ハイスクールD×D×SHUFFLE! (ダーク・シリウス)
しおりを挟む

プロローグ
プロローグ


()

 

 

「やーい!落ちこぼれぇ!」

 

「僕たちの中で一番弱い落っちこぼれ!」

 

「何度来ても同じなんだからお前は二度とここにはくんなよ!」

 

僕を囲む男の子たちに向かって叫んだ。僕は兵藤一誠。

とある事情で僕は父さんと母さんの実家に来ていた。

でも、実家に来る度に僕はこうして虐められている。―――弱い、おちこぼれだからと、

 

「うるさい!僕だって強くなるんだ!」

 

「どうやってだよ?お前、―――なのに、―――が、持っていないじゃん」

 

「―――がなくても、僕は他の方法で強くなる!」

 

「はははっ!無理無理、落ちこぼれのお前はどんな方法で強くなろうが、

僕たちに勝てないよ!」

 

「今はそうだろうけど、いつか絶対に強くなる!そしたら僕はお前たちに見返してやる!」

 

「お前・・・生意気なんだよ!」

 

―――○●○―――

 

ドサッ・・・・・

 

「・・・・・っ」

 

多勢に無勢、数の暴力に抗えず、殴られ、蹴られて僕は地面に倒れた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・こ、これで分かっただろ。お前は弱いから落ちこぼれなんだ」

 

「あー、こいつを相手に力を使うと疲れるぜ」

 

「だな。んじゃ―――」

 

一人の男の子が僕に向かって手を伸ばしてきた。―――その時だった。

 

「お前たち、なにをしている!」

 

「げっ、逃げろ!」

 

ダダダダダダッ!

 

「・・・・・」

 

僕を虐めた男の子たちが逃げて行った。代わりに、メイド服を着た銀髪の女の人が来た。

僕と一緒に実家に来たメイドの人だ。心配そうに話しかけてくる。

 

「一誠さま、直ぐに手当てを」

 

「いい・・・・・僕自身が弱いから傷を負ったんだ」

 

「一誠さま・・・・」

 

「絶対に・・・・・強くなるんだ」

 

そうだ。僕は絶対に強くなるんだ・・・・・強く、強く・・・・・・!

 

―――○●○―――

 

『・・・またあの子が虐められたのか』

 

「はい・・・・・自分が弱いからだと、そう言ってろくに怪我の手当てもせず・・・・・」

 

『・・・・・確かにあいつは弱い。だが、それは当り前のことなんだ。あの子はまだ子供だ。

弱くて何がいけない。焦らずゆっくり強くなればいいんだ』

 

「私もそう思います・・・・・」

 

『あの子はいま・・・・・』

 

「何時も通り、あの子たちと一緒にいますよ。

というより、あの子たちが一誠さまの傍にいたがっております」

 

『そうか。まあ、傍から見ればあの子たちは息子に好意を抱いているのが

分かりきっているし、俺もあの子たちなら任せても良いと思っている』

 

「成長したあの子たちはきっと美しくなるでしょうね」

 

『結婚相手に恵まれるだろうが、あの二人は間違いなく一誠を選ぶだろう』

 

「そうなったら、嫉妬する者が現れそうですね」

 

『お前もその一人じゃないか?』

 

「・・・・・何のことでしょうか?」

 

『ははっ、なに四六時中ずっとあの子の傍にいるお前だ。何も思わない訳がないだろう?

まあ、あの子の相手は誰でもいい。ただし、俺が認めた者しか認めないがな』

 

「手厳しいお方です」

 

『俺よりあの爺の方が厳しいって。っと、そろそろ時間だ。あの子を連れて帰ってくれるかい?今日はあの子の誕生日だからな』

 

「分かりました」

 

―――○●○―――

 

「ぜぇ・・・・・ぜぇ・・・・・ぜぇ・・・・・」

 

「いっくん・・・・・お疲れさま。ジュースだよ」

 

「はい、タオルです」

 

「・・・・・ありがとう」

 

午後のトレーニングを終えた僕に、二人の女の子からジュースとタオルを受け取った。

この子たちは僕のいとこだ。何時も実家に来れば、この子たちが傍に寄っていてくれる。

 

「今日もハードなトレーニングをしましたね」

 

「これぐらいしないと、強くなれないから」

 

「・・・・・どうして、そこまで強くなろうとするの?」

 

「どうしてって・・・・・僕は強くなりたいんだよ」

 

そう、だからこうして修行しているんだ。でも、いとこがまた聞いてくる。

 

「だから・・・どうして?強くなる理由はあるの?」

 

「・・・・・皆に落ちこぼれというから」

 

「・・・・・そいつは誰?殺してきて良い?いっくんを落ちこぼれとか言う奴を」

 

つい、漏らしてしまった僕の言葉を聞いたいとこが、何時の間にか大鎌を―――って!

 

「だ、ダメだよ!?絶対にしちゃダメだからね!?」

 

「でも・・・・・ここに来る度にいっくんは怪我しているよ。

いっくんを虐めている奴に傷つけられているんでしょ?」

 

「僕が弱いからいけないだけなんだ。だから、殺しちゃダメ!」

 

何とか説得し続ける。じゃないと、本気で殺しに行きそうだからだ。

 

「・・・・・」

 

「それに、僕は他にも理由があるんだ」

 

「理由ですか?それは一体、どんな理由です?」

 

「・・・・・恥ずかしいから言わない」

 

思わず目を逸らしてしまった。だけど、それがいけなかったようだ。

 

「いっくん・・・・・教えて?」

 

「・・・・・」

 

「「・・・・・」」

 

二人がジッと僕を見詰めてくる。無言で貫くが、二人の視線が・・・・・耐えきれない。

 

「・・・・・守る」

 

「え?」

 

「二人を守りたいから強くなろうと頑張っているんだよ」

 

ああもう。恥ずかしいな・・・!

何時も僕の傍にいてくれるこの二人だから守りたいと思ったんだ。だから僕は・・・・・。

 

「「――――――」」

 

ボッ。

 

あ、あれ・・・・・?二人の顔が真っ赤に染まった・・・・・。

 

「ふ、二人とも?顔が赤いよ・・・・・大丈夫?」

 

「う、うん・・・・・大丈夫」

 

「は、はい・・・・・大丈夫です」

 

「―――一誠さま。お迎えに参りました」

 

と、銀髪のメイドがやってきた。帰る時間だと、迎えに来たんだ。

 

「・・・・・分かった」

 

すると―――、

 

「・・・・・また、会えなくなる」

 

いとこが寂しそうに、不満そうに呟いた。

 

「来週になったらまたすぐに会えるよ」

 

「・・・・・もっとずっと一緒にいたいよ」

 

・・・・・できれば、僕もそうしたいよ。でも・・・・・、

 

「・・・ごめんね。お父さんと母さんが帰りを待っているから」

 

「・・・・・」

 

「それじゃ・・・・・」

 

二人のいとこと別れた。それから僕は車に乗って女の人の操縦によって帰宅する。

 

―――○●○―――

 

「稽古の方はどうでしたか?」

 

「うん・・・・・皆の中で一番弱かったけど、頑張ったよ」

 

「・・・・・一誠さまは弱くなどありませんよ」

 

メイドさんが僕を弱くないとそう言う。どうして・・・・・?

だって、僕は本当にあの子たちの中じゃ・・・・・。

 

「私は、一誠さまは弱いなどと一度も思ったことがありません。

あなたは心のお強い人なのです」

 

「心・・・・・?」

 

どういうことなんだろう・・・・・。不思議に思っていると、メイドさんが言う。

 

「力だけで相手に勝るのではありません。

絶対に負けないという気持ちを常に心構えて挑めば、

自分より格上の者にだって勝つこともあります。何事も何かする時、

譲れない戦いが必然と起こりますでしょう・・・・・。一誠さま、私は信じています。

あなたは心身ともに強くなると」

 

女の人は前を向いたままだけど、微笑んでいた。・・・僕を信じてくれる人がいるんだと、

僕は改めて気付き、感謝する。

 

「・・・・・リーラさん、ありがとう」

 

「っ・・・・・!?」

 

メイドさんの名を呼び、お礼を言ったら少しだけ目を大きく開いた。

でも、直ぐに嬉しそうに「勿体なきお言葉です」と言った。

 

―――○●○―――

 

夕方になる頃、僕たちは家に辿り着いた。

僕は先に車から降りて、家まで走り玄関に辿り着く。

 

ガチャッ!

 

「ただいまぁ!」

 

と、帰ってきた事を知らせてお父さん達が居ると思うリビングに向かう―――。

 

「「「ん?」」」

 

だけど、お父さんたちじゃなくて其処に居たのは―――背中に烏の様な翼を生やした女の人と

蝙蝠の様な翼を生やした二人の男の人たちだった。

 

「何だ。子供か」

 

「どうでも良いな、また殺す事が出来るからよ」

 

「違うだろうヴァン。俺達は神器(セイクリッド・ギア)の所有者を探して見つけたら

拉致するか、抜き取る事だぞ」

 

烏の翼を持った一人の女性、ヴァンは笑いながら言葉を口にした

 

「いいじゃねぇか、シャーリ。神器(セイクリッド・ギア)を抜かれた奴は死んでしまうし、

持っていなかったら口封じに殺すのだからさぁ、あっはっはっはっ!」

 

「「はぁ、全く」」

 

女の人の言葉を聞いて二人の男の人は呆れているけど、

僕はこの人達が一体何の事を言っているのか解らない。

 

「―――これは」

 

僕の後ろに、驚いた顔をするリーラさんが何時の間にかいた。

それより、お父さんとお母さんは一体何処に―――っ!?そう思って僕はリビングを見渡すと

三人の傍に血濡れた状態で床に横たわっている父さんと母さんの姿を視界に入った。

 

「―――お父さん?お母さん?」

 

フラフラと近づき、二人の身体を揺らすが返事をしてくれなかった。

 

「・・・・・一つ教えよう、お前の両親を殺したのは―――俺たちだ」

 

「「っ!?」」

 

突然、男の人が「お父さんたちを殺したのは自分たちだ」といった。

僕はそれを聞いて驚愕、唖然、そしてショックを受けた。

こいつらが僕のお父さんたちを殺した?

 

「さてと、シャーリ」

 

「おい、シャガ。このガキも?」

 

「ああ、念には念をだ。」

 

「はいはい、全く面倒だなぁ・・・」

 

そう言いながらも僕に近づいてくる背中に蝙蝠の翼を生やした男の人、

でも、僕には関係なかった。お父さん達を殺したこいつらが―――憎い

 

オオオオオオッ・・・・・・・

 

「―――一誠さま・・・・・・?」

 

「・・・・・シャーリ」

 

「―――確認した。神器(セイクリッド・ギア)を所有している。驚いたな、三つ持っているぞ」

 

「「な、三つ!?」」

 

何に驚いているのか知らないけど・・・・・。

 

「・・・・・許さない・・・・・お前ら・・・・・殺す・・・・・!」

 

「「「っ!?」」」

 

手を前に向けて伸ばした。何時の間にか僕の手は黒い塊があった。

 

『放つイメージをしてみろ。そうすれば、その黒い塊を放てるわ』

 

僕の頭の中に誰かが話しかけてきた。誰だか知らないけど・・・・・!

 

「その魔力・・・・・まさか・・・・・!?」

 

「―――父さんと母さんの仇だぁ!」

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

黒い塊が閃光のように前に進んだ。その先にいる三人にぶつかると思った。

それでいい、こいつらを殺せるなら―――!

 

「逃げるぞ!」

 

蝙蝠のような翼を背中に生やしている男の人が、

ゲームや本で知った魔方陣を足元に展開して、光と共にいなくなった。

僕の黒い閃光は三人に直撃せず、キッチンの方へ直撃してしまった。その直後、

 

「―――一誠さま!」

 

リーラさんが手を伸ばして来て、僕を庇うように抱きかかえてきた。その瞬間、

 

ドッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

キッチンから爆発が生じた。灼熱の炎が家中に広がり、僕とリーラさんにも迫ってくる。

 

「(僕とリーラさんが死んじゃう・・・・・・?)」

 

目の前の炎を見て、僕は思った。でも、なぜだろう・・・・・周りは静かだ。

 

「(だめだ・・・嫌だ・・・。僕は死にたくない・・・。

リーラさんまで巻き込みたくない・・・)」

 

そう思ったら、胸が熱くなった。このまま何もしなければ僕たちは焼かれて死ぬ。

そうなったらあの二人と永遠に会えなくなる。

 

「(いやだ・・・・・また会うって約束したんだ・・・・・)」

 

「一誠さま・・・・・」

 

・・・・・リーラさん?

 

「大丈夫です。このリーラ、命に代えてでもあなたをお守りします」

 

―――っ!?

 

リーラさん・・・・・あなたは・・・・・・っ!

自分の命より僕のことを思ってくれるこの人に、

 

「(父さん、母さん・・・お願い、僕に力を貸して・・・リーラさんを守る力を貸して!)」

 

そう思わずにはいられなかった。だが、炎は直ぐ目の前に迫っていた。

僕はリーラさんに守られる形で抱きしめられ、このまま何もしないでいてしまうのか、

と悔しさでいっぱいだった。

 

「・・・・・僕は」

 

「・・・・・?」

 

「・・・・守るんだ」

 

「一誠さま・・・・・・?」

 

「あなたを、僕は、守るんだ・・・・・!」

 

彼女から離れ、彼女を守るように僕の小さな体でリーラさんを抱きしめた。

 

「一誠さま!?だ、ダメです!あなたが私を守ってはあなたが死んでしまいます!」

 

「僕だって同じだよ!?リーラさんが死んだら僕は嬉しくもないし悲しいよ!」

 

「私はメイドです!何時如何なる時でもご主人様を守るのはメイドの本懐なのです!

メイドはご主人様のために命を捨てても―――」

 

「家族が命を捨てようとしているところを僕は黙って見ていられないよ!」

 

「っ!?」

 

リーラが目を大きく見開いた。

何に驚いているのか分からないけど、僕は彼女を守ることしか考えられなかった。

 

「絶対に助けるし生きよう!―――リーラッ!」

 

「い・・・・・っせい・・・・・さま・・・・・・」

 

ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

「―――ふっ、子供のくせに大したものではないか」

 

刹那―――。

 

「あの二人の子供というだけ面白い」

 

聞き覚えのない声と共に、何時までも全てを燃やしつくす熱量の炎がやってこない。

恐る恐ると目を開け、辺りを見渡す。炎が激しく燃え上がっている。

―――僕たちを避けるように家を燃やし続けていた。

 

「・・・・・え?」

 

そして、とある一点に僕の視線は釘付けとなった。赤い・・・赤よりもっと鮮やかな色、

真紅の色の髪。綺麗な金色の瞳だけど、猫みたいな瞳だった。垂直のスリット状の瞳。

リーラさんより大きい身長の女の人が僕とリーラさんの前に佇んでいた。

 

「あなたは・・・・・・?」

 

「・・・・・流石に覚えておらんか。いや、無理もないか。お前が赤子だった頃、

お前の両親に抱かせてもらった程度だからな」

 

「父さんと母さんを知ってる・・・・・?」

 

「まあな。一応、お前の両親とは友人である。いや、だったと言うべきか」

 

女の人は死んだ僕の父さんと母さんに視線を向けた。

 

「この二人が倒す程の奴がいたと言うことか」

 

「・・・・・あの烏のような翼と蝙蝠のような翼を生やしていた

人たちが殺したんだ・・・・・!」

 

「なに・・・・・?」

 

僕の言葉に女の人は目を細めた。

 

「悪魔と堕天使にこいつらが殺された?・・・・・とても信じられんな」

 

「嘘じゃない!あいつらが言ったんだ!『お前の両親を殺したのは俺たちだ』って!」

 

じゃなきゃ、誰が僕の家族を殺したって言うんだよ・・・・・!

 

「・・・・・本当か?」

 

「はい・・・・・確かにそう仰りました」

 

リーラさんも肯定した。女の人は「そうか・・・・・」と低い声音で呟いた。

 

「失礼ですが、どちらさまでしょうか?私たちの命を救ってくれた

あなたの名を知りたいです」

 

「・・・・・そうだな。知っておくべきだろう。今後、長い付き合いをするのだからな」

 

長い付き合い・・・・・?どういうこと・・・・・?リーラさんに視線を向けると彼女は、

分からないと首を横に振った。

 

「我は―――真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッド。周りから『真龍』、または『D×D』と称されている」

 

・・・・・グレートレッド・・・・・?聞いた事がない名前だ。

 

「・・・・・グレートレッド・・・・・不動の存在と言われている赤い龍」

 

「ふむ。それもよく言われておるな」

 

リーラさんは知っているようだ。僕は全然分からない。

 

「さて・・・・・来い」

 

いきなり僕の手を掴んだグレートレッドさん。

僕をどこかに連れて行こうとする行動に慌てて彼女の手を掴んで抗議した。

 

「ちょっ、ちょっと待ってよ!?どうして―――!」

 

「ここでは落ち着いて話しもできん。我の住処にきてもらう」

 

僕と彼女の足元に魔方陣が展開した。本当に待ってよ!?

 

「待って下さい!私も行きます!」

 

リーラさんも僕の傍に寄ってきた。グレートレッドさんは別に何も言わず、

僕たちは魔方陣から発する光と共に視界が真っ白になり―――家から、

どこかに連れて行かれた事だけは何となくわかった。

 

―――○●○―――

 

真っ白になった僕の視界が回復した頃、目をこすって辺りを見渡す。

グレートレッドさんの家の中だと思しき建物の中だった。

 

「ここは・・・・・?」

 

「我が住んでいる次元の狭間。我はこの狭間で泳ぐことが好きであるからな」

 

「あなたはこの家に住んでいるの?」

 

「違う。あの二人が勝手に用意したものだ。我には不要だったが、よもや、こんな形で

必要になるとは・・・あいつら、こんな事になることを予想していたのかもしれん」

 

スタスタとどこかへ行くグレートレッドさん。後を追い続く。その時、窓の外を見た。

まるで万華鏡の中を覗きこんだような摩訶不思議な空が見えた。

この家の外が次元の狭間なんだ。僕はそう理解した。

 

「おい」

 

「っ!」

 

グレートレッドさんに呼ばれ視線を彼女に向けた。

 

「置いて行くぞ」

 

と、言って彼女は開けた扉の向こうの中へ消えてしまった。僕も扉の中へと入る。

 

「・・・・・」

 

綺麗な家具や天井にぶら下がっている巨大なシャンデリア。

高級そうな物ばかりが揃ってある。でも、僕は首を傾げた。

―――あまりにもここで生活した感じがない。

 

「座るがいい」

 

長いテーブルがあるところにグレートレッドさんが座っていた。

促された僕たちは、席に座る。

 

「改めて名乗ろう。我は真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッド。お前の名は?」

 

「・・・・・兵藤一誠。彼女はリーラシャルンホルスト。僕のメイドです」

 

自己紹介を促され名前を教えた。グレートレッドさんは首を頷いた。

 

「お前のことを一誠と呼ぶ。良いな?」

 

「は、はい・・・・・」

 

そう僕は頷いた。すると、グレートレッドさんは溜息を吐きだした。

 

「この日が来るとは思いもしなかったが、お前に渡すものがある」

 

「僕に・・・・・?」

 

「お前の両親から無理矢理渡されたものだ。我にとって迷惑な物だったが、

ようやく渡すことができる」

 

指をパチンと弾いた。そしたら僕の目の前に魔方陣が現れた。光る魔方陣から、

古い箱のようなものが二つ浮かんできた。

 

「これはお前のために用意されたものだ。中身は知らないが、役に立つものだと我は思うぞ」

 

開けろとばかり、視線を向けてくる。僕は当惑しながらも、箱を開けようとして触れた。

 

カッ!

 

次の瞬間。二つの箱が光に包まれだした。光に包まれる箱は、勝手に蓋が開きだして、

箱の中身と思しきものが、飛び出して来て僕とぶつかった・・・・・いや、僕の中に入った・・・・・?

 

「これでいいはずだ」

 

女の人は頷いた。だけど・・・・・箱の中身は何なの?僕の中に入ってしまったけど、

どうなっているの?開きっぱなしの箱の中身を覗くと、空っぽだった。

 

「あの、どうして僕を・・・・・」

 

疑問に尽きなかったことを口にした。僕のことを知っているようだけど、

僕にとって初めて会う人だ。僕を助けて、父さんたちから渡されたものを僕に渡した。

父さんたちの頼みらしいけど一体どうして・・・・・。

 

「お前の両親に頼まれたからだ」

 

『もしも自分たちの身に何か遭ったら、あの子にこれを渡してくれ』

 

グレートレッドはそう語ってくれた。父さんたちの伝言という遺言を・・・・・。

 

「・・・・・父さん、母さん・・・・・」

 

自分たちの身に何か遭うのだと、予想してこの人に・・・・・。

 

「一誠、おまえはこれからどうする?」

 

「・・・・・え?」

 

「今でも我は信じられぬが・・・お前の両親、誠と一香は死んだ。

親を亡くしたお前はこれからどうする?と聞いている」

 

・・・・・これから・・・・・。リーラさんに顔を向ける。彼女も僕に顔を向けていた。

 

「リーラさん・・・・・」

 

「・・・・・」

 

彼女はジッと僕を見詰めてくるだけ。困惑する僕だけど・・・彼女は言う。

 

「一誠さま、あなたがご決断をせねばなりません」

 

「・・・・・」

 

「大丈夫です。私は、どんな選択でもあなたに従います。私は―――」

 

あなたのメイドですから、と綺麗に微笑んだ。彼女は心から僕を信頼し、

信用してくれている。だから、今度は僕がそれに応えないといけない。

 

「(・・・・・二人とも、ごめん。しばらく会えないかもしれない)」

 

約束を破るような形になる。心は罪悪感に包まれ中、悩んだ末に決断する。

 

「グレートレッドさん」

 

「決まったか?」

 

コクリと頷く。そして、言った。

 

「あなたは不動の存在と称されているんですよね?」

 

「そうだな。ドラゴンの中で最強と称されている無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)というドラゴンもいるが、

我はそのドラゴンより強い」

 

「―――僕を強くしてください」

 

「・・・・・なに?」

 

グレートレッドさんは怪訝になる。どうしてだ?と言った表情で僕に向けてくる。

 

「僕はどうしても強くなりたいんです。

父さんと母さんを殺したあの三人を倒すために、僕の大切な家族を守るためにも、

僕は強くなりたいんです」

 

「・・・・・あの二人からそんなことは頼まれていないことだ。

我はその頼みを断る権利があると承知で言っているのか?」

 

「お願いします」

 

断われる。それを承知で頼んでいる。真っ直ぐグレートレッドさんの瞳を見詰めて頼む。

 

「・・・・・」

 

徐に彼女は目を瞑った。次の瞬間。

カッ!と目を見開いたかと思えば―――感じたことがない『恐怖』を感じた。

 

「っ・・・・・!?」

 

全身から汗が噴き出した。父さんに怒られたことよりももっと怖い。怖くて体が震える。

だけど、グレートレッドさんに向ける視線は逸らさない。

それは、相手に恐れているからだと、父さんに教わったからだ。

 

「(強くなりたい・・・・・!)」

 

心からそう思った。だから・・・・・恐怖心を抱きながらも、グレートレッドさんを睨んだ。

 

「・・・・・ほう」

 

彼女の口から感嘆の呟きが漏れた。だけど、そんな事を気にしていられる状況じゃなく、

僕は震えながら言った。

 

「お願いします・・・・・僕を強くしてください・・・・・!」

 

それが精一杯だった。もう、限界・・・・・。

 

「・・・・・ふっ」

 

不意に、彼女が口の端を吊り上げた。更には小さく笑みを浮かべる。

 

「誰かに殺気を向け、我に睨み返すものなど片手で数えるぐらいしかいない」

 

途端に恐怖が感じなくなった。

 

「それを人間の子供がそうしたのはお前が初めてだ。―――いいだろう。

お前はあの二人の子供というだけあって、見どころがある」

 

「じゃ、じゃあ・・・・・」

 

「お前を鍛えてやる。ふふっ、誰かを弟子にするというのは生まれて初めてだな」

 

愉快そうに笑みを浮かべる。僕は渇いた笑みを浮かべるしかなかった。ドッと疲れたよ・・・・・。

 

「一誠、我が鍛えるのだ。お前は誰にも負けてはならないぞ?負けたら許さない。よいな?」

 

「は、はい・・・・・」

 

そうならないためにも一杯修行しなくちゃ・・・・・。

 

「では、我は泳ぎに行くとしよう。今日はいい気分だ」

 

グレートレッドさんは席から立ち上がりこの部屋から立ち去ろうとする。

 

「あの・・・・・僕たちは?」

 

そう問うと、足を停めて振りかえってくる。

 

「この家に住むといい。人間界では今頃、お前たちの行方を探しているだろうが、

我の許可なしで人間界へ行ってはならん」

 

「えっと・・・・・僕たち人間だから、何か食べないと・・・・・」

 

「あの二人が必要もないのに人間の食材を置いていった。

食べることに関しては問題ないだろう」

 

・・・・・父さんと母さん。本当にどうしてここまで用意周到なんだろう。

 

「風呂や部屋もある。生活するに不便はない」

 

「・・・・・あのお二人はどうしてそこまで準備をしていたのでしょうか」

 

「知らん。この次元の狭間を別荘だと勘違いしているのではないか?

我の泳ぎを邪魔をしないから今まで放っておいたが・・・・・まさか、

こんな事になるとは我も思いもしなかった」

 

深く溜息を吐いた。僕とリーラさんはどう反応していいのか分からないでいる。

 

「まあ、これからは我らが住むのだ。あの二人に感謝をして使わせてもらおう」

 

「・・・・・はい」

 

「ではな」

 

グレートレッドさんがまた歩を進め出して、この部屋からいなくなった。

しばらく扉の方へ見詰めたらリーラさんに尋ねた。

 

「あの、本当に良いの?僕に付き合わなくてもキミは自由に生きても良かったんだよ?」

 

「私はあなたのお傍にいたいのです。始めてあなたと出会った日から決めたのです。

―――この方と未来永劫、共に生きたいと」

 

「・・・・・リーラさん」

 

「一誠さま。今日から私のことをリーラとお呼びください」

 

・・・・・急にどうしたんだ・・・・・?彼女は頬を赤く染めて口を開きだした。

 

「私・・・・・一誠さまに呼び捨てで呼ばれた時、あの状況下で不覚にも嬉しかったのです。

ですから、また私のことをリーラと呼んで欲しいのです」

 

「えっと・・・・・どうしても・・・?」

 

「はい」

 

彼女は真っ直ぐ僕の顔を覗きこんでくる。本当に呼んで欲しいと気持ちが伝わってくる。

 

「・・・・・リーラ」

 

「・・・・・っ」

 

初めて彼女の名を呼び捨てにした。その時だった。彼女が僕に抱きついてきた。

 

「ああ・・・・・嬉しいです。私のご主人さま・・・・・・このリーラ。

今この瞬間が幸せです」

 

「そ、そうなの・・・・・?」

 

「ええ・・・・・」

 

「じゃあ、僕の事も一誠って―――」

 

「一誠さまは一誠さまとお呼びします」

 

えー・・・・・。それ、ズルイよ。僕だけ呼び捨てだなんて。

 

「じゃあ、リーラさんって呼び続けるよ。僕だけ呼び捨てなんて不公平だし」

 

「そんな、一誠さま・・・・・・あんまりです」

 

「一誠、そう呼んで」

 

ビシッと僕は言う。そうじゃないと本当に呼ばないからね!

 

「・・・・・わ、分かりました。い・・・・・一誠・・・・・」

 

「うん、リーラ」

 

僕は嬉しい気持ちで一杯になって彼女に抱きついた。

 

「(悠璃、楼羅。しばらく会えないけど、強くなって必ず二人に会いに行くよ)」

 

 

―――冥界

 

 

悪魔と堕天使、魔獣の類が住むと言われている異界。

この異界を統べる五人の魔王が君臨していた。

 

「他に情報はないの!?あの人たちが亡くなるなんて冥界が滅んでも有り得ないわよ!」

 

「未だ、調査中です!」

 

「魔法を使ってでも情報を集めなさい!」

 

「は、はい!」

 

「あの子の捜索は!?」

 

「草の根を分けて探す勢いで捜索中ですが、神隠しに遭っているかのように姿が・・・・・」

 

「まさか・・・・天界に連れて行かれたわけじゃないでしょうね?」

 

「そ、それはないかと思います。調査中に天界から天使が派遣されています。

今現在、共同で事件現場で調査もしておりますし・・・・・」

 

「そう・・・・・あっちも気付いているというわけね。状況は同じのようだけど」

 

「ですが・・・・・ここまで調べても見つからないとは、

あのお二人のご子息は一体・・・・・」

 

「分からない・・・・・だけど、どこかで生きていると私は思いたいわ」

 

「・・・・・引き続き、調査を続けます」

 

「ええ、お願いします」

 

―――天界

 

天使と神が住む異界。この異界にも冥界と似たような状況になっていた。

 

「―――報告を」

 

「・・・・・兵藤誠、兵藤一香の二名の死因は、刃物による刺殺です。

心臓を貫かれ、命を落としたようです」

 

「あの二人が何者かによって殺されたとは?」

 

「可能性は大です。ですが・・・・・あのお二人の子供が行方不明です。

今現在、悪魔と共同で捜索していますが、情報は一切ないです」

 

「・・・・・そうですか」

 

「まさかとは思いますが。何者かに連れ去られたのでは・・・・・?」

 

「・・・仮にそうだとして、何のために連れ去ったのか想像ができません。

―――色々とあり過ぎて」

 

「は、はぁ・・・・・」

 

「申し訳ございませんが、引き続き調査をお願いします」

 

「はっ!」

 

 

―――人間界

 

 

とある薄暗い蔵の中、何十、何百、何千本という蝋燭があり、火が燃えている蝋燭があれば

消えている蝋燭がある。その中央に二人の中年の男女が佇んでいた。

目の前の二つの蝋燭、火が消えている二つの蝋燭を。

 

「・・・・・あの二人の命の炎が消えている」

 

「まさか・・・・・」

 

「死んだ・・・・・と思ってよさそうだ」

 

「では、あの子は今どこに・・・・・?

あの子の命の炎はまだ・・・・・消えていません」

 

「分からぬ・・・・・だが、この事はあの子たちには告げない方がいいだろう」

 

「・・・・・調査隊を」

 

「いや、このまま野放しにする」

 

「はっ?」

 

「あの二人は我ら一族から追放されている身だ。

どんな名で名乗ろうと、我らは一切関与しない」

 

「ですが・・・・・あの子をどうするつもりなんですか?

今まで招き、私たち一族の者として接していたではありませんか」

 

「・・・・・そうだな。だが、あの子はあの二人の子供だ。

どんな生き方をしようとも、どこで死のうとも、あの子次第」

 

「・・・・・」

 

「俺たちはただ見守る。これからもずっとな」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女

 

 

 

父さんと母さんが死んで数ヵ月が経った。

あれから僕は・・・・・俺は、グレートレッドさんに鍛えてもらっている。

修行は今までしてきた修行よりも想像絶するものだった。もう、何度も死ぬ思いもしてきた。

リーラに何度も止められ、グレートレッドさんとケンカする事もあった。

だけど、そんな日々を送った時だった。

 

「一誠、偶には外の空気を吸って来い」

 

「え・・・・・?外って次元の狭間・・・・・だけど」

 

「違う、人間界の方だ。たまには人間界に言って遊んで来いというのだ」

 

突然、彼女がそう言いだした。今まで一度もそう言わなかった彼女が珍しかった。

 

「息抜きも大切だろう。我はそう思って言っている」

 

「・・・・・俺を探している人と会ったらどうするの?」

 

「心配ないだろう。お前の中にいる奴が助けてくれる」

 

そう言って僕の頭を掴んだ。―――え?

 

「行って来い。時間になったら我が迎えに行く」

 

「ちょ、グレートレッドさん?俺の頭を何かボールと勘違いしていない?」

 

「気にするな。それ、行って来い」

 

ブオンッ!と僕の頭をまるでボールのように放り投げた!体勢を空中で整えようとしたら、

何もない空間に穴が開いて、僕はその穴の中に入ってしまった。

 

「嘘おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

「ふはは!良いリアクションをするな!」

 

笑い事じゃないよ!?僕はどこに落とされるっていうんだ!もしも空にでも落とされたら―――。

 

スポッ。

 

と俺は次元の狭間にある家から人間界に落ちた。場所は・・・・・最悪だ。

 

「・・・・・あはは、俺・・・・・空にいるよ」

 

青い空、白い雲が俺の視界に飛びこんだ。重力に逆らえず、俺は下に落ちる。

 

「くそっ!こんなところで死んでたまるか!」

 

―――背中に金色の翼を生やして羽ばたかせる。そして、ゆっくりと地上に降り立った。

 

「ふぅ・・・・・なんとか降りれた」

 

さて、息抜きしろと言われても・・・・・何をすればいいんだろう?

 

「友達に会いに行く・・・・・だめだ。俺は死んでいる事になっているかもしれないんだ。

会いに行ったら怖がるかもしれない」

 

だとすれば・・・・・うん、これしかないかな。

 

「散歩しよっと」

 

そうと決まれば歩きだす。

場所は適当だ。俺を知っている人と会わないように歩かないとダメだね。

 

「・・・・・あれ、息抜きもできない?」

 

グレートレッドさん。結局、俺はどこにいてものんびりできないよ・・・・・。

 

―――公園

 

人と会わず、なんとか久し振りに来た公園にやってきた。知らない公園だけどね。

俺がいる場所すら分からない。

 

「一人で遊ぶのって・・・・・寂しいもんだね」

 

公園を見渡して俺はポツリと呟く。だけど、俺はそんな状況にいるんだ。しょうがない。

 

「・・・・・うん、誰もいないや」

 

ここなら、のんびりと出来るかもしれない。油断できないけど・・・・・。

 

「さーてと、あの噴水でのんびりしよっと」

 

おっ、あそこに段ボールがあった。あれで敷いて横になれるかも。

俺はそう思い、捨てられている段ボールを拾って噴水の縁に敷いて横になった。

 

「ん・・・・・ちょうどいいや。このまま寝よっと」

 

温かくて良い気持ちだ。グッスリ寝れそうだ。

 

「・・・・・ぐぅ」

 

―――○●○――

 

チョンチョン。

 

「・・・・・・」

 

ツンツン。

 

「・・・・・」

 

ペチペチ。

 

「ん~」

 

「あっ―――!」

 

ドポンッ!

 

・・・・・っ!?

 

「ぶはっ!?」

 

な、なに!?あれ、どうして俺は噴水の水の中に・・・・・うわぁ・・・・・ずぶ濡れだよ。

 

「あ、あの・・・・・大丈夫・・・・・・?」

 

「ん・・・・・?」

 

あれ・・・・・誰?この女の子たちは・・・・・。

寝る前にはいなかったけど・・・・・寝ている間に来た子たちかな?

 

「濡れていること以外は平気だよ」

 

「ご、ごめんなさい。噴水に寝ている男の子がいたから気になって」

 

「で、俺を噴水の中に落としたってことかな?」

 

「え?ち、違うよ。キミが体を横に動かしたから落ちちゃったんだよ。

止めようとしたけど、間に合わなかったの」

 

「・・・・・そうなの?」

 

他の子たちに訊くと、コクコクと頷いた。

 

「そっか、疑って悪かったよ」

 

「ううん、いいの。寝ているところ起こした私たちも悪いわ」

 

「それで、俺に何か用なの?」

 

問うと、女の子たちは目をパチクリした。・・・・・まさか、気になったから

起こしたってことなのかな。

 

「・・・・・寝る」

 

「って、ダメだよ。濡れたまま寝ちゃ風邪引いちゃう」

 

「だって、用もないのに起こされてどうしろっと言うんだよ?」

 

「そ、それは・・・・・」

 

困った顔をする女の子。

 

「ということで、俺は寝るよ。それじゃ」

 

体を横にして、女の子たちに背を向ける。

まったく、せっかくのんびりできると思ったのに・・・。

 

ドンッ!

 

「は?」

 

ドポンッ!

 

・・・・・また、俺は水の中に落ちた。今度は誰かに押されてだ。

 

「―――って、誰だよ!?今度は間違いなく俺を押しただろう!」

 

ザパッ!と起き上がって女の子たちに抗議する!すると、女の子が俺に指を差してきた。

 

「こんな良い天気なのに寝るなんてつまらないじゃない。暇なら私たちと遊びましょよ」

 

「・・・・・俺を押したのはお前?」

 

「そうよ?」

 

・・・・・そうかい。なら、仕返しだ!噴水の水を両手で掬い上げるようにして、

目の前の女の子にぶちまけた。

 

「・・・・・」

 

ポタポタと、全身ずぶ濡れになった。しばらくすると、ワナワナと体を震わし始めた。

 

「な、なにを・・・・・っ!」

 

「さっきの仕返し。俺を押してお咎めなしってわけじゃないだろう?」

 

「だからって、水を掛けなくてもいいじゃない!」

 

「因果応報って知ってる?当然のことだと思うけど」

 

当然のように言ってやった。それに今は夏に近い。

日差しも強いし、今日は水浴び日和だと俺は思うんだよな。

 

「ヒドイわ!今日はお兄さまの大事な会議を付き合っているのにこれじゃ、

お兄さまのところには行けないわ!」

 

「お兄さま?お前たちだけじゃないのか?」

 

「私たちは、お兄さまやお姉さま、お父さまの会議に付き添いとしているのです。

でも・・・・・」

 

「あまりにも長いから暇で暇で・・・・・抜け出して来ちゃったの」

 

ふーん、そうなんだ。俺にとってはどうでもいい話しだよ。

 

「それで、キミたちは暇だからここに来たの?」

 

「うん、そうだよ。あっ、そう言えば自己紹介してなかったね。私はリシアンサス。

言い辛かったら『シア』って呼んでね」

 

一人の女の子がいきなり自己紹介をし出した。そしたら、他の子たちも口を開きだした。

 

「私はリコリス。こっちは私の妹のネリネだよ」

 

「ネリネです・・・よろしくお願いします」

 

「私はソーナ・シトリーです。それで、あなたが水を掛けたこの子はリアス・グレモリー」

 

「・・・・・よろしく」

 

不機嫌そうに呟いたリアス・グレモリーとか言う女の子。この流れからして今度は俺の番か。

 

「・・・・・姓は言えない。名前は一誠だ」

 

「姓は言えないとは、何か事情があるのですか?」

 

「まあ・・・・・うん、そんなところ」

 

「そうですか。無理には聞きません。ヒトには言えない秘密があるのですからね」

 

何でも知っていると風な言い方だな・・・・・まあ、どうでもいいや。

 

「皆は何時ぐらいになったら帰るんだ?」

 

「お父さんたちが会議を終えるまでは遊べれるよ」

 

「会議の時間は長引いているので正確には分かりません。夕方頃には終わるのかと」

 

「そうなんだ。それじゃあ―――おやすみ」

 

『寝るの!?』

 

体を横にした瞬間に、突っ込まれた。いや、俺は元々のんびりするつもりだったし。

 

「え?どうして?なにが可笑しいの?」

 

「・・・普通、ここは一緒に遊ぼうよ、とか言わないのかしら?」

 

呆れ顔でリアス・グレモリーが言う。

 

「だって、俺がいなくてもそっちは人数いるし、遊べれるだろう?」

 

「それはそうだけど、あなた暇そうじゃない。だから誘っているのよ」

 

「俺は別に暇じゃない」

 

「・・・・・また突き飛ばすわよ?」

 

「今度はお前も道連れにすんぞ」

 

俺とリアス・グレモリーは睨み合った。お互い譲れない気持ちがあって対立する。

決着をつけるなら、これだよな。

 

「じゃーんけーん」

 

「っ!?」

 

「ポン」

 

バッ!

 

じゃんけんをした。リアス・グレモリーも咄嗟に反応して手を出す。

 

俺、チョキ⇔グー、リアス・グレモリー

 

「「・・・・・」」

 

・・・・・ま、負けた・・・・・。負けてしまったことにショックを受け、唖然とした。

対してリアス・グレモリーはニンマリと笑みを浮かべる。

 

「敗者は勝者の言う事を聞くわよね?」

 

「・・・・・はいはい、分かったよ。一緒に遊んでやるよ」

 

やれやれと、肯定する。功を焦った俺のミスだ。今度は慎重になろう。

 

―――○●○―――

 

あれから俺は五人の女の子たちと遊んだ。女の子らしくおままごとを付き合ったり、

砂場で遊んだり、鉄棒でネリネが回れるように手伝ったりもした。

鬼ごっこもしたが・・・・・俺が一番逃げ足が速かったりもすれば、

早く五人を捕まえた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・イ、イッセー。あなた、速いわよ」

 

「何事にも俺は全力を出すって決めているんだ。だから手を抜かない」

 

「す、凄いね。五人がかりでやっても捕まえられないよ」

 

「男の子ってこのぐらい凄いのでしょうか・・・・・」

 

ソーナ・シトリーの言葉に俺は思い出した。俺より強かったあの子供だち。

今この瞬間でも強くなっているんだろうな。

 

「さて、次は何して遊ぶ?」

 

「そうだね。うーん」

 

時間はまだある。俺たちは何しようかと悩んだ。

 

「ねぇ、キミたち」

 

突然、俺たちに話しかけてくる声が聞こえた。声のした方へ振り向けば、

中年の男の人がいた。

 

「はい、なんですか?」

 

「おじさん、この町に初めて来たから道が分からないんだ。帰ろうとしているんだけど、

迷子になっちゃったんだ。よかったら駅まで教えてくれないかな?」

 

と、尋ねられた。けど・・・・・。

 

「ごめんなさい。俺も分かりません。お前らはどうなんだ?」

 

「私たちも初めてこの町に来たの。お父さんたちの所に帰ろうにも、道が分からないから」

 

「・・・・・お前ら、よく知らない土地で歩き回っていたな」

 

「だって暇ですもの。ずっと話し合いばかりしていて、私たちのことを放っておくのよ?」

 

だからって、勝手に外に出歩いちゃダメだろう。呆れ顔で溜息を吐く。

 

「おや、そうなのかい」

 

男の人も苦笑した。自分と同じなんだと。

 

「じゃあ―――同じ迷子同士、一緒にきてもらおうか」

 

「っ・・・・・!?」

 

突然の恐怖を感じた。この人は人の皮を被った悪だと、俺は気付いてしまった。

男の人が俺たちに手を突き出してきた。その瞬間、魔方陣が浮かび上がって、

魔方陣から見た事もない文字を表現した

螺旋状の魔力が何十何百と現れて、縄のようにリアス・グレモリーたちの体に巻きついた。

 

「これは・・・・・!?」

 

「あなた、悪魔なのね・・・・・!?」

 

―――ドクンッ!

 

悪魔・・・・・・?

 

「ああ、その通りだぜ?侯爵家のお嬢さま。だが、ただの悪魔じゃねえ。

お前らお偉いさんに危険だと、烙印を押されたはぐれ悪魔だ」

 

「はぐれ・・・・・!」

 

「くくく、討伐しに来る追手を逃れる日々が終わりそうだなぁ。

まさか、こんな場所であのグレモリー家とシトリー家の令嬢、魔王の娘、神王の娘が揃いも

揃っているんだからよ」

 

男は醜悪な笑みを浮かべた。まさに悪魔と呼んでも過言じゃない笑みだった。

 

「私たちをどうするつもりです・・・・・」

 

「決まっている。お前らを交渉の道具として利用させてもらうんだよ」

 

「こんなことしてタダで済むとは思えないよ!」

 

「だからお前らを交渉の道具にするんだよ。俺の安全のために利用する。

さて、俺を連れていく前にやらないといけないことがある」

 

視線を俺に向けてきた悪魔。

 

「おい、ガキ。死にたくなければさっさと消えろ。お前を殺しても良いが、

これ以上魔力を使ったら見つかっちまうからな」

 

「・・・・・」

 

リアス・グレモリーたちに視線を向ける。この子たちは今日会ったばかりの女の子たち。

俺にとって知り合った程度でしかない。見捨てても心を痛まないと思う。だけど・・・・・。

 

「ねえ、はぐれ悪魔ってなんなの?」

 

「はっ?」

 

「悪魔は知っているけど、『はぐれ』って何なのか知らないんだよね。

だからさ、はぐれのことを教えてよ。そしたらいなくなるよ」

 

笑みを浮かべて悪魔に問うた。そしたら悪魔は、鼻を鳴らして言った。

 

「物好きなガキだな。だがまあ、良いだろう。

はぐれ悪魔と言うのは転生により下僕悪魔となったが、強力な力に溺れ、

主を殺しお尋ね者となった悪魔。契約の有無関係なしに人間を襲う極めて危険な存在。

それがはぐれ悪魔だ」

 

「ふーん・・・・・追手に追われているとか言っていたけど、見つかったらどうなっちゃうの?」

 

「討伐されるか捕縛される。どっちにしろ、俺の未来はないだろう。

だから、この重要人物の娘たちを利用し、安全の保障を約束させるんだ」

 

なるほど・・・・・はぐれってそう言う事だったんだ。

 

「ほら、教えたからさっさといなくなれ」

 

「うん、分かった」

 

俺は満面の笑みを浮かべた。

 

「お前を殺していなくなるよ」

 

「はっ・・・・・?」

 

―――ドゴンッ!

 

「―――――っ!?」

 

唖然とする悪魔の懐に飛び込んで拳を突き出した。

顎の下から拳を打ち上げて、リアス・グレモリーたちから遠ざける。

 

「はははっ・・・・・俺の実力を試す機会が来た」

 

「こ・・・この・・・・・クソガキ・・・・・っ!」

 

激しく俺を睨む悪魔。ああ、それでいいんだ。俺に殺意を向けてくれるその視線じゃないと

殺し甲斐がないよ。

 

「色々と教えてくれてありがとう。お前を殺しても誰も文句はないことを知って安心したよ。

だから―――お前を殺すよ?」

 

「ふざけやがって・・・・・!俺は上級悪魔なんだぞ!

テメェみたいなガキ一人殺すこと容易いんだぞ!」

 

「だったら、証明して見せてよ」

 

拳を構えて挑発すれば案の定、悪魔は怒りに体を震わせた。

 

「上等だ・・・・・死んで後悔しろクソガキィィィィッ!」

 

―――○●○―――

 

最初に仕掛けてきたのは、悪魔からだった。手の平から光の球体を発現して俺に向けてきた。

 

「直ぐには死なせねぇ。たっぷり痛めてから殺してやるよ」

 

それが魔力だと理解し、回避行動をとった。

 

「っ!(ただの人間のガキにしては速過ぎだろ!)」

 

悪魔の攻撃に当たらないよう動き続ける。地面は土だ。日差しが強いから、

動き回る度に渇ききった土が、土煙になって舞う。

 

「ちっ・・・!煙で姿を隠そうって腹か!」

 

俺の行動に気付いたような言い草する悪魔。動き回り続ける俺にあの悪魔がとった行動は、

 

「ガキ風情の知恵なんざ、俺に通用するかよ!」

 

背中に蝙蝠のような翼を広げ、力強く動かし始めた。

その拍子に、土煙が吹き飛ばされてしまった。

でも、そんなことされることぐらい俺も分かっていた。煙が吹き飛ばされたと同時に

無防備な悪魔に突貫し、拳を前に突き出した。―――刹那。俺の拳は、

悪魔の前に現れた魔方陣に直撃した。魔方陣を壊すことができず、俺の拳はそこで止まった。

 

「―――掛かったなぁ?」

 

「っ・・・・・!」

 

「さっきの一発を倍返しにしてやらぁ!」

 

カッ!と魔方陣が光り輝いた。今の状態で避けることはできず、

 

ドドドドドドオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

魔方陣から出てきた数多の魔力の塊に直撃した。

 

「イ、イッセェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!」

 

リアス・グレモリーが悲鳴をあげた。

 

「(やっぱり・・・・・俺はまだ弱いのか・・・・っ)」

 

グレートレッドさんに鍛えてもらって数ヵ月。まだまだ強くなっていなかった。

 

『一誠、我が鍛えるのだ。お前は誰にも負けてはならないぞ?負けたら許さない。よいな?』

 

―――――っ!

 

そうだ。あのヒトが言ったじゃないか・・・!そして、俺も誓ったんだ。

もっと強くなるって・・・!

 

「っ・・・!」

 

ズザザッ!

 

「な・・・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

倒れそうになった。でも、足に力を入れて何とか立った。

 

「・・・・・俺の攻撃をモロに食らったんだぞ。

普通、人間のガキなら意識を失うか、死んでいる。

俺は手加減なんてしていねぇ・・・・・なのに、お前はどうして立っていられる!?」

 

どうして立っていられる・・・・・?・・・・・はっ、決まっている。

と、心の中で笑いながら、真っ直ぐ悪魔に瞳を向ける。強い決意を籠めた瞳を―――。

 

「俺は絶対に誰にも負けれないんだ。負けることも許せない。

どんな時でも何事でも絶対に、負けられないんだ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

悪魔は俺をジッと見つめる。その瞳に恐怖の色が浮かんでいない。

まるで懐かしそうに何かを見詰めているような感じだった。

 

「・・・・・お前の名を聞いてやる」

 

「・・・・・姓は言えない。名前は一誠だ」

 

「一誠・・・・・」

 

ポツリと俺の名を呟いた。

 

「・・・お前みたいな人間のガキを見るのは初めてだ。

どこまでも純粋で真っ直ぐ、勝利に向かうその心を持っているガキをな」

 

「・・・・・」

 

急に殺意がなくなった。戦意も消えた。でも、腕を頭上に翳した。

開いた手の平の先に魔方陣を展開させて―――大きな魔力の塊を放った。

一拍して、花火のように魔力の塊は轟音と共に散った。

 

「これで、魔王や神王がここに駆けつけてくるだろう。俺は逃げさせてもらう」

 

悪魔は足元に魔方陣を展開した。ここからいなくなろうとする悪魔に口を開いた。

 

「どうして、戦うのを止めたんだよ」

 

「・・・・・はっ、お前を殺しても結局は魔王たちが駆けつけてくるだろう。

どっちに転んでも俺は良い状況には転ばない。なら、諦めて逃亡するだけさ」

 

「・・・一つ聞きたい。シャガとシャーリーって悪魔は知っている?」

 

「・・・・・悪いが聞いた事のない名の悪魔だな」

 

そうか・・・・・知らないか。心の中で嘆息する。

 

「クソガキ。俺は何時かお前に再チャレンジをする。お前が成長するにつれ、

俺も強くなっているだろう。そんでお互い、今より強くなったらもう一度死闘をするぞ」

 

と、一方的にそれだけ言い残して悪魔は俺の前から姿を消した。

リアス・グレモリーたちを縛っていた縄も消失した。

 

「・・・・・不完全燃焼だよ。あの木端悪魔」

 

「―――イッセーッ!」

 

愚痴を言う俺は、リアス・グレモリーに呼ばれた。

振りかえって、「大丈夫か?」と言おうとした。

 

「お前ら、だい―――」

 

と口を開いたその瞬間。リアス・グレモリーに抱きつかれた。

 

「・・・・・はい?」

 

なぜ、俺を抱きしめる・・・・・?訳が分からないと唖然となった。でも・・・・・。

 

「ありがとう・・・・・ありがとう・・・・・イッセー」

 

「・・・・・」

 

感謝された。他の四人も近づいてきて俺に感謝の言葉を送ってくる。

 

「イッセーくん凄い!はぐれ悪魔を追っ払うなんて信じられない!」

 

「凄い怪我・・・・・シア。イッセーくんに回復魔法を」

 

「勿論だよ!」

 

「イッセーさま、横になってください」

 

ワイワイと俺を介護し始める。リアス・グレモリーも加わり、そんな五人に困惑する。

―――その時だった。この公園に数多の魔方陣が現れた。

そして、魔方陣の光と共に大人数の男と女の人が姿を現した。

中には武器を持っている人もいた。

 

「あっ、お父さん!」

 

「・・・・・え?」

 

リシアンサスの口から出た言葉に耳を疑った。

うん、どう見ても・・・・・強い人たちばかりだよ。

 

「シア!大丈夫だったかぁ!?」

 

「ネリネちゃんとリコリスちゃん!」

 

「ソーナちゃーん!」

 

「リアス・・・・・良かった。無事のようだね」

 

四人の男女の人たちがリアス・グレモリーたちに詰め寄ってきた。

 

「すまねぇシア!会議に夢中になってお前を放ってしまった俺を許してくれぇ!」

 

「ああもう、お父さん。そんな泣かないでよ。

私たちこそ勝手にいなくなっちゃってごめんなさい」

 

「ネリネちゃんとリコリスちゃんもごめんよ。こんなパパを許しておくれ」

 

「だ、大丈夫ですお父さま」

 

「うん、寧ろ私たちが謝らないといけないよ。ごめんなさい」

 

「リアス・・・・・今度から私に一言告げてから遊んで欲しい」

 

「はい・・・・・ごめんなさい」

 

「ソーナちゃん!ソーたん!ソーナちゃん!ソーたん!」

 

「お姉さま!私の愛称に『たん』を付けないでください!

か、彼が見ている手前で抱きつかないでください!」

 

・・・・・なんか、個性豊かな人たちだな。

この人たちが五人のお父さんとお兄さんとお姉さん?

 

「(というか・・・・・そろそろいなくなった方が良さそうだな)」

 

嫌な予感と言うか、厄介事が怒りそうな予感がしてしょうがない。

物音立てず、ゆっくりとこの場からいなくなろうと―――。

 

ガシッ!

 

「おっと、ちょい待ちな」

 

・・・・・つ、捕まった・・・・・。

俺の肩を力強く掴む人に恐る恐ると首だけ後ろに向ける。

 

「坊主だな?娘のシアを守ってくれたのは」

 

「えっ、えっとぉ・・・・・」

 

「あぁ?そうなのか違うのかハッキリと言いやがれ!」

 

な、なんなのこの人は・・・・・!?

とてつもない威圧感を放つ男の人に思わず頷いてしまった。

 

「こらこら神ちゃん。私たちの娘をはぐれ悪魔から救ってくれた彼に

そんなことをしてはいけないよ」

 

「むっ・・・そうだったな。すまねぇ・・・・・」

 

肩を掴む手を離してくれた。ジンジンと鈍く痛みが伝わる肩を擦って、警戒する。

―――逃げるために。

 

「警戒しなくても大丈夫だよ」

 

リアス・グレモリーと同じ色の髪を持つ男の人が、苦笑して言う。

 

「私はサーゼクス・グレモリー。リアスの兄だ」

 

「あなたが・・・・・リアス・グレモリーのお兄さん?」

 

「ああ、そうだよ。すまないね。どうやら怯えてしまったようだね」

 

いや、怯えているわけじゃないんだけど・・・・・。

早くここからいなくなりたいから警戒をしているだけで・・・・・。

 

「ねぇねぇ、キミの名前は?私、セラフォルー・シトリーっていうの。

ソーナちゃんのお姉さん☆」

 

ツインテールの女の人がニッコリと笑みを浮かべる。

そこへリアス・グレモリーが口を開いた。

 

「お兄さま。彼は一誠と言うの」

 

「姓の名を教えてくれませんが、決して怪しい子じゃないです」

 

「うん!私たちを守ってくれたもの!絶対に悪い子じゃない!」

 

そこっ!話しを広げないでくれ!これ以上言ったら―――。

 

「「「「一誠?」」」」

 

・・・・・あっ、聞き覚えがあるぞ?って感じに言ったよこの人たち・・・・・。

 

「・・・・・サーゼクス。もしや・・・・・この子があの例の子では?」

 

「・・・・・確かにあの二人の面影があるな・・・・・」

 

―――やばい、俺のことを探している人たちか!?

 

「―――さようなら!」

 

ドヒュンッ!

 

「あっ!?」

 

「イッセー!?」

 

リアス・グレモリーたちが何か言ってくるけど、答えている暇はない!

 

「まさか、本当にあの二人の子供か!?」

 

「だとしたら、直ぐに保護しないと!」

 

「ここで見逃したら次どこで見つかるか分からないぞ!?」

 

「衛兵!あの子を追うんだ!決して手荒に捕まえるな!」

 

『は、はいっ!』

 

「というか、俺たちが追いかけて行った方が早い!」

 

げっ!?一番厄介そうな人たちが追いかけてくる!

 

「おい待て坊主!」

 

「待てと言われて待つ人はいるかよ!」

 

「話しを聞いて!私たちはあなたとお話がしたいの!」

 

「さようなら!」

 

「即答!?」

 

ダダダダッ!と俺は駈け出す。だけど、残念だ。あっちの方が速い!

 

「ぼぉーうぅーずぅーっ!」

 

やばい!このままだと捕まる!どうすれば―――!

 

『―――主、グレートレッドから伝言です。そのまま走れと』

 

不意に、俺の中から声がした。このまま走れって・・・・・!

と、焦心に駆られながら疑問を浮かべていると、目の前の空間がぽっかりと穴が開いた。

―――あの穴の中に飛び込めってことか!

 

「不味い―――!」

 

リシアンサスのお父さんがさっきよりも速く駆けつけてきた!

そして、俺の向かって手を伸ばしてくる。

 

「逃がすかぁ!」

 

「っ・・・・・!」

 

穴の中に入る前に捕まる。と、そう感じて後ろに振り返り、

俺に伸ばす手を右手で反らし、左拳を男の人の腹部に思いっきり突き出す。

 

「ごめんなさいっ!」

 

「っ!?」

 

ドゴンッ!

 

男の人を吹っ飛ばそうとしたが、逆に俺が吹き飛ばされた。か、硬い・・・っ!

今の絶対にダメージなんて与えた感じじゃなかった!でも・・・俺は穴の中に飛び込めた。

 

「(できれば、もう二度と会いたくない人の類だな)」

 

俺はそう思いながら、出口へと転がり落ちていくのだった。

 

―――○●○―――

 

 

「神ちゃん!」

 

「・・・まー坊」

 

「・・・・・あの子は?」

 

「逃げられた。この俺に一撃を与えてな」

 

「あの子が神ちゃんに?」

 

「ああ、その上・・・いい一撃だった。魂が籠った拳を俺の胸に突き刺したんだぜ?」

 

「しかし・・・・・どうしてあの子は私たちから逃げたのだろうか?」

 

「私たちを怖がっているような感じじゃないけど・・・・・どうして・・・・・」

 

「だが、間違いなくあの子はどこかで生きている。それが分かっただけでも十分な情報だ」

 

「でも・・・・・変なところで育てられていないかしら・・・・・」

 

「いーや、あの坊主は間違った育てられ方をしていない。坊主の一撃を受けた俺が分かる。

その上、『ごめんなさい!』って謝ったんだぜ?」

 

「・・・・・そうか。とりあえず、会議が終了次第。

他の魔王の方々にもお伝えしなければならないね」

 

「こっちもそうだな。ヤハウェさまがこの事を聞いたら安心するだろうよ」

 

「では、あの子たちのもとへ戻ろうか」

 

「あー、何て言えばいいんだがなぁー」

 

「そうだね。それが一番の難題かもしれないよ」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最強の邪龍

ハイスクールD×D改に投稿した話です。殆ど同じ話しなのでご了承ください。


リアス・グレモリーたちと出会い、別れて数年が経った。あれから俺は実力を身に付け、

新しい力を手に入れた。だけど、まだまだ俺は弱い。だから、もっともっと強くなる。

目標はグレートレッドさんを倒すことだからね。

 

「はあっ!」

 

ドゴンッ!

 

『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』

 

動く土の塊のモンスターの腹部に拳を突き出した。

その衝撃でモンスターは地鳴りを立てながら背中から倒れる。

だけど、これだけじゃまだ倒れたとはいえない。

 

「消えろ!」

 

紫の宝玉に黒い籠手を装着していた手の平から赤黒いオーラを放ってモンスターの体を、

命ごと消滅した。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

最後にこの力を使わないと勝てないか。・・・・・まだまだ俺は弱い。

もっと、もっと強くならないと・・・!

父さんと母さんを殺したあいつらに復讐なんてできない・・・!

 

『主、復讐が全てではないです』

 

右の手の甲に金色の宝玉が浮かんだ。

その宝玉に呼応するかのように装着している籠手、紫の宝玉が点滅した。

 

『メリアの言う通りだ。復讐にこだわり過ぎる。それほど許せないのか?』

 

許す許せないの問題じゃない。俺がやりたいんだ。

あの三人を殺して、あの時したかった事をやり遂げたいんだ・・・!

 

『『・・・・・』』

 

こんな俺が嫌なら自由に生きても構わないよ。

元々、メリアたちは友達と一緒に暮らしていたんでしょ?探さないの?

 

『・・・・・我らの友を探そうにも行方が分かりません』

 

『その上、主には恩がある。我らは主を尽くすと、あの時誓った。

主を放っておいて好きに生きることはできない』

 

・・・・・変わったドラゴンだね。ドラゴンってカッコいいけど、

グレートレッドさんから聞くと悪いイメージしかないんだけど。

 

『良いドラゴンもいれば、悪いドラゴンもいるという事だ』

 

『悪いドラゴンは退治される運命ですがね』

 

「じゃあ、キミたちは悪いドラゴンなの?」

 

そう言うと沈黙で返された。でも、すぐに言葉が返ってきた。

 

『我らはなんというか・・・・・悪い事をした友に巻き込まれた形で退治されたのです』

 

「うわ・・・・・可哀想だね」

 

『どれだけ弁解しても、あの神は聞く耳を持たず問答無用と退治したのだ。

まったく、はた迷惑なことであの時の事を思い出すと・・・・・ムカつく』

 

ははは・・・・・その神は今でも生きているの?

 

『生きているでしょう。神は全知全能の存在であり、人を産んだ存在でもあるのですから』

 

凄いな・・・・・何時かその神さまに会ってみたい。

 

『ええ、お願いします。ゾラード共々あの神に会って言いたいことが山ほどあるので』

 

『そうだな。我らの友の居場所も聞きだす必要もある』

 

なんか、メリアとゾラードが気合が入っているね。それほどまで神に対して許せないのかな。

 

『では主、次は翼を展開して長時間の浮遊です』

 

「うん、分かった。―――禁手(バランス・ブレイカー)

 

お母さんから受け継いだ神器(セイクリッド・ギア)の力を極限にまで高めた結果、

背中に12枚の金色の翼が生えた。翼を羽ばたかせて紫色の空の下で何時間も飛び続ける。

 

「冥界って嫌な空の世界だね」

 

『悪魔はそんなイメージの存在でもありますから』

 

「・・・俺って悪魔と勝負したらどこまでいけれるかな」

 

『主の現在の体力を考えれば、上級悪魔程度ならいけるだろう。しかしだ。

我らの力も未だ、完全にコントロールしていないからな。

そこを歴戦練磨の上級悪魔に突かれていまえば負けるだろう」

 

・・・・・結局、まだまだ俺は弱いってことか。もっと強くならないと・・・・・。

 

『主、復讐のために強くなっても意味がないとグレートレッドが仰っていたではないですか』

 

「・・・・・分かってる。復讐だけじゃない、俺の夢のためにも強くならないと」

 

『・・・分かればいい。だが、復讐する相手が目の前に現れても己を見失ってはダメだ。

それでは、今まで積み重ねてきた修行と鍛練の意味がない』

 

「(・・・・・気をつけるよ)」

 

とてもじゃないが、

復讐する相手が目の前に現れたら・・・邪魔する奴も殺してしまいそうだ。

 

―――○●○―――

 

「はぁ・・・・・疲れた」

 

森の中で川から獲った魚もどきを焚火で焼いている。

今日の修行メニューを終えた時にはすでに周りが暗くなっていた。

 

『お疲れ様です』

 

「ん、ありがとう・・・・・」

 

辺りは静寂に包まれている。この場にいるのは俺しかいない。

まるで孤独のようにも思える。魚もどきも焼けてきたし食べようと伸ばす。

 

「・・・・・獲って何だけど、これって食べれるのかな」

 

『すまない、分かりかねる。だが、食って体調を崩した場合は我らの力で治す』

 

どっちみち、食べないと分からないんだね。・・・・・意を決して魚もどきを一噛みする。

 

「・・・・・ん、意外といける」

 

『それは良かったです』

 

冥界の魚も美味しいんだ。これを使った料理をしてみたいな。調理器具はないけど。

そんな事を思いながら魚もどきを食べ続けていると流石に物足りない事を口にする。

 

「この森ってネズミとかフクロウとかいないのかな」

 

『人間界の世界とは違い、冥界は魔物の類しかいない』

 

『ですので、主が求めているような存在はいないかと』

 

そうなんだ。できれば、妖精とかちっちゃい生物でもいいから触れたい。

もう、グレートレッドさんとリーラと離れて1ヵ月は経っているもん。寂しく感じるぞ。

 

『ふふっ、グレートレッドは主の母であり姉でもありますからね。

この修業期間を終えたら甘えるといいでしょう。あのドラゴンも主の事を―――!』

 

メリアが微笑ましそうに喋った。でも、途端に喋らなくなった。

 

「どうしたの?」

 

『・・・・・主、こっちに近づく存在がいます』

 

『なんだ・・・・・このプレッシャーは・・・・・グレートレッドほどではないが、

かなりの力を持つものが放つオーラだ』

 

・・・・・メリアたちがかなり警戒している?俺には何も感じないんだけど・・・・・。

 

ザッザッザッ。

 

草と土を踏む音が真っ直ぐこっちに近づいてくるのは分かる。

腰を上げて臨戦態勢になって足音がする方へ視線を送ると、

火の明かりによってこっちに来た存在の姿を捉えることができた。

黒いコートに身を包んだ長身の男の人、金色と黒色が入り乱れた髪。

その双眸は右が金で、左は黒という特徴的なオッドアイだった。

 

「―――珍しい、冥界に人間がいるとはな。しかもまだ子供か」

 

「・・・・・」

 

開口一番に俺を見据える謎の男。さらに口を開いた。

 

「ほう・・・・・ドラゴンを宿しているのか。それも2匹」

 

「っ!?」

 

メリアとゾラードの事を見抜いた!?初めて出会ったばかりの人がどうして・・・!

 

「そう警戒するな。お前を如何こうするようなことはしない。

俺は冥界で修行をしに来たのだ」

 

「・・・・・修行?」

 

「俺は戦いと死を司る存在でね、人間界や冥界に訪れては修行や見聞をしている」

 

戦いと死を司る・・・・・?ゾラード、どういうこと?

 

『・・・・・我が幻想を司るドラゴンであれば、

メリアは創造を司るドラゴンだという事は覚えているな?』

 

うん、最初に出会ったときにそう言っていたね。

グレートレッドさんは夢幻を司るドラゴンだってことも。

 

『ドラゴンにはそれぞれ何かしらの力を司っている』

 

『力を司っていないドラゴンもいますがね』

 

それも聞いた。それで?

 

『つまり、主の目の前にいる存在はドラゴンと言う事です』

 

「・・・・・え?」

 

それ本当?唖然とする俺を余所にゾラードが警戒しているような声音で語りだした。

 

『噂でしか聞いた事がなかったが、よもやここで出会うとは・・・・・。

三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)―――クロウ・クルワッハ』

 

三日月の暗黒龍・・・・・クロウ・クルワッハ・・・・・?

 

「ドラゴン・・・・・?」

 

「ああ、その通りだ」

 

隠すこともなく目の前の男の人は肯定した。その証拠と言わんばかりに背中から翼が生えた。

ガイアのような真紅の翼じゃなくて、漆黒の翼だった。

 

「・・・・・ッ!?」

 

「再度言うが警戒はするな。お前を襲いに来たのではない。

感じたことがない力がある龍の波動の正体を確かめにやって来たまでだ」

 

「・・・・・それで、感想は?」

 

「興味深い、と言っておこう」

 

興味深い?眉を寄せて怪訝に視線をクロウ・クルワッハに向ければ、

何故か俺の前の前で腰を下ろした。

 

「お前の名はなんだ?」

 

「・・・兵藤一誠」

 

「・・・・・兵藤・・・・・そうか」

 

なるほどな、と口元を緩ましたクロウ・クルワッハ。

どうした?と、問うと首を横に振って答えてくれなかった。

 

「お前は一人か?」

 

「もう二人家族がいる。でも、俺をここに置いて帰っちゃった。

修業期間は3ヶ月と言い残して」

 

そう言うと、いきなり苦笑いをした。

 

「こんな小さな人間を置いて3ヶ月間も放置とは・・・・・良く生きていられるな」

 

「メリアとゾラードが一緒だから生きていけれる」

 

「メリアとゾラード・・・・・なるほど、それが2匹のドラゴンの名か」

 

口の端を吊り上げてクロウ・クルワッハは、俺が獲った魚を食べ始めた。

 

「俺も修行しに冥界に来たといったな」

 

「そう言ったね」

 

だからどうしたんだ?と首を傾げると真っ直ぐ俺を見据えて口を開いた。

 

「お前に興味がある。しばらくはお前の傍にいよう。修行も兼ねてな」

 

『『・・・・・ッッ!?』』

 

「俺、修業期間が終えたら迎えが来て帰るけど?」

 

「構わん。俺が好き勝手にいるだけだからな」

 

フッ、と小さく笑みを浮かべたクロウ・クルワッハ。

おかしな人・・・・・いや、ドラゴンだったな。

こうして俺とクロウ・クルワッハは一緒に修行することになった。

 

―――○●○―――

 

一日目

 

 

「この崖・・・・・どこまで高いんだよ・・・・・っ!」

 

「天国までだったりしてな」

 

「冥界に天国なんて存在するの?」

 

「ここは地獄だ。下に落ちて打ち所が悪ければ即地獄行きだぞ?」

 

「恐い事を言わないでよ!?」

 

隣で涼しい顔で崖を登るクロウ・クルワッハ。

この辺りの場所では一番高く、この聳え立つ山と思わせるほどの岩の塊に手と足だけで

登っている。上を見上げればまだ頂上が見えない。

どこまで高いんだと思っていた時、クロウ・クルワッハは促してきた。

 

「下を見ろ。絶景ではないか」

 

「絶対に見ない!上だけ見る!」

 

「そうか―――怪物が這い上がっているのにな」

 

「・・・・・はい?」

 

とんでもない事をクロウ・クルワッハが言った事に顔を下に向けると―――。

 

ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

頭が恐竜、体が四肢のモンスターが口を大きく開けて迫ってきている。って、えええええ!?

 

「な、なんだあれ!?」

 

「確か・・・・・ティガレックスとか言う邪龍の中で下位の存在であったな。

特徴的なのは、凄まじい咆哮を上げながら突進する。まあ、雑魚な存在だ」

 

「冷静に分析しているけどさ!早く上に登ろう!喰われちまう!」

 

「そうだな。―――では、先に行くぞ」

 

え・・・・?とクロウ・クルワッハに視線を向けていると、

あいつは物凄い速さで走って行った!

 

「・・・・・」

 

呆然としていると、下からティガレックスとか言う邪龍が迫っている事に気付いて、

急いで手と足を使って登り始める!

 

「うおおおお!喰われてたまるかぁああああああああ!」

 

 

二日目

 

 

とある凄まじい勢いで水が流れ落ちる滝にクロウ・クルワッハといた。

その膨大な量の水に全身を打たれながら座り、雑念を消して心を無にし座っている。

 

「「・・・・・」」

 

これをかれこれ1時間もしている。横目でクロウ・クルワッハを見れば瞑目して一瞬たりとも

身動ぎもしていない。凄いな、と思いながらも対抗心が燃えて瞑目して心を無にし続ける。

 

―――ザッパァアアアアアンッ!

 

水が弾ける音が聞こえた。でも、気にしない気にしない。心を無に―――。

 

『主、モンスターが現れました』

 

「・・・・・ん?」

 

メリアにそう言われて目を開けた。

―――目の前に蛇のような巨大な生物が敵意が籠った瞳で―――大きく開けた口のまま迫ってきた。

 

「手助けは?」

 

クロウ・クルワッハが瞑目したまま問うた。でも俺は否定した。

 

「大丈夫」

 

腰を上げてその場から跳躍した。そのままモンスターの口の中に飛び込めば急に暗くなった。

紫の宝玉がある黒い籠手を装着して赤黒いオーラを鋭く鋭利な包丁のように形を整えて―――。

 

「はぁっ!」

 

回転して中からモンスターの体を斬った。

一拍して、光が暗黒の世界を照らすように暗かった空間が、外からの光によって照らした。

その光に向かって行けば、紫色の空が視界に飛び込んできた。

 

ザッパアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

モンスターの体が滝の水に倒れた。

その身体の上に乗っかれば、クロウ・クルワッハが立ち上がっていて、

とある方へ指を差した。その差した方へ顔を向ければ―――。

倒したモンスターと同じモンスターが何10匹も俺を睨んでいた。

 

「手助けは?」

 

さっきと同じ言葉で問うてきた。流石にあんな数のモンスターと戦う体力はない!

 

「・・・お願いします」

 

冷や汗を流して今度は了承する。

 

「くくっ、わかった。共に倒しながら暗黒龍の力を見せてやる。―――いくぞ」

 

「ああ!」

 

それからと言うと、クロウ・クルワッハは3分の2のモンスターを倒した。

俺も頑張って倒したが、まだまだ足元にも及ばなかった。悔しいな。

こんな気持ちはガイア以外で初めてだった。

 

 

三日目

 

 

「ドラゴンを宿しているのに天使の翼か」

 

空を飛んでいる最中。クロウ・クルワッハに話しかけられた。

確かにドラゴンの翼も展開できるけど、こっちが好きだな。綺麗だし。

 

「さて、もう少しだけ飛行の速度を上げるぞ。ついて来れるかな?」

 

「死に物狂いでついていく」

 

「いい返事だ。では、行くぞ」

 

クロウ・クルワッハが翼を羽ばたかせば、物凄い勢いで俺から離れた。

俺も翼を羽ばたかせて後を追う。

 

―――数時間後

 

「ふむ・・・お前が作るものは美味しい」

 

一日の修行を終える頃には夜となり、昨日滝で倒したモンスターを炎で焼いて、

その肉を豪快に食べたクロウ・クルワッハが称賛した。そんな様子に疑問をぶつけた。

 

「ドラゴンって食べるんだな」

 

「力の塊である存在でも空腹はする。中には人間を食らうドラゴンもいるがな」

 

「クロウ・クルワッハもそうなのか?」

 

「食わん」

 

そうなんだ。それにしても、本当に変わったドラゴンだな。

 

「人の形で生きるドラゴンって珍しいね」

 

「まあ、気持ちは分かる。俺も元の姿と人間体で力が違うのかと思えば、そうでもなくてな。

こちらのほうが何かと小回りも聞いて良いと知ったのだよ。

迫力としては元の姿が一番なのだがな」

 

「どうして、冥界と人間界を行き来しているんだ?故郷には戻らないのか?」

 

「故郷・・・・・もはや俺には帰る場所がない。

故郷にいた頃は、キリスト教の介入が煩わしくて自分から去ったのだ」

 

キリスト教?初めて聞く単語だった。

首を傾げると「神を信じる人間達の集団だ」とクロウ・クルワッハが説明してくれた。

 

「神か・・・・・また聞いたな。神って悪い存在なの?」

 

「善と悪が存在するこの世は、必然的に良い神がいれば悪い神もいる。

神も様々だということだ」

 

「神って一人だけじゃないんだ?」

 

「そうだ。例を挙げれば・・・この冥界の最下層、冥府にいる死神のハーデスだろう」

 

「ハーデス?・・・・・あっ、骸骨のお爺ちゃん?その人なら知っているよ」

 

そう言うと、キョトンとクロウ・クルワッハが見詰めてきた。

 

「なに?」

 

「そっか、あのお爺ちゃんって神さまだったんだ。じゃあ、北の神さまのオー爺ちゃんと

天空の神さまもそうなの?インドラっていうおじさんやお猿さんのお爺ちゃんとか、

海の神さまのおじさんもそうかな?」

 

「・・・・・」

 

訊ねるように言ったら、クロウ・クルワッハは目を丸くしていた。

 

「お前・・・・・どんな神と会っているのか知っているのか?」

 

「お父さんとお母さんの友達ぐらいしか知らないけど」

 

「・・・・・メリアとゾラード。そうなのか?」

 

クロウ・クルワッハがメリアたちに問うた。でも、聞いても分からないよ。

 

『我らは主の両親と会ったことがない。神に封印されていたからな』

 

『主と出会った時には主の中におりましたので』

 

「そうか・・・聞くが、お前の両親はどこにいるのだ?」

 

「・・・・・」

 

そう訊ねられて・・・・・俺は強く手を握って言った。

 

「悪魔と堕天使に殺されたよ・・・・・」

 

今でも忘れないあの光景。あの時の事を思い出すたびに怒りと殺意が沸く。

殺したい、俺の大切な家族を殺したあいつらを殺したいっ!

 

「―――くくくっ」

 

クロウ・クルワッハが笑みを浮かべ出した。なに?何が可笑しいの?

 

「普通の人間が放つ凄まじい殺気と禍々しいオーラではないな。

ますますお前に興味を持った」

 

「・・・・・」

 

「兵藤一誠、俺と共に世界を周り修行と見聞をしてみないか?

もしかしたらお前が殺したい悪魔と堕天使に会えるかもしれないぞ?」

 

「っ!?」

 

それを聞いてますますあの3人に対する復讐心が昂り、殺意が沸き上がった時。

メリアとゾラードが話しかけてきた。怒声を上げて、

 

『主!殺意と怒りを抑えろ!』

 

『クロウ・クルワッハ!主を悪に染める気ですか!?』

 

「いや、そんな事をする気はない。

ただ、こいつを連れて世界を見て回ると面白そうだと思って誘ったまでだ」

 

口の端を吊り上げて笑みを浮かべるクロウ・クルワッハ。

こいつと一緒に行けば・・・・・あいつらと出会えるのか?

 

「どうする兵藤一誠。俺と来るか、お前の家族とやらといるか、お前が決めろ」

 

真っ直ぐ瞳を俺に向けて問うてくる。―――夢と復讐―――。

どっちを選ぶか、選択を突きつけられた。

 

「お前の人生だ。お前自身で決めなければ前に進めない」

 

そう言われ、俺は・・・・・決めた。

 

「クロウ・クルワッハ・・・・・」

 

「決まったか?」

 

「・・・・・俺は」

 

一つの選択を言おうと口を開いた。―――次の瞬間。

 

「我が愛する者を我の承諾も無しで連れて行こうなどと言語道断」

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

上空から聞こえた久し振りに聞く声と共に真紅の一撃が、

俺とクロウ・クルワッハに直撃した。その余波の中、金色の六対十二枚の翼で防いでいると

誰かに抱きしめられる温もりが感じた。

 

「一誠。大丈夫か?」

 

背中から抱きしめる綺麗な真紅の髪を靡かせる女の人・・・・・。俺のお母さんであり、

姉でもあり、師匠でもある存在が、俺の顔を覗きこんで安否を確かめる言葉を口にした。

 

「どうして・・・まだ修業期間は終わっていないのに」

 

「お前の様子をずっと見守っていたのだ。そしたらどうだ、

お前を我から拐かす(かどわ)愚かな邪龍がいたではないか」

 

ギュッと離さないばかり胸に埋められた。・・・・・久し振りに感じる温もり。

このまま感じながら寝たいと思った矢先、俺と彼女に黒い大きな球体が迫ってきた。

 

「―――ふん」

 

鼻を鳴らして背中に真紅の翼を果たしたかと思えば、翼で黒い球体を真上に弾いた。

―――その直後。上空に轟音が鳴り響いた。森は爆風でなぎ倒されるとばかりに揺らいだ。

しばらくすれば風が収まって、俺を抱きしめる彼女は視線を森の奥へ向けた。

 

「我に通用すると思ったか?」

 

「・・・・・」

 

森から現れたのはクロウ・クルワッハ。さっきの一撃はあいつが・・・・・?

 

「これは驚いたな。

まさか、あの不動の存在が兵藤一誠と繋がっているとは思いもしなかった」

 

「それはこちらのセリフとも言えよう。

―――邪龍の筆頭格とも言われているお前が一誠と修行とはな。我は目を疑ったぞ」

 

「ふふふ・・・、ますます兵藤一誠に興味を持ったぞ。

あの真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッドが人間の子供を育てているとはな」

 

そう、今も尚も俺を抱きしめる彼女は真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッド。

真龍、又はD×Dと周りから称されている不動の存在の龍だ。

 

「一誠は我の友の忘れ形見だ。

それにこの子に鍛えて欲しいと頼まれて我はその願いを叶えているだけに過ぎない」

 

グレートレッドさんの話を聞いて顎に手をやってクロウ・クルワッハは納得した仕草をする。

 

「なるほど、そう言う事か。お前もあの2人と出会っていたとはな。

これは必然的なことか?それとも偶然か?」

 

・・・・・何を言っているんだ?それにあの2人って・・・・・誰の事だ。

グレートレッドさんも怪訝にどういうことだ、と問うた。

 

「―――兵藤誠と兵藤一香、知っているな?」

 

「「っ!?」」

 

「俺もあの2人の人間と何度か出会い、勝負をした仲だ。

あの人間の子供だと知った時は嬉しかったぞ。

俺が鍛えてやればあの2人のように強くなると思ったからな」

 

だから、俺を誘ったのか?復讐ができると言って

俺をグレートレッドさんから離そうと・・・・・?

 

「残念であったな。一誠の師匠は我だ。邪龍のお前が出る幕ではないわ」

 

胸を張ってグレートレッドさんは堂々と言った。

しかし、クロウ・クルワッハは下がろうとはしなかった。

 

「そうだろうな。だが、放任主義とは些か問題ではないか?」

 

「ふん、このぐらいのことでくたばるような男ではない。

我の男は強く逞しく生きる男ではないとダメなのだ」

 

だからって猛獣の群れに放り込まないでよ!?何度も死ぬかと思ったんだぞ!

 

「邪龍が鍛えることができるとは思えないがな」

 

「真龍も似たようなものであろう?」

 

「「・・・・・」」

 

それから2人は睨むように対峙した。それは長く続くかと思ったけどアッサリ終わった。そう、

 

「だったらこうしよう。我の一誠がお前の体に傷を負わしたらこのまま我が一誠を鍛える。

もしもお前の体に傷を負わすことができなければ一誠を連れていくがいい。

我の鍛え方がダメだという意味にもなるからな」

 

「はっ!?」

 

「ふむ、妥当だな。いいだろう、お前の口車に乗ってやる」

 

「えええっ!?」

 

俺がクロウ・クルワッハと戦うことを前提で睨み合いが終わった。

 

―――○●○―――

 

「グ、グレートレッドさん・・・・・どうしてあんなことを言ったの・・・・・?」

 

俺達がいる場所は遮蔽物がない場所。そこに移動してすぐ、涙目で問うた。

まだグレートレッドさんに勝ったことがないの上に、

メリアとゾラードが警戒するほどのドラゴンと戦うなんて信じられないよ!

 

「一誠、我はお前を信じてあのようなことを言ったのだ。

お前ならあいつを倒すまでとはいかないだろうが、傷程度なら負わすことができるとな」

 

「本当?俺、まだ弱いのに・・・・・できるのかな・・・・」

 

自信がないよ、と頭を垂らす。いままでクロウ・クルワッハといたから分かったことがある。

あいつは自分よりはるかに強いと。そんな相手の体に傷を負わすことができるのか?

不安と緊張で一杯の俺の頭にグレートレッドさんが撫でながら話しかけてきた。

 

「大丈夫だ。お前はあの2人の子供だ。あいつの体に傷を負わす可能性を秘めているはずだ」

 

「・・・・・」

 

「それにお前だけではないだろう?共に戦うのは一誠だけじゃない。

メリアとゾラードがいるではないか」

 

・・・・・そうだ。俺にはメリアとゾラードがいるんだ。

何時も傍にいてくれる家族がいるんだ。

 

「自信を持て。相手は邪龍だろうがなんだろうが、お前の強さを見せ付けてやれ。

お前の強さを我にも見せてくれ」

 

「グレートレッドさん・・・・・」

 

「我が愛しい一誠。頑張ったらご褒美を与えるぞ」

 

ご褒美・・・・・何だろう。凄く気になる響きだ。

 

「うん・・・・頑張る」

 

欲望に負けた俺は頷き、クロウ・クルワッハの前に移動した。

 

「クロウ・クルワッハ」

 

「なんだ?」

 

「さっきの問いの答え、言ってなかったね」

 

「そうだったな。では、聞こうか。お前の答えを」

 

夢か復讐か、俺が選んだのは―――。

 

「傲慢だけど、両方だ!どっちも俺の存在意義なんだ!どっちも死んでも捨てきれない!」

 

「・・・・・そうか、人間らしい答えだな。―――こい」

 

侮蔑する訳でも、嘲笑する訳でも、俺の選択にクロウ・クルワッハはただそれだけ言って、

かかってこいと手招いた。

 

禁手(バランス・ブレイカー)ッ!」

 

強く叫んだ。俺の背中に六対十二枚の金色の翼が生え、髪が金髪になって、

頭上に金の輪っかが出て来て、瞳が蒼と翡翠のオッドアイになった。

 

「はっ!」

 

翼から柱のように真っ直ぐ、金色のレーザー光線がクロウ・クルワッハに向かっていった。

俺の一撃をクロウ・クルワッハは、避ける素振りもせず腕を横に薙ぎ払っただけだ。

―――俺の攻撃は横に反れて明後日の方に直撃した。

 

「いい攻撃だ。だが、暗黒龍と称されている俺を倒すどころか傷を付けるには、

まだまだ力不足だ」

 

「分かっているよ!」

 

翼を大きく広げて、鋭く物を斬るようにクロウ・クルワッハへ四方八方から攻撃をした。

 

「ほう、面白い攻撃だ。が、まだまだ攻撃速度が遅い」

 

ドドドドドドドドッ!

 

切り裂く対象が避け続けた事で、翼が地面に突き刺さる。くそ・・・!でも、まだまだだ!

 

「痺れろ!」

 

ビッシャアアアアアアアアアンッ!

 

地面に突き刺さった翼から雷が発生して、翼に囲まれているクロウ・クルワッハに直撃した。

どうだ!

 

「・・・・・」

 

全身に雷が駆け巡っているはずの相手が悠然と前に進んでくる。

まるで効いていないかのように。ま、マジで・・・・・?

 

「―――今度は俺の番だ」

 

ヒュンッ!と忽然とクロウ・クルワッハの姿が消えた。肉眼で探そうにも見つからない。

―――翼に雷を纏って探知をすると・・・・・。バチッ!と翼から鳴った。

 

「(左か!?)」

 

そう思ったと同時に左の翼を盾のように重ねて、右へ回避した次の瞬間。

左の翼に凄まじい衝撃が襲った。俺はその衝撃に耐えきれず吹っ飛ばされた。

 

「俺から発する電磁波を探知して避けようとしたか?」

 

確かめるようにあいつは訊ねてきた。

 

「・・・相手の気配を探知することができないから、

この方法で相手を探すことにしているんだ」

 

「兵藤一香とは違う戦い方だな。あの人間は笑顔を浮かべたまま、

俺が現れるところに翼で斬り付けてくるぞ」

 

「・・・お母さんとお父さんって凄いと思うんだけど、時々分からない時もあるんだよな」

 

「うむ。それについては我も同じだ」

 

グレートレッドさんもウンウンと首を縦に振って同意した。

クロウ・クルワッハは苦笑いを浮かべる。

 

「あの人間たちは怖ろしく強い。俺を何度も負かした人間であるからな」

 

「ほう、そうなのか?」

 

興味津々とグレートレッドさんが訊ねた。俺もそんな感じで視線を向けると肯定と頷いた。

 

「ああ、だからあの2人の子供であるお前にも期待しているのだ。

もしかしたら、あの2人を超える存在となるかも知れぬからな」

 

父さんと母さんを超える・・・・・?俺が・・・・・?

 

「・・・・・そうなんだ。でも、俺、一つだけお母さんを超えているものがある」

 

元の姿に戻って紫の宝玉がある黒い籠手を装着した。

 

「それは興味深い。なんだ?」

 

「―――手作り料理だよ!」

 

それだけ言って飛び出す。今度は格闘だ!

 

「てやっ!」

 

短い腕を鋭く突きだす。だけど、軽々と受け止められた。

 

「軽いな。いや、まだまだ子供だからか」

 

「変に期待しないでくれよ!俺はまだまだ成長期なんだから!」

 

「だからこそ、お前を連れながら修行と見聞をするのも悪くはないと

思って誘ったのだからな」

 

俺の手を掴んだままクロウ・クルワッハは言った。

 

「我が育てておるのだ。横から掻っ攫うような真似をするな」

 

不満そうな声音と怒った表情をするグレートレッドさん。それからガイアは口を開いた。

 

「一誠、それでは何時まで経ってもそいつの体に傷を負わすことができん。

あの力を解放しろ」

 

「・・・・・いいの?」

 

そう言うと、グレートレッドさんは頷いた。確かにあれなら何とかなるかも知れない。

だけど、まだまだ扱いきれていないあの力を使ったら―――。

 

「まだ力を隠し持っているのか。兵藤一誠、その力を俺に見せろ。

全力を出し切れないまま負けるのは嫌であろう?」

 

クロウ・クルワッハもあの力を知りたいのか、催促してくる。

 

「・・・・・」

 

手を離してくれたので、後ろに後退する。

 

「いいんだな?」

 

「ああ、それがお前の全力とならば、グレートレッドの鍛え方の結晶といえよう」

 

「・・・・・分かった」

 

右手に装着している籠手を前方に突き出す。

 

「ゾラード。力を貸してくれ」

 

『無論だ。目の前の相手は邪龍の筆頭格である最強の邪龍。相手にとって不足はない』

 

点滅しながらゾラードの声がする。とても力強い声音だった。

何時も俺の傍にいてくれる家族。―――ここで負けたらグレートレッドさんに申し訳ない!

 

禁手(バランス・ブレイカー)

 

静かに呟いたその時。俺は黒い光に包まれた。その光の中で鎧に包まれていく。

完全に鎧を着込んだ俺はクロウ・クルワッハの姿を捉えた。

 

「『幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』の禁手(バランス・ブレイカー)、―――『幻想喰龍之鎧(イリュージョン・イーター・スケイルメイル)』。

ゾラードの力を鎧に具現化した切り札の一つだ」

 

黒と紫の龍を模した全身鎧。全身から異様なオーラが絶えず陽炎のように出ている。

これは危険極まりない力だ。最終手段と思った時しか使わないようにしている。

 

「・・・・・なるほど、これは俺も本気を出さずにはいられない。

お前から発するオーラは軽く魔王と神を逸脱している」

 

クロウ・クルワッハは目を細めて攻撃態勢に入った。・・・・・だけど、

 

「ごめん」

 

「・・・・・?」

 

「この鎧を纏った瞬間、もう勝ち負けとか関係なくなるんだ」

 

腕を軽く横に振った刹那。―――クロウ・クルワッハの首だけ残して消滅した。

 

「・・・・・なに?」

 

ドサッ、と首だけ残ったクロウ・クルワッハは信じられないとそんな表情を浮かべながら

地面に転げ落ちた。

 

「俺が・・・気付く間もなく、こんなあっさりと・・・俺が・・・・・負けた?」

 

「ごめん、こんな力を使って勝ったとは思っていないから」

 

鎧をすぐに解除して謝った。クロウ・クルワッハは俺を見上げて口を開いた。

 

「兵藤一誠、今の力はなんだ・・・・・」

 

「消滅の力だよ。俺の視界に入ったものに力を使えば全てを消滅するんだ」

 

「・・・・・怖ろしい力だな。暗黒龍と称された俺の体を一瞬で消失するとはな」

 

くくくっ、とクロウ・クルワッハは面白そうに笑みを浮かべた。

そんな時、グレートレッドさんが近づいてきた。

 

「さて、お前を完膚なきまで倒した一誠は、我が鍛える」

 

「ああ、まだまだ子供だと思っていたが末恐ろしい人間だ。さて、これからどうしようか。

俺の体がなくなったし、身動きが取れん」

 

「大丈夫、元に戻すから」

 

金色の翼を展開して首だけのクロウ・クルワッハを包んだ。

しばらくして翼を解くと、長身の男が立っていた。

 

「・・・・・」

 

「どう?」

 

「・・・・・感謝する」

 

クロウ・クルワッハはそれだけ言うと踵返して俺たちから去ろうとする。

 

「どこに行くの?」

 

「さあな。俺は修行を兼ねて冥界に来たまでだ。

お前の家族とやらが迎えに来たから俺はいなくなるとしよう」

 

手を上げて別れようとする。だけど、

 

「―――クロウ・クルワッハ、待ってくれ」

 

あいつを呼び止めた。当の本人は足を止めて、尻目で俺に視線を送ってくる。

 

「なあ、一人で修行するより一緒に修行した方が楽しいと思わないか?」

 

「・・・・・どういう意味だ?」

 

「俺は楽しかったよ。メリアとゾラードと一緒だけど、

この三日間はクロウ・クルワッハと修行して楽しかった」

 

「・・・・・」

 

「―――俺達と一緒に暮さないか?クロウ・クルワッハ」

 

そう提案した。当然、グレートレッドさんが驚愕の声を上げた。

 

「一誠!?な、なぜあいつを誘うのだ!?」

 

「だって、お父さんたちを知っているドラゴンだし、他にも色々と知っていそうだよ?」

 

「だからと言ってあいつは邪龍だぞ!?」

 

「クロウ・クルワッハは邪龍とは思えないよ。寧ろ良い龍だと俺は思っている」

 

なっ・・・・・!?と、グレートレッドさんが絶句した。

そんな彼女を余所に俺は、歩を進めてクロウ・クルワッハの前に移動した。

 

「ねぇ、そうしよう?」

 

「・・・・・」

 

体をこっちに向けて俺を見下ろす形でクロウ・クルワッハは口を開いた。

 

「確かにお前には興味が尽きない。特にお前が抱えている闇がな。

だが、俺は邪龍であるぞ?」

 

「邪龍だろうがなんだろうが構わないよ。家族が増えるのは嬉しいし、良いと思うんだ」

 

俺の話を聞いたクロウ・クルワッハは手を差し伸べてきた。

 

「・・・・・本当にお前はあの2人の人間の子供なのだな。面白い、と言葉が尽きる」

 

そして、笑みを浮かべた。

 

「良いだろう。グレートレッドと入れば強者が自ずと向こうから現れるかもしれん。

その際、俺も戦わせてもらうぞ」

 

「その時が来たらね」

 

差し伸べられた手を掴んだ。

その瞬間、クロウ・クルワッハの体が光り出して俺の中に入ってきた。

 

『ほう、お前らがメリアとゾラードか。これからよろしく頼む』

 

『ええ、よろしくお願いします』

 

『よもや、主の中に入ってくるとは思いもしなかったが・・・よろしくな』

 

おお、メリアとゾラードがいる所にいるんだ?まあ、一緒にいるんならいいや。

 

「(まさか、あの邪龍を加えるとは・・・・・あの2人の子供だということか。

まったく一誠のする事は何時も驚くことばかりだ)」

 

何かグレートレッドさんが苦笑しているけど、どうしたんだろうか?

でも、そんな事より大切なことがある。

 

「グレートレッドさん、家に帰ろう?」

 

「・・・ああ、そうだな。帰ろうか」

 

「うん!」

 

久し振りにあの家に帰れる。そう思うと俺は嬉しくてしょうがない。

だけど、これからももっともっと修行して、強くなるんだ。夢のためにも―――復讐のためにも。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

旧校舎のディアボロス
Episode1


 

 

「・・・・・」

 

部屋に飾ってある二人の男女の写真。

俺、兵藤一誠は学生服を身に包んだ状態で見詰めている。

 

「行ってきます。父さん、母さん」

 

俺はそう言い残し、部屋から出た。廊下を歩き下に降りる階段に歩を進める。

階段の先はすぐ玄関ホール。その場所に二人の女性が佇んでいた。

 

「それじゃ、行こうか」

 

「うむ」

 

腰まで伸びた真紅の長髪に金色で垂直のスリット状の女性が頷いた。

女性は全身を真紅に輝かせて、光の奔流と化した。俺はその光の奔流を触れる。

すると、光が俺の全身を包みだす。俺の体は真紅に光るが、しばらくして治まった。

 

「行こう。リーラ」

 

「はい、一誠」

 

柔和に笑む俺のメイド、リーラ・シャルンホルスト。

俺が来ている学生服とは違い、女子生徒の制服を身に包み、

頭にはカチューシャを付けている。リーラと学校から支給された鞄を持ったまま外へと赴く。

 

「ん、良い天気だな」

 

「はい、桜の花も満開に咲いているかと」

 

「桜か・・・・・今度、花見でもしよう」

 

「そうですね」

 

快晴な天気の中、俺たちは歩を進める。

 

「・・・・・俺が学校に行くことになるなんてな・・・・・」

 

「一誠は学校に行くべきです。ずっと修行ばかりでは、他の者との交流が疎かになります。

そして、学ぶべきものを学んでもっと世界を見るべきだと思います」

 

「世界・・・・・」

 

「あなたより強い者は世界中にごまんといます。相手を知り己を知る。

今の一誠が欠けているのはそれなのですよ」

 

リーラにそう言われ、俺は青い空を見上げた。俺より強い存在・・・・・。

 

「ああ・・・・・俺より強い奴と会ってみたいな」

 

「一誠さま・・・・・」

 

「あっ、また『さま』を付けたな?」

 

人差し指を彼女の唇に軽く押しつけた。リーラは恥ずかしそうに俺から顔を逸らした。

 

「・・・未だに慣れません。主であるあなたを呼び捨てなど・・・・・」

 

「これから学校に行くんだよ?俺を『さま』付けで呼んだら、

どこかの偉い人なんだと思われる」

 

「はい・・・気をつけます。

(ですが、一誠さま。あなたはその偉い人の間に生まれた人なんです)」

 

「さて、俺たちが通う三種族が共に通う国立の学園。

駒王学園・・・・・どんな学校なんだろう」

 

ドドドドドドドドドドッ!

 

「「・・・・・?」」

 

地震か?地面が若干揺れ出した。

 

『まぁてぇえええええええええええええええええええええっ!』

 

「ん?」

 

怒涛の如く何かが迫るような・・・・・後ろに振り返ると。

一人の男子生徒が、オレンジ色の髪の少女を横に抱きかかえて、必死の形相で駆けてくる。

 

「なんでしょうか?」

 

「追いかけられているのは分かるな」

 

そう言っていると、女生徒を抱きかかえている男子生徒が俺たちの横を通り過ぎた。

一拍して、大勢の人も通り過ぎて行った。

 

「さっきの奴ら・・・・・俺たちが行く学校の制服を着ていたな」

 

「ええ、そうでした」

 

「・・・・・やな予感がする」

 

通り過ぎていた奴ら、個性的過ぎる。絶対、平穏な学園生活が送れなさそうだ。

 

―――駒王学園

 

人間と悪魔、天使、堕天使(もしくは堕天使に属する人間)が共同で通う学園。

その昔、魔王と悪魔、神と天使、堕天使、三大勢力が世界の覇権を巡って

永い戦争をしていた。だが、その戦争に介入した種族がいた。

 

それも神の力と称する不思議な能力を持つ種族だ。

しかし、その種族は三大勢力にとって必要不可欠な種族だった。

―――人間。人間が三大勢力の戦争に介入し、甚大な被害をだしながらも戦争を終結した。

 

戦争は終わり、魔王と神、堕天使は種の存続が危ういと危機感を抱き、人間と話し合い、

後に魔王と悪魔、堕天使が住む『冥界』と神と天使が住む『天界』と人間が住む『人間界』。

この三世界との交流を経て最終的に『四種族共存』の道を歩むことになり、

やがて天界と冥界の住人たちが人間界へと移り住むようになった。

 

それから今から数年前、

この四種族が共に通う学園、駒王学園が誕生した。

現在駒王学園に通う四種族の割合は人間10:悪魔5:天使2:堕天使2:ハーフ1。

 

 

「この町、光陽町は元は別の町だったけど新しく作りかえられたんだよな?」

 

「四種族が共に通う学園を設立する際、同時にゼロから作り変え、

新しく整備されたようです」

 

「そうなんだ。それじゃ、俺たちにとっても知らない場所だな」

 

「ええ、土地勘がないですね。今度、散歩でもしましょう」

 

彼女の言葉に俺は同意と頷く。リーラとのんびりと歩くこと数分、

俺たちが通う学園が肉眼で捉えた。

 

「ここが駒王学園・・・・・」

 

「立派な学園ですね」

 

そうだな、と同感する。それから来客専用の玄関から入り、

上履きに履き替えて職員室へと趣く。

 

職員室に辿りつけば、ノックをして「失礼します」と尋ねた。

 

「編入生の兵藤一誠とリーラ・シャルンホルストです」

 

そう告げると、一人の中年の男性が近づいてきた。

 

「おー、お前らだな?よく来た。俺はお前らの担当教師だ。よろしくな」

 

「「よろしくお願いします」」

 

「早速だが、お前らを身体検査をしなくてはならない。今から保健室へ行くぞ」

 

歩を進め出す担当教師。保健室・・・・・?それに身体検査って・・・・・。

疑問を浮かべながら俺とリーラは付いていく。

 

「疑問になるのは分かる。だが、これは簡単な検査だ。この学校は特殊なのは知っているだろう?」

 

「悪魔と天使、堕天使が人間と共同に学校に通うことですか?」

 

「ああ、そうだ。だけど、それだけじゃない。神のシステムで俺たち人間、

また人の血を流す異種族は神器(セイクリッド・ギア)が宿っているだろう?

この学校に通う人間やハーフは神器(セイクリッド・ギア)の所有者であるかどうか、

それを検査して確認しないといけない決まりなんだ」

 

なるほど・・・・・この学校に神器(セイクリッド・ギア)の所有者がいるということか。

 

「因みに、この学校で一番強い神器(セイクリッド・ギア)を持つ所有者は?」

 

「悪いが、他人の情報を教えることはできない。神器(セイクリッド・ギア)の所有者を狙う存在は

世界中にいるからな。奪われないように俺たち教師側が監視兼護衛をしているんだ」

 

なにそれ、怖いな。・・・・・いや、その狙う存在を俺は知っている。

―――あの悪魔と堕天使の三人組だ。

 

「しかし、今年は珍しいことが起き続けているな」

 

「と、言うと?」

 

「二日前ぐらいだ。天界と冥界から三人の転校生がきたんだよ」

 

三人の転校生ね・・・・・まっ、どうでもいいな。

 

「さて、保健室に着いた事だし、パパッと検査を終えて教室に行こう」

 

ガラッ、と扉を横にスライドして開け放った。そして、俺たちは中に入り、検査をした。

だけど、検査した直後。担当教師の顔が驚愕の色を染めた。

まるで信じられないものを見る目で、

何度も何かと比べるように交互に見たのが印象的だった。

 

―――○●○―――

 

「えー、今日からこの二人が新しくこのクラスに入ることになった編入生だ」

 

検査を終えた俺たちは真っ直ぐ教室へと連れて行かれた。教卓の傍に佇む俺たちは口を開く。

 

「兵藤一誠だ。趣味は読書と料理と運動。残りの学校生活、

楽しく平穏で過ごしたいと思っている。よろしく頼む」

 

「リーラ・シャルンホルストです。趣味は人のお世話をすることです。

皆さんと歳は違いますが、同年代のように話しかけてください」

 

自己紹介を終えた俺たち。このクラスの生徒たちの反応は特になかった。―――いや、一変した。

 

「お前等!一限目は質問会だ!お前ら、根掘り葉掘り質問攻めしろぉ!」

 

『いっやっほぉおおおおおおおおおおおっ!』

 

担当の教師のその言葉に、このクラスの生徒全員が歓喜に湧きあがった。

 

「先生!太っ腹ぁ!」

 

「愛しているぜー!」

 

「男に言われても嬉しくない!」

 

「そんなぁ~・・・」

 

『あはははっ!!!』

 

「(・・・・・楽しい学校生活になりそうだ)」

 

「(ええ、そうかもしれませんね)」

 

皆からその後、質問会が終わり休憩時間になっても質問攻めが続いた。授業の予鈴が鳴ると、

それぞれ自分の席に着き、それから授業が始まり、先生からの解答の呼び出しでも解けた。

そして現在の時間は昼休み=昼食の時間だ。

リーラに作って貰った弁当を出して彼女と食べようとしたが、そこに二人の男子生徒が来た。

 

「ねぇ、一緒にいいかな?」

 

「別に良いけど・・・・・えっと名前は・・・・・」

 

名前を知らない二人にどう呼べばいいか当惑する俺に二人が自己紹介をしてくる。

 

「僕の名前は式森和樹。こっちは僕の友達の―――」

 

「僕の名前は神城龍牙です。よろしくお願いしますね」

 

と二人の男子生徒が名乗ったが・・・・・かなり強いな。

力と力が引き寄せられたって感じがする。警戒をしても・・・・・問題はないか。

 

「よろしくな二人とも。俺のことは一誠と呼んでいいぞ。そっちの方が呼びやすいだろ」

 

「解った。じゃあ、一誠と呼ぶよ、僕の事は和樹って呼んでくれるかな?」

 

「僕の事も龍牙と呼んでください」

 

「了解だ。そんじゃ、一緒に食うか」

 

会話しながら和樹と四人で一緒に昼食をする。

 

「それにしても、このクラスの奴らは元気過ぎるんじゃないか?」

 

「ははは、それがこのクラスの特徴的だからね。象徴と言っても良いぐらいだよ」

 

「ノリがいいと?」

 

「うん、そんなところ。

それにしても珍しい時期で編入して来たね?なにか事情でもあったの?」

 

そう言われ、俺は苦笑する。事情があると言っちゃあ事情かもしれないな。

突然、学校に行くべきだと隣にいる彼女に言われたんだし。

 

「まあ、色々と・・・・・な」

 

「ふーん?」

 

不思議そうに首を傾げる和樹。と、今度は龍牙が話しかけてくる。

 

「しかし、大変な時期に来てしまいましたね」

 

大変な時期・・・・・?どういうことだ?

と、視線に乗せて和樹を見詰めると説明してくれた。

 

「えっと、一誠とリーラさんは知らないから説明するね?

春の時期では、この学校に通う悪魔と天使、堕天使たちが自分たちの種族に転生しないか?

と勧誘と言う名の交渉をしてくるんだよ。

まあ、主にそれは上級生である三年生からオファーをしてくるんだけどね」

 

「・・・・・マジで?その話、断われないのか?」

 

「大丈夫、自分たちの意志で決めてもいい事になっているから断わっても良いんだ」

 

「そっか。それは良かった。だけど、それだけで大変な時期って別に何とない感じだが?」

 

そう言うと龍牙が話に加わる。

 

RG(レーティングゲーム)って知ってますか?」

 

「いや・・・・聞いた事がないな」

 

「冥界にいるアジュカ・アスタロトが永い戦争をしてきたせいで、種の存続が危うさを感じ、

悪魔に転生できるチェスの特性を取り入れた『悪魔の駒(イーヴィルピース)』を開発したのです。

上級悪魔たちが自身を『(キング)』として下僕を駒として相手の駒と戦うゲーム。

それがRG(レーティング・ゲーム)なのです」

 

長々と御説明ありがとう龍牙。中々分かりやすくて良かった。

教師の素質があるんじゃないか?

 

「先程、和樹さんが大変な時期に来たというのは。

僕たち二年生と三年生がそのゲームをするからなんです。

クラスから十六人まで選抜してゲームを行います」

 

「それっていつやるんだ?」

 

「体育の授業の時です。ですが、一年生と僕たち二年生の中で、すでに三年生の下僕、眷属が

いると、その一年と二年生は三年生の眷属として加勢しないといけないんです。ですので、

必然的に戦い慣れている人がいなくなった上に、戦いに興味がない生徒が残ってしまいます。

しかも、この学校は実力主義なので、期末テスト終了時、実力と成績が良かった人は、相応の

結果によって別のクラスへと移動します」

 

・・・・・そうなると必然的に弱い奴が残されてしまうのか・・・・・。

 

「あっ、でも、無理にゲームを参加しなくても良いらしいよ?

棄権したらその時の授業は早く終えて、自習になるんだ。

無理に戦って怪我でもしたら嫌だからねー」

 

「なるほど・・・・・お互いの同意のもとでゲームをしているんだ?」

 

「そう言う事。このクラスも何度かゲームをしたけど、殆ど棄権したよ。

このクラスメートたちは、ゲームより楽しく学校生活を満喫するのが好きみたいだからね」

 

「うん、このクラスの奴らを見て何となく分かった」

 

和樹と龍牙が苦笑する。

 

「でも・・・・・そろそろ一回ぐらいゲームしないと、よくないと思いますね」

 

「うーん、実力主義な学校だからね。これ以上下がることはないけど、

バカにされるのも嫌になってくるし」

 

「なんだ?棄権し続けたら、デメリットがあるのか?」

 

弁当の中身を空っぽにまで食べた俺は、リーラから受け取った茶を飲んで一息する。

 

「僕たちは気にしないけど、世間的に問題が起こるかな?就職の時とかさ」

 

「あー・・・・・そういうこと?」

 

「はい。さらに言えば、この学校のS~Fまでクラスが存在します。

僕たちのクラス、このFクラスは最低で最も弱いクラスだと他のクラスに認識されています。

成績だけ良くても実力がダメだとEかFになってしまいます。逆でも同じです」

 

うーん・・・・・中々厳しい社会だな。流石は実力主義の学校と言うことか。

 

「でも、実力や成績がよくても一誠さんのような転校生や編入生が来ると、

このクラスに所属されます」

 

「そうなのか?」

 

「ええ、ですが・・・・・例外もありますけどね」

 

例外だと・・・・・?どんなことなのか気になり、聞こうと口を開いた瞬間。

 

キーンコーンカーンコーン。

 

「あっ、鳴ったね」

 

「それじゃ」

 

「ああ、色々と勉強になった。また教えてくれ」

 

二人が自分の席へと戻っていった。そして、リーラに振り向く。

 

「リーラの言う通りだな。ありがとう」

 

「いえ・・・・・勿体ないお言葉です」

 

嬉しそうに口元緩ます彼女だった。えっと、次の授業は・・・・・って!

 

「次の授業はその体育じゃん!?」

 

席に座って直ぐに俺は、このクラスのスケジュール表を見て叫んだ。

和樹と龍牙のやつ、次はこの授業だから昼休みに説明をしたのか。

と、考えていると教卓に一人の女子生徒が近づいて俺たちを見渡してから口を開いた。

 

「えっと、皆。次はゲームだけど、相手は三年のD組の先輩たちです」

 

清楚な少女だと、俺は一目見てそう思った。とても戦いに向いていなさそうな人だ。

 

「ですが、悪い知らせです。これ以上ゲームを棄権し続けると、

授業を怠慢と認識されてしまい、夏休みの殆どが補習で潰れます」

 

彼女の話しを聞き教室は静寂に包まれた。―――一拍して

 

『な、なんだってぇぇぇぇえええええええええええええええええ!?』

 

怒号が教室中に轟く。とっても驚いていると嫌でも分かる。

 

「ですので、今回ばかりは棄権はできません。ゲームをしないといけないので誰か、

私と一緒に出てください」

 

・・・・・え?あの女子も出るのか?不思議に思って挙手する。

 

「・・・・・あの、質問良いか?」

 

「え?あっ、はい。良いよ?」

 

「失礼だけど、あなたも出るのか?」

 

「はい、クラスの委員長はゲームで言えば『(キング)』と同じなの。

つまり、このクラスの『(キング)』は私なので、皆と相談をして、

最後に私が決めるという形で皆を引っ張っているの」

 

なるほど・・・・・すでに『(キング)』が決まっていたのか。

 

「はい」

 

「なにかな?」

 

「ゲーム、参加する」

 

「・・・・・へ?」

 

目をパチクリとする彼女。だけど、更に彼女が驚くことが起きた。

 

「私も、そのゲームに参加しましょう」

 

「うーん、そろそろゲームをしないと思っていたからね。僕も参加させてもらうよ」

 

「僕もです」

 

リーラや和樹、龍牙が挙手する。そしたら彼女が恐る恐ると尋ねた。

 

「えっと・・・・・いいの?

最悪、私だけでゲームに参加しようと思ったんだけど・・・・・」

 

「早く皆と仲良くしたいからな。俺のことを知ってもらうには丁度良い」

 

「私も同じ考えです」

 

「いい加減に僕たちをバカにする他のクラスに一泡吹かせたい気分だよ」

 

「それに相手は相手です。あの『凶児』には何かと迷惑が掛かっているので・・・・・」

 

やる気はあると伝える。彼女はしばらく俺たちを見詰め、頷いた。

 

「ありがとう。皆の気持ちを応えるために、戦いはあまり得意じゃないけど、私も頑張るよ」

 

彼女はニッコリとほほ笑んだ、本当に清楚な笑みを浮かべるな。

 

「あっ、もう一つ質問良いか?」

 

「なにかな?」

 

「委員長の名前って何?」

 

それが聞きたかった質問だった。彼女は少しの間、唖然としたが名を教えてくれた。

―――葉桜清楚と。

 

―――体育館

 

次の授業は体育と言う事で、俺たち五人は体育館に集まった。

俺たちの相手である上級生は全部で一六人。フルで授業をしようとしていた。

 

「へぇ?あのザコクラスがゲームをするってか?いいぜいいぜ?

俺に逆らえないぐらい可愛がってやるぜ。当然、あの二年の委員長を俺が直々にな!」

 

ギャハハハッ!と嫌な笑い方をする委員長と思しき男子生徒が葉桜を見詰めた。

彼女はブルリと体を震わせ、学園から支給されたレプリカの武器、方天画戟を強く握った。

 

「ま、負けない・・・・・!」

 

「ん、そうだな。―――殺すつもりで倒すからよろしく」

 

「ああ?弱っちぃ人間風情が何ほざいているんだぁ?」

 

「せんせーい、こっちの準備は良いですよー?」

 

「人の会話を聞けよゴラァッ!」

 

ツッコミが鋭いな。きっと漫才に向いている。

俺たちと相手のチームを交互で見ていた教師が口を開く。

 

「・・・・・では、バトルフィールドである異空間に到着したら、

その時点で授業を始めます。相手の『(キング)』を倒したクラスが勝利となります。

なお、戦闘不能の状態に陥った場合は教師側で強制退場をします。

そして、相手がもし授業で死んだ場合・・・・・事故死として扱います。よろしいですね?」

 

「はい」

 

「ああ」

 

葉桜と上級生の委員長が同意する。その直後、俺たちの足元に魔方陣が展開した。

 

「それでは」

 

と腕をビシッと振り上げた。

 

「ゼファードル・グラシャボラスが率いる三年D組VS葉桜清楚が率いる二年F組の

体育の授業を開始します!時間は三十分。―――授業開始!」

 

教師の宣言と共に魔方陣の光はより一層強くなった。

俺たちはその光に視界が奪われ、何も見えなくなった。

 

―――○●○―――

 

視界を遮る光がなくなり、目をゆっくりと開ける。

最初に視界に飛び込んできたのは・・・・・駒王学園の校門前だった。

辺りを見渡せば、俺たちは外にいることが分かった。

 

「それじゃ葉桜さん。これからどうします?」

 

「相手は十六人いるから、何人か一ヶ所に集めて、

そこに強力な一撃を放って戦闘不能にしようかなって・・・・・どうかな?」

 

「ふふっ、清楚な人が考えるような作戦じゃないですね」

 

「ふぇっ!?」

 

うん、俺もそう思うな。だけど、そんな簡単にいくとは思えない。

 

「そう言えば和樹と龍牙はどんな戦い方をするんだ?因みに俺は格闘」

 

「ん?僕は魔法使いだからね。魔法で相手を吹っ飛ばすよ」

 

「僕は格闘と剣術、それと神器(セイクリッド・ギア)の能力で戦います」

 

おっ、ここに所有者がいたぞ。身近にいるもんなんだなぁー。

 

「実際にゲームをするのは初めてなんだよね」

 

「そうですね。ちょっと、楽しくなってきました」

 

「皆、頑張ろうね」

 

「ん、頑張るとしよう」

 

「はい」

 

一致団結する。と、その時だった。

 

「んじゃ、見渡せるように綺麗に破壊しようかなっと」

 

和樹が徐に学校へ腕を突き出した。

手の先に魔方陣が出現して魔力の塊を撃ち出した。刹那―――。

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

目も前の学校がまるで、核兵器を使ったかのような大爆発を起こした。

 

「「・・・・・」」

 

俺だけじゃなく、リーラも唖然となった。

あれ・・・・・絶対に本気を出していない一撃だろう。

爆発が治まると、学校は8割を消失してなくなっていた。

 

「和樹・・・・・お前は一体・・・・・」

 

「ん?僕は式森和樹。無限に近いの魔力を持つ魔法使いさ」

 

朗らかに言う和樹だった。む、無限って・・・・・凄い魔法使いがいるんだな・・・・・。

 

『ゼファードル・グラシャボラスの「兵士(ポーン)」八名、リタイア』

 

「あっ、結構減らしたね」

 

「こっちに来ようとしていたのでしょう」

 

「式森くん・・・・・凄いんだね」

 

葉桜がポツリと呟く。知らなかったのか?まあ、それは俺も同じ事だけど・・・・・。

 

「それじゃ、残りの相手を倒しに行くとしよう」

 

和樹の言葉に俺たちは頷く。殆ど焼け野原となった学校に向かって俺たちは歩く。

 

―――???

 

「二年Fクラスの式森和樹・・・・・・軽くあれであの威力、ということなのだろう」

 

「この授業が終われば、早速あの生徒を勧誘してくる上級生がいるでしょう」

 

「そうね。でも、あの生徒の価値はきっと『変異の駒(ミューテーション・ピース)』を

使用しないとダメかもしれない」

 

「今年の後輩は頼もしい者ばかりね」

 

「ええ・・・・・そして、ようやく会えたわ」

 

「なに?」

 

「はい、そうですね・・・・・」

 

「なんなの・・・・・?」

 

 

―――○●○―――

 

 

授業が開始して10分ぐらい経ったかな?

上級生たちを見つけては倒す、と言う事を繰り返し続けて。

 

「上級生と言うだけあって、苦戦するかと思ったんですが・・・・・。

神器(セイクリッド・ギア)の能力を使うまでもないようですね」

 

龍牙が大剣を振って、こびり付いた血を払い落した。

今さっき『騎士(ナイト)』二人を倒したところだった。

 

「悪魔ってこんなに弱いのか?」

 

俺も『戦車(ルーク)』の二人を倒した。呆気なく、俺に一撃も与えず。

 

「相手が相手だと思うよ?」

 

そう言いながら和樹がどこかに向かって魔力の塊を放った。

しばらくして、ドンッ!と鈍い音が聞こえた。

 

『ゼファードル・グラシャボラスの『僧侶(ビショップ)』二名、リタイア』

 

「・・・・・なにをしたんだ?」

 

「さっきの魔法は相手の魔力に反応して追尾するものなんだ。

だから、上級生の『僧侶(ビショップ)』の魔力を探知した僕の魔力は、

追尾ミサイルのように向かって直撃するんだよ」

 

「便利な魔法だなー」

 

「そうでもないよ。対処できるから、相手が熟練のヒトだったら無効化されるよ」

 

うーん。和樹が言う熟練のヒトってどんなヒトなんだろうか。

まあ、この学園に和樹の魔法と対抗できる存在がいるかどうか怪しいもんだけど。

 

「―――おい!」

 

ヤンキーみたいな顔に魔術的なタトゥー入れた緑色の髪を逆立てる上級生が現れた。

 

「俺とサシで勝負をしろ!」

 

と、人差し指を葉桜に突き付ける。彼女は緊張で顔を引き攣らせて、

ギュッと得物を握る力を籠めた。

 

「いくぞ!」

 

返事も聞かず、上級生は葉桜に飛び掛かった。突然の行動に彼女は目を瞑った。

 

―――ガシッ!

 

「・・・・・え?」

 

「俺が相手をする。いいよな?」

 

彼女の前に移動して上級生の拳を受け止めた。

 

「テメェ・・・・・ッ!しゃしゃり出てくるんじゃねぇよ!?」

 

「返事も待たず攻撃してくる奴が何を言う。と、綺麗事は言わないが・・・・・」

 

上級生を掴んだまま、上に放り投げた。上級生は背中に蝙蝠のような翼を生やして、

空中で態勢を整えた。

 

「俺は悪魔が嫌いでな。ギブアップ宣言しても容赦なくお前を攻撃してやるよ」

 

両手が光に包まれる。

光がなくなると、紫の宝玉が埋め込まれている黒い籠手を装着していた。

 

「来いよ木端悪魔の先輩」

 

「調子に乗ってんじゃねぇえ!」

 

挑発に乗った上級生が最初にしたのは、巨大な魔力の塊を放った事だった。

黒い籠手を装着した手を前に突き出す。

 

Invalid!(インバリッド)

 

と、宝玉から音声が聞こえたと思えば、迫りくる巨大な魔力の塊が一瞬で消失した。

 

「・・・・・はっ?」

 

直撃したわけでも、弾かれたわけでも、

防がれたわけでも、相殺されたわけでもなく、―――消失した。

 

「魔力に頼って戦うのなら、お前は俺に勝ち目なんてない」

 

―――バサッ!

 

「精々、後悔するんだな」

 

背中に生やした金色の六対十二枚の翼を羽ばたかせ、

宙に浮き―――一瞬で上級生の懐に移動した。

 

「っ!?」

 

「くたばれよ!」

 

遠心力を利用して回し蹴りで、上級生の腹部に深く突き付けた。

 

「がっ・・・・・はぁっ・・・・・・!?」

 

くの字形になり、口から血と胃液を吐きだす上級生。足を振り払って、吹き飛ばす。

が、それで終わらす俺じゃなく、吹っ飛んだ上級生を追い、背後に回って肘を突き刺した。

 

「・・・・・っ!?」

 

ゴキンッ!と鈍い音がしたが、その場で駒のように回転をして踵落としを食らわせる。

地上に向かって落下する。

 

「じゃあな」

 

金色の翼から帯状の光を放った。向かう先は上級生。俺の攻撃は―――上級生に直撃した。

 

ドッ!オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

「・・・・・」

 

しばらく宙に浮いていると、アナウンスが流れた。

 

『ゼファードル・グラシャボラス。戦闘不能を確認。勝者、二年F組』

 

俺たちの勝利宣言が流れた。

 

『少し、やり過ぎだ』

 

「・・・・・相手は悪魔だ。遠慮なしで挑まないと勝てない」

 

『・・・・・』

 

「容赦なく俺は倒すよ。相手が誰であろうとな」

 

そう、俺はそう決めている。こんな相手に手子摺るようじゃ、俺は勝てない。―――あの三人に!

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode2

体育の授業は俺たち二年F組の勝利と幕を下ろした。教室に戻れば、

クラスメートたちは拍手喝采で出迎えてくれた。夏休みの補習は免れた!と、喜んで。

 

「ここの皆は、補習を受けなくても良いぐらい頭がいいの。

だから逆に、体育の授業は得意じゃないの」

 

「このクラス以外は文武両道ってことか」

 

「うん、そうなの。頭脳だけならSクラスにだって負けないんだから」

 

『その通りっ!』

 

そこ、威張れるところなのか?まあ、成績が良いんなら自慢だろうな。うん。

 

「それじゃ、皆。今日の授業は終わりです。真っ直ぐ帰ってまた明日会いましょう」

 

『ウェーイッ!』

 

クラスメートたちは挙手して返事をした。それから各々と鞄を手にして帰っていく。

 

「って、先生は?」

 

「なんか、緊急会議らしいよ?」

 

「だからって、帰っても良いのか?」

 

そう問うと、葉桜は頷いた。

 

「先生がいないし、先生の代わりに委員長の私が進めて良い事になっているの」

 

「へぇ、そうなんだ。変わってるなこの学校は」

 

「なんたって四種族が一緒に通う学校だもん」

 

それもそうだな。納得する俺だった。

 

「兵藤くん、ありがとうね」

 

「ん?」

 

「体育の授業を参加してくれて。正直私だけじゃ勝てなかったよ。

兵藤くんが買って出てくれたから他の皆も出てくれた。

授業だってあなたが上級生の委員長を倒したから、勝てた」

 

「別に俺だけじゃないだろ?和樹や龍牙だって倒したんだ。今回の功労者は和樹だな。

一人で九人も倒したんだし」

 

当の本人は俺に手を振って教室から出て行った。龍牙も一緒に。

 

「まっ、体育の授業はあんな感じだと分かった。これからも俺はあの授業を受けるつもりだ」

 

「ほんと?」

 

「ああ、それなりに楽しかった。次の対戦相手は誰だか分かるのか?」

 

「えっと、体育の授業になってからじゃないと分からないの。

先に知って闇討ちしたり、されたりしたら大変だからって、先生が情報を漏らさないの」

 

徹底的なんだな。いや、だからこそなのかな?

 

「それじゃ、私も帰るね。兵藤くん、リーラさん。また明日」

 

「ん、またな」

 

「さようなら」

 

葉桜も教室からいなくなった。

 

「俺たちも帰るか」

 

「はい」

 

家に帰ろうと教室を後にする。

 

ガラッ!

 

と、扉を開けた。―――俺じゃない。廊下にいた誰かが扉を開けたんだ。そして、その誰かに―――。

 

「―――イッセーッ!」

 

勢いよく抱きつかれましたっ!思わず俺も反射的に抱きしめてしまった。

 

「(あれ・・・この感じ、前もどこかで・・・・・)」

 

どこか、懐かしい思いを抱きながらも、俺に抱きついてくるヒトを視界に入れる。

 

紅い―――ストロベリーブロンドよりもさらに鮮やかな紅の髪。

俺が知る真紅の髪の女性と似ている髪だった。その髪は一度だけ見たことがある。

忘れたことはない。あまりにも第一印象はあれだったため、名前もハッキリと覚えている。

 

「・・・・・リアス・グレモリー?」

 

「ええ・・・そうよ・・・・・」

 

紅の髪が上がった。俺に抱きついているヒトの顔が覗けた。

―――数年前、とある公園で俺を水の中に突き落とした少女と同じ顔だった。

 

「ようやく・・・・・ようやく・・・・・あなたと会えたわ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

マジかよ・・・・・こんなところにあの時の女の子と再会するなんて・・・・・。

 

「―――リアス、抜け駆けはしないと約束しませんでしたか?」

 

「・・・・・はっ?」

 

冷たい雰囲気を持つ、眼鏡を掛けたクールな黒髪の女子生徒。

リアスと呼んだ女子生徒も見覚えがあった。確か・・・・・名前は・・・・・。

 

「イッセーくん。数年ぶりです。私のことを覚えておりますでしょうか?」

 

「・・・・・ソーナ・シトリー・・・・・?」

 

「はい、そうです。覚えてくれて嬉しい限りです」

 

リアス・グレモリーの襟を掴み、俺から引き剥がしながら言うソーナ・シトリー。

 

「・・・マジで?」

 

「信じられませんか?私たちが目の前にいることを」

 

「いや・・・・・驚いているだけだ。まさか、二人がここにいるとは思いもしなかった」

 

本心を漏らす。本当にいるとは思わなかった。本当にここで再会するなんてびっくりした。

 

「―――私たちだけじゃないですがね」

 

「・・・・・なに?」

 

その瞬間、ソーナの後ろから青い髪が見えた。ソーナがどけば、青い髪の正体が現れた。

 

「・・・・・」

 

さっきのソーナの意味深な発言は―――。

 

「「イッセーくん、久し振りッ!」」

 

「イッセーさま、お会いしたかったです!」

 

こういうことかっ!―――子供の頃、一度だけ一緒に遊んだ五人の女の子の内の三人が成長した姿で、

嬉しそうに俺に抱きついてきた!

 

「リシアンサス、ネリネ、リコリス・・・・・・」

 

「はいっす!」

 

「はい!」

 

「うん、覚えてくれたんだね。私、嬉しいよ!」

 

小豆色の髪に頭と左手首にリボンを巻いている少女、リシアンサス。

整った顔立ちで、お嬢様と呼ぶにふさわしい清楚な美少女。背が小さく、

腰まで長く伸びた髪の色は蒼色。少し吊り目がちな瞳の色は赤の少女、ネリネ。

ネリネと同じ容姿だが、声の高さが違う事で見分けつくリコリス。

 

「神の悪戯か・・・・・?まさか、あの時あった五人がこうも揃うなんてよ」

 

「私とネリネ、シアは二日前に転校してきたばかりだよ」

 

「・・・・・先生が言ってた転校生ってお前らの事だったのか」

 

・・・・・まさか、あの時の人たちもこの世界にいるということなのか・・・・・・?

 

「それよりもイッセー。あの時どうして逃げるようにいなくなったの?私たち心配したのよ?」

 

「そうです。突然のことで驚きました。説明を求めます」

 

「「「・・・・・」」」

 

リアス・グレモリーとソーナ・シトリー、他の三人もジッと見つめてくる。

どうしようか、と俺は悩んだ。

 

「―――うむ。是非とも私も知りたいね」

 

第三者の声が聞こえた。直ぐ近くだった。教室の扉の方へ顔を向けたら―――。

 

「サーゼクス・グレモリー・・・・・」

 

「ほう、私の事も覚えてくれてたのかい?嬉しい限りだよ」

 

リアス・グレモリーと同じ髪の男性が笑みを浮かべて佇んでいた。

一度しか会ったことがないが、間違いなくリアス・グレモリーの兄がいた。

 

「なぜ、あなたがここに・・・・・」

 

「おや、知らなかったのかい?私はこの学校の理事長をしているのだよ」

 

「・・・・・マジで?」

 

「ああ、マジだよ。だからキミたちを、この学校に通わせることができたのだよ」

 

・・・・・まさかな。

 

「リーラ・・・・・今回の学校の編入、お前の仕業だな?」

 

突然、学校に行きましょうと言うから、どうも不思議に思ってはいた。

だが、こういうことだったか!彼女は肯定と頷いた。

 

「はい、密かにサーゼクスさまと話し合い、一誠さまと私と共に通うことを条件に、

学校を通えるようにしてくれました」

 

「あの時の感謝の気持ちだと受け取って欲しい。学校に必要な費用は全てこちらが受け持つ。

だから、キミは思う存分学校生活を満喫してほしい。―――あのお二人の子供である兵藤一誠くん」

 

「っ・・・・・!?」

 

やっぱり、父さんと母さんを知っているヒトか・・・・・!

あの時、逃げて正解だったようだけど、

 

「さて、教えてほしい。キミはどうしてあの時、逃げたのかを。どこで生きていたのかを」

 

今があの時の清算をしなくちゃいけないようだ。

 

「・・・・・」

 

リーラに視線を向ける。彼女はただ俺を見詰めるだけだった。

 

「・・・・・明日でいいか?今日は色々と驚くことばかりで整理がつかない」

 

「分かった。では、明日の放課後でいいかね?」

 

その問いに頷く。サーゼクス・グレモリーも頷いた。

 

「待っているよ。キミの両親を知る者たちと一緒に待っているからね」

 

それだけ言い残し、魔方陣を展開して直ぐに姿を消した。

 

「では、私たちもするべきことがあるのでこれにて失礼します」

 

「イッセー。絶対に明日学校にきてちょうだい。待っているから」

 

「イッセーくん、じゃあね!」

 

「また明日、必ず・・・・・」

 

リアス・グレモリーとソーナ・シトリー、ネリネとリコリスがどこかへ行ってしまった。

 

「・・・・・シアは行かなくていいのか?」

 

「うん!私、天使と悪魔のハーフだから、

リンちゃんたち悪魔のお仕事をしなくても大丈夫っす!」

 

悪魔と天使のハーフ・・・・・かなり希少な存在じゃないか・・・・・?

 

「あっ、もうこんな時間!ごめんねイッセーくん。

せっかく再会したのにスーパーに行って買い物しないといけないっす」

 

「・・・そうか、また明日な」

 

「うん!じゃあね、イッセーくん!」

 

元気にシアは挨拶をして俺の前からいなくなった。

 

「・・・・・まさか、俺は悪魔と遊んでいたなんてな」

 

「後悔・・・・・しているのですか?」

 

「・・・・・いや、あの時の自分に驚いている。

悪魔と堕天使を嫌う俺が、ああも普通に会話したんだ。この思いが薄れないようにしないとな」

 

「一誠さま・・・・・」

 

これだけは譲れないんだ。大切なものを奪われたこの気持ちを、

奪ったものに対するこの気持ちを、忘れては、薄れてはダメなんだ・・・・・。

 

―――○●○―――

 

―――翌日。

 

昨日の約束通り、俺は放課後、今までのことを説明するために教室に残った。

しばらくして、このクラスの扉が開いた。

 

「ぼぉーうぅーずぅーっ!」

 

和服を身に包んだ中年の男性が叫びながら俺に飛び込んできた。

 

「またあんたかぁっ!?」

 

二度と関わりたくない奴が真っ先に来やがった!拳を思いっきり突き出せば、

中年の男性も拳を突き出して来て俺の拳とぶつけあった。

 

「(・・・・・っ!?)」

 

あの時はまだ子供だったから、吹き飛ばされたものの。今回はしっかりと吹き飛ばされなかった。

でも、拳から伝わる重みに思わず目を見開いた。―――このヒト、強い・・・・・っ!

 

「・・・・・あの頃のままのようだな」

 

「なに・・・・・?」

 

「真っ直ぐで純粋な魂が籠ったこの一撃。あの頃のままだな」

 

ニカッ、と笑みを浮かべ始めた中年の男性。そう言われ毒気が抜かれた。

 

「―――ユーストマ?」

 

「っ!?」

 

ビクッ!とユーストマと呼ばれた中年の男性が体を跳ね上がらした。顔に汗が流れ始めたぞ。

 

「あなた・・・・・あのお二人の子供に何をしているのですか?」

 

ギギギッ、と中年の男性は後ろに向いた。俺もそっちを見れば・・・・・腰まで伸びたブロンドに

澄んだ青い瞳の女性が目を細めて中年の男性を見詰めていた。

 

「ヤ、ヤハウェさま・・・・・こ、これはそのだな・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「―――申し訳ございません!」

 

あっ、土下座した。ヤハウェと呼ばれた女性は嘆息した。

 

「神王というものが、子供のようにはしゃいでは困りますよ。―――気をつけなさい」

 

「へ、へい!」

 

・・・・・時代劇の最終シーンを見ているかのような感じだな。

 

「しかし・・・・・揃いも揃って強大な力を有している人たちだらけだな」

 

10人近くの男女が教室に入って来て俺を見詰めてくる。懐かしそうにな。

 

「兵藤一誠くん、彼女たちはそれぞれ冥界と天界を統べている魔王と神だ」

 

「魔王と神・・・・・」

 

「そうよ、兵藤一誠くん」

 

俺の呟きに反応したのは赤い長髪に紫の瞳の女性だった。

 

「私は冥界を統べる五大魔王の一人、ルシファー。

そして、あなたが子供の頃に会った彼は、五大魔王の一人、フォーベシイよ」

 

「やぁ、数年振りだね」

 

細い身体の銀の長髪の中年の男性が笑みを浮かべ手を振る。ネリネとリコリスの父親だったな。

 

「それで、彼女たちも私とフォーベシイと同じ五大魔王よ」

 

ルシファーが三人の女性に目を向けながら言う。

その中、青いロングヘアー、金の瞳の女性が口を開いた。

 

「私はレヴィアタン。五大魔王の一人なの。よろしくね♪」

 

レヴィアタンという魔王が名乗れば、揉み上げが長く、腰まで伸びた緑の髪、

茶色の瞳の女性が口を開く。

 

「五大魔王の一人、アスモデウス。あなたのご両親とは友好的な関係だったわ。

あの二人の子供であるキミと会えて嬉しいわ」

 

口元を緩ませるアスモデウスという女性。

最後は深緑色の髪をポニーテールに結んだ紫の瞳の女性。腰に刀を帯剣している。

 

「ベルゼブブだ。五大魔王の一人と称されている」

 

五大魔王の自己紹介が終わった。そして、今度はヤハウェと呼ばれている女性が口を開きだした。

 

「私は天界を統べる神、ヤハウェです。兵藤一誠くん、今後ともよろしくお願いします」

 

邪のない笑みだった。あー・・・・・このヒトが神だったのか。

 

「あなたが神だったのか。よかったよ」

 

「はい?」

 

「あなたに山ほど言いたいことがある家族がいるんだ。出会えてよかった」

 

両手の甲をヤハウェに見せびらかした。その直後、俺の手の甲に紫と金の宝玉が浮かび上がった。

 

『久しいな。ヤハウェ』

 

『お久しぶりですね』

 

とっても低い声音でヤハウェに挨拶をした。

当のヤハウェはビックリした表情で目を見開いて信じられないようなものを見る目で呟き始めた。

 

「・・・・・ゾラードとメリア・・・・・あなたたちなのですか?」

 

『ああ、そうだ。どれだけ弁解しても問答無用に封印された我らだ』

 

『よくもまあ、封印してくれましたね』

 

怒気が籠っているよ・・・・・。今までの鬱憤を晴らそうとしているかもしれない。

 

「どうして、あなたたたちが兵藤一誠くんのなかに・・・・・」

 

「その事も含めて説明するよ」

 

苦笑を浮かべ、そう言うと、彼女は頷いた。

 

「まずは何を聞きたい?」

 

「では・・・あなたは今までどこで生きていたのか、教えてほしいわ」

 

ルシファーが問うてきた。さらに言い続ける。

 

「あなたの家は爆発を起こして全焼した。

でも、あの二人は何かに守られているかのように殆ど無傷だったわ。

ただし、胸の傷以外は。でもね?あなたの姿はどこにもいなかった。爆発に巻き込まれたのか、

誰かの手によって連れて行かれたのか、私たちはそう予感をした」

 

そう言う彼女を引き継ぐようにベルゼブブが口を開く。

 

「しかし、ある時だ。フォーベシイと護衛としてついていったサーゼクスとセラフォルー、

天界の神王、ユーストマは堕天使の総督と人間との会議をしていた時、強大な魔力を探知した。

加えて、勝手に会議へ連れていった娘と妹がいなくなっている事に気付き、

四人は会議を抜け出して魔力を感じた場所へと赴いた。すると」

 

「私たちが必死に探し続けていた子がそこにいたの。そう、それはあなたよ兵藤一誠くん」

 

レヴィアタンが真っ直ぐ俺を見詰めた。

 

「だけど、保護しようと試みたユーストマたちからあなたは逃げた。どうしてなのですか?」

 

ヤハウェは首を傾げて言う。彼女たちの話しを静かに聞いた俺は、溜息を吐く。

 

「捕まったら、保護されたら俺はある目的が達せれなくなる。だから逃げたんだ」

 

「目的・・・・・?」

 

「―――俺の父さんと母さんを殺した悪魔と堕天使の三人組を殺すことだ」

 

「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」

 

全員が驚愕の色を浮かべた。

 

「悪魔と堕天使が・・・・・!?」

 

「あの二人を殺しただと・・・・・」

 

「名前は悪魔の名前はシャガとシャーリ、堕天使はヴァン。

それが父さんと母さんを殺した張本人だ」

 

五人の魔王に睨みながら言う。

でも、五人は俺の睨みより、信じられないと言った感じで呟き始める。

 

「はぐれ悪魔の中で超危険人物の二人が・・・・・っ!?」

 

「あの二人を殺した・・・・・ですって・・・・・」

 

「・・・・・居場所を知っているのなら教えてほしい。この手で俺は仇を討ちたい」

 

そう言うとルシファーが首を横に振った。

 

「・・・・・残念だけど、私たちも行方を探している方なのよ。

それにあの二人は最上級悪魔で、私たち魔王でも手を焼かすほど強いわ」

 

「それに強く神器(セイクリッド・ギア)に興味を持っているの。

神器(セイクリッド・ギア)マニアと言われている堕天使総督よりもね」

 

「堕天使のヴァン・・・・・あの者もまた神器(セイクリッド・ギア)に興味を持っていました」

 

神器(セイクリッド・ギア)に強く興味を持つ悪魔と堕天使・・・・・ということか。

 

「そう・・・・・あの二人が殺された理由も頷けるわ。

あの二人もまた神器(セイクリッド・ギア)の所有者でしたからね」

 

「そうなのか・・・・・?」

 

「ええ・・・・・ですが、どういうことでしょうか。

あの二人の神器(セイクリッド・ギア)はいま、あなたの中にあります」

 

「・・・・・え」

 

信じられないと、今度は俺がヤハウェの顔を見詰めた。

彼女は小型の魔方陣を展開して操作をし出した。

 

「・・・・・『時空間と次元の自由航路(スペースタイム・ディメンション・ルート)』と『神愛護珠(ゴッド・ラブ・ディフェンス)』。

それが兵藤誠と兵藤一香が所有していた神器(セイクリッド・ギア)であり神滅具(ロンギヌス)

その上、ゾラードとメリアを宿しているとは・・・・二匹の魂が神器(セイクリッド・ギア)となっているいま

幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』と『無限創造龍の錫杖(インフィニティ・クリエイション・メーカー)』。

それも神滅具(ロンギヌス)と称しても過言ではないです。

この二つの神器(セイクリッド・ギア)の能力は異常過ぎていますので」

 

真剣な表情のヤハウェがそう言うと教室が静寂に包まれた。

 

「・・・・・神滅具(ロンギヌス)を四つ所有している人間・・・・・!?」

 

「有り得ない・・・他者から神器(セイクリッド・ギア)を抜いて自分の力にする後天的なことがあっても、

神滅具(ロンギヌス)を四つも所有とは聞いた事もなければ、所有する人間すら見たこともない・・・!」

 

「というか、最後の二つの神滅具(ロンギヌス)の名前は聞いた事ないよ!?

現段階で15種しか発見されていなかったのに、

ここにきて16、17種の神滅具(ロンギヌス)が発見するなんて!」

 

・・・・・父さんと母さんの形見といえるものが俺の中に・・・・・。

 

「・・・・・それはそうと、話が反れていないか?」

 

「あっ、そうでしたね。あなたが逃げた理由は分かりました。

それで、あなたはどこで生きていたのですか?」

 

「次元の狭間」

 

『・・・・・は?』

 

「だから、次元の狭間」

 

二回も言ってようやく皆は反応した。

 

「えっ、ちょっと待って・・・・・次元の狭間って・・・・・・どうやって?」

 

「父さんと母さんが次元の狭間に家を建てていたらしいんだ。

その家に俺とメイドが住んでいる。後もう一人も」

 

「次元の狭間に家って、普通常識じゃありえないわよ・・・どうやって家なんか・・・・・」

 

「いや、あの二人は常識に捉われない人間たちだった。

常識に拘った私たちの盲点だったかもしれない。―――有り得ないことをするあの二人をな」

 

そ、そこまで非常識だったのか・・・・・?俺の父さんと母さんは・・・・・。

 

「・・・・・ねぇ、次元の狭間に住んでいるって言ったけど、

次元の狭間に何がいるのか知っているわよね?」

 

真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッド、でしょ?」

 

「ええ、そうよ。大丈夫なの?あのドラゴン。

次元の狭間を泳ぐことが好きなドラゴンだから無害に等しいけど・・・・・」

 

「ん、大丈夫。一緒に住んでいるし」

 

『・・・・・はっ?』

 

また皆が唖然となった。そして、言った。

 

「俺とリーラはグレートレッドさんと住んでいる。俺の師匠でもあるんだ」

 

『・・・・・』

 

すると、皆が頭や額に手を当て始めた。

 

「親も親なら子も子なの・・・・・・?」

 

「常識を覆す一族は健在か・・・・・」

 

「普通、真龍と暮らして弟子になるなんて・・・・・絶対にあり得ないわ」

 

なんか・・・・・物凄く失礼なことを言われている。

 

「・・・まさかとは思うけど、他にあり得ないことしていないよね?」

 

「・・・・・そう言われてもな。父さんと母さんが殺されて、

グレートレッドさんと一緒に暮らし始めて、リアス・グレモリーたちと出会って、修行の毎日、

学校を通い始めたのは昨日からだ」

 

過去を振り返って述べる。

中にクロウ・クルワッハたちのこともあるけど・・・言わない方がいいかもしれないな。

 

「そう・・・・・あの二人が死んでからあなたは修行をしていたのね」

 

「うん、あの悪魔と堕天使の三人を殺すために」

 

俺は笑みを浮かべた。

 

ゾク・・・・・ッ!

 

『―――――っ!』

 

そしたら、皆の顔は強張った。ユーストマが尋ねる。

 

「・・・・・坊主、復讐か?」

 

「この憎悪、恨み、殺意。全ては、父さんと母さんを殺した悪魔と堕天使に向ける」

 

何時しか、俺の体から禍々しくどす黒いオーラがにじみ出てきた。

 

「・・・・・あなたは・・・・・」

 

「だから、俺は悪魔と堕天使が嫌いだ。でも、死ぬ程ってわけじゃない。

両親を殺した悪魔と堕天使じゃないし、過度な嫌悪を向けないつもりだ」

 

「・・・・・ネリネちゃんやリコリスちゃん。リアスちゃんやソーナちゃんもかい?」

 

フォーベシイが悲しそうに漏らす。

 

「・・・・・この気持ちだけは譲れない。俺の目的を果たすまでは」

 

教室から出ようとする。

 

ガラ・・・・・ッ。

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

廊下に出れば、リアス・グレモリーたちがいた。全員、悲しげな表情を浮かべた。

 

「そういうことだから」

 

それだけ言って俺は家に帰路する。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode3

 

土曜日。学校が休日のため、俺とリーラは木濡れ通りを歩いている。

 

「新しく作られているから、綺麗だな」

 

「休日は遠くからやってくる若者もいるそうです。雑誌の特集されるほど大変人気で

有名のようで」

 

「流石は四種族交流のモデルの地、象徴の町、と言ったところか」

 

こうして歩けば、多くの人がすれ違う。本来、異界に住む悪魔や堕天使、天使も堂々と

人間界に住み、出歩くことはできなかった。

だが、三大勢力戦争を終結した種族、人間の介入によってこうして外に歩けれるようになった。

 

「・・・・・おっ、あれは・・・・・」

 

賑やかな音がする。『SILKY』という看板がある店から聞こえる。

―――その店の前にメイド服を着た少女がいた。

 

「・・・・・ほう」

 

リーラの瞳が煌めいた。メイド服を着た少女に興味が沸いたのか、

「行ってみるか?」問うてみると。

 

「はい、行ってみましょう」

 

肯定した。『SILKY』に近づくと少女が口を開いた。

 

「いらっしゃいませ。当ゲームセンター『SILKY』へようこそ。『SILKY』はメダルゲームから

ブライズ、体感ゲームにビデオゲームの新作を取り揃えております。

お客さまはどんなゲームをお探しでしょうか?」

 

紫色の髪の少女だった。髪をサイドテールに結んでメイド服を身に包む店員―――。

 

「あっ、あなた・・・・・」

 

「ん?」

 

「二年F組の兵藤くんだよね?」

 

「そうだけど・・・・・誰?」

 

突然訊ねられる。だが、俺はこの子のことを知らない。首を傾げて尋ねると、彼女は言った。

 

「ほら、三年D組と二年F組の体育の授業をしていたでしょ?

その時、アナウンスをしていたのは私なの」

 

「あー、そうなんだ?もしかして放送部員とか?」

 

「うん、そうだよ。体育の授業のアナウンスは私がしているの」

 

へぇ、それは知らなかったな。また一つ情報を得た。

 

「あっ、そう言えば名前を言ってなかったね。私はデイジー。天界から奨学生として、

駒王学園に通ってるの。クラスは兵藤くんの隣の二年E組だよ。よろしくね」

 

「ああ、よろしくな。彼女はリーラ・シャルンホルスト。いま私服だけど俺のメイドなんだ」

 

「そうなの?かなり綺麗な人だね・・・・・年上かな?」

 

そう問われ、俺は肯定する。と、今度はリーラが尋ねた。

 

「失礼、このメイド服は当店の制服ですか?」

 

「えっ?は、はい、そうですが?」

 

「ふむ・・・・・このメイド服のデザインは素晴らしいですね。それにこの生地は―――」

 

あー、夢中になっちゃっているかも。リーラってメイド服の雑誌を読み漁っているところを何度か

見たことあるけど、実際にメイド服を目の前にあると、ああなっちゃうんだよな。

 

「あうあう・・・・・ちょっと、リーラさん。恥ずかしいです」

 

「・・・・・失礼。私が来ているメイド服とは違うメイド服を見てしまうと、

気になってしまいます」

 

「メイドってそういうものなんですか?」

 

「いえ、あくまで個人的なことです」

 

さらっと言ったリーラさんだった。

 

「デイジー、このゲームセンターで一番人気名ゲームは何だ?」

 

「えっと、個人的に言わせてもらえば格闘ゲームですね」

 

「格闘ゲームか・・・・・小さい頃、三度ぐらいやったぐらいで全然やってないな」

 

「では、格闘ゲームをしてみますか?」

 

そう問われ、俺は頷いた。それから俺たちは、ゲームセンターでデイジーのアドバイスのもと、

楽しく時間を潰した。途中、休憩時間で格闘ゲームをしているデイジーに挑戦すると、

 

「兵藤くん、もう一度勝負です!」

 

苦戦してようやく勝ったところでデイジーから挑まれたのだった。さて、ある程度やり終えれば、

リーラとプリクラを撮ることにした。

 

カシャッ!

 

「ん、綺麗に撮れたな」

 

「そうですね」

 

ツーショットで撮った俺とリーラ。†主とメイド†と書かれたプリクラを見て微笑んだ。

 

「―――兵藤くん!」

 

「・・・デイジー?」

 

「今度は音楽ゲームで勝負です!」

 

―――意外と負けず嫌いのようであった。

 

―――○●○―――

 

「結局、夕方になるまでゲームセンターで時間を潰してしまった」

 

とある公園のベンチに座って俺たちは一休みをしていた。

 

「あの子もプライドというものがあったのでしょう。並々ならぬ熱意を感じました」

 

「俺も感じたよ。絶対に勝つ、絶対に負けないって気持ちが伝わった」

 

デイジーのことを少しだけ知った。面白い子だったな。

 

『明日も来てください!今度は私が勝ちますから!』

 

果たし状の如く、誘われたしな。

 

「それにしても・・・・・よく、あの店の制服を提供してくれたな」

 

「店長はメイド服のこだわりを分かってくれる人でしたので」

 

彼女の足元に置いてある紙袋の中には、あの店の制服が入っている。

途中でいなくなったからどうしたのかと思ったら、そう言う事だったらしい。

 

「帰ったら着るの?」

 

「はい、私のサイズに合う制服を頂きましたので」

 

「そっか、それは楽しみだな」

 

リーラが違うメイド服を着る姿は楽しみだと微笑む。対してリーラは口元を緩ませて小さく笑む。

 

「一誠さまご奉仕するのが私の仕事ですから・・・・・」

 

「・・・・・そっか」

 

そっと、俺は彼女の手を掴んで握った。

 

「一誠・・・・・さま?」

 

「俺はご奉仕とかしてくれなくても、リーラがいてくれればそれだけでも幸せだよ」

 

「―――――」

 

リーラは目を見開いた。でも、すぐに微笑みを浮かべて「私もです」と、言い返してくれた。

 

「私の心と身体はあなたのものです。髪の毛一本、足の爪もすべて・・・・・」

 

「リーラ・・・・・」

 

「・・・・・メイドでありながら、ご主人さまに抱くこの恋心を持った私めをお許しください・・・・・」

 

俺の膝に跨り、対面になるように彼女は腰を下ろして座りだした。

そんな彼女の腰に腕を回して引き寄せる。

 

「・・・・・許すよ。俺の愛しいメイド、リーラ・シャルンホルスト」

 

「・・・・・一誠さま」

 

「これからもずっと、永遠に俺の傍にいてくれ」

 

「はい、よろこんで・・・・・」

 

そして・・・・・どちらからでもなく俺とリーラは顔を近づけ・・・・・唇を重ねた。

 

『・・・・・おい』

 

「「っ!?」」

 

『我の存在を忘れて盛り上がるとはいい度胸だな』

 

俺の中にいるグレートレッドさんが不機嫌そうに話しかけてきた。

 俺たちは低い声音で発する彼女に思わず固まってしまった。

 

『まあいい。それよりも、堕天使が近づいている』

 

「・・・・・なに?」

 

『接触するかどうかは、お前ら次第だ』

 

ここに来ている?また俺を狙って・・・いや、思い上がりだな。

 

「行こう」

 

「はい」

 

ベンチから立ち上がり、俺たちは公園から去ろうとする。

―――そう、|少年の腹に光の槍を刺した黒い長髪の女堕天使を横殴りして吹っ飛ばしてからな。

 

「大丈夫か?」

 

「・・・・・・ぁ?」

 

瀕死の重体になっているな。そう思いながら、少年に手を翳す。

手の平が光り輝き、呼応して少年の体に光が包んだ。同時に光の槍が消失した時だった。

 

「こ・・・・・の・・・・・!」

 

「まだいたのか」

 

吹っ飛ばしたはずの女堕天使が、痣ある顔のまま近づいてきた。

 

「人間が・・・・・!私の邪魔をするなんて・・・・・!」

 

「俺は堕天使と悪魔が嫌いでな。つい、邪魔したくなるんだよ」

 

「っ!私を一体、誰だと―――!」

 

激昂した女堕天使の声を遮った。金色の翼を咽喉に突き付けて。

 

「死にたくないなら、尻尾巻いて失せろ」

 

「―――っ!」

 

「お前を殺してもいいんだぜ?」

 

六対十二枚の金色の翼を見せ付けて威嚇する。女堕天使は俺の翼を見て驚愕し、

歯を強く噛みしめた。屈辱だと悔しそうに顔を歪めて。

 

「・・・・・覚えていなさい。次会ったらあなたを必ず殺してやるから」

 

黒い翼を羽ばたかせて、女堕天使は公園からいなくなった。

 

「・・・・・よし、こっちも終わったな」

 

「では、帰りましょう」

 

「ああ」

 

そうしようと、歩を進めたその時だった。一つの赤い魔方陣が出現した。

その魔方陣から光と共にヒトが現れた。その人物は・・・・・。

 

「イッセー・・・・・」

 

「リアス・グレモリー・・・・・」

 

サーゼクス・グレモリーの妹の少女だった。彼女は俺と血だらけの少年を交互に見て問うてくる。

 

「・・・これはどういうことなの?」

 

「・・・・・さっき、女の堕天使がそこの少年を殺そうとしていた」

 

これが証拠とばかり、落ちていた黒い羽を摘まんでリアス・グレモリーに投げ放った。

彼女は人差し指と中指で挟んで受け止め、黒い羽を見詰める。

 

「俺たちも丁度この公園にいたから、助けた」

 

「そう・・・・・一応、お礼を言わないといけないかもしれないわ」

 

「お礼?」

 

「ええ、私はこの子に召喚されたからね」

 

こいつがあいつを召喚・・・・・?怪訝になる俺だが、どうでもよくなり、歩を進める。

 

「イッセー」

 

「・・・・・なんだ?」

 

「・・・あなたが悪魔を嫌うのには十分過ぎると思うわ」

 

その言葉に俺は足を停め、振り返る。

 

「でも、全ての悪魔があなたが思っているような悪魔じゃない。

それだけでもいいから知って欲しい」

 

「・・・・・」

 

踵を返して歩を進める。

 

「―――分かっている」

 

「・・・!」

 

「あくまで俺は、悪魔と堕天使という種族が嫌いなだけだ。

俺の目的はあの三人を殺すことだからよ」

 

「じゃあ・・・・・」

 

足を停めず、前に突き進む。

 

「また学校で会おうな。―――リアス」

 

それだけ言い残して、俺はリーラを引き連れて公園から去った。

 

 

 

 

「イッセー、やっぱりあなたは昔と変わっていないわ。あの時、私たちと一緒に遊んだあの頃と」

 

 

―――○●○―――

 

 

―――翌日。

 

「えー、皆さん。もう少しで自分のパートナを探す日が迫っています。

ですので、どんなパートナーが良いかこの時間内に決めてくださーい」

 

一限目になって開口一番に、葉桜が教卓から俺たちにそう言ってきた。

 

「はい、葉桜先生」

 

「なんでしょう兵藤くん」

 

「パートナとは一体何ですか?」

 

先生と教師のシーンをする俺と葉桜。

編入してきた俺とリーラが知るわけもなく、不思議と疑問が浮かぶ。

 

「パートナとは、悪魔や魔法使いが使役する使い魔のことを差すの」

 

「使い魔?だとしたら悪魔と魔法使いしか契約が結べないんじゃ?」

 

「昔だったらね。でも、ほら、今は四種族交流を果たしているでしょう?

だから私たち人間でも、使い魔を手に入れられることができるようになったの。

ただし、使い魔を手に入れる時は親の人と相談してからじゃないとダメなんだけどね。

あんまり大きくて凶暴な魔物を使い魔にしたら大変だし」

 

うーん、色々と大変なことが付き纏うんだな。

 

「勿論、使い魔が欲しくないならそれでもいいの。

これは強制的じゃないし、使い魔を手に入れられない家もあるだろうからね。

使い魔はペットとして認識するから」

 

「ん、なるほど、分かった。だから、この机にある分厚い本があるわけなんだ」

 

ドドーンと暑さ五十cmの本が置かれてある。表紙に『魔物図鑑』と書かれてあるし。

 

「うん、マダラタウンのザトゥージさんが調べ尽くして本にした魔物の図鑑を使って、

どんな魔物がいるのか知るの。それが今日の授業の内容」

 

葉桜の説明を聞きながら本を開いた。どれどれ・・・・・おおっ、色々な魔物がいるな。

可愛い系、不気味系、カッコいい系、綺麗系、能力まで詳細に・・・・・。

おいおい、生息地までもあるのか。

 

「・・・・・おっ、こいつは・・・・・」

 

とあるページで俺は釘付けになった。―――全身が青く綺麗なドラゴンだ。名前は・・・・・、

 

『ほぉ、「天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)」ティアマットか。久しく見るな』

 

俺の内から語るのはグレートレッドさん。知っているのか?

 

『知らない訳がない。そいつは五大龍王の中で最強のドラゴンだ。

時折好きに暴れては姿を暗ますからな。他のドラゴンとは違い、退治されていないのだ』

 

へぇ・・・・・そんなドラゴンがいるんだ。興味があるな。

 

『お前なら、そのじゃじゃ馬を従えることができよう。使い魔にするならそいつだな』

 

ん、そうするつもりだよ。

 

「決まった人は自分の名前と魔物の名前を書いて、箱の中に入れてください」

 

葉桜の言葉に、紙に筆を走らせる。書き終えて、葉桜に近づき箱の中に入れる。

 

「葉桜はどんな使い魔にするんだ?」

 

「うーん、可愛いくて大人しい子かな?」

 

「そっか。葉桜に合いそうな使い魔がいるといいな」

 

「ふふっ、兵藤くんもそうだよ?」

 

ああ、俺にピッタリな使い魔はいたよ。早く会ってみたいな。

天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマット。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode4

 

ザワザワ・・・・・・。

 

「・・・妙に視線が多く向けられているし、騒がしいな」

 

「確かに・・・・・どうしたのでしょうか」

 

登校中。学校の敷地内に入れば、俺たちのことを遠巻きして何かヒソヒソと話し合っている。

畏怖の念を感じているわけでもなさそうだが、興味津々と珍しいものを見る目で視線を向けてくる

生徒たち。―――それは教室にいても変わらなかった。

 

「ひょ、兵藤くん!」

 

「葉桜?」

 

「こ、これに書いてあることは本当なの!?」

 

教室に入った途端、葉桜が慌てて一枚の紙を持って来た。

ん?と、その紙を受け取って視線を落とせば。

 

『二年F組 兵藤一誠は神滅具(ロンギヌス)を四つも所有する異例の人物。

住んでいる場所は次元の狭間。夢幻を司る不動の存在、

真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッドと共に生活している模様』

 

「―――――」

 

他にも色々と書かれてあるが・・・・・この記事に目を見開いた俺だった。

どうして、俺のことが書かれてあるのか、葉桜に視線を向ける。

 

「これ、どういうことなんだ?」

 

「えっと・・・この学校はイベントや大ニュースなことがあると、こうして新聞に載るの」

 

「で、これを書いた奴は誰だ?」

 

これはちょっと、お仕置きしないとなぁ~♪と思い尋ねると首を横に振られた。

 

「ごめんなさい。それを書いている人って神出鬼没で、生徒会でもどうにか

この新聞を書いている人を捕まえようと、草の根を分けても探しているんだけど、中々・・・・・」

 

・・・・・手を焼いているということか。

 

「でも、誰が書いているのかは分かるよ」

 

「なに?」

 

「ほら、ここ」

 

と、新聞の一番端っこに指で差した。そこに視線を向けると、

 

『二年A組 非公式新聞部、杉並』

 

「・・・・・」

 

なぜ、堂々とクラスと自分の名前を記してあるんだ・・・・・?と俺は思った。

すると、彼女が俺の気持ちを理解したのか説明してくれた。

 

「絶対に捕まらない自信があるからだと思うの。

Aクラスに所属しているから実力も相当らしいしよ」

 

「同じAクラス生徒とかSクラス、三年の先輩らは何してるんだ?実力はあるんだろう?」

 

「杉並くんって、逃走や隠れることがこの学校の中で秀でているの。上級生でもお手上げってこと。

まるで、どこかで監視をしていて私たちのことをチェックしているようで・・・・・」

 

「俺たちから抗議できないのか?教師とか直接本人に」

 

葉桜はまた首を振った。

 

「先生ならともかく、直接本人にはできないよ。この学校は実力主義って言ったでしょ?」

 

「ああ、そうだな」

 

「この学校のクラスってテリトリーのようなものがあるの。S~B、C~D、E~Fって。

つまり、私たちが動けれる範囲はEクラスまで」

 

「・・・・・俺たちはFだからAクラスには行けれないってことか」

 

そう呟けば、葉桜は肯定と頷く。

 

「逆に、高位クラスの生徒たちは行動範囲が広い。

S~Bの生徒たちはこのFクラスにまで歩けれる。

これは三年生の教室でも同じだから気を付けてね」

 

「分かった。しかし、本当にこの学校は変わってるな。

まるで貴族か軍事のようだぞ。サーゼクス・グレモリーは一体何を考えているんだ?」

 

「ひょ、兵藤くん・・・・・理事長に呼び捨ては・・・・・!」

 

俺の発言に葉桜が窘めてきたが途中で口が止まった。俺の後ろを見て固まっている事に気付いた。

なんだ?と背後に振り向く。

 

「構わないよ。寧ろ、私のことをお兄さんと呼んで欲しいぐらいだね」

 

紅髪の男性がにこやかに笑みを浮かべて、俺の後ろに立っていた。

 

「り、理事長っ!?」

 

「・・・・・どうしてここに?」

 

そう問うと、俺が持っている新聞に視線を向けてきた。

 

「なに、今朝から騒がしいものでね。その理由を探ってみれば、

兵藤一誠くんのことで盛り上がっているじゃないか。・・・・・一応、キミは重要で主要な

人物だからね。おいそれと、世間に明るみになっては我々も困るのだよ」

 

「・・・・・俺が?」

 

怪訝にサーゼクス・グレモリーに問う。どういうことだ、と。

 

「私から彼に伝えよう。理事長権限を使ってね。

これ以上、キミの学校生活に支障が生じては大変だろう」

 

それはありがたい。だが、なぜ俺を特別扱いのようにするんだ?

 

「・・・なぁ、どうしてそこまで俺のことを関わるんだ?俺はあなたたちのことをいままで

知らなかったんだぞ・どうしてなんだ?」

 

サーゼクス・グレモリーに問うた。さて、どう答える?

 

「キミの両親には大変世話になっているのでね。少しでも恩返しとしたいのだよ。

ましてや、キミは私の妹を守ってくれた。―――これが私の答えだが、不満かね?」

 

「・・・・・」

 

真っ直ぐ目を向けてくる。その目は嘘偽りがない事に、分かった。

 

「・・・・・取り敢えず、分かった。まだ、納得できないところがあるけど」

 

「そうかい。それは良かった」

 

安心した表情を浮かべる。と、徐に懐に手を差し込んで何かを取り出した。

 

「そうだ。私とアドレスを交換しないか?妹のアドレスもあるのだがどうだい?」

 

「・・・・・友好に関わりたいと?」

 

と、言えばサーゼクス・グレモリーは頷いた。

 

「キミが悪魔と堕天使を嫌う理由は十分理解する。だがね。

キミが思っているような悪魔と堕天使は何も全員ではないよ」

 

「・・・・・」

 

リアス・グレモリーと同じことを言いやがるんだな。

 

「・・・・・リアス・グレモリーと兄妹だけあって、似ているな」

 

「おや、嬉しいことを言われたね」

 

「・・・魂までは売らないからな」

 

携帯を取り出しながら言った。そう言えば、サーゼクス・グレモリーは笑った。

 

「はははっ、そんなことしたらルシファーさまたちに殺されかけないよ」

 

「あなたは殺しても死ななさそうがな」

 

「悪魔が永遠に近い人生の中を生きられても、心臓を刺されたり、首を斬られたら流石に死ぬさ」

 

「なるほど、それを聞いて安心したよ」

 

と、雑談しながらアドレスを交換し終えた。サーゼクス・グレモリーは満足気に頷き、言う。

 

「さて、私は彼のもとへ行こう。キミは何も心配する事もなく、学校生活をエンジョイしなさい」

 

そう言って、サーゼクス・グレモリーはいなくなった。

 

「席に座るか」

 

「はい、そうですね」

 

何事もないように俺たちは自分の席に近づいて座った。

 

「ん?お兄さん?」

 

今更ながら、サーゼクス・グレモリーが言った言葉に疑問を浮かんだ。まあ、どうでもいいか。

 

―――○●○―――

 

授業が終わり、休憩時間となった。席に立ちあがり龍牙の所に赴く。

 

「龍牙、質問していいか?」

 

「いいですよ」

 

神滅具(ロンギヌス)って何だ?」

 

と、質問した。そしたら、キョトンと龍牙が首を傾げた。

 

「一誠さん、神器(セイクリッド・ギア)のこと知らないんですか?」

 

「それは知っていた。でも、神滅具(ロンギヌス)って単語は聞いた事がなかったんだ。

神器(セイクリッド・ギア)を所有しているお前なら知っているかなと思ってな」

 

「ええ、知っていますけど。神滅具(ロンギヌス)とは、

神を滅ぼすことが可能性を秘めている神器(セイクリッド・ギア)なんです。

大雑把で言えば、他の神器(セイクリッド・ギア)より強力な能力を複数ある神器(セイクリッド・ギア)ですね」

 

「・・・・・そこまで凄いのか。全然知らなかったぞ」

 

話を聞いて感嘆すると、龍牙が苦笑する。

 

「僕自身も驚いていますよ。知らないなんてびっくりです」

 

「今の今まで修行をしていたから知識があまりないんだ」

 

「そういうことだったんですか。しかし、グレートレッドと一緒に生活している人なんて、

現物を見ても信じられませんね」

 

・・・・・龍牙の話しを聞くと、グレートレッドさんって結構有名なのか?

 

『知らん。勝手に奴らが騒いでいるだけだ。それよりも一誠。

目の前の人間、ドラゴンを宿しているぞ』

 

そうなの?

 

『ああ、すっかり忘れていたが、「輝甲龍皇(ギガンティック・ドラゴン)」ファフニール。そいつがいる』

 

ドラゴン系の神器(セイクリッド・ギア)か。俺と一緒だな。

 

―――ガラッ!

 

「おい、兵藤一誠はいるか?」

 

扉が開いた音と同時に、俺の名を言う誰かか尋ねてきた。振り向けば。

金髪の髪を逆立てた赤い瞳の男子生徒が傍らにケースを持った二人の男子を引き連れて入ってくる。

 

「・・・三年生の人です」

 

声を殺して言う龍牙の瞳から「気を付けてください」と訴えてくる。

面倒な相手なのか?三年生と思しき男子生徒が近づいてきて、あの新聞を見せ付けてきた。

 

神滅具(ロンギヌス)を四つ所有して尚かつ、グレートレッドと住んでいるって話し、

本当か?」

 

何気に高慢的な態度だな。クラスメートたちは静かに成り行きを見守っている。それで正解だな。

 

「ああ、神滅具(ロンギヌス)の関しては知らなかったけど、グレートレッドと住んでいるのは事実だ。

けど、それがどうかしたか?先輩には関係ない話しだと思うが?」

 

「関係なくねえな。お前はこれから俺の眷属となるんだからよ」

 

―――こいつ、悪魔か。ケースを持った二人の男子生徒が近づき、ケースを開けた。

それを俺に見せびらかす。

 

「・・・・・?」

 

チェスのような駒が一つと、契約書が一枚、もう一つのケースには札束がギッシリと詰まれていた。

 

「金の方はざっと一億はある。人間がどれだけ働こうが決して手に届かない金額だ」

 

「・・・で、この駒は何?」

 

変異の駒(ミューテーション・ピース)

複数消費が必要な相手に、これ一つだけ消費すれば悪魔に転生できる優れ物の駒だ」

 

ふぅん、これがそうなんだ・・・・・・。初めて見るな。マジマジと駒を見ていると、上級生が不敵の笑みを浮かべた。自信に満ちた表情を。

 

「兵藤一誠、この一億をくれてやる代わりに俺の眷属となれ。

なった暁には、なに不自由のない生活を送らせてやる」

 

『・・・・・』

 

教室が緊張に包まれる。そんな緊迫する空気の中、俺はとある質問をした。

 

「先輩の強さはどれぐらい?」

 

「あ?」

 

「全校生徒の中で先輩の実力はどれだけ強い?と聞いているんですが」

 

「・・・・・」

 

上級生は不機嫌そうに目を細め俺を睨んでくる。

 

「つまり何だ?王道的なあれか?自分より弱い奴の下にいたくないというあれか?」

 

「純粋に質問をしているだけだ。言い辛いならどこのクラスなのか教えて欲しい。

クラスが分かれば先輩の強さが分かるからさ」

 

「・・・・・っ」

 

ガシッ!

 

突然、俺の胸倉を掴んで、

 

「てめぇ・・・・・なにさまのつもりだぁ?」

 

ドスの利いた声で問いかけてきた。リーラや葉桜、和樹、龍牙が制止をしようと動くのを見え、

俺は腕で制する。

 

「この俺が、ひ弱い人間から強い存在に変えてやると言っているんだ。

永遠に近い命だって得られるんだぞ?

お前ら高が数十年しか生きられない下等な種族にこれ以上のない交渉でこっちからやってきたんだ。

てめぇはありがたく、この交渉を承諾すりゃあいいんだよ。

―――おら、さっさとこの契約書にサインをしやがれ」

 

ケースから契約書を掴んで、龍牙の机の上にバンッ!と叩きつけた。

 

「お前がいれば俺は最強になれるんだ。

そうすりゃ、三世界の王になれることだって夢じゃないんだ」

 

「・・・・・三世界の王?」

 

「なんだ、知らないのか?冥界の魔王の娘、天界の神王の娘、そんで、

この人間界の王の娘と結ばれば、三世界の王となれるんだぜ?そのためにはどうしても力が必要だ。

圧倒的で絶対的な力を。その力を持つのはお前だ。

四つの神滅具(ロンギヌス)、不動の存在、グレートレッド。

最強の力をお前は知らないで所有しているんだ。誰もお前を無視するわけがない」

 

上級生の野望が口から出てくる出てくる。静かにその話を聞き、

あの三人の顔を脳裏に思い浮かべる。

 

「(こんな悪魔があいつらと結ばれる・・・・・?)」

 

とてもじゃないが、こんな悪魔とつりあえるとは思えない。自分のことしか考えていない奴が。

 

「お前がいれば、俺は世界を支配できる!だからよ。

お前は未来の王となる俺の眷属に相応しい下等種族なんだ!」

 

―――あいつらを幸せにできるかよ・・・・・。

 

「・・・・・よーく、分かった」

 

そう呟くと、上級生は嬉々と笑みを浮かべた。なにか、勘違いしているような気がする。

 

「はっ、ようやく分かったか?だったら、さっさと契約書に―――」

 

ガッ!

 

「―――てめえみてぇな悪魔が、冥界だけじゃなく、この世界にもいるってことがな」

 

胸倉を掴む手の手首を掴んで、上級生に殺意を向けた。

 

「っ・・・!?てめ・・・・・!俺に逆らっていいと思ってい―――」

 

「うるさいよ」

 

グシャッ!

 

「っ!ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

手首の骨を握りつぶしただけでそんなに喚くな。

と、上級生が引き連れてきた二人が攻撃態勢になろうとしていたのを視界の端に映る。

 

「動くな」

 

「「っ・・・!?」」

 

瞬時で背中に生やした金色の翼で二人の咽喉に突き付けた。

 

「これは天使の翼と思え。お前ら二人の首を簡単に斬ることだってできるんだからな」

 

そう言えば、ゴクリと唾を飲み込み、大人しくなった。

 

「ぐぅぅぅっ・・・・・!は、放せっ・・・・・!お、俺を誰だと・・・・・!」

 

「知るか。俺からすればお前は木端悪魔だ」

 

金髪を鷲掴みにして持ち上げる。苦痛に歪んだ上級生の顔はとても愉快だった。

 

「他人の力を借りることしか能がない悪魔の眷属に誰がなるか。

―――俺は悪魔と堕天使が嫌いなんだよ」

 

拳を握りしめて、上級生の腹部に深く突き刺す。

鈍い音が炸裂したと共に上級生が苦痛の悲鳴を上げる。

 

「がぁっ!?」

 

「そうだ、3年D組の委員長のようにしてやろうか?」

 

あの先輩、授業が終わった後すぐに病院へ搬送されてたし、全治一ヶ月とかいってたな。

 

「ひっ―――――!?」

 

あの委員長の末路を今度は自分もなるんだと理解したのか、顔を青ざめ始めた。

 

「お前の場合、二ヶ月にしてやるよ」

 

そう言って俺は上級生の顔面に拳を放った。

 

「や、やめろぉぉぉっ!?」

 

制止の声がするが、止める気はない。俺の拳は真っ直ぐ、上級生の顔に向かう。

 

―――ガッ!

 

しかし、俺の拳は上級生の顔面の前で、誰かの手によって受け止められた。

 

「そこまでにしてもらおう」

 

「・・・・・」

 

俺の拳を受け止めた。それはかなりの実力者だと理解した。

乱入してきた第三者に視線を向ければ。

 

「イッセー!」

 

リアス・グレモリーが俺の傍に駆けつけ、羽交い締めしてきた。

 

「それ以上、攻撃をしないでちょうだい!」

 

「・・・・・」

 

そう言われるが、俺は黒髪の短髪、紫の瞳を持つ男に睨んだままだ。

 

「それ以上、この者に攻撃を加えれば、停学どころではなくなる。俺はその結果に好めない」

 

「・・・・・」

 

停学どころじゃなくなる、そう言われ舌打ちをして上級生を離した。

そうすると、リアス・グレモリーが俺の前に立って、顔を覗きこんでくる。

 

「イッセー・・・・・どうしてこんなことを・・・・・」

 

「・・・はっ、そこの上級生が眷属になれと恫喝してきた。

その理由があまりにもふざけているから、ついな」

 

「つい、って・・・あなた・・・・・」

 

悲しげに呟くリアス・グレモリー。はいはい、俺が全面的に悪いだろうさ。

 

「ぐっ、ちくしょうっ・・・・・この、下等種族が・・・・・・よくも俺を恥かかせやがったな」

 

フラフラと立ち上がる上級生。上級生は体格の良い紫の瞳の男子に懇願するように喋り出した。

 

「おい、サイラオーグ!この人間は俺の誘いを蹴ったどころか、手を上げて反抗してきた!

これはどう考えても『はぐれ』と同じだろう!?こいつを捕まえろ!」

 

はぐれ・・・・・?ああ、昔、はぐれ悪魔が言ってた話しのことか。

サイラオーグとかいう男子生徒は腕を組んで首を横に振る。

 

「・・・・・それは俺が決めることではない」

 

「あぁっ!?」

 

「お前の行動を見ていたこのクラスの者たちの証言によってお前の立場が変わる」

 

サイラオーグという男子生徒がクラスメートたちを見渡した。

 

「ハッキリ問おう。兵藤一誠とこの男、どちらが悪かった?指を差して決めてくれ」

 

『・・・・・』

 

クラスメートたちは顔を見合わせ・・・・・ゆっくりと指を差した。

そう・・・・・上級生のほうに。

 

「こ、この・・・・・!?」

 

ギリギリと歯を強く噛みしめ、憤怒の形相を浮かべた。

サイラオーグという男子生徒は、真っ直ぐ上級生に視線を向ける。

 

「どうやらお前のようだな。兵藤一誠も非がないとは言い切れないが、

このクラスの者たちはお前を差した」

 

「ふざけんなっ!?こいつが俺の誘いを受けないのが悪いんだ!

おい、兵藤一誠!てめえ、絶対に後悔させたやる!どんな方法を使ってでも、俺はお前を―――!」

 

ドゴンッ!

 

上級生の叫びが、突然の激しい打撃音によって途中で聞こえなくなった。

上級生は言葉を全部言い切る前に―――サイラオーグの一撃で教室の黒板の壁に叩き飛ばされていた。

 

ガラッ・・・・・。

 

壁から上級生が落ちる。―――すでに気を失ったようで、床に突っ伏していた。

 

「・・・・・やっぱり、強いですね」

 

「龍牙?」

 

真剣な表情で龍牙が言う。サイラオーグという男子生徒は自分が吹っ飛ばした上級生のもとに寄り、制服の襟を掴んだ。

 

「―――三年S組の委員長、サイラオーグ・バアル。

この駒王学園が始まって以来、悪魔であるにも拘らず、魔力が使えない悪魔です。

しかし、彼は体術だけで頂点を登り詰めた駒王学園最強の悪魔なんです」

 

魔力が使えない悪魔・・・・・体術だけで頂点に上り詰めた悪魔・・・・・。

 

「すまないな兵藤一誠」

 

「・・・・・なに?」

 

いきなり謝罪された。なんでだ?

 

「この者は前からゼファードルと一緒で学園の規律を乱す悪魔だ。近々粛清しようと思っていたが、

ゼファードルを先に粛清をしてもらった。今回もお前に迷惑を掛けてしまった。」

 

「・・・ああ、別に気にしないでくれ」

 

「今後、色々と見直さなければなるまいな。

リアス、ソーナとシーグヴァイラを招集して会議をするぞ」

 

「え、ええ・・・・・分かったわ」

 

「ではな、兵藤一誠」

 

サイラオーグとリアス・グレモリーが教室からいなくなろうとする。その時だった。

 

「いつか、お前と全力で戦ってみたいものだな。格闘術を駆使してな」

 

それだけ言い残して、いなくなった。

その後、騒ぎを掛け付けてきた教師陣から根掘り葉掘り吐かされた。その結果。

 

―――兵藤一誠、三日間の謹慎処分を下す。

 

『絶対にあり得ないっ!』

 

俺の処分を知ったリアス・グレモリーたちが激怒したのは余談である。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode5

「へぇ・・・・・ここがイッセーの家なのね」

 

「私の家より広いっす」

 

「そうですね・・・・・」

 

「わあ、家の中に噴水があるんだ!」

 

「あの頃のように戻ったような感じで懐かしいですね・・・・・」

 

はい、兵藤一誠です。上級生の悪魔との一件以来、俺は謹慎処分を言い渡されて三日間、

この家の中に閉じ籠ることになった。その初日、なぜか・・・・・。

 

「―――どうしてお前らがこの家にいるんだよ!?」

 

リアス・グレモリー、ソーナ・シトリー、リシアンサス、

ネリネ、リコリスの五人が家の中にいた!

 

「リーラ!これはどういうことだ!?」

 

彼女に問い詰めれば、「申し訳ございません」と言って説明してくれた。

 

「・・・・・サーゼクスさまからの依頼です」

 

「・・・サーゼクス・グレモリーから?」

 

オウム返しで問えばリーラは頷き説明してくれた。

聞けば、俺が謹慎処分を下ったことで五人が教師や理事長である

サーゼクス・グレモリーに抗議したようだ。

 

「さらには一誠さまの処分を知った神王さまや魔王さまも、学園に現れて・・・・・一悶着を」

 

「・・・・・それで、どうして五人がここにいるんだ?」

 

俺の家をどうやって知ったのかこのさい置いて置く。でも、どうしてこの家にいるのか知りたい。

 

「・・・・・ケアをするために訪問してきました」

 

「ケア・・・・・?」

 

俺は別に病気を患っているわけでもないし、心の病を抱えているわけでもない。

至って健康だが・・・?

 

「ええ・・・・・リアスさまたちのケアです」

 

「俺じゃないのかよ!?」

 

五人のケアの方かよ!?どうして、俺がしなくちゃいけないんだ!意味が分からないぞおい!?

 

「だって、イッセーくんは何も悪くないのに謹慎処分なんて酷過ぎるっす!」

 

「そうです!イッセーさまは何も悪くないですのにあまりにも酷いです!」

 

「私もネリネやシアちゃんと同じ気持ちだよ」

 

「以下同文です」

 

「私もよ」

 

・・・・・ケアしなくても元気そうなんだけど?

と、リーラに視線を向けたら珍しく彼女が溜息を吐いた。

 

「・・・・・リアスさまたちが怒り狂って学園の一部を消滅させてしまったので、

このままでは危険だと理事長から五人のケアをして欲しいと依頼が・・・・・」

 

学園の一部を消滅って・・・・・お前ら、なにしてんの!?

 

「それじゃ、イッセーくん♪三日間よろしくお願いします!」

 

「三日!?えっ、お前らここに泊るのか!?」

 

「「「「「うん」」」」」

 

な、なんてこった・・・・・こいつらがここに泊るだなんて・・・・・!

そういえば、足元にある荷物はそのためだったのか!

 

「では、皆さんが就寝するお部屋にご案内します」

 

「リーラ、何気に場の流れに乗ろうとしているな」

 

「メイドですので」

 

・・・・・それで済んじゃうから便利だよな。メイドって。

 

「んじゃ、俺は時間だから」

 

「はい、御用がありましたらお迎えしますので」

 

俺は頷いて、この場から離れる。さて、修行の始まりだ。

 

―――○●○―――

 

―――リアスside

 

彼がどこかへと行ってしまった。一体どこへ行ったのだろう?

 

「ねぇ、彼はどこに行ったの?」

 

「一誠さまは修行をするため、トレーニングルームへ赴きました」

 

「トレーニングルーム?この家にそんな部屋があるの?」

 

「はい、暇さえあれば一誠さまは修行をなさいます」

 

その理由はきっと復讐のためね・・・・・。

私、リアス・グレモリーは心の中で悲し気にそう漏らした。

 

「では、ご案内しますのでついて来てください」

 

私たちは頷き、手荷物を持って彼女の後を追う。レッドカーペットに敷かれた

二階へあがる階段を上っていきながら、目の前に歩く彼女の髪をふと視界に入れた。

 

「(・・・・・綺麗な髪ね)」

 

サラサラと流れる銀色の髪。私が知る銀髪のメイドとは明るさが違う。

私でも思わず身惚れてしまうほど幻想的な色の髪。

 

「リーラさん、イッセーくんのメイドなんですよね?」

 

「はい、幼い頃からメイドとして仕えさせてもらっています」

 

「そうなんですか。あの、ちっちゃい頃のイッセーくんってどんな子でしたか?」

 

「そうですね・・・とても可愛らしくて、負けず嫌いで、一生懸命頑張っておりました」

 

リーラさんがクスリと笑みを浮かべた。私たちは一度しか見たことがない。

あの頃、私たちがまだ幼かった頃、あの公園で彼と出会い、そして別れた。

 

「そういえば・・・あの頃から一誠さまはモテていましたね」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

「しかもお二人です。今頃お美しく成長したと思いますが・・・・・」

 

ふ、二人・・・・・イッセーに好意を抱いていた子がいたのね・・・・・。

 

「皆さんが就寝するお部屋でございます」

 

と、彼女が不意に歩みを停めて案内してくれる。何の変哲のない扉。

彼女は扉を開け放ち私たちを中に入るように促す。私たちは中に入った。

部屋の中はシングルベッドがあり、大きな鏡が壁に飾れられ、机や椅子、

私生活に必要な家具が揃っていた。

 

「一人一室ずつご使用ください。何か御用でしたら、こちらの赤いボタンを押してください」

 

壁にある赤いボタンにリーラさんは説明する。わかったわ。

 

「リーラさん、この家の構造はどんな感じに?」

 

「地下5階までございます。さらにここは、三階建の家です」

 

「外から見ても大きいとは思っていたけど・・・・・どうしてそこまで広く大きくしたの?」

 

私は疑問をぶつけてみた。彼女はこう言った。

 

「いつか、あなたたちのような方がこの家に住み着くと考えた結果です」

 

私たちのような・・・・・?

 

「―――少なからず、あなたたちは一誠さまに好意を抱いておるのですよね?」

 

「――――――」

 

真っ直ぐそう言われ、私は絶句した。

そ、それは・・・と、ストレートな発言に思わず私は照れてしまった。

 

「でなければ、あなたたちがこの家に来るようなことはございません。

自分たちのケアをして欲しいなどと、ふざけた建前を述べるほどですから」

 

「・・・・・っ!?」

 

初めて、彼女が私たちに向けた嫌悪を感じた。メイドあるまじき発言だった。

 

「先に仰りましょう。私は一誠さまを身も心も捧げる所存です。

髪の毛一本から足の爪も、私の全ては一誠さまのものです。私の愛しいご主人さまは、

誠さまと一香さまを殺害した悪魔と堕天使に復讐するまで体が傷付いても

決して戦いを止めないでしょう」

 

『・・・・・』

 

「半端な気持ちで一誠さまにお近づきにならないでください。

例え、冥界と天界の姫だろうが私は許しません」

 

失礼します、と彼女はこの部屋から出て行った。

後に残された私たちはなんとも言えない空気に包まれる。

 

「・・・・・あの人、本当に心からイッセーくんのことを好きなんだね」

 

「命を代えても守りきる。と、そんな感じだったね」

 

「彼女はイッセーのことを知っている。そう、昔から・・・・・」

 

「ご両親を殺された時からも・・・ずっと・・・・・ですね」

 

「・・・・・」

 

少し、浮かれていたかもしれない。彼のことを私たちはまだ何一つ理解していないのに、

少し分かりきっていた態度をしていたのかもしれない。気を付けよう・・・・・。

 

―――ソーナside

 

私たちが寝る場所に荷物を置き、部屋から出ますとリーラさんが、家の中を案内してくれました。

殆ど未使用の部屋ばかりで、これから何に使うかイッセーくんと決めるそうです。

そんな時、私は問いました。

 

「・・・そう言えばリーラさん」

 

「なんでしょうか?」

 

「イッセーくんはグレートレッドと住んでいると知りましたが、グレートレッドは次元の狭間に?」

 

真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッド。彼が共にいるという。

不動の存在と。リーラさんは私の問いに応えようと口を開いた。

 

「いえ、一緒に住んでいますよ。今頃、一誠さまの相手をしておりますでしょう」

 

イッセーくんの相手・・・・・?それってつまり・・・・・修行の相手?

 

「ご覧になってみますか?一誠さまの強さの根源を」

 

彼女がそう言う。私たちは彼のことを知ろうと改めて決心をし、頷いた。

 

「では、行きましょう。こちらです」

 

一階へ降りていくリーラさんに後を追う。

すると、階段の裏に回ったかと思えば、筒状のエレベーターらしきものが。

それにかなり広く、軽く20人は乗れそうだった。そのエレベーターに載るリーラさんに続いて

私たちも乗る。シャッターが閉まり、一瞬の浮遊感を感じた瞬間に下に降りて行くのが分かった。

 

しばらくすると、エレベーターが急停止し、シャッターが左右に開いた。

私たちは降りると、とんでもない光景が目に飛び込んできた。

赤いドレスを身に包んだリアスのような紅髪と違う真紅の長髪。

その双眸は垂直のスリット状の金色の瞳の女の人と、

黒いコートに身を包んだ金色と黒色が入り乱れた髪。その双眸は右が金で、

左は黒という特徴的なオッドアイの長身の男の人とイッセーくんと二対一で戦っていました。

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

イッセーくんが地面に叩きつけられました。さらに男の人が真上に飛んで黒い魔力を放った。

すると、彼から金色の閃光が上に向かって伸び、黒い魔力とぶつかりました。

その際、激しい轟音が響き渡り―――。

 

ジリジリジリジリジリジリッ!

 

この空間に鐘が鳴りだしました。三人はその鐘に反応し、戦闘態勢を解除しました。

 

「ん?なんだ、来ていたのか」

 

イッセーくんが私たちに気付きました。体のあちこちに血が流れ出て、頭からも血が流れていた。

 

「イ、イッセーくん・・・・・血が・・・・・」

 

「ああ、何時もの事だ」

 

何時ものことって・・・・・これが当たり前のことなんでしょうか?と、思っていると、

彼の背中から六対十二枚の翼が広がるように現れて、イッセーくんを包んだ。

少しして、翼が開いて彼の姿を覗かせる。そこにいた彼は完全に傷が治っていました。

 

「凄い・・・・・傷が直ぐに治ったっす」

 

「これ、禁手(バランス・ブレイカー)の状態なんだ。だから直ぐに傷が治る」

 

禁手(バランス・ブレイカー)っ!?」

 

私は驚きました。天使のような翼が禁手(バランス・ブレイカー)だなんて。力を解放した瞬間が見えませんでした。

 

「・・・・・あの、この方たちは?」

 

ネリネが恐縮するようにイッセーくんの傍にいる二人に視線を向け、彼に訊ねました。

一人はもしかしたら、と思いますが・・・・・もう一人は一体・・・・・。

 

「ああ、真紅の髪の女性は『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッドだ」

 

―――やっぱり!?イッセーくんが紹介した女性は、腕を組んで不機嫌そうに鼻を鳴らしただけで、

何も言いませんでした。

 

「それで・・・このお方は?」

 

今度は私が男の人に尋ねました。さっきから感じる凄まじいプレッシャー。

イッセーくんより強い実力者と伺える。果たして一体誰なんでしょうか・・・・・。

 

「『三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハだ」

 

「・・・・・なっ・・・・・!?」

 

三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』―――クロウ・クルワッハ!?

 

「邪龍の中で最強の邪龍と称され、邪龍の筆頭格のドラゴン!?」

 

リアスが激しく驚きました。私もそうですか・・・・・。

 

「イッセーくん・・・・・あなたは、どこで邪龍と出会って味方にしたんですか?」

 

私の問いに彼は、クロウ・クルワッハと顔を見合わせて口を開いた。

 

「幼い頃、俺が一人冥界で修行していたらクロウ・クルワッハが現れた」

 

「兵藤一誠を気に入った俺はグレートレッドと賭けをした。だが、俺は賭けに破れた。

しかし、兵藤一誠が『一緒に暮らそう』と誘われてな。俺はその誘いを受けたに過ぎない」

 

そ、そんな出会いがあったのですか・・・・・あまりにも有り得ないですよ。

 

「あのー、賭けというのは?」

 

「クロウ・クルワッハの体に傷を付ける事だ」

 

「・・・・・普通、できないと思うのですが、ここにいるという事は傷を付けたということなのね?」

 

「ああ、首の下から体を消失させられた。見事な一撃だった」

 

「でも、こうやって体術だけでやるとまだまだ勝てないんだよ。まあ、当然だけどな」

 

苦笑する彼。だけど、彼の凄さはあまりにも異常です。

真龍と最強の邪龍を共にいさせるなんて前代未聞です。

 

「イッセー、クロウ・クルワッハのことをお兄さまたちは・・・・・」

 

「知らないだろう。俺からも言っていないし、言ったら絶対に面倒なことになりそうだ」

 

溜息を吐く彼は、グレートレッドに顔を向ける。

 

「彼女の存在だって本当は知らせるつもりはなかったんだけど、

杉並ってやつがバラしてくれやがったからな。だから俺の力を、

グレートレッドさんの力を欲してあの上級生の悪魔が来たんだろう」

 

『・・・・・』

 

だから彼は、眷属の誘いを断り、そのせいで自宅待機の謹慎処分が下された。

 

「さて、地上に戻ろうか」

 

そう言う彼。私たちはただ頷くことしかできなく。再びエレベーターに乗り込んだ。

 

 

―――ネリネside

 

こんにちは、私はネリネといいます。

今日はイッセーさまのお家で三日間お泊まりするため、あの人の家に来ております。

 

「・・・・・で、お前らをケアするってサーゼクス・グレモリーからの依頼そうだが、

実際に何をすればいい?」

 

リビングキッチンにあるソファーをお座りになりながら問うてきました。

 

「えっと・・・・・私たちと三日間一緒に過ごすだけでいいの」

 

「それだけでいいのか?」

 

怪訝な顔でリアスさんに言うイッセーさま。

ううう・・・・・絶対に面倒くさいと思っておりますでしょう。

私たちはあなたの傍にいたいと言うだけでここにいるのですから。

 

「・・・・・まあいいか」

 

リーラさんからコーヒーを受け取って一口。

受け皿にカチャリと置くと、彼は私たちを見渡します。

 

「改めて、久し振り。だな」

 

「ええ、久し振り」

 

リアスさんは笑みを浮かべる。私たちも久し振りです、と同意の意志表現をします。

 

「まったく、あの時は驚いたぞ。人が寝ているところを突き飛ばして水の中に落としたんだから」

 

「あっ、あれはあなたが悪いのよ!誘っているのに寝ようとするから!

しかも仕返しと水を掛けたじゃない!」

 

「水に滴る男はいい男もとい、水に滴る女はいい女ってな。

お互いずぶ濡れだったからあれでお相子だろ」

 

「・・・・・あなた、本当に昔の頃と変わっていないわね」

 

「それはこっちのセリフだリアス・グレモリー」

 

売り言葉買い言葉・・・・・。ですけど、本気で喧嘩しているようには見えません。

昔のことを思い出しながら言っているようにも思えます。

 

「・・・・・ところで、何時まで私のことをリアス・グレモリーと呼ぶのかしら?」

 

「俺の勝手だろ?不名誉な名を言っているわけじゃないし」

 

「私のことをリアスと呼びなさいよ。・・・・・あの時のように」

 

「気が向いたらな」

 

そう言ってコーヒーを飲む。すると、彼の隣に自然とグレートレッドが座りました。

そのまま彼女はイッセーさまの太腿に頭を乗せて、のんびりと・・・・・羨ましいです。

 

「・・・・・グレートレッドって、初めて見るけど綺麗なんだね」

 

「そうっすね」

 

リコリスとシアちゃんがグレートレッドを見て感嘆します。

そうですね、私から見てもとても綺麗な人です。

 

「そういえば、シアたちはどこのクラスだ?」

 

「Cクラスっす!」

 

「中間あたりのクラスか。俺たちからそっちのクラスには行けれないから、

用があるならそっちから来てくれよ」

 

「うん、分かった。謹慎処分が終わったら遊びに行くね」

 

それまで私たちはイッセーさまと屋根の下で・・・・・・。不謹慎ですが、とても嬉しいです。

 

「(時間は三日間。この三日間を大切に使い、イッセーさまともっと親密な関係に・・・・・)」

 

うん、と首を縦に振って密かな気合を籠め、決意するのです。

 

―――リコリスside

 

はい、リコリスです。いまの時間は夜の六時です。

イッセーくんの家に来てだいぶ時間が経ちました。

 

「そろそろ夕食の時間か」

 

イッセーくんがそう言い、顔をリーラさんの方へ向けた。

それだけで彼女は「わかりました」と頷いてキッチンの方へ向かって行った。

 

「イッセーくんって料理作れるの?」

 

「できるけどそれが?」

 

わあ、イッセーくんが料理できるんだ。まるでお父さまみたいだね。

 

「得意な料理って何かな?」

 

「得意な料理・・・・・別にこれといったものはないな。

様々な料理を作れるようにしているだけだし」

 

そうなんだ。でも、色んな料理を作れるって凄いね。

 

「ううう・・・・・羨ましいです」

 

あっ、ネリネが羨望の眼差しを向け始めた。

イッセーくんは「ん?」って、首を傾げる。ネリネのことを私は説明した。

 

「ネリネって料理が下手なの」

 

「はうっ!」

 

ストレートに言ったらネリネが胸に手を押さえた。その様子に納得したようで頷くイッセーくん。

 

「ああ、そういうことか。母親に習わないのか?」

 

「しているんだけど、キッチンが爆発しちゃうんだよねー」

 

「・・・・・どう調理をしたら爆発するんだよ」

 

怪訝な顔になった。その気持ちは、分からなくないよ。うん。

 

「リアス・グレモリーたちは料理作れるのか?」

 

「ええ、人間界に住んでいるもの。料理ができないと色々と不便だし」

 

「私はお菓子も作れます」

 

――――――っ

 

ソ、ソーナのお菓子・・・・・。その言葉を聞いて私は久し振りに畏怖の念を抱いた。

ソーナのお菓子は見た目がよくても何故か、味が―――!

 

「へぇ、女の子らしいじゃないか」

 

「そ、そうでしょうか・・・・・?・・・・・では・・・・・・」

 

ソーナが魔方陣を展開した。そしたら、魔方陣から箱が出てきた。ま、まさか・・・・・っ!?

 

「あなたに食べてもらおうと、お菓子を作ってきたのです」

 

「おっ、そうなのか?」

 

「ええ、どうぞ。食べください」

 

イ、イッセーくぅぅぅぅんっ!?ダメ、絶対に食べちゃダメだよぉぉぉぉっ!

絶対にイッセーくんでも無事じゃないよ!

だけど、そんな私の思いは、イッセーくんに通じず、ソーナから箱を受け取って蓋を開けた。

 

「ん、美味しそうだな。形も綺麗に整っている」

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

私たちは緊張してイッセーくんを見ている。その理由はソーナのお菓子を食べたことあるからだ。

でも、ソーナは私たちとは別の意味で緊張してイッセーくんを見詰めている。

美味しいと言ってくれるのだろうか?と、

 

「んじゃ、いただきます」

 

箱の中に入っていたお菓子を一つ摘まんで、口の中に放り込んだ。

咀嚼する音がハッキリと聞こえる。イッセーくん・・・・・どうか、死なないで・・・・・!

 

「ソーナ」

 

「はい・・・・・」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

イッセーくんの反応は・・・・・。

 

「甘くて美味しいな」

 

「「「「―――――えっ!?」」」」

 

「そうですか・・・・・良かったです」

 

そ、そんな・・・・・!?私は信じられないものを見る目でイッセーくんの見ていると、

本当に美味しそうにパクパクとお菓子を食べ続けていく。

 

「イ、イッセーくん・・・・・美味しい・・・・・?」

 

「ん、甘くて美味いぞ?店に出せれるんじゃないか?」

 

―――――っ!?み、店に出せれるって・・・・・ほ、本気で言っているの・・・・・?

 

「ね、ねぇ・・・イッセー?私もお菓子をくれるかしら・・・・・」

 

リ、リアス!?

 

「いいぞ。他の奴らも食ってみろ」

 

「・・・・・で、では・・・・・」

 

「た、食べてみるっす」

 

あわわ・・・・・イッセーくん。知らないとはいえ・・・・・私たちを・・・・・。

受け取ったソーナのお菓子を受け取って、ゴクリと唾を飲み込む。

 

「(本当に私たちがケアをしてもらうのかもしれない)」

 

嬉しさ半分、これからお菓子を食べる恐怖。い、いざ―――。

 

サクッ・・・・・。

 

―――リシアンサスside

 

・・・・・うっ・・・・ここ・・・・・は・・・・・?

私、リシアンサスことシアは、目を開けた。体の調子は・・・・・あれ、悪くないっす。

 

「気がついたか?」

 

直ぐ傍に男の人の声が聞こえた。

そっちの方へ見ると、背中に六対十二枚の金色の翼を生やしていたイッセーくんがいたっす。

 

「イッセーくん・・・・・」

 

「ソーナのお菓子を食べて気絶するなんて驚いたぞ」

 

そう言って苦笑するイッセーくん。その顔を見て、私は周りを見渡した。

リンちゃんやリコリスちゃん、リアスちゃんが金色の翼に包まれていたっす。勿論、私もそうだった。

 

「ああ、この翼は癒しの効果がある。だから、こうして包まれていると、

どんな病や怪我を治すことができるんだ」

 

そうなんだ・・・・・だけど、この翼から感じる温かさは安心感が感じる・・・・・・。

 

「イッセーくん、ソーナは?」

 

「ん」

 

親指を横に突き刺した。その先の方へ視線を向けたら・・・・・。

 

「・・・・・」

 

首に『私はヒトを気絶させるほど不味いお菓子を食べさせてしまった事に深く反省しています』と

書かれた木の板をぶら下げて正座をしていたっす。

しかも、薄っすらと涙を浮かべていた・・・・・。

 

「俺は冥界に一人で何ヶ月間も修行していた時に、何度か毒物と間違って食べたことがあるからさ、何時の間にか毒に対する耐性が付いていたようだ。さっき知ったばかりだけどな」

 

ワ、ワイルドっす。イッセーくん。だから、平気だったのね・・・・・。

 

「まあ、美味しかったのは本当だけど今度、ソーナのお菓子作りを間近で見てみるとするか。

どこか、間違った調理方法をしているのかもしれないしな」

 

それでも、ソーナのお菓子は正直言って不味いっす。そう思ったらイッセーくんは溜息を吐いた。

 

「本当にお前たちをケアすることになるとはな」

 

うっ・・・・・ごめんなさいっす。

 

「一誠さま、ご夕食の準備が整いました」

 

「ん、分かった。それじゃ、起こすか」

 

リーラさんがイッセーくんにそう告げた。

対してイッセーくんはまだ眠っているリンちゃんたちを見て言ったと思えば・・・・・。

 

バチンッ!

 

リンちゃんたちを包んでいる翼から電気が迸ったっす!

 

「うっ・・・・・」

 

すると、リンちゃんが、皆が呻き声を上げたっす。

そしたらゆっくりと、目を開ける三人。

 

「・・・・・イッセー?」

 

「おはよう、夕食の時間だ」

 

私たちを包んでいた翼を解いて言うイッセーくん。テーブルの方へ視線を送れば、

美味しそうな料理の数々が置いてあったっす。

 

「(私も、イッセーくんに料理を作って食べさせたいっす)」

 

この願いは絶対に叶えてみせるっす!そう意気込む私でした。

それから私たちはご飯を食べ、かなり広いお風呂に入って、自室で寝たっす。

 

―――一誠side

 

謹慎処分から二日目となった。朝早く起きた俺は朝のトレーニングを終え、

咽喉か渇いたのでリビングキッチンへと赴いていた。窓から見える朝日は快晴だと、分かる。

こんな日はのんびりと散歩したいなと、つい、思ってしまう。

 

「(今日ものんびりとした日常を送れるといいな)」

 

と、そんな事を考えていたその時だった。この家のインターホンが鳴った。誰だ?と、思いつつ

玄関に赴いて、来訪者を出迎えるために扉を開け放った。

 

「はい、どちら―――」

 

「ぼぉーうぅーずぅー!」

 

ガシッ!

 

「―――――」

 

突然、浴衣を身に包んだ筋肉質で中年の男性に出会い頭抱擁された。

そんで、聞き覚えのある声だった。剛腕な腕に抱えられる俺は、

抱擁してくる男性にどうしてここにいる!?と驚きながら、思いながら名を言った。

 

「し、神王・・・・・!?」

 

「おいおい坊主、水臭ぇことを言うなって!俺のことを父さんかパパと呼べや!」

 

はっ!?どうしたらそうなるんだ!訳が分からない!と、神王の言葉に耳を疑う。

 

「やぁ、一誠ちゃん。ネリネちゃんとリコリスちゃんと仲良くしてもらっているかな?」

 

「やっほー!兵藤くんお久しぶり☆あの時以来だねー?でも、ソーナちゃんは渡さないよ!」

 

なんか、面倒くさいヒトたちが勢揃いしている!?というか、

ソーナ・シトリ―を渡さないってどういう事だ!?

 

「おはよう、兵藤くん。元気にしているかな?」

 

今度はサーゼクス・グレモリーが話しかけてきた。

リアス・グレモリーたちと関係しているヒトが集合しちゃっているよ。

 

「・・・・・何の用なんだ?」

 

「なに、妹たちの様子を見に来たのだよ」

 

「それだけのために魔王と神王も来たってことなのか?仕事の方は大丈夫なのか?

冥界と天界にいなくちゃならないほど重要な人物だっていうのに」

 

「一誠ちゃん。私と神ちゃんは人間界に住んでいるんだ。この世界でちゃーんと、

魔王としての仕事を、神王としての仕事をしてるよ?だから安心するといいさ」

 

・・・・・ここに来ている時点で本当にちゃんと仕事しているのか疑わしいんだけど。

 

「―――お父さま!?」

 

驚愕の声音が聞こえた。後ろに振り向くと、ネリネが立っていた。

逆に魔王フォーベシイはにこやかに笑って手をあげて、挨拶をする。

 

「やあ、ネリネちゃん。二日ぶりだね。一誠ちゃんと一緒にいて元気になったかね?」

 

「ど、どうしてこちらに・・・・・・」

 

フォーベシイの言葉よりも、どうしてここにいるのか疑問が強いらしく、唖然としていた。

 

「愛しい娘たちの様子を見に来たのだよ。もしかしたら、一線を越えたかな?と思ってね」

 

「で、坊主。うちのシアとどこまで進んだんだ?」

 

魔王フォーベシイの言葉に同じ気持ちだと、神王ユーストマは口の端を、

ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「お、お父さま・・・・・!」

 

ネリネが顔を真っ赤に染める。俺は呆れ顔で言った。

 

「二人が思っているようなことはなっていないし、進展していない」

 

「「なっ・・・・・!?」」

 

魔王と神王が絶句した。そしてすぐに俺の肩を掴み始めた。

 

「坊主!シアには魅力がないっていうのかぁっ!?」

 

「ネリネちゃんとリコリスちゃんは、

一誠ちゃんにとって魅力的な女の子じゃないのかいっ!?」

 

憤怒の形相、涙を浮かべながら迫る神王と魔王。―――刹那。

 

「―――お父さん!」

 

家の中から椅子が飛んで来て、神王の顔面にクリーンヒットした。神王はそのまま倒れ、

 

「シ、シア・・・・・椅子はやり過ぎだと・・・・・いつも、言っているだろう・・・・・」

 

「というか、この椅子は家のだよな・・・・・?」

 

沈黙する神王。飛んできた椅子を見て俺は確かめるように呟く。

 

「お、お兄さま!?」

 

今度はリアス・グレモリーが現れた。さらに他の皆も登場だ。

 

「リアス、元気そうだね。やはり、彼の傍にいると活き活きするのだね」

 

「そ、それは・・・・・!」

 

「ソーたん♪」

 

「お、お姉様・・・・・!?」

 

兄と姉と再会する二人の妹たち。

 

「・・・・・取り敢えず、家の中に入れ」

 

俺は嘆息しながらそう促した。ここじゃ、近所迷惑になりかねん。

 

―――○●○―――

 

「わざわざ、自分の娘と妹の様子を見るために来たというのか。はた迷惑の奴らであるな」

 

リビングキッチンに設けているソファーに座っている俺の隣に座るグレートレッドさん。

彼女が目の前に座る四人に不機嫌そうに言った。

対するサーゼクス・グレモリーは真っ直ぐ面と向かって彼女に言った

 

「あなたが真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッドだとはね」

 

「この姿に疑問か?人間化になっても力が変わらんからな。小回りも利く」

 

「しかし、これは驚いたね。本当に彼と一緒に暮らしているとは」

 

フォーベシイが俺とグレートレッドさんを交互に見て、口からそう漏らした。

 

「我も最初は、一誠と暮らすつもりはなかった。が、一誠が我に鍛えて欲しいと、頼まれてな。

我はそれを承諾し、鍛え上げている」

 

「なーるほどな。だから坊主は強いってわけだ。

人族で俺の拳を受けて尚も平気でいられる奴ぁ、坊主が初めてだったからよ。これで納得したぜ」

 

腕を組み、首を頷くユーストマにサーゼクスも頷いた。

 

「あなたが彼の支えとしているおかげで、彼はここまで強くなったのですね」

 

「―――我の自慢の弟子であり、可愛い弟でもあり、愛しい男よ」

 

と、彼女は俺の肩に腕を回し、引き寄せたかと思えば、自慢気にそう言った。

 

「だから、我はこの男を気に入っている。手放す気はない」

 

「グレートレッドさん・・・・・」

 

「・・・・・一誠、何時まで我をそう呼ぶのだ?」

 

へ・・・・・?ど、どういう事だ・・・・・・?突然そう言われて俺は戸惑う。

 

「我のことを『グレートレッドさん』などと、他人のようには呼ぶではない。

我らは家族であろう?」

 

「そうだけど・・・・・」

 

「ふむ・・・・・この際だ。『グレートレッド』など、堅苦しい名前の他に我は

別の名前で呼ばれよう。

『グレートレッド』とは、他の奴らが勝手に名付けたようなものであるからな」

 

えっ?そうなの・・・・・?と、そんな感じで視線をサーゼクス・ルシファーに向ければ、

肯定した。

 

「私たちが名付けたわけではないが、何時の間にかそう呼ばれるようになっていた。

私たちもそう呼んでいるけどね」

 

「一誠、我の名を考えてほしい」

 

キラキラとグレートレッドさんが期待の眼差しを向けてくる。ん・・・・・急に言われてもな。

 

「・・・・・ん、じゃあ・・・・・」

 

「うむ」

 

「ガイア・・・・・ってのはどうだ?確か、神話に出てくる女神の一人だった。

グレートレッドさんも美人で綺麗だから、この名前を出したんだけどどう?」

 

「ガイア・・・・・」

 

新たな名の候補を彼女はポツリと復唱した。それから何度も呟くと、首を縦に振って頷き始めた。

 

「悪くないな。それに、言いやすい。我にピッタリの新たな名だ」

 

満面の笑みを浮かべ、気に入ってくれた様子を伺わせる。

 

「決まりのようだな」

 

「そうだね。これからはグレートレッドとじゃなく、『ガイア』と呼ぼう」

 

「できたら、ネリネちゃんやリコリスちゃんの間に生まれた時にも、

一誠ちゃんが名付けて欲しいね」

 

「「「なっ・・・・・!?」」」

 

フォーベシイの言葉に俺と離れたところで座っているネリネとリコリスが絶句した。

 

「お、お父さま・・・・・!な、なんてことを・・・・・!」

 

「そ、そうだよ!イ、イッセーくんと子供なんて・・・・・まだ・・・・・」

 

「でも、産みたいだろう?」

 

笑みを浮かべる魔王だった。そして、とんでもないことを口にする。

 

「一誠ちゃん。私の娘、ネリネちゃんかリコリスちゃん。

はたまた両方と結婚したらキミを私の後継者に、どうだい?」

 

「・・・・・はっ?」

 

「おいおい、まー坊。坊主はシアと結婚して俺の後を継いでもらう予定なんだ。

勝手に決めないでくれよ」

 

「・・・・・はっ!?」

 

な、なに言っているんだこの王たちは!?俺が冥界と天界の王!?

 

「―――いえ、御二方」

 

リーラが突然話に加わった。

 

「一誠さまは人間界の王としていてもらわないと困ります。

すでに一誠さまは人間界の王の王女から好意を寄せられておりますので、

まずはそちらからなってもらわないと」

 

「・・・・・」

 

リーラ。キミまで何とんでもないことを言っているんだ?

俺が人間界の王って・・・なに、どういうこと?

 

「ふむ・・・そうだったのかい。では、この際だ。

三世界の王女と結婚してもらうのはどうだろうか?お互いフェアといこうじゃないか」

 

「んー、平等ってことか?俺としちゃあシアと結婚してくれれば文句はねぇんだがな」

 

「私はそれでいいと思います。ですが、最後に決めるのは当事者たちになりますが」

 

リーラ、ユーストマ、フォーベシイが一斉に俺を見詰めてくる。

 

「・・・・・」

 

冥界と天界の王女たちに視線を向ける。すると、どうだろうか・・・・・。

 

「イッセーくんと結婚・・・・・」

 

「私が妻でイッセーくんが夫で・・・・・」

 

「はふぅ・・・・・」

 

満更じゃなさそうな三人が熱い溜息を吐いていた!

 

「ふふっ、彼女たちもどうやら賛成のようですよ?」

 

「うん、そうみたいだね☆いっそのこと、婚約者と公表しちゃったらどうかな?」

 

―――次の瞬間。

 

「「―――それだっ!」」

 

「おおおおおおおおおおおいっ!?」

 

セラフォルーの提案に二世界の王が賛同しちゃったよ!待ってくれ、

もし全世界にそれを公表したら―――!

 

「(平穏な学校生活が送れなくなる!)」

 

火を見るより明らかだった。そして、俺が三人の婚約者相手だと、

嫉妬や不満を抱く輩が続出するはずだ。

 

「神にも魔王にも人王にも凡人にもなれる男・・・・・。

兵藤くん、キミの人生は波乱万丈になりそうだね」

 

「・・・・・勘弁してくれ・・・・・」

 

というか、人間界の王の王女から好意を寄せられているって・・・・・俺はいつどこで出会い、

好かれるようになったんだ?

 

「こうしちゃいられねぇ、さっそくヤハウェさまに伝えて全世界に知らせよう!」

 

「私もルシファーさまたちに頼んで、冥界や人間界にも知らせないといけないね!」

 

バッ!と勢いよく立ちあがり、足元に魔方陣を展開した二人。―――そうはさせるかぁっ!

 

「俺の平穏をぶち壊しにさせない!」

 

魔王と神王に飛び掛かる。だが―――!

 

「おっと、魔王さまの邪魔をさせないよ?」

 

サーゼクス・ルシファーが魔方陣を展開して邪魔をする!

瞬時で幻想殺し(イマジンブレイカー)を装着して魔方陣を無効化、粉砕する。

 

「邪魔だ!」

 

腕を伸ばして二人に触れようとした。が、一歩遅く、二人の姿は光と共に消えてしまった。

 

「お・・・・・終わった・・・・・」

 

ガクリと、四つ這いになって絶望を感じる。さらば・・・・・俺の平穏・・・・・。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode6

謹慎処分を下されて俺は家に籠って三日過ごした。謹慎中の俺だが、

リアス・グレモリーたちが家にやって来て俺と三日間共に過ごした。ようやく謹慎の期限が終わり、

学校へ行けるようになった。グレートレッドさん・・・・・いや、ガイアだ。

彼女とリーラと一緒に学校へ赴こうとした。外に出て学校へ足を運ぼうと―――。

 

「イッセーくん、おはようっす♪」

 

「・・・・・はっ?」

 

玄関に出て早々、俺はとんでもないものを見る目で、

俺と対峙するように佇む三人の女子学生を見た。

 

「な、何でお前らが・・・・・ここに?」

 

「あはは・・・・・やっぱりそう思うよね」

 

苦笑いをする本来、こことは違う場所で住んでいたはずの一人、リコリス。

 

「お父さまたちが『婚約者の傍にいることは当然のことだよ♪』と仰って昨日の内に・・・・・」

 

昨日の夜。リアス・グレモリーたちは自分の家に戻って行った。確かにあの五人は帰った。

なのに、その内の三人がどうしてここにいるんだ?家は違うところにあったはずだ。

 

「昨日の内に・・・・・なんだ?」

 

「イッセーくんの隣に引っ越しちゃったっす」

 

隣・・・・・?リシアンサスにそう言われ、家の隣を見た。確か、空き地になっていた。

その空き地に目を向ければ・・・・・和風と思しき家が建っていた。

 

「あの家は私の家っす。それから、こっちはリンちゃんとリコリスちゃんの家っす」

 

シアが別の方へ指を差した。その先、俺たちの家の隣に、洋風と思しき家が建っていた。

あっちも空き地になっていたはずだ。

 

「(―――何時の間に!?)」

 

「よう、坊主。今日はいい天気だな」

 

「やあ、一誠ちゃん。おはよう。今日は清々しい朝だね」

 

元凶ともいえる二人が出現した!当然俺は二人に問い詰める。

 

「魔王と神王。これはどういうことだ?」

 

「決まっているじゃないか。キミは晴れて、ネリネちゃんやリコリスちゃん、

シアちゃんの婚約者、つまりは許婚お婿さん候補になったのだからね。

だから、三人の少女の想いをさらに育ませるためにも、

もっとキミと接せるようにこの場所に引っ越してきたのだよ」

 

「ヤハウェさまも賛同してくれたぜ。『今度、あなたの家に訪れます』って祝うためにな」

 

「ルシファーさまたちもキミの家に訪れるそうだ。いやー、嬉しいことじゃないか♪」

 

・・・・・マ、マジでしやがったのか・・・・・。

これから行く学校が怖くてしょうがないぞ・・・・・。

 

「おっと、これ以上引きとめたら学校に遅れてしまうね」

 

「坊主、いや、これからは一誠殿と呼ぼう。家のシアをよろしく頼むぜ!」

 

「ネリネちゃんやリコリスちゃんもお願いするよ」

 

言いたいだけ言って、二人は一緒に和風の家、リシアンサスの家に入って行った。

 

「・・・行こうか」

 

「「「はい」」」

 

―――○●○―――

 

「まてーい!兵藤一誠!」

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

登校中、背後から声を掛けられた。嫌な予感がするなーと思いながらも、後ろへ振り返った。

 

「・・・・・柔道着?」

 

というより、柔道着を身に包んだ人物たちが威圧を放ちながら立っていた。

 

「我らはシアちゃん近衛遊撃部隊。SSS、略して好き好きシアちゃん(SSS)だ!」

 

「(親衛隊・・・・・?ファンクラブと認識していいのか・・・・・?)」

 

「兵藤一誠!我らシアちゃん親衛傭兵団を無視してシアちゃんと許婚などと許すまじ!」

 

そうだそうだ!と、他の奴らまでもが批判する。

 

「その通り!」

 

今度は横から聞こえた。そっちに向け場、

なにやら、迷彩服を身に包んでいる奴らが殺気立っていた。

 

「我ら、ネリネちゃん突撃護衛部隊。RRR、略してランランリンちゃん(RRR)

兵藤一誠、我らのリンちゃんを奪おうとするその罪、万死に値する!」

 

うん、―――さっそく面倒くさい目に遭った!

 

「・・・・・一誠さま、ここは・・・・・」

 

「いや・・・・・大丈夫だ」

 

リーラが迎撃しようと臨戦態勢になったところを制した。こんな奴らに構う暇もない。

 

「兵藤一誠!覚悟しろ!」

 

『オオオオオオオオオッ!』

 

「我らのプリンセスを奪わせん!」

 

『オオオオオオオオオッ!』

 

二つのファンクラブが一斉に襲いかかってきた。

怒りや嫉妬、恨みや妬みがハッキリと伺わせる奴らがどんどん迫ってくる。

もちろん、そんな程度の気持ちで襲いかかるヤツなんて―――。

 

「相手にするのも面倒だ。―――空に飛ぶぞ」

 

「「「・・・・・えっ?」」」

 

バサッ!

 

背中に六対十二枚の金色の翼を展開し、リーラとネリネを腕で抱え、

リシアンサスとリコリスを一対の翼で包んで、残りの翼を力強く羽ばたかせて

空へ逃げるように飛んだ。

 

「イ、イッセーさま・・・・・」

 

「悪いな。学校に着くまでしばらく我慢してくれ」

 

「い、いえ・・・・・大丈夫です・・・・・」

 

恥ずかしそうに、でも、嬉しそうにネリネは顔を赤く染めていた。そしたら、上から。

 

「いいなぁーネリネ。私もイッセーくんに抱きかかえられたいよ」

 

「私もー!」

 

リコリスとリシアンサスの羨ましいと声が上がった。おーい、今の状況を分かっているのかなー?

呑気なことを言う彼女たちに心の中で溜息を吐き、空を飛びながら駒王学園へ向かった。

 

―――駒王学園

 

―――二年F組

 

「ははは・・・・・随分と大変な事が遭ったのですね」

 

「同情をしちゃうよ・・・・・」

 

学校について、自分の教室に戻れば、やっぱりここも俺があの三人と許婚の関係になったことを

知っていた。当然、どういうことなのか?本当なのか?HRが始まるまで執拗に質問攻めされた。

 

「まったくだ。ファンクラブの奴らまで襲いかかってくるんだからな」

 

「しかし、驚きましたよ。あなたが二世界の王女と許婚になるなんて、

昔どこかで会っていたのですか?」

 

「小さい頃、ちょっとな」

 

「本当に会っていたの!?」

 

和樹が驚いた。聞き耳を立てているクラスメートたちも驚いた様子を伺わせる。

 

「それで、兵藤くんはどうするの?」

 

葉桜が問うてきた。さて、どうするかだな・・・・・。

 

「まだ、俺たちは互いのことを知らない。ゆっくり時間を掛けてそれから考える」

 

「そっか。うん、私もその方がいいと思う。女の子の恋を雑に扱っちゃダメだし、

私自身もそんなの嫌だね」

 

「へぇ、葉桜さんも好きな人がいるの?」

 

彼女の言葉に和樹が反応した。俺も龍牙も葉桜に、そうなのか?と視線を向けたら、

顔を赤くして首と両手をブンブンと横に振った。

 

「い、いないよ!ただ、私も一人の女の子としての意見を言っただけだよ!」

 

「そうなんですか?あなたは誰かが見ても可愛いですのにね?」

 

「うん、僕もそう思う。ね、一誠」

 

「ああ、俺もそう思うぞ?この学校の男子は見る目がないな」

 

「―――――っ!?」

 

ボンッ!と葉桜は顔をさらに赤くした。もしかして、可愛いとか言われるのは慣れていないのか?

 

「も、もう!私のことをからかわないの!」

 

「「「いや、本気なんですけど?」」」

 

「はい、私もそう思いますよ葉桜さま」

 

俺と和樹、龍牙、さらにリーラも加わって葉桜のことを可愛いと述べた。

すると、恥ずかしさのあまり葉桜がポカポカと俺の背中を叩きだしてきた―――。

 

「って、何気に痛い!?」

 

「あっ、葉桜さんって意外と力があるんですよ。ロッカーを一人で持っちゃうほどです」

 

「見た目に寄らず、凄いのですね」

 

そこ、感心している場合か!?と、ツッコミながら葉桜の両腕を掴んで防いだ。

 

「―――兵藤一誠!」

 

と、教室中に響き渡るほどの声量が聞こえる。この感じはまたか・・・?と扉の方へ見た。

 

「げっ・・・・・朝のファンクラブの奴ら」

 

そこにいたのはネリネとリシアンサスの親衛隊だった。

 

「朝はまんまと逃げられたが、今回は逃がさんぞ!」

 

「全員、突撃!」

 

「―――俺は退散する!」

 

窓から飛び出して、翼を展開して空を飛ぶ。―――しかし、空には。

 

『・・・・・』

 

悪魔と天使、堕天使の生徒の皆さんが、翼を展開して臨戦態勢で待っていました。

 

「・・・・・マジで?」

 

『覚悟しろ!』

 

魔力の弾や光の槍、聖なる光の弾、様々な攻撃が俺に向かって降り注いでくる。

 

「三大勢力の種族の奴らも嫉妬するのかよ!?」

 

と、叫びながら俺は避け続ける。中には、先回りして接近戦で挑もうとする奴らもいたが、

 

「遅い!」

 

ドゴンッ!

 

『―――っ!?』

 

一撃でKOした。

 

「おのれ、よくも同士を!」

 

「嫉妬の集団の同士なんてクソ食らえ!」

 

「なんだとぉっ!?」

 

怒りに狂う堕天使が光の槍を手にして向かってくる。

対する俺は光の剣で対応し―――堕天使の翼を両断する。

 

「ぐああああああああっ!?」

 

「単純な攻撃は効かない」

 

地に墜ちる堕天使に向かって言う。さて、まだいるな。嫉妬の集団に向かって翼を羽ばたいた。

 

「―――そこまでだ!」

 

「ん?」

 

―――刹那。

 

ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

空に突然と嵐が巻き起こった。悪魔と天使堕、天使の奴らが次々と巻き込まれ、嵐に呑みこまれる。

俺は強引に嵐から抜け出て、外から眺めた。

 

「(この大きさの嵐・・・・・魔法か?)」

 

だとすると、和樹辺りか?そう思って地上に視線を向けたら、俺が思っていた人物と違っていた。

桃色の髪をポニーテールに結んだ鳶色の瞳の少女が、

杖・・・・・いや、軍杖を前に突き出した構えで魔法を放っていた。

 

「・・・・・」

 

軍杖を横に薙ぎ払った。それに呼応して荒れ狂う嵐が、フッと消失して、嵐に巻き込まれていた

三種族のやつらが続々と地上に落ちた。

だが、地上には数人の生徒たちがいて、魔方陣を展開、三種族のやつらを受け止めていく。

そんな光景を見ていると、地上に降りた俺にポニーテールの子が近づいてきた。

 

「・・・・・兵藤一誠、だな?」

 

「ああ、兵藤一誠だ。逆に問おう。名前は何だ?」

 

桃色のポニーテールの女子生徒は軍杖を亜空間に仕舞って、それから口を開いた。

 

「風紀委員長のカリン・デジレ・ド・マイヤール・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール」

 

「そうか。悪いな、迷惑を掛けた」

 

「風紀委員としての務めだ。暴走した学園の生徒を鎮圧するのが私の仕事だ」

 

あら、なんか正義感溢れているな。絶対に悪を許さないって感じだ。

 

「だが、今後は気を付けてくれ。あまり風紀や秩序を乱さないように心掛けるくれるとありがたい」

 

「善処する。でも、襲いかかってきたら正当防衛として対応する。いいな?」

 

「・・・・・」

 

彼女は何も言わず、三種族の生徒たちを縛った縄を掴んでズルズルと引っ張っていた。

 

「(カリン・デジレ・ド・マイヤール・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール)」

 

強敵だな、と俺は何時か戦うだろうと思い、教室に戻った。

そして、和樹に問うた。彼女の名を言って知っているか?と、

 

「カリン・デジレ・ド・マイヤール・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール。うん、知っているよ」

 

「やっぱり知っていたのか?」

 

「魔法使いなら誰でも知っているよ。有名なヴァリエール家、貴族だよ。

特に彼女の母親は『剛鉄の規律』をモットーとして、とっても厳しいだとか」

 

「案外、母親の方が有名なんじゃないのか?」

 

「うーん、確かに数十年前はかなりやんちゃなことをしていたらしいけどね。

実際に噂でしか聞いた事がないからよくわからないけど」

 

なら、母親の血を濃く受け継いでいるだろうな。あの強さはきっと母親譲りだ。

 

「彼女のクラスは?」

 

「二年のSクラスだったね。魔法の実力もテストの成績も二年の中じゃ、一番だよ」

 

「頭脳だけならSクラスには劣らないだろ?」

 

「まあね」

 

皆を代表に頷く和樹。だが、解せないな。

 

「和樹は魔法も凄いし、頭もいいんだろう?どうしてSじゃないんだ?」

 

「えーと、一年の頃、僕はSにいたんだけどね?」

 

「うん」

 

「Sクラスって互いが互いに競争し合う日々を送り続けるんだ。僕は普通にいられたんだけど、

なんだか面倒くさくてね。期末テストの時、思いっきりワザと手を抜いて、

故意でFクラスになったんだ。ここってのんびりできて、楽しいし、楽だよ」

 

・・・・・和樹らしいっちゃ和樹らしいか?こののほほんとした雰囲気を漂わせるし・・・・・。

 

「だから、三年になっても僕はFにいるよ。あそこ、面倒だしね」

 

「でも、家の方は言ってくるんじゃないのか?」

 

「僕の家は基本的、放任主義だよ。まあ、実家に戻って家族と過ごすこともあるけど」

 

「じゃあ、和樹は一人暮らしなのか?」

 

「いや、もう一人いるよ」

 

和樹は俺と同じ暮らしをしていたのか。と、意外なことを知った。

そろそろ、授業が始まるか。和樹から離れ自分の席についてそれから教師が入ってきた。

 

―――○●○―――

 

午前の授業は終わり、昼休みとなった。

三日ぶりに和樹と龍牙、それから葉桜も誘おうかと思って口を開いた。

 

「葉桜、一緒に食べないか?」

 

「うん、いいよ」

 

快く肯定してくれた。あの体育の授業の一件以来、こうして五人と一緒にいることが多く、

話す機会も多い。

 

「それでな」

 

「へぇー、そうなんだ」

 

平穏な一時の時間。このままずっと続くかと思えば、扉が突然に開いた。

 

「失礼します」

 

「イッセーはいるかしら?」

 

入ってきたのは、リアス・グレモリーとソーナ・シトリー、上級生の先輩だ。

 

「さ、三大お姉さまのリアスさまとソーナさま!?」

 

「どうしてこのクラスに・・・・・!?」

 

突然の有り得ない人物の来訪に、クラスメートたちが驚愕の色を浮かべて立ち上がる。

 

「あっ、いたわ」

 

「擦れ違いにならず良かったです」

 

俺の姿を視界に入れた二人は真っ直ぐこっちに来た。

 

「イッセー、一緒に食べましょ?」

 

「皆さんもご一緒に」

 

誘いか。皆にどうする?と視線を投げかけると、「一誠に任せるよ」とそんな視線で返された。

 

「あっ、イッセーくん!」

 

廊下に出て早々、廊下の向こうからリシアンサスの声が聞こえた。

そっちに顔を向けたら、あいつらがいた。手に何かを包んだ物を持っている。

 

「あれ、リアスちゃんとソーナちゃん」

 

「こんにちは。もしかして、彼と一緒に食べようと?」

 

「うん、そうだよ。リアスちゃんたちも?」

 

「ええ、私たちはこれから屋上で食べようと思っているの。あなたたちもどう?」

 

リアスの誘いに三人は頷いた。彼女たちも供に屋上へと赴く。

 

―――屋上。

 

「うーん、いい天気だねー♪」

 

屋上に辿り着いて開口一番、リシアンサスが気持ち良さそうに背伸びをする。

俺たち十人は各々とその場で座り、輪の形で座る。俺の隣はリーラと葉桜だ。

 

「はううう・・・・・イッセーくんの隣のポジションが・・・・・」

 

「リーラさんはともかく、自然と座ったあの子・・・・・やるわね」

 

「隙もなかったです・・・・・」

 

羨望の眼差しを葉桜に注げるリアス・グレモリーたち。

だが、その眼差しは葉桜にとって獲物を狙う鷹の目のような眼差しのようで、

俺の腕にしがみついてブルブルと震えだす。

 

「お前ら・・・・・座る位置ぐらいで葉桜を怯えさせるなよ」

 

呆れてそう言うと、シュンとリアス・グレモリーたち落ち込んだ。

そこまで落ち込むほどのことかよ、と内心溜息を吐く。

 

「・・・・・昼休みの時、交代で俺の隣に座ればいいだろう」

 

『っ!?』

 

リアス・グレモリーたちは俺の提案に驚愕した様子を伺わせる。

でも、すぐに嬉しそうな顔をして首を縦に振った。問題解決と判断し、弁当の箱を開けた。

 

―――バンッ!

 

『兵藤一誠いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!』

 

「・・・・・」

 

怒声が響き渡った。またかよ、と後ろに振り向けば・・・・・何十人の男子生徒たちが現れていた。

さらには翼を羽ばたかせて悪魔と天使、堕天使たちが怒りの形相で空から睨んでくる。

 

「お前ら・・・・・どこまで嫉妬深いんだ?」

 

「嫉妬ではない!これは、我らのプリンセスを奪う貴様への聖戦!

あろうとこか、三大お姉さまであるリアス・グレモリーさんとソーナ・シトリーさんだけじゃなく、

現在人気上昇中の葉桜清楚ちゃんまでも毒牙に掛けようとは許すまじき行為である!」

 

俺が誰と食おうが勝手だろう。

てか、俺は誘われた方なんだけど・・・・・いや、これを言ったら絶対に嫉妬するか。

 

「良かったじゃないですか葉桜さん。あなたも人気のようですよ?」

 

「クラス一の清純な少女でもあるからね。僕たちFクラスは誇らしいや」

 

「えっ!?ええええっ!?」

 

この二人は自分のクラスメートが人気なことに嬉しいのか。俺もそうなんだけどな。

 

「全員!我らのプリンセスを色魔兵藤一誠から救うぞぉ!」

 

『おおおおおおっ!』

 

「―――――」

 

バッ!

 

『・・・・・』

 

俺たちと嫉妬集団の間に境界線の如く、線を深く刻んだ。金色の翼で。

 

「色魔の発言は聞かなかったことにする。だが、こっちは昼食の真っ最中だ。

その時間をお前らは邪魔をするなら容赦しない。その線から足のつま先でも踏み越えてみろ。

―――全員残さず殺すぞ」

 

殺意を放ちながら宣言する。これで下がってくれれば嬉しいもんだがどうだろうな。

嫉妬する男や女の気持ちは俺には分からない。なに仕出かすか、分かったもんじゃない」

 

「ふ、ふん・・・・・お、お前にそんなことできるものか!

もしそんなことしたらお前は犯罪者だからな!」

 

「その通りである!臆することは何一つない!魔法部隊、兵藤一誠に集中攻撃!」

 

「全軍突撃!」

 

嫉妬集団が一斉に動き始めた。そんな奴らに溜息を吐く。

 

「―――じゃあ、さようなら」

 

片翼の六枚を大きく伸ばし、広げて嫉妬集団の横から圧迫する―――。

 

「なっ・・・!?お、俺たちを屋上から落とす気か・・・・・!?」

 

一人の嫉妬男が俺の行動に気付いた。

 

「言っただろう、殺すって」

 

躊躇もなく、俺は嫉妬集団を屋上から大きく空へ放り投げた。

そうしたら、上空にいた悪魔と天使、堕天使が血相を変えて嫉妬集団を助けに行った。

 

「はい、予想通り」

 

指をパチンと弾いた。その瞬間。空中の嫉妬集団は、

何もない空間から現れた金色の四角形の光の膜に閉じ込められ、そのまま地上へ落ちて行った。

 

「・・・・・本当に殺したの?」

 

リアス・グレモリーが不安そうに尋ねてくる。まさか、

 

「殺す訳がない。あのバカたちを閉じ込めただけだ。昼休みが終わるまで開放する気はない」

 

「うん、なんとなくだったけどそんな感じだったね」

 

「もう、あの人たちを屋上から放り投げた時はひやっとしましたよ」

 

「一々付き合ってられるかよ。バカバカしい。今度から閉じ込めるとするか」

 

そう思案していた時だった。またこの屋上に誰かが荒く息を吐いて現れた。

 

「兵藤一誠!」

 

カリン・デジレ・ド・マイヤール・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール。その人だった。

 

「・・・・・あれ?」

 

「どうした?」

 

「いや・・・・・暴走したバカ集団が屋上に行ったと報告を受けて・・・・・」

 

ああ、そういうこと。一歩遅かったな。

 

「そのバカ集団はグラウンドにいるぞ。

閉じ込めているし、昼休みが終わるまで開放する気はないからよろしく」

 

「・・・・・そうか、それじゃ私はこれで」

 

溜息を吐いて踵を返し、屋上からいなくなる。あいつ、苦労人なのかも・・・・・。

 

「イッセー、なんかごめんなさいね」

 

「ごめんっす」

 

「私の方から、強く言っておきますので・・・・・」

 

ソーナ、それ、絶対に意味がないと思うぞ。嫉妬集団の行動を予想すれば・・・・・な。

 

―――○●○―――

 

―――リアスside In 生徒会議室

 

「また、か」

 

「ええ、またです」

 

「今年になってさらに過激化したものね」

 

私、リアス・グレモリーは放課後、親友のソーナ・シトリーと二人の男女と共にとある一室で揃って

息を吐いていた。一人はサイラオーグ・バアル。三年S組。現全校生徒の中で最強と称されている

魔力がない悪魔。だけど、鍛え上げた己の体一つで、最強の座に君臨した規格外な悪魔。

そして、もう一人はシーグヴァイラ・アガレス。三年C組でソーナと同じクラスの悪魔。

彼女のことはまだ彼は知らない。何時か出会うでしょうけど、どんな第一印象を受ける事やらね。

 

「去年は物静かだったけれど、今年になってからは騒々しくなったわ。

芙蓉楓、リシアンサス、ネリネ、リコリスをアイドルに称えて、非公式のファンクラブが生じて、

いまでも増えているそうじゃない」

 

「その殆どの人物が関わっている存在が、騒ぎの原因となっているようだがな」

 

サイラオーグが苦笑してソーナと私を目を向けてくる。シーグヴァイラも怪訝な顔を向けてくる。

 

「兵藤・・・・・一誠だっけ?あなたたち二人が小さい頃、

はぐれ悪魔から助けてもらったとか言う男」

 

「ええ、その通りよ」

 

「で、恋しちゃったわけなのね?」

 

・・・・・それは。ソーナに視線を向けると、彼女も私に視線を向けてきた。

きっと、私と同じことを思っているかもしれない。

 

「(彼は悪魔が嫌い。だから、私たちに好意を向けているのか、

私たちは彼に好意を向けていいのか分からない。彼が決着を付けるその日までずっと・・・・・)」

 

「・・・・・嫌われているのかしら?」

 

彼女にそう言われ、はっと意識を戻して、首を横に振る。

 

「いえ、そう言うわけじゃないんだけど・・・・・ちょっと、彼には言えない事情があるのよ」

 

「なので・・・・・彼にこの気持ちを抱いて良いのか分からないのです」

 

「言えない事情?なにそれ、人間のために我慢する必要ないじゃない。私たちは悪魔なのよ?

欲望のために生きるこそが悪魔。

だから、正直に何がしたいのか、なにが欲しいのか、ハッキリするべきでやるべきことよ」

 

・・・・・そう、ハッキリ言えるあなたがとても羨ましいと尾今この瞬間に思ってしまった。

確かに私たちは悪魔。彼女の言う通りなのかもしれないけれど、

彼はそんな悪魔を嫌っているのよシーグヴァイラ。

 

「・・・・・リアス。一つ聞いてもいいか?」

 

「なに?」

 

「兵藤一誠は悪魔が嫌いか?」

 

――――っ!?

 

なぜ、それを聞くの・・・・・・?

信じられないと、目を丸くして彼を見ていると、彼は頷き始めた。

 

「なるほどな。兵藤一誠を眷属にしようとした悪魔にあの男は、

尋常にならないほどの殺意を放っていた。ただの勧誘だけどあそこまで殺意を向ける訳がない。

『悪魔』という種族を心の底から嫌悪、憎んでいると言ってもいいぐらい殺意だけじゃなく

殺気も籠っていた」

 

「悪魔を嫌うって・・・・・どうしてなのよ?」

 

「さあ、それは当人に訊くしかないが・・・・・なにか、大切なものを悪魔に

奪われたのではないか?そう、心から大切にしていたものを」

 

サイラオーグ、あなたってヒトは・・・・・・。

 

「・・・・・それって危険じゃないかしら?私たち悪魔を殺したいほど憎んでいるのであれば、

この学校にいる悪魔が危険じゃない」

 

「っ!?」

 

シーグヴァイラの言葉に私は勢いよく立ち上がり、彼のことを知らない癖に何を言っているの!と

抗議の一声を上げようとした。

 

「待って―――!」

 

「心配する必要はないだろう」

 

「「「・・・・・は?」」」

 

サイラオーグが不必要だと述べた。・・・・・どうして?

 

「あなた、それはどういうことなのか説明してくれるかしら」

 

「説明するも何も。あの男がこの学校に来てから、一度も自分から悪魔に対して手を上げていない。

逆に襲いかかれば正当防衛として反撃するが、重傷まで追い込めてはいない。

兵藤一誠は自分の不利になる状況や状態になることを避けている。

悪魔を殺したいと思うほど嫌っているのであれば、事故を装って殺しているに違いない」

 

「・・・・・どうしてそこまで言い切れるのあなたは。たった一度しか会っていないにも拘らず」

 

また目を細めて怪訝になるシーグヴァイラ。サイラオーグの答えは・・・・・。

 

「奴の目を見ればわかる。あの男は良くも悪くも純粋な男だ」

 

と、言い切った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode7

放課後、俺とリーラは木漏れ通りのゲームセンター『SILKY』に寄っていた。

そして、彼女だけじゃなくもう一人いる。

 

「♪~♪~♪~」

 

横で音楽ゲームをしているデイジーがいる。

画面に流れ出るタイミングキーを合わせギターを弾いている。

 

『兵藤くん、帰りに「SILKY」に寄って私とゲームをしてください』

 

と、帰り際にデイジーに誘われた。

あの時の屈辱を晴らそうと試みているのかどうか定かではないが・・・、

 

「(楽しそうに笑うなぁ~)」

 

と、デイジーの顔を密かに見て対戦しているわけだ。

少しして、ゲームは終わりトータルを見てみると、

 

「同点だな」

 

「そうだね」

 

ミスも無しのパーフェクト。後ろからリーラの「お見事です」と労いの声が聞こえる。

 

「ここまで私といい勝負する人って兵藤くんが初めてかもしれません」

 

「俺は誰かと勝負するのは初めてだから分からないけどな」

 

ゲーム用のギターを元の場所に掛けながらそう言うと、デイジーは笑みを浮かべて口を開く。

 

「軽く教えた程度で直ぐに覚えちゃう兵藤くんは凄いです」

 

「一誠は物事を覚えることは得意ですからね」

 

リーラはどこか誇らしげに言う。俺から言えば、早く覚えて活用したいからだけどな。

 

「それにしても、大変なことになったね。ネリネさまとリコリスさま、

シアさまの許婚になるなんて」

 

「まったくだ。おかげで嫉妬集団が迫って攻撃してくるんだし、

平穏な学校生活とおさらばになった」

 

「ははは・・・・・でも、実際のところ本当に結婚するんですか?」

 

苦笑いしたデイジーは真意を知ろうと俺に問いかけてきた。俺は首を横に振る。

 

「まだまだ時間はある。今すぐ結婚しろと言われているわけじゃない。

結婚するなら、お互いのことをよく知ってからにするさ」

 

「曖昧の発言ですね」

 

「いきなり許婚にされた俺の気持ちを理解してくれ。結婚なんて考えてすらいなかったんだぞ」

 

溜息を吐けば、デイジーが「そうですか」と呟いた。一応、理解してほしいもんだよ。

 

「・・・・・それにしてもシアさまと結婚なんてすごいですね」

 

「憧れているのか?」

 

「はい、シアさまは天界のお姫さまですし、天界に住む天使はシアさまのことを憧れております」

 

だからか・・・・・。そんな彼女の許婚になった俺に攻撃するのは理解できなくはないけど、

天使としてのイメージが台無しになるぞ天使の生徒たち・・・・・・。

 

「・・・・・そう言えばデイジー」

 

『SILKY』から出て彼女にとある事を問う。

 

「放送部員ってデイジーだけなのか?」

 

「えっと、はい。そうですね。奨学生として人間界へ来たので、

私は学校の寮生活をしているんですけど、奨学生は部活への入部を強く勧められるらしく、

私もどこかの部活へ強く入部を薦められまして結果、放送部に入り現在は部長をしています。

って、部員は私一人だけなんですよね」

 

「部員不足真っ最中というわけか」

 

「まさしくその通りです。

それに私って人付き合いがどうしても苦手で友達と呼べる存在が・・・・・」

 

途端に表情を曇らせるデイジーさんだった。しかし・・・・・。

 

「そんじゃ、その兎みたいなものは何だ?」

 

チョコンと、デイジーの頭に乗っている兎もどきに指を差した。すると―――。

 

「お主、我を兎と呼ぶではない!無礼であるぞ!」

 

怒気が籠った声音を兎もどきから聞こえた!

 

「喋った・・・・・?」

 

「意志があるのですか・・・・・?」

 

俺とリーラは驚いた表情を浮かべてデイジーの頭の上にいる兎もどきを見詰めた。

 

「そう言えば、お二人は知らなかったですね。このヒトはエリカ=スズラン」

 

「我はデイジーの守護獣である。我の偉大さを知ったら、我の偉大さに称えるがよいぞ」

 

・・・・・なんだ、この兎は。

 

「デイジーさま、この守護獣と名乗る生物は一体・・・・・」

 

「エリカさんは天界に住む神獣なんです。とても高位の神獣で私を守ってくれるんですよ」

 

「神獣、魔獣と対なる存在か。初めて見たな」

 

ナデナデと自称、守護獣と名乗る兎もどき―――エリカ=スズランを触ってみた。

おお・・・肌触りがまたいい・・・・・。

 

ガブッ!

 

「「「・・・・・」」」

 

触っていたら、思いっきり噛まれた。俺を含め、リーラとデイジーが唖然となった。

 

ふぁへにひひゃふくふへるな(我にきやすく触れるな)

 

モゴモゴと俺の手を頬張りながらエリカは何か言った。

一拍して、デイジーは慌てて俺の手を離すように窘め始めた。

 

「エ、エリカさん!兵藤くんの手を離してください!」

 

それからしばらく。ようやく俺の手は解放された。だけど、そんなに本気で噛まれてはいなかった。

薄っすらと歯形が残る程度だ。でも、これはこれで警告というわけかな・・・・・?

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ、軽く噛まれただけだった」

 

リーラに心配される中、エリカが視線を真っ直ぐ俺に向けてきた。

 

「・・・・・お主、兵藤一誠と言ったな?」

 

「それがなにか?」

 

「デイジーの守護獣として言おう。お主はとても危険だ。

願わくば、デイジーに近づかない欲しい。邪悪なるドラゴンを抱えている間はな」

 

―――――この兎、噛んだ時に知ったか。

 

「エ、エリカさん!兵藤くんに何てことを―――!」

 

「いや、そいつの言う通りだ。俺は危険な存在なのかもしれない。だがな、エリカ」

 

叱咤する彼女の言葉を遮り、肯定と首を横に振る。そして俺は、真っ直ぐエリカに言った。

 

「俺は自分から無意味に誰かを傷つけるような真似はしない。それはお前の大切なデイジーにもだ」

 

「・・・・・」

 

「約束するよ。もしもデイジーの身に何が遭ったら守る」

 

エリカに俺はそう言った。エリカはしばらく無言で俺を睨むように見詰めてくる・・・・・。

 

「・・・・・ふん、デイジーの従妹の許婚が大きく言ったものだな」

 

「デイジーの従妹・・・・・?」

 

彼女に従妹がいるなんて・・・・・。

待て、俺は彼女の従妹と許婚なんて・・・・いや、まさか・・・・・。

 

「・・・・・デイジー、お前・・・・・もしかすると、シアと従姉妹の関係なのか?」

 

そう信じられないものを見る目で、デイジーに問えば・・・・・。

 

「はい・・・・・そうなんです」

 

「マジかよ・・・・・」

 

ということは、彼女の父親は神王の兄となる。

そんな人の娘がこの世界に、学校に通っていたなんて驚いた。

 

「ん?でも何で従姉ならシアを『さま』付けで呼んでいる?従妹同士とはいえ家族だろう?

やっぱり、神王の娘だから敬遠してしまっているからか?」

 

「・・・・・あなたは何も言っていないのにどうしてそこまで、分かってしまうんですか?」

 

デイジーが初めて目を丸くした。そんな彼女の言葉を聞いて頬をポリポリと掻く。

 

「何でだろうな。俺もよくわからない。昔から俺って人の気持ちを何となく分かってしまうんだ。

根本的なことは分からないけどさ」

 

「・・・・・そうですか」

 

苦笑いする彼女。そんな表情をする彼女に余計な御世話だと思うが敢えて言わせてもらう。

 

「シアは一人の女子生徒として駒王学園に通っている。

デイジーが彼女に敬遠をする理由はないと思うぞ?」

 

だから、と俺は言った。

 

「明日、一緒に屋上で食べよう」

 

「・・・・・へ?」

 

「昼休みなったら誘いに行くから待っててくれよ。じゃ、またな」

 

それだけ言い残して、リーラを引き連れて家に帰路する。

 

 

―――翌日In駒王学園

 

 

約束通り。俺は昼休みに隣のクラス、デイジーがいる2年D組に顔を出した。

 

「デイジーはいるか?」

 

近くにいたこのクラスの女子生徒に尋ねると、デイジーがいる場所へ指を差した。

紫色の髪の少女が俺の視界に捉えられ、ガタリと立ち上がった。デイジーだ。

彼女の所に赴き口を開く。

 

「んじゃ、屋上へ行こうか」

 

「あの、本気で・・・・・?」

 

「俺って嘘を付かない主義なんでな。やるっと言ったらやるんだ。ほら、皆が待っている。

行こうか」

 

そう言って俺は時間が惜しいとばかり、彼女の肩や足の裏に一瞬で回して横に抱きかかえ、

窓の外へと飛びだした。

 

「・・・・・へ?」

 

一瞬の呆け。デイジーはいま自分の状況に気付かず、俺に成すがままにされる。

外に飛び出したその直後、背中に金色の翼を展開して力強く羽ばたかせて、屋上へと飛翔する。

屋上には既にリーラたちが腰を下ろして待っていた。

 

「お待たせ」

 

「イッセー・・・・・あなた、どこから現れたのよ」

 

「気にしたら負けだぞリアス・グレモリー。さて、この子はデイジーだ。

たった一人の放送部員の子で、シアの従姉らしい。

今日から彼女も一緒に食べることにするからよろしくな」

 

「・・・・・え?」

 

と、そんな事を言う俺に呆けた顔を覗かせる彼女だが、

リアス・グレモリーたちは軽く彼女を出迎えた。

 

「えと・・・・・兵藤くん。話がどんどん進んじゃって、なにがなんだか・・・・・」

 

「人付き合いが苦手なデイジーのために、俺が手を回しておいた。

勝手なことを、と思うだろうが、何時までもそういうわけにもいかないだろう」

 

「そうですけど・・・・・でも、いいのですか・・・・・?」

 

恐縮とばかり、リアス・グレモリーたちに尋ねるデイジー。

そんな彼女を対照的にリアス・グレモリーたちは笑顔で口を開いた。

 

「問題ないっす!むしろ、デイジーちゃんと仲良くお話をしたかったところだよ!」

 

「はい、私たちを冥界と天界、魔王と神王の娘としてじゃなく、

普通の女の子として接してください」

 

「逆に気を使われると、ちょっと接しづらいかな?」

 

「そうね。同じ学び舎に通っている者同士、仲良くしましょう」

 

「よろしくお願いします。デイジー」

 

「私もいいよ。一緒にお話ししたり食べたりしよ?」

 

「多い方が賑やかになるからね」

 

「だから、僕たちは歓迎しますよ。デイジーさん」

 

朗らかに出迎える。―――すると、

 

「じゃあ、俺様も歓迎してもらえるよね?」

 

第三者の声が聞こえた。後ろに振り返ると、眼鏡を掛けたイケメン・・・に近い男子がいた。

 

「・・・・・誰だ?」

 

「あっ、緑葉くん」

 

「緑葉?」

 

リシアンサスが反応した。クラスメートか?と思えば、

緑葉と呼ばれた男子生徒は眼鏡をクイッと上げ、口を開いた。

 

「シアちゃんとネリネちゃん、リコリスちゃんと同じ二年C組の緑葉樹。

通称、駒王学園の頭脳―――」

 

「ソーナやシーグヴァイラに負けて、駒王学園の頭脳とは言えないでしょう?」

 

リアス・グレモリーが話を遮った。緑葉は言葉を詰まらせ、「ふっ」と漏らした。

 

「何時かリベンジしますよ。俺様の頭脳がこの学校一と証明するためにも!」

 

「そう、頑張ってね」

 

何故か意気込む緑葉。まあ、悪い奴じゃなさそうだが・・・・・。

 

「そこの綺麗なお嬢さん。どうだろう、放課後になったら俺様と―――」

 

いきなりリーラをナンパしはじめた。・・・・・訂正だ。

 

「ナンパ野郎は死すべし」

 

どこからともかく出した縄で、緑葉の全身を芋虫のように捕縛した。

 

「こ、この縄さばきは真弓と―――!?」

 

「とりゃ」

 

縛った緑葉を屋上から放り投げた。落としてはしていないぞ。

ぶら下げているから命の危険性はないだろう。

 

「えっと・・・イッセーくん。緑葉くんは決して悪い人じゃないから・・・・・」

 

「人のメイドにナンパする奴は、許さん。さて、時間もないし食うか」

 

緑葉をフォローするリシアンサスには悪いけど、

人の家族に手を出す奴は許さない。これは絶対だ。―――――マジかよ。

 

「・・・・・悪い、ちょっと出かけてくる」

 

徐に立ち上がってリーラに告げた。不思議とばかり、彼女は顔を向けてくる。

 

「どちらへ行かれるのですか?」

 

「軽くジョギングだ。先生には家の都合で早退するって言ってくれ」

 

「では、夜になったらお戻りください。夕食の準備をしますので」

 

「わかった」

 

と、言って俺は屋上から飛び降りた。次の瞬間、

 

『待てぇ!兵藤一誠ぃ!』

 

屋上から嫉妬集団の叫び声が聞こえた。

 

―――○●○―――

 

「あー、あいつら。物凄い執着心だな。まさか、学校の外まで追いかけてくるとは・・・・・」

 

夜の木漏れ日通りを歩く俺。あれからずっと走り続けていたせいで何時の間にか夜になっていた。

ギリギリ追いつけれる速度で逃げたらあいつら、学校の外まで集団で追ってきた。

人のことは言えないが、授業は良いのか?って思うぐらいの必死さで迫ってきたもんだから、

呆れを通り越して感心してしまった自分がいる。

 

「(帰るとするか・・・・・)」

 

ファンクラブの奴の姿は見えない。完全に撒いたか。

 

「・・・・・?」

 

ふと、俺の視界に気になる少女が目に入った。

『SILKY』の中にあるクレーンゲームを覗く薄紫のツインテールの少女だった。

ポチポチとボタンを押して、中の猫のぬいぐるみを物欲しそうに眼差しを向けていた。

腕の中には薄汚れたトラ模様の猫のぬいぐるみを抱えている。

少し気になり、ゲームセンターの中に入って声を掛けてみた。

 

「金を入れないと、ゲーム出来ないぞ?」

 

「・・・・・」

 

ツインテールの少女は俺に顔を向けてくる。一目見ただけで無感情そうな子だと認識した。

だが、気になるのは彼女から感じるこの異様な魔力。

お前ら、どう思う?内にいるクロウ・クルワッハたちに問う。

 

『ただの悪魔ではないようだな。その上、魔力が膨大すぎて不安定な状態だ』

 

『何かの拍子に暴走してしまったら、この町が消滅することは間違いないでしょう』

 

『主、我としては主の目の届くところにいさせた方がいいと思う』

 

―――思いっきりこいつら危険視しているし。引き取った方がいいのか?

 

『悪魔なら魔王に問い詰めた方がいいだろう。

こんな不安定な状態を放っておいたらどうなることやら』

 

・・・・・そうか、分かった。

 

「お前、一人か?」

 

「・・・・・」

 

少女はコクリと頷いた。好都合な事だが・・・・・幼女誘拐と捉えられないよな?

 

「じゃあ、一緒に家に来るか?お前の保護者を見つけるまで家に泊らせるけど・・・っと、

俺の名前は兵藤一誠だ」

 

自己紹介をした。すると、意外な事に・・・・・。

 

「イッセー?」

 

俺のあだ名とも言える名前で呼んできた。

サラッと言える時点でこの少女は俺を知っている様子だった。

 

「ああ、イッセーとよく言われるけど、お前は誰なんだ?」

 

「・・・・・」

 

尋ねると、顔を俯いた。そして、少女は顔を上げて口を開いた。

 

「リコリスお姉ちゃん・・・・・知ってる?」

 

「リコリス?」

 

意外な人物の名前が出てきた。首を傾げて問うてみた。

「リコリスの知り合いか?」と、そしたら―――。

 

「イッセー」

 

徐に抱きついてきた。

 

「えっと・・・・・・?」

 

「やっと、見つけた。イッセー」

 

・・・・・これ、どうしろと?

 

『『『連れて帰るべき』』』

 

クロウ・クルワッハたちにそう言われる始末。まあ、俺を知っているようなら問題ないだろう。

 

「んじゃ、一緒に帰るか」

 

「うん」

 

謎の少女は頷いた。了承を得たことで彼女を引き連れて家に帰路に着く―――と思ったが、

 

「何となくここに寄ってみました」

 

リーラと一緒に来た公園に足を運んだ。そう、堕天使の女と遭遇したこの場所へ。

なんとなくこの場所に行きたかった。

 

「・・・・・?」

 

夜の公園の噴水の前に1人の男が何か黄昏ていた。しかもあれは、駒王学園の制服。

まぁ、俺もその制服を着ているんだけどな。

 

「おい、そこで何をしているんだ?」

 

「・・・・・?」

 

声を掛けると駒王学園の制服を着込む男子がこっちに振り向いた・・・・・って、

こいつはあの時の?

 

「あれ・・・・・お前、どこかで・・・・・」

 

うろ覚えのようだな。まぁ、別に白を切っても構わないだろう。と口を開いた瞬間。

公園の雰囲気がガラリと変わった。同時に殺意の視線も感じ取れる。背後に振り返ると

スーツを着た男がこっちを睨んでいた。・・・・・マジで?

 

「これは数奇なものだ。こんな都市部でもない地方の市街で貴様らのような存在に会うものだな」

 

「「・・・・・」」

 

「・・・・・人間、一つ聞いてよいかな?」

 

怪しい男が鋭い視線を向けてくる。なんだ?と問えば、

 

「そのはぐれ悪魔と知り合いか?もし、そうでないならば早々に去ってくれるとありがたい。

はぐれ悪魔を狩らないといけないのでな」

 

「はぐれ・・・・・?悪魔・・・・・?」

 

男子生徒は困惑の表情を浮かべる。こいつ、リアス・グレモリーと接していないのか?

 

「いや、関係ないな」

 

「そうか。ならば、その悪魔と関係は?」

 

そう言ってスーツの男は黒い一対の翼を展開した。・・・・・堕天使か。最近、良く会うなぁ。

堕天使の視線は謎の少女に向けられる。背後に隠すようにして言った。

 

「俺の知り合いだ。悪いけど、手を出さないでほしいもんだな」

 

「・・・・・一般人の悪魔か。ならば、消え失せろ」

 

興味はなくなったとばかり、俺から視線を外す堕天使。

 

「・・・残念だけど、狙われている奴が目の前にいるのに

『はい、どうぞ』って退くほど俺は、出来てはいない」

 

「ふん、なら―――貴様も殺してやろう!」

 

「・・・・・・わ、わけわかんねつぅの!」

 

不意に男子生徒が全力で逃げた。堕天使は俺より先に逃げたアイツを

排除の好機だと、翼を羽ばたかせて追って行った。謎の少女に悪いけど一緒に来てもらうか。

 

「悪い、しばらく俺の背中にしがみついてくれ」

 

「わかった」

 

まったく、その場で怖がってくれたらこっちも楽だっていうのによ!

謎の少女を負ぶさって駆け足で追いかける。

 

「待てよ、コラ!」

 

堕天使の後を追う。そして、直ぐに逃走する男子と追う堕天使の姿を見つけた。

 

「はっ!」

 

極太の気のエネルギーのビームを堕天使に向けて放った。

堕天使は迫りくる一撃に気付き慌てて回避した。

 

「おのれ!邪魔をするか!」

 

「邪魔するって最初に言っただろうが、この烏!」

 

「か、烏だと・・・・・!?」

 

「黒い翼を持っているのなら烏だろう?」

 

「貴様、俺を愚弄するかぁあああああああああああああっ!」

 

「・・・・・堕天使って短気な奴らしかいないのか?」

 

あの堕天使の女のように光の槍を投げてきたが難なく逆に掴んだ。

その光景を見て堕天使は口を開く。

 

「・・・貴様、人間か?俺の槍を素手で受け止める者は初めて見たぞ」

 

「人間です。流れる血も赤いぞ」

 

加えて、俺は―――

 

神器(セイクリッド・ギア)の所有者だ」

 

バサッ!と六対十二枚の金色の翼を展開した。堕天使は俺の姿を見て驚愕したかと思えば、

 

「その翼・・・・・なるほど、貴様か。あのお方から聞いた天使の男というのは」

 

あのお方・・・・・?誰だか知らないけど、今するべきことはこいつを退かせることだ。

 

「・・・・・あのはぐれ悪魔より貴様から殺した方が良さそうだな」

 

「・・・・・はぐれ悪魔?あいつがかよ?」

 

「むっ、貴様はあいつが悪魔だとは知らなかったのか?」

 

堕天使の言葉に俺は首を傾げる。

もしかしてあの堕天使の女はあいつがはぐれ悪魔だから狙ったのか?

 

「全然、と言うか俺は悪魔と堕天使が嫌いなんでね。悪魔が堕天使に殺されようが、

堕天使が悪魔に殺されようが知ったことじゃない」

 

「・・・・・では、俺の行動を黙認するのだな?」

 

「なっ・・・・・!?」

 

茂みの中から声が聞こえた。俺と堕天使はそっちに振り返ると男子生徒が隠れていた。

バカが・・・・・。

 

「あー、そうしたいんだけどこの流れ的にこのまました方が良くないか?」

 

「ふむ、貴様とは少しばかり話が合いそうだが・・・・・・仕方がない。続けようか」

 

そうしておけ、俺も堕天使の力を知りたかったところだった。

堕天使は光の槍を発現して構え、俺は拳を構える。そして、俺たちは飛びだした―――――。

 

「―――そこまでよ」

 

「「・・・・・・」」

 

第三者の声によって戦いは中断した。俺と堕天使は声がした方向に顔を向けると

駒王学園の制服を着込む紅い髪の女子がいた。

 

「・・・・・・紅い髪・・・・・グレモリー家の者か」

 

リアス・グレモリーその人だった。でも、どうしてここに・・・・・?

 

「リアス・グレモリーよ。ごきげんよう、堕ちた天使さん。あの子にちょっかいを出すなら、

容赦しないわ」

 

「・・・・・ふふっ。これはこれは。あの者はそちらの眷属か。この町もそちらの縄張りと

言うわけだな。まあいい。今日の事は詫びよう。だが、下僕は放し飼いにしない事だ。

私の様なものが散歩がてらに狩ってしまうかもしれんぞ?それにその者を偶然だが、

守ってくれる者も何度も現れるとは思わない事だ」

 

「御忠告痛み入れるわ。この町は私の管轄なの。私の邪魔をしたら、

その時は容赦なくやらせてもらうわ」

 

「その台詞、そっくりそちらへ返そう、グレモリー家の次期当主よ。我が名はドーナシーク。

再び見れない事を願う」

 

堕天使の男、ドーナシークは黒い翼を羽ばたかせる。身体が浮き始め、空へ飛翔していく。

 

「人間!今回は邪魔が入ったが次に会う時こそが決着だ!」

 

空へ浮かんだドーナシークは俺を睨むと、夜の空へ消えて行った。

 

「はぁ・・・・・帰ろ」

 

「待ちなさい」

 

「・・・・・なんだ?」

 

嘆息して帰ろうとした俺は、彼女に振り返り用件は何だと口を開く。

 

「あの子を守ってくれてありがとう。私の大切な下僕悪魔なの」

 

「なんだ、あいつはお前の下僕だったのか。ちょっと複雑」

 

「何かお礼をしたいわ。私が出来る事なら何でも用意するけど何が良いかしら?」

 

「いらない。というか、あの堕天使が言っていたように自分の眷属を野放しにしたらダメだろう。

・・・・・・いや、あいつに何も説明もしていないからこんな事に成ったんだ」

 

「・・・・・御忠告痛み入れるわ。ところ・・・・・あなたの背中にいる子は誰なの?」

 

リアス・グレモリーが俺の背中の症状に視線を向ける。

 

「さあな。ゲームセンターで拾ってきた。どうやらリコリスの知り合いらしいから」

 

「リコリスの・・・・・?」

 

首を傾げ、俺の傍に寄って来ては背中の少女を間近で見た。そして、目を丸くする。

 

「―――プリムラ!?」

 

・・・・・どうやら、彼女もこの子の知り合いのようでした。

 

 

―――○●○―――

 

 

―――兵藤家

 

 

あれから俺はプリムラという少女を無事、家に連れて帰ることができた。

堕天使に襲われた男子生徒はリアス・グレモリーに送られた。俺は家に辿り着いて早々、

魔王と神王を呼び、プリムラのことを尋ねた。

 

「で、どういうことなのか説明してもらいましょうか?神王さまと魔王さま?」

 

「あ、あのー?一誠ちゃん?どうしてそんな恐い表情をするのかね?」

 

「膨大な魔力を制御できていなく不安定な状態のまま、町中に一人で出歩かせて、

もしも暴走して町を消滅してしまったらどう責任を取るんだ?」

 

「そ、それはだな・・・・・」

 

神王が冷や汗を流して俺から視線を逸らす。当のプリムラはリシアンサスとネリネ、

リコリスと話しをしている。

 

「・・・・・で、彼女は一体何なのか根掘り葉掘り言ってもらいましょうか」

 

「一応・・・・・彼女のことは超重要機密事項なんだけど」

 

「その超重要機密事項の少女が、町中に出歩いた時点で関係なくなったんじゃないか?」

 

「「・・・・・」」

 

そう言うと二人の王は沈黙した。そして、観念したかのようにフォーベシイが口を開いた。

 

「彼女はね。私たち魔界と天界と人間界と共同して無から創りだした人工生命体なんだよ」

 

「人工生命体?」

 

それに、三世界共同とは・・・・・。

 

「しかも彼女は三号。実を言うと、リコリスちゃんはプリムラの前に生まれたクローンだ。

ネリネちゃんのDNAによって生まれた人工生命体二号としてね」

 

「・・・・・」

 

フォーベシイの話しを聞いて俺は絶句した。あのリコリスがクローン・・・・・?

信じられなく、視線を彼女に向けば、重々しく頷いた。肯定と。

 

「一号は・・・・・?二号と三号と言うんなら、一号はいるはずだよな?」

 

「消滅した」

 

消滅?どうしてなんだ・・・・・?と問えば、

 

「最初は冥界と天界の間だけで最強の魔力を得る実験をしていた。

そう、『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス。あのドラゴンのような無限の魔力を持てる実験をね」

 

「しかし、当時の冥界と天界はそこまでの技術を発展していなかった。

だから、無理な強化と実験によって一号は耐えきれず、爆発を起こしてその研究所は消滅した」

 

「その失敗を糧に私と神ちゃん。冥界と天界はとある人間の一族に協力を求めた。

その昔、三大勢力戦争を終戦に導いた人間をね」

 

「―――っ!?」

 

まだ、存在していたのか。三大勢力戦争を止めた人間が・・・・・!

 

「協力は得られた。そして、今度は元から強い魔力を持つ魔族で実験をした。

二回目のテーマは『複製』としてね」

 

「それが・・・・・アンタの娘、ネリネだな」

 

「ああ、そうだ。元々強大な魔力を持った悪魔の遺伝子を改造し、強大な魔力を持たせ、育てる。

三世界屈指の魔力と、それを制御できるだけの器。元々持っていた素質を育て、強化することで

限界以上の魔力を制御できる力をつけさせるって予定だったんだが、複製された遺伝子ってのが、

予想以上に劣化が激しくてな。途中まではいい線をいってたんだが・・・・・結局は失敗だ」

 

失敗って・・・・・ちょっと待てよ。

 

「失敗なら、そうしてリコリスはここにいる?失敗したなら一号みたいに・・・・・」

 

「とある人間の一族の判断が早くてね。なんとかリコリスちゃんを失わずに済んだんだ」

 

「『これ以上すれば、寿命を縮ませるだけだ』とな。

結果、悪魔としての寿命一万年は生きられないが、それでも千年ぐらいの寿命で留まった」

 

「それから彼女を我が娘のように愛を籠めて育て上げた。その結果がいまに至る」

 

リコリスに視線を注げるフォーベシイ。その瞳は子を見る親の目だ。

 

「じゃあ、プリムラはなんだ?」

 

「失敗した二つの研究を見直し、改めて俺たちは次にしたのが『生産』だ。

さっきも言った通り、プリムラを無から創りだした奇跡の産物だ」

 

「当然、無から有を創りだすことは不可能。聖書の神ヤハウェじゃないとできないことだ」

 

あの神か・・・・・それほどまで強大な力を、能力を有していることなのか・・・・・。

 

「だがな、いくつもの失敗といくつもの偶然、そしていくつもの奇跡。

それがたまたま綺麗に混ざり合って天文学的数字の確立を拾った。つまりだ。

プリムラってのは奇跡の具現化。もう一度作ろうとしたって絶対にできねぇ、

替えのきかないたった一人の実験体なんだよ」

 

「本当は冥界のとある施設で育てていたはずなんだけどね。プリムラ。

どうして君がこの人間界に来たんだね?」

 

プリムラに問うフォーベシイ。対してリシアンサスたちと話しをしていたプリムラは、

顔を俺に向けてくる。

 

「イッセーに会いに来た。

どんな人なのか、リコリスお姉ちゃんたちが笑って教えてくれたイッセーを」

 

わざわざ俺を会いにこの人間界まで来たってことか・・・・・。

 

「リムちゃん・・・・・」

 

『・・・・・』

 

静寂な沈黙がこの場を支配する。もしも、俺が早く引き取っていなかったら、

彼女の身はどうなっていたのか想像ができない。これで、本当に良かったのか?

 

「・・・・・とりあえず、彼女を冥界に帰す手続きをしないと」

 

「いや・・・・・ここに残る」

 

フォーベシイの言葉にプリムラが拒否した。そんな拒否の言葉に周りの皆は驚いた。

 

「リムちゃん・・・・・?」

 

「ここに住む」

 

「プリムラ、帰らないといけないよ」

 

「ここに住む」

 

頑になってプリムラは拒み、この家に住みたいという。

どうしたものかと、俺たちは悩んでいたら神王ユーストマが溜息を吐いた。

 

「そう言いだしたらもう、止められねえな」

 

「だね。仕方がないかな」

 

続いてフォーベシイもユーストマの言葉に同意したかのような発言をした。

 

「仕方がないってどういうことだ?」

 

「どうだね?一誠ちゃん」

 

「どうだね?って言われてもな・・・・・」

 

プリムラを視界に入れる。次にリーラへ視線を変える。

 

「私は、御主人さまの命に従うまです」

 

・・・・・メイドって本当に便利だよね。そういうところは。心の中で溜息を吐き。

二人の王に三本の指を立てて言った。

 

「三つ条件がある」

 

「なんだね?」

 

「一つ、プリムラも学校に通わせろ。

俺とリーラは学校に行く間にプリムラは、一人でこの家の中で留守番しないといけなくなる」

 

「ああ、それは構わないよ。サーゼクスくんには私から言っておく」

 

一つは軽く了承してくれたか。

 

「二つ、あんたたちもプリムラの面倒を見る事だ。プリムラを生んだ責任は当然取れ」

 

「勿論だ。責任は必ず取る。で、三つ目はなんだ?」

 

三つ目は・・・・・これだな。

 

「実験は続いているのか?」

 

「まあ、な。特にプリムラのことだがな」

 

「じゃあ、その計画。もう中止にするという事で」

 

そう言うと、二人は目を丸くした。でも、真剣な表情で俺に話しかけてきた。

 

「いや、一誠ちゃん。それだけは私と神ちゃんだけで決めていいわけじゃないんだ」

 

「ああ、プリムラの実験は三世界が関わっている。つまり、冥界の五大魔王と堕天使の総督、

天界の神と俺こと神王、人間界のとある一族の指揮のもとで行っている。

まー坊や俺が勝手に計画を中止しろと言ったら、他の魔王とヤハウェさまが許すはずもなく、

俺たちが協力を求めはとある人間の一族に納得のいく説明をしない限り、中止することができねえ」

 

・・・・・前途多難、か・・・・・。

 

「一誠ちゃん、キミの気持ちは分からなくはないよ。でもね、この計画は長年続けているものだ。

いくらキミが彼らの子供だからといって、できることとできないことがあるんだ」

 

「悪いな」

 

「・・・・・・」

 

―――ドゴンッ!

 

『―――――ッ!?』

 

俺が徐に壁を破壊した行動にこの場にいる全員が驚愕の色を上げた。

 

「・・・・・自分の無力さに腹立たしいもんだな」

 

ガラガラと、壁が壊れる中、俺はそう漏らした。

 

「一誠ちゃん・・・・・」

 

「もっと、俺に力があればなんとなかったのかもしれない。驕りだと思うだろうが、

理不尽な目に遭っている少女をどうにかすることもできないなんてな・・・・・」

 

指をパチンと弾けば、壊れた壁が見る見るうちに壊れる前の壁へと戻っていく。

 

「じゃあ、あんたらが言うとある人間の一族とは一体誰のことを差して言っている?

それは言えるだろう?」

 

「「・・・・・」」

 

ユーストマとフォーベシイは顔を見合わせる。とても言い辛そうな表情をして。

 

「すまない。これも俺たちが軽々しく口にして良いことじゃないんだ」

 

「三大勢力戦争を終結に導いた人間のことは、公にしちゃいけない決まりでね」

 

「・・・・・そうか。じゃあいい」

 

隠し事が多いな。これ以上求めても結果は同じだろう。諦めたと嘆息し、リーラに言う。

 

「夕飯にしよう」

 

「はい、かしこまりました」

 

「プリムラ、腹が減っただろう。夕飯にするぞ」

 

「うん、わかった」

 

「・・・・・で、あの二人はどこに行った?」

 

何時の間にかユーストマとフォーベシイがいなくなっていた。

リシアンサスたちは困った顔をして言った。

 

「きっと、リムちゃんのお祝いをしようと家に戻って、

家で食べようと作っていた料理を持ってくるかも」

 

「ごめんなさい。私たちじゃもう止められない」

 

バツ悪そうにそう言った彼女たちの言った通り、

 

「そんじゃ!プリムラの歓迎会と祝おうじゃねぇか!」

 

「そうだね神ちゃん!」

 

再び家に戻ってきた二人の両腕に、大量の酒や料理が抱えられていた。

あれ、絶対に家から持ってきただろう。

 

「・・・・・しょーもないな。リーラ、多分いまの分じゃ足りないから料理を多めに作るぞ」

 

「かしこまりました」

 

「あの、私たちは・・・・・」

 

「この際だ。ここで食え。母親を連れてきて一緒にな」

 

「なんか、ごめんなさい」

 

「気にするな。これからこんな感じになるだろう。慣れないと身が持たなくなる」

 

リーラとキッチンで調理の準備をしながら言った。さて、なにを作るとするかな。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode8

 

 

それじゃ、プリムラ。魔王のところで大人しく待っているんだぞ」

 

「うん、わかった」

 

「それじゃ行ってくるねリムちゃん」

 

「帰ったら遊ぼうね」

 

「それまで、いい子にしているんですよ」

 

翌日。正式にプリムラを引き取ることになって翌日。俺たちを送り迎えするプリムラに話しかける。

魔王の話しではどうやら、冥界にいるはずのプリムラがいなく人間界に、俺の所にいたことに、

上層部や五大魔王の内の四大魔王が大層驚いていたようだ。直ぐに連れ戻す動きがあったようだが、

ここに一人の魔王と神王、そして俺が保護すると伝えたら、納得して任せられた。

まあ、俺じゃなくて魔王と神王がいるから安心できるんだろうな。

 

「(プリムラの実験の計画を阻止するためにはかなりの権力が必要になる・・・・・)」

 

永い間。三世界、四種族の間で繰り広げ続けてきた研究実験を凍結するためには、

権力と地位が必要。俺は改めて思い知らされた。

 

「(俺は・・・・・なんだ?)」

 

父さんと母さんの息子というだけで、周りは何かと気にかけてくれる。

それは俺だからじゃなく、父さんと母さんの子供だから(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「・・・・・」

 

そう思うと、俺という存在は何なんだ・・・・・?と空を見上げて疑問を浮かべる。

 

「(リーラも、ガイアも、クロウ・クルワッハも、

他のみんなも俺の父さんと母さんの子供だから接してくる)」

 

もしかして・・・あの二人の子供じゃなかったら誰も、接してこようとはしなかった?

気に掛けようともしない?他人の子供だと、意識されない?

 

「一誠さま・・・・・?」

 

不意に、リーラに呼ばれて意識を戻す。「悪い」と告げ、プリムラと別れて俺たちは学校へ赴いた。

 

「(とある人間の一族・・・・・)」

 

三大勢力戦争を止めた人間が鍵・・・・・か。調べる必要がありそうだな・・・・・。

 

「兵藤!その命、貰いうけ―――」

 

ドゴンッ!

 

―――駒王学園。

 

「三大勢力戦争を止めた人間のことを知りたい。教えてくれるか?」

 

「いきなりだね・・・・・」

 

学校について早々、理事長室に足を運んで、駒王学園の理事長、

サーゼクス・グレモリーに問うた俺だった。サーゼクスは突然の俺の申し出に苦笑を浮かべる。

 

「あんたもあの戦争をして生き延びた悪魔なんだろう?

