英雄が医者なのは間違っているだろうか? (クロウド、)
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彗星は地の底で輝く

はい、もう一作書いてみました。
実はかなり前から考えてたものです。


「盾、構えぇーーー!!」

 

 小柄な少年ーーー小人族が無数のヒューマン、亜人の軍団を指揮する。彼の名は『フィン・ディナム』。迷宮都市オラリオ、2大派閥《ロキ・ファミリア》団長。《勇者》の二つ名を持つ者だ。

 

「ティオナ! ティオネ! 左翼支援急げ!」

 

「あ〜んっ! もう体がいくつあっても足りない〜!」

 

「ごちゃごちゃ行ってないで働きなさい」

 

 フィンの支持を受けた二人のアマゾネスは三体のモンスター一気に切り伏せる。

 

 しかし、戦況はロキ・ファミリアの劣勢。どこからともなく現れるモンスターの大群、一体一体がファミリアの人間の数倍の巨躯で攻め入ってくる。一種の悪夢だ。

 

「リヴェリア〜ッ! まだぁ〜!?」

 

 アマゾネスの少女が前衛組が守るその背後控え、『詠唱』を紡ぐエルフへと声を上げる。

 

「【ーーー間もなく、焔は放たれる。忍び寄る戦火、免れ得ぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む。至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火】」

 

 その一撃をなんとしても無事に放つために前衛達は歯を食いしばり交戦する。

 

 しかし、向こうも突進の勢いを衰えさせることはない、盾の一角を団員もろとも薙ぎ払う。

 

「ーーーベート、穴を埋めろ!」

 

「ちっ、何やってやがる!?」

 

 こじ開けられた防衛戦。遊撃を務めていた狼人が急行するが、そこに更なるに異常事態が発生する。

 

「団長ッ、上を!!」

 

「!?」

 

 一人の団員の声にフィンだけでなく他の者も自身の頭上を見上げる。それを前線で戦う金髪の女剣士もまた見ていた。

 

「ダンジョンに、彗星?」

 

 彼らの目には一筋の光を放つ何かがまるで箒星のように尾を引いて頭上を走り抜ける光景が映っていた。ダンジョンは元々地中にあるもの、空などあるわけがなく星は愚か、彗星などない。

 

「綺麗……」

 

 だからこそ、その光景は幻想的で彼らの目を惹きつけた。

 

 しかし、やがてその星は地に向かって降りてくる。

 

「おっ、落ちるぞッ!?」

 

 爆発音のような激しい音が鳴り響き、その衝撃によって生まれた衝撃波がフォモール達を吹き飛ばした。その星は、丁度崩れた防衛戦に被害が出ない場所に墜落した。

 

 やがて粉塵が晴れ、そこにいたのは黒いローブに身を包み口には烏のくちばしのように尖ったマスク。そして、肩に担いだ十字のやり。

 

 青年は爪先をコンコンと地面を突き槍を構えると、

 

「フッ……!」

 

 一瞬にしてその場から姿を消し、その次の瞬間フォモールの群れから鮮血が舞う。

 

「速いッ!?」

 

 彼らロキ・ファミリアの目には彼の姿がしっかり映ってはいない。目に映ったと思った瞬間その姿はかき消える。あまりの速さに残像が見えているのだ。

 

 遠目にその姿はまるで閃光がモンスターを切り裂きながら戦場を駆け巡っているように見えた。

 

「まさか、このタイミングで帰ってくるなんてね……」

 

「ガハハッ! どうやら、旅は無駄になってはいなかったようじゃのう」

 

「え? もしかして、アレって? ーーッスか!?」

 

 戦場を駆け回る閃光を見て、その正体をよく知るファミリアのメンバーは歓喜の表情を浮かべる。

 

「あの人は一体……」

 

「……ッ!」

 

「え? アイズさんッ!?」

 

「ちょっと、アイズ!」

 

 アイズと呼ばれた金髪の少女は体に風を纏い、加速しながら閃光を追いかける。

 

 風では光に追いつけない、そんなことはわかっている。それでも、追いかけずにはいられなかった。

 

 また、置いていかれてしまうことが怖かったから。

 

 閃光は後ろから追いかけてくる風に気付いたのか周りのフォモールを一気に切り伏せその場に立ち止まる。二人が合流し、互いに背中を預けながら、アイズは背中越しに声をかける。

 

()()……」

 

「話はあとだ、そろそろリヴェリアの詠唱が終わる。さがるぞ」

 

「え? ベルッ!?」

 

 ベルと呼ばれた少年は背中に槍を担ぎ、アイズを横に抱く、所謂お姫様抱っこというやつだ。

 

「こっちのほうが速い」

 

「そういうことじゃなくて……」

 

「口は閉じてろ。舌、噛むぞ」

 

「え? ひゃっ!?」

 

 ベルはアイズを抱っこしたままフォモールの頭を踏み台にし、ジャンプしながら陣営の元まで下がる。

 

「【焼きつくせ、スルトの剣ーーー我が名はアールヴ】!」

 

 その瞬間、弾ける音響とともに魔法円(マジックサークル)が拡大し、《ロキ・ファミリア》、フォモール、両陣営の足元に広がる。

 

 戦場全域が彼女の魔法の効果範囲。

 

 白銀の杖を掲げ、エルフの魔導師リヴェリアは己の『魔法』を発動させた。

 

「【レア・ラーヴァテイン】!!」

 

 魔法円から吹き出した幾本の炎柱がファモールの全身を飲み込み、無数の絶叫が鳴り響く。

 

 やがて、その声も消え。残ったのは《ロキ・ファミリア》の面々とフォモールだった燃えカスのみだった。

 

 それを確認すると、ベルはアイズをおろす。

 

「あの、ベルーーー」

 

「そこの貴方!!」

 

 アイズが声をかけようとした瞬間、山吹色の髪のエルフの少女が怒りを顕にしてベルに詰め寄る。

 

「いきなり現れて、アイズさんをお、お姫様抱っこするなんてどんな神経しているんですかッ!? そもそも、貴方は……」

 

「落ち着け、レフィーヤ」

 

「アタッ!」

 

 ベルに対して色々言いたいことを言っていたレフィーヤだったが、背後から近づいてきたエルフの女性に杖で頭を小突かれて振り向く。

 

 そして、その後ろには他の《ロキ・ファミリア》の幹部達が集っていた。

 

「ですが、リヴェリア様こんな得体の知れないヒューマンにアイズさんが……」

 

「それなら、心配はいらない。彼はウチの団員さ」

 

「え?」

 

 フィンの言葉にレフィーヤは目を丸くする。

 

「《ロキ・ファミリア》所属レベル6、《彗星》ベル・クラネル。それが彼の名前さ」

 

「え? 《彗星》って、世界最速兎(レコードホルダー)の?」

 

「そう、アイズの同期で所謂君の先輩だね」

 

「ええぇぇぇぇえーーー!!!?」

 

 レフィーヤは絶叫に近い声を挙げるが、その原因となったベルはレフィーヤはおろか団長であるフィンや既知の仲である団員にすら目を向けず陣営に向かって歩き出す。

 

「おいッ、どこ行くつもりだ!?」

 

「怪我人の治療に決まっているだろ」

 

