劇場版名探偵コナンの犯人たちの事件簿 (三柱 努)
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14番目の標的 【前編】

次々に狙われる毛利小五郎の関係者たち。犯行現場に残されたトランプが意味するものとは?


私は味覚障害を患う誇り高きソムリエ・沢木公平。

 

病気の原因となるモデルの小山内奈々、実業家の旭勝義、エッセイストの仁科、プロゴルファーの辻弘樹への復讐を目論んでいる。

 

 

とはいえ、殺意の波動に目覚めつつも何か行動に出るわけでもなく、怠惰で自堕落にソムリエ生活を送っていた今日この頃。

突如、天啓が舞い降りた。

毛利探偵事務所の前で出会った男、村上丈と一緒にワインを交わした時、4人を殺害する計画を私は思いついた。

元・カード賭博ディーラーの村上の犯行に仕立て上げ、名前に数字の共通点がある標的の4人の殺害をカモフラージュするというもの。

 

その際、犯人役の村上に生きていてもらっては困る。

なら殺せばいい。どうせ村上は殺人犯。世間的に抹殺して文句を言う奴も、困る奴もいるまい・・・

 

 

そこで私は気付いてしまった。

こいつ、殺人犯や。

人殺しと酒を酌み交わしてたことに今さら冷や汗ダラダラだが、考えてみればこれから殺す予定の誰よりも戦闘力高いの村上。

勝てる気がしねぇ……。

 

そこで私は気付いてしまった。

私、ソムリエや。

10年服役の酒断ちも、ソムリエが提供する最強のワインおもてなしに抗うことはできまい。

 

最強のおつまみとワインを前に、酔いつぶれた村上を殺すのは簡単だった。

 

 

 

 

こうして濡れ衣相手と見立て殺人のヒントを手に入れた私がまず始めたのは。ターゲットのリクルート。

奈々は7。旭は9。仁科は2。辻は10。

ここに村上の犯行動機となる毛利小五郎の5と、その知り合いから残りの数字を埋めていけばいい。

 

 

毛利小五郎の元・上司の目暮警部。名前は十三。

……信じられるか?

十三だ。

まるで私に13としてリクルートされるためだけに付けられた名前じゃないか。

微笑んでいる?

ワインの神様が私に微笑んでいるんじゃないか?

 

次は12。さすがに十二さんという人は見当たらない。

ならトランプの恩恵に甘えてクイーンで行こうじゃないか。

となれば奥さんの妃英理で決まりだ。

 

続いて11。これも悩みどころだ。ジャックさんも十一さんも心当たりが無い。

『士』ならギリいけるんじゃないか?たしか阿笠博士という人がいると聞いた事がある。

 

 

となれば次は8。

8……八……私かぁ。

まさか被害者が真犯人とは思わないという絶好のカモフラージュになる。

まぁ被害者になる必要があるのは・・・怖いから少し忘れていようか。

 

さぁ、この勢いで6、4、3、1。

3は三。横に倒せば川。

そう、つまり江戸川コナンくんがいるじゃないか。事件にちょこまかと付いてきてしまって困ると、毛利さんもよく言っている彼。

どうせ相手は子供。現場に来てくれればいつでも殺せる。なんてすばらしいインスタント被害者。

採用だ。

 

次の1もone、つまりワン。これもコナンくんとセットの蘭さんで行けるじゃないか。

お姉さんの『ONESAN』とか…ランがワンっぽいとか…

 

………………

 

正直に言おう。かなり無理がある。まぁどうせラストの1だ、2の目的達成後なんだから別に殺さなくったって、村上が諦めたって設定にすれば通る話。気にしない気にしない。

むしろ別にほかの候補を挙げてもいいかもしれないが、逆にここまで来ると『何故、家族を狙い続けない?』と疑われても困る。これは不可抗力だ。

 

 

残る6と4だが。

この辺りは何ならテキトーに呼びつけて、無理やり毛利さんとご対面させてやればいい。

旭の名前でも出してやればホイホイついてくるような、それでいて仁科や小山内奈々と同列程度の知名度で。「何でコイツここにいるんだ?」と不審がられてしまわない程度にごく自然に溶け込める程度の。

 

誰かいないか?

 

6は、この間雑誌で見かけた宍戸永明がいい。

カメラマンなら呼びつけやすいし、マネージャーや事務所を通さないで直で連絡もできる。それに何より人相が悪くて良い。きっと自分の命ばかり大事にして、私の犯行の時に出しゃばらず大人しくしてくれるだろう。

 

さて、最後は4だが…思いつかない。

…まぁ後で考えよう。もうすぐ仕事の時間だ。

 

 

 

こうして4を迷子にしたまま、職場である仏料理店「ラ・フルール」に向かった私。

ストレス元の辻が来店していたハプニングに胃を痛めながら、毛利一家の平和なテーブルで接客タイムに至った。

「あの葡萄のバッチは何?」

「あれはソムリエの印なの。ソムリエっていうのは、沢木さんのようにワインを専門に扱う人の事なのよ」

コナンくんの無邪気な問いに丁寧に答える蘭さん。しかもまだ高校生だというのにソムリエのことを知っているとは、本当に微笑ましい光景だ。

 

「仁科さんの本で読んだのよ」

ハートブロウクン。蘭さんの間違ったワイン知識がさらに炸裂し、私の心は切り刻まれていった。

だが私はプロ。蘭さんの淡い知識を尊重しつつ、より的確なフォローをしてその場の雰囲気を守って知識を訂正してやった。

どうだ仁科。これがワインのプロの仕事だ。

 

 

それからしばらくしてメインディッシュ後、大したことではない事件が起きた。

店の向かい側にあるクラブに入る人影に、毛利さんが窓に張り付くくらい喰いついたのだ。

どうやらお気にのクラブのママが、外国人ニュースキャスターを接客している所を発見したようだ。何やってんだアンタは。

 

当然、夫の痴態に怒り出した奥さんは帰ってしまい最悪のムードに。

なのだがこの時、私は心の中で叫んでいた。『フォー!』と。

何故なら外人さんはピーター・フォード。

何てことだ。こんな所で4を見つけるなんて。しかもニュースキャスターなら、旭ホイホイではないか。

偶然とは本当に恐ろしく、トントン拍子で私の為に動いてくれている。

 

 




手札は全て揃った。
待っていろ、2,7,9,10


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14番目の標的 【中編】

事故とストレスの恨みから、2と7と9と10を殺すと心に決めたソムリエ沢木公平。
自分の犯行をカモフラージュするプランを思いついた彼は、ついにその恐ろしい犯行計画を実行に移すのだった。


手札を揃えた私の犯行は全速前進で疾走していった。

 

まずは早朝マラソン朝日を浴びて走っている最中の目暮十三こと“13”をボウガンでシュート!

そして村上の見立て事件に見せかけるために、ストレートではない表現としてトランプのスペードのKが持っている剣っぽく作った紙細工を現場に放置。

 

次は12に旦那・毛利小五郎からの仲直りチョコに見せかけた『毒入りチョコ・スペードのQの花を添えて』をプレゼント。

 

続いて11の家の窓ガラスを割ってから、ボウガンの矢とスペードのJの、よく分からない捻じれ棒をプレゼント。

あとはバイクで逃走するだけ。

 

 

と、ここまでは順調だった。

交差点で信号に捕まっていたその時。私の目の前に、11邸にいたはずのコナンくんが現われた。

what’s!?

小学1年生がバイクに追いつくなんて物理的にありえない。

まさか、ドッペルゲンガー!?

怖くなった私は急いでバイクを反転させ、歩道橋を疾走して逃げ出した。

ストレスによって発症する幻覚か。おのれ10、9、7、2!

 

 

 

そして次は10

とはならない。

何故ならこのテンポで10を殺すとさすがに見立て連続殺人事件だと警察に気付かれて、9以下の警護をされてしまう。つまり10以下の殺害は同日中にカタをつける必要がある。

ということで、今日は11襲撃のその足でアクアクリスタルに向かい9を殺し、7と6以下殺害の準備のために施設に入り浸ることとなった。

 

ワインセラーに私用のブービートラップを仕掛け、客席の窓から見えるように旭が流れるように仕掛けをして、暗闇の中でも配電室からロビーまで走れるように練習して、非常口をセメントで塞いで、リモコンの遠隔操作で爆破するように爆弾をセットして…

とにかくやることが多い!

 

中でも一番キツいのは爆弾セット。

リモコンの遠隔操作で作動する爆弾を作ることではない(そんなことで悩むのが許されるのは高校生まで)。

何せレストランの中に仕掛ければ途中でバレてしまうため、海中にセットしに行かなければならない。

そりゃ私はライフセーバーの資格持ってるし、ダイビングもできる。だからと言ってダイビング器材の総重量(爆弾含めて約40kg)は1gも軽くはならない。

40kgを抱えてアクアクリスタルまで行き、それから実際に潜って、適切なポイントに爆弾を置いて、証拠になるダイビングセットを持って帰る、と。

分かるだろ?キツいんだ、コレ。

 

 

 

 

結局、この日一日では全部準備できなかった。夜のソムリエの仕事を休むわけにはいかないからだ。

だが今日は本当に疲れた。朝はボウガン、昼は爆弾、夜はワイン…ん?

ふと外を見た私は驚愕した。店の外に毛利さんや13、そして何人もの警官がいるのだ。

『まさか…バレた!?そんな…』

私の思っていた以上に、日本の警察と毛利小五郎は優秀だったということだ。

『標的のうちの9しか殺せていないのに…

まだ沢木が殺してる途中でしょうが!

だが…悔しいが…

 

 

謎は全て解かれた……

 

………………』

 

かに思われた。

 

 

 

 

ところがどっこい。警察は待てど暮らせど「確保!」に来ない。

店を出たところを囲まれて…ということもなく。

自宅に戻ったところに…もなく。

 

分からない…何故、逮捕に来ないんだ?

 

【沢木は知らなかった。毛利小五郎の知り合いの10である“岡野十和子”が、店の向かいのクラブで働いていて、小五郎や目暮警部たちは彼女を守るために張り込みをしていたという事を】

 

 

 

次の日の朝。家の周りに警察官の姿は見当たらなかった。

もしやと思い、店の近くを見に行ったら…いた。

つまり、警察は私の逮捕に動いているわけではないようだ。

 

 

…………何しているんだ?コイツら。

 

 

結局、真実に辿り着かれていないことを知った私は犯行準備に集中し、どうにか準備完了に至った。

これであとは殺すだけ。

 

 

 

ついにその日はやってきた。

まずは10。

石を投げて窓ガラスを割って、その間に目薬を虹彩炎用の散瞳剤にすり替えるだけの簡単なお仕事。あとは勝手にヘリが墜落してくれればミッション完了。

私は毛利さんたちが来るのを家で座して待つだけ。

 

ちなみにこの流れは、毛利さんの知り合いに9の心当たりがなく、8の知り合いとして私が第一候補になることが条件となるわけだが。

8の方は心配ない。毛利さんとは公平の『公』の字について熱く語りあった仲だ。どんな仲だよとか言わない。

 

9のほうも心配ない。何故って?9のつく苗字なんてそうそういないからだよ。思いつくのだって、よっぽど九鬼さんとかだろ。

【この時、実は沢木はギリギリの橋を渡っていた。何故ならつい先日、毛利小五郎は世界的に有名なマジシャンの“九十九元康”の自殺疑惑事件に関わっていた為、下手すればそちらに9を持っていかれる可能性があったのだ。

だがそこは沢木の幸運が軍配を上げた】

 

 

私の期待通り、毛利さんが13とその部下の警部補、1と3を連れて私の家に現われた。

全て計画通り……ではなかった。

10は死ななかった。

……えっ?重傷だが生存って…嘘だろ、ヘリが墜落したのに?

詳しい話は流石に聞かせてもらえなかったが、どうやら警戒した毛利さんと13がヘリに同乗していたそうだ。

くっ。連続事件のカモフラージュが裏目に出たようだ。

 

だが待てよ?毛利さんは高所恐怖症のはず。ヘリに同乗されても役に立たないはず。13も病み上がりの体でどうこうできたとも思えない。

となると、コイツか?白鳥警部補!

 

まさかの伏兵。しかもこの男、「ワインには目が無いんですよ」と、仕事中のくせに私のワインセラーを見に席を立ちやがった。

大活躍を微塵も感じさせない呑気さと空気を読めない自由行動。まるで王道のミステリー漫画の主人公じゃないか。

面白い。

だが、13の名推理による『村上犯人説』が濃厚となった今、この私に辿り着けるかな?

 

 

その後、(私がソムリエ人生に絶望してシャトーペトリスを割って作った床の傷をコナンくんが踏んだことで、軽くトラウマを刺激されながらも)どうにか『旭=9』に誘導することができた。

「と言うことは、次に狙われるのは旭さん」と再び13の名推理が炸裂してくれたところで、毛利さんが何とも納得いかないような顔をした。

「しかし、私はペットの猫探しの依頼を受けただけで、知り合いと言うほどでは」

それを指摘されると非常に厳しい。9と毛利さんのコネクションはハッキリ言って薄いのは、当初から懸念していたことだ。

 

だがそこに救いの手が…

「村上はそうは思っていないかもしれん。ともかく、沢木さんのガードを兼ねて、旭さんに会ってみよう。よろしいですか、沢木さん?」

13のフォローにより、『旭は知り合いとして狙われない説』は見事に払拭された。しかも当初の予定通り毛利一家もアクアクリスタルに同行という流れまで。

 

13、いや13さん。何から何まで本当にお世話になります!

 




こうして、舞台はついに最終決戦の場へ。

待っていろ、2、7


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14番目の標的 【後編】

ついに到着。殺戮の舞台“アクアクリスタル”
果たして私・沢木公平は、2と7を殺せるのだろうか?



ついに到着。決戦の舞台“アクアクリスタル”行きのモノレール乗り場。

2,4,6,7とも無事に合流。

その後、無人モノレールで眼下の海の景色と、カナヅチの2が水に恐れおののく様を堪能し、ついに到着アクアクリスタルの目玉“海中レストラン”。

『ここがお前らの墓場となるのだ!まぁ下手すりゃ私自身も死ぬかもしれないが…まだ10を殺せていない私が死ぬなんてことは、無いだろう。多分!』

 

 

 

レストランに到着してすぐ、主人公と毛利さんがレストラン内を調べ始め、残る13さんが事件の概要について説明を始めた。

2人が調査から帰ってきた頃、おもむろに6が口を開いた。

「となると6は俺のことかもしれねぇな。宍戸の宍には6が入ってるだろ?」

『その通り!』

6のご丁寧な説明に続いて、コナンくんも丁寧に解説をしてくれた。

奈々は7。仁科は2。フォードは英語で4のことをフォー。

流石は小学生。安直な発想だと馬鹿にされないか心配になって大人が言えないことを平然と言ってのけてくれる。そこに痺れる感謝する。

 

「これで3と1以外の数字が全部揃ったことになるな」

と、毛利さんがボソッとつぶやいたその時。13さんの口から衝撃の事実が語られた。

「3ならいるぞ。キミの目の前にな」

「私の名前は白鳥任三郎です」

まさか…主人公が3だとは。

 

2つほど言いたいことはあるが、言っていい?

まず、江戸川の川=3説って、そんなに思いつかない?

あと、13さん。何故、わざわざ数字を揃えに来る?犯人側としてはありがたい話だけど、普通は数字が揃わないように『任三郎』なんて名前の人避けるよね。普通。

 

あと、『1は工藤新一説』なんて想定外の説が流れ始めたが。

まぁどっちでもいい。そこはお任せするさ。

 

 

 

ちなみに、想定外がもう1つ発生した。

7が2の味音痴を貶めるために、ブラインドテイスティングなんておっぱじめやがったことだ。

あのさぁ、犯人がまだ殺そうとしてる直前。被害予定者が余計なことをして、加害予定者のプランを乱すんじゃないって!

まぁ、そのテイスティング対決は2が不正解。私が正解発表となったが・・・

『えっ?これ簡単じゃね?この色と香りと舌触りとのどごし。普通にボジョレのムーラン・ナ・ヴァンじゃないか。えっww2、これを何だって?シャンベルタンとかww』

笑いが込み上げそうで辛かった。

 

 

 

なんて余興はそこそこに。そろそろ私も動こうか。

次のミッションは『さりげなくメモを床に置く』だ。だがこれがなかなか難しい。

4がワインを飲みたいと言い出したり、各々が勝手にジュースやビールを厨房から持ち出したり。行ったり来たりで全然落ち着いて着席してくれないのだ。

そのうち私も緊張して喉が渇いたから、ミネラルウォーターを取りに厨房に行った。

(ただ、『もしかしたら味覚障害治ってるかも』と淡い期待を込めてチリパウダーを舐めてみたのは失敗。結局、心の傷を自分で抉っただけで終わった)

 

それから少しして、急に4が苦しみ始めた。

『まさかワインに毒が!?』というように驚く13さんたち。

いやいやこれは私じゃない。じゃあ誰!?と、私も慌てふためいていると、苦悶していた4は急に笑い出した。

「ハハハハハッ、冗談デスヨ」

「フォードさん!こんな時に悪ふざけはやめてください!」

『本当にその通りだ。マジでコッチ〈犯人〉のプランに無いことはやめてくれ!』

 

 

と、悪ふざけをしていた4であったが、そんな彼が仕事をしてくれた。

私が置いた手紙を見つけてくれたのだ。これで次の段階に移れる。

「沢木公平様。遅れるかもしれないのでワインセラーのM‐18番の棚からお好きなワインを皆さんに出しておいてください。鍵はレジカウンターにある袋の中に入っています。よろしく。旭勝義」

この自作自演な流れで暖かすぎるワインセラーに行き、私は華麗にボウガンを回避!

来ると分かっているボウガンなんぞ、避けるのは容易い…と言えばカッコいいが、正直言うとあの時コナンくんに「危ない!」って叫ばれて驚いたから、体勢不十分で内心ヒヤッとした。

 

 

 

 

ここでようやく毛利さんから脱出の提案が出された。警察が3人もいて今更?ちょっと職務怠慢ではございませんか?まぁ犯人の私としてはありがたいんだけど。

さぁ、ここからたたみかけるぞ。

客席に戻った私達の前に、まずは海の中に漂う9の死体!(海流任せなのに絵になる漂いかた。これってちょっとした奇跡じゃない?)

さらにオートロックされた出口(私たちがワインセラーに行く前に、発動していたのさ)。

セメントで塞がれた非常口(ちなみにこれ、大変だった準備ランキング第2位)。

「あんたのせいで無関係な私達まで狙われる」と、2と7に責めたてられる毛利さん(むしろ2と7に巻き込まれたのが毛利さんだからな)。

そして始まる7の懺悔の時間(事故の答え合わせができてホッとした私。ここで別人だったらマジ萎える)。

 

と、今回の事件とは全然無関係じゃない話が終わった頃、毛利さんの提案で手分けした出口捜索が始まる。待ってました!

男達が散り散りにレストラン中を探し始めた所で、私は配電室へGO。そしてブレーカーダウン。暗闇の中急いで客席に戻り、夜光塗料入りマニキュア爪頼りに7をナイフで一撃!

灯りが点いたら皆と一緒にシレッと戻る。

 

これでようやく標的を2人殺せた。長かった…

次は爆弾のリモコンスイッチを押すだけ。と、ちょっと待ってて。次のは私も死ぬかもしれない。さすがに心の準備が必要だから。

そんなブレークタイムに、気を利かせたコナンくんが水を持ってきてくれた。なんて良い子だ。水も美味い!

 

 

 

さて、一息ついたところで。押しますか。ポチッとな。

ちなみにここからも怒涛の展開なのでご注意ください。

爆発音と共に揺れるレストラン。そして停電。6がライター点火、3がそれを止める。非常灯が自動ON。

そこに窓爆破!流れ込む大量の海水。洗濯機の中みたいに回される私(死ぬぅ!だがこれで2が死ぬはず)。

そんな期待を胸に、浮上してレストランの天井付近のわずかな空気スペースに泳ぎ着く私。

生き残ったのは予想通り。13さん、3、毛利さん、2、6、コナンくん、4、

 

………2!?

 

まさかの毛利さんの活躍で2が救助されていた。

その後少ししてから、蘭さんも浮上。どうやら車に挟まれていたそうだ。可哀想に。ここは2が責任とって不幸になってくれなきゃ世の中つり合いが取れない。(なのに、私の希望とは裏腹に13さんの傷口が開くというアンラッキー発動!あんたじゃないんだよ)

 

 

だがたしかに現状はかなり厳しい。彼らにとっても、私にとっても。

私に求められている条件は1つ。この空間が水没する寸前に2を残して、唯一の脱出経路である爆破で割った窓から抜け出すことだ。

そのタイミングが来るまで、あとは待つだけ・・・そんな状況でもよく気が付く子コナンくんが口を開いた。

「出口ならあるよ。爆破された窓!」

その通り!だけど正解するのやめてくれ。

 

なんだけど、少しラッキーなのは要救助者3名に対して、動ける警察と探偵が2人しかいないことだ。当然、重傷者から優先すれば13さんは3が。蘭さんは毛利さんが泳ぎをサポートする流れ。

『ただし2、テメーはダメだ!』

と、2置いてけぼりの流れを打ち砕いたのは、「弱音を吐くんじゃねェ!俺が連れてってやるよ」でお馴染みの6だった。

何故だ…見た目はあおり運転とかしそうなチンピラのくせに、ここで急な男気を。

 

 

仕方なく、私が先導して9人仲良く海の中を泳いで地上へ。

『ここで2だけ溺れるように、ゆっくり泳いでやろうか…と思ったが。流石に無理!』

息の限界の中でどうにかアクアクリスタルの公園エリアに辿り着いた私。

続く13さんと3さんが浮上。13さんに手を貸す優しい私。3は蘭さんをお姫様抱っこ(さすが主人公)。

……どうせあとの4人も上がって来るんだろ?

と、不貞腐れていた私の前に思わぬラッキーが。

なんと2が溺れて意識を失ってくれていたのだ!

人工呼吸でもして救命措置すれば助かるかもしれないが…そんなもの、私が許さない。ライフセーバーの資格を盾に、人工呼吸の権利を奪い取った。

 

 

「待ってください。人工呼吸は白鳥刑事、あなたがやりなさい。早くしろ白鳥!」

その時突然、毛利さんが3に人工呼吸の命令をして私を止めた。

WHY!?突然の命令に戸惑う私と3。

毛利さん…アナタまさか…おっさんのキスを見たくないと。イケメン同士のキスを見たいと、そういうことですか?

毛利さんを睨むと、彼は突然「はひぃ」と変な声を上げるとフラフラとベンチに座り込んだ。

まさか!これが噂の眠りの小五郎スタイル!?

私の悪い予感は的中した。

 

 

13さんの合いの手を交えながら、まるで横で私のやること全部見てたような的中率で雄弁に語られる眠りの小五郎の名推理の数々。

トリックも動機も見事に説明され、しかも味覚障害まで言い当てられる始末。

毛利さん、アンタは神か?

 

 

ん?待てよ。どこで味覚障害に気付いたんだこの人。ブラインドテイスティングも正解したのに…。

「彼が味覚障害であることは、私がコナンに持ってこさせたミネラルウォーターで確かめることができました」

ミネラルウォーター?無味無臭の?

「コナンがあなたに渡したグラスにだけ、塩が入っていたんです」

おいおいなんてクレイジーな。

1つ言わせてくれ。クレイジーすぎるだろ!

塩水を飲ませたの?

さじ加減とか理解できない小学生に作らせたヤツを?

少なすぎたら体が欲する塩分として美味しく飲み干すだけになるから、『多めに入れておけ』と指示したんだろ?

子供の多め、舐めるなよ!

下手すりゃ塩分過多で死んでたぜ私。

 

 

 

謎は全て解かれた……

 

だが

本番はここからだ!

 

 

私は懐から取り出したスイッチを押し、念のために用意しておいた爆弾を作動させた。

爆発と共に大きく傾くアクアクリスタル。

そして私は蘭さんを人質に、屋上に呼んであるヘリコプターで逃げて、10を殺しに行ってやる!

「動くな!動くとこの子の命はないぞ!!」

と毛利さんたちを脅したが、どのみちアクアクリスタル崩壊に巻き込まれ彼らは私を追うどころじゃないようだ。

なら遠慮なく逃走させてもらうぜ!

 

エレベーターに乗り込み、ヘリポートに辿り着いた私。

正直に言えば、2を殺せなかったのは心残りだが…まぁあんな小物より、私は10の方を殺したい。ヘリに乗ればそれも叶う……はずなのに。

ヘリは全然降りてこない。

 

そして、ヘリ相手に手をこまねいている間に、追っ手はやってきた。

13さん、3、毛利さん、コナンくん。

 

 

 

 

 

あれ?

目を凝らしてもう一度。

13さん、3、毛利さん、コナンくん。

 

私が爆弾魔であることを棚に上げて、言わせてもらっていい?

泳げないヤツを含む民間人を放置して、警官たちが何やってんの?

いや、みなまで言うな。言わなくてもわかる。

6だろ?6がどうせ「俺に任せろ」って2のサポートを進言して、13さんたちの背を押したんだろ?

マジで6のチョイス失敗したわ。

だから今こうして3が「蘭さんを離せ!離さないと撃つぞ!!」とか震える手で拳銃をこちらに向けてしまったじゃないですか。

 

 

だが…

「面白い!撃てるものなら撃ってみろ!!」

本当に面白い。撃てるものなら撃ってみろ。

主人公さんよぉ…いや、ただの3!

でもって、「拳銃を寄越せ!!刺すぞ!!」と脅すだけで投げて寄越しやがった。

やっぱコイツ、主人公じゃない。そして馬鹿なの?拳銃が暴発するぜ?

 

 

いや、ただの馬鹿ではないようだ。私が拳銃を拾おうとしたら、力づくで確保するつもりのようだ。

なら…コナンくんを利用させてもらおう。

「坊主!お前が持って来い!!この女がここで死んでもいいのか!?」

この脅しで気の利くコナンくんは大人しく銃を拾ってくれた……

 

ここで私は“あの可能性”を忘れていた。

クレイジーなのは毛利さんだったのか?

それとも、平然と人の水に塩を入れるコナンくんだったのか?

 

 

 

答えは後者だった。

コナンくんは拳銃を構えると、迷いなく発砲。

しかも凄い殺気。大人のオーラ。まるで大人になったコナンくんがその後ろで一緒に拳銃を構えているみたいに…

 

そして発射された銃弾は…蘭さんの足をかすめた。

クレイジー!!!! 親の顔が見てみたい。

未成年が銃刀法違反して、しかも犯人に当たらず人質のお姉ちゃんに当たるとか。

 

 

 

などと…余裕ぶっこいていた私だったが。ここでまさかの蘭さん人質無力化という事態が発生。全然動かないんだものこの娘。

仕方なく解放したらしたで、毛利さんの一本背負い。そして強引に逮捕。

 

 

 

 

こうして、謎は全て解かれた。

 




自暴自棄になって初めて思ったことがある。

今回、標的の4人のうち、2人しか殺せなかったわけだが。
考えてみれば最初からカモフラージュ殺人しなかったら、10はきっと1人でヘリに乗って墜落して死んでいただろうし。
9は普通に簡単に殺せたし。
2と7は連絡するだけでホイホイ来る奴らだから、これも簡単に殺せたと思う。

ってことは結論。
【無関係な人を巻き沿いにしないほうが、実は目的達成できていた】
ということだろう。


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世紀末の魔術師 【前編】

100年前に仕掛けられたメモリーズエッグの謎
前世紀最大の謎を解くのは誰だ?


私の名前は浦思青蘭。

みんなからスコーピオンって呼ばれてるわ。

ちなみに名前は日本語読みだと『ほし せいらん』、中国語読みだと『プース・チンラン』。入れ替えると『ラス・プーチン』。

そう、自他ともに認める熱狂的なラス・プーチン様ファンよ。

(えっ?ンが一個余るって?…………えっ?)

 

そんなラス様ファンの私、表向きにはロマノフ王朝研究家の中国人で通しているけど、実は裏の顔があるの。

それはICPOから指名手配を受ける怪盗『スコーピオン』。ロマノフ王朝の財宝専門の、邪魔者は右目を撃ち抜いて殺すがモットーの連続強盗殺人犯よ。

 

 

ある日、たまたまニュースを見ていた私は目が飛び出すほど驚いたわ。

日本の鈴木財閥の蔵から、ロマノフ王朝の秘宝「インペリアル・イースター・エッグ」が発見されたっていう大ニュース。

通算51個目のエッグ「メモリーズ・エッグ」なんだって。すぐに思ったわ。欲しい!

で、早速盗みに行くことにしたの。

日本の大阪。エキゾチックジャパン!天ぷら!寿司!刺身~♪

テンションアゲアゲね。

 

 

 

そんな矢先の…コレよ。

 

『黄昏の獅子から暁の乙女へ

秒針の無い時計が12番目の文字を刻む時

光る天の楼閣から

メモリーズエッグを頂きに参上する

 

世紀末の魔術師

怪盗キッド』

 

 

何コレ?

 

これはエッグ発見と同時期に送られてきた怪盗キッドの予告状らしいんだけど。

もう一度言うわ。

何コレ?

これのせいでアンタ。予告状なんて出てるせいで、美術館の警備がエゲつないことになってるんですけど!蟻の入るスキもない感じ。

そりゃ「行くよ」って言えば「来るんだ」ってなるでしょ。

噂では日本の警察には脈々と流れるポンコツの血というものがあるらしいけど…。

言っても質より量!

いつもみたいにチャッと潜入して、チャッと殺して、チャッと盗んで、チャッと帰るが出来ないじゃない!

迷惑この上ないったらありゃしない。

 

腹立つことは他にもあるわ。

この意味ありげな謎解き予告状よ。予告状出す神経もだけど、内容も内容。

言っていい?

普通お手紙でアポイントメントを取るなら、最低でも4Wを書くでしょ?when・where・who・what(いつ・どこで・だれが・何をする)よ。

あとの2つしか書いてない。

これじゃ、何でも「おい」で済ませようとするオッサンじゃない。

 

おまけに聞いた話、怪盗キッドは宝石専門の泥棒らしいわ。

何でエッグを?

何でラス様グッズを?

“にわか”じゃない!

困るのよね。にわかファンが出しゃばるせいで、グッズの競争率が上がっちゃって、私みたいな昔からのファンが困るって現象。

 

まぁ、愚痴をこぼしていても仕方がない。

今私がするべきことはただ1つ。いざエッグの仮住まい、鈴木近代美術館へ!

 

 

って、来てみれば。いるわいるわ、エッグにたかるハエどもが。

ロシア大使館の一等書記官のセルゲイ・オフチンニコフ。エッグをロシアに寄贈してほしいんですって。

何言っちゃってんの?それ私のだから。

 

ハエ2号は美術商の乾将一って怪しいじいさん。

ロシアにもロマノフ王朝にもラス様にも縁が無い…って、にわかじゃない!

8億円で商談に来たって…投資額で我が物顔する最悪の部類のにわかファン。

あのね、真のファンってものはお布施の額じゃないの。愛なのよ!

 

あとは、フリーの映像作家の寒川竜。

こいつも嫌だわ。日本の撮りオタって、モラル無いらしいじゃない。

実際、セルゲイと乾の喧嘩中に「アンタだって喉から手が出るほどエッグが欲しいんじゃないか?」って私を煽ってくるし。

最低な人間どもの集い。

 

でも、エッグの“今の”持ち主の鈴木会長は、人の良さそうなお父さんね。

話し方にも嫌味がないし、今回の怪盗キッドの予告状のことも分かりやすく説明してくれるし、ちょっと癒された。

で、キッドの予告状は全然癒されない!

 

ちなみに予告状について、現時点で日本警察が解読した内容によると…

『黄昏の獅子から暁の乙女へ』

というのは、獅子座の最後の日(8月22日)の夕方から乙女座から翌日の夜明けまでの犯行予定日を意味しているらしい。

分かりにくい。

星座占いとかで自分の生まれた日付と星座なんて気にするの、日本人くらいじゃないの?ロシア人や中国人はそんなこと気にしないわ……

えっ?“日本人だけが気にする”のって『血液型占い』のこと?

むしろ星座占いは西洋的?

……悪かったわね。どうせ私は占いをキャッキャッしあう友達なんていないわよ。

 

気を取り直して。

『秒針の無い時計が12番目の文字を刻む時』

は、犯行予定時刻を表しているようだけど、まだ分かっていないらしいわ。

 

最後の

『光る天の楼閣』

というのは天守閣という、大阪城にある場所で、キッドが現われる場所を意味しているらしいわ。

 

何よ、半分以上解かれてるじゃない。

さすが日本警察。舐めてごめんね。

それとザマァ、キッド。

 

……って、警備が固いことに変わりがないじゃないの!

このままじゃハエ2匹にエッグを買われちゃって、ピロシキとか寿司を食べた手でエッグをベタベタと触られちゃう。

でも8億なんて大金、私にはとても。

はぁ、どうしよう。

 

と、私が悩みながら商談の席に座っていると、鈴木会長の次のお客さんが部屋に入ってきた。ヒゲオヤジと子供が5人だ。

1人の女子高生は会長の娘で、あとはその友達とお父さん。

お父さんは毛利小五郎という日本の有名な探偵で、友達の1人は服部平次という西の高校生探偵だそうだ。

へぇ。どうでもいい。

それより、次の客が来たのなら、私たちはお帰りの時間ということね。一先ず退散。

 

美術館を出た私は決心した。

こうなったら、キッドがエッグを盗む方に賭けるしかない。

そして『盗んだところを私が横取りする』。これで行こう。

幸い、キッドが来るのは今日の夕方から明日の明け方までってことは分かっている。

なら待つわ。

徹夜の可能性もあるわね。

はぁ…ため息しか出ないわ。ラス様グッズならまだしも、キッド待ちとか。

 

【こうして、美術館周辺でキッドを待つことにしたスコーピオン。日も暮れ、7時20分となった頃、突如大阪城から花火が打ちあがった】

『何?素敵なサプライズ。夏の風物詩ね』

と、私がうっとりしていると…バチン!と今度は突然、町中が停電してしまった。

何!?何コレ!日本でも発展途上国みたいな電力不足の停電って起こるの?

『いや、違う。これは間違いなく、キッドの仕業!』

停電の混乱に乗じて盗みに来るに違いない。ならここで迎え撃つ!

 

と…思っていたけど。

ちょうど今、美術館前で高校生と何か言い争いをしていた子供が、スケボー(加速度とか初速度とか、全て異常な)で走り出した。

それからすぐに高校生もバイクで走り去っていった。

子供にも高校生にも見覚えがある。今日美術館に来ていた会長の子供の友達、高校生探偵だ。

『あの子達を追わなきゃ』

私の女の勘が囁いた。本当にただの勘だけど、この勘で今までも上手く行ったこともある。

「よし、追うわ!」

 

2人を追った私。やっぱり正解だった。

「ハングライダー!?」

大阪の街、ビルの間すり抜ける白い影。

これが怪盗キッドじゃなかったら、白い翼のガッチャマンしか考えられない。

 

ただ1つ気になったのが、キッドは美術館とは違う方向に向かって飛んでいるということ。

考えられる可能性は2つ。

1つは“もう盗み終わって帰るところ”。警察何やってんのよ。

だけど都合がいいわ。それならこのままヤツのアジトまで追って、一息ついてから殺してエッグを奪えばいい。

もう1つは“今から盗みに行くところ”。つまりエッグは最初から美術館じゃないところに移されているってことね。

そりゃそうよね。予告されておいて馬鹿正直に同じ場所にお宝を置いておくなんてしないもの。それにこっちの可能性でも、結局はこのまま追えばいいだけ。簡単な話じゃない。

 

簡単な話じゃなかった。

何故なら町中停電で信号機も全滅、あっという間に大渋滞。どこもかしこも罵声と怒号が飛び交っている。

『えっ?日本人のマナーって良いんじゃないの?あれって嘘?』

ショッキングな光景を横目にしながら颯爽とキッドを追う私。

なんてことはできないわ。どこもかしこも車車で、全然前に進めないの。

おかげでキッドを見失ったわ。

『まさか…ここまで計算のうち?追っ手を撒くための停電交通渋滞?だとしたら迷惑すぎるでしょ!経済損失半端ないわよ!』

私はギリリと歯を噛み締め、キッドのいない真っ暗な空を見上げながら呆然としたわ。

 

「終わった…さようならエッグ…ラス様…」

見知らぬ街の中、ラス様ロスの傷心に人の喧騒は辛すぎる。

私は人混みと渋滞を避け、町の外れで一人袖を涙で濡らすことにした。

『帰ったらお酒でも飲もう。そう、月明りで一杯…』

見晴らしのいい橋の上で、私はブロウクンハートで空を見上げた。

すると、なんということでしょう!

「お前は……ガッチャマン…じゃない、キッド!?」

それは、空の暗闇の中、私の方に向かってくる怪盗キッドであった。

きっとエッグを盗み終えて、今から帰るところなんだろう。

 

この期を逃してなるもんか!

私は急いで愛銃のワルサーPPK/Sを取り出した。

レーザーポインターで狙うは怪盗キッドの右目。

「散々面倒をかけてくれたわね。これはそのお礼よ。喰らいなさい!」

私は拳銃をぶっ放した。

射撃の腕はご心配なく。確実にキッドの右目に当たったわ。

 

銃撃を受けたキッドはハングライダーと一緒に海に向かって落ちていく。

「勝ったわ。キッドは死んだ、ラス様の名に賭けてもいいわ。見ていてくれましたかラス様。ラス様のエッグを盗んだコソ泥は、今こうして海へ…と……」

ってああああああああああああああああああああああああああ!!!

血の気が引く音が私の悲鳴に掻き消された。

手で必死に空気を仰いだ。

でも、そんな願いも虚しく。

 

私が撃ち落としたキッドは…

 

海へと落下していった…

 

 

 

エッグとともに…

 



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世紀末の魔術師 【後編】

昨日までのあらすじ
エッグ盗まれた。キッド撃ち落とした。エッグと一緒に海に。
はぁ・・・・なんてことをやっちまったんだ・・・

今朝のあらすじ
エッグは無事だったヤッホー!
コナンくんという子供がエッグを回収していたそうだヤッホー!

エッグを確保してくれた江戸川コナンくんに感謝。圧倒的感謝!
欲を言えば、私の所に届けてくれれば満点だったんだけどね。それでも大手柄よ。
何かお礼をしてあげたいな。誰か殺してほしい人とかいないのかな?無料でヤッてあげるのに。


昨夜、怪盗キッドはエッグを盗んだ後、何者か(スコーピオンこと私なんだけどね)に撃たれ海に落ち、警察による懸命の捜索も虚しく生死不明。

エッグは傷が無いか確かめるために、急遽展示を取りやめ、鈴木財閥の船で東京へと持ち運ばれることとなったの。

商談に来ていた私達も一緒に乗っていいってさ。豪華客船に。よっ、会長。太っ腹!

しかもコナン君(とオマケの探偵とお姉さん)と一緒に。もうこれ私への誕生日プレゼントよね。

 

 

ちなみに同乗があと2人。香坂夏美というパティシエとその執事。

『何故お菓子屋さんが?』と私は思ったけど、すぐに納得したわ。

彼女の曽祖父がファベルジェの工房で細工師職人をしていて、メモリーズエッグの図面が祖母の遺品から見つかったらしいの。

これは素晴らしい!ラス様グッズ持参なら大歓迎よ。

ただ…真ん中が破れてるし(ぞんざいな扱い!)、そもそも図面のエッグと実物のエッグが微妙に宝石の有無が違ったり(パチもんじゃないの?)ちょっと怪しいんだけどね。

 

ところがどっこい、そこは私のコナンくん!

「エッグは2つあるんじゃない?」

最初は私も聞いて「子供らしい無邪気な発想」って笑ったけど、よく見たら図面の2エッグの輪郭が合わない。

つまり元々は大きな紙に2個描かれていて、真ん中の大部分が破れているから、1つのエッグに見えたんじゃないか説が濃厚になったの。

『ちょっと、大事なラス様グッズの管理不行き届きは許さないわよ!』って内心叫んだけどね。聞いてる、お菓子屋?

まぁ、エッグ2のニュースはすごくテンション上がるから今回は許してあげるけどね。

 

そんな私のテンションは、またまたコナンくんによって乱高下することになったわ。

なんとコナンくんがエッグを弄って、底の鏡を取ってしまったの。

『エッグが!!!コナンこの小僧!』

思わず懐の拳銃を取り出しそうになったけど、会長の娘が言うには簡単に外れる構造の鏡なんだって。

『でもそれはそれ。私の心臓へのダメージの慰謝料は高いわ』

って思った自分を後で呪いたくなったわ。

何故なら、コナンくんが部屋を暗くして鏡にライトを当てた瞬間。私の目の前に衝撃の光景が映ったの。

それは鏡に反射した光が映した横須賀のお城。(この現象はハエ2号が『日本古来の技術の魔鏡だ』って解説していたけど、アンタの手柄はどうでもいい)

 

キタわね。これ確実に、そういうことでしょ?エッグはここにあるよって。

「夏美さん、二つのエッグはあなたのひいおじいさんが作ったものじゃないでしょうか?あなたのひいおじいさんは、ロシアの革命の後で、夫人と共に作った2個のエッグを日本に持ち帰ったんです。恐らくこの2個目のエッグについていた宝石のいくつかを売って、横須賀に城を建て、このエッグをどこかに隠したんです。そして、城に隠したというメッセージを魔鏡の形で別のエッグに残したんですよ」

毛利探偵が前後関係までまとめて説明して、私の思っていた事を全て代弁した。というより、思ってたよりずっと言われた…流石、名探偵と言われるだけはあるわね。

ちなみに、お菓子屋は図面と一緒にあった古い鍵も取り出した。

『これ確実に2個目のエッグの隠し場所の鍵じゃん。最初から出してよ。出てれば私だって…私だって…』

 

その後、お菓子屋の提案で毛利探偵がお城に同行。話の流れでハエたちも同行したいと群がり、お菓子屋はあっさり快諾。もちろん私の同行も。

 

と、全てがとんとん拍子に私に都合よく突き進んでいった。

本当に最高!人生初の豪華客船でのクルージング。しかも豪華な個室付き。見晴らしも最高。

『あとはラス様の写真を台に置いて。これで私の部屋って感じね』

私が写真立てとオーシャンビューに満足していると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。誰かお客さんかしら?

 

違った。煽りカメラだったわ。

ドア開けた時の女性の驚いた表情が撮りたかったみたい。すぐに帰ってったし。

意味が分からないわ。日本人の男ってマトモなの少ないのね。キッドにしかり、ハエ2号にしかり。ってこともないか。コナンくんもいるし。

 

なんて思っていると、しばらくしてまたドアノック。

今度はコナンくん!(と、会長の娘)からの女子会のお誘い!

なんてラッキーな日なの、憧れの女子会なるものに誘ってもらえるなんて。スコーピオンやっててよかった♪

踊りたくなる気持ちを抑えて、私が準備しに行くと、会長の娘が何かに気付いたように口を開いた。

「あっ。もしかしてそこにあるのは彼の写真?」

この娘、今なんて言った?

彼?彼氏!?

なんて恐れ多い!

(でも、心の底だけで叫ばせて。なんて日だぁ~~~~~!!!)

 

その後、娘が「いいなぁ皆、彼氏持ち。こうなったら絶対キッド様をゲットしなくちゃ」なんて、貴女にゲットできたら警察はいらないでしょって言いたくなることをほざいていたけど。

そんな戯言は無視して、私はスキップしたくなる気持ちを抑えてコナンくんと女子会に向かった。

でもここでテンションガタ落ちの事実に気付いてしまった。

 

それは、“日本人は写真立てをよく見る”って事実。美女の部屋よ?普通、他に見たくなるものってあるでしょ?

正直に言うと私、隠れラス様ファンなのよね。というより、知られるとドン引きされるから周りにバレたくないのよね。オタバレみたいな感じ。

希望的観測かもしれないけど、娘とコナンくんにはバレてないと思うのよ。

娘は白黒写真見て“彼氏説”出したくらいだから、しっかりとは見えていなかったとしか思えない。何も言わなかったコナンくんもそう。

だけどあの煽りカメラは駄目!映像見返されたら…バレる!

 

それから女子会に参加することになった私だけど、全然話が入ってこなかったわ。

憎かったとか、人見知りがどうとか、敗色とか、中国語とか、歳とか、誕生日とか。

「じゃあ、僕とは1日違いだ」

コナンくんの誕生日が5月4日。私は5月5日。何この偶然、可愛い。本当に癒される。(当然、ラス様には足元にも及ばないけどね)

 

なんて癒しの持続時間も夕方まで。

毛利スケベオヤジにセクハラまがいな視線を向けられることなんか気にならないほどのストレス。

それは煽りカメラの愚行!たしか名前は…出てこなくて手が止まるけど…そう!

「寒川さん、そのペンダント」

間違いない。ニコライ2世の三女マリアの指輪。そんなレアアイテムを雑なペンダントにして首から下げていやがったの。

これ本当にストレス。何がしたいのか分からないけど、これ見よがしに着けて私の前に出てきやがったわ。

もうこれ、バレてるわね。ラスオタバレ。

あとで私のこと馬鹿にするつもりだわ。

 

殺すしかない。

私のラス様ファンとしての品格・プライドを汚い足で踏みにじったクソ野郎!

 

 

その夜。私は行動に出たわ。

7時29分。煽りカメラの右目をショット!ザマァみろ。

あとはラス様グッズを取り戻すだけ…あれ?首に無い…

部屋中を漁ってみたけど、やっぱり無い。ひょっとして枕の中に?って思って切り裂いたけど、やっぱり無い。

やられたぁ。コイツ、指輪無くしたのね。

まぁビデオテープだけは確保できたから、オタバレせずに済むし。

最初から指輪は知らなかったものだって思えば、プラスマイナスゼロだから良いけど…

まさか、テンション最悪で今日という日を締めくくることになるなんて…

はぁ。ショック。

 

その後、ヘリコプターで警察参上。ポンコツっぽいのが3連星。と、鑑識。

マズイ…怒りに身を任せすぎた。

ココは絶海の密室。逃げ場はない。

【絶海でもないし密室でもない。逃げ場はたしかにない】

 

だけど、私にラッキーはまだ残っていた。

捜査線上に挙がった容疑者が、まさかの会長の秘書・西野だったの。

証拠は2つ。犯行現場に西野ペンがあったことと、西野部屋のベッドの下にマリアの指輪があったこと。

WHY!?どういうこと?

煽りカメラと西野がベッドインしたってこと!?

 

という意味不明な状況を打開してくれたのは、やっぱりコナンくんだった。と、毛利セクハラオヤジ。

何故なら、西野は羽毛アレルギー。私が羽毛枕を切り裂いたことで、容疑者から外れたのだ。

しかも煽りカメラは西野に恨みがあって、指輪泥棒の罪を着せるためにベッドの下に指輪を隠した。その後で私が煽りカメラを殺したせいで、事情が複雑になっちゃったみたい。

はぁ…何それ。見つかるはずないじゃん。

きっと指輪も証拠品として警察が回収しちゃうし。

こんなことになるくらいなら、オタバレして恥かいてから殺した方がマシだったわ。

 

でも、そんなテンションダダ下がりな夜も、どうにか盛り上がったわ。

「スコーピオンって知ってる?いろんな国でロマノフ王朝の財宝を専門に盗み、いつも相手の右目を撃って殺してる悪い人だよ」

コナンくんの話で、今回の事件はスコーピオン真犯人説ということで決着した。

えっ?それは私にとって都合悪いんじゃないかって?その程度は大丈夫よ。余罪たくさんあるけど、今まで一度も捕まったことないし。正体バレしなけりゃ気にしないわ。

前もって私が救命艇を1つ流しておいたから、スコーピオン取り逃がしってことで警察も結論出してくれたし。

それより重大ニュースがあるじゃない!

 

コナンくん…私、あなたの正体が分かったわ。

貴方、“スコーピオンファン”つまり、私のファンだったのね!

そうじゃなきゃ、小学生が私のこと知ってるわけないじゃない。説明つかないじゃない!

なんだけど…ここで蛇足情報(by白鳥とかいう警官)。

コナンくん、スコーピオンのことは阿笠博士って人から聞いたんだって。チッ、スコーピオンファン説、立証ならず。

 

でも1つイイかしら?

博士と知り合いって何?

周りが納得しているところを見ると、日本で有名な博士みたいだけど。

そもそも“博士”でしょ。コナンくん、鉄腕アトムか何かなの?

 

なんて冗談はさておき。

結局、スコーピオンが2つ目のエッグを盗む可能性があるってことで、白鳥野郎が城に同行することになったわ。

でも、白鳥推薦でコナンくんも城に来てくれることにもなったの。

ありがとう。白鳥!ナイスよ。

 

 

そして翌日、タクシーとリムジンで到着。ノイシュバンシュタイン城っぽいお城。

なんか子供ゾロゾロと一緒に太ったオッサンまで来た。この人が噂の博士。何よ、まさにお茶の水博士じゃない!じゃあコナンくん・・・やっぱりアトム!?

あれ?でもアトム作ったのは天馬博士だし。お茶の水博士は後見人。

なんだ。思い過ごしだったみたいね。

 

その後、私たちはお城イン。途中、ハエ2号が抜け駆けしたハプニングを挟みながら、執務室でラス様写真を発見!

「お父さん、ラスプーチンって?」

「いやぁ、俺も世紀の大悪党だったってことくらいしか」

はぁ!?ラス様が大悪党?殺すわよ!

(えっ?コナンくんも昨日私の悪口言ったって?私は良いのよ。本当に悪い人だから。でもラス様のことを悪く言うのは許せない!なぜなら私は蠍だから)

 

なんて私が怒りに震えてるところ、やっぱり作用するのは私の清涼剤コナンくん。

あっさりと隠し部屋のボタンを発見。ロシア語で何かパスワードを押せばエッグへの道がひらかれるみたい。

正解はコナンくんと私(とお菓子屋)の合作。『Boлшебник кoнца века』。

日本語に直すと『世紀末の魔術師』

そして開けゴマ!オープンザドアー!

 

地下へと続く階段を降り、真っ暗な一本道を進み、かすかな物音を聞きつけコナンくんと白鳥が離脱。

そして私はこの隙に、あのセクハラオヤジを殺す銃の準備を…

「あっアンタは!?」

まじか…ハエ2号に銃を見られた。もちろん殺した。

 

で、戻ってくると何故か子供たちと合流。

賑やかパーティで道を進むと、行き止まりに到着。あれ?道を間違えた?

なんて心配ご無用♪ 私にはコナンくんがいるじゃない。白鳥に命令してライトを当てればあら不思議。ドアオープン♪(開けゴマは、流石に古かったからもうやらないわ)

 

そしてドーム型の部屋に到着。もうゴール決定じゃない。奥の棺に鍵を挿して、エッグを抱いた遺体を発見!

ついに……2個目のエッグが。

『ありがとうコナンくん。短い付き合いだったけど、私はエッグを盗んでオヤジと娘を殺したら、さっさと逃げます』

と思っていた矢先。脳天に落雷!

その名も“エッグが空っぽ”大事件!

 

じゃなかった。ここで登場マトリョーシカ説。

どうやらこのエッグはメモリーズエッグを中に入れて、2つで1つのエッグとなるタイプだったみたい。

はぁ、メモリーズエッグがここにあれば答え合わせができるのに。

「エッグならありますよ」

ここで白鳥が鞄からメモリーズエッグを取り出した。梱包材(プチプチ)にも包まずに。

はぁあああ!?ラス様グッズを、なんて雑な運び方してんの、このド素人が!

 

結局、エッグは合体完了。

『よし、盗もう!』

と思った時、コナンくんがエッグを持ち、近くの台座に走り、私たちに何やら指示をし始めた。

私はコナンくんに言われたとおりに蝋燭の火を消し、白鳥は懐中電灯を台座にセット、コナンくんはエッグを台座にセット。

するとアメイジング!Yes I know it's Love な出来事が起こった。

この感動は言葉に出来ない。というわけで割愛。

 

感動が落ち着いた頃、セルゲイはロシアのエッグ所有権放棄を宣言。鈴木会長もきっと放棄するだろう。

ってことはだ。この時点で私の物決定!

「何はともあれ、一件落着!めでたしめでたし!」の毛利の右目にショット!

は、懐中電灯を投げたコナンくんに阻止された。

コナンくん、頼むから大人しくしてて。

続く娘へのショットもコナンくんダイブで失敗。

もう、コナンくんたら!貴方だから許してあげるけど…。

 

でも意外とこれが好都合。混乱の中でお菓子屋が転んでエッグを落とし、私が拾って逃げることができた。

よし、あとは戻るだけ!

追っ手が来るかもしれないから、途中で手榴弾を爆破しておいて。あとはガソリン撒いて火をつけて。

これで私の元にラス様が……

 

「ちょっと待ったぁ!てめぇだけ逃げようったって、そうは問屋が卸さねぇぜ」

甲冑だらけの部屋に響く声。それは毛利セクハラオヤジの声だった。

『まさか、もう追いついたの!?』

驚いて壁に隠れて銃を構える私に、“奴ら”は名推理をたたみかけた。

私がロシア人でラス様の末裔でスコーピオンだってことは白鳥が。

プースチンランを入れ替えるとラスプーチンになることは煽りカメラが。

 

えっ?