だったら戦争を止めた人間のことを知っているはずだ」

 

「・・・・・申し訳ないけど、兵藤くん。私の口から言える答えではないよ」

 

「神王と魔王も同じことを言われた。どうしてだ?個人的に知りたいだけだ」

 

「知って、どうするのだね?知ったところで何か変化が起きるとでも思えないよ?」

 

そうだろうな。でも、知ると知らないとは別なんだ。知って損はない。それに、

 

「鍵だからだ」

 

「鍵・・・・・?」

 

「プリムラの計画を凍結する鍵」

 

「・・・・・」

 

次の瞬間、サーゼクスは真剣な眼差しで向けてきた。初めて見る表情であり、眼つきだ。

 

「彼女のことは、魔王さまから聞いた。私も驚いたが、彼女を保護してくれるそうじゃないか」

 

「成り行きだけどな。そして、無限の魔力を手に入れるための実験も知った。

理不尽な話しだと、神王と魔王から聞いた時はそう思った」

 

「・・・・・そうか。だが、一介の悪魔の私ではあの計画を止める術はない。

すまないが、力にはなれないよ」

 

「俺はとある人間の一族を知りたい。ただそれだけだ。教えてほしい」

 

しかし、俺の懇願の思いは、首を横に振るサーゼクスによって叶わなかった。

 

「あの一族のことは、我々悪魔だけじゃなく、

魔王と神、天使、堕天使の間ではタブー扱いにしている。決して恐れているからではない。

あの一族から、自分たちの存在のことを公にしないでほしいと頼まれているからだ」

 

「自分たちの存在を公にするな?歴史に残るようなことをしておいて、

どうして存在を隠すような真似を?」

 

「人間は三大勢力戦争に介入した際、甚大な被害をだした。

さらに世界中に自分たちのことを、情報を知ったら、狙われてしまう。そう恐れていたようだ」

 

だったら、最初から介入しなければよかったんだ。はぁ、と溜息を吐いて質問を変える。

 

「―――サーゼクス、あんたは・・・・・俺をどんな風に思って接している?」

 

「・・・・・・急にどうしたのだね?」

 

「なんとなく、聞きたくなっただけだ」

 

どうなんだ?と再度問う。サーゼクスは真っ直ぐ俺に向かってこう言った。

 

「あの人たちの子供であり、私の妹を危険から守ってくれた勇敢な少年だと思っているよ」

 

・・・・・。

 

「そうか・・・・・」

 

この悪魔は俺を、俺としてみていなかったか・・・・・。

 

「他の魔王も同じことを問うたら、同じことを言うと思うか?」

 

「そうだろうね。なにせ、魔王さまたちはキミのご両親と仲が良かった。だからキミの事も―――」

 

「・・・・・」

 

サーゼクスの言葉を遮って、無言で踵を返して理事長室から出ていく。

背後から、疑問を浮かべて呼びかけられても俺は前に進む。

 

「(俺は、父さんと母さんの子供。二人の子供だから、当たり前だと接してくるのか)」

 

・・・・・心が痛い。こんな痛みは生まれて初めてだ。

俺を俺として見てくれない痛みはこんな感じなのか・・・・・。

 

―――二年F組

 

「皆さん、体育の授業が始まります。今日の相手は二年S組です」

 

二年S組・・・・・風紀委員長のクラスか。

 

「この中で授業に出たいと思う人は手を挙げてください」

 

葉桜の言葉に当然とばかり、和樹と龍牙、リーラは手を挙げる。

俺もだ。それから俺たち以外手を挙げるクラスメートはいない。

 

「では、私も含めてこの五人で授業を行いますね。それじゃ、体育館に行きましょう」

 

「「「はい」」」

 

「ああ」

 

『頑張れぇー!』

 

一斉にクラスメートたちから声援が送られる。それは俺たちが教室から出るまで続いた。

 

「二年S組ですか。初めて戦いますね」

 

「棄権していたからね。彼女と正式に戦うのが楽しみだよ」

 

「皆、頑張ろうね」

 

三人が朗らかに雑談する。対して俺は、無言で廊下を進む。

 

「一誠、どうしたの?」

 

「・・・・・」

 

「一誠」

 

「ん?」

 

「どうしたの?何か、思いつめた顔をしていたけど・・・・・」

 

何時の間にか四人が俺の顔を覗きこんでいた。

 

「ああ、悪い。少し考え事をしていた」

 

「そうなの・・・・・?」

 

「ん、授業は真面目に頑張る。足を引っ張るようなことだけはしない」

 

「・・・・・そう、悩みがあったら教えてね。相談に乗るから」

 

心配してくれる葉桜。そっか、じゃあ・・・・・。

 

「相談に乗ってくれるか?」

 

「うん、私で良ければ」

 

「―――葉桜の初恋の人って誰なのかなー?って悩んでいたんだけど、相談に乗ってくれ」

 

意地の悪い笑みを浮かべて、そう彼女に言ってみた。すると、一拍して・・・・・。

 

「ひょ、兵藤くん!」

 

顔を真っ赤にして、怒っていると声を上げた。俺が逃げるように走れば、彼女が追いかけてくる。

「今度という今度は許さないんだからー!」と、声にして。それが面白く、楽しくて挑発してみた。

 

「ふはははっ!俺を捕まえてみろぉ!」

 

「絶対に捕まえるよ!」

 

「―――って、何気に足が速い!?」

 

「あっ、彼女って意外と足が速いよ?」

 

「前も似たようなことあったよなー!?」

 

と、そんなこんなで俺たちは体育館へと赴いたのだった。

 

―――体育館。

 

「やぁ、カリンちゃん。こうしてキミを叩けることを嬉しく思うよ」

 

「誰がカリンちゃんだ!私とお前は同い年だぞ!『さん』付けか、呼び捨てだろう!」

 

「うーん、そうなんだけどね?どうも妹のように接しちゃうんだよねー」

 

のほほんと、和樹がカリンに言う。カリンと親しそうだが・・・・・ああ、そう言えば。

 

「和樹って元々Sクラスだったな」

 

「うん、だから彼女のことを知っているんだ。

一年生だった頃、僕と彼女はウィザードプリンスとウィザードプリンセスなんて称されていたよ」

 

「・・・・・和樹、一言言っていいか?」

 

「言わなくていいよ。大体言いたいことが分かるから」

 

ネーミングのセンスが可笑しいだろ?それを和樹は理解していたようだ。

というか、言われたことがあるんだな。

 

「では、バトルフィールドである異空間に到着したら、

その時点で授業を始めます。相手の『(キング)』を倒したクラスが勝利となります。

なお、戦闘不能の状態に陥った場合は教師側で強制退場をします。

そして、相手がもし授業で死んだ場合・・・・・事故死として扱います。よろしいですね?」

 

「「はい」」

 

葉桜とカリンが同意する。その直後、俺たちの足元に魔方陣が展開した。

 

「それでは」

 

と腕をビシッと振り上げた。

 

「カリン・デジレ・ド・マイヤール・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールが率いる二年S組、

葉桜清楚が率いる二年F組の体育の授業を開始します!時間は三十分。―――授業開始!」

 

教師の宣言と共に魔方陣の光はより一層強くなった。

俺たちはその光に視界が奪われ、何も見えなくなった。

 

―――○●○―――

 

視界を遮る光がなくなり、目をゆっくりと開ける。

最初に視界に飛び込んできたのは・・・・・。

 

「・・・・・あれ、体育館?」

 

元の場所、体育館だった。教師と二年S組のカリンたちがいない。葉桜が不思議そうに呟けば、

 

「どうやら、ランダムで決まるらしいですね」

 

「次、トイレの中だったら物凄く嫌だね」

 

「激しく同意だ」

 

いまの状況と、次の授業のスタートのことについて雑談した。

 

「さて、和樹先生。カリンのことを教えてください」

 

「はい、任されました。と言ってもね?彼女は僕と同じ魔法使いだよ。

魔方陣を介して魔法を放つ、なんてやり方じゃなく、杖を利用し、

呪文を唱えて魔法を放つタイプなんだ」

 

「和樹とカリンの違いはそれか?魔法使いは色んな奴がいるんだな」

 

「まあね。でも、カリンは呪文を唱えなくても魔法を放つことができるよ」

 

杖を奪えば魔法を放てなくなるか・・・・・?

 

「・・・・・そう言えば、彼女に姉がいたな。あのクラスに」

 

「姉?どんな奴?」

 

「一言で言えば―――プライドだけが取り柄のとんでもない爆発魔法を放つ少女だったよ」

 

ば、爆発・・・・・?

 

「それって、危なくないか?」

 

「そうでもないよ。長い呪文を唱えないと発動できないらしいから」

 

「・・・・・それって、今この瞬間にでも唱えているんじゃないか?」

 

「・・・・・」

 

俺がそう言うと、和樹は一瞬だけ固まった。―――刹那。真上から眩い光が生じた―――。

 

―――カリンside。

 

ドッオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

私、カリン・デジレ・ド・マイヤール・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールことカリンは、

体育館が大爆発を起こした光景を空高く浮き、見下ろして目の当たりにした。

 

「ふう・・・・・呆気なく終わったわね」

 

後ろから聞こえる女の子の声。振り向かずとも分かる。私の姉が魔法を放って溜息を吐いて、

勝利を確信した発言をした。

 

「ルイズ姉、まだアナウンスが流れていない。授業が終わるのは放送を聞いてからだ」

 

「そうかしら?体育館だけじゃなく、殆ど爆発しちゃったんだから生きているとは思えないわよ」

 

「いやー、ルイズ。流石に妹さんの言う事も一理あると思うぞ?」

 

クラスメートの悪魔が私に同意の言葉を発した。だけど、私の姉は、むすっとして不機嫌に言う。

 

「うっさいわね。じゃあ、賭けをしましょうか。五秒後、もしもアナウンスが流れなかったら

今日のお昼ご飯、学食で食べるあなたたちの分を奢ってやるわよ」

 

「・・・・・で、ルイズ姉が賭けに勝ったら?」

 

「そうね・・・・・三年に進級した暁に、あなたたちを下僕にしようかしら。

勿論、拒否権は無しよ」

 

うわー、ルイズ姉・・・・・・絶対に恥をかくよ。

というか、できれば私はルイズ姉の下僕になりたくないや。風紀委員の仕事だってあるしさ。

と、内心嫌そうに言う私を露知らず、ルイズ姉は自信に満ちた態度で言いだした。

 

「じゃあ、カウントダウン開始よ。―――5、―――4、―――3、―――2」

 

―――1、と姉が数えたその瞬間だった。

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

金色の光線が下から伸びてくるように迫ってきた!急いで私はルイズ姉とクラスメートの襟を掴んで

この場から回避した結果、数人の仲間が直撃して脱落してしまった。

 

『カリン・デジレ・ド・マイヤール・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールの「騎士(ナイト)」一名、

戦車(ルーク)」二名、リタイヤ』

 

―――やっぱり、倒れていなかったか!地上を見降ろせば、幾重の防御式魔方陣を展開している

元クラスメートの姿がいた。その魔方陣で自分の仲間を守っていた様子を伺わせる。

 

「・・・・・」

 

呆然と、ただ爆発で壊しつくした学校をルイズ姉は見詰めていた。

そんな自分の姉に追い打ちを掛けるようにクラスメートが話しかけてきた。

 

「ルイズ。御馳走さま」

 

「ありがとうな。食事代が浮いたぜ」

 

「ルイズさまさまだ!」

 

「お前って賭けに勝ったことすらないくせに、よく言えたもんだよな」

 

「よっ!ゼロのルイズ!爆発で全てを消滅させるゼロのルイズ!ただ学校を壊しただけだったな!

全部綺麗さっぱり無くなっているぜ!」

 

お、お前たち・・・!あんまり、姉を罵倒したら・・・・・・っ!

 

バチバチッ・・・・・・!

 

「う、うるさいわね・・・っっっっっ!」

 

『・・・・・あっ・・・・・』

 

「ど、どうせ・・・・・・私はぁ・・・・・・!」

 

「ま、待ってルイズ姉―――!」

 

「爆発するしか才能のないゼロのルイズよぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!っ」

 

―――刹那。

 

チュッドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

ルイズ姉の爆発が味方諸共戦闘不能にまで追い込んだ。その結果―――。

 

『・・・えっと、カリン・デジレ・ド・マイヤール・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールが率いる

二年S組、自滅という結果になりましたので、勝者は葉桜清楚が率いる二年F組です』

 

その直後・・・・・。

 

『ええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?』

 

F組から驚愕の叫びが聞こえたような気がした・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode9

 

 

なんか、凄く酷い戦いをしたような・・・・・。

相手が自滅するなんてどうしたらそうなるんだ?

 

「ねぇ、物凄く勝った気がしないんだけど」

 

「和樹さん。それはこの場にいる皆も思っていることです。流石に、あれはないでしょう」

 

「あれで、Sクラスなのか?三年のゼファードルのほうが歯応えあったぞ」

 

「なにやら、勝手に爆発しましたが・・・・・」

 

あっという間に終わってしまって、体育の授業の残りの時間は自習となった。

教室に戻った俺たちは反省会もとい、疑問をぶつけあっていた。

 

「きっと、あの爆発はカリンちゃんの姉の魔法だろうね。

良くも悪くもあの爆発魔法は、感情の高さによって威力が変わるんだよ。

興奮、怒りをすれば強大に、落ち込み、不安になれば威力が弱まる」

 

「じゃあ、あいつは興奮か怒って魔法を暴走させたってことなのか?」

 

「んー、暴走じゃなさそうにも見えたんだけど・・・・・どうしてなんだろう?」

 

「まあ、済んだ授業のことはもうどうにもなりません。

それよりも、Sクラスを倒したことでお祝いをしましょうよ」

 

龍牙が嬉しそうに提案してきた。珍しいな、自分から言い出すなんて。

 

「どうしたんだ?何かいいことがあるのか?」

 

「まあ、前代未聞なことだしね。FがエリートクラスであるSを形がどうであれ、

結果的に倒したんだよ」

 

「あー、確かにそれは凄いことかもな。―――全く実感しないけどな!」

 

「ははは・・・・・でも、これで戦力が増強できるからいいじゃない」

 

ん・・・・・?戦力増強?どうしてだ?と葉桜に問うたら、説明してくれた。

 

「えっとね、一番低いクラスが三つ以上のクラスを倒したら、

そのクラスから一人だけ指名してクラスに引き込めることができるの。

例え、委員長でもね?それに、授業に参加した生徒は学校から頑張ったご褒美として、

無料食券一ヶ月分を貰えちゃうの」

 

「その上、相手はSクラス。僕たちクラスは移動範囲も拡大しました。

一気にF~Sですよ?別のクラスにいる友達に会いに行けるようになって他の皆さんも喜びます」

 

「―――つーことは、Aクラスにいる杉並の所に行けるようになった訳だ?」

 

「勿論です」

 

・・・・・ふふふっ、ようやくお前の顔を拝める日が来たようだ。

 

「な、なんか・・・兵藤くんの体から黒い靄のようなものが・・・・・」

 

「杉並さんにしてやられていましたからねぇ・・・・・。

その仕返しがようやく出来ると喜んでいるのでしょう」

 

「その喜び方が禍々しいよ・・・・・」

 

なんだろう、とんでもなく失礼なことを言われた気が・・・・・・。

 

「で、Sクラスから誰を選ぶんだ?個人的にカリンが良いんだけど」

 

「うん、僕も彼女でいいよ」

 

「異論はありません」

 

「私もです。葉桜さま、ご決断を」

 

「はい、多数決を決めても結果は同じだろうし、彼女にしましょう。早速、先生に―――」

 

「いや、その必要はない」

 

葉桜の言葉を遮ったのは、この教室の扉が開け放たれ音と共に聞こえた第三者の声だった。

 

「私が志願しておいた。だから、先生に言わなくてもいい」

 

鳶色の瞳の桃色のポニーテールの少女が、ツカツカと教卓の傍によって、ペコリとお辞儀をした。

 

「二年F組の皆さん。今日からこのクラスに所属となった

カリン・デジレ・ド・マイヤール・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールだ。

これからよろしくお願いします」

 

カリン・デジレ・ド・マイヤール・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール。彼女が自ら来た。

 

「やー、カリンちゃん。一緒になるのは一年ぶりかなー?」

 

「だからカリンちゃんと言うな!私はそんな呼ばれ方は嫌いだ!」

 

「あはは、からかいがあるよ」

 

「くっ・・・・・!」

 

カリンは顔を赤く染めて和樹を睨んだ。まるで兄妹の風景だな・・・・・。

 

「でも、いいの?まだ先生の所に言っていないのに・・・・・」

 

「ああ、これは私自身のけじめなんだ。敢えて言わせてもらうが、嫌々Fに所属した訳ではない。

仲間を止めれず、ルイズ姉の暴走を止めれなかった自分がダメだったんだ。一から鍛え直して、

それから再びSクラスに戻るつもりだ。もっと強く発言を言える自分になってな」

 

口の端を吊り上げて威風堂々と・・・・・その言動に俺は思わず呟いた。

 

「恰好いいな」

 

「・・・・・え?」

 

「いや、今のカリンの言動にそう思ったんだよ。恰好いいなって」

 

「――――――っ!」

 

ポンと、カリンの顔が真っ赤になった。ありゃ、照れたか?

 

「か、恰好いいだなんて・・・・・そんな・・・・・」

 

クネクネと頬に手を添えて悶え始めたカリン。

 

「・・・・・あれ、喜んでいるのか?」

 

「うん、嬉しいことを言われるとあんな感じに、ね」

 

不思議そうに和樹に問えば、苦笑いをしながらも頷く和樹だった。

 

―――○●○―――

 

―――木漏れ日通り

 

「皆さんの活躍でSクラスを・・・・・倒した形で私たちF組はSに勝利しました。

そのお祝いとして今日は、一杯食べて盛り上がりましょう。

そして、新しいクラスメートとなったカリンちゃんに祝い―――乾杯!」

 

『乾杯っ!』

 

とある店、名前は『フローラ』。

その店で俺たちは、カリンの歓迎会兼祝杯をすることになった。

 

「かんぱーいっ!」

 

招かざる客がいる中で・・・・・。

 

「緑葉・・・・・どうしてお前がここにいる?」

 

「ふっ・・・愚問だね兵藤。美少女がいるところに俺さまがあり、

美女がいるところに俺さまがあり、だよ?」

 

ニヒルな笑いをする緑葉樹。俺たちが座る席の隣で緑葉の他にも数人の男女が座っている。

 

「それに、俺様もただで参加した訳じゃない。

こちらもキミたちを祝ってもらえる友達を呼んできたよ」

 

「おめでとー!」

 

「おめでとうございます」

 

「おめでとう!凄いね、Sクラスを倒しちゃうなんて流石!」

 

リシアンサス、ネリネ、リコリスは分かる。だがな・・・・・。

 

「すいませーん、パフェを注文おねがいするのですよー!」

 

「ま、真弓ちゃん・・・・・・」

 

「・・・・・すまん」

 

揉み上げが長い黒髪にオッドアイの少女が祝うどころかそっちのけで、デザートを注文していた。

オレンジ色の神の少女と一人の男子生徒が気まずそうに座っている。

 

「緑葉・・・・・一名、思いっきり目的とは違う事をしているぞ」

 

そう言うと緑葉のやつは苦笑を浮かべるだけだった。

 

「・・・それにしても、お前らは二度目だな。会ったのが」

 

「会った・・・・・?すまないが、どこかで会ったか?全く覚えがないんだけど」

 

「ああ、物凄い勢いで通り過ぎていたから気付かなかったか。

そこのオレンジ色の髪の女子生徒を抱えて、大勢の人たちから逃げていた時が遭っただろう?

その時に見かけたんだ」

 

あの時のことを脳裏に思い浮かべ、説明すれば心当たりがあったようで、

彼女は頬を淡く朱に染めた。

 

「・・・・・楓の親衛隊に追いかけられていた時だったか」

 

「親衛隊?ファンクラブの奴らか?」

 

まだ他にもいたのかと、思ったら「正確に言えば、非公式ファンクラブだよ」と、

緑葉が話しかけてきた。

 

「既にキミは狙われて知っているだろうけど、シアちゃん、ネリネちゃん、の親衛隊の他に彼女、

芙蓉楓ちゃんの親衛隊もいるんだよ。KKK、きっときっと楓ちゃんっていう親衛隊をね」

 

「・・・・・苦労しているんだな。お前も」

 

「ああ・・・・・」

 

同情の余地があり過ぎる。寧ろ、同じ境遇の奴がいると知って嬉しく感じる。

 

「寧ろ、嫉妬という名の男の勲章を受け取った方がいいべきだと俺さまは様思うよ。

学校のアイドルを独り占めにしている稟と兵藤には酷く、妬み、

悔しく思っている男子生徒は多いからね」

 

「言いかえれば、あまりにも羨ましすぎて面白くないから、

暴力を振るうはた迷惑な集団ってことか」

 

「まあ、そう捉えられても仕方ないね」

 

いや、そう捉えるだろう?どう考えてもさ。

 

「あんまりしつこいようだったら僕も手伝うからね」

 

「友達の苦行を見過ごせませんからね」

 

「・・・・・ありがとうな。お前ら、いい奴らだよ」

 

和樹と龍牙がフォローしてくれた。俺の中の友情値が35増えた。

 

「稟と言ったか?苗字は何なんだ?」

 

「土見だ。土の土、見るの見、土見」

 

「土見稟か。分かった」

 

「呼ぶんなら稟でいいぞ。こっちは一誠と呼ぶから」

 

その言葉に肯定と頷く。と、

 

「あっ、私は―――」

 

「だったらその話に乗らない訳がないね。兵藤、俺さまもキミのことを一誠と呼ばせてもらうよ。

だからキミも俺さまのことを樹と呼んでも構わない」

 

さっき注文していた女子生徒が挙手をした。

でも、緑葉が遮ってしまって話の続きが聞こえなくなった。

 

「―――邪魔なのですよ緑葉くん♪」

 

「んなっ!?俺さまはなにもしていないのに―――!」

 

あっという間に緑葉の奴は全身に縄で縛られて芋虫状態になった。

 

「私の名前は真弓=タイムなのですよ」

 

・・・・・誰も名前を聞いていないんだけどな。まあいいか。

 

「言っておくけど、奢らないからな。」

 

「えー!そんなー!」

 

図々しい奴だな。勝手に来た奴の分まで奢るかよ。

 

「まあ、いいのですよ、緑葉くんに払ってもらうから」

 

「本当に図々しい奴だな!?」

 

「それが真弓でもあるからな」

 

稟の奴が溜息を吐いた。それはそうと・・・・・。

 

「芙蓉楓をお姫様だっこしていたから、お前らは付き合っているのか?」

 

「ふぇっ!?」

 

「いきなり何を言い出すんだお前は・・・・・俺と楓は幼馴染なんだ」

 

へぇ、幼馴染か・・・・・そう言えば俺にもいたな。茶髪の男の子と銀髪の男の子。

あいつら、今頃どうしているんだろうか?

 

「稟と芙蓉楓はどこに住んでいる?」

 

「稟くんは私と一緒に住んでいますよ」

 

「正確にいえば、楓の家に居候している」

 

「・・・・・ヒモ?」

 

「―――ぐはっ!?」

 

あっ、稟が倒れた。どうしたんだ?冗談のつもりで言ったんだけど・・・・・。

 

「いや、一誠の言う通り、稟は楓ちゃんに家事、炊事、洗濯を任せているからね。

でも、それは楓ちゃんが稟のために尽くしているからなんだ。

まあ、その発言はあながち正解だけどね」

 

何時の間にか縄から抜け出した緑葉が、俺の言葉に同意の意を示した。

すると、リーラが芙蓉楓に興味を持ったのか、顔を彼女に向けていた。

 

「因みに一誠はどうなんだい?」

 

「俺?リーラと一緒に住んでいるぞ。家では俺のメイドとしているし」

 

「・・・・・一誠、キミは稟に劣らずなんだね・・・・・」

 

―――どうして血の涙を流して、拳を握るのか説明してくれるとありがたいな。

 

「・・・・・芙蓉さま、土見さまのことがお好きなのですか?」

 

「は、はい・・・・・?」

 

「もし、恋心を抱いているのであれば、メイドになることをお勧めしますよ」

 

「メ、メイドに・・・・・ですか?」

 

「はい。御主人さまのために一生尽くす素晴らしい職業だと私は思います。

それが、自分が異性に好意を抱いているならば尚更です」

 

―――あのリーラが、お勧めしちゃっている!?芙蓉楓の答えは―――。

 

「え、えっと・・・・・私は今の生活に幸せだと思っていますのでメイドは・・・・・・」

 

「そうですか。ですが、土見さまのお世話をこれからもしたいというのであれば

私にお声を掛けてください。立派なメイドに仕上げますので」

 

「・・・・・」

 

彼女がここまで言わせるほど、芙蓉楓は稟に尽くしているのか・・・・・。

 

「(どこか、リーラと似ているところがありそうだな彼女は・・・・・)」

 

芙蓉楓、そして、土見稟・・・・・か。

 

 

―――○●○―――

 

 

「がーっはっはっはっ!」

 

「はーっはっはっはっ!」

 

時刻は夜。俺とリーラ、ガイアと静かに雑談も含めた夕食のはずだった。

しかし、プリムラを預けていたお隣さんこと神王と魔王が上がり込んで来ては、

俺を巻き込んで意味不明、理解不能のなか盛り上がった。

 

「(これ、近所迷惑に等しいだろう。

いや、そもそも近所なんてこの二人しかいなかったから迷惑なんて関係ないか)」

 

「いやー、ネリネちゃんとリコリスちゃんから聞いたけど、

高位クラスを倒したなんてやるじゃないか!」

 

「それこそシアの許婚候補だけあるってもんだ!」

 

「神ちゃん、ネリネちゃんとリコリスちゃんも忘れちゃダメだよ?」

 

「おっと、そうだったな。がーっはっはっは!」

 

どうやら元凶が報告したらしいな。元凶に目を細めて視線を向ければ・・・・・・。

 

「ご、ごめんなさい・・・・・」

 

「すみません・・・・・」

 

「ごめんなさいっす・・・・・」

 

物凄く申し訳なさそうに三人が俺に向かって頭を下げて謝罪する。

 

「次から気をつけろ」

 

ガイアが嘆息しながら三人に言う。突然の嵐の訪問にガイアも呆れている一人だった。

 

「プリムラ、二人と一緒にいてどうだった?」

 

「なにかと、騒がしかった」

 

「ははは、そうか」

 

学校に行っている間。神王と魔王がプリムラと一緒にいたようだな。

何をしていたのかは分からないが、問題はなかったようだ。

 

「そう言えば、プリムラの学校の件についてどうなっている?」

 

「ああ、問題ないよ。明日からプリムラも学校に行けるようにサーゼクスくんと話し合ったよ。

なのでほら」

 

フォーベシイが魔方陣を展開して、何かを取り出した。

 

「プリムラの制服を私が作ってみたのだよ!」

 

「―――アンタは本当に魔王なのか?」

 

魔王らしくないことをする魔王に俺は訝しんだ。

しかも、リーラが来ている制服のサイズとは違うが、デザインが酷似している。

というか、全く同じだ。フォーベシイが遠い目をする。

 

「私はね一誠ちゃん。趣味は家事や炊事、洗濯をすることなんだ。

でも、ママがさせてくれないんだよ」

 

マ、ママ・・・・・魔王しからぬ妻の呼び方だ・・・・・。

 

「まー坊。あのチビッ子にまだ尻に敷かれているのかぁ?」

 

「ママの涙目を見ちゃったら、女性を愛する私が言う事を聞くしかないよ」

 

「男はドン!と胸を張って行動すべきだって。じゃなきゃ、したいことができなくなる!

なっ、一誠殿もそう思うだろう?」

 

「一誠ちゃん、勿論女性を優先して接するべきだとそう思うよね?」

 

急に話を振らんでくれ・・・・・・。でも、そうだな・・・・・。

 

「二人の良いたいことも分かる。でも、個人的には―――」

 

「「個人的には?」」

 

自分の中の答えを口にしようと口を開いたその瞬間だった。

ズボンのポケットに仕舞ってある携帯が震えだした。

誰からだ?と思いながら取り出して操作すると、リアス・グレモリーからのメールだった。

 

『この場所へ、直ぐに来てちょうだい』

 

内容はこの場所に来てくれというものだった。操作し続けるとマップみたいな表示が出て、

目的地の場所へ記されている。

 

「一誠ちゃん?」

 

「どうした?」

 

「・・・リアス・グレモリーから夜の散歩に誘われた。無化に断わるのもなんだから、

ちょっと行ってくる」

 

二人の王から不思議そうに問われたが、立ち上がって歩を進めようとすると、

 

「一誠さま」

 

「直ぐに戻ってくる。どうでもいい話ならな」

 

リーラに話しかけられた。が、それだけ言い残して俺は、リビングキッチンからいなくなった。

 

「(さて、俺を呼びだして何をする気なのか、教えてもらおうじゃないか)」

 

玄関から外に出て、背中から金色の六対十二枚の翼を展開し、翼を羽ばたかせて夜空へと飛ぶ。

 

―――○●○―――

 

バサッ!

 

目的地に到着して地上に降り立つ。

 

「・・・・・で、俺を呼んだ理由は何でしょうかね?」

 

「ごめんなさいね、イッセー。こんな夜中に呼び出してしまって」

 

俺を呼びだした張本人と一言で言えば大和撫子みたいな女子生徒がいた。

オレンジ色の紐で黒い長髪をポニーテールに結んでいる女子生徒だ。気になり問うた。

 

「そいつは?」

 

「三年A組の姫島朱乃。私の下僕の一人で『女王(クイーン)』よ」

 

「始めまして兵藤一誠くん。私は姫島朱乃。どうぞよろしくお願いしますわ」

 

「・・・・・悪魔か」

 

目を細めて嫌そうに呟く。わざわざ紹介するだけで呼び出されたわけじゃないだろうな・・・・・?

 

「そんな嫌そうな顔をしないで。彼女はあなたに危害を加えないわ」

 

「それを決めるのはお前じゃなくて俺だ。・・・それで、俺を呼んだ理由はなんだ?」

 

さっさと用件を言えと視線で向ける。リアス・グレモリーは溜息を吐いてじゃら口を開いた。

 

「ここ最近、堕天使と遭遇しているわよね?」

 

「ああ、そう言えばそうだったな。ドーナシークとかいう堕天使が最近だったな」

 

「私の新しい下僕がお友だちのはぐれシスターを助けたいと、

いま私の『騎士(ナイト)』と『戦車(ルーク)』と共に敵本陣に直接奇襲を掛けに行っているの」

 

はぐれシスター?というか、リアス・グレモリーの新しい下僕って・・・・・あいつか?だけど、

教会と悪魔は基本的、接しないようにしていたはずだが・・・・・どうしてはぐれなんかに?

 

「そこで私たちはちょっとお掃除をしなくちゃいけなくなったの。

付き合ってくれるかしら?あなたにもメリットがあるはずよ」

 

「・・・・・」

 

堕天使・・・・・期待はできないが、リアス・グレモリーの考えていることは大体分かる。

俺の家族を殺した堕天使の女、ヴァンのことが聞ける。そういうメリットがあると。

 

「・・・分かった。付き合ってやるよ。俺にとって堕天使は悪魔と同じぐらい嫌いな存在だらな」

 

「・・・・・できれば、悪魔を嫌いにならないでほしいわね」

 

「無理だ。実際、嫌悪になるようなことがあったしな」

 

勧誘してきた悪魔に触れると、リアス・グレモリーは額に手を当てた。

 

「・・・・・いいわ、行きましょう。すぐそこだから」

 

そう言って歩を進め出す。俺と姫島朱乃も続いて歩を進めだす。

 

「三大勢力が戦争しなくなって人間を含め、四種族交流を果たしているにも拘らず、

まざ小競り合いとかあるのか」

 

「表向きは確かにそうだけれど、まだまだ完全に敵と仲良くなっているわけじゃないのよ」

 

「裏では今でもこういった小規模な小競り合いがよくあるのですよ?」

 

へぇ、そうなんだ。完全とは言い難いんだな。

 

「―――これはこれは」

 

不意に、声が聞こえた。声からすると女だ。

 

ザッ、

 

俺たちの目の前にゴスロリを身に包む金髪少女が上から落ちてくるように現れた。

 

「私はひと呼んで堕天使のミッテルトと申します♪」

 

スカートの裾を摘まんで持ち上げて、どこかの貴族の娘のように礼儀正しく挨拶をした。

 

「あらあら、これはご丁寧に」

 

「下僕があなたを察知したの。私たちに動かれるのは、一応は怖いみたいね」

 

リアス・グレモリーが相手を探るように言った。

でも、堕天使の少女、ミッテルトは不敵の笑みを浮かべる。

 

「ううん、大事な儀式を悪魔さんに邪魔されたらちょっと困るってだけ」

 

「あら、ごめんなさい。たったいま、うちの元気な子たちがそちらへ向かいましたわ」

 

「えっ、ホント?ヤダ、マジでっすか?」

 

信じられないと唖然と訊くミッテルトに、姫島朱乃が笑みを浮かべたまま肯定の意を示した。

 

「はい、表から堂々と」

 

「しまったぁっ!裏からコッソリとくると予想していたのにぃ!」

 

俺たちから背を向けて文字通り、地団駄して悔しがった。

 

「まあ、三下なんざ、何人邪魔しようがモーマンタイじゃね?うん、決めた、問題無し」

 

だが、それは一瞬の事だった。

 

「なんせ、本気で邪魔になりそうなのは、あなたがたお二人だけだもんね。

うっふ、わざわざ来てくれてあっざーす」

 

こっちに振り返って不敵に言うミッテルトだった。

 

「無用なことだもの」

 

「え?」

 

「私は一緒に行かないもの」

 

「へぇ、見捨てるってわけ?まあ、とにかくあれよ。

主のあんたをぶっつしちまえば、他の下僕っちはお終いになるわけだしね」

 

ミッテルトは堕天使の証である一対の黒い翼を展開して叫ぶように言った。

 

「いでよ!カワラーナ、ドーナシーク!」

 

カッ!

 

俺たちの背後から二つの魔方陣が展開した。

 

「何を偉そうに」

 

「生憎、また見えてしまったなようだな。グレモリー嬢と人間」

 

「貴様の下僕には借りがある」

 

何時かの堕天使の男と見知らぬ女の堕天使。

 

「あらあらお揃いで」

 

三人か・・・・・この中で知っている奴はいるのか・・・・・?まあ、聞けばいいだけか。

 

「ドーナシークだったな?」

 

「ああ、そうだ」

 

「一つ質問をしたい。とある堕天使を探しているんだ」

 

「堕天使・・・・・?」

 

怪訝な顔で呟いた。きっと、誰の事だ?と脳裏で思っているだろう。

 

「―――堕天使の名前はヴァン、女の堕天使を探している」

 

「「「なっ・・・・・!?」」」

 

三人の様子が激しく変わった。目を丸くして開いた口が塞がらない。

しばらくすると、三人の瞳に恐怖の色が浮かんだ。

 

「人間・・・・・どうしてあのお方の名を知っている」

 

「十年以上前、俺の父さんと母さんは殺された。殺したのは悪魔と堕天使の三人組だ。

その堕天使はヴァンと呼ばれていた」

 

黒いカラスのような翼を生やした女。今でも焼きつけるようにハッキリと覚えている

 

「十年前・・・・・そうか、あのお方はまだ生きておられるのか・・・・・」

 

「ま、マジかよ・・・・・っ!」

 

・・・・・なんだ、この反応は?

 

「人間、あのお方のことは知らない。

あの三大勢力戦争が終戦してすぐに姿を暗ましたと訊いている。故に、

我らは姿すら見たことはないし、俺たち堕天使はあのお方のことを『同族殺しのヴァン』と

恐れ戦いている」

 

「同族殺し・・・・・?同じ堕天使を殺したって言うのか?」

 

「ああ、そうみたいだ。自分の欲望のために堕天使の幹部を殆ど殺した最強で最凶の堕天使。

通称『女帝のヴァン』だった伝説の女堕天使」

 

ドーナシークはヴァンのことを発するだけで冷や汗を流している。

それだけ恐怖の対象ということなのか。

 

神器(セイクリッド・ギア)マニアだと聞いている」

 

「確かに、あのお方はアザゼルさまの次にとても強く神器(セイクリッド・ギア)に興味を持っていた。

だからこそなのだろうか、あのお方は、アザゼルさまを筆頭に神の子を見張る者(グリゴリ)

研究し続けた神器(セイクリッド・ギア)の資料を全て奪うだけではなく、堕天使の幹部を殺しつくした」

 

「・・・・・」

 

「これが、俺が知っている全てだ。これ以上のことを聞いても分からん。

ミッテルトとカワラーナに訊いても同じことだ。

もっと知りたければ上層、堕天使の総督アザゼルさまに訊くことだな」

 

光の槍を生じて掴み、構え出すドーナシーク。

 

「・・・・・そうか、礼を言うよドーナシーク。

あの堕天使を少しでも知ることができて儲けもんだ」

 

六対十二枚の金色の翼を展開すれば、翼を動かして、三人を捕縛する。

 

「「「っ!?」」」

 

「殺しはしない。有意義な情報を提供してくれたからな」

 

三人を解放すれば、体に金色の拘束具が付けられていた。

 

「リアス・グレモリー。こいつらを生きたまま堕天使の総督にもとに送ってやれよ」

 

「え、ええ・・・・・」

 

「そんじゃ、また明日な」

 

金色の翼を羽ばたかせて夜空へと飛翔する。だいぶ時間が掛かったな。

リーラとガイア、プリムラが心配しているだろう。早く帰って安心させよう。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode番外編

 

「兵藤くん、ちょっと付き合ってくれないかな」

 

「どうした?」

 

とある日の放課後、葉桜に呼び止められた。

 

「買い物に付き合って欲しいの。どうしても欲しいのがあって・・・・・」

 

少し申し訳なさそうに言う葉桜だった。買い物か・・・・・。

 

「別に構わないぞ?」

 

「ホント?良かったぁ・・・・・」

 

安堵して胸を撫で下ろした様子を見せる葉桜。隣にいるリーラに悪いと籠めて告げた。

 

「リーラ、先に帰ってくれるか?」

 

「分かりました。では、プリムラと共に帰ってお待ちしております」

 

「ああ、悪い」

 

それだけのやりとりをして、リーラは先に教室からいなくなった。

そしたら、葉桜が首を傾げだした。

 

「プリムラ?」

 

と、言って。

 

「神王と魔王に預かって欲しいと言われて、預かっている子がいるんだ」

 

「へぇ、そうだったんだ」

 

「さて、買い物に行こうか」

 

「はい」

 

鞄を持って葉桜と一緒に教室を後にした。

 

―――木漏れ日通り

 

「葉桜って一人暮しなんだ?」

 

「うん、それに私は奨学金で学校を通っているんだよ」

 

「じゃあ、頭がいいんだ?でも、どうしてF組に?」

 

「うーん、体力はある方なんだけど、それでもFクラスになっちゃうの。

期末テストの内容って知らないよね?」

 

ん、知らないな。商店街へと歩を進めながら頷いた。

 

「大まかに言えば、実力と知力のテストがあるの。知力のテストは当然、

今まで授業で学んできた知識のこと。実力は運動能力と戦闘能力を計るの」

 

「戦闘能力はなんだ?誰かと戦うのか?」

 

「うん、下級生は担任の先生がしてくれて、私たち二学年の生徒たちは、

上級生と戦って先生方が強さを計ってもらうの」

 

「上級生は?」

 

「上級生はそのまんま。大学に進学するか、就職するか、進路相談があるし

主にそっちのことで忙しくなるかな」

 

ふむふむ・・・・・また知識が増えたな。なるほど、そういうことか。

 

「だからね兵藤くん。Fクラスになりたいなら片方だけ0点にしないとだめだからね」

 

「そうなのか。仮にF組になるの基準点はどのぐらいだ?」

 

「百点以下だよ。それ以上の点数はD組になるから」

 

なら、百点以上にならないようにすればいいんだな。気を付けよう。

 

「あっ・・・・・」

 

不意に葉桜は声を漏らした。どうした?と訊けば、スッと指をとある方へ差した。

その先には駒王学園とは違う制服を見に包んでいる女子生徒が数人の男に囲まれている。

どうやら男たちはナンパしているようだが、明らかに女子生徒が困惑している。

 

「ナンパのようだな」

 

「でも、あの子嫌がっているよ」

 

「助けるか?」

 

「うん、見過ごせないよ」

 

瞳に強い意志を宿す。同じ女の子として助けたいという気持ちがハッキリと伝わってくる。

 

 

―――???side

 

 

「なぁ、いいだろ?俺たちと一緒に遊ぼうぜ?」

 

「ご、ごめんなさい。私、用事があるので・・・・・」

 

「かてぇことを言うなって、俺たち暇でしょうがなかったんだ。人数が多い方が盛り上がるんだ。

それもあんたみたいな美少女がいるともっと盛り上がるんだよ」

 

「で、でも・・・・・」

 

ううう・・・・・どうして今日に限ってナンパされるんでしょうか。

私、八重桜はとっても困っていました。周りを探るように視線を向けても、

相手が悪魔と堕天使の人たちのようで助けてくれるような人がいません。

皆、余計な事に関わりたくないとチラチラと見てくるだけで・・・・・。

 

「(稟くん・・・・・)」

 

幼馴染の顔を脳裏に思い浮かべる。だけど、あの人はここにはいない。

もう一人の幼馴染と一緒にいるから・・・・・。

 

「ああ、面倒くさいから連れて行こうぜ」

 

「んじゃ、最初にカラオケでも行くか」

 

「そこで、間違った声も出しちゃったりしてな」

 

「おいおい、そんな声を出すなら防音式の結界をしなくちゃいけないじゃないか」

 

嫌な笑みを浮かべる人たち。それから私の体に手を伸ばしてきた。その手を抗う術はない。

 

「(誰か、助けて―――!)」

 

強く目を瞑って心から誰かに助けを求めた。

 

ガシッ!

 

「・・・・・?」

 

私の体を掴まれる感覚は未だにこなかった。どうしたのだろう?と思い、ゆっくりを目を開けた。

 

「・・・・・」

 

私の視界に飛び込んできたのは、二人の男の人と女の人の姿。

男の人が私をナンパする男の人の腕を掴んでいた。

 

「そこまでにしてもらおうか」

 

「ああ?」

 

「彼女が嫌がっている」

 

「誰だてめぇは、俺たちの邪魔をするんじゃねぇよ!」

 

掴まれた腕を強引に振りほどこうとする。でも、ピタリと微動だにしなかった。

 

「お前ら、悪魔と堕天使だな?ここで問題を起こしたら自分たちがどうなるのか

分からない訳がないだろう?」

 

「うるせぇっ!」

 

「あっ!」

 

思わず叫んでしまった。別のナンパの人が男の人に向かって殴りかかったのだから。

 

「事を穏便に済ませようとしているんだけどな」

 

―――バサァッ!

 

「人の話を聞かないなら地獄に落としてもいいよな?」

 

『―――――っ!?』

 

金色の・・・・・六対十二枚の翼・・・・・。天使・・・・・?

男の人の拳を受け止めたまま彼は口を開いた。

 

「さて・・・・・どうする?ここで俺に攻撃すれば、お前らは死ぬ。

ここで大人しく尻尾巻いて逃げるんなら見逃す。さて、お前らはどっちが御所望かな?」

 

ニッコリと笑みを浮かべる男の人。だけど、その笑みは―――。

 

『ご、ごめんなさぁあああああああああああああああああああいっ!』

 

とっても怖かった。目が全然笑っていないんです。だから、ナンパの人たちが逃げちゃいました。

 

「・・・・・笑っただけなのに逃げるなんて」

 

逆に、この人はショックを受けていました。

 

「なあ、俺って怖かった?」

 

「え、えっと・・・・・・はい」

 

「・・・・・そうか」

 

ズーンと、四つ這いになって落ち込んでしまいました。あわわ・・・助けてもらったのに

私ったら・・・。フォローしなくちゃいけなかったのに・・・・・。

 

「兵藤くん、自分で聞いて落ち込んでどうするの?」

 

女の子が苦笑いを浮かべ、そう言いながらもヨシヨシと天使の人の頭を撫で始めた。

 

「大丈夫だった?変なことされていなかった?」

 

「えっと、はい、大丈夫です。お二人のおかげで助かりました」

 

「私は何もしていないよ。したのは兵藤くんだよ」

 

兵藤くん・・・・・彼の名字なのでしょうか?落ち込んでいた彼が立ち上がった。

 

「あー、変なところを見せた。俺は兵藤一誠、彼女は葉桜清楚。同じ駒王学園を通っている」

 

「兵藤一誠・・・まさか、『魔王にも神王にも人王にも凡人にもなれる男』の人・・・・・?」

 

「・・・・・」

 

いきなり兵藤くんが私の話しを聞いた途端に、

頭をガックリと垂らしました。え、えっと・・・・・。

 

「知らない人にまであの名を知られているなんて・・・・・」

 

「えっと・・・・・どんまい・・・・・兵藤くん」

 

なんか・・・・・助けてもらったのに気の毒な人って・・・・・。

 

「(でも、なんでだろう・・・・・どことなく、稟くんに似ているような・・・・・)」

 

そんな気がする。だからだろうか、

 

「あの、私・・・・・八重桜といいます。もしよかったら、お茶でもいいかな・・・・・?」

 

―――彼のことを知りたくなった。

 

―――○●○―――

 

―――喫茶フローラ

 

「改めて自己紹介をします。私、私立ストレリチア女学院に通っている八重桜といいます。

先ほど助けてくれてありがとう。助かりました」

 

「八重桜か。よろしくな」

 

「よろしくね」

 

ナンパから助けた少女と共に喫茶店で寛いでいた。注文したコーヒーを一口飲んで話しかける。

 

「八重―――」

 

「桜でいいですよ。葉桜さんもそう呼んでください」

 

「そう?じゃあ、私のことは清楚って呼んでね?」

 

「俺も一誠でいいぞ、そういうことなら」

 

八重桜からの提案にそう言い合う。お互い、肯定と「はい」と頷いた。

 

「なら、兵藤くんも私のことを名前で呼んでね。

他の皆には名前を呼んでいるのに私だけ苗字なんて変だし」

 

「分かった。これからはそうする。でも、お前もな」

 

「うん」

 

嬉しそうに葉桜は頷いた。

 

「仲がいいみたいだね」

 

「同じクラスだし、一緒に戦っているし、戦友みたいなもんだよ」

 

「そうなんだ?そういえば、駒王学園ってクラス同士で戦うんだって?」

 

「知っているのか?」

 

「はい。あの学校に幼馴染がいます。その人たちから聞いているの」

 

へぇ、幼馴染か。どんな奴ら何だろうな。と、そんな事を思っていると、

 

「因みに幼馴染ってどんな人なのかな?」

 

清楚が桜の幼馴染が気になったのか訊いていた。桜は口元を緩ませて教えてくれた。

 

「土見稟という男の子と芙蓉楓という女の子です」

 

「「・・・・・」」

 

桜から告げられた二人の幼馴染。最近知り合ったばかりの二人だった。

 

「あの二人か・・・・・驚いたな」

 

「やっぱり、知っていましたか?」

 

「つい最近な。俺って駒王学園に編入してきたばかりだから友達と呼べる人は少ないんだ。

稟と楓も知り合ったばっかりだ。この店でな」

 

「わぁ、そうだった?なんか、偶然的だね」

 

桜の発言に俺も同意する。

 

「そうだな。稟と楓、桜とこの店で知り合ったのはもしかしたら必然的だったのかもしれないな」

 

「きっと、いい意味でかもしれないね」

 

「はい」

 

俺たちは笑みを浮かべこの偶然に感謝をした。あっ・・・・・そう言えば。

 

「清楚、どんな買い物なんだ?俺たちそのためにここにきたんだろ?」

 

「あっ、そうだった。でも、残っているかな・・・・・」

 

「何かお買い物だったの?」

 

「欲しいぬいぐるみがあったの。可愛いぬいぐるみだったから欲しくなっちゃって」

 

あー、ぬいるぐみだったのか。でも、どうして俺まで?

そう思い悩んでいると桜が清楚に問いかけてきた。

 

「もしかして、この先のぬいぐるみ屋さんに行くところだったの?」

 

「うん、でも・・・・・」

 

チラリと、俺を見てくる。ん?なんだ?

 

「カ、カップル限定の・・・・・ぬいぐるみだから・・・・・」

 

・・・・・そういうことね。

 

「だ、だから!」

 

ごめんなさい!と清楚が俺の手を包むように掴んで懇願してきた。

 

「お願い、どうしても欲しいぬいぐるみが男女ペアでないと買えないものなの。

今日だけでいいから私の彼氏になって!」

 

彼女の顔は最大に真っ赤な顔だった。

物凄く恥ずかしいことを言っているのを自覚しながらも、頼んできた。そんな彼女に俺は言った。

 

「・・・・・まあ、俺で良かったら付き合うよ」

 

「っ!」

 

「それに、今日はお前に付き合うって言ったんだし、どこまでもついていく。約束なんだからな」

 

そう言って笑えば、清楚は感謝の言葉を放った。

 

「ありがとう・・・・・」

 

「どういたしまして」

 

ポンと、頭を撫でてやった。サラサラとした艶のある黒い髪、撫で心地がいいな・・・・・。

 

「・・・・・ホント、仲がいいんだね」

 

「その上、からかいがあるしな」

 

「あはは・・・・・ねえ、一誠くん。私もカップル限定のぬいぐるみが欲しいです。

だから・・・お願い、できるかな?」

 

いきなり桜がそう頼んできた。なぜ?

 

「ぬいぐるみが欲しいのか?」

 

「私、夢はぬいぐるみ造形作家になることなの。

だから、自分でぬいぐるみを作ったり可愛いぬいぐるみを買ったりしているんです」

 

「ぬいぐるみ造形作家・・・・・可愛い夢だな」

 

「そ、そうかな?」

 

「ああ、もしも部屋に大量のぬいぐるみがあったら思わず笑むだろうな。

それも、可愛いぬいぐるみばかりで気持ちが安らぐとかそういう感じで」

 

微笑みながらそう言う。

 

「・・・・・」

 

と、桜が徐に携帯を取り出した。どうしたんだ?

 

「一誠くん、清楚ちゃん。メールアドレスを交換してください」

 

「ああ、いいぞ」

 

「うん、私も」

 

俺と清楚も携帯を取り出して、赤外線でアドレスを交換し合った。

これで友達登録は・・・・・五件以上だ。

・・・・・意外と、俺って登録している友達がいないもんだな。知り合いがいる方だけど。

 

「それじゃ、ぬいぐるみをGETしに行きますか」

 

「「はいっ!」」

 

二人の(仮)彼女と一緒に代金を払ってフローラから出て、

目的地であるぬいぐるみ屋に赴いたのだった。残っているかどうか分からないが、

ここは神頼みだな。神王の方じゃなく、ヤハウェの方で。

 

 

―――○●○―――

 

 

「家まで送ってくれてどうもありがとうございます」

 

「またナンパされたら大変だ。送ってやるのは当然だろう?」

 

「ふふっ、一誠くんは本当に稟くんのようです」

 

「そうか?まあ、俺も何となくあいつと似ていると思っている。何故だか知らないけどな」

 

あれから目的地にたどり着けば、お目当ての物はまだあった。

カップル限定のぬいぐるみを買えて二人は喜びを分かち合った。

それから桜は帰る頃だと言うので、

俺は清楚と桜を抱えて空を飛び、桜の家にまで飛んで送ったわけだ。

 

「一誠くん、今度とっておきの人形を作って一誠くんにあげる。

だから、それまで待っててくれるかな」

 

「自信作の人形か。楽しみだな。待っているよ」

 

「できたらメールします。本当、今日はありがとう。また三人でお茶しようね」

 

「それだったら今度は、外でお茶をしようよ。うん、ピクニックをしたいね」

 

「はい、じゃあその時、互いにお昼ごはんを作ってきて食べましょう」

 

ニッコリと笑む桜は、踵返して家の方へ帰っていく。

 

「それじゃ、また何時か会いましょう。さようなら!」

 

「「さようなら!」」

 

そして、玄関の向こうへと姿を消した桜。少しして、清楚を抱えて宙に浮く。

その時、二階の窓が開いた。見れば、桜が片腕をブンブンと横に振っている。

清楚と一緒に腕を振って、清楚を送るために清楚の家へと翼を力強く羽ばたいて桜の家から

遠ざかった。

 

「今日は楽しかったね」

 

「ああ、これも清楚のおかげだな」

 

「ふふっ、そう言ってくれると嬉しいな」

 

「さて、お姫さま。あなたの家はどこかな?」

 

「はい、あっちです。私の王子さま♪」

 

笑いながらも俺たちは帰りながら、空の散歩を楽しんだのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦闘校舎のフェニックス
Episode1


 

「私の処女を貰ってちょうだい。至急頼むわ」

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

はい、俺の名前は兵藤一誠だ。

えーと、俺が寝ていたら身体に重みを感じてガイアがまたきたんだろうなぁーと思って、

目を開けたら・・・・・ここにいるハズもないリアス・グレモリーが全裸で

俺の身体を跨って開口一番にとんでもない発言を言いやがった。

 

「・・・・・お前、もしかして露出狂の上に痴女だったのか?

いきなり処女を奪ってくれって・・・・・・・・・・・・・・・引くぞ」

 

「ち、違うわよ!?私は露出狂じゃないわ!自分で脱いだから裸になっていて痴女でもないわ!」

 

「いや、自分から脱いで俺に跨っている時点で痴女だろ。それに、この家の主の断わりもなく

黙って入って来て俺を襲うとしているんだから不法侵入者でもあるか?」

 

「もう!こんな時ぐらい悪魔嫌いを発動しないでちょうだい!私には時間が無いの!」

 

時間・・・・・?それに何か必死そうにしているが・・・・・。

 

「好きでもない女を抱けるかよ。ましてやお前は悪魔だ、悪魔が嫌いな俺に

頼むのは可笑しいと思うが?」

 

「その悪魔嫌いの貴方に私の処女を奪って貰いたいの!愛がなくたっても良い!

暴力的に激しく私の身体を傷つけて貰いたいのよ!」

 

「・・・・・おい、何でそんなに必死になるんだ。理由を言えよ」

 

「・・・・・言ってくれたら私とシテくれる?」

 

「い・え」

 

有無を言わさず俺は問い詰める。

未だに俺を跨るリアス・グレモリーは溜息を一つしてポツリとつぶやき始めた。

 

「貴方にこんなお願いをしたのは―――――」

 

カッ!

 

刹那。部屋の床が光り輝きだした。それを見て、グレモリーが嘆息する。

 

 

「・・・・・一足遅かったわけね・・・・・」

 

忌々しく床の魔方陣を見詰めるリアス・グレモリー。魔方陣の紋様は・・・・・知らないな。

誰だ?俺は首を傾げて見ていると魔方陣から現れたのはリーラと

同じ髪の銀色の髪をしたメイド服を着込んだ女だった。・・・・・悪魔かよ。

悪魔は俺とリアス・グレモリーを確認するなり、静かに口を開いた。

 

「こんな事をして破談へ持ち込もうというわけですか?」

 

「・・・・・破談だと?」

 

呆れた口調で淡々と言う。それ聞いたリアス・グレモリーは眉を吊り上げるが

こいつは誰かと婚約しているのか?

 

「こんなことでもしないと、お父さまもお兄さまも私の意見を聞いてはくれないでしょう?」

 

「このような下賤な輩に操を捧げると知れば旦那さまとサーゼクスさまが―――――」

 

「いきなり俺の部屋に侵入して現れて俺を下賤呼ばわり・・・・・殺すぞ」

 

「ぐっ――――!?」

 

「い、何時の間に・・・・・!?」

 

訳が分からないまま起こされて、こいつの言葉にムカついてリアス・グレモリーから抜けだして、

悪魔の首を掴んだ。ギリギリと握力を強めて絞め上げ持ち上げる。

 

「どいつもこいつも俺の部屋に勝手に入り込んで、

人の眠りを妨げて、お前らは何様だ?あ?どうなんだよ?」

 

「ぐっ、がっ、あっ・・・・・!」

 

「それに俺は悪魔が嫌いなんだ。お前は知らないだろうが・・・・・なっ!」

 

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

床に思いっきり叩きつけた。そこでどす黒いオーラを拳に纏う。

 

「さて、悪魔さんよ。命乞いしても許す気はないからよろしくな?」

 

どす黒いオーラを拳に纏う。腕に力を籠めて―――。

 

「ま、待って!彼女に攻撃をしないで!彼女は私の身内なの!」

 

背後から羽交い締めして、引き剥がそうとするが、男と女の力では違い過ぎている。

 

「―――死ねよ」

 

拳を悪魔の顔面に向けて振った。俺の拳が真っ直ぐ狙いを違わずに悪魔の顔に襲いかかった―――。

 

―――ガシッ。

 

が、第三者の乱入によって防がれた。

 

「兵藤一誠。そこまでにしておけ」

 

「・・・・・」

 

金色と黒色が入り乱れた髪。その双眸は右が金で、左は黒という特徴的なオッドアイで、

黒いコートに身を包んだ長身の男、クロウ・クルワッハが俺の拳を掴んで静かに言った。

 

「無防備なものを殺しても意味がないぞ」

 

「・・・・・」

 

そう言われて、俺は渋々と悪魔の首を掴んでいた手を放した。

 

「明日、事情を聞かせろよ」

 

「・・・・・ええ、そうさせてもらうわ。大丈夫?シルヴィア・・・・・」

 

「・・・・・はい、もう大丈夫です」

 

ヨロヨロと立ち上がるシルヴィアと呼ばれた悪魔。一度だけ俺に視線を向けた。

 

「・・・・・申し訳ございませんでした」

 

それだけ言うと足元に魔方陣を展開してグレモリーと共にこの場からいなくなった。

 

「・・・・・寝る」

 

「そうだな。俺も寝るとしよう」

 

そう言って何故か俺の寝台に乗って寝転がった。

 

「おい」

 

「どうした、寝るのだろう?」

 

「いやいや、お前は俺の中で寝ればいいだろうが。何故に俺の布団の中で寝ようとする?」

 

「偶には共に過ごすのも悪くはないだろう」

 

「だからって服を着たまま寝るなって」

 

そう指摘すると、モゾモゾと布団の中で動きだしては、

布団の隙間から黒いコートとズボンと靴をベッドの横に置いた。

 

「これでいいだろう」

 

「・・・・・」

 

こ、このドラゴンは・・・・・。本当にここで寝るつもりかよ・・・・・!?

 

「ほら、お前もさっさと寝ろ」

 

そう言うなり、俺の手を掴んで布団の中に引きずり込んだ。

って、一つのベッドで男と寝るなんて―――。

 

ムニュリ・・・・・。

 

「・・・・・はっ?」

 

「ん・・・・・」

 

クロウ・クルワッハから有り得ない感触が手から伝わった。

思わずベッドから起き上がって、クロウ・クルワッハの姿を凝視して見たら・・・・・。

 

「くくく・・・・・どうだ?いい肌触りであろう」

 

健康そうな肌。黒と金が入り混じった髪が何時の間にか腰にまで伸びていて、男付きの顔が、

何故か女のような顔になっていて・・・・・胸の方を見たら・・・・・。

男の体にあるはずのないものが物凄く自己主張していた。

あいつは口の端を吊り上げて満足そうに笑みを浮かべていた。

 

「なっ・・・!なっ・・・・・!?お、お前・・・・・!どうして・・・・・っ!?」

 

「ドラゴンは姓別など関係ない。だから、俺も試しに女になってみたのだ。

そしたら中々どうして、男よりも軽く力も大して変わらないじゃないか」

 

面白そうに笑みを浮かべるクロウ・クルワッハ。

いやいや、ちょっと待てよ!?今まで女になろうとしなかったのにどうして急になったんだよ!?

 

「お前を驚かそうと思ってな」

 

「確信犯かよ!?つーか、人の心を読むな!」

 

「ふふっ、これから俺はこの姿でいよう」

 

クロウ・クルワッハは俺の首に腕を回してきた。

 

「グレートレッドの驚く表情を見るのも悪くはない。このまま夜を過ごそうではないか」

 

「―――――っ」

 

腕だけじゃなく、足までも腰に絡ませて来て、完全に俺の動きを封じてきた。

そして、有ろうことかクロウ・クルワッハは瞑目してスヤスヤと寝だした。

 

「・・・・・俺、明日、生きているかな?」

 

『『主・・・・・頑張って』』

 

・・・・・うん、僕、頑張るよ・・・・・。諦めて俺はこの状態で寝ることになった。

 

―――駒王学園

 

「・・・・・一誠・・・・・?」

 

「・・・・・なんだ」

 

「・・・・・凄く、どうしたの・・・・・?かなりやつれているけど」

 

ゲッソリとした俺の顔を見て和樹が物凄く心配そうな顔で覗き込んでくる。

他の皆もそんな感じで見ている。

 

「家の事情で・・・・・悪い。それ以上は言えない」

 

「そ、そう・・・・・」

 

「あの、これ、飲みます?元気ドリンクですよ?」

 

龍牙が一つの瓶を見せてくれた。コクリと頷いて、瓶を受け取った。

蓋を開けて、中身を飲み干す。

 

「・・・・・ありがとう、マシになった」

 

ふぅ・・・・・と、溜息を吐くと段々眠くなってきた。

 

「悪い、俺、寝るわ」

 

「なら、保健室で寝るといい。運んでやるぞ」

 

「あっ、私も手伝う」

 

カリンと清楚が俺の脇に腕を差しこんで立ち上がらせてくれた。

俺はおぼつかない足取りで二人に助けてもらいならが保健室へと赴いた。

 

「それにしても、お前ほどの男がどうしたらそこまで元気がなくなるのか不思議だぞ」

 

「一体、なにをしていたの?」

 

「悪い、言いたくない」

 

ゆっくりと階段を下りて、進んでいくと保健室が見えた。

扉に辿りついて清楚が開けようとしたが、

 

「あれ、鍵が掛かっている」

 

「先生はいないのか。止むを得ないな」

 

亜空間から軍杖を取り出して扉に突き出した。

短く呪文を唱えたかと思えば、ガチャリと鍵が開いた音がした。

 

「凄い・・・」

 

「こんなこと、初歩的な魔法だ。魔法を最初に習うのは大抵こんなものだぞ?」

 

できて当然と、カリンは言う。ガラリと清楚が保健室の扉を開けて中に入る。

清潔な空間に設けられた白いベッドに近づき、俺は二人によってベッドに寝かせられた。

 

「ありがとう、後は大丈夫だ。二人は戻ってくれ」

 

「いや、もうしばらくお前の様子を見る」

 

「うん、私も。なんだか一人にしたら心配になっちゃうから」

 

「・・・・・風紀委員長と委員長がいいのかよ?」

 

「「私たちのことを言うなら、さっさと治す」」

 

・・・・・はい、分かりました。思わず俺は頷いた。

すると、不意に片方の手から温もりが感じる。

 

「こうして手を握ってあげる。だから、安心して寝て」

 

「・・・・・」

 

ちょっと嬉しいな。その気持ちを現すように手を握り返した。

そして、俺は二人に見守られる中、瞑目した。

 

「(いい夢が見られそうだ)」

 

―――○●○―――

 

「・・・・・ん」

 

眩しい光に意識が戻った。いま何時だ・・・?と朧気な瞳で時計を見たら・・・・・。

 

「すぅー・・・・・すぅー・・・・・」

 

「すぅ・・・・・すぅ・・・・・」

 

耳元から寝息が聞こえた。時間より気になり、左右に視線を向けたら。

 

「清楚、カリン・・・・・?」

 

なぜか、教室に戻らず俺の手を掴んだまま俺の傍で寝息を立てていた。

 

「・・・・・一誠くん」

 

「兵藤・・・・・」

 

夢の中で俺が出ているようだ。

 

―――ガラッ。

 

保健室の扉が開いた。誰かが入ってくる足音が段々とこっちに近づいてくる。

 

「やぁ、目が覚めたようだね」

 

金髪に泣き黒子がある男子生徒が話しかけてきた。

 

「僕は木場祐斗。リアス・グレモリーさまの『騎士(ナイト)』だ」

 

「あー、お前が『騎士(ナイト)』か」

 

「知っているのかい?」

 

「知らん」

 

バッサリと切り捨てた。存在は知っているが、人物は知らん。

 

「それじゃ、起きたところで僕と一緒に来てくれるかい?」

 

「なんでだ?」

 

「我が主、リアス・グレモリーさまがキミを呼んでいるからだよ」

 

「・・・・・ああ、あの話か」

 

上半身を起こして、優しく二人の手から放して一瞬の動きでベッドから降りた。

 

「ちょっと待っててくれ」

 

えっと、紙とペンは・・・・・あったあった。

サラサラと書き、清楚とカリンの手元に差し込むように置いた。

 

「ありがとうな・・・・・」

 

二人の頭を撫でて木場に視線を向ける。案内しろと、

 

「では、こちらへ」

 

「ああ」

 

さて、理由を聞かせてもらおうか、リアス・グレモリー。と、思いを抱きながら木場の後を追う。

木場の後に続きながら向かった先は、校舎の裏手だ。

どうして裏手に行くのか不思議に思い訊いた。

 

「ここ、どこに向かっている?」

 

「そう言えば、キミは編入してきたんだね。じゃあ、この場所に来るのは初めて?」

 

「そうだな。初めてだ」

 

頷いて木場の話しを聞くと、木々に囲まれた場所には旧校舎と呼ばれる、

現在使用されていない建物へ向かっているそうだ。

この学校に使用されていない場所なんてあったのか?四種交流の学校だぞ?

「ここに部長がいるんだよ。いわば、部長の根城というわけだ。

彼女の承諾なしにこの建物に入ることおろか、近づくことさえ禁じられている。

この学校の生徒、教師は誰でも知っている。

知らない人がいるとすればキミのような編入生か、転校生ぐらいだよ」

そう告げる木場。二階建て木造校舎を進み、階段を上る。更に二階の奥まで歩を進めた。

ここまで来るのは初めてだが、廊下は奇麗だ。使われていない教室も塵一つ落ちていない。

古い建物に付き物の、幾重にも張り巡らされた蜘蛛の巣や積もったホコリも今のところ

目にしていない。掃除はマメにしているようだ。

そうこうしているうちに目的の場所に着いたようだ。

木場の足が、とある教室の前で止まる。俺は戸にかけられたプレートを見た。

『オカルト研究部』

オカルト研究部?悪魔が?オカルト? そもそもオカルトなんて部活はあったのか?

個人の趣味なのか?脳裏でごっちゃ混ぜで考えていると、

「・・・・・・僕がここまで来て初めて気配に気付くなんて」とか言っていた。

ああ・・・・・この気配か?

 

「百メートルあたりから何となく感じていたぞ。

この気配、シルヴィアだろ?というか、入ろうぜ」

 

俺はそう言いながらノックもせずに開け放って中に入る。

が、何故か張り詰めた空気になっていた。

室内には機嫌が悪いリアス・グレモリーとクールな様相は相変わらずのメイド服を

着こんでいる銀髪のメイドのシルヴィア、笑っているが冷たいオーラを漂わせている姫島朱乃、

白い髪に小柄の女子生徒は部屋の隅で椅子に静かに座っていた。

できるだけ部屋にいる者たちと関わりたくないって感じで隅で椅子に

静かに座っていた。他には二度も堕天使に襲われている男子生徒と、金髪碧眼の女子生徒がいた。

 

「さて、昨日の件について聞かせてもらおうか?露出狂の痴女、リアス・グレモリー先輩よ」

 

「だから私は露出狂でもないし痴女ではないわ!分かってて言っているでしょう貴方は!?」

 

「うん、その通り」

 

「くっ・・・・・!」

 

さらに機嫌が悪くなった。だが、溜息を吐いて気分を落ち着かせてメンバーの一人一人を

確認すると、口を開く。

 

「全員揃ったわね。では、部活をする前に少し話があるの。彼も関わしちゃったから

聞く権利もあるしね」

 

「お嬢さま、私がお話ししましょうか?」

 

リアス・グレモリーはシルヴィアの申し出をいらないと手を振っていなす。

 

「実はね―――――」

 

グレモリーが口を開いた瞬間だった。床に描かれている魔方陣に紋様が光りだした。

そして、最初とは違う知らぬ形へ姿を変えた。

 

「―――フェニックス」

 

そう口から漏らした木場。フェニックス?と、思っていると室内を眩い光が覆い、

魔方陣から人影が姿を現す。

 

ボワッ!

 

魔法陣から炎が巻き起こり、室内を熱気が包み込む。あまりの熱さに火事に成りかねないと

判断して、炎が巻き起こる何もない空間の真上に穴を拡げて大量の水を出して炎を消した。

 

「「「「「「「・・・・・」」」」」」」

 

「消火完了っと」

 

「今の貴方の仕業なの!?」

 

「火事に成りそうだったから火を消しただけだ」

 

指を鳴らして濡れた部室を濡れる前の部室に戻したら。

床に倒れている男がいた。・・・・・誰だ?

 

「そこにぶっ倒れている奴は誰だ?」

 

「この方はライザー・フェニックスさま。純潔の上級悪魔であり、古い家柄を持つ

フェニックス家の三男であらせられグレモリー家次期当主のリアスお嬢様の婿殿でも

あらせられます」

 

大物の悪魔ってことか。というか、普通に説明してくれたけど、フォローとかなにもしないのか?

 

「紹介をどうもありがとう。首は大丈夫か?」

 

「お気遣いをどうも。何ともございません」

 

「そっか、殺すつもりで締めたんだがまだ弱かったようだな」

 

「・・・・・」

 

唇の端を吊り上げてシルヴィアに笑うと、シルヴィアは口を閉ざして黙った。

その眼差しは俺に危険視を向けてな。っと、このままじゃ話が進まないな

 

「おい、木端悪魔。何時まで寝ているんだよ」

 

ドガッ!

 

「ぐほっ!?」

 

わき腹を蹴って壁に叩きつけると、その際に生じた痛みに意識が戻った様子だった。

 

「っ・・・・俺を蹴ったのはお前か・・・・・っ!」

 

「黙れよ、お前はこの部室を燃やしに来たのかよ?用件をさっさと済ませて帰りやがれ

木端悪魔」

 

「純潔の血を流し上級悪魔の俺に木端悪魔だと!?貴様、俺が誰だか知らないようだなぁ!」

 

「元72柱のフェニックス家だろう?名前と三男坊とは知らなかったけどな」

 

「ふん!俺の名前を知らないとは下僕悪魔らしいな」

 

「おいこら、言っておくが俺はリアス・グレモリーの眷属悪魔じゃなきゃ悪魔でもない。

ただの人間だ。それも悪魔が嫌いな人間だ」

 

「人間だと・・・・・?」

 

「ああ、そうだよ。それと、シルヴィアの説明を聞いて昨日の夜、俺の部屋に

不法侵入した理由とリアス・グレモリーの必死さが納得した。

リアス・グレモリーはこいつとの婚約を

嫌がっていた訳だな?」

 

「ええ、貴方の言う通りよ。良く理解できたわね?」

 

「なんとなくな。で、大方な話だ。

純潔同士の強引な婚約にリアス・グレモリーが反発しているんだろう?

現在、冥界に住む悪魔の数は先の戦争で純潔悪魔が激減して他の勢力より劣っているし

血を絶やさないためにも

グレモリー家とフェニックス家の現当主同士がリアス・グレモリーの想いを無視して決めた。

違うか?」

 

「・・・・・貴方がそこまで理解しているなんて思いもしませんでした」

 

シルヴィアから称賛の言葉が送られた。俺はグレモリーとライザーを交互見て口を開いた。

 

「リアス・グレモリー、どうせこいつとの婚約は絶対に嫌なんだろう?」

 

「絶対に嫌」

 

「だけど悪魔、それも純潔の悪魔を絶やさないためにも政略結婚の話が上がっている。

そうなんだろう?木端悪魔」

 

「・・・・・」

 

ライザー・フェニックスは無言で答えた。沈黙は是也、両者の意見は対立しているということか。

次に俺はシルヴィアを見る。

 

「おい、どうせ両家の親がこうなる事を予想しているハズだから何か最終手段でも

用意しているんじゃないのか?」

 

「・・・・・貴方は本当に何もかもお見通しなのですね。はい、その通りです。

こうなることは、旦那さまもサーゼクスさまもフェニックス家の方々も重々承知でした。

正直申し上げますとこれが最後の話し合いの場だったのです。これで決着がつかない

場合の事を皆さま方は予測し、最終手段を取り入れることとしました」

 

「最終手段?どういうこと、シルヴィア」

 

「お嬢さま、御自分の意思を押し通すのでしたら、ライザーさまと『RG(レーティングゲーム)』にて決着を

付けるのはいかがでしょうか?」

 

RG(レーティングゲーム)』と来たか。あの体育の授業でケリを着けさせることか。

 

「お嬢さまも御存じの通り、本来人間界の『RG(レーティングゲーム)』と

冥界での公式な『RG(レーティングゲーム)』は違い、成熟した悪魔しか参加できません。

しかし、非公式の純潔悪魔同士のゲームならば半人前の悪魔でも参加できます。

この場合、多くが――――――」

 

「身内同士、または御家同士のいがみ合いよね」

 

シルヴィアの言葉を嘆息しながらグレモリーが続けた。

 

「つまり、お父さま方は私が拒否した時の事を考えて、最終的にゲームで今回の婚約を

決めようってハラなのね?・・・・・どこまで私の生き方をいじれば

気が済むのかしら・・・・・っ!」

 

おー、イラついているなリアス・グレモリー。

 

「では、お嬢さまはゲームも拒否すると?」

 

「いえ、まさか、こんな好機はないわ。いいわよ。ゲームで決着をつけましょう、ライザー」

 

挑戦的なリアス・グレモリーの物言いにライザーは口元をにやける。

 

「へー、受けちゃうのか。俺は構わない。ただ、俺は既に成熟しているし、公式のゲームも

何度かやっている。いまのところ勝ち星の方が多い。それでもやるのか、リアス?」

 

ライザーはさらに挑戦的な態度でリアス・グレモリーに返す。

対して彼女は勝気な笑みを浮かべた。

 

「舐めないでくれるかしら。私はこの学園を三年間も過ごしているのよ。

RG(レーティングゲーム)』は何度もした。体験も経験もしてきた。

だから、あなたを勝てることだって不可能じゃない。

―――やるわ。ライザー、貴方を消し飛ばしてあげる!」

 

「いいだろう。そちらが勝てば好きにすれば良い。俺が勝てばリアスは俺と即結婚して貰う」

 

売り言葉買い言葉。睨む合う両者。激しい眼光をぶつけ合っている。

 

「承知いたしました。お二人のご意思は私シルヴィアが確認させていただきました。

ご両家の立会人として、私がこのゲームの指揮を執らせてもらいます。よろしいですね?」

 

「ええ」

 

「ああ」

 

シルヴィアの問いに二人は了承した。

 

「わりましたでは。ご両家の皆さんには私からお伝えます」

 

確認したシルヴィアはペコリ頭を下げた。すると、ライザーは俺・・・・・いや、

俺の後ろにいる存在に向けて嘲笑の笑みを浮かべた。

 

「なぁ、リアス。まさか、ここにいる面子がキミの下僕たちか?そこの人間を除いてだ」

 

「だとしたらどうなの?」

 

リアス・グレモリーの答えにライザーはクククと面白可笑しそうに笑いだした。

 

「これじゃあ、話にならないか?人数が少ない上にキミの『女王(クイーン)』である

『雷の巫女』ぐらいしか俺の可愛い下僕にと対抗できそうにないな」

 

そう言いながら、ライザーが指をパチンと鳴らすと、部屋の魔方陣が光り出す。紋様は

 

ライザーが出てきた時と同様のフェニックスの魔方陣で炎が巻き起こりながら室内は

また熱気に包まれた。指をパチンと鳴らすとまた何もない空間に穴が生じて大量の水が流れ出て

巻き起こる炎を消火した。

 

「・・・・・お前、あんな感じで俺の火を消したのか?」

 

「火を消さないと火事になるだろうが」

 

再び指を鳴らすと穴が閉じて濡れる前の部室に戻した。そして、ライザーと同じ様に

ぶっ倒れている十五人の女。って、女しかいないのかよ?バランスがねぇ・・・・・。

 

「にしても、数が多いな。リアス・グレモリーの眷属の方が少ないじゃないか」

 

そう呟いているとライザーの眷属達がムクリと起き上がった。

俺はずぶ濡れの状態で現れたライザーの眷属に嘲笑う。

 

「マヌケな登場だな」

 

「なっ!今のは貴方の仕業でしょう!?不意打ちも良い所ですわ!」

 

金髪にツインの縦ロールの少女が俺に指を差して抗議してきた。他の奴等もウンウンと頷いて

少女の言葉に同感だと仕草する。

 

「ははは、うん、悪いとは思っていない」

 

「とんでもなく失礼な殿方ですね!」

 

「だって俺は悪魔が嫌いなんだから当然だ」

 

何気なく。後ろに振り返ると―――――男子生徒が涙を流していた。

えっ、なに?どうして泣いているんだ?

 

「お、おい、リアス・・・・・。この下僕くん、俺を見て大号泣しているんだが」

 

「その子の夢がハーレムなの。きっと、ライザーの下僕悪魔たちを見て感動したんだと思うわ」

 

困り顔で額に手を当ててため息混じりで呟いたリアス・グレモリー。

あー、そう言う事か。こいつ、無類の女好きなんだな・・・・・。

 

「きもーい」

 

「ライザーさまー、このヒト、気持ち悪ーい」

 

あいつの眷属悪魔が成神を見て心底気持ち悪そうにしていた。ああ、気持ちは分かるぞ。

 

「そう言うな、俺の可愛いお前たち。上級階級の者を羨望の眼差しで見てくるのは

下賤な輩の常さ。あいつ等に俺とおまえたちが熱々なところを見せ付けてやろう」

 

「それこそ気持ち悪いから止めてくれないか?そう言うのは人がいないところでやってくれ」

 

俺が呆れて言うがあいつは俺の言葉を無視して自分の眷属とキスをし始める。こいつ、

殺して良いか?とリアス・グレモリーに視線を向けるが首を左右に振られた。

そっか、残念だ・・・・・。

 

「おまえじゃ、こんなこと一生できまい。下僕悪魔くん」

 

「俺が思っていること、そのまんま言うな!ちくしょう!『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』!」

 

ん、ブーステッド・ギア?男子生徒の左籠手を見ればドラゴンの紋様が刻まれた赤い籠手だった。

なんだ、あの籠手は・・・・・。俺のとは違うな・・・・・。

 

『ほう―――よもや、ここで珍しい奴と出会うとは』

 

クロウ・クルワッハ?どうした、お前から興味を持つなんて珍しいじゃないか。

 

『当然だ、兵藤一誠。あの籠手に宿っているものはな。

真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッド、無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィスを除けば、

最強の龍と称されている二天龍、赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)ドライグ。

赤い龍帝と恐れ戦かれていた天龍の一匹だ。神滅具(ロンギヌス)の一つでもあるぞ、あの籠手は』

 

―――っ。神滅具(ロンギヌス)。俺の他にも神滅具(ロンギヌス)を宿している奴がこの学校にいたのか。

 

「おまえみたいな女ったらしと部長は不釣合いだ!」

 

「は?お前、その女ったらしの俺に憧れているんだろう?」

 

その指摘に男子生徒は言葉を詰まらした。図星か。

 

「うっ、うるせぇ!それと部長の事は別だ!

そんな調子じゃ、部長と結婚した後も他の女の子とイチャイチャしまくるんだろう!?」

 

「英雄、色を好む。確か、人間界の諺だよな」

 

「何が英雄だ!お前なんか、ただの種まき鳥野郎じゃねぇか!火の鳥フェニックス?ハハハ!

まさに焼き鳥だぜ!」

 

・・・・・面白いな、それ。炎を纏う鳥。炎に焼かれている鳥。焼き鳥・・・・・くっ、

受ける。男子生徒の挑発にライザーは憤怒の表情へと変貌する。

 

「焼き鳥!?こ、この下僕悪魔がぁぁぁ!調子こきやがって!上級悪魔に対して態度が

なってねぇぜ!リアス、下僕の教育はどうなってんだ!?」

 

リアス・グレモリーは「知るか」と言わんばかりにフンとそっぽ向くだけだ。

 

「焼き鳥野郎!てめぇなんざ、俺のブーステッド・ギアでぶっ倒してやる!」

 

左籠手を見せびらかして男子生徒は啖呵を切った。

 

「ゲームなんざ必要ねぇさ!俺がこの場で全員倒してやらぁ!」

 

『Boost!』

 

赤い籠手に嵌められている緑の宝玉から音声が発せられた。

同時にあいつの力が倍になった感じがした。力が倍増する能力か・・・・・?

 

「ミラ。やれ」

 

「はい、ライザーさま」

 

ライザーが一人の下僕悪魔に命令をした。小猫と同じぐらい小柄で童顔な少女。武道家が

使いそうな長い棍を取り出し、クルクルと器用に回したあと、男子生徒に構えた。

二人を見ると男子生徒がボーとして目の前の少女を見詰めていた。

その隙にライザーの下僕悪魔が動き出したが、あいつは気付きもしない。

 

「ちょっと待ってくれるか?」

 

「っ!?」

 

「・・・・・はっ?」

 

突き出された棍を受け止めて防ぐ。ミラとかいう少女は目を見開いて俺の顔を見詰める。

 

「い、何時の間に・・・・・?」

 

「速い・・・・・」

 

周りが俺の動きに唖然とした。おいおい、マジかよ・・・・・。まあ、それよりも・・・・・。

 

「おい、お前。その籠手を見せてくれ」

 

「はっ?なんなんだよ。お前・・・・・」

 

「物凄く興味があるんだよ。―――さて、反応するかな?」

 

赤い籠手に埋め込まれている緑の宝玉に触れて見た。

 

「・・・・・へぇ、お前がドライグか」

 

意識を神器(セイクリッド・ギア)の深奥にまで落とせば、

巨大な赤い龍がいた。向こうは俺たちの存在に驚いている。

 

『バカな・・・・・どうしてここにいる』

 

「俺のことか?それともこいつらのことか?」

 

俺の背後にいる数匹のドラゴンたち。ガイアはいない。

次元の狭間で優雅に泳いでいる頃だからな。

 

『・・・・・両方だ。それに滅ぼされていると訊いたはずのドラゴンたちがなぜ、

お前と共にいる』

 

「俺の闇を気に入っているからだ」

 

闇・・・・・?と赤い龍、ドライグが怪訝に問うた。

 

「そう言えば名乗っていないな。初めまして、俺は兵藤一誠だ。よろしくな」

 

『―――兵藤・・・・・だと?』

 

ん?なんか、知っているような言い方だな。

ドライグはジッと俺を睨むように凝視すると何か勝手に納得しやがった。

 

『そうか・・・・・皮肉なものだな。

俺を、俺たち二天龍を封印した人間の者がこうして俺の前に現れるとはな』

 

「・・・・・どういうことだ?兵藤がお前を封印したなんて・・・・・」

 

『・・・・・知らない?いや、知らされていないのか。それとも、故意に正体を隠しているのか』

 

「おい、なんだよ。兵藤が隠しているって」

 

『俺が知っているのは遥か太古の前の事だ。お前が知るべき真実は今だ』

 

だからなんだよ、それはよ!?兵藤が一体なにをしたんだよ!?

父さんと母さんが何かしたってのか!?

 

『知りたければ、同じ名を持つ兵藤を探せ。魔王と神、堕天使の総督が知っているだろう』

 

・・・・・あの人たちか。そう思った直後、誰かに叩かれる感触がした。

意識を戻せば、リアス・グレモリーが俺の顔を覗き込んでいた。

 

「イッセー。あなた・・・・・何をしていたの?」

 

「・・・・・赤い龍帝と会ってきただけだ」

 

「えっ・・・・・?」

 

それだけ言って俺は男子生徒に行った。

 

「俺が防いでいなかったらお前は確実に負けていたぞ」

 

「なっ!?そんな事ない!俺があんなちっちゃい女の子に負けるかよ!」

 

「ろくに戦ったことすらないのにどうやって戦える?それにお前自身、

つまり身体能力と実戦の経験の差がお前とこいつの勝敗が決まるんだ」

 

「だったらお前は倒せるのかよ!?」

 

憤怒の表情を浮かべて俺に問い出してきた。当り前だろう。何を言っているんだこいつは。

 

「おい、俺に攻撃してこい」

 

「・・・・・」

 

棍を手放して掛かってこいと手を振るう。少女はライザーに一瞥すると「やってやれ」とした

態度で攻撃の許可が下された。許可をもらってミラと言う少女は棍を構えた。

 

「ふっ!」

 

鋭く突き出される棍。俺にとってはスローモーションの速度で見るような突き出される棍だった。

 

「遅い」

 

「・・・・・えっ?」

 

次に少女が言葉を漏らした時は既に部屋の天井にぶつかった後からだった。そして、

重力に逆らえず床に落ちてくるがタイミングを計って落ちてきた少女を密集している

眷属悪魔たちの方へ蹴りだした。

 

ドオオオオオオオオオンッ!

 

物凄いで自分たちに飛んでくる味方を受け止める態勢どころか避ける仕草もしないまま

ライザーの眷属悪魔たちは巻き込まれて壁にぶつかった。

証拠とばかり、ライザーの眷属悪魔たちに指を差した。

 

「ほら、全員を倒してやったぞ。こんなこと、お前はできるのか?」

 

「・・・・・・っ」

 

握り拳を作るだけで何も言ってこなかった。だが、代わりに言う奴がいた。

 

「貴様ぁああああああああっ!」

 

ライザーだった。自分の眷属悪魔が傷つけられて怒ったのか、背中に炎の翼を展開した。

―――でも、

 

「ライザーさま、落ち着いてください。

これ以上やるのでしたら、私も黙って見ている訳にもいかなくなります。

私はサーゼクスさまの名誉のためにも遠慮などしないつもりです」

 

シルヴィアが静かで迫力ある言葉を口にするとライザーは表情を強張らせた。

 

「だが、あいつは他の下僕たちまで攻撃をし、傷つけたんだぞ!」

 

「ですが、ライザーさまが攻撃の指示を出しました」

 

「ぐっ・・・・・!」

 

「ライザーさまは自分の眷属も攻撃される事を承知で命令を下したハズです。

それにあなたの他の眷属はどんな攻撃でも対処できたはずです。

それは自分にまで攻撃を巻き込まれることがあっても。違いますか?」

 

確認するようにシルヴィアはライザーに問いかける。正論を言われてライザーは

何も言えず、ただ俺を睨む事しか出来ないでいる。不意に俺は脳裏で思い付いた。

 

「シルヴィア、ちょっと良いか?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

 

「『RG(レーティングゲーム)』に経験豊富なライザーとその眷属と

まだ『RG(レーティングゲーム)』が未経験の一部の眷属じゃどうしても二人の差が出てしまうよな?」

 

「・・・・・」

 

沈黙は是成りだぞ?俺は続けて口を開く。

 

「そこで、リアス・グレモリーたちに・・・・・そうだな、十日間の期間の猶予を与えてその間に

リアス。グレモリー眷属は修行でも鍛練でも今以上の力を付けてライザーとゲームした方が

良いんじゃないか?お前はどうだ、ライザー。力が発揮できないままのグレモリーたちと

戦ってもつまらないだろう?」

 

「・・・・・お前にはムカつくが確かにその通りだな。いくら強かろうと、初戦で力を

思う存分に出せず負けた奴等を俺は何度も見た事もある」

 

「なら、決まりだな」

 

「だが、十日間の期間を与える代わりに条件がある」

 

条件か・・・・・なんだ?

 

「人間、お前も『RG(レーティングゲーム)』に参加しろ!それなら十日間の期間を許してやる!」

 

「・・・・・えっと、それは本気で言っているのか?俺が参加して仮に勝ったらお前、

リアス・グレモリーと即結婚はできなくなると思うぞ?」

 

「はっ!俺が負けるとでも思ったらそれは思い上がりも良いところだ!

俺はフェニックス、不死鳥だ!高が人間にこの俺が負けるかよ!」

 

「・・・・・そこまで言うのなら分かった。俺も『RG(レーティングゲーム)』に参加しよう」

 

溜息を吐いてライザーの条件を呑んだ。ライザーは俺を睨みながら魔方陣を展開して

炎を巻き起こし包まれながら自分の眷属たちと共にこの場から消えた。あいつ等が

いなくなって一拍、シルヴィアに顔を向けて言葉を発した。

 

「非公式でも俺が出て良いのか?」

 

「公式ではないので大丈夫でしょう。それでもグレーゾンですが」

 

「んー、でも、俺が倒したらグレモリーたち自身がライザーを倒した事にならないから

女王(クイーン)』の駒以下の奴等としか戦わないでおく。

仮にライザーと『女王(クイーン)』に攻撃されたら迎撃する。倒さずにな」

 

「それが賢明な選択だと私はそう思います」

 

「ん、それじゃあ、そう言う設定でお願いな」

 

「分かりました」

 

ペコリと頭を下げる。

 

「それじゃ、十日間の間はお前等の修業期間だ。しっかりと強くなれよ?グレモリー眷属」

 

不敵の笑みを浮かべて俺はリアス・グレモリーたちに向かって言い放った。

十日後が楽しみだなぁ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode2

 

 

翌日、学校に行ったら清楚とカリンに問い詰められた。昨日勝手にいなくなって心配した、

大丈夫だったのか、と。俺が安心させるように言ったり、してたりしていた。

 

「悪い。木場に呼ばれてオカルト研究部に行っていたんだ」

 

「オカルト研究部って・・・・・リアス先輩の自室とも言える場所じゃないですか、

どうしてそこに?」

 

「・・・・・あー、呼ばれた理由は聞かないでくれ。本人の名誉にも関わる。

それで、説明を大分省くけど、俺は一時的にリアス・グレモリーと彼女の眷属と一緒に、

とある悪魔と眷属悪魔と戦う事になった」

 

『・・・・・はい?』

 

皆が信じられないと顔をした。まあ、それはそうだろうな。

 

「でも、たった一試合だけだ。お前らを裏切るわけではないから安心しろ」

 

「そう・・・なの?」

 

「ああ、俺は協力するだけだし、本気でリアス・グレモリーの眷属になろうなんて気は更々ない」

 

「そっか・・・・・うん、そうなんだね」

 

ホッと、胸を撫でおろす清楚だった。心配掛けて悪かったなと心の中で謝罪する。

 

「しかし、リアス先輩は誰と授業をするのですか?そもそも、

どうして一誠さんがリアス先輩と一緒に授業をする事になったのでしょうか?」

 

「本来、違うクラスの生徒を自分のクラスに引き込むことできるのは、

下位クラスしかできない事だ。まして、リアス先輩は三年生。僕たち二年生と学年が違う。

一誠、オカルト研究部で何が遭ったの?」

 

・・・・・そこまで言っていいのか俺には分からない。これは悪魔の問題だ。

 

「一誠くんの力を借りないといけないほど、相手は強敵?」

 

「・・・・・どうだろう?俺には分からないが、強いんじゃないか?」

 

「分からないって・・・・・じゃあ、どうして引き受けたの?」

 

「本人の希望・・・・・としか言えない」

 

「その本人とは誰なんです?」

 

龍牙が尋ねてきた。そ、そこまで教えるべきじゃないと思うけど・・・・・どうしようか。

 

ドドドドドドドドドドドドドドッ!

 

「・・・・・地震?」

 

「いや・・・・・この感じ、地震じゃないね」

 

「まさか・・・・・」

 

久し振りにくるのか・・・・・!?あの―――、

 

『兵藤一誠ぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!っ』

 

嫉妬集団が!教室の扉をぶち壊して入ってきた大勢の生徒たち。俺が外へ逃げようとすると―――、

 

「これはどういうことだ!説明しろぉっ!」

 

「・・・・・説明?」

 

何のことだ?と怪訝になれば、一人の男子生徒が紙を突き出してきた。

 

『リアス・グレモリーと元七十二柱、フェニックス家の三男、ライザーフェニックスが婚約!

しかし、リアス・グレモリーは婚約は否定し、最終的にRG(レーティングゲーム)で決着!

負ければ即結婚、勝てば自由の人生の賭けに出た!

その際、フェニックス家の三男、ライザー・フェニックスは、

兵藤一誠もグレモリー眷属と共に参加し、RG(レーティングゲーム)の参加を希望。兵藤一誠は喜んで参加を希望。

リアス・グレモリーを掛けたライザー・フェニックスと兵藤一誠の戦いは

十日後に火蓋を切って下ろされる!非公式新聞部 二年A組 杉並』

 

『・・・・・・』

 

俺は、皆は、この新聞を見て愕然とした。ま、またあの見ぬ男か・・・・・っ!

 

「さぁ、ここに書いてあることは本当かどうか、答えてもらおう!」

 

『・・・・・』

 

全員の視線は真っ直ぐ俺に注がれる。俺は・・・・・、

 

「ふふふふふふふ・・・・・・・」

 

笑うしかなかった。ああ、本当にあいつはこういったイベント事が好きなようだな・・・・・。

 

「杉並くん・・・・・いま、お前の所に行くぞ」

 

ユラリと歩を進める。誰もその場から一歩も動かない。蛇に睨まれた蛙のように・・・・・。

 

「――――杉並ぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」

 

廊下を出て直ぐ、怒声を叫びながら発して4秒2の速さで二年A組の中へと侵入した。

 

「おい」

 

『ひっ!?』

 

「杉並ってやつはどいつだ?」

 

『い、いませんっ!杉並はいません!』

 

「隠していないよな?」

 

『してませんっ!神に誓って!』

 

・・・・・本当にいないようだな。Aクラスを後にして杉並という男を知るために教室へ戻った。

杉並を知っていそうな奴は・・・・・。

 

「兵藤くん」

 

「ん?」

 

「どうしたのだね。急に理事長室まで聞こえる怒声を発して」

 

理事長のサーゼクス・グレモリー。・・・・・そうだ、こいつに聞けば早いか。

 

「杉並の顔の写真はあるか?」

 

「・・・・・どうして彼の写真を?」

 

「あいつの顔を知らないからだ。見せてくれ」

 

「・・・・・そんな殺気だっている今のキミに見せれる訳がない。なにか、彼がまたしたのかね」

 

・・・・・それもそうか。深呼吸して冷静になる。耳を貸せって言い、サーゼクス・グレモリーの

耳元でライザーとの婚約の話しが漏れていると話した。

 

「それは・・・・・本当のことかね?」

 

「俺のクラスに嫉妬集団が非公式新聞を持って詰め寄っている。本当かどうか真相を知るためにな」

 

「・・・・・困ったものだな。一応、悪魔同士の婚約の話しは隠密に行っているものだ。

それを学生の人間が情報を入手するとは・・・・・」

 

「どうするんだ?クラスに行ってもいないって言われたぞ」

 

サーゼクスは顎に手を当てて悩む仕草をする。

 

「・・・・・仕方ない」

 

「ん?」

 

「既に新聞に出ているというのなら、婚約の話しは直ぐに学校中に知れ渡るだろう。

十人聞けばいつのまにか百人が知っているような規模にね」

 

それ、異常でしょう・・・・・・。

 

「兵藤くん、生徒の個人情報を私が教える訳にはいかない。理事長としてね」

 

「・・・・・」

 

「だが、学生同士なら話は別だ。三年C組の委員長、シーグヴァイラ・アガレスに訊くといい」

 

「?」

 

「だが、聞きたいのであれば間接的に我が妹リアスか、三年B組のソーナ・シトリーに訊きなさい」

 

それだけ言い残してサーゼクス・グレモリーは、踵を返してスタスタと立ち去った。

・・・・・どういうことだ?首を傾げてしばらく悩んだが、結局俺は教室に戻った。

 

『・・・・・』

 

あっ・・・・・まだ残っていやがった。まあ・・・・・取り敢えずは。

 

「三秒以内に自分の教室に戻れ。じゃないと」

 

携帯を取り出してある画面を表示した。そのまま嫉妬集団に見せつける。

 

「この画面に映っているオカマどもをお前たちのことを教えて、尻の穴を掘ってもらうぞ」

 

『―――――っ!?』

 

キュッ!と尻を両手で抑え始めた嫉妬集団。

 

「因みにボタンを押せば・・・・・来るぞ?お前らを骨の髄までしゃぶりに。

それじゃ、数えるぞ?」

 

―――3、と言ったその瞬間。一瞬で教室からいなくなった。

そんな時、和樹が恐る恐ると尋ねてきた。

 

「・・・・・一誠、その人たちと知り合いなの・・・・・・?」

 

「いや?嫉妬集団に対する対象方として画面に出したまで。まあ、虚偽の脅しだ」

 

「そ、そうだよね・・・・・一誠がオカマの人と知り合いなんて有り得ないよ。うん、安心した」

 

和樹が何度も首を縦に振った。そんなに俺はオカマと知り合ったら不自然なのか・・・・・?

 

「まあ、新聞の方は事実だけどな」

 

―――刹那。

 

『ええええええええええええええええええええええええええええっ!?』

 

キーン・・・・・ッ!

 

クラスメートたちが驚愕の叫びを放った。つーか、うるさいっ!

 

―――○●○―――

 

―――昼休み

 

「一誠くん、大丈夫なの・・・・・?」

 

「なにがだ?」

 

「だって・・・・・相手はフェニックス家なんでしょう?鳳凰、火の鳥、

不死鳥と言われている有名な悪魔だよ?」

 

清楚が心配そうに訊いてくる。現在、屋上でリアス・グレモリーを抜きにしたメンバーで

昼食をしていた。彼女の言葉に同意だと口を開いたのは龍牙だった。

 

「いかなる攻撃を食らっても再生するという話をよく耳にしますよ」

 

「それに、身に纏う炎は相手を寄せ付けず、触れれば業火の炎で骨まで燃やしつくす。

そんな相手にリアス先輩は勝てるのか?その上、相手は不死だ。私だったら勝てる見込みはない」

 

カリンでさえも、勝率はないという。和樹に視線を向ける。

 

「和樹、お前はどうなんだ?」

 

「勝てなくはないね。魔王級の一撃の威力を持つ攻撃を放てば、

いくら再生できても体ごと消滅するほどの攻撃を食らったらフェニックスでもただじゃすまない。

フェニックスは別に万能ってわけじゃない。再生する際に精神力が疲弊する。

でもって、相手は悪魔だ。悪魔なりの弱点がある。聖なる攻撃とか十字架とか聖水とかね」

 

そう言い、和樹は俺に顔を向けてくる。

 

「一誠の金色の翼、あれって天使の翼なんでしょう?なら、悪魔にはかなりの効果があるはずだよ」

 

「ああ、そうだな。でも、俺は『(キング)』はおろか『女王(クイーン)』を倒すつもりはない」

 

「それはどうしてですか?」

 

「主役はリアス・グレモリーと彼女の眷属だぞ?

しかも今回のゲームは悪魔の問題が関わっている。婚約の決着を着けるためのものなんだ。

そこにゲストとしてグレモリー眷属でもない俺が、殆ど活躍して婚約解消と

ライザー・フェニックスを倒してみろ。

あれが、リアス・グレモリーの、グレモリー眷属の力なのか?なんて、

フェニックス家だけじゃなく、他の悪魔が納得するわけがない。

俺はあいつらに勝たせるようにサポートを徹する」

 

『・・・・・』

 

皆が静まり返った。どうしたんだ?と首を傾げていると・・・・・。

 

「いや、一誠がそこまで考えているなんてびっくりしちゃったよ」

 

「悪魔が嫌いだと聞いていますから無双の如く、暴れるのかと思っていましたし」

 

「イッセーさま、流石です・・・・・」

 

「優しいんだね、イッセーくん」

 

・・・・・はっ!俺、悪魔に対して優しさをアピールしちゃった!?

 

「違うからな、俺は悪魔が嫌いだからな!?絶対にだ!」

 

慌てて弁解するも―――。

 

「ふふふっ、リアスに報告でもしましょう。『お前を勝たせるようにサポートに徹する』と」

 

「止めてくれ!それ、完全に誤解する発言だから!」

 

携帯を取り出しては、リアス・グレモリーにメールで送信しようとするソーナ・シトリー。

そうはさせるか!と思って腕を伸ばしたら・・・・・、

 

「まあまあ、いいじゃないか」

 

「はい」

 

ガシッ!と龍牙と和樹に動きを封じられた。

 

「葉桜さん、一誠さんの背後からお願いします」

 

「わかった」

 

「分かったじゃない!って、本当に俺の後ろから羽交い締めするなぁ!」

 

こうなったら立ち上がろうとしたら、カリンの奴が便乗して来て、

胡坐掻いた足に腰を下ろしてきた。

 

「いいではないか。共に戦うメンバーに勝利の貢献を捧げようとするその気持ち、

男らしくて私は好きだ」

 

「だからってカリン、俺の足に乗らないでくれるか?」

 

「こうしないとお前は立ち上がるだろう。それにしても・・・・・何気に座り心地がいいな。

昔、前に座って父さまと馬に乗って散歩した時のようで安心する」

 

カリンは徐に体を横にして、俺の胸に頬を擦りつけてきた。

そして、そのままスヤスヤと寝息を立てた。

 

「・・・・・寝たし、こいつ」

 

「しかも、しっかりと制服を掴んでいますし・・・・・このままそっとしておきましょう」

 

「時間になったら起こせばいいしね」

 

「はう・・・・・なんか、羨ましい・・・・・」

 

「そうだねぇ・・・・・」

 

そこまで羨ましがることなのか・・・・・・?まあ、今日はいい天気だ。時間はまだあるし・・・・・。そう思い、六対十二枚を展開し、蝶のように大きく広げた。

太陽の光を受け、俺の翼はキラキラと光を発し、太陽の光、熱を吸収する。

 

「今日はいい天気だ。翼を布団のように干すにはもってこいだ」

 

「・・・・・えっと、触って大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だ」と、言うと、ソーナ・シトリーたちは金色の翼に触れだした。

 

「うわ・・・・・天使の翼ってこんなに気持ちいいんですね」

 

「温かくてモコモコしているよ。干したての布団よりいいのかもしれない」

 

「悪魔の私でも平気なんて・・・・・」

 

「すごーい・・・・・」

 

「キラキラ光っているのに眩しくないなんて・・・・・」

 

各々と翼を触れだす。天使の翼は珍しいのか、リシアンサスまで触れてくる。

 

「シアは天使の翼は出せるんだろ?」

 

「あはは・・・そうだけど、神王の娘として翼を軽々しく見せちゃいけないって

お母さんに言われて・・・」

 

悪魔と天使のハーフ、だからか・・・・・?どうも問題を抱えてそうだな・・・・・。

 

「翼を洗う時があるの?」

 

「ああ、勿論だ。鳥のように真似しているけど、その時はリーラに手伝ってもらっている。

なにせ、数が多いから時間が掛かるからな」

 

「明日は翼を洗う日でしたね。何時も通り、手伝います」

 

「悪いな」

 

「いえ、お気にせずに」と、リーラは微笑みながら言う。信頼できるメイドだ、

彼女は・・・・・。そう思い笑みを浮かべる。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode3

 

 

その日の放課後。俺は一人でとある山に飛んで来ていた。どうしてなのかって?

―――呼ばれたんだよ。あいつに。

 

『イッセーくん、彼女が来てほしいそうです。一度くらい顔を出してあげたらどうでしょうか?

悪魔に優しいイッセーくん』

 

って、ソーナ・シトリーに言われたんだよ!

くそっ、絶対にからかった事を何時か後悔してやる・・・・・!

 

バサッ!

 

えーと、別荘がある山・・・・・・。

 

『あそこではないか?ドライグの気配を感じる』

 

内にいるクロウ・クルワッハが話しかけてきた。ああ、あれか。木造建ての別荘。

目を凝らして見てると、表に誰かがいる。その中で一番目立っているのが赤い髪だ。

別荘から離れた場所に降り立ってそこから歩を進める。

急な斜面の道だが、気にせずに歩いていくと、

 

「よっ、はっ」

 

「おりゃ!おりゃぁぁ!」

 

「・・・・・」

 

ジャージに着替えたグレモリー眷属がいた。何をしているのかと思えば・・・・・。

 

「まるで子供の稽古のようだな」

 

「そう言うこと言わないでちょうだい。一応、必要な事よ?」

 

クルリと俺に振り向くリアス・グレモリー。だけどなぁ・・・・・。

 

「あいつの場合は体術、格闘で攻撃した方が良いと思うぞ。

木場だって本気も出さずに隙だらけのあいつと相手にしているんだからな。

これは当然だけど、一朝一夕で剣術を身に付くわけがない」

 

最小限の動きで男子に相手をしている木場と大振りで木刀を振り回す男子を見て溜息を吐く。

あっ、木刀を落とされた。

 

「よく来てくれたわね。来ないのかと思ったわ」

 

「ソーナ・シトリーに一度ぐらいは顔を出してきなさいって言われたんだ。

俺自身も、どうしているのか気になっていたからちょうど良かったがな」

 

「ふふっ、そう」

 

なんか嬉しそうだな。笑むリアス・グレモリーは木場に顔を向けて頷いた。

木場は頷いて一本の木刀をこっちに投げ渡してきた。

 

「なんだ?」

 

受け取りながら怪訝になって訊く。どういうことだ?と、

 

「イッセー、あなたは剣術に心得が?」

 

「いや、殆どないな。なんなら、やってやろうか?」

 

「そうね、お願いするわ」

 

承諾をもらって木場たちに近づき木刀を拾って木場に対峙する。

 

「お手合わせ願う。グレモリー眷属の『騎士(ナイト)』」

 

「うん、よろしくね」

 

涼しい顔で俺と対峙する。

―――――次の瞬間、俺は木場の背後に移動して木刀を素早く振り下ろした。

 

ガッ!

 

しかし、後ろに木刀を回してアッサリとガードされた。

 

「ま、当然だろうな」

 

「・・・・・まさか、いきなり僕の背後から攻めるなんて驚いたよ。それに物凄く速いね。

あの時もそうだったけど、僕の目でも追い掛けられなかったよ」

 

「まだ本気も出していないぞ?ほら―――――本気か全力で来い。じゃないと俺はお前を殺すぞ。

俺は殺す気でお前と相手をするんだからな」

 

「・・・・・そうみたいだね。キミから殺気を感じるよ」

 

真剣な表情で俺を尻目で見る。涼しい顔じゃ無くなったな?ああ、それでいいんだよ。

 

「・・・・・ふっ!」

 

「はぁっ!」

 

俺たちは高速で動き合い、相手の体に一撃を与えんと木刀を振る。

剣術はあんまり得意じゃないが、力任せじゃなく、最小の動き、テクニック、スピード重視が主だ。

後は実戦経験で詰めていけばなんとかなる。と、思いながらしばらくやっていると、

リアス・グレモリーから待ったの声が掛かった。

 

「あなた、本当に剣術の心得がないの?祐斗と同等のスピードで剣を交えれるなんて

凄いとしか言えないわ」

 

「剣の師匠はいないけど、実戦でやれば自然と、って感じだ。

それに剣術って速さと技量が求められる。俺はその二つを高めて今に至っているんだけど」

 

「そう・・・・・まあ、あなたはあの二匹のドラゴンに鍛えられているものね。

その実力は納得するものでしょう」

 

ん、そういうことだ。頷いて木場に顔を向けて言った。

 

「で、まだ続けるか?」

 

「個人的にそうしたいけど、イッセーくんの修行が終わってないからね」

 

「俺?」

 

「ああ、違うわ。この子のことよ」

 

リアス・グレモリーが、男子生徒に視線を向けた。ああ、こいつのことか・・・・・。

 

「赤龍帝のドライグか」

 

「成神一成。それが現赤龍帝の名前よ」

 

「なんだ、晴れて悪魔になったのか」

 

「ええ、兵士(ポーン)の駒を八つ消費して悪魔になったの」

 

駒を八つ・・・・・。それほどの秘めた何かがあるということなのか・・・・・・?だが・・・・・。

 

「現段階でこいつはまだまだ雑魚だな」

 

「んなっ!?」

 

「まっ、これから修行とか死闘とか、戦闘とかし続けたら何時の間にか強くなるだろう。

それまでは苦労するだろうが」

 

「そうね・・・だからあなたを呼んだの。この子の相手をして欲しくて」

 

・・・・・そういうことか。

 

「ドラゴン同士の戦いをしてくれって?明らかに月とスッポン以上の差だぞ。

象と蟻、ドラゴンとトカゲぐらいに」

 

「そこまで言うか!?」

 

成神が食って掛かった。当然だ、とばかり言ってやった。

 

「俺は小さい頃から修行してきたんだ。悪魔に転生したばかりのお前と違ってな」

 

そうだ。俺はこいつと何か全てが違うんだ。

天龍を宿した悪魔がなんだ。それがどうしたってんだ。

 

「それで、本当にこいつと戦えって?」

 

「ええ、お願い。ドラゴン同士の戦いなら刺激的にもなるから」

 

「こんな見るからに平凡に過ごしてきた奴が、一朝一夕でどうにかなるもんかねぇ?」

 

成神から数メートル離れて対峙する。

 

「取り敢えず、俺は悪魔がら嫌いだからよ。お前を殺す気で戦う」

 

金色の六対十二枚の翼を背中から展開して、構える。

 

「・・・・・っ」

 

ジリッ、と俺に畏怖の念を抱いたのか、恐れ戦いたのか後退りする。

 

「先に忠告するぞ。腕と足、俺は躊躇もなく斬る。だから、両手足には気をつけろ」

 

「はっ!?どうしてそこまでされなきゃならないんだよ!?」

 

「危機感が鈍いと、判断能力が疎くなる。ほら―――やるぞ」

 

翼を動かした―――刹那。成神に向かって伸びていく金色の翼。成神は目を丸くして直ぐ、

俺に背中を見せて逃げだした。

 

「おい、フザけているのか?敵に背を向けるとどうなるかその体に叩きこんでやるぞ」

 

翼が刃物状と化となり、一気に成神の四肢を襲わんとした。まずは―――その右腕だ。

 

ズバンッ!

 

あいつの腕は、二の腕から完全に離れた。その瞬間。

 

「ぐぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

激しい激痛に成神は悲痛を上げた。だが、俺は容赦なく、今度はあいつの左足を斬った。

するとまたあいつは倒れながら悲痛を上げる。

 

「言ったはずだ。両手足には気をつけろと」

 

そう言いながらも右足を斬った。

 

「お前はただ避ける事だけ専念すればいいだけだった。

さっきだって、お前が何とか反応できるかなり遅い速さで翼を動かした。それがなんだ。

お前の取った行動は逃げる?フザけているのか?

お前が逃げたら、誰がリアス・グレモリーを守るんだ?」

 

「ぐうううううううっ!」

 

「お前は『(キング)』を死んでも守るための『兵士(ポーン)』だろう?どうして逃げるんだ。

学校の体育の授業に参加していないのか?学んでいないのか?」

 

成神の胸倉を掴んで持ち上げる。こいつの表情は涙と鼻水でグシャグシャだった。

 

「お前は何の覚悟も抱いていない、ただの木端悪魔か?」

 

切断した両足と片腕を翼で拾って、それぞれの傷口にくっ付けながら翼を包む。

 

「悪魔に転生した以上、お前は強くならなければならない。誰よりも強くな」

 

胸倉を掴む手を放す。地面にドサリと落ちた成神の両足と腕は完全にくっ付いていた。

翼を消失させて成神を見下ろす。

 

「十日と言ったが。一朝一夕でライザー・フェニックスに勝てる見込みはない。

今のお前の気持ちじゃあな」

 

―――○●○―――

 

―――――レッスン1姫島朱乃との魔力修行

 

「そうじゃないのよ。魔力は体全体を覆うオーラから流れるように集めるのです。

意識を集中させて、魔法の波動を感じるのですよ」

 

あれから俺は、リアス・グレモリーたちの修行の様子を見ることになった。

主に、成神と金髪の少女の悪魔、アーシア・アルジェントのだ。

黒いジャージ姿の姫島朱乃が魔力の使い方を指導していた。

 

「・・・・・」

 

俺も何となく試してみた。今まで神器(セイクリッド・ギア)の能力で戦っていたから、

魔力があるのか今疑問が沸いた。えーと、魔法の波動っと・・・・・。

 

「こんな感じか」

 

手の平に禍々しくどす黒い魔力の塊が具現化した。我ながら、なんていう色の魔力なんだろうか。

 

『それがお前の色という事であろう。もう一つ、魔力を出してみろ』

 

「こうか?」

 

ポンと、もう片方の手の平に魔力の塊を出した。色は―――白だ。

 

『お前の魔力の色は黒と白。お前は心に光と闇を抱いている。

だから、俺たちはお前を気に入っている』

 

「・・・・・そうか」

 

『お前は俺たちが鍛える。だからお前は安心して身を委ねろ』

 

なんだろう・・・・・最後の言葉がとても卑猥に聞こえる。

 

『くくく・・・・・』

 

 

―――レッスン3 小猫との組み手

 

「ぬががああああああああああああああああああっ!」

 

ドゴッ!

 

これで十回目の巨木との熱い抱擁に成功する成神。うん、正直に言うと・・・・・いや、

これはあまりにも・・・・・。

 

「「・・・・・弱っ」」

 

小柄な白い髪の女子生徒、塔城小猫と同じ言葉を発して成神の実力のレベルに呆れる。

 

「成神、もう少しは粘れよ。ただ突っ込むんじゃなくて相手の動きを観察して、

攻撃パターンを読み、かわし、隙をついて攻撃をするか最大の一撃を放て。武器を持っている

敵なら武器を破壊して相手の心をへし折ってやれ」

 

「・・・・・」

 

パシッ!

 

「不意打ちなんて甘いぞ?」

 

拳を突き出してくる小猫に軽く受け止めて拳を掴んだまま小猫を腕を上げて地面に叩き付けた。

 

「ぐっ・・・・・!」

 

「こ、小猫ちゃん!」

 

「軽いな。ちゃんと飯を食べているのか?羽のような軽さだったぞ」

 

「・・・・・食べています」

 

と、俺に飛び掛かってきた。さっきので火が付いたのか小猫は拳を、足を身体全体を

使って攻撃してくるが受け止め、かわし、いなし続けていく。

 

「うーん、まあまあだな」

 

そう言いながら、小猫の顔面に向かって拳を振るった。

―――が、途中で拳を開いて小猫の腕を掴んだ。

 

「っ!?」

 

「よっと」

 

強引に引き寄せて、対面になるように抱きかかえて座ってみた。

 

「・・・・・」

 

「ははは、猫みたい可愛いな。悪魔とは思えないや」

 

胡坐を掻いた俺の足に乗った途端に大人しくなった彼女にそう言った。

笑みを浮かべながら頭をナデナデ、顎下をくすぐるようにナデナデ、背中もナデナデ・・・・・と、

猫のように撫で始めた。

 

「・・・・・」

 

さて、こうしているが小猫の反応は・・・・・。

 

「ふ・・・・・」

 

おっ・・・・・?

 

「ふにゃ・・・・・」

 

 

―――――小猫が蕩けた。

 

 

―――――レッスン4 リアス・グレモリーと、

 

「ほーら、イッセー!気張るのよー!」

 

「おおっス!」

 

「頑張れー」

 

「お前は降りろコラ!」

 

険しい山道を駆け登り、背中に岩、身体に縄で巻き付けている成神。俺とリアス・グレモリーは

岩の上で座っている。こいつが山道を駆け登っては降りての繰り返す。舗装されていない

山道でだ。何十往復もした頃にリアス・グレモリーは終了の言葉を告げた。

だが、それは一瞬だった。

 

「次は筋トレね。腕立て伏せいくわよ」

 

「へ、へーい・・・・・」

 

ノロノロと疲れた体で腕立て伏せの姿勢をした成神の背中に容赦なく岩を載せる。

さらにその上にリアス・グレモリーが乗り、俺も乗る。

 

「って、お前は降りろよ!?」

 

「それだけ元気があるならもう一つぐらい岩を載せても大丈夫そうだな」

 

「今のイッセーにはこれが限界そうだからしないわ。さーて、腕立て伏せ三百回。

いってみましょうか」

 

「オースッ!」

 

「頑張れー」

 

「てめぇは本当に降りろよ!?」

 

何を言うか、これぐらいは俺だってしたんだぞ?できなくてどうするんだ成神。

 

―――夜。

 

「お前ら、夕食の時間だ。今日は特別に俺が作ってやったから残さずに食えよ。

カロリー控えめにスタミナ増強の料理、疲労を少しでも回復できるように料理を作ったからな」

 

テーブルに豪華な食事が盛られている。グレモリー眷属の面々が色々と食材を

調達してくれたから準備する手間が省けた。ありがたやありがたやだ。

 

「・・・・・これ、貴方が全部・・・・・?」

 

「まあな。帰る前についでと作ってみた」

 

『・・・・・』

 

「そんじゃ、俺は帰る。リーラやプリムラたちが待っているからな」

 

この場から去ろうと、皆の前から踵を返して歩を進める。

 

「―――イッセー」

 

「ん?」

 

なんだ、と後ろに振り返る。俺の視界にリアス・グレモリーが立っていた。

 

「また、学校が終わったら来てくれるかしら・・・・・」

 

リアス・グレモリーは真っ直ぐ俺に向かってそう言った。対して俺は直ぐに踵を返し、

 

「気が向いたら」

 

それだけ言い残して、

 

「明日、お前を鍛えてやるよ」

 

「っ!」

 

俺はこの場から離れた。たくっ・・・・・今回だけだからな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode4

 

 

さーて、今日がリアス・グレモリーとライザー・フェニックスが結婚を懸けた真剣勝負の日だ。

時間はまだまだある。家の自室でのんびりと時間になるまで読書をしていた俺は、

どう戦おうか思案していた。

 

「(ライザーとちょっとだけ戦うのも悪くはないだろうな。倒さなきゃいいだけだ)」

 

コンコン。

 

部屋をノックする音が聞こえた。

 

「入って良いぞ」

 

入室の許可を発すると、ガチャリとドアを開けて入ってきたのはリーラだった。

しかも『SILKY』のメイド服の姿だった。

それに、後ろに結んでいるはずの銀色の髪がストレートになっていた。

 

「リーラ、その格好・・・・・」

 

「イメチェン、というのです・・・・・どうでしょうか?」

 

「可愛いよ。リーラ」

 

即答で言った。惚れた弱みという奴かな。彼女が着る服は可愛いのと、綺麗のと思ってしまう。

まあ、世界で一番幸せ者だろうな俺。

 

「ありがとうございます」

 

俺が褒めてあげると、リーラは心底嬉しそうな笑顔を浮かべた。

そして、ベッドに寝転がっている俺の傍に来て、

「失礼します」と言いながら腰を下ろして座ってきた。

 

「プリムラは?」

 

「お眠りになりました。最初、一誠さまの応援をしたがっていましたが、

流石に眠気に勝てなかったようで自室で就寝しました」

 

「明日、ガッカリしているかもな」

 

「そうかも知れませんね」

 

彼女と共に小さく笑んだ。

 

「一誠さま、準備は整いましたか?」

 

「後は出撃するだけだ」

 

「・・・・・」

 

そう言うと彼女は無言で俺に近づき―――徐に唇を重ねてきた。

しばらくして、唇を離したかと思えば、もう一度重ねてくる。さらに俺の首に腕を絡めてきた、

体を密着して絶対に放さないとばかりと。

 

口の中に舌を入れて来て、リーラは激しく動かして俺の口の中を蹂躙する。

俺も応えて彼女の舌を激しく絡めながらも彼女の口に侵入して歯や歯茎、舌の根の元、

口の中の隅々まで俺のものだと蹂躙していく。

 

メイド服の上からも感じる彼女の豊満な胸の温もりと感触と共に心臓の鼓動が伝わる。

激しく脈を打って、激しく興奮していることを俺の胸板に伝えてくる。

 

「「・・・・・」」

 

数分か十数分ぐらいか、どのくらい彼女と深いキスをしていたのか分からない。

彼女の唇と艶めかしい銀色の糸が完成するほど俺とリーラはキスをしていた。

顔が上気するほど息が絶え絶えで、お互い顔を覗きこむように見詰め合った。

 

「一誠さま・・・・・」

 

「リーラ・・・・・」

 

彼女は上半身を起き上がらせた。そして・・・・・メイド服に手を掛けた。

シュルリと胸元のリボンを解いて、ボタンを外していき、静かに音を立たせながら彼女は

下着姿へとなった。さらにはブラジャーや下着まで脱ぎだした。

一糸纏わず生まれた姿になったのだった。月の光で照らされる彼女の白い肌は幻想的だった。

無駄な肉つきは全くなく、スラリと細い腕、肉つきの良い太もも、

女の象徴ともいえる豊満な胸は崩れず、形を保っている。

―――彼女の全てが俺の眼前に曝け出されている。

 

「一誠さま・・・・・」

 

リーラはその状態で俺に覆いかぶさってきた。

 

「お願いします・・・戦いに行く前に、

このはしたないメイドに一誠さまのものだという証を刻んでください」

 

「リーラ・・・・・・」

 

「私は・・・・・怖いのです。

私を置いて戦いに行かれるあなたがもしものことがあったら・・・・」

 

彼女は瞳を潤わせて、初めて弱音を吐いた。

そんな彼女を生まれて初めて見たがため、一瞬驚いた・・・、

 

「大丈夫だ」

 

「え・・・・・?」

 

「大丈夫だ、リーラ」

 

腕を伸ばして彼女の頬を添えた。

 

「お前を置いて俺は死なない。絶対に帰ってキミのもとへ戻るよ」

 

自分から彼女の唇に重ねた。そして、真っ直ぐ彼女の瞳を覗きこみながら言った。

 

「そしたら・・・・・この続きをしよう」

 

「―――――」

 

自分で言って気恥ずかしくなった。彼女から視線を逸らしていると、リーラは目を丸くした。

でも、直ぐに笑みを浮かべた。

 

「はい、今日は寝かせませんよ?ずっと待ち望んでいたことですから、

私が満足するまでは寝かせないつもりです」

 

「・・・・・それ、男の言うセリフだよな?」

 

何とまあ、ズレた言葉だった。だが、彼女の不安は取り除けたようだ。これで安心して臨める。

 

―――○●○―――

 

深夜十一時四十分頃―――。俺とグレモリー眷属じゃ旧校舎の部屋に集まっていた。

それぞれ、一番リラックスできる方法で待機している。

基本的に、シスター服と胸元に十字架をぶら下げているアーシア・アルジェント以外の者は

学生服だった。木場祐斗は手甲を装備し、脛当ても付けていた。剣は壁に立てかけている。

塔城小猫は俺の膝に座らせて俺の気が済むまで頭を撫でている。最近、猫が欲しくなった。

野良でもいいから飼おうかな。塔城小猫の手にはオープンフィンガーグローブ。

格闘家が付けているようなものだ。しかも肉球の絵柄付き。姫島朱乃とリアス・グレモリーは

何故か、ソファに座っている俺の隣に座って優雅にお茶を口にしていた。

で、成神一成は言うと・・・・・。

 

「・・・・・っ」

 

血涙を流して俺を睨んでいた。えー、なにそれ・・・・・。

塔城小猫はともかく、この二人は勝手に座ってきたんだぞ。そんな目で睨まないでくれよ。

と、目の前に座る変態に呆れる俺だった。

 

―――カチッ。

 

時計の大きな針が開始十分前になった頃、部屋の魔方陣が光り出し、シルヴィアが現れる。

 

「皆さん、準備はお済みになられましたか?開始十分前です」

 

シルヴィアが確認すると、俺以外の皆が立ちあがった。シルヴィアは説明を始める。

 

「開始時間になりましたら、ここの魔方陣から戦闘フィールドへ転送されます。

場所は異空間に作られた戦闘用の世界。そこでどんな派手なことをしても構いません。

使い捨ての空間なので思う存分にどうぞ」

 

体育の授業と同じ仕組みなんだろう。なら、派手に暴れまわるとするか。

 

「あの、部長」

 

「何かしら?」

 

「部長にはもう一人、『僧侶(ビショップ)』がいますよね?その人は?」

 

「なんだ、まだいたのか?リアス・グレモリーの眷属に悪魔が。だったらそいつもゲームに

参加させたらどうなんだ?」

 

成神一成の言葉に俺は反応してリアス・グレモリーの顔を見詰めると俺、成神一成と

アーシア・アルジェント以外のメンバーの様子がおかしかった。

何だか、腫れ物に触ってしまったような感じだ。空気がガラリと変わってみな一様に口を閉ざした。

 

「残念だけど、もう一名の『僧侶(ビショップ)』は参加できないわ。

いずれ、その事について話す時が来るでしょうね」

 

・・・・・何か問題でも抱えているようすだな。グレモリーが俺たちに目線を合わせよう

ともせずにいるし・・・・・。ま、どうでもいいか。

 

「今回の『RG(レーティングゲーム)』は両家の皆さまも他の場所から中継で

フィールドでの戦闘をご覧になります」

 

「因みに、俺のことは知っているのか?」

 

「はい、魔王ルシファーさまや他の魔王さま方も今回の一戦を拝見されておられます。

そして、この学校の理事長も拝見されております。それをお忘れなきように」

 

「お兄さまが?・・・・・そう、お兄さまが直接見られるのね」

 

うわー、それはやり辛いなー。リアス・グレモリーにとってだがな。

無様な戦いを見せれる訳がない。と、彼女を見ながら思っていると、

成神一成が信じられないものを見る目でリアス・グレモリーに手を上げながら口を開いた。

 

「あ、あの、いま、部長が理事長のことをお兄さまって・・・・・。

俺の聞き間違いでしょうか?」

 

「いや、この学校の理事長のサーゼクス・グレモリーはリアス・グレモリーの兄だぞ?

知らなかったか?」

 

さらりと言うと、成神は驚愕の声を上げた。リアス・グレモリーも頷いて肯定の意を示す。

 

「サーゼクス・グレモリー・・・・・。この学校の理事長とし、

悪魔としても有名で別名『紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)』、それが私のお兄さまであり、

理事長なの。本当はお兄さまがグレモリー家の当主になるハズだったのだけれど、

四種族交流の維持と監視も兼ね、高校の理事長として身を置いているの」

 

「・・・・・だから、部長は家を継がないといけないのか」

 

「なるほどな、だから同時にライザーと婚約する羽目になったわけか。

今日がその縁談を破談にするためのゲームだことを忘れるなよ?」

 

「ああ、分かっているさ!俺があの焼き鳥野郎をぶっ潰してやる!」

 

気合を入れる成神一成。だが、修行してもお前はまだあいつに勝てない。

なにせ、相手は不死の能力もつ悪魔だからな。―――――俺の中にいる奴らと同じようにな。

 

「そろそろ時間です。皆さま、魔方陣の方へ」

 

シルヴィアに促され、俺たちは魔方陣に集結する。

 

「なお、一度あちらへ移動しますと終了するまでの転移は不可能となります」

 

「兵藤くん、頑張ってください」

 

「生徒会室で貴方を応援しています」

 

「ああ、分かった」

 

二人に見送られる最中に魔方陣の紋様がリアス・グレモリーから見知らぬものへ変わり、

光を発した。ゲーム用の魔方陣の転移用魔方陣か。そんな事を思っていると俺たちを光が包み込み、

転移が始まった。

 

―――○●○―――

 

『皆さま。このたびグレモリー家、フェニックス家の「RG(レーティングゲーム)」の、「審判役(アービター)」を担う事になりました、グレモリー家の使用人シルヴィアでございます』

 

校内放送・・・・・シルヴィアの声がするな。

 

『我が主、サーゼクス・ルシファーの名のもと、ご両家の戦いを見守らせていただきます。

どうぞ、よろしくお願いたします。さっそくですが、今回のバトルフィールドはリアスさまと

ライザーさまのご意見を参考にし。リアスさまが通う人間界の学び舎「駒王学園」の

レプリカを異空間にご用意いたしました』

 

似て非なる世界だな。窓を開けると空は緑のオーラみたいなものが俺の視界に映り込んだ。

 

『両陣営、転移された先が「本陣」でございます。リアスさまの本陣が旧校舎の

オカルト研究部の部室。ライザーさまの「本陣」は新校舎の生徒会室。「『兵士(ポーン)』」の方は

「プロモーション」をする際、相手の本陣の周囲まで赴いてください』

 

ライザーの『兵士(ポーン)』8人がこの本陣に来たら『騎士(ナイト)』、『戦車(ルーク)』、『僧侶(ビショップ)』、『女王(クイーン)』に

プロモーションが出来る。まあ、大抵は『女王(クイーン)』に成るだろうがな。

 

「全員、この通信機器を耳につけてください」

 

姫島朱乃がイヤホンマイクタイプの通信気を配る。

それを耳につけていると、リアス・グレモリーが言う。

 

「戦場ではこれで味方同士やり取りするわ」

 

『なお、今回のゲームでライザーさまのご希望で人間を一人、

リアスさまの眷属として特別に参加をしてもらってます。

(キング)」、「女王(クイーン)」以下の駒としか戦闘をしないと本人のご意見を聞き、

さらにルールを加えました。仮に「(キング)」、「女王(クイーン)」に攻撃された場合は

迎撃を許されておりますが「(キング)」を倒してしまった時は

ライザーさまの勝利となります』

 

アナウンスを聞き、頷いた。これでいい、これで俺が主役じゃなくてあいつらが主役になった。

 

「今回の主役はリアス・グレモリー、お前だ。俺が倒したら意味が無いからな」

 

「ええ、貴方の好意に心から感謝するわ。お礼としてこのゲームに勝ってみせるわ」

 

「俺は遊撃として好きに動かせてもらうぞ。試合開始と同時にな。お前たちの体力温存をして

ライザーに勝ってもらわないと」

 

「・・・・・分かったわ。私は貴方を縛ることすらできないですもの」

 

「はぁ・・・・・」と溜息を吐くリアス・グレモリーに俺は笑う。

 

『開始のお時間となりました。なお、このゲームの制限時間は人間界の夜明けまで。

それでは、ゲームスタートです』

 

キンコンカンコーン。鳴り響く学校のチャイム。さて、俺とグレモリー眷属合同での体育の授業が

始まった。俺はテーブルの上にある地図を見て・・・・・皆に向かって手の平を開いた。

 

「五分だけここで待機してくれるか?罠を仕掛けてもいいけど、

それ以外の行動は五分過ぎてからにしてくれ」

 

「その間・・・・・あなたはどうするの?」

 

俺か?ふふ・・・・・当然。

 

「ちょっくら、悪魔の団体さんを殺してくる♪」

 

笑みを浮かべた。皆に手を振って窓から外に飛び足して地に着地する。

さーて、思いっきり楽しませてもらおうか!

まずは・・・・・そうだな、体育館の方へ行こうとしよう。

 

地図によれば、体育館は新校舎と旧校舎と隣接しているし、相手へのけん制にもなるだろう。

体育館に向かって駆ける俺。でも、あっという間に体育館の裏側にある裏口に到着した。

扉のノブを回して開き、悠然と中に入る。と、同時に体育館に近づいてくることが分かった。

 

そして、それは直ぐのことだった。4人の少女が体育館の中に入ってきた。

チャイナドレスを着た少女と双子らしき幼女、長い棍を持った小柄で童顔な少女。

俺の顔を見るなり驚いた表情を浮かべた。

 

「悪いな。体育館は俺が占拠させてもらった」

 

「ゲームが始まって間もないのに私たちより速く来ているなんて・・・・・!」

 

「お前等が遅いだけだ。―――――さてと」

 

俺は思いっきり息を吸った。―――開戦前に気合を入れようか!

 

「ギェエエエエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

「「「「―――――っ!?」」」」

 

上に向かって両腕を広げながら大声で叫んだ。体育館の窓ガラスが全て俺の咆哮で割れ、

体育館全体が激しく揺らいだ。

 

「・・・・・・」

 

思いっきり叫び終わると、天井からパラパラと何かが落ちてきた。

気合を入れた俺は改めて相手の四人を見詰めた。双子らしき少女が身体を振るわせて涙目になる。

チャイナドレスを着込む悪魔と棍を持つ悪魔も顔の表情を強張らせて攻撃態勢になった。

 

「ははは、悪魔が嫌いな。俺がこうして堂々とお前たちを殺すことできる機会が恵まれた。

俺は悪魔なら、例え女だろうと子供だろうと容赦しないから」

 

よろしくな―――?と殺気を全開に放って笑みを浮かべた。

 

「こ、怖いよ・・・・・!この人間、怖いよ・・・・・・!」

 

「雪蘭・・・・・こいつ、ただの人間じゃない・・・・・!」

 

「分かってる。だけど、ここでこいつを倒せば―――!」

 

ほう、面白いことを言うな。じゃあ、俺を倒してもらおうか?

 

「そいつができるものならなぁ?」

 

「「「「っ!?」」」」

 

俺が一瞬で四人の背後に佇んで、耳元で呟いた。―――――刹那。

 

ドドドドドドドドンッ!

 

四人の足を思いっきり足で潰した。そうしたらどうなる?

 

「「「「あああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」」」」

 

まともに立てるわけがなく、俺の前に跪いて痛みに耐えるしかない。

 

「痛い!痛いっ!ライザーさまぁっ!」

 

「痛いよう!助けてぇっ!」

 

・・・・・弱過ぎだろう。

フェニックス家の眷属は強いのかと思ったんだけど・・・・・見誤ったか。

 

「ついでだ。その腕も潰しておくとしよう」

 

「「ひっ!?」」

 

そう思い、俺は容赦なく四人の肩腕を踏みつぶした。これでこいつ等は動けないだろう。

悲痛な叫びが聞こえる中、体育館の外へと出た。

 

『随分と惨いことをするな。楽に止めを刺せばいいもの』

 

「それすら価値がないだけだ」

 

『くくく、そうか』

 

クロウ・クルワッハが苦笑のような声を発した。

 

「さーて、次の獲物はどこかな?そろそろ五分になるから、さっさと倒したいところだ」

 

強い気配を探知しながらキョロキョロと首をあちらこちらへと動かしたその時だった。

 

ドォンッ!

 

俺がいた場所に爆砕音が生じた。ん?と気配が感じる場所へ目を向けた。上だ。

見上げれば、翼を広げて空に浮遊している人影が一つ。

フードを被り、魔導士の恰好をしている女性。あいつの下僕か。

 

「あら、私の攻撃をかわすなんてやるじゃない」

 

「なんだ、さっきの爆発はお前か。大方、爆発させるしか能がない悪魔か?」

 

「・・・・・爆発しか能がないか、ボウヤの体で分からせましょうか?」

 

「生憎、俺は『(キング)』と『女王(クイーン)』を倒さないことにしてもらっているんでね。

もしも、あんたが『女王(クイーン)』だったら、倒すことはできないな」

 

笑みを浮かべてそう言うと、相手は嘲笑するような態度で言った。

 

「そう、それじゃ本当に残念ね?

このライザーさまの『女王(クイーン)』、ユーベルーナの前に手も足も出ずに倒される運命なんて、

参加しなければよかったと後悔しなさい?」

 

「・・・・・何を言っているんだ?」

 

「なに・・・・・?」

 

「倒すことはできないけど、攻撃をしてはいけないなんて一言も言っていないぞ?

それに、攻撃されたら反撃してもい言ってシルヴィアが説明しただろう」

 

トン、と跳躍してユーベルーナの前に移動した。

 

「っ!?」

 

「随分と濃い化粧だな。そんなお前は泥を塗って綺麗にしてやるよ」

 

ガシッ!と彼女の頭を掴んで一緒に地面に向かって落ちた。

 

「まっ、まち―――!」

 

「嫌だね」

 

そう言った直後。魔力で土を泥に変えて、そのままユーベルーナを押し付けた。

ベチャベチャと塗りたくるように頭を掴んだ状態で動かし続けた。

 

「よいしょっと」

 

泥から離せば、彼女の顔は泥まみれになった。・・・・・ごめん、余計に悪くなったな。

 

「ん?」

 

彼女の豊満な胸の谷間の間に何か挟まれているものがあった。

なんだ?と思いながら、谷間の間に手を差し込んで何かを取り出した。高級そうな小瓶だった。

さて、これはなんだ・・・・・?

 

「まあ、いいや。貰っておこう」

 

ユーベルーナを放り捨てて―――背後から感じる怒りから俺は一瞬でこの場から去った。

 

―――○●○―――

 

「おー、こえーこえー」

 

あれ、マジで切れていたな。出会わないようにしないと、面倒なことになるな。

んと、今いる場所は・・・・・運動場か。それにしてもこの子瓶、何なんだろうな?分かるか?

 

『それは「フェニックスの涙」に間違いないだろう』

 

フェニックスの涙?

 

『ああ、飲めばたちまち傷が治るだけじゃなく、切断された一部の肉体とくっ付けて、

そこに「フェニックスの涙」を降れば元に戻るというフェニックス家しか生産できない

高価な代物だとか』

 

へぇ、つまり、かなり便利な回復薬ということか。それはいい物を手にしたよ。

 

『―――イッセー、聞こえる?』

 

不意に耳元でリアス・グレモリーの声が入ってきた。ああ、通信用のイヤホンか。

 

『五分過ぎたから私たちも動くわよ』

 

「わかった。体育館に四人、戦闘不能状態にした奴らがいるからな。

それと体育館付近にかなりお怒りの『女王(クイーン)』がいるはずだ。気をつけろよ」

 

『・・・・・あなた、なにをしたのよ』

 

「顔に泥を塗った。それと『フェニックスの涙』を貰ったぞ。欲しいか?」

 

そう言うと、沈黙になった。

 

『あなた、どこにいるの?』

 

「運動場・・・・・ああ、いま、囲まれた」

 

ザッ!と俺を中心に7人の少女と女性が警戒しながら囲んで寄ってきた。

 

『大丈夫?』

 

「大丈夫だ。それじゃ、勝手ながらそっちに涙を送らせるぞ。じゃあな」

 

一方的に通信を切った直後、足元の影から一匹の大蛇が出てきた。

その大蛇に小瓶を咥えさせて指示を出した。

 

「悪いな。そいつをリアス・グレモリーのもとへ届けてくれ」

 

大蛇はコクリと頷いて、うねうねと旧校舎へと移動して行った。

 

「そうはさせませんわ!」

 

お姫様のような喋り方をする少女が叫んだ。その叫びに呼応して、

大蛇に向かう数人の悪魔たち―――。

 

「―――ギェエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

『―――――っ!?』

 

咆哮で意識をこちらに向ける。まあ、突然咆哮されたら誰だって何事だ!?

って意識を向けてくるよな、これでいい。

俺が咆哮を上げたその間に大蛇はあっという間に姿を消していた。

 

「おいおい、相手を見間違えるなよ?」

 

「くっ・・・!さっきの声はあなたでしたのね・・・・・!?」

 

「正解。体育館に行ったそちらの仲間はまだ倒していないけど、

戦闘不能の状態に陥っているのは間違いない。倒すまでもない価値だったからな」

 

「では、ユーベルーナも!?」

 

「いや、あいつはピンピンしていると思うぞ。物凄く怒っていたから逃げたけど・・・・・」

 

周りを見渡して俺は笑みを浮かべる。

 

「お前らなら楽しめそうだな」

 

六対十二枚の金色の翼を展開した。さらに―――俺の髪が金色に変色し、腰にまで伸びた。

瞳も誰かの目で見れば、俺の瞳は黒から翡翠と蒼のオッドアイになっているだろう。

 

「―――天使っ・・・・・!?あなた、人間じゃないですの!?」

 

「正真正銘の人間だぞ?この姿は神滅具(ロンギヌス)、『神愛護珠(ゴッド・ラブ・ディフェンス)』の禁手(バランス・ブレイカー)の状態だ」

 

「ろ、神滅具(ロンギヌス)・・・・・っ!?」

 

酷く狼狽をしているな。まあ、どうでもいいけど・・・・・。かかってこいと、手を招く。

 

「来いよ。お前らの力、俺が確かめてやる」

 

不敵の笑みを浮かべて俺は自ら窮地に立った。さあ、死闘の始まりだ

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode5

 

 

彼が戦いに出て十分ぐらい経ったのかしら・・・・・あれから何の音沙汰もない。

 

「(体育館に向かっていたイッセーと小猫からの情報では、

一人の『戦車(ルーク)』と三人の『兵士(ポーン)』が戦闘不能の確認。

手足を踏み潰されていて留めも刺さずに運動場の方へ向かったらしいわね)」

 

でも、どうしてそんなことをしたのかしら・・・・・?倒さずにいると、

もしも回復能力の悪魔が現れて治癒して戦闘復帰する恐れがあるというのに・・・・・。

 

『ライザー・フェニックスさまの「兵士(ポーン)」二名、『僧侶(ビショップ)」一名、リタイア』

 

―――っ、ここに来て初めてアナウンスが流れた!もしかして・・・・・彼・・・・・?

 

『ライザー・フェニックスさまの「騎士(ナイト)」二名、リタイア』

 

もう!?さっき放送が流れたばかり―――!

 

『ライザー・フェニックスさまの「戦車(ルーク)」一名、「僧侶(ビショップ)」一名、リタイア』

 

「・・・・・」

 

ものの数秒でライザーの下僕が一気に半分以下になった・・・・・。

 

「ぶ、部長さん!」

 

悲鳴染みた声を発するアーシアが私の名を呼ぶ。

敵!?と思って臨戦態勢になって辺りを見渡すと扉から黒い物体が入ってきたところだった。

その物体はテーブルの上に乗り出してどくろを巻いた。

 

「・・・・・蛇?」

 

黒い物体の正体は大きな蛇だった。ギラギラとした金の双眸、

ジッと私を睨むように見詰めてくるがどうしてここに・・・・・。

と思っていると、大蛇の口に何かを咥えていた。まさか・・・・・。

 

「・・・・・」

 

咥えているものを受け取ろうと手を出す。大蛇は私の手に顔を突き出して口を開いた。

咥えていたものが私の手中に入る。・・・・・間違いなくこれは『フェニックスの涙』。

手の中にある小さな子瓶を見詰め確認した。

 

「ありがとう、とイッセーに伝えてくれるかしら?」

 

大蛇にそういうものの、私の言葉が通じるかどうか、分からない・・・・・。

 

『伝えておこう』

 

「・・・・・へ?」

 

アーシアが唖然と漏らした。私もそうだった。大蛇が人語するとはとても思えなかったからだ。

私とアーシアが信じられないと、大蛇を見ていると、スルスルとこの場から去ろうとしていた。

用は済んだとばかりに。

 

「(イッセー、あなたは・・・・・まだ何か隠し持っているというの?)」

 

いえ、私たちが知ろうとしていないだけなのかもしれない。

ならば、このゲームが終えたらもっと彼のことを知ろう。

そのためにはまず・・・・・ふふっ、そうね。こうしましょうかしら。

 

「(そのためには彼に認めてもらう必要があるわ。私の力を)」

 

アーシアに視線を送って頷く。彼女も理解してくれたようで頷いた。

では、行きましょうか!チェックメイトを掛けに!

 

―――一誠side

 

「この恨み晴らさん!」

 

「なんか、悪魔じゃなくなっているなっ!」

 

運動場にいた敵の悪魔を全て倒しきったその直後。

全身に怒気のオーラを纏って現れた『女王(クイーン)』が執拗に襲ってきて数分が経過した。

 

「よくも、よくも私の顔に泥を塗ってくれたわねぇぇえええええええええええええええっ!?」

 

「泥パックって美肌効果をもたらすやり方があるんですけどねー?」

 

「嘘おっしゃい!」

 

「いや、正直に本当のことなんだけど?」

 

ドンドンドンドンドンドンドンッ!

 

避けるばかりだから運動場にクレーターが生じるばかり。

このままこいつを引きとめてその間に眷属全員で『(キング)』を倒す作戦でも悪くはないだろう。

 

「(や、それでも厳しいのか?ライザーの実力は確かに強そうだったけど、

あんな性格だから能力に頼って生きていると感じにも思えるし・・・・・)」

 

「―――兵藤くん!」

 

運動場に俺の名を呼ぶ存在が現れた。木場祐斗だ。成神一成も塔城小猫も姫島朱乃もいるようだ。

 

「(って、殆どの主力がここに集まってどうするんだよ!?)」

 

「いま、助けに―――!」

 

「いや、お前らがいると邪魔だ。手助けはいらない」

 

遮ってキッパリと言った。で、食って掛かるのは成神一成。

 

「邪魔ってことはないだろう!どう見ても防戦一方じゃねぇか!」

 

「お前、忘れたのかよ?俺は『(キング)』と『女王(クイーン)』を倒しちゃいけないんだよ。

だからこうして防戦一方にも見える戦い方をしているんだ」

 

「だったら俺たちがそいつを倒せばいいじゃねえか!」

 

はぁ・・・・・どうも考え方が甘いな。呆れ顔を浮かべて、口を開いた。

 

「俺が二番目に強い眷属悪魔を引き止めている間にお前が『(キング)』に強襲して

チェックメイト、何て考えはないのか?」

 

「・・・・・」

 

「何のために俺が殆どのライザー・フェニックスの眷属を倒したというんだ。

お前らの体力を温存させて、万事の体勢でライザー・フェニックスとの戦いを

臨めるようにしたからだろうが」

 

「だ、だけど・・・・・!」

 

「―――伝説のドラゴンを宿したところでお前は、

この女王さまに触れることすら敵わない弱小なんだよ。俺が言いたいことは分かるか?

お前がいると邪魔なんだよ。弱過ぎて足手まといにしかない木端悪魔だ」

 

ユーベルーナの懐に一瞬で後ろに回って羽交い締めする。

 

「くっ、放しなさい無礼者!」

 

「あんまりはっちゃけたことを言われたら―――お前の首をへし折って殺したくなるぜ」

 

「―――っ!?」

 

尻目で俺を見る目が大きく開いた。どうしようか?と視線に乗せて送れば、

悔しそうに唇を噛みしめて、大人しくなった。

 

「直接倒さなくても、お前を倒すことなんていくらでもある」

 

地上に降り立って、どこからともかく取り出した縄をユーベルーナの全身に縛った。

 

「成神」

 

「なんだよ・・・・・」

 

「どんな縛り方を希望する?」

 

「へ・・・・・・?」

 

「例えば、こんな感じか?」

 

シュバッ!

 

一瞬でユーベルーナの体を縛った。亀甲縛りというやつだ。

 

「ひゃっ・・・・・!?」

 

「おおおっー!?」

 

案の定、あいつは興奮した。目が限りなく変態のそれだった。

ユーベルーナは顔を羞恥で赤くして、さっきまでの威勢のいい態度がガラリと変えて抗議してきた。

 

「こ、こんな屈辱的な縛り方はなによ!縛るならもっと普通にして!」

 

「そうか?あんた、マゾっぽそうだったからこれが好きかなーって思ったんだけど。

で、成神、これで決定か?」

 

「決定だっ!」

 

親指を立てて肯定した。・・・・・バカ変態決定だ。

 

「この・・・・・っ!」

 

怒りで顔を歪ませて魔方陣を展開しようとした。まあ、させないがな。

 

「ん」

 

とある縄の部分を引っ張れば―――「ひゃんっ!?」と可愛く悲鳴を上げた。

 

「なに勝手に暴れようとしているんだ?」

 

縄を軽く引っ張れば、どこかにシワ寄せが来るように彼女の体は縄で食い込む。

彼女は体に食い込む縄の痛みに、声を上げるんだ。

 

「や、止めて!引っ張らないでちょうだい!」

 

「嫌よ嫌よと言いながらも、顔が真っ赤じゃないか」

 

「これは恥ずかしさと痛みのせいよ!」

 

「そうかぁ?瞳が蕩けていて、吐く息が熱っぽくて、体も熱くなっているぞ?」

 

くくく・・・・と笑みを浮かべながら、露出している彼女の腹に触れた。

 

「ひっ・・・・・!」

 

「本当は感じているんだろう?」

 

「ち、違う!」

 

「違わない」

 

縄を引っ張ったら、艶めかしい声を発するユーベルーナ。

 

「こんな露出狂が着そうな服を着て、

お前は誰かに見て欲しくて欲しくてしょうがなかったんだろう?」

 

地面に下ろし、四人に背を向け跪いて、彼女の顔を覗きこみながら腹から胸元へ、スーと撫でた。

 

「ち・・・ちが・・・・・・」

 

「そうか、違うのか?」

 

彼女の胸を避けて、今度は首筋をやんわりと撫でた。

 

「・・・・・っ」

 

ビクッ、と彼女は震えた。俺はそれを見逃さず、耳も優しく触りながら縄を強く引っ張った。

すると、

 

「あうっ・・・・・!」

 

ビクンッ!と、また震えだした。

 

「そんな蕩けた顔で否定しても、説得力がないがな」

 

「し、してない・・・・・!」

 

「じゃあ、鏡でも見るか?」

 

どこからともかく携帯の鏡をユーベルーナの顔に突き付けた。

そして、自分の顔を見て彼女は目を丸くした。すでに彼女の顔は性欲を欲している女の顔だ。

上気した頬、息を絶え絶えにし、口の端から唾液が少しだけ垂らし、瞳が潤っている。

 

「うそ・・・・・」

 

「これでも認めないってか?」

 

「そんな・・・私・・・・・ライザーさま以外の男に・・・・・」

 

信じられない、とユーベルーナは呟いた。そして、俺は追い打ちを掛けた。

 

「それと、気付いているか?」

 

「・・・・・?」

 

「お前―――太腿が濡れているぞ?どうやら、下半身から流れているようだがな」

 

「―――っ!?」

 

ギョッと目を丸くなった。さらに今頃気付いたのか、顔がトマトのように羞恥で真っ赤になった。

 

「ライザー以外の男に感じさせられている卑しい女王(クイーン)さん。どうする?」

 

「ど、どうするって・・・・・な、なにを・・・・・・」

 

「このまま生殺しの状態でライザーのもとへ連れて行こうか?

それとも―――俺が完全にスッキリさせてから連れて行こうか?」

 

「なっ―――――!?」

 

「当然、するならこれだけどな」

 

思いっきり縄を引っ張って痛覚を感じさせる。

 

「さて、どうする?決めるのはお前だ」

 

「・・・・・っ」

 

屈辱だと、顔を険しく歪ませる。―――そして、

 

「このまま、私を連れていけ・・・・・っ!」

 

彼女は洗濯した。まあ、これはこれで、ライザーの精神を揺らがすにはもってこいか。

ユーベルーナを縛ったまま持ち上げた。

 

「よーし、全員。ライザーの方へ行くぞー」

 

「って、そのまま彼女もかい?」

 

「これはこれで、役に立つ。俺が倒したらダメだからな。有効的に使わう。

精々、最大限に役立ってもらわないとな」

 

くくく・・・・・っ!と嫌な笑みを浮かべる俺だった。

 

「・・・・・絶対、あいつの方が悪魔だろう。考え方的にも行動的にも」

 

「うん・・・・・僕もそう思うよ」

 

「あらあらうふふ・・・・・私と同じ同士が見つかりましたわぁー」

 

「・・・・・逆らってはいけない類の人ですね」

 

なんだろう、とっても失礼なことを言われている気が・・・・・まあ、

気にしない方向で行くとしよう。

 

―――○●○―――

 

―――ソーナside

 

「・・・・・彼の強さは計りしれませんね」

 

私、ソーナ・シトリーは生徒会室でリアスと彼女の眷属、

彼、兵藤一誠の試合を中継して眺めている中、思わずそう漏らしました。

 

「奴の実力は軽く上級悪魔を越えている。

いや、それだけ留まらず最上級悪魔の力を匹敵しているだろう」

 

「そんな人間がこの学校の生徒としているなんて・・・・・」

 

私と同じく、この試合を見ているサイラオーグ・バアルとシーグヴァイラ・アガレスが

彼の戦いを見て感想を述べた。

 

「サイラオーグ、あなたは彼と戦うとしたら、勝てると思いますか?」

 

「ふむ・・・・・ノーコメントと言わせもらう」

 

「はっ?」

 

「戦う前に勝敗を予想して決めるなど、つまらないではないか」

 

そう言うサイラオーグは小さく笑んだ。

 

「それに、あの男は本気ですら出していないだろう。禁手(バランス・ブレイカー)になったとしても、

奴は一歩も動かず、七人のライザー・フェニックスの眷属を屠ったのだからな」

 

「動くのが面倒くさいじゃなくて、翼だけでも勝てるってことだったの・・・・・?」

 

「そうだな。あの翼を攻略しない限り、兵藤一誠は動かない。

あの絶対防御と攻撃を兼ね揃えた翼をな」

 

絶対防御と攻撃を兼ね揃えた攻防一体の翼・・・・・。

敵になったらかなり厄介な相手と言う事でしょうね。

 

「(それがいま、彼女の味方として戦っている。彼がいるだけで不安が一切抱かなくなる)」

 

「・・・・・私、彼に勝てる気がしないわ」

 

「ゼファードルの奴はある意味幸せ者かもしれんな。一番最初にあの男に倒された悪魔だからな」

 

「それ、絶対に褒められることじゃないわよ」

 

同感です。

 

―――一誠side

 

運動場から新校舎の方へと向かう俺たち。

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・」

 

俺に担がれ、歩く度に縄が体全体に強く引っ張り、締められる亀甲縛り状態のユーベルーナは、

熱い吐息を吐き続ける。

 

「・・・・・」

 

ジッと変態丸出しの表情を浮かべ、ユーベルーナを見詰め続ける成神一成。

そんな成神一成に軽蔑の眼差しを送るのは塔城小猫で、そんな二人に苦笑するのが木場祐斗。

ニコニコと笑みを浮かべ続ける姫島朱乃は、リアス・グレモリーと通信で

会話のやりとりをしている。

 

「皆さん、新校舎の前で部長が交流だそうですわ」

 

「と言っても、すぐそこだけどな」

 

肉眼でも捉える。同時に校舎の玄関に目を向けると、

赤と金の髪を持つ少女二人の姿も確認できた。あっちも俺たちに気付いたようだ。

 

「・・・・・イッセー、それはなにかしら?」

 

開口一番に言われたのはユーベルーナの事だった。これか?と地面に落として言った。

 

「亀女」

 

「・・・・・」

 

リアス・グレモリーは額に手を当てて、何故か溜息を吐いた。

 

「解きなさい」

 

「いや、ライザーの精神を揺るがすにはいいかと思って縛って―――」

 

「ほ・ど・き・な・さ・い」

 

「・・・・・分かったよ。もう・・・・・」

 

渋々と縄を一閃すれば、パラパラと縄が落ちてユーベルーナは自由になった。

 

「これでいいだろ?」

 

「ええ」

 

息絶え絶えなユーベルーナを見下ろすリアス・グレモリー。その時だった。

 

「―――祐斗」

 

「はっ」

 

リアス・グレモリーは木場に何か指示を出したのだろう。

だから木場は、帯剣している剣を抜き放って―――彼女の背後から貫いた。

 

「―――――」

 

その一撃によって、ユーベルーナは光に包まれ俺たちの前から消失した。

 

『ライザーさまの「女王(クイーン)」一名、リタイア』

 

これで残りは一人。『(キング)』ライザー・フェニックスだけとなった。

リアス・グレモリーは俺たちを決意に秘めた瞳で見渡して口を開いた。

 

「さあ、皆。残りは不死鳥フェニックスと称えられているライザーのみよ。

―――何がなんでも倒すわよ、私たちの手で!」

 

『了解!』

 

いざ行かん、と新校舎の中へと入ろうと進んだ。―――その時だった。

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

新校舎が一気に燃え盛りだした。リアス・グレモリーたちは突然の火災に絶句する。

 

「これは・・・・・!」

 

「まあ、こんなことできる奴がいるとしたらただ一人」

 

悟るように言えば、燃え盛る炎の向こうから人影のシルエットが。

 

「ライザー・フェにックしかいないだろうよ」

 

平然と炎の中から出てくるライザー・フェニックス。

ギラギラと、敵意と怒りに満ちた瞳を俺たちに向けてくるのは、下僕を倒された怒りか、

自分をここまで追い詰めた俺たちへの怒りか、心情を察すれないが、これからが本番と言うわけだ。

 

「リアス」

 

「なにかしら」

 

ライザーとリアス・グレモリーが口を開いた。

 

「まさかだとは思うが、その人間を頼って俺に勝ったつもりでいるのなら、

それは思い上がりもいいところだぞ」

 

「ええ、理解しているわ。でも、彼を招いたのはあなた自身。

彼の力をフルに使ってこそ、私の仕事よ」

 

「だが、その仕事はこれまでだ。俺を倒してはいけないのだからな」

 

まあ、その通りだな。だが、俺は手を出すつもりはない。

ここからがこいつ等の戦いなのだからな。

 

「―――と、言いたいところだが、

そこの人間には俺の可愛い下僕たちを存分に可愛がってくれた礼をしないと気が済まない」

 

背中から燃え盛る炎翼の翼を展開した。明らかにリアス・グレモリーたちに眼中なく、

俺にだけ視線を向けている。

 

「リアスが俺に勝とうが負けようが、俺はお前を倒さないと気が済まない!

お前を俺の業火の炎で塵一つ燃やしつくしてやる!」

 

「おーい、俺、お前を攻撃しちゃいけないんだけど?フェニックス家の悪魔は、

逃げる相手を甚振るのが趣味なのか?」

 

と、言ってみるものの・・・・・。奴は、背後に燃え続ける炎に手を突っ込んで、炎を凝縮した。

 

「死ね!」

 

凝縮した炎を、レーザーのように放ってきた。

金色の翼でリアス・グレモリーごと包んで防御態勢に入った。

その瞬間、翼に何かが直撃したような衝撃が伝わった。

 

「で、俺に執着してくるようだけど?」

 

「それはそれで構わないわ。私たちは私たちの仕事をするだけ」

 

「どうすんの?」

 

「ライザーの精神を削るだけ削って、最後に倒す方法しか無いわ。

要は攻撃し続けないと倒せない」

 

そりゃ、当然のことだ。

 

「アーシアはイッセーと一緒に。彼と一緒なら攻撃されるでしょうけど、

あなたは私たちの命綱とも言える立場。彼なら絶対に守ってくれる」

 

「勝手に動こうとするなら俺が殺す」

 

「・・・・・本当に守ってくれるんでしょうか?」

 

不安そうに俺を見るアーシア・アルジェント。冗談だ、冗談。

 

「・・・・・ちゃんと、守りなさいよ」

 

「はいはい、分かってる。だが、そっちこそ守れよ」

 

「ええ、分かってるわ。必ず、私たちがライザーを倒す」

 

何時しか交わした約束、ライザーを倒す。それを達成してもらわないと意味がない。

 

「成神」

 

「なんだよ」

 

「お前、禁手(バランス・ブレイカー)に至らなかったな」

 

「だ、だからなんだよ・・・・・」

 

文句あるのか?と言いたげな顔を浮かべる。ああ、文句大ありだ。

 

禁手(バランス・ブレイカー)状態じゃなきゃ、お前はライザーには勝てない」

 

「・・・・・っ」

 

「だから―――」

 

腕を伸ばし、成神一成の頭を掴んだ。

 

「俺から、グレートレッドから、お前に選別をやる。―――受け取れ」

 

「―――っ!?」

 

ドクンッ!と成神の力が数段にも増した。内にいるガイアのドラゴンの力を抽出して、

成神一成の中に送っているからだ。

 

「後はお前の気持ち次第だ。誰かを守りたい、誰かを倒したい、もっと強くなりたい、

様々な思いを浮かべろ。言いたいことはそれだけだ」

 

「・・・・・」

 

「ついでに、―――『強奪』」

 

そう呟いたその瞬間。脳裏に何かが思い浮かんだ。・・・・・ふーん、なるほどな。

 

「お、おい・・・・・?」

 

「何でもない。そんじゃ、行って来い」

 

翼を思いっきり動かした。その拍子に、突風が吹き荒れる。

目の前にいたライザーは腕を交差して突風に耐えている姿勢を伺わせていた。

 

「―――行くわよ皆!」

 

『了解ッ!』

 

リアス・グレモリーたちは最後の敵に向かって駈け出す。さて・・・・・俺はこの力を・・・。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode6

―――成神side

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

左手に赤い籠手を纏わせて俺は仲間と共に駈け出す!

すげぇ、力が膨れ上がるように沸き続けてくる!これなら、いける!あいつを確実に倒せるぞ!

思いもしない未知なる力に俺は心の底から歓喜し、焼き鳥野郎に向かって拳を突き出した。

 

「っ、なんだ、その異常な力は!」

 

炎の塊を俺に放ってくる。だが―――!

 

「俺は散々、あの野郎に何度も腕と足を切られたんだ。

そのぐらい避けることできないでどうするってんだよぉっ!」

 

左手で炎の塊を上に弾いて前に進んだ。奴は俺の行動に目を見開き、今度は両手を前に構えて、

先より巨大で強大な炎の塊を放って来やがった!あんなデッカイ炎の塊を受けちまったら、

骨さえも燃えつくしちまう!

 

「はぁっ―――!」

 

その時だった。気合の入った声を発した木場が、巨大な炎の塊に向かって―――剣で一閃した。

すると、どうだろうか、巨大な炎の塊が一瞬で氷の塊と化となったじゃないか!

 

「えい」

 

今度は小猫ちゃんだ。小柄に似合わないバカ力の持ち主の小猫ちゃんは、巨大な氷の塊に向かって

拳を突き出した。ドンッ!と拳が氷の表面に衝撃を与えた途端に、氷はライザーがいる方へ

吹っ飛んだ!おお、すげぇ!

 

「っ・・・!」

 

しかし、ライザーは炎翼を羽ばたいて空へ逃げやがった!

氷の塊は真っ直ぐ燃え盛る炎の中へと入ってしまった。

 

「はっ、残念だったな!俺の業化の炎を無効化にしたことは認めてやろう。だが―――!」

 

「あらあら、うふふ♪まだ、終わってませんわよ?」

 

ビガッ!ガガガガガガガガガガガガガッ!

 

いきなりライザーに雷が直撃した!な、なんだぁっ!?

 

「あががががががががががっ!?」

 

雷に痺れるライザー。あっ、この雷・・・・・朱乃さんのか!顔を上に向けると、

何時の間にか悪魔の翼を生やして宙に浮いていた朱乃さんがSの顔で雷撃を放っていた!

 

「―――おい、小猫」

 

不意に、あいつが小猫ちゃんの名を言った。小猫ちゃんは体ごと兵藤に向ける。

 

「暇なら、成神をライザーに向けて投げ飛ばせ」

 

「・・・・・なるほど」

 

へ?お、おい・・・・・?投げ飛ばせって・・・・・・?

それに小猫ちゃん、キミもどうして納得するんだ?そして、俺に近づいてくる?

 

「・・・・・先輩。一発、お願いします」

 

そう言うなり俺を持ち上げた小猫ちゃん。そのまま俺を―――。

 

「えい」

 

ライザーに向かって投げ飛ばしたぁっ!うわあああああああっ!?

 

「な・・・・・にっ!?」

 

ようやく朱乃さんの雷撃から逃れたあいつは、飛んでくる俺に驚愕した!

いや、俺も今の状況に驚愕しているところですけどね!

 

「だけど、今そんなこと考えている暇はねぇよなっ!」

 

ドゴオンッ!

 

俺の右拳がライザーの腹部に抉るように突き刺さった!

 

「がっはぁっ・・・・・!?」

 

くの字形となって胃液と血反吐を口から吐き出すライザー。よっしゃ!ようやく一撃だぜぇ!

 

「・・・・・って、この後、俺はどうすればいいんだ?」

 

そう、この後だ。宙にいる俺は―――空を飛べることはできない。

悪魔の翼を生やしても飛ぶことできねぇ。重力に逆らえず、ヒューと下に墜ちる俺。

 

「・・・・・俺、死んだ?」

 

そう思ったその時だった。俺の視界の端に、金色の翼が伸びて来て俺を受け止めてくれた。

兵藤の奴か、ありがとう・・・・・一応な。

 

「・・・・・ふざけるな・・・・・」

 

不意に、上から低い声音が聞こえた。

 

「この俺が・・・・・負けるだと?」

 

ライザーからだった。なんか、ブツブツと言いやがる。

 

「ふざけるな・・・・・」

 

「・・・・・なんだ?」

 

「―――ふざけるなあああああああああああああああああああああああっ!」

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

突然、あいつの体が燃え盛った!さっきの一撃で激怒しちゃったのか!?

 

「俺は、フェニックス!ライザー・フェニックスだぞ!不死鳥の能力を司る悪魔なんだぞ!」

 

何を思ったのか、未だに燃え盛る炎に飛んだ。一体、なにをするつもりだ?

 

「負けない、負けないぞ!下級悪魔ごときたちに俺が負けるわけがない!」

 

燃え盛る炎があいつの怒りに呼応するかのように、意志があると思わせる感じでうねり始めた。

奔流と化となってライザーの姿を包み隠した。

 

「―――この姿で、貴様たちを倒してやる!」

 

「・・・・・な、ん・・・・・だと・・・・・?」

 

俺は絶句した。ライザーを包む炎が・・・・・・鳥のように変化したからだ。

巨大な、巨大な火の鳥。炎翼を広げたら二十メートルはあるぞ・・・・・・!

 

「あんな奴、一体どうやって倒せって言うんだよ・・・・・」

 

思わず、弱音を吐いてしまった。あの姿はまさしくフェニックスだ。

きっと、どんな攻撃を受けても平気だろう。直ぐに再生してしまうからだ。

 

「―――面白い」

 

「は?」

 

横から弾んだ声が聞こえた。横に視線を向ければ、兵藤が浮いていた。

 

「流石はフェニックス。そうこなくちゃ面白くないな」

 

嬉しそうに言う兵藤だった。まるで、こう言う時を待っていたかのような言い草だった。

 

「人間―――この姿になったら俺は、魔王級の攻撃でないかぎり、止まらんぞ」

 

「へぇ?じゃあ、本当に止めれないのか、やってやるよ」

 

俺を乗せる翼がゆっくりと下がっていく。降りろってことか?ある程度の高さにまで下がったら、

俺は降りた。

 

「リアス・グレモリー。最後はお前だ。しっかりと魔力を溜めていろよ」

 

「わかったわ」

 

そう言えば部長・・・・・攻撃していなかったな。そう思い、部長の方へ向けば、

上に翳した両手の平の先に赤く黒い魔力の塊が大きく具現化していた。

 

「さて・・・・・その姿は全力だと思っていいんだな?」

 

「全力の全力だ」

 

そう言い、ライザーは鳥の口を開いた。―――刹那。熱線が口内から兵藤に向かって放った!

あいつは首を横に動かすだけの素振りで、熱線をかわした。

そして、対象を失った熱線はどこかへと伸びて行った。

 

ドゴォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

『っ!?』

 

突然の爆発音!発信源に向かって振り向いたら、巨大な火柱が生じていた!

 

「・・・・・なるほど、それを食らったら一撃KOか」

 

兵藤も巨大な火柱を見て理解した風に喋った。

 

「この姿になるのは滅多にない。だから、全力の全力でお前らを倒す!」

 

「―――なら、俺も本気で戦うとしようか」

 

ゾクッ・・・・・!

 

何でだ、兵藤の奴を見ていたら急に悪寒が感じた・・・・・なんだ・・・・・これは・・・・・。

 

「俺も皆の前でこの力を使うのは初めてだ。お互い、快く楽しもう」

 

兵藤は深く笑みを浮かべた。そして、口を開きだした。

 

「さあ、行こうか。ガイア!」

 

カッ!

 

突然の真紅の光!真紅の光はあいつの全身から発しているのが直ぐに分かった。そしたら―――!

 

『我、夢幻を司る真龍なり』

 

あいつから声が聞こえた。聞いた事がない声だ。

 

「我、夢幻を司る真龍に認められし者」

 

兵藤の奴も何か言い始めた。

 

『我は認めし者と共に生き』

 

「我は真龍と共に歩み」

 

それに、呪文のように呟き続ける。あいつ、一体なにをしようとしている!?

 

「『我らの道に阻むものは夢幻の悠久に誘おう』」

 

真なる深紅龍神帝(アポカリュプス・クリムゾン・ドライブ)ッ!!!!!

 

最後は力強い言葉を発した。次の瞬間。真紅の光が、より一層に輝きを増した。

あまりにも眩しさに腕で顔を覆う。・・・・・その光が止んだ時。俺は上空に目を向けた。

 

「・・・・・なんだ、あれ・・・・・」

 

そこにいたのは、全身が鮮やかな紅よりも深い紅の全身鎧。腰にはドラゴンのような尾があった。

背中にはドラゴンのような真紅の翼が生えている。体に金色の宝玉が幾つも埋め込まれてある。

手の甲にもだ。頭部には立派な深紅の角が突き出ている。

 

「・・・・・その姿は何だ・・・・・人間」

 

真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッドのドラゴンの力を鎧に具現化した姿だ」

 

「―――――っ!?」

 

ライザーの奴が酷く驚いていた。真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッド?

なんだ?凄いドラゴンなのか?俺には分からん。

 

「ふ、ふざけるな!あの不動のドラゴンがお前の中にいるということなのか!?

でたらめを言うな!」

 

「信じる信じないのは自由だが、目の前の事実を突き付けられてもそう言えるか?

まあいい。始めようか」

 

バッ!とあいつは深紅の翼を広げた。

 

「―――いくぞ」

 

そう言った瞬間、あいつの姿は虚空に消えた。

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

・・・・・はっ?

 

「なんだ、もう終わりか?」

 

兵藤は残念そうに言った。俺の隣でだ。

 

「いや、軽く打撃を与えたぐらいで倒れる訳がないな。倒したら負けだし」

 

その言葉が肯定だと、突然生じた土煙から炎翼が出てきた。

 

「ぐ・・・・・っ!」

 

ライザーだ。巨大な炎の鳥の姿じゃなくなっている!?

 

「あれで・・・・・軽い打撃だと・・・?

俺の全力の姿を、たった一発で解いて軽くだと・・・!?」

 

「んじゃ、軽く魔王級の攻撃を上回ったんだろうな」

 

あっけらかんと言い放つ兵藤・・・・・軽い打撃で魔王さまの攻撃を上回ったぁっ!?

 

「・・・・・そんじゃ、この辺りで終わりにしようか」

 

シュンッ!と兵藤は虚空に消えた。次に現れたのは部長の隣だった。

 

「準備はいいな?」

 

「ええ・・・・・当然よ」

 

何時の間にか・・・・・部長の両手には大きな魔力の塊が。

あれ、絶対に食らいたくない魔力だぞ。

 

「試しにこの力を使ってみよう」

 

「え?」

 

兵藤は部長の肩に手を置いた。何をするのかと思えば・・・・・。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBOostBoostBoostBoostBoost!!!!!』

 

金色の宝玉から音声が聞こえた。というか、あれは―――!兵藤の奴は俺の顔を見て頷いた。

 

「そう、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の能力だ。お前の能力を『強奪』させてもらった」

 

『Transfer!』

 

「『赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』と名付けようか。

お前もいずれ手に入る能力だ。よーく見ておいた方が損しないぞ」

 

倍増した力が、部長に流れて行くのが分かる。

 

「凄い・・・・・力が溢れてくるわ・・・・・!」

 

部長の魔力も数倍に増して巨大になった!うわ、絶対に食らいたくないぞ!

 

「リアス、止めを刺せ」

 

「ぐはぁっ!?」

 

ライザーが悲鳴を上げた。

そっちに向けば、何時の間にか兵藤の奴がライザーの腹部に拳を突き刺していた。

 

「―――イッセー」

 

「なんだ?」

 

部長は言った。笑って言った。

 

「ありがとう」

 

「・・・・・」

 

無言でライザーをボールのように部長のもとへ投げた。同時に部長は巨大な魔力の塊を放った。

そして―――!

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

ライザーは部長の魔力と直撃した。それだけじゃない。

地面まで削るように抉れ続けてクレーターができ続けている!

 

『・・・・・』

 

赤黒い魔力がなくなると、ライザーの姿はなかった。

残っているのは部長の魔力でできたクレーターのみ。

 

キンコンカンコーン。

 

『ライザーさまのリタイアを確認。

勝者、リアス・グレモリーさまが率いるグレモリー眷属+αです』

 

「ちょっと待て!?αってなんだよ!絶対に俺のことだよなゴラァッ!?ちゃんと名前で言え!」

 

いきなりキレ始めた兵藤。・・・・・でも、何となく同情するぜ。木場たちも苦笑しているしな。

 

「・・・・・でも、まあ」

 

顔の部分がシュカッ!と開いた。あそこ、マスクなのか。

顔を覗けるようにした兵藤は部長に話しかけた。

 

「これで、お前は一人のリアスとしていられるな」

 

「―――――」

 

兵藤の奴は、部長に笑みを向けて言った。

対して部長は目を丸くして、次第に・・・顔が赤くなっていく。

 

「で、何時になったら現実世界に帰れる?」

 

「うふふ、もう少しですわ♪」

 

「・・・・・赤い鎧、綺麗です」

 

「グレートレッドの力を具現化にした鎧か・・・・・初めて見るね」

 

「何時か、イッセーさんもこんな鎧を着るんですね楽しみです」

 

おお・・・・・なんだ?皆に人気者じゃねぇか。

まあ、今回はあいつのおかげで助かったわけだし、あいつが一番の功労者だ。

俺も労いの言葉を言おうとしたら・・・・・。

 

「・・・・・イッセー」

 

「なんだ?」

 

部長が兵藤に声を掛けた。俺たちは様子を見守る。

 

「・・・・・」

 

すると、部長は・・・・・。兵藤の頬を両手で挟むように添えて・・・・・。

 

「ん・・・・・」

 

『・・・・・・』

 

俺たちが見ている前で、兵藤とキスしたぁぁぁああああああああああああああああああっ!

 

「・・・・・」

 

あいつは信じられないものを見る目で、部長を見た!

俺も信じられないものを見る目で部長を見るよ!なぜ、どうしてなのですか!?

部長ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!

 

「私のファーストキスよ。今回のお礼として、あなたに捧げたわ」

 

「お、お前・・・・・・!?」

 

兵藤は、後ずさって初めて狼狽した。もしかして、あいつもファーストキスだったのか?

と、どうでもいい事を考えていたら、部長がビシッ!と兵藤に指を差した。

 

「決めたわ。私、あなたの婚約者になる!シアたちには負けていられないもの!」

 

「・・・・・」

 

部長の言葉にこの場が静寂に包まれた。―――次の瞬間。

 

「はぁああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 

兵藤が驚愕の声音を発した。・・・・・あれ、なんだろう。

この胸の奥から溢れ出てくるようなもやっとした感じは・・・・・?

ああ・・・・・これはあれか・・・・・。

 

「―――禁手(バランス・ブレイカー)―――」

 

兵藤に対する怒りという思いだった。宝玉がより一層に光り輝き、それどころか、

今までにない質量の赤い膨大なオーラを解き放ち始めた。

そのオーラは俺の全身を包み込んでいく。

 

「なっ・・・・・お前、至ったのか?でも、どうして今頃?」

 

さあな、どうしてなんだろう?もっと早く鎧を纏えれたらなーって思うよ。

 

「なぁ、兵藤」

 

「なんだ?」

 

俺は鎧の中で笑んだ。

 

「俺、お前のこと大っ嫌いだ」

 

あれから俺は泣き叫びながら、兵藤に向かって攻撃を開始した。

だけど、あっさりと兵藤に張り倒された。

でも、俺も禁手(バランス・ブレイカー)に至れて赤い全身鎧を纏う事ができた。兵藤のおかげで。

―――――チックショオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

 

 

 

おまけ

 

 

「・・・・・リーラ、いいか・・・・・?」

 

ライザーとの一件を終えた俺は家に帰宅し、約束通り続きを再開した。

俺と彼女、リーラ・シャルンホルストは全裸でベッドにいた。彼女と初めて結ばれる日だ。

 

「はい・・・・・一誠さま・・・・・私をあなたさまのものに・・・・・」

 

そう言い、下から腕を伸ばして来て俺の首に絡める。

ゆっくりと顔を彼女の顔に近づけ、柔らかい唇を重ね―――。

 

「ふむ、その人間が終えたら次は俺にもしてもらおうか」

 

「「―――っ!?」」

 

記念すべき夜に、乱入者が俺たちの横で何か言ってきた!その乱入者は―――!

 

「ク、クロウ・クルワッハ!?」

 

「どうした?さっさとしろ。それとも、俺からしてみるか?

まあ、今まで戦いと修行ばかりしてきた俺に、その手の知識は皆無だ。

お前の指示に従って知識を得ようとしようか」

 

金と黒が入り混じった腰まで伸びた長髪、

黒と金のオッドアイの女性が全裸で俺たちの横で待機をしていた!

 

「な、何でお前がここにいるんだよ!?というか、何時の間に出た!」

 

「さっきだ。さあ、教えてくれ。どうすればいい?」

 

堂々と恥すらしらないとばかり、クロウ・クルワッハは全裸で立って俺に訊いてくる。

 

「―――何をしておる」

 

「「「・・・・・」」」

 

さらにはとっても低い声音を発するものがいた。

俺は壊れたブリキのおもちゃのように扉に向けた。

 

「我を仲間外れにして何をしておる」

 

腰まで伸びた真紅の髪の女性、ガイアが腕を組んで仁王立ちしていた。

 

「・・・・・仲間外れ?」

 

意味深なことを言う彼女。と、突然、ガイアが服を脱ぎ始め、仕舞には全裸になった!

な、なんでだ!?

 

「我も混ぜろ。クロウ・クルワッハの後など許さんからな」

 

「いや、ちょっと待て。ガイア、お前俺のことを・・・・・」

 

「ああ、好きだ。自分でも何時の間にか一誠のことを好きになっていたことに驚いたが、

悪くない感情だ」

 

そう言って全裸のままこっちに来て・・・・・。

 

「一誠、我と愛を育もうではないか。その一歩として我を抱け」

 

「ふむ・・・・・愛か。その感情を得ると俺はどうなるのだろうな?試すとしよう」

 

・・・・・はいっ!?何言っちゃってんのこの二匹は!

 

「・・・・・ダメです」

 

リーラが強く俺を抱きしめた。

 

「一誠さまは私と愛し合うんです。私が先に約束しました」

 

「「ほう・・・・・?」」

 

真龍と邪龍の目がキラリと怪しく輝いた。

 

「ならば、問答無用に襲ってやる」

 

「兵藤一誠、覚悟しろよ?」

 

「・・・・・・」

 

・・・・・明日の朝日を拝めることができるかな?真龍と邪龍に襲われながら、

そう思った俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode番外編

リアス・グレモリーの婚約騒動から数日が経過した。

そして、今日は待ちに待った使い魔と契約する日だ。

俺たち二学年、使い魔を欲しいという生徒たちは体育館に集合している。

百人以上いるはずだが、体育館にいる人数が約半数以下だった。

家の都合か、使い魔を必要としないのか、どっちかなのだろう。

 

「清楚。どこで魔物を使い魔にするんだ?」

 

「使い魔とする魔物が住んでいる深い森の中。

と言っても私自身すら行ったことがないから分からないの。

先輩たちに訊けば、冥界っぽい場所だって言うけどね」

 

冥界・・・・・最近行っていないな。修行以外行かないしあそこ。

 

「でさ」

 

「うん」

 

「―――どうして、リアス・グレモリーたち、三年生の上級生方がいるのかな?」

 

俺の隣の列、三年生の生徒たちが俺たち二学年のように並んで佇んでいる。

その理由を清楚はこう説明する。

 

「私たちの付き添い。強力な魔物を使い魔にしたいという生徒もいるし、

その生徒のために護衛と言う形で一緒に付き添ってもらう事になっているの」

 

「お優しいことで・・・・・因みに、それは全員に付き添うのか?」

 

「そうだよ。魔物の強さに比して、その魔物に対処できる先輩が付き添ってくれる」

 

ということは・・・・・俺の場合はあれだから・・・・・。

 

「サイラオーグと一緒という事になりそうだな」

 

「・・・・・一誠くん。一体どんな魔物を使い魔にしようとしているのかな。

最強の上級生が一緒になりそうだといきなり言うなんて」

 

清楚が呆れた風に言ってきた。だから言ってやった。

 

「五大龍王のティアマット」

 

「・・・・・納得」

 

ポツリと清楚は呟いた。ああ、やっぱり?最強なら最強でしょ。

 

「それで、清楚はどんな魔物に?」

 

「うーん、馬、かな?」

 

「馬って・・・・・飼育できるスペースあるの?」

 

「馬自体が特殊でね?体を自由に変化できるの。大きくなったり小さくなったり。

これなら私でも使い魔にできると思ったの」

 

体を自由に変化できる馬って・・・・・珍しいな。

 

「さて、そろそろ時間だよ」

 

清楚がそう言った次の瞬間。足元が急に光り輝きだした。

俺の視界は白く塗りつぶされ、何も見えなくなったのだった―――。

 

―――○●○―――

 

光が止み、視界が回復した頃。俺たちは怪しげな森の中に佇んでいた。上級生たちも一緒だ。

 

「ゲットだぜ!」

 

いきなり声が聞こえた。上を見上げれば、帽子を深く被り、ラフな格好をした中年の男性だ。

男性は木に登ったまま自己紹介をする。

 

「俺の名前はマダラタウンのザトゥージ!使い魔マスターを目指して修行中の悪魔だ!」

 

よっ、と木から降りたった。

 

「えーと、今年も使い魔にしたいやつらはいやがるな。よーし、俺から注意事項を伝えるぞ。

よーく聞けよ」

 

ザトゥージの話に耳を傾ける。

注意事項その1、一人で使い魔を探しに行かないこと。

その2、先輩と必ず行動すること、

その3、使い魔にしたい魔物は必ず出現するとは限らないので、時間以内に見つからない場合は

その時点で契約失敗と捉える。

その4、契約を失敗してもめけずに違う魔物と契約に挑戦すること。

その5、魔物に攻撃されたら直ぐ上級生に従い逃げること。

 

「以上だぜ!そんじゃ、制限時間は三時間!

自分の使い魔をする際にサポートしてくれる先輩たちと一緒に使い魔をゲットだぜ!」

 

それが始まりなのか、上級生たちが動き始めた。さて、俺は誰だ?予想だと―――。

 

「では行こうか。兵藤一誠」

 

「ああ、よろしくお願いするよ。―――サイラオーグ先輩」

 

案の定、こいつとだった。・・・・・って、

 

「どうしてリアス・グレモリーまで?」

 

「忘れたの?彼は魔力がない悪魔だと、だから彼の代わりに私があなたの使い魔を補助するの」

 

そういえば、そうだったな。清楚の方は誰だ・・・・・?ああ、ソーナか。

なら、安心した。和樹と龍牙もそれぞれの先輩たちと合流して、どこかへといなくなっていく。

 

「それじゃ、私たちも行きましょう。時間は有限だしね」

 

「そうだな。それじゃ、行こう」

 

図鑑を開いて、出現地へと赴く。お前らも、頼むぞ。

 

『向こうから現れてくるかもしれんがな』

 

まあ、そうだろうけど、よろしく頼む。

 

『任された』

 

内にいるドラゴンたちにも頼みながら、俺たちは森の中を進む。

 

「それでイッセー。あなたはどんな使い魔をする気なの?」

 

「五大龍王ティアマット」

 

「・・・・・あなたらしいわね。ドラゴンを使い魔にしようとする人間はあなたぐらいよ?」

 

「悪魔と堕天使、天使はいないのか?」

 

「一応、いることはいるわ。私たちの時だって、あの龍王を使い魔にしようとした者もいた。

でも、姿を現さなかったり、見つけても一蹴りとばかり、

ブレスを吐いて攻撃してくることが殆どらしいわ」

 

うーん、やっぱりそんな感じか。

 

「サイラオーグたちはどんな使い魔?」

 

「私は蝙蝠よ。サイラオーグは獅子だったわよね?」

 

「ああ、家の中で留守番をしている」

 

獅子が番犬の代わりになっていないか・・・・・?獅子がいる家って絶対に近寄りがたいって。

 

「兵藤一誠。見ていたぞ」

 

「何をだ?」

 

「リアスとライザー・フェニックスの戦いだ」

 

あー、あれか。あいつ、ドラゴン恐怖症とかいう恐怖症になっているとか

サーゼクス・グレモリーから聞いたな。

 

「グレートレッドの力を具現化にした鎧・・・その姿で何時か、

お前と真剣勝負がしてみたいものだ」

 

「案外、すぐだったりするぞ?」

 

「くくくっ、それなら嬉しい事だな」

 

楽しみだとばかり、サイラオーグは笑んだ。リアス・グレモリーは苦笑を浮かべるだけであった。

 

「えーと、この辺りなんだけどな。ティアマットの出現地」

 

湖がある場所まで歩いてきた俺たちだ。時間はそれなりに経っている。

 

「もしも、現れたら用心しなさい?

相手は魔王並みに強いという五大龍王最強のドラゴンなのだから」

 

「そうする。でも、魔王並みってどのぐらいだ実際の実力」

 

サイラオーグとリアス・グレモリーに問うた。俺の問いに二人は―――。

 

「まーた、私を使い魔にしようとバカが来やがったようだな」

 

答えることはできなかった。俺の背後から、女の声が聞こえたからだ。

俺はゆっくりと後ろに振り向く。

 

「んん・・・・・?」

 

そこにいたのは腰まで伸びたロングストレートの青い髪。瞳は金色で、

青を基調とした服を身に纏っている女性がいた。彼女は俺を見るなり、ジロジロと見詰めてきた。

 

「お前・・・・・へぇ、これは珍しい。ドラゴンを宿しているのか。

しかもなんだ、意外な奴らがいるじゃねぇか。ははっ、こいつは面白い」

 

俺に興味を持ったのか、俺から視線を逸らすことはない。

 

「なるほど、今回のバカは一味も二味も違うようだな。私を使い魔にしようというバカは

どいつもこいつも、ちょっと突っついただけで直ぐに逃げやがるばかりだった」

 

「もしかして・・・・・五大龍王のティアマット?」

 

「ああ、『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマット。それが私の名だ」

 

・・・・・最近のドラゴンは人化が流行りなのか?誰だか分らなかったぞ。

 

「お前、名は何だ?」

 

「兵藤一誠だ」

 

「兵藤一誠・・・・・なら、兵藤一誠。お前は私を使い魔にしようとここにきたんだな?」

 

彼女の問いに俺は頷いた。でも、と付け加えて言い続ける。

 

「俺の場合、使い魔と言うよりはお前を俺の家族にしようと思っているけどな」

 

「・・・・・家族・・・・・?」

 

「うん、家族」

 

「・・・・・」

 

ティアマットは俺を凝視してくる。彼女は無言で俺を見続ける。と、思ったら―――。

 

「ははははは!はーっはははははっ!」

 

いきなり腹を抱えて笑い始めた。

 

「ド、ドラゴンの私を、か、家族だなんて・・・・ははははははっ!

は、始めて言われた!や、ヤバい!ツボに入った・・・・・・!あはははははっ!」

 

仕舞にはゴロゴロと地面に転がり始めた。

 

―――数分後。

 

「あー・・・・・あんなに笑ったのはいつ以来だぁ・・・・・?笑い疲れたぜ全く」

 

「・・・・・そこまで笑わなくてもいいじゃないか」

 

大いに笑い続けたティアマットはようやく落ち着いて、口を開いた。

 

「悪い悪い。私を家族にするなんてお前が初めてだったんだ。

私を使い魔にしようとするバカは、私の力だけを目当てでやってくるからさ。

お前が本当に初めてだ。私を家族にしようと笑わした人間は」

 

「それで・・・・・俺の家族になってくれるか?」

 

彼女にストレートで問うた。暗に俺の使い魔になってくれるか?と。

 

「その前に私が質問していいか?もしも、私が断ったらどうする?私以外にもドラゴンがいるけど、

私が断ったらそのドラゴンの所に行って使い魔にするか?」

 

「いや?しないけど」

 

「・・・・・なんだと?」

 

不思議そうに問うてきた。何でって言われてもな・・・・・。ティアマットに図鑑を見せ付ける。

 

「確かにこの図鑑には、ティアマット以外のドラゴンが載っている。

でも、俺はお前を家族にしたいんだ」

 

その理由は、と俺は告げた。

 

「最初に見た時、全身が青く、綺麗なドラゴンだなってティアマットを気に入ったんだ」

 

「・・・・・」

 

「でも、ドラゴンだけ限らず、生物には意志がある。俺は相手の意志に尊重して決める。

だから、ティアマットが嫌なら俺は無理強いしないつもりだ。

逆にティアマットのようなドラゴンがいると知って良かったと思うさ」

 

俺の話しを聞いても彼女は無反応。

まあ、散々ティアマットに強引で使い魔にしようとした奴らもいただろう。

そう思うと、俺も引くべきだろうな。

 

『いいのか?こいつを加えれば、お前はさらに強くなるぞ?』

 

そうだろうけど、俺はドラゴンの力だけ頼って勝つつもりはないよ。

時には肉体のみで勝ってみせる。

 

『・・・・・お前がそう言うのであれば、我は何も言わん』

 

ん、ありがとうな。内の中にいるドラゴンに感謝する。

 

「二人とも、行こう」

 

「・・・・・いいの?もう、二度とこの場所には来れないわよ?」

 

「いいさ。姿を見れただけでもラッキーだ」

 

「・・・・・分かったわ。あなたがそう言うのであれば私たちは従うまでよ」

 

「では、元の場所に帰ろうか」

 

サイラオーグの言葉に頷き―――俺は駆け走った。

 

「って、イッセー!?」

 

「元の場所まで駆けっこだ!いざ、勝負!」

 

「面白い、負けんぞ!」

 

「って、サイラオーグ、あなたまで乗ってどうするのよ!?ああもう、待ちなさい!」

 

俺とサイラオーグ、リアス・グレモリーは元の場所まで走って戻った。順位は秘密だ。

 

―――○●○―――

 

「えっ、見つけたけど使い魔にしなかったの!?」

 

元いた場所に戻って二時間後。殆どの生徒たちは使い魔を得て戻ってきた。

清楚も傍らに大きな馬を引き連れて戻ってきた。名前は騅と名付けたらしい。

 

「ん、そっとしておこうと思って」

 

「そっか・・・・・でも、確かにこの子たちも自由に暮らしていたものよね。

なんだか、今になって申し訳なくなちゃった」

 

「後悔しても後の祭りだぞ。そう思うんなら、幸せにするべきだ」

 

「・・・・・そうだね。半端な気持ちで共に過ごしたらダメだよね」

 

騅の額を擦って、よろしくね?と話しかけた。そんな彼女を見ていると、

チラホラと戻ってくる生徒たち。しばらくして、学校に戻る時間と迫った。

 

「よーし、揃ったかー?今回は使い魔を無事に得たようだな。使い魔は生き物だ。

ちゃんと大切に育ててやれよ。そうすれば、そいつらだってお前らに応えてくれる。いいな?」

 

『はいっ!』

 

「そんじゃ、お前らを学校に転送する!」

 

ザトゥージがそう告げた。この森ともう別れか、あっという間だったな。

 

「(ティアマット、元気でな)」

 

心の中で彼女に別れの挨拶を済ました。―――だが、それは意味をなくさせられた。その理由は―――。

 

ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

突然の咆哮が轟き渡った。ザトゥージを含め、俺たちは何だ!?と辺りを見渡した。

 

『やはり向こうから来たようだな』

 

ガイアは楽しそうに弾んだ声で言った。えっ・・・・・マジで?

 

バサッ!バサッ!バサッ!

 

真上から翼を羽ばたかす音が聞こえた。

その音の発信源を見ようと視線を向けたら・・・・・。全身が青く、綺麗なドラゴンがいた。

 

「なっ、あれは!『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマット!?

どうして、ここに現れるんだぁっ!?」

 

ザトゥージが仰天して腰を抜かした。そう、彼女だ。ティアマットだった。

彼女は地面に着陸すると、俺に顔を近づけてくる。

 

「お前・・・・・別れの挨拶に来たのか?」

 

「違う。お前の質問に答えていないから言いに来た」

 

質問・・・・・?はて、なんだっけ・・・・・?首を傾げると、ティアマットは溜息を吐いた。

 

「もう忘れたのか?お前の家族にならないか?という質問だ」

 

「・・・・・ああ、その質問か。でも、お前は自由に生きるべきだと思う。だから―――」

 

「私の意志に尊重するのだろう?」

 

ティアアットは全身を輝かす。見る見るうちに小さくなって、人の形になった。

 

「お前のことを気に入った。だから、私はお前についていこう」

 

「・・・・・いいのか?」

 

「いいんだ。それに、お前が諦めたところで、その後のバカが私の所にやって来て追い返す日々を

繰り返すだけだ。なら、私が気に入った奴の傍にいれば、退屈な思いはしないだろう」

 

それは・・・・・そうだけど・・・・・。

 

「おい、そこの紅髪の女。契約の準備をしろ」

 

「・・・・・人にこき使われるのが一番嫌いなことなんだけど・・・・・しょうがないわ。

今回だけよ」

 

嫌々と、渋々とリアス・グレモリーは俺とティアマットの間に立って魔方陣を展開した。

 

「拒否するなら今のうちだぞ」

 

「それはお互い様だ」

 

そういえば・・・・・契約ってどうやってするんだ?聞いていないから分からないな。

 

「なあ、どうやって契約するんだ?」

 

「え?ああ、それは―――」

 

リアス・グレモリーが契約の仕方について説明しようと口を開いた。だが、それは叶わなかった。

 

「一番簡単な方法ならこうだ」

 

ガシッ!

 

「え?」

 

「お互いの唇を交わすことだ」

 

―――チュッ。

 

『・・・・・・』

 

空間に亀裂が走ったような感じがした。足元に展開している魔方陣は一層に光り輝き、

俺たちを包む。

 

「「・・・・・」」

 

しばらくして、光が治まると彼女は唇を離した。そして、ニッコリと笑んだ。

 

「ふふっ、これからよろしくな。私の旦那さま♪」

 

彼女がそう言った。―――刹那。

 

『はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?』

 

驚愕、怒声が交った叫びが轟いたのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

月光校庭のエクスカリバー
Episode1


「・・・・・」

 

俺、兵藤一誠は目を覚ました。体が気だるく、このまま二度寝したいところだがそうもいかない。

だが、思うように体を動かすことができないでいる。別に金縛りとか、体の異変だからではない。

その理由は・・・・・。

 

「うぅん・・・・・」

 

艶めかしい声が耳元に届く。直ぐ近くから。視線を隣へ移すと、そこにいたのは

深紅の髪の女性、ガイア。本名は真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッド。

不動の存在であり夢幻を司るドラゴンだ。

 

「すぅ・・・・・すぅ・・・・・」

 

逆の方から静かな寝息が聞こえた。また視線を逆の方に移すと、

金と黒が入り混じった髪の女性がいた。

邪龍最強で邪龍の筆頭格と数えられている『三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハ、

それが彼女の名だ。元々、男だったんだが何を考えたのか、女になったんだ。わけが分からん。

 

「一誠さま・・・・・」

 

また声が聞こえた。どうやら寝言のようだ。胸に重みがある。

胸を見下ろすように視線を向ければ、

長い銀髪の女性、リーラ・シャルンホルストが俺の胸の上で寝ていた。

右がガイア、左がクロウ・クルワッハ、真ん中がリーラと言う形で

俺の体に抱きつきながら寝ている。―――三人とも全裸でだ。

 

『よう、ようやくお目覚めのようだな?』

 

おはよう、朝から話しかけてくるなんて珍しいな。

 

『なにせ、あのクロウ・クルワッハを変化させたお前だからな。面白い意味で見ていたぞ』

 

変わったのは自分の意志でだろう。俺は何もしていない。

 

『くくくっ、そうか。まあ、邪龍最強が、真龍が人間に尻を向けている光景は愉快だったぞ』

 

思う存分に愛して可愛がってやっただけだ。

 

『はっ、愛なんて俺には分からん感情だ』

 

『お前は暴れることが好きな邪龍だもんなー』

 

『後、喰らう事もな』

 

内にいるドラゴンは笑みを浮かべたような気がした。

いま会話しているドラゴンはクロウ・クルワッハと同じ邪龍だ。もう一匹もいるが寝ているのか?

 

『しかし、今世の人間は面白いな。伝説のドラゴンを一ヶ所に集める人間なんざ、

今まで聞いた事も見たこともなかった。お前は面白いな』

 

いきなりなんだよ。

 

『なに、そう思っただけだ。

もしかすると、無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィスの奴とも近いうちに出会うかもしれねぇな』

 

その名のドラゴンはたまに聞くな。どんなドラゴンだ?邪龍か?

 

『グレートレッドが生まれた無の空間、次元の狭間から生まれたドラゴンだ。

グレートレッドとオーフィスは同じ時に生まれ、次元の狭間の支配を巡って戦ったが破れた。

最近はあいつの噂は聞かんが、どこかで生きているだろう。

無限の体現者と言われているドラゴンだ。退治されず未だに生き続けている最強のドラゴンだ』

 

二天龍よりも強い?

 

『俺たち邪龍よりも強い』

 

ほほう・・・・・最強のドラゴン・・・・・出会ってみたいもんだ。

 

『あわよくば、家族に加えようと腹か?』

 

本人の意志に尊重する。ティアのようにな。

 

『まっ、あのドラゴンがお前の言う事を聞くかどうか、怪しいもんだ』

 

そうなのか・・・・。

 

「・・・・・んんっ」

 

ん、どうやら起きたようだ。俺の上に乗っているリーラが。

 

「・・・・・一誠さま」

 

「おはよう、リーラ。―――昨日は激しかったぞ」

 

「・・・・・」

 

意味深に言えば、顔を羞恥で朱に染めた。するとまた、体を倒して頬を胸にくっつけてきた。

 

「ずっと、こうしていたいです」

 

「俺もだ。でも、そうは言ってられない。いま、朝の六時だし」

 

「っ!」

 

時刻を言ったらリーラが高速のインパルス如く、布団から抜け出して、

一瞬でメイド服に着替え終わっていた。

 

「申し訳ございません一誠さま。直ぐにご朝食の準備をしてまいります」

 

「お、おう。でも、リーラ」

 

「はい」

 

「・・・・・」

 

無言で「ん」と指をとある場所に差した。

その先にあるのは無造作に捨てられているように置かれているシルクの下着。その下着は―――。

 

「――――――」

 

目にも止まらない速さで下着を取ったリーラの物だった。

彼女にしては珍しく、顔を赤くして部屋から逃げだすようにいなくなった。

 

「・・・・・ふふっ、一誠・・・・・♪」

 

「ううん・・・・・・」

 

未だに呑気に寝ている真龍と邪龍。絶対に放さないとばかり腕や脚を強く絡めては、

豊満な胸を押し付けてくる。

 

『くくくっ、やはり、お前は色々な意味で面白いな』

 

まだ言うか。内にいる邪龍くんは。心の中で溜息を吐く俺であった。

 

 

―――十分後

 

 

ようやくガイアとクロウ・クルワッハも起きた。いまは一階に行くために廊下を歩いている。

 

「ふふっ、一誠と愛を育む行為は病み付きになるな♪」

 

「人間の性交とは・・・・・奥深いものなのだな」

 

方や幸せそうに終始笑みを浮かべる。方や初めて体験した経験と知識に感想を述べ始めた。

 

「一誠、今夜も愛を育もう。お前から感じるあの快感が、愛が欲しくてたまらない」

 

「むっ、またするのか?ならば俺も加わろう」

 

二人はそう言いながら俺に抱きついてきた。俺はこの二人に逆らう術もなく、

 

「ああ、今夜もな。昨日みたいに激しくしてやるよ」

 

肯定するしかなかった。一階に下りる階段を踏み込みリビングキッチンへと赴いた。

中に入れば、朝食を作っていたリーラとリーラを手伝うプリムラ―――、

 

「あら、おはよう」

 

「帰れ!」

 

「開口一番にそれってどういうことよ!?」

 

何故かここにいるはずもないリアス・グレモリーがいた。どういうことだ!?

どうして彼女がいる!俺の疑問はリーラによって解消された。

 

「一誠さまがまだお部屋にいる間にリアスさまが訪問してきたのです。

なにやら、お伝えしたいことがあるようなので、招き入れました」

 

「伝えたいこと?」

 

「ええ、私的な事と公的なことよ」

 

まずは私的から、とリアス・グレモリーは徐に頭を下げた。

 

「ライザーの一件に感謝を言いたい。ありがとう、あなたのおかげで私は結婚をせずにすんだわ」

 

「それを言われたらどう致しましてとしか言えないな。それで、公的なことは?」

 

「学校の行事のことよ。先にあなたに伝えようと思って。来週、駒王学園球技大会があるの知っているかしら?」

 

球技大会。リーラに知っているか?と聞けば、首を横に振った。

彼女が知らなければ俺も知らない。

俺も首を横に振った。知らないと、示せばリアス・グレモリーは口を開いた。

 

「クラス対抗戦と部活対抗戦。この二つの対抗戦や男女別競技も存在するの。で」

 

「で?」

 

「イッセー、あなたを助っ人としてオカルト研究部に入ってもらいたいの。部活対抗戦にね」

 

「助っ人って、そんなの有りなのか?」

 

「ええ、大丈夫よ」

 

ニッコリと笑むリアス・グレモリー。まあ、断わる理由もないから・・・・・いいか?

 

「ん、じゃあ、助っ人としてならいいぞ」

 

「ありがとう、それじゃ一緒に食べましょうか。

あなたと一緒に登校したいと思って訪れた理由の一つだからね」

 

「そっちが本命だろう」

 

「ふふ♪」

 

はぁ・・・・・まあ、面倒なことにならなければいいが・・・・・。

 

 

―――○●○―――

 

 

『待っていたぞ!兵藤一誠ッ!』

 

やっぱり、面倒事は起こるものか。リシアンサス、ネリネ、リコリスと合流をし、

俺とリーラ、プリムラとリアス・グレモリーは駒王学園に登校した。

そして、校門と学校の玄関に繋がるかなり広い敷地に嫉妬集団が集結していた。

 

「・・・・・で、どうしているんだ?」

 

「ふっ・・・・・愚問だね一誠」

 

嫉妬集団の前になぜかいる緑葉樹。

 

「一誠、キミはリアス先輩と婚約したそうじゃないか?それは事実なのかな?」

 

緑葉樹があのことを訊いてきた。お前、どうしてその情報を?

 

「えっ、そうなの!?」

 

「知りませんでした・・・・・」

 

「じゃあ、私たちと同じなんだね」

 

魔王と神王の娘たちは知らなかったようだ。驚いた表情でリアス・グレモリーに向かって呟いた。

 

「ええ、そう言う事よ。だから、あなたたちには負けないわ」

 

肯定とばかり、不敵の笑みを浮かべては、俺の腕に自分の腕を絡めつける。

そう、見せつけるように。

 

「・・・・・どうやら本当のだようだね。残念だよ、友人を一人失うことに心が痛むよ」

 

「嘘付け。思いっきり歓喜に笑顔を浮かべてなに言ってやがる」

 

「この笑顔はこれから一人の友人を失う最後の手向けさ。―――魔法部隊、前へ!」

 

ザッ!

 

悪魔、天使、堕天使、中には魔法使いと言う人間が前に現れた。

 

「我がアイドルたちに攻撃の余波すら与えることは万死に値する!心して掛かれ!」

 

「だったら攻撃してくんなよ。つーか、そっちがその気ならこっちだって考えあんぞ」

 

「へぇ、どんな考えだい?」

 

「こうだ」

 

パチンと指を弾いた。俺たちの背後に巨大な魔方陣が現れる。

その魔方陣からゆっくりと大きな影が姿を現す。

 

「・・・・・へ?」

 

全身が青い綺麗なドラゴン。『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマットだ。

彼女の登場に嫉妬集団が固まった。

 

「・・・・・ねえ、一誠?」

 

「なんだ?」

 

「俺さまたち友達だよね?」

 

ヒクリ、と顔を引き攣らせながら緑葉が言う。さて、なんのことだ?

 

「俺の友人にナンパ野郎なんて存在しない。―――ティア、半殺し程度に頼む」

 

「任せろ」

 

刹那―――。ティアマットの口内から青い灼熱の炎が吐き出された。

 

―――二年F組

 

 

ガラッ・・・・・。

 

「おはよう」

 

「おはよう、今日は過激だったね」

 

和樹が苦笑しながら出迎えてくれる。おう、と返事をして自分の席に座った。

 

「怪我はない?」

 

「ああ、かすり傷一つもない」

 

清楚に心配されるが、本当だ。

 

「それにしても、一誠さんの使い魔は凄いですね。

さっそく力を見せてもらいましたけど、凄かったですよ」

 

「ああ、ティアに半殺ししてくれるように頼んだから本気でもないぞ?」

 

ティア?と不思議そうに疑問を浮かべる龍牙。その疑問を解消するために口を開いた。

 

「ティアマットだからティア。女の子らしい名前だろ?まあ、名前を半分にしただけだけどな」

 

「でも、可愛いと思うよ?」

 

「ありがとう。そう言ってくれると安心する。

ところで、和樹と龍牙、カリンの使い魔はなんだ?」

 

そう問うと三人は教えてくれた。龍牙は黒い獣。カリンはマンティコア、和樹は―――。

 

「ウィンディーネだよ」

 

そう言って小型の魔方陣を展開した。光り輝く魔方陣から小さな女の子が出てきた。

 

「へぇ、可愛いですね。名前はなんて言うんですか?」

 

「一誠と同じで名前を半分にしたんだ。だからウィンだよ」

 

「小さいね。もっと大きいかと思った」

 

「この大きさで出しているからね。本来の大きさは僕と変わらないよ」

 

なるほど、和樹の魔法は小型にすることも可能か。便利だな、魔法って。

 

「そう言えば、もうすぐ球技大会ですね」

 

「あっ、もうそんな時期なんだ。楽しみだね」

 

「そうだな。クラス対抗戦と部活対抗戦、どんな種目でするんだろうな」

 

「あれ?一誠くん、知ってるの?」

 

「今朝、リアス・グレモリーが家にやって来て球技大会のこと説明された。

ついでにオカルト研究部の助っ人として部活対抗戦にも出なきゃならん」

 

「「「はい?」」」

 

清楚、和樹、龍牙が信じられないと言った感じで返事をした。

 

「それ、本当なの?」

 

「ああ―――」

 

そうだ。と言おうとした次の瞬間。ガラッ!と教室の扉が開いた。

 

「あのー・・・・・兵藤一誠くんはいますか?」

 

俺を尋ねる声の正体。隣のクラスのデイジーだった。俺に何か用か?

と、思いながら席から立ち上がり、自分の存在をアピールする。

 

「どうした?」

 

「あっ、兵藤くん」

 

トコトコと教室に入り、こっちに来た。

 

「あの、お願いあるの。皆さんも同じお願いなんですけど」

 

「お願い?」

 

首を傾げた。珍しく彼女からのお願いだ。今回が初めてだな。

 

「うん、ほら、私って放送部員でしょう?」

 

「そうだな。それに部員はデイジーしかいない・・・・・ああ、そういうことか?」

 

「分かっちゃった?」

 

苦笑を浮かべるデイジー。放送部も例外ではなく、部活対抗戦に参戦しないといけない。

だが、メンバーは彼女一人だけだ。なので、彼女は一人で部活対抗戦に臨まなければならない。

 

「お願いします!放送部の助っ人として部活対抗戦に出て欲しいんです!

頼める人は兵藤くんたちしかいないんです!」

 

合掌するように手を合わせて乞うデイジー。そんな彼女のお願いに、清楚たちを見渡す。

 

「私たちはクラス対抗戦をするだけだから、助っ人大歓迎だよ」

 

「そうですね。クラス対抗戦の後は、終わるまで暇ですし」

 

「それに、直接お願いされたら断るなんてできないね」

 

「力になるぞ、デイジー」

 

「私も、力の限りにお助けしましょう」

 

皆は助っ人する気満々だった。俺も頷いてデイジーに振り向く。

 

「そう言う事だ。友達同士、一緒に頑張ろう」

 

「皆さん・・・・・」

 

「なんなら、シアとネリネ、リコリスも誘うか。

仮に野球だったら人数が足りなくなるし、誘えるだけ誘って球技大会に臨もう」

 

「稟たちも呼ぶ?」

 

「緑葉を抜かせよ?」

 

分かっているよ。と、和樹は苦笑いを浮かべた。

 

「ありがとう・・・・・」

 

「「「「「「どういたしまして」」」」」

 

感激したと、満面の笑みを浮かべるデイジーに対して、当然とばかり返事をした。

 

 

―――○●○―――

 

 

―――昼休みIn屋上

 

 

「と、そう言うわけだ。オカルト研究部の助っ人はできない」

 

「そう。まあ、彼女一人だけ部活対抗戦なんて可哀想だから仕方ないわね」

 

「あの、ごめんなさい」

 

「いいのよ。こちらの部員は多いし、イッセーを誘ったのは一緒に対抗戦をしたかっただけ」

 

リアス・グレモリーは手を振りながら発言した。今日も快晴の下で昼飯を食べている。

 

「流石にクラス対抗戦は助っ人できないから勘弁してくれ」

 

「大丈夫です。もしも戦う事になったら正々堂々と勝負です」

 

「おう、楽しみだな」

 

健気に戦意の意志を示すデイジー。

当日にならないとどんな種目で勝負するのか分からないらしい。

まあ、このメンバーなら何とかなるだろう。

 

「それにしてもリアス。あなたはとんでもないことをゲーム中に言ってくれましたね。

そのおかげでシーグヴァイラの眷属悪魔が余計なことをして、また面倒事を起こしてくれました」

 

若干、厳しい目でリアス・グレモリーに向けて言った。

おおう、クールなだけに睨んだ目は怖さを感じさせてくれる。

 

「・・・・・それについては申し訳ないわ。でも、私は生半可な気持ちで言った訳じゃないの」

 

リアス・グレモリーは何時にも増して真剣な表情で言った。

 

「彼は私のために、私の可愛い下僕たちのために勝利を導いてくれた。

私はその対価と評したお礼として、彼に尽くすと決めたわ。

これで二度目だもの。私を救ってくれたのは」

 

二度目・・・・・?・・・・・ああ、あん時か。幼少の頃、はぐれ悪魔の件か。

 

「ソーナ。悪いけど、あなたにも負けはしないわ」

 

「・・・・・」

 

「あなたもいまの立場が嫌なら、彼に助けを求めなさい。彼は絶対に救ってくれる」

 

いまの立場・・・・・?彼女も婚約者がいるということなのか?

ソーナ・シトリーは無言で、目線だけ俺に向けてくる。

 

「・・・・・分かっています。私も、そのつもりなのですから」

 

「俺、頼られると緊張しちゃうタイプなんだけどねぇ?」

 

「実戦でしたら、思いっきり動いても構いません」

 

「よし、悪魔を蹂躙してやろう」

 

彼女の言葉を聞いてやる気を出した。誰でもかかってこい!って感じにだ。

 

「ははは・・・・・そう言えば、一誠の戦いぶりはどうでした?」

 

龍牙がソーナ・シトリーに訊ねた。あの試合のことについてだ。彼女は頷いて語った。

 

「ええ、『強い』の一言でした。ライザーの眷属悪魔を一人で殆ど倒しました」

 

「というか、半分弱くて半分まあまあな奴らばっかりだった。ライザーは別格だったけどな」

 

「やっぱり、ライザーは強かったですか?」

 

「俺にとっては強いと思うぞ?でも、リアス・グレモリーたちが体力と魔力が

万全ではない状態だったら負けていたかもしれないな。相手、不死だし」

 

ああ・・・・・とリアス・グレモリーとソーナ・シトリー以外の面々が納得した様子を伺わせる。

相手の精神が尽きるまで、傷一つも付けれる事もなく再生し続ける能力はとても厄介だ。

ライザーより魔力がなければ負けるのが必然的だった。

それも魔王級の一撃が放てないなら尚更だ。

 

「最後に私が倒したような形で勝ったけど、殆どイッセーが弱らして勝たせた貰ったものよ。

私は彼に助けられているばかりだったわ」

 

「弱い自分が嫌ならもっと強くなることだ。強くなりないなら最初に自分の魔力、

消滅でも極限に高めたらどうだ?面白いものを教えてやるからさ」

 

「面白いもの?」

 

「ああ、山での修行の合宿中で俺は面白いことを身に付けた」

 

手の平に魔力を溜め、炎に具現化した。さらに炎の形を手のように変えて、箸を掴んだ。

持った部分は焦がスどことか燃えずにいる。本来あり得ない現象だ。

そのため、皆は驚いた表情を浮かべた。ただ一人除いて。

 

「へぇ・・・・・炎の質を変えて物質のように持てるようにしたんだ?」

 

「その通りだ。魔力で水を氷にできるんなら、他にもできるんじゃないか?

って、思って試したのがこれだ」

 

魔法使いの和樹だ。瞬時で見破った。流石と言うべきか。

 

「消滅もただ、削るだけじゃなく質を変えてやれば、打撃や斬撃にもなるんじゃないか?

余計な出力を大幅に削減できて威力がより増す」

 

「・・・・・なるほど、ただ闇雲に放つだけじゃ、魔力の無駄使いとなるのね」

 

「イッセーくんのように質を変えれば、戦術が大幅にアップする。魔力の消費を抑えて尚、

威力が上がる。素晴らしい発想です」

 

「属性魔法も同じようにすれば・・・・・うん、面白い事になりそうだ」

 

等々、魔法を使う面々がブツブツと呟き始めた。

 

「狭い場所でも、質を変えて鞭のように攻撃すれば、攻撃範囲は変わらずですね」

 

「遠距離から攻撃する相手を捕まえようとする時もそうね」

 

「質を変えたまま魔法を放つこともできるんじゃないかな?」

 

「となると、攻撃のバリエーションが・・・・・」

 

「距離もオールラウンダーにもなって・・・・・」

 

「戦況によって臨機応変しやすくなる・・・・・」

 

・・・・・なんだろう、魔法講座になっていやしないか?

 

「ふふっ、私も無自覚にライザーのような気持ちで勝負をしていたかもしれないわね。

グレモリー家の消滅の能力は強いって、驕っていたかも」

 

「ですが、彼の発想で変わりましたのよね?」

 

「ええ、時間が空いた時にでも練習をしてみるわ。消滅が打撃にも斬撃にもなるなんて、

お兄さまが知ったらきっと驚くわ」

 

逆に、凄いじゃないか!と、褒めまくるんじゃないか?シスコンぽいし、あの男は。

 

「まあ、質を変えるのって最初は大変だけど、慣れれば呼吸をするような感じで直ぐにできる。

頑張れよ」

 

ポンポンと炎の手でリアス・グレモリーとソーナ・シトリーの頭を触れた。

 

「・・・・・本当に炎の質を変えているんですね」

 

「でも、できたらこれで触れてほしくないわ。

髪の毛が燃えると思うと冷や冷やしてしょうがないわ」

 

「おっと、悪いな」

 

ボッ!と炎を消失させた―――。

 

―――バンッ!

 

『兵藤一誠いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!』

 

「こいつ等には悪いとは思わないがな!」

 

巨大な炎の手を発現して嫉妬集団を全員纏めて掴んだ。

 

「な、なんじゃこりゃあああああああああああああああああああ!?」

 

「燃えろ!」

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

『あっちぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?』

 

嫉妬集団を火達磨にし、そのまま運動場の方へ放り投げた。

 

「お、鬼だね・・・・・」

 

「ゴキブリ並みの生命力をあいつらに、同情なんて必要ない」

 

一刀両断の如く、バッサリと切り捨てる俺であった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode2

―――放課後。

 

「そんじゃ、帰るか」

 

「はい」

 

最後の授業が終わり、学校は無事に終了した。

清楚たちと別れの挨拶をし、リーラと共に一年生の教室にへと赴く。

俺たちと家に住んでいるプリムラを迎えに。プリムラは一年F組にいる。

 

「プリムラは友達を作れているかな?」

 

「シアさまたちと接しているのですから、問題はないかと」

 

「人との付き合いが疎そうだからな。変な奴らに話しかけられていないといいんだが―――」

 

一年のクラスの廊下に辿り着いた。その直後だった。俺の視界に薄紫のツインテールの一年生が、

のっぽとデブ、チビの三人組に話かけられている光景が飛び込んできた。

 

「・・・・・あれ、何だと思う?」

 

「・・・・・呼吸が荒く、目が血走っていなければ、友好的な場面だと伺えます」

 

「そうか・・・・・この時、俺があの三人を火達磨にしてプリムラを保護するなんて、

ことしたら?」

 

「ただの変質者であれば、お咎めなしかと思います」

 

そうか、変質者ならばか・・・・・。よし、

 

「プリムラー」

 

取り敢えず呼ぼうか。彼女の名を発すれば、プリムラは顔をこっちに向け、

俺たちの存在に気付き、三人組から離れてこっちに来る。

 

「イッセー、リーラ」

 

「帰ろうか」

 

「うん」

 

頷くプリムラ。彼女の頭を撫でて玄関へと赴こうとする。

その時、背後へ一瞥すれば、三人組が俺に嫉妬の視線を向けている事に気付いた。

 

「(プリムラのファンクラブまでできそうだな)」

 

あながちその通りになりそうなことを思い浮かべ、二人と帰路する。

 

「そういやぁ、プリムラ。友達はできたか?」

 

「何人か」

 

「そっか、それはいいことだ。が、変な生徒と友達にはなるなよ」

 

「変な・・・・・?」

 

首を傾げるプリムラ。「自分が変な人だと思った奴だ」と説明する。

 

「うん、わかった」

 

「まあ、よく話し合って、相手を知ってからそうするんだぞ?」

 

プリムラはコクリと頷く。素直でいい子だ。

 

―――兵藤家

 

「よーう、一誠殿お帰り!」

 

「おかえり、一誠ちゃん」

 

家に着いて早々、騒がしい王二人に話しかけられた。

 

「た、ただいま・・・・・」

 

「どーした、もっとシャキ!と返事をしねーか!」

 

「突然、出迎えられて、驚いて困惑しているんだよ・・・・・」

 

「おお、そいつはすまねぇな。今度はもう少し抑えて出迎える」

 

腕を組んでそう言うのは、天界の王、神王のユーストマ。

 

「で、どうして二人揃って外に佇んでいたんだ?」

 

「いやー、いま学校では球技大会というものが行われるそうじゃないか。

それで、私たちも娘たちの応援でもしに行こうかなって思っていたんだ」

 

「(絶対に恥ずかしがるぞ。この二人が見に来る時点で)それで、球技大会と二人が外にいる

理由と関係が?」

 

「正直と言って、全く関係ないんだ。ただ、一誠ちゃんを待っていたというのは関係あるよ」

 

そう言うのは、冥界の王の一人、魔王フォーベシイ。俺を待っていた?

 

「俺に話しか?」

 

「ああ、できればシアたちには知らせたくねぇ話しだ」

 

ユーストマの表情に真剣さが帯び始めた。フォーベシイも瞳がマジになっている。

 

「・・・・・取り敢えず、中で話しを聞くよ」

 

家に向かって親指で差す。二人は頷いて、俺たちと一緒に家の中へ入る。

玄関で靴を脱いで部屋に行かずリビングキッチンに赴いた。

 

「それで、あいつらに知られたくない事情って?」

 

ソファーに座って開口一番に問うた。まず口を開いたのはユーストマだ。

 

「話す前に訊きたいことがある。一誠殿、聖剣ってやつぁ知っているか?」

 

「聖剣?聖なる剣と書いて聖剣のことか?」

 

「ああ、あながち間違っちゃいねぇ」

 

深々とユーストマは頷いた。聖剣については毛が生えた程度でしか知らない。

精々、悪魔を屠るための武器としか知らない。

 

「聖剣は私たち魔王と悪魔を倒すために生まれた聖なる武器、それが聖剣なのさ。

その武器を太古から人間たちが使い、振るい、悪となる存在である魔物やドラゴン、

神すら倒した」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

「・・・物凄く軽く受け入れられたけど、その聖剣に関してちょっと問題が起きたんだ」

 

苦笑を浮かべたフォーベシイが気になる発言を零した。

 

「一誠ちゃん、自分の中で一番有名な武器って何だと思う?」

 

「ドラゴンスレイヤー」

 

龍殺しの剣と称されている有名な武器の一つ。

ドラゴンと関わっているからドラゴンと対なるものに興味が付かない。

それに俺も人事ではないからだ。フォーベシイは頷いて口を開く。

 

「うん、確かにその武器も有名だね。なにより、一誠ちゃんにかなりの威力を誇る武器だ。

その身にドラゴンを宿す一誠ちゃんに大ダメージを与えるのだからね。

でも、ドラゴンスレイヤーだけじゃない」

 

「―――エクスカリバー」

 

神王が腕を組んで、瞑目したまま何かの名前を言った。

 

「エクスカリバー・・・・・?」

 

「勝利の剣、魔法で鍛えられた剣、色々と言われるその聖剣がね、

数時間前に何者のかの手によって保存、保管していた教会から奪われていたんだよ」

 

・・・天界と教会からしてみれば、大変な事件だことで。

でも、どうして魔王のフォーベシイが知っているんだ?

 

「神ちゃんから聞いたんだよ」

 

「人の心を読むな。それで、神王。

アンタが知っているという事なら、天界にいるヤハウェたちの耳にも入っているんだろう?」

 

「ああ、当然だ。この件にあの方は随分と驚いている様子だったぜ。

なんせ、相手が相手だし、どんな目的で聖剣を三本盗ったのか未だにわからねぇ」

 

三本・・・・・?エクスカリバーは一本じゃないのか?ユーストマから発した気になる発言に、

疑問をぶつけた。

 

「エクスカリバーは数本あるのか?」

 

「そうだよ。だが、本来エクスカリバーという聖剣は一本だったんだけど、

大昔の戦争で一本だったハズのエクスカリバーは折れ、四散したのさ。

そこで、教会側は四散したエクスカリバーを新たなエクスカリバーへと

折れた刃の破片を拾い集め、錬金術で再構成し、七つのエクスカリバーを作り上げたのだよ」

 

「カトリック教会、プロテスタント教会、正教会にそれぞれ二本ずつ聖剣を保存、

保管していたんだ。残りの一本は三大勢力戦争の折に行方不明だ。いまでも探しているんだがな」

 

ふぅ、と一息吐くユーストマに、リーラが現れて俺たちにお茶とコーヒーを配ってくれた。

二人は彼女に短く感謝の言葉を言い、一口飲む。

 

「だがな、行方が分からない一本のエクスカリバー以外の六本のうちの三本が奪取された。

それぞれの教会から一本ずつな。ついでに七本の聖剣の名前は―――」

 

天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』、『透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)』、

夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)』。それが奪われた三本の聖剣らしい。

残りの聖剣は『破壊の聖剣(エクス・カリバー・デストラクション)』、『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』、

祝福の聖剣(エクスカリバー・ブレッシング)』。そして、行方不明の聖剣、『支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)』。

これが新たに作られた七本のエクスカリバーの名だ。

 

「それで、教会から聖剣を盗んだ奴って誰なんだ?」

 

「「・・・・・」」

 

二人は一度、顔を見合わせた。

 

「堕天使だよ」

 

「―――――」

 

「しかも、大昔の戦争に生き残ったかなりの実力を有する堕天使だ。

神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部、コカビエルと言う堕天使だ」

 

堕天使・・・・・だが、あいつじゃないようだな。少し、残念だった。

 

「四種交流をしている私たち悪魔と天使、堕天使、人間から大問題を起こすようなことがあれば、

どんな方法でも人知れず解決しないといけないんだ」

 

「小規模な事件だったら警察やら一般人の間で事が済む。

だが、町一つ、国一つ、世界を巻き込む大事件が俺たち神々と魔王、悪魔と天使、堕天使、

人間が起こしてしまえば、四種交流が非常に危ぶまれる。

永い時をかけてせっかく俺たちの存在を認められ、堂々と人間界に生活できる状況と

状態になったんだ。平和を守るためにも今回の事件を水面下でケリを付けたい」

 

「そこで、一誠ちゃんに頼みがある」

 

二人が真剣な面持ちで俺を真っ直ぐ見詰めてくる。

 

「後日、教会から派遣してくるであろう二人の教会の者がこの日本に訪れてくる。

その二人と一緒にコカビエルを探し、奪われたエクスカリバーを奪還してほしい」

 

「もちろん、強制でもないしタダとも言わない。これは私たち魔王と神王、神、

ヤハウェからの依頼だよ。依頼を達成したら、キミが望むものを叶える」

 

俺が望むものね・・・・・。

 

「その望みって何でもか?」

 

「私たちができる範囲であればね。女の子が欲しいというのなら、

ネリネちゃんとリコリスちゃんをオススメするよ?」

 

「シアもだぜ!」

 

「・・・・・絶対だな?」

 

念を押す。余計なことは言うなと、意味も込めて。

 

「ああ、魔王はラスボス的な存在だけど嘘は付かないよ。

魔王フォーベシイの名に誓って嘘は付かない」

 

「俺も嘘は言わん。神王ユーストマの名に誓って絶対にな」

 

二人はハッキリとそう言った。そうか、なら・・・・・。

 

「もし嘘をついたら」

 

「「嘘をついたら・・・・・?」」

 

「―――仮にシアたちと結婚しても、アンタらのことを魔王さま、

神王さまと死ぬまで呼び続けるから♪」

 

ニッコリと笑みを浮かべた。すると―――。

 

「「―――――」」

 

ユーストマとフォーベシイの背に落雷が落ちた幻想が見えた。

絶句し目を丸くし、開いた口が塞がらないでいる。しばらくして―――。

 

「「絶対に嘘は付かないからそれだけは勘弁してくれぇっ!」」

 

号泣の如く、涙を流し、詰め寄ってきたのだった。ええい、鬱陶しい!

 

 

―――???

 

 

某国、様々な国へ赴くために空港を利用する大勢の客がいる中、

白いフードを身に包んだ二人がいた。

 

「準備は良いな?」

 

「うん、勿論よ。久々の日本、楽しみだわ」

 

「極東の地は私にとって未知な国だ。キミは小さい頃、住んでいたそうだね?」

 

「そうよ。それに・・・・・(私の幼馴染がいた国だもの・・・・・)」

 

一人の人物が徐に顔を曇らした。そしたら、

 

「イリナ?」

 

もう一人の人物が不思議そうに黙った人物に話しかけてきた。

イリナと呼ばれた人物はハッ、と意識を戻して首を横に振る。

 

「どうした?急に元気をなくして」

 

「ううん、何でもないわ。そろそろ出発する時間ね。行きましょう」

 

「ああ、早く神王さまのもとへ行こう。それに、気になる人もいるしね」

 

「気になる人?」

 

「シアさまと魔王の娘たちの許婚候補の男の事だ。どんな男なのか、早く会ってみたいんだ」

 

「きっと素敵な人だと思うわ。シアさまが好意を寄せる人なんて滅多にいないもの」

 

「―――神にも魔王にも人王にも凡人にもなれる男・・・・・か。面白い男だと言いな」

 

「あなたが言う面白いってどんなのよ?」

 

「会ってからのお楽しみと言う奴だよ」

 

二人は悠然ととある場所へと目指した。

―――とある目的のため、日本に飛び立つ飛行機に乗り込むために。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode3

バーン!バーン!

 

球技大会を知らせる花火が空に響く。今日の天気予報では夕方から雨だそうだが、

例え雨がいま降ろうとも学校に結界を張れば雪だろうが何だろうが、中止になることはまずない。

なので、降ったとしても球技大会は中止にはならない。

 

『漫画研究部の塚本、くん橋岡先生がお呼びです。至急、職員室まで―――』

 

校庭に設置されたテントのスピーカーも休みなしでアナウンスを発し続けている。

体育着に着替えた俺とリーラ、清楚と和樹、龍牙とカリンは肯定の一角に集まり、

それぞれのリラックスする方法で時間まで体を休めていた。

デイジーは放送部なので、最後の部活対抗戦まではずっとアナウンスを発し続けている状態。

さっきのアナウンスはデイジーの声だ。

そんな彼女の声を聞きながら最初に行う競技はクラス対抗戦。

 

「俺たちのクラスは野球だったな?」

 

「うん、そうだったよ」

 

「何時ものメンバーと数揃えとして数人、動ける人で十分でしょう」

 

「緑葉と当たったら、あいつの眼鏡を粉砕してやる」

 

「デットボールする気満々の人がいるよ。ダメだからね?」

 

チッ、ダメか・・・・・。まあ、次がある。男女別の種目だ。で、昼を挟んで部活対抗戦だ。

 

「さて、部活対抗戦の競技は何でしょう?」

 

「簡単な奴が良いな。ドッチボールとかで」

 

「まず最初に一誠が狙われるね確実に」

 

クスクスと笑む和樹。くそ、こいつの言う通り、ドッチボールだったら真っ先に狙われるのは

俺だろう。だが、やられっぱなしでいる俺じゃない。倍返しにしてやり返すぜ。

 

「あっ、デイジーさんが来ましたよ」

 

タタタッと駆けてくるデイジーを龍牙が捉えた。

 

「部活対抗戦の競技が分かりました!」

 

「そうか。それで、なんなんだ?」

 

尋ねる。彼女は「はい」と言って告げた。

 

「ドッチボールです」

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

その一言で全員が俺に視線を向け始めた。

 

「頑張ってください、の一言です」

 

「・・・・・全て、薙ぎ払ってやる」

 

「因みに部活対抗戦で優勝したら、部費が多く貰えるから頑張ろうね」

 

そっか。それならデイジーのために頑張るとしよう。

 

 

―――○●○―――

 

 

バコーンッ!

 

クラス対抗戦があっという間に終わったいま、男女別の種目を俺はしていた。

いましているのはテニスだ。

 

「いやー、まさか・・・・・こんな形で勝負することになるとはな」

 

相手から放たれた豪速球を打ち返しながら、相手に向かって言う俺。

 

「これはこれで楽しいではないか、兵藤一誠」

 

相手はなんと三年S組のサイラオーグ・バアルだ。何と言うか・・・決着が全然つかない!

かれこれ、テニスをして十分は続いているぞ。どちらも0-0だ。

あっちが打てば、俺が打ち返して、俺が打ち返せば、あっちは打ち返してくる。

そんな永遠に続くかのようなテニスをしていても、

 

「サイラオーグさまぁ!頑張ってくださぁーい!」

 

『サイラオーグ!サイラオーグ!サイラオーグ!』

 

俺たちの試合を全校生徒は見飽きない。おお、声援が凄いな!何気に女子の声援が多い。

 

「モテモテだな」

 

「俺のことを信用、信頼してくれる故であろう」

 

「うわ、恰好いいなおい」

 

「そう言うお前はどうなんだ?」

 

あー、俺か・・・・・。

 

「負けろぉー!兵藤ぉー!」

 

『全ての男の敵!ここで死ね!』

 

こんな感じで、ブルーな声援ばかりなんですよ。

 

「俺って嫌われ者で、一部の奴らしかしてくれないさ」

 

「ふっ、そうか」

 

ガッゴンッ!

 

サイラオーグが異様な音を出してボールを弾き返した。そのボールを打ち返さずスルーすれば、

ボールは真っ直ぐ俺の背後に飛んで、フェンスをぶち抜いて、

テニスコートの付近に生えている木を真っ二つにへし折った。

 

『・・・・・』

 

「試合中に兵藤一誠に対し罵倒する者は誰であれ容赦しない。―――静かにしろ、最終警告だ」

 

本気とも言える闘気、プレッシャーを放つサイラオーグ。その言葉に嫉妬集団が静まり返った。

全校生徒の中で最強と称されている男に逆らえば、鉄拳なんて生易しい体罰じゃないだろうによ。

 

「さっきのはノーカウントだ。いくぞ―――?」

 

「ああ、そろそろ穴を埋めないとな」

 

「先に埋めるのは俺だがな」

 

そう言ってボールを上空に放り投げて激しく打ってくるサイラオーグ。

とても今を楽しんでいるような笑みを浮かべて。

 

 

―――○●○――

 

―――昼休み

 

 

「で、結果ドローと言うわけになった一誠くんでした」

 

「ははは、相手が相手だし、どっちも一ゲームすら手に入れられなかったんだから

しょうがないよ」

 

「どっちも負けず嫌いな感じで打っては打ち返すばかりでしたね」

 

「見ていて『凄い』の一言が尽きた」

 

「お疲れさまでした一誠」

 

外にとある場所でブルーシートを敷いて昼食している俺たち。

皆、俺とサイラオーグのテニスの話で盛り上がっている。

 

「ラケットの網がもう少し丈夫だったらなぁ・・・・・」

 

「本気でやっちゃうと破けるとか?」

 

「だな、サイラオーグも軽く打ってあの速さと重さだ。

本気で、全力で打ち返してきたらラケットが耐えきれずに使用不可の状態に陥っていた」

 

「うわ、流石は最強の生徒だね。」

 

「打ち続けるとこんな感じだ」

 

右腕を見せ付ければ若干震えている。疲労困憊で右腕に力を籠められない。

 

「マジで・・・・・?」

 

「途中で両腕でやっただろう?あれ、右手が握れなくなってきたからカバーしてたんだ」

 

「・・・・・あの人、どんだけパワフルな人なんですか」

 

若干、恐れ戦きだす和樹と龍牙。

 

「次の部活対抗、大丈夫?」

 

俺の右腕を掴んでマッサージをしてくれる清楚が、不安げに上目づかいで訊いてくる。

 

「サイラオーグ並みの力のある奴じゃなきゃ、皆に任せられる」

 

「うん、任せて。一誠くんを守るから」

 

「ん、ありがとうな」

 

お礼と称して黒い髪を撫でたら、清楚は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「・・・・・なんだろう、物凄くいい雰囲気なんだけど」

 

「葉桜さんがついに春到来ですかね?」

 

「不純異性交遊ではないなら・・・・・問題ないか」

 

「・・・・・」

 

俺たちを余所に、和樹たちは何か言っていた。

リーラが羨望の眼差しを向けてくる。後で撫でてやるから我慢してくれ、

 

 

―――○●○―――

 

 

「まさかのまさか、ここで対決するとはな・・・・・」

 

部活対抗の時間となり、デイジーと協力を得たシア、ネリネ、リコリスと合流を果たし、

俺がいま放送部とドッチボールする相手と話しているのは―――、

 

「本当ね」

 

苦笑するオカルト研究部部長ことリアス・グレモリーだ。

放送部はオカルト研究部と戦う事になったのだった。

 

「サイラオーグとのテニス、見てたわ。とても楽しそうに打ち合っていたわね」

 

「おかげで右腕に力が入んない結果になったぞ」

 

「あら、それじゃあ私たちに勝ち目があるということね?」

 

「お前たちじゃなきゃ、皆に任せる予定だったがな」

 

白い髪の小柄な女子生徒、塔城小猫を一瞥する。

 

「グレモリー眷属一の馬鹿力を誇る猫がいるからそうもいかなくなった」

 

「うふふ、今度、私とデートするならお手柔らかにしてもいいわよ?」

 

「それ、お前が俺を当てたらしてもいいぞ?」

 

「―――そう、なら、あなたは私の獲物ね」

 

ギラリ、とリアス・グレモリーの目が獲物を狙う鷹のような眼つきになった。

 

「・・・・・ところで訊いて良いか?」

 

「なに?」

 

「あいつ、どうした?」

 

俺が向ける視線の先、ボーとしている木場祐斗がいる。

 

「・・・・・私も分からないの。最近ああで・・・・・、どうしたのかしら」

 

「悩み・・・・・って感じじゃなさそうだな。遠い目をしているし・・・・・・」

 

「取り敢えず、しばらく様子を見るわ」

 

だから――と、リアス・グレモリーは言う。

 

「あなた、私以外に当てられないようになさい」

 

「時間以内に当てられなかったらソーナお菓子を食ってもらうからな」

 

「―――――」

 

俺の言葉を聞いて、リアス・グレモリーの顔に血の気が引いたのが分かった。

 

「あ、あなた・・・・・死ねと言いたいの?」

 

「大丈夫、俺が『リアス、大丈夫か?』っと、感じでずっと傍にいて介護するさ」

 

そう言うと、

 

「考えようによってはいい?でも・・・・・彼女のお菓子を食べて生死を彷徨うなんて嫌・・・。

・・・・・だけど、リアスと呼んでくれるから・・・・ダメダメ、ソーナのお菓子は―――ああ、

どうしよう・・・・・っ!」

 

葛藤しだしたリアス・グレモリーだった。くくくっ、悩め悩め悩みまくれ!

フッハッハッハッハッ!

 

「・・・・・あれ、一誠の背中に悪魔の翼と尻尾が見えるんだけど・・・・・」

 

「気のせいです」

 

「えっと・・・・・私もちょっと見えなくないんだけど」

 

「気のせいです」

 

「そ、そうなのか・・・・・?」

 

「でも・・・・・」

 

「気のせいです」

 

「リーラさん、実は見えているんだよね?あれ、幻覚と幻とかじゃなくて・・・・・」

 

「そのような幻覚を見える訳がございません」

 

「な、何か怖いっす」

 

「そ、そうですね・・・・・」

 

後ろで何か言っているような・・・・・まあいい。

 

『それでは、オカルト研究部VS放送部の試合を行います』

 

アナウンスが流れ始め、

 

『―――試合、開始!』

 

開始宣言が放たれた。最初にボールを持ったのは―――塔城小猫!

 

「先輩、覚悟です」

 

小柄な体に見合わぬ力でボールを俺に向かって投げてきた。右手は―――まだ駄目か。

 

「やらせない!」

 

俺の前に清楚が移動してきた。豪速球のボールを簡単に止めた。

 

「てや!」

 

お返しとばかり可愛い声を出しながらボールを投げ返した。

そのボールを小猫は受け止めようと構える。

 

「・・・・・っ!?」

 

ボールを難なく受け止めた。だが、小猫の体が数十センチ地面を滑った。

受け止めた本人も目を見開く。

 

「・・・・・強い」

 

「私だって何時までも皆に守られてばかりじゃ嫌だし、今日はスポーツだから本気を出すよ」

 

俺を一瞥して、

 

「今度は私が一誠くんを守る番!」

 

小猫から放たれたボールを何と片手で止めた清楚。

あれ・・・・・清楚ってこんなに恰好よかったか?

 

「・・・・・イッセーを倒すならまず彼女を先に倒す必要があるようね」

 

リアス・グレモリーの瞳がマジになった。全身から魔力を迸らせて、やる気全開だと伺わせる。

 

「葉桜清楚、あなたは私が倒すわ。イッセーを倒すためにも」

 

「やらせないよ。一誠くんを守るんだからね。一誠くん、後ろに下がって」

 

「お、おう・・・・・」

 

なんか、逆らってはいけない雰囲気に呑みこまれ思わず頷いてしまった。

後ろに下がって待機する姿勢になった。

 

「乙女の本領発揮というやつですかね?」

 

「なんか、逆らってはいけない感じがしたぞ」

 

「あー、わかる。たまに逆らえない時もあるよ」

 

そうなのか・・・・・しかし、時々見せる有り得ない身体能力は何なんだ?

清楚のイメージとは裏腹の行動をする時がある。

 

「えい!」

 

ドゴォォォォォォンッ!

 

「はうっ!?」

 

「イ、イッセーさぁぁぁんっ!?」

 

・・・・・分からん。解せない。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode4

 

部活対抗競技は殆ど清楚や他の皆の活躍によって、放送部が優勝した。

優勝したことで放送部の部費はアップし、デイジーは俺たちに感謝を述べた。

それから球技大会が全て終わる頃、空は朱に染ま―――

 

ザァァァァァァァァッ!

 

―――らなかった。予報通り、夕方の時刻になるや土砂降りのように雨が降り出したのだった。

傘を事前に持っている者と持っていなかった者の末路は歴然としていた。

火を見るより明らかでもあった。

 

「リーラ、帰るか」

 

「はい」

 

和樹たちは先に帰っている。俺たちも帰るため、一年のクラスにいるプリムラを迎えに行く。

階段を下りて、一年の廊下に辿り着けば何時ぞやの三人組がいた。

まるでここから先は行かせないとばかり横に並んで、立ち並んでは俺たちを見るなり口を開いた。

 

「プリムラちゃんなら先に帰った」

 

「ん?そうなのか?」

 

「ああ、教室にはいなかった」

 

「そうか、ありがとうな」

 

と、言いながらも携帯を取り出して操作する。

プリムラに持たせてある携帯に番号を入力した。数秒したところで繋がった。

 

「もしもし、俺だ」

 

『どうしたの?』

 

「どこにいる?」

 

『教室』

 

「そっか、それじゃあ悪いけど先に帰ってくれるか?」

 

『わかった』

 

通話を切り―――目の前の三人に視線を向けた。

 

「そこ、どいてもらおうか?」

 

「な、プリムラちゃんはいないって言っているだろう!?」

 

「いないなら教室を覗いても問題ないよな?

つーか、お前らがそこにいると帰る生徒が通るに通れないからどけよ」

 

実際に俺とこいつらが話している間にも帰りたがっている生徒が遠巻きで見ている。

 

「お前がいるからいけないんだ!」

 

「俺の所為かよ?まあ、話なら壁際でもいいだろう。

そうすればあいつらだってここを通れて帰れる」

 

そう言って先に俺が壁に沿って立つ。

 

「ほら、お前らも俺と対峙になるよう壁に沿って立て。

廊下を空ければあいつ等は問題なく帰れる」

 

「「「・・・・・っっっ」」」

 

背色んな事を言う俺に対し、あいつらは廊下を未だに塞ぐ。―――その時だった。

 

ガラッ!

 

と、プリムラがいる教室の扉が開いた。

中から、薄紫のツインテールの少女、プリムラが出てきた。

 

「・・・・・イッセーとリーラ?」

 

「よう、やっぱりいたか。おいで」

 

「うん」

 

「―――お前らは邪魔だ」

 

徐に三人組に近づいては二人の頭を掴んで壁に叩き付けた。

 

「ひっ・・・・・!?」

 

「一つ、言っておくぞ?」

 

真っ直ぐチビの生徒の耳元で呟いた。

 

「プリムラに手を出したら神王と魔王が絶対に黙っちゃいない。

彼女は神王と魔王に娘のように可愛がられているからな。

自分の娘を傷物にしたら―――お前らの存在なんて軽くこの世から抹消できるんだぜ?」

 

「っ・・・・・!?」

 

「俺たちを騙して、プリムラから引き離そうとしたお前らの行動は今回だけ見逃す。

だがなぁ、もう一度だけこんなことをしてみろ。直ぐに神王と魔王に報告してやる。

プリムラの害となる三人組がいるとなぁ」

 

殺気を放ってチビを睨みながら脅迫。そうする間にプリムラはリーラの所に、

壁に押し付けている二人の頭を放して踵を返す。

 

「いいな。今回だけだ」

 

それだけ言い残し、リーラとプリムラと一緒に一年の廊下から遠ざかる。

 

―――○●○―――

 

「ん?清楚とデイジー?」

 

「あ・・・・・一誠くん」

 

玄関に赴けば、困った顔をした清楚とデイジーがいた。どうしたんだ?

 

「二人とも、帰らないのか?」

 

「そうしたいんだけど・・・・・」

 

「傘がなくなってしまって・・・・・」

 

傘がない?玄関に設けられた傘の置き場に目を向ければ、空の状態の傘置き場。

 

「雨が振るって分かって傘を持ってきたんだけど、誰かが持ってちゃったみたいなの」

 

「私もです。ですから、どうやって帰ろうか困っていたんですよ。

ここから寮まで離れていますし・・・」

 

あー、それは災難な目に遭ったな・・・・・。

 

「デイジー、寮に予備の傘あるか?」

 

「いえ、無いです」

 

「そうか・・・・・よし、ちょっと待ってくれるか?」

 

瞬時でこの場から遠ざかって理事長室の扉の前に立った。

扉のノックすれば、中から声が聞こえた。

 

「二年F組の兵藤一誠です」

 

『入りたまえ』

 

アッサリと入室の許可を貰った。ドアノブを回して扉を開ける。

中に入れば、何故かシルヴィアがいた。

 

「どうして彼女が?」

 

「ああ、彼女は私の補佐をしてくれているのだよ」

 

「ああ、そういうこと」

 

「それで、私に何かな?」

 

俺は頷いて口を開いた。

 

「今日一日だけ寮で暮らしているデイジーという生徒を俺の家に泊らせたいんだ。いいか?」

 

「デイジー?・・・・・ああ、神王ユーストマの兄の娘だね?」

 

知ってたか。いや、知らない訳もないか。肯定と頷いて説明に入る。

 

「傘を持ってきたんだけど誰かが持って行ったらしくてさ、このまま寮に送ってもいいんだけど

明日も予報では雨だろう?だから今日だけ俺の家に泊らせて明日、寮に戻らせるつもりだ」

 

「なるほど、わかった。寮監から私が伝えておこう。

それに彼女は神王の娘とは従姉妹同士の関係だ。

ゆっくり彼女と話をして絆を深めることもいいだろう」

 

「ありがとう」

 

「なに、私にできることがあれば何でも言ってくれ。キミには本当に感謝しているからね」

 

大方、リアス・グレモリーのことだろうな。

と、思っていたらサーゼクス・グレモリーが笑みを浮かべ出した。

 

「未来の義弟のお願いを聞くことも義兄としての務めだよ」

 

「―――ちょっと待とうか。いま、聞き捨てならないことが聞こえたんだけど?」

 

誰が義弟で、誰が義兄だよ!?

 

「ふふっ、なに、彼女が自らキミを婚約者候補に選んだのだ。

私自身もキミならリアスを任せてもいいと思っているんだよ?」

 

「・・・・・マジかよ」

 

「キミと言う男を接していると、リアスは心から笑顔を浮かべる。

あんな楽しそうな妹を見るのは久し振りなんだ。私はあんな妹を見て安心する」

 

だから、キミには本当に感謝しているんだ。

サーゼクス・グレモリーは笑みを浮かべて俺にそう言う。その笑みは理事長としてじゃなく、

悪魔としてじゃなく、一人の兄としての笑みだった。

 

「・・・・・本当にアンタは悪魔か?」

 

「勿論、正真正銘の悪魔だよ」

 

その証拠にと背中から蝙蝠のような翼を生やしだした。

 

「リアスのこと、これからもよろしく頼むよ」

 

「・・・・・危険な目に遭わないように善良すると言っておく」

 

「ははっ、そうか。では、そんなキミにプレゼントだ」

 

魔方陣を展開するサーゼクス・グレモリー。怪訝に見ていると一冊の本が浮かんで出てきた。

 

「『リーアたんの成長記録』。

この中に妹の赤ん坊から高校二年の時までの写真が保存されている」

 

「―――ほう?それはとても魅力的なものだ」

 

「ふふふっ、やはりそう思うかい?」

 

「色々な意味でな」

 

アルバムを受け取って早速、開いた。・・・・・はっ?

 

「なあ・・・・・」

 

「なにかな?」

 

「―――どうして、この写真に父さんと母さんが映っている?」

 

信じられないことに、若し頃の父さんと母さんが赤ん坊の頃のリアス・グレモリーと映っていた。

そのことにサーゼクス・グレモリーは「ああ」と懐かしそうに語った。

 

「キミのご両親と私の両親とは古くから関係を持っていてね。

リアスが赤ん坊の頃、キミのご両親が遊びに来た時に撮った写真だよ」

 

「・・・・・で、どうして俺まで映っているんだ?」

 

ページを捲れば、黒い髪の赤ん坊が父さんと母さんに抱えられ、

リアス・グレモリーの両親と思しき人物と若いサーゼクス・グレモリーが一緒に映っていた。

 

「それは一年後の写真のことだろう。キミが生まれた時に撮った写真だ。懐かしいな」

 

最後の言葉に疑問が沸いた。視線をアルバムから外せば、

これと同じアルバムを見ていたサーゼクス・グレモリーがいた。

 

「このこと、あいつは知っているのか?」

 

「いや、知らないよ。何せ自分のアルバムを恥ずかしがって見ないからね」

 

「・・・・・昔から俺は彼女と知り合っていたのか」

 

「運命的な出会いだと私はそう思うよ。

よもや、キミがリアスともう一度出会うなんて思いもよらなかった。

そして、この学校に編入し、リアスと再びであった。これは必然的な出会いだと私は思う」

 

必然的な出会い・・・・・か。

 

「おっと、長く語ってしまったね。キミは帰るといい。待たせているんだろう?」

 

「・・・そうだったな。それじゃ、帰らせてもらう」

 

「ああ、また学校で会おう。義弟くん」

 

最後の言葉を無視して、理事長室から出た俺は瞬時で玄関に赴いた。

 

「悪い、遅くなった」

 

「急にいなくなってどうしたのですか?」

 

リーラが首を傾げて訊いてきた。まあ、そうだろう。悪い。だが、収穫はあった。

 

「理事長に頼んで一日、デイジーを俺たちの家に泊らせることにした」

 

「え・・・・・っ?」

 

「そう言うわけだ。デイジー、俺たちと一緒に家へ戻ろう。清楚も来るか?

一人暮らしだし、一日泊っても大丈夫だろう?」

 

清楚にも尋ねたら案の定、目を丸くした。と、デイジーが口を開いた。

 

「で、でも・・・私は寮で暮らしているんだよ?寮監の人に黙って外泊したら・・・・・」

 

「理事長が寮監に口添えしてくれる。だから、問題無く俺の家に寝泊まりできるぞ」

 

「ほ、本当に・・・・・?」

 

「嘘は言わない。もしもデイジーが叱られるようなことがあれば俺が代わりに叱られよう」

 

不安げに尋ねるデイジー。安心させるように言うと、恐る恐ると頷いた。

 

「分かりました・・・・・じゃあ、今日はよろしくお願いします」

 

「おう、お願いされた。清楚、どうする?」

 

「・・・・・私も大丈夫なの?」

 

「大丈夫だ。だから一緒に帰ろう」

 

「・・・・・じゃあ、お言葉に甘えて一誠くんの家に行くね」

 

コクリと頷いて俺の家に来ると言う清楚。

 

「それじゃあ、帰るとするか」

 

バサッ!と六対十二枚の金色の翼を展開して、雨に濡れないように清楚たちの全身を包んだ。

 

「・・・・・凄い、布団の中にいるみたいに柔らかい」

 

「自慢の翼だ」

 

自前の傘を差して外へ出た。雨の降る強さは若干だが弱まっている。

それでも傘を差さずに外へ出歩いたら確実に濡れる。

 

「濡れないか?」

 

「はい、大丈夫です。寧ろ、兵藤くんが濡れないのですか?」

 

「翼以外は濡れないさ」

 

それでも、水を弾くように濡れないようにしているけどな。

 

「ああ、そうだ。俺の家の近くに神王と魔王がいるから騒がしくなったらゴメンな」

 

「えっ!あの神王さまと魔王さまが!?」

 

「しかも御近所だ。だから必然的にシアたちとよく会う。呼べばくるんじゃないか?」

 

パーティをしようと一言で言えば、喜んでくるであろう神王と魔王。

ハメをハズ過ぎないように制止役としてついてくる二人の王の娘たち。

もう分かってきたよあの家族たち。

 

「だから一緒に登校していたんだね・・・・・」

 

「同時に嫉妬集団に襲われる」

 

あははは・・・・・と渇いた笑みを浮かべる清楚とデイジー。今日も二回は襲撃された。

 

「(いつか、見せしめとして残虐的な事でもするか・・・・・?)」

 

その時だった。嫉妬集団に対してそんな事を思った俺の裾が引っ張られる感覚が覚えた。

 

「・・・・・イッセー」

 

「プリムラ?」

 

チョイチョイと裾を引っ張るのはプリムラだった。上目づかいで俺の顔を覗きこむ。

 

「どうした?」

 

「ん」

 

指をとある方へ差した。なんだ?と思いながらもプリムラが差す方へ視線を向けると・・・・・。

野良猫が一人の男に追いかけられていた。しかもこっちに来ている。

 

「よう分からないけど、動物虐待と見做して助けるのもありかなっと」

 

片翼の翼を動かして男の前に突き刺した。もう片翼で野良猫を包んで保護する。

 

「っ、天使か・・・・・」

 

俺の翼を見て男は唸るような声で呟いた。いや、人間ですけどね?

 

「野良猫一匹追いかけまわして何をしている?動物虐待なら容赦しない」

 

「そいつはただの野良猫ではない。いまは猫の姿をしているが、正体は猫の妖怪だ」

 

妖怪?この猫が?でも、何で妖怪の猫を追いかけまわしているのか理解できないな。

 

「俺は猫の妖怪を眷属にしようと探し続けていたんだ。

猫の妖怪、猫又は仙術という力を有している。

その能力を持つ妖怪を探し続けてようやく見つけたのだ。―――渡してもらうぞ」

 

「いや、逃げられている時点でお前の眷属になりたがっていないじゃないか。

無理矢理は良くないぞ」

 

「貴様には関係のないことだ。さあ、そいつを渡せ。俺の邪魔をするなら容赦しないぞ」

 

名の知れぬ悪魔は臨戦態勢の構えになった。

どれだけ苦労して猫の妖怪を見つけたのか俺には分からないが、

 

「―――殺すぞ、木端悪魔」

 

ゾク・・・・・ッ!

 

嫌がる相手を無理強いしてまで眷属にしようだなんて、自己中にもほどがある。

相手の人生すら考えていない悪魔に渡せるか。

殺意、殺気を木端悪魔へ向けると、一歩だけ後ずさって顔を強張らせた。

 

「俺は悪魔が嫌いなんだ。だから、お前を躊躇もなく殺す。命が欲しかったら冥界に帰れ」

 

「貴様・・・・・!」

 

俺の発言に気が触れたようで、怒りで体を振るわせ始める。

 

「あっ、言っておくが、この町に神王と魔王がいるぞ。

お前が魔力を放ったら、神王と魔王はここに駆けつけてお前を捕えようとするぞ?」

 

「そんな虚仮威しが通用するか!」

 

怒りで我を忘れたのか、あの悪魔は魔方陣を展開して巨大な魔力の塊を放ってきた。

清楚とデイジー、猫を完全に翼で覆い、迫ってくる巨大な魔力の塊を腕で上に反らした。

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

上空で爆発が生じた。だが、雨の音で雷か何かだろうと勘違いするだろう。いまが雨で良かった。

 

「さっさとその猫又をよこせ!長年探し続けた猫又なのだ!」

 

「どれだけの時間を懸けて見付けたのか分からないが、悪魔の眷属になりたがらないんじゃ、

諦めが肝心だろう」

 

「ふざけるな!」

 

更に魔方陣を幾重にも展開し、複数の魔力の塊を放ってきた。

実力からして・・・上の中というところか。

 

「それでも俺は負けない」

 

スパンッ!

 

金色の翼で全ての魔力弾を上に弾いた。手を出すまでもなさそうだ。

 

「くっ・・・ならば、直接―――!」

 

魔力での攻撃は通用しないと悟った悪魔が接近戦に持ち込んだ。

 

「おっと、ちょいと待ちな」

 

ガシッ!

 

が、悪魔の肩を誰かが背後から掴んだ。

 

「未来の息子に怪我なんてしたら、ネリネちゃんたちが悲しんじゃうから

そこまでにしてもらうよ?」

 

前からも悪魔に話しかける存在が現れた。

 

「―――だから言っただろう。神王と魔王がいるからってさ」

 

悪魔の前後に傘を差して現れた神王ユーストマと魔王フォーベシイ。

戦闘で放った魔力を感知したのか、ようやく二人が登場した。

 

「ま、魔王さま・・・・・!」

 

「事情がどうであれ、この四種交流を象徴とする町中で戦闘をしてはならない。

と、誰でも知っているはずなんだけどねぇ?」

 

「そんで、戦闘を行った悪魔と天使、堕天使は危険人物と見做し、悪魔と堕天使は冥界、

天使は天界で二年~百年の間、人間界に訪れることを禁じて、

それぞれの異界で過ごすっつー規則も忘れたわけではあるまいな?」

 

あれ、俺は知らなかったぞ?首を傾げる俺だが、悪魔は俺に指を突き付けた。

 

「あいつは俺の邪魔をしたんですよ!俺が眷属にしようとした

猫又をようやく見つけたと思った矢先、横から掻っ攫ったんです!」

 

「・・・一誠ちゃん、本当かい?」

 

フォーベシイが真意を確かめようと話しかけてきた。俺は肯定と頷く。

 

「ああ、横から掻っ攫ったなんて言い方はちょっと違う。

悪魔に追いかけられている野良猫を保護したら、

無理矢理俺から野良猫を奪おうとして襲ってきた。

それにこの町には神王と魔王がいるからと、

教えたんだけど・・・・・虚仮威しだと攻撃されたんだ」

 

「「・・・・・」」

 

二人は顔を見合わせて沈黙した。状況を整理しているんだろう。

視線だけやりとりして判断を検討中。

 

「―――彼の言っていることは殆ど本当よ」

 

野良猫を包んでいる翼から声が聞こえた。その直後、不意に翼に重みが増した。

 

「私を眷属にしようとしたその悪魔は、私が拒否したら執拗に迫ってきたの」

 

翼を動かせば、包んでいた翼から銀色の髪が覗かせた。

 

「それで、隙をついて逃走したらそいつは追いかけてきた」

 

銀色で華やかな着物を身に付けていて

 

「雨の中を逃げている最中、私はこの子に助けられた」

 

頭部に猫耳が生えている。

 

「それが真実にゃん」

 

青と金のオッドアイ。腰辺りにユラユラと二つの尻尾を揺らしながら女性が口を開いた。

 

「なるほどな。眷属にされそうになった本人がそう言うんなら間違いなさそうだな」

 

「そうだね」

 

フォーベシイがパチンと指を弾いた。すると、魔方陣が展開した。

見た事もない文字を表現した螺旋状の魔力が現れて、縄のように悪魔の体を縛った。

 

「それじゃ、私は冥界に連れて帰るよ」

 

「おう、俺は一誠殿たちと一緒に帰るぜ」

 

足元に魔方陣を展開するフォーベシイに手を振りながら見送るユーストマ。

悪魔は俺を睨みながらフォーベシイと共に光る魔方陣の中で姿を消した―――。

 

―――○●○―――

 

―――兵藤家

 

 

「ふーん、そう言うわけか・・・・・分かった。この証言の下でまー坊に任せてみるぜ」

 

トントンと野良猫もとい、猫又の女性から聞いた話を纏めた紙を纏めて

一段落とばかり言うユーストマ。

 

「ありがとう神王」

 

「どういたしましてだ。にしても、どうしてまた猫又の上位種である猫魈のお前さんが

この地に?」

 

猫魈?猫又より強い存在のことを差しているようだが・・・・・。

 

「ちょっと妹の様子を見ようかなって思って」

 

「妹?この町にいるのか?」

 

「ええ、そうよ?えーと・・・・・名前、なんだっけ?」

 

ああ、そういや、名乗っていなかったな。

 

「兵藤一誠だ。メイドの彼女はリーラ、ツインテールの少女はプリムラだ」

 

「私の名前は銀華。銀の華と読んで銀華よ。助けてくれてありがとうね。

あのままだったら私、無理矢理転生悪魔にされていたかもしれないわ」

 

「最初に見つけたのはプリムラだ」

 

「そう、ありがとうね?」

 

彼女、銀華は感謝を籠めてプリムラの頭を撫でる。プリムラはコクリと頷くだけで返事をした。

 

「それで、妹ってのは?」

 

「もう一人、妹いるんだけどいまどこにいるのか分からないのよね。

だから、私のもう一人の妹を見に来たの。お互い、顔をすら知らないけどね」

 

「その妹って名前は何だ?」

 

「白音よ」

 

白音・・・・・?どんな子だろうか。銀華の妹と言うならば猫魈の妖怪なんだろうな。

 

「特徴は白い髪に小柄な女の子って話だけどね。

もう一人の妹の話じゃあ、情に篤い悪魔の眷属として生きているって訊いたから」

 

「情に篤い悪魔・・・・・?」

 

「グレモリーって悪魔よ。四種交流の象徴とするこの町の人間なら、

名前ぐらいは知っているでしょう?」

 

―――あいつかぁっ!しかも白い髪に小柄の少女って塔城小猫しかいないし!

銀華は俺の顔を見て確信したかのように笑みを浮かべた。

 

「どうやら、知っているようね?」

 

「知っているも何も・・・・・同じ学校に通っているし、銀華が言う白音って少女も

俺と同じ学校に通っているぞ」

 

「あら、私って運がいいわね。妹を知っている子と出会えたなんてラッキー♪」

 

「だけど、白音って名前じゃないぞ。塔城小猫って名前だ」

 

「塔城小猫・・・・・そう、違う名前で生きているのね」

 

彼女は何か悟ったかのように呟いた。

 

「というか、銀華のもう一人の妹って誰だ?」

 

「今じゃSS級のはぐれ悪魔。元猫魈の『黒歌』って名の妹よ」

 

うわぁ・・・SS級のはぐれ悪魔って・・・・・この三姉妹、訳有りが絶対に物凄く抱えているぞ。

 

「あなたも・・・・・はぐれ悪魔なんですか?」

 

デイジーが問う。その答えは銀華が首を横に振った。

 

「んにゃ、私は純粋な猫魈よ?妹の白音が生まれる前に、

私は世界に興味持っていままで一人旅をしてきたの。その途中、久し振りに黒歌と出会って、

白音の存在を知った。その時、もう一人の妹の顔を見に行こうと思っていてね?

いい機会だから数日前にこの町へ訪れたの」

 

「で、猫又を眷属にしようと探していた悪魔に運悪く見つかってしまい追いかけられていたと」

 

「そういうこと」

 

なるほどなーと、ユーストマは新たに書き留めた。

 

「まったく散々な目に遭ったにゃん」

 

ゴロリと、猫のように横に寝転がった。俺の太腿に頭を乗せてだ。

 

「うーん、それにしても居心地良いわね」

 

「急にどうした?」

 

「猫って温かいところが好きなのよ。私もそう。だから、あなたの温もりがとても心地好いの」

 

あー、よくガイアもこうやってしてくるよな。その理由も銀華と同じ理由だ。

と、言うことは・・・?何気なく彼女の銀色の髪を撫でた。

 

「ん・・・・・」

 

目を細め、俺に委ねてくる。そして、猫だからと顎下を掻くように撫でれば・・・・・」

 

「ふ、ふにゃぁぁぁぁぁぁ・・・・・」

 

気持ち良さそうな声を放った。―――まさしく、塔城小猫の姉だ!

 

「・・・・・なぁ、銀華」

 

「にゃぁぁぁぁ?」

 

今度は耳を触るとピクピクと体を震わせた。ここが弱点のようだ。

 

「この家に住まないか?」

 

「この家に・・・・・?」

 

「ああ、それに世界中を旅した銀華の話を聞きたい」

 

優しく銀華の頭を梳かすように撫でながら提案を言ってみた。

 

「・・・・・そうね」

 

俺に頭を撫でられながら、心地好さそうに瞑目し、彼女は脳裏でどうしようかと、

悩んでいる様子を伺わせる。しばらくして、銀華の口が開いた。

 

「私のこと束縛しない?」

 

「自由にして良いさ」

 

当然のことだ。人を束縛するほど俺は鬼じゃない。自由にこの家で生活してほしい。

 

「時々でいいからこうやって頭を撫でてくれる?」

 

「望むならいつでもどこでも」

 

ガイアも気が済むまで撫でろというしな。

 

「・・・・・黒歌のこと救ってくれる?」

 

「なに・・・・・?」

 

ここで妹の話が出たか。だが、どうしてだ?

 

「あの子は、自分からはぐれになったわけじゃない。

白音という妹を救うため、家族を守るために力を欲し、悪魔として転生し、更なる力を得た。

でも、その代償は大きかった。主の悪魔は姉がこの力ならば、妹の白音もそうだろうと思い、

妹にも悪魔に転生させようと無理強いをした。事前に黒歌はそれを察知し、

制止をしたけど主の悪魔は耳を傾けてもらえず、あと一歩のところで―――」

 

黒歌に殺された。

 

「あの子は、本当は優しい妹なのよ。でも、私が世界に興味を持ったせいで母が死んで、

黒歌と白音は辛い人生を歩ませてしまった。知らないでしょうけど、

彼女の髪は本当は綺麗な金色の髪だったのよ?いまじゃ、闇のように真っ黒な髪に・・・・・」

 

ポツポツと彼女の口から出てくるのは姉妹猫の話だった。

 

「主を殺した黒歌は必然的にはぐれとなる。だから、黒歌は敢えて白音を残して姿を暗ました。

自分と一緒に逃亡し続けたら白音まではぐれになり、討伐対象に含まれるから。

苦渋の決断の末に黒歌は妹を置き去りにしていなくなった。

本当は連れて行きたかったでしょうね。

ただ、どんな辛い人生でも仲良く一緒に暮らせればそれで良かった。

それだけなのに・・・・・その思いが悲劇を招いてしまった」

 

『・・・・・』

 

「私がこの地に来たのは本当の理由は白音に謝りたい。

そして、あの子のことを伝えたい。ただそれだけ・・・・・」

 

何時しか、銀華の目に涙が浮かんでいた。

 

「お願い、黒歌を救ってあげて。妹を助けてくれるなら私は何でもするわ」

 

その言葉に籠った想いは、紛れもなく妹を思う姉の思いやりだった。

 

「・・・・・それを聞いて、俺はますます悪魔が嫌いになったな」

 

「・・・・・」

 

「分かった。黒歌って言うはぐれ悪魔を救済しよう。どんな手を使ってでもな」

 

銀華の手を握り、約束だと告げる。

 

「―――ありがとう、兵藤一誠くん」

 

ついに、溜まった涙が頬を濡らした。そんな彼女の涙を指で拭いて告げた。

 

「何でもするって言ったな?」

 

「ええ、私にできる事なら何でも」

 

「じゃあ、家族になってくれ」

 

「・・・・・家族?」

 

キョトンと目を丸くした。なんか、変なこと言ったか?まあ、続けよう。

 

「ああ、家族だ。一緒に暮らそう。さっきの話とは別で」

 

「それ・・・・・暗にプロポーズしていない?」

 

「いや、してないけど?」

 

キッパリとハッキリと言ってやった。だから、清楚とデイジー。

そんな驚いた表情を浮かばないでくれ。

 

「私って魅力じゃない女のかしら・・・・・これでも世界中に旅していた時、

人間の男たちから告白されるほどだけど・・・・・」

 

「何故落ち込む?銀華は立っているだけでも絵になるほど綺麗だぞ?

それに綺麗な銀髪と金と青の瞳。着物も凄く似合っているし、

銀華って名前もいまの銀華にピッタリだ。誰もが身惚れてしまうのも頷ける。他に―――」

 

次から次へと、彼女の良いところを言って言いまくり続ける。その結果―――。

 

「も、もういいにゃん・・・・・十分ってほど、分かったから・・・・・」

 

照れているのか羞恥でいっぱいなのか、顔を真っ赤に染めた銀華は待ったを掛けた。

 

「そうか?まだ言えるんだけどな。因みに清楚とデイジーも一時間は言えるからな。言おうか?」

 

「は、恥ずかしいからいいよ!」

 

「訊いているとナンパしているんじゃなくて、

ただ純粋に褒めているだけだから性質が悪いですよ・・・!」

 

何時の間にか二人も顔を赤くしていた。どうしてだ?とリーラに視線を向けたら、

 

「あまり褒めすぎたらよくありません。逆に恥ずかしくて相手を嫌がらせ、困らせるだけです」

 

リーラに注意された。むぅ、褒めすぎるとダメなのか・・・。

ガイアは喜んで訊いてくれるんだけどな。

 

「・・・・・兵藤一誠くん」

 

「名前でいいよ」

 

「そう?じゃあ、一誠、あなたの願いを受け入れるにゃん」

 

手を掴んで握手をしてくる。俺も応じて握り返した。

 

「よろしく銀華」

 

「よろしくね」

 

「―――と言うわけだユーストマ」

 

いきなり神王に振った俺は笑みを浮かべた。

 

「銀華という新しい家族が増えた。

だからパーティをしたいからシアたちを呼んで来てくれるか?皆で集まって賑わいたいからさ」

 

そう言うとユーストマは。

 

「分かったぜ一誠殿!」

 

嬉々として笑みを浮かべて立ち上がった。騒ぐことが好きな神王だから、喜んで協力してくれる。

 

「フォーベシイにも伝えてくれるか?」

 

「当然だ!おーい、まー坊!今日は宴だ!盛り上がっていくぜぇ!」

 

ユーストマは足元の魔方陣を展開して光と共に姿を消した。

まさかだと思うが、直接冥界に向かった訳じゃないよな・・・・・・?

 

「清楚とデイジー、悪いけど料理作るのを手伝ってもらえるか?

神王ってかなりの大食いだからさ」

 

「うん、任せて」

 

「泊めさせてくれるお礼に頑張って作ります」

 

二人は頷いて了承してくれた。ありがたい。

 

「さて、飾り付けも大事だよな」

 

虚空から金色の錫杖を発現して掴んだ。

 

「それ、初めて見るね」

 

「『無限創造龍の錫杖(インフィニティ・クリエイション・メーカー)』という神滅具(ロンギヌス)だ。

初めて見るのはしょうがない。いままで一度も清楚たちの前で使っていないからな」

 

神滅具(ロンギヌス)!?私、初めて見たよ!」

 

「私も・・・・・綺麗な杖なんですね。メーカーと言う名ですから何か作れるんですか?」

 

「ものを創る事が能力の神器(セイクリッド・ギア)だ。他にも能力があるが、

大半はものを創る時しか使わない」

 

こんな感じにな、と錫杖で床を軽くついたその瞬間。

錫杖から一瞬の閃光が生じてリビングキッチンを照らす。直ぐに光が止み、辺りを見渡せば―――。

 

「な・・・・・一瞬で・・・・・飾り付けが終わっている・・・・・!」

 

「凄い・・・・・」

 

壁に様々な飾り付け、天井から『 祝!新たな家族 銀華! 』と書かれた看板が

ぶら下がっている。この光景に清楚とデイジーが目を丸くして絶句した。

 

「この家もこんな感じで作ったんだ。家具も食器もな」

 

「嘘、そこまできるものなの・・・・・?」

 

「無限に創造できる能力だからな」

 

「なんか・・・・・恥ずかしいにゃん」

 

と、銀華が照れくさそうに頬を掻いた。

 

「何を言うんだ。家族になる銀華のためのパーティだ。銀華は堂々と飲んで食ったらいいさ」

 

「私・・・・・猫舌でワサビ嫌いにゃん」

 

「分かった。なるべく熱くない料理を作ろう。ワサビを使う料理は作らないから安心してくれ」

 

「うん、ありがとう」

 

どういたしまして、と彼女の頭を撫でる。さぁーて、たくさん料理を作りましょうか!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode5

「それじゃ、銀華。行ってくる」

 

「銀華さん、行ってきます」

 

「行ってらっしゃい」

 

シアたちと一緒に登校する前に昨日、新しく家族となった猫魈の銀華に挨拶して

歩を進めた俺たち。木漏れ日通りへ進む中、雑談は尽きない。

 

「イッセーくん、昨日はゴメンね?」

 

「大丈夫だ。誘ったのは俺だし」

 

「お父さまも大変楽しんでいたのですが、少々ハメを外してしまいました」

 

「魔王と神王の仕事でのストレスもあったんだろう。あの二人は笑った方が似合っている」

 

「優しいんだねイッセーくん・・・・・」

 

別に、優しくはないさ。ただ、そう思っただけだ。と、表に出さず心の中で呟く。

それから空を見上げる。予報では雨のはずだったが逆の天気となった。青い空がよく見える。

 

「それにしても、晴れて良かったな」

 

「うん、本当だね。これなら家に帰れるよ」

 

「傘までくれてありがとうございます」

 

「伸縮性でかなり丈夫な傘で幅が大きいサイズだ。

でも、少し大きいが折り畳みにも通常の傘のようにも使えるだろう」

 

神滅具(ロンギヌス)の能力で創造した傘だ。・・・・・というか、二人に傘を作ってやれば

昨日は帰れたか。失敗したな。

 

「それにしても、一誠くんの家ってかなり広いんだね。びっくりしちゃったよ」

 

「何十人来ても大丈夫なように創造したんだ。まあ、今のところ数人しか来ないけど」

 

「そうなんだ?部屋の数も多いけどあれって個人部屋?」

 

「はい、泊りに来ても私たちと一緒に住んでも問題ないように創造をしました」

 

「今のところ、銀華だけだけどな」

 

苦笑を浮かべ、清楚に言った。今頃のんびりとテレビを見ているんじゃないか?

 

「シアさんたちは一誠くんの家に泊らないの?」

 

「ははは・・・・・そうしたいけど、お父さんが暴走しちゃいそうだから・・・・・」

 

「私とネリネもそんな感じで・・・・・」

 

「はい・・・・・残念です・・・・・」

 

リシアンサスとリコリス、ネリネが苦笑を浮かべたり、残念そうに溜息を吐く。

 

「でも、こうしてイッセーくんと一緒に学校に通えるだけでも満足しているっす」

 

「こうやって」

 

「ん?」

 

リコリスが突然、俺の背中にしがみついてきた。

 

「イッセーくんに抱きついていられるしね♪」

 

嬉しそうに笑みを浮かべながら満足だと、リコリスはハッキリと言った。

彼女が背中に抱きつけば、彼女の豊満な胸がより密着してくる。

こんな光景をあの嫉妬集団が見たら―――。

 

『待っていたぞ兵藤一誠ぃぃぃぃぃぃっ!』

 

「「「「「「「「・・・・・」」」」」」」」

 

怒声で呼ばれた。嫌そうに学校へ行く時によく利用する階段の方へ視線を向けた。

そこに大勢の集団がいた。

 

「お、おおおのれっ・・・・・・!我がアイドルのリコリスちゃんに抱きつかれるなど、

う、羨まし―――じゃなく!なんと罰当たりなことを!」

 

「素直に羨ましいって言えばいいじゃないか?醜いぞ、その嫉妬」

 

「嫉妬ではない!これは、我が校のアイドルたちを独占するお前への怒りだ!」

 

「羨ましいという気持ちからくる怒りと嫉妬なんだろ?」

 

「断じて違う!」

 

と、そうは言うが、その血涙はなんなんだ?

 

「シアちゃーん!待っててください!」

 

「ネリネちゃん、いまその色魔を滅殺します!」

 

「リコリスちゃん!その汚らわしい男から離れてくれ!」

 

「リーラさん!あなたのためにこの命、捧げます!」

 

「清楚ちゃん、今日も清楚だ!そんな清楚な彼女を汚す兵藤一誠は許さん!」

 

・・・・・あれ、デイジーの声がないな?可愛いのになぁ・・・・・。

 

「というか、何時の間にかリーラの親衛隊ができたみたいだな?」

 

「―――迷惑です。死んでください」

 

『ぐはっ!?』

 

あっ、数人が倒れた。いまのがリーラの親衛隊のようだな。

 

「じゃあ、何時も通り行くとしようか」

 

金色の翼を展開して、清楚とデイジーを抱え、リーラたちには翼で包み、残りの翼で空を飛ぶ。

 

「い、一誠くん・・・・・!?」

 

「あんな奴らに相手をするほどお人好しじゃないんだ。

悪いけど、学校に着くまでこのままでいく。我慢してくれ」

 

「わ、分かりました・・・・・」

 

腕の中で顔を赤くする清楚とデイジー。まったく、のんびりと通学もできやしない。

 

 

―――駒王学園In二年F組

 

 

「あー、だから一緒に来たんだね」

 

「うん、そうなの」

 

教室に入って俺たちはのんびりと寛いだ。清楚と一緒に来たことが不思議に思った和樹たちが

訊いてきた。ので、清楚が包み隠さず説明をしている。

 

「ねぇ、一誠。今度僕も遊びに行ってもいい?」

 

「ん、構わないぞ」

 

「では僕も遊びに参りますね」

 

「そうだな、私も興味がある。和樹たちと一緒に行かせてもらうぞ」

 

龍牙とカリンも遊びに来るか。問題ない。特に隠すようなものはないし。

遊びに来てくれる方が楽しい。

 

「ゲームとか皆で遊ぶ道具とかないけどいいか?」

 

「構わないよ。寧ろ、ちょっとだけ一誠の強さを知りたいから軽くお手合わせを願いたいね」

 

「ああ、それならトレーニングルームがあるからそこでしようか。

真龍の全力の一撃でも耐える特殊な空間でな」

 

「・・・・・どんだけ一誠の家は凄いんだい」

 

絶句した面持ちで目を丸くして言う和樹だった。

 

「なるほど・・・・・それなら本気でも全力でもしても大丈夫なんですね?」

 

「いいトレーニングルームだな」

 

なんだか、この二人から戦意を感じ始めたんだけど・・・・・。

 

「あなたが相手なら、初めて全力を出せそうですよ」

 

「なんたって神滅具(ロンギヌス)を四つも所有しているからな。

私の魔法がどこまで通じるのか、知りたいところだった」

 

「そうだね・・・・・僕もカリンと同じ意見だ」

 

三人は笑みを浮かべて力を試したいと言ってくる。

 

「「「今度の休みの日、僕(私)と勝負しよう」」」

 

おおう、F組の実力者たちから挑戦を受けられているよ。まあ―――いい機会か。

 

「良いだろう、お前らの実力も知りたかったところだ。全力で相手してやる。

カリン、女だからって容赦しないからな?」

 

「望むところだ。女だからって手加減したら怒るからな」

 

「やっぱり、そう言うセリフをハッキリ言うカリンは恰好いいな」

 

褒めれば案の定、顔を赤らめて嬉しそうに体を揺らし始めた。

 

ブーッ!ブーッ!

