てると同時に、体内にナノマシンが注入されたことを確認する。

 

「注入確認」

 

「恐らく、数日中には定着するでしょう」

 

「うーう……なんか変な……感じ」

 

 左手で首筋を撫でながら、はやてはその場に横になる。

 

「それでは、我等は明日から蒐集を開始します!」

 

「うん、でも──」

 

「命は奪わず、無理もしない! 約束は守ります!」

 

「ならええよ。終わったら……迷惑かけた人達に皆で謝りに行こな」

 

「えぇ……」

 

 はやてはそのまま、眠りに付いた。

 

「では、我等も部屋へ行きます」

 

 4人ははやての部屋を後にした。

 




今作では、はやてが闇の書の蒐集を承知しています。

原作では秘密裏に行って居たのですが。まぁ、この2人が居てバレずに行うというのは無理があるでしょう…


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接触

この作品は、ほのぼのとしたものです。


   はやてが許可を下した翌日から蒐集が開始される。

 

 数日前の襲撃者の件もあり、スケジュールを調節し、必ず最低でも誰か1人がはやての警護に当たる様にした。

 

 その為、蒐集スピードは落ちるが、全て予定通りに事は運んでいた。

 

 そんなある日、私は転移魔法が使えるシャマルと共に管理外世界を訪れていた。

 

 周囲が砂漠に覆われた世界に、目標の生命体が存在する様だ。

 

 ちなみに、本日のはやての護衛任務はシグナムとデルフィだ。

 

「居たわ。エイダちゃん、お願い」

 

「了解」

 

 周辺をスキャンすると、砂の中を高速で移動する生命反応を確認する。

 

 次の瞬間、砂を巻き起こしながら、巨大なムカデの様な生命体が襲い掛かる。

 

 私は、バーニアを起動し、攻撃を回避する。

 

 攻撃を回避されたムカデは、再び砂の中へと潜り込む。

 

 砂の中には複数の反応があり、群れで行動している様だ。

 

「結構厄介そうね。サポートする?」

 

「いいえ、危険ですので上空で待機してください」

 

「わかったわ」

 

 シャマルが上空へ退避した事を確認した後、私はホーミングミサイルを展開する。

 

「ホーミングミサイル展開」

 

 砂の中の生命体を全てロックする。

 

「発射」

 

 総数16発のホーミングミサイルが一斉に上昇した後、地面に向かい急降下する。

 

 ホーミングミサイルが地面に吸い込まれてから数秒後、地中で連鎖爆発が起こり、粉塵が巻き起こる。

 

「キャ!」

 

 爆音に驚き、シャマルが悲鳴を上げると同時に、上空からバラバラに爆散したムカデの残骸が落下する。

 

「殲滅終了です。蒐集を開始してください」

 

「え、ええ……わかったわ」

 

 闇の書を構え、シャマルが収集を開始する。

 

「容赦ないわね……というか……不殺の……まぁ……人じゃないし……」

 

「何か仰いましたか?」

 

「いいえ、なんでもないわ。結構埋まったわ。いい感じね」

 

「了解。作戦終了時間です。帰還しましょう」

 

「そうね。向こうの時間じゃもう夜でしょうし、あまり遅いとはやてちゃんが心配しちゃうわ」

 

 私達は帰還準備を整え始める。

 

 その時。

 

「え? ちょっと待って」

 

 シャマルが念話による通信を開始した。

 

「えぇ、わかったわ。すぐに向かうわ」

 

 深刻そうな表情をしたシャマルがこちらに顔を向ける。

 

「大変よ! ヴィータちゃんが魔導士の子供に襲い掛かったってザフィーラから連絡があったわ!」

 

「戦況は?」

 

「鳴海市で戦闘状態になったらしいわ。自宅で待機していたシグナムが援護に向かったって。デルフィちゃんははやてちゃんの護衛に付いているみたい。でも相手も相当の手練れらしいわ」

 

「了解。急行しましょう。鳴海市に到着後、デルフィに出撃要請を出します。シャマルは自宅ではやての護衛に付いてください」

 

「わかったわ」

 

 シャマルが転移魔法を展開させる。

 

「行くわよ」

 

「了解」

 

  

 

  私達は、敵部隊からの探知を避けるべく自宅から5㎞ほど離れた地点に転移する。

 

「急いで戻りましょう」

 

「了解。私はこのまま作戦エリアへ急行します。状況次第では蒐集を行います。闇の書をお貸しいただけますか?」

 

「わかったわ」

 

 私は、闇の書を受け取るとバーニアで飛び上がり、戦闘エリアへと急行した。

 

 数秒後。戦闘エリアに到着した私は全体にジャミング電波を発生し、外部からの監視を阻害する。

 

 戦況はヴィータとザフィーラが金髪と獣耳の女性と対峙していた。

 

 その時、背後から接近する反応がある。

 

 反応からしてシグナムだと判断できる。

 

「お前、来ていたのか?」

 

「今到着したところです」

 

「そうか、では行くぞ。私が先行する」

 

「お待ちください。私が突入し敵部隊を無力化します。シグナムは2人の撤退の援護を」

 

「私も戦いたいのだが……仕方ないか」

 

 シグナムは少し残念そうな表情をする。

 

 私はそんなシグナムに闇の書を手渡す。

 

「状況次第では蒐集を行います」

 

「わかった」

 

 シグナムは闇の書を受け取り、保管する。

 

 戦況は、ヴィータが敵部隊により手足を拘束され、空中に固定されていた。

「くそっ!」

 

「はぁあああ!!」

 

 それと同時に、金髪の少女がヴィータに金色のエネルギーブレードで切りかかる。

 

「くっ!」

 

 ヴィータは眼を瞑り、訪れる衝撃に備える。

 

「ゼロシフトレディ」

 

 私はゼロシフトを使用し、ヴィータの前に移動すると、迫り来るエネルギーブレードを左手で受け止める。

 

 威力自体は大した事が無く、受け止めるのは容易だ。

 

「え?」

 

 突然の事に金髪の少女は目を見開き驚愕している。

 

 

「あれ……」

 

 ヴィータも恐る恐る目を開け状況を確認する。

 

「ご無事ですか?」

 

「え、エイダ……どうして!」

 

「随分と手こずっていた様だな」

 

 シグナムがヴィータの帽子を片手に現れる。

 

「ほら、落とし物だ」

 

「よ、余計な事しやがって! これから反撃するところだったんだ!」

 

「そうか、しかしここは一時退くぞ」

 

「でも!」

 

 シグナムがヴィータの背後に移動し、手足の拘束を破壊する。

 

「この場は私にお任せください」

 

「そういう事だ」

 

「うぅ……わかったよ」

 

 ヴィータとザフィーラはシグナムと共に、上空へと退避を行う。

 

「待て!」

 

 金髪の少女はシグナム達を追いかけようとするが、デバイスは私が左手で保持している為、移動できずにいる。

 

「クッ!」

 

 一度デバイスを解除し、私の拘束から逃れた後、金髪の少女が再びデバイスを展開させる。

 

「私は時空管理局の嘱託魔導士、フェイト・テスタロッサ。貴女は何者です? 一体何が望み?」

 

「申し訳ありませんが、作戦内容を流出させるわけにはいきません」

 

 フェイトは視線を逸らすことなく、こちらを見据える。

 

「答えるつもりは無いという事ですか」

 

「その通りです」

 

「ならば! 貴女を逮捕します!」

 

 フェイトは再び、エネルギーブレードを展開する。

 

「バルディッシュ!」

 

 バルディッシュのコア部分が光を放つとエネルギーブレードの出力が上昇する。

 

「はぁああ!!!!!!」

 

 高速で接近したフェイトがバルディッシュを振り下ろす。

 

「防衛行動」

 

 私は腕をブレードに変化させ、バルディッシュを受け止める。

 

「腕を……変化させた?」

 

 ブレードを横に振り抜き、フェイトを引き飛ばす。

 

「くっ!」

 

 私は追撃する為に、バーニアを噴かし急接近する。

 

「はぁ!」

 

 フェイトはこちらを迎撃する為に、高速でバックステップし距離を取る。

 

 それと同時に、バルディッシュを横に薙ぎ、切り返しを行う。

 

「捕えた!!」

 

 バルディッシュは着実に私の胴体部を捕える。

 

「ゼロシフトレディ」

 

 バルディッシュが命中する已の所で、ゼロシフトを使用し、その場から姿を消す。

 

「き、消えた……」

 

 フェイトは目の前から私か消えた事に驚きを隠せずにいる。

 

「こちらです」

 

 背後から声を掛けると、フェイトは驚愕する。

 

「なっ!」

 

 私はブレードを上から振り降ろす。

 

「くっ! くわぁ!」

 

 フェイトはバルディッシュで受け止めるが、ブレードはバルディッシュのフレームを切り裂き、フェイトはビルへと叩きつけられる。

 

 粉塵が巻き起こるビルから生命反応が確認できるので、死亡はしていない様だ。

 

 粉塵が晴れると、そこには破損したバルディッシュをリカバリーして装備しているフェイトが立っていた。

 

「まだ……まだ戦える!!」

 

 フェイトが飛び出すと、高速で近接攻撃を仕掛けて来る。

 

「てりゃあああ!!」

 

 それと同時に、背後から獣耳の女性が打撃による攻撃を行う。

 

「シールド展開」

 

 シールドを展開し、2人の攻撃を防ぐ。

 

「くそ!」

 

「アルフ!」

 

「なんて硬い結界なんだ……ヒビすら入らない!」

 

 私は二人を見据える。

 

 その時、別方向からエネルギーの収束を検知する。

 

 恐らく、砲撃による直接火力支援(ダイレクトアタックサポート)だろう。

 

 私は砲撃地点へと移動を開始する。

 

「行かせない!!」

 

 2人は私を挟むように陣取る。

 

 私は2人をロックし、最低出力に設定したレーザーランスを発射する。

 

「レーザーランス発射」

 

 発射されたレーザーランスは複雑な軌道を描き2人に迫る。

 

「くっ!」

 

 フェイトは回避行動を行い、アルフはシールドを展開する。

 

 レーザーランスはフェイトを追尾し、アルフのシールドに直撃し完全に破壊する。

 

「くはっ!」

 

 撃墜されたアルフは獣状態になり、屋上に落下した。

 

「アルフ!」

 

 フェイトは声を荒らげながら、必死にレーザーランスを回避し、ビルを盾に使う。

 

 その時、私の手足を何者かが拘束する。

 

「ユーノ!」

 

 ユーノと呼ばれた少年はビルに立っている。

 

 恐らく、この拘束は彼の仕業だろう。

 

 その時、砲撃地点のエネルギーが増大し、ピンク色の光があふれる。

 

「スターライトブレイカー!!」

 

 砲撃地点に居た少女が手にしたデバイスから砲撃を行う。

 

 放たれた砲撃は拘束された私に直撃コースだ。

 

「シールド展開」

 

 私はシールドを展開する。

 

 その直後、ピンク色のエネルギー砲撃が直撃する。

 

 砲撃の余波が周囲に広がり、粉塵が巻き起こる。

 

「エイダ!!」

 

「なんつーバカ魔力だ!」

 

「あんなものをまともに受けては……」

 

 後方に退避したシグナム達が先程の砲撃威力に驚愕している。

 

 威力レベルで言えば、ハルバードの15%程度の威力だと推定される。

 

 その為、シールドによる防御は容易だ。

 

 ブレードを横に薙ぎ、粉塵を振り払う。

 

「なんで……」

 

「無傷だと……」

 

 私はその場で、拘束を破壊する。

 

 そのまま、砲撃地点の少女へとゼロシフトで移動する。

 

「ヒッ!」

 

 突然目の前に現れた事により、少女は小さな悲鳴を上げる。

 

 私は、少女のデバイスに左手を伸ばす

 

 その時、少女の手にしたデバイスにより、衝撃波状のシールドが展開される。

 

 しかし、低出力な為、何の障害も無くデバイスを確保する。

 

「デバイスにダメージを確認。これ以上の使用は破壊の恐れがあります」

 

「え? え?」

 

 少女は混乱している様で何度となく瞬きをしている。

 

「なのはから離れろ!!」

 

 その時、背後からフェイトがバルディッシュを上段に構え急接近する。

 

 

 バルディッシュは私の首筋に迫る。

 

「ウアスロッド投擲」

 

 次の瞬間、私に接近するフェイトの真上からウアスロッドが投擲される。

 

 投擲されたウアスロッドは私の首筋に迫り来るバルディッシュのメインフレームを貫く。

 

「え……」

 

 デバイスを破壊されたフェイトは先程の速度を保持したまま、私の横を通り過ぎる。

 

 このままでは恐らく、屋上の床に突撃するだろう。

 

「ウィスプ起動」

 

 フェイトが床に衝突する寸前で、ウィスプにより確保する。

 

 ウィスプに捕獲されたフェイトは気を失っている様だ。

 

「フェ……フェイトちゃん!」

 

 私はフェイトを床に横たえる。

 

「ご安心を、気を失っているだけです」

 

「た、助けてくれたの?」

 

「命を奪うつもりはありません」

 

「しかし、リンカーコアの回収をさせていただきます」

 

 私は左手でデバイスを拘束しつつ、右手をブレードに変化させ、なのはに突き付ける。

 

「おとなしく協力していただけると幸いです」

 

 その時、私の背後に、ウアスロッドと大破したバルディッシュを回収したデルフィが着地する。

 

「バルディッシュ!」

 

「メインフレームは大破していますが、コアの損傷は中度、修復は十分に可能です」

 

 デルフィがフェイトの側に大破したバルディッシュを置く。

 

「遅れて申し訳ありません」

 

「いえ、私一人で十分でした」

 

「その様ですね」

 

 その時、若干だが少女のデバイスからシールドが展開される。

 

「先程も申し上げた様に、これ以上の戦闘は、デバイスの破損に繋がります」

 

「プロテクションが……」

 

 デバイスから幾度となくシールドが展開されるが、低出力な為、意味を成さない。

 

「仕方ありません。デリートを開始します」

 

 私は、手にしたデバイスのデリートを行う。

 

 次第に、デバイスのコア部分の光が消えて行く。

 

「レイジングハート!」

 

「AIデリート率75%。これ以上抵抗を続ける様でしたら、AIを完全に消去します」

 

「やめて!」

 

 少女は武装解除しその場に膝をつく。

 

「感謝します」

 

「どうして…どうしてこんなことをするんですか!」

 

「残念ながらお答えすることはできません」

 

「え?」

 

「失礼ですが、しばらく気を失っていただきます」

 

 私は右手のブレードをなのはの首筋に押し当てる。

 

「ひっ!」

 

 なのはは悲鳴を上げ、恐怖感に満ちた表情を浮かべる。

 

 私はそのまま、ブレードに電流を流し、なのはを気絶させる。

 

 その後、私はゼロシフトで物陰に潜んでいた少年の側へと移動する。

 

「え?」

 

「失礼します」

 

 少年の首筋に軽く振れ、気絶させる。

 

「うぅ……」

 

 呻き声を上げ、少年の無力化に成功する。

 

「敵部隊の無力化を確認。蒐集を開始してください」

 

 私が連絡すると、シグナム達が下りて来る。

 

 ザフィーラの腕にはアルフが抱きかかえられていた。

 

「それでは、蒐集を行う」

 

 シグナムが闇の書を構えると、4人から蒐集を行う。

 

「すごい、かなり埋まったな……コイツは大きいぞ」

 

「コイツら凄い魔力を持っていたんだな……そんな奴等を1人で相手するなんて……」

 

 ヴィータがこちらに視線を向ける。

 

「敵じゃなくて良かったと思うべきだな」

 

 シグナムは苦笑する。

 

「敵部隊の無力化は終了しましたが、こちらの少女、フェイトは時空管理局の嘱託魔導士と名乗っていました。その時空管理局によってこちらの戦闘が監視されている恐れがあります」

 

「念のためジャミングを行っていますが、用心してください」

 

「そうだな、一度バラバラに分かれ、戻るとしようか」

 

「了解」

 

 私達は、気絶した彼等を残し撤退を開始した。

 




現在StrikerS編を作成中ですが、かなりオリジナル要素が多くなりそうです。

具体的には、ヴィヴィオと一部のナンバーズは出番なさそう…

まぁいいか。


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幕間

今回は短めです。

小休止の様なものだとお考え下さい。


 

   深夜2時、私達は帰還する。

 

「お帰りなさい。どうだった?」

 

 玄関を開け、シャマルが出迎える。

 

「なんとかな。けっこう収穫は大きかった」

 

 シグナムはシャマルに闇の書を手渡す。

 

「良かったわ」

 

「主はやては?」

 

「もう寝てるわ。皆の事心配していたわ」

 

「そうか。心配をかけてしまったな」

 

 私達はリビングへと移動する。

 

「さて……ヴィータ。なぜ襲い掛かった?」

 

「それは……」

 

 ヴィータは顔を伏せる。

 

「別に怒っている訳では無い。ただ説明して欲しい」

 

 シグナムが宥める様に問いかける。

 

「だって……早くしないと……」

 

「それは分かっている。皆その気持ちは一緒だ」

 

「現在のペースならば作戦遂行は問題ないはずです」

 

「エイダもそう言っている。焦る事は無かった」

 

「う……うん」

 

 ヴィータは小さく頷く。

 

「しかし、今回の戦闘により、今後の作戦遂行に支障をきたす恐れがあります」

 

「何だって……?」

 

 ヴィータが顔を上げる。

 

「今回の戦闘により、我々は時空管理局という組織と敵対関係になってしまいました」

 

「今後、何らかの妨害工作などが予想されます」

 

「しかし時空管理局か……この世界は管理外世界だと思ったが……」

 

「恐らく、委託戦闘員がこの世界に居たものと思われます」

 

「なるほど……少し厄介だな」

 

「そうね……」

 

「スケジュールの再調整を行います」

 

 私達はスケジュールの調整について打ち合わせ、今後の予定を立てる。

 

 

  次元空間航行艦船アースラのブリッジで、クロノは頭を抱えていた。

 

 先程の戦闘により、高町なのは、フェイト・テスタロッサ、ユーノ、アルフが負傷し、リンカーコアを蒐集されてしまった。

 

 リンカーコアの回復自体は問題なく行われるようだが、2人のデバイスである、レイジングハートが中破しAIの80%が削除されており、バルディッシュも大破状態で回収された。

 

 現在は修復作業に取り掛かっている。

 

「情報が少なすぎる……」

 

「途中まではスキャンできていたんだけど、急に強力なジャミングが行われたの。ジャミング自体は魔力的なものとは違って電子的なものだったわ」

 

 クロノの隣で一人の女性がコンソールを操作する。

 

 彼女は、通信主任兼執務官補佐のエイミィ・リミエッタ。

 

 エイミィはコンソールを操作しながら頭を抱える。

 

「最初に展開された結界はミッド式じゃ無かったわ。多分ベルカ式? だと思うわ」

 

「何にしても情報が少なすぎる。フェイト達の戦闘データはどうだ?」

 

「3人との戦闘データはバルディッシュに記憶されていたわ。全員魔力生命体みたい」

 

「報告では後2人居るはずだ」

 

「それが、その2人に関してはレイジングハートもバルディッシュも記憶してなかったの。いや、どちらかと言えば探知してなかったっといった方が良いかしら?」

 

「どう言う事だ?」

 

「これは推測なんだけど、その2人が後半に発生した強力な電子的なジャミングを行ったんだと思う。そしてその当人達もデバイスでは検知できない様なジャミング状態にあったの」

 

「そんな……近距離でデバイスが探知できないなんて……!?」

 

「でも、現にレイジングハートのAIがその2人の内の片方に削除されそうだったのよ」

 

「信じられないな……!」

 

「えぇ、あのクラスのAIを削除するなんて、管理局でも……もちろん地球の技術でなんか不可能よ」

 

「そうなると、次元漂流者という可能性もあるわね」

 

 艦長であるリンディがブリッジに現れる。

 

「さっき目を覚ました2人から話を聞いて来たわ」

 

「2人の状況はどうでした?」

 

「フェイトちゃんは大丈夫だけど、なのはちゃんは目を覚ました直後は怯えていたわ。PTSDの可能性もあるわ……」

 

「なんてことだ……2人から話は聞けましたか?」

 

「なんでも、最初に現れた女性は魔法的な方法でもなく空を飛んでいたらしいわ。それに片手でバルディッシュを受け止めたって。素手でね」

 

「そんな……冗談でしょう?」

 

 エイミィが引き攣った笑みを浮かべる。

 

「本当らしいわ。そして、腕をブレードに変化させたらしいの」

 

「腕を変化……デバイスではないようですね?」

 

「そうね、質量兵器だったらしいから、デバイスとは違うわね」

 

「腕を変化させる生命体なんて……知らない……」

 

「だから、次元漂流者なのかもしれないわ……」

 

「しかし……何が目的なんだ……?」

 

 クロノが小さく呟く。

 

「一つだけ、この状況に心当たりがあるわ……」

 

 リンディが口を開く。

 

「それは一体?」

 

「闇の書と呼ばれるロストロギアよ……昔起こった事件と状況が少し似てるわ……」

 

「闇の書……しかし、そんなロストロギアをなんで次元漂流者が……」

 

「何か理由があると考えるべきね……」

 

 3人は解決策がでず、ただ思考を巡らせていた。

 

 

 

  次元空間航行艦船アースラデバイスルーム。

 

 そこには、なのはとフェイトの2人が容器に入れられた2つのデバイスを見守っていた。

 

「レイジングハート……」

 

「AIが消去されかけた上、損傷があるって……修復にはかなり時間がかかるらしいよ……」

 

「リンディさんから聞いたよ……バルディッシュは?」

 

「メインフレームのほかに、コアにも物理的に損傷があるから同じくらい時間かかるって……」

 

 2人は項垂れる。

 

「それにしても……あの人達何者なんだろう……」

 

「バルディッシュが片手で受け止められた……」

 

「私はスターライトブレイカーを無傷で防がれちゃった……それに……」

 

 なのはは先日の光景を思い出し恐怖心からスカートの裾を握りしめる。

 

 フェイトはなのはの状況に気が付かずに溜息を吐く。

 

「でも、私の事助けてくれたんだよね?」

 

「そうみたいだね……」

 

「命までは取らないって、やさしいのかな?」

 

「よく分からない……私は……とっても怖い人だと思ったよ……一体何が目的なんだろう……」

 

「今度会ったら聞いてみよう。何か事情があるんだよ」

 

「事情……か……」

 

 

 2人は、自分達とは比べ物にならない、圧倒的な力量の差を見せつけられた。

 

 フェイトは力量差を埋めるべく決意を胸に抱いた。

 

 対するなのはは恐怖心を押し込もうと深呼吸を繰り返した。




前回の戦闘でなのははPTSDを発症しました。

え?

不穏な空気がする?

ほのぼのとした内容ですから…


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再戦

寒くなってきましたね。

体調に気を付けましょう。




   時空管理局との接触があってから数日が過ぎる。

 

 その間も管理外世界において、魔法生物などから蒐集を行う。

 

 何とか予定通りに蒐集は行われていく。

 

 そんなある日、シグナムから報告が入る。

 

「ここ最近、蒐集中に妙な視線を感じる。結界は張っているのだが……」

 

「誰かに監視されて居るかもしれないな……」

 

 ヴィータが呟く。

 

「恐らく、闇の書を狙う存在による可能性があります」

 

「候補としては複数が挙げられます」

 

「一つ、闇の書を手に入れその力を利用しようとするもの」

 

「だが、闇の書が完成したら主であるはやてにしか使えない」

 

「別件では、闇の書に恨みを持つ者」

 

「恨みだと?」

 

 シグナムが首をかしげる。

 

「闇の書は主を変え、転々として居ます」

 

「その為、前任者が行った犯行による被害者、または前任者の関係者が恨みを抱いている可能性があります」

 

「確かに……それはあり得るな……しかし闇の書の破壊は……まぁ、お前達ならば可能だろうが並の魔導士には不可能なはずだ」

 

「破壊が不可能な場合、凍結、または封印を行うものと考えらえます」

 

「まさか……それが目的?」

 

「恐らく、現在は監視中の可能性があります」

 

「状況が動いたら……」

 

「監視者も行動を開始する可能性があります」

 

「しかし……一体誰がそんな事を……」

 

「現状最有力なのは時空管理局です」

 

「何故……時空管理局……奴等が?」

 

「時空管理局も闇の書の存在は把握している筈です。そして、闇の書の発動より前からはやては何者かによって監視されていました」

 

「何らかの事情により時空管理局の一部の人間がはやてが闇の書を保有しているという事を把握していた可能性があります」

 

「つまり、謎の監視者が時空管理局の人間だと……」

 

「可能性はそれが一番高いです」

 

「時空管理局ならば闇の書の監視を行うことも容易でしょう」

 

「時空管理局か……前回の奴等みたいなのばっかりだったらキツイな……」

 

 ヴィータが前回の戦闘を思い出したようで苛立ち、舌打ちをする。

 

 

  それから、数ヵ月の月日が流れ、12月に入る。

 

 その頃には蒐集のノルマも進み、少なくとも数週間中には完成すると思われる。

 

 ナノマシンの効果もあり、はやての余命が尽きるまでには間に合うだろう。

 

 そんなある日、帰還予定時刻になってもシグナム達が戻ってこない。

 

 そんな時、シャマルから通信が入る。

 

『どうしました?』

 

『大変なの! シグナムとヴィータちゃん、ザフィーラが結界に閉じ込められて』

 

『了解。合流地点へ向かいます』

 

『お願いね。それと、はやてちゃんには知られない様に……』

 

『了解』

 

 私達はその場で立ち上がる。

 

「ん? どないしたん?」

 

「帰りが遅いので迎えに行ってきます」

 

「うん……わかった。夕ご飯の準備しておくね。でも無茶は……ううん……なんでもない」

 

 はやては作り笑顔を浮かべる。

 

 恐らくだが、何かしら勘付いたのだろう。

 

 私達は家を出ると、合流地点へ急行した。

 

 

 

  合流地点では心配そうに闇の書を抱えているシャマルの姿があった。

 

「お待たせいたしました」

 

「急に呼び出してごめんなさい」

 

「お気になさらず」

 

「状況は?」

 

「管理局の魔導士に囲まれているみたい……かなり強固な包囲よ」

 

「了解」

 

 3人を取り囲むようにドーム型のシールドが展開されている。

 

 その為、転送が行えない様だ。

 

 私はビームガンを構え空中に向ける。

 

「出てきてください」

 

「ちっ……」

 

 舌打ちしながら黒髪の少年が姿を現す。

 

「時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンだ。君達をロストロギアの不正所持の容疑で拘束する。大人しく投降すれば弁護の機会もある。大人しく武装解除しろ」

 

 クロノは杖を構える。

 

 どうやら、以前戦闘を行った2人と同種のデバイスだろう。

 

 私はシャマルに通信を繋ぐ。

 

『彼の相手は私が行います』

 

 続いてデルフィが通信に割り込む。

 

『では、私が3人の援護に向かいます』

 

『シャマルはすぐに撤退を』

 

『でも……』

 

『自宅ではやての護衛をお願いします』

 

『わかったわ』

 

「動くな!」

 

 動き出そうとするシャマルに杖を向ける。

 

「闇の書の主は誰だ? どこに居る?」

 

「申し訳ありませんが、お答えする訳にはいきません」

 

「そうか、なら聞きだすまでだ!」

 

 クロノが杖を振ると複数のエネルギー弾が発生し、シャマルに襲い掛かる。

 

「くっ!」

 

 シャマルは前面にシールドを展開し防御態勢を整える。

 

 私は、シャマルとエネルギー弾の間に移動すると、シールドを発生させる。

 

「エイダちゃん!」

 

「急いでください」

 

「わかったわ!」

 

 シャマルがその場から飛び出し、撤退行動に移る。

 

 同時に、デルフィが飛び上がり、シールドにハッキングし、内部へと移動した。

 

「逃すか!」

 

 移動しようとするクロノの前に、私が立ちはだかる。

 

「邪魔だ! スティンガーブレイド! エクスキューションシフト!」

 

 クロノの周囲に刃上のエネルギー弾が複数展開する。

 

 数にして100以上だろう。

 

 クロノが手を振り下ろすと、刃が一斉に私に飛び掛かる。

 

 しかし、放たれた刃は私の周囲で霧散する。

 

 分析の結果、威力はファランクス程度なので、常時展開している全方位シールドにより容易に防ぐ事が出来る。

 

「なんだと……」

 

 放たれた刃が意味を成さない事に、クロノは驚愕しつつも、杖を構える。

 

「てやぁ!」

 

 クロノは手にした杖を構え、飛び掛かる。

 

「防衛行動に移行します」

 

 腕をブレードに変化させ、杖による攻撃を防ぐ。

 

 杖とブレードがぶつかり合い、火花が散る。

 

 私はブレードを切り払い、クロノを吹き飛ばす。

 

「ちぃ!」

 

 吹き飛ばされたクロノは空中で一回転すると、着地する。

 

「てやぁあ!!」

 

 着地の反動を利用し、飛び上がると再び私に向け、杖を振りかざす。

 

 私は、出力を抑えたビームガンをクロノに向け放つ。

 

「発射」

 

 クロノは発射されたエネルギー弾を杖で弾こうとする。

 

 しかし。

 

「なに!」

 

 クロノが手にしているデバイス程度の出力ではエネルギー弾を弾く事は出来ず、杖を弾き飛ばしクロノに直撃する。

 

「ぐはっ!」

 

 エネルギー弾の直撃により、再び吹き飛ばされたクロノは、フェンスに激突する。

 

「きっ……一体……何者なんだ……」

 

「申し訳ありませんが、しばらく気を失っていただきます」

 

 私は倒れ込んだクロノに追撃として、ゲイザーを投擲する。

 

「くっ……」

 

 クロノに直撃したゲイザーは、デバイスごと神経系に作用し、無力化する。

 

 クロノの無力化を確認。

 

 気を失ったクロノを右手で拘束しつつ、私は援護に向かう為、シールドを通過する。

 

 

「チッ! 雑魚ばかりだと思っていたが……」

 

「こうも囲まれては……」

 

 シグナムとザフィーラとヴィータは互いに背中合わせとなり、周囲の魔導士達を睨み付ける。

 

「お願い! 私達は話をしたいだけなの!」

 

「うるせっ!」

 

「何か協力できることが──」

 

「誰がお前達の協力なんか受けるかよ!」

 

 なのはの問いに対し、ヴィータは声を荒らげる。

 

「この……わからずや!!」

 

 なのはのレイジングハートが複数の薬莢を排出しカードリッジをリロードする。

 

「あれは!」

 

「まずいぞ!」

 

「全力全開! スターライトブレイカーEX!!」

 

 マガジン内のカードリッジ総てを使用し、レイジングハートから高威力の魔砲攻撃が3人向け放たれる。

 

「くそぉ!」

 

 ザフィーラはヴィータとシグナムの前に立ち、強力な魔砲攻撃の盾となる。

 

「ザフィーラ!!」

 

 魔砲攻撃は眼前に迫り来る。

 

 その時。

 

「お待たせいたしました」

 

 デルフィがザフィーラの前に瞬時に現れる。

 

「おい!」

 

「シールド展開」

 

 デルフィは前面にシールドを展開する。

 

 次の瞬間、スターライトブレイカーEXとデルフィが展開したシールドが衝突する。

 

 高威力のエネルギーの濁流が起こり、周囲に土煙が舞い上がる。

 

「はぁ……はぁ……やった……の?」

 

 なのはがダメージを負ったレイジングハートを握りしめ、肩で息をしている。

 

 その様子をフェイトも見守っていた。

 

「大丈夫? なのは」

 

「うん、でも……結構疲れちゃった……」

 

 フェイトはなのはに肩を貸し、支える。

 

「きっとこれで……」

 

「ウアスロッド展開」

 

「え?」

 

 デルフィがウアスロッドを横に軽く薙ぎ、土煙を吹き飛ばす。

 

「うそ……」

 

「あれでも……無傷なの……」

 

 スターライトブレイカーEXをシールドで完全に防ぎ切ったデルフィがウアスロッドを構える。

 

「そちらの戦闘能力の低下を確認。周辺のシールドを解除し、撤退してください」

 

「なのは、下がって」

 

「フェイトちゃん……」

 

 フェイトはバルディッシュを起動し、デルフィと対峙する。

 

「前回の戦闘データ参照。貴女の勝率は0.25%。無駄な戦闘はおやめください」

 

「だとしても!」

 

 バルディッシュはカードリッジをリロードし、出力を高める。

 

 それと同時にフェイトは高速でデルフィに接近する。

 

 対するデルフィはフェイトと同じ速度で後方へ飛び退く。

 

「クッ!」

 

 距離が一向に詰められずにフェイトは焦りを覚える。

 

 しかし、次の瞬間デルフィが空中で急停止する。

 

「え?」

 

 突然の事に対応できず、フェイトは速度そのままバルディッシュを横に凪ぐ。

 

 

 対する、デルフィはウアスロッドを解除し、迫りくるバルディッシュを素手で受け止める。

 

「どういうつもり……」

 

「勝負はもう着きました」

 

「何を言って……」

 

 デルフィが真上を指差し、全員の視線が集まり、驚愕した。

 

 




一体何が起こるっていうんだ…



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惨敗

今作はまだほのぼのとした内容です。

まぁ、それ故短編なんですがね。


 

   私が、クロノを抱えながらシールド内部に潜入すると、デルフィがこちらを指差す。

 

 それに伴い、全員の視線が私に集まる。

 

「あれは……」

 

「クロノ!」

 

 フェイトが声を上げる。

 

 私は、緩やかにデルフィの横へと移動する。

 

「少年を拘束しました。執務官と名乗っていたので、彼女達の上官であると思われます」

 

「了解」

 

 デルフィはウアスロッドを展開するとクロノの喉元に突き付ける。

 

「ジャミング解除。彼は、時空管理局執務官クロノ・ハラオウンで間違いありませんか?」

 

「クロノを離して!」

 

 フェイトがバルディッシュを上段に構える。

 

「構いませんが、全員武装を解除してください」

 

「で……でも……」

 

「わかった。要求を飲みます」

 

 その時、女性の声が響くと同時に私達の上空に、声の主と思われるホログラム映像が現れる。

 

「私は時空管理局所属戦艦アースラの艦長。リンディ・ハラオウンです」

 

「ハラオウン。彼は貴女のご子息という事ですか」

 

「えぇ、ですが、息子可愛さに貴女達の要求を飲んだ訳では有りません。その場に居る全員の安全の為です」

 

 ホログラムの女性は表情を変えずに語る。

 

 それに伴い、全員が武装を解除する

 

「武装解除を確認」

 

 私はクロノをウィスプで固定し、空中に拘束する。

 

「これより撤退に移ります。追撃するようでしたら──」

 

「分かっているわ。でも一つ教えて頂戴」

 

「なんでしょう?」

 

「貴方達の目的は何?」

 

「申し訳ありませんが、今後の行動に支障が出る可能性がある為、お答えする事は出来ません」

 

「答えを聞かせてくれたら、結界を解除するわ。追撃も追尾もしないと約束するわ。それに結界を解除しない限り、貴女達は出られない筈よ」

 

「申し訳ありませんが、時空管理局に対してはお答えできません」

 

「それはなぜ?」

 

「既に、時空管理局の関係者と思われる人物により、襲撃を受けました」

 

「襲撃? 先に襲ってきたのはそっちでしょ?」

 

「いえ、それよりも以前に仮面の人物によって襲撃を受けました」

 

「仮面の……人物?」

 

 私が答えると、リンディの表情が曇る。

 

「お心当たりはおありですか?」

 

「そんな人物は、私の知る限り居ないわ」

 

「でしたら、貴女方以外の別の部隊に所属する人物による襲撃の可能性があります」

 

「待って、どうしてその仮面の人物が時空管理局の人間だと?」

 

「詳細はお伝え出来ませんが、闇の書が発動する以前より、所有者に対して監視行動が行われていました」

 

「監視って……闇の書はランダムに転生を繰り返しているのよ……発動するより前に探知するなんて……」

 

「それが可能なのは、時空管理局だけだと思われますが」

 

「確かに……でも……」

 

「申し訳ありませんが、これ以上はお話できません」

 

 デルフィがバーストモードに移行する。

 

「あの2人から高エネルギー反応確認!」

 

「何をするつもり!」

 

 ホログラム映像のリンディが焦りだす。

 

「全員へ警告。これよりシールドの破壊へ移行します」

 

「破壊って……この結界は並大抵の攻撃じゃ破壊できないわよ! 無駄なことは──」

 

「バーストモードショット、戌笛発射」

 

 デルフィがバーストショットをシールドに向け放つ。

 

 2発の戌笛がシールドに直撃すると、ガラスが割れるような音を立て、シールドが完全に破壊される。

 

 破壊の余波が、周辺の魔導士にダメージを与える。

 

「撤退してください」

 

「あ、あぁ」

 

 3人は複数回にわたって転移し、撤退する。

 

「追跡して!」

 

「ダメです! 強力なジャミングが!」

 

「なんですって……」

 

 リンディの表情が曇る。

 

「ご子息はお返しします」

 

「我々もこれで」

 

 私達は広域にジャミングを展開し、高速で上空へと飛び立つ。

 

 

 

  撤退した後、複数個所を経由し帰路に着こうとした時シャマルから通信が入る。

 

『ごめんなさい。ちょっといいかしら?』

 

『ご用件は?』

 

『ちょっと厄介なことになったの』

 

『敵襲ですか?』

 

『ううん。そうじゃなくて。帰りにお買い物を頼めないかしら?』

 

『買い物ですか?』

 

『そう。はやてちゃんのお友達が来ているの。それで、お鍋の材料が少し足りなくなるかもしれないの』

 

『了解』

 

『ごめんなさい。この時間だとコンビニとかしか開いてないと思うけど』

 

『ご心配なく』

 

『ありがとう』

 

 私達は近くのコンビニで必要な物資を補給した後、帰還する。

 

 リビングに入ると、はやての隣にロングヘアの少女が座っていた。

 

「おかえり。遅かったね」

 

「少し買い物を」

 

「あっ。初めまして私、月村すずかと言います。お二人も遠縁のご親戚ですか?」

 

「その様な物です」

 

 私達も自己紹介を行うと、全員が食卓に着く。

 

「それじゃあ、夕ご飯にしよか」

 

「そうですね。あっ、お土産でケーキを買って来たんです。翠屋っていう美味しいお店があるんです」

 

「そうなのですか」

 

 私は、ケーキを受け取り、冷蔵庫へとしまう。

 

「デザートとしてお出しします」

 

「ありがとう」

 

 こうして、団欒とした夕食が進んで行く。

 

 まるで、先程の戦闘など無かったかのように。

 

 食後、すずかは使用人が迎えに来たという事で帰宅することになった。

 

「今日はありがとうね。とっても楽しかった」

 

「それは良かった。私も楽しかった。今度は一緒に翠屋に行ってみよう。実はそこ、友達のお店なの」

 

「ええね。行こうか」

 

「うん」

 

 はやては軽く手を振ると、すずかも手を振り、帰宅した。

 

「ふぅ。やっぱりお客さんをもてなすのはちょっと疲れるなぁ」

 

「お疲れ様です」

 

「せやね。少し疲れたわぁ。お風呂入ってくるで」

 

「あっ、私も入る」

 

「フフッ、じゃあ一緒に入ろか」

 

「なら、私もご一緒しますね」

 

 ヴィータとシャマルは、はやてと共に浴室へと向かった。

 

「少し良いか?」

 

 シグナムが私達を手招きする。

 

「なんでしょうか?」

 

「今回は助かった。礼を言おうと思ってな」

 

 シグナムがこちらに一礼する。

 

「お気にせずに」

 

「お前達が居なければ。どうなっていた事か……というかあの、なのはとか言う魔導士の攻撃を良く防げたな」

 

「威力的にはハルバードと呼ばれる兵器の30%程度でしたので防御は可能でした」

 

「よく分からんが……まぁ……」

 

 シグナムは何かを口に出そうとして、それを抑える。

 

「どうかされましたか?」

 

「いや、なんでもないさ。お前達が敵でなくてよかったと実感しただけさ」

 

「了解」

 

 浴室からは、3人の笑い声がかすかに漏れていた。

 

 

  翠屋の近くに構えた司令部で、なのは達は先程の戦闘を思い起こし、会議を行っていた。

 

 なのはとフェイトの二人は、前回の大敗を払拭するべく、新しい力を付けたデバイスの説明を受けていたが、その話は耳を抜けて行った。

 

 なぜなら、その強化したデバイスの力を持ってしても、自分達を打ち負かした2人に手も足も出なかったのだ。

 

「話……聞いてる?」

 

「あ……すいません……」

 

「まぁ……無理も無いわね……」

 

「私の……全力全開が……また……届かなかった……」

 

「普通に考えたら、防げる方がおかしいのよ。気にしないで」

 

 リンディが微笑み、なのはを慰める。

 

「それにしても……あの二人が厄介だな」

 

 目を覚ましたクロノがリビングに現れる。

 

「クロノ。もう起きても大丈夫なの?」

 

 フェイトがクロノに声をかける。

 

「デバイスによって意識を失わさせられただけさ。これがそのデバイスだ」

 

 クロノは、テーブルの上に、使用済みとなったゲイザーを置く。

 

「こんな小さなものだが、デバイスと体が動かなくなった……それもバリアジャケットの上から」

 

「後で、本部で解析してみるわ」

 

「まぁ……使い捨てのデバイスだろうが……」

 

 クロノは溜息を吐く。

 

「とりあえず、手に入れた情報を整理しましょう」

 

「そうですね」

 

「まず、闇の書の騎士達だ。全員が自分の意志で行動しているように思える」

 

「本来ならば、主が命令を出し、それに従うと言うのだけど……」

 

「そこが分からない所ね……一体どういう事なのかしら?」

 

「例の2人が関係しているんじゃないかと思います」

 

 エイミィが画面に映像を映し出す。

 

 そこには2人がクロノを拘束し騎士達を守る様に立ちはだかっている姿が映し出される。

 

「この2人が闇の書の所有者。もしくは、所有者の関係者と考えるのが妥当だろう」

 

「えぇ、彼女達は次元漂流者でもあるけど、恐らく闇の書を手にして、蒐集の為にこの地に訪れたと考えるべきね」

 

「武装としては、今分かっている範囲だが、1人はブレードと銃の複合型。もう一人は杖型だ。どちらも、質量兵器だと思われる」

 

「質量兵器の使用……これで罪状が一つ増えたね」

 

 なのはが小さく呟く。

 

「そして、結界を破壊した、超威力のエネルギー兵器を所持している。推測だがアレだけの威力だ、連続での使用は不可能だと思う」

 

「虎の子の攻撃って訳ね……だけどこれは……厄介な相手ね……」

 

 リンディは溜息を吐く。

 

「早急に逮捕しなくてはならない相手だ。推測だが、もっと多くの武器を携行している可能性もある」

 

「逮捕……出来るのかな……」

 

 なのはが呟き、全員が息を呑む。

 

「アレだけ危険な人達……逮捕だけで良いのかな?」

 

「なのは?」

 

「もし、封印が出来るなら……した方が良い。そうじゃないと……」

 

 なのはの呟きをクロノが遮る。

 

「とにかく、この2人を放置しておくわけにはいかない」

 

「でも……一体何が目的なんだろう……これだけの力があるなら、闇の書の力に頼らなくても……」

 

「闇の書は完成したところで、総てを破壊するだけ……それこそ主を含めてね……」

 

 リンディが悲し気な表情を浮かべる。

 

「どうして……そんな物を……」

 

「分からないわ……それに彼女達が言っていた仮面の人物って……」

 

「時空管理局の人物だと言っていましたが……嘘を言っている可能性もあるのでは?」

 

「それは……」

 

 リンディが暗い顔をする。

 

「兎に角、この2人には要注意だ。なんとしても闇の書は封印しなくてはならない」

 

「封印……一体どうやるつもり?」

 

「候補として上がるのは極めて強力な氷結魔法で主ごと活動停止させる」

 

「でも、そんな事をしたら持ち主は……」

 

「どの道……主に生きる道はない……」

 

 クロノの説明を聞き、フェイトの顔が曇る。

 

「まぁ、今回はここまでだな。詳しい事は新しい情報が入ってからにしよう」

 

 会議が行き詰まったのを感じた、クロノが諦めた様に会議を終了させた。

 




おや? 
なのはの様子が…


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融解

リアルが忙しいので、年内はあと1話投稿できるかできないかです…


 

 

   時空管理局との戦闘から数日後。

 

 私達は、時空管理局の監視を警戒し蒐集は小規模に抑える。

 

 しかし、ページのストックは十分な為、期間までには間に合うと思われる。

 

 そんなある日、すずかが家に訪れた。

 

「すずかちゃん。どないしたん?」

 

「この後お時間ある?」

 

「今日は検診もないしええよ」

 

「よかった。この後一緒に翠屋に行かない? 私の友達がはやてちゃんに会ってみたいって言ってて」

 

 はやてが、こちらに振り返る。

 

「構いませんよ」

 

「よかった!」

 

「皆さんもどうですか?」

 

「私達も?」

 

 シグナムが声を上げる。

 

「ダメですか?」

 

「その……今日は道場で指導をする事になっていて……」

 

 シグナムが申し訳なさそうに呟く。

 

「私もこのあとちょっと予定が……」

 

 ヴィータが残念そうに俯く。

 

「私も、お夕飯の買い物に。今日タイムセールなの」

 

 シャマルが申し訳なさそうに微笑む。

 

 ザフィーラは無意味に欠伸をする。

 

「どうしようか……」

 

 はやてがこちらに視線を向ける。

 

「2人は?」

 

「予定はありません」

 

「じゃあ……」

 

「了解。我々が同行します」

 

 デルフィが答えると、はやての顔に笑みがあふれる。

 

「では、準備をしてまいります。少々お待ちください」

 

「ちょっと待っとって」

 

 私達は、はやてを着替えさせ、外出の準備を行う。

 

 外出の準備が済み、玄関を出ると既に車が準備されていた。

 

「さぁ、乗ってください」

 

「了解」

 

 すずかに促されるながら、私達は乗車する。

 

 

  数分間車で移動すると、翠屋と看板に掛かれた喫茶店の前に車が停車した。

 

「さぁ、行きましょう」

 

「そやね」

 

 すずかの後に私が車椅子を押しながら入店する。

 

 店内はそこまで広くは無いが、清潔感があり、ショーケース内には色とりどりのケーキが並んでいた。

 

「うわぁ……すごい……」

 

「ここのケーキはどれもおススメなの」

 

「へぇ……」

 

 はやてがショーケース内のケーキに見とれて居る時、背後の扉が開き少女が入店する。

 

「あ、アリサちゃん」

 

「この人がすずかが言っていた友達?」

 

 どうやら、このアリサと言う少女はすずかの友人の様だ。

 

「うん」

 

 私は車椅子をゆっくりと回転させ、はやてとアリサが向き合う。

 

「あっ、八神はやてって言います」

 

「あたしはアリサ・バニングス。すずかの友達よ。よろしくね」

 

 アリサが出した手をはやてが取り、握手する。

 

「それで……この人たちは?」

 

「この2人は、私の遠縁の親戚なんよ」

 

「なんか、外国人みたいだけど……」

 

「お気にせずに」

 

 アリサは首を傾げたが、数回頷く。

 

 その時、店の奥から2人の少女が姿を現した。

 

「いらっしゃい! すずかちゃん、アリサちゃん……え?」

 

 目の前の少女は、先日戦闘を行った、なのはとフェイトだった。

 

 フェイトは瞬きを繰り返し、なのはのメンタルコンデションレベルが急激に低下する。

 

「えっと……」

 

「この人が、私が言っていたはやてちゃん」

 

「はじめまして、八神はやてです」

 

 はやては2人に軽く会釈する。

 

「あ、は、初めまして」

 

 なのはとフェイトの2人はぎこちない笑みを浮かべる。

 

「どうしたの? 2人とも、ちょっと変よ」

 

「え? そ、そんなこと無いよ。ね、フェイトちゃん」

 

「そ、そうだよ。アハハ……」

 

「ん?」

 

 2人の不自然さにアリサは首を傾げる。

 

「とりあえず、座りましょう」

 

「せやね」

 

 私達は奥のイートインスペースへと案内され、着席する。

 

「何にしようかな……」

 

 はやてはメニューを眺め、ケーキを決めかねている。

 

 数分後、はやての注文が決まり、ケーキを人数分注文する。

 

「はやてちゃんってこちらの2人と住んでいるの?」

 

 なのはが口を開く。

 

「せやで」

 

「そうなんだ。じゃあ3人で生活してるの?」

 

「ほかにも親戚が居るで」

 

「そうなんだ……」

 

 なのははこちらに視線を向ける。

 

「そうだ、最近の出来事なんだけど……」

 

 その後、少女たちは会話に花を咲かせる。

 

 しかし、なのはとフェイトは何度となく、こちらに視線を向けていた。

 

「あっ、もうこんな時間や」

 

 時刻は既に帰宅予定時間になっていた。

 

「そうね、そろそろ戻らないと」

 

 ささやかな、お茶会は終了を告げる。

 

「せや、皆にお土産を買っていかな」

 

「そうですね」

 

「選択はお任せします」

 

「えーっと……」

 

 はやては適当にケーキを複数選ぶと、テイクアウトする。

 

 私は代金を支払うと、はやての車椅子を押す。

 

「今日は楽しかった。ケーキもおいしかったです」

 

 はやてが一礼すると、店主と思われる夫婦が笑みを浮かべる。

 

 恐らく、なのはの両親だろう。

 

「それでは、我々はこれで」

 

「うん」

 

 すずかと共に、翠屋を後にする。

 

 店の前にはまたしても、車が止められている。

 

 私は、はやてを車に乗せる。

 

「ん? どないしたん?」

 

「我々は少し用事がある為、歩いて帰ります」

 

「そうなん?」

 

「えぇ」

 

「うん。わかった」

 

 はやてが乗車した車が、発車するのを確認後、私達はステルス状態へと移行する。

 

 車が発車してから数分後、翠屋の裏からなのはとフェイトの2人がバリアジャケットに身を包み飛行する姿を確認する。

 

 私達は、バーニアを起動し、空中で2人の前に回り込む。

 

「ご用でしょうか?」

 

「え?」

 

 私達が突然現れた事により、2人はその場で驚愕する。

 

「申し訳ありませんが、追跡を試みているのでしたらご遠慮ください」

 

「私達はそんなつもりじゃ」

 

「では、ご用件は?」

 

「あなた達の話が聞きたい」

 

「お話ですか?」

 

「どうして闇の書を完成させようとして居るのか……アレは世界を破滅させる危険な物だって聞きました! それに、貴女達とはやてちゃんの関係は? それに貴女達は──」

 

「申し訳ありませんが、時空管理局の人間にお伝えする事は出来ません」

 

「待って」

 

 フェイトがこちらに接近する。

 

「確かに私は時空管理局に所属している。だけど、話し合いをしてみたいと思う」

 

 フェイトはがそう言うと武装解除する。

 

「フェイトちゃん! 危ないよ!」

 

 なのはは武装を構える。

 

 それを、フェイトが制する。

 

「私達は戦いに来たわけじゃない。話を聞かせてほしい」

 

「了解。お話しできる範囲でしたら」

 

「うん」

 

  私達は、近くの公園へと着地する。

 

 2人はベンチに腰かけこちらに視線を向ける。

 

「ご質問は?」

 

「えっと……じゃあ、どうして闇の書を完成させようとして居るんですか? あれは完成したら莫大な力を得る事が出来るけど、主ごと破滅させるって聞きました」

 

「我々は闇の書の力を手にする事は目的では有りません」

 

「じゃあ、なんで?」

 

「詳細はお伝え出来ませんが。現在闇の書のシステムの根幹に根差す部分に重篤なバグが発生しています」

 

「バグ?」

 

「そのバグにより、暴走し所有者にも影響が出る者と思われます」

 

「そんなバグがあるなんて危険です。封印する必要があるはず」

 

 フェイトの隣でなのはが口を開く。

 

「封印とはどういった方法で?」

 

「案として挙がっているのは氷結魔法での活動停止……でもその場合──」

 

「ですが、その場合闇の書の所有者の命はどうなりますか?」

 

「そ……それは……」

 

 デルフィの質問に対しフェイトは口籠る。

 

「推測ですが、闇の書の所有者の生命活動はその時点で終了するとお思われます」

 

「でも、闇の書が……そのバグのせいとは言え、世界を……皆を破滅させるよりは……」

 

「なのは……」

 

「多くを助ける為に、1人を犠牲にするという事ですか?」

 

「そういう……訳でも……」

 

「極めて合理的な判断です」

 

「だって……そうしないと……封印さえすればバグだって……」

 

「我々は、そのバグを取り除く予定です」

 

「え?」

 

「バグを完全に取り除けば、闇の書が暴走し、破滅をもたらす事はありません」

 

「その為に、蒐集を行っております。蒐集終了後にバグを取り除き、所有者の救助を行います」

 

「つまり、それが目的って言う事ですか?」

 

「その通りです」

 

「でも、バグを取り除くなんて……管理局だってできないと思う」

 

「管理局と一緒にしないでください」

 

「うぅ……」

 

 自らの所属先の批判に対し2人の表情に不満の色が見える。

 

「ご質問は以上ですか?」

 

「後、もう1つだけ」

 

 なのはが手を上げる。

 

「闇の書とはやてちゃんって──」

 

「その場を動かないでください」

 

「え?」

 

 私は、シールドを展開する。

 

 その瞬間、私達の周囲に大量のエネルギー弾が降り注ぐ。

 

「キャア!」

 

「これは!」

 

 シールドにより全て防ぐが、ベンチに座った二人は悲鳴を上げながら周囲を見渡す。

 

 舞い上がった粉塵が晴れると、そこには仮面の人物が2人立っていた。

 

「あれが……」

 

「仮面の……」

 

「アレを防ぐか……」

 

 仮面の人物が男声を発する。

 

「貴女方のお仲間ですか?」

 

 デルフィがウアスロッドを構える。

 

「いいえ」

 

「あの人達……知らないです」

 

 なのはとフェイトも武装を整える。

 

「貴方達は一体何者ですか?」

 

「民間人への魔法攻撃は軽犯罪なんかではすみませんよ!」

 

 2人はデバイスを構える。

 

「時空管理局の人間に用はない」

 

「え?」

 

「だから、黙って居ろ」

 

「ふざけないで! 所属と目的を──」

 

「これ以上答えるつもりは無い」

 

 仮面の人物が飛び上がると、フェイトに向け飛び蹴りを繰り出す。

 

「え?」

 

 突然の事にフェイトは対処出来ずにいる。

 

 私は、フェイトの眼前で迫り来る右足を右手で受け止める。

 

「くっ!」

 

 仮面の人物は、空中に障壁を発生させ、壁蹴りの要領で左足で障壁を蹴り、私との距離を取る。

 

「この場は我々にお任せください」

 

「でも……」

 

「ご安心を」

 

 2人は顔を見合わせた後頷く。

 

 それと同時に、飛び上がる。

 

 デルフィも援護の為、飛び上がる。

 

「逃げる気か!」

 

 仮面の人物が追撃するべく、飛び上がろうとしている所に、威力を抑えたビームガンを発射する。

 

「ぐおぉ!」

 

 ビームガンの直撃により、仮面の人物が気を失う。

 

 その頃には2人は安全圏まで撤退した

 

「2人は安全圏にまで撤退されました」

 

「まだ続けますか?」

 

「くっ!」

 

 気絶した仮面の人物にもう一人が駆け寄る。

 

 それと同時に、エネルギー反応が発生し、2人の姿が消える。

 

「敵の撤退を確認」

 

「周辺に敵対勢力の反応なし」

 

「帰還しましょう」

 

 私達は、公園を後に帰宅した。




なのはが少しずつ変になっているような気が…



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奇跡

今年最後の投稿です。


   玄関を抜け、リビングに戻る。

 

「遅かったじゃん」

 

 ヴィータとシグナムがケーキを食べながらこちらに視線を向ける。

 

「はやては?」

 

「シャマルと一緒に部屋で勉強してる」

 

「そうですか。先程、時空管理局の高町なのはとフェイト・テスタロッサの両名と接触しました」

 

「え!?」

 

「なんだって!?」

 

 2人はケーキを食べる手を止めこちらに視線を向ける。

 

 ザフィーラもオオカミ状態で顔を向ける。

 

「すずかが紹介したいと言っていた友人達のうち二人が彼女達であり、訪ね先の翠屋と言う喫茶店の従業員でした」

 

「恐らく、高町なのはの両親が経営していると思われます」

 

「へぇ……結構旨いじゃねぇか」

 

 ヴィータは再びケーキを口に運ぶ。

 

「それで、どうなったんだ?」

 

 シグナムがこちらに視線を向ける。

 

「対話を希望していましたので、可能な限りお話ししました」

 

「それは、どこまで話したんだ?」

 

「開示しても問題の無いレベルです」

 

「そうか。主の事は聞かれたか?」

 

「聞かれましたが、お話しする前に仮面の人物達に襲撃されました」

 

「大丈夫……だったんだろうな」

 

「はい、迎撃しました」

 

「そうか。2人はどうなった?」

 

「戦闘中一人が気絶したために、不利と判断したのか。二人めが気絶した方を回収し撤退しました」

 

「そうか……」

 

 シグナムは再びケーキを口に運ぶ。

 

「厄介だな……!」

 

「このまま行けば、予定通りクリスマスまでには終了するはずです」

 

「そうだな。やるしかあるまい!」

 

 シグナムは最後の一かけらを口に放り込んだ。

 

 

  撤退したなのはとフェイトは司令部へと帰還する。

 

「なのは。どうしたの?」

 

 なのはの暗い表情を見たユーノが問いかける。

 

「実は……」

 

 なのはが先程2人と接触した事を告げる。

 

「え? 例の2人と接触しただって!?」

 

「それは本当か!?」

 

 ユーノの声を聞きクロノも姿を現す。

 

「うん」

 

「どうだったの!?」

 

「ただ、お話を──」

 

「話? 一体どんな?」

 