煽りカメラ!?私が殺したはずの!?

『もうこれ、ホラーじゃない!』

怖くなった私は銃を乱射しまくった。だけどホラーはまだ終わらない。トドメはハエ2号。

『判った!これは死んだ人がドラゴンボールで生き返ったパターン。となれば、次に出てくるのは、ラス様!』

そう期待した私の前に現われたのは、コナンくんだった。

1人で色んな声色を操って、私を怖がらせていたみたい。イタズラにしてはお茶目じゃないわ。

 

それからもコナンくん、まるで見ていたみたいに私の犯行を言い当てるったら言い当てる。

はぁ、ここまできたら仕方がない。可哀想だけど、コナンくんにもここで死んでもらわなきゃ。

残る銃弾は1発。

これで…終わりよ。ショット!

 

【しかしコナンの右目眼鏡の前に弾かれる銃弾!】

へっぁ!?

何が起こったの!?

怯んだ私に追い打ちをかけるように、コナンくんは何か靴を触り始めた。

これは油断できない!と“うつむ~く~”ながら、私はマガジンを交換して銃を構えた。

そこにどこかから逆転の女神的なトランプが投げられ、発砲が阻止されてしまった。

さらにコナンくんが瓦礫をキック。エゲつないスピードで私にヒット。

こうして、私は倒れて気絶し…

 

謎は全て解かれた

 

 




はぁ、コナンくんを甘く見過ぎたわ。
銃も効かないし、キックも凄いし。
やっぱり、気付いたときに注意しておくべきだったわ。

あの子は鉄腕アトムなんだって・・・


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天国へのカウントダウン

地上300mの超高層ビルを舞台に、出口の見えない殺人ゲームが今始まる。
脱出不可能、シリーズ史上最も危険な事件が待ち受ける!


ワシの名前は如月峰水。富士山を描かせたら日本一の、御年60の大ベテランじゃ。

かれこれ30年、富士山の日本画を世に送り出しておる。常盤財閥の令嬢もワシの弟子の1人じゃ。

お気にの写生スポットは西多摩市の小高い丘。ここから見える富士は世界一、何十年も通い詰めておる。

とはいえ体力ゼロで登りきれるものではない。

「ならいっそ、ここに住んでしまえばいいじゃないか」

と、3年前に買っちまった。丘と家。もう生涯ここで富士山描いて過ごせれば、いつ死んでもいいと思える最高最善のハウスを手に入れたワシ・・・じゃったが・・・

 

弟子の常盤美緒が、家から見える富士のど真ん中にビルを建ておった。

はぁ!?

お主、ワシの何を見てきたんじゃ?節穴アイにも程があるぞ!

それに待て待て。市の条例で建てれんビルじゃないのか?市議会議員が黙っておらんぞ!

 

怒れるワシが耳にしたもの。

それは馬鹿弟子から賄賂を受け取った市議会議員の大木岩松が圧力をかけ条例を不正に改正したという衝撃的事実じゃった。

再三の抗議も虚しく曲解され、『馬鹿弟子がワシの絵を買い占めて高く売ったことで険悪になった』と話が広まっておった。

 

このことについては2つ言いたいことがある。

『そんな事しとったのか?』と『そんな事気にしておらん』じゃ。

転売の件は初耳じゃったし。そもそもワシは富士山を描く行為が快感であって、その後のことは正直どうでもいいんじゃ。(『ヤッて満足したら後はポイ』は最低じゃと?何を言っとるんじゃ?)

 

無論、ワシも指をくわえて黙って見ておったわけではない。

建築家に「透明なビルを作れ!」と注文しておいたわ。

じゃが、聞く耳をもってくれんかった。(そのくらいできるじゃろ?今の技術なら)

 

 

終わる・・・

ワシの富士山ライフが・・・

ありがとう・・・ワシの富士山ライフ

今まで楽しかった

ちょっぴり嫌な事もあったが・・・

こうして、幸せな富士山ライフじゃった

でも終わり

ワシの富士山は終わるんじゃ・・・

ツインタワービルとともに・・・

終わりに

する

わけには

いかない!

 

命を殺せ!

 

 

ワシは決意した。

ラスオタ・常盤美緒と酒の愚弄者・大木岩松の2人を殺すと。

2人を殺してワシも死ぬ!

富士山の名に賭けて!

 

 

こうして、富士山の仇を討つべくワシの殺人計画は始動した。

じゃがここで1つ注意することがある。

それは「2人を殺してワシも死ぬ」モードの時には、無関係の人を巻き込まんようにすることじゃ。

でなければ必ず後悔する結果が待っておると、ソムリエの人が言っておったからのぉ。

 

殺人の舞台は無論、ツインタワービルに決定じゃ。

タワー完成のオープンパーティーの場で、馬鹿弟子を殺す。決定事項じゃ。

ワシの怒りを表現する富士の絵をバックにその中央を裂くように馬鹿弟子の首つり死体を掲げてやるわい。

そのために、まずワシがやるべきことは、富士の絵を描く事じゃった。

これが地獄の始まりとも知らず。

 

『苦痛!』

なんせ自分で台無しにする予定の絵を描くわけじゃ。

これは苦痛以外の何者でもない。

じゃが、「祝いの席にこの絵をくれてやる」とでも言わん限り、ワシの望む“シュチュエーション”で富士の絵が登場してくれんじゃろう。

手を抜くことができんのじゃ。

 

そして完成した新作『春節の富士』

我ながら見事じゃ。

値をつければ5000万はくだらんじゃろう。

 

あと用意するのは真珠のネックレス。を2本。

これは後で紹介するんじゃが、トリックに使うんじゃ。ちなみに50万かかった。

 

そんな準備の最中、ワシにオープニングパーティーの打ち合わせの連絡があった。

犯行の下見をしてくれと言ってるようなもんじゃ。

 

向かったツインタワービル最上階のパーティー会場。

本番で舞台の立ち位置を確認し、同時に絵の位置やポジションを見ていく。

(終わり頃に馬鹿弟子の知り合いの探偵やら子供たちやらが来ておったが、まぁここは関係ないじゃろう)

そんな最中、ワシの耳にとてもキャッチーな会話が入ってきた。

酒愚者が隣のホテルのスイートルームに泊まるというのじゃ。

 

これはチャンス!

と、ワシは「帰らせてもらう!」と一方的に通告して急いでホテルを出た。

ワシがいきなり怒ってもそんなに驚かん連中じゃ、「見送りも結構」と断るのも容易い。

 

その足でワシは家に帰って掛け軸をチョイス。

一番安い100万程度のモノを持ってホテルへリターン。

掛け軸をエサに酒愚者の部屋に入り、

そして刃物でサクッとキル!老人にも真似できる楽な殺し方じゃな。

オープン前のホテルだから、防犯カメラの心配も無し。

最後にワシの身を裂くような怒りを表現するために、ビルに割られた富士山に見立てた割ったお猪口を残して。

これにて第1の殺人ミッションコンプリートじゃ。

 

ここで1つ感想をば。

『トリックは金がかかる!』

絵とネックレスの他にも色々と用意したが、とにかく出費が激しいのぉ。ワシ、今まで殺人なんてしたことないから知らんかった。

世の殺人鬼たちも、大変じゃなぁ。

 

その後、酒愚者殺人事件について警察からの取り調べを受けたが、ワシへの疑いは弱いようじゃ。

さてあとはパーティーの日を待つだけじゃ。

 

と、その前のある日、富士山を描いているワシの所に訪問者があった。珍しい。

それはパーティー打ち合わせの日に来ておった4人の子供たちじゃった。

少年探偵団とか名乗っておったが、「子供が警察の真似事をするでない!」と叱ったら恐縮してしまった。ちと厳しすぎたかのぉ。

その詫びにワシは4人の似顔絵を描いてやった。

売るところに売れば1枚10万の価値があるじゃろう。喜んでもらえたはずじゃ。

 

その夜、ワシはTOKIWAのプログラマーの原さんの家に向かった。

何故ワシが原さんの家に、とな?

新しいゲームの意見を聞かせてほしいというのじゃ。

ではどんなゲームか?というと・・・ちょっと待て、PVがある。

 

 

 

≪ブラブラ❤ダイシューゴウ≫

お酒を美少女化した恋愛シミュレーション。

新任教師『レンヤ』を操作し、個性豊かなヒロインに囲まれ学校生活をエンジョイする愉快痛快アルコールストーリー。

 

~登場キャラクター紹介~

・ポルシェ356Aを乗り回すサラサラロングヘアー暴力系ヒロイン『ジン』

「黒と黒が混ざっても、黒にしかならないんだゾ」

 

・どこでも爆発。関西弁ナチュラルボーン・ボンバーガール『テキーラ』

「アカン、ウチまた爆発してもうた」

 

・物語の根幹に関わるお薬レディ『シェリー』

「あなたは死なないわ。私が守るもの」

 

・レンヤとは長年の付き合い。カメラ嫌いのお転婆少女『ピスコ』

「ピスコはいつだって先生の味方なのよさ」

 

・テクマクマヤコンして娘に成りすまして入学したママ『ベルモット』

「秘密が無くっちゃ、女の子は女の子のままなんだよ」

 

・物語のカギを握るかもしれない隠しキャラ『ラム』

「ダーリンはウチが守るっちゃ」

 

(ゲーム中会話イベントから一部抜粋)

 

 

 

 

というものじゃ。

これを最初見せられた時に、ワシはこう思った。

 

『わかっとるじゃないか。なんてドストライクなゲームなんじゃ』

 

 

ワシは迷わずテストプレイヤーを快諾し、その感想を今夜聞いてもらうために原さんの所に来たというわけじゃ。

じゃが・・・原さんの家には鍵がかかっておらず・・・リビングの床には何者かによって銃殺された原さんの遺体が転がっておった。

 

なんということじゃ!一体誰が。

この素晴らしい『ブラダイ』を作った原さんを殺すとは。

原さんも、一体“誰に何を恨まれて”殺されなければならなかったんじゃ?

しかし、死んでしまっては仕方がない。きっと仇はゲームの世界から飛び出したジンちゃんがとってくれるじゃろう。(ジンちゃんはワシの嫁)

 

じゃがそれはそれ。

どうやら死亡推定時刻は、ワシが少年探偵団の似顔絵を描いている頃じゃということが分かった。

何故、死亡推定時刻が分かるか、とな?

何故ならワシは“死亡推定時刻が分かる系のジジイ”だからじゃ。

 

そしてこれは好都合。

何かあったときの為にいつも持ち歩いておるお猪口を現場に残して、これにて第2の殺人も同一犯による連続殺人となるようにリードして、完了。

これで死亡推定時刻にアリバイのあるワシは自動的に容疑者から外れることになる。

えっ?原さんの死は悲しくないのかって?

それはそれ。ワシが好きなのはゲームだけじゃからな。

 

 

そして土曜日。ついに訪れたオープニングパーティーの日。

(普通、関係者が2人も死んでおるのに、パーティーを予定通りに開催するとか。流石は馬鹿弟子。安定のクズっぷりじゃ)

ここで馬鹿弟子を殺して、頃合いを見てワシも死ぬ。

最後に夕日に照らされた富士山を女子高生2人と並んで眺めるのが、ワシの最後の光景かと思うと、ちょっと寂しい。

 

パーティーは特に何事も無く進んでいった。

ワシに必要のない車の当たる『30秒当てゲーム』

ワシに必要の無くなる時計に宝石プレゼントと。

ことごとくワシの神経を逆なでするイベントが続いたのは癪に障るが。

それもどれも、この後で馬鹿弟子を殺せると思えば苦ではなかった。

 

そして遂にその時が来た。

壇上にてワシと馬鹿弟子、建築士が並んで挨拶する時がな。

真っ暗な舞台の上で、足元のライトの位置に立つワシら3人。

 

ここからがトリックじゃ。

馬鹿弟子が着けておるのは、あらかじめ外れやすいように細工をしておいた真珠のネックレスじゃ。ワシがプレゼントしたのぉ。

そのネックレスと同じネックレスを、これまたリハーサルの時に仕掛けておいたピアノ線に結びつける。

あとは細工ネックレスを外し、馬鹿弟子が焦っておる所に「ワシが着けてやろう」と言ってピアノ線ネックレスを着けてやる。

証拠となる細工ネックレスは杖の中に収納して、最後にお猪口を置けば完成。

あとは富士山の絵が降りるのと同時に、ピアノ線に引っ張られたネックレスが馬鹿弟子を吊り上げ、富士山の絵を割る首吊り死体の構図のできあがりじゃ。

 

なんじゃが、さすがに首吊りだけでは即死とはいかん。

苦しむ声を聞きつけた誰かが助けてしまうかもしれん。

そこでこのトリックに不安のある人は、一工夫をしておくとよいぞ。

ワシの場合は杖に毒針を仕込んで、ネックレスをかけた後に一突きで即死させておいた。

こうすることで、首吊りが見つかってからすぐに誰かが助けに来ても、馬鹿弟子はもう死んでいることになるんじゃ。

 

こうしてトリックは無事に成功したんじゃ!

えっ?トリックじゃない?

何を言う。トリックではないか。

 

その後、会場に来ていた探偵が事件を推理。

馬鹿弟子の秘書の沢口ちなみが犯人だという結論に至った。

『何故?』

探偵曰く、このビルの建設には酒愚者に対して馬鹿弟子と原さんが賄賂を贈った経緯があったそうじゃ。

まさか。原さんはワシにチョコレートをくれるイイ人じゃぞ?

それに一介のプログラマーが、このビルじゃなきゃ仕事が出来ない!なんていって市議に賄賂を贈ったというのか?

 

そして、探偵はお猪口のメッセージについて、猪年生まれの彼女が自分の苗字の『沢口』の口をかけたメッセージだと言ったんじゃ。

そんなの、ただのトンチの効いたこじつけじゃないか。

じゃが、警察がそれを鵜呑みにして、彼女を重要参考人にしてしまった。

まさか・・・すまん、沢口さん。

 

こうして、ワシの殺人は無事に完了した。

あとは頃合いを見て自殺するだけ。

最後はワシの描いた富士山を見ながら、死ぬとしようか・・・

 

と、その時!床の下から強い衝撃が。

地震か?と思ったが、そうではなかった。

 

なんと、ビルの電気室とコンピューター室が爆発したというんじゃ。

『まさか・・・テキーラちゃんか?あの娘がここに!?』

ワシの予感が的中したのかは知らんが、ビルは大規模停電。

火災も迫っており、ワシらは脱出を余儀なくされた。

 

だがそれも好都合。

このままビルと一緒に心中というのも一興。

エレベーターや階段から脱出する客たちを見届けてから、ワシは一人ここに残って自殺することに決めた。

 

途中、警部さんがワシにもエレベーターで降りろと命じてきたが、ワシが「年寄り扱いするな!」と一喝したらすごすごと引き下がった。

えっ?ここで引き下がる?

普通に考えて、階段で逃げるってことは、今からビルを15階分降りるということじゃぞ?

さすがに杖ついた年寄りにそれは危険で無謀じゃろ。

じゃが、警部さんはそれでGOを出した。

まぁ、どのみち逃げるつもりがないからいいんじゃけど・・・

 

そして男が全員脱出する中、ワシは密かに抜け出して会場に残った。

 

これで一人、ひっそりと死ねる。

 

殺人事件の犯人として逮捕されることもなく。

 

毒を飲むのはさすがに怖いが、シェリーちゃんがくれた薬だと思って飲めば怖くもない。

 

「誰かいるわ」

その時、シェリーちゃんの声が聞こえた気がした。

振り返るとそこには、探偵団のメガネ坊主と小さな女の子がおった。

「江戸川コナン、探偵さ」

 

探偵を名乗るメガネ坊主じゃったが、その口ぶりはまさに探偵じゃった。

咲き誇る推理の数々は、ワシのトリックだけではなくお猪口の謎、原さんの殺害別犯人説、証拠の所在、そしてワシの犯行動機を見事に的中させていった。

怖っ。老人の心臓には悪すぎるぞ。

だが、ワシの気持ちを理解してくれたことには感謝したい。

 

ワシは感謝と怒りを胸に、持ってきておいた巨大ブラシに墨汁を垂らした。

そして、ワシの怒りを表現するため、春節の富士に墨の一閃をぶつけた。

『重っ!墨汁つきのブラシ、思ってたのよりも重い!』

もちろん怒りもあるが、体力を想像以上にもっていかれたワシは、息も絶え絶えに最後のメッセージを残した。

 

謎は全て解かれた。

 

「もはや、言い逃れはできんな」

これでもう、思い残すことも無い。

坊主と少女の目の前ではあるが、ワシは毒薬を飲んで死ぬことにした。

ところで、チクッと何かに刺され、ワシは眠たくなった。

 

 

その後、目を覚ますと、ワシは隣のビルのプールにいた。

ワシが真犯人ということは、おそらく坊主が警察に証言したのじゃろう。

ワシは手錠をかけられ、連行されていった。

 

 

こうして事件の幕は閉じた。

 




パトカーに乗り、ビルを見上げると、ビルは盛大にぶっ壊れていた。

ここでワシは思った。
会長である馬鹿弟子はワシが殺した。
コンピューター室は何故か爆発で破壊されていた。(おそらく爆発魔の森谷帝二の弟子である建築家の風間英彦の仕業じゃろう)
ホテルも殺人事件があったこともあり、もう営業はできないだろう。

ということは、このビルはもう潰れることが決定ということ。
ワシの仕業じゃないコンピューター室の爆発だけでも、きっと廃業確定だったじゃろう。

ってことはワシが2人を殺さなくても、富士山ライフが復活してたんじゃね?
家で大人しく『ブラダイ』やってれば、万事解決していたってことじゃないか!?

『風間ァ、爆破が遅いんだよ!』


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水平線上の陰謀 【前編】

豪華客船で起こる連続殺人。逃げ場のない海で、シリーズ史上最悪の陰謀が待ち受ける。


私は秋吉美波子。

15年前、貨物船・第一八代丸が氷山に衝突する事故で、船長である父・沖田を失って以来、多難な人生を送りながらもどうにか船の設計士になった努力の女よ。

努力の女よ!

何故なら、一流の船会社『八代造船』の設計技師の八代英人にも弟子入りして、豪華客船『アフロディーテ号』の設計チームのリーダーにもなるくらい努力したもの。

 

そんな私の所には今、シナリオライターがインタビューに来ているわ。日下ひろなりとかいうグラサン男よ。

豪華客船を舞台にした連続ドラマの企画書を作っているんですって。タイトルは『クルージング恋物語』。ありきたりすぎ。

いざ取材になっても、ドラマの話はあんまりしてこないどころか、八代親子の事ばっかり聞いてくるし、本当に変な人。

 

で、グラサンがちょっとトイレに行ってくるって席を外している間に私、パソコンを見てやったわ。

一体どんなドラマを書いてるのよって

そう思った時、運命の歯車が加速したわ。

【第一八代丸沈没事故の真相】

ドストレートすぎるネーミングセンス!

でも私にとっては衝撃的すぎる内容が、そこには書かれていた。

 

グラサンは実は第一八代丸の沈没に巻き込まれて死んだ乗組員の息子だということ。

社長と専務だった八代親子が保険金目的で故意に起こした事故だったこと。

当時、従業員の待遇改善で対立していた私の父を排斥しようとしていたこと。

その計画に当時副船長だった海藤渡が関与していたこと。

そして恐らく、八代英人が貨物船に仕掛ける爆弾の位置の指示していたということ。

 

何てこと・・・八代親子が・・・まさか私の師の英人まで・・・私の父の死に?

(ただ、英人の件だけは「おそらく」って書いてあるあたり、確証はないみたい)

衝撃的な内容に、私は少し放心状態になりかけたわ。

 

それにしても、トイレ長くない?

もう真相のほとんど読んじゃったんだけど。グラサン、まだトイレから戻ってこないわ。

『きっと大きい方なのね』

そう悟った私は、さらに次のファイルも読んでいったわ。

 

そこには、彼の父親の敵討ちとして、八代親子と海藤船長の殺害計画が書かれていた。

英人の件は憶測の段階のくせに、しっかりと殺害対象になっていたわ。

 

ザーッと読ませてもらったけど、一つ言っていい?

「雑すぎ!」

本当に雑すぎるわこの計画。穴だらけで、杜撰すぎるわ。

あの人、殺人を舐めてる?事件を舐めていらっしゃる?

自分に酔っているようだけど、これじゃあ4人殺しきるまでに途中で確実に捕まっちゃうわこの馬鹿。

 

『なら、私が殺ればいいじゃない』

グラサンはきっと自分が復讐を完遂したって思えば、いざ犯行が露呈しても自白するだろうし、何より父の敵討ちは私もやりたい。

よし、グラサンを利用しよう。隠れみのにしてやろう!

えっ?それは流石に非道じゃない、って?

いいのよ、だってコイツ、私の父の事を『船と運命を共にした時代錯誤な男』とか書いてやがんのよ。ふざけた計画立ててるくせに。

 

あと、もう1つ言っていい?

「トイレ長すぎない?」

殺害計画まで読み切っちゃったわ。まだ便と格闘あそばされてるの?

もう病院行った方がいいんじゃない?肛門科?消化器内科?

 

その後、出しきった感を出したグラサンと分かれた私は、まずは裏取りをするために英人の元へ向かった。

そりゃ、便秘男の戯言の可能性が高いからに決まってるからよ。

私は今のところは師匠を信じるわ。

 

 

もう誰も信じられない。

アッサリ吐いたわ。アサリの味噌汁よりアッサリ吐いたわ。

ワイン飲ませたらすぐよ。ワインって偉大ね。

 

15年前の沈没事故はやはり、八代親子が保険金目的で起こした事故だったの。

英人は爆弾で船が沈没しやすい場所を指示していたの。何よ、グラサンの推測通りだったじゃない。

もう許せないわ。私の手で復讐するしかないわね。

 

 

まずは英人の殺害。

グラサンの計画では、英人が別荘から車で出る時に、シートベルトにスタングレネードを取り付けて、ベルトを引っ張ったタイミングで驚かして心臓発作を起こさせ、そのまま車が崖の下に落ちるというもの。

雑。

 

スタングレネードなんて車内に残したら、他殺の証拠が残るじゃないの。心臓発作の病死や事故死に見せかけたいんじゃないの?

それに、この仕組みだとベルトを締めた時に作動するわけだけど。エンジンかけて車を発進させてからベルトを締め始めるドライバーを殺すトリックよね?

 

英人、ベルトを締めてからエンジンをかけ始めるタイプのドライバーよ。

これだとスタングレネードに驚いて別荘の車庫で死ぬか、ただ驚いてから目を覚ますだけ。

これだからグラサンは。

 

その日の朝、犯行現場で待ち伏せた私は、グラサンがトリック(笑)を仕掛けたのを見届けてすぐにそれを除去。(まぁ、ベルトの金具に仕掛けたタコ糸だけはそのまま放置。そうじゃないと奴が捕まった時に「俺のトリックじゃない」ってなって困るし)

そして私は助手席側の後ろの窓に“エアホーン”をセット。これなら車のクラクションと同じだから別荘に人がいてもバレない。

あとはエアホーンの起動スイッチをタコ糸につなげて、車が別荘から離れたら作動するようにして、完成。

 

『さて、うまくいくかしら?』

上手くいきました。自分でも怖いくらいに。

無事、八代英人は運転中に心臓発作を起こして崖下から転落。炎上する車の中で死亡という事故死として処理された。

グラサン、これがトリックよ!

 

 

まず第1の殺人が終わったところで、次はアフロディーテでの殺人の下準備ね。

そして苦痛の始まりだった。

 

何せ八代の父・嫁殺害トリックの要は『私を巻き込んだアリバイトリック』よ。

それは『電話口でグラサンが考えたドラマのシナリオを聞き続け、その間に口を挟んだらグラサンに怒られる、の法則』よ。

本番ではICレコーダーに録音した話を私に延々と30分くらい聞かせて、その30分のアリバイを確保するつもりらしいわ。(私も逆にそれを利用するんだけどね)

 

この準備のために、グラサンはことあるごとに私に電話をかけてきたわ。

それで延々とドラマのシナリオを聞かされるの。

(しかもあんまり面白くない、雑な)

少しでも声を出すと怒涛の罵声を浴びせられるのよ。「黙って聞いてろ!」って。

(「ください」だったかも。でも少なくとも、そこまで怒鳴る必要ある?ってくらいよ)

 

ダブルで苦痛。いくらトリック相乗りのためとはいえ。

しかもこれ最後に感想を言ってあげなきゃいけないからね。一秒たりとも耳を離せないの。

それに下手に矛盾点指摘したら、グラサンが萎えて殺害計画のモチベーションを削ることになるから駄目だし。

 

『早く来て殺人の日!そして助けて私を!』

何度叫んだか分からないわ。

 

 




そしてようやく半年後、ついに訪れた運命の日『アフロディーテ号の処女航海』。
待ってろ八代延太郎、八代貴江、海藤渡。
このストレスの分もぶつけて殺してやるわ!


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水平線上の陰謀 【中編】

遂に出航した豪華客船『アフロディーテ号』。

この船内で私・秋吉美波子はグラサン・日下ひろなりを隠れ蓑にして、父の仇の八代親子と海藤船長を殺す計画を立てていた。

そう、私の計画はグラサンが「自分の犯行だ」と勘違いしてくれることの他にもう1つ重要なものがある。

それは“日下犯人説”を推理してくれる、優秀な探偵よ。

 

これは一応、候補がいるわ。

数々の難事件を解決してきた名探偵・毛利小五郎よ。

『お願い毛利探偵。どうか私の手のひらの上で踊って』

 

 

 

その夜、グラサンは私を連れてディナーの席で毛利探偵と接触したわ。

何故?

グラサンはこのディナーの最中に席を立って、八代会長の部屋に侵入するつもりみたいよ。そのアリバイ確保のために毛利探偵にディナー同席を証言してもらいたいみたい。

馬鹿なの?

わざわざ自分から探偵に近付くとか。自分のトリックによほどの自信があるみたいだけど、アンタのトリック、雑ですから。

 

 

でも、私のそんな不安も吹っ飛んだわ。

なんせ毛利探偵、見るからにポンコツなのだったから。(しかも私の顔を見るやウゲェって表情する始末。失礼しちゃう)

『すごい雑な推理しそう。うぅ、駄目かも』って思ったわ。

だけど考えてみれば、そもそもグラサン犯人説にすら辿り着かなければ、私真犯人説にも辿り着かないわけで。

何よ無問題じゃないの。

よっぽど私の狙いに方にだけ気付いて真相に辿り着く、名探偵でも現れない限りはね。

 

 

ちなみにディナーの席には毛利探偵のほかにその家族と連れがいたわ。

特に気になったのは、娘さんの蘭さんね。なんと空手の関東大会で優勝したんですって。

これは凄いわね。

しかも親友は鈴木園子さん。鈴木財閥のお嬢様じゃないの。

ってことは、園子さんもひょっとして空手の達人?そうじゃないとここまでフレンドリーに釣り合わないじゃない。要警戒ね。絶対に敵に回しちゃ駄目だわ。

 

 

 

 

それからしばらく毛利探偵一同と一緒に食卓を囲んでいると、グラサンが「ちょっと船に酔ったみたいです」って言い始めたわ。

既に毛利探偵の方が酔っぱらって、すっかり出来上がってたから、下手な演技も必要ないんじゃない?って思ったけど。

グラサンは席を立って、今から会長の部屋に盗聴器を仕掛けに行くわ。

私に言わせりゃ馬鹿まる出しな行動ね。

何故なら私は既に、盗聴器を仕掛け終わっているからよ!

私は設計チームのリーダーよ。この程度、出航前から簡単にできるわ。

 

 

その夜、盗聴器から聞こえてきたのは八代親子の明日の一日のプラン。(前日のプランから私は聞いてたんだけどね)

さぁ、ちゃんとヤッてねグラサン。

 

 

翌朝。船のデッキの席でグラサンと談話。

「じゃあ10時に」とグラサンは席を立って行ったわ。

ここからが勝負ね。

 

 

 

部屋に戻った私は10時にグラサンからの電話を受けたわ。

ICレコーダーから聞こえてくるグラサンボイスがスタートの合図。

私はダッシュで八代貴江ルームに向かい、シャワーあがりの貴江を気絶させてバスローブを奪い、血のり入りの袋を抱えてタオルを頭から被り、『風呂上り貴江』に大変身。

あとは揉みあいながら『ナイフで刺されたフリ』をするだけ。

 

ここよ、私の一番の難所は。

貴方、ナイフで刺されたフリ・・・できる?

だから私はこの日の為に体を鍛えまくって、格闘術の訓練も必死になって受けたわ。

その腕前たるや、ケンシロウやキン肉マン相手は無理だけど、日本刀を持った面堂終太郎くらいなら勝てるくらいの自信もある。

 

「さぁ、来なさいグラサン!」

 

来ない。

 

 

遅いわね。トイレでも行ってるのかしら?

 

と、待っていたら来たわ。息を切らして。

息を切らして!?

ちょっと待って。アナタの部屋からこの部屋まで、たしかに階段で数階上がるけど。

まさかその程度で息切れしたってこと?

 

 

そのまま息切れ雑魚グラサンがナイフで襲いかかってきたけど、正直言って楽勝だったわ。

容易くナイフを避けながら、ギリギリで血のり袋だけ刺させて。

一突きで死んだフリ。

満足したグラサンはそのまま出て行ったわ。

舐めてる?殺人を舐めてらっしゃる?

普通、恨みのある相手なんだから何回も刺して、死んだことを確認するでしょ?

今回は時間が無いから仕方ないし、何回も刺して来たら私が困るから、まぁいいんだけど。

 

 

 

【時刻 10時15分】

そして私は貴江を殺してから、グラサンと同じパーカーを着て部屋を出たわ。

地下のマリーナに急がないと、殺害予定に間に合わなくなっちゃう!

でもそこで思わぬ遭遇。なんと廊下に毛利探偵!?

私は顔を見られないように背を向けて、毛利探偵とすれ違ったわ。顔を見られてないわよね?

 

 

『大丈夫かしら?グラサン、今頃余計なことしてたり、変なピンチになってなきゃいいけど』

不安は的中した。

なんとグラサン、八代延太郎に負けかけてるの。78歳のおじいちゃんによ!?

跨られて、首絞められて、マリーナの扉から海に突き落とされそうになって。

 

『弱すぎ!』

叫びたくなったわ。

体を鍛えてないの?

あのね、トリックは最後はフィジカルなのよ!

 

 

結局、私は延太郎の背を果物ナイフで刺して、その両足を持ち上げて、海に突き落としてやったわ。

そして素早く離脱!

これできっとグラサンは『巴投げの要領で海に投げ飛ばしてやった』って思うんでしょうね。雑魚のくせに。

 

 

その後、すぐに部屋に戻った私は何食わぬ顔で電話口に戻ってやったわ。

そしてグラサンが“どの面下げて「どうでしたか?」”って聞いてきたから、私も「面白かったわよ」って答えてやったわ。

これにてグラサンは完全犯罪達成気分。あとは船長を殺すだけ。

でも、いつ頃殺すつもりなのかしら?陸が近づいてから?私は船と一緒に死ぬつもりだから、今すぐでもいいんだけどな。

 

 

その後、貴江の死体が発見され、本島から警察がヘリで到着したわ。

思ってたより早く。

あれ?

私の計算よりも早いわね。

 

 

結論から言いましょう。

グラサン、余計な事してた。

 

グラサンは延太郎殺害の前に、マリーナにいた鈴木園子さんを襲って霊安室に閉じ込めていたの。その捜査で毛利探偵がマリーナで延太郎の鉄扇を見つけ、その流れで貴江の死体発見。

何を予定外のことしてんのよ!

しかも相手は女子高生。私の警戒していた空手の達人。そんなのを相手に弱っちいアンタが何を無謀な挑戦してんのよ!

幸いにも園子さんは素人だったから良かったものの・・・ディナーの時にボケーッとしてたに違いないわ。

 

 

えっ?襲ったのは不慮の事故?そんなの言い訳にならないわ。

まだ気絶させて廊下に放置なら分かる。でもこともあろうに霊安室とか。

それだけで殺人未遂事件になっちゃうじゃないの。分かるでしょ?

あと、そもそも時間がかかり過ぎる。下手すりゃ犯行に遅刻よ遅刻。本当に殺人を舐めてるとしか思えない。

 

 

 

事情聴取にグラサンは比較的すぐに呼ばれたわ。

アイツ、マスターキーを分かりやすく盗んでいたもの。ディナー中に抜け出したのも子供に証言されてるし。

まぁ上手く誤魔化したみたいだから結果オーライだけど。

それを事後報告される私の身にもなって!アンタの雑なアリバイ証言に呼ばれた時に心臓止まりそうになったんだから。

 

 

はぁ、ため息が出るわ。ここいらで癒しが欲しい!

願いは叶ったわ。

子供の探偵ごっこに付き合ってあげて、父が好きだった折り紙の船をプレゼントしたら笑顔で「ありがとう」だって。癒やされるわぁ。

 

 

大人になると、小さな願いしか叶わないって実感できるわね。

大きな夢は無い事はないんだけど、身近な所から叶うと青空はより青く、白い雲はより白く見えてくる。心の中が澄み渡るわ。

 

日本人みんなが小さなありがとうを言える世の中。

私は応援します。

 

 




【そんな彼女の幸せが消えるまで、あと数時間】


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水平線上の陰謀 【後編】

豪華客船アフロディーテ号で起こった連続殺人事件。

犯人はもちろん、無事に目的の4人中3人を殺した私・秋吉美波子。

残るは海藤船長ただ1人。

その前に17時からのウェルカムパーティー。ちょっと楽しみ。

 

 

パーティーはメインスタッフの紹介から。これは定番ね。

そして憎き海藤に紹介されて私も壇上に。でもここでハプニングが起きたわ。

 

八代親子殺害事件について、客が騒ぎ出して、船長や警察に詰め寄ったの。

私も同感。殺人鬼が放置された状態で、どうしてパーティーを決行したの?まぁ私だから問題無いんだけどね。

 

「皆さん、落ち着いてください!御心配ください。この凶悪な連続殺人事件の犯人は、この毛利小五郎が特定しております!」

その時突然、壇上にあがった毛利探偵がマイクを手にお客さんを鎮めたの。

その自信満々な立ち姿は、昨日のディナーでの情けない姿から想像できないわ。

 

待ってました。さぁ、見せてちょうだい。私の手のひらの上で踊る姿を。

 

 

「八代貴江社長を殺害し、延太郎会長をも殺害した犯人。それは秋吉美波子さん、アンタだ」

 

 

 

 

 

ええええええええ!?ちょっと待っ、ええええええええ!?

予想外の事態発生。ポンコツっぽい探偵が実は有能な件が発生よ。

 

「殺害の動機は、半月前に交通事故で亡くなった八代英人氏の復讐。その事故は実は、八代延太朗親子による殺人事件だったのです!」

 

まだあわてるような時間じゃなかったわ。

 

毛利探偵の推理、動機に関してはトンチンカンだったの。英人と私が恋人同士だったとか言い出すんだから。やめて気持ち悪い。

でも動機なんて二の次よ。重要なのはトリック。

 

毛利探偵が出した切り札、それはアリバイトリック崩しだった。

グラサンが用意したICレコーダー作戦、には一切触れず。むしろグラサンが一方的に話していたことで、私のアリバイが無いと言い出した。

 

「いい加減にしてください!」

マズイ・・・正解しているだけにマズイ。私は内心焦ったわ。ここは少し強引にでも、勢いで推理を殺すしかない!

 

「私が犯人だとおっしゃるなら、今すぐ証拠を見せてください!」

これは賭けよ。推理の詰めの甘さを指摘してたたみかけたわ。

 

そして勝った!

毛利探偵は急にしどろもどろになって目が泳いで、ついにはトイレタイムを要求して尻尾を巻いて逃げたの。

私は賭けに勝ったのよ!

 

と思った矢先に、二の矢が来たわ。

「心配はいらんよ、目暮警部。真犯人はわかっておるから」

急に入ってきたのはディナーで同席していた太ったおじさんだった。名前はたしか阿笠博士とかいう・・・

『もうやめて!これ以上、私の予定に無いことは!』

そんな私の悲痛な心の叫びも届かず、博士の推理ショーは子供たちの歓声の中で始まってしまったわ。

 

 

「命を奪う殺人者という名の海賊。その海賊とは、シナリオライターの日下ひろなりさん、アンタじゃ!」

踊ってた!私の手のひらで!

急に踊るんだもの、びっくりしたわ。

フラッシュモブかしら。

 

 

そこから博士による大逆転のすごくダンサブルなダンスショーが開幕したわ。

 

博士は早速、アリバイトリックをICレコーダーの音声で暴いたの。

「馬鹿な!それはちゃんと消したはず!」

「消した?いや、消したと思った。ところが消えて無かったんじゃな。こういう大事なモンはちゃんと確認せんといかんでな」

馬鹿なのグラサン?

いや、馬鹿ってのは知ってたけど、まさか音声を消し損ねているなんて大馬鹿じゃないの。

 

 

でもここで私も気付いたわ。

さっきの毛利探偵を追い詰めた証拠、ここにあった。

私、グラサンが電話口で語っていたドラマのストーリー、全く知らなかったもの。

「電話口で聞いていたはずですよね?なら話してみてください」なんて言われていたら詰んでいたわ。

ヤバイヤバイ。

 

 

そして博士は眼鏡の子と一緒に、グラサンの髪に付着した血液を指摘してフィニッシュ!

ついでに首を絞められた時の痣も指摘。言い逃れはできないわね。

『残念だけど、アナタはここでリタイアね。安心して、船長は私が殺しておくから』

そう思った矢先。グラサンは馬鹿な行動に出たわ。

 

 

 

「動くな!動いたら爆弾を爆発させる!」

グラサンは切り札の爆弾スイッチを見せびらかして、15年前の事故の真相を語り始めたわ。

ちなみに、英人の関与については「おそらく」で濁していたわ。(見切り発進?6か月、調べる時間あったでしょ?)

 

でも、何をしてるのコイツ?

そりゃ、爆弾を盾にするしかない状態に追い込まれたことは分かるわ。

だからってその見せびらかし方なんかしたら・・・背後から近づいてくるお客さんに気付いてないと・・・確保されるわよ!

【日下を取り押さえようと、勇敢な客が日下に迫った。だが・・・】

ポチッ

あ~あ、馬鹿。

グラサンは男のタックルを避ける時にボタンを押してしまったわ。意図なんか絶対にないわねアレ、思わず力が入ったみたい。

何処の世界にうっかり爆弾を爆発させる犯人がいるのよ!

 

グラサンはその後、隙を見て逃走。おそらくボートで海に逃げたみたい。

それを追う警察。

あれ?警察?全員出動?

船で爆弾が爆発したばかりよ?お客さんだって大混乱、ここは警察が人々を落ち着かせて誘導するのが普通じゃないの?

 

 

まぁ何はともあれ、最後の最後まで足を引っ張ってくれちゃうわ。

『あれ?でもこれ私にとって好都合じゃない?船長殺害のチャンスじゃない?』

殺人を邪魔する警察もいなければ、先に殺人をしようとするグラサンもいない。

天が言っているのね、私が殺せと。

 

そうと決まれば話は早い。私が仕掛けておいたほうの爆弾を爆発させて、船を沈没させればいいのよ。

もちろん全員無事に脱出できる余裕のあるように、沈没までの時間を調節して爆破したわ。

よっぽど命より大事なものを無謀な場所に取りに戻ったりしない限り、全員が助かるはず。沈没の際に最後の最後に残る義務のある船長を除いてね。

 

そして計画通り、乗組員もお客さんも全員脱出。残るは海藤船長だけ。

そのタイミングで私はヤツの前に現われたわ。銛の銃を手にしてね。

私は真相を語ってあげたわ。そうしたら「あれは社長に命令されて」って弁明してきたの。

聞く耳なんて持たないわ。

 

あとは引き金を引くだけ。

これにて完全犯罪は達成された・・・・

 

 

 

 

 

「やめろ!」

 

 

 

そこにいたのは毛利探偵だったわ。

何故?

そう思った私に、毛利探偵は逆転のダンスをぶちかましてきたの。

でも今回は違うわ。私が逆に毛利探偵の手のひらの上で踊らされていたの。

殺人未遂の現行犯、言い逃れの出来ない状況。しかも銛の銃は壊されて。

 

そして咲き乱れる見事な名推理。今度は的確に私の事件の真相を全て言い当てて。

(途中、一部の台詞が海の方から聞こえた気がしたけど、多分それは疲れていたからそう聞こえたのね)

謎は全て、解かれた・・・

 

 

でも、ここからが本番よ!

『お縄を頂戴します』と見せかけてアッパーを食らわせ・・・

ガシッ

BADでした。私の不意打ちの拳は難なく受け止められたわ。

「俺は女に手は出せない主義なんだ」

何このナイスガイ!一瞬、背後にシティハンターが見えたわ。

でもお生憎、私もこのままじゃ引き下がれないのよ!

 

そこからは、毛利探偵が無抵抗なのをいいことに、私の一方的なリンチが始まった。

先に言ったと思うけど、私今回の殺人のために鍛えたの。

その強烈な拳を、何発当てたか分からないわ。

なのに倒れないのよ、このオジサマ!息絶え絶えなのに。

 

 

「おじさん!」

 

 

トドメの一撃、そう思った瞬間。眼鏡の子が叫んだの。

『まだ逃げ遅れた人がいた!?しかも子供』

この時、私の心は折れたわ。無関係の人を逃がしたつもりだったのに、そのプライドが負けた感覚。

それを見透かしたのか、毛利探偵は私を背負い投げたわ。

 

降参よ。

 

 

 

最後に毛利探偵に聞いたわ。

どこで私が真犯人だと睨んだの?って。

 

「アンタがアイツに似てたから。犯人がアンタじゃなきゃいいと思って、無実の証拠を集めようとしたからこうなっちまったんだよ」

だって。素敵。

 

私のことを犯人じゃないって願っていたのに、パーティーで公開処刑みたいにして半端な推理ショーを開いたのも、もしかしたらそこで私に諦めて自首してほしかったのかもね。

 

 

 

こうして、謎は全て解かれた。




ちなみにだけど、今回の殺人は全て私が実行犯。
グラサンは殺害ゼロ。
彼が死を望んでいた者を私が代わりに殺して、罪も全部私のものになったわけ。


ざわ・・ざわざわ・・・・



まさかだけど、私にわざと殺させた?
私が沖田船長の娘だと知って、あの雑なトリックを見せたとしたら?
私なら代理殺人を犯すだろうって予想しての、全てを見透かした行動だとしたら?
思い返せば、トイレに行ってる時間がやけに長かった。



まさか・・・私は最初からサングラスの上で踊らされていたってこと?








無いわ。それは無い。
だってアイツ、しっかり船舶爆破の重罪あるもの。あと殺人準備の罪。

というわけで私の『グラサン=蛇説』は杞憂に終わりましたとさ。


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迷宮の十字路 【前編】

歴史の都【京都】に隠された謎と罠
そこには想像を遥かに超えた事件が待っていた




どうも~

『兄貴ムキムキ仁王立ち』でお馴染み弁慶こと、西条大河です。

よろしくお願いします。

平成3年頃から盗賊団・源氏蛍のNo2をやらせてもらってるんですけど。

いきなりですが・・・

 

義経になりたい。

 

『どういうことでしょうか?』とお考えの方に説明させていただきます。

俺の所属しています『源氏蛍』は東京・京都・大阪を中心に仏像や古美術の窃盗を繰り返す盗賊団なわけですが、メンバーは互いに義経とその家来の名前で呼び合っているんです。

首領の義経、俺弁慶のほかに、駿河次郎、伊勢三郎、備前平四郎、亀井六郎、鷲尾七郎、片岡八郎でやらせてもらってます。

(『多くて覚えるの面倒』って思われると思うんで、義経弁慶以下は2,3,4,6,7,8って覚えてください)

 

話が逸れましたが、その義経首領が3か月前に亡くなってしまったんです。

イイ人でした。住職として管理している鞍馬山の玉龍寺を剣道場として使わせてくれたり、休みの日には俺達をバーベキューやら旅行に誘ってくれたり。

そんな首領が死ぬ間際に『薬師如来像を見つけた人が次の首領』と残していったことで、昔から弁慶より義経のほうが好きだった俺に義経チャンス到来。

えっ?No2なら首領死亡で自動的に義経に繰り上げ当選じゃないの、って?

そんなことで満足できますか?

男なら称号は自分の手で手に入れたいじゃないですか。

 

ということもあって、今の気分は『義経に俺はなる!』というわけです。

 

 

さて、そんな義経への道となる仏像ですが、首領はヒントとして一枚の絵を残していきました。この絵のメッセージを解読すれば仏像の在り処が分かるというわけです。お茶目ですね。

 

 

その後、絵とにらめっこすること2か月以上

 

謎は全く解けなかった。

 

途中で謎を解くのも諦めて、頭領の行きそうな所も探しました。玉龍寺の中も全部(さすがに死期を悟った重病人が重たい仏像を担いで登れなさそうな天井裏とかは除いて)。

それでも見つからない。

 

しかも追い打ちをかけるように玉龍寺の廃寺も決定。

俺が2年前からやっている義経流の剣道教室も継続不可能に。さすがに新しい道場を立てるお金も無いですし。

『はぁ、何処かに大金ゲットの話が無いかなぁ?』

なんて考えていた矢先、幸運は意外な所から歩いてくるものです。

 

それは関西で有名な情報誌の1コラム。高校生探偵・服部平次のインタビュー記事『初恋エピソード』から。

(えっ?『35のオッサンが、そんな雑誌読むの?』って?いいじゃないですか若者の恋バナ。胸がキュンキュンして、ストレスの多い現代社会生活には良いエッセンスですよ)

服部くんの初恋は幼い頃、一目惚れした年上の女の子がいて、うっかりしている間に見失ってしまったそうです。

それ以来彼女には会えていませんが、手がかりとして小さな水晶玉を拾っていたそうで、京都に足を運ぶ時には必ず持参しているらしいです。

記事には丁寧に水晶を手に満面の笑みを浮かべる彼の写真が・・・

 

『ハハハハ・・・ハットリくん!?』

あんまり驚きすぎて、俺はトムとジェリーみたいに目玉が飛び出すかと思いました。

ハットリくんが持っている水晶はまさしく、8年前に俺らが京都の山能寺から盗んだ例の薬師如来像の白毫だったんです。

(ちなみに白毫ってのは仏様のおでこのポッチのことで・・・ウルトラセブンのおでこみたいなモノです)

あの時、盗んだ仏像から外れて落ちたのを運び役の6と7と8が見落としていて、いざアジトに戻ったら「無いじゃん!」ってなったときは大騒動でした。

そのくせ3人が「これじゃ仏ビームとエメリウム光線が出せないっすね」なんてトボけるもんだから、マジで殺意芽生えましたよ。

【なお、白毫から出る光には、人の罪を消す力があると言われている】

 

せっかく盗んだ秘像の薬師如来も、白毫が無ければ価値は天と地ほどの差があるからと、泣く泣く売ることが出来なかった苦い思い出。まさかこんな形で再会することになるとは。

これは今すぐハットリくんから白毫を取り戻して、仏像にはめて売らなければ・・・

って駄目。その仏像自体が今迷子なんです。

 

それに仏像見つけたところで源氏蛍の共有財産。独り占めでもしないかぎり、とてもじゃないが道場再建の資金源にはなりません・・・ん?

 

そうだ、独り占めしよう。

独り占めしたら腹立てたメンバーが仕返しに俺の個人情報をネットに曝したりするかもしれないですが、そうなる前に全員殺してしまえばいいんです。

ちょうど同じことを考えていた3から、悪い声もかかっていたことですし。

ヤりますか。

 

 

こうして俺の盗賊団源氏蛍壊滅計画は始動しました。

まずは東京に行って、夜、西国立市の神社に6,7,8を呼び出します。

能面を着けて弓と刀を用意し・・・・

 

 

 

ところで皆さん、俺に聞きたいことあるんじゃないですか?

『この人、京都の人間なのに、京都弁じゃない』って。

それはですね、標準語の方が伝わりやすいからです。(別に京都弁が伝わりにくいとか、作者が京都弁に慣れていないとか、そういうことではありません)

読者の皆様や、映画を見る子供たちや親御さんたちに安心快適な作品を提供するための配慮なのです。

今からその一例をご覧いただきましょう。

 

まずは6,7,8の殺害シーンから。

「遅いな、弁慶のヤツ」「謎は解けたと言っていたが」「奴が一番こいつに熱心だったからな」と、くつろいでいる6,7,8がいますね?

まずは8を射殺すわけですがココで、俺の残酷な描写を回避する殺人術が炸裂します。

その名も奥義【結果だけが残る射】

これで胸に矢が刺さるのではなく、胸から矢が生えているように見えるわけです。

 

次に7は【赤い血しぶきが黄色く見える斬り】。流血シーンは残酷ですからね。

最後に神聖な神社で煙草を吸うような不届き者の6は【殺した結果だけが残る斬り】にて、死ぬ瞬間すら映さずに殺します。

 

 

どうですか?これが放送倫理に配慮した、俺のスマートな殺人シーンです。気分は必殺仕事人。

あとは刀を血振りして、シャキーンと鞘に納め、3人が源氏蛍のメンバーである証拠の義経記を回収して、次の標的の元へ急ぎます。

今日一日で標的を全員殺さないと、メンバー殺害を知った残りメンバーが「次の標的は俺?」と、どこかに隠れてしまいますからね。

 

 

8,7,6を殺したら、次は5の毛利小五郎・・・って、すいません変な記憶が混ざりました。

 

 

続きまして、今から大阪に戻って4を殺します。

今から・・・今から?

夜遅く、新幹線は無いからバイクで。飛ばしても4時間はかかるのに?

 

 

俺は風になりました。

 

 

そして到着、寝屋川市の「たこ平」にて4を刺殺。もちろん倫理は守ります。

【刺した結果だけが残る突き】にて殺害。ちょっと疲れていたので、倒れるシーンは映ってしまいましたが、そこは許してください。

 

最後は京都で2を。

京都?今から?たしかに隣だけど、隣の県よ?

 

俺は疾風になりました。

 

 

東山区の「スナック・ジロー」にて2を殺害。

もう流石に疲れていたのもあったので、深夜のテンションで放送倫理を気にしていられないこともあり、殺害シーンは大幅カットでお送りさせていただきます。

 

 




こうして俺は源氏蛍のメンバー8人のうち、すでに死んでいる頭領と、俺と3を除いた5人を殺すことに成功しました。

残るは3殺害と、ハットリくんから白毫を取り返すことと、絵の謎を解いて仏像を見つけるだけ。
・・・・やることが多い!


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迷宮の十字路 【中編】

『俺・弁慶、いつかは義経』でお馴染みの西条大河です。
どうも皆さんよろしくどうも。



さて前回、8,7,6,4,2を殺したわけですが。正直言って殺して正解でした。

何故かって?

早速、警察に身元がバレたからですよ。

ほんの数日ですよ?死んだ5人が源氏蛍のメンバーだってバレたし、同じ義経記を所持していたことも、メンバーが互いに義経の家来の名前で呼び合っていたことも。

 

どんだけ身辺管理が甘いんだって話ですよこの5人。(幸い、俺と頭領、3の正体は不明のままみたいですけど)

週刊誌の記事にも載っちゃうくらいで、5人が馬鹿じゃなかったら、警察とマスコミの調査が優秀すぎるとしか説明がつかないくらいです。

まぁあの5人の普段の奇行を見れば驚きませんけど。

 

例えば、源氏蛍の皆で花火大会を見に旅館に泊まりに行った時も、何故か俺にやたらと卓球させてから「これで死後硬直が早まりましたね」とか言って来たり。

玉龍寺でバーベキューした時も、燃えやすくなるようにって不要な木にまで油を撒いたりしたり。(あの木、片付けとけって言っておいたけど、ちゃんと捨ててくれたのかな?)

 

とにかく、変な奴らばっかりだったんで、俺が義経になった暁には、新・源氏蛍として俺の剣道の弟子たちをメンバーに加えるつもりです。

えっ?取らぬ狸の皮算用だって?仏像も見つかってないのに?

そのあたりは大丈夫。ちゃんと3が動いてくれています。全ては順調です。

あとは、優秀な探偵でも現れない限り。

 

 

 

順調ではありませんでした。

京都に帰ってきた俺が見たものは、手つかずの絵だったからです。

3、サボってました。俺の東京~大阪~京都の風タイムの間も。

古美術商が忙しいからって。

これだから51のジジイは。今の時代はインターネットっていう便利なツールがあるじゃないですか?盗品の美術品を捌くのが大変?そんなのヤフオクにでもぶちこんどけ!