 

その時、携帯が震えだした。携帯を取り出すと、清楚も同じように携帯を取り出した。

操作をするとメールの着信が表示されていて、送り主を見れば―――、

 

『お久しぶりです。元気にしていましたか?突然ですが今日の放課後、

この前の喫茶店に来てもらえないでしょうか?渡したい物があるので会いたいです。  八重桜』

 

彼女か・・・・・清楚に視線を向ければ彼女も俺に視線を向けていて、視線が合うと頷き合った。

 

「誰からですか?」

 

「ああ、友達だよ。他校のな」

 

「へぇ、何時の間にそんな友達を作ったんだい?」

 

「清楚の買い物を付き合った時さ」

 

朗らかに言ったその直後、担任の教師が教室に入って来て、

俺たちは自分の席に座らずを得なかった。

 

 

―――○●○―――

 

 

「それじゃ、リーラ。俺は清楚と友達を会いに行ってくる」

 

「はい、行ってらっしゃいませ」

 

「行ってらっしゃい」

 

プリムラと合流した後、リーラたちから離れて清楚と一緒にこの前の喫茶店へと赴いた。

彼女が指定した喫茶店に赴く間、清楚と雑談をし続けた。他愛のない話しを。

彼女、清楚の趣味のことや好きな食べ物、使い魔の騅のこと、色々だ。

歩を進めながら雑談をすれば、あっという間に目的地に辿り着いた。喫茶店『フローラ』に。

 

カランカラ~ン。

 

店の扉を開け放って中に侵入する。すかさず店員の人が応対して来て、

清楚が店員を引きつけている間に彼女を探していると・・・・・。

 

「あっ、一誠くん。ここです」

 

他校の制服を身に包んだままの女子生徒が手を振って自己アピールした。

俺たちはその女子学生に近づいて挨拶をする。

 

「久し振りだね、桜ちゃん」

 

「久し振り、元気そうだな」

 

「はい、久し振りです。一誠くん、清楚ちゃん」

 

ストレリチア女学院の制服、揉み上げの髪の所に蝶結びで結んだリボンを

身に付けている女子生徒、八重桜と再会を果たした。桜の前に座って口を開いた。

 

「俺たちを呼んだってことは自信作ができたってことか?」

 

「その通りだよ。えーと、ほら」

 

鞄を開けて何かを取り出した。それは―――人形だった。

 

「・・・・・俺か?」

 

「うん、どうかな?」

 

「わぁ・・・・・似ている」

 

俺を模した人形だった。しかも、背中に六対十二枚の翼まで生えているじゃないか。

 

「確かに、俺とそっくりな人形だな。桜の人形作りの腕前はよく分かるよ。

あっ、すいません。コーヒーを一つ」

 

横に通り過ぎる店員に注文した。清楚も飲み物を注文する。

 

「えへへ、実を言うと清楚ちゃんの分も作ったよ」

 

「私のも?」と清楚が自分で指を差す中、桜はまた鞄から人形を取り出した。

横から見たら、清楚を模した可愛い人形だった。その人形は清楚の手に渡った。

 

「凄い・・・・・私そっくりだよ」

 

「この前、店の中で撮った二人の写真を参考にしながら作ったんだよ。

一誠くんの背中の翼は、印象的だったから付けてみたの」

 

「なるほどな。よくできているよ。この人形、実物の俺と違って可愛いぞ。

人形って可愛くなるもんなんだな」

 

うん、気に入った。これは鞄にでも飾ろう。

 

「これ、貰っていいのか?」

 

「勿論だよ。清楚ちゃんもその人形を貰ってください」

 

「ありがとう、大切にするね」

 

笑顔で言う清楚。本当に気に入ったようでジッと人形を見詰め続けている。

 

「これだけ上手に人形を作れるなら、桜の夢は達成できそうだな」

 

「ううん、まだまだだよ。もっと複雑な作り方だってあるし、

私より上手な子だっているんだから」

 

「そうかな?私は桜ちゃんが凄いと思うんだけど。ね、一誠くん」

 

「そうだな。俺もそう思うぞ」

 

そう言っていると、清楚と一緒に注文したメニューが届いた。コーヒーを受け取って一口。

 

「ねぇ、一誠くん。稟くんたちは元気している?」

 

「ん?たまに会うぐらいだけど、元気にしているぞ」

 

「そっか・・・・・」

 

彼女は微笑みを浮かべた。幼馴染の様子を携帯でしか知ることができないから、

気になっていたのだろう。

 

「さて、こうして会ったんだし、二人のことを聞かせてほしいな」

 

「私たちのこと?」

 

「うん、2人って付き合っているの?」

 

その問いに、清楚は―――顔を赤くした。

 

「つ、付き合って・・・・・!?」

 

「あー、赤くなった♪もしかして、一誠くんのこと好きなのかな?」

 

桜の質問に清楚は・・・・・頭をテーブルに突っ伏した。

 

「・・・・・ノーコメントらしいぞ。それと俺と彼女は付き会っていない」

 

「そうなんだ?仲良さそうなのに」

 

「仲はいいぞ?でも、それは友達だ。んで、そう言う桜は好きな人はいるのか?」

 

逆に問い返してみた。もしかしたら、と思いながらもジッと桜の顔を見詰めて

返答を静かに待った。

 

「・・・・・そうだね。昔はいたよ」

 

「いた?」

 

つまり、過去形の話だ。告白して振られたのか、

告白しようとしたが諦めたのか、どっちかだろう。

 

「私の初恋は土見稟くんだったの。でも中学の頃、稟くんは色々と複雑なことが遭って、

周りから非難され続けられていました。私はそんな稟くんを支えるために傍にいた。

昔からの付き合いだから彼のことが好きになって中学の頃、告白したけど振られちゃいました。

物凄くバツ悪そうに」

 

「「・・・・・」」

 

「って、私の話しを聞いて暗くしちゃってごめんね?」

 

苦笑して桜は謝罪の言葉を放った。「いや」と俺は直ぐに首を横に振った。

 

「人にはそれぞれ辛い過去があるんだ。

それを乗り越えてあいつはいま、楽しそうに学校生活を送っているんだろう?」

 

「うん・・・・・そうだね」

 

「だったら、謝る必要はないさ。桜、お前が稟の傍で支えてくれたから

あいつは前に進めれたと思っている」

 

優しい少女だな。そして、稟。お前はやっぱり俺と似ている。

 

「それに・・・・・俺もそうだったからな」

 

「え・・・・・?」

 

「俺もな?小さい頃、よく他の奴らに虐められていたんだよ」

 

そう告げたら、清楚と桜は目を丸くした。信じられないと言った表情だ。

 

「虐められて、ボロボロな俺に心配してくれて、ずっと傍にいてくれた二人の女子がいたんだ」

 

「そう・・・なんだ・・・・・その女の子たちはいまどうしているの?」

 

「分からない、俺はとある事情でそれから会っていないんだ」

 

今頃、どうしているのか、どうなっているのか分からない。

 

「会いに・・・・・行かないの?」

 

「会おうにもどこに行けばいいのか分からないんだ。

見知らぬ場所に連れて行かれて場所すら分からない」

 

「そんな・・・・・」

 

悲しげに呟く清楚。桜も清楚と同じ表情を浮かべて俺に話しかけてきた。

 

「・・・・・一誠くん、あなたはやっぱり稟くんと似ているんだね」

 

「桜の話しを聞いて改めてそう思ったよ。やっぱり似ているなって」

 

「似た者同士ってこのことなんだろうな」

 

「そうだね・・・・・うん、きっとそうだよ・・・・・だから」

 

桜はジッと俺を見据える。

 

「一誠くんのこと、もっと知りたいです。だから、これからもこうして付き合ってください」

 

それから、桜は清楚に顔を向けた。

 

「清楚ちゃん」

 

「桜ちゃん・・・・・?」

 

「もしかしたらライバルになるかも知れません。だから、そうなったら負けないですよ」

 

・・・・・桜が清楚に宣戦布告を告げた。対して清楚は目を大きく見開いた。

 

「私は・・・・・」

 

驚きを隠せない清楚は顔を下に俯かせた。

 

「・・・・・負けない」

 

しばらくして彼女は顔を上げた。

 

「桜ちゃん、私は負けないよ。桜ちゃんがもしもライバルになったら、私は絶対に負けないよ」

 

その言葉に桜は力強く頷いた。

 

「うん、私も負けない。だから、正々堂々と勝負しましょう」

 

「勿論!」

 

お互い握手を交わし始めた。あれー?この二人、なんだか・・・・・前よりも仲良くなったのか?

少し困惑気味の俺を余所に二人はジッと見つめ合ったのであった。

 

 

―――○●○―――

 

 

空が朱に染まった頃、桜と清楚を家に送り終えて空から家に戻っている俺。

翼を力強く羽ばたかせて一気に帰宅する。あっという間に俺は帰る場所に辿り着き、下に降りた。

 

「よう、待っていたぜ一誠殿」

 

「お帰り一誠ちゃん」

 

同時に二人の王に出迎えられた。シアたちは家に戻っているはずだ。

なのに、外にいるということは・・・。

 

「俺に話しか何か?」

 

俺を待っていたということだ。二人は肯定と頷く。

 

「ああ、一誠殿を待っていた。前に話したエクスカリバーの件について話したよな?」

 

「エクスカリバーを奪還のために二人が派遣してきたという話も覚えている」

 

「その派遣の者がいま、一誠ちゃんの家にいるんだよ」

 

「―――――」

 

なるほど、来たのか。教会側の存在が、

 

「わかった。なら入ろう」

 

「悪いな。一誠殿」

 

「相手が堕天使なら、俺にも少なからずメリットがある」

 

ガチャリ、と家の扉を開け放って中に入る。先に帰ったリーラが案内しているだろうから

リビングキッチン辺りか?そう思いながら足をリビングキッチンへと進めた。

 

「ただいま」

 

「お帰りなさいませ一誠さま。お客さまがお待ちです」

 

扉を開け放ち、侵入すれば出迎えてくれたリーラ。彼女がそう言いながら視線を後ろに向け、

俺も視線をそちらの方へ向けると―――白いローブを着込んだ二人の女性・・・・・いや、少女か。

栗毛のツインテールの少女と、緑色のメッシュを髪に入れた目つきが鋭い少女。

 

二人とも胸元に十字架をぶら下げている。

間違いなく教会の者たちであると火を見るより明らかだった。二人の少女はソファーに座って

テレビを見ていたが、俺が帰ってきたことに気が付き顔をこちらに向け―――。

 

「・・・・・え?」

 

すると、栗毛の少女が目を丸くした。ん・・・・・?

 

「・・・・・まさか・・・・・イッセーくん?」

 

「なに・・・・・?」

 

誰だ?そう思っていると、立ち上がって、栗毛の少女が口を開く。

 

「イッセーくん・・・・・だよね?兵藤一誠くん・・・・・そうだよね?」

 

目を丸くしたまま確かめるように呟いた栗毛の少女。不意に、脳裏でとある少年の顔が過った。

昔の幼馴染と容姿は違うが瞳をいまの彼女と重ねたら―――酷似していた。もしやと思い、幼馴染の名前を言ってみた。

 

「・・・・・まさか・・・・・お前は・・・・・」

 

―――紫藤イリナか?

 

「―――――」

 

栗毛の少女の目から涙が溢れ出てきた。そしたら―――。

 

「イッセーくんッ!」

 

頬を涙で濡らしながら、彼女は俺に抱きついてきたのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode6

 

 

 

「イッセーくんッ!」

 

頬を涙で濡らしながら、彼女は俺に抱きついてきたのだった。

 

「良かった・・・・・っ!生きていたんだね、イッセーくん、生きていたんだね!」

 

「イリナ・・・・・」

 

偶然にも昔の幼馴染と再会した。まさか、あの時の少年が女の子だったなんてビックリしたな。

俺の幼馴染、紫藤イリナの背中に腕を回して安心させるように撫でた。

 

「ごめんな・・・・・本当に・・・・・ごめんな」

 

「イッセーくん・・・・・」

 

俺の胸に押し付けていた顔を上げた。―――涙で顔が濡れた幼馴染。指で優しく涙を拭く。

 

「驚いたよ。まさか、イリナが女の子だったなんて。しかも教会側の人物だなんてな」

 

「驚いたのはこっちの方よ。イッセーくんのご両親が死んで、

イッセーくんまで行方不明になって、しばらく経ったらあなたの話が聞かなくなった。

私自身もあなたが死んだと思った。でも―――!」

 

イリナが俺の腕に回して強く力を籠めだした。

 

「イッセーくんは生きていた!ああ・・・!この瞬間を巡り合わせてくれた主に感謝です!

神よ、ありがとうございます!」

 

・・・・・イリナ。感謝するなら神王じゃなくてヤハウェにしとけ。

感謝してもした気持ちにならんぞ。

 

「あー・・・・・そろそろいいか?感動の再会はまた後程ってことでよ」

 

「あっ、すいません神王さま」

 

「なに、久し振りに会った奴との再会を何度見ても感動するぜ。良いものを見せてもらった」

 

ニカッ!と神王ユーストマが笑みを浮かべた。

魔王フォーベシイもウンウンとユーストマの言葉に同意とばかり頷いていた。

 

「さて、そろそろ話をしたいところだが、最初にお互い名を名乗ってからだな。

お互い、初めて会う者同士として居合わせているんだからよ」

 

「それじゃ、最初は私たちからね」

 

ユーストマの言葉にイリナは、俺から離れて髪に緑色のメッシュを入れた少女の隣に立った。

 

「私の名前は紫藤イリナです。教会はプロテスタント教会に所属していて

イッセーくんとは幼馴染の関係です」

 

イリナが自己紹介を終えると、今度はもう一人の少女が口を開いた。

 

「私の名前はゼノヴィアだ。所属している教会はカトリック教会」

 

青い髪に緑色のメッシュを入れた鋭い目つきの少女が名を名乗った。

俺たちの自己紹介を終えたことを確認したユーストマは席に座るように促され、

ソファーに座った。

 

「んじゃ、本題に入ろうか。紫藤イリナ、ゼノヴィア」

 

「「はい」」

 

「お前たちは俺の娘とまー坊の娘の婚約者である兵藤一誠と共にエクスカリバーの奪還、

最悪の場合、破壊をするんだ」

 

「えっ、イッセーくんが『神にも魔王にも人王にも凡人にもなれる』男だったんですか!?」

 

「・・・・・」

 

驚愕するイリナの言葉に俺は物凄く落ち込んだ。

が、外国まで俺のことが伝わっていただなんて・・・!

 

「不満か?」

 

「いえいえ、ただ純粋に驚いただけなんです。

まさか、幼馴染がシアさまの婚約者だなんて思いもしませんでした・・・・・」

 

「婚約者にされた俺も驚きっぱなしだがな」

 

溜息を吐けばイリナが苦笑を浮かべた。

 

「まあ、今回の事件で一誠殿は役に立つ。

なんせ、一誠殿は子供の頃じゃあはぐれ悪魔と戦って生き延びるほどの実力を持っているんだ。

しかも真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッドに鍛えられている。

実力は申し分ないぜ」

 

「「・・・・・」」

 

イリナとゼノヴィアが絶句した。そんで、その表情のまま俺に向けてくる。

 

「イッセーくん・・・・・あなたは行方不明になっている間に何をしていたの?」

 

「次元の狭間に住んでいて、グレートレッドと過ごして鍛えてもらっていた」

 

「それは・・・・・本当なのか?」

 

「神に誓って嘘は言わん」

 

そう言うと二人は顔を見合わせた。それから直ぐに首を縦に振って頷いた。

 

「わかった。そこまで言うなら、真龍に鍛えられたお前の実力を知りたい」

 

「ごめんね。疑うつもりはないけど、イッセーくんもこの件に関わるのなら、

私たちにあなたの強さを知りたいの。

ゼノヴィアの言う通り、あの伝説的なドラゴンに鍛えられているのなら、尚更・・・・・」

 

まあ、それもそうだよな。足手まといだと思われたくないし、

この二人に俺の実力を知ってもらうか。ソファーから立ち上がって二人に促す。

 

「分かった。それじゃ、トレーニングルームに行こう。そこで俺の実力を知ってもらいたい。

イリナとゼノヴィア、俺と勝負だ」

 

俺の発言に二人も立ち上がった。

 

「こちらは聖剣を使わせてもらうがいいかな?」

 

「聖剣?奪われていない方の聖剣か?別に良いけど」

 

「やるからにはイッセーくんが死なない程度に戦うわ。

それでも、いくら幼馴染とはいえ容赦しないよ」

 

「当然だ。全力で来ても構わない」

 

さぁ、聖剣の力とやらを見せてくれ。ゼノヴィアとイリナ。

 

―――トレーニングルーム

 

「へぇ、ここがトレーニングルーム。結構広いね?」

 

「その上、どんな攻撃でも耐えれるから心置きなく戦える」

 

「なるほど、それはいい。手加減なんて小難しいことは嫌いだからね」

 

身に付けていた白いローブを二人は脱ぎ捨て最初から着ていたようで、黒い戦闘服を着込んでいた。

肌の露出があまりない服だった。あれが教会側の戦闘用の制服というのか?

さらにゼノヴィアの片手に持っていた布に巻かれた長い得物。その布が解かれていく。

姿を現したのは一本の長剣だった。

 

「それが、現在のエクスカリバーか?」

 

「ああ、名前は破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)。元々カトリック教会が保管していた聖剣の一つ」

 

「で、私の聖剣はこれ」

 

腕に巻き付けていた腕輪みたいなものがグニャリと動き出す。意志が持っているかのように

イリナの手に一本の刀へと変化した。

 

「『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』。こんな風に形を自由自在にできるから、

持ち運びにすっごく便利なんだから。このようにエクスカリバーはそれぞれ特殊な力を

有しているの。こちらはプロテスタント側が管理しているわ」

 

ふむ・・・・・じゃあ、ゼノヴィアの聖剣は破壊に特化した聖剣ということか。

 

「―――禁手(バランス・ブレイカー)

 

バサッ!

 

背中に金色の六対十二枚の翼が生えた。

さらに、外見から見れば俺の髪は金色の髪に変貌して腰まで伸び、頭上に金色の輪、

瞳が蒼と翡翠のオッドアイになっただろう。と、力を解放した俺の姿に

「―――天使!?」とイリナが目を丸くして驚愕した。説明でもするか。

 

神滅具(ロンギヌス)の一つ、神愛護珠(ゴッド・ラブ・ディフェンス)禁手(バランス・ブレイカー)

熾天使変化(セラフ・プロモーション)』だ。普段は翼だけ展開しているけど、

相手は聖剣の使い手だ。―――少し本気を出させてもらうぞ」

 

神滅具(ロンギヌス)をイッセーくんが所有していただなんて・・・・・というか、

一つって言わなかった?」

 

「俺、神滅具(ロンギヌス)を四つ所有している」

 

「「んなっ!?」」

 

「―――さて、いくぞ」

 

足に力を籠めて、一気に二人の懐へと飛び込んだ。

一対の翼を刀状に変化させて二人の体を切り刻まんとばかり振るった。

 

ガキキィィィンッ!

 

二人が咄嗟に聖剣を盾にして防ぎきった。聖剣と翼が直撃して火花を散らす。

 

「重・・・・・っ!」

 

「今度は二対だ」

 

四枚の翼でイリナとゼノヴィアに斬りかかった。

二人は聖剣で対応するが、防戦一方で攻撃する暇がない状態に。

 

「コカビエルの強さはよくわからないけど、俺をコカビエルだと思って戦ってみたらどうだ?

今度は三対」

 

「くっ・・・・・!」

 

ゼノヴィアが苦し紛れに聖剣を俺の翼に振った。―――刹那。

俺の翼が強い衝撃によって地面に叩きつけられた。しかも、クレーターができているし!

 

「翼が斬れないのか。かなり頑丈なんだな」

 

「俺の翼をそこまでしたのはお前で三人目だ」

 

「ほう?一人はグレートレッドだとして、もう一人は誰なんだ?」

 

興味深そうに訊いてくるゼノヴィアだが―――教えるか。

 

「俺の体に傷を付けたら教えてやるよ。―――四対だ」

 

バサァッ!

 

潰された三枚の翼も動かして計四枚の翼が四方からゼノヴィアを襲う。一方のイリナは、

 

「あうっ!」

 

翼に拘束されて身動きが取れなくなっていた。まあ、そうしたんだけどな。

 

「イリナ、その聖剣を貸してくれ」

 

「へっ?」

 

唖然としている余所の彼女から、聖剣を翼で取った。確か、自由自在に変化できるんだったな?

 

「あの、イッセーくん。聖剣の適正と適応がないと能力が使えないよ?」

 

「ん?そうなのか?でも・・・・・」

 

イリナの聖剣に対し、心の中で大剣になれと思ったら―――。

 

「俺でも使えるようだけど?」

 

俺の手の中で刀だった聖剣が大剣に成った。

 

「嘘・・・・・」

 

「まさか、兵藤一誠が聖剣の適性を持っていただなんてね。驚いたよ」

 

イリナが絶句し、ゼノヴィアが不敵に笑みを浮かべた。金色の翼を戻して大剣を構える。

 

「聖剣って誰でも使える代物じゃないのか?」

 

「ああ、適正と適応がないと扱えないんだ。私とイリナは適性があり神の祝福を得て、

晴れて聖剣を使えた。まあ、私は天然だったようだけどね。

キミも数少ない天然の聖剣の使い手といったか。

いや、大天使に成れるキミだからこそ当然の結果なのだろうかな?」

 

そう言われてもな・・・・・。俺自身、よく分からないぞ。

 

「まあ、聖剣が使えようが使えまいが俺には関係ないことだ。

ゼノヴィア、聖剣同士で勝負といこうじゃないか」

 

「面白い、私の聖剣とイリナの聖剣。どっちが強いか使い手の技量によって

勝敗が決まるというものだ」

 

「俺って剣術がまだまだだからよろしくな。負ける気はないけど、な!」

 

聖剣の刀身を鞭のように伸ばした。ゼノヴィアは伸びる刀身を弾き、接近する。

 

「よっと」

 

弾かれた刀身を蛇のようにどくろ巻いて、背後からゼノヴィアを襲う。

だが、彼女はそれを察知して体勢を低くしてそのまま―――。

 

「せーの!」

 

「っ!?」

 

聖剣をバッドのように形を変えて、ボールを打つ感じで迫るゼノヴィアに振るった。

そんな俺の行動に彼女は聖剣を前に出して防ごうとした。しかし、ゼノヴィアは、

 

カキーンッ!

 

俺の一撃で後方に吹っ飛んだ。んで、すかさず、吹っ飛んだ彼女に瞬時で近づいては、

聖剣を枝分かれしてゼノヴィアの四肢に纏わりつき、拘束して首元に鋭い聖剣の刃を突き付けた。

 

「チェックメイト」

 

背後から降参しろと暗に言った。そして、彼女は―――、

 

「・・・・・降参だ」

 

自分の敗北を認めたのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode7

 

 

駒王学園In二年F組

 

―――ガラッ!

 

「あっ、リーラさん・・・・・あれ、一誠くんは?」

 

「一誠はしばらく学校を休学をします。なのでしばらく学校には来ません」

 

「・・・・・はい?」

 

教室に現れ、一誠がいないことに清楚たちは呆然とした。

 

「え、どういうこと?どうして一誠がしばらく学校に現れないの?」

 

「申し訳ございません。家の事情で口にしてはいけないのです」

 

小さくお辞儀をして言えないというリーラだが。

 

「あの、一誠さんは何時頃になったら学校に来るんですか?」

 

「それは・・・・・分かりかねます」

 

「一誠と暮らしているのにどうして分からないのだ?」

 

「・・・・・」

 

次々と問い出され、リーラは答え辛くなった。ついには―――。

 

「黙秘権を使います」

 

「「「「なんでっ!?」」」」

 

絶対に言わないと口を固く閉ざしたのだった。その頃、一誠はというと―――。

 

 

―――木漏れ通りIn一誠side

 

 

「かれこれ歩き続けているが・・・・・手掛かりというか、

聖剣を盗んだ奴すらの情報もない状況でどうやって見つけるんだ?」

 

聖剣奪還初日、イリナとゼノヴィアと町に歩き続けて探索していた。

何故か白いローブを着るように言われ、言う通り着て歩いているのだった。

俺の疑問をイリナが解消してくれる。

 

「実を言うとね?私たちの前に何人か神父が潜入捜査をしていたんだけど、こ

とごとく殺されているの。だから、私たちが神父の恰好をして街中を歩き回っていれば、

向こうから現れると思っているの」

 

「神父が殺されている?神父を殺したそいつがコカビエルとは思えないんだが?」

 

ゼノヴィアは同意見だと頷いた。

 

「ああ、私もそう思っているんだ。が、同胞を始末したのはコカビエルではなくとも、

こうして歩きまわっていれば、同胞を殺した奴が現れる。

そいつを捕まえてコカビエルと関係があるか吐かせる算段だ」

 

「俺たち自身が囮ということか。見つかるといいんだがな」

 

「そうね。それにしても・・・・・綺麗な町ねイッセーくん」

 

木漏れ通りをキョロキョロと顔を動かして周囲を見るイリナ。

そっか、イリナにとって初めて訪れる町だったな。

 

「この町は木漏れ通りと言って、悪魔と天使、堕天使、人間の四種交流を象徴とする町なんだ。

俺もこの町に住んでまだ日が浅いけど、ちょっとだけどこに何があるのか分かる」

 

「四種交流の象徴の町か・・・・・確かに、悪魔の気配もちらほらと感じるな」

 

「天使の気配を感じる人もいるわ。一般人として暮らしているのね・・・・・これも、

ヤハウェさまがお決めに成ったことなのね」

 

物珍しそうに二人は感嘆を漏らす。まあ、外国から、県外から来た人間にとって

かなり珍しい町なんだろう。それがいま、二人の言動で証明している。

 

「―――あっ、あれは!」

 

「「ん?」」

 

ダッ!と突然イリナがどこかに向かって駈け出した。

俺たちは首を傾げ、頭上に?を浮かべるものの、手掛かりでも見つけたのか?と思い、

イリナの後を追った。しかし、俺の予想とは違っていた。

 

「お客さん、この絵を買ってはどうかね。この絵は由緒正しい聖人が描いた有名な物だよ?」

 

「買ったわ!」

 

「いや、買っちゃだめだろう!?」

 

イリナは下手な画を一目惚れしてしまい露店で画を売っている人物に購入を勧められていた。

 

「イッセーくん!止めないで!この絵は絶対に聖なるお方が描かれた絵に違いないの!

この人だって言っているほどだもの!」

 

キラキラランランと輝かせ、とっても危ない目を俺に向けて言ってくる。

 

「アホか・・・・・画を買うよりも重要なことがあるだろう?」

 

「私にとっていまこの画を買うことこそが重要だもの!」

 

おーい、聖剣よりそっちが大事って神王とヤハウェが聞いたら困った顔をすんぞ。

 

「ダメだ。逆に荷物となる。邪魔だから買っちゃダメだ」

 

「私が持つもん!」

 

「まだ言うか。俺から見てもあれは素人が描いたような絵だったぞ」

 

「そんなことないもん!」

 

「じゃあ、誰かわかるのか?私には誰一人脳裏に浮かばない」

 

「・・・・・たぶん、ペトロ・・・・・さま?」

 

「ふざけるな。聖ペトロがこんなわけないだろう」

 

「いいえ、あんなのよ!私にはわかるもん!」

 

「ああ、どうしてこんなのが私のパートナーなんだ・・・・・。主よ、これも試練ですか?」

 

なんの試練だか聞いても良いか?と思いたくなるほどの発言だった。

ゼノヴィアは本当に頭を抱え落ち込み始めた。

そんな彼女に心外だと機嫌を悪くしたイリナだった。

 

「ちょっと、頭を抱えないでよ。あなたって、沈むときはとことん沈むわよね」

 

「うるさい!これだからプロテスタントは異教徒だというんだ!我々カトリックと価値観が

違う!聖人をもっと敬え!」

 

「何よ!古臭いしきたりに縛られているカトリックの方がおかしいのよ!」

 

「なんだと、異教徒」

 

「何よ、異教徒!」

 

露店の前で喧嘩をし出す二人。周囲にいる人々も何だ?と奇異な視線を向け始める。

そんな視線に耐えきれず、

 

ゴンッ!

 

「「っ~~~!?」」

 

両成敗とばかり、二人の頭に拳を振り下ろして窘める。

頭を押さえて痛みを耐える二人は涙目で俺を睨んでくるが、

 

ガシッ!

 

「おら、そろそろ探しに行くぞ」

 

「えっ?あっ、イ、イッセーくん!?待って!私はあの画を―――――!」

 

「仕事に戻るぞ」

 

「そんなぁーッ!?私まだあの画を―――――」

 

「イリナ、路銀のことも考えてくれ・・・・・パン一つも買えなくなって空腹のままで

仕事なんてできるわけがない」

 

ズルズルとイリナとゼノヴィアと引き摺ってこの場からを離れる。俺がいなかったら

間違いなくこいつ買っていたぞ。こいつの芸術感覚は明らかにおかし過ぎる!

―――初日からこんなんで大丈夫なのかよ・・・・・?

 

「私の画ぇぇぇええええっ!」

 

 

―――○●○―――

 

 

その日の夜。結局、手掛かりというものは得ることができなかった。

家に戻って夕食はイリナとゼノヴィアと共に食べて風呂に入って自室にのんびりと過ごしていた。

 

「うわ・・・・・この件数は何なんだ?」

 

電源を切っていたから分からなかったが、軽く十件を超えるメールが送られている。

そのメールの送り主が清楚たちだった。

 

『どうしてしばらく学校に来ないの?』

 

『教えてください。手伝えることがあれば僕たちも手伝いますよ』

 

『リーラさんが黙秘権を使って教えてくれない。どういうことなんだ?』

 

『イッセー教えろ!』

 

『イッセー、皆から聞いたけどしばらく学校に来ないですって?どんな理由なの?』

 

『イッセーくん、具合でも悪いのですか?もしそうならお見舞いに参ります』

 

『お父さんから聞きだしても教えてくれないっす!イッセーくん、理由を聞かせて!』

 

『イッセーさま、一体なにを抱えているのですか?私たちに言えない秘密なのでしょうか?』

 

『このままイッセーくんに会えないなんて嫌だよ。ねぇ、教えて?』

 

『兵藤くん、教えてください。皆さんが心配していますよ』

 

それから俺が返事を送らなかったせいなのか、清楚たちからのメールが多数届いていた。

 

「(絶対リーラは苦労しているよな)」

 

少し罪悪感が感じだした。リビングキッチンにいる彼女に労いでも言おうと体を起こした。

 

コンコン。

 

「ん?開いているぞ」

 

扉からノック音が聞こえた。俺の言葉を聞きドアが直ぐに開いた。

 

「イッセーくん・・・・・」

 

黒い戦闘服のままのイリナが入ってきた。

 

「あれ、風呂に入らなかったのか?」

 

「入ったけど、着替えるものがなくて」

 

「あー、なるほどな」

 

ちょっと待ってろ、と俺はベッドから降りてクローゼットの扉を開いて中を漁った。

えーと、これでいいか。

 

「ん、これでも着てろ」

 

俺の白いワイシャツをイリナに放り投げながら言った。彼女は受け取ると、

戸惑いの色を浮かべた。

 

「え?これって・・・・・イッセーくんのワイシャツ?」

 

「ああ、その上にでも羽織るように着ればいいさ。

その姿、肌の露出はないけどイリナのボディラインがハッキリと浮かんで分かるぞ」

 

「―――――っ!」

 

ボンッ!とイリナの顔が羞恥で赤くなって、俺に背を向けながらワイシャツを着込んだ。

それから彼女は言った。

 

「・・・・・イッセーくんのエッチ」

 

その言葉に真っ直ぐイリナに真剣な眼差しを向けた。

 

「ちょっと待とうか。どうなったら俺が変態に成るんでしょうか」

 

「だ、だって・・・この姿をしている時の私を見ていたじゃない」

 

「不可抗力と言っておくぞ。それにその姿でいるイリナが全面的悪い。

白いローブを脱いだら下はそれじゃないか」

 

うっ・・・、とイリナはぐうの音も出せなかった。言葉を詰まらせ何か言いたげに俺を睨む。

 

「・・・・・なぁ、イリナ」

 

「・・・・・なによ」

 

なーんか、警戒されてんな・・・・・。

 

「どうして俺はグレートレッドに鍛えてもらっていると思う?」

 

「え・・・・・?」

 

突然そう言われたら、誰だって唖然するよな。どうしてそんなことを?みたいにさ。

 

「俺は父さんと母さんが死んでとある理由でグレートレッドに鍛えてもらっているんだ」

 

「理由って・・・・・なに?」

 

「父さんと母さんを殺した悪魔と堕天使の三人に復讐するためだ」

 

「っ!?」

 

イリナは絶句した面持ちを伺わせてくれた。死因は殺人と言われているだろうが、

その殺人者を俺は会っているんだ。そう、あの時、家の中でな・・・・・。

 

「イッセーくんのご両親は悪魔と堕天使に・・・殺された?」

 

「血塗れの俺の家族の傍にいたんだ。殺したのは俺たちだと、俺に言って・・・・・」

 

「そんな・・・・・」

 

「だからだ。俺が姿を現さず、行方不明になっていたのは次元の狭間でグレートレッドと

生活を送って、鍛えさせてもらっているんだ。

父さんと母さんを殺したあの三人を殺して復讐をするために」

 

「・・・・・」

 

俺の言葉を静かに耳を傾けてくる。

 

「イリナ、時間の流れって残酷だな。俺が復讐者となっているのに、

久し振りに再会した幼馴染は教会の人間に成っていた。

復讐者の俺は闇で、教会の人間のイリナは光だ」

 

「―――――」

 

「もしも俺が―――」

 

口を開いた次の瞬間、イリナが抱きついてきてベッドに押し倒された。

 

「イリナ・・・・・?」

 

「違う・・・・・イッセーくんは闇じゃない・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「だって、イッセーくんは親から虐めに遭って子を助けたじゃない・・・・・」

 

・・・・・あの子か。いま思い出せば懐かしい奴だなイリナと三人で遊んだ子供だ。

 

「俺自身じゃないよ。父さんと母さんがあの子を虐めていた親から助けたんだ」

 

「それでも!あなたは確かにあの子を助けた!」

 

バッ!と顔を上げた。瞳を潤わせていた。怒り、悲しみで顔を歪ませている。

 

「私が教会に所属した理由は、そんなイッセーくんを見て、

将来は誰かのために役に立ちたい大人になろうと決めたからなのよ!」

 

イリナ・・・・・お前・・・・・。

 

「だから・・・・・だから自分を闇だなんて、言わないでよぉっ・・・・・」

 

嗚咽を漏らす。イリナと言うただ一人の少女が俺のなんかのために泣いてくれる。

 

「・・・・・ごめん」

 

彼女の背中に腕を回して耳元で声を殺して謝罪する。するとイリナも俺の背中に腕を回してきた。

 

「・・・・・今夜、イッセーくんと寝たい」

 

「・・・・・分かった」

 

俺とイリナはお互いの額をくっ付け合った。そして徐におかしいように笑みを浮かべる。

 

「昔こうやって向かい合って寝たよな」

 

「うん、私の家とかイッセーくんの家とか泊って一緒に寝たね。

その度にイッセーくんのおばさまがなんか嬉しそうに笑っていたよね」

 

「なんでだろうな」

 

「さあ、今になっても分からないよ」

 

だよな、と苦笑を浮かべる。

 

「ねぇ、イッセーくん。好きな人、いる?」

 

「急にどうしたんだ?」

 

「久し振りに会った幼馴染のことが気に成るじゃない」

 

・・・・・それを言われるとイリナはどうなんだ?って疑問が沸くんだけどな・・・・・。

 

「って、イッセーくんにはシアさまや魔王の娘の婚約者候補だったわね。聞いて野暮だったわ」

 

「いや、あいつらに好意を抱いていない」

 

「そうなの?」

 

「いきなり決められたんだ。向こうが俺に好意を抱いても俺は抱いていない状態なんだ」

 

素直にそう言った。だが、もしかしたらあの三人に好意を抱くかもしれない。

それまでは今のままの状態だ。

 

「そう言うイリナはどうなんだ?」

 

「えっ?うーん・・・・・小さい頃だったらいたかな」

 

ほう、幼い頃か。何時も俺たち三人はやんちゃに遊んでいたからな。

男だと思っていたんだけど実際は少女だった。

 

「そうか、その子は今どうしているんだろうな」

 

「・・・・・そうだね」

 

イリナの腕が背中から俺の首に動かして絡めてきた。さっきよりも体同士の密着の度合いが―――。

 

「もしその子がイッセーくんだったら・・・・・イッセーくんは迷惑かな?」

 

「・・・・・はっ?」

 

「ううん・・・・・やっぱりなんでもない・・・・・」

 

「おやすみ」と彼女はいい俺の胸に顔を押し付けながらそのまま寝だした。

しばらく、彼女を見ていた俺は耳元で呟いた。

 

「迷惑じゃないさ。イリナ、お前も俺の家族に成って欲しい」

 

俺も「おやすみ」と彼女の頬に唇を軽く押し付けてそれから瞑目した。

 

「・・・・・イッセーくんのバカ」

 

と、そう言うイリナが顔を赤くしたのを俺は知らなかった。ただ、心の中で苦笑するだけだった。

 

 

―――○●○―――

 

 

イリナとゼノヴィアと共にエクスカリバー奪還を果たすために行動して二日目、

 

「そんじゃ、今日もブラッと町中を歩きまわりますか」

 

「今度は人気のない場所で歩いて回ろう」

 

「うん、そうね」

 

今日は違う場所で探索することにした。できるだけ人気のない場所を中心に。

 

「しかし、どうしてお前までついてくるんだ?」

 

頭の上に乗っている動物に問いかけた。銀色の毛並みに青と金のオッドアイの猫だ。

―――猫の妖怪、猫又の上位妖怪である猫魈の銀華。

 

「人を探すなら仙術を使える私の出番というわけにゃ。

ただ歩いて探すより、相手の気を覚えてその気を頼りに探せばすぐに見つかるわ」

 

「へぇ、猫の妖怪ってそんなことができるんだ?」

 

「そうよ?一誠、仙術を学びたいかしら?」

 

「ああ、ぜひ学びたいな。探索にも便利そうだ」

 

しかし、彼女は「それだけじゃない」と付け加えた。

仙術は、対象の相手の行動は気や生命で把握できて理解し、操ることもできる。

逆に相手の気を操って乱したり断つことで生命ダメージを与え行動不能もできる。

もちろん、対処方法は限られているから大概死ぬらしい。

 

「もしかしたら、一誠も仙術を扱えるかもしれない。試してみる価値はあるわよ」

 

「そうか、じゃあ家に戻ったら教えてくれ、銀華師匠」

 

「ふふふ♪人に何かを教えるのって初めてだから楽しみにゃん♪」

 

目を細め、ニンマリを口の端を吊り上げて二つの尻尾をユラユラと嬉しそうに揺らした。

さて、それから俺たちは歩き続けた。

周りから奇異な視線が送られるが、顔を隠しているので正体は分からないだろう。

 

できれば今日は足をつかみたい。―――と、励んでみたものの、

いたずらに時間だけが過ぎるだけで、もう夕方だ。

 

「んー、今日も現れなかったか」

 

「一先ず、イッセーくんの家に戻って体勢を立て直したら、夜にまた探しましょう?」

 

「そうだな。イリナの言う通りにしようか」

 

イリナの提案にゼノヴィアが賛成した。俺も同意と頷いて踵を返した―――。

 

「待って」

 

突然、銀華が待ったを掛けた。猫耳をピクピクと動かし始めたかと思えば―――。

 

「上!」

 

銀華がいきなり叫ぶように言った。俺たちが上空を見上げた時、

長剣を構えた白髪の少年が神父のような服を着込んで降ってきた。

 

「神父の一団にご加護あれってね!」

 

ギィィィィィン!

 

俺が素早く金色の翼を生やして、少年神父の一撃を防いだ。

 

「お前は―――!」

 

ゼノヴィアが一瞬目を丸くしたが、聖剣を巻いていた布を取り払って構えた。

 

「知っている奴か?」

 

「フリード・セルゼン。元ヴァチカン法王庁直属のエクソシスト。

十三歳でエクソシストになった天才。悪魔や魔物を次々と滅していく功績は大きかったから

別名『白狂狼』なんて異名で呼ばれていたわ」

 

同じくイリナも聖剣を刀に変えながら少年神父のことを説明してくれた。

 

「だが、奴はあまりにやり過ぎた。同胞すらも手にかけたのだからね。

フリードには信仰心なんてものは最初からなかった。あったのはバケモノへの敵対意識と殺意。

そして、異常なまでの戦闘執着。異端にかけられるのも時間の問題だった」

 

目を細め、聖なるオーラを放つ長剣を見てゼノヴィアは呟いた。

 

「『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』・・・・・なるほど、

今までの神父を殺してきたのはお前ということか」

 

「はいはい!そぉーでございますぜぇ?ちょいとこのエクスカリバーちゃんで

神父って腐れ外道をザックリと突き刺したり刺したりと殺って()いたんデスはい!」

 

「なんてことを・・・・・!」

 

「んー、今回は期待大の予感ですねぇー?なんせ、聖剣の使い手と天使が相手だから俺は興奮して

イッちゃいそうだっぜ!」

 

フリードという神父は姿を消した。速い・・・っ!

 

「が、追えれないスピードではないな!」

 

翼を動かしてイリナを守るように包んだ。次の瞬間、翼に衝撃が伝わった。

 

「なぬっ!?」

 

「はぁっ!」

 

フリードが姿を現したところで、ゼノヴィアが斬りかかった。

その攻撃にフリードは聖剣で受け止め、鍔迫り合いをする。

 

「フリード・セルゼン。反逆の徒め。神の名のもと、断罪してくれる!」

 

「ハッ!俺の前で憎ったらしい神の名を出すんじゃねぇや!ビッチが!」

 

「戦闘狂のあなたには天罰を下すわ!アーメン!」

 

苛立たしいそうに叫ぶフリードの横からイリナが飛びかかった。

フリードはゼノヴィアを強引に押し返してイリナに斬りかかった。

 

「ひゃっはー!」

 

「「はぁぁっ!」」

 

二人は相手を斬らんとばかり、聖剣を激しく振るった。そこにゼノヴィアも加わった。

 

ガキンッ!ギィィン!

 

聖剣の刃がぶつかり合う度に火花が散る。二人は強いが、あのフリードって奴も強い。

しばらく見ていてもいいが・・・・・それだと退屈だな。そろそろ―――、

 

「俺も手を出すとしよう」

 

瞬時でフリードの背後に回って頭を掴んだ。

 

「はい?」

 

「取り敢えず、痺れろ」

 

ビガッ!ガガガガガガガガガッ!

 

「あばばばばばばばばばばっ!?」

 

魔力を天に昇るほどの雷に変えてフリードにダメージを与えた。攻撃を止めれば、

全身から黒い煙を立ち昇らせる。掴んだ頭を離せば、バタリと倒れた。

 

「強いのね、イッセーくん」

 

イリナが話しかけてきた。強い・・・か。その言葉にどうしても嬉しくも、喜びも感じなかった。

 

「いや、弱いさ」

 

「自分を過小評価か?」

 

「過大評価、過小評価はどうでもいい。俺は俺を必要とし、

俺を愛してくれる皆を守れる力が欲しい。だから―――」

 

徐に、翼を動かした。薙ぎ払うように周囲に動かせば、翼に何かが直撃した感触が伝わった。

 

「近づくなら、もう少しタイミングを計って動け」

 

壁にぶつかった二人の少年に言った。ゼノヴィアとイリナは目を丸くして唖然となっていた。

 

「何時の間に・・・・・」

 

「気付かなかったぞ」

 

「姿を消していた。多分、あれの能力なんじゃないか?」

 

二人の少年の傍にある刀剣。あの刀剣からイリナとゼノヴィアの聖剣と酷似した波動を感じる。

 

「『透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)』、『夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)』だわ!」

 

「フリードと聖剣を奪いに来たということか」

 

二人は直ぐに二つの刀剣に気付いた。あっ、やっぱりそうなのか?

 

「じゃあ、あの二つの聖剣を奪えば、終わりということだな?」

 

「ええ、まさか・・・こんなに早く終わるなんて拍子抜けだわ」

 

イリナが溜息を吐いた。おいおい、早く終わって良かったじゃないか?

 

「だが、まだコカビエルが残っている。奴を―――」

 

ゼノヴィアが堕天使の幹部の名を口にしたその時だった。

 

「俺がなんだって?」

 

「「「―――っ!?」」」

 

俺だけじゃなく、イリナとゼノヴィアが目を大きく見開いた。

この圧倒的なプレッシャーは・・・!

上空を見れば―――装飾の凝った黒いローブに身を包む若い男。

背中には・・・・五対十枚の漆黒の翼を生やしていた。

 

「まったく、強大な魔力の波動を感じたかと思えば、

フリードたちが呆気なくやられていたとはな」

 

・・・奴が堕天使の幹部、神の子を見張る者(グリゴリ)のコカビエルだと思ってもいいだろう。

あの時の三人の堕天使より実力が桁違い過ぎる。

いや、次元が違い過ぎると言っても過言じゃない。

 

「とりあえず、フリードだけでも回収するか」

 

指をパチンと弾いたコカビエル。その直後だった。

気を失っているフリードの下に魔方陣が展開して、姿が消えた。聖剣も一緒にだ。

それだけじゃない、奪われていた残りの二本の聖剣も魔方陣によって消えた。

 

「六対十二枚の翼・・・・・誰だ?ミカエルたちの新しい熾天使(セラフ)の者か?」

 

「生憎、俺は天使じゃない。人間だ」

 

「―――ほう?つまりその姿は『熾天使変化(セラフ・プロモーション)』、『神滅具(ロンギヌス)』か。

くくくっ、これは面白いものを目にしたぞ。

―――あの女の神器(セイクリッド・ギア)を宿す人間と出会うことになるとはなぁ」

 

あの女・・・・・?

 

『あの二人もまた神器(セイクリッド・ギア)の所有者でしたからね』

 

―――っ!

 

脳裏にヤハウェの言葉が過った。この力は、神滅具(ロンギヌス)はお母さんの形見・・・だとすれば!

 

「お前・・・・・あの人のことを知っているのか?」

 

「ん?お前・・・・・あの女のなんなのだ?」

 

コカビエルは興味深々と訊いてきた。

その言葉は間違いなくお母さんとお父さんを知っている言い方だった。

 

「・・・・・俺の名前は兵藤一誠だ。母、兵藤一香と父、兵藤誠の間に生まれた子供だ」

 

二人の子供だとハッキリと告げた。コカビエルはしばらく無言になって、

確かめるような目つきで俺を見据えた。

 

「・・・・・くっ」

 

不意に、コカビエルが・・・・・。

 

「くっはっはっはっはっはっはっはぁっ!はーっはっはっはっはっ!」

 

笑いだした。仕舞には腹を抱え出す。なんなんだ?と目を細めて怪訝な顔で見上げていれば、

コカビエルの口が開いた。

 

「あの二人の子供か!まさか、あの女の力を受け継いでいたとはな!

これは面白い、実に面白い!―――兵藤一族よ!」

 

「・・・・・兵藤一族?」

 

なんだ・・・それって、どういうことだ?困惑している俺をコカビエルは笑みを浮かべていた。

 

「なんだ、自分の出世のことを知らんのか?お前の父と母はそれはそれは強かったぞ。

あの三大勢力戦争―――俺たち堕天使や悪魔と魔王、神と天使が世界の覇権を巡っていた

戦争の最中に乱入してきた人間どもと一緒に戦っては、よりにもよって戦争を終戦に導いた

腹立たしい兵藤家の人間どもの一族だった」

 

「「「―――――っ!?」」」

 

父さんと母さんが三大勢力戦争を終結に導いた人間・・・・・?兵藤家、兵藤の一族・・・・・。

 

「確か・・・・・式森とかいう魔法使いの人間どもも一緒にいたな。奴らも強かった。

あの時の戦争がいままで戦ってきた中で、一番楽しかったなぁ・・・。

混沌と化となったあの時の戦場を。ははははっ!いま思い出しただけで、歓喜に震える・・・!」

 

式森・・・・・?魔法使い・・・・・?おい、そいつって・・・・・・。

 

「(式森和樹―――お前なのか?)」

 

「兵藤一誠といったな?俺はこれからサーゼクス・グレモリーとリアス・グレモリーの根城である

駒王学園を中心にしてこの町を暴れさせてもらう。

そこで、エクスカリバーを巡る戦いをしよう!」

 

「なっ、そんなことしたら、堕天使と神、悪魔の戦争が再び勃発するわよ!

あなた、正気なの!?」

 

「俺は正気だ。だから兵藤一誠。深夜、駒王学園に来い。

この町を全て破壊されたくなければ俺と戦い、倒す術しかないぞ。

ふははははっ!夜になるのが待ち遠しいな!あの二人の子供ならば、さぞかし強いだろう!」

 

哄笑を上げながらコカビエルは魔方陣を展開して姿を暗ました。

だが、俺は追い掛けることをしなかった。あいつの口から発せられた事実に思考が追いつけない。

 

「イッセー!」

 

遠くから聞き慣れた声が聞こえた。振り向けば―――紅髪を激しく揺らしながら駆けてくる

リアス・グレモリーが視界に入った。彼女だけじゃない、清楚たちまでいた。

 

「・・・リアス・グレモリーか」

 

「どうする・・・・・?」

 

「・・・・・一先ず、神王さまに報告をしよう」

 

いいな?とゼノヴィアが視線で問いかけてきた。

 

「ああ・・・・・俺もあの二人に問わなければならないことができた」

 

二人を抱え、翼を羽ばたかせて家に向かって飛翔した―――。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode8

 

コカビエルと遭遇し、コカビエルがとんでもない事実を発言した。兵藤家、兵藤一族。

俺の父さんと母さんが三大勢力戦争を終結に導いた存在。

だからなのか―――、だから、神王たちはあんなに俺のことを気にかけていたのか。

これで・・・これでようやく、理解した。あの人たちは『兵藤』だから俺に気にかけ、

良くしてくれるんだ。俺が三大勢力戦争を止めた重要人物の間に生まれた子供だから―――!

 

「・・・・・」

 

バサッ!

 

家に着いて早々に神王の家へ近づいた。すると、向こうから現れた。

 

「一誠殿!」

 

神王ユーストマが。ゼノヴィアが説明するために口を開く。

 

「神王さま、コカビエルが現れました」

 

「っ・・・それで、あいつは?」

 

顔を顰めてゼノヴィアに再度問う。

 

「深夜、駒王学園を中心にしてこの町を暴れるそうです。

―――エクスカリバーを巡った戦いをコカビエルが望んでおります」

 

「それは・・・・・最悪なことが起こるね」

 

背後から魔王フォーベシイが真剣な面持ちで近づいてくる。これで役者が揃ったか。

 

「―――三大勢力戦をうを終結に導いたのは兵藤家と式森家」

 

「「―――――っ!?」」

 

「・・・・・やっぱり、知っていたんだな?」

 

前後にいる王の二人に問うた。案の定、絶句した表情を見せてくれた。

 

「一誠ちゃん・・・・・どこでそれを」

 

「コカビエルが親切に教えてくれた。だから二人は俺のことを気にかけてくれているんだな。

俺が『兵藤』の出身者だから、父さんと母さんの間に生まれた『兵藤』の子供だから

保護しようとしていたんだな?」

 

「それは・・・・・」

 

「あんたらの戦争を止めた一族の子供。もしもその子供の身に何が起きたら、

もしもそのことをとある一族に知れたら、ただじゃ済まないんじゃないのか?」

 

俺の質問に何も言い返さない二人。その反応にある疑問をぶつけた。

 

「まさかだと思うが、俺をシアたちと結婚させようとしているのは、政治的な絡みなのか?

『兵藤』と強く結ぶためのパイプとして」

 

「いや、それは違うよ一誠ちゃん」

 

ここで初めて言い返してきた。・・・・・?じゃあ、なんだ?と視線に乗せて向けると、

 

「俺とまー坊がシアたちと結婚させようとしているのは一人の親として決めたことだ。

王としての考えで大事な一人娘を婚約させるつもりはない」

 

「私たちは私たちの権力、地位、お金を欲しさに結婚しようと考えている男に、

愛おしい娘たちを嫁がせるつもりはないよ。

それに、キミは偶然的にもネリネちゃんたちと出会った。これは運命だと私は思っているよ?

なにせ、元々一誠ちゃんはネリネちゃんたちの婚約者なのだからね」

 

「シアもだぜ?親同士で決め会った話だ。もしもどちらかの子供が男で女だったら結婚させようと

決めていたんだ。現在進行、一誠殿が男でシアが女。だからシアを一誠殿に任せているんだよ」

 

「だが、私たちがハッキリと説明しなかったからキミに嫌な思いを抱かせてしまったようだ。

申し訳ない」

 

「すまねぇ」

 

フォーベシイとユーストマが頭を下げた。王が一介の男子学生に頭を下げるなんて前代未聞だ。

 

「この事件が終わったら包み隠さず教える。キミのご両親のこと、キミの家のことを」

 

「約束は守る。だから―――」

 

ガシッ!

 

「「私(俺)を魔王さま(神王さま)と呼ばないでくれぇぇぇええええええっ!」」

 

「シリアス的な雰囲気が台無しだッ!!!!!」

 

俺にしがみつき、涙と鼻水で顔をグシャグシャの状態で懇願してきた!あーもう、鬱陶しいな!

 

「・・・・・とりあえず、話は分かった。だけど、前半の話は肯定するんだな?」

 

「半々だがな。シアたちの許婚候補である子供と、兵藤家から生まれた子供。

どっちも大事だからお前さんを保護しようとした」

 

「キミが思っている以上にキミは重要な人物だからね。我々三大勢力にとっては」

 

マジですか・・・・・じゃあ、あの人たちもそうなのか?

 

「それじゃあ、オー爺ちゃんもそう思っているのか?」

 

「オー爺ちゃん?」

 

「北の神の主神・・・・・だったかな?うろ覚えで記憶が曖昧だから覚えていないけど・・・・・

髭が長くて左目に水晶のようなものを嵌めていたな・・・・・って、

どうして驚く?イリナとゼノヴィアも」

 

四人が開いた口を塞がらないでいた。それに疑問をぶつけると、

 

「・・・・・一誠ちゃん、北欧の主神と会ったことがあるのかい?」

 

「休みの時、たまに家に遊びに来るんだけど。あと、時々だけどいろんな人が遊びに来ていたな。

インドラっていうおじさんやお猿さんのお爺ちゃんとか、骸骨のお爺ちゃん、

海の神さまのおじさんに天空の神さまのおじさん。他にも―――」

 

どれもこれもうろ覚えで遊びに来ていた人たちの名を出せば、ユーストマとフォーベシイが絶句したまま固まっていた。

 

「マジかよ・・・・・帝釈天と闘戦勝仏に冥府の神ハーデス、

海の神ポセイドンに天空の神ゼウス」

 

「皆、それぞれの神話に出てくる有名な神と伝説ばかりの人物・・・・・」

 

「イッセーくん・・・・・私の知らないところでとんでもないヒトたちと出会っていたのね」

 

「なんと怖ろしい男だ。絶対にお見えに掛かれない人物たちばかりだぞ」

 

「え?そうなのか?暇だから遊びに来た、とか言いながらたまに来るんだけど?」

 

お土産も持ってきてくれるし、と付け加える。

フォーベシイとユーストマはお互いに顔を見合わせる。

 

「神ちゃん、私たちはとんでもない子に娘と結婚させようとしていたんだね」

 

「おう、俺もそう思っていた。しっかし、誠殿と一香殿には驚かせる。

まさか、他の神々と交流をしていただなんてな」

 

「そうだね。だが、そういうところを私たちも学ぶべきかもしれない」

 

「他の神話の神との交流ねぇ・・・・・難しいと思っていたんだが、

案外話し合えば、分かり合えるかもしれないな」

 

なんだか・・・・・勝手に納得しているんだが・・・・・。

 

「まあ、なんだ。これからもシアたちのことよろしく頼むぜ。一誠殿」

 

「大人の事情を気にせず、ネリネちゃんたちと親しく接してほしい」

 

「・・・・・分かった。ああ、それと」

 

「なんだい?」

 

「―――リアス・グレモリーたちと遭遇した」

 

言った瞬間、空からリアス・グレモリーたちが降ってきた。

 

「イッセー、説明してちょうだい」

 

「お父さんもね」

 

「お父さまもです」

 

「「「・・・・・」」」

 

言い逃れしたら許さない、と俺たちを睨んでくるリアス・グレモリーたちだった。

 

 

―――○●○―――

 

 

「聖剣エクスカリバーの奪還なんて・・・・・」

 

「私たちの知らないところでそんなことが起きていたのですか」

 

あれから俺の家で根掘り葉掘り吐きだされた俺と神王と魔王。(何故か正座されている)

リアス・グレモリーたちは信じられないと呆れた表情を浮かべ、口から漏らした。

 

「もう!どうしてお父さんはそんな重要なことを教えてくれなかったの!?」

 

「い、いやだってな・・・?シアたちに危険な目に遭わせたくなかったからよぉ・・・」

 

「だからって、一誠さまに危険な目を遭わせてもいいと思っているのですか?」

 

「彼にはきちんと話した上での同意だよネリネちゃん!」

 

「それでも、私たちに一言教えてくれたってよかったじゃない。

イッセーくんが学校にしばらくは来ないって訊いて心配したんだからね」

 

「リ、リコリスちゃん・・・・・」

 

娘の前では神王と魔王の貫録無し、だった。

 

「それでイッセー?どうして私たちには教えてくれなかったのかしら?」

 

「・・・口止めされていた。だからリーラにも言わないでほしいと頼んだ」

 

「・・・・・そう。とりあえず、あなたが裏で何をしていたのかよく分かったわ」

 

「堕天使の幹部のコカビエル・・・・・よりによって私たちの学び舎で暴れるとは・・・・・」

 

ソーナ・シトリーが握り拳を作った。クールな彼女が怒るなんて珍しいな。

 

「・・・・・でさ、どうしてグレモリー眷属までいるんだよ?おまけに知らない奴らまでいるし」

 

「ああ、強大な魔力を感じて眷属全員できたのよ。それとあなたが知らないのは無理もないわ。

ソーナの眷属悪魔だもの。別の良い方をすれば生徒会メンバーよ」

 

あー、そうですか。あの学校の生徒会メンバーだったのね。

 

「あと、木場の奴。イリナとゼノヴィアを睨んでいるけどなぜ?」

 

なんというか、殺気立っているね。怨恨の眼差しで睨んでいるぞ。

 

「・・・・・あの子は聖剣計画の生き残りだから」

 

「聖剣計画?」

 

「・・・・・あの計画か」

 

ポツリとユーストマが忌々しいそうに呟いた。さらにゼノヴィアが呟いた。

 

「・・・・・『聖剣計画』の被験者で処分を免れた者がいるかもしれないと聞いていたが、

それはキミか?」

 

「ああ・・・・・そうだよ」

 

あの木場祐斗が特大の殺意を体から発して、肯定した。

 

「そして、キミたちの先輩だよ。―――失敗だったそうだけどね」

 

「・・・・・」

 

あいつの復讐のために生きていたということなのだろうか・・・・・俺と似ている。

間違いなくだ。

 

「『聖剣計画』ってなんだ?」

 

イリナに問うた。気になる計画だった。特に聖剣と関わっていることが誰でも分かる。

イリナは俺の問いを聞いてコクリと首を縦に振って頷いた。

そして、説明するために口を開いてくれた。

 

『聖剣計画』、聖剣エクスカリバーが扱える者を育成する計画。

木場もその計画にいた一人だが他にも多くの被験者もいた。木場は他の被験者と共に

エクスカリバーと適応するため、人為的に養成を受けていたが木場と同時期に養成された

被験者たち全員適応できなかった。そして、適応できなかったと知った教会関係者は

木場たち被験者を『不良品』と決めつけ処分―――――殺した。

 

「・・・・・木場はその生き残りというわけか」

 

「その事件は、私たちの間でも最大級に嫌悪されたものだ。処分を決定した当時の責任者は

信仰に問題があるとされて異端の烙印を押された。いまでは堕天使の住人さ」

 

「堕天使側に?そいつの名前は?」

 

興味が湧いて俺は聞く。

 

「―――――バルパー・ガリレイ。『皆殺しの大司教』と呼ばれた男だ」

 

「バルパー・ガリレイ・・・・・」

 

俺たちの話しを聞いていたのか、木場祐斗が低い声音で『聖剣計画』の責任者の名を呟いた。

 

「・・・・・堕天使を追えば、その者に辿り着くのかな」

 

あれ、こいつ。コカビエルに会おうとしている?実力が桁違いだぞ?死ぬぞ?いいのか?

 

「兵藤くん」

 

「俺の邪魔をしなければ構わないぞ」

 

何を言いたいのか直ぐに分かる。こいつは復讐を果たそうとしている。

だからなのか、俺の発言に木場祐斗は目を丸くした。

 

「・・・・・いいのかい?」

 

「お前の気持ちはこの場にいる皆の中で俺が一番分かる。俺の家族は悪魔と堕天使によって

殺された。その復讐のためにいままで生きていた。木場、お前もそうなんだろう?」

 

尋ねるように訊くと、「ああ」と肯定と頷く木場祐斗。

 

「同士が自分の命を代えて僕を逃がしてくれた。

―――僕なんかのために逃がしてくれた同志のためにも僕はエクスカリバーを破壊したい。

彼らの無念をこの手で晴らしたいんだ・・・・・!」

 

だから、僕は悪魔に転生してまで生き延びたんだ。

木場祐斗の思いの籠った呟きが、この場を静寂に変えた。

 

「イリナ、ゼノヴィア。俺がコカビエルの相手をする。

だから、エクスカリバーは木場に任せていいか?あいつの復讐を果たさせたい。それに最悪の場合、

エクスカリバーを破壊するんだろう?だったら木場がエクスカリバーを破壊して、

破壊された聖剣の核を回収すれば済む話しだ。違うか?」

 

「それは・・・・・そうだけど」

 

「頼む」

 

彼女たちに向かって土下座をした。これでもダメなら問答無用に―――。

 

「いいぜ、俺が認めてやんよ」

 

「し、神王さま・・・・・?」

 

「あの計画については俺たち天界も異端だと思っている。

だが、その計画に気付かなかった俺たちにも責任がある。本来、人間を見守り、

時として救いの手を伸ばすはずの俺たちが神を信じる者に間違ってでも殺しちゃならねぇ。

その生き残りがエクスカリバーを憎んでも、恨んでも当然だ」

 

だから―――とユーストマは発した。

 

「木場だったな?お前の信念を聖剣にぶつけてこい。聖剣の核さえ回収すれば錬金術で元に戻る。

俺からのせめての罪滅ぼしだ。思う存分、破壊してくれ」

 

神王が認めたか。顔を上げて木場祐斗の顔を見上げる形で見る。

 

「よかったな」

 

「うん、これで同士の無念が晴れるよ」

 

それで、こいつが満足すればいいがな。

 

「・・・・・魔王さま」

 

リアス・グレモリー?

 

「私たちも彼の加勢します。彼だけコカビエルと戦わせる訳にはいきません」

 

俺のことを心配した上での発言。だと分かるが・・・・・。

次元が過ぎる相手にこいつらがまともに戦えるとは・・・・・。

フォーベシイも相手が相手に首を横に振った。

 

「いや、一誠ちゃんの話しではコカビエルは彼を指名している。

だから、キミたちは町に被害が出ないように私たちと結界を張って欲しい」

 

「ですが・・・・・」

 

ソーナ・シトリーまで食って掛かった。魔王に対していいのかよ。

と、思ってフォーベシイに視線を向けると

 

「・・・・・ハッキリ言おうか」

 

苦笑を浮かべそう言ったフォーベシイの顔が一変して、

 

「キミたちじゃ一誠ちゃんの足手まといになるだけだよ?むしろだ。

今回の件、キミたちの手じゃ負えない。ただ邪魔でしか無い」

 

『―――っ!?』

 

真剣な表情になり、あの優しい魔王とは思えない発言をした。

リアス・グレモリーたちはそんな魔王の発言に絶句した。

本当にハッキリと言われてショックを受けているかもしれないな。

 

「あ、あの!」

 

「うん?」

 

「お、俺・・・いや、自分はリアスさまの兵士(ポーン)の成神一成です!」

 

「ああ・・・現赤龍帝の子だね?サーゼクスくんから聞いたよ。それで、なにかな?」

 

成神一成、お前は何をしようとしている?静観の姿勢になり、様子を見守る。

 

「リアスさまのお願いをどうか聞いてあげてください!お願いします!」

 

「イッセー・・・・・」

 

あいつが懇願する。が、フォーベシイは首を横に振った。

 

「いや、ダメだ。戦わせるつもりはないよ」

 

「何でですか?どうして兵藤を戦わせて部長には戦わせないのですか?」

 

「一番の理由は今少ない希少な純血の血を失わせないことだ。我々悪魔は数が少ない。

それも純血の血を流す悪魔がね。三大勢力戦争の時、とある人間によって激減してしまった。

これ以上、間違ってでも同胞を減らす訳にはいかないのだよ。これは私個人の意見だか、

他の魔王も同じことを思っているはずだ」

 

・・・・・なんだろう、物凄く罪悪感が感じ始めたぞ。

 

「じゃあ、なんで兵藤を?」

 

「彼の実力を見込んでいるからだよ。だからネリネちゃんとリコリスちゃん、シアちゃんもだ。

一誠ちゃんの手伝いをしたいだろうけど我慢しておくれ。私と神ちゃんの娘だからといえども、

相手は百戦錬磨。私たち魔王と神王、神と戦って生き残っている堕天使だ。

キミたちの攻撃を赤子の如く、無効化されるだろう」

 

「すまん、シア。俺もまー坊と同じ気持ちだ。ここは堪えてくれ。

大事な娘を傷つけられたら我慢できねぇんだ」

 

ユーストマも同じ気持ちか・・・・・。親としての思いが強いようだ。

これで話は終わったかと思ったその時だった。

 

「なら、僕が一誠のサポートをします」

 

「なに・・・・・?」

 

「和樹・・・・・?」

 

和樹が一歩前に出て買って出た。フォーベシイは初めて見る和樹に怪訝な顔で問うた。

 

「すまないが・・・・・キミたちは誰かね?あの学校の生徒と見受けるが、とてもじゃない。

コカビエルと渡り合える訳が―――」

 

「僕の名前は式森和樹です」

 

あいつが自己紹介をした。その途端に、ユーストマとフォーベシイの顔に驚愕の色が浮かんだ。

和樹は俺を一瞥して二人に向かって言った。

 

「次期式森家当主の式森和樹。それが僕の名前です」

 

「なん・・・・・だと・・・・・」

 

「と言っても、他にも当主候補がいるんでその一人と言った方がいいですね」

 

和樹・・・・・お前・・・・・。

唖然と和樹のことを見ていると和樹は苦笑を浮かべこっちに振り向いた。

 

「ごめん、一誠。キミが兵藤家の人間だということは初めて会った時から直ぐに気付いていたよ」

 

「じゃあ・・・・・黙っていたのか?」

 

「黙っていたというより・・・いや、敢えて言わなかったから黙っていたことになるね。

だって僕は、一人の学生としてキミと友達になりたかった。兵藤家の兵藤一誠としてじゃなく、

一人の兵藤一誠としてね。僕も式森家の式森和樹じゃなく、一人の式森和樹として一誠、

キミを接したかった」

 

「・・・・・」

 

「これからも僕は一人の学生としてキミに接するつもりだよ・・・・・いいかな?」

 

少し、不安げに尋ねてくる和樹だった。

 

「・・・・・当たり前だ」

 

溜息を吐き、当然とばかり俺は言ってやった。

 

「お前が誰であれ、式森和樹なんだろう?」

 

「一誠・・・・・うん!」

 

嬉しそうに和樹は頷いた。

 

「あのー、僕もいいですかね?」

 

挙手するのは龍牙だった。お前もか?

 

「キミもかね・・・・・?」

 

「はい、赤龍帝には劣りますけど宿主の彼より強いと自負しておりますので」

 

「はぁっ!?」

 

あっ、成神一成が反応した。そう言えば、二人は初対面だったよな。

 

「それに・・・・・禁手(バランス・ブレイカー)

 

龍牙が光に包まれた。次第にその光が鎧へと成り、龍牙を包んでいく。

顔まで覆えば、光が消失し―――。

 

「九十九屋の名をご存じですよね?」

 

龍を模した全身金色の鎧姿。赤龍帝の成神一成とガイアの力で具現化した時の鎧姿とは

また違う全身鎧だった。あれが、龍牙の禁手(バランス・ブレイカー)の状態か。

 

「「―――っ!?」」

 

それに九十九屋ってなんだ?二人が驚愕しているし・・・・・知っているのか?

 

「間神龍斗・・・・・彼のなんなのだね?」

 

「弟です。苗字は違いますが、血の繋がった兄です」

 

「おいおい・・・・・あいつに弟がいたのかよ。信じらんねぇ」

 

あー、なんなの?九十九屋ってなに?

 

「・・・・・しょうがない。キミもお願いするよ。実力の方はあるんだね?」

 

「ええ、足手まといにはなりません」

 

鎧姿のまま頷く龍牙。ユーストマは「これで決まりだな」と腕を組んで言う。

 

「聖剣の方は紫藤イリナとゼノヴィア、木場。コカビエルの方は一誠殿と式森和樹、神城龍牙。」この六人でやってもらう。いいな?」

 

『・・・・・』

 

呼ばれた俺たちは首を縦に振って頷いた。深夜までまだ時間がある。

 

ガシッ!

 

「へ?」

 

「深夜になるまで、お前で遊ぶとするか」

 

笑みを浮かべて成神一成の肩を掴んだ。まあ、当然、成神一成は唖然となった。

しかし、同意の言葉が湧いた。

 

「あっ、それいいね。赤龍帝と勝負してみたかったんだ」

 

「準備運動には丁度良いでしょう」

 

和樹と龍牙。俺がズルズルと成神一成を引きずり、

トレーニングルームに連れて行こうとすれば二人もついてきた。

 

「では木場とやら。私たちも軽く運動でもしよう」

 

「そうね。先輩の力も知りたいし」

 

「いいだろう。僕は負けるつもりはないよ。兵藤くん、広くて丈夫な部屋ってあるかな?」

 

「あるぞ、そこに行くつもりだ。ついてこい」

 

イリナたちも俺たちと同じ気持ちのようでついてきた。

 

『兵藤一誠、赤龍帝の他にもドラゴンがいるぞ。

あの人間の中にティアマットと同じ五大龍王のドラゴンがいる』

 

「―――なるほどな」

 

金色の翼を展開して、一人の男子生徒を翼で捕まえた。

 

「へ?」

 

「俺の中にいるドラゴンがな?お前もドラゴンを宿しているというから、お前も遊んでやろう。

ソーナ・シトリー、こいつを借りるぞ」

 

「えっ、ええ・・・・どうぞ、殺さない程度にしてください」

 

「大丈夫だ。遊ぶだけだから」

 

それだけ言い残し、リビングキッチンを後にした―――。

 

「部長ぉぉぉおおおおおっ!助けてくれぇぇぇぇええええええっ!」

 

「会長ぉぉぉおおおおおっ!助けてくれぇぇぇぇええええええっ!」

 

くくくっ、泣け、喚け!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode9

 

「さて、用意はいいかね?」

 

「お前たちに頼ってばかりで申し訳ねぇな」

 

駒王学園を目と鼻の先にした公園で、俺と和樹、龍牙、木場、

イリナとゼノヴィアが集まっていた。他に学校に結界を張るため、

リアス・グレモリーたちも集結して魔方陣を展開している。

 

「私たちは結界を張ることに専念する。流石に真龍ほどの攻撃は耐えられないから、

できれば控えて欲しい」

 

「俺、そこまで暴れん坊な風に見えるか?」

 

「念のためだよ一誠ちゃん」

 

俺の発言に苦笑するフォーベシイ。

 

「まあ、子供は元気にはしゃいでいけ。学校が壊れても俺たちの部下が

もと通りにしてやるからよ」

 

「和樹の得意分野だな」

 

「ちょっと待って。僕って筋肉質な魔法使いって思われているわけ?」

 

「いや、初めての体育の授業でお前、学校の殆どを消失させたじゃん?」

 

「・・・・・それ言われると、あの時の僕が恨めしくなるから言わないで」

 

ズーン・・・・・と和樹が落ち込みだした。

まあ、頭がいい魔法使いだと思っているから安心しろ。和樹。

 

「和樹さん、今後の行動に気を付けないといけませんね」

 

「そうだね・・・・・破壊に特化したあの人のようになりたくないよ」

 

「誰のこと言っているんだ?」

 

「遠い親戚の人。ミス・ブルーってあだ名を持っているんだ。

どこかに旅をしている魔法使いなんだ」

 

親戚の魔法使い・・・・・和樹の家系は魔法使いばかりのようだな。多分、

 

「さて・・・・・そろそろ行くとしましょうか」

 

「相手は堕天使の幹部クラスか。僕の魔法は通じるか、ワクワクする」

 

「相手にとって不足はないです」

 

コカビエルと相手する俺たち。木場たちの方に視線を向けると、

 

「ようやく・・・・・皆の仇がとれる」

 

「この件が終わったら、イッセーくんとお別れかぁ・・・・・」

 

「寂しいなら、この地に残るか?」

 

「なっ!誰もそんな事言ってないじゃないの脳筋バカゼノヴィア!」

 

「イリナ、その発言の意味はどういう意味なのかな?」

 

あっちはあっちで盛り上がっているな・・・・・。でも、確かにこの件が終えれば

イリナと別れだ。寂しいもんだな。せっかくの幼馴染と再会したのに・・・・・。

 

「「・・・・・」」

 

そんな俺にニヤニヤと二人の王がいやらしい笑みを浮かべているのはなぜだろうか。

物凄く気持ち悪いぞ。

 

「一誠くん・・・・・」

 

「うん?」

 

この場に居合わせている清楚に呼ばれ振り向けば、彼女に抱きつかれた。

 

「・・・・・お願い、約束して。絶対に生きて帰ってくるって、約束して」

 

俺の胸倉を掴んで顔を胸に押し付けてくる。体を震わせてだ。

 

「どうして、どうして一誠くんばかり、戦わないといけないの?

私、そんな一誠くんが心配で心配でしょうがないよ」

 

「清楚・・・・・」

 

俺を見上げるように上目づかいで見詰めてくる。酷く潤った瞳。

涙が流れていて頬を汚している。

 

「私、戦うのは苦手なのが物凄くいや。いま初めてそう思った。

一誠くんを守れるぐらいの力が欲しいよ・・・・・そしたら、

私も戦えるのに・・・・・一誠くんと一緒に戦って―――」

 

口を開いている清楚の口に人差し指を押し付けて口を閉ざした。

 

「その言葉を言ってくれるだけでも俺は戦えるよ。清楚」

 

「一誠くん・・・・・」

 

「大丈夫、俺には頼もしい仲間がいるんだ。簡単にくたばりはしない」

 

そう言って俺は指を三本立てた。

 

「三十分。この時間以内に全てを終わらせる」

 

ナデナデと清楚の黒い髪を撫でる。うん、今日も触り心地が好いな。

 

「・・・・・行くとしようか」

 

清楚から離れ、踵を返して学校へと赴く。

 

「イッセー」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・気を付けて・・・・・」

 

リアス・グレモリーからの声援・・・・・か。たまにはいいな。

 

「ああ、行ってくる。リアス」

 

「―――っ!?」

 

「ソーナ、結界の方を頼むぞ」

 

「・・・・・ええ、任せてください」

 

二人にそう言い残して歩を進めた。

 

「イリナ、ゼノヴィア。油断するなよ?」

 

「イッセーくんもね。こっちが終わったらすぐに援護しに行くから」

 

「共に戦おう。兵藤一誠」

 

「木場、ここが正念場だ。悔いのないようにな」

 

「うん、勿論だ」

 

「和樹、龍牙。時間以内に終わらせるぞ。まあ、とっておきの力もあるし、

それであっさりと終わらしちゃうかもけどよ」

 

「へぇ、それは楽しみだね」

 

「それでは、見せてくださいね。そのとっておきの力とやらを」

 

皆に話しかけ、正面から堂々と入りこむ俺たち。

 

―――○●○―――

 

正門から堂々と入った俺たちの目に校庭は異様な光景になっていた。

校庭の中央に三本の剣が神々しい光を発しながら、宙に浮いている。

それを中心に怪しい魔方陣が校庭全体に描かれていた。

魔方陣の中央には初老の男の姿があった。あの剣はエクスカリバー。だが、何をしているんだ?

 

「バルパー・ガリレイ・・・・・」

 

「あいつが・・・・・」

 

ゼノヴィアが初老の正体を呟けば、木場祐斗はようやく出会えた仇敵に

怨恨の眼差しを向けたその瞬間だった。

 

「―――完成だ」

 

初老の男、バルパー・ガリレイが狂喜の笑みを浮かべたまま呟いた。

校庭の中央にあった三本のエクスカリバーが有り得ないほどの光を発し始めた。

 

「ようやくきたな、兵藤一誠」

 

「「「「「「ッ!」」」」」」

 

空中から聞こえてくる声。全員が空へ視線を向けた時、月光を浴びるコカビエルの姿があった。

宙で椅子に座って、こちらを見下ろしていた。

 

「お前の要望通りに来てやった」

 

「招かざる客もいるようだが、まあいいだろう。

俺はあくまで最高の余興となる兵藤のお前と戦えればそれでいい」

 

あくまで俺は余興なのね。こいつの戦闘狂に付き合うなんてはた迷惑な事だよまったく。

 

「質問その一、エクスカリバーでなにをしている?」

 

「三本のエクスカリバーを一本に統合しているのさ。それがいま、完成したところだ。

最高のステージにするための一部がな」

 

なるほどね。凄い技術だな。複数の聖剣を一本に統合するなんて。

 

「エクスカリバーが一本になった光で、下の術式も完成した。

後に二十分もしないうちにこの町は崩壊するだろう。解除するには俺を倒すしかないぞ?」

 

衝撃的なことをコカビエルは口にした。マジかよ・・・・・。

あと、二十分でこの町が崩壊する?校庭全域に展開していた魔方陣に光が走りだし、

力を帯び始めた。

 

「フリード!」

 

コカビエルが誰かを呼んだ。というか、あいつ?

 

「はいな、ボス」

 

暗闇の向こうから、白髪の少年神父が歩いてきた。

 

「陣のエクスカリバーを使え。最後の余興だ。三本の力を得たエクスカリバーで戦って見せろ」

 

「ヘイヘイ。まーったく、俺のボスが人使いが荒くてさぁ。でもでも!チョー素敵仕様になった

エクスなカリバーちゃんを使えるなんて光栄の極み、みたいな?ウヘヘ!

ちょっくら、悪魔でもチョッパーしますかね!」

 

イカレた笑みを見せながら、フリードが校庭のエクスカリバーを握った。

 

「木場、一石二鳥だな」

 

「ああ、まさしくその通りだ」

 

魔方陣から剣を出して柄を握って、その剣先をバルパー・ガリレイに向けた。

 

「バルパー・ガリレイ。僕は『聖剣計画』の生き残りだ。

いや、正確にはあなたに殺された身だ悪魔に転生したことで生き長らえている」

 

至って冷静にバルパー・ガリレイに告げる木場だが、その瞳には憎悪の炎が宿っていた。

バルパー・ガリレイの答え次第では一触即発だな。

 

「ほう、あの計画の生き残りか。これは数奇なものだ。

こんな極東の国で会うことになろうとは、縁を感じるな。ふふふ」

 

嫌な笑い方だ。小馬鹿にしたかのような口調だ。

 

「―――私はな。聖剣が好きなのだよ。それこそ、夢にまで見るほどに。

幼少の頃、エクスカリバーの伝説に心を躍らせたからなのだろうな。

だからこそ、自分に聖剣使いの適性が無いと知った時の絶望といったらなかった」

 

突然、バルパー・ガリレイは語り出す。

 

「自分では使えないからこそ、使える者に憧れを抱いた。その想いは高まり、

聖剣を使える者を人工的に作り出す研究に没頭するようになったのだよ。

そして完成した。キミたちのおかげだ」

 

「なに?完成?僕たちを失敗作だと断じて処分したじゃないか」

 

繭を吊り上げ、怪訝な様子の木場祐斗。俺もそうだ。

イリナとゼノヴィアの話しでは、木場祐斗たちの研究は失敗だと聞いていた。だからこそ、

用済みだとして処分したんじゃないのか?

だが、俺の思いとは裏腹にバルパー・ガリレイは首を横に振った。

 

「聖剣を使うのに必要な因子があることに気付いた私は、その因子の数値で適性を調べた。

被験者の少年少女、ほぼ全員の因子はあるものの、

どれもこれもエクスカリバーを扱える数値に満たなかったのだ。そこで私は一つの結論に至った。

ならば『因子だけ抽出し、集めることはできないか?』―――とな」

 

「なるほど。そういうことか。読めたぞ」

 

「ああ、聖剣使いが祝福を受ける時、体に入れられるのは―――」

 

ゼノヴィアも事の真相に気付いたようで、忌々しそうに歯噛みしていた。

 

「・・・・・どういうことなのですか?」

 

龍牙が分からないと尋ねてきた。俺は仮説として説明する。

 

「バルパーは一つの結論を現実にしたんだ。

形がどうであれ、聖剣を扱える数値に満たした因子を集めることに成功したんだ。

因子を持つ少年少女からな。多分、当時『聖剣計画』の当事者だったあいつが処分を下した

木場祐斗の同胞からも因子だけを抽出して何かしらの形に集めたに違いない」

 

「ほう、良く分かったな?ああそうだ、そこの少年よ。持っている者たちから、

聖なる因子を抜き取り、結晶を作ったのだ。こんな風に」

 

バルパーが懐から光り輝く球体を取り出した。眩い光だ。聖なるオーラってのが迸っている。

 

「これにより、聖剣使いの研究は飛躍的に向上した。

それなのに、教会の者どもは私だけを異端として排除したのだ。研究資料だけは奪ってな。

貴殿を見るに、私の研究は誰かに引き継がれているようだ。ミカエルめ。

あれだけ私を断罪しておいて、その結果がこれか。まあ、天使のことだ。

被験者から因子を抜きだすにしても殺すまではしていないか。

その分だけは私よりも人道的と言えるな。くくくく」

 

・・・・・だから木場祐斗にあんなことを言ったのか、ユーストマ。せめての罪滅ぼしだと。

そして、俺も聖剣を使える理由は聖剣を扱える因子の数値を満たしているからなのか。

 

「―――同士たちを殺して、聖剣適性の因子を抜いたのか?」

 

木場祐斗が殺気の籠った口ぶりでバルパー・ガリレイに訊く。

対してあの初老の男、バルパー・ガリレイは結晶を手の中で弄んでいた。

 

「そうだ。そして、そこの少年が言っていただろう。ほぼ百点に近い仮説をな。

この球体はその時のものだぞ?三つほどフリードたちに使ったがね。これは最後の一つだ」

 

「まっ!他の奴らはてめぇらにやられちゃったんですけどねぇー?」

 

あの二人か。まあ、いまとなってはどうでもいいな。

 

「・・・・・バルパー・ガリレイ。自分の研究、自分の欲望のために、

どれだけの命を弄んだんだ・・・・・」

 

木場祐斗の手が震え、怒りから生み出される魔力のオーラが奴の全身を覆った。

凄まじいほどの迫力だ。

 

「ふん。それだけ言うのならば、この因子の結晶を貴様にくれてやる。

環境が整えば後で量産できる段階まで研究はきている。

まずはこの町をコカビエルと共に破壊しよう。

あとは世界の各地で保管されている伝説の聖剣をかき集めようか。そして聖剣使いを量産し、

統合されたエクスカリバーを用いて、ミカエルとヴァチカンに戦争をしかけてくれる。

私を断罪した愚かな天使どもをと使徒どもに私の研究を見せ付けてやるのだよ」

 

それがバルパー・ガリレイとコカビエルが手を組んだ理由か。どちらも天使を憎んでいる。

どちらも戦争を求めている、利害一致して―――最悪のコンビだ。

バルパー・ガリレイは興味をなくしたかのように持っていた因子の結晶を放り投げた。

ころころと地面を転がり、俺の足元に行き着く。木場祐斗の所じゃないのかよ?

因子の結晶を手に取り、木場に突き出した。

 

「・・・・・皆・・・・・」

 

悲しそうに、愛しそうに、懐かしそうに、俺から結晶を受け取ってはその結晶を撫で始めた。

木場祐斗の頬を涙が伝っていく。その表情は悲哀に満ち、そして憤怒の表情も作りだしていた。

これが木場祐斗の同胞の因子、魂とならば・・・。

 

俺は紫色の宝玉が埋め込まれた黒い籠手を装着して、因子の結晶を触れた。そのときだった。

木場祐斗の持つ、結晶が淡い光を発し始める。

光は徐々に広がって行き、校庭を包み込むまでに拡大していった。

 

校庭の地面、その各所から光がボツボツと浮いてきて、カタチを成していく。

それはハッキリとしたものに形成されていき―――人のカタチとなった。

木場祐斗を囲むように現れたのは、青白く淡い光を放つ少年少女たちだった。

もしかして、あいつらは―――。

 

『主の力で因子の球体から魂を解き放ったのです』

 

と、俺の内にいる一匹のドラゴンがそんな事を言いだした。

そして、木場祐とはあいつらを見詰め、懐かしそうで悲しそうな表情を浮かべた。

 

「皆!僕は・・・・・僕は!」

 

あいつらは・・・・・木場祐斗と同じ聖剣計画に身を投じられた者たち。

―――処分された者たちだ。

 

「・・・・・ずっと・・・・・ずっと、思っていたんだ。

僕が、僕だけが生きていいていいのかって・・・・・。僕より夢を持った子がいた。僕よりも

生きたかった子がいた。ごくだけが平和な暮らしを過ごしていいのかって・・・・・」

 

霊魂の少年の一人が微笑みながら、木場祐斗に何かを訴える。えーと・・・・・。

 

「『自分たちのことはもういい。キミだけでも生きてくれ』。・・・・・だってよ」

 

「―――――」

 

木場祐斗の双眸から涙が溢れ続ける。魂の少年少女たちが口をパクパクとリズミカルに

同調させていた。歌を歌っているのか?読唇術ですると・・・・・・これは聖歌。

 

「「―――聖歌」」

 

イリナとゼノヴィアが揃ってつぶやいた。あいつらは聖歌を歌っている・・・・・。

木場祐斗も涙を流しながら、聖歌を口ずさみだした。

それは、あいつらが辛い実態実験の中で唯一希望と夢を保つために手に入れたもの―――。

それは、過酷な生活で唯一知った生きる糧―――。

それを歌うあいつらと木場は、まるで幼い子供のように無垢な笑顔に包まれていた。

 

―――バサッ!

 

無言で俺は『熾天使変化(セラフ・プロモーション)』となり、六対十二枚の金色の翼から神々しい光を発光させ、

木場祐斗と霊魂の少年少女を囲むように包んだ。この状態の能力の一つ、浄化―――。

その時あいつらの魂が青白き輝きを放ちだした。その光が木場祐斗を中心に眩しくなっていく。

 

『僕らは、一人ではダメだった―――』

 

『私たちは聖剣を扱える因子が足りなかった。けど―――』

 

『皆が集まれば、きっとだいじょうぶ―――』

 

あいつらの声が俺にも聞こえる。きっとイリナたちも聞こえているだろう。

そして、温かさを感じる。友を、同士を想う、温かなものを―――。

俺の目からも何時の間にか、自然に涙が流れていた。

 

『受け入れて―――』

 

『僕たちを―――』

 

『聖剣を受け入れるんだ―――』

 

『怖くなんてない―――』

 

『たとえ、神がいなくても―――』

 

『神が見ていなくても―――』

 

『神さまが見ていなくても―――

 

『僕たちの心はいつだって―――』

 

「―――ひとつだ」

 

木場祐斗に語る少年少女の霊魂たち。すると、あいつらは俺に顔を向けてきた。

 

『お願い―――』

 

『彼に力を―――』

 

『少しだけでもいい―――』

 

『貸してほしい―――』

 

『僕たちの代わりに―――』

 

『私たちの代わりに―――』

 

『傍にいて欲しい―――』

 

あいつらの魂が天に昇り、一つの大きな光となって木場祐斗と俺のもとへ降りてくる。

優しく神々しい光が俺と木場祐斗を包み込んだ。

 

「・・・・・お前らの想い、確かに受け取ったぞ・・・・・」

 

俺の翼に変化が起きた。金色の翼が一変し、青白い翼に変化した。それだけじゃない、

俺の髪が青白くなり、瞳が金になった―――!

 

「―――木場、この想い、受け継げよ」

 

「―――――勿論だよ、イッセーくん」

 

「ならば力を、可能性を、奇跡を、お前に渡そう―――!」

 

カッ!

 

木場祐斗は青白い光の閃光に包まれた。その瞬間、こいつが持っていた剣に変化が起きた―――。

 

―――○●○―――

 

しばらくして、俺は木場祐斗から離れた。

 

「いけるな?」

 

「うん」

 

「なら、俺は―――」

 

青白い翼を羽ばたかせ、コカビエルの前に佇んだ。

 

「こいつの相手をしよう」

 

「異様な力と異様な姿だ・・・・・神滅具(ロンギヌス)にバグが起きたというのか?」

 

「さあな、この姿はこの戦いだけかもしれないし、これかもこの姿なのかもしれない。

俺にも分からない」

 

「ふん、そうか。それならば、その姿のお前と邪魔されないように戦う場を設けようか」

 

コカビエルが指を鳴らす。すると、校庭に巨大な魔方陣が展開して穴が開いた。

底はマグマのようなものが浮かんでいたかと思えば、灼熱の炎が火柱のように噴き上がった。

 

ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

火柱の中から獣の声が聞こえた。様子を見ていると、

三つ首の巨大な四肢の獣が数匹も火柱の中から現れた。あれは―――。

 

「地獄の番犬ケルベロス・・・・・」

 

和樹たちの方に視線を向ければ、俺に頷く仕草を伺わせてくれる。―――大丈夫。と、

 

「問題なさそうだな」

 

「ああ、頼もしい仲間がいるからな。直ぐにあの犬をハウスに戻すだろうさ」

 

「ふん、では―――」

 

両手に光の剣を発現させたコカビエル。

 

「思う存分、お前との戦いを楽しもうか!」

 

と、嬉々として飛び掛かってくる。俺も両手に光の剣を具現化させてコカビエルに突貫する。

一瞬の刹那。

 

ガギギギギギギッ!ギインッ!ギンッ!ガギギギギギギギギンッ!

 

光の剣の剣戟を何十も何百も刹那の瞬間で振るい、交えた。

 

「くっはっはっはっ!やるな!」

 

「流石は堕天使の幹部ということだけある!

―――堕天使の女帝、同族殺しのヴァンもこのぐらいか?」

 

「なに―――?」

 

ガキンッ!

 

鍔迫り合いになった。コカビエルの顔を覗けば怪訝になっていた。

 

「どこであいつの名を知った?」

 

「数年前、俺の父さんと母さんは殺された。悪魔のシャーリとシャガ、堕天使のヴァンにな」

 

「なんだと・・・・・?」

 

お互い剣に力を籠めて距離を置いた。

 

「あの女が、兵藤の人間を殺したというのか?」

 

「俺はそう思っている。なにせ、血塗れの両親の傍に、ヴァンがいたからなぁっ!」

 

青白い翼から奔流と化としたレーザーのような青白い光を放った。

コカビエルは両手を前に突き出して、迎え撃とうとしていた。

 

「その話が本当ならば・・・・・腹立たしいことだな。

俺がこの手で殺そうと思っていた人間を先に殺したのだからな!」

 

コカビエルの両手に堕天使のオーラの源である光力が集まっていく。

 

ドオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

コカビエルは俺の放った一撃を真正面から受ける。

その表情は常識を逸した鬼気のあるものだった。

 

「ぬぅぅううううううううううううううううんッッ!」

 

「―――マジですか?」

 

俺の一撃が、徐々に勢いを殺され、カタチさえも崩された。

 

「フハハハハハハ!いいぞ!この魔力の力!俺に伝わった力の波動は最上級悪魔の魔力だ!

もう少しで魔王クラスの魔力だぞ、兵藤一誠!

お前も両親に負けず劣らずの才に恵まれているようだな!」

 

心嬉しそうにコカビエルは笑っている。狂喜に彩られた表情。

 

「にゃろう・・・!」

 

六対十二枚の青白い翼を刃物状にしてコカビエルに斬りかかった。

俺の行動に応えようとあいつも十枚の漆黒の翼を刃物状へと変えて俺の翼に交えてきた。

 

ガガガガガガガッ!ギャインッ!ギィンッ!ギャンッ!ガギンッ!ギンッ!

 

「フッハッハッハッハッ!楽しい、楽しいぞ、兵藤一誠!」

 

翼を激しく動かしているコカビエルは手に巨大な光の槍を生みだして放ってきた。

片翼でその槍を一刀両断にし、コカビエルに突き出す。

 

「―――おっと、危ない」

 

が、何なく俺の翼はコカビエルに掴まれた。だが、それでいい―――。

 

バチッ!

 

「ん?」

 

翼に電気が一瞬迸った。

 

「俺の翼を掴むんじゃなくて、弾き返した方が正解だったぞ。コカビエル」

 

「―――――っ!」

 

「感電しやがれ」

 

ビガッ!ガガガガガガガガガガガガガガガガッ!

 

「ぬがああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

掴んでいる翼から、大質量の青白い電気がコカビエルの体に電流する。更に黒い翼からも。

俺の翼でコカビエルの翼を絡めて電気を流している。

 

「まだ両手が空いている」

 

両手の平から魔力を青い炎に具現化し、炎の質を物質に変化させ、巨大な手に形を変える。

 

「―――ふん!」

 

青い手を蚊を叩き潰すようにコカビエルを思いっきり挟んだ。

 

「蒼炎・浄化葬」

 

青い炎の手が巨大な青い炎の柱へと変えた。炎の中にいるあいつはただでは済まないだろう。

炎と電気の攻撃は流石に堕天使の幹部とはいえども―――。

 

―――ヒュンッ!

 

「っ!?」

 

何かが飛来してくる影が見え、瞬時で翼で防いだ。

 

「―――流石はあの二人の子供だ」

 

目の前から声が聞こえた―――刹那。炎が一瞬にして吹き飛ばされた。

 

「この俺がここまでやられるとは久し振りだ。だから戦争が、戦いが楽しい・・・!」

 

全身ボロボロのコカビエルが狂喜の笑みを深く浮かべ、俺を見詰めてくる。

マジでかよ・・・・・?堕天使って意外としぶといな・・・・・。

・・・・・そう言えば、木場祐斗たちはどうなっているんだろうか?

気になるところだが・・・・・・。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

コカビエルが飛び出してきたから見る暇もない!全ての翼を前に突き出せば、案の定。

 

「甘いぞ!」

 

翼と翼の間に避けて向かってくる。

 

「まあ、予想の範囲だけどな?」

 

ニヤリと口の端を吊り上げた。―――翼を大きくした。

二メートル以上はあるコカビエルの身長より、翼を大きく広げればスッポリと

あいつの体は翼で完全に覆われた。

 

「な・・・・・に・・・・・っ!?」

 

「炎と雷の攻撃が来ます。ご注意くださいってな」

 

逃げ道は背後だけだ。砲身の中にいると思わせる俺の翼はコカビエルを囲んでいる。

だから、正面の俺を玉砕覚悟で向かってくるか、背を向けて後退するかのどっちかだ。

両手の間に生まれた炎と雷の塊を前に突き出して―――放った。

 

ドウッ!

 

「ちぃッ!」

 

あいつは前に両手を突き出して幾重にも魔方陣を展開した。その魔方陣と俺の一撃が直撃する。

 

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

・・・・・あー、そう言う避け方をするのか。俺の攻撃を防御しながらまるで、

砲弾のようにコカビエルは翼の中から抜け出た。っと、今のうちだな。

木場祐斗たちの方に見下ろせば―――、木場祐斗がフリードを斬った瞬間だった。

・・・・・やったじゃないか、木場祐斗。後はこいつだけだな。

 

「くくく・・・・・面白い、楽しいぞ、兵藤一誠・・・・・・!」

 

コカビエルはもう俺に夢中のようで・・・・・もう、おわりにするか。

 

「さあ、行こうか。ガイア」

 

『ようやく我の出番か。いまかいまか待ち遠しいかったぞ』

 

カッ!

 

突然の真紅の光。真紅の光は俺の全身から発したのだった。

 

『我、夢幻を司る真龍なり』

 

内にガイアから声が聞こえた。その声に続くように俺も発する。

 

「我、夢幻を司る真龍に認められし者」

 

『我は認めし者と共に生き』

 

「我は真龍と共に歩み」

 

「『我らの道に阻むものは夢幻の悠久に誘おう』」

 

真なる深紅龍神帝(アポカリュプス・クリムゾン・ドライブ)ッ!!!!!

 

最後は力強く言葉を発した次の瞬間。真紅の光が、より一層に輝きを増した。

 

「・・・・・なんだ、それは・・・・・」

 

コカビエルが信じられないものを見る目で呟いた。

俺のいまの姿は、全身が鮮やかな紅よりも深い紅の全身鎧。腰にはドラゴンのような尾がある。

背中にはドラゴンのような真紅の翼が生えている。体に金色の宝玉が幾つも埋め込まれてある。

手の甲にもだ。頭部には立派な深紅の角が突き出ている。

 

「『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッドのドラゴンの力を鎧に具現化した姿だ」

 

「―――――っ!?」

 

あっ、ライザー・フェニックスのように驚いているな。

 

「『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッド・・・だと・・・・・!?」

 

「信じる信じないのは自由だ。だが、目の前の事実こそが真実だと思わないか?」

 

そう言い残して俺は、深紅の光を残してコカビエルに接近した。

あいつは俺の接近に反応できず、懐にまで近づかれるまで気付きもしなかった。

 

ドゴンッ!

 

「がっはぁっ!?」

 

「取り敢えず、俺が決めた時間が迫っているんでね。―――ここいらで終わりにさせてもらう」

 

コカビエルの腹部に深く突き刺した拳をさらに力を籠めて、ねじり込む。

そのまま上空に向かい、直ぐに下に向かって急降下する。

 

「兵藤一誠いいいいぃぃぃぃぃっ!」

 

校庭に描かれた術式の中央に飛び込んで―――。

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

コカビエルと共に直撃した。その瞬間、魔方陣の波動が消えていくのが分かった。

 

「堕天使のヴァンとの戦いの予行としていい勉強になった。ありがとうな、コカビエル」

 

地面に横たわる堕天使の幹部、コカビエルに感謝の言葉を述べる。

これで一歩、あの堕天使の女に近づけただろうか。

 

「―――イッセーくん!」

 

校庭に直撃した際に生じた土煙が晴れるとイリナの声が聞こえた。気絶したコカビエルを掴んで、

凹んだ地面から出る。そしたら―――俺の名を呼びながらイリナが抱きついてきた。

 

「凄い!イッセーくん、赤龍帝だったなんてびっくりしちゃったわ!」

 

「いや、違うし」

 

「へ・・・・・?でも、この赤い鎧は・・・・・」

 

「『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッドのドラゴンの力を鎧に具現化した姿だ」

 

そう説明すると、イリナが大きく目を見開いた。

和樹たちもそうだった。絶句した面持ちをしていた。

 

「それが・・・・・とっておきの力だってことでいいのかな?」

 

「凄いです。真龍の力を具現化にした鎧なんて生まれて初めて見ます」

 

「良く見れば、赤というより深い紅の色だな。今日は驚くことが多い」

 

ペタペタと、鎧に触ってくる和樹たち。

 

「木場、良かったな」

 

「うん、これで同士の無念が晴れた。いや、彼らは仇なんて求めていなかった。

ただ、僕が生きていて欲しかった・・・・・ただ、それだけだった・・・・・」

 

「・・・・・まあ、これで木場の過去の因縁は絶ち切った。それだけでも十分だ」

 

ポンポンと木場祐斗の頭を触った。

 

「イッセーくん・・・・・ありがとう」

 

「ん、どういたしまして。」

 

復讐を果たし遂げて良かったな。木場祐斗―――。

 

「―――――ふふふ、おもしろいな」

 

『ん?』

 

空から聞こえてきた突然の声。この場にいる誰のものでもない。

最初に気付いたのは、俺だ。次に龍牙と同時に和樹。俺たちは空を見上げた。

続いて何かを感じたのが、木場たちだった。俺たちが暗黒の夜空を同時に見上げる。

怪訝に思う俺だが、その直後、すぐに理解した。

 

『ほう、この龍の波動は・・・・・あいつか』

 

クロウ・クルワッハの言葉に呼応するように、それは空から降ってきた。

 

カッ!

 

一直線に伸びる白い閃光が、闇の世界を切り裂きながら舞い降りる。あの速度で地面へ

降下すれば、地響きとともにクレーターが生まれ、辺り一面に土煙が巻き起こるのは

必然だろう。―――――だが、そんなことは起きなかった。闇のなかで輝く、一切の曇りも影も

見せない白きもの。地面すれすれの高度で、その場に浮かんでいた。白き全身鎧(プレートアーマー)

身体の各所に宝玉らしきものが埋め込まれ、顔まで鎧に包まれていて、その者の表情は窺えない。

背中から生える八枚の光の翼は、闇夜を切り裂き、神々しいまでの

輝きを発している。・・・・・誰だ?

 

 

「アザゼルの言いつけで無理やりにでもコカビエルを連れてくるように

言われていたのだが・・・・・ふふふ、真龍が鎧として具現化するなんて驚いたな」

 

アザゼル・・・・・?確か『神の子を見張る者(グリゴリ)』の堕天使を纏めている

堕天使の総督の名前だった。

 

「・・・・・誰だ?」

 

声からして女だ。警戒して構えていると宝玉からガイアが話しかけてきた。

 

『「白い龍(バニシング・ドラゴン)」アルビオン。赤龍帝なら表にいるぞ?

赤と真紅と間違えるほど頭まで力のみしか考えれなくなったか?』

 

彼女の問いに白い全身鎧に生えている青い翼が点滅した。

 

『・・・・・やはり、グレートレッド。お前であったか。どういうことなのだ?

お前が人間に力を貸すとは今まで無かったことだ。

人間界に姿を現しても関心を示さなかったではないか』

 

『ふん、我の勝手だ。貴様に説明する理由もない』

 

白い龍アルビオン・・・・・確か、二天龍の一角のドラゴンだったはずだ・・・・・。

どうしてそのドラゴンがここにいる?と、思っているとアルビオンが話しかけてきた。

 

「―――感動の再会とは程遠いな。一誠、そしてイリナ」

 

「「・・・・・え?」」

 

俺とイリナを知っている?いや、そもそも俺とイリナは女の人と知り合いなんていないはずだ。

 

「私のことを覚えていないのか?」

 

「いや・・・・・俺とイリナに女の人の知り合いなんていないぞ」

 

「う、うん・・・・・いないわ。あなた、誰・・・・・?」

 

「・・・・・そうか、あれから私たちは色々と会ったものだったからな。

忘れるのも無理はないか」

 

と、突然に顔の部分の鎧がシュカッ!と開いた。マスクが開けば中身が覗けた。

最初に目にしたのはシルヴィアの銀髪よりも濃く長い銀髪、というよりダークなカラーが強い。

それに引き込まれるぐらいの透き通った蒼い瞳の少女だった。

 

「・・・・・ん・・・・・?」

 

その少女の顔にどこかで見たことがあるような・・・・・。

顔のマスクを収納して顔を曝け出して彼女の顔をよく見詰めた。

 

「・・・・・懐かしい。昔のままだな一誠」

 

本当に懐かしそうに俺を見詰めてくる。だけど、何故だろう。俺も懐かしさを感じる。

 

「え・・・・・まさか・・・」

 

イリナが信じられないものを見る目で少女を見た。

白い全身鎧を着込んだ少女はゆっくりと俺に近づいてきた。

 

「一誠、私を助けてくれた唯一の男。ようやく、キミに再会できた」

 

「おまえ・・・・・・まさか・・・・・」

 

「思い出してくれたか?」

 

少女は嬉しそうに、笑みを浮かべた。その笑みは月がバックにしているせいで

幻想的に綺麗だったが、少女の話しを聞いて俺はようやく気付いた。こいつは―――!

 

「私は、ヴァーリ・ルシファーだよ。イリナ、そして一誠」

 

自分の名を告げた少女は籠手を装着したまま、俺の頬を触れた。

 

「あの時のお礼をしたい・・・・・」

 

そう言い、目の前の少女は―――――。

 

「ありがとう、私の大好きな男の子」

 

俺の唇に自分の唇を重ねてきたのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode10

コカビエル襲撃事件から数日―――。

 

放課後、俺は木場祐斗に呼ばれオカルト研究部に顔を出した俺はソファーに座る

外国の少女たちに驚いた。

 

「やあ、兵藤一誠」

 

「お久しぶり、イッセーくん!」

 

青い髪に緑のメッシュを入れた少女―――ゼノヴィアと

栗毛のツインテールの少女、幼馴染の紫藤イリナが駒王学園の制服を身に纏い、堂々と部屋にいた。

 

「なっ・・・・・なんで、お前らがここに!?」

 

動揺を隠せない俺は思わず指を突き付けて訊く。

こいつらは奪われたエクスカリバーの核を回収して自国に帰ったはずだぞ!?

 

「・・・・・神王さまと魔王さまよ」

 

「はっ・・・・・?」

 

どこか疲れ切った表情を浮かべていたリアス・グレモリーが額に手を当てて言った。

 

「特に神王さまがこの町に神、天界側のスタッフも必要だと判断を下し、

彼女たちをこの地に留まらせたの。聖剣の方は神王さまが自ら教会に送ったそうよ」

 

「と、言うわけなのだ。よろしくね、イッセーくん♪」

 

「真顔で可愛く言うな。ハッキリ言って似合わん」

 

「・・・・・イリナの真似をしたのだが、うまくいかないものだな」

 

「ゼノヴィア、二度と私の真似をしないでちょうだい。全然似てもいないから」

 

ビシッ!とイリナがゼノヴィアに突っ込んだ。そこでリアス・グレモリーが口を開いた。

 

「それと同時に、あなたの護衛をするそうよ」

 

「はい?俺の護衛?」

 

「ええ、だってあなたは―――」

 

リアス・グレモリーは笑みを浮かべ口にした。

 

「魔王にも」

 

今度はイリナが口を開く。

 

「神王にも」

 

次はゼノヴィアだ。

 

「人王にも」

 

最後は木場祐斗。

 

「凡人にもなれる男、だからね」

 

「ぐはっ・・・・・!」

 

そこで俺は落ち込んだ。ううう・・・・・かなりきついなぁ・・・・・。

その長ったらしいあだ名。

 

「つーか・・・・・必要無くね?俺の護衛なんて。寧ろシアたちの方だろう」

 

「リシアンスさまの方はすでに護衛がいるわ。三年生に紛れてね。

ネリネさまとリコリスさまの方も大丈夫よ。あの二人にあなた以外の男が手を出したら、

魔王さまが黙るわけもないし」

 

「・・・・・納得」

 

絶対に家一件ぐらいは報復として軽く消滅しそうだ。あの親バカ魔王なら。

 

「それとあの一件で教会は今回のことで悪魔側―――つまり魔王に打診してきたそうよ。

『堕天使の動きが不透明で不誠実のため、遺憾ではあるが連絡を取り合いたい』―――と。

それとバルパーの件についても過去逃したことに関して自分たちにも非があると謝罪してきたわ」

 

・・・あくまで遺憾ですか。まあ、基本的に四種交流をしているだけで同盟なんて裏を返せば、

一時休戦みたいな感じなのかもしれない。

 

「近いうちに天使側の代表、悪魔側の代表、堕天使側の代表、そして・・・・」

 

リアス・グレモリーが緊張した面持ちになった。なんだ?

 

「―――人間側の代表もくるらしいわ」

 

『っ!?』

 

人間側の代表・・・・・つまり、―――兵藤家と式森家がくるってことなのか?

 

「この四つの代表者が集って会談を開くらしいわ。

なんでもアザゼルから話したいことがあるみたいだから。そのときにコカビエルのことを

感謝するかもしれないなんて言われているけど、あのアザゼルが謝るかしら」

 

「悪魔側の代表ってルシファーなのか?それともこの学校の理事長のサーゼクスか?

堕天使の総督もくるのか・・・・・嫌いな種族が大集合って・・・・・」

 

はぁ・・・・・と溜息を吐く。三大勢力が一堂に集まりだすなんて

嫌な予感しかしないぞ・・・・・。

 

「私たちグレモリー眷属とシトリー眷属もその場に招待されているわ。

あの事件に少なからずに関わってしまったから、そこで今回の報告をしなくてはいけないの」

 

「・・・・・あー、そうかい。それじゃ、俺には関係ないことだな。それじゃ」

 

ガシッ!

 

「待ちなさい。貴方も事件に関わったのだから私たちと一緒に会談に

居合わせないといけないのよ」

 

嫌な予感がMAXになってこの場から逃げようと踵返して歩を進めようとしたその瞬間に

リアス・グレモリーに肩を掴まれた。そして、彼女の言葉に俺は肩に掴んでいる

手を振り払ってリアス・グレモリーに振り返って口を開く。

 

「ふざけんな!俺が悪魔と堕天使が嫌いなのは知っているだろう!?

それに関わっているからって俺は神王と魔王に依頼されてただけだ!

人外だらけの集まりにいくかよ!俺はただの学生だ!」

 

「我慢しなさいよ!それに古の戦いから生き残る堕天使の幹部と無傷で勝った上に

神滅具(ロンギヌス)を四つ所有して、強力なドラゴンを数匹宿している貴方が普通の学生じゃないわよ!

むしろ、私の眷属にしたいぐらいだわ!いえ、貴方も私の眷属になりなさい!」

 

「今のお前の駒は二つしかないんだから無理だろう!?というか、悪魔に転生なんてゴメンだ!」

 

バンッ!

 

「リアス!彼を眷属にする気なら彼は私の眷属にします!」

 

「また悪魔が増えた!?」

 

この部屋の扉を勢いよく開け放ったソーナ・シトリー。

 

「ダメよ!彼は私の眷属にするの!」

 

「いえ、私の眷属悪魔にします」

 

「ソーナの駒は彼を悪魔に転生するほどの数が無いじゃない!」

 

「それはお互い様ですよリアス。ですが・・・・・忘れていませんか?変異の駒(ミューテーション・ピース)

上級悪魔になれば悪魔の駒(イーヴィル・ピース)と一緒に配付されますが、お

金を支払えば変異の駒(ミューテーショーン・ピース)は何個だって買えるものだと」

 

えっ、駒ってそんなもんなの?リアス・グレモリーの表情を見れば苦虫を噛み潰したかのような

表情を浮かべている。あっ、そうなんだ?

 

「因みに・・・・・その駒の価格は?」

 

「日本円にして一つ、一千万です」

 

「・・・・・お前ら悪魔+学生とはいえ、その額の金はないだろうが」

 

「持っているわ」

 

「持っていますよ」

 

・・・・・マジですか。どんだけお金持ちなんだ?この二人は。

 

「そう言うわけです。私はこれから彼の価値を調べるために保健室へと連れて行きます。

分かり次第、駒を買いに行きますので」

 

「なっ、そうはさせないわ!私が連れていくわよ!」

 

おーい、俺の意見は無視ですかー?額をくっ付け合うほどいがみ合う

二人を見て嘆息する俺だが、

 

「「イッセー(くん)!」」

 

「・・・・・なんだよ」

 

「「私は負けない!」」

 

「・・・・・もう、勝手にしてくれよ・・・・・」

 

部屋の隅に移動していじける俺。だって、俺の話を聞いてくれないんだもん。

 

ぐすん・・・・・。

 

「可哀想なイッセーくん・・・・・私が励ましてあげるわ」

 

「そうだな、励ましてやろう」

 

イリナとゼノヴィアが俺に抱きついて頭を撫で始めた。ううう・・・・・。

その優しさが身に沁みるぞ。

 

「ところで、二人はどこで住むんだ?」

 

「えーと、神王さまが言うには護衛対象の傍にいた方が護衛はやりやすいだろうから―――」

 

「お前の家に住むことになった」

 

「・・・・・マジで?」

 

「ああ、だからお前の家に住むことを断われたら私たちは外で寝るしかないが・・・・・

どうすればいい?」

 

ゼノヴィアは真剣な面持ちで問うてきた。どうすればいいって・・・・・そんなこといわれたら、

 

「(断われるわけ無いだろうが!)」

 

アッサリと葛藤もせずにこの二人の入居を許可してしまった。そして余談だ。

あの二人は運動で勝負をすることで決着を付けることなったが、

お互い拮抗して最後は引き分けとなった。

 

「(しかし・・・・・あいつは堕天使のところで生きていたのか)」

 

数日前、コカビエルを倒した夜に現れた『白い龍(バニシング・ドラゴン)』アルビオンの魂を宿す少女。

俺のもう一人の幼馴染のヴァーリ・ルシファー。コカビエルとフリードの回収をしに来たようだが、

 

『一誠、またすぐに会うことになるかもしれない。その時、お前に告げたい話がある』

 

それだけ言い残してあいつはいなくなった。俺に告げたいことって何だ?

 

「イッセーくん・・・・・」

 

「ん・・・?」

 

「ヴァーリのこと考えていた?」

 

「ああ・・・・・あいつが堕天使の所に生きていたなんて知らなかったし」

 

「うん、そうだね。私も驚いたよ」

 

俺に抱きついたままのイリナが更に密着してきた。

 

「でも、女の子だって知らなかったのよね?」

 

「当たり前だ。俺たちはやんちゃに遊んでいたんだぞ?泥まみれになって遊んだり、

服を着たまま川の中に飛び込んだりしてさ」

 

「ふふっ、懐かしいね。また昔のように三人で・・・・・」

 

「そうだな、三人で・・・・・」

 

彼女と俺は互いの顔を見詰め、小さく笑んだ。そうだ、昔のように遊びたいもんだな。

今度、いつ会えるのだろうか。早く会いたいもんだ。

なぁ、お前もそうだろう?ヴァーリ・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

停止教室のヴァンパイア
Episode1


「紫藤イリナです!私は親の都合でしばらくイギリスに住んでいましたが、

久し振りにこの日本に戻った帰国女子なので、勝手が分からないことがあるかも知れません。

皆さん、その時はご迷惑をおかけすると思いますがよろしくお願いします」

 

「ゼノヴィアだ。イリナの友達だ。よろしく頼む」

 

―――と、二年F組にゼノヴィアと幼馴染の紫藤イリナが編入してきました。

転校や編入してきた生徒は必然的にこのクラスに所属するようだから、

不思議じゃないが・・・・・。

 

「よーし、一限目はこの二人と交流を深めるために自習とする!

お前ら、根掘り葉掘り何でも聞きだしてやれ!」

 

『いやっほぉぉぉぉぉう!』

 

このクラスの最初の難関が二人を襲った―――。

 

「と、言いたいところだが」

 

ピタッ。

 

ん?どうしたんだ?教師が俺たちの顔を見渡して口を開いた。

 

「そろそろ夏休みだ。だが、夏休みの前にお前たち生徒がするべき行事がある。

―――期末試験だ」

 

『・・・・・』

 

あー、もうそんな時期なんだ?Fになるように片方だけ0点になればいいんだよな。

 

「目前に迫った期末試験の時間割を発表する」

 

教師の言葉にクラスメートの反応は。

 

『まあ、ペーパーテストだけは余裕だから、問題ない』

 

・・・・・完全に頭脳派の言い方だった。テストの成績はSクラスには劣らないようだが、

体力の方だと他のクラスには劣るようだ。いや、比べる相手が悪過ぎるからか?

教師はそんな態度のクラスメートに苦笑を浮かべた。

 

「お前ら、もう少しやる気を出せって。総合で百一点でも出せばDクラスなんだぞ?

テストだけ良い成績でどうするんだよ?」

 

『いやー、社会に出る時に恥ずかしくないよう必要な知識が得れば十分なので』

 

ダメだ・・・・・ここは頭脳派しかいない!間違ってはいないけどさ!

 

「「・・・・・」」

 

だが、帰国女子のイリナと外国育ちのゼノヴィアにとって最悪なタイミングで編入してきた。

ので、二人にとって崖っぷちに立たされた状態に違いない。

 

「三つの教科を赤点になった奴は夏休みの殆どが補習だからな。

お前ら、テストができるからと言って、油断すんじゃないぞ」

 

『了解でございます!大佐!』

 

「誰が大佐だ!・・・そんじゃ、自習だ」

 

教師は教室から去った。ストッパーともいえる存在がいなくなれば・・・狼の群れに放り込まれた

羊当然だったイリナとゼノヴィア。

 

―――数十分後。

 

「つ、疲れた・・・・・」

 

「質問攻めとは酷く疲れるものなのだな・・・・・」

 

グテー、と自分の机に突っ伏す二人だった。お疲れさま、そしてその気持ちは痛いほど分かるぞ。

 

「はい、元気ドリンクですよ」

 

「「ありがとう」」

 

龍牙に受け渡された小瓶を受け取って、飲む二人の様子を見て俺は疑問をぶつけた。

 

「そう言えば龍牙。『九十九屋』ってなんだ?」

 

「えっ?ああ・・・簡単に言えば何でも屋ですよ。小さいことから大きいことまで、

更には汚れ仕事や暗殺。払う金額によって九十九屋は動きます。

僕の兄がその店長の立場にいるんです」

 

「ふーん、有名なのか?」

 

「普通にネットに載っていますよ?まあ、知名度はあるほうです」

 

ネ、ネットに・・・・・・?秘密組織とかそういうもんじゃないのか?うーん、わからないな。

 

「一誠さんもどうぞご利用くださいね。何でも請け負うので」

 

「うん・・・・・考えておく」

 

九十九屋・・・・・か。いざって時に頼るとするか。

 

「・・・・・」

 

視界の端にジッと期末試験の時間割を見詰めるカリンの姿が写り込んだ。

そういえば、あいつはどうするんだ?気になり話しかけてみる。

 

「カリン」

 

「どうした?」

 

「いや、お前はどうするんだ?期末試験の結果によってクラスが変わるんだろう?」

 

「ああ・・・そうなんだ。何時も通りに受ければSクラスに戻れるのだが・・・・・」

 

珍しく言葉を濁らすカリンだった。首を傾げて「どうした?」と尋ねたら、

 

「このクラスに転属してからというものの、ゆとりができて居心地が好いんだ。

Sクラスは休み時間でも気を引き締まった空間で支配しているからな、互いが互いに競争相手と

認識して簡単に自分の弱みを見せない」

 

「うん、あの空気は嫌だね」

 

和樹が話に加わってきた。

 

「それにカリンちゃん、Sに戻っても多分同じだと思うよ?」

 

「それはどうしてだ?」

 

「だって、僕たちF組がまたS組と体育の授業を受けて勝利したら

カリンちゃんを引き抜くからね」

 

うーん、それもそうだな。体育の授業でぶつかれば、どっちにしろ同じだな。

和樹の話しを聞いて俺もそう思う。

 

「まっ、カリンちゃん次第だよ。このクラスに残るかSに戻るか。ねっ、一誠」

 

「個人的に言えば、Sに戻ったら戻ったらで寂しいがな。

せっかくカリンという友達ができたのにいなくなるなんてさ」

 

「・・・・・そうなのか?」

 

「ああ、そうさ」

 

肯定と頷く。他意はない。純粋な気持ちだ。友達がいなくなるなんて寂しい。

 

「結局、和樹の言う通りカリン次第になるがな」

 

無理強いはできない。相手の意志に尊重する。

 

「うん・・・・・わかった。ちょっと楽になった気がする」

 

カリンが薄く笑んだ。・・・・・そうだ。

 

「なあ、皆で期末に向けて勉強しないか?」

 

「勉強会?」

 

「うん、イリナとゼノヴィアの勉強を見るためにも決まった教科を勉強しよう」

 

「分からないところがあれば、聞けばいいしね」

 

「・・・・・そうだな。それじゃ、皆にも声を掛けて誘おう。それと勉強会は休日で?」

 

皆が集まる日はその日ぐらいしか無いだろう。彼女の問いに首を縦に振って頷く。

 

「そうだな。それにする場所は俺の家でいいか?」

 

「うん、いいよ」

 

「ああ、私も構わない」

 

決まりだ。他の奴らにも声を掛けようと足を動かした。

 

「清楚、ちょっといいか―――」

 

―――○●○―――

 

―――昼休み

 

「どこだぁー!兵藤一誠ぃっ!」

 

「くそ、こっちに逃げたハズなのに・・・・・!」

 

「探せー!色魔兵藤一誠に天誅するのじゃー!」

 

ドドドドドドドドドドドド・・・・・・ッ!

 

「・・・・・」

 

いなくなったか。

 

柱の影から姿を現す。まったく、昼の時ぐらいゆっくりさせてくれよ。

 

「・・・・・初めてだが、学食で食うか」

 

丁度今いる場所は学生が昼食を食べにくる食堂だ。

手には弁当が持っているからどこかの席でも―――。

と食堂を見渡せば、空いているようにも見える席に荷物が置かれていたりする。

 

あまり騒がしい席も座りたくはない・・・・・と探していると、

四人席に一人だけ座っているテーブルを見つけた。

 

「すみません。この席いいですか?」

 

座っている女子生徒の体面に弁当箱を置いて聞いてみ金色の髪に、紫の瞳の女子生徒。

 

「はい、どうぞ。私はもうすこしで席を立ちますから」

 

落ち着いた受け答えをして、にっこりと微笑む。こんな綺麗な人、この学園にいたか?

 

「・・・・・どうかなさいましたか?」

 

「・・・・・いや、なんでもない」

 

綺麗と一言で言っても色んな種類がある。

この女子生徒のは、俺が知ってる種類の「綺麗」とはまたなにか違う。

周囲に流れる時間を、優雅なものに変えてしまう。少し言葉を交わしただけで、

そんな感覚を覚えた。

 

「そうですか。何か学食に関してご要望があれば、生徒会にご一報くださいね。

すぐに対処を・・・・・」

 

生徒会?ソーナ・シトリーの眷属か?でも、こんな女子生徒がいるとは

聞いていないんだが・・・。と俺がぼんやりそんな事を考えていたら、彼女はそう言いながら、

俺の顔を真正面に捉えた。すると彼女の表情に変化が・・・・・。

 

「・・・・・そんなはずは・・・・・いえ、でも私の記憶が正確なら・・・・・」

 

「ん?」

 

整った美貌に、漠然とした疑問が浮かんでいる。彼女は目を見開いて、

少し首を傾げて俺の顔をいろんな角度から眺める。

 

「これほど記憶と一致しているのに、

偶然なんて・・・・・い、いえ・・・・・まだ決めつけるのは尚更ですね」

 

彼女は一人でを問答しながらも、俺から目を逸らさない。

 

「あ、あの・・・・・不躾な質問ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

いよいよ彼女は瞬きもせず、怖々という感じで尋ねてくる。

 

「兵藤一誠だけど」

 

「ひょうどう・・・・いっせい。ひょう・・・・・兵藤・・・・・い、いえ。

漢字が違うかもしれません、きっとそうです」

 

ブツブツと呟けば尋ねるように訊いてくる女子生徒。

 

「兵は兵士の兵、藤は藤木の藤、一は数字の一、誠は誠実の誠・・・・という漢字でしょうか?」

 

そんな風に確認されたことは一度もない。兵藤の名前なんてありふれた名前だと

思うし・・・・・しかしさっきから、彼女の様子が思いきりおかしい。

 

「漢字も合っている。兵藤一誠はこの学園に一人しかいないぞ」

 

「・・・・・この学園に、ひとり・・・・・」

 

彼女はそこで、実に久し振りの瞬きをした。

次の瞬間、唇がフルフルと震え始め・・・・・そして、

 

「本物・・・・・なのですか・・・・っ!?」

 

「ぐっ・・・・・!?」

 

その言い方は・・・・・魔王にも神王にも人王にも凡人にもなれる男だと言いたいのか・・・!?

 

「言いたいことは分かる、だけど・・・・・っ」

 

「あ・・・・・う・・・・・・」

 

さっきまで落ち着いた応対をしていたのに、彼女は突如として酷く動揺し始めた。

前髪で表情を隠そうとするが、明らかに顔が赤い。

 

「・・・・・俺に何か?」

 

「・・・・・な、何かと・・・・・」

 

ぱくぱくと音を出さずに口を動かす。まともに話せていないことに気付き、

彼女は自分を落ち着かせるように胸に手を当てた。

 

「わ・・・・・私のことはどうかお気になさらず・・・・・

この場の空気と思っていただいて・・・・・」

 

「というか、生徒会の人だと言うならソーナ・シトリーのことを知っているよな?

てか、そんな反応を見て、気にするなって言うのは無理だって」

 

「で、では・・・・・私はもう食事をすみましたので、退席します。

ということでよろしいですか」

 

「いや、あの?人の話しを―――」

 

と口を開いたその瞬間だった。

 

「そこかぁ!兵藤一誠ぃっ!」

 

嫉妬集団に見つかってしまった!ちっ、まだ諦めていなかったか!

 

「―――悪いが、一緒に来てもらうぞ」

 

バサッ!

 

「へ・・・・・?」

 

「どうやら、彼女と知り合いらしいしお前をつれて行けば分かるだろう」

 

謎の女子生徒を―――青白い翼で包んで拘束する。そして嫉妬集団が迫ってくる中、

彼女のトレイを手にして食堂のおばさんに渡して、

 

「外から行くとしよ」

 

壁に向かって駈け出す。

 

「ま、待って下さい!そこは壁―――!」

 

「待てと言われて待った、その数秒が戦況を左右することもままあるんだけど?」

 

「で、ですが―――!」

 

「まあ、ぶつからないって」

 

そう言い合いながら壁に向かって走ると、壁の表面に暗い穴が生じた。

その穴に潜るように飛びこんで―――学校の外に出た。

 

「・・・・・な・・・・・」

 

「なっ?」

 

ぶつかるはずの壁をすり抜けて外に出た。そんな有り得ない光景に女子生徒は目を見開いた。

さてと、屋上に向かうか。青白い翼を羽ばたかせて一気に屋上へと移動した。

 

バサッ!

 

「到着」

 

「あっ、一誠・・・・・と、誰?」

 

「さぁ?ソーナ・シトリーの知り合いっぽかったから連れてきたんだけど」

 

出迎えの言葉を放ってくれた和樹が、翼に包まれている女子生徒に目を向けて疑問を浮かべた。

 

「おや・・・瑠璃ではないですか」

 

やっぱり知っていたか、ソーナ・シトリーが女子生徒の名を呟いた。

 

「あっ、瑠璃さん」

 

「シア、知っている人なのか?」

 

「お父さんから聞いたっす。私の護衛の人だよ」

 

「ああ、彼女がシアの護衛の人だったのか」

 

瑠璃と呼ばれた女子生徒を見れば、顔を真っ赤にして俯かせていた。

 

「あうあうあうあう・・・・・・」

 

「・・・・・なに、この可愛い生物・・・・・」

 

頭を撫でたくなる衝動が・・・・・手を震わせていると、

ソーナ・シトリーが苦笑いを浮かべていた。

 

「彼女は人付き合いが苦手でなんですよ」

 

「はっ?そうなのか?」

 

「ええ、それと彼女の正式名称は瑠璃=マツリといいます。クラスは三年A組です。

しかし、良く彼女を見つけましたね?」

 

「食堂で会った。何か知んないけど、生徒会のメンバーだって言うから

ソーナ・シトリーの眷属悪魔かと思ったぞ」

 

そんな俺の発言に首を横に振ったソーナ・シトリー。

 

「彼女は天使です。ですので、悪魔ではありませんよ」

 

「なるほどね。しかし、ある意味デイジーと似ているな。人付き合いが苦手なところが」

 

「い、今は皆さんとお付き合いしているおかげで、

少ないですが何人かクラスメートとお話もできるようになったので大丈夫です!」

 

「おっ、そうなんだ?進歩しているんだな偉いぞ」

 

翼で離れたところにいるデイジーの頭を撫でた。

 

「ねぇ、まだその翼の色が元に戻らないの?」

 

「ああ、定着してしまったみたいだ。だから、ほら」

 

髪が腰まで伸び青白くなり、瞳が金色に変化した。

 

「前の禁手(バランス・ブレイカー)状態にはなれなくなっている」

 

「・・・・・神滅具(ロンギヌス)にバグが発生したとでもいうのかしら」

 

「能力は変わっていない。ただ、威力が増加しているようだ。特に浄化の方が」

 

浄化・・・・・?とリアス・グレモリーが尋ねてきた。

 

「どういうこと?」

 

「この状態の能力の一つ、浄化はけがれたものを清浄にする力だったんだけど、

どうやら相手の心まで浄化してしまうようだ」

 

「つまり、悪の心を持った人間がまるで更生したかのように、

綺麗な心を持って優しくなるってこと?」

 

「まあ、そんなところだ。だけど、コカビエルのような奴だと効かない。

知らないまま浄化の効果を相乗した力で攻撃していたんだけど、あの事件の後、

冥界でこの姿で色々と試したら理解した」

 

バンッ!

 

『兵藤一誠、覚悟ぉ!』

 

「いいところに実験台が現れたな」

 

屋上に現れた嫉妬集団の一部。翼を動かして嫉妬集団を拘束した。

 

「浄化」

 

カッ!

 

青白い翼が閃光を放った。それは一瞬で直ぐに光は消失する。

 

『・・・・・』

 

皆が見守る最中、拘束している翼を解いて嫉妬集団を解放すると。

 

「あっ、すみません。お騒がせしました」

 

「ご迷惑をおかけしました!」

 

「兵藤一誠くん、今まですまなかった。もうキミには迷惑を掛けないよ」

 

『―――――っ!?』

 

あの嫉妬集団が言う言葉とは思えないほどの謝罪だった。

謝罪した三人を筆頭に他の嫉妬集団は一言謝ってから屋上から姿を消していく。

 

「と、まぁこんな感じだ」

 

『・・・・・』

 

唖然としている皆に話しかけると、カリンが徐に立ち上がった。

 

「イッセー、どの力ってどんな奴にも効くのか?」

 

「まだ分からない。人間に浄化の能力を使ったのは今ので初めてだ。

悪魔にやったらどうなるか・・・」

 

悪魔であるリアス・グレモリー、ソーナ・シトリー、ネリネ、リコリスを一瞥する。

 

「試してみないと分からないな。

最悪、本当の意味で浄化しちゃうかもしれないけど・・・実験台になってくれる?」

 

「嫌よ!?」

 

一刀両断とばかり直ぐに拒否された。うん、当然の反応だ。

 

「冗談だ。さて、瑠璃先輩?」

 

「な、なんでしょうか・・・・・それよりも、解放して欲しいです・・・・・・」

 

「シアの護衛ってアンタだったのか?」

 

「そ、その通りですけどそれがなにか・・・・・・」

 

「なら、今後シアの傍にいるためにも屋上で一緒に食べないか?」

 

そう提案をして尋ねる。と、彼女は目を丸くして首を横に振った。

 

「シ、シアさまの護衛をする者としてそんなことできません。

影ながらシアさまを守るのが私の務め・・・」

 

「うーん、私的にはイッセーくんの提案に賛成なんだけどねー。

ということで、瑠璃さん。私と一緒に食べるっす♪」

 

「シアさま!?そんな、殺生な・・・・・!」

 

「ダーメ♪もう決めたことですからね。

ちゃんと来てくれないとイッセーくんに迎えに行ってもらうっす」

 

満面の笑みを浮かべるリシアンサス。対する瑠璃=マツリは、

「ぅぅぅ・・・・・」と断わることができないのか、否定する仕草をしなかった。

 

―――○●○―――

 

―――放課後―――

 

 

午後の授業は全て終わり、俺たちは家に帰るため町中に歩を進めていた。

 

「えーと、一日目の期末試験の教科は・・・・・現代文と世界史、数学・・・・・か」

 

「現代文と世界史・・・・・」

 

「シア、苦手な教科か?」

 

「覚えるのが一杯で大変っす・・・・・」

 

苦笑いを浮かべるリシアンサス。

イリナもゼノヴィアももうすぐ期末試験というところに編入したせいで、大慌てだ。

 

「うう・・・編入していきなり期末なんて・・・・・」

 

「主よ・・・・・これも試練なのですか?突然の極東の地に住むことになった

我らに対する試練なのですか・・・・・」

 

いや、ゼノヴィア。そうヤハウェに問うても現実は残酷だから・・・・・。

 

「俺も世界史は微妙だ。色々と覚えることが多いし、理解しながら暗記しないといけない」

 

「ここに同士がいたっす!」

 

急に握り拳を作ったリシアンサス。

 

「今日は近所同士の勉強会でもするか。ネリネ、リコリス、シア、いいか?」

 

「はい、私は構いませんよ」

 

「うん、大賛成!」

 

「私の夏休みが懸っているから是が非でも補習から免れたいっす!」

 

と、冥界と天界のプリンセスが賛成した。

というか、リシアンサスの場合は補習を受けるなんてことがあったら、

天界のプリンセスとして致命的なイメージダウンに繋がる。

ヤハウェもそんなことは望んでいないはずだ。

 

「(なんとしてでも、シアを赤点を二つまで留めさせなければ・・・・・!)」

 

神王が面倒なことを起こさないとは限らない。親バカな神王ならば・・・・・。

 

『シアが夏休み中ずっと補習とやらで学校に閉じ込められるだとぉ!?

これは天界への、俺への対する挑戦だと思ってもいいんだぁ!?

こうなったら、俺が直々シアを不幸に陥れる学校を―――!』

 

「(やばい・・・違和感が全くないどころか、現実になりかねないぞ・・・!?)―――シア」

 

「はい?」

 

「お前を何がなんでも補習なんかさせないからな。だから一緒に頑張ろう」

 

「イッセーくん・・・・・うん」

 

・・・?なぜ顔を赤くする?しおらしくなったリシアンサスに少し首を傾げて怪訝になった。

 

「私も頭が悪かったら・・・・・」

 

「羨ましいですシアちゃん・・・・・」

 

ネリネとリコリスが羨望の眼差しを向けてくる?

 

「それじゃあ、家に戻ったら―――」

 

歩道を渡って公園を通り過ぎようとしていた。

 

『待て、兵藤一誠』

 

が、俺は内にいるドラゴンに呼び止められ、足を停めた。

だから皆は俺を不思議そうに視線を向けてくる。

 

「どうしたの?」

 

「いや、俺の中にいるドラゴンに呼ばれた」

 

で、なんだよ?

 

『近くにとんでもない龍の波動を感じる。すぐ傍だ』

 

とんでもない龍の波動・・・・・?辺りを見渡しても誰もいない。

 

『―――いや、まさかな』

 

苦笑したような声音を吐くクロウ・クルワッハ。なんだ?

 

『お前はよほどドラゴンに好かれるタイプのようだな』

 

はっ?いきなり何を言って・・・・・。

 

『来たぞ―――』

 

―――――っ!?

 

ここに来てやっと不気味な気配を感じた。―――俺の肩に確かな重みを感じた。

俺はあまりにも突然なことで、体を硬直させた。

 

「イ、イッセーくん・・・・・っ」

 

イリナが驚いた表情で俺を見詰める。他の皆も驚愕の色を浮かばせている。

 

「見つけた」

 

肩から声が聞こえた。少女の声だ。

 

「っ―――!?」

 

「邪龍と知らない龍を宿す者。我の手伝いをする」

 

この、絶対的な力・・・・・この瞬間でも俺の命を奪えることが造作もないと、

思えさせる圧倒的な力。ダメだ、とてもじゃないが俺でも歯牙にも掛けれないぞ・・・・・。

 

「・・・・・お前、誰だ?」

 

尻目で見ても膝しか見えない。後頭部から感じる温もりは生きている証拠を感じさせてくれる。

だから問うた。お前は誰なんだと。

名を尋ねられた少女は―――小さく笑んだように俺には思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我、『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス」

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode2

無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)・・・・・無限の体現者と言われている二天龍より強いドラゴン。

俺、とんでもないドラゴンに目を付けられた?

 

『基本的にそいつは無害だ。お前に接触した理由は分からないな』

 

そうか・・・・・その言葉を聞いて少し安心した。心の中で安堵の息を漏らして、口を開いた。

 

「オーフィス、だったか?」

 

「ん、我、オーフィス」

 

「じゃあ、オーフィス。お前の手伝いって何だ?」

 

「グレートレッド、追いだす」

 

・・・・・グレートレッド?俺が知る限りその名の存在はただ一人だ。

 

「『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッドのことか?」

 

「正解、我、グレートレッド追いだしたい。だから手伝う」

 

「どうして追いだしたい?」

 

「我、次元の狭間で静寂を得たい。でも、次元の狭間を支配しているグレートレッド、邪魔」

 

次元の狭間・・・・・ガイアが生まれた無の空間だった。いや、もう一匹いたな。

 

『グレートレッドとオーフィスは次元の狭間から生まれたドラゴンだ。

だが、次元の狭間の支配権を巡って戦っていたがオーフィスは敗北した。

前に説明したことだぞ?』

 

覚えているよ。でも、何でまたガイアを倒して静寂を得たいなんて、言いだすのか分からない。

 

『本人に聞けばいいことだ』

 

それもそうだな。

 

「どうしてグレートレッドを倒したいんだ?」

 

「次元の狭間で静寂を得たい」

 

生まれた故郷に戻りたいということでいいのか?

 

「ホームシックということなのでしょうか・・・・・」

 

「うーん、無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)って聞いたことあるけれど、

実物で見たら・・・・・思っていたほど怖くないっすね」

 

「危険なドラゴン、とは思えないよね」

 

「家に帰りたい子供って感じだな」

 

「うん、しっくりくる」

 

皆がオーフィスの言動に想像していたのと違うと語り合っていた。俺もそうだけどな。

実際に会ったら小さい少女だし・・・・・・ほんと、伝説のドラゴンは人化になることが

流行っているのか?

 

「我の願いを手伝う」

 

そう言った直後、俺の足元に魔方陣が展開した。

 

「えっ?ちょ、オーフィスさん?」

 

何故に魔方陣を展開するんでしょうか!?これは・・・やばい!紫の宝玉が埋め込まれている

黒い籠手幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)を装着して、足元の魔方陣を消す―――!

 

カッ!

 

しかし、一歩遅く・・・俺の目は白一色に塗り替えられ、

 

「イッセーくんッ!」

 

イリナの叫び声を最後に、俺の意識は遠のいた。

 

「・・・・・」

 

白一色だった俺の視界は一変して黒くなった。いや、目を瞑っているわけじゃない。

目を開いて暗いんだ。

 

「・・・・・ここ、どこだ?」

 

「我の部屋」

 

ピョンとそんな感じで俺の肩から降りたオーフィス。改めて彼女の姿を肉眼で捉えた。

腰まである黒髪の小柄な少女。黒いワンピースを身に着け、細い四肢を覗かせている。

胸にペンダントを身に付けている少女。

 

「・・・・・俺、拉致られたのね」

 

周りを見渡せば壁に囲まれた空間、ベッドや椅子、テーブルしか無い殺風景な部屋だった。

 

「・・・・・」

 

「なんだ?」

 

ジッと見つめてくるオーフィス。いや、俺というより内にいるドラゴンたちか?

 

「―――クロウ・クルワッハ、アジ・ダハーカ、アポプス、ティアマット、

知らないドラゴンが二体」

 

「―――――」

 

この子、怖ろしい子!というか、クロウ・クルワッハしか告げていないのに

他の邪龍まで言い当てやがったか!

 

「ん、これならグレートレッド、追いだせる」

 

「いやいや、無理でしょう」

 

最強で最凶のドラゴンが集っても、勝ち目ないって。だから満足気に頷かないでくれるか!?

 

「邪龍を宿す人間、珍しい。ティアマットも、珍しい」

 

「まあ、俺が世界で初めてなんだろうけどさ・・・・・」

 

頬を掻きながら言う。だが、俺としては帰りたい。―――こいつから逃れることはできるか?

 

『無理だな。言っておくが俺たちよりも強いぞオーフィスは』

 

マジで?クロウ・クルワッハでも勝てないの?

 

『いまの俺の実力は封印される前の二天龍と同等だと思うが、

グレートレッドを倒せない限りじゃオーフィスを倒すことは無理だ』

 

・・・・・万事休すってやつか・・・・・。

 

「・・・・・ところで、そのペンダントは何だ?」

 

「我の宝物」

 

へぇ、宝物ね・・・・・。ドラゴンでも宝を認識するんだ?

 

「ああ、いるぞ。代表的に『黄金龍君(ギガンティス・ドラゴン)』ファーブニル。

五大龍王の一角で、世界中の宝を集めるドラゴンだ」

 

五大龍王・・・ティアと同じ龍王か。どんな奴なんだろう、会ってみたいな。

 

『いずれで会える。もしかしたらすぐかもな』

 

有り得そうだ。

 

ガチャッ。

 

扉が開く音が聞こえた。そちらに振り向くと―――。

 

「「・・・・・」」

 

あれ・・・・・見間違いか?ははっ、ここに幼馴染がいる幻覚が見えるなんてな―――。

 

「・・・ふふふっ、これは何の冗談だ?目の前に幼馴染がいるぞ、幻覚か?

私は幻覚を見ているのか?」

 

あー、向こうも幻覚を見ていると思っているよ。うん、きっとそうだ。これは―――。

 

「「幻覚に違いない」」

 

「違う」

 

俺と幼馴染の言葉にオーフィスが、ズバッと一刀両断!

 

「・・・・・本当なのか?」

 

「・・・・・そうみたいだな」

 

俺の問いに幼馴染が苦笑する。

 

「じゃあ・・・・・何でお前がここにいるんだ。―――ヴァーリ・ルシファー」

 

シルヴィアの銀髪よりも濃い銀髪、というよりダークなカラーが強い。

それに引き込まれるぐらいの透き通った蒼い瞳の少女が、

俺の幼馴染のヴァーリ・ルシファーがいた!

 

「それは私のセリフだ。どうして一誠が、お前がここにいる」

 

「・・・・・オーフィスに拉致された」

 

それしか言えないし、事実だし。ヴァーリは「なるほど」と何故か納得しているし。

 

「一誠の中にいるドラゴンたちの波動をオーフィスが感じ取った結果だろうな。

自分の目的を果たすために」

 

「ん、我は次元の狭間に帰る」

 

「・・・・・」

 

それ、何とかなるんだけどな・・・・・。

 

「で、どうしてお前がここに?『神の子を見張る者(グリゴリ)』のところにいるんじゃないのかよ?」

 

「・・・・・答え辛い質問だな。いや、いずれ知られるから言おうか」

 

ヴァーリは口の端を吊り上げて告げた。

 

「私はアザゼルから離れるつもりだ」

 

「だから、オーフィスと一緒にいるということなのか?何のためだ?」

 

「一誠、キミが行方不明となっている間、私はアザゼルたち堕天使に育てられていた。

一誠が私を助けてくれた後のことだよ?」

 

彼女は語り始めた。過去のことを。

 

「この歳になるまで私は白龍皇の力の使い方を学んだ。

魔法の知識も、他の神話体系のことも、神器(セイクリッド・ギア)のことも、何もかもだ」

 

「・・・・・」

 

「永い歳月の最中、私は強くなった。もしもキミが行方不明ではなかったら、

私を助けてくれたキミを今度は私がキミを守ろうと思っていた。

だけど、キミは行方不明のままだった」

 

苦笑を浮かべるも、ヴァーリは言い続ける。

 

「目的の一つができないなら、私は挑戦をしてみたくなったんだ。世界中の強者に、

この白龍皇の力はどこまで通用するのか、試したくなったんだ。そして同時に目標ができた」

 

「目標?」

 

「―――『D×D(ドラゴン・オブ・ドラゴン)』と呼ばれし

真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッドを倒し、私は『真なる白龍神皇』となりたいんだ」

 

な―――っ!?

 

「赤の最上位がいるのに、白だけ一歩前止まりでは格好つかないだろう?

だから、私はそれになる。いつか、グレートレッドを倒したい。―――と、そう思っていたのに」

 

ヴァーリの瞳は真っ直ぐ俺に向けられる。

 

「ふふっ、私の目標はキミになってしまった」

 

「お前・・・・・」

 

「あの時、コカビエルを連れて帰るために現れた私の目に飛び込んできたのは、

赤龍帝とは違う別の赤がコカビエルを倒した光景だ。あの時は震えたよ。一誠」

 

ギラギラと瞳に戦意が籠った。獲物を狙う鷹のような視線だと俺は理解した。

 

「好意を抱いている男が私の目標なんて、これほど面白いことはないよ。

もう、赤龍帝との運命の戦いなんかより私は一誠と戦いたい。

赤よりも紅よりも深い深紅の鎧を着た一誠と―――」

 

背中に青い翼を広げだすヴァーリ。マジ?ここで戦うの?お前が望むガイアはいないぞ?

 

「好きだからこそ戦う運命なのかな一誠」

 

「さあな。だが、戦ってさらに好きになることだってあると思うぞ?」

 

右手に幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)

左手に成神一成の神器(セイクリッド・ギア)―――赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を装着した。

 

「その籠手・・・・・赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)?」

 

「紛い物、偽物、コピーした赤龍帝の籠手だ。―――オリジナルより高性能になっているがな」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

「―――――『赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』」

 

『Transfer!!!!!』

 

「さらに禁手(バランス・ブレイカー)ッ!」

 

カッ!

 

膨大な赤いオーラが俺を包む。そのオーラが鎧へと具現化していき、俺の全身を覆う。

そして―――、

 

「『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』ってな?」

 

龍を模した赤い全身鎧を装着した俺。が、右の籠手は黒い籠手のままだ。

不格好だが、いいだろう。

 

『有り得ん・・・・・神滅具(ロンギヌス)が二つも存在するどころか、

ドライグの力をそのまま具現化にしただと・・・・・!?』

 

青い翼から驚愕の声が聞こえる。もしかしたらアルビオンの声か?

 

「悪いけど、俺は帰らせてもらうぞ。今頃、あいつらが心配しているだろうしな」

 

「つれないことを言わないでくれ。―――楽しくなろうとしているのにさ」

 

ヴァーリは力強く言った。―――禁手(バランス・ブレイカー)と、その瞬間、

彼女の全身に白い鎧が覆っていく。

 

「『|白龍皇の鎧《ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル》』。

これが白龍皇の姿だよ一誠」

 

「ああ、白くて綺麗な鎧だ。ヴァーリに似合っている」

 

「はははっ、嬉しいな。―――それじゃあ、始めようか」

 

青い翼を大きく広げたヴァーリ。俺も翼を広げ、臨戦態勢に―――。

 

「―――何しているのですか?」

 

扉から声が聞こえた。そちらに振り向けば、背広を着た若い男。腰には二本の帯剣をしていた。

―――あの二本、聖剣と同じ波動を感じる・・・!?

 

「おや・・・・・赤龍帝ですか?」

 

男は意外そうに発した。ここに二天龍が揃うということは、

天龍同士の戦いが始まるということと道理だ。

 

「いや、彼は赤龍帝ではないよ」

 

ヴァーリは否定した。「では?」と背広を着た眼鏡の男が首を傾げた。

 

「私が好意を抱いている兵藤一誠だ」

 

「兵藤・・・・・ああ、あの兵藤ですか?」

 

眼鏡から覗く瞳に興味深々と光が宿る。というか、ヴァーリの話の半分をスルーしたな。

 

「彼もチームに加わるのですか?」

 

「・・・・・チーム?」

 

「おや、知らないのですか?」

 

「オーフィスに拉致られたんでな」

 

溜息を吐きそう告げると、背広を着た眼鏡の男は苦笑を浮かべ出した。

 

「それはそれは、お気の毒に。ああ、私の名前はアーサー・ペンドラゴンです」

 

「アーサー?あの、アーサー・ペンドラゴン、アーサー王の・・・・・?」

 

「ええ、私は英雄アーサー王の末裔です」

 

おおう・・・・・英雄の末裔の人間かよ・・・・・こいつは驚いた。

 

「その腰の剣、聖剣だな?」

 

「はいその通りです。一本は地上最強の聖剣、聖王剣コールブランド。

もう一本は最近発見された最後のエクスカリバー、支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)です」

 

「七本目の聖剣エクスカリバー・・・・・というか、そんなに話していいのか?」

 

まさか、行方不明の最後の聖剣がアーサーの手に渡っていたことに驚きを覚えながらも、

一応は敵という立場にも拘らず親切に教えてくれる。それに疑問が浮かび問うと・・・、

 

「ええ、そちらに最近、聖剣使いがいると耳にしました。

さらに面白い剣を生みだす悪魔もいると」

 

ゼノヴィアと木場祐斗のことか。いち剣士として興味があるんだろう。

 

「ヴァーリ、鎧を解いてください。作戦会議が始まりますよ」

 

「・・・・・しょうがないな」

 

不満そうにヴァーリは鎧を解いた。作戦会議・・・・・?いや、その前に・・・・・。

 

「俺は帰って良い?」

 

「ダメだ」

 

「ん、ダメ」

 

ヴァーリとオーフィスにダメだしされた。・・・・・クロウ・クルワッハ。

 

『機会を伺うしかあるまい。オーフィスが傍にいるのでは、手も足も出ない』

 

・・・・・最悪、悪あがきでもするか。クロウ・クルワッハの言う通り、

機械を伺うことにし、ヴァーリたちとどこかへと向かった。

 

―――ガイアside

 

「・・・・・オーフィス・・・・・だと?」

 

「はい、一誠さまをどこかへと連れ去られてしまいました。私の責任です」

 

家に戻ってきたリーラたちが何やら焦った表情を浮かべていると思えば・・・・・

あいつが現れて一誠を連れて行ったと、一誠の従者であるリーラから話を聞かされる。

 

「(オーフィス・・・・・あいつ、なんのために一誠を連れ去った・・・・・?)」

 

次元の狭間で共に生まれ、共に生き、次元の狭間の支配権を巡って戦ったドラゴン。

我が勝ち支配権を得てあいつを追いだしたが、

 

「(よもや、あいつはあの二人の子供だと知っていて我から遠ざけた?)」

 

いや、決めつけるのは早計だ。それにあいつは我と一誠が共にいることすら知らないはずだ。

ただ、偶然にもオーフィスの目が一誠に留まったに過ぎないはず・・・・・。

 

「(奴の狙いは大方、次元の狭間だろう)」

 

奴から一誠を取り戻すためにはどうすればいい?

オーフィスが望むものをくれてやれば一誠は我の所に戻るか?

 

「(もしそうならくれてやろう。愛しき男が戻るのであれば、あいつに次元の狭間くれてやる)」

 

我はそう思った。いや、決意した。―――その時だった。

 

「ただいまー」

 

「「「「っ!?」」」」

 

我の愛しい男の声が聞こえた。我は耳を疑い、声がした方へ振り向けば―――!

 

「・・・・・はっ?」

 

話題になっている男、一誠が部屋にいた。それは問題ない。

愛しい男が戻ってきたのだ。喜ぶべきなのだ。―――が、

 

「どうして・・・・・そいつまでいるんだ・・・・・一誠・・・・・」

 

「えーと・・・・・懐かれたと言うべきか憑かれたと言うべきか・・・・・」

 

一誠の肩に当然とばかり乗っているやつがいた。我の問いに一誠は困った顔をして告げる。

なぜだ、なぜ、そいつがいるのだ。

 

「―――グレートレッド、久しい」

 

「オーフィス・・・・・!」

 

見間違うわけもない・・・・・。

一誠の肩に乗っているやつは無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィスであった。

 

「・・・・・一誠、説明してくれるのだな?」

 

「あ、ああ・・・・・」

 

心配していたのに、一誠のために次元の狭間を手放そうとしていたのに、

なぜあの状況になっているのだ!

 

―――○●○―――

 

―――一誠side

 

えっと、どうして俺がオーフィスと一緒に帰って来たかというとだな。

その理由は数時間前に時間が遡る。

 

『・・・・・』

 

なんだ・・・こいつらは・・・・悪魔と天使、堕天使、人間までいるぞ。

ヴァーリについていけば、周りから視線を向けられ、浴びて落ち着けない。

 

「なんだ、あの人間は」

 

「白龍皇と一緒にいるということは、あいつもあの女の仲間か」

 

「・・・・・」

 

何やら勘違いされているしぃー!?俺は仲間じゃないぞ!幼馴染だけどさ!

そう思いながらヴァーリに続くと、

 

「私の後ろに立ってくれ」

 

ドーナツ状のテーブルに置いてある一つの席に座ったヴァーリがそう告げる。

俺はその通りにヴァーリの背後に立った。アーサーも一緒だ。

すると、俺の隣に三国志の武将が来ているような鎧を身に纏った男と、

猫耳としっぽを生やしている黒い着物を着た女性、魔法少女のような格好をしてる少女がいた。

 

「お前さん、名前は何だってんだ?」

 

急に小声で話しかけてきた隣の男。軽々しく話しかけてくるということは、

そんなに悪い奴じゃないんだろう。と、俺は感じで告げた。

 

「兵藤一誠だ」

 

「へぇ、兵藤一誠か。俺っちは美猴だぜぃ。よろしくな。んで、こっちは黒歌だ」

 

「よろしくにゃん。で、この子はルフェイ・ペンドラゴン。アーサーの妹にゃん」

 

「よろしくお願いします」

 

「(黒歌・・・・・?)」

 

美猴と言った男の発言に俺は目を見開いた。こいつが、小猫の姉で銀華の妹・・・・・。

 

「さて・・・・・揃った事だ。会議を始めようか」

 

学生服を着た黒髪の青年が開口一番に言った。

その上から漢服らしきものを羽織っていて、ただ者ではないとハッキリと伝わる。

 

「人間が勝手に始めないでくれないかしら?」

 

「それはすまない。だが、誰かが言わないと始まらないだろう?」

 

・・・・・仲が悪い?いや・・・対立しているようにも思える。なんなんだ、この集まりは。

 

「まあいいわ。それでは、今回の作戦について新しく入ってきた

白龍皇に言ってもらいましょうかしら?」

 

「いいだろう」

 

腕を組んで威風堂々と髪を纏め、眼鏡を掛けた女性の言葉に返答する。

 

「この場にいる者たちの耳に入っているだろう。『神の子を見張る者(グリゴリ)』の堕天使の幹部である

コカビエルが単独で四種交流を象徴とする学園でエクスカリバーを利用して戦闘を起こした件を。

そのことに冥界の魔王と堕天使の総督、天界の神、とある人間の一族が数日後に駒王学園に

集って会談を始める」

 

「好都合に私たちの敵が集うってわけね」

 

女性が不敵の笑みを浮かべる。ヴァーリは何の仕草もしないまま言い続ける。

 

「もしも、私たちの存在を知らしめる上に、魔王と堕天使の総督、

神ととある一族を倒すのであれば、この会談の最中に奇襲をするのが一番だろう」

 

「ふむ。だが、そう易々と事は進めることができないと思うぞ?」

 

青年がヴァーリの発言に疑問をぶつけた。その疑問に対してヴァーリは言った。

 

「情報ではリアス・グレモリーの眷属にハーフヴァンパイアがいるそうじゃないか。

その人間の血を流すヴァンパイアは『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』と

時間を停止させる『神器(セイクリッド・ギア)』を所有している。

その『神器(セイクリッド・ギア)』を利用して魔王たちを停止させれば問題ないだろう」

 

「それは素晴らしい考えですわね。そのハーフヴァンパイアの能力を利用すれば、

邪魔者を停止させることができ、憎き魔王を滅ぼせれることに専念できるわ」

 

魔王を恨んでいる?つまり、あの女性は悪魔だというのか・・・・・?

というか、この話を聞いて嫌な予感がしてしょうがないぞ。

ヴァーリは確かめるように気乗りな女性に尋ねるように告げる。

 

「襲撃するのであれば、会談の日にするしかないぞ?」

 

「勿論そのつもりです。この私、カテレア・レヴィアタンが直々に魔王レヴィアタンを殺し、

私が魔王として名乗りましょう!」

 

カテレア・・・・・レヴィアタン・・・・・!?現魔王の肉親か何かかよ!?

どうしてそんな悪魔が自分の肉親を殺そうとするんだ・・・・・!

 

「あなただけ襲撃させる訳にはいかないだろう。魔法使いの者たちも襲撃に参加させたらどうだ?

会談の時に結界を張られるだろうし、私が襲撃できるように転移魔方陣を密かに用意する」

 

「そうね。お願いしましょうか」

 

カトレア・レヴィアタンは不敵の笑みを浮かべて同意した。

おいおい、俺はとんでもないところに立ち会っているんじゃないかよ。

 

「では、会議はこれにて終了。でいいですわね?」

 

「ああ、問題ないよ」

 

「私もだ」

 

「ふふふっ、レヴィアタン・・・待ってなさい。

あなたは必ずこの私の手で倒して見せるわ・・・!」

 

彼女が席に立ち、この場から去ろうとすれば、ゾロゾロと彼女の後を追う集団・・・って、

あいつらは全員悪魔なのか!?

 

「あー、やっと終わったぜぃ」

 

美猴が両腕を上げて背伸びする。どうやら退屈で仕方なかったようだな。さて・・・・・。

 

「黒歌、と言ったな」

 

「ん?何かしら?」

 

彼女はこっちに振り向く。・・・・・似ているな。銀華に。

 

「―――白音と銀華」

 

「っ!?」

 

二人の名を呟けば、耳をピンと立てて目を見開く。どうして知っているんだ?って顔だ。

 

「二人とも元気だぞ」

 

「・・・・・あなた、どうして二人のこと知っているの」

 

最大に警戒されている。その警戒を解くためにも説明しようと口を開く。

 

「白音・・・・・いや、今では塔城小猫と名乗っているお前の妹と同じ学校で学んでいる。

グレモリー眷属として、悪魔として元気に過ごしている」

 

「・・・・・」

 

「銀華は悪魔に無理強いで眷属悪魔にされそうなところを助けた。

彼女は俺の家で暮らしている。今でもお前と白音のことを気にかけている」

 

「・・・・・そう」

 

黒歌は瞑目した。美猴とアーサー、ルフェイは不思議そうに様子を見守っている中、

ヴァーリは席を立ち上がった。

 

「その証拠に―――」

 

携帯を取り出して操作をし、画像を引き出す。別々だが小猫と銀華の写真だ。

黒歌は俺からゆっくりと携帯を取って二人の写真を見詰める。

 

「・・・・・」

 

しばらくして、彼女は携帯を返してくれた。

 

「銀華から聞いたよ。黒歌がはぐれ悪魔になった理由を、優しい白音の姉さんだってことも」

 

「・・・・・そのこと、白音には?」

 

「まだ伝わっていない。銀華が言おうとしているけどね」

 

「あの自由奔放の猫が・・・・余計なことを言わないでほしいにゃん。

―――会いに行き辛くなるじゃない」

 

・・・ああ、やっぱり銀華、お前の言った通りだ。黒歌は優しい姉猫であり妹猫だよ。

実際に会って分かった。

 

「銀華に伝えることはあるか?」

 

「え?」

 

「いや、俺はオーフィスに拉致されてここに連れて来られたし、

俺は別にヴァーリの仲間ってわけじゃないし帰るつもりだからさ」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

その発言に四人が沈黙した。

 

「えっと、つまりお前さんは敵だってことかい?」

 

「さっきの会議を聞いて俺は敵側だなぁーと思ったぞ。

―――色々と聞かせてくれてどうもありがとう」

 

「あ、あの・・・・・じゃあ、どうしてここにいるんですか?」

 

「オーフィスに拉致されたって言っただろう?逃げようにもオーフィスから逃げられないし」

 

「だからあなたは大人しくしているのですね」

 

「そう言うこと」

 

肯定と頷く。帰れるのならば今すぐにでも帰るつもりだ。でも・・・・・。

 

「帰さない」

 

当のオーフィスが何時の間にか俺の肩に乗っているし。それはそれとして・・・・・。

 

「それと美猴とか言ったな?」

 

「なんだぃ?」

 

「俺、お前を見て懐かしく感じるんだけど・・・・・どこかで会ったか?」

 

ジィーと美猴の顔と体を見て問う。雰囲気的にも誰だっけか、懐かしく感じる。

 

「いんや、俺っちはお前と会うのは今日で初めてだぜぃ?誰かと空似なんじゃねぇの?」

 

「・・・・・空似。美猴って妖怪?」

 

「おう、俺っちは猿の妖怪だぜぃ?先代の孫悟空の力を受け継いだ猿の妖怪だ」

 

猿の妖怪・・・・・―――――あっ!

 

「お猿のお爺ちゃん!」

 

「・・・・・へっ?」

 

いきなり美猴に向かってそう言ったらこいつはキョトンと唖然となった。

そんな事を気にせず俺は笑みを浮かべて美猴の肩をポンポンと叩いた。

 

「ああ、そうだ。お前ってお猿のお爺ちゃんに似ているんだった。

だから雰囲気も似ているんだな」

 

「なあ・・・・・お猿のお爺ちゃんって誰のこと言っているんだぜぃ?」

 

美猴がそう尋ねてきた。そう言われてもな・・・・・。

 

「えーと、インドラのおじさんと何時も一緒にいるお猿のお爺ちゃんしか分からない」

 

「イ、インドラ・・・・・?帝釈天のこと言ってんのか?お前」

 

「さあ、特徴的に言えば、サングラスにアロハシャツを着ていて・・・HAHAHAと笑っていたな。

お猿のお爺ちゃんは一つ一つ繋がっている珠を首にかけていたな。

そんで長い棍を持っていたし、煙管を口に咥えて金色の雲を乗せてくれたこともあったな」

 

脳裏に思い出しながら言う。すると、美猴の様子が可笑しい。

 

「お、おめぇ・・・・・ジジイと会っているんじゃねぇかァッ!?」

 

顔中に冷や汗を流して叫ぶように言ってくる美猴だった。心なしか顔を青ざめている。

 

「まさか、闘戦勝仏とインドラ・・・帝釈天と会っていたとは・・・・・驚きですね」

 

「銀華・・・あんた、とんでもない子と一緒に住んでいるじゃないの・・・・・・」

 

「お名前しか聞いた事ないんですけど、そんな有名な人と出会っているなんて凄いですね!」

 

・・・・・あの二人が有名なのか?神王と魔王も驚いていたけど・・・・・。

 

「普通に海に連れて行ってくれたんだけど?『夏は海だぜぃ坊主』と言って」

 

「海!?あのジジイが海に連れて行ったのか!?」

 

「うん、海の神さまがいるところに」

 

「今度はポセイドンですかぁ!?」

 

あれ、ルフェイまで驚いているし。アーサーも少なからず驚いている。

 

「あなた・・・・・どうやったら他の神話の神に会えるんですか」

 

「いや、何せ子供の時だったし・・・・・そんなに驚くこと?」

 

「・・・・・何も知らないで会っていたんですか。とんでもない人ですよ。色々な意味で」

 

眼鏡をずらしながらアーサーは言う。けど、本当にどんな人なのかしらなかったからな。

 

「あ、あの・・・まさかだと思いますが、他の神話の神と会っていませんよね?」

 

「ん?えーと、天空の神さまに骸骨のお爺ちゃん、他にも―――」

 

子供の頃にあった神さまの名前を言い続けていると、

 

「いいです。もう、いいです」

 

ルフェイに止められた。さらにアーサーが顎に手をやって呟きだす。

 

「・・・・・天空の神ゼウスに冥府の神ハーデス。それにお見えにかかれない神ばかり・・・」

 

「夏になったら骸骨のお爺ちゃんの傍でスイカを食べていたなー。

傍にいると冷たくて涼しいんだ。

体から発する冷気でエアコン変わりしていたことが懐かしいや。はははっ」

 

「何この子・・・・・冥府の神をエアコン変わりにするなんて、

魔王でも神でもできないことをしているにゃん」

 

「実際、その魔王と神も会っている」

 

それがトドメとばかりアーサーたちが沈黙した。

 

「・・・・・豪華なメンツと出会っているこの子は一体何者なのよ」

 

「兵藤一誠としか言えないんだけど・・・・・俺のことを詳しく知りたいなら

近所に住んでいる神王と魔王に聞いてくれ」

 

「・・・・・もう、この子は驚きの宝庫にゃん。近所に神王と魔王ってなに?

マジで人間のように暮らしちゃっているわけ?」

 

「魔王なんて趣味聞いたら主婦のようだったぞ。神王なんて娘に椅子で殴られているし」

 

「・・・・・魔王と神王の貫禄、ないんじゃない?」

 

「大丈夫、俺もそう思っている。ところで、帰って良いか?

家族が心配して帰りを待っているからさ」

 

これで何度目か。そう訊くと上から「ダメ」と却下される。

 

「どうしても?」

 

「これ、絶対。我の願いを手伝う」

 

「いや、それを何とかするから帰らせてくれ」

 

それでもダメと却下される俺だった。

 

「・・・・・強行突破、してもいいか?」

 

青白い六対十二枚の翼を展開する。

 

「天使・・・・・?いえ、それにしては色が変ですね」

 

「ああ、元々金色だったんだけどね。元に戻らないんだ」

 

ヒョイとオーフィスを肩からおろす。―――退散!

 

「ダメ」

 

ドンッ!

 

逃げようとしたその瞬間、オーフィスに腕を掴まれて床に叩きつけられた。

 

「いやいや、オーフィスから逃げようなんて無理だぜぃ?」

 

「無謀もいいところにゃん」

 

嘲笑染みた笑みと言葉をする黒歌と美猴。くそっ・・・・・やっぱ、強いな・・・・。

 

「なにやら、面白いことをしているじゃないか」

 

「あ?」

 

俺の真上にさっきの青年が現れた。誰だ?と思いながら立ち上がればヴァーリが口を開いた。

 

「何の用だ、曹操」

 

「なに、彼の翼を見て興味が沸いたんだ」

 

トントンと何やら長い柄で叩いている青年。曹操・・・?まさかな・・・・・?

 

「キミの名前は何だ?」

 

「・・・・・兵藤一誠だ」

 

「兵藤一誠・・・・・ふっ、なるほどな」

 

小さく笑んだ曹操と言う青年。

 

「キミは兵藤一族の者だね?」

 

「―――――っ!?」

 

どうして、そのことを知っている・・・!?目を見開いて曹操を凝視すると、

あいつは首を縦に振って頷き始めた。

 

「我々の情報網は広いんでね。一応、知っていることは知っているのさ」

 

「・・・・・お前、誰だ?」

 

「俺か?俺は曹操。三国志で有名な曹操の子孫さ。一応ね」

 

―――曹操。ここにきてまた英雄の子孫か。

 

「兵藤一誠、俺たちの、『英雄派』の仲間にならないか?

キミなら俺たちの仲間になる素質がある」

 

「・・・・・英雄派?派閥のことか?」

 

「ああ、『英雄派』は英雄の子孫と末裔、魂を引き継ぐ者や

神器(セイクリッド・ギア)神滅具(ロンギヌス)を宿す集団でもあるんだ」

 

・・・・・マジかよ。そんな集団がどうしてここにいるんだ?

 

「ヴァーリたちもそうなのか?」

 

「いや彼女たちは別だ。『ヴァーリチーム』と俺たちの間では呼んでいる。

他にも『真魔王派』という悪魔のみの集団の派閥が存在する。

先ほどのカテレア・レヴィアタンたちのことを差すね」

 

「真魔王派?現在の魔王たちとどう違うんだ」

 

「最後まで徹底的に戦を唱えた悪魔たちが冥界の隅に追いやられた者たちだ。

そう、キミたち兵藤一族と式森家が三大勢力戦争に介入して終戦に導いたせいで、

納得のいかない悪魔たちが大勢いた。それが彼女たち『旧魔王派』なのさ」

 

あー、なんかすみませんね。それしか言えないぞ。

 

「さて、兵藤一誠。俺たちの仲間にならないか?一緒に悪魔と魔王、堕天使、

人間の敵となる存在を倒そう。そして、俺たち人間がどこまでやれるのか挑戦をしよう。

よわっちぃ人間同士でさ」

 

手を差し伸べてくる曹操。悪魔と堕天使・・・・・を倒す。ああ、魅力的な事だな。

 

「・・・・・確かに俺は悪魔と堕天使が嫌いだ」

 

「それで?」

 

「お前の仲間になるのなんて、それとこれは別の話しだ。

悪いが、そのオファーを断わらせてもらうよ」

 

―――刹那。

 

「俺は、家に帰りたいんでな」

 

龍化―――。と呟くと俺の身体がどんどん膨れ上がり、尾が生まれ、翼が背中から出現した。

口元が牙むき出しとなり、手の爪が鋭利になって天井を壊しながら俺の体は巨大化していく。

 

「これは・・・・・」

 

「一誠、お前と言う男は・・・・・」

 

ギェエエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

俺は三頭の龍へと変化した。眼下にいる曹操とヴァーリは目を見開いて俺のことを見上げるが、

逃げるならば全力でしないとな!

 

バサァッ!

 

翼を羽ばたかせて宙に浮かぶ。

辺りを見渡せば・・・・・森だらけの地域で俺がいた場所は巨大な城が佇んでいた。

 

「・・・・・異空間のようだな」

 

『ならば、次元の狭間に出れるだろう』

 

「そうと分かれば、帰るとしよう」

 

虚空に穴を広げてその穴の中に潜った。しかし、俺は気付いていなかった。

背中にオーフィスが乗っていたことを―――。

 

―――○●○―――

 

「と、まあ・・・こんな感じで戻ってこれたんだけど、オーフィスまで連れて来てしまったんだ」

 

「グレートレッド、倒す」

 

「オーフィスもこんな感じでさ。次元の狭間に帰りたいそうなんだ」

 

あらかた説明を終えた。そんで、今度はしっかりと俺の頭を抱え込むように離れないとばかり

しがみついてくるオーフィスをどうしようかと悩む俺である。

 

「なあガイア。たまにでもいいからオーフィスを故郷へ帰らせてくれないか?」

 

「・・・・・」

 

綺麗な眉が吊り上げては腕を組み、不機嫌な顔をする。

 

「嫌だ。我から一誠を奪う奴の願いなど誰が聞くものか」

 

「・・・・・まあ、そう言うと思ったけどさ。俺、このままだとまたオーフィスに

連れて行かれかねないんだけど」

 

「また戻ってくればいいではないか」

 

「戻ってこれたのはあいつらが警戒心を抱いていなくて隙を突けれたからだ。

二度目はできないと思う」

 

頭を掻きながら困ったな、と思い悩む。

 

「・・・・・」

 

オーフィスが俺の肩から降り始めた。どうした?と様子を見ていると棚に置かれている

写真に手を伸ばして掴んだ。あれは、リアス・グレモリーのアルバムの中で唯一、

俺が父さんと母さんと一緒に写っている写真だった。

 

「オーフィス?」

 

「・・・・・懐かしい、誠と一香」

 

「「っ!?」」

 

彼女はいまなんて言った?俺の両親の名前をどうして知っている・・・・・?

目を丸くして驚いているとオーフィスは顔をこっちに向けてきた。

 

「お前、誠と一香のなに?」

 

「・・・・・父さんと母さんの子供だ。俺の名前は兵藤一誠」

 

質問をしてくる彼女を素直に答えると、胸に下げていたペンダントを手に取り開いた。

そのペンダントを首から外したかと思ったら俺に見せてくれた。

 

「―――――っ」

 

ペンダントには一枚の写真が収まっていた。その写真には目の前にいる

オーフィスと・・・・・父さんと母さんが写っていた。

 

「我、誠と一香と約束した」

 

『俺たちの間に子供が産まれたらオーフィス、お前も家族にならないか?

きっと賑やかな毎日が送られるぞ。お前の寂しさが無くなるぐらいにな!』

 

「「・・・・・」」

 

父さん、母さん・・・・・。

 

「我、約束を守る。我、この家に住む」

 

「「はっ?」」

 

「我、故郷に戻ることは諦めない。でも、誠と一香の約束、これ大事」

 

突然この家に住むとそう言うオーフィス。

 

「よろしくお願いします」

 

「「・・・・・」」

 

ぺこりと頭を下げた最強のドラゴン。そんな言動するオーフィスにガイアと顔を見合わせた。

 

「どうしよう・・・・・?父さんたちと交流を持っていた事は驚いたけど

悪いドラゴンじゃないんだろう?」

 

「・・・・・こいつは無害に等しいからな。しかし、あいつらと出会っていたとは

驚いた・・・・・」

 

オーフィスのペンダントに収まっている写真に目を向けながら呟く彼女だった。

 

「なぁ、オーフィスの願いは次元の狭間で静寂を得ることだ。

このまま彼女を敵に回したらガイア、唯一ガイアと戦えるドラゴンに付き纏とわれて、

俺たちはおちおち暮らしていけれないぞ?」

 

「ガイアさま、私も一誠さまに賛成です。

聞いた話では何やら怪しげな組織にいるそうではないですか。

オーフィスがその組織の切り札だとすれば、厄介なはずです」

 

「最後のエクスカリバーと聖王剣コールブランドを持つ所有者がいる。

警戒をするに越したことではないか」

 

「『旧魔王派』、『英雄派』、そして・・・『ヴァーリチーム』。

この三つの派閥と最強のドラゴンがいたら、絶対危険極まりないわ」

 

真剣な面持ちで発するリーラとゼノヴィア、イリナも心に危険性を抱いていたようだった。

彼女たちの発言にガイアは瞑目しだす。

 

「グレートレッド、お願い」

 

オーフィスが写真を持って黒い瞳をジッとガイアに向ける。―――しばらくして、

 

「・・・・・オーフィス、条件だ」

 

徐に三本の指を立てた。

 

「我らの、一誠の味方と成れ、それがひとつ目の条件」

 

「・・・・・」

 

「次にいまお前がいる変なところから離れろ。それが二つ目の条件」

 

最後に、と彼女は言った。

 

「我はグレートレッドではない。ガイアと呼べ」

 

そして、「この三つの条件を呑めば、許してやらんわけでもない」とガイアが付け加えて言った。

そんな彼女にオーフィスの返事は・・・・・。

 

「・・・・・分かった。我、その条件を呑む」

 

首を縦に振って頷いた。彼女の条件を全て、呑むとオーフィスがハッキリと言った。

 

「良かったわねー」

 

「ああ、だが問題は残っている。謎の組織とやらを神王さまに説明しないと」

 

「いや、そのことは言わないでくれ」

 

ゼノヴィアの言葉に待ったを掛けた。「どうしてだ?」と彼女に首を傾げられる。

 

「俺が仲間じゃないことはすでにあっちでは知れ渡っているはずだ。

もしかしたら計画を変更している可能性も高い。

だから、神王や魔王たちに刺激を与えて警戒をさせてそれで空振りだなんてことが遭ったら」

 

「・・・・・何も知らせず、自然にいさせるべきだってこと?」

 

イリナの発言に頷いた。

 

カッ!

 

その瞬間。この部屋に幾重の魔方陣が出現した。光とともに現れる数人の男女。

 

「あの子がオーフィスに連れ去られたって本当!?」

 

「・・・ルシファー?」

 

冥界にいるはずの魔王が現れた。彼女だけじゃない、レヴィアタン、ベルゼブブ、アスモデウス、

そして何故かいるフォーベシイとユーストマと天界にいるはずのヤハウェ。

 

「あれ・・・・・いるじゃない」

 

「どうなって・・・・・」

 

「いえ、ちょっと待って下さい。あの子は・・・・・」

 

ヤハウェがオーフィスを視界に捉えた。対し、オーフィスは

 

「久しい、神と魔王」

 

挨拶をした。

 

「まさか・・・・・あなたがオーフィス?」

 

「ん、我、オーフィス」

 

肯定と認めた。そんなオーフィスを愕然とする面々。

 

「お、女の子・・・・・」

 

「以前は男の老人でしたが・・・・・どうして彼の周囲のドラゴンは女性ばかりなのでしょうか」

 

「だけど良かったよ~。兵藤くんが連れて行かれただなんてもしものことが遭ったら・・・」

 

実際に連れて行かれましたけどね。

 

「しかし・・・・・どうしてオーフィスがここにいるのだ?」

 

「ああ、俺たちと一緒に住むことになったんだ。なぁ、オーフィス」

 

「ん、我、この者と一緒に住む。これ重要」

 

と、そう言うとヨジヨジと俺の背中に昇り始めて肩に乗っかった。

ここがお気に入りの指定位置になったご様子。

 

「・・・・・真龍と龍神があの子と一緒に住むことになるなんて・・・・・」

 

「聞いた話では、最強の五大龍王、ティアマットを使い魔にしたとか・・・・・」

 

「あの人たちの子供だけあって、どれだけ凄いの?」

 

「流石と言うべきなのでは?『魔王にも神にも人王にも凡人にもなれる男』は伊達ではないと」

 

「―――ぐはっ!」

 

冥界と天界までその名が伝わっていたのか・・・・・っ!

 

「ううう・・・・・もう、恥ずかしくて外に出られない!」

 

あまりの事実と恥ずかしさに俺はキッチンの方に隠れた。

 

「え、ど、どうしたの・・・・・?」

 

「いえ、お気になさらずに。御心配をおかけしました」

 

「は、はあ・・・・・・」

 

キッチンで隠れていると、リーラたちのやりとりの声が聞こえる。

それからしばらくして、ルシファーたちの気配が感じなくなった。

神王と魔王はまだ残っている。が、あの二人もこの場からいなくなった。

 

「一誠さま、よろしいですよ」

 

「・・・・・」

 

彼女に呼ばれてキッチンから顔を出して皆に近づき開口一番に放った。

 

「俺、冥界と天界にへ行けない」

 

「ははは・・・・・かなり恥ずかしい名前だもんね」

 

「すでに様々な異世界に住む者たちの耳に届いているだろうな」

 

ゼノヴィア、聞きたくないことを言わないでくれよ・・・・・。

 

「だけど、本当に言わなくてもよかったの?」

 

俺の幼馴染が尋ねてきた。その問いに俺は言った。

 

「本当に襲撃してくるのなら―――四種の種族のトップ会談の日だ。

だから、この場にいる俺たちだけで襲撃に備える。四種のトップを囮にしてな」

 

「か、神にまで囮にするとは・・・・・」

 

「罰が当たるわ。絶対に・・・・・」

 

「俺は神に祈ったことは一度もない。何時だって俺は自分の力で生きたつもりだからな」

 

神にまで囮にする俺を恐れ戦く教会組にそう言う。

そうさ、これからも俺はそんな感じで生きていく―――。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode3

 

休日の日、以前決めた期末試験に向けて清楚と和樹、カリンと龍牙を家に招いてリシアンサスと

ネリネ、リコリス、イリナとゼノヴィアと俺とリーラのメンバーで教科書を開き勉強会を開始した。

 

「なあ、これをどう解けばいい?」

 

「うーん、信長って誰よ?―――六天魔王?このヒト魔王なの?」

 

「・・・・・ダメ、全然分かんないっす」

 

案の定、四苦八苦しているメンバーが現れた。教われる側と教える側がハッキリと別れ、

俺たちは環境が整った場所で勉強会をするのだった。

日本語があまり読めないゼノヴィアに至っては、リーラがワンツーマンで教えている。

 

「期末に出そうな問題はどこなんだかな。そこを集中してやればいいんだけど」

 

「そうだね。記憶力が良い方じゃないと直ぐに覚えたことが忘れちゃうし」

 

「戦闘能力と運動能力もあるので、そちらのほうも―――って、

僕たちがする意味なんてないですね」

 

「「そうだな(ね)」」

 

龍牙の発言に俺と和樹は異口同音で同意する。全校生徒で上位は硬いだろう俺たちの戦闘能力。

いまさら鍛えたところで意味がない過ぎるほど問題が無いんだ。

俺たちはテストに集中をすれば大丈夫だ。

 

「ところで・・・・・重くないんですか?」

 

「気にしたら負けだ」

 

「さいですか・・・・・」

 

俺を見て発現する龍牙の理由、

 

「・・・・・」

 

無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィスが肩に乗っかっているからだ。

それに、俺の太腿に銀色の毛並みの猫が陣取っている。

 

「だけど、あの最強のドラゴンがこの家にいるなんて驚いたよ」

 

「ええ、ファフニールが突然反応したのでどうしたのかと思いました。

一体どこでオーフィスと出会ったのですか?」

 

「学校の帰りに出会った。話を聞けば、俺の両親と知り合いだったからこの家に住ませたんだよ」

 

「そうなんだ?」

 

首を少しだけ傾げる和樹だった。本当は他にもあるんだけど、言わない方がいいだろう。

 

「・・・・・あ、そう言えば」

 

「どうしました?」

 

「この時期って他の行事と重なるんだったね」

 

「ええ・・・・・ああ・・・・・確か、期末試験の他にも・・・・・」

 

和樹と龍牙が何か思い出したかのように呟き始めた。しかも思いつめた表情だ。

 

「なにかあるの?」

 

「はい、期末試験の他にも一緒に行う行事があるんです。―――授業参観です」

 

「「「・・・・・」」」

 

それを聞いてリシアンサスとネリネ、リコリスが一瞬だけ時が停まったかのように固まった。

 

「じゅ、授業参観・・・・・」

 

「絶対に、お父さんが喜んできそうだよ」

 

「は、恥ずかしいです・・・・・」

 

神王と魔王・・・・・あの親バカの二人なら仕事を放り出して駆けつけて、

三人を盛大に応援しそうだな。

 

「・・・・・」

 

カリンに至っては、小刻みに体を震わしている。って震えている?

 

「おい、どうした。体が震えているぞ」

 

「・・・・・私の両親が、母が来る・・・・・」

 

「・・・・・」

 

どんな人なのか知らないが、あのカリンが震えるほどだ。俺は応援しかできない。

頑張れ、カリン!

 

「両親が来るとなると・・・和樹、お前の家族も来るのか」

 

「伝えなくても向こうから現れてくるほどだからね。

というか、伝えないと後が怖いから・・・・・」

 

和樹の額に薄らと冷や汗が・・・・・な、なにが和樹の身に遭うんだ・・・・・?

 

「僕も兄か同僚の人が来るので・・・きっと騒がしい授業参観になるかと」

 

『九十九屋』の人たちか。どんな人なのか会ってみたいもんだ。

 

「清楚の方は?」

 

「私は来ないかも。両親は海外で出張だからさ」

 

「葉桜さんの両親って海外に働いているんだ?」

 

「初めて知りました。生活費の方は送られるので?」

 

「うん、だから奨学金と合わせて学校に通ってるの」

 

海外で働くほどだから有能な両親なんだろう。凄い親のもとで生まれたんだな。清楚、

 

「じゃあ、一人で家事炊事洗濯しているんですか、大変ですね」

 

「もう慣れたから平気だよ」

 

微笑む清楚。一人暮らしか・・・・・和樹はともかく、龍牙はどうなんだろう?

 

「龍牙、お前は一人暮らしなのか?」

 

「えっ?ええ、まあそうですね。兄たちと別れて一人で暮らしていますし」

 

「男一匹一人暮らしか。お前も大変そうだな」

 

「ははは、慣れって怖いものですよ。ちょっと一人で食べる食事は寂しさを感じますが」

 

「あっ、私もそうかな」

 

二人が同じ気持ちを抱いていたようだ。俺もリーラがいなければ、

一人で食べていたかも知れない。父さんと母さんが時々いなくなることがあったしな・・・・・。

 

「では、清楚さまと龍牙さま。この家に住んでみませんか?」

 

「「「はい?」」」

 

突然の提案を問うたリーラに、清楚と龍牙だけじゃなく俺も唖然となった。

 

「御二方は一誠さまのご友人ですし、一人暮らしに寂しさを感じるのならば、

この家に住む方がよろしいかと私は思います。

この家には空き部屋が多いのでお二方が住んでも十分足ります」

 

「えっと・・・・・本気で言っているんですか?」

 

「私は冗談を言えませんので。ご決断はお二方に委ねます」

 

「・・・・・一誠さん、あなたはどうなんですか?」

 

え?うーん・・・・・急に話を振られてもな。

 

「まあ、別に構わないけど?確かに空き部屋が多くあるし、何時までも未使用のままだと

創造した意味がない。だけど、リーラはいいのか?仕事が増えるぞ?」

 

「私はメイドです。どんな仕事でもメイドとして務めを果たすまでです」

 

「わあ、凄い。お母さんが聞いたら感動しそうだよ」

 

リコリスが感嘆を漏らす。メイドのリーラに感動って・・・・・なぜ?

 

「・・・じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」

 

恐縮とばかり彼女の提案に快諾した。龍牙が一緒に住むことになるとはな。

 

「清楚さま、あなたはどうでしょうか?」

 

「えっと・・・・・リーラさんと一誠くんが迷惑じゃないかな・・・・・」

 

「何時も迷惑なのは嫉妬集団の方だ。清楚を迷惑だなんて一度も考えたことはないぞ」

 

「はい、私もそう思っております。なにより・・・・・」

 

徐に清楚の耳元で声を殺して口を動かすリーラ。次第に、清楚の顔に朱が染まる。

 

「あうあうあう・・・・・」

 

「清楚さま、返事をお聞かせ願います」

 

・・・・・何だろう、清楚が可愛いぞ。頭を撫でたくなる。いや、ここは銀華を撫でよう。

 

「・・・・・わ、私も・・・この家に住みます・・・・・」

 

彼女もこの家に住むことになった。

 

「かしこまりました。では、休憩を兼ねてお二方の部屋を案内しましょう」

 

「あっ、僕もいいですか?」

 

「和樹?お前もか?」

 

「うん、僕の家にもメイドが一人いるからリーラさんに手伝ってもらう。それに―――」

 

リーラの全身に視線を送りだした和樹。一拍して、

 

「同じメイド服を着ているから、顔見知りなんじゃないかなって思うんだよね」

 

「同じメイド服?」

 

「うん、最初に彼女のメイド服を見て、僕の家にいるメイドが着てる服と同じだなぁーって

思ったんだ。その制服って上級家政学校から支給されている服だと彼女から

聞いたことがあるんだよね」

 

上級家政学校・・・・・?一度聞いた事があるな。昔リーラから。リーラに振り向けば、

彼女は珍しく目を見開いていた。

 

「・・・・・和樹さま、あなたに仕えているメイドの名前は?」

 

「シンシア・フロスト。知っていますか?」

 

「・・・・・」

 

リーラが天井を見上げた。珍しい光景だった。この瞬間を俺は覚え続けるだろう。

 

「ええ、元同級生です。まさか、彼女が和樹さまのメイドとは・・・・・」

 

「彼女のメイドとしてのスキルはリーラさんの足を引っ張らないかと思いますが・・・・・」

 

「寧ろ、メイドに銃を持たせるようなほど頼もしさです。

彼女の上級家政学校の成績は申し分ないほど。文句など何一つございません」

 

「じゃあ、僕と彼女をこの家に住んでもいいかな?」

 

「勿論です。和樹さまは一誠さまは深い関係の方。共にいる方が自然というものです」

 

俺と和樹は深い関係。・・・・・リーラ、お前は知っていたんだな。兵藤家のことを・・・・・。

 

バンッ!

 

『っ!?』

 

「一誠殿ぉっ!」

 

部屋に現れ、俺に突っ込んでくる和服の男。

神王ユーストマ。なんだ、あの焦りと怒りが混ざった顔は―――!

 

「一誠殿!一誠殿ぉっ!大変だぁっ!」

 

何が大変なんだよ!?オーフィスが危険を察知したのか

俺の肩から降りたと同時にユーストマが俺の肩に手を置いた。

 

「一体、何事だよ・・・・・?」

 

「何事もクソもねぇ!一誠殿、試験で赤点とかいうのを取ったら

夏休みが丸ごと無くなっちまうってのは本当なのか!?」

 

「はぁ?」

 

何言っているんだ、この神王はと思っている最中、ユーストマは切羽詰まった表情で言い続ける。

 

「なんでも補習とかいう儀式に連れて行かれて、毎日学校に閉じ込められるらしいじゃねぇか!」

 

「えっと・・・・・確かに補習あるけど」

 

そう言った瞬間だった。

 

カッ!

 

「やっぱり・・・!」

 

事実が本当だと知り、

 

「本当なんだな・・・・・!」

 

ユーストマの目が大きく開いた。あっ、今ようやく分かった。この親バカは―――。

 

ギリッ!

 

「っ!?」

 

「くぅぅっ!せっかくこの夏はシアと海に行ったり、

シアとキャンプに行ったりして家族団欒を計ろうとしていたのにぃっ!」

 

肩に置いていた手が俺の胸倉を掴んで、徐々に俺を持ち上げるユーストマ。

 

「い、一誠くん!」

 

「ちょっ、ユーストマ・・・・・ッ!きまっている、きまってる・・・・・っ!」

 

手を離せと何度も腕を叩くが、ビクともしない・・・・・!

寧ろ、俺を掴んでいると、こいつは頭からすっぽ抜けている!

 

「間違いねぇ、これは俺たちに天界に対する挑戦だ!」

 

んなわけあるかぁぁぁっ!?いいから手を離せ!俺の目に花畑が浮かんで、

挟むように流れている川の向こうに手を振っている父さんと母さんの姿がぁ・・・・・っ!

 

「かくなる上は、天界最強特殊部隊を召喚し、学園をこの世から消滅―――!」

 

―――刹那。

 

ドゴンッ!

 

意識が遠のいていく中、ユーストマの背後から家の椅子で殴ったリシアンサスの姿が

最後に俺の視界に映った。

 

 

―――○●○―――

 

 

暗い、暗い、闇よりも深く常闇と思わせる暗い空間に目が覚めた。

 

『よう、災難だったな。兵藤一誠』

 

・・・・・お前か。

 

『はははっ、見ていた。神王に殺されかけていたところな』

 

六つの怪しく煌めく赤い双眸が俺に話しかけてくる。

 

『だが、死なれては困る。お前の「闇」は俺を強くするのだからな』

 

俺の闇を喰らってお前の糧となる・・・・・か。

 

『人間とは思えないほど、お前の心は闇の塊だ。

まあ、それは光に覆われて隠されているからか、闇が表に出ない』

 

・・・・・。

 

『兵藤一誠、お前は本当に人間か?』

 

なんだ、いきなり。

 

『本来、ドラゴンを宿せるのは一匹だけだと思っていた。

しかも邪龍を宿す人間はお前が初めてだろう』

 

できてしまうのはしょうがないと思うけど?

 

『それだけ片付けられて納得するわけがない。

体質なのか、それともお前自身の何かがそれを成せるようになっているのか、興味深いものだ』

 

目を細める六つの双眸、笑っているのか・・・・・。

 

『ドラゴンに愛され、愛するお前の行く末が楽しみだ。お前を狙う輩も出て来よう、

その時こそ俺を現世にだし暴れさせてくれよ?』

 

お前らを出せばそれこそ俺は狙われるだろうな。

 

『なにを今さら、すでにアルビオンたちに姿を晒したではないか。

―――グレートレッドにですら隠している力の一つをな』

 

・・・・・緊急脱出だ。致し方あるまいて。

 

『はっ、そうか。だが―――俺たち邪龍はドラゴンですら危険視されている。

お前は嫌われ者になるが?』

 

別に嫌われようと構わない。俺は俺だ。そして、お前らはお前らだ。俺の大切な家族さ。

 

『ふん、物好きな人間だな。お前は』

 

それはお互い様だろう。いつでも俺からいなくなることができるお前がこうしているんだからな。

 

『お前の闇を気に入っているからだ。じゃなきゃ、俺が人間の中にいるか』

 

はは、そうか。でも―――ありがとうな。

 

『・・・・・さっさといけ、グレートレッドとオーフィスが待っているぞ』

 

六つの双眸が闇の中へと消えた―――その瞬間だった。俺の視界が黒から白に塗り替わった。

 

「―――一誠!」

 

「・・・・・ガイア」

 

「ああ・・・・・良かった・・・・・!」

 

おぼろげな瞳の向こうには俺の顔を覗くガイアが映り込んだ。

彼女は安心した様子で俺に覆い被さってきた。

 

「(・・・・・家族、いいもんだな)」

 

視界の端に首まで床に減り込んで、五段の大きなタンコブを作っている神王を余所に

俺は嬉しく感じだ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode4

 

 

『ねぇ、イッセー。プールに行かない?』

 

「無理、人間界の存亡が掛かっているのにプールに行けれるか。シアが赤点三つ取ったら

神王が暴れ出しかねないんだぞ」

 

翌日、リビングキッチンで昨日のメンバーと勉強会をしている時にリアス・グレモリーから

プールの誘いの連絡が届いた。って、プールかよ。余裕でいいね。

こっちは神王の暴走を防ぐためにも勉強会だぞ。

 

『赤点二つまでなら大丈夫のはずよ?』

 

「天界のイメージが暴落しても知らんぞ」

 

『・・・・・それは・・・・・なんとなかるんじゃない?』

 

「『犬の遠吠え』の意味は?」

 

突然の問題に彼女は直ぐに答えてくれた。

 

『弱い犬が相手から遠く離れたところで、尻込みしながら吠え立てることから。

主に、勝ち目のない相手を陰でののしることのたとえとして使われる・・・・・よね?』

 

「シアの場合『犬が山で吠えるから鳴き声がよく聞こえる』って言い出したんだぞ」

 

そう告げるとリアス・グレモリーからの声が聞こえなくなった。

電話の向こうでは、脳裏に手を額に当てているイメージが沸く。

 

『・・・・・ごめんなさい。私の軽率だったわ』

 

「誘ってくれるのはありがたいが、こっちもこっちで忙しい。また今度な」

 

『ええ・・・・・』

 

通信を切り、テーブルに置いた。さて・・・・・。

 

「「「・・・・・」」」

 

燃え尽きた、とばかりのこの三人をどうしようかなぁ・・・・・。

 

「あ、頭が・・・・・」

 

「もうパンパンよぉ・・・・・」

 

「うぇーん・・・・・わからないよぉ・・・・・」

 

ゼノヴィアとイリナ、リシアンサスが頭を抱えて意気消沈状態・・・・・。

 

「・・・流石に、これ以上勉強漬けだと身に入らないようですね」

 

「朝からやって数時間だもん。流石に疲れると思うよ」

 

「しばらく休憩にしたほうがいいかも。一誠くん、どうかな?」

 

まあ、皆の言う通りだな。一理あるし・・・・・ここらへんで休憩にするか。

 

「んじゃ、休憩するか」

 

「はい!私、学校のプールに行きたいっす!」

 

さっき断わったばっかりなんですけど!?

 

「お、お前な・・・・・」

 

「だって、リアスちゃんが羨ましいもん!」

 

「・・・・・お前らは?」

 

「うーん、水着なんて用意していないから」

 

「そうだね、あるとすれば学校の姉弟の水着だし・・・・・」

 

あー、こいつらも水着があればいくということか。

 

「リーラ」

 

「すでにご用意しております」

 

流石、と言うべきだ。呼びかければ、何時の間にかハンガーに掛かっている多種の男女の

水着があった。

 

「い、何時の間に・・・・・」

 

「サイズはどれも揃えてございます。まだ未使用なので自分の水着として着用しても構いません」

 

「いいのですか?」

 

「はい、構いません」

 

うん、用意周到と念には念をだ。用意した甲斐があったもんだ。皆が立ち上がり、

水着に群がる光景に俺は携帯を操作する。・・・・・出るか?―――しばらくして、

 

『もしもし、イッセー?』

 

繋がった。

 

「ああ、急に悪い。さっきの話しを撤回だ」

 

『え?』

 

「俺たちも学校のプールに行く。いいか?」

 

『・・・・・ふふ、ええ、いいわ。待っているわよ?』

 

快諾したリアス・グレモリーの顔は微笑んだと俺は感じた。

それから待ち合わせを決めて、通信を切った。

 

「お前ら、話は着いた。行くぞ」

 

―――駒王学園Inプール

 

「誘ってくれてありがとうな」

 

「これぐらいは当然よ」

 

学校のプールの入り口でリアス・グレモリーと合流を果たす。

 

「さ、皆中に入って。先に皆が入っているから」

 

「ああ、そうさせてもらう。家で水着を着てきた。直ぐにプールへ直行できるからな」

 

「そう・・・・・ところでイッセー?その猫と、その子は誰なのかしら?」

 

ああ、こいつらか・・・・・。俺の方に乗っかっているオーフィスと、

俺の頭に乗っている猫化の銀華。そりゃ、気になるわけだ。

「二人とも、自己紹介だ」と一匹と一人に催促する。

 

「我、オーフィス」

 

「銀華にゃん」

 

一人と一匹が挙手して名乗った。うん、よろしい。

 

「・・・・・イッセー、いま・・・オーフィスって名乗らなかったかしらその子」

 

「正式名称『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィスでございます」

 

「・・・・・もう、あなたには驚かされてばかりだわ。

あなたは本当にドラゴンに好かれるタイプのようね」

 

「自慢の一つになるかもしれないな」

 

笑みを浮かべると、リアス・グレモリーは溜息を吐いた。

 

「それで銀華って猫の妖怪なのかしら?」

 

「ああ、それも猫魈だ」

 

「・・・・・そう」

 

途端に、彼女の表情に曇りが・・・・・。小猫のことを思っているのかな?

リアス・グレモリーは小さく息を吐き、気を取り直して俺たちを更衣室へと案内してくれた。

俺と和樹、龍牙は下に水着を履いているのでただ脱ぐだけだ。

そんな時だった、和樹が俺の体を見て口を開いた。

 

「家でもそうだったけど、一誠の体って傷だらけだね」

 

「・・・・・修行が厳しかったんだ」

 

ホロリと思わず涙を流した。ああ、あれはマジで死を見たんだ。流石は地獄こと冥界だ。

リアルで三途の川を何度も見たぞ。

 

「ごめん、物凄く罪悪感が感じた」

 

「泣くほど辛い修行をしてきたんですね・・・・・」

 

申し訳なさそうな表情をする和樹と、同情の眼差しを送る龍牙。

 

「でも、傷跡を消さないの?できるんでしょ?」

 

「自分への戒めだ。この傷を見て油断しないように、過信しないようにしているんだよ」

 

「そういうことですか・・・・・」

 

着替えをロッカーの中に仕舞い外へと赴くためにドアを開く。

そしたら、一人の男子と出くわした。

 

「ん、って、兵藤!?」

 

「ああ、成神か」

 

「どうしてここにいるんだ!?つーか、式森と神城も!」

 

「リアス先輩に誘われてね。僕たちはその誘いに乗ったんだ」

 

和樹の発言に俺と龍牙は肯定と頷いた。

 

「来るんなら早く来いよ・・・・・」

 

「ん?何でだ?」

 

「プール掃除をしていたからだよ」

 

成神一成の背後から木場祐斗が現れて教えてくれた。あーそういうことだったか。

 

「「「俺(ぼく)たちのためにプール掃除してくれてありがとう」」」

 

「ふざけんなぁっ!」

 

朗らかに笑う俺たちに、他人の苦労を蔑ろにするかのように発言した俺たちを怒る成神一成。

木場祐斗に至っては苦笑を浮かべていた。

 

「・・・・・なにやっているの?」

 

呆れた声で話しかけてくる女の声が聞こえた。そちらに振り向くと・・・・・赤を基調とした

露出が高い、水着を身に包んだリアス・グレモリーがいた。

 

「・・・・・うん」

 

「な、なに・・・・・?」

 

「いや、何時も制服姿しか見ていないから、新鮮さを感じた。―――似合っているぞ?」

 

「―――――っ!?」

 

リアス・グレモリーの顔に照れた感じで赤く染まった。

それからモジモジと体を動かして俺から顔を背けた。

 

「・・・・・嬉しい」

 

「元々お前は綺麗なんだ。水着でさらにお前を引き立てる。サーゼクスも自慢の妹をもったな」

 

「あ・・・・・う・・・・・」

 

彼女が顔を俯かせ始めた。心なしか、顔がトマトのように真っ赤になった。

 

「おやおや・・・・・」

 

「へぇ、あの先輩がねぇ・・・・・」

 

温かい目で龍牙と和樹はリアス・グレモリーを見た。

木場祐斗も珍しいように彼女を視界に捉える。

 

「待たせたな一誠」

 

「おっ、来たな」

 

と、言いながら俺は成神一成をプールに突き落とした。

ザッパーンッ!と水しぶきが生じたと同時にガイアっちが姿を現す。

 

「・・・・・」

 

「ふふ、どうだ?我の姿は」

 

ガイアとリーラ、それに清楚とカリン、イリナとゼノヴィアとオーフィス、

リシアンサスとネリネ、リコリスが水着姿で登場だ。

 

「・・・・・言葉が出ないほど、可愛くて綺麗だ」

 

そう呟く俺。ガイアは露出度が高い黒いビキニで佇んでいて、リーラは白を基調としたビキニ、

清楚は花柄の可愛い水着、カリンはあまり露出が無い緑色のワンピース、

イリナとゼノヴィアは教会に所属しているからか、清楚と青と白の水着を着ている。

オーフィスは黒のフリルが付いたワンピースを身に付けている。

リシアンサスはオレンジ色のビキニを着用し、

ネリネとリコリスは水色と青のスクール水着のような水着を着ていた。

 

「って、銀華は?」

 

「ああ、あいつは―――」

 

と、その時だった。背中に柔らかい感触が伝わった。後ろに顔を振り向けば―――、

 

「にゃん♪」

 

笑みを浮かべ俺の頬に擦りつけてくる銀華がいた。

 

「な・・・・・」

 

リアス・グレモリーが銀華を見て目を丸くした。

あー、多分あいつの顔とそっくりだから驚いているんだろうな。

 

「ねーねー、どう?私の水着姿」

 

「ぶっ・・・・・!?」

 

彼女の全身を見れば、露出度が高過ぎるスリングショットを身に付けていた。

 

「め・・・、目を向けれない」

 

「あ、あれは刺激が強過ぎです・・・・・・」

 

和樹と龍牙が銀華から視線を極力外す。思春期の男として当然の反応だ。

 

「・・・・・あなた、何者?」

 

「にゃ?私は銀華。猫又の上位種の猫魈の妖怪。よろしくね、リアス・グレモリー」

 

「・・・・・」

 

ジッとリアス・グレモリーが見詰める。

黒歌と関係があるのだろうか?なんて、思っているのだろう。険しい表情である。

 

「・・・・・黒歌姉さま・・・・・?」

 

ポツリと呟く声。この声は・・・と銀華の背後を見れば、

スクール水着を着ている塔城小猫がいた。

 

「あら、あなたが白音ね?」

 

「―――――っ!?」

 

「じゃなかった。いまのあなたは塔城小猫、そう名乗っていたわね」

 

絶句と目を見開く塔城小猫の前で跪く。視線と視線を合わせるようにして。

 

「初めまして、と言うべきね。私は銀華。あなたのもう一人のお姉さんよ」

 

「・・・・・私の姉・・・・・・?」

 

「ええ、私の妹は黒歌とあなた、塔城小猫なの。私を含めて三姉妹なのよ」

 

ナデナデと驚愕の色を浮かべたまま体を固まらせる塔城小猫の頭を撫でていると、

彼女は首をフルフルと横に振る。信じられないと、首を振って・・・・・。

 

「・・・・・嘘です。だって、私には姉が一人しか・・・・・」

 

「―――嘘じゃないわ。なんなら、黒歌の過去を話して証明してあげるわよ?

特にはぐれ悪魔になった本当の理由を」

 

「・・・・・本当の、理由・・・・・?」

 

「あの子があんなことになり、あなたがこんなことになった責任は少なからず私にもあるわ。

母とあなたたち姉妹を捨てるように世界へ旅に出た私も・・・・・」

 

背を向けているため、銀華の表情が見えないが、きっと真剣な面持ちで言っているだろう。

 

「真実を知りたいなら今度・・・家に来なさい。そこで全てを話してあげる。

黒歌が、あの子が泣きながら私に懺悔した話をね」

 

塔城小猫は視線を逸らさず、銀華の話に耳を傾ける。

 

「さて、話はこれで終わりにして」

 

「・・・・・え?」

 

「姉妹水入らず、一緒に泳ぐわよ♪」

 

楽しそうに弾んだ声音を発した彼女が、塔城小猫をプールへと放り投げた。

 

ザッパーンッ!

 

着水した塔城小猫を見て銀華もプールの中へと飛びこんだ。

それが呼び水となって各々と和樹たちがプールの中へと入っていく。

 

「イッセー」

 

「言いたいことは何となくわかる。どこで彼女と出会ったか?

どうして彼女の存在を教えてくれなかったのか?

どうしていまになって彼女をここに連れてきたのか?そんな感じだろう?」

 

「・・・・・」

 

沈黙は是也だリアス・グレモリー。

 

「会ったんだよ」

 

「・・・・・誰に?」

 

「黒歌とだ」

 

プールでじゃれ合う姉妹猫を見詰めながら呟けば、リアス・グレモリーは目を丸くした。

そんな彼女に顔を向けて警告を告げる。

 

「リアス、何も言わず俺の言う通りにしてくれ」

 

「・・・・・私に何をしろと?」

 

「お前の眷属のハーフヴァンパイアが四種会談の日に狙われる。

だからハーフヴァンパイアを守れ」

 

「―――――なぜ、あなたが知っているの?いえ、何を知っているというの?」

 

彼女のその問いに、俺は瞑目して首を横に振った。

 

「今は言えない。だが、必ず起きることだ。俺は確信している」

 

「・・・・・」

 

「リアス、俺の話を信じるかどうかはお前次第だ。俺は警告した」

 

それだけ言い残してプールに飛び込んだ。さて、思いっきり楽しむとしようか。

 

―――○●○―――

 

 

プールに入って数時間後、家に帰ろうとする俺たち。

十分、勉強での疲れとストレスを発散したのでイリナとゼノヴィア、

リシアンサスは大満足と晴々とした表情で笑んでいた。

校舎を出ようとした俺の視界に銀が映り込む。校門のところだ。

 

「お前・・・・・」

 

「やあ、久し振りだね。―――一誠」

 

ダークカラーが強い銀の長髪、透き通った青い瞳の少女、俺とイリナの幼馴染である彼女、

ヴァーリ・ルシファーがいた。

 

「ヴァーリ・・・・・」

 

「こうして会うのは初めてだねイリナ。久し振り」

 

「う、うん・・・久し振り。だけど、どうしてここに・・・・・?」

 

イリナの言う通りだ。どうしてここに?オーフィスを連れ戻しに来たか?

 

「アザゼルの付き添いとして来ているんだ。

その暇つぶしに一誠やイリナ、私のライバルである赤龍帝を見に来たわけだが・・・・・まあ、

本音は一誠とイリナに会いに来たかな」

 

「俺たち?」

 

「ああ、私と付き合って欲しい。

久し振りに会う(・・・・・・・)幼馴染のキミたちとゆっくり話をしたい」

 

そう言われ俺とイリナは顔を見合わせる。

あいつが変な組織に所属しているということはイリナとゼノヴィア、リーラ、ガイアと

俺しか知らないことだ。初めて会ったのはコカビエルとの戦いの時だ。

それ以外、彼女と会っていないと和樹と龍牙、リシアンサスとネリネとリコリスは

思っているはずだ。こいつは、俺とイリナに二度目の再会と風に話しかけているのがよく分かる。

―――ここで事を冒す訳にはいかないか。

 

「イリナ、いいか?」

 

「うん、いいよ」

 

「だ、そうだ」

 

「それじゃ、三人だけ話せる場所に行こう。

ふふっ、三人で遊ぶのは実に数年振りだからワクワクするよ」

 

ヴァーリは笑みを浮かべ踵を返した。オーフィスをガイアに任せて、

皆と別れてイリナと共にヴァーリとどこかへ向かった。

 

 

―――木漏れ日通りInフローラ

 

 

「うん、この店のデザートは甘くていいな」

 

「そうだろう?デザートを食べる時はこの店がいいんだ」

 

「そうか、なら俺もこの店でデザートを食べるとしよう」

 

あれから俺たちはフローラで話し合うことにした。

 

「ヴァーリって女の子だったのね。改めて驚いたわ」

 

「それはこっちも同じだ。イリナが女の子だったなんてな」

 

「お互い、やんちゃに遊んでいたからな。

二人とも、女の子らしいことしていなかったから、俺たちは気付かなかったんだ」

 

うんうん、と俺は納得とばかり頷く。イリナは苦笑を浮かべだした。

 

「ははは、そうね。それもゲームをしたり、木のぼりしたりして」

 

「川でずぶ濡れになってまで水遊びをしたな」

 

「公園で砂を山にして遊んでいたよな」

 

デザートを食べながら懐かしい話しを語り合う。

 

「それが今となっては、二人は綺麗で可愛い少女に変身だ。

俺は自慢できる幼馴染がいて嬉しいぞ」

 

「「・・・・・」」

 

微笑みながら言ったら、二人は突然沈黙した。どうしたんだ?

 

「イリナ、今のは殺し文句だとは思わないか?」

 

「ええ、私もそう思うわ」

 

ヒソヒソと話している・・・・・聞こえてんぞお前ら。

 

「だから、私はイッセーくんのことが好きになったのよね」

 

「私を救ってくれた一誠に好意を抱くのも頷ける。イリナ、キミはどこまで一誠と進んでいる?」

 

「えっ・・・!?えっと、その・・・・・」

 

「まさか、キスすらしていないのか?」

 

意外そうにヴァーリが喋る。イリナに至っては、顔を赤くして顔を俯くだけだ。

 

「わ、私は神に身も心を捧げているの。だから・・・・・」

 

「ほう・・・・・では、一誠を私が貰っていいのだな?イリナは身も心も神に捧げると言うなら」

 

「なっ・・・・・!?」

 

「私は悪魔と人間のハーフだ。だから、この身と心は全て一誠に捧げる。

イリナは一誠に恋すら抱かず、神に全てを捧げるんだ。だから当然の発言じゃないか?」

 

意地の悪い笑みを浮かべてイリナに言うヴァーリ。おいおい・・・・・。

 

「・・・・・っ」

 

イリナは俺の隣で俯いた。このままじゃあ、関係が悪化になりそうだ。

それは俺が良しとしない方向へと。

 

「ヴァーリ、聞いてもいいか?」

 

「なんだい?」

 

「お前は本当に俺たちに会いに来たのか?オーフィスを連れ戻そうとしないのか?」

 

俺の問いにヴァーリは「ああ」と今更何かを気付いたかのように漏らした。

 

「確かに、私たちのトップであるオーフィスが消失したことでパニックになっているよ。

責任はあの場にいた私と彼に背負わされたけど、私にとってどうでもいいことだ」

 

「どうでもいい・・・・・?」

 

「あの時も言っただろう?私は世界の強者と戦いたいと。

だから、それができるのであれば、周りがなんと言おうとどうでもいいんだ」

 

「だからあなたは私たちの敵となるの・・・・・?」

 

イリナは寂しげに問うた。が、ヴァーリは首を横に振った。

 

「私の中では幼馴染であるイリナと一誠を敵に回さないつもりだ。

まあ、一誠の場合は私の目標だからライバルと言う関係になるかな?

ふふっ、好意を抱く男をライバルとなる運命は面白く楽しい。

お互いの力を出し合ってぶつけあって気持ちを知れそうだ」

 

「・・・・・ちっちゃい頃のヴァーリとは思えない発言だわね?

いつも、『一誠一誠』ってカルガモの子供のようについていったあなたが」

 

「あー、そう言えばそうだったな。男なのにどうして俺の後ろについてくるんだ?

って疑問だったよ。今となってはその理由が分かったけどな」

 

クスクスと笑んでいたら、ヴァーリが気恥ずかしそうに俺から視線を逸らした。

あら、可愛い仕草だ。

 

「・・・あの時は一誠のことが好きだったんだ。当然の行動だ。

イリナだって私と同じ感じでいたじゃないか。怪我した時なんて、

一誠に背負ってもらって家に着いても離れたくないと―――」

 

「わーっ!それ以上言わないでぇ!」

 

イリナが顔を真っ赤にしてヴァーリの話しを遮る。

ほほう・・・だからイリナは自分の部屋まで送っても離れようとしてくれなかった訳だ。

 

「うん、お前ら可愛過ぎるだろう。抱きしめていい?」

 

「何時でも来い」

 

「え、えっと・・・・・人気のないところなら・・・・・」

 

一人はノリノリで、1人は満更ではないと反応する。

 

「まあ、それは後ほどと言うわけでヴァーリ。本当に襲撃するのか?」

 

「変更はない。寧ろ、お前が今回の襲撃に関わりはないだろうと

『真魔王派』は判断して油断しまくっている」

 

「一応、リアス・グレモリーには警告してある。そう上手くはいかないはずだがな」

 

「私が敵だということを知っているのは?」

 

その問いに俺は隠さず言った。てっきり神王と魔王にも告げているのだと思っていたヴァーリは

不思議そうに首を傾げた。

 

「どうして言わないんだ?」

 

「お前たちが作戦を変えてくるかもしれないからだ。余計な刺激を与えず、

囮にしてお前らを対処するつもりだ」

 

「ほう・・・・神と魔王を囮にするとは凄いことをするな。流石は私が認めている男だ」

 

「ヴァーリ、俺と戦いたいなら会談の日だ」

 

「ああ、私は楽しみにしているよ。是非ともあの深紅の鎧を着たキミと戦いたい」

 

徐に立ち上がるヴァーリ。

 

「久々に二人と話せて良かった。また今度ここで昔話を語ろう」

 

「一人の幼馴染としてなら歓迎する」

 

「ふっ、勿論だ」

 

スタスタと彼女はフローラからいなくなった。

残った俺とイリナはなんとも言えない空気に包まれる。

 

「・・・・・イッセーくん」

 

「なんだ、イリナ」

 

「私・・・・・ヴァーリに悔しいと思っている」

 

・・・・・・イリナ?

 

「あんなに堂々と言えるヴァーリが羨ましくて悔しい」

 

俺の腕に顔を押し付けてきた。

 

「私だって、私だってイッセーくんのことが・・・・・・」

 

好き、とイリナは声を殺して呟いた。俺は無言で彼女を抱きしめ背中を撫で、

 

「言っただろう。お前も俺の家族になってくれって」

 

「イッセーくん・・・・・うん・・・・・」

 

暗に告白した。彼女も快諾して俺の胸に顔を押し付けてくる。

―――周りから嫉妬の視線を浴びていることを気付きながらも、

しばらく俺はこの状態で座ったのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode5

 

 

 

「シア!後でサイネリアたちと一緒に行くからなぁっ!」

 

「ネリネちゃんとリコリスちゃんも安心して学校にお行き。

パパとママもキミたちの授業を見学しに行くからね!」

 

朝、登校時間となり、外に赴けばシアたちが父親に抱きしめられている光景を目の当たりにする。

 

「お、お父さん!朝から抱きつかないで!」

 

「お父さま・・・・・お恥ずかしいです」

 

「イ、イッセーくんが見ているから恥ずかしいよ!」

 

・・・・・ここは無視しておくべきか?そう思案していると俺の体にごつい腕が回された。

 

「勿論、一誠殿の教室にも行くぜ!なんせ、シアの婚約者なのだからな!」

 

「違うよ神ちゃん、私たちの娘のお婿さんだよ?」

 

「おおっと、そうだった」

 

・・・・・暑苦しい。ユーストマの胸板に押し付けられながらそう思った俺。

 

「ユーストマさま、そろそろお時間ですので登校をせなばなりません」

 

「そうだよ!だからイッセーくんを放しなさい!」

 

「シ、シア・・・・・」

 

愛娘に叱られ、ションボリと落ち込むユーストマの腕の力が緩む。腕から脱出して一息吐く。

 

「それじゃ、行くか」

 

と、そんなこんなで授業参観の日。が、清楚から説明された。正確には「公開授業」だそうだ。

親御さんが来ていいのは当然だが、中等部の学生が授業風景を見学してもいいことに

なっているようだ。その中学生の保護者も同伴で見学可能と言う、結構フリーダムなスタイルだ。

自分の親御だけでなく、駒王学園中等部の後輩たちも見に来るとあって、

意外に高等部の俺たちはプレッシャーが掛かるようである。

 

「はう・・・・・先が思いやられるっす」

 

「はい・・・・・」

 

シアとネリネが嘆息する。あの二人の王が、冥界と天界のイメージをダウンさせなければ

いいんだけどな。まあ、あの二人の妻がストッパーになってくれれば安心だが・・・どうだろうか?

 

「あの二人のことだ、プリムラの教室に顔を出すぞ」

 

「・・・・・迷惑」

 

ボソリとプリムラが漏らした。ああ、元気よく声をかけられる

プリムラの光景が簡単に思い浮かべれるな。頑張れ、プリムラ。

 

「ううう・・・・・今日から期末試験なのに、

お父さんたちが見ている前でテストしないといけないなんてあんまりっす。

後ろにいるであろうお父さんが気になって仕方がないよぉ・・・」

 

「授業参観は今日だけだ。今日を乗り切れば明日は安心して勉強に集中できるぞ。それにだ」

 

「はい?」

 

「きっと、リアス・グレモリーとソーナ・シトリーも同じ気持ちを抱いていると思うぞ」

 

サーゼクス・グレモリーは理事長だから参加できないと思うが・・・・・。

ソーナ・シトリーの方は、あのドシスコンの姉がやってくるに違いない。

うん、慰めてあげよう。撫でてやるとしよう。うん、

 

「イッセーさま、今日のご昼食はどうなされますか?」

 

「うーん、何時も通り屋上でいいんじゃないか?

特に神王と魔王は一日中ずっと学校にいそうだしさ」

 

「うん、お父さんが張り切って弁当箱を作っていたよ。五段もある弁当箱を用意して・・・・・」

 

フォーベシイ・・・・・アンタは本当に魔王なのか?とてもじゃないが、魔王には見えないぞ。

 

「さて、学校が見えた。皆、期末試験頑張ろうな」

 

肉眼で学校を捉え意気込む俺たち。

学校の玄関口でシアとネリネ、リコリス、プリムラと別れた俺とリーラとイリナとゼノヴィアは

教室へ向かう。教室に着くなり、清楚と和樹と龍牙とカリンが近づいてきた。

 

「「「「おはよう」」」」

 

「「「「おはよう」」」」

 

互いに軽く挨拶をすませ、自分の席に鞄を置いて清楚たちと雑談。

 

「いよいよだね」

 

「ああ、俺はFになるつもりだ。だからテストだけは全力を出す」

 

「僕たちも皆そんな感じだよ」

 

「皆さんと離れたくないですしね」

 

「私は赤点だけ取らないように頑張る。夏休みが潰れたらたまったもんじゃないわ!」

 

「イリナに同意だ。戦闘はともかく、テストだけはなんとかしないといけない」

 

「大丈夫だ。あれだけ勉強をしたのだ。いままで通りに答えを解けばいいだけだ」

 

「その通りです。集中し、今日まで勉強した時のことを思い出せば大丈夫です」

 

リーラの言う通り。後ろに何が控えていようと、俺たちは出された課題をクリアするだけだ。

 

「そう言うわけですので、集中をするためにも皆さんにはこれを」

 

と、リーラがポケットから出したのは小さな物だ。・・・・・耳栓?

 

「これを耳に嵌めて勉強を。音が耳に入らず集中ができるはずです」

 

「授業中に耳を塞ぐため、魔方陣を展開したら注意されちゃうからね」

 

「ありがとうございます。いただきますね」

 

「いままで考えもしなかった発想だ」

 

各々と耳栓を取る皆。俺も彼女の手から取った。

 

「ところ、一誠。オーフィスはどうしているの?」

 

「ん?ガイアと俺の中にいるぞ」

 

ポンポンと胸を叩いた。オーフィスをただ一人だけいさせるのは不安だったから、

昨日の内にオーフィスと特訓して俺の中にいるようにした。

 

「もう、キミはすっかりドラゴンの巣窟という有り得ない人間になっているね」

 

「まあ、有り得ない人間だってことは自覚している」

 

苦笑を浮かべ頬を掻きながら和樹の発言に肯定する。というか、事実だしな・・・・・。

 

「えっと、最初の授業は現代文だったね」

 

「イリナ、ゼノヴィア。頑張れよ」

 

「うっ・・・・・自信が無い」

 

「私もだ・・・・・」

 

項垂れる二人。帰国子女と外国の少女にとって、他国の現代文は苦手だった。

この二人以外、俺たちはクリアできるだろう。

 

―――○●○―――

 

授業が始まり、開け放たれた後の扉からクラスメートの親御たちが入ってくる。授業は現代文。

いつもよりも気合の入った男性教諭が何やら袋に包まれた長方形の物体を生徒たちに配っていく。

うん?何これ?現代文にこういうのはあったっけ?思わず清楚に顔を向けると―――。

 

「・・・・・」

 

視界の端に龍牙が親御たちがいる背後に顔を向けたまま固まっていた。

うん、信じられないものを見る目だ。

 

「・・・・・」

 

あいつの視線の先をたどれば、黒髪の青年の方に向けている。

ん?あの男が龍牙の?にしては、似てないが・・・・・。

 

「・・・・・」

 

ガタッ。

 

龍牙が立ち上がった。そして―――

 

「っ!」

 

切羽詰まった表情の面持ちで龍牙が教室からいなくなった。あ、あいつ・・・なんなんだ?

唖然とあいつが出て言った扉に向けていると、龍牙が見ていた青年が呆れたように

溜息を吐いてゆったりと教室からいなくなった。

 

「・・・・・あいつ、どうしたんだ?」

 

「さあ・・・・・」

 

首を傾げて怪訝としていると、

 

「おら、俺を見て逃げるなんていい度胸だが、俺から逃げようだなんて百億年早い」

 

「な、何であなたが来るんですかっ!兄はどうしたんですか!?」

 

「総大将は何時も通り、神出鬼没だ。代わりに俺が様子を見に来た。

それと『九龍(クーロン)』のメンバーもな」

 

「どうしてあのメンバーも来るんですか!あなた一人だけでも十分でしょう!」

 

何故か青年と言い合う龍牙が戻ってきた。制服の襟を掴まれて、引き摺りながら。

 

「しらねぇよ。総大将の指示だ」

 

「・・・・・あの昼行灯。どうしてこのヒトなんかを・・・。

どうせなら珱姫さんだったらいいのに・・・」

 

物凄く来てほしくない人物のようだった。

だからなのか、龍牙の話を聞いた青年の眉がピクリと動いた。

―――ムカついたご様子だった。

 

「・・・よしお前、学校が終わったら俺に付き合え。丈夫な相手がいないからな。

久し振りにお前で練習をしようか」

 

「―――はっ!?なに言っているんだこのヒトは!

あなたなんかと付き合ったら僕の身がもちませんよ!」

 

「だーいじょうぶだって、半殺しだから死にはしない」

 

・・・・・なんだ、あんな龍牙は見たこともないぞ。青年に宙へ放り投げられ、

龍牙は自分の椅子に放り投げられながらも座った。

そして、テーブルに頭を突っ伏してブツブツと呟き始めた。

 

「(・・・気になることが満載だけど、これもどうして配られたのか気になるな)」

 

置かれた物体を見ると―――袋に包まれた長方形の物体は紙粘土だった。

怪訝に置かれた紙粘土を見ていると、教師は嬉々に言う。

 

「いいですかー、いま渡した紙粘土で好きなものを作ってみてください。動物でもいい。

家でもいい。自分がいま脳に思い描いたありのままの表現を形作ってください。

この授業は、子供の頃に戻って遊び心をもって芸術の授業に変更します」

 

なっ・・・・・!それは職権乱用と言うのではないのか!?

あれだけ勉強したのに無意味じゃないかっ!

 

「因みに皆さんが作った物のによってその場で赤点を与えます。

下手な物を作らないようにしてくださいね」

 

「・・・・・マジで?ある意味、テストより難しいじゃないか」

 

「それではレッツトライ!」

 

現代文のはずなのに英語で始めたよこの教師!いいのかそれで!?

・・・・・突っ込んでもしょーもないか。

さて、何を作ろうか・・・・・下手なもんを作ったらその場で赤点と言われる始末だ。

 

「(・・・・・よし、ド迫力のあるドラゴンにしよう。と、すれば・・・・・)」

 

ハサミやらコンパスやら、先が尖ったものを用意して粘土をこね始めた―――。

 

―――十数分後。

 

「ひょ、兵藤くん・・・・・」

 

俺の肩に手を置く教師。表情を伺うと驚愕の色を浮かべ全身を震わせている。

その理由は俺の手元にある二匹のドラゴンを模した紙粘土の像が存在していた。

 

『おおっ!』

 

クラスから歓声が沸く。俺も満足げに頷いた。

 

「す、素晴らしい・・・・・。兵藤くん、キミにこんな才能があったなんて・・・・・。

やはり、この授業は正解だった。また一人、生徒の隠された能力を私は引き出したのです・・・」

 

涙で目元を濡らしながら教師が言う。まあ、モノを作ることに関しては得意だからな。

 

『・・・・・どうして俺のを作らないんだ』

 

俺の内に不満げに呟くクロウ・クルワッハ。俺は言ってやった。

 

「(お前のドラゴンの姿を知らないからだ)」

 

『―――――っ!?』

 

あっ、衝撃を受けたようだ。それから後悔の念を呟きだし始めたよこの最強の邪龍は。

 

―――○●○―――

 

―――昼休みIn屋上

 

「物凄い完成度ですね。グレートレッドとティアマットの像ですか・・・・・」

 

「これ一つでも作ったら赤点なんて簡単に免れますよ」

 

屋上で何時ものメンバーと昼食。俺たちのクラスの期末の強化である現代文が潰れたおかげで、

残りの世界史と数学だけ楽だった。

 

「いいな・・・・・こっちはテストだったっす」

 

「ははっ、どんまい。だけど、赤点は免れただろう?」

 

「グレーゾーンだけど、なんとか・・・・・」

 

苦笑を浮かべて自己採点を述べるリシアンサス。二日間の勉強がしたおかげか。

 

「それで、リアス・グレモリーとソーナ・シトリーはどうして疲れた表情を浮かべているんだ?」

 

この世の終わりだと絶望したと思える表情をしている二人に首を傾げて問うた。

二人から帰ってきたのは―――。

 

「・・・・・お兄さまが理事長の権限を乱用して、私の授業を見に来たのよ」

 

「・・・・・お姉さまに大声で応援されて恥ずかしく恥ずかしくて・・・・・」

 

一人は疲れた表情を浮かべ溜息を吐き、一人は羞恥で顔を真っ赤にして全身を震わせている。

 

「あー、頑張れとしか言えない。んで、龍牙。あの人は誰だったんだ?親しそうだったが」

 

「・・・・・あの人は兄の部下ですよ。そして、僕の剣術の師匠でもあります」

 

「剣術の師匠?」と、訊けば龍牙は頷いた。

 

「はい、名前は―――」

 

「烏間翔だ」

 

龍牙の話を遮って名を名乗った男の声が聞こえた。しかも、龍牙の後だ。そちらに目を向けると、

教室にいた黒髪の青年。歳は・・・・・大雑把で言えばサーゼクスと同じぐらいか?

その人がこっちに近づいてくる。

 

「総大将の弟、龍牙さまの友人たちと認識してもいいんだな?」

 

「ああ、そうだけど」

 

「これからもこの、不肖の弟子を友好的にいてくれると俺たちも安心する」

 

「悪かったですね、不肖の弟子で」

 

あの龍牙が不貞腐れている・・・・・。珍しいな。

 

「剣術を教えているって本当?」

 

「ああ、俺は総大将のボディガードをしていてね。それなりに強い」

 

「何がそれなりですか。反射速度『00.8』と有り得ない数値を叩きだすヒトが何を言いますか」

 

な、なんだそれ・・・・・。とんでもない奴じゃないか。

 

「それにあなたは『九十九屋』のなかでトップ2の実力者じゃないですか」

 

「ふん、そう言うお前は九十九屋の部署の『麒麟』、『九龍(クーロン)』と呼ばれる

龍系の『神器(セイクリッド・ギア)』使いチームのチームリーダーではないか」

 

・・・・・龍牙、お前はとんでもない奴だったのかよ・・・・・。

色々と出てくる業界語に俺は唖然と龍牙を見詰める。

 

「因みにこのヒトは人間と妖怪の烏天狗のハーフです」

 

「人間と妖怪のハーフ?」

 

「ああ」

 

バサッ!と烏間翔の背中に黒い翼が生え出した。堕天使の翼に酷似している翼だった。

あの翼が烏天狗の翼・・・・・。

 

「しかし、弟子の友達は将来有望な者たちばかりのようだ。総大将が一目見たら喜びそうだ」

 

徐に喋り出した。喜ぶ?俺たちを?

 

「そうなんですか?」

 

「総大将は有望な人材に目が無くてな。有能な人材や伝説の道具やら武器やら好きなんだ」

 

「じゃあ、聖剣も」

 

「ああ、貰えるなら総大将は喜ぶ」

 

マニア的な感じじゃなさそうだな・・・・・。

 

「―――ソーナちゃん、みぃーつけた☆」

 

「っ!」

 

ビクッ!とソーナ・シトリーが体を跳ね上がらした。壊れたブリキの玩具如く、

この屋上に繋がる扉の方に視線を向けた彼女に俺もそっちに顔を向けると、

何時ぞやのソーナ・シトリーの姉、セラフォルー・シトリーが魔法少女みたいな服と杖を

装着してる姿でこっちに駆けてきた。

 

「(うわぁ・・・・・、あれで観に来られたら誰だって恥ずかしがる)」

 

そう思っていると、

 

「やぁ、ここにいたのかいリアス」

 

「シアッ!ようやく見つけたぞ!」

 

「ネリネちゃん、リコリスちゃん。どうしてパパを置いて行ったんだい!?」

 

セラフォルー・シトリーに続いてゾロゾロと現れるこの場にいるメンバーの兄と姉、

父親と母親たち。

 

「・・・・・神王と魔王。なるほど弟子は本当に面白い友人をできていたのだな」

 

烏間翔が顎に手をやって龍牙に視線を向けてそう呟いた。

 

「・・・・・ほう、キミは・・・・・」

 

「ん?」

 

見知らぬ男性が話しかけてきた。誰だ?女の人も俺を見鷹と思えば―――抱きつかれた。

 

「あっ、一誠紹介するよ。僕の両親、式森和馬と式森七海だよ」

 

「(式森・・・)兵藤一誠です」

 

「・・・・・兵藤一誠。そうか・・・・・」

 

和樹の父親、式森和馬が懐かしいものを見る目でポツリと言った。

和樹の母親、式森七海は。

 

「一誠くん・・・・・良かった、生きていたのね」

 

何故か心配されているし・・・・・なんなの?

 

「誠と一香さんを知る人物だと言えば理解できるかな?

いや、俺と誠は従兄弟の関係だ。だから一誠くんのことはよく知っている」

 

「父さんの従兄弟・・・・・?」

 

「そうだ。だから一誠くんと和樹も従兄弟の関係に当たる。

こんな奇跡と偶然は必然的に起こったものだろうな。兵藤と式森は深い関係であるからね」

 

―――っ!

 

必然的な出会い。俺の行動は全て必然的だと、そうなってしまうのか・・・・・。

 

「一誠くん、もしかしたら知っていると思うが、

四種のトップ会談に私たち人間の代表が参加する。式森と兵藤がね」

 

「・・・・・」

 

「兵藤家の現当主、キミにとって叔父にあたる人物がきっと来るだろう。

その時、何か話をしてみるといい。キミが知りたいことが教えてくれるかもしれない」

 

俺が知りたいこと・・・・・か。

 

「さて、私たちも昼食にしようか」

 

パチンと指を弾いたその瞬間。俺たちの足元に巨大な魔方陣が現れて、

光と共にシートと料理が出現した。

 

「三種の種族が揃っていることだし、友好を深めるためにも共に食べようじゃないか」

 

「おう!その提案には賛成だぜ!なっ、まー坊」

 

「うん、私も同感だよ」

 

各々と座り出す親御たち。子供と親と別れてワイワイと賑やかに食べ始めた。

 

「やあ、兵藤一誠くんだね?私はリアスの父、アルマス・グレモリーだよ」

 

と、いきなり話しかけてくるリアス・グレモリーの父親。片手に何故かカメラを持っております。

 

「うんうん、赤ん坊の頃のキミがこんなに立派に育ったようで私は嬉しいよ。

そこで、ひとつお願いがあるんだ」

 

「なんだ・・・・・?」

 

「―――リアスとのツーショットの写真を撮りたいのだ。いいかな?」

 

朗らかに笑むアルマス・グレモリー。写真かよ・・・・・まあ・・・・・、

 

「いいけど・・・・・」

 

「よし、それじゃリアス。兵藤一誠くんと撮るからこっちに来なさい。

妻に成長した兵藤一誠くんの姿とリアスが揃った写真が欲しいと頼まれているのだからね」

 

リアス・グレモリーは嬉しそうに笑顔で促した。

 

「だ、そうだ」

 

「え、ええ・・・・・恥ずかしいけど、母の願いを聞くのも娘の務め・・・・・ね」

 

満更でもなさそうに何を言っているんだが・・・・・。

アルマス・グレモリーの要望に俺とリアス・グレモリーはカメラに撮られる。

その最中、ふざけて彼女をお姫様だっこしたらアルマス・グレモリーが嬉しそうに声を上げて、

写真を撮り始めたのだった。写真が撮り終わるまでの終始、

リアス・グレモリーは顔を赤くして可愛いと思ったのは秘密だ。

 

「イッセーくん!私も一緒に!」

 

と、俺たちの写真撮影になにやら対抗心を燃やしたソーナ・シトリーが乱入してくるのは

必然的だった。まあ、その後もリシアンサスやネリネ、リコリスも一緒に写真を撮ったのだった。

 

―――○●○―――

 

『あっはっはっはっ!』

 

一日目の期末試験が終わり、俺は現在リビングキッチンで今日の授業参観賞が行われている場に

黙々と夕食を食べている。

参加者は神王ユーストマと魔王フォーベシイ、

リアス・グレモリーの兄と父、サーゼクス・グレモリーとアルマス・グレモリー、

ソーナ・シトリーの姉、セラフォルー・シトリー。酒をあおりながら、

ビデオで撮影したものを交互に見比べていた。

当の娘たちは、リビングキッチンの端っこで顔を赤くしながら、何か念じていた。

 

「・・・・・賑やか」

 

モクモクと料理を食べるオーフィスが言う。まあ、傍から見れば騒がしいよな。

神王たちの方を見れば、テレビを見ながら自分の娘を自慢げに言っている。

 

「・・・・・両親か」

 

「ん?」

 

「いや、何でもないさ」

 

オーフィスの頭を撫で、はぐらかす。別にいまが寂しくはない。皆が俺の傍にいてくれるから、

 

「・・・・・サーゼクスにあのことを伝えるか」

 

席を立ってサーゼクス・グレモリーに近づく。

 

「サーゼクス、ちょっと来てくれるか?」

 

「ん?何かな?」

 

「リアス・グレモリーのもう一人の『僧侶(ビショップ)』ことが訊きたいんだ」

 

「・・・・・分かった。キミのことだ、なにかあるのだろう」

 

サーゼクス・グレモリーは父親に一言告げて俺と一緒にリビングキッチンを後にした。

向かった先は客間だ。畳で敷かれた床に俺たちは腰を下ろす。

 

「さて、私から妹の眷属の何を知りたいんだね?」

 

「『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』と

時間を停止させる『神器(セイクリッド・ギア)』を所有する人間と吸血鬼のハーフヴァンパイア。

そいつが狙われている。それを言いたかった」

 

言い終われば、サーゼクス・グレモリーは真剣な面持ちになった。

 

「・・・・・兵藤くん、どこで知ったのかな?」

 

「一応、リアス・グレモリーにも告げてある。

そんで、あいつのその眷属のことを知ったのはオーフィスを家族に出迎えた日だ」

 

「オーフィスを?」

 

「ん、そうだ。だから、あの学校の理事長であるあんたなら知っているだろう?

ハーフヴァンパイアのことを」

 

俺の問いに肯定と頷いたサーゼクス・グレモリー。

 

「勿論だ。当然、妹の眷属も把握している。だが、どうして彼女の眷属が狙われるのだね?」

 

「ハーフヴァンパイアの能力を利用して悪用しようという輩がいるんだ。

でも、リアス・グレモリーの眷属にヴァンパイアの姿は見えないんだ。

だから、このまま野放しにしたら面倒なことが起こる。確実にな」

 

「・・・・・では、どうすればいいのかね?」

 

「どうもこうも、俺はただ警告を告げたかっただけだ。あいつの眷属が狙われていることを」

 

だから、と告げる。

 

「そのハーフヴァンパイアをリアス・グレモリーたち、グレモリー眷属の傍にいさせ、

護衛させるべきだ」

 

そう言い俺は立ち上がってサーゼクス・グレモリーを見下ろす。

 

「妹を想うのならば、何をすればいいのか分かるはずだ」

 

この場から去ろうと歩を進める。

 

「―――兵藤くん」

 

足を停め、振り向く。なんだ?と視線を送れば。

 

「キミはリアスのことが好きかね?」

 

「・・・・・さあな、教えない。秘密だ」

 

言う必要もないと今度こそ俺は客間からいなくなった。

俺があいつのことが好き?―――教えるかよ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode6

 

期末試験が始まって数日、授業参観もとい公開授業はあっという間に終わった。

リシアンサスたちも安心して何も気にせずに試験に励めると安堵の息を漏らすほどだ。

 

「・・・・・」

 

でも、カリンが元気がなかった。

「どうしたんだ?」と声を掛けるのもカリンは、思い詰めた表情で机に頭を突っ伏す。

 

「・・・・・」

 

首を傾げて皆に視線で問うても、首を横に振られて分からずじまい。

 

「でも、どうしたんでしょうね」

 

「授業参観の日から元気がなくなってますよね」

 

「じゃあ、親と何か遭ったのかもしれない」

 

「それじゃあ・・・・・私たちがどうすることもできないね・・・・・」

 

「しばらくそっとしておいた方がいいのかもしれないわ」

 

「気になるがな・・・・・」

 

「ゼノヴィアに同意だ」

 

HRの時間が迫ったため、俺たちは自分の席に着いた。

 

―――カリンside

 

あの公開授業の時、父上おろか母上すら来なかった。

その理由は私の姉であるルイズ姉の方に訪れていたからのようだ。

 

『カリン、あなたが最低のクラスへと自ら行ったと教えたら、

父さまと母さまが呆れていたわよ?』

 

家に戻ってすぐ、姉から嘲笑の言葉が送られた。まあ、そうだろう。

ヴァリエール家の名を泥で塗らしては汚し、傷つけたのだ。―――仕舞には、

 

『カリン、この試験でいい成績でなかったら婿を取らせるため、学校を中退させる。

お前もいい年頃の女なのだ。花嫁修業をしてもらう。ヴァリエール家のためにも』

 

婿だなんて・・・・・まだ早過ぎると思う。それに何故私なのだ。

私よりルイズ姉が先だと思うのに・・・・。

 

「(知らない男に、心を許していない男に私の身と心を捧げないといけない)」

 

一種の恐怖。全身がプライドなんかより、誇りなんかより、

どうでもいいとばかり思わせるほど震える。本能的に、生理的に。

 

「(どうして私は女に生まれてしまった・・・・・?)」

 

初めて自分が女に生まれたことに恨み、絶望を抱く。男だったらこんな嫌な

思いをしなかっただろう。なのに、どうして成績によって私の人生が決められるんだ・・・・・。

 

「(・・・・・私はなんなのだ?)」

 

気高くて美しく、真っ直ぐに進む生き様こそが私の目指す生き方なんだ。

母上が子供の頃、そうであったように私もそれに憧れ生きてきた。魔法も、知識も、体力も、

何もかも全て頑張って母上を目指した。

でも、なんでただ一度の敗北で、ああまで言われないといけない・・・・・?

戦闘は、戦いは誰しも必ず敗北するんだ。私も、和樹も、イッセーも例外ではない。

 

「(嫌だ・・・・・知らない男となんて結婚したくない・・・・・!)」

 

「―――ン」

 

「(私は・・・・・)」

 

「―――リン」

 

「(私は・・・・・!)」

 

自分の体を抱えて頭を机に突っ伏して、嫌悪と恐怖に震える。

 

「カリン!」

 

「―――っ!?」

 

ハッ、と強く呼ばれた声に意識を戻した。自分を呼ぶ声がした方へ顔を向けた。

 

「大丈夫か・・・・・?」

 

「イッ・・・・・セー・・・・・」

 

「・・・・・青ざめているな。先生、カリンを保健室に連れてもいいですか?

どうやら体調が思わしくないようです」

 

「ええ・・・・・ですが、そしたら二人ともこの教科が赤点と成りますが」

 

そうだ、イッセー。お前が心配するほどのことじゃないんだ。これは私自身の問題だ―――。

 

「好きにすればいい。大切で大事な友人が辛そうな顔をしているのに、

カリンの友人として、男として放っておけるわけがないんだ」

 

「――――――」

 

真っ直ぐ教師に向かって言い返した彼。イッセー・・・・・。

信じられないものを見る目で私を心配するイッセーを見ていたら、私の体が浮遊感を覚えた。

 

「え・・・・・?」

 

「いくぞ」

 

促され、私はイッセーに抱えられて教室から遠ざけられた。

 

―――一誠side

 

授業中、カリンの体が震えていることに気付いた俺は、赤点上等とばかり教師に言って

カリンをお姫様だっこして保健室に向かった。

 

「・・・・・」

 

中には誰もいなかった。白い清楚なベッドにカリンを横たわらせて、看病のように見守る。

 

「大丈夫か?」

 

「・・・・・どうして・・・・・」

 

「言っただろう。辛そうなお前を放っておけるかよ。テストなんかよりお前の方が心配だ」

 

何か言いたいのか何となくわかる。申し訳なさそうにカリンがいきなり

「ごめん」と謝罪してくる。は?なんだよ。

 

「赤点・・・・・それに、心配を掛けてしまった・・・・・」

 

「・・・・・」

 

はぁ・・・・。

 

ビシッ、

 

「あたっ!?」

 

彼女の発言に呆れて、シミ一つもない綺麗な額にデコピンを喰らわした。

 

「赤点なんてまだ一つじゃないか。そ・れ・と」

 

「な、なんだ・・・・・?」

 

「心配を掛けて申し訳ないなら、何時もの威風堂々としたお前に戻れ。

いまのお前は恰好好くない。小動物を想わせて可愛いぞ」

 

「か、かわ・・・・・っ!?」

 

ボン、とカリンの顔が羞恥に赤く染まった。あれ、恰好好いと言われるより赤いな・・・・・。

 

「ああ、だから頭を撫でていい?」

 

「うっ・・・・・」

 

微笑みながら手を翳すと、上掛け布団を掴んで顔の半分まで隠した。

その反応もまた可愛いなぁ・・・。

 

「沈黙は是、也だ」

 

了承を得たと勝手に解釈して、俺は桃色の髪を撫で始める。

 

「・・・・・」

 

しばらく撫でていると、カリンは目を細めて俺に身を委ねる。

何時までもこんな時間が続くかと思っていると、

 

「・・・・・イッセー」

 

「どうした?」

 

俺を見上げて、カリンは口を開いた。

 

「もし、もしもだ。仮にお前が女で親が勝手に決めた婚約の相手、

見ず知らずの男と結婚したいか?」

 

「(したくないに決まっているだろう)」

 

心の中で即答した。だが、それだとやや早計だ。

 

「俺が女・・・・・ねぇ。相手を知ってから判断するな。

俺自身に拒否する権利があればの話だけど」

 

「・・・・・そうか」

 

「だが、いきなりどうしてそんなこと訊く?」

 

その問いにカリンは沈黙した。訳が分からないと、怪訝に彼女を見ていると。

 

「今回の期末で成績が悪かったら学校を中退させられて、

婿をとるために花嫁修業をさせられるんだ」

 

「・・・・・」

 

「私、嫌だ。成績によって私の人生が親の手によって変えられるなんて・・・・・」

 

驚いた。彼女が元気がない理由はそんな事情を抱えていたのか・・・・・。

 

「イッセー。私はどうすればいい・・・・・?赤点が一つ確定した私がSクラスに入ることは

叶わなくなった。それに、今の私ではとても期末試験に集中なんてできない・・・・・」

 

「カリン・・・・・」

 

「イッセー・・・・・」

 

彼女は上半身を起き上がらせて、俺にしがみついてきた。

 

「お願いだ・・・・・私を抱きしめてくれ・・・・・強く」

 

「・・・・・分かった」

 

ベッドに腰を下ろしてカリンを抱きしめた。

これで不安がなくなるのであればずっとしてやる・・・・・。

 

「温かい・・・・・やっぱり、イッセーに抱きつくと安心する・・・・・」

 

そうか・・・・・。

 

「・・・・・もっと、お前を感じたい」

 

―――――は?と、唖然した。すると、俺の体が横に倒れてカリンに覆い被された。

 

「ん・・・・・父上にすらしたことないことだから恥ずかしいが・・・・・お前なら・・・・・」

 

さらには首に両腕を回してきて、顔との距離が近くなる。

 

「イッセー・・・・・もっとギュッとしてくれ・・・・・」

 

猫のように甘えてくる彼女。その甘えん坊な彼女に俺は―――可愛いと思った。

 

「ふふっ、可愛い小猫だな・・・・・」

 

背中に腕を回して抱きしめた。そして、ゴロンと横になって

彼女の両足の間に自身の両足を差しこんだ。

そうすることでカリンは俺の腰に足を絡ませてきてコアラのように抱きついてくる。

 

「ん・・・・・イッセー・・・・・温かくていい・・・・・」

 

「これで安心できるなら・・・・・」

 

「ああ・・・・・Sにはなれないだろうが、Aは余裕に入れる」

 

だから、とカリンは告げた。

 

「イッセー、もしAクラスと体育の授業があったら・・・・・」

 

「分かってる。またお前を引き込んでやるよ」

 

「ふふっ、嬉しい」

 

コツンと俺の額に自分の額を重ねて綺麗に微笑むカリン。俺も釣られて笑みを浮かべる。

 

―――○●○―――

 

―――放課後

 

「旧校舎、オカルト研究部に来いねぇ・・・・・」

 

スタスタと旧校舎へ足を運びながら呟く。

 

「ふむ、イッセーを呼びだす程の重要なのかな?」

 

「ゼノヴィアはついてこなくてもよかったんだぞ?」

 

「なに、お前といると面白いことが起きそうだからね。ついていけばもしかしたらと」

 

さいですか・・・・・。俺の隣に歩く青髪に緑色のメッシュを入れた女子生徒、ゼノヴィア。

携帯のメールでリアス・グレモリーに呼び出された時、傍にいたゼノヴィアもついていくと

言われて拒む理由もないからこうして連れて来ているんだが・・・・・。

 

「で、ゼノヴィアくん。テストの方はどうかね?」

 

「・・・・・それは私に対する嫌味なのか?」

 

「純粋に訊いているだけさ。あんなに頑張って勉強したんだ。

赤点を二つになっても、何とか頑張っているんだろ?」

 

「・・・・・全ては神の手に委ねられると言っておくよ」

 

お前・・・・・目を泳がすなよ。それにヤハウェに委ねても意味が無いぞ。ついでに神王にもだ。

 

「補習になったら頑張れよ」

 

「ああ・・・・・イリナ共々頑張るよ」

 

「イリナも補習確定なのかよ・・・!?」

 

唖然とゼノヴィアの一言に驚きを隠せなかった。

いやいや、あいつは・・・・・多分・・・・・ごめん、イリナ。大丈夫だと言い切れない。

 

「さて、話している内に着いたよ」

 

オカルト研究部の物質の前に辿り着いた俺たち。ノックをして

 

『はい?』

 

「ちわー、三川屋でーす」

 

『・・・・・ふざけないで入りなさい』

 

あれ、扉の向こうから呆れられた。

 

「しょうがない。ここにあるリアス・グレモリーのアルバムを学校中にばら撒くと―――」

 

ガチャッ!

 

扉が勝手に開いたかと思えば、顔を真っ赤にして俺を睨むリアス・グレモリーが出現した。

 

「あなた・・・・・冗談にもほどほどにしなさいよ・・・・・」

 

「実際にお前のアルバムがあるのは本当だぞ?サーゼクス・グレモリーから貰ったから」

 

「―――――っ!?」

 

そう言ったらトマトやリンゴのように顔が最大に真っ赤になった。

 

「あ、あなた・・・・・私の写真を見たの・・・・・?」

 

「ああ、可愛かったぞ。とくに、お前が幼い頃の写真が―――」

 

「それ以上言ったら・・・・・分かってるわよね」

 

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・。

 

真っ赤なオーラを全身から迸らせるリアス・グレモリー。マジ切れ寸前のご様子だった。

 

「はいはい、分かった分かった。言わないからその魔力のオーラを抑えろ」

 

紫色の宝玉がある黒い籠手を装着して彼女の肩に触れる。と、一瞬で赤い魔力が消失した。

 

「・・・・・あなたのその籠手、『神滅具(ロンギヌス)』なのね?」

 

「YES、その通りだ。でも、この籠手だけでも十分強いから

禁手(バランス・ブレイカー)』になることは滅多にないんだよな」

 

「四つの『神滅具(ロンギヌス)』を至れるの?」

 

「俺の師匠はグレートレッドだぞ?至れない訳が無いぞ」

 

苦笑を浮かべて言えば、リアス・グレモリーは何故か溜息を吐く。

 

「そうだったわね・・・・・。まあ、入りなさい。紹介したい子がいるのよ。

―――あなたがお兄さまに進言した子をね」

 

「ああ、そういうこと」

 

納得したと俺は首を縦に振って頷いた。いよいよハーフヴァンパイアとご対面ということだな。

部屋に入る彼女の続いてはいれば、グレモリー眷属が集結している・・・。―――って、

 

「いないじゃん?」

 

「あそこよ」

 

リアス・グレモリーが部屋の隅に指を差した。

その指の先に辿っていくと―――成神一成の傍に一つの大きな段ボールがあった。段ボール?

 

「あれ自体が吸血鬼ってわけじゃないよな?」

 

「あんな吸血鬼がいたら皆が驚くわよ。中に入っているのよ」

 

中に・・・・・。どんなハーフヴァンパイアなのか興味が沸き、

段ボールに音もなく近づいてそっと、段ボールの蓋を開けた。そこにいたのは―――。

 

「ふぇ・・・・・」

 

金髪に赤い瞳、女子生徒の服を見に纏う人物がいた。

こいつがハーフヴァンパイア・・・・・。うん、

 

「想像していたのより普通だな」

 

「いや、そこか?もっと可愛いとか、女の子だなとか思わないのか?」

 

「いや、俺は吸血鬼を見たかっただけだし、こいつが男か女だとか興味が無い。

ついでになんとなくだけど、こいつは男だろう?」

 

「なっ・・・・・!?」

 

「どうして分かったんだ!?」と、目を大きく開き驚愕した成神一成。

だから、なんとなくだってば、

 

「お兄さまからその子を封印を解くように言われてね。差し金はあなたのようだし、

この子・・・ギャスパー・ヴラディを紹介しようと招いたわけ」

 

「差し金なんてとんだ言われ方だなおい。ただの警告を言っただけなのによ」

 

「警告・・・だと?おい、それはどう言うことなんだよ?」

 

成神一成の質問にギャスパー・ヴラディというハーフヴァンパイアを段ボールから出して告げる。

(ついでに強奪)

 

「至極的に簡単に言おうか。こいつの能力を悪用とする輩がいる」

 

「・・・・・ギャーくんの能力を?」

 

「ん、そうだ。面倒くさそうな奴らにな」

 

「面倒くさい奴らって複数いるの?」

 

リアス・グレモリーの問いに、ギャスパー・ヴラディを段ボールの中に置きながら言葉を漏らす。

 

「俺もそんなに詳しく知らない。でも厄介だというのが分かる。

なんせ―――四種族が俺たちの敵なんだからな」

 

「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」

 

案の定、この場にいる全員が目を丸くして驚いた表情を覗かせてくれる。

 

「・・・・・どういうこと、四種族が私たちの敵ってことは、

悪魔だけじゃなく堕天使や天使、人間も敵だって風に聞こえるわよ」

 

「さあ、テロリストみたいな奴らだった。組織名は知らない」

 

「・・・・・色々と詳しく教えてくれるかしら」

 

真剣な面持ちで尋ねてくるリアス・グレモリー。―――だからさ、

 

「言っただろう詳しくは知らないって。逃げるのに精いっぱいだったんだからさ」

 

「キミがそこまでになるほど相手が強敵だというのか・・・・・」

 

「あの時はな、今は違う。なんせ親玉を引き抜いたからな」

 

「親玉・・・・・?」

 

「ああ、こいつだ」

 

指を弾いたその瞬間。俺の傍に一つの魔方陣が出現した。

光と共に現れるのは腰まである黒髪の小柄で黒いワンピースを身に着け、

細い四肢を覗かせて胸にペンダントを身に付けている少女。

 

「・・・・・あなたはイッセーの家にいた子よね?」

 

「ん、また会った」

 

リアス・グレモリーの言葉にコクリと首を縦に振って肯定。それから俺の肩に乗っかった。

 

「ドライグ、久しい」

 

「へ・・・・・?」

 

やっぱり、成神一成の内にいるドラゴンに気付くか。

 

「こいつは『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス。ドラゴンの中で最強のドラゴン、だそうだ」

 

「オーフィス・・・・・!?」

 

「ん、我、オーフィス」

 

オーフィスも認めた。すると、リアス・グレモリーが危険視するような視線を向けてくる。

 

「イッセー・・・・・あなたが言うテロリストみたいな奴らの親玉が、

オーフィスだったってことになるわよ。一体どうやってオーフィスを引き抜いたの」

 

「単純なことだ」

 

「単純・・・・・?」

 

「俺の両親が昔、オーフィスと出会って約束していたんだ。で、俺が父さんたちの子供だと

知ってオーフィスが約束を果たすために俺と一緒に暮らすって言ったんだよ」

 

なっ?と、オーフィスに尋ねればコクリと頷く。

 

「そう言うわけだ。だから、オーフィスが俺たちに牙をむくことはない。

それだけは安心してくれ」

 

「まあ・・・・・あなたがそう言うのならば、信用するわ」

 

そう言っても、まだ納得していない表情だった。しかもいまの発言は何だ?

 

「あれ、俺はリアス・グレモリーに信用されていなかったのか?

・・・・・それはそれで悲しいかな」

 

「オーフィスによ!それと何時まで私のことをフルネームで呼ぶのよ?『リアス』って呼んでよ」

 

えー・・・・・。と、心の中で嫌そうに感じているが・・・・・

 

「・・・・・」

 

リアス・グレモリーの寂しげで不安そうな表情を見たら、

嫌な感じが罪悪感に押しつぶされて、結局・・・・・。

 

「愛しのリアス」

 

「っ!?」

 

「・・・・・呼んだぞ」

 

言っておいて、急に恥ずかしくなってリアス・グレモリーからそっぽ向いた。

 

「・・・・・嬉しい」

 

歓喜とばかり、リアス・グレモリーの声が聞こえる。

 

「私もよ・・・・・愛しいイッセー」

 

眼だけ視界に移せば、涙を浮かべ微笑んでいるリアス・グレモリー。

呼ばれただけで嬉しかったのか。

 

「・・・・・兵藤先輩はツンデレ」

 

「ちょっと待とうか、小猫よ。俺は別にツンデレなんて属性じゃないぞ」

 

「・・・・・ドS」

 

「うーん・・・・・悪魔と堕天使限定なら俺はドSかもな」

 

深い笑みを浮かべて、何時の間にか持った縄をビシッ!と引っ張りながら肯定する。

 

「あらあらうふふ、では兵藤くん。一緒に泣き喚かせるやり方を考慮しませんか?」

 

「なんだ?お前もドSなのか?」

 

「ええ、こう雷で相手の悲鳴を聞くと・・・・・たまりませんの」

 

ほう・・・・・面白い悪魔もいるんだな。瞳を怪しく輝かせて亜空間を開き、

中から―――調教する際に使う道具を取り出して姫島朱乃に言う。

 

「じゃあ、こんなの使ったことがあるか?」

 

「あら・・・・・マニアックな物をお持ちなのね?」

 

「男でも女でも、悪魔と堕天使なら使う予定だからな。色々と通販で購入しているんだよ」

 

「うふふ・・・・・兵藤くんは面白い子ですね。私のことを朱乃って呼んで下さらない?

私とあなたは似た者同士、きっと面白く楽しく分かり合えると思いますわぁ」

 

「ははは、そうかもしれないな、じゃあ、俺のことを名前で呼んでくれ朱乃」

 

「うふふ♪ええ、分かりましたわイッセーくん♪」

 

ガッシリと朱乃と固く握手を交わした。

早速俺は、朱乃に道具を使ってどう悪魔と堕天使に鳴いてもらおうか考慮し始める。

 

「・・・・・会ってはいけないヒト、組んではならないヒトと夢中に話し合う光景は怖いですね」

 

「しかも・・・・・アッサリと朱乃の名前を呼ぶなんて・・・・・私も彼の趣味に

合わした方がいいのかしら・・・・・」

 

「部長は部長のままでいいと思います」

 

「イッセーさん・・・・・あの人、怖いです・・・・・っ」

 

「あいつのほうがよっぽど悪魔だぞ・・・・・マジで怖ぇ・・・・・」

 

「ひぃぃぃっ!こ、怖いですよぉぉぉぉっ・・・・・!」

 

「ふむ・・・・・悪魔を討伐する際、捕縛するために拘束の仕方を

学ぶのもいいかもしれないな。よし、私も―――」

 

―――○●○―――

 

「ほーら、ギャスパー。速く走らないと、ニンニクと十字架、聖水、

天使の俺のオンパレードをお見舞いするぞー♪」

 

「いやぁぁぁぁぁっ!!た、助けてくださぁぁぁぁぁぁぁいっ!

消滅させられちゃいますぅぅぅぅ!」

 

逃げるギャスパー・ヴラディに吸血鬼が苦手とするものを手にしたまま追いかける俺。

あいつが逃げる先には―――。

 

「ゼノヴィア、そっちに行ったぞ」

 

「任せろ」

 

聖なるオーラを帯びている青い長剣を持ったままギャスパーを追撃するゼノヴィア。

 

「ヒィィィィィッ!せ、せ、せ、聖剣デュランダルの使い手だなんて嫌ですぅぅぅ!

ほ、滅ぼされるぅぅぅぅ!」

 

そう、ゼノヴィアの持つ聖剣はエクスカリバーと並ぶ聖剣デュランダル。

だが、デュランダルはじゃじゃ馬のようで、余計なものまで斬ってしまうため、

ゼノヴィアでも扱いには苦労しているようだ。

 

「ヒィィィィィ!デュランダルを振り回しながら追いかけて来ないでぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

夕方に差しかかった時間帯、旧校舎でギャスパー・ヴラディと戯れる俺とゼノヴィア。

 

「・・・・・やっぱり、あいつは悪魔だぞ」

 

「あ?」

 

「・・・・・げ」

 

「よし、お前もロックオンだ」

 

ダッ!と遠巻きで見ていた成神一成に駆け寄った。当然、俺から逃げるのが成神一成だ。

 

「ちょっ、どうして俺を追い掛けてくるんだよぉぉぉぉっ!?」

 

「ゼノヴィア曰く『健全な精神は健全な肉体から』だそうだからな。

体力が三番目にないお前も気まぐれに鍛えたやるよ」

 

「ふ、ふざけんなぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

逃げる成神一成に追い掛ける俺。逃げるギャスパー・ヴラディに追い掛けるゼノヴィア。

うん、なんと摩訶不思議な状況なんだろうか。何時しか、塔城小猫も参戦した。

片手にニンニクを持ってゼノヴィアと一緒にギャスパー・ヴラディを追い掛けて。

 

「・・・・・ギャーくん、ニンニクを食べれば健康になれる」

 

―――その瞬間。

 

「いやぁぁぁぁぁぁん!小猫ちゃんが僕をいじめるぅぅぅぅ!」

 

ギャスパー・ヴラディの逃げる速度が三倍にも増した。

 

「好き嫌いはダメだよギャーくん、好き嫌いはダメだよギャーくん、

好き嫌いはダメだよギャーくん、好き嫌いは―――」

 

そんなヘタレヴァンパイアを追い掛ける塔城小猫とゼノヴィア。

 

ズドドドドドドドッ!

 

「うわぁぁぁぁぁっ!?」

 

割と殺意を籠めて翼で成神一成を刺そうとする俺。

こいつ、最近避けるのが上手くなってきたな。

 

「おーおー、やってるやって・・・・・」

 

こんな修羅場みたいな空間にノコノコと何も知らずに足を踏み込んでくる男子生徒。

 

「・・・・・なんだ、この状況は・・・・・」

 

「さ、匙ぃぃぃぃぃっ!」

 

あー、ソーナ・シトリーの眷属悪魔の奴か。匙元士郎という『兵士(ポーン)』の。

顔を引き攣らせて俺たちを見て、匙元士郎は踵を返した。

 

「・・・・・あー、お取り込み中のようだな。じゃ、また後で―――」

 

「見たからには、ここに来たからにはお前も遊んでやろう」

 

片翼で匙元士郎を捕まえて、逃げる成神一成の隣に置いて共に走らせる。

 

「な、何で俺までぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

「くそ、この悪魔!鬼畜!鬼!」

 

「―――殺すぞコラ」

 

ビガッ!ガガガガガガガガッ!

 

「「いぎゃああああああああああああああああああああああっ!?」」

 

青白い雷を纏いながら二人を追い掛ける。―――――しばらくして、

 

「「「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・!」」」

 

成神一成、匙元士郎、ギャスパー・ヴラディの以下三人が地面に横たわって全身で息をする。

 

「まだまだ体力不足だな」

 

「うん、そうだね」

 

「・・・・・ニンニクを食べれば元気になります」

 

お前はまだ言うか。ギャスパー・ヴラディにニンニクを見せびらかす塔城小猫。

 

「へぇ」

 

この場に第三者の声が聞こえた。その声がした方に振り向けば―――、

浴衣を着た前髪だけが金髪の黒髪の中年男性。

いかにも悪そうな事を考えていますと顔をしている。

 

「悪魔さん方はここで集まってお遊戯をしてるってわけか」

 

「アザゼル・・・・・ッ!」

 

―――アザゼルだと?

 

「やー、悪魔くん。いや、赤龍帝。元気そうじゃないか」

 

全員が突然現れたそいつに怪訝そうに見つめていたが、成神一成の一言で空気が一変する。

 

ギィン!

 

ゼノヴィアが剣を構える。空気を察したのか、アーシア・アルジェントが成神一成の後ろへ隠れ、

成神一成は『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を装着した。何でこんなところに堕天使の総督が?

匙元士郎も驚愕しながらも右手の甲にデフォルメ化したようなトカゲの頭を発現する。

あれがあいつの内にいるドラゴンの・・・・・。

 

「な、成神、アザゼルって」

 

「マジだよ、実際こいつと何回も接触している」

 

成神の一誠の真剣な反応で理解したのか、匙元士郎も戦闘の構えを作りだした。

俺が溜息を吐くと、堕天使の総督アザゼルも苦笑していた。

 

「お前ら程度の力でこいつにどうこうできるわけ無いだろう。構えを解け」

 

「何言っているんだよ?相手は堕天使の総督だぞ?

堕天使のトップがこんなところに来て何を企んでいるのか分かりやしねぇよ!」

 

「ああ、そうだぜ!」

 

二人の言葉に俺は心の底から呆れた。

 

「―――構えを解けっつってんだよ。木端悪魔どもが」

 

「「―――っ!?」」

 

幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)を装着して能力を発動する。

この場に俺たちを包むようなドーム状の透明な膜が出現した。その結果―――。

 

シュゥゥゥゥゥゥン・・・・・。

 

「なっ、俺の『神器(セイクリッド・ギア)』が消えていく・・・・・!?」

 

「俺もだ、どうなってやがる・・・・・!?」

 

「私の聖剣からも聖なる波動が・・・感じなくなった」

 

成神一成と、匙元士郎、ゼノヴィアの武器となるものが消失し、

力が失ったことに驚きを隠せないでいた。

 

「へぇ・・・・・?」

 

だが、堕天使の総督アザゼルは興味深々と俺の籠手を見詰めているだけだった。

 

「なるほど、それが噂の新種の『神滅具(ロンギヌス)』つーわけか。

どうやら、その籠手の能力は『神器(セイクリッド・ギア)』の能力や

聖剣の聖なるオーラを無効化にする能力のようだな」

 

「正確に言えば、『異能の力であれば全て無効化にする』だ。

堕天使の総督アザゼル。お前の堕天使としての力もだ」

 

「はっ、そいつはとんでもねぇ『神器(セイクリッド・ギア)』だな」

 

そう言いながら俺に近づく。

 

「付け加えれば、このドーム状の光の膜はこの籠手の能力と同じ効果を発揮している。

魔方陣を展開しようとしても無理な事だぞ」

 

「あ、そうなのかよ?じゃあ、解いてくれや。俺は何にもしねーよ」

 

「お前にしたわけじゃない。この木端悪魔どもにしただけだ」

 

籠手を消失させれば、ドーム状の光の膜が高い音を立てながら四散した。

 

「アザゼル」

 

「なんだ?」

 

「―――幼馴染のヴァーリが世話になっている。ありがとうな」

 

あいつは敵だけどな、とは心の中で苦笑を浮かべる。堕天使の総督アザゼルは俺の話しを聞き、

笑みを浮かべ出した。

 

「いいってことよ。つーか、お前の父親と母親とは旧友の関係だったからな。

ダチのためにできることがあれば俺はしてやるつもりだった。

ついでに、コカビエルを止めてくれてありがとうよ」

 

ポン、と俺の頭に手を乗せるアザゼル。

 

「別に、神王と魔王からの依頼だったし、コカビエルから有力な情報も得れた。

ドーナシークからも、『堕天使の女帝』ヴァンのこともな」

 

「あいつか・・・・・訊いたぞ、ヴァンに殺されたってな。誠と一香がよ」

 

「見つけ次第殺すつもりだ。邪魔、するなよ」

 

「悪いが、こっちも仲間を殺されているんだ。俺も見つけ次第、あいつを捕まえるつもりだ」

 

思いは違うが、目的は同じか・・・・・。

 

「なら・・・・・ここでお前を殺して憂いを消すってのも悪くないかな?」

 

全身からドス黒い魔力が陽炎のように滲み出てくる。

 

「・・・・・なるほどな、お前はそこまで憎しみを抱いているわけか」

 

「悪魔と堕天使という種族をな」

 

右拳にドス黒い魔力を纏わせ、奔流と化する。

 

「邪魔者は排除するに越したことじゃないだろう」

 

口の端を吊り上げて臨戦態勢に入る。堕天使の親玉、堕天使の総督。―――アザゼル!

 

「でも・・・ヴァーリの件についてお前には感謝しているからな」

 

右拳に纏った魔力を消失させて構えを解く。

 

「俺を殺さねえのか?」

 

「お前を殺して俺の家族が甦るのなら、喜んでお前を殺してやるよ。

全ての堕天使を敵に回してもな。だけど、俺が殺したいのはあの女だ。

―――そいつを心の底から殺したい。お前じゃない。堕天使の女、ヴァンだ」

 

「そうかい・・・・・」

 

堕天使の総督アザゼルは瞑目してそれだけしか言わなかった。・・・・・そろそろ帰るか。

 

「ゼノヴィア、帰ろう」

 

「ああ・・・・・分かった」

 

「小猫、銀華が何時でも待っている。だから何時でも家に来い」

 

「・・・・・分かりました」

 

銀華・・・・・?アザゼルが誰のことだ?と首を傾げるところを余所にゼノヴィアを抱え、

六対十二枚の青白い翼を展開して空へ飛翔する。

 

「イッセー、堕天使の総督を挑んでも勝ち目はあるのか?」

 

「体術だけでやったら苦戦するだろうな。だけど、最後の手段を使えば俺が確実に勝つ」

 

「そうか。やはり強いのか」

 

「堕天使の総督の名は伊達じゃないというわけだ」

 

それに、あいつと出会って良かった。『堕天使の女帝』ヴァンもきっとあの男と同じぐらい

強いんだと実感できた。俺の目標はすぐ届くところまでに来ているのかもしれない―――。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode7

 

 

―――清楚side

 

「よいしょっと」

 

一誠くんの家に住むことが決まってあれから少しずつ、身支度をしていた私だけど、

今日で何とか終わった。額に浮かんでいる汗を腕で拭いで、一息吐くと、

 

「これで全部か?」

 

私の後ろから声を掛けてくる男の子。「うん」と頷いて後ろに振り返る。

 

「ありがとうね。手伝ってくれたから早く終わったよ」

 

「なに、気にするなよ。寧ろ・・・・・」

 

「寧ろ?」

 

「清楚の部屋に来られて俺は嬉しかったよ」

 

そう言って微笑む男の子。私は今になっていままでこの家に入らせた人は家族以外、

彼が初めてだと気付いた。恥ずかしく感じ始め、顔が熱くなったのが分かった。

 

「もう・・・・・恥ずかしいことを言わないでよ・・・・・」

 

「ははは、悪いな」

 

そう言っても彼は微笑む。そんな彼の顔を見ていると安心感がする。

 

「(彼と、一誠くんと出会ってもう数ヵ月になるんだね)」

 

色々とあった。笑うこともあれば楽しいこともあった。辛いこともあれば悲しいこともあった。

 

「(そして、私は異性に恋した・・・・・)」

 

私の初恋の人、兵藤一誠くん。私の部屋に、私の目の前にいる彼こそが私の初恋の相手。

 

「少し、休憩にするか」

 

「うん、そうだね」

 

一誠くんの提案に私は了承した。彼が先に腰を下ろすとその背中に合わせるようにして

私は腰を下ろした。

 

「ん?」

 

「少しだけ背中を貸して?」

 

「ああ、いいぞ。俺も背中を借りる」

 

私の背中に重みが増した。私の背中に寄り掛かっているんだ。

いまこの瞬間、私は彼と二人きり・・・。

 

「(ふふ♪)」

 

嬉しい。こうして二人きりでいることは滅多にないからね。

時間が許す限り、一誠くんと一緒に・・・。

 

「・・・・・なあ、清楚」

 

「なぁに?」

 

「清楚と出会って数ヵ月が経つな」

 

―――一誠くん。一誠くんも私と同じ考えを・・・・・。

 

「うん、そうだね。一誠くんが来てから学校はもっとにぎやかになったよ」

 

「ああ、良い意味と悪い意味が同時にな」

 

疲れたとばかり溜息を吐く一誠くん。きっと悪い意味の方を思い浮かんで息を吐いたと思う。

毎日、毎日追いかけられているもん。カリンちゃんも風紀員長として、

お仕事が大変だってたまに聞くしね。

 

「両親には言ってあるのか?」

 

「うん、寮に移り住むって言っているよ。

流石にクラスメートの家で同棲するって言ったら、驚いて海外から帰ってきそうだし」

 

「ははは、そうだな」

 

朗らかに笑い声を発する彼。ただの雑談だけど、この瞬間こそがとても大事で、

のんびりと彼と過ごせる時間がとても幸せ。

 

「ねぇ、一誠くん」

 

「なんだ?」

 

「私は一誠くんがどんな人でも一誠くんだと受け入れるよ」

 

言った瞬間。一誠くんが静かになった。

 

「急に、どうしたんだ?」

 

「ううん、なんとなく言ってみたの。一誠くんって色々と凄いし

、恰好好いし、皆に頼りにされて、モテているんだもの」

 

「モテる?俺が?女子生徒と話したことがあるのは清楚とカリン、リーラ、イリナとゼノヴィアに

シアとネリネ、リコリス、リアス・グレモリーとソーナ・シトリー、

学校外だったら桜ぐらい・・・・・・ああ、モテているな、俺って」

 

「今頃気付いたの?」

 

「友達感覚で付き合っていたからな」

 

ははは、と渇いた笑い声が後ろから聞こえる。

そっか、まだ一誠くんの中で私のことは友達だと認識しているんだね。

 

「その中で一誠くんは好きな人がいるの?」

 

「・・・・・」

 

あれ、黙っちゃった。いるのかな・・・・・。ちょっと訊いて後悔したかも。

 

「・・・・・最低な発言していいか?」

 

「・・・・・はい?」

 

「まあ、訊いてくれ。俺は俺を好きだと好意を寄せる異性に愛する気持ちでいるんだ」

 

「・・・・・え?」

 

「それも何人もだ。ほら、天界に移り住めば一夫多妻制が可能だと教科書に載ってあるだろう?

もし将来、俺に好意を寄せる複数の異性ができたら俺は天界で住もうと考えているんだ。

そこで幸せになりたいんだ俺は。これが俺の本音だ」

 

一誠くん・・・・・。

 

「まあ、その前に俺がやるべきことがやり遂げてからの話になるだろうな」

 

「―――――っ」

 

彼がやるべきこと・・・・・一誠くんの両親を殺したという三人の悪魔と堕天使に復讐すること。

 

「・・・・・復讐して死ぬなんてこと、ないよね・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「私、嫌だよ?復讐して一誠くんが死ぬなんて・・・・・絶対に嫌」

 

徐に彼から離れて、それから彼の背に抱きつく。

 

「お願い、一誠くんを想う人たちを残して死なないで・・・・・お願い」

 

「・・・・・その願い、清楚も入っているのか?」

 

「―――――当然だよ、バカ」

 

ギュッと腕に力を籠めお仕置きとばかり絞める。すると・・・私の腕に何度も叩きだす一誠くん。

 

「ちょ、清楚・・・・・」

 

「なによ・・・・・」

 

「く、苦しい・・・・」

 

・・・・・あっ、

 

「ご、ごめんなさい」

 

私の腕が一誠くんの首を絞めていたのを気付き、慌てて力を緩んだ。

 

「だ、大丈夫・・・・・?」

 

「ああ・・・・・本当に力が強いんだな。一瞬、三途の川と花畑が見えたぞ」

 

「うっ・・・・・」

 

そ、そんな幻覚を見ちゃうなんて・・・・・危うく私は初恋の人を殺すところだった。

洒落にもなんないよ。笑い話じゃなくなるよ。

 

「さて・・・・・そろそろ移動しようか」

 

一誠くんがそう言った瞬間、一ヶ所に集めた私の私生活用品が入った段ボールと私たちの下に

魔方陣が展開した。

 

「ようこそ、清楚。俺たちの家に」

 

「はい、これからよろしくね。一誠くん」

 

「ああ、よろしくな」

 

光が眩しくなる頃に私の視界は白く染まった―――。

 

―――○●○―――

 

一誠side

 

よし、これで全部終わった。清楚、龍牙、そして和樹の移住の準備は終えて

リビングキッチンに赴いた。

 

「あっ、リーラ」

 

「一誠さま、丁度良かったです。彼女をこの家の案内をしていたのです」

 

リーラの隣に見知らぬ眼鏡を掛けた銀髪の女性がいた。あのメイドが和樹の専属のメイドであり、

リーラと上級家政学校にいた人か。

 

「初めまして、兵藤一誠だ。よろしくな」

 

「シンシア・フロストでございます。和樹さまの専属メイドでございます。この度、

この家にお住まいさせてもらいありがたく存じます。

このシンシア、和樹さま同様に兵藤さまの―――」

 

「ああ、いいよ。俺の世話はリーラにしてもらうから」

 

言いたいことが先に分かったので、遮って拒否した。

すると、彼女の眉が一瞬だけ動いた。ムカついたな。この人、

 

「キミが俺まで世話してもらったら和樹に嫉妬されちゃいそうだ。

『僕の専属メイドに世話してもらえるなんてどんな気分だい?』とかさ」

 

「・・・・・ですが・・・・・」

 

「この家は俺たちの家だけど、この家に住む限り皆家族当然だ。

だからさ、シンシアは和樹の専属メイドなんだから和樹の身の回りの世話をして欲しい」

 

「・・・・・」

 

「それに何となくだけど、和樹のこと好きでしょ?」

 

彼女にそう問うてみた。しばらくして・・・・・恥ずかしそうに、

シンシア・フロストが俺から視線を逸らした。おやおや・・・・・。

 

「ふふっ、なるほどな。俺と和樹は似た者同士のようだ」

 

「・・・・・と、言うと?」

 

「俺もリーラのことが好きなんだ。異性として、メイドとしてね」

 

「ありがたきお言葉です。一誠さま」

 

リーラ、当然のことじゃないか。主を想うメイドに俺も想いを応えないとな。

 

「それじゃ、リーラ。彼女の家の案内をよろしくね」

 

そう言って彼女の頬に軽く押し付けた。

 

「い、一誠さま・・・!」

 

「ははは、じゃあね」

 

羞恥で顔を赤くしたリーラから逃げるように、俺はリビングキッチンへと向かった。

 

「・・・・・」

 

中に入れば、プリムラがソファーに座ってジッと電源が付いたままのテレビを見ていた。

膝には猫になっている銀華の姿がいる。

 

「プリムラ、面白いか?」

 

「・・・・・分からない」

 

・・・・・感情が疎いプリムラにはまだ分からないか・・・・・

。隣に座って紫色の髪を撫でるとこっちに顔を向けてきた。

 

「いま、幸せか?」

 

「・・・・・」

 

無言になった。これも分からないか?と思っているとプリムラが口を開いた。

 

「・・・・・分からない。でも、イッセーや皆がいるとここが熱くなる」

 

胸に手で触れて告げるプリムラ。・・・・・そうか、

 

「嫌な感じか?」

 

「・・・・・」

 

俺の問いに首を横に振った。なら、それでいいんだ。

 

「その感じがいつか分かる時が来るだろう。プリムラ、いまは今を生きよう」

 

「・・・・・今を生きる?」

 

「ああ、そうだ。今を生きれたら明日も生きれる。楽しいことも悲しいことも、

辛いことがあるだろうけど、それを受け止めてこそ、人は生きるという実感を得るんだ」

 

この言葉が届くかどうか分からないが、言わないよりはマシだ。

 

「プリムラも生きているんだ。だから、もっと楽しいことや面白いことをして、

それから色んなことを学んで人に役に立つことや喜んでもらうこともして

明日に向かって生きてくれ」

 

それが俺の願いだと付け加えて言った。

 

「・・・・・分かった」

 

「よし、良い子だ」

 

優しく抱きしめてしばらく、プリムラから離れてトレーニングルームへと赴く。

二階に上がる階段の裏に存在するエレベータに乗り、地下へと降りる。数十秒ぐらいか、

エレベータが停止し扉が開いた。

 

ドッゴオオオオオオオオオン!