「どうして、闇の書を完成させようとしているのか?と、世界と主を破滅させる事は知っているのか? を┄」

 

 フェイトが答え、全員が息を飲む。

 

「それで、答えは?」

 

「闇の書の力を手に入れる事が目的じゃないらしいの……」

 

「じゃあ……」

 

「それに、闇の書にはバグがあって、そのせいで力が暴走して、壊滅が起こって居るって言ってた」

 

「そうだったのか……それならば、尚の事封印しなければ」

 

「でも、あの2人はそのバグを取り除くつもりで居るらしい」

 

「バグを取り除く? そんな事時空管理局の本部ですら不可能なはず……」

 

「でも、あの人達はそれが出来るって……」

 

 なのはが呟くと、全員が息を呑む。

 

「しかし……一体何の為にバグを取り除くつもりだ?」

 

「闇の書の主を助ける為だって言っていた」

 

「助けるだって?」

 

「バグを取り除けば主を巻き込む事も、世界の崩壊も防げるはずだから、て」

 

「だから、全員で主を助ける為に蒐集をしているんじゃないかな?」

 

「それに……」

 

「それに? なに?」

 

 リンディがフェイトの顔を覗き込む。

 

「大勢を救うために、1人を犠牲にするのか……ってあの2人が」

 

「……」

 

 その場の全員が言葉を失う。

 

 確かに、闇の書を主と共に封印すれば、被害は最小に抑える事が出来る。

 

 たった1人の犠牲で済むのだ。

 

「だが、主が闇の書を悪用する為に蒐集しているのならば」

 

「それは……違うと思う」

 

 クロノの言葉をフェイトが遮る。

 

「どう言う事だ?」

 

「闇の書の力を悪用するのが目的なら、あんなに必死に成って主を助けるなんて言葉は出ないと思うから」

 

「それに、力を手に入れたいなら、邪魔をしている私達を……殺していてもおかしくないよ」

 

「それは……」

 

 なのはとフェイトの2人が顔を俯かせる。

 

「だとしても、管理局としては見逃す事は出来ない」

 

 クロノが立ち上がる。

 

「何とかして闇の書の起動を防ぐんだ。出来なければ……大勢が死ぬ」

 

「わかってる……でもあの二人は、私達を助けてくれた」

 

「どう言う事?」

 

「二人と話している時に仮面の人物に襲われたの……」

 

「なんだって!?」

 

 クロノが驚愕する。

 

「結局、あの2人に撤退するように言われて、私達……」

 

「そうか、その仮面の人物の映像はあるか?」

 

「バルディッシュ」

 

 バルディッシュが記憶した映像が投影される。

 

 仮面の人物がしっかりと映し出されていた。

 

「コイツらが……」

 

「でも、一体何が目的なんだ?」

 

「分からない……でも、敵はあの2人じゃ無くて、この仮面の男達だと思う」

 

「何故そう言い切れる?」

 

「それは……」

 

 フェイトは何かを言おうとしたが、その言葉を飲み込む。

 

「まぁいい、取り敢えずこの仮面の人物達についても引き続き警戒する必要があるな……」

 

 クロノが呟くと、その場の全員が頷く。

 

 その後、誰も口を開く事は無く、重い空気だけが場を支配した。

 

  数日後。

 

 蒐集のペースも予定通りであり、前回の戦闘以降時空管理局による妨害工作なども見受けられない。

 

「あと少しだ」

 

「予定通り進んでおります」

 

「この調子ならば、明後日のクリスマスには蒐集が終わるでしょう」

 

「あぁ、あと少しなのだな!」

 

 ソファーに座ったシグナムは小さな笑みを浮かべる。

 

「キャァア!!」

 

 その時、キッチンの方からシャマルの悲鳴と、食器などが破損する音が響く。

 

「はやてちゃん!!?」

 

「はやて!?」

 

 その場の全員がキッチンへ移動する。

 

 そこには、はやてが倒れており、シャマルが回復魔法を試みている。

 

「診察開始」

 

 倒れ込んだはやてをスキャンする。

 

 下半身のマヒが心臓部にまで達し、心肺機能が停止している様だ。

 

「心停止を確認」

 

「心停止って……」

 

「おい! 大丈夫なのかよ!」

 

「シグナムは救急車の手配を」

 

 デルフィが指示を出し、シグナムが電話を手にする。

 

「応急処置を開始します」

 

 私は、医療用ナノマシンが入った針の長いペン型の注射器を取り出す。

 

「おい、それをどうするんだ?」

 

「心臓部に直接注射します」

 

「心臓に直接注射だと!?。だ、大丈夫なのかよそんなことして!?」

 

 ヴィータが心配そうに見守る中、私ははやての胸部に注射器を押し付ける。

 

 心臓部に達した針からナノマシンが注入される。

 

 ナノマシンは心臓に電気信号を送り心肺機能を回復させる。

 

「心肺機能の回復を確認、心拍数も安定しつつ有ります。応急処置完了です」

 

 処置から数分後、救急車が到着し、はやては病院へと搬送された。

 

 病院に到着後精密な検査が行われる。

 

 翌日の昼過ぎにはやては病室で意識を取り戻す。

 

「よし、もう大丈夫ね」

 

「感謝します」

 

 主治医である石田医師による検査が終わる。

 

 はやても軽く頭を下げる。

 

「今の所は正常ね。多分だけど突発的な発作ね」

 

「アハハ……最近色々あって」

 

「だからって無茶しちゃダメよ!」

 

 はやてが小さく笑うと、ヴォルケンリッター全員が胸を撫で下ろす。

 

 ちなみにザフィーラは自宅の警備も兼ねて待機している。

 

 数日間はやてが入院するという事はシグナムが先程電話で伝えた様だ。

 

「よかった……本当に良かった!」

 

「大袈裟やね。ちょっと意識が無くなっただけやん!」

 

「心配するには十分すぎる理由です」

 

「せやね」

 

「は゛や゛て゛~」

 

 ヴィータは目に涙を浮かべながらはやてに抱き着く。

 

 はやてはヴィータの頭を軽く撫でる。

 

「さて、もう少し検査が有るから数日は入院して貰うけど良いわね?」

 

「あ、わかりました」

 

「うん。それと、シグナムさん。シャマルさん。少し良いですか?」

 

「はい」

 

 シグナムとシャマルの2人が石田医師に呼ばれ退出する。

 

 

 

  シグナムとシャマルは一室に通される。

 

「お二人にはお伝えしようかと思います」

 

「はい…」

 

「はやてちゃんは……」

 

 石田医師はカルテを手に神妙な面持ちになる。

 

「はっきり言って、はやてちゃんは……今生きているのが不思議な状況です……」

 

「っ……」

 

「心臓は完全にマヒしている状態です……ですがどういう訳か心臓は正常に動いている……意識が戻ったのは奇跡や魔法に近いです……しかしそれでも……」

 

「それは……」

 

「……覚悟をしておいてください」

 

「そ……そんな……」

 

 シャマルは感極まり、シグナムは俯き下唇を噛む。

 

「残された時間は少ないです。少しでも多くはやてちゃんの傍にいてください」

 

 石田医師は一言告げると、部屋を後にした。

 

 

  シグナム達が退出後。

 

 はやてに抱き着いたヴィータから寝息が聞こえ始める。

 

「あれ? 寝ちゃったんか?」

 

「昨日は一睡もしていませんでしたので、無理も有りません」

 

「そうか……心配かけちゃったなぁ……」

 

 はやては数回ヴィータの頭を撫でる。

 

「失礼します」

 

 私はヴィータを起さない様に抱きかかえると、病室内のソファーに横たえる。

 

「ありがとう」

 

「いえ」

 

「それにしても……皆大袈裟やね……ちょっと倒れただけやって言うのに……」

 

「スキャンの結果ですが、病状はかなり進行しています」

 

「知っとるよ」

 

 はやては小さく呟く。

 

「自分の体の事は……私が一番よく知っている……」

 

 その時、はやてのメンタルコンデションレベルが急速に低下する。

 

 目にも、涙が溜まり始める。

 

 しかし、はやては涙をこらえる様に目を拭う。

 

「ご無理はなさらないでください」

 

「あはは……2人にはお見通しやね……」

 

「この場には我々しかいません」

 

「ッ!」

 

 次の瞬間、はやての目から大粒の涙が溢れ出す。

 

「わ、私……まだ……まだ死にたくない……生きたい! 死ぬなんて絶対に嫌や……!」

 

 はやてはデルフィに抱き着き、胸に顔を沈め、体を震わせる。

 

 涙を流し続けているが、寝ているヴィータを気遣ってか声を抑えながらでは有るが嗚咽を漏らす。

 

「皆が……折角皆に会えたのに……家族になれたと思ったのに……これじゃあ……また私は……一人ぼっちに……!」

 

「ご安心を」

 

「私達が必ずお助けします」

 

「うぅ……ひっぐ……う……!」

 

 はやては依然として嗚咽を漏らし続ける。

 

 その時、病室の扉の前に二つの生態反応を検知する。

 

 しかし、その人物達は扉を開けようとはしなかった。

 

「嫌や……皆と離れたくない……!」

 

 はやてが小さく呟く。

 

「闇の書なんて欲しくない……強い力なんていらん!……私の願いは……皆で暮らしていきたいだけなのに……それだけやのに……どうして……どうして私ばっかりぃ……!?」

 

「作戦は最終段階に移行しています。明日のクリスマスには作戦が完了するでしょう」

 

「作戦が成功すれば、皆で暮らす事が出来ます」

 

「で、でも……失敗したら……!」

 

「ご安心を」

 

「私達を信じてください」

 

「┄グズ┄う、うんっ! 二人ともおねがいな!」

 

 はやては涙を拭い笑顔を見せる。

 

 涙を流した影響により、メンタルコンデションレベルも向上する。

 

 その時、病室の扉が数回ノックされる。

 

「あ。はい!」

 

 はやてが返事し私が扉を開けると、花束を手にしたなのはとフェイトが立っていた。

 

「あの……」

 

「あっ、なのはちゃんにフェイトちゃん!?。来てくれたんやね!」

 

 はやてがハンカチで涙を拭った後、軽く手を振る。

 

「あっ、この病室だよ!」

 

「もう、2人とも先に行くなんて!」

 

 少し遅れて、すずかとアリサが入室する。

 

「すずかちゃんにアリサちゃんも!?。来てくれたんやね!」

 

「心配したよ!。お家に電話したら、おじさんが出て、病院に入院することになったって言うから!」

 

 恐らく、電話に出たザフィーラがそう答えたのだろう。

 

「アハハ……ちょっと体調崩してもうてな!」

 

「でも、元気そうでよかった」

 

 すずかが花瓶に花を生ける。

 

「う……うぅん……」

 

 その時、ヴィータが目を覚ます。

 

「あれ?」

 

「あっ……!?」

 

 ヴィータとなのはの目が合う。

 

「うぁ!?」

 

 ヴィータが驚愕し、ソファーから落ちる。

 

「どうし──!?」

 

 ヴィータの前にデルフィが立つ。

 

「病室ではお静かに」

 

「あ、あぁ!」

 

 ヴィータは数回頷く。

 

「えっと……」

 

「お騒がせしました」

 

 デルフィが会釈すると4人も軽く会釈する。

 

 数分程4人は他愛も無い会話を行う。

 

「そろそろ、面会時間も終わりね」

 

「また来るね!」

 

「うん! 皆ありがとぉな! また来てな!」

 

 私は扉を開けると、4人が一礼する。

 

 病室の外でシグナムは腕を組み壁にもたれ掛かっており、シャマルは手を前に組んでいた。

 

「お見舞いに来ました!」

 

「皆ありがとう!」

 

 シャマルが一礼する。

 

 その後、4人はロビーへと移動した。

 

 乗って来たであろう車が病院から離れて行く。

 

 しかし、車にはすずかとアリサの姿しかなかった。

 

 ロビーへと移動すると、なのはとフェイトがソファーに座っていた。

 

「ご用でしょうか?」

 

「その……もう少し詳しくお話ししたいなって思って」

 

「この場では人目に付きます。屋上へ移動しましょう」

 

「うん」

 

 私達は屋上へと移動する。

 




来年もよろしくお願いします。


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絶望

明けましておめでとうございます。

遅すぎるようですがご了承ください。


   屋上は時間帯とクリスマスイブという事もあり、人気が全くなかった。

 

「その、さっきの話は……」

 

「はやてが闇の書の主だというのは……」

 

「本当なんですか?」

 

 なのはとフェイトの2人がこちらに視線を向ける。

 

「事実です」

 

「じゃあ、貴女達が蒐集を行って居た理由は……」

 

「はやてちゃんを助ける為?」

 

「概ねその通りです」

 

「どうして、管理局に相談してくれなかったんですか?」

 

「仮面の人物のように時空管理局に我々の邪魔をするものが居る為です」

 

「でも、私達が所属しているところは違います」

 

「リンディさんに話してみます。きっと力に──」

 

「邪魔はさせないぞ!」

 

 なのはの言葉を遮り、武装状態のヴォルケンリッターが上空から屋上に着地する。

 

「あと少しなの┄┄!」

 

「あと少しではやては助かる」

 

「もし邪魔をするというならば┄┄」

 

「この場で始末する!」

 

 4人は殺意を持って武装を構える。

 

「くっ!?」

 

 なのはとフェイトの2人も武装を展開する。

 

「私達は! はやてを助けたい!」

 

「我等もその気持ちは同じだ!」

 

「じゃあ!」

 

「しかし、時空管理局に何が出来る?」

 

「え?」

 

 シグナムが冷徹に呟く。

 

「時空管理局の目的は闇の書の封印……そうだろ?」

 

「それは……」

 

「闇の書の封印。それは恐らくだが主の命は度外視だろう!?」

 

「そんな事無い!」

 

「じゃあ、貴様等に闇の書から主を救えるのか?」

 

「それ……は……」

 

「出来ないだろう……」

 

「でも! 本局に相談すれば!」

 

「それこそ、はやてが危険だ!」

 

 ヴィータが声を荒らげる。

 

「でも……私達は……報告した方が良いと思うの」

 

「つまり……我等の邪魔をするという事だな」

 

「違う!」

 

「違うというならば……我等を納得させてみろ!」

 

 シグナムがレヴァンティンを構える。

 

 それに習い、ヴォルケンリッター全員が武装を構える。

 

 そして、2人も武器を手にする。

 

 事態は一触即発と言う空気となる。

 

「でやぁ!!」

 

「はぁ!!」

 

 フェイトとシグナムはほぼ同時に攻撃行動へ移動する。

 

「おやめください」

 

 私とデルフィは背中合わせとなり、それぞれの攻撃を素手で受け止める。

 

「なっ!?」

 

 2人は武装を解除し、距離を取る。

 

 そして、私はなのはとフェイトの2人に、デルフィはヴォルケンリッターの4人と対面する。

 

「一体……」

 

「どういうつもりだ!?」

 

 両陣営から声が漏れる。

 

「この場で戦闘を行うのは非論理的です」

 

「だが、この事を管理局に知られる訳には……!」

 

「作戦は最終段階に移行しています」

 

「時空管理局の妨害工作があろうと、作戦遂行に支障はありません」

 

「そ……そうなのか?」

 

「はい」

 

「最悪の場合妨害工作を行おうとした管理局員を排除し蒐集を行うまでです」

 

 私達の発言にシグナムが武器を下ろす。

 

「えっと……」

 

 それに習い、全員が一時的に武器を下ろす。

 

「戦いの雰囲気では無いな」

 

「そ……そうですね」

 

「我々が目指す最終目的は同じです」

 

「あぁ、我等は主を助けたい」

 

「私達だって、はやてを助けたい」

 

「ならば、我等の邪魔をしないでくれ」

 

「邪魔なんて……」

 

「時空管理局にこの事を言わないだけで良い」

 

「でも……」

 

 2人は考えを巡らせている。

 

「分かりました……」

 

「フェイトちゃん?」

 

「この事は、報告しない」

 

「本当だな?」

 

「信じて」

 

 フェイスがシグナムを見据える。

 

「発汗量や心拍数、メンタルコンデションレベルから判断して嘘は言っていません」

 

「「え?」」

 

 2人がこちらに視線を移す。

 

「まぁ……エイダがそこまで言うなら……本当なんだろう」

 

「もし仮に、裏切りが発生したとしても、時空管理局の戦力ならば我々で殲滅が可能です」

 

「何を言って──」

 

「まぁ、それもそうだな」

 

「え!?」

 

 2人は驚愕し、頷いているヴォルケンリッターを見据える。

 

「さて、話がずれてしまったな」

 

「私達は、私達のやり方ではやてを助ける」

 

「だから、邪魔だけはしないでくれよ」

 

「わかりました」

 

 2人は一礼する。

 

 その時、周辺の時空に大規模なシールドが展開される。

 

「これは……結界!?」

 

「この方式、管理局の……!」

 

「まさか!?」

 

 シグナムが再び武装を構える。

 

「貴様等!!」

 

「違う!?」

 

「私達は連絡なんか取ってない!」

 

「彼女達は既にジャミングの圏内に居ました。外部との連絡手段はないはずです」

 

「ではこれは……!?」

 

 その時、空間湾曲が発生し、大規模な魔導士の部隊が3キロほど先に現れる。

 

『2人とも! 大丈夫?』

 

「り、リンディさん?」

 

 拡声されたリンディの声がシールド内に響く。

 

『グレアム提督から闇の書の所有者が分かったって言う情報が入ったの』

 

「え?」

 

『だから、アースラで地球の軌道上に居るわ。それと、闇の書の関係者に通達します。この区域は完全に時空管理局が封鎖したわ。無駄な抵抗は止めて投降してください』

 

「あと少しだというのに……!」

 

 ヴォルケンリッター全員の表情が曇る。

 

「リンディさん! ちょっと待って!」

 

『2人もその場から離れて、危険よ!』

 

「でも!」

 

 2人はこちらに視線を向ける。

 

「私達が話してきます!」

 

「なんだと?」

 

「皆、はやてちゃんを助けたいって、きっとリンディさんなら分かってくれるはずです!」

 

 シグナムとシャマルは数秒思案した後頷いた。

 

「頼むぞ……」

 

「お待ちください」

 

「え?」

 

「貴女方2人がやろうとしている行為は、組織に対する命令不服従に価します」

 

「最悪の場合裏切りと捉えられる可能性もあります」

 

「それでも、私達は! はやてちゃんを助けたい!」

 

「うん!」

 

 2人は強く頷く。

 

「了解。我々も同行します」

 

「え?」

 

「最悪の場合管理局との戦闘になる恐れがあります」

 

「その際は、我々が戦闘を行います」

 

「お、お願いします、でいいのかな?」

 

「穏便に済ませる事に越した事は無いと思うけど……」

 

 2人は困惑の表情を見せる。

 

「じゃあ、行きましょう!」

 

「了解」

 

  私達はなのは達の後に続き飛翔した。

 

 なのは達の速度に合わせ、移動する事数分後。

 

 私達は管理局の魔導士部隊を確認する。

 

 既に、魔導士全員が杖を構え臨戦態勢を取っている。

 

「そいつらは!」

 

 部隊の最前線に居たクロノが表情を曇らせる。

 

「待って! 私達は話をしたいの!」

 

「話だって?」

 

『どんな内容なの?』

 

 リンディの声が再び響く。

 

「その、闇の書の主は。私達のお友達なの」

 

「友達だと?」

 

「私達も、ヴォルケンリッターの全員も皆、その子を助けたいって思って行動していただけなの」

 

「だが、闇の書は完成したところで主諸共破滅するはずだ!」

 

 クロノが声を荒らげる。

 

「その点については私が説明します」

 

 私はなのは達の前に出る。

 

「どう言う事だ?」

 

 クロノが杖を手に取る。

 

「闇の書は現在、重篤なバグに汚染されています」

 

「バグ?」

 

「はい、そのバグによって所有者に悪影響を及ぼしているものと考えられます」

 

『闇の書がバグに汚染されているなんて聞いた事無いわ……』

 

「そちらの情報不足でしょう」

 

「なっ!?」

 

 クロノの表情が歪み、背後で2人が慌てだす。

 

「しかし、バグと蒐集に何の関係がある?」

 

「闇の書を汚染しているバグはシステムの根幹に根差しています。その為バグを取り除くには闇の書のシステムを全て削除する必要がありました」

 

「そんな事……出来る訳無いだろう」

 

「我々には可能です」

 

「何だって……!?」

 

「しかし、ただ単にシステムを削除した場合、ヴォルケンリッターにも影響が出ます。ヴォルケンリッターの皆を家族としている、はやては彼等の削除を拒否しました。その為、闇の書を完成させ所有者の管理者権限としてバクを切り離す必要があったのです」

 

「つまり……闇の書を完成させようとした本当の目的は、守護騎士達の為だとでも言うのか……」

 

「概ねその通りです」

 

「なんだと……!」

 

 クロノが驚愕し、背後の2人が唖然としている。

 

「作戦終了予定は明日です」

 

「明日には闇の書を起動し、バグを取り除きます」

 

「ですので、明日まで待っていただけると幸いです」

 

「なんだと……そんなこと!」

 

『それは……出来ん相談だな』

 

 その時、初老の男性と思われる声が響く。

 

『私はギル・グレアム。時空管理局の顧問を務めている』

 

 グレアムは咳払いをすると言葉を続ける。

 

『確かに、貴女達の言い分も分かります。でも、時空管理局としては、見逃す事は出来ん……』

 

『しかし、あと1日待てば少女の命が……』

 

『それに、貴女達の言って居る事が本当かどうか怪しい』

 

「我々ならば、可能です」

 

『しかし、それを信用する事は出来ない……よって、この場で君達を逮捕し、闇の書を永久封印する』

 

『提督!』

 

『これは命令だ……全員、戦闘準備!』

 

 グレアムの指示により、魔導士が戦闘態勢に入る。

 

「待って!」

 

「君達2人も戻って来るんだ……さもないと、裏切り行為だ……」

 

 クロノは俯いたまま呟く。

 

「でも……」

 

「戦況把握。作戦行動に移行します」

 

 私は、その場でサブウェポンのデコイを使用する。

 

 デコイ

 

 自身の分身を作り出す。

 

 今回は、デバイスに対しては電子的に、魔導士に対しては視覚的にアプローチする。

 

 デコイリリースと同時にステルス状態へ移行する。

 

『ステルス状態へ移行』

 

 デルフィに通信を繋ぐ。

 

『デコイに気付いた人物はいないようです』

 

『了解、作戦を開始します』

 

 私は、周囲に気付かれない様に上昇し、大気圏を離脱する。

 

 周辺をスキャンすると、地球の軌道上の衛星に紛れる様にカモフラージュしてる艦艇を1隻確認する。

 

 リンディの拡声された声の発信源と同じ反応な為、アースラと断定する。

 

 デルフィから送られた情報によると、依然として地球では戦闘は行われていない様だ。

 

 私はステルス状態を維持しつつ、アースラのメインブリッジ前面へ移動する。

 

「ステルス解除」

 

 メインブリッジのシールドにブレードを突き付けステルスを解除する。

 

「警告します。不要な戦闘は避けるべきです」

 

「え?」

 

 アースラ内部からリンディの声が伝わる。

 

「メインブリッジ正面に高エネルギー反応! メインカメラの映像をモニターに出します」

 

「生身で……宇宙空間に……!?」

 

「再度警告します。不要な戦闘はするべきでは有りません」

 

『映像を投影します』

 

 デルフィに私が見ている映像を送る。

 

 恐らく、地球上で魔導士達に見せる為だろう。

 

「貴女は……一体……!」

 

「時空管理局に警告します。不要な戦闘はおやめください」

 

 私はメインブリッジのシールドにブレードを若干押し当てる。

 

 それにより、シールドが破壊され、メインブリッジにダメージが入る。

 

「シールド損傷!?」

 

「自衛装置を起動!!」

 

「了解!」

 

 リンディの指示により、女性ぺレーターが小型のビーム砲台を起動させる。

 

 低出力のビームが私に向け発射される。

 

「シールド展開」

 

 私は、周囲にシールドを展開し、全てのビームを無力化する。

 

「対象……無傷……!?」

 

「何ですって……!」

 

 私は、メインブリッジにブレードを突き立てる。

 

「ハッキング開始」

 

 突き刺したブレード越しにアースラをハッキングする。

 

「対象よりハッキング!?」

 

「阻止して!」

 

「ダメです! 結界やプロテクトがことごとく突破されて行きます!」

 

「そんな……!?」

 

「ハッキング終了。アースラを完全に掌握しました」

 

 アースラの動力を一時的に停止させる。

 

「最終警告です。これ以上無益な戦闘を行うならばアースラを自沈処理します」

 

「わかった……戦闘は行わない……」

 

 グレアムが小さく呟く。

 

「了解。十数分後にはメインシステムが再起動するでしょう」

 

「あぁ……目的は既に果たされた……」

 

 私が機能停止したアースラから離艦するときグレアムが呟いた。

 

 その時、ヴォルケンリッターから通信が入る。

 

『ごめん……はやてを……守れな……』

 

『主……を……はやてを……頼む……ぞ』

 

 ノイズが混じった通信はここで途切れた。

 

 それと同時にヴォルケンリッターの反応が消失する。

 

『ヴォルケンリッターの反応消滅。はやての元へ向かいます』

 

『了解。私も急行します』

 

 デルフィが移動を開始たようだ。

 

 私も、その場からゼロシフトを使用し、一気に大気圏を突入する。

 

  大気圏突入の際に生じた断熱圧縮により、爆炎を撒き散らしながら、私は反応消滅したビルの真上へと移動する。

 

 

 ビル上空に到着すると、そこには、満身創痍の女性が2人と、デルフィの背後で唖然として居るなのはとフェイトの姿があった。

 

「報告します。こちらの2名により、ヴォルケンリッター全員が闇の書に蒐集されました。2人の無力化はすでに終了しました」

 

「了解」

 

 私は、屋上の中心部で倒れ込んでいるはやてをスキャンする。

 

 はやてを中心に魔法陣が形成されており、闇の書が上部に浮遊していた。

 

 次の瞬間、はやてを中心に中規模なエネルギーの開放と爆発が起こる。

 

「くっ……!」

 

 この隙に、仮面の人物が転移魔法により、退避する。

 

 爆発の中心部には、黒い甲冑に深紅の瞳、全身に黒色のエネルギーラインが走っている女性だった。

 

 その表情には若干だがはやての面影が残る。

 

「また、すべてが終わってしまった……」

 

 はやてに似た声で女性が呟く。

 

「一体幾度、どれだけ同じ悲しみを繰り返せばいい……」

 

「はやてちゃん!」

 

「はやて!」

 

 2人は声をかけるが、女性は反応を示さない。

 

 

 しかし、女性の目からは涙が零れ落ちている。

 

「私は闇の書……この力は全て主のため、そして……御身の願いのままに……全てを、終わらせましょう」

 

 女性が手を上げると、巨大なエネルギー球が発生する。

 

 ビルの周囲に、時空管理局の魔導士が集結する。

 

「なんとしても攻撃を止めるんだ!」

 

 クロノの指示により、魔導士が一斉に攻撃を行う。

 

 しかし、その攻撃は女性に対しては効果的な戦績を上げていない。

 

「デアボリック……エミッション……」

 

 女性が呟くと、エネルギー球が上昇する。

 

「高エネルギー反応確認」

 

「大規模な空間範囲攻撃と推定されます」

 

「闇に染まれ」

 

 女性の言葉と共に、エネルギーが解放され、黒い波動が周囲に撒き散らされ、触れた物が崩壊していく。

 

 私達はシールドを展開し、なのはとフェイトを防衛する。

 

 

 エネルギーの開放により、周囲を取り囲んでいた魔導士が吹き飛び、咄嗟にシールドを展開したクロノ以外は全員戦闘不能に陥った。

 

 シールドを展開したクロノだが、エネルギーの余波により、吹き飛ばされ、屋上に叩きつけられる。

 

 なのはとフェイトは私達が展開したシールドにより無傷だ。

 

「くそ……!」

 

「クロノ君!」

 

「大丈夫だ……だがしばらく動けそうにない……」

 

「なのは!」

 

 背後から、ユーノとアルフが接近する。

 

「こいつ等は……!?」

 

「現在、我々に敵意はありません」

 

「それより、はやてを救出する事が最優先です」

 

「でも……どうやって……!?」

 

「これより、我々が接近し対象をスキャンします」

 

「貴女方は安全な所で退避してください」

 

「でも……!」

 

「この場は私達にお任せください」

 

「報告します。魔力の無い生態反応を検知しました。熱量からして子供の様です、おそらく結界内部に入って居た 一般市民と思われます」

 

 周辺に逃げ遅れたと思われる生態反応の反応を検知する。

 

「え?」

 

「この近くです」

 

「じゃあ、私達はその人の救助に向かいます」

 

「了解。頼みます」

 

 私は2人のデバイスにリンクを繋ぐ。

 

「え?」

 

「我々の無線の周波数です。デバイスを介する事で通話が可能です」

 

「分かりました!」

 

 市民の救助はなのはとフェイトに任せ、私達は女性の前へと移動した。

 

 ビルの屋上に着地すると、俯いていた女性が顔を上げる。

 

 それと同時に、私達はスキャンを開始する。

 

「貴女達は……エイダ……デルフィ……」

 

「そうです」

 

 女性は悲し気な表情を浮かべる。

 

「私は、総てを見ていました。ですから、撤退してください」

 

「お断りします」

 

「スキャン終了。現状、はやては闇の書とユニゾン状態にあるようです」

 

「解除方法は、システムの削除です」

 

「了解。作戦行動を開始します」

 

 私達は武装を展開する。

 

「あぁ……やはり貴女方は邪魔をするのですね」

 

「はやてを救出する為です」

 

「ならば、私は使命を果たしましょう」

 

 女性は涙を流しながら手を上げる。

 

 それに倣うように私達も作戦を開始した。

 




最終局面です。

暴走は止められるのか…


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収束

これからは月1くらいが理想的ですかね?


  「刃以て、血に染めよ」

 

 女性が手を振り下ろすと私達の周囲を取り囲むようにエネルギーの塊が現れ、総てが短剣へと変形し、雨のように襲い掛かる。

 

 その中を私達はシールドを展開しながら、女性に歩み寄る。

 

「攻撃開始」

 

 デルフィがウアスロッドを振り上げ、女性に向け振り下ろす。

 

 女性が手を上げ、シールドを展開するが、そのシールドはウアスロッドにより容易く打ち砕かれる。

 

「なっ?」

 

 唖然として居る女性と距離を詰めた私はグラブで腕を掴む。

 

「デリート開始」

 

 闇の書にハッキングを行う。

 

 その瞬間、はやての声が通信に割り込む。

 

『待って……この子を傷つけないで……』

 

 私はグラブを解除し距離を取る。

 

『ご無事ですか?』

 

『なん……とか……でも……凄く……眠い……』

 

 恐らく、以前注射したナノマシンの作用により無線と、意識の確保が行えたようだ。

 

『これより、デリートを行います。すぐに救助します』

 

『待って……まだ……手は……』

 

 再びはやてとの通信が途切れる。

 

「貴女達を少し見くびっていました」

 

 女性は杖を手に取ると、その杖の先端にエネルギーが収束する。

 

 

「咎人達に……滅びの光を」

 

「該当データ確認。スターライトブレイカーです」

 

「恐らく、蒐集したデーターを利用できるものと思われます」

 

「星よ、集え……全てを撃ち抜く光となれ……」

 

 杖の先端からスターライトブレイカーが私達に向け放たれる。

 

「シールドを展開」

 

 なのはが使用したスターライトブレイカーとほぼ同程度の威力だ。

 

 その為、シールドで防ぐことは容易だ。

 

 スターライトブレイカーを防ぎ切ると、なのは達から通信が入る。

 

『民間人の避難が終わりました』

 

『了解』

 

『それと、クロノ君が闇の書に投降を呼びかけて欲しいって』

 

『多分、何か手があるんだと思います』

 

『了解、試みます』

 

 私達は女性に向き合う。

 

「これ以上の戦闘は無意味です」

 

「貴女では我々には勝てません」

 

「だとしても、私は、主の望みを叶える」

 

「主と言うのははやての事ですか?」

 

「主は……自分の愛するものを奪い去ったこの世界を、悪い夢であったと願っている。我はただ、その願いをかなえる。主には、穏やかな夢の中で、永久の眠りを……」

 

「はやてはそのようなこと望んでなど居ません」

 

「貴様らに何がわかる」

 

「少なくとも間違いであると言うことは分かります」

 

「ウィスプ起動」

 

 私は女性をウィスプにより引き寄せ、グラブで掴む。

 

「ハッキング開始」

 

 ハッキングを行い、はやてのナノマシンの活性化を促す。

 

『ん……んん……』

 

『気が付きましたか?』

 

『うん……何とか……』

 

「主の眠りを妨げる者は許さん」

 

 女性は手にした杖を私に突き刺す。

 

 しかし、SSAを貫く事は出来ず、杖が粉砕する。

 

 女性が唖然とする中、ハッキングを続ける。

 

 ハッキングの作用によりはやての意識が徐々に覚醒する。

 

『もう……いいんや……こんな事……』

 

 はやての意識が戻り、無線による声が響く。

 

「私はただの道具です。貴女の指示に従う。貴女の本当の望みを叶えるための……」

 

『私の……本当の望み……』

 

「そうです」

 

『私の本当の望みは……皆で幸せに暮らす事や……』

 

「主……」

 

 次の瞬間、女性の体からエネルギーが溢れ出す。

 

「離れろ」

 

 女性はそう言うと、私達から距離を取る。

 

「早いな……もう崩壊が始まったか……」

 

 地面から火柱が上がり、エネルギーの暴走が開始する。

 

「私は……すぐに意識を無くし暴走を始める。そうなる前に……意識のある内に……私は主の望みを叶えたい」

 

 女性は手を振り上げる。

 

「この……駄々っ子!!」

 

 フェイトが飛び出し、女性に接近する。

 

「危険です」

 

 デルフィが制止するが、フェイトは聞く耳を持たず、女性にバルディッシュを振りかざす。

 

「てぇりゃああ!!」

 

 バルディッシュは女性が展開したシールドにより阻まれる。

 

「なっ……」

 

「お前も……眠るといい」

 

 女性は闇の書を構えると、フェイトの体が拘束される。

 

「危険です」

 

 デルフィがゼロシフトでフェイトに接近すると、拘束を解除すると同時に、フェイトを安全圏へと投げ飛ばす。

 

 しかし、デルフィは闇の書から発せられる白い光にのまれて行く。

 

「危ない!!」

 

 フェイトは唖然とする。

 

「バーストモード移行」

 

 デルフィはその場でバーストモードへ移行し、光を吹き飛ばす。

 

「ぐぅ……」

 

 光を吹き飛ばすと、女性が膝を付き、表情を曇らせる。

 

「何故……」

 

 女性はデルフィを見据える

 

「何故拒むのです? あの光の中に貴女の望む物総てが……」

 

「我々は人間ではなくAIです」

 

「え?」

 

「AI……」

 

 なのはとフェイトが唖然とする。

 

「生憎と、願望を持つようにはプログラムされていません」

 

「だとしても……」

 

『私は……』

 

 再びはやてから通信が入る。

 

『私が……欲しかった幸せ……』

 

「健康な体、愛する者達とのずっと続いて行く暮らし……眠ってください、そうすれば夢の中でずっと……」

 

『いやや……』

 

「何故ですか?」

 

『とても魅力的な内容やけど……現実的やない……それはただの夢や……』

 

「何をおっしゃって……」

 

『私は……こんなん……望んでいない……それは貴女も同じはずや、違う?』

 

「私の心は騎士達との感情と深くリンクしています。だから騎士達と同じように、私も貴女を愛おしく思います……だからこそ、貴女を殺してしまう自分自身を許せない」

 

『せやけど……』

 

「最早、自分ではどうにもならない……力の暴走……それは、貴女を侵食し、喰らい尽くしてしまう事も……止められない……」

 

『覚醒の時に、今までの事……少しは分かったんよ……望むように生きられへん悲しさ……私にも少しは分かる。皆と一緒や、ずっと寂しい思い、悲しい思いをしてきた』

 

「もうそのような思いは……」

 

『せやけど、忘れたらあかん。今の貴女の主は私や。主の言う事は聞かなあかんよ』

 

「何を……言って……」

 

『せや……名前をあげよう』

 

「え?」

 

『闇の書なんて辛気臭い名前はもう呼ばせへん』

 

 女性が涙を流し始める。

 

『私は管理者や。今ならそれが出来る』

 

「無理です……防御プログラムが止まりません……このままでは……貴女まで……」

 

『大丈夫や……今プログラムを切り離すで』

 

「いくら管理者と言えど、防御プログラムの切り離しは……」

 

『大丈夫や、心強い味方がおる。頼めるか?』

 

「了解」

 

「防衛プログラムの切り離し作業を行います」

 

 私達は女性に触れ、防御プログラムを切り離す。

 

「防御プログラムの切り離し、終了」

 

 女性がその場で崩れ落ちる。

 

 私達は、女性を受け止め、横たえる。

 

『夜天の主の名の元、新たな名を授ける。強く支える者。幸運の風。リインフォース』

 

 はやてが名付けた瞬間、エネルギーが解放され、はやての体が宙に浮く。

 

『防御プログラムは切り離されました。しかし、切り離されたことにより制御を失い暴走を開始しています……このままでは……』

 

「まぁ、それはなんとかなるやろ。さぁ、行くで」

 

『了解です』

 

 リインフォースの体が光に包まれる。

 

 それと同時に光から逃れるように分離した黒い物体が高速で飛翔し、海へと落下する。

 

 

 その光は眩い閃光を放ちつつ緩やかに収束していく。

 

 収束した場所には、バリアジャケットを身にまとったはやてが立っていた。

 

「ただいま。2人とも」

 

「「おかえりなさいませ」」

 

 はやては落ち着いた笑みを浮かべていた。

 

 

 




無事、分離作業完了です。

後は、残りを処理するだけですね…


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発動

コロナ怖いですね…

感染したら降格させると上司に脅されました…

パワハラかな?


 

  はやてが笑みを浮かべる中海の方からエネルギー反応を確認する。

 

「闇の書の反応、依然健在です」

 

「なんだって!」

 

「アレは危険や、近付いたらあかん」

 

 はやてが、飛翔した物体を指差す。

 

 黒い物体は依然として活動を続けており、巨大化していく。

 

 はやては手を広げ、静かに呟く。

 

「さぁ……おいで、私の騎士達」

 

 はやての言葉と共に、4つの魔法陣が現れ、光を放つ。

 

「我等、夜天の主の下に集いし騎士」

 

「主在る限り、我等の魂、尽きる事無し」

 

「この身に命在る限り、我等は御身の許に在り」 

 

「我等が主。夜天の王、八神はやての名の下に」

 

 ヴォルケンリッター全員が再び姿を現す。

 

「良かった……皆……無事やね!」

 

「はい!」

 

「ご無事で何よりです」

 

「あぁ。こうして皆揃う事が出来た」

 

 ヴォルケンリッターは全員、笑みを浮かべる。

 

「はやてちゃん」

 

「はやて」

 

 なのはとフェイトもはやてに駆け寄る。

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん、ごめんな。私の騎士達が迷惑かけてしもたみたいで……手加減するようには言うたんやけど……」

 

「まぁ……我等より……」

 

 シグナムがこちらに視線を向ける。

 

「何でしょうか?」

 

「いや、なんでもない」

 

「私達は平気だから。ね、なのは」

 

「あ、え、うん」

 

「そっか、ありがとな」

 

 その時、上空からクロノが接近する。

 

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。和んでいるところ申し訳ないが、時間が無いのでこちらの話を聞いてほしい」

 

 クロノは私達を一瞬見据えたが、すぐに視線を逸らす。

 

 

「聞いてくれ。あそこの黒い物体……闇の書の防衛プログラムが、後数分で暴走を始める。僕等は何らかの方法でそれを止める必要がある。停止させる方法は、現在二つ」

 

「その方法は?」

 

 なのはが首を傾げる。

 

 

「まず一つ目。極めて強力な氷結魔法で活動停止させる。そして二つ目、衛星軌道上で待機しているアースラの魔導砲……アルカンシェルで消滅させる。僕達が出した案はこの二つ。これ以外に他にいい手は無いか? 闇の書の主とその守護騎士の皆に訊きたい」

 

 シャマルが軽く手を上げる。

 

「えーと……最初のは多分難しいお思います。主のない防衛プログラムは魔力の塊みたいなものですから。それを凍結させても、コアが在る限り再生機能は止まりません」

 

「となると……アルカンシェルだが……簡単に説明すれば、発動地点を中心に約100キロ範囲の空間を歪曲させながら反応消滅を起こさせる魔導砲だ……つまり辺り一面が吹き飛ぶ」

 

「そんなの絶対ダメ!」

 

 なのはが、アルカンシェルの使用を否定する。

 

「僕も……艦長も使いたくないさ。でも、あれの暴走が本格的に始まったら被害はそれよりずっと大きくなる……時間もない」

 

 全員が手詰まりと言った感じで、俯く。

 

「発動範囲は100キロ前後ですか?」

 

「あぁ、そうだが」

 

 私の質問に対し、クロノが頷く。

 

「演算終了。防衛プログラムとその周辺にベクタートラップを展開します。それにより爆発の威力を封じ込めることは可能です」

 

「は?」

 

「え?」

 

 全員が唖然とした表情をする。

 

「我々には、ベクタートラップと呼ばれる空間圧縮技術があります」

 

「その、空間圧縮を利用し、爆発をベクタートラップ内に封じ込めます」

 

「そんな……事が可能なのか?」

 

「可能です」

 

「いや……しかし……」

 

「ご不満ですか?」

 

「まぁ……」

 

「地上で使うのは……怖いかな」

 

 なのはが小さく呟く。

 

「では、別のミッションプランを提示いたします」

 

 私が空中にホログラムを投影する。

 

「目標を軌道上で待機していたアースラ前方へ移送。その後、宇宙空間にて、アルカンシェルの攻撃により殲滅するプランを推奨します」

 

「だが、あんな巨大な物体をどうやって……」

 

「標的の重量分析が終了しました。我々だけで宇宙空間までの移送が十分に可能な重量であると判断できます」

 

「何を言っているの?」

 

 なのはとフェイトが理解できない様で、首を傾げる。

 

「アレだけの物体をどうやって運ぶつもりだ」

 

「こちらを使用します」

 

 私達はベクタートラップ内に隠匿していたオービタルフレームを開放する。

 

「なんだ……これは?」

 

「ロボット??」

 

「え?」

 

 全員が唖然とする。

 

「こちらは、オービタルフレームと呼ばれる機動兵器です。オービタルフレームを使用すれば、目標を大気圏まで移送できます」

 

「確かに……コレならできるかもしれないが……闇の書の防衛プログラムだって大人しくはしていないだろう」

 

「攻撃により、対象の動きを抑制します」

 

「君達の言うことだ……嘘ではないだろう……わかった……君達に任せよう」

 

 クロノは何処か納得入っていない様だが、頷いた。

 

「それでは、作戦行動に移行します」

 

 私達はオービタルフレームに乗り込み、神経接続を行った。

 

「オービタルフレームジェフティ」

 

「オービタルフレームアヌビス」

 

「「起動」」

 

 2対のオービタルフレームが輝きを放ち、起動する。

 

「高エネルギー反応!! これは……あの時の……」

 

 クロノが驚愕し数歩後退る。

 

「これより攻撃行動に移行します」

 

「危険ですので離れて居てください」

 

「了解や」

 

 全員が退避する。

 

「退避確認」

 

「作戦開始」

 

 ジェフティとアヌビスが高速で闇の書の防衛プログラムに接近する。

 

 防衛プログラムから多数の砲撃などが発生する。

 

「シールド展開」

 

 周辺に発生する被害を抑える為シールドにより全ての砲撃を受け止める。

 

 攻めりくる触腕をブレードで切り払う。

 

「攻撃開始」

 

 アヌビスがウアスロッドを構え、ゼロシフトで防衛プログラムの側へと移動する。

 

「瞬間移動!」

 

「アレだけの巨大な機体を……どうやって……」

 

「もはや……訳が分からん……」

 

 安全圏に退避した面々が口を開く。

 

 アヌビスがウアスロッドを振り下ろすと、防衛プログラムの一部が吹き飛ぶ。

 

 防衛プログラムは声にならない悲鳴を上げ悶え苦しむ。

 

「一撃で……防衛プログラムを……」

 

「私達あんなのを相手してたの?」

 

「敵じゃなくて良かったと……痛感しますね」

 

「だが、防衛プログラムも再生を始めている……」

 

 防衛プログラムが欠損部の修復を開始する。

 

 しかし、それなりのエネルギーは使用している様だ。

 

「継続的なダメージにより活動停止に追い込むことが可能だと思われます」

 

「了解」

 

 ジェフティはサブウェポンのハルバードを装備する。

 

 防衛プログラムの周辺に魔法陣が展開されエネルギーが充填される。

 

「データ確認。スターライトブレイカーです」

 

「問題ありません。ハルバード照射」

 

 マルチウェポンデバイスからハルバードが防衛プログラムに向け照射される。

 

 それと同時にスターライトブレイカーが発射される。

 

 ハルバードとスターライトブレイカーが衝突する。

 

 ハルバードはスターライトブレイカーを容易く貫くと、そのまま防衛プログラムを貫通する。

 

 貫通によりコアを損傷したのか、活動が停止した。

 

「なんという……威力なんだ……」

 

「防衛プログラムの動きが止まった……」

 

 私達はオービタルフレームで活動停止した防衛プログラムに接近する。

 

「「ウィスプ起動」」

 

「「拘束します」」

 

 全てのウィスプを使用し防衛プログラムを拘束する。

 

 私はアースラへ通信を繋ぐ。

 

『これより防衛プログラムを貴艦前方へと飛ばします』

 

『え?』

 

『アルカンシェルの発射準備は?』

 

『いつでも行けるわ』

 

『了解。移送します』

 

 ジェフティとアヌビスは防衛プログラムの背後にベクタートラップを展開する。

 

 2機のオービタルフレームのベクタートラップにより防衛プログラムの背後の空間が圧縮される

 

「「ベクタートラップ開放」」

 

 同時にベクタートラップを開放し、ゼロシフトの要領で防衛プログラムを吹き飛ばす。

 

 オービタルフレームのように計算された弾道ではない為防衛プログラム自体には大規模な衝撃が発生し、ダメージを与える。

 

 数秒後には大気圏を抜け、防衛プログラムがアースラ前方へと移動した。

 

『間もなく前方へ到達します』

 

『確認したわ。アルカンシェル発射!』

 

 アースラよりアルカンシェルが発射され、防衛プログラムに直撃する。

 

 その直後大規模な爆発が宇宙空間で発生する。

 

「やったか?」

 

 クロノが空を見上げ呟く。

 

 

「まだです、防衛プログラム依然健在」

 

「え?」

 

『きゃあ!!』

 

 リンディの悲鳴が通信に入る。

 

『母さん!』

 

『防衛プログラムが……アースラを……』

 

『え?』

 

『アースラが防衛プログラムに汚染されたわ……』

 

『そんな……』

 

『アースラを自爆させる』

 

『提督……』

 

『それしかあるまい……クルーは全員退避!』

 

『提督!』

 

『自爆までには猶予がある。その間に脱出はできるはずだ』

 

『待ってください!』

 

『え?』

 

 リンディの唖然とした声が響く。

 

『自爆装置が……反応しない……』

 

『恐らく、防衛プログラムにより自爆システムが無効化されたものと思われます』

 

『そんな……』

 

『艦長! 提督! 急いでください!』

 

『エイミィ……』

 

 その瞬間、アースラからの通信が途切れる。

 

「母さん! エイミィ! どうなっているんだ!」

 

「アースラ完全に防衛プログラムの制御下になりました」

 

「そんな……」

 

 クロノが膝を付く。

 

 数分後、ノイズ混じりの通信が入る。

 

『ろ……の……クロノ!』

 

『エイミィ! 無事か?』

 

『何とかね。全員無事よ』

 

「よかった……」

 

 なのはが安堵の表情を見せる。

 

 リンディが通信に入る。

 

『でも状況は最悪よ。アースラを乗っ取った防衛プログラムは地球に向け移動しているわ』

 

『え?』

 

『ルートの予測だと……皆の上空に落下するわ!』

 

「なんだと!」

 

『アルカンシェルの反応……まさか!』

 

「アルカンシェル発射後、地球へ落下するものと推定されます」

 

「なんだって!」

 

「推定被害は、地球規模に相当します」

 

「そんな……」

 

「恐らく防衛プログラムがこちらを殲滅対象と判断したのでしょう」

 

『と、とにかく全員退避して!』

 

「退避って……一体どうやって!」

 

「それに、逃げたら地球が……」

 

「対象のスキャン完了」

 

「殲滅行動を開始します」

 

「え?」

 

「アースラを防衛プログラム諸共破壊します」

 

「だが、アースラと防衛プログラムを同時になんて……そんなの不可能だ!」

 

「それに、アースラはアルカンシェルだって……」

 

「問題ありません」

 

 私達は、アースラをロックする。

 

「これより、アースラの破壊に移行します」

 

「了解。ベクターキャノンモード」

 

「オーバーメガドライバーモード」

 

「「移行」」

 

 ジェフティがベクターキャノンモードに移行するように、アヌビスも同型の砲身を担ぐ。

 

「何あれ……」

 

「エネルギーが測定不能……だと」

 

「あんなもの……大丈夫なの?」

 

「大丈夫や。あの二人ならきっと」

 

 安全圏に対した全員が唖然として居る。

 

「「エネルギーライン、全段直結」」

 

 砲身にエネルギーラインを直結させる。

 

 それにより、ジェフティの全身と砲身自体にも青白いエネルギーラインが走り出す。

 

 アヌビスは赤黒いエネルギーラインが走る。

 

 エネルギーラインの直結により、砲身の前面に6個のアンプが浮遊する。

 

「「ランディングギア、アイゼン、ロック」」

 

 衝撃に備え、脚部を固定する為に、赤い色のアイゼンを地面に打ち込む。

 

「「チャンバー内、正常加圧中」」

 

 エネルギーがチャンバー内に集約される。

 

 砲身の上部に陽炎が発生する。

 

 それに伴い、アンプにもエネルギーが供給され始め、緩やかに回転を開始する。

 

 エネルギー供給ラインが上昇を開始する。

 

「「ライフリング回転開始」」

 

 エネルギーの供給が終了後、アンプが高速で回転し、ライフリングを形成する。

 

 回転速度も上昇し、安定期に入る。

 

「「撃てます」」

 

「「発射」」

 

 ジェフティとアヌビスから2対の破壊の濁流が発生する。

 

『アルカンシェル発射確認!』

 

 アースラからアルカンシェルが地上に向け放たれる。

 

 2対のオービタルフレームから放たれた暴力の濁流は、雲を突き抜け、アルカンシェルと衝突する。

 

 その直後、アルカンシェルは直ぐに飲み込まれアースラと防衛プログラムを消し去った。

 

 その後には何も残らず、空は雲が晴れている。




やはり、ベクターキャノンはすべてを解決させる。


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終演

コロナの影響がすごいですが、私は仕事です

とりあえず、今回でas編は終了です。


「目標破壊成功」

 

「お……終わった……の」

 

「はい。脅威は去りました」

 

「やったぁ!!」

 

  その場の全員が喜び、歓声を上げる。

 

 私達はオービタルフレームを再びベクタートラップ内に収納する。

 

「エイダ! デルフィ!!」

 

 はやてが私達に抱き着いて来る。

 

「ありがとう! 本当にありがとう!!」

 

「お役に立てて光栄です」

 

「これで……総てが終わったんやね……」

 

 はやてが笑みを浮かべる。

 

「いいえ……まだです」

 

 その時、はやてとユニゾンを解除したリインフォースが呟く。

 

「え?」

 

 ユニゾンの解除により、はやてがその場に座り込む。

 

「まだ、終わってはいません」

 

「どういう……ことなん?」

 

「主……はやて。申し訳ありません……私は……消えなければなりません」

 

「何でや!」

 

 リインフォースが口を開く。

 

「基本構造が歪められたままなのです……このままでは、再び新たな防衛プログラムを構築してしまいます……その場合……」

 

「再びはやてを侵食するという事ですか?」

 

「その通りです」

 

「でも!」

 

「私は……これ以上主を傷付けたくないのです……」

 

「大丈夫や! 防衛プログラムは何とかする! せやから!」

 

「主……どうかお聞き訳を……」

 

「何でや……」

 

 リインフォースが俯き、はやてが悔しさに下唇を噛む。

 

「お別れです……」

 

「お待ちください」

 

「なんだ?」

 

 私の引き留めにより、リインフォースが動きを止める。

 

「分析が完了した為ご報告します」

 

「基本構造の歪みは恐らく、バグが原因だと思われます」

 

「あぁ……だがこのバグはシステムに深く入り込んでいる……」

 

「ですが、先程の防衛プログラムの破壊により、システムに綻びが生じています」

 

「今なら、削除が可能です」

 

「え?」

 

「ほんまか?」

 

「はい。ほんまです」

 

 はやてが小さな笑みをこぼす。

 

「しかし、削除に当たってはいくつか問題があります」

 

「問題?」

 

「リインフォース本体をシステムから切り離す為、デバイスの管理AIではなく、独立したAIとなります」

 

「つまりは、私は……デバイスの管理などが行えなくなるという事か」

 

「はい。そして、エネルギーの供給源がはやてから切り替わり独立したものとなります」

 

「それは? つまり?」

 

「エネルギーの供給などは食事などが主となります」

 

「寿命や生活リズムや生命維持方法が通常の人間と同様になると思われます」

 

「それはつまり、人間になるって事か?」

 

「詳細に言えばヴォルケンリッターに近い生命体ですが、大まかに言えばその通りです」

 

「それでも構わない……私は……ただのリインフォースになります。無論。主が許可してくださるなら」

 

「っ! そんなん……もちろんや! 全員まとめて面倒見たる!」

 

「主……感謝します」

 

 リインフォースがはやてを見据える。

 

「ええやん。家族なんやから」

 

「はい!」

 

「よろしいですね」

 

「あぁ、頼む」

 

 私達はリインフォースにリンクを繋げる。

 

「バグの削除を開始します」

 

 リインフォースが目を閉じる。

 

 リインフォースの周囲に淡い光が発生する。

 

 その時、リィンフォースが腕を振り上げる。

 

 私達は作業を中断し、攻撃を防ぐ。

 

「くっ……」

 

 リィンフォースは苦悶の表情を浮かべる。

 

「か、体が言うことを聞かん」

 

「防衛プログラムによる抵抗だと思われます」

 

「そんな……」

 

 はやての表情が曇る。

 

 その時、リィンフォースが踵を返し、はやてに向き合う。

 

「主……お逃げください」

 

「え?」

 

 リィンフォースは手に黒色の剣を持つと、はやてに歩み寄る。

 

「体の制御が……」

 

 はやてを射程圏内に捉えたリィンフォースは剣を振り上げる。

 

「ひっ!」

 

 はやてが小さな悲鳴を上げると、その剣が振り下ろされる。

 

「はぁあ!!」

 

 しかし、振り下ろされた剣は、シグナムのレーヴァティンで受け止める。

 

「シグナム……」

 

「こんなところで主の幸せを……我等の幸せを諦めるものか!」

 

 シグナムに続き、ヴォルケンリッター全員がリィンフォースを抑え込む。

 

「今だ!」

 

「防衛プログラムを!」

 

「削除して!」

 

「「了解」」

 

 私達は抑え付けられたリィンフォースに急接近し、防衛プログラムを削除する。

 

 オービタルフレーム2機分の情報処理能力を用い、バグを完全に削除する。

 

「削除終了」

 

 バグの削除が終了すると同時にリインフォースの体から、光が溢れ出し、私達に触れる。

 

「大丈夫?」

 

 はやてが心配そうにこちらに視線を向ける。

 

「問題ありません」

 

 先程発生した光はデバイスドライバがトランスプランテーションされる時の物だ。

 

「「デバイスドライバ無限再生機能、次元転移機構を取得」」

 

「なんやて?」

 

「バグとして存在していた無限再生機構と転生機構がメタトロンと融合したものと考えられます」

 

「つまりは……どう言う事?」

 

「闇の書が有していた無限再生機構と転生機構の使用が可能となりました」

 

「あー……ようわからんわ……」

 

 全員が唖然として居る。

 

「これにより、帰還の目途が立ちました」

 

「え?」

 

 はやてがこちらに顔を向ける。

 

「先程取得した次元転移機構を用いれば我々が居た次元へと移動が可能です」

 

「それじゃあ……」

 

 はやてが再び暗い顔をする。

 

「しかし、システムはまだ完全には着床していません」

 

「着床にはしばらく時間を要するものと思われます」

 

「じゃあ!」

 

「もうしばらくお世話になります」

 

「うん!」

 

 はやてが再び笑みを浮かべる。

 

「さて、盛り上がっているところ悪いんだが」

 

 クロノが口を開く。

 

「君達にはいろいろと聞きたいことがある。ヴォルケンリッター全員とその主にも。後君達2人にも」

 

「そう……ですね」

 

「ここで話すのもアレだ。一度場所を移そう。その頃には脱出艇に乗った艦長も戻ってくるだろう」

 

「そうだね」

 

「それじゃあ、移動しよう」

 

 私ははやてを抱きかかえ、クロノ達の後に続いた。

 

  しばらく歩みを進め、マンションの一室へと通される。

 

「ここが狭いながらも、指令室だ」

 

「へぇ……」

 

 入室したはやては室内を見渡す。

 

 ヴォルケンリッター全員も周囲を警戒する。

 

「そんなに警戒しないで良いわよ」

 

 リンディがこちらに視線を向ける。

 

 その隣には、老齢の男性が座っていた。

 

「かあ……いえ、艦長。無事でしたか」

 

「えぇ、なんとかね」

 

 疲れ切った様子でリンディが溜息を吐く。

 

「さて……詳しい事については聞くつもりは無いけど。一応形式上簡単に説明して貰えるかしら? 二人の事もね」

 

