我が名は、竜狩りの鎧 (マリア様良いよね)
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Prologue




安息は、私にはきっと無縁なのだろう






 

 

 

ロスリック城大書庫前の大橋にて

 

薪の王が一柱、ロスリック王子の元へと続く唯一の道を阻むものと、己が定めた使命を背負う『火の無い灰』が破壊の応酬を繰り返し相争っていた。

 

灰の進撃を阻むは『竜狩りの鎧』

かつて、世界に朽ちぬ岩の古龍が支配する時代を変える一助となった、名もなき騎士の忘れ形見。

深淵に飲まれたことで本来の主は溶け、今や骸を弄ぶかの如く鎧は傀儡と化していた。

 

永く、遠い時を過ぎたものには意思が宿るように、この鎧にも意識があった。

 

故にこの場では仮に、鎧を「彼」と呼ぼう。

 

「彼」は自由の効かない己の躯に不快感を抱きながら、対峙する火の無い灰を見る。

 

火の陰りを迎えた今の時代を駆け抜ける最後の探索者。繰り返し廻る事で腐った世界を変える、小さな小さな可能性を秘めた最期の希望。

 

それは彼からすれば愚かで、無様で

 

そして何よりも、羨ましい

 

懐かしいとすら感じる

 

被造物が造物主を愛するように、彼もかつては主を敬愛し、心の底から守りたいと、力を以て支えたいと思っていた。

 

しかし、非情にも主は屈し。狩り、守るための力は徒に利用され、己の意志すら切り捨てられ、只々使われ続けている。

 

———終わりにしよう

主を守れなかったその時既に、彼の使命は破綻している

 

いつまでも過去の遺物が、先を目指す後世の者たちの妨げになるのは無粋というもの。

 

———そら、隙だらけだ。打ち砕け。

この程度の障害(傀儡如き)、貴公に乗り越えられぬものでもなかろう?

 

 

「—————————!!!」

 

 

咆哮が轟く。敵を屠れ、そいつを引きずり込め、深淵に招き入れろ、いや……殺せ!負の感情の連鎖を湛えた巡礼の蝶達が狂い鳴く。

 

———やかましい。此の身(鎧)だけでは飽き足らず、貶める頭数はまだ足りぬと吼えるか。全く、余計なことを。

 

名残惜しいが……

 

これ以上、奴等の好きにさせておくのも癇に障る。何より、奴等は我が主の在り方を侮辱したに等しい。

 

自らの手で終わらせることが出来れば、どれ程良かったことか……所詮は鎧。奴等の傀儡に堕ちるのが関の山か?

 

だが、せめて。最期は誇りをもって、我が最後を彩ろう。

 

今を生きる、後世の旅路の一部になれたという栄誉を記憶に留めながら。

 

 

———火の無い灰が盾をしまい、武器を両手持ちに切り替え向かって来る。

———竜狩りの鎧は、その手に持つ大斧を大上段に構え迎え撃つ。

 

 

正真正銘、最期の一合

 

 

刹那の交錯の後、果たして倒れたのは———

 

 

「————ッ!……グ……ハッ……!?」

 

 

火の無い灰が、地を転がる。大斧は直撃こそしなかったものの。叩き付けられた瞬間、竜狩りの象徴とも言える古龍をも焼いた大雷が迸り、その余波に吹き飛ばされたのだ。

 

そして、竜狩りの鎧は

 

 

「——————ッ……………」

 

 

火の無い灰の決死の一撃は、確かに届いていた。終ぞ鎧を打ち砕くことは無かったが、蓄積されたダメージが、鎧を操る巡礼の蝶の限界を超えたのだ。

たたらを踏み、よろける鎧はそのまま倒れる。

 

 

だが、

その手に持つ武具は、決して離すことはなかった

 

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

 

……………

 

 

………………………

 

 

…………………………………………

 

 

 

 

…………何故、私はまだ、意識がある?

 

 

あの者が放った最後の一撃は、確かに奴等の呪縛を吹き飛ばすに足る、快哉なものであった筈。

 

なのに何故、私はこうして思考が出来る?

 

解せぬ。解せぬが、意識が在る以上思考は止めん。

 

意図せぬものではあるが、再起動を果たしたのだ。何か、意味がある筈だ。

 

一先ず、躯体の確認。

どうやら私は、地に倒れ伏したままの様だ。両の手に力を込めれば、確かに感じる己が矛と盾の感触。しかと握り締めたまま、ゆっくりと腕部全体に力を込め状態を起こしていく。

上半部、各関節部共に稼働に支障なし。

躯体を起こす際、足にも力が込められることから、下半部も異常はない。

 

うむ。躯体に問題無し。武具もある。

 

さて。では、周囲の状況を……確……認………

 

 

———眼前に広がる光景に、思考が一時停止する

 

 

…………なんだ、これはッ!?

 

……………燃えている!?目に映る全てが、燃えているッ!!

 

私が見てきた文明の中でも特に進んでいたであろう街並みは、全てを飲み込む業火に巻かれ燃え盛っているではないか!!!

無辜の人々も、それどころか生あるものの気配一つすら感じられぬ……!!

 

…………なんということだ。ここが、地獄なのか?いや、地獄であろう。

 

私達が、守り通してきた可能性が……

 

我が主が、誇りとしていたものが……っ

 

我々が成してきた抗いが、全て……!!

 

 

………嗚呼、なんと惨い

 

これが、これこそが、世界の終止符だと言うのか?

 

私が守りたかった可能性は……彼等の旅路は、全て……

 

 

無意味だったのか?

 

 

———諦観が思考を覆い始めた時、遠方より戦闘音と思わしき、衝突の音が小さく聞こえた

 

!?

 

………まだだ。まだ、終わりではない。

 

世界が崩壊していようと、腐敗していようと

 

抗う者が、まだ残っているのならばッ!!

 

 

「……終わらせぬ!断じて、認めてなるものかッ!!」

 

 

低く、くぐもった怒りの声が、己の声帯部より発せられた。

 

? 我が事ながら、それはおかしい。

 

私は鎧であり、中身は空洞である。

 

…………いや、どうでもよい。

 

そもそも、操られているわけでもなく、私自らの意思で動けている事自体が異常であろうに。

 

今はそれよりも、一刻も早く向かわなくては。

 

世界がこの様な有様でも、抗う者が居るのだ。ならば、それを助けよう。

 

両の足に力を込め立ち上がると、体勢をやや低くし、脚部全体に力を込めていく。

 

瞬間。踏みしめていた地面を深く陥没させる程、強く蹴るように走り出す。

 

どうか、頼む。

 

抗う者よ、無事で居てくれ……!

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

最悪(サイアク)だ。

 

今の私の感情をもっとも正しく表現するのなら。怒り、悔しみ、恐怖といったものか。

 

特異点Fへのレイシフト。

 

その最終段階で起こった異常事態。原因は不明だが、レイシフト適正の無かった私が、気が付けばここ(冬木)に飛ばされていた。

 

カルデア管制室と連絡を取ろうとしたが、不幸とは続くものでトラブルが起きた。

 

私は今、追われている。

現地に住む人々の怒りを買ったとか、罪を犯したとか、そういう後ろめたいことは一切していない。

 

何より追いつかれれば、私は殺されてしまうだろう。呆気なく。惨めに。酷たらしく。

 

だって、私を追いかけているのは、

 

「いやぁあぁああああああああああああああぁぁぁ!!こっちに来ないでよぉ!!!」

 

()()()()。それも、1体や2体ではなく、無数に。集団で。どうしようもない。

 

応戦?バカなこと言わないで。数体ならまだしも、あんな数相手にして生き残れる訳が無い。

 

だから逃げる。無様に、滑稽に、みっともなく喚き散らしながら。

 

「レフ……っ!あぁ、もう……!!誰か、誰か助けてぇええ!!!」

 

必死に、喉が痛くなるほどに叫びながら、助けを求めて走り続ける。

 

酷い現実から、目を逸らすように。

 

 

「あ………」

 

 

ずっと、休むことなく走っていたせいか。普段ここまで体を動かす事がなかったからか。疲労からか。

 

 

足が縺れ、転んでしまった。

 

 

「ヒッ!………こ、来ないでっ!」

 

ケタケタと嘲笑うように骨を鳴らしながら、竜牙兵がゆっくりと近付いてくる。

 

「……っ!来ないでよっ!!」

 

ガンドで応戦するも、全く止まる気配は見えない。1体1体仕留めても、如何せん数が多すぎて。減っている気が全くしない。

 

「なんで……!なんでよっ!?」

 

竜牙兵が、数メートルの距離まで迫る。それでも、決して走っては来ない。弱者を甚振り、弄ぶように、ゆっくりと。

 

 

「レフ……っ誰か………誰か……!」

 

 

 

死が、目前に迫る

 

 

 

 

 

 

「助けてッ!!!」

 

 

 

 

 

 

その一言が、届いたのかはわからない

 

それでも、きっと、私はこの時のことを

 

決して、忘れることは無いだろう

 

 

 

 

 

 

「———御意。」

 

 

地面を抉る激しい轟音と共に、突如目の前にナニカが現れた。

 

身長は4mを軽く超え。背中越しに見るに左手には大きな大盾を。右手には身の丈よりも更に長い大斧を携えた、全身鎧の巨人。

 

 

「———貴公は、私が助けよう。」

 

 

あぁ、今日は最悪だ。

 

でも、もし、運命の出会いというのを信じるなら

 

 

「ぁ………え?………あ、貴方……は?」

 

 

私、オルガマリー・アニムスフィアは

 

 

「———我が名は、竜狩りの鎧」

 

 

この『竜狩りの鎧』との出会いを運命だと信じる

 

 

 

 

 

 










鎧「目が覚めたら世界燃えててキレたわ。君の事は必ず助けるからね(爽やかスマイル)」

オルガマリーちゃん「ふぇええん(ガチ泣き)」



オルタさん「さっきから凄く悪寒がする」




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殲滅戦





私が必ず、貴公を助けよう






 

 

 

「さっそくですまないが、消えてもらうぞ。」

 

大盾を背に負い、大斧を両手に持ち替える。

右肩に担ぐ様に構え、体をやや捻ると、

 

「フンッ!」

 

叩き付ける様に振り下ろした。

竜狩りの鎧を中心に、爆発音にも似た破砕音を響かせながら扇状に衝撃が瞬く間に広がっていく。

 

「………うそ……でしょ」

 

その破壊力たるや、数十m先まで地面が抉れ吹き飛ばされる程。

無数に群がっていた竜牙兵は、1体の例外なく砕け散り、或いは跡形もなく消し飛んだ。

 

だが。

 

「む。」

 

そんな目立つ音がすれば当然、周辺に散らばっていたであろう竜牙兵が集まってくるのは自明の理。

ビルとビルの間から、或いは路地裏、瓦礫を押し退けながらと。次から次へ湧いてくる。

 

「ひぇ……どうしろって言うのよ……っ!」

 

あっという間に、オルガマリーが逃げていた時とは比べ物にならない数の竜牙兵が集まってしまった。大型トラックが4台は通れるであろう道路をびっしりと埋め尽くして尚溢れる量だ。

 

 

 

「鬱陶しいぞ。」

 

 

 

そんなものは関係ないと言わんが如く、再び大斧を叩き付ける。

しかし、流石に量が勝るか、全体の約3分の2が未だ健在。攻撃後の硬直を狙おうと、畳み掛けるように殺到する。

 