 

激しい爆音が俺を出迎えた。

 

「おーおー、やってるな」

 

天井の方を見上げれば、金色の全身鎧を着た一人と宙に浮く一人が激しく戦っていた。

神城龍牙と式森和樹だ。うーん、見ていると二人は強いな。

和樹は幾重の魔法を弾幕のように放って龍牙に攻撃し、

向かってくる魔法を神速の速度で回避しながら和樹に迫る龍牙。

 

「邪魔したら野暮そうだな」

 

踵を返して俺はまたエレベーターに乗り込んで家に戻った。

 

「部屋でのんびりでもするか」

 

エレベータから降りて開口一番に呟く。

レッドカーペットが敷かれた二階に上がるための階段に登って真っ直ぐ廊下を歩く。

右の角に曲がって歩を進めば俺の部屋がある。自分の部屋の扉に辿り着き、扉を開け放った。

 

「・・・・・」

 

中に入った瞬間、俺のベッドを占領する小さな存在がいた。オーフィスだ。

 

「ん、イッセー、来た」

 

「なにしているんだ?」

 

「何もしてない、我、ここにいただけ」

 

「そうか」と呟き、本棚から一つの本を取り出してベッドに寝転がる。

 

「ガイアは?」

 

「次元の狭間、泳いでいる」

 

「オーフィスも行けば良かったのに」

 

「我、次元の狭間同様にここで静寂を得る」

 

なんとまあ、ボッチ的な発言をするな。

 

「オーフィスは楽しいか?」

 

「楽しい・・・・・?」

 

「あー、分からないか。うーん、この家にいて笑うことができるか?」

 

そう尋ねるとオーフィスは首を傾げる。

 

「我、人間の感情、よく分からない」

 

プリムラ同様、感情に疎いな・・・・・・。

 

「でも、これは分かる」

 

「ん?」

 

心の中で苦笑を浮かべる俺に「なにがだ?」と思い、オーフィスを見詰めていると、

寝転がる俺に跨って、覆い被さってきた。

 

「我、イッセーと家族」

 

「・・・・・」

 

ジィとオーフィスの黒い瞳は俺の瞳を見据える。その瞳に感情の色が無い。

ただ純粋に俺を見ていることが何となくわかる。笑みを浮かべ、言った。

 

「ああ、俺とオーフィスは家族だ」

 

「ん、我とイッセーは家族」

 

彼女の黒い髪を撫でると、オーフィスは気持ち良さそうに目を瞑る。まるで猫のようだ。

 

「寝るか?」

 

「寝る、このまま」

 

「そっか、それじゃおやすみ」

 

コクリとオーフィスは頷き、俺の胸の上で瞑目したスヤスヤと眠りだした。

その姿に愛くるしくて俺はずっと俺が眠たくなるまでオーフィスの頭を撫で続けたのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode8

四種のトップ会談が行う当日の日となった。俺とイリナ、ゼノヴィア、和樹と龍牙の五人は

会場となる駒王学園の新校舎にある職員会議室に赴く。今日は休日で時間帯は深夜。

すでに各陣営のトップたちは新校舎の休憩室で待機しているらしい。

 

そして、なによりもこの学園全体が強力な結界に囲まれ、誰も中へ入れなくなっていた。

どうやら会談が終わるまで外に出られないようだ。(俺たちは出られるけどな)

結界の外には天使、悪魔と堕天使の軍勢が囲んでいる。ただ、人間が一人もいない。

 

「とある人間の一族・・・・・式森家と兵藤家の者は一人でも十分対処できるんだよ」

 

「和樹、人の心を読まないでくれよ」

 

「顔に出ていたよ」

 

「・・・・・今後の課題だな。それにイリナとヴァーリとトランプをやってた時なんて

一度も勝ったことが無い時期があったな」

 

「ははは、そうだったわね。イッセーくんがババを引いた時とか物凄く

ショックを受けるんだもの。もしかして、今もそうなの?」

 

イリナにそう問われ首を傾げる。どうだろうか、トランプなんてここ数年やっていないから

分からない。

 

「分からないな。明日、やってみるか?」

 

「うん、絶対に買ってやろうね」

 

「あ、トランプなら僕が持ってるよ」

 

「買う手間が省けたなイリナ」

 

と、そんなこんな雑談をしていると新校舎の会議室に到着した。イリナが扉をノックする。

 

「失礼します」

 

イリナが扉を開くと、そこには―――。特別に用意させたという豪華絢爛そうなテーブル。

それを囲むように見知った存在たちが座っていた。

空気は静寂に包まれており、全員真剣な面持ちだった。

 

悪魔側、サーゼクスとシルヴィア、フォーベシイ、レヴィアタン、グレモリー眷属。

天使側、ヤハウェ、ユーストマ、六対十に枚金色の翼を展開している男と白い翼の天使の女。

堕天使側、堕天使の総督アザゼルと『白い龍(バニシング・ドラゴン)』ヴァーリ。

・・・・・そして、人間側、

 

「「「「・・・・・」」」」

 

四人の人間がテーブルを囲む椅子に座っていた。その内の二人は知っている。

和樹の父親と母親、式森和馬と式森七海だ。残りの二人は・・・・・知らない。

厳格な面持ちの顔の中年男性と大和撫子と思わせるほど、着物を身に包む黒髪の女性。

 

「・・・・・っ!?」

 

すると、アザゼルが目を丸くした。

その理由は―――きっと俺の肩に乗っている小さい存在だろうな。

 

「そこの席に座りなさい」

 

サーゼクスの指示を受け、シルヴィアが俺たちを壁側に設置された椅子に促す。

その席にはグレモリー眷属が座っていた。ギャスパー・ヴラディの奴は・・・・・いない?

いや、小猫もいないな。どういうことだ?リアス・グレモリーの隣に座って声を殺して問う。

 

「(ギャスパーと小猫がいないのはどういうことだ?)」

 

「(あの子は時間停止の神器(セイクリッドギア)を使いこなしていないの。

ちょっとした刺激に能力を発動してしまっては―――って、イッセー。

どうして頭を抱えるの?)」

 

マジかよ・・・・・そんな話、聞いていないぞ・・・・・!?くそ、ぬかった!

 

「(小猫一人で護衛が務まるわけがないだろう。相手は数が多いんだ。―――やばいな)」

 

「(え、どういうこと・・・・・?)」

 

「(言ったはずだ、相手はテロリストみたいな奴らだと。

だから、集団で襲ってこないなんてないんだよ。

それなのに神器(セイクリッド・ギア)を使いこなせていないギャスパーと接近戦の小猫が多勢無勢によって

捕まるのがオチだぞ)」

 

「(っ・・・・・!?)」

 

俺もリアス・グレモリーも判断ミスをした。

まさか力を制御できていないなんて思いもしなかった。

成神一成みたいに弱いだけならまだマシだった。

 

「(そんな・・・・・!)」

 

「では、会談を始めよう」

 

フォーベシイのその一言で四種のトップ会談が始まった―――。

 

 

 

会談は順調に進んでいた。

 

「というように我々天使は―――」

 

天使が喋り、

 

「そうだね、その方が良いかもしれない。このままでは確実に三勢力とも滅びの道を―――」

 

レヴィアタンも発言して、

 

「ま、俺らは特にこだわる必要もないけどな」

 

偶にアザゼルの一言でこの場が凍りつく事もあった。

俺はこの堕天使の総督が、わざとその空気を作って楽しんでいるように見える。

 

「私たちも異論はないですよ。平和に過ごせればそれでいいんで」

 

式森和馬が笑みを浮かべながら言葉を発する。

 

「・・・・・」

 

厳格な面持ちの中年男性は何も言わず、ただ静かに・・・・・俺を見詰めてくる。

さっきから見詰められて物凄く居心地が悪いんだけど・・・・・。

 

「(和樹、さっきから俺を見るあの人は誰なんだ?)」

 

隣に座っている和樹に声を殺して問う。和樹も緊張した面持ちで俺の耳に語りかけてくる。

 

「(現兵藤家の当主、兵藤源氏。隣にいる人は当主の妻、兵藤羅輝だよ)」

 

「(・・・・・兵藤家当主と妻)」

 

「(キミのこと、どうやら気付いているようだね。会ったことは?)」

 

無いと首を横に振る。当主なんて上の人と出会ったことすらない。一度もだ。殆ど修行とイジメ、

二人の幼馴染と一緒にいたからな。

 

「さて、そろそろ先日の事件について私と神王ユーストマが依頼した彼、兵藤一誠くんと

教会から派遣した二人の聖剣使い、イリナとゼノヴィアから話してもらおうかな」

 

フォーベシイが俺と二人に視線を送ってくる。俺たち三人は立ち上がり、

この間のコカビエル戦での一部始終を話し始めた。これに聞き入る四種のトップの面々。

俺たちの報告を受ける各陣営トップは溜息を吐く者、顔を顰める者、笑う者、

無表情の者―――と反応はここに違った。

 

「―――以上が、自分、兵藤一誠が関与した事件の報告です」

 

「私、紫藤イリナも彼の報告に偽りないことを証言します」

 

「同じく私、ゼノヴィアも同意見でございます」

 

「報告御苦労、座ってくれたまえ」

 

「ありがとう」

 

フォーベシイに促され、レヴィアタンに感謝される。

 

「さて、アザゼル。この報告を受けて、堕天使総督の意見を聞きたい」

 

サーゼクスの問いに全員の視線がアザゼルへ集中するが、アザゼルは不敵の笑みを浮かべて

話し始めた。

 

「先日の事件は我が堕天使中枢組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部コカビエルが、

他の幹部及び総督の俺に黙って、単独行動を起こしたものだ。兵藤一誠があいつを倒し、

『白龍皇』が引き取ったその後、組織の軍事法会議でコカビエルの処刑は執行された。

地獄の最下層(コキュートス)』で、永久冷凍の刑だ。もう出てこられぇよ。

その辺りの説明はこの間転送した資料に全て書いてあっただろう?それが全部だ」

 

天使が嘆息しながら言う。

 

「説明としては最低の部類ですが、あなた個人が我々と大きな事を起こしたくないという話は

知っています。それに関しては本当なのでしょう?」

 

「ああ、俺は、戦争に興味なんて無いさ」

 

今度はサーゼクスがアザゼルに問う。

 

「アザゼル一つ訊きたいのだが、どうしてここ数十年、神器(セイクリッド・ギア)の所有者を

かき集めている?最初は人間たちを集めて戦力増強を図っているのかと思っていた。

天界か我々に戦争をけしかけるのではないかとも予想していたのだが・・・・・」

 

「そう、何時まで経っても貴方は戦争しかけてはこなかった。『白い龍(バニシング・ドラゴン)』を

手に入れたと聞いた時には、強い警戒心を抱いた物です」

 

二人の意見にアザゼルは苦笑いする

 

神器(セイクリッド・ギア)の研究の為さ、なんなら、一部研究資料もお前達に送ろうか?

って、研究していたとしても、それで戦争何ざしかけねぇよ。俺は今の世界に

十分満足している。部下に『人間界の政治まで手を出すな』と強く言い渡している

ぐらいだぜ?宗教にも介入するつもりはねぇし、悪魔の業界にも影響を

及ぼせるつもりもねぇ。―――ったく、俺の信用はこんなかじゃ最低なのかよ」

 

「「それはそうだ」」

 

「「そうですね」」

 

「「その通り」」

 

「ははは・・・・・」

 

と一部苦笑を浮かべる者意外の意見が一致した。あいつどんだけ信用されていないんだよ?

アザゼルは面白くなさそうに耳をかっぽじった。

 

「チッ!四種交流を果たしてもお前らは面倒くさい奴らだ。

こそこそ研究するのもこれ以上性に合わねぇか。あー、分かったよ。

―――なら、和平を結ぼうぜ。もともとそのつもりもあったんだろう?」

 

・・・・・これで三勢力は和平を結んだのか?グレモリーたちの方を見ると・・・・・

驚愕の色を染めていた。アザゼルの平和発言がそんなに驚くものだったのか?

 

 

「ええ。私も悪魔側と『神の子を見張る者(グリゴリ)』に和平を持ちかける予定でした。

このままこれ以上、三すくみの関係を続けていても、今の世界の害となる。

いくら天使、堕天使、悪魔、そして人間と交流を果たしても小競り合いはなくなりませんですし、

本格的に和平を結ぼうかと思っていました」

 

ヤハウェの言葉に続いてサーゼクスが言う。

 

「四種の種族の交流と象徴するこの学校、町を暮らしている一般の四種の種族の間でも

小競り合いや問題が生じている」

 

「ああ、この町は良い町だな。たまに俺も来ているぜ」

 

笑みを浮かべるアザゼル。堕天使の総督も来ているんだな。

 

「それに次の戦争をすれば俺たち、悪魔・天使・堕天使は今度こそ共倒れだ。そして、

人間界にも影響を大きく及ぼし、世界は終わる。俺たちはもう戦争をもう起こせない」

 

それを決定打にしたのは兵藤家と式森家・・・・・というわけだ。

 

「―――と、こんな所だろうか?」

サーゼクスの一言で、トップたちは大きく息を吐いていた。一通りの重要話が終わった

ようだな。シルヴィアがお茶の給仕をしている中、ミカエルが成神と俺の方に視線を向ける。

 

「さて、話し合いもだいぶ良い方向へ片付いてきました。そろそろ赤龍帝殿のお話を聞いても

よろしいかな。それと、彼から色々と聞きたいこともあります」

 

「俺の場合。赤龍帝なんかの話より、どうしてオーフィスがここにいるのかよっぽどの重要だ」

 

俺の膝に座るオーフィスに怪訝な顔で向けてくるアザゼル。

成神一成はアーシア・アルジェントに顔を向けて口を開いた。

 

「アーシア。アーシアのことをミカエルさんに訊いても良いかな?」

 

「イッセーさんがお聞きしたいのでしたら、構いません。私はイッセーさんを

信じてますから」

 

最初は驚いた様子だが、承知して微笑みながら許したアーシア・アルジェント。

成神一誠はそんな彼女に感謝の言葉を言い、金髪の男性、ミカエルに顔を向けて口を開く。

 

「アーシアをどうして追放したんですか?」

 

・・・・・なんでいまその話を?成神はなにを聞きだしたい?ユーストマとヤハウェ、

ミカエルは互いの顔を見合わせて首を縦に振った。そして、ヤハウェが言いだす。

 

「それに関しては申し訳ないとしか言えません。

私が作った加護と慈悲と奇跡を司る『システム』。

これを用いて地上に奇跡をもたらしていました。悪魔祓い、十字架などの聖具へもたらす効果、

これらの『システム』を動かすためにも苦渋の決断と判断し、追放したのです」

 

なるほど、悪魔が十字架に触れるとダメージ受けるのも『システム』の影響なのか。

 

「どうして、その『システム』のためにアーシアが追放されないといけないのですか?」

 

「『システム』は万能なものではないのです。

そのため、『システム』に影響を及ぼす可能性のあるものを教会に関するところから

遠ざける必要があったのです。影響を及ぼすものの例としては、

一部の神器(セイクリッド・ギア)―――これは

アーシア・アルジェントの持つ『聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』も含まれます。

あなたの『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』、そして、『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』なども」

 

「アーシアの神器(セイクリッド・ギア)がダメなのは、悪魔や堕天使も回復できるからですか?」

 

成神一成の問いにミカエルが頷く。

 

「はい。信徒のなかに『悪魔と堕天使を回復できる神器(セイクリッド・ギア)』を持つ者がいれば、

周囲の信仰に影響が出ます。信者の信仰は我らが天界に住む者の源。そのため、

聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』は『システム』に影響を及ぼす禁止神器(セイクリッド・ギア)としています」

 

「ですので、信仰の障害となる者をどうしても『システム』に影響を与えないためにも

教会から追放せなばならなかった。―――申し訳ありません。アーシア・アルジェント、

あなたを異端とするしかなかった。」

 

ヤハウェがアーシアへ頭を下げる。とうの彼女も目を丸くしていた。

天界のトップのヤハウェが自分たちに頭を下げるなんて反応は困るのも当然か。

しかし、アーシア・アルジェントは直ぐに首を横に振り、微笑む。

 

「いえ、謝らないでください。これでもこの歳になるまで教会に育てられた身です。

悪魔に転生しても私はいま幸せを感じております。大切なヒトたちがたくさんできましたから。

それに憧れのヤハウェさまやミカエルさまユーストマさまにお会いして光栄です」

 

天使側の三人はアーシア・アルジェントの言葉に安堵の表情を見せていた。

 

「すみません。あなたの寛大な心に感謝します」

 

「ありがとうございます」

 

「ありがとうな、嬢ちゃん」

 

神と神王、天使長に感謝され、またアーシア・アルジェントが恐縮と両手と首を振って応対した。

 

「―――話は終わったか?」

 

アザゼルがタイミングを見計らって俺を見て呟いた。

 

「話が終わったんなら今度は俺の番だ。オーフィス答えてもらおうか」

 

問い詰める感じでアザゼルは真っ直ぐオーフィスを見据える。

オーフィスは何時も通り無表情でいる。

 

「俺たち『神の子を見張る者(グリゴリ)』はお前が

とある組織のトップとして君臨していることを知っている。

―――なのに、どうしてお前がここにいるんだ」

 

アザゼルが視線に敵意乗せてオーフィスに問い詰めるように話しかける。とある組織?

ああ・・・・・アザゼルも掴んでいたのか。オーフィスがいた変な集団のことを。

 

「我、抜けた。約束を守るために」

 

「―――抜けただと?」

 

怪訝な表情でアザゼルはオーフィスを見る。オーフィスはコクリと頷いて俺の顔を見上げる。

 

「誠と一香と約束した。我、イッセーと家族になる約束を守るため抜けた」

 

「・・・・・」

 

俺の顔を見詰めてくるアザゼル。サーゼクスもミカエルもセラフォルーも俺の顔を

見詰めてくる。・・・・・なんだよ。

 

「・・・・・それは本当なんだな?」

 

「我はイッセーの家族になる。これ、昔の約束。我、ずっと待っていた。

その約束を果たせて嬉しい」

 

俺と対面になるように身体を動かして俺の瞳を据えてくるオーフィス。頭を撫でると

目を細めて気持ちよさそうな表情になる。

 

「・・・・・まったく、お前ら親子にはお手上げだ。お前らの行動は予想外なことが

起きたり起こしたりする」

 

嘆息するアザゼルだが、顔をアーシア・アルジェントを見詰め出した。

 

「俺のところの部下が、そこの娘を騙して殺したらしいな。その報告も受けている」

 

ん?あいつは殺されて悪魔に転生したのか・・・・・。

 

「そう、アーシアは一度死んだ。お、俺も堕天使に殺されかけたけど、

それ以上にアーシアだ!あんたの知らないところで起きたことかもしれないが、

あんたに憧れていた堕天使の女があんたのために、アーシアを一度殺したんだ」

 

「落ち着きなさい」

 

リアス・グレモリーが成神一成に諌める。

 

「俺たち堕天使は、害悪になるかもしれない神器(セイクリッド・ギア)所有者を始末しているのは確かだ。

組織としては当然だろう?将来、外敵になるかも知れないものを事前に察知できれば

始末したくなる。それでお前は死んだ。理由は何の才能もない人間のお前では赤龍帝の力を

使いこなすことができずに暴走させて俺たちや世界へ悪影響を与えかねないからだ」

 

「おかげで俺は悪魔だ」

 

「嫌か?少なくとも周囲の者たちはお前が悪魔になったことを喜んでいると思うぜ」

 

俺としては悪魔が嫌いだ。だから、死んでも悪魔に転生させられたら俺はもう一度死んでやる。

 

『その時は俺が喰らってやるぜ』

 

了解、頼むぞ。

 

「い、嫌じゃない!皆がいいヒトで、優遇してもらっているのも分かる。けど!」

 

「今さら俺が謝ってもあとの祭りだ。

だから、俺は俺しかできないことでお前たちを満足させようと思う」

 

なんだ・・・・・アザゼル、お前は何をしようとするんだ?

 

「さて、そろそろ俺たち以外に、世界に影響及ぼしそうな奴らへ意見を訊こうか。

無敵のドラゴンさまにな。まずはヴァーリ、お前は世界をどうしたい?」

 

アザゼルの問いかけにヴァーリは俺を見て笑む。

 

「私は強い奴と戦えればいいさ。特に彼、一誠とね。

―――愛しい男と戦えると思うとゾクゾクする」

 

うわ・・・・・。ヴァーリの奴、瞳がギラギラと怪しく煌めいて輝いているよ。

 

「じゃあ、赤龍帝、おまえはどうだ?」

 

アザゼルの視線は成神一成に向いた。こいつのことだ・・・・・きっとアレかもしれないや。

 

「えっ、えーと、いきなりそんな小難しい話しを振られても・・・・・」

 

「では怖ろしいほど噛み砕いて説明してやろう。俺らが戦争したら、

リアス・グレモリーを抱けないぞ?」

 

「・・・・・え」

 

「なっ・・・・」

 

・・・・・何言ってんの?この堕天使は、成神一成もリアス・グレモリーも唖然となっているし。

 

「だが、和平を結べばその後大事になるのは種の存続と繁栄だ」

 

「種と・・・・・繁栄!?」

 

いやらしい顔つきになった赤龍帝・・・・・こいつら、殺していいかな。

 

「おおよ。毎日リアス・グレモリーと子作りに励むことができるかもしれない」

 

「な、何てことを・・・・・っ!」

 

アザゼルの発言にリアス・グレモリーは頬を朱に染めて非難する。

シルヴィアも呆れたとばかり、溜息を吐いた。

 

「―――――アザゼル、訂正してもらおうか」

 

「あ?訂正だと?」

 

サーゼクスがいきなりそう言いだした。あ、何かやな予感・・・・・。

 

「リアスは兵藤一誠くんと婚約を結んでいる。悪いが赤龍帝と

子作りは兄として許すことができない」

 

「なっ―――――」

 

今度こそ、リアス・グレモリーの顔が最大に真っ赤になった。

 

「・・・・・」

 

さらに、兵藤源氏が俺を鋭く睨んできた!な、なんで!?

 

「(か、和樹・・・・・・!)」

 

「(ごめん、僕でもどうすることもできないよ)」

 

申し訳なさそうに言わないでくれ!あの人、めっちゃ俺を睨んでいるって!

 

「おいおい、サーゼクス。俺んとこのシアだって一誠殿と婚約を結んでいるんだぜ?

忘れちゃあ困るってもんよ」

 

「やだね神ちゃん。家のネリネちゃんとリコリスちゃんも一誠ちゃんの婚約者だよ?」

 

「(―――あんたら、火に油を注ぐようなことをしないでくれよ!?)」

 

もう、冷や汗がダラダラ流れてしょうがないって!

 

「へぇ・・・モテモテなんだね。兵藤一誠くん♪」

 

「・・・・・あんた、面白がっているだろう」

 

「うふふ♪ルシファーたちにも教えよっと♪」

 

クスクスと可愛く笑うレヴィアタン。

くそ、他人事だからってこんなことが遭っていいのか・・・!?

 

「ミカエル、天界の未来は安泰のようですね」

 

「そうですね、ヤハウェさま」

 

「ちょっと待とうか、そこの二人。俺とシアと結ばれてほしいのか?」

 

「「ええ、是非」」

 

・・・・・マジかよ。ガクリと頭を垂らした時―――変な感覚が襲ってくる。

―――体の機能が一瞬停止する。

 

―――○●○―――

 

「あー、結局こうなるのか」

 

頭をポリポリと掻く俺。職員会議実の室内は少しだけ変わっていた。

動ける者と停まっている者に別れている。

当然、ヴァーリは動ける方だ。俺と和樹、龍牙、イリナとゼノヴィアも当然として、

グレモリー眷属のアーシア・アルジェントと姫島朱乃が停まっており、

ソーナ・シトリーと眼鏡を掛けている女子生徒も停まっている。ついでに天使の女もだ。

 

「で、アザゼル。どうなってる?」

 

「はっ、簡単だ。―――テロだよ。外見てみろ?」

 

アザゼルが顎で窓の方を示す。俺は会議室のガラス窓に近づき―――。カッ!突然、

閃光が眼前で広がる。同時にこの新校舎が揺れる。

 

「何時の時代も勢力と和平が結ぼうとすると、

それをどこぞの集まりが嫌がって邪魔をしようとするもんだ。さて、兵藤一誠」

 

「なんだ?」

 

「『結局こうなるのか』とお前は言ったな?お前、こんなことになることを知っていたな?」

 

『っ!?』

 

アザゼルの問いかけに動ける者たちが目を見開いて、視線を俺に向ける。

 

「ああ、知っていた」

 

当然とばかり告げた。すると、サーゼクスが口を開いた。

 

「なるほど・・・だからリアスの眷属であるギャスパーくんを護衛に当たらせるべきだと

警告したんだね?」

 

「そういうことだ。でも、俺とリアス・グレモリーはミスをした。

俺の場合、ギャスパー・ヴラディが神器(セイクリッド・ギア)を使いこなせないなんて思いもしなかった。

そしてリアス・グレモリーは警告したにも拘わらず、護衛を一人だけにしてしまったことだ」

 

「・・・・・」

 

申し訳なさそうにリアス・グレモリーは顔を曇らせる。まあ、俺もミスしたんだ。お互い様だぞ。

 

「一誠殿、どうしてそのことを俺たちに教えてくれなかった?」

 

「そうだね。事前に告げてくれたら対処できたよ」

 

ユーストマとフォーベシイが厳しい目つきで俺に問いかけてくる。はいはい、説明するって。

 

「言ったら言ったで、思いっきり厳重な警備にするだろう?そしたら、

襲撃してくる奴らが自分たちの作戦に気付いていると判断して、作戦を変えてくるかもしれない。

こっちも対処することが難しくなるってことだよ」

 

「それで、この襲撃の黒幕は誰なのか知っているんだね?」

 

「知っているけど、俺もそうだがアザゼルも知ってるんじゃないか?」

 

レヴィアタンの質問に俺はアザゼルに視線を向けた。当のアザゼルは肩を竦める。

 

「俺はこのテロの組織の名前と背景ぐらいだよ。

つい最近だが、それ以前からうちの副総督シェムハザが不審な行為をする集団に

目を付けていたのさ。そいつらは三大勢力の危険分子を集めているそうだ。

なかには禁手(バランス・ブレイカー)に至った神器(セイクリッド・ギア)持ちの人間も

含まれている。『神滅具(ロンギヌス)』持ちも数人確認してるぜ」

 

「その者たちの目的は?」

 

ミカエルがそう訊く。アザゼルは溜息を一つ吐いて口を開く。

 

「破壊と混乱。単純だろう?この世界の平和が気にいらないのさ。―――テロリストだ。

しかも最大級に性質が悪い」

 

ああ、だが、それは昔の話しだがな。

 

「組織の頭は『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』と『白い龍(バニシング・ドラゴン)』の他に強大で

凶悪なドラゴン。お前のことだ。『禍の団(カオス・ブリゲード)』のトップに君臨しているオーフィス」

 

『―――ッ!』

 

アザゼルの告白に俺とオーフィス、イリナとゼノヴィア以外の全員が絶句していた。

 

「テロリストの親玉が堂々とこの会談に参加しているんだ。最大限に警戒して何の目的で

この場にいるのかと思えば・・・・・あいつらとの約束を果たすためにテロリストから抜けて

あいつらの子供の家族として一緒に来た。・・・・・と聞いて心底呆れたぞ。

今度はお前さんの番だ兵藤一誠。知っていることを全て話してもらうぜ?」

 

「はいはい、分かってるよ。んじゃ、簡単に説明する。外にいるのは魔術師たちだが、

今回の襲撃の黒幕は―――魔王レヴィアタンと関係している奴だ」

 

「・・・・・え?」

 

私・・・・・?と信じられないと呟く彼女に肯定と示して頷く。

 

「アザゼルが言ったテロリストの組織、禍の団(カオス・ブリゲード)に危険分子が三つも分かれている」

 

「その三つとはなにかね?」

 

「一つ、戦争が中途半端に終わってしまった事に不満を抱く悪魔たちの集まり、

その集団の名は『真魔王派』、

二つ、英雄の魂を引き継ぐ者、英雄の末裔、英雄の子孫ばかりの人間の上に

神器(セイクリッド・ギア)神滅具(ロンギヌス)の所有者ばかりの集団、『英雄派』。

そして、最後の一つは―――」

 

真っ直ぐ視線をあいつに向ける。―――すでにあいつは青い翼を展開している。

 

「『ヴァーリチーム』。チームには先代孫悟空の力を受け継いだ猿の妖怪の美猴、

SSランクのはぐれ悪魔、元猫魈の妖怪の黒歌、

英雄アーサー・ペンドラゴンの子孫、アーサー・ペンドラゴンとルフェイ・ペンドラゴン。

それらを束ねるチームリーダは・・・・・お前だよな、ヴァーリ」

 

苦笑を浮かべて白龍皇ヴァーリにそう言った。あいつは、ヴァーリは笑みを浮かべて口を開いた。

 

「ああ、そうだよ。一誠」

 

『―――っ!?』

 

動ける者たちは目を丸くして臨戦態勢になった瞬間。俺の耳に聞き慣れない声が飛び込んでくる。

 

『見つけましたよ。オーフィス』

 

カッ!声と同時に会議実の床に魔方陣が浮かび上がる。これは・・・・この魔方陣は―――!?

 

「そうか。そう来るわけか!今回の黒幕は―――」

 

舌打ちするサーゼクス。あいつも魔方陣を見て誰が来るのか理解した様子だ。

会議室の床に現れた魔方陣。それを見て、トップの面々は驚愕していた。アザゼルは笑い、

サーゼクスは苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

 

「・・・・・レヴィアタンの魔方陣」

 

ポツリとレヴィアタンが呟く。魔方陣から現れたのは、一人の女性。胸元が大きく開いていて、

深いスリットも入ったドレスに身を包んでいる。

 

「ごきげんよう、現魔王のフォーベシイ殿」

 

不敵な物言いで、女はフォーベシイに挨拶をする。

 

「先代レヴィアタンの血を引く者。カテレア・レヴィアタン。これはどういうことだ?」

 

「真魔王派の者たちはほとんどが『禍の団(カオス・ブリゲード)』に協力することに決めました」

 

今回の襲撃の首謀者、カテレア・レヴィアタンの登場だ。

 

「魔王の兄弟姉妹の確執が本格的になったわけか。悪魔も大変だな」

 

「本当だな。問題を解決しないままで放置していたからこんな事に成ったんだろう」

 

俺とアザゼルは他人事のように笑うだけだ。

 

「カテレア、それは言葉通りと受け取っていいのだな?」

 

「サーゼクス、その通りです。今回のこの攻撃も我々が受け持っております」

 

「―――クーデターか」

 

だな、これはクーデターに間違いない。現魔王派に対する真魔王派の反乱だ。

 

「・・・・・カテレア、なぜ?なぜこんなことを・・・・・」

 

体を震わせてレヴィアタンが漏らす。

 

「リヴァ、あなたの考えは真の魔王ではないの。なぜ、他の勢力と交流する必要があるの?

なぜ、他の勢力と和平を結ぼうとするの?

―――悪魔は、私たち悪魔はそんな弱い存在ではないハズ!」

 

リヴァ・・・?レヴィアタンの別の名なのか・・・・・?怪訝に思っていると、

コツコツと俺=オーフィスに近づくカテレア・レヴィアタン。

 

「オーフィス。あなたの願いを叶えるために我々が集結したのです。そのためにも我々に力を

与えてもらえねばグレートレッドを次元の狭間から追いだすことはできません」

 

「我の願いは叶った。あの場所には戻らない」

 

「何を言っているのです?まだ何もしていないというのにどうして願いは叶ったと言うのですか」

 

眉根を寄せて理解できないとカテレア・レヴィアタンが尋ねた。

オーフィスは首を横に振り言った。

 

「我の願い、イッセーと家族になること。次元の狭間で静寂を得る、この願いよりも大切」

 

「イッセー・・・・・?」

 

彼女は俺の顔を見据えた。その瞬間、目が丸くなった。

 

「お前は・・・・・ヴァーリの仲間の・・・・・」

 

「あー、訂正させてもらうぞ。俺はヴァーリの仲間じゃない。

オーフィスに拉致られて仕方無くあの場にいただけだ」

 

「なっ・・・・・!?」

 

「―――さてと、現れて早々だけど拘束させてもらうぜ?」

 

シュバッ!

 

カテレア・レヴィアタンの全身に縄で縛った。

ライザー・フェニックスの眷属悪魔、ユーベルーナと同じ縛り方、亀甲縛りだ。

 

「くくく、良い眺めだなぁ?」

 

「お、おのれ・・・・・こんなもの―――!」

 

「よっと」

 

縄を引っ張れば、カテレア・レヴィアタンの全身に巻きつく縄が痛感を与える。

 

「うっ・・・・・!」

 

「ふふふふふ・・・・・悪魔の歪む顔は見ていて飽きないなぁー♪」

 

ほれほれ、と至るところに縛った縄を引っ張って、

痛覚を感じるカテレア・レヴィアタンの顔を見て楽しむ。

 

「・・・・・あんな可愛かったあの子が、怖い子になっちゃっているよ・・・・・」

 

「悪魔を虐めることが愉しんでいますね・・・・・」

 

「あの二人を殺された悪魔と堕天使に抱く心が、あいつをああまで変えてしまったようだな」

 

「い、一誠くん・・・・・」

 

後ろで何か言ってるな・・・・・まあ、いいか。

 

「ほら、これで終わりっと」

 

グイッ!

 

「あっ、あああああああああああああああああああああああああああ!」

 

カテレア・レヴィアタンが目を大きく開いて、口から大声を発した。

目から涙を流し、いやいやと首を横に振る。

 

「やだ、やだ!これ以上止めて・・・!堕ちちゃう、クルゼレイじゃない人間の男に堕ちちゃぅ!」

 

「―――いいぜ、堕ちろよ。この淫乱の雌豚が」

 

「ひっ、やだ、ほ、本当に、やだ、い、イク、私、イックゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」

 

下半身から盛大に液体を迸らせて鳴き叫ぶカテレア・レヴィアタン。

ガクガクと縛られた体が痙攣を起こして―――気絶した。そんな彼女を見下ろして頷く。

 

「うん、朱乃と考えた調教の仕方がここまで効くとは凄いな」

 

一仕事終えたとばかり、額に腕で拭う。

 

「・・・・・あれ、どうして俺から遠ざかってんだ?」

 

気付けば、サーゼクスたちが窓際に集まっていた。まるで何かに恐れているようで、

体を激しく震わせていた。

 

「い、一誠くん・・・・・少し、やり過ぎじゃないかな。敵とはいえ相手は女性だよ?」

 

式森和馬が引き攣った顔で俺に言う。そうか?

 

「悪魔と堕天使限定なんで問題ないよ。例え、男でも女でもこんな感じで・・・・・ね」

 

「お、俺までもそうなっちまうのかよ・・・・・・」

 

アザゼルが顔を青ざめる。お前の言動によってだがな。

 

「さてと、表の魔術師たちを片付けるとしようか」

 

スタスタと壁に向かって歩き、蹴り壊した。軽やかに外へ出て地面に着地する。

 

「―――さあ、宴の始まりだ」

 

カッ!

 

「こんなに相手がいるんだ。お前も遊びたいだろう?―――行って来い」

 

銀色に輝く魔方陣、その魔方陣が一瞬の閃光を放つ!

 

ギェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

光と共に三本の首を持つ四肢のドラゴンが現れる。全身が濁った銀色を輝かせて久々の現世と、

歓喜で盛大に咆哮をする三頭龍の名前は―――。

 

 

千の魔法を駆使するドラゴン。『魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)』アジ・ダハーカ

 

―――○●○―――

 

『ふははは!久々の現世!貴様ら、一人残らず喰らってやる!』

 

哄笑を上げながらあいつは学校に現れる魔術師たちに襲う。あー、もう一方的な虐殺だな。

 

「―――で、お前は俺と戦うんだろう?ヴァーリ」

 

空に見上げれば、白い全身鎧を纏う俺の幼馴染がいた。

 

「ああ、勿論だよ一誠。ふふっ、まさか・・・邪龍まで抱えていただなんて私は驚いたよ。

他にもドラゴンがいるのかな?」

 

「ああ、俺の中に数匹、ドラゴンを宿している」

 

「―――ハハハ!凄いや、一誠!やっぱり、すごい!」

 

両腕を広げて笑い始めるヴァーリ。

 

「やっぱりキミは私にとって越えられない存在だ。

だからこそ、それを乗り越えて私は強くなりたい!さあ、一誠。

あの深紅の鎧をもう一度見せてくれ!白龍皇である私はどこまでキミに届くのか試したい!」

 

青い翼を最大に広げて臨戦態勢に入る幼馴染。・・・・・だとよ、ガイア?

 

『お前の幼馴染とやらは、熱烈な求愛をするものだな。物凄く、腹立たしいぞ』

 

そう言うなって。―――俺たちの愛の力をヴァーリに見せると思って力を貸してくれ。

 

『ふふ・・・・・愛の力か。―――いいだろう。いくぞ、一誠!』

 

 

カッ!

 

突然の真紅の光。真紅の光は俺の全身から発したのだった。

 

『我、夢幻を司る真龍なり』

 

内にガイアから声が聞こえた。その声に続くように俺も発する。

 

「我、夢幻を司る真龍に認められし者」

 

『我は認めし者と共に生き』

 

「我は真龍と共に歩み」

 

「『我らの道に阻むものは夢幻の悠久に誘おう』」

 

真なる深紅龍神帝(アポカリュプス・クリムゾン・ドライブ)ッ!!!!!

 

最後は力強く言葉を発した次の瞬間。深紅の光が、より一層に輝きを増した。

深紅の光は鎧と化と成り、俺の全身を包む。

 

「さあ―――戦おうか、白龍皇!」

 

「ああ―――戦おう、一誠!」

 

背中に深紅の翼を生やしてヴァーリに接近する。

 

「「はぁっ!」」

 

お互い手の平から魔力を具現化させて撃ち合う。

俺たちの魔力の塊がぶつかり合うと爆発が生じる。

それでも俺たちは気にせず、次々と魔力を放って攻撃する。しばらく魔力合戦をしていると、

ヴァーリがこっちに光速で近づいてきた。

 

「ヴァーリ、尻尾でも攻撃できるんだけど知ってたか?」

 

深紅の尾が一気に巨木のように膨れ上がり、ヴァーリを薙ぎ払った。

 

『Divide!』

 

「ん?」

 

いきなり俺の力が半分に減った。どうなってる?

 

「ははは・・・飾りだと思っていたのが攻撃にも使えるんだね。教えてくれてありがとう。

代わりに白龍皇の能力を教えるよ」

 

粉砕したと思っていたヴァーリの鎧が修復していく光景をマスク越しで見て、

ヴァーリの話しを聞く。

 

「『白龍皇の鎧《ディバイ・ディバイディング・スケイルメイル》』の能力は触れた相手の力を半減し、その力を私の糧とする。それが白龍皇の力だよ」

 

「説明ありがとう。なら、半減した力を倍にして増やそうか」

 

左籠手を違う籠手に変え、装着し、能力を発動する。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

「―――そうだ、その能力を奪おうとしよう。その能力はとても便利そうだからな」

 

「なに・・・・・?」

 

半減された力を元に戻した上に何倍にも増加して、ヴァーリに接近した。

 

ガシッ!

 

「貰うぞ、お前の能力を!―――『強奪』!」

 

Seizure(シィージャ)!』

 

―――バッ!

 

俺の背中にヴァーリと同じ青い翼が展開した。

 

「っ!私の『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』が奪われただと!?」

 

「正確には能力をコピーした。だから、お前の白龍皇の能力を―――」

 

『Divide!』

 

「使えるわけだ」

 

「な・・・・・っ!」

 

「はっ!」

 

思い切りヴァーリの腹を抉るように突き刺した。一拍して、

 

―――ドッゴオオオオオオオオオンッ!

 

グラウンドに向かってあいつは落ちた。俺も下に降りて様子を見守と、

 

「・・・・・はははっ」

 

笑い声が聞こえた。

 

「一誠の拳は効くなぁ・・・・・それに私と同じ能力を使えるなんて、アザゼルが驚くよ」

 

「どうでもいいな」

 

右手に幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)を装着して構える。足に力を籠めて

一気にヴァーリに向かったら、あいつは無限に等しい魔弾を放って来る。

 

Invalid!(インバリッド)

 

右手の籠手を前に突きだして能力を発動するとヴァーリの魔弾を全て消失した。

そのままヴァーリの腹部に突き刺すと『白龍皇の鎧(ディバイン・ディバイング・スケイルメイル)』が

一瞬で消えて生身のヴァーリが俺の視界に飛び込んで俺の拳は生身の身体の腹部に直撃した。

 

「ごはっ!?」

 

口から鮮血を吐きだす。拳を引くと身体を曲げて後ろに数歩下がり口の端から

血を流しながらヴァーリは楽しそうに笑う。

 

「ハハハ、スゴイな!流石は新種の神滅具(ロンギヌス)!俺の神器(セイクリッド・ギア)を消した!」

 

「まあ、それだけじゃないんだけどな」

 

白い鎧を再び纏うヴァーリに詰め寄る。しかし、ヴァーリは俺の右手に触れられないように

翼を羽ばたかせて空へ飛翔して俺から遠ざかった。

 

「しかし、無効化はその右手に触れないと発動できないようだな!

その右手で触れられなければあらゆる力を―――」

 

Invalid!(インバリッド)

 

パキィィィィンッ!

 

「―――はっ?」

 

空中に浮かぶヴァーリの鎧が音声と共に消失した。

俺は不敵の笑みを浮かべてヴァーリに説明する。

 

「その考えは外れだ、ヴァーリ。何も触れないと効果が発動しない訳じゃないんだ。

相手を無効化にする方法なんて他にもある。例えば触れた相手が力を使う度に

無効化の効果が発動したり」

 

校庭に着地したヴァーリの傍に一瞬で近づき腕を掴む。あいつは俺の顔に

手を突き出して魔力を放とうとするが。

 

「っ!魔力が出ない・・・・・!?」

 

「この籠手に掴まれた対象は力を使うことができなくなる」

 

「・・・・・おもしろい。本当に面白い・・・・・それでこそ私が好意を抱く男だよ」

 

「・・・・・追い詰められているのにも拘らずこの状況を楽しむとか戦闘狂の

名に恥じない奴だな・・・・・」

 

深く溜息を吐く。右手に真紅のオーラを纏ってヴァーリにトドメとばかりの一撃を放とうと

したとき―――。夜空に浮かぶ月をバックに人影が一つ、俺のもとへ舞い降りた。

神速で俺とヴァーリの間に入り込んでくる。・・・・・三国志の武将がきているような

鎧を身に纏った男だ。―――って、こいつは、美猴じゃん!

 

「ヴァーリ、迎えに来たぜぃ」

 

爽やかに美猴は気軽にヴァーリへ話しかける。

 

「美猴か。何をしに来た?」

 

ヴァーリは口元の血を拭いながら美猴に問いかけた。心外とばかりに美猴は呆れた顔をする。

 

「それは酷いんだぜい?相方がピンチだっつーから遠路はるばるこの島国まで来て

やったのによぅ?他の奴等が本部で騒いでいるぜぃ?北の田舎神族と一戦交えるから任務に

失敗したのなら、さっさと逃げ帰って来いってよ?

カテレアは神と堕天使の総督と魔王たちの暗殺に失敗したんだろう?

なら観察役のお前の役目も終わりだ。俺っちと一緒に帰ろうや」

 

「・・・・・そうか、もう時間か」

 

「なんだ、帰るのか?」

 

鎧を解いてヴァーリに問う。彼女は頷く。

 

「ああ、残念ながらな。なんなら一誠も来るか?」

 

その誘いに俺は苦笑して首を横に振る。

 

「いや、俺はお前の帰る場所で待っているよ。

いつか、組織から抜け出したお前を出迎えるためにさ」

 

「一誠・・・・・」

 

「また会おう、ヴァーリ」

 

別れの挨拶をすませ、アジ・ダハーカのところにでも行こうかと、思って足を運ぼうとした。

だが、ヴァーリに呼ばれ、振り向くと―――、

 

「「・・・・・」」

 

俺はヴァーリに唇を奪われた。首に腕を回され隙間なく密着して、彼女の口から侵入してくる舌に

口内が蹂躙される。俺の舌を激しく絡めてしばらくの間、俺はヴァーリの成すがままにされる。

 

「・・・・・はぁ」

 

彼女と銀色の糸ができるほどキスを終え、蕩けた瞳を覗かせ、

顔は紅潮して熱っぽい息を吐く彼女。

 

「一誠・・・・・私はお前を愛している」

 

「ヴァーリ・・・・・」

 

「待っててくれ。いつか私はお前のもとに帰る。そしたら・・・・・私と結婚してくれ。

私の愛しい一誠」

 

ゆっくりと俺から離れ後ろに下がり、美猴の隣に佇んだ。

 

「戻ろう、美猴」

 

「あいよ。んじゃあな、兵藤一誠!またいつか会おうぜぃ!」

 

ケタケタと笑いながら美猴は、棍を手元に出現させるとクルクルと器用に回し、

地面に突き立てた。刹那、地面に黒い闇が広がる。

それはヴァーリと美猴を捉えるとズブズブと沈ませていく。

 

「ヴァーリ」

 

「なんだい?」

 

「―――――」

 

別れの挨拶と俺はヴァーリに言った。そしたらヴァーリは目を丸くした途端に、

ほんのりと顔を赤くし、嬉しそうな顔をして、美猴と共にこの場からいなくなった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode9

 

ヴァーリが去り、学校に現れた魔術師たちはあらかた、アジ・ダハーカの腹の中に収まった。

 

「少しは満足したか?」

 

『神と魔王、堕天使の親玉も戦えれば満足だ』

 

「うん、ダメだからな」

 

まだまだ満足し足りなかったようだった。聞いた俺がバカだったかもしれない。

 

ザッ・・・・・。

 

「―――兵藤一誠くん」

 

「ん?」

 

呼ばれて振り向くと、皆がいた。

 

「これは、どういうことなのですか?」

 

「どうとは?」

 

ミカエルの問いに分からないと首を傾げた。

 

「邪龍のことです。『魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)』アジ・ダハーカ。

太古の昔に退治されたと聞き及んでいました。

なのになぜ、あなたが邪龍を召喚することができたのかと聞いているのです」

 

「別に、アジ・ダハーカは退治されていなかったぞ。

封印されているところ俺が解いて、迎え入れた」

 

『その前に兵藤一誠と戦って、滅ぼされる寸前で倒されたがな』

 

「あの力じゃないと、お前に勝てないんだよ。勝ったとは思えないけどよ」

 

昔のことを思い出し、苦笑を浮かべる。

 

「あの力・・・・・?何のことだ?」

 

「教える気はないよ。いくら父さんと母さんの友達だからと言ってそれとこれは別の話しだ。

俺はまだ、信用と信頼をしていない。俺を―――父さんと母さんの子供と認識するまではな」

 

「・・・・・何言っているんだ?」

 

「俺は俺だ。兵藤一誠だ。兵藤誠と兵藤一香の子供と、

あの二人の子供だからと優遇されても嬉しくはない」

 

皆が沈黙した。

 

「確かに俺はあの二人の子供だ。でも、いつまでもあの二人の子供だからと接せられると、

嫌で堪らないんだ。俺を俺として見てくれないなんて、嫌悪感を抱く。だから―――――」

 

俺の周囲に巨大な様々な色の魔方陣が出てくる。

 

「俺はグレートレッドとオーフィス、このドラゴンたちと名を轟かせてみたい」

 

『っ―――!?』

 

アジ・ダハーカとオーフィスを含め、八体のドラゴンが出現する。

 

「こ、こいつらは・・・・・!」

 

「バカな・・・・・他にも邪龍の筆頭格のドラゴンまでいるとは・・・・・!?」

 

皆が驚くがどうでもいいと思った。こんなんじゃ、俺を俺として見てくれない。

 

「一誠くん・・・・・キミは一体・・・・・」

 

「兵藤一誠、邪龍や伝説のドラゴンを宿す人間だ。それ以上でも以下でもないよ」

 

指を弾き、皆を俺の中に戻す。

 

「それじゃ、俺は帰らせてもらう。皆、帰るぞ」

 

オーフィスを手招いて、肩に乗っからせる。青白い六対十二枚の翼を展開して、宙に―――。

 

「待て」

 

ここにきて、今まで黙っていた男が口を開いた。

 

「・・・・・なんだ?」

 

兵藤源氏、その男が近づいてくる。

 

「・・・・・」

 

運んでいた足が俺の前に停まった。

 

「一誠よ。お前は兵藤家に戻るつもりはないか?」

 

「・・・・・なんだと?」

 

「誠と一香が死に、お前はどんな生き方をしたのか分からないが、

お前の潜在能力は凄まじいようだ」

 

「・・・・・」

 

何を言いたいんだ?と怪訝に思っていると、兵藤家当主の妻が近づいてきて口が開いた。

 

「当主が言いたいのは、あなたは兵藤家次期当主になれる可能性を秘めた器だと仰りたいのです」

 

「・・・俺が、兵藤家の当主・・・・・?」

 

「ええ、そうよ。兵藤家に戻れば正式に修行だってできるし、あなたはより強くなれる。

あなたと同い年の子たちも強いわ。あなたの戦いぶりを見てあなた自身も

悪魔で例えれば、最上級悪魔並みに強いと確信しました」

 

コカビエルも似たようなことを言っていたな。

 

「それにあの子たちの婚約を決めないといけないのです」

 

「・・・・・あの子たち?」

 

「覚えていますか?悠璃と楼羅、二人の少女を」

 

「っ!?」

 

久しく聞いた懐かしい名の少女たち。あの二人が結婚・・・・・・?

 

「あなたは今まで知らなかったでしょう。あの二人は人王の姫なのです」

 

「人王の・・・・・姫?」

 

『冥界の魔王の娘、天界の神王の娘、そんで、

この人間界の王の娘と結ばれば、三世界の王となれるんだぜ?』

 

―――っ!

 

数ヵ月前、俺を眷属悪魔にしようとした悪魔の言葉が脳裏に過った。

そうか、人王という存在は―――兵藤家のことだったのか・・・!

 

「あの子たちと結ばれた瞬間、人間界の王として君臨するのです。

それは兵藤家だけじゃなく、他の者でも可能です」

 

「な・・・・・っ!?」

 

「人王になるための儀式ともいえる戦いは夏に行われる予定です。

テレビにも放送されますでしょうし、もしあなたが人王になりたいのであれば、

参戦してください。ルールは後に全世界に知らせます」

 

「兵藤家の者として、参加するのだぞ一誠」

 

兵藤源氏がポンと俺の頭に手を置いた。

 

「・・・・・大きくなったものだな。あんな弱虫だった頃のお前と比べるとえらい違いだ」

 

「・・・・・」

 

「では、帰るとしよう。和馬よ、送ってくれ」

 

「分かりました。それじゃ和樹、一誠くんをサポートするんだぞ」

 

それだけ言い残して兵藤家と式森家の面々は、

足元に出現した魔方陣の光と共に姿を消したのだった。

 

「・・・・・」

 

踵を返して、翼を動かして空へ飛翔する。

 

―――○●○―――

 

―――数日後。

 

「・・・・・で、どうしてお前がここにいるんだ」

 

「なーに、俺はこの学校の教師として務めることになったんだ。

挨拶とばかりお前に会いに来たのさ、兵藤一誠」

 

放課後、教室に入ってきた一人の教師に、俺たちは驚いた。

なんせ、相手は堕天使の総督アザゼル。着崩したスーツ姿で登場した男に怪訝な顔で問えば、

教師になっただと?

 

「オカルト研究部顧問の先生としてな。だからお前らも、よろしく頼むぜ」

 

『はぁ・・・・・』

 

なんともいえない返事で返す俺たち。

 

「さーて、兵藤一誠」

 

「なんだよ・・・・・しかもその気持ち悪い笑みは止めろ」

 

「気持ち悪いは余計だ。お前さんをちーとばかし調べさせてほしいんだわ。

特に神器(セイクリッド・ギア)をよ」

 

ニヤリと笑みを浮かべ、片手に小型の魔方陣を展開する怪しい中年男性。

 

「一香の神滅具(ロンギヌス)を受け継いだと聞いたんだが、

青白くなっている理由が知りたくてしょうがないんだ。少しばかり展開して見せてくれよ。

あと、新種の神滅具(ロンギヌス)の方もな」

 

「・・・・・あんた、もしかして神器(セイクリッド・ギア)マニアか?」

 

「おうよ、そんでもって人工の神器(セイクリッド・ギア)も作っているんだぜ」

 

人工の?それは凄いな。

 

「まあ、俺も気になっていたし・・・・・少しだけだぞ」

 

バサッ!と青白い翼を十二枚展開して大天使化になった。

 

「んじゃ、調べさせてもらうぜ♪」

 

なんか、嬉しそうに言うアザゼルだった、

 

「・・・・・んー、なるほどな。こいつは珍しいな」

 

しばらくして、アザゼルが小型の魔方陣を消した。どうやら何か分かったようだ。

 

「この神器(セイクリッド・ギア)、通常より強い亜種になっているぞ」

 

「亜種?この翼が?」

 

「ああ、俺も見るのが初めてだ。この神器(セイクリッド・ギア)の亜種版はよ」

 

ふーん、亜種に変化したのか・・・・・。

 

「一つ聞くが、お前は禁手(バランス・ブレイカー)状態でどれぐらい戦える?」

 

アザゼルの問いかけに俺は答える。

 

「個々によって違うが、最低でも三ヶ月は保てる。

使い慣れている『熾天使変化(セラフ・プロモーション)』なら一年は保てる」

 

「さすがと言うべきか。そんで、使い方は分かってんのか?」

 

「父さんと母さんの神器(セイクリッド・ギア)の本来の使い方とは全く違うと思うけど、

色々と模索している。他の神滅具(ロンギヌス)もな」

 

「・・・こりゃ、俺が鍛える必要はなさそうだな」

 

「いまさらいらない世話をされてもな」

 

肩を竦める。

 

「・・・・・もしかしたら、お前を狙って襲いかかる輩が出てくる可能性もありそうだな」

 

「その時は必ず殺してやる」

 

「殺すな。俺たちにとってもあいつを捕えたいんだよ」

 

「関係ない。俺はそう思って今まで生きていたんだ」

 

アザゼルは徐に「はぁ・・・・・」と深い溜息を吐きだした。

 

「復讐してもなんにもならんぞ」

 

「理解している上でだ」

 

翼を仕舞いながら言う。

 

「・・・・・そうかよ。まあ、お前がそう言うんなら止めやしねえ」

 

呆れ顔で嘆息するアザゼルは俺を見詰める。

 

「だが、復讐の権化と化だけはなるなよ。

お前を止めるのに魔王全員でやらないとダメっぽそうだからな」

 

「保険として神も予約しておいた方がいいんじゃないか?俺、止まる気はないからさ」

 

「・・・・・ダメだこいつ、何とかしないと」

 

頭を抱えるアザゼル。失礼な、俺は言ったことを本気でやる方なんだ。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・清楚?」

 

「ダメ・・・・・だからね?」

 

「は?」

 

「・・・・・」

 

むー、と俺を睨むように見詰めてくる清楚。

 

「いや・・・・・清楚?」

 

「・・・・・」

 

「えー・・・・・」

 

―――数分後、

 

「努力するから、その訴えるような目を止めてくれ・・・・・」

 

とうとう俺が折れた。

 

「約束だよ・・・・・?」

 

「・・・・・努力する」

 

「ダメ、絶対にならないで」

 

「・・・・・」

 

清楚・・・・・お前はなんだそこまで俺のことを・・・・・。

 

「くくく、お前でも女には敵わないってことか。こいつはいい」

 

「・・・・・何が可笑しいのかな?」

 

ビシッ!

 

どこからともかく取り出した縄を思いっきり引っ張って強度を確かめた。

そんな俺にアザゼルが後ずさった。

 

「ちょ、おまっ、その縄を一体何に使うつもりだ!?」

 

「んー、調子に乗っているどっかの堕天使でも縛ろうかなって」

 

「じょ、冗談じゃねっ!?」

 

ダッ!とアザゼルが青ざめた顔で教室からいなくなった。

おいおい・・・・・逃げたら―――追いかけたくなるだろう?

 

「あはははー♪待てー♪」

 

俺もアザゼルを追い掛ける。ターゲットは・・・・・もう下か。

ふふふっ・・・・・・。足元に穴を広げて俺は穴の中に落ちる。

 

「みぃーつけた」

 

「んなっ!?」

 

「はっ!」

 

縄を放った。狙い違わず、アザゼルの体に巻き付いた―――が、

 

「縛られてたまるか!」

 

六対十二枚の黒い翼を展開して、縄を無残に切り裂いた。

 

「へぇ・・・・・抵抗するんだ?」

 

「当たり前だ!お前、あの後のカトレアがどうなったか知らないだろう!」

 

あの後のカテレア?それは知りたいな。

 

「ルシファーたちは困惑しているぞ。

カテレア・レヴィアタンが全身に縄を縛られたまま・・・・・」

 

そう言いかけたあいつは、途端に体を震わせた。

 

「いや、これ以上は言えねえ。俺もあんまり言いたくもない」

 

「―――へぇ?」

 

なんか、面白いことを聞いたな。

それじゃ、目の前の堕天使を縛ったらカテレア・レヴィアタンの二の舞となって見られるのかな?

 

「全力でお前を捕まえよう」

 

「何故だっ!?」

 

絶句すアザゼルを余所に幾重の魔方陣を展開して、縄を出す。

 

「そうだ、そんで朱乃と一緒に模索しよう。うん、それがいいな」

 

笑みを浮かべ、頷くと、

 

「何をやっているんだね?」

 

第三者の声。振り向けばサーゼクス・グレモリーがいた。

 

「サ、サーゼクス!良いところに来た!こいつを止めてくれ!」

 

「アザゼル?何を・・・・・」

 

と、俺と幾重の魔方陣から出ている縄を見たサーゼクス・グレモリー。

 

「・・・・・」

 

サーゼクス・グレモリーはこの光景を眺めて「ふむ」と漏らしたかと思えば、

アザゼルに顔を向けた。―――笑顔で、

 

「なんだ?」

 

「教師たるものの。生徒と交流をするのも大切なことだ。―――頑張りたまえ」

 

足元に赤い魔方陣を展開してサーゼクス・グレモリーは姿を消した。

 

「「・・・・・」」

 

あいつ、逃げたな・・・・・。きっとアザゼルも心の中で思っただろう―――。

 

「さてと、狩りを始めようか」

 

嬉々と笑みを浮かべて俺は―――アザゼルに飛びかかった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode10

期末試験最終日となった。期末に出る教科のテストは全て終わり、

残った運動能力と戦闘能力のテスト。

俺たち二学年と下級生である一年生はグランドに集合していた。

そして俺たちの目の前にある檀上には、駒王学園理事長のサーゼクス・グレモリーが立っていた。

 

「おはよう、一年生と二年生の皆。今日は期末試験の最終日だ。

今までテストに集中して体は鈍っていないかな?」

 

朗らかに笑みを浮かべ、サーゼクス・グレモリーは俺たちに話しかける。

 

「長い話しは私も好きではないのでね。軽い話しはここまでにさせてもらう。

今日は皆の運動能力と戦闘能力を計らせてもうらのだが・・・・・少し、こちらで

趣旨を変えさせてもらった」

 

ザワザワ・・・・・。

 

理事長の言葉に場がざわめきに包まれた。

サーゼクス・グレモリーは手で制してざわめきを抑えた。

 

「今年の生徒は駒王学園が創立して以来、素晴らしい生徒たちがいて恵まれている。

もしかしたら川神市に住んでいる武神を倒しを得る可能性を秘めた生徒も何人かいる」

 

川神市に住んでいる武神・・・・・。

 

「そのような生徒もいるため、今まで行ってきた最終テストを変えざるを得なかった。すまない」

 

深々と俺たちに向かって頭を下げる。

あー、どうせ俺たちのことかもしれないな。ごめんなさいね。

 

「さて、最終試験の内容を伝えよう。これからキミたちにはRG(レーティングゲーム)で応用した異空間で

運動能力と戦闘能力を計らせてもらう。

そして、そんなキミたちの前に阻む三年生の生徒が待っている。とある理由でね」

 

意味深に笑むサーゼクス・グレモリー。俺たちに何をさせるつもりだ?

 

「スクランブル・フラッグ。つまり旗取り合戦をしてもらう」

 

『・・・・・はい?』

 

旗取り・・・・・合戦・・・・・?

 

「この学校は実力主義だということは皆々知っているはずだ。

なので、二つの能力を同時に計れる試験に変えさせてもらった。

今までは持久走や教師と上級生と戦ってもらったが、今年は違う」

 

パチンと指を弾いたサーゼクス・グレモリーの真上に魔方陣が現れて立体映像が浮かび上がった。

映像にはどこかの大きな山が映っている。

 

「この山の頂上に皆のクラスのネームが記された旗がある。

だが、この旗取り合戦は普通の旗取りではない。

仮にFクラスの生徒たちがSクラスの旗を取った瞬間、そのFクラスはSクラスに転属できる

システムにしてある。つまりは、他のクラスより先に山の頂上に登り旗を取れば、

他のクラスも上位クラスになれると言うわけだよ」

 

『っ!?』

 

「だが、そう易々と上手くいかないように上級生である三年生たちが、

眷属を率いてキミたちを待っている。勿論、数では後輩であるキミたちの方が多いため、

教師も含め、ボランティアとして集まってくれた者たちもいる。

障害が多いほど、達成した気持ちがキミたちを強くしてくれると私は思っている」

 

・・・・・これは、負けられない試験だな。

 

「そして、この試験の注意事項だ。

一つ、相手を重傷を負わせても決して殺してはならない。

二つ、使い魔を持っている生徒は使い魔を召喚してはならない。

三つ、空を飛んではならない。飛んだ生徒はその瞬間、強制退場させてもらうよ。

四つ、旗を取る時はクラスの委員長ではならないといけない。

五つ、今回の試験はRG(レーティングゲーム)と同じなので、戦闘不能になった生徒は

強制退場される。なので、各クラスの委員長が倒されたその時点、そのクラスは敗北と見做す。

―――――以上だ」

 

違うクラスと交戦は有りなのか・・・・・。なるほど、確かにこの学校らしい実力主義の行事だ。

それに、神器(セイクリッド・ギア)の使用も有りのようだな。

 

「それでは、概ね話し終えたので最終試験を始めよう。皆、頑張りたまえ」

 

『はいっ!』

 

気合の入った返事をした皆。―――次の瞬間、俺たちの足元に魔方陣が光と共に現れ、

俺の視界が真っ白に塗り変えられた―――。

 

―――○●○―――

 

視界が回復する頃、俺たちは見知らぬ森林の中に佇んでいた。

 

「Fクラスの皆、一人残らず転移されたようだね」

 

「そうみたいだね」

 

顔を合わせる俺たちは確認し合う。

 

「さっきの注意事項だと空を飛んではならないようだ」

 

「じゃあ、僕たちは飛べれないね」

 

「それと葉桜さんが旗を取らないと認められなさそうなので、

彼女を守りながら山の頂上を目指しましょう」

 

「丁度、目の前に聳え立っているから迷子になることはないだろう」

 

何千メートルと大きさを誇る山が俺たちの眼前にある。

 

「そんじゃ、清楚、カリン。俺の背中に乗ってくれ。この試験はスピードで決まりそうだからな」

 

「うん、ごめんね」

 

「分かった」

 

俺の背中に清楚とカリンが覆い被さって来て、落ちないように翼で彼女たちを包む。

 

「お前ら、着いてこられる奴だけついて来い。俺たち以外にライバルが多いからな」

 

『おう!』

 

「それでは皆さん、全力疾走!』

 

『サー!イエッサー!』

 

ドヒュンッ!

 

「・・・・・え?」

 

クラスメートたちは俺が信じられないと思う速度で山へ向かって走って行った。

 

「よっしゃー!Sクラスになるぞ、俺はー!」

 

「ふははははっ!勝利は我らFクラスなりぃ!」

 

「きゃっはー!いっくぜぇー!」

 

「待っていなさい!私たちのSクラスの旗ぁー!」

 

・・・・・あれ、運動能力が最低だから遅いのかと思っていたのに・・・・・。

唖然と見ていると、俺の肩に和樹が手を置いた。

 

「一誠、人の欲望は時に力に変えることもあるんだよ」

 

なに、その名言とばかりの発言。和樹に続いて龍牙が語りかけてくる。

 

「ええ、いまの皆さんは千才一隅のチャンスだと、全力でやる気を出しています」

 

・・・・・うん、気持ちは分かるけど・・・・・驚いたぞ、あいつらに初めて。

 

「行こう?私たちだけ取り残されちゃっているよ」

 

「ああ・・・・・そうだな」

 

それじゃ、行こうと―――駈け出した。そんで、あっという間にクラスメートたちに追いつく。

 

「清楚、山までどれぐらい距離があると思う?」

 

「・・・・・離れていても山があれほど大きいから十数キロはあると思う」

 

「十数キロ・・・・・皆が体力持つか・・・・・」

 

「戦闘のことも考えると今回の最終試験はハードだね」

 

「だが、Sの旗を取れば私たちがSクラスとなるのだろう?」

 

ゼノヴィアが確かめるように尋ねる。ああ、確かにそうだが。この試験は体力が要だ。

戦闘に特化した俺たちみたいな存在ならともかく、一般人がそう長くスタミナが持つ訳が無い。

 

「まだ山はほど遠い、ペースを維持して走らないと」

 

「うん、そうだね。―――皆!」

 

清楚がクラスメートたちに声を掛けた。

 

「こんなところにいたのか、不肖の弟子よ」

 

―――刹那。

 

ドンッ!

 

前にいたクラスメートの半分が上空に浮き上がった!?

唖然とクラスメートを見ていると光と共に消失していった。強制退場か!

 

「・・・・・まさか、あなたがここにいるなんて・・・・・」

 

龍牙が警戒の色を濃くした声音を吐いて、前方にいる人物に問うた。

 

「俺たち『九十九屋』はボランティアとして雇われたのでな。

当然、お前たちの行く道を阻ませてもらう。依頼料の分をしっかり働かないとな」

 

「烏間翔・・・・・!」

 

俺は目の前の黒髪の青年を視界に入れて、目を丸くした。

こいつは龍牙の剣術の師匠。実力は龍牙より上だと聞いてる。

 

「ここから先、一人とて行かせない」

 

二つの小太刀を構えた。―――隙が一切ない。

 

「だが、何もしないで手をこまねく訳にはいかないんだよな」

 

五対十枚の青白い翼を烏間翔に伸ばした。

翼を刃物状に変化させて、切り刻まんとばかり振るった。

 

「・・・・・」

 

目の前の男は逃げる素振りをしない。

それどころか自然体で俺の攻撃を―――完全に見切って最小限の動きだけでかわし続ける。

 

「あー、なるほどな。確かにあの人、強いな。いくらなんでも反応速度が速過ぎだろう」

 

「もう弱音を吐くか?弟子の友人」

 

「いや、こんな人が他にもいると思ったら世界は広いと思ったまでだよ」

 

手を鋭く刀のように形を整える。

 

「十文字」

 

シャッ!

 

腕を十字に振るった。その瞬間、鎌風が生じて烏間翔に襲う。

 

「ほう、真空刃か?肉体だけで大したものだな。―――が」

 

小太刀を軽く振るった。

 

「まだまだ甘いな」

 

俺の攻撃はあっさりと森へ受け流された。うーん・・・・・無理か。

 

「倒すことができないんじゃ、動きを封じるしか無いね」

 

和樹がパチンと指を弾いた。すると、烏間翔の周囲に幾重の魔方陣が展開して

四角形の光の膜によって閉じ込められた。

 

「結界か・・・・・」

 

「いくら反応が早くても、閉じ込められちゃ無意味だよね」

 

「―――ふん」

 

不敵に笑む和樹を余所に、烏間翔が結界に向かって刀を振るった。

だが、なんの生じることもなかった―――。

 

ピシッ・・・・・。

 

「・・・・・え」

 

「硬いな・・・・・だが、突破できない訳ではなさそうだ」

 

小さな罅が光の結界に生じた。・・・・・あれ、ヤバいんじゃないか?

 

「―――全員!駆け足です!」

 

突然の龍牙の指示に俺たちは意識を戻して、全力でこの場から遠ざかった。

 

「なんなの、あの人!本気じゃなかったとはいえ、

僕の結界に罅を入れるとか信じられないよ!?」

 

「ああいうヒトなんです!とにかくこのまま全力で走りますよ!僕の師匠は剣術の鬼才で、

あれぐらいの結界なら数秒で―――」

 

「―――もう、出てきたぞ」

 

―――っ!?

 

直ぐ後ろから烏間翔の声が聞こえた。

 

「少し硬かったが、問題はない。―――仕事を果たさせてもらう」

 

俺を襲う凶刃。回避は―――不可能。

 

ガキンッ!

 

「行ってください!」

 

「龍牙―――!」

 

「このヒトは僕が引き受けます!」

 

烏間翔の斬撃は龍牙が受け止めてくれた。

全身金色の鎧を着た龍牙は、鍔迫り合いをしながら俺たちに言ってくれる。

 

「弟子が俺を倒せると?」

 

「倒すんじゃありませんよ。単なる時間稼ぎです。僕たちは勝たなきゃならないのですから!」

 

龍牙――――!

 

「一誠さん!行ってください!」

 

叫ぶ龍牙。俺と和樹は顔を見合わせて頷く。

 

「分かった。だが・・・・・ゼノヴィア、龍牙のサポートしてやってくれ。

ここなら思う存分に力を振るえるはずだ」

 

「ああ、分かった。だが、勝てよ?」

 

「無論だ。勝ってやるよ」

 

デュランダルを構えるゼノヴィアに頷く。

 

「皆、行くぞ!」

 

『おう!』

 

ダッ!と再び駆け走る俺たち。追いかけてくる気配が無い。

あの二人を倒さないと進めれないと判断したようだ。

 

「(龍牙、お前の分まで俺たちは頑張る)」

 

自分から時間稼ぎを買って出てくれた友人に心から感謝する。

 

「勝とうね・・・・・」

 

「そういう約束だからな。負けたら、怒られるって」

 

そう苦笑を浮かべ、清楚と話す。うん、負けられないな。カリンのためにも皆のためにも。

 

 

―――○●○―――

 

 

試験が開始してどれぐらい時間が経ったか分からない。森林の中を走り続けていると

時折、悲鳴や怒号、戦闘の音が聞こえる。だが、ようやく俺たちは山の(ふもと)に辿り着いた。

 

「―――敵だ!」

 

一人のクラスメートが左に顔を向けて言った。そちらに振り向けば、違うクラスが

俺たちのように山を登ろうとしている。

 

「右にもいるぞ!」

 

「背後からもだ!」

 

次々と伝わるライバルたちの出現。向こうも気付いたようで、

登山よりも先に俺たちを叩こうと接近してくる。

 

「右は任せて」

 

「ああ、俺は後だな。カリン、左を頼む」

 

「任せろ」

 

俺の背中から降りてカリンは軍杖を構える。

 

「「「食らえ!」」」

 

和樹は雷、カリンは風、俺は炎の属性魔法を三方向からくる他のクラスに放った。

そして、直撃したその瞬間、俺たちの周りから激しい轟音が轟く。

 

「ねえ、一誠」

 

「どうした?」

 

「少しだけ休憩した方がいいと思う。皆、バテているよ」

 

その言葉にクラスメートたちを見る。何時の間にか座っていて全身で息をしている。

当然か、十数キロも走り続けていたんだ。疲れない方が可笑しい。

 

「分かった。回復させよう」

 

青白い翼をクラスメートたちに囲むようにして、能力を発動させる。

 

「一誠・・・・・なにを?」

 

「癒しているのさ。なにせこの状態は天使なんだからな」

 

「そんな能力もあるんだ・・・・・」

 

「流石に、大量に減った血を元に戻すことはできないけどさ」

 

少しして、翼を動かせばクラスメートたちの顔に疲労の色が無くなっていた。

 

「走れるか?」

 

「ああ、さっきまで疲れていたのにもう元気になったぜ!」

 

「俺たちは走れる!だから頂上に行こう!」

 

クラスメートたちのいつもの元気が伺える。よし、これなら大丈夫そうだ。

 

「和樹、カリン、行くぞ」

 

「「うん」」

 

「イリナ、俺の背中に乗っていてくれ」

 

翼でイリナの体を包んで清楚の隣に。完全回復したクラスメートと共に、山を登り始める。

 

「うわ、結構急な斜面だね」

 

「ただ我武者羅に登れなさそうだな」

 

「だから、空を飛んではいけないのか・・・・・」

 

納得と、カリンは呟いた。

 

「このままじゃ、疲労を回復した意味が無くなるな・・・・・」

 

どうしたものだと、思案する俺。そんな時だった、

 

「ねぇ、一誠。言葉はいいようだとは思わない?」

 

和樹が話しかけてきた、その言葉にどういうことだ?

と、首を捻る。和樹は俺の疑問を解消するため、説明してくれた。

 

「空を飛んではいけないけど、滑ってはいけないなんて理事長は言っていないよね?」

 

「・・・・・そう言うことか」

 

「それでも、グレーゾーンかもしれないよ?」

 

「大丈夫だよ」

 

和樹が指を弾いたその瞬間。山を覆うほどの巨大な魔方陣が出現して

、俺たちが登っている山が魔方陣から出てくる膨大な量の雪によって呑みこまれていく。

 

「って、俺たちも呑みこまれるが?」

 

「大丈夫だよ」

 

朗らかに言って前に腕を突き出す。俺たちを包む結界の前に更に二重、三重の結界が

俺たちを包んで奔流と化となった雪崩が、俺たちを避けるように下へ流れ続けていく。

 

「それじゃ、行こうか」

 

しばらくして、雪崩が治まって大きな山は完全に雪山と化となった。和樹は俺たちの足の裏に

小型の魔方陣をくっ付けたかと思えば、俺たちを避けている雪の上に乗って滑りだした。

 

「ほら、スケートのように滑って行けれるよ。

体力の続く限り、重心は並行でいられて山の頂点に行けれる」

 

『おお・・・・・』

 

クラスメートが感嘆した。そして、各々と雪に乗ってスケートのように滑りだす。

何気に選手みたいな動きをする奴もいるし・・・・・。

 

「それじゃ、行こう皆!」

 

『おう!』

 

―――リアスside

 

「皆、無事?」

 

「ええ、皆大丈夫ですわ」

 

「・・・・・雪が降ってくるなんて非常識です」

 

山の頂上にある旗を取りに来る下級生たちを待ち構える私たち。

でも、真上から雪が降ってくるなんて・・・・・今でも信じられないわ。

 

「彼の仕業かもしれませんね」

 

「ソーナ」

 

「この山の気候が変わってしまいました。気温が下がって、

私たちの体温と体力がここにいるだけでも下がる一方です」

 

―――っ、まさか、彼はそこまで見通してこの雪を降らしたと言うの・・・・・?

 

「いや、どうだろうな」

 

「どうしてそう思うのですか?」

 

「あの男が考えそうなことではないと俺は思っただけだ」

 

腕を組も私の従弟、サイラオーグ・バアル。

私たちがここに集結しているのは彼、兵藤一誠を迎え撃つため。

正直私たちだけじゃ手に負えない相手。だから、私は皆に声を掛けた。彼を一緒に倒そうと、

 

「しかし、イッセーくんはここにくるのでしょうか?」

 

「お兄さまが指定した場所だから・・・・・なんともいえないわ」

 

突然、私にこの場所で守るように言われた兄の指示に従い、ここにるだけ。

 

「―――いや、どうやら来たようだぞ?」

 

サイラオーグが嬉しそうに口の端を吊り上げて言った。

その言葉を聞いて私は―――不敵の笑みを浮かべた。

 

「さあ、皆。行きましょう!」

 

『はいっ!』

 

私の下僕悪魔たちが返事をする。サイラオーグやソーナの眷属悪魔たちも臨戦態勢に入って

彼を待ち構える。しばらくして、私の視界でこっちに向かってくる存在が映り込んだ。

その存在は物凄い速さで接近し、私たちの前に停まった。

 

「―――あー、こいつは・・・・・とんでもない奴らに目をつけられたものだな。」

 

まるでスケートのように雪を滑るイッセーとイッセーのクラスメートたちが現れた。

なるほど、空を飛んでいないから失格にはならない。足の裏を見れば小型の魔方陣があった。

考えたわね。あれでここまで滑ってきたということ・・・・・。

 

「イッセー、この雪を出したのはあなた?」

 

「ん?いや、和樹だぞ?」

 

なっ、と彼は式森くんに尋ねると肯定とばかり式森くんは頷いた。

 

「うん、そうだよ」

 

「・・・・・」

 

その言動に私はソーナに顔を向けた。彼女は自分の思い違いに恥ずかしそうに

顔を赤く染めていた。

 

「もしかして、俺がやったと思っているのか?俺、そこまで思いつかなかったんだけど」

 

頬を掻くイッセー。ごめんなさい、私もうっすらとあなたの仕業かと思っていたわ。

 

「まあ、お前らが俺たちの相手と言うことなら頷ける。―――通してもらうぞ」

 

彼の背に六対十二枚の青白い翼が大きく横に広がった。

 

『・・・・・』

 

私たちはジリジリと彼に近づく。彼の実力は私たちを越えている。

唯一、対抗できると信じているサイラオーグを招いて正解だった。

 

「一つ聞いていいか?」

 

「何かしら」

 

「俺たちは空を飛んではいけないことになっているけど、お前ら上級生はどうなんだ?」

 

「私たちは飛んでいい事になっているわ」

 

「そうか・・・・・なら、お前らはここで俺が食い止める必要がありそうだな」

 

―――その瞬間、私は何かおかしいと気付いた。彼は何時までも攻撃を仕掛けて来なかった。

翼を広げてまま、彼以外の生徒たちの姿が見えない。隠れている・・・・・?

いえ、隠しているようにも思える・・・・・。

 

「―――部長ッ!後です!」

 

「っ!?」

 

祐斗の言葉に私は顔を後ろに向けた。―――そして、私はようやく気がついた。

彼が動かない理由を、

 

「(何時の間に私たちの後ろに―――!)」

 

私たちの背後、もう遠くに行ってしまったイッセーのクラスメートたち。

なぜ、どうやって私たちに気付かれることもなくあそこまで許してしまったのか、

理解できないでいる私。

 

「油断、し過ぎなんじゃないか?」

 

不敵の笑みを浮かべる彼の翼は元の大きさに戻っていた。

イッセーの背後には誰一人もいなかった。

 

「イッセーくん、どうやって短時間であの距離まで行かせれたのか、教えてもらえませんか?

魔法ならば、この場にいる全員が直ぐに探知できるにも拘らず・・・・・」

 

「俺の神滅具(ロンギヌス)の能力さ。『時空間と次元の自由航路(スペースタイム・ディメンション・ルート)』。

空間に穴を広げて別の場所へと繋げてあいつらを先に行かせた」

 

「なるほど・・・・・だから俺たちが気付かなかった訳だ」

 

「ああ、そういうことだ。それに良かったよ。俺が委員長じゃなくて」

 

どういうこと・・・・・?怪訝に思っていると、彼は―――。

 

「俺が委員長だったら、お前らを倒せることができないじゃないか」

 

虚空から発現した金色の錫杖を手にして、輝かし始めた。

 

「『無限創造龍の錫杖(インフィニティ・クリエイション・メーカー)』の力を見せてやろう。禁手(バランス・ブレイカー)!」

 

力強く声を発した彼は、一瞬の閃光のに包まれた。あまりの光の眩しさに顔を腕で覆い、

光を遮っていると光が止む。イッセーに視界に入れた途端に―――。

 

ゾク・・・・・ッ!

 

私は恐怖感を覚え、彼を冷や汗を流しながら見詰める。

龍を模した金色の全身鎧を身に包む姿で背後には、

金色の5匹の龍が口に『魔』『聖』『命』『万』『運』の文字がある珠を咥えていた。

手には変化していない金色の錫杖を持っている。

 

「―――『無限の創造龍の鎧(インフィニティ・クリエイション・アーマー)』」

 

あの姿は初めて見る・・・・・彼が本気になったと言うこと・・・・・?

不敵に笑む彼の背後に浮かぶ金色の龍が咥えている『聖』の文字が光り輝く。

彼が何かを掴むように片手を前に突き出す。

 

「出でよ。俺の剣」

 

カッ!

 

彼の手に光が集まりだし、何かの形へと成していく。

 

「あれは・・・・・」

 

祐斗がポツリと言った。

 

「―――聖剣」

 

光が剣となった。イッセーはその剣を私たちに突き付ける。

 

「それじゃあ、戦うとしようか。悪魔の団体さんよ」

 

―――○●○―――

 

―――カリンside

 

イッセーが引き付けている間、私たちは一気に頂上へと滑りながら進む。

時折、背後から轟音が聞こえたり、聖なる光が見える。

 

「皆、もう少しだ!僕たちの勝利は目の前だぞ!」

 

『勝利の女神は我らに微笑む!』

 

怒声を上げるクラスメートたち。まるで戦争をしている気分でとても楽しくなる。

 

「清楚、寒くないか?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

私の背中に負ぶさっている清楚に問うた。彼女は私たちの王だ。指一本すら触れさせない。

 

『清楚を頼むぞ』

 

なにより、イッセーに頼まれている。この試験は勝たないといけない!

 

「っ!」

 

前にいた和樹が停まりだした。私たちもそれに釣られて停まる。

 

「和樹、どうした?」

 

「・・・・・最後の最後に厄介なヒトがいるよ。もう、ラスボスって感じにね」

 

眉間に皺を寄せる和樹。ラスボスって・・・・・・。

 

「あらら、兵藤一誠がいないのかよ?」

 

「っ―――!」

 

上空に六対十二枚の黒い翼を生やす男が黒い羽根を散らしながら舞い降りた。

 

「堕天使の総督・・・・・アザゼル」

 

「アザゼル先生な。しっかし、やってくれたもんだぜ。まさか、山に雪を積もらせるなんて、

誰も思い付かないだろうし、しようともしなかったはずだ。さっきの魔方陣、お前のだろう?

式森和樹くん」

 

「ええ、そうですよ」

 

「あの規模の魔法は大体、式森家しかできないことだ。

一介の魔法使いじゃ、あんなのできっこない」

 

顎に手をやってアザゼル先生は口の端を吊り上げる。

 

「俺の相手にできそうなのは・・・・・式森和樹、お前さんぐらいだろうな。他は行っていいぞ」

 

「なんだと・・・・・?」

 

私たちを通す?このヒトは妨害するためにいたんじゃないのか?

 

「頂上にはすでに生徒がいる。早くしないと、先を越されるぜ?」

 

っ!?しまった。時間を掛け過ぎたのか・・・!焦心に駆られる私に和樹が視線を向けてきた。

 

「カリン、キミたちは先に行ってくれ。正直、アザゼル先生を食い止めないと大変だ。

彼のいう通り、僕しか足止めができないだろう」

 

「・・・・・」

 

「本気で戦わないといけなさそうだし、キミたちにまで攻撃の余波が伝わるかも知れない。

そうならないためにもキミたちが先に行って欲しいんだ」

 

和樹・・・・・。

 

「もうすぐ一誠も来る。だから、行ってくれカリン」

 

「・・・・・分かった。皆、素早く行動だ。行こう」

 

『はっ!』

 

クラスメートたちが我先へと進む。私も行こうとして足を動かす。

 

「和樹」

 

「なんだい」

 

「負けたら許さないからな」

 

それだけ言い残して、頂上へと向かう。ここまで何人のもクラスメートたちが犠牲となり、

数々の強敵たちを足止めしてくれた龍牙やゼノヴィア、一誠、和樹たち・・・・・。

 

「(皆・・・・・私たちは、必ず・・・・・・)」

 

山の頂上との距離は約五メートル。もうすぐで交戦だ。軍杖を掲げ、大声で発する。

 

「全員、戦闘態勢!無様でもいい、敵を殴るなり蹴るなりして戦え!」

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』

 

ザッ―――!

 

「(この試験に勝ってみせる!)」

 

そう決意を胸に秘めた瞬間。私たちはついに頂上に辿り着いた!頂上は雪で一杯に積もっていた。

アザゼルの先生のいう通り、私たちより先に他のクラスの生徒たちがいた。

 

「―――カリン!」

 

「ルイズ姉―――!」

 

私の姉がいる二年Sクラスか!なにやら、困惑している様子だけど・・・・・。

どうしたんだ?腕を組んでいるルイズ姉が両手を広げた。

 

「カリン・・・・・そう、あなたが来たのね。でも、残念。旗はないわよ」

 

「旗がない・・・・・どういうことだ?」

 

「さあ?私たちが頂上に着いた時には旗の一本もないのよね。あるのはこの雪だけよ」

 

・・・・・嘘は付いていなさそうだ。だけど、旗はどこに・・・・・?

 

「・・・・・」

 

まさか、さっきの雪崩で旗が麓に流れてしまった?

 

「ねぇ、カリンちゃん」

 

「清楚、なんだ?声を殺して」

 

「相手に聞かれないようにと思って・・・もしかしたらね?旗があるかもしれないの」

 

「どこにだ?」

 

誰も分からないことを清楚が分かっているような口振り。私は彼女に尋ねると・・・・・。

 

「ほら、山って色々とあるでしょう?尖ったり、火山でできた火口がある山とか」

 

「ああ、そうだったな」

 

「思い出して、私たちが最初に見た山は尖っていた?」

 

・・・・・そう言われ、私は脳裏に思い浮かんだ。雪山になる前の山を・・・・・。

山は・・・・・尖っていなかった。

 

「・・・・・まさか、この山は」

 

「多分・・・・・火口がある山だと思う。だから、旗は火口に置いてあると思っても

いいかもしれない。これは可能性だけど、旗は―――この雪の下に埋もれているんじゃないかな」

 

「っ・・・!?」

 

その可能性は・・・・・高いかもしれない。和樹が雪を大量に出した時に旗は埋もれた

可能性がある。もしも、旗がどこかに流れて埋もれていないのなら―――!

 

「(旗は、清楚の言う通り、この下にある!)」

 

「それにしても寒いわ。ねぇ・・・・・誰か、火の魔法を使ってくれない?」

 

「ルイズ、旗はどうすんだよ?」

 

「分からないわよ。肝心の旗が無いんじゃ、私たちはどうすることもできないわよ」

 

ルイズ姉はまだ気付いていない様子だ。清楚の可能性と確実にするためにもルイズ姉が邪魔だ。

軍杖を振るい、魔法を放った。

 

「カリン・・・?あなた、何をするつもりなの?」

 

「ルイズ姉、決まっているじゃないか。―――攻撃だよ」

 

この場に積もっている雪を杖の先に集めて―――巨大な雪の塊を作った。

 

「・・・・・あんた、それをどうしようっていうの」

 

顔を引き攣らせるルイズ姉。どうしようって、決まっているだろう?」

 

「雪合戦でもしようか。ルイズ姉」

 

杖を前に振るった。前に振るった杖に呼応して雪の塊はルイズ姉に向かった。

 

「ちょっ、あんた!ふざけんじゃないわよぉおおおおおっ!?」

 

雪の塊は真上から落ちていく。

ルイズ姉たちは落ちてくる雪の塊から逃げる間に軍杖を雪に突き刺す。

 

「物質を違う質に変える。―――錬金!」

 

―――刹那。雪が一変して水になった。なので、私たちは水の中に入ってしまう。

 

「・・・・・!」

 

私は見た、水の中に十二本の棒に括りつけられている旗を。

 

「清楚!潜るぞ!」

 

「えっ!?」

 

風の魔法で風の膜を作って空気の確保すれば、清楚と共に水の中へ潜り、火口の底へと向かう。

清楚も底にある旗に気付き目を丸くした。

 

「あっ、あれは―――!」

 

「清楚の予想通りだったんだ。旗は大量の雪に埋まっていたんだ」

 

清楚の顔を真っ直ぐ向いて、彼女の推測を称賛する。

 

「凄いよ、清楚。清楚のおかげだ」

 

「そんな・・・・・でも、ここまで来れたのは皆のおかげ。私は皆に感謝をしないと」

 

「じゃあ、そのためにもあの旗を、Sの旗を手に入れるんだ」

 

火口の底に辿り着いた私たちの目の前に、水の中でゆらめぐSの旗。その旗を―――。

 

「皆、ありがとう・・・・・」

 

彼女、二年Fクラス委員長の葉桜清楚が手にした。

 

「戻ろう」

 

「うん」

 

水面へと上昇する。その最中で私は心の中で思った。

これで私は皆とSクラスになれたんだ。婚約の話もなくなった!

 

ザパッ!

 

水中から出て来て、私と清楚はクラスメートたちに向いた。彼女が握る旗を掴んで、

清楚と一緒に見せつけるように翳した。

 

「―――Sの旗、取ったぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

『・・・・・・』

 

皆の目が大きく見開いて目を丸くした。驚きとばかり唖然としていた。でも―――!

 

『よっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!』

 

クラスメートたちが一斉に歓声を沸き上げた!

 

ピンポンパポーン!

 

『結果発表します。二年FクラスはS組の旗を入手しましたぁっ!おめでとうございます!』

 

イッセー、皆。やったぞ、私たちは勝ったんだ!嬉しいあまりに清楚に抱きついて、

彼女と喜びを分かち合った。

 

 

―――龍牙side

 

 

「・・・・・終わったようだな」

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・その、ようですね・・・・・・」

 

「くっ・・・・・ようやくか・・・・・」

 

アナウンスを聞き、僕たちは地面に平伏しながら息絶え絶えに答えます。

一誠さんたちがやってくれたようで良かったですよ・・・・・・。

 

「少しは腕が上がったようだな。弟子よ」

 

「それは・・・・・どうもですよ」

 

「聖剣使い、剣の腕がまだまだ未熟だな。ただ力任せに振るっている。

それでは容易く倒されるのがオチだ。特にカウンターが得意とする者にな」

 

「カウンターなんて・・・・・・力で押しつぶせばいいだけの話しだ・・・・・」

 

ゼノヴィアさん、それはどうかと思いますよ。ほら、師匠が物凄く呆れています。

 

「ダメだな。こいつはそれだけしか考えていないのならばこの先、強くなれん」

 

踵を返して師匠が僕たちから遠ざかる。

 

「また会おう。若さま」

 

「ええ、兄をよろしくお願いします。翔さん」

 

それだけのやりとりをして、彼は姿を消した。

 

―――一誠side

 

「・・・・・清楚たちがやってくれたか」

 

アナウンスを聞き、口の端を吊り上げる。足止めした甲斐があったってことだ。

上に向けていた顔を真っ直ぐ前に向ける。

 

「結局、お前だけ残ったな。サイラオーグ」

 

俺と戦っていたグレモリー眷属とシトリー眷属、バアル眷属は、サイラオーグだけ残して倒れた。

当のあいつも満身創痍の状態だが、瞳に揺るぎない戦意が宿している。

 

「兵藤一誠・・・・・これほどの強さだとはな・・・・・」

 

「まだまだ、俺は弱いさ」

 

辺りはクレーターだらけで、白い雪に赤い染みがある。

 

「サイラオーグ、次は獅子を使ってくれよ。そんなんじゃ、満足には戦えない」

 

「・・・・・次の機会があれば必ず」

 

「ん、それじゃ俺は皆の所に行こうかな」

 

足を頂上へと進める。帰ったら宴だな。

 

―――和樹side

 

「ふぅー、ようやく終わったようだね」

 

「みたいだな。まったく、式森家の魔法使いとやり合うのは命懸けだぜ全く」

 

「そう言う割には本気出していないじゃないですか」

 

「半分は割としていたさ。

だけど、俺が本気になるのは、お前が本気になって攻撃してくることだよ」

 

あれ、バレていたんだ。あはは、と頭を掻きながら苦笑いをする僕だった。

 

「まっ、俺は戦うことよりも研究することが一番好きだが、たまにこんな戦いも良いだろう。

腕が鈍らないためにも」

 

「それじゃ、腕が鈍らないためにも、たまに僕の練習相手になってくださいね」

 

「・・・・・そいつは勘弁願いたいな」

 

引き攣った笑みを浮かべるアザゼル先生。いいじゃないですか。

しぶといんだし、良い練習相手になれるよ。と、思っていると僕の体が光り輝き始めた。

ああ・・・・・これは転移ですね。

 

「旗を先に取ったクラスは強制退場だ。お前ら、おめでとさん」

 

「ありがとうございます。それでは、現世で会いましょう」

 

それだけ言うと、僕の視界が一瞬の閃光によって真っ白に染まったのだった。

 

―――数日後

 

「皆、おはよう」

 

『おっはぁっー!』

 

全ての期末試験が無事に終了し、俺たちは晴れてSクラスになった。

設備はFクラスと変わりないが、俺にとって皆とここにいられるだけで満足だ。

 

「うーん、Sクラスになっても大して変わらないね」

 

「そうですね。何時ものクラスメートと何時もの教室。何一つ変わっていません」

 

「変わっているのはFからSになっただけと・・・・・

 

ガラッ!

 

「やぁ、皆、おはよう!」

 

「先生がやたらにハイテンションなんだよね。何時もの三倍ぐらいに」

 

教室に入ってきた担任の教師。そんな教師の元気良さに指摘した和樹の言葉に俺たちは、

同意と首を縦に振る。

 

「いやー、お前らがSになってくれるなんて先生は嬉しいぞ!

こんなことは学校が創立して以来初めてだからな!お前らは前代未聞なことをしたおかげで、

先生は感動だ!ついでに給料も大幅アップ!」

 

そっちが大きな理由だろう。絶対にな。

 

「さーて、先日の期末試験の結果発表をするぞー!」

 

『・・・・・・』

 

その言葉に教室は静寂に包まれた。ゼノヴィアとイリナを一瞥すると、

両手を組んで祈りを捧げていた。

 

「まあ、大雑把で言えば・・・・・この中で赤点が三つの生徒は―――いない」

 

「「っ!?」」

 

ゼノヴィアとイリナがパァッ!と顔が明るくなった。

 

「と言うわけだ。お前ら全員、夏休みを満喫できる!

精々、世間に騒ぐようなことをしないように夏休みを楽しめよお前ら!」

 

『イヤッハァァァァァァァァッ!』

 

クラスメートたちが歓喜とばかり喜ぶ。

 

「イッセーくん!私、やったよぉぉぉぉぉぉっ!」

 

イリナも喜びの表現として席から立ち上がって俺に抱きついてきた。

 

「良かったよ。イリナ。これで思いっきり遊べれるな」

 

「うん!本当に良かったよ!ああ、主よ。ありがとうございます!」

 

間違っても神王には感謝するなよ。感謝した気分にならない。

 

「(夏か・・・・・)」

 

兵藤源氏が言っていたあの言葉・・・・・。

テレビで放送されるとか言っていたが・・・・・それは何時なのだか俺には分からない。

 

「(悠璃、楼羅・・・・・・)」

 

懐かしき従姉と出会う日は近いかもしれない。

俺はどんな顔で会えばいいのだろううか・・・・・。

 

「一誠」

 

「ん?」

 

「思い切り、夏を楽しもうね」

 

朗らかに笑む和樹。・・・・・ああ、そうだな。と思い首を縦に振る俺。

 

「それじゃ、皆。夏休みで何しようか話しでもしよう」

 

そう提案すると、皆は笑顔で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その後、終業式を終えた俺たちは、一学期終了と同時に夏休みへ突入したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏祭りのヒューマン
Episode1


夏となり、高校生活も夏休みに突入した。学校に行かない分、

俺たち高校生は家にいることが多い。

それは俺も例外ではなかった。目を覚めれば、俺のベッドには俺以外の者が就寝していた。

ガイア、オーフィス、クロウ・クルワッハ、リーラが俺の体に全裸でしがみつき、

覆い被さっている。こんな光景を成神一成が見たら、血の涙を流しながら

禁手(バランス・ブレイカー)になりそうだ。

 

「動けん・・・・・」

 

柔らかい弾力に包まれるのは気持ちいけど、そろそろ起きたい。

あの時間が迫っているし・・・・・。

 

ガチャッ、

 

部屋の扉が勝手に開いた。首だけ動かして視線を向ければ、銀の髪に青と金の瞳、

銀色の着物を着た女性が入ってきた。

 

「わお、女体盛り?お盛んだにゃん♪」

 

「開口一番にその発言はどうかと思う。説得力と言うより、

俺の発言もし辛いが皆は添い寝のつもりだ」

 

「そんな状態で言われても、ねぇ・・・?」

 

面白可笑しそうに笑む女性こと銀華。そして彼女は猫の妖怪の上位種、猫魈だ。

 

「ほら、そろそろ修行の時間よ?邪魔者は―――ポイっとしちゃうにゃん」

 

彼女は躊躇いもなく、寝ている四人を俺から引っぺがしてベッドから床に放り出す。

 

ドサドサドサドサッ!

 

その光景を見て俺は思わず冷や汗を流した。

 

「お、お前・・・・・いい度胸しているよな。俺、そんなことできないぞ」

 

「そう?まあ、どうでもいいから起きなさい?って、あなたは服を着ていたんだ?」

 

「添い寝するだけでどうして俺は全裸でなきゃならないんだよ」

 

呆れ顔で溜息を吐いた最中に一瞬で運動用の服を着替えた。

 

「さ、さっさと外に行くにゃん。時間は有限、効果的に使わないと。

イッセーが長期間休んでいるこの時こそ最大限に使わないと損にゃん」

 

腕を掴んで来て俺を引っ張る銀華。

 

「で、何故俺を抱きしめる?」

 

「にゃはは♪温かいにゃん♪」

 

ギューっと俺を抱きしめる銀華に尋ねても頬を擦りつけたり、

ザラザラとした感触がする彼女の舌によって首筋やら顔、そして―――唇までも舐めてきた。

 

「ん・・・・・銀華」

 

「ふふふ・・・・・んん♪」

 

口の中に舌を入れて来て深いキスをしてくる。永遠に続くかと思ったが、銀華が自分から離れた。

 

「ごちそうさま♪さて、そろっと行くにゃん。

何よりも、こわーいドラゴンたちが睨んでいるしね」

 

「・・・・・」

 

その時になって背後からとんでもないプレッシャーを感じた。後ろを見たくない。

絶対にだ。見た瞬間、俺は死ぬ。

 

「・・・・・行こうか、銀華」

 

この場から逃げるように部屋を後にした。

 

―――銀華side

 

自然に溢れる場所で私、猫魈の銀華は無理矢理眷属にしようとした悪魔から助けてくれた人間、

兵藤一誠に仙術を伝授している最中。

 

「・・・・・」

 

私に背を向け、胡坐を掻いて精神を集中させている。とても、いえ、かなりの集中力。

例え、小石が額に当たっても彼は何の反応もせずにい続ける。

 

『一誠さま、一つのことを集中すると、水を吸う乾いたスポンジのようにマスターするまで、

吸収し続ける才能がございます。料理、勉強、裁縫、掃除、そして、戦闘。何でも、全てです。

ですので、一誠さまは仙術を習得する可能性が高いはずです』

 

メイドのリーラの言葉が頭に過った。

ええ・・・・・あなたの言う通り、彼はもう気を扱える段階まで成長しているわ。

正直、仙術すら知らなかった人間が自力で仙術を扱えるまでに成長するなんて思いもしなかった。

 

「・・・・・」

 

だけど、リーラ。あなたはどこまで知っているのかしら・・・。本人すら気付いていない力を

この子は秘めている。本来、人間が持つはずがない力をこの子は持っている。それは―――妖力。

その証拠に・・・・・。彼の腰辺りに―――狐の尾があるのだから。

 

「(イッセー、あなたは一体何者・・・・・?)」

 

自然から気を取り込む最中、今でも世界に漂う邪気や悪意を長時間取り込んでも

平気でいられるなんて信じられない・・・・・。私はあなたを心のどこかで恐れ戦いている。

 

「―――妾が怖いか?猫よ」

 

「っ!?」

 

イッセーの口が動いた。声は彼の。でも、喋り方が独特で何かが違うと私の中で

うるさく警報の鐘が鳴る。

 

「イッセー・・・・・じゃないわね」

 

「そうじゃ、妾はこの者に魂だけ宿っているに過ぎない」

 

「魂だけ・・・・・あなた何者なの」

 

警戒をの色を濃くし、臨戦態勢になるけど、イッセーは胡坐を掻いたまま口を開く。

 

「警戒するではない。妾は退屈で仕方なかったのでな、中にいるドラゴンどもに

気付かれないようにこの者の意識を乗っ取らせている。お前と話すためにな」

 

「・・・・・」

 

「妾の名は九尾の狐、羽衣狐じゃ」

 

羽衣狐・・・・・。―――っ!?

 

「嘘でしょ・・・・・だって、あの妖怪は滅ぼされたはず・・・・・!」

 

「ああ、確かに妾は滅ぼされた。肉体と魂を離別させられて、

肉体はどこぞの家の地下深く封印されているがな。

それからというものの、肉体を切り離された妾は、何度も人間の子供に取り憑き、

世界の邪気と悪意を吸収して成長し、それが頂点へ達した所で依代の体を完全に支配していた」

 

「・・・・・今度は、イッセーを支配するというのあなたは・・・・・!」

 

「それ以前に、皮肉にも妾を滅ぼした人間の一族に憑依してしまったことが失態じゃった」

 

瞑目したままイッセーは口の端を吊り上げて小さく笑う。

 

「しかし、妾はこの者を支配する気はない。

―――もうすぐ、妾は本来の肉体に戻れるのだからな」

 

「まさか・・・・・!?」

 

「妾を肉体から切り離した人間の一族のもとに行けるのじゃ。これほど愉快なことはない」

 

笑むイッセーの体が横に倒れた。・・・・・どうしたと言うの。

時折、痙攣を起こしているし・・・・・。彼の口から忌々しそうに発した。

 

「ちっ、ドラゴンどもが妾を気付いたか。猫よ。

今日のことはこの者のためにも秘密にするのじゃな。

いや、すでにあの人間は妾の存在に気付いておったな。だからなのかもしれないな。

魂と肉体が揃う危険を冒してまでこの者を―――」

 

それだけ言いかけて、狐の尾が消失した。私はすぐにイッセーの体を起こして状態を確かめる。

 

「・・・・・」

 

大丈夫・・・・・寝息を立てている。眠っているだけ・・・・・。

 

「(羽衣狐)」

 

史上最強の妖怪の一匹と数えられた最悪の九尾の狐。

話でしか聞いた事がない伝説の妖怪がまさか、こんな形で会話することになるなんて・・・・・。

 

―――○●○―――

 

「さーてと、勉強でもしましょうかね」

 

「えっ?まだ初日なのに?」

 

「最終日に勉強したいと思うか?絶対に地獄を見て味わうぞ」

 

「ははは・・・・・それは確かに嫌だね」

 

和樹が苦笑する余所に、リビングキッチンで学校から出された教科の課題、

テストをテーブルに広げる。

 

「時間はまだあるんだ。2、3ぐらいテストを終えて余裕を得たい」

 

「そう、頑張ってね」

 

「おう」

 

ポキポキと指の関節を鳴らして、やる気を出す。それじゃ、やるとするか。

 

―――5分後

 

「一誠、我と地下のプールに行こう」

 

「・・・・・」

 

「一誠?」

 

「・・・・・」

 

―――15分後

 

「一誠くん、ちょっと・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「あ、勉強をしていたんだね。それじゃ、また後で」

 

―――30分後

 

「イッセー、我と寝る」

 

「・・・・・」

 

「イッセー」

 

「・・・・・」

 

「イッセー、隣で寝る」

 

―――45分後

 

「一誠さん、カリンさんが遊びに来ていますよ?」

 

「・・・・・」

 

「って、勉強に夢中のようです・・・・・」

 

「いいさ、そもそもそのつもりで来たんだ。私も勉強をする」

 

「そうですか。では、僕も少ししましょうかね」

 

―――1時間後

 

「一誠さま、お昼でございますよ」

 

「ん?ああ、もうそんな時間か・・・・・」

 

リーラに声を掛けられてやっと筆を置いた。っていうか、

何時の間にオーフィスと銀華が俺の傍に寝ていたし。

 

「あれ、カリン。何時の間に?」

 

「―――気付いていなかったのか!?」

 

目の前に座っていた驚愕の発言をするカリン。うん、全然気付きもしなかった。

テーブルに教科書とノートが広がっていた。ああ、宿題をしていたのか。

 

「一誠さまは集中をし出すと、周りの音が一切聞こえないようなのです。

なので、用がある時は一誠さまの肩に触れてください」

 

「悪いな。どうも気付きにくいんだよ。良い意味でも悪い意味でも集中しだすと」

 

「物凄い集中力ですね」

 

「感嘆するぞ」

 

龍牙とカリンがそう言う。

 

「俺にとって悪い癖だがな。終わるまで永遠に集中してしまう」

 

「それで、どこまで進んだんですか?」

 

「2、3教科の宿題を終わらせた」

 

「まだ初日なのに・・・・・」

 

「和樹と同じことを言おうか。夏休み最終日に溜まった宿題をしたいか?地獄を見て味わうぞ」

 

そう言うと二人は「嫌だ」と風に首を横に振った。

 

「それに初日で全部終わらすつもりはないさ」

 

広げた教科書とノートを片付けながら言う。

 

「今は七月二十一日(火)。まだまだ夏休み期間がありますねぇー」

 

「そうだな。いっそのことカリンも夏休みの間にここに泊れば?」

 

と、カリンに問うた。しばらくして彼女は、「はっ!?」と目を丸くした。そんなに驚くか?

 

「あっ、もしそうなったら何時ものメンバーが揃いますね。

学校のように一誠さんの家で顔を合わせれます。カリンさん、そうしたらどうですか?」

 

「いやいや、無理だ。なにより、両親がダメだしする」

 

「もしかして、うるさいのですか?」

 

「・・・・・うん、まあ・・・・・同じ異性同士ならともかく、

男の家に泊ったって聞いたら父上たちは魔法をぶっ放してくることは間違いない」

 

・・・・・どんな家だよ。魔法を娘に放つ親って・・・・・。

 

「そうか、残念だな。逆に俺たちがお前の家に泊ってもいいか?」

 

「うん、それなら大丈夫だ。あ・・・・・そうだ」

 

カリンが何か思い出したかのように改めて俺を見る。ん、なんだ?

 

「イッセー。『熾天使変化(セラフ・プロモーション)』でクラスメートたちの疲労を回復させたことがあったな」

 

「ああ、試験の時だったな。それが?」

 

「もしかして、傷とか治す能力もあるのか?」

 

「ん、あるぞ」

 

誰かが傷ついているのかな?主に俺が傷つくから自分で自分を

治している感じでやっているし・・・・。

 

「じゃあ・・・・・病気、病を治せるか・・・・・?」

 

「病気か・・・・・」

 

分からないな。いままで病気になったことすらないから・・・・・。

カリンに首を横に振ると、彼女は「そうか」と息を吐いて落ち込んだ。

 

「なぜ落ち込む?」

 

「・・・・・いや、実はな・・・・・私は四姉妹の末っ子なんだ」

 

「四姉妹?初めて聞きましたよ」

 

俺も同意と首を縦に振る。あのカリンの姉よりまだ二人の姉がいるとはな。

 

「次女の姉が・・・・・魔法でも治せない病を患っているんだ。不治の病と言う」

 

「・・・・・」

 

「このままでは、数年足らずで死んでしまうと診断された。

それこそ、神の奇跡が起きない限り治せない病だそうだ」

 

なるほど、だから俺に訊いてきたのか。不治の病を治せるかどうかを・・・・・。

 

「そうだったんですか・・・・・」

 

「優しい姉なんだ。純粋で優しく、怪我した動物を拾って傷の手当てをするほどに・・・・・」

 

・・・・・カリン。

 

「・・・すまない。夏休みなのに暗い話しをしてしまった」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

何とかしてやりたいな・・・・・・。―――訊いて見るか。

携帯を操作し、とある人物に通信を入れる。直ぐに通じた。

 

『やあ、兵藤くん。どうしたのかな?』

 

「ああ、お願いがあるんだ。仲介してほしい人物がいる」

 

サーゼクス・グレモリー。駒王学園の理事長を務めている悪魔だ。

 

『誰とかね?』

 

「アザゼルだ。できれば今すぐにできるか?」

 

『アザゼルか・・・・・それは重要な話かな?』

 

「俺にとってはそうだ」

 

携帯の向こうでサーゼクス・グレモリーはしばらく沈黙した。

 

『分かった。キミの番号を教えて彼から連絡してもらうよ』

 

「ありがとう」と言い残して通信を切った。

 

「一誠さん・・・・・どうしてアザゼル先生と?」

 

「俺でも『熾天使変化(セラフ・プロモーション)』の力の使い方が分からないなら、

神器(セイクリッド・ギア)に詳しいマニアに訊けば、分かるかも知れない」

 

サーゼクス・グレモリーと話し合ってから数十秒後、携帯が鳴り響いた。

通信を入れて耳元に寄せる。

 

『よう、俺に話しって何だ?』

 

堕天使の総督アザゼル。ありがとうな。

 

「アザゼル、アザゼルはどこまで『熾天使変化(セラフ・プロモーション)』を知っている?」

 

『ん?なんだ、お前は知っているんじゃないのか?』

 

「いや、思いもしないこと訊かれて分からないんだ。実際、やったことすらないし、」

 

『ふーん・・・で、お前さんの神器(セイクリッド・ギア)の何を知りたい?」

 

俺はその言葉を聞き、カリンに一瞥してから口を開いた。

 

「『熾天使変化(セラフ・プロモーション)』は不治の病を、病気を治せれることができるか?」

 

『・・・・・』

 

アザゼルは、沈黙した。俺もアザゼルに釣られて沈黙する。

 

『兵藤、いや、イッセー』

 

「なんだ?」

 

『俺から言えるのは神器(セイクリッド・ギア)は宿主の想いを応え進化する。

それだけだ。なによりも、あいつ、一香もそうしたように

その神器(セイクリッド・ギア)で人々を救っていたそうだ』

 

「・・・・・」

 

『お前はならできると思うぜ。じゃあな』

 

通信を切られた。結局、曖昧な答えを聞かされただけで話が終わってしまった。

 

「(母さんもそうしていた・・・・・この力で人々を・・・・・)」

 

自分の手の平を見下ろして、心の中で母さんのことを思った。

 

「―――カリン」

 

「な、なんだ?」

 

「お前の姉さんはお前の家にいるか?」

 

「あ、ああ・・・いる。元々私たちは外国で生まれたんだが、

姉の病を治すためにこの地に訪れたんだ」

 

なるほどな。でも、日本でも病を治せないと判断されたのか・・・・・。

 

「それで・・・・・どうだったんだ?アザゼル先生は何て言ったんだ?」

 

不安げに尋ねてくるカリン。俺はカリンの肩に手を置いて言った。

 

「カリン、俺を信じてくれ」

 

「え・・・・・?」

 

「お前が俺を信じてくれるのなら、俺はその気持ちに応えれる。

だから、俺のことを信じて欲しいんだ」

 

「イッセー・・・・・」

 

真摯にカリンの瞳を覗きこむように見据えた。カリンは俺の眼差しに耐えきれなかったのか、

顔を赤くして逸らされた。

 

「・・・・・うん、お前を信じる」

 

「ありがとう・・・・・」

 

ポツリと信用してくれる発言を述べてくれた。そんな彼女の気持ちに俺は応えよう―――!

 

―――○●○―――

 

あれから俺は、カリンの家に赴くため翼を広げて空を飛んでいた。

下を見下ろせば、駒王学園が通り過ぎた。

 

「イッセー、あっちだ」

 

背に乗っているカリンが案内してくれる。

 

「快適」

 

当然とばかり、オーフィスも空の飛行を満喫している。

カリンの家はそう遠くない場所にあると訊くが・・・・・。

 

「あっ、見えた。あれが私の家だ」

 

「・・・・・あれかよ」

 

思わず目を疑った。この町に似合わない洋風の城が肉眼で捉えた。ここ、日本だよな。

外国の貴族の考えることはよくわからない。

 

「あの家は元々、日本に移り住む前に住んでいた家なんだ。

土地を買い取って家ごとこの国まで転移して持ってきた」

 

「どんだけなんだよ。カリンの親は・・・・・」

 

「うん、そう思うよな・・・・・」

 

翼を動かしてカリンの家の門前に降り立ち、カリンを下ろす。

彼女に視線を向けたら、コクリと頷き自分の足で動いて門に触れた。

 

ガチャ・・・。

 

「さあ、入ってくれ」

 

「ん、お邪魔します」

 

「お邪魔する」

 

オーフィスと共に初めてカリンの家に足を踏み入れた。中庭はとても広く、

中央に大きな噴水があった。花壇や木々が生えていて、清楚な庭だと思った。

 

「そう言えば、この国に移り住む前はどこの国にいたんだ?」

 

「ハルケギニアのトリステインだ」

 

「へぇ、あの国か」

 

ガチャリと玄関の扉を開けるカリンに続く。―――うん、外もそうなら、

中も洋風の作りで作られた家だった。

 

「私の部屋に案内しよう。そこで姉さまを呼ぶ」

 

「いきなりお前の部屋に入って良いのか?」

 

「ふん、何を言っているんだ」

 

鼻を鳴らして俺に体を向けて両腕を広げた。

 

「私はお前を信じているんだ。だから、私はお前を部屋に入れる。心からお前を信じているから」

 

「・・・・・」

 

満面の笑みを浮かべるカリン。そんな彼女に俺はときめいてしまった。

 

「・・・やっぱりカリンは恰好好いな・・・・・」

 

そう漏らせばやっぱり案の定。

 

「ふふ、そうか・・・・・私は恰好好いか・・・・・」

 

嬉しそうに両手を頬に添えて体をくねらした。久し振りに照れる彼女を見たな。

 

「―――カリン、帰っていたのか」

 

「っ!」

 

カリンの目が見開いた。まるで兵隊のように体を真っ直ぐにして声が聞こえた方へ振り向いた。

 

「はっ、はい、父上」

 

「・・・・・お前の後ろにいるのは友達か?」

 

レッドカーペットに敷かれた階段を踏んで下りてくる厳格な顔つきの中年男性。

金髪に片目にモノクルが特徴の人だった。カリンの父親が俺とオーフィスを見詰める。

そんな父親にカリンが口を開いて紹介してくれる。

 

「はい、そうです。同じクラスメートの友達と友達の家に住んでいる子です」

 

「なるほどな。私はカリンの父親、サンドリオンと言う。

学校では何時もカリンが世話になっているだろう。なにか、失礼なことをしていないかね?」

 

「ち、父上!」

 

「いえ、とんでもないですよ。寧ろ、彼女のおかげで期末試験で俺たちはSクラスになれました。

彼女がいなかったらSクラスになれなかったでしょう」

 

「ふむ、そうか。これからも娘をよろしく頼む。・・・・・名はなんというかね?」

 

そう言えば名乗っていなかったな。一度お辞儀をしてから名を名乗った。

 

「自分は兵藤一誠です。この子は―――」

 

「―――兵藤だと?」

 

「ん?」

 

カリンの父親、サンドリオンが一瞬だけ目を丸くした。

顎に手をやって険しい顔つきで俺の顔を覗きこむ。

 

「兵藤・・・・・懐かしい名前だな。久しく訊いた」

 

「父上・・・・・?」

 

「いや、何でもない。カリン、友達と遊ぶなら静かにな」

 

それだけ言ってサンドリオンが踵を返して俺たちから離れようとした。

さっきのあの反応・・・まさかな。

 

「兵藤誠と兵藤一香をご存じですか?」

 

言った瞬間、サンドリオンの足が停まった。

 

「いま、何と言ったかね?」

 

「兵藤誠と兵藤一香をご存じかと訊きました。俺の両親を」

 

「・・・・・なんだと」

 

踵を返したサンドリオンがこっちに振り向いた。その顔と瞳は驚愕の色が浮かんでいる。

 

「キミは・・・・・誠殿と一香殿の子供だと、そう言ったのか?」

 

「はい、ハッキリと。その証拠に・・・・・」

 

魔方陣を展開して、リアス・グレモリーのアルバムを取り出す。

そのアルバムから一枚の写真を取り出してサンドリオンに見せつける。

 

「・・・・・・」

 

赤ん坊の頃の俺と両親の写真。サンドリオンは俺から写真を取って懐かしそうに眺める。

 

「よもや・・・・・この極東の地であの二人の子供と出会えるとはな・・・・・」

 

「父上、イッセーのご両親とお知り合いだったのですか?」

 

サンドリオンに尋ねるカリン。その問いに「うむ」と肯定したサンドリオン。

 

「昔馴染みだ。儂と妻が若い頃、誠殿と一香殿も魔法騎士隊に所属していたのだよ。

言わば、戦友と言うべき存在だ」

 

「そんなことが・・・・・それで、それからどうしたのですか?」

 

「二年ぐらい経った頃だろうか、あの二人は突然、自ら除隊し儂たちの前から立ち去った。

それから音信不通の状態が続きいまに至る」

 

父さんと母さん、あんたらは一体なにをしていたんだよ・・・・・俺より驚くこと

ばかりじゃないか。

 

「キミ、いや・・・・・一誠くんと呼んでいいかね?」

 

「はい、勿論です」

 

「あの二人は元気かね?この町に住んでいるのかな?」

 

「・・・・・」

 

その質問に俺は沈黙した。でも、言わないといけない。真っ直ぐサンドリオンの顔を見て言った。

 

「亡くなりました」

 

「・・・・・」

 

「両親は殺されて死んでしまいました。

俺と従者が出掛けている間に・・・・・殺されていました」

 

バサッ!

 

「母と父の形見を人知れずに受け継がれて俺は―――」

 

翼を展開して、そう言いかけた時だった。どうしてだろうか、

俺はサンドリオンに抱きしめられた。

 

「もう言わんでいい」

 

「・・・・・」

 

「父上・・・・・」

 

カリンが呼ぶが、サンドリオンは未だに俺を抱きしめる。

 

「一誠くん、両親の死を受け止めた時は辛かっただろう・・・・・」

 

「―――――」

 

初めてそんなことを言われた。誰も、父さんと母さんを知るヒトたちは、

俺の存在に嬉しがっていたけど、こんな風に抱きしめられて

慰められたことが一度もなかった・・・・・。

 

「どれだけ苦労して、辛い思いをして生きていたのか儂には分からない。

だが、これだけ言わせておくれ。あの二人の代わりに言わせて欲しい」

 

―――頑張ったな。お帰り息子よ・・・・・。

 

・・・・・・・・・・。

 

・・・・・なんだよ・・・・・それ・・・・・・。

 

「・・・・・なんだよ、それ・・・・・おかしいだろ・・・・・なんで、

なんであんたがそんなことを」

 

渇いた心があっという間に潤い始めた感じで、心の底に隠していたものが湧き上がった。

抑えることができず、何時しか俺の目から涙が流れ始めだした。

 

「なんで、あんたがいままで誰一人言わなかったことを言うんだよ・・・っ!」

 

「イッセー・・・・・・」

 

「ふざけんな・・・・・っ、本当に、本当にふざけるなよ・・・・・!俺のこと、何一つ知らない

くせに、そんなこと言うなよ・・・・・!くそ・・・放せ・・・・・!」

 

無理矢理、サンドリオンから離れて俺は睨んだ。

 

「あんたは俺の父親かよ!?俺は今まで復讐のために生きていたんだ!

そんな俺にそんな優しい言葉で・・・・・言葉で・・・・・!」

 

涙が収まる気配がない。なんでだよ、何で止まらないんだよ・・・・・!拭おうにもダムが

決壊したかのように涙が流れ続ける。そんな俺にカリンが寄り添って来て

俺をどこかへと連れていく。

 

「イッセー・・・・・」

 

「なんなんだよ・・・・・なんなんだよ・・・・・」

 

訳も分からないまま、涙が流れ続ける。どうすれば止まるのか今の俺には分からない―――。

 

―――○●○―――

 

―――カリンside

 

イッセーが突然に泣きだした。あんなイッセーは初めて見た。

 

「・・・・・」

 

私の部屋に連れて来た今でも、イッセーは涙を流し続けている。

オーフィスはそんなイッセーを上目づかいで見ているだけだった。

私はあいつをここに連れて来てしまったのが間違いだったのか自問自答に悩まされている。

 

「(そういえば私って・・・・・泣いた事が一度もなかったな)」

 

生まれて十数年間。憧れの母のようになりたいと修行に明け暮れていた。

泣く暇なんてないのも当然か。

泣くってどんな気持ちなんだろうか・・・・・どうやって慰めればいいのか、私は分からない。

何時も泣くのはルイズ姉で、どこかに行ったかと思えば、

もう一人の姉と手を繋いで帰ってきたり、

ルイズ姉の婚約者と手をつないで帰ってきたりしていた。

 

「(あれ・・・・・私って誰にも慰められたことはない・・・・・?)」

 

いま思えば・・・・・思い出せば・・・・・一度もない。

これは、いいのか?私、何か大切なことを学んでいないような気がしてきたぞ・・・・・。

 

「・・・・・悪い、カリン」

 

っ・・・!

 

「みっともない姿を見せてしまった」

 

落ち着いたのか、オーフィスを抱きかかえていたイッセーが顔を俯かせたまま私に話しかける。

 

「もう・・・大丈夫なのか?」

 

「ああ・・・・・平気だ」

 

手で顔を擦った。上から下へとずらすように動かせば、イッセーの顔は泣く前の頃になった。

 

「まったく・・・・・不意を突かれたよ。思いもしなかった言葉に涙を流してしまった。

もう、泣かないつもりでいたのにさ」

 

「そんな・・・・・泣いても恥ずかしくはないと思うぞ」

 

「そういう理由じゃない。俺は復讐を果たすまで泣くつもりはなかったんだよ。

だから自分でも驚いたんだ」

 

嘆息するイッセーは、オーフィスをギュッと抱きしめた。

 

「もう、どんな言葉でも泣かない。ショックを受けようが、俺は泣かない・・・・・」

 

自分に戒めとばかり呟く。しばらくして、イッセーは私を見る。

 

「カリン、姉を呼んで来てくれるか?」

 

「あ、うん・・・分かった」

 

目的を忘れていた。頷いて部屋から出る。あの人は・・・・・きっと裏庭にいるだろう。

動物と戯れているだろうし・・・。

 

「あら、カリン。帰っていたのね」

 

「ルイズ姉」

 

廊下の向こうから私の姉、ルイズ姉が歩いてきた。彼女の後ろに一人の男の子もいる。

 

「ふん、Sに戻れてどうかしら?」

 

「別に・・・変わりはないけど」

 

「そう?あなた、婚約の話が出た途端に嫌そうな顔をしていたじゃないの。

嬉しかったんじゃないの?良い成績じゃなかったら

花嫁修業させられるって言われていたしねぇ?」

 

それは・・・確かにそうだけど、

 

「ルイズ姉、どうして最近突っ掛かるんだ?私、何かルイズ姉にした?」

 

期末の最終試験が終わってからと言うものの、ルイズ姉の態度が可笑しい。

私がSになり、ルイズ姉はAクラスになってお互い優秀な成績で終了した。

父上と母上も大して怒りもせず褒められただけだ。喧嘩もしたことがない。

普通に仲がいいのに・・・・・どうしてなんだ?

 

「あなた、幸せそうな顔をしているじゃないの」

 

「・・・・・私が?」

 

「ええ、そうよ。Sクラスにいた頃より楽しそうな顔をしているわよ。自覚ないのかしら?」

 

・・・・・何時も通りだと思うんだけどな・・・・・。自分ではわからない。

 

「いいわねぇ?Fクラスに行った妹が晴れてSクラスに戻れたんだもの。

姉としては褒めてあげたいけど・・・・・嫌だわ」

 

「え・・・?」

 

なぜ・・・?とそんな風にルイズ姉を見ていたら―――いきなり拳を突き出された。

私はすぐに反応してルイズ姉の拳を掴んで防いだ。その状態のまま、姉は語りだした。

 

「優秀すぎるのって考え物よね?あなたがいなくなったおかげで、私はクラスメートたちから

影で馬鹿にされ続けることが多くなっているわ。あの時の最終試験だってそう」

 

『あーあー、俺たちがAクラスかよ。成績と戦闘能力はいい方だけど、勘というか発想というか、

ルイズ。お前はそういうところが妹に負けているよな』

 

『どうしてお前がSになれたのか不思議でしょうがないぜ。運動が鈍い癖によ』

 

『言うだけ言って自分は何もしないってどうだと思うぞ。正直、お前にはついていけね』

 

『お前の魔法は爆発ばっかで他は何の取り柄のない役立たずだ。お前、委員長の資格ないって。

まだ妹の方がよかったなぁ』

 

ルイズ姉・・・・・そんなことが。

 

「私は・・・・・あのクラスの中じゃ一人ぼっちよ・・・・・誰も慰めてくれない。

私なりに頑張っているのにだれも褒めてくれない。なのに、なのに、なのに!」

 

怒りに満ちた瞳が私に向けられる。

 

「私の生まれ持った才能は『爆発』!?その魔法しか使えないで何がメイジよ!

魔法使いよ!ふざけんじゃないわよ!?」

 

「・・・・・」

 

「私はあなたが羨ましくてしょうがないわ!優秀な妹に比べられる気持ちも知らないあなたに!

私がどれだけ努力しても無化にされ、誰も私を認めてくれないのが悔しい!

カリン、私はあんたのことを酷く憎いわ!」

 

あんたなんて―――生まれてこなくて欲しかったわよ!

 

・・・・・ルイズ・・・・・姉・・・・・。

 

「ふん、行くわよ才人」

 

私の横を通る姉に顔を向けることすらできなかった。

姉がいなくなっても私はしばらく佇んでいた。

姉は、私のことをそう思っていただなんて・・・・・全然知らなかった。

 

「・・・・・あれ?」

 

頬に熱い何かが伝わった。手で触れてみると指が濡れた。これは・・・・・涙?

 

「・・・・・・はは」

 

なんだ・・・・・私も泣けたじゃないか。初めて泣いたのが姉の憎悪の言葉か・・・・・。

もっとロマンチックなことで泣きたかったな・・・・・。

 

「・・・・・イッセー、なんとなくお前の気持ちは分かったよ」

 

歩を進める。何時までもイッセーを待たせる訳にはいかない。

 

「―――そうか」

 

「っ!?」

 

背後にイッセーの声が聞こえた。後ろに振り返ると、

オーフィスを肩に乗せたイッセーが佇んでいた。

 

「聞こえていた。姉妹の会話のやりとりをな」

 

「そうか・・・・・」

 

「ルイズの気持ちも分からなくはない。俺だって認められて欲しいと思う時もある。

だけど自分より凄い奴がいたら必然的にそいつを褒め称え、自分は蔑ろになる」

 

うん・・・・・そうだろうな。私も、気持ちは分かる。けど・・・・・。

 

「かなり、ショックだったな・・・・・・」

 

「ああ、そうだな・・・・・」

 

イッセーの腕が私の背中に回されて、抱きしめられた。

 

「俺たち、今日は泣くことが多いな」

 

「うん、そうだね・・・・・」

 

「明日から何時も通りになろう」

 

「・・・・・分かった」

 

ギュッとイッセーの背中に腕を回して顔を埋める。声を殺して私は嗚咽を漏らす。

 

「イッセー・・・・・私、あなたの家に住みたい」

 

初めて家族以外に女言葉で話した。きっとイッセーは驚いているだろうな。

でも、なんでだろうか。

 

「ああ・・・・・一緒に暮らそう。カリン」

 

「うん・・・・・」

 

彼の前だと私の本心が曝け出されるんだ。

 

―――○●○―――

 

―――一誠side

 

カリンと共に裏庭へやってきた。カリンがここにいると言う可能性に信じて赴いた。

そして、裏庭に足を踏み入れた。

 

「おおう・・・・・」

 

キャンキャン、ニャーニャー、チュンチュン、シャァァァ、クマクマ、ガオオオオォォン、

 

裏庭は動物園と化となっていた。様々な動物が思い思いに裏庭を駆け走ったり

のんびりと寛いでいたりしていた。というか、この空間に弱肉強食などとそんな過酷な環境は

存在すらしていなかった。食うはずの、食われるはずの存在がいるというのに、

両者は仲良く傍にいる。さらに動物たちに紛れている一人の女性がいた。

 

「カリン、あの人がそうなのか?」

 

「カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ。

それが私とルイズ姉の姉の名前だ」

 

相変わらず・・・・・長い名前だ。カリンの姉の名前と動物たちを唖然としていると、

桃色がかったブロンドの女性が俺たちに気付いた。視線をこっちに向けているからだ。

腰を上げて立ち上がり、ゆっくりとを歩み寄ってくる。

 

「あら、カリン。お帰りなさい」

 

「ただいま戻りました、カトレア姉」

 

姉妹は抱擁し合う。どちらからでもなく離れて俺に視線を向けてくる。

 

「姉さま、紹介します。彼は私の―――」

 

「彼氏かしら?」

 

おっとりとカリンの姉がとんでもないことを言いだした。

カリンは顔を最大に真っ赤に染めて首を激しく横に振った。

 

「ち、違います!私のクラスメートの兵藤一誠です!」

 

「そうなの?てっきりそうだと思ったのにね。カリンが男の子を連れてくるなんて

初めてのことだし」

 

「そ、それはそうですけど・・・・・!」

 

「もしそうなら、私は歓迎するわ。ナイトさん、この子をよろしくお願いするわ♪」

 

「ね、姉さまぁっ!?」

 

・・・・・からかっているのか本気で言っているのか判断がしにくいな。

 

「それで、どうしたのかしら?私に彼を会したかったの?」

 

「あっ、はい。実はそうなんです。姉さまのご病気を治せる可能性が彼にあるので・・・・・」

 

「私の病気を?」

 

カトレアが目を丸くした。俺は肯定と頷き、『熾天使変化(セラフ・プロモーション)』の状態となった。

 

「そういうことです。だから、そのままじっと立っていてください」

 

彼女の返答を聞かず、翼を動かしてカトレアの全身を包んだ。

 

神器(セイクリッド・ギア)は宿主の想いを応え進化する』

 

アザゼルの言葉が頭に過った。俺の想い・・・・・。

 

「(頼む、この人の病を治したい。だから、俺の気持ちに応えてくれ・・・・・!)」

 

神器(セイクリッド・ギア)に力強く願いを籠め、癒しの能力を発動させた。

 

「俺の気持ちに応えてくれ!神器(セイクリッド・ギア)ァ!」

 

カッ!

 

翼が神々しく輝きを放った。目を腕で覆うほど眩しく、カリンも光を腕で遮っている。

 

「治ってくれ・・・・・あんたはまだ生きる資格があるんだからな!

世界中に旅行をして自分の目で世界を見るためにも!

家族と何時までも仲良く暮らすためにもだ!」

 

光は周囲を照らし―――一瞬の閃光が俺の視界を白く塗り替えたのだった。

視界が回復する頃には光は消失していた。翼を動かし、

彼女を解放すると瞑目してその場で佇んでいた。

 

「「・・・・・」」

 

カリンと共に緊張した面持ちで彼女を見守る。しばらくして・・・彼女が目を開いた。

 

「・・・・・」

 

表情は変わらない。自然体でいる。上手くいったのかどうかは・・・・・彼女しか分からない。

 

「姉さま・・・・・ご気分はどうですか?」

 

「ええ・・・・・」

 

カトレアの答えは―――。

 

「凄く軽いわ。あんなに体が重かったのに、彼のおかげでなんだか体が羽のように軽いの」

 

「―――っ!」

 

「カリン、ちょっとだけ一緒に走ってもらえるかしら?私、走れるような気分なの」

 

「は・・・はい!」

 

彼女の願いを聞き入れたカリン。カリンはカトレアの手を取って、最初はゆっくりと走った。

動物たちも一緒に走るとばかり、姉妹を追い掛けて行った。どうやら・・・・・、

 

「成功した・・・・・ようだな」

 

ふぅ・・・・・と、疲れた感じで息を吐いた。家の壁に寄り掛かってまだ走る二人を眺める。

 

「楽しそうに走るな」

 

「ん、我もそう思う」

 

オーフィスも肯定と頷く。だよな、そう思うよな。と、思っていると二人が戻ってきた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・走るって気持ちいいのね。でも、疲れちゃったわ」

 

「姉さまは体が弱かったのですから当然ですよ。イッセー、姉さまの病は完全に治っている。

ありがとう、イッセー」

 

深くお辞儀をするカリン。俺は気にするなと、手を振る。

 

「俺も新しい能力を発見できた。だから、気にするな」

 

「だけど、お前は一人の命を救ったんだ。もっと感謝されるべきだと私は思うぞ」

 

「はい、妹の言う通りですよ。兵藤一誠くん、ありがとうございます」

 

「・・・・・どういたしまして」

 

気恥ずかしくなり、頬を掻く。

 

「・・・それじゃ、俺は帰らせてもらうぞ」

 

「帰る?なんでだ」

 

「俺もやることができたんだ。それをやるために俺は帰る」

 

「・・・・・そうか、イッセーがそう言うのなら仕方がない」

 

カリン、残念そうに息を吐かないでくれよ。

 

「兵藤一誠くん、ありがとうございます。

何かお礼をしたいのですが・・・なにがよろしいでしょうか?

私ができることならなんでもいたしますわ」

 

「何でも・・・・・じゃあ、一つ良いかな?」

 

「はい、なんなりと」

 

「カリンをフォローしてくれるか?きっとあなたの力を必要となるだろうし」

 

この提案にカトレアはニッコリと笑んで、首を縦に振った。快諾と意志を示して。

 

「わかりました。妹のことは任せてください」

 

「お願いしますよ。それじゃ、カリン。またな」

 

「ああ、またな!」

 

翼を強く羽ばたかせて空を飛んだ。このまま一気に家へと戻る俺とオーフィス。

 

「オーフィス」

 

「ん?」

 

「ヒトを助けるのって気持ちいいんだな」

 

って、言ってもオーフィスには分からないか。当のオーフィスも首を傾げているし・・・・・。

でも、今の俺は清々しい気持ちだ。こんな気分は初めてなのかもしれない。

さて、帰ったら修行だ!

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode2

夏休みになって二日目、外はギラギラと太陽の日差しが大地に降り注ぎ、

快晴過ぎるほど天気が良い。

 

「あー、外で寝るよりこっちのほうが良いにゃあ」

 

俺の膝に猫バージョンで座っている銀華がそう言う。

 

「イッセー、頭とか身体とか撫でて」

 

「了解、猫さま」

 

毛並みがよく、綺麗な銀の体毛を持つ銀華の体や頭を撫でる。

ゴロゴロと咽喉を鳴らして銀華は気持ち良さそうに目を細める。うん、今の彼女は猫まっしぐら。

 

「我も撫でる」

 

「おう」

 

黒い髪に頭を乗せて優しく撫でる。こっちもこっちで艶があり、撫で心地がいい。

 

「微笑ましい光景だねぇ・・・」

 

「ええ、そうですねぇ・・・・・」

 

のほほんと茶を飲んでいた和樹と龍牙が、なんかジジ臭いことを言っているな。

 

「さて、テレビでも見ましょうか」

 

「最近、面白そうなニュースが報道されていないからつまらないね」

 

と、龍牙がリモコンを手にとってテレビに電源を入れた。

 

「おや・・・・・早速面白そうなニュースが生放送されていますよ」

 

クスリとテレビを見て笑む龍牙。テレビに白い羽織りのようなものを羽織っている

一人の白い顎鬚が長い老人が映っている。背景にどこかの建物が見える。

 

『さて、夏と言ったら祭りじゃが、今年はデカイのがあるぞい。

川神院の恒例行事として八月に川神武道会を開催しているのは知ってのとおりじゃ。

じゃが、今年はとある事情で今回は大規模なものにしようと考えた次第じゃ』

 

「予算の削減・・・・・ではなさそうですね」

 

「もしそうなら小規模な武道会になるだろ」

 

『ワシら川神の遠い親戚が公私混合で行う祭りで、これはワシたち人間にとっても重要な行事だ。

何せ、人の王、つまりは次期人王を決めるためのことじゃからな』

 

っ!?

 

老人の言葉に俺は目を丸くした。和樹や龍牙にも視線を配れば、

あいつらも目を見開いて驚いていた。

 

『参加資格のことを説明しよう。年齢は無制限、参加者は人間のみじゃ。

人の王を決める祭りに悪魔や天使とか堕天使といった異種が人王になったら―――』

 

『―――いや、参加者も無制限(・・・)だ。鉄心』

 

テレビの向こう、虚空に現れた厳格な中年男性。―――兵藤源氏。あの人か・・・・・。

 

『源氏殿・・・・・しかし、それでは』

 

『俺が許そう、人王である兵藤源氏の俺がな。

それに、俺たち人間が他の種族に負けないことも証明する必要がある。

例え、悪魔と天使、堕天使、魔王や神すら倒しを得る可能性を秘めている俺たち人間の力を』

 

おいおい・・・・・それは天界と冥界に宣戦布告しているようなもんだぞ、あんた・・・・・。

 

『無論、どこぞのテロリストの参加も認める。

―――来るがいい、俺たち人間の力を見せつけ思い知らせてやろう。

そう、俺たち兵藤家と式森家の力をな』

 

大胆不敵に発言する兵藤家当主。それから祭りを行う日は八月二十日。予選と本選を分け、

本選はトーナメント式でRG(レーティングゲーム)を応用して戦う。

参加人数は16人まで。勝敗は相手の『(キング)』を倒すこと。

 

『なお、優勝した参加者の中で一人のみ俺の娘、人王の姫と婚約する権利を与える』

 

兵藤源氏の背後に大きな穴が開いた。その穴からゆっくり姿を現す二人の存在。

 

「・・・・・」

 

その二人の存在に釘付けになった。忘れるはずもない。

懐かしい・・・・・久しく会っていない俺の幼馴染たち。兵藤悠璃―――。兵藤楼羅―――。

 

『この二人のどちらでも両方とでも好きに婚約するがいい。

ああ、仮に女が優勝したら兵藤家の男と結婚し、全人類の女王として君臨してもらう』

 

マジかよ・・・・・。それ、兵藤家として良いのか?

 

『以上だ。参加したい者どもは世界各地に駅や町、都市に参加書を設置する』

 

『結局、源氏殿が全て話してしまったのぉ。まあいいわい。

源氏殿、この後、ワシの家で話をしないかの?』

 

『ふむ・・・そうだな。酒でも交わして話をしようか』

 

二人はカメラからいなくなる。あの二人も続いていなくなった。

そこでテレビの電源が切れた。龍牙が切ったのだ。

 

「これ・・・・・四大勢力戦争になりそうだね」

 

「きっと、冥界と天界もこの放送を見ていたかもしれませんよ」

 

「テロリストもな」

 

俺たち三人は互いの視線を交わして沈黙する。

 

「一誠、当然参加するよね」

 

「ああ・・・・・当然だ。―――あの二人の顔を見ていたら、

参加しないわけにはいかないだろう!」

 

ドゴンッ!

 

テーブルを思いっきり殴るように拳を振り下ろした。

その瞬間、テーブルが真っ二つになった。

 

「龍牙、和樹。お前らの力を貸してくれ」

 

真っ直ぐ二人を見据える。当の二人は当然とばかり薄く口の端を吊り上げて首を縦に振った。

 

「式森の名を出されちゃ、出ない訳にはいかない。それに、キミの力になりたい」

 

「僕もです。一誠さん、共に優勝しましょう」

 

二人とも・・・・・ありがとう。

 

「―――だったら、仙術をマスターしないとダメね♪」

 

膝に座っている銀華が俺に言った。ああ、勿論だ。分かっている。

 

「―――なら、残りのメンバーは当然我らだな?」

 

ザッ!と格好良く現れたガイアとオーフィス、清楚、イリナとゼノヴィア。

ガイアの言葉に俺は―――。

 

「いや、ガイアは俺の中にいてくれ。お前の力は必要だ。オーフィスも同じな」

 

「むっ、まあ・・・確かにあの力はお前の中でないと使えないな」

 

「我、イッセーのために頑張る」

 

二人は快諾してくれた。

 

「ゼノヴィア、お前はパワーばかりでテクニックが不足だ。

そっちの方面に鍛えなきゃ話にならない。俺と参加したいなら、

まずはそっちをどうにかしないと」

 

「む・・・・・了解した」

 

「イリナと清楚、お前たち二人は悪い。ハッキリ言って戦力不足だ。

俺たちの応援に撤してほしい」

 

「うん・・・・・分かっているよ。でも、無茶しないでね?」

 

「幼馴染としては歯痒い思いだわぁー!ああ、主よ!どうか私に力を与えてください!

幼馴染の力になりたいのです!」

 

本当に悪い。今回だけはどうしても勝たないといけないんだ。

 

「一誠さんを含め、ゼノヴィアは候補として四人ですね・・・・・」

 

「強力なメンバーじゃないと勝てないかも」

 

和樹の一言に俺は無言で頷く。カリンも候補に入れている。残りの11人は誰に・・・・・。

 

ブーッ!ブーッ!

 

携帯のバイブが鳴りだした。携帯を掴んで操作する。

 

「もしもし?」

 

『イッセー、私よ。テレビ、見てたわ。私たちもあなたの力になる。一緒に優勝しましょう』

 

いきなり電話にかけてきたリアス・グレモリーからの参加意思の言葉。

そうだ、忘れていた。実力者が。

 

「・・・・・俺が選んでいいか?今回だけは実力者がどうしても必要だ」

 

『ええ、いいわよ。誰?』

 

「・・・・・赤龍帝だ」

 

『イッセー?でも、イッセーは・・・・・』

 

ああ、分かっている。かなり弱い。それも蟻みたいにな。

 

「まだ祭りの期間はある。あいつを強化してやるよ。この際、形振り構ってもいられないし

藁にも縋りつきたい思いなんだ。どんな奴でも俺は強いと思った奴をメンバーに加える」

 

『そう・・・・・あなたの意志は伝わったわ。直ぐに彼を連れて一緒に行くわ』

 

「分かった」と言って通信を切った。それから皆に向かって言う。

 

「と言うわけだ」

 

「・・・・・本当に赤龍帝が必要ですか?」

 

「腐っても天龍だ。あいつを鍛えてやればリアス・グレモリーは喜ぶだろう」

 

「・・・・・まあ、あなたがそう言うのであれば・・・・・」

 

龍牙が少し不安そうに言った時、また携帯が鳴りだした。誰だ?

 

「もしもし」

 

『イッセーくん、ソーナです』

 

・・・・・あれ、俺・・・彼女に電話番号を教えたか?

 

『あなたの携帯番号については後ほど教えますので今は問わないでください』

 

「・・・人の心を読まないでくれるか?・・・それで、どうしたんだ?」

 

『祭りの件についてです。私もイッセーくんの力になりたいのです。

ですから、私の眷属から「女王(クイーン)」の椿姫をあなたのメンバーに加えてください。

彼女の能力は・・・すでにお分かりですよね?」

 

あれか・・・・・確かに彼女には不意を突かれた。実力はともかく能力は使える。

 

「分かった。彼女の力を借りる」

 

『分かりました。では、彼女と一緒に・・・ああ、イッセーくん』

 

「ん?」

 

『―――サイラオーグにも声を掛けましょうか?』

 

―――強者だ!

 

「頼む」

 

『分かりました。きっと彼も二つ返事をするでしょう』

 

それだけ言って彼女は通信を切った。―――するとまた、携帯が鳴りだした。今度は誰だ?

 

『おう、俺だアザゼル先生だ』

 

何でこの人が電話をしてくるのかなぁ・・・・・。でも、聞こう。

 

「どうしたんだ?」

 

『なに、どうせお前のことだ。祭りに出るんだろう?そんなお前にグリゴリから一人、

お前のメンバーに加えて欲しい奴がいるんだよ。まだ空いているか?』

 

アザゼルたちグリゴリから・・・・・?

怪訝になって取り敢えず肯定と頷いて言うと、アザゼルは―――。

 

『きっと戦力になるだろう。今から連れて行ってやる。待ってろよ』

 

一方的に言われて切られた。・・・・・なんなんだ?

 

「一誠、誰から?」

 

「アザゼルからだった。アザゼルがグリゴリから一人メンバーに入れて欲しいと頼まれた」

 

「グリゴリから派遣ですか・・・・・?一体、誰なんでしょうね」

 

俺も知りたいところだ。もう・・・・・掛かってこないよな?

 

カッ!

 

リビングキッチンに神々しい光が唐突に生じた。何事だ!?と思いながら見覚えのない

魔方陣を睨んでいると―――。

 

「突然の訪問に申し訳ないです。兵藤一誠くん」

 

光の中から現れた二人の存在。

1人は六対十二枚の金色の翼を展開している天使―――大天使ミカエル。

 

「「ミ、ミカエルさま!?」」

 

教会組のイリナとゼノヴィアがいきなり現れて天使長の前に跪いた。

 

「人間界に流れた情報を我々、天界も耳に届きました。

人王、兵藤家現当主の彼の発言に宣戦布告と見なし、

私たちから選り抜いた一人の戦士をあなたのメンバーに加えて欲しく参じたのです」

 

やっぱり宣戦布告と受け取られているよー!?

マジで四大勢力が戦争を起こすことにはならいよな!?」

 

「―――デュリオ、ご挨拶を」

 

ミカエルに呼ばれたもう一人が一歩前に出た。

姿は神父の恰好で金髪に緑の瞳と言う端正な顔立ちの青年。

歳は・・・・・俺より三つか四つ上ぐらいだろうか?

 

「ちわー、自分はデュリオ・ジェズアルドと言いまっす」

 

「デュリオ・ジェズアルド・・・・・!?」

 

「そんな人が、イッセーくんのメンバーに・・・・・」

 

ん、二人の反応が凄まじいな。そんなに凄い奴なんだ?ミカエルは微笑み、

デュリオのことを説明する。

 

「彼は十七種の神滅具(ロンギヌス)の中で二番目に強いと言われ、天候を操り、

いかなる属性を支配できる能力の『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』の所有者でもあります」

 

な・・・・・っ!二番目に強い神滅具(ロンギヌス)の所有者だと・・・・・!?

 

「・・・・・私の出る幕はなさそうだな。イッセー、私は辞退させてもらうよ。

彼ならばイッセーの力になれる」

 

ゼノヴィアが自ら辞退した。お前がそんなこと言うほどこいつは強者だってことなのか・・・。

 

「兵藤一誠くん、よろしいでしょうか?」

 

「ああ・・・・・いいけど、そっちこそいいのか?神滅具(ロンギヌス)所有者を天界から連れて来てさ」

 

「ヤハウェさまからの指示でもありますし、彼は暇さえあれば人間界にある食べ物を巡って

どこかへ行ってしまうのですよ。なので、彼を効率よく使ってください」

 

天使長とは思えない発言だな最後の方は。俺はデュリオの顔を見て口を開く。

 

「ミカエルは言っているけどお前の本心はどうだ?」

 

「自分は別に良いっすよ。それに人間界にいられるんで、

好きに美味しいものを食べれるんでラッキーだと思っています」

 

「デュリオ・・・・・あなたと言う人は・・・・・」

 

物凄く呆れる顔をするミカエル・・・・・こんな奴が他にも天界にいるのか。いや、教会か?

 

カッ!

 

と、そう思っているとまたしても魔方陣が現れた。今度は複数だ。光と共に現れたのは―――。

 

「イッセー、お待たせ」

 

「・・・・・よう」

 

「イッセーくん、連れてまいりました」

 

「こんにちは、兵藤くん」

 

「久し振りだな、兵藤一誠」

 

リアス・グレモリーと成神一成。

ソーナ・シトリーと、生徒会副会長であり彼女の『女王(クイーン)』、名は真羅椿姫。

サイラオーグ・バアルと最終試験で見た全身に金毛が生えて、腕や脚が太く、口が裂けて鋭い牙。

尻尾が生えて、首の周りに金毛が揃って額に宝玉みたいなものがあり、

五~六メートルはありそうな巨大な獅子、ライオン。

 

「ラ、ライオン!?」

 

「いえ・・・・・これは・・・・・」

 

清楚が驚く声に、ミカエルは否定するが普通の獅子とは違うと気付き、

ジッとサイラオーグの獅子を見詰めていると

 

「よう、待ったか?」

 

声と共にまた魔方陣が出現した。光と共に現れたのは二人の存在。

一人は堕天使の総督アザゼルだ。もう一人は日本人だ。背恰好は成神とほぼ同じぐらい。

その辺にいるちょっとイケメンな日本男性って具合だ。年は成神より一つか二つ上か?

ただ―――。

 

「・・・・・」

 

傍らに大型の黒い犬を従わせていた。真っ黒だ。漆黒の毛色と言っていいだろう。

金色の瞳がギラギラと輝いている。

・・・・・身に纏うオーラの質から普通の犬ではないことが分かる。異形の類―――。

いや、神秘的なものも感じれるな・・・・・。

 

「お?へぇ、ここにミカエルがいるなんて珍しいじゃなねぇか。

しかも、神滅具(ロンギヌス)所有者を引き連れてか。お前も俺と同じ考えのようだな。

いや、ヤハウェの差し金か?」

 

「ええ、どうやらお互い同じことを考えているようですね。

皮肉にも各勢力に所属している神滅具(ロンギヌス)の所有者がこうして集うとは・・・・・」

 

各勢力に所属している神滅具(ロンギヌス)の所有者・・・・・?

じゃあ、アザゼルの隣にいる男も所有者なのか・・・・・?

 

「初めまして、『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』の幾瀬鳶雄といいます。こっちは(ジン)。『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』で神滅具(ロンギヌス)そのものだと思ってください。

俺の神器(セイクリッド・ギア)は独立具現型だから、意志を持っているんだ」

 

あっ、やっぱりそうなのか。だけど、これは凄い。

一気に神滅具(ロンギヌス)の所有者と出会えるなんて驚きだ。

 

「うわ・・・・・超豪華なメンツだよ。もう一度見られるかどうかかなり貴重な光景だよ」

 

「ここに白龍皇がいたら、もっと凄いですよね」

 

あ・・・・・そういえばそうだな。あいつも、神滅具(ロンギヌス)の所有者の一人だ。

 

「(あの人、テロリストも参加して良いとか言っていたな。

・・・・・まさか、あいつらが参加するとはとても―――)」

 

ピンポーン。

 

家のインターホンが鳴った。リーラがお辞儀して訪問者を出迎えに行った。

 

「しかし、あの男の発言にはちょっといただけなかったな。

おかげで、血気盛んな俺の部下どもが参加するって言い出したぞ」

 

「こちらも似たようなものですよ。今回の祭りに参加すると言いだす者たちが現れました。

中には『熾天使(セラフ)』の者までも・・・・・」

 

「俺たちの部下がそうならルシファーたちのところも同じ状況になっているかもな。

これ、あの時の続きになっちまうじゃねぇか?」

 

「それだけは何としてでも避けたいところです。

なので、それは彼に何とかしてもらう必要がありますね」

 

ミカエルが俺に視線を向けてくる。って、俺かよ!?

 

ガチャ。

 

「一誠さま、お客さまです」

 

「客?誰だ?」

 

「それは・・・・・」

 

言い辛そうなリーラだった。だけど、これ以上来訪者を待たせる訳にはいかないと彼女は

扉を開け放って―――。

 

「久し振りだね、一誠」

 

ヴァーリ・ルシファーを招いた!

 

「ヴァ、ヴァーリ!?」

 

「カッカッカッ!オイラたちもいるぜぃ!」

 

「お邪魔します」

 

「にゃん、久し振りね」

 

「お、お久しぶりです」

 

というか、ヴァーリチーム全員じゃないか!?

 

「・・・・・なんとまあ、向こうから奴さんが現れてくれたよ。呆れるぜ」

 

「久し振り、アザゼル。だが、私たちだけじゃないよ」

 

「なんだと・・・・・?」

 

ヴァーリの意味深な発言にアザゼルが怪訝な面持になった。

彼女の言葉がまた別の人間たちが中に入ってきた。

 

「―――やあ、あの時以来だね。兵藤一誠」

 

「―――――っ!?」

 

学生を着た黒髪の青年だった。学生服の上から漢服らしきものを羽織って手には槍を持っていた。

その男は一度だけ会ったことがある。

 

「―――曹操」

 

「なんだと!?」

 

「彼が・・・・・『英雄派』。しかもあの槍は・・・・・」

 

ミカエルが警戒の色を浮かばせた。ミカエルだけじゃない。

俺以外の全員が臨戦態勢の構えになった。

当たり前だ、あいつらは―――テロリスト集団『禍の団(カオス・ブリゲード)』なのだから!

アザゼルが苦笑しだした。

 

「―――こいつはまいったな。まさか、最強の神滅具(ロンギヌス)であり神滅具(ロンギヌス)の代名詞になった源物。

黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』がテロリストの男の手に宿っていたとはな」

 

『っ!?』

 

最強の神滅具(ロンギヌス)・・・・・。一番目ってことか・・・!

 

「俺だけじゃないけどね、神滅具(ロンギヌス)所有者は」

 

口の端を吊り上げる曹操の横から二人の人間が現れる。

子供と、魔法使いのようなローブを羽織っている眼鏡を掛けた青年、それに白い髪の男もいた。

 

「『絶霧(ディメンション・ロスト)』と『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』。二人とも上位神滅具(ロンギヌス)の所有者だよ」

 

『―――っ!?』

 

殆どの皆が新たな神滅具(ロンギヌス)所有者の登場に驚愕の色を浮かべた。

俺もその一人で思わず呟いてしまった。

 

「・・・・・ちょっと待とうか。これは何の冗談だ?

この場に十七種の内の十一種の神滅具(ロンギヌス)

それを所有している奴らが集まるなんてどういうことだよ?」

 

「いや、十二種だ」

 

アザゼルが訂正の声を発した。十二・・・・・?

 

「赤龍帝の成神一成が持つ『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』、

白龍皇のヴァーリ・ルシファーが持つ『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』、

俺の部下の幾瀬鳶雄が持つ『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』、

デュリオ・ジェズアルドが持つ『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』。

曹操たちが持つ『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』と『絶霧(ディメンション・ロスト)』と『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』、

兵藤一誠が持つ『幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』と『無限創造龍の錫杖(インフィニティ・クリエイション・メーカー)』と

時空間と次元の自由航路(スペースタイム・ディメンション・ルート)』と『神愛護珠(ゴッド・ラブ・ディフェンス)』。最後に―――」

 

サイラオーグの隣にいる獅子に視線を向けた。

 

「サイラオーグ・バアルが持つ神滅具(ロンギヌス)、『獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)』だ」

 

「・・・・・マジで?」

 

「ああ、マジでだ。その上、どうやら独立型の神滅具(ロンギヌス)のようだな」

 

訂正―――十二種の神滅具(ロンギヌス)が集結していました。

 

「で?テロリストどもはどうしてここに現れたんだ?」

 

「私は一誠の力になりたいと思ってね。曹操たちを問答無用に連れてきたんだ」

 

ヴァ、ヴァーリ・・・・・・お前って幼馴染は・・・・・。ちょっと感動してしまったぞ。

 

「・・・・・愛は盲目って奴なのかねぇ・・・・・?」

 

「アザゼル、愛は偉大ですよ?ですが・・・・・よく私の前に現れましたね。ジークフリート」

 

「ははは、僕としては現れたくなかったですがね」

 

ミカエルの怒気が含んだ言葉に苦笑を浮かべる白髪の男。なんだ、知り合いなのか。

 

「それに・・・・・あなたの腰にある剣は・・・・・聖王剣コールブランドと

最後の聖剣エクスカリバーの『支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)』ですね」

 

「ええ、そうですよ。ですが、返す気はないのでご了承を願います」

 

アーサー・ペンドラゴンが笑みながら言った。・・・もう、この場は混沌と化となっているよ。

 

「一誠、祭りに向けてメンバーを集めているんだろう?なら、私とアーサー、と曹操、ジーク、

ゲオルクとレオナルドをメンバーに入れてくれ、実力と能力は申し分ないよ」

 

ヴァーリの言葉に一瞬だけ頭が真っ白になった。

そう言えば、さっきも力になりたいとか言ってたよな。・・・・・でもな、

 

『はぁっ!?』

 

改めて俺たちは驚くよヴァーリ。

 

「お前・・・・・正気で言っているのか?」

 

「『どこぞのテロリストも参加を認める』と、兵藤家現当主は言ったじゃないか。大丈夫だ。

祭りに参加している間、私たちは危害を加えない。―――なんなら」

 

何時の間にか持っていた首輪を俺に突き出すヴァーリ。

・・・・・嫌な予感。と、彼女と首輪を交互に見ていたら―――。

 

「一誠、これを私の首に嵌めてくれ。そして祭りまでの間、私はお前の性処理として―――」

 

「ごめんなさい。分かったから、それだけは勘弁してくれ」

 

一秒も掛からず俺は土下座をした。

 

『はやっ!?』

 

周りから突っ込まれるがな!

 

「当然だろ!?幼馴染相手にそんなことできるか!

こいつ、言ったことを必ずやり通すんだぞ!?」

 

周りの皆に逆切れして言うと、イリナが思い出したかのように呟いた。

 

「・・・・・そう言えば、ヴァーリって意外と頑固だったわね」

 

「そういや・・・・・そうだったな」

 

ヴァーリと同じ幼馴染であるイリナや心当たりがあるのかアザゼルも納得した。

 

「・・・しょうがない。祭りの間、俺はこちらの監視をしてやる。兵藤一誠、お前はヴァーリだ」

 

曹操たちはアザゼル。俺はヴァーリたちを監視役か・・・・・まあ、いいか。

 

「い、一誠・・・・・本当に彼らもメンバーに?」

 

「まあ・・・神滅具(ロンギヌス)の所有者だし、敵であるこいつ等の情報も得れるから」

 

俺もどうかと思うが・・・・・こいつ等の力を借りて優勝したい自分がいる。

 

「不謹慎だが、俺は嬉しいぜ。神滅具(ロンギヌス)の殆どが一ヶ所に集まっているんだからな!」

 

「アザゼル、あなたと言う人は・・・・・」

 

子供のようにキラキラと目を輝かせるアザゼルに嘆息するミカエル。

 

「えっと・・・・・残り1人は空いていますが・・・・・どうします?」

 

「一誠と僕と龍牙、カリンを候補に入れて・・・後は真羅先輩と成神、サイラオーグ先輩、

デュリオさんと幾瀬さん、ヴァーリにアーサー、

曹操とジーク、ゲオルグ、レオナルド・・・うん、あと一人だ」

 

もう十分過ぎるほど、強者揃いなんだけど・・・・・まだ必要なのか?

 

「俺から一人、いいか?」

 

「曹操?誰だ?」

 

挙手する曹操。心当たりの奴がいるのか?

 

「―――彼女だ」

 

とある人物に指した。俺はその指された人物に視線で追えば―――、

 

「・・・・・私?」

 

曹操が指す人物。―――葉桜清楚だった。はっ?彼女・・・?曹操、どういうつもりだ?

俺が怪訝な顔で清楚に指すあいつを見ていると、曹操は告げた。

 

「彼女は西楚の覇王・項羽の魂を受け継ぐ英雄なんだ」

 

―――っ!?

 

な、なんだと・・・・・!?秦末期の楚の武将で劉那と戦いの破れた有名な人物じゃないか!

その武将の魂を受け継いでいるのが・・・・・葉桜清楚だと・・・・・!?彼女を見ると

彼女自身も唖然として言葉を失っていた。

 

「私が・・・・・項羽の魂を受け継いだ人間・・・・・?」

 

「その通りだ先輩。俺の先祖である曹操より生まれる遥か前に劉那と戦い敗れた武将の魂を

受け継ぐ存在だ。いずれ、あなたを『英雄派』に勧誘する予定だった」

 

「っ!?」

 

曹操の言葉に清楚は俺の背後に回って隠れた。

 

「彼女は鍛え上げれば強くなるよ。俺は断言する」

 

「・・・・・強くなれるの?弱い私が」

 

「弱い英雄なんていやしない。あなたがその気になれば強くなれるよ?

兵藤一誠を守れるぐらいにね」

 

嘘・・・・・言ってなさそうだな。その上、気になったことがようやく解消した。

それならば納得できる。彼女の身体能力とかな。

 

「項羽・・・・・調べてみる価値がありそうだな」

 

「うん、私もそう思う」

 

なら、一緒に調べようと清楚と約束した。

 

「さて、残るのはチーム名だな」

 

「んじゃ、俺が決めていいか?」

 

「変な名前だったら縛るからな?」

 

ビシッ!と縄を見せ付ければ、首が千切れんばかり縦に振ったアザゼル。

 

「ま、まあ、そのまんまな名前だ。―――ロンギヌス。

お前ら殆どが神滅具(ロンギヌス)所有者の集まりだからな。

人間や悪魔、堕天使に属する人間、天界、教会に属する人間が神滅具(ロンギヌス)を所有している。

こんなこと、神器(セイクリッド・ギア)が作られて以来、初めてのことだ」

 

ロンギヌス・・・・・か。

 

「皆どうだ?」

 

メンバーに問えば、首を縦に振りだした。異論はないとばかりに。

 

「んじゃ、決定」

 

「・・・・・助かったぜ」

 

「縛られるだけで何を恐れているのですか?」

 

「じゃあ、お前は縛られろ。絶対に堕天するぞ」

 

ん?ミカエルが所望なのかな?縄を見せ付ければ、ミカエルは首を横に振った。

 

「いえ、遠慮しましょう」

 

「残念。―――堕天し甲斐があったのに・・・・・」

 

「あなたは恐ろしい人ですね・・・・・」

 

珍しく冷や汗を流したミカエルだった。そうか?基本的に優しいんだけどな。

 

「で、アザゼルはここに泊んの?」

 

「ああ、悪いがそうさせてもらうぜ」

 

「別に良いさ。さーて、赤龍帝くん」

 

「な、なんだよ・・・・・」

 

シュバッ!

 

「・・・・・へ?」

 

「お前は弱いからなー。特別な部屋でお前をみっちり調教―――じゃなかった鍛えてやる」

 

一瞬で成神一成を亀甲縛りに縛ってやった。

 

「おおおおおおおおおおおおおおい!?いま、調教ってハッキリ言ったよなゴラァ!?

言い直し切れてすらいなかったぞぉ!」

 

ん、そうだったけ?まあ、気にすんな。

 

「黙って引きずられろ。現実世界が一時間過ぎている頃には、十日間過ぎている特別な異空間で

お前を弄ぶ―――じゃない、鍛えてやる」

 

「ぶ、部長ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!ヘルプ・ミィィィィィィィ!

俺、殺されちゃううううううううううっ!」

 

「うるさい」

 

「あふん!」

 

縄を引っ張って黙らす。

 

「おら、ロンギヌスチームも来い。特訓するぞ。祭りまで時間は有限なんだからな」

 

『りょ、了解・・・・・』

 

逆らえないと感じたのか、黙って俺に着いてくる面々であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・アザゼル、彼は怖いですね」

 

「俺の中で絶対に怒らせたくない奴ワーストワンだぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode3

「はははは!これが私のライバルだと言うのか!弱い、あまりにも弱過ぎて涙が出そうだよ!

一誠の方がずっとずっと強いよ?」

 

「うるせぇっ!俺だって必死に頑張っているんだっ!」

 

赤と白の光線が宙に走る。まあ、ヴァーリが圧倒的に有利なんだけどな。

 

「ここで赤と白の対決が見られるなんてね」

 

「見ての通り、白の方が優勢だな」

 

「まだまだ時間はある。今後の楽しみと思えばいいだろう」

 

トレーニングルームでサイラオーグ・バアルと曹操と一緒に

成神一成とヴァーリの戦いを見守っている。トレーニングメニューはさっき終わってのんびりと

休憩しているところだ。

 

「しかし、お前が人王の一族の者とは驚いたな」

 

「自分でも驚いているさ。三大勢力戦争を終戦に導いたとある人間の一族がまさか、

俺の家と和樹の家の人たちだなんてびっくりした」

 

「なら、兵藤家に帰らないのか?」

 

「実家がどこにあるのか俺には分からない。

それに・・・・・帰るなら俺が人王になってから帰郷するさ」

 

「ふっ、そうか」

 

笑うサイラオーグ・バアルに静かにお茶を飲む曹操。

 

「良い茶だな」

 

「それはどうも。この間メイドが仕入れたものだ」

 

「そうか、これはいい味を出す。気に入った」

 

そう言ってくれて何よりだ。俺もお茶を飲んで一息する。

 

「やはり、ドラゴンとともにいると面白いことが起きる」

 

「いきなりなんだよ?」

 

「力の象徴ともいえるドラゴンを宿す者同士や、神器(セイクリッド・ギア)を所有している

者同士が引き寄せられている。今の俺たちのようにな」

 

・・・・・否定できもしない。いや、否定する理由なんてあるか?

 

「そう言うことなら曹操、自分が知る限りで一番強いって思う人間はいるか?」

 

「強い人間か・・・・・川神百代かな?武神と異名を持つ彼女だ」

 

「戦ったことは?」

 

俺の問いに「ないさ」と首を横に振って告げる曹操。だが、

 

「戦闘の様子を見てそう思っている。彼女は自己再生のように負った傷を治す能力があるんだ」

 

「自己再生ねぇ・・・・・勝てる見込みはあるか?見ただけで」

 

「勝てなくはない。しかし、それでも苦戦するだろう」

 

曹操がそこまで言うほどの実力者か・・・・・。

 

「サイラオーグの女版っぽそうだな」

 

「ふっ、手合わせを願いたいものだな」

 

興味があるとばかりの発言だった。うーん、そうだな。

 

「じゃあ、川神市に行って川神百代に会いに行くか?」

 

そう提案を二人に出してみれば・・・・・「「行こうか」」と口を揃えて言ったのだった。

 

―――神奈川県 川神市

 

はい、やってまいりました神奈川県川神市!初めて訪れる県域にちょっとワクワク気分で、

大きな川が流れているところに建設された橋に歩いている俺たちであった。

 

「うーん、闘気が充満している町だな」

 

「そうだな。歩いているだけでヒシヒシと感じる」

 

「武を重んじる町でもあるからな。

例え、ケンカ騒ぎが起こっても不思議じゃないんだよこの町は」

 

おー、なるほどな。

 

「じゃあ、あそこで戦っているのも不思議じゃないんだな」

 

橋の下にある河原で、女が胴着を着た男をあっさりと勝った光景に指して問うた。

 

「ああ、そうだ。にしても早いな・・・・・もう出会ったか」

 

「誰と?」

 

「川神百代だ」

 

・・・・・あれま、本当にもう出会ったのか俺たち。

 

「・・・・・なるほど、見ているだけで相当の実力者だと伺える」

 

「サイラオーグがそう言うんならそうなんだろう」

 

俺もそう感じているしな、と付け加える。

だが・・・・・どこかつまらなさそうな雰囲気を出している。

 

「さて、帰るか?会ったことだし」

 

二人に問うと頷いた。翼を展開して二人を包もうとした―――。

 

ガシッ!

 

「おいおい、私を見てすぐに帰ろうなんてそれはないだろう?」

 

・・・・・・武神・・・・・か。

 

「そっちの男が一番強そうだな。体から感じる闘気が凄いぞ♪」

 

俺の肩を掴む女がサイラオーグに興味津々のようだ。

 

「こんなこと言うのは初めてだが、お前に決闘を申し込む。いいか?」

 

「・・・・・だってよ?」

 

どうするんだ?と風に訊けば、サイラオーグ・バアルは徐に上着を脱ぎだした。

 

「その決闘を受けよう。戦ってみたいと思っていたからな」

 

「よし!じゃあ、あそこで私と勝負だ!わくわく♪」

 

女が、武神が肩を放してくれた。振り返って彼女の姿を視界に入れる。

艶がある黒い長髪に赤い瞳、

黒を基調とした服を着ていた。

 

「あっ、そうだ。名前を名乗っていなかったな」

 

そう言って彼女は告げた。

 

「私は川神百代。好きな言葉は誠!」

 

―――川沿い

 

「では、審判は俺が」

 

曹操が買って出た。対峙する川神百代とサイラオーグ・バアルの間に立った。

 

「勝敗は相手を戦闘不能、または降参と吐かせる。制限時間は15分。異論はないな?」

 

「「ああ」」

 

「では―――、始め」

 

あいつが開始宣言を告げた次の瞬間。両者が激しく激突した。

 

「おお・・・・・驚いた」

 

「なるほど、武神の名は伊達ではないようだ」

 

ガッチリと互いの拳を掴んで拮抗している姿を見させてくれる。

一方は驚愕の色を浮かばせるが嬉しそうに言い、一方は相手を侮らず、称賛する。

 

「ははっ、こいつは面白くなってきたぞっ!」

 

川神百代は笑みを浮かべた。サイラオーグ・バアルから離れ、また飛びだす。

 

「川神流―――無双正拳突き!」

 

ストレートパンチをサイラオーグ・バアルに放った。その拳をあいつは見切り、片手で横に弾き、

 

「ふっ!」

 

深く川神百代の腹部に拳をねじり込むように突き刺した。

 

「・・・っ!?」

 

彼女の目に驚愕の色が浮かんだ。だが、それは一瞬のことで口の端を吊り上げた。

 

「川神流―――人間爆弾」

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

「・・・・・おいおい、自爆かよ?」

 

「自殺行為に等しい技だな。だが・・・・・川神百代にはあれがある」

 

曹操の意味深な発言に俺は確かめようと煙の中にいるであろう川神百代を視界に映す。

 

「(彼女の気が減った・・・・・?)」

 

それと同じくして、全身から血を流す彼女の体が見る見るうちに傷が治っていく。

 

「私に一撃を入れられたのはいつ以来だったかな。お前、本当に面白いよ」

 

川神百代が真っ直ぐサイラオーグ・バアルに向かって言った。対してあいつは―――。

 

「・・・・・」

 

至近距離から爆発の影響を受けているはずのあいつは、シャツがボロボロになっていて

血を流していた。だが・・・・・頭がアフロになっているのってどういうことだ?

 

「ふっ・・・・・あんな技を持っていたとは驚いた」

 

「いや、相手を称賛する前にお前、頭がアフロになってんぞ」

 

「む?ああ、気付かなかったな」

 

そう言ってサイラオーグ・バアルはアフロになった髪を―――外した。えっ、外れるものなのか!?

外れたアフロのサイラオーグ・バアルの頭は、元の黒髪の状態だ!

 

「だが、その技は俺には効かん」

 

「ほぉ、そうか。なら・・・本気で行くぞ!」

 

挑発ともいえる発言に川神百代はさっきより速度を上げてサイラオーグ・バアルに飛び掛かった。

それからというものの、二人は激しい肉弾戦を繰り広げた。それは―――。

 

「制限時間が十五分過ぎた。両者そこまでだ」

 

決闘の時間が過ぎるまで続いたのだった。

 

「えー!?もう終わりかよー!もっと戦いたいぞー!不完全燃焼だー!」

 

子供のように駄々をこねる川神百代。こいつ、戦闘狂かよ・・・・・。

 

「では、兵藤一誠と戦ってみればどうだ?」

 

「俺かよ?」

 

サイラオーグ・バアルの提案に今度は俺が戦わなければならないことになった。いや、俺は―――。

 

「・・・・・闘気があんまりないから弱そうだからなぁ・・・弱い者いじめなんて私はしないぞ」

 

「・・・・・」

 

いま、ちょーっと腹が立ったなぁ・・・・・。川神百代に近づく。

 

「ん?なんだ、本当に―――」

 

瞬時で口を開く彼女の額に指をぶつけた次の瞬間。川神百代は川に向かって吹っ飛んだ。

 

バッシャアアアアアアアアアァンッ!

 

「一言言わせてもらうぞ。―――人を外見で判断するんじゃねぇよ」

 

しばらくして、川神百代は川から現れてゆっくりとこっちに戻ってくる。

 

「私が不意打ちを食らうなんてな・・・・・」

 

前髪で彼女の表情は伺えない。

 

「しかもデコピンなんて・・・・・」

 

だが、全身から闘気が滲み出てきた。

 

「いいだろう・・・・・お前と手合わせしよう」

 

彼女は拳を構え出し、濡れ鼠のまま俺との戦いを望んだ。

 

―――サイラオーグside

 

奴は強い。それが俺があいつの第一印象だ。神滅具(ロンギヌス)を所有しているが奴は主に肉弾戦で好む。

今でも・・・・・。

 

「「はぁあああああああああああああああっ!」」

 

己の体一つで川神百代と戦っている。相手と同等の立場で敢えてしているのか分からないが、

兵藤一誠の戦いぶりは、俺と同じ我流の格闘術と体術。そう、その二つの術(・・・・・・)だけだ。

 

「はっ!」

 

ドンッ!

 

「くっ・・・!」

 

奴の拳が淡く光っていて、川神百代の体に直撃すれば、気に乱れが生じていくのが分かる。

あれは仙人しか扱えないと言う仙術だろう。兵藤一誠の家に猫の妖怪がいた。

その妖怪から仙術を学んでいたのだろう。

 

「ふむ・・・妙だな」

 

「どうした」

 

「川神百代の動きにキレが無くなっている。先ほどの戦いの影響とは思えないんだが・・・・・」

 

・・・・・曹操、奴の言葉に俺は川神百代の動きを確かめるように目を向ける。

 

「っ、瞬間―――!」

 

「させるかっ!」

 

一瞬の隙、兵藤一誠は見逃さず川神百代の懐に飛び込んで拳を打ち込んだ。

しかも、あの拳の出し方は―――。

 

「川神流・・・無双正拳突き・・・・・だと・・・・・!」

 

「ただのストレートパンチが必殺技に昇華した正拳突き。

それだけのことなら俺みたいな奴らなら誰でもすぐにできる」

 

「―――だったら、これはできるか!」

 

川神百代は兵藤一誠に飛び掛かった。

 

虹色の波紋(ルビーオーバードライブ)!」

 

ドゴンッ!

 

「っ―――!?」

 

殴った部分から波紋のように兵藤一誠の体に広がる。

 

「ぐはっ!」

 

―――兵藤一誠の口から吐血が吐き出て倒れた。・・・・・なんだと・・・・・?

あの男が・・・倒れるとは。信じられないものを見る目で俺は思わず目を見開いた。

 

「この技は相手の全身の骨を粉々にする。お前はもう立ち上がれ―――」

 

バサッ!

 

勝利を確信した、と川神百代は倒れる兵藤一誠を見下ろして口を開いていたが、

兵藤一誠の背中から現れた青白い翼に目を見開いた。その翼は兵藤一誠を包み光を放つ。

 

「・・・・・やっぱり世界は広いな。まだ見ぬ強者がいるんだからさ」

 

翼が消失し、兵藤一誠がゆっくりと立ち上がる。

 

「今の技はマジで訊いたぞ。俺じゃなきゃ負けている」

 

「お前・・・・・」

 

「さて、続けようか。川神百代。今度はお互い全力でな」

 

拳を構え、戦意の炎を瞳に宿し始めた兵藤一誠。ようやく、あいつの戦いは始まろうとした。

 

「(さて、この決闘はどう転ぶか、楽しませながら見させてもらうぞ。兵藤一誠)」

 

川神百代と兵藤一誠が互いに向かって飛び出す光景に、

小さく口の端を吊り上げて静観する姿勢で見守る。

 

―――○●○―――

 

―――兵藤家

 

「当主」

 

「なんだ」

 

「世界各地から祭りに参加する者たちの書類が100に超えました」

 

とある某所に兵藤家現当主、兵藤源氏が従者の話に「そうか」と短く返す。

当然だろうとばかりに。

 

「その中で・・・・・我々の一族の者らしき人物が一人参加しております・・・・・」

 

「そうか」

 

兵藤源氏は目の前に咲く桜を見上げたまま従者の言葉に短く返すだけだった。

 

「まさか、本当に我らの一族の者なのですか?

我々兵藤家の者は下界に暮らしてはいけない掟が存在しています」

 

「追放された兵藤家の者の子孫かなにかではないか?兵藤家から追放された者は兵藤家の、

兵藤一族とは無縁の関係になる。それを忘れたわけではあるまい」

 

「ええ、忘れたわけではありませぬ。ですが、万が一にも追放した我が一族の者が

人王になってしまっては周りに示しが尽きませぬぞ。当主よ、如何なさるおつもりなのですか」

 

従者の言葉に兵藤源氏は桜を見上げるだけ。

 

「それが運命(さだめ)なのであれば受け入れるしかないだろう」

 

「・・・・・」

 

「それに俺たち兵藤家は一枚岩ではない。―――ここのところ、不穏な動きをする者がいるそうだな」

 

確かめるように従者に尋ねれば、従者は肯定と意志を示して首を縦に振った。

 

「・・・・・はっ、なにやら探っているようです。目的は以前に分かりませぬ・・・・・」

 

「ふん・・・実に千年振りのことであるからな。次期人王の儀式をするのは。

今度は俺が王になろうと、ろくでもない野心を抱く者がでおったようだな」

 

ここで初めて従者に横目で見る。

 

「お前は参加するのか?」

 

「いえ、私は当主の従者です。あなたに出会ってこの命が尽きるまであなたに

尽くそうと心から決めておりますので」

 

「無欲な男よ」

 

「自覚しております」

 

二人は小さく笑む。

 

「兵藤家から出てくる者どもはどうしておる?」

 

「以前に変わりません。鍛練をこなしております」

 

「・・・・・娘たちは?」

 

「以前に変わりません。・・・・・室内で引き籠もっております」

 

従者の言葉に兵藤源氏が苦渋の顔つきになる。そんな兵藤家現当主に従者は言った。

 

「ここしばらく当主と顔を合わせるどころか、話すらしていませんね」

 

「・・・・・何が言いたい」

 

「娘に口を聞いてくれない寂しさ、分かりますよ」

 

意味深に言う従者。兵藤源氏は唐突に哀愁を漂わせて桜の気に抱きついた。

 

「悠璃、楼羅・・・・・頼むから俺に一言でもいいから『パパ』と呼んでおくれ・・・・・」

 

「(・・・・・事が事ですししょうがないとはいえ・・・・・まだ親バカですかこの人は)」

 

メソメソと泣きだす当主に従者は呆れ顔で静かに溜息を吐いたのだった。

 

そして―――祭りの日は刻々と迫った。それぞれの胸に何かを秘めいた者たちは、

ここ人王の儀式を行う京都に目指してやってくる。

 

 

―――○●○―――

 

 

―――一誠side

 

ロンギヌスが結集して十日ほど過ぎた。俺たちロンギヌスメンバーは来る日も来る日も修行やら

特訓、鍛練に明け暮れた。一番成長に目ぼしかったのは、成神一成だった。

 

「おりゃあっ!」

 

今日も元気に赤白対決をしていた。前は禁手(バランス・ブレイカー)状態の維持の時間が少なかったのに、

今では五日間維持できるようになっている。まあ、それでもヴァーリに勝てないが、

まずまずの成長だろう。

 

「ぐへっ!」

 

ん、今日で成神の戦績は五十五戦五十五敗っと。全身鎧姿のヴァーリが宙から降りてくる。

 

「しぶとくなったな赤龍帝。これも一誠のおかげかな」

 

「いいんじゃないか?リアスが喜ぶだろう。自分の眷属悪魔が強化しているのだからな」

 

「攻撃パターンが単純のままだがな」

 

「真龍と龍神、天龍と邪龍と五大龍王と共にいるから、

劇的な変化が起こる可能性はかなり高いと思うけどね」

 

うん、そうなんだよな。ソーナ・シトリーの『女王(クイーン)』真羅椿姫を見れば・・・・・。

 

「・・・・・」

 

周囲に大小の鏡が出現している。彼女のあれが『禁手(バランス・ブレイカー)』だ。

 

「大体、体力の向上はいい線をいっている。新たな力に目覚めた奴もいればそうでもない奴が

いるだろうが、それでも何かを掴み取っているはずだ」

 

「おかげで俺の未完成の禁手(バランス・ブレイカー)は完成した」

 

トントンと曹操は槍の柄を肩に叩く。

 

「倒すべき相手を強化してしまうなんてこんな皮肉なことがあるんだな」

 

「大丈夫、お前は俺が倒すからよ」

 

「簡単にはやられんさ」

 

曹操と不敵の笑みを浮かべる。こいつだけじゃない、ジークやゲオルグ、

レオナルドも成長している。あー、後が大変だなこりゃ。

グレモリー眷属とシトリー眷属も鍛えてやらないとダメかも知んない。

 

「さて、俺は最後の宿題でもしてくるかな。サイラオーグ、お前は終わったか?」

 

「一つか二つは残っているが問題ない」

 

「ん、成神のやつは・・・・・訊かないでおこう」

 

皆と別れ、特別な空間を後にした。それから俺は自室へ赴こうと階段に上った。

 

「あ、一誠くん」

 

「清楚」

 

「特訓はもういいの?」

 

「ああ、最後の課題の勉強をしようと思ってな」

 

「そっか」と清楚は柔和に笑む。彼女の腕に抱えている本に気付き俺は問うた。

 

「その本は?」

 

「え?あ、うん。三国志だよ。それと三国志に関する本」

 

覇王・項羽。西楚の王と称された武将。その武将の魂を受け継いでいるのが目の前の彼女。

葉桜清楚。

 

「俺もいいか?」

 

「うん、勿論だよ」

 

階段を降りつ清楚に続き俺も降りてリビングキッチンに赴く。

彼女が持っている三国志に関する本をテーブルに置いて清楚は小説、

俺は項羽と劉邦のことについて記された本を読み始める。

 

「「・・・・・」」

 

読んでいて壮大で凄まじい戦争。その中で生まれた裏切りや愛が渦巻いた話。

 

「一誠くん・・・・・項羽って凄い人なんだね」

 

「 そうだな」

 

「暴力的で残虐、酷い人だけど・・・・・虞美人っていう女の人に向ける愛情は本物だった」

 

清楚に振りかえると、彼女も顔をこっちに向けていた。

 

「もしも、古代中国の時代に争いがなかったら項羽と虞美人は

きっと幸せになれていたかもしれない」

 

「だが、争いの時代でも二人は愛し合って幸せだったのかもしれない」

 

「うん・・・・・そうだよね」

 

声を殺すように言い、彼女は俺の肩に頭を乗せた。

 

「私が虞美人の魂を受け継ぐ人で、一誠くんが項羽の魂を受け継ぐ人だったらよかったなぁー」

 

「ははは、歴史通りの暴れん坊になるぞ?」

 

「ううん、違う。歴史通り虞美人を愛してくれる人になるよ」

 

弾んだ声音で清楚は俺がそうなると言う。

 

「・・・・・一誠くん、聞いてもいい?」

 

「なんだ?」

 

「一誠くんが人間の王さまになりたい理由はなに?」

 

・・・・・それか。だが、俺は―――。

 

「人王にはなろうとは思っていない」

 

「え・・・・・?」

 

「俺は幼馴染を助けたいだけだ」

 

「それって・・・・・」と、清楚の呟きが俺の耳に届く。肯定と口を開く。

 

「兵藤悠璃と兵藤楼羅。俺の幼馴染だ」

 

「・・・・・」

 

「彼女たちと約束したんだ。『守る』。ただこの約束をしたんだ」

 

だから―――俺は何がなんでも優勝しないといけない。

 

「あの二人を救いたい。あの二人を助けたい。そして・・・・・謝りたい」

 

「一誠くん・・・・・」

 

「そのためにも俺はテロリストの力だって借りる。相手は強大な力を有する奴らだろう」

 

拳を強く握りしめる。本来的であるあいつらの力を借りるなんて他の勢力からしてみれば、

烏滸がましいはずだ。だが、それで俺は世界に敵を回したとしてもあの二人を―――。

 

「・・・・・」

 

俺の拳に清楚が優しく触れてきた。

 

「大切な幼馴染なんだね?」

 

「・・・小さい頃、俺の傍にいてくれた唯一の友達でもあるんだ。弱いからと周りに

イジメられていて俺のことを心配してくれた幼馴染なんだ」

 

「イリナちゃんやヴァーリは?」

 

「あの二人はセカンド幼馴染だな。でも、俺にとっては皆、大切な幼馴染だ」

 

そう言って俺は清楚の顔を見た。

 

「清楚、お前も俺の中じゃ大切な存在だ」

 

「一誠くん・・・・・」

 

―――気付けば俺と清楚は顔が近かった。それに気付いた時には彼女の顔が朱に染まっていた。

 

「「・・・・・」」

 

この場に誰もいない。俺たちだけの空間。お互いの吐息が掛かるぐらいの近さ。

 

「・・・・・こんなこと言って迷惑なのかもしれない」

 

前提とばかりに何か言おうと、口を開く清楚は顔を俯かせて「でも・・・」と付け加えた。

 

「私・・・・・一誠くんのことが・・・・・好き」

 

「・・・・・」

 

「でも、一誠くんを想っている女の子たちが一杯。

私もその一人だけど皆が凄くて勝ち目なんてない」

 

自嘲気味に話す清楚。そんな彼女の言葉を最後まで聞こうと耳を傾ける。

 

「だから、私は身を引こうと思うの。一誠くんとの関係が今のまま続けれるだけで私は満足。

私より一誠くんは他の女の子と―――」

 

「―――断わる」

 

「・・・・・一誠くん?」

 

はぁ・・・・・話を聞いて呆れるぞ清楚。

 

「俺の答えを聞かずに決めないでくれよ」

 

「・・・でも」

 

「清楚、お前は告白を断われることを怖がって逃げているように感じるぞ」

 

「・・・・・」

 

沈黙する。それは是也と受け取って言い続ける。

 

「今の清楚は項羽と同じ四面楚歌の状態かもしれない。だけどな―――」

 

彼女の肩を掴んだ。ビクリと一瞬だけ体を跳ね上がらすが清楚は俺の顔を真っ直ぐ見詰めてくる。

 

「俺は、俺を好きだと言ってくれる異性を愛する。絶対にだ。

それは俺を必要とし、俺のことを支えてくれる人だからだ」

 

「一誠・・・くん」

 

「俺しか知らない清楚を知らない男になんかに知られてほしくはない。・・・というかだな」

 

「はい?」

 

これから言おうとすることを気恥ずかしくなり、顔が熱くなるのが分かる。

 

「その・・・・・俺は寂しがり屋なんだよ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

えっ?とキョトンと唖然となった清楚に俺しか知らない事実を言う。

 

「何時も誰かと一緒にいたから、誰かがいないと心細くて怖がってしまうように

なっちゃったんだよ」

 

これはリーラにでも言ったことがない事実だ。

何時も彼女が傍にいてくれたから言わなかったが・・・。

 

「・・・・・ぷっ」

 

「・・・・・ん?」

 

清楚が笑みを零した。

 

「―――あはははははは!」

 

面白可笑しそうに彼女は笑いだした。目尻に涙を溜めて笑う。

 

「い、一誠くんって子供なんだね。可愛い♪」

 

「う、うるさいな・・・・・」

 

「そっかぁー寂しがり屋くんなんだねぇー?」

 

「ぐっ・・・・・言わなきゃよかった」

 

言って後悔しても後の祭り。清楚はニコニコと嬉しそうに笑みを絶やさないで喋り出した。

 

「うん、分かりました。私はずっと寂しがり屋の一誠くんの傍にいるよ。

一誠くん、不束者ですがよろしくお願いします」

 

「・・・・・ああ・・・・・よろしくな」

 

何やら大切なものを失ったような感じがする。でも、これで良かったのかもしれない。

 

「よし、私も皆に負けないように頑張る。最初は・・・・・私の魅力を知って欲しいかな」

 

「魅力?」

 

「う、うん・・・・・だから、楽しみにしててね。絶対に一誠くんを振り向かせるから」

 

何故か顔を赤らめる清楚だった。俺は何をするんだ?とわけわからず首を傾げる。

 

「四面楚歌・・・・・項羽が虞美人に送った最期の・・・・・・」

 

手に持っていた本のページに記された文字を視界に入れる清楚が、俺に提案した。

 

「一誠くん。私が虞美人の魂を受け継ぐ人で、一誠くんが項羽の魂を受け継ぐ人だったら

よかったって言ったよね?」

 

「ああ、言ったな」

 

「この四面楚歌・・・・・一緒に読んでくれる?」

 

四面楚歌を・・・・・?疑問を浮かべながら清楚を見ると彼女は頷いた。

 

「二度と会えないだろう愛した女の人に向けたこの悲しい詩をできれば、

私たちが読んで二人が幸せになれるように願いを、想いを籠めて・・・・・。

詩が詩だけど、私は項羽の魂を受け継いだ人として読みたい。

愛する人と一緒にいる私はいま幸せだと想いを籠めて・・・・・」

 

真摯に項羽と虞美人に対して言い願う彼女。

 

『私が虞美人の魂を受け継ぐ人で、一誠くんが項羽の魂を受け継ぐ人だったらよかった』

 

・・・・・ようやく気付いたよ。清楚の気持ちを、想いを。俺はバカだな・・・。

自嘲の笑みを浮かべ、清楚の手を握った。

 

「読もう、清楚」

 

「一誠くん・・・・・うん」

 

四面楚歌を記された本を魔方陣で浮かばせて、

指と指の間を差しこんで離れないように手を握り・・・。

 

―――読み上げ、復唱した。

 

「「力は山を抜き、気は世を蓋う。時、利あらず、騅、逝かず。騅の逝かざるを奈何にす可き。

虞や、虞や、若を奈何んせん―――」」

 

『私の力は(動かないものの代表である)山をも動かす程強大で、

気迫は(広いものの代表である)この世の中をおおい尽くしてしまう程なのに』

 

『時利あらずして 騅逝かず時勢は私に不利であり、(愛馬の)騅も進もうとしない』

 

『騅の逝かざる 奈何すべき騅が進もうとしないのを、もはやどうする事もできない』

 

『(それよりも)虞よ、虞美人よ。そなたの事を一体どうすれば良いのか―――』

 

「「・・・・・」」

 

・・・・・項羽と虞美人に清楚の想いが籠った声が届いたのかは分からない。

だけど・・・これでいいんだ。きっと・・・・・。

 

「・・・・・」

 

「清楚・・・・・?」

 

さっきから黙っている彼女。どうしたんだ?と思い、肩に手を触れようとした―――次の瞬間。

 

「っ!?」

 

彼女からいきなり暴威的な威圧感が感じた。なんだ、彼女の身に何が起きている!?

 

「・・・・・長いこと・・・・・心の片隅に封じられていたが」

 

瞑目している彼女の口から本来の口調とは違う喋り方・・・・・。

 

「ようやく、心が一つに混じり合った」

 

ゆっくりと目を開いた。瞳を覗けば琥珀色の瞳ではなく、血のように赤い瞳だった・・・・・。

 

「清楚・・・・・?」

 

信じられないものを見る目で名を呼んだ。

しかし、彼女は赤い瞳を俺に向けて「違う」と否定した。

 

「俺は覇王・項羽だ。あの男、曹操も言っていただろう。西楚の覇王、項羽の魂を宿す人間だと」

 

「なっ・・・・・!?」

 

バンッ!

 

「一誠さま!」

 

リビングキッチンにリーラが入って来て俺を守るように銃を清楚に突き付けた。

 

「大した忠誠心だな。俺の覇王の気を感じて、そいつを守ろうとするとは感嘆の一言だ」

 

銃を突きつけられて尚、気にしていないとリーラの行動に感心する清楚・・・・・いや、項羽。

 

「安心しろ。俺はそいつに何もする気はない。なにより、清楚が悲しむからな」

 

「・・・・・どういうことですか」

 

「俺は清楚であると同時に清楚ではない。二重人格でもない。

簡単に言えば、俺は俺、清楚は清楚だ」

 

「つまり・・・・・一つの体に二つの心があると?」

 

そう言うと項羽は頷いた。さっきの歌で覇王・項羽が覚醒したと言うことなのか。

 

「お前・・・・・いや、一誠と呼ばせてもらおう。

俺はお前が憂うようなことはしない。安心しろ」

 

「清楚は・・・・・どうしたんだ?」

 

「俺の中にいる。意識もハッキリとあるから今の会話のやりとりを観て訊いているはずだ」

 

・・・・・嘘は・・・・・言ってなさそうだな。リーラに銃を下ろすように促して項羽に近づく。

 

「項羽、清楚と入れ代わることはできるのか?」

 

「可能だ。まあ、清楚が興奮したら俺が出てしまうけどな」

 

「そうか、なら良かった」

 

スッと項羽の瞳を見据える。

 

「項羽、お前も俺の傍にいてくれるんだろう?」

 

「当然だ。何より、清楚はお前と一緒に俺たちのことを想ってあの歌を読んでくれた」

 

徐に俺の胸倉を掴まれては引き寄せられて、項羽の胸に顔を埋められた。

 

「感謝するぞ、お前たち」

 

こいつ、俺と清楚を一緒に抱きしめたつもりで感謝を言っているのか・・・・・。

 

「一誠、お前は人王となれ。俺が生を受けたからには、全てトップではないと気が済まない。

俺は覇王だからな。覇王の妻となる夫がそうではなくては見栄えがない」

 

「「・・・・・」」

 

「ふふふっ、一誠。俺を満足させろよ?俺もお前を満足させる。俺の全てを使ってな」

 

・・・・・虎と言うか、龍を目覚めさせてしまった感じがするのはどうしてなんだろうか。

 

「では、一誠よ。お前は俺の夫となるのだ。共に体を清めて初夜に備えようじゃないか」

 

「いきなりの急展開!?いや待て!清楚の体なんだぞ!?」

 

「俺の体でもある。大丈夫だ。処女を突き破られる時の痛みは俺が請け負う。

体が快楽を覚えた頃は清楚も喜んでお前を受け入れるだろう」

 

ダメだ!こいつ、自己満足と言うかエゴと言うか、我がままと言うか、自己中心的と言うか、

自分と清楚のことしか考えていない!全ては俺のために!嬉しいけど、

それは周囲に敵を作ることだから―――!

 

「行くぞ、目指すは女風呂だ」

 

「そっち!?」

 

「俺たちは夫婦となるのだ。当然一緒に入るに決まっているだろう?」

 

何を言っているんだ?って風に訊かないでくれ!

 

「―――貴様が夫婦だと?」

 

第三者の声が聞こえた。それも、今この場に居合わせて欲しくない人物の。

ゆっくりと後ろに振り向けば・・・・・。

 

「貴様、我のいない間に何をしようとしていた?」

 

真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッドことガイア!全身に深紅のオーラを纏って怒っているよ!

 

「契りを結ぼうとしているが?」

 

「・・・・・ほう?」

 

ガイアは綺麗な赤い眉を吊り上げて、こっちに近寄った。

 

「一誠は我の愛しい男だ。勝手に横から取ろうとは面白いことをしようとしているな?」

 

「覇王の俺が優秀な子供も産むのは当然の摂理だとは思わないか?」

 

「それなら我が一誠の子を生む予定だ。残念だったな。お前の出番はない」

 

「一誠を満足させているのか?その手の知識を蓄えているからな。

―――すぐに天国へイカせれるぞ?」

 

えっ、ちょ、項羽・・・・・?その手の知識って・・・・・清楚、お前は密かに

何を読んでいるんだ?

 

「知識だけで経験がゼロなお前にできるのかな?」

 

「女は度胸だ。それに経験がなければこれから経験を積めればいい話」

 

ギュッと項羽は俺を抱きしめる。できればこのままでいたい。

後ろに振り返ったら怖いドラゴンの顔を見てしまうから。

 

「―――ならば、今決着をつけるか?」

 

「ふっ、いいだろう。我が勝つのは当然だがな」

 

「いや、俺だ。決着をつける場所は風呂でいいだろう」

 

「どこでも構わん」

 

そう言ってガイアは、俺の襟を掴んで引き摺る。

項羽も放さないとばかり俺の襟を掴んでガイアと一緒に引き摺る。

 

「リーラァ・・・・・」

 

「・・・・・一誠さま、非力なメイドで申し訳ございませぬ・・・・・」

 

申し訳なさそうに深く頭を垂らした。暗に助けられないと、ごめんなさいとリーラに謝られた。

俺・・・・・明日の朝日を拝めれるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode4

次期人王決定戦当日。俺たちは新幹線から降りて次期人王を決めるために行う場所に到着した。

 

「うわ・・・・・凄い人だかりだね」

 

新幹線に降りて開口一番。和樹が唖然と駅のホームを見て呟いた。

俺たちの周りは大勢の人間たちが混雑していて、外へと出るために、お土産を買うために、

人は歩き続けている。

 

「背が小さいレオナルドは肩車しないとはぐれてしまうかもな」

 

「・・・・・」

 

ひょいとレオナルドを片方の肩に乗せて、落とさないように腕で支える。

 

「我の特等席」

 

もう片方の肩ではオーフィスが乗り出した。

そしたら、隣に座るレオナルドを無言で視線を送りだした。

・・・・・レオナルドが震えているからやめなさい。

 

「そんじゃ、行くとするか。お前ら、はぐれんなよ」

 

アザゼルが先陣切って俺たちを導いていく。

ロンギヌスチームの他にも『ヴァーリチーム』のメンバーもいる。

野放しにするわけにはいかないとアザゼルが言うんで一緒に来ていた。

 

「京都かー。初めて来たよ」

 

「僕は馴染みのある場所です」

 

「何故なの?」

 

「僕の兄が経営している店の本拠地がここなので」

 

九十九屋のことか。なるほどな。そう言うことなら龍牙が一番詳しいだろう。

 

「一誠さま、理事長であるサーゼクスさまが用意してくれたホテルで泊ることになっております」

 

「そうか、ここから近いのか?」

 

「遠くはないようです。詳しくはアザゼルに訊けと」

 

了解、そうさせてもらうよ。アザゼルの先導に続く俺たち。

周りを見渡せば雅な町で多い京都だが、異様な力が充満しているのが凄く感じる。

 

「ピリピリしてしょうがないな。これ、人騒がせが起こるんじゃないか?」

 

「穏やかな町なんですがね。大事件が起きらないと良いんですが・・・まさかと思いますけど

テロを起こしませんよね?」

 

龍牙が曹操たちに警戒心を抱いた。物凄くその可能性がある奴らが隣にいるからな。

そう思ってもしょうがない。

 

「『英雄派』と『ヴァーリチーム』は何もしない。そう進言してあるし今回は手を出さない。

が、『真魔王派』がどう出るのかは知らないがな」

 

「来るならくるでこっちは構わないぜ?なにせ、

この京都には三大勢力のスタッフが集結しているし、警備は魔王と神の来訪並みにかなり厳重だ。

もう、ここで戦争をしてもいいような感じでな」

 

「・・・・・この町で戦争を間違ってでもしないでください。

この町には九尾の御大将を筆頭に様々な妖怪がいるのですから」

 

「ああ、そっちの方も話しを通してある。妖怪側も協力態勢の状態だ。

それに『禍の団(カオス・ブリゲード)』に対抗して協力態勢を得た。

ったく、こんなに早く妖怪側に協力を得ることになるとは

お前ら兵藤家と式森家は面倒なことをしてくれるぜ。ついでにテロリストどもな」

 

「「知るか!」」

 

俺と和樹が異口同音で逆切れした。つーか、愚痴るなら曹操たちに言え!

 

「まあ、警備を厳重にする理由は他にもある。俺の他にも後日、冥界にいるルシファーたちや

天界にいるヤハウェたちがここに訪れる他、他の神話体系の神々が来る」

 

「オー爺ちゃんと天空の神さまと海の神さまと骸骨のお爺ちゃんと

お猿のお爺ちゃんとインドラのおじさんも?」

 

「・・・・・お前は本当に驚かせてくれるよな。ああ、お前が言った奴ら全員来るだろうよ」

 

おお・・・・・実に十数年振りの再会だ。楽しみだな。早く会いたいな。

と、思っていて京都駅から数分歩いたところに大きな高級ホテルが姿を現す。

その名も「京都サーゼクスホテル」

 

「・・・・・もしかしなくてもあのホテルなのか?」

 

「ああ、そうだ。駒王学園の生徒が京都に旅行で来る時に泊る場所があのホテルだ」

 

「確かにそうだな。実に一年振りだ」

 

「はい、そうですね」

 

上級生であるサイラオーグ・バアルと真羅椿姫が肯定した。俺たちも京都に旅行で来る時は

あのホテルに泊ることになるのか。名前だけどうにかならないだろうか?

って、離れた場所にあるホテルも「京都セラフォルーホテル」って名前のホテルもあるし!

 

「もしかして、『京都アザゼルホテル』なんてないよな?」

 

まさかなーと思ってアザゼルに問うた。そしたら・・・・・。

 

「良く分かったな?勿論あるぜ!」

 

訊いてくれて嬉しそうに反応する堕天使の総督。とあるホテルに指した。

 

「京都アザゼルホテル」

 

・・・・・こいつも京都に影響されていたんだな。

いや、堂々と人間界に歩けれるからこうなることは当然だったかもしれない。

アザゼルについていくとホテルの玄関入口に立つボーイになにやら紙のようなものを見せると、

ホールの方まで丁寧に説明してくれた。きらびやかで豪華絢爛な造りのロビーを見て、

俺たちの反応は薄い。

 

「リーラ、イリナたちもこのホテルに?」

 

「その通りです。他にも神王さまたちもこのホテルにやってまいります。・・・・・お覚悟を」

 

「うん・・・・・頑張るよ」

 

あの親バカの王たちのことだ。祝杯だぁ!とか言いだして俺を巻き込んで騒ぐに決まっている。

 

「部屋割は男女別と感じな。本来は3~4人で一部屋だったんだが、

今回は特別にサーゼクスが一緒に寝れるように手配をしてくれた。問題ないよな?」

 

俺たちは肯定と頷く。でも、一人だけ不満そうな顔をする人物がいた。――ヴァーリだ。

 

「私は一誠と寝たいぞアザゼル」

 

「文句言うな。お前はテロリストで白龍皇の前に女だぞ。恥じらいを持て、羞恥を感じろ」

 

はぁ・・・と溜息を吐いたアザゼル。うーん、確かに一緒に寝るのはダメかな。

と、思っているとヴァーリが目元を細めて声を殺して言った。

 

「・・・・・そんなんだから結婚なんてできやしないんだ」

 

「よし、ヴァーリ。表に出ろや」

 

ヴァーリの発言にアザゼルが額に青筋を浮かべた。え・・・・・アザゼルって独身だったのか?

それは意外だな。

 

「アザゼルさん、本当のことを言われたからって怒らないでください」

 

「鳶雄!てめぇもかよ!?」

 

思わないところから言われてアザゼルは牙を剥いた。

 

「女心も分からない男に結婚なんてしたくないと思う」

 

「実際にハーレムだけ築くだけで、結婚相手がいないヘタレ総督・・・というわけでしょうね」

 

・・・・・俺の中のアザゼルの評価が一気に下がるなー。

というか、ヴァーリと幾瀬鳶雄って息が合っているな。

 

「う、うるせっ!俺は趣味に生きる男なんだ!お、女なんて腐るほどいる!」

 

「「「最低な発言です!」」」

 

「んなっ!?」

 

「女の敵ですね」

 

「ぐはぁっ!」

 

清楚と真羅椿姫、カリン、リーラがゴミを見る目で突っ込んだ。

うわー、かなり心にダメージを食らったんじゃないか?

四つ這いになって落ち込む堕天使の総督に俺はそう思ったのだった。

 

「一誠くん、女の敵を放っておいて行こう?」

 

「うん、こんな人が堕天使の総督で教師なんて見損なった」

 

「行きましょう。私たちの部屋は屋上です」

 

女性陣はスタスタとロビーからいなくなろうと歩を進めた。

 

「・・・・・自業自得ってわけじゃないんだけど・・・・・」

 

「気の毒、その一言に尽きる」

 

「同情はしませんがね」

 

男性陣も動き出す最中でもアザゼルは落ち込んでいて動こうとしなかった。

仕方なく翼で包んでアザゼルも連れていく。こいつがいないと次に進めないからな。

 

―――○●○―――

 

「おお・・・・・広いな」

 

男子部屋は畳で敷かれた大きな空間の部屋だった。布団を敷いて寝るようだが問題ない。

 

「ほら、お前は何時まで落ち込んでいるんだよ」

 

ポイ、とアザゼルを放り投げた。「いてっ」と言い、その場で胡坐を掻いた。

 

「たく、最近の女は口がうるさくて敵わねぇな」

 

「女の経歴を知れば誰だってあんな反応だと思うが?」

 

「・・・・・まあいい。お前ら、輪になって座れ」

 

スルーですか。アザゼルにそう言われ、輪になって座る。

 

「いいか。今回の大会、人王を決めるために行われたこれは、

表はそうだが裏では面倒なことが関わっていると俺は踏んでいる」

 

「面倒なこと?」

 

「ああ」とアザゼルは頷く。

 

「ただ優勝するだけで人間界の王になるんだぞ?一体どんな奴らが参加しているのか

俺も予想がつかない。それは兵藤源氏が参加者を無制限にしたからだ。

神だって出る可能性がある」

 

「その時は曹操の出番ということで」

 

「あほか!テロリストがどっかの神話体系の神を殺したら絶対面倒事が起きる!

ちったぁ、状況の深さを考えろ!」

 

そうは言われてもな・・・・・俺にとってどうでもいい事だし、

他の奴らだって関わりのない話だしな。龍牙が挙手して問いかけた。

 

「じゃあ、僕たちはどうすればいいんでですか?」

 

「・・・・・とにかく、優勝をしてもらわないとこっちが困る。絶対にだ」

 

「当たり前のことですよね?」

 

「当たり前のことをして欲しんだよ。じゃなきゃ、いまの四種交流に罅が生じるのは必然だ」

 

四種交流に罅・・・・・?そこまでひどい状況になるのか?

 

「この場にいる全員が知っているだろうが、今現在、四種交流を認めて、和平を結んで

積極的に動いているのは堕天使の総督である俺と五大魔王、新王と神、最後に式森家と

人王の兵藤家だ。俺とルシファーたち、ヤハウェは今現在の人王の兵藤源氏と中心に四種交流を

果たしているが、兵藤源氏が人王を辞退して新しい人王を決めるためにこの大会を開いた。

だが、もしもだ。兵藤家以外の種族や神が人王になったら四種交流が滅茶苦茶になる。

人王は人間、兵藤の人間じゃないとダメなんだよ。だから兵藤一誠。

お前には何がなんでも優勝して、人王の娘と婚約してもらわないと俺たちが困るんだ」

 

「・・・・・他の兵藤家の人間でもダメなのか?二人と結婚しなくても」

 

「いや、これは俺たち三大勢力のトップ同士で秘密裏に決めたことなんだ。

どうしてもお前を人王になってもらいたい。理由は分かるか?」

 

分かるわけがない、と首を横に振る。アザゼルは真摯な態度で言った。

 

「あの二人の子供と理由もそうだが、お前はガキの頃に他の神話体系の神々と会っている。

それに俺とルシファーたちやヤハウェが認めている男なんだよお前は。

その上、お前は兵藤一族の人間だ。知らない奴より知っている奴に人王となって

俺たちと交流をしてもらった方が何かとやりやすいんだよ」

 

「・・・・・」

 

「お前じゃなく、とんでもねぇ野望を抱いた奴が人王になったら、俺たち三大勢力が最悪の場合、

戦争を起こす可能性だってある。そうならないためにも、お前に優勝してほしい。

人王となってくれ」

 

・・・・・深い事情と現在の状況の危うさ、それに戦争勃発の可能性・・・・・か。

 

「(とんでもなく、大変なことになっているな)」

 

「そのためにも俺は神滅具(ロンギヌス)所有者の幾瀬鳶雄を派遣したんだ。

大方、ヤハウェもデュリオをメンバーに加えて欲しい理由は同じ考えなことだろう。

だが、好都合にも白龍皇のヴァーリや赤龍帝の成神一成、サイラオーグ・バアルの他にも

神滅具(ロンギヌス)の所有者である曹操たちもメンバーになってくれた。神器(セイクリッド・ギア)の相性にもよるが、

このメンバーは最初で最後の最強メンバーだと俺は思っている。

他の奴らも負けていない能力と実力も有しているしな」

 

世界を何度でも征服できそうな俺たちが集まったしな。どんな神でも倒せそうな気がするよ。

 

「さて、おい、女どもも入ってこい。これから二日後の予選についてミーティングをするぞ」

 

この部屋の扉の向こうにいるであろう清楚たちにアザゼルは促した。

一拍して、部屋の扉が開いて女性陣が入ってきたのだった。

 

「(二日後か・・・・・いよいよだな)」

 

どんな予選になるか分からないが、負ける気は一切ない。どんな相手だろうと―――。

 

ドクンッ!

 

「っ!?」

 

なんだ・・・・・今のは?一瞬、とんでもない力が感じたような・・・・・。

 

「一誠・・・・・どうしたの?」

 

「・・・・・いや、何でもない」

 

気のせいか、と思い心配してくる和樹にはぐらかす。

それから女性陣も加わりアザゼルの話に耳を傾ける。

二日後の予選のために・・・・・。

 

―――その日の夜

 

遅れてやってきたイリナたちもホテルに到着して俺は出迎えていた。

グレモリー眷属とシトリー眷属、神王と魔王一家。

そして、何故かいるデイジーとシアの護衛と来たのだろう瑠璃=マツリがいた。

 

「おー一誠殿!出迎えとは嬉しいぜ!」

 

「俺しか適任いないんでな。当然だろう。皆は屋上にいる」

 

「そうかい、それじゃ私たちも行くとしようか」

 

フォーベシイの発言に俺は踵を返して、皆をホテルの中に案内する。

皆がチェックインすれば二手に分かれて最上階までエレベータに乗った。

 

「イッセー、あの子はどう?」

 

禁手(バランス・ブレイカー)の維持状態が五日間ぐらいまでできるようになった。

体力の向上も成功しているし、中級悪魔ぐらいなら倒せるんじゃないか?

真羅先輩も禁手(バランス・ブレイカー)に至ったぞ」

 

「椿姫が・・・・・そう、イッセーくんありがとうございます」

 

「ありがとう」

 

二人に感謝された。ギブアンドテイクってやつなのにな。それに・・・・・。

 

「だけどな・・・・・」

 

「はい?」

 

「なーんか、真羅先輩が俺を見る目が変なんだよ。

まるでお前らが俺に好意を抱くような感じでさ」

 

「「・・・・・」」

 

「俺、なんかしたっけ?」と、二人に問うたら「「知らない!」」と不機嫌になって

顔を逸らされた。解せぬ・・・・・。しばらくして最上階についてエレベータの扉が開き、

廊下に出れば別のエレベータから神王たちも出てきた。俺が先導して男部屋と女部屋へ案内する。

すると、女部屋から真羅椿姫が現れた。

 

「あ、会長―――」

 

「―――椿姫。少し話があります」

 

ソーナ・シトリーが出会い頭に真羅椿姫の肩を掴んで有無を言わさなかった。

 

「か、会長・・・・・?」

 

「ふふふ・・・私がイッセーくんに好意を抱いていることを知っているあなたがどうして

イッセーくんに好意を抱いたのかいつ好意を抱いたのかきっちりと話してもらいましょうか。

いえ、そもそも私だってイッセーくんの家に泊ってイッセーくんの傍にいたかったのに

私に秘密でイッセーくんの家にずっとイッセーくんの傍にいたあなたの話をきっちりと話しを

聞かせてもらいましょうか椿姫」

 

真羅椿姫に全身からオーラを放ちながら詰め寄る

今のソーナは魔王ですら倒せそうな勢いがあるぞ。

 

「あ、あの、そ、その・・・・・!」

 

慌てふためく真羅椿姫だがチラチラと俺を何度も見てくる。・・・・・しょーもない。

 

「ソーナ・シトリー」

 

「・・・・・なんでしょうか」

 

「―――――」

 

ソーナ・シトリーの耳元で小さく、誰にも聞こえないように彼女だけ聞こえるように呟いた。

言い終わり、耳元から離れてソーナ・シトリーの顔を覗きこめば・・・・・顔を赤くしていた。

 

「なっ?」

 

「・・・・・分かりました。そういうことでしたらもう椿姫に追求しません」

 

「女部屋はこちらでしたね?」と顔を赤らめたまま彼女は先に部屋の中へ入って行った。

その様子にリアス・グレモリーは怪訝になって訊いてきた。

 

「・・・・・イッセー、彼女になんて言ったの?」

 

「機嫌がよくなる呪文」

 

それだけだと、言って神王たち(男)を部屋の中に案内した。

 

「夕食は男部屋で用意されるから荷物置いたらこっちに来てくれ」

 

「ええ、分かったわ」

 

リアス・グレモリーたちも女部屋へと入る。あっ、あの中に黒歌と銀華がいたな。

まあ、問題ないか。

 

「「白音ぇー!」」

 

「ね、姉さまぁ!?」

 

「・・・・・大丈夫、だよな?」

 

―――三十分後

 

現在、広い居間で夕食を食べ、演歌を歌うアザゼルとユーストマの声に耳にしながら

雑談していた。

 

「イッセーくんイッセーくん。私たちは応援しかできないけど頑張ってね」

 

「私も、イッセーくんのために一杯応援するっす!」

 

「イッセーさま、頑張ってください。応援します」

 

リコリスやシア、ネリネが話しかけてくる。ああ、ありがとうな。頑張るよ。

 

「ところで、どうしてデイジーが震えているんだ?」

 

シアの隣で震えるデイジーを見て疑問をぶつけた。

雨に濡れる捨てられた子犬のように震えている彼女を抱きしめたい衝動を抑えて・・・・・。

 

「ううう・・・・・私、大会のアナウンスをすることになったんです」

 

あれま、それはとても緊張する仕事じゃないか。高校生がそんなことするなんてさ。

 

「あう・・・ダメ、緊張して料理が咽喉に通らないです」

 

「かなりの重症っぽそうだな。ほら」

 

片翼だけ翼を展開させてデイジーの背中を安心させるように撫でた。

 

「あ・・・・・温かいです。それに何だか安心します」

 

「少しは気分が落ち着いたか?」

 

「はい、ありがとうございます兵藤くん」

 

「名前で呼んでいいぞ。もう、短い付き合いじゃないんだからさ」

 

苦笑してそう提案を述べれば、少し恥ずかしそうにコクリと首を縦に振ったデイジー。

 

「い、一誠くん」

 

「おう、デイジー」

 

笑みを浮かべてデイジーに向けた。これでまた彼女との距離が近づいた気がした。

 

「・・・・・」

 

周りを見渡す。各々と京都料理を満喫しているが、流石に敵と馴れ合うつもりはないと、

曹操たちやリアス・グレモリーたちは線を引いて食べているが・・・・・。

 

「(こんな光景はもうすぐで終わる)」

 

そしたら次は敵同士となる。なら、そうなる前に―――この瞬間を楽しむとしよう。

 

―――○●○―――

 

―――当日

 

 

ヒュ~ドンドンドンドン!

 

 

晴天の空に大量の花火が火花を散らす。それが合図の如く京都の、日本の住民のみならず、

世界各地からやってくる観光客や選手たちがここ京都ドームに訪れる。

 

「それじゃ、お前ら。優勝してくれよ。お前らが世界の運命を握っているって

過言じゃないんだからな」

 

「そんな大げさな・・・と言いたいところだが、俺も優勝する目的がある。必ずなってやるよ」

 

アザゼルから釘を刺される。言われなくてもそうするつもりだ。

他の奴らにも視線を向けると仲間たちに応援の言葉を送られていた。

 

「それじゃ一誠。行こうか」

 

「ああ、ロンギヌスチーム。出発だ」

 

と、アザゼルたちから踵を返して俺たちは受付に赴いた。

 

「おはようございます。選手の方々ですか?」

 

受付係の男性にそう問われ肯定と頷く。

 

「では、チーム名と『(キング)』の名を仰ってください」

 

「チーム名はロンギヌス。『(キング)』は俺、兵藤一誠です」

 

「・・・・・確認しました。

どうぞ、これを選手の皆さんの腕に嵌めて選手控室に待機してください」

 

そう言って人数分の黒い腕輪みたいなものを渡された。選手控えまでスタッフに案内される。

 

「これ、参加者専用のものかな?」

 

「そうだと思うよ。なにやら魔法が掛かっているしね」

 

皆に腕輪を配りながら訊けば、和樹が腕輪を見詰めて言った。

 

「ついでに俺の腕輪に番号が記されている。―――91番だってよ」

 

「僕たちが何番目に参加した番号のことでしょう。どうでもいいことですがね」

 

そうこう話しているとスタッフが歩みを停めた。

 

「他の選手の方々もいるので、ぐれぐれも騒ぎを起こさないようにご了承を願います。

番号が記されたテーブルがありますのでそこにお座りください」

 

それだけ説明して来た道に戻るスタッフ。

あの人も大変だなぁーと他人事を思って言いながら扉に触れた。

 

『・・・・・』

 

選手控室に入室すれば―――。静かに座っている参加者たちが俺たちを出迎えてくれた。

 

「おおう・・・・・これは凄いな」

 

「ああ、この場にいる全員が並々ならぬ強さを感じる」

 

「ふふふっ、世界中の強者がここに集結しているわけだ」

 

「見た限り、悪魔と天使、堕天使も出場しているな」

 

91と書かれたテーブルだから・・・・・一番後ろか。選手が通れる道を確保された空間に進んで

俺たちが座るテーブルへと赴く。その時、俺の視界にとある少女が映り込んだ

 

「(―――川神百代)」

 

やはり、彼女も出場していたか。まあ、分かりきっていたことだ。

 

「ね、ねぇ・・・・・一誠」

 

「どうした?」

 

「あそこ・・・・・変な人がいるよ・・・・・」

 

変な人?和樹が指す方へ視線を向けると・・・・・どこかの戦隊ものの衣装を身に付けている怪しげな五人が座っていた。

 

「・・・・・一人だけさ、物凄く覚えのある魔力を感じるんだけど・・・・・」

 

「ああ・・・・・俺もそう思う」

 

絶対に知り合いと思いたくない。他人の振りをしようと後ろから回って席に着いた俺たち。

 

「(それにしても、数が多いな。俺たちの後ろに空いている席がまだある)」

 

見ただけで100が超えていることが分かる。

 

ガチャ。

 

扉が開いた。また違う選手たちがゾロゾロと入ってくる。

今度は魔法使いみたいな選手の集団だった。続いて―――曹操と同じ服を着た集団が登場する。

 

「・・・・・お前たちもか」

 

当の曹操は苦笑した。あー『英雄派』か。同じ派閥の人間が参加するなんてそりゃ、

苦笑するもんだ。それからしばらく、次々と選手たちが入ってくる。

 

「はっ・・・・・?」

 

その中で、信じられない選手たちが入ってきた。

 

「なんで・・・・・お前らまで?」

 

「―――あの時言ったわよね。あなたの力になりたいと」

 

「ですので、私たちも密かに参加しました」

 

威風堂々と歩いてくるリアス・グレモリーとソーナ・シトリー。成神一成と真羅椿姫抜きで参加だと・・・・・?いや―――まさか。

 

「私の眷属とソーナの眷属と一つにして参加しているの。『デビル×デビル』それが私たちのチーム名」

 

「イッセーくんのサポートをするために結成したチームです。力及ばずながらもあなたを決勝戦に導かせてもらいます」

 

彼女たちはそれだけ言い残して後ろに回って席に着いた。

 

「(・・・・・ありがとう)」

 

密かに彼女たちに感謝する。そう思っている間にでも選手たちが入ってくる。そして、最後に一つだけ空席となっているテーブルが一つ。

 

『・・・・・』

 

その最後の席に座る選手たちがいま―――入ってきた。威風堂々と―――、

 

「へぇ、こいつらが俺さまの踏み台となる奴らか?」

 

じゃなかった。堂々と人を見下した態度で最後の席に座る選手たち。

その発言にこの場の空気が一変して重くなった。

 

「まあまあ、そんな事言ったらダメだろう?言うんなら心の中で言えって」

 

「・・・・・」

 

「二人とも、失礼だぞ。仮にも戦友となる者たちだ」

 

「戦友ねぇー?こんな弱小どもが俺たちと張り合えるとは思いもしないがな」

 

「見掛けに油断して負けたら、俺たち四天王と十二柱の名が地に墜ちると言うものだぞ?」

 

中には常識人もいるようだ。

それにしても四天王と十二柱・・・・・どこかの勢力のトップに誇る実力者か。

 

「はぁ?俺たちが?俺たち―――兵藤家の中で選り抜きされた四天王と十二柱の俺たちかが?」

 

『―――っ!?』

 

兵藤・・・・・!?こいつら全員が兵藤家の、兵藤一族の参加者だと・・・・・!?

あいつらの会話にこの場がざわめきだした。今回の主催者に関係する者たちが参加する。

これは可能性がないわけじゃない。事実、兵藤源氏も言っていたことだ。

 

『―――来るがいい、俺たち人間の力を見せつけ思い知らせてやろう。

そう、俺たち兵藤家と式森家の力をな』

 

「・・・・・」

 

だが、相手が誰であれ負けるつもりはない。

 

「ん?おお、良い女がいるじゃないか」

 

兵藤家の一人が視線をどこかに座る女に向けた。

そいつはテーブルに座らず、目に止まった女の方へと近づこうとした―――。

 

バチンッ!

 

「あ?結界だと?」

 

これ以上の進行を阻むかのように見慣れない魔方陣が出現した。

選手同士のトラブルを防ぐための防衛システムなのだろう。

 

「―――くだらねぇな」

 

次の瞬間。拳を魔方陣に突き出し、ガラスのように魔方陣が粉砕された。

 

「(あれは軽い力で突き破ったようだな)」

 

底が知れない、ってやつか。

そう思っていたら、兵藤家のメンバーの腕に嵌っている腕輪が光り出し、

 

「なんだこりゃ!?」

 

形を変えて男の全身に纏わりつき、天井に伸びて兵藤家のメンバーたちは

拘束された状態で吊るされた。

そんな中、クールそうな眼鏡の男が吊るされたまま首を縦に振った。納得したとばかりにだ。

 

「・・・・・なるほど、この腕輪は拘束するためのもののようですね。

あなたのおかげでこの腕輪の理由が分かりました」

 

「って、感心してんじゃねぇよ!なんとかしろ!」

 

「無理ですね。仮にも『(キング)』の立場であるあなたが愚行をしたのです。

当主が言ってたじゃないですか。『兵藤家の者として愚かなことをするな』と」

 

・・・・・あいつが『(キング)』なのか?まるで、成神一成のような奴じゃないか。

しかし、兵藤家はバカがいたのか・・・・・。

 

「このままでは一寸先は闇だな。あみだくじで決めたことが仇になったようだ」

 

「はぁ・・・・・先が思いやられる」

 

「う、うるせぇ!黙って俺に従っていろってんだ!」

 

・・・・・俺の中の兵藤家のイメージが・・・・・斜め下に下がる一方だ。

ブラブラと天井に吊り下がる兵藤家のメンバーたちに何ともいえない気持ちになる俺だった。

 

―――○●○―――

 

―――アザゼルside

 

堕天使の総督アザゼルだ。

いま、俺は冥界と天界のトップ、魔王と神王、神と共にVIP席で京都ドームを眺めている。

 

「あわわわ・・・・・ほ、本当に私がアナウンスを・・・・・」

 

神王の兄の娘がマイクを前にして緊張していやがる。

まあ、一介の高校生が大イベントのアナウンス係をするんだ。緊張するのも無理はない。

 

「おい、娘っ子。兵藤一誠のお守りを忘れてんのか?」

 

「え?あ、そうでした・・・・・」

 

胸元に下げている青白い羽飾り、あの羽は兵藤一誠の翼の羽だ。

あいつから離れても消失しないとは興味深い。このドームに来る前に渡されたお守りらしいが。

触れると安心すると言う効果があるようだ。その証拠に・・・・・。

 

「・・・・・」

 

さっきまで頼りなさそうな顔に緊張で体を震わせていた娘っ子が、

羽飾りを握った途端に安心しきった表情を浮かばせる。

 

「デイジー、時間です」

 

「はい!」

 

おお、気合の入った声だ。今度俺も羽を貰おうかな。主に実験材料として。

 

『―――皆さま、長らくお待たせしました。次期人王決定戦の予選の開始時間となりました!』

 

開始宣言ともいえる発言が発せられて一拍、ドーム中から歓喜の歓声が沸いた。

空にまで轟くほどの叫び。

 

『まず最初に、今回の人王決定戦を開催した主催者の方々とその関係者を発表します。

まずは冥界に住まう悪魔たちを統べる魔王。五大魔王の一人、ルシファーさま、ベルゼブブさま、

レヴィアタンさま、アスモデウスさま、フォーベシイさまです』

 

最初に呼ばれた五人の魔王が自分の名を呼ばれた時に立ち上がった。

 

『続いて堕天使を束ねる堕天使のトップ。

神の子を見張る者(グリゴリ)』の堕天使の総督アザゼルさまです』

 

紹介されて俺も立ち上がる。おーおー、ここからだと見えるぜ。

 

『天界に住まい、悪魔払い、シスターやエクソシスト、世界各地に存在する教会を束ねる

『聖書に記されし神』ことヤハウェさまと神の補佐、大天使長ミカエルと共に天使を束ねる王、

神王ユーストマさまです』

 

ヤハウェとユーストマも立ち上がる。さて、残すのは二人だけだ。

 

『そして、最後に全人類の王ともいえる存在。人王の兵藤源氏さまです。

続いて人王を補佐する式森家当主の式森和馬さまです』

 

呼ばれて紹介された二人の人間が立ち上がる。観客から歓声が沸いて俺たちはしばらく佇んだが、

席に座った。

 

『それでは次に移りたいと思います。次期人王決定戦に参加した

総勢千人以上の選手の入場です!』

 

歓喜が湧く。そんな中、中央のステージに巨大な魔方陣が出現した。

 

『悪魔、天使、堕天使、人間の他にも様々な種族の選手が参加しています。

その中で異例中の異例の参加者が最初の登場です!

そのチームの名は―――ギガント・ジャイアント!』

 

カッ!と光と共に現れた参加者―――そいつは人間の百倍の身長を誇る巨大な人間、

巨人族だった。

 

「おいおい・・・・・こいつぁとんでもねぇ奴らが出てきやがったじゃないか」

 

「そうね・・・・・」

 

「どうやって参加したのか気になるところだわ」

 

「大方、オーディンでしょうね」

 

この会場の他のVIP席にいるであろうジジイか。つーか、

あいつらが人間界を思いのまま支配されちゃ、こっちがいい迷惑だぜ。本当に頼むぞ、お前ら。

 

『さぁ、続いて他の選手の入場です!』

 

そうアナウンスが流れれば選手入場入口から大勢の参加者が現れる。

しっかし、百組以上のチームをどうやって絞るんだ?兵藤源氏の奴はよ。

―――っと、あいつらが出てきやがったな。姿を見るや、レヴィアタンが腕を大きく振りだした。

 

「兵藤くん、頑張ってねー!」

 

「レヴィアタン。それじゃ、誰のことを言っているのか分からないわ」

 

「あ、そっか。―――イッセーくん!頑張ってぇー」

 

たく、贔屓な応援は止せよ。観客が聞こえるぞ。誰にいているのか分からないだろうけどよ。

 

『さて、選手の皆さんが揃いました。ここで改めて今大会のルールを御復習いしましょう。

予選と本選を分け、予選で「RG(レーティングゲーム)」を応用した戦いに勝ち抜いたチームは

明日、本選に出場する権利が与えられます。本選も「RG(レーティングゲーム)」を応用して戦います。

一つのチームに参加できる人数は16人まで。勝敗は相手の「(キング)」を倒すこと。以上です』

 

『さらに』と娘っ子が付け加える。

 

『本選に出場できるのはたったの・・・・・四組のみです』

 

ザワッ・・・・・!

 

四組・・・・・・かなり絞ったな。さて、そこまでどうやって絞るのか訊いてやろうじゃないか。

 

『では、百組以上いるチームを四組まで絞る試合を兵藤源氏さま、ご説明をお願いします』

 

「・・・・・」

 

娘っ子の言葉に兵藤源氏が立ち上がった。

 

『まず、「RG(レーティングゲーム)」で試合を行う。これは知っての通りのことだ。

でなければ、この日本が壊滅的危機に陥ってしまうのでな。安全な場所で死闘を繰り広げられる。

これほど世界に優しいバトルフィールド上はないであろう』

 

だな、人間同士が争うならそこでしてほしいもんだ。

 

『さて、予選の試合のルールを説明しよう。至極的単純だ。相手の「(キング)」を倒す。誰でもいい、

チームの中に「(キング)」と九人の選手で本選に出場権利の四組になるまで戦い続ける。

―――それだけだ』

 

『これからすぐに予選を始めたいと思います。決まったチームは前に出てください』

 

兵藤一誠は必然として残りは誰が出るのかねぇ?頬杖して誰が出るのか予想する。

赤龍帝と白龍皇のコンビは見たいと思うし、ここで神滅具(ロンギヌス)所有者が全員ってのも

また面白い。中央にいる選手たちを眺めていると決まった奴らは前に出てきた。

そして俺は笑みを浮かべた。

 

「式森和馬」

 

「なんだい?アザゼル総督」

 

「兵藤一誠のチームのみ俺だけ映像を映させてくれないか?」

 

「わかりました。なんなら、撮りましょうか?」

 

「そうしてくれ」と頷く。くくくっ、兵藤一誠。

それとお前ら。お前らの戦いを見させてもらうぜ?

 

『それでは、予選を始める。皆者、心して掛かるがいい』

 

兵藤源氏の言葉に呼応したかのように、予選に参加するチームたちの足元に魔方陣が展開した。

その瞬間、あいつらは光と共に姿を消した―――。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode5

予選が始まり、一誠たちはRG(レーティングゲーム)を応用した異空間に転移された。

 

「―――京都か」

 

「みたいだな」

 

「しかも・・・・・ここって京都タワーですよ」

 

なるほど、確かにそうだな。京都を一望できるし、さっそく巨人が見えるぞ。格好の的だな。

デカイって考えものぞ。と一誠は辺りを見渡しながら心の中で呟いていると曹操が一誠に問う。

 

「さて、俺たちはどうする?」

 

「うーん、取り敢えず行動しようか」

 

と、巨人に指して。

 

「あの巨人を倒しにさ」

 

「ふっ、良いだろう。倒し甲斐があるぞ」

 

ヴァーリが一誠の言葉に耳にして笑みを浮かべる。一誠を想う彼女にとって、

今はとっても幸せ絶頂な気分でいる。一緒に戦えることに大変喜んでいるのだ。

なので、役に立ちたいと心からそう願っているヴァーリである。

 

「じゃあ、ちょっと待っててくれ」

 

「どこかに行くのですか?」

 

「いや下に降りるだけだ」

 

アーサーの質問に一誠は躊躇もなく京都タワーから飛び降りた。

この場にいる面々がどうしたのだろう?と

一誠が飛び下りた下へ覗きこんだその瞬間。

京都タワーの高さより大きい三つの首を持つ龍が出現した。

 

ギェエエエエエエエエエエエエエエエエヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

邪悪なオーラを迸らせる龍は咆哮を上げる。

その咆哮が空気を振動させ、レプリカで出来た建物の窓ガラスを全て割り、

建物の幾つかが崩壊した。バトルフィールド場に龍の雄叫びが轟く。

 

「なっ!?」

 

「何時の間にドラゴンが・・・・・?」

 

邪悪な魔力を発する三頭龍。一誠が飛び下りたところから現れた邪悪な龍を知らないメンバーは

臨戦態勢になった。知っているものは唖然としていたり、

「なるほど」と納得して頷いたりしていた。

 

『俺だ』

 

「・・・・・その声・・・・・兵藤一誠か?」

 

『ああ、今のこの状態は「龍化」だ。内にいる龍の力を借りて龍の姿になっている。乗れ』

 

一つの首が京都タワーに乗っている曹操たちに近づいた。一行は一度だけ顔を見合わせて

漆黒の頭の上に乗り出す。

 

『しっかり掴まっていろよ。奴さんがやってきたからな』

 

大きく翼を羽ばたかせて一誠はレプリカの空を飛翔した。

その直後、巨大なハンマーが京都タワーを粉砕した。

 

『ははははっ!巨人族と戦うことになるとは愉快だな!』

 

直ぐに地上に降り立って意気揚々と九人の巨人と対峙する一誠は、三つの口を開けて咆哮した。

その咆哮が呼び水となったかのように一誠の周囲に幾重の巨大な魔方陣が展開した。

その数は約―――千。

 

「千の魔法を駆使する『魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)』アジ・ダハーカ。その伝説は真のようだな」

 

カッ!

 

千の魔方陣から魔法が放たれた。属性魔法、黒魔法、白魔法、精霊魔法、様々な魔法が

巨人たちだけじゃなく、周囲の京都の町まで吹き飛ばす。

それだけで九人の巨人たちがバトルフィールドから姿を消した。

 

「こ、これが邪龍の力だってのかよ・・・・・」

 

『ああ、そうだ。邪龍は厄介極まりないドラゴンだ。

そんなドラゴンを兵藤一誠が制したとなれば邪龍よりとんでもない存在だな』

 

「ふふふっ、一誠・・・・・いいじゃないか・・・・・!」

 

『ヴァーリ、お前は敵となる存在なのだぞ?』

 

「それがまたいいじゃないか。私の一誠はどこまでも凄くなる。うふふ・・・!」

 

カッ!カッ!カッ!

 

三つの口から光の光線が京都の町に向かって走った。―――刹那。轟音と共に町が大爆発を生じた。

 

『取り敢えず、リアス・グレモリーたちを当たらないように攻撃する。

お前らは、こっちに来ている敵を倒してくれ』

 

「分かった。お前は俺たちの『(キング)』だ。死守しよう」

 

先にサイラオーグが飛び下りた。続いてヴァーリ、続々と頭から飛び降りるメンバーだが。

 

『お前も降りろ』

 

「ちょっ、待てえええええええええええ!?」

 

何時までも降りなかった成神一成を振り払うように頭を振って落とした。

悲鳴を上げながら落ち、

「死ぬぅっ!」と涙目の成神一成はサイラオーグ・バアルの腕に収まった。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、ありがとうございます・・・・・」

 

「悪魔なのに飛べないなんて・・・・・お前はダチョウと一緒だな」

 

「うっ、うるさい!」

 

呆れ返るヴァーリに強く否定できない成神一成の図の光景だった。

上で何度も全方位に攻撃を繰り返している龍と化となった一誠。

その下で臨戦態勢になっている成神一成たち八人。警戒をして佇んでいると上から

一誠が声を掛けてきた。

 

『周囲から三組の敵がやってくる。一組はリアス・グレモリーたちだ』

 

「部長たちか!?」

 

「他は?」

 

『・・・・・変な五人組だな。魔王並みの魔力を有しているから気をつけろよ。

もう一組は人間だ』

 

一組みは友軍、残りの二組みは敵だと告げる。警戒の色を濃くして一誠の射程距離範囲外に

侵入してくる敵に、ヴァーリ、アーサー、成神一成、幾瀬鳶雄。

曹操、ゲオルグ、レオナルド、デュリオと4:4に分かれて編成したその瞬間だった。

 

「イッセー!」

 

「邪悪なる存在め!我々悪魔戦隊デビルレンジャーが倒してくれよう!」

 

「ドラゴン相手なら負けやしねぇぞ!」

 

三方向からやってくる三チームの内、二チームに向かって飛び出すヴァーリたちと曹操たち。

残りの一チーム、リアス・グレモリーたちはキョロキョロと辺りを見渡す。

二手に分かれた「ロンギヌス」チームと戦闘行っている敵二チーム。

―――リアス・グレモリーが探してる人がいない。

 

「え・・・・・?イッセーは・・・・・?」

 

『何だ』

 

「・・・・・あなた・・・・・なの?」

 

目の前の邪龍は見たことがある。しかし、

肝心の想い人である一誠の声が三頭龍の口から聞こえた。

そのため、信じられないと目を丸くしてリアス・グレモリーは―――、

 

『リアス・グレモリーの幼少の頃のアルバムの写真の中に―――』

 

「それ以上言わないで!分かったから!」

 

証明とばかりにリアス・グレモリーの恥ずかしい写真の内容を口にしようとした瞬間に、

羞恥で顔を真っ赤にして遮ったのだった。

 

「―――火竜の鉄拳!」

 

ドッゴオオオオオンッ!

 

『・・・・・』

 

三頭の内の一つの顎下から炎を纏った拳で殴った銀色のマフラーを巻いた桜色の髪の少年。

―――しかし、別の首がその少年に向かって火炎を吐いた。

 

『何かしたか?』

 

燃え盛る敵の一人に一誠は問うた。

 

「てめぇこそ、俺に何かしたかよ?」

 

『・・・・・なに?』

 

桜髪の少年に纏わりつく炎が、何かに吸収されていくように焼失していく。

 

『炎を・・・・・食っているのか?』

 

「うはっ!うめぇなお前の炎!」

 

口の中に吸い込まれていく炎に唖然と見詰める一誠。

 

『・・・・・ただの人間じゃないな?』

 

「おう!俺は火の『滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)』だ!

だから、お前の火を食って魔力や体力を回復させてもらうぜ!」

 

『(・・・・・そんな魔導士が世界に存在しているのか。その上、龍殺し・・・・・)』

 

「さぁーて、火を食ったから力が湧いたぜ」

 

桜髪の少年は笑みを浮かべ、拳に炎を纏わせた。

対する一誠は今の姿では周りに支障が出ると判断し、元の姿に戻った。

 

「なら、火を使わず戦うとしよう」

 

「はっ!?お前、人間なのかよ!?」

 

「あれは能力に過ぎない」

 

幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』を装着してドラゴンから人間に戻った一誠に

目を丸くする桜髪の少年に「来い」と手で催促した。

 

「―――火竜の咆哮ぉっ!」

 

先手必勝、桜髪の少年が口から炎を吐く。

 

「(火を食う人間か・・・。ライザーとは相性が悪過ぎるだろう)」

 

籠手の能力で炎を消失させ、桜髪の少年に飛び掛かろうとした次の瞬間。

一誠の視界の端に赤黒い球体が接近してくる様子が入り、舌打ちして桜髪の少年から離れた。

 

「・・・・・そう言えば聞いていなかったな。どうしてあんたがここにいるんだ?」

 

「はっはっはっ、誰のことを言っているのかな?私はデビルレッドとという、

冥界に住む悪魔たちの未来を守るために生まれた正義のヒーローだよ?」

 

「悪魔がヒーローを語るんじゃねぇよ!」

 

仮面と特撮衣装みたいなものを装着した、どこぞの戦隊ヒーローのような格好のデビルレッドと

名乗った聞き覚えのある男に一誠が激怒した。

そんな光景と様子を見ていた桜髪の少年が訊いてきた。

 

「お前、あいつを知ってるのか?」

 

「知らない。赤の他人だ」

 

「うむ、今の私にピッタリな言葉だね」

 

朗らかに笑い声を発するデビルレッド。一誠は米神を引き攣らせて、

どうしてくれようかと悩んだ末、あることをした。

 

「そうだな。俺がリアス・グレモリーと結婚した後でもどこかの誰かさんには

『お義兄さん』なんて一生言わないからな」

 

「―――――っ!?」

 

「ああ、絶対に名前だけ呼ぼう。リアス・グレモリーと間に生まれた子供にも、

『叔父さん』じゃなくて、フルネームで呼んでもらおう」

 

ニヤリと一誠が笑みをデビルレッドに浮かべる。対してデビルレッドは全身と声を震わせて

言葉を発した。

 

「ふ、ふふっ・・・私に何を言っても無駄だよ?私はヒーローだからね。

どんな言葉の拷問でも耐えるさ!」

 

「―――あー、そういえば、リアス・グレモリーから聞いたんだけど、

ミリキャスって子供が言ってたな」

 

「・・・・・な、何をだい・・・・・?」

 

不安な色を全身で浮かばせるデビルレッドだった。

一誠はとっても楽しそうに邪のない笑みで言った。

 

「『最近のデビルレンジャーはつまらない。

特にデビルレッドがつまらないから嫌い』―――だって」

 

「―――――」

 

勿論、それは嘘だと心の中で呟く一誠。だが、効果抜群だった。デビルレッドが跪いたのだ。

 

「そ、そんな・・・ミリキャス」

 

仮面の隙間から液体が流れ始めた。するとどうだろうか、デビルレッドの全身が光に包まれ

この場から姿を消した。デビルレッドが消えたと同時に他の四人も姿を消す。一拍して、

 

「まあ、嘘だけどなぁ!」

 

『お前は悪魔だ!』

 

一誠が胸を張って叫べば、周りから非難の言葉が投げられたのだった。

 

―――アザゼルside

 

あんにゃろう・・・・・とんでもない隠し玉を持っていやがったな。俺たちが知らない力を。

 

「イッセーくんが邪龍に変化できるなんてね・・・・・驚いたわ」

 

「他の邪龍にもなれる可能性はあるわね」

 

ほら見ろ。こいつらもお前の力に懸念しているぜ。

 

「それにしても・・・・・あの五人は一体どこの勢力の者なのかしらね?」

 

「うーん、分からないわね・・・・・」

 

・・・・・俺は何となく思い当たる人物がいるんだが・・・・・言わない方が吉かな?

 

「娘っ子。今どのぐらいチームがいるんだ?」

 

「一誠くんが暴れたので、すでに十組以下になりました」

 

そうか。んじゃ、そろそろ終わるところか。

まあ、あいつが本気になればあっという間に終わるんだろうよ。

 

―――○●○―――

 

「やー、中々やるな」

 

「お前こそ」

 

満身創痍の桜髪の少年に対し殆ど無傷の一誠。『ロンギヌス』と『デビル×デビル』が

協力し合ったおかげで、桜髪の少年を含め三人だけ残り、他の仲間の大半が戦闘不能の状態となり

脱落。そんな絶望的な状況にもかかわらず桜髪の少年は笑みを絶やさない。

 

「人王なんて興味ねぇーけどよ。俺はお前と戦えて楽しいぜ」

 

「はは、そうか。俺は兵藤一誠と言うけどお前は?」

 

「俺はフェアリーテイルのナツ・ドラグニルだ」

 

「ナツ・ドラグニル・・・・・覚えておく。お前のその名を」

 

「俺もな」

 

ナツ・ドラグニルと名乗った少年は炎を両腕に纏いだす。

 

「―――そんじゃ、次で終わりにしようか」

 

「ああ、いいぜ」

 

一誠も了承し、拳に気を纏う。

 

「滅竜奥義」

 

炎を纏った両腕をナツ・ドラグニルは螺旋状に振るい。

 

「紅蓮爆炎刃っ!」

 

爆炎を伴った強烈な一撃を放つ。螺旋状の爆炎は真っ直ぐ一誠に襲う。

 

「―――面白い、それがお前の奥義か。なら、それを乗り越えてお前を倒す!」

 

あろうことか、一誠は螺旋状の爆炎の中へと飛び込んだ。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

肌が焼けるように熱くても、服が焦げて萌えだしても一誠はただ真っ直ぐ突き進む。

そして一誠が炎から飛び出して、目の前にいたナツ・ドラグニルに拳を突き出した。

 

「―――お前、すげぇやつだな」

 

「お互い様だ」

 

一誠の拳は深くナツ・ドラグニルの腹部に突き刺さった。仙術のオーラを纏った一撃は

相手の気脈を乱し、戦闘不能に陥らせる。対処法も限られているが為に大概は敗北する。

 

「また、やろーぜ一誠」

 

「何時でも相手になってやるよナツ」

 

光に包まれながらナツ・ドラグニルはこの場から消失した。

 

「はー、強かったなー。お前ら、大丈夫か?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

仲間に問いかける一誠にメンバーたちは頷いた。

全員、かすり傷や汚れがあっても戦闘は続行だと雰囲気で語った。

 

「二人ともありがとうな。思った以上疲れはしなかった」

 

「気にしないでください。寧ろ、謝罪しないといけない件が一つ・・・・・」

 

ソーナ・シトリーが申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べた。一誠は「ああ」と溜息を吐いた。

 

「あいつもそうだったけど、どうしていたんだ?」

 

「分かりません・・・・・私も初めて知りましたので・・・・・」

 

はぁ・・・・・と「あの駄姉は・・・・・」と声を殺すソーナ・シトリー。

 

「さて、残りは何組だ?」

 

「そんなにいないかと思います。予想だと・・・・・六チームではないでしょうか?」

 

「んじゃ、敵をおびき寄せるためにも―――」

 

一誠が何かしようとしたその時だった。

 

「残り、五チームだぜ?」

 

第三者の声が二チームの耳に届いた。一誠たちは辺りを見渡すと―――、

 

「あの時以来じゃないか」

 

何時しか、サイラオーグと曹操と川神市で出会った川神百代がメンバーを引き連れて姿を現し、

 

「ったくよ、さっきのドラゴン。なんなんだ?お前らの誰かがやったことは

気付いているんだよこっちは」

 

忌々しそうに顔を顰める『兵藤家』チームの『(キング)

 

「・・・・・」

 

魔法使いのようなローブを身に纏う集団。

 

「全員集合ってことだな」

 

「みたいだね」

 

「ええ」

 

背中を合わせて警戒する『ロンギヌス』と『デビル×デビル』。

そんな二チームを囲むように敵三チームは、ジリジリと近寄る。

 

「残り一チームが脱落すれば全てが終わる。勿論、俺たち兵藤家以外のチームの話しだがな」

 

「逆だろ?天井に吊りあげられた『(キング)』」

 

「・・・・・ああ?」

 

額に青筋を浮かばせる『兵藤家』チームの『(キング)』。

 

「―――同じ、兵藤の者としてあれはないと思ったよ」

 

「・・・・・そいつはどういう意味だ」

 

「ん?なんのことだ?」

 

キョトンと首を傾げる一誠。その仕草に

 

「とぼけんじゃねぇよ!お前、『同じ、兵藤の者として』と言っただろうが!」

 

その言葉に一誠は「ん?ああ・・・」と本当にとぼけた風に手を叩いた。

 

「別に気にするなよ。相手のことなんて知る必要ないだろう?」

 

「・・・・・どうやら、お前を力づくでも聞き出す必要があるようだな」

 

『兵藤家』チームの『(キング)』の全身から闘気のオーラが迸った。

それに呼応して一誠も闘気のオーラを迸らせた。

 

「できるもんならやってみろ」

 

「いいぜ、その減らず口をできなくしてやらぁ!」

 

ドンッ!と一誠に飛び出す『兵藤家』チームの『(キング)』に、

こいつを倒さんとばかり一誠も飛びだした―――。

 

「―――和樹!」

 

次の瞬間―――。

 

『っ!?』

 

上空から巨大な魔力の塊が降ってきた。一誠は『ロンギヌス』と『デビル×デビル』のメンバーを

翼で包んで衝撃に備えた。

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

一誠たちがいる場所に大爆発が発生した。周りの建物を全て薙ぎ払い焦土と化になるほど・・・。

しばらくして、

 

ピンポンパポーン!

 

『本選に出場する四組のチームが残りました。結果を報告します』

 

デイジーのアナウンス放送が流れだした。

 

『「☆川神ズ」、「デビル×デビル」、「兵藤家」、最後に「ロンギヌス」。

以下の四組のチームは明日の本選出場権利を得ました。ですので、戦闘行為を中止してください』

 

そうアナウンスが流れる。一拍して、煙が晴れ、爆発が治まったのを確認して二チームを守っていた翼を解いて溜息を吐く一誠の姿が伺えたのだった。

 

 

―――○●○―――

 

 

―――京都サーゼクスホテル

 

 

「わっはっはっはっ!」

 

「あっはっはっはっ!」

 

ドンチャンドンチャンッ!

 

夜―――。俺たちが本選に出場が決まったことにユーストマとフォーベシイが喜んで騒ぎを起こす。

娘と母親はそんな夫と父親に「まあ、今回だけは・・・」みたいな感じで静観して

京都料理を食べている。他に別件で遅れてきたサーゼクスと京都ドームにいたルシファーたちも

合流をして一緒に夕食を食べている。

 

「いやー!俺は信じていたぜ!一誠殿が勝つってよぉ!」

 

「私も信じていたよ!よくやってくれたよ!」

 

「特に俺は何もしていないんだけどな・・・・・・」

 

二人に絡まれながらそう言うが、二人は訊いていない。酒で酔っているからだ。

 

「おめでとうございます。兵藤一誠くん」

 

「ん、ヤハウェが協力してくれたから勝てたようなもんだからな。ありがとう」

 

ニッコリとヤハウェに感謝の言葉を述べた。そしたら・・・・・。

 

「・・・・・」

 

ん・・・?ヤハウェの顔に朱が染まっていく―――。

 

「どうした?風邪か?」

 

「っ、いえ・・・お酒のせいでしょう」

 

「いや、ヤハウェは神だから酒なんて飲んじゃだめだから飲んでいないだろ?」

 

「ゆ、夕日の―――!」

 

「今現在夜です」

 

何か知らないけど動揺しているし・・・・・なぜ?気になりジィーと見詰めると、

 

「あーん、イッセーくん♪」

 

ダキッ!

 

「ぬお!?」

 

横から酒臭いレヴィアタンに抱きつかれた。何事?

 

「うんもー、イッセーくんって可愛いよねー。お持ち帰りしたいなー」

 

「はっ?なに言っているんだ。つーか酒臭っ!」

 

「あっ、レヴィアタンって絡み酒だったのを忘れていたわ」

 

絡み酒!?そんな事忘れんなよ!

 

「うふふ、イッセーくん♪」

 

「な、なんだよ・・・・・」

 

「もしも、イッセーくんが優勝したら・・・ご褒美として良いことしてあげちゃうんだから♪」

 

『っ!?』

 

いいことしてあげる?何だろう。レヴィアタンの料理を食べさせてもらえるのか?

それとも―――。

 

「ふむ・・・なら、私は剣術を鍛えてやろう」

 

ベルゼブブ?そう言えば、彼女は腰に帯剣していたな・・・・・もしかしたら剣の達人かな?

もしそうなら・・・・・うん、お願いしよう。

 

「あっ、それは今すぐお願いしていいか?俺、剣術が我流だからどうしても

無駄な動きをしちゃうんだ」

 

「ふふふっ、そうか。では、風呂に入ったら屋上で稽古をつけてやろう」

 

うん、それはありがたいけどそれじゃ時間がないんだ。

だから、あれを使って稽古付けてもらおう。

 

「ベルゼブブ、抜け駆けはずるいわよ。私も彼を鍛えてあげたいわ」

 

「わ、私もです。彼は熾天使(セラフ)になれるのですから、天使本来の力、

能力を覚えさせたいです」

 

「なら、俺は天界式の体術を教え込んでやろう!」

 

そこにユーストマまでも買って出てきた。

 

「それはサイラオーグにもよろしく」

 

「俺もか?」

 

「勉強になると思うぞ?一緒に稽古付けてもらおう」

 

口の端を吊り上げながら誘えば、サイラオーグは重々しく頷いた。

 

「・・・・・そうだな。確かにその手の達人の指導のもとで強くなるのも大切な事だ。

ユーストマさま。俺もお願いします」

 

「おう、任せろ。お前を一目で見た時から気に入っていたんだ。

悪魔のくせに体術だけで戦うなんてそういないからよ」

 

おや、そうだったんだ。サイラオーグ。神王に気に入られて良かったな。

 

「でも、そんなことして明日に響かない?」

 

清楚が疑問をぶつけてくる。ふふふ・・・・・そんなことを承知の上で頼んでいるのさ。

 

「大丈夫、俺には秘密道具があるんだ。それを使って稽古をつけてもらう」

 

「秘密・・・・・道具?」

 

「後で見せて説明するよ」

 

とっても好都合主義者が考えそうな道具だ。それを使えば―――。

 

ドクン・・・ッ!

 

「っ・・・・・」

 

またか・・・っ!なんなんだ・・・・・俺はどうなっている・・・・・。

自問自答しても答えが見つからず、疑問が増える一方のまま本選当日、

翌日を迎えたのだった―――。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode6

『さぁ、今日が本選でございます!皆さま元気ですかぁー!』

 

デイジーが元気よく観客たちに話しかければ、観客たちはそれに応えて元気よく歓声を沸かせる。

俺たち予選に突破した四チームはドームのステージ中央に佇んで並んでいる。

その間、俺はずっと兵藤家のメンバーに視線を送られている。鬱陶しいにもほどがある。

 

『今日で次期人王が決まる記念の日となります。

その瞬間を一瞬でも見逃さないように見守りましょう。では、本選のルールをご説明致します。

ルールは昨日ご説明したようにトーナメント式で試合を行います』

 

ですが、とデイジーは付け加えた。

 

『決勝戦に進んだチームは特殊なフィールドで戦ってもらうことになっております。

当然そのフィールドで戦える選手は二チームのみだけです』

 

特殊なフィールド?気になる発言をするな。

 

『それでは、試合を開始するために「(キング)」の人は前に来てください』

 

前に・・・ね。さて、なにをさせられるんだか。俺を含めた四チームの『(キング)』は前に出た。

するとその瞬間。俺の目の前に大きなサイコロを模した物が魔方陣から出てきた。

 

『対戦を決めるためにサイコロを振って奇数と偶数を決めます。

ただし、この決め方は変わっています。もしも奇数が一人だけで偶数が三人であれば、

奇数を出したチームはシード戦となり、他の三つのチームはトーナメント戦で戦ってもらいます。

さらに四チームともが同じ奇数か偶数を出した場合は別のチームと組んで試合をし、

どちらかが勝てば組んだチームと決勝戦を行うこととなります。もしくは組んだチームが敗退し、

相手チームの一チームも敗退すれば、残った二チームで決勝戦に進むことになります』

 

あくまでトーナメント式は変わらないか。できれば他のチームと組んで挑んでみたいもんだな。

その時も奇数と偶数で決めるのかな?

 

『サイコロを持って下さい』

 

そう促され、サイコロを持った。

 

『では、どうぞ、振ってください!』

 

そう促され、サイコロを手放した。他の三人もサイコロを手放して奇数か偶数のどちらの目が

出るのか静かに見守った。サイコロは少しして動きが鈍くなりやがて―――止まった。

結果は―――。

 

奇数、偶数、奇数、偶数、

 

二手に分かれた。この場合、奇数と偶数と別れたら・・・・・こうなるだろうな。

 

『決まりました!四チームの対戦相手は「☆川神ズ」と「ロンギヌス」、

「デビル×デビル」と「兵藤家」と分かれてました!』

 

デイジーのアナウンスに観客が大盛り上がり。

 

「・・・・・」

 

川神百代が俺に視線を向けてくる。「負けない」と視線に乗せられているようだ。

 

「はっ、なんだよ。お前とじゃないのかよ?」

 

「残念だったな。戦いたかったら相手を倒してこい」

 

「当然だ。お前には訊きたいことが山ほどあるんだからな」

 

兵藤照が目を細めて言う。

 

『直ぐに本選を始めたいと思います。

まずは最初に「デビル×デビル」と「兵藤家」の二チームの試合からです。

他の選手の方々は選手控室で待機していてください』

 

そう言われて俺たちは踵を返してステージを後にしようとする。

 

「兵藤一誠!」

 

「・・・・・?」

 

兵藤照に呼ばれ、後ろに振り向く。

 

「いいか!俺さまたちが勝つからにはお前も勝ちあがれ!ぜってぇーだぞ!」

 

「・・・・・」

 

なんだ、そんなことか。なんと言うか、熱い男だな。

そう思いながらリアス・グレモリーたちに視線を向けた。彼女もこっちに視線を向けてくる。

 

「(無茶するなよ)」

 

「(ええ、でも、勝ってみせるわ)」

 

リアス・グレモリーの他に彼女と参加したメンバーにも一瞥して、

選手入場口に入り、選手控室に入室した。

 

「―――まさか、お前が兵藤家の男だとは思いもしなかったぞ」

 

「俺もお前があの時会うまで武神が女だとは思いもしなかったよ」

 

控室に入って早々、川神百代に話しかけられた。

 

「じゃあ、お互い知らなかった訳だな?」

 

「兵藤家と川神家は遠い親戚だと言うのはテレビで知った。それ以外は何も知らなかった」

 

「で、お前はどうしてこの大会に参加しているんだ?」と問うた。

兵藤家の男と結婚して女王になるつもりだったのか?

 

「至極的単純な理由だ。私は強者と戦いたいたくて参加したんだ。人王なんて興味ない」

 

「我の弟が興味あるがな」

 

川神百代と話しているところに銀の超ロングストレートに額に×の傷跡がある女性が寄ってきた。

 

「彼女の仲間か」

 

「うむ。我の名は九鬼揚羽と申す」

 

「俺は兵藤一誠だ。まあ・・・兵藤家と関わりは薄いから、

強く兵藤家の一族の男だと言えないからな」

 

「むっ?それはどうしてなのだ?」

 

九鬼揚羽は首を傾げた。彼女の疑問を解消するために説明した。

今まで兵藤家のことを知らずに生きていた。知ったのはつい数ヵ月前。

兵藤家の浅い部分しか知らず、根本的なことは今でも知らない。

 

「そう言うわけだ」

 

「ふむ・・・・・そうだったのか。しかし、お前を無視しないと思うが?」

 

「そうみたいだな」

 

「一誠、始まるよ」

 

和樹に促され、二人から離れて席に座り、俺たちの目の前にある巨大なテレビを視界に入れる。

 

「兵藤家と彼女たちが直撃しするなんてな」

 

「ハッキリ、これはかなりきつい戦いになると思うよ」

 

映像を見れば、火山が噴火して膨大な量の溶岩に囲まれて、

孤立と化となっている平べったい岩に両チームがいた。

 

「あはっ、頂上決戦に相応しいステージだな」

 

「・・・何故にお前が俺の隣で座る?」

 

「いいじゃないか」

 

俺たち以外選手がいないため席はかなり空いている。皆、指定された席に座らず。

テーブルに座ったり壁に背中を預けて佇んでいたりしている。

俺も違う席で座って映像を見ていたら川神百代が俺の隣に座りこんできた。

 

「兵藤一誠、あの時のリベンジを果たしてやる」

 

「今回は複数で勝負だ。俺を倒したかったら皆を倒すんだな」

 

「ははっ!いいだろう、全員を倒してからお前を倒してやる」

 

不敵に笑む川神百代。さて、戦いの方はどうだっと。

『デビル×デビル』の戦いぶりを見ていると、魔法だけじゃなく、

体術や得物を使って攻撃しはじめる。そんな相手をしている兵藤家の戦いぶりというと―――。

 

禁手(バランス・ブレイカー)!』

 

一人の男が力強く発した。その瞬間、足元の地面が盛り上がって男の体に纏い始めた。

おお、なんだ?

 

「曹操、あれはなんだ?」

 

振り向かず背後にいる曹操に問うた。あいつなら分かるかも知れない。

神器(セイクリッド・ギア)の所有者を集めているほどだし、

 

「周囲の岩や石だけじゃなく、様々な鉱物すら体に纏って絶対的な防御力を得る『大地の鎧(アース・アーマー)』だ」

 

「ネーミングがどうも微妙だな」

 

鉱物を纏うか・・・・・。体に纏った鉱物の鎧のまま、男は地面に手を触れた。

すると、シトリー眷属のメンバーの足元の地面が鋭利な槍のように盛り上がって相手の体を貫いた。

 

「ふむ・・・・・面白い力の使い方をするね」

 

「鎧を破壊しても地面に鉱物がある限り、倒せることはできない。

倒すなら絶対的な一撃か水の中に沈めるのが良さそうだな」

 

「高熱の炎で炙って倒すという手もある」

 

・・・・・『英雄派』の三人がなにやら攻略の対処方法を話し始めたよ。

だが、その通りだった。リアス・グレモリーが滅びの魔力ですら、

鎧にダメージを与えても直ぐに修復した。あれではじり貧もいいところだ。

 

「兵藤家のリーダーの奴は動いていないな」

 

「別に『(キング)』も前線に戦えなんてルールはないんだ。

本来ならチェスの場合、チェックメイトにならないように他の駒を進めてゲームするもんだ。

あれが当たり前のことなんだよ」

 

「えー、じゃあ私は後ろに引っ込んで戦いを見てろっていうのかよー」

 

「お前が『(キング)』かよ」

 

何となくそう思っていたけどこの戦闘狂が『(キング)』なんて諸刃の剣もいいところじゃないか?

 

「まあ、それもあるし、力の温存のために戦わないてもある」

 

―――と、リアス・グレモリーに変化が起きた。口の端を吊り上げたと思えば、

滅びの魔力を発現した。魔力はどんどん大きくなり、形が人の手のように具現化していく。

その滅びの魔力で具現化した手で鉱物を纏った『兵藤家』の一人をリアス・グレモリーが捕えた。

あれは・・・・・魔力の質を変えたのか。

 

「・・・・・って」

 

ゴミのようにリアス・グレモリーが躊躇もなく掴んだ敵を流れ続ける溶岩に放り投げちゃったよ!

 

「あいつ、悪魔だな」

 

「正真正銘の悪魔だからな」

 

隣にいる川神百代の頬に薄らと汗が浮かんでいた。だが、驚くことがまだあった。

彼女は背中に十二の小型の魔方陣を展開した。

 

「(なにを・・・?)」

 

と、疑問に思った俺は次の瞬間、目を見開いた。背中の魔方陣から滅びの魔力が迸って、

次第に赤黒い翼へと形状していった。六対十二枚の翼を―――。

 

「(あいつ、この夏休みの間たまにトレーニングに参加していた理由が

こういうことだったのか!)」

 

新たな力を得るために、あんなキツイ修行をした結果があそこまで彼女を強くしたのか。

 

「(だが、魔力の消費は激しいようだな・・・・・)」

 

テレビ越しでも伺える彼女の顔の色。

精神的疲労・・・あの状態をするために集中しないとすぐに解けてしまうのかもしれないな。

赤く黒い翼を振り払うように動かしだした。

すると、翼から数多の羽が弾丸のように『兵藤家』のメンバーの体を貫く。

おおう・・・・・凄い攻撃だ。あっという間に敵を半分にまで減らした―――。

 

カッ!

 

兵藤照にも赤黒い羽が向かったその時だった。

あいつを守るように光のオーラが発生して赤黒い羽を一瞬で消失した。

リアス・グレモリーは一瞬だけ目を丸くするが、今度は翼自身で兵藤照に攻撃し始めた。

 

―――その翼もあいつを守る光のオーラによって先から削られて無効化される光景を俺は見た。

 

「(聖なる光・・・・・?いや、それだけじゃない―――)」

 

『兵藤家』のメンバーの体にも光が纏い始めた。その状態のまま、あいつらはさっきよりも

速く光速の速度であっという間に『デビル×デビル』のメンバーを瞬殺した。

 

『で、まだやるか?』

 

兵藤照がつまらなさそうに、魔力の翼が形を崩して跪くリアス・グレモリーに問うた。

 

『・・・・・降参します』

 

彼女自身もこれ以上の戦闘は不可能だ。これが彼女たちにとっても初めての敗北だろう。

 

「部長・・・・・」

 

「会長・・・・・」

 

二人の眷属悪魔が心配そうに呟いたのが耳に届く。

 

『試合終了!勝者は「兵藤家」チームです!

次は「ロンギヌス」チームと「☆川神ズ」チームです。ステージに赴いてください』

 

・・・・・まだ十分も掛かっていないというのに終わってしまったのか。

 

「強そうだな。お前の一族は」

 

「頭が残念というか、個性的な奴がいるようだからどううも印象が・・・・・」

 

席から立ち上がり、『ロンギヌス』と『☆川神ズ』と別れた俺と川神百代。

 

「勝負だ、兵藤一誠」

 

「掛かってこい、川神百代」

 

不敵に俺たちは拳を突き合わせた。

さあ、お前たちを乗り越えてあいつらと勝負するんだ。俺は―――、

 

 

―――○●○―――

 

 

中央のステージに佇む俺たち。横に並んで相手を視界に入れているとデイジーが喋り出す。

 

『続いて第一回戦二試合目は「ロンギヌス」チームと「☆川神ズ」チームです!アザゼルさん。

「☆川神ズ」のチームの「(キング)」は武神川神百代との情報がありますが?』

 

『ああ、その通りだ。武神・川神百代は人間の中で最強クラスの実力者だろう。

それは世界中の人族、人間でも認めるほどの力を有している。

しかも、川神百代が率いるメンバーもまた強敵揃いだ。数が他のチームよりも少ない。

にも拘わらず決勝まで進んできた。所謂少数精鋭ってことだろう。理想的な戦術だ』

 

『対する「ロンギヌス」チームは16人。予選での戦いぶりは凄まじいと一言でした』

 

『だろうな。現世であんな暴威を振る舞われたら予選のようにこの町は壊滅状態になる。

できれば暴れて欲しくない奴らが揃っているぜ。俺が一人で相手にしたくないほどだ』

 

自殺行為にも等しいからな。それと無謀もいいところだ。

 

『堕天使の総督であるアザゼルさんでもですか?』

 

『当然だ。なにせあいつらの殆どが―――』

 

アザゼルが面白可笑しそうに意地の悪い笑みを浮かべて口を開いた。

 

『「ロンギヌス」のチームメンバーは最近発見した二つの新種の神滅具(ロンギヌス)を含め、

いまでは十七種となった神滅具(ロンギヌス)の内の十二種、

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)」、「白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)」、「獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)」、「黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)」、「煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)」、「黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)」、「絶霧(ディメンション・ロスト)」、「魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)」、「幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)」と「無限創造龍の錫杖(インフィニティ・クリエイション・メーカー)」、「時空間と次元の自由航路(スペースタイム・ディメンション・ルート)」と「神愛護珠(ゴッド・ラブ・ディフェンス)」の所有者ばっかりだからな!』

 

あっ、あいつ、バラしやがったよ。もう、バレているだろうけどさ。

 

『・・・・・まさか「ロンギヌス」と言うのは・・・・・」

 

『ああ、「神滅具(ロンギヌス)」の集団だから「神滅具(ロンギヌス)」を四つ所有している

「ロンギヌス」チームの「(キング)」兵藤一誠が「神滅具(ロンギヌス)」の名を取ってチーム名にしたんだ』

 

『えええええええええええええええええええええええええっ!?』

 

うん、デイジー良いリアクションするよ。観客からもざわめきが生じている。

一応、神滅具(ロンギヌス)の知識を覚えているようだな。

 

「お前ら・・・・・そんな奴らだったのか」

 

唖然と川神百代が俺を見て呟いたのだった。

 

「ははは、悪いな。―――あっという間に勝たせてもらうぞ」

 

宣戦布告とばかり、『そ、それでは、試合を開始します!』と、

デイジーが発した直後に足元で光る魔方陣の光に包まれながら言った。

―――光が晴れ、視界が回復した頃に目の前に広がった光景は―――、

 

「おおー、綺麗な銀河世界だなー」

 

しかも、皆とバラバラにされた。俺ただいまボッチです。・・・・・さ、寂しいよ。

 

『主、我らがおります』

 

「うん・・・・・そうだね。ありがとうメリア」

 

そうだ。俺には家族がいるんだ。うん、大丈夫。平気だ。

 

「さて・・・・・探すとする前に敵を片付けるか」

 

後ろに振り返る。そこには一人の黒髪の少女がいた。

 

「あちゃー、いきなり「ロンギヌス」の兵藤一誠くんと会っちゃったよん」

 

「御愁傷さま。俺は兵藤一誠だけどお前は誰?」

 

「私は松永燕だよん。短い間だけどよろしくね。好きな食べ物は松永納豆!」

 

松永納豆・・・・・?ああ、あの納豆か。

 

「これはビックリ、あの松永納豆を販売している家の人と出会えるなんて嬉しいな」

 

「おや、その発言は松永納豆を食べて呉れている人だね?」

 

「あれ、甘くて納豆独特の風味がないから美味しいよな。

俺、料理を作るのが好きだからさ、納豆を使った料理を模索して作っているんだ」

 

「―――ほほう?」

 

松永燕の瞳がキランと煌めいたのが幻覚なのだろうか?

 

「その料理のレシピ、私にも教えてほしいなー」

 

「じゃあ、携帯番号を教えてくれ。メールで送る」

 

「うーん、それは大会が終わった後でいいかな?」

 

それもそうだな。と思いながら『熾天使変化(セラフ・プロモーション)』の状態となり臨戦態勢になる。

 

「うわ・・・・・天使なんて初めて見たよん」

 

「悪いな。お前はその場から動けないぞ」

 

「え―――?」

 

瞳を怪しく輝かせた。その光に浴びた松永燕の体に変化が起きる。

 

「か、体が・・・・・!?」

 

「お前の首下以外、停止させた。解除するには俺を気絶させるか倒すしかないぞ」

 

「ははは・・・・・無理があるよ。それって」

 

「だな」

 

笑みを浮かべ、翼を素早く動かして彼女の体を槍のように鋭く貫いた。

 

「が・・・・・っ!」

 

「まずは一人」

 

翼を引き抜いて、付着した血を振り払って汚れを落とす。

松永燕は戦闘不能と見做されたようで、光に包まれてこの場から姿を暗ました。

 

―――和樹side

 

「や、ゲオルグ」

 

「式森和樹か」

 

浮遊魔法で飛んで味方と合流を果たす僕。

もう、散り散りにさせられるなんて思いもしなかったよ。

 

「誰かと戦っていた?」

 

「ああ、今しがたな」

 

ゲオルグの前に金髪の少女が血だらけで立っていた。手にはレイピアを持っていた。

 

「レイピアなどと武器で俺に勝てるわけがないのにな」

 

「しかも僕たちがいるのは積もっている雪。足場が不安定過ぎて移動がし辛いのも難点」

 

これはしょうがない、と僕は納得する。

 

「くっ・・・!魔法使いと言う奴か・・・・・!」

 

「俺は英雄の末裔でもあるがな。まあいい。さっさと倒れてもらおう」

 

ゲオルグは周囲に幾重も魔方陣を展開した。そして―――魔法を放った。

 

―――椿姫side

 

皆さんと散り散りにさせられましたか・・・・・。

兵藤くんはともかく、『英雄派』のレオナルドが―――。

 

ゴガアアアアアアアアアアアアァアアアアアアァアアアアアアァァッ!

 

「(・・・・・大丈夫そうですね)」

 

遠くに聞こえる獣のような咆哮。あの子が魔獣を創造したようなので直ぐに思考を切りかえる。

 

「―――見つけたわ!」

 

横から聞こえてくる少女の声。得物を構えて横に振り向けば、

赤毛のポニーテールの少女が私と同じ武器、長刀を持って駆け寄ってきた。

 

「私は川神学園の川神一子!いざ、尋常に勝負!」

 

そう名乗りながら彼女は勢い良く飛び上がって長刀を振り上げた。

 

「てやぁあああああっ!」

 

「・・・・・」

 

眼鏡を触れて呟く。

 

「『追憶の鏡(ミラー・アリス)』」

 

私の目の前に装飾された鏡が出現した。

 

「いきなり鏡が出てきた!?でも、こんなもの―――!」

 

川神一子は躊躇もなく鏡を破壊した。

 

ズオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

―――愚かなことを。割れた鏡から波動が生まれ、彼女を襲った・

 

「きゃあああああああああああっ!?」

 

彼女の全身から血を噴き出して倒れた。

先ほどの鏡は私の神器(セイクリッド・ギア)でカウンター系の能力です。

この能力で一度、兵藤くんにダメージを与えた唯一の自慢です。

こんな私でも彼にダメージを当てたことがとても嬉しい。

 

「どうですか?あなたが鏡を破壊した時、攻撃した衝撃の倍の力がそのまま自分に跳ね返った

自分の攻撃の味は」

 

「っ・・・・・!」

 

「無暗にただ猪のように突っ込むだけなら誰だってできます」

 

呆れた風に・・・いえ、彼女の行動に呆れ魔方陣を展開する。

 

「私と交えるほどのことではなかったようです。さようなら―――」

 

―――アーサーside

 

ギギンッ!ガギンッ!ギィィィンッ!

 

「中々やりますね。とてもただの人間とは思えない剣術の腕の持ち主です」

 

ツインテールに結んだ黒髪の少女と剣戟を交えている私に、

一瞬でも隙を作らせてはいけないという緊張に体を強張らせている目の前の少女。

 

「―――ここにいたのか、アーサー」

 

「ジークですか」

 

私が派閥にいた『英雄派』のジーク。周りからジークフリードと呼ばれている彼が

雪を踏みながら現れた。

剣を交えていた彼女に一瞥してジークは不思議そうな顔で口を開いた。

 

「まだ倒していないのか?」

 

「いえいえ、彼女はとても素晴らしい剣術の持ち主でしたのでつい、遊んでいました」

 

「・・・キミが言うほどの腕前か。僕も参加して良いかな?」

 

腰に体験している六本の内の一つを抜き放ちながら笑みを浮かべるジーク。

 

「いいですよ。一緒に短い間ですが楽しみましょう」

 

冷笑を浮かべ彼女に問う。

 

「それでは、続きをしましょう」

 

―――龍牙side

 

「うわっと!?」

 

「むっ、雪が邪魔で動き辛いな」

 

額に×の傷跡がある女性と戦っている僕ですけど、そう言いながらも一瞬で近づく

その速度はなんです!?

 

「時に質問してもよいか?」

 

「なんでしょうか」

 

「もしもお前たちが優勝したら誰が人王となる?」

 

何故そのことを?心の中で首を傾げて疑問を浮かべるが、別に言っても問題はないだろう。

 

「僕たちの『(キング)』兵藤一誠だよ」

 

「そうか・・・百代と話していたあの少年か」

 

「それがなにか・・・」

 

「なに、もしかしたら長い付き合いになるかもしれぬからな。知っておいて損はないだろう」

 

長い付き合いってどういうことなのかな・・・・・一誠さん、あなたは女性に恵まれているけど

同時に女難にも恵まれているそうですよ。

 

「さて、お前を倒すとしよう」

 

「いえ、僕は倒されませんよ?逆にあなたを倒します」

 

「ほう、ではお前が私の夫になるということだな?」

 

・・・・・へ?それはどういう意味だ?と目を丸くしていると彼女は腕を組んで言った。

 

「我は、我を倒した男しか婚約をするつもりはない。なので、我を倒したお前が我の夫となる」

 

「・・・・・」

 

「では、尋常に勝負と―――」

 

「ごめんなさい!」

 

踵を返して彼女から遠ざかった!そんな人と相手にしていたのか僕は!