 

ってなわけで、ここからは俺のターン。

まずは絵と仏像の写真をプリントアウトしたものに『この絵の謎を解けば、仏像の在り処が判る』の一文を添えて山能寺のポストに入れて、俺の口から「東京の毛利小五郎に調査してもらったら?」と促しておきます。

なんせこの仏像、本来なら12年に1度の御開帳があと5日後に迫っていたんです。

この時、俺も初めて焦りました。

仏像盗難が世間に知れ渡ったら、いざ仏像を売ろうにも「盗難を聞いてから作った模造品」と疑われて、高値がつかない可能性があるからです。できればこの5日の間に謎を解かないと・・・

 

 

 

そして当日、やってきました毛利小五郎とそのご家族様。住職の円海と、俺の剣道仲間の僧の竜円、能役者の水尾春太郎、俺と3でお出迎え。

ココで初めて、俺の義経運命を左右する名探偵様のお顔を拝見。

うん、駄目かもしれない。

見た目、ただのちょび髭のオッサンでした毛利小五郎。

 

しかし、他人本位でまかせっきりはいけません。欲しい物を手に入れたい時にはベストを尽くしましょう。

京都で人にベストを尽くしてもらいたい時には、お茶屋で舞妓はんが一番です。

俺は3に「毛利さんに気分転換してもらうために、桜屋でおもてなししよう」と誘いました。

ただアイツ、この期に及んで『最近、寝不足だ』って言って尻込みしました。

なので「あの店は頭領がよく通っていた」って付け加えておきました。

これでおもてなし完成。

毛利探偵、是非この謎を解いてくれ!

 

で、今気付いたんですけど。今回、俺の仕事多くないですか?

というより、共犯であるはずの3の仕事、少なくないですか?最初からほとんど俺1人で頑張って。

よし決めた。ついでに3も殺そう。どうせ仏像の売却先探しだって、コイツに任せていたら何年かかるか分からないし。

 

 

 

さて、夜まで時間もあるし、俺は仏像探しの続きでも・・・

その時、運命的な出会いが俺に訪れた。

鞍馬寺を探していた時、なんと偶然にもハットリくんと出会ったのです。

君と出会った奇跡、緩やかな風吹く街で。

きっと彼は持っているはずです。京都に来る時に必ず持ってくる、初恋の水晶である白毫を。

そして俺は白毫を取り戻すため、僧上ヶ谷不動堂に立つ彼の背に矢をシュート!

 

「危ない!」

突然、子供が叫んだかと思うと、ハットリくんに体当たり。矢は外れてしまいました。

『失敗!』

矢を1本しか持ってこなかったのがアンラッキーでした。もう手持ちの武器は発煙筒くらいしかありません。

ここは逃げるしかない。

俺は急いで山道をダッシュで駆け下り、後ろを振り返ると・・・

なんとそこには、牛若丸みたいにピョンピョンと木々を駆け抜けて俺を追いかける子供の姿があったのです。

というか、あれ絶対子供の身体能力じゃない。妖怪です。ゲゲゲの鬼太郎です。

 

怖くなって焦った俺は、いざバイクに乗って走り去ろうとした時にウィリーしてしまいました。死ぬかと思った。

その後も田舎路を逃げる俺を執拗に追いかけてくるハットリくんと鬼太郎。これでもか!ってくらいしつこい。

あんまり怖いもんだから『白毫ごと谷に落ちてもらっても構わない』って思って吊り橋を切ってやっても、それすら乗り越えてくる。

鞍馬駅から線路に逃げても、やっぱり追いかけてくる。道交法違反ですよ?免許一発停止ですよ?

 

最後は結局、正面から近づいてくる電車が危ないから教えてあげようって思って炊いた発煙筒の煙の中に、彼らは消えていきました。

はぁ、心臓に悪い。休みたい。

でも、もうそろそろお茶屋の約束の時間です。毛利探偵をもてなして、ついでに3を殺さなきゃいけない。

昼は仏像探しで、夜は接待と殺人。タイトなハードスケジュールったらありゃしません。

 

 

 

その夜、竜円、3、水尾と共に京都千斗町の茶屋「桜屋」で毛利小五郎をおもてなし。

舞妓の千賀鈴さんの舞いに鼻の下を伸ばしてお酒をエンジョイ。

つかの間の休息。

とは言っても殺人前のアルコール摂取は厳禁。この後バイクで帰るのもありますし。

毛利探偵が舞妓さんにセクハラも、まぁそれも彼女のお仕事。俺はスルーで。

なんて言ってる所に、毛利さんの娘さんが登場。父親の愚行を戒めました。

と同時に参上したのは彼女の友達の女の子たち。

・・・そしてハットリくんと鬼太郎。

 

 

 

『!!!!!?????』

心臓止まるかと思った。何故ここに2人が!?

今から3を殺すっていうところにストレス!俺はストレス社会反対です!

 

その後、話は「源氏蛍を毛利探偵に推理してもらう」

⇒「メンバーは義経記を持ってる」

⇒「ワシも持ってる」(3、馬鹿なの?わざわざ言うなよ!)

⇒「義経記って言っても実際は弁慶記」(と、俺がどうにか話を逸らす)

⇒「安宅の弁慶」(そういえば2、頭領がプリン食べた?って疑った時に俺をチラチラ見て「見破られないために棒で叩かないの?」ってフリを出してきてたなぁ。マジでノリが分からない)

⇒「近頃寝不足だから、下の部屋で休ませてくれ」

 

 

急な流れで3が物色タイムに入っていきました。やっとか。

計画通り・・・じゃないけど、とりあえず計画通り。

幸いにもハットリくんや鬼太郎、女の子たちはまったりムード。殺人日和です。

 

俺はトイレタイムに芸者さんの付き添いを断って、静かに店の納戸で3をサクッと殺害。

鋭利な刃物で頸動脈を掻き切って・・・と、その前に。

発動【倫理斬り】

『説明しよう。倫理斬りとは、頸動脈を掻き切った時に通常であれば発生する大量出血を、放送倫理に抵触しないように超少量出血に抑えることができる、恐るべき技なのだ。ついでに返り血を防ぎ、犯行後に着替える必要が無くなるという、便利な技なのだ』

その後、俺はペットボトルに刃物とGPSを入れて、窓から川にポイッと投げました。

 

 

 

そして警察が到着。

取り調べと関係者全員の身体検査。(あれ?ハットリくんと鬼太郎が居ない。捜査ザルじゃないですか?)

解放されてから、GPSを頼りに、川下をどんぶらこっこと流れる凶器を回収。

その足でハットリくんを襲撃です。

 

正直言って怖いけど・・・・ヤるしかない!

 

 

 

まず、バイクのミラーを矢で撃ちぬいて挑発します。

次に、下京区観喜寺町の梅小路公園に誘い込みます。

さらに、木刀を1本あげて一対一の決闘を申し込みます。

 

『何でこんな面倒なことするの?』って?

1つは、3殺害を外部犯の犯行に見せかけるために、刃物を落っことしていく理由作りの為。

もう1つは、自分に自信をつけるため。ハットリくんへの腹いせもあるけど、彼は剣道の達人って雑誌に載っていたんですけど、『義経流の方が強い!』って証明できれば、明日からも頑張っていけそうじゃないですか?

 

決闘スタンバイ!

先攻、ハットリの攻撃。俺は籠手でガードしてすかさずカウンターの突き

後攻、俺のターン。連打で木刀を弾き飛ばして、ナイフでハットリくんの首筋をちょっとカット。ついでに服をビリッ。巾着がドロップ!

ドロップ!?

まさかの白毫がドロップ。これはチャンスと震える手を伸ばす俺。

 

「てやっ」

『うごぉぁあ』

ハットリくんキックが俺の腹に炸裂。ちょっと待って。これダメージデカい。

「これはお前が欲しがるもんやないで」

『いいえ、俺の欲しがるもんです』

そして俺はハットリくんを追い詰め、ナイフでトドメを・・・

ドゴッ!

何かが俺の能面に命中。重い!痛い!今のが一番痛い!

その正体はハットリくんの彼女が靴下に石を詰めて投げたもの。当たり所が悪ければ死ぬくらいの殺傷能力攻撃。

 

「刑事さん、コッチ!」じゃない!刑事さん、この娘、殺人未遂!

俺は朦朧とする意識の中、必死に逃げました。もちろん木刀は回収して、ナイフは残して。

本当に疲れる。全部終わったら2日くらいスマホゲームして過ごそう。

 

 

 

 

その翌日、俺は流円、水尾に昨日の3殺人について意見交換会に呼ばれた。そんなことしている暇ないのに。

でも断るのも不自然と、仕方なくお茶を交えてお話していると・・・

ハットリくんと鬼太郎参上!

『ファッ!?』

 

不死身なの?ハットリくん、昨日あれだけ痛めつけたのに。まさか別人?ともだち?カツマタくん?

そんな俺の動揺を余所に、ハットリくんは昨日自分が襲われた時間の俺達のアリバイを聞いてきました。

「寺町通りにある自分の古書店の2階でずっと一人でした。独身なんでアリバイを証明してくれるような人もいません」

皆さん、俺は嘘をつきましたよ。ハットリくんが襲われた時間、俺はハットリくんを襲っていましたから。

 

次に、ハットリくんは弓の経験について聞いてきました。

もちろんしらばっくれましたけどね。

でも、疑いの目が怖い。ここは誰か生贄を出さなきゃ、俺が安心できない。

そうだ。弓の経験で言えば、千賀鈴が矢枕(親指)を怪我していたんだった。

よし、容疑者を提供しよう。

「そういえばあのとき、やまくら・・・」

 

 

 

 

 

 

やっちまった!

矢枕は弓用語!

『そういえば、親指をケガしてはりますよ。千賀鈴さんは』って言うつもりがぁ、墓穴を掘ってしまったぁ。

これじゃ俺が弓の達人だとバレてしまう!

 

「やまくら?やまくらというと、茶屋の女将の山倉はんのことでっか?」

ナイス空耳!

「キスしてもいい?」を「キムチでもいい?」くらいのナイスアシスト!

俺が心の中でガッツポーズしていると、丁度いいところに千賀鈴さん登場。話をうまくスルーして、俺達は解散となりました。

 

 

はぁ、寿命が半分になった気がします。

ひょっとして俺、忘れているだけで何処かで死神と出会いましたか?

なぁ~んてブルーになっている所に吉報が1本!

剣道の弟子が梅小路公園でハットリくんの彼女を確保!

彼女を人質にして白毫ゲットのチャンス!

これは、あとで頭をイイコイイコしてあげなきゃ。

 

 

 

そしてさらに大吉報!

竜円から電話で「服部くんが絵の謎を解いたみたい」と。

何コレ怖い。全てが俺の為に動いているんじゃない?

ハットリくん、2度も襲ってごめんね。あとで仏像情報と白毫もらったらイイコイイコしてあげるから。

・・・駄目だ。普通に考えたら仏像について通報されちゃう。殺人も通報されちゃう。

 

マズイな・・・よし、お電話だ。

俺は彼女の携帯でTEL。

「この娘は預かった。1時間後、鞍馬山の玉龍寺へ来い」

これで完璧。

1時間後は空も真っ暗になるから、かがり火を焚いて、弟子たちにも能面と刀と弓矢を準備させて、おもてなしの準備万端です。




いつでも来いよ。

ケ~ンジくん。遊びましょう。


じゃなかった。ハットリくん。
何処からでもかかってこいや!


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迷宮の十字路 【後編】

運命の時間。
流れる雲の合間から時折丸い月が姿を現す頃。

ここは鞍馬山・玉龍寺

俺は能面をちゃんと着けて、彼女の縄を掴んでハットリくんを待っていました。


「遅いな・・・」

ハットリくんは時間にルーズだったようです。

もう外も真っ暗なのに、俺は寺で待ちぼうけでした。

 

「罠やと分かってて、そう簡単に来るわけないやん!」

ハットリくんの彼女は健気に俺を睨み付けて言いますが、もしかしたらハットリくんは臆病風に吹かれているのかもしれません。それは俺にとって都合が悪い・・・

 

 

と思っていたら、ハットリくんは約束通り、1人で俺達の前に現われてくれました。

貴方は正直者ですね。そんな貴方には金の斧と銀の斧をあげたい。

 

 

「てめぇ!和葉に手ぇ出してねぇやろうな!」

なんかちょっと関西弁が変なハットリくん。

だけどちゃんと白毫を持ってきて見せてくれました。

そして聞いてもいないのにペラペラと推理を披露・・・

 

当たってる。

嘘みたいに当たってる。

俺が白毫目当てってことも、3を殺したトリックも、昨日襲ったのも。

 

 

「そうやろ?西条大河さん。いや、武蔵坊弁慶と言った方がええかもな」

バレてた。

恥ずかしい。

カッコつけて能面のまま対面するのも、なんか恥ずかしいから、俺は能面をゆっくり脱ぎました。

でもしっかり着ていたから、外すのに少し時間がかかる。この脱ぐ間、ハットリくんを待たせるのも恥ずかしい。

 

 

「さすがは浪速の高校生探偵、服部平次やな。何で俺やとわかった?」

精一杯、ギラリと殺意を出してハットリくんを睨みましたが。

今、顔、真っ赤。

俺いつもは『顔真っ赤だよ』って言われたら、夕日のせいだよ。って答えてるけど、今は夜。誤魔化せない。どうしよう。

 

でもハットリくん、顔真っ赤はスルーして俺を睨み返して、俺の『矢枕⇒山倉』発言を指摘してきました。

よかった。

いやよくない。やっぱり恥ずかしい。気付かれてた。

 

 

それから俺は恥ずかしいのを誤魔化すために、義経流について話しました。

「弁慶が義経流か」

皮肉られた。

馬鹿にされた。

恥ずかしい。

 

 

「俺は弁慶より義経が好きやった。義経になりたかったんや!」

言っちゃいました。こんなの理由にもならないのに、つい言っちゃった。

でもハットリくん、こっちはスルー。

なんかごめんね。話の腰折ってばかりで。

 

その後、俺は苦し紛れに本当の理由のほうを、仏像の売り上げをもとに道場再建をしたいという話をしました。

「・・・ひとつだけ聞いておきたい」

道場の話、無視されました。

恥ずかしい。

ハットリくんは竜円のことを聞いてきましたが、俺としては今そんなの関係ないじゃん。って言いたいです。

 

 

「さぁ、おしゃべりはお終いや。その水晶玉渡してもらおうか!」

俺が強引に話を戻すと、ハットリくんは話に乗ってくれました。

本当にいい子。

「渡す代わりに和葉を放せ!」

「ええでぇ。仏像の隠し場所教えてくれたらなぁ」

よしよし、良い調子。俺の体裁が回復していきます。

 

 

「さあ、仏像はどこや?」

「この寺ン中や!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・何やて!?

 

 

「嘘つけ!」

「嘘じゃない!」

何なのこのハットリくん。たまに標準語が混ざるの。

ヤメテ。標準語のキミ、たまにベジータに見えるから。

ベジータはやめて。俺の中の天津飯が叫ぶから。勝てる気がしなくなるから。

 

そして、恥ずかしい!

この寺の中にあったの?散々探したのに・・・

でも、ハットリくんが嘘を言ってるように見えないし・・・

 

仕方ない。そろそろ潮時です。

ハットリくんを殺して、ゆっくり仏像を探すとしましょう。

 

 

俺は彼女を解放してすぐに斬りかかりました。

弟子を呼んで逃げる2人を囲みます。

これで逃げ場無し。

 

迎え撃つハットリくん・・・でも弱い!

あれ?こんなに弱かった?木刀あっさり切れたんですけど。

風邪でもひいてる?そうじゃなかったら、その帽子が重たいとか?

 

 

「やめて!この人、平次とちゃう!」

マジ!?

俺が切り上げた帽子がパサッと落ちると、ハットリくんはゆっくり顔を上げました。

 

「工藤新一、探偵さ」

誰?

それと人違い!?恥ずかしい!

やっぱ実在していたんだ。ハットリくんとそっくりのカツマタくん・・・

 

 

そして始まる【ヨシツネVSカツマタくん】

 

「騙しよったな!」と俺が斬りかかると、逃げていくカツマタくん。

そして突如裏切り者が出現。

カツマタくんに斬りかかる。

なのに、寸でのところで刀を止めて、能面を外してしまいました。

そして登場、ハットリくん。

『ファッ!?』

怒涛の翻弄!俺また騙された!よっしゃと思った自分が恥ずかしい!俺今日もてあそばれすぎてない?

 

 

そしてハットリくんと彼女を置いて逃げていくカツマタくん。

逃げんのかい!

まぁいい。

カツマタくんには追っ手を差し向けて、俺達は2人を殺せばいいだけです。

ハットリくんの焼きのあまい刀を斬り、皆でリンチタイム!

 

 

 

 

2人に逃げられました。

 

寺の納屋に逃げられて、鍵をかけられて。

でも発想の転換。これはまさに袋のネズミです。俺の仕事は扉を斧で破るだけ。

 

 

「嫁さん六角♪」とか、中から何かの歌が聞こえてくるけど、ガンッガンッと斧をうちつけて。

最後は体当たり!

「覚悟せい!」

俺がトドメを決めるために斬りかかると、ハットリくんが苦し紛れのタンスの引き出し攻撃!

効くかぁ!

 

 

俺は引き出しと、その中身の刀ごと、ハットリくんを切り捨ててフィニッシュ・・・

「えっ!?」

俺の刀はハットリくんの刀に受け止められてしまいました。

しかもこの表裏揃った独特の波紋。

妖刀【村正】じゃないですか!

 

えっ!?この何十個もある引き出しの中から?

一発で引いたのこの子?

ガチャで言ったら排出率3%のSSRだよ?

マジか・・・

あとでスマホのガチャ回してもらいたい。

 

 

 

そして村正を手にしたハットリくんにアッサリ抜けられる俺。

だって、怖すぎるんですもの。

 

 

でもどうにか追いついて、2手に分かれたハットリくんと彼女を追いかける俺たち。

ハットリくんは囮になって、ヒョイヒョイと木に飛び乗って屋根の上に。

山を跳び谷を越え、僕らの町へやってきたんですか?あなたは?

 

 

 

一方で彼女のほうは、鬼太郎が火のついた松明を蹴って弟子たちを撃退。

いつの間に来たのこの子。

あと、どういう教育うけたらこんな残虐プレイできるんだろう?

しかも弟子に囲まれたら、寺の脇に積んでおいた薪木に松明を投げて放火するし。

 

っていうか、あの薪木、燃えすぎじゃない?油でも撒いてあるんじゃない?誰だよ、あんな危ないものをあそこに置いたヤツ!

めっちゃ早く燃え広がっているじゃないですか!

このままじゃ、仏像まで燃えてしまう!

ハットリくんの、いやカツマタくんの言った通り、本当にこの寺にあればの話だけど・・・

 

その後、弟子たちはちゃんと消火活動。

よし、これで寺と仏像は守られた。

 

 

じゃあ、俺はコッチでハットリくんに引導を渡してやろう。

俺はこれ見よがしに小太刀を抜いて、二刀流でハットリくんに挑みました。

 

「ただの小太刀とちゃう。即効性の猛毒が塗ってあるんや」

「なんやて!?」

「ちぃとでもかすったらお陀仏やで」

嘘ですよ。

そんな毒刀なんて用意してるわけないじゃないですか。

危ない。

それに毒なんか塗ったら刀が錆びるんじゃない?知らないですけど。

 

でも、漫画の見すぎの高校生には有効ですよ。

刀を警戒して実力発揮できないでしょうからね!

彼女も「なんて卑怯な奴や!」って良いフォローしてくれています。ありがとうございます。

 

 

なのにハットリくん、恐れない。

放送倫理殺人術を使う暇がない!

 

そして火花散る鍔迫り合い。

 

【弁慶は歓喜していた。初めて会った自分とやり合える人間】

 

『これが・・・好敵手!』

 

なんて陶酔に浸るのは俺のキャラではありません。嘘書くのやめてもらえますか?

ライバル欲しがる泥棒・・・そんな人いますか?いるわけないじゃないですか。

 

 

この義経様は、勝てばよかろうなのだ!

『喰らえ、義経キック!』

俺の蹴りを喰らい、屋根を転げ落ちていくハットリくん。

辛うじて途中で止まったけど・・・

「もう逃げられへんやろ。下からは弓で狙ろてるし」

俺の追い討ち炸裂。もちろんブラフです。

弟子たちには弓を射らせません。さすがに暗い中で射て、ハットリくんを外れたら俺に当たってしまいますから。

 

 

その時、動いたのは鬼太郎でした。

何をしているのか分からないけど、急に壁ジャンプしたかと思うと・・・壁ジャンプ?

何してるのこの子?

って思っているうちに、ボールが「うつむ~く~」って聞こえてきそうな音を出しながら、俺の小太刀を手ごとシュート!

痛ぇ!!!!最近で一番痛い!

 

 

手が痛い隙を見て、ハットリくんが「でぇやぁー!」と俺に迫り・・・

ドゴッ・・・・『うごぁ!』

ハットリくんの峰打ちが炸裂。

内臓破裂したんじゃないかってくらいの痛みが俺を襲い・・・

 

 

 

 

こうして、謎は全て解かれました。

 

 

 




その後、警察が到着し、俺は連行されていきました。

このまま仏像も、義経も諦めなければいけないのか・・・

悔しい・・・


あぁ・・・



せめて・・・



最後に・・・



ガチャを・・・



俺の・・・嫁を・・・



ジンちゃんを・・・出して・・・いってく・・・れ・・・





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ベイカー街の亡霊 【前編】

100年前のロンドンに隠された事件の真相とは
シリーズ最愛の謎と罠



ハロー諸君。

私はIT産業界の帝王トマス・シンドラー。

気楽にトムと呼んでくだサーイ。

 

 

 

今日は東京の米花シティーホールで、日本のゲーム会社と共同開発して完成させた仮想体感ゲーム機「コクーン」の披露パーティ。

その直前、私はゲーム開発の責任者・樫村に呼び出されていマシタ。

『2年前、私がジャック・ザ・リッパーの子孫であることに、ヒロキ・サワダが気付いたため、私は彼を自殺に追い詰めた。その証拠にジャックの短剣に付着したDNAと私のDNAを解析したデータがある』

死の真相を突き止めたというヒロキの実父・樫村の言い分デース。

 

一つ、叫ばせてくだサーイ。

 

 

 

Nooooo!!!

 

 

No。

反論だらけデース。

 

まず、私とヒロキはベリーフレンドリーな義理の親子デース!

日本で疎外されて、離婚した母親を失い孤独になった彼を養子に招きマシタ。本当の親子以上に仲良しデース。誕生日には私の大好きなブランコと滑り台をプレゼントしたくらい仲良しこよしデシタ。

DNA解析プログラムと人工頭脳『ノアズ・アーク』を作ったヒロキは、何処に出しても恥ずかしくない自慢の息子で、私の最高のビジネスパートナー。

自殺した時だって、私は寝間着のままで彼の部屋に駆けつけたくらいデース!

 

 

たしかに自殺直前の頃は、彼が急に私を避けはじめて、会っても仕事の話しかできない関係になっていマシタ。

でもそれは別のストレスが原因のハズ。短剣に付着しているのは被害者のDNAであって、それが私と同じだからといって、すぐにジャックに結びつくわけではありマセーン。

 

ですが彼の自殺は、10歳という難しい年頃の、遠慮がちな日本人の気持ちに寄り添ってあげられなかった私に責任がありマース。

この2年彼の過労死をずっと悩んで悲しんでいマシタ。

悲しみから目を逸らすために必死に仕事に打ち込んで、ヒロキの居ないHappy Birthday to meを2回乗り越えて、産業スパイの暗躍と戦いながら、ヒロキと同じ年頃の子供たちに楽しんでもらえるゲームを頑張って作ったのデース。

 

 

だからこそ樫村の指摘は、殺人鬼との血の繋がりに50年苦しんできた私への冒涜デス!

そもそもヒロキを捨てたくせに、今さら父親面デスか?

 

 

「私はあなたを強請るつもりなんかありません。ただ償ってほしいだけです」

償ってほしいとは何を言いたいんでショウか?

日本人はハッキリと自己主張をしないから困りマース。

具体的に償いの方法を言わず、相手に考えさせるという手法。この人、私が謝罪した後に強請るつもりに違いないデース。

 

 

「ヒロキは知ってしまった。シンドラー帝国を崩壊させてしまう貴方の秘密を」

償えと言った側からこれデスよ。

崩壊が分かっているのに公表を望んでいるのデスか?

それはつまり、シンドラーカンパニーや子会社、多くの関係者が路頭に迷うことになるんデース!

 

 

「私にはヒロキの魂の叫びに思えました」

私の中のヒロキも『トムがんばれ!』って叫んでいマース。

 

 

 

さて、ずっとヒロキのことばかり話していましたが、ここで一度私の現状について考えてみまショウ。

・イベント中に

・「お前の過去を知っている」と

・呼び出される

これ、ミステリー映画だと私が殺されるパターンじゃないデスか!?

 

 

ヒロキを過労死に追い込んだ汚名を着せられたまま殺されてしまう私。

 

そんなことさせまセーン。ヒロキの名に賭けて!

 

返り討ちにしてやるつもりで、今日私は来マシタ。

でも、素手で39歳を撃破できるほど私は若くありマセーン。なので私はトリックを使い、凶器を持って今、樫村ルームに来ていマース。

装備はもちろん因縁のジャックの短剣。畏怖する血脈ですが、死の舞台に立つ私を霊祖は見守ってくれるはずデース。

 

 

いざKILL

 

 

あっさり終わりマシタ。心臓一突きDEATH。(心臓刺したのに出血が少ないのは何故でショウ?そういう体質?放送倫理への配慮?)

あとは短剣の血を拭って、HDDのデータを壊して、トリックの後片付けをしたら、私の殺人は終わりデース。

トムの勝ちデース!

 

 

 

 

さて一安心したところで、今夜の私の一番の仕事が始まりマース。

それはもちろんコクーンで50人の子供たちを楽しませてあげることデス。

「ゲームスタート」

私の号令でコクーンは起動し、子供たちは無事にゲームの世界へとインしていきマシタ。

これで二安心。

と思っていた矢先、ゲームにアイディア提供してくれたという作家の工藤優作が警察を引きつれて制御室に入ってきマシタ。

 

早すぎデス!もう樫村の死体が見つかったというのデスか?

警察はゲームの中止を進言してきましたが、その時ちょうどシステムに異常が発生し、制御できなくなってしまいマシタ。

何事デース!?

 

 

「我が名はノアズ・アーク」

 

 

 

What!!??

ヒロキのノアズ・アーク!?彼の自殺と一緒に消えてしまった人工知能!?

私の混乱は追いつきまセン。

そんなことお構いなしに、ヒロキと同じ声でしゃべるノアズ・アークは一方的にまくし立てていきます。

50人の子供たちのうち1人でもゲームをクリアできなければ全員死亡。日本の将来を担う子供たちを一掃し、よりよい日本にするために一度その繋がりをチャラにしようというのデース。

 

 

「いい加減にしろ!人間の命をおもちゃにする権利がお前にあるのか!」

キン肉マンみたいなイイ声のおじさんが、皆の怒りを代弁してくれまシタ。

しかしノアズ・アークは冷淡な声でこう答えマシタ。

「無いよね。ヒロキくんの命をもてあそぶ権利が大人に無かったように」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Noooooooo!!!!!

 

アンビリーバボー!!!

信じられナイ!

 

遠回しな言い方ですがノアズ・アーク。ヒロキの死の真相、樫村の言った通りじゃないデスか!

ヒロキは私に流れる殺人者の血を怖れ、恨んで死んでいったということデスか・・・

ジャックの血、恐ろしすぎマス。嫌ですもうこんな血。

 

 

でももう後戻りはできまセン。

樫村殺人事件が捜査されている今、会社の今後を左右するのは、事件を解かれることと、私がジャックの子孫であることが明らかになるかどうかにかかっていマス。

 

そして願わくば、子供たちが全員生きて帰ってくることを祈るばかりデース。

 

 

 




【次回予告】

≪やめて!ノアズ・アークの特殊能力で、ジャック・ザ・リッパーの真実が暴かれたら、闇のゲームでジャックと繋がってるシンドラーの会社まで燃え尽きちゃう!

お願い、死なないでシンドラー!あんたが今ここで倒れたら、ヒロキとの約束はどうなっちゃうの? 言い逃れの余地はまだ残ってる。でっちあげだ!って耐えれば、推理に勝てるんだから!

次回、「トムの負けデス」
デュエルスタンバイ!≫


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ベイカー街の亡霊 【後編】

私、トマス・シンドラーは私を恐喝してきた(と思っていた)樫村をサクッと殺しマシタ。
トリックは簡単デース。
金属探知機で警備されたパーティ会場にあらかじめ短剣をブロンズ像と共に飾っておき、会場が暗転しているうちに偽物とすり替えて、本物の短剣で樫村を殺し、会場に戻ってから偽物とエクスチェンジ。これでフィニッシュデース。
(やることが少ない?いいじゃないデスか)

ですが、私の長い夜はココからデシタ。
突如、ゲーム開始と共に現れ、子供たち50人を人質にとった人工頭脳ノアズ・アークから語られた衝撃の真実。
それは2年前に私の養子だったヒロキが自殺した理由が、私の祖先がジャック・ザ・リッパーだったことに起因しているということデス。


そんなこともあり、私は今夜、50人の子供たちの安否と、私の殺人の真実、私の祖先の秘密という3つの心配事を抱えることとなったのデース。

 

 

まぁ殺人の件は私事。今気にしても仕方ありマセン。

まずは子供たちが無事であることと、ジャックの件が無事に無視されることが最優先。

 

 

 

なのに・・・ゲーム・・・子供たちが挑戦する5つのステージが・・・

・七つの海に繰り出し、数々の冒険に挑戦する【ヴァイキング 】

・過酷なレースに出場し、優勝を目指すレースゲーム【パリ・ダカール・ラリー 】

・古代ローマを舞台に手強いグラディエーターを倒していく【コロセウム】

・トレジャーハンターとなって世界各地に隠された財宝を探し出す【ソロモンの秘宝】

・19世紀のロンドンを舞台に、ジャック・ザ・リッパーの逮捕を目指す【オールド・タイム・ロンドン】

 

 

 

 

Out!!!!!

すっごく私の現状にピンポイントに駄目なゲーム、【オールド・タイム・ロンドン】があるじゃないデスか!

もちろん50人の子供には助かって欲しいですが、このステージだけは駄目!他の4ステージを誰かクリアしてクダサイ!

 

 

あと言っていいデスか?

この5ステージのチョイス、これでいいんでショウか?子供向けデスよ?

もっとこう・・・楽しくて・・・頭空っぽでも夢詰め込めるくらい楽しめて・・それとできれば難易度の易しい死なない系のゲーム・・・にしても、良かったんじゃないデスか?

 

 

例えば

カードゲームなら、絶対に“命を賭けた”決闘なんて無いし・・・

ドラゴンクエストVなんかも、絶対に楽しい・・・

レースも【パリダカ】なんて渋いチョイスじゃなくて、マリオカートのほうが馴染みやすいし・・・

戦う系ならガンダムにでも乗ればイイ。きっとヒロキも楽しんでくれたハズ・・・

あとは恋愛シミュレーションとか・・・

 

ゲームは、どんな初心者でも強いチャンピオンをやっつけられるものが最高デスよ。

 

 

そんな私の心の叫びも通じないまま、ゲームは始まってしまいマシタ。

参加者はほとんどが幼い子供たち。期待できそうなのは2人ほど。

唯一の女子高校生、髪型がカジキマグロみたいなカジキガール。彼女の所作を見る限り、何かの武術を習っている可能性がありマス。コロセウムに期待大デス。

次いで小学6年生の、パーティ会場でサッカーをしていたモラル崩壊のお遊戯大好きボーイ。父親が警視副総監だという彼の血筋には期待できるものがありマス。隠された秘宝を捜査してくれるに違いありマセン。

この2人のうちのどちらかがゲームクリア。それが希望。

 

 

 

 

 

打ち砕かれマシタ。

 

 

 

カジキガールもお遊戯ボーイも、2人とも【オールド・タイム・ロンドン】に挑戦デス。

明日への希望が・・・

 

 

同時に、現実世界でも私の希望が砕かれそうになっていマース。

それはテリーマンみたいな声の工藤優作のせいデス。彼は樫村に依頼されてヒロキの死の真相を探っていたというのデス。

ついでにノアズ・アークが言う日本リセットは、ヒロキが苦しんできた日本社会を、彼に代わって変えるための具体案だと推理していマシタ。

 

私、ダブルで追い込まれていマス。ゲームからはカジキガールとお遊戯ボーイ。現実からはテリーとスグル。

非常にまずいサンドイッチ・・・

 

 

 

その後、テリーがゲームを放置して事件の捜査に行っていると、ゲームではノアズ・アークが妨害工作開始。こちらからのアドバイスが届かなくなりマシタ。

これは少し好都合。

子供たちには悪いですが、早く全員ゲームオーバーになってくれれば、ジャックの真相には辿り着かず、私の会社だけは守られるはずデス。

 

 

 

しばらくゲームを見守っていると、お遊戯ボーイとカジキガールは他の子供たちと一緒に名探偵ホームズの下宿先に行ってしまいマシタ。

ですがノアのナイス妨害。お遊戯ボーイたちはお助けキャラのホームズと会えずにゲームが進んでいきマシタ。

彼らはジャック・ザ・リッパーに辿り着くために、モリアーティ教授に接触を図りマス。

 

これ・・クリアできマスか?

ホームズマニアしか解けない展開じゃないデスか。

まぁ、解けない分にはありがたい話ですが・・・このコクーン、売れないと確信してしまいマース。

 

 

 

そうこうしているうちに子供たちは残り30人。

そしてお遊戯ボーイたちも、お遊戯ボーイが出しゃばったせいで一気に4人がリタイア。

『ザコは消えなさーイ』

ですが、いよいよモリアーティ教授と接触し、ジャックとの対決に挑む流れになってしまいマシタ。

 

マズいデース。

誰か、冒険を終わらせてくだサイ。それか、レースにゴールするか、キン肉だるまを倒すか、秘宝を見つけてくだサイ!

 

 

 

【残り6人】

 

終わりデース。希望は潰えマシタ。

50人生存か、私の秘密暴露か、2つに1つの道だけが残されマシタ。

お遊戯ボーイとカジキガールは健在デース。

せめてもの救いは、お遊戯ボーイが足を引っ張っているだけで、小学1年生の眼鏡ボーイばかりが活躍していることくらいデス。名前はコナン君。

 

 

 

ドン☆

なんというキラキラネームでショウ。両親がコナン・ドイルマニアだったに違いありマセン。

彼の正体が、親のコナン推しが強すぎてホームズ嫌いなのか、それともホームズ知識の推理オタクか・・・これはどう転ぶでショウか・・・

 

 

その後、アイリーンを守るため2人。コナン君を守るため1人が連続脱落。

残るコナン君、カジキガール、お遊戯ボーイの3人がジャックを追いかけて、チャリング・クロス駅から汽車に乗り込む展開に。

これは吉?それとも凶?

「一番マズイ展開じゃ」「とびきり危険なクライマックスです」

ゲーム開発に関わる博士とテリーからの嬉しい知らせデス。

 

 

 

 

これは・・間違いなく・・・・トムの勝ちデ・・・

「我々も、樫村殺害の犯人を突き止めることにしましょう」

 

テリー!!!???

不意な所からとんでもないナックルが飛んできマシタ。

 

 

そこから咲き乱れる優作マンの名推理。

証拠の短剣と短剣の偽物から指紋も検出されマシタ。私と、お遊戯ボーイの指紋が。

 

NOOOOO!!!

『俺は既に罠を発動していたのさ!』というお遊戯ボーイの声が聞こえてくる気がしマス。

こうなったら最後の足掻きデス。

「でっちあげだ。日本政府に抗議するぞ。そもそも私には樫村を殺害する動機が無い」

これを言ったらテリーは黙ってしまいマシタ。

この程度の事で黙っていいのデスか?決定的な証拠が出ているのに・・・動機だけで?

 

 

私にわずかな勝機が戻ってきたと思っていた矢先・・・

ゲームの世界から、ジャックの口から、ご先祖様の口から、そしてテリーの口からバレてしまいマシタ。

 

 

 

トムの負けデース。

 

 

 

意気消沈した私に、テリーがたたみかけマス。

「殺人鬼の血がなんです!世間の目がなんです!!どうして戦おうとしなかったんです!今のコナン君たちのように」

そう言って見せた先で、リアルファイトするコナン君。

 

こんな風に戦えと言われても・・・

ここから彼らが助かるにはお助けキャラが必要デスよ?

列車の前に誰かが立ち塞がって、身を挺して止めてくれないと死亡確定デス。

それじゃ自分の力で戦ってないじゃないデスか。

説得力ゼロデース。

 

 

ですが昔、知り合いの社長が言っていた言葉を思いだしマシタ。

『未来とは無限。過去は一筋の足跡でしかない。俺にとって過ぎ去った過去など何の意味も持たない』

その言葉の意味を、今夜ようやく理解することができマシタ。

 

 

 

こうして、謎は全て解かれた。

 

 




ちなみにゲームは、コナン君とお遊戯ボーイの2人がゲームをクリアしていったそうデス。

お遊戯ボーイ。眼鏡のフレンドを大事にしてくだサイ。




そしてヒロキ、すみませんでシタ。

もしキミにまた逢えたら、それが仮想現実の世界でも・・・

Sorryと言わせてくだサイ。そして一緒に遊びまショウ。






【こうして謎は全て解かれ、ヒロキの意思はノアズ・アークと共に消滅したのだった】


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瞳の中の暗殺者 【前編】

次々と起こる警察官殺人事件
犯人を目撃した少女に残忍な魔の手が忍び寄る



 

 

「お前はもう一人の私だ」

 

ある朝、僕の耳に届いたこの言葉。

この幻聴が聴こえるまでに、僕の身に起きた波乱を少し紹介しよう。

 

 

 

 

僕は心療科医の風戸京介。

7年前までは、東都大学付属病院で外科医をしていたが、当時同僚だった神野保との共同執刀手術で神野に左手首を切られてしまい、その怪我が原因で腕が落ち、心療科に転向することになっていた。

心療科が不服なわけじゃない。実際、多くの担当患者から信頼され、警察関係の人のカウンセリングまで任されるくらいの地位には来ている。

でも、この不本意な立場に、僕の心の奥底は未だにポッカリと穴が開いたままだ。

 

 

そして1年前、偶然再会した神野から知らされた衝撃事実。

「お人よしなんだよ。お前は」

そうあの怪我は、当時僕に嫉妬していた神野が故意に起こしたものだった。

そして突発的に芽生えた殺意。手術ミスで訴えられ、自殺の理由のある神野を自殺に見せかけて殺害した。

幸い、警察はこの事件を自殺と断定。

復讐を遂げた僕は、空虚な満足感と達成感を胸に抱きながら、心療科の仕事をどうにかこなして毎日を過ごしていた。

 

 

そんなある日、先輩警部が亡くなったショックでカウンセリングに来ていた奈良沢刑事から、私の事件が再捜査されているという話があった。

どうやら昨今の警察には情報管理の徹底がなされていないようである。まさか犯人に情報漏洩するとは。

この事実を知ってしまえば当然、この刑事もショックだろうが・・・

この事実、犯人にもショックが大きいんだよ。

 

 

 

その夜・・・ストレス。

強いストレス。

食事ものどを通らない。眠れない。

何故僕がこんな目に・・・

一睡もできず頭痛が痛いまま、夜が明け、また朝がやって来る。

 

 

 

 

 

とうおるるるるるるるる

 

 

 

 

電話の着信音が聴こえてきた。気怠い身体をおして、滅入る気を奮い立たせ、こんな朝っぱらからかけてくる非常識な電話に僕は出た。

 

プッ

「はい、もしもし」

『風戸か?私だ』

 

 

電話口から聞こえてきたのは、聞いた事のあるような声だった。自分の声にも聞こえるし、前から担当している白鳥警部の声にも似ている。以前から、白鳥警部の声は私の声に似ているような気がしていたが・・・・

 

『私は救いのヒーロー。私の計画通りにすれば、お前が今抱えている悩みを全て解決することができる』

いと怪しいイタズラ電話のようだ。何を言っているんだコイツは。

 

「誰だキミは。悪戯なら切りますよ」

『私はお前が白鳥警部と混ざったことで生まれた存在。そう、お前はもう一人の私なのだ』

よし、心療科受診を推薦しよう。もちろん僕の勤め先以外の。

 

いややめた。切ろう。

 

だが・・・受話器を置いた僕の耳に届いたのは

『おい待て!人の話を聞けコラ!人の話は最後まで聞きましょうって義務教育で習わなかったのかボケ!』

!!??

受話器は確かに置いた。

通話は切った。

なのに、僕の耳にこの声は、幻聴は届いていた。

 

 

「まさか・・・キミは、もう一人の僕ということ?」

『お前がもう一人の私だ』

頑なだ。

いやそんなことより、認めたくない現実。どうやらこの幻聴は、僕の強いストレスから生まれた多重人格の症状のようだ。

 

『そんな事よりお前事件の再捜査に悩んでいるのではないのか?私がそれを救ってやろうと言っているのだ』

「悩みを聞いてくれんですか?」

『殺せばいいじゃないかいっそ捜査官全員』

コッチの話を聞いてくれない、物騒な人格でした。

 

「でも、罪の無い人を殺すというのは」

『ふん、臆病者め。いいだろう、犯行時には私が入れ替わって豹変してやる。これでいいだろ臆病者』

いちいち一言多いが、僕はもう一人の僕の提案を渋々飲むことにした。

 

 

 

もう一人の僕の殺害計画ではまず、警察を恨んでいるという先輩警部の息子・友成真に罪を擦り付けるために、第1の犠牲者・奈良沢刑事殺害現場におびき出すという、効率的で卑怯な手段を実施。

「父親の死の真相を教えてやる」

と、犯行予定現場の米花町の交差点に呼び出し、友成の目撃情報を残す。

 

犯行に使用する凶器は、もう一人の僕が闇の通販とかいう手段で、9ミリ口径のサイレンサー付きの銃を手に入れた。しかも2丁。あとおまけにナイフや暗視ゴーグルやら無駄遣い並みの手痛い出費。

『男は黙って2丁拳銃』

 

 

 

そして決行当日、あいにくの雨だ。

『今日は中止にするか。救いのヒーローは雨が降ったらお休みだ』

そんなわけにはいかない。もう友成を呼び出している。

『よしなら行け。ぬかるなよ』

「何を言ってるんだもう一人の僕。犯行時には入れ替わってくれる約束でしょ」

『やれやれ仕方がない。救い料は50千円にまけておいてやる』

 

 

 

   = 豹変 =

 

 

 

こうして豹変した“私”は奈良沢刑事の殺害に向かった。

灰色のレインコートを着て、灰色の傘を差し、いざ参る。

『目立たない?その格好。大丈夫なの?』

「ふん、臆病者は黙って見ていろ。華麗なる私の殺人ショーをな」

幸運にも奈良沢刑事は電話ボックスでお話し中。終わったら速攻でショットだ。

 

ガチャッ

奈良沢刑事は私の顔を見た瞬間、めちゃくちゃ驚いていた。

うぉっ

こっちまで驚いてしまったじゃないかジジイ。

 

 

・・・・・今のは忘れろ。

私は電話ボックスを出た奈良沢刑事をクールに射殺。

苦しませないよう一発で。

 

そしてクールに去るぜ。

 

 

 

   = 復帰 =

 

もう一人の僕が誤った発言をしました。大変失礼しました。

まず、彼は焦って3発発砲していた。

刑事は苦しみながら、左胸に手を置いてダイイングメッセージ残して亡くなっていた。

 

 

幸運だったのは、真昼間の大通りで実行したにも関わらず、有力な目撃情報が残らなかったこと。

さらには、ダイイングメッセージは左胸ポケットの警察手帳を指していると推理されていること。

犯人の僕としては心臓、つまり心。心療科の医師である僕が犯人だというメッセージだと理解できた。

(でもそんな回りくどいメッセージ残すくらいなら、直に血で名前を書いた方が伝わりやすかったんじゃないかなと思う。まぁ伝わりにくいほうが僕としてはありがたいけど)

 

そして、その日のうちに受診してきた白鳥警部から、これらの捜査の重要情報を聞き出すことができたこと。

本当に、警察の危機管理は無茶苦茶だ。

まぁ、僕が捜査線上に容疑者として挙がっていないということが分かったから万々歳なんだけど。

 

 

『全て私の計画通り』

という出自の分からないもう一人の僕の自信を無視して、その夜。

再び豹変した僕らは再び友成を呼び出して、今度は緑台のメゾン・パークマンション地下駐車場で芝刑事を殺害。

今度こそ目撃される恐れの少ない場所で、一発で仕留めることができた。

 

『これにて一件落着』

ではない。

まだ捜査員は1人残っている。

それにせっかく奈良沢刑事の時に警察手帳がダイイングメッセージだと思われているんだから、ここはあえて芝刑事に警察手帳を握らせれば、捜査をかく乱させることができる。

『なるほどな、お主も悪よのぉ』

馬鹿な人格は黙っていて欲しい。

 




さぁ次は女性警官の佐藤刑事。この人は警戒心が強くて手ごわい相手。念入りな準備をして挑まなければならない。
『安心しろ。女性のハートを射抜くのは得意だ』
豚野郎は黙っていてくれ。


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瞳の中の暗殺者 【中編】

僕・風戸京介は1年前に僕が起こした事件に再捜査のメスが入ったことを知り激しいストレスに襲われた。そのストレスにより生まれた人格、白鳥警部と混ざった?ことで生まれたというもう1人の僕に導かれるまま、捜査官2人を殺害。次の標的は最後の捜査官、女性警官の佐藤刑事だ。


「どうやって彼女を殺す?もう一人の僕」

『その前にやるべき重要なことがあるだろう』

もう一人の僕との脳内会話で、彼は神妙な声でそう呟いた。

『呼び方がダサイ。何だもう一人の僕とは?しまらないじゃないか』

そう、もう一人の人格はどうでもいい事にこだわる変な奴だった。

 

「そんな事を言ったって、キミはもう一人の僕なわけで。自分同士で風戸とか京介とか呼び合うのも変だよ」

『お前のセンスを見極めてやろうというのだ』

「・・・じゃあ、白鳥警部と混ざって生まれたっていうなら、白鳥から『スワン』ってのは?」

『ふん、やはりその程度の貧しい発想しかないのかお前は。もう一越えしてこいよ』

「じゃあ、白鳥座から『キグナス』」

『ほぉ、なかなかいいじゃないか。よし決めた。私の名前は『ジーク』だ』

そして僕の話をたまに無視する。そしてこのやりとり、本当にどうでもいい。

 

「で、どうします?次の殺人は」

『どうせ最後だ。爆弾で楽をすればいい』

「・・・・僕に作戦があります」

先の事件に触発された僕が一生懸命考えた殺人プランがコレだ。

 

 

まず、殺人の舞台は白鳥警部の妹の結婚を祝う会。警察関係者が一堂に参加するから、標的である佐藤刑事も確実にそこに現われる。

(第1の殺人で奈良沢刑事と米花町の交差点で遭遇できたのは完全に運だったから、その運任せだった反省点を活かしたものだ)

 

犯行現場は女子トイレ。トイレならいくら佐藤刑事でも油断してくれるはず。そのタイミングで配電盤を爆破して停電を起こし犯行に及ぶ。

『こんなこともあろうかと私は爆弾処理の免許を持っている。しかも2級』

「こんなこともあろうかと、僕は趣味で爆弾を作ったことがある。しかも携帯電話で遠隔作動させることができるタイプ」

『うわっ陰険な趣味』

 

停電の暗闇の中で佐藤刑事を探すために、あらかじめトイレの化粧台の物入れの中に懐中電灯をつけっぱなしで入れておく。

暗闇の中で光る懐中電灯を見つけた彼女がそれを拾えば、光る標的として狙うことが簡単になる。『うわっ、電池代が勿体ない』とか言わない。

 

警察官で一杯な会場だから、殺害後にすぐにホテルを封鎖されて、射殺の証拠になる硝煙反応を調べられてしまう。

その網をすり抜けるために硝煙反応から自分自身を守るため、傘に穴をあけておいて、そこから手と拳銃を出して撃つことにする。もちろん銃を撃つ手はゴム手袋でガードして。

『なるほど素晴らしく用意周到な作戦だ。そこまでして捕まりたくないのかこの臆病者』

「先に起こした2件、キミは捕まっても良かったからあの雑さだったの?」

 

そして毎度の容疑者候補擁立のための友成召喚。

今まで僕の地声で呼び出していたけど、さすがに声紋を調べられたらまずかった。

だから今度は診察の時に録音していた女性患者の声を編集して、その声で呼び出すことにする。

『患者の声を集める趣味があるとか、変態じゃないか』

「治療の一環で使うの。あとは音声を編集するだけ」

『そんな仕事もするのか。心療科医は大変だな』

これは趣味で経験があるだけの話だが・・・そんなことはどうでもいい。

 

 

僕は早速、友成の家の留守番電話に「来ないと殺人容疑で逮捕する」と音声を残し、米花サンプラザホテルに向かった。

 

 

白鳥妹の結婚を祝う会。

主治医まで招待してくれるという太っ腹っぷりだが、この会をぶち壊してしまうことになる僕としてはすごい罪悪感。

そんな胸の痛みを覚えながら、僕は早速準備に取り掛かった。

電気室に忍び込んで遠隔操作爆弾をセット。

次に穴をあけた傘を傘立てにセット。

『運が良かったな。天気が悪かったら、他の傘と紛れてしまうところだったぞ』

たしかに、天気の神様に微笑んでもらえたのは幸運だった。

 

あとは女子トイレに懐中電灯を置くだけ。

『おいお前、大事な事を忘れているぞ』

「何?女子トイレに入るのは犯罪だって?」

『こういうパーティは開始直前に清掃が行われるはずだ。トイレも当然な。つまり今、懐中電灯を置いても片付けられてしまう可能性が高いということだ』

 

・・・その通りだ。

 

 

 

「どどどどうしよう!」

『案ずるなたわけ。私に良い考えがある。今から自首するのだ』

「それのどこが?ふざけてるの?」

『ふざけてなどいない。発想の転換だ。私達犯人が警察に行けばもう逮捕すべき犯罪者が居ないということだ。戦わずして勝つ。これにて一件落着』

 

 

どうしようこうしようと考えても、この事態への解決策は思い浮かばなかった。

そして無情に時は流れパーティタイム。

そう、初めから単純な話だった。

清掃後、パーティが始まってから懐中電灯を置けばよかったんだ。

「よしあとは、女子トイレに潜入すればいい」

女子トイレに・・・潜入・・・

『禁断の地』

「別件逮捕事案だ」

 

 

今度こそどうしよう・・・停電も殺害手段も準備万端なのに、トリックの要が完成に至らないなんて。

『仕方がない。ここは女装して潜入するしかない。買いに行け今から!』

と、オドオドしている間に運よくトイレから人が出て、僕はサッと入ってサッと置いて。

 

 

人が入ってきて・・・・

 

 

個室に隠れて・・・

 

 

人が出ていって、僕はドキドキしながらどうにかトイレからの脱出に成功した。

 

 

 

 

「疲れた・・・殺す前から疲れた。警察に囲まれるのもすごいストレス。とてもじゃないけど落ち着いて参加できない。あとはもうキミに任せてもいい?」

『やれやれ、あまり気が進まないのだが、場合が場合だ仕方あるまい。私の社交界テクを炸裂させてやるとするか』

「とりあえずニコニコだけして、何かあったら『風戸です、よろしく』って言うだけにしてくれ頼む」

 

 

   = 豹変 =

 

その後、私は白鳥警部とともにパーティに参加。

参加しているお客さんを色々と案内され、探偵の毛利小五郎と妻と娘と居候の子供を紹介された。

ちょっと何か話したかと思うと、毛利探偵はいきなり男の子の頭をゲンコツで殴り下ろしていた。なんという恐ろしい男だ。

その後、毛利探偵は何か白鳥警部から「Need not to know」と釘を刺され落ち込んでいた。何の話か分からない。

『つまり僕が2件目の事件で握らせておいた警察手帳のおかげで、警察関係者・上層部・組織全体に犯人説がしっかり浸透しているってことだよ』

 

 

しばらくすると佐藤刑事がトイレに席を立った。

後をつけてニヤリを1回。

傘立てから傘を回収して、銃と手袋をしっかり持って。

爆弾を作動!無事に停電。

暗闇の中、光るライトに照らされる佐藤刑事を発見し・・・

「やばっ。傘の穴の位置が分からない」

『何やってんだ馬鹿』

 

ドタバタしている間に、私に気付いた佐藤刑事がトイレの奥に走っていった。ふん、臆病者め。

「駄目、蘭さん!」

逃げる彼女の背に銃弾を4発。

ん?蘭さん?

どうやら彼女はトイレにいた他の女性を守ろうとしていたようだ。

そもそも考えてみれば、彼女をライトで照らしている人がいないと、私も視認できなかった。

まったく、もう一人の私も詰めが甘い。

 

「佐藤刑事!」

外れた1発の弾丸が蛇口を破壊し、吹き出した水に驚いた少女・蘭が懐中電灯を手放した。

そして照らされる私の顔と彼女の顔。

めちゃ見られた・・・

だが、一緒に倒れ込む佐藤と蘭の音に、私は勝利を確信した。

「標的を目撃者と共に消す。これぞクールな男の仕事だ」

あとは用済みの拳銃を捨て、ゴム手袋を男子トイレに捨て(詰まらないか心配だ)、傘を傘立てに置いて、非常灯で廊下が照らされ・・・・

電源の回復早っ!さすが日本の技術力。

そして流石は頼れる日本警察の集まり。

ホテルはすぐに封鎖され、私は硝煙反応を調べられた。

まぁ当然、客に反応は出ること無く、出入口封鎖前に外部犯の逃走した説が濃厚に。

 

これにて一件落着。

さぁ帰らなきゃ。救いのヒーローは1日3時間しか働けぬ。

 

 

 

   = 復帰 =

 

 

その後、パーティは当然のことながらお開きに。

僕もようやく我が家に帰ることが出来る。今夜は良い酒が飲めそうだ。

 

だが、そんな矢先に突然白鳥警部から呼び出しがかかり、米花薬師野病院に呼ばれた。

心療科の当直が居なかったのが理由らしいが・・・何故?