「なら、もう一度振るうまでの事。」

 

上半身を深く捻り、遠心力も加えた二撃目。明らかに威力を増したそれに抗う術もなく。残ったのは僅か17体。

竜牙兵に感情はない。故に怯えも知らぬし、恐怖を味わうことも無い。しかしこの惨状を目にすれば、果たしてそれが幸福なのか不幸なのか、考えたくもない。

 

「まだ向かって来るか。その心意気は賞賛に値するが、蛮勇は身を滅ぼすと知れ。」

 

背負っていた大盾を再び装備し、大斧と共に構え直す。

 

「来い。」

 

左右から挟撃を仕掛けるように突貫してきた4体の竜牙兵を皮切りに、最後の攻防が始まる。尤も。竜牙兵には、最初から勝ち目など一片たりとて有りはしなかったのだが。

目前に迫る4体を前に、彼はあろう事か()()()()()()()()()()

 

「……………っ!? ちょ、ちょっと!自分から武装を放り投げるなんて、何を考えているのッ!?」

 

目の前で起こった圧倒的破壊の前にしばし意識が飛びかけていたオルガマリーだったが、彼の突然の奇行に思わず声を上げる。再び慌て始めそうになった直後。

彼は無手で、己に斬り掛からんとした1体の竜牙兵の頭部を勢いよく鷲掴み、そのまま左へぶん回す(フルスイング)。骨同士がぶつかって鳴るには派手過ぎる衝突音を立てながら、4体の竜牙兵が粉々に砕けた。

 

———残り13

 

そう呟くと同時に、彼は疾走する。すれ違いざまに大盾の盾殴り(シールドバッシュ)で、或いは無手で竜牙兵の足を掬い無力化していく。触れた際にトドメを刺せば良いものを、何故か彼はあえてそれをせず、残った全ての竜牙兵を地に伏せる。

 

最後の1体まで瞬きの間に無力化したタイミングで、()()()()()()()()()()()()()()

 

別に。殲滅するだけなら、ここまで手間をかける必要も無く、ただ全力で大斧を振り下ろすだけでよかった。

 

それを今しなかったのは、偏に。

 

 

「初戦は、派手に彩るものと聞く。」

 

 

竜狩りの鎧()が、

 

 

「直接手で殴る事でわかったが、貴様等の材質は竜の牙だな?」

 

 

久方ぶりの闘争でどうしようもなく、

 

 

「ならば、嘸かし()()()()()()()()()()()()。」

 

 

昂っていた(テンションが上がっていた)からに限る。

 

 

竜狩りの鎧は再び大斧を両手に構え、天に掲げる

 

其れは、雲を引き裂き、大地を割る霹靂(かみとき)が如く一撃

 

 

 

———<戦技>・『落雷』

 

 

 

けたたましい轟音と共に、振り下ろされた竜狩りの大斧から、刹那の間に放たれた大雷が地に転がる木偶共(竜牙兵)を灰も残さず灼いていく。本来であれば、地に叩きつけたとて精々が自分の周囲数メートル程の攻撃範囲でしかないが。

この大斧は『竜狩りの大斧』。即ち竜を滅するが為に振るわれる武器だ。それが纏う雷は、竜の悉くを灼き尽くす滅龍の閃光。地を這う大雷は消えず、竜牙兵から竜牙兵へと噛み付き喰らい、全てを灼き尽くして漸く消えた。

 

こうして。圧倒的且つ、一方的な殲滅戦によって、竜牙兵は全滅した。

 

 

「よし。こんなものか。」

 

「あ……あぁ………」

 

「む?」

 

だが。少し、考えてみて欲しい。つい数瞬前まで生命の危機に瀕していると、突然目の前に現れた全身鎧のナニカ(4m超えの巨人)が出鱈目な力でその脅威を消し飛ばした挙句、その元凶(大斧)を担いだまま見下ろしてきたらどうなるか。

 

「………キュー」

 

「なっ!貴公!?」

 

様々な感情の波が頭の中を駆け巡り、混乱と恐慌の果てに脳内処理能力が限界を迎えて、気絶してもおかしくはないだろう。

 

 

はっきりいって、怖い

 

 

「………パタリ」

 

「貴公ォオーーッ!?」

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

「スゥ…………スゥ…………」

 

「ふぅ。まさか、寝てしまうとは思わなんだ。余程追い詰められていたのであろうな。」

 

この竜狩りの鎧、意志も感情もあるが、致命的なまでに人と関わることが無かった為、加減を知らなかった。

それ故に、半分は自分のせいで追い詰められて倒れたとは露ほども考えていなかった。

 

「……うぅ……ん…………」

 

「フッ。よく寝ている。私の躯体では、寝心地は最悪であろうに。」

 

現在、彼女オルガマリー・アニムスフィアは、人生史上初のいわゆるお姫様抱っこを体験していた。もし目が覚めていれば、本人にとってこれほどまでに(ある意味)不服極まる初体験はたまったものではないだろう。

 

「………れ………ふぅ…………」

 

「もう暫く、夢を見ていたまえ。」

 

せめて、悪夢でないことを祈ろう。

 

 

「先輩!やはり、あれは———」

「あぁ!急ごう、———」

 

 

 

「む?」

 

 

ゆっくりと燃え盛る街を歩いていると、前方から何やら人影がこちらに向かって来ているのが分かった。

 

 

「聞き間違えでなければ、会話をしていたな。生存者か?」

 

なにやら、向こうは焦っているようだが。それを見ても特に彼は気にすること無く、悠然と歩み寄っていく。

 

「良い事だ。実に良い。この世界に、まだ抗う者が居るというのはな。」

 

この出会いが、彼等にとってどのようなものになるのか。

 

今はまだ、誰にも解らない。

 

 







鎧「竜は死すべし!竜は死すべし!……たかが骨?牙?でも、竜だろ?もちろん殺るよね??当たり前だよなァ???」

オルガマリーちゃん「……ガクリ」


藤丸くん&我らが後輩「「しょ、所長ーーーッ!?」」





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急転




この私を欺けるとでも思ったか?






 

 

———数分前

 

 

「先輩、間もなく先程の戦闘音と思わしき反応があった地点へ到着します。」

 

「結構近かったね。というか、このまま進んだらドクターが言ってた座標と………」

 

「………はい。完全に一致します。つまり、私達が向かっている目的地にて、何らかの衝突があったのだと思われます。」

 

「それは、前途多難というか、なんというか……」

 

私、マシュ・キリエライトは。先輩と合流した後、ドクター(Dr.ロマン)からの指示で霊脈地を目指していました。

最初の通信は乱れていて、通話も安定して行えず、状況の説明が完全では無かったので、現状の把握と状況整理が最優先されたのですが。

 

あともう少しで到着するという矢先で起こったこの問題に、流石に先輩も———

 

「でも、まだ敵だと決まった訳じゃないし。あんまりグチグチ言っても仕方ないか。少しだけ気楽に行こう。」

 

「!」

 

楽観的、といえばそれまでなのですが。何故か、先輩なら大丈夫だと思えるのです。不思議な感覚。でも、悪い気はしません。

 

「はい!肩の力を抜き過ぎず、適度な緊張を保って事と次第に当たりたいと思います!」

 

「頼もしいよ、マシュ。っと、そろそろか。ここを曲がった先だっけ?」

 

「その通りです。……何が起こるか分かりません。慎重にいきましょう。」

 

「了解———行こう。」

 

十字路を抜けて右折した先が目的地であり、戦闘音が聞こえてきた件のポイント。壁越しに覗き見るように様子を伺います。

 

その先に居たのは、

 

 

「あれは……巨人!?少し離れていますが、明らかに我々より体格が大きいです!」

 

「……見間違えじゃないね。今交通標識と並んだけど、あれはどう見ても……って、あれ?誰か抱えてる?」

 

「……え?———ッ!!先輩、まさかあの方は———」

 

 

「「オルガマリー所長!?」」

 

 

オルガマリー・アニムスフィア。人理継続保障機関「カルデア」所長である彼女を横抱き(お姫様抱っこ)で運んでいる巨人でした。

 

 

「ねぇ、あれはいったい、どういう状況なのかな……?」

 

「………外見(鎧姿)と背に負った大斧から察するに、先程の戦闘音はあの巨人の方が関係していると推測されます。」

 

「まぁ、そうだろうね。俺達の向かってた方向からこっちに来てる訳だし……って、そうじゃなくて。」

 

顔を横に逸らす(所長から視線を逸らす)ように横を向いて、(先輩とは逆の方を向きながら)答えます。いえ、先輩の顔は控えめに言って整っていますし、何より心が落ち着くのでずっと見ていることは可能です。

 

ただ、状況が悪過ぎます。

 

「……すみません、先輩。私の予想で良ければ。恐らく、先程の戦闘音も、オルガマリー所長が襲われていて、それを助けたのがあの方(巨人)だったと考えれば辻褄は合いませんか?」

 

「確かに。そう考えると、まるでマシュみたいだね。誰かを守ってあげられる、かっこいい騎士だ。」

 

「そ、そんな!私はまだまだ至らぬ所が目立つ未熟者と言いますか、デミ・サーヴァントですし……」

 

自信のなさから、思わず項垂れてしまう。私のこの力は、借り物である上に、本来の性能すらまだ発揮できてはいません。ここに至るまでの戦闘も、下級の敵対生物(モンスター)が相手だったからこそ遅れを取らなかっただけで。実際、相手が英霊(サーヴァント)やもっと上位の敵対生物だった場合、分が悪いにも程があります。私では、きっと………

 

 

「大丈夫。マシュならきっと、これから強くなれるよ。誰かと争うことは誰だって出来る。でも誰かを守ることは、難しいことだと思うんだ。俺を守ってくれるマシュだから、俺はハッキリと断言出来る———マシュは強いよ。俺が保証する。」

 

「———っ………先輩……!」

 

 

それとも、俺の言葉じゃ不安かな?そう続けた先輩に、私は全力で首を左右に振って否定した。

きっと、先輩が言ってるのは力が強いだとか、性能の話をしていた訳では無いと思います。もっと本質的なことで、先輩は私を———

 

「ん?ちょっと待って。なんかあの巨人の後ろに、黒っぽい影みたいなのが迫ってきてない?」

 

「……え?———!」

 

先輩の疑問を聞いて、即座に気持ちを切り替え戦闘態勢に移行。恐らく、あの巨人の方は気付いていないようですが。

 

「先輩、戦闘の準備を。アレは、()()()()()()()()()()です。」

 

「シャドウサーヴァント?」

 

「はい。サーヴァントの残留霊基、或いは英霊の霊基を模した影のようなものであり、恐らく我々の敵です。」

 

シャドウサーヴァントは、その土地で行なわれた聖杯戦争で散っていったサーヴァントの残滓が周囲の魔力や怨念と結びついて生まれたサーヴァント擬きと。召喚者の実力不足で実体を持つことが出来なかった、影のような者たちを指します。

 

今回の場合、特異点Fで起こった異変の原因によって生まれた可能性も有りうるのですが、少なくとも味方ではないでしょう。

 

「不味いよ、所長が危ない!?」

 

「……時間がありません。行きましょう!」

 

ビルの影から飛び出す様に、巨人の方が居る方向へ走り出す。

 

「先輩!やはり、あれは敵です!暗器と思われる物を取り出して、巨人の方へ向かっています!」

 

「あぁ!急ごう、このままだと所長も危険だ!!」

 

先輩と目を合わせ互いに頷くと、私は全力で走り始めました。

 

お願い……どうか間に合って……!!