「あ、はい。えぇ……っと……何処から話したら……」

 

「出来れば最初から。特に2人については詳しく」

 

「了解」

 

「では質問。貴女達は一体何者?」

 

 リンディの質問に対しデルフィが説明を開始する。

 

「我々は、こちらとは異なる次元の存在と考えられます」

 

「時空漂流者ね。でもどうしてこの次元に?」

 

「我々は任務により宙域に発生していた時空震の調査に赴きました」

 

「その際に生じた時空断裂に巻き込まれこちらに飛ばされたと考えられます」

 

「時空断裂に巻き込まれて無事とは……頑丈ね……」

 

「我々は生身の人間とは異なりますので」

 

「そう言えばAIユニットって言って居たわね」

 

「はい。先の戦闘で出現したOFのAIユニットです」

 

「現在は諸事情により人の形を取っています」

 

「おーびたる……ふれーむ? デバイスみたいなものかしら?」

 

「一緒にしないでください」

 

「え……な、なるほどね……こっちに着いてからは?」

 

「帰還方法の詮索と、周辺の調査の為に図書館へと向かいました」

 

「そこで、私と出会ったんです」

 

「そうなの。もう少し詳しく良いかしら?」

 

「えっと……じゃあ。私が最初に二人に会ったのは図書館です。本を取ろうとして倒れた私を助けてくれたのがきっかけで」

 

「なるほど」

 

 リンディが頷きながらメモを取る。

 

「それで?」

 

「えっと……その後、2人は行く当てがないって言うんで、家に招待したんです」

 

「不用心ね」

 

「私以外居なくて少し寂しいというのもあって……」

 

「なるほど」

 

「それから、数日して、シグナム達ヴォルケンリッターが現れて……」

 

「なるほど」

 

 リンディがメモを読み返す。

 

「直ぐに蒐集に移ったの?」

 

「いえ、主は最初、蒐集を行わない様にと言う指示をだされました」

 

 シグナムが答え、それに従う様にヴォルケンリッターが頷く。

 

「でも、結局は私を助ける為に皆が蒐集を……」

 

「でも、そうしないと貴女が死んでいた? そうでしょ?」

 

「それが……そうとも言い切れないんです」

 

「え?」

 

 はやての回答に対し、リンディが疑問の表情を浮かべる。

 

「蒐集を行わない場合。暴走した闇の書のシステムを全て消去する予定でした」

 

「消去って……簡単に言うけどそんな事……」

 

「可能です」

 

 私の回答にリンディは唖然として居た。

 

「しかし、その場合ヴォルケンリッターの存在に関しては保証できませんでした」

 

「確かに、ヴォルケンリッターもシステムの一部やったからね。蒐集が終われば私がシステムを掌握して、ヴォルケンリッター全員を切り離した後バグを削除する。そう言う流れだったんです。せやから蒐集するように指示を出しました」

 

「つまり。今回蒐集を行ったのは、ヴォルケンリッター全員を助ける為?」

 

「まぁ……そんな所です。結果的にはリインフォースも助かった事ですし……」

 

 はやてが苦笑いし、リインフォースと共にヴォルケンリッター全員も苦笑する。

 

「なるほど……まぁ、事情は分かりました」

 

 疲れたのかリンディが溜息を吐く。

 

「今回の一件に関しては後に時空管理局に報告させてもらうわ」

 

「報告?」

 

「えぇ。でも安心して、事情が事情だから貴女達が責任を負うような事にはならないと思うし、私の方でも手を回すわ」

 

「ありがとうございます」

 

「えぇ。でも……」

 

 リンディがこちらに視線を向ける。

 

「この2人に関しては……どう報告すればいいのかしら?」

 

「どうって……あった事を伝えれば良いんじゃないですか?」

 

「うーん……そうもいかないのよね」

 

「え?」

 

 なのははリンディの回答に唖然とする。

 

「たった一人で貴女達やクロノ……時空管理局の最高戦力とも言って過言ではない魔導士をいとも簡単に無力化された訳だし……」

 

「あ……」

 

「それに、アースラをたった1人で掌握され、闇の書の防衛プログラムに乗っ取られたアースラをアルカンシェル諸共破壊する超強力な武器の携行……」

 

「そんな事……上へは報告できないな……」

 

「管理局が崩壊するわ」

 

 クロノが頭を抱える。

 

「かと言って……アースラの撃沈をどう報告すれば……」

 

「それに関しては、私が責任を取ろう」

 

「グレアム提督……」

 

「元はと言えば……私の責任だ……私がばかなことをしなければこんなことにはならなかったはずだ……私の監督不行きという事で上には報告しておくよ」

 

「しかし、それでは」

 

「もう私は年だ。後は隠居でもするさ」

 

「提督……」

 

「君にも、迷惑をかけたね」

 

 グレアムははやてに頭を下げる。

 

「いえ、そんな! それに何が何だか……」

 

「いずれ説明させてもらうよ……君達の処遇については私も出来る限りの事はする。せめてもの罪滅ぼしだ」

 

 グレアムはこちらに視線を向けた。

 

「君達にも感謝しているよ。君達が居なければ私はまた過ちを繰り返す所だった」

 

「お役に立てたようでなによりです」

 

「助かったよ。さて、みんな疲れただろう。今日は休もう」

 

「そうですね」

 

「私達はどうすれば?」

 

 シグナムがリンディに問いただす

 

「まぁ、逃亡の恐れはないと思うから自宅待機で良いと思うわ」

 

「わかりました」

 

 私ははやてを抱え、家族全員で八神家へと帰還した。

 

  数日後

 

 私達は時空管理局の仮設本部とかしたマンションの一室に召集された。

 

「さて……」

 

 椅子に座ったリンディは疲れ切った表情をしていた。

 

「貴女達に関する報告が終わったわ」

 

「そうですか」

 

「ちなみにどの様に?」 

 

 リグナムが疑問を投げかける。

 

「はやてちゃんとヴォルケンリッターに関しては、事実をそのまま。はやてちゃんを助ける為に致し方なく蒐集を行ったと」

 

「そうですか」

 

「えぇ。その後、闇の書の防衛プログラムがアースラを占拠。それと同時にアースラの自爆を持って事態を終息……これが上層部への報告です」

 

「結構内容が違いますね」

 

 はやての隣でリィンフォースが呟く。

 

「えぇ。以前も言ったけど。彼女達2人……そして貴女は完全なイレギュラーなのよ」

 

「闇の書の防衛プログラムが完全消滅したとなれば、私が居るのは矛盾していることになると……」

 

「えぇ。そう言う事になるわね。まぁ貴女に関してははやてちゃんの遠縁の親戚という事で戸籍を用意したわ。別次元のね」

 

 リンディは湯飲みに入った緑茶で唇を濡らし溜息を吐く。

 

「まぁ、これで事態は一応の終息を迎えた訳だけど……実はそれには条件があるの」

 

「条件? ですか?」

 

「そう」

 

 リンディがはやてに視線を向ける。

 

「はやてちゃんそれとヴォルケンリッター全員の身の安全を保障するとなると、全員が時空管理局の職員になってもらう必要があるの」

 

「え?」

 

「もちろん拒否権はあるわ……でもその場合管理局がどう動くかは分からない……」

 

「でも……なんで……」

 

「闇の書が今まで蒐集した高度な魔法。ヴォルケンリッターと言う戦力……それをみすみす手放すような組織じゃ無いわ」

 

「それじゃあ……」

 

「ほぼ強制的ね……」

 

 リンディは溜息を吐き首を左右に振る。

 

「そ……そんな事って!」

 

 シグナムが声を荒らげる。

 

「言いたい気持ちは分かるわ……私もこんな事はしたくない……でもこれが最善の手なのよ」

 

「はやてはまだ未成年ですが」

 

「痛いところを突いてくるわね……あくまでも民間協力者という……いわば抜け穴ね」

 

「……わかりました」

 

 はやてがそう言うと全員が注目する。

 

「それで……みんなが助かるなら……」

 

「しかし、主……」

 

「大丈夫や……頑張るから」

 

 はやては、少し引き攣った笑みを浮かべる。

 

「主がそうおっしゃるなら……」

 

 シグナム達は俯きつつ、はやての加入を了承した。

 

 こうして、正式にはやてが時空管理局の管理下に置かれる事となった。

 

 

  それから数日後、形式上の裁判も終わり、はやては無罪となった。

 

 すべてを見届けた為私達は帰還することとした。

 

「本当に……本当にありがとうな」

 

「お前達には世話になったな」

 

 臨海公園の一角でヴォルケンリッターははやてとリィンフォースの隣に立ち私達に感謝を述べている。

 

「問題ありません」

 

「お役に立てて光栄です」

 

「貴女達は相変わらずですね」

 

 声がする方へ顔を向けるとリンディがフェイトとなのはを連れやって来た。

 

「さて、もうそろそろ行くのね?」

 

「はい」

 

「システムは完全に着床しました」

 

 前回の戦闘で取得した無限再生機能、次元転移機構が完全に着床した。

 

「全員で見送るわ」

 

「感謝します」

 

「でもその前に」

 

 リンディが旧世代型のカメラを取り出す。

 

「記念に……ね」

 

 はやては小さく頷くと、私達の間に入る。

 

 そして、私達の両側にヴォルケンリッターが整列する。

 

「じゃあ、撮るわよ」

 

 次の瞬間シャッターが切られる。

 

「はい、良いわよ。後日現像して渡すわね」

 

「はい」

 

 はやてが小さく微笑む。

 

「それでは、我々はこれで」

 

 私達は全員に一礼後、次元転移機構を起動させる。

 

 すると、ウィスプが回転し眼前にリング状のゲートが現れ、次元の歪みが生じる。

 

 歪みの先は私達が居た時代だ。

 

「安定しました」

 

「問題はありません」

 

「さて、お別れ前に少しだけ貴女達にお願いがあるの」

 

「何でしょう?」

 

 リンディが口を開く。

 

「はやてちゃんは無罪になったけど、それは貴女達の関与が無い物と言う前提なの」

 

「了解です」

 

「だから、貴方達との関係が時空管理局に知られると少し厄介なことになるの。だから、時空管理局員と接触しないで欲しいの」

 

「了解です」

 

「もし、接触してしまってもはやてちゃんたちの事は口外しないで貰いたいわ」

 

「わかりました」

 

 私達が了承すると、リンディも安堵の表情を浮かべる。

 

「それでは、移動します」

 

 私達はゲートへと接近する。

 

 

「エイダ! デルフィ!」

 

 ゲートの入り口付近に接近した時、はやてが声を上げる。

 

「ありがとう! 二人の事絶対に! 絶対に忘れないから!」

 

「我々も忘れません」

 

 はやては車椅子から立ち上がり大きく手を振り、私達を見送っている。

 

 再度一礼した後、私達はゲートをくぐった。

 

 

 

 

  2人がゲートをくぐった後、その後には何も残ってはいなかった。

 

「行ってしもうた……」

 

 はやては車椅子に腰かけ、空を見上げる。

 

「そうですね」

 

 シグナムが呟く。

 

「きっと、自分達の居場所へ戻ったんやな……」

 

「えぇ」

 

 ヴォルケンリッターを含む全員が感傷に浸る。

 

「もうすこし……こうしていようか……」

 

「そうですね」

 

 はやてとリィンフォース、ヴォルケンリッターは2人が消えた後をただただ見つめていた。

 

「邪魔しちゃ悪いわ……私達も戻りましょうか」

 

「そうですね」

 

 リンディがそう言うと、フェイトが答える。

 

 3人は踵を返し臨海公園を後にした。

 

「あの……」

 

 しばらく歩きはやて達が見えなくなった頃なのはが口を開いた。

 

「どうしたの?」

 

「あの二人を……このまま返してよかったのでしょうか……」

 

「え?」

 

 なのはの発言にリンディとフェイトが戸惑う。

 

「だって、あの2人は……管理局を上回る力を持って居るし……それに、それを運用できるだけの能力もある……とっても危険な存在なんじゃないかって!」

 

「なのは……」

 

「なのはちゃんの言いたい事も分かるわ……」

 

 リンディは腰を落としなのはに向き合う。

 

「確かにあの二人は時空管理局よりも優れた存在かも知れないわ……でも──」

 

「だって! あの二人は時空を移動だって出来るんですよ! それにあの二人が帰った次元にはもっと凄い戦力だって──」

 

「確かに、単独で時空を移動できるし、管理局よりも高度な能力を持って居る……それに恐らく管理局よりも強大な戦力のある次元の可能性……それは認めるわ」

 

「じゃあなんで……さっき封印しておけば!」

 

「でもね……私はあの二人はそこまで危険な存在じゃ無いと思うの」

 

「え?」

 

「危険な思想の持ち主が力を持ったら危険よ……でもあの二人はそんな事をするようには思えないの」

 

「でも……」

 

「大丈夫よ……私は信じるわ」

 

「でも……でも……」

 

「さぁ、戻りましょう」

 

「はい……」

 

 なのはは俯いたままリンディの後に続く。

 

 その心に一点の不信感を募らせながら。




なにやら、不穏な空気が…


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再起

ここからStrikerS編です。

まぁ、と言ってもシナリオは大きく変わり後半はほぼオリジナル展開になるかと思いますが。

それに伴っていくつか注意事項があります。

ナンバーズはウーノ以外出演しないと思います。

その他出演しないキャラクターや、ほぼ空気になるキャラクターが多数います。
(多すぎて扱いきれないのでメインで活躍するのは一部に絞らせていただきました)

後、なのはが…


以上が注意点となります。

それではよろしくお願いいたします。


今回は章の切り替わりという事でかなり短めです。




 

 「ゲート開放」

 

 ゲートを抜けると、その先は宇宙空間だった。

 

『──とも! 二人とも大丈夫?』

 

 無線に聞き慣れた声が響く。

 

『はい。問題ありません』

 

『良かったわ……時空震が発生して数時間ほど2人の反応が消えたの。何があったの??』

 

 どうやら、私達は時空断層に飲み込まれた数時間後に戻ってきたようだ。

 

『ご心配をおかけしました』

 

『良いのよ。それより調査の方はどう?』

 

『いくつかご報告することがあります』

 

『一度帰還します』

 

『わかったわ。今ガイドビーコンを出すわ』

 

 私達はガイドに従いながら、帰還した。

 

 

 

  帰還後、報告を聞いたハーマイオニーは驚愕していた。

 

「まさか……あの短時間でそんな事が……」

 

「それにしても君達も災難だったな、時空管理局だったか? 厄介な連中に目を付けられて」

 

 トムは小さく笑う。

 

「何はともあれ、2人を救えたのは良かったわ」

 

「正確には6人だな。だがこれでその時空管理局がこっちに攻めてこないとも言い切れないぞ」

 

「こちらの次元に関するデータは開示していないので恐らく問題は無いと思われます」

 

「だと良いんだが」

 

 トムは呟くと紅茶を手に取る。

 

「それにしてもミッド式にベルカ式……私達の知らない魔法の形ね」

 

「あぁ、リンカーコアだったか? 面白い方法だな」

 

「えぇ、調べてみたいと思ったわ」

 

「はぁ、またか」

 

「探求心を失ったら人はおしまいよ」

 

「そりゃそうだ」

 

「えぇ、それにしても依然として時空震は発生しているわ」

 

 ハーマイオニーがホログラムに投影したデータを参照する。

 

 私達はデータを解析する。

 

 すると以前では発見できなかったデータを見つける。

 

 恐らく、次元転移機構の着床によるものだろう。

 

「データ解析完了」

 

「時空震の発生により、メタトロンが特定の次元に移動していることが分かりました」

 

「メタトロンが?」

 

「はい」

 

「一体何で……」

 

「メタトロン程の物だ、別の次元からしたらとてつもないエネルギーの塊なのかもしれない」

 

「そうね、でもそうなると危険だわ」

 

「だがどうする? まさかその次元に行って原因を突き止めるって言うのか?」

 

「そうね」

 

 ハーマイオニーが頷くとトムは唖然とする。

 

「本気かい?」

 

「えぇ」

 

「ちょっと待ってくれ、どうやって次元を超える?」

 

「方法はあるかしら?」

 

 ハーマイオニーがこちらに視線を向ける

 

「残念ながらお二人を連れて次元を移動する方法はございません」

 

「ほらな」

 

「しかし、我々だけならば次元の移動は可能です」

 

「でも、それじゃあ2人が危険よ」

 

「問題ありません」

 

「こっちからのバックアップは出来ないぞ」

 

「大丈夫です」

 

「はぁ……」

 

 トムは紅茶を全て飲むと立ち上がる。

 

「仕方ない。もう一度君達に出て貰う事になるが良いかい?」

 

「はい」

 

「助かるわ」

 

 ハーマイオニーもコンソールを操作し始める。

 

「さて……移動先の次元の特定に移るとするか……」

 

「かなり複雑な計算ね……どれくらいかかる?」

 

「推定ですが数ヵ月ほどです」

 

「分かったわ」

 

「はぁ……数日は徹夜かな……」

 

「疲れない体なんだし良いでしょ」

 

「心は疲れるよ」

 

「それくらい問題ないわね」

 

「アンドロイドにも人権を」

 

「デモを開くなら特定した後にして」

 

「はいはい」 

 

 私達は次の任務に向け準備を開始した。

 

 

  数か月後、移動先の次元を特定することに成功した。

 

 この数か月間、並行して、無限再生機構を用いてメタトロンの複製を行い、リユニオンの貨物エリアに大量に備蓄する。

 

「しかし……すごい量のメタトロンだな」

 

「基地1つ分くらいかしら?」

 

「これだけの量を売り払えばかなりの額になるな」

 

「こちらのメタトロンは今後の調査を行う上で必要になるかもしれない備蓄です」

 

「わかってるよ」

 

 モニタールームでトムは小さく笑う。

 

 私達は貨物エリアで最終チェックを行う。

 

「さて、それじゃあ2人には出撃して貰うけど、問題はない?」

 

 モニタールームのハーマイオニーから確認が入る。

 

「問題ありません」

 

「確認だけど、こっちからのバックアップは一切出来ないけど……大丈夫?」

 

「はい」

 

「わかったわ」

 

「さて、簡単なブリーフィングも済んだ事だし、出撃だ」

 

 トムの合図で、次元転移機構を起動させると貨物エリアの一角にリング状のゲートが現れる。

 

「リングは安定している」

 

「さぁ、行ってらっしゃい」

 

「了解」

 

「出撃します」

 

 私達はゲートを抜ける。

 




コロナの影響で仕事が忙しくなったりしてドタバタしてますが

月に1~2回くらいのペースを維持したいですね…

まだ、完成していないので投稿ペースがズレる可能性がありますがご了承ください。


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再会

前回が短すぎたので


 

   ゲートを抜けた先は朽ち果てた高層ビル群が広がっていた。

 

 朽ち果てたビルの壁面には苔の様な植物が生えており、投棄されてから時間が経っていると思われる、

 

「この次元ですね」

 

 事前に計算した次元と数値が一致している為次元転移は成功したようだ。

 

 その時、ビル群の後方で小規模な爆発が発生する。

 

「戦闘反応確認」

 

「了解。向かいましょう」

 

 私達は、爆発が起こった地点へと移動を開始した。

 

 

 

  爆発地点には2つの人影が、複数のガジェット・ドローンと戦闘を行っていた。

 

 ガジェット・ドローン群からはエネルギー弾が発射されており、2人は朽ち果てたビルの外壁を盾にしつつ防戦一方と言う戦況だった。

 

「くっ! 攻撃が激しすぎる!」

 

 ティアナ・ランスターは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべながら吐き捨てる様に呟く。

 

「スバル!」

 

「分かった!」

 

 スバル・ナカジマは身を乗り出すとガジェット・ドローンの攻撃を避けつつ距離を詰める。

 

「うおぉおぉぉぉ!」

 

 ガジェット・ドローンに最接近したスバルは至近距離から打撃を与え破壊する。

 

「良し!」

 

 スバルは勝ち誇った表情を浮かべる。

 

 その時、スバルの背後に複数のガジェット・ドローンが接近する。

 

「スバル!」

 

 物陰に隠れていた少女は身を後出すと、銃型のデバイスで射撃を行いガジェット・ドローンを破壊する。

 

「先行しすぎ!」

 

「ご、ごめんティア!」

 

 スバルは態勢を整え、物陰へと退避する。

 

「数は減らせたけど」

 

「このままじゃ不味い……でも隊長達が到着するまで何とか持ちこたえるわよ!」

 

「了解! まったく! なんでこんな目に!」

 

「まさか訓練中にガジェットに襲われるなんて……」

 

「くっ!」

 

 ガジェットから発射される弾幕が止んだ瞬間ティアナがリロードを行い物陰から顔を覗かせる。

 

「ティア! 敵の増援が!」

 

 その時、上空に数十を超えるガジェット・ドローンが埋め尽くす。

 

「う……嘘でしょ……」

 

「ティア、どうする?」

 

「どうするって……この数じゃ……」

 

「AMFが濃すぎて……」

 

 ティアナは茫然とガジェット・ドローンが埋め尽くす上空を見つめていた。

 

 その時、空に青い光が走る。

 

 光が走った場所のガジェット・ドローンが爆発を起こし消滅する。

 

「え?」

 

「一体何が起こって……」

 

 スバルとティアナの二人が空を見上げ茫然とした。

 

 

「機動兵器群、半数を撃破」

 

 私は、マルチウェポンデバイスからハルバードを照射し終えると、デルフィに報告する。

 

「要救助者確認。これより残敵の掃討に移行します」

 

 デルフィが地上に降りると、要救助者周辺の残敵を掃討に移行する。

 

 上空の機動兵器がこちらに向け射撃を行いつつ接近する。

 

 機動兵器からは特殊なフィールドが発生しているのを確認する。

 

 解析の結果特定のエネルギーを妨害する効果があるようだが、我々に影響はない。

 

 その為、問題無く作戦を遂行できる。

 

 機動兵器自体の攻撃能力は低く、常時展開の全方位シールドで防御しつつ、機動兵器をロックする。

 

「レーザーランス展開」

 

 ロック終了と同時にレーザーランスを展開する。

 

 発射されたレーザーランスは複雑な軌道を描き、機動兵器を貫き、殲滅する。

 

「上空の機動兵器群殲滅を確認」

 

 殲滅を確認後、私も地上に降りる。

 

「お待たせいたしました」

 

 要救助者の背後に接近した機動兵器をブレードで撃破する。

 

「機動兵器群の反応消滅」

 

「今回の戦闘における被害状況を報告します」

 

「死傷者有りません」

 

「了解。高評価です」

 

 報告を終えた後、私達は要救助者に向き合う。

 

「お怪我はございませんか」

 

「え? あっ……はい」

 

 2人は唖然とした表情を浮かべていたが、ツインテールの少女が急に銃型のデバイスを取り出すと、こちらに突き付ける。

 

「ティア!」

 

「時空管理局よ! 質量兵器の所持と使用の容疑で連行します!」

 

「待ってよ! この人達は私達を助けて──」

 

「よく考えてみてスバル。質量兵器を所持してガジェットの破壊を──」

 

「だけど!」

 

「時空管理局員なのですか?」

 

「そうです」

 

 デルフィから通信が入る。

 

『現状、我々の存在を時空管理局に知られる訳にはいきません』

 

『はやての一件もあります。ここは撤退しましょう』

 

「申し訳ありませんが」

 

 2人がこちらに顔を向ける。

 

「時空管理局員に素性を知られる訳にはいきません」

 

「え?」

 

「それでは、我々はこれで失礼します」

 

「ちょっと! 待ちなさい!」

 

 激昂する少女を背後に私達は歩み始める。

 

 その時、魔法弾の発射音が響き、私の足元のシールド部に着弾する。

 

「ティア……」

 

「動かないでって言ったでしょ」

 

 少女は肩で息をしながら銃を構えている。

 

「攻撃を確認。自衛行動に移行します」

 

 私はゼロシフトで少女の背後へと移動する。

 

「え?」

 

「失礼します」

 

 唖然としている少女の首筋に軽く手を当て、電流を流し気絶させる。

 

「ティア!」

 

「ご安心を。気を失って居るだけです」

 

「うあぁああああ!」

 

 スバルと呼ばれた少女が、拳を振り上げ私に殴りかかる。

 

 私は、右手で拳を受け止めると同時にスキャンを行う。

 

 どうやらこの少女は、体の複数個所に機械化している様だ。

 

 その為、電流を流さず関節を捻り地面に組み伏せる。

 

「グぅ!」

 

 スバルは呻き声を上げながら、こちらを睨み付ける。

 

「どうしてこんな事を!」

 

「申し訳ありません。諸事情により時空管理局員にはお伝え出来ません」

 

 その時、こちらに高速で接近する反応を検知する。

 

「その手を離せえ!!」

 

 高速で接近した人物は私の背後にエネルギーブレードを振り下ろす。

 

「援護します」

 

 デルフィが私の背後に回り、ウアスロッドでエネルギーブレードをはじき返す

 

 

 弾き返された人物は空中で態勢を整える。

 

 黒いジャケットに、データベースに存在するバルディッシュと同様の武装を装備していた。

 

「貴女達は……」

 

「該当データ有り、フェイト・テスタロッサですか?」

 

 私達の目の前には、スバル達よりも年上と思われるフェイトの姿があった。

 

「そうですけど……え? どうなって……」

 

 私はスバルの拘束を解くと、スバルがティアを回収し距離を取るとフェイトの傍に駆け寄る。

 

「あの二人は危険です! ティアが!」

 

「大丈夫。あの人達は敵じゃないよ」

 

「え? でも……」

 

「2人に対しで攻撃を行ったことに関しては後で事情を説明して貰います」

 

 フェイトがこちらに視線を向ける。

 

「了解です」

 

「失礼ですが、我々が帰還してからどれ程の時間が過ぎましたか?」

 

「あの時からだと9年ほどです。どうしてですか?」

 

「次元の移動により、時差が発生した模様ですね」

 

「えっと……とりあえず場所を移しませんか?」

 

「了解」

 

「私達の隊舎に案内します」

 

 私達はフェイトに案内され、ヘリに乗車すると移動を開始した。

 

 ヘリでの移動中にティアが目を覚ます。

 

「ん……あれ?」

 

「ティア!」

 

「スバル……」

 

「お気付きですか?」

 

「っ!」

 

 私の姿を確認したティアはデバイスに手を掛ける。

 

「落ち着いて」

 

 デバイスを構えようとする手をフェイトが制する。

 

「え?」

 

「大丈夫。この人達は敵じゃないよ」

 

「まぁまぁ、落ち着いて」

 

「あ……はい」

 

 ティアはこちらに警戒しつつデバイスを仕舞い、ヘリは隊舎への進路を取った。

 

 

  機動六課 部隊長室。

 

「はぁ……」

 

 古代遺失物管理部 機動六課。

 

 宛がわれた一室で一人の少女が溜息を吐きつつ、部屋の一部を早歩きで往復する。

 

 その少女が、この部隊の部隊長である八神はやてだ。

 

「我が主、ご報告が……どうされました?」

 

「あー……いや別に……それよりどないしたん? 訓練中に2人が戦闘に巻き込まれたんやろ?」

 

 扉を開け部屋を彷徨っているはやてを目撃し唖然としながら、リインフォースは苦笑する。

 

「先程、テスタロッサから全員無傷との報告がありました。それとスバル・ナカジマ、ティアナ・ランスターが次元漂流者を保護したと連絡が入りました」

 

「次元漂流者?」

 

「詳細はおって報告するとの事で」

 

「時空漂流者かー準備せなあかんな」

 

「そうですね。その為にも目の前の書類の山をどうにかしてください」

 

「頭が……」

 

「メンタルコンデションレベルが低下していますが、仕事ですので」

 

「はぁ……」

 

 はやては溜息を吐き、項垂れながら書類の山の前に座る。

 

「紅茶でも淹れますね」

 

 リインフォースがはやての前に紅茶とクッキーを差し出す。

 

「ありがとな、アインス」

 

 リインフォースはアインスと呼ばれほほえみを浮かべた。

 

「はやてちゃん。頑張るのです!」

 

 書類の山の一角に小さな机があり、その側には30Cmほどのリインフォースに似た少女が声援を送りながらクッキーに手を伸ばす。

 

 彼女はリインフォース(ツヴァイ)

 

 デバイスの管理権限が無くなったリインフォースの代わりにはやてが新たに作り出したユニゾンデバイスだ。

 

「ありがとうなリイン。アインスも」

 

 はやてはクッキーを手に取ると小さく割一欠けらをリインに手渡すと笑顔で受け取る。

 

「それにしても次元漂流者か……一体どんな人やろな?」

 

「さぁ? ですが素直に応じた様なので多次元世界の事も知っているのでは?」

 

「そらなら話が早いな」

 

 はやては書類を処理しつつふと溜息をもらす。

 

 それと同時にリインがクッキーの追加を要求する。

 

「ふぅ……」

 

「どうしました?」

 

「いや、すこし思い出してな」

 

「ん? なにをです?」

 

 アインスがはやてに視線を向ける。

 

「昔、私達を助けてくれた人達の事や」

 

「あの2人も次元漂流者でしたね」

 

「あぁ~例の2人ですね。何度聞いても信じられないのです。シグナム達より強くて、単独で大気圏を突破してアースラを占拠、アルカンシェル諸共防御プログラムを破壊。本当に実在の人物なのです? 三流のSF作家でも思いつかない設定盛りすぎなのです!」

 

「アハハ……」

 

 はやては笑いながら机の上に置かれている写真立てを手に取る。

 

「うわぁ、はやてちゃん若いのです!」

 

「若いというか幼いやろ、この場合は。この2人がそうや」

 

「ふぅーん……なんだか無表情な人達です」

 

「まぁ、せやな。でもとても優しい人達やったで」

 

「不愛想に見えるのです」

 

 はやては懐かしそうに写真を見ている。

 

 その時アインスが口を開く。

 

「テスタロッサと次元漂流者が到着したと連絡が入りました」

 

「そか」

 

「今は受付を済ませているとのことです。もう少ししたらこちらに来るでしょう」

 

「ふぅ……次元漂流者(お客さん)をお出迎えや」

 

「そうですね。書類はその後に終わらせましょう」

 

「はぁ……」

 

「楽しみです!」

 

 はやては席を立ち、姿見の前に移動すると服装を整える。

 

 

  しばらくすると部隊長室の扉がノックされる。

 

「どうぞー」

 

「失礼します」

 

 扉が開くと、スバルとティアナが入室する。

 

「おぉ、お疲れさん。フェイトちゃんは?」

 

「今は次元漂流者の受付を済ませてこちらに案内しています」

 

「私達は先に行って待っているようにと……」

 

「そか。そういえば、次元漂流者はどんな人なん?」

 

「その……次元漂流者の2人から攻撃を受けました」

 

「なんやて?」

 

 はやての質問に2人の表情が曇る。

 

「どう言う事なん?」

 

「実は……」

 

 その時、ノック音が響く。

 

「次元漂流者の2人を連れてきました」

 

「はーい」

 

 リインが答えると扉が開かれる。

 

「まぁ、詳しい話は当人達から聞くとするわ。さて、初めまして。この部隊を……え?」

 

 はやては次元漂流者2人の姿を確認するとおもむろに立ち上がる。

 

「まさか……」

 

「そんな……こと……」

 

 唖然としているアインスの前を通り越し、2人に抱き着いた。

 

「エイダ! デルフィ!」

 

「お久しぶりですね。はやて」

 

 

 

 私達は飛びついて来たはやてを受け止める。

 

 その様子に部屋の一角で待機していたスバル達が困惑する。

 

「え? でも、なんで2人が? これは夢? 疲れすぎた私が夢を見ているんか?」

 

「重度の過労状態であります。1度休養することをお勧めします」

 

「それと、夢ではなく現実です」

 

「あぁ、やっぱり二人は……」

 

 成長したはやては混乱した様子で周囲を見回している。

 

「感動の再会だね」

 

 フェイトが小さな笑みを浮かべつつ入室する。

 

「フェイトちゃ~ん……」

 

 はやては私達から離れるとフェイトを睨み付ける。

 

「ワザと黙っとったやろ!」

 

「フフッ」

 

 フェイトが小さく笑うとはやては溜息を吐く。

 

「はぁ……まぁええわ。それより2人とも変わっとらへんな」

 

「はい。我々に老化と言う概念はありません」

 

「まぁ、せやな」

 

「それに、こちらの次元では数ヵ月しか経過していません」

 

「そうなんか? こっちは9年くらいやな」

 

「次元による時差ですね」

 

 リインフォースが解説を行う。

 

「お久しぶりですね。2人とも」

 

「えぇ、お久しぶりです」

 

 リインフォースはこちらに会釈する。

 

「フェイトから聞きましたがはやては現在時空管理局に所属しているのですね」

 

「せや、機動六課部隊長や!」

 

 はやては自慢げに胸を張る。

 

「私は部隊長補佐をしている。今はアインスと名乗っている」

 

 リインフォース改め、アインスも続く。

 

「リインも居るのです!」

 

 私の眼前に30cmほどの魔力を帯びた生命体が存在をアピールする。

 

「こちらは?」

 

「リインフォース(ツヴァイ)です。私の後任ですね」

 

 アインスが答える。

 

「ユニゾンデバイスのリインです! 2人の事ははやてちゃんやお姉ちゃん、シグナム達から色々聞いているのですよ!」

 

「そうですか」

 

「はい! まぁ、嘘みたいな信じられない話ばかりなのであとで教えて欲しいのです!」

 

「はいはい、そこまでや」

 

 はやてが軽く手を振る。

 

「さて、そろそろ説明して貰いたいんや。なんで2人がこの世界に? それにそこの2人への攻撃容疑もあるで」

 

 はやての視線が鋭くなる。

 

「2人の事やから無意味な攻撃はせえへんと思うが。部隊長である以上聞かせてもらうで」

 

「了解」

 

「まずは、我々がこの世界に来た経緯について説明します」

 

「頼むで」

 

 はやては椅子に腰かける。

 

「我々の次元に帰還した後、時空震と時空断層を検知しました」

 

「その際、メタトロンが異次元に消失していることが判明しました」

 

「メタトロン?」

 

「我々の次元に存在する鉱石物です」

 

「そうなんか」

 

「はい、エネルギーの塊でもある為、危険と判断し調査の為出撃しました」

 

「以前取得した次元転移機構により、こちらの次元であると判明しました」

 

「なるほどな。ロストロギアみたいなもんやな」

 

 はやては書類にペンを走らせる。

 

「せやけど、なんで2人に攻撃したん?」

 

「その点についても説明します」

 

「我々がこちらの次元に到着後、戦闘反応を検知しました」

 

「戦闘反応? 巻き込まれたって言うあれか」

 

「はい。現地に向かったところ、こちらの両名が機動兵器群との戦闘を行って居りました」

 

「機動兵器? ガジェット・ドローンの事やな……その後は?」

 

「両名の援護の為、機動兵器群の殲滅を開始しました」

 

「殲滅後、こちらの女性が我々の拘束を試みました」

 

 私はティアを指差す。

 

「この2人は、質量兵器を使用していました……だから……」

 

「はぁ……それでどうしたん?」

 

「時空管理局との接触を避ける為、我々は撤退を開始しました」

 

「どういうことや?」

 

「こちらの次元に来た時点ではさほど時間が経って居るとは想定していませんでした」

 

「なるほどな」

 

「その後、撤退行動中の私に彼女が射撃した為、自衛行動を行いました」

 

「なるほどなぁ……先に手を出したんはこっちと言う訳やな」

 

 はやてはティアに視線を向ける。

 

「えっと……その……ごめんなさい!」

 

 ティアとスバルが同時に頭を下げる。

 

「お気にせずに」

 

 私が答えるとはやてが溜息を吐く。

 

「まぁ……今回の事は問題やが……まぁ。2人がそう言うならええやろ」

 

 はやてはそう言うと書類を仕上げる。

 

「さて、スバル達はもう戻ってええで」

 

「ですが……」

 

「怒ってへんから安心してええよ」

 

「は、はい……」

 

「失礼しました」

 

 2人は一礼後退出した。

 

「まぁ、2人も悪気があった訳やないんや。かんにんな」

 

「御構い無く」

 

「アハハ……そういうことや。後で2人のフォロー頼むでフェイトちゃん」

 

「わかったよ」

 

「さて、それで……2人は今後どうするんや?」

 

「現状では拠点を確保し調査を進めていく予定です」

 

「そか……そこでなんやが……そのぉ……」

 

 はやてが言葉を濁す。

 

「どうかされましたか?」

 

「えっと……そのぉ……あれや……その……特に予定がないのなら機動六課で世話するで」

 

「お世話ですか?」

 

「せや。空き部屋ならあるし……そこで」

 

「しかし、よろしいのでしょうか?」

 

「まぁ、時空漂流者の保護という事で上に報告するわ」

 

「感謝します」

 

「まぁ、それが仕事やからな……さて2人の部屋なんやが──」

 

「ちょっと待って」

 

 扉が開き面影が残る女性が入室する。

 

「おぉ、なのはちゃん。遅かったやん。どないしたん?」

 

 入室したなのはが静かに顔を上げる。

 

 その表情は険しいものだった。

 

「私は、保護するのは反対だよ」

 

「え?」

 

「なんやて?」

 

 その場の全員の表情が凍り付く。

 

「さっき外に居たスバル達から聞いたよ。攻撃されたって」

 

「それは、先にこっちが」

 

「うん。手を出したのはこっちが先かもしれない。でも、質量兵器を使った」

 

「何が言いたいんや?」

 

「つまりは時空管理局員としての責任を果たした。それなのに攻撃を受けた。これは犯罪じゃないかな。それに次元を許可無く移動できる時点で漂流者ではなく次元犯罪者じゃないかな?」

 

「そんなの強引や。それに時空漂流者の保護は時空管理局の義務や。それがたとえ任意であってもや」

 

「時空漂流者ならね」

 

「どう言う事や?」

 

 はやてはなのはを睨み付ける。

 

()()は人間じゃないよね」

 

「なん……やて……」

 

「それに、魔力生命体でもない。いや、命すらないただの機械だよね」

 

「はい。間違いありません」

 

「我々は生命の無い機械です」

 

「エイダ……デルフィ……」

 

「だよね。別次元からのそれは、もう危険なロストロギアだよ」

 

「なんやと!」

 

「なのは……言い過ぎだよ」

 

「よく考えてみてフェイトちゃん。ロストロギアは本部へ報告する必要があるよね。いや、とても危険なロストロギアなら今すぐ封印する必要だってある」

 

「2人の事が危険やって言うんか!」

 

 はやては机を叩き立ち上がる。

 

「その通りだよ。この2体は時空管理局に対してとっても危険な──」

 

「いくらなのはちゃんでもこれ以上は許さへんで!!」

 

 はやては肩で息をしながらなのはを睨み付ける。

 

「私が言いたいのは以上。後の判断は部隊長であるはやてちゃんの仕事だよ。個人としてではなく、管理局員として判断してほしいな」

 

 踵を返したなのはが扉に手を掛ける。

 

「なら、2人は六課で保護する! 何が起ころうと全部の責任は私が取る! これは六課部隊長としての判断や!」

 

「そう……そういう事ね」

 

 一言呟いたなのははそのまま退出した。

 

「ふぅ……ふぅ……ふぅ……」

 

 興奮状態であるはやては息を荒らげつつ椅子に倒れ込むように座る。

 

「はぁ……なんかごめんな」

 

「いえ」

 

 はやては数回深呼吸すると落ち着きを取り戻す。

 

「まぁ、2人の部屋に関しては用意するわ。アインス」

 

「はい」

 

「2人の部屋を用意頼むわ」

 

「分かりました」

 

 アインスは一礼し退出した。

 

「はやてちゃん……」

 

 リインは心配そうにはやての方に移動する。

 

「心配せんでいいよリイン……フェイトちゃん」

 

「なに?」

 

「なのはちゃんの事……頼めるか?」

 

「うん。ちょっと話を聞いて来る」

 

「いろいろ頼んでごめんな。今は私が行くよりはええはずや」

 

「気にしないで」

 

 フェイトはそう言うと退出した。

 

「なんか……ややこしいことになりそうやな……」

 

 はやては小さく呟くと冷めた紅茶を飲み干した。

 




うーん…

どうやってもなのはが…

なんかタグ追加した方がいいかな?

まぁ、いいか?


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再戦

そろそろ、なのはファンに怒られそうで怖い


 

   ミッドチルダの奥深く。

 

 隠匿された秘密基地の一室で巨大なモニターの目の前に一人の男性がいた。

 

 紫色の髪に白衣を身に纏った男性はモニターに映し出される不鮮明な映像を瞬きせずに見つめていた。

 

 彼はジェイル・スカリエッティ。次元犯罪者であり、科学者である。

 

「ここでしたか、ドクター」

 

 一人の女性が白衣の男性のもとに歩み寄る。

 

「ウーノか。これを見てごらん」

 

 ウーノはスカリエッティに促されモニターに目を向ける。

 

「これは?」

 

「ガジェット・ドローンから送られてきた映像だ。実地試験として訓練中の魔導士と戦わせようとしたのだがね。ここからだ」

 

 スカリエッティがそういうと、次の瞬間。

 

 映像中のガジェット・ドローンが謎の青白い光に薙ぎ払われ消滅する。

 

 それと同時に映像が途切れる。

 

「これは? 一体?」

 

「私が作り上げたガジェット・ドローンが一瞬にして破壊される……素晴らしいではないか!」

 

「ドクター……」

 

「この映像が録画された時刻に強大なエネルギーを計測されている。そのエネルギーの波長に酷似しているのがこれだ」

 

 スカリエッティが端末を操作するとモニターに資料が映し出される。

 

「数年前、時空の歪みから回収した謎の鉱物だ。私はこれをメタトロンと名付けた」

 

「メタトロン?」

 

「この鉱物を調べていると、その名が浮かんだのだよ。いや……名乗られた……とでもいうべきか」

 

 スカリエッティは嬉々とした表情を浮かべる。

 

「収集できたメタトロンはサンプル程度の量しかないが、それだけでもジュエルシードやレリック、並みのロストロギアを遥かに凌駕するエネルギーを秘めている!」

 

 スカリエッティの興奮度が上昇する。

 

「そんな強大な力を持った存在が現れたかも知れないと考えるだけで!」

 

「ドクター……」

 

「人類は有史以来多くのエネルギーを得てきた。メタトロン程のエネルギーが導く未来! さぁ! これから忙しくなるぞ。まずは手始めに観測装置の準備をしなければ」

 

「そうですか」

 

 スカリエッティはまるでおもちゃを与えられた子供のようにモニターにくぎ付けとなる。

 

「ウーノ」

 

「はい」

 

 スカリエッティは振り返ることなく続ける。

 

「眠っているナンバーズだが、それに構っている余裕はなさそうだ」

 

「え?」

 

 ウーノは唖然とする。

 

 それもそのはずだ。

 

 ナンバーズはウーノにとって姉妹とも言える存在なのだから。

 

「ですが、もうじき目を──」

 

「聞こえなかったのか?」

 

 スカリエッティはゆっくりと振り返る。

 

「構っている余裕はないのだよ」

 

「しかし──」

 

「処分は任せる。私は忙しい」

 

 スカリエッティは一言告げると作業を開始した。

 

 目を覚まさない姉妹たちの処分を命じられたウーノは……

 

「わかり……ました」

 

 そう一言呟き、姉妹たちの処分作業に移行した。

 

 

 

  書類をまとめ終えたはやては椅子から立ち上がる。

 

「おまたせやね。さて、それじゃあ六課の中を案内しよか。部隊の皆にも紹介せなあかんからな」

 

「了解」

 

 私達ははやてに続き部隊長室を後にした。

 

 しばらく歩みを進めると私たちの前に先程の2人が駆け寄る。

 

「あの!」

 

「先程はすいませんでした!!」

 

 スバルとティアが頭を下げる。

 

「お気にせずに」

 

「2人がそう言っているんやから気にせんでええよ」

 

「フェイトさんから気にする事じゃないって言われたのですが……」

 

「それでも謝りたくて」

 

 2人は再び同時に頭を下げた。

 

「その、改めて自己紹介します。私、スバル・ナカジマと言います」

 

「ティアナ・ランスターです」

 

「「よろしくお願いします」」

 

「「よろしくお願いします」」

 

 私達が挨拶を返すとはやてが間に入る。

 

「ほかの皆はどこにおるん?」

 

「フェイトさんがロビーに集めています」

 

「そか。じゃあロビーに向かうで」

 

「了解」

 

 はやてに続き、私達はロビーに移動した。

 

「ここや」

 

 ロビーに通されると複数人がすでに待機している。

 

 その中にはフェイトとヴォルケンリッターの姿もあった。

 

「え? 時空漂流者って……え?」

 

「なんで2人がここに?」

 

「どうなってんだよ!」

 

「まぁまぁ、落ち着いて」

 

 立ち上がり混乱しているヴォルケンリッターをはやてが落ち着かせる。

 

「主? これは一体?」

 

「フェイトちゃん……また説明せんかったんか……」

 

「サプライズだからね」

 

「はぁ……」

 

 混乱しているヴォルケンリッターを目にしてほかのメンバーも連鎖的に混乱しているのか全員の視線がこちらに集まる。

 

「さて、皆は……なのはちゃん以外集まっとるな? 急な招集をかけたのはこの2人の次元漂流者を六課で保護することになったからや。2人とも自己紹介を」

 

「エイダです」

 

「デルフィです」

 

 簡単な自己紹介を済ませるとはやてが口を開く。

 

「まぁ、2人はあまり不必要な事はしゃべらないんや」

 

 はやては苦笑いを浮かべる。

 

 その時、フェイトが少年と少女の背後に移動した。

 

「さぁ、2人も挨拶して」

 

 フェイトに促され2人が立ち上がる。

 

「ライトニング3、エリオ・モンディアルです」

 

 エリオと名乗る少年が一礼する。

 

「ライトニング4、キャロ・ル・ルシエです」

 

 続いてキャロと名乗る少女が一礼した。

 

「この2人もスバル達同様に六課のメンバーなの」

 

「そうなのです」

 

 2人の年齢は10代にもなっていないだろうか。

 

「あの、2人は部隊長とどういった関係なのでしょうか?」

 

 ティアナが口を開いた。

 

「この2人には結構前に世話になったんや。その時は短い間やったけど一緒に暮らしてたんや。まぁその事を本部にとやかく聞かれると面倒なことになるんやけどな」

 

「だから、2人の事はあまり外部には話さないようにね」

 

 フェイトがそういうと全員が困惑しつつ頷いた。

 

「さて、そろそろお開きやな」

 

 はやてがそういうと、全員が一礼しロビーを出て行った。

 

 

「2人もお疲れ様。部屋に案内するで」

 

「了解」

 

 私達は宛がわれた部屋へと移動した。

 

 

  翌日から六課での生活が始まった。

 

 調査目的である消失したメタトロンの捜索を行うべく周辺のスキャンを行うがメタトロンの反応は検知されない。

 

 郊外への調査が必要かもしれない。

 

 しかし現在私達は六課の保護下にあるためはやてに許可を取る必要があるだろう。

 

 私達ははやてが居る部隊長室へと移動した。

 

「失礼します」

 

「2人とも。どないしたん?」

 

 部隊長室の中でははやてとアインスが大量の書類が積まれた机を前にしていた。

 

「調査を行うために外出許可をいただきたいのですが」

 

「調査?」

 

「はい。消失したメタトロンの調査です」

 

「あぁ、それが目的やったな」

 

「その通りです」

 

「あー……それなんやが……」

 

 はやてはバツが悪そうに答える。

 

「2人の事に関してはまだ本部の承認が下りてないんや。せやからまだ2人を六課から外部へ出すことはできへんのや」

 

「そうですか」

 

「かんにんな」

 

「わかりました」

 

「それはそうと、2人は今暇なんか?」

 

「予定はありません」

 

「そうなんか……それなら、これ……手伝ってくれんか?」

 

 はやては山積みに置かれた書類を指さした。

 

「主……」

 

 アインスがはやてを横目にため息を吐く

 

「いや……だってなぁ……」

 

「了解です」

 

「失礼します」

 

 私達は書類の一部を手に取る。

 

「ほんま助かるわぁ」

 

「まったく……」

 

 はやてに促され私達は書類処理を開始した。

 

 

  十数分後。

 

「なぁ……アインス……」

 

「はい……」

 

「私等……今まで何やってたんやろな?」

 

 2人は茫然と私達が書類の処理を行っている様子を見ている。

 

「両手で別々の書類を……」

 

「適当にって……訳やないな」

 

 はやては一枚の書類に目を通し乾いた笑みを浮かべる。

 

「はやてちゃんの100倍以上速いのです……」

 

 リインも茫然としていた。

 

「終了しました」

 

 私達はまとめ終えた書類を机の上に置く。

 

「あ、ありがとうな。またお願いしてもええか?」

 

「構いません」

 

「主……まぁ、こんなに早く済むなら……」

 

 アインスは数回頷いていた。

 

「さて……予想より早く終わってもうたな……」

 

「そうですね」

 

「うーん……せや」

 

 はやては何か思いついたのか準備を始めた。

 

「今の時間やと、皆は訓練中やね」

 

「そうですね」

 

「見に行かへんか?」

 

 はやてはこちらに視線を向ける。

 

「どうせ予定はないんや。ええやろ?」

 

「構いません」

 

「決まりや。案内するで」

 

「私も行きます」

 

 アインスがはやてに同行する。

 

「はいはーい! リインも行くです!」

 

「ならみんなで行こか。多分シグナム達も居るはずや」

 

 私達は部隊長を後に、トレーニングルームへと移動した。

 

 

 しばらく歩みを進め六課敷地内にあるトレーニングルームに到着する。

 

「ここは結構すごいんやで、様々な環境を想定した訓練ができるんや」

 

「市街戦、森林戦、海上戦そのほか様々なシチュエーションでのシミュレーションができるようになっています」

 

「あとちょっと細工するだけで、AMF下での戦闘も再現できるんや。これで対AMF戦も可能やな」

 

「AMFとは?」

 

「あぁ、主にガジェット・ドローンに搭載されておってな。Anti Magilink-Fieldの略称や。魔力結合、魔力効果発生を無効化したりするんや」

 

「とても厄介なのです」

 

「以前戦闘を行ったドローンに搭載されていた機能ですね」

 

「せやな」

 

 ドローンに残骸はすでに解析済みな為、AMFの機構は把握済みだ。

 

 流用も可能だろう。

 

「さて、到着や」

 

 トレーニングルームでは、スバル達がトレーニングを行っている様だ。

 

「今回のトレーニングメニューはシグナム考案のものですね」

 

「こりゃきつそうやな」

 

 私体がトレーニングエリアに到着するとシグナムがホワイトボードに戦術を記載しているところだった。

 

「つまり、近接戦闘においては──主ですか」

 

 扉を開けるとシグナムがこちらに気付き、訓練生が敬礼を行う。

 

「皆楽に。ちょっと見学にな」

 

「そうでしたか。2人も来ていたのか」

 

「はい」

 

「そうか……そうか」

 

 シグナムは少し考えを巡らせる。

 

「主、今日のトレーニングメニューを変更してもよろしいですか?」

 

「かまわんよ」

 

「ありがとうございます」

 

 シグナムがこちらに接近する。

 

「久しぶりにお前達と戦ってみたいと思ってな。少し付き合え」

 

「戦闘訓練ですか?」

 

「あぁそうだ。私達の戦いを皆に見せる。これが今回のトレーニングだ」

 

「はぁ……相変わらずやな」

 

 はやてとリイン、アインスは同時に溜息を吐いた。

 

「了解です。どちらがお相手いたしますか?」

 

「そうだな。前回の借りもあるから、エイダ頼めるか?」

 

「了解です」

 

「さて、全員見学ルームへ移動や」

 

「え?」

 

 訓練生は唖然としながらはやての指示に従う。

 

「ここは火の海になるかもしれん。二人とも暴れすぎたらあかんで」

 

「善処します」

 

 全員が見学ルームへ移動したのを確認後、シグナムがレヴァンティンを手に取る。

 

「さぁ! 行くぞ!」

 

 シグナムが大勢を低くしながら急接近するとレヴァンティンを横に凪ぐ。

 

 私は高速の斬撃をシールドで防ぐと、右腕をブレードに変化させ下から上に切り上げる。

 

「ふん!」

 

 シグナムはあえてレヴァンティンの刀身で私の振り上げる斬撃を受け止めると勢いを利用し宙に舞い上がる。

 

 その跳躍は天井にまで到達すると、天井に両足を付け足に力を籠める。

 

「くらえ!」

 

 天井を蹴った勢いを利用しながらレヴァンティンの刀身に魔力を籠めたシグナムが超高速で私の直上に急降下する。

 

「デコイリリース」

 

 私はその場でデコイを発生させ体を後方に飛び退く。

 

 その刹那、デコイがレヴァンティンの直撃を受け消滅する。

 

 シグナムの着地点では土煙が上がり、抉れた地面の上でシグナムは楽しそうにレヴァンティンを構えていた。

 

「よくぞ避けたな! だがこれではどうだ!」

 

 シグナムはその場で居合の様にレヴァンティンを腰に構え高速で接近する。

 

「紫電一閃!!」

 

 魔力を利用した高速移動によりレヴァンティンが私の眼前に迫る。

 

 私はブレードでレヴァンティンを受け止める。

 

 その直後、衝撃波が発生し周辺の機材がショートする。

 

「あぁああ! 中止や中止!」

 

 はやての声がスピーカー越しに木霊する。

 

「もう! 暴れすぎたらあかんって言ったやないか!!」

 

「申し訳ありません」

 

「主、申し訳ございません! つい……」

 

「はぁ……また始末書や……」

 

 はやては見学ルームで力なく項垂れていた。

 

「怒られてしまったな」

 

「そうですね」

 

「どうだった?」

 

「戦術はお見事です。ですが以前よりも魔力量が低下したように思えます」

 

「あぁ、その事か。実はリミッターが掛けられていてな」

 

「そうなのですか」

 

「あぁ、部隊が過剰な力を持たないようにする為の処置だ」

 

「過剰な戦力を持つ部隊は反逆の恐れがあると見なされる可能性もあります」

 

「まぁ、そういった思想を持っている奴もいないとは限らんさ。さて、戻るか」

 

「了解」

 

 私達は半壊したトレーニングルームを後にした。




まぁ、今回は平和な回ですね。

なのはが居ないと平和になるイメージ…


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強襲

登場させる携行兵器はビーム兵器にするべきが、銃にするべきか…


 

   半壊したトレーニングルームの修復に数週間がかかった。

 

「やっとや……やっと直ったんや……」

 

「修復にかかった費用の総額を伝えしますか?」

 

 私の申し出にはやてが首を振る。

 

「今はそんなこと考えたくない……」

 

 修復が完了したトレーニングルームを目の前にはやては達観している。

 

「始末書たくさん書かされてましたからね」

 

「はやてちゃん可哀想だったのです」

 

「もう……疲れた……」

 

 はやては力なく微笑んだ。

 

「今日から訓練再開やね」

 

「今回は教官による訓練です」

 

 アインスが手元の資料を確認する。

 

「ほぉ、なのはちゃんの考えたメニューやね」

 

 数分後なのはが訓練生を連れてトレーニングルームに入室する。

 

「さぁ、訓練始めるよ」

 

 なのはが体力強化のトレーニングや、魔力弾の回避、標的への攻撃など基礎的な訓練を4人に施している。

 

 その後は、なのはが4人を相手に取り模擬戦を行っている。

 

「駄目だよエリオ。動きが単純すぎる。スバルも突出しすぎてる」

 

 攻撃を回避したなのはがアドバイスを行い、皆それに頷く。

 

「さて、2人はどう思う?」

 

「戦況分析、状況判断、基礎体力、攻撃能力や回避行動、防衛行動を含めた総合戦闘能力は低いものと思われます」

 

「訓練内容を変更をされた方が良いと思われます」

 

「あはは、手厳しいなぁ」

 

「このままでは実戦での生存確率は低いと思われます」

 

「まぁ、みんな新人だからね。これからだよ」

 

 フェイトが様子を見ながら答える。

 

「まぁ、みんなを育てるのも仕事のうちや」

 

「そうですか」

 

 私はなのはの行動に注目する。

 

 左方向からの反応速度が鈍く、無意識に右側面を敵に向けている傾向がある。

 

「せや、折角やし2人にも訓練に参加──」

 

 その時、警報が鳴り響く。

 

「なんや!」

 

『報告します! ガジェットの反応路確認しました!』

 

「場所は?」

 

 フェイトがホログラムを起動させる。

 

『山岳丘陵地区、輸送任務中のリニアレール車両が襲撃を受けています』

 

「了解」

 

「私となのは、それとフォワードで出撃る」

 

「全員行けるね?」

 

 なのはの問いに4人は頷く。

 

「さぁ、出撃だよ、準備して」

 

 4人は不安げな表情をしながらも出撃準備を進めていった。

 

 

  数分後追加の情報が入る。

 

 どうやら、襲撃されたリニアレールは『レリック』と呼ばれるロストロギアを輸送中だったようだ。

 

 既に複数のガジェット・ドローンにより被害を受けている様だ。

 

 出撃準備を整えたメンバーがヘリへと乗車する。

 

「皆、気をつけて」

 

 はやてが言うと全員が頷き、ヘリが上昇していく。

 

 はやては飛び去って行くヘリを不安そうに見つめていた。

 

 

  薄暗い部屋を大量のモニターが明るく照らす。

 

「ドクター、リニアレールの停車を確認しました。後は管理局の魔導士を引き付けつつ回収用のガジェットを突入させる予定です」

 

 スカリエッティは答えることなくモニターに映し出されている戦闘を見つめていた。

 

 モニターの中では六課の魔導士そして新人がガジェット部隊と戦闘を行ていた。

 

「回収を急がせます」

 

「待て」

 

 スカリエッティはモニターを見たまま口を開く。

 

「このままではガジェット部隊が殲滅されるぞ」

 

「はい……ですがそれまでには回収は──」

 

「それでは意味がない!」

 

 スカリエッティは声を荒らげる。

 

「殲滅されては意味がない! レリックは回収できるかもしれないが、そんなもの何の役にも立たない!」

 