 

 

 

そして病室で出会った見知った顔に、私は度肝抜かれた。

 

 

 

ラララ・・・蘭!?

 

そう、そこに居たのは、もう一人の僕・・・じゃなかった、ジーク・・・だっけ?

『Yes』

の犯行現場にいた目撃者の蘭の姿だった。しかもしかも無傷。

 

まさか、もうバレてしまうとは・・・

 

 

あんなに練ったのに

 

 

雑じゃなかったのに

 

 

僕の緻密な殺人計画が

 

 

 

 

 

 

僕は全身の力が抜けていくのを感じた。

 

 

こうして謎は全て解かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わけではなかった。

 

呆然自失とした彼女の様子に、僕に希望が降り注いだ。

 

 

「自分が誰だかわかりますか?」

首を横に振る蘭。

「今日何があったか覚えていますか?」

「いいえ」と答える蘭。本当?本当の事言ってる?

「アメリカの首都は何処でしょう?」『ニューヨーク!』

「ワシントン」

「5×8はいくつですか?」『40』

「40」『やったぜ』

「このボールペンの芯を出してください」

時々邪魔が入りながらも、蘭の診断は終わった。

 

 

【逆行健忘】

突然の疾病や外傷によって、障害が起こる前のことが思い出せなくなる記憶障害を、彼女は患っていた。

幸運にも、私の起こした事件のことは何も思い出していないのだ。

 

本当に良かった。

 

 

「念のため、何日か入院して様子を見ましょう」

こうして僕は目撃者を手元にに残し、いつでも殺せる状態に誘導することにも無事成功した。

 

あとは蘭を殺すだけ。

頑張ろうか相棒!

『ふん』






それにしても今回、運に救われすぎ。

だが運命の女神は確実に僕に微笑んでいる。

僕が安心して眠れる日が来るのも時間の問題だ。



あとはよっぽど、彼女を守る優秀なナイトが現われない限りは。
『それは私のことか?』
そうだったらどれだけ良かったことか。


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瞳の中の暗殺者 【後編】

前回の3つの出来事

僕の殺人計画実行。目撃者生きてた。運に救われていた。



さて、現状を確認しよう。

まずは当初の標的である佐藤刑事は意識不明の重体。こっちも生きてた。だけどすぐ死ぬかもしれないし、この僕・風戸京介の医師の立場を利用してちょっと救命装置でもイジればいつでも殺せる。優先順位は低くなった。

それよりも火急の要対応案件が、目撃者の毛利蘭だ。

彼女はおそらく私に撃たれそうになったショックにより、逆行性健忘という記憶喪失になってくれている。

 

僕の事件について、記憶にございません。

このまま記憶が戻らないかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

『迷う事はない。不安の種は早いうちに摘んでしまうに限る。善は急げだ』

善ではない。だが僕の明日の快眠のため、蘭には死んでもらう必要がある。

今彼女は僕の居城・米花薬師野病院にいる。殺すなら今だ。

 

 

全然無理。

 

 

彼女の人望を舐めていた。

絶えず誰かいる。

 

 

まずは朝早くから彼女の家の近所の子供たちがお見舞いに来ている。

中庭の木の後ろから監視していても、勘のいい女の子が振り返ってくる。あの眼力、本当に小学生か?

病室にも彼女の親友の、しかも財閥のお嬢様が常時待機。交友関係が半端ない。

極めつけは、別居しているはずの両親が必ず一緒にいる。

苗字を考えれば、母親が彼女を捨てて家を出て行っているのに、今さら凄く母親面して蘭の面倒を見ている。

 

僕が警戒するべきはナイトじゃなかった。ファミリーだった。

 

 

全く手を出せないまま数日。

病院にとどめておくのにも限界が達した頃。僕は大胆な策に出ることにした。

いっそ退院させてしまおう。そして安心しきった所を殺す。それしかないと。

 

僕は病室にご家族を呼び、蘭の病状について説明した。

「おそらく、お嬢さんの喪失は自分を精神的ダメージから守るためのものです」

「ということは、娘をあのホテルへ連れてって、事件を再現してみたら記憶が戻るんじゃ」

流石は毛利探偵。察しが良い。そのストレス療法は効果ある可能性が高い。そして僕が困る。

しかし、そんな僕の悲痛な叫びを聞きつけてくれたのか、母親は「あの子を苦しめるやり方に反対」と、僕の代わりに記憶回復策に反対してくれた。

そこに僕も「無理に思い出させると脳に異常が起こるかも」と援護射撃。

これは半分本当。起こってくれたほうがいいけど・・・リスキーな賭けすぎる。

 

と、戦々恐々とした診断結果発表の最中・・・

 

ぷるぷるぷるぷる

 

マズイ!こんな時にもう一人の僕・ジークからの電話が!?

僕は焦りながらも冷静を装って電話に出た・・・普通の業務連絡だった。

(なんか居候の子にめっちゃ睨まれてる気がするけど)

 

 

「先生、ごく自然に記憶を取り戻す方法は?」

電話を切った僕に、母親がごく自然な質問をしてきた。

とりあえず家族にも油断してほしいから、「リラックスした状態」をオススメしておくと、母親は同居開始宣言を。そして毛利探偵と居候の子はこの世の終わりのような絶望的な表情をあからさまに見せた。何があったんだろう。

 

 

 

2日後(もちろんこの2日間、全く手が出せなかった)

「無理して思い出さないように。いいですね?少しでも記憶が戻ったら連絡してください」

と本音を伝えて、蘭の退院を看護師たちと一緒に見送った。

 

その夜。

「はぁ、手元から離れて不安だ」

少しでも眠れるようにワインを片手につぶやく僕。

『眠れないのか?睡眠不足はお肌の天敵だ。いっそ銀座にでも繰り出して、パーっと買い物でもしてウサを晴らしてきたらどうだ?』

凄く珍しくジークがマトモに心配してくる。

明日は雪が降るんじゃないか?

なんて苦笑いしながら、僕はその提案に乗ることにした。

 

 

 

 

そして次の非番の日。

米花駅にて。

 

「いた~、目撃者。蘭いんじゃん」

蘭が居た。しかも駅ホームの黄色い線の内側すぐ。

キミ、命狙われてるかもしれないってお父さんたちが心配してなかった?僕、そんな噂聞いたんだけど。

『千載一遇のチャンスじゃないか』

 

 

 

= 強制豹変 =

 

私は蘭の油断しきった背中をドンと押し、線路に突き落とした。

『ちょっ』

シンプルイズベスト。

『まっ』

そしてすたこらさっさと逃げる私。

これがクールな殺人だ。雑音がうるさいが。

 

 

そして逃走後。

『馬鹿なの?白昼堂々と、絶対誰かに目撃されたじゃん!母親だって隣にいたし、絶対近くに護衛の警官がいる!この馬鹿ジーク!』

「馬鹿だと?素手で戦ったら世界最強と言われてるこの私に向かって馬鹿だと?ふざけるなタコ!」

俺がもう一人の馬鹿とひとしきり喧嘩をしていると、警察から緊急電話が入った。

 

ヤベェ

 

 

= 強制復帰 =

 

 

 

逃げやがった。あの馬鹿。

終わった・・・もう・・・

僕の人生は、担当患者を電車に突き落とした医者として逮捕され・・・終わり・・・

 

 

じゃなかった。

病院に向かった僕の前にいたのは、無事な目撃者の姿。

蘭、無事でした。かすり傷程度。電車に引かれる所に無事とか・・・・化け物か?

ちなみに犯人の目撃情報は無し。僕の幸運の女神はまだ健在のようだ。だがどうやら女神は運依存の殺人は御所望ではない様子。

こうなったら見せてやるしかない。僕の殺人を。

毛利探偵と母親にはこれを好都合に「このことがきっかけで、記憶を取り戻すことを怖がってしまうかもしれない」と釘を刺しておいた。

 

 

 

そんな夕方、蘭が突然、トロピカルランドを知っていると言い出した。記憶がかなり戻りかけているようだ。

彼女は実際にトロピカルランドに行ってみれば記憶が戻るかもしれないと言い出した。釘の意味が無い。

毛利探偵は賛成。母親は反対。

それでも蘭は怖いけど勇気を出してみたいと。

・・・・なんてこった。

「いやぁ蘭さんは勇気がありますね」

と皮肉を言って、僕は許可を出しておいた。

 

これは賭けだ。トロピカルランドは何度も遊びに行った僕の庭。

記憶が戻るより先に、彼女を殺せるはずだ。

『なるほど、最終決戦というわけだ』

「そのとおり。ヤろう、ジーク!」

『当たり前田のクラッカー』

 

 

 

 

望遠スコープ、暗視ゴーグル、サバイバルナイフ、9ミリ口径の銃。

『二丁拳銃で買っておいて正解だっただろう?』

装備を身に纏い、僕はトロピカルランドに足を踏み入れた。

『そこ退けそこ退け、遊園地にファッションセンスゼロのミリタリーオタクが参る』

「そんなに?言うほど?」

『もっとこう、あるだろ。シルバー巻くとかさ』

 

 

そして、センスゼロの2人が到着トロピカルランド。

 

怖いくらいに、事態は僕らのために動いていた。

まず、友成が誤認逮捕。毛利探偵が護衛の警官と一緒に退場。

その功労者の子供たちの提案で、蘭は夜までランドに居てくれることになった。

もう、僕に殺せと言ってくれているようなもんじゃないか。

 

『違うな。ここからは私のショータイムだ』

 

 

= 豹変 =

 

夜、人混みの中を狙い撃つのは難しい。

だがパレードで人の足が止まった今なら狙いやすい。

私は暗視ゴーグル越しの蘭に銃口を向け・・・

「蘭お姉さん逃げて」「拳銃が狙ってるぞ」

子供たちの叫び声が飛び交う。って、目撃されてるってことじゃねぇか!

「危ない!」

太った男性が蘭を庇って、子供の声に私が焦ったせいで逸れた銃弾が、彼の肩を掠めた。

 

失敗だ。こうなってしまったら撤退するしかない。

『待てジーク!アレを見ろ!』

なんと蘭は「離れるな」って男性が言ってるのに、人混みからわざわざ離れていくではないか。おいおい子猫ちゃんなんて好都合なんだい。

彼女を追って行くと今度は居候の子と合流したようだが、私は狙いを外さない。女性のハートを撃ちぬくスナイパー。

パァン

あっ、外れた。風船に当たった。

壊れてんじゃねぇのかこの銃!

 

 

その後も夢とおとぎの島を追いかけていくが、一向に当たらない。

『何やってるんだジーク』

「静かにしろ集中できん。まったく日本人は騒々しくて困る」

五月蠅い馬鹿を無視して追っていくと、蘭と居候はボートに乗って逃げて行った。

「逃げるなこの卑怯者」

私もボートを奪い2人を追った。時刻は20時40分。

「ボートとけん銃のテクはハワイで習ったんだよ。12万yen竹コース」

『嘘は良いから、早く撃て』

馬鹿に急かされながら放った銃弾は見事命中した。(コーラに)

 

 

『おいおい、前!前!』

2人のボートが滝つぼから落ちていく。が、見事に着水し、次のエリアに逃げて行った。

ふん、この程度。私に真似できないとでも思ったか!

『やめてくれ!』

馬鹿の悲痛な叫びが頭の中でキンキンうるさかったが、私は見事に滝つぼダイブから着水してみせた。これがスーパーエリート。

その後、山岳エリアを逃げていく2人に銃弾の雨あられ。

『全弾外れは、もはや才能だな。予備の銃弾たくさん持ってきて良かった』

 

そして山頂にて・・・なんと居候の子が私を待ち構えていた。

「ここ、夜はクローズで誰もいないんだ。姿を見せても大丈夫だよ」

「随分用心深いんだな。でももう隠れたって無駄さ」

煽りから咲き乱れる少年の名推理。第1の事件のダイイングメッセージの本当の意味をバラされた。『よくあの分かりにくいのが分かったな、この子』

 

 

「そうだろ?風戸恭介先生」

バレてた。

「いつ私だと分かった?」

居候の子が言うのは、きっかけは電話のボタンを左手で押していたこと。おい馬鹿。『すまん』

さらにこの子は1年前の事件の真相や、今回の事件で友成を呼び出した方法と理由を次々と明かしていった。

そして硝煙反応のトリックが解けたかどうかは・・・「あんたが警察に捕まった後でな」。お預けか。だから子供は嫌いなんだ。

 

 

2人は滑り台から逃げ、隣の冒険と開拓の島の本島に向かったようだ。

20時54分、私は再びボートで追いかけ、馬鹿発案のトリックを完全にバラされた。

私が考えたわけじゃないから、別に腹も立たないが。

「正解だよコナン君…やはり死んでもらうしかないようだ」

今度は川に逃げられた。

『おいおい、どんだけ逃げられるんだよ』

 

だが心配ご無用。

 

化学と宇宙の島。8時59分14秒。

やっと追い詰めた。

 

 

「10,9,8,7・・・・」

何かのおまじないか、居候の子は10カウントを数えはじめた。

そして1、0。噴水スプラッシュ!

びっくりしたな、もう。

からの、コーラが上に・・・からの真正面!

うげぇ!

私の顔面に中身入りのコーラ缶がヒット!

 

 

こうして私は気絶した・・・

 

 

 

 

 

 

 

と油断したところに、居候の子をゲット!ストリートファイトでは負けたことのないこの私を怒らせてしまった子供に、ナイフ攻撃を!

 

キンッ!

 

蘭の蹴りが飛んできたかと思うと、ナイフの刃の先が消えていた。

「嘘・・・」

「何もかも思い出したわ。あなたが佐藤刑事を撃ったことも。私が空手の都大会で優勝したこともね!」

 

嘘・・・マズイ!

 

 

= 強制復帰 =

 

 

 

 

 

へっ?

 

 

 

 

そこから僕はフルボッコにされ・・・

完全沈黙した。

 

 

こうして謎は全て解かれた。

 

 

 





逮捕後。パトカーに連行されながら、僕は回想していた。

『これで私達も終わりか。楽しかったじゃないか』
「どこがだよ」
『そうか?この7年間の鬱屈した毎日と比べて、この7日ほどの日々はどうだ?生きている実感があったんじゃないか?』



・・・それは否定できない。


「なぁジーク、1つ聞いていいか?」
『15文字以内なら許可する』
「これからも、一緒だよな?」



『・・・・・フンッ』

これ以来、僕の中からジークは消えていった。
彼は一体何だったのか。
僕には分からないが・・・分かる気がする。

またね、もう一人の僕。


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時計じかけの摩天楼 【前編】

あの犯人が遂に事件簿になった
恐怖の連続爆弾事件
この謎は事件簿でしか分からない
犯人は私だ!



お待たせしました

伝説の始まりにして最強の犯人

モリアーティG(ジ)の登場だ

 

 

 

 

第1話 【シンメトリー戦士モリアーティG誕生】

 

≪私は日本屈指の建築家・森谷帝二。得意建築は古典建築シンメトリー。好きな四文字熟語は【左右対称】と【五分五分】≫

 

ひょんなことから、ギリシャで迷子になってしまった私。

観光ルートから外れて彷徨ってるうちに、古代建築の神殿に辿り着いた。

そこはガイドブックにも載っていないとある古代建造物。

「なんてこった。めっちゃ左右対称」

その美しさに心打たれ・・・

 

気付いた時、私はシンメトリー至上主義者になっていた。

本名の「貞治」も、左右対称じゃないから気持ち悪くて、日本に帰ったその足で家庭裁判所に行き、申立書を提出し、左右対称になる「帝二」に改名したものだ。

 

こうして、シンメトリー戦士モリアーティGは誕生したのだ。

 

 

 

 

 

 

第2話 【狙われた街】

≪人は七三がいいと言うけれど、ホントは五分と五分がちょうどいい。モリアーティG≫

 

モリアーティGとなった私は、若い頃に作ったシンメトリーじゃなかった作品を抹殺したくなっていた。

幸いに日本屈指の建築家だから資金は豊富、いつでも抹殺可能。

 

それはそうと1年前、私は西多摩市の新しい街づくりに携わり、夢の左右対称タウンを作る事ができるようになった。

 

ところがどっこい西多摩市の岡本市長、交通事故の罪を息子に押し付けやがった。

美しくない。

まぁ、この左右対称戦士モリアーティGは左右対称を作ることが出来ればそれでいい。不祥事結構。

だが、ここに左右非対称を愛する高校生探偵・工藤新一が現れ、不祥事を暴き、都市開発計画を潰してしまった。幻と化した我がニュータウン。

 

おのれ工藤。

何が『真実はいつも1つ』だ。

なぜ1つだけしか用意しない?分けっこできるように2つ用意しておけ。シンメトリーにならないじゃないか。

いや真実は左右対称。

だが工藤は許せん。何故ならお前は左右対称じゃないからな!

 

 

 

 

 

 

第3話 【消された時間】

≪『トリック=やることが多い』という先入観だらけの現代社会に、真のシンメトリーを伝授する彼こそが、左右平等戦士モリアーティGだ!≫

 

私は決意した。工藤への復讐と、ついでに過去作の削除を。

決行日は工藤の誕生日5月4日。を3分間だけ味わわせてやるために、本番は5月3日。

 

決行日まで時間はない。準備は入念に、大胆に、セクシーに、そしてシンメトリーに。

まずは工藤の現状を把握するため、4月29日(火)に開催するガーデンパーティにご招待状を送付。

と、過去作削除用の爆弾の作成と、放火の準備。

と、ガーデンパーティに出す手料理の仕込み。クッキーにサンドイッチにスコーン。

と、爆弾の材料になる爆薬を盗めそうな火薬庫の物色。東洋火薬に検討をつける。

と、放火用の発火装置を作成。もちろんお手製。

と、放火・爆破対象のリストアップ。放火はいいけど、爆弾は設置場所が肝心。予定している爆弾は日光が13秒当たらない状態で爆発する構造だが、それは木の影、電柱の影でも同様。日陰に遮断されない位置を割り出す必要がある。5カ所分全て!

 

 

『・・・やることが多い』

なんて弱音はお母さんのお腹の中に置いてきた。何故なら私は左右平等戦士モリアーティG。

 

 

 

 

 

 

第4話 【遊星より愛をこめて】

≪健全なる建築物は健全なる左右対称と健全なる美意識に宿る。それがモリアーティG≫

 

きたる4月29日。

工藤来ない・・・代理の一家だけ寄越して・・・マジかお前・・・

お前の為に音楽家にモデル、大企業の社長、芸能人を集めたんだぞ?彼らの時間を返せよこの泥棒。

 

こうして、主賓不在のティーパーティータイムに突入。

工藤の友人の蘭が屈託のない笑顔でクッキーを美味しいと言ってくれたり、手料理自慢から皆が建築の方にまで賞賛を贈ってくれたり。

やはりパーティはパーティで楽しい。

「私は美しくなければ建築とは認めません。今の若い建築家の多くは美意識が欠けています!もっと自分の作品に責任を持たなければいけないのです!」

気分がよくなって、ついつい自論を熱く語ってしまった。ドン引かれた。視線が冷たい。

 

よし、ここはクイズを出そう!映画と言えばクイズだ。

 

Q・この3人が互いの共通点から決めた、ひらがな5文字のパスワードは何?

小山田力(A型)昭和31年10月生まれ。趣味・温泉めぐり

空飛佐助(B型)昭和32年8月生まれ。趣味・ハンググライダー

此掘二(O型)昭和33年1月生まれ。趣味・散歩

 

制限時間は3分。さぁ解けるかな?

 

 

答えは

 

 

 

 

 

 

 

映画で。

 

 

ちなみに正解したのはコナンくん。

彼と蘭にはご褒美に、私の自慢のギャラリーへとご招待。

ここでスーパーウルトラワンダフルグッドニュースをゲッツ。(美意識高い系のくせに喜びの表現のワードチョイスのセンスが酷いって?ちょっと何言ってるかわからない)

 

話を聞く限り、どうやら蘭は工藤とはホの字の仲のようだ。ちなみに2人の好きな色とラッキーカラーは赤。

そして5月3日の夜10時から映画を見る約束をしているそうだ。私が抹殺予定の米花シティビルで、

 

おいおい、なんて私に都合の良すぎるデートプランを建ててくれちゃってんの。

若いカップルのバースデーをぶち壊しにしてくれと言ってるようなもんじゃないか。

 

 

 




第5話 【盗まれたオクトーゲン】
≪魂は問題じゃない。問題なのは姿・形。それがモリアーティG≫

モリーアティGの最初の仕事。
それは5月1日の夜、東洋火薬の火薬庫から火薬を大量に盗み出すことだ。
大量に。
なんせビルや5つの建築物を抹殺するなら、キログラムを3ケタはないと。
重労働!
何でも自分でやらなきゃ気が済まない性質が、ここにきて災い・・・しない!

弱音は吐かない。何故なら私はモリアーティGだから。そして本番はまだだから。


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時計じかけの摩天楼 【後編】

第6話 【700キロを突っ走れ】

≪完璧な世界にしないと気が済まない。それがモリアーティG≫

 

5月2日は一日中、プラスチック爆弾を製作。

そいつを

・雷管付きの衝撃爆弾搭載ラジコン飛行機

・遠隔操作可能&おばあちゃんでも片手で持てる超軽量の時限爆弾inペットケース(&白い子猫ちゃんと『もらってください』のお手紙)

・太陽光遮断時起動開始照射時リセット機能付き爆弾×5

・ビル爆破用時限爆弾

・設計図にない赤と青のコードという遊び心付き爆弾

に改造。

 

えっ?何でこんなことができるかって?何故なら、壊したいと思った頃から勉強しておいたのだ。

でもって、息抜きに黒川邸を放火。

 

その深夜。東都鉄道の環状線の5カ所に爆弾を設置。

終電の深夜1時ごろから、始発の4時半ごろまでの間に。

だ。

 

住宅街のど真ん中を走る線路や橋の上に。

誰にも気付かれることなく。

一晩で。

重い爆弾を。

5個。

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

それをやってのけるのがこの私。ジェバンニ戦士モリアーティG!

 

 

決して誰も雇ってなどいない!

 

決して!

 

『信じて』

 

 

 

 

 

 

第7話 【蒸発都市】

≪絶対的な規律はある。それがモリアーティG≫

 

運命の5月3日。

まずは茶色の長髪に付け髭にサングラス、グレーの帽子とコートで変装。(見るからに怪しいし、このGWの時期に暑くないのかって?)

し、堤向津川緑地公園で3人組の子供に爆撃機をプレゼント。

工藤邸に変声機でお電話し、公園に工藤を呼びつけた・・・つもりだったが。

 

Why?

双眼鏡から見える公園への来訪者は工藤じゃなくてコナンくん。

子供たちとラジコンで遊び始めたかと思うと、何か良く分からないうちにラジコン空中でめっちゃ爆発した。

 

早速計画が狂いまくってんだけど・・・

ちょっと工藤にお電話。どうなってんのアンタんとこ。

「どういうつもりだ?」

工藤はどうした。電話に出たのコナン君じゃないか。

まさかイタズラだと思って子供を代理で寄越したの?もうさぁ、どんだけ非常識の男だよコイツ。

 

だがもう爆弾はセット済み。このまま押し通すしかない。

私は米花駅前広場をコナンくんに指示。ヒントをおねだりされたから、それとなぁく伝えておいた。

さて、私も大急ぎで移動だ!

 

高いビルから次の爆弾の行方を見守る・・・

想定外でした。

工藤また現れない。爆弾はおばあちゃんが持ち去る。タクシーで移動。自転車を轢きそうになって停車。

残りあと16秒。近くに西多摩市の新しいシンボルになるはずのガス灯。

『おいおい・・・』

念のために遠隔操作でタイマーを止めれるようにしておいてよかった。

 

(ちなみに気付いたのが、轢かれそうになっていたのはコナンくん。おい工藤!)

そして私は遠隔操作で爆弾タイマー再開。爆発!

さて、準備体操はお終いだ。お楽しみは、ここからだ!

 

 

 

 

 

 

 

第8話【栄光は誰の為に】

≪モリアーティGは強く賢く美しい≫

 

さて、次の爆弾が本番。目的の5建築物を破壊だ。

頃合いを見て工藤にお電話。

次は毛利小五郎が出た。この携帯、かけるたびに人が変わるな。

 

さて、今度は「電車を時速60km以下で走らせると爆発するぞ」の爆弾だ。

さぁ毛利探偵。この対工藤用の謎が解けるかな?

 

 

 

・・・・全部止められた

 

 

 

 

 

 

第9話 【モリアーティG西へ】

≪7;3もダメ。8:2もダメダメ。5:5こそシンメトリー≫

 

夜、屋敷でくつろいでいるところに、警察と毛利探偵が来た。

 

えっ?工藤じゃないのに解かれた?

 

 

 

 

 

終わった。

 

 

 

 

 

 

じゃなかった。

今回の爆弾事件を、単純に私に恨みを持つ者の犯行と断定し、心当たりが無いかを聞いてきただけだった。

 

もちろんしらばっくれるだけさ。

そして普通に通用ナニコレ。

肩すかしにも程がある時間を過ごし、あとは工藤ホイホイしてある米花シティービルを爆破するだけ・・・

 

 

 

 

と油断した私だったが・・・

突如ギャラリーに呼び出され、公開処刑が始まった。

 

まず、幻のニュータウンの模型ケースにかけておいた布が消え。

毛利探偵の「犯人はあんただ白鳥!」という茶番を見せられ。

「犯人は森谷教授、貴方です!」⇒ちゅどーんというよく分からない演出の下で私犯人説を暴露され。

喰いつく毛利を無視した工藤に動機を全て明かされ。

「何か気付きませんか?」って、クイズ番組の間違い探しみたいに過去作をジロジロと見られ。

模型ケースの裏に変装グッズを置かれ。

「馬鹿な!それは書斎の金庫に!」と絶句したら全部偽物で、私が自分で墓穴掘るだけになり。

爆弾スイッチも電池が抜かれ。

 

『もう許して』

 

こうして謎は全て解かれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とでも思っていたのか?

切り札は最後まで残しておく。

それがモリアーティG Final Form Ride ジョーカージョーカー!

 

 

「これで解決したと思ったら大間違いだ。私の抹殺したかった建物はもう1つある」

 

米花シティービルが時間通りに爆発!工藤ホイホイ発動!

ホラ、工藤。君の大好きな蘭がピンチだよ。

怒りのコナン君が私に飛びかかってきた。暴力はいかん!

でも彼はちゃっかり爆弾設計図を盗んでいた。

『計画通り』

罠なんだよね実はこれ。設計図に無い赤と青のコード。片方切れば爆発するけど、それは2人のラッキーカラーの赤の方。

勝ったコレ。

 

 

「工藤にあったらこう言っておけ。お前の為に3分間作ってやった。じっくり味わえ!とな」

屋敷を飛び出すコナン君に伝言を頼み、私は高みの見物。

米花シティービルに連れて行ってもらい・・・ではないか、最悪の事態で私から情報を聞き出すためか・・

 

だが私は絶対に吐かない!むしろ吸ってやる!なぜなら私はモリアーティGサイクロンサイクロンだから!

 

 

 

 

 

そして0時3分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発しねぇ!

 

 

 

こうして謎は全て解かれた。




今さらだけど・・・やっぱ工藤新一を敵に回したのが運のツキ。
ってことか。
会ったことないけど。

普通に爆破だけしてりゃよかった。


えっ?どうして最初からそうしなかったかって?




詳しくは映画で


【本質はただの逆恨みです】


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天空の難破船 【前編】

怪盗キッドを捕えるために仕掛けられた世界最大の飛行船
逃げ場のない大空を舞台に生き残りをかけた頭脳戦が今始まる



≪これからあなたが目撃するものは、それを見た瞬間、身の毛のよだつような恐怖の疼きを味わわせることでしょう≫

 

 

 

私は仏像強奪を目的に藤岡隆道に雇われた元・漆職人の傭兵。

部隊名はその名も『赤いシャムネコじゃないほう』

 

目的は仏像強奪・・・

えっ? プライドを傷つけられたことはないかって?

別に。

にわかオタクに恨み?家から富士山見える?父の仇?義経になりたい?血は怖くない?もう一人の自分いない?

別にありません。

 

そうです。大義名分の無いただの営利目的の犯行。

もし信念のある動機があれば

“あんな事”は起こらなかったのかもしれませんね。

 

 

 

 

 

あれは8月7日

やたらと事件に縁のある西多摩市にある『国立東京微生物研究所』を我々は襲撃し、殺人バクテリアを強奪。

・・・・したはずでした。

ところが不可解な事に、家に帰ったところ、なんとバクテリアが全て死滅していたのです。

(えっ?爆破の熱で死滅したって?爆弾加減苦手なんじゃないかって?よく分かりません)

 

こんなもの、我々に襲い掛かる恐怖の序章にすきません。

 

 

 

その後、雇用主の藤岡は「強奪した事実があれば演出は十分」と、犯行声明をインターネットに流し、バイオテロ不安を世間に煽っていました。

 

 

 

 

それがまさか“あんなこと”になるなんて・・・

 

 

 

 

 

 

 

8月14日。ハイジャック当日。

標的は東京発大阪行の飛行船「ベルツリーⅠ世号」。

ハイジャック班・潜伏班・仏像窃盗班に分かれ、我々は行動を開始しました。

潜伏班が漆かぶれを利用してバクテリアの感染蔓延を装い、ハイジャック班は天井ハッチから侵入。

この飛行船には怪盗キッドが狙う宝石があるそうで、恐ろしいセキュリティが待ち構えていそうですが、そこは我々プロの仕事。難なく潜入を成功させました。

(そもそも藤岡、何故わざわざイバラの道をチョイスしたんでしょう?普通に小型の飛行機でもハイジャックすればいいのに。船内に警察いましたよ)

 

我々は爆弾仕掛け、

「この船内に爆弾を仕掛けた。大人しく言う事を聞けば、爆破したりしない」

と教え、ダイニングに全乗務員を集めてハイジャック完了。

携帯電話を回収し、殺人バクテリア搭載を警察に警告、ネットに拡散することで、全ての準備が完了しました。

 

簡潔に言いましたが、実際はやることが多い。

けど、人数がいるから大丈夫。やはり人手ですよ、犯罪は。

 

 

 

 

と、自分たちの豊富な軍事力を過信していた時・・・

 

「これはただの蕁麻疹だ!」

予定にない感染者(じゃないほう)パニック発生。藤岡がジャック前に仕掛けておくと言っていたものが今さら再発。仕事が雑なんだよあの人。

 

「ねぇそう言えば子供たちが居ないんじゃない?」

雇い主の藤岡の直属の部下、西谷かすみがそれとなく告げた情報、ここにいない子供がいるのだと。

今さら。

本当に今さら。

藤岡んトコ、仕事が遅い。

 

しかもその子供、通信機でこちらの状況を聞きながら、爆弾を解体していた。

とんだブルース・ウィリスだよ。

 

 

 

結局、子供4人組はすぐに確保。

主犯のいい度胸な眼鏡坊主は、リーダーが躊躇なく掴み上げて制裁を・・・

加えると思いきや、窓から放り投げた。

残酷にも程がある行為を平然とやってのけるリーダーに、私は戦慄を覚えた。

 

 

 

その時!

 

 

 

「キッド!?」

 

確保していたはずの乗務員が窓から飛び降りたかと思うと、眼鏡坊主に抱きついて、その服を脱ぎ捨て、怪盗キッドに変貌したのだ。

つまり我々、キッドに完全に背後とられていたのです。

その事に気付いた瞬間ゾワゾワと、何とも言えない悪寒が、這う虫のように我々の背を襲いました。

 

 

 

 

 

それからしばらく、まるで嵐過ぎ去った後のように、平和な時が流れました。

外も夕焼けに染まり、目的地の奈良に近付いた頃。近づいてきた警察のヘリもスカイデッキから追い払い、パニック用の発煙筒も上げることができ・・・

 

しかしその時!

新たな感染者(じゃないほう)が!

 

女の子でしたが、この子は非常に大人しく神妙で全くパニックは起こることなく。

喫煙室に連行するのは私の役目。楽な仕事で・・・

 

 

「うわぁあああ助けてくれ!」

感染者(じゃないほう)がホラー映画のように突然、喫煙室から飛び出して私に掴みかかってきたのです。

「離せ!」と突き飛ばして片付けましたが・・・心臓に悪い。

『酸素が欲しい、手に汗もかいた』

私はすぐにマスクを脱いで、手袋を脱いで。ダイニングに戻りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

お分かりだろうか?

 

 

私が通り過ぎた通路の

 

誰もいないはずの部屋の扉が

 

ゆっくりと閉まったことを。

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、奈良の上空に差し掛かった頃

 

 

ガタンッ

 

 

天井から何か音がしました。

 

 

=この音が恐怖の序章に過ぎなかったことをこの時ハイジャック犯の誰もが知る由も無かった=

 

 

リーダーの命令で船内を捜索していると、真っ暗な空間のコンテナの前に・・・

子供の死体が転がっていました。

 

怖いなぁ怖いなぁ

と、私は身を強張らせながら、ゆっくりとその死体の元へ。

 

「おい」

声を出さなきゃ怖くてやってられません。

死体を転がして、それが何なのか確認しようとした・・・その時!

 

 

 

 

死体の目がニヤリと開きました。

 

 

「お前!?」

見覚えのある顔。そう、それは窓から突き落としたはずの、ここにいるはずのない眼鏡坊主だったので・・・す・・・

 

驚き恐怖に引きつる私の顔に、チクッと何かが刺さりました。

そこから、私の意識は闇の中へと消えていきました。

これ以上は・・・何があったのか・・・私にはわかりません。

 



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天空の難破船 【後編】

次々と消えていく仲間
消えたはずの少年の不気味な笑い声に
天空の幽霊船は恐怖の渦に包まれていた


男は、通信の途絶えた仲間の捜索に、一人飛行船の中を歩いていた。

飛行船と言えば聞こえはいいが、ここは逃げ場のない上空数千mの鉄の籠

豪華ホテルのような装飾の船内は、ハイジャックにより無人となった今、むしろ不気味な静けさに恐怖を駆り立てさせていた。

 

そして辿り着いた暗闇の中、男が見たものは横たわる仲間の姿。

 

死・・・その一文字が彼の脳を駆けた。

「おい、どうした。おい」

人騒がせにも、仲間は眠っているだけのようだ。

だが、なぜこんな状況で、こんな所で?

 

 

その時、彼の真横にスーっと、何か紐のようなものが頭上から降りてきた。

 

言い知れぬ魅力に惹かれるまま、男はその紐を掴んだ。

 

ギュン!

軽く掴んだはずであった。

手が離れない。

紐に引っ張られ、男の巨体は一気に床を離れ、天井に向けて急上昇した。

 

『マズイ!離れてくれ!』

その拙な願いが脳からようやく手足に届き、彼がその手を放した瞬間。

彼の体は4mほどの高さから落ち、背中から叩きつけられ・・

 

 

 

 

 

「キャットBなら屋根の上でノビちゃってるよ。おかしいねぇ、ネコは背中から落ちたりしないのに」

ハイジャックにより占拠されたダイニングに響く、空の彼方へと消えたハズの少年の不気味な笑い声。

その声が語る真実。

キャットBは、少年に突き落とされたのだ。

その外道行為を、少年はまるで勝ち誇ったように語っていた。

(そしてその報告に人質となっている子供は歓喜を上げていた。この国の教育現場の崩壊を象徴するような現場に、テロリストたちは戦慄を覚えた)

 

 

 

射殺許可が下りた。

男達は走った。そして目の当たりにしたものは、恐ろしい心霊現象。

 

 

1人の男は暗闇の中で少年を発見した。

スケボーに乗り、闇の中へスーッと消えていく姿を。

足でキックして進むわけでもなく、推進力を得ていないはずのそのスケボーで疾走していくその姿に、男は疑うべきは自分の目か常識か、それすらも混乱の中に落としてしまった。

乱れ撃つ銃弾も全て通り抜け、少年の体はハシゴの“横”を“浮遊して”2階通路に上がっていった。

 

 

 

またある男は、誰もいないスカイデッキにいた。

宝石の展示される台座に登り、周囲を警戒していると、背後から子供の声がした。

 

「1と7」

 

不規則に数字を数えるその声は、淡々としていながらも、どこか楽しんでいるような、理解しがたい感情を含んでいた。

 

声に振り返った瞬間、男の意識は足元に急に現れた空間に落ち、暗闇の中に消えてしまった。

 

 

 

またある男は、エレベーターから降りる中、少年にマシンガンを放っていた。

戦場経験は語っていた。

マシンガンを避けることのできる生き物は決して存在しない。と。

だがその常識は、幽霊のような存在を前に空しく空を切っていた。

 

そして再びエレベーターを上りスカイデッキに降り立った男の脳裏に響く声。

『あれ~、おかしいぞ』

違和感が耳元で囁いた。それが自分の声なのか子供の声なのか、心の中で、脳の中でささやく声なのか・・・彼には判断がつかなかった。

 

確実に不可思議だと認識できることはただ1つ。

先程まで、視界にいたはずの仲間が消えていたのだ。

跡形もなく・・・まるで落とし穴にでも落ちたように・・・そんなものがこの天空の檻に存在するはずもないのに・・・

 

1つ確信できるものはある。混沌としたこの状況の根源たりうる少年が目の前にいることだ。

 

「動くな!そのまま手を上げろ」

少年に銃を突きつけ、男は警告した。

「手を突け!逆らうんじゃねぇ」

男に油断は無かった・・・はずだった。

その視界は突如、血のような赤に染まっていた。

ボクサーにグローブでストレートパンチを喰らったような衝撃が彼を襲い、そのまま彼の意識は煙のように、天空に浮かぶ雲の中へと消えていった。

 

 

そして、最初に幽霊と邂逅した男は、この時ようやくスカイデッキに辿り着き、少年の霊に銃弾を浴びせていた。

 

「あ!」

 

幽霊の声に思わず振り返った男に降り注いだのは、目の前が真っ白になる閃光と、体中を針刺しながら走る痺れ。

意識は動かない身体と共に、冬のような寒さに包まれ消えていった。

(それが身を凍らせるほどの霊気だったのか、はたまたオープンなスカイデッキが招き入れる上空数千mの凍える外気温だったのか・・・それは誰にもわからない)

 

 

こうしてキャットA~Eの全隊員を失ったリーダー。

銃を持った傭兵5人を、子供1人で撃退できるわけがない。何か言い知れぬ不安が心臓にまとわりつく中、彼もまたスカイデッキに姿を現した。

 

だが、その目の前に現れたのは、少年の姿と、その横で揺れる“白いクネクネとした”マントのような布。

『あレはダれダ・・・』

リーダーは一瞬正気を失いかけたが、よく見ればそれは怪盗キッド。怖れる事はない・・・そう感じた次の瞬間。

乱れ撃たれる銃弾の中、リーダーの顔面にサッカーボール状の鈍器が殴打されたのだ。

 

薄れゆく意識の中、少年は悪魔の笑みを浮かべながらリーダーの電話履歴を問い詰め、黙る彼に向かって殺人バクテリアを浴びせかけようと脅してきた。

その目にリーダーは戦慄した。

『なんだ、こいつの凍りつくような目は・・・平気で何人も殺してきたような・・・それか人間が死ぬところを見慣れてしまったような・・・

こ、こいつはいったい・・・』

 

そしてリーダーの意識もまた、仲間たちの意識・姿と共に、天空の闇の中へと消えていった。

 

 

 

≪一方その頃、地上では≫

 

仏像盗み放題という甘い幻想は脆くも打ち砕かれていた。

機械も使わず、4人の人力のみで、人の背丈ほどの仏像を盗むには限界があった。

『バカでしょ・・・・・・?』

雇い主のボスへの不満だけが噴出する中、彼らの前に突如、3人の子供が立ち塞がった。

 

「な~るほど、うまいこと考えたなぁ。飛行船使たバイオテロは陽動作戦」

薄暗闇の中でニヤニヤしながら、彼らを問い詰める子供たち。

しかも急に奈良県警の警部の名前クイズを出してきたのだ。

 

『聞いた事がある。旅人に謎かけをして、答えられなかった者の魂を喰らう妖怪がいると・・・・まさかコイツらが?』

 

「あの人ら、アホなんちゃう?」

「ホンマや。泥棒捕まえんのに、俺ら3人でくるわけないやん」

男達を煽る3妖怪がニヤリと笑うと突如、夕方だったはずの周囲は昼間のように閃光と明かりに包まれた。

 

そこから、彼らの意識は・・・奈良県警の鹿角剛士のお縄の中に囚われた。

 

 

 

 

 

 

≪「仕方ない。真打登場といくか」≫

 

俺の名前は藤岡隆道。

バイオテロハイジャック仏像強奪の首謀者・・・だが、坊主と怪盗キッドに台無しにされ、ただ今坊主をおびき出し中。

 

そして現れた坊主に計画を全てバラされ、儲けも台無しにされて踏んだり蹴ったり・・・そのお礼に海の藻屑と消えてもらうことにした。

 

 

そこから乱れ撃たれる俺の銃弾。

坊主の皮膚を次々と削っていく。

 

 

何かがオカシイ。

 

この夜空を飛ぶ飛行船の上、激しい強風の中で皮膚だけ狙ってじわじわ追い詰めることが出来るほど、おれの射撃テクは化け物級ではない。

 

なのにこの坊主の体には、一向に銃痕が残らず、ただ弾がかすめた程度の傷しかつかないのだ。

 

 

「あ!ポートタワーが見える。六甲の錨マークも。すごいすごい」

しかも坊主、ケロッとして立ち上がった。

何だこのモンスターは・・・

 

 

その時、アレは起こった。

 

ちょっと目を離したすきに巨大サッカーボールのお化けが出現したのだ。

ボールは橋に引っ掛かり、飛行船は縦に傾いていく。

 

落ちる!

 

踏ん張り負けた俺は、モンスターの真横を通り過ぎ、真っ逆さまに海に向けて落下していった。

海面まで100m以上。この高さから水面に叩きつけられた時に身体が受ける衝撃はコンクリートの地面に叩きつけられるものとほぼ同等かそれ以上・・・

 

こうして、死を覚悟した俺の意識は、暗闇の海の中に消えていった。

 

 

 

そして生きてました。

 

 

 

≪「ここからは私が話そう」傭兵部隊所属、元・漆職人≫

 

 

坊主に捕えられ、ダイニングに拘束されていた私達。

一発逆転の藤岡の2人の部下が大逆転。

かと思われたその時・・・彼らから発せられた言葉に、我々は死すら甘く感じられる恐怖を覚えた。

 

 

「飛行船と一緒に死んでもらう」

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイ、ひっくり返されました。

いえ、物理的にです。

こう、ゆっくりゴロンて感じで・・・

 

 

飛行船ごと垂直になったんです。

摩訶不思議な現象ですよ。

 

私達を見捨てた2人ですか?

もちろん、真横になった部屋で机やいすの下敷きになっていました。

スゴい音がしましたよ。グシャっていうかドチャっていうんですか。

重傷でしょう。間違いなく。

 

個人的には「ざまぁ」って叫びたかったですね。

 

 

 

その後で我々も、ハイジャック犯として逮捕されるっていう運命さえ待っていなければ。

 




こうして、謎は全て解かれた。

いや、謎は1つもありませんね。



ですが他人事ではありませんよ。

次は、アナタの身に起こるかもしれません。


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業火の向日葵 【前編】

ニューヨークのオークションで落札された名画『ひまわり』
突如現れた怪盗キッド
しかし。おかしい、いつものヤツの手口じゃない!?
キッド、お前は一体どうしちまったんだ!



私は絵画鑑定士の宮台なつみ。ゴッホのひまわりの大ファンよ。

私の目的はただ1つ。

 

『偽物の・ひまわり・絵画 をぶっ壊す』

 

御一緒に

 

『にせものの・ひまわり・かいが をぶっ壊す』

『Nisemonono・Himawari・Kaiga をぶっ壊す』

 

もちろん実現性を考えず、話題作りのためだけに言っているわけじゃないわ。むしろNHKは大好きよ。ゴッホの感動的ドキュメンタリー番組を放送してくれるのはNHKだけ。

 

そんなこだわりのある私には最近、酷い苦痛な出来事があるの。

それは、フランス・アルルの古民家で発見された2枚目のひまわり。

本物は戦時中に日本の芦屋で焼失したはず。しかもアルルには贋作が贈られたことがあるって情報もあるくらい。

偽物と言えば、5枚目のひまわりもそう。出所が不明でゴッホが弟テオに宛てた手紙にも記述ないし。

ってことはこの2枚のひまわり・・・絶対に偽物よ。私が言うんだから間違いない。

 

そんな偽ひまわりが、展覧会で他の本物5枚と一緒に、7枚揃って展示されるのよ。

信じられる?耐えられないわ。

こうなったらやることは1つね。みなさんご一緒に。

『偽物の・ひまわり・絵画 をぶっ壊す』

 

 

 

でもね、2枚目のひまわりは3億ドルで落札されて、いまや殿上人の世界の住人。偽物のくせに。

だから下々民には簡単には手出しできなくなっちゃったわ。

 

こうなったら、頼むしかないわ。

怪盗キッド様に!

 

都市伝説では、キッド様.comのサイトに音声メッセージを送れば、キッド様がその願いをかなえてくれるらしいの。

「二枚目と五枚目の<ひまわり>を盗んでほしい」

 

 

返事が無い。

 

駄目かぁ。やっぱ所詮は都市伝説。それともボイスチェンジャー使ったのがまずかったかしら?でもキッド様なら私の事くらい特定できると思うんだけど・・・

 

こうなったら仕方がないわ。私がヤル。

私が『偽物の・ひまわり・絵画 をぶっ壊す』

 

 

 

意外と楽かも。

落札した鈴木相談役がひまわり展覧会の成功の為にスペシャリストを集めていたんだけど、歴史・鑑定担当学芸員として私、あっさり潜入できたの。経歴とかサラっと調べられただけで楽々と。

7人のスペシャリストとして完璧な保存・輸送・セキュリティを。って名目で集められた七人の侍の1人・・・さっそくガバガバで不安だわ。

間違えた。私、壊したい側だからむしろ安心だわ。

 

 

そしてこの日、私は他の侍たちと記者会見に呼ばれたわ。

「左から、絵画の歴史及び鑑定を担当する宮台なつみ女史」

眩いフラッシュの中で華々しく紹介してもらう私。女史って・・・なんか響き良いわね。

 

と、私がそんな足元少しフワフワ感を味わっている所に・・・

キッド様!参上!

キッド様!

 

 

驚いたわ。すっごく驚いた。

さすが月下の奇術師。女の喜ばせ方を極めていらっしゃる!

まさか・・・私の為に・・・2枚目の偽物を盗みに来てくれた・・

 

 

わけじゃなかったわ。

キッド様、すぐに退散しちゃったの。

えええええええ!?ちょっキッ・・・えええええええ!?

どうやら私、キッド様の召喚に失敗したみたい。中途半端に召喚しちゃってたわ。

 

これは私の失態よ。警備が強化されちゃったり、変な探偵日本代表を名乗る工藤新一とかいう子供が出てきたり。そんな予定外の出来事も全部私のせい。キッド様のせいじゃないわ。

 

 

ここからは全部私の仕事。

第1の作戦『偽物を・飛行機・から 落っことす』

展覧会開催のために飛行機でひまわりを輸送するから、そこで2枚目をぶっ壊すの。

 

まずは整備士を買収して、飛行機の貨物室の外扉に爆弾を仕掛けさせる。

こうしておけば、あとは偽物ひまわりの固定用ベルトを外しておくだけで、偽物は勝手に飛行機から落っこちてくれるってわけ。

 

でもね、1つ懸念があるの。それは整備士の買収が成功するかどうか。

なんてったって世界トップクラスの財閥のプライベートジェットの整備士よ。仕事に誇りを持ってるハズ。

その魂を金で買うのは・・・私だったらいくら積まれたってお断り・・・

 

買ったわ。

金で頬叩いたらコロリよ。どうなってるの財閥のコンプライアンス。

勝ったわ。

と思ったけど・・・いざ飛行機に乗る時に機体を見てみたけど・・・思ってたより爆弾目立ってた。整備員の仕事雑!

 

幸運だったのは、そのことに誰も気付いてないってこと。ド派手な飛行機のボディのペイントのおかげかしら?それとも私が犯人だから、爆弾の方に意識が向いちゃってるだけかしら?

それにしても警備責任者のチャーリー警部まで気付かないなんて。ニューヨーク市警よねこの人。ニューヨークの治安が心配。

 

 

 

心配は取り越し苦労だったわ。何事も無く飛行機は出発。

あとは空港に着陸する前に、酔ったふりして席を立って、貨物室に潜入してベルトを外して。あとは爆発を待つだけ。

BOM!

気圧の影響で貨物室から次々と飛び出していく荷物!ひまわり!そして爆破で吹き飛んだ扉がエンジンにダイブ!

 

 

 

 

へ?

 

飛行機は制御不能で墜落の危機・・・マズイわ。完全に計算外。

お願い、機長様!私を助けて!

「キッド様!」

その時、墜落する機体の外を見ていた鈴木相談役の孫娘のお嬢様が叫んだわ。

そう、キッド様が現われたの。私を助けに・・・あれ?外に?

 

まさかのキッド様、目的はひまわりだったの。

何やってんのキッドの野郎!

 

幸い、祈りは通じて飛行機は不時着。私は怪我も無く無事よ。

そして空中に投げ出されたひまわり・・・子供が回収していたの。

ショック!

しかも聞けば、ひまわりはキッドが盗み出して、外に放置していたそうなの。

 

まさかキッド様・・・2枚目を壊そうとしてくれていたの?

野ざらしで日光の熱と紫外線照射。これで修復不可能な状態になれば、展覧会は中止になって私の目的達成。

 

 

キッド・・・

仕事が雑!何、ひまわりを日向ぼっこさせて終わりって。雑!

しかもひまわり、結局は煙で汚れただけで十分展示できるレベルじゃない。

 

まぁキッドが狙っていることで、他のひまわり所有者が貸し渋ってくれたことには少しは貢献してくれたみたいだけど。

そんな事で諦めるスーパー金持ちじゃないわ。

美術館の警備強化して信頼を取り戻す作戦に出たの。このままじゃ余計に手が出せない。

なんて思ったけど、そんな事で諦めるゴッホ様ファンじゃないわ私。

 

 

美術館の通路に向日葵の模型を配置して、その中に隠しカメラを設置したら?って提案したの。

これ、表向きはセキュリディ強化だけど、本当の目的は向日葵の模型に油を撒いておいて、通路を導火線に利用してやろうって作戦なわけよ。

偽物を一気に燃やせばいいじゃない。

その名も『偽物を・炎に包んで炭と・化す』作戦よ。

見てなさい偽物ども。今度こそ業火に包んであげるわ!

 




【だがこの時、なつみは気付いていなかった。この作戦は、本物の向日葵まで業火に包みかねないという盲点に】


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業火の向日葵 【中編】

偽物のひまわりを憎む宮台なつみは『偽物の・ひまわり・絵画 をぶっ壊す』をモットーに、次なる作戦『偽物を・炎に包んで炭と・化す』を目指して計画を進めていた。


私、思ったの。

昨日の空港でのキッドの・・・いえ、キッド様の失敗の件。

怒りのあまりうっかり罵っちゃったけど、よく考えたら私が余計な事をしたせいだったりするかもしれないのね。

爆破して不時着してなければ、ちゃんと盗み出して壊してくれていたはず。

『何でも・人のせいにするのはよくないわね・キッド様』

 

 

そんな反省を胸に参加した鈴木邸の会議室にて『日本に憧れたひまわり展』の作戦会議。

キッドは手段を選ばない人殺し!と主張するチャーリー警部と、飛行機爆破はキッド様の仕業とは限らない!って擁護する鈴木お嬢様とが、会議そっちのけで大喧嘩をはじめたわ。

「ならば聞かせてもらおう。キッド以外の誰が何のために飛行機を爆破したのかを」

すごくいたたまれない。

誰か、この状況を打破してくれないかしら?

 

 

 

そんな最中、鈴木相談役の元に電話がきたの。

それはキッド様からの新しいメッセージが、毛利探偵の元に届いたって情報。

あれ?・・・私、召喚した覚えないわ。

 

『今夜、ラ・ベルスーズの左(最初の模写)頂きに参ります』だって。

キッド様暴走のお知らせね。

5枚目盗もうとしてるの?2枚目放置して?仕事途中で投げ出さないでよ!

そりゃどっちも標的だけど、半端キッド様に暴走されると、両方の警戒レベルだけ上がって事態が悪化しちゃうのよ。キッド様、完全体になるまで動かないで!

 

しかも何この犯行メッセージ、意味分かり過ぎじゃない!