 

「(こんな人、一誠さんに任せた方がいい!どこだ、どこにいるんだ一誠さん!)」

 

―――清楚side

 

「うう・・・・・寒いよぉ」

 

学校の制服、それも夏服だから雪山の寒さに流石にキツイよ・・・・・。

 

「靴も濡れて冷えちゃっているし、このままじゃ凍え死んじゃう」

 

敵も味方もいないこの場でどうしろと言うのかしら・・・・・。

 

「一誠くん・・・・・会いたいなぁ・・・・・」

 

彼に抱きしめられる温もり、彼の肌に直接触れて感じる温かさと安心感、

彼に覆い被されて感じる―――。

 

「って、私、こんな時に何考えてるのよぉっ!」

 

脳裏に浮かんだあの時の記憶を振り払うように頭を振って、羞恥で赤く、

熱くなった顔を両手で添えた。

 

「・・・・・もう、私って一誠くんから離れない体と心になっちゃっているよ」

 

一誠くんがすることはすべて正しい、とそこまで思考がおかしくなったわけじゃない。

でも、彼から離れたくないって想いがどんどん強くなる。

 

「ふふふ・・・・・一誠くん・・・・・」

 

私の後ろに赤い長髪に眼帯を付けている女性が戸惑っていることにも気付かず、

笑みを浮かべ続ける私だった。

 

―――○●○―――

 

―――アザゼルside

 

圧倒的・・・・・とまでは言わないか。戦場が戦場だ。

冷たい場所にい続ければ体力が消耗していく。そりゃ、動きも鈍くなる。

 

「まっ、それでもあいつらの勝ちには揺るがないだろう」

 

「まだ終わっていないから分からないけれどね」

 

隣に座っているルシファーが独り言のように呟いた。俺も頷いて「そうだな」と口にする。

戦場を有利に活用する手だってあるし、それを利用して勝利することだって可能だ。

 

「まあ、肉弾戦が強い武神だとはいえ――あいつらに勝つことはまず難しいだろう」

 

「身体能力は凄まじいけど、やっぱり上には上がいるものよね」

 

「私たちよりも強い神だっている」

 

できればその神と戦いたくないもんだぜ。苦笑を浮かべると―――

 

『試合終了!勝者、「ロンギヌス」チーム!』

 

あいつらが勝ったアナウンスを娘っ子が流した。

俺は、そのアナウンスに心の中でガッツポーズをした。―――よし、勝ったか!

 

『これより、三十分後に決勝戦を行います。

それまで観客及び選手の皆さんは自由にお過ごししてください』

 

そう言うなり、娘っ子は俺たちにお辞儀をしてどこかへと行ってしまった。

まっ、行くところが分かりきっている。

 

「俺たちも行こうぜ」

 

ルシファーたちを誘えば二つ返事で頷いた。お前ら、今このアザゼル先生が行くぜ!

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode7

「大丈夫か?」

 

「ああ、もう大丈夫だ」

 

あの試合の後、医療室に運ばれた川神百代の様子を見に行った。

入って話しかけてみれば、思っていた以上に元気そうだった。

 

「あー、お前に二度も破られるなんてな」

 

「何度も破ってやるよ。なんだったら、武神の異名を俺がもらおうかな?」

 

「この、調子に乗るなー!」

 

首に腕を回されて締めつけられる。

 

「うおっ、川神百代。ギブギブ!」

 

「ははは!弟のような反応して面白いな!」

 

「ん?弟いるの?」

 

「正確には私の舎弟だ」

 

舎弟ね。実の弟じゃないか。

 

「私のことを『姉さん』って呼ぶ可愛い弟なんだ。なんなら、お前も私のことを

『姉さん』と呼んでみるか?ふふっ、仮にそうなったら私は二人の弟ができるな」

 

・・・・・なんでだろう、良いように扱き使われるビジョンが脳裏に浮かんだぞ・・・・・。

 

「そう言えばお前は歳いくつなんだ?私は高校三年生だけど」

 

「俺は高二だ」

 

「―――よし、お前は私の弟にしてやる」

 

「却下!」と川神百代の発言に拒んだ。俺には姉のような存在がいるんだ。

もう間に合っている!

 

「えー、いいじゃんか。お前みたいな強い弟が欲しいんだー。

私の舎弟は頭が回るのに戦いなんて全然ダメなんだ。精々、弄ぶぐらいしかできないんだぞー」

 

その弟は物凄く可愛そうと思えるのは何でだろうか・・・・・。

 

「というか、何時まで私のことをフルネームで呼ぶんだ?」

 

「嫌か?」

 

「どうせ呼ぶんなら特別に私のことを『百代』と呼べ。私もお前のことを一誠と呼ぶからな」

 

「ん?いいのか?」

 

「ああ、お前を認めている。唯一、私を倒した男だからな」

 

笑みを浮かべて俺の肩に腕を回して引き寄せられた。

 

「じゃあ、百代」

 

「ああ、一誠」

 

手を差し出せば彼女も手を差し出してきて握手をしてくれた。

 

「じゃあ、私の事も燕って呼んでもらおうかな」

 

「はい?」

 

ベッドの上で俺が書いた松永納豆のレシピを見ていた松永燕。

彼女が自分もそう呼んで欲しいと言われた。

 

「なぜ?」

 

「んー、キミと仲良くしたいからね。この大会を優勝するって信じているし」

 

「ふむ・・・ならば我の事も名前で呼んでもらおうか」

 

九鬼揚羽まで言いだした。

 

「次期人王となる男と交流を持ちたいからな。ということで、

我とアドレス交換をしようではないか」

 

「あっ、私もね。そういう話だったしいいでしょ?」

 

「むっ、一誠。私もだ」

 

三人のお姉さま方に携帯を突き出された。俺は心の中で苦笑いを浮かべて

自身の携帯を取り出して、三人とのアドレスを交換を果たした。

 

「そうだ、燕。松永納豆一ヶ月分頼める?」

 

「もっちろん。ありがとうございまーす!」

 

「松永納豆好きなんだ?」

 

「それも含めて納豆の料理を研究しているんだ。今度は鍋に挑戦するつもりだから」

 

「納豆に鍋・・・・・想像がつかないな」

 

はははっ、と笑みを浮かべる。それが面白いから新しいことに挑戦するんだよ。

 

「できたら試食してくれるか?」

 

「うん、いいよ。私も松永納豆が大好きだからねん。おとんと一緒に食べさせてもらうよ」

 

「よろしく」

 

と、俺の耳元に小型の魔方陣が出現した。・・・・・ん、分かった。三人に顔を向けて

「仲間に呼ばれた。帰るよ」と告げた。

 

「分かった。決勝戦、我らはお前を応援しているぞ」

 

「私たちの分まで頑張ってね!」

 

「負けたら私と付き合ってもらうぞ。思う存分に私と決闘だ」

 

三人に応援されながら医療室からいなくなった。

 

「ふふっ、一誠くんって見ていると可愛いねん♪」

 

「イジメ甲斐があるやつだしな」

 

「ふむ・・・・・九鬼家従者部隊に入れたいな・・・・・」

 

「「いや、それは無理でしょう揚羽さん」」

 

―――○●○―――

 

「おう一誠殿!来たか!」

 

「どこに行っていたんだね?」

 

「川神百代たちのところ。まあ、軽く挨拶しに行っただけだ」

 

待機室じゃなく、とある一室に入れば、皆が集結していた。だが、皆だけじゃなかった。

 

「ほっほっほ。久しいの孫よ」

 

「―――――」

 

古ぼけた帽子を被った隻眼の老人。白いヒゲを生やして、床につきそうなぐらい長い。

服装は豪華絢爛と言うよりは質素なローブを着込んで杖をしているけど、

見る限り背筋がピンと直立しているか腰を痛めているわけではない。

そんな老人に俺は懐かしさが胸の奥から込み上がった。

 

「オー爺ちゃん!」

 

パァッ!と俺は嬉しくて久しく会ったお爺ちゃんの名前を言った。凄く懐かしい!

というより、全然変わっていない!オー爺ちゃんに抱きつくと

 

ポンポン・・・。

 

と背中を優しく叩いてくれた。

 

「ワシのことを覚えていたとは、うむ、嬉しいのぉ」

 

「一日だって忘れたことないよ。・・・・・あれ、オー爺ちゃん。

昔、オー爺ちゃんと一緒にいた人じゃないね?」

 

「あやつはもう現役を引退しておる。ワシの今の付き人はこの二人じゃ」

 

そう言いながら視線をオー爺ちゃんの背後にいる二人の女性に向けた。

二人とも銀髪だけど、瞳だけは違う。一人は青で、一人は赤だ。

 

「二人とも孫に挨拶をせい」

 

二人は一歩前に出てお辞儀をした。

 

「初めまして兵藤一誠くん。私はオーディンさまの付き人、ロスヴァイセです。

以後、お見知りおきを」

 

「同じくセルベリア・ブレス。ロスヴァイセとは同期の戦乙女、ヴァルキリーだ」

 

今度は二人なんだなー、と思いながら俺もお辞儀をして挨拶する。

 

「初めまして、兵藤一誠と言います。昔、オー爺ちゃんのお世話になっていました」

 

「ええ、あなたの話しはよく聞かされました。可愛い孫だと。

それと兵藤一誠くんの話を聞いた途端にオーディンさまったら、手続きもしないで

日本に行こうとしましたよ。よほど、あなたにお会いしたかったのですね」

 

「子供のように駄々をこねられた時には本当に苦労した」

 

あはは・・・・・そうだったんだ。

そんなことしたオー爺ちゃんを脳裏に浮かべても想像ができない。苦笑を浮かべていると、

トントンと俺の体が叩かれる感覚が覚えて、俺を叩く人に振り向くと、

幼稚園児と背丈の変わらない身長の老人。金色に輝く体毛に法衣を纏う黒い肌で

手には長い棍のような得物を持っていた。首には珠の一つ一つが大きい数珠。

サイバーなサングラスをして口に煙管を銜える肌が皺くちゃなヒト―――。

 

「お猿のお爺ちゃん!」

 

このヒトも変わってないな!お猿のお爺ちゃんに抱きつくとお猿のお爺ちゃんも短い腕で

抱きしめ返してくれた。

 

「元気そうで何よりじゃな。あんなちっこかった坊主が見ない間に随分と成長した」

 

「かなりきつい生活だったけどね」

 

苦笑を浮かべる。と、今度は―――。

 

《ファファファ・・・・・本当に生きていたとはな》

 

不穏な雰囲気とどこか懐かしさを感じる冷たいオーラを放つ人物が話しかけてきた。

そっちに顔を向けると、顔が見えないぐらいにフードを深く被り、足元すら見えないほど

長いローブを、司祭の服らしきものを着込んだ―――骸骨がいた。

頭部には司祭がかぶる帽子、ミトラって名称の帽子に手には杖も携えている。

俺を見詰める目玉のない眼光の奥を光らせている。

 

「ははっ、骸骨のお爺ちゃん!」

 

またまた久し振りに会った人に抱きついた。おお・・・・・懐かしい。ひんやりとしている。

冷たくて気持ちいなぁ・・・・・。と思っていると豪快な笑い声が室内に響き渡った。

 

「デハハハハハ!久し振りだなぁ、坊主ぅっ!」

 

「元気にしていたか!坊主!ガハハハハハ!」

 

体格の良いヒゲ面のおじさん二人が俺に駆け寄ってきて俺に纏わりついた!

突然のことで少し驚いたが同時に懐かしさを感じて言葉を発した。

 

「天空の神のおじさんと海の神のおじさん。久し振り!元気にしていた?」

 

上半身の裸のヒゲを生やしたおじさんと王冠にトーガという出で立ちの

ヒゲを生やしたおじさん。俺はその二人に言うと豪快に笑って話しかけてきた。

 

「元気にしていたとも!坊主も元気にしているようでなによりだ!」

 

「坊主、久し振りに海に来い!盛大に歓迎してやるぞ!ガハハハハハハハ!」

 

「うん、そうさせてもらうよ。海の神のおじさんのところにいる人魚の人たちも

面白い人ばかりで楽しかったしね」

 

ニッコリと笑む。うわー、懐かしい人たちが集合しているよ!俺、今ものすごく幸せで嬉しい!

 

『・・・・・』

 

喜んでいる俺に何故か皆が静かになっている。どうしたんだ?

 

「・・・・・お前、本当にそいつらと会っていたんだな」

 

アザゼルが珍しく緊張した面持ちでいる。ユーストマとフォーベシイですら、

有り得ないほど静かだ。

 

「・・・・・私、こんなに驚いたのは生まれて初めてです」

 

「目の前で親しく神々と話している光景を見ても・・・・・信じられません」

 

「お前・・・・・どんだけ凄いんだよ・・・・・」

 

いや、だから父さんと母さん経由で知ったんだって。・・・・・あれ、一人足りない。

 

「お猿のお爺ちゃん。インドラのおじさんは?」

 

「儂にビデオカメラを押し付けてのんびりしておるよ。

まあ、そのおかげでバカ者の仕置きができたからよしとするぜぃ」

 

バカ者・・・・・?首を傾げているとヴァーリがとある方へ指した。

そっちに視線を向ければ―――、

 

「・・・・・」

 

全身真っ白な美猴がいた。レオナルドがツンツンと突いても、

屍のように何の反応もしなかった。

 

「凄かった、の一言でしたよ。闘戦勝仏のお仕置きは」

 

「見るにも堪えませんでした」

 

「そうなんだ?見てみたかったな。お猿のお爺ちゃん、もう一回やってくれない?」

 

俺もみたいと言ったら、お猿のお爺ちゃんは苦笑を浮かべた。えっ、もうダメだって?

そっか、残念だ。

 

「いよいよ決勝戦じゃな」

 

「うん、オー爺ちゃん。絶対に負けられない戦いだよ」

 

《すでに戦いの勝敗は決まっている》

 

「ありがとうね。骸骨のお爺ちゃん」

 

「坊主!ここまで来たからには何がなんでも勝つんだぞ!」

 

「そうだとも!坊主の底力をみせつけてやれぃっ!」

 

「当然だよ、天空の神のおじさんと海の神のおじさん」

 

皆から応援と励ましの言葉を送られる。これじゃ、もっと負けられなくなったじゃないか。

それから皆と雑談して数十分が経過した頃になって―――。

 

『皆さま、決勝戦の時間となりました!「ロンギヌス」チームと「兵藤家」チームの皆さんは

選手入場口に集合してください!繰り返します。決勝戦の時間となり―――』

 

デイジーのアナウンス。『ロンギヌス』のメンバーが集結する。

 

「勝とう、一誠」

 

「勿論だ。相手は強敵。だが、俺たちは最強のメンバーで集った集団。負けるはずがない。

例え俺たちの誰かが負けたとしてもだ」

 

拳を前に突き出す。

 

「勝つぞ、『ロンギヌス』!」

 

『おう!』

 

バッ!と皆が俺と同じように拳を突き出した。一時の絆。

それでもいい、心が一つになっているこの瞬間を無駄にしないためにも戦おう。優勝しよう。

 

―――○●○―――

 

『観客の皆さま、いよいよ決勝戦でございます。

次期人王が決まる瞬間が直ぐ目の前で歴史的瞬間を観客の皆さまの前で

いま―――始まろうとしています』

 

沈黙する京都ドーム。デイジーのアナウンスだけが響き渡る。

 

『決勝戦を行う前にこの方たちの紹介をしましょう。現兵藤家当主であり現人王の兵藤源氏さまの

ご息女、全人類を象徴とする姫、兵藤悠璃さまと兵藤楼羅さまです!』

 

カッ!

 

ステージ中央に魔方陣が出現した。

魔方陣の光と共に現れたのは白と黒の豪華絢爛なウェディングドレスを身に纏った少女たち。

 

『二チームのどちらかが優勝したその瞬間。

チームの中で次期人王となる一人の選手とその場で結婚式を行います』

 

「「・・・・・」」

 

兵藤悠璃と兵藤楼羅は無表情のまま。二人の胸の中ではどんな気持ちなのか心情定かではない。

 

『それでは、決勝戦に残った二チームのご紹介へと移ります。まずは、こちらのチームです』

 

プシュー!と選手入場出入り口にスモークが噴き出した。

モクモクと立ち籠る煙を見詰めデイジーが口を開く。

 

『人族の王の維持をするが為に兵藤家の中から選り抜きされた強者たち。

そのチームの名は「兵藤家」!』

 

煙の中から威風堂々と姿を現す『兵藤家』チームメンバー。

総勢十六人。ステージに悠然と上がって、二人の姫の前に対峙した。

 

『続いて最後の一チームは』

 

そこでデイジーは一息ついた。胸元に下げている青白い羽を優しく掴んで、クスリと笑んだ。

 

『十七種の内の十二種の神滅具(ロンギヌス)所有者ばかりのチーム。人族の王者ともいえる

兵藤家を妥当として集ったそのチームの名は―――「ロンギヌス」チームです!」

 

観客が湧いた。そんな最中、選手入場口から立ち籠るスモークに人影のシルエットが

浮かび上がった。

 

ザッザッザッ!

 

『ロンギヌス』チームが観客たちの前に姿を現し、ステージに上がる。

 

「へぇ・・・・・ようやくこの時が来たじゃないか?」

 

兵藤照が不敵の笑みを浮かべて発言した。

しかし、『ロンギヌス』チームはその発言に耳を傾けず『兵藤家』の隣に立ち、

二人の姫の前に佇んだ。その時、兵藤悠璃の表情が変わった。

 

「久し振り。悠璃」

 

「・・・・・いっくん・・・・・?」

 

「ああ、実に十年振りかな?」

 

「―――――っ!?」

 

兵藤悠璃が目尻に涙を溜めたどころか、ダムが決壊したかのように涙が溢れ頬を濡らした。

 

「待っててくれ、あの時の約束を今ここで果たす」

 

「いっくん・・・・・うん・・・・・!うん・・・・・!」

 

『ロンギヌス』の『(キング)』兵藤一誠の言葉に兵藤悠理は何度も首を縦に振った。

 

「楼羅、ごめんな。今まで会いに行けなくて」

 

「・・・・・本当です。ですが、条件をクリアしてくれば許します」

 

「なんだ?」

 

「―――優勝してください。それだけです」

 

兵藤楼羅がそれだけ言い残し、魔方陣の光と共に姿を消した。二人はVIP席で姿を現し、

席についた。

 

「・・・・・お前、ずいぶんと親しそうじゃねぇか」

 

「まあな。昔、あの二人と遊んだことがあるんだ。兵藤家の実家でな」

 

一誠の言葉に目元を細めた兵藤照。

 

「・・・・・あ?・・・・・お前・・・・・まさか、弱虫のやつか?」

 

「なに・・・・・?」

 

「―――ああ、そうか。そういうことかよ。ははは、こいつは凄い偶然じゃねぇか!」

 

突然笑い出す兵藤照に怪訝な面持でいると、自分の仲間に告げた。

 

「おいお前ら!こいつ、昔俺たちと一緒に修行していた弱虫の奴だぜ!?

ははは!こいつは受けるな!」

 

「・・・・・ああ、お前か。あの頃、俺を虐めていた奴は」

 

一誠も合点いったようで、不思議と懐かしさを感じていた。

それは『兵藤家』も同じようで懐かしそうに喋り出す。

 

「なるほど・・・・・あなたがあの時の子供でしたか」

 

「ぎゃはははっ!お前かよ!?いっつも俺たちに虐められていた弱虫か!」

 

「久し振りだな。元気そうでなによりだ」

 

「しばらく修行に来ていないから忘れていたが・・・『外』で力を身に付けていたか」

 

「はっ!例え神滅具(ロンギヌス)を所有しても僕たちには敵わないさ!

神器(セイクリッド・ギア)は人間に不思議な能力を与えるだけで結局ものを言うのは、

所有者の体力と精神力だからね!」

 

『兵藤家』チームは一誠に語るが、塔の本人はどうでもよさそうに聞き流していて、

視線を会場に座っている兵藤悠璃と兵藤楼羅を見詰めていた。

 

『人の話しを聞けよゴラァッ!?』

 

「ん?ああ、悪い。訊いていなかった。お前ら、こいつらが何か言ってたか?」

 

一誠はヴァーリたちに話を振った。雰囲気を呼んだようで、ヴァーリたちは首を横に振った。

 

「いや?私は一誠を見るのに夢中でこいつらの存在がいたことを初めて気付いた」

 

「そうか。そいつはしょうがないな」

 

ヴァーリのダークカラーが強い銀髪を撫でた。

撫でられるヴァーリは幸せそうに瞑目して一誠に撫でられ続ける。

 

「てめぇ・・・・・!いい度胸してんじゃねぇかよ・・・・・!?」

 

「別にお前らを見下しているわけじゃないよ。仲間とコミュニケーションを深めているだけだ」

 

「―――っ!」

 

兵藤照が足を上げてステージを思いっきり踏んだ。

次の瞬間、ステージが一瞬で罅が生じて瓦解した

 

「お前だけは俺が叩き潰す。この弱虫が!」

 

「何時の事だよ。ああ、そういえば俺がこんなこと言ったこと覚えているか?」

 

「ああ!?」

 

「『いつか絶対に強くなる!そしたら僕はお前たちに見返してやる!』」

 

一誠が発したその言葉は小さい頃、いじめに遭っていた時、自分をいじめていた集団に向けて

放った言葉であった。それを言った一誠は不敵の笑みを浮かべる。

 

「その言葉、ようやく実現にできそうだ」

 

「―――――っ」

 

不敵の笑みを浮かべたことに苛立ちが達し、一誠の胸倉を掴んで低い声音で言った。

 

「俺に逆らえないようにお前を痛めつけてやるよ。あの時以上にな」

 

「・・・・・なら、俺はあの時のいじめを含めて何倍にも返してやるよ」

 

兵藤照の腕を掴んだ。その腕を掴む力を籠めると。兵藤照の表情が歪む。

今度は一誠が低い声音で言った。

 

「俺は兵藤家に籠って修行していたお前らとは違う。俺は世界を知り、

様々な強者と戦って成長した。―――復讐とあの二人を守るためにな」

 

「てめぇ・・・・・!」

 

胸倉を掴む手が緩み一誠は兵藤照から離れ、腕も放した。

その腕に掴まれた痣がハッキリと浮かんでいた。

 

「―――強いのは俺たちだ!」

 

「―――いや、世界を知っている俺たちが強い」

 

二人はしばらく睨み合った。『あ、あの・・・・・決勝戦を始めます・・・・・』と

頼りないデイジーの声でようやく睨み合いを止めた。

 

『え、えっと・・・決勝戦のルールはそのステージの上で試合をしてもらいます。

その予定でしたが・・・・・ステージが全壊しているのでしばらく除去のためにお待ちください』

 

デイジーの説明に二チーム、兵藤照以外の31人の視線がステージを壊した元凶に集中した。

 

「お前・・・・・面倒なことをしてくれたな。これだから短気は困るんだ」

 

「はぁっ!?俺の所為かよ!」

 

『当然』

 

『当たり前です』

 

二チームに突っ込まれ、兵藤照はいじけた。鬱陶しいほどに・・・・・。

 

―――○●○―――

 

 

しばらくして、壊れたステージはスタッフによって除去された。

ステージが無くなった京都ドームはそれでも広かった。

 

『えー、さっそく試合形式とルールのご説明をします』

 

苦笑いを浮かべているであろうデイジーがアナウンスする。

 

『決勝戦はコンピュータによってランダムで対戦人数が決まる勝負をしてもらいます。

勿論、観客に被害が出ないように強力な結界を張った中でしてもらいます。

勝敗は相手を降参させることです。ですが、試合に出た選手は

どちらが勝敗決しても試合に出ることは

できないですので、「(キング)」の方はよく考えて選手を選んでください』

 

ランダムで対戦人数が決まるのか。これは大変だな。

 

『両チーム。選手専用の席でお待ちになってください』

 

選手専用の席?辺りを見渡して探すと東に『ロンギヌス』、

西に『兵藤家』と書かれた野球選手が座るベンチの空間があった。

俺たちは東の選手専用の席に赴く。

ベンチに座れば、デイジーの真上にある掲示板が一対一と表示した。

 

『では、対戦人数を決めます。―――スタート!』

 

スロットのように表示している文字が回り出す。少しして、止まった。

 

―――一対一―――

 

「サイラオーグ、倒してこい」

 

「分かった」

 

布が巻かれた物を背中に背負って『戦場』へと足を運んで向かった。

 

―――サイラオーグside

 

『「ロンギヌス」チームからはサイラオーグ・バアル選手です!

元七十二柱の大王「バアル」家の次期当主が第一回戦に布が巻かれた何かを背に背負っての

登場です!対する「兵藤家」チームからは』

 

俺の前にいる大柄の男。二メートル以上はある巨躯の男が口を開く。

 

「俺は十二柱の一人、兵藤力也」

 

「・・・・・」

 

兵藤一誠と同じ一族の者。どれほどの実力者なのか知らないがただ倒すだけだ。

 

『両者、準備はよろしいでしょうか?』

 

「「ああ」」

 

『では―――試合開始です!』

 

開始宣言のアナウンスが流れ戦闘態勢になる。

 

「俺の拳は全てを破壊する!」

 

巨大な拳が迫る。横に跳んで回避すれば、兵藤力也の拳は地面に突き刺さり、

地面が波紋のように生じ巨大なクレーターができた。どうやら奴は体術で戦う男のようだ。

 

神滅具(ロンギヌス)を所有していようが、相性によって神滅具(ロンギヌス)を破ることもある。

神を滅ぼすことが可能な神器(セイクリッド・ギア)が最強だと思うなよ」

 

「・・・・・」

 

それは当然のことだ。神器(セイクリッド・ギア)は、神滅具(ロンギヌス)は無敵ではない。

使い手によって強さのバランスが変わる。だが、その前に―――。

 

「お前は何のために拳を振るう?」

 

「なに・・・・・?」

 

「その拳にどんな想いを籠めて相手に振っているのだ?と問うている」

 

真っ直ぐ目の前の男を見据える。俺はとある夢のために振るっている。そして、兵藤一誠は―――、

 

『復讐と誰かを守るために拳を振る』

 

そう俺に言った。復讐なんてものは人の原動力にもなる。が、復讐を果たしたあとに

何が残るのだろうか。しかし、兵藤一誠は他にも拳を振るう理由が存在していた。

 

「俺が拳を振るう理由・・・・・兵藤の敵をただ敵を倒す。それだけだ」

 

「それは皆を守るためか?それともお前自身のためか?」

 

「―――両方だ」

 

真摯に俺の質問に答えた兵藤力也。・・・・・なるほどな。首を縦に振って頷いた。

奴自身の想いを理解して、

 

「わかった」

 

「なにがだ?」

 

「お前の心のことだ」

 

背中に背負っているアレ(・・)を手にして上段に構える。

 

「―――ふん!」

 

刹那―――。

 

ドッバアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

鋭く上から振り下ろした時、大地が左右に割れ、兵藤力也をも斬撃と衝撃を食らわした。

流石に協力な結界が張られているため、ドーム内で収まった。

 

「・・・・・それ・・・・・は」

 

ドームの壁にまで吹っ飛ばされていた兵藤力也は、口の端に血を流して

信じられないものを見る目で声を発した。

俺の手には巻いた布から獅子を模した黄金の戦斧が姿を曝け出していた。

 

「―――『獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)』。この夏の期間での修行と、

神ヤハウェによってようやく安定した俺の『神滅具(ロンギヌス)』だ」

 

ドサッ・・・・・。

 

奴は倒れ、それ以上動きを見せなかった。

 

『しょ、勝者は・・・・・「ロンギヌス」チーム!』

 

俺への勝利宣告が流れる。会場は沸くが気にせず兵藤一誠達のもとへ戻る。

 

「どうだった?」

 

「敢えて言うなら、『心が強い』だな」

 

「・・・・・そうか」

 

相手の実力じゃなく、きっと兵藤一誠は別の何かを聞きたかったかもしれん。

だが、俺が感じたあの男は確かに心がどこまでも純粋だった。

 

『では、次の対戦人数を決めます!スタート!』

 

掲示板が動き出す。しばらくして文字が停まった。

 

―――二対二―――

 

「ヴァーリ、成神。二天龍の出撃だ」

 

「げっ、ヴァーリと一緒かよ?」

 

「お前が前より強くなったからといっても、まだ弱いんだ。

ヴァーリの戦闘方法を見て盗んで勉強しろ」

 

くくっ、厳しいな兵藤一誠。さて、お前たちの戦いを見ようじゃないか。

 

―――ヴァーリside

 

愛しい男に指名され、私は赤龍帝の成神一成と出た。

 

『「ロンギヌス」チームからヴァーリ・ルシファー選手と成神一成選手が出ました!

ヴァーリ選手はなんと、現魔王ルシファーさまの血を引く者です!』

 

今はテロリストに加担しているんだけどね。

 

『対する「兵藤家」チームからは兵藤麗蘭選手と兵藤千夏選手です!』

 

二人とも女か。さて、兵藤家の、一誠の一族の者はどれほどの力を有しているのか楽しみだな、

 

「ふーっ、ふーっ、ふーっ」

 

「・・・・・どうした成神一成?」

 

「え?あ、いや・・・なんでもない」

 

そうか、鼻息が荒かったからてっきり怒っているのかと思ったが。

 

「・・・・・お姉さま、あの殿方の顔が気持ち悪い」

 

「外の男の人はあんな顔をした人たちだけなのかしらね・・・・・嫌だわ」

 

成神一成に畏怖の念を抱かせている。

ふむ・・・対戦する前に恐怖を抱かせるとは成神一成は成長したのだな。

 

『それでは、準備はよろしいでしょうか?』

 

と問いかけられ、私は頷いた。

 

『では、第二回戦を始めます。試合開始です!』

 

開始宣言が告げられた。

 

「「禁手(バランス・ブレイカー)!」」

 

カッ!

 

私と成神一成は試合開始早々に鎧を纏った。白い全身鎧と赤い全身鎧。

 

「―――二天龍!」

 

「白龍皇と赤龍帝・・・・・私たちの相手が天龍とはとても光栄だわ」

 

そうか、だが、どうでもいいな。私は一誠の愛の言葉を聞かせてくれれば満足なのだから。

 

「ヴァーリ」

 

「なんだい?」

 

「ここは俺に任せてくれ。ふふっ、ようやくこの力を発揮できる!」

 

・・・・・なにか、新しい技でも得たのかな?

一応、ライバル関係なのだから・・・お手並み拝見とさせてもらおうかな?

 

「分かった。お前に任せよう」

 

「おう!」

 

一歩下がって腕を組んで佇む。さて、どんな力なのだろうか・・・・・。

 

「俺の煩悩が解放する時だっ!―――高まれ、俺の煩悩!―――広がれ、俺の欲望の夢の世界!」

 

あいつがそう言った瞬間に、赤いオーラを全身に包みこんだ。

さらに謎の空間が赤龍帝を中心にして展開していく。

それを感じて『兵藤家』チームの相手は本能的に身を守る格好になった。

 

「あなたの声を聞かせてちょうだいなッ!」

 

・・・・・何を言っている?相手も怪訝な顔で警戒している―――。

 

「いま、俺のことを警戒しているな?俺が攻撃したその瞬間、視界に映った対象を幻術で惑わせて

その隙に攻撃しようと思っていたな?」

 

「―――っ!?」

 

赤龍帝の指摘に相手の一人が目を丸くした。それは肯定とも捉える驚愕の表情だった。

 

「そしてそこのあなたは、この大会が終わったら高級な紫の下着を買おうとしていたな!?

しかも、殆ど紐の下着をだ!」

 

「な―――っ!?」

 

ボンッ!と音が聞こえそうなぐらい相手の一人の顔が真っ赤に染まった。

成神一成、お前は心を読めるようになったのか?

 

「ふっ・・・ヴァーリ、違う。俺は心を読めたんじゃないんだ。

―――否っ!俺が訊いているのは相手の胸の内を、女のおっぱいの声を訊いていたのさ!」

 

恰好を付けたポーズで堂々と叫んだ成神一成。女の胸・・・・・?

 

「神技・・・・・いや、敢えて俺はこう言おう。乳技『乳語翻訳(パイリンガル)』ッッ!

俺の新必殺技は相手が女だったら誰でも女のおっぱいの声を聞けるんだ!

そう、俺が質問すればおっぱいは素直に俺の質問に答えてくれる!

偽りなく全てを俺に曝け出してなぁ!」

 

成神一成の力強い発言によって場が静まり返った。―――一拍して

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』

 

観客(男)から歓声が湧いた。中には羨望の眼差しや声が聞こえてくる。

そんな中、相手の二人が身を寄せ合って悲しみだした。

 

「お、お姉さま・・・!私、あの殿方に穢されちゃっった・・・・・!」

 

「ああ、千夏・・・・・。私たちはもうどこにも嫁ぐことができない体にされてしまったのね。

女としての幸せが味わうことが叶わなくなったのね・・・・・」

 

・・・・・なんだろうか、あの悲しむ二人を見ると、胸の奥から可哀想な気分が湧き上がる。

 

「ぐへへへ・・・・・まだまだ俺の乳技があるんだ。―――行くぜ、おっぱいぃぃぃぃっ!」

 

赤龍帝が敵に向かって飛び出していた。相手は赤龍帝に襲われるのだと

身を固くしていて逃げようともしなかった。

成神一成はついにその凶手を相手の二人の体に触れた。

すると、小型の魔方陣が二人の触れた個所に出現した。

 

「乳技その2、―――洋服崩壊(ドレス・ブレイク)ッ!」

 

籠手越しで指を弾いた―――次の瞬間。

 

バババババッ!

 

兵藤麗蘭と兵藤千夏の服がはじけ飛んだ。そう、下着までもだ。

 

「「い、いやああああああああああああああああああああっ!」」

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?』

 

「・・・・・」

 

私のライバルはこんな奴だったとは・・・・・女として怖ろしくお前を感じるよ。

 

『し、試合終了!勝者「ロンギヌス」チームです!』

 

「よっしゃぁ!勝った―――!」

 

「てめぇは何やってんだこのバカがああああああああああああああああああああああああっ!」

 

勝利に喜ぶ赤龍帝に思いっきり飛び蹴りをした私の愛しい男。

成神一成はドームの壁にまで吹き飛んだ。

そんな彼に一誠はどこから取り出したのか大きなローブを全裸の二人に羽織らせた。

 

「すまない。お前たちの肌を観衆に曝け出させてしまった。

嫁入り前だというのに、お前たちの心に深く傷を負わせてしまった」

 

「あ、あなたは・・・・・」

 

「許してほしいとは思っていない」

 

一誠は二人を強く抱きしめた。

 

「この償いは必ず取る。約束だ」

 

「「・・・・・」」

 

「兵藤麗蘭、兵藤千夏。本当に申し訳ない」

 

真摯に謝罪する一誠。うん、キミは男らしいよ。

 

「い、いえ!あなたがそんな、謝らないでください!」

 

「そ、そうです。試合とはいえ、勝負は勝負なんです。

け、結果がアレでしたが、私たちの負けなのは事実なんですから」

 

「・・・俺を許してくれるのか?」

 

「は、はい。それに、直ぐに私たちをフォローしてくれたあなたに感謝しています」

 

そうだな。試合が終わって直ぐに駆けつけたんだからな。

女の扱いに慣れているというのは些か、複雑だがな・・・・・。

 

「そうか・・・・・そう言ってくれると俺も嬉しいな。ありがとうな」

 

そう言って一誠は微笑んだ。ああ・・・・・その微笑み、美しいよ。一誠・・・・・。

 

「「―――っ」」

 

ほら、あの二人もキミの微笑みに見惚れちゃっているよ。・・・・・見惚れるだと?

 

「お姉さま・・・。私、運命の殿方に出会ったかもしれません」

 

「・・・そうね、千夏。私もそう思うわ」

 

「・・・・・」

 

顔を赤くして、瞳を蕩けさせジッと一誠を見詰める。運命の殿方だと・・・?

それは私の一誠のことを言っているのか。―――許さん。

 

ガシッ!

 

「えっ、ヴァーリ?」

 

「戻るぞ」

 

「お、おう・・・でも、なんで俺を引きずるんだ?」

 

「次の試合の邪魔になる」

 

それは建前だ。本当はあそこに戻って人の視線が届かないところでお前をキスをするんだ!

このモヤモヤの気分を晴らすために!

 

 

「―――って、人を蹴って戻っていくんじゃねぇよ!」

 

―――○●○―――

 

『えー、最低な技によって「兵藤家」チームは破られました。

続いては第三回戦を行いたいと思います。対戦人数は四人です。

両チームからどんな人が出てくるのでしょうか!』

 

「四人か、和樹とジーク、レオナルドと幾瀬さんで」

 

四人を指名し、戦場へと向かわせた。

 

「近距離と遠距離、サポートのメンバーだね」

 

「いや、きっと和樹が一瞬で終わらせるだろうな」

 

「それはどういうことだい?」

 

曹操が訊いてくる。同時に開始宣言のアナウンスが流れ―――。

 

ドッガアアアアンッ!ドッガアアアアアアアアアンッ!ドッガアアアアアアアアアアアンッ!

 

戦場から大爆発が何度も発生した。

 

「和樹の魔法を発動する時間はわずか0.1秒。だから・・・・・」

 

『は、早いです!試合終了、勝者は「ロンギヌス」チームです!』

 

「あんな感じで終わらしちゃうんだよ」

 

「・・・・・なるほどな」

 

苦笑を浮かべる曹操。和樹たちも戻って来て労う。

 

「うん、さっさと終わらしたよ。長く戦って付き合う理由もないしね」

 

「だと思ったよ」

 

曹操のように俺も苦笑を浮かべた。これまでの戦果は三戦三勝0敗。まだまだ油断できない。

 

『―――次の対戦人数は三人です。両チームは三人の選手を選んでください』

 

「ゲオルグ、真羅先輩、カリン。魔法部隊出撃」

 

ニヤリと口の端を吊り上げて、指名した。

 

―――椿姫side

 

兵藤くんに指名された私たちは戦場へと向かった。

 

『「ロンギヌス」チームからゲオルグ選手、真羅椿選手、カリン選手。

対する「兵藤家」からは―――』

 

「これ以上、兵藤家の名を落とさないように」

 

「当然だ」

 

「ええ」

 

三人の男が私たちの前に対峙した。

 

「初めまして、私は兵藤静駿」

 

「俺は兵藤淡河」

 

「兵藤桐です」

 

礼儀正しいですね。兵藤家は教育はとても―――

 

「「「三人揃って!」」」

 

・・・・・え?

 

「「「ヒョウドウレンジャー!」」」

 

・・・・・。

 

「「・・・・・」」

 

『・・・・・』

 

三人がポーズをした瞬間、場が静寂に包まれた。

なんともいえない雰囲気にどう反応すればいいのか分からない時だった。

 

『頑張って、ヒョウドウレンジャー!』

 

観客席の一角から子供のような声が聞こえた。その声をした方へ振り向くと、

大勢の子供たちが『頑張れ!ヒョウドウレンジャー!』と幟を一生懸命持っていた。

 

「うん、周りがどんな反応だろうが、私たちを応援してくれる者たちがいる」

 

「その応援に応えるためにもこれ以上負けるわけにはいかない!」

 

「うふふ・・・・・覚悟してもらいますよ?」

 

えええ・・・・・。なんでしょうか、この人たち。私たちと同い年なんですよね?

 

「・・・・・か」

 

「・・・・・カリン?」

 

「カッコいい!」

 

ええええええええええええええ!?

 

「うん、そのポーズカッコいいなお前たち!」

 

「お?私たちのこのポーズの良さを分かってくれるのかい?」

 

「ああ、私は戦隊シリーズが大好きなんだ!特にあれだな、聖騎士隊セイント・ナイツ!」

 

「あれか!俺も今でも好きだぞ!特にセイントレッドの熱血な生き様に心を打たれた!

だからほら、セイントレッドが使用していた軍杖も見よう見真似で作ったんだ」

 

「おお、凄いじゃないか!でも、私的にセイントホワイトが好きかな。

あの真っ直ぐ突き進む姿が好きだ」

 

「僕としては三銃騎士が好きだね」

 

「三銃騎士?その本、私は持っているぞ?しかも全巻もだ」

 

「―――なんですって?もしかして、幻の最終巻も?」

 

「ふふん。そうだとも!」

 

胸を張って自慢げに言ったカリン。三銃騎士、私も図書館で何度か読んだことがある本ですね。

そんな自慢げに言うカリンに相手は全身を震わせていた。

 

「・・・も、もし、よかったら・・・・・その本を読ませてくれないか?

あれが売れ切れて買えなくてショックだったんだ。

今でも探しているが作者が死んでしまい、絶筆状態だから買えなくなったんだ」

 

「じゃあ、この試合が終わったらでいいかな?」

 

「もちろんだよ!ああ、でも、今すぐ読みたいなぁ・・・・・!」

 

・・・・・ダメですね。もう、ついていきません。

兵藤家の一族の中にはこんな人たちがいるのですか?個性的な人たちの集団なのですか?

 

「・・・・・噂に訊いていた兵藤家とは離れているな」

 

ゲオルグも困惑した表情で呟いていました。

 

『あ、あのー・・・もう試合を始めます。試合、開始です』

 

何気に投げ槍で始めましたねデイジー。気持ちは分からなくはないですが―――。

 

「すいません、やっぱり本が早く読みたいんで棄権します。カリンさんだったね?

本を貸してくれないかな?」

 

「え?あ、うん・・・分かった」

 

まさか、本一つで棄権するなんて思いもしなかったと顔に出しているカリンですけど、

亜空間を開いてそこから分厚い本を一冊取り出した。

 

「はい、これ」

 

「おおお・・・・・っ!まさしくこれだ・・・・・!―――わーい!」

 

子供のように喜んでドームからいなくなった兵藤桐という男。

 

「・・・・・兵藤一誠の一族は変な集まりのようだな」

 

「ええ・・・・・そうみたいですね」

 

私とゲオルグは溜息を吐く。もう、バカバカしくて・・・・・。

 

「さて、あいつがいなくなってしまったが問題ない」

 

「俺たちだけでも勝つとしようか」

 

身に地面から浮き出た大地を纏って鎧と化する兵藤淡河と全身に風を纏う兵藤静駿。

 

「因みにこの風の鎧を触れた瞬間、ミンチになるから気を付けて」

 

「回復役がいないでは即死する可能性もあるからな」

 

兵藤淡河が地面に手を触れた。―――あれは!

 

「突き刺さるがいい!」

 

「っ!」

 

その場から飛ぶように宙へ逃れる。その直後、私がいた場所に地面から岩の槍が飛び出てきた。

 

「ほう、俺の攻撃パターンを知っていたか」

 

「あなたたちの戦闘を見ていたのです。わからないはずもないじゃないですか」

 

「―――だったら、これはかわせるか?」

 

腕を空飛ぶ私に突き出した。カリンとゲオルグは風の纏う兵藤静駿と交戦中、

 

「くらえストーン・パンチ!」

 

破裂したような音と共に拳を模した岩の塊が私に向かってきた。

―――避けれない速度ではない。横に移動して岩の塊を避けた。

 

「当たらなければ、どうとでもないです」

 

「―――そいつはどうかな?」

 

不敵の笑みを浮かべる相手に警戒する。

 

『真羅先輩、上だ!』

 

「っ!?」

 

耳の中に入れてある通信機から聞こえる兵藤くんの声。

空を見上げると―――私の視界に巨大な岩の塊が降ってきた。

 

「なっ・・・!?」

 

「はっはっはっ!強力な結界が張っているからな。多少の無茶はできるってことよ!」

 

笑う兵藤淡河。あなたの行動は無茶の域を越えています!

 

「無茶と言うより非常識です!あなたまで押しつぶされますよ!?」

 

「問題ない。ここで引き分けになっても他の奴らがやってくれよう」

 

この人・・・・・引き分けに持ち込むつもりですか!?

 

「落ちる前にあなたを倒します!禁手(バランス・ブレイカー)!」

 

力強く言ったその時、私の周囲に数多の装飾の巨大な鏡が出現した。

 

「ん?それはカウンター系統の神器(セイクリッド・ギア)だったはずだ。

俺が攻撃しない限り、それはただの鏡に過ぎないぞ」

 

「―――それはどうでしょうか?」

 

数多の鏡は一斉に兵藤淡河の姿を映し出す。さらに兵藤静駿の姿も。

 

「これで準備は整いました」

 

「整った?なにをだ?」

 

「こういうことです」

 

私は持っていた長刀を鏡に向かって振り下ろし、破壊した。

 

「何を考えている?そんなことしたら、自分にカウンターがくらう―――」

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオォォンッ!

 

「―――っ!?」

 

兵藤淡河の背後に波動が襲った。

 

「な、なにが・・・・・?その鏡は確かにカウンター系統の・・・・・・」

 

「ええ、確かに私の能力はカウンター系統のものです。

ですが、禁手(バランス・ブレイカー)に至った私の力は新たな能力が追加されたのです」

 

別の鏡を破壊すれば、兵藤淡河の腹部に波動が襲った。

腹部に纏っていた岩の鎧は剥がれ、生身の体が覗けた。

 

「この鏡は相手の姿を記憶し、破壊することで相手にダメージを与えることができるんです」

 

「な、なんだと・・・・・」

 

「あなたの相方もこんな感じです」

 

兵藤静駿を映す鏡を破壊した次の瞬間、彼の横っ腹に波動が襲ってダメージを与えた。

 

「私の前に姿を現せばダメージを負うのは必然です」

 

「だが、俺の鎧はすぐに修復する!」

 

それが証拠とばかり、兵藤淡河に大地が盛り上がって剥がれている個所にくっつき、元に戻った。

 

「それも知っています。ですが―――あなたは百枚以上壊されても修復できますか?」

 

「なに―――!?」

 

私の背後に大量の鏡が出現する。その鏡は全て兵藤淡河の姿を映した。

 

「これだけの数、あなたの鎧が修復に追いつけるとは思えません」

 

「それを言うならお前も鏡を割ることに時間が掛かる!

その時間の間に俺はダメージをくらわないぞ!」

 

「一斉に鏡を割れる()が空にあるじゃないですか」

 

冷笑を浮かべ、大量の鏡を全て空か降ってくる隕石に向けて飛ばした。

私のしようとしていることを理解した彼は絶句した。

 

「なっ、や、やめ―――!?」

 

「終わりです」

 

ドームに降ってくる隕石と百枚の鏡が直撃した。鏡が割れる度に、

兵藤淡河の大地の鎧が絶え間なく波動に襲われて剥がれて、とうとう生身の体が曝け出した。

 

「ぬぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

鎧の修復が追いつけない。生身で何十枚の鏡が割れた時に生じる波動を受け続ける兵藤淡河。

 

「―――チェックメイトです」

 

全身血まみれで倒れた兵藤淡河を見詰め、勝利宣言を言った。兵藤静駿の方も視界に入れれば、

カリンとゲオルグと協力して倒していたところだった。

 

『試合終了、第四回戦の勝者は「ロンギヌス」チーム!

と、言いたいところですけどあの隕石をどうにかしてくださぁーい!一誠くんお願いします!』

 

「―――俺かよ。まあ、やるけどさ」

 

いつの間にか兵藤くんが私の隣にいた。

右手に紫の宝玉が嵌めている黒い籠手を隕石に突き出して。

 

「―――滅べ」

 

黒い籠手から赤黒い魔力が広範囲に広がって隕石を受け止めた。

いえ、それだけじゃない。隕石を包んで彼が手を握ると、隕石が―――一瞬で消失した。

 

「リアスさんの滅びの魔力・・・・・」

 

幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)の能力の一つ、『滅』だ」

 

滅・・・・・消滅ともいえる能力・・・・・。

 

「さて、皆のところに戻るか」

 

「は、はい」

 

―――○●○―――

 

第五回戦。未だに試合に出ていないのは俺と曹操、アーサーとデュリオ、龍牙と清楚のみ。

さて、今度は何人だ?

 

『次の対戦人数は―――二人でございます!

もし、この試合で「ロンギヌス」チームが勝てば「ロンギヌス」の優勝となります!』

 

またか・・・・・じゃあ、ここは・・・・・・。

 

「俺と曹操で行く」

 

「ほう、俺か?」

 

曹操の発言を聞き、俺は頷いた。でも、それだけじゃない。

 

「何となくだけど、この試合に相手の『(キング)』がでそうなんだ」

 

「最後の勝負、ということですか?」

 

アーサーの質問に肯定と頷く。

 

「どっちにしろ、ここでお前たちを出して勝っても負けても俺たちの勝利は揺るがない」

 

「なら、相手チームを確実に勝てる方法はなんだ?」と皆に問うた。

皆、顔を見合わせてから口を開いた。

 

『相手の「(キング)」を倒す』

 

と、皆の口から同じ答えが出てきた。

 

「―――兵藤一誠!」

 

案の定、俺に声が掛かった。

 

「出てこい、兵藤一誠!この試合で俺と決着をつけるぞ!」

 

「なっ?」

 

『・・・・・納得』

 

予想通り、俺と勝負して俺を倒し、勝とうとするその考えは丸解りだった。

 

「―――皆に誓う。負けない。絶対にな」

 

皆に不敵の笑みを浮かべ、最後の勝負へと挑みに行った―――――。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode8

『「兵藤家」チームから出てきたのは「兵藤家」の「(キング)」、兵藤照選手と名無しという

名の選手です。対して「ロンギヌス」チームからは「(キング)」の兵藤一誠選手と曹操選手です!』

 

デイジーの声を聞きながら歩を進める。

 

「望み通り、来てやったぞ兵藤照」

 

「来たな。落ちこぼれ」

 

「さっきの隕石を消滅させたのを見せただろう?もう昔の俺じゃないんだ」

 

「それがどうした。俺だってやればできるぜ、あんなもの」

 

そうか。まあ、どうでもいいがな。

 

「てめぇーを倒して俺が人王になってやる!」

 

「人王なんて興味ないけど、俺も負けられない理由がある。お前を倒してやるよ」

 

「人王になったとしても、お前の居場所は兵藤家にない!」

 

「兵藤家に俺の居場所がなくても俺には帰る場所がある。そこが俺に場所だ」

 

延々と平行線で会話が続く。まだ話が続くのかと思いきや、あいつが話を打ち切った。

 

「埒があかねぇな。もういい、さっさとお前を倒すことに限る。―――おい!さっさと始めろ!」

 

兵藤照の怒鳴りにデイジーが声を震わせた。

 

『ひっ、は、はい!それでは、これが最後の勝負となります!

「ロンギヌス」、「兵藤家」の両チームの「(キング)」が戦いますので事実、

どちらかのチームの「(キング)」が倒された瞬間に勝ったチームこそが優勝となり、

次期人王が決まります!―――両者、準備はよろしいでしょうか』

 

「ああ!」

 

「ん」

 

肯定と返事する。デイジーは肯定した俺たちに口を開いた。

 

『決勝戦第五回戦―――試合開始です!』

 

開始宣言が告げられ、俺はすぐに左手に赤い籠手を装着した。

そして、籠手の能力を発動しながら清楚に言った。

 

「悪い曹操」

 

「うん?」

 

「こいつだけは俺の手で倒したい。だから、曹操は手を出さないでくれ」

 

「二対一となるが?」

 

勝てるのか?と暗に聞く曹操。俺は当然と頷く。そんな俺に曹操は瞑目して口の端を吊り上げ、

「そうか」と呟いた。

 

「お前の力を見させてもらうよ。今後の対策にもなるしね」

 

そう言って曹操はデイジーに向かって「俺は棄権する」と言い、ベンチに向かった。

俺は―――兵藤照に飛びかかった。

 

「はっ!仲間割れか?一人だけ戦うことになるなんて可哀想にな!

―――あの時のようにいじめてやらぁ!」

 

拳が俺に突き出された。その拳をスレスレで頬を掠めて兵藤照に左拳を突き出した。

俺の拳をあいつは目で追い、簡単に拳が掴まれた。

 

「おいおい、お前の拳は遅いじゃねぇか?」

 

「お前の拳もそうだろう」

 

兵藤照の拳を掴んで見せた。

 

「はっ、ワザとだよ」

 

「そうか、実は俺もワザとなんだ。お前を捕まえるためにな」

 

―――ズリュリュリュリュッ!

 

「・・・・・はっ?」

 

「これで心置きなくお前を殴れる」

 

俺の背中に漆黒の龍の手が四本も生えた。

兵藤照が俺の背中に生えた腕を見て唖然となったその顔を―――

 

ドガガガガガガガガガガガッ!

 

思いっきり、盛大に殴り続けた。

 

「・・・・・がっ・・・・!」

 

「取り敢えず、俺をいじめた時の借りを返させてもらうか」

 

殴るのを止めて、四本の龍の手の平からどす黒い魔力が放たれた。

あいつは俺から拳を放してドームの壁にまで吹っ飛んだ。

 

「―――って、んなの効くかぁ!」

 

「おー、タフだな」

 

意外にピンピンとしていた。兵藤照は相方の男、名無しに言った。

 

「おい!お前も佇んでないで攻撃しろ!」

 

「・・・・・」

 

あいつはサイラオーグ並みに強いと見た時から感じていた。

兵藤照も強いがサイラオーグのちょっと下ぐらいだ。

 

「―――ふっ!」

 

先手必勝とばかり兵藤照の相方に飛び掛かった。すると、あいつも俺に飛びかかってくる。

 

ドゴンッ!

 

吹っ飛ばされた。ドームの壁にまでだ。ああ―――俺がだ。

 

「・・・・・やっぱり、あいつは他の奴らより違うな」

 

壁から離れてあいつの相方に一瞬で懐に飛び込んだ。

拳をうねりを上げるように腹部へ突き刺した。

 

「・・・・・」

 

反応は―――薄い。それどころか、痛みさえも感じていないのか顔の表情に変化もない。

 

「・・・・・お前、名無しなんて偽名だろ?本当の名前は何だよ?」

 

呆れて名前を問うたら、返事は俺の腹部に拳を突き刺したものだった。

 

「・・・・・っ!」

 

重・・・・・!こいつ、なんて拳を・・・・・・!

 

「おら!相手は俺だけじゃないんだぜ、余所見している暇はあんのかよぉ!」

 

俺に飛び掛かってくる兵藤照。青白い『熾天使変化(セラフ・プロモーション)』の状態となって―――。

 

ビガッ!ドガガガガガガガガガガガッ!

 

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

青白い落雷を京都ドーム中に放った。兵藤照と名無しに命中するも

 

「効かないか・・・・・」

 

名無しの体に怪我ひとつもついていなかった。というか、兵藤照もタフだな。

あれだけの電流を受けてもまだ立つのか。

 

「・・・・・」

 

「ん?」

 

刹那―――。

 

ビガッ!ガガガガガガガがッ!

 

「―――!?」

 

俺の真上から膨大な電流が落ちてきた・・・・・!?

 

「くっ・・・!本当になんだよお前って!」

 

落雷から逃れて十二枚の翼で攻撃を開始した。

―――ところが俺の目に信じられないものが飛び込んできた。

 

バサッ!

 

「な・・・んだと・・・・・!?」

 

俺と同じ六対十二枚の翼が生え出した。色は違う。黒だ。

 

ガガガガガガガッ!ギャインッ!ギィンッ!ギャンッ!ガギンッ!ギンッ!

 

刃物状となっている俺の翼と互角に剣戟を繰り広げる。さらに手の平から青白い魔力を放てば、

あいつも俺と同じ真似をして―――魔力を放ってきた。

 

「(どうなってる!?こいつ、俺と同じ真似をしているようにしか思えないぞ!)」

 

肉弾戦で挑めば俺と同じ動きをして対応して来て、魔力合戦をすれば同等の魔力を放ってくる。

攻撃の仕方も酷似している。しばらく名無しと戦っているとおかしな点に気付いた。

 

「(まるで俺自身と戦っているような感覚だ)」

 

名無しを捕まえようと腕を伸ばす。名無しも俺と同じ動作をして手と手を掴み合い、

力の根競べをし始める。

 

「だったら、俺が次にすることを分かっているんだろうな?」

 

背中に龍の手を四本生やしてな無しに殴りかかった。

案の定、名無しも背中に龍の手を四本生やして俺に――――。

 

「甘い!」

 

俺と名無しの手が虚空に開いた穴の中に突っ込んで名無しの顔の近くに別の穴がら開いて、

計八本の腕が飛び出て顔にクリーンヒットした。

 

「・・・・・なるほど、そういうことか」

 

名無しの瞳をようやく見えた。―――紫の瞳だった。

 

「お前、俺のマネをするけどできることとできないことがあるらしいな」

 

俺の動きと背中から翼と腕を生やす真似を見せてくれた。魔力も放つ芸道も。

 

「特殊な力は真似できないか」

 

名無しは膝蹴りをしてきた。でも、俺が腹部辺りに穴を広げて、名無しの膝を防ぎ、

別の穴を名無しの腹部辺りに広げれば膝が飛び出し自分の腹部を貫いた。

 

「お前の対処方法は読めた。―――攻めさせてもらうぞ」

 

振り回される刃物状と化となっている六対十二枚の翼から避け続ける。しかし――、

 

ドッ!

 

「ちっ!」

 

片腕をやられた。片翼だけ青白い翼を出して両断された腕を再生させる。

 

「本当に、お前は誰なんだろうな?」

 

質問しても答えは帰ってこない。帰ってくるのは―――無慈悲な攻撃だった。

 

―――○●○―――

 

―――アザゼルside

 

「・・・・・どうなってやがる」

 

あいつが押されているなんて初めて見るぞ。

 

「イッセーくん、どうしちゃったの・・・・・?」

 

「相手があの子の見よう見真似をしている。実力も同等・・・それ以上かも」

 

「兵藤家にあのような者がいたとは・・・・・」

 

くそ・・・・・とんだイレギュラーなやつがいたか・・・・・!

このままじゃ、あいつじゃない奴が人王になっちまう!

 

「お、お父さん」

 

ん?誰だ?声がした方へ振り向くと、フォーベシイの娘たちがいた。その傍にプリムラがいた。

 

「おや、どうしたのかね?」

 

「それが・・・・・リムちゃんが気になるようなことを言うんです」

 

「気になること?プリムラ、私にも教えてもらえないかな?」

 

あの人工生命体・・・・・プリムラが気になることってなんだろうな。

兵藤一誠と謎の兵藤家の一人の戦闘を見ながら耳を傾ける。

 

「イッセー」

 

「イッセー?一誠ちゃんがどうしたのかい?」

 

あいつがどうしたんだ?

 

「イッセーといるヒト、私と同じ感じがする」

 

「・・・・・なんだと?」

 

プリムラと同じ感じだと・・・・・・?怪訝になり、兵藤源氏に話しかけた。

 

「おい、あいつは誰なんだ?兵藤一誠と絶賛戦っているあの男だ」

 

「・・・・・」

 

俺の質問にあいつは聞こえていないのか、真っ直ぐ兵藤一誠たちの試合を見詰める。

その態度が俺を怪しく感じさせる。とても、嫌な予感も抱かせる。

 

「兵藤源氏!お前の一族の者ならあいつのことを熟知しているはずだ!

だが、プリムラは自分と同じ感じがすると言っている!説明をしてもらうぞ!」

 

「・・・・・」

 

あいつは沈黙を貫いた。こいつ・・・何か隠していやがるな!光の槍で脅かしてやろうか!?

 

「―――人工生命体だ」

 

「なんだと・・・・・?」

 

「そこの人工生命体3号の弟にあたる人工生命体だ。正式名称で言えば4号と言おう」

 

「「「「「「「「―――――っ!?」」」」」」」」

 

人工生命体・・・・・4号・・・・・!?

 

「・・・・・そいつは、本気で言っているのか」

 

「その人工生命体3号は奇跡と偶然で生まれた唯一無二の存在。

そう何度も奇跡が起こるわけがない。―――と、思いながらも俺たち兵藤家と式森家も

同じ生産の仕方で、無から有へ生み出すことに挑戦した。するとどうだ。奇跡は起きた。

―――不安定な人工生命体三号ではなく、安定した無限に等しい魔力を宿した

人工生命体が誕生した」

 

「・・・・・なぜ、そのことを報告しなかったのだ」

 

フォーベシイが非難する目で兵藤家と式森家の当主たちを睨んだ。

対して兵藤源氏は溜息を吐いた。

 

「本当ならば、自然に感情を覚えさせてから報告しようと思った。

外に出して町や自然を見させて、食べ物の味を堪能させ、人と妖怪を触れさせて

人間らしい感情を覚えさせていたのだ。だが、最上級機密のはずの無限の力を有する

人工生命体のことがどこかで漏れ、俺たちが気付く前にこの大会に登録させられていた」

 

「なぜ・・・・・そんなことに?」

 

「大方、次期人王をあの人工生命体にさせて裏から兵藤家を支配しようとする輩の仕業だろう。

俺たちもその存在に気付いていたが、尻尾を掴ませないでくれる。結局、この様だ」

 

・・・・・・はぁ、どこの勢力も問題を抱えているもんだな。

 

「私の・・・・・弟?」

 

「ああ、そうだ。大会が終えたら話すがいい。向こうは無口だがな」

 

「うん・・・・・わかった」

 

人工生命体4号・・・・・裏からあいつを操っているのは誰だ・・・・・?

まさか、あいつらじゃねぇよなおい。

 

―――○●○―――

 

―――一誠side

 

「疲労も苦痛も感じないって・・・・・どんだけハイパーなやつなんだよ?」

 

すでに30分は経過している。だけど、目の前の名無しは腕が両断されても魔力で腕へと

具現化して再生したり、深い傷を負ってもすぐに再生・・・・・・面倒のこの上にない。

兵藤照の横やりもあるから対応が難しくなる。

 

「・・・・・そろそろ、あの力を使うか」

 

そう呟いたその時。突然の真紅の光。真紅の光は俺の全身から発したのだった。

 

『ようやく力を使うか』

 

膨大な真紅のオーラは、蜃気楼のように全長百メートルは超える真紅のドラゴンの姿を映した。

 

「悪いな。だが、これでケリを付けてやる」

 

『いいだろう、この「真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)」グレートレッドの力を存分に使って敵を倒すがよい!』

 

「ああ!」

 

真紅の光が深紅へと変わり、俺を包みこみ始めた。

 

『我、夢幻を司る真龍なり』

 

内にガイアから声が聞こえた。その声に続くように俺も発する。

 

「我、夢幻を司る真龍に認められし者」

 

『我は認めし者と共に生き』

 

「我は真龍と共に歩み」

 

「『我らの道に阻むものは夢幻の悠久に誘おう』」

 

真なる深紅龍神帝(アポカリュプス・クリムゾン・ドライブ)ッ!!!!!

 

最後は力強く言葉を発した次の瞬間。深紅の光が、より一層に輝きを増した。

深紅の光は鎧と化と成り、俺の全身を包む。

俺のいまの姿は、全身が鮮やかな紅よりも深い紅の全身鎧。

腰にはドラゴンのような尾がある。

背中にドラゴンのような深紅の翼が生え、体に金色の宝玉が幾つも埋め込まれてある。

頭部には立派な深紅の角が突き出ている。

 

『ひょ、兵藤選手が深紅の鎧を着ました!アザゼルさん、あの鎧は一体何でしょうか?』

 

『説明しよう。兵藤一誠は「真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)」グレートレッドの力を鎧に具現化にすることが

できるんだ。この先、あの姿になれるとしたら兵藤一誠だけだろう。

グレートレッドと心を一つにしないとできない現象だからな』

 

解説どうも。

 

「『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッド・・・だと」

 

兵藤照が信じられないものを見る目で声を震わせる。

だが、表情は憤怒の形相に変わり、認めない!とばかりあいつが口を開いた。

 

「てめぇ、本当にあのドラゴンの力を使えるっていうのかよ・・・落ちこぼれのくせによぉッ!」

 

「昔の俺じゃないって言ったはずだ。それに―――まだ、この力をさらに昇華させた力がある!」

 

刹那―――。全身の宝玉から深紅と漆黒のオーラが奔流と化と成って出てきた。そのオーラは俺をまた包み込み、宝玉から二つの声が聞こえる。

 

『我、夢幻を司る真龍「真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)」グレートレッドなり』

 

『我、無限を司る龍神「無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)」オーフィスなり』

 

『我は無限を認め、夢幻の力で我は汝を誘い』

 

『我は夢幻を認め、無限の力で我は汝を葬り』

 

『我らは認めし者と共に生く!』

 

『我らは認めし者と共に歩む!』

 

2人の呪文のような言葉の後に俺も呪文を唱えた。

 

「我は夢幻を司る真龍と無限を司る龍神に認められし者。

我は愛すべき真龍と龍神と共に我等は真なる神の龍と成り―――」

 

「『『我等の力で全ての敵を倒す!我等の力で汝等を救済しよう!』』」

 

「『『D×D!』』」

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!

 

眩い深紅と黒の閃光が辺り一面に広がっていく。余りの閃光に兵藤照と名無しは腕で顔を覆う。

そして、閃光が止んだ時。周りから見れば、俺は真なる深紅龍神帝(アポカリュプス・クリムゾン・ドライブ)をベースにした鎧を

装着している。深紅と漆黒の二色のドラゴンの姿を模した全身鎧(プレート・アーマー)

立派な角が生えた頭部、胸に龍の顔と思われるものが有り、

特に胸の龍の顔は意思を持っているかのように金と黒の瞳を輝かせる。

瞳は、垂直のスリット状に黒と金のオッドアイになっていて、

腰にまで伸びた深紅と黒色が入り混じった髪。

 

「それは・・・・・!」

 

「―――D×D(ドラゴン・オブ・ドラゴン)または『W×D×D(ダブル・ドラゴン・ドライブ)』。真龍であるグレートレッドと龍神であるオーフィスの力を鎧に具現化したものだ」

 

「んだと―――!?」

 

兵藤照の目が剥いた。かなり驚いている様子だと分かる。

 

『―――グレートレッドとオーフィスの力を合わせての具現化した鎧か。

兵藤一誠、お前はなんてやつだよ』

 

アザゼルの声音に苦笑が籠っている。それとも畏怖の念か?まあ、どうでもいいな。

 

「いくぞ、―――一分で決める」

 

真っ直ぐ二人に飛び掛からず、空に飛んだ。両手の平の間に魔力を集中させて、

威力を最大限に抑えて、下に向かって放った。その速度は神速の如く。

避ける暇もないまま兵藤照と名無しは―――、

 

ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

レーザーのように真っ直ぐ京都ドームのど真ん中を貫いてできた穴の中へと

吸い込まれるように落ちた。

 

―――ドクンッ!

 

「っ・・・・・!?」

 

この時になってまたアレ(・・)か・・・!いや、今は目の前のことを集中しよう。

あれじゃ、倒れたかどうか分からない。そう思い、俺も穴の中へ飛びこんだ。

しばらく暗闇の穴に落ちていくと

 

ドタンッ!

 

「ぐほっ!?」

 

「ん?あ、悪い。いたんだ」

 

「て、てめぇ・・・・・!」

 

俺たちが落ちる場所に兵藤照がいた。

・・・・・威力を抑えたから、思っていたより元気そうだった。

 

「場所が変わったけど、お前をここで倒してやる」

 

「やってみろ!」

 

と、あいつは全身に闘気を纏って精神を集中させていた。

 

「俺は自身の闘気を纏って、外部からの攻撃を一切遮断する!

今まで俺の体に傷を付けた奴はいない!」

 

兵藤照が真っ直ぐこっちに飛び掛かった。その際に地面を深く抉り、衝撃波を生じる。

あれをまともに受けたらただじゃ済まなさそうだ。

それにその状態のお前を傷つけた奴がいないのか?

だったら―――と足を停めて両腕に炎を纏った。

 

「―――お前の技、借りるぞ。ナツ・ドラグニル!」

 

腕を螺旋状に振るって爆炎を伴った強烈な一撃を放つ。螺旋状の爆炎は真っ直ぐ兵藤照に襲う。

 

「滅竜奥義・紅蓮爆炎刃ッ!」

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

螺旋状の爆炎を受け止める兵藤照。だが、少しずつ後ろに下がっていき―――。

 

「この野郎がぁああああああああああああああああああああああっ!」

 

あろうことか、俺の攻撃を吹き飛ばした。だが、それでいい。

俺は奴の隙をついて淡い光を纏った拳を兵藤照の腹部に突き刺した。

 

ドゴンッ!

 

「効くかよ!」

 

兵藤照の腹部に遮るかのように闘気のバリア、膜のようなものが俺の拳を受け止めた。

 

「なるほどな・・・・・じゃあ、目には目を、歯には歯を―――」

 

両手に仙術のオーラを纏って再度、兵藤照の腹部に殴った。

 

「気には気だ!」

 

それでもあいつの闘気がバリアのように発揮して俺の拳を防いだ。

 

「無駄無駄!この闘気は俺の気が無くならない限り絶対に破れはしねぇ!」

 

「―――いや、これでいい」

 

「・・・んだと?」

 

―――次の瞬間。兵藤照の顔に当惑の色が浮かんだ。

 

「なんだと・・・・・」

 

闘気に包まれて全身に輝く兵藤照。だが、その闘気が激しく揺らいだ。

―――仙術で気を激しく乱しているからだ。

 

「仙術って知っているか?」

 

「なに・・・・・?」

 

「なんだ、兵藤家は仙術を教えていないのか?

それとも―――自分たちも仙術を扱えないから教えることができないのかな?

仙術は、対象の相手の行動は気や生命で把握できてわかるし、操ることもできる。

逆に相手の気を操って乱したり断つ事で生命ダメージを与え

行動不能もできる。もちろん、対処方法は限られているから―――大概死ぬ。それが仙術だ」

 

―――――っ!?

 

兵藤照の顔は絶句の面持ちになった。

 

「お前を殴れば殴るほど、お前の闘気、気は乱れに乱れまくって、生命にダメージを与え続けて、

行動不能にすることが可能だ。いや、こうしようかな」

 

全身に―――仙術のオーラを纏った。

 

「お前が俺を触れる度にお前の気は乱れる。この状態は攻防一体だな。

真龍と無限のドラゴンの鎧も合わせっているから、今の俺はほぼ無敵だ。

―――それでも、くるか?」

 

「・・・・・っ」

 

あいつの答えは―――。

 

「上等だ!ボコボコにしてやる!」

 

「・・・・・」

 

あいつと名無しは俺に攻撃を仕掛けてきた。俺もタダ殴られるのは性に合わないから

激しく殴り合いを続けた。もう、ただ単純に全身を武器にして相手を叩きのめす。

それしか考えず、殴りったり蹴ったりしていった。

 

「うおおおおおおっ!」

 

ドンッ!

 

「ぐはっ!―――やろう!」

 

ガンッ!

 

延々と殴り合う俺たち。しかし、そう長くは続かなかった。

 

「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」

 

全身で息をし汗だくの兵藤照から闘気が感じなくなった。当然だ。

俺は仙術であいつの気を乱しているから、兵藤照を包んでいる気の衣ともいえるものだって

維持することが難しくなる。というか、もうすでに解かれているけどな。

 

「て、てめぇ・・・・・っ!」

 

「お前を何がなんでも倒す」

 

ザッ!

 

「くそっ、おい!お前ももっと攻撃しろ!」

 

「・・・・・」

 

あいつか・・・・・対処方法は分かっている。俺の攻撃のマネをするが、

仙術まで真似できないようだ。右手に『幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』を装着して二人を迎え撃った。

 

―――○●○―――

 

―――清楚side

 

一誠くんを信じ、彼を見守ることどれぐらい時間が経ったのか分からない。

穴の中へ向かった彼と落ちた相手の二人は今、魔方陣を介して中の映像をテレビのように

京都ドームに映しているので、どうなっているのか分かる。

今では、『兵藤家』が一誠くんと戦っている。でも、圧倒的に一誠くんが有利だった。

 

「(それにしても・・・・・)」

 

私はある方に視線を向けた。映像越しだから小さくて今まで気付きもしなかった。

古ぼけた鳥居とその真下に石で作られた台の上に棺桶がある。

それに大量の札が張られ厳重に鎖で縛られている。

 

「(なにか封印をしてある・・・・・?)」

 

あんなところに棺桶があるなんて誰もが気になるはず。その時だった。

一誠くんは急に動きを停めて胸を抑えた。

その隙を逃さないと名無しに隙を突かれて一誠くんは蹴り飛ばされた。

―――その方向に―――。棺桶がある方へ。

 

ガッシャアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

一誠くんと棺桶が激突してその際、一誠くんの右の籠手が札と鎖に触れた。

その瞬間、ガラスが割れたような音が聞こえ、鎖が千切れてしまい、

棺桶に張られている札も消失した。

 

『あ?なんだあれはよ・・・・・』

 

兵藤照も気付いたのか、怪訝な顔で棺桶があった場所に視線を向けた。

そして、一誠くんも気付いたようで棺桶を見始めた。

 

『っ!』

 

不意に、彼が胸を抑えだした。ダメージが蓄積して痛みが感じたのか?と思っていたら―――。

 

『ぐうううううううっ・・・・・!』

 

一誠くんが跪きだした。なに、彼にに何が起こっているの!?

 

「一誠!」

 

「おい、いきなりどうした―――」

 

『ガタンッ!』

 

―――っ!

 

私と皆が当惑しているその時だった。棺桶が勝手に開いて―――黒い長髪の女性が起き上がった。

 

「な、なんだあいつ・・・・・棺桶から出てきたぞ・・・・・」

 

見ればわかる。だけど、棺桶から出てきた女性の体にも大量の札が貼られているのが気になる。

 

「・・・・・」

 

女性は完全に起き上がって、一誠くんに向かって落ちた。

彼を覆い被さるように落ちた瞬間、女性の全身に張られた札が一誠くんの右手に触れて

一瞬で弾け飛んだ・・・・・。

 

『・・・・・』

 

弾け飛んだ札を一瞥して女性は―――一誠くんに触れた。

というより・・・彼の背中を覆い被さるようにして抱きついた。

な、なんなの、あのヒト!

 

『何だか知らねぇが、あいつが苦しんでいるチャンスを逃す訳ねぇよな!』

 

兵藤照が笑みを浮かべて仲間の人と一緒に飛びかかった。

 

『大人しくしておれ、妾の魂と妾の肉体を一つになるためにこの子が必要じゃ』

 

刹那―――。

 

ドゴンッ!

 

二人が吹き飛ばされた。―――女性の腰に生える九本の狐のような尻尾によって。

壁にまで吹き飛ばされた彼は苦虫を噛み潰したような気持ちを声に出した。

 

『お前・・・・・何者なんだ・・・・・!?』

 

『この子の魂に憑依していた妖怪、と言おうかのぉ』

 

憑依・・・・・?それに、妖怪って・・・・・!一体、いつから―――!

 

『この子の父と母が死ぬ前から魂に憑いていた』

 

―――っ!?私の心を読んだかのように答える妖怪。どんな理由で彼と一つになるの!?

 

『肉体と一つになるにはこの子と同化をする必要がある。

妾の魂はこの子の魂に憑いている状態であるからな』

 

妖怪が小さく口の端を吊り上げたような感じがした。

 

カッ!

 

一誠くんと一誠くんに覆い被さる女性を中心に光が生じた。

 

「―――――」

 

ただ、その光景を見守ることしかできない。

彼を覆い被さっていた女が光の粒子と化となって一誠くんの中へ入っていく。

 

『九本の狐の尾・・・・・・?まさか・・・・・あの棺桶にいた女は―――!』

 

兵藤照が驚愕の色を浮かべだした。九本の狐・・・・・まさか、九尾?と、

予想を脳裏に浮かべていると、一誠がゆっくりと立ち上がった。

 

『お前の敗因を言ってやろうか』

 

『んだと・・・・・!』

 

何時もと変わらない口調で一誠くんは喋る。

手に淡い光を纏って―――一瞬で音もなく兵藤照の目の前に移動して、

 

『一つ、お前は俺を見下し過ぎる』

 

兵藤照の顔を殴って吹っ飛ばした。そんな彼を兵藤照の相方が接近して

一誠くんに殴りかかった。

 

『二つ、お前だけじゃなくて、お前たち兵藤家は世界を知らない』

 

対して彼は腕を軽く振って、兵藤照の相方を吹っ飛ばし、

兵藤照の腹部に深く拳を突き刺せば、兵藤照は血反吐を吐きだした。

 

『そして、三つは―――』

 

再び兵藤照の相方が一誠へ飛び掛かった。一誠くんは兵藤照を上に向かって蹴り上げ、

両手の間に闘気を集束する。

 

『俺の幼馴染の人生を、次期人王のために商品扱いにしたお前ら兵藤家に』

 

兵藤照の相方を腰に生えている龍の尾で拘束して、上に思いっきり放り投げ、

集束した闘気を兵藤照と相方に向かって放った。

極太のエネルギー砲となった一誠くんの闘気は―――、

 

『怒りを覚えさせたことだぁああああああああああああああああああっ!』

 

轟音を轟かせながら一誠くんの一撃は兵藤照と相方に直撃した。

最後の力と全身の闘気を両手に集中させて抵抗する兵藤照と、

背中に六対十二枚の翼を展開させて防御態勢になる相方の姿を伺わせるあの人たちに―――彼は

両腕に魔力で具現化した炎と雷を纏って―――!

 

「滅龍奥義!九焔爆炎雷刃っっっ!」

 

両腕とを螺旋状に振るった!最初は一つの螺旋状だったけど、

途中で分身したかのように九つに増えて、爆炎の螺旋状は真っ直ぐ上にいる二人に向う。

 

「くっ―――」

 

兵藤照の顔が歪んだ。

 

「くそがああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

一誠くんの最大ともいえる一撃によって、あの人たちは―――、兵藤照と相方は―――、

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

穴から膨大な熱量と質量で雷を纏った螺旋状の炎が出てきた。

それがなくなったら今度は『兵藤家』のリーダーともう一人の人が京都ドームの上から

落ちてきた。

 

『し、試合終了・・・・・勝者、「ロンギヌス」チームの兵藤一誠』

 

落ちてきた二人を見て、デイジーさんの震えた声音が耳の中に入ってくる・・・・・。

 

『優勝は・・・・・「ロンギヌス」チームです!』

 

刹那―――。大勢の観客大きな歓声が絶え間なく聞こえた。そして―――、

 

『お前ら、勝ったぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』

 

彼の、一誠くんの、笑顔と雄叫びが映像に映った。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode9

―――アザゼルside

 

あいつらが穴に落ちてしばらくした頃、穴から光が漏れ出したかと思えば、

膨大な熱量と質量で螺旋状に出てきた炎。それがなくなったら今度は『兵藤家』のリーダーと

人工生命体四号が京都ドームの上からど真ん中に落ちてきた。

さっきの炎に呑みこまれて吹っ飛ばされていたようだな。

 

『し、試合終了・・・・・勝者、「ロンギヌス」チームの兵藤一誠』

 

落ちてきた二人を見て、娘っ子の震えた声音が耳の中に入ってくる・・・・・。

 

『優勝は・・・・・「ロンギヌス」チームです!』

 

刹那―――。大勢の観客大きな歓声が絶え間なく聞こえた。

当然、俺の隣にいる奴らも混じっている。

 

「やったーっ!」

 

「あの子がやったのね!」

 

「イッセーくんッ!」

 

「信じていましたよ・・・・・」

 

「さっすがだぜっ!」

 

「一誠ちゃん、よく頑張ったね!」

 

他の奴らも喜び、安堵の胸を撫で下ろす。

ドームの中にいるヴァーリたちが穴の方へ駆け走る光景が視界に入る。

すると、穴から兵藤一誠が飛び出てきた。

ドームの中に現れた二人をさらに観客が湧いた。

 

『優勝したチームの皆さんは中央に集まってください。

これから兵藤家式の結婚式を執り行います』

 

さーて、これで何の心配もなくなったぜ。はー、よかったよかった。

だが・・・・・あいつの中にいる妖怪とやらは気になるな・・・・・九尾・・・・・まさかな?

 

―――一誠side

 

「―――一誠!」

 

結婚式の準備が始まる時、和樹たちが駆け寄ってきた。

 

「お前ら、勝ったぞ」

 

「うん、喜ぶ前にあのヒト・・・棺桶にいたヒトどうしちゃったの?それが聞きたいよ」

 

「ああ、九尾の肉体と同化した。その結果、九尾の力を手に入れて勝利した」

 

ほら、と証拠を、腰に九尾の尾を生やした。皆は俺の体をジロジロと見詰めてくる。

 

「妖怪・・・・・になっちゃの?」

 

「龍化みたいなもんだ。だから人間に戻れる」

 

「私はどんな一誠でも受け入れるつもりだがな」

 

「ありがとうな、ヴァーリ」

 

相変わらずヴァーリは俺を受け入れる気満々だ。

 

「あの、その尻尾を触ってもいいですか?」

 

「ん?いいぞ」

 

ユラリと尾を龍牙に差し出せば、「失礼します」と優しく尻尾を触りだした。

 

「フワフワですね。触り心地がいいですよ」

 

思わず笑みを零した龍牙。そんなあいつの表情を見て―――、

 

「・・・イッセー、私も触る」

 

「興味があるな。俺も触らせてもらうぞ」

 

「妖弧の尻尾を触る機会は滅多にないですからね。すいません、私も触らせてもらいます」

 

俺に一言を言ってから触り出す面々。

 

「―――我も触る」

 

何時の間にか俺の内から出てきたオーフィスでさえも触りだした。

 

「イッセー!」

 

俺に呼ぶ声が聞こえた。振りかえれば、リアス・グレモリーたち『デビル×デビル』。

川神百代たち『☆川神ズ』が集まってきた。

 

「おめでとう、やはりあなたが勝ったわね」

 

「イッセーくん、おめでとうございます」

 

「穴の中の戦闘、見ていたぞ!お前はやっぱり強いな一誠!」

 

「フハハハ!流石だな、一誠」

 

「おめでとう、一誠くん」

 

皆から労いの言葉を送られる。

 

「―――ところで、その尻尾・・・・・あの穴の中で何が遭ったの?」

 

俺はまた説明をしなければならないようだった。

和樹たちに説明したように穴の中の出来事を言った。斯く斯く然々・・・・・。

 

「九尾の魂が抜けていた肉体と同化・・・・・あなたの中にいる九尾の魂は

自分の肉体と同化したのね?」

 

尻尾の一つを触りながらリアス・グレモリーは納得したとばかり言葉を発した。

 

「なるほど、だからイッセーくんは妖怪化となっているんですね」

 

ソーナ・シトリーも俺の尻尾を触れながら納得の言葉を発する。

 

「―――ていうかさ、お前ら・・・・・いい加減に触んのやめてくんね?」

 

胡坐を掻く俺の足にオーフィスが座って九本の狐の尾を全て触り尽くすリアス・グレモリーたち。

 

「・・・・・触り心地抜群の毛並み」

 

塔城小猫ですら尻尾を梳かすように触り続ける、

 

「一誠、その状態で私のペットになってくれないか?」

 

「断わる!」

 

「我のペットとなれば、三食は当然で不自由のない生活を送らせるぞ?」

 

「却下!」

 

「松永納豆を一年分タダで!あっ、やっぱり冗談だよん。家が破産しちゃうからね」

 

お、お前らな・・・・・。

 

「・・・・・そう言えば、あなたたちは彼と親しいわね」

 

「戦った仲なんだから、仲良くなるのは当然だろう?ほら、昨日の敵は今日の友とかいうし」

 

「それは・・・・・まあ、そうでしょうけど・・・・・」

 

複雑そうなリアス・グレモリーの声。大丈夫だ、仲が良いだけだからな。

 

『あのー、皆さん。そろそろ結婚式が始まりますよー』

 

「だとよ」

 

ポン、と九本の尾が煙と共に消失した。着物も甲冑も消えて何時もの服装に戻った。

オーフィスを抱えて立ち上がり前を向いた。

兵藤悠璃、兵藤楼羅がいて巨大な魔方陣のような術式が描かれた場所の中央に佇んでいた。

その周りに兵藤源氏を中心に大勢の人たちが囲んでいる。

 

「あの術式・・・・・兵藤家しか扱えない術式だな・・・・・」

 

「僕も初めて見たよ・・・・・」

 

ゲオルグと和樹が興味深々と、場に描かれた術式を目に焼き付ける感じで視界に入れる。

 

「さて、誰が次期人王となる?」

 

『・・・・・』

 

兵藤源氏の発言に周りから視線が集まってくる。何も言わない。言おうともしない。

 

「「・・・・・」」

 

兵藤悠璃と兵藤楼羅が俺に視線を向けてくる。

その瞳にどんな想いを籠めているのか分からない俺じゃない。

 

「―――俺だ」

 

一歩前に出て名乗った。そんな俺を兵藤源氏は一度瞑目して沈黙した。場は静寂に包まれる。

 

「・・・・・この術式の中に入るがいい」

 

そう促され二人のもとに歩み寄る。術式の中に入ると、大勢の人たちが跪く。

 

「兵藤一誠。お前はこの二人のどちらを選ぶ?もしくは二人ともか?」

 

「ああ、二人ともだ」

 

「「―――」」

 

ハッキリと言ってやった。約束したもんな。二人を守るって。

 

「・・・・・兵藤悠璃、兵藤楼羅。この者を未来永劫、どんな時でも傍らにいると誓うか?」

 

兵藤源氏が二人に問うと、二人は静かに頷いた。

 

「はい、誓います。次期人王と一生お傍にいます」

 

「私の身と心は全て次期人王のもの。私の全てを捧げると誓います」

 

「「私たちは兵藤一誠さまの妻として尽くし、支えます」」

 

カッ!

 

二人の告白の発言が言い終わったその瞬間。術式に光が生じた。

 

「兵藤一誠。二人を妻にし、人王となれば永遠の命を得て千年間、

この世界の人類のために人族の王として君臨し続けると誓うか?」

 

永遠・・・・・悪魔より寿命が長いな。でも―――皆と一緒にいられるなら―――。

 

「兵藤悠璃、兵藤楼羅を幸せにして、人族の王として君臨し続けると兵藤一誠は誓います」

 

真っ直ぐ兵藤源氏を見据えて告げる。人王になればやりたいことができる。権力も得れる。

 

「―――言い切ったな?一誠よ」

 

「ああ、言ったよ。文句あるか?」

 

不敵の笑みを浮かべる。というか、初めて俺の名前を言ったな。

兵藤源氏は何かをこっちに放り投げてきた。それを掴んで手の中を見れば、一本の刃物だった。

 

「ならば、お互いの血を重ね合え。それで儀式は完成する」

 

血を重ね合う?俺と彼女たちのか?不思議でいると兵藤楼羅が俺から刃物を取り、手の平を切った。次に兵藤悠璃に渡すと自分の手の平を切った。

 

「はい、いっくん」

 

嬉しそうに兵藤悠璃は刃物を渡してくる。・・・・・笑顔で刃物を渡されて怖いんだけど。

 

「・・・・・」

 

二人と手を繋ぐ必要がある。だから両手の平を切った。俺の両手に血が流れ出る。

刃物を下に捨てて二人に手を差し伸べる。

 

「悠璃、楼羅・・・・・今まで待たせてゴメン。でも、約束は果たすことができた」

 

「いっくん、私、嬉しいよ。やっと、やっと夢が叶うんだから」

 

「一誠さま・・・・・永遠に私はあなたの傍におります・・・・・」

 

血に濡れる手を俺たち三人は指を絡め、重ねた―――。その瞬間、術式の光が強まり、

俺たちを包みこんだ。

 

―――オーディンside

 

「二人とも、帰るぞい」

 

席を立ち北に帰ろうと足を運ぶ。二人は当然のようについてくる。

 

「いいのですか?最後に話をしなくても」

 

「もう、孫は成長しておる。ワシの言葉なんぞ必要ないじゃろう」

 

「・・・・・」

 

ロスヴァイセは思ってのことじゃろう。対してセルベリアは無言じゃな。

まったく、誰とも接しようとしないその性格だからロスヴァイセと一緒に職場の隅にいたんじゃ。

 

「のう、ロスヴァイセ」

 

「はい?」

 

「あやつはもう立派な『勇者』じゃよ」

 

『オー爺ちゃん。僕、立派な勇者になるよ!僕が勇者になったらオー爺ちゃんを守るからね!』

 

幼い頃、遊びに行った日に嬉しいことを言ってくれた孫が、

今ではとんでもない方向に強くなろうと成長しておる。

 

「ほっほっほっ、案外、ロスヴァイセの勇者を見つけれるのは近いかもしれんな」

 

「え・・・・・!?」

 

「セルベリア、今まで勇者の付き人になれる話を蹴り続けたお前さんも―――」

 

「オーディンさま、私は気になる者がいます」

 

ワシの話を遮るセルベリア。・・・・・珍しいことじゃな。こ奴が自分から言い出すとはのぉ、

 

「そうか、この大会に来て正解じゃったそうだな。で、お前さんの目に留まったものは誰じゃ?」

 

「それは―――」

 

セルベリアの口から出た人物の名に、ワシは「そうか」と愉快そうに頷く。

 

「(孫よ、いつかまた会う日が来よう。その時は爺ちゃんと一緒に遊ぼうな)」

 

―――○●○―――

 

一誠side

 

 

夏休みが終わり、二学期が始まった。この一ヶ月以上の夏休みは俺に

とって有意義なものだったのは確かだった。

敵であった者と共闘し、力を高め合えて強敵と戦えた。

 

『兵藤一誠。今回はお互い利益になり、楽しめただろう。

こんな日も偶には悪くないと俺自身も思った。だが、次に合う時は敵同士だ。

死闘となるだろうし、色々と覚悟をしよう。お互いにな』

 

『一誠、キミと一緒にいれて私は楽しかったよ。またキミと共闘をしたい。

そうだ、今度キミの家に遊びに行くよ。テロリストとしてじゃなく、一人の女としてでね』

 

大会が終わってすぐ、曹操とヴァーリたちは俺だけ別れを告げて姿を暗ました。

当然、アザゼルたちは追手を密かに出していたようだけど、結局は逃げられた。

悪い、強くしちゃったよ。

 

「一誠さま、登校の時間です」

 

「ああ、そうだな。でも、まだあいつら(・・・・)が来ていない」

 

登校の時間と迫っているにも拘らず、外で佇んでいる俺たち。

しばらくして―――玄関の扉がガチャリと開いた。

 

「ごめんなさい、イッセー」

 

「待たせてしまい申し訳ございません。イッセーくん」

 

「・・・・・すいません、遅れました」

 

「ごめんなさいね?リアスったら彼女と兵藤くんのお部屋で―――」

 

「ちょっ、朱乃!」

 

・・・・・・ほう?それは後ほど聞かせてもらおうか。リアス・・・・・?

 

「それで、あの二人は?」

 

「ええ、もう間もなく来るでしょう。・・・・・ほら、来ましたよ」

 

ソーナが家の中に視線を送った。彼女の言う通り、家から二人が出てきた。

 

「いっくん、遅れてごめんね」

 

「ごめんなさい。まだ、大丈夫でしょうか?」

 

「お前らを乗せて飛べばギリギリだな」

 

家から現れた二人の名は―――兵藤悠璃と兵藤楼羅。

 

「で?どうして遅れたんだ?」

 

「・・・・・いっくんの部屋に悪魔がいたから」

 

「もう言わなくていい」

 

はぁ・・・と溜息を吐いて呆れ顔でリアスと悠璃を見た。

 

「お前ら、同じ家に住む者同士仲良くしろよ」

 

「「だって・・・・・」」

 

「縛るぞ」

 

縄を見せ付ければ、リアスは青ざめて頷き、

悠璃は両腕を広げて「縛って」と全身で伝えてくる。

・・・・・こいつに至ってはお仕置きにもなんないから無意味だ。

 

「まあいい。行くぞ。―――龍化!」

 

カッ!

 

一瞬で俺は龍になり、皆を背に乗せて翼を動かして空を飛ぶ。そんな最中、二人に訊く。

 

『悠璃、楼羅。お前らにとって学校は初めてだろうが、皆いい奴だ。学校生活を楽しめ』

 

「いっくんがいれば他は何もいらない」

 

「悠璃と同じ気持ちです」

 

『・・・・お前らの知らないものはこの世界にまだまだ存在する。

だから、触れたり学んだりしてくれ』

 

そう、悠璃と楼羅、二人は駒王学園に通うことになった。

歳は俺と変わらず、学校も通っていなかったことでサーゼクス・グレモリーに頼んで

二人を通わせるようにしてもらった。

 

「いっくん、私は今、幸せ」

 

『そうか、俺も幸せだよ』

 

「一誠さま・・・・・お慕いございます」

 

『俺もだよ、楼羅。それに悠璃』

 

あっという間に駒王学園へ到着した。ドラゴンが学校に現れたことで、

生徒たちは驚愕して逃げまどうが気にしないで皆を下ろし、人間に戻った。

 

「さあ、二人とも行こうか」

 

二人に手を差し伸べる。俺の手を二人は重ね頷いた。

 

「「はい、あなた」」

 

笑みを浮かべる俺の妻。そんな時、色んなところから―――。

 

「兵藤一誠覚悟!」

 

「死ねぇっ!」

 

「テメェだけ良い思いなんてズルイ!」

 

「お前を倒して我らのアイドルを奪ってやる!」

 

二学期初日に嫉妬集団が現れた。何気に前より多くなってないか?と、他人事のように

思っていると―――。

 

「おっと、彼をやらせないよ?」

 

俺を守るように木場祐斗が現れて剣を構えた。

 

「そうだな。一誠はやらせない」

 

ゼノヴィアも聖剣を構えだす。

 

「お前たち、風紀委員長の私の前で風紀を乱すなんて許さないぞ」

 

カリンも軍杖を構える。

 

「ははっ、皆さん。元気が良いですねー」

 

龍牙も大剣を構えた。

 

「あなたたち、私のイッセーに攻撃するなら消し飛ばしてあげるわ」

 

「ええ、そうですね。彼に攻撃とは生徒会として許せません」

 

リアスとソーナも魔力を具現化させて臨戦態勢に入った。彼女たちだけじゃない。

―――俺と悠璃楼羅以外の皆が攻撃態勢に入った。

 

「・・・・・あー、お前ら。半殺しで留めておけよ?」

 

一応、フォローしてみたものの。皆は敵を倒さんとばかり、攻撃を始め出した。

あいつら、人を殺したりしないよな?

 

「―――兵藤一誠!」

 

「・・・・・?」

 

まだいたのか、と思って背後に振り返った。―――そして、俺は唖然とした。

 

「お、お前ら・・・・・なんでここにいんの?」

 

「・・・けっ、当主からの命令だ。『世界を知り己を知れ。

その一歩として駒王学園にでも通え』ってよ」

 

次期人王決定戦の大会で戦った『兵藤家』のメンバー全員が・・・・・駒王学園の制服を

身に包んで俺の目の前にいた。

 

「ムカつくが、てめぇの言う通り。兵藤家に籠っていた俺たちは弱かった。だからよぉ」

 

兵藤照が俺に向かって指した。

 

「やってやろうじゃねぇか!世界を知って、自分を知って俺はもっともっと強くなって

お前をいつか倒してやる!

 

ドンッ!と、兵藤照が闘気を纏い始めた。

 

「まずは一回、お前と勝負だ!」

 

あいつはそう言って俺に飛びかかってきた。

反射的に俺も拳を前に突き出して兵藤照の拳をぶつけあった。

 

「世界を知る前に俺と勝負なんておかしいだろうが」

 

「はっ!関係ないな、んなことよぉっ!」

 

片方の腕も突き出してきた。一旦あいつから離れて距離を置いたら、

 

「あ、あの・・・・・一誠さま」

 

「え?って、お前らは・・・・・・」

 

何時の間にか俺の傍にあの時の少女たちがいた。

 

「は、はい。私は兵藤千夏、こちらは私の姉の兵藤麗蘭です」

 

ああ・・・成神一成に二重の意味で破られた『兵藤家』のメンバーだったな。で、なんだ?

 

「え、えっと・・・悠璃さまと楼羅さまとご結婚成されているのは承知の上でお願いが・・・」

 

「・・・・・なんだ?」

 

「はい、私たちを妾としてあなたさまのお傍に居させてください」

 

姉の麗蘭が俺に密着してきた。・・・・・妾・・・?愛人ってことだよな・・・?えっ?へっ?

 

「―――なに、いっくんに手を出そうとしているのかな?」

 

「「っ!?」」

 

悠璃がどこからともかくだした大鎌を二人の首に突き付けた。

 

「聞こえていましたが妾ですか・・・・・・大した根性ですね」

 

楼羅が全身からどす黒いオーラを纏って笑みを浮かべていた。二人とも・・・・・怖いよ?

 

「わ、私たちも一誠さまの優しさに触れて好きになったのです!ですから、ですから!」

 

兵藤千夏が大きな扇子を構え出した。

 

「本妻であるお二人でも負けたくないです!」

 

「私たち姉妹は二番目でも構わないのです。ですから―――」

 

兵藤麗蘭が全身から冷気を漂い始めた。

 

「私たちを認めてもらうためにも、お相手願います」

 

えええ・・・・・何この状況・・・・・。前より混沌と化となっているじゃないかよ!

 

―――ガシッ!

 

「・・・・・はい?」

 

「のう、一誠よ。川神に美味い稲荷があるそうじゃ。妾と一緒に来てはもらえぬか?」

 

俺の襟を掴んで宙に浮かせる人物―――大妖怪、九尾の狐の羽衣狐。俺の内にいる妖怪の名前だ。

赤いリボン以外黒一色のセーラー服を身に付けている彼女は腰から生えている

九本の尾で俺を拘束する。ささやかな抵抗と試みた。

 

「えっと・・・・・俺、学校なんだけど?」

 

「知らん、一誠は妾と共に来るのじゃ」

 

愛おしそうに俺の頬を触れる。マジで・・・?登校初日サボりなんて・・・・・。

 

「我が許すと思っているのか。女狐―――」

 

「(げっ・・・・・!?)」

 

ゴゴゴゴゴゴッ!と、とんでもないほどのプレッシャーを放つ深紅の髪を怒りで

ゆらめぐ女性がいた。羽衣狐は「ふん」と鼻を鳴らし嘲笑を浮かべて口を開いた。

 

「お前の許しを得るほど、偉いのか?」

 

「一誠を育てているのは我だ。つまり育ての親は我だ。一誠の親は我である」

 

「なら、妾はこの子の姉としよう。これからもよろしく頼むぞ、母上?いや、叔母上と呼ぼうか」

 

―――ブチッッッ!!!!!

 

あ・・・・・物凄く嫌な音が聞こえた。

 

「貴様・・・・・この世から完全に消滅してくれる」

 

「無理じゃな。妾の魂はこの子の魂に憑いている。言わば、この子と妾は一心同体よ。

この子が死なぬ限り、妾も死なぬ。だから、一種の不死ともいえよう」

 

自慢げに言わないでくれ。ほら、真龍さまが怒っているから―――!

 

「・・・・・オーフィス、あの女狐を殺すぞ」

 

「・・・・・はっ?」

 

「我、イッセーと傍にいる。だからあいつ、邪魔」

 

浮遊魔法で浮いているのか、ガイアの下からオーフィスが現れた。

朝からいないと思えばガイアと一緒にいたのか・・・。

 

「ふふっ、掛かってくるがいい。卑しいドラゴンども」

 

「その言葉、そっくりそのまま貴様に返してくれる!

 

「イッセーを返せ」

 

刹那―――。

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ

 

 

―――アザゼルside

 

 

「おー、二学期初日から騒がしくなったじゃねぇか」

 

「彼を中心にね」

 

「今まで殻に籠っていた兵藤家も、とうとう外に出た。式森家も変化が見られた」

 

「それは、彼が間接的に『きっかけ』を作ったからだろう」

 

「テロリストどものことも分かった。後は対処方法を考えるだけだな」

 

「なにも『禍の団(カオス・ブリゲード)』だけじゃ、私たちの敵じゃないと思うのだがね」

 

「・・・・・つーと?」

 

「可能性の話しだよ。今は『禍の団(カオス・ブリゲード)』だが、そう遠くない未来に新たな敵が現

れるかもしれない。そう私は思っている」

 

「だから、兵藤家の少年少女をこの学校に招いたってか?」

 

「彼はすでに世界中に知れ渡っている。彼を思わしくない勢力、神々もいるはずだ。

私たちは影で彼を守る」

 

「なるほどな・・・だが、力を借りる時が絶対に来る」

 

「承知の上だよ」

 

「・・・・・今回の天龍は変わっているな」

 

「おや、いきなりどうしたんだい?」

 

「・・・・・なに、なんとなくさ。赤は女を、白は力と男」

 

そして―――深紅は愛と復讐ってな。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode番外編

俺が次期人王となり、幼馴染の兵藤悠璃と兵藤楼羅を家に泊らせて翌日。

魔方陣で現れたサーゼクスが開口一番に言った。

 

「兵藤くん、冥界に遊びに行こう♪」

 

笑みを浮かべ、歯を覗かせてはキラン☆と輝かせるサーゼクス・グレモリー。

 

『・・・・・』

 

いきなりの申し出に俺たちは固まった。だがその前に・・・・・俺は立ち上がった。

 

「・・・・・取り敢えず」

 

「うん?」

 

「玄関から入らず、魔方陣で無断侵入をした不法侵入者を縛るとしよう」

 

―――三十分後。

 

「―――で?冥界に遊びに行こうとはどういうことなんだ?」

 

「あははは・・・・・できればこの縄を解いてくれるかな?それとその籠手も解いて欲しい」

 

無効化のドームを作っては一瞬でサーゼクスを亀甲縛りで拘束して、幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)

魔力を使わせないようにサーゼクスの体に触れて質問したらサーゼクスが口を開いた。

 

「父上と母上がキミに会いたがっているのだ。ほら、あの時の大会は人間界だけじゃなく、

冥界や天界も放送されていて、他の異種族にも耳が届いているだろう。

まあ、後者はともかく前者が主な理由だ。

キミの戦いぶりを見ていて父上と母上は大変興奮しておられたそうだ。

夏休みももう少しで終わるから、キミがよければ冥界に遊びに来てほしい。

いま、家にはリアスたちグレモリー眷属がいる。

彼女たちもいるから緊張することはないと思うがどうだね?」

 

「・・・・・」

 

冥界か・・・・・行ったことあるけど町まではないな・・・・・興味あるし。

 

「じゃあ・・・・・行こうかな」

 

「そうか、では善は急げださっそく冥界に行こう。他の皆もどうだね?」

 

他の皆も問うサーゼクス。皆は二つ返事で俺と一緒に冥界に行くことに決まった。

 

―――冥界

 

悪魔と堕天使、他にも魔獣が住んでいる異界。さらに冥界の最下層、冥府が存在する。

冥府、死の神である骸骨のお爺ちゃんことハーデスがいる異界でもある。

俺たちはサーゼクスの案内によって冥界に足を踏み込むことができた。

現在はグレモリー家が手配した巨大な馬が引く車、まあ馬車の中にいる。サーゼクスと俺、

リーラとガイアとオーフィスと一緒に座っていて他の皆は違う馬車に乗っている。

 

「あの、列車の車掌さん。俺のことを覚えていたなんてな」

 

「キミのご両親は何度かグレモリーの列車で来ていたんだ。兵藤一誠くんが生まれた時にもね」

 

「ふーん、そっか」

 

懐かしそうに見つめてきたあの顔、『また乗りに来てください』と言われるほどだった。

 

「因みにキミは五大魔王専用の列車と堕天使側のルートから行けれるからね」

 

・・・・・俺は一体どんだけ偉くなっているんだ・・・・・。

つーか、その列車とルートはどこにあるんだよ。と、思いながらも風景を見た。

舗装された道と綺麗に剪定された木々。

真っ直ぐ進むと道が伸びて―――俺の視界にとんでもなく巨大な建造物が飛び込んでくる。

前に一度だけカリンの家を見たことがあるが、あれより二倍ぐらい大きい城だった。

 

「うん、改めてサーゼクス・グレモリーたちが悪魔だって認識したよ」

 

「それはいい意味でかな?」

 

「自己判断よろしく」

 

しばらくして、馬車が停止した。馬車のドアが開かれて、降りて改めて何を乗っていたのか見ると

豪華絢爛な馬車にその馬車を引いていた巨躯の馬がいた。

辺りを見渡すと両脇にメイドと執事が整列して、道を作っていた。

赤いカーペットが巨大な城の方に敷かれて、巨大な城門が

「ギギギ」と鈍い音を立てて開かれていく。

 

「ようこそ、兵藤一誠くんと皆。我がグレモリー城へ。

学園の生徒が私の家に訪れたのはキミたちが初めてだ」

 

朗らかに歓迎するサーゼクス・グレモリーが赤いカーペットの上に歩きだそうとした時だった。

メイドの列から小さな人影が飛び出しサーゼクス・グレモリーの方へ駈けこんで行く。

 

「お父さま!おかえりなさい!」

 

紅髪の少年がサーゼクス・グレモリー先輩に抱きついていた。

ほうほう、この少年がサーゼクス・グレモリーの息子か・・・・・。将来有望そうだな。

 

「ただいま、ミリキャス。リアスたちはいるかね?」

 

「リアス姉さまたちは敷地を観光していますので家にはいません」

 

「そうか、どうやら入れ違いだったようだね。―――ミリキャス、挨拶をなさい。

彼が兵藤一誠くんだよ」

 

「はい。ミリキャス・グレモリーです。初めまして」

 

貴族らしく、相手に対して失礼のない挨拶の仕方だった。

 

「初めまして、兵藤一誠だ。よろしくな」

 

「はい、お兄さま」

 

―――――ああ、お兄さまね。後ろから感じる怒のオーラを感じるのは何でだろうか・・・・・。

 

「あ、あの・・・お兄さま」

 

「ん?」

 

「―――お兄さまの鎧姿、とっても格好よかったです!」

 

ミリキャス・グレモリーが純真無垢に瞳をキラキラと輝かせた。

 

「鎧姿?」

 

「次期人王を決める大会の最終決戦で纏った深紅の鎧や深紅と黒い鎧のことです!

真なる深紅龍神帝(アポカリュプス・クリムゾン・ドライブ)』や『D×D(ドラゴン・オブ・ドラゴン)』を

見た時、凄く興奮しました!」

 

ああ・・・・・あの時のことか。そう言えばサーゼクス・グレモリーも冥界や天界にも

放送されているとか言ってたな。ミリキャス・グレモリーがモジモジとし始めた。

 

「お兄さま、もしよければ鎧を纏ったお兄さまと遊んでみたいです。よろしいでしょうか?」

 

「―――――」

 

鎧を纏ったままで遊ぶって・・・・・。

まるで、子供の頃、イリナとヴァーリと遊んだヒーローごっこのようだな。

―――二人とも、女の子だと知らなかったけどさ。今となっては懐かしい思い出だ。

 

「ん、別に良いぞ。イリナ、お前も一緒に遊んでくれ」

 

「あっ、ヒーローごっこ?懐かしいわね。

よくイッセーくんとヴァーリと三人でヒーローごっこしてたもんね」

 

こんな感じで、とイリナはポーズをした。うん、そのポーズ、懐かしいな。

 

「赤と黄色と青、黒の鎧を纏えるからイリナはピンクでいいか?」

 

「イッセーくん、そこは白にしてよ白。私は神にお仕えする教会の者なのよ?」

 

イリナの言い分は分かるけどな・・・・・。

 

「ヴァーリと被るぞ。あいつは白だ。百歩譲って黄色にしてくれ。神の神々しい光と思ってな」

 

「いいわ!」

 

即答で決まった。イリナとヒーローごっこするなら・・・と思い携帯を取り出して操作する。

 

「・・・・・ミリキャス、デビルレッドよりも彼の鎧姿の方が好きなんだね・・・・・」

 

声と存在感は悲哀に満ちていたサーゼクス・グレモリー。な、なんだよいきなり・・・・・。

 

「―――サーゼクス、戻ってきているのなら早く城の中へ案内しなさい」

 

あっ、久し振りだな。―――シルヴィア。

 

「あっ、お母さま!」

 

・・・・・なんですと!?

 

「・・・・・サーゼクス・グレモリーの妻はシルヴィア、ミリキャスは二人の子供・・・・・」

 

信じられない、と三人を交互に見れば・・・・・ああ・・・・・しっくりくるな。

 

「申し訳ございません皆さま。やはり私が迎えに行くべきでした。

まったく、サーゼクスはなに悲しそうな顔をしているの」

 

ガシッ!とサーゼクス・グレモリーの襟を掴んだシルヴィア。

あれ・・・・・この人、メイドだよな?

 

「さあ、屋敷へ入りましょう」

 

サーゼクス・グレモリーの襟を掴んだまま引きずって門の方へ進みだす。理事長の貫録が、ない!

 

「母さまが一番強いんですよ?」

 

ミリキャスの満面の笑顔。うん、全員がその言葉に頷いた。でもな、ミリキャス・グレモリー。

お前も何時か誰かと結婚したらお前もあんな感じになるかも知れないぞ?

 

―――○●○―――

 

巨大な門を潜り、中を進む。次々と白の中の門も開門されていく。

ついに玄関ホールらしきところへ着いた。前方に二階へ通じる階段。

天井には巨大なシャンデリア。

 

「リアス・グレモリーたちは敷地に観光していると聞いたんだけど」

 

「はい、数時間も前から観光していますので、そろそろ帰ってくるかと思います」

 

シルヴィアが手を上げるとメイドが何人か集合した。

 

「ほら、サーゼクス。いい加減にシャキッとしなさい」

 

「う、うむ・・・・・」

 

「理事長、プライベートだと酷いぐらいに軽いね」

 

和樹の言葉に俺たちは頷いた。妻に引きずられるなんて初めて見たぞ。

 

「では皆様をお部屋へお通ししたいと思います。―――兵藤一誠さまは私と一緒に」

 

「なぜに?」

 

「―――グレモリー現当主のアルマスさまがお待ちしておりますので」

 

あー、あの人か。公開授業以来だな。了解と頷いて皆と別れ、

俺一人だけシルヴィアにどこかへ案内された。

 

「兵藤一誠さま、次期人王になられておめでとうございます」

 

「目的のためになったに過ぎない。どうしても人王にならないといけなかったからな」

 

「目的・・・・・とは?」

 

「二人の幼馴染と守るため、そして人工生命体の研究を永久凍結にすることだ」

 

―――――。

 

俺と彼女の間に緊張が走った。

まさか、俺がそんな事をするために人王になっただなんて思いもしなかったのかな?

 

「神王ユーストマにも魔王フォーベシイにもサーゼクス・グレモリーにも研究のことを話したら、

俺個人ではどうすることもできない、

長年研究してきたことを独断で中止にする事もできない上に、

他の勢力のトップに納得できる理由もなければ研究は続けられる、とか言われた。

そして思い知られた。俺個人がどれだけ実戦で役に立つ力を得ても、政治的な力がないんじゃ、

権力がないんじゃ、手も足も出ない」

 

「だから―――人王となり、他の勢力と同等の権力を得る必要があったと?」

 

「最初はそんなこと考えていなかった。でも、どうしようかと悩んでいた。兵藤家のことなんて、

俺には関係のないことだと思っていた。

でも、次期人王を決めるのに兵藤悠璃と兵藤楼羅という俺の幼馴染が

結婚しなければならないなんて怒りを抱いた。だから―――思ったんだ。

二人を助け、俺が次期人王となる。まだ正式に人王になったわけじゃないから、

俺は未だに権力がないままだ。人王になる前に色々と知識を身に付けたり、

仲間を増やすつもりだ。政治的な意味でな」

 

「・・・・・その若さであなたは一体何を望むというのですか?」

 

何を望む・・・・・か。

 

「今は人工生命体、プリムラを本当の意味で自由になれるようにすることが目標だ。

後は・・・・・これから考えるさ」

 

「・・・そうですか」

 

ここです、とシルヴィアがとある扉にノックをした。

それから俺を連れてきたと告げると入室の許可の言葉が向こうから聞こえる。

扉を開いて先に俺を入らせた。部屋の中で横長のテーブルがあり、

天井には豪華なシャンデリアが―――。

 

―――パンパンパンパンッ―――!

 

「・・・・・」

 

・・・・・・はい?

 

『兵藤一誠くん!次期人王、おめでとう!』

 

「・・・・・」

 

部屋に入って早々、俺を出迎えたのはクラッカーの音だった。

そして、何故か大勢のヒト―――悪魔がいた。

これ、何のパーティ?

 

「・・・・・シルヴィアさん。これはどういうことなのかなかな?」

 

「『かな』が一つ多いですよ。あなたでも驚くのですね。私にさん付けとは珍しいことです」

 

―――驚くわッッッ!こんなことされて当然の反応だろうが!

 

「はっはっはっ!いやー、イッセーくんおめでとう!」

 

朗らかに俺を祝福の言葉お送るアルマス・グレモリー。

そんなアルマス・グレモリーに続いて他の悪魔たちも近づいてきた。

 

「・・・・・これは、どういうことなんだ?」

 

「どういうこともなにも、キミが次期人王になったことを冥界に住む私たち

悪魔のお茶の間で知られているのだよ?イッセーくんをお祝いをせずにどうするのだ」

 

祝い・・・・・まさか、

 

「サーゼクス、俺を呼んだ理由はこれか?」

 

俺を冥界に誘った張本人に尋ねれば、にこやかに笑顔を浮かべて頷いてくれた。

 

「ああ、その通りだよ。リアスたちもキミを祝福するため、

先に帰って来たのだが観光しに行ってしまったようだからね。

少々計画がズレたがほぼ達成といえる」

 

・・・・・マジですか。

 

「ああ、そうそう。キミと大会に参加した悪魔たちを全員、この場に呼んである」

 

真羅椿姫とサイラオーグ・バアル、成神一成しかいないだろ。

全体的に参加した悪魔と言えば、グレモリーとシトリーの二つの眷属だけどよ。

 

ガチャ。

 

扉が開く音。皆か?と振り向いたら―――リアス・グレモリーたちだった。

 

「あっ、イッセー。お帰りなさい」

 

「・・・そこは、『いらっしゃい』の間違いでは?と思うのは俺だけか?」

 

「細かいことは気にしないの。それとごめんなさいね。

あなたが来る前にソーナとサイラオーグと少しばかり敷地に観光を行ってたわ」

 

ああ、そうみたいだな。三人ともいるし。他の皆も勢ぞろいだ。

 

「さて、シルヴィア。役者も揃った。彼女たちもここへ呼んで来てくれ」

 

「かしこまりました」

 

あら、敬語になった。流石に面々がいる前でじゃ私語は無理か。

 

―――数時間後。

 

『わっはっはっはっはっはっ!』

 

『・・・・・・』

 

ダイニングルームはすっかり飲み会の場と成り果てた。

たまに知らない悪魔に話しかけられて父さんと母さんのことを教えてくれる。

元七十二柱の悪魔たちの大半が父さんと母さんと友達だったり、

元七十二柱の悪魔たちの大半が知り合いだったり、

元七十二柱の悪魔たちの大半が飲み仲間だったりとか色々な悪魔がいることが分かった。

―――思いっきり人間と変わりない関係じゃん!

 

「・・・・・結局、こうなったのね」

 

「予想はしていましたが・・・・・」

 

「よいではないか。時にはこうして羽を伸ばすこともしなければやっていけない時もある」

 

俺と一緒に設けられた椅子に座って静かでいるリアス・グレモリーとソーナ・シトリー、

サイラオーグ・バアル。そんな三人に感謝の言葉を述べた。

 

「三人ともありがとうな」

 

「気にしないで、こちらとしても良い経験にもなったわ」

 

「椿姫のことも感謝しています」

 

「俺も十分楽しめた」

 

三人は小さく笑んでそう言ってくれる。だけどな・・・・・。

 

「ごめん、赤龍帝を変な方向に強くさせちまった」

 

「・・・・・気にしないで、私も思いもしなったから。

あの技、封印するように言いつけているし」

 

「あの技を使い続けていたら、女悪魔とゲーム出来なくなります。プライベートの侵害として」

 

ソーナ・シトリーもリアス・グレモリーの言葉に同意と苦笑を浮かべて頷く。

 

「ヴァーリでさえ畏怖の念を抱いていたそうだったぞ。

『私が女であるかぎり、心を読まれては勝つことが難しい』とか」

 

「あのヴァーリが・・・・・」

 

目を丸くして驚いた表情をするリアス・グレモリー。一応、ライバルだし・・・でも、複雑だな。

 

「何時しか、赤龍帝じゃなくて乳龍帝に名前が変わるんじゃないか?」

 

上段染みたことを言ったら、

『お、俺が乳龍帝だと・・・!?』と、どっかの赤い龍が愕然した声が

聞こえたような気がした。

 

「・・・・・あれから、ヴァーリから連絡は?」

 

「いや、ない。今頃どっかで強者と戦っているんじゃないか?」

 

「幼馴染がテロリストだなんて、複雑ですね」

 

「それを言ったら、魔王ルシファーの方が複雑だろう。

ヴァーリは、ルシファーの血を受け継いでいるんだからさ」

 

そう言ったら二人は気まずそうに「そうね・・・・・」と呟く。

だが、サイラオーグが口を開いた。

 

「ルシファーさまだけじゃない。魔王フォーベシイさまを除いた五大魔王の方々も

立場的に複雑だ。現魔王の兄弟姉妹が『真魔王派』と名乗ってテロリストに加担している。

噂では、現魔王もテロリストと繋がっているのでは?と一部の上層部の悪魔が

警戒しているほどだ」

 

「うわ・・・・・魔王の座が危ういんじゃ?」

 

「ああ、そうだろうな。仮に、何かのきっかけで現魔王が魔王を辞退するようなことが

起これば・・・冥界は一時期、波乱がありそうだな」

 

「次の魔王は誰になるんだろうな」

 

俺が思い浮かべるのは―――サーゼクス・グレモリーとセラフォルー・シトリーぐらいだ。

後の二人は知らん。

 

「候補としてはリアスのお兄さまと私のお姉さま、

それに現アスタロト当主のアジュカ・アスタロト、

現グラシャボラス家の当主、ファルビウム・グラシャボラスじゃないかしら?」

 

「妥当な線だな」

 

サイラオーグ・バアルが頷く。前者はともかく後者の悪魔の名は知っている。

名前だけだ。それ以外は教科書に載っている知識だけしかない。

 

「おや、イッセーくん。こんなところで静かに座っていたのかい」

 

酔っているのか、顔が真っ赤に染まっているサーゼクス・グレモリー。

こんな顔を見るのは珍しい。

 

「飲み会になっているし、酒を飲まされたら敵わない」

 

「はは、キミたちは未成年だからね。間違っても飲んではいけないよ?」

 

当たり前だ、と肯定する。

 

「ところでイッセーくん。赤龍帝の成神一誠くんを鍛えたんだよね?」

 

「ああ、あの弱さじゃ皆の足を引っ張るからな。たまにリアス・グレモリーもしたけど」

 

「おかげで私もちょっとだけ強くなったわ」

 

兵藤家チームと試合した際に見せたあの力。まだまだ伸びるところがあるだろう。

 

「私たちも見ていたよ。やはりキミと一緒にいれば、色々と影響がありそうだ。

―――そこで、お願いがある」

 

「なんだ?」

 

まあ、色々と世話になっているし、少しぐらい聞くけど・・・・・なんだ?

 

「どうだろう、妹のリアスとオカルト研究部員の女子メンバーと

ソーナ・シトリーと真羅椿姫をキミの家に住ませてもらえないかな?」

 

「「「―――えっ?」」」

 

サーゼクス・グレモリーの提案に俺とリアス・グレモリー、ソーナ・シトリーは唖然となった。

 

「キミは色々な伝説のドラゴンを宿し、様々な力を引き寄せている。その中で今後の事もあるし、

リアスたちを強くして欲しいのだよ。これは理事長としてではなく、リアスの兄としての提案だ」

 

「・・・・・」

 

曹操、ヴァーリ、真魔王派・・・・・。これから襲ってくる強敵が現れる。

全員を守るなんて流石に無理がある。いや、ヴァーリは大丈夫か・・・・・?

 

「・・・・・そうね、私やあの子だけ強くなっても力のバランスがないわ」

 

―――なに言っているんだ?怪訝な面持でリアス・グレモリーに言った。

 

「いや、元々スピード、テクニックの木場意外、

殆どパワーのお前らは最初からバランスも何もないぞ?このパワーバカ集団。

で、パワーの足りないシトリー眷属もバランスがないしな。

力のリアス・グレモリーと技のソーナ・シトリー。まるで二人を現す静と動のようだ」

 

意地悪い笑みを浮かべていると、二人は互いの顔を見合わせて溜息を吐いた。

 

「そうよね・・・・・私たちはまだ弱いし、眷属のバランスが全然だものね」

 

「椿姫が強くなったことは喜べますが、

それ以外の者たちは呆気なく兵藤家に倒されてしまいましたし」

 

「「はぁ・・・・・」」

 

二人は揃って溜息を吐く。だから、とサーゼクス・グレモリーは口を開いた。

 

「兵藤一誠くんと一緒に住めば自ずと強くなれる。どうかな?もし、引き受けてくれるなら―――」

 

「なら?」

 

「―――学校で不純異性交遊をしても構わないよ?」

 

「「「―――っ!?」」」

 

あ、あんた・・・・・!教育者として、理事長あるまじき発言していいのかよ・・・・・!?

俺の気持ちを露知らずでいるサーゼクス・グレモリーはさらに言い続けるために口を開きだした。

 

「ああ、ちゃんと処理してくれるなら問題ない。リアスと愛し合ってくれ。

勿論、他の先生や生徒に見つからないところでね?」

 

「お、お兄さま!な、なんてことを・・・・・!」

 

「・・・・・」

 

コクコクと顔を真っ赤に染め抗議するリアス・グレモリーの発言に同意とばかり

羞恥で顔を赤くする頷くソーナ・シトリー。

 

「あ、あの学校の生徒会長であるわ、私がそのようなことを認める訳には―――」

 

「おや、キミはイッセーくんと愛し合いたくないのかな?」

 

「そ、それは・・・・・!」

 

おーい?買収されそうになっていやしないかー?

 

「・・・・・学校で不純異性交遊はともかく、二人を家に住まわせていいのかよ?

というか、あんたはリアス・グレモリーと一緒に住んでいるんじゃないのか?」

 

「私はシルヴィアとミリキャスと人間界に住んでいるからね。

たまに妹が家に戻ってきてくれればそれでいいんだ」

 

ふーん、そうだったんだ。ソーナ・シトリーの場合、

セラフォルー・シトリーと一緒に住んでいそうだな。

 

「・・・・・まあ、二人には感謝していることもあるし・・・・・いいぞ、俺の家に住まわせる」

 

「「っ!?」」

 

「そうか、そう言ってくれると私は嬉しいよ。では、リアスを住まわせてくれるのだ。

こちらからメイドを一人派遣させてくれるかね?

多人数でキミのメイドだけでは大変だろうからね」

 

・・・・・それでもこなせるのが俺の自慢のメイドなんだ。

と、そう思っているとサーゼクス・グレモリーが一人のメイドを呼んだ。

 

「―――グレイフィア、リアスと共に彼の家でご奉仕をしてくれるかな?」

 

「私が・・・・・彼の家に・・・・・ですか?」

 

どことなくシルヴィアに似ている銀髪の女性。

いきなり違う家に行けと言われて少し戸惑っているようだ。当然の反応だろうけどだ。

 

「・・・・・分かりました。このグレイフィア・ルキフグス。

リアスさまとご一緒に兵藤一誠さまをご奉仕させていただきます」

 

「グ、グレイフィア・・・!?」

 

自分と一緒に俺をご奉仕すると聞いた瞬間、またリアス・グレモリーが顔を真っ赤に染めた。

 

「(また・・・・・家の中が賑やかになりそうだなこりゃ)」

 

「では、皆さん。次は誠殿と一香殿と赤ん坊の頃のイッセーくんが遊びに来た時の映像を

見ることにしましょう!」

 

『おおおおおおおおっ!』

 

・・・・・この家も賑やかだ。だが、一時間後。

俺は、羞恥で思わず顔を赤く染めるとは思いもしなかった。

―――俺にとって黒歴史とも言える映像が皆に見られたからだ!

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

体育館裏のホーリーとダーク
Episode1


 

 

休日の日、俺は久し振りに一人で商店街にやってきている。特に用があるわけではないけど、

なんとなく商店街に来たくなった。さて、なにがあるのかな?なにが起こるかな?

密かに楽しみながら歩いていると、見覚えのある栗毛が視界に入った。

これは偶然だな。と思い見知っている人物の背後を一瞬で近づいた。

 

「よ、シア」

 

「っ!」

 

声を掛けてみると俺に振り返って目を丸くしたリシアンサス。

 

「・・・・・」

 

・・・・・ん?「あっ、イッセーくん!」て、感じな反応じゃないな・・・・・?

 

「んー・・・・・あー、うん、なるほどな」

 

よく彼女を見ればリシアンサスとは違う雰囲気、それとちょっと鋭い目つき。

よく見ないと分かり辛いほどリシアンサスと酷似している。

 

「お前、誰だ?」

 

別人のように接すると、いきなり彼女に俺の手を掴んで―――何故かカラオケに連れて行かれた

俺であった。

 

「・・・・・」

 

部屋に入るや否や彼女は隣に座るように促す。俺も座れば彼女が口を開く。

 

「初めまして、かな?」

 

「俺にとってはだけどな。初めましてというべきなのは」

 

「うん、そうだね。でも、私にとってはあなたを知っているから、

どう挨拶しようか迷っちゃうんだよね」

 

苦笑を浮かべる彼女。

 

「けど、よく私がシアじゃないってすぐに分かったわね?」

 

「長くもなく短くもない時を一緒に過ごしているからな。

これでもシアのことを見ているつもりだ」

 

「そう・・・・・」

 

「さて、質問するけど、お前はシアか?」

 

目の前の少女は、俺の質問に対して小さく笑う。それは悪意のない無邪気ない微笑みだった。

 

「名乗りたくても名乗れないわ。名前なんてないもん」

 

彼女はそう言って肩を竦めて苦笑する。

その言動に俺は怪訝な顔で「名前がない・・・?」と訊く。

 

「うん。私はいないことになっているから。名前であれなんであれ、

私に何かをくれる人なんて存在しないの」

 

・・・・・いないことになっている?ユーストマは目の前の少女のことを認識していないのか?

 

「だからまあ、裏シアとか、偽シアとか、あなたの好きな名前で呼んでくれていいよ。兵藤一誠」

 

「・・・・・お前はシアの何なんだ?自分を自虐的にそんな名前で呼んでもらう

お前はシアの何なんだ?」

 

「なんだと思う?」

 

「・・・・・」

 

俺の中には目の前の少女のような人を一人だけ心当たりがある。

 

「―――シアの内にいるもう一人のお前・・・かな?名前のない一人の少女。

いや―――、もしかしたら・・・シアと姉妹の関係かな?。

清楚のように内に覇王の、項羽の魂を宿しているし、それに―――」

 

ブツブツと俺の中の可能性を言い続けていると、横から「ストップ」と声が掛かった。

彼女を見れば呆れ顔であった。

 

「殆ど正解を言うなんて、流石だわね兵藤一誠」

 

彼女の言動はどうやら、99点ぐらい俺の仮説は当たっているということになっている。

 

「じゃあ、お前はシアのもう一人の姉妹なんだな?姉と妹、どっちだ?」、

 

「妹よ?」

 

・・・見る限りしっかりしていそうな妹なのに姉は・・・いや、これ以上は考えない方がいいな。

 

「なんとなく、言いたいことはわかるわ。取り敢えず、あなたは私のことを知ってる記念すべき

二人目ってわけだから。これからよろしく」

 

「もう一人は誰だ?」

 

「もちろんシアよ。あの子は知ってるわ、私のこと。まあ、正確に言うと、

家族は全員知ってるのよね、私のこと。だけどみんな知らない。知らないことにした」

 

・・・・・ユーストマたちは知っている?でも、『知らないことにした』とは、なんで・・・。

 

「私がいると困るから。いても意味がないから」

 

「―――――」

 

「お前は・・・・・」とリシアンサスの妹に呟いた。

それは、そろそろ教えてほしいと焦り、苛立ち、興味からではない。

―――どんな形であっても、生を受けているのに自分をそんな事を言う彼女に対しての怒りだ。

そんな俺の気持ちを露知らず、微笑みを変化させて鋭い光を宿した瞳に俺を映し、

艶めく柔らかそうな唇を動かして言葉を紡ぐ。

 

「兵藤一誠の言う通り。私はもう一人のシア。リシアンサスでありながらリシアンサスでない、

リシアンサスの中で眠っている、もう一人の存在」

 

でも―――、彼女は口を開き続ける。

 

「生まれるべく生まれた、けれど誰も望んでいなかった、シアの負の心。

天界の神族の王の娘『リシアンサス』の中にいる、魔族―――悪魔の娘」

 

淡々とした言葉で話している彼女の表情に、最後ほんの少しの陰りが混じる。

 

「・・・・・神王の跡取りとして、いてはならなかった―――」

 

「てい」

 

ズビシッ!

 

「~~~っ!?」

 

若干シリアス的な雰囲気をぶち壊さんとばかり、彼女の頭にチョップした。

当然、軽めでしたわけじゃないから、地味に痛い。

現に彼女は頭を押さえて痛みに体を震わせている。俺はそんな彼女を見据えて言う。

 

「なーんとなく、お前のことはわかった。天界も、神王も事情があっただろうし、

他人の家族の事情に俺がとやかく言う資格なんてない。けどよ。

誰がお前を生まれたことを望んでいなかった?神王の跡取りとして、いてはならなかった?

お前、そんなこと誰の口から聞いて自分の口で言っているんだ?」

 

「なん、ですって・・・・・?」

 

「確かにだ。天界に天使を束ねる王が悪魔と結婚することすら、

天界にとっても異端者扱いだろう。けど、それは両者の同意の下や冥界と天界が友好的になろうと

周りの思惑での政略結婚で二人は結ばれた」

 

一区切り付けて、また口を開く。黙って静かに俺の話を耳に傾ける

リシアンサスの妹に言い続ける。

 

「神王ユーストマも立場が立場だ。しょうがないと言えないかもしれない。

でも、お前のことを知っているのなら、あの男のことだ。

娘に溺愛しているあの男はきっとお前を受け入れる。シアのたった一人の妹として」

 

「・・・・・」

 

「それと、シアは俺たちの会話のやりとりを聞こえているか?」

 

「・・・・・うん、聞こえていると思うよ」

 

やっぱり、清楚と項羽のような感じだな。

と、そう思いながら目の前のリシアンサスの妹に向かって告げる。

 

「シア、お前とお前の妹のことは俺が何とかしてみる。お前の妹が自分の足で地面に立ち、

シアの隣に立って、一緒に未来へ歩けれるように俺が何とかしてみせる。

それまで待っていてくれるか?」

 

リシアンサスの妹とリシアンサスを同時に撫でるような感覚で、

栗毛の頭に手を置いて撫でながら言った。

 

「・・・・・」

 

目の前の少女はただ沈黙して俺を見詰めるだけであった。

 

「(さて、彼女をどうやって独立にできるか、悩みどころだな)」

 

 

―――○●○―――

 

 

―――兵藤家In図書屋

 

 

「うーん・・・・・」

 

リシアンサスの妹とカラオケから出た後、早速俺は彼女を独立できる方法を探り始めた。

 

「まずは名前だろう。名前がないって言っていたし・・・・・どんな名前にしようか」

 

一つの肉体に二つの魂を宿す存在。その二つの魂の一つを抜き取ってあらかじめ用意した

肉体に宿せる方法を、参考になるかも知れないと思いで医学の本や肉体の構造、

組織を記された本を開いて探し続ける。

その最中で彼女の名前を何にしようか悩んでいる俺だった。

 

「ユーストマとリシアンサス・・・・・」

 

この二人と強く無滑れるような名前が良いんだけど・・・・・どんな名前にしようかなぁ。

 

「―――何をなされているのですか?」

 

「ん?リーラか、どうした?」

 

邪魔にならないよう気を配り、俺の横に佇むメイドのリーラ・シャルンホルストが

「夕食の時間です」と告げた。・・・・・あ、もうこんな時間か。

何時の間にか六時が過ぎていた。

 

「・・・・・医学の本を読んでおられていたようですね。ですが、何のためにですか?」

 

俺の周りに置かれている本を一瞥して彼女から問われる。

不思議そうに訊く態度は、俺が医学の知識などなくても神器(セイクリッド・ギア)で治せるのでは?

みたいな風だろう。まあ、確かにそうなんだが・・・。

 

「清楚のような人と出会ってな。どうすればいいのか方法を探していたんだよ」

 

「清楚さまのような人・・・・・方法・・・・・・?」

 

「一つの体に二つの魂を宿す人間、と言えば分かるか?」

 

リーラは立ち上がる俺の話しを聞き、頷いた。本は後で片付ければいいだろ。

歩を進め、図書室から出て廊下を歩く。

 

「彼女のように内にいるもう一人の人格と共有し、記憶して生きていた。

でも、色々と複雑な事情を抱えてな。自分のことを生まれてはいけなかった存在だとか言いだす」

 

「一誠さま、その者をどうしようと思いなのですか?」

 

「取り敢えず、独立させようと思っている。その方法はもう考えた。

が、その方法をするためにもどうやってその方法を可能性にできないかと悩んでいるんだ」

 

一つ、と人差し指を立てる。

 

「一つの肉体に二つの魂を宿している。だから、一人の存在とするために、

二つの魂の内の一つをどうにか取り出さないといけない」

 

「だから医学の本を?」

 

「意味がないだろうけどな」

 

下へ向かう階段に辿り着き一階へ進む。

 

「肉体の方はさほど問題ないんだ。でも、どうやって魂を抜き取るかが問題なんだ。

俺の神器(セイクリッド・ギア)じゃ、魂をどうにかする力なんてないからよ」

 

一階に下りた俺たちは真っ直ぐリビングキッチンへと赴いた。

中は設けられた椅子に座っているガイアたちの姿がいた。

 

「遅かったな。何をしていたのだ?」

 

開口一番、ガイアに訊かれた。

 

「悪い、夢中になって本を読んでいた」

 

「そうか、次は気をつけるんだぞ?」

 

「ん、了解」

 

俺が席に座ったら、全員で合掌した。―――いただきます。

 

―――リシアンサスside

 

 

私はリシアンサス。皆からシアと愛称で呼ばれている天界の神王の一人娘・・・であった神族、

天使。神族とか天使とか色々と呼び方はあるけど、天界に住む者はみんな同じ呼ばれ方をするの。

悪魔も魔族と呼ばれる時もある。逆に魔族が悪魔と呼ばれることもある。どっちも神聖な存在で、

どっちも魔性な存在の意味を籠めて人族、人間たちから呼ばれている。

 

「・・・・・」

 

『シア、お前とお前の妹のことは俺が何とかしてみる。お前の妹が自分の足で地面に立ち、

シアの隣に立って、一緒に未来へ歩けれるように俺が何とかしてみせる。

それまで待っていてくれるか?』

 

「・・・イッセーくん・・・」

 

カラオケの中で私の妹と話していた会話が、脳裏に甦る。

 

「・・・・・」

 

徐にイッセーくんが撫でてくれた頭を触れた。あの時の感触はもうないけど、

私を撫でてくれたことに嬉しく感じた。

 

「―――ねえ、イッセーくんのことどう思う?」

 

私の愛用の手鏡を手にして、自分を見詰めるように呟いた。

―――そしたら、ちょっと吊り目の私が映り出す。

 

『どう思うって、なにによ?』

 

私の妹。名がない私の可哀想な妹。

 

「あの時、私たちに言ってくれたイッセーくんのあの言葉のこと」

 

『・・・・・さぁね・・・・・』

 

妹は興味なさそうに言うけど、

 

『男なら、一度言ったことを成し遂げてもらわないと男じゃないわ』

 

イッセーくんに少なからず期待している妹でした。

 

「ねぇ、もしあなたが一人のヒトとなれたら何がしたい?」

 

『何がしたい・・・・・そうね・・・・・』

 

顎に手をやって考えた妹は、悪戯めいた表情になった。

 

『兵藤一誠をからかってやることかな?』

 

と、妹は小さく微笑んだ。もう、イッセーくんにそんなことしちゃだめっすよ?だから―――、

 

「縛られても知らないからね?」

 

『・・・・・』

 

そう言ったら妹は突然黙った。

 

『流石に、私まで縛ろうとはしないよ・・・ね?』

 

「さて、どうでしょう?イッセーくんって自分に攻撃をする人は縛るようになってきたし・・・

もしかしたら、あんまりからかい過ぎるとあなたも問答無用に縛られちゃうかも」

 

クスクスと笑みを浮かべならが言ったら妹は沈黙した。

若干、冷や汗を流しているようにも見える。

 

「イッセーくんをからかい過ぎないようにね?」

 

『・・・・・気をつけるわ』

 

やんわりと注意した。妹は重々しく頷く。はい、素直でよろしいっす。

誰だって縛られたくないもんね?

 

「さて、そろそろ寝るっす。―――お休み」

 

『お休みシア。また明日』

 

うん、また明日。手鏡を置いてベッドに乗り出して体を横にする。

 

「・・・・・イッセーくん・・・・・」

 

どうか、妹のことよろしくお願いします。どうか、妹を助けてください。

瞑目した私は大好きな男の子に願い意識を落とした。

―――夢の中で妹とイッセーくんと一緒に流れる大きな川の傍にあるお花畑を駆ける夢を

みたいっすね。

 

『・・・・・シア、三途の川のことじゃないわよね?』

 

妹の声か聞こえたような気がするっす。でも、気にしないで三人と一緒に川の向こうに―――、

 

『シア!?そっち行っちゃダメよ!?お願いだから、その川の向こうにはいかないでぇー!』

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode2

 

 

「・・・・・冥界のテレビ番組から取材の話がきているだって?」

 

とある日のこと、この家に住まうことになった一人のメイド、グレイフィア・ルキフグスに

そう言われて怪訝になる。

俺、兵藤一誠はオウム返しで訊いた。なぜに冥界のテレビ番組から取材の話が来るんだ?

冥界に震撼させるような凄いことをした覚えはないぞ。

 

「ええ、一誠さまだけではなく。あの次期人王決定戦で本選まで勝ち残った悪魔である

グレモリー眷属とシトリー眷属も出演のオファーの話が来ています」

 

「あー、そういうこと。でも、なんで人間の俺が冥界のテレビ局から

出演のオファーなんて来るんだ?―――悪魔じゃないぞ、俺」

 

彼女は「重々承知の上です」と述べた。

 

「ですが、お忘れですか?あなたさまは兵藤誠さまと兵藤一香さまのご子息であることを。

冥界全土、あのお二方を知らない悪魔などいません」

 

「・・・・・」

 

そうだった。俺、あの人たちの子供だったんだ。

そんな俺が世界中に名を轟かせるぐらいのことをして、

父さんと母さんを知る悪魔たちが何もしてこないはずがない。

 

「勝手ながら、出演のオファーの話しを受理させてもらいました。

リアスさまと一緒に冥界へ赴いてください」

 

「・・・・・本当、勝手に決めてくれたよ」

 

グレイフィア・ルキフグスに嘆息する。

悪魔じゃない俺が、あの異世界に好き好んで行きたがるわけがない。

ましてや俺は悪魔と堕天使が嫌いなんだ。その二種族が住まう異世界なんて

あんまり行きたくない。

 

「旦那さまと奥さまは喜んでおりましたよ?」

 

そう言われて沈黙してしまう俺であった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・しょーもない」

 

二度目の嘆息。俺は結局、冥界のテレビ局に行くことになった。

 

 

―――冥界

 

 

収録当日となり、俺はリアス・グレモリーのグレモリー眷属、ソーナ・シトリーのシトリー眷属と

一緒に専用の魔方陣で冥界へ転移。この間行ったばかりなのに、

早くもこの地に足を踏み入れるとは。到着した場所は都市部にある大きなビルの地下。

転移用魔方陣のスペースが設けられた場所で、そこに着くなり、

待機していたスタッフの悪魔たちに温かく迎え入れてもらった。

 

「お待ちしておりました。リアス・グレモリーさまとソーナ・シトリーさまと眷属の皆さま。

そして兵藤一誠さま。さあ、こちらへどうぞ」

 

プロデューサーの悪魔に連れられて、エレベーターを使って上層階へ。

ビル内、人間界とあまり変わらない作りだと思うが、細かい点で差異があったりする。

魔力で動くであろう装置と小道具とかが建物のあちらこちらに存在している。

廊下のポスターは―――ネリネとリコリスだった。

と、廊下の先から見知った奴が二人ほど引き連れて歩いてくる。

 

「サイラオーグ、あなたも来ていたのね」

 

そう、リアス・グレモリーが声を掛けたそいつは

バアル家の次期当主サイラオーグ・バアルだった。

あいつも俺たちと同じ理由でここにいるんだろうか?

 

「リアス、それにソーナと兵藤一誠か。そっちもインタビュー収録か?」

 

「ええ。サイラオーグはもう終わったの?」

 

「これからだ。おそらくリアスたちと一緒のスタジオだろう。―――兵藤一誠」

 

ん?とサイラオーグの呼びかけに反応した。

 

「あの夏休みは俺にとって充実な期間だった。お互い切磋琢磨をして過ごした結果、

俺はより強くなれた」

 

そう言ってポンッとサイラオーグ・バアルが俺の肩を叩く。

 

「だから、また期末試験の時のようにお前とは理屈なしのパワー勝負をしたいものだよ」

 

サイラオーグ・バアルはそれだけ言って去っていく。

 

「・・・イッセー、あなたは色んな意味で人気者ね」

 

「急になんだ」

 

「そんなあなたに相応しい女にならないとダメね、って改めて思っちゃったわ」

 

リアス・グレモリーが苦笑いを浮かべ出す。

 

「自分から婚約者になると言いだして弱音を吐くのか?」

 

「いいえ、違うわ。―――もっと積極的にならないと、女としての自分をもっと磨かないと―――」

 

「あー、すいません。楽屋はどこですか?」

 

「って、人の話を聞きなさいよ!?」

 

何か長くなりそうだからスルーしてみた。尻目で後を見れば、

後ろから苦笑いを浮かべる面々たちがいた。

その後、一度、楽屋に通され、そこに俺たちは荷物を置いた。

そしてすぐにスタジオらしき場所へ案内され、中へ通される。

まだ準備中で、局のスタッフの悪魔たちが色々と作業をしていた。

先に来ていたであろうインタビューの悪魔の女性が俺とリアス・グレモリーとソーナ・シトリーに

挨拶する。

 

「お初にお目にかかります。冥界一放送の局アナをしているものです」

 

と、俺とリアス・グレモリーとソーナ・シトリーとスタッフ、

局アナの悪魔と交えて打ち合わせを始めた。スタジオには観客用の椅子も大量に用意されている。

 

「それと、兵藤一誠さんには別のスタジオで収録もありますので」

 

「・・・なぜに?」

 

いきなりそう言われて首を傾げた。スタッフは嬉々として説明してくれた。

 

「はい、何せ、『乳龍帝』として有名になっている成神一成さんと人気者ですからね」

 

ちち・・・・・龍帝・・・・・?

 

「乳龍帝ぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

あっ、成神一成も驚いている。―――つーか、やっぱりそんな名前で呼ばれるようになっていたか!

このド変態ドラゴン!

 

「子供には凄く人気になっているんですよ。子供たちからは『おっぱいドラゴン』と呼ばれている

そうですよ。次期人王決勝戦でおっぱいおっぱい叫んでたでしょう?

あれが冥界のお茶の間に流れまして。それを見た子供たちに大ヒットしているんです」

 

スタッフの説明が終わるまで、成神一成は一部始終ずっと驚愕をした顔のままだった。

 

「はははははっ!赤龍帝じゃなくて乳龍帝か!

―――成神、俺の家族とか学校の生徒(女)に百メートルは近づくな。穢れる」

 

「百メートルだと!?てかっ、それじゃ話しかけることもできねぇじゃねぇかよ!

触れることすらできねぇ!」

 

「寧ろ、男が選り取り見取りになって触れ放題だぞ?よかったなー」

 

「ふ・ざ・け・ん・なっ!」

 

憤怒の形相でスタジオの中で叫んだ成神一成。作業中のスタッフたちが

「なんだなんだ?」とこっちに顔を向けるが「ああ、なるほど」と

何か勝手に納得されてすぐに顔を逸らし、作業に再び取りかかった。

 

『はははっ!おい聞いたか!?ドライグの奴が赤龍帝じゃなくて乳龍帝だってよ!』

 

『くはははっ!こいつは面白いではないか。

天龍が、あいつが乳龍帝ドライグと呼ばれるとはな!』

 

『同情が覚えないな。まあ、確かに面白い名だな』

 

俺の中でドラゴンたちが突然笑い始め出した。ドライグ・・・・・心中察するぞ。

 

「では、兵藤さんと成神さんは別のスタジオへ。ご案内します」

 

スタッフに専用の台本を渡された俺は、別のスタジオに移動する。

 

 

―――○●○―――

 

 

「・・・・・」

 

「イッセー、戻ってくるなりどうして落ち込むのよ?」

 

「俺、もう冥界に来たくない」

 

収録後、俺たちは楽屋でぐったりしていた。他の奴らも緊張していたのは確かで楽屋に着くなり

壁にもたれたり、テーブルに突っ伏していたりしていた。

番組は終始リアス・グレモリーやソーナ・シトリーや俺への質問だった。

 

「ソーナ・シトリーの姉までも来ていたとはな」

 

「・・・・・それを言わないでくださいイッセーくん」

 

彼女は最大級に赤くなった顔をテーブルに突っ伏して恥ずかしさに堪えていた。

スタジオの観客席に『ソーナちゃん♡』と書かれた団扇を持って見に来ていたのだ。

そんなこんなで彼女は終始顔を赤くして姉の顔を収録が終わるまで

視界に入れないようにしていた。

 

「ところでイッセー、二人は別のスタジオで何を撮ったの?」

 

リアス・グレモリーが楽屋の菓子をつまみながら訊く。

テーブルに顔を突っ伏したまま返事をする。

 

「・・・・・俺にとって黒歴史だ」

 

「・・・・・いったい、あなたは何をしていたというのよ・・・・・」

 

訝しむリアス・グレモリー。ただ言えることは―――

 

「アザゼルとサーゼクスとセラフォルー。絶対に縛ってやる」

 

「・・・・・あなたにとって不愉快な取材だったことは、

その三人の名前が出た時点でわかったわ」

 

彼女は「はぁ・・・」と溜息を吐いたその時だった。

楽屋のドアがノックされ、入ってくる者がいる。

 

「ん?」

 

「お、お久しぶりでございますわ」

 

金髪を縦ロールにしている少女だ。しかも―――見覚えがある。

 

「えーと、ライザーの眷属にいたな?名前は・・・・・」

 

「―――私はレイヴェル・フェニックスですわ。兵藤一誠さま。以御お見知りおきを」

 

と、礼儀正しくお辞儀をした少女。名はレイヴェル・フェニックス。

 

「ああ、よろしくな。それと、ライザーの奴はどうしている?元気か?」

 

「・・・・・あなたのおかげで未だにドラゴン恐怖症で引き籠もっておりますわ」

 

そう言って嘆息するレイヴェル・フェニックス。ああ、まだなんだ。

 

「あいつの精神が弱いだけだな。今度、合いに行くとしようかな」

 

「ええ、是非ともいらっしゃってください。

一度負けたぐらいで部屋に籠りっきりにダメお兄さまをどうにかしてくださいな」

 

ダメお兄さま・・・・・。何気にえらいことを言うもんだな。

見た目がどこかの姫さま風な感じなのに。

 

「で、どうしてここに?誰かを尋ねに来たのか?」

 

そう尋ねると、レイヴェル・フェニックスは途端に顔を赤くしてこっちに近寄ってくると思えば、

手に持っていたバスケットを俺に突き出す。

 

「さ、ささやかな私なりのお祝いのケーキですわ!

この局に次兄の番組があるものですからついでです!」

 

「次兄?ライザーの他にも兄がいたのか?」

 

俺はバスケットを受け取りながら訊く。

 

「は、はい。そうですわ」

 

彼女の肯定の言葉を耳にしながら中身を確認した。

美味そうなチョコレートケーキが入っていた。

 

「これ、お前が作ったのか?見事、の一言だぞ」

 

「え、ええ!当然ですわ!ケーキだけは自信がありますのよ!」

 

「ほう・・・・・どこかの悪魔にも見習ってほしいもんだな」

 

眼鏡をかけた悪魔の少女に視線を向ければ、少女は珍しく頬を膨らませていた。

「意地悪」と呟いて、

 

「それじゃ、味見といこうか」

 

亜空間からフォークを取り出してスパッとバスケットのケーキを少しだけ切って、

そのまま口に運んだ。

 

「・・・・・」

 

レイヴェル・フェニックスは瞳に不安の色を浮かべて、

チョコレートケーキを食べる俺の様子を伺う。

 

「・・・・・うん」

 

「っ・・・・・」

 

「及第点だ。美味いぞ、レイヴェル・フェニックス。店に出せるぐらいだぞ、

この甘さと美味しさは」

 

そう言ってやると、レイヴェル・フェニックスは目を潤ませ、顔を最大級に紅潮させていた。

 

「・・・・・あ、ありがとうございます。では・・・ごきげんよう」

 

バッ!レイヴェル・フェニックスは俺たちに一礼をした後、踵を返して楽屋からいなくなった。

 

「・・・・・イッセー」

 

「なんだ?」

 

パクリとチョコレートケーキを食べた俺にリアス・グレモリーが話しかけてきた。

 

「彼女と何時の間に親しくなっているの?」

 

「は?あいつ会ったのはとリアス・グレモリーの婚約を懸けた一件以来だぞ?

敵だったし、どうしたら親しくなれる?」

 

「・・・そうだったわね。ごめんなさい」

 

そう言うが、リアス・グレモリーは面白くなさそうな顔をしていた。なんだか、面倒くさいな。

 

「―――リアス」

 

「え?」

 

「あーん」

 

ケーキを刺したフォークをリアス・グレモリーに突き出す。そんな俺にキョトンと呆ける彼女。

 

「美味いぞ。食ってみろ」

 

「え、でも・・・・・」

 

「こんなシチュエーションは二度とできないと思った方がいいと思うぞ?」

 

ニヤリと口の端を吊り上げて意地の悪い笑みを浮かべる。

リアス・グレモリーは、俺とケーキを何度か交互に見て―――、

 

「あ、あーん・・・・・」

 

恥ずかしそうに、でも、嬉しそうに俺に突き出されたケーキを口に含んだ。

 

「どうだ?」

 

俺もパクリとケーキを食べながら問うた。彼女の返事は・・・。

 

「ええ・・・・・とっても、美味しいわ」

 

歓喜とばかり、リアス・グレモリーは嬉しそうな表情を浮かべた。さて、次は―――。

 

「二人ともどうだ?」

 

羨望の眼差しを向けてくるソーナ・シトリー。

さらに真羅椿姫にも問いかけた。この問いかけに―――、

 

「「いただきます」」

 

羨望の眼差しが一変して得物を狙う鷹のような眼差しに変わったのであった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode3

 

 

「皆さん。明日は久しぶりの体育の授業があります。

相手は三年Fのディオドラ・アスタロト先輩のクラスと授業をする事になりました」

 

HRが始まって清楚が開口一番に体育の授業の説明をする。アスタロト・・・。

リアス・グレモリーたちが魔王候補だと思っている

アジュカ・アスタロトがいるアスタロト家の悪魔か?

 

「だけど、今回は相手が授業を受けるかどうか分かりませんけどね」

 

「ん?どうしてだ?」

 

「多分、僕たちが次期人王決定戦に出て優勝しちゃったから、僕たちの実力を知って

弱い人は僕たちと戦いたくないって気持ちでいるかもしれないからじゃないかな?」

 

・・・・・あー、そういうこと。

 

「ましてや一誠さんは真龍と龍神の力を鎧に具現化したのですからね。

それを体育の授業に纏われたら誰だって敵いっこありませんよ」

 

「(サイラオーグなら嬉々として挑戦するかもだけどな)」

 

戦闘狂ではなく、純粋に強者と戦って何かを目的として目指すように進むあの男なら、

俺と勝負をしたがる。と、俺はそう思っている。

 

「うん、神城くんの言う通り。でも、教師側から一誠くんに対して規制されたの」

 

「俺に規制だと?」

 

「真龍と龍神の力を使用禁止。以上です」

 

清楚の言葉に思わず苦笑いを浮かべてしまった。

授業であの力を使おうとは思っていないんだがな・・・・・まあ、当然か。

 

「了解。学校では使わないようにする」

 

「はい、分かりました。それではHRを終わりにします。皆、次の授業の準備をしてください」

 

HRの終わりを告げた瞬間にクラスが賑やかになって、準備をしながら友達を会話しだした。

 

「ディオドラ・アスタロト、ね」

 

「何か気になることでも?」

 

「いいや?俺たちの強さは軽く上級悪魔を越えているんだ。なんとなく呟いただけだよ」

 

そう言って鞄から医学の本を読み始める。と、横から俺に近づく者がいる。

 

「最近、いっくんはそんな本を読んでいるね。どうしたの?」

 

「ちょっと、可能性を探しているんだ」

 

「可能性?お医者さんにはなれないよ?いっくん、次期人王だし」

 

いや・・・・・医者になるつもりはないんだけど・・・・・頬をポリポリと掻き、

俺の傍にいる悠璃に説明した。

 

「一つの体に二つの魂がある。その二つの魂の内の一つをどうやったら

抜き出せれるかなって探しているんだ」

 

「・・・・・」

 

「まあ、こんなものを見ても魂を取り出す方法なんて―――」

 

「できるよ?」

 

・・・・・。

 

できるよ?悠璃に「何がだ?」と視線で問うと、彼女は俺の気持ちを気付いたようで、

 

「二つの魂を分ければいいんだよね?私か楼羅ならできるよ?」

 

「―――――」

 

衝撃の事実を告げてくれた。

 

「・・・・・本当か?」

 

「うん、私たちの神器(セイクリッド・ギア)ならできるよ」

 

・・・・・すぐ傍にあいつを独立させることができる可能性の存在がいたとはな。

 

「誰の魂を分けるの?あの清楚って子?」

 

「いや、別の奴だ。彼女じゃない」

 

「ふーん。じゃあ、リシアンサスって子かな?魂が二つあるしね」

 

―――――っ

 

この子、あんまりリシアンサスと話そうとしていなかったのに現状、俺しか知らないことを悠璃が

気付いていたのか。―――何て恐ろしい子!いや、怖ろしくないんだけどさ。寧ろ可愛い。

 

「何時から気付いていた?」

 

「初めて神王の娘と対面した時から。

私、その気になれば半径三kmまで離れた相手の魂を探知して、誰の魂なのかすぐに分かるよ?

魂から情報を抽出してね」

 

「それも神器(セイクリッド・ギア)の能力で?」

 

「うん、そうだよ」

 

俺の後ろに回って悠璃は腕を回してきた。

 

「だから―――いっくんが三k以内でどこの誰かと接しているのかすらも分かっちゃうんだよ?」

 

「・・・・・」

 

うわぁ・・・・・悠璃、今のは真面目に何て恐ろしい子なんだと思ってしまったぞ。

 

「だから、いっくんに害を与える存在も分かる。

私はそいつを探しだしてそいつの魂を抜き取って―――喰らうよ」

        

うふふふふ・・・・・と、暗い笑みを浮かべる俺の幼馴染兼妻。

 

「・・・・・できれば、俺の見えないところでそれをしないでくれよ?」

 

「ダメ?」

 

可愛く首を傾げる悠璃。うん、そんなことしてもダメだからな?

 

「ダメだ。まあ、それよりも話した通り、彼女のもう一つの魂を取り出したいんだ。

手伝ってくれるか?」

 

「うん、いっくんのお願いなら何だってする。私が嫌なこと以外ならね」

 

「お前が嫌がるようなことは絶対にしないさ。約束する」

 

「ふふっ、いっくんはやっぱり優しい♪」

 

嬉しそうにスリスリと俺の頬を擦りつける。こういう仕草は可愛いんだけど、悠璃さん。

先生がいるから離れようか。

 

「・・・・・ちくしょう。リア充爆発しやがれ!」

 

血の涙を流す先生。あー、独身だったのか。すいません、今後は場を弁えてイチャつきます。

 

―――○●○―――

 

それから午前と午後の授業は平穏に終わった。

下校の時間となり、俺たちはプリムラと合流を果たす。

ゾロゾロと殆ど女に囲まれての下校なので、周りから視線を感じつつも家に赴いている。

そして、家に辿り着いた俺の目にとある人物が俺の家の前に立っているのが映った。

その人物は俺に顔を向けると嬉しそうな顔をして手を上げた。

 

「久し振りだね、一誠」

 

―――白龍皇、ヴァーリ・ルシファー。

 

「久し振り、と言いたいところだけど何の用なんだ?

一応、幼馴染とはいえ俺とお前は敵同士なんだけどな」

 

だからほら、リアス・グレモリーたちが警戒しているから。

 

「うん、キミに伝えたいことがあってね。まあ、何の障害もないと思うけど一応は」

 

「それは嘘じゃないんだな?」

 

「私が一誠に嘘ついた事は一度もないよ。勿論、イリナだってそうだ」

 

ヴァーリは俺とイリナに視線を送ってくる。・・・・・それもそうだな。と、思って

「どういうことだ?」と尋ねれば、彼女は告げた。

 

「ディオドラ・アスタロトには気を付けてくれ」

 

「ディオドラですって?」

 

彼女の口から出たとある悪魔の名前にリアス・グレモリーが眉根を上げる。

とても怪訝ですとばかりに。

 

「ああ、最近私たち―――いや、この場合『禍の団(カオス・ブリゲード)』と通じたと言おう」

 

『―――っ!?』

 

明日、共に体育の授業をする上級生がテロリストになっていたなんてな。

・・・・・灯台下暗しとはこういうことか・・・・・。

 

「とはいえ、ディオドラ・アスタロトが『禍の団(カオス・ブリゲード)』に加わったという証拠は今の私の手には無い。だから、警告をしに来た。私の幼馴染たちにね。サーゼクス・グレモリーとアザゼルに言うなら過激なことを言わない方がいい」

 

ヴァーリは背中に青い翼を展開した。

 

「一誠の敵は私の敵だ。でも、一誠に敵わない敵なら私がどうこうしようとは思わない。

私の愛しい男は不動の存在だからね」

 

「心配してくれてありがとうな」

 

「ふふっ、当然だよ。キミは命の次に大切な男だからね。イリナは三番目だ」

 

「うん、私もそんな感じよ。ヴァーリ、いつかまた三人であの時のように遊びましょ?」

 

イリナの誘いに彼女は薄く笑って頷き、一瞬で俺たちの前から姿を消した。

 

「・・・・・ディオドラ・アスタロト」

 

「リアス、この事は理事長に告げたほうが良いかと思います」

 

「ええ、私もそう思うわ。それに、彼はアーシアを狙っているもの。

―――絶対にアーシアを渡さないわ」

 

おおう、リアス・グレモリーが静かに怒っているぞ。

というか、アーシア・アルジェントが狙われているってどういうこと?

 

「んー、調べる必要があるな」

 

「でも、どうやって?」

 

玄関に赴き、扉のドアノブを掴んだところでイリナに問われた。

 

「シーグヴァイラ・アガレスの眷属悪魔、杉並に調べてもらうさ」

 

ついでに、俺に迷惑をかけた報いを晴らす!

 

「ああ、そうだシア」

 

振りかえって栗毛の少女に声を掛けた。

「はい?」と何かな?と全身で伝えてくるリシアンサスに言った。

 

「家に戻ったらすぐ俺の部屋に来てくれ。お前がいないとできることができないからな」

 

「・・・・・そ、それって・・・・・」

 

途端に顔を赤くするリシアンサス。

 

「多分、お前が思っているようなことはしない」

 

「そ、そうっすか・・・・・」

 

ガクリと物凄く落ち込むなよ。寧ろ、お前の考えたのと同じぐらい嬉しいことをするんだからさ。

 

「それじゃあな」

 

「うん、分かったっす」

 

リシアンサスとネリネ、リコリスと別れ、俺たちは家の中に入った。

悠璃に視線を送って頷き合う。

 

「よろしくな」

 

「うん」

 

―――リシアンサスside

 

イッセーくんに呼ばれてしまった私は、自分の部屋で私服に着替えてすぐに玄関へ赴いた。

 

「ん?シア、どこか行くのか?」

 

「うん、お父さん。イッセーくんの家に遊びに行くの」

 

何時も浴衣を着込んでいる私のお父さん。

どうも頭の中では、日本は浴衣を着て過ごすってイメージらしく、

お父さんも浴衣を着て動きやすいと気に入っちゃっているから家でも外でも浴衣しか着ない。

少しぐらい、他の服に着替えて欲しいと思う娘の願いは届かないのでしょうか?

 

「おう、そうか。だったら―――俺も一誠殿の家に遊びに行くぜ!」

 

「え?お父さん!?」

 

勢いよく「一誠殿ぉっ!」と玄関の扉を開け放って行っちゃった!

慌てて私もイッセーくんの家に向かって「失礼します!」と家の中に入ったその直後。

 

「おや、シアちゃんじゃないか」

 

「お、おじさま?」

 

なんと、リンちゃんとリコリスちゃんのお父さんがいた。

私のお父さんもいて二人の前にはイッセーくんのメイド、リーラさんが出迎えていたようでした。

 

「いらっしゃいませ、シアさま。一誠さまがお待ちです。神王さまと魔王さまはしばらく

リビングキッチンでお待ちになられてください。すぐに一誠さまが顔をお出しになられますので」

 

「おう、分かったぜ」

 

「急に訪問してすまないね」

 

お父さんとおじさんは真っ直ぐリビングキッチンに向かった。

私はリーラさんに連れられてイッセーくんのところへ案内される。

 

「リーラさん、イッセーくんは?」

 

「お部屋におられます」

 

部屋に・・・・・もしかしてやっぱりイッセーくんは・・・・・あうう、こんなことなら

勝負下着を穿いて来るべきだったっす!

 

「シアさま、着きました」

 

―――っ!

 

何時の間にか私はイッセーくんの部屋の扉の前に案内されていた。

いざ、中に入ろうにも心臓がうるさいほど高鳴っていて、緊張しっぱなしっす。

これはもう期末試験以上のこと・・・・・!

 

ガチャ・・・・・。

 

でも、待たせる訳にはいかないので、ゆっくりとドアを開けた。

 

「おっ、来たか」

 

「・・・・・」

 

部屋の中に入ると、部屋に入った私をベッドに腰掛けて声を掛けるイッセーくんと

イッセーくんに抱きついている悠璃ちゃん、イッセーくんの膝に座っている

オーフィスちゃんがいた。

 

「さて、早速しようか」

 

「えっと・・・・・なにを?」

 

「決まっているだろう。―――お前の妹を一つの個体にするためだ」

 

―――っ!?

 

「悠璃、よろしく頼む」

 

「分かった」

 

イッセーくんの言葉に絶句した私を余所に悠璃ちゃんが立ち上がって私に近づく。

 

「嫌な感じがするだろうけど、我慢してね」

 

そう言いながら禍々しいオーラを両手に纏って―――。

 

―――ドスッ!

 

私の胸を躊躇もなく貫いた。

そこで、目の前が一気に真っ暗になって意識が遠のいたのだった―――。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode4

 

 

悠璃がリシアンサスの胸に腕で突き刺した光景を見て、俺は金色の錫杖を発現し能力を発動する。

無限創造龍の錫杖(インフィニティ・クリエイション・メーカー)』。能力は無限に創造することが可能な神滅具(ロンギヌス)

 

「いっくん。終わったよ」

 

俺の妻がそう告げる。彼女の両手には青白い球体。あれがリシアンサスの妹の魂か。

 

「気分はどうだ?というか、その状態で話せれるのかすら、分からないがな」

 

魂相手に喋りかける。反応は―――。

 

『・・・・・とても、変な気分だわ』

 

あった。しかもどうやら困惑中のようで。

 

「その気分はすぐになくなるさ」

 

シャラン―――。

 

「もう少し待っていろ。お前の体を創るからな」

 

錫杖を床に軽く突けると一瞬の閃光が生じた。この力は脳裏で思い浮かんだ俺の想像を抽出して

現世に発現する。俺の想う肉体は―――リシアンサスと同じ肉体。

 

カッ!

 

光の粒子が集束して次第に人の形を成していく。

しばらくすると、光が消失して―――俺の視界にリシアンサスと同じ肉体が完成していた。

その肉体を一瞥して悠璃に視線を送る。

彼女は俺の意図に理解して頷き、魂のない抜け殻の肉体に跪いた。

両手に収まっているリシアンサスの妹の魂をそっと、抜け殻の肉体の胸に置いた。

妹の魂は水の中に沈むように抜け殻の肉体の中へと消えていく。

 

「・・・どうだ?」

 

「うん・・・・・こんなことするのは初めてだけど―――無事に肉体と魂が一致した」

 

それを聞いて安堵の胸を撫で下ろす。

 

「う・・・・・」

 

どこからか呻き声が聞こえた。

そっちに顔を向けると、魂を抜かれた際に気を失ったリシアンサスが意識を取り戻していた。

 

「シア、気分はどうだ?」

 

「・・・・・イッセーくん?」

 

「ああ、俺だ」

 

リシアンサスに寄って跪き彼女の頭を撫でる。

 

「悪いな。痛かったか?」

 

「ううん、大丈夫。でも・・・・・どうしてこんなことをしたの?」

 

「―――妹を幸せになれるようにするため、と言おうか」

 

口の端を吊り上げ、リシアンサスを床に寝転がっている妹を視界に入れさせる。

 

「・・・・・私?」

 

「の、妹だ」

 

「―――――」

 

リシアンサスは恐る恐ると眠る自分の妹の顔を触れた。

 

「名前は―――キキョウだ」

 

「キ・・・・・キョ・・・・ウ」

 

「ユーストマという花があることを知ってな。

そこでリシアンサス、キキョウと名前が載っていたんだ。

神王の家族なら、この花の名前が一番だろうって思ってさ」

 

「私の妹・・・・・キキョウちゃん・・・・・」

 

ダメだったかな?と思ったが、どうやら満更でもなさそうだった。

 

「・・・・・う」

 

お、起きるか。リシアンサスの妹、名をキキョウの顔を覗きこめば、

重たそうに目蓋を開けて肉眼で俺を捉えた。

 

「おはよう」

 

「・・・・・おはよう」

 

「どうだ、自分の体の調子は。体を動かせれるか?」

 

そう問いかけると、彼女はゆっくりと上半身を起こして自分の体の調子を確かめ始めた。

 

「・・・ええ・・・・・手も足も、動かせれる」

 

「そうか、それは良かった。これでお前は一人の存在だキキョウ」

 

「・・・・・キキョウ?」

 

「ああ、キキョウだ。それがお前の名前だキキョウ」

 

笑みを浮かべてそう呼んだ。キキョウは、リシアンサスの妹は呆然と俺を見る。

 

「私は・・・・・キキョウ・・・・・」

 

何度も何度も自分の名を言い続けるそんな彼女に手を差し伸べる。

 

「キキョウ」

 

「キキョウちゃん」

 

リシアンサスも手を差し伸べる。

 

「・・・・・」

 

キキョウは俺とリシアンサスを見詰める。どう答えていいのから迷っているような感じだった。

だから言った。

 

「行くぞ。自分の父親に会いに」

 

残す問題は家族だ。それさえ解決できればキキョウは本当の家族となれる。

彼女の足と背中に腕を差しこんで持ち上げる。

 

「・・・・・へ?」

 

「くくくっ、忘れていないか?俺は悪魔が嫌いなんだ。

だから―――お前を恥ずかしい思いをさせることが楽しいんだよなぁ♪」

 

「―――――っ!?」

 

今の状況に気付き、急にジタバタを暴れ出した。

ははは、照れるなって。曰くお姫様だっこしたままキキョウと一緒に部屋から出て一階へ赴く。

 

「いいなーいいなー。キキョウちゃん、羨ましいっす」

 

「羨ましい・・・・・変わって」

 

「私は恥ずかしいわよ!ちょっと、いい加減に私を下ろしなさいよ!?」

 

「だが断る!」

 

そうこうしているうちにリビングキッチンに繋がる扉の前に辿り着いた。

翼で扉を開け放って中に入る。

そこには、神王ユーストマと魔王フォーベシイが酒を飲んで騒いでいた。

 

「って、なんであの二人がいんの?」

 

「ごめんっす」

 

「・・・・・分かった」

 

きっと便乗してきたんだろうな。

 

「おっ、一誠殿!遅いじゃねぇか、なにをして・・・・・」

 

ユーストマが俺たちに気付いて酔っぱらった表情で声を掛けるが、

腕の中に抱えているキキョウと隣に立っているリシアンサスが視界に映ったのか、

目が飛び出す程ユーストマは驚愕の色を浮かばせた。

 

「シ、シアが・・・・・二人・・・・・だとぉっ!?」

 

「ある意味そうだ。が、―――シアの妹と言えばユーストマは分かるだろう?」

 

「なっ!?」

 

「さて、親子会談をしようじゃないかユーストマ。

長年、会話もろくにできなかったシアの妹と向き合って話し合ってみろよ」

 

キキョウを下ろして背中を軽く叩く。行って来いと暗に伝えて。

それから彼女は一歩、また一歩とユーストマに近寄る。

ユーストマも立ち上がってキキョウに近づく。

 

「「・・・・・」」

 

二人はなんともいえない雰囲気を漂わせて気まずそうに対峙する。

 

「・・・・・お前、名前はなんて言うんだ?」

 

「・・・・・キキョウよ」

 

「キキョウ・・・・・そうか」

 

途端にバツ悪そうに顔を曇らせる。すると、いきなり―――ユーストマは土下座をした。

 

「すまん!」

 

キキョウに対して真摯に謝罪の言葉を言い放った。

 

「お前には辛い思いを、寂しい思いをさせちまった。

天界の神王の立場として俺は、苦渋の決断を強いられあんな結果にしてしまった。

あれ以来、俺は深く後悔している。本当ならお前を俺のもう一人の娘として接したかった」

 

そこでユーストマは顔を上げてキキョウを見上げた。

 

「だが、今さら俺が謝ったところでお前は許さないだろう。

いや、それでも構わない。俺を恨んでもいい、憎んでもいい。

俺は親として最低のことをしたんだ。お前に父さんと呼んでもらう資格なんてない」

 

懺悔の如くキキョウに対して言い続ける。

神王としてじゃなく、一人の父親としてキキョウに独白する。

 

「・・・・・」

 

キキョウは静かに見下ろす。心中どんな想いを抱いているのか定かではないが、

しばらく様子を見守っていると「はあ・・・・・」とキキョウが溜息を吐きだした。

 

「で、言いたいことはそれだけ?」

 

「・・・・・」

 

「それだけなら今度は私から言いたいことを言わせてもらうわよ」

 

彼女は腕を組んでユーストマを見下ろしたままの状態で口を開く。

 

「最初に言うわ。別にあんたのことなんて恨んでも憎んでもいないわ」

 

「・・・・・はっ?」

 

「だって、私にはシアがいたもの。そんなシアにあんたは深い愛情を向けて接して育てていた。

父親としてはいいほうなんじゃないの?度が過ぎるところもあったけどね。

それに神王の立場も一応理解しているつもりよ。

じゃなきゃ、あんたは堕天使として生活しないといけなくなるもんね?元天界の軍神さん」

 

軍神?へぇ、ユーストマって二つ名があったんだ。知らんかったな。

 

「シアが幸せであれば私はそれで良かった。だけど、シアはそうじゃなかった。

私も幸せになって欲しいと願っていた。私はそんなこと思わなくてもいいと思っていた。

シアが幸せに生きれるなら私はそれでいいと思っていたから。

でも、そんな時。私はシアの体を借りて外に出歩いていたら兵藤一誠と出会った」

 

「っ!?」

 

「彼は言ったわ。『シア、お前とお前の妹のことは俺が何とかしてみる。

お前の妹が自分の足で地面に立ち、シアの隣に立って、一緒に未来へ歩けれるように

俺が何とかしてみせる。それまで待っていてくれるか?』・・・・・って」

 

俺に一瞥してユーストマに視線を戻したキキョウ。

 

「兵藤一誠は約束を守ってくれた。私を一人のヒトとしてシアの隣に立たせてくれた」

 

だから―――、

 

「私はあなたを恨みも憎みもしない。私を生んでくれた父親に、父さんにそんな感情を

持たないことにしているんだからね」

 

「―――――っ!?」

 

ユーストマの目が大きく見開いた。信じられない、とばかりキキョウを凝視した。

 

「まあ・・・・・そう言うわけよ」

 

キキョウは気恥ずかしそうにユーストマから顔を逸らしたのだった。

 

「・・・・・よろしく、お父さん」

 

「・・・・・」

 

お父さんと呼ばれたユーストマ。一拍した時。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」

 

神王ユーストマが男泣きした。そして、立ち上がって勢いよくキキョウを抱きしめた。

 

「すまねぇ、すまねぇキキョウ!お前に愛情を注げれなかった分、

愛情を籠めて育ててやるからなぁっ!」

 

「ちょっ、暑苦しいし涙と鼻水が汚いわよッ!」

 

「キキョウ!キキョウ!キキョウ!キキョオオオオウッ!」

 

あー、あれを邪魔するのって野暮だよな。

と、思いながら―――リシアンサスの背中に回って手を添えた。

 

「はい?」

 

「お前も混ざってやれ」

 

ユーストマとキキョウに向かって押した。リシアンサスは俺に押されて、二人の傍に。

 

ガシッ!

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!」

 

号泣し続けるユーストマの剛腕に妹共々と父親の抱擁によって身動きが取れなくなった。

 

「お、お父さん!嬉しいのは分かるけど大声で泣かないで!」

 

「いい加減に放しなさいよ!」

 

うん、やっぱりあいつは情愛というより家族愛が深いな。

 

「(・・・・・家族か)」

 

俺にも家族がいる。でも、血の繋がった家族はすでにこの世にはいない。

なんだか、あの三人を見ていると羨ましくなったな。

 

「・・・・・悠璃、お願いがある」

 

「なに?」

 

「部屋で俺を抱きしめてくれるか?」

 

言ってすぐ、気恥ずかしくなって顔を逸らした。悠璃は俺のお願いに嬉しそうに笑んだ。

 

「・・・・・ふふっ、可愛いねいっくん。うん、いいよ。昔のように楼羅と抱き合おうっか」

 

「ああ・・・・・あの時のように三人で寝よう」

 

「うん」

 

それから俺たちはリビングキッチンからいなくなって―――俺は悠璃と楼羅と抱き合いながら

夕食の時間まで過ごしたのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode5

 

Boss×Boss

 

 

「サーゼクス、どうするんだ?リアスから聞いたんだろ?

ディオドラ・アスタロトがテロリストと通じていると」

 

「聞いたさ。だが、何の証拠も無しに動くことはできない。

調査してからだとどうしても我々は後手になる」

 

「たくっ、なんだって次期アスタロト家当主の若造がテロリストと手を組んだのか

理解できねぇよ」

 

「だから、今は情報を収集させてもらっている」

 

「ん?誰にだよ?」

 

「―――駒王学園一、情報収集に長けた生徒にだよ」

 

「ふーん。だが、あいつらと一戦交えるとは思えないがな。次期人王決定戦で見せてくれた

あいつらの実力を見てどいつもこいつも戦う気が失せたんじゃねぇか?」

 

「それはそれで構わない。何かしらのトラブルが起きない方が私は好ましい」

 

「そいつについては同感だ。しかし、ヴァーリもヴァーリだ。

好きな男に情報を提供するなんてどういうことだよ」

 

「ふふっ、彼女がイッセーくんを愛しているからではないか?

アザゼルもそろそろ身を固めたらどうだ?」

 

「嫌だね。俺は趣味に生きる男だ。・・・・・お、女なんていくらでもいる!」

 

「そうだな。そういうことにしておこう。

―――さて、情報が入り次第、こちらも動くとしようか」

 

「ああ、証拠が上がったら根掘り葉掘り吐いてもらうぜ」

 

 

―――二年S組

 

 

「清楚、俺たちの授業の相手は受ける気でいるのか?」

 

「まだ分からない。体育の授業が始まる前に棄権宣言をしないといけないから」

 

「そうか、相手が相手だからな。どんな手を使ってくるか分かったもんじゃない」

 

「そうですね。彼女の話を聞いたら警戒せずにはいられません」

 

「でも、本当なのかな。あの話は」

 

「ヴァーリは嘘は吐かないわ!だから、あの話は本当だと私は思うの!」

 

うん、俺もそう思っているからこそ、龍牙のように警戒せずにはいられない。

 

「体育の授業は三限目か。意外と早いな」

 

ゼノヴィアが顎に手をやって時刻表を見て呟く。

 

「相手が棄権することを願うわ」

 

ウンウンとイリナが無意味な争いは避けたいと願った。それについては同意だな。

 

「まっ、相手が授業を受ける気なら俺たちは倒すまでだ」

 

ガラッ。

 

「葉桜清楚さんはいますか?」

 

「はい?」

 

不意に清楚を呼ぶ声が聞こえた。清楚も反応して体ごと声がした方へ向いた。

俺も声がした方向に振り向けば、見知らぬ男子生徒がいた。

 

「―――ディオドラ・アスタロト」

 

「・・・・・あいつがか?」

 

一見、優しげな表情の少年だ。しかし、和樹が目元を細めて悪魔であることを告げた。

 

「あの、私に何か用ですか?それに上級生とはいえ、Sクラスに訪れてはいけませんよ?

校則を守ってください」

 

「申し訳ない。どうしても伝えたいことがあったので規則を破る承知の上で来ました」

 

ディオドラ・アスタロトは笑みを浮かべたまま教室に入って来て俺たちに近づいてきた。

 

「伝えたいこととはなんででしょうか?」

 

「ええ、体育の授業の件です」

 

「・・・それなら、体育の授業の時に仰ればいいのではないでしょうか?」

 

「いえ、それだと遅れてしまうので早めにお伝えしたかったのです。単刀直入に言います。

―――体育の授業を棄権してください」

 

・・・・・へぇ、棄権を言いに来たってことか。俺たちに棄権するよう言いに・・・・・。

 

「いきなり何を言い出すんですか?それを決めるのはこのクラスの委員長である私の意志です」

 

「でも、真龍と龍神の使用を禁じられて戦力が激減したんだよね?」

 

「それでも、私たちは棄権する気は毛頭もないです」

 

というより、あの二人がいなくても大抵の奴らを倒せる。

 

「棄権をする気はないんだね?」

 

「ありません」

 

キッパリと言い放った清楚。彼女だけじゃない。

他の皆も棄権する気はないと、視線で伝えている。

 

「そう・・・・・僕は戦いは好きじゃないから警告しに来たんだけどね。分かった。

それがキミの意志と言うなら、僕はキミたちを殺すつもりで挑むよ?

何せ、そのぐらいの気持ちでやらないと勝てない相手だからね」

 

笑みを浮かべたまま踵を返した。・・・・・そう言えば、リアス・グレモリーが気になることを

言っていたな。―――ちょいと、揺らしてみるか?

 

「ああ、そのぐらいの気持ちで来てくれ。

じゃないと―――俺の愛しいアーシアが一生懸命応援するし甲斐がないからな」

 

『え?』

 

「・・・・・」

 

皆が唖然とする余所にディオドラ・アスタロトの足が停まった。

 

「アーシアも俺の家族の一員だ。だから、あの綺麗な声で応援されると俄然やる気が

出てくるというもんだ。可愛い俺のアーシアは俺の体に傷を付けるぐらいの実力を持った

男じゃないと渡す気がない。今は赤龍帝のところに預けてもらっているけど、

いずれは俺の家に住まわせて可愛がってやろう。まだ、彼女は処女だしな

。―――調教という名の行いをヤリ甲斐があるというもんだぜ?」

 

不敵の笑みを浮かべたままディオドラ・アスタロトにそう言ってやった。

対してあいつはクルリとこっちに振り返って歩を運びだしては俺の前に佇んだ。

 

「その話は本当かな?」

 

「どの辺りの話かな?まあ、あながち嘘じゃないけどな」

 

「・・・・・なるほど・・・・・僕のアーシアを狙う輩はここにいたということか。

なら、キミを倒してアーシアを貰おう」

 

「負ける気はないからよろしくな」

 

俺がそう言うとまた踵を返して今度こそ教室から出て言ったディオドラ・アスタロト。

―――そんなあいつに溜息を吐いて一言。

 

「―――あいつ、バカだろう。嘘なのに」

 

『嘘だったの!?』

 

皆に突っ込まれた。え、お前ら信じていたのかよ?そんな気持ちを抱き皆を見渡せば。

 

「本当にそうなのかと思った」

 

「ええ、一誠さんですから本当のことかと思いましたよ」

 

「また、ライバルが増えたのかと思った」

 

「イッセーは女たらし―――って、痛い痛い!頭をグリグリすんのは止めてくれ!」

 

うん、お前ら・・・俺のことを心の中でどう思っていたのか何となく理解したぞ。

カリンの頭に何度もねじり込むように動かしていた拳を放して言った。

 

「アーシア・アルジェントを狙っているって話をリアス・グレモリーから聞いていた。

だから本当なのか確かめただけだ。案の定、あいつは反応してきた。本当に狙っていたんだな」

 

「・・・・・というと、彼女が処女って話も嘘だってこと?」

 

「それは本当なんじゃないか?成神のやつが彼女を襲う度胸なんてなさそうだし、

甲斐性がなさそうだから襲うなんてことはしないだろうよ」

 

「うわ・・・・・相手を心から本当だと思わせるなんて、

キミは詐欺師に向いているんじゃないの?」

 

「あいつがただ単純だったから嘘だと気付かずに反応してきただけだ」

 

呆れているとばかり息を吐く。まあ、でも。

これで向こうは授業を受けるという事実を知った。後は相手を倒すだけが俺たちの仕事だ。

 

―――○●○―――

 

それから体育の授業の時間に近づいた。何時も通り体育館にやって来て教師の介入によって、

俺たちは相手の委員長ことディオドラ・アスタロトと十五人の上級生と同時に転移用魔方陣で

専用のフィールド、異空間に転移された。

 

「・・・・・着いたのか?」

 

魔方陣の眩い輝きから視力が回復し、目を開けて見ると―――。そこは

だだっ広い場所だった。一定間隔で太い柱が立って並んでいる。床は石造りだ。

周囲を見渡すと、後方に巨大な神殿の入口。ギリシャ辺りにありそうな神殿風景だな。

・・・・・だが、

 

「え・・・?学校じゃない?」

 

「体育の授業は学校を模した異空間でしかやらないと聞いていましたが」

 

「今までの体育の授業とは違う・・・・・」

 

学校側が新しく変えたのか?と、俺たちの中で疑問が尽きないでいたら―――。

 

カッ!

 

神殿と逆方向に魔方陣が出現する。・・・・・ディオドラか?まさか、今度は間近で合戦か?

と思ったが―――違った。魔方陣は一つだけじゃなく、

さらに次々と俺たちを囲むように魔方陣が出現していく。

 

「―――おいおい、こいつは、どういうことだよ?」

 

「―――まさか!?」

 

「―――そんな・・・・・!」

 

魔方陣すべて共通性はない。様々な紋様の魔方陣が出現して、魔方陣の光と共に

現れたのは―――大勢の悪魔たち。全員、敵意、殺意を漂わせながらのご登場だった。

俺たちを囲んで激しく睨んでくる。その数はざっと軽く百は超えている。

辺り一面悪魔の団体さまのご到着状態だった。

 

「兵藤家と式森家の者、兵藤一誠、兵藤悠璃、兵藤楼羅、式森和樹。

ここで貴様らを殺してくれる」

 

囲む悪魔の一人が俺たち四人に挑戦的な物言いをする。

やっぱり、三大勢力戦争に割り込んで人間たちによって通と半端な形で戦争を終わらせたことが

不満のようだ。その原因が兵藤家と式森家というわけだけどさ。

 

「和樹、どうするよ?俺たちってはた迷惑な状況下にいるようだぞ」

 

「本当だね。僕たちが兵藤家と式森家に生まれた存在だからって、

あの時の戦争に関与していない僕たち自身に八つ当たりみたいに攻撃してくる人ははた迷惑だよ」

 

「というか、こいつらが現れた時点で授業は中止だな」

 

「そうだね。招かざる客が来たんじゃ、しょうがないよ

 

和樹と共に肩を竦め、苦笑を浮かべる。

 

「―――テロリストなら、思う存分に殺してもいいよな?」

 

敵意と殺意を瞳に宿し、臨戦態勢に入る。

―――と、俺たちの目の前に新たな魔方陣が複数も出現した。魔方陣から現れたのは―――。

ディオドラ・アスタロトと上級生の先輩たちだった。―――捕まっていたのかよ。

 

「この者たちを死なせたくなければ、大人しくしているんだな」

 

「・・・・・最悪・・・・・」

 

嘲笑の笑みを浮かべる一人の悪魔。うん、よくある王道的なシーンじゃないか。

 

「・・・・・一誠くん、どうしよう」

 

「ディオドラの奴はどうでもいいとして、他の上級生の先輩方は何とか助けたいところだなぁ」

 

声を殺して皆と会話する。

 

「でも、仲間ではないんですか?」

 

「私たちを油断させる罠か、それとも利用されているだけかの二つの選択だと思う」

 

「ええ、私もそう思うわ」

 

視界に悪魔たちが幾重の魔方陣を展開した。おおう、マジで俺たちを殺す気か。

 

「―――ここで散れ!」

 

刹那―――。何千という魔力弾が俺たちに迫った。

まるで、流星のようだと思わず「綺麗だな」と呟いた。

 

パチンッ!

 

和樹が指を弾き、鳴らすまでは。

バシュンッ!と音がしたかと思えば、俺たちに迫る魔力弾全てが消失した。

 

「あれ、指を弾いたら魔力が消えちゃった。―――弱いね。あなたたちの魔力は」

 

「な、なんだと・・・・・!」

 

「それと悠長に僕たちを囲む暇があったらさっさと攻撃すれば良かったのに。

もう、あなたたちは魔力は使えないよ?」

 

カッ!

 

俺たちの足元に魔方陣が展開した。とても、とても大きく巨大で広大な魔方陣。

『真魔王派』全員の足元にまで広がっているんじゃないか?と思うほど

大きい魔方陣が出現して『真魔王派』の全身に光が包んだ。

 

「おのれ!」

 

一人の悪魔が倒される前に攻撃しようと俺たちに腕を伸ばして手の平を向けてきた。

―――それだけだ。魔力が放たれる様子はなく、自分から魔力が出ないことに悪魔が目を見開いた。

 

「こ、これは・・・!?」

 

「この魔方陣はね?この魔方陣の光に触れて全身に包まれたら最後、

僕を倒さない限りあなたたちは一生、魔力が使えない状態になるんだ」

 

『っ!?』

 

「いまのあなたたちの状態は魔法、魔力が使えないただの人間に等しい存在でしか無い。

つまり―――あなたたちは詰んだ状態だよ」

 

ニッコリと和樹は笑みを浮かべた。こいつ・・・こんな魔法の力を・・・・・。

 

「さて、先輩方を放してもらいましょうか?いや、この際だ。―――全員纏めて僕が倒すよ」

 

その瞬間、俺たちの上空にまたもや巨大な魔方陣が展開した。あの魔方陣は―――!

 

「あの魔方陣は相手が持つ魔力に反応する。

そう、僕が指定した者の魔力を激しく乱して魔力を暴発させてね♪」

 

一拍して、ディオドラ・アスタロトと十五人の上級生たちを除いて

『真魔王派』だけが激しく乱れた魔力に堪えかね―――内側から暴発した。

 

「お前・・・・・俺より強いんじゃないのか?」

 

「僕の魔法は魔力に関しての攻撃。だから、魔力がない人には絶対に効かないんだ。

例を上げれば、川神百代さんのような人には効かないってことだよ」

 

それでも、俺には通用する魔法だぞそれ。地面と上空に出現している魔方陣は消え、

俺たちは警戒を解いた。ディオドラ・アスタロトたちを見れば、こっちに近づいてきた。

 

「ありがとう、おかげで助かったよ」

 

「どう致しまして。それにしても災難でしたね、テロリストに捕まってしまうなんて」

 

「相手の方が数が多くて抵抗のしようにも数の暴力では勝てなかった」

 

無謀にも等しい。誰もが当然だと感じるだろう。

 

「でもま、終わったことだ。学校に戻ろう。和樹、できるか?」

 

「うん、ちょっと待ってて・・・・・」

 

と、和樹が言った直後。顔の表情が険しくなった。

 

「・・・・・かなり強力な結界に僕たちは閉じ込められているみたいだね。このフィールド」

 

「なんだと?」

 

「学校に戻せても精々10人がやっとだ。こんな強力な結界を作り出す魔法使いは一体誰だ?」

 

あの和樹でさえも困難な結界に覆われているってか。―――一人だけこんなことできる奴がいるけどな。

 

「・・・・・『英雄派』のゲオルグだろう。

あいつの『神滅具(ロンギヌス)』の能力で俺たちは閉じ込められていると思った方がいい」

 

「ああ、彼か。なるほどね。納得できるよ」

 

和樹も納得した。和樹も認めるほどの魔法使いということだ。

それに、強くしちゃったからな・・・。

 

「取り敢えず、和樹に力の譲渡すればもっと増えるんだろ?」

 

左手に赤い籠手を装着して能力を発動する。

 

「うん、多分ね」

 

コクリと頷いて足元に転移用魔方陣を展開した。しばらくして溜めた力を和樹に譲渡した。

 

「どうだ?」

 

「・・・・・うん、いける。全員ってわけにはいかないけど、

僕とあと二、三人ぐらい残して殆どの皆を転移できる」

 

「そうか、なら俺は次元の狭間に出て学校に向か―――」

 

―――ドスッ!

 

「・・・・・」

 

「え・・・・・・」

 

俺の体に衝撃が走った。目の前にいる和樹の目が丸くなっていた。

下に目線を向ければ、俺の血で濡れた刃が胸から顔を出していた。

 

「―――これで、アーシアは僕の物だ。そう認識していいよね?」

 

背後にいたディオドラ・アスタロトの声を聞いた瞬間に、

 

ドサッ・・・・・。

 

体から力が入らなくなって地面に倒れてしまった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode6

 

 

―――アザゼルside

 

 

「やろう―――!」

 

RG(レーティングゲーム)を応用した異空間でのあいつらの様子を見て怒りを覚えた。

やつらの授業に『真魔王派』の連中が乱入するとは思いもしなかったが、

あっさりと終わらせたことに拍子抜けと思っていた矢先に兵藤一誠が背後から刺されて倒れた。

 

「やはり・・・彼は『禍の団(カオス・ブリゲード)』と繋がっていたようだな」

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

それだけじゃねぇ、今現在この学校はテロリストに襲撃されている。

奴らめ、四種交流の象徴の代表的なこの学校を破壊するために現れたってことか!?

 

「生徒の皆さんは慌てず、体育館に避難してください!繰り返します。

生徒の皆さんは慌てず体育館へ避難をしてください!」

 

俺たちがいる場所は放送室。だからデイジーとサーゼクスと一緒に

あいつらの様子を見ていることができるが、まさか・・・こんなことになろうとはよ!

 

「・・・・・リアスたちは今頃。体育館に言っていると思うかね?」

 

「はっ、あいつらが大人しくするわけねぇだろ。

良くも悪くも首を突っ込んでしまうお前の妹なんだからよ」

 

「ふ・・・そうだね。デイジー、私と変わってくれ」

 

「は、はい」

 

サーゼクスはマイクに顔を寄せて口を開いた。

 

「私は理事長のサーゼクス・グレモリーだ。今現在、この学校はテロリストに襲撃されている。

全校生徒及び教師たちがパニックに陥ていることを重々承知して言わせてもらう。

―――戦えるものは仲間と共にテロリストを倒してほしい。

非戦闘員は速やかに落ち着いて体育館へ避難を。あそこは魔力に対する抵抗が強い。

なにせ、式森家の者たちが体育館だけでなく、この学校全体に非常時の時、

防壁魔法を発動するように施してくれている。

なので、敵の攻撃が直撃しても激しい振動だけしか伝わらない。

キミたちに被害は一切ない。もう一度言う。戦える者はテロリストを倒してほしい。

非戦闘員は速やかに体育館へ。以上だ」

 

それだけ言ってサーゼクスは放送室を後にしようとする。そんなあいつを呼び止めて

「前線に行くのか?」と尋ねれば、

 

「理事長の私が何もしないわけにはいかないだろう?アザゼルは彼女を守ってやってくれ」

 

俺にそう言い残し、放送室からいなくなった。

 

「・・・・・あいつ、怒っていやがったな」

 

「え、理事長がですか・・・・・?」

 

「ああ、平常心でいようが、瞳の奥に怒りの炎が燃えていた。

兵藤一誠の事と学校の襲撃のことだろうな」

 

「・・・・・イッセーくん」

 

娘っ子がバトルフィールドを映した立体映像を見た。そこには―――。

 

「―――なんだと」

 

信じられないものを見る目で呟く。どうしてだ、どうしてあいつらがいる―――!?

 

「クソが!ふざけんじゃねぇぞおい!」

 

ここから動くことができない自分に苛立ち、拳を壁に殴って物に当たるしかできない。

あいつら、無事に戻って来てくれ・・・・・っ!

 

 

―――和樹side

 

 

―――目の前で、一誠は刺されて倒れた。

僕、式森和樹は信じられないものを見る目で地面に横たわる一誠を見据える。

 

「ふふふふふっ、これで、これでアーシアは僕の物だ」

 

不気味に笑みを浮かべる一誠が倒れた元凶のディオドラ・アスタロト。

彼を慕う彼女たちが一誠に近寄って安否を確かめる最中、

僕と龍牙はディオドラ・アスタロトを激しく睨む。

 

「あなた・・・・・自分が何をしたのか分かっているのですか?」

 

「分かっているとも。彼を傷つけた。そして僕はアーシアを手に入れたんだ」

 

「傷つけるだけで重傷を負わす程のことをしなくてもいいんじゃないのかな」

 

「その必要はあるよ。なにせ、そいつは僕にとっても邪魔な存在だからね」

 

邪魔な存在だって・・・?

 

「兵藤一誠が魔王になったら、悪魔の僕たちは魔王となった人間に納得できるわけ

ないじゃないか。人間が魔王だって?バカバカしい。

上級悪魔である僕がどうして人間の下で生きて行かないとダメなんだよ?

腹立たしくてしょうがない」

 

そうか・・・・・一誠は魔王の娘であるネリネとリコリスと婚約者だ。人間が魔王だなんて、

冥界や人間界に住んでいる悪魔たちはどう思っているのか。今まで思いもしなかった。

 

「僕だけがこんな気持ちを抱いていないよ。

学校にいる悪魔や冥界、人間界にいる悪魔たちもきっと心の中では

兵藤一誠のことを認めていない。

でも、次期人王となってしまったからには手も足も出せなくなった。

―――なら、どうすればいいと思う?」

 

ディオドラ・アスタロトが僕たちに尋ねる。あいつの問いに僕は目元を細めて

「何が言いたい」と視線で伝えると、

 

「テロリストに殺されればいいんだよ」

 

―――っ!

 

笑みを浮かべてハッキリと、とんでもない言葉を発した。

 

「―――そのテロリストとはあなたのことですね?」

 

「おや、面白い冗談を言うね。僕はゲームのルールに則って彼を倒しただけじゃないか?」

 

「屁理屈を、『真魔王派』が現れた時点で授業は中止ですよ。

あなたがした行為は立派な犯罪です」

 

怒気を声に含む龍牙。僕は尻目で一誠を見れば・・・カリンちゃんが魔法で一誠を癒していた。

 

「僕が犯罪者・・・・・?」

 

不思議そうにディオドラ・アスタロトは首を傾げる。

その言動に怒りがピークに達しそうだよ・・・っ!

 

カッ!

 

その時、この場に複数の魔方陣が展開した。誰だ、見たことのない魔方陣の紋様だ。

―――魔方陣の光と共に現れたのは数人の男女だ。一人は貴族服を身に包んでいる男、

もう一人は軽鎧(ライト・アーマー)を身に付け、マントも羽織っていた。

 

「ほう、兵藤一誠が重症のようだな」

 

「だが、殺しきれていなかったようだな」

 

その二人が一誠の様子を見て、淡々と言うが、嘲笑を浮かべた態度だった。

 

「「「・・・・・」」」

 

残りの四人、腰まで伸びた赤と黒が入り混じった髪の女性と眼鏡を掛け金髪を後に撫でた

クールそうな男性。もう一人は灰色の揉み上げが長く、背中にまで髪が伸びていて、

両手に装飾が凝った銃を持ってる男性。最後の一人は上半身が裸で至るところに傷跡がある

サイラオーグさんのような筋肉質の男性だった。

 

「やあ、来たんだね?」

 

「貴様がヘマをしないか様子を見に来ただけだ。

が、どうやら好ましい状況になっているようだな」

 

「エージェントの皆さんは一瞬で倒されたけどね」

 

・・・・・ディオドラ・アスタロトが余裕でいられるのはあの六人の存在がいるからか。

 

「さて、僕の役目はここで終わりだ。僕は一足早く帰らせてもらうよ?

キミたちは彼らに殺されるといいさ」

 

「お前・・・・・・!」

 

転移用魔方陣を展開するディオドラ・アスタロト。

そんなあいつの行動を許そうともせず、魔方陣を展開した。

 

―――ドッ!

 

「・・・・・はっ?」

 

ディオドラ・アスタロトの両腕が地面に落ちた。―――一体何が?

 

「―――てめぇ、人の獲物を横取りすんじゃねぇよ。そいつはその代償とさせてもらったぜ」

 

赤と黒が入り混じった長髪の女性が、両手にある光の剣を振り切った状態で言った。

その直後、両腕を両断されたディオドラ・アスタロトが絶叫した。

そして、信じられないと女性に振り返って、

 

「お前なにをするんだ!?僕たちは味方じゃないか!」

 

「はっ?味方だ?誰と誰がよ?」

 

「なっ―――!?」

 

ディオドラ・アスタロトが彼女の言葉に耳をした途端に絶句した。

 

「俺が、俺たちがいつ、お前と味方だと言ったよ?所詮は力がないくせに、

オーフィスにも愛想疲れて現魔王を打倒と目論んでいる烏合の衆ばかりの集団じゃねぇか」

 

不敵の笑みを浮かべる女性は光の剣をディオドラ・アスタロトに突き付けた。

 

「俺たちがここにいるのはお前を助けに来たわけじゃない。そいつ、兵藤一誠を見に来ただけだ」

 

なんだ・・・・・彼女たちはテロリストじゃないのか?目的は一誠・・・?何者なんだ?

 

「口を慎めよ堕天使の女。それ以上の暴言は如何にお前でも許しがたいぞ」

 

「はっ!俺たちは『英雄派』に近づいて神器(セイクリッド・ギア)を調べさせてもらったり

神器(セイクリッド・ギア)を頂戴できればそれで満足なんだよ。

禍の団(カオス・ブリゲード)』に参加したのもそれが理由だぜ。

最初から『真魔王派』に協力した覚えはないぜ?

シャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウス」

 

ベルゼブブにアスモデウス・・・・・!?

じゃあ、あの二人は現魔王ベルゼブブとアスモデウスの―――!?

 

「ち、ちくしょう・・・・・っ!」

 

ディオドラ・アスタロトが魔方陣の光と共に姿を暗ました。あっ、しまった!

 

「さて、物は序でだ。兵藤一誠の神滅具(ロンギヌス)を貰おうか」

 

―――バサッ!

 

「「なっ!?」」

 

彼女の背中に生えた者を見て僕と龍牙は絶句した。黒い、黒い六対十二枚の翼。

その翼はまさしく堕天使の象徴とも言える翼だった。

 

「アザゼル先生と同じ翼と数・・・・・」

 

「ああ、何か知んないけどアザゼルが教師をやっていたんだな?

似合わねぇーと思ったぜ?はははっ!」

 

「あなたは一体・・・・・」

 

彼女を尋ねる。そして、何故か知らないけど嫌な予感がしてしょうがないんだ。

 

「お前、式森和樹だったっけ?んじゃ、兵藤家の兵藤一誠のことを知っているよな?」

 

「一誠のこと?一体何のことだ?」

 

「ははは、なんだ。言っていないのか?んー、例えばそうだな。

―――父さんと母さんを殺した堕天使と悪魔に復讐をするんだ、

俺は悪魔と堕天使が嫌いなんだ、とかさ」

 

―――っ!!!!!

 

堕天使の女性から信じられない衝撃の言葉を発した。

それは、一誠がよく悪魔と堕天使に対していう言葉と同じだったからだ。

どうして、なんで、彼女が知っているんだ?

 

「どうして知っているんだ?って顔だな?」

 

「・・・・・正直、一誠がそんな事を言うのは彼を接している者しか知らないことだよ」

 

「だろうな。俺たちも兵藤一誠と昔だが会ったことがある。―――一度だけだけどな」

 

一度だけ会った?一誠と彼女たちが?一体どこで・・・・・。

 

「―――いっくん!」

 

「っ!?」

 

悠璃の歓喜の声に振りかえった。そこにはカリンの魔法で傷が完全に治って目を開けた一誠。

 

「・・・・・」

 

一誠は自分を心配する彼女たちに目を呉れず、真っ直ぐ―――堕天使の女性に視線を向けていた。

 

「おっ、目が覚めたか?―――ガキ」

 

「・・・お前は・・・・・」

 

「はははははっ!久し振りだなぁ?実に十年振りか?」

 

久し振り?十年振り・・・・・?・・・・・・っ!?

 

「まさか・・・・・」

 

脳裏にとある答えが過った。一誠が復讐したい悪魔と堕天使。

それは十年前に両親を殺したという女の堕天使と男の二人の悪魔。その三人が―――。

 

「ヴァン・・・・・シャガ・・・・・シャーリ・・・・・・」

 

ポツポツと、小さく確かめるように一誠が唇を動かした。

彼から発せられた言葉を聞き、堕天使の女と二人の男が口の端を吊り上げた。

 

「俺の名前を十年間も覚えていたのか?嬉しいなぁ」

 

「当然だろう。俺たちは兵藤一誠の両親を、兵藤誠と兵藤一香を殺したのだからな」

 

「感動の再会とは、ほど遠いだろうな。

―――見ろ、兵藤一誠の瞳に憎しみと憎悪、殺意が籠りだしたぞ」

 

っ!?

 

彼女たちは隠すこともなく肯定と喋り出した。

まさか・・・本当に一誠の両親を殺した三人だというのか!

 

「―――――ようやく、見つけれた」

 

その言葉に僕は一誠へ振り向く。体を起こして完全に立ち上がり、真っ直ぐ三人に瞳を向けて

凝視する。目を大きく見開いて三人の姿を焼きつけるかのようにしている。

 

「ようやく、ようやく見つけれた」

 

「一誠・・・くん・・・・・?」

 

「俺の、俺の生き甲斐である復讐をしたい三人が目の前にいる・・・・・」

 

一歩、また一歩と三人に向かって歩み寄る。―――全身に禍々しいオーラを纏いだして。

 

「よくも・・・・・よくも父さんと母さんを・・・・・・」

 

次の瞬間。

 

「殺したなぁぁああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」

 

ドッ!オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

一瞬で一誠が禍々しいオーラに包まれた!こ、このオーラは・・・・・ッ!?

 

「GYEEEEEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAEEEEEEEEEEEEAAAAAAAAAAAAAッ!!!」

 

ドス黒いオーラが膨張して一気に大きくなり、一誠は―――三つの首を生やす禍々しい龍へと

変貌した!僕たちは今の一誠の状態は危険だと察知し、遠くに離れて非難した。

 

『殺すッ!今この場でお前らを、貴様らを殺してやる!喰い殺してやるぞ!』

 

一誠―――ッ!

 

「はっはっー!『魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)』アジ・ダハーカの姿かよ!

いいぜ、いいぜ!倒し甲斐が、殺し甲斐があるってもんだぜ!」

 

「相手は不死の邪龍だ。伝承通りならば、厄介この上にない」

 

「相手は()る気まんまんだけどな。まあ、やるしかないだろう」

 

堕天使と悪魔の三人の男女は攻撃態勢になった。

逆にシャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウスは敵わないと理解したのか、

早々に転移魔方陣で逃げた。残りの一人は―――拳を構え出した。あのヒトも戦う気だ!

 

「一誠くん・・・・・」

 

「イッセー、お前は・・・・・」

 

「いっくん・・・・・」

 

僕たちはただ、復讐を果たさんと堕天使と悪魔たちに攻撃を始める一誠を

見守ることしかできないのか・・・・・。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode7

 

―――リアスside

 

 

「吹き飛びなさいっ!」

 

滅びの魔力の質を変え、学校を襲撃してくる『真魔王派』に攻撃する。

魔力を巨大な手に具現化にして、私を囲む敵に振るって薙ぎ払う。

でも、薙ぎ払った敵は消滅の魔力の手によって次々と姿を消していく。

質を変えていないから滅びの魔力によって敵は文字通り消えるのだから。

 

「おのれ、リアス・グレモリー!」

 

「部長には触れさせねぇっ!」

 

赤龍帝のイッセーが私をカバーしてくれる。ありがとう、イッセー。

 

「雷よっ!」

 

ビガッ!ガガガガガガガガガッ!

 

直ぐ近くでは、朱乃が魔力で具現化した雷を固まっている集団に放っていた。

地上に視線を向ければ、私やソーナの下僕悪魔たちが学校を守ろうと戦っている。

私たちだけじゃない。サイラオーグやシーグヴァイラも、戦える者は皆、戦っている。

 

「―――リアス」

 

「お兄さま」

 

「どうやら、ここも終わりそうだね」

 

「ええ、皆が協力して確実に敵を倒していますからね」

 

敬愛する兄であるサーゼクス・グレモリー、お兄さまと背中を合わせて敵に警戒する。

 

「お兄さま、イッセーは?」

 

「彼なら心配ない。彼らのところにも襲撃されたが、式森和樹くんが瞬殺して終わらせたよ」

 

流石は式森和樹、というべきかしら。無限に等しい魔力を完全にコントロールをしている。

 

「じゃあ、彼らはもうすぐ」

 

「ああ、ここに来るだろう」

 

お兄さまが頷いた。彼がいれば百人力どころか一万人力だわ!

と私がイッセーのことを思っていると、

お兄さまの眼前に小型の魔方陣が出現して・・・・・アザゼルの姿が映りだした。

 

『サーゼクス、最悪な展開になったぞ』

 

「・・・・・どういうことだね?」

 

『―――あいつが、兵藤一誠が暴走しだした』

 

―――っ!?

 

暴走・・・・・?彼が・・・・・?暴走したですって・・・・・?

 

『奴らが現れた。ああ、奴らだ』

 

「奴ら・・・?アザゼル、一体誰のことを言っている?」

 

『兵藤誠と兵藤一香を殺した張本人たちが兵藤一誠の前に現れた。

目的は神滅具(ロンギヌス)を奪うためだ。

あの三人と兵藤一誠の戦っている場所がRG(レーティングゲーム)を応用した異空間だからこそ、

現実世界に一切被害は出てないからいいものの、あいつが現実世界で暴走したら

この町は一瞬で廃墟と化となる。復讐の権化と化したあいつはもう、俺たちでは止まらない」

 

そっ、そんなっ・・・・・。イッセー、あなたは、あなたは・・・・・!

 

「グレートレッド・・・ガイアは次元の狭間か?」

 

『ああ、お前も知っての通り。学校側から真龍と龍神の使用を禁じられているからな。

力は使わずとも兵藤一誠の中にいるか次元の狭間に泳いでいるかのどっちかだ」

 

「できれば後者であって欲しいものだ」

 

苦虫を噛み潰したかのような表情になるお兄さま。

 

「それで、彼と一緒にいる者たちは今どうしている?」

 

『殆どの奴は式森和樹の転移魔法で体育館に送られている。

だが、何人か残っている。言わずともあいつらのことだけどな』

 

「無事なのかい?」

 

『眼中にないのか、あの三人だけ攻撃している。一応、無事だといえる』

 

そう・・・・・我を忘れているわけじゃない可能性あるのね・・・・・。

 

『だが、このままにしておくのはあまりにも危険だ。

こっちでもあいつを止める方法を考えている。そっちも頭の隅でいいから考えてくれ』

 

「分かった。こっちも考えよう。アザゼルも動いてくれ」

 

『了解、そんじゃ・・・もと同胞だったあのバカと会いに行ってくるぜ』

 

それだけの会話のやりとりでアザゼルの姿を映す小型の魔方陣は消失した。

 

「お兄さま・・・・・」

 

「リアス、彼の家にいるグレイフィアに連絡してくれ。―――緊急事態だと」

 

私は頷き、通信用の魔方陣を展開する。イッセー、どうか・・・どうか・・・・・!

 

―――清楚side

 

『GYEEEEEEEEEEEEEEAAAAAAAAAAAAAAAAAEEEEEEEEEEEEEEEEAAAAAAAAAAッ!!!!!』

 

一誠くんが龍になってどれぐらい時間が経ったんだろう。

私たちに目も呉れず、一誠くんの両親を殺したという三人に夢中で攻撃している。

彼の復讐の想いが籠ったその一撃は、何度も大爆発を起こし、地面に巨大なクレーターを作り、

自分の体にどれだけ深い傷を負っても決して戦いを止めようとしなかった。

 

「(一誠くん・・・・・っ!)」

 

「和樹さん・・・・・僕たちはただ、見守ることしかできないんですかね・・・・・」

 

「・・・・・一誠が尤もしたかったことの一つ。―――復讐だ。

だから、心では一誠を止めたいという気持ちがあるのに、頭の中じゃ一誠の思い通り、

好きにさせたいと思っている自分がいるんだ」

 

「私・・・・・今のイッセーくんを見ていられないよ・・・・・っ」

 

「・・・・・私もだ。見ていると悲しい気持ちになる」

 

イリナちゃんやカリンちゃんは顔を逸らす。私も今の一誠くんは一誠くんじゃないって思うよ。

 

悲しげに一誠くんを見詰める。

 

『逃がしはしないぞ、お前らぁっ!』

 

悪魔の翼を生やす二人の男性と堕天使の翼を生やす女性が、

一誠くんの攻撃を紙一重でかわしながら攻撃する。

あの三人はかなり戦い慣れているんだと素人の私でもそう思える。

 

チュッ!ドッオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

一誠くんの一撃が神殿を消滅してしまった。その際に生じた爆風が私たちを襲う。

 

「くっ、かなり離れていても彼の一撃は凄まじいですね」

 

「あれ、絶対に手加減なんてしていないと思うよ。

一誠が本気・・・全力で殺そうとしているのがハッキリわかる」

 

「イッセーの全力・・・・・」

 

誰もが一度も見たことがない一誠くんの全力。と、思っていたら一誠くんが横に倒れた。

―――あの三人のヒトたち以外のもう一人のヒトが、一誠くんを魔方陣で倒したのが分かった。

復讐の対象者である三人に夢中でもう一人の存在を気付いていなかったんだと思う。

すると、倒れた一誠くんの周囲に光が生じた。

 

「あの光は一体・・・・・」

 

イリナちゃんがそう疑問を漏らした。

でも、その光は一誠くんが地面に殴ったことで消失し、再び戦い始めた。

 

「この戦いはいつまで続くんだろうか・・・・・」

 

「果てしなく続くかと思いますよ。どちらかが魔力が、戦意が無くなるまでは」

 

「・・・・・」

 

そう、私たちは一誠くんの戦いを見守ることしかできない。

もう、彼が復讐なんて考えてほしくないためにもここで、全てを終わらさせて欲しい。

そして、一誠くん。復讐が終わったら一緒に―――。

 

―――ドッッッ!!!!!

 

『っ!?』

 

『GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』

 

咆哮を上げる一誠くんの体に巨大な光の槍が突き刺さった。

まるで木材に釘を刺したかのような感じで一誠くんの動きを封じた。

 

「―――まったく、お前が暴れられると、おちおち話ができないじゃねぇか。

ちょっと、静かにしてくれ」

 

ドドドッ!!!!!

 

さらにまた光の槍が一誠くんの頭を貫いた。頭だけじゃない。

翼や手足、尾までも光の槍に貫かれた。

 

「よー、お前ら。見る限り大丈夫そうだな」

 

「―――アザゼル先生!?」

 

式森くんが上空から下りてきた六対十二枚の翼を生やす男性、

堕天使の総督アザゼル先生に驚愕した。彼だけじゃなく、私たちも驚いた。

 

「アザゼル先生、どうしてここに?」

 

「なんでか知らないが、この異空間を覆っていた強力な結界が消えてな。

ようやく入れるようになった。最初は入り辛くて面倒だったがな」

 

そう言いながら腕を上に伸ばし、人差し指を空に突き付けた。

その指先に大量の光の槍が発現して、

 

「あらよっと」

 

一誠くんと戦っていた四人の堕天使と悪魔に向かって腕を振り下ろすと、

それに呼応して大量の光の槍も四人に向かって行った。あの数の槍をあの人たちは避けることも

防ぐことも―――。

 

カッ!

 

と、そう思っていた私を嘲笑うかのように、

アザゼル先生の大量の槍が光のオーラに弾かれて―――こっちに来た!?

 

「あれま、跳ね返されるとは思いもしなかったぜ。式森和樹、一緒に防壁魔方陣だ」

 

「分かってますよ」

 

式森くんと一緒に私たちを包むように魔方陣を展開し、振ってくる大量の槍を防いだ。

しばらくして、アザゼル先生の槍を全て防いだと思ったら・・・・・。あの四人が飛んできた。

 

「―――いきなり俺たちに槍をぶっ放してくる非常識な奴がいると思ったらよ。

なんだ、アザゼルじゃないか」

 

「よー、久し振りじゃねぇかヴァン。昔よりかなり綺麗になったんじゃないか?」

 

「はっ、未だに独身の男に褒められても嬉しくないっての」

 

堕天使の女性とアザゼル先生が旧友と再会したような態度と会話をする。

 

「さて・・・・・お前には色々と山ほど言いたいこともあるし聞きたいことがある。

―――大人しく捕まれ」

 

「俺はまだまだしたいことがあるんでね。それをし終わるまでは捕まる気はない」

 

―――刹那。二人とも同時に光の槍を発現して投げ放った。

互いに向かう槍は互いにぶつかり合って霧散した。

すると、そこで堕天使の女性、ヴァンが怪訝な顔になった。

 

「・・・アザゼル、少しだけ弱くなったんじゃないのか?手応えがあんまり感じなかったぞ」

 

「ちっ、こちとら戦闘狂のお前とは違い、研究し続けていたんだ。

昔より弱くなったのは否定してねぇよ」

 

「なんだよ。じゃあ、その研究の成果とやらはどうなった?

どうせ、人工的な物でも作っているんだろ?」

 

ヴァンの問いに、アザゼル先生は笑みを浮かべ出して、懐から何かを取り出した。

紫色の宝玉が付いている金色の短剣を―――。

 

「それは?」

 

「俺の傑作人工神器(セイクリッド・ギア)だ。名は『堕天龍の閃光槍(ダウン・フォール・ドラゴン・スピア)』。こいつには五大龍王の一角『黄金龍君(ギガンティス・ドラゴン)』ファーブニルをこの人工神器(セイクリッド・ギア)に封じている」

 

五大龍王・・・・・一誠くんの使い魔、『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマットと同じ龍王・・・・・。

 

「ははは・・・・・流石だなアザゼル。龍王を人工神器(セイクリッド・ギア)に封印するなんてな。

だが―――俺はその上をいく」

 

バサッ!

 

堕天使のヴァンの背に―――堕天使の象徴の黒い翼の他にドラゴンのような翼が十二枚生え出した。

 

「・・・・・ドラゴンだと?」

 

「―――とある龍王の一角が悪魔に転生した龍を俺の中に宿すことが成功した」

 

「―――ッ!?」

 

アザゼル先生が絶句の面持ちとなった。六大龍王のことは教科書で習った。

龍王と称されていた龍は六匹も存在いた。

でも、一匹の龍王はある果物でしか生きられない龍たちがいた。

 

ドラゴンアップル。その龍が食べるリンゴは人間界にも実っていたけど、

環境の激変により絶滅してしまった。

そのため、ドラゴンアップルという果物が実っている場所は冥界のとある場所でしかない。

 

でも、ドラゴンは冥界では嫌われ者。

だから―――一匹の龍王は、特別の果物でしか生存できない龍族のために

実の生っている果物の場所を得るために悪魔となってそれ以来、悪魔になったドラゴンは

最上級悪魔のドラゴンとなった。そのドラゴンの名前は―――。

 

「お前・・・・まさか『魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)』タンニーンを!?」

 

魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)』タンニーン。それが悪魔となった最上級悪魔のドラゴンの名前。

でも、どうしてそのドラゴンが堕天使ヴァンの中に?

アザゼル先生の驚愕の呟きに堕天使ヴァンが口の端を吊り上げた。

 

「ああ、そうだぜ?最上級悪魔のドラゴン、タンニーンを神器(セイクリッド・ギア)にして宿したんだ。

そんじょそこらの人工神器(セイクリッド・ギア)とは訳が違う」

 

「っ・・・!このやろう、タンニーンが行方不明だと知らされた時は訝しんでいたが、

お前らがタンニーンを退治したってことかよ!」

 

「俺たち堕天使は元々天使だった。タンニーンも悪魔になる前は龍王だった。

名前に『聖』がついているのはその昔、たしかタンニーンは光を司る龍だったよな?

だがまあ、悪魔に転生していまとなっちゃ、その面影が無くなった」

 

「―――まるでタンニーンは俺たち堕天使みたいじゃないか?」と堕天使ヴァンが面白そうに

笑みを浮かべる。アザゼル先生は表情を険しくしている。

 

「だからさ、タンニーンを神器(セイクリッド・ギア)に封印して似た者同士ということで俺の中に宿したんだ」

 

「てめぇ・・・・・どこまで神器(セイクリッド・ギア)を知っているつもりなんだ」

 

「俺が堕天使になった理由をアザゼルは知っているだろ?

神ヤハウェが作った神器(セイクリッド・ギア)を知りたいと思って色々とやらかしたことをさ」

 

「ああ、そうだったな。俺たちみたいに人間の女の魅力に魅入られて堕ちたわけじゃない。

お前は興味津々で神器(セイクリッド・ギア)を知ろうと奇跡を司る『システム』を

勝手に使ったことがバレて堕ちた」

 

「そういうこと。まったく、今はともかく俺が機械音痴だからといって『熾天使(セラフ)』だった俺を

『システム』に触れさせようとしてくれなかったんだぜ?

しかも、アレを触れただけで普通、天界から追放すると思うか?」

 

・・・・・なんだろう、天界も色々と遭ったんだね。あるんだね

というより、天使にも機械音痴みたいな天使がいるんだね。初めて知ったよ。

 

「・・・・・ともかく、タンニーンの行方不明の理由も分かった。

お前らがここにいる理由は大方、兵藤一誠の神滅具(ロンギヌス)を狙ってのことだろう?」

 

「ああ、当然だ。だから俺たちは『英雄派』に手土産として、

神器(セイクリッド・ギア)を調べさせてくれたり、

神器(セイクリッド・ギア)を頂戴しようと思っているんだよなこれが。

今は『真魔王派』に属しているけど、あんな烏合の衆ばかりの悪魔どもといつまでも

いるつもりはない」

 

「ちっ、よりによって『英雄派』と接触しようってのか。

お前らしい考えだ。んで、そいつらも同じ考えなのか?」

 

「シャガとシャーリはそうだな。だけど、ヴァルヴィは違うぜ。なんか兵藤一誠と再戦したいとさ」

 

再戦・・・・・?一誠くんと昔、どこかで会ったことがあるの?

そんな話は聞いた事がないんだけど、

 

「さてと、話しはこのへんにして・・・邪魔になりそうな独身堕天使の総督でも倒すとしようか」

 

「うっせぇっ!独身とか余計だ!俺には女なんて腐るほどいるんだよ!」

 

「そんで、何度もハーレムを築いて何度も崩壊した男が俺の目の前にいるんだけどな」

 

「・・・・・」

 

堕天使ヴァンの指摘にアザゼル先生は沈黙した。そこで―――、

 

「最低ですアザゼル先生」

 

「女の敵ね」

 

「アザゼルに好いた女が可哀想だな」

 

「背中から刺されても問題ないでしょう」

 

「こんなヒトが教師なんて最悪だ。女子生徒の皆には気を付けてもらわないと」

 

「死んじゃってくれない?」

 

「この世からいなくなってください」

 

私たち(女)はアザゼル先生に非難の声を投げた。対してアザゼル先生は顔を引き攣らせた。

 

「お、お前ら・・・・・仮にも教師の俺にそんなことを・・・・・」

 

「はははははっ!アザゼル、尊敬されてねぇのっ!」

 

腹を抱えて堕天使ヴァンが哄笑する。

 

ドッ!

 

そんな彼女を横から現れた一つの影が吹っ飛ばした。私は突然のことで目を丸くした。

 

「・・・・・よくもやってくれたなクソ堕天使」

 

「・・・・・お前」

 

「かなり痛かったぞ」

 

アザゼル先生を睨む影―――一誠くんだった。

何時の間にか元の姿に戻って堕天使ヴァンを殴り飛ばしていた。

一誠くんの瞳は憎悪と怒り、殺意と敵意で一杯だった。その瞳がとても怖かった。

 

「邪魔するなよ。せっかく俺の夢が果たせそうなんだからさ」

 

「一誠くん・・・・・」

 

「シャガとシャーリ・・・・・お前らも殺すよ。いいよな?」

 

背中に青い翼、腰にドラゴンのような尾、右手に黒い籠手と左手に赤い籠手、

 

「ほう・・・・・現赤龍帝と白龍皇の力を使えるのか。

オリジナルではないが、何かしらの理由で使えるようにできるのか?」

 

神器(セイクリッド・ギア)による効果だろう。それも奪えば分かる。―――そうだろ、ヴァン」

 

二人は揃って一誠くんに殴り飛ばされた堕天使ヴァンに向いた。

 

「・・・・・ああ、そうだな」

 

彼女は一誠くんの前に現れた。殴られた個所に痣ができていて、

一人の悪魔に放たれた淡い緑色のオーラに包まれながら真っ直ぐ彼を見据えた。

 

「気を抜いていたからって俺の顔に拳を突き付けられたのは初めてだ。―――強くなったな」

 

「この日のために俺は強くなったんだ。お前らを殺すために」

 

「はっ、そうか。じゃあ、俺たちを殺して証明してみろよ。

そうすりゃ、あの二人も喜ぶだろうさ」

 

堕天使ヴァンが不敵の笑みを浮かべた。両手に光の剣を掴んで臨戦態勢になる。

 

「ああ・・・・・そうさせてもらう。―――禁手(バランス・ブレイカー)

 

一誠くんはそう呟いた時、右の黒い籠手にある紫の宝玉から放つ黒い光に包まれた。

その光の中で一誠くんの体は鎧に包まれ、完全に鎧を着込んだ。

 

「『幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』の禁手(バランス・ブレイカー)、―――『幻想喰龍之鎧(イリュージョン・イーター・スケイルメイル)』」

 

黒と紫色の龍を模した全身鎧。全身から異様なオーラが絶えず陽炎のように出ている。

 

『なんだ・・・・・あの姿は・・・・・清楚、あれはヤバいぞ』

 

項羽・・・・・?

 

『あの力、かなりヤバい』

 

大胆不敵な彼女が私に警告してくる。

 

「・・・・・」

 

一誠くんが徐に腕を横へ振るった。

空を切るようにして振るった腕を見ていたら―――地面が一瞬で音もなく消失した。

 

「・・・・・はっ?」

 

アザゼル先生が呆けた声を漏らす。あまりにもアッサリと地面が半分もなくなったからだと思う。

ここから消失した地面を見れば、どこまでも暗く底が見えないほどポッカリと開いた穴。

 

「―――この鎧は消滅の力を具現化にした力だ。

俺がお前らを殺したい想いを神器(セイクリッド・ギア)が応えてくれた。

この鎧を着た俺はほぼ無敵に等しいぐらい強い。どんな能力だろうが全て無効化にする」

 

「・・・・・それ、チートじゃねぇか」

 

堕天使ヴァンが頬を引き攣らせて冷や汗を流したのが分かる。

 

「死ね」

 

腕を横に伸ばした。あの腕が振るったら最後、あのヒトたちは自分が殺されたと気付くこともなく

死んじゃうのかもしれない。

 

バチッ!バチバチバチッ!

 

「・・・・・なんだ?」

 

放電するほどが聞こえる。一誠くんはその音がする方へ視線を向けた。

私も他の皆も音がする方へ視線を向けたら―――、この空間の虚空に大きな罅が生じていた。

 

「―――逃げるぞ!」

 

私たちが虚空に生じた大きな罅に気を取られていたら、何時の間にか虚空に開けた穴へ

飛びこんでいく堕天使ヴァンたち。一誠くんは一瞬遅れて腕を薙ぎ払うように振るった。

―――でも、地面が消失したその一瞬の時間の差であのヒトたちは穴の中に姿を暗ました。

 

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

その直後、虚空に生じていた罅がガラスのように割れてそこから巨大な深紅の龍が現れた。

だけど、全てが終わった後であった。

 

「・・・・・次は、必ず殺してやる」

 

「一誠くん・・・・・」

 

怨恨が籠った声音を聞いて私は酷く悲しかった。まだ、彼の復讐は終わらない。

彼のあんな顔はまた見ることになる。

 

「・・・・・とりあえず、現実に戻るぞお前ら」

 

アザゼル先生の声に私たちは頷いた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode8

 

『真魔王派』に襲撃され数時間が経過した。

学校は早めに終わって生徒たちはテロリストに襲撃された恐怖を心に抱いたまま家に帰宅した。

今回の襲撃の首謀者、シャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウスだと認識した

理事長サーゼクス・グレモリー及びオカルト研究部の顧問であり堕天使の総督アザゼルは

今回の事件に冥界と天界、魔王と神に報告。

 

後に学校に駆け付けた神王ユーストマと魔王フォーベシイの助力により、襲撃はすぐに鎮圧。

その後、RG(レーティングゲーム)を応用した異空間にいた俺たちは

今回の襲撃の関係者とオカルト研究部に集った。

 

『・・・・・』

 

リアス・グレモリーとグレモリー眷属、ソーナ・シトリーとシトリー眷属、

サイラオーグ・バアルとバアル眷属、シーグヴァイラ・アガレスとアガレス眷属、

俺たち二年S組のメンバーとサーゼクス・グレモリー、アザゼル、

神王ユーストマ、魔王フォーベシイ、兵藤家メンバー十六人。

 

「この学校が襲撃されるなんて学校を創立して以来の出来事だ」

 

「まさか、真正面から襲撃してくるなんて思いもしなかったからな。

迎撃の準備ができちゃいなかった。が、幸い被害は軽微、死傷者は零。

上級悪魔、天使、堕天使たち教師や生徒が迎撃してくれたおかげで何とか収まったわけだがな」

 

「まいったね。あそこまで過激なことをされるとは」

 

「だな。今後いつまた襲撃してくるか分かったもんじゃねぇ。

狙いは兵藤家と式森家の者の殺害のようだったがな」

 

「ああ、執拗に俺たちを攻撃してきたぜ。逆に返り討ちしたんだけどよ」

 

兵藤照が指の関節をゴキリと鳴らし、なんともなかったと風に言い切った。

 

「・・・・・しばらく体育の授業は中止だな」

 

アザゼルがポツリと呟く。

 

「えっ?じゃあ・・・・・」

 

「これから普通の運動での授業を行う。RG(レーティングゲーム)を応用した空間に侵入して襲撃された

ことであの授業は廃業となる結果を生んでしまった。

一学生の授業にテロリストが襲撃してくるとは誰一人として思いもしなかったどころか

考えもしなかった。だから、学生らしく体を動かす運動の授業に変更せざるを得ない」

 

『・・・・・』

 

サーゼクス・グレモリーの発言に周りの皆は沈黙した。

 

「お兄さま。テロリストの目的はもしかしたら体育の授業を潰すためでもないでしょうか?」

 

「もしかしたらそうかもしれない。だがしかし、それはあくまでついでなのかもしれない。

主な目的は兵藤家の人間である一誠くんたちと式森家の人間である式森和樹くんの命のようだ」

 

それからサーゼクス・グレモリーは

「葉桜清楚、それに兵藤一誠くんたち。すまなかった。私の責任だ」と、俺たちに頭を下げた。

清楚は慌てて首を横に振って「気にしないでください、大丈夫です」と口にした。

 

「私たちも目の前にいた敵に警戒しただけで何もしませんでした。

それに、逃げられてしまいましたし」

 

「・・・・・ディオドラ・アスタロト」

 

「彼については・・・・・杉並くん。説明してくれるかね?」

 

「かしこまりました」

 

一歩前に出た黒髪の男子生徒。

 

「初めまして、俺は二年B組の杉並という。以御お見知りおきを」

 

「彼は情報・索敵・収集といった能力が周りと比較的にならないほど逸脱しているていてね、

隠密にも長けている」

 

こいつが杉並か・・・・・。今まで味わった苦労をいま―――晴らしていいかな。

 

「一誠、なんとなく考えていることが分かるけど、この場は抑えて」

 

「・・・・・顔に出てた?」

 

「うん、完全にね」

 

・・・・・俺って隠すことが下手なのかな。これからの課題になりそうだ。

 

「理事長とリアス先輩経由で兵藤一誠から依頼されているディオドラ・アスタロトの情報を

報告します。長い説明になるから省略させてもらいますが」

 

「構わない」

 

「では、まずはディオドラ・アスタロトがテロリストに通じた動機は、

―――兵藤一誠が魔王候補というのが気に入らない。そして、自身の趣味のため」

 

「趣味だ?」

 

兵藤照が怪訝に呟いた。杉並は説明を続ける。

 

「ディオドラ・アスタロトの趣味は有名なシスターや聖女を悪魔らしく誘惑し、

言葉巧みに手籠め堕とす。しかも狙う相手は熱心な信者に本部に馴染みが深いシスターや聖女」

 

杉並はそこで一区切り、アーシア・アルジェントに視線を向けた。

 

「リアス先輩の眷属のアーシア・アルジェントもまたディオドラ・アスタロトの趣味と

欲望のために狙っていたこと情報も得ました。

彼女が教会に追放された理由はディオドラ・アスタロトの陰謀による」

 

「そ、そんな・・・・・」

 

アーシア・アルジェントが目を丸くした。そういや、彼女も元はシスターだったな。

 

「ディオドラ・アスタロトの本来の眷属と家に囲っている者たちは元教会に

通じていた少女や女性、つまりシスターである情報を得ました。

これは確実な証拠となるでしょう。信じていた教会に追放され、神を信じられなくなって

人生を狂わせられ、絶望しているシスターと聖女に近づいては最底辺りまで堕としたところを

掬い上げて、犯す。心身ともに犯す。それがディオドラ・アスタロトの趣味。

今までもそうして教会の女を犯して自分のものに―――」

 

「いやっ!もう言わないでください!聞きたくないです!」

 

耳を抑えてその場で座り込んで体を震わせ始めるアーシア・アルジェント。

成神一成が宥めリアス・グレモリーに一言告げてオカルト研究部から震える彼女といなくなった。

 

「と、あんな感じでディオドラ・アスタロトはシスターや聖女を堕としていました」

 

「・・・・・何て野郎だ。ディオドラ・アスタロトの野郎・・・・・!」

 

神王ユーストマから聖なる光が迸った。あれ、怒りに呼応して出ているんだろう。

 

「それで、ディオドラ・アスタロトの現在位置は分かっているのかな?」

 

「家に調査したところもぬけの殻でした。もしかしたら人間界にはいないかと」

 

「そうか・・・・・ユーストマ殿、何と謝罪すれば良いか言葉が出ませぬ」

 

それでも、サーゼクス・グレモリーは頭を下げた。

神王ユーストマは腕を組んだまま首を横に振った。

 

「・・・・・悪魔も悪魔だが、堕ちたシスターや聖女も責がある。

やつらもシスターや聖女である前に女だ。愛の言葉を囁かれて応えてしまっただろう」

 

「・・・・・教会の者として複雑な気持ちだわ」

 

「私もだよイリナ」

 

イリナとゼノヴィアが本当に複雑そうな顔を浮かべていた。

その時、ユーストマが二人に顔を向けた。

 

「神に反しないなら恋の一つや二つしても構わないぞ。ただし、悪魔と堕天使に恋するな」

 

「・・・・・え、いいんですか?」

 

「ああ、俺とヤハウェさまが認めている男なら問題ないだろ。なっ、一誠殿」

 

「いきなり話を振るな。てか、この話の流れ的にあんたが認めている男って

俺に向けられているようにも聞こえるぞ。できれば自意識過激だと言ってくれ」

 

「いやいや一誠ちゃん。それは過小評価というものだよ?

だからウチのネリネちゃんとリコリスちゃんを一誠ちゃんのお嫁候補にしたんだからね」

 

「俺んとこのシアとキキョウもな!」

 

・・・・・なぜにキキョウまで・・・・・。

 

「で・・・・・ディオドラの奴はどうすんだよ」

 

「当然、指名手配する。はぐれ悪魔としてね。懸賞金も懸けよう」

 

「そうか、悪魔も苦労するな」

 

「ははは、そうだね」

 

苦笑いを浮かべるサーゼクス・グレモリーとフォーベシイ。

学校の生徒からもテロリストになった。前代未聞のことだ。

 

「・・・・・なあ、俺が魔王になったらやはり気に入らないか?」

 

「急にどうしたんだい?」

 

「悪魔を統べる者が人間なんて、やっぱりおかしいだろ?

魔王は悪魔じゃないと納得しない悪魔が大勢いるだろ」

 

「「・・・・・」」

 

そう指摘すると魔王と理事長が顔を見合わせた。更に俺はリアス・グレモリーたちにも尋ねた。

 

「お前らもどうだ?俺はネリネとリコリスと結婚したら魔王になるとなっているけど、

俺は次期人王だぞ?人王が魔王の役職に就いて納得できるか?俺個人を抜いて言ってくれ」

 

「それは・・・・・」

 

『・・・・・』

 

この場にいる悪魔たちが沈黙した。その沈黙は確かに不自然だと心のどこかで思っていたからだ。

 

「魔王だけじゃない。神王もそうだ。俺を認める天使は全員とは限らない。

俺の内に邪龍を宿している限り、天界に足を踏み入れることはできない。

ユーストマ、天界も俺が神王になるのを反対している天使がいるはずだぞ?

いいのか、そいつらを野放しにしていたらきっと俺を狙うぞ。返り討ちにするけど」

 

「・・・・・」

 

「仮に俺は四人と結婚しても魔王と神王にはなれないと思う。

魔王は悪魔、神王は天使、人王は人で良いと思うんだ」

 

俺の発言に場は静寂に包まれる。

 

「これ以上、問題を起こさない方がいいと思う。俺が転生悪魔か転生天使だったら話は別だけど」

 

「では、一誠ちゃん。悪魔に転生してみないかな?そうすれば魔王になれるよ?」

 

「断わる!」

 

「んじゃ、天使だな?一誠殿は『熾天使(セラフ)』になれるし問題なく神王になれる」

 

「いや、邪龍を手放すつもりないから無理だって。『システム』に絶対影響を及ぼすぞ」

 

ガクリと残念そうに頭を垂らす神王と魔王であった。

 

「うん、いっくんは人王が似合っている」

 

「そうですね」

 

悠璃と楼羅が頷く。俺は人でありたいから人王だ。うん、人王。

 

「しかし、襲撃されたからにはこちらも手を打たないとダメだな」

 

「というと?」

 

「・・・・・しばらく、学校を休校にする」

 

『っ!?』

 

この場にいる殆どが目を丸くした。休校・・・・・夏休み以来じゃないか。

 

「私たちは少しばかり平和ボケをしていた。

多少の小競り合いがあろうと大規模な戦闘になるとは思ってもいなかった。

だが、今回の襲撃事件で考えを改めないといけなくなった。

二度目の襲撃がないと考えず、次の襲撃に備えて準備をする必要がある。そのための休校だ」

 

「お兄さま、休校とはどのぐらいの期間なのですか?

それに私たち三先生は就職に備えないといけないのですが・・・・・」

 

「・・・・・早くて一週間、遅くて一ヶ月間だろう。

その間、全校生徒は違う学校で留学生という形で学ばせるつもりだ」

 

違う学校・・・・・?俺たちを迎え入れてくれる学校なんてあるのか?

 

「あの、どこですか?僕たちがしばらく通う学校とは」

 

「これから探す。だからしばらくはできるだけ家で待機してほしい。

決まり次第、キミたちに伝えるよ」

 

「・・・分かりました」

 

龍牙が頷く。その後、話しは終わりだとサーゼクス・グレモリーの言葉によって解散となった。

 

「兵藤一誠くん」

 

「なんだ?」

 

呼ばれて足を停め振りかえる。

 

「あの三人に会ったそうだね」

 

「―――――」

 

「復讐をするなとは言わない。だが、自分を見失わないでほしい。でないと、

キミを想う者たちが悲しむ」

 

サーゼクス・グレモリーから発せられた言葉を耳にしてしばらく。踵を返した。

 

「あの三人を殺すまで俺の復讐は終わらない」

 

「・・・・・」

 

「だけど、我を忘れて狂う俺じゃない。

でも、怒りと恨み、憎しみは決して忘れない。それだけだ」、

 

スタスタと歩を進め、オカルト研究部を後にした。

 

 

―――BOSS×BOSS

 

 

「アザゼル、彼をどう思う?」

 

「兵藤一誠のことならば危険だな。特に三人の前に立たせたらさらに危険だ。

特に・・・・・あの禁手(バランス・ブレイカー)は最悪だ」

 

「あの禁手(バランス・ブレイカー)?」

 

「ああ、神滅具(ロンギヌス)の中で最悪な能力の一つと数えてもいい。

ありゃ、全てを無に帰すぞ。対処方法が分からない上に、攻撃の予兆すら把握できない。

腕を振るっただけで地面が一瞬で無くなっちまったんだ」

 

「アザゼルでも勝てないのか?」

 

「無理だ」

 

「・・・・・そこまで凄まじいのか」

 

「『幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』の禁手(バランス・ブレイカー)、―――『幻想喰龍之鎧(イリュージョン・イーター・スケイルメイル)』。

消滅の力を昇華させて鎧に具現化した力だ。これでようやく新種の神滅具(ロンギヌス)禁手(バランス・ブレイカー)が分かった。

だが、世界を破壊できるほどの力を秘めた神滅具(ロンギヌス)だとは知りたくなかったぜ」

 

「だから彼は、使おうともしなかった訳なのだな」

 

「青白い熾天使変化(セラフ・プロモーション)幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)で十分なんだろ。

だから敢えて使おうとしなかったんじゃねーの?」

 

「・・・・・彼もその力の危険性を感じているなら私から何も言う必要はない」

 

「だな。力に魅了され溺れているんなら、最悪・・・・・死ぬ覚悟で止めなきゃなんねぇ」

 

「そうならないために彼女たちがいるようなものだ」

 

「・・・・・やっぱりあいつは愛と復讐だな」

 

「なんのことだね?」

 

「―――あいつの特徴みたいなものさ」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode番外編

※読者様の感想の中にバレンタインデーのことが書かれていたので、

今小説はバレンタインデーの話を投稿させてもらいます。

作者も投稿してみようと思った所存でございます。では、お読みになってください。

 

 

―――兵藤家―――

 

―――リアスside

 

私、リアス・グレモリーは部屋であることをしている。

それは―――二日後に迫ったバレンタインデー。

 

「イッセーには訝しまれたけど、自室にキッチンを創ってもらったお礼に彼が

『美味しい』と称賛してくれるチョコを作らないとね♪」

 

他にもイッセーに冷蔵庫や調理器具、全て必要な物を創ってもらった。

 

「他の皆も私と同じ考えをしているだろうし・・・・・負けていられないわ」

 

イッセーを想う女は他にもいる。なのに、イッセーの妻の存在ができてしまった。くっ・・・!

何て羨ましいの!学生夫婦なんて本来は世間にも認められないのに・・・・・!

人王はそこまで凄いのね!

 

「兵藤悠璃と兵藤楼羅・・・・・彼女たちが一番の強敵ね」

 

負けられないと、愛情を籠めて私はチョコレート作りに集中するのであった。

 

―――ソーナside

 

負けられません。イッセーくんが私のお菓子を美味しそうに食べてくれたのです。

きっとこのチョコレートも。

 

ギェアアアアアアアア・・・・・。

 

禍々しく鍋の中で煮立つチョコレートの液体。さらに甘さを引き出すために

このシトリーの領地で採った斑模様の薬草を鍋の中に・・・・・。

 

「ふふふふふ・・・・・・イッセーくん、美味しいって言ってくれますよね?」

 

脳裏に浮かぶイッセーくんが私のチョコレートを食べてくれる想像、ビジョンが・・・・・!

これが現実になってくれると思うと笑みが絶えません・・・・・。

 

「・・・・・彼だけじゃなく匙の分も作りましょうか」

 

日頃頑張ってくれている私の『兵士(ポーン)』に感謝の一つはしないとダメですからね。

 

―――イリナside

 

「うーん、チョコレートなんて作るのは初めてだから少し緊張しちゃうわね」

 

プロテスタント教会から派遣された聖剣使いこと紫藤イリナです。いま私は好きな幼馴染のために

白い布を頭に巻いて、体に白いエプロンを身に付けてのチョコレート作りをしています!

 

「子供のころはお母さんと一緒に作ったからできたけど一度きりだったし・・・・・」

 

イッセーくんが行方不明になっちゃって二度目のチョコレートを作ることはできなかった。

それが苦い思い出もあった。でも、今回は違うわ!

 

「・・・・・そう言えば、ホワイトチョコレートなんてあったわね?」

 

神に仕え、教会に属している私が茶色のチョコレートより

白いチョコレートを作った方が私らしいよね?

 

「うん、そうしましょう。あー、でも、買い直さないといけないわぁー!」

 

出費が凄まじいわね!ああ、主よ!これも私に対する試練なのですか!?

 

―――清楚side

 

「うん・・・・・こんな感じかな?」

 

自室で私、葉桜清楚は一誠くんに頼んで調理器具と冷蔵庫を創造してもらって

チョコレート作りをしています。

 

『なんでまた部屋に調理器具と冷蔵庫を創造して欲しいと言うんだお前らは?』

 

創造してもらった際に気になることを言った一誠くん。

きっと、私以外の女の子たちもバレンタインデーに向けて

一誠くんに渡すチョコレートを作っているんだと思う。

 

『面倒なことをする。市販に売っている物でもいいんじゃないか?』

 

・・・・・それじゃダメなんだよ。それじゃ、愛情が籠っていないじゃない。

 

『愛情・・・・・か・・・・・』

 

項羽だって、昔は好きな人がいたでしょ?その人の為に何かしてやりたいって

気持ちが分かるはずだよ?

 

『そりゃ・・・・・そうだが・・・・・むぅ・・・・・』

 

私が作り終えたら今度はあなたも作るんだからね?

 

『お、俺もか!?』

 

うん、当然だよ。だから、私の作り方を見ていてね。

 

『・・・・・分かった・・・・・』

 

ふふっ、頑張ろうねお互い♪

 

―――リーラside

 

「それで、私に頼みたいこととはなんでしょうか?」

 

兵藤一誠さまの忠実なるメイド、リーラ・シャルンホルストはいま、

私の目の前に立つ四人の少女と女性に話しかけられています。

 

「うむ・・・・・実はな、好きな男に渡すバレンタインデーというものが二日後に

あるそうじゃないか」

 

「ええ、確かにそうですが・・・それがどうかしましたか?」

 

「我も一誠に渡したいのだ。だが・・・・・作り方は知らぬ。

そこで、お前にチョコレートとやらの作り方を教わりたいのだ。料理を作るのに長けたお前に」

 

なるほど・・・・・このヒトたちはそのためにいるということですか。

 

「―――ガイアさまの気持ちは分かりました。他の皆さまもそうなのですか?」

 

「我も、イッセーに渡したい」

 

「私もだ。他にもあるならその知識も学びたい」

 

「可愛い弟子にプレゼントしたいにゃん」

 

オーフィス、クロウ・クルワッハ、銀華、そしてグレートレッドことガイア。

以上この四人が私にチョコレート作りを教わりたいと懇願する。

私もこれから一誠さまのために作ろうと思っていたところなのですが・・・・・敵に塩を

送るような真似は極力したくないです。ですが・・・・・。

 

「分かりました。では、ご一緒に作りましょう」

 

一誠さまの為に尽くしてくれる者たちの願いを蔑ろにできるわけ無いです。

彼女たちの存在がいるからこそ今の一誠さまなのですから。四人を引き連れ、

リビングキッチンに赴いた私の目に飛び込んできたのは―――、

 

「うん?」

 

私たちより先にキッチンを占領していた黒髪の女性こと羽衣狐の存在―――。

私たちを視界に入れるや否や、

 

「・・・・・ふふっ、一足遅かったのぉ?まあ、スペースはある。妾の邪魔をしないならば、

勝手にあの子の為に作るがいいさ」

 

不敵の笑みを浮かべる羽衣狐。リビングキッチンに甘い臭いが漂っている。

私たちがいない間に短時間で作っていたということですか・・・・・。

 

「「「「負けない」」」」

 

ええ、私も同じ気持ちですよ。ですが、最初に一誠さまのお褒めの言葉を貰うのはこの私です!

 

―――悠璃side

 

「こんな感じかな」

 

自室で私、兵藤悠璃は私の姉である兵藤楼羅といっくんのためにチョコレート作りをしています。

私のチョコレートはハート形で綺麗に作れたと自慢できる。

 

「こっちはできたけどそっちはどう?」

 

「こちらもできました。後は冷蔵庫に入れて冷やすだけです」

 

そう言って冷蔵庫の中に入れる楼羅。私も自信作を入れて扉をバタリと閉めた。

 

「明日になれば固まっていることかと思います。その間に包装でも用意しましょう」

 

「うん」

 

この日の為に買ってきた可愛い箱と紐。楼羅と一緒に箱作りする。

 

「・・・・・幸せだね」

 

「ええ、そうですね。私たちは一誠さまの為に生まれてきたのだと過言じゃないかもしれません」

 

コクリと私は彼女の言葉に同意だと肯定する。

 

「初めていっくんと会った時は周りから弱いからと虐められて、

可哀想な子だからと思って接していたんだけど」

 

「何時の間にか彼と一緒にいるようになっていましたね」

 

「居心地が良かった。いっくんといると安心する自分がいたからもっといたいと思った」

 

だから家に来る時は必ずいっくんの傍にいた。

もう当たり前のように接していたら―――好きになっていた。

虐められても泣かないどころか前に進もうとするいっくんの言動を見て、私は好きになった。

 

「楼羅、何時までも一緒にいっくんの傍らにいようね」

 

「勿論です」

 

私たちは笑みを浮かべ、仲良く一緒に包装を作り始めた。いっくん、楽しみにしていてね?

 

 

―――ヴァーリside

 

「ルフェイ」

 

「なんでしょうか?」

 

「キミは料理を作れるよね?」

 

私、白龍皇ことヴァーリ・ルシファーは仲間であるルフェイ・ペンドラゴンに尋ねた。

とある目的のために、

 

「はい、人並みぐらいでは作れますよ」

 

「そうか、では、チョコレートを作れるかな?もうすぐバレンタインデーだから一誠に渡したい」

 

そう、それが目的だ。彼にバレンタインデーに渡すチョコを作りたい。

しかし、私は料理など一切したことがない。戦闘に関する知識が豊富でも料理での知識と

経験が皆無だ。そんな私に比べてルフェイは料理を作れる。

 

「あっ、そういえばそうでしたね。

じゃあ、一緒に作りましょうか。私もお兄さまに作りたいので」

 

「うん、よろしく頼む」

 

「ふふっ、ヴァーリさんも女の子ですね。好きな人に作りたいなんて」

 

「ルフェイも愛しい男ができると私のようになるさ」

 

「はい、そうかもしれませんね」

 

邪の無い笑みを浮かべるルフェイ。本当、彼女がこの場にいることが不思議に思う。

兄が心配で追ってきたというほどだからな。アーサーはいい妹を持って幸せだな。

 

 

―――○●○―――

 

 

―――駒王学園―――

 

 

「うわー、何か知らないけどピリピリ感じるぞ」

 

俺、兵藤一誠は和樹と龍牙と一緒に自分の教室へ向かうため廊下を歩いている。

何故か清楚たち女子陣は、『先に行ってて』と言われる。シアたちも同じだった。

首を傾げながらも駒王学園へ先に来た俺たちは、別の教室から今まで感じたことがない

緊張感を感じている。

 

「今日って試験の日でもあったっけ?」

 

「え?今日はバレンタインデーだよ?」

 

「・・・・バレンタインデー?」

 

「・・・・・まさか、知らないのですか?」

 

信じられないと言った顔で俺に向けてくる龍牙。え・・・・・なにそれ?

 

「女の人が男の人にチョコレートを渡す日ですよ」

 

「へぇ、そうなんだ?」

 

「・・・マジで知らないんだね。

いや、一誠は修行に明け暮れていたから常識的なことが知らないのかな・・・・・?」

 

うーん、まあ、その通りだけど。

 

「―――あ、あの!」

 

「はい?」

 

見知らぬ女子生徒に声を掛けられた。いや、俺じゃない。和樹にだ。

 

「こ、これ、受け取ってください!」

 

「あっ、ありがとう」

 

和樹が受け取った瞬間、見知らぬ女子生徒は顔を真っ赤にして自分の教室へと入って行った。

 

「和樹、知り合いか?」

 

「いや、知らないよ?でも、嬉しいね」

 

微笑む和樹。本当に嬉しそうだ。再び歩を進めようとしたら、

 

ザッ!

 

俺たちを囲むように見知らぬ女子生徒たちが現れた。

 

「・・・・・なんだろう、この緊張感」

 

「ええ、僕もそう思いますよ」

 

一誠に突き出される可愛くラッピングされた箱を見て俺と龍牙は緊張したのだった。

俺たちに突き出される箱を受け取ること数十秒。ようやく教室に入ったら―――

 

「「「・・・・・」」」

 

俺と和樹、龍牙の机の上に山積みされた大小の箱があった。

 

「「「なにあれ」」」

 

アレ全部チョコレートが入った箱なのか・・・・・?見知らぬ人から貰うなんて久し振りだから

緊張するんだけど・・・・・。

 

「お前ら、凄いなー。あれ、上級生たちが置いて行ったチョコレートだぞ?」

 

そう言う一人のクラスメートにも箱が置かれていた。

 

「あれ、全部?」

 

「ああ、そうだぜ。数には負けるけど俺も義理とはいえもらえて嬉しいや」

 

感無量、我が人生悔いなしと感じで笑みを浮かべ続けている男子生徒。

 

「・・・・・そう言えば、Sクラスって何かと優遇されるんだったね。

僕も一年生の頃、一時期こんな感じだったよ」

 

「なるほど、Sクラスに所属している男子生徒を手に入れようとチョコを渡すんだな?」

 

「その発想はどうかと思いますが・・・・・まあ、そんな思いを抱いている女子も

いなくはないかと思います。心から好きな人に渡す者もいるでしょうし、

片思い中の男子に渡す女子もいます」

 

ふーん、そういうもんか・・・・・?

 

「でも、どうして清楚たちは一緒に来なかったんだろう?」

 

「・・・・・一誠、キミは変なところで鈍いんだね」

 

「でも、そんなところが可愛いじゃないですか」

 

龍牙、男に可愛いとか言われても嬉しくないぞ。

 

「い、一誠さま!」

 

ん?この声は―――。振りかえると兵藤千夏と兵藤麗蘭がいた。

 

「おはよう二人とも、どうしたんだ?」

 

「今日はバレンタインデーです。なので、私たちがここにいるのは」

 

「一誠さまにチョコレートを差し上げたく参ったのです」

 

兵藤麗蘭が小さく笑んで箱を渡してきた。兵藤千夏も一拍遅れて箱を突き出してきた。

 

「私たちの愛情が籠ったチョコレートです。どうかご堪能くださいませ」

 

「ありがとう。嬉しいよ」

 

笑みを浮かべて感謝の言葉を言った。すると、二人は顔を赤くしだした。

 

「お姉さま・・・・・やはりこの方なら」

 

「そうね・・・・・私たちの全てを捧げれるわ。―――では、一誠さま。昼休みに訪れますので」

 

そう言って兵藤千夏の手を掴んでは、教室からいなくなった。

 

「一誠、モテモテだね♪」

 

「あの箱の量を見てお前も人のこと言えないだろうが」

 

「確かにあれは嬉しいけど、僕はシンシアって女性がいるからね」

 

野郎、惚気を・・・・・!と俺も人のことは言えないな。

 

「さて・・・・・このチョコの山をどうしよう」

 

「食べ尽くしかないと思うよ?」

 

「これ全部食べたら胃が危ないですよ」

 

「取り敢えず、亜空間の中に仕舞おう」と和樹が俺たちのチョコを魔方陣で仕舞ってくれた。

丁度その直後、清楚たちが教室に入ってきた。時間はHR始まる時間ギリギリだった。

 

―――昼休み―――

 

「はい、一誠くん」

 

「ん?」

 

「チョコレートだよ?」

 

「・・・・・もしかして、部屋にキッチンを創造させたのって」

 

「うん、一誠くんにチョコを作ってあげるためだよ」

 

何時も通り、屋上で昼食する俺たち。そして、清楚から小さな箱を渡された。

 

「おー、ありがとう。・・・・・なんだろう、物凄く嬉しいぞ」

 

俺は子供のように瞳を輝かせて受け取った箱を見詰めた。すると、

 

「・・・・・」

 

また清楚から別のチョコレートを突き出された。・・・・・かと思ったら項羽だった。

 

「項羽?」

 

「・・・・・清楚に無理矢理作らされた。だから、俺のも食え」

 

そう言う彼女の頬は羞恥で朱に染まっていた。照れているのか・・・・・可愛いな。

 

「イッセー!私もあなたにチョコを作ったの。食べてくれないかしら?」

 

「私もです。どうぞ」

 

リアス・グレモリーやソーナ・シトリーまでもがチョコを渡してきた。

 

「イッセーくん、私もよ!」

 

「いっくん、私たちも」

 

と、イリナや悠璃楼羅からもチョコを受け取った。

それから、リーラとネリネ、リコリス、シアや最近シアたちのクラスに

編入したキキョウからも、

 

「・・・・・はい、イッセー」

 

プリムラからもチョコを貰った。人から貰うのは今日だ何度目だろうか嬉しく思い。

 

「―――お前ら、ありがとうな」

 

満面の笑みを浮かべた。

 

「はう・・・・・」

 

「イッセーさまの笑顔・・・・・素敵です・・・・・」

 

「頑張って作った甲斐があったわね・・・・・」

 

「あの笑顔を見れるならまた作りたくなります・・・・・」

 

「イッセーくんの笑顔を見るのは初めてです」

 

「ギャ、ギャップが凄まじいわ・・・・・」

 

皆、顔を赤くして各々と呟きだす。さて、誰のから食べようかなー?

 

バンッ!

 

『待てぃ兵藤一誠っ!』

 

屋上に嫉妬集団が出現。金色の錫杖を発現してコンクリートに突き刺して結界を張った。

 

「えっと、一誠くん?」

 

「人の楽しみを邪魔しないように結界を張っただけだ。

魔王並みの攻撃をしてこない限り破られないから安心しろ」

 

そう言いながらリーラのチョコレートをパクリと食べた。

 

「うん・・・・・やっぱりリーラのお菓子は美味いな。食べても飽きないほど美味しいよ」

 

「ありがとうございます」

 

リーラは軽くお辞儀をした。でも、顔がとても嬉しそうだった。

さて、次は・・・・・ホワイトチョコレート?でも―――、

 

「イリナらしいな」

 

「ふふっ、分かってくれた?」

 

「ああ、神に仕える者として、教会の者としてやっぱり白がいいなってところだろ?」

 

「わぁ、そこまで分かってくれるなんて逆に凄いわ。そして凄く嬉しい」

 

イリナは満面の笑みを浮かべた。イリナの表情を見ながらホワイトチョコレートを

食べた俺は他の皆のチョコレートを食べ続けて行く。そして、最後に残ったのは―――、

 

「今度は妾のものを食べよ」

 

虚空から現れた羽衣狐。少し強引に受け取らされた箱を開けると―――、

羽衣狐を模したチョコレートだった。

 

「うわ、凄い・・・・・ここまでこったチョコレートは初めて見るぞ」

 

「ふふっ、そうであろう?さあ、食べるがいい」

 

俺は頷き・・・・・どこから食べればいいのか分からず悩んだ末、尻尾から食べた。

 

「・・・・・おお、イチゴ味だ」

 

「それだけではないぞ?残りの八本のチョコレートには様々な味があるのじゃ」

 

「随分と凝っているな・・・・・」

 

感嘆を漏らす俺の耳に羽衣狐が顔を寄せてきた。

 

「―――一本だけ本能を呼び覚ます媚薬も入れ込んである。九尾妖怪特性の媚薬じゃ」

 

―――――っ!?

 

なっ、あ、あんたは何を入れてんですか!?

信じられないものを見る目で羽衣狐の顔を覗き込んだら、

 

「ふふふっ、続きは夜にでも食うんじゃな。

ここで全部食べたら―――この場にいる全員を襲ってしまうからのぉ」

 

それだけ言ってポンと煙と化となって姿を消した。

 

「あの・・・・・どうかいたしましたか?」

 

「え?あ、いや・・・何でもない。最後はソーナ・シトリーのだな」

 

「ええ、味わって食べてください」

 

彼女の言葉を耳にしながら箱を開けると中身は―――。

 

「おおう・・・・・」

 

シトリー家の紋様を模したチョコレート。凄い、これも芸術的だ。

 

「凄い、食べるのが勿体ないぐらい芸術的だ」

 

「いえ、食べてください。見た目も大事ですが味も大事ですので」

 

真剣な表情でそう言われて、思わず首を縦に振った。

本当に食べるのが勿体ないぐらい芸術的だからな・・・・・。

 

「それじゃ、いただきます」

 

パクリとソーナ・シトリーのチョコを食べた。

 

「―――――――――――っ!?」

 

『っ!?』

 

俺が目を丸くしたら皆がビックリした表情を浮かべた。

 

「・・・・・ソーナ、美味しいけどチョコに何を入れたんだ?」

 

「えっと、シトリー家の領地で採れる薬草と栄養満点の食材、

それとシトリー家に伝わる愛を捧げる魔法を・・・・・」

 

「・・・・・そ、う、か」

 

―――バタリッ!

 

体から力がなくなって俺は倒れた。

 

「ちょっ、一誠っ!?」

 

「どうしたんですか!?」

 

「―――って、顔が真っ青っすよ!?」

 

「ソーナのお菓子を食べて平気だったイッセーが倒れるなんて!?」

 

「回復魔法を!」

 

「―――脈の動きが弱まっている!?」

 

「そ、そんな・・・・・!いっくん!死なないで!いっくん!」

 

あー、皆が心配している声が聞こえる。

 

「あ・・・・・・死んだ父さんと母さんが手招いている。父さん、母さん・・・そっちに行くよ」

 

「待って一誠!そっちに行っちゃダメだからね!?」

 

「いきなり倒れた友人が死ぬ寸前って洒落にならないですから!」

 

「イッセー!イッセー!イッセェェェェェェェッ!

 

リアス・グレモリーの泣き叫びを最後に目の前が真っ暗になった。

 

―――○●○―――

 

「―――はっ!?」

 

「あっ、起きたにゃん?」

 

目を一気に見開いた俺。真っ白な天井・・・・・周りを見渡せば白いカーテンに囲まれていて、

黒い着物を着込んで頭に猫耳を生やしている女性がいた。

 

「・・・・・えっと、黒歌・・・・・だよな?」

 

「ええ、黒歌よ?あなた、気を失ったって?大丈夫?」

 

「・・・・・体が動かない」

 

「一体、何を食べたら体が動けなくなるのよ」

 

いや、その前にどうしてお前がいるんだ?お前がいるということはヴァーリも近くにいるのか?

 

「どうして黒歌がここに?」

 

「ヴァーリの付き添い兼白音を見に来たのよ。

そしたら、大勢の人間に囲まれていて金色の結界の中で倒れているあなたを見つけた。

理由を聞いたらチョコレートを食べて瀕死の重体とか」

 

俺、瀕死の重体だったの?

 

「私がいなかったらあなたは死んでいたかもね。気がドンドン弱まっていたもの。

仙術を使える者じゃなきゃ、生命エネルギーを増幅させることもできなかったでしょうし、

ヴァーリの『半減』の能力と特殊な方法で毒の威力、

効果を半分にし続けていなかったら確実に死んでいたわ」

 

「・・・・・・」

 

マジで俺、死にそうだったのか・・・・・。

 

「それで、ヴァーリは?」

 

「あなたの横で寝転がっているわよ?」

 

なんですと・・・・・?改めて横を見たら―――寝息を立てて

俺にしがみついているヴァーリがいた。

 

「普通、白龍皇の能力って相手の力を半減にするものだったはずなのに、

何故か毒を半減にして治したのよね。本人に曰く『愛の力』だそうよ?

にゃははは、愛されているね?」

 

俺、二人に命を助けられたのか・・・・・。

 

「黒歌、ありがとうな。立場的に危ないのに助けてくれて」

 

「それを言うなら、こっちだって銀華の件があるわ。あの時も言ったけど、ありがとうにゃん」

 

「ああ、それと」と彼女は小さな箱を俺の胸の上に置いた。

 

「それ、ヴァーリの手作りチョコにゃん。ちゃんと食べなさい?

大丈夫、毒なんて入っていないから安心して」

 

「それ言われると困るんだがな・・・・・悪いけど食べさせてくれないか?」

 

「しょうがないわね、特別よ?」

 

ヴァーリの手作りチョコを箱から出した。指で摘まむ程度の一口サイズの大きさのチョコで、

俺の口の中にアッサリと入った。

 

「・・・・・アーモンド入りか。美味しいな」

 

「ふふっ、ヴァーリが訊いたら嬉しいでしょうけど、生憎いまは寝ているにゃん。

残念ね、ヴァーリ♪」

 

面白可笑しそうに黒歌は笑みを浮かべる。

そして、徐に上掛けの布団を捲って俺の胸、心臓辺りに手を添え出す。

 

「・・・うん、生命エネルギー、気も随分と安定している。

まだ動けないでしょうけど、もう少しで動けるようになるかもしれないわ」

 

「そうか、ありがとうな」

 

「どういたしましてにゃん。さて・・・・・私も少し寝かせてもらうわよ?」

 

そう言ってゴソゴソと着物を脱ぎだして―――全裸になった!?

そのまま彼女はヴァーリと反対側、空いている俺の右に寝転がって俺に抱きついてきた。

 

「あなたを助けるために長時間仙術を使ったから疲れたのよねー。だから癒してもらうにゃん」

 

「・・・・・」

 

しょうがない・・・・・命の恩人だから反論もできやしない。

俺の右腕は豊満な胸の谷間に挟まれ、右足も彼女の脚に挟まれて身動きが取れなくなった。

それからすぐ傍で黒歌の寝息が聞こえた。

 

「(こんな状態。絶対誰かが見たら驚くだろうな)」

 

この数分後。俺の予想は当たり、俺の様子を見に来ていた皆が驚愕の色を顔に

浮かばせたのであった。

さらに、家ではガイアたちがいまかいまかとリーラに教わりながら作った自分のチョコを持って

玄関で待っていたのは余談である。

 

―――夜

 

「・・・・・」

 

羽衣狐を模したチョコレートはたった狐の尻尾一本だけ残して食べきった。

 

「これ、食べないとダメなのか・・・・・・?」

 

このまま捨てたいと思う自分がハッキリいるのが分かる。

 

「ダメじゃ、ちゃんと食べよ」

 

俺の体を狐の尾で拘束して全裸でベッドにいる羽衣狐。

現実逃避及び、彼女から逃げることは不可能・・・・・・。

 

「・・・・・いただきます」

 

明日、学校を休むかもしれないな。と思いつつ最後の一本を口の中に入れて胃の中に送った。

刹那―――。体が急激に熱くなった。

頭の中はもう目の前にいる極上の体を誇る女を抱くことしか考えられなくなりつつある。

 

「ふふふ・・・・・さあ、妾のもとへおいで愛しい子よ・・・・・」

 

両足を全開にして俺を受け入れる気満々の彼女の姿に―――。

 

「・・・・・後悔するなよ。俺は一日じゃ犯し足りないからな」

 

「知っておる。ほら、妾の中にそれを入れるがいい」

 

「・・・・・」

 

指を弾いてこの部屋の時の流れを変えた。部屋に一時間いると外はたった一分という設定だ。

俺が思う存分に犯すために・・・・・。

 

「羽衣・・・・・!」

 

「あん!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

休校後のリトルとラグナロク
Episode1


 

 

「アザゼル。来たぞ。俺に頼みたいことって何だよ?」

 

アザゼルに呼ばれて俺は現在、旧校舎のとある一室にいる。

部屋はアザゼル専用小部屋として使用されていて、流石は自称神器(セイクリッド・ギア)マニアということ

だけあって、何やら機械や機材、色々なことを記した大量も紙の束があちらこちらと

無造作に置かれている。部屋に入った俺にアザゼルは気付き手を上げて出迎えてくれる。

 

「おー、来てくれたか。お前さんにしか頼めないことなんだよ兵藤一誠。

いや、この際お前のことをイッセーって呼ばせてもらう。ちょっと実験に付き合ってくれよ」

 

「実験だと?」

 

怪しげな実験はゴメンだと目元を細めていると、アザゼルの口が開いた。

 

「イッセーの『幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』は全て無効化するんだろ?

なら、もしもの場合、体に変化が起きてもその力であっという間に無効化にすればいいだけだ」

 

「・・・・・で、俺に何をさせようってんだ。その玩具の銃で」

 

子供の玩具の銃がアザゼルの手にある。それを指摘すると嫌な笑みを浮かべる。

 

「こいつは対象の体を小さくする銃だ。試作品だからできれば生き物で試したいんだよ。

この銃の効力と成果を知りたくてな」

 

「確かに『幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』は異能の能力であれば全て無効化する。

けど・・・・・逆に言えば、異能じゃない力だと無効化できないんだぞ?

人の気とか自然現象で起きるものとかさ」

 

「こいつには多少なりの魔力が籠っている。だから無効化できるはずだ」

 

「・・・・・それなら、大丈夫か・・・・・」

 

不安が募るばかりだが、今更断れるような雰囲気じゃない。

 

「んじゃ、試させてもらってもいいんだな?」

 

「失敗したら縛ってやるからな」

 

「・・・・・」

 

そう言ったら薄らと額に汗を浮かばせたアザゼル。そして、アザゼルは引き金を引いた。

 

ビビビビビビッ!

 

怪しげな閃光が銃口から出て来て俺に直撃し、俺は光に包まれた―――。

 

 

―――兵藤家In龍牙side

 

 

「一誠が呼ばれてかれこれ一時間は経過したよ」

 

「・・・・・どうしたんだろう?」

 

「とても重要な話をして長引いているのかもしれませんね」

 

初めまして、僕は神城龍牙です。

現在僕たちは堕天使の総督アザゼル先生に呼ばれてしまった兵藤一誠さんのことについて

疑問を浮かべています。和樹さん、式森和樹さんの言う通り、

一誠さんは一時間たっても未だに戻ってきません。何か遭ったのでしょうか?

 

「電話してみよう」

 

そう言って和樹さんは携帯で一誠さんに通信を入れました。しばらくすると、

和樹さんが人差し指を立てました。静かに・・・・・ということでしょう。

静かに気配を消していれば、和樹さんが口を開きました。

 

「もしもし、一誠?和樹だけどいま―――」

 

『うん?だれー?』

 

「「・・・・・」」

 

子供の声・・・・・?どことなく一誠さんの声に似ているような・・・・・。

和樹さんは一瞬、困惑しましたが気を取り直して喋り出しました。

 

「えっと・・・・・キミは誰かな?」

 

『僕?僕は兵藤一誠だよ?いま、変なおじさんに追いかけられて逃げている最中なの』

 

変なおじさんって・・・・・まさか、アザゼル先生のことじゃないでしょうね・・・・・。

 

「・・・・・どうして変なおじさんから逃げているんだい?」

 

『うーん、怪しいおじさんだし、何か分からないけど嫌いだから逃げているの』

 

怪しいのは確かですね・・・・・。

 

「いま、キミはどこにいるんだい?」

 

『えっと・・・・・・どこだろう?学校みたいなところから離れて知らない町の中に

走っているから分かんないや。ここどこ?』

 

「いや、僕に聞かれても・・・・・」

 

僕も同じ気持ちです和樹さん。しかし・・・・・外に逃げてしまったのですか。

これは厄介なことになっているようです。

 

『あっ、追いつかれちゃう!ごめんなさい、切るね!』

 

「ちょっ、待って!?―――切られた」

 

向こうから通信を切られてしまったようです。自分の携帯を見詰め、困惑の表情をしました。

 

「一誠が子供に成っている原因はどうやら、アザゼル先生のようだね」

 

「で、アザゼル先生から逃げいている一誠さんは、町中で逃げ回っていると」

 

「追いかけている理由はたぶん・・・・・一誠を捕まえようとしているからだと思う。

元に戻すために」

 

「一応、皆さんに報告しましょう」

 

僕の提案に和樹さんは頷いた。

一誠さん、あなたは本当に暇ということを知らない人で賑やかな人ですね。

 

―――桜side

 

こんにちは、私は私立ストレリチア女学院二年の八重桜です。

久々に木漏れ日通りに足を運んで新作で売られている可愛い人形を買いに来ています。

 

「あーん、可愛いなぁ・・・・・」

 

大きな猫のぬいぐるみに釘づけの私。値段は・・・・・うっ、高い・・・・・。

 

「あぅ・・・・・今の所持金じゃ買えません・・・・・」

 

残念そうに言い、大きなぬいぐるみから視線を外した。他にも可愛いぬいぐるみがある。

しばらく色んなぬいぐるみを見ていると満足して結局何も買わず店から出て

どこに行こうかと悩んでいると―――。

 

「よぉ、お嬢ちゃん。一人ー?」

 

「うっ・・・・・」

 

ナンパの人と出くわしてしまいました・・・・・。

 

「俺も一人なんだけど、どうだ?俺と一緒に遊ばない?」

 

「け、結構です」

 

「んまっ!この『女殺し』の俺の誘いに断わるなんて最近の人間の女は固いな!」

 

人間という呼び方をするのは大抵異種族の人たち。このヒトも悪魔か堕天使のヒトなんだろう。

うう・・・。またですか・・・・・。

 

「まあいいや。ほら、適当な店とカラオケとか行こうぜ」

 

「お断りします!」

 

強く拒否した。あの時のように一誠くんが助けに来てくれるとは思わない。

私自身が強くならないとダメなんだ。だから、私も成長しないといけない。

もう、一誠くんは私の手の届く場所にはいないから―――。

ナンパの人は額に青筋を浮かべた。

 

「なぁ、俺は温厚で接しているんだぜ?そんなハッキリと断われると傷付くんだけどなー?」

 

「『女殺し』と自分で言った時点であなたはろくもない人だと分かります。

ですので、お断りしますと言ったまでです」

 

「・・・・・OK、そーまで言うんなら俺にも考えがあるぜ。

―――お前を人気のないところで滅茶苦茶にされたいか、俺の言う通りにするかどっちか選べや。

さもないと、お前は32人目の奴隷にしてやるよ」

 

―――っ!?

 

奴隷・・・・・ですって・・・・・!?酷い・・・・・こんなヒトがこんな町にいるなんて

とても信じられない・・・・・!沸々と沸き上がる怒りが私を強気にしてくれる。

このヒトはいてはならない存在だ!

 

「あなたは最低です。暴力でものを言わせて女の人を酷い目に遭わせているんですね」

 

瞳に怒りの炎を籠めたまま、ナンパのヒトを睨むと、面白可笑しそうに笑みを浮かべ出した。

 

「ひゃっはっ!いいね、その反抗的な目・・・・・お前を奴隷にしようっかな。

うん、そうしよう」

 

私に手を向けて小型の魔方陣を展開した。な、なにを・・・・・?

 

「俺は相手の精神をちょこっとだけ操ることができるんだ。

―――お前の精神を乗っ取って俺の忠実な奴隷と化になるってことだ」

 

「なっ―――!?」

 

「こいつをお前の頭に触れたら―――俺の奴隷となるわけだ」

 

ナンパのヒトはその魔方陣を展開したまま、私の頭に突き出そうと構え出した。

逃げようと思った瞬間、足元に魔方陣が出現して、

鎖が飛び出して来たかと思ったら私の体を強く拘束した。

 

「ひゃはっ、逃げられねぇーよ!」

 

「―――っ!?」

 

狂喜の笑みを浮かべるナンパのヒトが展開した小型魔方陣が私の頭に迫った。

 

「(一誠くん―――!)」

 

思わず目を瞑って彼の名を心の中で叫んだ。お願い、神さま・・・!

どうか、どうか助けてください―――!

そう願わずにはいられなかった。このまま私はナンパのヒトの奴隷となってしまえば、

二度と家族や友達、―――一誠くんにも会えない。

 

刹那―――。

 

「お前、お姉ちゃんに何しているんだよ!」

 

ドゴンッ!

 

「―――――?」

 

幼い子供の声が聞こえた。でも、なんでだろう。聞き覚えのある声音だった。

目をゆっくりと開けると―――。目の前にナンパのヒトを殴った子供がいた。

ナンパのヒトは地面を数メートルぐらい滑ってようやく停まった。

私は信じられないものを見る目で子供に尋ねた。

 

「キミは・・・・・」

 

「お姉ちゃん、大丈夫?なにか、変なことされてない?」

 

「う、うん。大丈夫」

 

「そっか、よかったよ」

 

純粋無垢な笑顔を浮かべる男の子。・・・・・どこかで見たことがある顔。

 

「こ、この・・・クソガキ・・・・・!

いきなり俺の顔を殴りやがっていい度胸じゃねぇか!アアッ!?」

 

「お姉ちゃんを縛って何かしようとしているお前が悪い!

それに、嫌がっているじゃないか!お前は悪い奴だ!僕が倒してやる!」

 

「上等だこのクソガキが!ガキだからって容赦しないぞ!」

 

な、なんて正義感溢れている子供なんだろう。でも、危ないよ!?

開いて、悪魔か堕天使だよ!キミは逃げて欲しい!―――と、心の中で必死に願った矢先。

 

―――数十秒後。

 

「あっ・・・・・がっ・・・・・はっ・・・・・」

 

ビクンビクンと首まで地面に埋まったナンパのヒトがいた。

相手の戦意喪失どころか意識が朦朧としている。

 

「正義は勝つ!」

 

そう言ってポーズをとった男の子。私や遠巻きで見ていた人々も唖然としていた。

子供が自分より大きく、悪魔か堕天使のナンパのヒトに勝ってしまったから驚いた状態でいる。

 

「はい、お姉ちゃん。もう大丈夫だよ」

 

「う、うん。ありがとう・・・・・強いんだね」

 

「うん、大切な幼馴染を守るために頑張って強くなっているんだよ」

 

そっか・・・・・この子にも幼馴染がいるんだね。まるで彼のようだ、と親近感を沸いた。

すると、この子は私を拘束している鎖を触れて―――、

 

「―――見つけたぞ!」

 

「っ!?」

 

男の子の体が跳ね上がった。第三者の声がした方へ顔を向けると・・・・・。

 

「え・・・・・あのヒトって」

 

前髪が金色で後は黒髪の中年男性が全身で息をしていた。

しかも、テレビで見たことがある顔だ。名前は―――堕天使の総督アザゼル。

 

「・・・・・って、どーしてまた悪魔が地面に埋まっていやがるんだ?」

 

「えっと・・・・・私を奴隷にしようとしていた・・・・・悪魔です」

 

「・・・・・なるほど、大体の見当がつく。大方、そいつがお前さんを助けたんだろ?」

 

彼の言葉に私は頷いた。すると、堕天使の総督アザゼルさんが懐から携帯を取り出して

どこかに通信を入れた。

 

「―――あー、俺だ。町中で暴れていた悪魔が一人いた。ああ、だからそっちで頼めねぇか?

そうか。ありがとう。場所は―――。分かった、じゃあな」

 

通信を切った堕天使の総督アザゼルさんは私たちのところに近づく。

 

「嬢ちゃん、そいつをこっちに渡し手くんねぇーか?」

 

「・・・・・どうしてあなたがこの子を?」

 

「・・・・・物凄く言い辛いんだがしょうがない・・・・・そいつ、兵藤一誠なんだよ」

 

・・・・・・はい?