 ベルは復活した狼人の言葉に振り返りもせず、怪我人たちの方へと歩き続ける。

 

 その言葉に一瞬ポカーンとする一同。しかし、その言葉の意味を知っている者達は苦笑いを浮かべてその後を追いかける。しかし、その意味を知らない者達はそのまま立ち尽くす。

 

「……良かった」

 

 アイズはその背中を見てどこかホッとした。口調も外見も変わってしまっていた。だが、その芯だけは変わらない少年の姿が彼女には見えた。



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人が辿り着いてはいけない領域

「フィン、来たぞ」

 

「ああ、ベル。来たね」

 

《ロキ・ファミリア》の野営地、本営の幕屋へとベルは入っていく。そこには、3人の亜人と1人のヒューマンの少女が卓を囲んで座っていた。1人は椅子ではなく床に正座だが。

 

 翡翠色の長い髪のエルフの女性、リヴェリア・リヨス・アールヴ。

 

 顎髭を蓄えたどっしりとした体つきのドワーフの男性、ガレス・ランドロック。

 

 短い金髪の小人族の少年、フィン・ディムナ。

 

 そして、金髪の少女、アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

 ベルのことをよく知る者達がそこには集っていた。

 

「怪我人の手当は済んだのかい?」

 

「ああ、残念なことに医療の進歩に繋がりそうなレアな症例はなかった。どいつもこいつも適切な処置をすれば治るような平凡な負傷だ。ただ、」

 

「ただ?」

 

「視線が鬱陶しいことこの上ない」

 

 ベルを見る様々な感情が入り混じった視線を浴びせ続けられベルをげんなりしていた。

 

「がははっ! それは仕方あるまい、《彗星》の名はオラリオに住む冒険者ならある程度知っておるしの」

 

「ガレスの言うとおりだ。さて、取り敢えず君も正座だ」

 

 先に呼び出され正座を言い渡されていたアイズを一瞥し、ベルは諦めたようにため息を付き正座をつくる。

 

「さて、二人共。呼び出された理由はわかっているかい?」

 

「……前線維持の命令に背いたから」

 

「5年前、勝手にオラリオを出て旅に出たことか?」

 

「それだけじゃなく、オラリオに帰ってきてるのにこの5年一度も私達に顔を見せなかったこともだ」

 

「まあ、そういうことだね」

 

 ベルの答えに立腹した様子でリヴェリアが指摘し、フィンが同意する。

 

 ベルは5年前、ある事件をきっかけにオラリオを出て旅に出た。冒険者としての力量と医者としての技術を磨くために。

 

 リヴェリアが腹を立てているのはその際、置き手紙一枚のみをおいて出ていったことに関してと、一年ごとにステイタスの更新の為に帰ってきているのにこの5年、遠征で首脳陣や主要メンバーがいないときばかりを見計らい、更新が終わると何も告げずに出ていっていしまうことだった。

 

「定期的に手紙は送ったはずだが?」

 

「あんな最低限の近況報告だけ書かれた紙切れが手紙なわけあるか!」

 

「少しは落ち着かんか」

 

 荒ぶるリヴェリアをガレスがなだめる。

 

「どれだけ心配したと思ってる? この場にいる者だけではない。ラウルやアキ、我々《ロキ・ファミリア》だけでなく他のファミリアの者までお前が一人で出ていったと聞いて心配していたんだぞ?」

 

「……すまなかったとは思っている。だが、下手に会って引き止められたら決心が鈍る。だから、今までアンタ達がいるときには姿を見せられなかった」

 

 流石にバツが悪くなりベルは素直に謝罪を口にする。

 

「それはつまり、君の旅は終わったのかな?」

 

「ああ、僕が求める領域には未だ届いていないがこれ以上、オラリオの外で得られるものはないと判断して戻ってきた」

 

 ベルの答えにフィンやリヴェリアだけでなく、ガレスや、何よりアイズは安心する。

 

 だが、それと同時にフィンはベルに対して鋭い視線で尋ねた。

 

「ベル……()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……フィンには敵わないな」

 

 ベルは懐から赤い液体の入った試験管を取り出してフィン達に見せる。

 

「お前、まさかそれは……」

 

()()()()()()()()()だ」

 

『!?』

 

 ベル以外の四人はその発言に目を向いて試験管を見る。

 

「どのあたりが出来損ないなんだい?」

 

「2つの条件を満たしていないと効力を発揮しない。一つは、死体が原型をとどめていることだ。傷があっても基本修復されるからそこは問題ないが、首がなかったり、骨だけじゃ意味がない。そして、死んでから一時間以内でないと効果を発揮しないところがネックだ」 

 

 今度こそ、絶句する。それはそうだろう、ベルの言葉は裏を返せば()()()()()()()()()()()()()()()()ことができる代物だからだ。これ一本にどれだけの価値があるか首脳陣の3人だけでなく、その手に関心のないアイズですらわかった。

 

「とんでもないものを作ったのう……」

 

「馬鹿者ッ、そんな簡単な話ではないだろう!?なんてものを作ってくれたのだ、これ一本で国が動くレベルだぞ!?」

 

「僕にとってはこんなもの失敗作以外の何物でもない、僕が求めるのは()()()()()()だ。こんなものどうでもいい」

 

 ガレスは困ったように顎髭をなで、リヴェリアは再び激昂するが、対するベルはどうでもいいと言う。

 

 フィンは頭を抑えて疲れたような声でその場にいる者たちに告げる。

 

「とにかくその薬のことについては箝口令をしく。アイズもベルもいいね?」

 

「うん」

 

「もとより、こんな粗悪品世に出すつもりは毛頭ない」

 

「さて、それじゃ本題に戻ろう。アイズ、取り敢えず今回のことは不問とする。5年ぶりにベルにあったんだ、気持ちはわからないでもないからね。だけど、君は《ロキ・ファミリア》の幹部として、もう少し自覚を持ってほしい。君の行動は下の者に響くということを理解してほしい。わかったかい?」

 

「わかり……ました……」

 

「うん、それじゃあ行って構わないよ」

 

「ベルは?」

 

「ああ、彼には言いたいことが山ほどあるからね。しばらく、かかるかもーーー」

 

 ベルの方を向いて含みのある笑みを浮かべるフィン。昔、アイズと無茶をして説教を食らう前に彼がよく見た表情だ。それを直視したくなくて明後日の方を向くベル。

 

 そして、露骨にシュンとするアイズ。

 

「ーーーと、言いたいところだけどベルには明日の作戦に参加してもらうつもりだし、作戦について話すだけだから、直ぐに終わるよ」

 

 その言葉にパァと笑顔を咲かせるアイズ。普段は表情が読み取れないだけに表情の変化が読み取りやすい。

 

 そして、もう一人はさり気なくホッと息を吐いた。

 

「それじゃあ、ベル。あとでね?」

 

「ああ」

 

 アイズはリヴェリア達にぺこりと頭を下げ、弾んだ足どりで幕屋を出ていった。

 

「変わったな、彼女は」

 

「お前もな」

 

(それに、お前があの子を変えるきっかけを作ったのではないか)

 

 リヴェリアは優しい目で我が子のように育ててきた二人を見守るのだった。

 