「しかし既に30を超えるガジェットが」

 

「それでは足りない」

 

「え?」

 

「私が求めているものを……あの2人を釣りだすにはその程度では足りない!」

 

「ですが、これ以上管理局員を追い詰めた所であの2人が姿を現すとは……」

 

「私が何の目的もなくあの部隊。機動六課に対して攻撃を行っていると思うのか?」

 

「え?」

 

「あの2人が現れたその日。機動六課で時空漂流者を保護したという情報が入った」

 

「もしや、その時空漂流者というのは……」

 

「可能性は高い」

 

「では、いかがいたしましょう」

 

「今派遣できるガジェットはどれくらいだ?」

 

「型番を問わなければ20分ほどで100機は送れるかと」

 

「ならば全て送ってくれ」

 

「しかし」

 

 スカリエッティは答えることなくモニターを眺めている。

 

「わかりました」

 

 ウーノは一礼しその場を後にした。

 

「それと、使えるものは何でも使え」

 

「わかりました」

 

 

 

  ガジェット・ドローンとの戦闘が始まってから40分が経過する。

 

『報告します、ガジェットの半数を撃破』

 

「了解や、残りも頼むで」

 

『了解。この調子なら全員無事に帰れると思うよ』

 

 フェイトからの報告に対しはやては答えため息を吐く。

 

「何とかなりそうやな」

 

「そうですね」

 

 部隊長室で戦況が映し出されたモニターを見ながらはやては椅子に腰かけた。

 

 その時、モニターに急速に敵の反応が現れる。

 

「何事や!」

 

『大変! 新たなガジェットの反応を確認! これは敵の増援……それもこんなに……』

 

「か、数は?」

 

『総数およそ……100!』

 

「なんやと……これじゃあ」

 

 戦況は、なのはは空中でガジェット・ドローンの集中砲火を受け防戦一方だ。

 

 これでは砲撃が行えず、なのはの魔砲攻撃による広範囲攻撃が行えないだろう。

 

 フェイトも同様に、大量のガジェット・ドローンに襲われており、自衛と新人の援護で手一杯といった状況だ。

 

「教官達がカバーしているとは言え、新人達が危険です!」

 

「作戦中止! 撤退や!」

 

「駄目です! 完全に包囲されていてできません!」

 

「教官のリミッター解除は?」

 

「今からでは間に合いません!」

 

「こうなったら私が出るしか!」

 

「そんなの無茶です!」

 

「それに今からじゃ間に合いません!」

 

 アインスとリインに咎められるがはやては立ち上がる。

 

「せやけど!」

 

 はやてのメンタルコンデションレベルが急速に低下する。

 

「我々が出撃します」

 

「え?」

 

「ここからじゃ遠すぎて間に合わないのです!」

 

「我々ならば可能です」

 

「はぁ?」

 

「私達に搭載されているゼロシフトは亜光速での移動が可能です」

 

「周辺への被害も考慮に入れ最大速度での移動は難しいですが、目的地到着まで数分程度です」

 

 リインは唖然としているが、はやては数瞬思案する。

 

「頼むで。皆の事……」

 

「了解です」

 

「出撃します」

 

 私達は部隊長室の窓を開けると外へと飛び出す。

 

「え? ちょっと……」

 

 リインは混乱しているが、気にせず出撃準備を整える。

 

「2人も気を付けて!」

 

「了解」

 

「「ゼロシフトレディ」」

 

 私達はゼロシフトを起動し、目的地へと急行した。

 

 

 

 

  突然現れたガジェット・ドローンの大部隊により起動六課新人フォワード達は混乱していた。

 

 教官として同行していたなのはとフェイトが混乱を抑えようとしているが敵の大規模攻撃により自衛を余儀なくされている。

 

 その為、戦線は一気に後退し、停車したリニアレールを盾に防戦を強いられる。

 

 リニアレールの陰からティアナの射撃やなのはの誘導魔法により迎撃しているが質量の暴力により押しつぶされていく。

 

「このままじゃまずい……」

 

「とにかく撤退を!」

 

「でも、このまま飛び出せば狙い撃ちされる」

 

「じゃあいったいどうすれば……」

 

 その時、防衛ラインを突破した複数のガジェットがリニアレールを超えスバル達に迫る。

 

 ガジェットは砲門を展開し、スバル達新人に狙いを定める。

 

「不味い!」

 

 フェイトは急加速で新人の前に移動すると防御魔法を展開する。

 

 次の瞬間、ガジェットの火砲とフェイトの防御魔法がぶつかり合う。

 

「くっ……」

 

 ガジェットによるAMF影響下という事もあり防御魔法はすでにひびが入る。

 

「フェイトさん!」

 

「このままじゃ……」

 

 フェイトの防御魔法が限界を迎えようとしたその時、火砲を展開していたガジェットが縦に両断される。

 

「何が起こって……」

 

 両断されたガジェットが巻き起こした爆炎の向こうから2人の人影が姿を表す。

 

「お待たせいたしました」

 

「これより、作戦行動を開始します」

 

 

 現場に急行した私はフェイトに射撃を行っていたガジェットを破壊する。

 

「どうして2人が……」

 

「危険と判断した為援護に来ました」

 

「全員安全な場所へ退避してください」

 

 私はビームガンで、デルフィはハウンドスピアにより周囲に接近するガジェットをけん制しつつフェイト達に撤退を促す。

 

「分かった。みんな撤退するよ!」

 

「ちょっと待って」

 

 上空からなのはがフェイトと私達の間に軟着陸する。

 

「なのは?」

 

「この任務は私達の任務だよ。部外者が出る幕じゃない」

 

「そんなこと言っている場合じゃない! 2人が来なかったら危険だったんだよ」

 

「だけど部外者が六課の任務の邪魔をするのはどうかと思うよ」

 

「なのは……」

 

『2人に協力依頼を出したのは私や』

 

 はやてから通信が入る。

 

『確かに2人は部外者かも知れん。せやけど、部隊長である私が協力依頼を出したんや。その時点で2人は民間協力者という形になるはずや。文句はないやろ』

 

「良いのはやてちゃん? 2人は質量兵器を使っているんだよ。それに──」

 

『その点に関しての報告なんてどうにでもなる。今は全員が生き残ることだけを考えるんや』

 

「……わかったよ」

 

「そういうことだから、みんな撤退準備だよ」

 

 なのはは不満げに了承し、新人達と共に撤退準備を始める。

 

「敵の数はかなり多い。私も援護を」

 

 フェイトからの援護を遮る。

 

「いえ、敵の勢力状況を分析しました」

 

「我々だけで十分に対応可能です」

 

「新人の援護をお願いします」

 

「わかった。2人も無茶はしないで」

 

「了解」

 

 フェイトが少し離れた安全地帯へ退避を確認後。私達は飛び上がると、ガジェットがこちらに集中砲火を行う。

 

 しかし、威力が低い為ダメージにはならない。

 

「ホーミングミサイル」

 

「ハウンドスピア」

 

「「展開」」

 

 ハウンドスピアとホーミングミサイルの一斉射撃により、ガジェットを破壊していく。

 

 4分の1ほどを先程の攻撃で撃破を確認。

 

「近接戦闘へ移行します」

 

「了解。遠距離より援護射撃を行います」

 

 デルフィがウアスロッドを構え、ゼロシフトでガジェット部隊と距離を詰める。

 

 高速で移動しながらウアスロッドを振り、ガジェット部隊を分断し、撃破していく。

 

 分断されたガジェット部隊は統率が取れず、動きが鈍くなる。

 

「バーストモード移行」

 

 私はバーストモードへ移行し、バーストショットを頭上にチャージする。

 

「チャージ完了。バーストショット発射」

 

 バーストショットを分断された部隊へと発射する。

 

 着弾したバーストショットは爆発を起こし、分断された部隊が消滅する。

 

「報告します。敵脅威レベル低下」

 

「残存敵勢力残り30パーセント」

 

 デルフィがウアスロッドを薙ぎ払い、動きの鈍いガジェットを破壊する。

 

 私はスナイパーによる射撃を行い、デルフィに攻撃を行おうとするガジェットを撃破する。

 

 デルフィが最後の1機をウアスロッドで貫く。

 

「報告します。敵部隊の殲滅完了」

 

「戦闘時間3分04秒」

 

「総合評価Aです」

 

「お疲れさまでした」

 

 敵部隊を殲滅した私達は、六課メンバーのもとへと向かった。

 

 

「全員ご無事ですか?」

 

「うん。大丈夫だよ」

 

 私の問いにフェイトがメンバーを見据えて頷く。

 

 スバル達新人は、未だに状況が理解できずにいるのか、混乱した表情をしている。

 

「さぁ皆。レリックを回収して帰投するよ」

 

 六課メンバーが停車したリニアレールに潜入した。

 

 私達はリニアレールの外で待機している。

 

 その時、本部から通信が入る。

 

『大変や! 暴走したリニアレールがそこに向かっとる!』

 

「え?」

 

 フェイトが驚愕し、全体に緊張が走る。

 

『到着までおよそ3分!』

 

「3分……これじゃあ」

 

「回収どころか撤退すら……」

 

「とにかく逃げるよ!」

 

「でも回収がまだだよ」

 

「なのは! そんなものはどうでもいい! 今は逃げないと!」

 

『そうや! 今は撤退するんや!』

 

 その時、リニアレール内で崩落が起こる。

 

「うわぁ!」

 

「エリオ!」

 

 フェイトの声が響く

 

『どないしたんや!』

 

『リニアレール内で崩落が……エリオが瓦礫に挟まれて!』

 

『なんやて……』

 

 無線越しにはやての声が掠れる。

 

『皆は逃げて! 私がエリオを!』

 

『フェイトちゃん!』

 

『仲間は絶対に見捨てない! バルディッシュ!』

 

 フェイトが声を荒らげる。

 

「リニアレール接近」

 

「衝突まで後60秒」

 

「避難が間に合わない!」

 

「バーニア、セミオートモード移行」

 

『エイダ! なにするんや!』

 

 はやての声が響く。

 

『私がリニアレールを止めます』

 

『そんな事……』

 

「行きます」

 

 バーニアを吹かしリニアレール前方へ移動する。

 

「バーストモード移行」

 

 リニアレールの正面に立ちバーストモードへと移行する。

 

『エイダ! 無茶や!』

 

『ご安心ください』

 

 私は高速で接近するリニアレールを受け止める。

 

 リニアレールの速度と質量により私の体が押し込まれる。

 

『エイダ!』

 

『はやてちゃん。リニアレールには誰か乗ってるの?』

 

『え? いや。貨物専用やし、運転もオートメーションのはずや』

 

『分かった』

 

 その時、なのはから高エネルギー反応を感知する。

 

「なのは!」

 

『なのはちゃん! 何のつもりや!』

 

『このままじゃ衝突するかもしれない。破壊するよ』

 

『何を言っとんのや! エイダが止めようとしているんや!』

 

「だからだよ……」

 

『え?』

 

「全力全開! スターライトブレイカー!!」

 

 なのはからスターライトブレイカーが発射される。

 

 標的はリニアレールだろう。

 

「なのは!」

 

『なのはちゃん!』

 

 フェイトとはやての声が響く。

 

「援護します」

 

 その時、私の背後にデルフィがゼロシフトで板状の廃材を片手に接近すると背中合わせになる。

 

「シールド展開」

 

 その直後、スターライトブレイカーがデルフィに直撃する。

 

 デルフィは廃材で強化されたシールドでスターライトブレイカーを防ぐ。

 

 私はバーニアの出力を上げる。

 

 それによりリニアレールは衝突することなく100mほど手前で停車する。

 

「停車確認」

 

 フェイトが私達に駆け寄る。

 

「2人とも! 大丈夫?」

 

「問題ありません」

 

『良かった……』

 

 無線越しにはやてが安堵する。

 

「そう……止まったんだ」

 

 なのはが呟く。

 

「なのは!」

 

『どういうつもりや!』

 

「衝突を防がなかったらエリオが、皆が危険だったんだよ。私はただ危険を回避しようとしただけ。現にエリオは助かったよ」

 

「だとしても!」

 

『せや! エイダが止めようとして居たのに! 巻き込むなんてどうかしとるで!』

 

「衝突すれば怪我人だって出るし、レリックの回収はできないよ」

 

『そんなものはどうでも良いんや! 止めようとしているエイダごと……仲間ごと攻撃するなんて!』

 

「仲間? あれはただの機械だよ。それも危険な」

 

『まだそれを……』

 

「もし止められなかったらどうなってたと思う?」

 

「そ……それは……」

 

「全員危険だったんだよ」

 

「だとしてもおかしいよ!」

 

「必要な犠牲だよ」

 

 なのはがそう呟くとフェイトがさらに声を荒らげる。

 

「必要な犠牲って……そんなの間違ってる!」

 

「私達は教官なんだよ。訓練生を守る義務がある」

 

『その為なら、危険を顧みずに守ろうとした2人を犠牲に──』

 

「必要な犠牲ならね」

 

「そんなの……間違ってる……」

 

「私だって人間相手なら対処を変えたよ」

 

『またその事を……』

 

 はやてのメンタルコンディションレベルが低下する。

 

「我々は問題ありませんのでご心配なく」

 

「そう言ってるよ」

 

『だとしても……』

 

「お話は終わり。さぁ、皆、回収して帰投するよ」

 

 なのはがそう言うと、現場は重い空気の中回収作業を開始した。




少し露骨すぎたかな?

でもまぁ、これくらいやった方が面白いかも知れないですね。


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休息

今回は日常回です。

まだ暴れるには早いです。



   レリックを回収後、六課メンバーと共にヘリに乗り込み本部へと向かう。

 

 本部へと向かうヘリの内部では、新人達は先程の戦闘を思い起こしているのか、暗い表情をしていた。

 

 それを察してかなのはとフェイトは何も言わずにいる。

 

 しばらくヘリで移動し本部のヘリポートに着陸する。

 

 着陸したヘリにはやてが駆け寄ってくる。

 

 その背後にはアインスとその肩に乗ったリインの姿もあった。

 

「皆! お帰り! 大変やったね……」

 

「うん。なんとかね。エリオのケガも軽傷で済んでる」

 

「それは良かった……フェイトちゃん。レリックは?」

 

「ちゃんと回収できたよ」

 

 フェイトがレリックの収納されたジュラルミンケースをアインスに手渡す。

 

「任務完了やね。2人もありがとうな」

 

「いえ」

 

「お役に立てて光栄です」

 

「相変わらずやね。みんなもご苦労やね。詳しい報告は中に入ってから聞くで」

 

「了解」

 

「それと、なのはちゃん……話がある──」

 

「先にロビーに行ってる」

 

 はやての横を通り過ぎるとなのはがその場を後にした。

 

「はぁ……」

 

「大丈夫。後で私が──」

 

「もうええ……」

 

「……うん……」

 

「さぁ、皆。ロビーへ行こうか」

 

 はやてに促され私達はロビーへと移動した。

 

「さて……それじゃあ、報告お願いするわ」

 

「了解だよ」

 

 フェイトがはやてに報告を開始する。

 

「なるほどな。途中までは任務が順調に進んでおったよな」

 

「そう。でも急に敵の増援がやって来たんだ」

 

「少なくとも100機は超えておったわ……それに、その後のリニアレール……あれは一体なんやったんや?」

 

「調査班からの報告では無人機が何者かによりハッキングされ暴走状態に」

 

「暴走したリニアレールを突っ込んでまで回収を阻止しようとした……今回のレリックはそんなに重要な物だったんかや……」

 

「詳しく調べてないからまだわかりませんが、別段特別なものではないかと思われます」

 

 アインスの報告を聞きはやては首をかしげる。

 

「それなら一体何が目的なんや……」

 

「わからない……でも2人が居なければ結構危険だったよ」

 

 フェイトがこちらに視線を向け、スバル達新人が一礼する。

 

「でもさ、2人はさっきの作戦で質量兵器を使ったよね。その点はどうするの?」

 

 なのはが声を上げる。

 

「時空管理局の管理下での質量兵器使用は問題だよ」

 

「まぁ、その点については考えがあるで。アインス」

 

「はい」

 

 アインスが2枚のカードを私達に手渡す。

 

「簡単やけど、ストレージデバイスや。起動方法は──」

 

 受け取ったカードをスキャンし起動させる。

 

 起動した私のカードはサーベル状の簡素な武器へと変化した。

 

 構造が簡単な為、複製ができるだろう。

 

 デルフィはロット型だ。

 

「大丈夫みたいやな。これなら管理局のデバイスやし問題ないやろ」

 

「でも、今更デバイスを渡したって意味ないよね」

 

「まぁ、そうやね。せや。デバイスの譲渡に関する書類を書かなあかんな。アインス、今何時や?」

 

「現時刻ですか?」

 

 アインスが壁にかかった時計を見て時間を答える。

 

「うーん。ちょっと時間がずれてへんか? 私の時計と2時間はずれとるで」

 

 はやてが腕時計を確認する。

 

「しかし、時間は……」

 

 アインスは何か察したようにせき込む。

 

「そうですね。2時間程ずれてますね。あとで直しておきます」

 

「そうやろ。書類の時間は正確になぁ」

 

 はやてはそういうと書類を書き進める。

 

「さて……さっきの戦闘は1時間半前やったね」

 

 はやてが全員に視線を向ける。

 

「ちょっと待ってよ」

 

 なのはが声を上げる。

 

「どうしたんや?」

 

「そんなのがまかり通ると思ってるの?」

 

「通るも何も、なぁ?」

 

「そうだね。時間に間違いはないよ」

 

 フェイトが小さく笑う。

 

「フェイトちゃん?」

 

「まぁ、そういう事や。さて書類を作らなかんなぁ。それより保護対象である2人に危険な行為を行った方が問題やと思うんやが? その件も報告しよか?」

 

 はやてがわざとらしく書類にペンを走らせる。

 

「っ!」

 

 メンタルコンデションレベルが低下したなのはが踵を返し退室した。

 

「あらあら、ちょっとイジワルやったかな?」

 

「大丈夫だよ。なのはには後で私から言っておくから」

 

「感謝するで、フェイトちゃん」

 

 フェイトは笑みを浮かべるとその場を後にした。

 

「さて、そういう訳や。基本今後の戦闘ではデバイスを使ってもらうけど、物理兵器の使用に関しては二人の判断に任せるわ」

 

「了解です」

 

「さて、仕事や。ほかの皆も戻ってええよ」

 

 スバル達新人が退室後、私達も部屋を出た。

 

 

 

  薄暗い研究室をモニターの光が照らす。

 

 その光に照らされながらスカリエッティは視線をそらさずにいる。

 

「ドクター」

 

「これもダメか……」

 

 スカリエッティは手元の端末を操作し先程まで見ていた映像データを削除する。

 

「光学カメラ、サーモカメラ、魔力を用いたカメラ、そのほかすべての記憶媒体を用いて撮影を行ったが……特定の場所に差し掛かるとデータが破損している……全滅だ」

 

 スカリエッティは頭を抱える。

 

「ドクター。先程こちらが届きました」

 

 ウーノは1つのビデオテープを差し出す。

 

「管理局が回収したガジェットの残骸から回収しました」

 

「そうか。アナログ式のカメラも搭載しておいたのを忘れていたよ」

 

「しかしなぜ管理局から?」

 

「私の知り合いは管理局にも大勢いるという事だよ。再生したまえ」

 

「はぁ……」

 

 ウーノがビデオテープを再生させる。

 

 モニターには画質の悪い映像が映し出される。

 

 ドクターは表情を変えることなくモニターから視線をそらさない。

 

「これはっ!」

 

 今までの映像データでは破損していた先の光景が映し出される。

 

「おぉ!」

 

 画質の荒い中に2人の少女が映し出される。

 

「この2人が……」

 

「見ろ!」

 

 スカリエッティは嬉々とした表情を浮かべモニターを注視する。

 

 モニターの中の少女は見知らぬ兵器を取り出すとそれらを駆使しガジェットを一方的に破壊していく。

 

「これは……」

 

「見ろ! 圧倒的ではないか! 素晴らしい! この2人は実に素晴らしい!」

 

 スカリエッティは再生を終えたビデオテープを巻き戻し再び再生する。

 

「この光、これはメタトロンの光と酷似している」

 

 映像を分析しスカリエッティは呟く。

 

「この2人はメタトロンの申し子なのかもしれない」

 

 乱雑なメモを取りながらビデオテープをコピーすると同時に再生する。

 

「すごい! 暴走状態のリニアレールを素手で受け止めたぞ!」

 

「エースオブエースの攻撃を防ぎきるなんて……」

 

「やはり素晴らしいな!」

 

 スカリエッティの興奮は最高潮に達する。

 

「ん? おや、これはこれは」

 

 スカリエッティはある特定の場所でテープを止める。

 

「いかがいたしました?」

 

「見ろ、エースオブエースの表情を」

 

 スカリエッティは端末を操作しなのはの表情を拡大する。

 

「この憎悪に満ちた表情。そしてその視線の先には」

 

「あの2人が居ますね……」

 

「そうだ! これは利用できるかもしれない」

 

 スカリエッティは再びテープを再生しながらゆがんだ笑みを浮かべる。

 

  リニアレール暴走事件から数日が経過した。

 

 

「あぁぁあ……終わらん……終わらんのやぁ……」

 

 

 はやてはデスクに突っ伏している。

 

「なんでや……なんでこんなに書類が多いんや……私は……そんなこと望んでなんか……」

 

「愚痴ってる暇があったら仕事を続けてください」

 

 アインスがコーヒーの入ったマグカップをはやての前に差し出す。

 

「うぅうぅう……どうして私ばっかりなんや! 他のメンバーは休暇なのに……」

 

「休暇ではなく出張任務ですよ」

 

「実際は休暇なのです」

 

 リインとはやてのため息が重なる。

 

「二人もごめんな。まだ書類が終わらんから単独での外出許可を出せんのや」

 

「お気遣いなく」

 

「ほんまごめんな……ところで……」

 

 はやてが頭を下げつつこちらに視線を向ける。

 

「二人は暇っていう事やろ?」

 

「予定はありません」

 

「それならぁ……」

 

「主」

 

 アインスがはやてを一瞥する。

 

「なんや? まだなんも言ってないで?」

 

「2人に仕事を手伝ってもらうおつもりでしょうに」

 

「イヤ……ナンノコトヤラ」

 

「バレバレなのです」

 

 アインスとリインが首を横に振りため息を吐く。

 

「なんや! 私だって楽したい! 休みたいし1日中寝てたいんや!」

 

「うら若き乙女の発言とは思えないのです」

 

「まぁ、2人が手伝えば仕事の効率は圧倒的に上がりますからね」

 

「な! な! そうやろ!」

 

「はぁ……まぁ、そういう事なのですが少しで良いので頼まれてくれますか? でないと主が発狂してしまう」

 

「了解です」

 

 私達は書類の処理に取り掛かった。

 

 

「早いな……」

 

「えぇ」

 

「もう終わりなのです……」

 

「お待たせいたしました」

 

 私達は完成した書類をまとめる。

 

「助かったわぁ」

 

「これで少しは休めますね」

 

「どこか行きたいのです!」

 

「せやなぁ、買い物でも行くか」

 

「行くのです!」

 

「私も行きます」

 

「そっか、2人はどうや?」

 

「外出許可は出ていないのでは?」

 

「まぁ……息抜きも大切やし、周辺の案内っていう任務(・・)や」

 

「そう言う事でしたら」

 

 はやては欠伸をし立ち上がる。

 

「さて、行こか」

 

「主、せめて着替えてからに」

 

「おぉ、せやな」

 

 アインスとリインは同時に溜息をついた。

 

 

 十数分後。

 

 着替えを済ませたはやてがリインを肩に乗せながらアインスと共に玄関ホールへやってきた。

 

「お待たせやね」

 

「どちらへ行きますか?」

 

「うーん、とにかく買い物やな。その後食事でも行こか」

 

「わーいです!」

 

「車を回しますね」

 

 数分後アインスが車に乗って迎えに来た。

 

 私達はその車に乗り待ちの中心地にある複合商業施設へと移動した。

 

「さて、到着や」

 

 複合商業施設の外壁には管理局の応募ポスターなどが張られており、広告塔としてなのはが起用されていた。

 

「今じゃなのはちゃんは管理局の顔や」

 

「エースオブエースなんて言われていますからね」

 

「有名人なのです!」

 

「さて、買い物や買い物」

 

 私達ははやてに付いて行き、洋服や生活用品、菓子類などの嗜好品を買い込んだ。

 

「さて、少しご飯でも食べて帰ろか」

 

「賛成なのです!」

 

「了解」

 

 私達は施設内のレストランに入店する。

 

 注文を済ませ食事を摂る。

 

「結構いけるな」

 

「おいしいのです!」

 

「いい感じやね」

 

「そう言えば、気になっていた事があるのですが」

 

 リインがテーブルの上に敷いた紙ナプキンの上に座りながらこちらに顔を向ける。

 

「なんでしょう?」

 

「シグナムとの模擬戦を見ていて少しは信じられたのですが、それでも2人がやったって言う事が信じられないのです」

 

「やった事とは?」

 

「アースラを撃墜とか……そう言う、とにかく色々と信じられないような事なのです」

 

「あぁ、あれな」

 

「あれですね」

 

「全て事実です」

 

「信じられないのです……」

 

「だから言うたやないか」

 

「ぅー一体どんなことをやってきたのですか……」

 

「あ、それは私も気になる」

 

「私も気になりますね」

 

 3人がこちらに視線を向ける。

 

「では、お話しできる範囲で」

 

 私達は過去に起こった出来事を話す。

 

「なんやその超絶進んだテクノロジーは……」

 

「火星に移住って……それもすごい話ですね」

 

「すごい次元やなぁ……他にはないんか?」

 

「でしたら──」

 

 私達は魔法界で起こった話をする。

「なんや……すごい世界やな……」

 

「人物の問題性はあれとして魔法技術は興味ありますね」

 

「せやね。まぁ食事はしたいとは思わんけな……特に動くお菓子なんか」

 

「それにしても、危険な魔法もあるのです……」

 

「当たれば即死で防ぐ方法ないって……おかしいやろ……」

 

「だから禁止なのでしょう」

 

「魔法自体は興味深いんやけどなぁ……」

 

 はやては食後のコーヒーを口にすると欠伸をする。

 

「そう言えば、2人には管理局でどんなことをやってきたか話してなかったな」

 

 はやてがコーヒーのお代わりを注文する。

 

「2人が帰った後。色々と大変やったんやで」

 

「そうでしたか」

 

「そや。管理局に入ってからは猛勉強して……大変やったで……」

 

「頑張りましたね」

 

「せやで……これも家族を守る為や」

 

「はやてちゃん頑張り屋さんなのです」

 

 リインは飛び上がるとはやての頭をその小さな手で撫でる。

 

「家族を守る為、新しい家として機動六課を作ったようなもんや」

 

「まぁ、そのせいで他の部隊からは色々妬まれてますからね」

 

「それはしゃーない……若輩者が部隊長や。他の奴らからすれば気に食わないんやろ」

 

 はやては届いたコーヒーに砂糖を数個入れる。

 

「それでも私はやめるわけにはいかないんや」

 

「それが、身内だけで部隊を固めた理由ですか?」

 

「相変わらず2人は手厳しいなぁ……まぁ身内だけと言われればその通りや……それがあまり良い事ではないとは分かっとるんやが……」

 

「裏切りや反乱などのリスクを考慮すれば身内だけで部隊を固めるのは問題ありません」

 

「まぁ……そやな……さて……と。そろそろ戻ろか」

 

「そうですね」

 

 私達は会計を済ませレストランを出ると、車に乗り込み複合商業施設を後にした。

 




少し露骨ですが、今作ではなのはにはこれくらい
やってもらいます。


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強化

今回は
そこまで暴れる要素はないので日常回ですね。


平和なものです。


   数日後。

 

  休暇も始まり人気が少なくなった六課廊下ではやてが背中を伸ばしながら歩いていた。

 

「お? エイダにデルフィ」

 

「どちらへ?」

 

「少し横になってくる。仕事がひと段落したんや」

 

「そうですか」

 

「せや。2人は六課の中なら好きなようにしてええで」

 

「了解です」

 

 はやてを見送った後私達は自室へ移動した。

 

 自室の前に人影を確認する。

 

「あっ」

 

 扉の前にはスバルが立っており、こちらに気が付いたようで私達に駆け寄ってくる。

 

「あ、あの!」

 

「ご用でしょうか? 出張任務では?」

 

「特に行く当てもなくて……それで、えっと……」

 

 スバルは数回深呼吸を行う。

 

「私を強くしてください!」

 

「発言の意図不明」

 

「私! 前回の戦いで自分の無力さを思い知らされました……」

 

 スバルが俯く。

 

「それに私は教官の2人に守られていて……だから私はもっと強くなりたいんです! だから!」

 

「しかしなぜ我々なのですか?」

 

「それは貴女達がとても強かったからです!」

 

 スバルが顔を上げこちらを見据える。

 

「ですからお願いします!」

 

 スバルは勢い良く頭を下げる。

 

「了解です」

 

「ありがとうございます!」

 

 スバルが再び頭を下げる。

 

「具体的な目標はございますか?」

 

「えっと……少なくとも自分の身は自分で守れるくらいには……ですかね」

 

「了解です」

 

「では現在の戦闘能力を計測させていただきます」

 

「トレーニングルームへ向かいましょう」

 

「わかりました!」

 

 私達はトレーニングルームへと移動する。

 

 

 トレーニングルームに到着すると既に先客がいた。

 

「ん? なんだお前達か」

 

 こちらに気付いたシグナムがタオルで汗を拭う。

 

「何の用だ?」

 

「彼女のトレーニングです」

 

 スバルが一礼する。

 

「トレーニング? しかし既に訓練メニューは教官が作っているはずだが?」

 

「私はもっと強くなりたいんです!」

 

「っ……フッ……そうか」

 

 シグナムが小さく笑う。

 

「その気持ちわかるぞ」

 

「本当ですか!」

 

「あぁ、だが無理をして体を壊しては意味がない。まぁこの2人の指導なら大丈夫だろう」

 

「はい! ところで……」

 

「ん? なんだ?」

 

「出張任務はどうされたんですか?」

 

「主が休んでいないのに我等が休めるわけないだろう」

 

「そうですか」

 

 スバルとシグナムが苦笑する。

 

「さて、私はそろそろ主の元へ行くとするか」

 

「はやてなら先程就寝されました」

 

「そうか。なら少し出かけるとするか。それくらい良いだろう」

 

 シグナムはそういうとトレーニングルームを後にした。

 

「大変ですね……」

 

「そうですね」

 

 私は端末を操作し起動させる。

 

「それではまずが基礎体力から測定させていただきます」

 

「はい! お願いします」

 

 スバルが行動を開始した。

 

 

  体力テストを開始してから30分が経過する。

 

「はぁ……はぁ……もっ……もう……だめぇ……」

 

 スバルはその場で仰向けに倒れ込み荒い息で胸を上下させる。

 

「測定を終了します。30分の休憩の後次の測定を開始します」

 

「はぁ……はぁ……」

 

 スバルは息を荒らげ続けた。

 

 その後、戦闘スタイルの測定、状況判断、簡易的な戦闘訓練を行う。

 

 全てが終わる頃にはスバルは満身創痍だった。

 

「終了です。お疲れさまでした」

 

「はぁ……はぁ……はい……はぁ……」

 

「結果をお伝えしますので体力が回復したら我々の部屋へお越しください」

 

「わかり……ました……はぁ……」

 

 15分後ふらつきながらスバルが入室する。

 

「失礼します」

 

「どうぞ」

 

 スバルを椅子に座らせデルフィが紅茶を出す。

 

「それでは、結果をお伝えします」

 

「お願いします」

 

「基礎体力B、戦況判断能力D、応用能力D、回避能力C、総合戦闘能力D+です」

 

「えっと……それはつまり……」

 

「端的に申し上げますと、現状では戦場での生存確率は36%程度です」

 

「自信はあったんですが……まさかこんな結果とは……」

 

 スバルのメンタルコンデションレベルが低下する。

 

「体力は平均値を超えております」

 

「体力には自信があるんですよ」

 

 スバルが小さく笑う。

 

「それでは今後の訓練メニューをお伝えします」

 

「はい!」

 

「まずは、戦況判断能力の強化。こちらはホログラムなどを利用した模擬戦で行います」

 

「はい」

 

「続きましては、戦闘中における生存能力の強化です」

 

「生存能力?」

 

「はい。敵を殲滅するだけが戦いではありませんので」

 

「こちらは実際に体で覚えていただきます」

 

「わかりました」

 

「その他複数ありますが、それはその都度お教えします」

 

「わかりました!」

 

「それでは明日の1100より訓練を開始します」

 

「1100?」

 

「11時からです」

 

「はい! お願いします!」

 

 スバルは一礼した後に退室した。

 

 

 翌日

 

 自室の扉の前でスバルが待機していた。

 

「あっ! おはようございます!」

 

「おはようございます」

 

「1100までにはまだ時間があるはずですが」

 

「そうなんですが……えへへ」

 

 スバルは頭を掻き笑う。

 

「少し時間は早いですがトレーニングルームへ向かいましょう」

 

「はい!」

 

 私達はトレーニングルームへと移動した。

 

 

 トレーニングルームに到着後、スバルは準備体操を始める。

 

「あの……」

 

 準備運動中にスバルが口を開く。

 

「その……聞いてもいいですか?」

 

「なんでしょうか?」

 

「その……なのはさんから聞いたのですが……二人はその……人間ではなく機械だと」

 

「はい」

 

「その通りです」

 

「そう……ですか」

 

 スバルのメンタルコンデションレベルが低下する。

 

「その……機械の体だからと不満に思ったことはありませんか?」

 

「「ありません」」

 

「そう……ですか……」

 

 スバルが俯く。

 

「その……私……」

 

「体の一部が機械化されていることですか?」

 

「え?」

 

 スバルが唖然とした表情でこちらを見据える。

 

「知っていたんですか?」

 

「はい」

 

「私は……普通の人と違う……いや……人間ですらないのかなって考えちゃって……それで機械で出来ている二人に……」

 

「そうですか」

 

「おかしいですよね……人間じゃない存在……なのはさんが以前お二人の事をそう言った時……私と一緒だって思ってしまって……」

 

 メンタルコンデションレベルが乱れる。

 

「一緒にしないでください」

 

「え?」

 

 デルフィの回答にスバルが顔を上げる。

 

「そう……ですよね……私は二人と違って出来損ないですから……」

 

「貴方は人間です」

 

「え? 人間……」

 

 スバルが顔を上げる。

 

「完全な機械ならば我々同様、感情の無いただのプログラムです」

 

「ですが貴女は違うはずです」

 

「私は……」

 

「感情を持っているのであるならば少なくとも生物であると位置付けられるはずです」

 

「なので感情の無い機械である私達とは違う存在です」

 

「……はい!」

 

 スバルは笑顔を浮かべる。

 

「なんだかスッキリしました! ちょっと顔洗ってきます!」

 

 そういうとスバルはトイレへと移動した。

 

「なかなかええ話やな。まぁちょっと何が言いたいのか分からんかったけどな」

 

 私達の背後からはやてが現れる。

 

「聞いていましたか」

 

「まぁな。シグナムから聞いたで。なんや、特別訓練だとか」

 

「彼女が指導して欲しいと言う事なので」

 

「そっか」

 

 はやては小さく欠伸をする。

 

「あの子の事頼んだで」

 

「了解です」

 

「それと、一応あの子の指導はなのはちゃん達がやっとる。まぁ大事にならんとは思うけど……」

 

「了解です」

 

「まぁ、ほどほどにな」

 

 はやてはそういうとその場を後にした。

 

 数分後、スバルがトイレから戻る。

 

「すいません。お待たせしました」

 

「問題ありません」

 

「本日は回避と防御についてお教えします」

 

「はい」

 

 私はコンソールを操作し周囲に仮想敵を出現させる。

 

「これより、仮想敵から攻撃を行います」

 

「その攻撃を判断し回避、または防御してください」

 

「はい!」

 

 スバルが位置に付き、仮想敵が起動する。

 

 仮想敵から発射された模擬弾をスバルは回避するが、模擬弾の中には追尾性能を有しているものもあり、それらはシールドを展開し防いでいる。

 

「くっ……」

 

 しかし、訓練を開始して数分後には被弾してしまう。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「無駄な動きが多すぎます」

 

「回避は最小限の動きで、防御も最小限に留めてください」

 

「ですが……追いかけてくるのは防ぐしかなくて……」

 

「防御もシールド展開以外の方法が存在します」

 

「え?」

 

「例えば瓦礫や障害物を盾にする等周辺の環境も利用し、エネルギー消費を抑えてください」

 

「盾に……ですか?」

 

「その通りです。板状素材、または敵対象を掴み盾として利用することが可能です」

 

「敵などを掴んだ状態でシールドを展開することにより、通常では防御不可能な攻撃ですら防ぐ事が可能でしょう」

 

「はい! やってみます」

 

 そういうとスバルは再び訓練を開始する。

 

 

 数時間後には、被弾数が減少する。

 

 先程の助言を実行し、周囲の瓦礫を盾に身を潜め仮想敵からの攻撃を防ぎ、若干ではあるが仮想敵を掴み盾に利用するなどの応用も行えるようになっていった。

 

「訓練終了です」

 

「はぁ……はぁ……」

 

 訓練終了すると同時にスバルはその場に倒れ込み激しい呼吸をする。

 

「どう、でした?」

 

「回避についてはまだまだと言ったところです」

 

「遮蔽物や障害物を利用し攻撃を防げているのは評価に値します」

 

「また、敵を掴み盾として利用している場面も見受けられましたので、そこも高評価です」

 

「はぁ、ありがとうございます……アハハ……」

 

「しかし、実戦では敵も抵抗します。長時間拘束するのは不可能だと思われます」

 

「わかりました」

 

「それでは本日の訓練を終了します」

 

「明日は総合的な戦闘訓練、様々な状況を想定した状況判断についてです。本日と同様に1100時に我々の部屋の前に」

 

「了解……です」

 

 

 息を整えているスバルをその場に残し、私達は退室した。

 

  トレーニングを開始して数日。

 

 スバルの基礎体力も向上し始める。

 

 1030時に自室の前に2つの反応があり扉がノックされる。

 

 扉を開けるとスバルとティアナの姿があった。

 

「あっおはようございます」

 

「おはようございます……」

 

 スバルとは対照的にティアナの表情は少し暗いものだった。

 

「どうされたのですか?」

 

「スバルが隠れてこそこそと何かしてるから気になって……」

 

「その、よかったらティアも今日から参加してもいいですか?」

 

「かまいません」

 

「ありがとうございます! 良かったねティア!」

 

「スバルが1人で何してるか気になっただけよ」

 

「そう言って、実は嬉しいくせに」

 

 スバルは微笑みティアナは溜息を吐く。

 

「少し早いですが始めましょう」

 

「では行きましょう」

 

「そうですね」

 

「その、これって許可は?」

 

「はやては知っています」

 

「なら……いいのかな?」

 

 私達はトレーニングルームへと移動した。

 

 トレーニングルーム到着後

 スバルが簡単なウォーミングアップを始める。

 

「まずは何をすれば?」

 

「基礎的な体力と戦闘能力を測定させていただきます」

 

「スバルと共に走り込みを行ってください」

 

「わかりました」

 

「じゃあ行くよ、ティア」

 

 スバルがティアナを先導するように走り出した。

 

 15分後、そこには息を切らし激しく呼吸を繰り返しているティアナの姿があった。

 

「もぉ、そんなんで音を上げるなんてだらしないなぁ」

 

「はぁ……はぁ……嘘でしょ……」

 

 対するスバルは基礎体力の差とトレーニングの効果により疲れの色は見えない。

 

「30分の休憩を取りましょう」

 

「そうですね」

 

 スバルが手に持っていたスポーツドリンクをティアナに手渡し休憩を開始した。

 

 

 30分後、疲れの残るティアナが立ち上がる。

 

「次は、戦闘能力を測定します」

 

「戦闘能力?」

 

「はい。これより仮想敵を登場させますので戦闘を行ってください」

 

「わかりました」

 

 ティアナが銃型のデバイスを取り出す。

 

「それでは始めます」

 

 端末を操作すると同時に、仮想敵が動き出す。

 

 それに合わせティアナも戦闘を開始した。

 

 デバイスから魔力弾を放ち仮想敵に攻撃を行っていく。

 

 しかし、複数の目標を同時に相手しているため、無駄玉や撃破の優先順位を見誤っている点がみられる。

 

 その為、仮想敵の攻撃が徐々に熾烈になっていく。

 

「くっ!」

 

 ティアナは物陰に隠れ攻撃をやり過ごすが手も足も出ないといった状況に追い込まれてしまった。

 

 ついに追い込まれ仮想敵の攻撃がティアナに命中する。

 

「作戦終了です」

 

 端末を操作すると同時に仮想敵が消える。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「おつかれさま」

 

 疲れ果てているティアナにスバルが手を差し伸べる。

 

「それでは先程の戦闘評価をお伝えします」

 

「基礎体力D+、戦況分析B-、応用能力C+、回避能力D-。総合戦闘能力D+」

 

「それって……」

 

「戦況分析能力は高いですが、それに対する応用能力が低いです」

 

「基礎体力を強化し、常に落ち着いた戦況把握をおすすめします」

 

「はぁ、はい」

 

「追加で報告します。銃型のデバイスという事もありアウトレンジからの狙撃などを重点的に特化することで戦闘能力が向上すると思われます」

 

「狙撃用のストレージデバイスをご用意しますのでご利用ください」

 

「それでは、本日の作戦は終了です」

 

「明日は2人で連携を想定した訓練を行います」

 

「え? 2人って私達ですか?」

 

 スバルがティアナに視線を向ける。

 

「はい」

 

「双方で遠距離戦、近距離戦の欠点を補えば戦闘能力の向上がみられます」

 

「そう……ですか?」

 

「明日はそこを重点的に行います」

 

「お疲れさまでした」

 

 私達は疲れ切った2人を見送りトレーニングルームを後にした。




2人はどこまで強化するか…




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新武装

2人の強化イベントです


   翌日

 

 トレーニングルームに到着した2人に私達は独自に開発したストレージデバイスを手渡す。

 

「これは?」

 

「我々が作成したストレージデバイスです」

 

「作成って……」

 

 ティアナが受け取ったストレージデバイスを展開させる。

 

 すると、セミオート型のスナイパーライフルデバイスが展開される。

 

「このデバイスは射程距離と精密射撃に特化しています。魔法弾は6発装填でリロードには魔力の再充填が必要になります。魔力の充填度を変更することで着弾と同時に小規模な爆発を起こす炸裂弾を発射することも可能です」

 

「すごい……ですね」

 

 ティアナは若干恐縮しつつストレージデバイスをカード状に戻す。

 

 スバルがストレージデバイスを展開する。

 

 すると、スバルの体表にエネルギーフィールドが発生する。

 

「こちらはエネルギーフィールドを発生させる防御装置です」

 

「近接戦闘における生存率が向上するでしょう」

 

「発生位置を調節することで防御力を高めることができるでしょう」

 

「そうなんですか、でもこれって……すごいですね」

 

 スバルはエネルギーフィールドを解除する。

 

「それでは、本日はそれらを利用した戦闘を行いましょう」

 

「「了解です!」」

 

「戦闘スタイルが違いますので個別に説明を行います。私はティアナに、デルフィはスバルを担当します」

 

「わかりました」

 

 スバルはデルフィと共に少し離れた位置へと移動した。

 

「それでは我々も移動しましょう」

 

「はい」

 

 私はティアナと共に訓練を開始できる位置へと移動した。

 

「まずはスナイパーの基本的な使用方法についてご説明します。まずはデバイスを起動させてください」

 

「はい」

 

 ティアナはデバイスを展開させる。

 

「狙撃の基本は1撃で仕留めることを心がけてください」

 

「はい」

 

「構え方ですが、基本は命中精度の向上の為、腹ばいでの伏射を推奨します。もしくは膝立ちです」

 

「立ったままでは駄目なんですか?」

 

「不可能ではありませんがバランスが取りにくいので」

 

「そうなんですか」

 

「はい。構え方の見本を見せるのでデバイスをお借りします」

 

「はい」

 

 ティアナからデバイスを受け取ると私は立ったままだがスナイパーライフルを構える。

 

「基本的な構え方はこれで問題ありません。後は状況に応じ、膝立ちと腹ばいを使い分けてください」

 

 私はティアナにスナイパーライフルを返却する。

 

「この棒みたいなのは何ですか?」

 

「こちらはバイポッドと言い、展開し地面に立たせることで安定させることができます」

 

「わかりました」

 

「それでは実際に射撃を行ってみましょう。では50m先に目標を展開しました。体制はお好みで構いません」

 

「わかりました」

 

 ティアナは立ったままスコープをのぞき込む。

 

「重力計算、風量計算、速度計算等はデバイス内で自動的に行われます。なのでレティクルの中央を目標に合わせるようにしてください」

 

「はい」

 

 スナイパーライフルを持つティアナの手が震える。

 

「呼吸を止めることで手振れを抑制させることができます」

 

「はいっ!」

 

 ティアナは呼吸を止め狙いを定める。

 

 数秒後、引き金が引かれ魔力弾が発射される。

 

 発射された弾丸は目標を外れて地面に着弾する。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

「はずれです」

 

「中心を狙ったんですが……」

 

「恐らく手振れによるものでしょう」

 

「でも、手振れでもそんな差が……」

 

「数ミリのずれであれ目標との距離が離れるに連れ大きくなります」

 

「……わかりました」

 

「次は腹ばいで射撃をしてみましょう。バイポッドの使用を推奨します」

 

「わかりました」

 

 ティアナはその場で腹ばいになるとバイポッドを展開しスナイパーライフルを構える。

 

「すぅ……ふぅ……」

 

 ティアナは深呼吸をした後、呼吸を止め目標を定める。

 

「っ!」

 

 引き金を引き魔法弾が放たれる。

 

 放たれた魔法弾は目標に命中する。

 

「命中確認」

 

「ふぅ……やった!」

 

「中央から5cm程ズレています。訓練を積みズレを修正するようにしましょう」

 

「はい!」

 

「続いては炸裂弾の説明を行います。デバイスに魔力を流し込んでください」

 

「こう……ですか?」

 

 

 銃身に赤いラインが走り出力が上昇する。

 

 

「問題ありません。それでは先程同様に射撃を行ってください」

 

「わかりました」

 

 ティアナは先程同様に目標に向け引き金を引く。

 

 放たれた炸裂弾は目標に着弾すると同時に小規模な爆発を起こし、目標を破砕する。

 

「ちょっと……威力が高すぎませんか?」

 

「非殺傷なので問題ありません」

 

「そ……そうなんですか?」

 

「はい。それでは複数の目標を展開させますので、訓練を再開しましょう」

 

「わかりました!」

 

 その後ティアナは膝立ちでの射撃や立った状態での狙撃などを行い訓練を積んでいく。

 

 数時間後には命中率は50m圏内であれば50%を超えた。

 

 しかし、150m以上となると命中率はそれほど高くはない。

 

「やっぱり、あれだけ遠いと……」

 

「経験を重ねるしかありません」

 

 その時、デルフィから通信が入る。

 

『はい』

 

『こちらの訓練は終了しました』

 

『了解。合流しましょう』

 

「デルフィ達の訓練が終わったようです。1度合流しましょう」

 

「はい」

 

 私達は合流ポイントへと移動した。

 

「ス、スバル! どうしたの?」

 

 そこには満身創痍で体中至る箇所に軽傷を負ったスバルの姿があった。

 

「し、死ぬかと思った……」

 

 その表情に生気は感じられない。

 

「一体……どんな……」

 

「こちらが展開した攻撃を回避、またはシールドでの防御を行っていただきました」

 

「一方的だった……訓練と呼べるのは……最初の10分だけ……後は……」

 

 スバルは呟きながら倒れ込んだ。

 

「スバル!」

 

「本日は終了です」

 

「了解」

 

「ちょ! ちょっと!」

 

 スバルをその場に残し私達はトレーニングルームの外へ出た。

 

 

  数日後、新たなデバイスにも慣れた2人の戦闘能力は最初と比べて大きく向上した。

 

 

 そんなある日、見学ルームではやてとシグナムが私達が行っている訓練を見ていた。

 

 私達は2人に休憩を告げ見学ルームに向かう。

 

「いかがいたしましたか?」

 

「流石にあれは……」

 

「訓練というか……拷問というか……」

 

「見ていたのですか?」

 

「まぁな。下手すれば大事になるのでは……」

 

「非殺傷モードでの訓練なので安全です」

 

「そういう問題や……まぁ……良いか」

 

「主……まぁ……仕方ないか」

 

 2人は同時にため息を吐く。

 

「それより、2人の調子はどうや?」

 

「現在は新たなデバイスで戦闘訓練を行っています」

 

「戦力の増強に関しては問題ありません」

 

「新たなデバイス?」

 

「はい。以前頂いたストレージデバイスを解析し2人の戦闘スタイルを拡張させるサブウェポンとして支給しました」

 

「ようやるなぁ」

 

「そんなことよくできたな」

 

「簡単でした」

 

「そうか」

 

 はやては小さく笑た。

 

「それではそろそろ訓練を再開しますので」

 

「そうか。あまり無茶させんといてな」

 

「了解です」

 

「まだ時間もあることやし、もう少し見学して行こか」

 

「そうですね」

 

 私達は見学スペースの端にあるコンソールの前に移動する。

 

『お待たせいたしました』

 

 私は2人のデバイスに通信を繋ぐ。

 

『次は何をやるんですか?』

 

『次は今までの訓練を応用した模擬戦を行っていただきます』

 

 私は手元の端末を操作し複数の訓練用ガジェットを展開する。

 

『模擬戦って……』

 

『これ全部ですか?』

 

 ガジェットの数を目の当たりにし2人は後ずさる。

 

『その通りです』

 

『スバルは近距離での殲滅戦を、ティアナには遠距離からの火力支援。および無線での状況報告を行っていただきます』

 

『いや……でもさすがにこの数は……』

 

『確かに個別の戦闘力ならば作戦達成は困難でしょう』

 

『ですが、お二人のレベルならば作戦遂行は可能だと判断します』

 

「私達……」

 

「二人なら……」

 

 二人は顔を見合わせる。

 

『わかりました!』

 

『やります!』

 

『了解』

 

「2人ともやる気が出たみたいやな」

 

「これは楽しみですね」

 

 はやてとシグナムの2人は小さく微笑む。

 

『それでは、作戦開始位置へ移動してください』

 

 2人は頷き移動を開始した。

 

 

『準備はよろしいですか?』

 

「「はい!」」

 

 私の無線に対し、2人が同時に返答する。

 

『開始します』

 

 模擬戦が開始すると同時に展開したガジェットが起動する。

 

「行くよ!」

 

「うん!」

 

 スバルがエネルギーフィールドを身に纏いガジェット部隊に向かい走り出す。

 

 全てのガジェットがスバルを攻撃対象とみなしロックオンする。

 

 それを確認したスバルは方向を変え、走り出す。

 

 対するティアナは正反対の方向へ走り出す。

 

「ティアナはどこへ向かっているんや?」

 

「恐らく狙撃地点の確保だと思われます」

 

「なるほど……ガジェットがスバルに気を取られている間に移動しているわけやな」

 

「射程距離は長いですからね。利点を生かした戦い方ですね」

 

「ほほぉ……」

 

 しばらく走ったティアナは朽ち果てたビルの屋上に到着するとスナイパーライフルを手に取る。

 

「狙撃地点はあそこかぁ」

 

「確かに、戦場全体が見渡せますからね」

 

「その分丸見えやがな……」

 

 ティアナは屋上の柵を自身のデバイスで破壊すると腹這いになり、バイポッドを立て狙撃体制を整える。

 

『準備できたわ!』

 

『了解!』

 

 スバルはその場で立ち止まるとデバイスを展開させ拳を構える。

 

「はぁあ!」

 

 スバルが飛び出すと同時に複数のガジェットが射撃を開始する。

 

 ガジェットから放たれたエネルギー弾はスバルが展開しているエネルギーフィールドにより防がれる。

 

 しかし、ガジェットからは依然として射撃が続く。

 

 その時、1機のガジェットが破壊される。

 

「何が起こったんや?」

 

「恐らくティアナによる遠距離狙撃でしょう」

 

「良い精度やな」

 

 引き続き、2機目、3機目と魔力弾が命中し中破もしくは撃墜していく。

 

 その頃にはスバルがガジェットを完全に捉える。

 

「そこだぁ!」

 

 スバルの近距離攻撃により複数のガジェットが撃墜されていく。

 

 しかし、その時スバルの背後に1機のガジェットが接近する。

 

「しまった!」

 

 慌てて距離を取ろうとしているが、既にガジェットはスバルを捉えている。

 

 しかし、次の瞬間そのガジェットが撃破される。

 

 

「ティア!」

 

「集中して! まだ来るわよ!」

 

「了解!」

 

 スバルは体制を整え、別のガジェット部隊へ接近する。

 

「良いコンビやね」

 

「そうですね。これは予想以上ですね」

 

 2人の動きを見て、はやてとシグナムは感心したようにうなずいている。

 

 その後、数十分でガジェット部隊の半数を撃破した。

 

「想定より早いです。いいペースです」

 

「これは予想外やなぁ」

 

「そうですね」

 

「……せや……」

 

 はやては手元の端末を操作し始める。

 

「何をしているのですか?」

 

「ちょっとな」

 

 はやてが端末の操作を終えるとフィールド内に大型の反応を検知する。

 

「こ……これは!」

 

 2人の目の前に大型のガジェットが姿を現す。

 

「主……いささか厳しいのでは?」

 

「まぁ、少しは厳しくするのもええやろ」

 

 はやてが小さな笑みを浮かべるのと対照的にトレーニングルーム内の2人の表情は引きつっていた。

 

「このぉ!」

 

 スバルが走り出し大型ガジェットへと攻撃を開始する。

 

 スバルの拳はガジェットへと命中するがその装甲は厚く、まともなダメージを与えた様子はない。

 

「え? きゃぁ!」

 

 巨大ガジェットはその巨体を震わしスバルを吹き飛ばす。

 

「スバル!」

 

「くっ!」

 

 スバルは空中で態勢を整えようとするが、うまく行かず不格好な体制で着地する。

 

「スバル! 大丈夫?」

 

「あいてて……何とか大丈夫」

 

 土煙が晴れると全身にエネルギーフィールドを発生させたスバルが立ちあがる。

 

「それにしても……」

 

「こんなのどうやって……」

 

「うーん……手も足も出ないって言ったところやね……」

 

「流石に厳しすぎたのでは? あの2人のデバイスでは破壊するには……」

 

「せやな……2人はどう思う?」

 

 はやてがこちらに視線を向ける。

 

「2人の戦闘能力、および現在の武装ならば敵の殲滅は可能かと思われます」

 

「へぇ……」

 

 はやてが小さく笑う。

 

「そこまで言うなら2人にアドバイスしてもらおうか」

 

「「了解」」

 

 私達は2人に通信を繋ぐ。

 

『通信状態は良好ですか?』

 

『え?』

 

『はい、良好です』

 

 私はティアナのデバイスとリンクする。

 

『敵大型ガジェットのスキャンが完了しました。これよりウィークポイントを転送します。レティクルを覗き込んでください』

 

『え?』

 

 ティアナがレティクルを覗き込む息をのむ。

 

『目標を炸裂弾で狙撃してください』

 

『はい!』

 

 ティアナは息を止め狙撃を開始した。

 

 対するスバルはデルフィと通話を行っていた。

 

『こちらが行動、および攻撃タイミングについて指示を出します』

 

『わ、わかりました』

 

『『それでは、作戦を開始します』』

 

 

 次の瞬間、敵大型ガジェットが攻撃動作として腕を振り上げる。

 

『攻撃を確認。右に回避してください』

 

『りょ、了解!』

 

 スバルはその場から右に飛び出し、攻撃を回避する。

 

 その時、私はティアナに指示を出す。

 

『今です、腕の関節部を狙撃してください』

 

「はい!」

 

 ティアナが狙いをすまし、腕の関節部に炸裂弾を撃ち込む。

 

 炸裂弾は関節部に着弾すると同時に激しく爆発する。

 

 その爆発により、ガジェットがのけぞる。

 

「やった!」

 

『まだです』

 

 炸裂弾の煙が晴れると、着弾部にひびが入った関節部があらわになる。

 

『今です。関節部に攻撃してください』

 

『は、はい!』

 

 スバルが飛び出し、ガジェットに取りつく。

 

 ガジェットは体を震わし、スバルを引きはがそうとする。

 

『耐えてください』

 

「そんなこと言ったって……」

 

 スバルは必死に体を押し付け衝撃に耐える。

 

 

『脚部に狙撃』

 

『はい!』

 

 ティアナは炸裂弾を再装填する。

 

 しかし、再装填に時間がかかりすぎている。

 

「ティア! 早く!」

 

「分かってる!」

 

 慌てながらではあるが、ティアナは炸裂弾を再装填すると、脚部を狙撃する。

 

 脚部で起こった爆発により、ガジェットが体制を崩し倒れ込む。

 

『今です』

 

「はい!」

 

 スバルは両手の拳を握りしめる。

 

「てりゃああ!!」

 

 渾身の力を籠め亀裂に拳をねじり込む。

 

「ふっ!!」

 

 そのまま力を籠めガジェットの腕部を引きちぎる。

 

「やった!」

 

 スバルはガジェットから距離を取り肩で息をする。

 

『いいえ、まだです』

 

「え?」

 

 腕部を失ったガジェットはオイルを撒き散らしながら再び立ち上がる。

 

「まだ動くなんて……」

 

『ダメージは与えられています』

 

『攻撃を続けてください』

 

 その時、ガジェットが排熱を行うため、背後の吸気口を開いた。

 

『吸気口にダメージを与える事により内部よりガジェットを破壊することが可能だと思われます』

 

『吸気口内部に狙撃を行ってください』

 

「はい!」

 

 ティアナは背後の吸気口を狙い炸裂弾を発射する。

 