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

影が迫る

 

己が手に馴染む黒塗りのダガーを手に添えて

 

影が迫る

 

その心臓を貫かんと

 

影が迫る

 

しかし竜狩りの鎧、悠然たる歩み止めることなく

 

影が迫る

 

盾の少女は間に合わない

 

影が迫る

 

影が迫る

 

影が迫る

 

影が迫り

 

そして、死が迫る

 

ついに、その凶器が首元を捕えんとした時———

 

 

 

 

「気付かぬと、思っていたのか?」

 

 

 

 

———蹴撃一閃

 

喉元を狙った死角からの暗殺はしかし、英雄たる竜狩りの鎧には通用しなかった。

 

「グゲェッ!?!!」

 

薙ぎ払うかの如く振り抜かれた蹴りの一撃をもろに頭に受けたアサシンのシャドウサーヴァントは。幸いにも即死は免れたものの、頚椎から胸椎が完全に潰れており、最早虫の息である。

 

「表面上は殺意も薄く、奇妙なことに存在も希薄だが。人の本質たるソウルが貴様の場合淀んでいる。私達を害そうという悪意をもっていたのが、直接見なくとも感じ取れたぞ。」

 

ゆっくりと

 

竜狩りの鎧が近付いていく

 

先のアサシンが取った行動とは真逆に

 

ひどく、酷く、ゆっくりと歩いて行く

 

まるで

 

「さて。未遂とはいえ、貴様は淑女(レディ)を襲ったな。眠ったままの女性を狙ったんだ、相応の対価を払ってもらうぞ?」

 

それは、死を与える断頭台へと運ぶ処刑人が如く

 

「対価は無論、貴様のソウル(身命)だ。」

 

「……グ…ガ………バカ……ナ……コォ…ワタ、シ……ガァ………」

 

足元に転がる、アサシン(シャドウサーヴァント)の頭部に片足をのせると、

 

「贖え。」

 

———ハッ!

 

一息の後、踏み潰した。地面が深く陥没し、クレーターとなるや、その振動がそれなりに離れた位置に居るマシュと、その更に後方にいる彼女のマスターにまで届く程の一撃。そんなものをまともに受けたアサシンの惨状は、言うまでもないだろう。

 

「私の主も騎士だったのだ。であれは、それに習うのは道理だろう。」

 

「シャドウサーヴァントを、一撃で倒すなんて……っ!?」

 

「む?」

 

———霊基の崩壊が始まったアサシンから視線を外すと。多少の距離を開けて、彼を油断なく見つめる大盾を持った少女と、やっと少女に追い付いた(鎧が仮借なくやった行動に若干怯んだ)ごく普通の少年が視界に映った。

 

「おぉ。遠望の先にて、会話をしていた生存者か。」

 

(ようや)く見つけたまともな少女少年に、穏やかに話し掛ける。軽く会釈する少年に対し、少女の警戒はまだ解けていないが。

 

「……貴方が仰っている生存者が、この街で起きた惨状のという意味であれば、私達は違います。」

 

「なに?然し、貴公等はこの娘を襲う不埒な輩共では無いのだろう?であるならば、貴公等は何者だ?」

 

「先輩……」

 

「ここは答えた方がいいと思う。この人は少なくとも、悪い人ではない気がするから。」

 

不安そうに、判断を仰ぐように少年を見つめる少女に、少年は毅然とした様で答える。

 

根拠が少ない(所長を守っている)けど、それでも十分だと思ったから。取り敢えず話そう。」

 

「……わかりました。先輩の直感を信じます。

———貴殿との会話中にもかかわらず、失礼しました。私はマシュ・キリエライトと申します。人理継続保障機関・カルデアに所属するデミサーヴァントです。こちらは先輩の。」

「初めまして、マシュのマスター兼先輩の、藤丸 立香です。よろしくお願いします。」

 

やや緊張した面持ちで自己紹介を始めたマシュと、それを見て微笑みながら朗らかに礼をする立香に、彼は内心二人の印象が好ましいものになっていた。

 

「うむ。マシュに、リツカか。覚えておこう。聞き慣れぬ組織の名もあったが、そこは後程詳しく頼む。では、私の名だな。」

 

「………ぅーん………ふわ…………?」

 

「む。少々失敬………目が覚めたか?」

 

「…………ここ……は……」

 

オルガマリーの目が覚めた。しかし、起きたばかりで状況が全く把握出来ていないようだ。

 

「私は、先程貴公を助けた者だ。今は新たに出会った生存者と会話をしていた最中であり、自己紹介をしていた。自らの名は思い出せるか?」

 

「……自己紹介………わたしは、カルデアの所長……オルガマリー・アニムスフィア……わたしは、レイシフトに、巻き込まれて……それから………それから…………」

 

ゆっくりと、意識が覚醒していく。

 

「………それから、竜牙兵に、おそ……われ………!!!?」

 

「よし。意識に欠如は無し。問題は無いな………否、一つ重大な問題があるか。それを解決する為にも———」

 

「さっきの竜牙兵はッ!?ここは何処!?私はどうなっていたの!?というかどういう状況なのこれ!!?何がどうなっているのよ!!!」

 

「所長。目が覚めたんですね、御無事で何よりです。」

 

「!? ま、マシュ!?貴女、デミサーヴァントに……って、なんで貴方がマスターになってるのよ!?」

 

「え、えぇ!?怒られるの俺ですか?」

 

「そうよ!貴方なんかがマスターになれるわけないじゃない!いったいその娘にどういう乱暴働いて……?貴方達、身長縮んだ?なんでこんなに差がある………の……」

 

「ははは!元気な事だ。この状況でそれだけ感情が動くのだ、心配は杞憂であったらしい。」

 

「っ!!!?!!?!?」

 

 

不意に顔を上げた際に、視線が合った竜狩りの鎧とのあまりの顔の近さに驚いた模様。

そも。今の会話は全て、竜狩りの鎧()両腕で支えられた(お姫様抱っこされた)ままの状態で起こった顛末である。

 

 

状況を少しずつ理解していった彼女は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁあぁあああああああああああああ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恥ずかしさのあまり絶叫したのだった。

 

 

 

 








鎧「オラァ!淑女襲ってんじゃねぇぞゴラ!!それはそれとして何この可愛い娘……守らなきゃ(使命感)」

オルガマリーちゃん「///////」


先輩&後輩「所長……(暖かい目)」




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急転直下





どうやら、目障りな異物が混ざりこんだようだ

万が一にも我らが王の壁になぞなりはしないだろうが、忌々しいことには変わりない

持ち腐れた駒を動かす理由には十分だろう

さぁ、行け—————。





 

 

「では、改めて。我が名は竜狩りの鎧だ。読んで字の如く竜の尽くを屠る為、神より鋳造されし鎧である。如何なる導きに寄るものかはさて置き、こうして巡り会ったのだ。世界の危機に抗う貴公等に敬意を表し私も協力しよう。これからよろしく頼む。」

 

「はい、こちらこそ。あの、申告されたプロフィールについて失礼を承知で指摘させていただきますが……俄には信じ難いものばかりです。」

 

 

あれ(所長の絶叫)からしばらく経ち、漸く互いに目的と今の状況について簡潔にだが共有を終えたところで、竜狩りの鎧が何者なのか。これを当の本人から説明を受けていた。そして出身や本人の能力について語られたが、いずれも不明なものばかりだった。

 

 

「ロスリックという地名も、火継の儀式や薪の王と呼称される存在についても、私の知識不足なのかもしれませんが、どれも聞き覚えがありません。」

 

「……………なんと。」

 

「特に、世界そのものだったという古龍に関しては本当に謎があります。そんな蓋世たる存在であれば、どこかで見聞していてもおかしくないはず。それに竜種が登場する伝説や神話においても、世界を脅かすほどの古龍は確かに居ますが、概念レベルで世界と同一視されるような化け物は竜種どころか、いくら幻想種の枠組みといえど流石に有り得ません。」

 

「……そう、なのか。」

 

「……すみません。実際に体験した当人である鎧さんに対して、無礼極まりない物言いでした。」

 

「気にすることは無いさ。私は元々過去の遺物。人々に忘れ去られようと、私が私で在ることに変わりは無いのだから。」

 

 

それでもわかることはある。この竜狩りの鎧と名乗る彼は、高潔な人格と穏やかな気性を兼ね備えた、生粋の武人であり英霊なのだと。英霊とは死後、生前に成した功績を讃えられ精霊にまで至った、世界の崩壊を防ぐ抑止の守護者。

彼は、神話や伝説、物語の中で語り紡がれてきた英雄の理想的な在り方を体現している。

 

 

「私の事はいい。それよりも、先に成すことがあるのだろう?」

 

「あ!……失念していました。先輩、カルデアとの連絡がまだです!」

 

「言い訳するつもりはないけど、状況のインパクトが色々大き過ぎだったからね……早くロマンに無事を報告しよう!」

 

そう意気込む2人をみて微笑ましく思う彼だが、()()()()()()()()女性の状態を見てため息をつきたくなった。鎧だから、呼吸の必要も意味もないが

 

「………………………ふんっだ………」

 

「………この様相ではな。」

 

 

目が覚めた後も、オルガマリーは未だに彼から離れずにいた。否、離してもらえなかった、が正しい。

言うまでもなく彼女は取り乱してからすぐに、竜狩りの鎧に離すよう言ったし何なら多少は抵抗(暴れたり)もしたが……

 

「必要な処置がまだ済んでない。もう暫く我慢してもらう。」

 

この一点張りで決して離すことは無かった。

 

結果、為されるがままではあるが、完全につむじを曲げてしまったという訳だ。

世は無情である。

 

(……悩みの種というものは、どうしてこうも積み重なるのだ。)

 

呼吸を必要としない彼がため息をつきたくなる理由はこれだけでは無い。ふと、彼が視線を背後に向けると。気配を巧妙に隠し、此方を見つめる()()()()()()()()()()が居るのを感知した。

 

(敵意は無い。だが味方にしては、彼等を注意深く見過ぎだ。)

 

私と同じ、訳ありか?そこまで思考を巡らせた辺りで、前方が何やら騒がしいことに気付く。どうやら、事が終わったらしい。

 

(……まぁ、敵対しないのであればそれに越したことはないが、念の為だ。警戒は怠らん。)

 

瓦礫の影に隠れようとしていたフード姿の何者かに、意図的に視線を合わせる。

 

「………!」

 

目線の先に写っていることに気付いたようだ。

 

 

(彼等に害を齎すならば———殺す)

 

 

挨拶代わりに殺気を送ると、それに応えんと殺気が返って来たが。何故か名残惜しげに霧散した。

 

(…………こちらと戦う意思は無いのか?否、()()()()()()と言うことか。)

 

水を差されぬ死闘をこそ望む英雄の類とみえる。だが、敢えてそれを望まないのであれば、一先ず保留にしても問題は起こらない筈。

 

(出来ることなら応えたいが、今はそれどころでは無い、か。己の目的の為か、あるいは。まぁ、彼等には特に害はないのだ。私が気を使っていれば、それでいい。)

 

そう結論付けると、騒がしさが一層際立ってきた前方へと足を向けた。

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

「………随分と濃ゆいの飛ばしやがる。思わず血が騒いじまったじゃねぇか。」

 

ルーンを刻みかけた手を止め、再び歩み出した巨人の騎士の背を見て思わず悪態をつく。

 