アンケートのご協力お願いします。因みに三番目の場合、丁度帰ってきたベルがナァーザさんに欠損回復薬を譲ったことにしたいと思っています。


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信念だけは未だ変わらず

感想と評価をください、どうかお願いします。


「ベル、まだかな……」

 

 本営から出てきたアイズはテントを作りながらまだ、本営で明日の作戦について語っているベルを待っている。

 

「ア、アイズさん!」

 

 自分を呼ぶ声にアイズは作業を止めて振り向く、そこには山吹色の髪を後ろでまとめた少女が立っていた。尖った耳と容姿端麗で知られるエルフの種族だ。

 

「あの、【彗星】……クラネル…さんと何を話していたんですか?」

 

「……まだ何も話してないよ。ベルはまだ本営で明日の作戦の話してるから」

 

 一瞬、蘇生薬の話が頭をよぎったがそれを言うわけにはいかないので当たり障りのない返事をする。

 

「そう、ですか」

 

 少女はどこか残念そうに、しかし、どこかホッとしたようなた様子だ。

 

 彼女、レフィーヤ・ウィリディスはつい先刻、ベルがファモールを吹き飛ばした際結果的に助けられた少女だ。

 

「ベルがどうかした?」

 

「えっと、さっきの戦いで助けてもらったときに失礼なことを言ってしまいましたし……怪我の手当までしてもらったので」

 

 レフィーヤは不安そうにそう言う。相手はオラリオで誰よりも早くレベル6になった冒険者で自分の大先輩。ファーストコンタクトとしては最低な出会い方だ。

 

「多分、ベルは気にしてないと思うよ」

 

「そうでしょうか?」

 

「うん、だってベルは……」

 

「アーイーズー!」

 

「えっ!?」

 

「………ん」

 

 かばっ、と軽い衝撃とともに、背後から腕を回される。

 

 レフィーヤが驚く中、アイズは首を動かし、背中に抱きついた少女を見る。そこにいたのはアマゾネス特有の露出度の高い服装に健康的な小麦肌の少女ティオナ・ヒリュテだ。

 

「ティオナ……」

 

「何やってるの? またレフィーヤがへこんでアイズに慰めてもらってるの?」

 

「べ、別に私は慰めてほしいわけでは……!」

 

 レフィーヤは赤面して否定するが対するティオナは周りを見回してアイズに尋ねる。

 

「あれ? アイズ、あの子と一緒じゃないの?」

 

「ベルはまだ本営」

 

「え〜、あの【彗星】の話聞いてみたかったからアイズの近くにいると思ったんだけど」

 

「【彗星】のベル・クラネル。オラリオ最年少で冒険者になった団長と同じレベル6、私も少し興味があったんだけど」

 

「ティオネ……」

 

 ティオナが残念がっていると、それを聞きつけたのかティオナと瓜二つの褐色の少女が現れる。

 

 ティオネ・ヒリュテ。彼女の双子の姉、一部を覗いて顔や体型もそっくりである。

 

「私達も名前は聞いたことがあったけど、本人にあったことなかったからね〜?」

 

「そうなんですか?」

 

「うん、ベルが旅に出たのはティオネ達が入る少し前だったから」

 

「そもそも、どうしてクラネルさんは旅に出たんですか? 話だとその時は既にレベル3だったらしいのに、わざわざオラリオの外で修行するなんて」

 

 レフィーヤの言い分はもっともだ。ダンジョンのあるオラリオにいたほうがレベルアップの速度は早い。しかし、それは普通の冒険者であればの話だ。

 

「ベルがオラリオの外に出たのは医師としての腕を磨くためだったから」

 

『医師?』

 

 アイズの口から出た『医師』という言葉に三人は首を傾げる。

 

「ねぇアイズ、医師って……」

 

「そのままの意味だ。僕は元々、医師になりたくてオラリオに来たんだからな」

 

 ティオナがアイズに尋ねようとしたとき、別の人間によってその言葉の答えを変わりに答える者が現れる。

 

「ベル?」

 

「待たせたな、アイズ」

 

 やってきたのは黒いフードをおろした白髪の少年、ベル・クラネル本人だった。

 

「僕は5歳の頃まである人の元で医療についての知識を学んでいた。そして、オラリオで医者になりたくてこの街に来て、そこで冒険者としてダンジョンに潜り始めたばかりのアイズと出会った」

 

 ベルはその場に腰を下ろし、自身の過去を語り始める。それに他の三人は聞き入っていた。

 

「当時7歳でボロボロになってデカイバッグを背負ったアイズが、酷い顔色で街を歩いてるところでな。」

 

「7歳の頃のアイズさんっ!?」

 

 若干1名、全く関係ないところに反応したがベルは構わず続ける。

 

「さすがに医師としてそんな場面を無視できるわけもなく……仕方なくバッグごと背負って【ロキ・ファミリア】のホームに向かった」

 

『バッグごと!?』

 

「えっと、ベルって呼べばいいのかしら?」

 

「好きに呼ぶといい、この中では多分、僕が一番最年少なんだからな」

 

「そう、なら私もティオネでいいわ。ティオネ・ヒリュテ、こっちは双子の妹の」

 

「ティオナ・ヒリュテだよ〜、よろしくね【彗星】君」

 

「レ、レフィーヤ・ウィリディスです!」

 

「名乗られた以上名乗り返さなければな、改めてベル・クラネル。二つ名は【彗星】だ」

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン。二つ名は【剣姫】」

 

『いや、貴方(お前)のことは全員知って(るわ)(るぞ)(よ?)』

 

 遅ればせながら、自己紹介を終えるとティオネは先程の話から疑問を思ったことを尋ねる。

 

「それでベル。貴方、バッグごとアイズを背負ったって行ったけど貴方当時何歳?」

 

「5歳だ」

 

『ごっ?!』

 

 流石に驚きを隠せない面々、アイズもその時の記憶は曖昧だが起きたときリヴェリアに聞いて自分も信じられなかった。なにより、年下の子にバッグこど背負われて帰ってきたなんて恥ずかしくて仕方なかった。

 

「よ、よく、ホームまでたどり着けましたね……」

 

「僕の師は変わった人でな、医術に関する知識を教えてもらうため体術や狩猟術が必修科目だったんだ。5歳の時点で結構鍛えられてたつもりだ」

 

 遠い目をして語るベルに師匠のことはあまり聞かないほうがいいと悟る三人。

 

「それで、アイズを送り届けたら酔っ払ったロキ様に気に入られて半ば強引に恩恵を刻まれたのが【ロキ・ファミリア】に入った経緯だ」

 

「………なんというか」

 

「本当にロキらしいわね……」

 

「うんうん」

 

 自身の主神に対して敬意のない言葉を吐く三人、その様子にベルとアイズは苦笑する。

 

 そして、話を続けようと口を開こうとすると、

 

「おい、【彗星】」

 

「あっ、ベート」

 

 背後から声をかけられ振り返ると、そこには銀髪の毛並みを持つ獣人の青年、鋭い視線の狼人がベルを見下ろしていた。

 

「なんのようだ、【凶狼】?」

 

「少し、付き合え」

 

 その言葉でベルは要件を察したのか少し背後にずらしていた首を戻して視線を外す。

 