「ラ・ベルスーズの左、最初の模写」なんて、誰がどう考えたって5枚目のひまわりのこと。メッセージの謎が楽勝すぎる。半端キッド様確定ね。

(ちなみに相談役もお嬢様も、毛利探偵もみんなメッセージにピンときてないみたい。あら?こんなのひまわりファンなら常識レベルなのに)

 

 

 

その後、5枚目警護のために損保ジャパン日本興亜美術館に向かった私達7人の侍と相談役と警察の面々。

目的は犯行予告時刻の日没までにひまわりを安全な場所に移すこと。

そして私の目的は当然、この移送のチャンスに5枚目をぶっ壊すこと。

 

そこで、『偽物と・本物が入れ替わってる・かもしれない』作戦を考えたわ。

まず、「『ひまわり』は確かに受け取った」のキッドカードを作って、5枚目に貼るの。

そうすれば『本物は既に盗まれて、偽物とすり替えられた!?』ってなって、その調査の為に私の工房で調べましょうって話になるでしょ。

あとは煮るなり焼くなり好きにしていいってこと。ご馳走ね。

 

さぁ問題はいつキッドカードを貼るかってことだけど・・・

「なつみ、フタを運びましょう」

仲間の圭子の提案で、ひまわり移送用の箱のフタ運びの手伝い機会が来たわ。

これはチャンス!

私はさっそくフタの底に偽キッドカードを貼って、あとは誰かがカードに気付いてくれるのを待つだけ。

 

 

【その後、運送のスタッフがフタをひまわりに被せようとする】

 

・・・あれ?誰も気付かない?

ちょっと待って。普通はフタの裏とか警戒するでしょ?しないの確認!?フタの底に汚れとか付いてたら、ひまわりまで汚れるのよ!

ほんと仕事が雑!

 

仕方なく私はスマホを落としたフリをして、フタの近くまで蹴とばして、皆の視線をフタの底に向くようにしたわ。

おかげで偽カードはキッドキラーの子供に見つけてもらえたの。他の大人、鈍感すぎない?

でもそこからは予定通り。5枚目に偽物疑惑がかかって、上手い事私に鑑定依頼。

すぐに結論出したら不自然だから時間かけて「偽物であれば、非常に精巧に作られています。ここでは正確な鑑定は難しいですね」って曖昧に結論出せば、自然に私の工房に誘導。

 

 

とはならなかったわ。

「その必要はありませんよ、館長」と、いきなり警備員がしゃしゃり出てきたの。

出鼻挫かないでよ!って思った矢先、警備員がキッドカードを取り出したの。

この人キッド様!

キャーーーーー!!!!キッド様が、私を助けに!?

 

 

じゃなかったわ。

キッド様、この5枚目を本物と保証しちゃったの。

えええええええ!?キッド様!?

しかもキッド様、颯爽と部屋を壊して煙も起こして、私を縛って、ひまわりを盗んでいったの。

ヤメテ!予定にないことヤメテ!縛ってもらえて幸せ!ひまわり盗んでくれてヤッタァ!

と、一喜一憂していた私だけど、心の何処かに不安が残っていたわ。

 

『先ほど頂いた〈ひまわり〉を格安の百億円でお譲りします。二時間後、東都プラザホテル一四一二号室でお会いしましょう。お金は全て旧券でベッドの上にケースから出して置いといてね。無理なら取り引きしないよ♪ 怪盗キッド♥』

不安的中。

無茶な要求して5枚目を返すつもりが無いのはいいけど、このキッド様やっぱり半端キッド様。

百億円とか・・・子供の発想する額じゃない!

まぁそれはそれでいいんだけど。2時間で百億円とか絶対に無理だし。

 

無理じゃなかった。

 

鈴木財閥舐めてた私。

しかもアッサリ取引。

そして金に目がくらんだキッド様。

そして取引失敗。

 

何やってんだキッド様!いや、キッドのクソ野郎!

 

 

 

その後、ひまわりの貸し渋りも解消しちゃって7枚のひまわり展覧会が開催決定。

こうなったら仕方ないわ。

展覧会中止のために・・・主催者を・・・相談役を・・・殺すしかない!

私は可燃性液体のホスフィンを贈り物に偽装して、相談役に贈ったわ。キッドカードを添えて。会議中に届くようにしてね。

そうよ、キッドの野郎の仕業にしてやったわ。

その名も『日本経済も・崩壊させるかもしれない・キッドが放火』作戦よ。

 

 

 

そして会議中。キッドキラー含むお嬢様の知り合いの子供たちが乱入。

展覧会のチケットをおねだりしたのよ。相談役は快諾してチケットをプレゼントしていたわ。

 

私だけでしょうか?

このとんでもない状況にドン引きしているのは。

 

だって100人×30日の3000人限定の展覧会を7枚よ。

天文学的倍率を舐めてない?嵐のコンサートチケットですら楽勝に見えてくる入手難易度なのよ!

さすが財閥。金で頬を叩き慣れて、競争率の感覚がおかしいわ。

どうせ中止にさせる展覧会だからいいけど・・・

 

 

失敗したわ。

 



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業火の向日葵 【後編】

再三の妨害も叶わず、日本に憧れたひまわり展開催となってしまいショックMAXの私、宮台なつみ。
でもあきらめちゃ駄目。偽物のひまわりが本物と一緒に展示されるなんて我慢できない。死んだ方がマシ。
この気持ちがあれば、何度でも立ち上がれるわ。
『偽物・ひまわり・絵画 をぶっ壊す』



そして始まった展示会。

場所は郊外の湖のそばの鍾乳洞に作られた『レイクロック美術館』。

すっごくアクセスが悪いわ。

 

ちなみにこの美術館、ひまわりを守る設備がパーフェクトらしいの。

ひまわりに異常があれば、各種センサーが働いて即座に防火防水ケースに入る仕組みになっていて、脱出シューターで運ばれるの。

 

・・・・そうよ。私がキッドの仕業に見せかけて可燃性液体使ったから、炎と水への対策がめっちゃ強化されてるの。たぶん。

でもこの程度の対策なんて平気。私のひまわりに対する情熱の方が火力が上だから、平気なの!

 

 

 

そして始まった展示会。

私の『偽物を・炎に包んで炭と・化す』作戦の舞台。

(えっ?だいぶ前の話だから計画の詳細を私が忘れちゃってないかって?それは大丈夫。ちゃんとパソコンに「ひまわりを燃やすための計画書のデータ」をまとめてあるから)

 

100人のお客さんが次々と美術館に入ってきて、警備の私たちはキッド侵入を警戒したわ。荷物の持ち込みも金属探知も十分に管理。

ほんと、仕事が雑。

だって私、普通にホスフィン持ち込めたもの。内部への警戒ガバガバ。ありがたい話だけどね。

 

さて、あとは頃合いを見て警備のフリして、電気室で配電盤でも壊して、観客を避難させてる間に2枚目と5枚目を燃やせばいいだけ。

 

 

と思った矢先。奴が来た。

キッドカードよ。

頼むから、半端キッド。予定にない事しないで!

 

 

14=(11人+1人)+2人

15=(11人+1人)+2人+1人

 

って書いてあったの。

・・・・何コレ?

前々回はゴッホクイズ、前回はストレートな手紙だったのに。今回急になぞなぞ?

 

 

全然わからない。ひまわりの本数のこと?だけど人数って・・・

私が頭を抱えていると、仲間の1人、東が口を開いたわ。

「ゴッホがひまわりを十四本と認識していた場合、それはキリストの十二使徒とテオとゴーギャンを意味したのではないかという説がありましたよね」

それだ!

「『11人+1人』のところがキリストの十二使徒で『+2人』がテオとゴーギャンではないかという説です。これで合わせると十四人。そして、十五本と認識していた場合は、『+1人』のところにゴッホ自身という説があるんです」

私の口が勝手に語り始めたわ。

そんでもって私、背中で冷や汗ダラダラ流したわ。

 

 

だってこれ、キリスト12使徒が11人+1人ってことは、絶対ユダのこと。つまり裏切り者のこと。つまり私の事をキッドが指摘してるってことよ。

まずい・・・意外と超ストレートなメッセージ。

こんなことに気付かれたら、私たちに対する警戒レベルまで上がっちゃうじゃない。

 

「だがなぜ急にキリストの十二使徒が出てくんだ?」

「問題はこの数式が何を意味しているかだ」

「なぜキッド様はこんなわかりづらい予告状にしたのかしら」

「それ以前に、あのキッドカードって本当に予告状なのかしら?」

みんな鈍感だったわ。良かった。

普通、十二使徒っていったらユダじゃない?ユダネタ、有名だと思ってたけど、私の地域だけ?バレないのはそれはそれでありがたいけど、なんだか少し寂しいわ。

 

 

 

 

その後、キッド出現したから打ち合わせ通りに展示会は中止で観客の避難開始。

これでひとまず今日は偽物が本物に並んで展示されることだけは防げたわね。

よし、作戦始動よ。電気制御室にGO!

 

「クソォ!待てえキッド!!」

 

電気制御室で騒ぎがあったわ。

私が入る直前にチャーリー警部がキッドを見つけて追いかけて行ったみたいなの。

危うく鉢合わせするところだったわ。

 

でもこれで邪魔者はいなくなった。配電盤に放火!

熱っ!

でも無事に美術館は停電したわ。

さぁ、あとは2枚目と5枚目を燃やすだけ。

 

 

まずは直接、偽物に火をつけ・・・ることは、見回りに来たチャーリー警部のせいで失敗したわ。なんて抜け目ないヤツ。

仕方なく、次の偽物の所へ向かっていると、私の所に通信が来たわ。

「七人の侍の再調査で怪しい人物が浮かび上がってきたんだ」

それは日本の警察、キッド専任捜査官の中森警部から。

 

 

 

 

終わった・・・

さすが日本の警察。私達7人を怪しんで、私の事を特定したみたいね。

 

こうして、謎は全て解かれ

なかったわ。だって中森警部、もったいぶらずにすぐに教えてくれたもの。怪しい人物の双子の兄がフランス・アルルで亡くなったって、私に無関係な話を。

 

警察が睨んだ怪しい人物は東だったわ。

 

 

 

誰だっけ?

あっ、影薄いから忘れてた。そう、今日のキッドカードの謎の解説をした彼!

 

東の話によると戦時中、彼のおじいちゃんが芦屋で5枚目のひまわりを守って死んで、使用人が贋作に見せかけてアルルに逃がしたんですって。

(あれ?どこかで聞いた話な気がするけど・・・まぁいっか)

そして近年、ようやく彼とお兄さんがひまわりを発見したそうなの。でもお兄さん、ひまわりはアルルの地で散るべき理論を持ったとんでもないクレイジーな思い込み人間だったみたい。

そしてその喧嘩中に銃が暴発して兄死亡って経緯があったらしいの。

 

まぁ私には関係ない話ね。皆が話に夢中になってる間に、さっさと当初の計画通りにチューブ通路に火をつけて美術館ごと燃やしちゃいましょう。

ファイヤー!

火は瞬く間に通路を燃え広がったわ。想定外のスピードで。死ぬかと思った。

 

 

「オイッ!ひまわりが燃えてるぞ!!」

火に気付いた東が叫んだわ。私も乗らないと疑われちゃうから、「早く消して!」って叫んだわ。いや、消さないで!

無線越しに警備室でも必死な様子が窺えるわ。どうやら防災システムはダウンしているみたい。

停電だけでダウンする防衛システムって、どんだけ安いの使ってるのよ。ありがとう。

 

 

 

さぁ、ここからがショータイムよ。

7枚のひまわりが脱出シューターに格納されていくわけだけど、私の狙いは2と5だけ。

そこで私はあらかじめ、装置にピアノ線で展示エリアのポールを結び付けておいたの。

こうすれば、シューターが作動すると勝手に引っ張られて、絵画がひっかかって脱出を邪魔できるの。

そして私は普通にエレベーターで脱出。

 

 

パーフェクト♪

 

あとは緊急脱出用保管庫で本物5枚を回収するだけ。

「6枚しかない!」

『6枚もある!?』

そこで見た衝撃の光景・・・それは2枚目のひまわりだけ不在で、5枚目がしっかり無事に残ってるという現状だったわ。

でも、とりあえず7枚揃う事が無くなったわけだから、展覧会はこれ以上は中止ね。私の勝利!

それ以前に美術館が崩壊し始めているから、どのみち中止。

というか、放火だけで崩壊するって、どんだけ脆い美術館よ。

 

 

 

なんて胸をなでおろしていると突然、無線に通信が入ったわ。

それは空港でいつの間にか消えていた工藤新一からの通信だったわ。

『あなたは初めから、二枚の〈ひまわり〉を破壊することが目的だった』

 

 

 

 

 

 

えええええええ!?嘘、いつの間にバレてたの!?

 

 

そこから咲き乱れない推理。

 

言い間違いじゃないわ。推理、咲き乱れてないの。

キッドの犯行に見せかけた方法を全て言い当てられたわ。それはもう、私の行動をずっとストーカーみたいに監視していないと当てられないほど正確に。

まぁ想像の範囲で言えるような内容だけだったけど、怖いわ。

 

しかも肝心の動機部分、私が2枚を狙う理由はわからないとほざいたの。

とんだ推理ショーね。

一番自信持っていそうな部分も、チューブ通路にひまわりを設置しようと、私が言い出したってところだけ。

曖昧なことで人を犯人扱い。まぁ犯人なんだけど。

ほんと、仕事が雑!

 

そうして私がしらばっくれていると、工藤新一は呆れるようにため息をついたわ。

「そうですか。本当はあなたに自首してもらいたかったんですが。もっと確かな証拠が必要なら、後でお見せしますよ。あなたのパソコンのデータ ── 二枚の〈ひまわり〉を破壊するための全計画書をね」

証拠あるんかい!

 

言い逃れ絶対不可の決定的すぎる証拠を突きつけられたわ。

仕事、全然雑じゃなかったわ。

 

 

 

 

そして2枚目のひまわり、無事でした。

 

 

 

 

こうして、謎は全て解かれた。

 

 

 

でもどうせなら、最初から決定的な証拠を出して欲しかったわ。弱い推測だけ話して、ちょっとでも私に「これなら言い逃れできそう」なんて期待を持たせずに。

 

 

しかも最後の最後

『死んだほうがマシだと言っておきながら、飛行機の爆発を着陸直前にしたり、今回の火災も自分が逃げ出せる場所と時間を計算して発火させた』

『本当に死を覚悟した計画なら、なぜ美術館に残ってキッドの消火を妨害しなかった!?あんたは所詮、自分に都合のいいようにしか考えることのできない犯罪者だ。決して学芸員なんかじゃない!』 

でオーバーキル罵倒。

 

 

この男・・・工藤新一、真性のドSね。女を泣かせるタイプよ。間違いないわ。

未来のお嫁さん、気を付けてね。

まぁそもそも、そんな犠牲者が出ない事を、私は祈ってるわ。

 




それにしてもなんで私ばかりこんな目に?不公平じゃない。
犯人を辱めて、トリックを馬鹿にして、自分たちだけ安全圏で。

恨むわ作者に読者。
悔しいから最後に、
ノックアウトされた・犯人を・傷つける今作を ぶっこわしてやるわ















「今作は、次の事件でグランドフィナーレにします」





言ってやったわ。ざまぁみなさい。
もう取り返しつかないわよ。
ゴッホ様みたいに、短い期間にその命の炎を燃やし尽くすの。
引導を渡してあげたんだから、むしろ感謝してほしいわ。


というわけで読者の皆さん、最終回をお楽しみに

最終回は豪華な話になるらしいわよ。業火だけに。


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犯人たちの鎮魂歌 【番外編】

決して交わることのない時の中で、彼らは同じ舞台に立ち、各々の苦難の中で、同じ敵と戦い、そして敗れ去っていった。
彼らは決して主役ではなかった。主役の座を与えられたところで、辱められるだけ。そんな存在だった彼らに、今ようやく互いの傷を舐め合う機会が与えられた。
今宵、彼らは集結する!



「爆弾、スケボー、クイズ。歴史の定番は私が作った。シンメトリー戦士・モリアーティG」

「爆発、水、ボウガン、刃物、人呼んで犯人界のクウガ。スーパーソムリエール・8」

「死者の声を聴いた事がありますか?右目キラー・蠍」

「宗教上の理由じゃないが、ブタは食べない。BuriBuri」

「犯人以外がほとんど主犯。ワシは帰らせてもらうぞ。如月峰水」

「年代的に言えば私はジャック・ザ・リッパーの孫世代デース。IT業界の帝王・トム」

「小さい子も見ているから、残虐表現は規制します。放送倫理の申し子・弁慶」

「歴代最多犯人は俺達だ。赤いシャムネコじゃないほう、傭兵団キャッツ」

「パートナー選びは慎重に。人生においても、殺人においてもね。秋吉」

「この小説は私が終わらせた。宮台なつみの登場だ!」

 

 

 

 

顔を合わせたるは錚々たるメンバー。

劇場版を彩ってきたもう1人の主役たち。

我の強い彼らが集められた理由はただ1つ。

それは自らの罪を悔い改めるため・・・

 

 

 

8「そんなつもりはありませんよね?皆さん」

 

蠍「各々が謎を全て解かれて、今作で散々辱められているわけだし」

 

G「そういうことだ。つまり私たちがやりたいことは全く違う。そう」

 

 

 

最強犯人決定戦である

 

 

 

 

猫「となれば話は早い。傭兵部隊に勝てる一般市民がいるとでも思ったか?我々は頭数だけで諸君らより多いのだが」

 

G「フィジカル自慢がしたいなら、私のいないところでやるべきだな。数百キロの爆弾を一晩で環状線とビルに仕掛けることができてからな」

 

トム「仕事を貰って雇用される側が何を言っているんデスか?社会的地位で私に勝てる者がいたら出てきてくだサーイ」

 

弁「大事な事を忘れていませんか?俺達は犯人。つまり殺害人数で語らないと」

 

蠍「国際指名手配を舐めないことね。作中で語られていない殺害人数はきっと私が最多。いえ、ラス様の分を入れたらもっと・・・」

 

 

 

議論が白熱する中、只一人静かに退室しようとする者がいた。

 

如月「くだらぬ。ワシは帰らせてもらう。見送りは結構!」

 

踵を返した如月であったが、その腕を掴み引き止める弁慶。そんな彼が差し出したスマホ画面に、如月は足を止め、2人は部屋の隅でコソコソと何かを語り合いはじめたようだ。

 

 

 

 

なつみ「それより皆、大事な数字があるわ。44億。そう、私の映画の興行収入よ。この中の誰が私に勝てるかしら?いないわよねぇ。何なら左右対称さんの4倍なのよ」

 

秋「それ言い出したら、ここにはいない人が93億叩きだしたわ。そもそもあの数字は怪盗キッドの功績であって貴女じゃ・・・」

 

なつみがキッと秋吉を睨み付ける横で、風戸だけがフンと鼻を鳴らし「せいぜい雑魚共がピーチク喚いていれば良い。世界最強のこの私の次に最強な犯人になれればさぞ幸せなことだろう」と言い放ったが、その場にいた誰もが無視するのは定番であった。

 

 

 

 

8「まぁ皆様、落ち着いてください。皆様が様々な犯罪を起こした素晴らしい犯人たちであることは大変よく理解できました。ですが誰もが探偵によって最後には謎を解かれてしまっているのです。そこには探偵の推理や運、行動力や周囲の協力の違いがあり、十人十色の境遇があり、そこに優劣をつけることは難しいのではないでしょうか?」

 

猫「たしかに一理あるな。我々の戦場でも、活躍の場が違う様々な兵器の、どれが優れているとは一概には言い切れない。ジャンケンで例えるなら、我々にはグーのような犯人もいれば、チョキのような、パーのような犯人がいる。グーが必ずチョキより優れているとは言い切れないものだ」

 

沢木とキャッツの言葉に、犯人たちは静かにうなずき、むしろ互いの健闘を讃え合おうという雰囲気が生まれ始めた。

 

 

 

 

秋「そういえば、皆はどんな探偵が強いなぁって思った?私は断然、毛利小五郎ね。カッコいいし強いし頭も切れるし。私、手も足も出なかったわ。手は出したけどね」

 

 

この秋吉の発言に、その場にいた犯人たちから小さな苦笑が巻き起こった。

 

 

トム「えっ、あんなポンコツに負けたのデスか?」

 

 

唯一、彼女の味方についたのは沢木だけであった。

 

 

8「えっ、ちょっと皆さん。毛利小五郎ですよ?あの名探偵の」

 

猫「いやいや、そりゃ弱くはないが・・・我々としてはむしろ眼鏡の坊主のほうが恐ろしいぞ。あと怪盗キッド」

 

蠍「馬鹿ねぇ、コナンくんに勝てるわけないじゃない。最強の小学生よ。あと怪盗キッド?あんな雑魚、私が楽々撃ち落としてやったわ」

 

なつみ「コナンくん・・・って子はよく知らないけど、キッドはたしかに弱いわね。あと仕事が雑」

 

ぶり「コナン?あぁ、あのちょこまか小僧か。所詮は小学生。この世界最強の私があと50cm腕を振り下ろせていれば、空手JKの邪魔さえ無ければ殺せたさ。何故なら私はレディに手をあげないジェントルマン」

 

 

鼻を鳴らした風戸であったが、その横顔を青蘭が「お前の右目を撃ってやろうか」と睨み付けていたことには気付いていなかった。

 

 

G「コナン、あぁ工藤新一の使い走りの。私が病院送りにしてやった」

 

 

鼻で笑う森谷であったが、その横顔を青蘭が「お前は両目潰してシンメトリーにしてやろうか」と睨み付けていたことには気付いていなかった。

 

 

 

 

G「今までの話を総合すると、どうやら最強は私のようだな。ドクター風戸が敗れたという毛利蘭も、私が爆弾で爆殺できたかもしれないのだから。まぁ工藤新一には勝てなかったが・・・奴を倒せる犯人こそ、最強に違いない」

 

森谷が胸を張って高笑いしていると、部屋の隅で如月と共にスマホを弄っていた西条がふと顔を上げた。

 

弁「えっ、工藤新一って・・・ひょっとして服部平次と友達の?俺、ちょっと戦いましたけどアイツすぐに尻尾巻いて逃げていきましたよ」

 

 

 

この時、犯人たちに衝撃が走った。

 

急転直下の森谷は一瞬その顔を強張らせたが、何か憑き物が落ちたように表情を晴れさせ、西条に握手を求めた。

 

G「キミこそがNo1だ。おめでとう、最強の犯人よ」

 

弁「えっ?それはどうも・・・でも、俺も所詮は西の高校生探偵の服部平次に負けた犯人ですから」

 

8「では決まりですね。服部平次を倒した犯人こそ、最強の犯人と。そしてあなたはそれまでの暫定最強犯人です。おめでとうございます西条大河さん」

 

犯人たちから拍手を贈られ、なつみから“ひまわり”の花束を受け取り、西条は恥ずかしがりながら静かに頭を下げて、歓声に応えた。

 

 

 

 

 

8「では皆さん、そろそろお開きの時間です。西條さんにシメていただき、最後は声を揃えて、我々も憧れる“あの台詞”を言いましょう!」

 

沢木の仕切りに応え、犯人たちは整列した。

 

 

弁「短い期間ではありましたが、【劇場版名探偵コナンの犯人たちの事件簿】を読んでいただき、読者の皆様ありがとうございました

 

 

 

 

 

 

 

次回、最終回の事件をお楽しみに!」

 

 

 

 

 

犯人一同「「Next Conan‛s HINT 【孫】」」

 

ええ。次の事件で最終回と言いました。今回は事件ではありません。

 

 

 

次回 おたのしみにね

 



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ゲーム版 編
めぐりあう2人の名探偵 =第1章= 【前編】


※ 注意 ※

今作は劇場版ではなく、ゲーム版の名探偵コナンの事件になります。

また“トリックの都合上”、“別作品”から“世界観を壊さない程度”の特別ゲストに登場してもらう『クロスオーバー展開』となっております。
(クロスオーバーの程度としては、【ベイカー街の亡霊】や【瞳の中の暗殺者】程度だと想定していただければ十分です)


あらかじめご了承ください。


私の名前は一之瀬恵子。初めましての方は初めまして。

 

私の故郷は双子島って呼ばれる、そっくりな2つの島のうちの1つ・夕闇島よ。

事件の発端は25年前、夕闇島で金塊が発掘された出来事。

でも、もう1つの島の町長たち5人が金塊を奪うために、私の父を含む夕闇島の有力者5人を次々と殺害して、島民全員を炭鉱に生き埋めにした、

そして『自分たちの島のほうこそ、金塊が発掘された島・夕闇島だ』として、私たちの島を抹消したのよ。

辛うじて生き残った夕闇島民は、私を含めて5人の子供だけ。

 

 

そう、私たちは復讐者。

家族や友達、町の人達、そして島の存在すらも奪って行った奴らに復讐をするため。

25年かけて準備した復讐を果たすための5人の仲間、それが私達よ。

 

 

 

時は来た。

 

私の役割は、復讐すべき有力者5人を復讐の舞台まで拉致すること。

そのために仲間の1人・鳥羽美佐と一緒に島の土産物店に従業員として潜伏しているわ。

ちなみに美佐は本名のまま。私は殺された父と同じ『一之瀬』って苗字じゃバレちゃうかもしれないから、『浜田涼子』って偽名を名乗ってね。

もちろん他のメンバーも偽名を名乗ったり、あとは復讐の舞台である本当の夕闇島の方でスタンバイしているわ。

 

準備の準備は整ったわ。

25年もかけて練り上げたトリックもある。復讐が失敗することなんてない・・・

 

 

 

名探偵や刑事でも現れない限り・・・ね

 

 

 

 

 

早速アクシデントよ。

美佐、どうやら復讐に反対しているみたいなの。

そりゃそうよね。この子は生き残りのうちの1人の娘さん、双子の妹の方なんだけど、事情があって一般家庭で育ってきたから、復讐のモチベーションが私達の中で一番弱い。

 

 

そしてついにその日が来たわ。

3日後に第1の復讐を決行するぞ!って日に、美佐が姿を消したの。

『復讐したところで得られるのはその一瞬の満足だけ。その後に残るのは虚しさだけ』ってド正論言っていた彼女が。

これ確実に私たちの復讐の邪魔をするつもりよ。

 

この暴挙を仲間の1人『裏切り者は許さないマン』が怒ってね、「美佐を殺さないと、代わりにお前を殺す」って私に命令してきたの。

どういう矛先の向き方?イライラするのは分かるけど、とんだ責任転嫁よ。

 

ということもあって、私は必死に美佐の行方を捜したわ。

 

 

 

 

 

【3日後】

 

 

 

全然見つからない。最悪。

誘拐と並行して捜索と、いざ美佐を見つけた時の殺害トリックの準備とか無理ゲー。

とりあえず今日は復讐標的の1人・火野隼人を誘拐して夕闇島に運んで、あとは美佐の捜索に戻る“だけ”のハードスケジュールをこなしたの。

 

 

 

そんな中、土産物店にいた時に店長がお客さんと話しているのが聴こえてきたわ。

“ハジメちゃん”とか聞こえてきたの。天才バカボン一家でも来ているのかしら?

お店に顔を出してみると、そこには若い男女とスーツ姿のおじさんがいたわ。

 

女の子のほうは可愛いけど、男の子のほうは眉毛太いし髪の毛束ねてて少しマヌケ面ね。

観光客のカップルかしら?それとも兄妹とお父さん?

 

 

 

話を聞いてみると、どうやらカップルは中学校の頃の同級生である美佐から『島を恐ろしい事件から救ってほしい』って手紙を貰って来たそうなの。

あいつ・・・余計な事を。

 

で、店長が「美佐は行方不明」って教えてあげたらしいんだけど、そうしたら3人は「美佐を探す」って言い出したらしいのね。

私としてもありがたい話だけど、私や島民が3日かけて島中探して見つからないんだから、はっきり言って戦力外・・・

すると女の子が胸を張って自慢げにこう言ったの。

 

 

「こう見えて剣持さんは警視庁の刑事さんなんですよ」

 

いるのかよ!刑事いるのかよ!

この島、警官は爺ちゃん警官のシゲさんだけだから安心してたけど、復讐当日にとんだサプライズゲストよ!

祈るしかないわ。この刑事がポンコツであることを祈るしかない。

 

 

でも、そんな私の祈りを無視して、女の子は続けたわ。

 

 

 

「それに、このスケベで、どんくさいところもある、はじめちゃんですけど、実は名探偵、金田一耕助の孫だったりするんです」

 

 

 

 

 

なんでよ!

なんで名探偵の孫と刑事の最強コンビが、こんな時に限って・・・。

ただでさえ美佐捜索と復讐と責任転嫁の殺害予告の掛け持ちで綱渡り中なのに。

美佐のせいよねコレ。殺意覚えるわよ、いい加減。

 

 

湧き上がる憤怒と忍び寄る絶望が私の心に飛来したわ。

でもその時、一筋の光明みたいなのが心に差しこむように、何かの幻影が私にささやいたわ。

 

『孫。確かに祖父は名探偵。しかしヤツは孫、2親等』

って。

心の幻影さんの言う通り、推理力が隔世遺伝するわけじゃないんだし、心配しなくていいわ。きっと。

それによく考えたら、こっちは犯人5人組。負けるわけないじゃない。

 

いけるかも。

 

もう1組、名探偵と刑事でも現れない限り・・・ね。

 

 

 

 

 

そしてその夜・・・ついにその時は訪れたわ。

祝・美佐発見!

会いたかったわ美佐。殺したいほどにね。

だけどすぐには殺さない・・・・ってこの台詞だと、まるで苦しめて殺すサディストみたいだけど、私の場合は事情が違うわ。

なんせ今この島には刑事と名探偵の孫がいる。慎重にトリックを使って殺さないと、私が疑われて復讐に支障をきたしちゃう。

 

 

トリックはこうよ。

まず舞台は島の外れの灯台。

そこに美佐を呼び出して、灯台の上から岩をスローインして殺すの。

こうすれば美佐が灯台から投身自殺したように見えるでしょ?

もし他殺だとバレても、「まさか女が重たい岩で殺害なんてできないだろう」って盲点を突ける2重の防衛策。後で大男の犯行に見せかけるトリックも実施するわ。完璧ね。

 

 

さて、そうと決まれば灯台へGO!

まずは暗闇の中でも美佐を見つけられるように、店長から盗んでおいた光るアラーム腕時計を灯台の元に置いておいて。

次に上の展望スペースの手すりに滑車をかけて、ロープの端と端に岩とバケツを結び付けて、このバケツに展望スペースにある水道から水を入れればあら不思議。エレベーターみたいに重たい岩が持ちあがっていくではありませんか。

あとは岩を持ちあげて美佐を待つだけ・・・

 

 

『腕もげるほど重い!』

 

計算外だったわ。華奢な女が持ち上げられない凶器でチョイスしたから、岩が、手すりの下で、滑車のところで止まった、ロープにひっかけた岩が、重くて持ちあがらない!

 

このままじゃ『裏切り者は許さないマン』に私が殺される・・・負けてなるもんか!

『ナメんじゃないわよ。土産物販売員の筋力』

日々パンフレットの束やクッキーの箱、木刀やシルバーアクセサリーを持ち上げて鍛えた筋肉で、どうにか岩を持ち上げて、展望スペースのベンチに岩を置いたわ。

 

 

結局フィジカル

トリックって、最後はフィジカル

思い知らされたわ。

 

 

さぁ、あとは美佐が腕時計を取ったら、その光に目がけて岩を落として当てるだけ。

 

 

 

 

 

 

岩を・・・当てるだけ?

 

 

冷静に考えましょう。持ち上げるだけで精一杯のこの岩を?

灯台からピンポイントで投げ落とす?

それができたら最初から直に殺しとるわ!

 

 

ここにきて盲点が・・・トリックに体が追いつかない!

もう・・・駄目なの?

 

 

 

 

『諦めるな!』

 

 

その時、次元の壁を超えるような、不思議な声が私に届いたわ。

絶対に出会うことのない、監督の違う、媒体の違う、そんな場所から来たような男の人が、私の目の前に現われたの。

屈強なマッチョな男性が・・・

 

 

 

 

 

誰?

 

 

「あなたは誰?」

「俺の名前はケビン・ヨシノ。キミと敵を同じくする者。そして、“出ることができなかった”者さ」

混乱する私に優しく手を差し伸べたのは、画風の違う男・ケビンだった。

 

「俺は・・・いや“俺達”は、苦難を前にした犯人たちを助けるために召喚された。決して最終回だからトンデモ設定をぶちこんでやろうなんて魂胆の無い。いわばクロスオーバーの産物なのさ」

訳の分からない説明をする得体の知れないケビンだったけど、ようは私を助けてくれるらしいの。願ったり叶ったりよ。

 

 

するとケビンは爽やかな笑顔とマッチョボディで岩を軽々と持ち上げて、灯台の下で光るアラームを美佐が拾い上げたところに、スナイパーのように岩を投擲して美佐を殺してくれたの。

 

「ありがとう。ケビン・ヨシ・・・ノ・・・あれ?」

気付いた時、ケビンは消えていたわ。まるで最初からその場にいなかったみたいに。

不思議なこともあるものね。

 

 

だけど、私は立ち止まってなんかいられないわ。

 

 

 

 

次のトリックが私を待っている!

 




【この時、彼女は気付かなかった。彼女たち復讐者5人に迫る“トリック再現の困難”の数々に

しかし恐れる事はない。彼女たちには“強い味方”もまた、たくさん待っているのだ】


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めぐりあう2人の名探偵 =第1章= 【後編】

夕闇島。悲しい過去を持つこの島で今、新たな惨劇が始まろうとしている。


謎の協力者・ケビンの協力もあって、実現不可能と思われたトリックを乗り越え、裏切り者の美佐を殺すことに成功した私、一之瀬恵子。

 

 

次にやらなきゃいけないトリックは、先の犯行を『屈強な男』の犯行に見せかけるために、男の容疑者候補を用意すること。

目星はついているわ。美佐にストーカーしていた大男がいるの。トレードマークは変なセンスの黄色いコート。

ちなみにこのコート、土産物店がクリーニング屋さんもやっていて、今日たまたまお店でお預かり真っ最中だったの。

 

どう?濡れ衣着せたい日に濡れ衣用の衣服が私の手の届くところにあるのよ。

もう、「この男をスケープゴートにしてあげようよ」って、神様が微笑みかけているとしか思えないわ。

 

 

あとは、大きなマネキンに黄色いコートと帽子をかぶせて、私自身はあらかじめ用意しておいた美佐と同じ服に着替えて、埠頭の街灯の下で口論するフリをする。これを誰かに見てもらえばいいだけ。

こうすれば目撃情報から、『この大男が美佐との口論の末に殺害』ってストーリーが出来上がるって算段よ。完璧ね。

 

 

 

そして夜10時ごろ。

私は大男マネキンと口論・・・できない。

 

何このシュールすぎるシチュエーション。変な服装のマネキンに何分も話しかけ続けるとか。

何が悲しくて?何が面白くてこんな拷問を?演技なんてやってられないわ。

 

そもそも演劇部でも女優でもないの私。その辺の従業員にしておくには丁度いいレベルの演技力しか持ち合わせていないの。

駄目・・・鬼気迫る口喧嘩なんて・・・マネキン相手に・・・できない・・・

 

 

 

『諦めないで!』

 

 

その時、次元の壁を超えるような、不思議な声が私に届いたわ。

絶対に出会うことのない、監督の違う、媒体の違う、そんな場所から来たような女の人が、私の前に現われたの。

 

「私は酒井なつき。ハリウッドからも声がかかるヘアヘイクのプロよ」

また見知らぬ人が現われた。でもケビンに似たこの感覚。

まさか彼女も私の味方!?

 

「貴女もまさか、私を助けに来てくれたの?」

「そうよ。私は起こした事件が30分枠の程度のスケールだったから事件簿してもらえなかった恨みを晴らすために、同じ敵を持つ犯人たちを助けに来たのよ」

そう言うと酒井さんはマネキンにメイクを始めたわ。そして見る見るうちにマネキンののっぺらぼうに生気が宿っていって、まるで本物の口論したくなる男の顔が出来上がったの。

これなら自然に演技が出来そう!

 

「ヘアをメイクするだけの女にハリウッドは振り向かない。私は無からも感情の潮流を生み出せるのよ」

「ありがとう。酒井なつき!」

私の感謝の言葉が届いたのかはわからない。彼女はまるで最初からこの場にいなかったみたいに消えていたわ。

 

 

その後、私は釣り人に目撃してもらうまでマネキンと口論を続けて、全てのトリックを完了させたわ。

トリックに使った滑車やロープを店のゴミ捨て場に捨てて、マネキンも破棄して。

 

 

終わった。

今日は凄く疲れた。

店の自室に戻った私は、それからベッドに倒れ込むと泥のように眠ったわ。

 

 

 

 

 

【翌日】

 

店に昨日の女の子が“知らない子供たち”と来たわ。

どうやら名探偵の孫の金田一くんと刑事の剣持さんが神隠しにあったそうなの。

 

 

どゆこと?

 

 

考えられるのは昨日、美佐が2人を拉致していたって可能性ね。探偵と刑事がいたら誘拐の仕事しにくいから?でもあの2人を呼んだの美佐でしょ・・・理由が全然わからない。

でもまぁいいか。向こうには仲間が3人もいるし、島ごと完全な探偵・刑事アウェイな環境。いくら最強コンビでも何も出来ずに終わるはず。

 

 

 

それより気になるのは、今私の目の前にいる子供たちよ。

金田一くんや剣持さん、そして美佐を心配する大人たちを前に自信満々にこう言ったの。

「大丈夫だよ。今、ボクたちみんなで捜してるから」

眼鏡の子が子供らしくない不敵な笑みを浮かべて断言すると、そばかす顔の子も続けて自信満々に言ったわ。

「ボクたちは、少年探偵団です」

 

 

 

 

探偵・・・いるのかよ!

とは思わないわ。ホッとするドッキリ、むしろ大好物よ。

 

 

ひとこと言わせてもらえば、子供の遊びじゃないんですけどその神隠し。

でもその無邪気さが可愛い。癒やされる。

 

 

とりあえずその一生懸命な姿にエールを送りたくなったから、情報提供してあげたわ。

美佐のことや土産物店のこと。何故かこの子たちが知ってる“25年前の惨劇”については、知らないふりだけしておいたわ。

「じゃあがんばってね。小さな探偵さんたち」

 

 

 

その後、私は次の誘拐の準備をして店を離れたり、少年探偵団と再会したりして過ごしたわ。

それからしばらくして、灯台に呼ばれたの。

なんでも名探偵・毛利小五郎の推理ショーが始まるとか・・・・

 

 

 

 

 

 

WHAT!?

名・探・偵!?

 

せっかく刑事と探偵を追い出したところなのに・・・探偵多すぎない?探偵密度高すぎない?

 

 

だけど少し安心できたのがこの探偵、「ほへっ、ふにゃ~」とかポンコツっぽい雰囲気出してすぐに寝ちゃったの。

これなら問題なさそうね。

 

 

「出た!眠りの小五郎!」

何それ?

私だけキョトンとしていると、毛利小五郎は静かな声で言い放ったわ。

 

 

「彼女を殺害した犯人は・・・あなたですね。浜田涼子さん!」

 

 

 

 

 

 

 

誰?

 

 

って私だ!偽名だから一瞬気付かなかった。

 

 

 

マジ?

 

 

 

 

それから咲き乱れる毛利小五郎の名推理。誰よポンコツって言ったの。私だ。

提示した根拠はざっくりで半端な情報量のくせに、まるで横で見ていたみたいに全部的中させちゃうから怖いッたらありゃしない。

私、体の何処かに盗聴器でもつけられてないでしょうね?

 

 

 

 

こうして謎は全て解かれた。

 

 

 

 

でも復讐のことだけは語らなかったわ。

 

絶対に・・・仲間の為にも・・・

 

 

 

 

【そして翌日】

 

私の身柄はフェリーに乗せられて本土に移されることになったわ。

毛利小五郎一家や少年探偵団たちも一緒にね。

これはこの島の町長の差し金みたいよ。町長の秘書が毛利小五郎たちに退去命令を出しているの。

 

そりゃそうよね、この町長は25年前に夕闇島で大量殺戮を起こした大悪党。名探偵にうろちょろされたら困るから、町長権限で強制送還にしてやろうって魂胆みたい。

でもね町長、これで終わったと思ったら大間違いよ。あなたの本当の敵は探偵じゃない。私達5人の復讐者よ。

 

毛利小五郎たちは「まだ金田一と剣持が神隠し中だから探したい」って抵抗していたけど・・・もう時間よ。

私はフェリーに乗せられ、あとは毛利小五郎たちが乗り込むだけ・・・

 

 

あら?

 

 

 

その時、フェリーから“銀髪に眼鏡のイケメン”が颯爽と降りてきたわ。

そして金田一の彼女の子がそのイケメンと何やら話をしていると・・・なんと秘書の権限を上から叩き潰しちゃったわ。

このイケメン、警視庁の明智って警視らしいの。

 

まさか・・・これが噂に聞くキャリア波の持ち主!?

一瞬にして権力構造が入れ替わって、秘書は一瞥で一蹴されて、毛利小五郎たちの島残留が決定しちゃったわ。

 

 

最後に凄い物を見せてもらったわ。

 

 

でも、これが私の見た最期の光景。

 

 

 

BOOM!!!

 

 

 

私の乗ったフェリーが爆破されたの。

大爆発。

私も重傷を負って、海に投げ出されたわ。

とてもじゃないけど、子供には見せてあげられないほどの残酷描写で重傷よ。

 

 

犯人はもちろん『裏切り者は許さないマン』以外に考えられない。

何故に爆破?私が復讐の事を警察にゲロっちゃうとでも思ったの?

そんなことするわけないじゃない。

仲間を信じられなくなったら人間終わりって。人の命を大事にしなさいって。テレビでもよく言われている常識じゃない!

 

 

 

お願い、名探偵。

 

あのクソ野郎を・・・(復讐を全部終わったタイミングで)捕まえて・・・

 




あと、どうでもいいかもしれないけど。
次元を超える助っ人さん・・・一番の苦難の、命の危機に現われてくれないのは何故?

やっぱり自分たちの命が惜しいかしら?

それとも彼らは・・・トリックの神が遣わした使徒・・・なのかもしれないわね・・・


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めぐりあう2人の名探偵 =第2章= 【その1】

その島の謎を解けるのは、彼らしかいない。
夢のコラボ実現!


私は鳥羽美悠。

夕闇島の生き残り、鳥羽美鶴の娘で、美佐の双子の姉よ。美佐は向こうの島で拉致チーム。私は夕闇島で殺人チーム。(ココ、携帯が通じない島だけど、美佐もきっと向こうで頑張っているよね?)

 

さて私たちは、25年前に島と金塊と命を奪った5人の島の有力者に復讐するため、25年前のままの姿の夕闇島に1人ずつ拉致して、25年前の惨劇に見立てて殺していくつもり。

少しわかりにくいかもしれないけど、これには1つの狙いがあるの。

 

それは仇の5人に『25年前の夕闇島にタイムスリップして、自分たちの犯行と同じ手口で殺されていく』という恐怖を味わわせることよ。

流石に無人の島じゃタイムスリップ感が無いから、言うことを聞く人間を金で雇って『偽・夕闇島民』兼『目撃者』に仕立てておくスタンバイもしてね。

 

えっ?殺り方が陰湿だって?

大丈夫。視点をちょっと変えれば、ドッキリ番組みたいなものでしょ。

 

 

 

さて、私の役割は第1の殺人。

拉致してきた火野隼人にたっぷりと25年前“風”の島を堪能させてから、図書館で自殺に見せかけて殺すのよ。

 

なんて言っている間にホイホイ来たわ憎き火野。

「この島は何て名前の島なんだ?」って受付で聞いていたみたいだけど、夕闇島だって言われてすぐに顔を青ざめさせていたわ。相当恐怖を味わってくれているみたい。

ドッキリ大成功ね。

トドメに「似ているなんてもんじゃない。ここは夕闇島そのものだ。この島は25年前の夕闇島そのものだ!」って嬉しい悲鳴。

 

私は事務室に火野を案内して、島の資料を漁らせたわ。当然、見つかるのは25年前の情報ばかりだから、ますます25年前の世界に浸るだけ。

ようこそタイムスリップドッキリの世界へ。

そして頃合いを見て睡眠薬入りのお茶を渡して、眠った所でネタバラシよ。死という名のね!

 

なんだけど、ここからが少しトリックの出番。さすがにこのままじゃ自殺って雰囲気じゃないから、あらかじめ遺書を用意しておいたの。

さらに現場に私がいたら他殺の容疑者になっちゃうから、私自身のアリバイも作るわ。

他の図書館職員(金で雇った偽島民だけど。ちなみにギャルっぽい女の子)が定時連絡してくるのを利用するの。

あらかじめ内線電話番号の表を、『現場の事務室』と『別の階の書庫』の番号を入れ替えた偽の内線電話表とすり替えておく。そうすれば定時連絡の時に電話に出れば、私が書庫にいると見せかけて事務室にいることができるわ。

書庫から事務室に行くには、必ずロビーを通らなきゃいけないからアリバイ確保も完璧。

あとは連絡来た時に火野を殺すだけ。本家顔負けのアリバイトリックでしょ。本家って何?

 

そして時は来たわ。

電話をしながら火野を拳銃で撃ち殺すだけの簡単なお仕事。

銃声を聞きつけた職員が来るまでに、遺書を残してから他の部屋に隠れてやりすごして、後から合流すれば私にアリバイもあって自殺も成立。

思惑通りに上がる職員の悲鳴を背にロビーに戻って、偽の内線電話票を回収してから書庫に戻る。

あとは頃合いを見て、何食わぬ顔で合流すれば・・・

 

と思っていた矢先に、職員のほうから私を呼びに来たの。

『殺人事件が起きたかもしれない』ってね。

 

・・・・・もうバレてた。

ギャルっぽい女の子と思って油断していたけど、なかなか勘の鋭い子みたいね。

 

そうして呼ばれてロビーに降りた私を待っていたのは2人の男だった。

 

 

誰?

 

1人はスーツ姿のおじさん、もう1人はマヌケ面した男の子。

雇った人たちの中に、こんな2人は見覚え無かった気がするけど。いたかな?いたわきっと。

 

おじさんは警視庁の刑事さんで、早速私たちの事情聴取を始めたの。

なるほど。他殺だって暴いたのはギャルじゃなくて刑事さんだったのね。納得。

 

 

しとる場合か!

 

刑事!?嘘でしょ!

殺人数分でもう警察到着!?

この島、息のかかった労働者以外は仇しかお呼びしてないんですけど!しかもつい最近まで無人島。

仮に誰かが通報していたとしても、物理的に存在していいレベルじゃないのよ公務員。

死の匂いを・・・嗅ぎつけて来た・・・とでも?

 

そこから始まる事情聴取。

ってあら?何か聞いていると捜査の主導が刑事じゃなくて隣の男の子。金田一って言うらしいけど・・・何者?

しかも目の付け所が妙に賢い。何この変化球な捜査方針。

さっきまでドッキリの仕掛け人だった私が、いつの間にかドッキリされる側の気分よ。何コレ怖い。どこかに水曜日のスタッフでも隠れているんじゃないの?!

 

 

そんな私のピンチに現れたるは、我らが日沖竜平!彼は私と同じ復讐者6人の仲間でリーダー格の頼もしい男よ。

颯爽と現れて刑事の前に立ち塞がってくれたわ。

「お引き取り願おう。この図書館で何者かが死んでいて、しかも殺人事件の可能性もある。それは、わかったが・・・警察がでしゃばると騒ぎが大きくなるだけだ。この島の事は俺に任せてもらおう。警察官が何か知らないが、引っ込んでな」

 

下手か!

竜平、その追い払い方だと余計に怪しまれるわ。殺人事件だって確信されちゃう。

アナタがこの25年間、復讐の為に頑張って資金稼いできてくれたのは知ってる。でも少しは演技の勉強くらいしてきてよ。

 

そしてそこから始まる竜平と刑事と金田一の大議論。

どうやら、金田一が事件を解決するために、竜平の立会いの下で調査を許可するって話でまとまったみたい。

何を煽ってくれてんの竜平。

その後も竜平はうっかり“被害者の性別を言い当ててしまう”凡ミスをやらかして、どうにか誤魔化して2人を追い払ったわ。

 

ちなみに、竜平はあの2人と先に会っていたそうよ。

その時に彼らを監禁しておいてくれたら良かったんだけど、どうやら2人は『警察の最新鋭の通信装置』を持っていて、持ち主に異変が起きたら警察がこの島に押し寄せてくるそうなの。

なんだかすごくハッタリっぽいけど・・・竜平はビビって2人を放置することにしたらしいわ。

 

まぁいいわ。私は私のやるべきことをするだけ。

そう。唯一の証拠であるこの偽の内線電話表を燃やすだけ・・・

 

 

【翌日】

 

竜平から私達(私と職員を含めてね)にお達しがあったわ。

『余計な事は何もしゃべらないこと』

なるほど、完璧な捜査潰しね・・・余計に怪しまれない?

それと、昨日の火野は当初の予定の通りに25年前の被害者と同じ『一之瀬恵一』として処理することになった。

 

 

そして図書館に金田一と刑事が来襲。

打ち合わせ通りに無言を貫いて、竜平が煽って、金田一たちが自分たちで調査を始めて・・・

 

「一之瀬恵一を殺し、自殺に見せかけた犯人。それはあんただよ!」

金田一がビシッと指差した先、それは紛れもなく私だった。

嘘・・・でも嫌な予感がしていたのよ。竜平が煽って、私の足を引っ張った時からね。

 

そこから咲き乱れる金田一の名推理。

そして証拠の内線電話表の燃え残り・・・・ちゃんと燃やせてなかったみたい。足引っ張ってたの私自身だわ。

 

 

謎はすぐに解かれていた。

 

 

その後、刑事は私を逮捕・・・の前に、金田一が私の事をこう言ったの。

「あんたは、似ているんだ。あまりに似すぎているんだよ。俺の知り合いの美佐に。俺をこの島に呼んだ、鳥羽美佐に」

 

えっ!?

突然飛び出した美佐の名前に私は驚いたわ。

私はすぐに察したわ。なるほど、この想定外の訪問客は復讐を止めたがっている美佐の仕業だったのね。

それからすぐ、同じく事情を察した竜平が強引に私を監禁することにしたわ。

 

これで私はリタイア。あとは裏方に回るだけ。まぁ当初の予定の通りね。

えっ?謎は全て解かれたら普通は終わり?

・・・・なら、そうじゃないパターンが見れてよかったわね。

 

 

さて、ひとまず次の仕事ね。炭鉱の工場の倉庫に監禁される体だけ作って、あとは仲間のフォローに回るだけだから。

まずは向こうの島に行って、状況報告だけしなきゃ。

そろそろ次の標的も拉致できている頃だし。

 

 

こうして島を渡った私。島の裏の炭鉱に続く船着き場から、炭鉱を通って仲間と合流・・・

と思った矢先、炭鉱に小さな女の子を見つけちゃったの。

まずいわ・・・ここに仲間以外が来ると、あの【邪魔者は許さないマン】が怒るのよ。そしてこんな子供、すぐに殺されちゃう。

仕方ないわ。安全な場所に・・・ひとまず夕闇島に連れて行きましょう。何故ならこっちの島はこれから惨劇の島になるかもしれないから。

 

 

そして夕闇島に戻った私。さすがに少し疲れたわ。謎解かれて、子供運んで。精神的にも身体的にも疲れたわ。

ひとまず工場倉庫で休憩して・・・少し休んだら次の仕事を・・・

そんな時に、奴らはやってきたわ。そう、金田一と刑事。

まぁしらばっくれるだけなんだけどね。

 

案の定、刑事は私の態度にイライラして怒り出したわ。

「金田一、わかってるのか!?美佐って子が殺されたのだって、こいつのせいでもあるんだぞ!」

 

 

 

 

 

 

えっ?殺された?

 

25年前の惨劇に関係した事件に巻き込まれて・・・

 

 

それ、聞いてない・・・

 

 

 

 

 

『ここから、私の気持ちは揺らいだわ』

 

 

2人が嘘を言っているとは思えない。

 

美佐が殺された?

本当だとしたら、殺した可能性があるのは仲間の1人。

つまり、美佐の言葉に耳を傾けずに復讐に走ってしまった私の責任。

私が見捨てたのも当然。

 

 

まずはそれを確かめないと・・・

 

 

 

 

私は急いで向こうの島に戻ったわ。

 

そして炭鉱で見たものは・・・また子供。今度は3人。

もう、急いでいるのに。

仕方ない、運びましょうか。

 

 

だけどこの子供たち。というより1人だけ重い!

女の子は15kg。普通の男の子は20kg。そして大きな男の子は40kg。

・・・・分かるでしょ?女子高生に運べる重さじゃないわ。

でもチンタラしてたら【殺すマン】が来ちゃう・・・どうしよう。

 

どうしよう!

 

 

 

 

 

『諦めるのは早いぜ』

 

 

その時、次元の壁を超えるような、不思議な声が私に届いたわ。

 

絶対に出会うことのない、監督の違う、媒体の違う、そんな場所から来たようなグラサン男が、私の前に現われたの。

 

「俺は日下ひろなり。事件簿で噛ませ犬に終わった鬱憤を晴らすために。そして美女を助けるために現われたナイトさ」

 

誰?このキザなグラサン・・・

さっきまで居なかったのは確実。なのに凄く馴れ馴れしくグイグイ来る。

初対面よね?私達。

 

 

「助けに?何、今のこの状況を助けてくれるってこと?」

「ああその通り。まぁどういう状況で困ってるのかは知らないが、俺が来たからにはもう安心だぜ」

髪をかきあげるグラサンは、私の方ばっかり見て鼻を鳴らしたわ。何か、生理的に受け付けないタイプ。

だけど放置したら、グラサンも【殺すマン】に殺されちゃう。(別にいいけど)

 

仕方ない。後でグラサンも眠らせて夕闇島に運びますか。

男手として働かせてからにしないと、さすがに4人は無理だからね。

 

 

 

早速、子供たちを運ぶために力を借りたんだけど・・・

 

 

体力無っ!