 

「え・・・・・一誠くん・・・・・なんですか?」

 

「ん?知り合いだったのか?」

 

私はコクリと頷いた。でも、そう言われて改めて男の子の顔を覗きこんだら・・・・・一致した。

一誠くんの顔が一致した。

 

「ちょーっと、俺の研究に付き合ってもらったんだけど、

俺のミスで兵藤一誠が心も体も幼くなっちまったんだ。で、

元に戻す方法を模索するためにもそいつが必要だったんだが・・・・・逃げられちまった」

 

「心も体も・・・・・?」

 

だから・・・・・私の顔を見ても不思議そうな眼を向けてくるんだね。

 

「そうだ、元に戻すためにもそいつが必要なんだ。じゃないと・・・・・」

 

「じゃないと?」

 

「・・・・・俺はあいつらに殺されちまう」

 

ブルリと堕天使の総督が体を震わせた。あの有名なヒトが怖がっているなんて・・・・・。

とても驚いた。

 

「・・・・・キミ、兵藤一誠くんって名前なの?」

 

「うん、そうだよ」

 

「―――――」

 

本当なんだ。じゃあ、実験とかで失敗して一誠くんが子供になっちゃったのも本当なんだね」

 

「・・・・・あの、私も一緒にいいですか?

この子の友達に葉桜清楚って子と友達がいるんです」

 

「葉桜清楚と友達?・・・まあ、俺より嬢ちゃんと一緒に来てくれれば逃げもしないだろう。

いいだろ一緒に来い」

 

了承してくれた。ありがとうございます。

 

「その前に、嬢ちゃんを縛っているそいつを解かないとな」

 

堕天使の総督が光の槍みたいなもので私の体に縛っている鎖を一閃した。

それだけで全部の鎖が千切れた。さ、流石は堕天使の総督でした。

 

カッ!

 

その直後。私と一誠くんの足元が光り輝いた。

 

「そいつの家に直行する」

 

と、私にそう告げた途端に、視界が真っ白に染まった―――。

 

―――○●○―――

 

―――アザゼルside

 

 

「・・・・・まあ、そういうことだ・・・・・」

 

「―――何がそういうことだ。このクソカラス」

 

自分は怒っているぞ、とばかり腕を組んで深紅のオーラを纏う、

真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッド。

 

「一誠さまを実験扱いするなんて、あなたは教師としての自覚と意識ないのですか?」

 

兵藤一誠のメイドがヒトをゴミのように見る目がなんとも怖ろしい。殺意まで感じるぞ。

 

「お、俺だってこんなことになるとは思ってもいなかったんだ。

それに、あいつの無効化の力なら大丈夫だと思っていたんだぞ」

 

「その結果があれじゃーね?」

 

猫又の上位種、猫魈の銀華がとある方へ視線を向けた。

 

「か、可愛い・・・・・!」

 

「うん、改めて見ると可愛いよね・・・・・」

 

「ちっちゃいいっくんちっちゃいいっくんちっちゃいいっくんちっちゃいいっくん」

 

「悠璃、そんなに連呼してはいけませんよ。・・・気持ちは物凄く分かりますが」

 

「わぁー、イッセーくんの子供の頃と全く同じで懐かしいわ!」

 

「これが小さい頃のイッセーの姿か・・・・・リアルで見ると印象が違うな」

 

「・・・・・イッセー先輩が子供・・・・・」

 

「ちっちゃいイッセーちっちゃいイッセーちっちゃいイッセーちっちゃいイッセー」

 

「リアス、あなたも連呼しないでください。気持ちは物凄く分かりますが」

 

「はい、可愛いですね・・・・・」

 

「あらあらうふふ♪可愛いですわね兵藤くん♪母性本能くすぐりまくりですわよ」

 

「イッセーが小さい・・・・・我、肩に乗っかれない」

 

「子供の頃のイッセーの姿か・・・・・可愛いな、うん」

 

一部、残念そうに言っている奴がいるが殆どは小さくなったあいつをご満悦のようだった。

イッセーを囲んでジッと見つめる女集団。対してイッセーは自分に向けられる多数の視線に

堪え切れなくなったのか、涙目になって口を開きだした。

 

「ううう・・・・・リーラさん」

 

「―――はい、ここにいますよ」

 

って、何時の間に!?音もなく現れたリーラがイッセーを抱きしめた。

 

「・・・・・心も小さくなったと言うことは記憶も子供の頃の時になっているのか?」

 

「俺がしようとしていたのは相手の身長を小さくすることだった。

だが、見ての通り、心までも幼くなっている。多分・・・・・今のあいつは子供の時の心と

記憶を抱えていると思う。それも、俺たちと出会う随分前の頃だ」

 

「リーラを呼んだと言うことは、誠と一香が生存していた頃ということか・・・」

 

「だな。だが・・・・・不味いな・・・・・」

 

今のあいつは十年前の子供の時の姿と心と記憶。そん時は誠と一香が生きていた。

だが、ヴァンたちに殺されて以降、グレートレッドことガイアに鍛えられる生活を送っていた。

 

「・・・・・誠と一香がこの世にいないことを知ったらどうなるか俺ですらわからん」

 

「隠し通す必要があるな。それでも、限界というものがあるぞ。どうするのだカラス」

 

「幸い、学校は休校状態。あいつの中の神滅具(ロンギヌス)の確認も取れた」

 

「で?」

 

どうするのだ?と俺の言葉を待つガイア。・・・・・マジでどうしよう。

 

「ねぇ、リーラさん。お父さんと母さんは?」

 

『―――っ!?』

 

危惧していたことが起きた!下手に言えず、俺は緊張の面持ちでイッセーの様子を見守った。

おいメイド。余計なことを言うんじゃねーぞ・・・・・!

 

「一誠さま、誠さまと一香さまはしばらくの間、お仕事で帰ってこれません。

もしかしたらしばらくは戻ってこないだろうと言い残してお仕事に行かれました」

 

「そうなんだ・・・・・うん、仕事ならしょうがないよね」

 

メイド、ナイスだ!取り敢えず、一時の難を逃れたが・・・・・何時まで持ち堪えるやら。

 

「えっと・・・・・リーラさん。この人たちは誰なの?なんだか、僕を見る目が怖いんだけど」

 

『うっ・・・・!?』

 

第一印象危うし、だな。怖いヒトと近づきたくないという子供特有の恐怖心を抱きつつある

子供のイッセーは、警戒していた。驚いたな、その歳で相手に警戒するなんてよ・・・・・。

 

「一誠さまとお友だちに成りたい人たちですよ」

 

「・・・・・そうなの?」

 

「はい、ですから何時までも警戒したら皆さんに失礼ですよ?」

 

やんわりとあいつを窘めるメイド。

流石と言うべきか、古くから一誠に仕えていたメイドはよく一誠のことを熟知している。

あいつに任せていれば少しの間は安心できる。

 

「うん・・・・・分かったよ」

 

警戒心を解いてリアスたちを見上げた。若干、緊張した面持ちだ。

 

「えっと、兵藤一誠です。よろしくお願いします」

 

深々とお辞儀をする。礼儀正しいな。さて、俺は―――。

 

「貴様はさっさと一誠を元に戻す方法、手段を探して来い」

 

ドガンッ!

 

ガイアに思いっきり蹴り飛ばされ、壁にぶつかるどころか虚空に穴が開いて、穴の向こう、

外に強制退場された俺だった。って、俺の扱い方酷くねぇーか!?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode2

 

 

 

式森和樹です。一誠が子供に成って二日が経過しました。この二日はとても大変な思いをしたよ。

まずは、一誠が十年前の姿になっているということで、十年後の今を知られたら

今の彼がどんなことになるのか分からないので、世間を知らせないが為にカレンダーやテレビ、

十年後の今を知ることができる物を全て撤去しました。

そして次に、一誠を巡る争いが水面下で起こっていることです。

小さくなった一誠と過ごす時間はもうないのだと皆は一誠の目が届かないところで争ったり、

自分と一緒にいようと何かしらの理由を付けて誘ったりする光景をよく見かけるようになった。

 

「和樹お兄ちゃん」

 

「ん?なんだい?」

 

「和樹お兄ちゃんって魔法使いなんだよね?」

 

純粋無垢に話しかける一誠。

ああ、こんな感じに子供バージョンの一誠から話しかけられるなんてね。面白い体験だよ。

 

「そうだよ?僕の魔法を見てみたいのかな?」

 

「うん、お願いします」

 

ペコリとお辞儀された。そうまで僕の魔法を見たいなら見せなくちゃね。

魔方陣を展開して属性魔法で具現化した様々な小型にした動物を発現させると、

一誠は瞳をキラキラと輝かせた。ふふっ、本当に子供に戻っちゃったんだね。

 

ゾク・・・・・ッ!

 

「っ!?」

 

殺気めいた視線を感じた。その殺気の発信源を辿って振りかえると―――。

 

『・・・・・・』

 

い、一誠を慕っている皆が壁から半分だけ顔を出しては、羨望と嫉妬の視線を僕に向けていた。

 

「和樹お兄ちゃん・・・・・あのお姉ちゃんたち殺気を出して怖いよ・・・・・」

 

こ、この歳で殺気を感じることができるの!?

信じられないと一誠を見ていると、本当に怖そうに僕の脚にしがみついて体を震わせていた。

 

「―――何をなさっているのですかあなたたちは」

 

ああ、そこで救世主が現れた。一誠のメイド、リーラ・シャルンホルストさん。

 

「な、何って私たちは・・・・・」

 

「一誠さまが怖がっておいでです。一誠さまを見ている暇があれば働いてください。

働かぬ者食うべからず、という諺をご存じないのでしょうか?」

 

「う・・・・・っ、それは・・・・・」

 

「何もしないで一誠さまに近づこうなどと一誠さまのメイドである私が許しません。

ノルマをクリアしてから一誠さまと接してください」

 

そう言って彼女は皆の襟を器用に掴んで纏めて引き摺って行った。す、凄い・・・・・。

 

「和樹兄ちゃん、一緒に遊ぼう?」

 

「あはは・・・うん、遊ぼうか」

 

後で怖い思いをするかもしれないけど、一誠の面倒を看なくちゃね。

 

―――清楚side

 

こんにちは、葉桜清楚です。今日は休日ということなので、私のお友だちが遊びに来ています。

 

「こんにちは、清楚ちゃん」

 

「うん、こんにちは桜ちゃん」

 

八重桜ちゃん。学校外のお友だちです。そして、恋のライバルでもあるの。

一誠くんの家に住んでいる私は桜ちゃんを家の中に招いて取り敢えず私の部屋に案内します。

 

「清楚ちゃん、一誠くんの様子はどう?」

 

「元気だよ。でも、皆、一誠くんと一緒にいたいと何時も傍にいるよ」

 

「そうなんだ。一誠くんモテモテだね」

 

彼女の苦笑と共に出た言葉に私は同意と首を縦に振った。

 

「それにごめんね。急に泊りたいって言っちゃって」

 

「大丈夫だよ。それに私ばかり不公平だし、桜ちゃんも一誠くんと接してほしいからね」

 

「・・・・・ありがとう」

 

そう、彼女が家に遊びに来た理由はこの家に泊るため。

片手で引き摺るキャリーケースの中身は二泊三日分の着替えが入っていると思う。

 

「それにしても、大きいねこの家。まるで豪邸にいるような感じだよ」

 

「うん、私も初めて来たときは驚いたよ。今はもう慣れたけどね」

 

二階に上がれる階段に足を進ませて、真っ直ぐ廊下を突き進む。

 

「そう言えば清楚ちゃん。大丈夫だった?

学校がテロリストに襲撃されちゃうなんて聞いた時は心配したよ」

 

「ありがとう心配してくれて。でも、学校の先生や実力がある先輩たちが撃退してくれたから

怪我一つの負わずにいられたよ」

 

「そっか、でも、休校状態なんでしょう?」

 

そうだね・・・・・理事長が学校を休校にして数日が経過している。

私たちが違う学校に通うことになっているけど、私たちを受け入れる学校の目処は

まだ達ていないようで連絡はまだない。

 

「ここが私の部屋、それで桜ちゃんの寝る場所は私の隣の部屋だよ」

 

左側のとある扉の前に立ち、桜ちゃんの寝る部屋を教えた。彼女が中に入ってしばらく経った頃、

 

「清楚お姉ちゃん」

 

「っ!」

 

下から子供の声が聞こえた。聞き間違うはずがない。

この声は一誠くんの声。下に視線を向ければ一誠くんがいて上目使いで私を見詰めていた。

 

「(うう・・・惚れた弱みってこのことなのかな。もう一誠くんが可愛過ぎて仕方がないよ)」

 

そう心の中で悶絶する私は何とか平然とした態度で「どうしたの?」と尋ねた。

 

「なんか知っているお姉ちゃんの気を感じたから来たんだけど、誰かな?」

 

一誠くんは小さくなっても、大きい頃のイッセーくんの能力は引き継いでいるようで、

実力は勿論、相手の気を探知したりすることができることが後に成って分かった。

全員でかくれんぼして一誠くんは私たちの殆どを見つけたほど。

そして、実力は赤龍帝の成神くんを少し苦戦しながらも勝利した。

 

『あいつ、子供に成っても体が今までの経験を憶えているようだ。

苦戦したのは神器(セイクリッド・ギア)を使えないからだろうが、

代わりになんでだか知らんが、魔力を扱える。どっちにしろ末恐ろしい奴だよ。本当に』

 

アザゼル先生すらも驚愕していた。

体力の方も大きい頃の一誠くんの三分の一にまで減ったようだけど、それでも強い。

 

「うん、私の友達が来ているんだよ」

 

「お姉ちゃんの友達?」

 

小さく、可愛く首を傾げて言う一誠くん。ああ・・・・・可愛いな・・・・・。

 

「清楚ちゃん、お待たせ」

 

「あっ、桜お姉ちゃん!」

 

桜ちゃんが部屋から出た途端に顔を明るくして彼女に抱きついた一誠くんであった。

 

「一誠くん、こんにちは。元気にしていた?」

 

「うん!それに怖いお姉ちゃんたちばかりだけど、皆優しいから楽しいよ!」

 

すでに一誠くんの中で、リアス先輩たちは怖いお姉さんと認識されている。

それを知った時の先輩たちは物凄くショックを受けていた。その光景は今でも忘れられない。

 

「そっか、よかったね。そうだ、一誠くんにプレゼントがあるんだよ」

 

「プレゼント?」

 

オウム返しをして尋ねる一誠くんの目の前に、

桜ちゃんが小さな猫のぬいぐるみを見せびらかした。

 

「はい、この子だよ」

 

「わぁ、猫のぬいぐるみだ!」

 

瞳をキラキラと輝かせて猫のぬいぐるみを受け取った一誠くんは

ギュッとぬいぐるみを抱きしめた。

うん、その様子を見ただけで思わず抱きしめたい衝動に駆られるに十分なほど。

 

「・・・・・清楚ちゃん、一誠くんって可愛いね。お持ち帰りしたい」

 

「その気持ちは分かるよ桜ちゃん。でも、お持ち帰りはダメ」

 

恋のライバルとして、例え冗談でもそれだけはダメ。

 

「お姉ちゃん、ありがとうね!」

 

「「―――――っ」」

 

純粋無垢で眩しい笑顔・・・・・大きい一誠くんでは滅多にしない笑顔。

その笑顔に見惚れて私だけじゃなく、桜ちゃんの顔が真っ赤になった。

 

「やっぱり・・・・・可愛いな・・・・・恰好良い一誠くんもいいけど、

可愛い一誠くんもいいよ」

 

「私もそう思うよ桜ちゃん」

 

私たちから離れていく一誠くんを、高鳴る心臓の鼓動を感じながら見詰めて呟いた。

 

―――イリナside

 

こんにちは、紫藤イリナです!いま私は子供に戻ってしまった一誠くんと特撮ヒーローごっこを

楽しんでいます!場所は兵藤家の敷地にある広場。ここなら大きな攻撃をしない限り、

被害は最小限で抑えられるし、運動をするにしてももってこいの場所。

丁度、一誠くんは私が上空に放り投げて下に向かって足を伸ばして―――。

 

「キーックッ!」

 

ドガンッ!

 

うん・・・・・本物染みた特撮ヒーローのようだわ。

地面を小さいながらもクレーターを作っちゃうほど一誠くんの戦闘能力は凄いのよね。

大きかった頃の戦闘能力がそのまま引き継いでいるって話だし・・・・・。

 

「一誠くん、凄いわね!地面を凹ますなんてヒーローみたい!」

 

「そうかな?軽く力を入れちゃったから凹んじゃったんだけど」

 

い、今ので軽く・・・。本気でやったらもっと大きなクレーターができると

言うのかしらこの子は・・・。

 

「それにしても偶然だねー」

 

「偶然?」

 

「うん、僕のお友だちにイリナって男の子がいるんだよ。

お姉ちゃんと同じ名前だから驚いちゃった」

 

「―――っ!」

 

そ、そうだったわ・・・・・私、小さい頃はヴァーリと一緒に一誠くんと遊んでいた

時期があった。私がその時の紫藤イリナだってことを気付かれちゃいけないわ・・・・・!

 

「そ、そうなんだ・・・・・本当に偶然だね」

 

「そうだねー。・・・・・そうだ、今あの公園に行ったらイリナとヴァーリと会えるかな?」

 

「っ!?」

 

ドクンッ!

 

こ、これは・・・・・最大のピンチ!?あの時の公園はまだあるけど、

今いる場所じゃないのよね!ど、どうしよう!?

私、この瞬間をどう選択すればいいのですか主よ!?

 

「ねぇ、お姉ちゃん。お外に行ってもいいかな?」

 

「えっ!?え、えーと・・・・・」

 

ど、どうしよう・・・・・・!言葉を濁らす私。どうすれば。どう答えればいいのよぉっ!?

 

「っ!」

 

苦難する私の視界に一誠くんの表情が険しくなった。えっ、どうしたの―――?

 

「―――勝負といこうじゃねぇか!兵藤一誠っ!」

 

「はっ―――!?」

 

真上から振ってくる一つの影。刹那―――。

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

私たちがいる場所に影が飛来して来て地面と直撃した。

思わず私は一誠くんから離れて回避しちゃったけど、一誠くんは大丈夫かしら!?

 

「よう、兵藤一誠。学校が休校状態だからよ。暇で暇でしょうがないんだわ。

だから、俺と勝負してもらうぜ?」

 

立ち籠る土煙から聞き覚えのある声がした。その声の主は―――。

兵藤照!土煙が晴れると二人の姿が視界に映った。

 

「・・・・・はっ?」

 

「・・・・・」

 

片方は腕を交差して相手の拳を防いでいた。

片方は腕を突き出した状態で片方の姿に唖然となっていた。

 

「・・・・・お前、兵藤一誠だよな・・・・・?」

 

「酷いよ!なんでいきなり僕に攻撃するのさ!?僕はお前に何かしたのかよ!?」

 

「・・・・・」

 

子供から非難の声を浴びされても、兵藤照は信じられない物を見る目で

一誠くんを凝視するばかりだった。

 

「気は確かにあいつのものだ。でも、どうして小さくなっているんだ?訳分からねぇ・・・」

 

「―――訳分からぬのは貴様の方だぞ」

 

ガシッ!

 

「うがっ!?」

 

突然、兵藤照が悲鳴を上げた。それは当然よ。

だって・・・・・背後には深紅のオーラを迸って深紅の髪を逆立てている人が兵藤照の首を

掴んでいるんですもの。隣にはオーフィスがいた。

 

「事情は知らないとはいえ、子供に、我の一誠に攻撃するとはいい度胸であるなぁ?」

 

「て、てめぇは・・・・・!?」

 

目で見ても分かるぐらい首を掴む手の力が増していく最中、兵藤照は尻目で彼女に問うけど。

 

「貴様に名乗るなはない。オーフィス、お前も来い。こいつに罰を与えるぞ」

 

「当然」

 

深紅の髪の女性に同意するオーフィス。そしたら、彼女たちは兵藤照と虚空に消え去った。

 

「・・・・・お姉ちゃん。あの人なんなの?」

 

「さ、さあ・・・・・」

 

取り敢えず、これだけは分かって言える。―――見なかったことにしよう。

 

―――キキョウside

 

現在は夜。だから、こんばんわと挨拶するわ。私の名前はキキョウ。

神王と魔王の妹の間に生まれた姉である天使、神族リシアンサスの悪魔、魔族である妹の私、

キキョウはいま、子供を膝に乗せてテレビ鑑賞をしているところ。

 

「いいなーいいなー、キキョウちゃん。羨ましいっす」

 

隣で姉が羨望の眼差しを執拗に向けてくる。

 

「小さいイッセーさま小さいイッセーさま小さいイッセーさま小さいイッセーさま」

 

「ネリネ。イッセーくんが可愛いのは分かるけど、抑えて」

 

隣でマジマジと私の膝に座る子供―――一誠を見詰める魔王の娘であるネリネと

そんな危ない発言をするネリネを窘める妹のリコリス。

 

「うーむ、一誠殿が俺の娘たちの間に生まれた男の子ならあんな感じなんだろうか?」

 

「これは遺伝子の問題だろうね。でも、彼の姿を見ていると懐かしいじゃないか」

 

私やシア、ネリネとリコリスの父親たちが一誠を肴にして酒を飲む始末。

どうして一誠が子供に成ったのかは説明された。

まったく、あの堕天使の総督は見た時から信用できなと思っていたのよね。

 

「キキョウお姉ちゃん」

 

「なに?」

 

「えへへ♪」

 

「―――――」

 

唐突に笑みを浮かべる一誠。何が楽しいのか、何が面白いのか、私は分からない。

でも、一誠の笑みを見ていると、心が和やかになるのはなぜだろうか・・・・・。

 

「まったく、お姉ちゃんの顔を見て笑うなんて失礼よ?」

 

「うー、ごめんなさーい」

 

・・・・・まったく、こんな子があの一誠だとは思いもしないわよ。

本当に子供のような反応をするんだから。

 

「ほら、次はネリネお姉ちゃんの膝に座る番よ?」

 

「はーい」

 

そう言って一誠は私の膝から降りては隣に座っているネリネの膝に座った。

 

「・・・・・はふぅ・・・・・」

 

ネリネは熱い息を吐いた。感無量とばかりだわね。

 

「うーん」

 

でも、一誠の方は座り心地が悪いのか、モゾモゾと動き出す。そして、一言。

 

「頭が重い」

 

「うっ!」

 

・・・・・ああ、そういうこと。思わずは私は苦笑した。

ネリネの豊満な胸が小さいサイズの一誠の頭の上に乗っかっちゃっているから、

しょうがないことだわね。

 

「一誠、座り方を変えたら?ネリネお姉ちゃんと対面するように座って」

 

「対面に?うん、分かった」

 

私の指示に従う一誠は本当にネリネと対面した。すると、ネリネの胸が一誠の顔に。

 

「・・・・・ん、マシュマロみたいに柔らかい」

 

「あう・・・イッセーさま・・・・・」

 

ネリネの胸に顔を埋める一誠に対して、恥ずかしそうだけど、

愛しみの色が籠った瞳を一誠に向けているネリネは満更でもなさそうだった。

その内、ネリネが一誠の頭を撫で始めた。優しく、まるで母親が子供の頭を撫でるような風に

手を動かす。

 

「~♪~♪~♪~」

 

リコリスはネリネと一誠の雰囲気を読んだのか、歌を歌った。次第にネリネも歌い出す。

―――『天使の歌』―――。天使のように綺麗な歌声だからと冥界じゃかなり有名な話のようで、

実際に神ヤハウェさえも認めるほどの歌声。彼女たちが天使だったら、

かなりの数の信仰者が増えていたに違いないと言うぐらいだ。それからしばらくして、

私たちがいるリビングキッチンはネリネとリコリスの綺麗で澄んだ歌声に包まれていると、

 

「・・・・・」

 

一誠がゆっくりと目を閉じようとしていた。二人の歌が子守唄のような効果だったのか、

眠たそうな表情だった。

 

「・・・・・寝ちゃったすね」

 

シアが一誠の顔を覗き込んで言った。ネリネとリコリスも歌うのを止めて一誠の顔を覗き込んだ。

私もそうすると、静かに小さく寝息を立てる一誠の寝顔が視界に映る。

 

「可愛いね・・・」

 

「はい・・・・・」

 

「イッセーくんの寝顔を見るのは初めてだね」

 

「そうね・・・・・」

 

今回だけかもしれないこの子の寝顔を見るのは。だから、忘れないように目に焼き付けると、

一誠の専属メイドが近寄ってきた。

どうやら、一誠を部屋に連れて行くつもりのようだけど・・・。

 

「・・・・・申し訳ございませんネリネさま。今日はこの家で寝てもらえませんでしょうか?」

 

「え・・・・・?」

 

「一誠さまは誠さまと一香さまがいない日は、寂しさを紛らわすように寝るときは誰かと一緒に

寝ることで安心してご就寝するのです。私も何度もそうして寝かせていたので」

 

寂しさを紛らわす・・・・・そう、一誠も寂しがっていたんだ。

 

父さんと母さんが会えない時はいつも・・・・・。

 

「ですので、お願いできませんか?」

 

「リーラさん・・・・・お父さま・・・・・」

 

「ああ、一緒に一誠ちゃんと寝なさい。

それで彼が寂しい思いをしないなら一緒に寝てあげるべきだ。勿論リコリスちゃんもだよ」

 

「シア、キキョウもだ。小さいが一誠殿と一緒に寝たかっただろ?今がその時だと思うぜ」

 

叔父さんと父さんがそう言ってくる。親公認とならば、シアは当然。

 

「分かったっす。イッセーくんと一緒に寝るっす」

 

と、私の予想通りに言ってくれた。

 

「はい!私も一緒に寝たいわ!」

 

どこからか、自分もと声が上がった。それに呼応して自分もと声に出す皆が出てくる。

 

―――結局、収拾がつかなくなって全員と寝る事となったのは余談だったわ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode3

 

 

「にゃんにゃん♪」

 

「・・・・・にゃん」

 

私は塔城小猫。元は猫魈という猫又の妖怪の上位種だった妖怪です。

悪魔に転生した理由は、とても複雑な状況下でなりました。私の姉が原因で転生したのですが、

姉も私の為にしてくれたことだと今まで知らなかったもう一人の姉から伝えられた姉の事情を

聞いてとても驚きました。

 

「小猫お姉ちゃん、猫みたいに可愛いにゃん♪」

 

「・・・・・」

 

今現在、私は子供に戻ったイッセー先輩、兵藤一誠の面倒を見ています。

イッセー先輩と名前と同じ呼び名の赤龍帝がいますが、

変態な赤龍帝より変態じゃないイッセー先輩はとても現在進行可愛いと思います。

大きなイッセー先輩は色々と凄いですが、子供のイッセー先輩はとても可愛いです。

私も弟がいたらこんな子だったら良いとつくづく思う時があります。

 

「あら、面白そうなことをしているじゃない」

 

「銀華お姉ちゃん!」

 

もう一人の姉、銀華姉さんが現れました。彼女の容姿は黒歌姉さん、私のもう一人の姉と容姿が

全く同じです。髪と瞳の色が違うだけなので、そこに黒歌姉さんがいると錯覚する事も

しばしばあります。

 

「ところで、一誠。その猫耳はどうしたの?」

 

「リーラさんに頼んだの」

 

そう、先輩の頭には猫耳だけじゃなく、しっぽまでもついている。・・・・・可愛いです。

 

「ふふっ、そう。可愛いわね。銀華お姉ちゃんも一緒に遊んでいいかにゃん?」

 

「うん!一緒に猫のように遊ぼうにゃん!」

 

先輩は猫のように手を丸めたポーズをした。

そんなイッセー先輩に銀華姉さんは愛しみが籠った瞳をして、

 

「・・・・・本当、可愛いにゃん」

 

と、呟いた。はい、私もそう思います銀華姉さん。

 

―――千夏side

 

みなさん、初めまして私は兵藤家の者、兵藤千夏でございます。以御お見知りおきを。

さて、私は同族である兵藤照の気になる事を聞きましたので、

私とお姉さま兵藤麗蘭と一緒に一誠さまのご自宅の前にいます。

 

「一誠さまの気を感じるけれど、小さい子供だった・・・あの人の話は本当なのでしょうか?」

 

「あんな人でも、腐っても嘘は言いませんよ。正直ものですからね一応は」

 

兵藤家の若手の中で一番の実力者で、四天王と称される一人である彼、

兵藤照の話しは本当かどうか私たちが確かめに来たわけなのです・・・・・。

 

「では、押しましょうか」

 

お姉さまはインターホンを躊躇もなく押すことしばらくして、玄関の扉が開いた。

扉から出てきたのは―――。

 

「兵藤麗蘭さまと兵藤千夏さまですね?お久しぶりでございます」

 

小さい頃、何度か会い、お話したことがある一誠さまのメイドだった。

 

「お久しぶりでございます。リーラさん」

 

十年振りだというのに昔のままの容姿。すでに三十代の年齢だと思うのですが、

まだ二十代前半、十代後半だと思うほど美しいです。一体どんな方法でその美貌を保てているのか

気になるところです。

 

「本日はどのように?一誠さまにお会いしたいのであれば、色々と事情がありまして

お会いできかねますが・・・・・」

 

「あの、何時だったか兵藤照が一誠さまに勝負を吹っかけに参ったのですが、

帰って来たかと思えばボロボロになっていました。そしたら、一誠さまが小さくなっていると

気になることを仰っていたので、真実を確かめにやってきたのです」

 

「勿論、この事は兵藤家メンバーのみしかお伝えしません。

なによりも次期人王の身に何か遭ったのであれば

私たちは知る必要があるのです」

 

「・・・・・」

 

リーラさんは一瞬困った顔をした。本当にどうしたのだろうか・・・・・と思っていると

玄関の扉からヒョコっと小さな頭を出した子供―――え―――?

 

「リーラさん、どうしたのー?」

 

その子供はリーラさんに尋ねた。―――照の言う通り、一誠さまの気がこの子から感じる。

 

「・・・リーラさん、事情を説明してくださいますよね?」

 

「・・・・・分かりました。中にお入りください」

 

私たちを家の中へ招き入れる彼女。その際、小さな男の子を一瞥した。

 

「お姉さま・・・・・この子が一誠さまなのでしょうか?」

 

「もしかしたらそうかもしれません。ですが、一体どうして・・・・・」

 

リーラさんについていくと、男の子もついてくる。まるで親子のカルガモのような感じで。

 

「・・・・・ですけど、お姉さま」

 

「ええ・・・・・」

 

「「可愛いですね」」

 

それが一番の思いだった。ええ、もう。母性本能をくすぐられっぱなしです!

抱きしめたいですよもう!

 

―――リーラside

 

「原因は、堕天使総督のアザゼルの発明した機械のミスによる結果によって、

一誠さまの心と体が子供に戻ってしまったことなんです」

 

「「・・・・・」」

 

一誠さまの様子を見に来たと言う兵藤麗蘭さまと兵藤千夏さま。

隠し事はしない方がいいと全てを告げて心の中で溜息を吐く。

二人の様子は困惑した面持ちのようで一度、顔を見合わせてから口を開きだしました。

 

「では、本当にあの子供が一誠さまの幼少の頃だと?」

 

「ええ、戦闘能力は引き継がれているようですが、逆に神器(セイクリッド・ギア)の使い方を

知らないのです。何故か魔力を使えるという事実がありますが・・・・・」

 

「魔力を使える・・・・・?一誠さまは魔法使いなのではありませんよね?」

 

「はい、ですが・・・・・魔法使いの血を受け継いでいるのではないかと思っております」

 

そう、一誠さまですら知らない事実の一つ。

一香さまは式森家の一員、つまりは魔法使いだったのです。

 

「それで、戻る可能性はあるのですか?このままでは色々と支障が出かねないのですが・・・」

 

「アザゼルさまにお願いしているので一応、大丈夫かと。

私たちも密かに戻す方法を探しております」

 

「そうですか・・・・・」

 

さて、当の一誠さまはというと・・・・・。

 

「フワフワのモコモコ~♪」

 

「ふふふっ、妾の尾は柔らかいかのぉ?」

 

「うん、柔らかいよお姉ちゃん」

 

「そうかそうか。ほれ、妾の胸の中においで。妾のやや子よ」

 

何故か、羽衣狐さまが現世にいて一誠さまと接していました。

 

「・・・・・リーラさま、一誠さまは可愛いですね」

 

「そうですね。懐かしさも感じます。お二人もどうぞ接してやってください」

 

「いいのですか?」

 

先ほどからチラチラと見ていますし・・・・・何をどうしたいかなどと愚問というものです。

 

「はい、ですが、一誠さまの記憶は十年前・・・・・十年後の今の状況と状態、

世間の話しを一切触れさせないでください。知りたくても教えようとも知らせないように

お願いします。解決策を見つかるまでの焼け石に水程度の時間稼ぎをしなくてはなりませんから」

 

「分かりましたわ。私たち兵藤家も一誠さまの心と体を十年後に戻す方法を探します」

 

「いまは―――一誠さまと戯れさせてもらいますわ」

 

空気に振動が生じたかと思えば、

 

「こんにちは、兵藤一誠くん。私は兵藤麗蘭ですわ」

 

「兵藤千夏です。一誠くん、お姉ちゃんたちも一緒に遊ぼう?」

 

何時の間にかお二人は一誠さまと挨拶をしていた。

 

「(いずれにせよ、一誠さまの中で疑問が募っているはずです。

それがピークに達する前になんとかせねばなりません)」

 

それにしてもあの人は遅いです。まだなのでしょうか・・・・・。

 

―――朱乃side

 

あらあらうふふ♪こんにちは私は姫島朱乃と申します。

いま私は可愛らしい子供と一緒に水族館にやってきていますわ。その理由は、

 

『ずっと家の中じゃつまらないよ・・・・・リーラさん、水族館に行きたい』

 

物欲しそうな顔をした子供が我がままを言ったのですから。

子供、兵藤一誠くんの言葉を聞き、リーラさんを筆頭に私たちは相談をしました。

確かに、これ以上は家にいさせるとストレスが溜まるのは必然的。

なので、私たちは兵藤くんの水族館に行きたいという願いを叶えることにしました。

 

「わぁー!お魚がいっぱい!」

 

水を得た魚のように兵藤くんは目をキラキラと輝かせて、思い切り楽しんでいます。

 

「か、可愛い・・・・・」

 

「あんな笑顔は元に戻ってしまったら、もう二度と見れませんね」

 

「元に戻って欲しい自分とこのままのイッセーくんを見てみたい自分がいて葛藤するっす・・・・・!」

 

「清楚ちゃん・・・・・私、もう一誠くんの笑顔を見る度に参っちゃうよ・・・・・」

 

「写真を撮ろう。うん、そうしよう」

 

皆さんは水槽の中にいる魚たちよりも兵藤くんに夢中ですわね。うふふ♪

 

「朱乃お姉ちゃん!変な形のお魚がいるよ?あれ、何て魚なの?」

 

可愛いく首を傾げながらとある魚に指す兵藤くん。うふふ。

本当、子供に成って子供のように振る舞う姿は愛くるしいですわね。

だから他の皆も彼に夢中なのよね・・・・・。それから終始、私たちは兵藤くんと共に

水族館を満喫した。今まで家に籠っていた不満さとつまらなさを解消するかのように兵藤くんは

大はしゃぎをしていた。その笑顔を見る度にリアスたちは顔を蕩けさせ、幸せそうに笑顔を浮かべ

続けました。彼の魅力が皆を笑顔にするのですね。水族館から出てきたところで、

 

「リーラさん、楽しかった!」

 

満面の笑みを浮かべる兵藤くん。

 

「そうですね。また水族館へ来ましょう」

 

「うん!」

 

兵藤くんは笑顔を浮かべたまま頷く。

うふふ、子供って純粋ですわね。・・・・・私も昔はあんな時があったのですがね。

 

カッ!

 

足元に魔方陣が出現した。家に帰るため、式森くんが魔方陣を展開したのでしょう。

一瞬の光が私たちを包みこみ、私たちは水族館から一瞬で兵藤くんの家の門に辿り着きました。

 

「・・・・・あれ?」

 

「どうしたの?」

 

「家の中に人がいるよ?」

 

「なんですって・・・・・?」

 

兵藤くんの言葉に怪訝な面持でリアスが言う。

 

「神王と魔王・・・・・それにこの感じは・・・・・堕天使?でも、アザゼルじゃないわね」

 

「―――っ!?」

 

小猫ちゃんの姉、銀華も兵藤くんの言葉を肯定とさらに補足説明してくれた。

堕天使・・・・・それも堕天使総督のアザゼルとは別の存在の堕天使。

どうしてこの子の家にいるのか不自然ですわね・・・・・。

 

「あの人たちは・・・・・後で注意せねばなりませんね」

 

兵藤くんのメイドさんが嘆息して門を潜り、玄関の扉を開け放った。私たちも続き、中に入る。

彼女は真っ先にリビングキッチンへと向かって行った。扉を開け放ち、中へ侵入すると

何やら賑やかな声が聞こえてくる。兵藤くんと一緒に彼女が開け放った扉の向こうに

侵入を果たせば―――。

 

「おお、お前ら!戻ってきたな!」

 

「やぁ、水族館はどうだったかね?」

 

神王ユーストマさまと魔王フォーベシイさまが出迎えてくれた。

テーブルには大量のお酒とつまみ。二人と対面するように座る人物たちもいた。

 

「―――――」

 

その中に、信じられないヒトがいた。なぜ、あなたがここにいる―――っ!

 

―――リアスside

 

「神王さまと魔王さま。仮にも他人の家に、それも留守中に無断で上がるとは

神王として魔王として自覚があるのでしょうか?

ルシファーさまたちとヤハウェさまたちにご報告をさせてもらいます」

 

「「申し訳ございません!それだけはどうかご勘弁を!」」

 

水族館から帰って来た私たちを出迎えてくれたのはリーラさんに説教されて

土下座中の神王と魔王、そして・・・・・。

 

「・・・・・お主、孫かのぉ?」

 

「うん、そうだよー?」

 

イッセーが抱きついている老人。―――この国にいるはずもない北欧の主神オーディンさまと

背後に佇む二人の銀髪の女性。さらには―――。

 

「・・・・・」

 

堕天使の幹部の一人・・・・・バラキエル。

朱乃を見詰めているけど、朱乃はバラキエルの視線から逃れるようにして顔を逸らし続けていた。

だけど、どうしてオーディンさまがここにいらっしゃるのかしら・・・。

 

「オー爺ちゃん。どうしたの?遊びに来てくれたの?」

 

「ほっほっほっ、それもあるのじゃが、わしはこの国で大事な仕事があるから来たんじゃよ」

 

「そうなんだ。オー爺ちゃん、お仕事頑張っていて大変だねー」

 

「うむうむ。しかし、なぜ孫が子供に成ったのかは気になるが・・・・・結果オーライじゃのー」

 

オーディンさまが嬉しそうに笑みを浮かべられる。・・・・・あの光景を見て、

イッセーが他の神話体系の神々とどんな風に知り合えたのかようやく理解できたかもしれない。

 

「・・・・・あのオーディンさまが笑っていらっしゃるなんて珍しいですね・・・・・」

 

「ああ、そうだな。オーディンさまにとっては良い意味で誤算だったろう」

 

付き人の二人は珍しいものを見る目でオーディンさまを見る。

 

カッ!

 

その時、この場に一つの魔方陣が出現した。光と共に姿を現したのは堕天使の総督アザゼル。

 

「あっ、怪しいおじさん」

 

「・・・・・俺の印象は怪しいおじさんなのかよ。まあ、合っているがよ。だからそう警戒しないでくれ」

 

アザゼル、それは無理というものがあるわよ。ほら、猫のように警戒して

オーディンさまの付き人の二人の背後に隠れちゃっているし・・・・・。

 

「ほっほっほっ、アザゼル坊よ。孫に嫌われているのぉ」

 

「・・・・・赤ん坊の頃は懐いてくれたんだがな・・・・・虚しさが込み上がってくるぜ」

 

そ、そうなの・・・・・それは知らなかったわ。

そして、アザゼルは私たちを見渡して口を開いた。

 

「お前らに説明せねばなるまいな。爺さんは日本の神々と話をするために来日してきたわけだ。

所謂、違う国と国のトップ会談ということになる」

 

「うむ。実はそうじゃよ。この国の神々はユグドラシルのことを興味を持ってな。

それに、この町は悪魔と天使、堕天使、そして人間が交流をしておる。

それなりの問題を抱えていそうじゃが、それでも大したことじゃよ。

じゃから、わしも他の国の神々と話をして交流を深めようと思っておるのじゃよ」

 

なるほど・・・・・四種交流を見習っての行動ということですか・・・・・。

 

「それにしても爺さん、来日するにはちょっと早過ぎるんじゃないか?

俺が聞いていた日程はもう少し先だったハズだが。

神王ユーストマと魔王フォーベシイが仲介で、俺が会談に同席―――と」

 

アザゼルが訊いた。

 

「まぁの。それと我が国の内情で少々厄介事・・・・・というよりも厄介なもんにわしのやり方を

非難されておってな。事を起こされる前に早めに行動しておこうと思ってのぉ。

さっきも言ったが、日本の神々といくつか話をしておきたいんじゃよ。

いままで閉鎖的にやっとって交流すらなかったからのぉ」

 

「本音的に兵藤一誠に会いたかったんだろ?」

 

「勿論じゃ!」

 

・・・・・親バカならぬ爺バカと言うべきなのかしら・・・・・。

親指を立てながらオーディンさまは笑みを浮かべてハッキリと告げた。アザゼルは顎に手をやり、

 

「それにしても厄介事って、ヴァン神族にでも狙われたクチか?

お願いだから『神々の黄昏(ラグナロク)』を勝手に起こさないでくれよ、爺さん」

 

皮肉げに笑っていた。対してオーディンさまは

「孫が生きておるのにするわけがなかろう」と言いつつ、

 

「ヴァン神族はどうでもいいんじゃが・・・・・。ま、この話をしていても仕方ないの。

それよりもアザゼル坊。どうも『禍の団(カオス・ブリゲード)』は禁手化(バランス・ブレイク)できる

使い手を増やしているようじゃな。怖いのこ。あれは稀有な現象と聞いたんじゃが?」

 

―――っ!

 

私たちは皆驚いて顔を見合わせていた。突然、その話をするなんて・・・・・。

 

「ああ、レアだぜ。だが、どっかのバカが手っ取り早く、それでいて怖ろしく分かりやすい

強引な方法でレアな現象を乱発させようとしているのさ。

それは神器(セイクリッド・ギア)に詳しい者なら一度は思いつくが、実行するとなると各方面から

批判されるためにやれなかったことだ。成功しても失敗しても大非難は確定だからな」

 

「なんですか、その方法って」

 

式森くんの問いかけにアザゼルは答えてくれる。

 

「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる作戦だよ。

まず、世界中から神器(セイクリッド・ギア)を持つ人間を無理やりかき集める。殆ど拉致だ。

そして、洗脳。

次に強者が集う場所―――頂上の存在が住まう重要拠点に神器(セイクリッド・ギア)を持つ者を送る。

それを禁手(バランス・ブレイカー)に至るものが出るまで続けることさ。至ったら、強制的に魔方陣で帰還させる」

 

アザゼルは続ける。

 

「これらのことはどの勢力も、思いついたとしても実戦にやれはしない。

仮に協定を結ぶ前の俺が悪魔と天使の拠点に向かって同じことすれば非難を受けると共に

戦争開始の秒読み段階に発展する。自分たちはそれを望んでいなかった。

だが、奴らはテロリストだからこそそれをやりやがったのさ」

 

・・・・・人道的な方法とは思えないやり方で禁手(バランス・ブレイカー)を至らせる。

 

『・・・・・』

 

皆の視線が真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッドことガイアに集中したのが気付く。

色んなところから向けられる視線に不機嫌な顔で

 

「なんだその目は」

 

と、低い声音で「文句でもあるのか?」と言いたげに呟いた彼女であった。

・・・・・イッセーも、彼女の人道的とは思えない方法で至ったのよね・・・・・。

いま思えば、「よく生きていた」と感嘆するわよ。

 

「アザゼル先生。良かったですね」

 

「なんだ、何が良かったんだ?」

 

神城くんが笑みを浮かべながら意味深なことを言いだした。

 

「もしも、コカビエルがその方法で仕掛けたら戦争開始の秒読み段階になっていたことに

なるじゃないですか。だから、コカビエルがアザゼル先生のような

神器(セイクリッド・ギア)マニアじゃなかったら、その方法を思いつかなかった。

思い付いたのは聖剣を奪って利用し、戦争を起こそうとしていたことですから」

 

『・・・・・・』

 

彼の話を聞いて私は、あの時のコカビエルがその方法を思い付かなかったことに心から感謝した。

 

「・・・・・そうだな。マジでそうなっていたら俺たちがどう弁解しても

『堕天使側から宣戦布告をされた』と悪魔と天使側に認識されていたに違いない。

お前の話を聞いてゾッとしたぞおい」

 

神城くんの話しを聞いていて冷や汗を流していたアザゼル。ええ、確かにそう思うわ。

 

「・・・どちらにしろ、人間をそんな方法で拉致、洗脳して禁手(バランス・ブレイカー)にさせるってのは

テロリスト集団『禍の団(カオス・ブリゲード)』ならではの行動ってわけだ」

 

「それをやっている連中はどの派閥なんですか?」

 

式森くんの問いにアザゼルが続ける。

 

「『英雄派』だ」

 

・・・・・曹操・・・・・っ!

 

「あの夏休みで曹操、ゲオルグ、レオナルド、ジークは確証したんだろう。

自分たちより強敵の存在と戦えば更なる力が目覚めると。実際にあいつ等は力を増した。

事が事だからしょうがないとはいえ、皮肉なことになっちまったな」

 

「・・・・・私たちももっと強くならないといけないわね」

 

「その辺はガイアたちに鍛えてもらえ。相手は不動の存在だけじゃなく、最強の存在もいるんだ。

お前らの相手をしてくれる奴は豊富で幸いだな」

 

ええ、そうね。これも彼のおかげと魅力が生んだ結果でしょうね・・・・・。

 

禁手(バランス・ブレイカー)使いを増やして何を仕出かすか、それが問題じゃの」

 

オーディンさまはイッセーの頭を撫でながら言った。イッセーも嬉しそうに目を細める。

 

「まあ、調査中の事柄だ、ここでどうこう言っても始まらん。爺さん、

どこか行きたいとこはあるか?」

 

アザゼルがオーディンさまに訊くと、

オーディンさまはいやらしい顔つきで両手の五指を動かした。

 

「おっぱいバブに行きたい―――」

 

「おっぱい?」

 

『・・・・・』

 

よりにもよってイッセーが復唱してしまった。

その結果、なんとも居た堪れない空気に成ってしまったわ。

 

「オー爺ちゃん。おっぱいがどうかしたのー?」

 

「う、む・・・・・・」

 

「オー爺ちゃんっておっぱいが好きなの?」

 

純粋無垢にイッセーは瞳をオーディンさまに向ける。対するオーディンさまは

 

「そ、それはのぉ・・・・・」

 

言葉を濁し、自分の発言の失態にイッセーを直視することが叶わなくなり、

彼から視線を逸らした。

 

「ねぇ、オー爺ちゃん。どうして僕から目を逸らしちゃうの?おっぱいがどうしたの?」

 

「ぅ・・・・・」

 

「オー爺ちゃん?」

 

「・・・・・」

 

ああ・・・・・イッセー。大人には言い辛い事があるのよ・・・・・。

純粋な目は穢れているものにとって眩しすぎて堪え難いのよ・・・・・・。

それはオーディンさまも例外じゃないわ。

 

「変なおじさん。オー爺ちゃんが答えてくれないよ。ねぇ、おっぱいがどうしたのー?」

 

「そ、それはだな・・・・・」

 

ほら、アザゼルも流石に言い辛そうだわ。そんなアザゼルの様子にイッセーは矛先を変えた。

 

「おじさんたち、オー爺ちゃんたちが答えてくれないよ。叔父さんたちなら知ってるの?」

 

「「うっ・・・・・!」」

 

純粋な眼差しで向けられる神王さまと魔王さま。

 

「(リアス!これ以上は彼にあんなこと言わせない方がいいかと思います!)」

 

「(ソ、ソーナ?)」

 

「(お忘れですか。今の彼は子供なのですよ?もしも、彼があのまま女の乳のことばかり

聞いて興味津々なまま十年後のイッセーくんに戻ったら―――!)」

 

―――っ!?

 

私の脳裏で危険な想像が過った。

そう、赤龍帝のイッセーのように女の乳ばかり求めてしまう男の子の光景を・・・・・!

 

―――ドサッ!

 

「・・・え?」

 

いきなりイッセーが床に倒れた。私は彼が倒れた原因を見たら・・・・・。

 

「オーディンさま」

 

「う、うむ!?」

 

「―――一誠さまの前で卑猥なことを仰らないでください」

 

ギンッ!と今まで見たことがないぐらい鋭く絶対零度の如くの眼差しを、

オーディンさまに向けるリーラさん。

その睨みは、この場にいる全員の体を震わすのに十分過ぎるほどだった。

というか、あなたがイッセーを気絶させたの・・・・・?

訊きたいけど今の彼女は怖すぎて訊けれないわ・・・・・。

 

「オーディンさまは存じないかと思いますが、私たちは一誠さまを真っ直ぐ純粋な子に

育てておりました。それも『おっぱい』と連呼することを許したことがないぐらいに」

 

「そ、そうか。それを聞いてわしは安心するのぉ・・・・・」

 

「ですが・・・・・よりにもよって一誠さまがオーディンさまの発言により

興味を持たれてしまいました。―――どうしてくれるのですか?

純粋な一誠さまがどこぞの女の乳ばかり求めている腐れドラゴンのような悪魔に

成ってしまわれたら、私は一香さまと誠さまに顔向けすることはできなくなります」

 

リ、リーラさん・・・・・何気に彼に対して非難の言葉を放っているわよ。

彼女も彼に対して思うところがあったのかしら・・・・・。

 

「―――滞在中、一誠さまに近づかないでくださいオーディンさま」

 

「なぬっ!?」

 

「孫と接せれず生殺しじゃ!」とオーディンさまは食って掛かった。しかし―――。

 

「一誠さまに『オーディンさまは変態な人です』と教えてあげましょうか?

そうしたら、一誠さまはさぞかしあなたを幻滅するでしょうね。

大好きなオーディンさまが最低な変態だと知ったら・・・・・ね?」

 

「――――――っ!?」

 

彼女の言葉にガクリとその場で跪いたたオーディンさま。

その姿は北欧の主神の貫禄は影も形もなかった。あるのは大切な物を奪われた時の

ショックを受けたその人のようだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode4

 

 

―――ガイアside

 

 

「お前ら!やっと完成したぞ!」

 

魔方陣から現れた片手に妙な銃を持ったアザゼル。

 

「何を完成したんですか?」

 

「あいつを元に戻すもんをさ。こいつであいつを元に戻すんだ」

 

「・・・・・ようやくですか」

 

神城龍牙が息を吐く。

 

「さて、早速元に戻す。これ以上あのままにしたら後遺症が残ってしまう恐れがあるからな」

 

そう言って妙な銃をテレビを見ている一誠に突き付けた。

 

「・・・?」

 

一誠が振り返り、アザゼルと自分に突き付ける銃を見て―――。

 

「へ、変なおじさんに殺されるぅぅぅぅぅっ!」

 

殺されると勘違いした一誠が風を切る音と共に姿を暗ましたのだった。

 

「って、またこの状況かよ!?」

 

唖然となる堕天使の総督は急ぎ足で一誠を探そうと、リビングキッチンからいなくなった。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああっ!?」

 

『・・・・・え?』

 

あの総督の悲鳴が上がった。出てすぐだ。

 

「アザゼル先生が悲鳴って・・・・・」

 

「俺が様子を見に行こう」

 

堕天使の幹部が買って出た。この場からいなくなった後すぐに―――。

 

ドバンッ!

 

扉を破壊しながら何故か、真っ二つに成っていた巨大な丸太が我らがいるリビングキッチンに

なだれこんできた。

 

「・・・・・丸太?」

 

「この家にこんなものはなかったはずですよ?」

 

我らの中で疑問が湧く。一体誰の仕業だ?と、思いながら我は玄関ホールへと赴く。

と、我の目に飛び込んできたのは―――、アザゼルが十tと記された鉄の塊に潰されていた。

そして、直立不動の堕天使の幹部の全身に生ゴミが大量に頭から被っていた。

 

「・・・・・なにが遭ったのだ?」

 

「その前に、これ、どかしてくれ・・・・・魔力が使えない」

 

「なに・・・・・?」

 

魔力が使えないとはどういうことなのだろうか。軽く鉄の塊を蹴り飛ばしてアザゼルを解放する。

 

「で、何が遭った?」

 

「いきなりここに出たかと思えば上から降ってきたんだよ。

バラキエルが出てきたかと思ったらどっからか現れた丸太を両断したその瞬間に

真上から大量のごみが降ってきた。まあ、俺と似たようなもんだ」

 

「この家にそんな仕掛けはしていないぞ」

 

「俺だって分かっている。ったく、いきなり何なんだよ」

 

堕天使の総督が愚痴を零しながら数歩歩いた矢先、真上から今度は大量の雪が降って

埋まってしまった。

 

「・・・・・」

 

上からか・・・・・視線を上に向ければ、こちらを見下ろす小さな子供と

手には金色の錫杖があった。

 

「泥棒の人は出ていけ!ここは僕たちの家だぞ!」

 

「泥棒だと・・・・・?」

 

一誠の奴、何を勘違いしておるのだ?怪訝に首を傾げていた我の耳に

「まさか・・・」と聞こえた。背後に振り返ると、一誠の幼馴染がいた。

他の者たちも続々と出てくる。

 

「おい、まさかとはなんだ?知っているのならば答えろ」

 

「え、えっと・・・十年前に私とヴァーリが一誠くんの家に遊びに来ていた時のことなんだけど、

その時は一誠くんのご両親とリーラさんがいなかった日だったの」

 

「・・・・・もしや、イリナさま。あの時のことですか?」

 

今度はリーラが思い出したかのように尋ねてきた。一誠の幼馴染の女は首を縦に振った。

 

「うん、多分リーラさんが脳裏に浮かんでいる事だと思うわ。

だって、一誠くんを残してご両親やリーラさんが出掛けたのって滅多にないし、

あれ以来のことが遭ってから一度も一誠くんを家に残さなかったでしょ?」

 

「ええ・・・・・私たちは深く反省したほどです」

 

「だよね。で、私とヴァーリが一誠くんの家に遊んでいたら銃を持った二人組の泥棒が

入ってきたの。当時の私たちは子供だったから、泥棒を倒すことはできなかった。

だから、子供なりに考えた末、ある方法で泥棒を捕まえることができたの」

 

「それはなんだ?」と我は問うた。一誠の幼馴染は懐かしそうに言う。

 

「家にあるもの、それこそ生活用品や家具、調味料、何でも仕掛けに使って泥棒を翻弄しては

挑発して、疲れきったところで縄やらガムテープで縛った捕まえたの」

 

「キミたちにそんな過去があったなんてね・・・・・」

 

「ヴァーリも白龍皇に目覚める前のことですよね?」

 

「うん、そうだよ。だけど・・・今の一誠くんは銃の玩具を持っているアザゼル先生を

見て泥棒だと思っている。多分、バラキエルさんも」

 

なるほど・・・・・泥棒と出会った時の記憶が思い出したが為に、泥棒を追いだす、

または捕まえようと恐怖心を抱きながらも必死になっているのか。

 

「自己防衛による行動かよ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

被害に遭った二人は迷惑そうな顔をする。一人は完全なるとばっちりだがな。

 

「じゃあ、お二人は待機してもらいましょう。オーディンさまもそうしてください、

彼は僕たちが連れてきますので」

 

「ああ、そうしてくれ」

 

式森がそう言い、一歩前に足を運んだ。

 

ヒュン。

 

―――が、あいつが突然、開くように空いた穴に落ちたのであった。

 

「・・・・・どうやら、私たちまで泥棒だと勘違いしちゃっているようだわ」

 

薄っすらと頬に冷や汗を流す一誠の幼馴染の言葉に、我は溜息を吐いた。

 

―――○●○―――

 

イリナside

 

イッセーくんがあの頃のように泥棒を何とかしようと、暴走しちゃって数分ぐらい経過した。

どうやら、神滅具(ロンギヌス)の一つ『無限創造龍の錫杖(インフィニティ・クリエイション・メーカー)』を使えるように

なっていてイッセーくんが思い描く障害物が具現化となって私たちを阻む。

 

「イッセー!リアスお姉ちゃんよ!」

 

「泥棒は出てけーッ!」

 

「きゃっ!?」

 

ザッパーンッ!

 

現に三階へ直接飛行していたリアスさんが大量の水に押し戻されてしまった。

他にも広い空間、宙に蜘蛛の糸のようなものが張り巡らされていて、

その糸には巨大なクモが待ち構えていた。

大量の水に押し戻されたリアスさんは蜘蛛の糸に引っ掛かってしまい、

巨大なクモに糸で拘束される。それから階段を上がってイッセーくんのもとへ進もうと行けば、

 

「ゴ、ゴキブリィィィィィッ!」

 

清楚さんのように嫌な虫たちが執拗に追いかけてくる。もう、昔より性質が悪いわ。

 

「・・・・・一誠の奴、恐怖に心を囚われているな」

 

「十年前、泥棒が入ったあの頃はまだ、武術を習っていなかった時期でしたから・・・・・」

 

「それでは、無理もないか・・・・・」

 

ガイアさんが溜息を吐いた。

 

「・・・イリナ、キミだったら行けるんじゃないか?」

 

「へ?私?」

 

いきなりゼノヴィアが私にそう言ってきた。何故なのかしら?

 

「ああ、小さい頃のイッセーを知る人物の一人だ。

白龍皇と一緒に遊んでいたキミなら何とかなるんじゃないか?」

 

「それは昔のことで今は違うわよ。というか、今のイッセーくんは大きく成長した私のことを

覚えていないのよ?だから、イリナお姉ちゃんとして通っているんだからね」

 

ちょっと寂しいけど、私のことをお姉ちゃんと言ってくれるイッセーくんも悪くないわ!

 

「―――だったら、お前も小さくなってあいつを説得して来い」

 

「はい?」

 

ガチャリと玩具の銃を私に向けてくるのは堕天使の総督アザゼル先生だった。

次の刹那。怪しい光を浴びた私は―――見る見ると縮んでいくのが分かった。

 

「・・・・・えっと・・・・・・?」

 

「ほう、小さい頃のイリナはこんな感じか」

 

「ふふっ、可愛いですね」

 

うん、ここに鏡があったらきっと私は十年前の子供の頃の姿に成っていると思う。

長かった髪が短くなっているし、髪どころか体も縮んだ。

 

「では、イリナさま。私と一緒に参りましょう。

―――一誠さまを止められるのは私たちだけなのですから」

 

「えっと・・・・はい」

 

正直、小さくなってもイッセーくんの前に辿り着くことができるのか疑問なんですけど・・・。

リーラさんと一緒にイッセーくんがいる三階の回廊に向かうため、足を運んだ。

 

ピンポーン!

 

インターホンのベルが鳴った。誰なんだろう、こんな時に。

あっ、グレイフィアさんが応対しに行った。

玄関の扉を開け放ってしばらくすると―――。

 

「久し振りだな。アザゼル」

 

―――白龍皇、ヴァーリー・ルシファーとその一行たちが入ってきた―――

 

「・・・・・お前、何の用だ。仮にも俺たちは敵同士だぞ」

 

「なに、オーディンがここに来訪していると情報を知ってね。

それにオーディンを付け狙う輩もいる。私はその輩に用があるからどうせなら、

一誠と一緒にいた方がいいと思ったんだ」

 

そう言ってヴァーリは辺りを見渡した。

探し人であるイッセーくんが見つからないことに彼女は、私に尋ねてきた。

 

「イリナ、一誠は?」

 

敢えて口で答えず、人差し指を上に差した。ヴァーリは首を傾げながらも、視線を上に向けた。

私も改めてイッセーくんを見れば、

新たに入ってきたヴァーリたちにもっと警戒しちゃっているイッセーくん。

 

「・・・・・イリナ、子供の時の一誠がいるんだが・・・・・・私は幻覚でも見ているのか?」

 

「紛れもなく現実よヴァーリ。ある事情でイッセーくんは子供になっちゃったの。身も心もね」

 

「・・・・・で、イリナはどうして子供の姿に?」

 

「ここ数日、私たちと親しく接していたんだけれど、警戒と恐怖心に駆られているのか、

私たちを泥棒だと勘違いしちゃってるの。

ほら、十年ぐらい前、私とイッセーくんとヴァーリでイッセーくんの家に侵入してきた銃を持った

泥棒を捕まえたことがあるでしょ?その時の記憶がフラッシュバックしちゃったようなの」

 

私の説明にヴァーリは「数日だと・・・・・」と、変なところで反応していた。

 

「イリナ、あの状態の一誠と数日間も過ごしていたと言うのは本当なのか?

・・・・・幼馴染の私に一言ぐらい言ってくれてもよかったのではないか・・・・・」

 

あっ、ヴァーリが拗ねた風に不機嫌になっちゃった。でも・・・・・。

 

「ごめんなさい。でも、あなたはテロリストなのよ?」

 

「私は一誠の敵になるつもりはない。ライバルとしてならなるけどね。話が反れた。

イリナはどうして子供に成っている?」

 

「小さい時、私とヴァーリが一緒にイッセーくんと遊んでいた時のことを覚えているなら

小さくなった私だったら近づけれるんじゃないかって提案が浮かんだのよ。

それで、私が小さくなった訳なのよ」

 

「ふむ・・・・・一誠を知る者の特権というわけか。アザゼル、私も小さくしてくれ」

 

「・・・・・たくっ、お前から願われるのは久し振りだぜ」

 

アザゼル先生が玩具の銃をヴァーリに突き付け、怪しい光を浴びさせた。すると、私のようにヴァーリも小さくなって、子供に成った。わぁ、懐かしいわ!

 

「ふむ・・・十年振りの姿だな。では行こうか」

 

「うん!」

 

ヴァーリが青い翼を展開したら、私を抱えてイッセーくんのいる場所へ飛んで行った。

でも、宙には巨大な蜘蛛の巣と蜘蛛がいる。飛来する私たちに認知した蜘蛛は口から大量の糸を

吐きだした。

 

「てやっ!」

 

擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』の能力で刀身を伸ばして、鞭のように振るい、

迫りくる大量の糸を切断していく。

 

「やるじゃないか」

 

「伊達にイッセーくんといるわけじゃないわ!」

 

「ならば、そのまま続けてくれ。抱えたままでは魔力を放つことも白龍皇の力も使い辛いからな」

 

「わかったわ!」

 

蜘蛛は攻撃を無効化されたことに次の攻撃をしてきた。何やら口から白い塊を吐きだした。

なに、あれ。

 

ズバッ!

 

その白い塊をあろうことか自分で裂いた。

―――その避け目から、無数の小さな蜘蛛が続々と出てきたわ!

 

「気持ち悪い!?」

 

「質より量ということか。戦術の一つだな」

 

何感心しているのこの幼馴染!って、小さな蜘蛛が降ってきたぁっ!?

 

「いやぁぁああああああああああああっ!」

 

聖剣を傘のように形を変えてドリルのように回転させた!

そうすることで振ってくる小さな蜘蛛たちを弾き返しながら進めるもの!

 

「イリナ、もっと速く回転させてくれ。このまま突っ込む」

 

「う、うん!」

 

ギュアアアアアアアアアアアアァアアアアアアァアアアアアアァァアアアアッ!!!!!

 

激しく回転するドリル。

ドリルが小さな蜘蛛たちを弾く最中、私の手がズンッ!と急に重くなった。

 

「お、おも・・・・・っ!」

 

「ふんばれ、イリナ」

 

ヴァーリからの応援の言葉を耳にしながら、私は聖剣の柄を握る力を籠めて、更に突き上げた。

不意に、軽くなって周りが暗くなる。

少しして、周りが急に明るくなって―――イッセーくんの顔が視界に飛び込んだ。

 

「・・・・・イリナとヴァーリ・・・・・?」

 

唖然とした顔で私たちを見るイッセーくん。

金色の錫杖を持っていたけど、ヴァーリはそんなこと構わないとばかり接近して言った。

 

「久し振りだね一誠」

 

「ヴァーリ。うん、久し振りだね」

 

「ほら、それを置いて一緒に遊ぼう?」

 

「でも、下に泥棒がいるよ?」

 

「大丈夫だ。わた―――俺が一誠を守るから」

 

イッセーくんの前に降り立って、手を差し伸べる。私も彼に向かって差し伸べる。

 

「イッセーくん、あの人たちは泥棒じゃないよ。ほら、リーラさんもいるでしょ?大丈夫だから」

 

「・・・・・本当?」

 

「「もちろん」」

 

まだ警戒していたのね。でも、もう大丈夫よ。

イッセーくんをいじめる人は、私が主に変わってお仕置きするんだから!

 

「・・・うん、分かった」

 

コクリと小さく頷いてくれた。よかったわぁ、これでイッセーくんを元に戻せる!

 

「それにしても・・・・・一誠、お前は可愛いな」

 

ヴァーリ・・・・・。あなたは何を言い出すのよ。―――当然じゃないの!

 

「うん?男の子に可愛いなんて言われても嬉しくないよヴァーリ」

 

「・・・・・そうか、本当にお前は十年前の頃の子供に戻っていたのだな」

 

そう苦笑を浮かべるヴァーリだった。

でも、ヴァーリは何故かジッとイッセーくんの顔を覗き込んだ。

 

「一誠、実は私は女の子なんだ」

 

「・・・・・へ?」

 

「だから、一誠に対してこんなこともできる」

 

イッセーくんの頬を両手で添えて―――ヴァーリは私の目の前でイッセーくんの唇を

自分の唇と重ねた。はっ!?

 

「ちょっ、ヴァーリ!抜け駆けは―――――!」

 

カッ!

 

刹那、彼が一瞬の閃光に包まれたのだった。ヴァーリも一緒に。えっ?これ、どういうこと!?

唖然と見ていると二人は見る見るうちに大きくなって―――十年後のイッセーくんとヴァーリに

戻っちゃったわ!

 

「「・・・・・」」

 

しばらく静寂に支配されたけど、イッセーくんの目が開いた途端に、瞳に驚愕の色が浮かんだ。

ヴァーリはイッセーくんの口を解放した途端に彼は一気にヴァーリから離れた。

 

「ヴァ、ヴァーリ!?お前、どうしてここにいるんだ!?」

 

「むっ?私は何時の間に元に戻ってしまったんだ?」

 

「って・・・ちょっと待て、俺は確かアザゼルに呼ばれて実験に付き合ってからの

記憶がないぞ・・・・・。

―――イリナ、お前はどうして子供の姿でいるんだ?とても懐かしくて可愛いんだけどさ」

 

・・・・・まさか、元に戻った?

 

「・・・イッセーくん、今日が何日だか分かる?」

 

「は?今日は―――だろ?」

 

やっぱり・・・・・イッセーくんは元に戻っていた。それも、数日間の記憶が飛んでいる。

 

「イッセーくん、驚かないで聞いて。イッセーくんは記憶を失ったまま数日間も過ごしていたの」

 

私の発言に案の定、困惑の色を浮かべたイッセーくん。

 

「・・・・・記憶を失ったままって・・・・・どういうことだよ」

 

「とりあえず・・・・・アザゼル先生から聞けば分かるんじゃないかな」

 

そう言ったら、イッセーくんから怒りのオーラが滲み出てきた。

 

「ああ、そうさせてもらう。―――アザゼルゥゥゥゥゥゥッ!」

 

バッ!と三階から躊躇もなく降りて行った彼。

一拍して、アザゼル先生の悲鳴が上がったのは必然的だったかもしれない。

 

「でも、キスして元に戻るだなんて・・・・・」

 

「ふふっ、私の愛の力が一誠に掛かった力を覆したのかもな」

 

ヴァーリが聞き捨てにならない言葉を口にした。私は当然、面白くないと感じ、食って掛かった。

 

「私の方がイッセーくんに対する思いの方が強いもん!」

 

「ならば、私はこれから一誠に抱かれよう。そうすれば私の方がイリナより上だと証明できる」

 

「それだったら私は二回も三回もイッセーくんに抱かれるわ!」

 

「だったら私は一時間も一誠に抱かれる。

ふふっ、一誠の性行為は一日だけじゃ収まらないと知っているぞ?」

 

まっ、どこでその情報を入手したのかしら私の幼馴染わ!でも、負けはしないわ!

 

「なら、最初は料理勝負をしましょうよ!お互い料理を作ったことないなら同じ立場でしょ」

 

「・・・料理か。確かに私は作ったことがない。

だが、簡単な物ぐらいならルフェイに教わっている」

 

「こっちだって、リーラさんに教わって簡単な物ぐらいなら作れるわ!」

 

「ならば、最初のテーマは味噌汁だ。いいな?」

 

「ええ、勿論よ!」

 

待っててイッセーくん。ヴァーリより美味しい味噌汁を作ってあげるからね!

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode5

 

「・・・・・俺が、子供に成って数日間も過ごしていたとはな・・・・・」

 

「うん、とっても可愛かったわ!」

 

「至福の時でした」

 

「ふふっ、今の一誠さんじゃ絶対にしないこと、有り得ないことをたくさん言動をしましたしね」

 

数日間の記憶がない。なので、皆にこの数日間をどう過ごしていたのか聞いていた。

しかし、聞けば聞くほど、羞恥な思いになる一方だった。

 

「リアス・グレモリーに抱きついたり、ソーナ・シトリーに食べさせられたり、

小猫と銀華と一緒に猫の真似したり、桜に甘えたり・・・子供の俺は一体何をしていたんだよ」

 

「シアたちにも甘えていたわよ」

 

「・・・・・俺、悶え死にそうだよ。自分がいた言動に対してさ」

 

「もう、あなたをフォローするのも大変だったのよ?

十年前の子供の時のイッセーが十年後の現在を知らす訳にはいかなかったし、

そのため色々と苦労したわ」

 

・・・・・そうか、確かにそうかもしれないな。

十年後、それも父さんと母さんが死んでいるだなんて知ったら、

子供の時の俺はどうなっていたのか俺も含め皆も分からない。

 

「悪いな。迷惑を掛けた」

 

「―――まあ、その分の元を取れたから良いわ♪」

 

そう言って俺に一枚の写真を見せてくれた。

―――リアス・グレモリーと笑顔で映っている俺の子供の時の写真だった。

 

「ふふっ、永遠の宝物だわ♪」

 

「くっ・・・・・!まだ、アザゼルをお仕置きする必要があるようだな・・・・・!」

 

ドスッ!と何かを思いっきり踏んだ。俺の足元には春巻き状態のアザゼルがいる。

 

「痛っ!おい、イッセー!?もう、いいだろう!俺が悪かったと反省しているんじゃねぇか!」

 

「俺が許さない気が済まない。朱乃と一緒にお前をしばいてやるからな。

十字架に張り付けて鞭で叩いてやる」

 

「マジかよ!?そこまでされなきゃなんねぇのかよ!冗談じゃねぇ!バラキエル、助けてくれ!」

 

もう一人の堕天使に助けを請うアザゼルだが。

・・・何故だろうか、羨望の眼差しを向けてくるのは。

 

「それで、オー爺ちゃんとヴァーリ一行がここにいるのはどうしてなんだ?」

 

「はい、オーディンさまは日本の神々と会談をしに、

ヴァーリは何やらオーディンさま・・・というより、

オーディンさまを非難する者が現れると言うことなので、その者に用があるとのことです」

 

ソーナ・シトリーが説明してくれた。

 

「日本の神々ね・・・・・天照さんとスサノオの叔父さん、

ツクヨミさん、イザナミさんとイザナギさん、他の神さまも元気にしているかな?」

 

『・・・・・』

 

俺の一言に場が静まり返った。

 

「やっぱり、イッセーは凄いわね」

 

「誰も彼も日本で有名な神ばかりですよ

。国産みと神産みと謳われているイザナギとイザナミの名前まで出てくるなんて・・・・・」

 

「サプライズの宝庫だぞ、あいつは。誠と一香の奴も

そんな奴らと出会っていたなんて驚かせやがる」

 

「・・・・・兵藤家の一族の人間でもイザナギとイザナミと会うことは滅多にないのに」

 

「それが子供時代の一誠さまが会っていただなんて・・・・・」

 

何故にか皆に恐れ戦かれる俺。

でも、オー爺ちゃんが伸びた白いヒゲを擦りながら愉快そうに言う。

 

「ほっほっほっ、当然じゃわい。誠と一香が全世界に存在する神々と交流しておるからのぉ。

当然、孫も一緒にじゃ」

 

「・・・・・人間を嫌う神もいるはずなんだがな。そいつらも会っているとなると、

あいつらの魅力と性格と行動力が不動だということになるのか」

 

「喧嘩して仲良くなったって話は聞いたことあるぞ?向こうが

『高が人間が神の領域に土足で踏み込んでくるとは気に食わない』とか言って

攻撃を仕掛けたらしいけど、父さんと母さんが笑顔で勝って友達になったと聞かされた」

 

そう言ったら、アザゼルが額に冷や汗を流し始めた。

 

「・・・・・お前、とんでもねぇ人間の二人の間に生まれたな。正直、お前が怖いぜ。

あの二人の子供だと今改めて思えばよ」

 

「わしの場合はすぐに仲良くなったのじゃがな。

アースガルズの神族も様々じゃが哀愁的にあの二人と友好的になったおったわい」

 

へぇ、そうなんだ。オー爺ちゃんは優しいからすぐに友達になれたのも当然だったかも。

 

「さて孫よ。晴れてお主は元に戻った。お爺ちゃんと一緒に日本を旅行、観光しないかのぉ?」

 

「ん?会談は大丈夫なの?」

 

「ああ、まだ先の話じゃからの。時間はたっぷりあるわい」

 

「そっか。だったら行こうか。

オー爺ちゃんと一緒にどこかへ行くのは海の神さまが住んでいる海底の宮殿以来だね」

 

「ほっほっほっ。そうじゃの」とオー爺ちゃんは笑みを浮かべながら首を縦に振った。

 

「・・・・・お前ら、驚かされる意味で色々と覚悟した方がいいかもしれないぞ」

 

「ええ・・・私もそう思うわ」

 

「ははは、一誠は凄いね。この場にいる僕たちの中で逸脱しているよ」

 

「いっくんは凄い。ね、楼羅」

 

「はい。私たちの夫は色々な意味で凄いですからね。・・・・・夜の営みも」

 

「うん、私もそう思うよ。一誠くん、凄いんだから・・・・・」

 

何やら怪しい雰囲気の話題が出てきたような・・・・・気のせいだと思いたい。

 

―――○●○―――

 

次の日、俺は魔王主催で冥界のイベントに主役として参加していた。

理由は聞かないででくれ。あれは俺にとって黒歴史だ。

 

「はい、ありがとうございます」

 

握手とサイン会だった。俺の前に長蛇の列ができ、悪魔の子供だけじゃなく、

女性一人一人にサイン色式を渡して握手していく。子供と女性たちは俺が悪魔文字で

書いたサインを嬉しそうに受け取り、握手をし上げると満面の笑みで、

 

「真龍!がんばって!」

 

「ディーディー!」

 

「一誠さま、頑張ってくださいね」

 

と、声を掛けてくれる。現在俺は『D×D(ドラゴン・オブ・ドラゴン)』の鎧を装着している。

 

「はくりゅうこう!ありがとう!」

 

「おっぱいドラゴン!がんばってね!」

 

俺の横で同じくサインと握手をしていた白い全身鎧を着込んでいるヴァーリ、

赤い全身鎧を着込んでいる成神一成。

本来、テロリストのこいつ、ヴァーリがここにいるはずがないんだが・・・・・。

赤龍帝と白龍皇、成神一成とヴァーリが鎧を着た時に冥界全土のお茶の間に流れていたところ

子供たちが興奮して、絶賛。

テロリストのヴァーリのことは一般の悪魔には知られていないようだ。

知っているとすれば当然、軍と上層部。

魔王ルシファーはヴァーリのテロリスト加担には対して気にもしていなかった。逆に―――。

 

『ヴァーリが逆にスパイとして「禍の団(カオス・ブリゲード)」の情報を提供してくれれば

テロリスト扱いなんてしないわ』

 

と、大胆にもヴァーリを許した。それを聞いたヴァーリも苦笑していたな。

まあ、テロリストの懐に潜り込んで、スパイ活動をしているということなら、冥界と天界、

他の神話体系の上層部たちは不承不承で納得しざるを得ないだろうな。

ヴァーリもこれで思う存分に行動できると言うわけだが、

 

「(あいつらも会えてヴァーリの行動を許していると言うことは、

気にするほどのことでもないと言うことか?)」

 

特に曹操、『英雄派』は『真魔王派』より厄介だ。曹操がヴァーリを野放しにするとは思えない。

何か対抗策の一つや二つしてくるはずだ。今この瞬間でもそうしているはず。

 

「ディーディー!がんばってください!」

 

「ああ、ありがとう」

 

取り敢えず、このサインと握手会を集中だ。考えるのは後だ。

 

―――数十分後。

 

「だー、疲れたー」

 

「そんなこと言うなら、邪龍たちを出して命を掛けた鬼ごっこでもするか?」

 

「何を言うのかな!?俺は全然疲れていないぞ!あーっはっはっはっ!」

 

あからさまな空元気。俺たちのために設けられたテントの中で成神一成の笑い声が響く。

そこへスタッフが近づいてくる。

 

「兵藤様、お二人とも。お疲れさまですわ」

 

タオルを持って来てくれたのは―――縦ロールヘアーの少女でライザーの妹、

レイヴェル・フェニックスだった。

 

「レイヴェル。ありがとう」

 

汗を掻いただろう俺たちにタオルを持って来てくれた彼女に礼を言う。レイヴェルは俺たちが

冥界でイベントをすると聞きアシスタントとして、協力してくれていた。

 

「こ、これも修行の一環ですわ!それに冥界の子供たちに夢を与える立派なお仕事だと

思えるからこそ、お手伝いをしているのです!」

 

「(なんの修行の一環なのか聞きたいんだが・・・・・)まあ、ありがとうなレイヴェル」

 

ポンとレイヴェルの頭に手を置いて髪を撫でた。うん、撫で心地が良い。

そうすると、レイヴェルが顔を紅潮させていた。人に頭を撫でられるのは慣れていないのかな?

 

「それはそうと、レイヴェル」

 

「はい?」

 

「―――おっぱいドラゴンと『D×D(ドラゴン・オブ・ドラゴン)』。どっち派だ?」

 

今現在、冥界全土のお茶の間に流れている放送番組の中でとある二つの番組が大人気。

一つは『おっぱいドラゴンと愉快な仲間たち』。一つは『愛を司る「D×D(ドラゴン・オブ・ドラゴン)」の物語』。

どちらも悪を倒していく話だが、ゲームな感じで言えば、成神はパーティで俺はソロで活動する。

だから、この二つの番組を見る子供たちは水面下で激論しているようで、

二つの派閥ができつつある。

おっぱいドラゴンと『D×D(ドラゴン・オブ・ドラゴン)』。この二つの派閥だ。

 

「えっと・・・・・私は・・・・・」

 

チラチラと目を泳がせるが、俺に何度も視線を向けてくる。なるほどね。

 

「分かった。お前の気持ちは十分理解したよ」

 

ははは、と笑みを浮かべながら頭を撫で続けたところ。

 

「やっほー、兵藤くんたち。そろそろ人間界に帰還する時間だよ」

 

―――現五大魔王の一人、レヴィアタンが楽屋のテントに入ってくる。あー、そうだった。

今日はこの後、オー爺ちゃんと一緒に観光するんだったな。

 

「レイヴェルちゃんだったね?アシスタントありがとう」

 

「い、いえ、勉強の為ですから」

 

レヴィアタンのお礼の人頃にレイヴェルは緊張した面持ちで一礼した。

 

「ヴァーリちゃん。あんまりはしゃいじゃダメよ?一応、あなたも立場的に危なっかしいからね」

 

「一応は気をつけます」

 

ヴァーリはそれだけ言ったら俺に視線を向けてくる。

 

「まあ、一誠に関する事ならはしゃぐかもしれないがな」

 

「それだったら問題ないわね」

 

おい、そこはいいんかい。心の中でツッコミをしたら、レヴィアタンがこっちに顔を向けてきた。

 

「兵藤くん、また冥界に来た時には私の家に来てくれないかな?

ちょっと、妹のことでね・・・・・」

 

「・・・・・何となく嫌な予感がするのは気のせい?」

 

俺のその問いに彼女は苦笑いを浮かべるだけだった。

 

 

―――人間界―――

 

 

ドカッ!ガッ!ドンッ!ゴッ!ガンッ!

 

腕や拳、足と脚、己の体を武器に変えて相手を叩き潰さんとばかり思いっきり振り続ける。

相手も思いは一緒で一瞬の刹那で拳や足を繰り出してくる。

 

「「―――瞬間回復―――」」

 

俺と相手は疲労と意図的に細胞を活性化させて全身に傷付いた傷を治しては、

さらに殴り合い、蹴り合っていく。しばらくして―――。

 

「そこまでじゃ!」

 

ピタッ!

 

俺と相手の拳が目の前に止まった。互いの顔を殴ろうとした生んだ結果だ。

俺たちは構えを解いて息を零した。

 

「はぁー、やっぱりお前は強いな」

 

「それはこっちのセリフだぞ?サイラオーグ以外の男がまだいるんだからな」

 

「あいつもあいつで過酷なトレーニングをしていたはずだ。当然の実力だと思うぞ」

 

「ははは、それもそうだろうな。でも、お前もそうなんだろう?―――一誠」

 

相手、腰まで伸びた艶がある黒い髪に赤い双眸を俺に向けてくる少女、

川神百代は口の端を吊り上げた。

 

「・・・・・三途の川を何度も見た」

 

「・・・・・お前、私の思っているようなトレーニングをしていなかったようだな」

 

川神百代が顔を引き攣らせた。誰だって何度も三途の川を見るわけじゃない。

でも、俺は何度も見たんだ。川の向こうで父さんと母さんがこっちに手を招いて

近寄ってみた途端に蹴り飛ばされる体験もしてだ。

 

「急に呼んで悪かったな。そっちは大変な状況なんだろ?」

 

「俺たちは別に大したことはない。問題は学校の方らしいけどな。

テロリストに襲撃されて世間から色々な意味で注目されているし」

 

あれからすでに一週間以上経過している。

未だに、俺たちを向かい入れてくれる学校は見つからない様子。

 

「お前たちの学校のことは私たちの方にも届いている。

私たちの学校にも神器(セイクリッド・ギア)の所有者がいるから他人事じゃない」

 

「へぇ、そうなんだ?」

 

「その一人があそこにいるジジイだけどな」

 

彼女が視線を一人の老人に向けた。白いヒゲを生やして白い袴を身に付けている老人だ。

 

「こらモモ。儂に対してジジイというでないわい」

 

川神鉄心。夏休みにテレビで一度だけ見た老人その人だ。

 

「こうしてあんたと会うのは初めてだな」

 

「うむ、そうじゃの次期人王殿」

 

「普通に呼んでくれていいよ。今は百代の友達としているんだしさ」

 

苦笑を浮かべる。次期人王と呼ばれる時あるが真っ直ぐ言われるとあんまり慣れはしない。

気にはしないけどやっぱりな。

 

「では、一誠殿と呼ばせてもらうぞぃ。それと、モモの相手をしてくれてありがとうの。

モモの相手に務まる者は少ないからのぉ」

 

「俺の方が少ないと思うだけど?」

 

自分自身に指せば、川神鉄心は朗らかに笑った。生身のままならともかく、

あの鎧を着たら俺の相手になる奴は極端に少なくなる。

 

「なぁ、一誠。今度はあの鎧を着てくれよ。その状態で私は戦ってみたい」

 

「悪い、あの鎧は二人がいないと装着できないんだ。

つーか、あの鎧を着て百代と勝負したら勝負にならないって」

 

「それを聞いてますます勝負したくなったぞ」

 

余計なことを言ってしまった。と俺は全身から迸らせる彼女を見て少しだけ後悔した。

 

「それにしても、川神家って兵藤家の親戚の関係とは本当なのか?」

 

「うむ。その昔、川神家に婿入りした兵藤家の者がいての。

それにより川神家は兵藤家の傘下になったわけじゃ。兵藤家から様々な武術、格闘技、体術、

武器の心得を伝授されてワシら川神家が武道の総本山と称されるまで成長した」

 

「へぇ、そうなんだ。じゃあ、俺と百代も遠い親戚同士ってわけか」

 

「そうじゃな。それに二人は一度だけ会っておるぞ?

まあ、赤子の時のことだから覚えてはいないだろうがの」

 

マジで?じゃあ、覚えていないのは無理もないか。

 

「一誠殿。今度ワシの家に遊びにこんか?歓迎するぞぃ」

 

「ああ、次の機会に必ず」

 

それが別れの合図だとばかり俺は背中に青白い六対十二枚の翼を展開した。

 

「じゃあな、百代。またここで決闘しよう」

 

「ああ、お前との戦いは楽しかった。またしよう」

 

コクリと彼女の発言に同意と首を縦に振って、翼を羽ばたかせて一気に空へ飛翔する。

今は夜だ。眼下は家やらビルやら、建物から発する光が幻想的で、

それを眺めながら俺は暗い空の中を飛び続ける。

 

「さーて、オー爺ちゃんたちと合流をしなくちゃな。どこにいるんだ?」

 

そう呟きながら小型の魔方陣を展開した。その魔方陣にコンパスのように針が浮かび、

俺が求めている場所へと指してくれる。その針が指す方へ飛行の速度を上げて進んでいく。

飛ぶ際に受ける空気抵抗を感じながら飛び続けることしばらくして、俺の視界の端に夜空の中を

移動している一つの影を見つけた。その影の正体は、八本足の巨大な馬と

馬が引いている大きな馬車。もっとその影に近づけば―――その周りに馬車を警護している

複数の影が見えた。いたいた、あいつらだ。

 

ヒュンッ。

 

空を切る音と共に馬車に近づいた。複数の影の一つ、木場祐斗に話しかけた。

 

「よっ」

 

「やあ、来たんだね」

 

「相手を満足させるのに時間が掛かった。オー爺ちゃんは中にいるんだろう?」

 

俺の質問にこいつはコクリと頷いた。じゃあ、このまま俺も混ざって警護するか。

そう思ってしばらく空を掛ける馬車を引く馬と飛んでいると―――目の前の空間が歪みだした。

その歪んだ空間から突如、言い様のない力を感じ、

馬も目の前から強大な力を感じたようで急停止し、鳴いたのだった。

 

「来て早々敵さんと出くわすなんて俺は運がいいと言うべきか?」

 

「できれば、運が悪いなと言ってくれるかな。いまの戦闘狂の発言だよ?」

 

むっ、そう聞こえるか。木場祐斗に向けていた視線を前方に向け直した。俺たちの前方には

歪んだ空間から出てきた若い男らしき者が浮遊している。

身につけているものはオー爺ちゃんが着ている

ローブと似ている、色は黒がメインだ。さて・・・・・誰だ?男はマントをバッと

広げると口の端を吊り上げて高らかに喋り出した。

 

「はっじめまして、諸君!我こそは北欧の悪神、ロキだ!」

 

北欧の悪神・・・・・ロキだと・・・・・?

馬車から出て、男を確認した足元に魔方陣を展開してオー爺ちゃんを乗せている

ロスヴァイセとセルベリア・ブレスが心底驚いたような表情になり、

同じく馬車から出てきた六対十二枚の翼を展開しているアザゼルは舌打ちもしていた。

 

「これはロキ殿。こんなところで奇遇ですな。何か用ですかな?この馬車には

北欧の主神オーディン殿が乗られている。それを周知の上での行動だろうか?」

 

アザゼルが冷静に問いかける。ロキは腕を組みながら口を開いた。

 

「いやなに、我らが主神殿が、我らが神話体系を抜けて出て、我ら以外の神話体系に

接触していくのが耐えがたい苦痛でね。我慢できずに邪魔をしに来たのだ」

 

流石は悪神と名乗る神。悪意全開の宣言で凄い物言いだ。

 

「堂々と言ってくれるじゃねぇか、ロキ」

 

ロキの言葉を聞きアザゼルは口調を変え声音もかなり怒気が含まれているのが分かった。

うん、丁寧語を使うアザゼルは似合わない。アザゼルの一言を聞いて、

ロキは楽しそうに笑う。

 

「ふはははは、これは堕天使の総督殿。本来。貴殿や悪魔たちと会いたくはなかったのだが、

致し方あるまい。―――オーディン共々我が粛清を受けるがいい」

 

「お前が他の神話体系に接触するのは良いってのか?矛盾しているな」

 

「他の神話体系を滅ぼすのならばいいのだ。和平をするのが納得できないのだよ。

我々の領域に土足で踏み込み、そこで聖書を広げたのはそちらの神話なのだから」

 

「・・・・・それを俺に言われてもな。その辺はミカエルか、聖書の神に言ってくれ」

 

アザゼルは頭をボリボリ掻きながら呟く。

 

「どちらにしても主神オーディン自らが極東の神々と和議をするのが問題だ。

これでは我らが迎えるべき『神々の黄昏ラグナロク』がじょうじゅできないではないか。

―――ユグドラシルの情報と交換条件で得たいものは何なのだ」

 

アザゼルは指を突きつけて訊いた。

 

「一つ訊く!おまえの行動は『禍の団(カオス・ブリゲード)』と繋がっているのか?

って、それを律儀に答える悪神さまでもないか」

 

ロキは面白くなさそうに言葉を返す。

 

「愚者たるテロリストと我が想いを一緒にされると不愉快極まりないところだ。

 

―――己の意思でここに参上している」

 

その答えを聞いて、アザゼルは身体の力が抜けていた。

 

「・・・・・『禍の団(カオス・ブリゲード)』じゃねぇのか。だが、これはこれで

また厄介な問題だ。なるほど、爺さん。これが北が抱える問題点か」

 

アザゼルがオー爺ちゃんに顔を向けると、

 

「ふむ。どうにもの、頭の固い者がまだいるのが現状じゃ。こういう風に自ら出向く

阿呆まで登場するのでな」

 

オー爺ちゃんは顎の長い白ヒゲを擦りながらそう言った。

 

「ロキさま!これは越権行為です!主神に牙をむくなどと!許される事ではありません!

然るべき公式な場で異を唱えるべきです!」

 

ロスヴァイセは瞬時でスーツ姿から鎧に変わり、ロキに物申していた。セルベリア・ブレスもだ。

へぇ、あれがヴァルキリーの鎧姿か・・・・・・。防御が薄そうだなー。

 

「一介の戦乙女ごときが我が邪魔をしないでくれたまえ。オーディンに訊いているのだ。

まだこのような北欧神話を超えた行いを続けるおつもりなのか?」

 

返答を迫れたオー爺ちゃんは平然と答えた。

 

「そうじゃよ。少なくともお主よりもサーゼクスとアザゼルと話していた方が万倍も

楽しいわい。日本の神道を知りたくての。あちらもこちらのユグドラシルに興味を持っていた

ようでな。和議を果たしたらお互い大使を招いて、異文化交流をしようと思っただけじゃよ」

それを聞き、ロキは苦笑した。

 

「・・・・・認識した。なんと愚かな事か。―――ここで黄昏を行おうではないか」

 

おー、凄まじい敵意だ。本気でオー爺ちゃんを殺そうとしているようだ。

そうはさせないがな。

 

「それは、抗戦の宣言と受け取っていいんだな?」

 

アザゼルの最後の確認にもロキは不敵に笑む。

 

「いかようにも」

 

ドガァァァァァァアアンッ!

 

突如、ロキに波動が襲いかかった。

何事かと目を配れば―――馬車の上に乗っているゼノヴィアがデュランダルを

振るったようだった。聖剣から大質量のオーラが立ち上がっている。

 

「先手必勝だと思ったのだが」

 

ゼノヴィア・・・・・。先手必勝にも完全にフライングだろう。

 

「どうやら、効いてないようだ。さすがは北欧の神か」

 

俺の隣に近寄りながら言うヴァーリは楽しそうに笑みを浮かんでいた。

ヴァーリの言葉に視線を戻せば―――何事もなかったように空に浮くロキがいた。

 

「聖剣か・良い威力だが、神を相手にするにはまだまだ。そよ風に等しい」

 

木場祐斗も剣を作りだし、ゼノヴィアの隣にいたイリナも腕に巻いていた聖剣を

刀状に変えて構えた。それを見てロキは笑う。

 

「ふはははっ!無駄だだ!これでも神なんでね、高が悪魔や人間の攻撃ではな」

 

ロキガ左手を前にゆっくりと突き出す。その手に得体の知れないプレッシャーが集まるのが

本能的に理解できる。なので―――両手をポケットの中に突っ込んだ。

 

「神相手にこれ(・・)は感知できるかな?」

 

「なに?」

 

ヴァーリが疑問を俺にぶつけたその時だった。

ロキが勝手に誰かに殴られたかのように吹っ飛んで行った。

 

『・・・・・』

 

唖然と皆がロキを見据える最中、吹っ飛んだロキは体勢を立て直して、

理解ができないとばかり眉間を寄せた。

 

「いまの衝撃・・・・・誰―――」

 

と言いかけたロキはまた誰かに殴られた態勢になった。

 

「なんだ、ロキに何が起きている?」

 

アザゼルが怪訝な面持でロキに対して呟く声が耳に届く。

まあ、こいつは見えない攻撃だから感知するにしてもかなり難しいものだ。

 

「くっ、一度ならず二度までも・・・!」

 

じゃあ、今度は連続だ。

 

ドンドンドンドンドンドンドンドンッ!

 

ロキは何度も透明人間に殴られているかのように体が激しく動く。―――しばらくして、

 

「おのれ、なんなのだ!?堕天使の総督か赤龍帝の攻撃か!?」

 

「「ええええええええええええ!?」」

 

憤怒の形相でロキがアザゼルと成神一成に睨んで言うが、当の二人は身に覚えのないことに

驚きの声音を発する。うん、完全に勘違いしているなあいつ。

―――と、ロキの奴が徐にマントを広げ、高らかに叫ぶ。

 

「出てこいッ!我が愛しき息子よッッ!」

 

ロキの叫びに一拍空けて―――宙に歪みが生じる。なんだ?何かを呼んだのか?

 

ヌゥゥゥゥッ。

 

空間の歪みから姿を現したのは―――灰色の狼。十メートルぐらいはありそうな

巨大な灰色の狼が

俺たちの前に出てきた。

 

「こいつは・・・・・」

 

「ただの狼じゃなさそうだな・・・・・」

 

こいつはロキ以上の強さだと俺は認識した。俺は気を引き締めて狼を睨むように見詰める。

とうの狼も威嚇する動作すら見せず、ただただ俺たちを視線だけで射貫いていた。

 

『気をつけろ。こいつはお前にとって危険な存在だ』

 

珍しくクロウ・クルワッハが俺に警告した。俺にとって=人間にとって危険な存在だと

言いたいのだろう。

 

「マズい・・・・・。おまえら、あのデカい狼には手を出すなッ!イッセー、距離を置け!」

 

アザゼルの言葉に振り向く。アザゼルの表情はいままでに無いほど、緊張に包まれていた。

 

「先生!あの狼、何なんですか?」

 

成神の問いにアザゼルは絞り出すように言葉を発した。

 

「―――神喰狼、通称フェンリルだ」

 

『―――ッ!?』

 

・・・・・マジで?俺は静かに驚愕するが百代は首を傾げていて分からないようだ。

 

「フェンリル!まさか、こんなところに!」

 

「・・・・・確かにマズいわね」

 

「ええ・・・・・」

 

木場祐斗もリアス・グレモリーもソーナ・シトリーも相手を把握し、警戒態勢になっていた。

昔、色々な本を読んでいたから分かる。神喰狼(フェンリル)。神を噛み殺すことができる牙を持つ魔物。

 

「イッセー!そいつは最悪最大の魔物の一匹だ!神を確実に殺せる牙を持っている!

そいつに噛まれたら、いくらお前でもかなり危険だ!」

 

・・・・・アザゼル、俺と成神一成、どっちに言っているのかハッキリ分かるように言ってくれ。

間違って反応しちまうからさ。

 

「そうそう。気をつけたまえ。こいつは我が開発した魔物のなかでトップクラスに最悪の部類だ。

何せ、こいつの牙はどの神でも殺せるって代物なのでね。試した事はないが、

他の神話体系の神仏でも有効だろう。

上級悪魔でも伝説のドラゴンでも余裕で致命傷を与えられる」

 

すーっ。

 

ロキの指先が俺に向けられる。

 

「本来、北欧の者以外に我がフェンリルの牙を使いたくはないのだが・・・・・。

 まあ、この子に北欧の者以外の血を覚えさせるのも良い経験となるかも知れない」

 

・・・・・まさか・・・・・ね?

 

「―――兵藤の血を舐めるのもフェンリルの糧となるだろう。―――やれ」

 

オオオオオオオオォォォォォォォォォォオオオオオンッ!

 

止みの夜空でフェンリルが透き通るほど見事な遠吠えをしてみせた。その鳴き声は、

俺たちの全身を震え上がらせるには十分すぎて、さらに聞き惚れてしまうほどの美声だった。

 

ドンッ!

 

が、フェンリルが見えない打撃によって遠くに吹っ飛んだ。

 

「・・・・・なに?」

 

ロキは信じられないと顔に驚愕の色を浮かばせる。速そうだから先に攻撃させてもらったぞ。

密かに。

 

「―――今日は一旦引き下がろう」

 

未知なる攻撃に対処ができないと苦渋に満ちた顔で

フェンリルを自身のもとに引き上げさせるロキ。

マントを翻すと、空間が大きく歪みだして、ロキとフェンリルを包んでいった。

 

「だが、この国の神々との会談の日!またお邪魔させてもらおう!オーディン!

次こそ我と我が子フェンリルが、主神の喉笛を噛み切ってみせよう!」

 

ロキとフェンリルがこの場から姿を消したと同時に、

ポケットに入れていた両手を抜き取って―――。

 

「はぁ、疲れたぁ」

 

『お前の仕業だったのかァッ!?』

 

溜息を吐いたら、皆に突っ込まれた俺であった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode6

 

 

悪神ロキとフェンリルが去って翌日。リビングキッチンで集合している俺たちは

ロキ対策を企てていた。

 

「ロキとフェンリルが詳しい奴がいる?」

 

アザゼルが気になる発言をした。尋ねると首を縦に振ったアザゼル。

 

「そう、あいつらに詳しいのがいてな。そいつにご教授してもらうのさ」

 

「誰なんだ?」

 

訊くと、

 

「五大龍王の一角、『終末の大龍(スリーピング・ドラゴン)』ミドガルズオルムだ」

 

ん?ミドガルズオルム・・・・・?しかも、五大龍王とくるか。

 

「なるほど、確かに順当ですが、ミドガルズオルムは北欧の深海で眠りについております。

どうやって訊くのですか?」

 

オー爺ちゃんの付き人の一人、セルベリア・ブレスが尋ねた。オー爺ちゃんとロスヴァイセは

別室で本国と連絡を取り合っている。

悪神ロキがこの国に来たことは北欧でも大問題になっているようだ。

でもって、アザゼルはセルベリア・ブレスの問いに答える。

 

「二天龍、龍王―――ファーブニルの力、ティアマットの力、匙元士郎の内にいるヴリトラの力、

そんで、邪龍―――クロウ・クルワッハの力、アジ・ダハーカの力、アポプスの力、

さらにゾラードとメリア、真龍―――グレートレッドに龍神―――オーフィスの力、

神城龍牙の内にいるファフニールの力で『龍門(ドラゴン・ゲート)』を開く。

そこからミドガルズオルムの意識だけを呼び寄せるんだよ。セルベリア・ブレスの言う通り、

本体は北欧の深海で眠りについているからな」

 

龍門(ドラゴン・ゲート)・・・。へえ、そんな方法があるのか。

伝説のドラゴンでそう言うのができるんだな。

 

「もしかして、お、俺もですか・・・・・?

正直、怪物だらけで気が引けるんですけど・・・・・」

 

匙元士郎が恐る恐る意見を言っていた。ヴリトラ、そう言えばいたな。匙元士郎の中に。

 

「まあ、要素の一つとして来てもらうだけだ。大方のことは俺たちや二天龍、邪龍、真龍や龍神に

任せろ。とりあえず、俺はシェムハザと対策について話してくる。お前らはそれまで待機。

バラキエル、付いてきてくれ」

 

「了解した」

 

アザゼルとバラキエルはそう言ってリビングキッチンから出て行く。

残された俺たちは、各々と立ち上がって自由に寛ぎ始めた。

 

「なーなー、兵藤一誠」

 

「なんだ?」

 

美猴が訊いてくる。悪戯っぽい笑顔で。

 

「この下にある屋内プールに入って良いかい?」

 

「ん?別に良いぞ」

 

あっさりと了承した。美猴は嬉々として地下のプールへとリビングキッチンからいなくなった。

 

「にゃん♪」

 

回転する椅子に座る俺の膝に銀色の猫が乗っかってきた。銀華である。

猫に成った彼女は膝の上で丸くなって、寛ぎ始める。

 

「我の特等席」

 

肩に重さが増した。俺の頬を温かく弾力がある柔らかい太股挟む少女ことオーフィス。

何かと高いところ、俺の肩に乗っかることが好きなようで、

気にしないでいると一日中ずっと居座り続けるんだよな。肩がかなり凝るけど。

 

「一誠、背中を借りるぞ」

 

「うん?」

 

今度は背中から温かさと重みが伝わった。尻目で見ればヴァーリが俺の背中と合わせて座り、

本を読んでいた。

 

「一誠くん、この本を読む?」

 

「おう、読む」

 

「じゃあ、隣に座らせてもらうね」

 

俺に本を渡してきて隣に椅子を置き、腰を下ろす清楚。肩を寄せ合って彼女も読書し始める。

 

「いっくんの隣は私の聖域」

 

どんな聖域なんだよ?と思わず突っ込みたいことをする悠璃は清楚のように椅子を隣に置いては

座って、俺と肩を寄せ合う。

 

「くっ・・・・・お前なんて爆発しやがれ・・・・・!」

 

「意味不明なことを言うな、血の涙を流すな成神」

 

呆れた態度で言う。

 

「ねねね、兵藤一誠。ひとつ良いかにゃ?」

 

とそこへ、塔城小猫の姉、銀華の妹、黒歌が話しかけてきた。

 

「なんだ?」

 

「―――私と子供作ってみない?」

 

「・・・・・はい?」

 

突然の言葉に俺は返答に困った。いま、こいつはなんて言った・・・・・?

困惑する俺に構わず黒歌は言い続ける。

 

「私ね、強い子供が欲しいの。特別強い子供。ヴァーリは天龍で白龍皇なんだけど女の子だから

性行為おろか、私が妊娠することもできないのよねー。それに、人間ベースのドラゴンって、

貴重にゃん。しかも人王となる人間、複数のドラゴンを宿す人間のあなたの遺伝子的に十分だし。

子供は残したいんだよねー。だから、遺伝子提供者が欲しいにゃん。

おまけに真龍と龍神にも認められているあなたなら尚更、にゃん♪」

 

さらに黒歌は言い続ける。

 

「にゃはは、いまならお買い得にゃん。妊娠するまでの関係でいいからどうかにゃ?」

 

「・・・・・赤龍帝がいるじゃん。伝説のドラゴンだぞ。性欲の塊だからお前の願いを―――」

 

「叶えてくれるだろ」。最後の足掻きとばかりそう言うと、黒歌は顔を近づけてきた。

 

「何でか知らないけど、何時の間にか私ははぐれ悪魔じゃなくなっているしね。

さて、誰がそんなことをしたのかにゃん?」

 

「・・・・・」

 

彼女の言葉に思わず視線を逸らした。―――はい、そんなことしたのは俺です。

 

「うふふ♪だからどこかの優しい誰かさんの子供なら何人でも何十人も産みたいと思っているのよ?

それとも―――私に魅力がないのかにゃん?」

 

「・・・・・っ」

 

不安そうな表情で潤った瞳を向けてくる。おおう・・・・・ざ、罪悪感が・・・・・!

なんでか知らないけど物凄く罪悪感を感じる・・・・・!同情でも不憫からくる感情じゃない。

純粋に罪悪感を感じるっ!

 

「・・・・・そういう風に訊くなよ。―――魅力を感じないなんて言えないだろう。卑怯じゃないか」

 

「―――にゃはは♪」

 

ポイ。

 

あっ、銀華が捨てられた。彼女が座っていた俺の膝は黒歌に跨れ、体ごと豊満な胸を押し付けて、

 

「うん、初めて会った時も思っていたけど、あなたはとても恰好良い男にゃん。

私も見る目があるみたい」

 

ニンマリと笑みを浮かべる黒歌は徐に舌を出しては、俺の首筋を舐める。

 

「ふふっ、あなたの味、覚えたわ♪」

 

・・・・・そうですか。だったら俺から離れた方がいいぞ。

お前の背後に怒りで体を震わせる銀猫がいるからさ。

 

 

―――○●○―――

 

 

アザゼルが帰って来た後、俺とヴァーリ、成神一成と匙元士郎、龍牙、ガイアとオーフィスは

転移魔方陣で兵藤家から飛んだ。例の龍王を呼び寄せるためだ。

特別に用意したところで意識を呼び寄せないとダメらしい。着いた場所は―――白い空間だった。

辺りを見渡しても特に目立ったところは―――なかった。

 

「本当なら、タンニーンもいて欲しかったんだがな・・・・・」

 

「ああ、堕天使の女の中に魂を封じられているのだったな?訊いているぞ」

 

「そうだ。それで、あいつらはどうしている?」

 

そう言いながらアザゼルは術式を展開して、専用の魔方陣を地面に描いていく。光が走っていき、

独自の紋様を形作っていた。

 

「『英雄派』も『真魔王派』も扱いには困っているそうだ。

いや、あの者たちが来てから『禍の団(カオス・ブリゲード)』は滅茶苦茶になりかけている」

 

「というと?」と、アザゼルが問うた。

 

「『英雄派』に入りこんでは好き勝手に研究を邪魔しては協力したり、構成員から神器(セイクリッド・ギア)

奪う始末だ。『真魔王派』に至っては、シャルバとクルゼレイ共々力でねじ伏せては自分たちの

下僕として使役している。事実上、『禍の団(カオス・ブリゲード)』の『真魔王派』は

堕天使の女帝たちがトップとして君臨しているようなものだ」

 

「・・・・・マジかよ。あのバカ、余計なことをしやがって・・・・・」

 

俺としてはどうでもいい事だがな。俺は復讐を果たせればそれでいいんだ。

 

「さて、魔方陣の基礎はできた。後は各員、指定された場所に立ってくれ。

兵藤一誠、お前は内の中にいるドラゴンを指定した場所に出しといてくれ」

 

そう促され、内にいるドラゴンたちを展開した複数の魔方陣で現世に出現させた。

 

『堕天使が、俺を利用するとはいい度胸だな。後で喰い殺す』

 

「・・・・・イッセー、こいつらの手綱を頼むぞ」

 

自分で言って恐れ戦くなよ・・・・・・。溜息を吐きつつも、「その場にいろ」と指示して

魔方陣の外から待機した。各自指定ポイントに立ったことをアザゼルが確認すると、

手元の小型の魔方陣を操作して、最終調整をしているようだった。

 

カッ。

 

淡い光が下の魔方陣を走りだし、皆のところが様々な色へと光る。

魔方陣が発動したんだろう、と思ったがすぐには何の反応もしないようで、数分間が経過した。

・・・・・長い、ミドガルズオルムの意識が呼び寄せているのか?怪訝に思う俺だが、魔方陣から

何かが投影され始めた。立体映像が徐々に俺たちの頭上に作られていくが―――。

俺はどんどん広がっていく映像の規模に目を丸くした。

そして―――。俺たちの眼前に映しだされたのはこの空間を埋め尽くす勢いの巨大な蛇のような

生物だった。―――ああ、こいつか!

 

「思い出した。昔、デッカイ蛇と昼寝したことがあるな。

なるほど、こいつがミドガルズオルムだったのか」

 

『・・・・・・・・・・ぐごごごごごごごぉぉおおおおおおおおおおおおおん・・・・・・・・』

 

って、あの時のように寝ているのか。この蛇は。

 

「案の定、寝ているな。おい、起きろ、ミドガルズオルム」

 

ティアマットことティアが話しかけると、ミドガルズオルムはゆっくりと目を開けていく。

 

『・・・・・・懐かしい龍の波動だなぁ。ふあああああああああああああああああっ・・・・・』

 

大きな欠伸をひとつ。おおう、この場にいるドラゴンたちを丸のみできる大きさだな。

 

『おぉ、ティアマットじゃないかぁ。久し振りだねぇ』

 

ゆったりとした口調をするミドガルズオルムがガイアたちを見渡す。

 

『・・・・ドライグとアルビオンまでいる。・・・・・ファーブニルと・・・ヴリトラも・・・

邪龍がいるかと思えば、グレートレッドとオーフィスもいるじゃないかぁ・・・・・・。

それと知らないドラゴンが三匹、いや二匹か。

・・・・・名前が忘れちゃったけどねぇ・・・・・・でも、なんだろう、世界の終末かい?』

 

「いや、違う。今日はお前に訊きたいことがあってこの場に意識のみを呼び寄せたらしい」

 

ティアがそう言うが・・・・・、

 

『・・・・・・ぐ、ごごごごごごごごん・・・・・・・』

 

ミドガルズオルムは再びいびきを掻き始めた。

 

「おーい、ミドガルズオルム。寝ないで教えてほしいことがあるんだけど」

 

俺がそう言うと、ミドガルズオルムは大きな目を再び開けこっちを見た。

 

『・・・・・・んー?あぁ、キミはあの時の人間の子供だねぇ?

久し振りぃー元気にしていたぁ?』

 

「まあ、元気だよ」と苦笑を浮かべながら答えた。

アザゼルがロキとフェンリルを知っている者を呼び寄せると言った。

だとしたらこいつがその者なんだろう。

 

「悪神ロキとフェンリルについて訊きたいんだけど」

 

『ダディとワンワンのことかぁ。いいよぉ。

どうせ、ダディもワンワンも僕にとってはどうでもいい存在だし・・・・・。

あ、でも、その前にティアマット。一つだけ聞かせてよぉ』

 

ダディとワンワンって・・・・・ロキとフェンリルのことか?

何故にロキのことをダディと呼ぶのか理解できないが・・・・・話を進ませた方がいいな。

 

「なんだ?」

 

『ドライグとアルビオンの戦いはやらないのぉ?』

 

成神一成とヴァーリを交互に大きな目で見ていた。

 

「ああ、やらないそうだ。今回の現赤龍帝と白龍皇はそれぞれ違う目標があるようだしな」

 

ティアの言葉にミドガルズオルムは笑ったように見えた。

 

『へぇ、おもしろいねぇ。二人が戦いもせずに並んでいるから不思議だったよぉ』

 

そう言った後、改めて質問に答え出した。

 

『ワンワンはダディよりも厄介だよぉ。牙で噛まれたら死んじゃうことが多いからねぇ。

でも、弱点があるんだぁ。ドワーフが作った魔法の鎖、グレイプニルで捕えることができるよぉ。

それで足は止められるねぇ』

 

ミドガルズオルムの言葉にアザゼルが首を振った。

 

「それはすでに認識済みだ。だが、北からの報告ではグレイプニルが効かなかったようでな。

それでお前からさらなる秘策を得ようと思っていたのだ」

 

『・・・・・うーん、ダディったら、ワンワンを強化したのかなぁ。

それなら、北欧のとある地方に住むダークエルフに相談して皆よぉ。

確かあそこン長老がドワーフの花王貧に宿った魔法を強化する術を知っているはずぅ。

長老が住む場所はドライグかアルビオンの神器(セイクリッド・ギア)に転送するからねぇ』

 

アザゼルがヴァーリの方を指す。

 

「情報の方は白龍皇に送ってくれ。赤龍帝の方は頭が残念なんで辛い」

 

ダークエルフとドワーフ・・・・・また懐かしい存在の名前が出てきたな。

その時、ヴァーリが情報を捉え、口にする。

 

「―――把握した。アザゼル、立体映像で世界地図を展開してくれ」

 

アザゼルが携帯を開いて操作すると、画面から世界地図が宙へ立体的に映写される。

ヴァーリは一部分を指さしていた。アザゼルは素早くその情報を仲間に送りだしていた。

 

「―――で、ロキの対策の方はどうだ?」

 

俺はロキについて訊く。

 

『そうだねぇ。ダディにはミョルニルでも撃ち込めばなんとかなるんじゃないかなぁ』

 

基本的、普通に攻撃しろというわけか。お安い御用だよ。アザゼルは顎に手をやった。

 

「・・・・・オーディンのクソジジイが雷神トールに頼めばミョルニルを

貸してくれるだろうか・・・・・いや、待てよ?」

 

不意にアザゼルがこっちを見た。なんだよ?

 

「お前・・・・・もしかすると雷神トールと出会っているか?」

 

「・・・・・どんな容姿の人だ?」

 

「北欧の異世界に行っているなら分かるはずだ。

確か・・・・・訊いた話じゃ、燃えるような目と赤髪の大男だったはずだ。

トールは戦車に二頭のヤギを引っ張ってもらって貰いながら戦う北欧の最強の戦神だ」

 

アザゼルの説明に俺の脳裏はとある人物が思い浮かんだ。

うん、印象が残っている。あれは凄かったな。

 

「うん、会っている。巨人族と戦っている時に二頭のヤギを引っ張って移動している

戦車に乗せてもらったことがあるぞ」

 

「・・・・・お前、よく生きていられたな。まあ、それよりも話が早くなるか。

お前の名前を出せばもしかしたらミョルニルを貸してくれるかもしれん」

 

何故か納得された。でも、俺の名前を出して貸してくれるのか?

 

『仮に貸してもらえなかったら、さっき言ったドワーフとダークエルフに頼んでごらんよぉ。

ミョルニルのレプリカをオーディンから預かっているはずぅ』

 

「物知りで助かるよ、ミドガルズオルム」

 

アザゼルは苦笑しながら礼を口にした。

 

『いやいや。たまにはこういうおしゃべりも楽しいよ。さーて、そろそろいいかな。

僕はまた寝るよ。ふああああああっ』

 

大きな欠伸をするミドガルズオルム。少しずつ映像が途切れてきた。

 

「ミドガルズオルム。またな」

 

ティアが礼を言うと巨大な口が笑んだように見えた。

 

『いいさ。また何かあったら起こして。じゃあね、あの時の子供くん』

 

それだけ言い残すと、映像がぶれていき、ついには消えていった。

ミドガルズオルム。久々に再会したけど変わっていなかった。

 

「なあ、アザゼル。ドワーフとダークエルフがいる場所に行ってもいい?」

 

「急にどうしたんだ?」

 

「オー爺ちゃんが預けているレプリカのミョルニルを取りに行くんだよ。

ついでにグレイプニルも直接受け取りに行きたい」

 

そう願うとアザゼルは、

 

「まあ、問題ないだろう。

どうせ誠と一香はダークエルフとドワーフに会っているかもしれないからな」

 

と、もう驚きはしないぞとそんな風に告げたのだった。そんなアザゼルに同意と首を縦に振る。

 

「うん、俺も会っているし、大丈夫だと思うぞ。

かなり昔の事だから向こうが俺を覚えているかどうか分からないけど」

 

「覚えていると思うさ。んじゃ、ミョルニルと強化したグレイプニルのことを頼むぜ。

―――ヴァーリと黒歌。お前らも一緒について行ってやれ。次期人王の護衛も兼ねて一緒に行け」

 

―――結果、俺はヴァーリと黒歌、二人と同行することになった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode7

 

 

その日、ミドガルズオルムから教えてくれたダークエルフとドワーフが住む秘境の地の場所へ

俺とヴァーリ、黒歌は何度か転移魔方陣で移動を繰り返し、

数時間も掛かってようやく秘境の地へ辿り着いた。

 

「つ、疲れたにゃん」

 

「アジ・ダハーカがいなかったらもっと掛かっていたかも」

「かもしれないな」

 

秘境の地は森林だらけ。この森林の向こうにダークエルフとドワーフたちがいる。

 

「ミドガルズオルムが世話になったとか言っていたけど、昔の話だよなやっぱり」

 

「その時の北欧人間たちはそこまで色々と発展していなかったから

気付きもしなかったハズにゃん。いまじゃ気付くだろうけどねぇー」

 

「そうかもしれない。さてと、俺の記憶じゃ、洞窟の中だったんだよな。

ダークエルフとドワーフが住んでいる場所って」

 

「十年以上の前の記憶を忘れずにいるなんて、よく覚えているな一誠」

 

「まあ、印象的だったし片手で数えるぐらい来たことあるんだ。

でも、その洞窟を探すのが大変だ」

 

ザッと一歩足を運んで、森林に入る。

 

「確か・・・・・白い肌のエルフが一緒だったんだよな」

 

「エルフも?」

 

「案内役としてな。それに昔の話だけど、邪な心がある者は森の妖精に追い出されるって

父さんから聞いた事がある。エルフの案内がないとダークエルフとドワーフが住んでいる洞窟まで

絶対に辿り着けないとか」

 

脳裏の中の思い出ボックスから聞かされた話を引っ張りながら口にしていたら、黒歌に笑われた。

 

「にゃはは、森の妖精ってそんなのいるわけないにゃん。

イッセーって可愛いことを真に受けているの?」

 

「うん、実際に森の妖精と会っているし」

 

ほら、と俺の目の前に飛ぶ羽が付いた小さな人間がいた。それも複数。

 

「・・・・・一誠、その森の妖精がいるんだが?」

 

「・・・・・」

 

ヴァーリに指摘され、マジマジと目の前に浮かぶ小さき存在を凝視する。

―――何時の間にか囲まれているし。尻目で二人を見たら黒歌に顔を向けていたヴァーリ。

 

「・・・・・黒歌、お前が邪な心の持ち主だから現れたのかもしれんな」

 

「にゃにゃっ!?戦闘狂のヴァーリだって邪な心の持ち主にゃん!」

 

「私は一誠を愛する白龍皇。心は真っ白に決まっている」

 

「にゃにを!私だって白音を愛しているから白音のように心が真っ白のハズにゃん!」

 

白いドラゴンと黒猫が言い合いを始めた。いやー、どっちもどっちだと思うけど?

 

『いえ、あなたのほうが邪で邪悪なオーラを感じます』

 

―――森の妖精に突っ込まれたァッ!?しかも俺が一番なのね!理由は分かるけどさ!

 

「えっと、喋れるんだっけ?」

 

『はい、あなたの脳に直接語りかけています。テレパシーだと思ってください』

 

「(なるほど、あの時もそうだったけど頭の中に話しかけていたのか)」

 

うん、納得と頷くが、妖精たちから警戒心が物凄く感じる。

 

『ここから立ち去ってください。森を穢すのであれば容赦しません』

 

「いや、ダークエルフの長老とドワーフの長老に会いに来たんだ」

 

『・・・・・長老方に何用ですか?』

 

「オー爺ちゃん、じゃなかった、オーディンさまのミョルニルのレプリカを受け取りにと

悪神ロキとフェンリルが現れてグレイプニルの製造、強化をお願いしに参ったんだ。

俺―――兵藤一誠って名前なんだけどこの中で誰か覚えていないか?

昔、兵藤誠と兵藤一香とその子供が何度もこの地に来ていた。

その時の子供が俺なんだが覚えていないか?」

 

妖精たちに尋ねた。対して妖精たちは顔を見合わせて訊き慣れない言葉を発し続けた。

しばらくすると、目の前の妖精が語りかけてきた。

 

『あの時の三人組の人間のことなら覚えています。ですが、その証拠を見せてください。

あなたがあの時の子供だと言うのならば証明してください』

 

「証拠と証明・・・・・・これでいいか?」

 

亜空間から一枚の写真を取り出す。俺と父さんと母さんが映っている写真だ。

この写真を見て妖精は―――。

 

『・・・・・分かりました。あなたがあの時の人間の子供だと認識しましょう。

お久しぶりです。見ない間に随分と純粋に禍々しくなっちゃっていますね』

 

それ、褒め言葉?返事がなんとも言い難いので、苦笑いを浮かべるしかできなかった。

 

『少し待っててください。あなた方のことをこの森の番人、エルフたちに伝えますので』

 

「よろしく頼む」

 

妖精は光の粒子となって姿を暗ました。全員で伝えに行かないようで、

俺たちを囲んで警戒している。

 

「ねーねー、イッセー。私とヴァーリ、どっちが邪だともうにゃん?」

 

「黒歌のはずだ。私は断定する」

 

「にゃっ!まだ言うかにゃん!」

 

「お前ら、言い合いは止めろって」

 

溜息を吐き二人の間に入る。

 

「つーか、森の妖精は俺の方が邪悪だと言われたぞ」

 

「「・・・・・納得・・・・・」」

 

おい、そこで納得するなよ。事実だけどさ!

 

―――ザッ!

 

不意に、俺たちの前に一団が現れた。人間より異様に長い耳の持ち主たち。―――エルフ。

その中で一番目立っているエルフがいる。手には棒の両方に槍状の突起があり、真紅の帽子と

マントと緑の水着らしきものを身に付け、四つ葉のクローバーを模したベルトで縛っている

白いミニスカート。上腕まで包む緑の手袋のようなものと膝まで包むブーツを見に付けた

青い瞳にクリーム色の少女のエルフだった。

 

「森の警備をしていた妖精から聞いた。お前か?兵藤誠と兵藤一香の子供というのは」

 

「ああ、そうだ」

 

一人のエルフに尋ねられ、肯定と首を縦に振った。俺の話を聞き、

エルフは目を細めて語りかけてきた。

 

「すまないが、改めて証拠を見せてほしい。何せ彼らがこの地にやってきたのは十年前だからな。

あの二人の子供だと偽っている疑惑がある」

 

どんだけ警戒されているんだろう。森の妖精に見せた写真を見せた。俺から写真を受け取り、

写真の子供と居間の俺と何度か見比べたところで―――写真を返された。

 

「分かりました。貴殿はあの二人の子供だと改めて認知させてもらいましょう」

 

「急に敬語になったな」

 

「貴殿のご両親はエルフ王と交流を持ち、友人同士なのですからね。粗相な扱いはできません」

 

「普通にプライベートの時のように接してもいいんだけどな。

悪意はともかく攻撃してこなければどんな態度でも構わないぞ」

 

そう言うとエルフは苦笑を浮かべた。「そうもいきません」とやんわり拒否されて。

 

「では、ダークエルフの長老とドワーフ王がいる場所までご案内します。

後の者たちもご一緒で?」

 

「ああ、一緒に頼む」

 

頼むと、エルフは「かしこまりました」と言って二人の動向を許してくれる。

その後、俺たちはエルフに囲まれながら森林の中を歩き続ける。

 

「エルフ王って元気なのか?」

 

「はい、元気でございますよ。しかし、あの時の子供が何時の間にか立派に

成長なされていたのですね」

 

「うん・・・・・色々と会ったんだよ。三途の川を何度も見るぐらいに」

 

「そ、そうなのですか・・・・・とても過激な生活を送られていたのですね」

 

過激だなんて生温い、地獄だったぞ。あれは・・・・・。

 

「それにしても、森の妖精から聞きましたが

悪神ロキとフェンリルが現れたとは本当なのですか?」

 

「オーディンさまの言動にどうやら許せないようで、日本の神々との会談を邪魔し、

殺害を目論んでいるんだ。俺たちはそれを阻止するために

ダークエルフの長老とドワーフ王に会いに行かないといけない」

 

「忌々しき事態ですね・・・・・」

 

「まったくだ」

 

それからしばらく、川を渡ったり、岩を登ったりと歩き続けていると十年前に来た時と

変わらない洞窟が俺の視界に飛び込んできた。

 

「この先を進めばダークエルフの一族、ドワーフ一族が住む場所まで行き着くはずです。

我々はこの先から行けれませんが大丈夫ですか?」

 

「ん、大丈夫だ。ありがとうな」

 

「いえ、では、道中お気をつけて。―――散!」

 

エルフの指示に他のエルフたちが一瞬で俺ったいの前から姿を暗ました。

でも、一人だけ俺を見て遅れたエルフがいた。そのエルフはジッと俺を見詰めた後、姿を暗ます。

 

「にゃあ、あのエルフはイッセーのことを見ていたようだけど、イッセーの知り合いかにゃ?」

 

「んー、俺が会っているのって大半、父さんと母さんと仲が良い神々とか偉い奴だったからな」

 

「知らないと?」

 

首を捻っているところヴァーリにそう言われ、肯定した。

 

「まあ、取り敢えず行こう」

 

踵を返して洞窟の中へと進む。二人も俺に続いてくる。

 

「久し振りだからワクワクする」

 

「キミの両親は世界を回っていたんだったね」

 

「ああ、そうなんだよ。きっと父さんと母さんはこんな感じで冒険していたんだと思う」

 

洞窟の中を歩き続けていると目の前に光が見えた。

その光に向かって足を運んでみれば―――。

 

「・・・・・この光景を見るのも十年振りだな」

 

眼下に広がる広大な大地と森林。北欧のどこかの場所だと何となくわかる。

 

「一誠。ダークエルフとドワーフがいる場所は覚えているか?」

 

「ああ、なんとなく。でもその前に手ぶらもなんだし、プレゼントでも用意しないとな」

 

「そんな物必要かにゃ?」

 

「父さんと母さんもしていたからさ。俺もしないといけないと思う」

 

人工的に作られた下り道がある。でも、俺は二人を抱えて飛び下りた。

 

「虚空瞬動」

 

空を蹴りゆっくりと地面に着地した。

 

「空を蹴ったのか?」

 

ヴァーリが尋ねてきた。俺の動作を見極めた上で。

 

「魔法無しでも空を飛べれたらなーって思って試してみたら案外できた。

コツを掴めたからようやくできたものだけどな」

 

「もう、イッセーは人間離れしちゃっているにゃん」

 

「知ってたか?歴代の人王って全員人間離れなことをしていたらしいぞ」

 

「・・・・・とんでもない一族だわね」

 

「そのとんでもない一族の人間に子作りしようと言ったのは黒歌だぞ?」

 

先に歩きながら言う。えーと・・・・・たしかアレは―――。

木の上を登ってプレゼントを探していると、

俺の視界の端に白いものが見えた。―――みっけ!

 

―――○●○―――

 

「大量大量♪」

 

背中に筒状の網の籠を二つ背負って森林の中を歩く。

籠の中には自然に育った植物と野生動物ばかり。

 

「凄い量ね。見たことのない植物ばかりよ」

 

「殆どダークエルフとドワーフが食す野生の植物だ。特にダークエルフはこれが大好物らしいよ」

 

一つのキノコを黒歌に見せる。傘は網状で全体が真っ白いキノコだ。

 

「なにそれ?」

 

「正式名称のないキノコ。だから名前が分からないキノコだ」

 

「美味しいの?」

 

「―――かなり」

 

松茸よりも高いんじゃないかな?養殖しようにもどんな環境の中で育つか分からないし。

 

「・・・どんな味だった?」

 

「えっと・・・・・俺が食べたのはこんがりと焼いたキノコだった。

そん時の味はジューシーだったぞ」

 

「・・・・・」

 

興味が湧いたのか、ゴクリと黒歌が食べたさそうな顔をした。

そんな黒歌を察して苦笑いを浮かべる。

 

「ダークエルフから調理法を教わっておく。作ってやるから一緒に食べような」

 

「にゃん!」

 

あっ、嬉しそうに尻尾が振っている。可愛いなぁ・・・・・。

 

「一誠」

 

「ん?」

 

「ダークエルフの住む場所はどの辺りなんだ?」

 

「うーんと・・・・・巨大な木の近くだったような。ああ、あれだ」

 

前方に聳え立つ巨大な木に指す。

 

「あそこか?」

 

「記憶が正しければな」

 

ガサッ

 

「「「・・・・・?」」」

 

不意に、茂みが勝手に揺らいだ。俺たちは足を停めてジッと見ていたら―――。

 

「キュイ?」

 

小動物が出てきた。目が丸くて体が手の平サイズ、二尾の尾が特徴の小動物。

 

「あっ、可愛いにゃん」

 

「そうだな」

 

黒歌とヴァーリが笑みを浮かべる。が、そいつだけじゃないんだよな・・・・・・。

辺りを見渡せば、目の前の小動物と同じ動物たちが至るところから俺たちを見ていた。

 

「・・・・・このパターンってもしかして危険にゃん?」

 

「いや、逆だ」

 

目の前の小動物に跪いて手を差し伸べる。そしたら小動物は俺の手に鼻先を付けて臭いを嗅ぐ

仕草をしたと思えば、軽やかに腕を伝って俺の頭に上った。

 

「キュイ」

 

と、鳴いた次の瞬間。数多の小動物が一斉に俺に接近して

全身の至るところにしがみついてきたのだった。

 

「うわ・・・・・イッセーが動物まみれに」

 

「何故だろう、とても羨ましいぞ」

 

いや、羨ましがるなって。

 

「ところで、その小動物は何て名前だか分かる?」

 

「コロだ。何故か俺に懐く」

 

スタスタと歩を進める。

 

「って、そのまま行くにゃん?」

 

「ダークエルフのところまでに行けば自然と離れてくれるかもしれない」

 

「まあ、ここで立ち往生してもしょうがないのは事実か」

 

そう言うことだ。心の中で肯定し、巨大な木に目指す。

 

―――数十分後。

 

「よし、辿り着いたぞ」

 

「本当にあの小動物は自然と離れたにゃん」

 

「そうだな」

 

懐かしきダークエルフの住み場所。家は全て木造。木の上にも家が建てられている物もあれば、

下にも当然家が建てられている。

 

「ここがそうなのか?」

 

「ああ、ちょっと変わっているけど間違いない」

 

「さっさとオーディンから預かっているミョルニルのレプリカを頂いて、

グレイプニルも作って帰るにゃん」

 

黒歌、そのもの言いは盗賊と変わらないぞ。

集落の中を歩くと二人組の男性ダークエルフと出くわした。丁度良い、尋ねよう。

 

「すいません、ちょっと尋ねたいことが」

 

「ん?・・・・・人間だと?」

 

あっ、警戒されている。―――ここであのキノコの出番!白いキノコを差し出すと、

ダークエルフは目を見開いた。

 

「「こ、これは・・・・・っ!」」

 

「決して怪しい者じゃないんだけど、長老の住んでいる場所を教えてくれないか?

お詫びにこれをあげるから」

 

「うっ・・・それは・・・・・」

 

キノコを動かすと二人の目はキノコに釘付けになって目から離そうとしない。

俺は一撃必殺の魔法の言葉を放った。

 

「もう三個追加。一人二つずつこのキノコを提供する」

 

片手に二つずつ白いキノコを見せびらかした次の瞬間。

 

「「―――こちらでございます!」」

 

シュバッ!と二人のダークエルフは笑みを浮かべ、とある方へ腕を差し伸べて

俺を案内してくれる。

 

「・・・・・なるほど、効果的だな」

 

「食べ物に釣られるほど、ダークエルフって本当にあのキノコが好きなのね」

 

後でヴァーリと黒歌が呟いていた。俺たちは好物を貰って嬉しそうにスキップで表現する

二人のダークエルフに続いて歩くと、別荘みたいに大きな木造の家の前に案内される。

ああ、ここだ。懐かしいな。

 

「ありがとう。はい」

 

「「ありがとうございます!」」

 

ひゃっほーいっ!と四つのキノコを受け取って歓喜の声を上げる二人のダークエルフ。

そのままどこかへと行ってしまった。

 

「・・・・・いいのかにゃん。見ず知らずのよそ者に食べ物で重要な人物のところに

案内するなんて、危機感がないんじゃない?」

 

「この場所は一握りの者しか知らないって父さんから聞いた。

一応、警戒はするけど心を許したらフレンドリーになるって。

特にあのキノコをプレゼントしたら次の日、友達になるとか」

 

「あの人たちはコミュニケーションを熟知しているね」

 

うん、俺もそう思うよヴァーリ。長老の住む家の扉にノックをする。

しばらくして、木造の扉が勝手に開いた。

 

「誰だ?」

 

現れたのは厳格な顔つきのダークエルフ。短い銀髪に口と顎に銀の髭が生えている。

身長は俺の頭一つ分高い。そのダークエルフは俺たちを見渡して厳しい目で口を開いた。

 

「・・・・・誰だお前たち。この場所を知っている者は私が知る限り、二人・・・いや、

三人しかおらん。どうやってこの地にやってきた・・・・・」

 

うん、警戒するよね。でも、その警戒を解く方法を俺はある。

 

「初めまして・・・・・かな?俺は兵藤一誠。兵藤誠と兵藤一香の息子です」

 

「―――兵藤だと?・・・・・もしや、あの二人と一緒にいた子供がお前なのか?」

 

「はい、そうです。その証拠に」

 

子供の時の俺と父さんと母さんの写真を見せた。

ダークエルフは写真を受け取って重々しく頷いた。

 

「中に入りなさい」

 

それだけ言ってダークエルフは家の中に俺たちを招き入れてくれた。

 

「―――はははっ!久し振りじゃないか!元気でなによりである!」

 

居間に連れられた途端にダークエルフが笑みを浮かべ、俺を抱きしめてくる。

 

「あなたは長老と認識しても?」

 

「ああ、俺がダークエルフの長老だ。名前はグローリィ。

ちゃんとした紹介をしていなかったな」

 

ダークエルフの長老は席に座るよう促す。席に座れば長老も座って尋ねてきた。

 

「それでどうしたのだ?ここまで来て俺に尋ねてきたということは、何か話でもあるのだろう?」

 

その言葉に俺たちはここに来た理由を告げた。

俺の話しを静かに訊いてくれていたダークエルフの長老、グローリィは無言で立ち上がって、

どこかへ行って姿を消した。でも、すぐに戻ってきた。

 

「これがオーディン殿から預かっているミョルニルのレプリカだ」

 

グローリィから受け渡された日曜大工に使うハンマー。

だけど豪華な装飾や紋様が刻まれているからただのハンマーではないと理解した。

 

「さて、残りはグレイプニルだな?キミたちがグレイプニルを持っているならば俺がすぐに

強化魔法をするのだが・・・・・手元には無いのだろう?」

 

その尋ねに頷いた。今日ここに来たばかりだからないものはない。

グローリィは顎に手をやって口を開く。

 

「一から作らねばなるまい。オーディン殿と日本の神々の会談までドワーフが何とか

間に合わせるように作ってもらわないのいけなくなるな」

 

「やっぱりそうか。そう言えば、ドワーフたちは?

確か、巨大な木の中で住んでいる記憶があるんだけど」

 

「今でも変わらずに木の中で生活している。なんなら、会いにに行くか?ドワーフ王に」

 

口の端を吊り上げるグローリィ。ヴァーリと黒歌に「いいか?」と視線で尋ねると

二人は頷いてくれた。暗に「構わない」と了承してくれたんだと思う。

 

「うん、行く。久々に会いたいし、こちらから願って来ているんだ。

頼むなら直接会って頼みたい」

 

「ふふふっ、良い子に育っているな。あの二人の教育が良かったのだろう」

 

・・・・・父さんと母さんは死んでいるんだけどね。

そっか、この人は父さんと母さんのことを知らないんだ。言うべき・・・・・なのか、迷うな。

 

「あっ、そうだった。グローリィ」

 

「ん?」

 

「はい、プレゼント」

 

「―――――」

 

 

―――○●○―――

 

 

俺たちは聳え立つ巨大な木の前にいる。グローリィの先導のもとで辿りついていた。そして、

ここまで金属同士がぶつかっているような音が聞こえてくる。どうやら加工の最中のようだ。

俺たちはその巨大な木に近づいて光が漏れている入口らしき空間を潜ると―――。

 

「・・・・・凄い」

 

俺とヴァーリ、黒歌より少し背丈が小さくヒゲを伸ばした存在たちが手にハンマーを持って

超高温で焼かれた鉄の塊を叩いて形にしていたり、

材料に必要なのだろう様々な素材をリアカーのような物で運んでいたりしていた。

武具や工芸品を作っているようで手を休めずに次々と加工をしていく光景が

俺たちの視界に飛び込んでくる。

 

「こっちだ」

 

と、グローリィは作業しているドワーフたちの邪魔にならないように

螺旋状に作られた木の階段を登り始めた。俺たちも登っていくとまた別の空間が存在していた。

ドワーフたちの食堂のようだ。賑やかで騒がしく、酒を美味そうに飲んでいた。

中には力自慢をするためなのか腕相撲をしているドワーフたちもいた。

さらに木の階段を登っていくとまた別の空間が―――。数えた限りじゃ十層以上はあった。

ドワーフの王がいる場所につくまで俺は何度もドワーフたちの生活の一端を眺めた。

 

「ふぅ、ようやく着いた」

 

「結構登ったな」

 

巨大な木の扉の前にグローリィと俺たちいた。ここが最上階らしく、

さらに上を行く階段が見当たらなかった。徐にグローリィが木の扉を叩いた。

 

『誰だ?』

 

扉の向こうから声が聞こえた。

 

「私だ、グローリィだ』

 

『・・・・・入るが良い』

 

中にいる者が了承した。グローリィが扉に手を触れて押し出しながら部屋の中に入ると

俺たちも続いて中に入る。

 

「・・・・・」

 

部屋の中は木の壁で囲まれた空間。この部屋を明るく照らしているのは立て並べられている

蝋燭のようだ。家具もあるからどうやらここで暮らしているようだ。

 

「グローリィ、何か用か?」

 

椅子に座っている一人のドワーフ。頭に小さな冠を乗せ、長いヒゲを伸ばし、

装飾の凝った服を身に包んでいる。こいつがドワーフ王・・・・・?

 

「むっ、そこにいるのは人間か?」

 

「ああ、実に十年振りだろう?しかも彼は兵藤誠と兵藤一香の息子だ」

 

俺に視線を向けてきながら笑みを浮かべたグローリィ。すると、ドワーフが目を丸くし、

 

「おおっ!あの時の子供か!?」

 

嬉しそうな声音で発し、席から立ち上がって俺に近づいてきた。

 

「ふははっ!おう、大きくなったもんだなぁ!よく見ればあいつ等の面影がある!

懐かしいじゃないか!」

 

「初めましてと久し振り、と言うべきかな。改めて自己紹介するよ。俺は兵藤一誠だ。よろしく」

 

「俺はドワーフたちを統べる王、ゲルダンだ。久し振りだなー。

お前のことを名前で呼んで接してもいいか?」

 

「勿論だよ。グローリィもそう呼んでくれ」

 

「そうか?なら、そう呼ばせてもらうよイッセーくん」

 

ダークエルフの長老、グローリィ。ドワーフ王のゲルダン。役者は揃ったな。

 

「ゲルダン、今日はお願いがあってきたんだ」

 

「なんだ?欲しいものがあるなら特別に作ってやるぞ」

 

「じゃあ、グレイプニル。フェンリルを捕まえる鎖を作ってほしいんだ」

 

頼んでみると、ゲルダンは首を捻った。

 

「グレイプニルだと?確かに作れるが、なんでまた最悪な魔物を捕まえようとするんだ?」

 

「悪神ロキがオーディンさまを殺そうと強化したフェンリルを引き連れて俺の国にいるんだ。

オーディンさまが日本の神々との会談をするのが許せないようで、命が狙われている。

俺たちは何とか会談を成功させるためにもまずはフェンリルを止めないといけない。

そのためにはグレイプニルを作ってもらってグローリィに強化してもらう必要があるんだ」

 

「・・・・・なるほど、そんな事情があったのか。おう、分かった。

今すぐ他の奴らに作ってもらう。―――ただしだ」

 

なんだ?条件でもあるのか?

 

「イッセー、お前もドワーフたちと混じって一緒にグレイプニルを作ってもらうぞ?

昔、目を輝かせて一緒に作りたがっていたしな」

 

「・・・・いいのか?」

 

「勿論だ。ああ、その際に俺の娘と従妹付き添ってになるがいいな?」

 

その問いに俺は頷いた。それからヴァーリに頼んで日本にいるアザゼルに

しばらく帰れそうにないと伝えてもらった後、

俺はドワーフたちと一緒にグレイプニルを作る準備をした。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode8

 

 

「―――と、そう言うわけだお前ら。今からグレイプニルを作ってくれ」

 

『分かった!』

 

「そんじゃ、始めるぞ!」

 

ゲルダンの言葉に呼応するかのように集まったドワーフたちが腕を上げて気合の声を上げた。

それから各々と作業に取り掛かり始めた。

 

「―――エイリン、ユーミル。こっちに来い」

 

女のドワーフ二人がゲルダンの声に反応してこっちに近づいてきた。

 

「二人はこの者と一緒にグレイプニルの製造をするのだ」

 

「・・・・・父上、この者は人間ですぞ?」

 

「それを承知の上で言っておるのだ。それに、覚えてはいないのか?」

 

そう言われ、二人の女のドワーフは怪訝に首を傾げた。

何に対して覚えていないのか理解できていないようだ。

 

「この者は十年前、ここへ来て遊びにやってきた人間の親子の子供だぞ?」

 

「・・・・・なんじゃと?」

 

「あー、これが子供の俺だ」

 

これで何度目か、まるで通行書みたいになりつつある父さんと母さんと一緒に写っている

子供の時の俺の写真を二人に見せると、

 

「おお!お主じゃったのか!?」

 

「全然気付かなかった。いやー、懐かしいのぉ」

 

思い出したようで一気に二人の疑問が消えた。

 

「改めて自己紹介だ。俺は兵藤一誠だ。短い間だけどよろしくな」

 

「わしはユーミルじゃ。久しいの」

 

「わちはエイリン。よろしくな」

 

二人の女のドワーフ。二人とも金髪に青い瞳。髪型だけが違い見分けがつく。

 

「さて、わしらは鉱山に向かって必要な材料を採取してこようかの」

 

「懐かしいな。俺もちょっとは手伝ったよな?」

 

「うむ。実に可愛らしかったの。一生懸命、鉱石を運ぶ姿が愛くるしかったわい」

 

そう思われていたのか。というか、そんな風に見ていたのかこの二人は。

 

「一誠、暇だから私も手伝うぞ」

 

「私は力仕事なんて苦手だから猫になって見守るにゃん」

 

片や協力、片や無気力で猫の姿になって俺の頭の上に乗っかりだした。

 

「それじゃ、ピッケルと台車を用意して鉱山へ行くぞ!」

 

ユーミルの発言に俺たちは頷き、いざ、鉱山へ向かった。

 

―――鉱山―――

 

「って、森林ばっかりの中でどうやって鉱山を見つけているんだ?」

 

ガラガラと台車もといリアカー・・・・・というより、

トラックに似た物を運転するエイリンに尋ねる。

これ、動力が魔力らしく、地面から少しだけ浮いて前進しているんだ。

 

「その上、この乗り物ってドワーフとダークエルフが作ったものか?

前は何にも気にしていなかったから聞かなかったけど」

 

「父上の話じゃと、お主の両親が提供してくれた物じゃ。

他にも幾つも作ってはわちらドワーフにくれるのじゃ。これを貰ってからというものの、

スムーズに鉱山の発掘と運搬ができてかなり大助かりじゃ」

 

父さんと母さん・・・・・息子の俺が知らない間に何時の間にこんな物を作っていたんだ?

改めて二人に驚かせられました。

 

「それで、最初の質問に答えると、山の麓に鉱石が掘れる洞窟があるんじゃよ。

わちらはそこに向かっておる」

 

「ああ、そう言えばそうだったな。洞窟の中で一生懸命掘っていたんだよな」

 

「うむ、そうじゃよ。他にも宝石も採掘できるからわちにとっては嬉しい限りじゃ」

 

エイリンは宝石が好きそうだ。掘れたらあげよう。

 

「のう、お主のことを名前で呼んでよいか?」

 

「別に構わないぞ」

 

「ならばイッセー。両親は元気にしておるか?

お主がここにいるのは両親が教えてくれたからなのじゃろう?」

 

「・・・・・」

 

純粋に訊いているんだと分かる。

が、俺にとって未だに引き摺っている事だから複雑極まりない質問だ。

 

「む?どうしたのじゃ?」

 

「・・・・・いや、父さんと母さんは死んでいるんだよ。それも十年前に」

 

「―――な、なんじゃと・・・・・!?」

 

前に向いていた顔をこっちに向けていた。勿論、そんなことをすれば―――。

 

「ちょっ、前!前を見ろエイリン!」

 

「のわっ!?」

 

とある巨木に向かって接近してしまった。慌ててエイリンの方へ体を寄せて、

ハンドルを掴み、巨木から回避しようと操作した。

 

ガンッ!

 

巨木と掠りながらも俺たちが乗っている乗り物は、なんとか大破せずに済み、

真っ直ぐ鉱山へ向かっていく。

 

「こらエイリン!操作中に余所見するなと言っておろうが!」

 

「す、すまんのじゃユーミル姉」

 

後部座席からユーミルが叱咤の言葉を放ってきた。そこで俺と彼女は溜息を吐いた。

 

「すまんの。あまりの驚きさで・・・・・」

 

「いや、しょうがないことだ」

 

「・・・・・ところで、わちはいつまでお主の脚の上に乗っていればいいのじゃ?」

 

はい、今の俺の現状は、操縦席にいてエイリンを脚の上に乗せている状態です。

 

「鉱山が着くまでだ。また、操作ミスしたら堪ったもんじゃない」

 

「・・・・・申し訳ないのじゃ。じゃが、本当なのか?お主の両親が死んだと言う話しは」

 

「死んだ・・・・・というよりは殺されたんだよ」

 

事実を告げる。エイリンが上目づかいで丸くした目を俺に覗かせる。

 

「イッセー・・・・・おぬしはどうやって生きておったのじゃ?」

 

「父さんと母さんを知っているヒトのもとで暮らしていた。

鍛えてもらいながら生活を送っていた。今でも一緒に住んでいるよ。

血は繋がっていないけど家族と一緒に暮らしている」

 

「・・・・・そうか。イッセー、お主は幸せなのじゃな?」

 

彼女の言葉に「ああ」と返事をした。ポンと頭に手を乗せて撫でた。

 

「そうだな。後ろにいる幼馴染や頭の上にいる黒猫もいるんだ。寂しくはないさ」

 

「・・・・・ふふっ、そうか。・・・・・ところで、何時までわちの頭を撫でるのじゃ?」

 

「いや、撫で心地が良いからもう少しだけ」

 

「むぅ、わちの方がお姉さんなのにな」

 

・・・・・え?お姉さん?

 

「あれ、エイリンって俺と同い年じゃないのか?」

 

「何を言うか。ドワーフは永遠ではないが永く生きる種族なのじゃぞ」

 

「・・・・・年上なのか?」

 

「うむ。それにわちは成人を迎えたから大人なのじゃ」

 

お、大人・・・・・。ドワーフは身長が小さいとは聞いていたけど、

この身長で大人・・・・・。

子供の時は俺とほぼ変わらなかった慎重だったから、

同じ年代なのかと思っていたんだが違ったのか。

 

「ユーミル姉もそうじゃぞ?一つ年上じゃがな」

 

そ、そうか・・・・・歳はいくつなんだ・・・・・?気になるな。

 

「イッセー、あそこじゃ」

 

エイリンが声を掛けてきた。指さす方に運転、操作して近づく。

そこは洞窟でドワーフたちが掘っただろう痕跡がハッキリとあった。

乗り物を停止させて、エイリンを抱えて降りた。

 

「で、何時までわちを抱えるのじゃ?」

 

「すまん、抱き心地が良かったからな」

 

「むぅ、絶対に子供扱いをしておるなお主」

 

さあ、何のことだろう?俺には分からないんだけどな。荷台からピッケルを人数分取り出して、

三人に配ってUの字のように梯子状に組みあがった線路を踏み越えて進む。

 

「どのぐらいの量の鉱石を掘るんだ?」

 

「満タンになるまでじゃ」

 

「了解、ヴァーリ。疲れたら休んでいいからな?手に傷がついたら俺が治すから」

 

「分かった」

 

コクリとピッケルを持ったまま頷く彼女を余所にエイリンとユーミルは真っ直ぐ洞窟の中を進む。

その度に洞窟に設置されている梯子状に組みあがった線路が奥へと続いている。

しばらくして俺たちは広い空洞、空間に出た。中央部分に枝分かれている梯子状に組みあがった

線路が視界に飛び込んできた。トロッコも枝分かれている数の分も静かに鎮座している。

 

「ここが鉱石が掘れる場所じゃ」

 

そう言って地面に落ちている一つの石を掴んで俺とヴァーリに見せた。

一見ただの石しか見えないが・・・・・。

 

「こうして割ると―――」

 

ガキィンッ!

 

ユーミルが石を割った瞬間。割れた石から綺麗な青白い光が生じた。

 

「ほう・・・・・その石は魔力が込められているのだな?」

 

興味深いとヴァーリが口を開いた。ユーミルは「うむ」と肯定の言葉を言う。

 

「わしらはこの鉱石のことを『魔石』と呼んでおる。

こうして割ると鉱石に籠っていた魔力は、外に放出してただの石になってしまうから掘る時には

気を付けてくれ。魔力が籠ったままの鉱石を掘るんじゃ」

 

「見分けつくのか?」

 

「ドワーフはこう言ったものを掘るのが長けておるからの。

どれがそうでどれがそうじゃないのか、呼吸するような感じで分かるのじゃ」

 

俺たち人間とハーフと悪魔なんだけど・・・・・。

 

「その鉱石って外部から放つ魔力に反応するのか?」

 

「そうじゃの。大小様々じゃが、魔力を感知すると青く光るらしい。

わちらはそんなことしなくても掘れるからしたことはないんじゃが」

 

なるほど・・・・・そういうことならば―――。俺は背中に青白い六対十二枚の翼を展開して魔力を

洞窟全体に放出してみた。すると、魔力の波動に感知した石が至るところに青く浮かび上がった。

 

「イッセー・・・・・お主・・・・・」

 

「この十年間、俺も色々と遭ったんだ。まあ、皮肉にもそのおかげで今の俺がいるんだけどな」

 

「「・・・・・」」

 

「そんじゃ、鉱石を掘るとしようか」

 

散らばって鉱石を掘る俺たち。魔力を感知して未だに青く浮かぶところに掘ると

青白く光る石が顔を出す。割らないように鉱石を掘り出しては鉱石とそうではない石と分けて

魔石はトロッコの中に入れ、掘り続ける。

 

「・・・・・ん?」

 

掘り続けていると青く光る鉱石に混じって、赤い結晶状の宝石を見つけた。

その上、宝石から魔力を感じる。

 

「これも魔石なのか?」

 

その宝石を掴み取って眺めていると、

 

『強力な魔力が秘められているな。その宝石は』

 

内からドラゴンが喋り出した。どういうことだ?

 

『そのままの意味だ。その宝石に強力な魔力が込められている。実に興味深いな』

 

ふーん、そうなんだ。これ、あいつらに渡した方がいいか?

 

『たかがドワーフに持たせても宝の持ち腐れだ。それに手に負えない代物だろう。

お前が持っていろ』

 

お前がそう言うならそうしよう。赤い結晶状の宝石をポケットの中に入れ、

再びピッケルを持って振るった。

 

―――一時間後

 

「ふぅー、大量じゃのぉ」

 

「これぐらいあれば足りるじゃろ」

 

乗ってきた乗り物の荷台には魔石が大量に積まれている。

すでに青く光っていないただの石に戻っている。

 

「それじゃ、帰るとしようかの」

 

「じゃな。空も朱に染まっておるし、お腹空いたわい」

 

エイリンとユーミルが疲れた体で乗り物に乗り込む。

ヴァーリも乗り出すと俺もエイリンの隣に座る。

 

「よし、出発じゃ」

 

彼女が運転を始める。乗り物は動き出し、

エイリンの操作によって乗り物は巨大な木に向かって移動する。

 

「グレイプニルはどのぐらいの期間で完成する?」

 

「数日は掛かるの」

 

そのぐらいなら間に合うか。浮遊し移動する乗り物に乗る中、

ポケットに手を突っ込んで赤い結晶を触れる。

 

「(これはなんなのか、和樹かアザゼルに相談してみよう)」

 

あれから掘り続けていたらもう一つ同じ結晶が発掘した。

内一つは俺の内にいるドラゴンに渡して調べさせているが、まだ判明していないようだ。

まあ、今はこの結晶のことよりも、グレイプニル。鎖の方だ。そっちを集中しないといけない。

 

―――○●○―――

 

夕食はドワーフとダークエルフと交じっての食事だった。

材料は俺が採ってきた野生の植物と狩った動物も混じっている。

特にダークエルフは白いキノコが調理に混じっていることに歓喜の雄叫びをあげていた。

本当、あのキノコが好きなんだな。

 

「賑やかだな」

 

「ああ、そうだな」

 

「うみゃい!このキノコのソテー、うみゃいにゃん!」

 

黒歌に至っては調理した白いキノコを美味しそうに食べていた。

逆にドワーフは一切口にしようとしない。エイリンとユーミルに訊いたら、

 

「あのキノコだけはどうしてもダメじゃ。他のキノコなら食べれるんじゃがな」

 

「口に合わんのじゃ。あのキノコだけは」

 

それはドワーフ全体、総意の言葉だと理解した。

まあ、その分ダークエルフたちの腹の中に行くから満足するんだろうけどさ。

 

「はははっ、今日は何時もより皆が賑やかだな。

これもイッセーくんがくれた材料のおかげかな?」

 

「そうかな。普通に探したら見つけた奴ばかりなんだけど」

 

「あのキノコは中々見つけれないものでな、だから滅多に料理に出されることはないのだ」

 

「そんなものなのか?」

 

グローリィは頷く。普通に見つけたんだけどな・・・・・。

集団で生えていた白いキノコもあったし。

 

「がはははっ!おうイッセー!飲んでいるかぁ!?」

 

ゲルダンが顔を真っ赤に染めて笑いながら近付いてきた。酒臭い!?

 

「俺、未成年だから飲めないって」

 

「なんだと?酒を飲めなきゃ成人にはなれんぞ!」

 

ドンッ!と置かれた木で作られたコップ。その中に透明な液体が入っていた。

 

「これ、酒なのか?」

 

「ああ、俺たちドワーフにしたら水みたいなもんだがな」

 

顔を赤くしている時点で水じゃないんじゃ・・・・・。

 

「・・・・・」

 

機嫌を損なわせるわけもいかない。と、内心しぶしぶと酒を飲んだ。

 

「ん?意外とあっさりして飲めやすいな」

 

「がははっ!そうかそうか!」

 

ゲルダンが愉快そうに笑う。だけど、これ以上は飲まない方がーーー。

 

「イッセーくん。ダークエルフが作る酒もいいぞ?」

 

笑みを浮かべ俺に酒を勧めるグローリィがいた。

 

ーーー数十分後

 

「しっかりせぃ、イッセー」

 

「き、気持ち悪い」

 

「すまんのぅ、父上は酒を飲むのとあんな感じではしゃぐのじゃ」

 

ユーミルとエイリン、二人に介護される俺がいた。場所は二人の家。

ゲルダンの家でもあるため、俺はエイリンのベッドで横たわっている。

ヴァーリと黒歌は用意された別の部屋で寝ている頃だと思う。

 

「悪いな。迷惑を掛けた」

 

「気にするな。寧ろ、外の世界の人間と話す機会が増えたと思えば楽しいぞ」

 

「外の世界に行こうとは思わないのか?」

 

「行く宛も住む場所もないからの、人間界は危険性もあるしの」

 

そっか。ドワーフって外の世界とは交流を果たしていないのか。

 

「・・・・・二人って、外の世界に興味あるか?」

 

「む?それはあるが・・・・・」

 

「じゃあ、少しだけど俺が住んでいる人間界の町のことを話そうか」

 

そう言うと二人の顔が輝き、首を縦に振った。それから俺は語り出す。外の世界のことを―――。

 

 

 

 

 

 

「ふむ・・・・・いい雰囲気だな、あの三人は」

 

「そうだな。イッセーくんは不思議な魅力を感じさせる」

 

「・・・・・グレイプニルが完成させたら頼んでみるとしよう」

 

「なんだ、ゲルダン。娘と従妹をイッセーくんに任せるのか?」

 

「ふん、そんなことしようと考えればドワーフ伝統のあれで俺に勝たないと話にならん」

 

「では、するのだな?」

 

「くくっ、さてな。まあ、密かに準備はしておこうか」

 

 

―――数日後―――

 

 

「・・・・・これで完成なのか?」

 

「ああ、これで完成だ」

 

俺の目の前に巨大で極太な鎖が置かれている。今はダークエルフの長老、

グローリィが強化魔法をグレイプニルに施している最中だった。

 

「ドワーフの技術も学べて来て良かったよ。家に戻ったら工房でも作ろうかな」

 

「おいおい、あんな技術はほんの一端だぜ?ドワーフの技術を習得しないなら師匠が必要だろ」

 

「・・・・・師匠?」

 

「ああ、だが、そんな簡単に俺たちの技術を他の奴らに使わせる訳にはいかない」

 

ゲルダンがドワーフたちに目を配らせた。

すると、一人のドワーフが平べったい岩を担いで傍に置きだした。

 

「ゲルダン?」

 

「帰る前に一丁、ドワーフ伝統の行事をしようじゃねぇかイッセー」

 

笑みを浮かべるゲルダンを余所に、

岩を持ってきたドワーフが肘を岩について―――腕相撲の姿勢に入った。

 

「腕相撲・・・か?」

 

「そうだ。ドワーフ伝統の行事、その名も『百人連続腕相撲勝負』。

この伝統は文字通り百人のドワーフたちと連続で腕相撲して勝ち進む行事だ。

そして、百人連続腕相撲で勝ったドワーフは王となるんだ」

 

「・・・・・はい?」

 

思わず間抜けな返事をしてしまった。何故いきなりそんな事になるんだ?

 

「だが、イッセーは人間だ。ドワーフではないから王にはなれぬが、

一種の信仰を深めるためと思って腕相撲をしようじゃないか。

お前の力をここにいる百人のドワーフたちと勝負して俺たちを認めさせてみろ。

―――兵藤誠もそうして俺たちと信仰を深めていたんだぜ?」

 

「―――――」

 

「ちなみにあいつは九十九人連続で倒した。さて、お前は一体何人連続で勝つかな?」

 

父さんは九十九人・・・・・。多分最後はゲルダンで終わったんだろう。

 

「じゃあ、百人連続で勝てば父さんを越えるってことか」

 

待機して待ち構えているドワーフの手を掴んだ。・・・・・身長差が大きく離れているな。

 

「ちょっとタンマ」

 

「どうした?」

 

「台が低すぎる。準備をするからちょいと待っててくれ」

 

腕を上に翳す。すると、足元と真上に魔方陣が展開して光り輝く。

その時、俺は光に包まれて体がどんどん小さくなる。

―――そう、俺は体を小さくして子供の状態になっている。

 

「・・・・・ほう」

 

・・・なんだろう、ヴァーリの俺を見る目が得物を狙う目だったぞ。

 

「がはははっ!ドワーフと同じ身長でしようってことか!対等で勝負しようとするところは

誠と似ているな!あいつも体を小さくして勝負に挑んでいた。親も親なら子も子か!」

 

「そうか、それは良いこと訊いたよ。―――さあ、やろうか」

 

「おう、全力でいくからな」

 

ガシッ!と相手の手を強く掴んだ。審判はゲルダンだ。

 

「それでは、始めるぞ?用意は良いな?」

 

俺と相手が互いに掴んでいる手の上にゲルダンは自分の手を置いた。相手と一緒に頷く。

 

「―――始めッ!」

 

刹那―――。ドゴンッ!と鈍い音を立てて手の甲が平らな岩の表面についた。

 

「・・・・・・」

 

相手のドワーフの手の甲が。

 

「よし、まず一勝。―――次!」

 

「よっしゃ、今度は俺だ!」

 

今度は別のドワーフが一歩前に出てきた。

そして、腕相撲を開始してわずか一秒で相手を倒した俺だった。

 

―――○●○―――

 

―――ヴァーリside

 

ドゴンッ!

 

「つ、つぇ・・・・・」

 

「あの人間、やるじゃねぇか」

 

「流石はあの二人の子供だ。血は受け継いでいるってことか」

 

ふふっ、私の一誠が負けるわけがない。ドワーフたちの会話を聞き、

私は自分のことのように嬉しがっていた。

 

「にゃー、ドワーフって力が自慢の種族だったよね?」

 

「ああ、私もそう認識している」

 

「イッセーってもしかしてドワーフの力より上かにゃん?」

 

・・・・・いや、そうではないだろうな。純粋に力比べをしたらドワーフの方が少し上のはずだ。

それに今の一誠は子供になっている。子供の腕を折るぐらいドワーフは朝飯前。

私の男はきっと何かしているはずだ。

子供になってもドワーフを倒し続けている何か秘策を・・・・・。

 

「ふんっ!」

 

ゴンッ!

 

「ぐっ・・・くそ、負けちまった!」

 

「今度は俺だ!」

 

「こい」

 

一誠は構える。腰の重心を少し下げ、右足を少し開いて前に突き出し、

左足を後にずらして肘を岩の表面に突く。そして―――。

 

「はっ!」

 

一瞬で相手のドワーフの手の甲を岩の表面に押し付けた。

―――その時、私は見た。一誠の体の動き力の流れを。

 

「・・・・・ふっ、そういうことか」

 

「にゃ?」

 

「そう言えば・・・・・私が子供のころ、男だと偽っていた時、一誠と腕相撲をしていたな。

その時は何度も負けた。悪魔と人間のハーフの私が人間の子供に何度も負けるなんておかしいとは

思っていた。だが、その理由がようやく分かったよ」

 

やはり、一誠は凄いや。だからキミを追いかけたくなるんだ。

その背に、キミの前を追い越したいと思って―――。

 

―――一誠side

 

「これで・・・・・九十九人ッ!」

 

ドゴンッ!

 

相手のドワーフの手の甲を岩に押し付けた。さ、流石に右腕の力が辛くなった。

 

「・・・・・」

 

手がフルフルと震える。長時間同じ力の具合でやり続けていると痙攣もするか・・・・・。

 

「ふふふっ、よもや・・・あいつと同じことをするんだな。

お前を見ていると誠と腕相撲していたあの頃がハッキリと脳裏に思い浮かんだぞ」

 

「はっ、そうか・・・・・」

 

「さて、百人目は当然、この俺だ」

 

おいおい・・・・・全身から闘気が漲っているぞ。

今までのドワーフより格段にプレッシャーが違う。

 

「外の世界の者と腕相撲をしたのはお前で二人目だ。―――俺を楽しませろよ?」

 

右の肘を岩の表面に突けるゲルダン。そこで俺は待ったを掛けた。

 

「あっ、ゲルダン。今度は左手でいいか?」

 

「左手だと?」

 

「俺、本来は左利きなんでね。それに、右手はもう使えない。力を籠め辛くなっているから、

いま腕相撲したら敗北が目に見える」

 

そう言って俺は左肘を岩の表面に突ける。さて、乗ってくれるか?

 

「―――奇遇だな。俺も左利きなんだ」

 

ゲルダンは不敵の笑みを浮かべ、俺の左手を左手で掴んできた。

 

「誠とは右手でやったが、息子は左手か。この勝負で俺は勝ったら兵藤親子を制することになる。

くくくっ、そう思うと速く倒したくて仕方がない」

 

「俺は父さんとは違う。それをいま、ここで証明してやる」

 

「ならば、俺に証明してみろ」

 

俺とゲルダンは睨み合う。闘気を迸らせ、相手を全力で倒そうとする意気込みと思いが固く掴む

互いの手から伝わってくる。

 

「では―――いいな?」

 

と、俺とゲルダンの手の上にグローリィが手を置いた。疑問は一瞬で消える。

今は、目の前の相手を倒すことだけ考えているからだ。

 

「―――始め―――」

 

グローリィの静かな試合開始宣言の次の瞬間。

全身に力を籠めてゲルダンの左手を右に倒そうとした。

 

が―――。

 

「―――っ!?」

 

あっという間に俺はゲルダンの左手に左の方へ押された。な、何てバカ力―――ッ!

左腕に力を籠め、岩の表面とわずか一㎝の差で留めた。

 

「ぐっ・・・・・強い・・・・・!」

 

「がはははっ!一瞬で終わらなかったことを褒めてやる!

だが、何時まで保ていられるだろうな!?」

 

「っ・・・・・!」

 

グググ、と俺の左手と腕が左に押し付けられる。やば、このままじゃ―――!

 

「―――一誠」

 

「っ!?」

 

背後からヴァーリの声が聞こえた。なんだろう・・・・・!

 

「お前の力はそんなものじゃないと私は信じている。

私が好いている男は負けるわけ無いと想っている。

だから―――私の前で負けたら許さないぞ。

私の男は、私の目の前で勝ってこそ兵藤一誠とあり続けるのだから」

 

「・・・・・」

 

「だから勝て、一誠。お前は敗北なんて似合わない」

 

ヴァーリからの応援・・・・・なんて初めてだな。

そう思ったら自然と口の端がつり上がったのが自覚する。

 

グググググ・・・・・ッ!

 

「・・・・・なんだと・・・・・?」

 

「・・・・・・悪いな。ゲルダン。俺の力はただのパワーじゃないんだ」

 

左手がゆっくりと右へ上がる。

 

「俺の力は―――」

 

真っ直ぐゲルダンの腕と垂直になった。

 

「―――皆を守る想いと愛しい彼女たちからの応援の声から来る力だっ!」

 

「―――――っ!?」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!」

 

ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!

 

ゲルダンの左手と腕と共に右へ押し付けただけじゃなく、

台となっていた岩すらも粉々にし、地面まで抉れた中で俺は―――ドワーフ王に勝った!

 

「左手で制する者は世界を制する・・・・・か」

 

いや、グローリィ?あなたは何を言っているんだ?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode9

「それじゃな、イッセー!また何時でもここに来い!」

 

「たまに出もいいから連絡をしてくれ」

 

百人連続相撲を終えてしばらく。俺とヴァーリ、黒歌は洞窟の前でゲルダンとグローリィを筆頭に

ダークエルフとドワーフたちに出迎えられている。

 

「―――エイリン、ユーミル。人間たちが住んでいる町はきっと危険があるだろう。

だが、俺たちの代わりにお前たちの目と耳で外の世界を見聞してこい。

そして、たまにでも構わん。ここに戻ってこい」

 

「はい、分かりました父上」

 

「外での生活のお許しをいただいてありがとうなのじゃ」

 

最後の別れとばかり、エイリンとユーミルはゲルダンと抱擁を交わす。

エイリンとユーミル、二人は俺たちと一緒に来ることになった。理由はドワーフの技術の伝授と

ドワーフが生産する装飾や武器と防具を人間界、俺の町で広げるため。

 

「―――では、行ってきます」

 

「行ってくるのじゃ皆!」

 

『行ってらっしゃいッ!』

 

大声で歓声を上げて二人と別れの言葉を放つドワーフとダークエルフたち。

二人が踵を返して俺たちの横に並ぶ。首を振って「行こう」と視線を送って。

俺たちはその視線を応えて脚を前に出し、一歩、一歩、また一歩と歩を進める。

 

尻目で見れば未だにこっちに向かって腕を上げて振るうドワーフとダークエルフたち、

ゲルダンとグローリィ。後ろに振り向かず、前に進みながらそれに応え、腕を上げて振る。

 

「外の世界は楽しみなのじゃ」

 

「イッセー、案内をよろしく頼むぞい」

 

「任せろ。甘い食べ物もあるからな。二人に食べさせたやるよ」

 

「「うむ!」」

 

元気良く頷くユーミルとエイリン。数日前と変わらず森林の中を歩き続ける。

今回は森の妖精とエルフがいない。昔は帰りも送ってくれていたはずなんだがな・・・・・。

まあ、別に問題ないけどな。道なんて覚えているし。

 

「向こうはどうなっているのかにゃん」

 

「何時も通りじゃないか?襲われている報告はないんだし」

 

「だと私も思うがな」

 

日本にいる皆。もう少しで戻るから待っていろよ。

 

「・・・・・しかし、その小動物も連れていくのか?」

 

「だって、可愛いんだもん」

 

「キュイ」

 

俺の両肩に雌と雄のコロが三匹ずついる。家に持ち帰ってペットにする!

そう決めたんだからね!

 

「うむ、わしらの店の看板にするのも悪くないの。

それにコロは種族間での生体通信機能を有し、

鳴き声の届かない長距離間での外敵情報のやり取りが出来る」

 

「へぇ、コロにそんな能力があったんだ。凄いな」

 

「まあ、コロの敵は主に大型の獣ぐらいじゃがな。そうそうに警報は鳴らんじゃろう」

 

いやぁ・・・・・俺が住んでいる町は色んな意味で敵だらけです。

心の中で苦笑を浮かべる俺だった。

しばらくして、森林の中を進んで歩くと、数日前にこの地に到着した場所へ辿り着いた。

 

「・・・・・」

 

一人のエルフの女性もいた。

 

「むっ、エルフじゃと?」

 

「どうしてここにおるのじゃろうか・・・・・?」

 

ユーミルとエイリンが疑問とばかり首を傾げた。

 

「・・・・・兵藤一誠」

 

「ん?俺に用か?」

 

「私と一勝負をしろ」

 

・・・・・いきなり勝負を吹っかけられました。

 

「理由は?はいそうですかって勝負をする気ないんだけど」

 

「・・・・・覚えていないのか?」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

覚えていないか?そう言われてヴァーリたちから視線を向けられてくる。

 

「・・・・・ごめん、もしも約束を交わしているならば、俺はこの十年間。

十年間も修業に明け呉れているから記憶が曖昧なんだ。多分、忘れていると思う」

 

「―――『何時か、僕に戦い方を教えてください』。小さい頃のお前に言われた言葉だ」

 

「・・・・・」

 

・・・・・なんか、言った覚えがあるような気がする・・・・・。

 

「その約束は果たせずにいる。兵藤一誠。私にそう乞うたことを忘れて、

強くなった貴様は0点だ」

 

「0点・・・・・?」

 

「お前の強さ―――計らせてもらうぞ!」

 

エルフは物凄い勢いでこっちに飛び出してきた。

コロたちがエイリンたちの方へ避難し、ヴァーリたちは

俺から離れる。避けられない戦いのようだった。

 

「ふっ!」

 

拳を前に突きだした。エルフはそんな俺の拳を紙一重で、最小限の動きでかわし、

一瞬で杖を突き出してきた。

 

ドッ!

 

杖は見事に俺の体に突き刺さった。体がくの字になって前のめりになると―――。

 

「・・・・・受けた振りをしても私の目はごまかせないぞ」

 

「あっ、やっぱり?」

 

ケロリと前のめりになった体を起こしてエルフに問うた。

エルフの槍はしっかりと手の平で掴んで防いでいた。

 

「まあ、こうするためにそうしたんだけど・・・・・なっ!」

 

一閃。エルフの杖を叩き割って、武器を破壊した。

一瞬、エルフの目が見開いたがすぐに正気に戻り、

投擲武器のボーラが複数放ってきた。逆に素早くボーラを掴んで投げ返す。彼女はボーラを避け、

鋭く拳を突き出す。身体を最小限に動かしかわしてエルフの腕を掴んで上空へ放り投げた。

 

「虚空瞬動」

 

爆発的な脚力で空を蹴り続け宙に駆け、エルフのもとへ。空中で身動きとれないエルフは、

拳を突き出す俺に対して両腕をガードする体勢になっていた。

―――でも、そんな彼女を一瞬で背後に回って後ろから拘束した。

 

「っ!?」

 

「おっと、動かない方が良いぞ」

 

青白い六対十二枚の翼を展開し、翼の先を刃物状にして、エルフに突きだした。

 

「終わりだ」

 

「・・・・・」

 

エルフの全身から力がなくなった。それは降参の意味だと理解し、

地上に着地してからゆっくり離れた。

 

「兵藤一誠。その強さになるまで誰に鍛えてもらた?」

 

「『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッド。

まあ、殆ど修行の場に放り投げられて一人で強くなったようなもんだったな。

 

「真龍か・・・・・なるほどな。どうりで野性的な動きだったわけだ。

敵を油断させ、背後から獲物を襲うその行動は獣と同じだ」

 

「・・・・・できれば、戦略と言って欲しいかな」

 

頬を掻きながら俺は言った。

 

「今までのお前の戦闘は78点だ」

 

「微妙な点数だな・・・・・」

 

「体術は問題ない。相手の武器を破壊して攻撃を無効化させたその行動も悪くない。

だが、少し無駄な動きがある。真龍に鍛えてもらったとはいえ、ちゃんとした指導とは思えない。

大方、我流で会得した力なのだろう?」

 

うん・・・・・まあ、大半はそうかな?殆どは冥界で修行していたし、

ガイアと体術の勝負をしていたぐらいだ。

それと神器(セイクリッド・ギア)の練習相手にもなってくれた。

 

「でも、それだから今の俺がいるようなもんだ。

それに俺の戦い方は何もこれだけじゃない。言い訳に聞こえるだろうけどね」

 

カッ!

 

俺の足元に魔方陣が展開した。いや、俺が展開したんだ。

ヴァーリと黒歌が俺の足元の魔方陣を見るや否や、

近づいてきた。ユーミルとエイリンを引き連れ。

そして、エルフに別れを告げようとしたその時だった。

どこからともかく一人のエルフが現れた。

 

「イッセーくん、もう少しだけ時間をくれ」

 

「・・・・・」

 

魔方陣を展開したまま、現れた一人の男子エルフの言葉を耳に傾ける。

 

「私はエルフの長、シャールだ。キミの話しは訊いたよ。

オーディン殿が危険な目に遭っているとね。同族の者に狙われているとは」

 

「そうだな。だからオーディンさまを助けようと思っている。俺の大事な家族の一人だから」

 

「そうか、ならば、キミに頼みたい。アレインも連れて行って欲しい。きっとキミの力になる」

 

アレイン・・・・・?誰のことだと思ったが、この場にいるエルフは一人しかいない。

 

「本人の意思に尊重する」

 

アレインという名のエルフ、彼女に視線を向けた。

 

「一緒に来てくれるか?来てくれるならこの魔方陣の中に入ってくれ」

 

嫌ならそのままいてくれと暗に問うた。彼女は―――。魔方陣の中に入ってきた。

 

「お前を100点にするまで指導する。それまではお前の傍にいる」

 

「じゃあ、100点にならないようにしないとな。100点になったら帰っちゃいそうだし」

 

意地の悪い笑みを浮かべる。それからシャールに視線を向けた。

 

「またここに来たらエルフが住んでいる集落に遊びに来るよ」

 

「ああ、楽しみにしているよ。イッセーくん」

 

朗らかに笑うシャール。魔方陣の光の輝きが強さを増し、俺の視界は白く塗りつぶされた。

 

 

―――○●○―――

 

 

「なんだ、また新しい女を作って帰ってきたのか」

 

「独身男に開口一番にそれだけは言われたくなかったなぁっ!」

 

「って、その鎖を取り出して何しようと―――。ぎゃあああああああああああああああっ!?」

 

ギュッ!と憎き堕天使を亀甲縛りにして宙にぶら下げた

 

「アザゼル、口は災いのもとだって知らないのか?」

 

「くっ、こんな縄なんぞに俺が―――!」

 

「ああ、それ。俺専用のグレイプニルだから。

勿論、ダークエルフの強化魔法も掛かっているから

フェンリルでも脱せないなら、アザゼルでも脱出は無理だろ?」

 

「おまっ!あっちで一体数日間何をしていたんだよっ!?」

 

目を大きく見開いたアザゼル。勿論、グレイプニルを作っていたからに決まっているじゃん。

 

「ふふふっ、ただの鎖や縄じゃアザゼルに逃げられるからな。

ドワーフたちと一緒にグレイプニルを作りながら学んで、こっそり一人で

別のグレイプニル作っていたんだ。強化はもちろんダークエルフの長老にしてもらった」

 

「それと―――」とポケットから赤い結晶状の魔石を取り出してアザゼルに見せた。

 

「アザゼル、これ何だか分かるか?」

 

「ん?・・・・・こいつは魔力が籠っているな。どこで見つけた?」

 

「ドワーフの鉱山から。これと同じものはもう一つある。

アジ・ダハーカに調べてもらっているけど、

未だに返事がないからアザゼルなら分かるんじゃないか?」

 

鎖を解いてアザゼルを解放する。解放されたアザゼルは俺から赤い結晶を摘まみ取り、

顎に手をやった。

 

「ふむ・・・・・俺が今まで感じた魔力とはまるで違う。何て言えば良いだろうか、

例えるなら似似て非なる・・・・・だな」

 

「似て非なる・・・・・?魔力であって魔力じゃないってことか?」

 

「魔力なのはまず間違いない。だが・・・・・調べてみない限りなんとも言えないな。

イッセー、こいつを借りていいか?」

 

その問いに肯定と頷いた。小型の魔方陣を展開して赤い結晶をどこかへ転送した。

 

「まあ、強化したグレイプニルとレプリカのミョルニルを手に入れたんならいい。

こっちも収穫はあった」

 

アザゼルはロスヴァイセに顔を向けたら、

 

「はい、雷神トールさまが喜んでこれをお貸しするそうです。どうぞ」

 

ロスヴァイセから渡されたのは―――ミョルニルだった。

うわ、これオリジナルのミョルニルかよ。

 

「この場でオリジナルとレプリカのミョルニルを持つ男を見るのは、

これで最初で最後かもしれないな」

 

「試しにオーラを流してみてください」

 

彼女に言われて、俺は魔力をハンマーに―――。カッ!一瞬の閃光。

そのあと、二つのハンマーがぐんぐんと大きくなって―――。

 

「あれ、意外と軽い」

 

一応、俺の身の丈を超す巨大なハンマーとなっているんだけど・・・どうなっている?

 

「あなたは純粋な心の持ち主のようですね」

 

ん?どういうこと?

 

「ミョルニルは、力強く、そして純粋な心の持ち主にしか扱えない。

だからあなたはミョルニルを振るう資格があると言うことだ」

 

セルベリア・ブレスが小さく笑んで、俺にそう言う。

 

「ふーん、そうなんだ」

 

ミョルニル同士をコツンと小突く。―――バチッ!と電撃が生んだ。

 

「おい、無暗に振るうな。この辺り一帯、膨大な雷のエネルギーで衝動と化とするぞ」

 

「・・・・・神族の扱う武器ってとんでもない代物なんだな」

 

「それを普通に扱えるお前の方がよっぽど異常だ。―――ヴァーリ、お前もオーディンの爺さんに

ねだってみたらどうだ?今なら特別に何かくれるかもしれない」

 

アザゼルが愉快そうに言う。いや、こいつの場合、欲しいものなんてあるのか・・・・・?

 

「いらないさ、私は天龍の元々の力のみを極めるつもりだから。追加装備はいらない。

欲しいものは他にもあるから」

 

ヴァーリは顔をこっちに向けてきた。

 

「その内の一つは―――一誠の愛と子供かな?」

 

―――っ。

 

・・・・・今の一言。お前はこの場にいる全員を敵に回す言い方だったぞ。

ほら、皆の視線が敵意になり変わって―――。

 

「いっくんの子供は・・・私が先に産む」

 

「子供か・・・・・ふふっ、きっと強い子供が生まれるだろうな」

 

「例え、幼馴染でも負けられないことはあると思うの!」

 

「イッセーと私の子供・・・私、イッセーのように格好良く、

私に似て優しい子供に育ててみたいわ」

 

「知的な私とイッセーくんの子供も悪くないでしょう」

 

あれ・・・・・真逆な反応だな・・・・・?他の皆もそうだし・・・・・。

 

「ちっ!これから大事な戦いが控えているってのに、随分とお気楽な奴らだな」

 

「羨ましいか?」

 

「う、羨ましくなんて・・・・・ない!」

 

いや、舌打ちした時点で羨ましさを感じただろう。

 

「・・・・・匙」

 

アザゼルが匙元士郎を呼ぶ。

 

「なんですか、アザゼル先生」

 

「お前も作戦で重要だ。ヴリトラの神器(セイクリッド・ギア)あるしな」

 

アザゼルの一言に匙元士郎は目玉が飛び出るほど驚いていた。

 

「ちょ、ちょっと待って下さいよ!お、俺、成神や白龍皇、

兵藤たちみたいなバカげた力なんてないっスよ!?とてもじゃないけど、

神さまやフェンリル相手に戦うのは!て、てっきち会長たちと一緒に皆を転移させるだけだと

思っていましたよ!」

 

かなり狼狽している。そう言えば、ヴリトラの力って五大龍王の中でどのぐらいの強さを

誇っている?クロウ・クルワッハ先生。

 

『五大龍王の中ではティアマットが一番なのは知っているだろう。

だが、ヴリトラは直接的な攻撃よりも多彩な特異な特殊能力での攻撃が長けている。

パワーは龍王の中では弱い方かもしれないが、こと技の多彩さ、異質さは龍王随一だ。

俺たち邪龍の中でヴリトラは可愛い方だがな』

 

邪龍の中でヴリトラの方が可愛いって・・・・・。

まあ、その特異な能力で神相手に少なからず対抗できるだろうな。

 

「あー、作戦の確認だ。まず、会談の会場で奴が来るのを待ち、

そこから式森和樹の力でお前たちをロキとフェンリルごと違う場所に転移させる。

転移先はとある採石場跡地だ。広く頑丈なので存分に暴れろ。

ロキ対策の主軸はWイッセーとヴァーリ。二天龍と兵藤一誠で相対する。

フェンリルの相手は他のメンバー―――グレモリー眷属とシトリー眷属とヴァーリチーム。

それと駒王学園二年S組の葉桜清楚、神城龍牙、カリン、ゼノヴィア、イリナ。

それと銀華とグレイフィアで鎖を使い、捕縛。そのあと撃破してもらう。

絶対にフェンリルをオーディンのもとに行かせるわけにはいかない。あの狼の牙は神を砕く。

主神オーディンといえど、あの木場に噛まれれば死ぬ。なんとしても未然に防ぐ」

 

和樹は今回戦いには出れないのか。というか、シトリー眷属って大丈夫なのか?

 

「ソーナ、こいつを少しの間借りるぞ」

 

ソーナ・シトリーに訊くアザゼル。

 

「よろしいですが、どちらへ?」

 

「転移魔方陣で冥界の堕天使領―――グリゴリの研究施設まで連れていく」

 

楽しげなアザゼルの顔。もしかして、本気で匙元士郎を・・・・・?

あっ、嫌がる匙元士郎の襟首を掴んで、そのまま魔方陣を展開した。

魔方陣が光り輝き、なんか泣き喚く匙元士郎をアザゼルごと包んでいく。

 

「あいつ、生きて戻ってこれるかな」

 

「ははは・・・・・どうでしょうね」

 

龍牙が苦笑いを浮かべる。ふと、俺は気になった。

 

「ヴァーリ、アルビオンはドライグとは話さないのか?」

 

二天龍がこの場にいる。夏休みの時もそうだったけど、

アルビオンはドライグと話そうとはしなかったよな。

 

「アルビオン。一誠は言っているが、どうなんだ?」

 

ヴァーリも背中に青い翼を展開して、尋ねてみた。―――アルビオンの言葉は。

 

『・・・・・私の宿敵に乳龍帝などいない』

 

冷やかなものだった。ああ・・・・・なるほどね。

 

『ま、待て!ご、誤解だ!乳龍帝と呼ばれているのは宿主の成神一成であって!』

 

成神一成の左手の甲に緑の宝玉が浮かび、俺たちに聞こえるように弁解しようとしていた。

すると、今度は―――。

 

『はははっ!乳龍帝ドライグ!今度から私はお前にそう呼ばせてもらうぜ!』

 

『ティアマット!俺は赤い龍帝ドライグ、赤龍帝と周りから称され、恐れ戦かれる天龍だぞ!

決して俺は乳龍帝ドライグなんかじゃない!』

 

『くははははっ!いいじゃないか、ドライグ。新たな名で称される気分はどんな気分だ?』

 

『この際だ。赤龍帝だけじゃなく、白龍皇も何かあだ名でもつけるか?』

 

『『いいな!』』

 

あ、この感じ、いじめっ子といじめられっ子の感じだ。ティアたちが名前を考え始めた。

 

『赤龍帝は女の乳房を求めているが、白龍皇は女だ』

 

『乳龍皇・・・・・では、面白みがないな』

 

『兵藤一誠に訊くか?』

 

矛先がこっちに向いた!?

 

『そうだな。おい、兵藤一誠。白龍皇のどこが好きだ?答えろ』

 

「・・・・・」

 

なんで、こうなる。ヴァーリの方に視線を向けると・・・・・。

 

「一誠、私のどこが好きだ?」

 

尋ねるように問うてくるヴァーリ。ヴァーリだけじゃない。

他の皆も俺が女の体で好きな部分を聞こうと耳に傾けている。

 

ガチャ。

 

「おお、孫よ。帰っておったのか」

 

―――天から救いの手がやってきた!

 

「オー爺ちゃん!」

 

北欧の主神オーディンことオー爺ちゃんに抱きついて難を逃れる!

 

『(あっ、逃げた)』

 

「ほっほっほっ、成長しても甘えん坊じゃな孫よ。うむうむ。いいのぅ。可愛いのぉ」

 

俺の頭を撫でてくれるオー爺ちゃんが成神一成とヴァーリに視線を向けた。

 

「ふむ・・・・・。赤龍帝は女の乳が好きじゃったな。

白龍皇は・・・・・うむ、良いケツをしておるから赤は乳龍帝。白はケツ龍皇じゃな」

 

刹那―――。

 

『『それだっ!』』

 

『白龍皇がケツ龍皇か・・・・・。憐れだな』

 

『・・・・・・ぬ、ぬおおおおおおん・・・・・・』

 

ティア、アジ・ダハーカが面白そうに同意し、クロウ・クルワッハが同情、

アルビオンが無念の涙を流している様子だった。

 

「アルビオン泣くな。相談ならいつでも聞いてやる」

 

「すまん、アルビオン」

 

取り敢えず、アルビオンに謝る俺。二天龍は繊細な時期に突入している。

 

―――○●○―――

 

あれからオー爺ちゃんとちょっとだけ話し合い、今は自室でとある鎧を纏っていた。

 

「―――っ。はぁぁぁ・・・・・」

 

パキィィィィン・・・・・。

 

全身鎧に罅が生じたと同時にガラスのように割れて消失した。

 

『ダメだな。力が相反しあっている』

 

内からクロウ・クルワッハが声を掛けてくる。

 

「相反する力を何とか融合させて膨大な力を―――と思っているんだけど、まだまだダメだな」

 

『そもそも相反する力を無理強いに合わせること自体が無謀に等しい。

一歩間違えれば相反する力が暴走し、

お前の体がただでは済まなくなる』

 

「本来、相反するはずの二つの力を木場は奇跡的に融合してみせた。

有り得ない現象を見せてくれたあいつのおかげで可能性が出ているんだ。

なら、俺だってその奇跡を起こせる可能性がある」

 

でも・・・・・何かが足りないんだよな。何か不完全なものを繋ぎ止める何かが・・・・・。

 

『取り敢えず、横になって寝ていろ。精神的な負荷が蓄積している。

これ以上続けると悪神ロキとの戦いに支障が出る』

 

「・・・・・心配してくれるんだな」

 

『当たり前だ。少し・・・・・愛というものを理解しているつもりだからな』

 

・・変わったよ。最強の邪龍が本来、知ろうとしなかった感情を分かりつつあるんだからな。

クロウ・クルワッハの言う通りにし、ベッドへ横になる。

そして、瞑目して少しばかり寝ようとした。

 

ガチャ・・・・・。

 

部屋のドアが不意に開いた。誰かが入ってきたと瞑目したまま、

誰の気なのか探知すると―――姫島朱乃の気だった。

なんだ?俺に何か用なのか―――?

 

カチッ。・・・・・鍵を閉める音・・・・・?なに?朱乃は一体、なにを・・・・・?

 

「・・・・・イッセーくん、起きてください」

 

「・・・・・」

 

ゆっくりと目を開けて朱乃に視線を向けると―――白装束の姿の朱乃は髪をおろしている。

心なしか、表情に艶がある。ベッドの傍らに佇んでいた朱乃は帯を―――しゅるしゅると解き、

するっと白装束を、

 

ぱさっ。

 

床に白装束が落ちる。―――っ!?なぜ、全裸になる姫島朱乃ッ!?彼女の行動に絶句し、

思わず体を起こそうとした矢先、彼女が起き上がろうとする俺の肩を両手で掴み、

ベッドに押し戻されてしまった俺に覆い被さってきた朱乃。

そのまま俺に抱きついてきて全身を押し付けてくる。

 

「なっ、朱乃―――!」

 

「―――抱いて」

 

「はっ―――!?」

 

耳元で呟かれ、呟いた言葉を耳の中へ届き、脳がその言葉の理由を理解したら、

動揺の気持ちが湧いた。

 

「な、お前・・・・・」

 

「イッセーくん・・・・・」

 

「―――――」

 

彼女の、朱乃の顔を覗き込んだ瞬間。俺は冷静でいられるようになった。

―――朱乃の瞳の奥には、悲しみの色が浮かんでいる。

 

「朱乃、どうしたんだ?いつものお前じゃない。

今のお前は、何かから逃れるような気持でいるぞ。

何時も一緒にドS的な会話をしている時に笑っている時がとても楽しそうだった。

でも、今のお前は悲しみに包まれている。朱乃、お前を悲しませるものは一体何なんだ?」

 

「・・・・・」

 

俺の問いに彼女は沈黙する。だけど、俺はそっと起き上がって朱乃の頭を撫でる。

 

「今のお前の気持ちには応えられない。でも、こうして抱きしめるだけなら・・・・・」

 

ギュッと、優しく彼女の体を抱きしめる。頭を撫でることを忘れない。

 

「俺は朱乃のことをまだ知らないから、何に対して悲しんでいるのか分からない。―――ごめんな」

 

「・・・・・おかしな人、謝る立場じゃないのに・・・・・」

 

「そう言いたくなるんだよ。―――この家に住む同じ家族として、謝りたいんだ」

 

「・・・・・私、あなたの家族なの?」

 

朱乃は上目づかいで俺に問いかける。そんな彼女に俺は小さく言った。

 

「俺、誰かと一緒にいないと寂しがったり不安になっちゃうんだ。

子供のころ、父さんと母さんがいなくなることが多いから、それが寂しくてずっとリーラを

母親代わりにするかのようにずっと傍にいたんだ。じっと両親を帰ってくる日まで待ってさ。

結局、両親が死んでも親離れというか、人離れが今でもできないでいる。

誰かに触れたり抱きしめたりしないと、安心できなくなっている。

それが唯一の弱点とも言える俺がダメなところだよ」

 

「・・・・・」

 

「だからなんだろうな。俺が子供に戻っていた時も誰かと一緒にいたのは、

寂しさを紛らわしていたんだと思う。ははっ、周りから恐れ戦かれているだろうけど、

実際は人一倍心が弱い人間なんだよ俺って」

 

苦笑を浮かべて自嘲気味に話すと同時に笑んだ。もう、あんな思いはしたくない。

二度と、絶対にだ。

 

「・・・・・なんだか、私が励ませられているのかと思ったら、

私があなたを励ましたくなっちゃいましたわ」

 

俺の首に両腕が回されて朱乃の顔が接近してくる。

 

「初めてね、あなたが弱いところを見せてくれたのは。他の人は知っているのかしら?」

 

「気付いている人がいる。でも、俺から言ったのは朱乃が初めてだ」

 

「あら・・・・・そうですの。それはとても光栄なことですわ」

 

俺の胸に頬を寄せる朱乃。その間にも俺は彼女の黒髪を撫で続ける。

 

「―――イッセーくん。あなたの過去に辛いことがあるように他のヒトも辛い過去を経験し、

成長した今でもその過去を抱いて生きている人がいますの。その一人がこの私・・・・・」

 

「朱乃・・・・・」

 

「バラキエルという堕天使の幹部がいますわね?あの堕天使は―――私の父親なんですの」

 

なに・・・・・?

 

「母親は、母さまは私が小さい頃に死んでしまいましたわ。・・・・・堕天使に関係した理由で、

私の母は死んでしまったの・・・・・」

 

「―――っ!」

 

「私とイッセーくんは似ているけどどこか違う。あなたは堕天使と悪魔に両親を殺され、

私は堕天使に恨みを持った者たちに母親を殺された。でも、私には父親がいる」

 

朱乃はポツポツと呟いた。それから数年後、堕天使とハーフである朱乃は住む家も追われ、

天涯孤独な身となって各地を放浪し、リアス・グレモリーと出会った過去の話を聞かされる。

 

「・・・・・確かに、俺と朱乃は似ているけど違うな。

お互い苦労していたことは同じだったようだがな」

 

「ふふっ、そうね・・・・・祐斗くんもそう、小猫ちゃんもそうだったように、

ヒトは必ずしも一度は悲しい経験をしている、遭っている。

それがどれだけ深く悲しいものだったのか、

他人が計りしれないけど思いを通じ合うのはできるわ」

 

「俺、悪魔と堕天使が嫌いだ」

 

「知っている」と朱乃は呟いた。

 

「こんな俺でも悪魔と堕天使と通じ合えるのか?」

 

「それは、あなたの心次第・・・・・でしょ?」

 

敢えてハッキリとした答えを言ってくれない彼女。

だが、それで良かったかもしれない。全ては俺自身が決める事だから、

他人に否か応と言われたら・・・・・俺は前に進めないかもしれない。

 

「・・・・・朱乃。俺なんかで良かったら、俺はずっとお前の傍にいるよ」

 

「・・・え?」

 

「だから、何時もの朱乃に戻ってくれ。何時も笑っている顔の朱乃の顔が見たい」

 

「・・・・・」

 

朱乃はジッと俺を見据える。

 

「私・・・・・あなたが嫌う堕天使なのよ?」

 

「俺の心次第、何だろう?それに、悪魔と堕天使が嫌いと言っても、

俺は両親を殺した悪魔と堕天使を嫌い憎んでいて、他の悪魔と堕天使を嫌っているわけじゃない。

―――あの三人に対する想いと感情を忘れないために言っているようなもんだ。

だから、悪魔と堕天使の翼を持つ朱乃は嫌いじゃない。寧ろ好感を抱いている」

 

素直に告げた。朱乃は少しの間、呆然としていたが、口元が笑んだ。

 

「・・・・・私も、あなたに対する好感度が高いですわ」

 

「そうか?」

 

「ええ、そうですわ。―――うふふ♪」

 

あっ、いつもの笑顔だ。良かった。笑ってくれた。それが一番似合うぞ、朱乃。

 

―――○●○―――

 

その日の夜。

 

俺はとある家に住んでいる奴と出会っている。玄関の光で俺の姿はハッキリと浮かんで、

目の前にいる人物に不思議そうな顔で問われていた。

 

「あの・・・・・私に何かご用でしょうか?」

 

アーシア・アルジェント。リアス・グレモリーの『僧侶(ビショップ)』とだ。

 

「ああ、お前にこいつを渡しておきたくてな」

 

「それは・・・・・」

 

「ミョルニルのレプリカ。これをお前に持たせようと思ってお前を呼びだした」

 

グローリィから受け取ったレプリカのミョルニル。アーシア・アルジェントは目を丸くして、

「どうして?」と言いたげな顔で俺を見詰める。

 

「俺はオリジナルのミョルニルがあるからそっちの方を使う。俺が二つも使っていたらメンバーの

バランスが偏ってしまう。それに、お前は回復だけが取り柄で攻撃という魔法は一切使えない」

 

「ですが、私も皆さんのお役にたてるよう努力しています!」

 

「知っている。だからだ。お前を守ってくれる奴はいなくなったら誰がお前を守る?

自分の身は自分で守らないといけない時だってある。

そのためにこれをお前に渡そうと思っているんだ」

 

ミョルニルのレプリカをアーシア・アルジェントに渡した。しかし、彼女から疑問を問われた。

 

「でも・・・・・私なんかが扱えるのでしょうか?」

 

と、北欧の最強の神が使う神具を自分が扱えるかどうかを。俺は頷いてから言った。

 

「アザゼルに頼んで一時的に悪魔でも使えるように設定してもらってある。

それに純粋な心の持ち主だったら仕えるものだ。グレモリー眷属の中で一番純粋な心の持ち主の

お前ならきっとミョルニルを振るえる。使い方は魔力の多さに比例してミョルニルは大きくなる。

純粋な心の持ち主ならば、

羽のようにミョルニルを振るえるからアーシア・アルジェントでも振るえるはずだ」

 

「そうなんですか?」

 

「でも、無暗に振るわないでくれよ。振るうなら、戦場で思いっきり振ってくれ」

 

それだけ言い残し、俺は踵を返して去ろうとした。

 

「あの」

 

「ん?」

 

声を掛けられ足を停めた。振り返ると、何故か深くお辞儀をしていた。

 

「ありがとうございました!」

 

「・・・・・」

 

何に対してお礼を言われている?理解ができないまま手を振って彼女から離れ、家に戻った。

 

『お前は甘いな』

 

「二つもいらない。一つで十分だ。戦力の補充にもなれるだろうし、問題ないだろう」

 

『あくまで悪神ロキとの戦いに備えてしたことだと?』

 

「俺はそのつもりだ」

 

全ては、オー爺ちゃんのためだ。相手に勝てる確率を上げるためなら打てる手を尽くす。

―――それだけさ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode10

 

―――決戦の時刻。

 

都内のとある高層高級ホテルの屋上にいる俺たち。すでに日は落ちて、夜となっている。

屋上にいるため、俺の体に激しく風がぶつかる。周囲のとあるビルに和樹がポツンと佇んでいる。

和樹がいない穴はシトリー眷属で埋めるのだろう。匙元士郎は未だに姿を現さない。死んだか。

アザゼルは会談での仲介役を担うためにオー爺ちゃんの傍にいる。

戦闘に参加できないアザゼルの代わりにバラキエルが同じく俺たちの屋上で待機、

ロスヴァイセとセルベリア・ブレスも戦闘に参加ってことで鎧姿のまま待機中なり。

 

「はっ!神相手にできるなんて嬉しい限りだ!俺たち人間の力を見せ付けてやらぁっ!」

 

意気揚々、気持ちが高揚している兵藤照。念には念を、兵藤家メンバーも誘っている。

ロキとフェンリルだけとは限らないからな。その上、相手は神だ。

 

「―――時間か」

 

腕時計を見ながら呟く。会談が始まった時間だ。ホテルの一室で大切な話し合いが

始まったことだろう。屋上に待機する前、日本の神々と会ってみたら、笑顔で出迎えられた。

 

「―――キュイイイイイイイイイイイイイッ!」

 

不意に動物の鳴き声が聞こえた。和樹の方からだ。

そう、一匹だけ連れてきた『コロ』の警報が鳴った。そうか、現れたか・・・・・。

 

バチッ!バチッ!

 

ホテル上空の空間が歪み、大きな穴が開いていく。

そこから姿を現したのは―――悪神ロキとフェンリルだった。正面から出てきた。

 

「目標確認。作戦開始」

 

バラキエルが耳に付けていた小型通信機からそう言うと、

ホテル一帯を包むように巨大な結界魔方陣が展開し始めた。和樹が俺たちとロキ、フェンリルを

戦場に転移させるため、大型魔方陣を発動させたんだ。ロキがそれを感知するが、

不敵に笑むだけで抵抗は見せなかった。そして、俺たちは光に包まれる―――。

 

・・・・・・。

 

次に目を開いた時、そこは大きくひらけた土地だった。岩肌ばかりだ。古い採石場跡地って

この場所だったのか。確かに、ここなら思う存分力をセーブしなくてもいいってことだ。

 

「―――さて、始めようか」

 

左手に赤い籠手を装着し。

 

禁手(バランス・ブレイカー)

 

赤いオーラに包まれる最中、オーラが鎧へとなり、俺の全身を包んでいく。

 

「赤龍帝がもう一人だと・・・・・?」

 

「正確には偽物だけどな」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBOostBoost!!!!!』

 

力を増幅し、溜める。その力を―――。

 

「相手に譲渡する他のやり方を、お前に見せてやるよ成神」

 

カッ!

 

『Transfer!!!!!』

 

全身の宝玉が光り輝き、俺を中心に力の波動が生じ、皆に直撃すれば、

全員の力が何倍にも膨れ上がった。

 

「凄い・・・・・一歩も動かず私たち全員に力を譲渡した・・・・・」

 

「―――これなら、いける!」

 

「ちっ!力を譲渡されても俺は強いのによ!まあいい、いくぞ!」

 

兵藤照が最初に動きだした。物凄い勢いでロキに突っ込んでいく。

 

「ふははは!浮遊することができない人間なんぞ、これ以上狙いやすいものはない!」

 

ロキは全身を覆うように広範囲の防御式魔方陣を展開させる。

―――と、思ったら、その魔方陣から魔術の光が幾重もの帯となって、兵藤照に放たれた。

 

「まったく、あいつは真っ先に行ってしまうんだから。

フォローする俺たちの気持ちも考えろって」

 

―――不意に、真上から膨大な質量の岩が現れて、ロキの魔術の攻撃を兵藤照から防いでみせた。

表面が削れてもすぐに元に戻るその光景を、

こんなことできる奴は一人しかいないととある人物に振り返る。

 

「お前か、兵藤淡河」

 

「ああ、お前の力の譲渡のおかげで数十倍の岩を扱えるようになっているからな。

―――こんなこともできる」

 

そう言って、兵藤照がロキの魔方陣に拳を突き刺し、

魔方陣を砕いた光景を尻目に兵藤淡河が全身に岩を装着し始めた。

それもぐんぐん大きくなりながら。

全長50メートルはあろう、巨大な人を模した岩の塊が俺の視界に飛び込んできた。

 

「さぁーて、俺は狼でも倒すとするか!その上、ここは俺の領域だ!周りは岩、土、鉱石!

俺のフィールドだ!大地は俺の味方!故に俺は負けることはない!」

 

ドスン!ドスン!と怪獣が歩む足音をあいつが地鳴らせ、フェンリルへ赴いた。

 

「ふははははっ!そんな木偶の坊みたいな者に我が子フェンリルが負けるわけがなかろう!

―――いけ!」

 

哄笑するロキが兵藤照に攻撃を仕掛けながら指を鳴らすと、

静かに佇んでいたフェンリルが一歩前に進みだした。

 

「―――よぉ、面白そうなことをしているじゃんか。俺たちも混ぜさせてもらうぜ?」

 

―――――っ!?

 

この場に轟く女の声。しかも、この声は―――――ッ!

俺たちとロキとフェンリルの横に巨大な魔方陣が出現した。

―――その魔方陣から、光と共に現れる何千の集団。その先頭に立つ四人の姿。

 

「はっはっはぁっ!相手は北欧の悪神とフェンリル、グレモリー眷属とシトリー眷属、

それと兵藤家!全員纏めて倒せば名が挙がるぞ!」

 

・・・・・なんで、お前らがここに現れる・・・・・っ!

 

「貴様・・・・・ヴァンッ!」

 

「よぉー、バラキエルじゃないか!はっはー!久し振りだなぁっ!

 

「よくもおめおめと俺の前に現れたな。アザゼルに変わって俺がお前を捕まえ、

コキュートスに閉じ込めてやる!」

 

堕天使の女、ヴァン。他にもシャーリや、シャガ・・・・・子供のころ、俺と戦った悪魔までもが

いた。後にいる集団は・・・・・『真魔王派』の悪魔たちか!

 

「ロキ!あいつらの出現に貴様が関係しているのか!」

 

「愚かな、誰がテロリストなどと手を組むか。我も狙われている対象になっているがその証拠だ」

 

バラキエルがそうロキに問うたら、ロキは否定した。

だろうな。だが、三すくみだなんて面倒極まりない!

兵藤家の奴らも引き連れて来て正解だったか!

 

「―――全員に告ぐ。大変だろうが、ロキとフェンリル、『真魔王派』を両方とも相手にする」

 

バラキエルの手元が電撃で迸る。グレモリー眷属やシトリー眷属は当惑するが、

相手が増えただけであり、倒す相手が目の前にやってきたことで気を引き締め直す。

 

「兵藤淡河!お前は他のメンバーと一緒にテロリストと戦ってくれ!」

 

岩の巨人は首を縦に振って、体を悪魔の集団へと向けて歩みだした。

 

「一誠さま、私たちも悪魔たちを討伐してまいります!」

 

「どうか、御武運を!」

 

兵藤家のメンバーたちも一斉に『真魔王派』に向かって攻撃を仕掛けに行った。

対する『真魔王派』も一斉に俺たちへ襲いかかってくる。

 

「兵藤一誠、お前はロキの方を頼む。俺はヴァンとする」

 

「・・・・・復讐の対象者が目の前にいるのに、俺が何もしないとでも思うか?」

 

「いまはオーディン殿の会談を成功させるためにもロキを撃破することが必要だ。

そのことを貴殿は理解しているはず」

 

「・・・・・ふん、向こうから来たようだぞ」

 

「っ!」

 

そんなこと言われなくても分かっている。だが、そうそう簡単に事を運べれる訳がない。

 

「はははは、よぉ、ガキ。今回は龍にならないんだな?」

 

ヴァンが不敵の笑みを浮かべ、声を掛けてくる。

 

「龍化になるよりも確実に倒せるものがあるからな。そっちを使わせてもらう」

 

腰に携えていたミョルニルを手にして、巨大化にし構える。

このミョルニルを見てシャガが目元を細めた。

 

「雷神トールが持つミョルニルか・・・・・厄介な物を持っていたな。

いや、悪神ロキに使うため用意したのだろう?」

 

「そういうことだ。でも、お前らが現れてくれて俺は感謝感激涙が出るぜ。

―――この場でお前らを殺してやるからよ!」

 

横殴りでミョルニルを振る。雷を纏ったハンマーは真っ直ぐヴァンたちに襲う。

―――が、容易くかわされた。

 

「当たらなければどうってこともないな!」

 

嬉々として笑みを浮かべるヴァンが光の槍を発現して俺に襲ってくるのであった―――。

 

―――リアスside

 

まいったわ、まさか・・・『禍の団(カオス・ブリゲード)』の一派、『真魔王派』が襲撃してくるなんて

思いもしなかった。ロキ打倒と為に集まった戦力が必然的に分散してしまい、

対処することになってしまった。ロキの相手は赤龍帝のイッセーと白龍皇のヴァーリ、

兵藤照の三人。フェンリルはヴァーリチーム。

残りのメンバーはテロリストと相手に。数がこっちの方が多いため、

ロキは少人数で任せないといけない。

 

「消し飛びなさい!」

 

滅びの魔力で一気に数十人の悪魔たちを蹴散らした後。

今度は、イッセーの見様見真似で魔力を具現化させた二対四枚の翼を巨大化させ、速く、鋭く

振るって敵を切り刻む。

 

「―――悪滅の翼、と名付けようかしら」

 

自分の翼を見てそう名付けてみた。彼と共にいると自然と力が増す。

 

「アーシア、私から離れないようにね」

 

「は、はい・・・」

 

と言うものの。なぜか、彼女がミョルニルを持っているのは不思議でならない。

 

「ねえ、どうしてミョルニルを持っているのかしら?」

 

「えっと、兵藤さんに渡されまして・・・・・」

 

「イッセーに?」

 

「はい、色々言われましたけど、省略すれば、私なら使えて、自分の身は自分で守れ・・・と」

 

・・・・・イッセー、あなたは何を考えてアーシアに渡したの?

もしかして、こんな状況になるかも知れないと思って渡したのかしら・・・・・。

 

「―――やぁ、久し振りだねアーシア」

 

「「っ!?」」

 

この声は・・・・・っ。アーシアに声を掛ける人物に振り返ると―――そこには、

ディオドラ・アスタロトがいた。

 

「ディオドラ・・・・・!」

 

「おっと、リアス・グレモリー。僕はキミじゃなく、アーシアに用があるんだ。

―――邪魔、しないでもらえるよね?」

 

「っ!?」

 

何時の間にか私とアーシアの周囲には囲まれていた。しかも、彼の眷属に。

 

「アーシア、僕と一緒に来てもらうよ?」

 

「・・・・・」

 

「ふふ・・・・・ようやく、ようやくこの時が来たよ」

 

笑みを浮かべるディオドラ。アーシアは体を震わせ、私の後ろに隠れる。

 

「ディオドラ。あなたの趣味と性格を調べさせてもらったわ」

 

「へぇ?そうなんだ。じゃあ、僕がアーシアを求める理由は分かるよね?」

 

「ええ、反吐が出るぐらいあなたは最低だわ。

―――だからこそ、アーシアをあなたには渡さないわ!」

 

「この状況で良く吠えれるね。キミの眷属悪魔は散り散りになって戦っているじゃないか。

それに比べ、僕は眷属とキミたちを囲んでいる。

さて、どっちが有利なのか知的なキミならすぐ分かることだ。チェックメイト、だよ?」

 

これがゲームだったら確かに私は詰んでいたかもしれないわ。でも、今は現実。

戦いは決着がつくまで分からないことが多いもの。

―――私の敗北と言うわけじゃないし負けてなんかいないわよ!

 

ズドォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

聖なるオーラが奔流と化となって戦場をかき乱していた。あのオーラは・・・・・!

 

「誰かと思えば貴様か、ディオドラ・アスタロト。丁度良いここで貴様を断罪してくれる」

 

「ゼノヴィアさん」

 

「私たちは教会の敵であるあなたを絶対に許さないわ!」

 

「イリナさん」

 

ザッ!とどこからともかく現れたゼノヴィアと紫藤イリナ。―――感謝するわ!

 

「聖剣使いか。でも、数じゃ僕の方が上だよ!さぁ、アーシア。こっちにおいで!

リアス・グレモリーとその仲間たちの命が大事なら尚更だよ」

 

「・・・・・っ」

 

私の制服にギュッと掴んで、嫌だと意思表示するアーシア。

ええ、あなたはそれでいいの。あなたは私たちをサポートしてくれれば・・・・・。

 

「・・・・・ディオドラさん」

 

「なんだい?」

 

アーシア―――?

 

「私を求めている理由は・・・・・私の体だけなのですか?」

 

「体だけじゃないよ。キミの心も僕は欲しいんだ。アーシアを愛くるしいほどにね」

 

「・・・・・本部の教会に通じていた有名なシスターや聖女さんたちを騙して、

欲望のまま弄んでいるとお聞きしました」

 

「あれ、悪魔って自分の欲望に忠実で、悪魔は人間にとっても天使にとっても最悪な敵だと

認知されているよね?僕、悪魔らしく欲望を解放して

思いのまま生きているつもりなんだけど・・・・・同じ悪魔のアーシアになら

分かるんじゃないかな?だって、キミだって欲望はあるよね?」

 

人間にとって悪魔のイメージは『悪』で『魔』な存在。今はともかく十年以上前では、

人間たちの世界で闊歩する異種族に畏怖の念を、恐れ戦き、恐怖を抱かれた。

―――自分たちとは全く違う種族。

悪を象徴する魔の存在が人間界に堂々と歩かれていたら、

何かのはずみで自分たちの魂を抜き取られるんじゃないかって思う人間は多かった。

 

「・・・・・確かに、私も欲望と言うものがあります」

 

「うん、そうじゃなかったら悪魔とは言えないね」

 

「ですが・・・・・」

 

真っ直ぐ、アーシアは瞳をディオドラに向けた。

 

「同じ悪魔でも私はあなたのような悪魔にだけはなりません!」

 

カッ!

 

アーシアがそう叫びながらミョルニルを掴んだ時、

ミョルニルが光を発し―――ぐんぐん大きくなった。

 

「・・・・・え?」

 

「これ以上・・・あなたの手によって他のシスターや聖女の皆さんの人生を

狂わせるわけにはいきません!」

 

バチッ!バチッ!バチッ!

 

「私の手で―――あなたを倒します!」

 

ミョルニルに雷が迸る。

 

「ちょっと待ってくれアーシア。僕はキミを幸せに・・・そ、それにほら、僕の眷属は皆、

僕のことを好意を抱いて―――」

 

「あなたに抱いているその心は本心からではありません!

皆、あなたに騙されて絶望から生んだ偽りの心です!」

 

『―――っ!?』

 

「ディオドラ・アスタロトさん・・・・・・私は、あなたを死んでも許しません!」

 

あの、アーシアが・・・・・。

 

「てやああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

アーシアがミョルニルを真っ直ぐディオドラに振るった。

ディオドラは迫る雷を纏ったミョルニルに防御式魔方陣を展開した。

 

「ぐっ・・・・・!?」

 

バリンッ!

 

「てい!てい!てい!」

 

一回だけじゃなく、何度も何度もミョルニルを振るった。

その度にディオドラが張った魔方陣が砕け消失していく。

 

「や、止めてくれアーシア!僕はテロリストになったのだって、

渋々でしょうがなくなっただけなんだよ!?」

 

「うるさいです!聞く耳なんて持たないです!

あなたなんてイッセーさんの方が何万倍も格好良いんですから!」

 

・・・・・あなた、何気に惚気たわね。ディオドラも余裕ができなくなったのか―――。

 

「キミたち!僕を守るんだ!」

 

と、自分の眷属に指示を下す。でも―――返事がなかった。なぜならば、

 

「すまないな。貴様とアーシア・アルジェントが話している間に倒させてもらったよ」

 

「油断大敵ってね!」

 

ゼノヴィアと紫藤イリナの手によって地面にひれ伏していたからだった。

その光景にディオドラは大きく目を見開いた。

 

「―――これで」

 

大きくミョルニルを振り上げたアーシア。

 

「終わりです!」

 

ディオドラは苦渋に満ちた顔で足元に魔方陣を展開して。逃げるつもり―――!?

 

「逃がさないわよ!」

 

紫藤イリナが聖剣を鞭のように変えて、ディオドラを拘束した。

 

「なっ、くそ、放せよ!」

 

「そう言って放すバカはいないわ!―――アーシアさん、今よ!」

 

「はい!」

 

力強く頷いたアーシア。彼女は一度ディオドラを真っ直ぐ睨んで、

 

「さようならです」

 

ミョルニルを思いっきり振り下ろした。

 

 

―――木場side

 

 

「やぁやぁっ!お久しぶりでござんすねぇ!」

 

「・・・・・フリード・セルゼン」

 

何故彼がここにいるんだ・・・・・。僕、木場祐斗は不思議でしょうがなくいる。

 

「おんやぁ?もしかして、どうしてここに俺さまがいるって思いましたかぁ?」

 

「・・・・・」

 

「あらあら、どうやら図星のようですねぇ?

まっ、僕ちゃんがここにいるってのは至極的超分かりやすく言えば、

俺はテロリストに拾われたのさ!クソアザゼルにリストラ食らっちまってよっ!

行き場を失った俺にテロリストどもが、力をくれるって言うから何だと思えば―――」

 

彼の体が異様に隆起した。

 

「ぎゃははははっ!キメラだってよぉっ!」

 

・・・・・すでに人間を捨てていたのか。いや、元々あの男は狂っていた。

あんなふうになってしまうのはもはや時間の問題だったのかもしれない。

 

「そんじゃ、あんとき俺を切り刻んだイケメンナイトくんを

今度は俺がチョッパしましょっかねぇぇっ!」

 

異形へと成り果てたフリード・セルゼンが腕に鋭利状の刃物を生やして突貫してくる。

 

「・・・・・ふぅ」

 

溜息を一つ。集中するんだ。神器(セイクリッド・ギア)は人の想いを応えてくれる。

 

「―――『魔剣創造(ソード・バース)』」

 

ザンッ!

 

周囲一帯に刃が咲き乱れる。

 

「はっ!んな技は、今の俺には見切っているってーわけなのですよ!」

 

フリード・セルゼンは大きく跳躍する。地面から生える僕の魔剣の数々は空高くまで伸びない。

 

「超絶無敵のフリードさんをよろしくってなぁっ!」

 

「―――空中に飛んで避けなければ、もっと違った結果だったろうね」

 

「何ゴチャゴチャと―――っ!?」

 

苛立ちの顔を見せるフリード・セルゼン。

だが、宙から襲いかかってくる彼の周囲には―――虚空から出現している数多の聖魔剣。

 

「・・・・・なんですと?」

 

―――刹那。数多の聖魔剣が光速の速度で真っ直ぐと動き、フリード・セルゼンの全身に

突き刺さっていく。

 

「うぎゃああああああああああああああっ!?」

 

「キミはもうこの世からいなくなった方が良い」

 

真上に巨大な聖魔剣が虚空から出現し―――フリード・セルゼンを貫いた。

周囲にいた『真魔王派』の悪魔たちも巻き込み、巨大な聖魔剣は深々と地面に刺さった。

 

「彼の力がなければ、できなかった芸道だよ」

 

体はまだ動く。かなり精神や魔力を使ったが、皆がまだ頑張っているんだ。

僕も頑張らないとね。

 

 

―――一誠side

 

 

「久し振りだな。一誠」

 

「お前は・・・・・あの時のはぐれ悪魔か」

 

「今回で二度目の再会となるが・・・・・あの時の続きをしようじゃないか」

 

幼い頃、リアス・グレモリーたちを攫おうとしたはぐれ悪魔が俺の前に。

 

「俺も強くなっているようにお前も強くなっているじゃないか。

これで、お前を心置きなく倒せるということだ」

 

「ヴァンたちと行動していたとはな。どんな理由で一緒にいるんだ?」

 

「お前繋がりだ」

 

・・・・・何となくそう思ったよ。

 

「そーいうこった。ヴァルヴィは俺たちと一緒にいるわけだ」

 

シャガが肯定と発する。

 

「さて、お前と勝負をしようか」

 

ヴァルヴィと呼ばれた悪魔があの時とは違い、本気で攻撃してきた。

魔方陣を幾重にも展開したその魔方陣から―――巨大な生物たちが現れた。

 

「文句はないよな?」

 

「・・・・・」

 

あれ・・・・・なんだ?全身の筋肉が隆起していて凄い覇気を感じる。

それが―――顔中が傷だらけでキラキラと輝く水色の髪と羽衣を身に纏った女じゃなかったら

目を疑わなかった!いや、あれは女じゃない。漢女だ!

他の魔方陣から出てきた生物も似たような奴らばっかりだ!

 

「なあ・・・・・その生物って名前は何だ?」

 

「なんだ、知らないのか?」

 

―――恍惚とした表情を浮かべ、あろうことか・・・・・あいつは唇を漢女の頬に押し付けた!

 

「こいつら皆、ウンディーネだぞ?」

 

「―――――っ!?」

 

・・・・・全身がブルリと悪寒で震えた。ウ、ウンディーネ・・・・・?

俺が見聞したウンディーネはおしとやかで優しい心の持ち主の精霊だったハズだ・・・・・。

 

「嘘だっ!」

 

「いや、あれはまさしくウンディーネだ。

しかも、どれもこれも覇気を感じるウンディーネ。長年戦い続けた歴戦の精霊だろう」

 

横から肯定の言葉を言われちゃったよ!否定してほしかった!

あんなウンディーネが存在していただなんて俺、知りもしなかったよ!

 

「名前もあるんだ。水色のこの子はマリン。黄色のこの子はサンナ。緑色のこの子はセリー。

赤い色のこの子はライラ。ピンクのこの子はミルタンだ」

 

あいつが自分の精霊の名を呼んでいくと、精霊が反応して―――マッスルポーズをする!

 

「・・・・・・ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん・・・・・・」

 

無念だと俺は嗚咽を思わず漏らした。違う、違う!世界は広いえど、

あんな精霊がいてたまるか!何よりも―――!

 

「俺は目の前のウンディーネを女だとは認めない!」

 

「んだと・・・・・?」

 

「まだ和樹のウンディーネの方が可愛い!俺は断言する!

それに、そいつらが女だと言うなら、俺の使い魔の方がもっと可愛い!」

 

魔方陣を展開して、!『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマットを召喚した!

腰まで伸びたロングストレートの青い髪。瞳は金色で、青を基調とした服を身に纏っている女性だ!

 

「ん?ウンディーネがいるじゃないか。最近、姿を見せないなと思ったら

悪魔の使い魔になっていたのか」

 

「ああ、俺は力強い女が好きでな。俺の女の趣味は力がある女だ。

それもこんな鍛え上げた筋肉の持ち主だ」

 

ティアまでもがウンディーネと認識しているし、誰もお前の女の趣味なんて聞いてねぇっ!

 

「ティア、一緒に戦ってくれ」

 

「ふふっ、良いだろう。久々に暴れたかったところだ。

相手はウンディーネとは相手にとって不足はない」

 

嬉々として笑みを浮かべるティア。青い魔力を全身から迸らせたまま、攻撃態勢になった。

 

「―――お前の力を借りるぞ、羽衣狐」

 

一人呟く俺。―――隣に虚空から現れた黒を基調としたセーラー服を身に包む黒い長髪の女性が

冷笑を浮かべる。

 

「勿論じゃ。妾の力はそなたのために・・・・・」

 

背中から抱きついてきては、俺の頬に唇を押し付けてきた。

 

「お前・・・・・そうか、あの時感じた魔力の正体は―――お前だったのか」

 

ヴァンが何か呟いていた。なんだ、何か知っていたのか・・・・・?

まあいい。―――こいつらを倒し、殺す。

 

「「禁手(バランス・ブレイカー)!」」

 

―――成神side

 

テロリストが乱入してどらぐらい経ったのだろうか。

マジで戦争みたいに混沌と化となってロキとフェンリル打倒どころじゃなくなっている。

 

「ふはははっ!ふははははははっ!」

 

ロキは壊れたかのように笑い続ける。『真魔王派』の悪魔たちを躊躇もせず、

北欧の魔術で蹴散らしていく。

フェンリルは犬のように「待て」の体勢で、ジッと腰を下ろして佇んでいる。

 

「愉快、愉快だ!この愉快を感じ続けるためにはこちらも戦力を増やそう!」

 

両腕を広げたロキの両サイドの空間が激しく歪みだした。・・・・・な、なんだ。何をする気―――。

 

ヌゥン。

 

空間の歪みから、何かが新たに出てくる。灰色の毛並み。鋭い爪、感情が籠らない双眸。

そして、大きく裂けた口!

 

「スコルッ!ハティッ!

 

ロキの声に呼応するかのようにそれらは天に向かって吠えた。

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

夜空の雲が晴れ、金色に輝く満月が姿を現す。月の光に照らされて、

二匹の大きな獣―――狼が咆哮を上げていた。―――フェンリルッ!ウソだ!

まだ他にもいたのかよ!?

 

「さあ、スコルとハティよ!我と父の敵であるやつらにその牙と爪で食らい千切るがいいっ!」

 

ビュッ!風を切る音と共に二匹の狼がテロリストと部長たちのもとへ向かっていく!

 

「ついでだ。こいつらの相手もしてもらおうか」

 

ロキの足元の影が広がり、そこから――巨大な蛇!

いや、体が長細いドラゴンが複数も現れる!・・・・・てか、あの姿、見覚えがあるぞ!

かなり小さくなっているけど、間違いない!

―――『終末の大龍(スリーピング・ドラゴン)』ミドガルズオルムだ!

数は・・・・・はっ?十五匹だとっ!?

 

「ふふっ、三大勢力戦争とはいかないが、この戦いも戦争並みに過酷な戦況になっていくな。

 

隣にヴァーリが鎧越しで楽しそうに言ったその時だった。

 

カッ!

 

宙に巨大な魔方陣が展開した。あれは・・・・・龍門(ドラゴンゲート)?まさか・・・あいつか?

空に浮かぶ巨大な魔方陣が光り輝く。

その魔方陣から―――嬉々として哄笑を上げる三つ首のドラゴンが現れた。

 

ギェエエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

『「魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)」アジ・ダハーカか。

まあ、あの邪龍なら量産型のミドガルズオルムなど容易く屠らすだろうな』

 

ドライグが当然のように言う。あっ、本当にミドガルズオルムの方へ向かって行った。

 

刹那―――。親のフェンリルがアジ・ダハーカに襲いかかった。あ、あいつ・・・大丈夫なのか?

 

『寧ろ、逆の方を心配した方が良いだろう。

奴の能力は何も千の魔法や不死だけではないからな』

 

えっ?それはどういうことだ?

 

『まあ、見ていれば分かる』

 

見ていればって・・・・・アジ・ダハーカがフェンリルに翻弄されているぞ。

牙やら爪やらで傷だらけに―――。

 

『ハハハハハハハハッ!神を噛み砕く牙の威力はその程度かッ!!!!!』

 

全身を血で濡れているアジ・ダハーカが狂喜の笑みを浮かべている。

ま、マジかよ。フェンリルの攻撃を喜んで受けているのか!?

と、恐れ戦いている俺の目にアジ・ダハーカの血に異変が生じている光景を映した。

まるで生きているかのように血が何かの形になっていく。

 

『ゆけ、我が分身よ!全てを喰らい尽くすがいい!』

 

ギャァアアアアアアアアアァッ!

 

ゴガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

ギィィイイイイイイイイイイイィィイッ!

 

真っ黒な虫、爬虫類、動物、ドラゴン。それらがアジ・ダハーカの血から生まれて、

量産型のミドガルズオルムや親のフェンリルに向かって行った。

あっ、『真魔王派』の方にも向かって行く!

 

『相棒、あれがアジ・ダハーカの力だ。

奴は自分の血を分身に変えて戦力を増やす能力を有している。その上あいつは不死だ。

アジ・ダハーカを退治するならば、封印するしか方法がない。

奴は邪龍の筆頭格の一匹と数えられるほどの最悪なドラゴンだからな』

 

マジかよ・・・・・兵藤の奴。どうやってそんなドラゴンを・・・・・。

 

『さあな。何か惹かれるものがあったからではないか?真龍や龍神ですらあの男の傍にいる。

―――兵藤一誠、面白く変な男だ』

 

それ、褒めているのか?

 

『一応な』

 

サイですか・・・・・。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode11

ドガッ!バキッ!ゴンッ!

 

『真魔王派』と交戦し、戦闘は終わりつつあった。殆どの悪魔が倒され、

残党は三分の一まで減っていた。それでも、ヴァン、シャガ、シャーリ、ヴァルヴィは

戦闘を続ける姿勢だった。ヴァルヴィの使い魔と相手しながらヴァルヴィと攻撃を交わしている。

 

「おい、俺たちも相手になってもらわないと困るぜ」

 

っ!

 

横からシャーリが高密度の魔力を散弾銃のように放ってきた。

―――腰に生えた九本の狐の尾の内の一本で弾き消し、

尾の先から火を灯し―――渦巻く奔流と化とした炎をシャーリに放つ。

 

神器(セイクリッド・ギア)聖なる壁と鏡の波動(セイント・バリア・ミラーフォース)』!」

 

カッ!と、あいつの周囲に聖なる輝きを発するオーラが出現して俺の攻撃を受け止めたかと思えば

炎を撥ね返してくる。―――カウンター系統の神器(セイクリッド・ギア)か。

二本の尾で迫りくる炎を掻き消しながらも一体の精霊を地にひれ伏した。

 

「くそっ!よくもライラを!」

 

ヴァルヴィが怒りを露わにし、ライラと呼ばれた精霊を魔方陣で戦場から離脱させた。

 

「おい、こいつらもここから遠ざけた方が良いぜ?」

 

と、ティアが何かを放り投げてきた。―――ヴァルヴィの使い魔たちだった。

 

「なっ・・・・・」

 

「いやー、強くなっていた。まあ、まだまだ私を倒すには及んでいないけどな」

 

ティア・・・・・戦ったことがあったのか。ちょっと意外だったな。

 

「―――で、お前らはいつまで戦うんだ?」

 

「あ?どういうことだ?」

 

「お前ら以外の奴らは倒されたか逃げているぞ」

 

彼女が意味深なことを告げた。・・・・・確かに。四人以外誰もいなかった。

ヴァンもそれに対して溜息を吐いた。

 

「んだよ、弱ぇー奴らばっかだな。何が『真魔王派』なんだよ。やっぱ、ただの烏合の衆か」

 

「どうする?ついでにロキと狼の奴も相手するか?」

 

「いや、帰ろう。元々俺たちはこの状況を楽しむために襲撃したんだからな」

 

カッ!とヴァンたちの足元に転移式魔方陣が展開した。

 

「ガキ!今回はヴァルヴィと戦わせたが、今度は俺が相手にしてやるからな。

その時は全力で俺を殺しに来い。―――お前の両親を殺したのは俺たちだからなぁ?」

 

「・・・・・っ」

 

「はははっ!じゃあなっ!」

 

笑いながら俺の前から姿を消すあいつとあいつら。

 

「・・・・・」

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

思いっきり地面を踏んだ。その衝撃に地面が激しく抉れる。

 

「・・・・・当たり前だ。必ず俺はお前らを殺す」

 

どこまでも低く、俺は呟く。必ずだ・・・・・お前らを殺す。それが俺の存在理由なんだから。

 

「さて・・・・・残りはロキとフェンリルか」

 

振り返って見ると・・・・・こちら側の優勢だった。

何時の間にか三匹に増えていたフェンリルが、

 

『まずは子のフェンリルを喰らってやろうかっ!』

 

一匹のフェンリルの足元に巨大な魔方陣が展開していて、身動きが取れない状態でいる。

そのフェンリルに近づくアジ・ダハーカに襲いかかる二匹のフェンリルに気にもせず―――。

 

ギャオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォンッ!

 

三つの口を大きく開けて捕食し始めた。うわ、スプラッタ、グロテスク。生々しいぞ。

グチャグチャとかバキバキとかここからでも聞こえる。さて、ロキの方は―――?

 

「ちぃっ!厄介極まりない!」

 

多勢に無勢。二天龍の他にも英雄の子孫、伝説の妖怪の力を受け継いだ妖怪、大勢の悪魔と人間。

流石にロキでも数の暴力には抗えないでいた。

・・・・・もしかして、ミョルニルは必要なかったか?

 

「―――一誠!グレイプニルを親のフェンリルに!」

 

俺に向かって叫んだ。・・・・・あの状況なのに必要なのか?怪訝に思いながらも

周囲に魔方陣を展開すれば、巨大な鎖、グレイプニルが出現してくる。

 

「ティア、鎖を投げるぞ」

 

「分かった。しかし、アジ・ダハーカが倒しそうな勢いだがな」

 

今さら必要なのかと、ティアも不思議でいたようだ。

二人掛かり、いやバラキエルも協力してくれて三人で鎖を親のフェンリルに向かって投げ放った。

鎖は意思を持っているかのように親のフェンリルの全身に纏わりつき、拘束した。

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

フェンリルが苦しそうな悲鳴を辺り一帯に響かせるその時だった。

 

「黒歌!私とフェンリルを予定のポイントに転送しろッ!」

 

縛られたフェンリルに寄ったヴァーリは黒歌にそう叫ぶ。黒歌もそれを聞いて、

にんまり笑うと、手をヴァーリに向けて宙で指を動かしていた。

 

デュウウウウウウウウウウンッ!

 

巨大な光と化したヴァーリとフェンリルを魔力の帯らしきものが幾重にも包みだした。

 

『欲しいものは他にもある』

 

ああ・・・・・なるほどな。今になってようやく分かった。―――そういうことだったか。

お前が欲しかった物はなんとまあ、凶悪な物だな。

次第にヴァーリとフェンリルが夜の風景に溶け込み、この場から消えていく。

―――と、俺のもとに叫び声が聞こえてきた。

 

「朱乃!」

 

リアス・グレモリーの悲鳴だ。視線を向けると、

いままさにフェンリルに噛まれようとしている朱乃の姿が、

―――やばい!気を抜いていたか!六対十二枚の翼を展開して、光速で朱乃を救おうと向かう。

 

「間に合った―――っ!」

 

子フェンリルの牙に貫かれそうになった朱乃を間一髪、突き飛ばして救えた。

 

―――ガシュッ!

 

代償は俺と言う一つの存在だ。現在俺はフェンリルの牙に貫かれている状態でいる。

うわっ、マジで痛い。

 

「イッセーくんッ!」

 

「おのれッ!」

 

悲鳴を上げる朱乃。バラキエルが牙に貫かれている状態の俺を救おうと迫ってきた。

でも、フェンリルが前足を振るってバラキエルの体を引き裂いた。

 

「くっ・・・・・ただではやらせん・・・・・っ!」

 

巨大な槍を発現して、バラキエルは何故か上に向かって投げ放った。

フェンリルはそんな槍を目も呉れず、

今度は朱乃に向かってまた前足を振るおうと動かした次の瞬間だった。

 

ドスッ!

 

光る巨大な槍がフェンリルの背中に突き刺さる。

―――さっきの行動はこういうことの為だったか。

背中に貫かれたフェンリルが苦痛が籠った悲鳴をした際に俺はフェンリルの牙から抜け、

放り投げ出された。そんな俺を重症のはずのバラキエルに抱きかかえられた。

 

「大丈夫か」

 

「いや、それは俺のセリフでもあるんだけど・・・・・」

 

「貴殿を死なせたら、俺はアザゼルや貴殿の亡き両親に顔を向けれないからな」

 

そうかい。まあ、ありがとうな。金色の光を発現して、

俺とバラキエルを中心に広げて傷を癒していく。

 

「・・・・・」

 

複雑極まりないといった感じの朱乃。朱乃の過去を聞いているから何となく理解した。

 

「なあ・・・・・バラキエル」

 

「なんだ」

 

「お前、今でも朱乃のこと愛しているか?」

 

質問してみた。朱乃を見ていると、目を丸くしていた。

なんでそんなことを聞くのかって全身から伝わってくるぞ。

 

「・・・・・朱乃だけじゃない。今でも朱璃のことも愛し続けている。

朱璃のことを・・・・・朱乃のことを・・・・・一日たりとも、忘れたことなどない」

 

ポツリと呟いたバラキエル。徐に朱乃に顔を向けた。

 

「今さら俺の言葉など聞いても、お前は何も思わないだろう。

だが・・・俺は朱璃を助けれなかったことを今でも悔やんでいる。

娘のお前を辛い思いをさせたことも・・・・・すまなかった」

 

「・・・・・」

 

バラキエルの謝罪に朱乃は沈黙で返した。

それからしばらくして―――俺の目に巨大化したミョルニルが雷を纏わせ、

迸らせた状態でロキに振り下ろした。ロキは特大の一撃に直撃したことで―――倒れた。

この戦いは、俺たちの勝利と幕を閉じたのだった。

 

―――数分後。

 

「お前・・・・・凄いな。ロキを倒すなんて」

 

「いえいえいえっ!イッセーさんの赤龍帝の力とイッセーさんが渡してくれたこのハンマーの

おかげです!私自身の力ではありません!」

 

激しく首を横に振るアーシア・アルジェント。聞けば、ディオドラ・アスタロトもこの場にいて

彼女が倒したそうだ。こいつ、見かけによらずやるな・・・・・。ロキは捕らわれた後、

ロスヴァイセとセルベリア・ブレスに北欧の魔術で色々と術封じを掛けられていた。

 

「お前、今回なにもしていなかったな」

 

成神一成にそう指摘される。うん、そうだな。今回は何もしていない。

 

「否定しない。寧ろ後手に回った気がしたな。まあ、たまにはこんなこともあっていいだろう。

今回の主役はアーシア・アルジェントみたいだし」

 

「そ、そんな私は何もしていませんって!」

 

「この機に彼女が中級悪魔の昇格の権利も与えられたりしてな」

 

「あら、もし本当にそうなら私はとても誇らしいことだわ」

 

リアス・グレモリーが嬉しそうに笑みを浮かべた。パチンと指を弾くと戦場一帯に光が生じ、

包まれた。しばらくすれば、戦闘の痕跡が全て消えていた。

つまり、元通りになったということだ。

 

「さて、こんな感じに戦後の処理を終えたから帰ろうか」

 

と、皆に問うたその時だった。俺の視界に黒が映り込んだ。

 

ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

黒い炎らしきものが地面から巻き起こり、地面に現れた巨大な魔方陣から出ているのが分かった。

その中心から黒い炎がドラゴンの形となって生み出されていく。

 

『なんだ、ヴリトラか』

 

内にいるアジ・ダハーカが漏らした。え、ヴリトラ?つまり・・・・・あいつは匙元士郎かよ?

 

『えっと・・・兵藤一誠くん。聞こえますか?私はグリゴリの副総督シェムハザです』

 

緊急用に耳に付けていたイヤホンから、聞き覚えのない声が。アザゼルの同僚か。

 

「もしかしなくても、匙+ヴリトラを送ってきたのはあんたか?』

 

『ええ。アザゼルに匙くんのトレーニングが終わったら、

こちらに転送するよう言われましたから』

 

「ああ、そうなんだ」

 

目の前のドラゴンはまるで炎のドラゴン。真っ黒だな。黒い炎がドラゴンを形作っている感じだ。

 

『ええ、アザゼルが少々計算ミスをしてしまったようでして。トレーニングを開始したのですが、

そのままこの状態になってしまいまして。時間が来たので、

この状態のまま送ってみることにしたのです。・・・・・すでに戦後のご様子ですがね』

 

ああ、もう戦いは終わった後だよ。

ほら、目の前のドラゴンがどうすればいいのか頭を周囲に見渡しているよ。

 

「なあ。アザゼルに伝えてもらって良いか?」

 

『なんでしょう?』

 

「―――帰ったら縛って火炙りしてやる。このダメ堕天使の総督」

 

―――○●○―――

 

―――newLife―――

 

「オー爺ちゃん。良かったね。何事もなく無事に会談が終えて」

 

「うむ。孫たちのおかげじゃ。ありがとうの」

 

「今度はいつ来れるかな?プライベートで」

 

「さぁな。じゃが、遊びに行く時は連絡するわい」

 

「うん、楽しみにしている。ところで、ロスヴァイセとセルベリアは?連れて行かないのか?」

 

「ふむ・・・・・孫よ。あの二人をどう思っている?」

 

「ん?まあ、綺麗だし、強いんじゃないかな。

まだそんなに接していないからよく分からないけど」

 

「ほっほっほっ、そうか。ならばほれ、わしからのプレゼントじゃ」

 

「・・・・・封筒?」

 

「しばらく日が経った頃にそれを二人の前に開けて読んでみるんじゃ。

ロスヴァイセはともかくセルベリアは喜ぶだろう」

 

「なんで?」

 

「それは開けて読んでからのお楽しみじゃよ。ではな、孫よ」

 

―――newLife.2―――

 

「やあ、お邪魔するよ」

 

家にサーゼクス・グレモリーが訪問してきた。オー爺ちゃんは本国に帰っている。

その際、オリジナルとレプリカのミョルニルをオー爺ちゃんに返した。

ヴァーリは・・・・・フェンリルを仲間に加えることが目的だったのが後に理解した。

俺たちはさほど問題視はしていない。ヴァーリだからな。

 

「どうしたんだ?サーゼクス」

 

「ああ、後日。全校生徒と教師にも伝える予定だけど先にキミたちに伝えようかと思ってね。

―――キミたちが通う学校が決まったよ」

 

『っ!?』

 

ここにきてようやくか。サーゼクス・グレモリーの発言に俺たちは反応する。

 

「それで、僕たちが通う学校はどこなんですか?」

 

「とても駒王学園と変わらない学校があるのでね。駒王学園に在籍する生徒たちは全員、

準備が終わるまではその学校に生活してもらうことになっている」

 

学校と変わらない他の学校?実力主義の学校が他の学校にも存在していたのか?

サーゼクスは俺たちを見渡して口を開いた。

 

「―――武神・川神百代がいる学校。川神学園だ」

 

―――っ!

 

彼女の学校かよ!?うわ・・・・・毎日、あいつと決闘する想像が真っ先に思い浮かんだぞ。

 

「川神学園って・・・・・確か、神奈川県にありますよね?

僕たちは神奈川県に移り住まなきゃならないのですか?」

 

「引越しに掛かる費用と人材、それと神奈川県に住む場所の確保は私たち悪魔と天使、堕天使、

人間。冥界と天界、兵藤家が請け負うから他の生徒のご家族には何の負担もない」

 

うーん、親御さんにとっては嬉しいことなんだろうけど。

この町に暮らし慣れた家族にとってはどう思っているんだろうか?

 

「あの、お兄さま。私たちはこれからどうなるのですか?」

 

「ふむ・・・まだ何とも言えないと言うべきだろう。

この町は異様な力によって渦巻いていて力を呼んでしまうからね。

その対処と三大勢力と兵藤家、

式森家のトップが集い、会談をしないといけない。

それも決まるまでは川神学園で過ごしてもらう」

 

「・・・・・『禍の団(カオス・ブリゲード)』が襲撃してくる恐れがありますが」

 

塔城小猫の指摘にサーゼクス・グレモリーが重々しく頷く。

 

「ああ、きっと襲撃してくるだろう。そこで、この場にいるキミたちに頼みたいことがある。

川神学園に在籍している間、キミたちが学校を守ってもらいたい」

 

「俺たちが?」

 

「そうだ。川神学園にも実力主義のシステムがあるが、

駒王学園に在籍している生徒たちほど強くはない。その学校に在籍しているキミたちにまたもや

襲撃されては元も子もない。

―――襲撃されることを前提にキミたちが川神学園を守ってもらいたい」

 

俺たちに真っ直ぐ言う。襲撃されることを前提にか・・・・・。

 

「まあ、あの学校に世話になるんだったらそれぐらいのことをしなくちゃな」

 

うん、と首を縦に振ると他の皆も頷いた。

 

「そうか、引き受けてくれるのだね?」

 

「あそこには友達もいるしな。引き受けるよ」

 

「ありがとう。そう言ってくれると信じていた」

 

引き受けなかったらどうなっていただろうか。

 

「それで、いつ俺たちは川神学園に通うんだ?」

 

「一週間後だ。それと駒王学園に属していたクラスとクラスメートたちは変わらず

自分のクラスで授業を学んでもらう。本来ある川神学園のクラスとは別のクラスでね」

 

「というと、二つの同じクラスがあるってことか?紛らわしいな」

 

「でも、他校のクラスの生徒と一緒だと、線を引いて学校生活を送る可能性があるよ?」

 

「馬が合わない同士や、駒王学園とは違い異種族と慣れていない生徒たちがいるでしょうし・・・・・最善のことだと思います」

 

清楚と龍牙がそう言う。他の皆にも視線を配ると納得した面持ちでいた。

 

「もう、終わりだわ!」

 

不意に悲鳴を上げる女性の声。部屋の隅からだ。

見れば銀髪の女性―――ロスヴァイセが困った顔をするセルベリア・ブレスの胸に泣きついて

号泣していた。

 

「うぅぅぅぅぅっ!酷い!オーディンさまったら、酷い!私たちを置いていくなんて!」

 

うん。オー爺ちゃんに普通に置いて帰られちゃったな。

でも、どうしてオー爺ちゃんは二人を置いて帰ったんだろうか?

 

「リストラ!これ、リストラよね!あんなにオーディンさまの為に頑張ったのに日本に置いて

行かれるなんて!どうせ、私は仕事がデキない女よ!処女よ!彼氏いない歴=年齢ですよ!」

 

もう、やけっぱちになっているな。なんだか可哀想だ。

んー、オー爺ちゃんに言われたんだけどいま開けようかな。

 

「ロスヴァイセとセルベリア。ちょっとおいで」

 

「・・・?分かりました」

 

セルベリア・ブレスが返事をし、泣くロスヴァイセを引き連れてきた。懐から封筒を取り出す。

 

「イッセー、それは何なのかしら?」

 

「オー爺ちゃんが帰る際に渡されたんだよ。

しばらく日が経った頃に開けてみろって言われてたんだけど」

 

「ぐすっ・・・オーディンさまが?」

 

「うん、何だろうな。セルベリアが喜ぶとか言っていたんだよな」

 

彼女、セルベリア・ブレスを見ながら言うと「私が?」と首を傾げた。

封筒を開いて、中身を取り出す。中に入っていたのは数枚の紙だった。

 

「・・・・・ん?二人の履歴書?と・・・・・なんだこれ?」

 

「・・・・・すまない。見せてくれるか?」

 

俺から数枚の紙を取って、瞳を紙に記されている文字を追うように見続けるセルベリア・ブレス。

少しして、目を丸くした。

 

「これは・・・・・ヴァルキリーが勇者に仕えるための契約書の書状だ」

 

「な、なんですって!?」

 

バッ!とロスヴァイセが彼女から一枚の紙を奪って紙に記された文字を凝視した。

 

「ほ、本当ですね。でも、何時の間に・・・・・?」

 

「えーと、どういうこと?」

 

訳が分からんと俺が尋ねる。二人は顔を見合わせて、俺に顔を向けてきた。

セルベリア・ブレスが持っていた一枚の紙を俺に見せてくる。

・・・・・何故に俺の顔の写真が張られているんでしょうか?

 

「これは勇者に仕える認定のようなものだ。つまり、あなたは私たちの勇者となっているのだ。

私たちの場合、あなたの戦乙女、ヴァルキリーとなっている」

 

「・・・・・へ?」

 

『ゆ、勇者ぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああっ!?』

 

皆も驚愕の声を上げていた。あれ・・・何時の間に勇者になってんの俺?

 

「戦乙女の業界では勇者、または英雄の付き人となるのはこれ以上のない光栄的なことだ。

勇者と英雄の数が減って経費削減でヴァルキリー部署が縮小傾向の中、

私たちが勇者の付き人となるとはな」

 

「はい!これで私は勝ち組になれましたわ!」

 

「・・・・・えっと、彼の意見とかそういうのは全く無視なのですか?」

 

恐る恐ると龍牙が挙手をして質問をした。他の皆は何度か首を縦に振って頷いている。

 

「本来、勇者でも英雄でもないただの人間に私たち戦乙女が付き従うことはない。

だが、逆に言えば英雄、または、勇者となるに相応しい功績や戦果を挙げた人間ならば位の低い

戦乙女でも問題ない」

 

「俺・・・・・何かそうなるようなことをしたか?」

 

今回のロキとの戦いだって殆ど俺は何もしていない。

だが、セルベリア・ブレスは真っ直ぐ言った。

 

「次期人王決定戦」

 

・・・・・なんですと?

 

「オーディンさまも認める勇者だ。例え、北欧にいる周囲の者が認めなくてもオーディンさまが

認めた人間ならば、おいそれと文句さえも言えない。それにだ」

 

「うん」

 

「―――私はお前のヴァルキリーとなりたかった」

 

彼女が、セルベリア・ブレスが俺の足元に跪いた。

 

「次期人王決定戦で見せてくれたお前の戦いぶりを見て、私の勇者に相応しい男だと確信した」

 

「・・・・・他にもいるだろう。神話に出てくる勇者や英雄が世界のどこかにいるんだろ?

ヴァーリチームのアーサーとか、『英雄派』の曹操、ジークフリートとかさ」

 

「当たり前のように存在する勇者と英雄には興味がない」

 

うわ、バッサリと切り捨てたよ。というか当たり前のようにって・・・・・実際、

太古に凄いことをした英雄と勇者なんだから当たり前のようにいて当然だと思うんだけどな。

 

「私は根本的な新しい英雄、勇者の付き人に成りたかった。

神話体系の書物に出てくる英雄、勇者ではなく現代の新しい者に。

―――二人の姫を救った兵藤一誠こそが現代の勇者だと私は思っている。

だから、私は今まで勇者や英雄の付き人の話しを蹴ってロスヴァイセとずっと一緒にいたのだ」

 

二人の姫・・・。悠璃と楼羅のことか。

 

「兵藤一誠さま。このセルベリア・ブレス。身をもってあなたを守り、

この魂は未来永劫あなたさまのものであります。あなたの剣となり盾となりましょう」

 

跪いた状態で頭を垂らして契約の言葉・・・みたいなことを言う。

―――と、未だに佇んでいるロスヴァイセまでもが慌ててセルベリア・ブレスの隣に跪いては、

彼女と同じことを呟いたのだった。

 

「・・・・・俺、お前らの勇者でいいのか?」

 

「一生後悔はしません。我が人生はあなたさまの思いのままに」

 

「で、できれば・・・・・安定した衣食住の生活と仕事を送らせてください」

 

ロスヴァイセェ・・・・・。

 

「仕事のことならお任せください」

 

ここで我らがメイド、リーラ・シャルンホルストが現れた。

 

「一誠さまが卒業なさられるまで、御二方は希望通り、学園の女性教諭として働いてもらいます。

よろしいですね?」

 

「もちろんです・・・・・。私、セルベリアもそうですけど、

これでも飛び級で祖国の学び舎を卒業しているもの。歳は若いけれど、教員として教えられます」

 

マジで?歳は俺とあまり変わらないと思うんだけど、教師の道を選ぶとは。

 

「分かりました。ならばその後、一誠さまが卒業成されたら御二方には、

メイドとして一誠さまの身の回りのお世話をしてもらいます。

勿論、しばらくは私の指導のもとでですが」

 

「メ、メイドですか!?ヴァルキリーなのに!?」

 

「一誠さまに仕えるなら当然のことです。それにこの家に住むのであれば

 『郷に入っては郷に従え』という日本の諺があります。メイドとして、ヴァルキリーとして、

 一誠さまの世話をしてもらいますよ」

 

「勿論、タダとは言いません」とリーラが何やら書類を取り出して見せた。

その書類に目を通したロスヴァイセが驚愕の表情になった。

 

「ウソ!保険金がこんなに・・・・・。こっちのは掛け捨てじゃない!」

 

「一誠さまは次期人王。人王となれば、人王に仕える者たちはそれなりの優遇が

与えられるのです。人王は世界中の人間の王。現人王の兵藤源氏さまが抱えている会社や土地、

海では海域、空では空域など全て支配、管理しておられます。人王となった一誠さまがそれらが

全て受け継がれるので―――基本資金もヴァルハラと比べてもかなりの好条件ばかりだと思います」

 

「・・・・・」

 

呆然と書類に目を通しているロスヴァイセの耳にリーラの言葉が届いているのか

些か怪しいが・・・・・。彼女の返事は?

 

「・・・・・そうですね。兵藤一誠くん・・・いえ、イッセーさまのヴァルキリーとなるならば、

身の回りのお世話もしなくてはなりませんよね」

 

「よければ、ヴァルキリー部署にいる同僚の方々にもお話だけでも良いですので御声を

掛けてください。悪いようにはしませんので」

 

コクリとロスヴァイセが頷いた。何だろう、戦うメイドさんの集団が集まりつつあるような・・・・・。

 

「一誠さまを御守りするためならば、私はどんな手を使ってでも御守りしますよ」

 

「・・・・・心を読まれた」

 

当然のことだと風に言う俺のメイド。そこに・・・・・朱乃が近づいてきた。

 

「イッセーくん、そろそろ・・・・・」

 

「朱乃?イッセー?どこか出掛けるの?」

 

リアス・グレモリーに尋ねられる。

 

「ああ、彼女の母親の墓参りだ」

 

―――○●○―――

 

―――Dad.―――

 

事件も終わり、俺―――アザゼルは日本の土産を買う予定のバラキエルの買い物に付き合っていた。

他のバカどもがバラキエルに、帰ってくるついでにと頼んだらしい。ったく、

どいつもこいつも・・・。ま、総督の俺がこれだから仕方ねぇか。

デパート内のベンチで休んでいると、買い物袋を幾つも手に持つバラキエルが帰ってきた。

 

「・・・・・うむ。頼まれていたものはこれで全部か」

 

「お疲れ」

 

俺の横にバラキエルが座る。クタクタっぽいな。

こういう無骨な武人に買い物はしんどいものだろう。

しかし、一度頼まれたことは完遂しちまうんだよな。

 

「バラキエル、ほれ、これ」

 

「なんだ、この包みは?」

 

「いいから、開けてみろよ」

 

バラキエルが開けると、そこにはひとつの弁当箱。

 

「・・・・・弁当?」

 

「いいから、開けてみろよ」

 

ここにくる途中、朱乃に渡されたものだ。無言で渡されたものだが、

誰に渡せばいいかなんてことは聞かなくても―――。

 

『・・・・・イッセーくんを助けようとしたあの方に渡してください。一応・・・お礼ですわ』

 

と、思っていたんだがな。そん時は思わず俺は苦笑を浮かべちまったぜ。

 

「これは―――」

 

弁当箱を開けると―――色彩豊かで見事な和の料理が入っていた。

バラキエルは俺のほうに視線を向ける。俺は苦笑しながらうなずいて「食えよ」と手で促した。

箸を取り、おそるおそる煮物の芋を口に運ぶ。その瞬間―――バラキエルの頬から涙が一筋伝った。

 

「・・・・・肉じゃが・・・・・朱璃の味だ」

 

夢中でそれをがっつき始めた。無言で、ただただ箸を進める。涙をボロボロ流しながら、

ひたすら夢中で。俺は親友に言ってやった。

 

「朱乃のこと、俺やリアスたちに任せろよ。問題ないさ。

あいつが気に入った男は女に対しては誠実で、

家族を守るためなら何でもするいい奴だからよ」

 

バラキエルは箸を止め、目元を手で覆う。涙混じりに震える声で俺に言ってくる。

 

「彼が・・・・・朱乃を大事に・・・・・守ってくれると信じたい」

 

「ああ、だいじょうぶだ。奴は堕天使が嫌いでもちゃんと朱乃を守った。

じゃなきゃ、フェンリルから守るわけがない」

 

「・・・・・兵藤一誠・・・・・彼は強く立派な男に育っていたな」

 

「嫌な性格になっていたけどなあんにゃろう・・・・・」

 

出会い頭に俺をグレイプニルで縛りあげて本当に火炙りしやがった。

おかげで夏の季節が過ぎたっていうのに俺の全身は日焼けでもしたかのように真っ黒だぞ!

しかもだ―――。

 

『上手に焼けましたーっ!』

 

俺は肉かよ!?くそ、あいつ。何時か仕返ししてやる!

バラキエルは俺の言葉を聞き苦笑を浮かべながらも、

涙を流しながら力強く頷くと食べるのを再会した。口いっぱいに肉じゃがを頬張りながら。

 

「・・・・・アザゼル、悪いがもう少しだけ付き合ってもらう」

 

「なんだ、まだ買い物かよ?」

 

「いや・・・・・朱璃の墓参りだ」

 

―――墓地―――

 

―――一誠side

 

とある場所の墓地。駒王学園から少し離れた静寂に包まれた場所で俺と朱乃は

一つの墓石の前に佇んでいる。

 

―――姫島朱璃―――

 

そう刻まれている墓石の前に花束を置く跪いた朱乃の隣に俺は静かに佇んでいる。

 

「お久しぶりです母さま。少し遅れてしまいましたわ」

 

「・・・・・」

 

「私は今とても充実した生活を送っていますわ。

新しい友達もできてちょっとエッチな後輩もできましたわ」

 

ちょっとどころじゃないけどな。

 

「隣にいる彼は兵藤一誠くん。・・・・・父さまのご友人だった兵藤誠さんと兵藤一香さんの

息子です。あの方にも人間のご友人がいたとは知りもしませんでした。

だって、あの方は堕天使ですもの」

 

朱乃は溜息を吐く。

 

「母さま。私はとても弱いです。あの時、父さまが悪くないことぐらい分かっていた。

 けど―――。そう思わなければ、私の精神が保たなかった・・・・・。

 私は弱いから・・・・・寂しくて・・・・・ただ、三人で暮らしたくて・・・・・」

 

懺悔の如く、彼女は墓石に向かって言い続ける。

 

「―――寂しかった―――いつも父さまがいてくれたら、良かったのに―――」

 

・・・・・彼女の声音に震えが交じり始めた。

 

「母さま・・・・・ッ!私は・・・・・ッ!父さまともっと会いたかった!

 父さまにもっと頭を撫でてもらいたかった!父さまともっと遊びたかった!

 父さまと・・・・・父さまと母さまと・・・・・三人でもっと暮らしたかった・・・・・ッ!」

 

それが、朱乃の内に秘めていた本当の想いだとすぐに分かった。似ている・・・。

彼女は俺と同じ気持ちを抱いていた。―――不意に、気配を感じた。

横に顔を向けると・・・・・大量の買い物袋を持ったアザゼルとバラキエルがいた。

 

バラキエルの手には花束が・・・・・。なるほど、同じ理由のようだな。バラキエルの目から

静かに涙を流している。父親冥利尽きるな。

・・・・・アレ、やるか。発現した金色の錫杖を手にし、

 

禁手(バランス・ブレイカー)

 

カッ!

 

無限創造龍の錫杖(インフィニティ・クリエイション・メーカー)』の力を解放する。

神々しい輝きに包まれ、金色のオーラは龍を模した金色の全身鎧へと俺の身を包み、背後には、

口に『魔』『聖』『命』『万』『運』の文字がある珠を咥えている金色の龍が姿を現す。

無限創造龍の錫杖(インフィニティ・クリエイション・メーカー)』の禁手(バランス・ブレイカー)

―――『無限の創造龍の鎧(インフィニティ・クリエイション・アーマー)』だ。

 

「・・・・・イッセーくん?」

 

一体なにを・・・・・?と彼女の顔から疑問が浮かんでいることが伺える。

俺は敢えて何も言わず、

金色の錫杖を目の前の墓石に突き付けると、俺の背後に浮かぶ金色の龍が咥えている

『命』の文字が光り輝く。

 

「・・・・・っ」

 

これをするのは二度目だ。初めてした時は一週間も眠っていたとリーラから聞いている。

これは、かなりの精神力と魔力、体力を使うと後に分かった。

・・・・・今回は一日で済んで欲しいかも。『命』の珠が更に光を増す。すると―――龍の口から

『命』の珠が離れて朱乃の母親の墓石に溶け込むように消えた。

 

ドサッ!

 

俺は力尽きたとその場で倒れた。朱乃が慌てて俺を介護する。

 

「イッセーくん!あなた、一体なにをしたの・・・・・・?」

 

「・・・・・まあ、見ていれば分かる。これをするのは二度目だけど・・・・・必ず成功する」

 

全身で息をしてそう言う。朱乃は怪訝な面持ちのようで墓石に目を向けた。

その時、母親の墓石から光の球体が浮かび上がり―――ゆっくりと人の形を作っていく。

 

「・・・・・まさか・・・・・」

 

ああ、そのまさかだよ朱乃。―――十年振りのご対面だ。光はやがて消失していく。

目の前にいる朱乃に似た全裸の女性を残して。流石にアレはダメだろうと思い、

彼女に金色の錫杖を振るって、能力を発動する。

全裸の女性は一瞬の光に包まれ、巫女服を着た状態になった。

 

「・・・・・」

 

女性は、ゆっくりと目を開ける。綺麗な黒い瞳だ。

朱乃の瞳は紫だが顔の容姿は朱乃とそっくりだ。

 

「私は・・・・・ここは・・・・・?」

 

辺りを見渡す。瞳に困惑の色が浮かんでいるがすぐに消えるだろう。だって―――

 

「は、母・・・・・さま・・・・・?」

 

「・・・・・朱乃・・・・・・?」

 

目の前に自分の娘がいるんだからな。朱乃は立ち上がり、俺からゆっくりと離れ、母親に近づく。

 

「母さま・・・・・」

 

「朱乃・・・・・あなた、朱乃なのね・・・・・?」

 

理由は分からない。でも、自分は生き返った。そして、目の前には自分が死んでいる間に成長した

娘が涙を流して近づいている。―――と、俺はそう思った。

 

「―――母さまぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

朱乃は母親、姫島朱璃に泣き付いた。母親も朱乃の背中に腕を回して、再会の喜びを露わにする。

 

「朱乃・・・・・立派に育っていたのね」

 

「母さま・・・!母さま・・・・・っ!」

 

「もう、年頃の女の子がそんなに泣くものじゃないのよ?―――ほら、父さまがいるのよ?」

 

そう言われて朱乃は初めて俺に、俺の背後に振り返った。

 

「・・・・・朱璃・・・・・」

 

未だ、涙を流し続けるバラキエル。娘同様に喜んでいるのだと分かる。

朱乃の母親は、笑みを浮かべて言った。

 

「お帰りなさい。あなた」

 

「―――っ!」

 

ダムが決壊し、膨大の量の水がダムから流れ続けるかのように、

バラキエルの目から大量の涙が出てくる。

 

「朱璃ぃぃぃいいいいいいいいいいいっ!」

 

うん、男泣きだ。バラキエルは腕を大きく広げて二人に駆け寄り、二人を纏めて抱きしめた。

その光景を見ていたら、

 

「お前・・・・・そんなことができたんだな」

 

アザゼルが声を掛けてきた。体がだるい、とばかり俺は地面に倒れた。

 

「まあな。もう、一歩も動けない」

 

「・・・・・色々と力が疲弊しているな。魔力が全然ないのが分かるぞ」

 

「今の俺ならアザゼルの槍で死ねるよ?」

 

「殺すかよ。お前は―――とても大きなことをした男なんだからな」

 

そうか、まあ、そうだろうさ。

 

「イッセー、どうしてその力で誠と一香を甦らせない?」

 

「・・・・・そんなの、決まっている。―――あいつらを殺し、

復讐を終えるまでするつもりはないからだ」

 

「・・・・・そうか・・・・・」

 

それだけ言い、アザゼルは俺を担ぎ始めた。

 

「お前の家に連れて帰るがいいな?」

 

「おう、ありがとうな。今回は一週間寝続けないですめるようだ」

 

「どんだけ今の力を使うんだよ」

 

昔の話だ。と、俺は言い返した。担がれながら俺は見た。

 

「うおおおおおおっ!朱璃ぃぃぃぃっ!」

 

「父さま!痛いですわ!もっと優しく・・・・・!」

 

「うふふ・・・・・」

 

家族三人、幸せなオーラを漂わせて抱擁を交わしているところをな。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Life×Life
Life1


 

※読む前のご注意!これから投稿する話は本編と時系列の差が生じております。

どうぞ、ご了承ください。

 

 

―――旧校舎のディアボロス終了後

 

ピンポーン。

 

この家のインターホンが鳴った。俺、兵藤一誠は訪問者を出迎えるべく、玄関に赴いた。

玄関の扉を開き―――、

 

「はい、どちらさま―――」

 

「一誠殿ぉっ!」

 

「一誠ちゃぁんっ!」

 

ガシッ!

 

「・・・・・」

 

近所の神王と魔王に出会い頭に抱きつかれた。

 

「・・・・・で、何の用だ?」

 

鬱陶しさ満載と低い声音で問うたら―――。

 

「「遊園地行こうじゃないか!」」

 

・・・・・はい?

 

「遊園地?」

 

オウム返しで問うた。二人は力強く頷く。理由を聞けば、俺と交流を深めたいが、

どんなことして親交を深めようかと悩んだ末に、遊園地に決まったそうだ。

 

「それだけじゃないよ?プリムラも楽しんでもらいたいと思ったから遊園地にしたんだ。

少しはあの子にも楽しさを味わってほしいからね」

 

「・・・・・まあ、今日は何もすることもなかったし。うん、いいぞ」

 

「よっしゃっ!そうと決まれば家族全員で遊園地に直行だな!」

 

「では、三十分後。また訪れに来るからね」

 

そう言い残しては二人の王はいなくなった。

 

「一誠さま、どちらさまでしたか?」

 

後ろから俺の専属メイド、リーラ・シャルンホルストが現れる。今日も彼女は綺麗だな。

 

「ああ、神王と魔王だ。皆で遊園地に行くことになった」

 

「遊園地ですか・・・・・久し振りですね。一誠さまが小さい頃以来ですか」

 

俺は首を縦に振った。うん、そうだな。父さんと母さんとリーラの四人で行ったもんな。

 

「三十分後に訪れるってさ。俺たちも何か準備でもしよう」

 

「分かりました。では、支度でもしましょう」

 

扉を閉め、彼女と共に支度にとりかかる。

 

―――三十分後。

 

ピンポーン。

 

再びインターホンが鳴った。こちらも準備が整っている。

バスケットを持つリーラと黒いシャツに、ミニスカートを穿く冥界、天界、

人間界のとある一族との合同で生んだ奇跡の産物である人工生命体三号、プリムラ。

腰まで長い真紅の髪に金色の双眸。真紅を基調とした衣服を身に包む女性。

 

しかし、彼女は人間の姿に化けているに過ぎない。

正体は不動の存在、『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッドこと

俺が新しく名付けた『ガイア』。無限を司る真紅の龍なのだ。俺たち四人が玄関に赴き、

玄関の扉を開けると―――。

 

「一誠殿!」

 

「一誠ちゃん!」

 

満面の笑みを浮かべ、俺たちを出迎える二人の王。背後には子供のころ、

とある公園でに知り合い、幼馴染の関係に成り、

何故か俺が彼女たちの婚約者候補となった三人の少女と四人の女性がいた。

 

「こんにちは、一誠くん。今日は一杯楽しみましょうね」

 

小豆色の長髪の女性が爽やかな笑顔で声を掛けてきた。・・・・・このヒト、悪魔か?

 

「そういや、一誠殿には紹介していなかったな。この三人は俺の妻たちだ。

んで、シアの母親でもある」

 

「もう、ユーくん。ちゃんとした説明をしなさいって。ごめんなさいね?因みに私はサイネリア。

魔王フォーベシイの妹でもあるの。よろしくね」

 

最初に声を掛けてきた女性が自己紹介をした。

フォーベシイの妹か・・・・・何故似ていない?

似ている要素が一つもないぞ・・・・・?

 

「初めまして、私はライラックよ。ちょっと変だけど初めてじゃないのよね。

実は小さい頃、キミと会ったことがあるの」

 

ライラックと名乗った金髪の女性。優しげな笑みを浮かべている。続いては―――。

 

「私はアイリス。よろしくね、一誠くん」

 

緑髪の女性。名はアイリスと言う。三人の神王の妻たちの自己紹介が終え、今度は魔王の妻だ。

―――身長は俺より低く小柄で、メイド服を身に包んでいる黒髪の少女・・・・・。

 

「初めまして、私はセージと申します。魔王フォーベシイでありメイドでございます」

 

「メイド?夫婦なのに?」

 

「私の本職はメイドなので」

 

・・・・・まあ、人によってそれぞれ個性と言うものが違うんだろう。

 

「そんじゃ、自己紹介を終えたところで遊園地へ行こうぜ」

 

「この町に遊園地なんてあるのか?」

 

「残念だけど、まだ、遊園地はないんだ。

遠からずこの町に遊園地や施設プールなど増築するけどね」

 

完成したら賑やかな町になりそうだ。でも、この町にないならどこの遊園地へ行こうとするんだ?

 

「さて、神ちゃん。遊園地がある場所は?」

 

「ん?まー坊が調べてくれたんじゃないのか?」

 

・・・・・・おい。

 

「・・・・・お父さま」

 

「「・・・・・お父さん」」

 

二人の娘たちが呆れていたのがとても印象的だった。

 

「最初に言い出したのは神ちゃんじゃないか」

 

「俺は何となく遊園地が良いんじゃないか?ってまー坊に聞いただけで、

まー坊が賛成が賛成してくれたからてっきり調べてくれたのかと思ったんだが」

 

「いやいや、私は―――」

 

「いやいや、俺は―――」

 

神王と魔王が言い合いを始めた。―――次第に二人から濃密な魔力が滲み出てくるのは何でだろうか。

 

「・・・・・まー坊。言い訳は魔王の名を泣かせると思うぞ?」

 

「神ちゃんだって、ヒト任せな神王が人間から信仰だけ得るなんて虫がよすぎるじゃないかな?」

 

「「・・・・・」」

 

刹那。二人から膨大な魔力が迸った。

 

「おう、まー坊。ここらいっちょ、昔の大戦の決着を付けようとは思わないか?」

 

「いいねぇ。私も今そう思っていたところだよ」

 

えー!俺の家の前で戦争勃発!?神王と五大魔王の一人が勝手に戦争の続きしちゃうの!?

 

「―――いくぞ、まー坊!」

 

「きなよ、神ちゃん!」

 

片や、神々しい光を纏った拳を、片や、超高密度で圧縮したバスケットボールぐらいの

大きさの魔力を―――両者は突き出した。

―――だが、さらに俺の目に驚愕の出来事が目に飛び込んできた。

 

「スピニング・サンダーキックッ!」

 

ドガンッ!

 

「がはっ!?」

 

「はぁっ!」

 

ドゴンッ!

 

「ぐほぉっ!?」

 

・・・・・・。・・・・・・はい?魔王が妻に雷を纏った足技による飛び蹴りを食らい、

神王が雷の魔力が籠ったメリケンサックを嵌めた妻による鉄拳で沈められた・・・・・。

 

「パパッ!なに人さまの家の前で戦争の続きをしようとしやがるんですか!?」

 

「ユーくん。ちょーっと、はしゃぎ過ぎるんじゃないかなーって私はそう思うのよねぇ?」

 

二人の妻に脚と手にバチバチと雷を迸らせながら二人の王に叱る。

俺、普段見れない家族の光景を見ているのかもしれない。

 

「マ、ママ!私はただ―――!」

 

「ライラ!俺はだな―――!」

 

「「言い訳は無用!」」

 

「そうだよね?ちょっと、ユーくんにはお仕置きが必要かな?そうそう、お兄ちゃんもね?」

 

「むー・・・・・」

 

その時、俺は見た。サイネリアがどこからともかく取り出したソファーを、アイリスが潤んだ目で

ジッとユーストマを見続け―――二人の王は四人の妻によるお仕置きと称した地獄絵図を

目に焼き付いてしまうほど。

 

―――○●○―――

 

ガタンガタンッ、ガタンガタンッ。ガタンガタンッ。

 

「「・・・・・」」

 

すでに燃え尽きたと、全身真っ白な冥界と天界の王が口から魂のようなものを飛び出ている最中、

俺たちは電車に乗っていた。

 

「まったく、パパたちのせいで時間がロスしちゃいましたよ」

 

未だにご機嫌斜めのセージ。いや、多分だけどお仕置きをしていた方が

時間が掛かったような・・・・・。

と、言いたいところだけど口は災いのもとだ。敢えて言わんぞ。

 

「ごめんねぇ、イッセーくん」

 

「申し訳ございませんイッセーさま」

 

神王の娘、小豆色の髪の少女、リシアンサスことシアと、

魔王の娘、長女である青い長髪の少女、ネリネがバツ悪そうに謝罪の言葉を投げてきた。

 

「いや、気にしていないさ。

ただ、家を壊されたら流石に俺もどうしていたか分からなかったけど」

 

「もう、お父さんったら。自分で言ったくせに調べもしようとしないなんて有り得ないっす」

 

「あははは。なんとなくだけど、

かなり楽しみにしていたからお互い調べることすら忘れていたんじゃないかな?」

 

「そのせいで人の家が壊されかけられたら堪ったもんじゃないけどな?」

 

「・・・・・本当にごめんなさい」

 

ネリネの妹、ネリネとほぼ同じ容姿だが瞳の色が紫の少女、リコリスがシュンと落ち込む。

 

「・・・・・能天気なバカ親コンビ」

 

「リ、リムちゃん」

 

プリムラまでもが毒舌を吐いた。何気に彼女って毒舌家なのかもしれない。

電車を数十分乗り続け、あと一駅というところで―――トラブルが発生した。電車が停まり、

駅のホームで待っていた乗客が乗り込んできた。それは良い。だが、その中には―――。

 

「なぁ、いいだろ?俺たちと一緒に遊園地に行こうぜ」

 

「入場券は俺たちが買うからさ」

 

五人ぐらいの男が、三人の美少女に声を掛けていた。

俺はその内の三人の少女にとっても、見覚えがある。

―――なんで、あいつらがここにいるのかなぁ・・・・・っ。

 

「ごめんなさい。私たちは用事があるの。次の駅で待ち合わせしている人がいるから」

 

「男か?男だったら放っておけって、俺たちが楽しい思いをさせるからよ」

 

「女だったらそいつらも一緒に仲間に入れて遊ぼうぜ」

 

と、少女が断わってもナンパが執着して誘おうとする。

まあ、俺から見てもかなりの美少女だと思う。ナンパの一人や二人、

声を掛けられても仕方がないと思うが・・・・・。助けはいらないか・・・悪魔だし。

 

「・・・あれ、リアスちゃん?」

 

「(この天然がぁぁぁぁああああああああああっ!?)」

 

リシアンサスが彼女たちの存在に気付き、声を掛けた。すると、その声を聞こえたようで、

顔をこっちに向け―――一瞬、笑顔になったのは見間違えじゃないと断言する。

 

「あら、シアじゃない。もう、早く来るなら連絡してちょうだいよ」

 

「へ?なんのこ―――」

 

理解できないとばかり首を傾げるリシアンサスの口にリコリスが塞いだ。

そして、彼女もナンパされている状況を見ていたから、空気を読んだのだろう。だから―――。

 

「ごめんね?早く電車に乗らないと間に合いそうにもないから一本早い電車に乗ったの」

 

と、真紅の髪の少女―――リアス・グレモリーと話を合わせたのだった。

だが、その会話をしていた二人にナンパたちが近寄ってきた。

 

「へぇ、キミたちのお友だち?結構可愛いじゃん」

 

「五人か。俺たちと丁度同じ数で良いじゃん。

ねぇ、キミたち。俺たちと一緒に遊園地に行こうぜ」

 

「一人一人ずつエスコートしてやろうぜ。因みに俺は瞳が紫の子だ」

 

―――こいつら、無知とは怖ろしいものだな。背後に娘の父親がいるってのに。

 

「ごめんなさい。私たちはこの子と一緒に来ているの」

 

リコリスが俺の腕に絡んでくる。ナンパたちは必然的に俺に視線を向けてきた。

 

「あ?男連れかよ」

 

「言っただろ?男がいるなら放っておけって。なぁ、俺たちと一緒に遊ぼうぜ」

 

そう言って、男の一人がリコリスに手を伸ばしてくる。

 

「いや、悪いけど彼女たちは俺の女なんだ。手をだされたら困るな」

 

やんわりと手で伸ばしてくるナンパの手を防いだ。

 

「はっ?五人全員?マジ何言ってんの?」

 

「ほら、天界に移り住めば一夫多妻制の制度によって複数の妻と結婚できることぐらい

知っているだろう?俺は幼馴染の彼女たちと結婚する約束をしているんだよね」

 

―――全くの嘘で真っ赤な嘘だけどな!だからさ、お前ら・・・顔を真っ赤に染めないでくれ!

 

「・・・・・なに調子に乗ってんのこいつ?」

 

「一人だけ良い思いしちゃうって奴?」

 

「うわ、マジでムカつくわぁー」

 

「時間は数分ぐらい残っているし、タコるか?」

 

「だな。おい、お前。ちょっとツラか貸せや」

 

ナンパたちが怒った。俺はどう行動を取る?―――当然、利用させてもらう。

 

「ねぇ、お義父さんたち。俺の彼女たちが汚い手でいやらしいことをしようとしているんだけど、

ダメだよね?」

 

「は?お父さん?お前、なに言って―――」

 

ガシッ!×2

 

「・・・・・へ?」

 

俺の言葉に怪訝な面持で言い掛けたナンパの一人の男の両肩に、手が掴まれた。

男は自分の肩に感じる感触と温もりに驚き、原因を確かめるべく背後に振り返った時だった。

 

「ああ、当然だ。そいつはいただけないな。なぁ、まー坊?」

 

「ふふふっ、そうだね。うん、そうだよね。いけないことだよね」

 

顔は笑っている。だが―――目が完全に笑っていない!

 

「あ、あの・・・・・どちらさまでしょうか・・・・・」

 

俺に向けていたあの態度はどこへやら。物凄く顔に冷や汗を流し、

恐縮しては敬語で話しかけたナンパの一人。

 

「俺か?俺はそこにいる娘と義息子の父親だぜ?」

 

「私もキミがエスコートしようとした娘の父親だよ?

ははは、すまないね?彼女をエスコートする相手は私の義息子で決まっているんだ」

 

「そ、そうでしたか・・・・・で、では・・・・・俺たちは帰りますんで」

 

「おっと、もう帰っちまうのか?確か・・・・・まだ出発時間はあるんだったよな?」

 

「ふふふっ、ちょっと私たちと一緒に来てもらうよ?―――一人残らず、私たちについてきなさい」

 

器用に二人はナンパの一人と片手でナンパの二人の襟を掴んで電車から降りた。

 

「お前ら、先に遊園地に行って楽しんで来い。俺らはこいつらと大切なお話をするからよ」

 

「ちょっと、遅れてしまうけど皆は楽しんできなさい」

 

二人の王は、贄を掴んだまま、どこかへと行ってしまった。しばらくして、電車の扉が閉まり、

動き出した。その時、俺はまた見てしまった。

 

『おらぁっ!なに俺の娘にてめぇら汚い手で触れようとしていたぁっ!?』

 

『ほらほら!どうしたんだい!

そんなんじゃ、一人の女性すら満足にエスコートができやしないよ!?』

 

ドッガンッ!ドッガンッ!ドッゴオオオオオオオオンッ!