「私闘なら断る、また両足の関節を外されたくなかったらとっとと寝ることだ」

 

「テメェッ!」

 

「吠えるなッ!」

 

 ベルの挑発とも取れる言葉にベートは激昂し詰寄ろうとするが、彼の声と手でそれも遮られる。

 

()()()()()()()()()()()()()。自分でつけた傷を治すなんて余計な手間を増やさないでもらいたい」

 

 地面においていた槍を手に取って立ち上がりベルはその場にいる者に背を向ける。

 

「悪いが、話の続きはまた今度だ。お前らに追いつくために急いできたからあまり寝てないんだ。少し仮眠を取る、後でフィンに集まれと言われていたからそれまでには起きる」

 

「うん……わかった」

 

 ベルは仮眠を取るためにテントに向けて歩き出した。

 

「チッ!」

 

 ベートは不機嫌を隠そうともしない舌打ちをするが、次の瞬間背後からの衝撃に地面に叩きつけられる。

 

「こんのバカッ! 5年ぶりの再会に水を指すなんて、アンタデリカシーってもんがないの!?」

 

「そーだ、そーだ!」

 

「うるせぇぞ、バカゾネス共ッ!」

 

 落ち込むアイズを見て、ティオネ、ティオナ姉妹がベートを蹴り倒したのだ。

 

「そもそも、アンタベルと接点ないでしょ!?」

 

「うるせぇ! テメェ等には関係ねぇだろうが!」

 

 この青年、ベート・ローガはベルが旅に出る約一年前に【ロキ・ファミリア】に改宗した。ベルとの接点は殆どないが、決定的な接点が一つある。

 

 これは一部のものしか知らないが2年前、ベルがレベル6になったとき。偶然居合わせたベートがベルに食ってかかり、早く街を立ち去りたいベルが彼の師から伝授された打撃技と組み技を組み合わせた【パンクラチオン】という格闘技を使いベートの両足の関節を外したことがあるのだ。

 

 彼の師曰く、『掴んだら必ず壊す』がパンクラチオンの基本だ。

 

「アイズさん……」

 

「大丈夫、今までと違っていつでも話ができるから」

 

 レフィーヤはアイズのことを心配したが、5年もの時間待ち続けた彼女にとって数時間など大した時間ではないのだから。

 

(そう言えば、お礼を伝え忘れちゃったな)

 

 




「ところでアイズ」

「なに、ティオナ?」

「ベルって、なんでずっとマスク付けてるの?」

「……なんでだろ?」

「アイズも知らないの!?」


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彼が旅で求めたもの

 携帯用の『魔光石』がいくつもの光を揺らす中、【ロキ・ファミリア】の面々は食事を始めようとしていた。

 

 この50階層は、ダンジョンの中でもモンスターが生まれない貴重な安全地帯(セーフティポイント)でもあり、突発事故や襲撃の危険性(リスク)が格段に減る。ダンジョンに数層存在する安全地帯(セーフティポイント)は彼ら【ロキ・ファミリア】が野営地に選んだように、冒険者達の間で大規模な休息地帯(レストエリア)として利用されていた。

 

大荒野(モイトラ)の戦いではご苦労だった。皆の尽力があって今回も50階層までたどり着けた。この場を借りて感謝したい、ありがとう」

 

「いっつも49階層を超えるの一苦労だよねー。今日は出てくるフォモールの数も多かったし」

 

階層主(バロール)がいなかっただけマシでしょ」

 

「ははっ。とにかくにも、乾杯しよう。お酒はないけどね。それじゃあーーーー」

 

『乾杯!』

 

 アマゾネス姉妹の話に笑いながら、フィンが音頭をとり、皆の唱和が続く。ダンジョンの中ということで誰もが心中で警戒を忘れない中、その飲み食いを通して、彼らはほんの少々羽目を外した。

 

 設けられた野営地の中心には大型の鍋が置かれており、それを囲むように団員達が周囲に腰を下ろしている。鍋の中身は途中の階層で採った香草(ハーブ)と木の実、そして肉果実(ミルーツ)ーー字のごとく肉の味と食感のする果実ーーをじっくり煮込んだスープだ。迷宮産の木の実や肉果実はモンスターの食用であるが、ヒューマンや亜人(デミ・ヒューマン)が口に入れても問題ないため、普通に食してしまっている。

 

 諸事情により、ダンジョン内の食事は携行食といった粗末なものになりがちなので、今回のこれはごちそうと言っていい。士気も考慮したフィンの計らいで、団員達はダンジョンでは滅多に味わうことのない料理に舌鼓を打っていた。

 

 ベルもその輪の中でスープを味わっていた。

 

「これが肉果実のスープか……悪くはないな」

 

 ベルは遠征に参加したことは全くなかったので肉果実のスープを食すことは初めてだったので、新鮮だった。

 

 そこへ数人の団員がベルに近づいてくる。

 

「あ、あの、クラネルさん!!」

 

「僕に何か用か?」

 

「えっと、さっきは傷の手当をしてもらってありがとうございました。おかげさまですっかり動きやすいです!!」

 

「礼ならいらない。僕は医者だ。患者がいるなら治す、当たり前のことだ」

 

 ベルの言葉にキャーと黄色い声を上げる女性冒険者と感動したような顔をする男性冒険者。

 

 その中で一人の男性団員が緊張した面向きで前に出る。

 

「あ、あの……よかったら握手してもらっていいですか!?」

 

「? 別に構わないが」

 

 自分なんかと握手して何がいいのだろうと思いながら手を差し出すと両手で手を握られる。

 

「やったぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ずりぃぞ、テメェ!?」

 

 握手に応じた団員が他の団員にもみくちゃにされる。

 

 オラリオに滞在していなかったベルが知る由もないが、ベルの知名度は割と高い。最年少で冒険者としてダンジョンで活動し誰よりも早くレベル3まで駆け上がったスーパールーキーの知名度もさることながら、オラリオを出た当初はダンジョンから逃げた腰抜けという評価もあったがオラリオの外で孤高に旅をし自らを鍛えるその姿勢に憧れを抱いた冒険者も少なくはないらしい。

 

 その実、レベル6となったのは医者としての腕を磨くのと蘇生薬の素材となるものを探す中での副産物なのだが。辺境にしか咲かない奇跡の花やら、山奥に眠る大蛇の血やらを追い求めて旅をしていれば、それはレベルが上がるだろう。おまけに彼にはさらにレベルが上がりやすい秘密があるのだから。

 

「俺クラネルさんに憧れて槍を使うようになったんです!!」

 

「僕に憧れて?」

 

「はいっ! よ、良ければこの遠征のあとご指導願えないでしょうか!?」

 

「……僕の槍の戦い方は速さを武器に戦う我流だ。誰かに教えて使うことができる代物じゃない。だが、僕の師から教わった基本までなら教えてやれるが」

 

「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 歓喜しながらガッツポーズをとる団員。なぜここまで喜ぶのかベルは本気で理解できなかった。

 

 彼は5歳の頃冒険者になったということで首脳陣の三人にかなり目をかけられていた。故に知らないが、上級冒険者に指導されるというのはかなり貴重な経験値になるのだ。

 

「いいなぁ〜、私もクラネルさんに指導してもらいたいなぁ〜」

 