「今の殺気、師匠に並ぶか?………いや、まさかね。」

 

巨人の騎士を気配を極力消した上で観察していたフード姿の男の正体は、サーヴァントキャスター。

真名クー・フーリン。ケルト神話の大英雄、アイルランドの光の御子。此度の聖杯戦争に置いて唯一まともなまま生き残った、類稀な猛者である。

 

「にしても、あの鎧どっかで見た様な……」

 

首を傾げながら考えるのは、やはり巨人の騎士について。ただ、実力を測るだとか、その正体は兎も角。何故か、一度たりとて鎬を削った記憶が無いどころか、生前にも見た覚えすらない筈だというのに、妙な既視感を抱いている己の感覚そのものに疑問を感じている。

 

「……っ!?……なんだ、アタマが……!」

 

そして、一番の違和感はこれだ。あの騎士に関することに紐付けて過去を思い出そうとすると、まるで身体が拒否するかの如く痛み出すのだ。

頭、鳩尾、膝関節。特定の部位がランダム且つ急に痛みを訴えてくる。彼奴()のスキルか鎧そのものが宝具なのか?幾許か考えてはみるものの、如何せん情報が少ない。断定出来ない上に、これ以上の詮索は得策では無いと結論付ける。

 

「……あぁ!やめだ、止め!コソコソ動くなんざ俺の性に合わねぇんだよ。霊基がキャスターになっちまってる所為で、やり口が後ろ向きになってんじゃねぇか?今からでも遅くねぇ、槍寄越せ、槍!そうすりゃ、うだうだ悩むことなく吶喊してや———」

 

———突如、地響きが鳴り響く

 

 

街から辛うじて見える山の向こうから轟いてきた爆砕音に、クー・フーリンは思わず瞠目する。

 

「! 今のは……あり得ねぇ。どういうことだ?()()は下手に近付かねぇ限りは、全く襲ってこねぇ筈だろ!?」

 

驚愕の声ともに思わず振り向くと。

()()は、冬木に根ざしていた魔術師が存命していたならば、誰もが知るであろう始まりの御三家が一角、アインツベルンが所有していた城が立地している方角から向かってきていた。

 

暗い靄に全身が覆われた人の形をした化け物(英雄)

 

加速と比例するように周囲を破壊し進撃する

 

(シャドウサーヴァント)

 

 

 

「なんで、()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 

此度の狂った聖杯戦争に於いて、純粋な戦闘能力に関して言えば最強だった英雄(サーヴァント)

 

シャドウサーヴァント・バーサーカー

 

真名、ヘラクレス

 

 

堕ちた暴虐が牙を向くのは、さて。

 

 







オルガマリーちゃん「……つーん。(´^`)プイッ」

鎧「なんか拗ねてるし……辛たん。つか誰だよさっきからジロジロ見てくる奴ァ!?あとで相手してやるから首洗って待ってろ!」

キャスニキ「鎧……師匠……影の国……うっアタマg……ヽ(;゚;Д;゚;; )ぎゃああああああ!?バーサーカー!?バーサーカーナンデ!?」



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慟哭

 



……バーサーカーは、強いね






〜数分前〜

 

 

 

 

 

 

『マシュ、藤丸君!無事かい!?』

「ロマン!こっちは大丈夫だよ。それよりも、どうしたの?そんなに慌てて。」

『…っ!もうそんなところまで反応が………!?近過ぎる!!……詳しく話してる余裕はない、今すぐそこから逃げるんだ!藤丸君!』

「えっ!?な、なんかヤバイってのは分かったけど、一体どこに?何かとんでもないことでも起きたの?」

『とんでもないことが起きてるんだ!!』

 

カルデアへ通信を何とか繋げることが出来た2人だが、モニター越しのDr.ロマンが酷く焦燥している様子に揃って疑問符を浮かべ首を傾げていた。

 

「ドクター、少し落ち着いて下さい。まずは順を追って説明して頂けませんか?いったい何があったので『まずい、まずい、まずい!?もう後方数mまで来てる!?』……ドクター?」

 

マシュが一度冷静になる様に諭すが、完全に平常心を失っているらしく会話を途中で遮ってまた恐慌しだした。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が君達のもうすぐ後ろまで迫って来ているんだ!!周囲になにか見えないかい!?とにかく逃げてくれ!!!』

 

「ば、化け物!?しかもすぐ後ろに……って、後ろには彼しか居ないけど?」

 

「はい。敵性生命体と思わしきものは後方はおろか、周囲に見受けれられません。強いて言うなら……」

 

『何をしてるんだ2人とも!?もう時間がないんだっ!急いで逃げてくれぇ!!』

 

危険がもう目と鼻の先に迫っていると叫ぶロマンの言葉はしかし、悲しいかな。当の本人達には決して届かない。

 

そして

 

「先程から騒がしいが、事は済んだのか?」

 

『わあああああああああ!!?』

 

レーダーで観測する側からすれば、藤丸とマシュの座標の間に重なる位置に件の彼が来た。

 

有体に言って絶望しかないだろう。

勘違いでなければ(本当に敵だったならば)

 

「あ、竜狩りさん。」

 

『え』

 

「「え?」」

 

「………む?」

 

 

いよいよもって収拾が付かないと思われた喧騒は、渦中の()へ親しげな一声で呼び掛ける藤丸によって収まった。

 

 

「ちょっと、さっきから煩いわね!ただの通信で何を騒いでいるの!?」

 

『えぇえええええええ!?しょ、所長!?』

 

「はぁ!?なんでロマニが通信に出ているのよ!?」

 

 

訂正。喧騒はまだ続く。

 

 

 

 

 

『………なるほど、つまり君達はそこに居る正体不明の鎧……さんに、助けてもらったってことで良いのかな?』

 

「ロマン、彼にも普通に聞こえてるからね?」

 

『ちゃんとさん付けに直したじゃないか!?』

 

「ドクターうるさいです。あと、マスターの言葉に補足を付け加えさせていただきますと、彼は我々カルデアにとっての恩人でもあるのです。疑う気持ちは分からなくもないですが、そう見え見えな態度では呆れます。」

 

『え、やだマシュがすごく辛辣。こっちはずっと2人が心配でしょうがなかったのに……僕泣いちゃうよ?』

 

「素直に気持ち悪いわよ、ロマニ。泣いてもいいけど、嗚咽はこちらに聞かせないで頂戴。」

 

『いや辛辣ぅ!?ていうか所長!なんで生きてるんですか!?』

 

「その言い方はないでしょう!!」

 

「「ロマン(ドクター)最低(サイテー)だね(です)。」」

 

『ぐはぁっ!?………みんな、あたりがヒドくない?』

 

「安心するといい。皆、貴公の事が嫌いな訳では無いさ。でなければこれほど愉快な心地にはならんだろう。」

 

『……………騙されないぞ。僕だけは絶対に!フォローしてる様で愉快とか言ってるし!ところでマシュ、この鎧野郎が恩人って言ってたけど、具体的に何をしてくれたんだい?』

 

「敵性生物(エネミー)(シャドウ)サーヴァントから追い詰められて絶体絶命だった所長を初対面にも関わらず助けてくださいました。」

 

『本当にありがとうございます、竜狩りの鎧様。』

 

「手のひら返し早くない?」

 

「———、——————。」

 

「—————!?」

 

「—————。」

 

 

———嗚呼、真に心地よい。私の故郷では、終ぞ見る事は能わなかった人々の営みだ。

笑い、悲しみ、怒り、喜び、そしてまた笑う。それが当たり前の事のように流れ行く光景は、見ていて本当に心地が良い。

 

この当たり前を齎す為に、私は戦ってきたのだ。

これまでは。

 

これからは、この当たり前を守る為に刃を振るおう

この笑顔を陰らせないように、盾を突き立てよう

 

「———んとにあなたは……ほら、貴方も何か言ってやりなさいな、ドラゴンスレイヤー?」

 

「……………」

 

「……………ちょっと。竜狩り?」

 

「………! あぁ、すまない。少し、考えごとをな。」

 

思考の海に沈んでいると、訝しげに首を傾げたオルガマリーに話しかけられていることに気付けなかった。

 

「ふーん?………話は変わるけど、いつになったら私を降ろしてくれるのかしら?まさか、本当にずっとこのままで居るなんて信じたくもないのですけど。」

 

「ん。それもそうだ。ようやく処置の方も終わったからな、ゆっくり降ろそう。恥をかかせてすまなかった。では、少し目を瞑ってもらえるかな。」

 

そろそろ、彼女もずっと担ぎ続けられているこの状況に限界が来ているらしい。

 

だが、ちょうどいいのもまた事実。

 

誰にも気付かれないように、彼女を掴む手とは反対の右手に()()()()()()

 

岩の古龍をも穿った竜狩りの雷。只人であれば、触れただけで一瞬にして灰に還すほどの(ソウル)が込められている。

 

 

「謝罪は結構。助けられた事実も実績もありますし、それで許します。あと、目を瞑る必要なんてあるのかしら?私、別に高所恐怖症でもないのだけれど………まぁ、良いでしょう。」

 

「あぁ、助かる。」

 

 

目を閉じたことを確認し、ゆっくりと右手を近付ける。不器用ながら、余分な力を入れぬよう優しくそっと頭に触れると、無垢な見目をした美貌が苦悶に満ち———

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、なんで頭を撫でているのかしら。誰もそんな事を許可した覚えはありませんけど?必要な処置っていうのも結局何なのか分からないし、どういうことです?」

 

 

 

全身を焼かれ、灰になることは無かった。

 

………成功だ。あとは、器のみ。

 

 

あぁ、そういえば、何をしていたのか全く説明していなかったな。

……落ち着いた頃に、順を追って話すとしよう。

 

 

「いや、余りにも可愛らしかった故、ついな。寛大な心でもって許してくれ。」

 

「な、か、かわっ!?……………しししかたないわね。まぁ?心が広い私は、あなたの蛮行も許してあげましょう。こ、光栄に思いなさい?」

 

「有難う、恩に………っ!!!」

 

 

 

———爆砕音が遠方より轟く。

 

 

 

「まったく。可愛らしいだなんて、急に何よもう……別に私を褒めるなんて、今更過ぎて別に嬉しくもなんともないのですからね?せいぜい調子に乗らない事!ふふっ……」

 

 

今、聞こえてきた音は………瓦礫が落ちた音でも、火薬が炎に巻かれた音でもない。瓦礫の落下音があれ程遠方から聞こえる筈は無く、爆発音にしては閃光が一切見えなかった。

 

しかし今の、桁外れた踏み込みの音は……!