 

グラサン、太めの男の子を担いだだけで足プルプルだったの。

「まさか、俺を船で追い回したこの子たちを、俺が船まで運ぶことになる日が来るとは・・・」

とか、何か意味の分からない言い訳っぽいこと言ってたけど、とにかく頼りないったらありゃしない。

私だって、女の子を抱きかかえて、男の子を背負ってるのよ。トータル35kg。あんまり変わらないじゃない。

 

 

結局、グラサンは船着き場まであとちょっとの所でたどり着かない地点で。

急に。まるで最初からこの場にいなかったみたいに。グラサンは煙のように消えてしまったわ。

 

あれは実体のある幽霊だったのかしら?

 

それとも本物の神隠し?

 

余裕のある時だったら突き止めたい現象だけど、今は『どうでもいい』の本心が圧勝してるから、無視しましょう。




はぁ、何か余計に疲れたわ。
だけど、ここで終わりじゃない。
復讐だけだった私に課された美佐の死の責任。

行く末を見守らなきゃ!


 私の戦いは
  これからよ!


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めぐりあう2人の名探偵 =第2章= 【その2】

【これは復讐の前日譚。2つの島に2人の名探偵が足を踏み入れる前の、そして直後の話である】


私は鳥羽美佐。

25年前に命と金塊と島を奪われた母、鳥羽美鶴・・・から離れて過ごしてきた女子高生よ。

だから今回、復讐ってムードが仲間の5人とギャップがあってね。

 

だって、復讐したところで得られるのはその一瞬の満足だけ。

その後に残るのは虚しさだけよ。

私、仲間の皆には一瞬の幸せじゃなくて、ずっと幸せになってもらいたい。

だから復讐をやめてほしいの。

復讐したところで、傷つくのは私たちの方なのよ。

 

 

って、美悠にも伝えるつもりなんだけど・・・

愚痴言っていい?

コミュニケーションの取り方が分からない。

 

だってお姉ちゃん、お母さんの恨みを聞いて育ったから、価値観が全然違うの。

他の5人の仲間も聞く耳持ってくれないし・・・

どうにかして5人を幸せにしてあげたい。

この25年前の惨劇の呪いを・・・大団円に終わらせたい。

 

どうすればいいの・・・

 

 

 

『諦めるな』

『私たちがついてる』

 

 

その時、次元の壁を超えるような、不思議な声が私に届いたわ。

 

絶対に出会うことのない、監督の違う、媒体の違う、そんな場所から来たような男の人達が、私の前に現われたの。

1人は車椅子に乗ったサングラスの男の人。もう1人はなんだか画風がまた違う感じの、別の、いや本家の世界から来たような男の人。

 

誰?悪い人たちには見えないけど・・・

 

「貴方たちは・・・誰?」

「私は伊東末彦。自分たちが納得いかないであろう真実に辿り着くことにかけては大先輩の男さ」

「納得いかない真実?」

「ああそうさ。キミの仲間は復讐に目がくらんでいるけれど、いつかはその虚しさという真実に到達しなければならない。その方法を私が教えてあげよう」

伊東さんは車椅子を少し傾けて、私に穏やかな笑みを向けてくれたわ。

 

「そして俺は六星竜一。おそらく権利的な問題から、出ることが出来なかった男さ」

「権利?それに、竜一さん?仇の5人のうちの1人と同じ名前ね」

「なら小田切進と呼んでくれていい。母親から故郷への復讐だけ教えられて育てられてきた、キミのお姉さんと同じ境遇の、気持ちの理解できる男さ」

小田切さんは画風の少し古い感じの笑顔を見せてくれたわ。

 

2人とも・・普通に怪しいけれど、私にはどこか安心感を覚えさせてくれる。

「でも小田切さん、貴方はお姉ちゃんと同じ家庭環境で育ってきたかもしれないけれど、私は一般家庭。それでもしっかりと気持ちがわかるようになるかしら?」

「その点は大丈夫。何故なら俺は高校教師として誰にも気付かれずに潜伏できるほどのレクチャー力の持ち主なんだ。さらには殺すつもりの女子高生を口説いて愛し合ってホテルに連れ込めるほどのモテも持ち合わせているんだ。ハートキャッチ小田切とでも呼んでくれ」

「お姉ちゃんも私もたしかに女子高生だけど・・・純情な乙女に向かって“ホテル”とか言うの、コンプライアンス的にどうなんですか?」

私がド正論で責めると、小田切さんはそれ以上余計な事を言わなくなったわ。

 

「さて私の提案だが。真実に辿り着くには、探偵を呼ぶのが一番さ。経験上、これは自信を持って言えるよ」

「探偵さん?でも私、探偵のコネなんて・・・」

「そうかい?調べたところキミの中学の頃の同級生の金田一一という子が、様々な事件を解決しているそうだよ」

そうだ。金田一くんがいる!伊東さん、小田切さんと違って安心感が熱い!

「それと、探偵の招集は私に任せてくれ。とは言っても、キミの仲間の作戦を少し利用するだけなんだけどね。『観光客が行方不明になる事件が起きている』『同じ夕闇島だけど別の夕闇島だった』というキャッチーな噂を流すのさ。そうすれば探偵がホイホイ来てくれるって算段だよ」

なんて完璧なアイディアなの!

 

 

こうして2人と知り合った私は、小田切さんからレクチャーを受けながら、伊東さんの言う通りに噂を流して、ついにその日を迎えたわ。

(小田切さんと伊東さんは、役目を終えるとスーっと消えていったわ。まるで最初からそこにいなかったみたいに。本当に、ありがとうございました)

 

 

これから私は復讐者仲間の1人として。

そして、仲間を救うため。

夕闇島を名乗る、もう1つの夕闇島に潜入するの。

 

 

私の役目はもう1つの島の方で、仇の5人を誘拐するサポート。

当然そんな事には賛成できないから、皆を説得して回ったわ。

 

だけど当然、復讐に憑りつかれた【殺すマン】こと浅見京太郎さんには通用しなくて、むしろ逆上されて殺されそうになっちゃったの。

仕方なく私は身を隠したけど、浅見さんの標的が今度は金田一くんに向いてしまったわ。

 

それだけは駄目!

そこで私は金田一君が郷土資料館に入った時に彼を眠らせて、密かに夕闇島に移すことにしたの。

きっと、金田一くんなら夕闇島を25年の呪いから解放してくれるはず。

 

私は催眠ガスを彼に嗅がせて、虚ろな彼に「夕闇島を救って」と呼びかけながら、さらに手紙をポケットに入れて、彼を運ぶことにしたわ。

『・・・・で、隣にいるおじさんは誰?』

金田一くんの隣には、見たことのないおじさんが。金田一くんの知り合い?ただの観光客?

(その時、私の中の小田切さんの幻影っぽいのが『俺もこの人は知らない』って言っていたわ)

誰にせよ、ここにいたら浅見さんに殺されちゃう。助けなきゃ。

私は炭鉱を通って船着き場まで、2人を運ぶことにしたわ。

 

女子高生が

男子高校生と、大人のおじさんを

 

 

無理でしょ。

 

男の子を短い距離運ぶだけでも女の子の力じゃ無理なのに、ここは足場の悪くて少し長い炭鉱。金田一くんだけでも無理なのに・・・おじさんまで・・・

だけど、このままじゃ浅見さんに殺されちゃう。

どうしたらいいの!

 

 

『諦めてはいけません!』

 

 

 

その時、次元の壁を超えるような、不思議な声が私に届いたわ。

 

絶対に出会うことのない、監督の違う、媒体の違う、そんな場所から来たような男の人が、私の前に現われたの。

そう、まるで小田切さんや伊東さんみたいに。

 

「自分は三等海上保安正・倉田正明。海上保安官です。困っている人を助けるために出動しました」

「自衛隊さん? でも、この現れ方・・・まさか、貴方も私を助けに?」

「自衛官とは違いますが・・・ですが、その通りであります。さぁ、お二人を任せてください」

そう言うと倉田さんはテキパキと金田一くんとおじさんを抱えて、船着き場まで運んでくれたわ。さすが自衛官!日本を守ってくれるヒーローね。

だけど、どうしてここにいるんだろう?

そんな疑問を余所に、倉田さんは役目を終えると霧のように消えていったわ。

ありがとうございました、倉田さん。

 

 

さて、あとは金田一くんを夕闇島の町の外れに寝かしておくだけ。

と、おじさんも。

 

『・・・・このおじさん、何者?』

私はおじさんのスーツを少し調べたわ。すると警察手帳が出てきたの。なんだ刑事さんか、さらに頼もしいわ。

だけど、考えたら刑事さんって金田一くんの味方なのかしら?

探偵もののドラマでも、たまに警察って探偵のことを『素人が出しゃばるな』って煙たがるじゃない?

このまま2人を横に並べて寝かしておくのは・・・少しリスキーね。

ということで、私は刑事さんのほうを少し離れた場所に寝かしておくことにしたわ。

 

 

さて、一仕事終わったことだし、島に戻って復讐の邪魔の続きを・・・

そんな時、終わりは突然やってきたの。

仲間の1人、一之瀬恵子さんに見つかってしまった。

 

恵子さんに灯台に呼び出された私。

殺される・・・そんな予感はしていたわ。

だけど断れば、きっと金田一くんにも危害が及ぶ。それだけは防がないと・・・

 

 

こうして、私は殺された。

 

 

暗闇で光る腕時計を手に取った瞬間・・・

岩を頭にぶつけられて・・・

 

 

どうにかダイイングメッセージだけでも・・・恵子さんが犯人だって・・・メッセージを・・・

 

【けいこ】を表す【1+11=】を・・・腕時計に表示・・・させ・・・て・・・

 

 

『それは任せて』

 

 

その時、次元の壁を超えるような、不思議な声が私に届いたわ。

 

絶対に出会うことのない、監督の違う、媒体の違う、そんな場所から来たような男の人が、私の前に現われたの。

 

 

「私はリシ。映画もDVDも見てない人もいるかもしれないから、都合上少しだけしか出られないけどね。ダイイングメッセージだけ任せてくれ」

そう言うとリシさんは腕時計をポチポチと操作しはじめた。

 

だけど、計算式の【=】を入力したら、計算結果の12が表示されてしまうから苦戦していたわ。

悩んだあげく、油性ペンで【1+11=】って書いて彼は消えていったみたい。

 

 

ありがとう・・・リシさん・・・

 

 

 

 




最期に


金田一くん
そしてまだ見ぬ探偵さん


どうか夕闇島を

25年の呪いから

救って・・・・


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めぐりあう2人の名探偵 =第3章= 【前編】

それぞれの目的で夕闇島を訪れるコナンと金田一。だがその島では、過去と現在を結びつける壮大な謎が待ち受けていた。


僕は浅見京太郎。

夕闇島の町長だった三井家の一人息子。そう、お坊ちゃんだった。

それが25年前、家族の命は奪われ、僕自身も生き埋めの寸前で助かったが、その時の轟音が今でも耳に残ってしまっている。

だから僕は恐怖を掻き消すため、この25年間、爆弾に精通していった。

全ては爆発させるため。

仇の奴らも、もう1つの島も、裏切り者も、邪魔する奴も・・・そして、夕闇島も。

 

 

 

なんて暗い気持ちで復讐なんてできるのか心配だった若い頃。

僕は心理カウンセラーの先生の元に足しげく通いつめ、とある自己療法を身に付けた。

それはポジティブシンキング。

どんな逆境も塗り替える奇跡の思考法。これが僕のもう一つの武器さ。

 

 

 

 

さて、今の僕の状況を整理しよう。

僕は拉致チーム3人組。でも1人は裏切り、1人はヘマして逮捕され。残るは僕1人。

つまり1人で残る有力者4人を誘拐しなきゃいけない。1対4の数的不利。町長にいたっては美容整形しているせいで正体すら分からない。

 

絶望的状況・・・だけど、こういう時こそポジティブシンキング。

行き止まりの人生も、僕にしか壊せない壁だと思えば、僕専用の壁になる。

大切なのは今までの25年ではなく、これからの25年だと考えれば、新しい人生の幕開けに見えてくる。

心の命ずるままに生きれば、何にも縛られずに生きていける。今日から僕は、自由だ!

 

よし、行ける気がするぞ!

 

 

 

標的は3つ。逮捕された仲間・一之瀬恵子、邪魔な名探偵・毛利小五郎、そして金塊の隠し場所・郷土資料館だ。

 

 

まず、一之瀬恵子は口封じのためにフェリーごと爆破するつもりだ。

港に着いたばかりの船に、名探偵のいる港に停まっている船に、密かに爆弾を仕掛けるのさ。

・・・大変そうだけど、僕自身の成長のための経験値になるぞ!

 

次は毛利小五郎を爆殺だ!

連続爆弾事件は名探偵ホイホイの定番手段だ。

フェリーを爆破したら次の爆破の予告状を送りつけて、海上レストランに呼び出して爆発の巻き沿いにしてやるんだ。

 

そして最後は郷土資料館の爆破。

ここには25年前に僕らの島から奪った金塊が隠されている。もちろん、そんな金塊は先に僕らがごっそり奪い返していたけどね。だからこそ、仇の奴らにその事実を衝撃的に発表してやるのが今日ってことさ。

 

 

 

 

さて、ここで直面する問題は1つ。

どうすれば名探偵ホイホイな爆破予告状になるのか?ってことさ。

ストレートな文章だと、罠だと見破られてしまう可能性が高いから、怪盗キッドみたいに暗号にしたい。

ただ難しすぎると爆破時間に遅刻されるし、そもそも僕にはそんな難解問題が思いつかない。と言って、丁度いい難易度の問題も思いつかない。

どうしよう。こればかりはポジティブではどうにもならないよ・・・

 

 

 

『そこは任せてくれないか?』

 

 

その時、次元の壁を超えるような、不思議な声が僕に届いたんだ。

絶対に出会うことのない、監督の違う、媒体の違う、そんな場所から来たような眼鏡のおじさんが、僕の前に現われた。

 

「誰ですか?あなたは」

「神海島で観光課長をしています、岩永城児と申します。真犯人ポジションなのに、他の悪党の所業がインパクトありすぎて影が薄くなってしまい悔しい想いをした者だよ」

岩永さんは何やら物騒な事を言いながら汗を拭いていた。

見知らぬ僕にこうも気安く話しかけるこの人は一体・・・

 

「どうやら脳トレぐらいの暗号作りでお悩みのようだね?俺は宝探しスタンプラリーゲームを企画した経験があるんだ。しかも対象年齢は小学生から対応のね」

どうして僕の悩みを!?この男・・・

だけど『脳トレ難易度』か。なんて今の僕にネセサリーなワードなんだ。

 

復讐を知られたからには殺すしかないけど、今この岩永さんの頭脳を利用しない手は無い。

岩永さんは僕からチェックポイントにする場所を聞くとすぐに暗号文をしたため始めて、手紙で用意してくれた。

 

 

 

例えば海上レストランだと

≪~25年前の惨劇を再び~ まだまだ、これで終わりじゃないぞ。さて、次の爆発場所は、どこでしょう?でも、頭を使わない子には、この暗号は解けませんよ。≫

≪「うどん」「みかん」「のらねこ」「うま」「えき」さぁ、答えが分かるかな?頭を使おうね、頭を・・・≫

って具合に。

 

炭鉱跡地の郷土資料館は

≪~25年前の惨劇を再び~ お楽しみはこれからだ! では、次の爆発場所を発表します! 次の爆発場所はここだ!≫

≪歯医者さんに抜いてもらわないと、ドカーンだぞ!「はたん」「こうは」「はあと」「はち」ちゃんと、歯医者に行くんだよ!≫

 

 

 

 

 

 

 

・・・・うん。

 

なんてエクセレントな脳トレーニングなんだ!

「あとはこの問題文に合う脅迫文の書き出しを、キミの方で用意してね。それじゃあ頑張ってね」

そう言い残すと、岩永さんはまるで最初からそこに居なかったみたいに消えてしまった。

殺す前に逃げられてしまった・・・どうしよう。

でも考え直してみれば、あの人だって今や共犯。よって僕にとって都合悪いことにはならないハズ!

 

 

 

さて、これで準備完了。ここからは僕のターンだ!

 

まずは港に着いたフェリーに爆弾をセットしに行くぞ。

港にはあの毛利小五郎もいる。慎重に行かないと・・・

 

あの、イケメンもいるんですけど。警視庁の明智警視が。

僕の25年間の爆弾修行を捜査しているっていう、あの人が・・・

嘘だろおい。

どうして。1犯人に1探偵だけでもキツイのに、1警察まで追加発注とか。

 

 

 

 

 

終わりだ・・・一之瀬恵子も、この2大怪獣を前に口を割ってしまうに違いない・・・

 

 

 

 

と心配していた僕の心配は全く心配いらなかった。

 

何故なら明智警視、港について早々にキャリアを越えるキャリアが発するキャリア波を放つのに夢中になってくれてんだから。

なんという権力の暴力という名の視野狭窄!

隣で爆弾魔がフェリーに爆弾仕掛けてるのにも気付かないなんて。日本の未来がノーフューチャーだ。心配だ。

 

 




その後、問題なくフェリーを爆破。


さぁ、みなさんお待たせしました。


ここからが僕のステージだ!


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めぐりあう2人の名探偵 =第3章= 【後編】

一之瀬恵子の口封じに、フェリー爆破に成功した僕・浅見京太郎。

 

続いて町長秘書の車に海上レストラン行きのお手紙をセット。

そして僕は爆弾をセットにゴーさ!

レストランの壁に爆弾をセットして、その隣に次のチェックポイントである資料館行きのお手紙もセット。

さて、あとは遠くで爆発に毛利小五郎が巻き込まれるのを見守るだけ。

簡単なお仕事? でもね、「仕事」ってのは「いかに簡単を作り出すか?」ってことだよ。

 

 

 

で、毛利小五郎

・・・来ない。

 

 

もうすぐ爆破時間なんだけど・・・あの暗号、そんなに難しかったかな?小学生レベルだよ?

≪だいたせいかたいきたみはたてたんさたいだ 狸≫くらい簡単だったのに?

 

と、待っている所に小さい人影が2つ・・・。よく見なくても、あれは子供2人。眼鏡の子とウェーブ髪の女の子。

あれ?

そしてレストランから慌てて飛び出す従業員。

 

 

BOOOM

 

レストランを跡形もなく吹き飛ばす破壊力に文句は無い。

だけど、その巻き沿いになったのが従業員と子供2人ってのが計算外すぎた。

毛利小五郎・・・まさかあの子供たちに爆弾処理を託したのか?なんて外道な。

 

 

 

あと、僕も今さら気付いたんだけど・・・次の爆発場所の手紙・・・今の爆発に巻き込まれて燃えちゃってない?

しくじったぁ・・・

と、項垂れそうなる僕の目に飛び込んできたのは、逃げのびた従業員が子供たちに手紙を渡す所。そして手紙を読むや、次の爆発場所の資料館の方に走っていく子供たちの姿だった。

 

つまり・・・・従業員の機転と子供たちの閃きが、僕を救ってくれている!

はぁ、ほんと助かるよ。ありがとう、小さな探偵さんたちと、髪の毛フサフサのジョン・マクレーン!

 

 

 

 

BOOOM

 

 

 

その後、資料館は無事に爆発。展開早いけど、皆ついてきてるかな?

 

アンド、またしても子供たちが巻き沿いになりかけていた。さらに不在の毛利小五郎。オイ。

そして資料館のオーナーである仇の木本陽司も大騒ぎ。金塊が無いことにも気付いたみたいだ。

 

目的は2/3しか果たせなかった。いや、2/3も果たせたんだ!

 

これにて一件コンプリート!

 

さて、今日はもう休もう。木本の拉致はまた明日のお楽しみってことで・・・

 

 

 

 

 

【翌日】

 

 

 

う~ん・・・なんか雲行きが怪しい。

木本の拉致準備中に小耳にはさんだ噂話。

それは次の爆発予告の情報だった。

 

あれ?心当たりが無い・・・

まさかのまさかだけど・・・模倣犯的な?コピーキャット的な、この島に住む潜在的爆弾フェチが本性を現しちゃったの?

モノマネされるのは、それだけ僕の爆弾事件が人の心をしっかり掴んだって証拠だけど、このタイミングで真似されると、僕らの復讐に口を挟まれるみたいでなんか嫌だ。

どうにかして、「そいつは偽物だ!」ってことを皆に知ってもらわないと。

 

 

こういう時こそ、名探偵に助けてもらおう!

探偵は常に困っている人の味方。きっと理解してくれるはず!

そして僕は、偽物が捕まるまで大人しく待っていればOK。

 

じゃあ何をしようって?もちろんお手紙さ。

慣例に従って暗号風に・・・さぁ、岩永さんの出番だ!

 

 

 

その時、次元の壁を超えるような、不思議な声が僕に届かなかった。

 

 

・・・あれ?

出てこない。

昨日は呼ばなくても来てくれたのに。

仕方ない。僕自身で考えるしかない。

つまりこれは僕自身への脳トレを兼ねた脳トレ。未来への投資だ!

 

 

 

頑張って考えました。

≪偽物とは違う本物の花火を見せてあげよう!≫

≪みどり=「54」ぶんか=「113」クリスマス=「1225」こども=「?」。「?」に入る数字は何かな?≫

そして添付する島の地図に数字をふっていって、ショッピングモールに『55』を書きこんで。

あとは毛利小五郎にお手紙送付と。

 

 

その後、最後の爆発場所のショッピングモールに辿り着いた僕。

いつも通りに爆弾を設置するんだけど、今回は少し工夫が必要だ。

探偵に見つけてもらわなきゃいけないんだ。でも、一般人には見つからないようにしないと・・・

どうすんの?この微調整。さっぱり見当がつかない!

どんなに困難でも頭を使えば僕の経験値・・・なんてポジティブシンキングも通用しない事態だ。

 

困ったぁ!

 

 

 

 

『お困りのようだな』

 

 

 

その時、次元の壁を超えるような、不思議な声が僕に届いた。

絶対に出会うことのない、監督の違う、媒体の違う、そんな場所から来たような若い男が、僕の前に現われた。

 

 

この気配・・・岩永さんと同じ!?

「俺は中岡一雅。キミと同じ敵を相手に、暗号と爆弾を仕掛けた先輩さ」

おぉ!凄く気の合いそうな人が現われた。

 

「貴方も爆弾魔なんですね!」

「そのとおり。しかも爆弾の設置場所のこだわりに関しては右に出る者はいないぜ。しかも何千人もの一般人に見つからなかったけど、小学生が頑張って全部見つけることができたような設置場所のチョイスセンスもあるのさ」

そう言うと中岡くんは鼻高々に胸を張り、観覧車のゴンドラの座席の下に爆弾を設置して消えていった。

 

彼は、幻だったのだろうか?もっとおしゃべりしたかった・・・

岩永さんも、もしかすると?

 

まぁ惜しんでいても仕方ない。やることは山積みなんだ。

毛利小五郎が爆弾を解除したら渡してもらえるように、ショップに手紙を置いて、その件を店員さんに電話しておくと。

手紙は≪モノマネ好きのネコをやっつけるのは、キミたちだ!ネコがおとなしくなるまでは、花火パーティーも中止だよ!≫ってね。

(子供っぽい文体なのは、岩永さんに寄せておいたからさ。でも恥ずかしい)

 

なんて事をしている間に、今度は図書館でも爆破事件が発生。模倣犯の仕業か。

駄目だこいつ。早くなんとかしないと・・・

 

 

なんて心配もいらなかった。

その後、どうやら偽物も爆弾に飽きたようで、爆弾事件がピタリと止んだからだ。

何この肩すかし・・・結局、僕が余計な爆弾を消費しただけじゃないか。

 

 

 

 

【その夜】

 

 

事件は急展開。

木本誘拐のために、奴のいるホテルのスイートルームの通路の爆弾を仕掛けているところに、なんと毛利小五郎が突入したんだ!

僕が急いで隠れると、毛利小五郎は「よく聞いてくれ!その部屋には爆弾が仕掛けられているらしいんだ!」と、木本の部屋に強行突入していった。

 

えええええ!?

名探偵、どこまで名探偵なんだよ!

まだ仕掛けている最中の爆弾情報、どこからどう入手したんですか。

まぁ、設置場所は部屋じゃないけど。

にしても、神かアンタ!?

 

 

でもまだ慌てるような時間じゃなかった。

「私が用のあるのは・・・倉本高史さん、あなたなんですから!」

部屋に踏み込んだ毛利小五郎の勇ましい声。偽爆弾魔は木本の部下の倉本だったようで、毛利小五郎は倉本を捕えに来たみたいだ。

爆弾魔が判明して僕少し安心。いやでも安心できない。次に探偵の牙は僕に向く予感がするんだから。

 

 

なんて戦々恐々している僕の耳に、今度は「ほへ・・・?ふにゃ~」という毛利小五郎のマヌケな声が届いた。

あれ?これは先の読めない展開が来たぞ?

と、僕が間抜けな感想を述べている間に、毛利小五郎の追撃がスタート。

 

 

「この部屋に爆弾など仕掛けられていません。先ほどの話はすべて嘘です」

嘘だと!?一体、どういうつもりだ!?

 

「今、この夕闇島を騒がせている連続爆弾事件。そして、閉鎖されたトロッコ食堂で発見された白骨化した遺体。さらには、図書館で刺殺された笹山徹さんの事件。その事件のすべてに、あんたが関わっているんだ!倉本高史さん!」

 

 

マジか!?

後半、初耳!

 

 

 

 

そして咲き乱れる毛利小五郎の名推理。

 

 

 

 

なんか、謎は全て、解かれていた。

 

 

 

 

その後、逆上した倉本が毛利小五郎に襲い掛かった。

でもキューンって音が鳴ったかと思うと、倉本はサッカーボールのような鈍器で殴られて、廊下に吹き飛ばされてきた。

 

あっ!そこはマズイ・・・

 

BOOOM!

 

 

 

僕が設置した爆弾の上に倒れてしまった倉本は爆発に巻き込まれ重傷!

いや、普通死ぬよ? 頑丈だなこの人。

 

そして廊下には、倉本を追い詰めていた眼鏡をかけた子供が1人。

どうやら鈍器のほうはこの子の仕業みたいだ。最近の道徳教育は崩壊している。

でも、この放送倫理に抵触しかねないボウヤに、僕は自分の口で礼とお詫びを言いたい。

「コピーキャット倒してくれてありがとう、爆発に巻き込んでゴメンね」って。

 

姿を見られるのはまずいけど、まぁ子供相手ならいいか。

 

 

 

 

『ちょっと待った!』

 

 

 

その時、次元の壁を超えるような、不思議な声が僕に届いた。

絶対に出会うことのない、媒体の違う、画風が似ているようで違う、というか何かが違う、そんな男が、僕の前に現われた。

 

 

 

 

そいつは黒ずくめの男だった。

 

 

そいつは、黒ずくめと言うには、あまりにも黒すぎた。

黒づくしで、全身タイツみたいで、目だけ光って、そして大雑把すぎる黒だった。

それは、正に、“犯人”だった。

 

いや、変態じゃないか?こいつ・・・何者?

 

 

「私は犯沢。駄目だよ、今キミが出てしまったら、あの子供に姿を目撃されたら、今後の展開が無茶苦茶になってしまう」

犯沢を名乗る変態は、ズカズカと僕の前に立って、その眼鏡の少年と対峙し始めた。

いや何やってんのアンタ。

 

「驚いたな。モノマネ好きのネコを退治してくれたのが、こんな子供だったとはね。礼を言うよ、ボウヤ」

犯沢はまるで僕の気持ちを代弁するように、雄弁に語り始めてくれた。

 

「ボウヤも、ちっぽけな花火には、もう、あきただろう?ボクも、あきちゃったんだよね。だから、そろそろ前座は終了して、メインイベントを始めようと思うんだけど、どうかな?」

なんか出しゃばりだけど・・・初対面の相手にああもズケズケと物を言えるメンタルが無い僕には、凄くありがたい。

でも、何を言ってやがるんだ?この犯沢は・・・

 

「じゃあ、みんなに伝えといてよ。あの惨劇を再び。じっくりと味わってくれってさ」

犯沢がそう言い終えると、タイミングを見計らってくれたように眼鏡の少年は気絶してくれた。

そして犯沢も僕の前から、岩永さんや中岡くんと同じように消えていった。

 

 

 

何だったんだ?この一連の現象は・・・・

まぁ気にする時間も惜しいか。

 

 




その後、僕は同じく都合よく気絶してくれていた毛利小五郎の横を通り過ぎ、木本をサクッと拉致。
夕闇島へと届けて、今日はおしまい。




復讐は上手く行っている。

次のターゲットは・・・水川助吉と土田文子だ!


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めぐりあう2人の名探偵 =第4章=

25年前の惨劇をキッカケに巻き起こる事件の数々。やがて複雑に絡み合うそれらの事件が2人の名探偵を巡り合せていく。


俺の名前は須永秀雄。本名は双葉秀雄だ。

この25年間、俺は金融会社に勤めて、借金まみれのクズ共を相手にしてきた。全てはこの復讐の舞台、夕闇島の偽の島民にするため。

借金で首が回らない、俺達に逆らえない奴らを使って25年前の夕闇島を再現し、同時進行で25年前に生き埋めにされた俺達の家族たちの遺骨を掘り起こさせるのがこのプロジェクトだ。

 

 

そして俺の役目は父親の敵討ち。

昨日運ばれて来たばかりの仇・木本陽司を俺の親父“双葉要”の時のように、25年前の惨劇を再現して車で轢き殺すのさ。

まずは定番の『25年前の夕闇島』を堪能させて、頃合いを見て車でドーン!

 

やった。俺は遂にやったんだ!25年待った、親父の敵討ちを!

 

 

 

と、復讐の余韻に水を差したのが、近くの商店の青いステンドグラス越しに光る小さな目。

・・・・見られてた。子供に。

近付いてよく見ると、それは小さな女の子。

悲鳴を上げて一目散に逃げて行ったその女の子だが・・・誰?

 

この島に子供なんていないはず。仲間の誰かが誘拐してこない限り・・・それか夢か。

なんて不満言っても仕方ない。

夢じゃありません。現実だ。これが現実。

 

今、俺達は偽・島民どもを制御できているとはいえ、俺達が殺人をしているとバレたら、流石にそれ以降も制御できないだろう。

つまり、目撃者を放置できないんだ。

殺すしか・・・ない・・・・の・・・だ・・・

 

 

正直に言おう。子供は殺したくない。

俺だって子供の頃に家族殺されたから、いくら事情があるからって、その一線を越える事だけは絶対に許されない。(それは仲間の皆も同じハズ・・・多分)

 

あぁ、信念と復讐が戦っている。どうすれば、どうすればいいんだ!

 

 

 

 

『諦めちゃ駄目よ』

 

 

 

その時、次元の壁を超えるような、不思議な声が俺に届いた。

 

絶対に出会うことのない、監督の違う、媒体の違う、そんな場所から来たようなオッドアイの美女が、俺の前に現われた。

 

 

「私はキュラソー。犯行を目撃した子供を守るために、この世界の色のために来させてもらったわ」

「誰だアンタは!? まさか今の俺の仕業を見ちまったのか!? ならアンタにも死んでもらう」

目撃者の口を封じなければと、俺はキュラソーに襲い掛かった。

だが瞬く間に拳は捌かれて俺は地面に叩き伏せられちまった。もう瞬殺。

 

「焦らないで。私は口が堅いの。それよりも今はあの子。このままじゃ、貴方の仲間にも命を狙われちゃうんでしょ」

キュラソーの言う通り。俺がやらなくても、もしかするとリーダーの日沖竜平が殺してしまうだろう。

 

「そうだけどよぉ。まさか復讐が終わるまで監禁するのか?それはあまりにも可哀想だろ。今俺ら、岩の下に閉じ込められてる家族の遺骨を解放しようって頑張ってるのに、その真逆のことするとか・・・」

「彼女の目撃情報だけ封じたいんでしょ?なら、方法は1つだけ・・・記憶喪失を伝染させるの」

ちょっと何言ってるか分からない。

と、俺が首をかしげていると、キュラソーは唐突に「おいに任せてくいやい!」と叫んだ。

 

「はい。これであの子供は記憶喪失になったわ。事件の事について聞かれても、『記憶にございません』って言うでしょうね」

こいつ・・・本気で言ってるのか?そんなぶっ飛んだ設定を持ってこられた俺の身にもなってくれ。

だが彼女の今にも刺し殺してきそうな鋭い目つきに、俺はそれ以上何も言えなかった。

 

「安心して。ちょうど貴方達の復讐が終わるころに記憶が戻るようにしておいたから」

そんな都合よく記憶が消えてくれたら探偵も恋人も家族も心療内科医も要らない。

「でもよ、逆行健忘って自然に戻るだけじゃなくて、何かをキッカケに戻ることもあるんじゃないか?」

「そうね。私の場合も“探偵ごっこ好きの子供たちと交流して”戻ったわ。だけど安心して、あの子達みたいなイイ子は“この島に居ない”でしょ?なら“絶対”に大丈夫」

そう言い残すと、キュラソーはどこか清々しい笑顔を俺に向けて、まるで霧のようにその姿を消してしまった。

何だったんだ?あの人は・・・

 

 

 

まぁ気にしていても仕方がない。今俺が祈るのは、あの子供が本当に記憶喪失になってくれている事だけ。俺のするべき仕事をする、ただそれだけだ。

 

その後、俺は25年前の事件の再現のために、木本の死体を炭鉱住宅通りの路地裏に運び、車のタイヤ跡をワザと残して、フェンスを刃物でカットして車が突っ込んで突き破ったように加工。

これで木本はこの路地裏で轢き殺され、その凶器の車は海の中に沈んでいったように偽装できるって算段だ。

あとはその容疑が炭鉱労働者の男に向くように、奴の愛車のサイドミラーを壊しておいて現場に放置。

 

終わった。俺の仕事も。あとはサポートに回るだけ・・・

と、思っていた矢先に・・・お客さん来店!

来たのはスーツのおっさんと、マヌケ面の若い男。こいつらは日沖から聞いている、招かれざる探偵の孫と刑事だな。厄介だが、むしろ手の平で踊ってくれれば迷推理で轢殺事件を迷宮入りしてくれるかもしれない。

 

 

 

あとは子供が1,2,3,4人・・・・島に居ないはずの子供、増えてやがる。

しかも4人目に見覚えあるんですけど。

復讐を目撃した女の子でしょ。キュラソーが記憶喪失にしたって言っていた。

 

 

うん。結論から言おう。

記憶喪失になってた!

俺の顔見ても全然反応ないし、少し頭を痛がっていたんだもの。絶対記憶喪失だこれ。

おいおいマジか。感謝感激雨霰。ありがとうキュラソーの姉ちゃん!

 

 

その後、俺は祝いのハイテンション接客で探偵の孫と刑事をのらりくらりと躱しながら、容疑を押し付けるため、偽装した炭鉱労働者の愛車の元にご案内。

そして日沖たちにも『あやしい連中がいる』ってタレコミを入れておけば、自然な流れで奴らを処理してくれるって寸法よ。

と、同時に念には念を入れて、あの子の記憶喪失を利用して、本当の母親を名乗るように指示した借金まみれ女を差し向けて。

これで完璧。

 

 

 

 

【数時間後】

 

 

 

俺の店に日沖や容疑者役の労働者、母親役の女と俺は呼び出された。

言ってしまえば、この復讐におけるプロデューサー2人とAD2人。妙なメンツだな。

 

そして現れたのは探偵の孫と刑事、そして子供たち。

嫌な予感がするんですけど・・・

 

「双葉要を車でひき殺した犯人、それは、あんただよ!須永秀雄さん!」

的中しちゃったよ。何この探偵の孫。

俺、日沖からある程度ネタバラシされていたからリアクション薄いけど、何故か刑事じゃなくて一般市民のコイツのほうが捜査主導してんだよ。

 

 

そこから咲き乱れる孫の名推理。

なんだが、その推理には重大な欠点があった。

 

それは決定的な証拠でもあり、全ての根拠の根幹でもある、子供の目撃情報。

そう、記憶喪失の子供が「見たらしい」という不確定要素が絡んだ推理だったんだ。

つまり、この子の記憶が戻っていることが大前提の推理。

そして当の本人は、この怖い大人たちに囲まれて、記憶が戻るのを怖がっている始末。

可哀想だけど、仕方ない。これは復讐。キミは大人しく記憶喪失のまま待っていてくれ・・・

 

 

「ガンバレよ!オレたちがついてんだろ!怖くなんかないぞっ!」

その時!子供たちの中でも特に大柄な坊主が、女の子を応援しはじめた。

「みんな、一緒だ!怖くなんかないぞ!」

残る子供たちも応援を始める。

すごく微笑ましい光景だ。俺も「さぁ、画面の前のみんなも一緒に応援しよう!せ~のっガンバレー!」ってペンライトでも持って叫びたくなるくらいの状況だ。

 

 

そして復活!女の子の記憶。そしてようこそ目撃証言!

つまり悲報・キュラソーの仕事は雑だった!

そうじゃなきゃ、この子供たちが“キュラソータイプの記憶喪失を回復させる”特殊能力持ちじゃなきゃ説明つかない。

 

 

 

 

こうして、謎は全て解かれた。

 

 

雇用主である俺が、労働者の前で復讐を暴かれてしまったら、もうこれ以上はメンバーとして表立った行動はできない。

というか、自信満々のトリックを全て解かれて、意気消沈の俺。

 

そして口走ってしまった。

「ひ、日沖・・・悪いな・・・俺はここでリタイアだ。あとは・・・頼んだぞ」

 

あっ・・・やっちまった。俺と日沖の関係性、この一言でバレちゃうんじゃね?

 

 

 

逃げるべし!脱兎のごとく!

 

 

そして到着、断崖絶壁の岬。

崖の下は潮の流れの影響で渦を巻いていて、落ちたら二度と上がってこられない。そんなデンジャーゾーン。

なんて事は関係ない。俺の残す仕事は裏方作業で日沖のサポートなんだから、ここから落ちて生死不明ってことにしておけばいいだけ。楽な仕事だ。

 

 

『お~っと、待った』

『このままドロンは男のすることじゃないわよね』

 

その時、次元の壁を超えるような、不思議な2つの声が俺に届いた。

 

絶対に出会うことのない、監督の違う、媒体の違う、そんな場所から来たような男と女が、俺の前に現われた。

 

「なんかキュラソー的な展開だが・・・お前らは?」

「俺は山尾渓介。子供の記憶が戻るかどうか心配なんて、半端な不安をしてやがる奴を安心させてやるために来てやったぜ」

「私は清水麗子。生死不明なんて半端な状態を見過ごせなくてやってきたわ」

どうも犯罪臭のする2人は、嫌にニヤニヤしながら俺の元に近付いてきた。

どうやらこの現象は、困っている犯罪者の元に、同じく犯罪に手を染めてきた人間が、助っ人として現われる現象のようだ。と、俺は都合よく解釈させてもらった。

 

「それで、何の用だ?俺は今、特に困っていないぜ」

「そうよね?だけど貴方のお仲間は大困りの最中じゃなくて?」

「そうなんだよな。お前が生きてられると困っちまう犯人がいる。そして俺らは誰かを助けるとかってのが苦手な方の犯人なんだよ。殺すだけなら得意なんだけどな」

そう言うと山尾は俺の肩に手を置いた。

 

「っつうことで、綺麗さっぱりがシンプルでいいってことだ」

「これも貴方の復讐が完成するためなの」

ドンと突き飛ばされ・・・・

俺は・・・・

崖を真っ逆さまに落下していった。

 

 

まさか、こんな結末になるとは・・・

 

 




薄れゆく意識の中、俺は思った。



もしかしたら

こうやって敗北していった犯人たちは、次に続く犯人たちの協力者として、何処かの世界に召喚されていくんじゃないか?

そして次は俺の番ってことなんじゃないか?

まぁ、そんなものは、今さら確かめる術も無いがな・・・


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めぐりあう2人の名探偵 =第5章= 【前編】

25年前に起きた神隠し事件
それをきっかけにした新たな事件


やぁ久しぶりの方は久しぶり。そうでない方はヤッホー、浅見京太郎だよ。

 

探偵に邪魔されながらも、着実に復讐達成に近付いている今日この頃。

今回の僕の目標は3つ。

1つは、仇たちを絶望させるために、その子供たちに殺し合いをさせる。

2つ目、毛利小五郎を始末する。

そして、仇の水川助吉と土田文子を拉致する。

 

・・・・やることが多い。

ってことは、楽しめることが多いってことだ!

 

 

 

 

ということで早速、土田文子の次女・明美をたぶらかして、その姉と水川の息子を殺させようじゃないか。

舞台はパーティ会場。

えっ?僕が連続爆弾事件を起こしているから、そんな時期にパーティなんてやらないんじゃないかって?

大丈夫。このパーティは仇たちが25年前に夕闇島民を皆殺しにして金塊を奪ったことに気付いていた当時のこの島民への口止めになっている恒例行事。爆弾事件ごときじゃ止めないクズの催し物だよ。

 

そんな事よりトリックさ。僕の考えたトリックはシンプルに姉の方は毒入りの水で毒殺。息子の方はボウガンで毒矢を発射。

これだけさ。今回は爆弾を使わない。

なんてったって半分以上は他人にやらせるんだから。他人の扱う爆弾ほど怖いものは無い。

そうじゃなくても委託殺人を複雑にしてもメリットは無い。シンプルがベスト。気配りができる犯人はモテるんだよ。

 

 

 

 

そう、モテる・・・これが一番の難関だ。

 

なんせ僕は25年間、復讐一筋でやってきているから女性経験なんてものが子供時代で止まっちまってる。

不得手どころじゃない。モテる自信も何もないんだ。

こんなんでどうやって金持ちのお嬢様のハートキャッチしろって言うんだ・・・

 

 

【その時、ダビデの星の方から『俺がついてるぜ』という声が発せられたが、どうやら出演回数が尽きているようだ】

 

 

仕方ない・・・読むか、ホットドッグ・プレス。

付け焼刃の生まれ変わりがどこまで通用するか・・不安しかないけれども・・・

 

 

 

 

その時、次元の壁を超えるような、不思議な光が僕のパソコンから照らされた。

 

絶対に出会うことのない、監督の違う、媒体の違う、そもそも次元が違う、そんな場所から来たような電子音声が、僕の耳に届いた。

 

 

 

 

「我が名は、ノアズ・アーク」

 

 

 

パソコンから流れる聞き覚えの無い音声。というか、電源入れっぱなしだったっけ?

何か不気味な気配すら覚えながらも、僕はPC画面の前に立った。

すると電子音声は僕の様子を見ているかのように、こう続けたんだ。

 

「ボクは恋愛シュミレーションゲームをインストールしたノアズ・アーク。キミのように恋愛に奥手な人をサポートするためにやってきたんだ。よろしくね」

どうやらコンピュータウイルスに感染してしまったみたいだ。爆弾の材料を集めるために海外の怪しいサイトにアクセスしたのが悪かった。大事な時にトラブルに見舞われると凄いストレス。

 

けれどポジティブ浅見に死角は無いよ。

悩み多き今の僕に必要なのは気分転換だ。恋愛シュミレーションゲームなんて、ぴったりじゃないか。

「さいしょからあそぶ、をポチッと」

「ようこそ、黒ずくめの女たちを攻略しまくるゲームの世界へ」

僕はパソコンから放たれるノアズアークの光に包まれた。

 

 

 

 

 

【107分後】

 

 

「ジンちゃんは僕の嫁」

 

僕は生まれ変わった。

ハートキャッチ浅見、誕生!

今や大地に咲く一輪の花。モテ力が全身にみなぎる。女子の5人や10人、ドンとかかってこい!

 

「健闘を祈っているよ」

そう言い残し、ノアズアークはパソコンからアンインストールされていた。

あれだけ素晴らしいゲームなら、世に出たらきっと一世風靡の大ムーブメントを起こしていただろうに。惜しい事をした。

 

 

その後、海風に揺れる一輪の花となった僕は明美のハートをキャッチ。彼女をたぶらかして姉と息子を殺す気にさせ、息子殺害用のボウガンセットを渡し、ターンエンド。

 

 

 

 

 

【翌日】

 

 

 

今日は殺人・拉致パーティだ。

パーティ中に明美と一緒に2人を殺して、隙を見て会場を抜け出し、

毛利小五郎を「メガネのガキは預かった。返してほしければ、森にこい」の手紙で呼び出して始末する。

その後、僕自身は調理場の奥の食糧庫に戻って、手足を縛られた状態のフリをして待機。身の潔白を主張して事件を迷宮入り、もしくは明美に全ての罪をかぶせる。

そして絶望感が漂ってきた頃に、仇の水と土を拉致。

完璧じゃないか。これだけ計画しておけば何が起きたって平気さ!

 

 

 

 

起きたよ。不測の事態。

 

 

パーティ会場に、毛利小五郎と明智警視、メガネのガキ(と女子高生)。

明智警視はまだ分からなくもない。強い権限もあるし、会場の警備の名目で潜入してくることも予想できていた。

だけど毛利小五郎・・・いくら名探偵でも一般人。どうやって招待状が必要なパーティに参加できるの?

さすがは名探偵ということか。何がさすがなのか分からないけど。

そしてメガネのガキ、キミも想定外の外。後でサッカーゴールでも撒いておけばホイホイ釣られて誘拐できると思っていたのに、よりにもよって一番誘拐しにくい名探偵と迷警視の側ですか?そして傍らには明智警視と仲良しの女子高生。スキが無い。

 

本当に、こんな状況で殺人なんてできるのか・・・

 

 

 

 

できた。

何この肩すかし。

明智警視の横で平然と姉と男の2人を殺した明美。彼女のスキルが強すぎるのか、明智がポンコツすぎるのか。

 

 

俺は「明美が凄すぎる説」に一票を投じたい。

明美、自分で殺したくせに姉が殺されて嘆く妹のように嘆いているんだ。しかも現職の警視の横で。凄い度胸。

大御所の目の前で予告ドッキリのリアクションを求められているに等しいこの状況で迫真の演技。有力者の次女にしておくには勿体ないレベル。

決して明智警視がポンコツだなんて、思いたくない。そんなこと起きていたら、ギャグでもなくリアルに日本の治安がノーフューチャーだ。

 

いや、マジで日本の未来が不安だ。

毛利小五郎はお酒の飲み過ぎでヘベレケになってんだもの。あのぉ、今2人死んだとこなんですけど。

偽爆弾魔を追い詰めた時の気迫が嘘みたいにベロンベロン。

ん?嘘?

 

 

そうか、分かったぞ!この毛利小五郎は影武者だ!

僕を油断させるために、誰かが変装しているんだ。間違いない!

なら今頃、本物の毛利小五郎は僕が出した手紙に呼び出されて、森に行っているのか!

 

『時間が無い!』

僕は急いで殺人の証拠になるボウガン入りの木箱や毒水入りのグラスを片付けた。

いや、この瞬間も戦々恐々だよ。殺人したばかりの広間から、警視と探偵の目を盗んで、ドデカい木箱を持ちだすんだから。でもできたんだから、本当に未来がクライシス。

そして大急ぎで森に向かう。

 

 

と、その前に。本当に眼鏡のガキを監禁しておかないとネタバレしてしまうから、ホテルのフロントに電話してガキに203号室に来るように伝言を頼んでおく。

そして203号室には一度ドアを開けて入ったら外から鍵がかかるように仕掛けをしておく。

これでガキが部屋に入れば、“携帯電話の通じないこの島で、自分が架空の拉致の被害者になっていて、誰かが自分を探しに森に呼び出されてしまっている”ことに絶対に気付かない。

そして連絡手段が無い状況で、手紙に呼び出されてガキを探しに行った毛利小五郎も、ガキが実は無事だってことには気付かない。

 

 

 

さぁ、待っていろ毛利小五郎。

お前の命もあとわずかだ!

 



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めぐりあう2人の名探偵 =第5章= 【後編】

眼鏡のガキを架空拉致の罠に嵌め、毛利小五郎を森に呼び出した僕・浅見京太郎。

ホテルを出て今、森に到着しました。

 

 

だけどもだけど。

毛利小五郎不在です。

前髪がカジキマグロみたいに尖がった女子高生が「コナンく~ん」と周囲を探し回っているだけです。

コナンくんが誰だか知らないけど、こんな何もない森の中で迷子にならないでくれよコナンくん。そしてちゃんと眼鏡のガキを探しに来てくれよ毛利小五郎。

 

 

いや、これは物事を冷静にイメージするチャンスじゃないか。

こんな森に来るコナンくん。女子高生が撫で声で呼んでいる以上、かなり年下の子供である可能性が高い。

名前もコナン。女の子の名前なら可能性あっても、くん付けなら男の子。つまりはかなりのキラキラネーム。つまり年下の子供の可能性が裏付けられる。

じゃあ考えよう。そんな小さな子供がこんな森に来るか?いや来ない。誰かに誘拐でもされていない限り。

 

ってことは、「コナンくん=眼鏡のガキ」である可能性が非常に高く、その子を探しに来ているこの女子高生は、毛利小五郎の代わりに俺に呼び出されていた可能性が高い。

つまり、この女子高生を始末することもまた、毛利小五郎の捜査を邪魔することに繋がるんだ。

どう?さっきまでの絶望が希望に変わったZE

これぞ前向きな者にしか訪れない、前向きマジック!

 

 

ならやるっきゃない。

背後から忍び寄って、女子高生の近くにある大きな穴に突き落としてやるだけ。簡単で楽なお仕事を実行するだけ。

 

 

 

 

『ちょっと待った!』

 

 

その時、次元の壁を超えるような、不思議な声が僕に届いた。。

 

絶対に出会うことのない、監督の違う、媒体の違う、そんな場所から来たような男が僕の前に現われた。

 

「ちょっと待った。そいつは危険な行動だぜ」

僕の腕をガシッとつかんで止めたのは、がっしりとした体格の男だった。

「貴方は?」

「俺は藤岡隆道。鎮魂歌に出られなかった鬱憤を晴らすために、同じ敵を相手にするお前をサポートしに現れた傭兵だ」

なるほど、いつものアレだ。これは。

ちょっと何の事を言っているのか分からないけど、傭兵を名乗っていることには嘘は無いと思える貫禄が藤岡さんにはあった。

 

「でも、危険って何が? ただ女子高生を突き落とすだけなのに」

「あの娘はそうは見えないだろうが、空手の関東大会で優勝する実力だ。その娘がキョロキョロと人探しをしている背後に気付かれずに近寄って、反撃の隙すら与えずに背中を押せるか?できなきゃ殺されるぜ」

あっぶね!かなりギリギリな状況だったことに気付いた僕の額にはジワッと汗が噴き出てきた。

逃げるしかない。でも、この滅多にないチャンスを放置して逃げるのも勿体ない気もする。自分よりレベルの高い敵を倒した時に得られる経験値って多いでしょ?EXP大量ゲットのチャンスだと考えれば!いやでも、慎重プレイしないとゲームオーバーして全部チャラになるし・・・

 

「そこで俺の出番だ。俺は似た状況であの娘の背後を取って両手に漆を塗ったことがある」

漆の状況がよくわからない。そんな僕が呆けている間に、藤岡さんは女子高生の背後に迫りドーンと押して穴に突き落としてくれた。

ありがとう、藤岡さん。

でも、お礼の挨拶を口に出している暇も無いんだ。

急いでホテルに戻って、僕自身の潔白シチュエーションを作らなきゃいけない。

 

 

 

僕は、この島特有の工事だらけの悪路を、障害物競走ですか?ってくらい走りにくい大道路を走りホテルに戻った。

調理場の奥の食糧庫に戻って、手足を縛られた状態のフリをして待機するだけ・・・

 

 

 

手足を縛るだけ・・自分で?

どうやんのこれ?

そりゃできなくもないけど、自分で自分を縛るのって下手にやるとモロバレ。だからって上手に縛るのも難しい。時間がかかる。

こうしている間にも、明智警視がホテル中を捜索して、犯人探しをしているはず。この調理場に来るのも時間の問題だ。

どうしよう!

 

 

 

 

 

『お困りのようやな』

 

 

その時・・・

もう何度も来ているから割愛。

 

「ワシは阿知波研介。阿知波不動産の社長で浪速の不動産王、百人一首の団体・皐月会の会長で爆弾魔仲間や」

自慢が長いので割愛。

 

 

 

阿知波に手足を縛ってもらってすぐ、明智警視が僕を見つけた。これで僕の身の潔白は証明された。

 

 

その後、捜査に戻っていく明智警視の背中に「ここにいるよ」と心の中で『犯人ここにいるよ状態』を言いたい気持ちを我慢して見送った矢先・・・

「ねぇ、お兄さんって浅見京太郎じゃない?ボク、明智警視の友達なんだ」

眼鏡のガキ(コナンくんの可能性あり)が入ってきた。

はい?