「へっへ〜、弓使い(アーチャー)になった自分を恨むんだな」

 

「弓なら僕も使う」

 

「え? クラネルさんって槍使い(ランサー)じゃ」

 

「僕の師がよく弓を使っていたんだ。それに幼い頃は槍より使いやすい弓を使っていたし、今でも偶に使う。僕で良ければ教えよう」

 

「本当ですか!?」

 

 ベルの考えとしては武器の扱いをよく知ってもらえばダンジョンで無益な怪我をすることはないだろうと考えてのものだった。

 

 医師として新しい症例を治療できるのは医療の進歩につながる貴重なものだが、それで死なれたら元も子もない。

 

 ベル曰く、『死んでさえいなければ必ず治す』がベルの医師としての誇りだ。

 

「クラネルさん、すごい人気ですね……」

 

「……うん」

 

 謝罪と礼を言うタイミングを失ったレフィーヤが隣に座るアイズに話しかける。

 

「ところでアイズさん、本当に食べなくてよかったんですか?」

 

「うん、大丈夫……」

 

「なーんて強がって、実はぐぅぐぅお腹鳴らしてるんじゃなーい? ほらほらー?」

 

「……」

 

 ブロック状の携帯食をかじっていたアイズにレフィーヤが尋ねる中、ティオナがスープしか残っていない容器を近づけてくる。

 

 食欲を存分に刺激する馥郁たる香りに視線が揺らぐが、アイズは鉄の意思でぷいっと顔を背ける。過剰な食事は戦闘状態(コンディション)に支障をきたすと信じて疑わない彼女は、満面の笑みを浮かべる褐色の小悪魔に最後まで抗った。

 

 が、しかし、ここには悪魔よりおっかないお医者様がいる。

 

「確かに過剰な食事は戦闘に悪影響だが、極端な偏食も逆効果だ。携向食で取れる栄養には限度がある。スープだけでももらっておけ」

 

「でも……」

 

「主治医としての命令だ」

 

「……はい」

 

 暗闇から光る赤い瞳に気圧され過去のトラウマも合わせてアイズは渋々ティオナから皿を受け取り、おとなしくスープを啜る。それを見届け、ベルも食事を再開する。

 

「ねぇねぇ、アイズ」

 

「ん?」

 

「アレ」

 

 ティオナがベルの方を指差し、それに釣られて隣に座っていたレフィーヤやティオネもベルの方を向く。そこには、あの特徴的なマスクをつけたままで食事をしているベルの光景があった。

 

 マスクを外した様子もないのになぜかスプーンに載せたスープが消えていく。

 

 なんて器用な食べ方をしてるんだろうとその場にいる者たちは思った。

 

「それじゃあ、今後のことを確認しよう」

 

 後始末をし、鍋も片付けた場でフィンが口を開く。

 

 見張り以外の者達が小さな輪を作り、視線を彼へと向けた。

 

「『遠征』の目的は未到達階層の開拓、これは変わらない。けど今回は、59階層を目指す前に冒険者依頼(クエスト)をこなしておく」

 

 冒険者依頼とは、冒険者に発注される依頼の総称だ。

 

 受注した冒険者は依頼を達成し、その見返りとして依頼人(クライアント)側から報酬を受け取る。

 

 注文を出してくる依頼人は【ファミリア】や商人、または迷宮都市を、運営する管理機関(ギルド)など幅広い。

 

「冒険者依頼……確か、【ディアンケヒト・ファミリア】からのものですか?」

 

「ああ。内容は51階層、『カドモスの泉』から要求量の泉水を採取すること」

 

 ティオネの確認に頷くフィン。すぐに姉の隣でティオナがげんとなりとした声を出す。

 

「『カドモスの泉』……うえー、面倒くさー。何で引き受けちゃったの?」

 

「報酬は見合うものだったからな。それに派閥の付き合いもある、無下にはできない」

 

「ったく、あいつら面倒な依頼よこしやがって……」

 

「『カドモスの泉』は上質な回復薬の制作に必要な材料だ。薬品に関わる異常、多少無茶を通してでも手に入れたい代物だ」

 

「ベル……君、あわよくば自分の分も回収とか考えてないよね?」

 

「……公私混同は弁えている」

 

「その間はなんだ、その間は」

 

 少し前までキラキラしていたベルの瞳が一気に曇った。

 

 不満があらかた出しつくされると、フィンが話を再開させ、冒険者依頼の計画が伝えられていく。

 

「51階層には少数精鋭のパーティを二組、送り込む。無駄な武器・道具の消耗を避け、速やかに泉水を確保後、この拠点に帰還。質問は?」

 

「はいはいーい! 何でパーティを二つに分けるの?」

 

「注文されている泉水の量がまた厄介でね。『カドモスの泉』はただでさえ回収できる水が限られてる、要求料を満たすためには2箇所の泉を回らなくちゃいけない」

 

「食糧も含めた物資には限りがあるからのう。冒険者依頼の後、59階層へ行くためにもあまり時間はかけられん。二手に分かれて効率化というやつだ」

 

 フィンの説明にガレスが、補足する。

 

 ダンジョン深層への『遠征』は時間との戦いでもある。この50階層へ向かうだけでも最低5日はかかる工程だ、地上へ帰還する際のことも計算に入れると、物資の消費はできる限り抑えなくてはならない。

 

「それに『カドモスの泉』は大人数で移動できないところにあるからね。戦力の分担は痛いけど、小回りはきいたほうがいい。……他に質問は? ないなら隊員(パーティ・メンバー)を選抜する」

 

 フィンの確認に反対の声は上がらず、そのままパーティの編成に移った。

 

 そして、ここでもすぐにティオナが挙手をする。

 

「はーい! あたしやるー!アイズも一緒に行こう!」

 

「うん」

 

「そもそも、第一級冒険者(わたしたち)に行かせないで誰に行かせるのよ……少数精鋭よ、わかってる?」

 

「じゃ、ティオネもこっちに決まりね!」

 

「ちょ、まっ、私は団長と……!?」

 

 ティオナの一存で素早く三人が固まった。

 

「リヴェリアはキャンプに残ってくれ。冒険者依頼のあとのためにも、消費した精神力(マインド)を休んで回復させてほしい。拠点(ここ)の防衛も兼ねてね」

 

「……止むをえないか」

 

【ファミリア】の中でも最高位の魔導師であるリヴェリアに、フィンは待機を言い渡す。

 

『魔法』を発動させるための源ーー精神力を先の戦いで大きく削ったリヴェリアは、彼の指示に素直に頷いた。

 

 彼女はそこから顔を上げ、一人の少女を見つける。

 

「レフィーヤ。アイズ達のパーティに入れ。私の代わりだ」

 

「は、はいっ……て、えっ!?」

 

「問題ないな、フィン?」

 

「ンー、そうだね。いずれリヴェリアの後釜になってもらうんだ、いいだろう」

 

「だ、団長っ、リヴェリア様!? わ、私はまだっー!?」

 

「はいっレフィーヤもこっちー!」

 

 ァァーッ、とティオナに捕まり異議を封じ込められるレフィーヤ。

 

 そしてベルは、

 

「ベル、君もアイズ達の班に入るんだ。アイズの速度に合わせられるのは君だけだからね。後輩のレフィーヤのサポートも頼んだよ」

 

