フラれた女勇者、オネェに出合う (とある掲示板の民)
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フラれた女勇者、オネェに出合う

 夜、ギルドがある冒険者の街で明かりが消えることはない。

 毎日毎日命を燃やしモンスターと戦い日銭を稼ぎ、夜になれば酒場に赴き酒を飲む。

 それが一般的な低ランクの冒険者の日常的サイクルである。

 そんな冒険者たちに交じって、酒を呷る青い髪の女の姿があった。

 腰にはショートソードを携え、軽装の皮の鎧を身に纏っている。

 

「ぷはー! 男がなんぼのもんじゃーい!」

 

 酒場のデッキに大きな音を立ててからになったジョッキを勢いよく落とす。

 その衝撃で、乗っていた酒瓶やジョッキが大きく揺れるが女は気にする様子はなかった。

 

「ははは! まーた一人でやってるよ勇者の嬢ちゃん」

 

「今回もだめだったのか?」

 

 そんな女勇者を見て、周りで飲んでいた酔っぱらい冒険者たちが野次をを飛ばす。

 

「うっさいなー!? どうせ僕はお嫁さんになんか行けないですよーだ。 おかわり!」

 

「別に構わんが、お前其れ何杯目かわかってるか?」

 

「……3杯目?」

 

「10杯目だ馬鹿野郎。 お前(勇者)だから金の心配はしてないが、こちとらいつ酒樽が空になるか戦々恐々してるんだぞ!? もうちょいこっちのことも考えやがれ」

 

 酒場の店主の声は若干涙目になっていた。

 

「ええ、いいじゃんお酒くらい。 僕の傷ついたを癒してくれるのはこれだけなんだからさー大目に見てよー」

 

「そんなもん勝手に傷ついてろ……はぁ、新しいの注いでやるから今夜はこれで帰ってくれ」

 

「えー」

 

「えーも糞もあるか、これ以上のまれると商売あがったりだ」

 

「けちー」

 

「うるせぇ! さっさと飲んでいかないと追い出すぞ!」

 

 女勇者はやれやれと首を振ると、ジョッキに注がれた酒を再び一気飲みすると千鳥足で酒場から出て行った。

 

「毎日毎日変わらなねぇなあいつも、で? 今回はなんでフラれたんだって?」

 

「……あいつが普段行くクエストに怖気づいたんだと」

 

「ああなるほど、てことは、いつものことってことだな」

 

「まあ、そう言うことだ。 あいつも慎ましさってやつを覚えたらいけそうなものなのによ」

 

「そりゃ無理って話だぜ大将、そんなこと天地がひっくり返ってもあり得ねぇって」

 

 冒険者がそう言って笑うと、それにつられ周りにいた酔っぱらいたちも笑いし始めた。

 

「……あいつと同等の強さのやつがいればな」

 

 そうつぶやく店主の声は、嗤って騒ぐ酔っぱらいたちの声でかき消されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

「ひっく……へっく……」

 

 酒場から出た女勇者は、千鳥足で人気のない暗い夜道を歩いていた。

 降らりふらりと右へ左へと、何かにぶつかりそうになっても気にも留めず吹き飛ばしていく始末だが、彼女の体には傷は一切なかった。

 歩いていく女勇者はそのまま人気のない路地へと入っていく、そしてとあるものが目に入った。

 

「んー?」

 

 立ち止まって目に入った物を酔った目でじっくり見ると、そこにはBar リリスと書いた看板があった。

 はて、こんなところに店なんてあっただろうか。 そう思った女勇者だったが、そんなことはどうでもいいと看板の下にある扉をくぐると、中には小さなカウンターと数個の椅子。

 カウンターの裏には、ぼんやりと光る照明の明かりを照らされた酒瓶がずらりと並べられていて、奥には一つの扉があった。

 

「誰かいませんかー!」

 

 酔っぱらい特有のハイテンションで女勇者は店内で叫んだ。

 しばらくすると、ガチャリという音と共に奥の扉がいた。

 

「はーい、どなたですか~?」

 

 現れた人物は、すらりと伸びた手と足は長袖の服、そして狐のような攣りあがった眼を持っていた。

 そんな美しい姿に、勇者は一瞬見惚れてしまい頬が赤く染まっていた。

 

「え、えっとここって……酒場でいいの……?」 

 

 どもりながらそう聞くと、相手は穏やかに答えた。

 