 

 

「マシュ!オルガマリーを、(みな)を頼む。」

 

「きゃっ!?な、なんなの!?急に降ろさないで!」

 

オルガマリーをマシュに預け、大盾と大斧を構えて備える。

 

「ちょっ、急にどうしたですか竜狩りさん?」

 

「……マスター、所長。私の後ろから離れないで下さい。ドクター、私達から見て方角、東約2……いえ、1km付近に何か反応はありますか?」

 

『な、何だこれは!?秒速150m前後を維持したまま強力な霊基反応が向かってきてる!!』

 

………見えた。崩壊した建造物を踏み台として加速し、宙を超高速で移動している。踏み台とした建造物を瓦礫の山へと変えながら、隠す気がない突き刺さるような殺意と憎悪を滾らせ向かってくる。

どう見ても、アレと友好的な関係は結べ無さそうだ

 

大盾を地に叩きつけるように振り下ろして固定する

 

接敵まであと3秒

 

『サーヴァントだ!みんな気を付け———』

 

 

 

 

 

 

 

 

「████████!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

耳があれば塞ぎたくなるほどの咆哮と共に、()()は突っ込んできた。

 

 

 

 

 

 







オルガマリーちゃん「////////(〃▽〃)」

影バーサーカー「———████!!!(先手必勝!)」

オルガマリーちゃん「ビクッ!Σ(OωO )」

鎧「ヒトがホワホワしてる時になに突っ込んできてんだおいゴラァ!!!」



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屍人の嘆きは決して届かない





バーサーカーは誰にも負けない………

世界で……いちばん……強いんだから……

私の……バーサーカー、は…………

…………————。バー、サ……カ……………





 

 

 

 

「███████!!!」

 

 

咆哮と共に。速度を落とすことなく駆け抜ける勢いに加え、振りかざした斧剣を全力で叩きつけるように振るう狂戦士(バーサーカー)。彼の剣速は素の振りで音速を軽く超えているにも関わらず、砲弾の様に移動してきたことで更に上乗せする形で攻撃は為された。

 

例え一級の英霊であろうと、攻撃に掠るかその余波だけで確実に吹き飛ばされるほどの一撃と言えよう。

 

 

だというのに。

 

 

「——————っ!!」

 

「██!?」

 

激しい衝突音が2つ鳴り響く。1つは接触した際に発生したもので、続け様に発生したもう1つは()()()()()()()()()()

 

「…………。」

 

押し出すように体の前へ出した大盾を構え直す。

 

何が起こったのか?答えは単純。

 

バーサーカーの振り下ろしに合わせるように大盾を構えて『戦技』を放っただけ。

 

 

戦技・シールドバッシュ

 

 

渾身の力を込めて盾で殴る。防御に徹する状況を、攻めに転ずる為の仕切り直しに本来は使う技。

しかし、優れた盾使いは防具をも武器とする。攻撃を受け流すのでは無く殴られた衝撃を反射し、バーサーカーの全身を打ち付ける様に大盾で殴り飛ばした。

ブレーキの壊れたスポーツカーが、最高速度で対戦車砲を食らいに行った様なものだ。

 

「……██!███████!!!!」

 

「……………。」

 

廃墟ビルに瓦礫ごと埋もれたバーサーカーは、並外れた膂力でもって瓦礫を吹き飛ばすと即座に立ち上がり、怒りの咆哮を上げながらまた向かっていく。

 

「………………。」

 

鎧騎士は大盾を背に負い、大斧を構えて迎え撃つ。大斧と斧剣が激しくぶつかり、衝撃の余波で足元にクレーターが発生した。

 

「████———!!!」

 

バチリと火花が飛び散ることも気にせずギチギチと拮抗する力と力(暴力)。一瞬、視線が交差した直後。

 

「—————!」

 

同時に武器を構え直し、鎧騎士は上段から振り下ろすように、狂戦士は斧剣をかち上げる様に振り上げる。

 

「!? █████!!!!!」

 

同等の力で放たれた一撃は反発し合い、拮抗することなく互いに離れるも、流れるように連撃を打ち合い始める。一合、二合、三合、回数が増える度に徐々に剣速が加速する。

 

十を超えた辺りで音速の域に達した切り結びは、最早常人からは視認出来ない暴虐の嵐となった。

 

「っ███!!███████!!!!!!」

 

百を超える頃には、バーサーカーは理性の無い思考の中でも完全に理解した。

目の前の鎧騎士は、己より格が上だと。

 

一撃の重さの違いが顕著に表れだしたのだ。最初こそ互角に見えた力の差は、その実竜狩りの鎧からすれば小手調べに過ぎなかった。故に同等の力で反発したが、徐々に押され始めている。

 

このままでは何れ綻びが生まれ、数秒先には敗北するだろう未来を本能で悟ったバーサーカー。

様々な想いが狂気に浸された思考の中で巡り始めるも、体は勝つ為に行動を始めていた。

 

実力が上の相手に、どうすれば勝てるのか?

 

 

その答えは、神話で一度出している。

 

 

返す刃で振るわれた大斧を防ぐと、後方に飛んで距離を取り斧剣を構え直す。

 

 

「……███…………」

 

 

左手を前に翳して狙いを定め、

 

 

「███████!!!」

 

 

一足で加速し距離を詰め斧剣を振るう。

 

 

何度も見た光景。数百にも及んだ切り結びによって太刀筋を完全に把握した竜狩りの鎧は余裕をもって大盾で防いだ直後、

 

 

「————!?」

 

「!? 竜狩り!!」

 

()()()()()()()

 

前方に構えていた大盾を持った左手ごと上体は後方に大きく仰け反り、初めて無防備な姿を晒した。

 

一撃に見えた一振(ひとふり)は、()()()()()()()()()()()()()()()1()0()()()()

 

ヘラクレスの神話に於いて。彼が対峙してきた試練に登場する怪物達は、そのどれもが「何度殺しても蘇る」不死性を持っていた。これを捩じ伏せるべく彼は、()()()()()()()()()()()()を編み出しそして至った。

 

本来、バーサーカーの霊基でしかも影英霊(シャドウサーヴァント)である今の彼では使用する事が出来なかった宝具。

 

 

 

「████████!!!」

 

 

 

宝具・射殺す百頭(ナインライブス)

 

 

 

本来は弓で使用する事が最適解且つ最大破壊力を生み出す、ヘラクレスの生み出したある種の流派にも近い御業。

長い戦いを繰り広げてきた過程であらゆる武具を使いこなし、数多くの試練を乗り越えた、状況・対象に応じて様々なカタチに変化する「技」であり、使用する武器の最大手を発揮する万能攻撃宝具。

 

くどいが、今のバーサーカーは十二の試練(ゴッドハンド)も彼の伝承にある数々の宝具も全て失われている。

 

何故、至れたのか。それを語るのは無粋と言えようが、敢えて言うとするならば。

 

どれだけ狂おうが、どれだけ栄光から堕ち果てようが、彼はどうしようもなく英雄だから。

 

己を呼んだ、敬愛する大切で儚き今代の主を目の前で喪った瞬間から、彼は深い後悔と無念、止めどなく溢れ続ける不甲斐ない己への怒りに寄って自責の念に囚われたまま戦い続けていた。その自分が負けることを悟った瞬間、彼の狂気に包まれた思考を埋め尽くしたのは一つの覚悟だった。主を喪い、無様にも生き長らえてしまった彼が決めた覚悟。

 

”巫山戯るな。己に、敗北は決して赦されない”

 

そう、亡き主に不敗を誓い、勝利を捧げ戦い続けるという不退転の意志。

 

ただ、それだけ。

たった一つの、主を慕うが故の想いが。閉ざされ、定められた限界を超えるに至った。

 

 

苦難を前に決して諦めぬその在り方は、どうしようもなく英雄そのものだろう?

 

 

「███████—————!!!!!」

 

 

バーサーカーが行ったのは言ってしまえば単純な事だが、それ故に事実は無慈悲だ。

 

ようやく出来た千載一遇の隙を逃す手はない。

 

「竜狩りっ!!!」

 

「………!!」

 

オルガマリーの声に我に返った竜狩りの鎧が、無理矢理態勢を立て直すように大斧を振るうが、もう遅い。

 

渾身の力を滾らせ、

ただただ斧剣を振るう、振るう、振るう。

 

一撃目(10連撃)、音速を超え

二撃目(20連撃)、神速に至る

三撃目(30連撃)、急所を穿つ

 

防御は、出来ない

 

 

「████████!!!」

 

怒涛の十撃(100連撃)が竜狩りの鎧を打ちのめす。

 

トドメを差すように斧剣を高らかに掲げ、全身全霊で振り落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチッ

 

 

 

 












バーサーカー「███████!!!!!(負ける訳には、いかんのだ!!!!!)」























? 「バーサーカー……もう、いいんだよ?」









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不退転の覚悟




我は欲する

人々が生み出す光を

瞬きの如く煌めく尊さを





 

 

 

「ぁ……あ……あぁ……!!そんな、嘘……嘘よ…っ…!」

 

バーサーカーの宝具によって、視界を遮る量の土埃が宙を舞う。

姿は見えなくとも、あれ程の猛攻をその身一つで受けて無事な筈もない。

 

 

竜狩りの鎧が負けたと、絶望が彼女(オルガマリー)を苛んだ

 

 

「いやぁあああぁぁあああ!!!!?」

 

「っ!? 所長、危険です!下がって下さい!!」

 

堰を切ったように涙を流しながら、竜狩りの鎧の元へ向かおうとするオルガマリーをマシュと立香が抑え込む。

 

「っ……!離して!?……離しなさい!!!」

 

「……所長!!気持ちは分かりますが、落ち着い」

「あんなのを見せられて、平気で居られるわけないじゃない!?竜狩りが……竜狩りが………っ!!」

 

掴まれた腕を振り解こうと抵抗しながら、絹をさくような声音で泣き咽ぶ。

 

 

後ろから近付いてくる気配にも気付かずに。

 

 

「う……うぅ……りゅうがり……りゅうがり……!!」

 

「———落ち着け、嬢ちゃん。お前さんの騎士なら生きてるよ。」

 

「………ふぇ?」

 

「……マスター、所長を連れてこちらへ!貴方は、何者ですか?」

 

いきなり背後から現れた謎のフード姿の男性に、盾を構えて警戒するマシュに、男は両手を上げて答える。

 

「おっと、そう身構えなさんな。別にとって食いやしねぇよ。」

 

「………質問に答えて下さい。」

 

「そう急かすなって。俺は少なくとも、あんたらと敵対するつもりは無い。警戒するなら、一応あっちのバーサーカーにしときな。」

 

やれやれと首を振る目の前の男に、敵意がないことを感じ取ったマシュは取り敢えず盾を下げた。

 

「で、俺は見ての通りサーヴァントだ。クラスはキャスター。真名はクー・フーリン。」

 

『クー・フーリンって、あの!? ケルト神話の大英雄じゃないか!?』

 

「えっと、そんなに凄い英雄なの?」

 

『凄いも何も、ケルト版のヘラクレスって言われるくらい有名な英霊さ!』

 

「そこでヘラクレスの名前が出てくんのは、今の状況じゃ大分皮肉が効いてるな……」

 

自嘲するように軽く笑うと、魔術師(キャスター)——クー・フーリンはバーサーカーの方へ視線を向ける。

 

「そら、戦いはまだ終わっちゃいねぇ。最後まで見届けな。」

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

初めに、違和感に気付いたのはバーサーカーだ。

トドメの一撃として放った全力の振り下ろしは、寸分違わず目の前の鎧騎士に叩き込んだ。鎧ごと粉砕するつもりで打ち込んだ、正に全身全霊の一撃。

だと言うのに、バーサーカーの第六感は、今も尚警鐘を鳴らし続けている。否、今まで以上に危険だと本能がけたたましく叫び続ける。

 

バチッ

 

同時に、有り得ないと。防御させる暇も与えず、ひたすらに叩き込んだ宝具の威力は他ならぬ己が一番理解している。状況によっては対軍、対城宝具にも変化可能な必殺の剣技を対人に使ったのだ。万が一に生きていたとしても、満身創痍の致命傷を与えた筈だと。

 

断言しよう。バーサーカーに非は無く、尋常であれば何一つ間違ってなどいない的確な判断だった。例え超一級の英霊であろうとも殺しかねない程の対人宝具をぶち込んだのだから。