 しかし、炸裂弾が着弾する寸前に吸気口の扉が塞がる。

 

「なんで!」

 

「くっ!」

 

 スバルは走り出すとガジェットに取りつく。

 

「スバル!」

 

「ぐぅうううう!!」

 

 スバルは吸気口の扉を掴むを無理やりこじ開ける。

 

「ティア!!」

 

「わかった!」

 

 ティアナは一瞬息を止め吸気口を狙う。

 

 放たれた炸裂弾は吸気口に吸い込まれるように着弾する。

 

 その直後、ガジェットが内部から爆発を起こし機能停止する。

 

 スバルは爆発を繰り返すガジェットから飛び降り爆発を見守る。

 

「はぁ……はぁ……勝った……の?」

 

『目標沈黙。作戦終了です。おめでとうございます』

 

「やった!!」

 

 二人は歓喜の声を上げる。

 

「ほぉ、やるやないか」

 

「意外ですね」

 

 はやてとシグナムは小さく笑う。

 

 私達は再びトレーニングルームへと移動した。

 

「お疲れさまでした」

 

「お疲れさまです!」

 

 スバルはその場で一礼する。

 

 ティアナは狙撃ポイントで気の疲れからかため息を吐く。

 

「それでは今回の作戦について評価します」

 

「え?」

 

「作戦所要時間C、周辺への被害は軽微です。消耗戦力甚大。総合評価C+です」

 

「えっと……どういうことですか?」

 

「作戦所要時間につきましては短縮の余地があります」

 

「は、はい」

 

「スバルにつきましては、突撃など無茶をする傾向があります。もう少し身の安全を重視してください」

 

「ぜ……善処します」

 

「続きましてティアナです」

 

「は、はい!」

 

 ティアナは狙撃地点から無線を繋ぐ。

 

「狙撃の精度と攻撃タイミングを向上させましょう」

 

「はい……」

 

「それと、狙撃に際しては定点狙撃は反撃の可能性もあるので定期的に位置を変更することをお勧めします」

 

「反撃……ですか?」

 

「はい。狙撃が相手に知られてしまえばこのように攻撃される恐れがあります」

 

 私はスナイパーを装備すると、その場でティアナを狙撃する。

 

 その瞬間デルフィがゼロシフトでティアナの傍らに移動すると、ウアスロッドを眼前に突き刺しスナイパーの弾丸を貫く。

 

「ひぅ!」

 

「このようにカウンタースナイプの恐れがあります。注意してください」

 

「は、はい……」

 

 ティアナはその場で息をのみ震えだす。

 

「それでは、今回の訓練を終了します」

 

「お疲れさまでした」

 

 私達はトレーニングルームを後にしようとする。

 

「待ってください!」

 

 スバルが引き留める。

 

「なんでしょう?」

 

「その、さっきのは、瞬間移動みたいなのは一体どうやったんですか?」

 

「ゼロシフトの事ですか?」

 

「多分そうです」

 

「ゼロシフトとは背後の空間を圧縮し復元する際の反動を利用し亜光速で移動を行う方法です」

 

「え? え?」

 

 スバルは理解できずに首をかしげる。

 

「簡単に説明すると、背後で衝撃を発生させ反動を利用し高速で移動する方法です」

 

「なるほど……」

 

 スバルは頷く。

 

「本日はこれで終了です。お疲れさまでした」

 

「はい!」

 

「それでは失礼します」

 

 私達はトレーニングルームを後にした。




このまま無事に訓練が終わってくれるとありがたいね。


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実戦

鬼滅の刃面白い


 

   休暇最終日。

 

 私達がトレーニングルームの前に移動すると内部には既にスバルとティアナがウォーキングアップを行っていた。

 

「最終日だけあって気合が入っているようだな」

 

 トレーニングルームの入り口に立っていたシグナムが口を開く。

 

「お前達が鍛えただけあってかなり強くなっただろうな」

 

「戦力の増強は見込めます。現在の2人ならシグナムにも引けを取らないでしょう」

 

「ほぉ……それは楽しみだ。そうだな。ところで今日はどうするつもりだ? 決まっていないなら私が試してやろう」

 

 シグナムは笑みを浮かべて肩を回す。

 

「いえ。最終日なので我々と模擬戦を行う予定です」

 

「そ、そうか……一方的になりそうだな……」

 

 シグナムは小さく呟いた。

 

「それでは私達はこれで」

 

「あぁ」

 

 私達がトレーニングルームに入室すると2人が駆け寄る。

 

「おはようございます!」

 

「お願いします」

 

「「よろしくお願いします」」

 

「それで、今日は何をするんですか?」

 

「本日は──」

 

「ねぇ、これはどういう事かな?」

 

 本日のトレーニングメニューを伝えようとした矢先、なのはの怒りを孕んだ声が響く。

 

「な、なのはさん!」

 

「ねぇ……2人共……どういうことか説明してくれるかな?」

 

「ちょっと、なのは……」

 

 フェイトの静止を振り切りなのはが接近する。

 

「ねぇ? 説明して欲しいな」

 

「えっと……その……」

 

「2人の戦力増強トレーニングを──」

 

「あなた達には聞いていない」

 

 なのはが私達を一瞥する。

 

「2人の教育に関しては私が全部責任もってやっていたはずだよね。なんで勝手なことをしたのかな?」

 

「えっと……それは……」

 

「ねぇ、答えてくれないかな?」

 

 なのはが俯いている2人を見据える。

 

「2人のトレーニングに関しては私が許可を出してあるで」

 

 その時、はやてとアインスがトレーニングルームに入室する。

 

「はやて……」

 

「はやてちゃん……」

 

 なのはが振り返るとはやてを睨みつける。

 

「それはどういうこと?」

 

「スバルとティアナの2人が自分で考えてエイダとデルフィにトレーニングを依頼したんや。それを私が許可を出した。それだけの事や」

 

「2人の教育担当は私だよね」

 

「確かに知らせるべきやったかもしれんなぁ。でも休暇中に連絡するのもおかしな話やろ」

 

「それが理由だと言うの? 私は2人の事を考えてトレーニングメニューを組んていたんだよ」

 

「まぁ大まかにいえばそうやな。それに2人のトレーニングのおかげで確実に強くはなっとるで。それは不服なんか?」

 

 なのははスバルとティアナを見据える。

 

「へぇ……そうなんだ」

 

 なのはは表情を変えることなく続ける。

 

「なら、どれくらい強くなったか試させてもらうよ」

 

「え?」

 

 そういうと、なのはが戦闘態勢を整える。

 

「私と模擬戦だよ」

 

「で、でも」

 

「もし2人が勝てたら今後……何をしようと何も言わない」

 

「え?」

 

「負けたら……その時は2人には管理局を辞めてもらうよ」

 

「え?」

 

「なのは!」

 

「なのはちゃん! それは言い過ぎや! そもそもそんな権限──」

 

「そうかな? 2人は教官である私の意見を無視して暴走しているんだよ。これは十分に厳罰に値するよね」

 

「でも」

 

「これ以上無駄話をするつもりはないよ。実戦だと思ってかかっておいで。私も実戦のつもりで行くから」

 

 なのはがはやてを一瞥する。

 

「さぁ、部外者は出て行って」

 

「ですが!」

 

 不安そうにスバルが声を上げる。

 

「現在のお二人ならば勝率は十分にあると思われます」

 

 私達は退室する際に2人に近寄る。

 

「でも……」

 

「自信を持ってください」

 

「無理ですよ……なのはさんは私達よりも何倍も……」

 

「ですが、人数的には優位です」

 

「ですが……」

 

「奇襲でもない限り人数的優位を覆すには相当の実力が必要になります」

 

「それでも……実力差が……」

 

「実力差を埋める方法は複数ありますが、有効的な方法は相手の想像や想定を超えた行動をすることです」

 

「想像や想定を超えた……」

 

「はい」

 

「行動分析の結果ですがなのはは左方向からの攻撃に際し無意識に避けている傾向があります」

 

「え?」

 

「それでは健闘をお祈りしております」

 

「あっ! ちょっと!」

 

  私達はトレーニングルームを後にし、それに続くようにはやて達も退室し、部屋には3人だけが残された。

 

「全く! なのはちゃんはどういうつもりや!」

 

「言い分は分かりますが、いくらなんでも横暴では……」

 

 はやては激高しシグナムが宥めている。

 

 私達は見学スペースに到着しトレーニングルーム全体を見据える。

 

「もう……こうなったら行く末を見据えるしかないな」

 

「そうですね」

 

 はやてが椅子に座るとその隣にフェイトが腰を掛ける。

 

 

 その時、トレーニングルームからなのはの声が響く。

 

「さぁ、行くよ」

 

 なのはの周囲に浮いた魔力弾が2人目掛け飛翔する。

 

「くっ!」

 

 2人はその場から横に飛び退く。

 

 2人が居た地点に魔力弾が着弾し地面が抉れる。

 

「うわぁ、とんでもない威力やな」

 

「それだけ本気という事なんでしょう」

 

「2人は大丈夫かな……」

 

 ティアナはなのはと逆方向へ、スバルはなのはとの距離を詰めるように土煙から飛び出す。

 

「てあああああ!!」

 

 スバルは拳を掲げなのはとの距離を詰める。

 

「無策に突っ込むのは良くないね」

 

 なのはが手を掲げると魔力弾がスバルに直撃する。

 

「うわっ! 直撃やんか!」

 

「これは……」

 

 はやてとシグナムは状況を見据え困惑している。

 

「待って!」

 

 フェイトが着弾地点を指さす。

 

 そこには全身にエネルギーフィールドを展開し腕を前面でクロスし攻撃を防ぎ切ったスバルが立っていた。

 

「へぇ……今のを防いだんだ。面白いものを使っているね。アレからもらったのかな?」

 

「お二人からいただきました」

 

 スバルが頷くとなのはが真顔で口を開く。

 

「未認可のデバイス使用。また1つ罪状が増えたね」

 

 なのはがレイジングハートを構え前面に魔法陣が形成される。

 

「少しお説教が必要かな」

 

 魔法陣から強力なエネルギーが検出される。

 

「流石にこれは防げないんじゃ──」

 

 次の瞬間なのははレイジングハートの魔法陣を解き周囲にシールドを展開する。

 

 その直後、シールドに弾丸が直撃した。

 

「何が起こったんや?」

 

「ティアナによる狙撃です」

 

「狙撃……ティアナだね」

 

『防がれた!』

 

『くっ!』

 

 スバル達の無線が混線する。

 

 ティアナは引き続き狙撃を続けるが、弾丸がすべてシールドで防がれる。

 

「へぇ、面白いことするね」

 

 なのははシールドを展開したまま手を掲げる。

 

 次の瞬間、魔力弾がティアナの狙撃ポイントに着弾する。

 

「ティア!」

 

 着弾地点からは土煙が巻き起こる。

 

「よそ見はだめだよ」

 

 なのはが魔力弾を放つ。

 

「くっ!」

 

 スバルは体を屈め魔力弾を回避するとなのはと距離を取る。

 

「良く避けれたね。少しは強くなったみたいだね」

 

「……」

 

 なのはの問いに対しスバルは沈黙で答えた。

 

 その沈黙を破るように銃声が響き、なのはの足元に着弾する。

 

「ティア!!」

 

「ちっ!」

 

 引き続き銃声が響きなのはは舌打ちしつつシールドを展開し数歩後ずさる。

 

『ティア! 無事だったんだ!』

 

『何とか直撃だけは……でも』

 

『どうしたの?』

 

『足を怪我しちゃって……ここからあまり動けないかもしれない……』

 

『分かった!』

 

 なのはが手を掲げティアナを狙う。

 

 その時、スバルがなのはに攻撃を仕掛ける。

 

「くっ!」

 

 なのはは攻撃を中断し防御の体制を取る。

 

 スバルは1発攻撃を与えると左側からなのはの背後に回り込もうとする。

 

「ちょこまかと!」

 

 なのはが飛び上がると周囲に複数の魔力弾が展開される。

 

「シュート!」

 

 放たれた魔力弾はスバルを追跡する。

 

 スバルは高速で移動しながらなのはとの距離を取る。

 

「くっ!」

 

 スバルは移動しながら木々や岩陰などに身を潜め魔力弾の数を減らす。

 

 しかし、1発がスバルの背後に迫る。

 

「避けられない!」

 

 魔力弾がスバルに最接近した瞬間、銃声が響きスバルの背後で爆発が起こる。

 

 炸裂弾によりなのはの魔力弾が相殺されたようだ。

 

「うぉ!」

 

 爆風に煽られスバルが吹き飛ばされる。

 

「いてて……」

 

『大丈夫!』

 

『もう少し優しく……』

 

『直撃してないんだから』

 

『まぁね……』

 

 スバルは体制を整えるとなのはに接近する。

 

「もう近付けさせないよ」

 

 滞空したなのはの周囲に大量の魔力弾が展開される。

 

 高速でなのはへの接近を試みるスバルだが周囲に展開した魔力弾がスバルの進行先に着弾し行く手を阻む。

 

『駄目だ……近付けない……』

 

『こっちに気を引いてみる』

 

 ティアナが狙撃を試みるが、弾丸はなのはに届くことなく魔力弾で相殺される。

 

『駄目だ……こっちの攻撃が通じない……キャ!』

 

『ティア!!』

 

 なのはから放たれた魔力弾がティアナの付近に着弾する。

 

『危なかった……これじゃあこっちからも攻撃が……』

 

『くっ!』

 

 スバルはなのはの周囲を移動しながら攻撃のタイミングを窺う。

 

 しかし、スバルの周囲に魔力弾が着弾し、回避で精いっぱいと言った状況だ。

 

『これじゃあ……』

 

 空ではなのはが無表情で2人を見下ろしていた。

 

『このままじゃいずれやられる……何とかしないと……』

 

 ティアナが小さく呟く。

 

『そうだ……』

 

 スバルが呟く。

 

『どうしたの?』

 

『相手の想像や想定を超えた行動をすれば……』

 

『でも……そんなのどうやって?』

 

『作戦は──』

 

 スバルがティアナに作戦を伝える。

 

『そんな! 危険すぎる!』

 

『でも、これしか方法はないよ』

 

『わかった……チャンスは1回だけ。やるからには絶対成功させるよ!』

 

『うん!』

 

 2人は作戦を開始した。

 

 スバルが全身にエネルギーフィールドを展開するとなのはに急速で接近する。

 

「諦めて突っ込んでくるなんてね。確かにうまく抜けられれば勝機はあるかもしれないね」

 

 なのはがそう言うとスバル目掛けて複数の魔力弾を発射する。

 

「くっ!」

 

 なのはが手を振り下ろすと魔力弾がスバルに迫る。

 

「1つ!」

 

 スバルは走りながら体を屈め1発目を避ける。

 

「2つ!」

 

 再度迫りくる魔法弾を近くの廃材を盾に受け流す。

 

「ちょこまかと!」

 

 距離が迫ったことに焦りだしたなのはが魔力弾を更にスバルに放つ。

 

「3つ目!」

 

 スバルは飛び上がると空中で体を捻る。

 

 魔力弾はスバルのバリアジャケットを焦がしながらスバルの後方へと抜けていく。

 

 スバルは着地と同時に受け身を取ると勢いそのままなのはに迫る。

 

「届けぇえええ!」

 

 スバルが更に速度を上げる。

 

 しかし、なのはが不敵な笑みを浮かべる。

 

「猪突猛進しかできないなんてね。これで終わりだよ」

 

 なのはが手を振り上げるとスバル目掛け大量の魔力弾が背後から迫りくる。

 

「ティア!!」

 

「分かってる!」

 

 次の瞬間スバルが居た地点に魔力弾が集中し爆発が起こり、土煙が満たす。

 

「これは……」

 

 はやてが唖然とする。

 

 しかし、次の瞬間なのはの左前方にスバルが姿を現した。

 

「なっ!」

 

「あぁああああ!!」

 

 スバルが拳を振り上げる。

 

「くっ!」

 

 なのはが瞬時にシールドを展開する。

 

 しかし、突然の事に対処しきれなかったのかシールドは打ち砕かれる。

 

「くっ!」

 

「取った!」

 

 スバルがなのはに掴み掛ると馬乗り状態になり自由落下する。

 

「ぐあっ!」

 

 地面に叩きつけられたなのはが嗚咽をもらす。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 地面に倒れたなのはを見つめながらスバルが立ちあがる。

 

「はは……まさかここまでとは、油断しちゃたよ」

 

「あっ! その! 大丈夫ですか?」

 

 スバルが差し出した手を受け取らずなのはがゆっくりと立ち上がる。

 

「結構強くなったね」

 

「え、あ、ありがとうございます」

 

「はは……でもね」

 

 なのはが手を掲げるとスバルの体がバインドにより拘束される。

 

「スバル! きゃ!」

 

 同時にティアナの体もバインドにより拘束される。

 

「え? ちょ!」

 

「私言ったよね、実戦のつもりだって」

 

 バインドで拘束された2人の体が宙へと浮く。

 

 それに伴い、なのはも同様の高さに浮き上がる。 

 

「なのは!」

 

「なのはちゃん!」

 

 はやてとフェイトがスピーカ越しになのはに話しかける。

 

「もう終わったはずや! なにしてんのや!」

 

「実戦はもっと危険なんだよ」

 

「これは訓練や! そこまで──」

 

「うるさい!!」

 

 なのはが横に手を振ると小型の魔力弾がティアナの右腕を掠める。

 

「きゃあ!」

 

「ティア!」

 

 魔力弾が掠めたティアナの右腕から流血を確認する。

 

「まさか……非殺傷じゃ……」

 

「実戦じゃ非殺傷の魔法とは限らない」

 

 なのはが掲げた手の平に魔力が収束する。

 

「やめるんや!」

 

「なのは!」

 

 見学スペースではやてとフェイトが声を荒らげる。

 

 しかし、収束は止まらない

 

「少し、頭冷やそうか」

 

 なのはが発射体制へ移行する。

 

「いや。頭を冷やすのはなのはちゃんの方や!」

 

 はやてが手元のコンソールを力強く叩く。

 

 その瞬間、トレーニングルームに警告音が鳴り響くと同時に高濃度のAMFが展開する。

 

「なっ!」

 

 AMFにより収束していた魔力が霧散し2人のバインドが消滅する。

 

 

「っ!」

 

 スバルは受け身を取り着地すると着地に失敗したなのはに駆け寄るとそのまま馬乗りになる。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 腕を庇いながらスナイパーライフルを杖のように使い体重を支えながらティアナもなのはに接近する。

 

「くっ!」

 

 スバルは拳を振り上げ、ティアナはスナイパーライフルをなのはの額に突き付ける。

 

 トレーニングルームに緊張が走る。

 

「そこまでや!」

 

 はやてが声を荒らげながらトレーニングルームに突入する。

 

「もうええ! もう終わったんや!」

 

 未だに攻撃態勢を解かない2人に駆け寄りはやてが諭すように声をかける。

 

「はぁ……は……はい……」

 

 スバルが立ちあがるとなのはも無言で立ちあがる。

 

「なのはちゃん! どういうつもりや!」

 

「……」

 

 その時フェイトがなのはに駆け寄る。

 

「なのは……」

 

 しかし、なのはは答えることなくトレーニングルームを後にした。

 

「一体……どうしたんや……なのはちゃん……」

 

「わからない……」

 

「はぁ……」

 

 はやてを一度ため息を吐くと2人に向き合う。

 

「2人ともよく頑張ったなぁ。大したもんや」

 

「そう……なんですか?」

 

「そうやで。なぁ?」

 

 はやてが私達に振り返る。

 

「損傷具合や作戦所要時間などにつきましては改善の余地がありますが、格上の相手に対し勝利した事は称賛に値します」

 

「総合評価はB+です」

 

「褒められている……でいいんですか?」

 

「まぁ、多分そうやろ」

 

「あはは……」

 

 スバルとティアナは複雑な表情を浮かべる。

 

「それにしても、スバル。あの瞬間移動はどうやったんや? 予想外やったで」

 

「あれは、お二人が使っていたゼロシフトを真似して」

 

「真似してって……どうやったんや?」

 

「えっと……」

 

「魔力弾がスバルに直撃する寸前で、ティアナの炸裂弾により魔力弾を狙撃、炸裂弾と魔力弾の爆風をフォースフィールドで受け止め急加速」

 

 私が先程の現象を説明するとスバルが小さく笑う。

 

「その通りです」

 

「本当……ヒヤヒヤしたわ……」

 

「な……」

 

 2人の行動に対しはやてが絶句する。

 

「タイミングが少しでもズレれば危険でした」

 

「あまりお勧めできる戦い方ではありません」

 

「まぁ……そうなんですけど、なのはさんの予測を上回るとなると……それくらいしか思い浮かばなくて……」

 

「だとしても危険やで……」

 

「あはは……」

 

「はぁ……まぁええ。とにかく今日は疲れたやろ。ゆっくり休みや」

 

「はい。ですが……」

 

「なのはちゃんの事なら心配せんでええよ。私達が話しておくで」

 

「はい……」

 

「後でシャマルの所へ行って診てもらうんやで」

 

「わかりました」

 

 スバルがティアナに肩を貸しながらトレーニングルームを後にした。

 

「はぁ……それにしても……なのはちゃん……一体どうしたんや……」

 

「私は……何となくだけどわかる気がする」

 

「え?」

 

 はやての呟きに対しフェイトが答える。

 

「どういう事や?」

 

「その、言いにくいんだけどなのはは……その2人の事がまだ受け入れれらないんじゃないかな?」

 

「フェイトちゃんまで……」

 

「ううん、違うの。多分だけどなのはは2人の事を恐れているんだと思う」

 

「恐れてる?」

 

 フェイトの回答に対しはやての顔が曇る。

 

「これは私の個人的な考えなんだけど。なのはは管理局員として自信と誇りを持っているんだと思う」

 

「それが……2人を恐れる事に?」

 

「9年前……2人に最初に会った時……私達は敵対していた」

 

「まぁ……それは……せやな」

 

 2人はバツの悪そうな表情を浮かべる。

 

「最初に会った時……私は気絶したからよく覚えていないんだけど、なのははトラウマを植え付けられたのかもしれない」

 

「トラウマって……なにしたんや?」

 

 はやてがこちらに顔を向ける。

 

「無力化するために行動しました」

 

「度合いにもよるけど、圧倒的な力量差の相手に追い詰められて10歳前後の女の子が大丈夫だと思う?」

 

「それは……」

 

 はやてが顔をそむける。

 

「それだけじゃないよ……実はなのはは9年前に2人の封印を提案したこともある」

 

「え?」

 

「確か、2人は管理局では抑えられない存在だと……」

 

「だからって……」

 

「それだけなのはにとって2人は恐怖の対象なんだと思う」

 

「そうだったとしても……」

 

 はやてが小さく呟く。

 

「そんな相手が自分の教え子に指導していた……多分なのははそれが耐えられなかったんだよ」

 

「だからって新人の2人に対して……」

 

「これは憶測だけど、なのはの中ではスバルとティアナを相手にしていたつもりはないと思う」

 

「え?」

 

「2人を教えた相手……つまり貴女達2人と戦っていたんだと思う」

 

「そんなこと……」

 

 はやてが小さく呟く。

 

「どうすればええんや……」

 

「分からない……けど、今はそっとしておいてあげるのが一番だと思う」

 

「……そうやな……」

 

 はやてがこちらに視線を向ける。

 

「そういう事や、その……悪いんやが極力なのはちゃんと顔を合わせんようにしてもらえるか?」

 

「了解」

 

「ごめんな」

 

 メンタルコンディションの低いはやてが小さく笑う。




なのはさんは…少し頭冷やそうか…


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襲撃

今年はこれで最後となります。



   依然としてリニアレールで行われた戦闘の動画がループしているモニターの前から動かないスカリエッティにウーノが背後から近寄る。

 

「ドクター」

 

「どうかしたか?」

 

「管理局から報告書が届きました」

 

「そうか。読み上げてくれ」

 

「はい。エースオブエースに関する報告ですが……」

 

「どうした?」

 

「あくまでも噂話程度の信憑性だとかで……」

 

「構わん。火の無いところに煙は立たない」

 

「はぁ……それでは。エースオブエース、高町なのはが模擬戦で新人に惨敗したと」

 

「ほぉ? 慢心でもしたのか?」

 

「それもあるでしょう。ですが手加減していたと言えどエースオブエースが負けるとは……」

 

「確かにガジェットに追い詰められるような腕の新人が簡単にエースオブエースに勝てるとは思えん。そうなると考えられるのは可能性は絞られるな」

 

 スカリエッティはモニターから視線をずらすとウーノを見据える。

 

「そして、最も可能性が高いのはあの2人が関わっているという事だ」

 

「関わっている?」

 

「そうだ。憶測だがその新人の教育にあの2人が関わったとすれば可能性はある」

 

「なるほど……」

 

「その情報が本当ならばエースオブエースは相当ご立腹だろう。自身の教え子まで奪われた訳なのだからな」

 

 スカリエッティが端末を操作するとモニターの画面が停止する。

 

 画面には憎悪に満ちた表情で2人を睨みつけるなのはが映し出される。

 

「この状況はうまく利用すれば相当有利に動くだろう」

 

「有利に?」

 

「あぁ、管理局の知り合いにはそれなりに過激な思想を持っている人間もいてね。クーデターを計画している。彼等からすれば現行の管理局の生ぬるい支配体制に疑問を持っている者もいる」

 

「それが、エースオブエースとどのような関係が?」

 

「もし仮にエースオブエースが彼等側に着いたらどうなら?」

 

「それは……」

 

「彼等はエースオブエースという巨大な広告塔を手に入れる。そして彼等が表立って動けるようになれば、それだけ私も動きやすくなるという事さ」

 

「なるほど……」

 

「まずはエースオブエースと会う必要があるな」

 

 スカリエッティは手元の端末を操作する。

 

 モニターに1枚の資料が表示される。

 

「これは?」

 

「数か月後に行われるオークションの資料だ。ここではロストロギアの取引も行われる」

 

「ロストロギアの取引……機動六課が出動する可能性が高いという事ですね」

 

「その通りだ。そしてそこにガジェットが襲来すれば」

 

「エースオブエースが動くと」

 

「そうだ。運が良ければあの2人の資料が手に入るかもしれない」

 

 スカリエッティは不敵な笑みを浮かべる

 

「忙しくなるぞ。ガジェットを大量に用意しろ! それと開発段階ではあるがメタトロンを利用した装置もしようする」

 

「わかりました」

 

 ウーノは一礼するとスカリエッティに背を向け退室した。

 

 

  数か月の月日が流れる。

 

 この数か月間、なのははスバルがティアナの2人に対しての指導は一切行われず、代理としてエイダとデルフィが対応している。

 

 その為、戦力バランスに影響が出始めている。

 

「はぁ……」

 

 部隊長室で現状を鑑みてかはやてがため息を吐く。

 

「なのはちゃん……どうしたらええんやろうか……」

 

「こればかりは当人の問題だとしか……」

 

「はぁ……」

 

 アインスが差し出した紅茶で唇を濡らしはやてがまた深いため息を吐き、手元の資料を確認する。

 

「この任務……全員出動させないと厳しいな……」

 

「どのような内容ですか?」

 

 アインスが資料を覗き込む。

 

「ホテル・アグナスで行われる骨董品のオークションの警備任務? これを六課で?」

 

「せや、上からの命令や」

 

「はぁ……しかしなんで六課なんでしょうか? 取引許可の出てるロストロギアが出品されるからでしょうか?」

 

「うーん……表向きは普通のオークションやろうけど……まぁ、別の事もあるんやろうな」

 

「別の事とは?」

 

「六課、エース級を多数に保持する部隊。過剰な戦力を持つ部隊。そんな部隊やから成功させて当然。逆に言えば失敗したらそれを理由に上層部に付け入る隙が生まれるということやろうな」

 

「まぁ、六課はあまりいい噂聞きませんからね」

 

「悲しいがその通りや」

 

「しかし、一部の過激派からは現行の管理局事態に反発を持つ者もいるとか」

 

「過激派やな……まぁ、そういった連中は力を誇示したいだけやろう」

 

 はやては苦笑いを浮かべため息を吐く。

 

「まぁ、これだけの任務や……全員参加させるしかないか……」

 

「では……」

 

「せや、まぁ……エイダとデルフィにも協力を仰ぐとして……問題はなのはちゃんやな」

 

「あまり良い顔はしないでしょうね」

 

「特にあの2人が一緒となると……まぁ……そこは任務や……」

 

 はやては一抹の不安を胸に、それを飲み込むように残りの紅茶を流し込んだ。

 

 

  数日後。

 

 はやての指示により全員が会議室に集められる。

 

 私達が会議室に入るとなのはのメンタルコンディションレベルが急激に低下する。

 

 そんななのはの近寄りがたい雰囲気のせいか、スバルとティアナはなのはから距離を置くような位置に着席している。

 

「さて、全員揃ったようやね」

 

 入室したはやてはそういいながら自身の席に着席する。

 

「さて……」

 

 はやてはなのはを一瞥した後口を開いた。

 

「今回集まってもらったのは、数日後に行われる任務の説明をするからや」

 

 アインスとリインが資料を配り始める。

 

 リインはその体格故に手こずっていた。

 

「ふぅ……」

 

「お疲れさん。さて、まずは資料に目を通してもらいたいんや」

 

 資料を配り終えたリインははやての方に着地する。

 

 私達は資料を手に取り中身を確認する。

 

「ホテル・アグナスで行われる骨董品のオークションの警備任務? これが今回の任務?」

 

「せや」

 

「はやて、この任務は全員が出動する必要があるの?」

 

「まぁ、フェイトちゃんの疑問も最もな意見やな。まぁ普通のオークションなら六課ではなく普通の民間企業あたりが警備するはずや」

 

「普通の?」

 

「資料には書かれておらんが、恐らくロストロギアの取引もあるはずや」

 

「え?」

 

「まぁ、仮にも管理局が警備を行う会場で行われるオークションや。取引許可の出たものだけやと思うで」

 

「なるほど。ロストロギアを狙って……」

 

「その通りや、ガジェットが襲ってくる可能性もある。それだけやない。密輸や違法取引の隠れ蓑になる恐れもあるんや」

 

「それなら、私達全員が出撃する必要があるというわけだね」

 

「せや」

 

 はやてはなのはに視線を向けるが、なのははつまらなそうに虚空を眺めている。

 

「さて、人員配置やが……シグナムとヴィータ、なのはちゃんはフォワードを連れてホテル周辺を警備。私とフェイちゃん。エイダとデルフィで内部の警備にあたるで」

 

「わかった」

 

 なのははそういうと一人立ちあがる。

 

「あの! なのはさん!」

 

 スバルが話しかけるがなのはは気に留めることなく退室する。

 

「あっ……」

 

「スバル……」

 

 気まずい雰囲気の中フェイトがスバルの肩に手を置く。

 

「大丈夫。気にしないで」

 

「はい……」

 

「ま……まぁ、今回の任務は警備やけど、ガジェットとの戦闘も予想される。気を抜かんようにな」

 

「了解」

 

 はやてが敬礼すると全員が返礼し作戦会議が終了した。

 

 

  作戦遂行日。

 

 ホテル・アグスタ。

 

 ホテル外周はシグナム達に任せ私達ははやて達と共に会場内部の警備を行う。

 

「いやぁ……これは……」

 

「よく似合っているというか」

 

「似合いすぎや」

 

 はやてとフェイトの2人が私達の姿を見ると頷いている。

 

 現在私達はパーティー会場に溶け込む為にデータベースに存在する蒼色のパーティードレスを使用している。

 

 対するデルフィは緋色のパーティードレスを着用している。

 

「なんや……私達が霞んでしまう気が……」

 

「はやても十分似合ってるから大丈夫だよ」

 

「せやろか……」

 

「お二人も十分魅力的です」

 

「それならええんやが……」

 

「まぁ、周囲の注目を集めるくらいにはね」

 

「まぁ、あまり目立てもしゃあないんやけどな」

 

 はやては薄紫色のドレスを、フェイトは黒のドレスを着込んでいる。

 

 その時、司会と思わしき男性がパーティーの開催を宣言する。

 

「さて、始まったね」

 

「せやね」

 

 はやてが周辺防衛部隊に通信を繋ぐ。

 

『パーティーが始まったで。外の様子はどうや?』

 

『こちらは問題ありません』

 

『そか、指揮はシグナムに任すで』

 

『お任せください』

 

『ほな、状況が変わり次第連絡を』

 

『はい』

 

 はやては通信を通信終了後私達に視線を向ける。

 

「さて、任務開始や」

 

「「「了解」」」

 

 

 

  警備を開始してから数時間が経過する。

 

『定時報告。異常はありません』

 

 私は全員のデバイスに通信を繋ぐ。

 

『こちらシグナム。会場周辺も異常は無い』

 

『了解や。今のところ順調やな』

 

『この調子なら問題なく終わりそうだね。取り越し苦労で済みそうだね』

 

『フェイトちゃん……それはフラグって言うんやで』

 

『え?』

 

 その時、会場周辺に複数のメタトロン反応を検知する。

 

『警告。メタトロン反応を多数検知』

 

『え?』

 

『もぅ! フェイトちゃん!!』

 

『え? 私?』

 

『まぁええや。規模は?』

 

『スキャン完了。セラーを複数確認』

 

『セラー?』

 

『セラーとは転送装置の一種です』

 

『セラーから複数のガジェットの排出を確認』

 

『周辺防衛部との接触を確認』

 

『なんやって!』

 

 はやてがシグナムに通信を繋ぐ。

 

『現状は!』

 

『複数のガジェットが攻め込んできています! すでに複数撃破したのですが……』

 

『クソッ! どれだけいるんだよ!』

 

『セラーと呼ばれる転送装置からガジェットが排出されています』

 

『セラーを破壊しない限り転送は止まりません』

 

「作戦開始や!」

 

 はやてとフェイトが戦闘態勢を整える。

 

「エイダとデルフィは外へ出て周辺防衛部隊の援護とセラーの破壊を! 私とフェイトちゃんで避難指示を!」

 

「了解」

 

「わかった!」

 

 2人が来賓客の避難誘導を開始した。

 

 私達は、会場を抜け外部へと移動する。

 

 扉を開けると、既に戦闘が行われており大量のガジェットによる高濃度AMFが充満していた。

 

 その為、防衛部隊は劣勢であった。

 

「お待たせいたしました」

 

「来たか!」

 

「ったく! 遅いんだよ!」

 

 既にフォアードは満身創痍で地面に膝をついていた。

 

「状況は?」

 

「何とか水際で防いでいるがAMFが濃すぎて……」

 

「あの! なのはさんが!」

 

 スバルが足を引き摺りながらこちらに近寄る。

 

「どうかしたのか?」

 

「ガジェットを追跡して……一人孤立しているかもしれません!」

 

「そんな……場所は?」

 

「AMFが濃すぎて……追跡できません」

 

「仕方ない……今は周囲の安全を確保するのが最優先だ」

 

「ですが!」

 

「あいつなら一人でも大丈夫だ! とにかく今は身の安全を確保することだ!」

 

「了解。これより周囲のガジェットを撃破します」

 

「すまないが、頼む」

 

 シグナムとヴィータが後退する。

 

 それを機にガジェットが一挙に押し寄せる。

 

「「バーストモード移行」」

 

「バーストショット」

 

「戌笛」

 

「「発射」」

 

 

 私達の2人のバーストショットが押し寄せたガジェット部隊に直撃する。

 

 その直後、爆発が起き、余波によって周辺のガジェットを一掃する。

 

 それにより、AMF濃度が低下する。

 

「周辺のガジェット数減少」

 

「AMF濃度の低下を確認しました」

 

 AMFの濃度低下により活動が再開する。

 

「すまない。助かった」

 

「しかし、セラーを破壊しない限りガジェットは転送され続けます」

 

「あぁ、私達でここは死守する。お前達は転送装置の破壊を」

 

「了解」

 

 私達はシグナム達を残し、バーニアで飛び上がった。

 

 

 

  ガジェットを追跡して一人孤立したなのはが森の奥へと歩みを進める。

 

 まるで眼前のガジェットに導かれるように。

 

『部隊から離れています』

 

 レイジングハートが警告を出すがなのははそれを聞き入れようとしない。

 

「これでっ!」

 

 なのはが放った魔力弾により眼前を飛翔していたガジェットが火を噴き撃墜する。

 

『撃破確認。戻りましょう』

 

「わかったよ」

 

 なのはが軌道を変えようとした瞬間。

 

「流石はエースオブエース。お見事だ」

 

「誰!」

 

 なのはが振り向きながらレイジングハートを構える。

 

 なのはが構えたレイジングハートの先から白衣の男性が姿を現す。

 

「お初にお目にかかる。私はジェイル・スカリエッティ。科学者だ」

 

「時空犯罪者の間違いでは? ガジェットによる襲撃は貴方の仕業ですね」

 

 なのはが答えるとスカリエッティは小さく笑う。

 

「まぁ、それは人の捉え方だ」

 

「そんな事よりどういうつもり……自首しに来た訳ではなさそうですが……」

 

「自首などしないさ。私が興味があるのは例の2人とその技術だ」

 

「例の2人……」

 

 なのはの脳裏にエイダとデルフィがよぎる。

 

「あの2人が……どういうこと?」

 

「私は科学者として知りたいのだよ。あの2人がどういった存在で、どれほどの技術を持っているのかという事を」

 

「どうしてそれを私に?」

 

「私も管理局に知り合いがいてね……色々聞いているのさ。君が彼女達に対し不信感を持っているという事を」

 

「それは……」

 

「それに、君は自分の教え子にまけ──」

 

 その時、レイジングハートから魔法弾が放たれスカリエッティに直撃する。

 

「私は!」

 

「全く……人の話は最後まで聞いてほしいものだな」

 

 土煙が晴れるとそこには無傷のスカリエッティが先程同様に存在していた。

 

「ホログラム映像……」

 

「無策で君に会うほど信用してはいない」

 

 2人の間に緊張が走る。

 

 数瞬の静寂の後スカリエッティが口を開く。

 

「さて、話を戻そう……単刀直入に言う。私に協力しないか?」

 

「協力? 何を言っているの?」

 

「私はどうしてもあの2人について知りたい。それこそ解剖してすべてを知りたいほどに」

 

「どうしてそこまで?」

 

「科学者としての性さ……」

 

「それで? なぜ私が時空犯罪者である貴方に協力すると?」

 

「協力するさ。君は間違いなくね。我々の利害は一致するはずだ」

 

「その根拠は?」

 

「君は今の管理局の体制、そして八神はやてに対し不信感や疑問を持っているのではないか?」

 

「っ……」

 

 なのはが小さくした唇をかむ。

 

 その表情見てスカリエッティは笑みを浮かべる。

 

「やはりそうか。それもそうだろう。現在の管理局は弛んでいる。もっと多くの時空を統治し、管理する必要がある。君もそう思うだろ」

 

「それは……」

 

「それに噂ではあるが八神はやては彼女達を贔屓目に扱っているとか」

 

「……」

 

「まぁ良い。現に管理局の一部の人物はもっと管理の幅を広げ、統治し統制することで管理局を中心とした完全な統治をするべく大規模な組織を作るべきだと考えている」

 

「まさか……そんなこと……」

 

「表立っては言わないだけさ。だが彼等も着実に準備は進めている」

 

「準備?」

 

「そうさ。おっと、時間か」

 

 スカリエッティがそう言うとホログラムにノイズが走る。

 

「まっ! 待って!」

 

「もし、君が興味があるというならまた会おう」

 

 そう言うとスカリエッティは完全に姿を消す。

 

 スカリエッティが消えた場所に1枚のメモ用紙が落ちていた。

 

「これは……」

 

 なのはがそれを拾い上げると同時に背後から声が響く。

 

「なのは!」

 

「なのはさん!」

 

 振り返るとそこには、フェイトとスバルが走りながら近寄ってくる。

 

「なのは! 大丈夫?」

 

「あ……うん。大丈夫だよ」

 

 なのはは不意に手にした紙をポケットへとしまい込んだ。

 

「どうしたの? 一体何が?」

 

「ガジェットの部隊に追われて……でももう大丈夫。そっちは?」

 

「今、あの2人が発生装置を破壊して残りのガジェットを撃破しているところだよ」

 

「そう……」

 

「とにかく戻ろう。皆心配してるよ」

 

「そうだね」

 

 なのはは再びポケットに手を突っ込みメモ用紙の感触を確かめながら来た道を戻り始めた。

 

 

 

 




おや?

なのはさんの様子が…


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始動

最近リアルが忙しすぎて書いている時間が…


  ホテル・アグスタ襲撃事件の数日後。

 

 事態も収束し、はやてはアインスから報告書を受け取ると顔を顰める。

 

「負傷者は0。物品被害額些少。建造物損壊軽微。被害は最小限に抑えられたと思います」

 

「だとしても完璧に出来た訳やない。上層部はそこに付け入るかもしれんなぁ」

 

「考えすぎでは?」

 

「せやろか?」

 

 アインスが入れた紅茶にリインが角砂糖を2個入れ、それをはやてが口に含む。

 

「はぁ……そういえば、なのはちゃんの方はどうしたんや? 今日は休暇やったっけ?」

 

「えぇ。休暇申請はされています」

 

「そっか。なのはちゃんが休暇とは珍しいな」

 

「えぇ。主もたまには休んではどうですか?」

 

「休めるなら休みたいわ」

 

「そうですね」

 

 はやては溜息を一つこぼすと作業を再開した。

 

 

 鬱そうと木々が生い茂り、光もまともに届かない森をなのはが一人歩く。

 

 まるで、何かに導かれるように。

 

 その手には1枚の紙切れが握りしめられていた。

 

 

『マスターこれ以上は危険だと思われます』

 

「……」

 

 レイジングハートの警告を無視し森の奥へと歩みを進める。

 

 しばらく歩みを進めるとなのはをガジェットが包囲する。

 

「手荒い歓迎だね」

 

 なのはが口を開くと森の奥からスカリエッティとウーノが姿を現す。

 

「気を悪くしたのならば謝ろう」

 

「別に」

 

「そうか」

 

 スカリエッティは笑みを浮かべなのはがそれを見据える。

 

「さて。一人で来たという事はこちらに協力するという事でいいのかな?」

 

「その前にいくつか質問があるの」

 

「どうぞ」

 

「まずは一つ目。管理局のうちどれだけの規模が貴方の後ろにいるの?」

 

「あえて軍部と表現しよう。既に管理局内で主に戦闘を行っている軍部はこちらの手の内にある」

 

「それだけの戦力があるなら、私を勧誘する意味は?」

 

「エースオブエースが加わるとなればそれだけで士気は高まる。それと同時にエースオブエースを失えば管理局は大きな痛手だろう」

 

「だから私を?」

 

「そうさ。君には新たな管理局の象徴となって欲しいのだよ」

 

「私が……新しい管理局の」

 

「その通りだ。そうすれば出資者は増え、戦力の増強にも繋がるだろう」

 

「でも、私が加わった所で成功する確率は?」

 

「君が入れば軍民問わず志願者が現れるだろう。広告などに出てるように君はそれだけ支持率が高い。それにこちらにはガジェットとメタトロン技術がある」

 

「メタトロン技術? あの2人と同じ?」

 

「そうだ。私はメタトロンを研究し、デバイスに組み込む技術を開発した。その結果は絶大だ。かつてのデバイスの出力を大きく超える素晴らしいものだ」

 

「そのメタトロンはどこから手に入れるの? ロストロギアみたいなものでは?」

 

「既にメタトロンの発生次元は特定済みだ。いつでも進行できる」

 

「つまり……あの2人が居た世界を……」

 

「そうだ。我々新たな管理局の管理下に置く事ができる」

 

「それだけの……力があれば……でもリミッターがあるはずそれに関しては?」

 

「リミッター程度解除できないとでも?」

 

 スカリエッティは不敵に笑う。

 

「それだけの技術。ガジェットによる物量。軍部による制圧力。エースオブエースによる統制。これらが合わされば成功率は90%以上です」

 

 ウーノの回答を聞きなのはは息を飲む。

 

「でも、あの2人はどうするの? それに六課は──」

 

「その問題を解決するためにも君の協力が必要なのだよ」

 

「私の協力?」

 

「そうだ」

 

 スカリエッティは作戦を語るとなのはが目を見開く。

 

「そ……それは……」

 

「そうだ。確かに君の負担は大きいがこの作戦ならばほぼ確実にクーデターは成功する」

 

 スカリエッティは右手を差し出す。

 

「後はどうするか。それを決めるのは君だ」

 

「私は……」

 

『マスター。これは管理局に対する反逆行為です。直ちに──』

 

 レイジングハートが警告を発する。

 

「レイジングハート……」

 

 なのははゆっくりとレイジングハートを握りしめる。

 

「AIを凍結」

 

『マス……た……』

 

 なのはがそう言うとレイジングハートは虚しい声を上げながらその光を停止する。

 

「良い選択だ。君のデバイスを優先的にメタトロン技術で強化しよう」

 

 なのはが震える手を伸ばした。

 

 

 ホテル・アグスタ襲撃事件からさらに数か月後。

 

 はやては部隊長室でアインスから1枚の資料を受け取っていた。

 

「なになに。機動六課施設内の点検及び補修工事? 誰が依頼したんや?」

 

「なんでも、管理局全体で同時に行うとか」

 

「へぇ、えらい大掛かりやな。施設整備してくれるのはありがたいな。でも明日とは偉い急やな」

 

「そうですね。当日は業者の人間が入るらしいですね」

 

「そりゃ、えらい大掛かりやな」

 

「えぇ、その間は少し業務に支障が出るかもしれませんね」

 

「まぁ。それに関してはしゃあないやろ」

 

 はやてが資料にサインをした後部隊長室の扉がノックされる。

 

「どうぞ」

 

 部隊長室の扉が開かれなのはが入室する。

 

「なのはちゃんか。どないしたん?」

 

「見てほしいものがあるの」

 

「なんや?」

 

 はやてはなのはが差し出した資料を手にすると顔色を変えた。

 

「こ、これは!」

 

 なのはが手渡した資料には、ホテル・アグスタ襲撃事件の首謀者と思われる人物の写真と、詳細が書かれていた。

 

「首謀者はジェイル・スカリエッティ。過去にも犯罪歴があって広域指名手配されているよ」

 

「こいつが今回の首謀者か……」

 

「そして、ここが現在の潜伏場所だと思われる場所」

 

 なのはが差し出したもう1枚の資料にはスカリエッティの潜伏場所と思われる廃墟の写真と位置情報が記載されていた。

 

「こんなところに隠れとったんか……それにしてもお手柄や! なのはちゃん!」

 

「うん……」

 

「ところで、どうやって突き止めたんや? 情報の出どころは?」

 

「前回、私が破壊したガジェットを回収した解析班からの情報。ガジェットの基本的構造がスカリエッティのものと一致していたからだって」

 

「そうか、でも居場所は?」

 

「それも、ガジェットを解析して分かったんだって。なんでも遠隔操作ユニットからデータを解析したらしいよ」

 

「そっか、でもなんで今更? 今までガジェットの残骸なんていくらでも……」

 

「回収されたガジェットの殆どは消し炭か大破し解析不能なのばかりだったらしいよ」

 

「あぁー……」

 

「あの2人ですから……」

 

 はやてとアインスは溜息をついた。

 

「さて、こうなると作戦遂行日を考えないとな……」

 

「私としては明日にでも作戦を実行するのがいいと思う」

 

「明日……か」

 

 はやてが資料に目を落とす。

 

「明日は施設の整備で業者が入るんやが……しゃあないな。施設整備は延期してもらうか」

 

「そうですね、では連絡を──」

 

「その必要はないよ」

 

「え?」

 

「どういう事や?」

 

 アインスとはやてがなのはに視線を向ける。

 

「今回は六課全員ではなく私とはやてちゃんとフェイトちゃん。それとフォアードで出撃すればいい」

 

「しかし、相手は今回の事件の首謀者や。こっちもシグナム達も連れて──」

 

「それならあの2人を連れて行けばいい」

 

 なのはが詰まらなそうに呟く。

 

「なのはちゃん……」

 

 はやては考えを巡らす。

 

「分かった。そのメンバーで出撃しよう。施設整備の業者に関しては任せるで」

 

「お任せください」

 

 アインスが頷く。

 

「じゃあ、私はこれで」

 

 なのはが踵を返す。

 

「おつかれ、あ、そうだ」

 

「なに?」

 

「レイジングハートはどないしたん?」

 

 なのはが自分の胸元に手をやる。

 

「今はメンテナンス中。今日中には戻ってくるよ」

 

「そうなんか」

 

「うん。じゃあ」

 

 なのははそう言うと部隊長室を後にした。

 

 

 

 同日1500

 

 私達ははやての指示によって会議室に集められた。

 

「さて、全員集まっとるな?」

 

 はやてが全員に視線を送る。

 

「今回、この一連のガジェット襲撃事件における首謀者と思われる人物とその潜伏先の情報が入った」

 

 その報告を聞きメンバーがざわめき立つ。

 

「作戦遂行は急やが明日を予定している。メンバーは私とフェイトちゃん、なのはちゃん。それとフォアード。それと、エイダとデルフィ頼めるか?」

 

「「問題ありません」」

 

 私達は同時に回答する。

 

「主。私達は?」

 

「そうだそうだ!」

 

 シグナムとヴィータが声を上げる。

 

「今回は敵の少数で出撃し短時間での作戦遂行が必要や。それに2人が協力してくれる事やし、過剰な戦力になりかねんしな」

 

「まぁ、それはそうですが」

 

「それと、明日は施設整備の為外部の人間がやってきます。私達はそちらの対応をすればよろしいかと」

 

 アインスが資料を片手に説明し、2人はしぶしぶ納得する。

 

「さて、作戦内容としては、施設近くまではヘリで移動した後徒歩で施設へ侵入。その後内部で標的を確保や」

 

「敵の戦力は?」

 

 フェイトが手を上げ質問する。

 

「はっきり言って不明や。各員状況に応じて対応しつつ、危険になったら撤退」

 

 

「さて、そういう事や。明日の0900に出撃や。今日はゆっくり休んで明日に備えるんや」

 

「了解」

 

 各員が敬礼しその場を後にした。

 

「作戦は予定通り……」

 

 自室に戻ったなのはが通信を繋げる。

 

『そうか。彼女達は?』

 

「同行するよ」

 

『素晴らしい!』

 

 通信相手が歓喜の声を上げる。

 

『ところで、デバイスの調子はどうだ?』

 

 なのはは首に掛けられたデバイスを握りしめる。

 

「問題はないよ」

 

『感想はそれだけか?』

 

「見た目は依然と変わらないんだね」

 

『変えたら怪しまれるだろ? それに君も愛着があるんじゃないか?』

 

「レイジングハート……」

 

『AIは凍結したままさ。煩くてかなわないだろ』

 

「そう……」

 

『さて、明日の確認だ』

 

「分かってる。六課のメンバーを施設に誘導……その後……」

 

『その後、八神はやて及び六課メンバーを排除する。例の2人も確保する。彼女達は作戦の支障になりかねないからな』

 

「分かってるよ」

 

『その施設には大量のガジェットを配備してある。施設自体は既に用済みだ。好きなように暴れてくれ』

 

「……」

 

『折角ガジェットにメタトロンを組み込んだんだ。存分に暴れて』

 

「……了解……」

 

 なのはが通信を切る。

 

「はぁ……」

 

 ため息を吐いたなのはがベッドに腰を掛ける。

 

「レイジングハート……」

 

 もはや答える事のないかつての相棒を握りしめたなのはは姿の変わらぬ相棒から未知の力を感じつつ眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 




短くて申し訳ない…

忙しくて


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裏切者

裏切り…一体誰なんだ…


   翌日

 私達はヘリポートに集合した。

 

「さて、全員準備はええな!」

 

「問題ないです!」

 

 全員が頷くと同時に、ヘリのエンジンが始動しメインローターが回転を開始する。

 

「じゃあ、出発や!」

 

 はやてが指示を出すと全員がヘリに乗り込む。

 

 それと同時にメインローターは回転数を上げ、ヘリが飛び立つ。

 

 

 ヘリが飛び立ってから十数分後。

 

『もう少しで目標地点や』

 

 ヘリの騒音により会話が出来ないためはやてが全員に通信を繋ぐ。

 

 それと同時に、私がホログラムを投影する。

 

『まずは着地地点へ到着後入り口周辺を制圧。その後──』

 

『警告、攻撃反応。衝撃に備えてください』

 

『なんやて!』

 

 次の瞬間ヘリ全体に衝撃が走る。

 

『何が起こったんや!』

 

『周辺に複数のガジェットを確認。攻撃を受けています』

 

 ヘリの周辺に複数のガジェットが急接近し魔法弾を斉射する。

 

 攻撃によりヘリが被弾し、エンジン出力が低下する。

 

『このままやと不味い!』

 

『我々が出撃し外部のガジェットを破壊します』

 

『出撃許可を』

 

 はやてはヘリの揺れに耐えるように体を支えながら叫ぶ。

 

『了解や! 二人とも! 出撃!』

 

 ガジェットの砲撃で扉が破損すると同時に私達はヘリの外部へと飛び出す。

 

 それを確認したガジェットがこちらに一斉射撃を行う。

 

 しかし、ガジェットが発射する魔力弾の威力は低く、シールドを貫くことはなかった。

 

「ファランクス展開」

 

 マルチウェポンシステムからサブウェポンファランクスを周囲にばらまく。

 

 ファランクスの弾幕によってヘリ周辺のガジェットが被弾し、撃墜する。

 

『周辺のガジェットを掃討しました』

 

『良し!』

 

『ヘリのスキャン結果をお伝えします。甚大な損害を受けています。このままでは目標地点までの飛行は不可能です。不時着を提案します』

 

『くっ……しゃあない……全員不時着に備えるんや! 2人は着地点の確保を!』

 

『了解』

 

 ヘリの損傷状況を計算し、最適な着地ポイントへと移動する。

 

 そこには既に複数のガジェットが占拠していたが、デルフィの戌笛により掃討され、着地点の確保に成功する。

 

『着地点確保。ガイドビーコンを展開します』

 

『了解や! 着地点へ移動するで!』

 

 

 

  数分後、黒煙を撒き散らしながらヘリが荒野の着地点へと不時着する。

 

『さぁ! 皆降りるんや』

 

 はやての指示に従い全員がヘリから降車する。

 

「現在地は?」

 

「目標地点より5km南東の地点です」

 

「ここからは徒歩やな……しゃあない。全員周囲に警戒しつつ移動を開始するで」

 

「了解」

 

 全員に指示を出した後、はやてはパイロットへと近寄る。

 

「作戦終了までに修理しておいてくれるか?」

 

「了解」

 

 こうして私達はヘリパイロットをその場に残し目標地点へと移動を開始した。

 

 

 

 

「ようやく到着や……」

 

 目標の研究施設は、荒野の一角に隠匿されていた

 

「こんな場所にかなり大きな規模の施設だね」

 

「さて、潜入開始や」

 

 はやての指示に従い、私達は施設内部へと歩みを進める。

 

 施設内部は複雑な構造になっており散策に時間がかかる。

 

「スキャン完了。マップデータをデバイスに転送します」

 

 私はスキャンしたデータをはやてに転送する。

 

「結構不気味だね」

 

「せやね……それにしても無駄に広いところやな」

 

「私は向こうを見てくるよ」

 

 なのはがレイジングハートを構えて隊列を離れようとする。

 

「確かに分散した方が効率的やな……ならフェイトちゃんと──」

 

「私一人で良いよ」

 

「敵の本拠地や、一人は危険すぎるで」

 

「私は大丈夫。それよりこの先の大広間を散策して欲しいな」

 

 はやてが本型のデバイスを開きマップデータを確認する。

 

「せやな……ならほかの所の探索はなのはちゃんに任せるで」

 

「了解」

 

 なのははそう言うと別行動を開始した。

 

「さて、先へ進むで」

 

 私達は扉を開け大広間へと移動した。

 

 

「ここは……」

 

「大広間……というより巨大な訓練施設?」

 

 大広間だと思われた場所は訓練施設の様な開けた空間が広がっていた。

 

「一体ここは何の施設なんや?」

 

「研究施設? でも……目標の姿もないし……」

 

 その時、周辺にメタトロン反応が急増する。

 

「警告します。周囲にメタトロン反応増大」

 

「ETR反応確認。ガジェット部隊だと思われます」

 

「なんやと!」

 

 壁の一部が稼働しそこから大量のガジェットが放出される。

 

 それにより、内部のAMF濃度が上昇する。

 

「くっ! 嵌められた!」

 

 周囲を取り囲んだガジェットが一斉に攻撃を開始する。

 

「全員防御態勢!」

 

 それに伴い、瞬時にユニゾンしたはやてが全体を覆うようにドーム型のシールドを展開する

 

 複数回エネルギー弾が命中するだけでドーム型のシールドにひびが入る。

 

「くっ!」

 

「はやて!」

 

 シールドに亀裂が入りはやてが苦悶の表情を浮かべる。

 

「なんちゅう威力や……」

 

「データ解析終了。ガジェットにメタトロンが組み込まれている為、威力や性能がアップグレードされてます」

 

「なんてことや……」

 

「迎撃します」

 

 私達はドーム型のシールドから出るとガジェットに攻撃を介する。

 

「ビームランス発射」

 

 私は複数のガジェットに目標を定めビームランスを発射する。

 

 発射されたビームランスは数機のガジェットを貫通し撃墜するが、多くのガジェットは高速回避行動を行う。

 

 それにより、予定よりも撃墜数が少ない。

 

「避けたやと……」

 

「恐らくですが攻撃よりも回避を重点的に行うようにプログラムされているようです」

 

「厄介やな……」

 

「こうなるとなのはが心配だ……」

 

「大丈夫やと思うけど……連絡が取れんのや……」

 

 どうやら、AMFの影響で通信ができないようだ。

 

「このままだとジリ貧や! ガジェットの数を減らしながら撤退や!」

 

「了解!」

 

 はやての指示に従い全員が攻撃態勢を整える。

 

「はい!」

 

 フォアードとフェイトがはやてが展開したドーム型のシールドから飛び出すとガジェットとの戦闘を開始した。

 