「それが妥当な判断か」

 

 フィンに言われ、ベルもアイズ達の側による。

 

「これじゃと、もう片方は残った第一級で編成だのう。フィン、ベート、儂……後は」

 

「おい、ラウル。お前、サポーターでこっちに入れ」

 

「じ、自分ッスか!?」

 

「他に誰がいんだよ」

 

 ほどなくして、2つの班が編成された。

 

 一班:アイズ、ティオネ、ティオナ、レフィーヤ、ベル

 

 ニ班:フィン、ベート、ガレス、ラウル

 

「……なぁ、一班(こいつら)大丈夫か?」

 

「いいや、今回はこれでいい」

 

 編成が不安すぎる、というその危惧を隠そうともしないベートに、フィンは自信を持って断言する。

 

 確かに、無類の狂戦士(バーサーカー)であるアマゾネスのティオナは言うに及ばず、アイズもその戦いぶりから『戦姫』と非公式な渾名をつけられるほどの戦闘狂(バトルマニア)

 

 ティオネなど表面こそ取り繕ってはいるが、本質はこの二人以上に凶暴だ。格下のレフィーヤでは御しきれるはずはない。

 

「ベル、そっちは頼んだよ」

 

「全く、人使いが荒い……」

 

 ベルはフィンに言われ面倒くさそうに答える。

 

 ベルは基本患者には寛大だが、医者としての自身の指示に反したものには鬼の表情を浮かべる。

 

 事実、アイズは一度その逆鱗に触れた。あまりの恐ろしさにその時の記憶はないらしい。ただ、体は覚えているらしくそれからアイズがベルの指示を無視することはなくなった。

 

 だが、それ故にベルには戦闘より医師としての仕事を優先する手合があり、司令塔には向いていないのでフィンは保険をかける。

 

「ティオネ、君だけが頼りだ。僕の信頼を裏切らないでくれ」

 

「ーーーお任せくださいッッ!!!」

 

 幼い外見の団長に大恋幕(ぞっこん)のアマゾネスの少女はその台詞に大歓喜しながら了承する。

 

 頬を赤らめながら息巻く実姉に、「ちょろー」と妹が呟いた。

 

「ベルもそれでいいかい?」

 

「………………。」

 

「ベル?」

 

 フィンの確認にベルは答えない、それを訝しんだアイズが隣に座るベルを見る。目は開けているがその視線はどこか虚ろだ。ベルの顔の前で手をヒラヒラさせるが反応はない。

 

 よくよく、耳を澄ますと寝息のようなものが聞こえる。

 

「……目を開けたまま寝てる」

 

「嘘ぉ!?」

 

 目を開けたまま熟睡しているベルにティオナは驚きの声を上げる。

 

「まあ、仕方ないか。あの距離を3()()で走ってきたんだ。疲れないほうがおかしい。ラウル、彼をテントに」

 

「了解っス」

 

 眠るベルに呆れながらもフィンはラウルに指示を出し、ラウルはベルを背負ってテントの方に戻っていく。

 

 口調や態度に反して小柄なベルはラウルに軽々背負われた。

 

「『彗星』なんて呼ばれていても、アイツは14歳。こういったところはまだ子供だな」

 

「あやつはもっとゆっくり成長すればよかったのにのぉ……。」

 

 去っていく二つの背中を見てリヴェリアとガレスはやるせない表情を浮かべる。

 

「ねぇ、フィン。ベルに何があったの?」

 

「どういう意味だい?」

 

「だって、ベルが今14歳で5年前に旅に出たときはまだ9歳でしょ? それなのに、世界中を旅してまで医者としての腕を磨きたがるなんて普通じゃないよ。」

 

「団長、それは私も気になっていました。アイズも強さに執着する姿が見えますが、ベルの場合は、その……」

 

「異常、かい?」

 

 ティオネが言わんとしたことを悟り、先に答えるフィン。

 

 この場には少なからず彼が抱えている事情を知っているものが揃っている。しかし、誰一人として自ら語ろうとはしない。同じ神から恩恵をもらった『眷属(ファミリア)』であろうともそれぞれがそれぞれの事情を抱えている。それを会って数時間しか経っていない相手に本人が預かり知らぬところでそれを話す気にはなれない。

 

「それが知りたければ彼に直接聞くといい。彼は答えたがらないだろうけどね」

 

 フィンの言葉で会議は終了となり、各々は仮眠をとることとなった。




えぇ、投票の結果ナァーザさんの腕は欠損回復薬による復活と相成りました。イエーイ!
さて、続いてフィルヴィスさんです。ぶっちゃけソードオラトリア読んであまりにもしんどかったのでできればハッピーに傾いてほしい今日この頃、え?原作?知らんよ、自分の好きなように書かずしてなにが二次制作だばっきゃろう!
あっ、そうそう、最近つきが戻ったのかFGO単発でギル様出た、ワーイ………後々3倍くらいの不幸になって帰ってこないだろうか?


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己は他人に非ず、他人は己に非ず

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「いっくよーッ!!」

 

 掛け声とともに、ティオナが走る。

 

 目を疑うほどの大きさと質量を誇る、大双刃。

 

 特注の獲物を両手で軽々と取り回しながら疾走し、瞠目するモンスターめがけ振り抜いた。

 

「5匹ぃ!」

 

 大切断。

 

 力任せの一撃がモンスターの胴体を叩っ切り、吹っ飛ばす。

 

 残った死骸(かはんしん)には目もくれず、あたかもその本能に突き動かされるように、女戦士(アマゾネス)の少女は獲物へと飛びかかった。

 

「アイズ、あの馬鹿を補助(フォロー)! 揃って出過ぎないでよ! ベル、待機してレフィーヤを守って!」

 

「わかった」

 

「了解だ」

 

 ティオナに続いた斬撃が、彼女に群がろうとしたモンスター達を切り払う。

 

 その金の長髪を翻しながら、アイズは銀の細剣を一閃させた。

 

 現在位置51階層。

 

 冒険者依頼(クエスト)のため降り立った階層にて、アイズ達一般のパーティはモンスターとの戦闘に突入していた。

 

 51階層は『深層』では珍しい迷路構造を取っている。

 

 平面を描く壁と床、天井。計られたように造られた規則正しい地下天然の迷路が。いくつもの曲がり角や十字路を形成し、足を踏み入れる者を惑わせる。石とも土とも異なる材質で構成される壁の色は深い黒鉛色だ。

 

 頭上に灯る燐光によって照らし出される下、幅広の直線通路でアイズ達と対峙するのは、ごつごつと黒光りした皮膚組織を持つモンスターの一群だった。

 

『ブラックノイズ』。

 

 前傾二足歩行を取る犀潟のモンスター。ニMには及ばないもののその筋肉質の体躯は大型と言って差し支えない。頭部には個体によって異なる長短の角が二本ずつ生えている。

 

 鎧と見紛う皮膚は硬く厚く、49階層にて交戦した『ファモール』を遥かに超える硬度を誇っている。

 

 が、

 

『ーーー!?』

 

「えいさぁーっ!」

 

 斬り飛ばされる。

 