「ええ、そうよ。 といっても、わいわい騒いで飲むような場所じゃなくてね。 お客人とゆっくり飲んでもらって日々を疲れをいやしていってもらうのが私の店よ」

 

 そう言って、店の主は笑う。

 

「そうね、せっかくだから飲んでく?」

 

 カウンターの下にある椅子を一つ引いて、女勇者にめけて手招きをする。

 女勇者はいつの間にか強張っていた体を動かして座る。

 

「じゃっじゃあお願いします」

 

「はい、承りました」

 

 カウンターの中からグラスを一つ、並べられた酒瓶から鮮やかな蒼の瓶を取り出すと、宝石のように鮮やかなお酒が注がれた。

 

「はい、どうぞ」

 

「そっそれじゃあいただきま」

 

 女勇者がそう言って、グラスを手に取ろうとした時だった。

 

「おう! 邪魔するぜ~」

 

 大きな鉄の棍棒を担いだ大男が、扉をけ破り店内へと無理やり入ってきた。

 大男はずかずかと中へと入ってくる。

 

「よー別嬪さん。 痛い目に合いたくなかったら金を出しな」

 

 背に担いていた鉄の棍棒を店主へと向けて脅しの始めた。

 

「ちょっと何してくれるのかな……?」

 

 立ち上がり、腰に下げていた剣を引き抜こうとすると、それを店主は手で遮った。

 

「ちょ、いったい何を」

 

「大丈夫です、大事なお客様には手は煩わせませんとも」

 

 店主は笑いながらそう言った。

 

「くくく……何だ? あんたが俺をどうにかするっていうのか? とんだお笑い草だな!」

 

 大男は大きく口を開け笑いだす、店主と彼の身長の差はあまりないが、大男と比べると店主の見た目は貧相に見えた。

 大男が軽く棍棒を薙いでしまえば、ベキリと折れてしまいそうだ。

 だが、店主はこう答えた

 

「ええ、あなた程度でやられるような軟な鍛え方何てしてはいないもの」

 

「あ?」

 

 明らかな長髪の言葉は大男の癇に障ったようで、手に持った棍棒を多く振りかぶった。

 

(やっぱり助けに入ろうか)

 

 光景を見守っていた女勇者が、助けに入ろうとした瞬間だった。

 店主の姿が女勇者の視界から消えた。

 

「ほえ?」

 

 呆ける女勇者の声がでたと同時に

 

「ぐほぉ……」

 

という声が聞こえてくる。

 声の方向を見れば、店主の拳が大男のみぞおちへと突き刺さっていた。

 

「それと」

 

 そう言って拳を引く店主、膝から崩れ落ちる大男。

 それを置いて、店主は女勇者に向き直った。

 

「怪我はない?」

 

「は、はい」

 

「ならよかった」

 

 店主は大男の体を店の外へと頬り投げると、カウンターへと戻った。

 

「お騒せしちゃったわね、あ、そうだったまだ挨拶をしてなかったわね」

 

 店主は一度礼をすると、

 

「ようこそ、Barリリスへ 夜はまだ長いからゆっくり飲んで言ってちょうだいね」

 

 そう言った。

 

 

 夜はまだ続いていく。

 この出会いがどこへと向かうかは誰にもわからないだろう。

 

 

「あ、それと私、男だから」

 

「ええええええええええええええええ!?」

 

 

……おそらく。

 

 



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恋+試練=トラブル

「すっすまないが、君にはもうついていけない……」

 

 そう言って離れていく男を何人見ただろうか、思い出したくはないが軽く十人は超えていた気がする。

 それは、勇者と呼ばれるようになった後さらに加速した。

 

 端的に言ってしまえば、僕は強くなりすぎたのだ。

 

 もちろん、僕だって毒を盛られればあっけなく死ぬし、大勢の人たちに囲まれれば同じことだろう。

 それでも、一個人としての能力は自分でいうのもなんだが強大で、僕より弱い人たちから見れば怪物としてしか映らないんだろう。

 

 ドラゴン級、魔王級と呼ばれる存在を倒すことはできるようになっても、好きな男一人手に入れることができないということはなかなかに精神に来るものがある。

 

「あれ、まだ男作ってないの?」

 

 と、少し前までパーティを組んでいた仲間が、男と腕を組みながらやってきてそう言った日なんていつもより多くの酒を飲んでいた。

 まあ、実際どれだけ飲んだかはちゃんと覚えてはいないけど、酒場から私が放り出してたことを考えると、相当飲んでいたみたいだけど。

 