 

そう、相手が人だったのなら、狂戦士(バーサーカー)の勝利だった

 

 

 

 

 

バチバチバチッ

 

 

 

 

雷電が迸り、灼かれた地が燻る。

 

「———███!!」

 

()()を防げたのは、本当に偶然だった。刹那に煌めく金糸の如き輝きを捉えた瞬間、斧剣を盾にするように滑り込ませた直後、甲高い斬撃音が鳴り響く。

 

腕が衝撃と共に流れ込んできた電撃に灼かれ、感覚が一瞬麻痺したが。鋼の如く硬い意志で斧剣を手放さなかった。

 

 

土埃が晴れていく。

 

 

目の前に居たのは、先程までの鎧騎士と同じモノとは到底思えなかった。

 

絶えず帯電し続ける全身鎧

 

周囲を覆うように風と雷が吹き轟き

 

騎士然としていた清廉さは消え、荒々しく肩に大斧を担ぎ

 

威風堂々と嵐を侍る姿は、まるで戦神そのもの

 

 

「———迂闊だった。相手がどれほどの英傑であろうと、侵略者を相手に様子見等、()らしからぬ愚策であった。」

 

 

兜の空洞は金色(こんじき)に輝き、本物の双眸のように鋭くバーサーカーを睨み据える。

 

 

「加減はしない。それは貴公が魅せた技への侮辱となるからな。」

 

 

———故に、全身全霊で撃ち砕く

 

 

その宣言が、終幕の始まり

 

風と雷を伴う嵐ごと、鎧の戦神は掻き消えた

 

光が明滅し、何度も稲光が乱反射する

 

狂戦士は見極める

 

力だけでなく、今や速さですら鎧には劣るが

 

それでも、勝機は残っている

 

鎧が攻撃を仕掛けてきたタイミングで反撃を———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———終わりだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

声がした方向へ体を向けようとした時、異変に気付く。全身に力が全く入らないどころか、感覚が消えた。大地を踏み締める足の感覚も、僅かに麻痺が残っていた腕の感覚も、激しく脈動していた霊核の感覚も、すべて

 

 

そして、気がつけば

 

 

視界がぐるりと回転し、酷くゆっくりと視線の高さが下がっていく視界に思わず目を見開いた。

ゆっくりと、周囲がうつり変わる最中、視界の端に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を見て思い至る。

 

 

 

己は、負けたのか?

 

 

 

光の明滅が収まった瞬間、鎧の戦神が大斧を頭上に掲げ、己を端倪していることに気がついた。

 

 

「貴公の覚悟、見事であった。」

 

 

 

その言葉が、竜狩りの鎧の手向けだった

 

大斧が雷霆と共に振り下ろされる

 

反撃は愚か、反応することすら許されず

 

影の狂戦士(シャドウバーサーカー)は敗れた

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

神の物語の真相は、時に残酷だ

 

語り紡がれる神話こそ偽りであり、失われた古い人の物語こそ真実だということも有り得るのだ

 

しかし、古い記憶を知る者は絶えて久しく、祈る先の居ない神の物語のみが人々の記憶に残り続ける

 

なんと虚しい事か

 

寄る辺を失った者たちの末路は皆、悲惨であり

 

果たして救いはあったのだろうか?

 

 

 

 

 

 

狩りの記憶ばかりだが

 

人の身で竜狩りを成した者を鎧は知っている

 

神話()記憶(真実)が複雑に刻まれた曖昧な記録だが

 

()を纏った英雄(古い人)は、確かに竜を屠っていた

 

 

人ですらない鎧だが、覚えている者は居たようだ

 

 

 

それはきっと、確かに救いとなるだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 








「………私は、負けたのか」

「お嬢様を守れなかった不忠の臣が……」

「無様にも生き長らえたというのに、私は……」

「………私は、どうしようもなく————」








『———バーサーカー』

「!?………お嬢様!?」

『バーサーカー、そんなに自分を責めないで』

「………………ですが、私は」

『大丈夫。ずっと頑張ってたね。えらい、えらい』

『バーサーカーが居てくれて、私、嬉しかったよ』






『私を選んでくれて。ありがとう、バーサーカー』











「………お嬢様には、敵いません」

『ふふふっ』

























「竜狩りが生きてて……良かった……」

絶対に、私を置いていかないで

二度と、私の傍から離れないで

私を見捨てなかった貴方だけは


……ふふふ♪


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怨恨と鮮烈






わたしはただ、()が欲しかった


温もりを与えてくれる、優しい()






 

 

昔話をするとしよう

 

 

「———おとうさま!」

 

「オルガマリー、急に走ってきては危ないだろう。そんなに急いで、どうしたんだい?」

 

これは、在りし日の記憶。

銀髪の少女がまだ幼かった頃、忘れてしまった有り触れた日常の一幕。

 

「さっきスタッフに聞いたの!今日はもう、お仕事が終わったのですよね?」

「うん、そうだね。あぁ、もしかして遊びに来たのかな?」

「はい!また、御伽噺が聞きたくて。」

 

少女は、父が語る神話や伝説を聞くのが大好きだった。

時間のなかなか取れない父が、物語を語る間は抱きしめてくれる為。忙しい父を独り占め出来てるようで、安心出来たというのも理由の一つなのかもしれない。

 

「ははは! オルガマリーは本当に物語が好きだね。わかったよ、取り敢えず寝室へ行こう。何かリクエストはあるかい?」

 

「では、またあの御話が聞きたいです!」

 

それは、英雄譚でありながら。人々に語り継がれることのなかった、埋もれた話。時計塔の君主(ロード)ですら知る人ぞ少ない、曰く付きの伝説。

 

嘗て存在したという火の無き時代、それよりも更に古い人々の英雄譚。

 

誰にも信じられなかったというこの物語の英雄が、少女は心の底から好きだったから。気が付いたら、いつも父にせがんでいた。

 

 

 

 

その英雄譚の題名(タイトル)は、そう———

 

 

嵐の王、竜狩りの大神

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

深淵を覗く者を見つめるように

真実を識る者が逃れないために

 

甘く蕩ける誘惑は、蜜の様にあなたを包み込む

 

優しくて、あたたかくて、残酷なあなた

傷つき、苦しみ、辛くても、勇敢に前へ進むあなた

 

あぁ、なんと尊くて、いじらしいのでしょう

 

それなのに、それなのに、それなのに

 

きっと、世界はあなたを拒むでしょう

報われぬと知りながら、あなたはきっと止まらない

 

あぁ、なんと切なくて、儚いのでしょう

 

 

 

あなたが得るものなんて、何も無いのに

 

 

 

だから、だから、だから

 

あなたがそれでも人を救うと言うのなら

わたしはあなたに寄り添いましょう

 

 

あなたが人を守るように

わたしがあなたを護りましょう

 

 

 

ですが、ですが、ですが

 

嗚呼———どうして、こんなにも

 

この世界は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愚劣蒙昧で度し難いの?

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

霊核ごとバラバラに刻まれたことで、エーテル体が形を保てず粒子となって消えていく。泡沫の夢から覚めるように、現世に居た痕跡すら残さず消えていく。

 

「……………」

 

大斧と大盾をソウルへと返還した竜狩りの鎧は。

ヘラクレスが完全に消滅する最期まで、目を離さずその場に留まり微動だにしなかった。

 

「……………次があるのなら、戦友(とも)として」

 

———戦場に在りたい。

 

そう独り言ちると、彼は歩き出した。

彼が守ると決めた、少女の元に向かって

 

 

「———りゅうがりぃいいい!」

 

「! オルガマリー。……無事か?」

 

「………っ! もぅ…………ばかあぁぁああっ!!! うぁああああああああん!!!」

 

 

向かおうとした時には、既にオルガマリーが走って向かってきていたらしく。泣きじゃくった顔を取り繕う余裕すらないまま、竜狩りの鎧へ抱き着いた(飛び込んだ)

 

 

「む……そんなに涙を流して、いったいどうした?」

 

「ふぇえええん………死んっじゃうん、じゃないかって……思った………あなた、までっ……居なくなったら……わたし……わたしはぁ……!」

 

「……オルガマリー。」

 

 

彼が生きていることを確かめるように、彼女は強く強く抱きしめる。不安を紛らわすように。独りではないと、彼は大丈夫だったと、自分に言い聞かせるように。

 

 

「……大丈夫だ、オルガマリー。今度こそ、守るべきものを最期まで守り通してみせる。」

 

 

——その為にも、オルガマリーを置いて野垂れ死んでたまるものか。それこそ、死んでも死にきれない

 

……()に死の概念があるのか、疑問ではあるが。

 

「それに、躯体に関しても問題は無い。戦闘を始める前と差異は殆どなく、支障を来すような損傷もしていない。」

 

「グスッ………ほんとに……?」

 

「あぁ、無論だとも。私は頑強なんだ。」

 

悲しみ、痛みを慮ってくれる彼女を安心させる意図も込めて、ゆっくりと背中を摩る。子供をあやす父のように、触れる手甲は不思議と暖かい。

 

「……ん。ふふ……竜狩りの手、やさしい……」

 

「そうか? それなら良かった。」

 

先程の取り乱しようが嘘の様に大人しくなった。右手で摩る手はそのままに、左腕で抱えるようにそっと彼女の顔を包み込む。力を込めず、繊細に。

 

「っ……! ……あぅ……そ、その、竜狩り?」

 

「どうかしたか?」

 

「えっと、その、ありがとうっ! も、もう落ち着いたから大丈夫よ?」

 

「………動揺しているぞ。もうしばらくは、このままで構わないだろう。」

 

「ふぇっ!? もうしばらくって、あとどれくら「一時間」いちっ!!?」

 

 

急にあたふたと慌て始めたオルガマリーに首を傾げながらも、抱えた手で頭も撫で始める竜狩りの鎧。

 

 

「ほ、ほんとに大丈夫だからっ!? ね? そろそろ戻らな「休息も必要だろう。このままで。」 はきゅぅぅ……」

 

顔を真っ赤にして恥ずかしがり、何らかの許容量を超過したのか遂に目を回し始めたオルガマリー(カルデア所長)。元々、周りからの評価を気にして誰かに甘えることのない彼女が、気を許した者に甘やかされるという初めての経験に、感情と思考が追い付いていないらしい。

 

「……ん………ぅんんっ……ふにゅぅ………」

 

誤解を招かぬよう念の為に状況をまとめるが。あくまで彼はオルガマリーを安心させたいという一心で慰撫しているだけであって、全く、他意は無い。

 

そもそも鎧である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………あー、取り込み中の所でわりぃんだけどよ。そろそろ戻ってきてくれねぇか? 今の現状について話をしたいんだが。」

 

「!!?!?!」

 

「む?」

 

 

幸か不幸か。

オルガマリー・アニムスフィアは助けられた(邪魔された)

 

 

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

『では、この特異点に於ける我々の目標は、大聖杯を守るセイバー・アーサー王の撃破及び、異常の原因である聖杯の回収・或いは破壊で宜しいですね?』

 

「えぇ。このまま手ぶらで帰るわけにはいかないわ。相手がブリテンの王だとしても、彼の王の逸話には竜の因子が絡んでいます。そして此方には、彼が居る。」

 

「竜か?任せろ、私が屠る。」

 

「竜狩り、だったか?あんたからすれば、面目躍如って所な「黙ってなさいキャスター。」……って、おいおい。」

 