 縦横無尽に振り回される双頭の大刃によって、ブラックノイズの群れはいとも容易く引き裂かれていった。

 

 太い柄に連結された、二振りの巨剣。

 

 数多の武器の中でも超大型に分類されるその獲物は威力もずば抜けている。極幅極厚の剣身はモンスターの硬皮をないもののように無視し、大斬、その体を分解していく。

 

 細身の体で信じられないほどの怪力を発揮しながら。円を描く動きであたかも舞いを踊るように。

 

 ティオナは専用武器(オーダーメイド)、大双刃《ウルガ》を使いこなす。

 

「ーーッ!」

 

 大双刃(ウルガ)を振るうティオナの側でアイズもまたモンスターに斬撃を見舞い蹴散らしていく。

 

 装備するのは一本のサーベルのみ。己の総身以上の大型の武器を扱うティオナと比べると、その銀の細剣は随分と見劣りするが、アイズ自身の技量と何より速度によって、敵の抵抗を寄せ付けない。ティオナと、比肩する勢いでブラックノイスを屠っていく。

 

 その中で敵を何度斬ろうが、いくら鮮血を浴びようが、銀の光沢を放つ剣身を曇らせることは皆無だ。

 

不壊属性(デュランダル)』。

 

 迷宮都市(オラリオ)に一握りしかいない上級鍛冶師(ハイ・スミス)によって作り上げられた、属性持ちの特殊武装(スペリオルズ)

 

『恩恵』を授かった鍛冶師(スミス)達が神々の武具へと肉薄した高次の産物であり、アイズの剣は稀少な特殊武装の中でも『決して壊れない』という属性を有している。

 

 威力そのものは他の一級品装備におとるものの、戦闘中での欠損はありえない。

 

【ゴブニュ・ファミリア】製、第一特殊武装《デスペレード》。

 

 限りなく、一秒でも長く戦い続けるため、アイズはこの武器を愛剣として選んだ。

 

「アイズ、あたし右やるねー!」

 

「うん」

 

 暴風と化して奔放に戦うティオナと壮絶な勢いで敵を切り刻むアイズ。一見ばらばらに戦い合っているようで、相棒(パートナー)の背中への進行は決して許さない。互いの間合いを尊重し、時には跳躍し、時には入れ違い、適切な位置へと己の体を滑り込ませる。

 

 以心伝心の連携を披露しながら、二人の少女は危なげなく屍の山を積み上げていった。

 

「右通路から新手、四、奥からも合流! レフィーヤ、準備ができ次第すぐに合図を出しなさい!」

 

 アイズ達前衛がモンスターを一手に引き受け食い止める一方、中英に陣取るティオネが支持を飛ばし、時折投げナイフをもって支援する。

 

 未だ途切れないモンスターの出現に対し、支持を出されるレフィーヤは隊列最後尾の位置で、杖を構え『詠唱』を始めていた。

 

「【ーーー略奪者を前に弓を取れ。同胞の声に応え、矢を番えよ】」

 

 深層に生息するモンスターの桁違いの威圧感と。何より先達の獅子奮迅振り。圧倒的な光景を前に、緊張で、震えかける声を律しながら『魔法』に至る言葉を紡ぎあげていく。

 

 爆発寸前まで高まる鼓動の音が、レフィーヤの、視界を揺らしていた。

 

『ーーォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

「!?」

 

 突如、レフィーヤから見て真横の壁が破れる。

 

 破片を撒き散らす小爆発とともに現れたのは、赤と紫が混色した巨大蜘蛛。

 

 八本の足と複眼を持つ、『デフォルミス・スパイダー』。

 

 ダンジョンより生まれ落ちた大蜘蛛のモンスターは、壁面を破ると同時にレフィーヤへと飛びかかった。

 

 完璧な不意打ち。時間を止めたレフィーヤは醜悪な大顎が迫りくると光景に棒立ちとなる。

 

「ーーー狼狽えるな」

 

 音が消えた世界にその声だけが響いた。

 

 そして、

 

「え?」

 

「こんなものか……」

 

 デフォルミス・スパイダーはレフィーヤへと辿り着く前にバラバラに引き裂かれ自壊したように崩れ落ちた。

 

「なにしてる、詠唱、続けろよ」

 

 それを成した張本人であるベルが興味なさげな横目で詠唱を忘れてほうけているレフィーヤの姿を見る。

 

「あ、っ、え、えっとっ……!」

 

 動揺が抜けきらないレフィーヤは瞬時の切り替えができない。

 

 そして詠唱にもたついてる内に、とうとう前衛ではブラックノイズの群れを片付けてしまった。

 

 モンスターを、殲滅し通路内に束の間の静けさが訪れる。

 

「す、すいません……わ、私……」

 

「いーよ、レフィーヤ。仕方ない、仕方ない。こーいう時も、あるある」

 

 大双刃を担ぐティオナと剣を鞘に収めたアイズが戻ってくる中、レフィーヤがうなだれて謝罪した。周囲の哨戒を怠らないティオネもそこに合流する。

 

 攻撃の時機(タイミング)を逃し、アイズ達と全く噛み合わなかった己の至らなさをレフィーヤは自責する。

 

「駄目です、やっぱりLv.3私じゃあ、皆さんの足を引っ張って……」

 

 すっかり沈み込む後輩の肩に、ティオネが手を置いた。

 

 おそるおそる顔を上げる少女に、ティオナと揃って声をかける。

 

「Lv.の適正が低くても、あんたの魔法の腕ならここのモンスターにも通用するわ。リヴェリアのお墨付きでしょう?自信を持ちなさい」

 

「レフィーヤは魔力のアビリティが……ええっとなんだっけ、ロキが言っていたやつ……そうそう、特化(ごくぶり)じゃん! 『スキル』もあるんだし、撃っちゃえばモンスターなんて一発だって!」

 

「それ、は……」

 

 自身の能力に言及され、レフィーヤは一瞬反論の材料を失いかける。

 

 その山吹色の髪を揺らし、首と肩越しに己の背を一瞥した。

 

 神から『恩恵』を授かった眷属達には、例外なくその背中に【神聖文字(ヒエログリフ)】ーーー神々が扱う文字が、あたかも碑文のように刻み込まれている。そして、その文字群そのものが、神々が子供達に与える『恩恵』そのものなのだ。

 

神の恩恵(ファルナ)』ーーーまたの名を、【ステイタス】。

 

 様々な事象から得られる【経験値(エクセリア)】をもとに、神々が対象者の能力を引き上げ、新たな力を発言させていく恩寵。

 

 下界の者達にとって、『神の恩恵』はあくまで成長の促進剤の粋を出ない。彼らはモンスターの戦闘を通すなどして【経験値】を積み、それを【ステイタス】の組成へと変え、己の行動によって自身の能力を強化させていく。言わば神々の授ける『恩恵』は、下界の者の可能性を引き出す種とも呼べるものだ。

 

【ステイタス】は主に基本アビリティ『力』『耐久』『器用』『敏捷』『魔力』の5項目からなる基礎能力値、『魔法』や『スキル』と言った特殊及び固有能力、そして器の階位とも言えるLv.から構成される。中でも心身の『進化』とも呼ばれるLv.の上昇ーーー【ランクアップ】は、アビリティの補正以上に、対象者の力を大きく跳ね上げる。上位存在たる神に一歩近づく、という表現が最も近い。