「僕の恋人はお酒だけ~」

 

 なんてフラれるたびに言い続けていた……だけど、()()()()()()()()()()()

 これから僕は新たな愛を目指す……決してちょっと前にほかの仲間に煽られたからだとかそう言う理由では決してない。

 私並の強さを持つであろう彼ならば、僕と共に人生を歩んでくれると思ったからだ。

 

 だから、今日も今日とてこの酒場へとやってきたのだ。

 Bar リリスと書かれた看板は、月夜の光と駆けられたランプの光でぼんやりと照らされている。

 一度、深呼吸。

 夜の冷たい空気が口の中に入ってくるが、少し熱くなってしまっていた体を冷ますにはちょうどいい。

 

「頑張れ、僕」

 

 両頬を手で軽く叩いてから、もう直っていた扉に手を当てる。

 そしてゆっくりと力を込めて奥へと押し込む、そして中へ入り店内へ視線を向けると……

 

 

 

 

 

――昨日の大男が店内の掃除をしていた。

 

 

 

 

 

 手には振り回していた棍棒ではなく、箒が握られて、かわいらしいエプロンをかけていた。

 大男は入ってきたこちらに気づくと、慣れていらしい笑顔を浮かべてこちらに向けようとした瞬間。 

 

 

「い、いらっしゃま……」

 

 

 聞き気終える前に、素早くバックステップで外へと出てすぐに店の扉を閉めた。

 

 ……なんだあれは、そう思いながら店に掛かっている看板に目を向ける。

 そこには入る前に見たものと同じもの掛かっていて、ここが間違いなく目的地だということをはっきりと僕に伝えてきた。

 

「……今日は、まだ一滴も飲んでないんだけど……」

 

 幻覚を見せるきのこの胞子も、幻覚の魔法を食らった覚えもない。

 ならあれは何だったのか、少なくともここで立ち止まっていては答えは出てこないだろう。

 

「……行くしかないか」

 

 決意を決めて、再び扉を開ける。

 そこには、先ほどと同じように放棄を持った大男が立っていた。

 

「い、いらっしゃいまって、あ」

 

 先ほどと同じように不器用な笑顔と共に。

 

「……なんでいるの」

 

 この衝撃的な光景に、僕は思わず口から疑問をこぼしながら固まってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、そういうことだったんですか」

 

 そう店主さんは口元を手で押さえながら笑って、僕の前にグラスを置くとお酒を注いた。

 あの後、僕たちがしばらく固まっている所に、昨日と同じように奥から出てきた店主さんが仲裁してくれた。

 話を聞くと、店主さんの強さにほれ込んだとかで勝手に舎弟になったらしい。

 

「昨日は悪かったな嬢ちゃん!」

 

 といって、豪快に笑うこ大男の姿を見ていると、根は悪い奴ではないのかも? と、思えてくるのはなんだか不思議だ。

 だけど、よく店主さんも店を襲った強盗を店で働かせる気になるのだろうか、僕は店主さんにそう聞くと

 

「舎弟というか、まあ私の下に就くというならこれぐらいはできてほしいと言ったら、自分から”働かせてほしい”と」

 

「ま、そう言うことだ」

 

 とのこと。

 店主さんの器が広いのか、はたまたまた暴れられても即座に止めることができる余裕なのかはわからないけれど、彼が問題ないというのなら僕が気にすることではないだろう。

 

 ぶっちゃけどうでもいいし。

 

 だってそうだろう、叩きのめした後のもと強盗のことよりも、僕自身の恋の方が大事に決まっている。

 まずは世間話でもして僕に興味を少しでも持ってもらう話は其れからだ。

 

「店主さん少しお話を……」

 

 

 私がそう言おうとした瞬間、昨日ほどではないが店の扉が勢いよく開かれ言葉が遮られた。

 

「大変です店主さん!」

 

 と、店の中に弓を持った長い金髪がきれいな女性が入って来ると、店主さんが立つカウンターの間に立って慌てながらこう言った。

 

「森が……森が大変なんです!」

 

 そう言う女性の顔をは焦りに満ちていた。

 だけど、僕はこの時別のことを考えていた。

 

(なんでええええええ!?)

 

 僕が店主さんとの中を深めることができるのは、まだまだ先らしいようだった。



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