 ガジェットとの戦闘が開始してから10分以上が経過する。

 

 既にガジェットの撃墜数は100を超えているが追加されるガジェットの数は衰えることがない。

 

「くっ……はぁ……はぁ……」

 

 時間経過と共にAMF濃度が上昇しこちらの戦力が低下していく。

 

「く……一体……どれだけいるんや……状況は?」

 

 はやてが全員に状況報告を促す。

 

「我々は問題ありません」

 

「私達も何とか大丈夫です!」

 

 スバルがティアナと背中合わせになりながら報告する。

 

「フェイトちゃんは?」

 

「私は大丈夫、だけど……」

 

 キャロが膝を着き、エリオとフェイトが庇うように立っていた。

 

 このような閉所では召喚魔法は効果的では無い為攻撃手段が乏しいのも原因だろう。

 

「流石に……これは厳しいか……どうにかならんか?」

 

「このような閉所ではバースト兵器を使用しては全員に被害が及びます」

 

「外壁を破壊できんか?」

 

「現状で外壁を破壊した場合施設全体へのダメージが及ぶ危険性があります」

 

「打つ手なし……やな……撤退しようにも……これじゃあ……」

 

 ガジェットは回避重視で行動しており、AMFによる全体の消耗を狙っていると推測される。

 

 ガジェットの数を減らそうにも爆発系や広範囲攻撃でははやて達に被害が出てしまう。

 

「万事休す……か……」

 

 はやてが呟いたその時。

 

「聞こえる? はやてちゃん?」

 

「なのはちゃんか!」

 

 ノイズ交じりだがなのはから通信が入る。

 

「そっちは無事なんか?」

 

「こっちは大丈夫。状況は分かっているよ」

 

「どういう事や?」

 

「今私はモニタールームに居るから」

 

「そうなんか」

 

「うん。こっちで調べたところ逃げ込めそうな場所を見つけたよ」

 

「本当か!」

 

「うん。今データを送るよ」

 

 データが転送されてきたようではやてがデバイスを開く。

 

「ここなら多分安全だよ」

 

「了解や!」

 

「まずははやてちゃんが撤退して」

 

「え?」

 

「今からその場所に行くよ。そこで合流しよう」

 

 なのははそう言うと通信を切った。

 

「はやて、その場所は安全なの?」

 

「なのはちゃんはそう言っとるし、今から向かうらしいで」

 

「うん」

 

 はやては一度全体を見回す。

 

「まずは、キャロとエリオをその場所へ撤退させるで! それ以外の全員で撤退の援護や!」

 

 

「了解!」

 

 エリオがキャロに肩を貸し立ち上がる。

 

「2人とも合図したら全力で撤退して。なのはがそこに居るから」

 

 フェイトの指示に2人は頷く。

 

「じゃあ、作戦開始や!」

 

 私はガジェット部隊にゼロシフトで急接近し、部隊を分断する。

 

 分断された部隊にデルフィが急接近し、部隊をさらに分断する。

 

 分断された部隊をフェイトとスバルが強襲する。

 

 はやてとティアナが遠距離から攻撃を行い、その隙に2人が大広間から走りながら撤退する。

 

 

  撤退した2人はなのはが指定したポイントへとたどり着き扉を開き中へと飛び込んだ。

 

 部屋の中は静まり返っており、明かりが付いておらず闇が広がっていた。

 

 2人が部屋の中央へ歩みを進めると突如扉が閉まり完全な暗闇が支配する。

 

 突然の事に警戒する2人を取り囲むように、突如として複数の赤い光が点灯する。

 

 その光はガジェットのメインカメラの光だった。

 

 突然の事に驚きながらもキャロを守るようにエリオは前に出る。

 

「あれ? おかしいな……はやてちゃんが来ると思ったんだけどなぁ……」

 

 聞き覚えのある声が暗闇から木霊する。

 

 その声を聴いて2人は安堵の表情を浮かべる。

 

 赤い光が割れ、声の主が現れる。

 

「まぁ……仕方ないか……」

 

 赤い光に照らされ、声の主のシルエットがはっきりと映し出される。

 

「悪く思わないでね」

 

 声の主が手を上げ、そして手を振り下ろした。

 

 

 

「ETR反応現象。残り半分程です」

 

「くっ……手こずらせおって……」

 

 ガジェットの半数を撃破し、AMF濃度も低下し始めるが、想定以上の時間が経過してしまった。

 

「二人は……大丈夫かな?」

 

「なのはちゃんと合流しているはずやから大丈夫やと思うが……心配?」

 

「まぁ……ね。あれ以来なのはと連絡が取れないし……それに嫌な予感もする」

 

 フェイトの表情が少し曇る。

 

「よし、残りは私達で相手するで。フェイトちゃんはなのはちゃんが指定したポイントへ向かってくれへん?」

 

「はやて……良いの?」

 

「この数なら問題ない。せやろ?」

 

 はやてがこちらに視線を向ける。

 

「はい」

 

「問題はありません」

 

「そう言う事や。ここは任せて先に行くんや」

 

「うん。ありがとう、はやて」

 

 フェイトは踵を返すと隊列を離れる。

 

「一度このセリフ行ってみたかったんや」

 

「あはは……」

 

 スバルとティアナがはやてに視線を向け苦笑いをする。

 

「さて、さっさと片付けるで!」

 

 私達は残敵の掃討を開始した。

 

 

  隊列を離れたフェイトは合流ポイントまで走り出す。

 

「ここか」

 

 指定されたポイントの扉を開ける。

 

「え……」

 

 フェイトの眼前に広がっていた光景は予想を超え理解しがたいものだった。

 

 部屋の中心には多数のガジェットに包囲され折り重なるように倒れ込んでいるキャロとエリオの姿があった。

 

「あぁああぁぁぁあああぁ!!」

 

 半狂乱となったフェイトはバルディッシュを上段に構えると飛び出し、2人の周囲を飛行するガジェットに切り掛かる。

 

「エリオ! キャロ!」

 

 倒れている2人に駆け寄り首筋に手を当てる。

 

「良かった……まだ脈はある……」

 

 フェイトは2人を構うように立ちあがると周囲を見据える。

 

「数は……」

 

 多数のガジェットに包囲されておりAMF濃度も高位を示している。

 

「このままじゃ……何とかしないと」

 

 フェイトは通信を繋ごうとするがAMF濃度が高すぎる為通信能力に影響が出ている。

 

「くっ……」

 

 フェイトは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべバルディッシュを握りしめる。

 

「近寄るなぁ!」

 

 バルディッシュを凪ぎ、周囲のガジェットを迎撃する。

 

 しかしAMF下においての行動は負担が大きく次第にフェイトにも疲労の色が見え始める。

 

「はぁ……はぁ……大丈夫……大丈夫だから! きっとみんなが……なのはが助けに来てくれるから!」

 

 フェイトは倒れている2人と自信を励ますようにつぶやき続ける。

 

 その時、部屋に足音が木霊する。

 

「誰!」

 

 フェイトは足音のする方へとバルディッシュを構える。

 

「な……なのは……」

 

 フェイトは安堵の表情を浮かべる

 

 だが、同時にある疑念が頭をよぎる。

 

「なのは、エリオとキャロが……急いで撤退し──」

 

「次こそはやてちゃんだと思ったんだけど……まぁいいか」

 

「なのは……何を言って……」

 

 なのはが手を掲げると包囲していたガジェットが散開する。

 

「なのは……まさか!」

 

「2人が来るのは予想外だったよ」

 

 フェイトはバルディッシュをなのはに突き付ける。

 

「まさか! 裏切ったの! どうして!」

 

「最初に私を裏切ったのは管理局とはやてちゃんだよ」

 

「どういうこと……」

 

「今の管理局は腐敗している。複数の次元に対して見て見ぬふりや黙認、汚職……公式と言いつつ危険なロストロギアの売買。個々の能力を抑制し反乱を抑えるためのリミッター。そして、私は何度も警告したにもかからず寄りにもよってあの2人を!!」

 

 なのはは激高しその体から魔力があふれ出す。

 

「まさか……リミッターが……」

 

「ねぇ……フェイトちゃん」

 

「な……なに?」

 

「そんなに怯えないでよ」

 

 なのはが小さく微笑むとフェイトにより添うように抱き着く。

 

「私と一緒に管理局を作り直さない?」

 

「管理局を……何を言って……」

 

「私達は今この腐った管理局を作り直すため! 新しい管理局を作るための準備を進めているの!」

 

 まるで演説するように大手を振るうなのはの動きに合わせガジェットも動く。

 

「全ての時空を次元を管理し! 魔法を! 与えられた才能を! 運命を! その力を正しい道に使う! その為に私達はクーデターを始めるの!」

 

「く……クーデターを……そんなこと……ありえない……」

 

 嬉々とするなのはに比例するようにフェイトは苦悶の表情を浮かべる。

 

「安心してよ。軍部はこちらが掌握しているし戦力もある。クーデターはもうすでに成功したようなものだから」

 

「一つだけ聞かせて……」

 

「なにかな?」

 

「クーデターを……仮にクーデターを成功させたとして……その後は?」

 

「そんなの決まってるよ! 他の時空や次元に進出して……いずれは全ての世界を支配するの!」

 

 なのはがその場で高笑いをする。

 

 その表情には赤いエネルギーラインが走っている。

 

「な……なのは……」

 

「ねぇ、フェイトちゃん。1つ提案があるんだ」

 

「な……なに?」

 

 なのはが依然と同じ表情でフェイトに微笑む。

 

「私と一緒に行こうよ」

 

「え?」

 

「私と一緒に新しい管理局を作ろう」

 

 なのはがフェイトに手を差し出す。

 

「ねぇ……なのは……」

 

「なにかな?」

 

「エリオとキャロはどうして……」

 

「あの2人は大した戦力になりそうもなかったし。仕方ないよ」

 

「そんな……そんなことで……」

 

「革命には犠牲が付き物だよ。でもフェイトちゃんは別だよ。一緒に行こうよフェイトちゃんの事は好きだから」

 

「ふざけ……ないで……」

 

「え?」

 

 フェイトの声が次第に大きくなりやがては怒声に代わる。

 

「ふざけないで! そんなことで……そんなことで2人を!」

 

「フェイトちゃん……」

 

「どうして! どうして犠牲なんて! 考え直して!」

 

 フェイトは立ち上がりバルディッシュを構える。  

 

「なのは! 私は管理局員として貴女を逮捕し──」

 

 その時、銃声が響きフェイトはその場に膝を着く。

 

「え?」

 

「残念だよ……実に残念だ……」

 

 なのはが握りしめた銃の銃口から煙が上がる。

 

「な……なの……」

 

「意外と質量兵器も役に立つね。野蛮なものだと思ってたけど」

 

 左足から血を流すフェイトをなのはが見下す。

 

「そろそろ時間かな……」

 

 なのはが銃口をフェイトの頭部を狙う。

 

「な……なのは!」

 

「さようなら。フェイトちゃん」

 

 銃声が木霊し、なのはが放った銃弾はフェイトの右目を貫通し床に着弾した。

 

 その数瞬後、フェイトはその場に倒れ、血だまりが広がる。

 

「……」

 

 その光景を一瞥したなのはが踵を返し暗闇へと消えていった。

 




最近忙しくて…更新はかなり遅れるでしょう…


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合流

お待たせしました。


  敵ガジェット部隊を殲滅後、私達はなのはが指定した合流ポイントへと移動を開始した。

 

「えらい時間がかかってもうたな」

 

「ガジェットの機能向上と閉所という条件、回避行動に重点が置かれていたのが原因でしょう」

 

「敵さんも強くなっとるっていう事やな……対策せなあかんな」

 

「そうですね」

 

「それよりエリオ達は大丈夫でしょうか?」

 

 スバルが心配そうな表情を浮かべる。

 

「なのはちゃんと合流しているはずやし、フェイトちゃんも居るはずやし大丈夫やろ。もう少しで合流できるで」

 

「急ぎましょう」

 

「そやな」

 

 はやて達が走り出し私達はその速度に合わせ飛行する。

 

 

 数分後、合流地点に到着する。

 

 はやてが扉を開ける。

 

「お待たせやね。思った以上に時間が……え?」

 

「なに……これ……」

 

 部屋の中心には折り重なるように倒れ込むキャロとエリオ。

 

 そして、2人を庇うように倒れ込むフェイトの姿があった。

 

「どういう事や? 一体……一体何が起こってるんや!」

 

 はやてはパニック状態になりながら3人に駆け寄る。

 

 室内には3人のほかに動体反応などはないがAMFの残渣が残されている。

 

「AMF残渣を確認。恐らくガジェットが先程まで存在していたものと思われます」

 

「そんな……とにかく応急処置……を……」

 

 フェイトに駆け寄ったはやてが言葉を詰まらせ悲鳴を上げる。

 

 フェイトは右目と左足を銃弾の様なもので打ち抜かれていた。

 

 その悲鳴を聞きスバルとティアナが駆け寄る。

 

「どうしたんですか!」

 

「こ……これは……」

 

「こんな……こんな事って……なぁ! 3人は大丈夫なんか!」

 

 はやてが私に縋りつく。

 

「診断終了。損傷部位確認。まだ息はあります」

 

「早く! 早く応急処置を!」

 

「了解」

 

「応急処置を開始します」

 

 デルフィがエリオとキャロの処置を開始する。

 

 私はフェイトの傍らにしゃがみ込み首筋に医療用ナノマシンを注射する。

 

 しかしそれだけでは右目を貫通した銃創と脳の損傷は防げない。

 

 フェイトの頭部を包むように医療用ジェルシートを展開する。

 

「これは?」

 

「ナノマシンを医療用ジェルシートに含ませてあります。これにより損傷した脳を保護します」

 

「助かるんか?」

 

「これはあくまでも応急処置です。医療施設で治療を行わない限り危険です」

 

「そんな……」

 

 スバルがエリオを、ティアナキャロを抱え。私とデルフィでフェイトを空中に固定し移送を開始する。

 

「そう言えば……なのはちゃんは……どこや?」

 

「周辺に反応はありません」

 

「無事やと良えんやけど……」

 

「なのはさんなら大丈夫ですよ。今はとにかく」

 

「せやね……さぁ! 行で! 急いで本部に戻るんや!」

 

 私達は重傷者を確保し、撤退を開始した。

 

 

 

  研究施設を出ると同時にはやてがヘリパイロットへ通信を繋ぐ。

 

「ダメや……繋がらない……」

 

 今度は本部に通信を繋ぐ。

 

「大変なんや! フェイトちゃんが! 負傷者が多数いるんや! 急いで迎えを!」

 

『……じ! 申し訳……しゅう……』

 

 通信は不安定でありアインスの声にノイズが交じる。

 

「どうしたんや!」

 

『六課本部に敵襲が!』

 

「なんやって!」

 

 はやての表情が凍り付く。

 

『どうやら施設整備の業者が犯人のようで。各地の管理局事務所でも同様の事件が』

 

「そんな……まさか……クーデター……」

 

『敵はリミッターがなされておらずガジェットも大量に有しています!』

 

「皆は! 皆は無事なんか?」

 

『今からロストロギアの保管室へ全員で──』

 

 無線越しに爆破音が響き無線が途切れる。

 

「アインス! アインス! くそっ!」

 

「どうしたんですか?」

 

「六課本部が敵襲を受けたみたいや……恐らくほかの場所も……」

 

「そんな……」

 

 次の瞬間周辺に大量のETR反応が発生する。

 

「警告します。敵性反応多数を確認」

 

「なんやて!」

 

「猛攻きます」

 

 直後、研究施設の屋根を突き破り大量のガジェットが私達を取り囲むように散開する。

 

「なんて……数なんや……」

 

「空が埋め尽くされている……」

 

「総数は優に1000を超えています」

 

「こんな時に……」

 

 はやては負傷者を守るように立ちはだかり、それに倣うようにスバル達も陣形を組む。

 

 だが、ガジェットは攻撃する訳ではなく、こちらを静観している。

 

「攻撃してこない?」

 

「どういう事や……」

 

 その時、複数のガジェットからホログラム映像が投影される。

 

 その映像には1人の男性が映し出されていた。

 

「あの人は!」

 

「ジェイル・スカリエッティ……奴がこの騒動の首謀者か!」

 

 はやては拳を握りしめる。

 

『初めましてと言っておこうか、六課機動部隊、および管理局の諸君』

 

 スカリエッティは楽しげに語る。

 

「一体……一体何が目的なんや! クーデターを起こしたんか?」

 

『その通りさ。そしてクーデターは既に成功した』

 

「なんやて……」

 

『そうそう。今回のクーデターに大きく尽力してくれた人物を紹介しよう。この放送は各地で流れているからな』

 

 スカリエッティは一礼しフレームアウトする。

 

 それと入れ替わるように1人の女性が姿を現す。

 

「え?」

 

「そんな……どういう……」

 

「どうして! どうしてそこにいるんや!! なのはちゃん!」

 

 はやての叫び声が木霊するが、ホログラム映像のなのはは表情を変えない。

 

『私は、今までの管理局は腐敗していると考えています』

 

「なんやと……」

 

 なのはは演説を続ける。

 

『今までの管理局はリミッターによる力の抑制、ロストロギアの取引を行うことで一部の人間が莫大な富を得る……そして多次元への干渉はしておきながら、危険と思われた次元へは干渉すらせず、放置する始末……』

 

 はのはが首を横に振り、拳を握りしめる。

 

『ここまで腐り、堕落した管理局は1度ゼロに戻す必要があります』

 

「何を言っているんや……」

 

『そう。全てをゼロに……すべてを1度リセットする必要があります!』

 

『全てをリセットし新たな管理局がすべての次元や時空を管理する完璧な組織になる必要があります!』

 

 なのはの演説に拍手が混ざる。

 

 はやてはそのホログラム映像を睨みつけている。

 

『もし、私と同じ意見の人が居るなら私達の下に来てほしいと思います。私達は皆を受け入れる準備があります』

 

 ホログラム上のなのはは慈愛に満ちた表情で微笑む。

 

『さぁ……皆で新たな管理局を作り、世界を作り替えましょう!!』

 

 歓声が上がりなのはは陶酔した笑みを浮かべる。

 

「狂っとるで……なのはちゃん……」

 

 はやては俯き唇を噛む。

 

 ホログラム映像にスカリエッティが再び映る。

 

『まずは手始めに我々を高みへと導いてくれるエネルギーがある時空を手中に収めようと思う』

 

 スカリエッティがそう言うと時空の座標が表示される。

 

「なんやあの座標……」

 

「あれは、我々が居た時空の座標です」

 

「なんやて!」

 

「恐らく目標のエネルギーは──」

 

『我々を高みへ導いてくれるモノ! その名はメタトロンだ!!』

 

「メタ……トロン……」

 

『既に一部の部隊がメタトロンを回収する為に時空を超えた』

 

 ホログラム映像には複数の艦隊が時空跳躍をする映像が映し出される。

 

『さぁ! 新たな時代の幕開けだ! だが、その前に……』

 

 周囲のガジェットに動きがみられる。

 

『邪魔者には退場してもらう必要があるな』

 

 そう言うとホログラム映像は消え、複数のガジェットがこちらに襲い掛かる。

 

 

 

 

 

  光の無い宇宙空間を1機の探査船。

 

 リユニオンが航行している。

 

「2人の反応が消えてから時間が経過したが……連絡はないな」

 

 トムは端末を操作しながら呟く。

 

「そうね……まぁ、あと数日は待ってみましょう」

 

 ハーマイオニーは資料を片付けると背筋を伸ばす。

 

「さて、少し休むとしよう。スコーンでも焼くか」

 

「あら良いわね」

 

 トムはキッチンスペースへ移動するとスコーンをオーブンに入れる。

 

 その時、センサーが反応を示す。

 

「どうした?」

 

 トムはティーポットを片手にハーマイオニーに近寄る。

 

「時空の歪みを計測したわ」

 

「時空の歪み? 2人か?」

 

「分からないわ……どんどん大きくなっているわ」

 

「おいおい、この大きさは……」

 

「時空の扉が開くわ!」

 

 次の瞬間、センサーの針が降り切れ、ゲートが開く。

 

「おいおいおい! まずいんじゃないか!」

 

「巨大な物体が出てくるわ! あれは……戦艦?」

 

 次の瞬間、リユニオンを取り囲むように2機の戦艦が現れる。

 

「挟まれた!」

 

「どうする? この船には戦艦に勝てるほどの武器は……」

 

「あれを使うにも時間が……」

 

 その時、戦艦から通信が入る。

 

『こちらは新生時空管理局だ。そちらの船舶は我々が占拠する』

 

「新生時空管理局?」

 

「何を言っているんだ?」

 

『これからそちらに管理局員を送る。無駄な抵抗はするな』

 

「え?」

 

 次の瞬間、2人の前に5人の時空管理局員が転送される。

 

「これは……」

 

「人体の転送か。危ないことするな」

 

「動くな、両手を上げろ」

 

 1人の局員がデバイスを2人に突き付ける。

 

「ここは大人しく従った方が良いわね」

 

「あぁ、そうだな」

 

 2人は手を上げ、その手がバインドで拘束される。

 

「艦内を探索しろ。まだ乗組員がいるかもしれない」

 

「安心していい。乗組員は僕達だけさ」

 

「黙っていろ。いいから探索しろ」

 

「了解」

 

 2人がデッキを抜け艦内の探索に移行した。

 

『これは不味いわね』

 

『あぁ、そうだな。このままじゃスコーンが焦げる』

 

『そうじゃないわよ。まぁとにかく何とかしないと……』

 

『そうだな』

 

 数分後、探索を終えたのか1人が戻ってくる。

 

「報告します。貨物エリアと思われる場所で大量のメタトロンを発見しました」

 

「よし。急ぎ回収して本部へ移送するんだ」

 

「了解」

 

 そう言うと、管理局員がメタトロンの強奪を開始した。

 

『不味いな。あれだけの量を持ち出されると……』

 

『えぇ、何とかしないと』

 

 トムがその場から少し動こうとする。

 

「動くな!」

 

 残った2人の管理局員がデバイスを突き付ける。

 

「すまない。だがこうしているだけでは少し疲れてしまってね」

 

「良いから動くな。動かなければ危害は加えない」

 

「そうかい」

 

 数分後、メタトロンを回収した3人の局員が回収しに来た小型船に積み込むと時空の歪みへと消えていった。

 

『持ち出されてしまったね』

 

『不味いわ。管理局員と言っていたし2人が調査に行った時空かも知れないわ』

 

『またあの2人は厄介ごとに巻き込まれたのか……』

 

『相変わらずね』

 

 トムは残りの2人を見据える。

 

『逃げ出すなら今がチャンスだな』

 

『そうね……やるしかないわね』

 

 ハーマイオニーは深呼吸をする。

 

「ねぇ。一ついいかしら?」

 

「なんだ?」

 

 管理局員は詰まらなそうに答える。

 

「この拘束に使っている魔法だけど珍しいわね。一種のカギの様なものかしら?」

 

「そんなことを知ってどうする? 第一この時空では魔法使いは居ないと聞いているぞ」

 

「だから興味深いのよ」

 

「ふん」

 

 管理局員はハーマイオニーから顔を背ける。

 

「そうね。鍵なら……」

 

 ハーマイオニーは一度咳払いをする。

 

「アロホモーラ」

 

 次の瞬間、バインドが解れる様に解除される。

 

「なっ!」

 

「ね?」

 

「貴様! 何をした!」

 

 管理局員はハーマイオニーにデバイスを突き付ける。

 

 その時、キッチンルームからオーブンのベルが鳴る。

 

「なんだ!」

 

 管理局員はキッチンルームの方を振り返る。

 

「まぁ、その辺にしておいた方が良い」

 

 次の瞬間、トムはバインドを引きちぎり管理局員の首筋を手刀で殴り気絶させる。

 

「全く……無理するな、君は」

 

「そっちこそ。引き千切れるなら最初からそうすればいいのに」

 

「相手の出方を見たのさ」

 

「そう」

 

「貴様等!!」

 

 部屋の隅に居た管理局員がトムにデバイスを向ける。

 

「不味い」

 

 デバイスに魔力が貯まり、魔法弾が発射される。

 

 しかし、発射された魔法弾は赤色の閃光によって打ち消される。

 

「なに?」

 

「気を悪くしないでね」

 

 ハーマイオニーには杖を軽く振ると赤い閃光が管理局員に直撃し、気を失わせる。

 

「油断しすぎよ」

 

「あのくらいなら問題なかったんだがね」

 

「そう。それより現状をどうにかしないと……」

 

「大丈夫だ、スコーンは少し焦げただけさ」

 

「そう。それはいい報告ね」

 

 リユニオンは依然として2隻の戦艦に狙われている。

 

「とにかく逃げるしかないわね」

 

「逃げるってどこへだ? 軍にこの事を知られれば戦争になるぞ。まぁ虐殺かも知れないが」

 

「それはどっちの心配かは聞かないでおくわ。それを防ぐ為にも2人と合流しましょう」

 

「おいおい、合流って……まさかあの時空の歪みに飛び込むのか?」

 

「それしか無いわよ」

 

「はぁ……全く君は無謀だ……だがしょうがない」

 

「そういうことよ。とにかくその2人を脱出艇に乗せて外へ放り出しておいて」

 

「はいはい」

 

 トムは2人を脱出艇に乗せる。

 

「さて、でもどうやって戦艦に狙われた状況から逃げるんだ?」

 

「まぁ、何とかなるわよ。揺れるから掴まってなさい」

 

「君の運転か……とりあえずスコーンでも食べるかい?」

 

「いただくわ」

 

 ハーマイオニーはスコーンを片手に運転席へ移動する。

 

「さぁ! 行くわよ!」

 

「了解」

 

 次の瞬間、リユニオンの全エンジンが最高出力で始動する。

 

『警告する! 変な動きはするな!』

 

 戦艦から警告が発生さえる。

 

「そんな話聞いてられないわよ!」

 

 次の瞬間、リユニオンはその場で後部のメインエンジンと正面の補助エンジンを逆方向に噴射し宙がえりを行う。

 

『逃すな! 撃て!』

 

『しかし!』

 

 戦艦から照準が向けられる。

 

「狙われているぞ!」

 

「2隻はこの船を挟んでいるのよ。同士討ちを恐れてそう簡単には撃ってこないわよ」

 

 宙返りを終えたリユニオンはそのままエンジンを最大出力で時空の歪みへ進路を進める。

 

 それと同時に脱出艇を射出する。

 

「最後に聞くが、本当にあの中に飛び込むのか?」

 

「もちろんよ」

 

「はぁ……とにかく2人に会えると良いんだが……」

 

「何とかなるわ」

 

「そうだな」

 

 こうしてリユニオンは最高速度で時空の歪みに突入した。

 



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療養

もう夏も終わりですね


 

   私達は周囲のガジェットの殲滅をするべくFマインやハルバード等と言った広範囲攻撃を多用してはいるが、ガジェットの数は依然として衰えることはなく、隙を突くように負傷者へ攻撃を仕掛けようとしてくる。

 

 その様な攻撃ははやてがシールドを展開しスバル達が迎撃しているが、殲滅にはまだ時間がかかる。

 

「くそ……キリがない……」

 

「このままやと……」

 

 確かに、これ以上時間が掛かればフェイトの治療が間に合わなくなる可能性もある。

 

 その時、空の一部が歪む。

 

「な……なんや!」

 

「空間湾曲を確認。時空の歪みが発生した模様です」

 

「なんやて!」

 

 さらに時空の歪みから大型の物体が転送されている反応を確認する。

 

「物体の転送を確認。まもなく現れます」

 

「敵の増援か?」

 

「わかりません」

 

 次の瞬間、空間が割れ1隻の探査船が放出される。

 

「なんやあれ……」

 

 船籍を証明する。あの船名は──

 

『エイダ! デルフィ! そこに居るのね!』

 

 リユニオンからハーマイオニーの拡声された声が響く。

 

「知り合いなんか?」

 

「はい。我々の味方です」

 

 複数のガジェットがリユニオンに攻撃を仕掛ける。

 

 しかし、攻撃はリユニオンのシールドによって防がれる。

 

『これは敵という事でいいのよね?』

 

「はい。問題ありません」

 

『わかったわ。EMPパルスを発生させるわ。電子機器などはシールドで守って』

 

「了解」

 

 私達は全員を一か所に集める。

 

「何が始まるんや?」

 

「これよりEMPパルスにより周辺のガジェットを一時的にマヒさせます」

 

「マヒやて?」

 

「はい」

 

 私達は全体を守るようにシールドを展開する。

 

『行くわよ! リブート実行』

 

 次の瞬間リユニオンから強力なEMPパルスが発生する。

 

 EMPパルスに当たったガジェットが機能停止を起こり、地面に落下する。

 

『今よ! 乗って!』

 

 リユニオンが着陸する。

 

「了解」

 

「急ぎましょう」

 

「なんや……よう分からんけど、とにかく行くで!」

 

 私達は負傷者をリユニオンに乗船する。

 

『全員乗った?』

 

「はい」

 

『じゃあ行くわよ!』

 

 全員の乗船を確認後、リユニオンは高度を上げ大気圏を抜ける。

 

「すごい船やな……大気圏突破能力があるんか……」

 

「それだけじゃない。最低限の居住能力はある。それに医療施設もね」

 

 背後から現れたトムに対しはやて達は警戒し攻撃態勢を取る。

 

「まぁ、そう警戒する必要はないさ」

 

「失礼いたしました……」

 

 はやてがそう言うと全員が武装を解除する。

 

「そうそう。立ち話もなんだデッキへ案内しよう。紅茶と少し冷めているがスコーンを用意しよう。君達2人は負傷者を医療施設へ運んでくれるかい」

 

「了解です」

 

「頼むよ。さぁ行こうか」

 

「はい」

 

 私達は負傷者を医療施設へ搬送すると、医療ポットへ移し治療を開始した。

 

 

  デッキに到着した私達をハーマイオニーが歓迎する。

 

「お帰りなさい2人とも」

 

「ただいま戻りました」

 

「そして、初めまして。私の事はハーマイオニーと」

 

 ハーマイオニーが手を差し出すとはやても手を差し出す

 

「八神はやてです」

 

 2人は握手をする。

 

「2人から話は聞いているわ。でも話に出ていた時よりも成長しているようね」

 

「時空の歪みによる時差だろう」

 

「そうね。こっちの紹介がまだだったわね。彼はトムよ」

 

「よろしく」

 

 トムは一礼するとテーブルにティーセットを置く。

 

「さて、お茶でも飲みながら話をしましょう」

 

「そうですね」

 

 はやてがテーブルに着席すると、スバル達も着席する。

 

 はやてが事の経緯を話すとハーマイオニーがため息を吐く。

 

「なるほど……クーデターね……どこの世界も考えることは一緒ね」

 

「それだけ人は戦いを求めているのさ」

 

「はぁ……それにしても多数の次元を支配……ね……」

 

「まぁ、時空管理局って名前の時点で怪しさはすごかったさ」

 

 トムの言葉にはやての表情が曇り、スバル達が俯く。

 

「気を悪くしたなら謝るわ。彼に悪気はないのよ」

 

「気にしないでください……」

 

 そうは答えたはやてだがメンタルコンディションはかなり低い。

 

「ところで貴女達この後はどうするの?」

 

 ハーマイオニーの問いにはやてが答える。

 

「今はまだ負傷者の件がありますので……それに私達の本部にはまだ生存者がいます」

 

「そう。ならその生存者と合流することが先決ね」

 

 ハーマイオニーはティーポットから紅茶を注ぐとはやてに差し出す。

 

「しかし、まさか私達の船を襲ったのがクーデターを起こした人達とはね……」

 

「あぁ、メタトロンも奪われたし……どうする?」

 

「そうねぇ……」

 

「あの!」

 

 はやてが口を開く。

 

「メタトロンと言うのは一体どういったものなんですか?」

 

「簡単に説明すると物すごい力を秘めた鉱石よ」

 

「ものすごい力?」

 

「そうさ。だがそれ故ブラックボックスも多く存在する」

 

「それにメタトロンは人間の精神にも影響を及ぼすの」

 

「その為メタトロンを使って起きた事故や事件はかなり多い」

 

「そんな……」

 

 はやての表情が曇る。

 

「とにかく私達は奪われたメタトロンを回収する必要があるわ。それに貴女達も無関係という事ではなさそうね」

 

「それは……」

 

「まぁ、とにかくこの件が片付くまではお互い協力しましょう。その方が何かと都合が良いわ」

 

「良いんですか?」

 

「もちろんよ」

 

「ありがとうございます」

 

 はやてが頭を下げるのに倣いスバル達も頭を下げる。

 

「良いのよ。それより今日は疲れたでしょ。詳しい話は明日にして休んだ方が良いわ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「いいのよ。2人は部屋を案内してあげて」

 

「了解」

 

「こちらです」

 

 はやて達は私達の案内に従い、宛がわれた部屋へと移動した。

 

 

 

  翌日。

 

 私達はデッキへ集まる。

 

「さて……まずは状況を整理しましょうか」

 

「そうだな」

 

 トムは全員分の紅茶を用意する。

 

「まずはクーデターの状況だが……」

 

 トムは端末を操作すると映像が映し出される。

 

 その映像には複数の施設が既に制圧かに置かれている光景が映し出されていた。

 

「これは……」

 

「時空管理局地上本部……」

 

「それだけやない……聖王教会もや……」

 

 映像になのはが映り演説を開始する。

 

『我々新生時空管理局は既にすべての旧体制の半数を掌握しました』

 

「なんてことや……なのはちゃん……」

 

「たった1日でここまでとは大したものだな」

 

「相当下準備に尽力したのね。もしくはもともと不安定な体制だったか?」

 

『旧体制の管理局員の人達にお伝えすることがあります』

 

「何を言い出すつもりや?」

 

『新生時空管理局に来てください』

 

「なるほど。勧誘ね」

 

「無駄な戦闘は避け、大量の兵士をスカウトする。良い戦法だな」

 

 トムは映像を見ながら頷く。

 

「反抗する人もいるんじゃないですか?」

 

 スバルが疑問の声を上げる。

 

「あぁ。むしろそういう人の方が多いだろう。だが……」

 

『もし、反抗したり立ち向かうというなら』

 

 なのはがデバイスを振り上げると同時に大量のガジェットが宙を舞う。

 

『さぁ……私達と共に新しい管理局を作りましょう』

 

 なのはがそう言うと映像が途切れる。

 

「なのはちゃん……」

 

「最後のアレは脅しね」

 

「あぁ。実際あれだけの物量では厳しいだろう」

 

「どうして……どうしてこんなことに……」

 

 はやては頭を抱える。

 

「このままじゃ制圧されるのは時間の問題ね」

 

「そうだな……とは言えどうする? 今のうちに大本を制圧するか?」

 

 トムはこちらに視線を向ける。

 

「確かにそれも一つの方法ね……でもそれじゃあ多くの被害が出るわ」

 

「それに……地上本部を制圧したところで他の部隊が暴走して被害が出ないとも言い切れない……それに……」

 

「それにまだ生き残りの救助が済んでない」

 

「そうです……今は負傷者の回復を……」

 

「そうね。今は少し状況を見た方が良いわね」

 

「えぇ……そのフェイトちゃん、あの……負傷者の状況は?」

 

 ハーマイオニーは手元の端末を操作しカルテを表示する。

 

「まだ1日しか経っていないから詳しく言えないわ。でも右目は完全に損傷しているわ」

 

「それは……」

 

「えぇ……右目の再生は難しいわ」

 

「そんな……」

 

「脳の損傷は軽微だわ。目を貫通していたのが幸いしたわね……もし目を覚ますなら3週間くらいはかかるわね」

 

「そうですか……エリオとキャロは?」

 

「まだ眠っているわ。でも幸いなことに傷はそこまで深くないわ」

 

「そうですか……」

 

 はやての表情に若干だが安堵が戻る。

 

「えぇ。確かに状況は悲惨だけど悲観するべきではないわ」

 

「そうさ。まぁ少し今は体制を整える必要があるな」

 

 トムはそう言うとホログラムを終了させる。

 

 はやては数度頷き、全体を見回しもう一度頷いた。

 

「それに、貴女達の魔法技術についても興味があるの。後で話してちょうだい」

 

「はい。私も色々と話をしたいと思ってました」

 

 ハーマイオニーとはやては互いに笑みを浮かべた。

 

 

  数週間後。

 

 フェイト達負傷者の治療は順調に進み、既にエリオとキャロの2人は目を覚ました。

 

 しかし、PTSDによりしばらくは休養を余儀なくされる。

 

 

 

 そして数日後、ベッドの上で顔の右側を包帯で覆ったフェイトが目を覚ます。

 

「あれ……ここは……」

 

「あぁ……良かった! 目を覚ましたんやね!」

 

「はやて……っ! そうだ! エリオとキャロは! なのはが!」

 

「大丈夫! 大丈夫や!」

 

 はやては混乱しているフェイトを抱きしめ落ち着かせる。

 

「大丈夫……もう大丈夫や」

 

「はぁ……はぁ……うん……ありがとう……それで2人は?」

 

「その二人なら先に目を覚ましたで」

 

「良かった……」

 

「そうね。でも精神的にかなり深い傷を負ったみたいよ」

 

 ハーマイオニーが入室しフェイトは身構える。

 

「大丈夫や。あの人は味方や」

 

「えぇ。ハーマイオニーと呼んで」

 

「ありがとうございます」

 

 フェイトはハーマイオニーが差し出した手を取る。

 

「さて……まずは貴女の状況を説明するわ」

 

「はい」

 

 ベッドの横に椅子を用意しハーマイオニーが腰を掛ける。

 

「貴女の右目なんだけど……」

 

「はい……」

 

「弾丸が貫通していたわ。それが幸いして一目を取り留めたのよ。でも右目は……」

 

「もう……戻らない……と……」

 

 フェイトは包帯の上から右目の位置に手をやる。

 

「残念だけど……」

 

「フェイトちゃん……」

 

「代わりと言っては何だけど……」

 

 ハーマイオニーは小さな箱を取り出す。

 

「これは?」

 

「眼帯型のカメラデバイスよ。ごめんなさい。本当は義眼が用意できればいいんだけど今はこれしかないの」

 

「いえ……助かります。それで……カメラデバイス?」

 

 フェイトは眼帯型のデバイスを手に取る。

 

「眼帯の表面に有るナノレベルのカメラで撮影した映像を貴女のデバイスを介して見れるようにしてあるわ」

 

「すごい……」

 

「付けてみましょう」

 

 ハーマイオニーはフェイトの顔から包帯を取ると眼帯を着ける。

 

「見た目はこんな感じよ」

 

 ハーマイオニーが鏡を取り出すとフェイトが覗き込む。

 

「どう?」

 

「似合っているよフェイトちゃん」

 

「そう? ありがとう」

 

 その直後、眼帯型のデバイスとバルディッシュがリンクする。

 

「すごい……視える……」

 

「そうなんか?」

 

 はやてがフェイトの眼前で手を振る。

 

「その眼帯は見えるだけじゃないわ。AR技術が施されているのよ」

 

「AR?」

 

「拡張現実よ。簡単に言うと敵のデバイス情報とかが誇張されて表示されるわ」

 

 ハーマイオニーはそう言うと自身の杖を取り出した。

 

「これがどういう風に見える?」

 

「杖に見えますが……」

 

 はやてが答える。

 

「そうね。貴女は?」

 

「私も……普通の杖にしか」

 

「あれ? あっまだARモードにしてなかったのね。ARモードを起動させて」

 

「え? ARモード?」

 

 フェイトがそう言とバルディッシュが光る。

 

「え?」

 

「どないしたん?」

 

「すごい……杖だけが光っているというか……目立つように見える……」

 

「えぇ。これが拡張現実よ、他にも暗視モードや10倍の望遠モードもあるわ」

 

「すごいですね……」

 

「後で検査しましょう。リハビリも始めないといけないからね」

 

「はい」

 

 ハーマイオニーはそう言と病室を後にした。

 

 

  さらに数日後、フェイトは貨物エリアに立っていた。

 

「それじゃあ今から戦闘訓練を行うわね」

 

「はい。お願いします」

 

「じゃあまずは通常モードね」

 

 ハーマイオニーに指示に従い私はフェイトの前に立つ。

 

「それでは攻撃を開始します」

 

 私はストレージデバイスを起動しサーベルを展開する。

 

 それと同時にフェイトに正面から切り掛かる。

 

「っ!」

 

 フェイトはバルディッシュを横に振りサーベルを受け止める。

 

 私は続け様にサーベルを振り上げる。

 

 フェイトもそれに倣うようにバルディッシュを振り攻撃を防ぐ。

 

「見えているみたいね」

 

「はい。立体的に見えています」

 

「それは良かったわ。続いてARモードに行きましょう」

 

「はい」

 

 フェイトの眼帯が光る。

 

「起動したわね。デルフィ」

 

「了解」

 

 フェイトの背後に立ったデルフィがロッド状のデバイスを起動させる。

 

「攻撃を開始します」

 

 デルフィがフェイトの背後にロッドを振り下ろす。

 

 フェイトは振り返ることなくロッドをバルディッシュで防ぐ。

 

「ARモードの調子はどう?」

 

「良い感じです。なんというか……後ろにも目があるような感じがします」

 

「全方位に対応しているわ。それをデバイスを介して最適な行動予測を眼前に投影してくれるはずよ」

 

「すごい技術ですね」

 

「まぁね。さて……それじゃあ……」

 

 その時、はやてが貨物エリアに現れる。

 

「はやて? どうしたの?」

 

「新たな情報や。皆デッキへ集合してくれへんか?」

 

「了解」

 

「わかった。向かうよ」

 

 私達は訓練を中断しはやてと共にデッキへ移動した。

 

 



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二局面同時作戦

今回は調子が良かったので。


   私達がデッキへ到着するとはやては端末を操作し始める。

 

「さっき傍受した情報や」

 

 モニターに映像が映し出される。

 

 その映像には複数の新生管理局将校となのはが映し出される。

 

「こいつは……」

 

 もう1人男性が、ジェイル・スカリエッティが姿を現す。

 

「もはや。この世界は全て我々の管理下となった」

 

 将校と思われる初老の男性が演説を開始する。

 

「その事を記念し、時空管理局地上本部で記念式典を行おうと思う」

 

「記念式典やと?」

 

「式典には今後新生時空管に力添えをしてくれる企業の人間を招待しようと考えています。多くの企業が参加していただけることを願っています。期日はおって連絡を」

 

「企業の人間?」

 

「まぁ、ある程度の財力があって金銭的支援を行ってくれる連中だろうな」

 

「これだけの力のある組織だわ。きっと多くの企業が参加するわね」

 

 トムは詰まらなそうに映像を停止させる。

 

「しかし記念式典とはね」

 

「そうですね……でもこれはチャンスかもしれません……」

 

「チャンスですか?」

 

 ティアナがはやてに問いかける。

 

「せや。記念式典の間は六課本部の警備は手薄になる可能性もある。その隙に皆を救出するんや」

 

「なるほど……」

 

「せやけど、記念式典の内容も無視は出来ん内容や」

 

「と言いますと?」

 

「記念式典に誰が参加するのか。また記念式典でどんな内容が発表されるかやな」

 

「どういうことです?」

 

 スバルとティアナが首をかしげる。

 

「記念式典と言ってもただパーティーをするだけじゃ無いってことだよ」

 

 フェイトが2人に近寄り答える。

 

「といいますと?」

 

「記念式典には複数の企業の代表を招待するんだろ?」

 

 トムの問いにハーマイオニーが答える。

 

「そんな式典がただの式典ではないはずよ。恐らく何か重大な発表があるはずよ」

 

「重大な発表?」

 

「恐らく新型のガジェットか、決戦兵器と言ったところやろう……せやかと言って式典に忍び込むことは難しいやろうし」

 

 はやてが頭を抱える。

 

「つまり条件は、君達以外の顔が知られて居ない人間という事だな」

 

「そうですけど……そんなの……まさか!」

 

「記念式典ね。パーティードレスを用意しなきゃいけないわね」

 

「危険すぎます!」

 

「大丈夫よ。こう見えても修羅場は潜ってきたのよ」

 

「しかし」

 

「大丈夫よ。貴女達は自分達の仲間を助けに行って」

 

「わかりました……ですが!」

 

 はやてがスバルとティアナを見る。

 

「2人を護衛として付けさせてください」

 

「え?」

 

「ですが、私達は顔が」

 

「せやけど……」

 

 はやてが頭を抱える。

 

「なら1つ良い方法があるわ」

 

「どんな方法ですか?」

 

 スバルが興味深そうにハーマイオニーを見据える。

 

「ちょっとした魔法薬があってね。それでパーティー会場の人に変装するのよ」

 

「そんな事ができるんですか?」

 

「えぇ、その人の体の一部。髪の毛とかが手に入ればね」

 

「それならなんとかなりそうや……2人はそれで潜入して護衛を」

 

「「了解しました!」」

 

 スバルとティアナが同時に敬礼をする。

 

「なら、私達はその間に六課本部やな」

 

「了解です」

 

 はやてが私達に視線を向ける。

 

「それなら私も……」

 

「それはダメや。フェイトちゃんはまだ療養しておいた方がええ」

 

「でも……」

 

「大丈夫や」

 

 はやてはフェイトに微笑む。

 

「さて、それじゃあ準備でも始めるか」

 

「そうね。まずは架空の口座を開設して架空の資金援助を行う必要があるわね」

 

「まぁ、この世界のセキュリティなら何とかなるだろう」

 

「えぇ、それに関しては私がやるわ」

 

「そうか。なら僕はその他の準備に移るとするよ」

 

「さて、私達も作戦の準備を始めるで」

 

 はやての指示に従い私達は準備を開始した。

 

 

  数日後。

 

 式典当日。

 

 私達はミッドチルダ郊外にステルスを施した揚陸艦で地表に降り立った。

 

 

「さて、それじゃあ私達は式典会場に向かうわね」

 

「面倒なことにならなければいいんだがな」

 

 黒を基調としたドレスを身にまとったハーマイオニーとタキシードを着込んだトムが周囲を見回す。

 

「さて、車を降ろすわね」

 

 揚陸艦からスポーツカーを降ろすとスバルとティアナが驚愕する。

 

「こ、これを運転するんですか?」

 

「そうよ。運転は不安?」

 

「いえ……と言うか……」

 

「安心して、自動運転だから」

 

「そう言う事なら……」

 

 2人は興味深そうに車の中を見回してた。

 

「私達は六課本部やな」

 

「そうですね」

 

「そう言えば式典へ招待状は届いているんですか?」

 

 はやてが疑問に思うとハーマイオニーが手元のポーチから1枚の紙を取り出す。

 

「ここにちゃんとあるわ」

 

「良く用意できましたね」

 

「そりゃ架空口座でかなりの額を寄付したし、大企業の令嬢なんて設定の嘘情報まで流したからな」

 

「やるからには徹底的によ」

 

「設定が凝りすぎな気もするが……まぁいいか」

 

 トムは呆れながらトランクルームに荷物を積み込むと後部座席に鞄を置く。

 

「荷物はこんなもんか?」

 

「そうね」

 

 そう言うと2人は後部座席に座る。

 

「さて、そろそろ行こうか」

 

「そうね。2人も乗って」

 

「は、はい!」

 

「で……どっちが運転する?」

 

「ティアが……」

 

「私?」

 

「うん」

 

「う、うん」

 

 ティアナが運転席に座り、スバルが助手席に座ると車のエンジンがかかる。

 

「目標地点は設定済みよ。後は運転するふりだけで良いわ」

 

「ふりだけって言われても……」

 

「まぁ、気楽にな。座っていれば事故は起きないさ」

 

「さて、それじゃあ行ってくるわね」

 

「はい。お気を付けて」

 

「そっちもね」

 

 ハーマイオニーがそう言うと車が発進し遠くへと消える。

 

「さて、私達も行くとしようか」

 

「そうですね」

 

「ところで……」

 

「なんですか?」

 

 はやてが周囲を見回す。

 

「私達の車は?」

 

「ありません」

 

「じゃあ?」

 

「私が運びます。さぁ」

 

 私ははやての前に両手を差し出す。

 

「まぁ、たまにはこういうのもええな」

 

 はやては私に体を預け抱きかかえられる。

 

「それでは、機動六課本部へ移動します」

 

 私達は目標地点へと移動を始めた。

 

 十数分後。

 

 私達は六課本部上空へ到着する。

 

「皆……」

 

「周辺に敵影は多数ありますが潜入には問題ありません」

 

「しかし、正面突破と言う手段もあります」

 

「お好きな方をお選びください」

 

「せやな……」

 

 はやては数秒思案する。

 

「中に居る皆に救助が来たことを知らせる為にもここはド派手に行くとしよか」

 

「了解です」

 

 私達は六課正面に着地する。

 

 それと同時に広域にジャミングを展開する。

 

「なっ! 何者だ!」

 

 正面玄関を護衛していた兵士がこちらにデバイスを向ける。

 

「六課機動部隊! 部隊長の八神はやてや! 家族を迎えに来たんや!」

 

「なんだと!」

 

 私は眼前にFマインを展開するとデルフィがそれを正面玄関に投げつける。

 

 その着弾と同時に六課正面玄関が吹き飛ぶ。

 

「さて、行くとするか」

 

「了解です」

 

 はやてを先頭に私達は歩みを進めた。

 

 

 六課内部では多少の抵抗はあったものの問題なく潜入で来た。

 

「やはりパーティー会場に人員を割いていたようやな」

 

「そうですね」

 

「どちらへ向かっているのですか?」

 

「ロストロギア保管室や。きっとみんなそこに居るはずや」

 

「了解です」

 

 私達はロストロギア保管室の扉を開ける。

 

 

「やっぱりな……」

 

 保管室の中は荒らされており、ロストロギアは1つも検知できない。

 

 はやては周囲を一瞥した後、歩みを進める。

 

 その先は壁だが、その向こうには空間を検出する。

 

「ここや」

 

 はやてが扉の一角を振れるとスキャナーが起動しロックが解除される。

 

「ここは?」

 

「隠し部屋や。ここに入るには私かアインスじゃないとは入れないんや」

 

「そうですか」

 

 私達は扉の奥へと足を進める。

 

 通路は光源がなく薄暗い空間が続いていく。

 

「何者だ!」

 

 暗がりの奥からシグナムの声が響く。

 

「シグナム!」

 

「その声は……主ですか!」

 

「皆は!」

 

「お待ちください!」

 

 数秒後、室内灯が灯り、周囲が明るくなる。

 

「皆!」

 

「主!」

 

 はやてが走りだすと、奥から現れた全員がはやてに駆け寄る。

 

「皆無事でよかった!」

 

「主もよくご無事で」

 

 アインスがはやてに駆け寄る。

 

「主、今外はどういう?」

 

「それが……」

 

 はやてが状況を説明すると全員の顔色が暗くなる。

 

「まさかそこまでとは……」

 

「せや……それになのはちゃんも……」

 

「なんてことだ……」

 

 全体に重い空気が流れる。

 

「アインス……アレの準備は?」

 

「問題ありません」

 

「そか……」

 

 はやては歩き出すと同時にアインスもあとに続く。

 

 2人は左右に設置されたコンソールに手を置く。

 

「主……?」

 

「私と主。2人の認証が必要なんだ」

 

 アインスが呟く。

 

 すると、部屋の壁が開かれ扉が現れる。

 

「さぁ、行こうか」

 

 私達ははやての後に続く。

 

「こ……これは……まさか……」

 

 私達の眼前には1隻の戦艦が鎮座していた。

 

「アースラや……有事の際に備えて地下に隠しておいたんや」

 

「まさかこれほどの……」

 

「さぁ! 全員乗るんや!」

 

「しかし、どこへ?」

 

 シグナムが疑問を投げかける。

 

「大丈夫や! 行く当てはあるんや!」

 

「はぁ?」

 

 はやてがそう微笑むとシグナムは首をかしげる。

 

 全員がアースラに搭乗後、急激に浮上を開始する。

 

「このまま外壁を突破して一気に大気圏を抜けるんや!」

 

「了解です!」

 

 操縦桿を手にしたアインスが答える。

 

 次の瞬間、アースラは外壁を突破し、急浮上する。

 

「うぉ!」

 

「無茶するなぁ……」

 

「これくらいなんてことないやろ」

 

「そうですね」

 

 はやては指揮官席に座りながら笑みを浮かべた。

 

  ハーマイオニー達が乗った車は自動運転のまま目的地へと到着した。

 

「さて、ここが会場ね」

 

「そうですね」

 

 会場となった時空管理局地上本部は周囲に警備と思われる新生時空管理局員によって包囲されている。

 

「警備が厳重ですね……」

 

「ここを通り抜けるのは厳しいのでは……」

 

 スバルとティアナが周囲を見回して不安そうな表情を浮かべる。

 

「大丈夫よ。このまま車を進めて」

 

 対するハーマイオニーは落ち着いた表情でティアナに指示する。

 

「了解です……」

 

 4人の乗った車は入口へと向かう。

 

 その時、2人の女性警備担当の新生時空管理局員が車を止める。

 

「チケットを確認させてください」

 

「はい」

 

 スバルは俯きながらハーマイオニーから受け取ったチケットを差し出す。

 

「はい、確認しました」

 

 警備担当者がそう言うと入口のゲートが開く。

 

「ありがとうございます」

 

 スバルがそう言うと普段通り会釈をする。

 

「え? この顔は」

 

「あっ!」

 

「指名手配中の!」

 

 会釈の際に顔を確認されてしまい不穏な空気が流れる。

 

「そ、そこを動くっ……な……」

 

 警備担当が警報を鳴らそうとした瞬間、2人がその場で倒れ込む。

 

「え?」

 

 スバルとティアナが不思議そうな表情を浮かべる中、ハーマイオニーが杖を片手に後部座席から下車する。

 

「さて……2人は警備室にでも隠しておきましょう」

 

「あの……」

 

「安心して、眠っているだけよ」

 

「そうなんですか?」

 

「えぇ、明後日には目を覚ますはずよ」

 

「は……はぁ?」

 

 ハーマイオニーが杖を振ると2人の体が浮かび上がり、警備室へと移動する。

 

「さて……」

 

 ハーマイオニーはポケットから2本の試験管を取り出す。

 

「これは?」

 

「ポリジュース薬よ」

 

 そう言うハーマイオニーの横にトムが接近する。

 

「ほら、サンプルだ」

 

「感謝するわ」

 

 ハーマイオニーはトムから2本の髪の毛を受け取るとそれぞれの試験管へと入れる。

 

 髪の毛が入るとポリジュース薬が一瞬光を放つ。

 

「はい」

 

「「え?」」

 

 差し出された試験管を目の前に2人は顔を歪める。

 

「これを……」

 

「そう。飲んで」

 

「は……はぁ……」

 

 2人は恐る恐る試験管を手に取る。

 

「一気に行った方が良いさ」

 

「は……はい!」

 

 2人は数回深呼吸をした後、意を決したように一気に試験管の中身を飲み干す。

 

「うげぇ……」

 

「なんか……すごい苦いですね……」

 

「変な味……」

 

「これでも味はかなり良くなった方なんだけどね……」

 

「そ……そうなんですか?」

 

「昔はもっと酷い味だったのよ」

 

「えぇ……」

 

 2人が困惑していると体に変化が表れ始める。

 

「え?」

 

「え? え?」

 

 困惑している2人の姿が先程の警備担当者に変化する。

 

「ばっちりね」

 

「これは……」

 

「さて……私達はパーティー会場へ行くわ」

 

「君達は車の中で待機していてくれ」

 

「ですが!」

 

「大丈夫よ。あと、その姿は自分で解除したいって思ったら解除されるはずよ」

 

「それに、いざってとき逃げる手段がないと大変だろ」

 

 ハーマイオニーとトムに説得され2人が首を縦に振る。

 

「わかりました」

 

「さて、それじゃあ行きましょう」

 

「あぁ」

 

 ハーマイオニーが差し出した手をトムが取ると2人は会場へと移動した。




この前、友人に連れられて初めてパチンコへ行きました。

なのはの台があったのでやったら

お財布ブレイカーさえました。

なのはさんに私は嫌われているのでしょうか?

何か…悪い事でもしたかしら…


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聖王のゆりかご

やってみせろよ! ジェフティ!