 

 レフィーヤの【ステイタス】はLv.3。更に『魔法』に関わるアビリティ『魔力』を特化させた、完璧な後衛魔道士型だ。

 

 ティオナが言ったとおり『魔法』の威力を高める『スキル』の補助もあり、火力という点ではこのパーティの中でも彼女が最も高い。

 

「で、でも、私は一人では自分の身も守れません。さっきもクラネルさんがいなかったら務めも果たせずに無駄死にを……」

 

 が、一方のアイズ達はLv.5。ベルに至ってはLv.6だ。

 

 迷宮都市(オラリオ)の中でも僅かにも満たない『第一級冒険者』を名乗ることを許された、超一線級だ。純粋な能力値、ひいては白兵戦における実力は彼女達の足元にも及ばない。

 

 事実として、この階層に出現するモンスター相手にその身一つで戦いを挑んだ場合、レフィーヤはなす術なく蹂躙されることになる。

 

 ティオネたちの励ましにも、レフィーヤは必死に否定の言葉を並べた。

 

 そこへ、

 

「傲慢な奴だな。この階層のモンスター相手に自分で自分を守れると思ってたなら本当に救えない」

 

 今まで沈黙を続けていたベルが突然辛辣な言葉を投げかける。ビクッとなって再び竦むレフィーヤ。

 

「ちょっ、ベルッ!?」

 

「落ち着きなさい、ティオナ」

 

 彼女をこれ以上へこませないようティオナは慌てて声をかけるが、冷静なティオネがそれを制する。昨日からの短い付き合いのベルの人柄をここで見極めようとしているのだ。

 

「ここにいる全員が自分だけで自分の身を守れるなら、個人でそれぞれ潜ったほうが効率的だというのに何故僕達はチームとしてここに潜っている?」

 

「!」

 

 その問いにレフィーヤはハッとなり顔を上げる。

 

「人は一人として万能ではない。故に、あるものは剣をとり、あるものは弓を引き、あるものは杖を掲げる。だが、人は自身を区別するカテゴリを広げ自分と他人が同じものだと考えたがる。僕らの場合は『冒険者』か。誰もが『奴に出来たことなら自分にもできるはず』と考えたがる。それは、それがとても素晴らしい考えだからだ。誰もが同じ存在であり区別がないというのは理想的なだからだ。だが、世界はそんなに甘くはない。己にできることは他人には出来ず、他人にできることは己には決してできない。

 ーーー戦い云々の前に、自分と他人は別の存在だということを理解しろ。」

 

「「「「…………。」」」」

 

 年不相応なベルの弁舌にレフィーヤだけでなく、他の三人もまた感銘を受けた。

 

「……無理に自分にできないことをやろうとしなくていい」

 

 そして、その言葉だけは今までの無機質な声とは違い、口調は変わらないがどこか温かみを覚えた。

 

「お前はお前にできることを、そして、僕達は僕達にできることを。それはこの世界で各々にしかできないことなのだから」

 

 これはベルなりの激励の言葉、たった一人医療のみを追い求める旅の中で人との触れ合い方を忘れてしまった彼にできる精一杯の励ましだった。

 

「……大したものね、本当に14歳? とてもそうは思えないけど」

 

「うんうん! ベルってちょっと冷たいイメージがあったけど全然そんなことなかったね!」

 

「生憎、この言葉は旅の中で知り合った赤い服の女皇帝からの受け売りだ。僕の言葉じゃない。

 ……僕にしては柄にもないことを言った。忘れてくれ」

 

「いっ、いえ! とても勉強になりました、クラネルさん!」

 

「……そのクラネルさんというのはやめてくれ」

 

「え?」

 

「僕は……敬称をつけてもらえるほど立派な人間じゃない。」

 

 アマゾネス姉妹の言葉に気まずそうそっぽを向き、エルフの少女の言葉に顔を隠すようにフードを深く被り直した。それでも、少女達からの視線に耐えきれず、心配そうな目で自分を見つめる少女へと向き直る。

 

「なにしてるアイズ、ここからはお前が教えることの筈だ」

 

 付き合いの短い自分にこれ以上話すことはない、と背中で語るようにベルは倒したモンスターの死骸へと歩き出した。

 

「レフィーヤ……」

 

「アイズさん……」

 

 ベルに言われ、アイズはレフィーヤの前に立つ。

 

「ベルも言ってたけど、私達とレフィーヤは違うし、やることも違うよ。私もリヴェリアに教わったから。私達はモンスターからレフィーヤ達を守って、レフィーヤ達は、私達をモンスターから……その、ん」

 

 次第にアイズの口調がたどたどしくなっていく。

 

 ティオナ達の視線が集まる中、普段からあまり喋らないへいがいか、意思疎通が上手く図れない。

 

 言いたいことを必死にまとめようとするアイズは、顔を淡く染めながら、視線を少し泳がせ、やがて次の言葉を言い切った。

 

「私達は、何度でも守るから……だから、危なくなった私達を、次はレフィーヤが助けて?」

 

 自分を見つめる透いた金色の瞳と、仲間として信頼を寄せるその言葉に、レフィーヤは目を見開く。言葉を失った彼女は唇を震わした後、うつむいて、かろうじて頷き返した。

 

 ぐすりと聞こえてくる小さな嗚咽。

 

 暗い雰囲気が下さい一変し、どこか優しい空気が流れる。

 

 ティオナは満面の笑みを湛え、嬉しそうにアイズの肩を引き寄せた。

 

 きょとんとする彼女に、ティオネも小さくわらう。

 

「それじゃあ、とっとと『魔石』を回収「もう、終わったぞ」え?」

 

 ティオネの言葉を遮って現れたベルの手にはジャラジャとした何かが入った両手で持つ膨らんだ亜麻袋。

 

 中に入っているのはモンスターの『核』である『魔石』。モンスターはそれを失うと灰となって消滅する。そして、その際灰とならなかった部位を冒険者たち『ドロップアイテム』と呼称している。

 

 この『魔石』と『ドロップアイテム』は管理機関(ギルド)や商業系の【ファミリア】を通せば換金することも可能で、ダンジョン探索における主要な収入源となっている。

 

「この数をこんな短い時間で?」

 

「生憎、医術と速さしか取り柄が無いんでな。『ドロップアイテム』はどうする? ウィリディスが持てないなら僕が持つが……」

 

「え、ええ……でも、『ドロップアイテム』はいいわ。この量を持って探索するのは難しいもの」

 

「そうか……」

 

 短く答えるとベルは何かを感じ取ったように通路の先へと向き直った、次にアイズが気づく。

 

「また、おでましか」

 

「……うん」

 

「どこ、ベル」

 

「前方と後方……来るぞっ!」

 

 ベルの言葉に答えるように、進路上の前方、更に後方から、ビキリ、ビキリ、という不穏な亀裂音がなり始める。

 

 間を置かず、先程レフィーヤを強襲したデフォルミス・スパイダーのように、ダンジョンの壁を破ってモンスターが現れた。しかも複数一辺に。

 

 息を呑むレフィーヤを守るように陣形を作る中、アイズ達は再びモンスター達との交戦に望んだ。



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