「………なぁ、嬢ちゃん。まさかとは思うけどよ、まだ引き摺ってんのかい?そんな拗ねんなって。間男になるつもりもねぇし、あのままじゃ先に進まねぇからよ。どう考えても不可抗力だろ、な?」

 

「…………………つーん。」

 

「……マジかよ。その擬音、口に出して言う奴なんざ初めて見たぜ。」

 

 

竜狩りの鎧との抱擁(イチャイチャ)を邪魔されたオルガマリーは、何とか持ち直しはしたものの、キャスターに対してだけは未だに冷たくあしらうくらいには乙女であった。

 

 








鎧「(加減が些か掴みづらくて、色んな意味で不安だった事は敢えて言わないゾ☆)」

オルガマリーちゃん「キャスター……貴方は私を怒らせた(どどどど)」


キャスニキ「………世知辛い世の中だぜ」




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鉄を撃つ者




——————………——————………

薄暗い洞窟の中で、鉄を打つ音が響く

——————………——————………

熱く、赫く光る鉄を打つ音が鳴り響く

——————………——————………

鉄の熱さと裏腹に、心は冷たい硝子玉

——————………——————………

身を迸る熱へ従うままに、ただただ只管に鉄を打つ

——————………——————………

研ぎ澄まされた精神は、打てば打つ程に鋭さを増す

捻じ伏せられようと、血の海に沈もうと、灼熱の業火に焼かれようと、死を繰り返そうと、魂が摩耗しようとも

たった一つ、何人たりとて穢せぬ想い一つで、彼は進む歩を止めることなど無いのだから


——————……………… ピチャッ


不意に、赤い雫が滴ると共に、鉄の音は止んだ

雫は光と共に塵と化し、暗き影から火の粉が吹く

舞い踊る火の粉の最中、 が僅かに積もっていた





 

 

 

目標が定まったカルデア一行は市街地を抜け、柳洞寺に続く石段を登っていた。中途まで進んだところで、クー・フーリンが思い出したように竜狩りに尋ねる。

 

「そういや忘れてたが。あんた、ここに来るまで何体(シャドゥ)サーヴァントを蹴散らした?わかる範囲でいい、特徴も言ってくれると助かる。」

 

「あの黒い影を纏った者か?先の猛者以外には一人だけ。まぁ、後ろからオルガマリーを狙う愚か者だった故、すぐに蹴り殺したが。しかし、特徴と言えるものは……嗚呼、気配が全くと言っていいほど無かったことくらいだろう。」

 

「気配遮断スキル持ち、となるとアサシンか。……そっちの嬢ちゃんを狙うあたり、マスターと勘違いしたのかね?ハンッ。やり口がいかにも小物くせぇ。」

 

何気なく呟いたキャスターの言葉に、オルガマリーが不満気に頬を膨らませながら反応する。

 

「ちょっと、キャスター。仕返しかしら?まるで私と彼には繋がりが無いみたいに言うのはやめてちょうだい。」

 

「そうは言ってねぇよ。ただ、サーヴァントとマスターの関係で嬢ちゃんが契約してないことは見りゃわかる。繋がりが主従関係に近いのは変わらないとしても、マスターではないからな。そもそも、言っちゃ悪いがマスター適正が無いだろ?魔力は十二分過ぎるくらいにあんのに、呪われてんのかね。」

 

「……余計な事しか言わないのかしら?ふっ飛ばすわよ?竜狩りが。」

 

「ふむ。君が望むなら、応えよう。」

 

「あ?やるってんのかい?血の気が多いのは助かるねぇ!」

 

「お、お二人共落ち着いて下さい!一度、冷静になりましょう!」

 

竜狩りが大斧を取り出し、キャスターがルーンを刻む構えをとったことで本気で言ってることを即座に理解したマシュが慌てて止めると、渋々とキャスターは仕切り直すように咳払いする。

 

「……話を戻すか。あんたらが何の繋がりで主従関係を結んでるのか、それも一旦置いておいてだ。合流する少し前に、俺は影ライダーを仕留めてる。聖杯の力で影サーヴァント共は一定周期で復活しやがるが、それも今すぐって訳じゃない。つまり、残ってるのはセイバー、アーチャー、ランサーの3騎。」

 

「よりにもよって3騎士全員が揃って敵って、普通なら分が悪いわね。でも……」

 

オルガマリーがチラリと竜狩りを見ていることに気付くが、キャスターは努めてスルーする。

 

「………確かにそれも問題ではあるが、そうじゃねぇ。セイバーは大聖杯の前から動かねぇし、アーチャーはそいつの守りをしてる。なら、ランサーは?正直、いつどのタイミングで襲いに来てもおかしくはねぇ。だがなぁ、気付かねぇか?」

 

試すように、藤丸を見ながら問う。

 

「……間違ってたら、なんとも言えないんだけど。」

 

藤丸が自信なさげに手を挙げると、それにマシュは無言で頷き両手で握りこぶしを作って見守り。それを見た藤丸は小さく笑みを浮かべた。仲が良い。

 

「なんで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「———そう、それだ。」

 

ニッと口に弧を浮かべたキャスターが思わず指を指す。話が進んだ事で気が乗ったらしい。

 

「奴さんからすれば、テコでも動かねぇジャジャ馬がやる気出した時点で仕掛けてれば、立ち回り次第で有利を取れる。リスクはあっても、堅実なのは確かだ。様子見なんて必要ねぇ、あとは俺さえ仕留めれば奴らの勝ちなんだからな。」

 

バーサーカーが形振り構わないとしても、暴れ回ってる間に出来ることなんて幾らでもある。バーサーカーだけで十分勝てると見込んで襲って来なかったと言えばそれまでではあるが、念には念を入れる気概は持っていたランサーが静観するなど有り得ない。

 

「それに、バーサーカーを倒してから全く襲撃がなくなった。一応遊撃もこなしてたらしいアーチャーが何もしてこねぇってことは、セイバーの守りに徹する判断を下した可能性が高い。」

 

考えられる可能性は2つ。

 

「セイバーの他にアーチャーとランサー、3騎士が大聖杯の前に揃っているのか。」

 

 

もしくは。

 

 

「ランサーが、死んだか。」

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

「……………」

 

薄暗い洞窟の中。不気味な程、物音が何一つ聞こえてこない静寂に充ちた穴の中で、鷹の目の様に鋭い眼光を入口に向ける男が一人。

 

シャドウアーチャー。

 

セイバーに敗れ、都合のいい駒とされたサーヴァントの一騎。とはいえ、本人が聞けば皮肉と共に否定されるだろう。好きで従っている訳では無いと。

それが、本心かはさておき。

 

弓使いとして、ランクは低いが千里眼を有する彼は、視界が悪いこの洞窟の中からだろうと外の様子を把握することが出来る。

セイバーを守る為、彼女を害する輩を一寸先も見えぬ闇の奥から矢を番いて仕留める。入口に入ってからすぐの足元には、即席ではあるが罠も投影し設置済みという用意周到ぶり。

本来であればここまで万全を期すつもりなど毛頭無かった。ここに来るまでの間に、バーサーカーと戦闘を行えば大なり小なり消耗は必ずするだろうと予測していたから。だが蓋を開けてみれば、たった一騎の巨人の騎士に手傷も負わせることなく敗れるという、到底予想できるものでは無い結果だった。この地点でアーチャーの中で警戒度は最大となり、迎え撃つ覚悟は出来ていたのだが、状況はさらに悪化する。

 

バーサーカーのみならず、ランサーまでもが何者かに殺された。

 

当時、戦力分析も兼ねて、遊撃を自ら行っていた彼はその一部始終を目撃していた。不死殺しの槍を携えたランサーを完封した、もう一騎の正体不明なサーヴァントを。

 

「………やれやれ。招かれざる客ばかりだ。」

 

影と言えどサーヴァント。宝具の真名解放が出来ずとも、不死殺しの概念そのものが消えるわけではないのだから、一撃与えれば倒せたはずだった。その一撃が、致命的であった事にも気付かずに。

 

「忠告はしておこう。どのような理由であれ、この先に来るのであれば貴様を殺す。」

 

「……………」

 

 

洞窟の入り口に、()()は居た。

 

 

襤褸を纏っていると言っても過言ではない外套、傷だらけで擦れた痕が目立つ全身鎧。右手にロングソードと左手に中盾を携えた、雑兵の様にも見える装備をした()()()

 

「何もせず引き返すのならば見逃そう。賢明な判断を下すことを願うが、さて。」

 

「……………」

 

その見た目と装備故に、ランサーは油断していたのだろう。侮っていたのだろう。気持ちは分かるが、それは余りにも愚かに過ぎた。

 

話し掛け、見逃す素振りを装いながら両の手に宝具の贋作を投影(トレース)する。

弓に()を番い、狙い澄ますは鎧の隙間———首のみ

 

「……………」

 

生きて返すつもりなど毛頭ない

不確定要素は潰しておくに限る

ここで確実に殺して次に備える

 

そう、ただ、それだけ

 

 

 

「……………愚者は、貴公だ」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「ッ!?」

 

目を一切離していなかったにもかかわらず、視界から突然消え失せた。直後、背後から濃密で純粋な殺気を感じ、考えるよりも先に前方へ飛び込むように回避すると外套が風切り音と共に斬られ宙を僅かに舞う。

 

「………」

 

「……!!チッ」

 

ロングソードを携えていたその掌には、いつの間にか身の丈を超えるほどの特大剣が握られており。確実に命を狩り獲らんとする意志が伝わった。

 

(……避ける寸前、風切り音とは別の風圧が過った。コイツは瞬間移動をした訳ではない、態々背後を取る選択を!?)

 

「……ッ!随分な、挨拶をしてくれるな!!」

 

「…………」

 

弓矢から切り替え、干将・莫耶を両の手に投影する。ここまで近付かれた以上、矢を番える暇すら与えて貰えないのは明白。

その判断は正しい。

 

 

「背後を取られるのは個人的に気に食わない。槍無しキャスターを思い出すからな」

 

「……………口だけ、達者だ」

 

「逆に貴様はお喋りが苦手なようだ。コミュニケーション能力はあって損は無いぞ?———活用する機会はもう無いがねッ!」

 

 

 

普通ならば

 

 

 

 

「ゴフ…ッ」

 

「……飛べぬ鷹など、興味は無い」

 

 

歪な形のダガーを左手に弄びながら、ソレは言う。

 

 

(……背後を取る以前に、すれ違いざまに()()で斬られていたのか。あの大振りに振るった得物自体、フェイクだったと……それに)

 

「………こ、れは……毒か?」

 

口からとめどなく溢れてくる血と、全身を瞬く間に蝕んだ苦痛から即座に察する。

 

「………終わりだ」

 

「ブッ……かはぁっ……!」

 

 

———甘く見積っていたのは、私の方だった

 

 

 

その思考を皮切りに、ノイズの掛かった仮初の肉体は粒子となり消え始める

 

「……………」

 

「…………すま……い………せい……ば……」

 

 

消え入るような声音で、無意識に呟かれた謝罪を最期に。汚染された英雄は力尽きた

 

「…………」

 

徐に、ソレは懐から煤れたコインを取り出し

思い出す(刻み込む)様に見つめ続ける

 

祈るように

悼むように

 

「……………貴公に、太陽あれ」

 

願いを込めて

 