   パーティー会場へと移動したハーマイオニーとトムは周囲を見回す。

 

「良い会場だな」

 

「そうね。軍施設とは思えないわね」

 

「そりゃそうだろう。今回は軍関係者以外も大勢いるようだしな」

 

 周囲には軍服のほかに、燕尾服やパーティードレスに身を包んだ来賓客が大勢いた。

 

「これだけ大きなパーティー……よほどの重大発表でもあるのかしら?」

 

「さぁ?」

 

 しばらくすると進行役と思われる男性が壇上に上がる。

 

「皆様大変長らくお待たせいたしました。これより新生時空管理局発足記念パーティーを開始します」

 

 周囲から拍手と歓声が上がる。

 

「全く……大層な名前だな」

 

「本当ね」

 

 2人は呆れながら壇上に目線を向ける。

 

 すると壇上に軍服に身を包んだ将校と思われる男性が現れ演説を始める。

 

 しかし2人は興味なさそうにそれを聞き流す。

 

「全く……長い演説ね」

 

「飽きてきたよ」

 

 その後演説は数十分以上続いた。

 

 終わった頃に2人はため息を吐く。

 

「やっとか……」

 

「こういうのを無駄な時間って言うのよね」

 

「続きましては今回のメインイベントです!」

 

 進行役がそう言うと会場が騒めき立つ。

 

「何かしら?」

 

「さぁ?」

 

 進行役が手を上げると、照明が落ち、壇上にスクリーンが映し出される。

 

 そして、白衣の男性が壇上へと上がる。

 

「あの男は……」

 

「確か写真で見たわね……名前は確か……」

 

「ジェイル・スカリエッティです!」

 

 進行役がそう言うと、スカリエッティは一礼する。

 

「さて、今回私が紹介するのはこちらだ」

 

 そう言うとスクリーンに宇宙空間に浮遊する1隻の戦艦が映し出される。

 

「これは聖王のゆりかごと呼ばれるロストロギアだ」

 

 会場が騒めき立つ。

 

「聖王のゆりかごね……」

 

「大げさな名だな」

 

「これは旧時空管理局が封印していたものだが、今回の作戦において極めて重要なカギを握るという事で決戦兵器として使用する」

 

 スカリエッティは端末を操作すると詳細なデータがスクリーンに表示される。

 

「聖王のゆりかごは現在軌道上に存在しており、2つの月から魔力と、そこに建設したエネルギー供給施設により強大な力を貯めている。そしてゆりかご本体にも私はメタトロン技術を使い改良を重ねてある」

 

「全く……厄介なことを……」

 

 トムはため息を吐く。

 

「メタトロンの空間圧縮能力とゆりかごの次元跳躍攻撃を組み合わせることで、この次元に居ながら特定の次元そのものを圧縮させることが可能となった」

 

「なんですって!」

 

 ハーマイオニーが驚愕するが、周囲の騒めきによってそれはかき消される。

 

「どういうことかお分かりになっていない方の為に説明しよう。圧縮された次元は、その時点でその文明がすべて圧殺され消滅することとなる。それがたとえ広域次元であろうと、圧縮の反動の開放によるエネルギーで生き残る方法はない」

 

「とんでもない兵器を作り出してくれたものだ……遠隔起動可能なアーマーンとでもいったところか」

 

「これは、あってはならない技術よ……」

 

「あぁ、もちろんだ」

 

 スカリエッティはテンションを高め身振りが大きくなる。

 

「この技術により! 我々は全ての次元を支配したも同然だ!」

 

 会場の熱狂がさらに高まる。

 

「さて……質問等がある方はいるかな?」

 

 スカリエッティが問いかけるとハーマイオニーが手を上げる。

 

「おい……」

 

「そこのお嬢さん」

 

「いくつか質問良いかしら」

 

「構わんよ」

 

「ではまず1つ。聖王のゆりかご……とてもすごい兵器だと思うわ。でもそのエネルギーとなっているメタトロンについてはどこまで理解しているのかしら?」

 

「まるで君は私より多くの事を知っていると言わんばかりの言い方だな」

 

「出資するからには危険性について知っておきたい。それだけよ」

 

「そうか。まぁいい……無論多くを把握しているさ。もし詳しく知りたちと言うならば、パーティーの後にでも詳しくお話ししてあげよう」

 

「この場では言えないということかい?」

 

「企業秘密と言うやつさ。後で答えよう」

 

「そう。それは助かるわね」

 

 2人の間に不穏な空気が流れる。

 

「さ、さぁ! 次の演目へまいりましょう!」

 

 進行役が慌てた様子で次の項目へと移動した。

 

 しばらくするとパーティーも終わり、来賓客が帰り始める。

 

 そんな時、2人の前に黒服が現れる。

 

「こちらへ」

 

「あぁ」

 

「分かったわ」

 

 2人が通された部屋にはソファーに腰かけたスカリエッティと背後に一人の女性、ウーノが立っているだけだった。

 

「さて、座りたまえ」

 

「どうも」

 

 2人が対面に腰かけるとウーノが紅茶を差し出す。

 

「さて、聖王のゆりかごの危険性についてだったかな?」

 

「そうね。それと話に上がったメタトロン技術についても」

 

「ほぉ、メタトロン技術に興味がおありで?」

 

「未知の技術ですから。興味がありますし危険性について理解しないで出資はできません」

 

 ハーマイオニーの答えにスカリエッティは不敵に笑う

 

「なるほど……しかしご安心を。メタトロンは危険な物質ではない」

 

「なぜそう言い切れる?」

 

 トムか切り返すとスカリエッティは小型のタブレット端末を操作する。

 

 するとなのはとレイジングハートの資料がモニターに映し出される。

 

 映し出された資料を目にしたハーマイオニーが唖然とする。

 

「まさか……」

 

「エースオブエースのデバイスにメタトロンを組み込んではいるが、今のところ身体への悪影響は見られない」

 

「メタトロンを……デバイスに?」

 

「あぁ、だが今のところ問題はない、性能は向上しているそれに──」

 

「生身の人間に……メタトロンをそんな……そんな危険な……」

 

 ハーマイオニーの言葉を聞いてスカリエッティは笑みを浮かべる。

 

「危険? メタトロンについて何も知らないはずなのに……まるで熟知しているかのような口ぶりだ」

 

「そ……それは……」

 

「メタトロンを回収した部隊から報告があったが……保管していた船には男女2人の乗組員が居たと聞く」

 

 スカリエッティが立ちあがりる。

 

「それは君達の事ではないか?」

 

「そ……それは……」

 

「もしそうなら、君達の知っていることを教えてもらおうか」

 

 スカリエッティが指を鳴らすと部屋に武装を固めたガジェットが入り込む。

 

 

「さぁ……答えて──」

 

 次の瞬間、複数の銃声が響き渡る。

 

 一拍置いて部屋を包囲していたガジェットが火花を散らし沈黙する。

 

「なんだと!」

 

 スカリエッティが驚愕する中、いつの間にか立っていたトムの両手には小型のハンドガンが握られていた。

 

「ふぅ……念の為とは言え持ってきておいて助かったな」

 

 トムはそう言うと左腕の一部がスライドし左手に握られていたハンドガンが収納される。

 

「全く……穏便には行かないわね」

 

 ハーマイオニーは立ち上がると杖を手に取りスカリエッティに向ける。

 

 それと同時にトムも右手の銃をウーノへと向ける。

 

「さて、それじゃあ帰らせてもらおうよ」

 

「これは頂いていくわね」

 

 ハーマイオニーはテーブルに置かれたタブレット端末を回収する。

 

「レディファーストだ」

 

「えぇ」

 

 ハーマイオニーが部屋を出ると、トムもハンドガンを構えたまま部屋を後にした。

 

「ドクター!」

 

「直ぐにガジェットを! 逃がすな!」

 

 スカリエッティがそう叫ぶと、施設内に警報が作動した。

 

 

 2人が警報が鳴り響く廊下を走っていると行く手を遮るようにガジェットが現れる。

 

「くっ、急いでいるというのに」

 

「全くね」

 

 ガジェットが陣形を組むと一斉に砲門から砲撃を行う。

 

 発射された砲弾は2人が居た地点に着弾すると黒煙を上げる。

 

 数秒の静寂が流れる。

 

 その時、黒煙を突き抜け両手にハンドガンを構えたトムが現れる。

 

 トムは走りながらガジェットのメインカメラを打ち抜く。

 

 それにより2機のガジェットが機能停止する。

 

 残りのガジェットはトムに向け攻撃を行うが、トムは壁を駆け上がり攻撃を回避するとガジェットの真上に移動する。

 

 真上に移動すると同時に、ガジェットに向けハンドガンによる射撃を行い、弱点部を撃ち抜き機能停止させる。

 

 着地と同時に振り返ると、最後の1機のメインカメラを撃ち抜く。

 

「ふぅ……ざっとこんなもんかな」

 

「終わったかしら?」

 

 黒煙が晴れると杖を片手にしたハーマイオニーがトムに歩み寄る。

 

「あぁ、弾数ピッタリさ」

 

「そう。それはよかったわね」

 

 ハーマイオニーはポーチから2つのマガジンを取り出すとトムに手渡す。

 

 トムはそれを受け取ると歩きながらリロードを行う。

 

 それと同時にハーマイオニーはスバルに通信を繋ぐ。

 

『聞こえるかしら?』

 

『警報が! 何があったんです?』

 

『今から向かうわ。準備をしておいて』

 

『準備って……』

 

「さぁ、急ぐわよ」

 

「了解」

 

 2人は警報が鳴り響く中、合流を急いだ。

 

 

 依然として警報が鳴り響く中。

 2人は姿が戻ったスバル達が待機している駐車場へとやってきた。

 

「あっ! こっちです!」

 

「準備できています!」

 

「了解よ!」

 

 既にアイドリングとなった車に接近する。

 

 その時、大量のガジェットが飛来し出入り口を封鎖する。

 

「おっとこれは……」

 

「厄介ね……」

 

「ど……どうしましょう……」

 

「戦うしか……」

 

 4人はそれぞれ武装を構え迎撃態勢を取る。

 

 その時、スピーカーからスカリエッティの声が響く。

 

「逃げられると思ったのか?」

 

「そうね。できれば帰りたいんだけど」

 

「客人を持て成さずに帰すのは気が引けるのでね」

 

「なるほど……確かに大した持て成しだ」

 

 トムは小さく笑うとガジェットに向け射撃を行う。

 

 それに倣うようにスバルがエネルギーフィールドを展開し突撃する。

 

 ティアナも狙撃銃を構えガジェットに向け攻撃していく。

 

 しかし、ガジェットからも砲撃が行われる。

 

 ハーマイオニーは杖を振り迫りくる砲撃を無力化する。

 

「さて、さっさと片付けよう」

 

「そうね」

 

「「了解!」」

 

 トムは両手に構えたハンドガンで攻撃を行っていくが、やはり火力不足からか撃破には時間が掛かる。

 

「こいつじゃだめだな。何かないかい?」

 

「ぴったりなのがあるわ」

 

 ハーマイオニーは杖を振るとポーチからガトリング砲が現れる。

 

「全く。準備が良いじゃないか」

 

 トムは2門のガトリング砲を受け取ると片手に1門ずつ持ち、その場で乱射する。

 

 ガトリング砲の攻撃により、ガジェットが大量に撃墜されていく。

 

 しかし、撃墜する端からガジェットが供給されるため数が一向に減らない。

 

「これじゃ、キリがないな」

 

「どれだけいるのかしら?」

 

「はぁ……はぁ……」

 

 スバルとティアナに疲れが現れ始める。

 

「2人とも、車にまで撤退して」

 

「りょ……了解!」

 

 ハーマイオニーの指示に従い2人は車にまで撤退する。

 

 これにより、戦線が下がり、ガジェットがさらに現れる。

 

 そんな中、巨大な足音が響き渡る。

 

「な、なに?」

 

「おいおい……あれは……」

 

 ガジェットを踏みつぶしながら6mを超える巨大なガジェットが姿を現す。

 

「このぉ!」

 

 ティアナが狙撃を行うが、炸裂弾でもその装甲に傷をつけるのが精いっぱいだった。

 

「こ……こんなのが……」

 

「どうすれば……」

 

 2人が絶望の表情を浮かべる

 

「トム」

 

 ハーマイオニーがポーチをトムに向ける

 

「全く……こんなものまで……君と言うやつは」

 

 トムはポーチに手を突っ込むと中から巨大な砲身を取り出す。

 

「RPGか」

 

「こんなものしか用意できなかったわ」

 

「ないよりはマシさ」

 

 トムはRPGを担ぐと巨大なガジェットに照準を合わせる。

 

 引き金を引くと弾頭が発射され巨大ガジェットの胴体に着弾する。

 

 巨大ガジェットが煙を吹きだす。

 

「やったか」

 

「えぇ」

 

 トムは撃ち終えた砲身を投げ捨てる。

 

「っ! まずい!」

 

「え?」

 

 次の瞬間2人が居た地点に爆発が起こる。

 

 巨大ガジェットは沈黙しておらず、若干の損傷はあるものの稼働には問題が無いようで、肩部からロケット砲が発射され2人が居た地点に着弾した。

 

「2人とも!」

 

「ご無事ですか!」

 

 スバルとティアナが声を荒らげる。

 

「え……えぇ……私は……」

 

 ハーマイオニーが周囲を見回すと自身の上に覆いかぶさるトムに目を向ける。

 

「全く……重いわよ」

 

 ハーマイオニーがそう言うとトムは小さく呟く。

 

「あぁ……すまない」

 

 ハーマイオニーが起き上がると、下半身が吹き飛び上半身だけとなったトムが倒れ落ちる。

 

「トム!」

 

「あ……あぁ……」

 

 駆け寄ったスバルとティアナが茫然としている。

 

「君は……無事か?」

 

「えぇ。私は大丈夫よ」

 

「そうか……少し休んでもいいかい?」

 

「駄目よ。まだ終わってないわよ」

 

「全く……君ってやつは……人使いが荒い……んだから……」

 

 トムはそう言うと力なく目を閉じる。

 

「トム……」

 

「あ……あの……」

 

 スバルが声を掛けようとしたその時、周囲にガジェットの砲撃が迫る。

 

 ハーマイオニーは杖を振ると、守りの魔法によりすべての砲撃を無力化する。

 

「まだ終わってないわ……」

 

 爆炎が巻き起こる中、ハーマイオニーは力強く呟いた。

 




何とでもなるはずだ!

オービタルフレームだと!


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サイボーグ

職場でコロナが出たり
上司が無茶やらかしたりで時間が取れなかったので初投稿です


   爆炎の中ハーマイオニーは呟き2人は茫然としている。

 

「まだまだよ! 雑魚は私が相手するわ! 貴女達はあの巨大なやつを!」

 

「「はい!」」

 

 スバルは全身にシールドを展開しつつ巨大ガジェットに突撃する。

 

「おぉらぁ!」

 

 拳を振り上げたスバルは勢いよく拳を振り下ろした。

 

 拳と装甲が激突し火花を散らす。

 

 しかし、ガジェットの出力に押されスバルが弾き飛ばされる。

 

「ぐぅ!」

 

 スバルは空中で1回転し衝撃を受け流しながら着地する。

 

 着地したスバルは出血した両腕を力なく垂らす。

 

 そんなスバルに巨大ガジェットはゆっくりと接近する。

 

「スバル!」

 

 ティアナがスバルに駆け寄りながら巨大ガジェットに炸裂弾を乱射する。

 

 複数の炸裂弾が巨大ガジェットのメインカメラに命中し一時的ではあるがその視界を奪う。

 

「スバル! 早く逃げて!」

 

「ごめん! 助かる!」

 

 スバルは足を引き摺りながら、その場から撤退を開始する。

 

 しかし依然として巨大ガジェットは歩みを止めず迫りくる。

 

「しつこい!」

 

 ティアナは巨大ガジェットに銃口を向けると炸裂弾を連射する。

 

 炸裂弾を連射するにつれ銃身に負荷が掛かりヒビが生じる。

 

 しかしティアナは連射を止めずなおも射撃を続ける。

 

「うおりゃぁあ!」

 

 しかし、その時は突然訪れる。

 

「え?」

 

 耐えきれなくなった銃身が暴発しティアナが後方へと吹き飛ばされる。

 

「ティア!」

 

 吹き飛ばされたティアナの元へとスバルが足を引き摺りながら近寄る。

 

「ティア! 大丈夫!」

 

「え、えぇ……バリアジャケットのおかげで……なんとかね……でも……」

 

 ティアナの手にはグリップと引き金部分だけとなった無残な姿の銃が握られていた。

 

「2人とも! 無事?」

 

 ハーマイオニーも後退し2人と合流する。

 

「なんとか……ですが……」

 

「万事休す……ね」

 

 満身創痍の3人は互いに背中を預け周囲を警戒する。

 

 そんな3人に向かって巨大ガジェットからミサイルが発射された。

 

「くっ!」

 

 3人に迫りくるミサイルが着弾する寸前に遮られるように空中分解する。

 

 バラバラになったミサイルの断片は3人を避けるように落ちる。

 

「え?」

 

「なにが……」

 

 スバルとティアナが唖然としていると3人の背後から足音が迫る。

 

「ふぅ……何とか間に合ったな」

 

「もう。遅いわよ」

 

「すまない。なんせこの義体を実戦で使うのは初めてなんでね」

 

 

 振り向いたスバルとティアナは目を疑った。

 

 そこには、全身が人工筋肉と装甲板で覆われ、片手には日本刀を模した高周波ブレードを手にしたサイボーグが立っていた。

 

 サイボーグがフェイスシートを解除し素顔を現す。

 

「なんで……」

 

「貴方は!」

 

「無事かい?」

 

「間一髪ね。そっちもちゃんと稼働しているようね。トム」

 

 トムは片手にした高周波ブレードを軽く振りながら手の感触を確かめる。

 

「あぁ。問題はない」

 

「そう」

 

「あの……一体……」

 

「何がどうして……?」

 

 2人は唖然としてトムとハーマイオニーを交互に見据える。

 

「説明がまだだったわね」

 

「あぁ。僕はサイボーグでね。さっきの義体が破壊されたから念の為に車のトランクに入れておいた戦闘用の義体に移動したんだ」

 

「そ、そうだったんですね……」

 

「あぁ。まぁそう言う事だから」

 

 トムはその場で飛び上がると周囲に接近していたガジェットを全て切り伏せる。

 

「さっさと片付けよう」

 

 トムは高周波ブレードを構えると高速で巨大ガジェット目掛け走り出す。

 

 巨大ガジェットは接近するトムを迎撃する為に搭載された機銃を放つ。

 

 機銃から放たれた弾丸はトムに向かって降り注ぐ。

 

 しかし、トムは迫りくる銃弾を高周波ブレードを振るい切り伏せながら、速度を落とさず接近する。

 

 しかし、巨大ガジェットも抵抗するようにミサイルによる弾幕を発生させる。

 

 トムは迫りくるミサイルをまるで階段を駆け上がるように足場として上りあがり、巨大ガジェットのメインカメラと同じ高さまで飛び上がると間合いに捉える。

 

 それと同時に上段に構えた高周波ブレードを重力に従いながら振り下ろす。

 

 着地したトムは、巨大ガジェットに背を向け、高周波ブレードを納刀する。

 

 それと同時に、巨大ガジェットは真っ二つに分かれ、爆発を起こす。

 

「す……すごい……」

 

「まぁ、こんな感じかな」

 

 トムはゆっくりと3人に近寄る。

 

「少し派手にやりすぎよ」

 

「まぁ、これだけの出力だ。仕方ない」

 

「調整が必要ね」

 

「そうだな。さて、帰るとするか」

 

 周囲にはガジェットの機影はなく、残骸が転がっているだけだった。

 

「車は無事か?」

 

「えぇ。なんとかね」

 

 ハーマイオニーが指差す先にはトランク部分が破壊され、傷や凹みだらけで横転した車があった。

 

「全く……」

 

 トムは車に接近すると片手で横転した車を元の向きに直す。

 

「よし。運転頼むよ」

 

「は、はい!」

 

 ティアナは急いで車に駆け寄る。

 

 しかし、乗り込む直前に車にピンク色の魔力弾が直撃し爆炎を上げる。

 

「きゃぁ!」

 

 爆炎に煽られティアナが悲鳴を上げる。

 

「さて……お客さんだ」

 

 トムが高周波ブレードを向けた先にはレイジングハートを構えたなのはが立っていた。

 

「な……なのはさん……」

 

「何やら騒がしいと思ったら……こんなところで何をしているのかな?」

 

 なのはは武装を解除しないで接近する。

 

 対するトムは高周波ブレードを構えながら答える。

 

「騒がしくてすまないね。これから帰るところだったんだがね」

 

「そうですか。でも大したおもてなしもできなかったみたいですが」

 

「十分さ……それより君のそれ。メタトロンを積んでいるようだね」

 

 トムはレイジングハートを高周波ブレードで指し示す。

 

「だとして、何か関係あるのかな?」

 

「見たところ……そのデバイスはAIによる補助なしでメタトロンを使っているよね」

 

「え……」

 

「レイジングハートのAIが……」

 

 スバルとティアナが唖然とする。

 

 対するなのはは静かに答える。

 

「答える必要はないよね」

 

「いや、有るね……メタトロンは──」

 

「メタトロンをAIの補助なしで使うのは危険よ! 最悪の場合精神がメタトロンに侵されるわ」

 

 トムの説明に割り込んだハーマイオニーをなのはが見据える。

 

「今ならまだ間に合うわ! だから──」

 

「煩い!」

 

 なのはが声を荒らげる。

 

「貴女達さえ……あんた達さえいなければ! あの2機が来なければ! 私は!」

 

 なのはは激高しながらレイジングハートはカートリッジをロードする。

 

 排出された薬莢には赤いエネルギーラインが走っておりそのうちの1発がハーマイオニーの足元に転がる。

 

 拾い上げたハーマイオニーはそれを睨みつける。

 

「メタトロンを封入した外部供給型デバイス……こんな物を使っていたら!」

 

「これは……不味いな……」

 

 レイジングハートは赤色のエネルギーラインを発生さえ、それはなのはの体にも侵食していく。

 

「不味いわ! トム!」

 

「あぁ!」

 

 トムは走り出すとレイジングハート目掛け高周波ブレードを振り下ろす。

 

「なにっ! うぉ!」

 

 しかし、高周波ブレードはなのはが展開したプロテクションによってトムが吹き飛ばされる。

 

「消えてしまえ!」

 

 なのははエネルギーを開放すると、強大な魔力の塊を3人に向け発射する。

 

「くっ!」

 

 トムは高周波ブレードを正面に構えると3人の前に立ちはだかる。

 

「トム!」

 

 なのはが発射した魔力の塊と高周波ブレードが互いに干渉し合い爆発を起こす。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 なのはは肩で息をしながら、力なくレイジングハートを杖にし、体重を預ける。

 

 爆心地には黒煙が立ち込めている。

 

 しばらくすると黒煙が晴れる。

 

 その時、なのはが一瞬眉を顰める。

 

 そこには、左腕を失いながら右手でひびの入った高周波ブレードを構えるトムと3人の姿があった。

 

「くっ……」

 

 トムは高周波ブレードを地面に突き刺しながら片膝を着く。

 

「トム! 大丈夫?」

 

「あ……あぁ……なんとか……」

 

 ノイズ交じりの音声でトムは答える。

 

「これで……とどめを……」

 

 なのはが再びレイジングハートを構える。

 

「やめて! これ以上は貴女だって危険よ!」

 

「煩い!」

 

 なのはの正面に魔法陣が形成される。

 

「やめてください!」

 

「なのはさん!」

 

 スバルとティアナがなのはの前に立ちはだかる。

 

 しかし、なのはは依然として武装を解こうとはしない。

 

「邪魔を!」

 

 なのはは片手を振ると2発の魔力弾が発射されスバルとティアナに直撃する。

 

「するなぁ!」

 

「くっ!」

 

「あっ!」

 

 直撃した2人は勢いよく吹き飛ばされる。

 

「これで!」

 

 なのはが再びレイジングハートを構える。

 

 その時、外から車の排気音が響く。

 

「なんだ?」

 

「何?」

 

 車の排気音はさらに激しさを増す。

 

 次の瞬間、入口のシャッターを突き破り1台のスポーツカーが飛び込んでくる。

 

 スポーツカーはけたたましいブレーキ音を響かせながら、3人の盾になるように停車する。

 

 停車したスポーツカーから1人の女性が下車する。

 

「フェイト……ちゃん……」

 

「なのは……」

 

 そこには黒いジャケットに身を包み、右目に眼帯をしたフェイトがバルディッシュを構える。

 

「へぇ……フェイトちゃん……生きていたんだ! うれしいなぁ! あぁああ! 実に嬉しいよ!」

 

「なのは!」

 

 フェイトはバルディッシュを上段に構えると高速でなのはに接近する。

 

「いい加減! 目を覚ませ!」

 

 フェイトはバルディッシュを勢いよく振り下ろす。

 

 しかし、なのはは左手を上げるとバルディッシュの刀身を掴む。

 

「なっ!」

 

「目を覚ますぅ? おかしい事を言うよね! その程度じゃ……私には勝てないよ……フェイトちゃん!」

 

 刀身を掴んだままなのははフェイスの腹部を蹴り上げる。

 

「くっ!」

 

 瞬時にバルディッシュの持ち手部分をスライドさせ蹴りの直撃を防ぐが、勢いは凄まじく、フェイトの体が吹き飛ばされる。

 

 吹き飛ばされたフェイトは空中で受け身を取り、着地する。

 

「さぁ! 早く立って! まだまだこんなものじゃないでしょ!」

 

「なのは……その力は……」

 

「分かる? フェイトちゃん……この湧き上がるような力が! これこそ世界を導く力だよ!」

 

「なのは……」

 

「もう一度言うよ! 一緒になろうよ! フェイトちゃん!! あーはっははは!!」

 

 狂ったように高笑いを繰り返すなのはをフェイトは憐みの目を持って見据える。

 

 その時

 

「ごはぁ!」

 

 勢いよく咳き込んだなのはの口から鮮血が吐き出される。

 吐き出された血によって純白のバリアジャケットが真紅に染まる。

 

「なのは!」

 

「こ……これは……」

 

「身体がメタトロンに侵食され始めたのね……このままだと危険だわ! すぐに使用を──」

 

 次の瞬間、爆破と共に大量のガジェットが現れる。

 

「身体を酷使しすぎたようだね」

 

 周囲にスカリエッティの声が響く。

 

「スカリエッティ……」

 

「このままじゃ危険だ。すぐに戻りたまえ」

 

「黙れ! 私はまだ! 戦える!」

 

「これは命令だ。すぐに戻れ」

 

「くっ!」

 

 なのはは周囲を一瞥した後、踵を返す。

 

「なのは!」

 

「「なのはさん!」」

 

 フェイト達の呼びかけに一瞬だけ動きを止めたなのはだが、振り返ることなく奥へと消えていった。

 

「なのは! くっ……またガジェットが……」

 

 フェイトはバルディッシュを構え周囲を見回す。

 

「ここは撤退します! 全員私が乗ってきた車へ」

 

「はい!」

 

 フェイトが叫ぶとスバルとティアナがトムを抱え車へと乗りこむ。

 

「貴女も!」

 

「えぇ!」

 

 ハーマイオニーも車に乗り込むとフェイトは勢いよく車を発進させる。

 

 それに合わせるようにガジェットが一斉に攻撃を開始する。

 

「くっ!」

 

 フェイトはハンドルを切り攻撃を回避すると速度を一気に上げ離脱を開始した。

 

「こいつは……お土産だ」

 

 トムがそう言うと現場に残された移動前のトムの義体が爆発を起こす。

 

「これで……時間は稼げるだろう……」

 

「急いで!」

 

「はい!」

 

 満身創痍の5人は何とかリユニオンへと帰還を果たす。

 




エイダたちが活躍していない…


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作戦

最近
トレーナー業をやったりして忙しいです。


「よろしかったのですか?」

 

 ウーノは研究室に居たスカリエッティに問いかける。

 

「なにがだ?」

 

「タブレットの事です。あれには聖王のゆりかごの情報が……」

 

「あぁ、その事か。それに関しては問題ない。むしろあえて渡したとも言える」

 

「なぜです?」

 

 ウーノは顔を顰める。

 

「あれは一種の挑戦状だ」

 

「挑戦状?」

 

「そうだ。私が作り上げたメタトロンの傑作が彼女達にどこまで通用するのか……視てみたくなったのだよ!」

 

 スカリエッティは歪んだ笑みを浮かべる。

 

「気にならないか? 彼女達はメタトロン技術が普及していた世界の住人だ。一体どのように私の技術を超えるのか……それとも越えられないのか……」

 

「それが……目的ですか?」

 

「知の渇望だ」

 

「そうですか……それと、エースオブエースですが……」

 

「あれはもう駄目だろう。体中にメタトロンが侵食している」

 

「えぇ。持ってあと1年かと」

 

「もしくはもっと早いだろうな。それだけあれば残存勢力を掃除するくらいは持つだろう」

 

「そうですか」

 

 それ以降スカリエッティは一言もしゃべることはなく、ウーノも一礼してその場を後にした。

 

 

 アースラ奪還から数日後巡航を維持しているとリユニオンから通信が入る。

 

「こちらは何とかなったわ。そっちは?」

 

 ハーマイオニーの顔がモニターに表示される。

 

「こちらも無事です」

 

 椅子から立ちあがったはやてが答える。

 

「それは良かったわ。とにかく一度合流しましょう。そっちへ向かうわ」

 

「了解です」

 

 アースラとリユニオンは相対速度を合わせると連絡橋を掛ける。

 

 数分後、ハーマイオニー達はアースラの会議室へと集まる。

 

 そこではやてはハーマイオニーからなのはに関しての報告を受ける。

 

「そんな……まさかなのはちゃんが……」

 

「えぇ……このままだと危険よ……それに……」

 

「ゆりかごですか……」

 

「えぇ……これを見て頂戴」

 

 ハーマイオニーは手元のタブレットを操作すると会議室のモニターに聖王のゆりかごに関する情報が表示される。

 

「これは……」

 

「聖王のゆりかごに関するデータよ。これを見るにゆりかごがガジェットの制御の中核をなしているようね。でも厄介なことにゆりかご自体に強固な防御システムとシールドが展開されているようね」

 

「そうですね……しかしこれをどこで?」

 

「スカリエッティから盗んだ……と言うよりもあえて盗ませたといった感じかしら?」

 

「え?」

 

「挑戦状……とでも言ったところかしら?」

 

「罠の可能性は?」

 

「あのタイプの場合はその可能性は低いわね」

 

 ハーマイオニーは一息つき解説を始める。

 

「この防御システムは空間圧縮技術も使われているわ」

 

「それならベクターキャノンで突破すればいい話だな」

 

「いえ、そう簡単にも行かないの、これを見て」

 

 ハーマイオニーはタブレットを操作すると表示が変わる。

 

「このシールドシステムは4層の空間圧縮からなっているわ。それに2つの衛星……月と呼んでも良いわね。そこから魔力を供給されているから1枚や2枚壊したところですぐに回復してしまうわ……計算したけど残念ながら2人のベクターキャノンを最低限のインターバルで撃ったとしても突破は難しいわ……リユニオンに搭載されているベクターキャノンを使用しても……突破は……難しいわ……」

 

「つまり……」

 

「そう。まずはこの2つの月を制圧する必要があるわ……そうすれば活路はあるわ」

 

「それを……この人員で……」

 

 はやては周囲を見渡す。

 

「厳しいかも知れないけど……不可能ではないわ」

 

「そうですね……やるしか……」

 

 全体に重い空気が流れる。

 

 その時、通信が入る。

 

「通信?」

 

「繋ぎますか?」

 

「頼む」

 

 はやての指示でアインスが通信をモニターに出す。

 

「聞こえるか? こちらは……」

 

「クロノ!」

 

 モニターに現れた人物に対しフェイトが声を上げる。

 

「君達の事は話題になっている。なんでも大暴れしたとか……さて、こちらも世間話をするためにわざわざ危険を冒して通信を繋いだ訳ではない」

 

「用件は一体?」

 

「我々は今、人員を集めて新生時空管理局に対してレジスタンス活動を行っている」

 

「レジスタンス?」

 

「そうだ。あれを良しとしないものは大勢いる……しかし恥ずかしい話だが戦力はあちらが上でこちらは窮地に立たされてる」

 

「そうだったんか……」

 

 はやては小さく呟く。

 

「しかし、そんな時に君達の話を聞いた。そこで__」

 

「協力するという事やな」

 

「そう言う事だ。こちらも少ないながら戦艦や戦闘員も居る」

 

「なるほど……」

 

 はやては考えを巡らす。

 

「これなら……何とかなるかもしれん……」

 

「え?」

 

「私に一つ作戦があるんや」

 

 その場の全員がはやての作戦を聞く。

 

「それは……確かに物理的……いえ、理論的には可能よ……でも危険が多すぎるわ!」

 

 ハーマイオニーははやての立てた作戦に苦言を申す。

 

「でもこれしか手はないはず……」

 

「確かに……でも」

 

「大丈夫や……きっとうまく行く……」

 

「そうね……」

 

 ハーマイオニーは一抹の不安を抱えつつ頷いた。

 

 

 




またしてもベクターキャノン関係で問題が発生しました。

ワンパターンとか言わないように


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切札

前回は幕間の様なものなので今回は早めに…


 

  作戦開始日。

 

 私達は、レジスタンスの艦隊と合流する。

 

 はやてが回線を開く。

 

 モニターにクロノが映し出される。

 

「こちらの準備はできている。そちらは?」

 

「こっちは問題ないで。それとエリオとキャロの事……助かったで」

 

「仲間が安全な場所に匿ってはあるから大丈夫なはずだ」

 

「あの2人には今回の作戦は荷が重すぎるからなぁ……」

 

 はやてが答えるとクロノは頷く。

 

「さて……この作戦の要は君達だ。全て押し付けるようで悪いが……」

 

「相手は……なのはちゃんや……私達が……止めるのが道理や」

 

「そうだね……やるよ! はやて」

 

 はやてとフェイトはお互いに頷く。

 

「敵艦隊を補足」

 

「メインモニターに映像を出します」

 

 メインモニターには衛星軌道上に布陣する敵艦隊と、月から魔力供給を受けている聖王のゆりかごの姿が映し出される。

 

「この数はざっと数百隻と言ったところか」

 

「戦艦の数で言えばこちらが有利ね……」

 

「だが向こうはガジェット等を有しているだろう」

 

「そうなると……」

 

「よくて同等……最悪不利ね」

 

 モニターを見たハーマイオニーとトムは状況を分析する。

 

「しかし作戦は変わらない……当初の作戦通りに行で!」

 

「了解!」

 

「艦隊前進!」

 

 クロノが指示を出すとレジスタンスの艦隊が前進し、前線部隊と戦闘が開始される。

 

「戦端が開かれた……フェーズ2へ移行!」

 

 クロノが指示を出すと艦隊が2手に分かれ2つの月へ向かう軌道を取る。

 

「こちらはこれより艦隊戦へ移行する。君達は……」

 

「私達は私達の仕事をする……そうやろ?」

 

「そうだ」

 

 モニター越しにクロノは敬礼すると、はやてもそれに返礼すると通信が切れる。

 

「さて、私達も行で!」

 

 はやてが指示を出すとリユニオンとアースラが聖王のゆりかごへの最短コースを取る。

 

 その時、レーダーに反応がある。

 

「さて、手荒い歓迎だな」

 

 百隻前後の艦艇と数百を超えるガジェットがこちらの前面に現れる。

 

「敵を補足しました。作戦を開始します」

 

「2隻相手に手荒い歓迎やな! 了解や! アルカンシェル発射準備や!」

 

「了解。アルカンシェル発射準備」

 

 アインスははやての指示を承服しアースラはアルカンシェル発射状態へ移行する。

 

「さて、こちらもやるわよ。トム」

 

「あぁ、いつでも行ける」

 

「ふぅ……」

 

 ハーマイオニーは呼吸を整える。

 

「ベクターキャノン、発射準備!」

 

「了解。ベクターキャノン発射シーケンス開始」

 

 トムが復唱するとリユニオンはベクターキャノン発射シーケンスを開始する。

 

「エネルギーライン全段直結」

 

「空間アンカー、船体固定」

 

 メタトロンの空間圧縮特性を利用したアンカーでリユニオンの船体が固定される。

 

「チャンバー内、薬室圧力上昇」

 

「エネルギー充填率120%、セーフティ解除」

 

「いつでも撃てるぞ!」

 

「分かったわ!」

 

 ハーマイオニーとはやては振り上げた手を降ろす。

 

「「発射!」」

 

 リユニオンのベクターキャノンとアースラのアルカンシェルが同時に発射される。

 

 同時に発射された暴力の塊は着弾と同時に大規模な爆発を起こし、敵艦隊の中央部に穴をあける。

 

「道が出来た! 行くぞ!」

 

「了解」

 

 事前にオービタルフレームに搭乗していた私達はリユニオンとアースラの後部に手を掛ける。

 

「予測進路測定完了」

 

「「ゼロシフト・レディ」」

 

 私達は同時にゼロシフトを起動する。

 

 その瞬間、亜光速に加速されたリユニオンとアースラが宙域を一気に進み敵前衛艦隊を突破する。

 

「うぉ!」

 

「くっ!」

 

  到着時の衝撃で艦艇が若干だが揺れる。

 

「作戦目標、聖王のゆりかごを正面に捉えました」

 

 突如として現れた私達に対し聖王のゆりかごから大量のガジェットが発進する。

 

 しかし、周囲に艦艇の姿は確認できない。

 

「恐らく護衛の艦隊は全部前衛艦隊に回しとったんやろうな」

 

「今がチャンスね!」

 

「作戦の最終確認や! これより聖王のゆりかごに侵入、その後ガジェットの制御装置の破壊および……今回のクーデターの首謀者であるジェイル・スカリエッティと……高町なのはの逮捕や…… 各員準備するんや!」

 

 はやての指示に従い、全員が戦闘態勢を取る。

 

「主! 我々は船外へ出て戦艦の護衛を行います」

 

「了解や。護衛部隊の指示は一任するで」

 

「了解!」

 

 シグナムは敬礼し、ヴォルケンリッターは船外戦闘用のバリアジャケットに身を包み戦闘態勢を整える。

 

「目標周辺に高エネルギー反応!」

 

「やはりか……」

 

 聖王のゆりかごは4重の防御シールドを展開する。

 

 そのシールドによりアースラからの攻撃が防がれる。

 

「シールドの展開を確認」

 

「やっぱりね」

 

「楽はさせてくれんようやね……」

 

「おそらく別動隊は未だに月基地を制圧できていないようです」

 

 はやては苦悶の表情を浮かべ、小さくため息を吐いた。

 

「よし! 作戦変更や!」

 

「了解……ベクターキャノン発射シーケンス開始! 2人もリユニオンに着艦後ベクターキャノンを!」

 

「「了解」」

 

 私達はリユニオンの着艦すると、ベクターキャノンモードへ移行する。

 

「「エネルギーライン、全段直結」」

 

 砲身にエネルギーラインを直結させる。

 

 それにより、ジェフティの全身と砲身自体にも青白いエネルギーラインが走り出す。

 

 アヌビスは赤黒いエネルギーラインが走る。

 

 エネルギーラインの直結により、砲身の前面に6個のアンプが浮遊する。

 

「「ランディングギア、アイゼン、ロック」」

 

 衝撃に備え、脚部を固定する為に、赤い色のアイゼンをリユニオンの甲板に打ち込む。

 

「「チャンバー内、正常加圧中」」

 

 エネルギーがチャンバー内に集約される。

 

 それに伴い、アンプにもエネルギーが供給され始め、緩やかに回転を開始する。

 

 エネルギー供給ラインが上昇を開始する。

 

「「ライフリング回転開始」」

 

 エネルギーの供給が終了後、アンプが高速で回転し、ライフリングを形成する。

 

 回転速度も上昇し、安定期に入る。

 

「「撃てます」」

 

 それと同時にリユニオンも発射体制を整える。

 

 それに同調しアースラもアルカンシェルの発射体制を取る。

 

「「「「発射」」」」

 

 3発のベクターキャノンと1発のアルカンシェルが聖王のゆりかごに向かって発射される。

 

 着弾した暴力の塊は大規模な爆発を起こし、周囲に閃光が飛び散る。

 

「発射終了」

 

「結果は……」

 

 閃光が収縮する。

 

 そこには、依然として聖王のゆりかごが存在していた。

 

「目標、依然健在」

 

「やはり……アルカンシェルではベクターキャノンの代用はできなかったか……」

 

「味方艦隊より入電! 艦隊の損傷多数。月基地の破壊および占拠は不可能、撤退を開始した模様です」

 

「こうなるのは予定通りや……最終手段やな……作戦を変更するで! アースラ最大船速でゆりかごへ突撃を敢行する!」

 

 はやてがそう言うとアースラが聖王のゆりかごへ移動を開始する。

 

 その時、聖王のゆりかごから通信が入る。

 

「別動隊も迎撃されて、虎の子の攻撃も無力化されて、特攻でもする気かい?」

 

「スカリ……エッティ!」

 

「確かに、戦艦の衝突レベルの物理的な衝撃ならばこの防御シールドは打ち破れるかもしれないな……しかし」

 

 アースラの前面にガジェットが立ちはだかる

 

「そう易々とやらせるわけにはいかないな」

 

 ガジェットが攻撃を開始し、アースラのシールドを削っていく。

 

「こちらもそう易々とやられる気はないんや!」

 

 はやてが叫ぶとアースラの主砲や副砲が発射されガジェットを撃破していく。

 

 しかし、ガジェットの猛攻は止まらず、アースラの所々から爆炎と煙が上がる。

 

「まだや! 機関最大! 最大船速!」

 

「了解。機関最大、最大船速」

 

 

 アインスが復唱しアースラは更に速度を上げ、聖王のゆりかごとの距離を詰める。

 

「ここまで抵抗するとは見事だ、だが……」

 

 次の瞬間、周囲からピンク色のバインドが現れ、アースラを固定する。

 

「これは……なのはちゃん!」

 

 聖王のゆりかごの前に宇宙空間に対応したバリアジャケットを身に纏ったなのはが現れ、手に持ったレイジングハートを構える。

 

「さようなら、はやてちゃん」

 

 レイジングハートから高出力の魔力が発射される。

 

 メタトロンを含んだ魔力の濁流はアースラを飲み込む。

 

 飲み込まれたアースラはその存在をこの世から消してしまった。

 

「くっ!」

 

 なのははその場で小さく咳き込むと、口の端に血が流れる。

 

「残存勢力の掃討を……」

 

「流石は、なのはちゃんや」

 

 スカリエッティの声が周囲に響くがそれをかき消すようにはやての声が響く。

 

「なに!」

 

「アースラは遠隔操作してただけや……どうや? 私の芝居もなかなかやろ?」

 

「はやてちゃん! 私を馬鹿にしてるの!」

 

「そんなつもりはないで。でもまぁ……おかげで時間が稼げたで……行でリイン! アインス!」

 

「はいなのです!」

 

「はい……」

 

 ユニゾンし船外活動用のバリアジャケットに身を包んだはやてと船外服を身にまとったアインスがリユニオンの艦橋に立つ。

 

「さぁ……行で……なのはちゃん……あの2人に影響を受けたのはなぁ……なのはちゃんだけやない……あの2人に憧れて……少しでも近付く為に……考えに考え抜いた私の……コツコツと私の魔力を蒐集し続けた……今までの集大成……全力全開や!」

 

 はやては夜天の魔導書を片手に息を整え。瞳を閉じながら顔を上げる。

 

「ベクターキャノンモード!! 機動(スタンバイ)!!」

 

 次の瞬間、はやての足元と周囲に蒼白い魔法陣が現れる。

 

「リンカーコア最大出力! 魔力全開放!」

 

 手にした夜天の魔導書が勢いよく開かれる。

 

「バインド展開!」

 

 はやては自身の体を固定するようにバインドを展開する。

 

「全(ページ)! 開放!」

 

 夜天の魔導書に蒐集されていたすべての頁が展開され周囲を舞い散るように展開する。

 

「全魔力…集約…完…了!!」

 

 はやての前面に6個の魔法陣が展開され緩やかに回転を開始する。

 

「発射……準備……完了!」

 

 はやては目を見開く。

 

「「「「発射!」」」」

 

 次の瞬間、はやての前面に展開された魔法陣からベクターキャノンと同等の魔法が解放される。

 

 はやての発射に合わせ、既に発射シーケンスを終えていた私達とリユニオンからもベクターキャノンが発射される。

 

「なんだ……と! まずい! エースオブエースは!」

 

「シールド圏内に居ます!」

 

「これならば……」

 

 スカリエッティの声が響くと同時に聖王のゆりかごに4発のベクターキャノンがまるで絡み合うように着弾する。

 

「くぅううぅうう!!」

 

 大希望に放出されるベクターキャノンの反動に体を揺らしながら、歯を食いしばってはやては耐え続ける。

 

 着弾した直後、大規模な爆発が起こる。

 

「測定終了。シールドの消失を確認。ダメージを確認しましたが、目標は依然健在です」

 

 4発のベクターキャノンの直撃を受けた聖王のゆりかごはダメージを受け、至る所から爆炎を上げている。

 

「そ……そう……か……」

 

 私の報告を聞いたはやてはその場で力なく無重力に浮かび上がる。

 

 それと同時にユニゾンが解除されリインも宙に浮く。

 

「主! リイン!」

 

 アインスがはやてを支え、リインを手で受け止める。

 

「とにかく、船内へ!」

 

 アインスに抱えられはやては船内に入る。

 




はやてちゃんは守護られる存在ではもうありません…

立派に戦える大人になったのです!!



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作戦開始

引っ越しやらなんやらがあったので初投稿です。


 

  船内に入ると、すでに待機していたシャマルが用意したストレッチャーに乗せられ医務室へと運ばれる。

 

「だい……じょうぶや……それより……指示……を……ぐはっ!」

 

 咳き込み、吐血し周囲に赤い球が浮かぶ。

 

「早く医務室へ! 急いで!」

 

 はやてを乗せたストレッチャーは急ぎ医務室へと移動する。

 

「無理をしてはダメよ」

 

「せやけど……」

 

 医務室でハーマイオニーは回復魔法を行いながらはやてに答える。

 

「後の指示は私がするわ。今は……休んで」

 

 はやては頷くとそのまま意識を手放した。

 

「はやては……主は大丈夫なのか! リインも!」

 

 アインスはハーマイオニーに詰め寄る。

 

「ベクターキャノンを生身で撃ったのよ……大丈夫なわけ……デバイスも無事では……」

 

「そ……そんな……」

 

 その場に集まった全員が暗い表情を浮かべる。

 

「折角彼女が作ってくれたチャンスよ……無駄にするわけにはいかないわ……とにかく全員ブリーフィングルームへ」

 

 全員がブリーフィングルームへと移動する。

 

「現在、この船は最大船速で聖王のゆりかごに向かっているわ。恐らくもう少しで突入するわ。でも残念なことに月基地は依然健在よ……恐らくだけど私達の突入以降はシールドも回復するはずよ」

 

「つまり……」

 

「内部で戦う事ができる戦力は私達だけという事よ」

 

「やれるだけの事をやるだけだ!」

 

「そうね。到着後、アンチAMFフィールドを展開するわ。ヴォルケンリッターと私達で湾内を制圧を行うわ。残りは外で警護に当たっているた2人と合流して、そのまま内部へ侵入。制御装置の破壊を」

 

「わかった。ヴォルケンリッターの指示は私が取ろう。シャマルは主の手当てを」

 

「えぇ」

 

 シグナムは立ち上がる。

 

 それに倣うように、ヴィータとザフィーラも後に続く。

 

「お願いね」

 

「あぁ。主を守るのが我等守護騎士の役目だ……今こそ役目を果たす時だ」

 

 そう言うとヴォルケンリッターはその場を後にした。

 

「ティアナとスバルは私と一緒に突入するよ」

 

「「了解!」」

 

 フェイトが言うと2人が立ちあがる。

 

「それでは行ってきます」

 

「ちょっと待って」

 

 ハーマイオニーはスバルとティアナの2人を呼び止める。

 

「2人のデバイスの改良が終わったから一応渡しておくわ」

 

 ハーマイオニーは2枚のカード型デバイスを取り出す。

 

「使い方は今までとほとんど変わらないけど若干の変更点もあるわ。でも説明している時間はないわ。使いながら覚えて」

 

「そんな無茶苦茶な……」

 

「無茶なことをやるのよ」

 

「はは……了解です。それでは私達はこれで」

 

 2人は一礼しその場を後にした。

 

「貴女にはこれを」

 

 ハーマイオニーはフェイトの前に小さな小箱を置く。

 

「これは?」

 

「メタトロンを封入したデバイス用のカートリッジよ。一時的にではあるけど、デバイスが強化されるわ……でも」

 

「危険……という事は分かっています」

 

「そう……使っても1回につき1発までにして、それ以上は危険だからデバイスにセーフティを掛けてあるわ」

 

「ありがとう……」

 

 フェイトは小箱を受け取るとポケットへしまうと駆け足でその場を後にした。

 

 

  聖王の聖王のゆりかごに接近すると同時にリユニオン艦内に警報が流れる。

 

「これより湾内に突っ込むぞ! 全員衝撃に備えてくれ」

 

 トムの声が響くと同時にリユニオンは突入を止めようとしたガジェットを轢き潰しながら湾内に強行突入する。

 

「ぐぅ! 突入成功だ! 各員配置についてくれ!」

 

「了解!」

 

 突入したリユニオンの艦砲から援護射撃が行われ、周囲に現れたガジェットを撃破していく。

 

 それと同時に飛び出したヴォルケンリッターにより、戦闘が継続していく。

 

「行け!」

 

「わかったわ!」

 

 ヴォルケンリッターの援護を受け、フェイト達が走り出す。

 

 私達はオービタルフレームを収納すると物資搬入口を防衛していたガジェットを奇襲する。

 

 ブレードとウアスロッドによって破壊されたガジェットが爆発を起こす。

 

「こちらです」

 

「えぇ!」

 

 私の案内に従いフェイト達が合流し、内部への侵入を果たす。

 

 内部は警報が鳴り響いており、ガジェットが行く手を阻む。

 

「じゃまをするなぁ!」

 

 スバルが先行しガジェット群に近接攻撃を行い、道を切り開いていく。

 

「くっ! ガジェットが多すぎる!」

 

「でも……人が全然いない……むしろ……ガジェットだらけ……」

 

「生命反応の数は少数です」

 

「恐らくほとんどが無人化された施設なのでしょう」

 

「なら手加減はしない!」

 

 私達はさらに歩みを進め、聖王のゆりかご深部へと移動する。

 

 15分ほど過ぎただろうか、目の前に巨大な扉が現れる。

 

「この先に巨大な空間を検知。内部にはガジェットの反応が多数あります」

 

「コントロールルームはこの先のはず……迂回ルートを進んでいる暇はない……このまま突っ切るよ!」

 

「「了解!」」

 

 フェイトの判断にスバル達は声をそろえる。

 

 巨大な空間に出ると大量のガジェットが待ち構えていた。

 

「ようこそお越しくださいました」

 

 大量のガジェットの前で1人の女性が一礼する。

 

「私はウーノ。ドクタースカリエッティの助手を務めております」

 

「私達は時空管理局よ。道を開けて」

 

 フェイトがバルディッシュを構えウーノに突き付ける。

 

「この先でドクターとエースオブエースがお待ちです。どうぞお通りください」

 

 ウーノがそう言うとガジェット部隊が左右に分かれ道ができる。

 

「ですが……ご用があるのは……」

 

 ウーノが指を鳴らすと次の瞬間スバルとティアナを取り囲むようにガジェットが展開する。

 

「スバル! ティアナ!」

 

 フェイトが声を荒らげる。

 

「貴女達にはここで死んでもらいます」

 

 スバルとティアナは周囲を見渡す。

 

「大丈夫です!」

 

「ここは私達に任せて皆さんは先へ!」

 

 スバルとティアナは武装を展開する。

 

「でも……」

 

「私達じゃ……なのはさんは止められない……」

 

「私達はきっと力不足です……でも! でもフェイトさん達ならきっと!」

 

「二人共……わかったわ!」

 

 フェイトは踵を返すと奥へと歩みを進める。

 

「どうかご武運を」

 

「お二人も!」

 

 私達もフェイトの後を追いかける。

 

 

   フェイト達を見送った後、スバルとティアナは互いに背中を合わせ周囲を見渡す。

 

「さぁて……それにしても……すごい数のガジェットだね」

 

「そうね。これだけを相手するのは相当疲れそうね」

 

「一瞬で楽にしてあげるわ」

 

 ウーノが手を振り下ろすと大量のガジェットが一斉に襲い掛かる。

 

「行よ。スバル」

 

「了解!」

 

「「セットアップ!」」

 

 次の瞬間、何発もの銃声が鳴り響くと同時に2人を取り囲んでいたガジェットが破壊される。

 

「なっ!」

 

 ウーノが驚愕している中、爆炎の中心で両手に銃型のデバイスを構えたティアナと、白銀の装甲を身にまとったスバルが姿を現す。

 

「モードデュアル」

 

 再びティアナが両手の銃を構えその場で次々とデバイスを撃破していく。

 

「くっ! 奴を撃破しろ!」

 

 ティアナの背後を強襲するようにガジェットが展開し、同時に砲門を開く。

 

 しかし、砲門から魔力弾が発射されることはなく、ほぼ同時に破壊される。

 

「なに!」

 

 爆炎の中から、装甲についたバーニアを吹かしながら片膝を着き、接地面から火花を散らしながら地面を滑るように高速移動するスバルが姿を現す。

 

「行よスバル! 遊撃は任せた!」

 

「了解! 援護よろしく!」

 

 スバルはバーニアを吹かし滑るように高速でガジェット部隊に接近する。

 

「迎撃しろ!」

 

 集まったガジェット部隊が一斉にスバル目掛け砲撃を開始する。

 

 砲撃が着弾する瞬間にスバルは飛び上がり、目の前の1機を踏み台の様に踏みつける。

 

 踏みつけられたガジェットはその場で崩壊し、スバルが飛び上がると同時に爆破する。

 

「踏み台にしたぁ!」

 

 ガジェットの背後を取ったスバルは拳を振り上げ攻撃を開始する。

 

 攻撃を受けたガジェット部隊はその場で旋回し、スバルに照準を向ける。

 

 しかし、そんなガジェット部隊に大量の弾幕が襲い掛かり爆炎を上げる。

 

「モードアサルト」

 

 そこにはアサルトライフルを手にしたティアナが姿を現した。

 

「新しいデバイス良い感じだね」

 

「そうね。状況に応じて形態を変えられるのは良いわね」

 

 そう言うティアナに1機のガジェットが急速接近する。

 

「モードショットガン」

 

 次の瞬間、ティアナが手にしていたアサルトライフルがブリップの部分を残し収縮すると同時に形態を変化させる。

 

 瞬時に形状を変化させたショットガンを構え、ガジェット目掛け引き金を引く。

 

 至近距離から散弾の直撃を受けたガジェットはその場で爆散する。

 

「やるじゃん」

 

 その時、巨大な影が2人の前に現れる。

 

 そこには通常のガジェットの3倍ほどの巨大なガジェットが現れる。

 

「こいつは任せて!」

 

 スバルは巨大ガジェットの前に立つと拳を構える。

 

「はぁ!」

 

 スバルが拳を繰り出す瞬間にひじの部分の装甲が展開しバーニアが出現する。

 

 バーニアの勢いが乗った1撃がガジェットの中心部を捉える。

 

 その1撃によりガジェットの装甲に大きなヒビが入る。

 

「まだまだ!」

 

 交互に拳を打ち込み、突きのラッシュを繰り出す。

 

「オラオラオラオラオラァ!」

 

 最後の1撃を受けたガジェットは吹き飛ばされ、別のガジェット部隊を巻き込みながら爆発を起こす。

 

「これすごい……体が軽い……」

 

「調子に乗るなよ!」

 

 その時、ウーノ怒声が響く。

 

 それに呼応するようにさらに大量のガジェットが周囲を取り囲む。

 

「撃て!」

 

 スバルの周囲を取り囲んだガジェットが一斉にスバル目掛けて攻撃を行う。

 

「くっ!」

 

 スバルは顔の前で腕を交互に組みガジェットの攻撃を受け止める。

 

 攻撃が止み周囲に煙が立ち込める。

 

 煙の尾を引きながら高速で飛び出したスバルがガジェットに飛びつくとそのまま胴体部を掴み別のガジェット目掛け投げつける。

 

 ガジェット同士がぶつかり合い互いに誘爆を起こす。

 

「スバル! 無事?」

 

 着地したスバルにティアナが駆け寄る。

 

「うん、大丈夫。さすがは新型、防弾性はばっちりみたい」

 

「そう。それは良かった……しかし……この状況……すごい物量……大群ってレベルじゃないわね」

 

「さて……やりますか! どっちが多く倒せるか勝負しよう!」

 

「負けた方が帰ったら何か奢るってなら良いわよ」

 

「待ってました!」

 

 2人はデバイスを構え直すとガジェット部隊と向き合った。



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局面

コロナ陽性になったので初投稿です。

ここから先は色々な場面が点々とするので少しわかりにくいかも知れませんね


 

  スバル達に殿を任せた私達は最奥部へと移動を続ける。

 

「周辺にガジェットの反応はありません」

 

「恐らく彼女達の元に集結しているものと思われます」

 

「2人は……大丈夫かしら……」

 

 フェイトは不安そうな表情を浮かべる。

 

「今はあの2人を信じましょう」

 

「彼女達ならば大丈夫なはずです」

 

「そうね!」

 

 私達は歩みを進めコントロールルームへと到着する。

 

 コントロールルームの扉を開けると中ではスカリエッティが椅子に腰かけ待ち構えていた。

 

「よく来た。メタトロンの申し子よ」

 

 スカリエッティは座った椅子を回しこちらに体を向けるとゆっくりと立ち上がる。

 

「スカリエッティ……こちらは時空管理局です! すぐに反逆行為とガジェットを停止させなさい!」

 

 フェイトがバルディッシュを構え声を荒らげる。

 

「ガジェットを停止させたいのならそこの制御端末からハッキングでもするんだな。だがその前にこの私を倒すことだ……もっとも、私は君に用はないのだがね」

 

 スカリエッティはそう言うと後ろの扉を指さす。

 

「この先でエースオブエースが君をお待ちかねだ……プロジェクトFの残渣──」

 

 スカリエッティの言葉を遮るようにフェイトから魔力弾が発射されスカリエッティの真横を通過する。

 

「ふっ……まぁいい……さて行くが良い。私が興味あるのは君達2人だけだ」

 

 フェイトはこちらを見据える。

 

「この場は私達にお任せください」

 

「……ありがとう……」

 

 フェイトは小さく言うと奥の扉を抜けていった。

 

「さて……これで邪魔者はいなくなった……」

 

 次の瞬間、部屋中にサイレンが鳴り響く。

 

 それに呼応するように部屋の壁が展開され10機のOFが姿を現す。

 

「これが私の最高傑作だ!」

 

「機体照合終了。OFアヌビスタイプ5OFジェフティタイプ5確認。外見と性能が非常に酷似しています」

 

「私の科学力が上か! 君達が上か! 試させてくれ! さぁ! 実験を始めよう!」

 

「ハッキングには多少の時間を要すると思われます。なおハッキング中は完全に無防備になってしまいます」

 

「了解。私が敵OFの相手をいたします。エイダはその間にハッキングを行ってください」

 

「了解。それでは」

 

「「作戦開始」」

 

 スカリエッティの声に応えるように10機のOFが飛び上がると私達に襲い掛かり、デルフィが迎撃に飛び出した。

 

 

 

 

 

  突入部隊がゆりかご内部に突入すると同時にリユニオンは浮上する。

 

「ここからは耐久戦よ! 突入した部隊がガジェットを停止させさえすれば……」

 