 

『ぎゃあああああああああああああっ!ゆ、許して下さぁいっ!』

 

『もう、二度とナンパなんてしませんからぁっ!』

 

『か、神さま!どうか、御助けをぉっ!』

 

『俺がその神に仕える神王さまだぁっ!』

 

『ひっ、ひぃぃぃぃぃっ!?』

 

『ふははははっ!ついでに言うとね?私は魔王だよ?短い間になるだろうけどよろしくねぇ!』

 

『ナ、ナンダッテェェェェエエエエエエエエエエエエエエ!?』

 

・・・・・二度目の地獄絵図を俺は見てしまったようだ。

警察沙汰にならないと良いんだけど・・・。

 

「まさか・・・こんなところで偶然にも出会うなんて驚いたわ」

 

「ええ、そうですね。でも、助かりましたよ。

一般人相手に攻撃したら、冥界に百年も過ごさないといけないのですから」

 

「うふふ、ありがとうございますわ」

 

リアス・グレモリーの言葉に二人の少女は安堵の胸を撫で下ろす。

一人は短い黒い髪に眼鏡を掛けたクールビューティな少女、ソーナ・シトリーと

黒い髪をポニーテールに結んだ少女、姫島朱乃だ。

 

「リアスちゃん。災難だったねぇ」

 

「本当よ。三人で一緒にちょっと遠い町で出掛けて買い物をしていたら、

ここに来るまで十桁の男たちにナンパされたんですもの。

光陽町とは全く別の世界だって初めて思い知らされたわ」

 

「私たち悪魔、そして天使、堕天使が光陽町からあまり他の地域に行きたがらない理由が

身をもって知りました」

 

「特に女性の異種族の方はソーナさんの言う通り、

一般人に攻撃をしてしまったら、冥界で百年間も過ごさないと

いけなくなりますので・・・・・ああいった人たちの対処には困りますわ」

 

・・・・・そうなんだ。一見、楽しそうに人間界を暮らしているんだと思っていたが、

デメリットもあったなんてな。

 

「飛んで逃げようとは思わなかったのか?」

 

「それは最後の手段よ。いきなり異種族だと正体を明かしたら

私たちの存在のイメージが悪くなってしまうもの」

 

「それに、攻撃ではなくても眠らすことぐらいはグレーゾーンなので、

いくらでも対処はできます」

 

なんだ、心配して損した気分だ。

 

「でも・・・・・嬉しかったわ」

 

「何がだ?」

 

「―――彼女たちは俺の女」

 

「んなっ!?」

 

そう言われて俺は思わず間抜けな反応をしてしまった。・・・・・顔が熱いのがよく分かる。

 

「・・・・・そうですね。結婚の約束もしていると

言われた時は思わず顔を赤くしてしまいました。

嘘でも・・・・・嬉しかったです」

 

「あらあらうふふ♪可愛い後輩に告白されましたわぁ♪」

 

「私、イッセーくんのお嫁さんが夢だから・・・・・嬉しいな」

 

「私もっす。イッセーくん、私たちを守ってくれてありがとう」

 

「大好きだよ、イッセーくん」

 

なぜ、皆が顔を赤くする!?あれは確かにお前らを守るための言葉であって、本心じゃ―――!

 

「ライラ、アイリス。可愛い義息子ができて私たちは幸せね」

 

「そうね。義息子が欲しいかなって思っていたところだし、私は嬉しいわ」

 

「うん・・・・・あんな義息子だったら私、一杯可愛がってあげる」

 

「(あれ・・・・・もう手遅れだったりする?)」

 

「一誠さまは、そろそろ腹を括って受け入れるべきだと私はそう思いますよ?」

 

セージにそう言われる始末だった。マジですか・・・・・。

 

「ねぇ、三人はどこに行こうとしていたの?」

 

「はい、家族ぐるみで遊園地に」

 

「あら、じゃあ、嘘は誠になったってわけね?良い機会だわ。私たちも一緒にいいかしら」

 

「勿論!多いほど賑やかで楽しいから良いよ!」

 

「では、イッセーくんには私たちをエスコートをしてもらいましょう。一人、十五分で」

 

眼鏡を煌めかせるソーナ・シトリー。え?これ、親交を深めるための御出掛なんだよな?

なにやら、デートになっていないか?

 

「一誠さま・・・フォローしますので私もよろしくお願いします」

 

「ふむ、一誠にそうされられるのもいいかもしれんな」

 

「・・・・・イッセー、一緒に回る」

 

おおう・・・・・俺の家族たちまでもがその気でいらっしゃるよ。

俺、今日一日精根が尽きるかもしれないな。

 

―――その後、俺たちは遊園地に辿り着き、その間、俺は一人ずつ一緒に十五分間、

手を繋いで様々なアトラクションを一つ体験してエスコートをしていると、

遅れてやってきた神王と魔王と合流を果たし、夜まで俺たちは遊園地を楽しんだ。

 

―――翌日―――

 

『こちら、○○駅のフォームです。こちらの人気のない場所で五人の若者グループが意識不明で

無残な姿で倒れていたところを駅の清掃員が発見した場所です。

ご覧ください。床一面に抉れている個所が多く見受けれます。

一体、彼らの身に何が起きていたのでしょうか?』

 

―――と、さっそく二人の王がナンパを処刑した場所が早くも報道されていることを、

プリムラがテレビの電源を入れた瞬間に気付いた俺であった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Life2

 

 

―――戦闘校舎のフェニックス終了後―――

 

 

―――旧校舎Inオカルト研究部―――

 

リアス・グレモリーの婚約の件は破談となった。ライザー・フェニックスを打破し、

彼女は晴れて自由の身になったわけだ。

 

「で、これはなんなんだ?」

 

旧校舎に呼び出され、いざ赴いて見れば。天井や壁一面に様々な飾り付けが施されていて、

テーブルには様々な料理が置かれていた。この場にいるのはグレモリー眷属とシアやネリネ、

リコリス、ソーナ・シトリーがいる。他に、知らない奴もいるが辺りを見渡して確認していると、

ソーナ・シトリーが口を開いた。

 

「彼女の婚約破談を祝う小さいパーティですよ」

 

「いや、そこ祝うところか?相手にとって失礼じゃないか?」

 

「いいのよ。ライザーだし」

 

・・・・・それでいいのか、本当に。

 

「さて、主役も揃ったことだから、パーティを始めましょう」

 

リアス・グレモリーの一言にパーティは始まった。というか、俺も参加なのね。

そうこうしていると、この場にいる皆が各々と料理を食べ始めたり、話し合ったりしている。

 

「兵藤」

 

「ん?」

 

俺に話しかける存在。振り向けば、

身長が女性の平均より少し高い・・・青い髪に鋭い眼つきの女子生徒がいた。

 

「キミの戦いを記録した映像で見させてもらった。

一人で複数のライザー・フェニックスの下僕たちと戦い勝ったところをね」

 

「あー、見てもつまらなかっただろ?一方的でさ」

 

「いや、そんなことはない。私も体術で戦う方だから勉強になったんだ」

 

「そうか?―――えっと、名前なんだっけ?」

 

そう尋ねると、彼女は苦笑いを浮かべた。

 

「そう言えば、お互い初対面だったね。

―――私は会長、ソーナ・シトリーさまの『戦車(ルーク)』、由良翼紗。以後よろしく頼むよ」

 

「俺は兵藤一誠だ。改めてよろしくな」

 

彼女と握手を交わす。

 

「今度、手合わせを願えないかな?」

 

「ああ、いいぞ。都合が良かった時に話しかけてくれ」

 

「じゃあ、アドレスを交換でもしようか。電話かメールで送るから」

 

「分かった」

 

ポケットから携帯を取り出して由良翼紗とアドレスを交換する。送信と受信・・・・・と、

 

「不思議なものだ。会長や副会長、

同じ仲間同士以外の者とアドレスを交換したのはキミが初めてだ」

 

「俺は少ないけどな。家族と学校外の友達、それとクラスメートだ」

 

「この学校に編入して間もないのだろう?仕方ないさ」

 

「それもそうだな。まあ、のんびりと増やして―――」

 

「じゃあ、私のアドレスと交換しましょう?」

 

ズイとリアス・グレモリーがおのれの携帯を突き出してきた。

 

「いや、いい」

 

「・・・・・え?」

 

「お前のアドレスはすでにあるから良いってことだよ」

 

だからそんな悲しげな顔をするなよ。ほら、これが証拠だ。彼女のアドレスを見せると、

目をパチクリとした、

 

「何時の間に・・・・・」

 

「サーゼクスから教えてもらった。サーゼクス自身のアドレスと交換した際に」

 

「お、お兄さま・・・・・私にそんなことを一言も・・・・・」

 

・・・・・全身から赤いオーラを出し始めた。そんな彼女にメールを打った。少しして、

リアス・グレモリーの携帯が鳴りだして、彼女は携帯を操作し―――顔を赤らめた。内容は秘密だ。

 

「も、もう・・・・・イッセー」

 

恥ずかしげに俺から視線を逸らす。初々しい反応だな、おい。

 

「イッセーくん、何をしているのです?」

 

ソーナ・シトリーが近づいてきた。携帯を見せびらかす。

 

「お前の眷属悪魔とアドレス交換。また一人増えたから収穫だよ」

 

「・・・・・なるほど。では、私も交換しましょう」

 

「ん、いいぞ」

 

赤外送信&受信をし、ソーナ・シトリーのアドレスと俺のアドレスと交換した。

 

「あー!ソーナちゃん、ズルイっす!私もイッセーくんと交換する!」

 

「負けられないよ!」

 

「はい!その通りです!」

 

・・・・・何故か対抗心を燃やすリシアンサスたち。他の皆は苦笑いを浮かべるだけで見ている。

彼女たちともアドレスを交換し、一見落着かと思えた。

 

「・・・・・兵藤先輩」

 

「ん?」

 

「・・・・・部長を助けてくれてありがとうございました」

 

ペコリと頭を下げる小柄な白い髪の女子生徒。名前は・・・・・塔城小猫だったな。

 

「気にするな。幼馴染を救っただけだよ」

 

「・・・・・それでも、ありがとうございます」

 

律儀な子だな。悪魔って色々といるんだな・・・・・。

 

「兵藤くん。今度、僕と剣をまじえて欲しい。僕より強い剣術の使い手は師匠以外いないからね」

 

イケメンの男子生徒、木場祐斗までもが話しかけてくる。

 

「俺、我流だからな。剣術なんてちゃんと習っているわけじゃないし」

 

「僕だって似たようなものだよ」

 

「ふーん?まあ、別に良いぞ。のんびりと暮らす次に好きだからな」

 

「ありがとう。あ、僕もアドレス交換をしない?」

 

「・・・・・私もです」

 

と―――、グレモリー眷属からもアドレス交換をした。

 

「あらあらうふふ♪私もいいかしら?」

 

「朱乃がそうなら・・・・・ほら、あなたたちも彼と交換したら?」

 

「あなたたちもアドレスを交換した方がいいと思いますよ。

彼に鍛えてもらう機会でも作って強くなりなさい」

 

・・・・・何故にか、俺はグレモリーとシトリー、両眷属たちとアドレス交換をする事となった。

うわ、一気に二十件以上になったぞ。

 

「・・・・・ふふ」

 

「なんだよ?」

 

「ううん・・・・・。まさか、あなたとこうして学校生活を送ったり、

こんな感じにあなたと接する日が来るなんて夢でも見ているんじゃないかって思っちゃったの」

 

リアス・グレモリーが微笑む。その笑みは心から笑っているものだと、

なんとなく分かり・・・彼女の真紅の髪を触れた。

 

「イッセー?」

 

「案外、この十年間。お前の髪の色のように赤い糸で結ばれ続いていたりしてな。俺とお前らは」

 

「―――――」

 

そう言った途端に彼女は顔を真っ赤に染めた。ははっ、可愛いな。

 

「イッセー・・・・・私の・・・・・イッセー・・・・・」

 

瞳を潤わせ始めたリアス・グレモリーに抱きつかれた。

 

「あの時の出会いがなければ、私とあなたは別の道に進んでいたかもしれないわ。

・・・・・今回だけ私たちを出会わせてくれた神に感謝ね・・・・・っ」

 

―――そう言って頭痛を起こしたのは必然的だった―――。

 

「まあ、俺の大切な幼馴染が困っていたし・・・・・悪魔とはいえ、助けたかった」

 

「ありがとう・・・・・イッセー」

 

「・・・・・だからさ」

 

「え?」

 

「そろそろ離れてくれ。物凄く嫉妬して、

今にでも禁手(バランス・ブレイカー)の状態になりそうなお前の下僕悪魔がいるからさ」

 

苦笑を浮かべ、指をとある奴に指した。

―――そいつは血の涙を流し、赤いオーラが全身から噴き出していた。

 

「・・・・・まったく、あの子ったら」

 

「ほら、相手してやれ。あいつにはお前と言う特効薬が効くだろうさ」

 

「ええ、待っててちょうだいね」

 

俺から離れ、苦笑するリアス・グレモリーは嫉妬する自分の下僕悪魔へ近づいた。

まあ、あれでいいだろう。

 

「さてと、俺も何か食おうかな」

 

まだ口にしていなかったので、早速俺も用意されている料理を食べることにしたのだった―――。

その後、パーティはあっという間に終わり・・・・・解散となった。

俺も家に戻るべく、この場からいなくなろうとした。

 

「イッセー」

 

「ん?」

 

リアス・グレモリーに呼ばれ振り向く。そこに―――。

 

「また明日ね」

 

綺麗な笑顔で俺を送る。一瞬だけ、彼女の笑顔に身惚れたが、

腕を上げて「じゃあな」と暗に伝えこの場から去った。

 

「・・・・・俺が思っていたより悪魔は良いかもしれないな・・・・・」

 

すでに夕日が落ちた空を見て、なんとなく呟いた。まあ、悪魔嫌いなのは変わらない。

そうだ―――あいつらを殺すまでは・・・・・!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Life3

 

 

―――月光校庭エクスカリバー終了後―――

 

 

―――現在、俺はどこにいると思う?

リアス・グレモリーとソーナ・シトリーに拉致された形でいま、

俺はとんでもないところにいるんだよ。

 

「「失礼しますっ!」」

 

二人同時にとある扉を開いて、二人して俺の手を引っ張りながら怪しげな研究施設の中を進む。

突然の二人+俺の訪問に研究施設内にいた者たちが、「なんだ?」と言った風に俺たちに

顔を向けてくる。その中、妖艶な顔つき伸び青年が口元を怪しく笑ませながら立ち上がり、

 

「やあ、いらっしゃい。久し振りだね」

 

「はい、お久しぶりです。ですが、突然の訪問に申し訳ないです。失礼を承知して参った所存です」

 

「いいよいいよ。サーゼクスとセラフォルーの妹なら、

こっちから出迎えるぐらい気にしていないさ」

 

男は手を上げた。俺たちを見守っていた者たちが作業に戻った。

 

「さて、そこの彼を連れて俺に何か用かな?」

 

「あの、彼の駒の価値を計って欲しいのです」

 

ソーナ・シトリーの用件を聞いた男は不思議そうに「駒の価値をかい?」と問い返した。

 

「はい、その通りです」

 

「ふむ・・・・・人間界にある悪魔に転生する際、

必要な駒の価値を調べる装置を設けたはずだが?大抵あの機械なら済むはずだが?」

 

「それが・・・・・計った途端に故障してしまったのです」

 

「故障だと・・・・・・?」

 

意外、興味深い、不思議、とそんな籠った瞳を俺に見据えてくる男。

そう、俺は駒王学園の保健室で駒の価値を計ってもらったんだ。

でも、計った途端にエラーが生じたかと思えば、あっという間に故障してしまったんだ。

 

「それは滅多にないことだ。なるほど・・・・・彼の潜在能力が俺の予想を遥かに

上回っているということか・・・・・実に興味深い。キミ、名前は?」

 

「兵藤一誠」

 

「兵藤一誠・・・・・」

 

男はポツリと呟いた。次の瞬間、男が笑みを浮かべ出した。

 

「なるほど、キミがあの時の赤ん坊か。成長したね」

 

「・・・・・父さんと母さんを知っているんだ?」

 

「勿論だとも、冥界全土にいる悪魔たちが知らないものはいない。

元七十二柱の悪魔たちは特にね。

―――俺はアジュカ・アスタロトと言う。よろしくね兵藤一誠くん」

 

そう言って俺に手を差し伸べてくる。その手を掴み、アジュカ・アスタロトと握手を交わす。

 

「計測器が壊れたのは仕方がないね。近い内にこちらから新しい計測器を提供するよ」

 

「申し訳ございません」

 

「いいさ、そろそろ新しい物と取り換える時期だったかもしれない。

さて、彼の駒の価値を調べて欲しいのだね?」

 

「「はい、お願いします」」

 

肯定とお願いする二人。計測器が壊れたのにここでも計れるのか?

アジュカ・アスタロトは機械じゃなく、

小型の魔方陣で調べ始めた。―――しばらくして、

 

「うん・・・・・彼の駒の価値は分かった」

 

一度頷き、俺に顔を向ける。

 

「複数の神滅具(ロンギヌス)を宿した上に、内には複数のドラゴンを宿している。

サーゼクスから聞いた通りだね。邪龍たちを宿している人間は初めて見たよ。

良い意味で実に興味深い。そして、兵藤一誠くんのスペックも含めて言えば―――」

 

「「・・・・・」」

 

「ハッキリ言って、キミたちでは彼を眷属にすることはできないよ」

 

「「っ!?」」

 

マジで?良かったぁー。悪魔になれる可能性があると思うと冷や冷やするよ。

 

「あの・・・・・それはなぜなのですか?」

 

「簡単なことだよ。彼はキミたちが思っている想像をはるかに逸脱しているんだ。

つまり、『(キング)』としての力が足りないってことだ。

彼を下僕するにはまだまだ未熟と言うことと言える」

 

「・・・・・私たちでは彼を眷属悪魔にすることすら叶わないということですか」

 

「キミたちだけじゃない。多分、俺もだと思うよ?

試しに五つの『変異の駒(ミューテーション・ピース)』で試してみようか」

 

小型の魔方陣から見覚えのある駒が五つの現れた。

 

「悪魔になったらゴメンね?」

 

「そうなったらあんたを殺す」

 

苦笑を浮かべるアジュカ・アスタロト。最上級悪魔を殺せるぐらいの力はある。

はぐれ悪魔になろうが俺には関係ない。魔方陣ごと俺の前に近づけさせられる。

そして、俺は五つの駒を手に取った瞬間―――。

 

バチンッ!

 

俺に拒絶するかのように五つの駒が電気を生じて、俺の手から離れた。

その光景を見ていたアジュカ・アスタロトは、笑みを浮かべて頷いた。納得したとばかりに。

 

「やはりそうだね。俺も彼を眷属悪魔にするには、

まだまだ『(キング)』としての質が足りないということだ」

 

「アジュカさまさえできないとなれば・・・・・」

 

「殆どの悪魔たちが彼を眷属にすることはできないってことになるわね」

 

よし、良いこと聞いたぞ!

 

「うーん、現五大魔王さま方なら可能性はあるよ?

でも、魔王さま方は駒を持っていても一人の下僕悪魔がいないから王としての素質を計って

試してみないと分からないけどね」

 

「・・・・・どちらにしろ、私たちは彼を下僕にできないということだけは分かりました」

 

「残念ね。下僕になったら可愛がったあげるのに」

 

俺は一生人間のままでいたいです!悪魔になんてゴメンだ!堕天使も然り!

 

「まあ、キミたちの足りないのは『(キング)』としての質だ。所有する主の成長に応じて、

未使用の『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』が変質する。

もしかしたら、キミたちが魔王並みに成長をした時は彼を下僕にできるんじゃないかな?」

 

「その時の俺はもっと成長していると思うから絶対に無理だ」

 

「ふふっ。それは残念だね」

 

アジュカ・アスタロトは笑う。

というか・・・・・今さらだけどRG(レーティングゲーム)の基礎理論を構築した張本人と出会うなんてな。

 

「・・・・・・彼に相応しい女になるって意味でもあるのかしら?」

 

「・・・・・・だとすれば、もっと成長しないといけませんね。

女としても『(キング)』としても」

 

―――まだ諦めていなかったのかよこの二人は!?

と、まあ、俺の価値は殆どの悪魔が持っている駒では、俺を眷属にできないことが判明した。

それだけ良しと思い、アジュカ・アスタロトに礼を言い二人と一緒に帰った。

 

 

 

 

「・・・・・やはり、兵藤家の人間は悪魔に転生することはできないか」

 

そう言って、俺はアジュカ・アスタロトがレポートに何か記していたのは気付く訳もなかった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Life4

 

 

―――停止教室のヴァンパイア終了後―――

 

終業式は午前で終え、カリンも誘って俺たちは家に戻り、平穏に過ごそ―――。

 

「一誠殿ぉっ!」

 

「一誠ちゃん!」

 

「「海に行こうじゃないか!」」

 

いま学校から帰って来たばかりの俺たちは、

二人の王の提案によっていきなり海に行くことになった。

 

―――数十分後―――

 

「今度はどこの海に行くか決まっているんだろうな?」

 

前回の件もあるため、訝しがる。

 

「ああ、勿論だぜ!ちゃーんと調べてきた!」

 

「私もだよ。失敗は成功のもとだって言うしね。きちんと調べてきたよ」

 

以前と同じ、家族ぐるみで海に行く。今回は―――オーフィスとクラスメートの式森和樹と神城龍牙、

葉桜清楚、カリン、ゼノヴィア、幼馴染の紫藤イリナも含めて海に行くこととなった。

銀華は留守番だ。見たいテレビがあるからそれを見ていると、断わられた。

 

「で、場所は?」

 

そう問うと、二人は笑みを浮かべ―――、

 

「「沖縄!」」

 

二人同時に発した。うん、今回は喧嘩もしなさそうで安心した。

ウキウキと早く行こうと、この日を楽しみに待っていたと、

伝わってくるほど笑顔を浮かべていた。

 

「あ、あの・・・・・神王さまと魔王さま」

 

「ん?なんでぇ、嬢ちゃん」

 

「もう一人、誘いたい子がいるんですがよろしいでしょうか?」

 

「あっ、私もです」

 

清楚とカリンが恐縮とばかりに言った。

 

「なんだ、別に良いぞ?大勢で行った方が楽しいからな!」

 

「では、すぐに声を掛けてきなさい。ああ、迎えは私も一緒に行くからね」

 

「その間は俺の家で待っていれば?ここじゃ、熱くてしょーもない」

 

ユーストマ、フォーベシイ、俺の提案にしばらく待つことになった。

 

―――十数分後―――

 

カッ!

 

リビングキッチンの中央に魔方陣が浮かんだ。帰って来たか、と思って魔方陣を見ると、

清楚とカリン、フォーベシイが姿を現す。そして、二人が誘ったと思しき人物も姿を現す。

―――その人物たちは俺が知っている人物たちだった。

 

「一誠くん、お久しぶりです♪」

 

「カリンに誘われて家族共々喜んでお供させてもらいますわ」

 

一人は俺と清楚の友達。―――八重桜だ。清楚が誘った子は彼女のことか。

そして、カリンが誘ったという人物たちは―――カリンの家族だ。

父親と母親カリンの姉のカトレアと・・・・・ルイズまでもがいた。あと見知らぬ少年。

 

「・・・・・すまん、ルイズ姉も来てしまった」

 

「大丈夫だ。ユーストマが言ってたように大勢で行った方が賑やかだろ?」

 

「・・・・・そう言ってくれると助かる」

 

安堵の胸を撫で下ろすカリン。きっと、カトレアだけ誘うつもりだったろうけど、

父親かルイズ辺りに見聞されて自分もとついてきたんだろう。

 

「神王さま、魔王さま。

図々しいながらも私たちまでも一緒に御同行させてもらい誠に感謝の言葉が尽きません」

 

「いいってことよ!娘と義息子と一緒に楽しみたいのが親としての本望だからな!」

 

「沖縄についたらどうだい?一緒に娘のことで酒を飲みながら交わそうじゃないか」

 

カリンの父親、サンドリオンとユーストマとフォーベシイが会話の花を咲かせる最中、

 

「へぇ、清楚さん。学校外のお友だちもいたんですかぁ」

 

「うん、一誠くんと一緒に出かけと時にね」

 

「初めまして、八重桜です。二人と出会ったキッカケは、

一誠くんと清楚ちゃんにナンパから助けてもらったの」

 

「そうだったんだ。良かったね。助けてもらって」

 

「はい」

 

早速、桜が和樹たちと話をしていた。

 

「ナイトさん」

 

「ん?」

 

カリンの姉に、声を掛けられた。振り向けば柔和な笑みを浮かべている。

 

「妹共々よろしくお願いします。あなたのおかげで病も治り、

たくさん楽しめることができるようになりましたから」

 

「ああ、あん時もそうだけど、俺も新しい能力が使えるようになったから気にしないで。

それに元気になって良かった」

 

「うふふ♪はい、今では動物たちと家を一周するようになっているんですよ」

 

「そうか、体力作りも兼ねていいんじゃないか?」

 

カトレアは笑みを浮かべたままコクリと頷いた。

 

「さぁーて、そろそろ沖縄に行こうぜ!転移式魔方陣であっという間に着くからよ!」

 

「では、皆。一ヶ所に集まってくれ」

 

フォーベシイの促しに俺たちは一ヶ所に集い―――足元に展開された魔方陣の光に

包まれたのだった。

 

―――○●○―――

 

白一色に染まった視界が回復する。俺の目に飛び込んだ光景は―――穏やかに波を生じる青い海、

雨雲が一切ない、青い空に白い雲。そして―――。

 

「おら、まー坊!捕まえられるもんなら、捕まえてみろ!」

 

「あははは、待ってよ神ちゃーん!」

 

砂浜で王道的なことをする神王と魔王の光景。

 

「・・・・・あの二人を放っておいて、私たちは私たちで楽しみましょう」

 

サイネリアの一言で俺たちは文句なしと頷いた。

下に置かれた巨大なパラソルとブルーシートを掴んで先頭に歩くサイネリアの後に続いて歩く。

 

「うーん、この辺りでいいじゃないかな?」

 

砂浜にある大きな崖の傍で彼女は立ち止った。

 

「あっちは大勢の人間たちがいるし、静かに楽しみたいからね」

 

「そうですね。それに光陽町とは違い、

ここに住んでいる人たちは私たち異種族に慣れていませんですしね」

 

「余計な刺激を与えないためにも静かにってことですか。

そこまで気を配らないといけないなんて大変ですね」

 

龍牙の言葉には俺も同意だ。あの町は四種交流の象徴の町だ。

でも、他の地域、県はそうじゃない。テレビや雑誌ぐらいしか知らない人間が多い。

実際に自分とは違う種族と力を持つ者と対面すれば、

どんな反応をするのか当事者たちしかわからない。反って恐怖心を抱かせてしまったらダメだ。

 

「さてと、私たちは水着に着替えましょうか。一誠くん、この崖に空洞を作ってもらえる?」

 

「空洞?まあ、分かった」

 

幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』を装着し、滅びの魔力を崖の表面に放った。表面は抉れ続け、

何時しか数人が入れる巨大な暗い空間ができた。こうしていると洞窟の中にいるようだ。

横にも広げておくか。滅びの魔力で空間を作ったら、表に出た。

 

「終わったぞ」

 

「ありがとう、偉い偉い」

 

アイリスに頭を撫でられた。それから見張りを頼まれ、女性陣が洞窟の中に入って行った。

 

「イッセーくん」

 

サンドリオンに声をかけられる。なんだ?と顔を上げると、何故か頭を下げられる。

 

「娘の病を治してくれて心から感謝する。本当にありがとう」

 

「ん、どういたしまして」

 

「カトレアの病を治してくれた礼に何かしてやりたい。

それとも欲しいものはあるか?今ではなくてもいい。

わしに何かできることがあればいつでも言ってくれ」

 

「分かった。今はないから保留で良いかな?」

 

「勿論だ」とサンドリオンは頷いた。

それから和樹と龍牙と雑談しているとユーストマとフォーベシイが現れた。

 

「なんだ、こんなところにいたのか。探したぞ」

 

「おや、セージたちがいないね。その洞窟の中かな?」

 

そうだと、肯定する。すると、洞窟の中から女性陣たちが現れる。

 

「えへへ♪イッセーくん、どうかな?」

 

「・・・・・」

 

リコリスの水着姿。水玉模様がある水着でとても可愛かった。

ネリネは紫のビキニだ。恥ずかしげに顔を羞恥に染めて胸を腕で

覆い隠すが・・・・・胸が強調しているぞ。男を誘っている風にしか見えないって。

リシアンサスはフリルが着いたビキニだ。

 

「ちょっと、恥ずかしいかな・・・・・」

 

清楚は花柄模様の水着。腰に同じ花柄があるスカーフを巻いていた。

ゼノヴィアは青いボンデージだった。

・・・・・何故にそれを着るのだお前は。イリナは白が基調のビキニだった。

カリンは桃色のビキニ。オーフィスとプリムラは同じだが黒と紫と色違いのフリルが着いた水着を

身に包んでいる。ガイアとリーラは―――。

 

「ふふっ、どうだ?」

 

真紅の髪をポニーテールに結んでいて、赤いビキニを纏っていた。対してリーラは・・・・・。

 

「メイド服?」

 

いや、それどころか着替えていない?どういうことだ?

 

「リーラ、着替えなかったのか?」

 

「私は荷物番をしております」

 

などと、可笑しなことを言う。おや、俺の耳は可笑しくなったかな?

 

「俺がそれを許すとでも思ったかな?」

 

ガシッ!と彼女の両肩を掴んで笑んだ。今日は楽しむために海へきたんだ。

一人だけポツンといさせるわけがない

 

「リーラ、主として命令するよ。今日一日メイドOFFだ」

 

「・・・・・」

 

「命令に逆らったらリーラ。永遠にキミとは見向きもしない。それどころか話をしない―――」

 

「水着に着替えてきます」

 

シュバッ!

 

一瞬で俺から姿を消した彼女だった。・・・・・うん、効果抜群だな。

一拍して、黒いビキニのリーラが姿を現した。頭にはカチューシャを付けたままだが。

 

「これでよろしいでしょうか」

 

「あと、呼び捨てな?」

 

「・・・・・分かりました。一誠」

 

そんな渋々と言った顔で言わないでくれって。苦笑を浮かべていると、

何時の間にか和樹と龍牙、サンドリオンが着替え終えていた。そこへ、サイネリアが言った。

 

「それじゃ、思いっきり楽しみましょう!ラブ♪」

 

・・・・・ラブ♪?

 

―――○●○―――

 

 

「ふふふっ、一誠。我とオーフィスに勝てるか?」

 

「か、勝つ・・・・・!」

 

「一誠・・・・・気持ちは分かるけど、これ、絶対に負けるって」

 

隣で和樹が溜息を吐く。俺だって負けるって分かっているよ!

―――ガイアとオーフィス、俺と和樹のコンビでビーチバレーをするんだからさ!

 

「一誠くん!頑張ってぇっ!」

 

「一誠殿っ!気張っていこー!」

 

周りから応援される。だが、考えてみろよ。

相手は不動と最強だぞ?―――勝てるわけがないってば!なに、あの無敵のコンビは!?

 

「では、試合開始!」

 

カリンが審判を買って出た。彼女の開始宣言と共にビーチバレーは始まった。

 

「オーフィス、やれ」

 

「ん」

 

ボールを持つオーフィスが頷く。そして―――、

 

「えい」

 

やる前に練習した通りにオーフィスは握り拳で下から振り上げ、

ボールをこっちに打ち上げてきた。和樹が落下地点に移動し、トスした。

次は俺だ。トスされたボールを更に高く上げて打ちやすくする。

 

「いけ!」

 

「うん!」

 

砂場にも拘わらず、物凄い跳躍力を見せてくれる。

和樹はボールの前に飛んで腕を思いっきり振りおろし、

ガイアとオーフィスがいるコートへと打った。―――しかし、壁は不動だった。

 

「ふっ!」

 

ズバンッ!

 

相手コートに向かうはずのボールがこっちに物凄い勢いで戻ってきた。

反応するが、一歩届かず、相手の点数になってしまった。

 

「ふははは、まだまだ甘いわ!」

 

「ん、まだ勝てない」

 

くそ・・・・・!強過ぎるにもほどがある!一矢報いたい方だなぁっ!

 

「一誠・・・・・やり初めてなんだけど、僕・・・負けている気分が凄く感じるよ」

 

「大丈夫だ和樹。俺もそうだから」

 

「どうする?油断しないどころか、隙さえ見つからない」

 

「・・・・・今は、やり続けるしかない」

 

―――と、言ったものの23対0という点数差まで一点も奪えず、相手側のリーチが掛かった。

 

「中々粘るが・・・まだまだだな」

 

「イッセーと和樹。頑張る」

 

「「・・・・・」」

 

おのれ・・・・・俺ら人間とお前らドラゴンのステータスが違い過ぎるんだ!

 

「・・・・・なぁ、和樹。人間がドラゴンに勝てる方法って

なにも生身で戦っているだけじゃないよな」

 

「うん、そうだね」

 

俺と和樹からユラリと闘気と魔力が滲み出てくる。

 

「―――こっからは全力で行こうか」

 

「最初から全力出せばよかったんだよね」

 

ふふふ、と暗い笑みを浮かべる俺たち。ガイアたちは腕を組んで不敵の笑みを浮かべる。

オーフィスはただ腕を組んでいるだけだがな。

 

「最後の悪あがきか。だが、それでも我らには勝てん」

 

「―――そいつはどうかな?」

 

左手に気を集めれば、和樹は右手に魔力を集め出した。

 

「さぁーて、和樹。兵藤家と式森家の合体技をお披露目して盛り上げようか」

 

「そして、密かに修行した成果を見せようね」

 

笑みを浮かべる和樹の右手と俺の左手を合わせる。―――気と魔力が合わさり―――。

 

「「感卦法っ!」」

 

カッ!

 

相反するはずの二つの力が合一し、和樹と共に魔力と気を外側と内側に纏って爆発的な力を得た。

 

「ほう、凄まじい力を感じるな」

 

「でも、負けない」

 

オーフィスがボールを打ち上げた。こっちにボールが飛来してきた。

そのボールを和樹がアンダーでまた打ち上げ―――俺がガイアとオーフィスのコートに打ち上げた。

 

ドッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

「「・・・・・」」

 

俺が打ち返したボールは虚空に消えたかと思えば、

二人の後ろに砂を弾き飛ばしながら見事に入った。

 

「どーん」

 

指を鉄砲のように打つ仕草をした。すると―――、

 

「オーフィス、我らも全力で相手しようか。奴らはさっきまでの奴らだと思うな」

 

「ん、分かった」

 

物凄く警戒される。が、それでも俺たちは負ける気はないぞ。

 

「和樹、どんどん行こう」

 

「オーケー、一誠。僕たち人間の底力と言うものを見せてやろうじゃないか」

 

ははっ、そうだな!それじゃ、勝負だ!不動と最強!

 

―――○●○―――

 

結果、俺たちは負けてしまった。でも、皆が『凄い!』『よく頑張った』と励ましてくれた。

ビーチバレーは他の皆もしばらくやっていると、昼食の時間となった。

昼食は―――。

 

「現地で獲れるもんで食おうぜ!」

 

と、ユーストマの提案により、現地・・・海に住む魚貝類を調達する必要となった。

メンバーは釣りや素潜り、また野菜を買ってくるチームとガイアとオーフィスはこの場に

残ってもらい、俺たちは別れて行動を開始した。

 

買い物チーム。サイネリア、ライラック、アイリス、セージ、リーラ、カリーヌ、

 

「そう言えば、沖縄って来たことがないからどこにスーパーがあるのか分からないわね」

 

「そうね。ちょっと困ったわね・・・・・」

 

「人に訊いて見ると良いかもしれません。・・・・・あの子ならどうでしょうか?」

 

セージがとある金髪の少女に指した。他の皆は頷き、セージの提案に乗ったので早速声を掛けた。

 

「ねえ、そこのお嬢ちゃん」

 

「はい?」

 

「この辺りにスーパーなんてあるかしら。私たち沖縄に来るのが初めてだから、

どこに何があるのか分からないの」

 

「ああ、そうなんですか。では、案内しましょうか?」

 

「ありがとう。助かるわ。えっと、名前は?私はサイネリアって言うの。

もしよければ名前を教えてくれないかしら」

 

少女の名を問うたサイネリア。腰辺りまで金髪が伸び、

意思が強いと思わせる青い瞳の少女は口を開いた。

 

「私は―――」

 

釣りチーム。清楚、桜、カリン、イリナ、ルイズ、プリムラ、α。

 

「神王さま、よく釣り道具なんて持っていたね」

 

「最初から釣りをする気だったかもね」

 

「・・・・・しかし、釣れないな」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

堤防で釣りをするメンバー。

だが、釣り初めて数分が経過しても一行に魚が針にかかった気配無しの状態が続いていた。

 

「そーいえば、キミって名前は何なのかしら?」

 

「へ?俺か?」

 

「うん、ずっとルイズの傍にいるから」

 

「ああ、俺は平賀才人って言うんだ。ルイズの・・・使い魔だ」

 

一見、どこにでもいそうな少年。黒い髪に黒い瞳の少年が自己紹介をすれば、

ルイズが不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「こいつは犬で十分よ」

 

「俺、犬じゃなくて人間なんだけどルイズ」

 

「うっさいわね!あんたは『ワン!』って鳴いていればいいのよっ!」

 

「うわ、ひでぇ・・・・・勝手に召喚して、

人の意見を無視して使い魔にした御主人さまがそう言うか?」

 

「私だってどうして使い魔を召喚する儀式にあんたが出てきたのか聞きたいぐらいだわ!」

 

「そんなこと知るかよ。目が覚めたと思えば、お前が俺の唇を強引に奪われたんだぞ!

俺のファーストキスを返せ!」

 

「なによ!私だってファーストキスだったのよ!?

何が悲しくて犬に私の始めてをあげなきゃなんなかったのよ!」

 

ギャーッ!ギャーッ!

 

「・・・・・カリン。あの二人は何時もああなの?」

 

「お父さまとお母さまの前じゃしないけど、二人きりになるとそうだな」

 

「使い魔を召喚する儀式ってなに?」

 

「そのままの通りだ。

『我、五つの力を司るペンダゴン。我に応じて、我の運命に従い『使い魔』を召喚せよ』と

地面に描いた魔方陣の前で呪文を唱えて自分の使い魔を召喚するんだ。

でも、使い魔が召喚されるまでどんな生物が出てくるのかは分からない。

まあ、自分の属性魔法の相性が良い使い魔が召喚されるけど」

 

「へぇ、そうなんだ?例えばどんなの?」

 

「例えるなら風なら翼をもつ生物。火なら火を吐く生き物。水なら水に住む生き物。

土なら土に住む生き物。他にも色々といるけど、

それは私たちの生まれ故郷であるハルケギニア式の使い魔召喚儀式なんだ。

ルイズ姉はそっちの方で使い魔を召喚したんだ」

 

長々とカリンは説明した。カリン以外の皆がルイズと平賀才人に顔を向ける。

 

「じゃあ、彼女の得意な魔法の属性は?」

 

「・・・・・分からない。属性魔法に『爆発』なんて魔法はない。だから―――」

 

「―――大量―――」

 

『・・・・・え?』

 

プリムラが不意に呟いた。皆がプリムラの方に視線を向ければ―――、

バケツ一杯にピチピチと大小の魚たちが入っていた。

 

 

素潜りチーム。一誠、龍牙、和樹、ゼノヴィア、カトレア、サンドリオン、

ユーストマ、フォーベシイ。

 

ゴポゴポ・・・・・。

 

海中の中を泳ぎ進む一誠たち。

カトレアとサンドリオンは魔法で水中でも呼吸ができるようにして魚貝類の捕獲をしていた。

 

『―――――っ!』

 

ユーストマが海底に何かを発見した。

嬉しそうな顔を浮かべ、物凄い勢いで海底に進んで泳いで、素手で何かを掴んだ。

 

『がぼがぼがぼがぼ―――っ!』

 

『・・・・・』

 

一誠が何を言っているのか分からないから上に行けと、顔と指で促した。

その通りに動いて、海面から顔を出したユーストマは―――。

 

「タコ、獲ったどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

獲物を捕獲して雄叫びを上げたのだった。一方、海中にいる一誠たちの耳にも届いたが、

気にせず得物を探して見つけては捕獲し、着々と昼食の準備を進めていた。

 

『・・・・・』

 

チョンチョン。

 

『・・・・・?』

 

自分の体に突かれる感触がし、顔を横に向けると―――カトレアが楽しそうに笑っていた。

白いビキニに白いスカーフを腰に巻いている彼女が海中で自由に泳いでいる姿は、

まるで人魚のようだった。一誠はカトレアの頭に手を伸ばし、泳ぎながら頭を撫でたら、

その手を掴み、カトレアは一誠と一緒に泳ぎ始めた。

言葉を発しなくても全身から気持ちが伝わり、何時しか一誠は笑みを零した。

 

チョンチョン。

 

また、自分の体に突かれる感触がした。一誠が後ろに振り返ったら―――。

 

『・・・・・』

 

ゼノヴィアが素手で捕えたウツボが口を大きく開けて迫った光景が目に飛び込んできたのだった。

 

―――一時間後―――

 

バーベキューで使われる道具で魚貝類を焼くフォーベシイの顔はとても楽しそうだった。

本当、魔王なのかと怪訝に思ってしまう。

 

「さぁ、ドンドン食べておくれ!今日は私が焼いてあげるからね!」

 

「おう!ドンドン俺は食べるぜ!サンドリオン、

今日はとことん酒を飲んで話をしようじゃねぇか!」

 

「ははは、お手柔らかに頼みますぞ」

 

三人の父親たちが笑みを浮かべる。

 

「もう、ユーくんったら大はしゃぎすると大変なんですよ」

 

「それぐらい元気が有り余っているということでしょう」

 

「それもパパなんて娘たちに間違った知識や情報を教えて困ってしまいます」

 

「娘のことに関しては同情します。

夫も娘のことになると即断即決で私の言葉なんて耳を傾けてくれません。

ですが・・・・・今回だけはあの人の言う通りでした」

 

「ええ、聞いております。一誠さまが病を患っていた娘を治したとか」

 

「はい、本当に感謝しております。ハルケギニアではお手上げだと、

病の進行の速度を抑えるだけでが精一杯でこのままでは数年の命だと言われたほどでしたから。

ですから、本当にあの子には感謝の念を抱いています」

 

母親+リーラが話しこんでいて、料理よりも会話のほうに集中しちゃっている。まあ、

 

「・・・・・」

 

パクパク。

 

オーフィスが胡坐掻いた俺の脚の上で座っては、

大量に焼いた魚貝類を食べ続けているから残らないだろう。

 

「終業式が終わった直後でこんな楽しい思い出が早速できたな」

 

「はい。私もいい思い出ができて嬉しいです」

 

桜が笑みを浮かべる。隣に座っている清楚も「そうだね」と言い、首を縦に振った。

 

「ナイトさん」

 

「カトレア?というか、俺は兵藤一誠という名前があるから名前で呼んでくれ」

 

「では、イッセーくんとお呼びしますね。

イッセーくん、今日は楽しかったですわ。海なんて小さい頃以来だから、物凄く楽しかった」

 

「俺も似たようなもんだよ。最後に行ったのは海の神ポセイドンが住んでいる宮殿だったからな」

 

そう言うと、皆が静かになった。・・・・・何故に?

 

「やっぱり・・・・・一誠はサプライズの塊だ」

 

「ポセイドンの宮殿って海の中じゃありませんでしたか?」

 

「ああ、そうだったな。それと他にも竜宮城にも行ったことがあるぞ」

 

言った途端に、皆が目を丸くした。

 

「それ・・・・・本気で?」

 

「そうだけど?玉手箱ももらったし・・・・・」

 

「あの・・・・・玉手箱の中身ってなんでしたか?おとぎ話では老体になる話でしたが・・・・・」

 

「うーん・・・・・空だったな。煙が出てきたかと思えば、何にも入っていなかったんだよ。

あのヒト、何を渡したかったんだろう?」

 

『・・・・・』

 

告げたら、皆が固まりだした。・・・・・解せん。

 

―――○●○―――

 

それからというものの。夕方になるまで思いっきり満喫した。フォーベシイの転移式魔方陣で

兵藤家の家の前に辿り着くと、カリンたちヴァリエール家は足元に転移式魔方陣を展開しだした。

 

「今日は神王さまと魔王さまと御話ができて光栄でした。

また何時か御話ができる機会を楽しみにしております」

 

「ああ、俺たちも楽しかったぜ。また何時でもここに来いよ。俺たちは基本的、家にいるからよ」

 

「来た時は私の自慢のワインでも飲みながら語り合おう」

 

サンドリオンは首を縦に振った。そして、視線を俺に向けてくる。

 

「イッセーくん。今日は楽しかった。家族と共に楽しく過ごせたのは久しぶりだった。

また、一緒に参加してもいいかね?」

 

「そっちの都合が良ければ」

 

「そうか、ありがとう」

 

感謝の言葉を言い残し、ヴァリエール家は魔方陣の光に包まれ、一瞬の閃光と共に姿を消した。

 

「さて、俺たちも家に帰ってグッスリ寝るとしようかな」

 

「そうだね。今日は楽しすぎて疲れてしまったよ」

 

魔王家と神王家もそれぞれの家に戻った。リシアンサスとネリネたちが別れる際に、挨拶をし、

家の中へと入って行った。

 

「桜を送らないといけないな。それとも、家に泊るか?」

 

「ううん、家に帰らないと。両親が心配しちゃうから」

 

「そんじゃ、俺の背中に。送ってやるから」

 

「ありがとう」

 

青白い六対十二枚の翼を展開して桜に背を向ける。俺の背中に重みを感じ、

尻目で見れば桜が俺の首に両腕を巻きついてしがみついていた。

それを確認して翼を羽ばたかせて宙に浮く。

 

「すぐに戻る」

 

皆にそう伝えて、俺は桜の家へと向かった。

 

「一誠くん、今日はありがとうね」

 

「俺じゃなくて清楚に礼を言うべきだ。清楚が誘わなければ桜を呼ばなかっただろうし」

 

「うん、そうだろうけど一誠くんにお礼が言いたいの。ありがとうって」

 

「・・・そうか。なら、どういたしましてだな」

 

「はい♪」

 

バサッ!と翼を羽ばたかせ桜の家に向かう俺と背にいる桜。確かにな。今日は楽しかった。

またいつか、皆と海に行きたいもんだよ。

―――と、あっという間に彼女の家に辿り着いた時にそう思った。

桜を背から下ろし、また宙に浮く。

 

「―――一誠くん」

 

「ん?」

 

「―――――」

 

少し宙に浮く俺に桜が前から抱きついてきた。

そして・・・・・俺の唇に柔らかい弾力と温もりが同時に感じた。

 

「ま、またねっ!?」

 

自分がしたことに恥ずかしくなったようで、

慌てて顔を羞恥に赤く染めながら俺から逃げるように家の中へと姿を暗ました。

 

「・・・・・」

 

今のは・・・・・キスだよな・・・・・?間違いなく・・・・・・。

唖然としてしまったが正気に戻り、自分の家へと向かって飛行したのだった―――。

 

 

 

 

 

 

「わ、私・・・・・一誠くんとキ、キス・・・・・しちゃった・・・・・っ!」

 

自分の部屋で顔を赤く染め、瞳を潤わせ、蕩けた表情を浮かばせていた桜に気付かないで。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Life5

 

―――夏祭りのヒューマン終了後―――

 

 

その日、リビングキッチンでのんびりとソファーに座って

先日『次期人王決定戦』で見事優勝をし、二人の幼馴染を助け、

晴れて夫婦となった悠璃と楼羅と喋っていた俺はソーナ・シトリーに呼ばれたのだった。

 

「どうした?」

 

俺が怪訝に思って問い返すと、彼女は答えてくれた。少し、疲れた表情を浮かべて。

ああ、なぜ彼女がこの家にいるかと言うと、俺の家に住むことになったんだ。彼女だけじゃなく、

リアス・グレモリー、姫島朱乃、塔城小猫、真羅椿姫、

グレモリー家のメイドのグレイフィア・ルキフグスと共に。

 

「・・・・・私のお姉さま、

現シトリー家当主のセラフォルー・シトリーからの直接のご依頼をいただいたのです」

 

「ソーナ・シトリーの姉が?」

 

首を傾げる。彼女の姉、セラフォルー・シトリー。

魔女っ子に憧れている目の前の少女の姉と認識しているぐらいだ。

 

「イッセーくんを中心に清楚さん、イリナさん、ゼノヴィアさん、和樹くん、龍牙くん、

カリンさんを貸してほしいとのことです」

 

と、ソーナ・シトリーが言うと―――楼羅が怪訝な顔で口を開いた。

 

「どうしていっくんたちを依頼したの?」

 

「・・・・・撮影の協力、だそうです」

 

撮影・・・・・映画か何かか?うーん、分からんな。

 

「・・・・・いっくんの妻として、私たちもついていくべきだと思う」

 

「変な撮影でしたらその場で退場となってもらいましょう」

 

セラフォルー!お前の命がもしかしたら数時間かもしんない!

マシな撮影の依頼だと俺は思いたい!

 

「でも、なんで僕たちまで何だろうね?」

 

「行ってみないことには分かりませんね」

 

「うー、撮影か・・・・・私、緊張しちゃうなぁ・・・・・」

 

俺たちの会話を聞きとっていたようで、和樹と龍牙、清楚が疑問と緊張を抱いていたのだった。

 

 

―――○●○―――

 

というわけで明くる日、俺たちは転移用魔方陣からジャンプして、

とある無人島の海辺に到着していた。

船の停泊できる場所もなく、海はゴツゴツとした岩礁だらけ。

 

砂浜も見つからないほどだ。島の景色は険しそうな森と山で殆ど占めている。

絶海の孤島という感じだ。ここ、小さい頃に修行の場所として

一人でサバイバルしていた場所と似ているな。

 

「で、肝心の依頼主はどこに」

 

俺たちがキョロキョロと辺りを見渡すと―――。大きく地鳴りとも思える地面の揺れが俺たちを襲う。なんだ、いきなり巨大生物と戦うのか?森の木々をなぎ倒しながら、巨大な生物が姿を現した。

 

「あれって・・・・・恐竜?」

 

「に、似たような生物ですね。ドラゴンじゃないし絶滅しているはずですしね」

 

和樹と龍牙が冷静に判断をした。

 

「やっほー☆みんなー☆セラフォルーでーす☆」

 

巨大な生物の背に乗っている人物が可愛い声で挨拶をしてきた。魔法少女のコスプレ。

そう、その人こそが俺たちを呼んだ依頼主でソーナ・シトリーの姉、セラフォルー・シトリーだ。

彼女は巨大生物を馬のように扱っては、俺たちの眼前で制止させる。

 

「とお!」

 

などと、巨大生物の背中からジャンプして空中でクルクル回りながら着地―――ガシッ!

顔から地面に落下すると判断し、翼でセラフォルー・シトリーの下半身を翼で包むように掴んだ。

頭が逆さまの状態の彼女にこう言った。

 

「ヘタクソ」

 

「開口一番にその言葉ってどうかと私は思うのよ!」

 

「それはそうと、撮影の協力と聞いたんだけど?」

 

「―――うん、そうなんだけどその前に解いてくれないかな?」

 

そうお願いされてしまい、翼を解くと―――グシャ、と結局は顔から地面に落ちた彼女だった。

 

「セラフォルーさま!シーン二十一、『古代の恐竜と戯れる魔女っ子』!

いい画が撮れましたよ!」

 

何時の間にか撮影機材を持った人たちがおり、スタッフの中から、

帽子とサングラス姿と言う髭の中年男性がメガホン片手に現れた。

 

「・・・・・絶対に魔女の皆の怒りを買うってあのヒトは・・・・・」

 

溜息混じりに和樹が呟いたが、そんな和樹を築く訳もなくセラフォルーは監督と話しをしていた。

 

「監督さん、この子たちが例の人たちよ☆」

 

「おおっ!なるほど、例の次期人王決定戦で活躍した人のみなさんですか!」

 

俺たちを知ってる?って、そういえば、あの大会は全世界、冥界と天界の全域に放送されたって

話だったな。知られていて当然か。

 

「あのね、この映画監督さんが、決勝戦での兵藤くんたちの戦いを見ていて、

『これだ!』って思ったらしいのよ。それでオファーと言うことになったの☆」

 

と、セラフォルーが説明してくれるが・・・・・オファー?

しかも俺らが映画デビューって・・・。うんうんと頷きながら、監督も口を開く。

 

「実は、現在セラフォルーさま主演の子供向け特撮番組『マジカル少女戦士☆セーラーたーん』

という映画版を撮影しているんだよ。

そのライバル役としてキミたちに出てもらおうと思ったんだ」

 

「マ、マジカル・・・少女戦士・・・セーラーたーん・・・・・?」

 

初めて耳にする番組名に俺は困惑する。しかし、ヒーローみたいなものか。

内容は魔女っ子だけど。

 

「内容は、私こと悪魔の味方セーラーたーんが天使や堕天使、ドラゴン、

教会関係者を相手に大暴れするの☆悪魔の敵はまとめて滅殺なんだから☆」

 

「おい、いいのか。そんな反政府的な内容で。レヴィアタン辺りに怒鳴られるんじゃないのか?」

 

「もう、そんなことは気にしないの☆」

 

めっ!と子供を窘める感じで注意されてしまった。

 

「・・・・・あれ?僕たちは人間で悪魔の敵じゃないですよね?

寧ろ、悪魔が人間の敵なんですけど」

 

龍牙が当然の疑問を口にした。確かに、セラフォルーに呼ばれたのは俺たち人間だけだ。

人間の敵である悪魔がどうしてライバル関係になる?―――監督が親指をぐっと立てて言う。

 

「なんたって、伝説のドラゴン!聖剣使い!世界一の魔法使い!

うん!悪魔のライバルに相応しいメンバーが盛りだくさんだ!

しかも兵藤一誠くんは先日の大会で優勝し、冥界全土に顔を知られている!

話題性も高い!是非ともセーラたんのの敵役としてお願いしたい!」

 

ライバルと言うか敵役、敵かよ。冥界と人間界の間に亀裂が入らないか心配になってきたぞ。

 

「因みに式森和樹くんはセラフォルーさまのパートナ役としてお願いしたい。

魔法少女と魔法使い。これ以上のない組み合わせだ!」

 

「うーん・・・・・それはそうでしょうけど・・・いいのかなぁ・・・こんな撮影をしちゃって」

 

「依頼を引き受けたからには、やるしかないだろう。

つーか、和樹までもが敵とは・・・・・こりゃ、本気を出さないとな」

 

「ちょ、勘弁してよ!?一誠はガイアさんとオーフィスの・・・って二人はいないんだったね」

 

ん、その通り。二人はいない。呼ばれたのは俺たちなのであの二人は家で留守番をしているのだ。

だから本気なんだ。

 

「というと、私たちは一誠くんと同じ敵役?」

 

「私も魔法使いなんだけどな・・・・・・」

 

「正義が悪役を演じるとは・・・・・不思議なものだな」

 

「そうね!でも、頑張っちゃう!」

 

「・・・・・いっくんを守る」

 

「映画の出演ですか・・・・・この機に、一誠さまの知名度がさらに上がるといいのですがね」

 

皆は乗り気でいた。・・・・・しょうがない。乗りかかった船だ。俺も乗るとしよう。

 

「了解。セラフォルーの依頼を喜んで受けよう」

 

「うん☆ありがとぉー☆」

 

かくして、俺たちの映画出演が決まった。

 

―――○●○―――

 

「では、兵藤さんの役は悪の勇者ということでよろしくお願いします」

 

「悪の勇者って・・・・・どういうことだ?」

 

「なんでも、邪龍を宿しているそうで。ですので、悪の勇者と役に決めたんですよ」

 

・・・・・納得するが、朗らかに言われると複雑な気分が・・・・・。

台本を渡され、ペラペラとセリフをチェックしていると、

 

「お待たせ」

 

悠璃の声が聞こえた。振り返ると―――。

そこには禍々しい装飾が施された・・・・・一言で言えば、

戦乙女のロスヴァイセが纏う鎧を纏っている悠璃と楼羅がいた。

 

「二人とも、その格好は何?」

 

「悪の勇者の従者役、ヴァルキリーだって」

 

「まあ、ロスヴァイセさんとセルベリアさんの株を奪うような感じですがね」

 

「で、私たちは悪しき聖剣使いらしい」

 

と、ゼノヴィアとイリナの登場。活動しやすそうなアマゾネス風の衣装だな。

肌の露出度が高くて少し目のやり場が困る・・・・・。イリナが両手を組んでお祈りをし始めた。

 

「ああ・・・・・私たちが悪しき聖剣使いだなんて、

きっとミカエルさまやヤハウェさまが御許しにならないわぁ・・・・・」

 

「私なんて、暗黒の魔法使いなんて役だったぞ」

 

今度は幾分か声に暗さを感じさせるカリン。―――おおう、

 

「ううう・・・・・恥ずかしいな」

 

黒を基調としたメイド服を身に包んでいるカリンがいた。頭には黒い帽子が装着されている。

 

「うん、ハッキリ言うと可愛いな。髪の色と合っているし」

 

「な・・・・・っ」

 

あっ、照れた。顔を赤くした彼女が目を丸くして唖然とした。

 

「僕は一誠さんの右腕役だそうです」

 

そこに全身金色の鎧を纏う龍牙が現れた。俺の右腕か。うん、悪くないな。

 

「で、清楚は?」

 

「こっちだ」

 

―――この声は。後ろに振り返ると―――軽装鎧を着込んだ清楚がいた。だが、瞳の色が赤だった。

 

「項羽?清楚と入れ替わったのか」

 

「ああ、あいつは戦いには不向きだからな。因みに俺は一誠の左腕役だ」

 

おー、左腕か。

 

「・・・ところで、その腰に巻いているベルトは何だ?」

 

清楚=項羽が俺のベルトに目を向けて尋ねてきた。普通のベルトと異なり、

機械的で大きなベルトだった。しかも差し込み口があるんだ。

 

「ヒーローの特権。と言っておくよ」

 

「・・・・・あっ、もしかして一誠くん。アレだったりする?」

 

流石はイリナ。伊達に幼い頃、ヒーローごっことしていないな。

俺の言葉とベルトを見聞して理解した彼女に頷くだけで肯定した。

 

「皆さん、台本チェック後、撮影に入りまーす!」

 

撮影スタッフからの声。俺たちは自分の台本をチェックし始める。

 

「あっ、兵藤さんはこちらの台本のチェックもお願いします」

 

「はい?」

 

スタッフから渡されたのは―――なにやらピンク色の表紙の台本だった。

なんだ、これ。スタッフを見れば、親指を立てて満面の笑みを浮かべている。

 

「頑張ってください!」

 

「・・・・・」

 

訝しがりながらも渡された台本をチェックした。その台本に記されたセリフは―――。

 

 

シーンA『セーラたーん&見習い魔法使いVS悪しき聖剣使いコンビ!』

 

 

そんな訳で始まった撮影。まずは邪悪な獣がひしめく森の中を

悪魔の翼を生やして恰好するセラフォルーと浮遊魔法で飛行する和樹。

 

「和樹くん!相手はとても邪悪な存在たちだわ!強大な魔力を持っているあなたとは言え、

力の扱い方を間違えれば周囲が消し飛んじゃう!今回は私のサポートに徹してちょうだい!」

 

「はい!分かりました!」

 

二人はそう言っていると、

 

「あら、あなたたちは誰かしら?」

 

そこへ、イリナ扮する敵の悪しき聖剣使いコンビが登場。

自然体で演じて欲しいという監督の意向通り、イリナは特に演じた様子もなく、

 

「この場所に私たちのアジトがあると知った上で現れた。お前たち、何用だー?」

 

ゼノヴィアが棒読みでセリフを言い切った。まあ、素人だからな俺たち。仕方がないか。

 

「ここにあなたたち悪しき勇者がいるという情報を得ているわ!勇者の名を騙って、

村や町から金品と女のヒトを奪って酷いことを!

私たちは奪った金品と攫った女の人たちを救うべくここに現れたの!

さあ、悪しき勇者の居場所を教えなさい!」

 

「まあ、失礼しちゃうわね!私たちの勇者さまのこと知らにくせに知った風な口を聞いて!」

 

「そうだな、許さないぞー」

 

イリナとゼノヴィアが構えた。セラフォルーと和樹も構えて―――、

 

「とお!セーラービーム!」

 

セラフォルーがステッキから魔力のビームを放った。

ん、攻撃部分はCGなしなのか。本格的だなー。

 

「『マジカル少女戦士☆セーラーたーん』は基本CGなし、

できるだけ本物の魔力演出で魅せているんですよ」

 

スタッフが説明してくれた。便利だな、悪魔の力―――魔力。・・・・・魔力?

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

一瞬、疑問が過ったところで、ビームが飛んで行った森で豪快な轟音が巻き起こり、

後の木々が吹っ飛んだ。―――二人を殺す気か、あの悪魔は!?本気な感じじゃなさそうだけど、

改めてセラフォルーの魔力の威力を見た。

・・・・・もしかしたら魔王並みの力を持っていたりする?

 

「その程度で!」

 

「私たちが負けるかー」

 

「和樹くん、青髪の剣士をお願い!」

 

「分かりました。セーラたーん、気を付けてね!」

 

二人は台本のセリフ通り言動をする。そして、悪と正義の戦いが激化していった―――。

 

「凄い!これはいい画が撮れる!」

 

監督が大絶賛の声が耳に届く。

 

 

シーンB『セーラたーん&見習い魔法使いVS悪しき魔法使い』

 

 

「お疲れ、二人とも」

 

二人の撮影が終わり労う。二人の顔に冷や汗が流れていた。

激しい運動によって掻いた汗というより、

 

「セラフォルーさまの攻撃、怖ろしいにもほどがあるわ・・・・・」

 

「当たった時は一瞬、死んだのかと思ったぞ」

 

畏怖の念による汗だった。まあ、一介の聖剣使いが本気ではないとはいえ、相手は悪魔だ。

敵対していた悪魔と戦って攻撃を食らったらそう思うのはしょうがないと思う。

で、場所も変わって、山にあるとある謎の遺跡らしきところ。

何でもこの日のために石造りの遺跡を丸ごとセッティングしたようだ。

そこでセラフォルーと和樹が悪しき魔法使いことカリンと対峙する。

 

「・・・・・お、お姉ちゃん?」

 

・・・・・お姉ちゃん?和樹の口からカリンのことを姉と呼んだ。

表情はとても当惑の色を浮かばせていた。

 

「和樹か・・・・・もはや、お前とここで再会するとは思いもしなかった」

 

「お姉ちゃん・・・・・どうして・・・・・」

 

なるほど、魔法使いの姉と見習い魔法使いの弟という構図か。

んで、とある理由で悪しき魔法使いとなってしまった姉、ということか?

 

「和樹くん・・・・・まさか、あの人があなたのお姉さん?」

 

「う、うん・・・間違いないよ。数年前から行方不明だったお姉ちゃん。

でも、どうしてお姉ちゃんがここにいるの?なんで、悪い魔法使いになっちゃったの!?」

 

うわー、王道的なシリアス展開。子供向けにしても、これが子供たちに伝わるかどうか疑問だな。

 

「・・・・・お前がとても羨ましかった」

 

「・・・え?」

 

「初めからありふれた才能を持ち、何でも魔法を習得し、周りから称えられたお前がとても

羨ましかった。憎んでいるわけじゃない。ただ、羨ましかったんだ。それに私より才能が優れ、

才能があるお前の方が頼られて、姉としては誇らしいことだと思っている。

でもな、ずっと周りから相手にされずいる自分がとても虚しんだ。

―――そんな日々を暮らしていたお前には気付かなかっただろうな」

 

独白するカリン。対して和樹は目を丸くして姉の言葉を耳に傾けた。

 

「そんな時だった。二人の従者を連れて私の前に現れた男がいたんだ。

その男は開口一番になんて言ったと思う?

『お前、才能があるな。どうだ、俺と一緒に世界へ旅してお前のその力で苦しむ者たちを

救済してみないか?』―――とな」

 

「っ!?」

 

「私は嬉しかった。ただ、単純に嬉しかったんだ。私を求めてくれたあの人に。

和樹でもない他の魔法使いでもない私に、あの人が声を掛けてくれたんだ」

 

何時しか、カリンは頬は朱に染まり・・・瞳は潤い始めた。

 

「だから決めたんだ。私の全てをあの人に捧げると。今もこれからも、この先も―――!」

 

刹那。彼女から魔力が噴き出した。カリンの瞳は固い決意と揺るぎない意思が―――。

 

「ここから先は一歩も通さない!例え、弟でもようしゃはしないぞっ!」

 

「お姉ちゃん・・・・・っ!」

 

「私を姉と呼ぶな。今の私は―――勇者の魔法使い、カリーヌだ!」

 

腰に携えていた軍杖を掴み取り、風を纏い、暴風のように激しく風を乱し、

二人を吹き飛ばさんとする。

 

ゴオオオオオオオオッ!

 

「くっ!何て風の魔法なの・・・・・!?」

 

セラフォルーが苦しい表情を浮かばせる。強敵を目の前にして、彼女は畏怖の念を抱く。

 

「・・・・・セーラーたーん」

 

「和樹くん・・・・・?」

 

「すいません。ここは僕一人で任せてもらえないでしょうか。―――姉は僕の手で止めたいです」

 

そう言って魔方陣を展開する。それを見てセラフォルーは和樹の腕を掴んで制止する。

 

「ダメよ!弟のあなたがあなたの姉に手を掛けようなんてしちゃダメ!ここは私が―――!」

 

「いえ、姉の気持ちをようやく知って何もせずにいられないのです。

ですから、あなたはこの先にいるであろう悪しき勇者との戦いに備えて力を温存してください」

 

和樹はニッコリと笑んだ。その笑みは死を覚悟した物の笑みのものだと、監督は涙を流していた。

 

「―――いくよ、お姉ちゃん!」

 

「私はカリーヌだ!私に弟なんて存在しない!」

 

片や風を、片や雷を纏って―――二人は激しく衝突した。風と雷が交じり合い、

中心にいる両者は互いの軍杖を何度も何度も振るって、相手を倒そうとしていく。

 

「・・・・・あなたの気持ち、絶対に無駄にはしないわ・・・・・!」

 

二人の戦いを見守って苦渋の決断と、下唇を噛みしめてセラフォルーは遺跡の奥へと進んで

行ったのだった。

 

 

シーンC『セーラたーんVS悪しき勇者の右腕と左腕!』

 

 

「・・・・・」

 

カリンの撮影シーンが終わり、カリンは設けられたテーブルに頭を突っ伏して現在進行、

羞恥心で一杯で何かに堪えている。

 

「凄かったわね!もう、見ているこっちまでもがハラハラしちゃった!」

 

「そうだな。それに―――『私の全てをあの人に捧げる。今もこれからも、この先も―――!』」

 

「うわあああああああああああああああっ!?」

 

ゼノヴィアが真っ直ぐカリンに向かってセリフの一部を述べたら、

カリンが大きな声を発して頭を抱え出した。テーブルに突っ伏して顔の表情が見えないが、

耳まで真っ赤に染まっているので、カリンは羞恥心で一杯の状態だと理解できる。

 

「・・・・・あれ、おかしいな」

 

「急にどうした?」

 

カリンの隣に座って台本を読んでいた和樹が疑問を口にしていた。

 

「うん、カリンのセリフのところなんだけど・・・・・『私の全てをあの人に捧げると。

今もこれからも、この先も―――!』なんて、書いてないよ?」

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

もしかして、アドリブ?和樹がそう言うので俺たちは思わず台本を再チェックした。

・・・・・あっ、本当だ。カリンのセリフにあんなセリフはないぞ。

 

「・・・・・まさか、さっきのセリフはいっくんに対する愛情表現だったりしないよね?」

 

悠璃がカリンに問うと―――。

 

「~~~~~っ」

 

彼女の問いに沈黙で答えたカリンだった。

 

「・・・ここにも恋敵がいた」

 

「うー、でも、負けないわ!」

 

「ふふっ、第一妻の私たちの次に誰が妻となるのか、楽しみですね」

 

幼馴染と二人の妻がカリンに対してそう口にした。

さて、清楚と龍牙の撮影シーン何だが・・・・・。

 

「そこをどきなさい!私は悪しき勇者に用があるのよ!」

 

「んはっ!俺の勇者に会いたいとそんな愚かなことをするのであれば、

俺たちを倒してからにしてもらおうか!」

 

「ノリノリだね・・・・・項羽さん」

 

覇気を放出させ、項羽がセリフを言った様子に和樹が苦笑をしながら言った。

黄金の鎧を纏う龍牙も鎧の中で多分、苦笑を浮かべていると俺は思ったのであった。

 

 

シーンD『セーラーたーんの最終対決。悪しき勇者!&悪しきヴァルキリー!』

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・・」

 

疲労困憊の体でセラフォルーは遺跡の深奥へと赴いていた。

彼女が足を運ぶ先には、不敵な態度で椅子に座る俺と両側に俺の従者役の悠璃と楼羅がいるんだ。

 

「よお、酷く疲れているようだな。どうだ、一先ず休憩でもするか?」

 

「悪の言葉になんて耳を貸さないわ!―――奪った金品と攫った村の娘たちを返してもらうわ!」

 

彼女の言葉に俺は演技ぽく溜息を吐いた。

 

「なんのことだ?」

 

「・・・・・え?」

 

「周りから悪しき勇者と称されているが、金品を奪ったことや村から攫ったの娘なんぞ

身に覚えがないぞ」

 

両腕を広げる。

 

「寧ろ、俺の仲間を倒したお前が悪しき者ではないか!

俺は今まで一度も悪事を働いた事がない!」

 

「そんなこと信じられるわけがないわ!あなたがしていたことを私は知っているのだから!」

 

「では、聞こうか。どこで俺はなにをしていた?その時の時間と、

その時いた村人から何を聞いたのかを!」

 

―――と、セラフォルーは・・・・・―――沈黙した。俺は呆れた風に鼻を鳴らす。

 

「ふん、知らないではないか。ついでに言えば、俺たちは昨日、極寒の北の国で食糧に

困っている村人たちに食料を提供していた」

 

「・・・・・」

 

「一昨日は砂漠のど真ん中にある町に膨大な水を与えてやったぞ。

砂漠の民は水はとても貴重だからな。無限に近い水を与えてやったら、

俺たちのことを英雄と呼んでくれた」

 

スッと立ち上がり、セラフォルーに近寄って言った。

 

「これでも信用できないと言うならば、今すぐ北の国か砂漠の町に行くといい。

俺はここで逃げも隠れもしないでお前を待っている。お前の口から聞く報告を聞くためにな」

 

「悪しき勇者・・・・・」

 

「それとも、俺と一緒に行ってみるか?そうすれば、きっと―――」

 

そう言った時に俺の体に衝撃が襲った。え、演技とはいえ・・・・・これ、効く・・・・・。

 

「一誠さま!」

 

「おのれ!」

 

座っていた椅子まで吹っ飛ばされ、二人の従者に守られる形で演技は進む。

 

「セーラたーん!大丈夫ですか!」

 

遺跡の向こうから、見習い魔法使いの和樹が現れた。

 

「あなた・・・・・姉を倒したの?」

 

「ええ・・・・・倒しました。でも、今は目の前のことに集中しましょう。

悪しき勇者を倒して、平和を取り戻すんです!」

 

和樹が杖を輝かせる。悠璃と楼羅は白銀の剣を鞘から抜きとって構え出した。―――が、

 

「待って」

 

セラフォルーが和樹に待ったを掛けた。

 

「・・・・・もしかしたら、私たちの方が勘違いしている可能性があるの。

まずは、その勘違いを確かめてからでも遅くはないと思うの」

 

「勘違い・・・・・?セーラーたーん。何を言っているんだい?

目の前に悪者がいるのに僕たちが一体何を勘違いしているんだい?」

 

怪訝に和樹がセリフを言い続け、杖をこっちに向けてくる。

 

「今ここで彼を倒さないで何時倒すんだい。ほら、一緒に勝って平和を取り戻すんだよ」

 

そして―――唐突に笑みを浮かべ出した。

 

「じゃないと、悪しき勇者と裏から仕立て上げた意味がないからね」

 

衝撃の事実を発した見習い魔法使い。そんな見習いの言葉に呆然とセラフォルーが反応する。

 

「・・・・・和樹・・・・・・くん?それ・・・・・どういうことなの・・・・・?」

 

「あ、口滑っちゃった。まあいいや、倒すのは同じだしね」

 

「―――和樹くん、どういうことなの!?答えて!」

 

セラフォルーが杖を味方に構えた。何時でも魔法を撃てる姿勢で。

対して和樹は朗らかに言うだけであった。

 

「どういうこと?それはどういう意味なのかな?」

 

「意味も何も、裏から仕立て上げたということよ!答えなさい!」

 

「・・・・・」

 

警戒の色濃く浮かばせて和樹に問えば、和樹は深い溜息を吐いた。

 

「僕はね。魔法使いの中じゃ物凄く凄い魔法使いだなんて周りからちやほやされているんだ。

でも、何の功績もない、戦績もないんじゃ恰好がつかないでしょ?

だから、周りをアッと言わせるほどの何かの手柄を立てる必要があったんだよ。

―――だから、考えたのさ。伝説の存在を悪しき存在へとどんな手を使ってでも変えて、

悪しき伝説の存在を僕が倒せば―――僕は晴れて魔法使いの中じゃ凄く強くて

英雄的な存在になれるんじゃないかってね!」

 

「―――っ!?」

 

「だから僕は、敢て『見習い魔法使い』として活動し尚且つ、

エリート中のエリートである先輩と共に行動すれば、何時しか裏で仕立て上げた悪しき勇者に

出会い、この僕が倒すチャンスを窺っていたのさ今までずっとね」

 

「じゃ、じゃあ・・・・・あなたのお姉さんは・・・・・」

 

「ああ、あのヒト?あのヒトは本当だよ。数年前から行方不明になっていたことも嘘じゃない。

まさか、勇者のところにいたとは驚いたけどね。

ははは、まあ、才能がない姉を持って僕はほとほと迷惑だったけどね」

 

嘲笑の笑みを浮かべセリフを言い続ける。

 

「さてと、話はここまでにしようか。先輩はそこで黙ってみててね?

この僕が勇者を倒すんだからさ」

 

スタスタと、和樹がこっちに歩み寄ってくる。立ち上がって和樹を睨んで言う。

 

「お前、自分の出世のために他人を利用していたというのか?」

 

「出世?とんでもない。出世なんて興味はないよ。ただ、僕が世界一凄い魔法使いだって

証明する必要があっただけで色々と利用させてもらっただけさ。誰も傷付いていないよ?」

 

「俺が金品を強奪したり、村娘を攫ったなんてデマを流したのはお前ということでいいんだな?」

 

「うん、そうだよ。金にものを言わせて町の人たちにそう言う風に言ってもらっていたんだ。

ほら、誰も傷付いてなんていないだろう?悲しんでいる人もいない。

僕ってクリーンな人間なんだよね。利用はするけど、

誰も悲しませも傷つけたりとか一切しないしさ」

 

・・・・・こういうやつが世界にいるとしたら・・・・・ホント、怖い話しだよ全く。

 

「二人とも、待機してくれ。こいつはどうも俺が倒す必要がある」

 

腰に携えていた機械的なベルトを腰に装着した。

 

「俺を利用してどうこうするのは構わない。

だがな、お前を信用と信頼している人を騙して自分の為に利用していた

お前を絶対に許す気はないぞ」

 

「はははっ!それじゃ、倒してみなよ!でも、悪は必ず倒れるシナリオだから正義の僕が勝つのが

道理だ!―――いくよ、悪しき勇者!」

 

先に仕掛けてきたのは和樹からだった。杖から膨大な数の魔力の塊が出てくる。

俺は三枚の紫色のコインを取り出してベルトに差し込んだ。

そして、三枚のコインが入ったベルトを斜めにスライドし、

丸い機械的な円盤をベルトに滑らすように動かして―――。

 

「変身!」

 

と、力強く発した次の瞬間。俺を包むように黒と紫の魔力のオーラがベルトから噴き出した。

 

『クロウ・クルワッハ!』

 

『アジ・ダハーカ!』

 

『アポプス!』

 

『クダハープ、クダハープ、クダハープ!』

 

機械的なベルトから音声が流れ出る。俺を包む魔力のオーラは次第に鎧へと具現化する。

―――腰に紫の龍の尾、背中に三対六枚の紫の龍の翼、

胸には三匹の龍の顔が紋章のように刻まれていて、

龍を模した顔に頭は怒れる羊の角。鎧を纏った俺は気合の咆哮を上げ、

和樹の魔力弾を全て吹き飛ばした。

 

「ちょっ、そんな力があったの!?」

 

俺の姿に和樹が思わずセリフとは違う、素の状態で尋ねてきた。

 

「ぶっつけ本番だが?」

 

「・・・・・キミにはつくづく驚かされるよまったく」

 

深く溜息を吐かれました。まあ、それはそうと戦うとしましょうかね。

 

「はっ!」

 

手を前方に突き出して紫色の魔力弾を放った。

魔力弾は真っ直ぐ和樹に向かう、が、俺の魔力弾は和樹の防壁によって防がれる。

 

「見習い魔法使い和樹!ここでお前を返り討ちにしてくれる!」

 

「やってみろ!僕は絶対に負けない!」

 

―――と、悪しき勇者と見習い魔法使いの戦いは始まった。

だが、この映画はセラフォルーが主役のものだ。

当然・・・・・ここで彼女が何もしないわけがない。

それに、この鎧を着た時からすでにアドリブとして進んでいるのだから。

 

「・・・・・ごめんなさい、勇者さん。私の勘違いであなたを傷つけようとしたわ」

 

魔法のステッキの柄を力強く握りしめたセラフォルーは真っ直ぐ眼差しを和樹に向けた。

 

「和樹くん!先輩としてあなたを止めてみせるわ!」

 

「―――僕の敵になろうなんて、愚かな人だ!」

 

そう言って彼女に巨大な魔力弾を放った。

セラフォルーが対処しようとステッキを構えた時だった。

俺が彼女の前に移動して目の前の魔力弾を受け止める。

 

「この魔力を喰らってやる!」

 

ガシャッ!

 

胸の部分が上下にスライドした。

そこから機械的な蛇の頭が飛び出ては口を大きく開き、受け止めている魔力を一瞬で吸い込んだ。

 

「な、なんだって!?」

 

あいつ、今のは二重の意味で驚いただろうな。

―――ついでに、こんなこともできる。蛇の口に手を突っ込めばあら不思議、

 

ギュィィィィィィィンッ!

 

ドリルを装着した状態で手が出てきました。

 

「・・・・・勇者、どうして私をかばったの?」

 

背後から問いかけてくるセラフォルー。―――ここからピンクの台本通りのセリフだ。

 

「お互い利用された者同士だ。それに、お前を恨んでもいないし。それとだ」

 

「え?」

 

「―――どうやら俺は、お前に一目惚れのようだ」

 

「―――――っ!?」

 

突然の告白に言われ彼女は絶句した面持ちとなった。うん、そんな表情すると思ったよ。

でも・・・・・まだまだセリフがあるんだよこれ。

 

「好いた女を守れず何が勇者だ。だから、お前を俺が守ってやる。セーラたーん」

 

「・・・・・勇者・・・・・兵藤くん・・・・・」

 

「この戦いを終えたら、俺の傍らにいてくれ。俺の愛しいセーラーたーんよ」

 

スッと、セラフォルーに手を差し伸べた。

彼女は・・・・・目を見開いたまま空いた口が塞がらないでいた。しばらくして、

 

「あ、あの・・・えっと、ね?その・・・ね?うう・・・・・男の人にそんなこと言われるのは

初めてだからどう答えていいのか・・・・・でもでも、私にはソーナちゃんという可愛い妹が

いるわけで・・・・けどけど、兵藤くんも悪くないかなーってちょっと

思ったりしていたりして・・・・・ああ、でもぉ・・・・・」

 

―――あれ、何故か混乱をしていらっしゃるぞ?台本じゃセラフォルーは二つ返事で

俺の手を取り、和樹を一緒に倒すシーンだったハズなんだが・・・・・。

 

「・・・・・うん、決めた」

 

徐に、彼女は真っ直ぐ瞳をこっちに見据えてくる。

 

「私、セラフォルー・シトリーはあなたの気持ちに応えます。

妹共々よろしくね、イッセーくん♪」

 

・・・・・え?

 

「「「・・・・・え?」」」

 

「「「・・・・・え?」」」

 

「さぁ、一緒に見習いの魔法使いを倒しましょう勇者さま!」

 

唖然とする俺たちを余所に、セラフォルーが嬉々として呆然とする和樹に向かって―――。

 

「とう!セーラービーム!」

 

―――○●○―――

 

『こうして、マジカル少女戦士☆セーラたーんは敵であった悪しき勇者と共に、

勇者を裏から悪に仕立て上げた本当の黒幕『見習い魔法使い』和樹を倒し、

冥界の平和を守ったのでした』

 

プレミアム上映会。俺たちは撮影に参加できなかったガイアたちと共に冥界の大きな映画館で、

出来上がったばかりの劇場版『マジカル少女戦士☆セーラたーん 悪しき勇者との対決!』

と観賞した。ちょうど最後のナレーションが流れ、映画が終わったところだ。

スタンティングオペレーションの嵐だった。

 

「ありがとう!ありがとう!」

 

ステージ上のセラフォルーも拍手を受けて観客に応えていた。

 

「・・・・・まさか、お姉さまを撮影中に口説き落とすとはびっくりです」

 

開口一番にソーナ・シトリーに言われた。そ、そんなっ!?

 

「違うもん!ちゃんと台本通りにセリフを言ったらあいつが真に受けたんだもん!

それにこの台本を渡してきたスタッフに苦情を言え!俺のせいじゃないもん!」

 

ちょっと涙目でソーナ・シトリーに食って掛かった。俺は悪くない!絶対に悪くないぞっ!

 

「まあ・・・・・確かに一誠は台本通りに撮影を参加していたんだけど、まさか・・・ねぇ?」

 

「聞いていた僕たちも驚きましたよ。いきなり一誠さんがセラフォルーさんを口説くんですから」

 

「・・・・・アドリブだったら私は一誠を軽蔑していたぞ」

 

カ、カリン・・・・・!?

 

「でも、しょうがないよ。私たちは監督とスタッフに従って撮影をしたんだもの。

一誠くんは悪くないよ」

 

「・・・ううう、清楚。ありがとう」

 

「ふふっ、私は一誠くんを信じているからね。ナンパするような人じゃないって」

 

「なっ、わ、私もイッセーを信じているぞ!?本当だからな!」

 

カリンが慌てて清楚の言葉に便乗するが、

今の俺は清楚の癒しによって安堵の胸を撫でおろしている。

 

「―――兵藤くん!」

 

『ん?』

 

俺たちは俺を呼ぶセラフォルーに顔を向けた。そこには満面の笑顔でピースを突き出して―――。

 

「また、一緒に映画の撮影をしようねぇっ!」

 

そう言ってきたのだった。そんな彼女に手を振るって「そうだな」と首を縦に振って頷いた。

 

 

 

 

 

 

―――後日、俺が知らない間に俺が撮影で着たベルトがこの映画を見ていたアザゼルとアジュカ・アスタロトの目に留まり、二人の趣味と興味により作られて子供向けの玩具となり、

今では子供たちの間では―――、

 

『へーんしんっ!』

 

と、安全性を高め、子供でも鎧を着れて遊べることで大人気だとか。

しかも、『新たなメダルと新しい鎧のイメージを追加』って、

どこかの店の店長から依頼を受けたのであった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Life6

 

 

―――夏祭りのヒューマンの終了後―――

 

セラフォルーの映画撮影に協力してから、直ぐのことだ。

その日、二学期が始まっても変わらず学校生活を送っていた頃、俺に尋ねてきた生徒が現れた。

 

「―――『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマットを使い魔にしているという

下級生はあなた?」

 

「・・・・・」

 

栗毛を上品そうなロールにしている高圧的な態度で接する女子生徒だ。

 

「えっと、誰だ?」

 

「あら、ごめんなさいね。編入生のあなたは私のことを知らないでしたわね?

私は三年F組の安倍清芽。魔物使いですの」

 

「魔物使い?色んな魔物を使役する者と認識しても?」

 

「ええ、それで合っていますわ」

 

魔物使いか・・・・・そんな人がこの学校にいるんだ。

まだまだ、俺の知らない人がいそうだ。サーゼクス辺りに訊いて見るとするか?

 

「それで、俺に何か用でしょうか?それにF組ならば、

このクラスに訪れてはならない規則のはずですが?」

 

「承知の上で来ておりますわ。それに先生や理事長に承諾をしてくれれば上位のクラスに

訪れることができますのよ?知っていましたか?」

 

その問いに、俺は首を横に振った。そんな裏技があっただなんて・・・・・。

 

「では、もう一度問うけど、俺に何か用ですかね?」

 

「でなければ、あなたに直接尋ねませんわ」

 

うわ、高圧的な態度だ。だから、悠璃。その怒気が籠った瞳を彼女に向けない。

 

「―――兵藤一誠くん。最強の五大龍王を使い魔にしたあなたに折り入ってお願いがあります。

どうか、私を助けて下さらないかしら」

 

「助ける?なにからだ?」

 

俺が安倍先輩に訊く。

 

「実は今度父は出張から戻られますの。そしたら、父が私に見合いをしろといいますの。

私、まだ高校生ですわ。そう急過ぎると伝えたのですが、

それでも聞く耳を持って下さらなくて・・・・。父は一度決めたら即断即決の強情な方ですの」

 

・・・・・あれ、この感じは・・・・・どこかの誰かさんと似ている?

 

「私の家は由緒正しい魔物使いの家柄。

ですから、その血筋を絶やさないためにも父は私に婿を決めて欲しいと

言いだしたのです。・・・・・私は嫌ですのに・・・・・」

 

溜息を零した安倍先輩。・・・・・うん、やっぱり似ている。そして、この流れ的に言えば―――。

 

「つまり俺に見合いの邪魔をして欲しいと、そういうことでいいんだな?」

 

安倍先輩はうんうんと俺の質問に肯定とばかり何度も頷いた。

 

「ええ、兵藤くんには私の彼氏役をやってもらいたいのです。

すでに父には私に彼氏がいて、お見合いは嫌だと伝えてありますわ。

そうしたら、条件付きであれば、そのお見合いを破断してもいいと言ってきました。

その日限りで構いませんわ・・・・・って、あらら、急に敵意を向けられている気がしますわ」

 

悪寒を感じている先輩。ああ、だろうな。俺もものすごーく、感じているぞ。

できれば背後に振り返りたくない。

 

「いっくんが彼氏・・・・・?」

 

「イッセーくんが彼氏・・・・・?」

 

「次期人王の妻である私たちを差し置いて彼氏ですか?」

 

「・・・・・なんだろう、物凄く胸がモヤモヤしてきたぞ」

 

「・・・・・むぅ」

 

「「・・・・・」」

 

悠璃、イリナ、楼羅、カリン、清楚の声音が低い。リーラは平常心というか、

何時も変わらない表情で俺たちの成り行きを見守っている。ゼノヴィアも似たようなもんだった。

 

「でも、どうして俺に?他に彼氏役になってくれる奴はいると思うんだけど・・・・・」

 

「言いましたよね?私の家は由緒正しい魔物使いの家柄と。私がこの学校に在籍している間、

過去に在籍していた生徒たちの誰一人として、五大龍王のティアマットを使い魔にした者は

いませんのよ。それが今年になってあの龍王を使い魔にしたという話を聞きましたの。

ですから、あのドラゴンを使い魔にしたあなたの魅力を見込んでお願いをしに参ったのですわ」

 

あー。そう言うことか。まあ・・・・・困っているのであれば、助けないといけないな。

 

「分かった。先輩のお見合いの話しを邪魔しよう」

 

「ありがとうございますわ」

 

先輩が感謝の言葉を述べた。

こうして、俺は彼女の見合いを破断するための彼氏役を演じることとなった。

それにしても見合いの話なんてこれで何度目だ?

 

―――○●○―――

 

次の土曜日、俺が呼び出されたのは安倍先輩の自宅だ。用事があるのは俺だけなんで、

一人で訪れていた。先輩の自宅に辿り着くと、とんでもない大きさの洋館が

俺を迎え入れてくれた。庭も広いし、館の中も見事なもんだ。

 

普段は先輩一人で住んでいるようだ。ご両親は共働きで世界を飛び回る名うての魔物使い。

今回、久し振りに父親が帰って来たかとも思えば、婚約の話が出てきたらしい。

・・・・・あの先輩、両親まで俺の死んだ両親と似ているな。

 

「で、やっぱりついてきたんだ?」

 

背後に振り返ると、そこには黒いゴスロリに日傘を差しての

出で立ち(いでたち)のオーフィスがポツンと佇んでいた。

 

「あら、何時の間に・・・・・兵藤くん、この子は?」

 

「魔物じゃないけどドラゴンだ。―――無限を司る龍と言えば分かるよね?」

 

「―――っ!?」

 

安倍先輩は目を大きく見開いた。

 

「まさか・・・・・『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス・・・・・!?」

 

「ん、我はオーフィス。イッセーの家族」

 

ピョンと乗っかったオーフィスが自己紹介を言った。

そうだよな、無限の体現者がこんなところにいるなんて、

誰も思わないだろうし、正体を知って驚くに決まっている。

 

「・・・・・ティアマットを使い魔にした事は伊達ではないということですのね・・・・・」

 

「夢幻を司る龍とか俺の家にいるしな」

 

「・・・・・やはり、あなたを選んで正解でしたわ。頼りにしていますわ、兵藤くん」

 

オーフィスと合流をし、

俺たちが案内されたのは用感から渡り廊下を通って辿り着く屋内プールだった。

なぜか、水着を用意された俺とオーフィスはそれに着替え、プールサイドに出て行く。

オーフィスはフリルがある水着だった。うん、海に行った時以来の水着姿のオーフィスだ。

 

「・・・・・凄い傷跡ですわね」

 

「ああ、悪い。気分を削がせたか」

 

「いえ、気にしないでください。ですが・・・かなり、無茶をしていたと分かりますわ」

 

上半身が全裸なんで―――胸や腹、片や腕、背中にまである大小の、数多の傷跡が曝け出した。

海に行った時はパーカーを羽織っていたから俺の体の傷を曝け出さずに済んだんだ。

 

「さ、こちらへどうぞ」

 

安倍先輩がプールサイドに置かれたテーブルへ着くよう促してくれる。

テーブル席にオーフィスを膝の上に乗せ、安倍先輩が改めて、

見合いの破談の条件とやらを切りだした。

 

「父が仰った条件とは―――魔物使い同士で競い合う対戦競技ですわ」

 

「魔物同士で戦わせるのか」

 

そう彼女に訊くと指を折りながら答えてくれる。

 

「陸海空の魔物を使っての三番勝負ですわ!

兵藤くんが二つ以上父に勝てば婚約の条件は破談となります」

 

「陸海空・・・・・空はティアマットだとして陸は・・・・・うん、あいつに頼んでもらおう」

 

「あいつ?他にも魔物がおりますの?ティアマットしかいないと存じていますが」

 

「まあ、とある事情でな。でも、海の魔物なんていないからなぁ・・・・・」

 

俺が首を捻って考え込むと―――俺の隣に一つの魔方陣が展開した。

 

「俺が海の魔物となって戦おう」

 

と、開口一番に発したその人物に―――俺は頭を抱えた。どうしてお前が出てくるんだよ!?

 

「あの・・・・・こちらの女性は?」

 

安倍先輩が当惑した顔で尋ねてくる。俺は疲れた顔で説明するために口を開いた。

 

「死と戦いを司る最強の邪龍、『三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』―――クロウ・クルワッハ」

 

「っ!?」

 

案の定、絶句した先輩だった。でもな、

 

「お前、海の魔物じゃないだろ」

 

「黙っていれば問題ない」

 

・・・・・こいつ、狡賢い。

 

「兵藤くん・・・・・あなた、ティアマットと真龍、龍神だけじゃなく、

邪龍まで使役しておりますの・・・・・?」

 

「使役というか、家族だ。先輩だって自分の魔物を家族のように接しているだろう?

それと同じだ」

 

「・・・・・流石に邪龍まで家族のように接していける自信はないですわ」

 

・・・・・気持ちは分かるけど、実際に付き合ってみると案外良い奴らだぞ?

と―――、俺たちのもとへ人影が近づいてくる。

 

「お嬢さま。もうすぐお父上がお戻りになられますぞ」

 

そこへ現れたのは頭にトサカ、口にクチバシ、

手に羽とまるで鳥のようで人のような姿をした男性の魔物が。鳥人間の言葉に安倍先輩は頷く。

 

「ええ、わかりました。と、紹介が遅れましたわね。彼が私のボディーガード、

鳥人の高橋ですわ」

 

「高橋!?そんな和名なのか!?日本のどこにこんな鳥人が生まれたというんだ!?」

 

「高橋の出身は神戸です」

 

神戸!?神戸に鳥人が生まれただなんて人が知ったら大騒ぎになるぞ!?

寧ろ、神戸牛より高い神戸鳥と精肉にされちまいそうだ!

 

「キミが、お嬢さまが依頼したという人間かね?まさか、次期人王に依頼したとはお嬢さまも

肝が据わっておられる。私は高橋。下の名前は輝く空と書いてスカイと読む」

 

紳士的な振る舞いで握手を求めてくる鳥人、高橋輝空(スカイ)

ルビを振る作者の身になって名前を付けてくれよ高橋の親御さん!作者も大変なんだから!

 

「兵藤くん、頼りにしていますわ」

 

「あいよ。こんな感じのことは前にも経験しているし、先輩の役に立ちますよ」

 

「ふふっ、お願いしますわ。だて、私は父を迎え入れる準備をしてまいりますわ」

 

彼女が父親を迎えに行ってしまった。

 

「水着に着替えたぞ」

 

わざわざ水着に着替えたクロウ・クルワッハと入れ違いに婚約破談作戦がスタートする。

 

―――○●○―――

 

暗雲漂う曇り空のなか、俺たちは水着から元の服装に戻って館の庭に出ていた。

安倍先輩の父親を待つ。

すると、門から馬の蹄の音を立てながら、何か異様なものが近づいてくる。

向こうから危険な雰囲気を振りまきながら現れたのは―――巨躯のいかつい男性。

デカい黒馬に乗っていて、角のついた兜を被り、マントを羽織っている。ギラリと眼光が鋭い。

 

「ふむ・・・・・とある本と似た人物だな。確か、北斗―――」

 

「ネタばれになるからそこまでにしようか」

 

クロウ・クルワッハに突っ込みを入れていた。

というか、何時の間にそんな本を読んでいたんだお前は。

 

「うぬが我が娘と付き合っているという不届き者か?」

 

野太い声で俺を睨む。おおう、次期人王と世界に知れ渡っていると思っているけど、

それを知っての上で発言しているのであれば、本当に娘のことを想っているんだろうな。

俺の腕に絡みついてくる安倍先輩。

 

「そうですわ、お父さま。彼が私の彼氏、兵藤一誠くんですわ」

 

「・・・・・次期人王の者か」

 

安倍先輩の父親は巨馬から下りもせずに言い放つ。

 

「しかし、相手が誰であれ、わしは相応しい婿ではない限り交際は認めん」

 

「最初から都合よく彼女と付き合えるとは思っていない。

あんたを認めさせ、彼女と一緒に幸せな生活を送るつもりだ」

 

ギュッと、安倍先輩の肩に腕を回して引き寄せた。

 

「・・・・・」

 

彼女が顔を赤く染めたことを尻目に真っ直ぐ父親を見据えた。

 

「よかろう。うぬが娘に相応しい者か否か、このわしが直々に計ってくれようぞ」

 

カッ!先輩の父親のバックに雷光が怪しく光った。そして、ついに対決が始まった。

第一戦めは陸の魔物対決。庭にライン引かれた長方形のバトルフィールド。

その中で戦いが開始される。

 

「わしがまず出すのはこれだ。出てこいッ!」

 

安倍先輩の父親の叫びによって現れたのは―――白い毛に覆われたゴリラだった。

 

「むっ、あれは雪女か」

 

あ、あれが雪女・・・っ!?

―――どうみたって野生動物、動物園にいるゴリラそのものじゃないかっ!

俺は雪女を直接見た男だぞ!小さい頃、両親ととある雪山でひっそりと暮らしている雪女を!

 

「嘘だっ!アレが雪女なんかない!」

 

「正確にはイエティだ」

 

「あ、イエティならいいや」

 

クロウ・クルワッハの訂正の言葉に俺は気を取り直した。

ウンディーネといい、雪女といい・・・。

俺が見てきた魔の存在がガラスのように木端微塵になって改めて認識を覆されそうだったぞ。

 

「言っておくが、わしのステファニーは一筋縄にはいかんぞ」

 

ステファニー!?なに可愛い名前を付けているんだアンタは!?くそ、調子が狂うな!

 

「(―――羽衣狐。頼んでいいか?)」

 

『雪の怪物に妾が遅れを取るわけがない』

 

全身から禍々しいオーラが発す。オーラは次第に人の形を作って、一つの存在へと成り変わった。

黒い長髪に黒い瞳、赤いリボンと黒を基調としたセーラー服、

腰辺りに九本の狐の尾を生やす女性へと。

 

「その九本の尾は・・・・・伝説の妖怪の一匹か・・・!」

 

彼女を見た先輩の父親は絶句した面持ちとなった。おお、知っているんだ。

 

「審判は私がおこないますわ」

 

フィールド中央に立つ安倍先輩。雪ゴリラと羽衣狐をフィールドに招き入れる。

俺と先輩の父親はフィールドの端に立ち、そこから指示を送ってバトルを動かす。

 

「はじめ!」

 

安倍先輩の掛け声と共に陸の魔物対決がスタートした。

 

「ステファニー!まずはドラミングだ!」

 

「ホッキョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

ドンドンドン!相手のゴリラが先輩の父親の命令通りに胸を叩き始めた。

―――ゴリラだ!俺の目の前にゴリラがいるよ!

 

「雪女のドラミングは自身の攻撃力を高める効果があるのだッ!」

 

「へぇ、そうなんだ。魔物使いの業界も色々と奥が深そうだ」

 

「一誠。妾はどうすればいい?」

 

と、羽衣狐が命令を待っていた。うん、そうだな。

 

「狐火でコンガリとゴリラの姿焼をよろしく」

 

「不味そうだな」

 

そう言いながらも彼女は、九本の尾の先から小さな火を灯した。

 

「―――狐火―――」

 

ボオッ!

 

小さな火から膨大な熱量を持った火炎が放射して雪ゴリラを襲った!

 

「ステファニー!れいとうビームだ!」

 

「ウホッ!」

 

先輩の父親の指示に従い、雪ゴリラは口から絶対零度の冷気を光線のように放った!

するとどうだろうか、羽衣狐の炎が一瞬で凍結した!

 

「むっ、手加減してこの威力とは・・・あやつ、少しはやりおるな。ならば、これはどうじゃ?」

 

手を前方に突き出して、手の平から野球ボールぐらいの大きさの火の塊が浮かんだ。

その塊をあろうことか上空に放り投げた。

 

「―――狐火・五月雨式」

 

火の塊から断続的ながらもガドリングガンのように射出し続けていく。

その攻撃速度が速く、ステファニーの体に直撃した。

 

「むぅっ!やりおる!ならば、ステファニー!雪籠りをしろ!」

 

雪ゴリラは顔を上に向けて口から吹雪を吐きだした。

するとどうだろうか、雪ゴリラは雪に包まれ始め、巨大な雪の塊に自身の姿を隠した!

 

「そのまま九尾の狐を攻撃だ!」

 

ゴロリッ。と、巨大な雪の塊がゆっくりとこっちに動きだした。

 

「雪転がり!」

 

「そのまんまだな!?」

 

そうこうしている内に巨大な雪の塊は羽衣狐に襲っていた。

彼女は避ける必要もないと片手で前に突き出しては、転がり続ける雪の塊を受け止めた。

 

「燃え尽きろ」

 

刹那―――。羽衣狐の手から灼熱の炎が放射した。

炎は次第に雪を溶かしていき、雪の塊は段々小さくなっていく。

 

「―――ステファニー、れいとうパンチ!」

 

安倍先輩の口から指示が発せられた。溶けていく雪の塊から剛腕な腕と冷気を纏うデカい拳が

飛び出て来て羽衣狐に真っ直ぐ向かった。

 

「ならば妾は、ほのおのパンチでもしようかの」

 

手を握り、拳に炎を纏わせた羽衣狐は、雪ゴリラの拳にぶつけて鍔迫り合いをした。

 

「ホッキョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

決着は呆気なく着いた。羽衣狐の炎に拳から伝わって全身へと燃え移り、

体に燃え上がる火を消さんばかりプールへと向かってしまい、

フィールドを自分から出てしまった。

 

「おお、ステファニーッ!」

 

手厚く介護し始める先輩の父親。

 

「勝者、九尾の狐!よって。第一戦は兵藤一誠の勝利です!」

 

審判の安倍先輩がそう告げる。ん、まずは一勝だな。

 

「まあまあだな。だが、将来いい雪女になろう」

 

「・・・・・頼む、あれを雪女と言わないでくれ。俺の中の雪女が崩れる」

 

溜息を吐く。勝ったけど、何かおかしい。あれが雪女だなんて断固認めないぞ!

 

「・・・・・次は海の魔物で対決だな」

 

あっ、戻ってきた。雪ゴリラは―――別の雪ゴリラに背負われてどこかに行ってしまった

様子を俺は見なかったことにした。

 

「あのプールが対決の場となるか。だが、次はわしが勝つ!」

 

雷鳴轟くなか、稲光に照らされて巨大な魚型モンスターが姿を現す。

巨大な鮫のフォルム―――に足のついたモンスター。

・・・・・あんな魔物がいるなんて、世界は広いな。

 

「・・・・・お父さまの人魚はお強いですわ。気をつけて」

 

「あれが人魚ぉぉぉぉぉっ!?」

 

安倍先輩から緊張の面持ちで警告を言われてしまったが、あれはどう見たって鮫だよ鮫!

海の神さまのところにいる人魚とかけ離れ過ぎているって!鮫が歌える訳がない!

もう、やだ・・・!俺が今まで見てきた存在たちが否定されまくりだよ!

だけど―――鮫の魔物は動く様子もない。大きく口を開け、ただ立ち尽くすだけだ。

 

「・・・・・」

 

不思議に思った安倍先輩の父親が馬の上から触れてみると―――バタン!と、鮫は地面に横たわった。

 

「あ、そう言えば鮫ってマグロと同じで泳ぎ続けないと死ぬんだったな」

 

「えっ?死んでんの!?―――オーフィス、フカヒレが食べれるぞ」

 

「ん、それは楽しみ」

 

コクリとオーフィスは肩の上で頷いた。先輩が近づき、鮫の生死を確認する。

しばらくして、首を横に振り、告げた。

 

「第二戦、勝者兵藤一誠くん!」

 

なんともいえない勝利を掴んだ俺だった。試合もせずに勝負に勝ってしまった。

 

「・・・・・わしの負けだ。娘との交際を認めるしかあるまい。・・・・・婚約を破断しよう」

 

まだ納得していなさそうな様子の先輩の父親。・・・・・俺も納得していないんだけどな。

ん・・・・・そうだな。お互い納得してないなら、とことん勝負をしよう。

 

「―――えっと、第二戦の試合をドローにしてくれないか?」

 

「・・・・・なんだと?」

 

信じられないものを見る目で、先輩の父親は俺を見詰めてくる。

俺は苦笑混じりながら事実を告げた。

 

「実を言うと、俺に海の魔物の使い魔がいないんだ。あのまま、試合を続行していたらあんたの

不戦勝で勝ってた。だからこの試合はお互いドローとして第三戦で決着をつけたい」

 

拳を前に突き出して告げた。

 

「こんな形で俺は勝ちたくない。勝つなら正々堂々、

あんたを真正面から勝って先輩との交際を認めさせてもらう」

 

「「・・・・・・」」

 

安倍先輩と先輩の父親が唖然としていた。でも―――。先輩の父親の口から笑みが零れた。

 

「・・・あのまま、何も言わずに黙っていれば娘と交際をしていられたものの・・・・・、

うぬは正直者だな。それも純粋に真っ直ぐだ」

 

「ただ単に隠すことが下手なだけな男だよ。純粋なのは自覚している」

 

「ふっ・・・・・そうか。では、いいだろう。

最終対決、空の魔物対決でうぬと決着を付けよう!」

 

不敵な態度で、最終対決だと先輩の父親は告げる。

そして、試合の仕切り直しとばかり最終戦が幕を開けようとしていた。

 

―――○●○―――

 

 

最終戦。空の魔物対決。場所も移動して、人気のない山奥。クロウ・クルワッハに移動術、

転移用魔方陣でジャンプしてきた。山奥なら人目を気にせず思う存分魔物を飛ばせる。

岩の多いゴツゴツとした場所で俺と先輩の父親は対峙することに。

ここなら空を一望できるほど広く見渡せれるし、障害になりそうなものもない。

 

「お互いに魔物の上に乗り、空中戦を行う。良いな?」

 

「ああ、異論はない」

 

先輩のお父さんがルールを告げてくれる。なるほど。

って、先輩の父親は巨大な怪鳥を用意していた。

 

「ギャオオオオオオオオオオオオオオンッ!」

 

咆哮を上げて俺たちを威嚇してくる。

 

「さあ、うぬの空の魔物をわしに見せるがいい」

 

そう促されては仕方ないな。俺は笑みを浮かべて空に魔方陣を展開した。

―――龍門(ドラゴン・ゲート)だ。

 

「お前の力を貸してくれ。俺の愛しい家族よ」

 

カッ!と魔方陣から美しい青い体の巨大なドラゴンが姿を現した。

 

「ロックンロールッ!」

 

ガアアアアアアアアアアアアァアアアアアアァアアアアアアァァッ!

 

嬉しそうに咆哮を上げる―――『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマット。

 

「ぬ・・・っ!そのドラゴンは・・・・・!」

 

先輩の父親が驚愕の色を顔に浮かべながらも、巨馬に乗った状態で怪鳥の背に跨り空を舞う。

俺とオーフィスもティアの頭の上に乗っかって佇むと、

先輩が俺と先輩の父親の中央に立ち、叫ぶ。

 

「最終戦!はじめてください!」

 

バッ!怪鳥とティアが空を高速で飛び回る。

 

「はははっ!相手は『天空の魔鳥』ジズだとは面白い!張り切って倒させてもらうぜ!」

 

「半殺し程度でな!」

 

物凄い勢いで風を切り、こっちに突っ込んでくる怪鳥。

ティアは軽やかに避けて逆に追撃を開始した。

 

「焼き鳥にして食らってやる!あいつの肉は絶品だからな!」

 

「マジで?訂正、鳥だけ殺してくれ。―――今晩の夕飯にする」

 

「おう、任せろ!」

 

嬉々としてティアが口を開け、特大の火炎球を吐きだした。

怪鳥は後に目でもあるかのように、ティアの火炎球を避け続ける芸道を見せてくれる。

 

「やるな流石だ!」

 

火炎球を吐いては怪鳥に避けられる。そんなことを五分ぐらい繰り返していると、

 

「にゃろう・・・・・」

 

ティアが苛立ちするのは当たり前だった。流石にこれ以上やっても結果は同じかもな。

 

「あのチキン野郎が!ぜってぇー撃ち落とす!」

 

―――不意に、ティアの魔力が一ヶ所に集束した。

その場所は―――口だ。彼女の口元を見れば青い魔方陣が展開していた。―――何をするつもりだ?

 

「食らいやがれっ!」

 

ドォッ!

 

魔方陣から放射した。―――しかも一つだけじゃない。

その上、誘導性があるのか、上下左右、四方八方から空を埋め尽くさんと

数多の青い帯状の魔力が怪鳥に襲った!

 

「ティアマット、本気を出した」

 

「・・・・・ティアの本気の攻撃・・・・・」

 

数多の青い帯状の魔力は狙いを違わず怪鳥に襲う。

怪鳥は機敏な動きで避け続けるが―――いかんせん、数が多過ぎる。

だから、安倍先輩の父親が乗る怪鳥の翼に直撃すれば、怪鳥は苦痛を上げて地に墜ちて行った。

そして―――容赦なく次々とティアの攻撃が集中して浴び続けた。

 

『これが、ティアマットが最強の龍王と呼ばれた由縁だ』

 

ボロボロの怪鳥が地上に墜ちた時、内にいるクロウ・クルワッハが説明した。

 

「はっはっー!すっきりしたぜっ!」

 

ようやく自分の攻撃が当たって笑うティアであった。俺は思った。やっぱりドラゴンは凄いと。

 

―――○●○―――

 

山奥から再び安倍先輩の自宅に戻ってきた俺たち。

 

「改めてわしの負けだ。娘との交際を認める。婚約を破断しよう」

 

ティアの攻撃を浴びてもなんとか生きていた先輩の父親と奇跡的に生き延びた怪鳥。

 

「『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマット・・・・・。

かのドラゴンを使い魔にした男ならば、安倍家は安泰だな」

 

どこか晴々とした顔でそう言う。えっと・・・・俺は婿になんてならないぞ?

 

「ではな、わしも仕事に戻らなければならぬ。娘のことをよろしく頼む」

 

それだけ言い残し、騎乗したままの先輩の父親は、

俺と安倍先輩から離れてどこかへと行ってしまった。

 

「はぁ・・・・・なんだか濃い一日だった。魔物使いの戦いも経験したしな」

 

「ええ・・・・・とても」

 

・・・・・・キュ。

 

小さく、安倍先輩は俺の袖を掴んでくる。どうしたんだ?と思って彼女に振り返れば、

 

「ひょ、兵藤くん。今日はありがとうございました。おかげで婚約は破談と成りましたわ」

 

何やら、先輩がもじもじしていた。

 

「急の申し出とはいえ、わ、私の為に真剣に取り組んでくれまして、本当に嬉しかったですわ」

 

まあ、助けてくれって言われたからな。

 

「お父さまと戦う姿は、ちょ、ちょ、ちょっとだけ格好良かったり・・・・・」

 

うん、殆どティアが一人で戦ったような形だけどね。

 

「そ、それに・・・・・私を抱きしめてくれた時・・・・・とても凛々しかったですわ」

 

とってももじもじしてる。なんだ、随分可愛らしい仕草をする。

抱きしめたい衝動を抑えていると、

 

「よろしかったら、今日お夕飯でも・・・い、いかがでしょうか?」

 

夕飯を誘われた。うーん、そうだなぁ・・・・・。

 

「じゃあ、条件付きでいいかな?」

 

「条件・・・ですの?」

 

俺は頷いて懐から携帯を取り出した。

 

「先輩のアドレスと俺のアドレス交換が条件だ」

 

「っ!?」

 

「今回の魔物同士の戦いは楽しかった。

それに先輩も魔物の知識が豊富そうだし色々と聞きたい。―――いいかな?」

 

そう尋ねると、パァッ!と先輩は顔を明るくした。そしたら

 

「ええ、勿論いいですわ!では、早速家の中に入りましょう!」

 

俺の手を掴んで、家の中へと連れて行こうとする先輩についていく。

―――その後、俺は先輩の家でオーフィスと共に泊ることに成って

彼女から色々と魔物のことを知れたのは良い報酬だった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Life7

 

―――休校後のリトルとラグナロク終了後―――

 

 

朱乃の母親を蘇生させた代償として魔力、気力、体の力が失い、

指一本も動かせない状態でアザゼルに担がれ、家に戻った俺は―――。

 

『・・・・・』

 

ベッドに横たわっていて、肉食獣の群れに放り込まれた草食動物の状態でいます。

 

「・・・・・まったく、お前は何をしているのだ」

 

「突然アザゼルに担がれて帰って来た時はビックリしたよ?」

 

「にゃー、『気』も殆どないにゃん。カラッカラだねー?」

 

殆ど呆れ混じった声音で言われる。

 

「・・・・・ごめん」

 

「この感じ・・・・・あの力を使ったんですか一誠さま」

 

リーラが何かに気付いたようで俺に問いかけてきた。

彼女の言葉を当然反応するのはこの場にいる皆だ。

 

「あの力とはなんですか?」

 

「『無限創造龍の錫杖(インフィニティ・クリエイション・メーカー)』の禁手(バランス・ブレイカー)

―――『無限の創造龍の鎧(インフィニティ・クリエイション・アーマー)』です」

 

「あの力?」

 

リアス・グレモリーが疑問を浮かべた。リーラは当然のように首を縦に振った。

 

「ええ、特に『命』の珠の力を使うと全ての力を消費する代償してしまうんです」

 

「そんなリスクがある力を使ったと、彼を見て分かるものなのですか?」

 

「はい、何せ私は長年一誠さまに仕えておりますので―――少しの異変すら気付いてしまいます」

 

『・・・・・』

 

ある意味、今のリーラの言葉は優越感が籠っている。

それを聞いてリアス・グレモリーたちは一瞬、悔しそうな顔を浮かべたのは

気のせいではないと思う。

 

「今回は力そのものが消費したようですね。以前では一週間も寝たままでしたからね」

 

「ああ、今回はこれだけで済んで安心したと同時に皆に心配かけた罪悪感を感じている」

 

「であれば、あまりあの力を多用しないでください。

今度はあなたの命すら代償してしまう恐れがありますから・・・・・」

 

リーラの言葉に素直に首を縦に振った。それだけは絶対に勘弁だ。

まだ死ぬわけにはいかないからな。

 

「では、一誠さまは安静していてお過ごししてください。

幸い、学校は休校状態ですので、回復に集中ができます」

 

「ん、そうする」と、同意する。本当、不謹慎だが休校状態で助かった。

 

「ロスヴァイセ、セルベリア。早速、メイドとしての務めが参りました。

一誠さまに健康の良い食事を作りますよ」

 

「任せてください。ヴァルハラ式の栄養食は作れます」

 

「私もだ」

 

俺の戦乙女、ヴァルキリーのロスヴァイセとセルベリアが部屋から退室した。

 

「んじゃ、白音。私たち姉妹は仙術で少しでも早く回復できるように施すわよ?」

 

「・・・・・わかりました」

 

そう言って銀華と塔城小猫が部屋から出て行った。あれ、なぜに?

 

「僕は兄さんに頼んで元気ドリンクでも用意しますね」

 

「式森家式の回復術でも施しておくよ。

兵藤家の一誠にどれだけ効果があって効くかどうか分からないけど」

 

龍牙も部屋からいなくなり、和樹が天井に魔方陣を発現して、魔方陣の光に包まれだす。

 

―――パキィンッ!

 

が、魔方陣が割れた音と共に消失した。・・・・・え?

 

「え?」

 

和樹も俺と同じように唖然とした面持ちでいた。すると、この原因がすぐに分かった。

 

『すまない。今の主は我の力を制御できなくなっている。

故に、魔法を使ったり仙術で癒そうとしても我の力で無効化される』

 

右手の甲に宝玉が浮かんで点滅と共に語り出すのはゾラードだった。和樹は口を開く。

 

「というと・・・・・自然治癒で治るのを待つしかないと?」

 

『ああ、その通りだ。薬なら無効化されないから問題ないだろうが、我の力は暴走状態だ。

今はこの部屋の空間自体が無効化の能力が掛かっている。主が回復するまでこの部屋は、

我の力が支配し続けるから注意しろ』

 

「・・・魔力が使えない状態ですか。この家にいる限り魔力を使う機会はないと思いますが?」

 

ソーナ・シトリーが首を傾げた。確かにそうだ。俺の部屋で魔力を使う機会はないはずだ。

でも、それでもゾラードは。

 

『念のためだ』

 

こう言うのであった。

 

「んー、魔法が使えないなら、どうすることもできないね」

 

「悪い」

 

「気にしないで、しょうがないさ。それじゃ、また後で様子を見に来るからね」

 

それだけ言い残し、和樹も部屋からいなくなった。―――残りはこいつら、皆か。

 

「イッセー、何か私にできることがある?」

 

「何でも言ってください」

 

「うん、そうだよ」

 

「そうだな、イッセーには世話になっているしここで少しでも恩返しをしたいかな」

 

「幼馴染としては放っておけないのよ!」

 

「楼羅、兵藤家式の栄養料理でも作ろ?」

 

「ええ、何もしないでいるよりはいいでしょうね」

 

一方が俺に何かを願い、一方は俺の為に料理を作りに行った。

 

「イッセー、ありがとうね」

 

「何だ急に」

 

「朱乃のお母さまを甦らせてくれたことよ。そのことに感謝の念を抱いているの」

 

「ああ、そういうことなら気にしないでくれ。

俺がそれをできる力を持っていたからやってみせただけだ。

今頃あの家族は久し振りの家族団欒でもしていると思うし」

 

明日、お礼をしに来て今の俺の状態に驚くだろうがな。

心の中で思い浮かんだ俺は自然と笑みを浮かべた。

 

「・・・うん、やっぱり私はイッセーくんの背中を追って良かったわ」

 

「イリナ?」

 

「だって、イッセーくんはヴァーリのように救ったじゃない。

今度は自分自身の手で。家族の絆を再び結ばせた」

 

幼馴染のイリナがニッコリと笑んだ。

 

「イッセーくん。これからも悲しんでいたり、困っていたり、

辛い思いをしている人がいたら今度は一緒に救おうね。約束だよ?」

 

俺に小指を立てた。でも、俺はそれに応えることができない。

 

「あっ、指を動かせない状態だったんだね」

 

ゴメンゴメンと、俺の手を掴んで小指をイリナの小指と絡ませる。

これだけで約束をしたということになる。

俺とイリナ、ヴァーリの間で決めた指きりだ。

 

「むっ、イリナと同じ同業者である私を除け者なんて許さないぞ」

 

不満げに言いながら便乗するゼノヴィア。

 

「私も付き合うからな。イッセー」

 

「ゼノヴィアの場合、デュランダルで敵を倒し続けていた方が役立つと思うわ」

 

「・・・ほう?つまり、私は人を救えないと言いたいのだな?」

 

眼光を鋭くし、イリナに問えば、

 

「敵に襲われている人を助けるのがゼノヴィアの方が適任だと言いたいのよ」

 

呆れ顔でゼノヴィアの長所もとい短所を告げたイリナだった。ゼノヴィアは首を縦に振りだす。

 

「なるほど、そう言うことなら確かに私の方が合っているな。イリナは攻撃の威力が弱いからな」

 

「パワータイプのゼノヴィアには言われたくないわ!私だって努力をしているんですもの!」

 

「よし、ならば私と勝負するか?勝った方は梅屋の牛丼スペシャルを奢ることだ」

 

「望むところだわ!」

 

牛丼一杯を懸けて勝負するなんてなんとまあ・・・・・低いな。二人もいなくなった。

段々と数が少なくなるな。

 

――――ゴソゴソ。

 

「ん?」

 

俺が寝る布団に誰かが接近してきた。誰だ?

と思い、視線を送っていれば・・・顔をヒョコリと出す龍神さま。

 

「オーフィス?」

 

「ん、我も寝る」

 

そのままオーフィスは俺の腹の上で寝始めた。んー、そうだな。

 

「悪い、俺も寝るわ。用があったら起こしてくれ」

 

「ええ、分かったわ」

 

目蓋を閉じ、息を吸って―――吐いた途端に意識を半ば強引に落とした。

 

 

―――○●○―――

 

 

「・・・・・ん・・・・・」

 

 

どれぐらい時間が経ったか・・・・・?不意に眠りから覚め、

おぼろげな状態の瞳で辺りを見渡した。

なに、この状況・・・・・?ロスヴァイセとセルベリアが隣で俺の腕を枕代わりにして寝ていて、

リーラが俺の手を握って寝ていたり、何故かグレイフィアまでもが俺の手を握って寝ていた。

腹の上にはオーフィスがいるのは分かる。でもだ、

 

『・・・・・』

 

何時の間にかリアス・グレモリーたちが俺を囲むように寝ているのはなぜだろうか?

しかも、この感じ・・・・・翼を展開している?メリア、どういうことだ?

 

『我の力も制御できなくなっております。

勝手に禁手(バランス・ブレイカー)となってこんな感じに翼が展開してしまったのです』

 

で、どうして皆が俺の周りで寝ている?

 

『主の翼から感じる温もりに心地が好過ぎたのでしょう。

翼に触れた途端に眠気が襲って各々と寝始めたのです』

 

あー、そういうことか。にしても、やっぱりまだ体が思うように動かせん。

 

『あと数日ぐらいはこの状態かと。頑張ってください』

 

おう、分かった。

 

ガチャ・・・・・。

 

「・・・・・あら」

 

「おっ」

 

俺の部屋に入室した少女―――姫島朱乃。

 

「・・・・・皆さん、寝ておられますのね」

 

「騒がれるよりは静かでいい。それよりも、母親の傍にいなくていいのか?」

 

「ええ、大丈夫ですわ。―――この家に連れてきましたので」

 

彼女は視線を扉の方へ向けた。朱乃の視線に視線を追えば、

甦らせた朱乃の母親が静かに入ってきた。

 

「・・・・・兵藤一誠くん、ですね?」

 

「ああ、そうだけどこの状態で悪い。今現在、指一本すら動かせない状態だからさ」

 

「構いません。寧ろ、私を甦らせたことに感謝しております。

娘や夫から色々と聞きました。そして、兵藤一誠くん、あなたのことも」

 

姫島珠璃はゆっくりとこっちに近づく。

 

「これからどうするんだ?」

 

「そうですね・・・・・できれば、娘と一緒に住みたいと思っております。

どうか、この家に私を住まわせてもらえないでしょうか?」

 

「母さまは私の部屋で一緒に寝てもらいますから・・・・・お願い、イッセーくん」

 

なんだ、そう言うことなら問題ないぞ。

 

「別に良いぞ。それに空き部屋はまだあるし、あなたが好きな場所で寝ても問題ない」

 

「寛大な処置に感謝いたしますわ」

 

「イッセーくん、ありがとう・・・・・」

 

二人から感謝の念を伝わる。

 

「俺はしばらくこの状態だ。朱乃、家の中を案内でもしてくれば?それかシンシアに頼んでさ」

 

「はい、そうさせてもらいますわ」

 

朱乃は母親を連れ部屋から出て行く―――。

 

「あっ、イッセーくん」

 

「なんだ?」

 

何時ものニコニコスマイル顔で彼女は言った。

 

「―――今日から、私もあなたを狙いますから♪」

 

「・・・・・」

 

「うふふ、それじゃあね、イッセー♪」

 

バタン・・・・・。と扉が閉まった。俺・・・・・またフラグを、旗を立たせてしまったか。

 

「・・・・・二度寝しよ」

 

現実逃避如く、俺は再度意識を落としたのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新学校のカオスとコスモスのヒューマン
Episode1


()

 

 

サーゼクスから俺たちがしばらく通う学校の話を聞き、早くも一週間が過ぎた。その間の俺は、

何事もなく生活を―――。

 

「うふふ、イッセーくん♪新しい学校に通うのってワクワクしますわね♪」

 

俺の腕にこれでもかと豊満の胸に挟んで満面の笑みを浮かべる朱乃という一部変わった状態で

送っています。―――なので、もうガイアたちから感じる嫉妬が物凄く怖くて、

内心は冷や汗がダラダラ垂れてどうしようもない。

 

「ちょっと朱乃・・・・・少しイッセーとくっつき過ぎないかしら・・・・・?」

 

「あら、可愛い後輩とのスキンシップをしているだけですわ♪」

 

「そのスキンシップはちょっと過激ではなくて?」

 

「うふふ♪これぐらいのスキンシップが過激なら―――ベッドの上で男と女の営みの行為は

軽いということになりますわね?」

 

朱乃の言葉にリアス・グレモリーが体を震わした。ああ、全身から紅のオーラが・・・・・。

幻覚じゃないよなあれ、

 

「私の・・・・・私のイッセーなのに・・・・・!」

 

「違う、いっくんは私と楼羅の夫だよ」

 

「そうです。そこは間違えないでください」

 

悠璃と楼羅が否定の言葉をリアス・グレモリーに突き付けた。

うん、確かに俺は二人の夫だけど・・・。

 

「一誠はまだ十八歳じゃないし、三人とも表上は結婚していないからまだ夫じゃないけどねぇー」

 

和樹が横から口を挟んだ。その結果―――。

 

「ですって、うふふ・・・・・!」

 

リアス・グレモリーが勝ち誇った笑みを浮かべた。

対して悠璃と楼羅はギロリと「余計なことを」とばかり睨んだ。

 

「「口は災いのもとと知らない?」」

 

「ごめんなさいっ!」

 

あーあー、初日でこれって大丈夫かな。

 

「ほら、皆さん。そろそろ行かないと学校に送れますよ。

遅刻してはあちらの皆さまにご迷惑が掛かります」

 

ビシッとしたパンツスーツを着たロスヴァイセが窘める。

セルベリアもそうだ。うーん、やっぱりな。

 

「似合っているな二人とも」

 

「ほ、褒めても何も出ませんよ?」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

俺のヴァルキリーは素材が良いから何でも似合いそうだ。

 

「・・・・・しかし、慣れないなこの制服は」

 

「そう?私はこの制服が好きだわ。特に色が白だし!」

 

ゼノヴィアとイリナの話が聞こえた。ああ、そうだな。―――駒王学園の制服じゃないしな。

 

「郷に入れば郷に従えという言葉があるし、お兄さまはあの学校の制服で登校するようにと

言われたしね」

 

「なんともいえない感じです」

 

「ははは、そうだな。しかも、小猫は不自然すら感じないほど着こなしている。

物凄く似合っているしな」

 

「・・・・・」

 

そうなのだ。塔城小猫は髪が白く体が小さい上に容姿も良いので、

違う学校の制服をいざ着て見れば、駒王学園よりも可愛く似合っていたんだ。

 

「にゃー、似合っているわ。白音」

 

「・・・・・ありがとうございます」

 

銀華に褒められ、照れる妹猫。ここに黒歌がいれば同じことを言っているんだろうな。

 

「それじゃ、新しい学校に赴くとしようか」

 

俺の一言に皆は頷いた。和樹が魔方陣を展開し、俺たちは光に包まれてこの場から姿を消した。

 

―――○●○―――

 

最初は全校集会をしてから俺たちが違う学校に行くことになっている。ので、今現在、

校長の話が終えて次に理事長であるサーゼクス・グレモリーがマイクの前に口を開いた。

 

『私から告げることは特に何もない。ただ、キミたちが違う学校に通ってその学校に在籍している

生徒たちや教師たちにくれぐれも失礼のないようにしてくれたまえ。

キミたちの言動の一つが相手に恐怖心を与えると思って学校生活を送ってほしい。キミたちが行く

学校は四種交流の象徴の学校である駒王学園ではなく、一般の学園だからね。

一般人に正当な理由じゃない限り攻撃もしてはならない』

 

それと―――、とサーゼクス・グレモリーは言い続けた。

 

『可能性の一つだ。またしても違う学校でもテロリストが襲撃してこないとは限らない。

なので、キミたちも襲撃された際にテロリストを迎撃してほしい。

特に力あるものは積極的にお願いしたい』

 

それから理事長は腕に巻いた時計を見て、俺たちに視線を戻した。

 

『では、時間だ。全校生徒の諸君。しばしの間、違う学校で学校生活を満喫してくれ』

 

カッ!

 

俺たちの足元に光り輝く魔方陣が出現した。

 

―――川神学園―――

 

「なぁなぁ!まだこねぇーかな!駒王学園の生徒たち!」

 

「キャップ、ちょっとは落ち着きなさいって」

 

「だってよ!悪魔と天使、堕天使の生徒もいるんだろ!?

俺、ファンタジーな存在は大好きなんだ!」

 

「俺は魅惑的な上級生の女子生徒と彼女ができればそれでいいぜ!」

 

「はは、欲望丸出し。悪魔に魂を売っちゃダメだよ?」

 

「わかってら。流石に俺さまはそこまでする気はないぜ」

 

「一体どこまでする気なのか敢えて聞かないよ・・・・・」

 

体育館に集まる白い制服を身に包む生徒たち。一部は私服の生徒もいるが、

この学園、駒王学園は学園に多額の寄付をすれば成績を変えれないが、

制服ではなくとも私服での登校が許可されるのである。

 

「だけど、ものの見事にこの学校も変わったよね」

 

「ああ、学校が三倍も大きくなっているだけかと思えば、奨学生が住む寮も増築されていたしな」

 

「しかも、クラスが二つも存在するなんてね」

 

「向こうの学校も実力主義のようだってね」

 

「げぇ・・・じゃあ、Sクラスみたいな奴らもいるってことか」

 

嫌そうな顔を浮かべる長身でガタイのいい男子生徒、島津岳人。

 

「うーん、もしそうならちょっと接し辛いね」

 

内気な雰囲気を感じさせる男子生徒、師岡卓也。

 

「おいワン子。確か川神ってあの兵藤の遠い親戚なんだろ?」

 

「って、言われても私は川神家の養女よ。だから私自身はそんな関係じゃないわよ」

 

頭に赤いバンダナを巻いた茶髪に長身な男子生徒、風間翔一と

赤毛のポニーテールの女子生徒、川神一子が話せば、

 

「・・・・・」

 

紫の髪に黙々と静かに本を呼んでいる椎名京。

 

「京は他校の生徒たちに興味はないのか?」

 

「・・・・・ない」

 

「そうか」

 

金髪に赤いリボンを結んだ女子生徒、クリスティアーネ・フリードリヒ。

彼女は椎名京の返答を聞き、別の男子生徒に問う。

 

「大和、お前はどうなんだ?」

 

「ああ、興味はあるよ。できれば、悪魔と天使、堕天使と繋がりを得たい」

 

知的な男子生徒、直江大和が首を縦に振ってそう言う。

 

「おいおい大和。間違っても悪魔に変な要求をすんなよ?魂を取られちまうからな」

 

「そのままそっくりガクトに返すぜ」

 

カッ!

 

不意に、横に光が生じた。体育館にいる生徒たちは光の原因へ視線を向けると、

そこには巨大な魔方陣が浮かんでいて―――光と共に大勢の少年少女、

駒王学園の生徒たちが姿を現したのだった。

 

「・・・・・奴さん、来たようだぜ」

 

「みたいだな」

 

川神学園の生徒たちの間に緊張が走った。相手は自分たちとは違う力を持つ存在が交っている。

人間の姿をしていて、誰が悪魔で、どれが天使、堕天使なのか見分けがつかない。

―――心に畏怖の念を抱く者は少なくない。

 

「ふぉっふぉっふぉっ。ようこそ、川神学園へ。歓迎するぞい、駒王学園の全校生徒諸君」

 

体育館のステージから声が聞こえた。全員の視線がそちらに向けると、

白い袴を着た長い白いヒゲを生やす老人。川神学園の学長である川神鉄心その人である。

 

「わしは川神学園の学長の川神鉄心じゃ。駒王学園の生徒諸君よ、よろしく頼むぞぃ」

 

『・・・・・』

 

静かに川神鉄心の言葉は体育館に響き渡る。

駒王学園の全校生徒はただ川神天心の言葉に耳を傾けるだけで、反応はいま一つ。

 

「うむ?緊張しておるのかの?では、わしがその緊張をほぐそう」

 

『・・・・・?』

 

何をするつもりだ?と駒王学園の全校生徒は怪訝な面持であったり、訝しんだり、

眉間にしわを寄せて川神鉄心の次の瞬間を待った―――。

 

「喝ァッ!!!!!」

 

ドオオオッ!

 

川神鉄心の短い声の上に気合の籠った声が体育館中の空気を激しく振動させ響き渡った。

 

『―――ッ!?』

 

ある者は目を見開き、ある者は空いた口が塞がらなかったり、ある者はいきなりの怒声とも

叫びともいえる声に耳を塞いだり、ある者は思わず足が竦んでその場で座り込んだりした。

 

『・・・・・』

 

が、中には平然と腕を組んでいたり、佇んでいたりしている者もいた。

その者たちに川神鉄心は笑みを浮かべる。

 

「(ふむふむ。そうでなくては心意気の教育のし甲斐がないというものじゃな)」

 

この学校の教育方針は『切磋琢磨』。お互い競争し合いながら高め合い、

後悔のない学校生活を送らすこと。

そこへ悪魔と天使、堕天使という人間とは全く別の存在がこの学校に通ってくる。

この機にさらなる切磋琢磨ができるというもの。

 

「(さてはて、残る不安の種は)」

 

両者が互いに認め合い、接すれるか・・・・・と川神鉄心は髭を擦りながらそう心の中で呟く。

 

「では、そろそろ自分たちの教室に戻るがいい。授業が始まるからのぉ」

 

川神鉄心の言葉によって全校集会は終了した。最初は川神学園の生徒が体育館からいなくなり、

次に駒王学園の生徒たちがいなくなった。

 

―――○●○―――

 

二年S組

 

「そんじゃ、何時もと変わらず授業をするぞー!」

 

『ウェーイッ!』

 

違う学校で授業が行う初日。俺たち二年S組は何時もと変わらない態度と授業をする。

 

「このクラスの長所というべきですかね」

 

龍牙が言う。逆に騒々しいから短所とも言えるけどな。

 

ブーッ!ブーッ!

 

・・・?誰からだ?ポケットに鳴り響く携帯を先生の目を盗んで取り出して操作する。メールだ。

相手は・・・・・川神百代、松永燕・・・・・?メールを開いて見れば―――。

 

『一誠、昼休みになったらそっちに行くからな』

 

『やっほー、一誠くん。お久しぶりだよん。隣で百代ちゃんがメールしているのを見たから

私もメールしたけど大丈夫かな?お昼休みになったらそっちに行くね』

 

二人がこのクラスに来る内容だった。先生にバレないように携帯を操作し返信した。

 

『楽しみにしている』―――と。

 

―――数時間後―――

 

午前の授業は終わり、違う学校の初日の昼食の時間と成った。

クラスメートたちは・・・教室から出ようとしない。各々と弁当を取り出しては一人で食べる者が

いれば、グループで食べる者もいる。俺たちは当然、グループで食べる側だ。

 

ガラッ。

 

扉が勝手に開く音。俺は視線を扉の方に向けた。来たか、と瞳に籠めて。

扉を開けた人物はこのクラスに入ってくる。黒い長髪に赤い瞳の女子生徒、

同じく黒い長髪に腰に装備品を巻き付けている女子生徒が。

 

「よっ、一誠。久し振りだな」

 

「久し振りだねん、一誠くん」

 

―――川神百代と松永燕。次期人王決定戦で戦った少女たちだ。

 

「久し振りだな。二人とも元気そうでなによりだ」

 

「お互いそうじゃなくちゃ困るさ」

 

俺に腕を回してくる百代。相変わらず力強く、女の香りがする。

彼女の顔を見れば、嬉しそうに口元を緩ましていた。

 

「はい、一誠くん。久し振りの松永納豆ー♪」

 

「おっ、サンキュー。ありがとうな」

 

久々の松永納豆。燕から受け取って、納豆を混ぜて―――。

 

「おい、納豆いるやつはいるか?半分やるぞ」

 

「よし、俺がもらってやる!」

 

嬉々としてクラスメートの男子の一人が白いご飯が入った弁当を持って近づいてきた。

その男子生徒のご飯に半分だけ納豆をあげると食べ始めた。―――お味は?

 

「うおおおっ!?この納豆、納豆特有の臭みもないどころか甘みがあって食いやすいぞ!」

 

と、松永納豆を絶賛する。

まあ、当然だろうけど、そんなに美味しいのか?と興味を持つ者が現れ―――。

 

「なあ、兵藤。俺もその納豆をくれるか?」

 

こう尋ねてくる。俺はニヤリと口元を吊り上げて燕に視線を向けた。

燕も俺の意図に気付いたようで、

 

「じゃじゃーん!松永納豆!興味のある人は私に言ってくれれば無料で提供しちゃうよーん」

 

腰の装備品から新たな松永納豆が入ったカップを取り出して見せびらかした。

 

「じゃあ、貰って良いかな?」

 

「どうぞどうぞ♪駒王学園の人と仲良くしたいからね。

前もって大量に準備してきたんだよん。あっ、生でも食べれるから試しに食べてみてねん」

 

そう言って男子生徒に渡せば、自分もと挙手してから近づいてくるクラスメートたち。

 

『う、うまいっ!』

 

―――このクラスは一つの納豆に心を開いた瞬間であったかもしれない。

 

「因みに、松永納豆は販売されているから買いたい奴は彼女かパソコンで注文できるぞ。

一つ百円だ」

 

「じゃあ、俺は十パック!この納豆は他の納豆より良い味がする!」

 

「私は三パックでお願いするね!」

 

「僕も三パック!」

 

クラスメートたちは笑顔で注文し始める。燕はペンとメモを取り出して注文票を記していく。

 

「一誠、上手いことをするね」

 

「何がだ?」

 

和樹の問いに敢えてはぐらかしてみたら、和樹は肩を竦め「分かっているくせに」と言われる。

 

「彼女を使ってこの学校の生徒と交流を持たせることだよ。

このクラスメートたちの性格はアレだから、

すぐに馴染むよ」

 

「とは言っても、今は一人だけだけどな。これからさ、大変なことがあるのは」

 

「そうだな。この学校でも風紀員の仕事を機能させないといけない。

まずはメンバーと会談しないと」

 

「生徒会も多分、同じことを考えていると思うよ」

 

それだけじゃない。駒王学園に在籍していた生徒たちがしていた部活もそうだ。

しばらくは線を引いて互いの部活と部活が分かれて行う日が続くはずだ。

それをどうにかするのは自分たちの意思次第だがな。

 

「そう言えば一誠。お前たちはどこに住むんだ?お前たちが通っていた学校と

この学校とかなり離れているだろう?だから、家もかなり遠くなっていると思うんだが?」

 

「ああ、俺たちは引っ越しなんてしていないから今の家に暮らし続けるつもりだ。

こっちは魔力、魔法があるしさ」

 

「なんだ、この辺りに引っ越ししているなら遊びに行こうと思ったのにー」

 

なんだ、そうだったのか。そいつは残念だったな。

 

「まあ、いいさ。こうしてしばらくの間はお前と接することができる。

この間は楽しくお前と過ごさせてもらうさ」

 

「そいつは俺も同じ気持ちだ。どうせ、俺と戦いたいんだろう?」

 

「はは、気付いていたか。だが、お前だけじゃない。

お前たち駒王学園の生徒たちと戦ってみたいな。神器(セイクリッド・ギア)の所有者も多くいそうだしさ」

 

ヴァーリと同じ戦闘狂め。

 

「悪魔と天使、堕天使と戦うのは控えておけ、

特にお前みたいな逸脱した力の実力者以外は手も足も出ない」

 

「このクラスにそういった奴らはいないのか?」

 

「全員、人間だ。しかも、実力と戦闘能力が人並みしか無い」

 

「ん?じゃあ、どうしてSなんだ?」

 

どうしてお前は俺が座っている椅子を半分占領するんだ?と、言い返しても良いかな?

 

「まあ、俺たちの学校は実力主義だから、期末試験も実力次第でクラスが変わるんだ」

 

「この学校と大して変わらないシステムだな」

 

そうだろうな。お前の学校も聞いた時は俺もそう思った。

 

「そう言えば、百代と燕ってどこのクラスだ?因みにこのクラスは元Fクラスだった」

 

「なんだ、一誠はFクラスだったのか?私たちもFクラスだぞ」

 

「・・・・・頭が悪い?」

 

「うるさい」

 

指摘したらデコピンが返ってきた。・・・・・痛い。

 

「そういうお前も元はFクラスだったんだから頭が悪いんだろ?」

 

「はっ、残念。俺はできる方なんだよ。Fクラスになったのは駒王学園に編入したからだ」

 

「どうして編入したら、Fになるんだ?」

 

「そこは―――清楚先生、説明をお願いします」

 

面倒なので他人を押し付けてみた。俺が押し付けた清楚は苦笑交じりで快く引き受けてくれた。

 

「川神さん、それはね―――?」

 

―――○●○―――

 

キーンコーンカーンコーン・・・・・。

 

午後の授業はあっという間に終わった。クラスメートたちは各々と席から立ち上がって鞄を持ち、

家へと帰宅する。

 

「そういや、カリン。お前は神奈川県に引っ越しているのか?」

 

「いや、引っ越していないぞ。私は魔方陣で転移して通っているからな」

 

・・・・・もしかして、ルイズも一緒か?と彼女に訊くと、

 

「ルイズ姉は家から迎えに来る車に乗って帰る。私は風紀員の仕事があるし、

ルイズ姉を先に帰ってもらっている」

 

「そっか。それで今日は?」

 

「川神学園の風紀員と会談しようと思っている。

私たち駒王学園の生徒たちのことを知ってもらうために伝えないといけないし」

 

「・・・・・すまん、迷惑掛けるかもしれない」

 

主に俺を追いかけてくる嫉妬集団の奴らがな。と暗に謝罪した。

カリンも俺の気持ちに気付き、苦笑した。

 

「イッセーはイッセーのままでいればいいさ。お前を守ってこそ風紀員があるようなものだ」

 

「・・・・・やっぱり、カリンは恰好いいなぁ」

 

「そ、そんな・・・・・恰好良いだなんて・・・・・バカ・・・・・」

 

ふふっ、久々に照れたなカリン。可愛いぞ。

 

「ねぇ、一誠。帰る前にちょっとだけこの学校を探検してみない?」

 

「ん?それは―――面白そうだな」

 

和樹の提案に笑みを浮かべた。俺は探検は大好きだ。勿論、しようじゃないか。

 

「じゃあ、カリンが風紀員の会談が終わるまで学校を見て回るか」

 

「え?私のことは気にせず帰って良いんだが?」

 

「俺がそうしたいんだ。お前は気にせず、仕事を務めていればいいさ」

 

ポンとカリンの頭に手を置いて撫でた。

 

「それじゃあな」

 

「あ・・・うん、終わったらメールする」

 

「分かった。んじゃ、探検しよう。プリムラと合流してな」

 

皆は頷き、俺と一緒に教室を後にした。

それから一階にいるプリムラと合流をし、この学校を把握するかのように歩き続ける。

途中、リアス・グレモリーたちとも合流して共に学校を見て回ることになってしばらくすると、

 

「ふーん、やっぱり私たちの学校と違うわね」

 

イリナが駒王学園と川神学園の構図を比較する話をした。

 

「そうだね。一人で歩いたら迷っちゃうかも」

 

清楚も肯定と首を縦に振る。だが、ある程度はこの学校の構図は理解できた。

 

「次は外に行ってみるか」

 

「外に?なにかあるのか?」

 

「グラウンドとかテニスコートとか、体育倉庫とかあるだろう?そこも確認するんだ」

 

というか、冒険をするんなら隅々まで見て回るもんじゃないか?

ノートにこの学校の構図を記しながら、

そう思いながら歩を進め続ける。玄関に置いた靴と履き変えて色んな場所へと探検していると、

とある建物を見つけた。そこへ近づいて中を覗いて見ると―――。

 

「ああ・・・・・ここは弓道部ですね」

 

ポツリと龍牙が呟いた。弓道部専用の制服に着替えて、

遠くにある的を狙って女子部員が矢を射っていた。

 

「駒王学園には無い部活ね」

 

「というか、私たちに不必要なものでしたからね」

 

深く同意と首を縦に振った俺だった。

 

「お前ら、悪魔だもんな。格闘技なんてする奴もあんまりいないし」

 

「殆ど魔力で戦うウィザードよりだからね」

 

和樹も肯定と俺の話に乗ってきた。―――と、そんな俺たちに

 

「お前たち、なにをしている?」

 

声を掛けてきた女の声が聞こえた。後ろに振り返れば、小豆色の髪の女性が立っていた。

 

「あー、すいません。探検という名目で川神学園を見て回っていたんですよ」

 

「・・・お前たち、駒王学園の生徒だな?」

 

「ええ、そうですよ。もしかして、見学しちゃダメでしたか?」

 

龍牙が女生と会話する。・・・胴着を見る限り、弓道部の顧問の先生か?

 

「いや、ダメというわけではないが、見覚えのない顔が揃ってこちらを見ていたからな。

声を掛けてみただけだ」

 

「すいません。お邪魔でしたら退散します」

 

和樹が俺に視線を向ける。「離れよう」と視線で伝えてくるので俺は肯定と短く頷く。

 

「―――次期人王の兵藤一誠」

 

「ん?」

 

「お前は弓道をできるか?」

 

・・・・・弓道?弓を射れることができるかってことだよな?

 

「やらせてくれるんですか?」

 

「できるならば、弓道部の部員たちに射る姿勢を見せてほしいと思っている。どうだ?」

 

「・・・・・」

 

皆に視線を向けた。「どうすればいい?」と。皆の返事は―――。

 

「大丈夫です。一誠さまならできますよ」

 

「うん、できる。信じているよ」

 

「うふふ♪恰好良いところ、見せてくださいな♪」

 

と、弓を射ってみてと風に言われてしまい―――初めて俺は弓を射ることとなった。

俺たちは女性に弓道部の建物の中へ案内され、

 

「ああ、自己紹介していなかったな。私は小島梅子だ。

担当教科は歴史で担当クラスは二年Fクラスだ」

 

「俺は兵藤一誠・・・って知っているか」

 

「お前のことはテレビで知っている。次期人王だからといって、特別扱いをする気はないからな」

 

「寧ろ、そのつもりで接してくれるとこっちも助かるよ」

 

彼女と話しをしていると、弓矢を手渡される。

 

「さて、見せて貰おう。お前の弓の腕前を」

 

俺、初めてなんだけどな。ここで外したら恥掻きそうだ。―――絶対に外せれない!

 

「・・・・・」

 

弓を握り矢を弦に番えて引っ張る。

俺の眼は―――真っ直ぐ遠くにある的の中央部分へ狙いを定めた!―――当たれッ!

 

ヒュンッ!

 

矢を放した時に生じる風を切る音。その矢は風を切り裂きながら真っ直ぐ的の方へ狙いを違わず

突き進む。俺の放った矢は・・・・・ど真ん中に命中した。

その結果に体の力を抜いて疲れた風に溜息を一つ。

 

「・・・・・良かった。初めてだけど真ん中に当たったよ」

 

『初めてだったぁっ!?』

 

と、周りから驚愕された。―――当たり前じゃん!弓すら触ったことないんだぞ!?

 

「お見事です。一誠さま」

 

リーラが笑みを浮かべて労ってくれる。ああ、ありがとう。

 

「初めてで中央の的に当てるとは・・・偶然か奇跡に近いものだな」

 

「練習と経験していくうちに中央の的に当てれそうだ」

 

小島梅子に弓を返して弓道部から去ろうとする。

 

「兵藤」

 

「はい?」

 

「弓道に興味あればいつでも来い。歓迎するからな」

 

「・・・・・まあ、部活に入らないつもりで遊びに来ますよ」

 

それだけ言い残して、皆と共に弓道部を後にした。その直後、携帯が震えだした。―――カリンか。

 

「カリンを迎えに行く。あっちも終わったようだ」

 

皆にそう言い、皆は頷いた。カリンを迎えに行くべく、再び校舎の方へ足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・兵藤一誠・・・・・また、会えたね・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode2

駒王学園ではなく神奈川県川神市にある学校、川神学園に通い始め、一日が経った。

翌日、俺たちは魔方陣を介して再び川神学園に姿を現す。

 

「よし、到着と」

 

「堂々と魔方陣で登校するなんて初めてだよ」

 

「まあ、そいつは他の奴らもそうだろうさ」

 

空を見れば、断続的に転移用魔方陣が出現して、悪魔や天使、堕天使の生徒、

または魔法使いの生徒たちが現れる。

 

「そうじゃない奴は電車で通勤してくるし、今のところ問題はないだろう」

 

「登校が問題無くても生徒と生徒の間の問題が多発しそうだよ」

 

「まあ、そこは生徒会と風紀員の仕事だな」

 

「ええ、最小限に抑えてみせます」

 

ソーナ・シトリーの発言に真羅椿姫も頷く。

 

「生徒会も、この学校の生徒会と交流するんだろう?」

 

「そのつもりです。対立したままでは生徒会の仕事がはかどれませんから」

 

「リアス・グレモリーは部活動するんだ?」

 

「ここでも活動をするつもりよ。悪魔としての仕事をちゃんとこなさないと」

 

うわー、神奈川県に住む皆さん。聞きましたか?このヒト、悪魔の仕事をここでもするそうなので

見かけたら避けて移動してください。魂を抜かれますよ!

 

「・・・・・なんか、物凄く不快なことを言われたような気がするわ」

 

「気のせいじゃないか?」

 

そうこうしている内に歩き続けていた俺たちは玄関に辿り着いた。

全員、それぞれのクラスの下駄箱に移動して上履きに履き替え―――。

 

バサバサッ・・・・・。

 

「「「「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」」」」

 

俺の下駄箱を開けてみたら、大量の紙が飛び出てきた。・・・・・なに、これ。

 

「送り主の名前はない・・・・・?」

 

「しかも、一誠の下駄箱にだけ入っているみたいだね」

 

「ちょっと読ませてもらいますよ?」

 

一枚の手紙を手にして中にある紙を取り出して復唱する龍牙だった。

 

「『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねッ!リア充爆発しやがれッ!』・・・・・ですって」

 

「うわー、新しい嫌がらせ?しかも、子供じゃん・・・・・・」

 

「・・・・・こっちも似たようなものですよ」

 

「こっちもだわ。最低ね」

 

こんなことする奴を思い当たる。違う学校に通うことになっているし、迷惑を掛けてはならないと

サーゼクス・グレモリーから言われているからこの手で嫉妬と憎悪を向けているんだろうな。

 

「全部焼却」

 

「かしこまりました」

 

取り敢えず、邪魔だから魔方陣で家に送ってっと。・・・・・上履きまで無い。

嘆息し、亜空間から新しい上履きを取り出してそれに履く。

 

「上履きまで無いなんて、本当に子供染みたイジメだね」

 

「こんな根暗なことをされるぐらいなら真正面からイジメられた方が何倍もマシだ。

物理的に返り討ちできるのに」

 

「・・・・・いっくんをイジメる奴は私が殺す」

 

「うふふ、力のなかった昔の私たちではありませんからね。今度は一誠さまを守りますよ」

 

あ、ありがたいけど・・・やっぱり迷惑を掛けちゃダメだってば・・・。

というか、悠璃。相手を殺すな!

 

―――二年S組―――

 

自分たちの教室に入れば、何時もと変わらずHRまで賑やかなクラスでありクラスメートたち。

 

「よう、兵藤!おはよう!」

 

「今日も集団登校か?」

 

「もう、すっかり兵藤くんたちの集団登校は見慣れちゃったわね」

 

「式森くん、おはよー!」

 

「葉桜さん、おはようございます」

 

うん、今日も元気有り余っているなこいつら。挨拶される度に俺たちも挨拶をする。

 

「何時もと変わらないねー、違う学校なのに」

 

「何時までもそんなこと気にするような奴らじゃないと、思っているけど?」

 

「あははは・・・・・」

 

清楚が苦笑する。物凄く心当たりがあると、だからそんな笑みを浮かべるんだろうな。

各々と自分の席に座ってHRまで俺たちも話し合うことにした。

 

ガラッ!

 

「うるさいのじゃ!」

 

『・・・・・?』

 

いきなり教室の扉を開け放って見知らぬ女子生徒・・・というか、着物を着た少女に注意された。

クラスメートたちは、頭の上に疑問符を浮かべて首を傾げた。

 

「誰だ、あいつは?」

 

「きっとこの元々学校にいる生徒なんじゃない?」

 

「でも、着物を着ているぞ?そんな生徒がいるのか?」

 

「あれでしょ?学校に多額の寄付すれば、自由な服装で登校できるって

この学校のパンフレットに書いてあったわ」

 

「ああ、なるほどな。でも・・・・・流石に着物はないだろー」

 

『うんうん、言えている』

 

クラスメートたちが正直に笑みを浮かべて笑い声を上げる。別に嘲笑しているわけじゃないが、

確かに学校と着物は合っていない。

 

「こ、此方の着物を蔑むとは・・・いい度胸じゃな・・・・・っ!

此方を誰だと心得てその口から此方を嘲笑っておるのじゃ!?」

 

『いや、お前(あなた)(キミ)のこと、今日初めて会ったばかりだから知らないし。

というか、逆に誰?』

 

「~~~っ!?」

 

顔を怒りで顔を真っ赤にした着物の少女。・・・・・あの独特な喋り方。どこかの令嬢か?

 

「お、同じ2-Sだからどんな輩がいると思えば、

下賤な山猿ばかりの集団とは思いもしなかったわ!」

 

『・・・・・?』

 

どうして自分たちは怒られるんだ?と風にクラスメートたちは首をまた傾げる。

駒王学園ではどんなに騒がしくても、一切の苦情はなかった。でもそれは駒王学園だからだ。

今の俺たちは川神学園に在籍している。

学校が違うとこうも勝手が違うということか・・・・・。

 

「俺たち、普通に過ごしているんだけど?」

 

「山猿のようにキーキー騒いでか!?」

 

「それがこのクラスのモットーだよ?」

 

一人の女子生徒がとある方へ指す。そこには―――。

 

『元気百倍!』『百%勇気!』『元気溌剌!』『騒然上等!』『元気玉!』

 

と、元気という共通性がある文字が壁に飾られていた。

 

「そういうわけだから」

 

『うん、その通り』

 

「・・・・・っ」

 

クラスメートの大半が肯定と頷いた様子に着物少女は体を震わす。

―――というか、何時の間にアレがあったんだ?昨日はなかったはずだぞ。

先生辺りが飾ったのだろうか?

 

「駒王学園の者どもはろくでもない集団じゃな・・・・・」

 

「・・・・・なんですって?」

 

「そうであろう?人間の敵である悪魔と堕天使が平然と此方たちが住む人間界に闊歩しておる

ではないか。それを下賤な輩である貴様らは平然と受け入れておるではないか。

普通は怖がることろじゃぞ?もしや、貴様らは悪魔や堕天使に洗脳されておるではあるまいな?」

 

『・・・・・』

 

あー、やっぱりそんな認識か。理解しかねないわけじゃないけど・・・あまりの言い草だろ。

 

「にょほほ♪その前に騒々しい山猿の知能は低過ぎて洗脳される前に

調教されておるのかもしれぬな?

おー、怖い怖い。山猿は山猿らしく、山に帰って騒々しく―――」

 

ガタッ。

 

「にょ?」

 

ガタガタガタ・・・・・ッ。

 

徐に、クラスメートたちが立ち上がった。・・・・・こいつらから怒気を感じるぞ。

 

「あのさ、いいかな?」

 

「なんじゃ、高貴な此方に意見かの?」

 

「そりゃ、騒々しかっただろうし、うるさかったかもしれない。それは悪いとは思っているぞ。

けどな、さっきから俺たちのことを山猿と言うのはどうかと思うぞ?お前さ、何様だよ?」

 

「ふん、此方のことを知らぬ下賤な輩に名乗る必要もないわ」

 

着物の少女は嘲笑の笑みを浮かべた。

 

「この二年S組の不死川心の名をな!」

 

・・・・・・思いっきり自分で言っているじゃん。

 

キーンコーンカーンコーン・・・・・・。

 

鐘が鳴った。HRの時間だ。

 

「よいな。今日のところはこれぐらいにするのじゃ。

じゃが、また此方に迷惑を掛けたら貴様らの明日はないと思え」

 

『・・・・・』

 

クラスメートたちが睨むだけで何も言わない。

不死川心という少女は笑いながら教室からいなくなったところで、

 

「あいつ、嫌い」

 

悠璃がポツリと呟いた。あー、早速亀裂が入っちまったな。

これからどうなることやら・・・・・。

 

「和樹、防音の魔法でも施そう」

 

「そうした方が賢明かもね」

 

はぁ・・・と俺たちは溜息を吐いたのであった。

 

―――○●○―――

 

キーンコーンカーンコーン・・・・・。

 

授業は程なくして終わり、午前の授業は終えた。

防音の魔法、結界を施して授業をしていたから苦情は当然ないが、

これから毎日こうしないといけないのだと思うと溜息が出る。

昼休みと成り、俺たちは教室で弁当を食べることにした。

 

「―――ん、来たな」

 

「え?誰のこと?」

 

ガラッ、

 

「一誠、美少女が来たぞー」

 

「同じく、松永燕の登場よん」

 

あの二人だ。と目線で言えば、和樹は納得した面持ちと成った。百代と燕がこっちに来て、

一緒に食べるためか、パイプ椅子を持っていて俺の机の前に置きだした。

 

「昨日もそうだけど、先輩は友達と食べないの?」

 

「ん?ここに友達がいるじゃないか」

 

「いや、それはそうだけど・・・・・」

 

俺に指す百代に和樹が少し戸惑いの色を浮かべる。和樹の言いたいことも分かるが、

彼女自身が決めていることだから、俺は敢えて何も言わない。

 

「一誠、この学校に馴染んだか?」

 

「うーん、まだ二日目だから何とも。それに・・・・・」

 

「それに?」

 

ガラッ!

 

「にょほほ、今度は静かにいるようじゃのぉ山猿どもよ」

 

『・・・・・』

 

再び現れた着物の少女こと不死川心。

クラスメートたちは弁当を食べる手を停め―――彼女を睨んだ。

 

「あー、不死川か」

 

「やっぱり知っていたか」

 

「そりゃ、この学校の生徒なら一度ぐらい顔を見るさ」

 

ある意味人気者ってことか。

 

「うむ、静かにしておれば此方は大満足じゃ。

またキーキー煩く鳴かれると此方の耳が腐ってしまうからのぉ」

 

『・・・・・っ』

 

・・・・・あいつ、俺たちと仲良くする気はないな?明らかに俺たちを侮蔑しているし。

 

「おい、用がないなら教室から出ていけよ」

 

「高貴な此方にそのような物言いをするとは怖いもの知らずじゃな。勿論、悪い意味でな?」

 

「・・・・・私たちに喧嘩を売るつもりなの?

まだ私たちがうるさくしていたことを根に持っているの?

どっちなの?」

 

「その問いに此方が答える理由はないのじゃ」

 

扇子を広げて口元を隠して嘲笑の笑みを浮かべ、そう言い放つ彼女に―――。

 

「・・・・・」

 

清楚が立ち上がった。そして、真っ直ぐ不死川心に向かう。

 

「なんじゃ、おぬしは」

 

「私はこのクラスの委員長の立場である葉桜清楚です。

朝の事に関してはこちらに非があると思っているわ。

でも、それ以上にあなたは私たちに何をされたの?

私たちが互いのコミュニケーションをしていただけ、

それがうるさかったのは確かにいけなかった

かもしれない。前の学校、駒王学園では何時も賑やかに友達同士と話をしていたから

違う学校でも変わらずにしてしまった。だから、このクラスにいる友達の魔法使いに

防音の魔法を施して授業を受けていて、今でも施された防音の魔法の中で私たちは

食事をしているの。それなのに、あなたはなに?」

 

「な、なにがじゃ・・・・・」

 

あの、彼女がマシンガントーク・・・・・・。初めて見た。

 

「あなた、かなりプライドが高そうだけど、プライドだけで生きていられると思ったら大間違いよ。

そんなんじゃ、一人の友達だってできやしない」

 

「―――っ!?」

 

真っ直ぐ清楚はそう言い切った。不死川心は絶句したかと思ったら、憤怒の形相を浮かべ出す。

 

「こ、此方に説教などと・・・・・いい度胸じゃな。お主は・・・・・!」

 

「説教じゃないよ。ただこれ以上、このクラスの生徒たちに過剰な罵倒をしないでほしいと

思って言っているだけよ」

 

「そう言うのを説教と言うんじゃ!貴様、此方を怒らせたらただでは済まんぞ!」

 

「どんな風に済まないの?」

 

せ、清楚・・・・・・さん・・・・・?

 

「ふん!貴様の家族を滅茶苦茶にするぐらいは、

不死川家の威光と権威であっという間にできるわ!」

 

「・・・・・へぇ?私の家族を・・・・・・?」

 

彼女は尻目で俺に視線を送ってきた。な、なんだ・・・・・?

 

「じゃあ・・・・・私の家族、次期人王の兵藤一誠くんもそんなことができるんだね?」

 

「・・・・・なんじゃと・・・・・?」

 

「あなたの家と人王・・・・・どっちが上なのかなぁ?」

 

うふふ、と清楚が怖い笑い声をする・・・・・・!?

 

「・・・・・あれ、絶対一誠に影響しちゃっているよ。特にSの方が」

 

「確実に間違いないですって・・・!

あんな清楚さんは今まで見たこともないですって・・・・・!」

 

長く清楚と接している和樹と龍牙が冷や汗を流して声を震わせた・・・って、俺の影響のせい!?

 

「言っておくけどね、このクラスは次期人王の兵藤一誠くんがいるんだよ。

あなたの朝と今の言動を彼はずーと見ていた。

だから―――彼が人王になった暁にあなたの家なんて

あっという間に滅茶苦茶にだってできるんだよ?ふふっ、それでもいいのかなー?」

 

せ、清楚さぁぁあああああああああああああああん!?あんた、なに言っちゃってんのっ!?

 

「因みに、私は彼の恋人だから・・・・・私だけじゃなく、他の皆にも酷いことをしたら

一誠くんが怒るからね?その時はあなたを助ける人なんて一人もいないし私たちも知らないから。

それを承知の上でいいならこれからもこのクラスに来てドンドン罵声をしてきても構わないよ」

 

そう言って彼女は・・・・・徐に不死川心の額に―――デコピンした。

 

ズドンッ!

 

「にょわぁっ!?」

 

―――ガラッ!

 

デコピンした拍子に不死川心が教室からいなくなるように吹っ飛んで、

清楚がすぐに扉を思いっきり閉めた。

 

『・・・・・』

 

唖然と絶句で彼女を見詰める俺たち全員。対して彼女はふぅ、と溜息を一つ。

 

「さて、昼食の続きでもしましょう♪」

 

―――川神学園側二年S組―――

 

ガラッ!

 

「ムカつくのじゃーっ!」

 

「帰って来て早々・・・何が遭ったのですか?それと額に大きなタンコブを作って・・・・・」

 

「どーせ、言い包められたんだろ?二年F組にさ」

 

「違うわ!二年S組の駒王学園の奴らにじゃ!」

 

「おいおい、駒王学園にかよ・・・・・お前、いい度胸してんなー」

 

スキ-ンヘッドの男子生徒が冷や汗を流して言う。名は井上準。

 

「なるほど、だから朝も彼らのクラスに行っていたということでしたか。納得しましたよ」

 

褐色肌に眼鏡を掛けている男子生徒、葵冬馬。

 

「ですが、彼らとは友好的に接するようにと事前に学長から言われていたではないですか」

 

「あ奴らがF組のようにキーキーと山猿のようにうるさかったから高貴な此方がちょーと、

注意したら奴らはあろうことか口答えしたんじゃぞ!」

 

「お前の注意の言い方は大体予想できるから大方、怒りを買わせたんだろうよ。

勘弁してくれや・・・」

 

「そうですね。彼らは私達とは違う存在であり、

多数の生徒には神器(セイクリッド・ギア)を宿している学園の生徒たちですからね」

 

「だからなんじゃ!こっちだって神器(セイクリッド・ギア)の所有者だっておるじゃろう!

例を挙げれば小雪もその一人じゃ!」

 

ビシッ!と白い長髪に赤い瞳の女子生徒、榊原小雪に指す不死川心であった。

 

「ウェーイ♪」

 

肯定とばかりに笑顔を浮かべた榊原小雪。しかし、葵冬馬は溜息を吐く。

 

神器(セイクリッド・ギア)にも相性というものがありますし、禁手(バランス・ブレイカー)

至らなければ勝ち目なんてありません。この学校に至った人は限りなく少ないのですよ?」

 

「いるとしちゃぁ・・・モモ先輩と噂じゃあ学長の川神家族だよな?」

 

「ええ、そうですね。それに比べて、向こうは大勢いるでしょうし、

こちら側は圧倒的に不利と言うわけです」

 

「葵くんとあろう者が弱音を吐くなどと・・・・・」

 

「現実を見て言っているまでですよ」

 

ニッコリと笑みを浮かべる葵冬馬だが、それでも納得がいかないのか、

体を震わせて悔しそうに口にする。

 

「おのれぇ・・・・・っ!あのクラスにどんな手を使ってギャフンと言わせたいのじゃ!

特に此方に説教した葉桜清楚を!できれば兵藤一誠もじゃ!」

 

「・・・・・兵藤一誠?」

 

不意に、榊原小雪が反応した。彼女だけじゃない、葵冬馬と井上準も顔を見合わせだした。

 

「おい、不死川。兵藤一誠って次期人王の・・・・・?」

 

「それ以外誰がいるのじゃ」

 

不死川心は不機嫌に言う。が、

 

「・・・・・まさか、彼が駒王学園に在籍していたとはね・・・・・」

 

「テレビで見た時は驚いたが・・・・・とんでもない偶然だなこりゃ」

 

「―――僕、会いに行ってくる!」

 

突然、榊原小雪がどこかへ行ってしまう。彼女に続き、

二人も行ってしまい―――駒王学園の二年S組に三人が突入して辺りを見渡せば、

 

「・・・・・」

 

唖然と三人を見詰めた一誠と目が合い―――榊原小雪は顔を明るくした途端に、

 

「やっと会えたよ!一誠ぇえええええっ!」

 

歓喜の声を上げ、物凄い跳躍力で一誠に飛び付き抱きついた。

 

「こ、小雪ぃぃぃっ!?」

 

『ええええええええええええええ!?』

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode3

 

「さて・・・・・彼女たちとどういう関係なのか、説明してくれちょうだい?」

 

「・・・・・」

 

放課後と成り、俺は懐かしき人物たちとリアス・グレモリーたちに囲まれていた。

 

「えへへ♪一誠ー♪」

 

俺の背中から抱きついて密着してくる白い髪の少女の最中で。

 

「十年前・・・・・リアス・グレモリーたちと出会ってしばらく経った頃に出会った」

 

「十年前・・・・・?あなた、また人間界に訪れていたの?」

 

「そうだ。その時はリーラとな」

 

彼女、リーラ・シャルンホルストに視線を向ければコクリと肯定と頷いてくれた。

 

「はい、その時はこの町、川神市に訪れて買い物をしていました。

一誠さまも気分転換をしてもらうためと思い、私と共に・・・・・」

 

「で、一誠はどうして彼女に懐かれているの?」

 

「リアス・グレモリーと形は違うけど彼女を助けたんだ」

 

「うん、お腹すき過ぎて死んじゃった僕を甦らしてくれたんだよねー♪」

 

『・・・・・へ?』

 

皆が間抜けな返事をした。まあ、それはそうだろうな。

―――彼女が餓死で死んだだなんて、誰も最初は耳を疑う。

 

「朱乃の母親を甦らせたように彼女にもあの力で甦らせたんだ。

まあ、それをしたら一週間も寝たままだという代償だったけど」

 

「え、ちょっと・・・彼女が餓死って・・・・・どういうこと?」

 

「そのまんまの意味だ。彼女の母親は例にも零れず彼女を虐待していたんだ。

それこそ食事を与えない時もあった」

 

「あつーい夏の太陽の日差しの中で倒れちゃってーそのまま僕は死んじゃいました♪あはは!」

 

いや、そこは笑うところじゃないと思うけど?内心呆れて溜息を吐いたら、

 

「それで、その後はどうしていたの?」

 

清楚にその後のことを尋ねられた。うーん、どうなったっけ?

 

「俺が目覚めたのは一週間後だったからその一週間の間はよく知らない。

リーラ、彼女はどうしていた?」

 

「はい、纏めて言えば念のために病院へ連れて検査をしてもらい、彼女の母親には虐待の罪で

警察に報告・逮捕してもらいました。その後、彼女の養母となる者に弁護士の付き添いのもとで

彼女を養女として引き取ってもらいました」

 

「だ、そうだ。一週間後に目覚めても体がろくに動かなくなっていて、

車いすに乗って彼女と再会した時には・・・・・」

 

「ウェーイ♪」

 

「まあ、こんな感じで元気になっていた。そんで、彼女と再会した際にはこの二人とも出会った」

 

「ど、どうも・・・・・」

 

「・・・・・」

 

スキンヘッドの男子生徒と眼鏡を掛けたイケメンで褐色肌の男子生徒。

 

「まあ、この三人とは数日間だけ交流をしていたんだ。

後は冥界や人間界のとある様々な場所で修業に明け暮れていた。以上だ」

 

『・・・・・』

 

皆の反応は無言だった。

 

「・・・・・まあ、彼らしいっちゃ彼らしいわね」

 

「はぐれ悪魔を追い返してくれたぐらいですから、無茶振りをしそうです」

 

「やっぱり、イッセーくんは恰好良いっすね!」

 

「はい、素敵です・・・・・」

 

「うんうん!私の幼馴染は凄いのよ!」

 

「いっくんの幼馴染は私と楼羅も同じ・・・・・」

 

無言はあっという間に終わり、俺を褒め称えてくれる。

 

「それにしてもお前、次期人王決定戦で見て俺たちは驚いたぜ?」

 

「はい、久し振りに見た戦うあなたをね」

 

「お前らがこの学園にいたことも知らなかった俺も驚いているけどな」

 

二人の男子生徒、葵冬馬と井上準と久し振りに会話をする。

 

「というか、井上の場合は何故にスキンヘッドに?」

 

「俺が寝ている時にユキに髪を破壊されたんだよ。まっ、気に入っているから良いけどな」

 

「・・・・・小雪の悪戯によってそうなったのか。似合って入るけど」

 

「そいつはどうも。ところでだ」

 

「ん?」と返事をしたら、

 

「お前と人王の姫って正式に結婚してんの?」

 

「いや、裏ではそうなっているけど、表は俺が18歳にならないと

結婚できないし・・・形だけの結婚だ。でも、いつか本当に彼女たちと―――」

 

「私たちも、ね?」

 

リアス・グレモリーに横やりを入れられた。・・・・・はいはい。どうせ、そうなるさ。

 

「なに、お前・・・・・人王の姫だけ飽き足らず、他の女にまで手ぇ出しているの?」

 

「手を出した覚えはないし、体を重ねた覚えもない。・・・・・数人を除いてだけど」

 

「「・・・・・」」

 

清楚が途端に顔を赤くした。もう、それだけで俺と体を重ねたと周りに分からせるもんだった。

リーラは表情を変えていない。

 

「ハーレムですか、素晴らしいですね♪」

 

「別にそんなこと意識した覚えはないんだけどな」

 

「あんたはそうだろうけど、その言動と魅力にあんたに好意を抱いてしまう女の子は

一杯いるってこと覚えておきなさい」

 

・・・・・キキョウ。それはまるで俺が無自覚に行為を抱かせていると聞こえるんだけど。

 

「キキョウちゃんもその一人っすけどねぇ?」

 

「なっ!シ、シア・・・・・!?」

 

「だって、イッセーくんに救われた女の子の一人だし、

それにキキョウちゃんの部屋にはイッセーくんの―――」

 

「わー!わー!わー!」

 

リシアンサスが気になる発言をしたが、キキョウがそれを良しとせず、

彼女の口を両手で防いで声を荒げる。

それを見ていたようで小雪、榊原小雪が・・・・・。

 

「むー、一誠は僕のだよ!誰にも渡さない!」

 

ガッチリと俺に体を押し付けながらそう宣言したのだった。

 

『・・・・・なんですって?』

 

新たな恋敵が出現して、目を丸くした皆だった・・・・・。

 

―――○●○―――

 

久し振りに再会した懐かしい三人組と話して翌日。

学校に登校した俺たちは教室に赴いている最中だった。

 

『・・・・・』

 

あからさまに川神学園の生徒に嫌な視線を向けられている。

 

「あはは、物凄い視線が感じますね」

 

「他校の生徒と交流すると必ずこうなるんだろうね・・・・・」

 

「まったく、面倒な奴らだ」

 

龍牙、和樹、俺はこの状況を口にしながら教室へと向かう。と、俺の視界に白い弾丸―――。

 

「いっせぇっ!」

 

ドゴンッ!

 

「ぐほっ!?」

 

じゃなく、榊原小雪が頭から突っ込んできた。

そのおかげで、朝食べたもんが吐きそうになってしまった。

 

「おー、早速ユキの奴は行ったな。んで、おはようさん」

 

「おはようございます、一誠くん」

 

二年S組と違う二年S組の教室から葵冬馬と井上準が出てきた。

 

「お、おはよう・・・・・つーか、小雪。抱きつくなら頭はよしてくれ」

 

「えー、じゃあ、こうするねー」

 

そう言って俺の背中に回って抱きついてきた。

 

「「「「「「・・・・・」」」」」」

 

リーラ以外の少女たちが厳しい目で向けてくる・・・・・。おおう、嫉妬の眼差し・・・・・。

 

「立ち話でもなんですから、教室でも?」

 

「ん、そうだな」

 

葵冬馬の提案に肯定と教室に入る。自分たちの席に座ると三人は俺の傍で佇んで―――。

 

「よいしょっと」

 

否、小雪は俺の股の間に座りこんで背中を俺に預けてくる。

 

『・・・・・我の特等席』

 

あれ・・・・・いま、オーフィスの声が聞こえたような・・・・・空耳か?

 

「あったかーい♪」

 

「そうか?」

 

「うんっ!」

 

元気よく返事をされた。・・・・・子供のようだな。いや、未だに彼女も俺も子供だけどさ。

 

「さーて、改めて自己紹介でもするかね」

 

井上準が話を進め出す。

 

「俺は井上準。川神学園の2-Sに所属しているんだが・・・不死川の件についてはすまないな」

 

「同じく2-Sの葵冬馬です。好きなことは女の子とお話しすることでしょうかね」

 

「僕は榊原小雪!好きな食べ物はマシュマロだよー!」

 

三人が自己紹介を終えれば、この流れに乗らずにはいられず、清楚たちも各々と自己紹介をした。

彼女たちも自己紹介を終えれば、雑談をし始める。

 

「なあ、一誠。部活はどーすんの?」

 

「部活?俺は帰宅部だぞ」

 

「なんだ、てっきり運動系の部活にでも入っているのかと思ったぜ」

 

「入る理由もないし、その必要性も感じないんだ」

 

だから、時間も余裕ができて家族との接する時間が多くあるわけで現状に満足している。

 

「じゃあよ、放送部に顔を出してくんね?」

 

「放送部?」

 

どうして放送部に?というか、井上準は放送部員だったのか?

 

「ああ、俺は放送部でよ。

他にモモ先輩と校内ラジオ放送LOVE川神って校内放送をしているんだよ」

 

「へぇ、意外だな」

 

「まあな。それでどうだ?お前ならモモ先輩も歓迎してくれると思うけど?」

 

ふむ・・・・・校内放送か・・・・・ここいら、俺たち駒王学園の生徒のことを知ってもらう

必要があるし・・・・・してみる価値があるか。

 

「ん、いいぞ」

 

「おっ、拒否される前提で頼んだのに引き受けてくれるのか?」

 

「駒王学園の生徒のことも知ってもらう機会だ。俺たちの学園のことも知ってもらうには

校内放送がうってつけだ。でも、俺だけじゃなく他にも何人か誘っていいか?」

 

そう尋ねると、二つ返事で了承してくれた。さてと、そういうことならあいつらにメールだな。

 

―――昼休み―――

 

―――放送室―――

 

「おおっ!綺麗な美少女が選り取り見取りー♪」

 

井上準に放送部=放送室に顔を出した俺は、リシアンサス、キキョウ、ネリネ、リコリス、

デイジーを引き連れて訪れた。放送室に入ると、キラキラと目を輝かす百代が出迎えてくれた。

 

「一誠もか?だけど、どうしたんだ?こんなハゲしかいない部屋にさ」

 

「そのハゲに誘われて来たんだ。ああ、準。彼女、駒王学園では放送部だった子だ。

今日から彼女も放送部員として一緒に校内放送をしてくれるか?」

 

と、デイジーを自己紹介する。駒王学園じゃ、彼女は一人しかいない放送部だったからな。

この学校で放送部として活動してくれれば問題ないはずだ。

 

「へぇ、放送部だったんだ?」

 

「えっと・・・・・私しかいませんでしたけど・・・・・」

 

「ああ、フレンドリーでいいぜ。俺は井上準だ。よろしくな」

 

「気をつけろよ。こいつは根っからのロリコンだからな」

 

・・・・・井上準・・・・・・お前って奴は・・・・・。

 

「ちょっとモモ先輩。俺は幼女を純粋な気持ちで好きなだけですってば。

決して卑しい気持ちなんて持っておりません!」

 

「・・・・・まあ、井上の女の趣味は置いて放送の打ち合わせをしよう」

 

「それもそうだな。ただ、時間も限られているから簡単に説明するぞ。

おいハゲ、お前が説明しろ」

 

「はいはい、分かっていますってば。まあ、今回は一誠たちは特別ゲストとして俺とモモ先輩が

お前らに色んな質問をする。で、質問をお前らが返答するって感じで放送するからな。

何か質問は?」

 

俺は特にない、他の皆に視線を向ければ・・・問題ないと視線で伝えてくるリシアンサスたち。

 

「大丈夫だ」

 

「そうか、そんじゃそろそろ始めるから心の準備をしておいてくれ」

 

そう言って井上準は放送設備を弄り始めた。対して百代はどこから出したのか分からない

ピーチジュースを飲み始めた。少しして、井上準が合図を始めた。

百代は目で「やれ」と伝えれば、井上準がマイクに向かって口を開く。

 

「ハァイエブリバディ、ケータイのを待ち受け画面に自分の写真にしているナルシスとは

いないかな?今週もラジオ番組LOVEかわかみが始まるよー。パーソナリティーは

二年でスキ-ンヘッドの井上準」

 

「人生、百花繚乱酒池肉林。三年の川神百代だ」

 

対に始まった校内放送=ラジオ番組。

 

「いやー、最近は色々とありましたね」

 

「ああ、特に県外から他校の全校生徒がこの川神学園に編入の形で共に切磋琢磨するように

なったがな。その他校の名前は駒王学園」

 

「駒王学園と言えば悪魔と天使、堕天使という人間とは全く違う種族もいますね?

モモ先輩はこの三つの種族の中で誰と戦いたいですか?」

 

「んー、やっぱり私は全員と戦ってみたいな。特に印象的な悪魔がいるんだ。

―――サイラオーグ・バアル。いま、私の中で戦いたいランキングでベスト3の中に入っている」

 

「では、残りの二人は誰ですか?」

 

「そうだなー。やっぱり神と魔王だな。あっ、因みに神と魔王はセットでだからな?

残りの一人は―――次期人王の兵藤一誠だな」

 

「おお、モモ先輩らしいですねぇー」

 

「だって、私より強い男だからな」

 

「さて、そろそろメールを読みたいところですが―――今回は特別ゲストを招いているんで

その方たちに質問をしてみたいと思います。メールを送ってくれた皆はごめんなさいね!」

 

「それでは、特別ゲストにも喋ってもらおうか」

 

そう言って百代は席に立ち上がって席を俺に譲ってくれた。その席に座ると井上準が口を開いた。

 

「特別ゲストの一人!まずは、駒王学園の二年S組所属、

そして次期人王である兵藤一誠さんです!」

 

「どうも、兵藤一誠だ。川神学園の全校生徒お呼び教師の皆さん。よろしくお願いします」

 

「いやー、兵藤一誠さん。この学校に編入して早三日目なんですがこの学校に馴染めましたか?」

 

「まだ三日目と言うわけでまだまだ。でも、学校の中を探検はしたぞ。

やはり通う学校が違うと階段の場所や設けられた教室の場所も違うな」

 

「そうですか。それはそうと、次期人王となって何か変わりましたか?」

 

「特に変化はないな。まあ、俺が卒業すると色々と忙しくなるのはまず間違いないと思う。

世界中の人間の代表として、頑張らないとな」

 

「はい、頑張ってください。では、次のゲストにも質問してもらいましょう!」

 

それが俺への質問の終わりだと分かり、席から立つ。

 

「シア」

 

「うん」

 

リシアンサスと交代する。彼女が席に座れば、

今度は百代が井上準と入れ替わってリシアンサスに質問した。

 

「今度はこの私が特別ゲストに質問だ。こんにちはお嬢さん。お名前を聞いて良いかな?」

 

「はい、私の名前は駒王学園の二年D組のリシアンサスです。名前が長いからシアと呼んでください」

 

「ありがとう、私のことはモモ先輩と呼んでくれ。では、質問だ。

シアの家族はどんな人でしょうか?」

 

「えっと、ウチのお父さんは天界に住む天使を統べる神王で、

お母さんは冥界の悪魔を統べる五大魔王の妹なんです」

 

「・・・・・これは驚きだ。神王さまの娘だとは思いもしなかった。

それに魔王の妹が母親なんて・・・」

 

そう言えば、百代は彼女の家族のことは知らなかったっけ。まあ、それはどうでもいいことか。

 

「となると、あなたは天使の代表的な存在としてこの学校に通っているということになりますね」

 

「はいっす!だから、川神学園の皆さんとは仲良くしたいと思っています。

もしも、私と出会ったら気軽に声を掛けてください。神王の娘ではなく、

一学生のリシアンサスとして皆と仲良くしたいので、どうかよろしくお願いするっす」

 

「うーん、健気な彼女だ!シアちゃん、抱きしめていいか?というか、ハグハグしたい!」

 

「モモ先輩。目が怖いっす!?」

 

身の危険を感じたか、リシアンサスは腕で自分の体を抱きしめた。

 

「まあ、冗談として他のゲストにも質問したいのでそろそろ次に移ろうか」

 

百代の言葉にリシアンサスは立ち上がり―――キキョウと入れ替わった。

 

「こんにちはお嬢さん。お名前はなんて言うのかな?」

 

「駒王学園二年D組のリシアンサスの妹、キキョウです」

 

「・・・・・妹?どう見てもシアの姉としか見えませんが・・・・・」

 

「ええ、よーく言われるわ。しっかりしている私の方が姉じゃないのか?言われたほどだもの」

 

「あはは、そうなんだ。実は私も妹がいるんだ。とっても可愛らしくてな、

犬のように甘えてくるんだよ」

 

「そうなんですか・・・・・私の姉とは大違いですね」

 

ガーンッ!

 

あっ、リシアンサスがショックを受けた。痛恨の一撃?

 

「シアの妹と言うことなら、あなたも天使、神族ということですか?」

 

「・・・・・いえ、私は悪魔、魔族です。家の事情で私の存在は隠されていたので」

 

「あー・・・・・すいません」

 

「気にしないで。私は今、とても幸せだから。そう・・・・・ある男に助けられ、

私は光の下で生きられるようになったから・・・・・」

 

キキョウ・・・・・。

 

「では、そろそろこの辺で」

 

「あ、ああ、そうですね。では、次のゲストどうぞ!」

 

百代が催促した。キキョウが席から立ち上がってネリネと交代した。

 

「おおっ!今度は爆乳のお嬢さんだぁっ!お嬢さん、今度私とデートしないか?」

 

「え、えっと・・・・・ごめんなさい。私には慕わっている男性がいますので・・・・・」

 

「おや、それは誰かな?っと、その前に自己紹介をお願いします!」

 

「はい、私は駒王学園二年D組のネリネと言います」

 

「ネリネちゃんか、可愛いー!さて、シアちゃんと同じ質問ですが、

家族構成をお聞かせください」

 

「私の父は五大魔王の一人、魔王フォーベシイです。お母さまはメイドです」

 

「魔王とメイド・・・・・なんだろう、不思議な夫婦ですね」

 

「ですが、大好きな両親です。

まあ・・・・・あまりはしゃいじゃってよくお母さまに注意されますが」

 

ああ、そうだな・・・・・。それと神王もだ。

 

「賑やかな家族だそうでなによりですね。では、先程の質問に戻りましょう。

好きな男性とはどんな人でしょうか?」

 

「・・・・・」

 

ネリネがいきなり耳まで真っ赤にした。恋バナになると彼女は初心な態度になるから可愛い。

 

「イ、イッセーさまです」

 

「・・・・・」

 

彼女の返答に百代は俺を見た。・・・・・んだよ。

 

「因みに、私とキキョウちゃんもイッセーくんのことが好きっす!」

 

「ちょっ、シア!?なに全校生徒にぶっちゃけてんのよっ!恥ずかしいじゃない!?」

 

シ、シア・・・・・・。お前、何てことを言うんだぁ・・・・・・。そんでキキョウ。

否定し切れていないぞ。

 

「一誠、お前・・・・・」

 

「井上、頼むからそれ以上何も言わないでくれ」

 

「・・・・・『神にも魔王にも人王にも凡人にもなれる男』ってお前のことだったのか・・・・・」

 

「だから、言うんじゃねぇよッ!?

つーか、ここまで知られていたのかあの不名誉な名前がよ!?」

 

思わず声を荒げてしまった。くそ・・・・・!

せっかく忘れていたのにまた思い出しちまったじゃないか!

 

「えっと・・・・・次のゲストにも質問してみたいと思います。一誠、後で私と勝負な」

 

「なんで!?」

 

理解しかねる!解せん!とそんな気持ちを抱いている間にもリコリスが席に座った。

 

「おっと、これもまた爆乳のお嬢さんだ!こんにちは、お名前を教えてください」

 

「私は駒王学園の二年D組、ネリネの妹のリコリスです」

 

「リコリスちゃんか。可愛い名前だね。

さて、質問ですが、リコリスちゃんの好きなことは何でしょうか?」

 

「えっと、趣味のことを言えば歌を歌うことですね。ネリネと一緒に歌を歌うことが大好きです」

 

「ほほう、歌が好きと。歌は上手なんですか?」

 

「それは最後のお楽しみと後で歌わせてもらいますね」

 

「そいつは楽しみだ。では、好きな男性のタイプは何でしょうか?」

 

「うーん・・・・・好きな男性のタイプと言うより、私はイッセーくんが好きだからね」

 

「・・・・・なぁ、一誠。お前はハーレムを築き上げるのが上手なんだな」

 

「そこはノーコメントと言わせてもらうぞ」

 

リコリス・・・・・お前はこの学校の全員を敵に回したいのか。特に俺の方だけど!

 

「それじゃ、兵藤一誠に好きになった理由は?」

 

「小さい頃、私たちを危ない人から守ってくれた・・・・・のが一番の理由です。

あの時のイッセーくんはとっても格好良かった。今でも恰好良いし、優しくて、強くて、

女の子に優しいの。特に小さくなったイッセーくんは可愛かったなぁ・・・・・」

 

「・・・・・惚気を聞かされるラジオ番組なんて初めてだな」

 

すまん・・・・・謝ることしかできないぞ。

 

「それにしても神王と魔王の娘が仲良しなんだな?」

 

「うん。家も近所だし、仲良く遊んでいることが多いね」

 

「なるほど、冥界も天界も平和ということですか。それでは、最後に質問だ。

学校を卒業したらリコリスちゃんはなにになるつもりですか?」

 

「勿論、イッセーくんのお嫁さんだよ!」

 

・・・・・ハッキリと答えちゃったよ。川神だけじゃなく、

駒王学園の全校生徒がいるってのに・・・。

 

「なぁ、一誠。お前は女誑しなんだな」

 

「よし、百代。放課後になったらちょっと面貸せ」

 

「ははは、いいぞ!」

 

嬉々として同意しやがったよ・・・・・。

はぁ・・・・・俺、この学校でも平和に過ごせないようだ。

 

「それでは、最後に一人のゲストを呼ぼうか。では、どうぞ」

 

最後、デイジーの番だ。彼女は緊張した面持ちで席に座る。

 

「はいこんにちは。あなたの名前は何でしょうか?」

 

「駒王学園の二年E組のデイジーです。

今日から川神学園の放送部と一緒にさせてもらいます。皆さん、どうかよろしくお願いします」

 

「よろしくー!さて、デイジーちゃんの趣味は何でしょうか?」

 

「そうですね、音楽のゲームをすることかな。

私、光陽町のゲームセンター『SILKY』でバイトをしていたので、

色んなゲームが得意なんですよ」

 

「女の子がゲームとは珍しいな。今度、お姉さんとゲームをしないか?

勿論・・・・・夜、布団の中でのゲームだけど」

 

「え、えっと・・・・・遠慮します」

 

「ちぇ、残念だなー。まあいいや。次の質問だ。次期人王の兵藤一誠と仲がよろしいですか?」

 

「はい、仲がいい方だと私は思っています。一緒にゲームセンターに遊んで、

やったことがないゲームのコツを教えたら、あっという間にマスターしちゃってびっくりした時も

ありましたよ」

 

「なるほど、では、恋仲関係というわけじゃないんだな?」

 

「ふぇっ!?」

 

ポンッ!とデイジーの顔が一瞬で赤くなった。いや、デイジーは俺に意識していないだろう?

普通に友達のように接しているし。

 

「ええっと・・・・・イッセーさんとはそんな関係じゃありません」

 

「あれ、そうなんだ?この流れ的にデイジーちゃんも一誠のことが好きなのかと

予想していたんだが」

 

「た、確かにイッセーくんは格好良くて強くて優しい男の子です。

だけど、まだまだお互いのことが分からないので、まだ友達として好きです」

 

「ほほう・・・・・『まだ』か?」

 

「こ、言葉の綾です!つ、次はネリネさまとリコリスさまの歌をお聞きください!」

 

あっ、強引に話を終わらせた。

席から立ち上がってリシアンサスとキキョウの後ろに姿を隠す

デイジー。

 

「二人とも、二人の歌をこの学校の全校生徒に聞かせてやれ」

 

「「はい」」

 

ネリネとリコリスがマイクの前に座る。そして―――

 

「「♪~♪~♪~」」

 

天使の鐘を歌い始めたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode4

 

 

 

俺たちの放送から早くも数日が経過した。あの放送をしてからというものの・・・・・。

 

「おい、女誑しが来たぞ」

 

「『神にも魔王にも人王にも凡人にもなれる男』が女誑しだとはな・・・・・」

 

「この先の世界がどうなっちまうんだろうなぁ?」

 

半分だけ良くなり、半分だけ最悪となった。半分は少しながらも駒王学園の生徒と会話するように

なっているがその反面、俺に対する感情があまりにも良好とはいえない。

しかも、俺と同じ駒王学園の生徒にまでその感情、気持ちだ。

 

「・・・・・なぜこうなった」

 

「・・・・・ごめん、慰める言葉が見つからない」

 

「いや・・・・・傍から見れば俺はそんな奴だろうと思うさ。自覚はしている」

 

苦笑混じりに和樹と喋る。

 

「でも、一誠くんのことを知らないであんまり悪いことを言われると物凄く嫌な気持ちになる」

 

「そうよ!ヤハウェさまに天罰を与えてもらいたいわ!」

 

イリナ・・・流石にそれはダメだぞ。

 

「ありがとうな」

 

「うん、私たちは一誠くんの味方だからね」

 

柔和に笑む彼女に俺は救われた気分がする。

 

「―――やっほー!」

 

その時だった。またしても白い弾丸が―――!

 

「二度も効かん!」

 

青白い翼を展開してその弾丸を受け止めた。

 

「・・・・・翼?」

 

疑問を浮かべる白い弾丸こと榊原小雪。翼から離れ、改めて視線を向けてきた。

 

「言っただろう。抱きついてくるなら頭からじゃないって」

 

バサッと翼を背中に仕舞って榊原小雪に言う。

 

「一誠も神器(セイクリッド・ギア)の所有者だったねー」

 

「・・・も?」

 

「うん、僕も神器(セイクリッド・ギア)を持っているんだよー」

 

ほら、と可愛く俺に見せてくれた力。彼女の手から冷気が漂っている。

 

「雪・・・・・?」

 

「そーだよー♪」

 

・・・・・なるほど、彼女にピッタリな能力かもな。

 

「お?なーに話しているんだお二人さん」

 

「おはようございます」

 

井上準と葵冬馬が現れる。俺も挨拶を返して教室の中へ入る。

 

「なあ、一誠の町ってどんな感じなんだ?」

 

「光陽町のことか?まあ、何時も賑やかで人が溢れているし、家族連れも多いぞ」

 

「その中に悪魔とか天使とか堕天使とか混じっているんだよな?」

 

「見た目は俺たちと変わらない姿でいるから、ただの人間じゃ見分けつかない。

その点で言えば人間と混じりやすい。デイジーだって天使、神族だぞ?」

 

「ああ、シアたちもそうなんだよな。

いやー、初めて異種族と対面したけど俺たち人間とほぼ変わらないんだな。

悪魔の場合はなんつーか、こう・・・頭に角を生やしているのかと思っていたぞ」

 

それはいくらなんでも幻想的じゃないか・・・・・?

 

「一誠、お昼一緒に食べよー?」

 

「ん?別に良いけど・・・・・ここじゃ、狭過ぎるな」

 

「では、屋上に行きましょう。あそこなら広くて良いですよ?」

 

「だな、そうしようぜ」

 

「ウェーイ♪」

 

とんとん拍子で昼食の件は決まった。屋上か、ここでも食えたんだな。

 

「じゃあ、他の奴らも呼ばせてもらうけどいいな?その中にシアたちがいるからいいだろう?」

 

「おっ、そうなんだ?いいぜ」

 

最近、あいつらと食っていないしそろそろ一緒に食べたい。葵冬馬が時刻表に視線を向けた。

 

「・・・一誠くんたちのクラスの授業の予定・・・四限は体育ですか」

 

「それがどうかしたか?」

 

「いえ、私たちもあの時間帯は体育なのでどうなるのかと思いまして」

 

「合同でやるんじゃないか?」

 

「うわー、波乱の予感が感じるぜ」

 

・・・・・否定できない自分がいる・・・・・。

 

「まあ、もしも敵対するような授業だったら手加減よろしく」

 

「あれ、そこは『正々堂々よろしくな』―――ってそんな感じじゃないのか?」

 

「いや、お前の強さは次期人王決定戦で見てたし、俺たちより強いだろ」

 

そりゃ、そうだけどさ。そこは嘘でも言って欲しかったかも。

 

―――数時間後―――

 

体育館に俺たち駒王と川神の二年S組は対峙していた。体育の授業の内容はバスケットだ。

お互い数名の代表選手(男子)と勝負を競い合う形だ。

 

『・・・・・』

 

だが、川神側の二年S組の男子生徒たちからは―――まったくやる気力が感じない!

 

「では、これより試合を始めるネ」

 

緑のジャージ姿の・・・・・中国人?体育教師が俺たちの中央に立って試合の合図を構える。

 

「それでハ―――始メ!」

 

最初は俺たちが先攻。クラスメートにボールを渡せば、

相手ゴールへとボールをバウンドさせながら進んでいく。・・・・・だが、

 

『・・・・・』

 

川神側の奴らが俺たちを妨害するどころか、身動きもしない。

その間に、クラスメートが難なくボールをゴールの中へと入れた。

 

「・・・・・こんなお遊びに勝っても―――って感じだな」

 

「うん、そんな感じだろうね」

 

「キミたち。どうして動こうとしないんダ。ちゃんと授業を、

体育をして相手と切磋琢磨をしなきゃダメじゃないカ」

 

体育教師が窘める。対してあいつらは―――。

 

「俺たちより強い奴と戦っても勝てるわけがない」

 

―――初めから弱気というか、勝つ気さえもなかったのか。

そんな意見を言う奴らに流石の俺たちも溜息を吐いて授業をする気力もなくなる。

 

「キミたち。最初からやる気がないというのかイ」

 

「だって先生。相手は次期人王決定戦で優勝した『女誑し』なんですよ?

一般人の俺たちに勝ち目なんてないですって」

 

「そうそう、やるだけ無駄、体力の無駄」

 

「だよなー」

 

『・・・・・』

 

川神側の二年S組の態度に心底呆れた。

 

「―――一誠くん、皆」

 

不意に、見学していた女子陣、清楚が声を掛けてきた。

 

「教室に戻りましょ?相手がやる気ないらな授業なんてままならないし」

 

「ちょっとキミ!?」

 

「先生、身勝手な言動をお許しください。でも、流石にこれはあんまりだと思います」

 

体育教師にお辞儀をすれば、清楚が筆頭に見学していたクラスメートたちが各々と

体育館から出ていく。俺たちも顔を見合わせて彼女についていく。

―――背後で教師が何を言おうが耳を傾けず。

 

―――昼休み―――

 

「あー、すまんな。ウチのクラスがあんなんでよ」

 

「別に、お前らが謝るようなことじゃないから気にするなよ」

 

昼休みになるや否や、葵冬馬たちが謝罪をしてきた。

 

「だけど、流石にあんな態度で接せられると、こっちの気分がね・・・・・」

 

「ああ、仲良くなろうとしているこっちが怒りを感じてしまう」

 

珍しくゼノヴィアが苛立ちしていた。目を細めて声音を低くして・・・・・。

 

「ホント、すまんな」

 

「気にすんなって、そんじゃ・・・食べよう」

 

―――○●○―――

 

―――教師side

 

「学長、彼ら駒王学園の生徒たちが編入して数日が経ちましたが・・・あまり良い感じでは

ございませン」

 

「ふむ・・・・・」

 

「両学校と混合で行う体育の授業では我が校の生徒たちが意気消沈、やる気を見せない始末デス」

 

「ふむ・・・・・」

 

「あの放送以来、数は少ないものの生徒たちは駒王学園の生徒と交流するように

なっておりますが・・・」

 

「ふむ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

学長室に体育教師の男がこの川神学園の長を務める川神鉄心に状況を報告する。

ルーは川神鉄心、川神百代および川神一子が住まう川神院の武の師範代であり、

川神鉄心のサポートに徹している実力者でもある。当の川神鉄心はルーに椅子ごと背を向け、

相槌を打ち反応するが・・・・。

 

「学長、聞いておりますカ?」

 

「聞いておるわい。しかし・・・・・ふむ・・・・・」

 

「何か問題でも?」

 

「―――この写真のねぇーちゃんの乳はたまらんのぉー」

 

「・・・・・」

 

一拍して、学長室から鈍い音が激しく聞こえたのは必然的だったかもしれない。

 

―――放課後―――

 

「悪いな、呼び出しておいて」

 

「ふむ、お前直々の呼び出しだからな。断わることなんてできないさ」

 

放課後、屋上にとある男子学生を呼びだした。

 

「別に強制じゃないってことぐらい知っているだろう?まあいい、本題に入る」

 

「俺を呼んだ理由はなんだ?」

 

「まあ、今後についての相談だ。このままじゃ、絶対にろくなことが起きないからな」

 

「ふっ、俺とお前のことか?」

 

男子学生は不敵な笑みを浮かべる。ああ、本音で言えばお前が一番そうだ。だが―――、

 

「俺たち駒王とこの川神の生徒たちのことだ。あんまり、良い感情ではなさそうだし、

この川神学園の生徒たちは」

 

「理解できないわけじゃないがな。人間とは違う種族もいることだ、

異種族同士が同じ場にいれば最初は警戒するようなものだ」

 

「その警戒を解く方法って何だともう?」

 

そう問えば、男子学生は顎に手をやって口を開いた。

 

「道理的に言えば、共に行動をし、何かを共に成し遂げることだろう」

 

「やっぱ、そう思うか」

 

「で、それがどうかしたか?駒王と川神の全校生徒と仲を深めるつもりか?」

 

いきなり確信を突かれたよ。まっ、隠すことでもないがな。その上―――。

 

「いや、お前のことだ。―――これから俺が独断で考える特大なイベントに

乗らずにはいられないだろう?だったらこっちからお前を誘おうと思っただけさ」

 

「―――ほう?」

 

一瞬だけ瞳が煌めいた。―――興味が湧いたようだな。

 

「まだ、準備の段階だけど絶対に面白いイベントにするつもりだ。

どうだ?お前の能力とその行動力を買って誘っている」

 

俺の誘いに男子学生―――いや、杉並は―――。

 

「ふっ、勿論。その話に乗らないでいる俺ではない」

 

俺に手を差し伸べてきた。その手を当然、俺は掴んだ。

 

「それじゃ、これからよろしくな相棒」

 

「こちらもな同士よ」

 

ある意味、俺は最強の相棒を手に入れた。

 

「では、どんな企画にするか始めに考えようか」

 

「だな。でも、それは明日の放課後にしよう。誰にも邪魔されない場所で」

 

「いいだろう。ならば、その二人だけの秘密の場所を俺が確保する。

準備ができ次第、こちらからメールをする」

 

ヒュンッ!

 

杉並が風の如く、一瞬で姿を消した。・・・・・あいつ、

何時の間に俺のメールアドレスを知ったんだ。

 

「さーてと、俺は帰りながら考えるとしようかな」

 

「―――何を考えるの?」

 

「ん・・・・・?」

 

俺がいる空間に別の存在・・・・・。女の声だが・・・・・誰だ?

 

「久し振り、十年振りだね」

 

「・・・・・その声は」

 

懐かしく聞き覚えがある声。後に振り返ると―――、

 

「やっと二人きりになれた」

 

妖艶に笑みを浮かべ俺の背後に佇んでいる紫の髪の少女。

 

「やっと会えた」

 

その少女を見て脳裏に過去の記憶が過った。

 

「・・・・・京・・・・・か?」

 

「うん、そうだよ」

 

少女―――京は笑みを浮かべた。最後に別れた時に見せてくれたあの時と変わらない笑みを―――。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode5

 

 

「・・・・・京」

 

「会いたかったよ。一誠」

 

瞳を潤わせて俺の胸に飛び込んできた。そんな彼女の頭を優しく撫でて口を開く。

 

「この学校に来てから、久し振りに会う奴や懐かしい奴と再会が絶えないな」

 

「私にとって、今日は最高ーだよ」

 

「そうか・・・」

 

「でも、一誠は見ない間に色々と変わっているね。・・・女の子を複数侍らしている事とかさ」

 

グサッ!

 

「『神王に魔王にも人王にも凡人にもなれる男』が、一誠だなんて驚いたし」

 

ドスッ!

 

「見ていたけど、榊原小雪と物凄く仲が良かったね?私も小さい時からの付き合いだったのに・・・」

 

ズンッ!

 

「一誠なら、私の存在を気付いてくれるんじゃないかって今までずっと少し離れていたところから

見ていたのに・・・・・全然気付いてもらえなかった」

 

ドオオオオオオオオオオォンッ!

 

や、やめてくれぇ・・・・・・もう、俺のHPがゼロよ・・・・・っ!

 

「ごめん・・・・・なさい」

 

「やだ、許さない」

 

「ぐっ・・・・・」

 

「でも、条件を呑んでくれるなら許してあげても良いよ・・・・・?」

 

条件・・・・・?なんだろう。

 

「―――私と再会のキス―――」

 

「ちょっと待とうか」

 

ガシッ!と撫でていた彼女の頭を思わず掴んでしまった。

ああ、スイカを握力で割るぐらいの力でだ。

 

「久し振りに再会した友人にその条件はどうかと思うぞ?」

 

「久し振りに再会して改めて自分の気持ちに気付いた上での条件だよ?ところで、頭が痛い」

 

「ああ、悪いとは思っていない」

 

「・・・・・なんというーSな発言だろうか」

 

「自覚している。それも俺はドSだぞ?悪魔と堕天使限定で」

 

「・・・・・素敵♡」

 

どこがだっ!?

 

「というかなんだよ。改めて自分の気持ちに気付いたって」

 

「そのままの意味だよ。私、一誠のことが好き。

小さい頃、私を何度も勇気づけて、励ましてくれたり、遊んでくれたあなたが好きなの」

 

「・・・・・あの時か、今と成っては懐かしいもんだな」

 

「ねー。最初の出会いは私が全裸でいた時に一誠が欲情した目で―――」

 

ギリギリッ!

 

「ちょっとーおちゃめ過ぎじゃないかな?」

 

「ゴメンなさい。冗談です。だから頭を掴んだまま持ち上げないでちょうだい」

 

ハハハハハ、何を言っているのかさーぱりわからんなー?

 

『お前、何しているんだ?』

 

『・・・・・え?』

 

『遊ぶ相手がいないなら、俺と遊ぼう?お腹が空いているなら、一緒になんか食べよう?』

 

と、こんな感じで京と出会ったんだ。

 

「昔に比べて、京は健康に育ったようだな」

 

「色々と遭ったけどおかげさまで」

 

そうか・・・・・こいつも大変だったんだな・・・・・。

 

「感動の再会だが、そろそろ俺も帰らないといけない」

 

「えー」

 

「また明日会えるだろう。それに、俺のクラスに来るば良いだけじゃないか」

 

「じゃあ、そうするー」

 

こうして俺は、また懐かしい人物と再会を果たしたのであった。

 

「ところで、私とキス」

 

「するか!」

 

―――○●○―――

 

翌日、俺たちが教室にいると早速・・・・・椎名京が会いに来た。

 

「おや・・・・・」

 

リーラが珍しいものを見る目で彼女を見た。

ん、彼女も椎名京と会ったことがあるからそんな反応だよな?

 

「えっと・・・・・一誠くんの友人?」

 

清楚の尋ねに肯定と「ああ、友達だ」と告げていると、

 

「お久しぶりでございます。お元気そうでなによりです」

 

「あの時はどうもありがとうございました」

 

京がリーラにお辞儀をしていた。

 

「お礼を申し上げるのであれば、一誠さまに仰ってください。

私は一誠さまの願いに従ったまでです」

 

「じゃあ、一誠。感謝の印に私と熱いキスを・・・・・」

 

「しないからな」

 

迫ってくる椎名京の顔面を鷲掴みにして防いだ。

 

「また、新たな恋敵・・・・・」

 

「しかも、熱烈に堂々とアピールするなんて・・・・・」

 

「今回の敵はイリナが負けそうだな」

 

「負けないわよ!?というか、負けないもん!」

 

わー、イリナが宣言したよ。

 

「・・・・・あなたは?」

 

「私は紫藤イリナ。イッセーくんの幼馴染よ!」

 

「・・・・・あっそ」

 

素っ気なく京が興味が失せたとばかりに俺の背中から抱きついてきた。

 

「恋の敵なら、負けないよ。私、一誠の為なら何だってするつもりだからね」

 

「・・・・・へぇ、私たちに対する宣戦布告と取っても良いんだね?」

 

「成績や戦闘能力は負けるかもしれないけど、それ以外なら負けない。―――体の相性とかも」

 

カチンッ!

 

「「「・・・・・」」」

 

あれ・・・・・変な音が聞こえたような・・・・・。

 

「体の・・・・・?」

 

「相性・・・・・?」

 

言っておくけど、京とは肉体関係じゃないからな!?ここ、重要!

 

「・・・・・いっくんと営みしたことがないくせに何言ってんの?」

 

「これからする予定だから大丈夫」

 

「んはっ、これからだと?お前にそんな未来はない」

 

―――項羽!?清楚と入れ替わったのか!?

 

「知っているか?一誠は一度スればたたじゃ済まないんだぞ?それこそ複数ヤッてもだ」

 

「初夜の時だって・・・・・二人で百回ぐらいイカされ、狂わせられたよね?」

 

「快楽、快感、絶頂・・・・・一誠さまの逞しいアレで何度も何度も激しい波のように

与え続けられて・・・・・その最中で一誠さまから」

 

『愛している。ずっと俺の傍にいてくれ』

 

「と、耳元で囁かれたら・・・・・」

 

「ふふふ」と楼羅が恍惚とした表情を浮かべ、体を振るわせ始めた。

楼羅、あの時のことを言わないでくれよ!?というか―――聞いているこっちが恥ずかしい!

 

―――○●○―――

 

―――昼休みIn食堂―――

 

「今日は食堂で食べないか?」

 

と―――百代の提案に俺たちは乗って、食堂で食べることになった。

この学校の食堂は清楚で椅子とテーブルが多めに設けられているので俺たちが座るスペースも

当然のようにあった。足りなかった分は他の椅子とテーブルを持ってきて

昼食するという光景になった。

 

「食堂で弁当なんて非常識も良いところだな」

 

「私が誘ったんだ、問題ないさ」

 

「なんか、この学校の番長みたいな言い方ですね」

 

「だって、私は強いし」

 

「一誠に負けたのに?」

 

「・・・・・」

 

和樹に指摘で百代が沈黙した。そんな百代に苦笑いをするしかなかった俺たちだった。

 

「そういや、サイラオーグも同等の勝負をしていたからどっちが勝つか分からなかったな」

 

「えっ、サイラオーグ?彼、彼女と戦ったの?」

 

「ああ、夏休みにな。百代に会ってきたんだ。そこでちょっとばかし、腕試しと戦ったんだよ」

 

リーラから受け取ったお茶を飲んで百代に視線を向けた。

 

「へぇ、そんなことをしていたのね」

 

「二人を戦わせたらどっちが勝つのか本当に分からないな」

 

「そうだな。是非ともあいつと本気で戦ってみたいもんだよ」

 

拳を握って戦意の意思を伺わせた百代は笑みを浮かべていた。こいつも大した戦闘狂だな。

どっかの銀髪の幼馴染と同じ。

 

ブーッ!ブーッ!

 

不意に携帯が震え始めた。携帯をポケットから取り出して操作すると・・・・・あいつか。

 

「誰から?」

 

「杉並」

 

「杉並・・・・・シーグヴァイラ・アガレスの眷属?」

 

「まあな」と肯定しながら立ち上がる。

 

「あいつに呼ばれたから先に教室へ戻ってくれ」

 

「え?呼ばれた?」

 

皆が疑問を浮かべる中で杉並のところへ赴いた。

さて、秘密の部屋とやらを確保したようだし早速行動をしようか。

 

―――某所―――

 

「よう、杉並」

 

「来たな。同士よ」

 

とある場所、俺は杉並が指定した場所へ到着し、俺を待っていた杉並と合流を果たす。

 

「秘密の部屋を確保したのか?」

 

「無論だ。しかも我が主であるシーグヴァイラでさえ、発見することが困難な場所だ」

 

「・・・お前、はぐれにだけはなるなよ?」

 

主でさえもこいつを見つけることが困難だって・・・・・魔力でさえも探知、

感知することすら難しいってことだ。

 

「ふふっ、なるつもりはないさ。

ただ、俺の好きなようにさせてくれる条件として彼女に眷属悪魔になったのだからね」

 

「そう言えば、お前とシーグヴァイラ・アガレスの出会いってどんな感じだったんだ?」

 

「ふむ・・・至って普通だぞ?俺がとある桜だらけの島の学校で学校生活を過ごしていたら、

俺の能力を欲しいと彼女が現れた。その申し出に俺は喜んで『兵士(ポーン)』と成った」

 

「『兵士(ポーン)』?お前はそんな低い駒なのか?」

 

「俺は特別の力を有しているわけでも、神滅具(ロンギヌス)並みの神器(セイクリッド・ギア)

所有しているわけでもない」

 

それでも、主でさえ見つけるのが困難だというほどの才能を持っている

お前は凄いと思うんだが・・・?

 

「さて、立ち話もここまでにして中に入ろう」

 

行き止まりの廊下を進んでいく。俺たちを阻むように設計されている壁に

杉並は迷いもなく奥へと進んで―――壁の中に吸い込まれるように姿を消した。

 

「・・・・・」

 

幻覚の一種か・・・・・?そう思いながらも杉並の後を追って、

俺自身も壁の中に吸い込まれるような感覚を覚えながら秘密の部屋へと侵入した。

中は広くも狭くもなく、多種多彩な機械で一杯だった。

 

「お前・・・・・たった一日でここまで用意できたのかよ」

 

「ふっ、俺の手に掛かれば造作もないことだ」

 

・・・・・彼女、シーグヴァイラ・アガレスは何の目的でこいつを眷属にしたんだろうか。

 

「さて、俺と同士しか知らない隠れ部屋は確保した。

そっちはどんな企画を考えたのか聞かせてもらおうか」

 

「ああ、まあ・・・・・大雑把で言えば」

 

『全員と共に盛大なパーティ』

 

『チームバトルロワイヤル』

 

『豪華優勝賞品』

 

と、こんな感じに考えた。杉並は顎に手をやって俺に問いかけてくる。

 

「バトルロワイヤル・・・・・優勝できる者はたった一チームのみか?」

 

「ああ、RG(レーティングゲーム)の形でな。なにか付け加えることはあるか?」

 

「・・・・・気になることが一つ、バトルロワイヤルとするとなれば、

互いのチームと戦うのか?ただ、優勝するだけのために」

 

むっ・・・・・いま考えればそれは・・・・・。

 

「それでは、ただ相手を倒すだけで仲間と絆を作れるとはとても思えない。

何か、他にも共通な目的でなければいけないと俺は思う」

 

「・・・そうだな」

 

「同士の考えは俺も賛同する。だが、その内容は改めて考えるべきだ。

それと、俺たちだけでそれだけのことをできない。かなりの権力を持った権力者にも協力を

得なければならない」

 

確かに・・・・・うーん、色々と問題の山積みが増える一方だな。

 

「だが、それは簡単なかもしれないな」

 

「は?どうしてだ?」

 

杉並は徐に笑みを浮かべる。

 

「―――お前は神と五大魔王と関係を持っているからだ」

 

・・・・・あっ、そういうことか。

 

「それにこの学園の学長にも同士の発言で許可が得れるかもしれない。彼の元に行ってみよう」

 

「なるほど・・・・・まあ、それでも簡単に許可を得れるとは思えないんだけどな」

 

―――学長室―――

 

「いいぞぃ。その提案に認めるわい」

 

「アッサリと認められた!?」

 

「やはりな。流石だ同士よ」

 

いや、少しは悩んで話し続けると思ったのに、

こんなにもアッサリ認められるとは思っていなかった!

 

「わしも今の現状に憂いを抱いておるのじゃよ。わし自身も考えておるんじゃが、

如何せん本人たちの問題じゃ。わしらが介入しても解決にならん。

じゃから、おぬしらの行動を認めるんじゃよ」

 

「ありがとうございます。学長」

 

「うむ、念のために許可書を書いておくわい」

 

川神鉄心がペンを手にし、許可書を書き始めた。

 

ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

「「「っ!?」」」

 

なんだ・・・・・この激しい轟音は!?

 

―――○●○―――

 

―――和樹side

 

一誠が途中からいなくなった後、僕たちはそれぞれの教室に戻ろうと廊下を歩いていた。

 

「一誠さん、杉並さんと何の話しをしているんでしょうかね」

 

「そもそも、何時の間に杉並と?」

 

「私たちの知らないところで一誠くんは何をしているのか気にもなるね」

 

滅多に隠し事をしない一誠に疑問が尽きない。過剰だけど、一誠は大事な親友だ。

僕たちにもできることがあったら、僕たちも何かしてやりたいから・・・。

 

「まあ、帰ってきたら聞けばいいじゃないか?」

 

「そうね。それでも話してもらえないなら、その時は信じているしかないわ」

 

ゼノヴィアとイリナがそう言う。うん、それもそうだね。

 

「さて、教室に戻ったら午後の授業の準備をしようね」

 

清楚さんがそう言いながら笑みを浮かべた。僕たちの教室に見えたところで―――見覚えがある人が

僕たちの教室に入ろうとしていた。その少女に清楚さんが口を開いた。

 

「私たちの教室に何か用?」

 

「なんじゃ、珍しく山猿どもが檻から出ておったのか」

 

高圧的な態度、学校なのに着物で登校し尚かつ授業を受けている少女が彼女の言葉に反応して

返答した。

 

「私たちがどこで食べようが勝手でしょう?」

 

「ふん、元々他校からきたお主らにこの学校に好き勝手動かれては困るのじゃ。

キーキーと猿のように喚かれたら堪ったもんじゃないからの」

 

「・・・・・はぁ」

 

「なんじゃ、そのため息は」

 

いや、溜息も吐きたくなるって。僕も同じ気持ちだし皆もきっと同じ気持ちだと思う。

 

「皆、教室に戻ろう?」

 

「そうだな、授業が遅れては皆に迷惑を掛けてしまう」

 

その言葉を発するゼノヴィアに同意と僕も首を縦に振った。

僕たちは彼女に目を向けず教室に入った。

 

「待て」

 

「・・・なに?」

 

「お主は葉桜清楚と言っな?」

 

彼女は清楚さんに用がある?

 

「それがどうかしたの?」

 

「同じ二年S組としてどちらが実力があるクラスなのか白黒付けたいとは思わぬか?」

 

「・・・・・別に、興味はないよ。私たちは戦いなんてあまり好きじゃないもの」

 

「ふん、お主がそんな態度では、お主らのクラスは高が知れていというもの。

魔法や魔力、神器(セイクリッド・ギア)がなければ此方たちに劣るのじゃからのぉ?」

 

「にょほほほ」と変な笑い方をする彼女。彼女は何が言いたいのだろうか?

いや、あからさま過ぎて溜息が出る。どうせ、そんな力を頼らないと自分たちに負けると

思っているんだろうね。あながち間違っていないけどさ。

 

「委員長のお主がそのようなことを申すのであれば、次期人王も情けない男かもしれんかもな?」

 

「・・・・・なんですって?」

 

清楚さんが怒気を含んだ。でも彼女は言い続ける。

 

「どちらが優れておるのか、興味がないとお主は抜かしたのじゃ。

普通はどっちが優位なのか知りたくて仕方ないはずじゃ。なのに、お主は興味がないと言う。

お前のクラスの者共も含めてお前と同じ意見を申すのであれば情けないと

此方は言っておるのじゃ」

 

『・・・・・』

 

「まあ、次期人王決定戦でお主は一度も戦っておらんし、

お主は弱いと言うことは全世界の人間たちが気付いていると思うからのぉ?」

 

無知とは罪なものだね。確かに清楚さんは戦いが苦手だけど、運動能力はずば抜けている。

その反面、彼女に内にいる英雄の魂が彼女の戦闘能力をカバーするどころか逸脱している。

僕が接近戦でやったらあっという間に倒されるのが必然的なほどに・・・・・。

 

「にょほほ、いま思えば弱き者に高貴な此方の華麗なる武術を見せる必要もなかった」

 

「・・・・・」

 

「次期人王とは言え、あの者は偶然にも同じ名前を持った貧民な民草の人間の間に生まれた

者じゃろうな。その上、真龍と龍神の力を借りなければ勝てなかった弱者。なさけないのぉ。

情けない男が次期人王なぞ、此方は理解できんのじゃ。どうせなら次期人王は此方みたいな家が

名家の者の方が世界も幸せに―――」

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

『―――っ!?』

 

刹那―――この場に激しい轟音が鳴り響いた。

僕たちの教室は防音の魔法の結界を施してあるけれど、

流石に衝撃を緩和する結界までは施していない。教室の中は激しく

地震のように揺れたのかもしれない。その原因をしたのが―――。

 

「さっきから聞いていれば・・・・・お前は・・・・・」

 

瞳が赤い清楚さんだった。

 

「一誠の奴が、俺が弱いだと?安全な場所で観ていたお前がどうして言いきれるのか

是非とも知りたいなぁ?」

 

「お、お主・・・・・!?」

 

「確か、お前の華麗なる武術を俺に見せてくれるんだっけ?

いいぞ、俺に見せてもらおうじゃないか」

 

そう言って清楚さんはワッペンを取り出して彼女に叩き付けた。

 

「確か、こうやってやって互いのワッペンを重ねたら決闘ができるとか?

ほら、お前も俺と同じことをやれよ。そうすればお前を堂々とぶちのめることができる」

 

清楚さんから膨大な闘気が絶え間なく放出する。押しつぶされそうな感じ。

流石は西楚の覇王と称された人物・・・・・!

 

「ほら、どうした?弱い俺に華麗な戦いを見せてくれるんだろう?」

 

「貴様・・・・・二重人格じゃったのか!?」

 

「んはっ!さぁ、お前に教えるほど俺は安くはない。

知りたければ俺と決闘すればいいだけだ。なぁ、高貴な名家の?」

 

・・・・・彼女、挑発しているね。

 

「俺とお前の二年S組がどちらが実力が上なのか白黒はっきり付けようじゃないか?

それとも、今さら怖気づいたわけじゃるまいな?」

 

対して挑発された彼女は―――?

 

「い、いいいじゃろう!どちらのクラスが強いかハッキリさせてやるのじゃっ!」

 

ワッペンを取り出して床に叩き付けた。二つのワッペンが重なったその瞬間、決闘が受理された。

 

「―――まったく、何の騒ぎかと思えば」

 

その時、この場に聞き覚えのある声が聞こえた。

横に振り返ると昼食の時にいなくなった一誠、他に杉並とこの学校の学長がいた。

 

「決闘はワシの立ち会いの元で行ってもらうぞぃ。よいな?」

 

学長、川神鉄心の言葉に二人は決闘をする事と成った。

でも、これじゃ勝負にもならないと思うよ。

 

―――清楚&項羽side―――

 

グラウンドで俺、覇王・項羽は着物を着たムカつく女と対峙している。

 

「両者、名乗りを上げい」

 

「川神学園、2-Sの不死川心じゃ」

 

「駒王学園、二年S組の葉桜清楚」

 

本来、この決闘は清楚がするはずだが、

強引にあいつと入れ替わって俺があいつをぶちのめすことにした。

 

「(項羽・・・・・)」

 

悪いな。だが、お前の気持ちは俺も分かる。

アイツのことを知りもしない奴がベラベラと言いやがるのがとても腹立たしい。

 

「(・・・・・半殺しでお願いね・・・・・)」

 

はっ、お前も変わったな。一誠の影響か?

 

「ワシ、川神鉄心が立ち会いのもとで決闘を許可する。勝負がつくまでは、

何があっても止めぬ。が、勝負がついたにも関わらず攻撃を行おうとしたら

ワシが介入させてもらう、良いな?」

 

「ああ」

 

「了解じゃ」

 

俺とあいつは同意した。この学園の学長のジジイは力強く告げた。

 

「では、始めい!」

 

決闘が始まった。が、俺は一歩も動かない。

 

「なんじゃ、攻めて来んのか?」

 

「俺が攻めようがお前が攻めようが関係ない」

 

レプリカの方天画戟の柄を肩に叩きながら俺は言った。

 

「勝つのは俺だと決まっているからな」

 

「・・・・・っ」

 

顔を顰めたあいつ、不死川の奴が俺に向かってくる。

 

「此方の不死川流の武術をその身に味わうがいい!」

 

「・・・・・」

 

鋭く伸ばしてくる腕・・・・・。

 

「はぁ・・・・・」

 

溜息を一つ、

 

「話にもならない」

 

徐に武器を―――振り下ろした。

 

「食らえ!」

 

「っ!?」

 

不死川が目を丸くした。が、すぐに気を取り直してあろうことか扇子で俺の一撃を防いだ。

 

「―――そんなチャチな物で俺に勝てると思っていたのか?」

 

そう言いながら、足を力強く蹴り上げた。そう、不死川の腹にな。

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!

 

「にょわああああああああああああああああああ!?」

 

おー、高く吹き飛んでいるな。まあ?―――それだけで終わらせる俺じゃないがな。

内心笑って、宙にいる不死川に向かって一誠の足技を行使する。虚空瞬動だ。

空を蹴り、得物を力強く不死川の体に一閃。

 

「グエッ!?」

 

「んはっ、女のくせに潰れたカエルのような声を出すんだな!そーら、俺の攻撃を受けてみろ!」

 

それから俺の一方的な蹂躙と言う名の攻撃が繰り広げ続けた。

レプリカ故に、刃が潰されているからただの打撃程度にしかならないが、

俺はその打撃すら斬撃にも変える事ができる―――こうやってな。

 

ズバンッ!

 

「にょあああああああああああっ!」

 

不死川の着物が無残に紙クズのように細々と切り刻んで、未成熟な裸体が表に露わと成った。

 

「呆気なさすぎる。もういい、トドメだ」

 

闘気を得物に纏わせて―――不死川の腹に振り下ろした。そのまま俺と不死川が落ちて―――、

 

「これが俺たち駒王学園の力の一端だと思え!」

 

こいつを地面に思いっきり叩きつけたのだった。

 

―――○●○―――

 

不死川が担架に乗せられ、保健室へと運ばれる光景が俺の肉眼でも捉えた。

あーあー・・・・・なーにやってんだよ・・・・・・。俺は思わず手で顔を覆った。

 

「忌々しき事態・・・・・といったところか?」

 

「かもしれない。互いの同意のもとで行った決闘ならばしょうがないとはいえ、

ちょっと困ったな」

 

「早急に手を打つべきかもしれないな」

 

「そうだな」

 

「明日の昼もあの場所で」

 

「ああ、分かった」

 

杉並の言葉に同意し、一足早く教室に戻った。さーて、ユーストマたちにも協力を得ないとな。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode6

―――Heros.―――

 

「曹操、兵藤一誠が不穏な動きをし出した報告が来たよ」

 

「不穏?あの男に何かとんでもないことでもするのかな?」

 

「さあ?でも、五大魔王と神王、聖書の神と接触して

なにやら事を起こそうとしているようだね」

 

「・・・・・そうか、気になるな。

確か、彼は・・・・・いや、彼らは違う学校に通っているそうだな?」

 

「川神学園って言う、神器(セイクリッド・ギア)の所有者が少ない学校のところだ。

が、その昔に存在していた武家の家系が多い事が有名な学校だ」

 

「ふふ・・・・・そうか。なら―――『英雄派』の俺達と武家の彼らと

どちらか上なのか試してみようか。ジークフリート。件のアレはどうなった?」

 

「準備万端だよ。それで金で雇った彼らも使うのかい?」

 

「相手が相手だ。思う存分に効率よく働いてもらおう」

 

 

―――一誠side―――

 

「準備は整った」

 

「ふっふっふっ・・・・・今までにない特大なイベントだ。

思う存分に彼らには楽しんでもらおうじゃないか」

 

RG(レーティングゲーム)を模したバトルフィールドの使用許可も得た」

 

「警備の方は?」

 

「バトルフィールドに俺とお前、今回の関係者以外の者が侵入した場合、

即退場するようにシステムを施してある。前回の襲撃もあるし、

他にも色々と防犯システムも用意してある」

 

「なら―――始めよう」

 

「ああ、これで成果、効果が出てくれれば御の字だ」

 

―――川神学園―――

 

「一誠、どうしたんだろう?」

 

「『今日は学校を休む』・・・・・堂々とボイコット宣言するなんて驚きましたね」

 

「リーラさんが理由を訊いた途端に許しちゃうし、自分も休むと言うし・・・・・」

 

「というか、ここ数日は私たちと昼食時に食べなかったな」

 

「そうね・・・・・イッセーくん、私たちには言えないことが遭っているのかしら・・・?」

 

「私も気になる。学校が終わったらすぐにイッセーに聞こう」

 

―――カリンの言葉に一同は頷いた。彼女の気持ちは皆の気持ちと同じであり、

一誠のことを心配している。

 

キーンコーンカーンコーン・・・・・。

 

HRが始まる鐘が鳴った。全校生徒が教室に入ってくるであろう教師を静かに

席に座っていた―――その時だった。

 

カッ!

 

各クラスの教室中に巨大な魔方陣が展開しだした。

 

「こ、この魔方陣は・・・・・!?」

 

「転移・・・・・魔方陣!?」

 

「えっ!?私たちどこかに転送されるの!?」

 

「一体、誰が・・・・・!」

 

ざわめき、悲鳴気味の声を上げる。そして―――。川神全校生徒が魔方陣の光と共に姿を消した。

 

―――???―――

 

―――和樹side

 

突然の転移魔方陣によって僕たちはどこかに飛ばされてしまった。

いち早く僕は周囲を警戒して、辺りを見渡すと・・・・・。

 

「・・・・・町?」

 

見覚えのない建物がずらりと佇んでいた。さらに見渡せば僕以外にもクラスメート、

清楚さんや他の皆・・・・・駒王と川神学園の生徒たちが困惑の色を浮かべて佇んでいた。

 

「どうやら・・・・・川神学園に在籍していた生徒全員がここに飛ばされたようですね」

 

「みたいだね。でも・・・・・一体何の目的で?」

 

「いや、そもそも私たち全員を転移させたという大規模なことをやり遂げた奴が一体誰なのだ?」

 

確かに・・・・・ただの悪魔や天使、堕天使、魔法使いじゃ軽く五百人以上の人間を

容易く転移させるほど魔力がない。

こんなことできるとしたら有名な魔法使いや僕たち式森家・・・・・そして―――。

 

「・・・・・っ!?」

 

とある親友の名が浮かんだその直後だった。

僕たちの上空に巨大な魔方陣が展開して、その魔方陣から複数の男女の立体映像が浮かんだ。

 

『こんにちは、川神学園の皆さん』

 

・・・・・あのヒトたちは・・・・・。

 

「フォーベシイさまとユーストマさま・・・・・川神学園の学長に

理事長のサーゼクス・グレモリー・・・・・アザゼル先生もいますね」

 

龍牙の呟きに同意と首を縦に振った。でも、それだけじゃない。

現五大魔王のルシファーさんやレヴィアタンさん、

天界の神であるヤハウェさんと大天使長のミカエルさんまでもいる。

 

『私たちを知っているだろうから自己紹介を省かせてもらうわ。

知らないヒトがいるならば悪魔と天使、堕天使の学生に聞いてちょうだい』

 

立体映像の一人の女性がそう言う。

 

『さて、キミたちがどうして転移魔方陣で見知らぬ場所へ連れて来られたのか

私たちが説明しよう』

 

理事長のサーゼクス・グレモリーさんが言い続ける。

 

『とある生徒が駒王学園と川神学園の生徒たちの中があまり良好ではないと教えてもらった。

そのため、互いの学園の生徒同士がどうやって友好を、絆を結び深めれるのか

この場にいる私たちは密かに会談をし、決めたのだ。

―――二つの学校の生徒同士がゲームをしてもらおうとね』

 

ゲーム・・・・・?それは一体・・・・・・。

 

『ゲームは単純じゃ。駒王学園の生徒と川神学園の生徒同士が互いにチームを組んでゲームを

クリアするのじゃよ』

 

川神鉄心さんがゲームのルールの一部を説明した。さらに別の女性が口を開いた。

 

『一チームに二十人まで。それぞれ駒王学園の生徒十人、

川神学園の生徒十人と編成してゲームをしてね』

 

『尚、ゲームの期間は一週間だ。因みに、現実世界ではたったの七時間。

キミたちのご両親には特別な授業をするので一日だけ学校に泊まり込みになると伝えてある』

 

この世界・・・・・いや、疑似空間かな・・・・・この中で一週間もゲームをしないと

現実世界に帰れないなんて・・・・・しかも、用意周到過ぎる。

 

『仮にこの空間の中であなたたちが死ぬことはないわ。

詳しくは今から送るガイドブックを読んでちょうだい』

 

一人の女性が指を弾く仕草をした。すると、僕の目の前に虚空から一冊の本が出現した。

 

『ゲームの期間は一週間と言ったが、正確には一週間以内にゲームをクリアしてほしい。

クエストを受けることができるのは今キミたちがいる場所から東西南北、

遠く離れたところに様々な地域が存在している。キミたち全員がその地域に存在するクエストを

全てクリアすれば一週間以内に現実世界に戻れる仕組みだ』

 

『だが、そう簡単にクリアできるもんじゃないぜ。凶暴なモンスターもいれば、

お前たちに牙をむく自然現象が待ち構えている』

 

『そのため、ゲームをクリアするには様々な武器と防具、それと特殊なアイテムも必須になる。

さらに言えば、このゲームに神器(セイクリッド・ギア)は使用不可能だ』

 

『武器と防具はモンスターから材料が得られ、その材料を集めて生産すれば手に入る。

それと金もだ。強化もできるから楽しんでゲームをして欲しい』

 

・・・・・うん、完璧にどこかのモンスタークエストだね。

 

『因みに悪魔と天使、堕天使の生徒は『魔法使い』という立場にしてある。

モンスターの中には魔法、魔力を無効化できるモンスターがいるため、

必ず一般の生徒と組むように。他にも「刀剣士」、「格闘士」、「魔法使い」、

「弓兵」、「僧侶」といった様々な職業がある。それらの職業は武器と防具を装着した時点で

なるが、他の職業に変えることは二度とできないので、自分にあった職業を選んでくれたまえ』

 

『それでは、ゲーム開始じゃ。皆、切磋琢磨じゃぞ』

 

説明をし終えたとばかり、複数の立体映像が消失した。

その瞬間、周りがさらにざわめきだった。

 

「一誠くんと一週間も会えないなんて・・・・・」

 

「いっくん成分が・・・・・尽きる」

 

「一誠さま・・・・・お会いしたいです」

 

あっちはいきなり乙女発言!

 

「そもそも、ゲーム中にお腹が空かないかしら?」

 

「衣食住が保障されているか、とイリナは言いたいのだろう?」

 

こっちはまともな発言だった。

 

「えっと、僕と和樹さん、清楚さんとカリンさん、イリナさんとゼノヴィアさん、

楼羅さんと悠璃さんの八人ですね」

 

「ああ、私たち駒王学園側はそれでいいじゃないか?十人までと説明されたからな」

 

「残りは川神学園側・・・・・誰にします?」

 

龍牙の尋ねに僕は思わず沈黙した。誰が良いだろうか・・・・・知り合いなんて―――。

 

「あれ、一誠はいないのか?」

 

「本当だねん」

 

「あれー?一誠、いないのー?」

 

「おや、もしかしてお休みでしょうかね?」

 

「そいつは困ったな。まっ、大丈夫だろうさ」

 

―――いたよ!しかも向こうからやってきた!

 

「あ、あの!私も入れてくださぁいっ!」

 

あっ、デイジーが来た。でも―――これで問題ないね。僕は口を開いた。

 

「皆、僕たちと組んでください」

 

―――一誠side―――

 

「―――皆、ありがとう。ご協力感謝する」

 

とある一室に俺と杉並はいた。さらに疑似空間でゲームの説明をしてくれた

ルシファーたちもいて、彼女達に感謝の言葉を述べた。

 

「なに、私も他人事じゃないさ。キミの話しを聞かないままだったら生徒たちは、

しこりを抱えたまま帰って来てしまうからね」

 

「まあ、製作者としてゲームを構築できたのは楽しかったぜ」

 

「これで、両学校の生徒が仲良くなってくれればいいのだけれど・・・・・」

 

「それは当人立ち次第ですの」

 

「さて、七時間後・・・・・どう変化して帰ってくるのか、高いところから眺めていよう」

 

杉並が口の端を吊り上げ、宙に浮かぶ立体映像に視線を向けた。

他の皆も同様に茶菓子を食べたりして疑似空間にいる皆の様子を見守る姿勢になるが・・・。

 

「あー、自分でこんなことしてなんなんだけど・・・・・なんか、楽しそうだなぁ・・・・・」

 

俺もあのゲームに参加したい気持ちが込み上がったのであった。

 

―――○●○―――

 

―――清楚side―――

 

疑似空間に転移されて早くも三十分が経過した。

私たちはガイドブックを参考にしながらチームを組んだ。

メンバーは私、葉桜清楚、式森和樹くん、神城龍牙くん、カリンちゃん、紫藤イリナちゃん、

ゼノヴィアちゃん、兵藤悠璃ちゃん、兵藤楼羅ちゃん、デイジーちゃん、川神百代先輩、

松永燕先輩、榊原小雪ちゃん、葵冬馬くん、井上準くん―――。

 

「私は矢場弓子。弓道部の主将で候。百代に誘われた入れてもらったからには力になるで候」

 

眼鏡を掛けたクールビューティーな先輩。計十五人のチームができた。

 

「リーダーは誰がしたい?」

 

「んー、ここは一誠・・・・・と言いたいけれど、いないしねぇ」

 

「清楚さんがいいのでは?」

 

「私?」

 

龍牙くんの指名に自分で指して問うと、

 

「文武両道ですからね。それに僕たちのクラスの委員長でもありますし」

 

「うん、僕も清楚さんにリーダやってほしいね」

 

「・・・・・」

 

和樹くんにまで言われ、他の皆に視線を向けると無言で頷いてくれる。

 

「・・・・・じゃあ、私が皆のチームリーダーとなります。

でも、皆と協力してゲームをクリアしようね」

 

『当然!』

 

結果、私がこのチームのリーダとなった。周囲にも目を配れば、

私たちのようにチームができていたり、話しあったりとかしていた。

 

「それじゃ、クエスト行く前にガイドブックを読んで知識を得よう?」

 

「ええ、そうですね」

 

「ここじゃ落ち着かないから、どこかに行きましょう?」

 

イリナちゃんの提案に私たちは同意した。でも、どこに行こう?

 

「えーっと・・・・・・ギルド専用の家があるって書いてありますよ?」

 

デイジーちゃんが気になることを言う。

彼女はガイドブックのページを開きなら説明口調で私たちに教えてくれる。

 

「ギルド会館でメンバーが決まったチームはリーダーがギルド会館のNPC(ノンプレイヤーキャラクター)から

ギルド創立のクエストを受けクリアすればギルド専用の家が設立できる。

その後、ギルドのシステムに名前を入力して、登録すればリーダーはギルドマスターとなり、

ギルド専用の家に入れる。チームメンバーはそのギルドのギルドマスターに加入の承諾を

得ればギルドに参加できて、ギルドマスター同様にギルド専用の家に入れる・・・だそうです」

 

「かなり徹底しているね・・・こんなこと、アザゼル先生辺りが構築したんじゃない?」

 

「そうかもしれないね。えっと、ギルド会館って・・・・・」

 

「あれ、じゃない?」

 

悠璃ちゃんがとある方へ指した。私はその指した方へ視線を向けると、

いま私たちがいる建物の中で一際大きい建物に『G』の看板が―――。

 

「清楚さん、先にギルド創立のクエストにしますか?

どちらにしろ、一週間以内にクエストを全てクリアしないといけないようですし」

 

「そうだね。それに武器・防具を持っていないし

何かしらのクエストをやって備えないと」

 

「武器を買うとしたら私は大剣だね」

 

「私は・・・・・使い慣れている刀かしら?」

 

「・・・あれ、魔法が使えない?

―――マジで、ゲームみたいに杖がないと魔法が使えなくしているのか」

 

私たちが最初にしないといけないことが沸々と分かっていく。そこで私は一言言った。

 

「取り敢えず、ギルド会館に行きましょう?」

 

―――ギルド会館―――

 

デイジーside

 

ギルド創立のためにだけ創られた建物。天井はかなり高く目を凝らしてみれば、

壁一面にドアらしき物があった。

 

「いらっしゃいにょ」

 

『・・・・・』

 

NPC(ノンプレイヤーキャラクター)のもとに辿り着いた私、私たちの目に信じられないヒトがいた。

それは圧倒的な巨体で存在感。鍛え抜かれた筋骨隆々な男性が、ゴスロリ衣装を着込んでいるんです。

しかも、良く見れば、ボタンが引き千切れそうで、服の端々もいまにも敗れそうに悲鳴を上げています。

・・・・・頭には猫耳。

 

「こ、このヒト・・・・・NPC(ノンプレイヤーキャラクター)だよね?物凄く存在感を感じるんだけど」

 

和樹くんが信じられないモノを見る目で目の前のヒトを見た。

 

「ミルたんに何かご用かにょ?」

 

『ブッ!』

 

思わず吹いてしまった。野太い声、名前がミルたん、しかも語尾に「にょ」なんて・・・っ!

 

「え、えっと・・・・・ギルド創立のクエストを受けに来ました・・・・・」

 

清楚さんが固まった笑顔でクエストを受ける―――と。

 

カッ!

 

そんな効果音を立てるように目の前のNPC(ノンプレイヤーキャラクター)の目が光りました。

 

「わかったにょ。

それじゃ、ミルたんのお願いを叶えてくれたらギルド専用の部屋の鍵を渡すにょ」

 

部屋?・・・・・もしかして、あの壁一面にある扉のことでしょうか?

 

「・・・・・彼の願いがクエストなので候?」

 

「取り敢えず・・・・・成り行きを見守ろう」

 

川神先輩と矢場先輩が声を殺して清楚さんの話に耳を傾ける。

 

「お願いとは?」

 

「北の地域にある火山の地底に棲んでいる凶暴な龍から魔法の源、

『魔源の宝玉』を取って来て欲しいにょ。

それがあればミルたんは晴れて魔法少女になれるんだにょ」

 

ま、魔法少女ですかぁぁぁぁっ!?どう見たってあなたは男性ですよね!?

そんな、魔法を振るいたい気持ちは分かりますけど、あなたは魔法少女にはなれませんよ!

 

「わ、分かりました・・・・・『魔源の宝玉』を取りに行きます」

 

「頼んだにょ。ああ、火山は物凄く熱いから『クーラードリンク』を飲んだ方が良いにょ。

それと耐熱の装備も必須だにょ」

 

「耐熱の装備?」

 

「にょ。火山に棲むモンスターから得られるにょ。

中にはこわーいボス級のモンスターもいるから気を付けにょ」

 

徐にカウンターの影に隠れたかと思えば、ガチャッと箱を出してきた。

 

「この中にクーラードリンクが入っているにょ。

頑張って『魔源の宝玉』を取って来てちょうだいにょ」

 

「あの、制限時間とかあります?」

 

「無制限だにょ。でも、一日でも早く持って来てくれたら、全員に良い物をあげちゃうにょ」

 

良い物・・・・・何でしょうか。とても気になりますね。

 

「分かりました。では、行ってきます」

 

「気を付けて行ってらっしゃいにょ」

 

箱を受け取った清楚さんは私たちに視線を向けて「行こう」と伝えてくる。

ギルド会館から出ようと歩を進めた。

 

「―――あら、あなたたち」

 

そこへ真紅の髪の女子が筆頭に十数人の生徒たちが現れた。

―――って、リアス・グレモリー先輩!

 

「リアス先輩。先輩もギルド創立を?」

 

「ええ、どうやらあなたたちもそうみたいね。これからクエストへ?」

 

「はい、北に行くところです」

 

「そう、私たちは私たちでクエストをクリアし続けるわ。

何か困ったことがあったら協力は惜しまないわよ」

 

「ありがとうございます」

 

それだけのやり取りをして、私たちは別れた。―――その直後。

 

「ミ、ミルたん!?」

 

と、ギルド会館から驚愕の声が聞こえたのでした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode7

 

 

ドッガアァアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

必要な装備、アイテムを揃えた清楚たちは北の地域の一つ、火山に辿り着いた。空は薄暗く、

火山が噴火する轟音が鳴り響く。

説明口調なのは、俺こと兵藤一誠が映像を介して見ているからだ。

 

『うわー、壮大だねー?』

 

『生で火山を見るのは初めてですよ』

 

『ハルケギニアの火竜山脈より凄いかも』

 

『ハルケギニア?』

 

『カリンちゃんの故郷だよ』

 

『へぇ、外国人だったのか』

 

岩石だらけに存在するベースキャンプで一行は雑談する。何だろう・・・とても楽しそうだぞ。

 

『さて、凶暴な龍がいる火山には来たけど・・・実際に火山地底のどの辺りにいるんだろう?』

 

『・・・・・ところで、さっきからあるこの箱は何だ?』

 

百代が視線をキャンプの隅っこに置いてある箱に目を向けた。

 

『開けて・・・・・みる?』

 

『じゃあ、僕が開けるねー?』

 

『準、一緒に』

 

『あいよ。そんじゃ、せーの!』

 

井上準と榊原小雪が箱を開けた。箱に入っていたモノは―――。

 

『えーと・・・・・火山の全体地図にペイント玉×3、薬草×5にモドリ玉×1と音爆×3に

閃光玉×3、ボロピッケル×5、ボロ虫網×5・・・・・って、アイテムがあったぞ』

 

『人数分ですか?』

 

『ああ、全員分だ。クエストをクリアするために必要なアイテムってことだろうな』

 

『じゃあ、アイテムを取りましょう』

 

デイジーの提案に全員が頷き、アイテムBOXから自分の分のアイテムを取って、それぞれ

『刀剣士』、『格闘士』、『魔法使い』、『弓兵』、『僧侶』の職業になった葉桜清楚、

式森和樹、神城龍牙、カリン、紫藤イリナ、ゼノヴィア、兵藤悠璃、兵藤楼羅、デイジー、

川神百代、松永燕、榊原小雪、葵冬馬、井上準、矢場弓子は徐に地図を開く。

因みに皆の職業は以下の通りだ。

 

『刀剣士』:清楚、龍牙、イリナ、ゼノヴィア、

 

『格闘士』:百代、松永燕、、井上準、榊原小雪、

 

『魔法使い』:和樹、カリン、悠璃、葵冬馬、

 

『弓兵』:矢場弓子、楼羅、

 

『僧侶』デイジー、

 

と、感じだ。

 

『いま思えば、楼羅さんって弓扱えることができたんですか?』

 

『兵藤家は様々な武術を学んでいるので、悠璃と私も例外ではないんですよ』

 

『でも、一誠は初めて弓に触れたって前に言っていたけど・・・・・』

 

『一誠さまは事情でそこまでのことを教わっていないんです。剣術も然り』

 

『なるほど・・・・・何度か一誠さんと剣術で勝負したことがあるのですが、

ちょっと雑な振り方が見受けれるのでもしかしたらと思ったら・・・・・やはりそうでしたか』

 

今はベルゼブブに稽古してもらったからな。前よりはマシになっているはずだぞ。

 

『凶暴な龍が居そう場所ってここじゃないかな』

 

『一番奥・・・・・なるほど、いかにもラスボスが居そうな感じですね』

 

『じゃあ、真っ直ぐ寄り道しないで行く?』

 

『一日も早く届けたらいい物がもらえるのだろう?なら、そうした方がいいかもしれん』

 

『それじゃ、『魔源の宝玉』を持つ龍を探しましょう』

 

『それっぽいモンスターがいたら、念のためにペイント玉を当ててから攻撃』

 

『負けそうになった人は、モドリ玉で先にキャンプまで戻ってその場で待機』

 

確認し合ったところで、一行は頷き合い。行動を開始した。

 

「杉並、そっちはどうだ?」

 

立体映像から視線を外して隣にいる杉並に問うた。

 

PK(プレイヤーキラー)をする者は今のところまだいない。

それぞれ各々と自由に行動している。クエストをしているチームがいれば、

町中を探検しているチームもいるし、チームに組みそびれた者が立ち往生している」

 

「まだチームに組んでいない奴がいれば、

まだ枠が空いているチームに勧誘してもらうように事を運んでくれ」

 

「了解した」

 

そう言って杉並は小型魔方陣を展開して操作をし始める。

俺自身も不祥事がないか調べるために魔方陣を操作し続ける。

 

「今のところ、問題なさそうだな」

 

「ええ、それにしてもたった二人でここまで進めていくなんて凄い能力ね」

 

「ほっほっほっ、この二人が突き進む未来がどうなっておるのか楽しみじゃわい」

 

「まず確定しているのは人王とハーレム王だな」

 

・・・背後で俺たちの様子を見守るアザゼルたちが雑談する声が耳に届く。

アザゼルは後で縛りの刑だな。

 

―――○●○―――

 

―――百代side

 

「な、なぁ・・・・・ここ、降りるのか?」

 

ハゲが顔を引き攣らせて、崖の下を見る。

深奥の火山地底に行くには降りて行くしかないのだと分かったんだが・・・どうやら最初の難関

もといスカイダイビングしないと先に進めない。下に覗くと―――真っ暗だ。

誰もこんな深い穴に飛び込むほど勇気がないし、飛び下りる勇気が必要だ。

 

「か、和樹くん・・・カリンちゃん・・・・・浮遊魔法って使える?」

 

「・・・・・ごめん、無理」

 

「何故か知らないが・・・・・使えなくなっている」

 

清楚ちゃんの尋ねられて試しにしたようだが、

地面から浮くことはなく・・・二人は首を横に振った。

 

「・・・・・飛び下りないとダメなのですね」

 

その三人の言動にデイジーちゃんが息を呑んだ。

 

「死にはしないと言っていましたし・・・・・もしかしたら骨折だけで済むかもしれません」

 

「それはそれで重傷だって・・・・・」

 

恐れ戦く皆。・・・・・しょうがない。ここは私が行く―――。

 

「んはっ!俺が先に飛び降りてやる!」

 

ダッ!と清楚ちゃんが突然豹変して躊躇もなく跳び下りた・・・・はっ?

 

「はっはっはぁっ!」

 

清楚ちゃんの姿はあっという間に消えた。すると・・・・・。

 

「お前らぁっ!降りてこいっ!」

 

下から聞こえる清楚ちゃんの声。どうやら、無事に下へ降りれたようだな。

 

「・・・・・楼羅、大丈夫みたいだね」

 

「みたいですね。では、デイジーさん。一緒に飛び降りましょう」

 

「へ?」

 

デイジーちゃんを抱えて三人も穴の中へ飛び降りて行った。

そんな様子を見ていた私たちは―――。

 

「準、お願いします」

 

「あいよ」

 

「わははーい!僕も飛び降りるー!」

 

「イリナ、私と一緒に降りるぞ」

 

「うん!」

 

「というか、皆で飛び降りれば案外怖くなかったかもね」

 

「次からそうしましょう」

 

―――と、安全が分かったことで安心感が湧いて次々と崖から落ちていく。

私はユミを抱えて飛び降りたがな。

飛び降りる際に感じる風圧で髪が靡く最中、下に視界を向けていたら先に降りて行った四人の姿が

捉えた。

 

ザッ!

 

難なく着地した私たちだった。痛みは感じなかった。

 

「あっ、痛くない」

 

「本当だね。不思議」

 

脚に感じる痛みは伝わらない。負担も一切無いようにも思える。

 

「見て、あそこに道が」

 

燕が指をとある方へ突き付けた。そっちの方に向けたら、

確かに道らしきものがあった。獣道・・・か?

 

「進みましょう」

 

楼羅ちゃんが催促する。私たちは周りに警戒をしながらも歩を進めた。―――と、また崖だった。

が、今度は高さが低かったから躊躇もなく飛び降りて次のエリアへと進んでいく。

 

「なんだか、冒険をしている気分です」

 

「そうだねー。そう思うとワクワクしてきたよ」

 

ああ、キャップ辺りが物凄く喜んで楽しそうにはしゃぐこと間違いない展開だぞ。

歩を進めている私たちは、次のエリアへと出た。

崖と崖を蜘蛛の糸のようなもので繋がっていて、

火山が噴火した際に起こる煙が濛々と遠くから見れた。

 

「おっ、青い岩の塊を発見」

 

燕が向こうにある青い塊を見つけた。私や他の皆は燕が見つけたその岩へと近づく。

 

「・・・どうやら、ピッケルが使えるそうです。

宙にピッケルのマークのアイコンが出てきましたので」

 

「じゃあ、掘ってみる?経験した方が良いと思うし」

 

皆は清楚ちゃんの尋ねに頷いた。四人ぐらいボロいピッケルをどこからともかく取り出して、

鉱石を掘り出した。

 

ガキンッ!

 

「おっ、紅蓮石って鉱石が出たぜ」

 

「僕は光るお守りという・・・・・鉱石でしょうか?」

 

「こっちも光るお守りってのが出たよ」

 

ピッケルを振り下ろしては何が出たのかハゲと和樹、龍牙が答え続けて言う。

―――バキッ!とピッケルが壊れるまでは。同時に青い岩の塊も。

 

「あ、消失しました」

 

「へぇ、アイテムって壊れると消失するんだな。もしかして使い捨てか?」

 

「みたいですね」

 

区切りがついたとばかり、三人は私たちに振り向いた。

 

「清楚、次のエリアは・・・・・また、あの崖から落ちた方が早いけど・・・どうする?」

 

カリンちゃんが地図を見ながら清楚ちゃんに問う。また飛び降りるのか?

ここって飛び降りる場所がどれだけあるんだよ。

 

「・・・・・うん、じゃあ・・・・・飛び降りよう?」

 

ぎこちない笑みを浮かべた彼女だが―――目が赤くなった。

 

「まあ、俺が飛び降りるがな」

 

まただ・・・・・清楚ちゃんは二重人格なのか?口調が真逆に変わってしまう。

 

「行くぞ」

 

『了解』

 

駒王学園組の和樹たちが返事をして先に飛び降りて行った。

彼女の変貌に対して気にしないでいるが、

もしかして・・・・・彼女はそう言う奴だったりするのか?

 

―――龍牙side

 

あれから僕たちは次のエリアへと崖から降りて、深奥のエリアへ進んでいた。

 

「・・・・・熱いですね」

 

「ええ、暑いです」

 

二重の意味で僕たちの体力は減っている。―――いや、確実に。

 

「クーラードリンクを飲むで候」

 

矢場先輩の提案に僕たちは、クーラードリンクを取り出して飲み始める―――と、

体がスッと熱く感じなくなった。

 

「凄い・・・・・夏の時にこれ販売していたら、間違いなく大人気の商品と成っているよ」

 

「そうだな。んじゃ、先に進もうぜ」

 

「『魔源の宝玉』を持つ龍・・・・・一体どんなモンスター何だろうね」

 

そういえば、どんな龍なのか聞いていませんでしたね。特徴も特には―――。

 

『にょわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

 

―――えっ?

 

「・・・・・今の声って」

 

「かなり遠くから聞こえたが・・・・・間違いねぇ。あいつだぜ」

 

「どうやら彼女たちも私たちと同じ目的でここに来たようですね」

 

あの人・・・・・ですか。あまり、良い印象が無いんですがね。

 

「・・・・・行きましょう」

 

清楚さんが興味なさそうに歩を進め出した。僕たちも後を追ってしばらくして、

奥へと進める道を見つけ周りに警戒しながらも、その道に進んでいくと―――。

 

「おお・・・・・マグマが流れているよー!」

 

榊原さんがドロドロとした赤い物質―――マグマを見て声を上げた。

やっと火山らしいモノが見えました。

 

「しっかし・・・・・流石にここまでくるとホント、二重の意味で暑いな」

 

「えっと・・・・・いま私たちがここにいるから・・・・・あっちに行けば深奥に行けれるぞ」

 

「なら、さっさと行きましょう?後から来る人たちと問題を起こしたくないからね」

 

そう言ってスタスタと歩いていく清楚さん。急に態度が変わってしまいましたね・・・・・。

 

「なんか、ピリピリしていない?」

 

「・・・ええ、ちょっと僕たちの他にいる人たちの中にいる人と問題がありまして・・・・・」

 

「ああ、そう言うことなのねん?」

 

早く理解してくれてありがたいです。さてと、宝玉を取って早く僕たちの家に入りたいですね。

 

―――和樹side―――

 

いよいよ火山地底の最深部、深奥を目前となった僕たち。

崖から降りて岩に囲まれた空間の中を歩いていたら―――、

 

「・・・・・何もいない?」

 

そう。モンスターの影も形も存在しない、見当たりもしない。これはどういうことだ?

 

「もしかして、違ったのかな・・・・・」

 

「火山地底の深奥にいないとすれば・・・・・他のエリアにいるのか?」

 

「だけど、他のエリアに行ってもいなかったら・・・・・」

 

僕たちの間に不安の空気が・・・・・。でも、その空気は一瞬でなくなった。その理由は―――!

 

ギェエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

『っ!?』

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

凶暴な龍が突如に現れたからだ!轟音と共に僕たちの目の前に姿を現した龍は・・・・・とても、

見覚えがあった。

 

『ハハハハッ!ようやくきたか、お前ら』

 

な、なんであの龍がここに!?僕は唖然として目の前の龍を視界に入れたまま固まってしまった。

 

『お前らの目的は知っている。「魔源の宝玉」を欲しいのだろう?』

 

「・・・・・その宝玉はどこにあるのですか?」

 

『俺の額にある。欲しければ奪ってみろ』

 

そう言って三つの宝玉を僕たちに

煌めかせて見せつける―――三頭龍の『魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)』アジ・ダハーカ!

 

『くくく、あいつは楽しませてくれる。現れる人間どもの相手をしろというのだからな。

まあ、この火山の地域から動くなと言われているが・・・・・』

 

あいつとは―――――やはり、そうか。この原因の本当の黒幕は―――一誠だったのか!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode8

 

 

「あっさりとバレたな」

 

「まあ、あの龍を出した時点で気付かれるさ」

 

「他にもあいつら(・・・・)がモンスターとして動いているし、

別に隠すようなことでもないし」

 

「追及されるのはまず間違いないだろう?」

 

「そうだな」

 

『ギェエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

アジ・ダハーカの咆哮が火山地底の最深部エリアに轟いた。

その咆哮に呼応するかのように地面からマグマが噴出する。アジ・ダハーカの咆哮に

耳を防いでいた清楚たちは、各々と得物を構えて目的のアイテムを奪おうと動き出し始めた。

 

『格闘士』の百代が爆発的な脚力で一気に三頭龍の一つへと近づいたが、

残りの二つの頭の口から出る雷と吹雪に遮られた。体勢を立て直す百代に追撃するかのように、

アジ・ダハーカは翼を羽ばたかせて体を回転させ、サマーソルトを見せてくれた。

その動きに振り回される極太の尾が百代の体に吸い込まれる形で直撃した。

 

『ぐっ!?』

 

尾に叩きつけられ壁へと吹き飛ばされる百代。

そんな彼女にさらに攻撃しようと口を開いたその時。

 

『束縛する!』

 

『ついでに閃光玉!』

 

杖を振るったカリン。和樹も杖を振るったら、地面から生えた無数の茨が

意思を持っているかのようにアジ・ダハーカの全身を拘束した。さらに井上準が小さい玉を

アジ・ダハーカの真正面に投げたその瞬間に、眩い光が生じて三頭龍の視界を奪った。

 

だが、三頭龍は咆哮を上げ、アジ・ダハーカの周囲に地面からマグマが噴出したと思ったら

全身を拘束する茨を焼き消した。

 

『流石に・・・・・強いね。ちょっと戦っただけで全く勝ち目なんてないって思わされちゃう』

 

『でも、まだまだ戦えるわ!』

 

『そうだな。それとイリナ。まだまだ「私たちは動いていない」というのが正解だ。

今度は私たちもいくぞ』

 

勇ましく、勇敢に戦う。皆は三頭龍を囲むように広がって得物を振り回す。時折アイテムも使う。

アジ・ダハーカも全身を使い、炎と雷、氷の属性攻撃で対応、対抗、抵抗と哄笑しながらする。

傷付いた仲間をフォローし、注意を自分の方へ引きつけて味方の攻撃を当てるサポートをすると

永遠に繰り返していくその光景をしばらく見ていると、

 

『よいしょっと』

 

激戦を繰り広げる中で場に合わない

言葉を発する小雪は―――アジ・ダハーカの尻尾を伝って駆けていく。

アジ・ダハーカ自身も小雪の存在に気付き、振り下ろそうと尾を動かすが、

小雪が一歩早く三対六枚の翼を生やしている背中に飛び乗った。

 

『小賢しいッ!』

 

一つの頭が小雪を喰らわんと口を大きく開けて迫った。でも、その選択は間違いだった。

再びアジ・ダハーカは無数の茨に拘束されて身動きはとれなくなったのだ。

 

『いまだっ!行け!』

 

『うん!』

 

仲間にフォローしてもらい、小雪は弾丸のように物凄い勢いでアジ・ダハーカの頭に接近して、

額に付けてある宝玉を掴んだ。

 

『とったぞぉぉぉぉぉぉぉっ!』

 

「・・・・・」

 

不死は何も無敵じゃあない。攻略方法だって色々とある。最強はともかく、

無敵なんて存在は―――いないんだ。

 

「ほっほっほっ。見事に難関中の難関をクリアしたのぉ」

 

「流石に討伐は不可能に近いからな。クリアするなら、

ああいった仲間と何とかできるぐらいのことじゃないと」

 

「お前の場合、ガイアの力で勝てたんだろう?」

 

「そのガイアの力を頼らないと勝てないってことだ」

 

―――何時か、俺自身の力で勝ってみたい。そう思った俺はもっと強くなると決意した。

 

―――○●○―――

 

―――カリンside―――

 

『魔源の宝玉』を得た。北の地域から離れ、ギルド会館に戻った私たちはさっそく

NPC(ノンプレイヤーキャラクター)に報告をしたのだった。

 

「はい、『魔源の宝玉』です」

 

「おお、ありがとうにょ!これでミルたんは魔法少女になれるによ!」

 

・・・・・突っ込んでも良いだろうか。絶対に目の前の存在は少女ではないと。

 

「それにしても、よくあの凶暴な龍から数時間で・・・・・約束通り、

皆さんに良い物をあげるにょ」

 

良い物とは何だろうか・・・・・私は少し期待を胸に膨らませてカウンターの影に隠れた

NPC(ノンプレイヤーキャラクター)を見ていると、箱のようなものを取り出した。

 

「はいにょ。この箱を開けるときは部屋の中で開けるにょ」

 

そう言って部屋の鍵を清楚に手渡した。これで部屋の中に入れると思ったら、

 

「あの、他にもクエストがあるんですよね?」

 

清楚がそう尋ねた。

 

「勿論だにょ。他にも様々なクエストがあるにょ。他のクエストをしたいなら、

町に提示されているクエスト看板や、様々な店に入ってそこにいるこの町の住民に話しかけて

クエストを受けるにょ。それと期間限定のクエストもあるから、興味があるなら受けてみるにょ」

 

期間限定のクエスト・・・・・それはいつするのだろうか?清楚も私と同じことを思ったようで、

そのクエストのことを尋ねた。返ってきたのは―――。

 

「三日に一度、レアな装備と武具が手に入るクエストがあるにょ。

ただし一人一回の制限があるから、チームで行くなら頑張ってクリアするにょ」

 

レアな装備か・・・・・アジ・ダハーカみたいなモンスターがいるなら必要な物だ。

必ず手に入れたい。

 

「部屋はどこでもいいんですか?」

 

「そうだにょ。でも、ミルたんは一番高い部屋にしたほうがいいにょ。

高いところから眺める景色はとても綺麗だにょ」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

「最上階に行くなら魔方陣で何度かジャンプするにょ」

 

NPC(ノンプレイヤーキャラクター)がそう言う。

清楚は頷いて私たちを引き連れて上の階に行くための魔方陣へと足を運んだ。

 

「で、どこの部屋にするんだ?」

 

「最上階かな。あの人が親切に教えてくれたし」

 

「まあ、どこでも良いけどな。しっかし、あのドラゴン・・・強かったなぁー」

 

百代先輩が溜息を吐いた。きっとあの邪龍のことだろう。

でも、どうしてあそこにいたんだろうか。

 

「というか・・・・・どうしてあの邪龍がここに?」

 

イリナが私の気持ちを代弁するかのように呟いた。その答えは―――。

 

「まあ、僕は気付いたけどね」

 

和樹が苦笑いを浮かべてそう言う。何に気付いたのだろうか?

 

「なあ、何か知っているのか?」

 

「知っているというより、このゲームを考えた本人が誰なのかってことだね。

その人はアジ・ダハーカがいたことに信憑性が増した」

 

―――まさか?

 

「・・・・・まさか・・・・・」

 

楼羅が信じられないと目を丸くした。私と同じ考えに辿り着いたんだろう。

彼女の隣にいた悠璃が口を開く。その人物の名を発して―――。

 

「・・・・・いっくんが?」

 

「うん。この場にいない人物―――一誠の仕業だよ」

 

『っ!?』

 

和樹の言葉に皆が絶句した。やっぱり、そうなのか。

 

「一誠がこのゲームの首謀者だと言うのか?」

 

「現五大魔王と神と神王。それと理事長のサーゼクスさんとアザゼル先生、

川神学園の学長の川神鉄心さんと一誠は交流を持っているし、

協力を求めたら二つ返事で答えてくれると思う。

だからあの場にそれぞれのトップたちが集まって僕たちにこのゲームをするように言ったんだ」

 

「でも・・・・・何のために?」

 

私の問いに和樹は・・・・・私たちを見渡した。

 

「多分・・・・・今の現状じゃないかな」

 

「今の現状って?」

 

「あの人たちも言っていたように駒王と川神の生徒と組んでクエストをクリアしていく。

それを数日間もしていけばどうなると思う?」

 

「・・・・・仲良くなるってか?」

 

井上準が怪訝に呟いた。彼の返答は肯定と和樹は首を縦に振った。

 

「うん、それを一誠は望んでいたのかもしれない。僕たち駒王とキミたち川神の生徒同士、

仲良くなって欲しいと願ってこのゲームをさせられているんだと僕はそう思う」

 

「なるほど・・・・・今まで謎だったものが全て合点した。ということは、

今でも私たちの言動を見ているのかな?」

 

「そうじゃないかな?まったく、一誠も人が悪いね。僕たちに内緒で

こんな大イベントを考えるなんてさ」

 

多分・・・・・一誠だけじゃない。―――杉並もこの件に絡んでいるはずだ。

あいつなら喜んで協力すると思うしな。一誠の話しは魔方陣で最上階まで移動するまで続いた。

 

「さて、最上階に辿り着いたね」

 

「・・・・・扉が一つしか無い?」

 

「まあ、中に入りましょう?そして、箱の中身も早く開けたいからね」

 

清楚が鍵を部屋のカギ穴に差し込んでガチャリとロックを解除した。

そして、ドアノブを掴んで回しながら押すと―――。

 

『おおお・・・・・』

 

感嘆の言葉を漏らした私たち。部屋の中は・・・・・かなり広かった。

リビングキッチンがあって天井を幾つかの柱で支えていてとても広い空間だった。

 

「って、生活用品どころか、家具すらないんだな。キッチンだけあるってどうよ?」

 

「私たちが寝る部屋は・・・・・」

 

「それにしても凄く広いね。開放的な部屋だよ」

 

うん、こういう部屋も悪くはない。ここが私たちの部屋か・・・・・。

 

「さて、清楚ちゃん。箱を開けてくれ」

 

「うん、分かった。中身は何だろう」

 

NPC(ノンプレイヤーキャラクター)から受け取った箱を床に置いて、蓋に手を掛けた。

私たちが清楚を中心に囲んで箱の中身を何なのか、

静かに見守る最中・・・・・清楚が蓋を開けた。

 

「・・・・・なにこれ?」

 

疑問が浮かんだ。清楚は箱の中身を取り出した。それは―――巻き物だった。

 

「巻物?」

 

「みたいだね・・・・・」

 

「これが良い物なのか?なんだか、拍子抜けだな」

 

私も「そうだな」と肯定した。そんな中、清楚は徐に巻物を開いた。

 

「・・・・・『汝の願いを三つ叶えん』・・・・・って書いてあるよ?」

 

「三つの願いを叶えてくれる巻物?ゲームじゃ有り得ない超レアなアイテムだ」

 

「巻物に書くのかな?でも、ペンとかそういうのはないけど・・・・・」

 

「願いを籠めて言うんじゃないのか?試しに誰かが願い事したらどうだ?」

 

ゼノヴィアの提案に私たちは思わず顔を見合わせた。

誰が、どんな願いをする?と腹の探り合いでもするかのようにだ。

 

「じゃあ、僕がお願いして良いかなー?」

 

挙手して言う榊原小雪。彼女の言葉に反対する者は―――いない。

 

「そうですね。今回の功労者はユキですし、彼女に一つだけ任せても良いじゃないですか?」

 

「私もそれで良いで候」

 

「うーん。まっ、いいかな?いきなりどんな願い事を考えるなんて思い付かないし」

 

と、そんなこんなで彼女が願い事を一つだけ叶える権利が得た。でも、どんな願い事をするのか?

 

「それじゃ、小雪ちゃん。どんな願い事をするの?」

 

清楚がそう尋ねた。その問いに榊原小雪は満面の笑みを浮かべて願い事を言った。

 

「うん!ここに一誠を連れて来て欲しい!」

 

刹那―――。カッ!と巻物が光を発した。

 

 

―――○●○―――

 

 

―――一誠side―――

 

「はっ?なんだこれ!?」

 

突如、俺の体は光に包まれた。

小雪が疑似空間に連れて来て欲しいと願った途端にこんな現象になった。

アイテムに関することは全てアザゼルに一任している。だから俺は、アザゼルに問いだした。

 

「アザゼル!運営側の俺にあの空間に転送できるシステムなんて設定したのか!?」

 

「いやー、『願い事』だからな。とりあえず、ゲームに関する願いなら何でも

叶えるようにしてあるが・・・・しょうがないだろ?」

 

「そんな悪そびれていない態度で『しょうがないだろ?』と言われて納得できるか!」

 

「ははは!まあ、なんだ。楽しんで行けや」

 

そう言うアザゼルを余所に、俺は首の下まで光に包まれた。

 

「・・・・・杉並、後は頼む」

 

「任された。主のシーグヴァイラ・アガレスのこともよろしくな」

 

「出会ったならな」

 

そう言った直後。俺は完全に光に包まれて―――意識が遠のいた。

 

―――イリナside―――

 

光った巻物からなんと・・・・・本当に一誠くんが出てきたわ!

凄い、この巻物は本当に良い物だったわ!私、紫藤イリナは興奮が収まらないでいたけど・・・。

 

「さて、一誠。色々と教えてもらうよ?」

 

式森くんがこわーい笑みを浮かべていたわ。

 

「・・・・・帰って良いか?」

 

『ダメ』

 

わー、異口同音で皆が揃って言った。一誠くんは皆に囲まれた状態でちょっと溜息を吐いて、

白状とばかり告げた。

 

「・・・・・和樹が言ってた通りだ」

 

「やっぱり、そうだったんだね。でも、どうして?」

 

「俺たちに対する印象を改めて欲しくてな。だからこのゲームを企画したんだよ。

杉並と一緒にな」

 

イッセーくん・・・・・。

 

「それで、首尾はどうなの?」

 

「今のところ、上々と言ったところだ。やはり、

お互い対面しないと分からないことが多いようでな、話し合ってみれば分かり合っている」

 

「そっか。それなら、一誠に内緒でゲームさせられている意味があったね」

 

「・・・・・悪かったな」

 

式森くんが何気に棘のある言葉を吐く。

 

「でも、少しは楽しい思いをしているだろう」

 

「新鮮さがあるって言っておくよ?だけど、まさか本当に一誠が来るなんて驚いたよ」

 

「呼び出された俺自身も驚いたけどな」

 

「わーい、一誠だぁー♪」

 

そのイッセーくんを呼びだした小雪は、イッセーくんに抱きついた。

 

「運営側、ゲームマスターの俺がゲームをするなんて・・・・・」

 

「ゲームマスター?」

 

「このゲームの世界じゃ俺はチートな存在だ。

だから、今回の企画者である俺と杉並はゲームマスターとしてお前らの言動を学校の中で

様子を窺っていたんだよ」

 

「もしかして・・・・・五大魔王さまたちも?」

 

清楚の言葉にイッセーくんは首を縦に振って頷いた。

 

「ゲームを楽しんでもらうのも理由の一つだが、駒王と川神の生徒が互いに分かり合い、

仲良くなって欲しい理由の方一番だ」

 

「一誠くん・・・・・」

 

「一誠・・・・・」

 

「まあ、一週間もあるんだ。次第に仲良くなってくれると俺は信じている」

 

そう言ってイッセーくんはにこやかに笑みを浮かべた。そんなイッセーくんに、

 

「一誠、私たちはもう仲良くなっているぞ?」

 

「うんうん、そうだよん」

 

「そーだよー?僕は一誠と仲良しだよー」

 

「ユキ、一誠だけじゃなく、他の皆と一緒に仲良くしてほしいって一誠は言っているんだぜ?」

 

「そうですよ。それも確かに大事ですがね」

 

「兵藤くん。私は初めて駒王学園の皆と話をしたで候。

とても、親しみやすいメンバーで候」

 

川神側の生徒たちが朗らかに言ってくれたわ!うーん、何て良い人たちなんでしょう!

 

「・・・・・ありがとうな」

 

『―――っ!』

 

一誠くんが笑ったわ!もう、それだけで、イッセーくんに好意を持っている皆が、

 

「・・・・・いっくん成分が満たされた」

 

「ふふっ、一誠さまの笑顔は素敵ですね」

 

「なんだか、今までの疲労が一気に無くなった気分だよ」

 

ゼノヴィアとデイジー以外、悠璃と楼羅、清楚が嬉しそうに笑った。

勿論、私も感謝されて照れちゃう!

 

「ところで一誠、ゲームマスターということなら・・・・・この一週間に起こるイベントとか

知っているんだよね?」

 

「当然だろう?でも、それは俺たちを見守っている杉並たちが行う予定だ。

俺から何も教えれない」

 

「じゃあ、私たちはこれからどうするべきなのか?」

 

「とりあえず―――千もあるクエストを完全にクリアしていけばいい」

 

せ、千・・・・・っ!?

 

「一誠・・・・・千のクエストって・・・・・マジで言っているの?」

 

「駒王と川神の生徒を合わせて千人以上入るんだ。チームを組んで少なからず減るけど、

それでも一週間の間にクエストをし続ければなんとか全クリアできる」

 

「因みに・・・・・どんなクエストがあるの?」

 

「討伐や生産、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)の願いを叶えたり、

町に襲撃してくる巨大モンスターの防衛・・・それとNPC(ノンプレイヤーキャラクター)同士のカップルを

誕生させるクエストもあるし他にも色々とあるぞ。

全部、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)からクエストを受けれる」

 

うわー、結構あるのね・・・・・なんだか、先が遠く感じるわ。

でも、皆と協力すればできないことはないのね?

 

「さて、俺からちょっとだけアドバイスをしてやるよ。この家に家具とか私生活の用品すらない。

つまり―――」

 

NPC(ノンプレイヤーキャラクター)から専用のクエストを受けて報酬を受け取るってこと?」

 

私は思ったことを言うと、イッセーくんは笑みを浮かべて頷いた。

 

「その通りだ。食材も東西南北に生息するモンスターや魚、野菜から採取しては集めて、

クエストをしてもらう。まあ、食事する店や場所も設けてあるからそこで食べても構わないし」

 

「それは皆が知っているの?」

 

「ガイドブックに全て記してある。何の不備もないさ」

 

凄い!流石はイッセーくんね!

 

「休憩が終わったら、皆にはクエストをしてもらう。そう、色々とな?」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode9

 

 

榊原小雪に疑似空間に召喚されて翌日。俺は今、清楚のギルドの家に昨日の内にクエストで

入手したベッドから起き上がることができないでいた。

 

「ふにゅぅ・・・・・」

 

「「・・・・・」」

 

「ル、ルイズ姉ぇ・・・・・爆発は・・・・・!」

 

何故か、小雪と清楚、カリン、イリナにしがみ付かれていたからだ。ていうか、カリンよ。

お前は何の夢を見ている?

 

「よいしょっと」

 

半ば強引に体を起こした。それでも、俺の首に腕を回してしがみ付いている小雪は夢の中だった。

 

「ん・・・・・」

 

だが、清楚が目を覚ました。ゆっくりと体を起こして寝ぼけ眼で俺を見詰めた。

 

「おはよう」

 

「おはよぉ・・・・・」

 

「珍しいな。添い寝なんて」

 

そう言うと、清楚は眠気がまだ覚めないのか、ボーとしたまま俺に寄り掛かった。

 

「だってぇ・・・・・こんなこと、このゲームの中でしかできないし現実じゃガイアさんや

オーフィスさんがいっつも一誠くんと寝ているんだよ?私だって一誠くんと一緒に寝たいもん」

 

「・・・・もしかして、カリンやイリナもそうなのか?」

 

「・・・・・え?」

 

そこで、清楚が目を開けた。自分以外にもいるのかと俺から視線を外して辺りを見渡した。

 

「あれ・・・・・何時の間に?」

 

「俺が起き上がったことからいた。もしかしたら、清楚が寝ている間に来ていたのかもな」

 

「・・・・・そっか。でも、一誠くんと寝れたから良いや」

 

「これから一週間は清楚と寝れるな」

 

そう言うと清楚が朗らかに笑みを浮かべた。幸せそうな笑みだな。

 

「うん、私にとって幸せな一週間が過ごせれるんだね」

 

「そうだな。その通りだ」

 

徐に俺は清楚に顔を近づけて、彼女の額に唇を押し付けた。

 

「むぅ・・・」

 

「何故に不満な顔をする?」

 

「キス、するならこっちでしょう?」

 

そう言って今度は清楚が顔を近づけて、俺の唇に自分の唇を押し付けてきた。

ディープじゃなく、ソフトなキスだった。

 

「えへへ・・・・・おはようのキス・・・・・なんか、いいね♪」

 

「新鮮さを感じる」

 

「じゃあ・・・・・今度は深い方、してみる?」

 

唐突に恍惚な表情になった彼女は、ゆっくりと俺に顔を近づけた―――。

 

「―――そこまでだ」

 

俺と清楚の間に枕で遮られた。横を見れば・・・・・カリンが起きていた。

 

「ひ、ひひひ人が寝ている間にキスなんて・・・・・っ!清楚、破廉恥過ぎるぞ!」

 

「・・・・・カリンちゃん、一誠くんと一緒に寝ている時点で説得力はないよ?」

 

「―――っ!?」

 

図星を突かれて、返す言葉が見つからないでいるカリンであった。

清楚は俺から離れて、カリンに顔を寄せる。

 

「ねぇ、カリンちゃん。私は知っているんだよ?」

 

「な、ななななにを・・・・・!?」

 

「カリンちゃんの部屋に一誠くんの―――」

 

「うわああああああああああああああああ!?」

 

なんだ・・・・・?カリンの部屋に俺の何があるんだ?