名無しの灰「……(なにを話せば良いのだろう?)」

影アーチャー「……( ´ཫ` )」

名無しの灰「……………(毒、つよ)」


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灰の意思




理解は不要

相容れぬならば、争うのみ

本能のまま、貪り奪え




 

 

 

柳洞寺境内に入った直後、目的地方角から戦闘音と思わしき破砕音が聞こえた。

 

 

「今の音は……?」

 

「自然に聞こえる音と振動にしちゃあ不自然過ぎる———気を引き締めな、妙な気配がする。」

 

「妙な気配、ですか?」

 

「あぁ、どことなく竜狩りに近い気配がな。存外知り合いだったりするかもしれねぇぞ?」

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

口には出さなかったが、キャスターからすれば竜狩りも未知と言える。存在しない記憶を思い出そうとする度に、体が痛むのは恐らく本能が覚えているからだろう。

この違和感をマシュ達にも聞いてはみたが、何も感じなかったらしい。あくまで推測の域を出ないが、神秘がより濃い時代を駆け抜けた者程、この違和感を感じとりやすいのかもしれない。

 

 

「………このソウル……まさか。」

 

「……竜狩り?」

 

「………有り得るのか?いや、間違う筈もない、これ程濃密なソウルは…」

 

「ど、どうしたの!?」

 

 

突然、大斧と大盾を取り出し戦闘態勢をとった竜狩りの鎧に思わず困惑する。

 

「……備えろ。アレは、敵対する者に一切の容赦はしないだろう。」

 

「……()()、とは?」

 

「…………」

 

 

———火継の儀式を告げる鐘が響く時

薪の王を玉座へ連れ戻す使命を賜った不死の者

目的の為ならば、残酷に、冷徹に、非情にもなれる

 

幾度の死を重ねようとも、心折れることなく抗う者

 

運命を覆し、異なる可能性を生み出す者

 

世界を滅ぼ(救い)し、神への叛逆者であり

 

然れど、微かに残った人間性は終ぞ捨てなかった者

 

 

 

「………火の無い灰」

 

 

人の時代、その黎明を築いた英雄だ

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

「……………」

 

『……………』

 

 

カルデア一行が洞窟入り口付近まで来ると。音の中心と思わしき場には、確かにナニカがいた。

 

 

「……………(サクッ、スッ)」

 

「………なぁ、アンタ。」

 

 

全身を覆うように赤い光に包まれた、襤褸を纏った騎士のようなナニカが。

 

 

「……………(サクッ、スッ)」

 

「……目が合ったって事は、確かに話は聞こえてるよな。もう一度聞くぜ?さっきから、なにやってんだ?」

 

 

敵対してくる者には、一切の容赦はしない者。

勝つ為には誇りも捨てる、貪欲な者。

もてる全てを以て、己の道を進む者。

 

それが、火の無い灰だ。

 

 

「………………(サクッ、スッ)」

 

「なんで槍で何も無い壁を刺しては盾構えてんだ。爆弾処理班かナニカかテメェは。」

 

 

その当の本人は現在。目の前で原始的な爆弾処理にも見える、おかしな行動をとっていた。

 

 

「……………(サクッ、スッ)」

 

「……なんというか、地味ね。」

 

「えっと、竜狩りさん?」

 

「………なんだ、マシュ。」

 

「………あの方は、お知り合いで「身に覚えはない」そ、そうですか。」

 

「…………………………(サクッ……スッ)」

 

 

騎士兜(フルフェイス)に覆われ、表情が全く見えていないにも関わらず。何処か悲しそうに槍を構え直した火の無い灰は、今度は地面を刺して盾を構え———

 

———カチリ

 

 

「——————!」

 

 

———罠が発動し、爆発した

 

 

………シャドゥアーチャーを倒したは良いものの。

投影魔術により複製された、対英霊用地雷が至る所に仕込まれていた。倒した身として、これを放置するのもどうかと考えた末に、黙々と処理していた所に丁度鉢合わせた訳である。

 

余談だが、あと5分もしない内に罠は自然消滅していた。魔力源であるアーチャーが消滅したので、当然ではある。

 

 

「トラップがあるから、1人で処理してたんだね。」

 

「…………!(コクン)」

 

 

藤丸の何気ない呟きに、何処か嬉しそうに頷いた火の無い灰。

まだ出会って数分も経ってないが、なんとなく、藤丸は察した。

 

 

———あ、悪い人じゃないなこの人

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

おかしな行動(地雷処理)の理由が分かったところで、騎士は名乗る。

 

 

「………火の無い灰。(アッシュ)、とでも………話すのは、苦手だ。」

 

「さっきの見りゃ誰でもわかるわ。」

 

 

話しかけられ気付いていながらも、黙々と処理を続けていたのだから当たり前だ。

 

 

「…………………許せ。」

 

「別に責めてねぇから安心しろよ。むしろ、アーチャーの野郎を仕留めたついでに道の整備までしてたときた。文句なんざある訳ないさね。」

 

「……………………感謝、する。」

 

 

人との交流が余りにも短いが故、関わり方が今一つ分からない灰は。戸惑いながらも気持ちだけは精一杯伝えようと努力する。

どう見てもコミュ障だが、時間が解決する……かもしれない。

 

 

「全身鎧にも関わらず、感情がわかりやすいな。」

 

「「「鎧の貴方(アンタ)が言うな。」」」

 

「竜狩りさんだけは、(アッシュ)さんの事を言えないかと。」

 

「……………同意。」

 

 

むしろ、意思のある鎧の方がおかしいのだ。

 

 

「それもそうか。」

 

「素直ね!?」

 

 

純粋なだけかもしれない。

 

 

「……………」

 

「……?」

 

 

困惑していた雰囲気が突然消え、火の無い灰は竜狩りの鎧をじっと見つめ出した。

首を傾げ、疑念を感じる視線と共に。

 

 

「どうかしたのか?」

 

「…………………何故、話せる?」

 

「………私が聞きたいくらいだ。」

 

 

確かに気になることではある。

鎧が何故話せるのか。元から当の本人ですら分からないが故に、皆そういうモノなのだと納得はしていたが、灰は違う。

 

 

「……………1度目は、傀儡だった。」

 

「今は意識があるな。」

 

 

謎があるならば、それを白日のもとに晒したいと。真実を追求し続けるのが灰だ。

 

 

「……………2度目は、暴走だった。」

 

「……ん?」

 

「……………輪の都に於いて、貴公は狩りの記憶に支配され……」

 

「………待て。2度目とは、何の話だ?()()2()()()()()()()()()()。」

 

「……………」

 

 

情報が、食い違う。

記録が、入り交じる。

 

 

「貴公は、何を言っている?今が2度目の再開だろう。悠久の時間を彷徨う中で、記憶違いでも起こしたのか?」

 

「……………(記憶の齟齬。或いは事象の改竄)………」

 

「………火の無い灰、貴公は何を知って———」

 

「———雑談はここまでにしとこうや、お二人さん?」

 

 

2人の間に割り込むように、キャスターが告げる。

 

 

「もうすぐこの特異点の大将(元凶)の目の前だ。気持ち切り替えな。」

 

「……むう。」

 

「……………」

 

「おっと。雑談終了と言っといてなんだが、1つ聞き忘れてたぜ。———火の無い灰、アンタの目的はなんだ?」

 

 

———客観的に、第三者目線だったからこそ。或いはよく観察していたからこそ。藤丸はこの時、違和感を感じ取れた

 

 

「……………決まっているだろう。」

 

 

火の無い灰が

 

 

「———聖杯を、回収する。」

 

 

()()()()()()()()

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

己の名は、忘れた

名乗る記号(名前)など、火の無い灰で良い

今はもう、他の灰は記憶の中でしか存在しない

個体として、ただ1人しかいないのだから、己の名として使わせてもらう

 

灰は1度、残り火としての役目を終えた

神の時代は終焉を迎え、人の時代の黎明となる

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

終焉を受け入れたにも関わらず、新たな始まりが訪れるとは思いもよらなかった

 

託した想いは踏み躙られ、人の時代は滅びの危機に瀕する

 

()が目を覚ました時、目に映るのは見渡す限りの火の海だった

生きとし生ける凡百の生命体は、跡形もなく焼き尽くされた

断じて、断じて許容など出来るものか

この惨劇を生み出した元凶を滅ぼすべく、旅をした

 

()()()()と、名乗る者達と

 

 

———今でも鮮明に思い出せる

滅ぼす者と抗う者

双方が織り成す、輝きの旅路を

 

 

『卑王鉄槌———旭光は反転する』

『黄金の夢から覚め、揺籃から解き放たれよ!』

『命は壊さない———その文明を粉砕する』

『嵐の王、亡霊の群れ…嵐の夜(ワイルドハント)の始まりだ!』

『突き立て、喰らえ!13の牙!』

『我が力の限り、人々の幸福を導かん!』

『聖槍、抜錨』

『この一撃を以て訣別の儀としよう!』

 

 

英雄が、己の逸話(誇り)を掲げ

人類を救うべく人理修復を成す

 

 

『この星は転生する!

あらゆる生命は過去になる!』

 

 

そして、7つの試練を超えた先に

憐憫の獣と殺し合った

 

 

———結果だけ述べるなら、確かに獣は屠った

1年という短いようで、とても長い旅路の果てに

ようやく、ささやかな安らぎを得ることが出来た

 

 

だが、束の間の休息を得て間もなく

 

この星は、滅びた

 

地球上に存在する全ての生命体が、滅びた

一切抵抗も許されず

あたり前の日常は、再び崩壊したのだ

 

()は、何も出来なかった

否、正確には……()()()()()()()()()()()

異変に気付いた時には、既に手遅れだったのだ

 

 

『玉座は既に埋まっている———王の簒奪者には、消えて頂こう』

 

 

とある兄弟王に、()はまんまと嵌められた

問答無用に転移させられた挙句———

 

 

気が付けば、また火の海を呆然と見つめていた

 

 

因果なもので、結末を変えるべく()()旅を続けなければならないらしい

それは構わん

何も出来ぬまま、相手の思惑に嵌められるのは性にあわない

幾らでも、やり直してやろう

 

 

 

 

だが、早々に想定外な事が起こった

影の槍兵を屠り、探索を続けていると。懐かしい(奇妙な)鎧を目にしたのである

 

 

 

 

「………………………竜狩りの鎧、だと?」

 

 

 

何故、意思がある?

何故、███のソウルを宿している?

何故、███が存在している?

 

 

そもそも、何故ここ(特異点F)に居る?

 

 

本当に想定外だ。白状すると、かなり驚愕(ビックリ)した

 

 

「………………フッ」

 

 

()()()

 

結末は、必ず変えてみせる

それはそれとして、竜狩りの鎧(歪な鎧)が居ることでどのような物語になるのか、興味が湧いた

 

故に。盤面を眺める者ではなく、1人の不死として

 

 

勝手ながら、期待しているぞ

竜狩りの英雄

 

 

 

 

 

 

 

 

……………ところで、一方的に相手のことを知っている時、どのように接すれば良いのだろうか?

それに、旅の目的は語れる訳もない。嘘をつかざるを得なくなる。

これでは騙された時の常套手段、「内心でパッチ(嘘吐き)を罵る」が出来なくなる……

いや、騙してる訳じゃない……害する訳でもないのだが……

嗚呼……他人と交流する際の正解が、わからない

……当たり障りのないように、話せたら良いのだが

 







灰の人「…………(嘘付いちまった)」
パッチ「よ う こ そ 此 方 側 へ」
灰の人「( •᷄⌓•᷅ )」



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