言いたいこと4つほどあるけれど、とりあえず割愛しようか。

 

いや無理! どうやって203号室から脱出したんだよ。どうして僕の名前知ってんだよ。明智警視の友達って何?今回やること多すぎて、証拠の木箱を隠滅する暇もない!

 

 

 

 

 

【数十分後】

 

殺人事件現場のパーティ会場に参加者の面々が電話で呼び出されていた。

この流れ、『謎は全て解けた』的なものだと思うけど・・・犯人がハブられているよ!

 

疎外感に堪えられなくなった僕は、隠れて様子をうかがうことにした。

 

皆を呼び出したのは会場でコナンくんらしき子供と一緒にいた女子高生。ただ、張本人のくせに何故かキョトン顔。

なんか話が見えてこないうちに、女子高生は「え・・・あれ・・・?」と呟いて眠るように座り込んでしまった。

 

 

 

「と、冗談はこのくらいにしましょうか。被害者となった土田幸恵さんと水川英二さん。あの2人を殺した犯人は・・・あなたですね!土田明美さん!」

ファイ!?

すっごい所からストレートパンチが飛んできたよ。僕には当たってないけど。

 

そこから咲き乱れる、美雪とかいう女子高生の名推理。毛利小五郎並みの推理力。

ホント、ここ最近驚かされてばかりだ。ポンコツ警視に影武者使いの名探偵、関東最強の空手女子高生に、名推理女子高生。化け物揃いじゃないかこの島。

まぁそれでも僕に届いていないから、恐るるに足らないけどね。

 

 

 

 

こうして、謎は9割、解かれた。

 

 

 

「助けて・・・日暮さん・・・助けて・・・」

意気消沈の明美は僕に助けを求める始末。ちなみに日暮は僕の偽名さ。

そして、「日暮」の言葉に狼狽しはじめる2人の仇。

そう。この日暮ってのは今や名も残らない、この島の本当の名前。夕闇島の名前を奪った仇たちの恐怖を煽るためのチョイス。

 

怖いくらい上手くいってる。もうこれもはや面白い見世物だよ。

「アハハハハハハハ!」

あっ・・・笑っちゃった。

コナンくんらしき男の子にめっちゃ怪しまれてる。

仕方ない。正体を明かすとしますか!

 

 

 

そこから咲き乱れる僕のネタバラシ。

「ある時はウェイターの浅見京太郎。そして、ある時は、事件を裏から操る男、日暮。そして、ある時は、島を恐怖のどん底に叩き落す連続爆弾犯!」

しかしてその実体は、正義と真実の使徒、藤村大造だ!

って言えたらカッコイイのにな。

えっ?チョイスが古い?25年前は夕闇島の子供たちに流行ったネタだよ。

 

 

 

 

その後、僕を逮捕しようとする明智警視には爆弾をチラつかせて脅し、その正体である閃光弾を炸裂させて目くらまし発動!

さぁ、皆が怯んでいる間に、水川と土田を拉致して退散しますか。

 

 

 

 

 

大人2人を?

1人で?

土田のBBAと、水川の夕闇島の金塊で食ってきてブクブク太ったボディを?

 

 

これは筋トレ!限界を超えろ僕の筋肉!

なんて言ってる場合じゃない。

どうしよう・・・どうしよう!

 

 

『何してるんだ? 早く行こうぜ』

 

 

 

その時、割愛して僕の前に現われたのは「俺は本上和樹」だった。

 

 

「ホテルなんて大嫌いだ! おしゃべりしてる時間があったら、早く出るぞ!」

イライラした様子の本上さんは、足早に水川を拉致してくれた。

重くない?3桁はあると思うけど。

そんなにホテルから出たかったんだ・・・理由は触れちゃいけなさそうな気配があるから聞かないけど。

 

 

 




その後、水川と土田を夕闇島に運んだ僕。
水川の服のポケットに“バッジ”くらいの大きさのゴミが入っていて、運ぶ時にチクチクして痛かったけど、まぁ復讐達成まであと少しという高揚感を前にしたら小事だ。




さぁ、あとは最後の標的、日沖竜一町長。
そして嫌な思い出だけが巣食う、2つの島を爆破だけだ!


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めぐりあう2人の名探偵 =第6章= 【前編】

待望の主人公の出番が来たぜ。

 

 

 

俺は日沖竜平。復讐チームのリーダーだ。

そう、俺は25年前の惨劇を引き起こした日沖竜一の息子。その惨劇を咎めた母と共に、実の父に殺されかけた過去を持つ、バックボーンの重い復讐者。まさに映画の主人公と言っても過言はない。

 

 

 

さて、満を持して登場した俺だが、軽く前回までのあらすじを振り返っておこう。

 

25年前の復讐の舞台・夕闇島に、偽・島民として借金漬けの人間を大量に雇った俺は、財宝の発掘と偽って、生き埋めになった島民たちの遺骨を掘らせている。

なおかつ、仇の5人に恐怖を味わわせるために、25年前のタイムスリップを演出するために、島民として俺のシナリオ通りに動く仕掛け人としての指示をしていた。

 

そしてついにその日。

仇の1人目、火野隼人の殺害日・・・奴らは現れた。

金田一耕介の孫、金田一一。マヌケ面の見た目と裏腹に、巧みな戦術と推理力で俺たちを翻弄する高校生探偵。

俺も巧みな話術と演技力で金田一を牽制して対抗したさ。

その火花散る二人の攻防、一進一退の鍔迫り合いは、まさに主人公と好敵手の因縁の戦いの日々だった(と話したら、仲間の美優に鼻で笑われた)。

 

 

 

 

そしてもうすぐ、全ては終わる。

 

 

 

 

 

の・・・前に、1つ俺の身に起きた奇妙な出来事を話しておこう。

復讐の邪魔が外から入らないように、この復讐劇の事前に島の通信手段を破壊しておく必要があった日の事だ。

当然、この島には外部の人間、無関係で罪の無い観光客も来ているわけだ。

通信手段が壊れたままだと、その人たちの帰る手段が無くなってしまう。

だからこそ、復讐の間だけ通信機器に沈黙してもらって、終わったタイミングでちょうど直ってもらわなきゃいけなかった。

 

 

 

だが・・・・そんな都合よく機械って壊せるものだと思うか?

俺には無理だ。

 

と、そんな時、次元の壁を超えるような、不思議な、絶対に出会うことのない、監督の違う、媒体の違う、そんな場所から来たような男が、俺の前に現われた。

 

「私は検事・日下部誠」

不審者が出た。そうじゃなくても警察関係者の介入は復讐の邪魔でしかない。しばらく眠ってもらおう。

 

「ちょっと待て。警察官は警察庁。検事は検察庁。管轄が違うぞ」

そうじゃなくても無関係者の介入は復讐の邪魔でしかない。しばらく眠ってもらおう。

 

「だから話を聞いてくれ。キミは通信手段を一時的に沈黙する手段を欲しているんだろう?なら私に任せてくれ。IOTテロなら得意なんだ」

この島の通信機器はネット回線を使っていない。無線だ。しばらく眠ってもらおう。

 

「待て!待ってくれ。頑張るから、なっ?」

そう言うと頑張って通信機器を一時的に壊してくれた日下部は、まるで最初からその場にいなかったように、霧のように消えていった。

その時は、日下部が何だったのかわからず、とりあえずは丁度良く壊れてくれた通信機器に満足するだけで精一杯だった。

 

 

 

その後、美優や浅見、須永から似たような報告が上がった。

なるほど、どうやらこの夕闇島と日暮島には、俺達の復讐を手助けしようと積極的に介入してくる実体を持つ幽霊が出没するようだ。

この存在が吉と出るか凶と出るかは、今の段階では分からないが・・・とりあえずは復讐に支障はないようだ。

 

 

 

話が脱線したがもう一度言おう。

もうすぐ全ては終わる。

全てを終わらせる上で一番の障害は、もちろん金田一なわけだが、今回はむしろ金田一を招き入れようと思う。

普通、殺人事件を起こそうとする現場にあえて探偵を呼ぼうなんて思わないだろう。

ところが俺は前代未聞のその行為をやってやろうってんだ。空前絶後だろ。

 

 

 

舞台は旧・三井邸。浅見京太郎の実家だ。

実家を提供してくれた浅見、サンキュー。

そして屋敷に使用人を配置して、俺は浅見から受け取った水川と土田を天井裏の隠し部屋と外の物置にセット。

この前、難癖つけて誘拐しておいたガキ3人を人質に、金田一と剣持を屋敷に呼びつけて放置。

その間に俺はムード作りさ。

殺人にも気分を盛り上げるための雰囲気が大切・・・ってのは少し違う。

 

 

 

今回の1件目の水川殺害は少し大がかりだ。

窓が1つしかない部屋に眠らせたヤツを閉じ込めて、目を覚ました頃に仕掛け人の偽・島民を使って暴動風の騒ぎを起こす。そこに俺達も部屋の扉を叩いてヤツを怖がらせる。

パニックになったヤツが、その1つしかない窓から出ようとした所を、俺が先回りして殺すって算段さ。

 

 

さて、水川がパニックになるくらいの騒ぎを、借金まみれのクズどもに起こさせるわけだ。

 

HOW?

どうやって?

 

暴動は演技。不満もクソも無い、見たことも無い町長宅に押し寄せて、馬鹿馬鹿しい騒ぎを笑わずに起こすには、劇団並みの演技力と、総監督並みの統率力を要求される。

そんな演技力があったら、クズどもは借金まみれにはなりません。

そんな統率力があったら、俺は警察に入って出世して、普通に25年前の事件を捜査して仇を逮捕しています。

 

 

 

やることは少ない。だけど、無いものが多い!

せめて、集団の大音声を指揮できる経験と技能があれば・・・

 

 

 

 

『そこは私に任せなさい』

 

その時、俺の前に例の声が聞こえてきた。

例のごとく現れたのは、白髪の眼鏡のじいさんだった。

俺達犯人の前の現われる犯人・・・

犯人?こんなじいさんが?

 

 

「私は譜和匠。堂本音楽ホール館長でピアノの調律師だ。もちろんピアノも弾けるし指揮者もできる」

なんか音楽家が来た。音楽家はお呼びじゃない!

 

「あとは農薬を飲み物に混入させたり、狭い住宅街に大型トラックで突っ込んだり、ライフルで狙撃したり、工具で人を殴ったり、爆弾で小さな部屋から大きなホールまで爆発させたりできる」

ヤベェ殺人力の持ち主が来た。これはお呼びだ。だけど、今じゃない。

 

「まぁ今回は音関係でお困りのようだから、私が炭鉱労働者たちを指揮しておこう。そうすれば本物の暴動と誰もが見間違う、警察や探偵すら本気にしてしまうほどの偽・騒動にまで発展させることができるぞ」

お呼びでした。

 

こんなことある?

俺に出来ない事を平然とやってのける、思わず憧れてしまうじいさんが来てくれるとか。

 

 

 

そこから咲き乱れる譜和匠先生の華麗なる指揮指導。

みるみるうちに変貌していく『夕闇歌劇団』

 

やばい・・・惚れそうだ。

俺、こういう歳の取り方したい。

 

 

復讐終わったら・・・そう、この歌劇団を俺が率いて、金田一を倒してから!



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めぐりあう2人の名探偵 =第6章= 【後編】

俺は団長・日沖竜平

 

演技素人だけの夕闇借金まみれ団が、世界一の指揮指導を受けて、本物の暴動を演技できるようになった。

そう、我ら夕闇歌劇団!

 

 

 

演目は【町長に不満を持つ炭鉱労働者たちの町長邸襲撃】。

 

暗闇に松明の明かりを燃え立たせ、屋敷を囲む殺気溢れる労働者たち。

その鬼気迫る様たるや、獲物に喰らいつく瞬間を狙っている野犬の眼差し。

 

えっ?金田一たちを招き入れたのが朝なのに、暗闇はおかしいって?

そう、もう夜。色々と時間がかかってんだ。

さすがに金田一や剣持も怪しんできている。そろそろ水川殺さないと、2人の我慢も持たないだろう。

 

 

いや、暴動の方は準備万端なんだよ。

 

問題は水川が全然目を覚まさないことだ。

夕闇島に運ぶときに眠らせて、起きた所をサプライズ殺害する計画なんだが・・・

浅見、睡眠薬嗅がせすぎ!

 

 

【翌朝】

 

水川が起きたのは一晩明けてから。

その間、俺は監視カメラでヤツの様子を監視しっぱなし、暴動は声あげっぱなし、使用人たちも演技しっぱなし、金田一と剣持はゆっくりお休みタイム。

 

どうよ?こういうドッキリ番組って、裏方の負担がデカいんだぜ?年末の笑えない番組、俺好きだけどさ、今年は裏方さんたちの苦労を思うとマジで笑えないかもしれない。

 

トリックって、アイディアよりもフィジカルよりも、大事なのは『忍耐&仕掛け人の真面目さ』

ほんとこれに尽きるな。

 

 

 

水川が起きたことで、俺は自然な流れで金田一たちを隠し部屋に誘導。

あとは水川が計画通りに怯えてくれていれば成功だが・・・

「くるな!近づくな!」

扉ごしに響く水川の悲鳴に、俺は心の中でヨッシャと拳を握った。

ドッキリ大成功!

 

 

あとは金田一に扉を叩いて呼びかけ続けるように頼めば、扉の向こうの金田一たちが水川を殺しに来ていると錯覚させることができる。

その間に俺は屋敷の屋根を渡って、この隠し部屋の窓から出ようとしている水川の喉をナイフでサクッと切り裂いて殺害。

密室殺人の完成となる。

 

ドン☆

 

 

って達成感に浸ることができればいいんだけど・・・・さすがに25年放置した建物の屋根の耐久性は不安しかない。途中で少しでも屋根壊れたら下まで真っ逆さま。労働者たちが見守る中、プルプル足震わせて、中年のオッサンがコレやるの。

復讐の1つを俺自身の手で達成できたってのに、全然テンション上がんないのよこれ。

 

 

こんな時こそ浅見直伝のポジティブシンキング!

『喜べるときに喜ぶべし』

復讐で荒んだ心を癒やすには、成功を素直に成功と喜び、その余韻に浸る寛容こそ重要なのさ。

 

 

 

 

そんな矢先・・・さっそくアクシデンツ。

金田一が、次の標的の、土田を、物置小屋で、見つけちまったぁ。

 

 

ここから巻き起こる土田ネタバラシ旋風。

日暮島で有力者が次々に神隠しに遭って、夕闇島に運ばれている可能性があることも。

俺の顔が夕闇島の日沖町長の若い頃の顔と似ていて、苗字が同じなことも。

 

 

 

金田一が真実に近づきすぎていく足音が聞こえてくる。

 

 

 

これは非常にマズイ。

早く土田を殺さないと。

 

 

 

【翌朝】

 

俺は当初の計画通り、物置小屋に土田を呼び出した。

待たせたな。土田文子。俺は25年も待った。己の罪を悔いながら、25年前にお前がしたのと全く同じ方法で、三井和子として死ぬんだ!

 

 

 

「待てっ!」

 

 

その時、次元の壁を超えない、不思議でもなんでもない声が小屋に響き渡った。

 

絶対に出会える、監督は一応同じ、媒体は同じ、そんな場所から来た金田一が、俺の前に現われた。

 

 

 

えっ?金田一と剣持?どうしてここに?

「こっちは昨日の晩から、ずっとお前を待ってたんだよ!」

剣持警部の豪語に俺は驚いた。

刑事もののドラマでよく見る“張り込み”ってやつですか!?こんな小屋の中で?たしかに昨日の晩から『なんか2人見ないなぁ』って不思議に思ってたけど。

 

「この屋敷内での殺人を企んでいた張本人は・・・あんただろ?日沖竜平!」

 

 

バレてた。

一応は俺の得意のおとぼけを炸裂させてみたけど、なんか金田一、すっとぼける犯人に慣れてるのか全然通用しない。

 

 

 

 

そして咲き乱れる、咲き乱れ慣れた金田一の名推理。

 

 

謎は全て解かれた。

 

 

だが、俺にはまだ切り札が残っている!

召喚!炭鉱労働者!

俺の合図と共に、屋敷の扉から次々と雪崩れ込む肉弾戦車のマッチョマンたち。

金田一と剣持を追い出して、そのどさくさに俺は土田を殺してやった。

 

追い詰められた時の筋肉って、ほんと裏切らない。

トリックって、最後はフィジカル・・・というか、パワーだな。これほんと正解。

 

 

 

 

こうして復讐を5人中4人達成した俺達。

残すは俺の父、日暮島町長の日沖竜一だけ。

 

 

そして、その前に念には念を入れて。

物置小屋に逃げ込んだ金田一を・・・小屋の中にプレゼントしておいた浅見特製の爆弾で・・・爆殺するだけ!

俺、永遠の好敵手である金田一の事は結構気に入ってたんだけどな。今は私情よりも復讐。

 

 

 

じゃあな。アバヨ・・・金田一。

 

 

 

 

BOOOM!!!

 

 

 

 

 

 




こうして

爆発の轟音を背に

金田一を殺した俺は

最期の復讐に向け

日暮島に渡った


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めぐりあう2人の名探偵 =最終章= 【side:C】

浅見京太郎の事件簿もついに最終目標に到達さ。

 

仇の4人を夕闇島に送り届け、あとは25年の呪いの島、夕闇島を爆破するだけ。

嫌な思い出しかないあの島を破壊して初めて、僕の耳に残る“生き埋め事件”の時の音が消えてくれるはず・・・

 

なんてしんみりしていたらポジティブの伝道師の名が泣いちゃうね。

やっと日沖から25年待ったGOサインが出たんじゃないか。「遺骨全部掘れたよ」って。

これで心置きなく島を爆破して、島の皆のお墓を作れるんだ。テンション上がってきた!

ここからは、僕のステージだ!

 

 

 

さて、島中に爆弾を設置していくわけだけど。ここからはスピード勝負。

なんせ毛利小五郎を放置しちゃっているからね。(明智警視?あのポンコツは気にしない)

探偵に邪魔されないうちに、ササッと設置しなきゃいけないんだ。

 

えっ?事前に準備しておけばよかったじゃないかって?小学生の子供に明日の授業しておきなさいって叱るお母さんみたいなことを言うね。

あのね、今日の今日までこの島には炭鉱労働者がたくさんいたでしょ?誰かが触ったら危ないでしょうが!

使う時に使うものを出して、使い終わったら収納する。これ当たり前。

 

 

 

あと、島を破壊する爆弾だけど・・・ざっとトンいくくらいかな。

うん。バカみたいな量だね。

普通に無理。トラックも無くは無いけど、狭い道には入れないから最後は人力頼み。一人じゃ無理。

 

だけど・・・忘れていないかい?

僕には頼もしい犯人たちがいるんだ。

次元の壁を超えて現われる協力者が!

さぁ!カモン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・あれ?来ない。

いつもなら呼ばなくても来るのに。困っている時にはいつも来てくれるのに。いつもと同じパターンだよ?何故来ないの?

 

まさか・・・だけど・・・多用しすぎた?

犯人のストック・・・尽きた?

マジかよ。

 

えええええええええ!こんな時に限って!?もう最後の最後のひと押しなんだよ!集大成なんだよ!一番要るタイミングなんだよ!

嘘だといってよ、ハンーニィン!

 

 

どうしよう。このままじゃ島の浄化ができない。島の呪いを消せない!

 

 

 

 

【突然、浅見の頭に哲学的な疑問が走った】

 

『むしろこの状況こそ普通なんじゃないか?』

復讐ってのは、誰かに助けてもらって成すものではないんじゃないか?

自分の力でやり遂げなきゃ、達成感なんてものも無く、僕は駄目な人間になってしまうんじゃないか?。

今こそ自分の足で立つ時なんじゃないか?

 

 

こうして僕は地道に爆弾を設置していった。

1つが人体の重さに匹敵する爆弾。つまり拉致1回の労力と変わらないじゃないか。ならば問題ない。

 

 

 

【1時間後】

 

浅見、過労死寸前!

しかし、目標達成率わずか20%

『今を逃したら探偵が来てしまう。謎を解きにやってきてしまう。あきらめて、たまるか!』

 

 

 

【数時間後】

 

ついに僕はやり遂げた。

総移動距離、都内の環状線1周分。

くじけそうな時が何度もあったけど、その度に心を支えたのは仲間と、そして好敵手の影。

僕は1人じゃない。共に復讐を誓った日沖と、僕の背を追いかけてくれる毛利小五郎がいる。孤独じゃないんだ!

 

とはいえ、かなり疲労困憊。

一度休憩がてら三井町長邸に行こう。ちなみに僕の本名は三井京太郎。そう、我が家に。

ついでにお母さんの形見の天使の羽のブローチも回収して、思い出に浸ってリラックスしたい。

のに、しまった場所、わ~すれちゃった~よ~。

時間をかければ見つからなくはないが。

 

「ごめんくださ~い」

お客さんが来たみたいだ。「は~い今行きます!」と出てみれば、何故かそこにはコナンくん。この子との遭遇率、最近高くない?

そこから咲き乱れるコナンくんの質問タイム。時間があったら答えてあげたいけど、生憎今は駄目。って僕の都合を無視してグイグイ来るコナンくん。

爆弾のスイッチをちらつかせても、こうかはいまひとつのようだ。苦手なタイプだ。

しまいには25年前の惨劇の、僕のトラウマな部分にまで目ざとく質問をぶつけてくる。

最期にはどうにかサヨナラバイバイできたけど、この短時間で一気に子供嫌いになった。

 

 

 

 

その後、僕は炭鉱内に時限爆弾を設置して、炭鉱奥の隠し船着き場に到着。

あと10分で呪縛から解放される。

そうしたら、次は夕闇島を名乗っている日暮島の番だ。サイコーに大きな花火を上げてやる!

 

その時、僕のテンションが徐々に上がっていく足音と共に、僕の背後から声が聞こえた。

「おや!?えっと?あんたはどなたですかな?」

毛利小五郎、参上!! と、何人かの日暮島の島民。

部下を引き連れて僕と対決に来たようだ。

 

ちょっと形勢不利か?

いや待て様子がおかしい。

このすっとぼけた様子・・・こいつはホテルにいた偽物だ!

 

「ほへ? ふにゃ~」

突然、マヌケな声を上げたかと思うと、毛利小五郎は眠ったように座り込んでしまった。

なんだコイツ。

あれ?でもこの声と展開、何処かで見たような・・・

 

「と、冗談はこのくらいにしておきましょうか」

ん?

「夕闇島と日暮島、双子島にまつわる悲しい真実。そして、その双子島で起きた25年前の惨劇。その惨劇への復讐心が巻き起こした今回の一連の事件。あなたたちが企んだ計画のすべては、もう私にはわかっているんです!」

毛利小五郎は変貌したかと思うと、語り始めた。

僕達の復讐の全ての真実を。

 

 

25年前の金塊発見を発端に、仇の5人が起こした連続殺人事件と島民生き埋め事件。そして日暮島民がその悪行を見過ごしてきた罪。そしてその悲劇から生まれた僕らの復讐の真相の全てを、毛利小五郎は巧みな話術で暴き出した。

全てを解き明かされて、僕の心は妙な清々しさを覚えた。

はじめて理解してもらえた僕らの苦痛、そして憎い日暮島民たちにも知ってもらえたから。

 

 

さすが名探偵。

こっちの夕闇島には今日初めて来たはずなのに、ものの数時間の滞在で全ての真相を暴き出したというのか!?

 

 

最期にはコナンくんまで現れて、僕を追い詰めた。

「過去の呪縛から解放されたいのは、自分自身じゃないの?浅見さんは忘れたいだけなんだよ。この島にまつわる辛い思い出を!昔の面影が残るこの島を見ていると思い出しちゃうんでしょ?あの辛い思い出を。その辛い思い出から逃げるために、破壊しようとしているだけだよ。この島の全てを」

なんという冷静的確な判断力から導き出された図星なんだ!

 

でも教えてあげよう。オーバーキルしすぎると、犯人は逆切れして何をしてくるか分からないんだよ!

僕はタイムリミットを待つことを止め、島の全てを破壊する爆弾のスイッチを取り出した。

 

「浅見さん!これを見て!」

コナンくんはそう叫ぶと、形見の天使のブローチと、昔の僕とお母さんが写る写真を僕に見せた。

「聞こえるでしょ?お母さんの声が」

そう、僕には確かに聞こえてきた。次元の壁を超えるわけではない、でも絶対に出会うことのない、監督とか媒体とか無粋なことを言わず、僕が本当に会いたいと思っているお母さんの声が!

 

「いけっ!」

その時、コナンくんの方からキュインキュインと音が聞こえてくると、何処から取り出したのか分からないサッカーボールを射出するように作り出して、僕の手ごと爆弾のスイッチを破壊した。

 

犯人が戦意喪失した所に暴力。これがお前のやり方か!

「確かに、この島には辛い思い出ばっかりかもしれないけどさ。でもさ、この島には楽しい思い出もいっぱい詰まってるんじゃないの?この島がなくなっちゃったら、お母さんの思い出も全部消えちゃうんだよ?本当にそれでよかったの?そんなことをしてお母さんが喜ぶとでも思ったの?」

追撃の説得。むしろ憧れるよコナンくん。

25年前の僕にも、コナンくんと同じくらいの力があれば、あんな惨劇くらい、止められたのに・・・

 

 

 

その後、時限爆弾が作動し、炭鉱が崩れ始めた。

まぁ走って逃げれば間に合うから、コナンくんたちは助かるだろう。

僕はこのまま炭鉱に埋まって死ぬことにするよ。25年前に本当はそうなるはずだったんだ・・・・

 

 

「そうは、させねーぞ」

そう呟くと、コナンくんは僕に手を差し出した。どういうつもりだ?

「バーロ。どういうつもりもあるかよ。あんたも一緒に逃げるんだよ。あんたには、ちゃんと罪を償ってもらわなきゃならないんだからな」

歳不相応な言い方で僕を説得するコナンくん。お前、本当に何者なんだよ?

 

「オレは江戸川コナン、探偵さ」

 

 

 

 

 

 

こうして、謎は全て解かれた。

 

 

僕は最初から負けていたんだ。

 

 

2人の名探偵を相手にしていたんだから。

 

 







その後、日暮島の島民たちは罪を償うために夕闇島の復興を約束し、僕は大人しく逮捕されることにした。




じゃあ元気でね、小さい名探偵さん。


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めぐりあう2人の名探偵 =最終章= 【side:H】

ついに日沖竜平の事件簿も最終回だ。

 

 

復讐の大半を達成し、好敵手・金田一を爆殺した俺は、最後の標的である父親・日沖竜一を殺すために夕闇島に向かっていた。

もちろん、こっちの島で残した仕事を片付けてから。炭鉱で生き埋めにされた夕闇島民の遺骨を弔ってからだ。

 

この遺骨は借金まみれのクズどもを金で雇って掘らせていたもの。当然、最初から遺骨発掘なんて不気味な仕事だとは教えず、宝物の発掘だと思わせておいたものだ。

だから、現在悲惨な有様。

気付いたら、暴動が本物になってた。

炭鉱労働者のマッチョたちが「日沖を探せ!」ムードになってんだよ。

騙したのは悪かった。

ゴメン。

オヤジ殺したら謝罪に戻るから。

 

 

 

その後、美優が久々に顔を見せて「復讐ヤメテ」と俺を説得したがスルー。

そして俺は炭鉱の船着き場に遺骨を全島民分運んで、木箱に詰めて船に乗せた。

 

 

 

・・・・ん?

遺骨が全島民分ある?

 

 

つまり、あのクズどもは発掘中に最初の遺骨を掘り当てた後も、律儀に発掘作業をし続けて、全部見つけてくれていたってことだよな?

「日沖を探せ!」って怒り狂う気持ちを、遺骨にぶつけたりしないで・・・

 

 

 

 

 

良い子たちじゃないか!

 

感謝!圧倒的感謝!

 

彼らの優しさに気づいた後、船への遺骨積み込み作業は至福の雑用へと変貌していた。

クズ呼ばわりして、本当に申し訳ありません!

 

 

 

だが、そんな至福の時間はガラガラと音を立てて崩れ落ちた。

リアルにガラガラと音を立てて・・・

「誰だっ!? 誰かそこにいるなっ!」

俺の大声に、その物音の主・金田一はヌッと姿を現した。

 

金田一!? 

幽霊?いや足はある。

ってことは、あの爆発を受けて生きていたってことか。

 

死なないのか?殺しても死なないのか?

本人も「ゴキブリ並みにしぶといって評判」と豪語しているけど、限度ってもんがあるだろ。

 

 

その後、俺は遺骨を見せて「復讐に行かせてくれ」と説得したが金田一は聞く耳を持たず。

さらに殴りかかってきたから殴り返してやった。

金田一、防御力と推理力は化け物だけど、腕力は弱かった。衝撃的事実。

 

 

 

【数時間後】

 

ついに日暮島に辿り着いた俺は船着き場で遺骨と金塊を積み替えた。

そしてオヤジを炙りだすために、古くからの島民を「日沖」の名前でホテルに呼び出した。

なんせオヤジ、罪を追求されるのを恐れて整形してやがって、実子の俺ですら誰が実父なのかわからなくなってんだ。

 

だが、この最近の連続事件で夕闇島民を心理的に揺さぶっている今なら、罪の意識から誰かがオヤジの正体を告白してくれるはず。

それかもしくは、この島に来ている名探偵の毛利小五郎が暴き出してくれるはずだ!

 

 

 

その後、俺の狙い通り。

オヤジの正体を明かそうとした島の警官のシゲさんが、口封じのためにオヤジに殺され、その事件の解決と共にオヤジの正体が露見した。

安定のクズオヤジ。25年前に惨劇を暴露しようとしたオフクロの事も殺しただけのことはある。

 

そして事件は金田一と眼鏡の子供が解決してくれた。

金田一、お前は殺人事件のある所にどこでも出没するんだな。

いやむしろお前が行く先々で殺人事件が誘発されるんじゃないか?

 

 

 

その後、俺は金田一たちを拳銃で脅して強引にオヤジを誘拐。

炭鉱の船着き場に連れてきて、その目の前でオヤジが家族の命より優先してきた金塊を乗せた船を爆破して沈めてやった。

 

「金塊が・・・私の金塊が・・・」

爆破され、海の中に沈んでいく金塊を眺め、オヤジは狂ったように崩れ落ちた。

これでようやく1つのケリがついた。

2つの島を狂わせ、多くの島民の殺し合いを引き起こし、俺達の人生をも狂わせた惨劇の復讐。

 

 

あとはオヤジを殺せば、全ての決着がつく!

 

 

 

「待てよっ!」

その時、船着き場に響いた金田一の声。

今さら俺を止めようってのか?

 

「夕闇島と日暮島、双子島にまつわる悲しい真実。そして双子島で起きた25年前の惨劇。その惨劇への復讐心が巻き起こした今回の一連の事件。あんたたちが企んだ計画の全ては、俺には全部わかってるんだ!」

金田一の豪語に俺は少し興味が引かれた。

今さらオヤジを殺すことを止めるつもりはないが・・・聞かせてもらおうか!

 

 

その後、咲き乱れる金田一の解き明かした真実。

金田一は全てを理解してくれていた。今まで誰も気付いてくれなかった真実を。

 

だが、来るのが遅かった

金田一、お前は来るのが遅すぎた

25年前に来てくれたら、惨劇から俺たちを救ってくれたかもしれないのに・・・

 

 

もう遅い。

俺はオヤジの頭に拳銃を突きつけた。

金田一はそれを止めようと再び口を開いた。

 

「日沖!あんたのしていることは惨劇の復讐なんかじゃない!あんたのしていることは、惨劇そのものなんだ!25年前の惨劇はまだ続いてるんだよ!あんたがやめない限り、この惨劇はずっと続くんだ!あんたを苦しめ続けたこの惨劇止められるのは、あんただけなんだぞ!」

金田一は俺の心の迷いまで見抜いているようだ。

俺が本当に復讐に狂っているなら、夕闇島で金田一と剣持を放置せず、関係ない人間を巻き込んだ復讐をしていなかったはずだと。

 

 

「あんたは心のどこかで気付いてるんじゃないのか?自分のしていることの虚しさを。あんたは心の何処かで願っているんじゃないか?誰かが自分の復讐を止めてくれること」

金田一の説得に止まらない俺の動揺。

そこに、最期に参戦したのは、美悠だった。

 

 

彼女は妹の美佐が残した言葉を俺に伝えてくれた。

復讐で得られるのは一瞬の満足だけ。復讐で傷つく俺達を見たくない。家族同然の俺達には苦しむのではなく、幸せになって欲しいのだと。

そこに加えて金田一が見せてくれたのは、美佐の残したメッセージ。

『夕闇島を25年の呪いから解放して』

死者からの説得まで、俺を追い詰めている。

 

 

俺は思い出していた。どこかで聞いた言葉を。

 

『もっともよい復讐の方法とは、自分まで同じような行為をしない事』

 

そうか・・・俺の本当の復讐は・・・ここにあったのか。

オヤジには生き続けて、永遠に後悔してもらう。

 

 

許すこと。

それが俺のするべきことだったんだ。

 

 

 

これでよかった。

最期に金田一と、美悠と美佐が、俺を止めてくれたんだ。

 

 

 

 

こうして、謎は全て解かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、1つだけ心残りがある。

 

それは海に沈んだ金塊だ。

海に沈んだところで金が無くなるわけじゃない。価値が無くなるくらい腐食するのにも時間がかかる。

そう遠くない未来、この島に沈んだ金塊の噂を聞きつけたトレジャーハンターやら、欲に駆られた島民が現われるだろう。

 

そうなってしまえば、この島は再び金塊を巡って、血で血を洗う惨劇の舞台となってしまう。それだけは何としても防がなければならない。

隠しても命を狙われ、使おうにも所有権やら所得税やら扱いが難しい。

その後始末を金田一や美悠、他の島民に押し付けるのは心苦しい。

 

 

 

どうすればいいんだ!

 

 

 

 

『ヌフフフフ』

 

 

その時、次元の壁を超えるような、不思議な声が俺に届いた。

 

 

絶対に出会うことのない、監督の違う、原作者の違う、媒体の違う、そんな場所から来たような男が、海の中からヌッと顔を出した。

 

金田一や美悠は気付いていない。

その“3人組のダイバー”に気付いているのは俺だけだ。

 

 

「俺らは・・・まぁ名乗るのはヤボってもんだな。まっ、ICPOから追われる”お尋ね者”ってところだ」

サル顔の男が海から拾い上げたであろう金塊にキスをして、ニヒヒと笑みを浮かべながら俺に語りかけた。

 

「話は聞かせてもらった。まぁお前の心配する通り、こういう厄介なお宝は綺麗な島にゃあ似合わねェ。悪党どもが押し寄せてこないうちに、誰もが諦めつく形で消えちまったほうがいい。そういう恨まれ憎まれ仕事こそ、俺ら“泥棒の仕事”なんだよ。ウンウン」

サル顔の男はニヤリと笑みを浮かべると、仲間の男たちと賑やかしく消えていった。

 

 

 

あれが何だったのか分からない。

だが、俺は救われたようだ。

 

 

 

 

 

 

こうして全てが終わった。

 

 

全ての元凶であるオヤジは魂が抜けたように放心状態で病院に入り、日暮島の島民たちは過去の罪を世間に打ち明けた上で夕闇島の復興に尽力することを約束してくれた。

 

俺と美悠は大人しく逮捕されることを選び、浅見と共に罪を償うことを決めた。

もしいつかやり直すことができるその日が来た時は、3人で双子島のために生きようと思う。

 

こんな清々しい気持ちにさせてくれた全ての人に感謝したい。

 

 

剣持、子供たち、炭鉱労働者の皆。

 

 

 

そして

金田一一

 

 

 

まったく、大した男だったよ。

 

 

 

 

 

      【完】









=あとがき=

短い間でしたが、本作にお付き合いいただきありがとうございました。
多くの方に閲覧・感想・評価をいただき、それらをモチベーションにここまで執筆を頑張ることができました。

今後も、「名探偵コナン」と「犯人たちの事件簿」を皆で楽しみましょう。


それではまたいつか


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IF編
死神不在の劇場版 その1


ここは死神が存在しない世界
死神がこの世に生を受けていない世界

故に、犯人たちの運命もまた歪められた世界


【時計じかけの摩天楼】

 

私は左右対称を愛する建築家の森谷帝二。

1年前、西多摩市の新しい都市計画に参加し、長年の夢だったシンメトリータウンを作っていた。

 

そんな矢先、西多摩市市長の息子が交通死亡事故を起こしてしまった。

市長もその車に同席していたが、幸運にもケガも無く職務に影響はない。

 

もしこれが市長の運転で起こした事故だったら、きっと都市計画も頓挫していただろう。

だが、事故を起こしたのは息子。何の問題も無い。

 

そして現在、都市計画も順調に稼働中だ。

 

私は過去に完璧なシンメトリーではない建物をいくつか建築してしまったこともあり、その建物が全部ぶっ壊れてくれたらいいなぁと思っている。

だが、今の充実した毎日では小事。

今日も一日がんばるぞい!

 

『完』

 

 

 

 

【14番目の標的】

 

私は味覚障害のソムリエ、沢木公平。

病気の原因になった4人のストレス源に復讐したいと思っている。

 

だがなかなか良いアイディアが浮かばない。

今日もストレス源の1人、辻が私の勤め先のレストランに来ることになっている。

ホント、ストレス!

 

散歩中、知り合いの毛利小五郎さんが経営している毛利探偵事務所の前にさしかかった。

毛利さんは10年近く、奥さんと別居中。パッとしない探偵業では仕方ないだろう。

もし、毎日のように事件を解決する人気の名探偵にでもなっていれば、今頃は私のレストランに夫婦そろって顔を出してくれるだろうに。

 

でも人間、幸せが一番。必要なのは人気ではなく人望。

ほら見て。

何やら頬のやつれた人相の悪い人が、事務所の前で毛利さんと笑顔で談笑しているよ。

人殺しでもしそうな人相だけど、毛利さんにペコペコと頭を下げている。

 

どういう関係か知らないけれど、少なくとも平和な関係性なのは確か。

あぁいうのって、いいよなぁ・・・

 

 

と、話は置いといて。私は私のストレスと戦おう。

 

復讐に必要なものは容赦の無さ。

 

まずは最大のストレス・辻。

奴が趣味のヘリコプターに乗る前に、目薬を虹彩炎用の散瞳剤にすり替えておいたのさ。

そしてヘリは都内に墜落。

・・・・余計な被害を出してしまった。ストレス!

 

だがへこんではいられない。

 

次はストレス2の旭。

えっ? ストレス9じゃないのかって? 何の話だい?

 

奴が今度オープンさせる予定のアクアクリスタルに行って、旭をサクッと始末。

 

それから、旭の秘書を騙って、残るストレス3・4である仁科と奈々をアクアクリスタルに呼び出す。

 

そして停電&海中の窓ガラスを爆破でサクッと始末。

ライフセーバーの資格を持っている私は泳いで脱出。

 

 

 

こうして、全ての標的を始末した。

 

が、すぐに警察が動き

特に怪しい容疑者がいないことから慎重に捜査が進められ

 

私は逮捕された。

 

『完』



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死神不在の劇場版 その2

【世紀末の魔術師】

私は国際指名手犯の怪盗「スコーピオン」の浦思青蘭。

 

ロマノフ王朝の財宝専門の窃盗犯である私は、日本の鈴木財閥の蔵から発見されたロマノフ王朝の秘宝「インペリアル・イースター・エッグ」の知らせを受け、現場へ急行。

 

=8月23日=

 

いつの間にか怪盗キッドにエッグを奪われてた。

 

『完』

 

 

 

 

 

 

【瞳の中の暗殺者】

 

私は心療科医の風戸京介。

7年前までは外科医をしていたが、神野保との共同執刀手術で左手首を切られてしまい、心療科に転向していた。

が、1年前、その事故が神野の故意によるものと判明し、彼を自殺に見せかけて殺害。

が、最近になってその自殺が再捜査されることが判明し狼狽。

 

私は決意した。

再捜査の担当刑事をS・Kすると。

 

 

警察を恨んでいる友成真に罪を被せながら

まずは運よく遭遇できた奈良沢刑事を銃殺。

次に芝刑事も殺害。

 

最後に、白鳥警部の妹の結婚を祝う会に参加して佐藤刑事を狙う。

祝う会には警察関係者が一堂に会しているが、まぁ大丈夫だ。大丈夫な気がする。

何故かって?

死神の鎌が見えないからさ。

自分でも何言ってるか分からないが、ニュアンス的に大丈夫なのさ。

死神の鎌の父親が活躍していないから、白鳥警部と知り合っていなくて、この祝う会に呼ばれていない感じがする。そんな感じなんだ。

 

 

さて、無駄話もこの辺で。

さっそく本番と行こうじゃないか。

 

まずは佐藤刑事が女子トイレに行ったタイミングで配電盤を爆破し、停電を起こす。

トイレには予め、電源を入れた懐中電灯を化粧台の棚に入れておいたから、暗くなってその明かりに気付いた佐藤刑事が拾ってくれるはず。

そうすれば私から見れば、暗闇で光る標的となる。

 

 

はずだった。

 

考えてみてくれ。暗闇で懐中電灯をつけた時に見える光景を。

懐中電灯を持った人から見れば、自分が明かりで照らした“相手の姿”が見えるはずだ。

そして、明かりに照らされた側から見れば、「うわっ、まぶしっ」となる。

 

 

そう・・・トイレには佐藤刑事しかいなかった。

佐藤刑事を懐中電灯で照らしてくれる人がいなかった。

 

私って、ほんとバカ

 

 

こうして、私の姿をしっかりと目撃した佐藤刑事を、まぶしい中で銃弾を当てることができなかった私は殺害することができず。

 

停電が復旧してすぐに

 

私は逮捕された。

 

『完』

 

 

 

 

 

 

 

【天国へのカウントダウン】

 

ワシは日本一の富士山画家の如月峰水。

ワシが富士山を一望できる丘に家を建ててすぐ、家から見て富士山のど真ん中にビルを建てられてしまうことになった。弟子の常盤美緒に。

しかも市議会議員が美緒から賄賂を受け取り、市の条例を改正しているからタチが悪い。

 

もちろんワシは猛抗議した。

「お前は芸術を理解できてない! 美意識に欠けている!」と。

 

すると・・・

「その通りです!」

立ち上がってくれたのは市長と仲の良い建築家だった。

 

その建築家はビルの設計を担当した建築家の師匠で、ワシの声を拾ってくれたのだ。

市長と共に市議会議員の改正案をすぐに撤廃し、ワシの富士山を邪魔するビルの計画も打ち壊してくれた。

 

 

こうして、ワシの富士山は守られた。

 

(ちなみに、その美緒の会社は後に、プログラマーの原という男が殺害され、会社のメインコンピューターも謎の爆破によって破壊され、すぐに倒産したそうだ)

 

『完』

 



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死神不在の劇場版 その3

【ベイカー街の亡霊】

 

私はIT産業界の帝王・トムデース。

新作の仮想体感ゲーム機「コクーン」の披露パーティで、開発責任者の樫村に脅迫されていマース。

なので樫村の心臓にダイレクトアタック!

トムの勝ちデース。

 

その後、樫村の死体が発見されて警察の捜査が始まる中、コクーン始動!

 

「我が名はノアズ・アーク」

What!!??

ゲームが乗っ取られてしまいマシタ。

 

 

そこから始まる闇のゲーム。

失われるのは子供たちの命か、私の会社の運命か。(どっちも嫌デース)

 

そして勝負は決しました。

 

生き残ったのは、19世紀のロンドンを舞台に、ジャック・ザ・リッパーの逮捕を目指す【オールド・タイム・ロンドン】に参加した警視総監の息子。

さすがは日本の治安の未来を背負って立つ子供。

まるでゲームの全てを把握しているかのように、次々と難関を突破しマシタ。

 

NO。ゲームを把握しているわけはありマセン。これは彼の想像力の勝利デース。

人の未来を切り開く無限の可能性。それはイマジネーション!

私がボーイに勝つ手段などありまセーン。

わずかずつ、私の戦意が薄らいでいくのがわかりマース。

 

 

そして現実のほうでも、ゲームにアイディアを提供してくれた小説家によって、樫村殺害の犯人が私だと暴かれてしまいマシタ。

 

さらに

私のライフはとっくにゼロになったにも拘わらず、ゲームの世界でも警視総監の追加攻撃によって、私がジャック・ザ・リッパーの子孫であることが示唆され・・・

 

トムの負けデース。

 

『完』

 

 

 

 

 

【迷宮の十字路】

 

どうも~

最強の犯人こと、弁慶こと、西条大河です。

 

薬師如来像、見つかりませんでした。

鞍馬山・玉龍寺、取り壊されました。

解体中の寺の中から如来像が見つかって、寺を管理している俺が盗賊団・源氏蛍のメンバーってことがバレました。

 

『終』

 

 

 

 

【銀翼の奇術師】

 

はじめまして。

ヘアメイクの酒井なつきです。

私の事件も早いわよ。

 

私の夢を台無しにした牧樹里を飛行中の飛行機内で殺したんだけど、その時に使った毒が機長たちの口にもついてしまって墜落の危機!?

だけど新庄功くんが飛行機の操縦経験があるっていって、無事に着陸させてくれたわ。

その後、警察の捜査でも結局毒殺の犯人は分からずじまい。

私の目的は達成されたわ。

 

えっ? 死神不在の影響があまり無い?

何それ?

 

『完』

 

 

 

 

【水平線上の陰謀】

 

私は秋吉美波子。

父の死因にもなった第一八代丸の事故に関わった人間に復讐を誓い、同じく復讐を考えている馬鹿を犯人に仕立て上げ、そいつのトドメの一撃を全部奪っていく計画を立てているわ。

 

ただ、馬鹿が馬鹿なのよ。

馬鹿が考えた殺害計画が・・・雑っ雑!

 

 

何故そこまで酷評なのかって?

 

 

あの馬鹿

 

殺す予定の

 

延太郎に

 

逆に殺されていたの

 

 

 

 

そうよ。78歳のおじいちゃんに、よ。

 

あと1歩、私が早く到着していれば

もしくはあと1歩、馬鹿が何か別の事をして犯行を遅らせてくれていれば。

 

そう。それこそ、難事件を解いてきた子供たちと仲良くなった財閥のお嬢様が、その子供たちとかくれんぼでもしていて、

現場で馬鹿と遭遇して、口封じのために霊安室にでも閉じ込めなきゃいけないとかの事態が発生でもしてくれていれば・・・

 

 

 

その後、延太郎のことは私が責任もって殺害。

馬鹿と一緒に海に突き落としておいたわ。

 

それからしばらくして、船に警察が到着して捜査を開始。

案の定、行方不明者の2人のうち、馬鹿と知り合いの私が疑われたわ。

乗客は600人もいるから、捜査の手が及ばないって高をくくっていたのが悪かったわね。

 

でもまぁ、それはそれ。これはこれ。

私の最後の目標は海藤船長の殺害だからね。

仕掛けておいた爆弾で船を爆破して。

警察と乗員が乗客の避難をして、沈没の最後まで船長が残る責務を忠実に守ってくれた海藤をサクッと始末して・・・

 

 

私は船と運命を共にした。

 

『完』

 



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死神不在の劇場版 その4

【探偵たちの鎮魂歌】

 

大阪の死神に全部解かれた。

 

『完』

 

 

 

 

【紺碧の棺】

 

俺は神海島の宝を探している観光課の課長、岩永城児。

宝を狙うトレジャーハンターどもを邪魔しながら、必死で宝を探しているが見つからない。

 

そんなある日、トレジャーハンターの伊豆山太郎と松本光次、そして島のダイビングのインストラクターの山口喜美子が行方不明になった。

 

 

宝はまだ見つからない。

 

『完』

 

 

 

 

 

【戦慄の楽譜】

 

爆破成功

『完』

 

 

 

 

【漆黒の追跡者】

 

※アイリッシュさんへの取材に失敗しましたが、今も父親代わりのピスコと仲良く悪事を働いているそうです。

 

 

 

 

 

【天空の難破船】

 

我らシャムネコ風傭兵窃盗団。

 

飛行船をハイジャックし、バイオテロ騒ぎを起こしたまでは良かった。

が、仏像を人力だけで運ぼうとしたメンバーが相次いで腰痛に。

5体ほどは盗めたが・・・割に合わねぇ!

 

ついでに盗もうと思った宝石『天空の貴婦人』も、怪盗キッドに横取りされる始末。

 

誰だ? こんなことやろうって言い出した奴は!

 

『完』

 

 

 

 

 

【沈黙の15分】

 

俺は山尾渓介。8年間懲役くらっている間に、8年前に家に隠した宝石がダムの底。

とりあえず、ダム壊すか。

結果;宝石代以上にテロ費用がかかった。しかも結局、普通に捕まった。

轢き逃げ、宝石強盗殺人、脅迫、トンネル爆破(死者多数)、ダム爆破(死者多数)で、普通に死刑判決。

 

 

『完』

 

 

 

 

 

【11人目のストライカー】

 

復讐完了

 

『完』

 

 

 

 

【絶海の探偵】

 

隠蔽するも良心の呵責!

 

『完』

 

 

 

 

 

 

【異次元の狙撃手】

 

復讐完了

 

『完』

 

 

 

 

 

【業火の向日葵】

 

怪盗キッドに全部邪魔された

 

『完』

 

 

(えっ? これだけ? 私の事件簿、3編構成じゃなかった? 何この扱い!

のちに私より・長い文章で紹介された犯人を・これでもかってくらい追い詰めて ぶっ壊す!)

 

 

 

 

 

【純黒の悪夢】

 

※犯人不在

 

 

 

 

 

 

【から紅の恋歌】

 

大阪の死神(ry

 

『完』

 

 

 

 

 

【ゼロの執行人】

 

私は東京地検公安部の検事、日下部誠だ。

昔から、公安の捜査手法に不満があった。

やること成すこと、とにかく無茶苦茶。

私が息子のようにかわいがっていた羽場二三一も自殺に追い込んで殺すし。

とにかく違法捜査がお得意。

 

だから私はIOTテロを起こし、そんな公安を修正してやることにした。

 

 

まずは国際会議場爆破。死傷者多数!

なのに公安その罪を、見ず知らずの探偵に押し付けた。

・・・誰?

 

私はその男の無実を証明するため、その男の拘留中に別のIOTテロを実施。

さらにその男の家のパソコンに不正アクセスの証拠を残しておいた。

 

疲れる。ほんとやることが複雑! 許さんぞ公安!

 

 

だから今度は無人探査機「はくちょう」を墜落させることを決意。

 

だったんだが案の定、公安は私にたどり着いた。

そして、『連邦の白い悪魔』と『女みたいな名前の奴みたいな名前の奴』に追い詰められ・・・拷問され、結局は墜落コードを吐いてしまい・・・

 

 

墜落を止められてしまいました。

 

 

いや、さすがに拷問は卑怯だろ。

子供が見てないからって・・・

もし、白い悪魔の隣に子供がいてくれたら・・・民間の協力者がいてくれたら・・・そんな手段を選ばない手段を選ばれることもなく、穏便で卑怯な方法で私を追い詰めてくれたはずなのに・・・

 

 

いやその場合は、探査機が警視庁じゃない別の場所に墜落していた可能性もあるか。

そうなったら、きっと誰にも止められなかっただろう。

 

でも、もし止めてくれたら私の罪も少しは軽くなって、懲役も少しは短くなって、生きているうちに自分の家に戻れるかもしれない。

帰れる所がある。こんなにうれしいことはない。

 

 

『完』

 

(なんか背筋に寒気が)

 

 

 

 

【紺青の拳】

 

※金曜ロードショーを待っている人もいるはずなのでネタバレしません!

 




いかがでしたでしょうか?
死神不在の事件簿

この度、こちらの不手際で死神を歴史から抹消してしまい、申し訳ありませんでした。

死神が登場する劇場版名探偵コナンの最新作「緋色の弾丸」は、2020年4月17日(金)公開予定です。
是非、劇場まで足をお運びください!




と思っていた時期が、私にもありました。
2020年4月3日
劇場版名探偵コナン緋色の弾丸、コロナウイルスの影響で上映延期決定


結局、犯人よりも強い死神よりも強いものはウイルスということです。


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劇場版編その2
紺青の拳 【前編】


シンガポールで起きた殺人事件
現場には血塗られたキッドの予告状
その狙いは伝説の秘宝
しかし、400戦無敗の最強の空手家・京極真が立ちはだかる



私はシンガポールの名探偵、レオン・ロー。元・警察官で犯罪行動心理学者、実業家で警備会社の経営者だ。

 

数年前に却下されたシンガポールの新しい都市計画を実現するため、シンガポールをぶっ壊す。

 

 

えっ? その都市計画は左右対称のシンメトリータウンじゃないかって? 

・・・いや、別に。

えっ? ついでにひまわりをぶっ壊すかって?

・・・いや、別に。

 

何この質問攻め。話が前に進まないんだけど。

 

 

さて、この都市破壊計画に必要なのは人手だ。そのために海賊を雇う。

海底に眠る「紺青の拳」という宝石を引き上げて、それを餌に海賊に暴れてもらうのさ。

 

ところがどっこい正一。

人を殺してまで手に入れようとした宝石は、先に引き上げられてしまったあげく、空手トーナメントのチャンピオンベルトに埋め込まれて、優勝賞品にされてしまった。

私のボディーガードのパワーゴリラに優勝してもらえばいい話だが・・・ここで思わぬ邪魔が。

 

元・部下のシェリリンが別のストロングゴリラを擁立して邪魔してきやがった。

こいつ、例の宝石の情報をリークした疑いもあるんだよ。どんだけ私の事を嫌っているんだ?