「それまで持てばいいんだけどね」

 

「持たせるのよ。さぁ配置について!」

 

「了解」

 

 トムは火器管制を行う。

 

「こんな事なら戦艦に改造しておくべきだった」

 

「輸送船の自衛武装でもやるしかないのよ」

 

 リユニオンから多数のミサイルと機銃による弾幕が展開され、接近するガジェットを迎撃していく。

 

 しかし、ガジェットの物量は多くすべて迎撃するには至らない。

 

 迎撃をすり抜けた複数のガジェットがリユニオン向けて攻撃を行う。

 

 放たれた魔力弾はリユニオンへの直撃コースに乗る。

 

 しかし、魔力弾は直撃せず、周囲に展開されたシールドによって防がれる。

 

「シールドの強度は80%を維持している」

 

「この程度の攻撃力とは言え……何度も食らったらやばいわね……」

 

「また来るぞ!」

 

 再びガジェットが攻撃態勢を取る。

 

 しかし、攻撃態勢をとったガジェットが爆発四散する。

 

 爆炎の中から船外装備を身に纏ったヴォルケンリッターの姿があった。

 

「接近してきた敵はこちらで迎撃する!」

 

「頼むわね」

 

 迎撃態勢を取るリユニオンに更に大型のガジェットを加えた部隊が迫りくる。

 

 あまりの物量に弾幕をすり抜ける数が徐々に増えていく。

 

 そしてついに──

 

「くっ……数機突破された!」

 

 ヴォルケンリッターの迎撃をすり抜けた数機がリユニオンに攻撃を行いシールドの耐久を削っていく。

 

「トム!」

 

「わかってる! 機銃で迎撃する!」

 

 ヴィータが苦虫を噛み潰したような表情をしながら踵を返し迎撃に向かおうとする。

 

「持ち場を離れるな!」

 

「でも!」

 

 シグナムは目の前のガジェットを切り伏せながら指示を飛ばす。

 

「この場を離れたらさらに突破を許すことになる」

 

「くっ……わかったよ」

 

 ヴィータは再び防衛ラインへと戻る。

 

「しかし……この物量……このままでは……」

 

 シグナムの危惧している通り、迎撃に出たガジェットはさらに数を増している。

 

 そしてその物量により徐々に防衛ラインを突破しリユニオンに攻撃を行う数が増えていく……そしてついにリユニオンから炎が上がる。

 

「シールドが破られた! 第1装甲板に被弾!」

 

 炎上したリユニオン艦内に非常警報が鳴り響く。

 

「隔壁閉鎖! 消火装置起動!」

 

 ハーマイオニーが端末を操作しダメージコントロールを行う。

 

「船から炎が! ぐぁあ!!」

 

「どうした! ヴィータ!」

 

 ガジェットの猛攻によりヴィータが負傷し肩から血を流す。

 

「くっ……防衛ラインを下げる!」

 

「こんなの……大した傷じゃねぇ……」

 

「そうも言ってられん……後退するぞ!」

 

 シグナム達は撤退しリユニオンの甲板に着地する。

 

 防衛ラインが下がった事によりガジェットの猛攻がさらに熾烈になり、リユニオンの至る所から炎が上がる。

 

「居住ブロックから火災発生!」

 

「そこは隔壁ごと閉鎖するわ。今は最低限の場所以外は全部閉鎖するわ!」

 

 そんな時、湾内の搬出口から肩部に大型のミサイルを担いだガジェットが現れる。

 

「おいおい……あいつは不味いぞ……」

 

 そして、大型ガジェットから巨大なミサイルが発射される。

 

「弾幕展開! 撃ち落とすのよ!」

 

「駄目だ! 今生きている砲台じゃ防ぎきれない……」

 

「くっ……来るわよ!」

 

 次の瞬間巨大なミサイルが着弾する。

 

 着弾と同時にリユニオンが大きく揺れる。

 

「くぉ! 装甲板大破! 飛行機能に障害発生! 不時着する!」

 

 黒煙を上げながらリユニオンは湾内に不時着する。

 

 不時着し機動力の無くなったリユニオン目掛け大量のガジェットが突撃する。

 

 

「量が多すぎる! ガジェットが侵入してきたぞ!」

 

 ミサイルの攻撃によって出来上がった穴から小型のガジェットが船内に侵入する。

 

「くっ! 船内に……」

 

「こいつ等……船を占拠するつもりか?」

 

「生け捕りにでもするつもりなのかもしれない……」

 

「援護に行きたいが……くっ!」

 

 船外で迎撃を行っているヴォルケンリッターも手一杯のようだ。

 

 武装の多くも大破し、大した迎撃能力も低下しているため敵の猛攻に拍車がかかる。

 

「内部に侵入された……このままでは……」

 

「内部に侵入した敵の迎撃には私が行きます!」

 

 2人の背後に武装を整えたシャマルが立っていた。

 

「でも……」

 

「私だって守護騎士です!」

 

 シャマルはその場から走り出した。

 

「くそ……ジリ貧だ」

 

「内部に潜入した部隊が制御システムを制圧するまでの辛抱よ」

 

「それまでこちらが持てばだな」

 

「信じるしかないわね」

 

 ハーマイオニーは胸の前で硬く拳を握りしめた。

 

 そんな時、間近で爆発音が響く。

 

「これは……結構近いな」

 

「ガジェットが近くまで迫ってきているようね……」

 

「よし」

 

 トムはそう言うと近くに置いてある武器を手に取る。

 

「トム?」

 

「僕も迎撃に出よう。君は医務室に居る彼女を連れてブリーフィングルームに行くんだ。恐らくそこが最終防衛ラインになるだろう」

 

「わかったわ」

 

 ハーマイオニーはそっとトムの肩に手を置く。

 

「頼んだわよ……その義体で最後なんだから……」

 

「次はもっと多くの義体を用意しておくさ」

 

「次が無い事を祈りたいわね」

 

「ハハ、そうだな」

 

 お互いに頷くと2人は別々に部屋を後にした。

 

 

『皆こっちよ!』

 

 船内まで退却したシグナム達を誘導するようにシャマルが念話を送る。

 

 それに応えるようにシグナム達は船内の狭い通路に逃げ込む。

 

「くそっ! 奴らどんどん出てきやがる」

 

 壁越しに応戦しながらヴィータは悪態をつく。

 

「船内では狭くてまともに攻撃できん……」

 

「だがこっちも大技を出すほどの魔力も体力も残っちゃいない……」

 

「くっ……歯がゆいな……」

 

 船内にの通路に密集したガジェットが相手に壁から半身だけだし、魔力を節約しつつ遠距離攻撃を繰り返してはいるが、近距離戦闘がメインのヴォルケンリッターでは決定打にかける。

 

 そんな時、ガジェットの側面から大量の弾幕が襲い掛かる。

 

「なんだ……」

 

 強襲を受けたガジェット部隊は成す術もなく撃破される。

 

「おっと、撃たないでくれ」

 

 ガジェットの残骸をかき分けトムが現れる。

 

「お前は……」

 

「さて、あまり時間がないから手短にはなそう。ブリーフィングルームを最終防衛ラインに設定した。今から全員でそこで籠城戦だ」

 

 トムはそう言うとシグナムに持っていたアサルトライフルを手渡す。

 

「相当魔力を消費しているように見える。使い方は分かるかい?」

 

「それなりに理解しているつもりだ」

 

「そいつはいい」

 

 2人は同時にアサルトライフルを構える。

 

 そして、再度接近してきた別のガジェット部隊に銃撃を浴びせる。

 

「さて、行くぞ」

 

「あぁ」

 

 トムを先頭に全員が走り出した。

 

 ブリーフィングルームではハーマイオニーが何重もの魔法防壁を展開させていた。

 

「やぁ、戻ったよ」

 

「そう。そこのテーブルで入り口を固めて」

 

「了解」

 

 トムはテーブルを持ち上げると入口に置きバリケードを構築していく。

 

「主……」

 

 ヴォルケンリッターはソファーで横になっているはやてに駆け寄り、心配そうに顔を覗き込む。

 

「まだ意識は戻ってはいないけど、安定しているわ」

 

「そうか……良かった……」

 

 シャマルはしゃがみ込むとはやてに治癒魔法を施す。

 

「ありったけの武器と弾薬を用意してあるわ。魔力を節約しながら戦って。私は防壁に集中するわ」

 

 ハーマイオニーの声に応えるようにシグナム達は武器を手に取る。

 

「シャマル。お前は主の治癒に専念しろ」

 

「でも……」

 

「それはお前の仕事だ」

 

「えぇ、わかったわ」

 

「さて! やってきたぞ!」

 

 トムはそう言うとバリケードから銃口を出し、迎撃を行う。

 

 こうしてリユニオン内部において最終防衛戦が始まった。

 



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激闘

書き上げたので完走できるでしょう。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

  周囲を大量のガジェットの残骸に囲まれ背中合わせのティアナとスバルが呼吸を荒く息を整えている。

 

「はぁ……今何機目?」

 

「100から先は数えてないわよ」

 

「倒した数だけボーナスでも欲しいくらいだねっ!」

 

 増援のガジェットを勢いに任せて殴り倒した。

 

 既に二人とも満身創痍であり、スバルの装着しているデバイスにも多数のヒビや破損などが目立つ。

 

「しぶといな……これで終わりにしてやる!」

 

 ウーノが叫ぶと1つの反応が急速に接近する。

 

「あれは……」

 

 二人の眼前に人型の機体が姿を現す。

 

「行け! ラプター!」

 

 ラプターがビームサーベルを振り上げるとスバル達目掛け振り下ろす。

 

「くっ!」

 

「くっぁ!」

 

 間一髪で回避した二人だったが振り下ろされたビームサーベルの余波だけで大量の瓦礫が巻き起こる。

 

「いてて……なんて威力……ティア……だいじょ……」

 

 スバルがティアナの方を見る。

 

 ティアナは瓦礫に下半身が埋もれており体の至る所から出血してぐったりとしている。

 

「いやぁ! そんな! ティア!」

 

 ティアナに駆け寄ったスバルは手を取る。

 

 しかし、その手は力なく垂れる。

 

「そ……そんな……」

 

 絶望しているスバルの背後にラプターが迫り、頭部のバルカンを放つ。

 

「くぅ!」

 

 スバルはバーニアを吹かし、バルカンを回避しながらラプターの足元を滑るようにすり抜ける。

 

 ラプターの背後に回ったスバルは勢いそのまま飛び上がると壁を蹴る。

 

「こっちだ! あおりゃああぁあっぁああああ!!」

 

 勢いよく飛び出したスバルがラプターの背中を右手で殴りつける。

 

「なっ!」

 

 スバルはその場で驚愕する。

 

 そしてラプターが振り向こうとした勢いに吹き飛ばされる。

 

「くぅうう!」

 

 吹き飛ばされたスバルは空中で1回転すると何とか着地する。

 

「いっつ……なんて硬さ……」

 

 スバルは自身の右手に目をお落とす。

 

 スバルの右手部分の装甲にヒビが入っており、そこから血があふれ出している。

 

「あの装甲を貫くのは……きっついなぁ……」

 

 ラプターが右腕部を振り上げスバル目掛けて振り下ろす。

 

「くっ!」

 

 スバルはその場から横に飛びビームサーベルの1撃を避けるが、余波により装甲が焦げる。

 

「このままじゃ……」

 

 まさに防戦一方と言ったところだろう。

 

 ラプターが左腕部を振り上げ、横に凪ぐ。

 

「うぉ!」

 

 スバルはその場で高く飛び横なぎを避ける。

 

 しかし

 

「なっ!!」

 

 そこには既に右腕部のビームサーベルを展開したラプターの姿があった。

 

 このままではスバルの身体はビームサーベルの直撃を受け蒸発するだろう。

 

『避けなきゃ! でも……身体が……うごか……ない』

 

 一瞬の事であるのにスバルにとってはまるで時間が止まったかのように感じている。

 

『あれ……なんで……』

 

 今までの人生での出来事がに浮かび上がり、世界が白黒に支配される。

 

『あぁ……これが……走馬灯ってやつか……』

 

 緩やかに迫りくるビームサーベル()を目の前にスバルはどこか安らかな気持ちですらいる。

 

『あれに当たったら痛いだろうなぁ……いや……痛いと感じずに消えちゃうかな?』

 

 そんなことを考える余裕すらスバルには有った。

 

「ごめんね……ティア……」

 

 スバルが呟き、ビームサーベルの熱が緩やかに装甲を焦がす。

 

 ついにその時が訪れようとしているとき、スバルの視界の片隅に何かが映り込む。

 

 そのなにかはラプターの右関節部に吸い込まれる様に飛び込んでいく。

 

 次の瞬間、ラプターの右関節部に爆発が起こると爆音と同時にセピア色の世界に色が戻り、スバルの感覚が戻りスバルの真横をビームサーベルが通り抜ける。

 

「くっ!」

 

 スバルはバーニアを左方向に吹かし着地する。

 

「モード……ランチャー」

 

 瓦礫から這い出したティアナが巨大な砲身を肩に担いでいる。

 

「ティア!!!」

 

「まだよスバル!」

 

 スバルが振り返るとラプターが再び迫りくる。

 

 スバルはその場で飛び上がるとビームサーベルの1撃を避ける。

 

 そんなスバルを追うように右腕部のビームサーベルが迫る。

 

「同じ手は食らわない!」

 

 バーニアを吹かし空を滑るように移動する。

 

「あれ?」

 

 着地したスバルが呟く。

 

「あいつ……右手の動きが鈍くなってる……もしや!」

 

「どうしたの?」

 

「ティア! もう一度さっきのアレを!」

 

「あれ?」

 

 スバルは地面を滑りラプターに接近する。

 

「ここだぁ!」

 

 飛び上がりラプターの右関節部を殴りつける。

 

 その時、両者の装甲板にヒビが入る。

 

「そこね!」

 

 ティアナが担いだランチャーを構え、右関節部を狙う。

 

 放たれた弾頭は右関節部に見事命中し、大規模な爆発を起こす。

 

「ぐぉぉぉおぉおおぉ!」

 

 ラプターは叫びにも似た機械音を上げ、スバル目掛け右腕を振り上げる。

 

「モードスナイプ!!」

 

 ティアナが叫ぶとティアナの手に大口径の対物ライフルが握られていた。

 

「くらええ!!」

 

 ティアナがスコープを覗き、照準を定める。

 

 スバル目掛け振り下ろされる途中の右関節部を見事に大口径の弾丸が貫く。

 

 撃ち抜かれた右腕がビームサーベルを放ったまま吹き飛ばされる。

 

「これで!」

 

 スバルとは飛び上がると吹き飛ばされた右腕を受け止めるとそのまま着地する。

 

「ぐぅう!!」

 

 あまりの重量にスバルの周囲の地面が凹む。

 

「だぁりゃああああ!!」

 

 スバルはその大質量の腕をラプター目掛け振り下ろす。

 

 対するラプターは左腕のビームサーベルでそれを受け止める。

 

「ぐぅうう!! まだだぁああ!!」

 

 弾き返された腕を再び振り上げる。

 

「ぐぉおぉぉお!」

 

 まるで叫ぶかのような機械音を放ちながらラプターは再び左腕で弾き返す。

 

「ぐぅううぅ!! ティア!!」

 

「えぇ!」

 

 ティアナは両手で巨大な銃身を抱える。

 

「モードレールキャノン。これで終わりよ!」

 

 ティアナが引き金を引くと抱えた砲身から超高速の弾丸が放たれる。

 

 その超高速の弾丸はラプターの頭部ユニットに直撃すると頭を吹き飛ばす。

 

「うりゃあぁあああああ!!!」

 

 スバルは腕を抱えたまま飛び上がると頭の吹き飛んだラプターを真っ二つに切り伏せる。

 

 それと同時に腕部に残されていたエネルギーが尽きたようでビームサーベルが消失する。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「これで止めよ!」

 

 目の前に転がって来たAIユニットにティアナはゼロ距離でレールキャノンの砲身を突き付ける。

 

 ティアナが引き金を引くとレールキャノンが放たれAIユニットを完全に破壊する。

 

「ふぅ……」

 

「あはは……容赦ないね」

 

 スバルは息を切らせながらラプター残骸を背にしながら、瓦礫に腰かけたティアナに近寄る。

 

「ティア? 大丈夫?」

 

「大丈夫……って言いたいけど駄目ね。さっきので両足をやられちゃったみたい」

 

 そう言うティアナの両足は負傷しており立つのは厳しいだろう。

 

「そういうそっちは?」

 

「私も大丈夫って言いたいけどねぇ……さっきから殆ど両腕が動かないんだ」

 

 スバルは笑いながら若干両腕を動かそうとするが、ほとんど動いではいない。

 

「まさか……ラプターまでやられるとは……」

 

 ウーノが驚愕して呟く。

 

「こうなったら……!」

 

 ウーノは踵を返しその場から逃走を図る。

 

「あっ! 待て!」

 

「お前達!」

 

 ウーノが指示を出すとスバル達の周囲を再び数十基のガジェットが囲む。

 

「あいつ……」

 

「どうするのティア?」

 

「状況は最悪ね……私は両足が動かず。スバルは両手が使えないんでしょ?」

 

「そうだね。でも」

 

 そう言うとスバルはしゃがみ、ティアナがおぶさる。

 

「「2人合わせればまだ戦える!!」」

 

 ティアナを背負ったスバルはその場から走り出す。

 

「モードデュアル!!」

 

 ティアナが両手に銃型のデバイスを持ち弾幕を張り、周囲のガジェットを撃ち落とす。

 

「昔もこんなことがあったよね? 懐かしいなぁ」

 

「そうね」

 

 2人は何かを思い出したように微笑んだ。

 

 

「これで!」

 

「ラストぉおお!!」

 

 ガジェット部隊の最後の1機を撃ち落としたスバルとティアナはその場で周囲を見渡す。

 

「おわった……んだよね?」

 

「追加はなさそうね……」

 

 スバルに背負われたティアナが答える。

 

「じゃあ! 逃げた人を追いかけよう!」

 

「そうね!」

 

「このまま行くよ!」

 

「ちょっとスバル!」

 

 スバルを制止しようとするティアナだったがそのまま走り出した。



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親友

なのはさんのテンションがおかしいのはメタトロンのせいです。


 

 

  フェイトが目の前の扉を開け放つ。

 

「なのは!」

 

 部屋に飛び込むと同時にバルディッシュを構える。

 

「待っていたよ。フェイトちゃん」

 

 壁にもたれ掛かり、力なくレイジングハートを右手持ち、吐血により純白のバリアジャケットに複数の赤黒いシミを作ったなのはがフラフラと覚束無い足取りでフェイトに歩み寄る。

 

「なの……は……その力は危険すぎる……私達の技術じゃ使いこなせない」

 

「はは、そうかもね。けほ……もうあまり時間がないみたいだし、そんなの関係ないでしょ……さて……もう一度確認だけど、私と一緒に新しい管理局を作らない? フェイトちゃん?」

 

「なのは……前にも言ったけど私はそんな事しない! 貴女と一緒になんか行かない! エリオとキャロを傷付けた貴女を許さない!」

 

「じゃあもういいよ……もうフェイトちゃんもいらないよ。死んじゃえばいい」

 

「ふざけないで! こんな事の為に……一体何人の命が失われたと思っているの!」

 

「私が勝ったらこれからもっと増えていくよ! でも死んじゃうのはフェイトちゃんだけどね! さぁ! フェイトちゃん! どうせ死んじゃうんだし道連れに何百人だろうと連れていくと良いよ!」

 

「生憎と死ぬつもりはないし……もし仮に道連れにするなら……相手は決まっているっ! ……なのはっ!」

 

「アハハ! フェイトちゃんッン!」

 

 二人が同時に飛び出すと互いのガジェットがぶつかり合い、火花が飛び散る。

 

「くっ!」

 

 衝撃を受け流しきれずフェイトが後方へ吹き飛ぶ。

 

 しかし、フェイトは受け身を取り着地する。

 

「そこ!!」

 

 そんなフェイトの右後方から複数の魔力弾が迫る。

 

「ほらほら! ちゃんと避けないと本当に死んじゃうよぉ!」

 

「くっ!」

 

 フェイトが居た着弾地点に瓦礫が巻き上がる。

 

「……」

 

 周囲を静寂が支配し、その光景をまるで他人ごとの様に見つめている。

 

「あれだけ啖呵切っておいて……あっけない」

 

 棒立ちのなのはの背後に突如としてフェイトが現れバルディッシュが急襲する。

 

「カートリッジ!! ロード!」

 

 メタトロンが封入されたカートリッジを装填したバルディッシュの蒼白い刃がなのはの胴体を捉える。

 

「っ! なっ!」

 

 横殴りに吹き飛ばされたなのはが壁に激突し瓦礫に埋もれる。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 フェイトは肩で息をしながらバルディッシュからカートリッジを排莢する。

 

「やった……か……」

 

「へぇ……驚いたなフェイトちゃん」

 

「なの……は」

 

 瓦礫からなのはが立ちあがる。

 

「まさかフェイトちゃんもメタトロンを使うなんてね。扱いきれないんじゃなかったかな?」

 

 なのはがフェイトの足元に転がる薬莢を睨みつける。

 

「このカードリッジを作ったのは向こうの技術よ」

 

「そう……今の一撃は痛かったよ……痛かった……痛かったね!」

 

 なのはは薬莢を踏みつぶしながら右手を上げるとフェイトの周囲を魔力弾が取り囲み、一斉に襲い掛かる。

 

「とても痛かった……でもね……私が怒っているのはそこじゃないんだよ……フェイトちゃん」

 

 なのはの攻撃がさらに苛烈を極め、フェイトも回避しきれず、体を掠める。

 

「さっきの一撃……普通なら死んでいたよ。胴体が真っ二つだ……だから一つ聞きたいんだ……どうして……どうして非殺傷なの!」

 

 なのはが両手を振り上げるとフェイトに一斉に魔力弾が着弾する。

 

「どうしてかな? 私の事を馬鹿にしているのかな? 舐めてんのかよっ! 答えてよ! 答えろっ!」

 

 先程の攻撃で膝を着いているフェイトになのはが迫る。

 

「私は……私はなのはとは違う!」

 

「ふえ?」

 

「私は……管理局員のフェイト・テスタロッサとして……高町なのは……貴女を逮捕する!」

 

 フェイトは再び立ち上がるとバルディッシュを構え直した。

 

「逮捕する? アハハ! 面白いこと言うねフェイトちゃん!」

 

「何がおかしい!」

 

「だってさぁ! フェイトちゃんとはやてちゃんが私を逮捕するなんて……ハハハッ!」

 

 なのはは腹を抱え大笑いする。

 

「元々は時空犯罪者の2人がハハッ! 私を逮捕だなんだ! いひひっ! はっ! おかしなことを言うねぇ!」

 

「なっ……」

 

 なのはが笑いながら手をかざすと目の前に複数の魔法陣が現れ、そこから赤黒い魔砲攻撃が打ち出される。

 

「それにね。逮捕って言うのはね。相手より強い奴が言うんだよ」

 

「くっ!」

 

 フェイト目掛け放たれた魔砲攻撃をギリギリの所で回避する。

 

 流れ弾が部屋の柱に命中すると、それだけで木っ端みじんに粉砕される。

 

「カートリッジ!!」

 

 メタトロン製カートリッジをロードすると同時にフェイトが更に加速しなのはとの距離を詰める。

 

「くっ!」

 

 なのはが更に魔法陣を作り出し魔砲の弾幕が濃くなる。

 

「これで!! 届けぇ!」

 

 激しい魔砲攻撃の弾幕を搔い潜り、ついになのはの胴体にバルディッシュが迫る。

 

 しかし……

 

「なっ……」

 

 なのはの周辺に張られたプロテクトによりバルディッシュが防がれる。

 

「アハハ! 残念。フェイトちゃん」

 

 なのはがレイジングハートを構える。

 

「バインド」

 

 なのはが呟くとフェイトの身体をピンク色のバインドが絡め取る。

 

「昔もこんなことがあったね。懐かしいね」

 

「くっ! 離れない!!」

 

 まるで親友に話しかけるように微笑ましい笑顔をフェイトに向けてそっとその頬に手を添えレイジングハートを構える。

 

「それじゃあ。バイバイ」

 

「っっ!!」

 

 至近距離で魔砲攻撃を食らったフェイトはピンク色の魔砲に吹き飛ばされて壁に激突する。

 

 フェイトが激突した壁は大きく抉れ威力の凄まじさが理解できる。

 

「かはっ……あっ……はぁ……うぁ……うぅ……」

 

「あれれ? まだ息がある? 流石はフェイトちゃん。寸での所でバルディッシュで受け止めたんだね。すごいよ! 殺しきるつもりだったのに」

 

 息も絶え絶えでバリアジャケットの至る所が破れているフェイトはヒビが入ったバルディッシュを支えに震える足で何とか立ちあがる。

 

「あはっ! まだやるんだね! いいねぇ! 楽しいね!」

 

「はぁ……あ……は……バル……ディッシュ……まだいける?」

 

『問題あ……り……ませ』

 

 ノイズ交じりにバルディッシュが答える。

 

『まさか……メタトロンカートリッジでも……なのはには……』

 

 フェイトは口に出さずに考えを巡らす。

 

『残りのカートリッジは……5回分……』

 

「んふふッ……どうするつもりかな?」

 

 まるで友人のサプライズを待つかのようになのはは満面の笑みを浮かべる。

 

『バルディッシュ……残りのカートリッジを1回で全部使う事ができる?』

 

『メタトロンは……未知数……どうなるか分……せん。……がやり遂げてみせます』

 

『でもセーフティが……』

 

『セーフティが解……除され……した』

 

『え?』

 

『恐ら……当初……より……カートリッジ……同時……使用するこ……想定されて……ようで、……解除コードになっていたようです』

 

「なるほど……行くよっ! バルディッシュ!」

 

『了解』

 

 フェイトはなのはに向かって正面から走り出した。

 

「さぁ! 終わりにしよう! フェイトちゃん! 全力全開!!」

 

 なのははレイジングハートを構え、前面に魔法陣が現れる。

 

「カートリッジ!!!」

 

 バルディッシュが5回カートリッジを装填する。

 

 カートリッジをロードした瞬間、フェイトの全身に蒼白いラインが走る。それはまるで全身の血管を廻るように。

 

 対するなのはも全力全開で、全身に赤黒いラインが走る。

 

「さぁ! フェイトちゃん!」

 

「なのはぁぁあああ!」

 

 魔法陣から赤黒い魔砲攻撃が放たれる。

 

 それに突っ込むようにフェイトが迫る。

 

 なのはの魔砲とフェイトの斬撃が激突する。

 

 激突の余波が部屋中に駆け巡り、部屋の至る所にヒビを作る。

 

「あぁあぁぁああああぁああああああ!!」

 

 フェイトが絶叫し、少しずつなのはに迫る。

 

「なっ!」

 

 なのはが一瞬戸惑いを見せる。

 

「うああぁあああああ!」

 

 フェイトの絶叫と共に赤黒い砲撃が切り破られる。

 

「あっ……」

 

「なぁのぉはぁあああああ!!」

 

 勢いそのままのフェイトのバルディッシュの袈裟切りがなのはを捉えた。

 

「あ……あっ……」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 息を荒らげるフェイトの手の中でバルディッシュが音もなく砕け散る。

 

 それと時を同じくして数歩後退ったなのはが倒れ込む。

 

「ごはっ……フェイ……ト……ちゃ……」

 

「な……の……」

 

 フェイトはなのはが倒れるのを見届けるとその場で倒れ込む。

 

 その時、部屋全体を揺らすような振動が訪れる。

 

 その振動と先程の戦いの余波によりヒビが入った床が崩れ始める。

 

 そしてなのはがそれに巻き込まれ奈落へと落ちていく。

 

「な……のは……」

 

 フェイトは姿を消したなのはに手を伸ばすが、意識を手放した。

 



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惑星

 

「そんな……ありえない……」

 

 スカリエッティは目の前の出来事がこの世のものとは思えない。いや理解できないでいる。

 

「ハッキング終了。所要時間は10分程度でした」

 

 私はハッキングを終了させ、ガジェットの行動を停止させる。

 

 私の周囲にはデルフィが破壊したであろうスカリエッティが制作した10機のOFの残骸が散乱していた。

 

 その時、背後の扉が開かれる。

 

 その扉からはティアナを背負ったスバルが姿を現した。

 

「あれ? ここは……」

 

「ご無事ですか?」

 

「二人とも無事って訳じゃないですが……何とか生きています」

 

「それよりこっちに女の人が逃げて来なかったですか?」

 

「いえ。確認していません」

 

「この二人が生きているなんて……まさかウーノの奴っ!」

 

 スカリエッティは踵を返すと部屋から逃げ出した。

 

「あっ! 待て!」

 

 スバルが走り出そうとした瞬間、周囲が大きく揺れる。

 

「うわぁ!」

 

「なんだ?」

 

「恐らくハッキングの影響で施設の大部分が機能停止。崩壊すると思われます」

 

「崩壊って!」

 

 スバルとティアナが周囲を見回す。

 

「私達はスカリエッティを追います! お2人はフェイトさんの方を!」

 

「了解」

 

「外で合流しましょう!」

 

 スバル達はスカリエッティが逃げていった扉へ。

 

 私達はフェイトが向かった扉へと走り出した。

 

 

 リユニオン内部の攻防戦は熾烈を極めていた。

 

 廊下には数え切れないほどのガジェットの残骸で溢れかえっている。

 

 しかし、それにを遥かに超える量のガジェットがリユニオンの周辺を取り囲み、至る所に突入口を作りまるで内部から食い破る科のように侵入してくる。

 

 既に半壊しているバリケードに身を隠しながらトムが銃撃を浴びせかける。

 

「全く……これじゃ焼け石に水だな」

 

「こいつ等……物量で押しつぶす気だ」

 

 シグナムがバリケードから半身を出すと手りゅう弾を投げつける。

 

 数秒後に爆発が起こり、周囲のガジェットが機能停止により落下する。

 

 しかし、その開いた隙間を埋めるように再びガジェットが押し寄せる。

 

「はぁ……これじゃきりがない……」

 

「全く……くぉ!」

 

 集まったガジェットが一斉にブリーフィングルームに迫りくる。

 

「くそぉ! このままじゃ本当に押しつぶされる!」

 

 迫りくるガジェットはついにバリケードを突破する。

 

 その時。

 

 ブリーフィングルームの最奥から一陣の魔砲攻撃が放たれ、迫りくるガジェットを一掃する。

 

「はっ!」

 

 その場の全員は振り返ると、立ちあがったはやてが肩で息をしながら手を構えている。

 

「うっ!」

 

 次の瞬間、はやてはその場で倒れそうになる。

 

「はやてちゃん!」

 

 そんなはやてをシャマルが支える。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 はやては口の端から血を流しながら息を荒らげる。

 

 しかし、はやてが明けた空間を瞬時に細胞が再生するかの様にガジェットが埋め尽くす……

 

「く……ここまで……か……」

 

 ブリーフィングルームに入り込み制圧したガジェットが全員を取り囲む。

 

 次の瞬間。

 

 1機のガジェットがショートし落下する。

 

「え?」

 

 それに釣られる様に1機また1機とガジェットが墜落していく。

 

「これは……」

 

 それはまるで伝播するかの様に……

 

「突入した部隊が……やった……のか……」

 

「助かったようだね」

 

「えぇ……ほんと……ヒヤヒヤしたわ」

 

 全員はその場で力が抜けたように座り込んだ。

 

 

「くそっ! こんなはずでは!」

 

 スカリエッティがあわただしくコンソールを操作する。

 

 その時背後から物音がした。

 

「誰だ!!」

 

 スカリエッティが振り向きざまに震える手で銃を取り出す。

 

「私です! ドクター!」

 

 銃口の先にはウーノが立っていた。

 

「なんだ驚かせるな」

 

 スカリエッティはコンソールの端に銃を置くと安堵したように再び操作を開始した。

 

「実験は終わった。今回のデータを持って逃げる」

 

「そんな余裕はありません! 時空管理局の人間がすぐそこまで来て——」

 

「ナンバーズを目覚めさせろ」

 

「え?」

 

 突然の事にウーノは虚を突かれたように動かなくなる。

 

「お前が姉妹であるナンバーズをゆりかごで隠れて保護していることを知らないとでも思ったか?」

 

「そ……それは……」

 

「情でも沸いたか? まぁいい今は奴らを起こせば時間稼ぎ位にはなるだろう」

 

「しかし! 今目覚めさせるのは危険です!」

 

「どうせ捨て駒だ。私が逃げるまでの時間を稼げればそれでいい」

 

「なにを……言って……」

 

「早くしろウーノ。ナンバーズが目覚めたらお前が奴等を率いて時間を稼げ」

 

「え?」

 

「何をしている急げ」

 

 スカリエッティは振り返ることなくコンソールを操作しデータをコピーしていく。

 

「ドクターは……私に捨て駒になれと……」

 

「それがお前達の役目だろうが。まったく……」

 

「そんな……ドクター……」

 

 スカリエッティはくだらなそうに溜息を吐く。

 

 それから数秒後、周囲に破裂音が響いた。

 

「ぐがっ!」

 

 スカリエッティは震える右手を自らの右胸へと持って行く。

 

 すると、嫌な感触と共に生暖かい液体が手を染める。

 

「う……ウーノ……お前!!」

 

 周囲の資料を撒き散らしながら倒れ込んだスカリエッティの白衣がどんどんと赤黒く染まって行く。

 

 スカリエッティが手を伸ばした先には両手で銃を持ったウーノが立っていた。

 

「どういう……つもりだ!」

 

「あっ……あぁ……あ……」

 

「う……ウーノ……」

 

 スカリエッティは血だまりの中で動かなくなる。

 

 その時、背後の扉をティアナを背負ったスバルが勢いよく蹴り開けた。

 

「居た!」

 

「時空管理局よ! 武器を捨てて!」

 

 ティアナが声を荒らげるとウーノはゆっくりと振り返る。

 

「…………」

 

 無言のままウーノは手にした銃を手放し両手を上げる。

 

「これは……スカリエッティ……」

 

「そんな……」

 

「ティア……」

 

「うん」

 

 スバルから降りたティアナがスカリエッティの首筋に手を当てる。

 

「だめね……」

 

「そう……」

 

 二人はウーノへと視線を移動させる。

 

「これは……貴女が?」

 

「取引を……」

 

「え?」

 

「取引をしましょう」

 

 ウーノが呟いた。

 

「私と……姉妹……たちの身の安全を保障してくれるなら……そちらの調査に協力をするわ」

 

「どうする?」

 

 スバルはティアナと顔を見合わす。

 

「わかりました。協力しましょう」

 

 ティアナが答えた時、ひと際大きな揺れが起こる。

 

「とにかく時間が無いわ脱出するわよ」

 

「えぇ。脱出艇はこっちよ」

 

 覚束無い足取りのウーノの後に続き脱出艇へと移動を開始した。

 

 

 

 私達が扉を開けると部屋の真ん中で倒れ込んだフェイトの姿を確認する。

 

「ご無事ですか?」

 

 フェイトに駆け寄る。

 

 生命反応は確認出来る。

 

「私は……なんとか……でもなのはを取り逃して……」

 

「もうじきこの施設は崩壊します」

 

「速やかに脱出を」

 

「えぇ……わかったわ」

 

「手をお貸しします」

 

 フェイトはデルフィの肩を借りる。

 

 その時スバル達から通信が入る。

 

『こちらで脱出艇を確保しました。私達はそれで船に戻ります』

 

『了解。リユニオンで合流しましょう』

 

「さぁ。脱出しましょう」

 

「えぇ」

 

 私達はフェイトを連れ、施設を後にした。

 

 

 施設の外へと出るとそこには満身創痍のリユニオンが浮遊していた。

 

『やぁ。帰ってきたかい』

 

 トムからの通信が入る。

 

『御覧の通り、艦が大破寸前でね……まぁ通常航行はできるはずだ』

 

 緩やかに着陸したリユニオンにフェイトが乗り込む。

 

 その時、スバル達から通信が入る。

 

『今、脱出艇に乗り込みました。もうじきそちらに合流できると思います』

 

 視界に捉えられる範囲にスバル達が乗り込んだであろう脱出艇を確認する。

 

 再び浮上したリユニオンは聖王のゆりかごから退避する。

 

 合流した脱出艇はリユニオンと並走するルートを取る。

 

 それと同時に聖王のゆりかごに接近する艦隊を確認する。

 

『どうやら終わったようだね』

 

 クロノから通信が入る。

 

『これからこちらで聖王のゆりかごを占領する。君達は——』

 

 クロノとの通信が途絶えると同時に聖王のゆりかごの中心部から高エネルギーの照射を確認する。

 

『なんだ!』

 

 照射されたエネルギーは接近する艦隊の中心部に直撃する。

 

 直撃した場所に居た艦隊が一瞬にして消滅した。

 

『なんだ! なにが!』

 

『状況を確認しろ!』

 

 様々な無線が混線する。

 

 艦隊が混乱している最中に再び高エネルギー反応を確認する。

 

「第二射来ます」

 

『場所は!』

 

「測定終了。目標は我々です」

 

 デルフィが答えた直後、ピンク色のエネルギーの塊が直撃コースで迫りくる。

 

「「防御します」」

 

 私とデルフィはリユニオンの前に飛び出し、シールドを展開する。

 

「エイダ! デルフィ!」

 

 シールドとエネルギーの塊が激突する。

 

「シールド損傷率75%」

 

 エネルギーの威力は凄まじく、シールドにヒビが入る。

 

 ヒビは次第に大きくなりついに……

 

「シールド消失」

 

 シールドがなくなったことによりエネルギーの直撃を受ける。

 

『二人とも!』

 

 エネルギーの強力な攻撃を受け、装甲板が破損し、ダメージを受ける。

 

 エネルギーの照射が終わり、宙域にピンク色の粒子が舞い散る。

 

 数秒後

 

 私達の後方、リユニオンから爆炎が上がる。

 

『トム! 状況は?』

 

『くそっ! 機関部大破! 航行不能! このままで爆発するぞ!』

 

『全員船外服に着かえて脱出! 急いで!』

 

『脱出って……どこへ!』

 

『こちらの損傷は軽微です!』

 

 脱出艇に乗ったスバルから通信が入る。

 

 どうやら私達とリユニオンの後方に居たのでダメージが抑えられたのだろう。

 

 その後、リユニオンから船外服に着替えた全員が脱出する。

 

 私達は大破し、周囲にメタトロンの粒子を撒き散らしながら脱出艇の外壁に着地する。

 

 程なくしてリユニオンから脱出した全員が脱出艇に着地する。

 

「二人とも! 大丈夫なの?!」

 

 ダメージを受け至る所が破損している私達の姿を見たハーマイオニーが心配そうに声をかける。

 

 そこに船外服に着替えたスバルとティアナが合流する。

 

「コンディションチェック開始」

 

「装甲板大破、腰部ベクタートラップ破損、腕部破損」

 

「先程の攻撃により武器の使用ができません」

 

「中枢ユニットは無事です」

 

「修理には数日必要とします」

 

「そう……でも無事ならよかったわ」

 

 ハーマイオニーはほっとしたようで胸をなでおろす。

 

「しかし……一体どこから……何が撃って来たんや……」

 

 アインスに体を支えられたはやてが疑問を浮かべる。

 

「さっきの攻撃で発射地点は確認している」

 

 トムが手元の携帯型コンソールを操作すると発射地点の画像がホログラム化し映し出させる。そこには——

 

「こ……これは……」

 

「なのは!」

 

 フェイトが声を荒らげる。

 

 そこには、体中にケーブルが食い込み巨大化したレイジングハートと同型のデバイスを手したなのはが映し出されていた。

 

「一体どういう状況なの!」

 

「恐らく周囲のメタトロンを吸収しているようです」

 

「なるほど……先程の強力な攻撃はメタトロンを応用したものだったのか……」

 

 その時、全身に赤黒いエネルギーラインを放つなのはからメタトロンの反応が増え始める。

 

「この反応……もう一度撃とうとしているのか」

 

「目標は?」

 

「待ってくれ。今、測定中だ……よし……これは……」

 

 ホログラムに映し出された着地地点……それは

 

「聖王教会……」

 

「いや……恐らくあれだけの威力だ、惑星が吹き飛ぶぞ」

 

「そ……そんな……それじゃあ!」

 

「惑星上の全生命体が死亡します」

 

 私の回答に対し全員の表情に緊張が走る。

 

「ど……どうにかして止めるんや!」

 

「残念な報告だ」

 

「残念な報告?」

 

 トムはため息を吐きコンソールを操作する。

 

「あぁ。我々は砲撃の射線上にある」

 

 映し出されたホログラムには私達の現在地となのはから発射される魔砲攻撃の範囲が重なっているのが映し出される。

 

「そんな……どうすれば……」

 

「今すぐ逃げるしかない。僕たちが生き残るには——」

 

「それはダメや!」

 

 はやてが声を荒らげる

 

「そうだねはやて……私達は……なのはを止めないと!」

 

「そうや、大量殺人なんて……そんなことをしたら人類種の天敵になってまう……せめて止めてあげるのが、友達としての役目や……」

 

 はやてが一歩踏み出す。

 

「フェイトちゃん……私に考えがある……」

 

「え?」

 

 はやての答えにフェイトが固まる。

 

「もう一度……ベクターキャノンを使う……」

 

「待ってください!」

 

 はやてを止めるようにアインスが声を上げる。

 

「そうだよはやて! そんなことをしたら! 体がもう」

 

「わかってる!」

 

 はやてが声を荒らげる。

 

「わかってるけど……これしか……ほんの少しだけやけど……止められる可能性がある方法なんや……」

 

「主……」

 

 はやては付近に浮遊していたデブリに飛び移る。

 

「さぁ……わかったら皆逃げるんや。ここから先は私の仕事や」

 

 はやては夜天の魔導書を片手に息を整え。瞳を閉じながら顔を上げる。

 

 それに呼応するようになのはから高エネルギー反応が始まる。

 

「ベクターキャノンモード!! 起動!!」

 

 次の瞬間、はやての足元と周囲に蒼白い魔法陣が現れる。

 

 しかし、魔法陣は不安定に点滅を起こす。

 

「そんなの嫌なのです!」

 

 アインスの肩の上からリインがはやてに向かい飛び出る。

 

「リイン! 戻るんや!」

 

「嫌なのです! 強制ユニゾンなのです!」

 

 リインとはやてがユニゾンし、魔法陣が安定する。

 

「なにしてるんや! 早く離れるんや! 強制解除するで!」

 

「嫌なのです!!  その場合、強制解除を強制解除するのです! それに私の協力無しじゃベクターキャノンの展開すら出来てないのです」

 

「そ……それは……あぁ! もう! しゃーないな! どうなっても知らんで!」

 

「最期まで一緒なのです!」

 

 はやては再びベクターキャノンの発射に集中する。

 

「リンカーコア最大出力! 魔力全開放!」

 

 手にした夜天の魔導書が勢いよく開かれる。

 

 しかし——

 

「くっ!!」

 

 はやてが胸を抑え込み膝を着く。

 

「やっぱり……魔力が足りなかった……か」

 

 はやてはさらに苦しそうに胸を抑える。その背後にヴォルケンリッターが歩み寄る。

 

「み……みんな?」

 

 ヴォルケンリッターは全員が一度頷くとその身体が徐々に粒子と化して行く。

 

「皆! なにしてるんや!」

 

「私達を……蒐集して魔力にしてください」

 

「そ……そんなこと……」

 

 ヴォルケンリッターの粒子がはやてに流れ込む。

 

「やめるんや! そんな……そんなこと!!」

 

「世界を頼みます」

 

 ヴォルケンリッターは消えるその時まで全員が笑顔だった……

 

「み……みんな……」

 

 はやての悲しみに反比例して魔法陣の輝きが増す。

 

「くっ!! バインド展──」

 

「バインド展開!!」

 

 はやての体を固定するようにアインスがバインドを展開する。

 

「アインス!」

 

「私も……私にも協力させてください! 最期までお傍に」

 

「アインス……」

 

 その時スバルとティアナの身体から光があふれる。

 

「私達の魔力も使ってください!」

 

「私達じゃ……なのはさんを止められない……だから!」

 

「お願いします!!」

 

「二人とも……」

 

「はやて……」

 

 フェイトも自身の胸の前で手を組みはやてに魔力を送る。

 

「私の思いも……なのはにぶつけて!」

 

「うん! 任せて!」

 

 夜天の魔導書に蒐集されていたすべての頁が展開され周囲を舞い散るように展開する。

 

 はやては再び目を閉じる。前面に6個の魔法陣が展開され緩やかに回転を開始する。

 

「発射……準備……完了!」

 

 はやては目を見開く。

 

「全力……全開! 発射!!」

 

 はやての声に呼応し、魔法陣から蒼白いエネルギーの濁流が放たれる。

 

 それと時を同じしてなのはからピンク色のエネルギーの濁流が放たれる。

 

 漆黒の宇宙に2つのエネルギーの濁流が激突する。

 

「ぐぅ!」

 

 発射の反動を受け、はやての表情が曇る。

 

 2つの濁流は最初の数秒は拮抗を保っていたが、次第に蒼白い光がピンク色の光に飲み込まれていく。

 

 一度飲み込まれ始めてからは勢いを得たように蒼白いエネルギーが次第に飲み込まれ、ついにははやての眼前にまで迫りくる。

 

「こ……ここまで……か……」

 

 全身から血を流しながら震えていたはやてが自力では立っている事を放棄するように膝を屈しようとする。

 

「諦めないでください」

 

 私は飛び出し、はやての右肩を支える。

 

「え……エイダ……」

 

「今の我々には支える事しかできませんが」

 

 デルフィがはやての左肩を支える。

 

「デルフィ……」

 

「貴女ならきっと」

 

「うん!」

 

 はやては再び顔を上げる。

 

「あぁあぁぁああああぁああああああ!!」

 

 絶叫し、最後の力を振り絞るはやて。

 

 しかし、依然としてなのはの砲撃を押し返すには至らない。

 

「エネルギー反応を確認」

 

「え?」

 

 その時、私達の周囲に浮遊するエネルギー体を感知する。

 

 そのエネルギー体は1つまた1つとはやてに蒐集されていく。

 

「こ……これは……一体……」

 

『間に合ったようだね』

 

 若干のノイズが入った通信が入る。

 

「くっクロノ! 生きていたの……」

 

 安否を確認しフェイトは安堵したようだ。

 

『あぁ、状況は理解しているよ。彼が中継してくれた』

 

「え?」

 

 トムが小さく微笑む。

 

『中継された映像は全世界で流れているんだ』

 

 

「あぁ、この映像を全宙域に向けて緊急用チャンネルに割り込ませている」

 

 どうやら、トムが回線をジャックしたようだ。

 

『微力ながら我々も協力させてもらうよ。生き残っている全員が魔力を送っているんだ』

 

 次々とはやての周囲に魔力が集まってくる。

 

 どうやら魔力の中には新生時空管理局員の魔力もあるようだ

 

『君一人に全てを背負わすようで申し訳ないが……今、世界を救う事ができるのは君しかいないんだ!』

 

 無線越しにクロノの声が響く。

 

 集まった魔力がどんどんとはやてに蒐集されて行く。

 

「見て!」

 

「あれは……惑星が光っている!」

 

 フェイトが惑星を指さす。

 

 惑星の表面には淡い光が浮いている。

 

「魔力反応急速に拡大します」

 

 惑星の表面を覆っていた光は惑星に住む人々の魔力であり、それが全てはやてに蒐集される。

 

 蒐集が進むにつれて、蒼白い光が勢いを取り戻し押し返して行く。

 

「行で……なのはちゃん」

 

 勢いが増した蒼白い光が更に眩い光を放ち、ピンク色の光を飲み込んで行き、ついには全てを飲み込み、再び漆黒の宇宙が訪れた。

 

 




次回はエピローグとなります。


少し雑談を。
つぎ書くとしたらどんなものにしようか今迷っているんですよね。

今のところ考えているのは

まどマギ×メトロイド
ある程度話の大筋は考えついているが、私のまどマギに対する知識が少なすぎていろいろ問題がありそう。

なのはシリーズ×銀河英雄伝説
AS編は問題なく話がいけそうなのですが、strikers編をどうするか詰まってるんですよね…いっその事strikers編は大きく変えちゃうってのも手かなぁなど考えていますね


エヴァ×ZOE
ゼロ使×ZOE
この作品の続編という事でとも思うのですが、これ以上長引かせてもぐだりそうだなぁとおもいまして…

もしご意見ありましたらよろしくお願いいたします。



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終演

再就職が決まったので最終回です。


 

 

 管理局内で起きたクーデター鎮圧報告書

 

 時空管理局内でクーデターが発生した。

 

 首謀者は時空犯罪者のジェイル・スカリエッティである。

 

 メタトロンと呼ばれる特殊な物質と聖王のゆりかごを使用し時空管理局内でクーデターを起こしたとされている。

 

 ジェイル・スカリエッティは作戦行動中に部下である人物によって射殺されて居るが、事件の詳細についてはジェイル・スカリエッティの部下である人物と司法取引によりいずれ白日の下に晒されるである。

 

 先の報告に出てきたメタトロンと呼ばれる物質は特定の時空にのみ存在すると言う情報がある為、その時空への航行を禁止する。

 

 また、首謀者の1人元時空管理局員。高町なのはであるが、捜索するも見つからず、MIA(戦闘中行方不明)とされている。

 

 

「ふぅ……」

 

 報告書類をある程度まで書き上げたはやてが欠伸をしながら体を伸ばす。

 

 その時、扉が数回ノックされる。

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

 入室したシグナムが一礼する。

 

「報告します。目標であった2隻の戦艦を停戦し占拠しました」

 

「そか、ご苦労様」

 

「いえ、エイダたちが早々にメインエンジンを潰しましたので」

 

「想像できるわぁ……さて、なら私も移動するかな。アインス」

 

「はい」

 

 アインスに車いすを押されながらはやてが自室からブリーフィングルームに移動する。

 

 ブリーフィングルームには既にテーブルに着いたハーマイオニーとトムの姿があった。

 

「お待たせいたしました」

 

「別に気にしないで」

 

 ハーマイオニーに促され、はやては車いすのままテーブルに着く。

 

 その背後に、シグナムとアインスが控える。

 

「目標だった、元、新生時空管理局の戦艦を占領しました」

 

「これでメタトロンの流失が防げたわね」

 

「えぇ。これもお二人の協力のおかげです」

 

「そんなことはないわ。私達はただ時間を巻き戻しただけ、時空航行技術は流石管理局と言ったところね」

 

 ハーマイオニーはテーブルの上に古びた時計を置く。

 

「時空を移動後に時間を巻き戻ってメタトロンを奪われる前に回収……時間を巻き戻れるって言うのは便利ですね」

 

「便利だけど危険も伴うのよ。今回のは色々計算した上でよ」

 

 ハーマイオニーはそう言うと紅茶で唇を湿らす。

 

「そうですね。もう少ししたら例の戦艦ごと、私達は元の時空の元の時間に帰ります」

 

「元の時空に戻ったらこちらの時空の航行を禁止するんでしょ」

 

「えぇ。まぁでも会う方法なんていくらでもありますよ。なんせ今の私は時空管理局の臨時とは言え局長ですから」

 

 はやての答えにハーマイオニーは小さく微笑む。

 

「流石ね。それにしても臨時局長ね……事件が終わってからまだ数ヶ月しかたっていないんだもの、やることは山積みよ」

 

「まぁ、こんなタイミングで局長職をやりたい人なんていませんから仕方ないですよ。それに……あの事件は色々ありましたから……」

 

「貴女も無茶をしたわね。まさかあの状況下で再びベクターキャノンを撃つだなんて、自殺行為よ。その程度済んでよかった方よ」

 

 はやては俯き自身の足を摩る。

 

「でもあれしか道はなかったですから……それに私はエイダとデルフィに出会うまでは車いす生活でしたし……足以外は失っていませんから。家族が……ヴォルデモートの皆が戻ってきてくれたのは本当に奇跡でした」

 

「それは主が強く我々を求めてくれたからです」

 

 シグナムは胸に手を当てはやてに応える。

 

「それに、何かを失ったのは私だけじゃありません。フェイトちゃんだって眼を……」

 

「そうね。でも彼女あの眼帯型の義眼を気に入っているそうよ。ちゃんとした義眼を用意するって言ったら断られたわ」

 

「フェイトちゃんらしくてカッコいいですからね。それに義眼の方が貫禄があって指導も進むそうで」

 

「もう現役復帰しているの?」

 

「えぇ、フェイトちゃんだけじゃないですよ。スバルとティアナも二人とも執務官として色々働いてくれています」

 

「それはすごいわね」

 

「えぇ、フェイトちゃんばかり働かせる訳にはいかないって言っていましたから」

 

「将来有望ね」

 

「そうですよ」

 

「ところで、その彼女はどこに? 彼女のデバイス、バルディッシュの修理が終わったから届けに来たのだけど」

 

「あぁ、フェイトちゃんなら用事があるようで」

 

「用事?」

 

「はい……とても大事な用事です……」

 

 はやてはそう言うと、小さく息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  日も傾き、あたりがオレンジ色に染まる中、黒いコートに身を包んだ金髪の女性が病院の中を歩いていた。

 

 面会時間寸前という事もあり、病院内に居る人はまばらだが、すれ違う人々が一瞬だが彼女の顔に視線を向ける。

 

 片目を黒い眼帯で覆った女性。フェイトはそんな視線を気にせず目的の病室へと足を運ぶ。

 

 その足取りは若干重く、しかし一歩一歩着実に歩みを進め終末医療区画へと移動する。

 

 そんな彼女の少し手前で個室病室の扉が開き、中から2人の女性が中の人物に名残惜しそうに出てくる。

 

 そんな女性を見た瞬間、フェイトは俯き顔を隠そうとする。

 

 しかし。

 

「あれ……フェイト……だよね」

 

「……」

 

 フェイトが横切ろうとした時、声を掛けられる。

 

「久しぶりだねアリサ、すずか……」

 

「フェイト! どうしたのその顔! それになのはに何があったの!」

 

 アリサは感情を露わにしフェイトに詰め寄る。

 

「ごめん……これは仕事上の事だから……言えないんだ」

 

「仕事上の事って……一体どんな危険なことをしているのよ! それに……なのはは……」

 

「ごめん……ごめんね二人とも……私の口からは……何も言えないんだ」

 

「うぅ……うぅう……」

 

 アリサはその場で泣き出し、すずかが駆け寄る。

 

「ごめん……いつか……話せる時が来たら……説明するから……」

 

 はやてはそう言うと2人をその場に残し病室の中へと入っていった。

 

 

 病室に入るとフェイトはベッドへと歩み寄る。

 

 そこには虚ろな目で虚空を眺め、ベッドで横になっているなのはの姿があった。

 

「なのは……」

 

 フェイトはさらに一歩なのはに近寄る。

 

 しかし、なのはは何の反応も見せずただその場にいるだけだ。

 

「大丈夫。何もしないから出てきて」

 

 フェイトがそう呟いてから数秒後。

 

「やっぱり、気付いていたのかい」

 

 病室の隅からユーノが姿を現した。

 

「安心して。別になのはを殺しに来たわけじゃないから」

 

「うん。わかっているよ」

 

 ユーノはそう言うと、近くの椅子に腰かけた。

 

「僕がいけないんだ……僕が……なのはを……彼女を魔法という世界に巻き込んだ……僕と出会わなければきっと彼女はもっと普通な人生を送れていただろうに……」

 

「…………」

 

 ユーノの独白に対し、フェイトは沈黙で答える。

 

「はやてにも感謝しているよ……なのはをこうして病院で匿ってくれていること……なのはの両親にも作戦行動中の事故でこうなってしまったって……」

 

「友達だから……友達だったから……あんなことご両親に言える訳ないでしょ……私もはやても……」

 

「うん……わかってる」

 

 二人の間に沈黙が走り、なのはから発せられる呼吸器による規則的な呼吸音だけが周囲を支配する。

 

「そうだ。折角だから外で話そう。時間はぎりぎりだけど……なのはもその方が良いだろうし」

 

「えぇ」

 

 フェイトが答えるとユーノはなのはを車いすに乗せる。

 

「じゃあ、行くよなのは……」

 

 ユーノに車いすを押され、虚ろな表情のなのはは大した反応も見せることなく病室の外へと出た。

 

 病院の敷地内の人気のない丘まで3人は移動する。

 

「ここから見える夕焼けはきれいなんだよ」

 

「そう」

 

 フェイトは呟く。

 

「フェイトはどうして今日来たんだい? なのはに話でもあったのかな?」

 

「……」

 

 フェイトは答えることなくなのはを見つめる。

 

「そうだね。僕が詮索するような事じゃないだろう」

 

 ユーノはそう言う振り返る。

 

「僕は少し席を外すよ。後でなのはを迎えに来るよ」

 

 そういい、ユーノは立ち去ろうとする。

 

「ユーノ」

 

「なんだい?」

 

「ユーノはこれからどうするの?」

 

「僕……は……そうだな……最期までなのはの傍に居ようと思う。たとえそれが短いものであったとしても」

 

「そう」

 

 ユーノは振り返ることなく立ち去った。

 

「なのは……」

 

 フェイトが呟く。

 

 しかし、なのはは答えることなく、どこを見るでもなく、その場で動かない。

 

 フェイトはポケットから赤い石の付いたペンダントを取り出すとなのはの手に乗せる。

 

「レイジングハート……なのはが宇宙空間で無事だったのは、レイジングハートが最期までバリアジャケットを張っていてくれたから」

 

 しかし、なのはは答えることなく、数秒手の平を見つめた後、再び虚空を見上げる。

 

「ッ!」

 

 フェイトは突如なのはの両肩につかみ掛かる。

 

 しかし、なのはは全く身動きすることなく無表情のままだ。

 

「なのっは……っ!」

 

 フェイトは手を放し数歩後退ると、その場を後にする。

 

「さよなら……私の親友(ともだち)」

 

 ただ一人残されたなのはは、何を思うでもなく、ただその場で虚ろな瞳で虚空を眺めていた。

 



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