 

ということで殺そう。

トリックはいたってシンプル。死んだふりした秘書とシェリリン死体を騒ぎに乗じてとりかえっこして、私のアリバイを確保するだけ。

いたってシンプルだが、シンガポールならこれでOK。よっぽど名探偵がいる国だったら駄目だけどね。

これでシェリリンの呼んだゴリラにはスポンサーがつかなくなるから、ウチのゴリラが優勝するだろう。

全て順調だ。あとは海賊に「計画順調だよ」って合図するだけ・・・

 

 

と思っていた時期が(ry

 

 

まさかの犯行現場に怪盗キッドカード出現。

Why? ちょっと私それ聞いてないんだけど。え? 殺しの現場に犯行予告するって何それどういう意図? 意味不明すぎて笑えるんだけど。

 

さらにゴリラに新スポンサー。彼の恋人が新スポンサーに。

How? ちょっと私その方法知りたいんだけど。スポンサーになれるくらいの超金持ちと恋人に、ってどうやるの?

 

さらにさらに共犯の秘書が怖がってこの計画をリークしようとしている。

What? ちょっと私忙しすぎ。トラブル続出しすぎ。私ってリーク運なさすぎ。部下の女性に嫌われすぎ。

 

 

ということで、1つ1つを一気に解決してやろうじゃないか。

 

まずは怪盗キッド。

例の宝石の警護を私が買って出るのさ。キッドが宝石を狙ってホイホイ現れたところを殺す。

我が家の地下には最新のセキュリティシステムを搭載した金庫があるのさ。

そこにキッドが現れたらテーザー銃で気絶させて、水責めで溺死させる。

 

うん。言いたいことはわかる。

キッド、来ない可能性もあるってことだろ?

大丈夫。

きっと、来る。

 

だって来てくれないとせっかく用意した水責め装置、一生使わないまま終わりそうなんだ。

これ無駄に凄い装置なんだよ。めっちゃお金かかったんだよ。

 

 

「待っていたよ。怪盗キッド。ここまで入り込むとは流石だね」

 

 

ほら来てくれた。

暗闇の倉庫で待っていた甲斐があった。

一人で待ってて寂しかった。

何時ごろにキッドが来るか分からないから辛かった。

ゴリラを外で待たせていたけど、寝ちゃってたらどうしようって心配だった。

水責め装置が誤作動したり、ゴリラがウッカリ作動させちゃったらどうしようって心配だった。

 

 

それにしても・・・

お初にお目にかかりますキッド様。君は本当にその恰好でここまで来たの?

いや今、夜だぜ?

真っ白のその衣装、夜に一番やっちゃ駄目な配色でしょ。

ルパン三世だって、夜には夜に相応しい服で来るぜぃ。

 

 

とまぁ心配と驚きを隠して、私はクールにキッドを気絶させて装置を作動させた。

あとはエレベーターで地上に戻って、水死体が出来上がるのを待つだけ・・・

 

 

 

とうおるるるるるるるる

 

「どうした?」

「キッドです!」

 

 

嘘ぉ

だってだってだって、今さっき水責めしたばっかだぜ?

キッドもう脱出したの?

 

ってことは水責め装置、壊されてんじゃん。

損害、何億円もするじゃん。修理費だけなら数百万だけど、それよりも装置が無意味だったことのほうがショック!

 

だけど、私はそんなショックを表には出さずに、「常にひとつ先を見越している」という強がりを見せるのだ。

そう、私は上級ゴリラを特殊召喚!

こういう時のために敵ゴリラをトレーニングに誘っておいたのさ。

 

そしてキッドはスタコラサッサと逃げていく。

部下はみんな「やりましたねレオン様。キッドを見事追い払えました!」って喜んでいる。

 

 

 

でもさ、よーく見てみな。

 

最新のセキュリティ設備は抜けられて、

処刑装置も破壊されて、

屋敷もめちゃくちゃに荒らされて、

また明日からもキッド対策に追われるのが確定して、

あげく敵ゴリラに『大会前日に怪盗キッドを見事撃退』って名誉まで与えちゃって。

 

 

フルボッコになったの、コッチだぜ?

 

 

 

 

だけど私は不敵に微笑む。

月を見ながら勝利者風のたたずまい。

 

だって私は今回の主役だから!

 



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紺青の拳 【後編】

さて、昨日はキッドにフルボッコにされて、私の警備会社の信頼がガタ落ちになって、ついでに3つの課題を1つも解決できなかったわけだが。

今日は大丈夫。だってもう裏切り者の秘書は始末しておいたから。

 

死体はスタジアムの地下金庫の、宝石台の下に隠しておいて。これでよし。

えっ? 何でここに隠したかって?

なんとなく・・・だけど。

 

えっ? 『秘書が毛利探偵と3時に待ち合わせているから、それを知ったキッドが同じ時間に秘書に化けて宝石を盗みに来るはず。そうすれば目撃情報から罪をキッドになすりつけることができる』って?

そんなの、キッドがその情報を手に入れるってことを私が知ってなきゃ、ただの無謀な賭けじゃないか。

あのね、犯人だって出来ることと出来ないことがあるんだよ。

知りえない情報で犯行はできないの!

 

 

まぁいいじゃないか。これで運よくキッドは殺人犯。

シンガポール警察は日本警察と違って、殺人鬼は発見次第射殺OK。

あとは警察に任せておけばOKというわけさ。

なにこの運命の女神様のきまぐれミックスサラダ。

私の日頃の行いが良かったから? それともキッドの日頃の行いが悪かったから?

 

 

さて、私は次の作戦に入ろうじゃないか。

次の標的は敵ゴリラ・京極真だ。

大会中に精神的動揺を誘って、デート中に恋人を襲って、ミサンガを巻いて。

この3連コンボでゴリラの大会棄権を誘発成功さ。

 

ああ、なんて楽なんだ。これでもか! ってくらいとんとん拍子。

だってさ、最後のミサンガなんか私も巻いてあげながら「こいつマジ?」って思ったもん。

恋人との約束ならまだしも、昨日会ったばかりのオッサンの勝手なアドバイスを真に受けてくれたんだよ?

純粋すぎでしょ。可愛すぎでしょ。私が女だったら惚れてたぜ。

 

 

無事に問題解決したし、海賊もシメておいたし、ゴリラも優勝したし。

私の完璧な計画は全て成功さ。

 

だけどウチのゴリラ、京極ゴリラと戦いたかったみたいでめちゃくちゃ怒ってた。

これ、もし数日中に私が命を狙われたりしたら・・・犯人はゴリラで確定だな。

 

 

 

さて、あとは今夜シンガポールがぶっ壊れるのを眺めるだけ・・・

 

 

「ね、眠りの小五郎!?」

シンガポール再生の特等席、マリーナベイ・サンズの屋上に到着した私の前に。

まさか先回り。名探偵・毛利小五r・・・う?

 

眠りの小五郎が、眠っていた。

 

 

めっちゃ焦った。でも大丈夫。

さぁシンガポールがぶっ壊r・・・

 

 

リシくん?

 

拳銃を構えて、どうやら私の計画を止めに来たようだ。

 

 

盲点。まさか彼にそこまでの推理力があったなんて。

 

 

 

 

こうして謎は全て解かれた・・・

 

 

 

 

 

「失礼ですが、少し腕が鈍ったんじゃないですか? 世界を動かしていたのはあなたじゃない、僕さ!」

 

 

 

まさかのリシくんが急に黒幕っぽくなってきた。

 

え? どゆこと?

 

と、思った矢先にリシくんの拳銃が弾き飛ばされて、空からアーサーくんとキッド降臨。

 

え? どゆこと?

 

 

「下手な芝居はやめるんだな、リシ・ラマナサン。アンタが黒幕だってことは分かってる」

 

そこから咲き乱れるアーサーくんとキッドの推理の数々。

 

え? リシが黒幕ってのは共通認識でいいの? この一連の画策だけでリシは「世界を動かしていた」って言ってんの?

 

 

でもってさ。形勢逆転してんだけど。

海賊が屋上に到着してくれたから、キッドもアーサーくんも毛利探偵も全員制圧完了・・・

と、思ったのも束の間。

 

「この宝石さえ手に入れば、もうお前に用はねえ」

 

海賊は所詮海賊。私との約束破って、さらにはリシくんと一緒になって私を追い詰めてきた。

どうやらホテルの財閥令嬢を誘拐する案を提案して、海賊を懐柔していたらしい。

 

え? リシはお父さんの正義感にどう顔向けするつもりなの?

 

 

 

もう何が何やら。

 

そこいらの私の疑問へのマトモな説明も解説もないうちに乱闘が始まるし。銃の乱射も始まるし。ゴリラ戦争も始まるし。

 

 

もう誰も私の事なんて見てないでしょ。忘れてるでしょ。

 

 

宝石はキッドに盗まれたり返されたりだし。ビルの崩壊に巻き込まれるし。逮捕もされるし。

もう踏んだり蹴ったり。

 

 

 

とほほ。もう犯罪なんてこりごりだ。

(そこ。オチのセンスが古いとか言わない)




いかがでしたでしょうか? 紺青の拳
シンガポールをぶっ壊せたから私の最初の目的は達成できたよ。
だけどさ、その再生事業は例の財閥令嬢のお爺ちゃんがちゃっかり請け負ってんだよ。


まぁ今回の事件で私は損ばっかりだったけど、ドヤ顔だけはキープできたから、そこだけは褒めて欲しいな。


いやほんと、敗因は「部下に恵まれなかった」。それに尽きますね。


だってウチのゴリラ。京極と戦いたかったと言っておきながら、最後は恋人を背負ったままの超ハンデを相手にして負けて。
もし仮に勝てたとして、それはお前の満足いく戦いだったのか?
第一、普通なら「コイツを倒すのは俺だ」って共闘ムードで海賊を倒すって展開でもよかったんじゃないか? 私にとっては不都合だが。


秘書にしてもシェリリンにしても。自分たちも悪事に加担したくせに、情報漏洩しまくりで。
普通、あの状況で裏切ったら私に殺される展開だろ。どこに助かる要素を見出して裏切ったんだ?


あとはリシよ。アイツさえ出しゃばらなければ全て上手くいったのに。
お父さんの顔に泥を塗るような落ちぶれ方して、殺人1つもしてないのに真犯人面のドヤ顔。



犯罪心理学を極めた私ですら想定できなかった部下たちの心理。それが敗因ですね。


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ハロウィンの花嫁

※この話は現在、映画館で公開中の「劇場版名探偵コナン ハロウィンの花嫁」の重大なネタバレを含みます。
まだ映画館でご覧になっていない方は、その点に注意してブラウザバックをするか、ネタバレ覚悟で本作をお楽しみいただくか、選択してください。

それでは「映画館でもう観たよ」という方は、本作をぜひお楽しみください。


私はロシア人のクリスティーヌ・リシャール。職業はプラーミャ。といっても分からないでしょうから、爆破職人と思ってもらえばいいわ。

依頼があれば何でも爆破。みんなが大好き爆破のプロよ。

とはいえ皆の人気者も楽じゃない。

私を追っている『ナーダ・ウニチトージティ』という組織があるの。爆破の被害者遺族で構成されているか何だか知らないけど。とりあえず私のこと絶対殺すマンよ。

 

3年前のある日、依頼で古ビルを爆破することになったの。依頼主はナーダで私をおびき寄せるための罠だって分かっていたわ。

ええ。バレバレよ。だってこのビルを爆破する意味が理解不能だもの。

案の定、私を捕まえようとしたナーダの男がいたから返り討ちにしてやったわ。私、素の戦闘力も半端ないの。あとはコイツごとこのビルを爆破するだけ。

 

そんな矢先に日本の警察がやってきたわ。めっちゃ強い。私を追い詰めるなんて大したものね。しかも増援まで来たわ。

そいつらのせいで爆破は失敗。男にも逃げられた。

この時の警察官たち。松田、伊達、降谷と諸伏。この屈辱忘れないわ!

 

 

そんなこともあってついに訪れた復讐のチャンス。

元・警視正の村中努との運命的な出会い。それが全ての転機だったわ。そう、診察券を落とした私を助けてくれたのが村中。それを機に意気投合。婚約したの。

ええ。利用する気は満々だけど出会い自体はドラマティック。こんな私にもイイ出会いってあるものね。復讐は別腹だけどね。

村中が警察関係者だったこともあって、例の4人のうち松田と伊達は既に死んでいたことを調べることができたわ。だけど残る降谷と諸伏の情報は全くつかめなかった。

ということで、2人を炙り出す作戦を計画よ。

村中と日本で結婚式を挙げて『その結婚式を妨害するぞ』って騒ぎを起こす。これなら流石に2人も出て来てくれるでしょ? ついでに前から厄介だったナーダ・ウニチトージティもおびき寄せて全部爆殺。そして一網打尽。

というのが最悪のパターン。一番大掛かりな仕掛けを必要とするコスパ最悪のパターン。

もっと手っ取り早く、各個撃破していきたいと思います。

 

 

まずはナーダをおびき寄せるために、私が引退するっていう噂を流す。

そしてアジトから東京爆破計画の入ったタブレットを盗ませる。GPS付きで遠隔操作で爆破できる特製タブレット。

コイツを使ってナーダたちが集まったっぽい反応が来たら爆破!

ってできれば最高だったけど、この盗んだヤツは1人で動いているみたいであんまり追跡できなかったわ。残念。

 

次に例の松田を死亡させた爆弾魔を脱獄させる。

そうすればその爆弾魔を追いかけて降谷と諸伏が現れる。そこを2人まとめて爆殺!

ってことになるのが理想だけど、片方の降谷のほうしか現れなかったわ。残念。

一応、その降谷の首に爆弾をセットできたから、これで目標3分の1達成ね。

まぁ、もしここで2人とも殺せちゃったら村中との結婚式が無駄になるところだったわ。結果オーライね。

 

その次に例のナーダの奴を爆殺! 日本の警察に私の計画をリークしようとしていたみたいだったから良いタイミング。

これで他のナーダの奴らも怒り心頭で日本にホイホイされてくれるわ。

あとは次の諸伏をホイホイするだけ。簡単なお仕事。

 

ここでブレイクタイムを挟ませて。

村中との結婚式のスピーチをしてくれるはずだった毛利小五郎が、このナーダの爆破に巻き込まれて怪我をしちゃったんだって。可哀想に。

ということでお見舞いに行ってきます。なかなか重傷だったみたいで毛利小五郎の意識はまだ戻っていないみたいなの。

毛利家の娘さんに色々教えてもらったわ。毛利小五郎は爆破に巻き込まれた子供を救ったせいで負傷したそうよ。すごくヒーロー。私その原因だけどアナタにアッパレよ。

ちなみにその助けられた子供、ナーダの奴が落としたメモを拾ったせいで爆破に巻き込まれたらしいわ。

 

ヤバッ。そのメモ、今回の私の計画のメモよ多分。

まずいわ。私の正体に繋がるものは全て消滅させないと。

ということで子供をまとめて爆破することにしたわ。

 

どうやって爆破するかって? その点はご安心。私、こういう時のために色んな爆弾トラップを用意しているの。

ということで子供たちの目の前で『荷物を取りに行かなくちゃ。でもこれから用事があるから困るなぁ』って演技をしたわ。

そこは日本の善良なお子様たち。『代わりに取りに行ってあげるよ』って行ってくれたから、無事にその爆弾トラップに誘導できたわ。

 

誘導“は”できた。そう、誘導は。

だけど正直、これナーダ向けのトラップだからなぁ。不安。

なにせ廃墟のビルの中に置いたトラップだから。子供が怖がって中に入るのを躊躇しそうな古いビルだから。入ってくれるかなぁ。

お願い、旺盛であって。この子たちの好奇心。恐れ知らずの少年探偵団であって。

 

BOOOON!

大成功。ちゃんと子供たちが廃ビルのトラップに引っ掛かってくれたわ。爆破の音が教えてくれた。

 

駄目でした。

子供たち無事。

アニメじゃないんだから。爆発に巻き込まれたのに、ちょっと擦り傷がある程度。5人とも無事。死なないの? 日本の子供って死なないの? ロシアの子供はこのくらいの爆発なら簡単に死ぬのに?

 

でもなんやかんやあって、結局あのメモはほとんど燃えちゃっていて大丈夫だったみたい。

ついでにナーダたちがひと騒動起こしていたことも分かったわ。

どうやら有能な警察官の松田を味方につけて私と渡り合おうとしていたみたい。

無駄www松田死んでるのにwww

 

しかも松田(に変装した刑事)を拉致する作戦、聞いたけどクレイジーすぎ。

ハロウィンのイベントに偽装して、アルバイトで雇ったジャック・オー・ランタン集団で松田を包囲。その隙に拉致するって作戦だったらしいわ。

ハロウィンを何だと思ってるの? そんなクレイジーな集団いたら一発で警察に逮捕されるでしょ。ジャパニーズポリスを舐めないで!

 

 

って思ったけど、成功してるのよねこの作戦。ってことは集団コスプレが町に現れても誰も変に思わなかったってことよね。

Why Japanese People?

Почему японцы?

おかしいだろ! カボチャ人間がお菓子撒くバイトが通用するの、日本って国は? クレイジージャパン!

 

 

でもまぁそれはそれ。とりあえず現状を整理しましょう。

1.ナーダの連中は渋谷に集まっている。

2.降谷はいつでも爆破できる。

3.諸伏はまだ出て来ないけど、警察は私のことを警戒している。

4.結婚式を強行すれば、その警備に警察もナーダも渋谷に集まる。

よし、当初の予定通り渋谷を爆破しましょう。

 

ただ正直言ってコスパ最悪なのよねぇ。

ハロウィンイベントがあるから、その照明になるジャック・オー・ランタンの中に爆薬を入れておく方法をとる予定。

たくさんの爆薬照明を町中に吊るして、スイッチ一つで照明から爆薬を垂れ流しにして、渋谷という坂の多い地形の底になる場所で液が合流。そこで爆薬が反応して爆発!

垂れて流れるくらいの爆薬。ちょっと勿体ない。普通に勿体ない。すごく勿体ない。

 

でも記念だからね。私の復讐も果たせるし、嫌いなナーダも壊滅できるし。そのお祝いも兼ねて。

それにもう用意しちゃったんだもん。

え? まるで『最終回に余った火薬を全部使った特撮番組みたいな発想』ですって? いいじゃない豪華なの私好きよ。あとちなみにその話、監督さんのついたウソよ。

 

というわけでノリノリで準備開始ぃ♪

 

 

うわぁ。やっちゃった。

爆薬、多すぎた。

照明・・・町中に吊るす照明の中に、爆薬・・・総重量・・・。

コスパの時に気付くべきだった。垂れて流れるくらいの爆薬。値段よりも量を気にするべきだった。

先に照明を垂らしてから、あとで中身を入れていこうかと思ったけど・・・渋谷って人がいなくならない町なのね。

求むロックダウン! 外出禁止令! 戒厳令!

なんて祈りが通じたら警察なんかいらないわよ。

頼るべきは他人ではなく、己の筋肉!

 

見せてやろうじゃない、ロシア人の筋肉の底力を!

 

 

こうしてクリスティーヌマッスルで渋谷の町中に爆薬照明設置をやり遂げたわ。

しかも1人で。

しかも片手で。

3年前に銃で撃たれて右腕上がらないから。左腕だけで。さすがクリスティーヌレフトアームマッスル。

 

あとは結婚式の余興でチャーターしたヘリコプターに乗って渋谷を脱出。ナーダや諸伏もろとも渋谷を爆破するだけ。

 

 

ところがいざ結婚式が始まったと思ったら、急に現れたナーダたち。眼鏡の子供を人質にして私たちに銃を突きつけたわ。

 

「三年前、日本の刑事に銃で撃たれたせいで腕が上がらないんだろ? なぁ、クリスティーヌ・リシャール。いや、プラーミャ!」

 

バレてた。え? ナーダってそんなに優秀だったの?

しかも私たちを警護していたのは警察だから、正体バレたらすぐに敵に回っちゃった。

四面楚歌。

だけど安心して。クリスティーヌマッスルはレフトアームだけじゃないの。全身がマッスルだから、この程度の多対一の銃撃戦でも逃げ切っちゃうのよ私。

 

はい。屋上に逃げました。楽な仕事。扉にも鎖を巻いておいたから、あとはヘリコプターを待つだけ・・・

 

あれ? ヘリポートにいるの、あの眼鏡の子供じゃない?

先回りしていたというの? 江戸川コナン、探偵?

そんなコナンくんの口から咲き乱れる名推理の数々。

 

こうして謎は全て解かれた。

 

なので全部爆破します。

ちょうどヘリも来たところだし。

勝利確定。

 

 

 

と思ったところに確変演出の掌底ドーン。肩の関節ボコーン。めっちゃ痛い。

ヘリから降谷が降りてきました。うわぁ今更。

でも所詮は降谷。3年前にもコイツのことは殺す寸前まで追いつめたし、今回も楽勝。

手榴弾を町に投げてやって、その隙に私はヘリで脱出。

 

と思っていたら、例のコナンくんが蹴ったサッカーボールが手榴弾を弾き飛ばして、花火になったわ。何を言っているのか分からないでしょ。私も何をされたのか分からなかったわ。でもありのまま今起こったことを話したわ。

 

まぁ逃げちゃえば関係ない話だけどね。

最後の置き土産に、降谷の首の爆弾を爆発させてから帰りましょ。

 

BOOON

ヘリの方が爆発しました。まさかの降谷の首に着いていたのは精巧に作った偽物で、本物の爆弾をヘリに乗せたままだったみたい。手の込んだサプライズプレゼント。

何この映画みたいな展開。見たことある。ってことは私、余計な事したぁ。

このままじゃヘリが墜落して渋谷の爆発に私まで巻き込まれてしまう。マズイ。

 

 

そんなマズイ状況なのに、降谷は何を思ったのか空中でヘリに飛び乗ってきたわ。

え? こいつ何がしたいの? 一緒に心中?

それとも追いつめたつもり? このクリスティーヌオールボディバットノットライトアームマッスルを?

 

案の定。肉弾戦で降谷、私に負けてヘリからほぼ落下。辛うじて私の右腕に掴まってきたわ。村中ですらここまで濃厚なボディタッチさせてあげていないのに。

そしてヘリと一緒に私たちは地面に落下。すごくダメージ。

でもクリスティーヌ打たれ強いマッスルは、この程度のダメージなんぞ苦じゃないわ。

さぁ降谷、トドメを刺してあげる!

 

 

 

と思ったその瞬間。私の首元にトンッと、村中めちゃんこ強いマッスルの手刀が振り下ろされ。私の意識はここで途絶えてしまった。

 




いかがでしたでしょうか? ハロウィンの花嫁。
敗因はずばりマッスルを鍛えすぎたことね。
私、工学とか科学の分野の人間なのに、急に途中からマッスルキャラになったせいでボロが出て来た感じがするわ。
もっと落ち着いて欲張りすぎないで、警察やナーダを各個撃破していればよかったのよ。
次はもっと上手に標的を誘い出して殺そうと思います。
・・・今思いついたんだけど、腕相撲大会に呼び出して腕ごと粉砕してやるのはどうかしら?


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緋色の弾丸

4年に1度開催されるスポーツの祭典
ワールド・スポーツ・ゲームス
今、再び悪夢が繰り替えされる
危険すぎる人物たちが引き合わされる時
世界が動く


私は白鳩舞子。15年前に起きた事件で父が無実のまま獄中で死んでしまった。

今回、その事件の被害者の息子・井上治と手を組み、事件を捜査したFBIに復讐することを決意したわ。

 

舞台はスポーツの祭典・WSGの開会式を彩る真空超電動リニアライナーのお披露目イベント中。復讐相手のFBI長官・アランはWSG協会会長だから、このイベント中に襲うしか機会が無いの。

こうして私はイベントの広報担当官。井上はリニアの開発チームのリーダーの地位に上り詰めた。

・・私はまぁそれなりに自己PRを頑張っただけだけど。井上、あなたスゴイ執念ね。

 

さていよいよアランへの復讐を始めるわ。

その方法として15年前の事件を連想させて、アランに自責の念を思い起こさせる。

15年前と同様にWSGの関係者を一人ずつ拉致して解放するのよ。製菓メーカー、財閥の会長、自動車メーカーの社長の順番でね。

 

まずはゴルフ場で三塚製菓の社長を拉致して解放。

続いてスポンサー向けのパーティーで鈴木財閥の会長を拉致する番ね。

井上が会場のホテルを停電させて、暗闇の中で私が鈴木会長をスタンガンで気絶させて運ぶだけ・・・

「腕がもげるわ!」

鈴木会長、井上並の肥満体系。この恰幅の良さは女の体で運ぶのに不適合。しかも非常灯が点くまで猶予は30秒しかない。

発動するしかないわね、犯人が常備するトリックマッスルを。

 

頑張りマッスりました。無事に会長を気絶させて配膳ワゴンに乗せ、厨房の冷蔵庫まで運ぶことができました。全身の筋繊維ブチ切れてると思う。

しかも運が良かったのは、厨房の従業員に目撃されなかったこと。みんな節穴EYE。

 

 

さて続いては自動車メーカーの社長の番。ジョン・ボイドをリニアの試乗会の前に拉致するわ。

もちろん試乗会はこの拉致のせいでぶち壊しになるわ。

せっかくリニアの客室担当のエリーさんが張り切ってるのに悪いわね。

・・・それにしてもエリーさん。私と井上と3人でチームを組んでいるわけだけど、なかなか濃いわ。犯人2人に挟まれて。そんな中で説明会でサプライズのネタバレしちゃったり、ほんとキャラが濃厚。

なんか大丈夫な気がする。このイベントが出世の足掛かりにならなくても。彼女なら人生を図太く生き抜いてくれる。

 

というわけでエリーさんの迷惑ガン無視で拉致を決行できるわね。

場所はここ、名古屋国際空港の近く病院。

クエンチを起こして病院全体にヘリウムを充満させて病院にいる人全員を気絶させる。

そしてジョンとアランを拉致するだけ・・・

 

え? ちょっと待って。今度は2人拉致?

また酷使するの? トリックマッスル。

今の所、私の仕事ほとんど肉体労働なんだけど。

想像してたのと違う。もっとこう、銃とか爆弾とか使うものだって思ってた。

フィジカル。最初から最後まで大事なのはフィジカル!

 

 

って思ったけど、そこは井上が担当してくれるみたい。

私の役割は制御室で配管設備をイジってからMRIに寝台車をぶち込むだけ。

うん、めっちゃ重たい。結局はトリックマッスル。結局フィジカル。

しかもスマホ壊れた。

だけど井上が名古屋空港⇒名古屋港⇒新名古屋駅⇒名古屋空港と大移動してくれたおかげでアランを無事にリニアに監禁できたわ。

あとはアランに全てを打ち明けて、15年前のことを後悔させて殺すだけ。

 

 

そんなこんなでいよいよリニア出発式。アランへの復讐タイムよ!

井上は試乗するはずだったお客さんの応対のために新幹線に。

私はアランへの復讐のためにリニアに。

いよいよ待ちに待った復讐の時。

 

 

 

とうおるるるるるるるる

 

 

って鳴らないわ。私のスマホ壊れてるから。

「白鳩舞子さん」

「ケータイ鳴ってないみたいだね」

うん。いざアランのいる車両に入ったら、なんか小学生くらいの男の子と、高校生くらいの男の子か女の子。アランがいた。

そしてなんか私の事睨んできたわ。

 

多分。多分だけど、私が犯人だって突き止めたんだと思う。多分。

いや、状況から察してあげるしかないわ。

だって多分、その推理を長々と語ってくれていたんだと思うけど、私その推理聞いてないんだもの。別の車両にいたからね!

 

「つまりクエンチを起こしたのは白鳩さん、あなただ!」

 

うん。経緯を聞いてないけど、その通りよ!

 

 

 

 

たぶん、謎は全て解かれた。

 

 

 

 

さて、アランを撃ち殺しましょう。

だけどここで突然の減速! 頭打ったぁ。

井上ぇ! リニアの設計のせいで殺し損ねたわ!

しかもリニアは軽量素材だから、アランを撃つなら至近距離で撃つしかないってアランと子供たちがアドバイスしてくる始末。

 

 

BAN!

 

 

え? 撃たれた? しかも私が?

肩撃たれたわ。背後から。え?

 

 

井上がリニアの中に遠隔射撃装置でも仕込んでいたの!? でもそうとしか考えられない。

というか私のこの負傷、アランに手当てされてるし。

あと、さっきの急減速。私のピンチに井上が遠隔操作したみたい。いやむしろ邪魔。

そして子供たちの推理で井上も犯人だってあっさりバレてた。

 

 

その後の話は電話口で聞いた限りだけど、井上は新幹線から逃げたみたい。

私だけか、貧乏くじを引いたのは。逮捕されるのは私だけ。アランに抱っこされる醜態まで晒して・・・

 

 

 

ってなんかリニアの様子が変。

もうすぐ終点なのにスピード上がりすぎ。

 

まさかだけど。いやほんとまさかだけど・・・

リニアごとアランを殺すつもり? リニアを暴走させて脱線を起こして、私ごとアランを殺すつもり? 子供も2人乗ってるのに? しかも終点の駅は都会のど真ん中だから甚大な被害が出るのに!?

非道すぎる。

井上の非道キャラの濃さたるや。私、トンデモない奴と組んでしまったわ。

私、影が薄いまま死んでいくの? ただでさえエリーさんのキャラの光の濃さに消されそうだったのに。ここにきて井上の闇の濃さまで。中和されて消されてしまう。

 

 

あっ、浮いた。ブレーキが物理的に強引な感じになった。

揺られに揺られ。振り回され。

シートベルトに助けられ。

轟音が炸裂して。

絶対にドーム的な何かに突っ込んだ衝撃に襲われて。

私の意識が存在感以上に薄れていく中・・・

 

 

 

私の命は助かった。

 

 

 




これは逮捕された後の話。
結局、井上も逮捕されていたわ。
あと15年前の犯人はやっぱり父だった。

うん。まず私は井上を殴っていい。それとアランさんに謝りたい。
アランさんマジで優秀すぎるでしょ。
私を介抱しながらリニアの脱線を止めるなんて。さすがFBI!
え? リニアを止めたのはアランさんでしょ? あの場に他にいたのは子供2人だし。

いやいや。あの止め方は物理だって。子供の所業じゃない。

私には分かる。犯人の経験で知っている。どんなことだって最後はフィジカル。
リニアを止めるのに必要なのもフィジカル!
そう、私だけは知っている。
アランさんは新幹線を止めたテリーマンをも超えるフィジカルの持ち主なのよ。

たぶん。


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黒鉄の魚影 【前編】

インターポールの海洋施設『パシフィック・ブイ』
開けてはならない《玉手箱》が開かれたとき
絶体絶命のオーシャンバトルロイヤルが始まる
そして動き出す 新たな黒い影



俺は組織のナンバー2、コードネーム・ラムのお気に入りにまで昇進した男。

コードネームはピンガ。

この間、同じ側近のキュラソーが死んだから、実質的にラムの側近に昇格したってわけさ。

うぉおおおおお サイコーだぜ!

 

さて俺たち組織は今、インターポールの監視カメラシステムの掌握を狙っている。

世界中の監視カメラで撮られちまった俺たち組織の過去のデータを全部消して、俺たちの痕跡を断つためにな。

そんな中で俺はラムの指示で、とあるシステムを専門で追っている。

『老若認証システム』。監視カメラシステムの機能の一部で、こいつを使えばカメラに映った人間の骨格から、その人物の若い頃、歳をとった姿まで予想して、そいつと一致する人間を炙り出せるっていう代物さ。

それを発明したのは直美・アルジェントっていうシステムエンジニア。19歳なんだぜ。若すぎるだろ。まだ卵から孵ったばかりじゃないか。

 

実は俺、前に彼女と交渉していたんだ。莫大な報酬の代わりにシステムの独占使用と改良をさせてくれってな。

だがあっさり断られた。システムはインターポールと契約済みだったってな。

これが上手くいっていれば楽なんだけどな。まぁ物事そんなに甘くない。

組織のやり方でやるしかない。手間が増えるけど。

 

作戦としては3段構え。

1.直でデータを盗む

2.1が上手くいかなかった時、直美を脅して組織の協力者にする

3.2が上手くいかなかった時、システムに関わった人間ごと全部爆破する

 

うん。毎度の短絡的で極端なプラン。各段階、もうちょっと踏もうよ。細かく。

いくら俺たちの痕跡を残さないためにするからって、何というか失敗した時に移る次の策の規模が毎度毎度デカすぎる。労力もそれに比例するんだよ。

今回もその例。俺は作戦2のために、先んじて日本の八丈島の『パシフィック・ブイ』に潜入することになった。

これがめっちゃ手間。

 

 

まず施設のシステムにハッキングできるくらいの地位にいる職員と入れ替わる。

そいつを殺して成りすまして、直美を拉致する時に実行役を手引きできるようにするのさ。

標的はグレースというフランス人の女職員。この女、背が高くて骨格がガッシリして、俺の場合は髪型をちょっと変えて喉仏さえ隠せばほぼ変装完了っつうくらい俺に瓜二つ。まさに俺が入れ替わるために生まれたようなフランス人女。

あとはこの女の癖だったり喋り方を完璧にコピーするために何日も観察。

 

さて準備完了。これでいつでもグレースと入れ替わることができる。

まぁ作戦1が成功したら、全部無意味なんだけどな。

 

ということで潜入、ドイツのユーロポール。

うん。楽。

ドイツ人ってさ、基本的にみんな残業しないんだよ。そういう国民性なんだよ。

だから定時後に侵入すれば簡単にPC室に入れる。めっちゃ重要なデータが入ってる部屋なのに。

こんなに簡単に仕事が終わるとさ、俺の苦労何だったん?って思うよね。パシフィック・ブイに潜入する意味無くなっちゃうんだから。

あと、日本の残業時間の長さを痛感しちゃうよね。過労死するわけだよ。まぁ俺たちも労働環境起因で死んでるわけだ。ブラックなだけに。アハハハハ

 

 

・・・・・

 

 

見つかっちまったぜ。俺の運が悪すぎた。

ドイツ人なのに定時後に職場にいる奴に、俺がPC室でデータ抜き取ってるところ見られた。

ヤベッ

警報装置を鳴らされたから俺は逃げるしかない。もちろん監視カメラに映らないように慎重に逃げるから、俺は目撃者を殺しに行けない。

でも大丈夫。こんなこともあろうかと、キールが控えてくれている。目撃者の始末はキールに任せておけばいい。

 

と思ってたのに。キール、信じてたのに。

よりにもよってジンがやりやがった。オレの尻ぬぐいを。

大嫌いなジンに借りを作ってしまったなんて・・・サイアクだぜ!

 

 

ということで作戦2始動。

俺はグレースを拉致して、パシフィック・ブイに潜入したぜ。

グレースかい? 今頃、魚と友達になっているんじゃないか?

え? 魚の餌の間違いじゃないかって?

おいおい勘弁してくれよ。魚は友達。エサじゃない。

 

それにしても気付かないもんだな。俺がグレースに化けた男だって、職員の誰も気付かないんだよ。お前ら仮にもインターポールの職員だろ?

まぁいい。俺の潜入技術が高いってことで納得だ。

あとは拉致役のバーボンとベルモットが施設に入れるようにハッキングして手引きしてやるだけ。

今日はユーロポールと日本警察の防犯カメラ映像をネットワークで繋ぐ大事な日。つまりその瞬間に全員の注意が向くからこそ拉致には絶好の日ってわけだ。

バーボンとベルモット、あの優秀な2人なら大丈夫だろう。キールとジンより頼もしい。ほんと頼もしい。手柄を折半される形になるけど、ジンにとられるよりか何倍もマシ。俺の心が痛まない。

ということで頼んだぜ。これが成功したら、お前たちサイコーだぜ!

ウォオオ!

 

 



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黒鉄の魚影 【中編】

俺はただいま絶賛潜伏中。ここは八丈島の海上施設パシフィック・ブイ。

今日はここに特別なゲストを呼んでいるぜ。

バーボン&ベルモット。

と、おっと? 他にもお客さんが来たようだな。自己紹介よろしく。名前は何て言うんだい?

へぇ、白鳥任三郎かぁ。渋い名前じゃないか。

白鳥はどこから来たんだい? 東京かぁ。あんまり知らないけど。

あと白鳥、キミの隣にいる子はひょっとして息子さんかい? 君は警察の仕事でこの機密施設に来ているんだろ? プライベートと仕事は分けなきゃ。

おっと失礼。違うのか。

へぇ、江戸川コナンっていうんだ。いい名前じゃないか。

 

おっと、子供の可愛らしさに気を取られて忘れるところだった。

そろそろバーボンとベルモットが海の中から入ってくる時間だな。

ハッキングしてハッチを開けて、2人を中に入れてあげよう。指先だけでできる簡単な仕事さ。

俺はもうここのシステムを完璧に把握しているからな。この程度朝飯前ならぬコーヒー前。

コナンくんから白鳥たちがコーヒーいくつ欲しいかを聞いてきてもらいながらでもできるんだぜ。

えっとコナンくん。白鳥たちが欲しがっているコーヒーの数はいくつだい?

親指と人差し指でLの字・・・1つかな? と思ったら直美がこの指は2つのことだって教えてくれたぜ。サンキューな直美。まぁ今から拉致するんだけど。

 

ということでバーボンとベルモットが直美を拉致してくれたぜ。

ただ白鳥たちが優秀すぎたせいか、すぐに監視カメラを調べられてバーボンたちの姿をばっちり確認されちまった。おいおい。

まぁそれでも問題ねぇ。作戦2が成功したということで、あとは俺も脱出するだけ・・・

 

 

と思っていた矢先にウォッカから連絡が入ったぜ。

『組織から逃げ出したシェリーを見つけたから一緒に捕まえよう』ってお誘いだ。

・・・おいおい、シェリーといえばジンが血眼になって追いかけているって聞いているが。

それをジンの相棒のお前が、俺を誘うのか?

たしかにシェリーを捕まえれば出世できるけど・・・それを俺が実行したら俺がジンより出世することになるし。なによりジンの面目丸つぶれ。

なんだよウォッカ。お前もジンのこと実は嫌いだったのか。

いいじゃねぇかシェリー拉致作戦。一緒にやろうぜウォッカ。

 

ただ問題が2つある。

1つは、その拉致する予定のシェリーがシェリーじゃねぇってこと。

ウォッカに会って早々に小学生くらいの女の子の写真見せられた俺の気持ちになってくれよ。

説明されたよ。この女の子が老若認証システムでシェリーと同一人物だって。

だから俺、時系列考えてないウォッカに聞き返したよ。この女の子が大人になった姿がシェリーってことだろ、って。それかまさかシェリーが子供になったって信じているのかって? どうやって子供になったんだ、って。

そうしたらウォッカはこう答えた。「分からねぇ」って。「科学者だから何かそういう方法があるんだろ」って。「ふしぎなメルモみたく若返りのキャンディーみたいなものがあるんだろう」って。

お前・・・マジで言ってる?

まぁ老若認証システムのことは組織の中では俺が一番よく知っている。システムに間違いはない。どういうカラクリか分からないが、それはシェリーに直接聞き出せばいいだけの話。

 

それよかもう1つ問題がある。

俺、めっちゃ眠い。

もうさ、連日働き詰めなわけよ。グレイスを観察したり、ユーロポールに侵入したり、ハッキングしたり、普通の仕事をするフリをしたり。

で、やっと眠れるかなぁって時間に今からシェリー拉致だろ?

もう眠気限界。しかもシェリー拉致した時にもきっと防犯カメラに撮られているだろうから、その証拠映像を消すためにパシフィック・ブイにハッキングしなきゃいけないだろ?

ブラック企業で出世するためとはいえ、かなり体調不良。

でも俺頑張る。ジンを出し抜くために!

 

 

さて、そんなこんなで到着したのは八丈島のホテル。めっちゃ目と鼻の先にいたよシェリー。

皆が寝静まった夜。俺も眠たいけどベッドをスルーしてシェリーの部屋へ。

部屋の前に立ったら、シェリーが向こうから開けてくれたよ。ピッキングする手間が省けた。

サクッと拉致してあとは車で帰るだけ。

 

うん。思ってたより楽。もっと抵抗されると思ってた。

あとは車に乗りこんだらウォッカに運転してもらって、組織の潜水艦に行くだけ・・・

「はぁあああああ!」

闇夜の中から何かが落ちてきた。シェリーと同じくらいの年頃の女? 俺の目には一瞬そう映った。

でもシェリーじゃねぇな。だって髪の色が黒っぽいし。長いし。頭にツノガイみたいなのを乗せてるし。

それよりなにより。この女・・・車に風穴開けなかった? いやマジで。女の拳が車にめり込んでるように見えるんだけど。

しかも「哀ちゃんを返しなさい!」って俺に襲い掛かってきてるんだけど。

でもってめっちゃ強い!

俺が体調不良なのを差し引いても強すぎ。首にイイのを貰っちまったぜ。

でもって全然助けてくれないウォッカ。

いや一応、役割分断的にウォッカは車の準備をしているはず。それにこの程度は俺一人で制圧しろっていう信頼の証なんだろ?

 

よし撃退。まぁ女にトドメは刺せていないけど、後始末はキャンティの仕事。

俺は車に乗って逃げるだけ・・・

パァン!

乾いた音と共に撃ち抜かれる車のサイドミラー。

キャ、キャンティ? いや、まさかあの女の遠距離攻撃?

でも追撃は無い。キャンティがちゃんとあの恐ろしい女を仕留めてくれたんだろう。

 

これで今度こそ車で逃げるだけ・・・

なんか今度はビートルが追いかけて来てるんですけど。

何この島。八丈島民。拉致を聞きつけると島民総出の戦力で誘拐犯を追いかける習慣でもあるの?

まぁそんなスイッチ入った一般人程度の追跡。ウォッカが華麗なドライビングテクニックで撒いてくれたぜ。

とはいえ、このカーチェイスもばっちり監視カメラに映っているよな。消すのクソ面倒。

 

 

ということで無事に潜水艦に到着。ウォッカの案内のおかげで、安心して魚雷発射管から入れたぜ。

っつうかウォッカ、説明が上手で丁寧! どこのボタンを押せばいいとか、どこのレバーを引くと危ないとか、あとは自動的に入れるから何もしなくていいとか。事細かにレクチャーしてくれた。

ウォッカお前、俺にジンを出し抜く機会をくれたり、信頼してくれたり、安心させてくれたり。至れり尽くせり。

ウォッカ、今度から俺と組もう!

 



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黒鉄の魚影 【後編】

眠い。

八丈島カーチェイスの映像処理、めっちゃ面倒だった。

どうにか俺とウォッカの形跡全部消せたよ。あとキャンティの。

気付いたらもう朝。仕事の時間だよ。

眠い。

早速、警察が映像の確認に来たよ。

昨日のコナンくんが組織の潜水艦を目撃していたからって。

でもってカーチェイスの映像も確認させてくれって。

もう全部消したけどな。

眠い。

 

Zzzzzz

 

!?

ってかコナンくん、シェリー拉致した時に襲ってきた奴らの仲間なの!?

マジか。でもって白鳥たち警察と一緒に映像調べたりするときの視点が鋭いったら鋭い。

そのせいでパシフィック・ブイの職員の1人、頭にフジツボを乗せたようなレオンハルトって奴に目を付けられてしまった。

映像を改ざんしたログを調べて、俺を怪しんだらしい。

まぁサクッと殺してやったけどな。

 

さて、レオンハルトを自殺に見せかけるトリックもチャチャッとやっちゃいますか。

カフェに運んで、監視カメラの映像を老若認証システムの応用で細工して。

ほらできた。

私の名前はピンガです。老若認証システムを使ってます。

 

よし、これで寝る時間ができた。AI使ったトリックって時短できていいよね。

空いた時間に遊ぶこともできるんだから。

さ~て、ずっと昨日の夜から気になってたんだ。シェリーの顔写真を老若認証システムにかけたって話を聞いてからな。

これ、知り合いとか他の人でもやってみたらちょっと面白いんじゃね?

流石に組織の人間の写真は無いから、白鳥とか、コナンくんとか。そのあたりの知り合いでやってみて、何か面白いカメラ映像が見つかれば話のネタになって面白そう。

さ~て、どうかなどうかな。白鳥は、へぇ意外と色んな活躍をしてるんだな。

ジンが西多摩のツインタワービルをぶっ壊した時にもいたのか。

ジンが東都タワービルにアホみたいに銃弾ぶち込みまくった時にもいたのか。

白鳥、お前ジンに迷惑かけられまくってるな。同情するぜ。

 

さて次はコナンくん。この子もジンに迷惑かけられていたりして。

おっ。やっぱ白鳥とセットで映ってること多いな。

これなんかニュースでやってたな、ロシアのインペリアルイースターエッグ。怪盗キッドとスコーピオンに狙われてたんだよな。そこにもコナンくん絡んでんのか。あっ、隣に白鳥も・・・ってあれ? 認証が反応してない。映りの角度が悪いのか?

ってかコナンくんの映像多いな。カメラに映りすぎだっての。

これなんか小学生全く映ってないのに認証されて・・・

 

 

・・・・・・?

 

 

 

All Ages Recognition

『老若認証・一致』

 

コナンくんと一致しちゃってるんだけど・・・工藤新一って高校生探偵が。

どゆこと?

え? まさかシェリーと同じパターン? 大人が子供に?

それにたしか工藤新一って名前・・・ジンがAPTX4869で殺したリストにあったよな。

おいおい。おいおいおいおい面白くなってきたじゃないか。

ジンが殺し損ねた工藤新一が生きているって。しかも昨日の昨日、シェリーを守ろうとしてたてことだろ?

これ絶対ジン知らねぇだろ。というか俺以外だれも知らないだろ。

でもって値千金の情報じゃね? ジン、この事実で絶対失脚ものだろ。

 

うわぁ、テンション上がってきた! これはもう眠れねぇや!

シェリー拉致の手柄だけじゃなく、ジン失脚の決定打もゲットしちゃったんだもの。

パシフィック・ブイ潜入任務も、もう直美を拉致できたから明日にも終了の指示が来るはず。

早く帰ってラムに報告してぇ~な~! 明日が楽しみすぎて今夜もきっと眠れない♪

 

 

って感じに浮かれている俺のところに、突然の招集がかかった。

何やら警察がレオンハルト死亡事件の経緯についてまとめたいらしい。

仕方ない、付き合ってやるか。

で、いい?

この招集に見た事あるツノガイを頭に乗せた女がいるんですけど。

こいつ絶対昨日の夜に俺に蹴り食らわせたトンデモ女じゃねぇか!

あと話聞いてると・・・その隣にいる白髪のおっさん。ビートルでウォッカのドラテクとタメ張る化け物。

おいおい、とんでもねぇ2人と同席してるよ俺。

 

でもってそこに追撃。初めましてさんいらっしゃい。変なチョビ髭のオヤジが眠るように椅子に座りこんだ。めっちゃ気持ちよさそうに寝てるな。うらやましい。

「ひょっとしてこれがあの有名な眠りの小五郎!」

眠りの小五郎? っておい、まさか!

「レオンハルトさんを殺害した犯人は、この中にいます」

マジかよ新手の刺客! 前にジンが『組織を嗅ぎまわっているネズミ』だって疑って、結局は競馬のラジオを聞いてただけだっつう迷惑をかけられた名探偵。

なんだよ今日、俺の周りすごいメンバーが集まりすぎだろ。

 

でもって毛利小五郎の推理のフォローに入ってきたのが、お馴染みの工藤新一。

小学生の江戸川コナンの口調で毛利小五郎のサポートに入ってやがる。

多分あいつ周りの人間に自分が工藤新一だって話してないな? 

というか・・・お前、今どんな気持ちなんだ? 高校生なのに小学生の喋り方するとか。自分で言ってて気持ち悪くない?

いや。それ俺も同じだわ。俺も今、絶賛女のフリをしている最中。

だけどそれはそれ、これはこれで。

事情を知ってるだけに、このシュールな光景に笑わずにはいられない。笑うの我慢するのキツイ。工藤新一、やめてくれ。

 

 

そして俺の腹筋にダイレクトアタックを喰らわせてくるカオスの中で咲き乱れる毛利小五郎の名推理。

「私の勘が正しければ、この人は女性でないと思いますよ」

俺が犯人というだけでなく、俺がグレースに変装していることも見抜いてきやがった。

自分で言うのもアレだが、俺の潜入能力、組織の中でもトップクラスだってのに。

それをたった1日で見抜くとは。

さすが日本が誇る名探偵・毛利小五郎。

 

 

 

こうして、謎は全て解かれた

 

 

ということで謎が解かれたから逃げるか。

空手ガールが追いかけてきたけど、お前の型は昨日見せてもらっている。悪いが一流に2度も同じ手は通じない。

楽々蹴り飛ばしてやったぜ。

でもってパシフィック・ブイの監視カメラ映像はあらかじめ細工しておいたから、追手には俺の逃走経路がわかるわけがない。

あとは悠々と脱出させてもら・・・

 

って、なんで工藤新一が追い付いてきたんだ!?

だが俺がお前の正体に気付いているぞと教えてやったらめっちゃ動揺し始めた。

でもって負け惜しみみたいに俺のことを責めてきたぞ。

「お前は人の死に慣れすぎているんだよ」

なんだろう。工藤新一。お前にだけは言われたくない。そんな気がする。

「アンタ、ジンにそっくりだよ。って言いたいところだけど、奴ならこんなヘマはやらねえ。ジンもどきのただのチンピラ、ってところかな?」

悪口の破壊力が強すぎる! 取り消せよ……!!! ハァ… 今の言葉……!!!

 

ということで工藤新一をボコボコにしてやったぜ。

まぁ生け捕りにして組織に連れて帰ろうと思ったが、抵抗されてそれは叶わなかった。

仕方がない。さっき組織から連絡が来て作戦3、パシフィック・ブイの破壊が決定したから、すぐに逃げないと俺も爆発に巻き込まれてしまう。

まぁ逃走ルートも逃走手段も全部用意してあるから、あとは泳いで組織の潜水艦に行くだけ。

楽な仕事。

 

まさか、工藤新一が水中にまで追いかけてこないよな?

 

 

・・・・・

 

 

大丈夫だった。誰も追いかけてこなかった。来るはずがないよな常識的に考えて。

ふぅ一安心。

さ~て、潜水艦に乗りこんでジンに『工藤新一が生きている』って教えてやろ♪

な~んか俺がこうして泳いでいる間に、どこかで誰かがイチャイチャしてる気配がするけど。9割方の人が俺の存在忘れるようなスゴイ展開が起きてるような気がするけど。

まぁ俺には関係ないな。

あ~楽しみ。帰るのがほんと楽しみ。

 

 

・・・?

潜水艦のハッチが開かない?

お~い、開けて~。

既読にはなってるが。どうしてだ?

 

 

ん?

あれれ~おっかしいぞ~

潜水艦に穴が開いて、あるはずの潜水艇が無くなってる。

これ、潜水艦が航行不能になったから、潜水艇で脱出して、潜水艦は証拠隠滅のために自爆させるパターン。

 

 

 

そういう事かよ、ジン……!!

 

 

 

 

 

 




「ピンガ。貴方までこっちに来ちゃったの?」
ん? その声は、まさかキュラソーか? お前死んだはずじゃ。
「どうやら貴方もジンに殺されてしまったのね」
そうか俺は死んだのか。まぁそうだよな流石に。って『貴方も』ってことはキュラソー。お前の死因やっぱりジンだったのか!
「まぁ死因は観覧車に潰されたせいなんだけど。間接的にジンのせいね」
そうか、やっぱジンクソだな。ってか観覧車に潰されるとかどういう死因だよ。いや、俺の死因も大概だがな。既読スルーで殺された。
「それもスゴイ死因ね」
そうなんだよ。ってそんなことよりキュラソー、お前にすごいことを教えてやるよ。
「死んでもなおハイテンションね。なに?」
ジンがずっと追ってた組織の裏切り者、シェリーっているだろ? あの女、実は子供の姿に化けて逃げてたんだよ。だから組織がどれだけ探しても見つからなかったんだ。
「うん、知ってる」
? 知ってる?
「灰原哀って小学生の女の子になってるんでしょ?」
・・・・知ってんのかい! なんだよ勿体ぶって語った俺が馬鹿みたいじゃねぇか。じゃ、じゃあもっと驚くことを教えてやるよ。
「なに?」
ジンが殺したはずの工藤新一っていう高校生探偵、実はまだ生きていて、こいつも江戸川コナンっていう小学生に化けていたんだよ!
「知ってる」
・・・・・は?
「こっちで会ったアイリッシュが教えてくれたわ」
知ってんのかい! 俺、この情報だけは絶対に誰も知らないと思ってたのに。
え? てかなんでお前ら組織にとって超絶重要な情報知ってて、それを組織に教えないんだよ!
「それはまぁ一応。知ってすぐ、誰かに会う前にジンに殺されちゃったからね、私たち」
ジンお前! マジかおま・・・じ、ジン! ジンさん!? ば、バカぁ!


マジでジン、だから俺はお前を蹴落とさなきゃいけなかったんだよ!


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