ちょっと気になる発言をした清楚の口を両手で塞いだカリンの顔は真っ赤に染まっていた。

常にポニーテールに結んだ髪が寝間着姿のカリンの腰まで伸びていて、

彼女の姿も新鮮さを覚える。

 

「うーん・・・・・なんなのぉ・・・・・?」

 

「うるさいなぁ・・・・・」

 

と―――、二人も起きたか。

 

「おはよう。俺を抱き枕にして良く寝れたか?」

 

「―――――っ」

 

「うん、気持ち良く寝れたよー」

 

イリナが顔を真っ赤にして、小雪は満面の笑みを浮かべた。

 

「イリナ、一緒に寝たいなら一言言ってくれ。幼馴染が俺の傍で寝ていたなんて驚いたぞ」

 

「・・・それって、言えば一緒に寝ても良いってこと?」

 

「断わる理由もないが?」

 

「・・・・・うん、分かった」

 

「他の皆もな。俺が寝る前に言ってくれ」

 

三人にも言うとコクリと頷いた。さて、今日もクエストを頑張ってもらおうか。

 

―――ギルド会館―――

 

朝食を食べ終えた俺たちは、ギルド会館の受付前に集合していた。

目の前のNPC(ノンプレイヤーキャラクター)からクエストを受けるためじゃない。

その場で集合していただけだ。

 

「一誠さん、私たちの他にクエストを受けてクリアしているチームもいるはずですが、

そのクリアしたクエストの情報をどうすれば分かるのですか?」

 

「ガイドブックで『クエスト覧』を押せばすぐに分かる。

赤く光っているならそれはクリアしているクエスト、点滅している光があればクエストを

受けているチームがいる。特に変化がなければ、誰もクエストを受理していない。

ああ、クリアしたクエストは何度もできるからな」

 

「・・・・・なるほど、分かりました。ありがとうございます」

 

「ざっと数えて・・・・・数十のクエストが赤く光っているぜ。

これがクエストをクリアしたってことか」

 

「でも、まだまだ多いですね」

 

皆が中に展開しているだろう『クエスト覧』を見て、雑談する。

 

「清楚さん。今日はどんなクエストをしますか?」

 

「うーんとね・・・・・」

 

と、そんな時だった。最初にするクエストを何にするか悩んだ清楚に声を掛ける人物がいた。

 

「清楚。おはよう」

 

「あっ、リアス先輩」

 

「・・・・・って、あなた・・・・・」

 

リアス・グレモリーそのヒトだった。俺の存在に気付いて目を丸くした―――。

 

「なぜ学校を休んだあなたがここにいるの?」

 

「小雪に召喚されたんだよ・・・・・」

 

「榊原さんに?」

 

「うん、僕が召喚したんだよー」

 

ニンマリと笑みを浮かべて俺の背後から抱きついてくる小雪に、

「なるほどね」と何故かリアス・グレモリーが納得した。

 

「私もそんな願いにすれば良かったかもしれないわね・・・・・」

 

「おい、俺は使い魔じゃない」

 

「・・・・・いいわね、イッセーが使い魔なんて」

 

本気か!?いや、こいつは真剣(マジ)でしそうだ!だって、目を怪しく煌めかしたんだから!

 

「えっと、先輩。このゲームにそんなシステムが無いのでできませんよ?」

 

「えっ?そうなの?」

 

「はい。ところで先輩は一人なんですか?他のチームメンバーは?」

 

そう、リアス・グレモリーは一人でギルド会館のホールにいる。どうしたんだ?

 

「仲間は部屋の中にいるわ。これからの計画を立ててね。私はあなたたちに用があったの。

これからどうするのか、尋ねたいの」

 

「私たちもどうしようか考えていたところですよ」

 

「そうなの?」

 

「千もクエストがあるので候。だから、最初はどこからしていこうか悩んでいたで候」

 

矢場先輩がそう言うと、顎に手をやって悩むリアス・グレモリー。内心溜息を吐き、

俺はフォローする。

 

「だったら、集団戦闘クエストをしたらどうだ」

 

『集団戦闘クエスト?』

 

異口同音、声を揃えて俺の言葉に反応する面々だった。首を縦に振って肯定と頷き、

宙にスライドしてとある立体映像の表示画面を展開した。

 

「ここだけの話しだ。空・海・地で大型モンスターと戦うクエストがある。

一つのチーム、またはギルドでは勝てない狩りのクエストが存在する。

このクエストは時間制で時間内にクエストを受理しないと、二日後にならないと受けれないんだ」

 

「そんなクエストがあったんですね・・・・・」

 

「ちょっと待って、どうしてイッセーがそんな事を知っているの?昨日いなかったのに・・・」

 

リアス・グレモリーの指摘に思わず沈黙してしまった。そんな俺に和樹が言う。

 

「今回のこのゲームを企画したのは一誠なんですよ先輩」

 

「・・・・・えっ!?」

 

―――○●○―――

 

―――燕side―――

 

はい、初めまして私は松永燕です!現在、一誠くんに教えてもらったクエストを受けて

私たちはいま―――地の集団戦闘クエスト、北の地域に存在する砂漠にいます。

 

ザザザザザザザザザザザッ!

 

しかも、木造の船に乗っていどうしているんだよん!

いやー、凄いねぇー、まるで海にいるかのように船が風に乗って進んでいるんだよ?

現実世界だってできるかどうかわからないのに、流石はゲームの世界!

しかも、船には砲弾やバリスタまで設置してあるんだけど・・・・・どれだけ一チームじゃ

勝てないモンスターが現れるのか、ちょっぴりワクワクしています。

 

「・・・・・そう、そう言う事だったのね。彼らしいというかなんというか・・・・・」

 

「杉並の主にも伝えた方が」

 

「ええ、そうするわ。彼女と出会ったら必ず」

 

あっちはあっちで何か話しこんでいるけど大方、一誠くんことだかもね。

 

「しっかし、どこ見ても砂漠・・・・・見飽きたし、海の方がいいぞ」

 

「砂が掛かってしょうがないで候・・・・・」

 

百代ちゃんやユミちゃんがちょっと不満そうに呟いた。まあ、分からなくはないけど―――。

 

「ハンターの皆さん!今日はよろしく頼むよぉ!」

 

私たちに話しかけるNPC(ノンプレイヤーキャラクター)

・・・・・でも、なんでだろうか・・・・・あのヒト、私のおとんとそっくりなんだけど・・・。

着てる服が違うだけで・・・・・。

 

「ねぇ、百代ちゃん。あのNPC(ノンプレイヤーキャラクター)から、気を感じない?」

 

「いや、感じないが?それがどうかしたのか?」

 

感じないならあのヒトは本物じゃないってことね。

もし本物だったら問い詰めているところだったよん。

 

「それにしても・・・・・未だにモンスターが出ないねぇー」

 

「ああ、実際どんなモンスターなのか一誠は教えてくれなかったし」

 

「『教えたらつまらないだろう』と言って彼はどこかに言ってしまったで候」

 

しかも、自分は『ゲームマスターとしてチームには入れない』と言っていた。

本当、今回の主役は私たち川神と駒王学園の全校生徒なのね?

一誠くんは多分そう言いたいんだと―――。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・ッ!

 

不意に砂漠の海を進んでいた船から振動が伝わってきた。地震・・・・・?

 

「来たなッ!?ハンターの皆さん!何とか迎撃して追っ払ってください!」

 

NPC(ノンプレイヤーキャラクター)の言葉で場に緊張が走った。

いよいよモンスターのお出ましってことですか!

 

「ははは、楽しみだなー!アジ・ダハーカみたいなモンスターだったらいいな!」

 

「油断せずに行くで候」

 

「うん、一誠くんが教えてくれたクエストだもん。絶対に簡単じゃクリアできないよ」

 

そう思って私は拳を構えた。さぁ、ドンときなさい!

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

そう思った直後だった。私の目の前に影が生まれた。―――私だけじゃない。

この船全体に影に覆われた。その影を生んでいる原因は―――!

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

巨大なモンスターの体!全長百メートルはあろうかと思しき巨躯のモンスターが咆哮と共に

砂漠の砂から突然飛び出してきたんだよん!

 

『デ、デッケエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッッッ!?』

 

影の正体が巨大なモンスターだと知り皆が叫んだのを余所に、

体をねじらせながら船の反対側へとモンスターはまるで海のように潜った!

 

「・・・・・流石の私も言葉を失ったぞ」

 

「・・・・・うん、私も」

 

百代ちゃんに同意する。確かに・・・・・あんなモンスターは私たちだけじゃ

倒せないのも頷ける。だから集団戦闘クエストなんだね、一誠くん。

 

「ハンターの皆さん!奴を追っ払ってくれ!」

 

あ、あれを追っ払うのね・・・・・骨が砕け散っちゃいそうだよん・・・・・・。

 

―――一誠side―――

 

皆があのクエストに行った頃、俺はゲームマスターとして変装した状態で町中を歩いている。

 

「杉並。そっちはどうだ?」

 

『特に問題ない。現在正常に進行している』

 

特殊な通信で現実世界にいる杉並と連絡し合う。

 

『リアス・グレモリーたちは現在、モンスターと戦闘中だ。苦戦を強いられているがな』

 

「そうか、少し失敗だったかもな。あの装備じゃあとてもキツイだろう」

 

『だから援軍を送ったのだろう?』

 

まあな。ちょうど見掛けたし、ゲームマスターとしてちょっとぐらい手助けても問題ないだろう。

 

『・・・・・』

 

不意に杉並が沈黙した。どうしたんだ?

 

『緊急事態が発生した。―――そっちに侵入した集団がいる』

 

―――――っ!?

 

やはり、来たか・・・・・!場所を杉並から聞いて、すぐさまそのその場所へと赴いた。

まったく、今時になってまで襲撃してくるなんて面倒くさい奴らだ!

 

『どうする?あのシステムはいつでも起動できるぞ』

 

「俺が合図を出す。それまで待ってくれ」

 

『了解した。そのまま真っ直ぐ行けば侵入者と出会うぞ』

 

ああ、久しく感じる気だ。町を囲む外壁に向かって駆け走る。

そのまま壁に穴を広げて潜って掛け続ければ、町の外に出た。

 

ザザッ!

 

足を止めて目の前を睨んだ。―――どいつもこいつも同じ服を身に包んだ招かざる客が勢揃いだ。

 

「よぉー、夏休み以来だが、この疑似空間に侵入して何を企んでいる?」

 

目の前に佇む集団の一人に問うた。その人物は槍の柄を肩にトントンと叩いて、口を開いた。

 

「なに、キミが何やら企んでいると情報を聞いてね。

何をしているのかとテロリストらしく乱入した訳だ」

 

「なるほど・・・でも、お前が思っているようなことを俺はしていないぞ。

俺はいま、あいつらにゲームを体験させているところだからな」

 

「ゲーム?」

 

「ちょっとした体感ゲームって奴さ。分かったなら大人しく帰ってくれるか?」

 

と、心から願っていることを述べた。対してあいつ―――曹操は槍を俺に突き付けた。

 

「悪いが、俺たちは川神の学生に用があるんだ」

 

「・・・・・どういうことだ?」

 

「俺たち英雄の子孫と末裔、魂を受け継いだ存在と昔存在していた武家の末裔や子孫たちと

戦ってみたいんだ。どちらが上なのか、知りたくなってね」

 

あー、そういうことかよ。・・・・・なんとまぁ、単純なことだ。

 

「気持ちは分からなくはない。でも―――俺がそれを見逃すとでも?」

 

「思わないさ。だから―――こっちも兵藤一誠に対抗するために用意した」

 

曹操は俺から視線を外して、背後に顔を向けた。

―――その時、集団の名から出てくる数人の人物の内の一人に思わず目を見開いた。

 

「なんで・・・・・アンタがそこにいる」

 

「・・・・・」

 

その人物は―――龍牙の剣術の師匠の・・・・・烏間翔、そのヒトだった。

 

「彼ら―――『九十九屋』は金を払えばどんな仕事でも引き受けてくれるそうじゃないか。

俺たちも彼らを雇ってみたんだ。そう、キミを・・・・・兵藤一誠を倒してもらうために」

 

―――っ!?マジかよ・・・・・龍牙の家族と戦わないといけないなんて・・・・・っ!

 

「これも仕事だ。兵藤一誠、若の友人であるが依頼を受けたからには

仕事を務めないといけない。―――恨むなよ?」

 

烏間翔がそう言う・・・・・はぁ・・・・・残念だ。

 

「・・・・・」

 

徐に腕を上げた。

 

「―――やれ、杉並」

 

「・・・・・なにを?」

 

怪訝に曹操が問いかけてくる。が―――、あいつらの足元に魔方陣が展開した。

 

「俺が何もしていないと思ったら大間違いだ」

 

「―――っ!」

 

「お前らは特別な異空間に転送される。精々、気をしっかり持てよ?」

 

くくく、と意地の悪い笑みを浮かべる最中・・・・・一人の女性が動きだした。

 

「やれやれ・・・・・」

 

呆れ顔になった彼女は―――金色の九本の狐の尾を生やしたかと思えば、

足元に展開していた魔方陣はガラスが砕け散ったかのように消失した。

 

「・・・・・なんだと」

 

「―――我が九尾の恥さらしが憑いた人間の実力はこんなものか?」

 

九尾の恥さらし?憑いた人間?―――まさか、羽衣狐のことを言っているのか?

 

『兵藤一誠。大丈夫か?』

 

「(・・・・・かなりヤバいかも。杉並、町の方に結界を張ってくれ)」

 

『了解した。無茶はするなよ。こちらも援軍を出す』

 

杉並の言葉に「分かった」と頷く。尻目で背後を見れば金色の結界が町を覆い始めた。

 

「烏間さん。退いてくれないのか?正直、龍牙の家族とは戦いたくないんだが」

 

「悪いが仕事だ。身内のことで情を掛けることは一切ない」

 

「・・・・・そうか」

 

―――バサッ!

 

「なら、アンタを敵と見做すしかないんだな」

 

天使化になって戦闘態勢になる。曹操たちも攻撃態勢に入った。

 

「ああ、それでいい。お前とは一度、勝負をしてみたかった」

 

小太刀を手にして構える烏間翔。だが、あいつよりも九尾の女性が厄介かもしれない。

何かしらの力で魔方陣を消したんだ。能力を無効化できるのかもしれない。―――要注意だ。

 

―――龍牙side―――

 

ドォンッ!ドォンッ!ドォンッ!

 

「ドンドン大砲を撃ち続けろぉっ!」

 

「くそっ、こんなんであんなデカイモンスターを撃退できるのか!?」

 

「―――ヤバい!こっちに突っ込んでくるぞ!退避ぃっ!」

 

ドッオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

はい、僕こと神城龍牙は巨大なモンスターと戦闘中です。

未だに一誠さんから教えてくれたクエストが終えそうにもありません。

なんたって、相手は鯨のようなフォルムのモンスターで背中から複数の岩を放ってきたり、

体を接触して船を壊そうとしてくるんです。

 

「今よ!あのモンスターに乗り移って攻撃をしなさい!」

 

『はいっ!』

 

勇ましく、グレモリー眷属の皆が船の横にピッタリ泳ぐモンスターの体に乗り始めると、

背中に登って打撃や斬撃、魔法の力で奮闘する。勿論、僕たちも何もしないわけじゃない。

グレモリー眷属のように、モンスターの背に上がって、各々と攻撃をし続ける。

船に視線を向ければ、砲弾を撃ち続ける仲間たちの姿。

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

巨大なモンスターが咆哮を上げて、体を弓のように逸らした!

その結果、僕たちは砂漠に放り出されてしまった!―――でも、何時の間にかロープが船と

繋がっていて、僕たちは何とかロープで掴みながら進んで何とか船内へ帰還した。

 

「ぜぇ・・・・・ぜぇ・・・・・マジ・・・・・あのモンスター強過ぎだろ」

 

「・・・・・全身砂だらけです」

 

「あはは、そうだね」

 

でも、歯応えは十分あって楽しいのは確かです。一方的な狩りじゃなく、

自分にも攻撃されるのですから命の奪い合いをしていて油断ができません。

 

「そんじゃ、もう一回行くとしようか」

 

「うん、部長を待たせたら大変だしね」

 

グレモリー眷属は甲板に上がる階段へと足を運んだ。僕もそうしようとしたら―――。

 

ピピッ!ピピッ!

 

目の前に着信音の画面が表示した。誰だろう?そう思いながらも通信を入れた。

えっと、耳を抑えて会話をするんでしたっけ。

 

「はい?」

 

『やあ、ゲームマスターの杉並だ』

 

「杉並さん?どうして僕に連絡を?」

 

一誠さんと一緒にこのゲームを企画した一人がどうして直接僕に連絡なんて・・・・・?

 

『キミ自身の情報と家族構成、それと『九十九屋』に関する情報を俺の手元にあってね。

それに関する事でキミに伝えておきたいことが起きてしまった』

 

・・・・・兄の仕事を知っているなんて、流石と言うべきかやっぱりと言うべきか・・・・・。

 

『―――今現在、キミの兄の同業者が同士である兵藤一誠に襲撃している』

 

「・・・・・なんですって?」

 

『どうやら、「禍の団(カオス・ブリゲード)」に雇われたようで、兵藤一誠を倒そうとしている。

しかも九龍(クーロン)の秘書官もいる』

 

―――あのヒトまでですかっ!?だとしたら、かなりヤバい状況になっているはずです!

 

『まだ、そちらはクエストを終えなさそうだな』

 

「ええ、ですがそんなことより彼は大丈夫なんですか?」

 

『・・・・・数の暴力に押されているとはいえ、何とか耐えている』

 

彼女の能力は一誠さんと同様厄介です。

それぐらい持ち堪えているなら本当に耐えているんでしょう。

 

『取り敢えず、そのことだけ伝えた。早く同士を助けたくばクエストをクリアし、

東の方向に進んで壁を乗り越えろ』

 

それだけ言い残して杉並さんとの通話は終了した。

 

「兄さん・・・・・あなたはどうして・・・・・っ!」

 

いま、何もできない自分に歯痒い思いをする。一誠さん、もう少しだけ待っていてください。

いま、そちらに何とか向かいますから!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode10

 

 

―――サイラオーグside―――

 

「ふんっ!」

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

俺はサイラオーグ・バアル。眷属と川神学園の生徒たちと北の地域に存在する雪の世界にいる

巨大なモンスターを倒し終えたところだった。

 

「す、すっげ・・・・・悪魔なのに拳一つで・・・・・」

 

「悪魔って色々といるんだね」

 

「というか、装備何一つも付けずにモンスターを倒すって・・・・・。

流石は次期人王決定戦で相手を一撃で倒した悪魔ですね」

 

仲間から称賛の声が上がる。ありがたいが俺たちはクエストを受けている。

 

「モンスターから装備の材料をはぎ取れ。その後は町に戻るぞ」

 

『は、はい!』

 

指示を下せば川神学園の生徒は我先と倒したモンスターに群がる。俺は何も必要としない。

 

「(兵藤一誠もきっと装備なぞ必要ないだろうな)」

 

何時しか真っ向勝負をしてみたい男を思って小さく唇の端を吊り上げた。

今頃、あの男はどうしているのだろうな?

 

ピピッ!ピピッ!

 

・・・・・通信だと?このゲームの世界に来て二日目だ。

仲間以外連絡手段を持っていないのだが。

 

「誰だ?」

 

『シーグヴァイラ・アガレスの「兵士(ポーン)」、杉並と申しますサイラオーグ・バアル殿』

 

アガレスの・・・・・?一体どうやって・・・・・いや、それよりも俺に通信をしてきたのだ。

何か彼女の身に遭ったのか。

 

「どうした、お前の主に大変なことでも?」

 

『いえ、兵藤一誠の方で厄介なことが起きております。

丁度、クエストをクリアしたあなたの力をお借りしたく連絡した所存ですよ』

 

兵藤一誠が・・・・・?「どういうことだ」と説明を求めれば―――。

 

『今現在、このゲームの世界にテロリストが乱入しました。

目的は川神学園の生徒と戦うことですが・・・・・テロリストは「九十九屋」というなんでも屋に

兵藤一誠を倒してもらうよう雇ったようです。

その者たちは兵藤一誠を苦戦させるほどの実力者です』

 

なんだと・・・・・あの男が苦戦?

 

『いまの兵藤一誠は不十分で戦っております。身に宿しているドラゴンはおらず、

真龍と龍神もいない。ですので苦戦に強いられております』

 

なるほど・・・・・そういうことか。

だが、身の内にいるドラゴンがいないとはどういうことだ?

 

『サイラオーグ・バアル殿のお考えになられていることは理解できますが、

いまは同士を救ってはくれませんか?こちらですぐに町まで転送いたします』

 

「ああ、了解した。頼む」

 

仲間の方もモンスターから装備の材料を剥ぎ取り終わっていた。

これですぐに町まで転送してくれるだろう。

 

「やってくれ」

 

『かしこまりました』

 

カッ!

 

俺たちの足元に魔方陣が展開した。本来なら、馬車で町まで戻るはずだが今回は違う方法で

町に戻る。仲間が困惑している表情を窺えるが―――。

 

「すまない。俺は町に戻ったら友人のところに行ってくる。

俺が戻るまで自由に行動していてくれ」

 

「へっ?それはどういう・・・・・」

 

「緊急事態だ。すまない。説明をしている暇はない」

 

魔方陣の光が俺たちを包み、町に直接転送された。説明した通り俺は―――とある場所で力が

異様に膨れ上がっている場所へと駈け出した。―――待っていろ、兵藤一誠。

 

―――リアスside―――

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

銅鑼の鐘で大きく船全体に響き渡った。全長百メートルはある巨大なモンスターは

その鐘の音に怯んで、攻撃を中断した。

 

「バリスタと砲弾を撃ちなさい!」

 

『はいっ!』

 

船から発射される数多の巨大な矢。狙いを違わずモンスターの体に突き刺さり、

ダメージを蓄積していく。

 

「―――部長ッ!後方に船が見えます!」

 

「船?」

 

それに今頃?訝しんで可愛い下僕の報告に甲板から上半身だけ出して、

船の後に視線を向ければ―――確かに、私たちが乗っている船と似ている船が近づいてきていた。

 

「私たちと同じクエストを受けているようね」

 

もう一つの船が物凄い勢いで近づいてきている。私たちの隣にいる巨大なモンスターを挟む形で。

 

ドゴォンッ!ドゴォンッ!ドゴォンッ!

 

向こうから砲弾の音が聞こえてくる。戦闘集団クエスト・・・・・もしかしたらその神髄が

こういうことだったのかもしれない。二倍と成った攻撃は巨大なモンスターを

さらにダメージを与えて体力を減らし続けていった。すると―――巨大なモンスターが一際、

咆哮を上げて泳ぐ速度が遅くなった。どうしたのかしら・・・?

 

「ハンターの皆さん!ありがとう!これで積み荷が安全に運べれる!」

 

どうやら、迎撃に成功したようだ。そう、それならこのクエストは完了したということになるね。

それにしても・・・・・あの船に乗っているのは一体誰なのかしら?お礼を言いたいのだけれど・・・・・。

 

「って・・・・・ソーナ!?」

 

巨大なモンスターで壁みたいに向こう側の船が見えなくなっていたから誰が乗っているのかも

分からなかった。でも、それがなくなったから向こうの船が覗けれるようになったので、

船に乗っている面々の内の一人を見て私は思わず声を上げてしまった。

 

カッ!

 

次の瞬間。私の足元に転移用魔方陣が展開した。なに?このクエストはこの魔方陣で町に

戻るというの?

魔方陣の光は私だけじゃなく、私のギルドのメンバーや清楚たち、

ソーナたちにも包んでいることが分かった。

―――そして、完全に光が私を覆ったと思えば、何時の間にか町の中にいた。

 

「龍牙!?」

 

「え?」

 

ダッ!と、どこかへ駆けていく清楚のギルドメンバー。一瞬だけ顔が見れた。

とても焦心に駆られている顔だった。どうしたのかしら・・・・・。

 

「待って龍牙くん!どこに行くの!?」

 

彼だけじゃなく、清楚自身も追っていく。

彼女だけじゃない、彼女のギルドメンバー全員も追いかけていった。

 

「部長、あいつら一体どうしたんでしょうかね?」

 

「分からないわ。でも、私たちは身勝手に動けれない」

 

「―――リアスか!」

 

不意に私を呼ぶ声が聞こえた。その声がした方へ振り向けば、私のいとこがいた。

 

「サイラオーグ?」

 

「ソーナもいるようだな。丁度良い、俺と一緒に来てもらうぞ。緊急事態だ」

 

ガシッ!×2

 

「「はい?」」

 

「お前たち、すまないがお前たちのリーダーを借りる。

今後のクエストの攻略の相談をするために彼女たちが必要だ」

 

『は、はぁ・・・・・』

 

気の抜けた返事しかできない仲間たち。

サイラオーグは私たちを荷物のように脇で抱えて―――清楚たちが向かった方へと駈け出した。

 

「って、ちょっとサイラオーグ!これはどういうことなのよ!?」

 

「そうです!それよりも、この抱え方は・・・・・!」

 

「後でいくらでも謝る。だが、本当に緊急事態なんだ。―――兵藤一誠がテロリストと戦っている」

 

「「な―――!?」」

 

彼の話を聞いて私とソーナは絶句した。テロリスト・・・・・『禍の団(カオス・ブリゲード)』!?

 

「それはどういうこと!?それにそれをどうやって知ったの!」

 

「シーグヴァイラ・アガレスの眷属悪魔から聞いた。兵藤一誠が苦戦しているとな」

 

「彼が・・・・・苦戦・・・・・!?」

 

有り得ない!あの彼がテロリストに苦戦するなんて・・・・・。

だって複数の神滅具(ロンギヌス)を宿している上に邪龍や他のドラゴンを身に宿している!

そんな異例中の異例の彼が・・・・・!

 

「驚く気持ちは分かる。だが、あの男は不十分で戦っているそうだ。

身の内に宿しているドラゴンは皆、いないようだ」

 

「―――っ!」

 

その話に私は思い当たることがあった。―――アジ・ダハーカがゲームにいた。

あの邪龍がいるということはイッセーの中はアジ・ダハーカがいないということ。

もしかしたら、他のドラゴンたちも彼から離れてゲームのクエストとして、

モンスターとして・・・・・!

 

『サイラオーグさま!』

 

駆けるサイラオーグの横に一つの魔方陣が展開して、巨大な獅子が飛び出してきた。

 

「レグルス?どうしてここに・・・・・」

 

『とある悪魔に事情を聞かされ転送されました。あなたの力になってくれと、

本来の力を振るって構わないと』

 

「・・・・・杉並か?だが、丁度良い!」

 

巨大な獅子に跨ったサイラオーグ。獅子は主を乗せ、さらにスピードを上げた。

―――清楚たちを追い越して。

 

「あの壁の向こうだ、レグルス!」

 

『はっ!』

 

―――って、どうやって壁の向こうに行けばいいのかしら。

階段なんて見当たらないけど・・・・・。

 

カッ!

 

私たちの目の前に一瞬の閃光が。光が止むと壁に巨大な穴が開いていた。これは・・・・・!?

 

「ふっ、気が利く」

 

小さく笑みを零したサイラオーグを乗せた獅子は真っ直ぐ壁に空いた穴へと潜った。

そして、私たちは外に出れた。

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォンッ!

 

私たちとすれ違うように何かが壁に激突した。

 

「・・・・・っ」

 

その激突した何かを見た瞬間・・・・・私は目を丸くした。

 

「イッセー・・・・・ッ!」

 

服がボロボロで、至るところに血を流しているイッセーが壁を凹ませていた。

 

「お前ら・・・・・」

 

―――一誠side―――

 

杉並、援軍というのはこいつらのことか。

 

「イッセーッ!」

 

俺を介護しようと、巨大な獅子もとい獅子に乗っているサイラオーグの腕から降りて

近づいてくるリアス・グレモリー。

 

「しっかりして、イッセー!」

 

「いや、死ぬほど重症じゃないからな?」

 

「それでも、かなり苦戦している様子だな」

 

サイラオーグが近づいてくる。ははは、まーな。

 

「―――あいつら、寄って掛かって攻撃してくるもんだから流石にキツイって」

 

目の前に睨みながら言う。リアス・グレモリーたちも俺の視線の先に視線を向ければ

『英雄派』を捉えただろう。

 

「―――いや、それでもキミはとても強い。強過ぎるじゃないか」

 

全員が全員、服がボロボロで至るところに傷を負っている。

唯一、怪我をしていないのは龍牙の家族だ。

額から血を流し、頬を濡らすその血を舌で舐め取った曹操がそう言った。

 

「だが、どうして『幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』を使わない?

それとも使えないのか?」

 

「まあ、どっちも正解だな」

 

「そうか、それならそれを知った上でキミを倒させてもらうよ」

 

槍の先を俺に突き付ける。『英雄派』の構成員が一歩足を踏み込んだ―――その瞬間だった。

二つの影が物凄い勢いで空から降ってきては構成員を纏めて吹っ飛ばした。

 

「一誠を倒させる訳にはいかない」

 

「ああ、同感だ」

 

黒い長髪を靡かせ、赤い瞳を煌めかせる二人の少女。

 

「さーて、敵はどこのどいつだ?」

 

「一誠の敵は俺が纏めて薙ぎ払ってやる」

 

「百代・・・・・項羽・・・・・」

 

拳と武器を構える。そんな二人の名前を呟いたら、

 

「一誠さん!無事ですか!?」

 

龍牙が俺に駆け寄ってきた。

 

「あら、若じゃない。久し振りじゃのぉ」

 

「・・・・・よりによって、面倒な・・・・・」

 

「師匠・・・・・イヅナさん・・・・・っ!」

 

俺を苦戦に強いる二人を睨んだ。龍牙・・・・・お前の今の心情を理解できない。

 

「よりにもよってテロリストに雇われた上に僕の大切な友人に手を出すなんて・・・・・」

 

「すまない。こちらとしても仕事で雇主と依頼の内容は

依頼料を受け取ってからではないと分からない」

 

「―――そうやって今度は一誠さんを殺そうとするんですか?

それで僕の友達が何人も犠牲に・・・っ!」

 

「若・・・・・」

 

バツ悪そうに九尾の女性が顔を曇らす。烏間翔は溜息を吐いて―――小太刀を振るった。

 

「そこをどいてくれるか?仕事が果たせない」

 

「・・・・・今度という今度は僕も譲れないモノがあるんですよ師匠・・・・・いえ、翔さん」

 

龍牙の全身が光に包まれ、金色の全身鎧を纏った。

 

「僕の家の仕事の生業は、そういうものだって理解していますし、

血を染める仕事だってしなきゃいけないことだって分かってはいます。

でも―――僕の大切なものを奪って何もせずにはいられないですよ!」

 

「・・・・・」

 

「今の僕は神城龍牙という一学生だ。『九十九屋』のメンバーじゃない。

だから・・・・・一誠さんを殺そうというのなら、僕を殺してからにしろ!」

 

激昂し、龍牙は物凄い勢いで烏間翔に飛び掛かった。亜空間から大剣を取り出して斬りかかる。

 

「・・・・・はぁ・・・・・だからこうなることを予想していたんだぞ。―――総大将」

 

ガキンッ!

 

龍牙の斬撃を受け止めたのは烏間翔じゃない。

―――目つきが鋭く棚引く長髪の長身の青年が小太刀で受け止めた。

 

「ま、しょうがねぇだろう。悲しいことだがな」

 

「―――っ!?」

 

「久し振りだな龍牙。翔の言う通り、ちったぁ強くなったじゃないか」

 

誰だ?かなり親しげに話しているが・・・・・。

 

「なんで・・・・・あなたがここにいるんですか・・・・・・」

 

「『兵藤一誠を倒す』という仕事だ。今回の仕事はかなり重要でよ。

オレも出張らなきゃいけないようだし」

 

「・・・・・あなた自身が一誠さんを・・・・・」

 

「ああ、そういうこった」

 

―――刹那。龍牙から殺意が湧きあがった。

 

「この・・・・・天然女誑し・・・・・!

夜に女の人が持つ刃物で背中に刺されて死んでしまえっ!」

 

「「同感だ」」

 

「おい、何えげつねぇことを言いやがるんだこの弟と部下どもは」

 

お、弟・・・・・?おい、まさか・・・・・龍牙と総大将と呼ばれたあの青年は

兄弟だっていうのかよ。

唖然している俺を余所に、龍牙が総大将と剣戟を始めた。

一方、百代と項羽は―――『英雄派』の構成員を倒していた。

何時の間にか、和樹たちも曹操たちと戦っているし。しかも、本来の力で。

 

『なんとかなったな』

 

「杉並か?あいつらを呼んだのは」

 

『俺は神城龍牙とサイラオーグ・バアル殿しか伝えていない』

 

なるほどな。でも、正直助かった。一瞬だけ死を覚悟した。

 

『システムの方も整った。「九十九屋」以外の者たちを転送する』

 

「了解、任せた。でも、どうしてあいつらは本来の力を使えるんだ?」

 

『こちらで設定を変えた。でなければ、テロリストを追い返すこともできないだろう?』

 

お前、良い仕事をするよな。そう思っていると『英雄派』の足元に再び魔方陣が展開した。

今度は魔方陣が無効化されず、一人残らずどこかへと転送された。残るは―――『九十九屋』。

 

―――Heros.―――

 

「・・・・・ここはどこだ?」

 

真っ暗な空間に『英雄派』が転送されていた。

 

「不意を突かれたな。俺たちだけどこかに転送されたようだ」

 

「ゲオルグ、転移魔法で元の場所に戻れるか?」

 

「やってみよう」

 

曹操の質問にゲオルグは魔方陣を展開しようとしたその時だった。

―――ヌゥ、とゲオルグの背後から野太い腕が現れてガシッ!と羽交い締めしたのだった。

 

「なっ!?」

 

「ゲオルグ!?」

 

『英雄派』の構成員の一人が助けようと体を動かした瞬間、ゲオルグと同じように背後から

野太い腕に拘束された。しかも、他の構成員たちも暗闇から誰かに羽交い締めされていた。

 

「誰だッ!?クソ、放しやがれ!」

 

「・・・・・人間なのか?」

 

唯一、いや、何故か曹操だけ羽交い締めされずにいた。女性構成員も。

 

「―――あらぁ~ん。ようやく、きたのねぇ~ん?」

 

「ぐふふ、待ち遠しかったぞい」

 

「――――――」

 

曹操の背後から男の声が聞こえた。振り向けばそこにどこからともかくライトが照らされて

二人の人物がライトの光によって姿を現した。スキンヘッドで揉み上げを三つ編みにした髪に

リボンで結び、ピンクのビキニ以外ほぼ全裸の筋肉質の男と白いヒゲに白い髪、

揉み上げを8のように結んで筋肉質の体に燕尾服を身に纏い、褌を穿いた男がいた。

 

「あなたが曹操ちゃんね~?あなたとのこの出会いに、ご主人様には感謝しないといけないわぁ」

 

「そうじゃのぉ。それに良き男たちが大勢・・・・・(ジュルリ)」

 

誰だっ!?と、『英雄派』の心が一つになった瞬間だった。曹操の中で激しく警報が鳴った。

―――今すぐ逃げろ!―――あいつらに捕まったら最後だ!

頬に冷や汗を垂らす曹操は拘束されていない女性構成員と構えて口を開いた。

 

「お前たちは誰だ?」

 

「うふふ♡あなたと同じ存在、といえば分かるかしら?」

 

「・・・・・英雄の子孫の者か?」

 

「ええ、そうよん。正確に言うと魂を引き継いでいる忘れ形見と言おうかしら?」

 

「ワシもその一人じゃ。お主と関わりがある英雄の魂を引き継いでおる」

 

自分と関わりがある?曹操自身には目の前の化け物と関わったことがないどころか、

関わりたくないヒトベスト1に君臨する。

では―――自分ではなければ誰なのだ?と曹操は心の中で訝しむ。

 

「私も間接的に関わっているわぁ。―――呂布奉先とね?」

 

「―――呂布、だと・・・・・?」

 

太古の中国時代に遡る。とある武将が一人いた。その武将は後に飛将と称され

『人中の呂布、馬中の赤兎』とも称された。その実力は数多の武将の中で最強の武を誇っていた。

 

「(その呂布と関わりある人物は確かに俺の先祖の曹操も含まれている。

だが、他にもいるが一体誰だ?)」

 

一番深い関わりがある人物は董卓、蝶蝉、張遼・・・他にもいるが有力な人物はこの3人だ。

しかし、曹操の中で真っ先に有り得ないと思ったのが蝶蝉だった。

いくらなんでも三国一の美女の魂を引き継ぐ者ではないと曹操は断言した。

 

「あらん、この可愛い踊り子を見ても分からないなんて、曹操ちゃんって鈍いのねぇ?」

 

「・・・・・踊り子?」

 

「ぐふふっ、そうよん。―――私の名前は蝶蝉。

かの絶世の美女と謳われた蝶蝉の魂を引き継ぐ者よん♪」

 

「そして、ワシは邪馬台国に存在した女王の魂を引き継いでいる者―――卑弥呼じゃ!」

 

堂々と、本人の中で華麗にポーズをして名を名乗った二人。

―――その瞬間。曹操の中で何かが壊れた。

 

「―――ははっ、ははははははは・・・・・・ははははははははははははっ!」

 

「そ、曹操!?」

 

「ヤバい、曹操が壊れた!」

 

「私も色々と受け入れないけれど、あなたが受け入れないでどうするのですか!」

 

「というか、この状況を何とかしてください!

―――周りが変な格好をした屈強な男たちに囲まれております!」

 

女性構成員の言う通り、曹操たちの周りにユラユラと現れる屈強な男たち。

顔に化粧が施されて、女の服を身に包んでいる。中には魔法少女の服を纏っている屈強な男も。

 

「失礼ねん。この場にる皆は私たちと同じ漢女(おとめ)っ!いわば、同じ志を持つ同志!」

 

「さぁ、主役は揃ったのじゃ。お前たちにワシらが披露する演技や歌をとくと見ているがよい!」

 

どこからともかくマイクを手にしていた蝶蝉と卑弥呼。

途端に真っ暗な空間が様々な色に照らされ音楽が流れ出した。

瞳を潤わせて、二人は恋人繋ぎをし、口を開いた。

 

―――次の瞬間。

 

『ギィイイイイイイイイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!』

 

この瞬間、『英雄派』の耳が死んだ。目が死んだ。精神が死んだ。

 

―――○●○―――

 

―――一誠side―――

 

さて、今頃あいつらは色々な意味で死んだな。

『九十九屋』は―――今現在でも戦闘を繰り広げている。

 

「今日こそはアンタを越えてやる!」

 

「フハハハハッ!やってみろ、我が弟よ!」

 

「―――速いっ」

 

「俺から見れば遅く見える」

 

「この女狐!」

 

「その言い方は好きじゃないのぉ」

 

というか・・・・・余裕で俺の家族と渡り合っているんだけど。

どれだけ強いんだよあの人たち。

 

「まあ、とりあえずはだ」

 

カッ!

 

九尾の女性は効かずとも、他の二人なら効く。ギャスパーの能力で体を停止させ、

羽衣狐を表に出して九尾の女性を俺と一緒に翼と尻尾で拘束し、戦闘を中断した。

 

「邪眼か・・・・・厄介な能力を持っているな坊主」

 

「このっ、妾を離せ!」

 

「くくく、あのイヅナという妖弧が無様な姿じゃのぉ・・・・・?写真でも撮るか」

 

「・・・・・」

 

依頼主の『英雄派』もいない。俺を倒そうと仕事をするこの三人だけだ。

三人から武器を回収して、和樹が龍牙の兄と烏間翔に拘束魔法を施して、

九尾の女性は―――グレイプニルで縛りあげた。

 

「く、屈辱じゃ・・・・・妾をこんな変な縛り方で拘束するとは・・・・・!」

 

「あなたにはそれが一番ですって。何せ、能力無効化なんてチートな力を得ているんですから」

 

うわ・・・・・『幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)の能力と同じ力かよ。道理で効かないわけだ。

 

「さて、兄さん。仕事を反故してもらいますよ」

 

「いや・・・・・金を受け取ってしまったからには仕事をしなきゃないけないんだがよ」

 

「・・・・・どーしてでもですか?」

 

「依頼を全て果たす、それが九十九屋のモットーだとお前だって知っているだろう」

 

「ええ、知っています。その上でお願いをしているんですからね」

 

大剣を兄の米神にツンツンと突っつく龍牙だった。

 

「・・・・・お前、俺が見ない間に随分と性格変わってねぇか?」

 

「そうですか?普段と変わらないと思うんですが・・・・・まあ、そんな事より今は一誠さんを

狙わないでください。今は大切なことをしているんですから」

 

「いや、だからな?」

 

「―――珱姫さん、お義姉さんにあの件を伝えても良いんですね?この天然女誑し」

 

「―――――」

 

あの件?なんだろうか。それに龍牙の兄がダラダラと冷や汗を流し始めたぞ。

 

「お、おい龍牙。あの話は誰にも言うなって兄弟の中で約束したよな・・・・・?」

 

「ええ、でも兄さんが手を引いてくれないなら僕・・・・・お義姉さんについ、ポロっと、

口を滑って、思わず、変なことを言ってしまいそうです。―――メールや手紙で。

ああ、電話でも言っちゃいそうですね」

 

「何て悪質な弟なんだ!?」

 

「あっ、手が勝手にー携帯を取り出してー珱姫さんの連絡をしてしまいましたー」

 

「ま、待ってくれ!話し合おう!」

 

あんた・・・・・一体何を仕出かしたんだよ。というか、珱姫ってそんなに怖いのか?

 

「何をですか?」

 

「・・・・・今回の依頼を俺が責任を持って、依頼人にできないと言う―――」

 

「ダメです。二度と一誠さんに関する仕事を受け付けないとここで約束してください」

 

「それじゃ、守ってくれという依頼だって受けれないぞ?」

 

「・・・・・訂正です。二度と彼に狙わないでください」

 

すぐさま訂正した龍牙。龍牙の兄は深く溜息を吐いた。

 

「口で弟に負かされるとは・・・・・」

 

「兄に勝てることは他にもいくらでもあります」

 

二人の話を聞き、話が収束したと思い、邪眼の能力と鎖を解いた。

 

「それじゃ、さっさと帰ってください。兄さんたちのせいで、皆を待たせているんですから」

 

「・・・・・龍牙、お前・・・・・本当に性格が変わったな」

 

傷付いているぞと龍牙の兄が顔を顰めた。

 

「でも、まあ・・・・・」

 

不意に俺の顔を見てくる。なんだ?

 

「―――二度も同じ人間の血をこの手で汚すことがなくて良かった」

 

「・・・・・え?」

 

「おっと、そろそろ帰るとしよう。またな、我が弟の友人たちよ」

 

踵を返して二人を引き連れて去っていく。一風がしたと思えば、三人の姿が消えていた。

 

「(二度も同じ人間をって・・・・・あのヒト、なんでそんな事を言ったんだ?)」

 

意味深で気になる発言に俺は姿を消した三人がいた場所に何時までも見据えたのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode11

 

 

英雄派が乱入したその日の夜。二日に一度のイベントクエストが発生した。

 

『友達百人できるかな?』

 

『報酬:共通装備Sレアセット』

 

『クリア条件:三時間以内で友達登録に百人のプレイヤーを登録。

※他のプレイヤーと握手を交わしながら友達登録に登録すること』

 

現在の時刻は夜六時。その三時間後の九時まで誰か一人でも他のプレイヤーを百人友達登録に

登録しないとクエストが達成できない設定にしてある。

これは本人たちの意志と性格、行動力が鍵となる。

故に俺は建物の屋根の上から友達登録を行っているプレイヤーたちの様子を見守っている。

 

「杉並、そっちはどうだ?」

 

『問題ない。順調だ』

 

「で、英雄派の奴らは?」

 

『戦意喪失して逃走したぞ』

 

「くくく、そうか。よっぽど堪えたようだな」

 

今頃、頭を抱えて震えているんじゃないか?

 

『―――二度も同じ人間の血をこの手で汚すことがなくて良かった―――』

 

「・・・・・」

 

龍牙の兄、総大将が言ったあの言葉が妙に引っ掛かる。

まさかと思うが兵藤家の誰かを殺したというのか?

 

『どうした?』

 

「いや・・・・・少し考え事をしていた」

 

『そうか、それにしても「九十九屋」が関わるとはな』

 

杉並が知っているということは裏社会ではかなりの知名度を誇っているのか。

龍牙の奴、とんでもない兄の弟だな。

 

『さて、そろそろゲームは中盤に差し掛かる』

 

「ああ、否が応でもあいつらは互いに求めあう。そんなクエストもあるしな」

 

『ふふっ、特にあの集団戦闘クエストは何がなんでもクリアしてもらわないと困るというものだ』

 

耳の中に入ってくるあいつの声に同感だと頷く。そのクエストは―――ゲームの最終日に発生する。

 

―――杉並side―――

 

川神学園と駒王学園の全校生徒がこのゲームの世界に住んであっという間に現実世界では

六時間が過ぎた。あの空間の中では長い時間を過ごしているおかげで千のクエストも殆ど

クリアされている。それでもまだまだクエストはあるが、それも時間の問題だろう。

 

「あー、流石に疲れるぜ。あの疑似空間を維持するのもよぉ」

 

「ここまで長時間でRG(レーティングゲーム)を応用した空間を維持するのは初めてだね」

 

「まっ、そのおかげであの坊主共の仲が発展した」

 

「アジュカの協力もなければ成せなかったことだ。彼は楽しそうに、

面白そうに構築していたがね」

 

だが、それは後一時間もしない内に終わる。

 

「ほっほっほっ、さて皆の衆。頑張るんじゃぞい」

 

―――一誠side―――

 

次々とクエストが消化され、千もあったクエストが残り一つを残してクリアされた。

千人以上の生徒たちが様々な装備を纏って集結していた。残りのクエストは集団戦闘クエスト。

そのクエストは999のクエストをクリアしなければ受理する事ができない

封印されていたクエスト。それがいま、解禁された。

 

『終焉の使者たち』

 

『参加条件:全てのプレイヤー参加』

 

『勝利条件:全てのモンスターを撃破』

 

『敗北条件:???』

 

これが最終クエスト。―――さて、始めようか!

 

―――ソーナside―――

 

最後のクエストを受理した私、ソーナ・シトリーは首を傾げていました。

未だにクエストらしいことが起きていないからです。周りからも怪訝な顔で

発言する生徒たちの声が聞こえてくる。その中、親友のリアスが口を開いた。

 

「イッセーたちに何か問題でも起きたのかしら?」

 

「・・・・・」

 

私もそう思いました。でも、彼に不備なんて少し考えにくいのです。

ですが、一向にクエストが発生ないとならばその可能性は―――。

 

ゴォーンッ!ゴォーンッ!ゴォーンッ!

 

私たちの耳に激しく打ち鳴らす銅鑼の鐘の音。その鐘の音がする意味は―――。

 

「た、大変だぁっ!こっちに大型のモンスターが北から迫ってくるぞぉっー!」

 

これが・・・・・最終クエストの合図なのでしょう―――。

 

「東にも現れたぞ!」

 

「西にもだ!」

 

「なんてこった!南からもモンスターが来ているぞ!この町を囲むように来るなんて

俺たちはどうすればいいんだぁ!」

 

どこからともかくNPC(ノンプレイヤーキャラクター)の怒号と悲鳴が上がる。

―――東西南北から巨大モンスターの襲来!?それが最終クエストということなのですか、

イッセーくん!

 

「すぐに迎撃の準備だ!バリスタ、大砲、何でもいい!ありったけの迎撃用の武器を整えろ!」

 

「この町を俺たちの手で守るんだ!ここは俺たちの先祖代々が守ってきた『家』なんだ!

絶対にモンスターなんかに負けてたまるか!」

 

・・・・・なるほど、何気に敗北条件も言ってくれましたね。

 

「―――俺たちは北から来る巨大モンスターを倒す!お前たち、俺について来い!」

 

と、サイラオーグが高々に声を張り上げてた。それが呼び水となり―――。

 

「私たちは南からくるモンスターたちを撃破するわよ!付いて行きたい者は付いてきなさい!」

 

リアスも声を張り上げて、

 

「私たちは西に行きますっ!皆、行きましょうっ!」

 

清楚もそう宣言した。そして必然的に私が行く道は―――。

 

「私たちは東へ行きます!これが最終クエストです。皆さん、

力を合わせてこのクエストをクリアしましょう!」

 

一拍して、

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』

 

この場にいる全校生徒が気合の声を張り上げて、街中を轟かせた。

それから私たちはそれぞれ東西南北へ向かって迎撃の準備をするのでした。

東の砦に辿り着いた私たちの目に飛び込んだ光景は―――全長百メートルはあろう

赤い四肢のドラゴンがゆっくりとこっちに向かって歩いていました。

そのドラゴンの足元に無数の赤い小型モンスターたちもこの町に向かって駈け出している。

 

「―――弓と僧侶、魔法使いのヒトたちは後衛で前衛の援護を!刀剣士、

格闘の皆さんは前衛で敵モンスターの撃破!バリスタと大砲の用意も忘れずに!」

 

『はいっ!』

 

―――清楚side―――

 

西の砦に辿り着いた私たちの目の前に―――。

 

『ハハハハッ!』

 

何故か、アジ・ダハーカがいた!ええええええええええっ!?

どうしてあのドラゴンがいるの!?というか、あのドラゴンって不死だから倒すことは

できないんじゃないかな!?驚いている私の横にカリンちゃんが私の気持ちを代弁したように

言ってくれた。

 

「撃破って色々とある。封印とか捕獲とか」

 

「あっ、じゃあ・・・落とし穴であのドラゴンを嵌めて眠らす?」

 

「でも・・・・・簡単に眠るようなドラゴンじゃないと思うぞ?」

 

「酒でも飲ませたら良いんじゃないですかね?

ほら、八岐大蛇を倒したやり方って酒を大量に飲ませて酔わせてから倒した伝承があります」

 

なるほど・・・・・だから生産クエストもあったんだね。

 

「では、あの邪龍を落とし穴に嵌めてそれから口に酒を大量に飲ませて酔わせましょう」

 

「―――龍殺しって酒を飲ませてね?」

 

和樹くんが意地の悪い笑みを浮かべた。『龍殺し』。

かなり高いアルコールでドラゴンが嫌う龍殺しの実を使用しているから・・・・・もしかすると、

この酒はドラゴンに対する必勝のアイテムなのかもしれない。

 

「それじゃ、他の場所にいる皆に伝えよう!」

 

『おう!』

 

―――サイラオーグside―――

 

北の砦に辿り着き、この町に迫りくる小型モンスターを撃破していた頃だった。

 

『私の相手もしてもらおうか!』

 

「っ!?」

 

上空から青いドラゴンが飛翔してきた。俺たちを巻き起こす風で体勢を崩させてた

そのドラゴンは―――兵藤一誠の使い魔、ティアマットだ。

このゲームは兵藤一誠がシーグヴァイラ・アガレスの眷属悪魔である杉並と企てた話は

聞き及んでいる。だから、あのドラゴンがいても必然的であろう。

 

「―――全員、作戦開始だ!」

 

『はっ!』

 

事前に式森和樹から連絡が届いた。ドラゴンを捕縛して酔わせる。リアスがいる南も同様に

ドラゴンが襲撃したようだ。だが、やることは変わりない。―――あの町を守り抜くだけだ!

 

―――リアスside―――

 

「よりによって私たち悪魔にとって厄介なドラゴンが来るなんてね・・・・・」

 

『これも主の願いです。さあ、掛かってきなさい』

 

見るのは二度目。全身金色で頭上には金色の輪っか。

背中に生えている翼は天使のような金色の翼。

青い双眸で私たちを見下ろす『無限の創造龍(インフィニティ・クリエイション・ドラゴン)』メリア!

 

『光の攻撃はしません。火炎のみで戦う指示を受けておりますゆえ』

 

「そう、それは安心できるわね」

 

『ですが―――私の炎は聖なる力も籠っております。ですので、直撃しないようお気をつけてください』

 

・・・・・やっぱり安心できないじゃない!でも、戦うしかない。

私たちより強い存在は星の数ほどいるんだもの。弱気になっていられない!

 

「全員、あの作戦を行うわ!心して掛かりなさい!」

 

『はいっ!』

 

―――一誠side―――

 

「へぇ、教えてもいないのに攻略のヒントを導き出すとはな」

 

町の上空から東西南北から迫ってくるモンスターを迎撃する皆の様子を見て感嘆した。

 

「だが、そう簡単にはいかないぞ?どうやって倒していくのか高みの見物をさせてもらう」

 

「―――ほーう?それは虫の良い話ではないか?一誠よ」

 

「―――――」

 

俺に話しかける存在の声に絶句して背後に振り向いた。そこにいたのは―――。

 

「一誠、我らとも戦おうじゃないか」

 

「ん、イッセー。我と戦う」

 

「ハハハ・・・・・・マジで?」

 

「「マジ」」

 

冷や汗が止まらない。どうしてこの二人がここにいるのか、

そんな理由を知る前に俺は死ぬかもしれない。なんせ、相手は―――不動と最強なのだから。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode12

 

 

―――龍牙side―――

 

町に襲撃する巨大モンスターことアジ・ダハーカと激しい戦いは時間の消費が強いられます。

最初のクエストの時は洞窟の中で行いましたが、今回はあの邪龍が空を飛ぶことが可能なので、

必然的に―――空から攻撃されるのです。

 

『弓兵』や『魔法使い』が遠距離攻撃をして

ダメージを与えるのですが如何せん、決定的なダメージは与えれない状況。

作戦で罠を張ってそこにアジ・ダハーカを突き落として、酒を飲ませて眠らさないといけない。

しかし、あの邪龍は嘲笑うかのように地上に降りて来ない。

 

『クハハハ、こうしているとお前ら人間は蟻のように見える』

 

三つの口から火炎、雷、吹雪を吐きだす。邪龍の攻撃を直撃した仲間達の体力が一気に

消耗していくのが伺える。邪龍と戦い続け空中からの攻撃を好まれて、

飛ぶことも地上でしか戦えれない僕たちは苦戦に強いられている。

中々事を進めれないことに歯痒い思いをする。

 

「(トラップはすでに用意した。後はあの邪龍をどうにか―――)」

 

「あーもう!あいつ、私たちをどこまで馬鹿にすれば気がすむんだ!?」

 

「流石にトラップと酒、僕たちの武装じゃまだアジ・ダハーカを倒せれないってことかな」

 

「こんな時、便利なアイテムがあれば・・・・・」

 

便利なアイテム・・・・・。

 

「・・・・・あれ?」

 

そう思った瞬間、そう言えばアレはまだ使い切ってないなと疑問が浮かんだ。

 

「清楚さん」

 

「え?なに?」

 

「最初にやったクエストで貰ったあの巻物・・・・・。

まだ一つの願いしか叶えていませんでしたよね?」

 

「うん、一誠くんが来たから願い事はそれで十分だと思ったし、

よほどのことがない限り願い事を―――」

 

『それだっ!』

 

周りから清楚さんの話を遮り、突っ込まれた。清楚さんは体を一時硬直させて呆然としていた。

 

「へ?」

 

「清楚、その巻物でもしかすればあの邪龍をどうにかできないんじゃないか?」

 

「例えば、相手の力の全てを奪うとか、空を飛べないようにするとかさ」

 

「・・・・・あ!」

 

彼女も気付いたようで慌ててあの時の巻物を自分のアイテムボックスから取り出した。

 

「でも・・・・・効くのかな」

 

「やってみないことには分かりません。試してみる価値はあると思いますが」

 

「・・・・・そうだね」

 

清楚さんは巻物を広げてアジ・ダハーカを見据えた。

 

「お願い、アジ・ダハーカの力を封印して!」

 

カッ!

 

その願いに応えるように巻物が光り輝き、その光はアジ・ダハーカへと向かった。

 

『なんだ?』

 

自身を包む光に怪訝な面持になる邪龍。―――不意に、アジ・ダハーカが地上に落ちた。

丁度その真下には好都合にもほどがあるとばかり、

大型モンスター専用トラップを設置した場所だった。

 

『ぬおっ!?』

 

下半身が全て埋まった。三つの首と前足しか出ていないけど・・・・・これで十分です!

 

「魔法使い部隊!雷撃呪文をありったけ放って!」

 

和樹さんが魔法使いたちに指示をした。何百人という魔法使いが各々と杖を掲げ、和樹さんを

筆頭に雷属性の魔法を放ったのでした。幾重の雷魔法はアジ・ダハーカを直撃し、

 

『アガガガガガガガガガガガガガガッッッッッ!!!!!』

 

全ての力を封印されたあの邪龍はかなりのダメージを与えた。

 

「急いで!この願い、そう長くは持たない!」

 

清楚さんからの催促に時間制だと気付く。多分、残り一分を切っているんだと思います。

 

「百代先輩!酒を頼みます!」

 

「分かった!ぶち込んで来てやる!」

 

あらかじめ用意していた大きな複数の内、

片手で酒樽を器用に二つ持って周りから攻撃を受けているアジ・ダハーカへ―――。

 

「そーらっ!」

 

大きな酒樽を野球選手顔負けの投球をしたのでした。

三つの口の内の二つに酒樽が吸い込まれるようにいく。

 

「「はっ!」」

 

矢場先輩と楼羅さんがアジ・ダハーカの口に入る酒樽を矢で打ち抜いた。

酒を入れる樽が壊れて中身の酒が邪龍の口内を濡らして胃の中へ入っていくだろう。さらに

 

『―――――っ!?』

 

すると、アジ・ダハーカの様子が一変した。目を大きく見開いたかと思えば、

 

『・・・・・ひくっ』

 

しゃっくりをした・・・・・・。

何気に顔が赤いし、人が酔っぱらった同じ表情を窺わせてくれる。

そして、アジ・ダハーカが意識を失ったように三つの首が地面に倒れて動こうともしなかった。

それどころか、

 

『・・・・・ぐごごごごごごごごごごごごごごん・・・・・・・』

 

寝息を立て始めた!―――これは、もしかしなくても!

と、思っていた僕の、僕達の上空に立体映像が展開した。

 

『MISSION COMPLETE』

 

と―――。一拍して、歓声が上がった。そして、僕は北区にいる先輩に連絡した。

 

「サイラオーグ先輩、そっちはどうですか?」

 

―――北―――

 

―――サイラオーグside―――

 

「ああ、今しがた。こちらも片付けた」

 

西からの連絡に現状を見て報告。

 

『く、くそ・・・・・っ!魔力が無いくせに、私を倒すなんてぇ・・・・・っ!

・・・・・おええええ!』

 

「ぎゃああああああああああああっ!きったねぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

酒を飲まして酔っ払らせ、打撃を与えたらあの最強の五大龍王があの様だ。

流石のドラゴンもあれか。

 

『では、僕は他のところにも連絡してみます』

 

「分かった。こちらも連絡してみよう」

 

それだけ告げ、俺は南にいるリアスに連絡した。

 

「ああ、俺だ。西とこっちは終わったが、そっちはどうだ?」

 

―――南―――

 

―――リアスside―――

 

「ごめんなさい。―――まだ、倒せていないわ」

 

北にいるサイラオーグからの連絡に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、現状を報告する。

あのドラゴンは火炎を吐くだけでいるが、時折発生するドラゴンを守る金色の光に中々

決定打を与えれない。

酒を飲まそうにも、知性が高いようで私たちが何をしようとしているのか看破されている状況。

 

『はっ!』

 

金色のドラゴンが地面を叩き付けた。すると、地面から火柱が突如に現れて仲間達を攻撃した。

あれだけで何十人か深いダメージを与える。

 

『分かった。今からそっちに行こう。それまで持ち堪えてくれ』

 

「ええ、ありがとう」

 

サイラオーグがこっちにくる。心強いわ。でも、私はまだまだ弱い。

 

「(私もイッセーの修行に付き合おう)」

 

彼の隣にいられるように―――。

 

―――東―――

 

―――ソーナside―――

 

「ええ、はい、お願いします」

 

西からの連絡を切り、未だに倒せずにいるドラゴンへ睨んだ。

ただ歩いているだけなので、攻撃はさほど困難ではない。

でも、予想以上に皮膚や鱗がとても厚く、切り傷やかすり傷、鱗を少しだけ抉った程度でしか

効果がない。

 

「(それが全身・・・・・)」

 

背中に乗って攻撃をする仲間もいましたが、結果は同じで振り下ろされる始末。

サイラオーグや川神百代ぐらいの攻撃力がなければ倒せないのだろう。

 

「―――やばい、町の砦に接触する!」

 

「っ!」

 

思考の海に潜っていた私を絶望の声で引き上げてくれた。今まさに真紅の四肢のドラゴンが―――。

 

―――ヒュンッ!ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

町に―――・・・・・・って、え?

 

『ええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?』

 

ドラゴンが・・・・・真上から飛来した影と直撃して、苦痛、悲鳴が混じった咆哮を上げて・・・・・倒れた。それに私だけじゃなく、あのドラゴンを倒そうとしていた仲間たちが絶句、

驚愕の声を上げたのでした。

 

「ど、どういうこと・・・・・?」

 

「勝手に倒れた・・・・・なにで?」

 

「私たち、何もしていないんだけど・・・・・」

 

仲間たちが疑問を浮かべる。それについては心から同意です。

 

「―――ふん、真紅の龍など、我だけで十分だ」

 

不意に訊き慣れた声が聞こえました。その声は上から聞こえ、

見上げれば・・・・・ここにいるはずもないヒトがいました。しかも不機嫌な顔で。

 

「あいつめ、我の真似をするならば、我自身を戦わせれば良いものの・・・・・」

 

いえ、あなたでは絶対に倒せませんから。と、咽喉から出そうになり何とか堪えましたが、

あのヒトは倒れた真紅のドラゴンに向かって飛翔します。様子を見ていると、

徐に腕を伸ばして何かを引きずり出しました。それは―――。

 

「(イ、イッセーくん!?)」

 

全身ボロボロで意識がないのかグッタリしていました。

まさか、さっきの影は・・・・・イッセーくんだったのですか?

 

「さて、帰るとするか。オーフィス、戻るぞ」

 

「ん、帰る」

 

何時の間にか彼女の隣にいた黒髪の少女。

空間が歪んで一誠くんを引きずって二人は空間を歪めてできた穴の中へと潜って姿を暗ました。

 

「・・・・・会長、今のは・・・・・」

 

「・・・・・見なかったことにしましょう」

 

「・・・・・分かりました」

 

触れるドラゴンになんとやらです。物凄く気になりますけど、聞かない方が良さそうです。

 

―――○●○―――

 

―――一誠side―――

 

あー、酷い目に遭った・・・・・。何時の間にか、最終集団戦闘クエストが終わっていて、

全員が川神学園に戻っていた。俺を除いて学校はパーティー状態な展開でグラウンドで立食しては

ゲームで仲良くなった者同士と雑談していた。辺りを見渡せば杉並の姿が見当たらない。

まあ、当然か。あいつらが主役だし、

俺と杉並があんなゲームを企てたことを一部の奴しか知らない。

 

「うむ、お主らのおかげで皆が仲良くなったのぉ」

 

「感謝するよ。イッセーくん」

 

「どーも。杉並にも言っておけ」

 

川神学園の学長と駒王学園の理事長から感謝の言葉を述べられた。

いま、俺がいるところは屋上だ。

 

「とんだハプニングも遭ったが・・・・・なんとかなったしな」

 

「『九十九屋』・・・・・まさか、テロリストに目を付けられるとはね」

 

「知っているのか?」

 

「知っているも何も―――」

 

サーゼクス・グレモリーが良い笑顔を浮かべ出した。

 

「密かにミリキャスやリーアたんの学校生活を今でも調べてもらっているからね」

 

「・・・・・親バカとドシスコン」

 

意外と幅広く雇われているんだな。もしかしたらアザゼルも依頼したことがあるのかもしれない。

 

「それと、これはまだ学院の一部・・・と言ってもアザゼルとロスヴァイセ、

セルベリア・ブレスしか知らないが、駒王学園は『九十九屋』を雇うことにしているんだ。

主に学園の警備をしてもらうためにね」

 

「へぇ、そうなんだ?でも、金が結構掛かるんじゃないのか?」

 

「確かに依頼料は高かったが、学園と学園に通う生徒たちのために惜しんでいられないさ。

期間は『禍の団(カオス・ブリゲード)』が滅ぶまでだ」

 

そっか、んじゃ、早めに倒した方が良さそうだな。

これ以上、何かされる前にこっちから打って出たいところだ。

 

「しかし、光陽町以外の町や学校で異種族と触れ合うことができるとは・・・・・私は嬉しい」

 

「話せば分かる。見た目で判断されるのはしょうがない。悪魔は人間の敵だしなー?」

 

「若さゆえの過ち・・・・・と言わせてもらうよ」

 

あーそうかい。若さゆえ・・・・・ね。

 

「うむ、これなら学園際も成功するじゃろうな」

 

「駒王と川神の合同の学園祭、絶対賑やかになるぞ」

 

「うむうむ、それは楽しみじゃのぉー」

 

俺もそれについては同感だ。学園祭なんて初めてだし、成功させたい。

皆と楽しく過ごしたいからな―――。

 

―――Heros.―――

 

「・・・・・ゲオルグ、色々と大丈夫か・・・・・」

 

「ああ・・・・・なんとかな・・・・・」

 

「あ、あれは酷い・・・・・兵藤一誠・・・・・怖ろしい男だね・・・・・」

 

「ふふふ・・・・・俺も、信じられないことを知れた。

あれはない・・・・・絶対にない・・・・・」

 

「気持ちは分からなくないが・・・・・曹操、これからどうするんだい?」

 

「変わりない。今回は不覚にも不意を突かれてしまったが、作戦は続行するさ」

 

「そうか。ならば・・・・・しばらく休養してそれから行動を起こそう」

 

―――devils.―――

 

「―――では、我々に協力をしてもらえるのですね」

 

「おうよ、なんだかおもしろそーじゃん!

こんな中二病のオジサンの力になれるんなら喜んで貸しちゃうよー!」

 

「すでに行動できる準備ができています。私に賛同してくれる者も集まっております。

後は『力』を集めるだけです」

 

「その手始めとして、その懐かしい(・・・・)のを使って事を起こすなんて・・・・・。

お前、悪魔じゃん?」

 

「それが本懐では?―――さま」

 

「うひゃひゃひゃっ!そうだねっ!そうだよ!それこそが『悪』で『魔』だ!

さぁーて、悪魔は悪魔らしく、生きる全ての敵になろうじゃん?

あー、その前に久々に顔を出すとしようかなっと」

 

「誰と会うのですか?」

 

「ふふん、二人いるんだよねぇー。実に十年ぶりの再会だ。うひゃひゃひゃひゃっ!」

 

―――四人衆―――

 

「ようやく、動き出すか」

 

「ああ、状況に応じて私たちも便乗する」

 

「しかし・・・・・信じられないな。あの男がそんなことをしていたとはな」

 

「俺たちは奴を倒すために行動しているようなもんだ。だから、はぐれとなった」

 

「仇を討とう・・・・・例え、真実を受け入れもらえなくても・・・・・」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

登場キャラクター情報
キャラクター情報(龍編)


 

 

真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッド(ガイア) 

 

身長:175㎝

3サイズ 99/58/88

体重:踏みつぶすぞ

 

真龍またはD×Dと称されている真紅のドラゴンで無限を司る不動の存在。

彼女は一誠の両親から『もしものことがあれば』と渡された古い二つの箱を一誠に渡した。

後にグレートレッドは一誠を認め、弟子として一誠を鍛えることになった。

次元の狭間にある別荘に一誠とリーラと共に住み、ずっと一誠を鍛えていた。

何時しか、一誠に対する気持ちが芽生え初夜を行おうとしていた一誠とリーラに乱入した。

そのおかげか、一誠はグレートレッドの力を鎧に具現化にすることができた。

最初で最後の真龍の鎧を纏う存在として誇らしいと思っている。

一誠の姉であり母親でもあり師匠でもあるので時には厳しく、時には優しく甘くなる。

 

 

 

三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハ

 

身長:173㎝

3サイズ 97/55/81

体重:それはなんだ?

 

邪龍の筆頭格である最強の邪龍。一誠と出会うまで人間界と冥界を行き来し見聞をしていた。

冥界で修業していた一誠と遭遇し、興味が湧き、共に修行すると不可解な言動をするも、

一誠が抱える闇にクロウ・クルワッハがさらに興味を惹いて共に来ないかと誘うが

グレートレッドに邪魔され、賭けの話に持ち上がり、

自分の体に傷つけたら退くということになった。

その結果、一誠の奥の手によって体の殆どを消失した。

後に一誠の仲間となりあろうことか、性別を変えて女となり、

女として女の喜びである知識や経験を一誠で通じて得ていく。

 

 

魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)』アジ・ダハーカ

 

千の魔法を使役する邪龍筆頭格の一匹。過去、一誠に倒された経歴を持ち、一誠の闇を気に入り、

主と認めていないが本人もとい本龍いわく『力を貸すに値する存在』と一誠に力を貸している。

 

 

幻想喰龍者(イリュージョン・イーター)』ゾラード

 

神ヤハウェによって魂を神器(セイクリッド・ギア)として封印された古の龍。

幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』として一誠に力を貸している。

 

 

無限創造龍(インフィニティ・クリエイション・ドラゴン)』メリア

 

神ヤハウェによって魂を神器(セイクリッド・ギア)として封印された古の龍。

無限創造龍の錫杖(インフィニティ・クリエイション・メーカー)』として一誠に力を貸している。

 

無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス

 

グレートレッドと同じ次元の狭間に生まれた無限を司る最強の龍。

とある組織、『禍の団(カオス・ブリゲード)』のトップとして君臨していて、一誠の力を借り

静寂を得るため次元の狭間を支配するグレートレッドを追いだすつもりでいたが、

その一誠が過去に出会った二人の人間の子供だと知り、

逆に組織から引き抜かれて一誠と共に住み始める。そのおかげで独占ではないが、

次元の狭間で静寂を得れることができ、一誠が家にいれば憑くように何時も傍にいる。

さらに自分の力を一誠に貸すことで鎧に具現化し、一誠と共に戦うことができるようになった上に

グレートレッドと同時に自分の力を鎧に具現化させることで

一誠はほぼ無敵の力を得ることができたのであった。

 

天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマット

 

身長:171㎝

3サイズ 91/59/89

体重:殺すぞ

 

一誠の使い魔の五大龍王の中で最強のドラゴン。毎度、使い魔にしようとやってくる輩に

追い返してどこかで暴れるという繰り返しの中で生きていたら、

一誠が現れ一誠の言動に気に入って自ら使い魔になる。実力は本物で、一誠が驚くほどだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キャラクター情報

―――兵藤家―――

 

 

兵藤一誠

 

 

身長:172cm

体重:61kg

 

種族:人間

 

本作の主人公で駒王学園二年生としてリーラとともに編入した。

幼い頃、とある家での鍛練を終え、家に戻ると三人組の堕天使と悪魔、

床に倒れていた血塗れの父親と母親と

目の当たりにした。両親を殺害したのは自分たちだと一誠に伝え、

復讐心を抱かせた張本人たちでもある。

後に自分の両親の友人と名乗る真紅の髪の女性にリーラと共に女性が住む異空間―――次元の狭間に

ある一誠の両親が作ったという別荘に連れられた。

その女性の正体は不動の存在、夢幻を司る龍、D×D、または真龍と称されている

真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッド。

彼女は一誠の両親から『もしものことがあれば』と渡された古い二つの箱を一誠に渡した。

後に一誠は両親を殺した悪魔と堕天使に復讐と大切な家族を守りたい気持ちでグレートレッドに

鍛えてもらうように懇願した。

グレートレッドは一誠を認め、弟子として一誠を鍛えることになった。

その最中、一誠は人間界に一度だけ訪れた際に五人の少女、リアス・グレモリー、

ソーナ・シトリー、リシアンサス、ネリネ、リコリスと出会う。

渋々ながらリアスたちと遊んでいるとはぐれ悪魔と遭遇し、劣勢でありながらも退かせた。

それから長い年月の末、一誠はリーラと共に駒王学園に編入をする。

実力主義で悪魔、天使、堕天使、人間の四種が交流する学園であり、四種交流の町である光陽町。

一誠とリーラはその町にある学園に編入をすれば幼い時に出会った五人の少女と再会を果たす。

さらに、自分の親を知る者たちとも対面し、過去に遭った出来事と「

悪魔と堕天使が嫌い」と告げた。一誠とリーラが所属するクラスにいる葉桜清楚、式森和樹、

神城龍牙と友人関係と成り、何時しか一誠とリーラ、五人で共にいるようになった。

後に聖剣を求めた戦いの末、一誠は幼馴染の一人である紫藤イリナと再会をするがさらに幼馴染で

あり二天龍、『白い龍(バニシング・ドラゴン)』の魂を宿す白龍皇、ヴァーリ・ルシファーとも再会をする。学校の行事である体育の授業でカリンという貴族の魔法使いとも

一誠たちのクラスに転属し交流を続け、長期間の夏季休暇になると、次期人王を決める大会が

開催され、その時に一誠の幼馴染である人王の二人の王女と再会する。一誠はこの大会に参加し、

二人を守る決意を心に秘めて味方と敵の混合チームを結成し、次期人王決定戦に挑み、

見事勝利をしたのだった。

その後しばらくして、ディオドラの策略によりテロリスト、『禍の団(カオス・ブリゲード)』の襲撃に遭うも一誠は、

復讐の対象者である堕天使ヴァンと悪魔のシャーリとシャガの三人組と再会を果たし、

暴走気味に三人組に挑んだが最後は逃げられてしまった上に体育の授業は廃業となる。

しかし、日本の神々と会談のため日本に訪れた北欧の主神オーディンと関わったことで

再びヴァンたちと出会い、戦うも逃げられた。

 

リーラ・シャルンホルスト

 

身長170㎝

 

3サイズ:89/58/88

 

体重:秘密でございます

 

種族:人間

 

 

一誠専属メイドでありスーパーメイドである。常に冷静沈着で家事全般は勿論、

介護から戦闘機の操縦、マネートレードでの利殖まで何でも完璧にこなすスーパーメイドで

一誠は知らないが、リーラは一誠と出会った瞬間に一目惚れをして一誠のことを好きになって

絶対の忠誠を誓っている。長年、一誠の傍にいるので少しの異変ですらも気付いてしまうと

リーラは自負するが、学校や家以外では殆ど一誠と共にいるため、一誠は周りから嫉妬と

羨望の眼差しを向けられている要因の一人でもある。一誠の両親を知る一人であり、

一誠がアザゼルの実験に付き合い、十年前の記憶を持った幼少時代になってしまった一誠を難なく

接することもできている。しかし、一誠に関わる秘密を持っていることが時々伺える。

 

兵藤源氏

 

種族:人間

 

兵藤家現当主、世界に住む人族を束ねる現人王。三大勢力戦争に介入したとある一族でもある。

世界に人間を束ねると言っても基本的、何もせずにいて社会に紛れこんで生活を送っている。

その上、兵藤家の一人一人はハイスペックの持ち主ばかりで経済、生産、産業、軍事、株までも手を出している者が多く、時々テレビの取材に映ることがある。兵藤家のことは世界中の人間たちは認知されていないが三大勢力、他の神話体系の存在たちは認知している。何故三大勢力戦争に介入したのかはいまだ不明だが、分かっていることは、とある事情で二人の娘に口も聞いてもらえない故に桜の木にしがみ付いてすすり泣くほど親バカであることだけである。

 

 

兵藤羅輝

 

 

種族:人間

 

兵藤家現当主の妻。同じ兵藤一族である一誠に少なからず気にしている模様で、

一誠の実力を見て源氏と共に兵藤家に戻らないかと誘うほどである。

 

 

兵藤悠璃

 

身長169cm

3サイズ:93/58/81

体重:いっくんだけ教える

種族:人間

 

兵藤源氏と兵藤羅輝の娘であり、人王の姫。一誠とは小さい頃からの付き合いで、一誠が家に来る度に誰よりも早く一誠を出迎えて、一誠に甘えたり一誠と遊んだりと、常に傍にいたがっていた。

一誠のことを「いっくん」と呼び一誠に対して好意を抱いていた。しかし、一誠が家に来なくなり、寂しさどころか、一誠の行方不明と一誠の両親が亡くなった情報を知り、激しいショックを受けた。それ以来、口数が極端に少なくなった上に人王の姫として次期人王の妻と成らないといけない宿命に、一日の殆どは部屋に籠り、父親である源氏とは話しをしなくなった。だが、次期人王決定戦の最終決戦で一誠と再会をし、再会を喜んだ上に、一誠が次期人王と決まり悠璃は今まで会えなかった分、一誠に甘え、晴れて妻と成ったので初夜は激しく燃え上がった。

 

 

兵藤楼羅

 

身長170㎝

3サイズ:95/57/80

体重:死にたいですか?

種族:人間

 

兵藤源氏と兵藤羅輝の娘で、悠璃の姉。常に悠璃と共にいるので、必然的に一誠と一緒にいたがる悠璃なので、一緒に一誠と接している内に好意を抱き、なぜか一誠のことを「一誠さま」と呼ぶ。が、一誠は対して気にしないでいるので楼羅はそう呼び続ける。しかし、一誠が家に来なくなり、寂しさどころか、一誠の行方不明と一誠の両親が亡くなった情報を知り、激しいショックを受けた。それ以来、口数が極端に少なくなった上に人王の姫として次期人王の妻と成らないといけない宿命に、悠璃と一日の殆どは部屋に籠り、

父親である源氏とは話しをしなくなった。だが、次期人王決定戦の最終決戦で一誠と再会をし、

再会を喜んだ上に、一誠が次期人王と決まり楼羅は今まで会えなかった分、

一誠に甘え、晴れて妻と成ったので初夜は激しく燃え上がった。

 

 

兵藤照

 

身長:180㎝

体重:71kg

 

兵藤家若手の中でトップクラスの実力を誇り、『四天王』の一人と数えられている存在。

幼い頃、一誠が現れる度に虐めていた一人でもある。照は同年代の者たちの中で一度も負けたことがないので天狗になっていたが、次期人王決定戦での決勝戦で一誠に破れ、源氏に「世界を知り己を知れ」と言い渡され後日、駒王学園に編入した。それから暇さえあれば、一誠に食って掛かって勝負に挑もうと暴走することがあり、そんな照に一誠を慕う者たちからはあまり良い印象を持っていない。

 

兵藤力也

 

身長:200㎝

体重:79kg

 

兵藤家若手の人物でサイラオーグと同じ格闘、体術で戦う巨躯の男。神器(セイクリッド・ギア)

所有者だが、次期人王決定戦でサイラオーグに一撃で能力を使う前に敗北した。

 

兵藤麗蘭

 

身長:169㎝

3サイズ:88/56/81

体重:教えませんわ

 

兵藤家若手の少女。兵藤千夏の姉であり次期人王決定戦で兵藤照のサポートをするために参加した。

外の世界=人間界に兵藤家は滅多に出ることはできないので、兵藤家の異性しか知らない。

大会の時に対戦相手だった成神一成に『乳技』、『乳語翻訳(パイリンガル)』で胸の声を聞かされたどころか大衆の面前に兵藤千夏と『洋服崩壊(ドレス・ブレイク)』によって服を弾き飛ばされ全裸にされ成神一成にトラウマを刻まれ敗北。だが、一誠に優しく介護されたことで一誠に恋をした。後に次期人王となり悠璃と楼羅を(未成年の為(仮))妻にした一誠に妾でも構わないから傍に居させてほしいと懇願した。

 

兵藤千夏

 

身長:165㎝

3サイズ:88/56/81

体重:死んでください

 

兵藤家若手の少女。兵藤麗蘭の妹であり次期人王決定戦で兵藤照のサポートをするために参加した。

外の世界=人間界に兵藤家は滅多に出ることはできないので、兵藤家の異性しか知らない。

大会の時に対戦相手だった成神一成に『乳技』、『乳語翻訳(パイリンガル)』で胸の声を聞かされたどころか大衆の面前に兵藤麗蘭と『洋服崩壊(ドレス・ブレイク)』によって服を弾き飛ばされ全裸にされ成神一成にトラウマを刻まれ敗北。だが、一誠に優しく介護されたことで麗蘭と共々、一誠に恋をした。後に次期人王となり悠璃と楼羅を(未成年の為(仮))妻にした一誠に妾でも構わないから傍に居させてほしいと懇願した。

 

 

兵藤静駿

 

身長:163㎝

体重:67kg

 

兵藤家若手の少年。一見、眼鏡を掛けたクールな少年だと思うがその実、戦隊ヒーローが大好きな人物。

同じ若手の兵藤桐と兵藤淡河と『ヒョウドウレンジャー』という戦隊ヒーローを結成している。

兵藤家の子供たちには人気者で、同じ若手である照たちには冷めた目で見られる。次期人王決定戦で対戦相手だったカリンに分かってもらえ、何時か仲間に加えようと密かに企てている。神器(セイクリッド・ギア)の所有者で風系統の神器(セイクリッド・ギア)だと伺えるも真羅椿姫の禁手(バランス・ブレイカー)の能力でダメージを負い、カリンとゲオルグによって敗北する。

 

兵藤桐

 

身長:159㎝

体重:51kg

 

兵藤家若手の少年で一番身長が低い。純粋に戦隊ヒーローが大好きでその手の漫画、小説、本を手当たり次第購入して読み漁る。『三銃騎士』という絶筆した小説がお気に入りで作者が死んでしまい、幻の最終巻を手に入れようとしてもすでに完売した後でとても悔しがっていた。しかし、次期人王決定戦で同じ本を持ち尚且つ幻の最終巻である三銃騎士を持っているカリンと出会い、大事な試合を放棄してまで読みたがるほど熱狂なファンでもある。

 

兵藤淡河

 

身長:185㎝

 

体重:55kg

 

兵藤家若手の少年。静駿と桐と同じく戦隊ヒーロー好きで『聖騎士隊セイント・ナイツ』の『セイントレッド』の生き様に心を打たれ、腰には何時も見様見真似で作った軍杖を携えている

(戦い不向き)。

大地の鎧(アース・アーマー)』という岩石や鉱物を身に纏う

神器(セイクリッド・ギア)の所有者だが、真羅椿姫によって敗北する。

 

兵藤名無

 

身長:163

体重:55kg

 

兵藤家が密かに作った人工生命体。人工生命体三号ことプリムラと同じ存在でプリムラの弟に当たる。殆ど無口で過ごすが、兵藤照の言うことを聞く。現在はプリムラと同じ教室で学校生活を送るが、話しかけられても無言なのでプリムラがフォローする。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

学園祭のドラゴンハートブレイク
Episode1


 

「新たなメダルと全身鎧の姿のイラストだ」

 

「おう、ありがとうよ」

 

研究室に訪れ、アザゼルに俺が考案したモノを手渡す。

 

「これがまた実現したら兵藤家の財政が潤うな」

 

「俺だけじゃなく、『おっぱいドラゴン』もそうだろうし、

グレモリー家にも膨れ上がるだろうな」

 

「しっかし、よくとまぁこんなものを考えたもんだな。

ドラゴンの力をメダルに籠めてベルトに装着して鎧を装着するなんてよ」

 

「なんでだろうな。こう、ピーンときたんだよ」

 

「これ、一歩間違えれば兵器にも繋がる。まあ、そんなことさせないがな。はい、採用だ」

 

軽くハンコを押した数枚の紙を返してくれた。これで販売ができる。

 

「ところでアザゼルは長い間生きているんだよな?」

 

「どうした、藪から棒に。俺のバラ色の人生でも聞きたくなったか?」

 

「茨の人生じゃないか?まあ、それよりなんとなく訊きたいことがあるんだ」

 

「俺に訊きたいことって何だよ」

 

アザゼルが俺に振り返る。まあ、ドラゴンに関する事だけどな。

 

「不動のガイアと最強のオーフィス、最強の邪龍クロウ・クルワッハ、

それと二天龍と龍王と代表的なドラゴンがいるよな」

 

「ああ、それに関わっているお前が俺から何を聞きたい?」

 

「うーん・・・・・何て言えば良いだろうか。ドラゴンってどんな風に誕生するんだ?」

 

「・・・・・」

 

唐突に無言になった。顎に手をやってアザゼルは言った。

 

「さぁな。無の空間の次元の狭間で生まれたガイアとオーフィスですらどうやって

自分が生まれたのか知らないだろうし、俺だって調べたことがあるが如何せん

卵から生まれたわけじゃないからな。未だに不明なんだ」

 

「ヤハウェがドラゴンを生みだしているのか?神だし」

 

「いんや、あいつはそんなことできるとは思えない。

―――なにか、別の力で生まれているのかもしれないな」

 

別の力・・・・・か。

 

「案外、ドラゴンの始祖・・・・・原始龍ってみたいなやつがいたりしてな」

 

「全てのドラゴンの親・・・・・ってか?」

 

「そんなもんだ。俺も聞いた事もないし見たこともないけどな。

いや、存在しているのかすらも怪しい」

 

まっ、そりゃそうだろう。アザゼルの言う通り見聞したことがない存在に考えても無駄だ。

 

「いたとしても、俺たちに干渉しないだろう」

 

「いたら会ってみたいな」

 

「会ったら教えてくれよ?貴重な情報だからな」

 

会ったら、の話しだがな。というか、俺が会う前提な話になっているし・・・・・。

アザゼルの研究室から出て教室に赴いた。

 

ガヤガヤ・・・・・。

 

歩いていると、廊下に立って立ち話をする生徒たちを大勢目撃する。

駒王と川神の生徒たちが雑談している。

あの一件以来、両学校の生徒たちはウナギ登りのように仲良くなった。

俺と杉並、サーゼクス・グレモリーたちの頑張りが実ったわけだな。教室に入れば、

廊下と同じような光景だった。何時も俺と雑談している清楚たちも見知らぬ生徒たちと

話し合っている。リーラに至っては女子生徒たちに囲まれていて何やら熱心に話をしていた。

 

「(そうだ。俺はこの光景を望んでいた)」

 

内心、嬉しく思った。この光景が何時までも続いて欲しいもんだよ。

 

『―――そいつは難しいと思うがな』

 

アジ・ダハーカ・・・・・。

 

『まあ、群れを作って共に生きるのは悪くない。が、いずれ命が尽きる。

お前とお前みたいな存在を残してな』

 

何が言いたいんだ?

 

『あまり甘いことを考えるなと言いたいだけだ』

 

なんだよ、酒を飲まされて酔っ払って倒されたお前が変なことを言うな。

 

『・・・・・』

 

あっ、黙った。

 

『次があったら喰い殺す・・・・・』

 

悪いな、その次は絶対に来ない。と、言ってみたらアジ・ダハーカが歯を強く

噛みしめたような音を出し始める。

 

―――○●○―――

 

 

明くる日のこと。俺とリアス・グレモリー、ソーナ・シトリーは三人のみで

冥界のシトリー領に来ていた。

自然豊かな林道を豪華なリムジンが走っていく。俺たち三人はリムジンの後部座席に座っていた。

リアスの手には花束。彼女が持っていくものだとそう言って持ってきたんだ。

 

「で?何の理由で俺を冥界に連れてきたんだ?」

 

家に帰るなり、リアス・グレモリーに「お願いがある」と言われ今日、冥界に訪れているわけだ。

理由はまだ聞かされていない。というか、話そうとしてくれなかった。

いい加減に話せやコラ、と俺の気持ちに察したのか、ようやく彼女は―――。

 

「今回のこの件はお母さま経由なのよ」

 

と、車中でリアス・グレモリーは理由を言った。

さらに聞くとなんでもサイラオーグのところの執事が

折り入って話があると、グレモリー家に伝えてきたそうで、それをヴェネラナが了承したという。

直接、俺を指名して呼び出すんだから何か事情でもあるかも知れないな。

 

「何の用で呼び出されたのかはともかく、シトリー領に初めて入ったけど、自然豊かなんだな」

 

「ええ、私の領土は数ある上級悪魔の領土の中でも自然保護区が多いところなんです。

美しい景観の場所も多く保護しているので今度、皆で来ましょう」

 

ソーナ・シトリーが少し自慢げに言う。そうか、へぇ、大自然に恵まれた領土なんだな。

確かに行く先に広がる山々は様々な色の木々に囲まれて見事の一言だった。

車窓から外を眺める俺にリアスは言う。

 

「そして、医療機関が充実している領土の一つでもあるわ」

 

「医療ねぇ」

 

「ええ、これから向かう先も冥界でも名だたる病院の一つです」

 

「となると、俺たちはその病院に向かっているのか?俺の力で誰かの病状を

治してほしいと?」

 

「・・・・・やっぱりあなたは鋭いわね。そうよ、その通り。あなたの力を借りたいの」

 

医療機関が充実していても、冥界でも名だたる病院でも治せない病気を患えている悪魔がいる

ということか。・・・・・リムジンは拓けた場所に出ていく。人の手が入った広大な敷地。

ポツポツと建物が建っていて、視界の向こう側に大きな建造物を捉えた。どうやら俺たちが

向かっている病院はあれのようだ。リムジンで進むこと、十数分。巨大な建物の送迎用の

入り口にリムジンが止まり、俺たちは車から降りた。

 

「お待ちしておりました」

 

俺たちを迎え入れてくれたのはし辻の恰好をした一人の中年男性。ピッチリとした会釈だ。

 

「ええ、案内してちょうだい」

 

リアス・グレモリーがそれだけ言うと中年男性は「どうぞ、こちらに」と歩きだしていく。

そのあとについていく俺たち三人。広い院内を進んでいき、エレベータに乗り込むことに。

そこでリアス・グレモリーが静かに口を開いた。

 

「イッセー、私の母がバアル家であることは知っているわよね?」

 

「ああ、知っている。ついでにサイラオーグとリアスはいとこなんだろう?」

 

「ええ、そうよ。うちの母はサイラオーグのお父さま―――バアル家現当主の姉だから、

腹違いなのだけれどね。サイラオーグのお父さまが本妻の息子、私の母が第二夫人の娘」

 

腹違いの姉か。バアル家現当主とヴェネラナは姉弟。

しかし、母親が本妻、第二夫人とは複雑だな。

 

「そして、おばさま―――サイラオーグのお母さまは元七十二柱であり、上級悪魔の一族、

ウァプラ家の出なの。獅子を司る、偉大な名家よ」

 

「ウァプラ・・・・・獅子・・・・・」

 

獅子。サイラオーグらしい血筋だ。そんな会話をしているうちにエレベータが上階に止まる。

扉を抜けるとそこは病室のフロアだった。さらに進むこと数分。執事に連れられ、

俺たちはとある一室の前に辿り着く。

 

「ここでございます、リアスさま」

 

入っていくリアス・グレモリーと執事。

俺とソーナもあとからついていくと―――個室のベッドに綺麗な女性が眠りについていた。

 

「・・・・・ごきげんよう、おばさま」

 

リアス・グレモリーは寝る女性に悲哀に満ちた眼差しを向けていた。

ソーナ・シトリーもリアス・グレモリーと同じ眼差しで向けていた。

・・・・・おばさま、話の流れからすると、この人は―――。リアス・グレモリーから花束を

受け取りながら執事が言う。

 

「・・・・・この方はミスラ・バアルさま。サイラオーグさまの母君でございます」

 

―――っ!やっぱり、サイラオーグの母親か。呼吸器をつけたまま寝ている・・・・・。

ベッド横の機器は初めて見る物だが、生命維持装置なものか?あいつらに調べさせたら

分かるだろうな。執事は―――花束を持ったまま、こみ上げてきたものを目から流していた。

 

「・・・・・今日、ここへお呼びしたのは他でもありません。リアスさま、兵藤一誠殿、

どうか、この方を・・・・・ミスラさまを目覚めさせるために

ご助力願えないでしょうか・・・・・?」

 

突然、執事に泣かれ、少し当惑する俺。そんな俺にリアスは語り始める。

 

「少しだけ話すわ」

 

それは一組の母子が辿った、激動の運命だった。サイラオーグは、バアル当主の父親と獅子を

司る名家ウァプラの母親の間に生まれた。次期当主が生まれたと、周囲は大変喜んだそうだ。

しかし、生まれてすぐにサイラオーグに辛いものが突きつけられる。―――魔力が無いに等しく、

バアルの特色である『消滅』の力を持つ事が当然とされていた。だが、サイラオーグはそれを

持たず生まれて来てしまった。失意にくれるサイラオーグの父親は、怒りを妻に向けた。

 

『我が一族が滅びの力をどこにおいて、こんな欠陥品を産んだのだ!?』

 

―――欠陥品。魔力と滅びを持たずに生まれただけで、サイラオーグは父親に見捨てられた。

同様にその子を産んだ母親であるミスラも蔑まれるようになる。

―――欠陥品を産んだバアル家の面汚し、と。

 

「・・・・・あまりに酷いものでした。当時のバアル家の者は、私を含めた。ウァプラ家から

従者たちを除き、ほとんどの者がサイラオーグさまとミスラさまを侮蔑し、差別したのです」

 

うっすらと目に涙を浮かべながらリアスも言う。

 

「当時のグレモリー家もその噂を聞いて、母がおばさまとサイラオーグをグレモリーの領土に

保護しようそしたのだけれど、あちらに強く拒否されてしまったらしいわ」

 

―――本筋の者でもなく、嫁にいった者がバアル本家のことを口を出すな、と。グレモリーには

滅びの力を色濃く受け継ぎ、冥界で活躍されていたサーゼクスがいたのが、バアル家的に

面白くなかったそうだ。それはそうか。本家の子が特色を受け継がないで、

嫁に行った者の子の方に遺伝しちまったわけだからな。バアル家にとってはこれほど皮肉は無い。

 

「大王であるバアル家は、世襲でない現魔王を除けば、家柄的にはトップに君臨する

上級悪魔。なかなか、他のお家でも口出しが難しいのです。そして、プライドが何よりも

高く、周囲の目を気にする。ミスラさまとサイラオーグは厄介者でしかなかったのです」

 

その後、ウァプラ家がミスラとサイラオーグの帰還を求めたが、バアル家からの

返事は残酷なものだった。

 

「サイラオーグさまだけは渡すわけにはいかないと、ご当主さまはおっしゃったのです。

家の恥を外に出すわけにはいかないと。そのような提案をミスラさまが飲めるわけが

ございません。ミスラさまの保護がなければ幼いサイラオーグさまは幽閉され、

ひとり蔑まれて生きて行かねばならなかったからです」

 

執事は続ける。

 

「ミスラさまは故郷の助力を断わり、サイラオーグさまと私たち一部の従者のみを連れて

バアル領の辺境へと移り住むことになったのです」

 

バアル領の辺境ならば、バアル家にとても目の届く位置にあり、何よりも外部に

サイラオーグを晒すこともない。バアル家はバアル領の奥地に母子が移り住むことを認めた。

家の援助がほぼない中で、サイラオーグは片田舎で母親と暮らし始めた。

 

「上層階級育ちのミスラさまにとって、助力なしでの田舎暮らしはお辛いものだった

でしょう。それでも立派にサイラオーグさまを育て上げました。それはとても厳しく、

ときに優しく、サイラオーグさまを教育なされたのです」

 

魔力がないに等しい悪魔は、どこに行っても良い待遇は受けない。田舎に移り住んでも

サイラオーグは差別の対象になった。同世代の下級悪魔、中級悪魔の子供たちよりも魔力が

劣っていたため、その者たちにいじめられていたという。

 

「それでもミスラさまは泣いて帰ってくるサイラオーグさまに強く

言い聞かせておいででした」

 

『―――魔力がなくとも、あなたには立派な体があります。足りないと思うのなら、

その足りないものを何かで補いなさい!腕力でもいい、知力でもいい、速力でもいい、

補ってみなさい!あなたは誰がなんと言うとバアル家の子。たとえ、魔力がなかろうと、

滅びの力がなかろうと―――』

 

「―――諦めなければいつか必ず勝てるから。以前、サイラオーグから聞いた言葉よ。

母から教わった大事な言葉だって、言ってたわ」

 

リアス・グレモリーはそう言う。・・・・・諦めなければいつか必ず勝てる、か。

そうだよな、俺だって人間の体でここまで強くなったんだ。諦めないで、頑張っていけば誰だって

強くはなれるんだ。執事が言う。

 

「裏では、何度も謝り続けていたのです。『滅びの力を持たさずに産んでごめんなさい』と。

ミスラさまは眠りつくサイラオーグさまの横で何度も何度も泣き続けて

 

おられました・・・・・。サイラオーグさまはそれを察しておられてもいたのでしょう。

ある日突然、泣くのをお止めになられたのです。そして、

何事にも真正面から立ち向かっていったのです」

 

自分を馬鹿にした者、に自分が足りないものに、サイラオーグは正面から立ち向かい、

何度も倒れ続けながらも立ち上がり続けた。そしてサイラオーグはそこで夢を掲げた。

―――実力があればどんな身の上の悪魔でも夢を叶えることのできる冥界を作りたい、と。

実力社会の悪魔業界だけど、その実は上流階級とそれ以外の世界がまるで違う。たとえ力を

持っていても出自が下級ならば望める生き方をできる者は少ない。その辺りのことはソーナも

同じ野望を掲げていたな。そして―――、サイラオーグが中級悪魔とまともに勝負が

できるようになってきた頃、ミスラの身体に異変が起こる。

 

「・・・・・悪魔がかかる病の一つよ。症例は少ないけれど、その病気にかかると深い眠りに

陥り目を覚まさなくなってしまうの。そして、徐々に体が衰弱していき、死に至る。

だから、こうやって医療機関で人工的に生命を維持しなければならないの」

 

と、リアス・グレモリーが寂しげに目元を細めながら言った。

・・・・・・サイラオーグの母親じゃ難病にかかったっていうのか。

あらゆる方法を模索したが、治療法は見つからず。

それでもサイラオーグは突き進んだ。

 

「その後、身体を鍛え上げたサイラオーグさまは満を持つしてバアル家に帰還し、

旦那さまと後妻さまの間に生まれた弟君を実力でくだして、次期当主の座を得られたのです」

 

おー、凄いじゃないか。その弟は滅びの力を持っていたんだろうにな。弟を倒して、

今の地位を得た。となるとそこで疑問が浮かぶ。

 

「サイラオーグは弟を倒してバアル家に帰還したんなら母親はどうしてここにいるんだ?

ここのほうがバアル領の病院よりも医療環境が良いってことなのか?」

 

「それもありますが・・・・・バアル領だとミスラさまを狙うものがいるでしょうから」

 

わー、狙うだなんて物騒な事だなー。

 

「次期当主の座を奪われたサイラオーグの弟をはじめ、滅びの力を持たずに次期当主になった

サイラオーグを疎む輩はバアル家周辺に多いわ。病気のおばさまはいい的になってしまう。

だからソーナのつてを頼ってサイラオーグはシトリー領におばさまを移したの」

 

なるほど・・・・・。次期当主の権力争いは未だに継続中ってことか。悪魔社会も

面倒くさいな。悪魔に生まれなくて安心するぜ。執事が涙をハンカチで拭いながら言う。

 

「お二人をお呼びしたのは他でもありません。

ミスラさまのご病気の治療にご助力願えないでしょうか?

なんでも兵藤一誠さまは異能の力であれば何でも無力化にし、

不治の病を治すことができると聞きましたもので。ぜひ、深い眠りにつくミスラさまをその力で

治療して欲しいのです。担当医の了解は取っております。有害ではない

魔力なら大丈夫だと・・・・・」

 

・・・・・はぁ、今までの話を聞いて断われるわけがないだろうが・・・・・。

 

「―――禁手(バランス・ブレイカー)

 

瞬時で青白い大天使になって翼を大きく広げ、サイラオーグの母親を翼で包んだ。すると、

翼が神々しい輝きを放ち始めた。

 

「なあ、一つ訊くが・・・・・兵藤誠と兵藤一香と交流を持っていたか?」

 

「はい、私ども従者たちも含めてあなたさまのご両親と仲良くさせてもらいました。

とても素晴らしい人たちでした」

 

 

「そうか・・・・・だったら、なおさら治さないといけないな」

 

カッ!

 

この部屋が眩い光に包まれて―――視界が白く塗りつぶされた。

 

・・・・・。

 

「・・・・・ふぅ、終わったぞ」

 

大天使化を解いた。部屋を包んだ光も消えてサイラオーグの母親の姿を

捉え部屋は何事もなかった。

 

「・・・・・イッセー、どう・・・・・?」

 

と、恐る恐ると不安そうに問いかけてくるリアス・グレモリー。俺は―――、

 

「これで二度目の経験だからな。・・・・・大丈夫だと思うぞ」

 

「・・・・・」

 

「「「―――っ!?」」」

 

俺がそう言った瞬間にベッドに寝ていたサイラオーグの母親が・・・・・ゆっくりと目を開けた。

 

「・・・・・ここ・・・・・は?」

 

「目を覚ましたようだな?」

 

「・・・・・どちらさまでしょうか・・・・・?」

 

「初めまして、俺は兵藤一誠。兵藤誠と兵藤一香の間に生まれた子供だ」

 

自己紹介をすると、一瞬だけ目を大きく見開いたがすぐに目を細めて懐かしそうに俺を

見据え、腕を伸ばして俺の頬を撫でてきた。リアス・グレモリーとソーナ・シトリー、執事も

サイラオーグの母親の周りに寄って来て涙を流す。

 

「・・・・・そう、あの赤子が見ない間に成長したのね・・・・・」

 

「感動の再会は俺じゃなくてこいつにしてくれ」

 

俺は苦笑を浮かべ、彼女から離れる。と、俺の横に一人の男が現れ、ゆっくりと通ってきた。

その男に彼女も気付いた。

 

「・・・・・母上、サイラオーグです。おわかりになりますか?」

 

「・・・・・ええ、わかりますよ・・・・・」

 

その男、サイラオーグ・バアルであった。我が子の頬を撫でようとする母の手。

震えるその手をサイラオーグの大きな手が取った。

 

「・・・・・私の愛しいサイラオーグ」

 

「・・・・・母上」

 

「・・・・・立派になりましたね・・・・・」

 

「・・・・・っ」

 

母親のその一言を聞いたサイラオーグの目から―――一筋の涙が流れた。

 

「・・・・・まだまだです、母上。元気になったら、家に帰りましょう。あの家に・・・・・」

 

―――これ以上俺がここにいるのも野暮だと感じ、

リアス・グレモリーとソーナ・シトリーを手招き、

一緒に病室を出ていく。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode2

俺たち駒王が川神学園に在籍して学校生活を送ってしばらく日が経った。

 

「あ、あの・・・・・これからお世話になります。よ、よろしくお願いしますわ」

 

俺たちの家に意外な訪問者が現れ、深々とお辞儀をしたのだった。

 

「よろしくな―――レイヴェル」

 

そう、訪問者の名はレイヴェル・フェニックス。

元七十二柱の悪魔、フェニックス家のお姫さまだ。

あの、ライザー・フェニックスの妹でもある。

なぜ、彼女が俺たちの家に訪れているのかというと、

 

「人間界の学校に興味があるなんて、珍しいな」

 

「き、貴族以外の方と接して、平民の生活から何かを学ぶのも大切だと思っているんです」

 

彼女、レイヴェル・フェニックスは俺たちが在籍している

川神学園に転入することになったんだよな。

その際、学校を通わせるのに一人暮らしをさせることは色々と心配で、家で住まわせてほしいと

サーゼクス・グレモリーや彼女の両親から頼まれている。

別に断る理由もないから引き受けたが・・・・・。

 

「そう緊張するなよ。これから俺たちは家族になるんだ」

 

「は、はい・・・・・」

 

必要以上、過激に緊張しちゃっている。なぜに?

 

「んじゃ、早速嬢ちゃんの歓迎パーティーをやろうぜ一誠殿!」

 

「うんうん、また可愛らしい花が増えて私も嬉しいね。目の保養となるよ」

 

―――こいつらが原因か?レイヴェル・フェニックスの後ろにいるこいつらがそうなのか?

 

「ユーストマさま、フォーベシイさま、こちらです」

 

「ああ、何時も悪いな」

 

「今日はお土産もあるんだよ。私のお気に入りの一品だ。是非とも一誠ちゃんと飲んでおくれ。

アルコールゼロだから未成年でも大丈夫だ」

 

「ありがとうございます」

 

リーラ、ナイス!心の中で二人を引き離してくれたメイドに感謝し、

俺はレイヴェル・フェニックスの部屋を案内した。

 

「・・・・・緊張しましたわ」

 

「やっぱ、あの二人が原因か」

 

「冥界の五大魔王さまのお一人と、天界の神王さまが揃っているので緊張もしますわ」

 

「基本的、あの二人はあんな感じだから。成れないと身も心も持たないぞ」

 

「そ、そうなのですか・・・・・?」

 

意外とばかり目を丸くしていた。普段、あの二人のことをどう思っているんだろうか?

 

「イッセーさまって・・・・・意外と肝が据わっているのですね」

 

「いやー、だってな?」

 

「はい」

 

「俺、子供の頃・・・あの二人に追いかけられたことがあるし」

 

そう言うと、レイヴェル・フェニックスが信じられないモノを見る目で俺を見詰めた。

 

「それに、俺の隣に引っ越してくるもんだから、緊張するどころか、鬱陶しさが増すばかりだ。

その上、親バカだしな」

 

「お、親バカ・・・・・」

 

「それに、あの二人が揃うと賑やかになるから楽しくなる」

 

どこか憎めめないってのはこういうことなのだろうか。苦笑を浮かべそう思った俺は言い続ける。

 

「俺といると、ああいったお偉いさんと接触するから気をしっかり持てよ」

 

「わ、分かりましたわ・・・・・」

 

コクリと首を縦に振って同意するレイヴェル・フェニックスと歩いていれば、

彼女の専用の部屋に辿り着いた。一応、私生活に使う用品は全て用意してある。

それでも何か足りない物や、不満があればすぐに対応する。

彼女にそう伝えて中に入らせれば俺は廊下で待機している。

部屋の中を見渡し、鞄を置くと俺のところに戻ってきた。部屋の案内をするからだ。

 

「そんじゃ、家の中を案内するぞ」

 

「はい、お願いしますわ」

 

彼女を数十分の時間を掛けて家の中を案内した。

 

「ああ、そうだ。この家に住むからには一つだけ絶対にしないといけないことがある」

 

「それは?」

 

俺は笑みを浮かべた。

 

「鍛練、修行、トレーニング、己を強くすることだ」

 

ガシッ!

 

「へ?」

 

「言っておくけど、楽しい学校生活だけで終わると思ったらダメだぞ?敵が大勢いるんだし、

抵抗するためにも強くならないとダメだ」

 

ヒョイとレイヴェル・フェニックスを横に抱きかかえてトレーニングルームへと赴く。

 

「あ、あの、イッセーさま!?」

 

「レイヴェルはライザーと同じ不死の能力を持っているし、精神面的に鍛えないとなぁー♪」

 

「何故にそんなに楽しそうに言うのです!?それに、私を一体何をさせようと―――!」

 

「・・・・・そんなこと、俺の口から言わせないでくれよ」

 

「そんな乙女みたいなことを仰らないでくださいまし!

反って何させられるのか怖いですわよ!?」

 

おや、ギャグで言ったつもりなんだがな・・・・・。しょうがない。

 

「大丈夫だ。ただライブの映像を見てもらうだけだ」

 

「映像・・・・・ですか」

 

「ライザーにもやったことだ。レイヴェルもしてもらう」

 

そう、あの、曹操たちが体験したアレをな―――?

 

―――○●○―――

 

―――川神学園―――

 

トンテンカンッ。トンテンカンッ。

 

小気味の良い音が教室から鳴り響く。

 

「おーい、釘が足りなくなった!誰か、持ってきてくれぇー!」

 

「へい、親方!」

 

「おう、悪いなって誰が親方だ!」

 

「あぶなっ!ハンマーを振るうなよ!?」

 

「光になーれーっ!」

 

「そのネタは・・・・・っ!?」

 

まあ、うん、何時もより賑やかだな。学園祭に向けて俺たちは作業をしている。

魔法でしないのか?したら面白くないだろう?教室の半分を作業空間、

もう半分の空間は女子たちが衣装作りに励んでいる。

 

「いやー、物凄く楽しみだなー」

 

「一瞬で釘を打ち終えるほど楽しみなんですか?」

 

「俺、祭りとかそういうのは、修行に夢中で行ったことがないんだよ」

 

「あー・・・・・なるほど」

 

和樹が苦笑を浮かべる。

 

「そういうことなら一誠にとって思い出になるだろうね」

 

「そうだな。だから楽しみなんだよ」

 

嬉々と笑みを浮かべ学園祭が待ち遠しい。きっと賑やかで楽しいだろうな。

 

「一誠くん、一誠くん」

 

「ん?」

 

「衣装できたんだけど、試着してくれないかな?」

 

清楚の手に執事服。言わずとも分かるが、俺たちの催しは喫茶店だ。

メイド&執事喫茶店と普通の。

 

「分かった。んじゃ、男子更衣室で着替えてくる」

 

「うん、じゃあ私も一緒に着替えるね」

 

ん?一緒に着替える?・・・・・彼女の手には執事服とは別の衣服を持っていた。

彼女も試着できる準備をしていたのか。肯定と頷き、清楚と一緒に男女の更衣室へと赴く。

 

「そうだ、一誠くん。桜ちゃんからメール届いてたよ」

 

「なんだって?」

 

「『学園祭、遊びに行きます』だって」

 

おー、そうか。それは楽しみだな。

 

「三人で回ろうね」

 

「ああ、勿論だ」

 

お互い笑みを浮かべ廊下を歩く。各教室を通るたびに聞こえる釘を打つ音、板を鋸で削り切る音。

学園祭の準備が順調に進んでいるという証拠だ。

 

「まあ、桜が来る前に清楚と回りたいけどな」

 

「―――」

 

清楚が驚いた表情になる。丸くしていた目が嬉しそうに細めて、「うん」と清楚が頷いた。

 

「私も一誠くんと二人で回りたい」

 

どちらからでもなく手を恋人繋ぎにして更衣室へと進む。

そして、更衣室に辿り着きそれぞれの更衣室に扉を開けた。

 

ガチャ。

 

「やぁ、一誠、久し振り―――」

 

バタン。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・一誠くん?」

 

なんか、いたな・・・・・。ここにいるはずもない人物が、爽やかな笑顔で。

気のせい・・・・・だよな?もう一度、更衣室の扉を開けた。

 

ガチャ。

 

「一誠、いきなり閉めるとはどうしたんだ?」

 

「・・・・・」

 

いたよ・・・・・。どうしてここにいるんだよ・・・・・。

 

「あ、あなたは・・・・・」

 

清楚も男子更衣室にいる存在に驚きを隠せなかった。―――ヴァーリ・ルシファーがいたからだ!

開けっ放しで挙動不審でいれば怪しまれるから男子更衣室に入る。

 

「って、どうして清楚まで入ってくる?」

 

「え、あ、ごめんなさい。気になって・・・・・」

 

「・・・・・人避けの魔方陣でも施すか」

 

男子更衣室の扉に魔方陣を展開させて、この更衣室に寄せ付けないようにする。

 

「ご、ごめんなさい。どうしてもヴァーリさまがお伝えしたいと聞かなくて」

 

「にゃー、久し振りにゃん♪」

 

ルフェイ・ペンドラゴンに黒歌。男子更衣室に堂々といるなんて・・・・・。

 

「で、どうしてここにいたんだよ?というか、どうして俺がここに来ることを知った」

 

「ふっ、愛の力とは先のことを分かるものだよ?」

 

「・・・・・(今ちょっとお前に恐怖を抱いた事はないよ)」

 

愛の力については同感だが、ここまでピンポイントで俺と会うんだからな。

 

「学園祭、私も遊びに来るから」

 

「・・・・・え?それだけ?」

 

「いや、これは別件だ。イリナと三人で回ろう。約束だよ?」

 

まあ・・・・・確かに構わないけどさ。

でも、わざわざ隠れるように俺に伝えることでもあるのか?

 

「さて、色々と話したいことが山々だが一誠も忙しい身だ。本題に入るよ」

 

と、ヴァーリの顔が真面目になった。

 

「私は『禍の団(カオス・ブリゲード)』から抜けざるを得なくなった」

 

「・・・・・どうしてだ?」

 

「『禍の団(カオス・ブリゲード)』に別の力が入ってきたからだ」

 

別の力・・・・・ヴァーリが警戒するほどの力が新たに加わったということか。

 

「・・・・・とても信じられないが、一誠に伝えるべきかどうか悩んだほどだ」

 

「なんか、遭ったのか?」

 

「・・・・・遭った。いや、再会したと言った方が良いのか・・・・・」

 

「・・・・・」

 

再会・・・・・?誰とだ・・・・・?

 

「私と一誠に深い関わりがある存在が『禍の団(カオス・ブリゲード)』に加わった」

 

「なに・・・・・?」

 

「でも、私は信じられない。あの人たちは・・・・・。

いや、アレは本当にあの人たちなのか・・・・・?」

 

信じられないと苦悩するヴァーリ。本当に悩んでいる様子で中々言ってくれない。

助け舟如く、ルフェイ・ペンドラゴンが口を開いた。

 

「私は初めてお会いする方々ですが・・・・・ヴァーリさまが仰りたいのは・・・・・」

 

彼女の口から聞いた言葉。それは―――。

 

「一誠さまのお父さまとお母さまが『禍の団(カオス・ブリゲード)』に加わったのです」

 

―――○●○―――

 

―――清楚side―――

 

放課後、私たちは使われていない空き教室で集まってヴァーリちゃんから聞いた話のことで

グレモリー眷属やシトリー眷属、バアル眷属、アガレス眷属、

アザゼル先生やロスヴァイセ先生、セルベリア先生と会談をしている。

 

「あの二人が・・・・・『禍の団(カオス・ブリゲード)』・・・・・だと・・・・・っ!?」

 

一誠くんから聞かされた話にアザゼル先生が絶句した面持ちで一誠くんを見詰めた。

 

「バカな!あいつ等は、あいつ等は死んでいるはずなんだぞ!?そんな話があるかよ!」

 

「・・・・・俺だって、そう思っている。

だけど、ヴァーリが嘘を吐く訳がないんだ。吐く理由さえもない」

 

「・・・・・っ、どうなっていやがる・・・・・!

どうして、どうして今頃になってあいつ等の存在がここで湧くんだよ!?」

 

あのアザゼルさんが取り乱している。アザゼル先生を知るこの場にいる全員が

信じられないモノを見る目で見つめている。

 

「あの・・・・・アザゼル先生。兵藤の親が甦ったのってそんなに大変なんですか?」

 

成神くんが挙手してそう問うと、アザゼル先生が言った。

 

「兵藤家がテロリストに加担なんて誰が考える?こいつは四大勢力が結んだ同盟に罅を入れるには

十分過ぎる要素だぞ。しかも、そいつらが本物で本人だったら尚更だ。ましてや・・・・・」

 

一誠くんに視線を向ける。

 

「こいつを生んだ人間だぞ。その上、あいつらは他の神話体系と交流をしてそのトップたちとは

ダチの関係だ。いざ、甦った奴らと対面してみろ。

そいつが敵だと知らずに接しられてたら―――油断した相手の腹を容易くさせる」

 

『―――――っ!?』

 

「これはテロリストのあいつらより性質が悪過ぎる。かなりだ。

ヴァーリが抜けざるを得ない理由ももっともだ」

 

「・・・・・ヴァーリたちはどうなるんですか?」

 

「秘密裏にルシファーのところに匿われる。あいつもルシファーの血族だからな。

そうそう扱いを無化にはできんさ」

 

そうなんだ。でも・・・・・これからどうなるんだろう・・・・・?

 

「お前ら、仮に一誠の両親と出会ったら―――逃げろ」

 

「はっ、逃げろって何故ですか?」

 

「お前らは知らないだろうが、あいつ等の実力はあいつらと戦った奴しか知らない。

あの二人は、元人王だった人間だからな」

 

元・・・・・人王って・・・・・それじゃ、

 

「奴らは間違いなく強い。俺や五大魔王、神と神王を同時に相手にして生き残ったほどだ」

 

「マ、マジッすかッ!?」

 

「あれでようやく互角。それが個人で戦えば、必ず負けるに違いない。片や体術で片や魔法使い。

絶妙なコンビネーションで戦闘をする」

 

聞いただけでも想像がつかない。どれだけ強いの過去の目で見ない限り判断がつかないよ。

ロスヴァイセ先生が口を開いた。

 

「では、急いでオーディンさまに連絡をしなければ」

 

「というか、他の神話体系の神々たちに連絡をしなければ隙を突かれて倒される。

・・・・・話して信じてもらえるかどうか怪しいもんだが・・・・・・」

 

アザゼル先生は苦虫を噛み潰したかのような表情になる。

 

「・・・・・」

 

一誠くん、ずっと沈黙している。隣にいるリーラさんも静かになっている・・・・・。

 

「・・・・・式森家と兵藤家は私たちがお伝えします」

 

「ああ、頼んだ。くそ・・・・・あいつらが甦っただと?神滅具(ロンギヌス)の能力でか?

それとも別の力でか・・・・・?

それ以前にどうしてテロリストになるんだよ・・・・・お前ら・・・・・・」

 

哀愁漂わせる。まるで友人が死んだような感じだった。一誠くんや私たちの戦いが

さらに過激化になることを感じられずにはいられなかった・・・・・。

 

―――○●○―――

 

―――一誠side―――

 

その日の夜、俺は静かに部屋を照らす満月を見上げて見ていた。

 

「・・・・・父さん、母さん・・・・・」

 

未だに信じられない。でも、ヴァーリの話しも嘘偽りがない。

あいつは一度も俺に嘘を吐いたことがない。

 

「・・・・・」

 

もしも、俺の目の前に現れたら・・・・・敵として戦わなければならないのか・・・・・。

 

「相手が誰であれ、俺の家族を傷つけるものは許さない・・・・・」

 

そう誓っていたはずだ俺は。何を躊躇っている?

龍牙だって俺の為に自分の家族に刃を振るったんだぞ・・・・・。

 

「・・・・・っ」

 

クソ・・・・・ダメだ・・・・・っ。考えれば考えるほど、決意が鈍るよ・・・・・!

どうして、どうして甦ったんだ。

俺があの三人を殺してから甦らそうと思っていたのに・・・・・っ!

 

「―――一誠さま」

 

「っ!?」

 

背後から呼び掛けられた。振り返れば―――。

 

「この私がここまで近づけられるなんて・・・・・よほど、ショックを受けておるのですね」

 

「リーラ・・・・・」

 

メイド服を身に包む俺の愛しい存在。跪いて俺を抱きしめてくれる。

 

「一誠さま、誠さまと一香さまは敵の手によって甦った可能性があります」

 

「・・・・・」

 

「あのお二方は偽物です。本物ならば、いち早く一誠さまの前に現れて抱きしめてくれるはず」

 

「それがあのお二方なのですから」とリーラが告げる。

 

「我が子を手に掛ける親など、それは愛情を子に注いでいない親がすることです」

 

「でも・・・・・俺・・・・・」

 

「それでも、目の前の敵を倒せれないというのであれば、このリーラ。

あなたの代わりに倒してみましょう」

 

「―――っ!?」

 

リーラ・・・・・お前・・・・・・何を言って・・・・・!

 

「一誠さまに救われたこの命、一誠さまに捧げるお気持ちは今でも変わりません。

ですから、もしも一誠さまが戦えない場合は、私が―――」

 

「ダメだ!」

 

彼女の話を叫んで遮って俺は言った。

 

「リーラ、お前は俺の大切な家族なんだ。

何時も俺を支えてくれたリーラが俺の目の前で死んだら、俺は・・・・・俺は・・・・!」

 

涙を流して、堪え切れない想いで一杯になる。彼女が戦って死ぬぐらいなら、俺が変わって―――!

 

「だから・・・・・生きてくれよ・・・・・リーラ・・・・・ッ!」

 

「一誠さま・・・・・」

 

「俺・・・・・戦うからさ・・・・・相手が誰であれ、俺は絶対に守るから・・・・・」

 

だから―――そんなことを言わないでくれ・・・・・・!

 

―――ガイアside―――

 

「・・・・・」

 

一誠の部屋の扉に佇んでいる我は息を吐く。

 

「イッセー・・・・・」

 

隣にはオーフィスがいる。一誠の様子がおかしいと気付いているが、

まさかそんなことが起きていたとはな。

 

「オーフィス、お前は誠と一香を倒せれるか?」

 

「・・・・・我、負けない。でも、あの二人に攻撃したくない」

 

だろうな。こいつの気持ちは我も分かっているつもりだ。

 

「ならば、お前は一誠を守れ。それぐらいならできるだろう」

 

「ガイアは?」

 

「―――無論、倒すつもりだ」

 

一誠がなんと言おうが、我はあの二人を倒す。死人が敵になるのならば、我は容赦はしない。

愛しい男の敵となるならば尚更だ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode3

 

 

「ふむ・・・・・あの者たちが甦っていたとは・・・・・」

 

妾は九尾の狐、羽衣狐。イッセーの内からテレビのように見ていたので、

 

「奴らは強い。もしも敵として現れるなら私たちが倒さなければなるまい」

 

『クロウ、お前がそこまで言うほど主の親は強いのか?』

 

「ああ、強い。昔は修業をしていた時だったが、今は負けるつもりはない」

 

『くくく、ならば、俺も相手をしてやろう。どれだけ強いか俺も体で感じようではないか。

アポプス、お前はどうだ?』

 

『・・・・・』

 

『興味なさそうですね』

 

「私もあいつの敵ならすべて吹き飛ばしてやる」

 

妾だけじゃなく、イッセーの内にいるドラゴンどもが話し合う。

ここに真龍と龍神が来れば九匹を宿す異例の人間となる。いや、今でも異例中の異例であるか。

 

『しかし・・・・・前から気になっていたが、あれは本当に何なのだ?』

 

アジ・ダハーカが首を徐にとある方へ向ける。他のドラゴンたちも同様にそちらに目線を向ける。

そこには厳重に鎖で縛られた扉のようなものが佇んでいる。

 

『我とゾラードが初めて主の中に宿った時からずっと存在していた。

触れようにも拒まれてしまい、触れることすら叶わない』

 

『・・・・・それを聞くと封印の類だろうな。

何を封印しているのか、開けてみないと分からないがな』

 

「開けてみるのか?」

 

『拒まれるのだろう?なら、する気はない』

 

興味が失せたかのように顔を逸らした。

 

『だが、こうも邪龍の筆頭格の俺たちが揃うとあいつを思い出すな』

 

「あいつか・・・・・確かにな」

 

『・・・・・』

 

誰のことを言っておるのだ?この邪龍は、

妾の気持ちを代弁するかのようにドラゴンが問いだした。

 

「おい、誰のことを言っている?邪龍の筆頭格のお前たちが懐かしむってどんな奴だよ?」

 

『俺たちの他にも邪龍がいるのは誰でも知っている常識だ。

グレンデル、ラードゥン、八岐大蛇、他にもな』

 

「そんな邪龍の中で昔、私たちに物好きな龍が現れた」

 

『物好きな龍?』

 

邪龍に自ら接した物珍しい龍のことだろうのぉ・・・・・。

 

『しばらく暇つぶし程度に相手になってやった。

何度も負かしているのに邪龍特有にしつこかった。

その上、驚異的なスピードで強くなりやがる』

 

「へぇ、そんな龍がいるなんて知らなかったぞ」

 

「当然だ。私たちでさえも知らない龍だったからな」

 

『それで、その後はどうしたのですか?』

 

三匹の邪龍が「知らん」と同時に答えた。

 

『俺は封印されたからな。クロウ、お前はどうだ。

いままで人間界と冥界を見聞していたお前なら分かるではないか?』

 

「悪いが私も分からない。あいつは私の前に姿を現さなくなったからな。

どこかの誰かにでも退治されたんだろうと思っているが・・・・・」

 

『とても退治されているとは思えないがな』

 

それでも妾たちが知らない龍。一体どんな名前の龍なのだ?

 

『その龍の名は?』

 

『名前は・・・・・「魔煌の絶禍龍(カオス・ブレイカー・ドラゴン)」ネメシスだったな』

 

もしや・・・・・その龍は邪龍であるのか?

 

 

―――○●○―――

 

 

学園祭の準備は数日間掛けて完了した。

 

「皆、お疲れさま!今日は帰って良いよ!」

 

『お疲れでしたー!』

 

清楚の人声にクラスメートたちが返事をして各々と教室から出ていく。

学園祭は土日続けて開催する。

今日は金曜だから明日が本番だ。

 

「うーん、ようやく完成したね」

 

「随分と凝りましたからね。それとスケジュールも出来上がりました」

 

「喫茶店に出すメニューも決まったわ!」

 

皆、満足感を窺わせて嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 

「・・・・・」

 

ただ、俺はヴァーリの話しを聞いてからあんまり笑えなくなった。

 

「一誠くん、どうしたの?」

 

だから、皆がこうして気を使ってくれる。

 

「ごめん、なんでもない」

 

「・・・・・そう」

 

切なそうな表情になる清楚。本当に申し訳ないけど、どうしようもないんだ・・・・・。

 

「先に帰ってくれ、ちょっと用事があるから」

 

「あ・・・・・」

 

俺はこの場から逃げるように鞄を持って教室を後にした。用事なんて嘘だ。

皆だってそれを気付いている。ただ、俺は突き付けられた現実から逃げているだけなんだ。

学校から去って、川神大橋の下に流れている多馬川の川沿いに腰を下ろして黄昏る。

 

「・・・・・父さん、母さん・・・・・」

 

膝を抱えて頭を垂らす。何時までも女々しくて引き摺っていると、皆が心配するだろう。

俺がしっかりしないとダメなんだ。

 

「ああ、まったくそうだぜ」

 

「っ!?」

 

ドゴンッ!

 

振り向く前に誰かに蹴られた。宙で体勢を整えて真っ直ぐ前方を見た。

 

「たくっ、何時までも親離れできないんじゃ、王なんて成れるわけねぇだろうがよ」

 

「お前・・・・・照」

 

「ちっ、なんなんだよ、今のお前はよ」

 

兵藤照。久々に会ったな。あいつの傍に兵藤家メンバーがいる。

 

「何時ものお前はどこにいった。ああ?今のお前は昔のガキの頃のようだぜ」

 

「・・・・・」

 

「ちょっと、照。一誠さまは・・・・・」

 

「だったらなんだ。こいつはいずれ俺たちを束ねる王だぞ。

あんなメソメソした王の下にいたくもねぇ」

 

ははは・・・・・メソメソ・・・・・か。その通りだな。兵藤照がズンズンと俺に寄ってくる。

 

「おら、俺と久々に勝負してもらおうか。あんなクソゲームと学園祭の準備で

お前とタイマンができなかったせいで体がウズウズしてどうしようもないんだ」

 

「はぁ・・・・・そんなんだからあなたはテストがあまり良くないんですよ」

 

「私たちに頼ってばかりですしね。特に名無にね」

 

「う、うっせぇ!今はそんなこと関係ないだろうが!」

 

なんだ、こいつ。頭がそれほどいいわけじゃないのか。

 

「まあ、そう言うことだ。どうか照の相手をしてやってくれないか?」

 

「このままじゃ、無関係なチンピラに食って掛かって病院送りをしそうですからね」

 

「おい、お前ら。俺を何だと思っているんだ」

 

『暴れん坊』

 

「・・・・・」

 

兵藤家メンバーが揃って言い、兵藤名無がコクコクと首を縦に振った。俺も同意だな。

 

「まあ・・・・・確かにお前は俺によく食って掛かるからな。

・・・・・まさか、お前、俺のこと好きなのか?」

 

「はっ!?いきなり何ふざけていやがる!?」

 

愕然と反応するあいつに他の奴らも反応した。

 

「あまり・・・・・人の趣味にとやかく言わないのですが照、流石にそれは・・・・・・」

 

「ついに、ソッチまで・・・・・」

 

「僕の貞操・・・・・奪わないよね?」

 

「ちょっと待って、名無はよく照の言うことを聞いているから・・・・・」

 

「え、まさか・・・・・」

 

一気に顔を青ざめる兵藤家メンバー。恐る恐ると兵藤名無に視線を向けると―――。

 

「・・・・・」

 

若干、頬を朱に染めていた兵藤名無がいた。―――次の瞬間。

 

「い、一誠さまを照から守らないと!」

 

「流石にそれはヤバいって!」

 

「あいつ、次期人王にそんな目で見ていただなんて・・・・・!?」

 

兵藤家メンバーが俺から照を守るように囲んでくれた。

兵藤麗蘭と兵藤千夏に横から抱きつかれた形で。

そんな仲間たちの反応にあいつは信じられないと目が飛び出しそうな勢いの反応をする。

 

「ちょっと待てやぁっ!?俺は男とするか!名無も顔を赤くするんじゃねぇ!

誤解されちまうだろうが!」

 

魂の叫びだと思わすほど、兵藤照が叫んだ。そんなあいつと皆に思わず笑った俺だった。

すると、俺を囲む皆も俺に釣られて笑いだした。

 

「おー、なんだか面白そうなことをしているな」

 

と、聞き覚えのある声が聞こえた。振り向けば川沿いの上に川神百代がいた。

 

「百代、一人なのか?」

 

「何時も皆と帰るわけじゃないさ」

 

こっちに来る度に草を踏み続け、百代は口を開いた。

 

「最近、元気がないからどうしたんだと思っていたが、どうやら大丈夫そうだな」

 

「ああ・・・・・皆のおかげでな」

 

「そっか・・・・・なら」

 

百代が闘気を纏いだした。

 

「一発、私と勝負してもらおうか!」

 

「待て待て!こいつと戦うのは俺が最初だ!」

 

兵藤照も全身に闘気を纏いだした。なんだか、勝負しないと帰れない雰囲気だな。

俺も全身に闘気を纏う。

 

「だったら、二人纏めてかかってこい」

 

「「・・・・・」」

 

何時の間にか皆が離れていた。なので、兵藤照と百代と対峙できた。

 

「へぇ、いいのか?容赦しないぜ?」

 

「まあ、私もこいつと戦ってみたかったことだし。ここはバトルロワイヤルといこうじゃないか」

 

「勝つのは俺だけどな」

 

不敵の笑みを浮かべる。対して二人は―――。

 

「「いや、勝つのは俺(私)だ!」」

 

そう言って俺に飛び掛かってきた。俺も二人に向かって飛び出す。

 

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」」」

 

―――???―――

 

「うひゃひゃひゃっ!ハーデスじいさん、おっひさぁー♪」

 

《貴様・・・・・何をしに来た・・・・・》

 

「んーとね?ちょっと借りたいもんがあって借りに来たんだよねー?」

 

《・・・・・ルシファーの差し金か?》

 

「のんのん!姉ちゃんとは関係ないっす!ただ、僕ちゃんの独断の行動だよん」

 

《・・・・・クーデターでも起こす気か?》

 

「いやいや、クーデターなんて俺っちには興味ない。ただ、どーしても欲しい力があってさ。

そのためにここ、冥界の最下層の冥府に封印されているアレ(・・)を借りたいんだよねー?

ね、いいでしょ?」

 

《・・・・・蝙蝠風情の貴様に貸すと思うか?》

 

「いいんや、思ってないぜ?だ・か・ら、この人たちで借りちゃうってわけよ!」

 

「「・・・・・」」

 

《・・・・・そやつらは・・・・・!?》

 

「うひゃひゃ!懐かしいでしょー?ま、感動の再会と―――ちょっくら、戦って貰っちゃいます!」

 

《・・・・・ッ!》

 

「おーおー、マジギレしちゃっているの?まあ、当然だよねー?」

 

《貴様だけは他の蝙蝠どもより鬱陶しい存在だ・・・・・!》

 

「んー、そんなこと言ってもいいのかなー?

ほら、ハーデスじいさんの部下たちがあっという間に倒されちゃっているよ?」

 

《―――ッ!?》

 

「うひゃひゃひゃっ!さっすが坊ちゃんの親だよねー!

そんじょそこらの英雄の小僧たちより断然強いでござんす!

いま、この場にいるのはアンタしかいないぜ?」

 

《貴様・・・・・ッ!》

 

「んじゃ、じいさんを倒してちょうだいな♪」

 

《リゼヴィム・リヴァン・ルシファァァァァァァァァァァァッ!!!!!》

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode4

 

『いらっしゃいませー!』

 

学園祭当日。川神学園は大いに賑わっている。友達、両親、一般人、

学校外の生徒たちが川神学園にやって来て俺たち生徒の催しを楽しんでもらっている。

 

「一誠くん、焼きそば三つとたこ焼き三つお願い」

 

「了解」

 

「葛餅パフェの注文入りましたー!」

 

フロアから次々と注文が殺到する。

調理係の俺を含め、料理ができるクラスメートたちと料理を作り続けてメイドや執事役の

クラスメートたちに受け渡す。すでにこの作業は一時間も繰り返している。

 

「メイド萌えぇぇぇぇぇぇっ!」

 

「あの執事の人、カッコいいわね」

 

「確か・・・次期人王決定戦を優勝した子じゃなかったっけ?」

 

と、来客する人々はクラスメートの容姿に参っている。とにかく、繁盛しているのは間違いない。

全校クラスと対抗して一番儲かったクラスは、その利益を自分たちのものにしても

良いルールを川神鉄心が学園祭を開催する直前に伝えてきた。だから―――

 

「一誠くん、Sメニューが入ったよ」

 

Sメニュー。そのメニューを頼んだ客は執事の店員の一人と写真撮影ができる。

ちゃんと撮影する場所も設けており、そこに俺は厨房から離れて赴く―――。

 

「フハハハハ!久し振りであるな、一誠よ!」

 

「あ、揚羽・・・・・?」

 

随分と意外な人物であった。しかし、彼女だけじゃない。

両親と思しき中年の男女と執事服を纏った男性がいた。

そして、九鬼揚羽は俺の全身を見据えながら言う。

 

「ほう・・・・・随分と執事服が似合っているではないか。

・・・・・なんなら、このまま執事として我の専属の従者となってもよいぞ?」

 

「いやいや、俺は次期人王だからな?アルバイト程度なら・・・・・多分、いいかも」

 

「うむ、では採用だ!」

 

「はやっ!」

 

九鬼家の面接はあっさりしているな。それでいいのか、それで。

 

「こいつが揚羽のお気に入りの男か。中々良い面構えをしているじゃねぇか」

 

「次期人王殿。これからも我が娘と仲良くしてほしい」

 

唐突に九鬼揚羽の両親と思しき中年の男女からそう言われた。肯定と返事をすれば仕事に入る。

二つの席があって、客の要望に応えて撮影をする。

 

「どんな風に撮影を求めますか?」

 

「そうであるな・・・・・では、天使の姿になって我の背後から包むように抱きしめてくれ」

 

「分かりました」

 

青白い『熾天使変化(セラフ・プロモーション)』と化となって九鬼揚羽の要望に応えた。

彼女の背後から両腕で腹を抱きかかえるように回し、翼も全身を包む感じで覆う。

 

「こんな感じで?」

 

「うむ、これでよい」

 

九鬼揚羽の身長より俺の方が背が高く、超ロングストレートの銀髪から発する香りが

俺の鼻の中に通る。

 

「・・・・・良い香りだな。揚羽の髪」

 

「そうか?特別なシャンプーを使っているわけではないがな」

 

「じゃあ、元々揚羽の髪は良かったんだな」

 

「ふっ、そう言うお前から感じる温もりはとても心地好いぞ」

 

小さく笑う九鬼揚羽。それから少しして、俺と彼女の撮影は無事に終わった。

 

「写真が出来上がり次第、家に直接送りますので郵便番号と住所、名前を記入してください」

 

「分かった。楽しみにしておるぞ」

 

そう言い残し、自分の家族がいる席へと戻った。さて・・・・・厨房に・・・・・。

 

「イッセー、私たちとも写真を取りましょう!」

 

何時の間にか、リアス・グレモリーたちがいた。

これは・・・・・しばらく厨房に戻れそうにもないな。

 

―――数時間後―――

 

昼間近となり同時に俺は、休息の時間なので約束通りに清楚と学園祭を見て回った。

桜が川神学園にやってくる時間はもう少し後だ。

なので、見て回るなら三人が良いと清楚の願いに応え、校門で待っていると―――。

 

「清楚ちゃん!一誠くん!」

 

しばらくして、俺と清楚が待ち望んでいた人物が駆け走りながら現れた。八重桜だ。

 

「「久し振り」」

 

「はい、お久しぶりです♪」

 

少しだけ息を乱しても笑顔で挨拶をしてくれた。

 

「元気そうでなによりだ。それに川神市まで結構遠かっただろう?」

 

「うん、そうだね。でも、清楚ちゃんや一誠くんと会いたかったから来ちゃいました」

 

「ありがとう、桜ちゃん。それじゃ、一緒に見て回ろう?」

 

「はい!」

 

桜と合流を果たし、校内へ案内する。その間、清楚と桜に手を掴まれたまま

一年生のプリムラたちの教室に入ったり、二年生の小雪たちやネリネたちの教室にも立ち寄り、

三年生の百代たちの教室にも顔を出した。そして生徒たち皆、楽しそうに学園祭を満喫していた。

 

「うわー、凄いね。他の学校の学園祭は」

 

「駒王と川神の合同の学園祭だから、いつもの学園祭の二倍だってさ」

 

「そうなんだ?」

 

不思議そうに首を傾げられても俺も初めてだからな?

実際、駒王の学園祭を知らないから判断がし辛い。

 

「―――あら、可愛い子を連れてデート?」

 

「・・・・・?」

 

話しかけられた?と、思って後に振り向く。―――へ?どうしているんだ?

 

「やっほー、イッセーくん。お久しぶり♪」

 

「変わりないようだな」

 

「ふふ、それでいいじゃない」

 

―――現五大魔王の内の四人。ルシファー、ベルゼブブ、アスモデウス、レヴィアタン!?

 

「・・・・・どうしてここに?」

 

「決まっているじゃない。私たちも学園祭を楽しみに来たのよ」

 

「同時に現生徒の悪魔たちの様子も見に来ている」

 

「毎年、私たちはこうやっているんだよ?知らなかったっけ?」

 

「レヴィアタン、イッセーくんは今年初めて駒王に編入したのよ?知らないわ」

 

うん、その通りだ。そして、驚いた。魔王が全員、学校に訪れるなんて思いもしなかった。

 

「―――ヴァーリから話を聞いたわ。イッセーくん、辛いだろうけど・・・・・」

 

「・・・・・ああ、分かっている。例え、本当に父さんと母さんだとしても俺は皆を守る」

 

ルシファーからそう言われ、俺がそう言うと、彼女に頭を撫でられた。

 

「いい子ね。偉いわ。そして、ごめんなさい」

 

それだけ言い、彼女と彼女たちは俺たちから遠ざかる。

 

「一誠くん・・・・・何の話?」

 

「ゴメン、桜。いつか必ず教える。だから今は言えない」

 

「・・・・・うん、分かった」

 

彼女は純粋だ。疑わず、俺のことを信用してくれる。

だから、そんな彼女のような家族を、仲間を守りたい。

 

「―――っと、もうこんな時間か・・・。悪い、桜。仕事に戻らないといけなくなった」

 

「じゃあ、私も一誠くんたちのクラスに寄るね?」

 

「私たちの調理係の一誠くんの料理は美味しいよ」

 

「そうなんだ。じゃあ、一誠くんの手作り料理を所望しちゃおっと」

 

どうやら彼女も俺たちのクラスに寄るらしい。まあ、大歓迎だけどな。

駒王学園、二年S組の教室に戻って休憩するクラスメートと交代し、

いざ料理を作り始めた俺だった。

 

―――???―――

 

「さぁーて、事を起こす前に俺も楽しんじゃいましょう!なぁー、坊ちゃん?」

 

―――○●○―――

 

学園祭が開催して半日。一日目の学園祭は小一時間で終了だ。

客も疎らとなり、空いているテーブルが多い。

 

「一誠、遊びに来たぞ」

 

狙ってきたのか、ヴァーリチームが現れた。彼女たちが席に座ってメニュー表を見るや否や、

 

「一誠、このSメニューを頼む」

 

「うん、お前なら絶対に選ぶと思った」

 

ヴァーリの要望に応えて、ツーショットで撮った。

それから彼女たちの注文通りに料理を作って清楚に渡して運んでもらう。

 

「ふぅー、やっと落ち着けれますね」

 

「ああ、一杯作ったよ」

 

「うん、私も一杯運んだぞ」

 

「ゼノヴィア、疲れを一切見せないわね・・・・・」

 

それは修行の賜物だと俺は思うぞイリナ。一般人の客もいなくなりクラスメートを除いて、

この場にいるのは『禍の団(カオス・ブリゲード)』と関わりがあるメンバーしかいない。

だから、少しの間のんびりと過ごせれる。そう思った矢先に新たな客が入ってきた。

 

「ん?おお、ここにいたんだ坊ちゃん」

 

「―――――っ!?」

 

「うひゃひゃひゃひゃっ!久し振りだねー坊ちゃん、実に十年振りじゃん?」

 

来客してきたのは銀髪の中年男性だ。見覚えがある。確か、このヒトは―――。

 

ガタンッ!

 

「・・・・・」

 

ヴァーリが勢い良く立ち上がった。

その表情は―――俺が初めて見る怒りと憎悪が籠っていた顔だった。

 

「・・・・・ん?―――なんだ、孫もいるじゃん。

久し振りだなぁー、元気にしているようでなによりだぜ?」

 

「貴様・・・・・っ!」

 

―――ヤバい、ヴァーリの奴・・・怒りで満ちている!瞬時でヴァーリの背後に回って

幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』を装着して羽交い締めする。

 

「ヴァーリ!落ち着け!」

 

「放してくれ、一誠・・・・・っ!のうのうと私の目の前に現れた奴がいるんだ・・・・・!」

 

「お前の気持ちは分かる。だが・・・・・ここは学校だ。一般人だっている」

 

「そうそう、俺は学園祭を満喫しに来ているんだぜェー?こんな場所で魔力を使ったら、

あらなんと大惨事!孫のせいで坊ちゃんの学校生活が全て台無しになるけど、いいのかなぁー?」

 

「・・・・・っ」

 

羽交い締めしている体から力が抜けていくのが分かり、腕を解いた。

それでも、あのヒトに向ける敵意と殺意は未だに収まらない。

 

「い、一誠・・・・・ヴァーリとあのヒトの関係は・・・・・」

 

「俺も随分と久し振りだけど、あのヒトだけはよく覚えている」

 

「うん・・・・・久し振りだわ。あのヒト・・・・・」

 

イリナも険しい顔で席に座った銀髪の中年男性に向ける。

あのヒトのことは俺とイリナ、ヴァーリ。そしてリーラしか知らない。

 

「ねぇー坊ちゃん。ここのオススメはなんだ?

俺、色んなところに回って腹減っているんだよねー」

 

「アッサリ系とガッツリ系、どっちがいいですか?」

 

「もっちろん、ガッツリ系だ、ぜい!」

 

「分かりました。すぐに作りますから待っていてください」

 

「ついでに、酒、ある?」

 

そうお茶目に訊くあのヒトに苦笑を浮かべ、「無い」と返事をして料理を作る。

そんな俺に和樹が声を殺して話しかけてきた。

 

「・・・・・ヴァーリがあそこまで怒るのは初めて見たけど・・・・・どうしてなんだい?」

 

「・・・・・」

 

ヴァーリと銀髪の中年男性を見比べる。俺は皆に聞こえるように告げた。

 

「小さい頃、ヴァーリは親に虐待されていたんだ」

 

「え・・・?」

 

「しかも、その原因は目の前にいる男性なんだ。

―――リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。ヴァーリの祖父だ」

 

『なっ―――!?』

 

この場にいる全員が絶句して言葉を失っていた。

しかし、対してあのヒト、ヴァーリの祖父は口の端を吊り上げた。

 

「正確に言えば、俺は孫の才能に怯えまくっているバカ息子に『怖いならいじめろよ』って

的確なアドバイスをしてあげただけなんだぜ?ま、魔王の血筋で白龍皇なんてのが生まれたら、

あのビビりでバカ息子の豆腐メンタルじゃ耐えきれないだろうさ」

 

あのヒトはせせら笑う。

 

「ヴァーリきゅんはお父さんの仕打ちに耐えられずに家出しちゃったけどねん♪

そんなヴァーリきゅんはとある子供の家に訪れて助けてくれと懇願した」

 

「それが俺の家なんだ。その後、父さんと母さんがヴァーリを家に匿い、

保護して彼女の父親から親権剥奪をし、アザゼルに引き渡して今に至る―――わけだ」

 

「うひゃひゃひゃ、坊ちゃんの言う通りだ」

 

隠すまでもないとばかり肯定した。ヴァーリが問う。

 

「・・・・・あの男はどうした?」

 

「ん?あー、パパのその後が知りたい?うひゃひゃひゃひゃっ。俺が殺しちったよ!

だって、ビビりなんだもん。見てていらついちゃってさ。つい弾みで殺しちゃったんだ☆

あんれー、ショックだった?パパ殺されちゃって怒っちゃったー?」

 

ふざけた口調の祖父にヴァーリは簡素に言う。

 

「別に。私も消そうとしていただけだからな。―――ただ、私は嬉しいよ」

 

ヴァーリの全身のオーラが戦意をもって膨らんだ。

 

「私は貴様を一番殺したかったからな・・・・・ッ。

貴様は『明けの明星』と称されているルシファーを名乗っていい存在ではない・・・・・ッ!」

 

あっ、あのバカ・・・・・!魔力を出すなって!ヴァーリの祖父はそれを見てただただ嬉しそうに

笑うだけだった。

 

「・・・・・いいじゃん。チョーいい目つきだ。いい育て方してんよ、あのアザゼルちん。

なんということでしょう、あのメソメソ泣いていた孫がこんなにいい殺意を向ける

少女にビフォーアフターじゃんかよっ!」

 

「―――はい、お待ちどう」

 

急いで料理を作り終えて、目の前に湯気立つ数々の料理を置いた。

 

「んほほほっ!美味そうじゃん!坊ちゃんのママンの料理も美味しかったんだよねー?

しっかり料理の腕も受け継いでいるようでおじさん、感激!」

 

「・・・・・母さんと会ったことがあるのか?」

 

「まーねー?そんじゃ、いただきますっと♪」

 

意味深なことを言う。俺が小さい頃のことを言っているんだろうな。

このヒトは作った料理を堪能してしばらくした頃、本当に腹が減っていたようで完食した。

 

「ふぅー、食った食った。ごちそうさまでした!」

 

「全部食べてくれて作った甲斐があった」

 

「うひゃひゃひゃっ、坊ちゃんのママンと同じ味がしたぜい。

いやー、懐かしかった!所謂お袋の味って奴ぅ?まっ、美味しければ何だっていいけどね!」

 

小型の魔方陣を展開して札束を取り出した。それをそのままテーブルに置いて、

 

「お釣りはいらないぜ?―――また、明日も会おうぜ坊ちゃん。それとヴァーリきゅん♪」

 

足元に転移用魔方陣を展開して、光と共にあのヒトは姿を消した。

 

「・・・・・聞いていて、とんでもない悪魔だと分かりましたよ。僕、あのヒトのこと嫌いです」

 

「ああ・・・・・そうだろうさ。俺はあの人こそが本当の悪魔だと思っている」

 

龍牙の低い声音で吐く言葉は俺とヴァーリを除いて同じ気持ちだとばかり皆が頷いた。

 

―――devil―――

 

「お帰りなさい。どうでした?」

 

「美味しかったなー。坊ちゃんが作った料理」

 

「・・・・・あなたは何をしに行ったんですか?」

 

「うひゃひゃひゃ。なーに、決まっているじゃん?―――最期の挨拶と別れをさ」

 

「そうですか。では、明日・・・・・」

 

「おう!デッカイ花火でも打ち上げちゃおうぜ!ハーデスじじいから借りたアレも使ってさ!」

 

「その後はどうするのですか?アレは」

 

「んー、放っておくかな?これからすることに借りたままじゃ邪魔になりそうだしさ」

 

「では、使えるものは使い、利用するだけ利用してからそうしましょう」

 

「んほほほっ!そうそう!そうこなくっちゃ!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode5

 

ヴァーリの祖父、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーと再会して翌日。

学園祭最終日。今日も頑張って客と接し、料理を作り続けている。

 

「我も手伝う」

 

今回はメイド姿のオーフィスも参加していた。

普段、黒のゴスロリを着こなしているオーフィスだから、

メイド服を着ても何の違和感すら感じない。

 

「可愛いぞ、オーフィス」

 

「ん、そう?」

 

「ああ、そうだ」

 

黒い髪を撫でれば、目を細めて嬉しそうな顔をする。

―――俺の隣にダークカラーが強い銀髪が突き出された。

 

「・・・・・なんだ?その頭は」

 

「私も撫でてくれ」

 

―――その前に、どうしてお前までメイド服を着ているんでしょうか?

ヴァーリ・ルシファーさん?

 

「なんでいるんだ?」

 

「本で読んだんだ。男はメイド服が好きだと。実際に一誠も二人のメイドがいる。

だったら、私もメイドとなって一誠のお世話をしたら一誠も喜ぶのでは?と思ったんだ」

 

それ、間違っていないけど俺はメイド萌えではないからな?ここ重要だ。

 

「メイド服が好きかどうか置いといて・・・・・。ヴァーリ、とても似合っているぞ」

 

「・・・・・そうか、似合っているか」

 

嬉しそうに呟く俺の幼馴染はその場でクルリと回った。

そのメイド服を着たヴァーリの仕草に思わず胸が高鳴った。

 

「ごめん、ヴァーリ。訂正だ。―――綺麗だよ」

 

そう言うとヴァーリが一瞬だけ目を丸くしたが嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「ふふ・・・・・なんなら、このまま一誠の専属メイドになってもいいぞ?」

 

「あー、そうなるとお前・・・・・しごかれるぞ?」

 

「ん?」

 

「ん」と、とある女性に視線を向けた。ヴァーリも俺がとある方へ向ける視線を追ったら―――。

 

「御所望とあらば、このリーラ。一流のメイドになるまで教育させてもらいます」

 

淡々と言う俺の専属メイドがいた。しかし、瞳は獲物を狙う獣の目のそれだった。

 

「・・・・・」

 

ヴァーリ自身も何かを感じたのか、薄っすらと頬に冷や汗を流しだした。

 

「すまない。聞かなかったことにしてくれ」

 

「うん、そうした方が良いぞ」

 

リーラに調教もとい教育された日には何時ものヴァーリじゃなくなるかもしれない。

それはちょっと・・・・・な?

 

「はいはい、そろそろ桃色空間を止めて手を動かして欲しいなぁー?」

 

清楚に窘められてしまい俺とヴァーリは仕事に務める。

 

「午後のイベント、楽しみだね」

 

―――言った本人が話しかけてきた。午後のイベントか・・・・・確か、全校生徒の中から

代表して決闘を見せ付けるんだったな。一般人も参加しても良いらしいが・・・・・。

 

「優勝した人はなんたって、半日デート権を得られて相手を選べるから私、楽しみだよ」

 

「と言うことは、清楚も出るわけだな?」

 

「うん、きっと百代先輩も出るだろうし・・・・・負けられない」

 

瞳の奥に戦意の炎が燃え上がったのが分かった。おおー、あの清楚がやる気だ。

 

『・・・・・』

 

あれ、清楚の話しに興味を持った奴らが耳を大きくしているぞ?

まさか・・・・・お前らも出るつもりなのか?

 

―――午後―――

 

『さぁ、やってまいりました何がなんでも譲れない男と乙女の熱い決闘が!

司会はこの俺、幼女の味方の井上準と』

 

『駒王学園、放送部を務めるデイジーです。そして、解説は―――』

 

『何故か解説をして欲しいと放送部に参加させられた兵藤一誠が行います。

どうも、よろしくお願いします。というか、俺も参加したいんだが・・・・・』

 

グラウンドに設けられたテントの下に俺たちがいた。

その上空に魔方陣で展開した立体映像が浮かんでいる。

ゲストの百代がいない理由は・・・・・後に分かるだろう。

膝にはチョコンと座っているオーフィス。

 

『いやー、一誠が参加したらモモ先輩ぐらいの実力者じゃないと負けないでしょう?

学長からの指示なんでどうか了承ください』

 

『なるほどね。だったら、肝心の百代はどうなるんだよ?』

 

『今回出場するメンバーを確認して比較したら良い勝負になるだろうとのことで』

 

『よし、あいつの目と鼻に唐辛子を大量にぶち込んでやる』

 

絶対だ、と声を殺せばデイジーと井上が苦笑いを浮かべた。だって俺と同じぐらい強いんだし、

贔屓だろう。爺バカだろう。

 

『今回出場する選手の人数は五十名。ルールと勝利条件は時間制でグラウンド中央に設けられた

石のリングから落とされるか、相手が戦闘不能もしくはリタイア宣言をすれば勝利です。

神器(セイクリッド・ギア)と武器の使用も有り』

 

『シンプルですね。これならあまり怪我をしないかもしれません』

 

『いやー、相手が相手だし・・・・・重傷を負う奴もいるかもしれないぞ』

 

『試合に負け、怪我をした人は医療チームによって治療してもらいます。

重傷者の人は解説の兵藤一誠さんに直してくださいねー』

 

『骨折でも腕か足が失っても俺が治してやる。死んだら治せないがな』

 

『不吉なことを言わないでくださいよぉー!

どれだけ激しい勝負になると思っているんだこの人は!?』

 

想定以内のことを思って言っただけだがな・・・・・。

 

『ま、まあ・・・・・そろそろ進めましょうよ』

 

『そうだな。では次は、決闘の審判を務める川神学園の学長、川神鉄心さんのありがたーい

お話しだ。眠たい奴は寝ていいぞ。俺が許す』

 

『ジャイアニズム!?』

 

それ、使い方間違っていないか?リングに上がって川神鉄心がマイク越しで

決闘のことについて語り始める。しばらくして、

 

『では、これより決闘を行う。最初の選手はリングに上がれい!』

 

決闘が始まったのだった。

 

―――○●○―――

 

試合は次々と消化していく。中には一般人・・・・・もとい武の心得がある武道家やボクサー、

拳法使いといった選手も参加していたが、

 

「川神流・無双正拳突き!」

 

「ぎゃあああああああああああ!」

 

如何せん、どいつもこいつも相手が悪過ぎる。百代だったり、清楚だったり、

何故かサイラオーグと兵藤照までもが参加していた。

あいつはともかく、サイラオーグは誰とデートがしたいんだろうか?そういった実力者が

あっという間に倒してしまうから三十分ぐらいでさんかしていた人数の半分以下となった。

 

「ソーたんとデートするのはこの私なんだから!」

 

どこから嗅ぎ付けたのだろうか。セラフォルーまでいるぞ。

 

「リーアたんと共に学園祭を回るのだよ!」

 

おい、お前。

 

「ぬんどりゃああああああっ!シアとキキョウに指一本も触れさせんぞ!」

 

「ふはははは!ネリネちゃんとリコリスちゃんとデートしたければ

私の屍を越えていきなさい!」

 

・・・・・・もう、この親バカ共が・・・・・。思わず頭を抱えてしまう俺だった。

そして、必然的に勝ち残ったメンバーは数名残して殆ど駒王学園の生徒とその家族となった。

 

「というか・・・・・どうして堂々とお前らまで参加しているんだろうなー」

 

参加者の名前が記されている紙を見下ろして、勝利した選手の名前を見て溜息を吐く。

 

『曹操』『ゲオルク』『ジークフリート』

 

あいつらテロリストだと自覚しているんだろうか?それとも、今の状況にこちらが迂闊に

手を出せない事をいいことに参加しているのか・・・・・。そうこうしている内に、

俺が知っている奴らが戦い始め、互角の勝負、一方的な勝負と次々と繰り広げ始めた。

 

「・・・・・」

 

その中で文字通り全身黒ずくめの二人組がサイラオーグと同じ戦い方をしていた。一撃必殺。

目まで覆い隠しているから顔を伺えることはできない。でも―――なんでだろうか。

とても懐かしい感じがする。

 

「(同時にこの異様にも感じる嫌な予感が堪らない。なんだ、これは・・・・・)」

 

―――照side―――

 

俺は兵藤照。デートの権利なんていらねぇが、もしかしたらあの野郎、

兵藤一誠が参加すると思ってこのイベントに参加したのになんだってんだ。

あの野郎、解説だと!?参加した意味がねぇじゃねぇかよ!

クソ、そういうことなら俺がこのイベントを優勝して気分を晴らすしか無いじゃないか!

そう思っていたのに―――なんだ、こいつはよ!?この黒ずくめの野郎は!

 

「・・・・・」

 

闘気を纏って外部からの攻撃を無効化する俺の自慢が―――まるで何も無いかのように

腹部に打撃を与えてくる!

 

ドゴンッ!

 

「がは・・・・・っ!?」

 

なんで、あいつと同じ戦い方で俺にダメージを与える・・・・・っ!?

まるで、あいつと戦っているようじゃないか・・・・・っ!

 

「兵藤照、リング場外により敗北!勝者はゼロ!」

 

くそぅ・・・・・!ちくしょう・・・・・っ!俺より強い奴がこうもゴロゴロいるのかよ・・・・・!?

ざけんな・・・・・っ!

 

―――一誠side―――

 

あいつが負けるなんてな・・・・・驚いたぞ。

 

「―――凄い」

 

隣にいるデイジーが感嘆する。そりゃそうだろうな。一撃で倒しているし、

もしかしたらサイラオーグも、百代も同じ運命を辿るのかもしれない。

 

「おーおー、盛りあがっているじゃん。坊ちゃん?」

 

「っ!?」

 

この軽い口調は・・・・・。振り返れば、そこにヴァーリの祖父、

リゼヴィム・リヴァン・ルシファーがいた。本当に来たんだ。それに見知らぬ銀髪の青年もいる。

 

「うひゃひゃひゃ、おじさんも出ても良かったんだけど生憎、熱血で筋肉派じゃないからねぇー。

あっという間に倒されちゃいそうだぜ」

 

「ここ、関係者以外近づいてはいけないんですけど?って、言っても聞かないか」

 

「うんうん、よーく俺のことを分かっているじゃん坊ちゃん。俺、悪魔だしねー。

好き勝手に自由に生きちゃう!」

 

だろうな。・・・・・それにしても、

この人の隣にいる銀髪の青年・・・・・どこかで・・・・・?

 

「おんや?ユーグリットくんに興味かな?」

 

「ユーグリット?」とオウム返しをすれば、銀髪の青年がお辞儀をした。

 

「姉がお世話になっております。ユーグリット・ルキフグスです。以御お見知りおきを、

次期人王の兵藤一誠」

 

「―――――っ!?」

 

ルキフグス・・・・・!グレイフィアとシルヴィアの・・・・・弟なのか?

 

「グレイフィアから聞いたことがないから分からなかったけど。弟がいたんだな・・・・・」

 

「ええ、昔の戦争に行方を暗ましていましたからね。

―――兵藤家と式森家が乱入したあの三大勢力戦争の直後に」

 

「・・・・・なんと言うか、何とも言えないんだが・・・・・」

 

「あなたが気にするようなことではありません。

もう過去の話ですし、別に『真魔王派』のように怨恨を持っているわけではありませんから」

 

そう・・・・・なのか・・・・・。

 

「ただ―――」

 

「うん?」

 

「私たちは欲しいものがありましてね」

 

欲しいもの?ヴァーリの祖父もそうなのか?「たち」って言ったし・・・・・。

 

ドガッ!

 

打撃音がここまで聞こえた。尻目で見れば―――あの神王がひれ伏している!?

相手はあの黒ずくめだ。

 

「兵藤一誠くん、『異世界』に興味ありませんか?」

 

「―――異世界?」

 

「ええ、この世界とは違う別の世界。私とリゼヴィムさまは異世界に行きたいんですよ」

 

なんか、急にスケールの大きい話になったような・・・・・。

 

「実在しているのか?」

 

「実在しているさ!なんてって、異世界からこの世界の物じゃないものが

稀にだけど見つかるんだぜ?それがこの証拠だ」

 

そう言ってこのヒトは俺にあるモノを見せ付けた。

―――それは。俺が目を見開くとニンマリと笑みを浮かべた。

 

「その表情を見る限り、どうやら坊ちゃんも知っていたか、あるいは持っているようだねぇ?」

 

赤い結晶状の宝石を持っていた。

 

「どこで、それを?」

 

「うひゃひゃひゃ、昔、坊ちゃんのパパンとママンから見せてもらったんだ。

嬉しそうに楽しそうに

『こいつは間違いなく異世界の代物だ』と子供のように言ってくれたんだぜ?」

 

―――っ!?

 

また、このヒトは父さんと母さんの話しを持ち上げる。

 

「そいつをどーしても欲しかったんだけど、『

扱いがかなりデリケートだからあげれない』って言われて

貰えなかったから後日、坊ちゃんのパパンとママンからこの異世界の物を貰っちゃいました」

 

「・・・・・どうしてだ?」

 

そう訊くと―――このヒトは―――途端に醜悪な笑みを浮かべた―――。

 

「それはな―――?」

 

『優勝はゼロ!』

 

と、リングから優勝者の名が挙がった。何時の間にか試合が終えてしまったか。

 

「おろ、終わっちゃったねー。そんじゃ、俺っちたちはまた学園祭を楽しませてもらうちゃーう。

じゃあねぇー」

 

ヒラヒラと手を振って俺から遠ざかっていく。・・・・・あのヒトは一体・・・・・。

 

―――○●○―――

 

「以前渡したあの赤い結晶状の宝石の結果はどうなっている?」

 

「急にどうした?」

 

午後のイベントが終えてすぐ、アザゼルに問いだたした。

 

「いいから、教えてくれ」

 

「まあ・・・・・結論を言えば、神が作った代物じゃないというのが判明した。

ヤハウェにも見せてみたら本人も驚いていたしな」

 

・・・・・やはり、異世界の物なのか?

 

「イッセー、アレをもう少しだけ研究させてくれ。何か分かるかも知れないんだ」

 

「別に構わない。もう一つある。いや・・・・・二つか。あのヒトも持っていたし」

 

「あのヒトだと?誰だ」

 

「・・・・・リゼヴィム・リヴァン・ルシファー」

 

教えると、案の定・・・・・アザゼルが言葉を失った様子になった。

 

「あの野郎が・・・・・だと?」

 

「ついでに、グレイフィアとシルヴィアの弟と会ったぞ。ユーグリット・ルキフグスという

銀髪の青年」

 

「っ!?」

 

「やっぱり知っていたんだな?」

 

アザゼルの表情がハッキリと分かる。それほどまでこの二人は有名な悪魔なのか。

 

「・・・・・なんてこった。

まさかあの二人が共にいるなんて・・・・・・こいつはただ事じゃねぇぞ」

 

「アザゼル?」

 

「おい、イッセー。奴らはまだこの学園にいるんだな?」

 

真剣だが怖い顔で俺に問う。隠すことでもないから肯定と頷いた。

 

「ああ、さっきから探知しているから・・・・・俺の教室にいるな」

 

「よし、なら行くぞ。お前もついて来い」

 

そう言ってアザゼルが足元に転移用魔方陣を展開した。え?そこまでするほどなのか?

俺はアザゼルの展開した魔方陣の光に包まれ、一瞬だけ視界が光に奪われる。

一拍して、光が止み、目を開ければ驚いた顔をする清楚たちが最初に映りこんだ。そして―――。

 

「およ?アザゼルのおっちゃんじゃん?おっひさぁ~♪」

 

「よう・・・・・随分と久し振りじゃねぇかよ。リゼヴィム・・・・・!

それにユーグリットもよぉ」

 

「ええ、お久しぶりです」

 

席に座って料理を食べているヴァーリの祖父とユーグリット・ルキフグス。

そして何故かいる黒ずくめの二人。

 

「お前、なんで学園祭に来ているんだ?」

 

「何でっておっちゃん。釣れないことを言わないでちょーよ。

俺たちはただ、学園祭を満喫したいだけなんだぜぇ~?」

 

ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべるも、アザゼルの額に青筋が浮かぶ。

 

「イッセーから聞いたぜ。お前、不思議な赤い結晶状の宝石を持っているんだってな?」

 

「んー、そうだけどそれがどうかしたのぉー?」

 

「お前が持っていると碌なことに使いかねない。渡してもらおうか」

 

「え~?何の権利があって魔王の弟の僕ちゃんの所有物を渡さなきゃなんない訳ぇ~?

それ、職権乱用と言うか横暴じゃないか?」

 

全く譲る気はないと意志表現をする。・・・・・・うわ、あっちもあっちで怖い顔をしている。

ヴァーリの奴だ。

 

「あー、そうそう。確か優勝者には半日デート権を得られて

選んだ対象の人間とデートできるんだっけ?」

 

「え?そうだけど・・・・・」

 

「じゃあ、坊ちゃんで決定だな。行ってくれば?」

 

このヒトが隣にいる黒ずくめの男にそういうと、

無言に立ち上がって俺の腕を掴むと強引に―――一瞬で学校の屋上に連れて来られた。

こいつ、何者!?

 

「・・・・・」

 

というか、男とデートなんて・・・・・ちょっと勘弁かも。

いや、これが相手は成神だったらもっと最悪か・・・・・。

 

「・・・・・」

 

無言でジッと見つめられている・・・・・んだよな?

 

「・・・・・」

 

それにしても気まずい・・・・・なに、この静かさ。表情も伺えない上に何も言ってくれないから

物凄く居た堪れないぞ。そう思っていると・・・・・黒ずくめが腕を伸ばしてきた。

 

「・・・・・え?」

 

俺の髪をワシャワシャと撫で始める。な、なんで?どうして俺を撫でる?

 

「―――見ない間に、随分と大きくなったな。一誠」

 

「・・・・・。―――――ッ!?」

 

この声・・・・・まさか・・・・・いや、確かに聞き覚えがある声音だ。間違える訳がない。

 

「お前は・・・・・!?」

 

目の前の人物の名を口にしようとした時だった。俺に違和感が襲ってくる。

全身をぬるりとした嫌な感覚が包みこんでいく。足元を見れば―――。

 

「これは・・・・・!」

 

霧が発生していた。霧・・・・・そうか、あいつ等の原因か・・・・・!

この場の空気が一瞬で変化し、同じ風景なのにまるで違う場所に瞬時に転移したかのような

錯覚を覚えて―――。

 

「役者が全員揃ったようだな」

 

「さて、決着を付けよう」

 

「ここで全てが終われば御の字だ」

 

「そうだ。ここで全てを終わらせる」

 

―――っ!?

 

「お前らは・・・・・ッ!」

 

屋上に突如現れた俺が復讐したいと思っていた者たち。

瞬時で天使化になって攻撃態勢になれば―――。

 

「ここじゃ、関係のない人間たちにまで被害が出るぜ?」

 

「やるなら、これから転移される場所で全力で殺し合おう」

 

そう言われて、俺はあいつらを睨んだ。

 

「今度こそ、逃げるなよ・・・・・」

 

「安心しろ。今回は逃げも隠れもしない。―――なんてって、あの野郎がいるんだしな」

 

「あの・・・野郎・・・・・?」

 

「私たちはそいつに用がある。それが終われば好きなだけ付き合ってやる」

 

誰のことだと、俺が思った刹那―――。

霧が俺たちの周囲にたちこめて、辺りを包みこんでいった―――。

 

―――○●○―――

 

転移された場所は川神学園のレプリカがある疑似空間。屋上からグラウンドに見下ろせば、

曹操とゲオルク、ジークフリートが佇んでいた。

グラウンドに向けていた視線を変えてヴァンたちと黒ずくめに向ける。

 

「一応確認だ。『英雄派』と合同でしているわけじゃにんだな?」

 

「ああ、無関係だ」

 

「そうか、ならお前たちは後だ」

 

屋上から飛び降りて一気に曹操たちの前に降りた。

 

「久し振りだな曹操。こんなことして何がしたいんだ?」

 

「やあ、兵藤一誠。オーフィスに用があるんだ」

 

「オーフィスだと?」

 

肩に乗っかっているオーフィスに目を向ける曹操。今さらオーフィスを連れ戻しに来たのか?

それは不可能だと分かっているあいつがか・・・・・?どうも解せないな。

奥の手でもありそうだ。

 

「というか、他のメンバーは?三人だけ来るなんて豪胆な英雄だな」

 

学校から感じるのは清楚たちだけだ。学園祭にやってきている一般人や学園祭を開催している

川神と駒王学園の全校生徒と教師の気は感じられない。

 

「豪胆というよりも俺たち三人だけで十分と踏んだだけだよ、兵藤一誠」

 

「―――強気なものだな、曹操。例の『龍喰者(ドラゴン・イーター)』なる者を奥の手に有しているということか?」

 

白い全身鎧を纏ったヴァーリが上空から現れた。

 

「英雄派が作りだした、龍喰者し(ドラゴン・スレイヤー)に特化した神器(セイクリッド・ギア)か、新たな神滅具(ロンギヌス)所有者といったところだろう?」

 

ヴァーリが話している間に清楚たちが続々と現れてくる。ヴァーリの言葉に曹操は首を横に振る。

 

「違う。違うんだよ、ヴァーリ。『龍喰者(ドラゴン・イーター)』とは現存する存在に

俺たちがつけたコードネームみたいなもの。作ったわけじゃない。すでに作られていた。

―――『聖書に記されし神』が、あれを」

 

それを聞いたゲオルクは言葉を発する。

 

「曹操、いいのか?」

 

「ああ、頃合いだ、ゲオルク。ヴァーリもいる、オーフィスもいる、

赤龍帝いる。邪龍と龍王もだ。これ以上ない組み合わせじゃないか。

―――呼ぼう。地獄の釜の蓋を開けるときだ」

 

「了解だ。―――無限を食らい、兵藤一誠が倒れるときがきたか」

 

口の端を吊り上げたゲオルクが後方―――グラウンド全体に巨大な魔方陣を出現させた。

だが―――変化が起きない。

 

「・・・・・えっと、どうしたんだ?」

 

「ゲオルク?」

 

俺が尋ね、曹操がゲオルクに尋ねる。

てっきり何かとんでもないものが出てくるのかと思ったが・・・・・。

魔方陣はただ展開しているだけだった。

 

「・・・・・召喚魔法に反応しない?どういうことだ。

確かに何十もの制限を設けた上で召喚が可能となっているはずだ」

 

ゲオルク本人も当惑していたが、そこへ第三者の声が聞こえる。

 

「あー、もしかしたら、これのことかなぁー?」

 

ズォォォォォォォオオオオオオオオオオオオ・・・・・ッ。

 

グラウンド全体を激しい揺れが襲った。振り返ってみれば、

あまりにもドス黒く禍々しいオーラが魔方陣から発生していく!

・・・・・ゾッとするほどの寒気だった。魔方陣からかつてないほどの

プレッシャーが放たれている!心身が底冷えするような・・・・・まるで

蛇に睨まれたカエルっていうか・・・・・!

 

『・・・・・なんなのだ・・・・・この気配は。ドラゴンにだけ向けられた

圧倒的なまでの悪意を感じるぞ』

 

『こいつは・・・・・かなりやべぇぞ・・・・・』

 

『危険だ・・・・・アレは・・・・・私でさえも危険だと感じる・・・・・っ!』

 

クロウ・クルワッハたちが何かを感じたのか、声を震えていた。

―――こいつらが怯えている?最強の龍王と邪龍たちが・・・・・?

剛毅の塊であり威風堂々としたこいつらを怯えさせるだけの存在って一体―――。

 

禍々しい魔方陣から巨大な何かが徐々に姿を現していく・・・・・!

頭部、胴体・・・・・黒い羽、十字架・・・・・?

十字架に張り付けになっている何者か。身体を強烈なまでに締め上げていそうな拘束具。

 

それが体中にがんじがらめに付けられており、その拘束具にも不気味な文字が浮かんでいた。

目にも拘束具が付けられ、隙間から血涙が流れている。

―――ッ!魔方陣から全身が現れた瞬間、俺はその異様な存在に息を呑んだ。

 

下半身は・・・・・蛇!否、鱗がある。・・・・・東洋のドラゴンのような長細い姿、

上半身が堕天使、下半身がドラゴン!両手、尾、

全身のあらゆるところ―――黒い羽にも無数の極太の釘が

打ちこまれていた!見ているだけで痛々しい状態だ。

 

・・・・・拘束具をつけられた磔の堕天使のドラゴン・・・・・?

よほどのことをしでかした罪人のような磔の仕方・・・・・。

まるで裁いた者の怨恨を体現したかのような―――。

 

『オオオオオオォォォォォォォォォォオオオオオオオオオォォォォォォォォオ・・・・・』

 

磔の罪人の口から、不気味な声が発せられてグラウンド一帯に響き渡る。牙むき出しの口からは

血と共に唾液が吐き出されていった。苦しみ、妬み、痛み、恨み、ありとあらゆる負の感情が

入り混じったかのような低く苦悶に満ちた声音だった。見ているだけで誰かの憎悪を存分に

ぶつけられた存在だって分かった。その堕天使ドラゴンの身体から黒い霧とオーラが

グラウンドに広がっていく。

・・・・・肌にビリビリと突き刺さるような感覚と・・・・・ぬくりとしたものが

全身に広がっていく・・・・・。

 

「バカな・・・・・どうしてアレがあそこに現れた・・・・・!?」

 

ゲオルクが驚愕している。まさか、あいつが召喚しようとしていたのはアレなのか?

 

「・・・・・こ、こいつは・・・・・。なんてものを・・・・・。

コキュートスの封印を解いたのか・・・・・っ!」

 

アザゼルが目元を引くつかせ、憤怒の形相を召喚した目の前の存在に向けた。

 

「こいつはどういうことだ、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーッ!」

 

『―――――ッッ!?』

 

そう名を呼んだアザゼルにゲラゲラと笑い返すのが―――ヴァーリの祖父だった。

その周囲にはユーグリット・ルキフグスと黒ずくめの二人もいた。

 

「うひゃひゃひゃっ!ハーデスじいさんからちょーっと借りたんだよ、アザゼルのおっちゃん」

 

「バカな・・・・・奴がお前に易々とアレを解放するとは思えない!

―――まさか、お前・・・・・」

 

「はい!優秀ですね、アザゼルくん!そう、俺たちは冥府に襲撃してこれを奪ったのさ!

なーんか、そこにいる英雄の小僧どもが先約していたようだけどそこはほら、

優秀な魔法使いが上書きして僕のペットとなってもらいました!」

 

「・・・・・何てことだよ・・・・!ハーデスのジジイ・・・・・一応、無事なんだろうな・・・・・?」

 

「さぁーね。確かなのは殺してはいないぜ?殺したら後が面倒だもん」

 

取り敢えず、骸骨の爺ちゃんが生きているのは確かなのか。・・・・・良かった。

 

「さぁーて、この邪悪なペットの説明は長々としなきゃいけないからパスさせてもらうぜ?」

 

「そいつを使ってどうするつもりだ・・・・・ッ」

 

アザゼルの問いにあのヒトは醜悪な笑みを浮かべた。

 

「んー、もっちろん。欲しいものを手に入れるんだよ。

そう―――坊ちゃんとこにいる龍神ちゃんの力と坊ちゃんの命を」

 

な、なんだと・・・・・ッ!?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode6

「うひゃひゃひゃ!んじゃ―――喰らっちゃってくださいな!」

 

ギュンッ!

 

「ッ!?」

 

真っ直ぐ俺に何かが向かってくる音がした。防ぐ?いや、未知なる攻撃を真正面から

防いだら危険!上空に飛んでかわせば、黒い鞭のようなものが

上空に逃げた俺を追い掛けてきた。―――何て速さだよ!

 

「くそっ!」

 

光を残す程、宙に移動し続ける。対してあの黒い触手も物凄い勢いで俺を追い掛けてくる。

このままじゃ、ジリ貧だ!

 

「イッセー、あれ、危険」

 

「分かっている!だが、打つ手が見つからない!」

 

本体にでも倒すか?そう思った矢先―――。

 

「「・・・・・」」

 

黒ずくめの二人が俺が逃げる先に待ち構えていた。あの二人も敵だということか!

 

「八方ふさがりではないけど、かなり危険だな!」

 

相手が人間なら勝てれるかもしれない。『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』、

幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』を装着して突貫した。

 

「そこを、どけ!」

 

力を瞬時で何十倍にも倍増し、滅びの魔力を放った。避ける素振りがしない。直撃・・・・・。

 

バシンッ!

 

いや、弾かれた!

 

ドゴンッ!

 

「ぐぁ・・・・・っ!?」

 

黒ずくめの男が俺の腹部に拳を突き刺した。

その反動で俺は後方に吹っ飛び、黒い触手に捕まれ―――。

 

「るかよ!」

 

空間に穴を広げ、その中に入った俺は、また穴を広げて、グラウンドに現れた。

 

「おー、よく逃げたねぇ?感心感心♪」

 

ヴァーリの祖父が拍手する。だが、疑問だ。

 

「どうして」

 

「ん?」

 

「どうして、俺を殺そうとするんだ?アンタとは子供の時だけしか接点がない。

俺がアンタの邪魔な存在となりうるのか?」

 

そう、俺はあのヒトに何もしていないし、あのヒトが俺を殺す動機なんてないはずだ。

それがどうして・・・・・。

 

「―――別に?」

 

「・・・・・は?」

 

別に・・・・・って、言ったのか?え?俺、何の理由もなく殺されかけているのか?

間抜けな反応をした俺をあのヒトは言った。

 

「坊ちゃん、俺は坊ちゃんに対する殺意とか、憎悪とか感じてなんてないんだよねぇー?

殺す理由も全くないでござんす!」

 

「じゃあ・・・・・どうしてだ?」

 

「んー、気まぐれ♪」

 

おい!?気まぐれかよ!そんな気持ちで俺は殺されかけているのか!溜まったもんじゃない!

 

「あっ、逆ならあるかもよ?坊ちゃんが俺に殺意を抱く理由がね?」

 

「え?」

 

「ここでクイズ!坊ちゃんのパパンとママンを殺したのは一体誰なんでしょうか!

選択問題で答えてもらいましょう!」

 

いきなりなんだよ、このヒトは・・・・・。

 

「一、一人の堕天使と二人の悪魔!二、誰かが依頼して請け負った何でも屋さん!

三、俺ことリゼヴィム・リヴァン・ルシファーくん!」

 

「・・・・・なに?」

 

一はともかく、どうして何でも屋と目の前の人物までもが選択に入る?怪訝になっていると、

 

「―――一だぞ、ガキ」

 

「・・・・・!」

 

バサッ!と俺とあの人の間に割って入った堕天使の女、ヴァン。他にも三人の悪魔も現れた。

 

「屋上から見ていたが、とんでもないもんを召喚しやがったな。てめぇ」

 

「おやおや?何時ぞやの堕天使ちゃんじゃないかぁ!こんちゃー♪」

 

二人とも顔見知り・・・・・?

 

「お前に言ったよな?お前の両親を殺したのは私たちだと」

 

「・・・・・」

 

「あんな中二病の話に耳を傾けるな」

 

・・・・・なんだ、急に違和感を感じる。どうしてこいつが俺を意識させようとしているんだ?

それに、なんでそんな真剣な表情で言う?すると、あのヒトが不満そうな顔で口を開いた。

 

「えー?まーた、俺の邪魔をしちゃうのー?俺が坊ちゃんの家に帰ってくるまでいたら―――」

 

あのヒトは深い笑みを浮かべる。

 

「堕天使と悪魔の団体さんが、現れて俺を坊ちゃんの家から追い出したしねぇー?」

 

追いだした?三人が?・・・・・なぜ、そんなことをした?

 

「てめぇ・・・・・っ!それ以上余計なことを言うなよ。言ったら殺すぞ!」

 

ヴァンが憤怒の形相であのヒトにそう言う。

 

「え?余計なことって?もしかして、俺がなんでも屋に頼んで坊ちゃんのパパンとママンを

殺させたってことかなぁー?」

 

―――――っ。

 

・・・・・・いま、何て言った?あのヒトが何でも屋に依頼して父さんと母さんを

殺させ・・・・・た?

 

「っ!」

 

呆然としていた俺にいきなりヴァンが光の剣を俺に振りまわしてきた。

それに対抗して、翼で応戦する。

 

「おい、どういうことだよ・・・・・」

 

「うるせっ!お前の親を殺したのは私たちだ!それだけ覚えていりゃそれでいいんだ!」

 

「待てよ。どうしてお前がそこまで必死になるんだよ・・・・・?

まるで、本当のようなことじゃないか」

 

今の彼女から殺意がない。あのヒトの話しを聞かせないとばかり、

ただ攻撃しているように感じる。―――俺の耳にあのヒトの軽い口調が聞こえる。

 

「うひゃひゃひゃっ!実際に本当だぜ坊ちゃん!

えっと?何でも屋の名前って確か―――ああ、そうそう『九十九屋』だったけかな?」

 

「―――っ!?」

 

『―――二度も同じ人間の血をこの手で汚すことがなくて良かった』

 

まさか・・・・・龍牙の兄が言っていたあれは・・・・・。

 

「父さんと母さんを殺したのは・・・・・『九十九屋』・・・・・?」

 

「てめぇっ!」

 

ザンッ!

 

ヴァンが躊躇もなく、俺を斬った。その衝撃で、皆のところにまで吹っ飛んだ。

 

「イッセー!」

 

アザゼルが受け止めてくれた。

アーシア・アルジェントが俺の傷を癒してくれるも呆然と呟いた。

 

「・・・・・どういう、ことだよ・・・・・」

 

「まさか・・・・・兄さんが、一誠さんの両親を・・・・・。

そんな・・・・・こんなのって・・・・・」

 

俺だけじゃない。龍牙までも信じられないと呟いていた。

 

「なんでだよ・・・・・お前らじゃないのかよ・・・・・。

じゃあ、俺は今まで違う相手に復讐をしようとしていたのかよ・・・・・」

 

「違う!お前の親を殺したのはこの私だぞ!?十年前の時のことを思い出せ!

お前の両親が血まみれで倒れていた傍で私たちが居ただろうが!」

 

「いやー、実に凄かったぜ?気を抜いていた坊ちゃんのパパンとママンを瞬殺したんだからさ!

あっ、その時の映像があるけど、見たい?見たいよね?じゃあ、見せちゃいます!」

 

俺たちの眼前に魔方陣が展開した。立体映像が浮かび―――その映像にはあの人と龍牙の兄、

父さんと母さんがいた。音声はない。映像だけで流れているで父さんが赤い結晶状の宝石を

龍牙の兄に見せていた。笑顔で口を動かしていて何か言っているけど聞こえない。

しばらくして、四人が立ち上がってあのヒトが父さんと母さんと握手したところで―――龍牙の兄が

小太刀で父さんと母さんを斬った。

 

『ど、どうして・・・・・だい』

 

『うひゃひゃ、ごめんなちゃいねー?それ、どーしても欲しいからさ?

殺して貰っちゃおうと思っちゃったの♪』

 

『・・・・・あの子に手を出さないで』

 

『じゃあ、悪魔らしくこの結晶を代価に坊ちゃんには手を出さないであげるぜ?

うひゃひゃひゃっ!』

 

―――途中で音声が入った。父さんと母さんが床に倒れて少しした後。

 

『これでいいんだな?』

 

『いいよーいいよー。僕ちゃんの望みも叶ったし、ありがとーねー?』

 

『・・・・・依頼を果たしたまでだ。そんじゃあな』

 

龍牙の兄が虚空に消えたその直後、ヴァンとシャガ、シャーリが現れた。

 

『これは・・・!それに、お前は・・・・・!』

 

『おやぁー?これは珍しいお客だぁ。ごめんね?僕、お茶の出し方を分からないから

ゆっくり寛いでくれるかな?これから坊ちゃんを待たないといけないからさ』

 

『貴様・・・・・!誠と一香を殺すに足りず、あの子にまで殺そうとするのか!』

 

『のんのん、違う違うって。その逆。パパンとママンを殺したのは僕だよー?って教えんの。

うひゃひゃ、そーしたらあの坊ちゃんはどんな反応をするんだろうか?

いやー、楽しみだっぜい!』

 

本当に楽しみだとゲラゲラと笑う。対して三人が―――。

 

『そんな事・・・・・させるかぁっ!』

 

あのヒトに向かって飛び掛かったのだった。

 

ブツンッ!

 

立体映像が途切れた。あそこまでしか映像が流れないのか・・・・・。

 

「ふっふっふー!どうだい?中々良い映画鑑賞になったでしょう?うひゃひゃひゃひゃ!

これ、何回見ても飽きやしないんだよ!なんなら―――もっかい見る?」

 

刹那―――。

 

『・・・・・っ』

 

皆から怒りと殺意が感じる。

 

「てめぇ・・・・・どこまで堕ちれば気が済むんだぁ・・・・・っ!?」

 

アザゼルが絶対零度のようなどこまでも冷たい声音で言いだす。

 

「堕ちるってそんな堕天使じゃあるまいし。俺は生粋の悪魔だぜぃ?」

 

呆れ顔で嘆息するあのヒト。そんなあのヒトに―――。

 

「許さない。こんなに怒って相手に対して殺したい気持ちを抱いたのは、

生まれて初めてだわ・・・・・!」

 

「貴様が・・・・・一誠の家族が死んだ元凶が貴様だったとはな・・・・・!」

 

イリナとヴァーリが怒りに満ちた顔であのヒトを激しく睨んでいた。

 

「おおう、怖い怖い。ユーグリットくん、あの人たちが怖いよぉう」

 

「あなたがそうさせるようなことをしたからでしょう?」

 

「あっ、やっぱり?うっひょっひょっひょーっ!」

 

俺は・・・・・今まで・・・・・どうして、気付きもしなかったんだよ・・・・・っ!

 

「俺は・・・・・俺は・・・・・俺は・・・・・っ!」

 

「一誠さま!」

 

項垂れ、涙を流す俺にリーラが強く抱きしめてくれるも、それが些細なことだとばかり、

俺は当惑し続ける。

 

「あんれー?怒ったり、泣いたりするんだと思ったのに、そうなっちゃうの?

なんだかおじいちゃんは拍子抜けだぜ?―――あっ、そうだ。

こうすればもっと変化が起きるかな?坊ちゃん坊ちゃん、よーく見ててちょーだいな」

 

「な・・・・・に・・・・・?」

 

あのヒトが俺に促す。一体何を・・・・・と思うと、黒ずくめの二人の頭を掴んだと思えば、

覆っていた覆面を剥いだ。今まで隠されていた素顔が―――表に曝け出した。

 

「「「「「―――っ!?」」」」」

 

二人の黒ずくめの素顔を見た途端、俺だけじゃなく、リーラとイリナとヴァーリ、

アザゼルが言葉を失い絶句した。―――何故なら。

 

「父さん・・・・・?母さん・・・・・?」

 

十年という時の流れ。俺は最悪の形で俺の両親が目の前に立って再会を果たした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode7

 

 

「父さん・・・・・?母さん・・・・・?」

 

十年振りの再会・・・・・。でも、あそこにいるということは―――。

 

「ヴァーリの話しは本当になっちまったか・・・・・・っ!」

 

そう、父さんと母さんがテロリストだということ。その上―――、

 

「リゼヴィム、お前も『禍の団(カオス・ブリゲード)』ってことなんだな・・・・・」

 

「ユーグリットくんに誘われてねぇ―?今現在、『真魔王派』は僕ちゃんが仕切っている状態だ。

みーんな、俺たちの話を聞いて一部以外の奴以外は賛同してくれたぜぃ?」

 

「その一部とやらは誰なのか知りたいが・・・・・それよりも知りたいことがある」

 

アザゼルは俺たちと対峙する父さんと母さんに目を向ける。

 

「どうやってそいつらを甦らせた?殺させた本人がまた甦らすなんて生気の沙汰じゃねぇ」

 

「うひゃひゃひゃ、別に俺が甦らせたわけじゃないんだぜ?

ユーグリットくんが坊ちゃんのパパンとママンを甦らせたのさ!魔法の道具でね?」

 

「魔法の道具だと?生命を司る道具といやぁ、『神滅具(ロンギヌス)』以外なかったはずだ。

―――いや、待て。まさか・・・・・!?」

 

何かに察したのか、アザゼルが目を見開いた。しかし、それは否定された。

 

「いやいや、違うよん。アザゼルくん。確かに、聖杯の情報は得ているけど、

まだ、手にしちゃいねぇ。本当に魔法の道具で甦らせたのさ。ユーグリットくんはよ」

 

聖杯?何のことだ?訝しんでいるとあのヒトは言い続けた。

 

「坊ちゃんのパパンとママン。久々に会う自分の息子と話したらどうだい?」

 

『・・・・・っ!』

 

この場に緊張が走った。アザゼルと五大魔王、神と神王を相手に互角の戦いをした。

ここにいる全員が勝てるかどうか危うい。

 

「久し振りね、一誠。見ない間に随分と大きくなって・・・・・」

 

「―――っ!?」

 

母さんの声だ。聞き間違うはずがない・・・・・。

 

「イリナちゃんとヴァーリちゃん、それに和樹くんと悠璃ちゃんと楼羅ちゃんも。

立派に成長していたのね。私、嬉しいわ」

 

イリナたちにまで話しかける。話しかけられた本人たちは戸惑いの色を窺える。

本当に甦ったのか、判断ができないようだ。

 

「一誠、こっちに来て良く顔を見せて?」

 

「・・・・・っ!」

 

そう言われ、俺は戸惑った。相手は敵だ。でも、その相手が俺の両親だ。

死んだとはいえ、何も変わらない姿で俺の目の前にいる。

 

「どうした?一誠。お母さんが呼んでいるんだぞ?

何時も笑顔で駆け寄ってくるのに・・・・・もしや、反抗期か?」

 

「まあ・・・・・そうなの?あの可愛い私の子が親に反抗する時期になるなんて。

・・・・・私、悲しいわ!」

 

いや、反抗期もなにも、反抗する機会もなかったからな!?相手も相手だしできない!

 

「しょうがない。俺たちの方から近づこうか」

 

「それじゃ、誰が一番早く抱きしられるか競争しましょう?」

 

「いいのか?俺の方が速いぞ?」

 

「なに言っているの。愛の力で私が勝つわ!」

 

刹那―――。皆に囲まれているにも拘らず、

 

「はっ?」

 

俺は何時の間にか、皆から離れていた。―――両親に肩を掴まれている状態で。

皆の顔が呆然としている。あいつらでも見えなかった速度で連れ去られたのか俺は。

 

「ははっ、オーフィス。久し振りだな。元気にしていたか?」

 

「まさか、一誠と一緒にいるなんてね。物凄い偶然だわ」

 

「・・・・・」

 

俺の肩にいるオーフィスが無言で貫いた。

 

「・・・・・誠と一香?」

 

「おいおい、なに言っているんだ?」

 

「私たちのことを忘れちゃったの?

もう、長い間会っていないからしょうがないかもしれないわねぇ」

 

苦笑を浮かべるお母さん。二人から感じる温もりは・・・・・本物だった。

 

「本当に・・・・・甦ったの?」

 

「当然だ。ユーグリットくんのおかげでな」

 

「だからこうしてこうやっているのよ?」

 

俺を抱きしめる。でも、それなら・・・・・。

 

「どうして二人はあのヒトに殺されたにも拘わらず、一緒にいるんだよ。

どうして、すぐに会いに来てくれなかったんだよ?」

 

疑問をぶつけた。どう答える。二人とも―――。

 

「―――どうしてって、俺たちはリゼヴィムさまに従っているしな?」

 

「それに異世界に行けれるのよ?行きたいじゃない」

 

「―――――っ!?」

 

その答えを聞いた瞬間に。俺は二人から遠ざかった。

 

「俺の知っている父さんと母さんじゃない!」

 

二人に向かって告げた。有り得ない。絶対にそうだ。

だって、二人が俺より大事なものはないって何時も言っていた!

なのに、あんな返事をするなんて・・・・・!

 

「おやおや?自分の肉親にそんなこと言っちゃダメじゃないか坊ちゃん」

 

「お前は黙っていろ!」

 

「はい!ごめんなさい!」

 

激怒すれば、あのヒトはユーグリット・ルキフグスの影に隠れた。

 

「一誠、俺たちは俺たちだぞ?」

 

「だったら、今すぐヴァーリのお爺さんを倒してよ!父さんと母さんを殺させた元凶だぞ!」

 

「それはできないわよ。だって、私たちの主だもの」

 

主!?二人が持っていた異世界の宝石を殺して奪ったあの悪魔に主と言うのかよ!?

やっぱり、この人たちは違う!

 

「俺は・・・・・俺はバカだよ。

復讐する相手が違うのに、何にも気付かないで今の今まで生きていたんだからな・・・・・」

 

「一誠、復讐なんて虚しいだけよ」

 

・・・・・ああ、そうだろうな。それに皮肉にも、

あのヒトのおかげでヴァンたちじゃないってことがハッキリした。

 

「・・・・・今さら、復讐の対象者を変えてまた復讐なんて馬鹿げているよな・・・・・」

 

「うんうん、そうだぞ」

 

「だけど・・・・・復讐よりやりたいことができたよ」

 

ヴァーリの祖父に睨んだ。

 

「俺たちを歪ませた元凶を・・・・・俺の手で倒して終止符を打つ!

復讐じゃない。これは―――粛清だ!」

 

ドンッ!と俺は全身から闘気を迸らせた。

 

「オーフィス。お前も狙われているけど。一緒に戦ってくれるか」

 

「ん、我はイッセーを守る。誠と一香、目を覚まさせる」

 

オーフィスからも無限の魔力を体から放出し始めた。

そして―――俺とオーフィスは光に包まれた。

 

「我、無限を司る龍神なり」

 

「我、無限を司る龍神に認められし者」

 

「我は無限の力を認めし者のために振るい」

 

「我は愛しい者たちのために力を振るい」

 

「我らは共に一つとなりて―――」

 

「我らの敵を嗤い、我らの敵を憂い」

 

「「汝らを無限に葬り去ろう!」」

 

インフィニティ・ジャガーノート・ドラゴン・ドライブ!

 

互いに呪文を言い合い、オーフィスの力を鎧に具現化して装着した。

 

「こいつが俺のもう一つの鎧だ!」

 

龍を模した全身鎧が常闇と思わせるほど真っ暗。宝玉も真っ黒で翼も尾も黒い。

 

「・・・・・オーフィスの力を鎧に具現化にするなんてな・・・・・」

 

「本当に、立派に成長したのね。嬉しいわ一誠」

 

父さんと母さんが笑う。例え、この鎧を着込んでも

俺の実力じゃ二人に勝てるとは思えない。だけど、

 

「俺は一人じゃない」

 

そう、皆がいる。俺は皆が見ている限り―――。

 

「全然、負ける気はしない!」

 

―――リアスside―――

 

一誠が実の両親と戦い始めた。その拳の勢いに揺るぎがない。

本当に倒そうとしているのが分かる。

 

「お前ら、手を出すなよ。今のあいつに援護をしたら邪魔になるだけだ」

 

「じゃあ、俺たちは何もしないでいろって言うんですか?」

 

「あの二人が全然本気も出しちゃいねぇんだ。ヴァーリでも俺でも勝てやしねぇ」

 

本気も出していないって・・・・・そんな、絶望的じゃない!

 

「それにあの野郎の背後にいる存在が厄介だ」

 

「・・・・・・先生、なんですか、あれ・・・・・。俺でもヤバいって見ただけでも

分かるんですけど」

 

赤龍帝のイッセーがアザゼルに質問した。

 

「アダムとイヴの話を知っているか?」

 

「え、ええ。それぐらいは」

 

その答えにアザゼルが説明する。

 

「蛇に化け、エデンの園にいた始まりの男女―――アダムとイヴに知恵の実を食べさせるように

仕向けたのがあれだ。それが『聖書に記されし神』の怒りを触れて神は極度の蛇―――ドラゴン

嫌いになった。教会の書物の数々でドラゴンが悪として描かれた由縁だよ。奴はドラゴンを

憎悪した神の悪意、毒、呪いというものをその身に全て受け止めた存在だ。神聖であるはずの

神の悪意は本来あり得ない。ゆえにそれだけの猛毒。ドラゴン以外にも影響が出る上、

ドラゴンを絶滅しかねない理由から、コキュートスの深奥に封じられていたハズだ。

あいつにかけられた神の呪いは究極の龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)

それだけにこいつの存在自体が凶悪な龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)なんだよ・・・・・ッ!」

 

『っ!?』

 

「―――曰く、『神の毒』。―――曰く、『神の悪意』。エデンにいたものに知恵の実を食わせた

禁忌の存在。聖書の神の呪いが未だ渦巻く原初の罪―――。『龍喰者(ドラゴン・イーター)』、サマエル。

蛇とドラゴンを嫌った神の呪いを一身に受けた天使であり、ドラゴンだ。

そう、存在を抹消されたドラゴン―――」

 

そんな・・・・・それじゃ、イッセーでもただでは済まないわ!?いえ、勝ち目なんてない!

 

「―――そう、本来ならば俺たちがアレを召喚するはずだった」

 

背後から曹操が声を掛けてきた。

 

「まいったな。これじゃ、作戦もなにもなくなった。撤退せざるしかないじゃないか」

 

「そう易々と撤退させるとでも思ったか?」

 

「サマエルをどうにかしたいならば、ユーグリット・ルキフグスをどうにかしないとだめだぞ?まあ、難しいことだろうがな」

 

曹操たちの足元に霧が発生した。

 

「そうそう、俺たちがいなくなることでこのフィールドは崩壊する。

キミたちも早く離れた方が良い」

 

『なっ!?』

 

ちょっと待ちなさい!いま、そんなことされたらサマエルがどうなるのか

知れたもんじゃないわ!

何人かが曹操たちを捕まえようとするものの、霧が完全に曹操たちを包んで姿を消した。

―――その直後。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

 

この空間自体が揺らぎ始めた!良く見れば、空に断裂が生まれ、

学校などのた建造物も崩壊していく!

 

「ヤバい・・・・・本当に崩壊している!式森、お前の転移魔法で現実世界に戻るぞ!」

 

「ですが、一誠は!」

 

そうだ、彼を残して帰れない。それはここにいる全員がそう思っている。のに――、

 

「―――お前ら、先に戻れ!」

 

イッセーから声を掛けてきた。な、なんですって!?

 

「イッセー!?」

 

「俺なら大丈夫だ!次元の狭間に落ちても活動ができる!」

 

ドオオオオオオオオオオン!ドオオオオオオオオオオオオオオオォォン!

 

激しい攻防が繰り広げられる光景。リゼヴィムがいまだにサマエルを使役しないのは

不気味だけれど、イッセーの両親を倒さない限り、彼に近づくことが難しいかもしれない。

 

「和樹!行け!」

 

「一誠・・・・・!」

 

苦渋に満ちた表情をした和樹。足元に転移式の魔方陣を展開した。

 

「イッセー!戻ったら龍門(ドラゴン・ゲート)でお前を召喚する!それでいいな!?」

 

「ああ、分かった!」

 

アザゼルの問いに一誠は叫んで肯定した。私たちの足元に輝く光がより一層に増す。

 

「―――えー?帰っちゃうの?」

 

リゼヴィムが嫌な笑みを浮かべる。アザゼルが言う。

 

「てめぇのことはルシファーたちに報告する」

 

「うひゃひゃひゃ!別に良いぜ?未練も後悔もないしねぇー?」

 

「・・・・・いつか絶対に捕まえてやる」

 

「そぉ?じゃあ、―――こうしてやるよ」

 

指をパチンと弾いたリゼヴィム。それに呼応して―――。

 

「了解だ。リゼヴィムさま」

 

『っ!?』

 

何時の間にか私たちの目の前にイッセーの父親が移動していた!不味い、次の動きが―――!

 

「誠さま・・・・・っ!」

 

「リーラ、今までご苦労だった。もう、休んでいいぞ」

 

手に持っていた禍々しい剣を彼は、一誠のメイドであるリーラに突き付ける!

 

「さようならだ」

 

「―――っ!」

 

刹那―――。

 

「リーラァッ!」

 

―――ドッ!

 

リーラに刺さるはずの剣が彼女の鼻先で止まった。

 

『―――――っ!?』

 

一瞬、時が停まったかのように思えた。

私も含め、皆がリーラが殺されてしまうと思って体を硬直してしまった。

でも、そんな彼女を守った―――一誠がリーラを庇うように彼女の前に立っていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode8

 

「一誠・・・!」

 

「イッセーッ!!!!!」

 

アザゼルが叫んだ。彼に庇われているリーラが目を大きくして

信じられないものを見る目で見詰めている。

 

「ぐ、がはっ」

 

彼が吐血した。そんな彼に私たちはただ、見ているだけしかできなかった。

 

ズボッ・・・・・。

 

腹から突き出ていた剣が抜かれ、鎧が解除され、イッセーが体勢を崩しそうになった。

 

「はは・・・・・お前をこうやって守ったのは・・・・・十年前以来だな・・・・・・」

 

「一誠さま!」

 

慌ててリーラがイッセーに駆け寄る。だが、無情にも彼の父親が再び水平に剣を振るった―――!

 

ガキンッ!

 

「そうは・・・・・させない!」

 

龍牙が大剣で剣を受け止めた。その顔には涙で濡れていた。

 

「アーシアさん!すぐにイッセーくんに治療を!」

 

「は、はい!」

 

祐斗の的確な指示にアーシアは淡い光をイッセーが貫かれた胸に当てた。―――でも、

 

「え・・・・・治らない・・・・・」

 

「な、なんですって・・・・・?」

 

「も、もう一度!」

 

アーシアが再びイッセーの胸に淡い光を当てた。それでも―――一向に治る気配がない。

 

「ど、どうしてですか・・・・・?ちゃんと能力が発動しているのに・・・・・」

 

当惑するアーシア。彼女だけじゃなく、この場にいる皆も驚きを隠せない。

そんな私たちに龍牙と鍔迫り合いしているイッセーの父親が説明してくれた。

 

「この剣はね?サマエルの血で固形化された呪いの剣だ。ドラゴンスレイヤーより

よっぽど強力で、かすり傷でも致命傷だ。特にドラゴンに属する種族はね」

 

「なんですって・・・・・!?」

 

「だから、呪いの方が強くて彼女の治癒は効かないんだ。だから、一誠の命はもうあと僅かだ」

 

な・・・・・そんな・・・・・!

 

「誠・・・・・お前、自分の息子を殺して何とも思わないのか・・・・・!?」

 

「アザゼル、今の俺はテロリストだ。

だったら、悪は正義に勝たないと悪らしくないじゃないか」

 

「っ!?お前・・・・・!」

 

「さて、今度こそ終わらせようか」

 

龍牙を蹴り飛ばして三度リーラに剣を振り下ろした―――その直後。彼が勝手に吹っ飛んだ。

 

「させ・・・・・るか・・・・・!」

 

イッセーがフラフラと起き上がった。そんな・・・・・イッセー・・・・・!

 

「俺の命があと僅か・・・・・なら、悔いのない事をして・・・・・死ぬしかないだろうが」

 

彼が渇いた笑みを浮かべる。

 

「お前ら・・・・・悪い、俺と一緒に地獄まで付き合う形になる」

 

内にいるドラゴンたちに話をしている?彼は本当に自分の死を悟って・・・・・。

 

「和樹・・・・・早く、ここから逃げろ。そろそろ・・・・・フィールドが保たない・・・・・」

 

「一誠、ダメだ・・・・・キミも一緒に・・・・・!」

 

「俺は無理だ・・・・・もう・・・・・視界が見えなくなっている。

サマエルの毒、どうやら体の各機能を奪われていくようだ」

 

いや・・・・・嫌よ・・・・・そんなの・・・・・こんな別れ方・・・・・嫌よ・・・・・・!

 

「・・・・・ああ、そうだ。密かに作っていた物を渡すか。こんな時に何なんだけど・・・・・」

 

そう言った彼の言葉に呼応して、私や他の皆の前に小型の魔方陣が出現した。

 

「これは・・・・・」

 

「俺が人王になったら・・・・・お前らに渡そうと思っていたものだ・・・・・ここにいない

他の奴らにも渡してほしい」

 

「それと」とイッセーが振り向いた。目を閉じている。本当に見えなくなっているの・・・・・。

 

「イリナ・・・・・来てくれ」

 

イリナがイッセーに近寄る。すると、彼が徐にイリナの胸元に手の平を押し付けた。―――その時。

 

バサッ!

 

彼女の背中から、青白い六対十二枚の翼が生え出した。あれは―――!

 

「お前にこれを渡す。お前なら使いこなせるはずだ・・・・・・」

 

「そんな、こんなのって・・・・・!」

 

「後もう一つ・・・・・イリナ、ヴァーリ・・・・・悪い。

どうやらあの約束が果たせそうにない。昔交わしたあの約束・・・・・守りたかった」

 

イッセーが踵を返して歩を進め出した。

 

「がはっ!」

 

赤黒い血を吐きだした。歩くだけでももう・・・・・辛いはずなのに!

 

「イッセー!戻って来て、現実世界ならあなたの呪いをなんとか治せれるはずだわ!」

 

「・・・・・」

 

彼は無言になる。それは無理だと暗に言われた気がした。

 

「あのサマエルをどうにかしないとこの先、大変なことになる。だから・・・・・!」

 

右手に魔力、左手に気を出し始めた。

 

「感卦法!?」

 

和樹がイッセーがすることに気付いた。まさか・・・・・その体で戦おうとするの・・・・・?

 

「俺が何とかする。だから、和樹・・・・・皆を頼む」

 

「一誠・・・・・!」

 

「お願いだ。これももう、そう長くは保てない」

 

彼の全身を覆う光。本人次第で長時間保ち続けれると聞いたけれど、彼はそこまで保つほどの

力がないということ・・・・・。

 

「もっと・・・・・お前らと一緒に楽しく生きたかった」

 

「イッセー・・・・・!」

 

「リアス・・・・・ソーナ・・・・・」

 

何・・・・・?

 

「今までずっと・・・・・こんな俺を好きでいてくれてありがとう・・・・・」

 

「「・・・・・っ!?」」

 

そう言ったイッセーは、真っ直ぐ両親の方へと駆けだした。

 

「そんな、いっくん!待ってよ!いっくんが残るなら私も!」

 

「ダメです!行ってはなりません!あのヒトの決意を無駄にできません・・・・・っ!」

 

「楼羅、お願い・・・・・放してよ・・・・・!お願いだから・・・・・!」

 

涙を流しイッセーのもとへ行こうとする彼女を姉も涙を流しながら必死に引き止める。

 

ドッゴオオオオオオオォオオン!ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

向こうから轟く轟音。もう彼の最期の戦いなのだと誰でも分かってしまう。

 

「・・・・・式森、頼む」

 

「・・・・・・・・・はい」

 

カッ!

 

和樹が転移用魔方陣を発動させた。

 

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

巨大な三頭龍が姿を現した。その龍は真っ直ぐサマエルに向かったのを最後に―――私たちは

魔方陣の光に包まれて崩壊するフィールドから転移したのだった―――。

 

―――一誠side―――

 

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」

 

「うひゃひゃひゃ、坊ちゃん。やっぱ坊ちゃんは凄いねぇ?

毒を盛られているのにまだ戦えるなんて本当に人間?」

 

皆がいなくなった後、俺は体が動かなくなるまで戦い続けた。

でも、結局・・・・・サマエルをどうにかすることもできなかった。

 

「坊ちゃんごとオーフィスの力を殆ど奪ったし、もう坊ちゃんには用が無いんだよねぇ?」

 

「では、戻りましょうか。当初の予定通り、サマエルを放っておいて」

 

「ん、そうだね!そんじゃ、帰ろうっか!」

 

「うひゃひゃひゃっ!それでは坊ちゃん。また来世でも会おうぜ?

そん時坊ちゃんが俺のことを覚えていたらだけどな?うひゃひゃひゃひゃっ!」

 

あのヒトを含め、サマエルを残して皆いなくなった。

 

「・・・・・」

 

サマエルは動かない。暴れ出すのかと思ったけどな・・・・・・ああ・・・・・静かだ。

 

『たくっ、こっちまであのサマエルの毒が届いているぞ。意識が切れそうだ』

 

本当に悪いな・・・・・お前ら。

 

『私はお前の傍にいるさ』

 

『我も・・・・・何時までもイッセーと傍にいる』

 

『お前の使い魔なんだ。一蓮托生だろう?』

 

『主・・・・・』

 

『お疲れさまでした・・・・・』

 

皆・・・・・今までありがとうな。

 

―――ザッ!

 

「・・・・・まだいたのか」

 

「・・・・・当たり前だ。バカ野郎」

 

ヴァン・・・・・。

 

「お前も今までゴメンな。俺の勘違いで傷つけた」

 

「ふざけんなよ・・・・・どうしてお前が死ななきゃならないんだよ・・・・・!」

 

・・・・・頭の後ろから温かい温もりが感じる・・・・・。

 

「他の奴らは?」

 

「現実世界だ。先に帰らせた」

 

「・・・・・そうか。謝りたかったな」

 

あ、感卦方が切れた。一気に毒と呪いが回り始める。もう、体の感覚すらなくなりつつある。

 

「・・・・・死ぬのか、一体どんな気分で死ぬんだろう」

 

「そんなの、孤独に決まっているじゃないか」

 

孤独か・・・・・でも、俺は皆がいるから決して孤独じゃないや。

 

「―――お前だけ死なせるわけにはいかない」

 

「ヴァン・・・?何を言って―――」

 

「私も色々とやらかしてきた。さっきタンニーンも解放した。後は―――罪滅ぼしだ。

死ぬんなら一緒に死のうぜ?」

 

・・・・・そう言うことかよ。

 

「死ぬ前に私も一人の女だ。・・・・・その、キス・・・・・していいか?

最期に女の喜びを感じたい」

 

「・・・・・毒の味しかしないぞ」

 

「お前の味だと思えば問題ない」

 

―――俺の唇に柔らかいものが触れた。俺の口はこじ開けられて、

彼女の舌が激しく口内を蹂躙する。それがしばらく続いたが、

 

ドスッ!

 

衝撃が襲った。目が見れないから分からないが貫かれた感触は覚えた。

 

「ありがとうな・・・・・ヴァン」

 

「ふん・・・・・今まで悪かったな」

 

意識がゆっくりと落ちていくのが分かった。ヴァンも話をしなくなり、気も感じなくなった。

―――そして、俺は深い闇に沈んだのだった。

 

 

 

―――???―――

 

「そうはさせない。その命、散らすのは惜しい。だから、こっちに来なさい・・・・・」

 

 

 

 

―――川神学園―――

 

―――アザゼルside――――

 

僅かな希望に縋り龍門(ドラゴン・ゲート)を展開した。

・・・・・だが・・・・・結果は・・・・・!

 

「くそぉっ!」

 

反応がない・・・・・・あいつが、イッセーが死んだって意味に繋がった・・・・・!

 

「一誠さん・・・・・!」

 

「くっ・・・・・!」

 

「イッセー・・・・・ッ!」

 

「そんな、どうしてあなたが死んじゃうの・・・・・?」

 

あいつを慕うリアスたちが涙を流し、頭を垂らす。

 

「リゼヴィム・リヴァン・ルシファー・・・・・」

 

ヴァーリが怨恨が籠った声音を涙流しながら呟いた。

 

「あの男だけは・・・・・私の命に懸けて殺す・・・・・絶対に・・・・・!」

 

「・・・・・ふふふふふふ・・・・・・いっくんを殺したあの悪魔たち・・・・・絶対に殺す」

 

「もう、あの人たちは誠さんと一香さんじゃないよね・・・・・・」

 

対してこいつらは禍々しいオーラを隠さず滲み出した。

 

「・・・・・」

 

神城がどこかへと行こうとする。

 

「おい、神城?」

 

「九十九屋・・・・・家に戻ります。―――絶縁をしに」

 

・・・・・マジかよ。呆然としている俺を余所に、

ドラゴンの翼を展開して本当に行ってしまった。

 

ガチャ。

 

「あっ、こんなところにいたのかお前ら!」

 

間の悪い時に・・・・・川神百代が現れた。

 

「・・・・・何だ、この感じは・・・・・何が遭ったのか?」

 

「・・・・・ええ・・・・・遭ったわよ・・・・・」

 

破れかぶれと言った感じでリアスは言ってしまった。

 

「イッセーが・・・・・テロリストに、実の親に殺されたわよ!」

 

「―――――っ!?」

 

「私たちを庇って、強大な敵に立ち向かって死んだわ!

どうして、どうして彼が死ななきゃならないの!?彼が一体何をしたというのよ!」

 

「こんなことあんまりです・・・・・っ。イッセーくん、イッセーくん・・・・・!」

 

リアスとソーナが泣き崩れ、

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、私の力がもっと強かったら・・・・・!」

 

「アーシアのせいじゃない!アーシアは頑張った!だから、だから・・・・・!」

 

イッセーに治癒をしていたアーシアが自分の力の不甲斐なさに自分を責め、

赤龍帝のイッセーが必死にフォローする。

 

「・・・・・」

 

朱乃が呆然と空を見上げるだけ・・・・・。

 

「・・・・・先輩・・・・・」

 

小猫が悲しみの色を浮かべポツリと言う。

 

「・・・・・」

 

拳から血が出るぐらい握る木場。葉桜たちも同じ気持ちで涙を流している様子を窺わせる。

 

「・・・・・本当なのか・・・・・あいつが死んだって・・・・・そんな・・・・・」

 

少なからずショックを受ける川神百代がフラリと踵を返した。

 

「テロリスト・・・・・一誠を殺したやつらの名前は何だって言うんだ?」

 

「『禍の団(カオス・ブリゲード)』」

 

「カオス・ブリゲード・・・・・分かった。私も協力する。いいよな?」

 

「ああ、構わん」

 

承諾すれば、川神百代がいなくなった。

 

 

―――龍牙side―――

 

 

久々に訪れた京都の町にある一見普通の家に見える建造物。

手に大剣を持ち、金色の鎧を纏って中に入る。

 

カランカラン・・・・・。

 

「・・・・・」

 

店の中は昭和の駄菓子屋みたいに色々な品が置かれている。

だが、それは裏の本業を偽るための置物に過ぎない。

 

「はぁーい・・・・・って、もしかして・・・・・龍牙さん?」

 

「拓斗か。久し振りだね」

 

「は、はい・・・・・でも、どうして禁手(バランス・ブレイカー)になっているんですか?」

 

「・・・・・兄さんはいるかい」

 

用があるのは目の前の少年じゃない。僕の兄だ。

 

「総大将ですか?ええ・・・・・何時もの部屋にいますが」

 

「そう・・・・・」

 

話は済んだとばかり、何時もの部屋にいる兄に訪れる。

 

「ま、待って下さい!どうしてそんなに怒った声を発しているのですか!?」

 

「・・・・・」

 

足を停め、振り向く。

 

「またなんだよ」

 

「え・・・・・?」

 

「僕の大切な友人を悲しませたんだよ。いくら仕事だからといって、あんまりだ・・・・・!」

 

だから、と言った。

 

「兄さんに会わないといけない。今回起きた事の本末を伝えて、―――家族の縁を切るって」

 

「なっ・・・・・!」

 

「邪魔しないでくれよ拓斗。もし邪魔をするなら―――容赦しない」

 

それだけ言い残して、足を動かす。古ぼけたこの家の中とは思えないほど真新しい構造の空間、

廊下、扉と部屋。廊下を真っ直ぐ突き進んで、曲がり角に歩を進め―――大剣を振り下ろした。

 

ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

手加減なしで扉を両断した。真っ二つになった扉が中にいる人物に向かって吹き飛ぶけど、

 

「久し振りに帰ってきた家族にしちゃ、荒々しい帰宅だな」

 

容易く防がれた。

 

「家族・・・・・誰のことですか」

 

「・・・・・なに?」

 

「もう、お前なんて僕の兄ではありません」

 

「・・・・・」

 

『九十九屋』の総大将、間神龍斗が怪訝な顔になった。

 

「知りませんでしたよ・・・・・あなたが一誠さんのご両親を殺す依頼を引き受けていたとはね」

 

「・・・・・知ったのか」

 

ええ・・・・・知りましたよ。そのおかげで、

あのヒトが死んでしまいましたしね・・・・・・!

 

「総大将、どうした・・・・・若か?」

 

「え、若なの?」

 

師匠とイズナさんか・・・・・。丁度良いです。

 

「僕、神城龍牙は『九十九屋』を抜けさせてもらいます」

 

「「―――っ!?」」

 

「・・・・・」

 

「それを言いに帰ってきたようなものです。

ですので、あなたとの家族の縁を絶縁させてもらいます」

 

大剣を突き付けてそう言うと背後から焦った声が聞こえた。

 

「ちょ、若!一体どうしたのじゃ!?総大将との縁を切るって正気なのか!?」

 

「ええ、至って冷静に言っているんです」

 

「・・・・・お前がそこまで言うほど、向こうで何か遭ったのか?」

 

師匠が尋ねてくる。ええ、あるからここに戻っているんですよ。

 

「リゼヴィム・リヴァン・ルシファーが現れました」

 

「なに・・・・・?」

 

「そして、兄さんが殺した一誠さんのご両親を甦らせ―――一誠さんを殺したんですよ!」

 

「・・・・・っ!?」

 

初めて兄さんが驚愕の色を浮かばせた。僕は鎧の中で涙を流す。

 

「十年前とは言え、あなたは僕の友人の家族を殺した!

それが敵となって甦り、自分の息子を殺した!

どうして、どうしていつもこうなんだ!僕が誰かと関わる度に兄さんたちが奪う!

もう、こんなのたくさんだ!あの人なら、一誠さんなら僕の友達でいられると思っていたのに!

また、また失ってしまった!」

 

「わ、若・・・・・」

 

「九十九屋が一誠さんのご両親を殺したということはすでに冥界と天界の上層部に

知れ渡っている頃だと思います。いくら仕事を依頼したからといって、

して良いこととやっていけないことがある!あなたはやっていけないことをしてしまったんだ!」

 

「・・・・・」

 

どれだけ喚こうが兄は僕を見詰めるだけだった。

 

「もう・・・・・僕の大切なモノを奪わないでください・・・・・」

 

足元に転移用魔方陣を展開した。

 

「さようならです」

 

この場から逃げるように僕は姿を暗ました。

・・・・・僕はもう、一誠さんに合わす顔がありません。

 

―――数日後―――

 

兵藤一誠の葬式が開かれた。大勢の悪魔、天使、堕天使、人間が大振りの雨の中を訪れ、

死体無き棺桶に最後の別れをするのだった。その中に神話体系の神々も交じっていた。

全員、一度は涙を流し、死んだ兵藤一誠に祈りを捧げる。現五大魔王、神、神王、堕天使の総督も

当然のように訪れていた。

 

「すまねぇ・・・・・俺がいながら何て様だよ」

 

「それを言うなら私のそうよ。

リゼヴィムがあんな凶行するなんて姉の私が気付きもしなかった・・・・・」

 

「次期人王を殺したのは悪魔。悪魔側が人王、人族に宣戦布告と受け取られるのは

もはや時間の問題だろう」

 

「魔王辞任だけで済む問題じゃないわね・・・・・」

 

「私たちが死んでも同じよ」

 

「ならば・・・・・やることはただ一つ。私たちも禍の団(カオス・ブリゲード)を殲滅する。

魔王の地位を捨て、テロリストを滅ぼすために身を投じる。それしかないだろう」

 

「・・・・・ええ、その通りね」

 

「なら、次代の魔王を決めないといけないわ」

 

「―――ここにいたか、魔王ども」

 

「「「「「っ!」」」」」

 

「悠璃と楼羅から話しを全て聞かせてもらった。次期人王を殺したのはそちら側の者だと」

 

「源氏殿・・・・・」

 

「テロリストの中に悪魔がいることは知っていた。それならまだましも、

ルシファーの者が誠と一香を操って次期人王を殺したとは・・・・・そちらの意思で

起こしたことであるのか?」

 

「ち、違います源氏殿。弟が独断で起こしたことのようです。

弟、リゼヴィムの姿はもう見当たらなくなっていて―――」

 

「言い訳に聞く耳は持たん。現魔王ルシファーの弟が、悪魔が次期人王を殺害したという決して

変えられない事実。お前は、お前たちは人間界の平和を脅かすようなことをしてしまったのだ。

悪魔を束ねる?悪魔を統べる王だと?―――笑わせてくれるわ!」

 

「「「「っ・・・・・」」」」

 

「全ての悪魔を束ねきれないからこのようなことが起きたのだ!

お前たちに魔王を名乗る資格など無い!」

 

「返す・・・・・言葉もございません・・・・・」

 

ルシファー・・・・・。

 

「・・・・・今回の件でお前たちとの和平の同盟を解消させてもらう。

三大勢力だけで和平を説けばよい」

 

「なっ・・・・・!?」

 

「悪魔は悪魔だ。我ら人間の敵だ。―――我が一族者を殺したその罪。

決して死んでも許しはしない」

 

踵を返して人混みの中へと姿を消す―――兵藤源氏。

 

「・・・・・わかって、おります」

 

「「「「・・・・・」」」」」

 

 

 

―――Heros.―――

 

「兵藤一誠が死んだか」

 

「世界中の神々が集まっている。まず間違いないよ」

 

「オーフィスはどうなっている?」

 

「彼と共に」

 

「無限が死んだか・・・・・」

 

「それで、これからどうするつもりなんだい?ルシファーの弟が

『真魔王派』に正式な形で君臨した。僕たちの相手は悪魔とドラゴンだったはずだ」

 

「そうだな・・・・・兵藤一誠の両親の実力も知れたが・・・・・。

俺たちでは敵いそうにもない感じだ」

 

「じゃあ、野放しするのか?」

 

「ああ、だが・・・いずれはルシファーの弟、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーを倒す。

あの男こそが悪魔の中の悪魔だと俺は断定する」

 

―――devil―――

 

「さぁーて、どんなマスコットができるのか、楽しみだぜぃ!」

 

「リゼヴィムさま。次の計画に移行したいのですが、よろしいですね?」

 

「おう、んじゃ、ドンドン力を集めて成功させちゃおうっか!」

 

「では―――参りましょう」

 

「うひゃひゃひゃっ!うーん、テロリストって自由気ままで動けれるから楽しいなぁっ!」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode9

―――ヤハウェside―――

 

「・・・・・」

 

彼、兵藤一誠が死んだ。冥府に封印していているサマエルを奪い彼の命を奪った

リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。まさか、サマエルを真正面から奪うなんて誰が思う?

誰一人として思わない。

 

「イッセーくん・・・・・」

 

無事に、天国へ昇天したでしょうか・・・・・。彼が地獄なんて似合わないです。

あんな優しくて純粋な子が・・・・・。

 

「・・・・・っ」

 

何て残酷な運命・・・・・。両親に殺されたと知った時は信じられませんでした。

あの人たちがあの子を殺すなんて未だに信じられない・・・・・。

 

「どうしてあなたたちはそこまで変わってしまったのです・・・・・?」

 

「―――ヤハウェさま」

 

「ミカエル、なんですか?」

 

振り向けば、私を支えてくれる大天使長で四大熾天使(セラフ)の一人、ミカエルが跪いていました。

 

「兵藤一誠くんが所有していた神滅具(ロンギヌス)の調査の結果が出ました」

 

「―――――」

 

あの子が死んですでに数日が経過している。龍門(ドラゴン・ゲート)で召喚しても召喚されず、次元の狭間に死体も見つからないまま結果、死亡ということに決定してしまった。

しかし、まだあの子の手掛かりは残っている。

 

四つも所有していた神滅具(ロンギヌス)が他の宿主の人間に宿ったかどうか。

ミカエルの口から聞く結果に、真っ直ぐ目を向け、耳を傾ける。

そうする私の気持ちに理解したようで、ミカエルは静かに言葉を発した。

 

神愛護珠(ゴッド・ラブ・ディフェンス)は紫藤イリナに宿っております。

彼が死ぬ直前に渡したようなのは間違いなさそうです」

 

「・・・・・他はどうなっておりますか」

 

「・・・・・」

 

催促とばかり尋ねると・・・・・ミカエルが途端に怪訝な面持ちとなった。

 

「ミカエル?」

 

「ヤハウェさま・・・・・なんと申し上げればよいのか私は戸惑っております」

 

「どういうことです?」

 

「・・・・・未だに残りの三つの神滅具(ロンギヌス)の消失の確認が取れていません」

 

―――――っ!

 

それはまさか・・・・・。彼がまだ生きているということ・・・・・?

神滅具(ロンギヌス)の所有者が亡くなれば、消失し、新たな宿主へと移り変わる。

それは天界のシステムで確認が取れる。誰がどんな神器(セイクリッド・ギア)を所有していることも。

 

「ですが、聞けば彼はサマエルの毒と呪いを受けているとか。それならば、肉体は滅び、

魂も消滅しているはず。それでは、神滅具(ロンギヌス)として封印されている二匹のドラゴンも

ただでは済まないはずです。なのに・・・・・三つの神滅具(ロンギヌス)が未だに消失していないんです」

 

「・・・・・」

 

「とても信じられない結果だと思います。

彼はサマエルの毒と呪いを受けながらも―――生きているということです。

可能性ですが、魂の状態でなんとか生存しているのではないか?

と我々は結論に拱いておりますが」

 

魂の状態・・・・・彼はそこまでした生き長らえている・・・・・?

ですが、一体どうやってそんなことを・・・・・あの子がとてもできるとは

とても思えない・・・・・もしや、第三者の仕業?

 

「ヤハウェさま・・・・・?」

 

「・・・・・ミカエル、そのことを知っている者は誰ですか?」

 

「私を含め熾天使(セラフ)のメンバーだけです」

 

「では、そのことを誰にも漏らしてはいけません。第一級極秘扱いとします。

少しでも漏らしたら厳しい罰を与えます。他の者たちにもそのように伝えてください。

いいですね?」

 

真剣な表情で言う。ミカエルは頭を垂らし、同意と返事をして私のもとから去る。

彼がいなくなれば―――。

 

「イッセーくん・・・・・っ!」

 

思いもしなかった彼の生存に安堵して、涙が止まらず出てしまう。

良かった・・・・・どんな形であれ、生きてくれればまだ希望がある・・・・・!

 

―――アザゼルside―――

 

「・・・・・ぷはぁ・・・・・」

 

「アザゼル、ここ数日、酒ばかり飲んでおるではないか。いい加減に飲むのを止めたらどうだ」

 

「・・・・・うるせぇ・・・・・こうしたいんだよ、俺は・・・・・」

 

同僚に窘められるも止めないとばかりコップに酒を入れる。

 

「たくっ、何が堕天使の総督だ。

大層な名前のくせに、教え子を見殺しにしちまったんだからな・・・・・」

 

「・・・・・アザゼル」

 

「はっ!誠と一香に槍を突き付けれずにいた俺はとことん臆病者だ!

ぜーんぶ、イッセーに任せてしまったんだからよ!

そのおかげで、あいつは死んじまった!ははははっ!」

 

哄笑する。ああ、今は笑うしかないだろう?だって、本当のことだしなぁー。

 

「・・・・・っ」

 

その瞬間。ドゴンッ!と同僚に殴られて背中から壁にぶつかった。ってぇーな・・・・・。

 

「言いたいことはそれだけか、アザゼル」

 

「あ・・・・・?」

 

同僚が険しい顔で訳の分からないことを言う。

 

「朱璃を甦らせたあの子に恩を抱いている俺も、あの子を殺した奴らに殺意を覚えている。

いま目の前にいたら真っ先に殺してやりたい気持ちが一杯だ・・・・・!

それなのに、お前はなんだ。あの子の死を受け入れたくないように酒を飲んでばかり、

酒に溺れているばかりではないか!」

 

「・・・・・」

 

「俺が知っているアザゼルはお前のような腑抜けた男ではない!お前がそうなんでどうするのだ!

お前たちを守ったあの子の気持ちを気付かなかったとは言わさんぞ、アザゼル!」

 

―――――っ・・・・・・。

 

「さっさと前に進むために立ち上がれ。それがせめてあの子の為ではないのか」

 

言うだけ言って、同僚が俺に背を向けてどこかへと行った。

 

「・・・・・くそ、んなこと・・・・・分かってらぁ・・・・・!」

 

立ち上がって、ゆっくりと歩を進める。

 

「イッセー、お前の仇は俺が取ってやるよ。だから・・・・・ゆっくりあの世で休んでいろ」

 

それがせめての供養だ。

 

―――サーゼクスside―――

 

「私が・・・・・魔王に?」

 

「ええ、私の後釜に相応しい悪魔はあなただけ」

 

私、サーゼクス・グレモリーは現五大魔王の一人、

ルシファーさまに次代の魔王になって欲しいと申されていた。

 

「今の冥界はあなたを含め五人の魔王が統治しているからこそ存在している。

なのに、私が魔王なんて・・・・・」

 

「最上級悪魔で魔王である私より三倍も強いあなたが相応しいの。

その紅の髪も私と同じだしね」

 

「私はただの学園の理事長にすぎません。冥界の悪魔はあなたたちの信頼と信用、

期待をしているのです。それをあなたは無化にしようとしていることを承知の上で

私に魔王になれと申すのですか?」

 

「今回の件の責任は私にあるの。弟、リゼヴィムの凶行・・・・・誠さんと一香さんを

甦らせたユーグリット・ルキフグス。悪魔が仕出かした件の責任は私たち五大魔王にある。

だから、フォーベシイを除いた魔王全員、魔王の地位を捨てることにしたわ」

 

バカな・・・・・魔王の地位を捨てるとは冥界に住む民の悪魔たちを見捨てると道理のことだ。

それをルシファーさまは、いましようとしている・・・・・。

 

「考え直してください。一介の理事長が魔王などと・・・。

それに私の代わりに誰が理事長を務めるというのですか?」

 

「この話は今すぐってわけじゃないの。時が来たら、冥界全土にテレビで放送するわ。

理事長のこともちゃんと考えます」

 

「・・・・・」

 

「また改めて訪問するわ。―――それでは」

 

転移用魔方陣で姿を消したルシファーさま。あの方がいなくなった途端に、

私は深く溜息を吐いた。

 

「私が魔王などと・・・・・」

 

それでは―――ミリキャスとリーアたんと接する時間が大幅に減るではないか!

 

―――清楚side―――

 

一誠くんが死んで一週間が経過した。学校は変わらず何時もの日常を送っている。

授業を学ぶ生徒、生徒に知識を学ばせる教師。―――一部変わっている中で繰り返し続けている。

 

「・・・・・」

 

窓際にある空いているテーブルに花が入れられた瓶。あそこは一誠くんが座っていた席・・・。

彼はもう、この世にはいない。私は今でも彼の死に受け入れないでいる。

 

「一誠くん・・・・・」

 

―――和樹side―――

 

彼、一誠が死んで周りは変わった。清楚さんが簡単なミスを何度もする。

龍牙が連日学校をサボって家で修行をしている。カリンちゃんは学校に来ているけど

ずっと上の空。家でも教室でもイリナは暗い顔を浮かべる。

ゼノヴィアは何時も考えている顔をしている。悠璃と楼羅は兵藤家に戻ってしまった。

リーラさんは・・・・・学校を辞めてしまった。

 

「一誠・・・・・」

 

キミがいなくなると僕たちはこうも変わってしまうんだよ?死んだキミは知らないだろうけど、

僕たちはとてもキミに依存していたようだ。

 

「まあ、僕もそうみたいだ」

 

授業をそっちのけで、式森家が代々保管していた魔導書を見ている。もしかしたら死者を甦らす

魔法があるのかもしれないと禁断の魔導に手を出している。家族や一族に黙ってね。

 

―――イリナside―――

 

「・・・・・」

 

イッセーくん・・・・・どうしてこの翼を私に渡したの・・・・・?私に何をして欲しいの?

復讐?それとも、皆と一緒に戦えってこと?

 

「私は・・・・・」

 

ねぇ、イッセーくん。今度こそあなたは死んじゃったのね・・・・・。

もう二度とあなたの笑う顔を見ることはできないのね・・・・・。

 

―――ゼノヴィアside―――

 

私はあの時、同じ場にいたのに何もできなかった。何もしていなかった。私にもっと力があれば、

イッセーを殺されずに、共に戦えれていたのかもしれない。だが、イッセーに良く言われている。

パワーばかりでは絶対に勝てないと。・・・・・剣術の技術・・・・・テクニック・・・・・。

だが、それだけでは勝てないのかもしれない。聖剣、六つのエクスカリバーが

必要かもしれない・・・・・。

 

「・・・・・懇願して私の願いが、想いが届くのだろうか分からないが・・・・・」

 

幸い、神王さまがいる。あのヒトに頼めば・・・・・。うん、そうしよう。

帰ったらすぐに頼もう。例え、拒まれたとしても、何度も頼もう。

 

―――カリンside―――

 

実感がしない・・・・・イッセーが死んだなんて・・・・・まだ、実感しない。

 

『カリン』

 

「っ!?」

 

何時も呼ばれ慣れた声が聞こえた。教室の中を見渡せば・・・・・私を呼ぶ声の主がいない。

空耳か・・・・・。

 

「・・・・・今頃になって、ようやく気付いた」

 

初めて大切なものが失って気付く。そんなことないと思っていたのに・・・・・私は気付いてしまった。私は―――イッセーのことが好きだったんだと。本当に・・・・・自分の気持ちに気付くのは遅かった。もう、私の想い人は死んでしまったから・・・・・。

 

―――龍牙side―――

 

学校なんて行って強くなんかなれない。僕は今までずっと甘えていたんだ。

誰よりも強い彼ならずっと僕の友達でいてくれるって。でも、それは間違いだった。

―――彼は死んでしまった。自分より強大な敵によって。だから、僕は―――。

 

「今日もお願いします。神王さま」

 

「ああ、坊主の言う通り殺す気で掛かるからな。死んでも恨むなよ」

 

連日、神王さまに稽古してもらっているんですから。もっと、もっと強くなって

彼の仇を僕が討つんだ!

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

―――リーラside―――

 

『はは・・・・・お前をこうやって守ったのは・・・・・十年前以来だな・・・・・』

 

あなたは本当に十年前と同じ顔で、体勢で私を守ってくれました。

ですが・・・・・私はあなたの死まで望んでいなかった。

 

「・・・・・」

 

一誠さまの部屋のベッドに顔を埋めて悲しみを漏らす。

どうして、どうしてあなたが死ななければならないのですか・・・・・っ!

私は、私はあなたの代わりに命を落としかった・・・・・!それで私は・・・・・!

 

「一誠の・・・・・バカ・・・・・本当にあのヒトは大バカよ・・・・・・!」

 

最愛が死に、残された私たちの気持ちを考えてよ・・・・・!一誠・・・・・・!

 

―――楼羅side―――

 

一誠さまの命の灯火が・・・・・消失していたことを確認した私たちはとてもショックを

受けました。

 

「いっくん・・・・・いっくん・・・・・いっくん・・・・・」

 

悠璃が一日中、ずっと一誠さまの名前を呼び続ける。

一誠さまを一番依存しているのはもしかしたら妹なのかもしれません。

 

「・・・・・一誠さま・・・・・」

 

私もそう呟くと、枯れたと思った涙が、頬を濡らす。ああ・・・・・私も一誠さまに依存していた一人でした。

 

―――悠璃side―――

 

いっくんを殺した悪魔たちを殺す・・・・・絶対に、生易しい死なんてさせない。

内臓を引きずり出して、手足の指を一本ずつ切断して、耳を削ぎ落し、目玉をくりぬいて、

舌を切り落としてそれから―――!

 

「・・・・・一誠さま・・・・・」

 

楼羅が泣いている。うん・・・・・私も同じ気持ちだよ・・・・・。

いっくんが死んでとても悲しい。

だからね、楼羅。―――一緒にあいつらを殺そうよ。いっくんの仇を私たちの手で討つんだ。

 

「待っていろ・・・・・人外ども・・・・・」

 

―――ガイアside―――

 

一誠が死んだ。それを聞いた途端に我は真っ先に次元の狭間を泳いだ。

もしかしたらと一誠はこの狭間にいるのかもしれないと思って何時間も、何日も探し続けた。

そして・・・・・見つけた。

 

「・・・・・」

 

魂の無い肉の塊が二つ。一つは一誠だ。もう一つは・・・・・話に訊いていた堕天使だ。

二人が重なるように死んでいた。奴らは死体ないまま葬式とやらをしたようだが、

それは我がずっと隠していたからだ。その理由は、一誠の死体をベースにして我自身の体で

新たな肉体を再構築している。一パーセントに満たない可能性に縋り、我は思っている。

一誠は再び我の前に現れると。

 

「早く、早く姿を見せんか。一誠・・・・・」

 

我は、お前を何時までもずっとここで待っているのだからな。

 

 

―――???―――

 

「・・・・・」

 

俺は・・・・・どこにいるんだ?青い空に白い雲が浮かんでいて、豊かな大地、草原、

遠くに森林がある。ここが・・・・・所謂天国というやつなのか?

でも、今の俺はサマエルの毒と呪いで死んで・・・・・。

 

・・・・・ヴァンの奴はどうした?辺りを見渡せば―――いた。野原の上に寝転がっていた。

 

それだけじゃない―――俺の中にいたオーフィスとドラゴンたちまで何故か俺の中から出ていた。

―――サマエルまでいる。どうしてだ?気になることは山ほどあるが今は起こそう。

ヴァンに近寄り跪く。

 

「おい、起きろ」

 

「・・・・・」

 

起きない。・・・・・なら、

 

デ コ ピ ン☆

 

ズビシッ!

 

「あだぁっ!?」

 

した途端に短い苦痛が交じった悲鳴を上げて上半身を起こした。あっ、起きた。

 

「てめぇっ!?起こすならもっと優しく起こすか、他のやり方で起こしやがれ!」

 

「・・・・・悪魔のくせに狸寝入りしていたのか」

 

「・・・・・・」

 

そう指摘すれば、ヴァンが反射的に俺から目を逸らした。

あれ、お前ってそんなキャラだったっけ?

まあいいや。それよりも―――。

 

「なぁ、ここはどこだと思う?」

 

「どこって・・・・・おい、お前・・・・・どうして平然と私と話しをしているんだ?

毒と呪いでお前の体は・・・・・」

 

「分からない。気がついたらここにいた。それにオーフィスたちも」

 

「はっ?・・・・・おいおい、サマエルまでいるじゃないか。どうなってやがる」

 

俺が知りたいところだ。

 

「・・・・・私たち・・・・・死んだんだよな」

 

「天国だと思っているんだけど・・・・・違和感を感じてしょうがない。体も異様に軽過ぎる」

 

「とりあえず・・・・・分からないことだらけだ。

何か分かるようなものがあるはずだ。歩かないか?」

 

「どこにだよ?辺り一帯草原と森林しか見えなかったぞ」

 

「それは賛同するけど」と付け加える。ヴァンから離れ、

オーフィスとクロウ・クルワッハ、羽衣狐に近づく。

 

「おい、三人とも起きろ」

 

「「「・・・・・」」」

 

起きない。・・・・・なら、

 

デ コ ピ ン☆

 

ズビシッ!

 

 

―――数分後―――

 

 

「私たちは何時の間にかお前の中から出ていたとは・・・・・」

 

「ここ、どこ?」

 

「のう、もう少し優しく起こしてほしいかったのじゃが・・・・・・」

 

額から煙を立ち昇らせるオーフィスとクロウ・クルワッハ、羽衣狐。

四人で協力してゾラードたちも起こしたら、相談し合う。

 

『不思議な場所だ。なんというか、懐かしいと感じる』

 

『ああ、この場所は来たことないのに、我も感じる』

 

『別の世界・・・・・なのでしょうか?』

 

別の世界・・・・・もしや、異世界だというのか?

俺たち、知らない間に異世界に来てしまったというのか?

 

『にしても・・・・・サマエルとやらがいるのはどうしてなのですか?』

 

「知らない。俺も実際に驚いている」

 

一応・・・・・あのドラゴンも起こしたんだけど、俺たちから距離を置いて佇んでいる。

様子を窺っているのは良く分かる。

 

『アレのことは放っておけ。いまはどうして俺たちがここにいるのかだ。

兵藤一誠が毒と呪いに侵されて絶命するはずだったのに拘わらずピンピンしているしな』

 

「それこそ俺が知りたいって」

 

嘆息して天を仰ぐ。悩む俺たちにただ覆うように広がる空―――。

 

ヒュゥゥゥゥゥゥ・・・・・・ッ

 

「・・・・・・ん?」

 

何か、落ちてくる・・・・・?怪訝に目を細めてジッと見つめると―――声が聞こえてきた。

 

「う、うわあああああ!ど、どいてくださぁあああああああああああああああああい!」

 

「へ?」

 

一拍して、俺たちの間に何かが轟音と共に落下した。思わず顔で腕を覆って後方に下がった。

 

「・・・・・なんだ?」

 

俺たち以外にも誰かがいたのか?土煙が止むまで見据えると、ムクリとそれは起き上がった。

 

「あたたた・・・・・もう、あのバカ龍!私を縛って大砲に突っ込めて飛ばすなんて・・・・!

帰ったら覚えていなさいよ!」

 

『『『『『・・・・・・』』』』』

 

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

突然現れて早々、誰かに対して愚痴を言う謎の人物・・・・・いや、

頭から角を生やしているぞ。人と言うべき存在か・・・・・?

その存在はすぐに俺たちに振り向く。

 

「あっ、すいません。みっともないところを見せてしまって。私はメイドのウリュウと申します」

 

「・・・・・メイド?」

 

良く見れば・・・・・確かに従者が身につけるような服を着ていた。

頭にカチューシャもつけている。

 

「はい、あなたは兵藤一誠さまですね?お待ちしておりました」

 

「お待ちしておりました?俺を待っていたのか?

いや・・・・・ここに来ることを事前に知っていたような言い方だな」

 

俺が尋ねれば、ウリュウというメイドはコクリと頷いた。

 

「良くお気付きに。はい、そうなんです。あなたとドラゴンたちは私たちの長が招いたんです。

そこにいる堕天使はついでですが」

 

「ついでかよ!?」

 

ヴァンが食って掛かった。私たち(・・・)()ね・・・・・。

どうやら町があるようだな。

 

「あなた方はいま、どうしてここにいるのか、

それを知るためには私たちが住んでいる城に赴いてくれれば分かります」

 

「・・・・・拒否する権利はなさそうだな」

 

「長があなたとお会いしたがっております。

仮に抵抗するならば―――強硬手段を取らせてもらいます」

 

そう言ったウリュウが光に包まれた。どんどん光が大きくなり、やがて消失した。

 

「な・・・・・に?」

 

『私たち龍の長があなたを招いたのです。私と共に来てください』

 

俺の目の前に、ウリュウが龍と化となった。・・・・・どうやら、

俺たちは別の世界に召喚されたようだ。

 

「イッセー」

 

「・・・・・拒否するつもりもないが、また疑問が湧いた。ああ、龍の長とやらに会おう。

でも、一つ良いか?」

 

『なんでしょう?』

 

「あいつもいいか?」

 

距離を置いているサマエルに視線を向ける。

 

『・・・・・ドラゴンに対する悪意を持つドラゴンに長と会わせる訳には参りません』

 

厳しい目で言われちゃったぜ。・・・・・しょうがない。こうするか。

 

「サマエル!お前も来い!」

 

『ちょっ!?』

 

俺の言動にウリュウが目を見開いた。

 

『あなたはあのドラゴンの呪いによって命を落としそうになったのですよ!?

それなのにどうしてあのドラゴンまで連れて行こうとするのですか!』

 

「それなら、どうしてあいつまでここにいるんだよ?

龍の長とやらがあいつも呼びだしたんだろう?じゃなきゃ、サマエルはここにいない。

それに俺が何も考えないで連れて行こうと思っているのか?

―――メリア、サマエルに結界を張ってくれ。ああ、包む感じで」

 

『わかりました』

 

メリアが目を煌めかす。サマエルを包むように金色の膜ができて、

本人の意思と関係なく俺たちのもとに来た。

 

「これなら、龍の長に被害は出ないはずだ。本人が大人しくしていればの話しだけどな」

 

『・・・・・・』

 

ウリュウは目を細めて俺を睨むように見詰めてくる。

 

『・・・・・やはり、あなたは物凄く変わっている人間ですね』

 

「おい、俺のどこが変わっているんだよ」

 

『いえ、こちらの話です。ですが、龍の長があなたに意識を向けるのが

良く分かった気がします』

 

なんのことだよ・・・・・。龍の長とやらにすら会ったことがないのにさ。

 

『では、私についてきてください』

 

翼を力強く羽ばたかせ、ウリュウは空を飛翔する。

ゾラードの頭にオーフィスと羽衣狐と乗り移り、俺たちはウリュウの後を追った―――。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ドラゴンとウィザードの交響曲
Episode1


 

ウリュウというドラゴンのメイドの後を追ってしばらく時が経った頃。

俺たちの目にとある光景が飛び込んできた。

―――大自然に囲まれている多くの建造物が目に映った。

 

それだけじゃない。ピラミッドのように高い山の上空に幾重の輪っか浮かんでいた。

あれは一体何だ?

 

「なあ、クロウ・クルワッハ。こんな場所来たことあるか?」

 

「いや、私も初めてだ」

 

誰も知らない場所。未知なる世界に召喚された俺たちは真っ直ぐウリュウの後を追うと、

向こうから数匹のドラゴンが現れた。そして、俺たちを囲むように飛ぶ。

・・・・・警戒されているし。

 

『この者たちは長から生まれた者たちです』

 

「ドラゴンがドラゴンを生む・・・・・?そんなドラゴン、聞いたこともない」

 

『そうでしょう。なにせ、長は世界が生んだ最初の龍なのですから』

 

―――っ!?

 

最初の龍・・・・・まさか、本当に実在していたのか?

 

「原始龍・・・・・」

 

『知っていたのですか?』

 

ウリュウが尋ねてきた。それは意外とばかりの感じだった。俺も意外だよ。

 

「いや、少し龍はどうやって誕生しているのか話題になったんだよ。

そこで挙がったのはドラゴンの始祖、原始の龍ってやつだ」

 

アザゼルとの話を思い出しながら言った。するとウリュウが顔をこっちに向けてきた。

 

『なるほど・・・・・あなたはやはり特別な存在ですね。

そこまで考えに至るなんて嬉しい限りです』

 

なんだか、好感度が上がっているような・・・・・。

 

『ええ、あなたの言う通り。グレートレッド、オーフィスも龍の長の力で生まれたドラゴン。

次元の狭間で生まれたのはきっかけに過ぎません。

いえ、全てのドラゴンは龍の長から生まれたのですよ。例え、生まれ方が違ってもです』

 

『親がいるなんて・・・・・変な感覚だ』

 

『いえ、親ではありません。龍を生みだすシステム・・・・・だと思ってください』

 

システム・・・・・。原始の龍は世界が生んだシステムだというのか?

 

『話はここまでです。話は長と対面してからにしましょう』

 

そう言って、ウリュウはスピードを上げた。向かう先は山の頂上に浮かぶ幾重の輪っか。

あっという間に山に辿り着いてウリュウが空に上昇する。

―――輪っかを潜って進むように上昇すると神秘な光に包まれ、

俺たちは転移魔法で移動する感覚を覚えて、視界が光に奪われた。

 

―――――。

 

光は一瞬で消え、視界が回復すると神殿を模した何本も立ち並んでいる石柱が―――。

 

ゴォォォォォォォンッ!

 

ゾラードと共にぶつかった。

 

『・・・・・』

 

『あっ、すいません!出るときは柱に気を付けてと言い忘れていました!』

 

『・・・・・それを早く言って欲しかったものだな・・・・・』

 

ついでに言えば、俺たちもモロに直撃したぞ・・・・・。

なんのコントだよ、これ・・・・・。タンコブできちゃいねぇだろうな?

 

「一誠、大丈夫か?」

 

クロウ・クルワッハが尋ねてきた。目の前の柱に気付いてかわしていたようだ。

 

「ウリュウを一発ぶん殴りたい」

 

『本当にごめんなさい!』

 

ペコペコと頭を何度も上下に振るウリュウ。―――ちょっと待ってよ?

 

「ゾラード、どいた方が良いぞ」

 

『わかった』

 

俺の言う通りにどいたゾラードの隣で、

 

ゴゴゴンッ!

 

柱の存在に知らないメリアたちも柱にぶつかった。

 

『いってぇぇぇっ!?』

 

『なんだよ・・・・・どうして目の前に・・・・・柱がある・・・・・!?』

 

『解せん・・・・・』

 

『・・・・・なんという出迎え方なんでしょうか・・・・・』

 

いや、メリア。こんな出迎えは流石にないって。

 

『ご、ごめんなさぁぁぁぁいっ!』

 

案の定、ウリュウが謝りだした。

必死にメリアたちに謝り気を取り直して龍の長のもとへ歩きだした。

俺達が出てきたところは光のワープみたいで、今でも外と繋がっているらしい。

 

そして、何と言っても俺たちがいる神殿のような場所はとてつもなく広い。

東京ドーム何個分という広さじゃない。全長百メートルはあるガイアでも床と天井の高さが

余るほどだ。多分、ミドガルズオルムがいても余裕かもしれない。

 

「なぁ、ここにいるドラゴンってどのぐらいいるんだ?」

 

『千はいます。ですが、私たちがいるこの世界にいる全てのドラゴンを合わせれば、

一万は存在しております』

 

「い、一万・・・・・」

 

多いけど、なんか微妙な数。

 

『太古はもっといました。ですが、人間界に八割の龍が移り住んでしまい、

その半数以上が龍族以外の存在に退治、封印、滅ぼされました』

 

「・・・・・」

 

『長もそれには憂いておりました。嘆いておりました。確かに龍は力の塊でプライドが高い生物。

人間など下等生物だと見下しているドラゴンもいました。

ですが、特異で異質で、人間とは思えない力を持った人間たちが次々と龍を倒してしまい、

私たちは考えを改めました。下手に人間を刺激すれば、しっぺ返しが来ると察し、

人間界との干渉を拒み、私たち龍族はこうして異界に籠って暮らしております』

 

ですが、とウリュウは言い続ける。

 

『そんなある時に、複数のドラゴンと接している人間がいると長が告げました。

本来、ドラゴンは人間と接触をしないのです。例え、接触すればドラゴンが人間を食らうか、

人間によって倒されるかの選択しかなかった。

なのに、その人間はあろうことかドラゴンと共に暮らしておるではありませんか。

その上、絶対に人間と暮らすなんてあり得ないドラゴンたちと。

長と共に私は驚愕しました。この人間は他の人間と全く違うと』

 

それは・・・・・もしかしなくても俺だろうな。・・・・・覗かれていたし。

 

『とても、嬉しそうに、楽しそうに、幸せそうな生活でした。

そ、そして・・・・・よ、夜の営みも・・・・・』

 

・・・・・プライバシーの侵害じゃないか。半眼でウリュウを見据えていたら、

申し訳なさそうに頭を下げてきた。

 

『す、すいません・・・・・。あなたのことは一部始終全て見ていたもので・・・・・』

 

「ふふっ、ならば・・・・・一誠の逞しいアレも覗いていたのだな?」

 

『・・・・・っ』

 

クロウ・クルワッハが意地の悪い笑みを浮かべてそう言ったら、

ウリュウが顔を思いっきり横に逸らした。

 

『み、見てなんか・・・・・』

 

「なんなら、お前も一誠と交尾をしたらどうだ?

―――快感を物凄く感じるぞ?私はもう病み付きになったがな」

 

ウリュウの顔が真っ赤になった。

 

『は、破廉恥です!あなた、最強の邪龍と称されているのにどうして

そんなことを言うようになってしまったのですか!?』

 

「ふっ、一誠から感じる愛ゆえに・・・・・だな」

 

俺に振り向く。徐に顔を近づけて―――。

 

「だから、こんなこともできるのだ」

 

俺の唇にクロウ・クルワッハの唇と重なった。

 

『―――っ!?』

 

「イッセー、我もする」

 

「当然、妾もじゃ」

 

オーフィスと羽衣狐までもがキスをしようとせがんできた。

 

『ド、ドラゴンと人間がキ、キスをし合って愛情表現をするなんて・・・・・!』

 

ウリュウは信じられないと呟く。やっぱり変なのか?

と、そうこうしている内に違う場所に入った―――。

 

『イェーアッ!お前ら、のっているかぁぁっー!?』

 

『『『『『『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』』』』』』

 

『イイねイイね!熱く燃え上がっているぜお前らぁっ!

そんじゃ、「情熱のドラゴンブレス!」を歌う!俺たちと一緒に盛り上がれよぉっ!』

 

ズザーッ!

 

ウリュウが床に滑った。その原因がまるでバンドをしている人たちと、

それを観たいがため集まった観客たちと思わせるドラゴンたちがいたからだ。

ご丁寧に、ステージまで設けていてドラゴンなのにバンドで使う楽器を扱っている。

 

『な、なんだ・・・・・こいつらは?』

 

『ドラゴンが歌を歌っている・・・・・?』

 

『ひ、非常識です・・・・・』

 

『変わっている・・・・・』

 

アジ・ダハーカたちが呆然としている。

うん、違う部屋に入ってこんな光景だったら誰だってそんな感じになるって絶対にさ。

で、ウリュウさん。これは一体なんなんだ?そう思いながらウリュウに視線を向ければ―――。

 

『神聖な場所でなにやっちゃってんですか、アンタらはーっ!』

 

ゴウッ!とウリュウの口内から巨大な火炎球が飛び出してきて、

バンドしているドラゴンたちとそれを観ているドラゴンたちに直撃し、轟音を鳴り響かせた。

おおう、強力だな・・・・・。

 

『あなたたち!後できつーいお説教をします!私が戻ってくるまでここにいなさい!』

 

『おい、聞いていないぞ』

 

ティアの言う通り。ドラゴンたちが気絶していた。

たったの一撃で多くのドラゴンたちを無効化にするなんて・・・・・とんでもない強さの

ドラゴンだな。ウリュウが歩きだす。

俺たちも続いてあることしばらく。色んな空間を通って。

ようやく目的のらしき扉の前に辿り着いた。

 

『えっと、色々とありましたがこの奥に長がおります。ここから先はあなたたちが入ってください。申し訳ございませんが、私は先程のバカ共のお説教をしに行きます』

 

「お、おう・・・・・程々にな」

 

そう言ってみたものの、プンスカプンスカと口から愚痴を言い続け、

俺たちから離れてしまったウリュウを尻目に扉に触れた。

 

ガゴンッ!

 

人の手では開けれないと思っていた扉が勝手に開いた。さ

て・・・・・長とやらは一体どんなドラゴンなんだろうか。緊張と興味を感じつつ、

視界を真っ直ぐ前に向けると―――。

 

「はぁ・・・・・コタツは良いものですねぇ・・・・・」

 

『『『『『・・・・・』』』』』

 

「「「「・・・・・」」」」

 

まだ寒い季節でもないのに、顔だけ出してコタツに入っている翡翠色の角を生やした女性がいた。

あのヒトが・・・・・長?

 

「・・・・・え?」

 

あっ、こっちに気が付いた。―――次の瞬間だった。

 

「い、何時の間にいらしたんですか!?って、痛っ!熱っ!?」

 

慌てて起き上がろうとしたが失敗した。体がコタツとぶつかって、

熱を発せる部品と接触したようで悲鳴を上げた。

 

「あれが・・・・・龍の長だと・・・・・?」

 

『まるっきり、人間染みたドラゴンじゃないか・・・・・』

 

『私が想像していたイメージとまるで違います』

 

呆然としている俺たちを余所に、女性は慌てて魔方陣を展開して、コタツを片付け、

この空間の奥に設けてある長の象徴ともいうべき椅子へ物凄い速さで向かって座った。

 

「よ、ようこそ・・・・・・」

 

「口の端に、涎がついているぞ」

 

「っ!?」

 

俺の指摘に女性はゴシゴシと袖で拭いた。

それから何事もなかったかのようにニッコリと笑みを浮かべた。

 

「ようこそ、お待ちしておりました。私はドラゴンの長と呼ばれているモノです。

以御お見知りおきを」

 

そう言われても・・・・・さっきの言動で威厳も何も貫禄もなくなっているし・・・・・。

何とも言えない雰囲気が俺たちを包み、訝しんだり、怪訝な面持で無言を貫いていると、

 

「そ、そんな目で見ないでください・・・・・私、かなり寒がりなのですから」

 

原始龍が恥ずかしい風に言う。―――寒がり!?ドラゴンの長が寒がり!?

一体全体、何の設定だ!?こほんと原始龍が、場の空気を振り払うように咳を一つし、

真っ直ぐ俺たちに目を向ける。

 

「兵藤一誠、こちらに来てください」

 

「俺?」

 

なんだろう、と思いながらゾラードから降りて原始龍に近づく。

 

「話をする前にあなたの中に封印されているものを解放しましょう」

 

「封印されている?俺、そんなこと知らないぞ?」

 

それに何時そんなことを気付いたんだ?

 

「瞬きをするように私は世界中に存在しているドラゴンの居場所を把握できるのです。

無論、封印されている場所さえも」

 

「・・・流石は原始龍というだけあるのか」

 

「ふふっ、私の本来の名前を知っていたとは、

兵藤一誠・・・あなたはドラゴンに好かれる魅力があるのは間違いないですね」

 

彼女も立ち上がって俺に近づく。俺と目と鼻の先に近づければ、徐に手を胸に触れてくる。

 

「・・・・・なるほど、強力な封印式。ですが―――人間の封印式など脆いほどない」

 

そう言った瞬間、彼女の手が水の中に手を入れるような感じで、俺の胸に沈んでいく。

 

「出てきなさい。今日からあなたも自由の身です」

 

刹那―――。俺の中がバギンッ!と音がした。―――俺の全身から禍々しいオーラが迸った。

 

『っ!?おい、この龍の波動は・・・・・・』

 

「ああ、まさか・・・・・こんな形で再開するとはな」

 

『何の話しだ?』

 

『前に話していた龍を覚えているな?―――そいつがどうやらあいつの中にいたようだ』

 

後で何やらアジ・ダハーカたちが話をし出した。

カッ!と俺を中心に―――龍門(ドラゴン・ゲート)が開いた。

そしたらどうだ、その魔方陣から巨大なドラゴンがゆっくりと姿を現した。

 

『―――ふぁあああああ・・・・・・よーく寝たな・・・・・・・』

 

「―――――っ!?」

 

背中に赤黒い輪後光、肩や腕、太ももにも赤黒い輪後光が二重にあって体は尾と繋がっている

感じだった。そして、背中から突起のようなものが二つあり、四対八枚の翼に黒が赤に浸

食された感じで入り混じっていた。手首と足の甲に鋭利な刃物状な物が生えており、

頭部に鋭い一本の角にも赤黒い二つの輪後光がある。

胸に何やら赤い宝玉のようなものもあった。

 

「(こんなドラゴンが俺の中に封印されていたというのか・・・・・!)」

 

『「魔煌の絶禍龍(カオス・ブレイカー・ドラゴン)」ネメシス。久しいな』

 

『・・・・・?ああ、アジ・ダハーカか・・・・・ん?

クロウ・クルワッハもいてアポプスもいる・・・・・久し振りだな』

 

魔煌の絶禍龍(カオス・ブレイカー・ドラゴン)」ネメシス?それがこのドラゴンの名か。

 

『驚いた。まさかお前が兵藤一誠の中に封印されていたとはな』

 

『・・・・・ああ、あの時、不覚にも人間に封印されてしまったんだ。

そっちはどうして三匹揃っているのさ?当時、バラバラでいただろう』

 

『クロウは違うが俺たちもお前と似たものさ。

が、そこにいる人間を気に入って力を貸していれば、何の因果か知らんが邪龍の筆頭格が

こうも揃った。さらに無限の体現者のオーフィスもいるぞ。最強の龍王、ティアマットもだ』

 

愉快そうに口の端を吊り上げるアジ・ダハーカの言葉にネメシスは周囲を改めて見渡した。

 

『あー、会ったことないが、なんとなくそんな感じのドラゴンがいるな。

名前だけは聞いたことある』

 

―――メリアとゾラードを見てそう言ったネメシス。本当に知らないようだ。あのドラゴンは。

 

「いや、ネメシス。その二匹は違う。青い身体のドラゴンがティアマット、

兵藤一誠の方に乗っかっている人間の少女の姿をしているのがオーフィスだ」

 

『・・・・・そうなのか?・・・・・まあ、どうでもいいな』

 

あらま、興味が伏せた様子だ。

 

「さて、封印を解いたことです。次は―――オーフィス、あなたの力も回復させましょう」

 

「我はいま、人間と同じぐらい弱い。できる?」

 

「私は力こそ皆無ですが、龍を生みだすシステムのような存在です。

あなたのデータともいえる力の情報を書き変えることは造作もないのです」

 

今度はオーフィスの頭に手を置いた。少しして、オーフィスから何時も感じていた力とオーラが

出てきた。さっきまで普通の人間とは変わりなかったのに・・・・・。

 

「ん、戻った。ありがとう」

 

「ふふっ、ちゃんとお礼を言えるように成長しているのですね。いえ、変質と言うべきですか」

 

新たなドラゴンの出現とオーフィスの復活。原始龍・・・・・ドラゴンに関すると本当に凄い。

 

「では、本題に入りましょう。兵藤一誠、あなたがサマエルの毒と呪いによって

命を落としそうになったところを魂だけ抜きだして、

あなたを思念体としてこの世界に召喚させてもらいました。あなたと話しをするために」

 

「生きているけど死んでいるって感じで解釈しても?」

 

「構いません。立ち話も何ですから席についてお話しましょう。無論、あなた方もです」

 

原始龍がアジ・ダハーカたちに腕を突き出した。

すると、あいつらの体が光に包まれて見る見るうちに小さくなった。―――って、えっ?

 

「・・・・・侮れんな。あれだけの動作で俺たちを人の姿に変えさせるとは」

 

「原始龍、龍を生みだす龍・・・・・」

 

「その名に恥じない凄まじい龍だな」

 

・・・・・皆、クロウ・クルワッハのように人の姿となっていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode2

 

 

原始龍が俺たちをこの世界に招いた理由は俺たちと話をするため。

基本的、話すのは俺とオーフィスたちの私生活とお互いの気持ちや今後についてのことだった。

その間、興味深そうに訊いたと思えば、笑ったり、驚いたり、苦笑いを浮かべた。

大体の話を終えた頃に―――。

 

「原始龍さま、失礼します」

 

俺たちをここに招いたウリュウ(メイドバージョン)が現れた。

 

「遅かったじゃありませんか。何をしておられていたのです?」

 

「ええ・・・・・ちょっとバカ共のお説教です」

 

嘆息するウリュウに原始龍は苦笑を浮かべるだけだった。

 

「程々にしたのですね?」

 

「ええ、程々に」

 

「ならば、よろしい」

 

それだけで話は終わった。

 

「兵藤一誠、突然ながら申します。あなたはこの世界に棲んでみませんか?」

 

「・・・・・なんだと?」

 

ジッと俺を見詰める原始龍。

 

「私は世界に存在する人間界や異界にいる全てのドラゴンを見ていました。

そんな一匹の真紅の龍に接する子供を見たときには驚きました。

その龍もどんな気持ちでその子供を鍛え、共に暮らしていたのか私は分かりません」

 

その子供って俺だよな。ウリュウからもそんなことも言っていたし。

 

「ですから、私はとても興味を抱きました。龍と暮らす人間を。

・・・・・後に他にも龍が子供を鍛えていることも知って驚きましたが」

 

ん?俺以外にもそんな境遇の奴がいたとは・・・・・会ってみたいな。

 

「あなたは確かに他の人間、異種族とは違う。

龍の長として、龍に好かれるあなたといつかこうして話しをしてみたかったのです。

そして、それが叶い、あなたに集まる龍の気持ちはよく分かりました。

良い意味でも悪い意味でもとても純粋な人間であることを。

だから、邪龍もあなたを気に入るわけですね。オーフィスも然り、グレートレッドも然り」

 

「・・・・・」

 

「そして、あなたはサマエルまで手を差し伸べる。

どうしてなのですか?利用されていたとはいえ、あなたを亡き者にまで追い込んだドラゴンです。

普通なら、再び冥府に封印してもらうべきだと私は思います」

 

龍の長として龍に悪意を向ける龍は危険、

ウリュウの言った言葉は全ドラゴンの代表的な言葉なんだろう。

原始龍もドラゴンに対する想いやりはとても凄い。

流石に龍至高主義者ってわけじゃないらしいが、それに近い感情を抱いている。

 

「まあ・・・・・何て言うか、あいつの呪いを受けて分かったんだ」

 

「分かった・・・?」

 

「戦いながらだけど、アザゼルがサマエルのことを話していたのを聞こえた。

神に怒られて自業自得だろうけど、純粋に可哀想だと思った。同情じゃない、憐れみでもない。

ただ、可哀想だとそう思った。もう古の話なんだ。そろそろ、許しても良いんじゃないかって」

 

サマエルに振り向く。変わらず金色の膜に覆われている。

 

「でも、サマエルのおかげでこうして人間が多く生まれたんだと思う。

だから俺も存在しているわけだ」

 

「・・・・・」

 

「例え、邪龍でも、最悪な龍でも俺は受け入れる。

例え、その行為が周りに恐れ戦かれ、恐怖の対象者となっても」

 

正直な感想を言った。原始龍はしばらく無言で俺を見詰めていたら、徐に溜息を吐いた。

 

「・・・・・あなたの気持ちはよく分かりました」

 

「感想は?」

 

「本当に良い意味でも悪い意味でも純粋な人間です。あなたは・・・・・」

 

・・・・・なんか、原始龍の瞳が潤っているような気が・・・・・。

 

「ですが、それがあなたの、兵藤一誠の魅力なんですね。わかりました。

―――ウリュウ、あの剣をここに」

 

「・・・・・あの剣をですか?」

 

驚愕と目を丸くするウリュウ。剣?

 

「ええ、彼なら託せるに値する人間です」

 

「・・・・・分かりました」

 

ウリュウが転移魔方陣で姿を消した。

 

「剣ってなんだ?」

 

「プレゼント、のようなものです。本来、人間が持つのに宝の持ち腐れというほど剣を

あなたに授けます。私、原始龍とあなた、兵藤一誠の親愛と友好の印として」

 

カッ!

 

「お持ちしました」

 

ウリュウが再び魔方陣を介して現れた。変わっているといえば、両手で持っている大剣だった。

宇宙にいると思わせる程の常闇に星の輝きをする宝玉が柄から剣先まで埋め込まれてあり、

刃の部分は白銀を輝かせ至る所に不思議な文様が浮かんでいる金色の大剣。

 

「これがあなたに授ける剣、『封龍剣「神滅龍一門」』です」

 

封龍剣『神滅龍一門』・・・・・。

 

「受け取ってくれますね。龍に愛されし人間よ」

 

そう言う原始龍。俺は・・・・・席から立ち上がって頭を下げた。

 

「謹んで、貰い受けます」

 

「では、受け取りなさい。あなたにはその資格がある」

 

ウリュウが大剣を持ってくる。

 

「はい、どうぞ」

 

「ああ」

 

ガチャリと大剣の柄を握ぎ―――。

 

スカッ・・・・・。

 

「・・・・・?」

 

スカッ、スカッ・・・・・。

 

「・・・・・」

 

柄が握れない・・・・・そう言えば、俺って思念体なんだっけ?

でも、握れるような感じだったんだけど。

 

「あっ、ごめんなさい。魂の状態では掴めなかったですね。

座ることができても物を掴むことはできません」

 

「おい」

 

あっけらかんに言うウリュウ。ギロリと「こいつまたか」と瞳に籠めて睨んだら、

涙目になったウリュウをよそに、原始龍がクスクスと笑いを零す。

 

「ふふっ、面白いです。っと、話が大分反れましたが、どうですか?

この世界に棲んでみませんか?衣食住は私が保証します」

 

「・・・・・あー、その申し出は嬉しんだけど、こうして魂の状態でも生きているんなら、

皆のところに帰りたい。ガイア・・・・・彼女が、皆がいる場所へ」

 

バツ悪そうに申し訳なさそうに拒否した。

でも、原始龍は俺の答えを分かっていたかのように笑みを浮かべていた。

 

「ええ、そうでしょうね。あなたは『家族』のもとに帰るべきだと思います」

 

「あっさりとしているんだな」

 

「あなたは最初で最後の真龍と龍神とともに生きる唯一無二の人間。私はあなたたちの私生活を

ここから見させてもらいます。それが、今の私の楽しみですからね」

 

プライバシーの侵害だ!それ、絶対にプライバシーの侵害だって!

 

「ですが、その前に一つだけして欲しいことがあります」

 

「なんだ?して欲しいことって」

 

「―――ハルケギニア、という国をご存じですか?」

 

ハルケギニア・・・・・ってカリンとルイズの故郷だよな。肯定と頷くと原始龍が言う。

 

「あの国にエンシェント・ドラゴンと言うドラゴンが眠りについております。

しかし、そのドラゴンはそう遠くない内に眠りから醒めようとしており、

目覚めてしまったらあの国は、火の海に呑みこまれてしまう。人間界には干渉をしませんが、

ドラゴンが悪意な行動するなんてとても放っておけません」

 

「だから、俺たちがそのドラゴンをどうにかしてほしいというわけか?」

 

「正確に言うと、エンシェント・ドラゴンをこの世界に送りこんで欲しいのです。

龍を生みだす私にとって龍が討伐されることは堪え難い」

 

「でも、どうやってここまで送るんだ?」

 

そう訊くとウリュウが口を開いた。

 

「その封龍剣の宝玉はこの世界の牢獄に繋がっているんです。

ですので、その宝玉にドラゴンの魂を封じ込めれば自動的に牢獄へ送られるのです」

 

「へぇ・・・・・そうなんだ」

 

「使い方は後ほど説明します」

 

「分かった。それじゃ、エンシェント・ドラゴンを封印しよう。俺たちを助けてくれた恩もある」

 

「ありがとうございます」

 

原始龍が頭を下げる。でも、問題が一つ。

 

「俺、肉体が無いんだけど」

 

「安心してください。すでに用意してあります」

 

準備が早いな。原始龍は魔方陣を展開した。何時も見慣れている悪魔や堕天使の魔方陣ではない。

龍を模した紋様の魔方陣だった。光が生じ、魔方陣から人間が現れた。

 

「ん?」

 

魔方陣の上に横たわっている人間。でも、俺が想像していたのと違う。

―――俺の目の前に俺が寝ている。が、髪がガイアのように真紅の色だった。

 

「この肉体はグレートレッドがあなたの遺体をベースにして再構築したものです」

 

「・・・・・ちょっと待とうか。

それ、用意したというより横から掻っ攫ったの間違いじゃないか?」

 

「ふふっ、さあ、どうでしょう♪」

 

こ、この龍・・・・・腹黒い・・・・・!

今頃、再構築していた肉体がないことにガイアが叫んでいるんじゃないか?

 

「ですが、私は人間の肉体を作る力はありません。

龍を生むシステムなので、どうしても人間で言うクローンを作れません。

グレートレッドがこの肉体を作ってもらわなければ、

あなたを龍に転生させるしか方法がなかった」

 

龍に転生・・・・・次期人王としてできれば人間であり続けたいところだったな。

 

「魔方陣の上に」

 

原始龍に促され、俺は俺の肉体の横に立つ。

 

「始めます。目を閉じていてください」

 

言われた通りに目を閉じた途端、急に意識がなくなったのだった―――。

 

―――○●○―――

 

―――リアスside―――

 

イッセーが死んでもう二週間も過ぎた。そんな時、駒王学園の理事長、

私のお兄さまから全校集会でグラウンドに集まった私たち伝えられた。

 

『駒王学園を再構築し終えた。駒王学園の生徒たちは心残りがないよう、

川神学園の生徒と別れの挨拶をするように』

 

元の学校に戻れる。ようやくあの学校に、町に帰れると歓喜する者がいればようやく

慣れた川神学園と川神市に寂しさを感じる者もいた。私は・・・・・どちらでもない。

イッセーがいない世界なんてもはやどうでもいいのだ。

 

「(イッセー・・・・・)」

 

私はもう一度あなたに会いたい。ただそれだけを何度も願う。

 

―――朱乃side―――

 

「・・・・・」

 

あの事件からもう二週間・・・・・あっという間に時間が過ぎるのですね。

時間ってとても残酷。時が経てば経つほど、人の記憶から亡くなった者に対する感情が薄れ、

記憶の隅に追いやって忘れてしまうものです。

私の恩人であり掛け替えのない大切なヒトがいなくなった。

それが―――とてつもなく、辛い、悲しい。心が虚空のように・・・・・。

今の私は・・・・・ただの生きた屍のよう・・・・・。

 

「イッセー・・・・・」

 

こんな私を支えてくれるのは・・・・・あなたしかいないのよ・・・・・?

私はか弱い女の子だって、あなたは知らないわよね・・・・・。

もっと、もっと早く私がそう言う女の子だって言えば・・・・・。

 

―――小猫side―――

 

先輩は死んでしまった・・・・・。

あのヒトは強いけど無敵じゃない・・・・・そんなことは分かっていたのに、

 

「・・・・・こんなのってないですわ・・・・・。

ようやく、心から敬愛できる殿方のもとに近づけたのに・・・・・」

 

隣に座っているレイヴェルが顔を手で覆って嘆く。私は彼女のように泣けない。だって―――。

 

「・・・・・私はなんとなく覚悟していたよ。

いくらイッセー先輩が強くてもいつか限界がくるかもしれないって」

 

そう、すでに覚悟を決めていたから・・・・・。

 

―――レイヴェルside―――

 

彼女、小猫さんの話を聞き、立ち上がって激昂した。

そんな、そんな簡単に覚悟なんて決めれませんわ!

私は、まだイッセーさまと共にいる日が浅い!だからそんな簡単に覚悟を決めて割りきれません!

 

「・・・・・割り切り過ぎですわよ・・・・・ッ。

私は小猫さんのように強くなれませんわ・・・・・っ!」

 

涙を流しながら小猫さんに食って掛かってしまった。でも、それが今の私の気持ちなのです・・・・・!

小猫さんはいつもの無表情が徐々に崩壊して、震えながら涙を流していきます。

 

「・・・・・私だって・・・・・っ。・・・・・いろいろ、限界だよ!

あの時、何にもできなかったどころか、しなかった私がとても許せなかったもん・・・・・っ!

もっと、もっと私も強かったら・・・・・イッセー先輩を守れていたかもしれない・・・っ!」

 

嗚咽を漏らしながら、小猫さんが制服の袖口で目元を隠しました。

ああ・・・・・彼女も私と同じ気持ちを抱いておったのですね・・・・・。

私、何てことを・・・・・。

 

―――ギャスパーside―――

 

「小猫さん・・・・・ごめんなさい」

 

「・・・・・うぅ、レイヴェル。つらいよぉ、こんなのってないよぉ・・・・・」

 

小猫ちゃんとレイヴェルちゃんが泣いている・・・・・。

こんな時、僕は何もできない。男なのに、二人を慰める言葉が見つかりません・・・・・。

 

「・・・・・僕は、僕はどうすればいいんですか・・・・・?」

 

呟いても僕の質問に答えてくれる人は誰もいない・・・・・。

 

―――木場side―――

 

あの時、同じ場所にいたにも僕は、見ているだけだった。僕は最低だ。

友を見殺しにしたようなものだから。

これでは、僕のために死んでくれた同士たちの時と変わりないじゃないか・・・・・っ。

何にも力がなかったあの時と変わらない・・・・・。同士たちやイッセーくんは同じことをして、

僕だけじゃなく他の皆も守って死んだ。

 

「強くならなければ何にも守れない・・・・・」

 

イッセーくん自身も言っていた。弱いままじゃ、大切なモノを守れない。

なら、強くなるしか無いって。

でも、彼より強大な力によって死んでしまった。

彼が倒されても死ぬなんてことは考えもしなかった。

僕の目標である彼が・・・・・自分の両親に剣を刺された時は一体

どんな気持ちだったのだろうか。

 

「・・・・・誓うよ、イッセーくん」

 

僕は誰よりも強い騎士になる。そう、聖魔騎士(パラディン)になってキミの仇を取ろう―――。

 

―――アーシアside―――

 

「アザゼル先生。お願いがあります」

 

私、アーシア・アルジェントはアザゼル先生に尋ねました。とあるお願いをするためにです。

 

「・・・・・お前一人で俺に尋ねてくるとはな。大体予想できる。

―――『聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』のことだな?」

 

先生の指摘に私は頷きました。

そう、私の神器(セイクリッド・ギア)のことでアザゼル先生にお願いをしに参ったのです。

 

「私の不甲斐なさで兵藤さんの傷が治らず死んでしまいました。

あの時以来、私は悲しくて、悔しくて、あのヒトに申し訳ない気持ちが胸に一杯です」

 

「・・・・・」

 

「また・・・・・あんなことが起きないとは限りません。

ですから・・・・・もう、私の力不足で誰かが死ぬなんて見たくないんです。

―――禁手(バランス・ブレイカー)に至りたいです。お願いします、アザゼル先生。私に力を貸してください」

 

懇願と頭を深々と下げた。どうか、どうか私に力を―――!

 

「・・・・・かなりきつい修行をすることになるが、いいんだな?」

 

「っ!」

 

その言葉は私の願いが届いたと感じました。だから―――。

 

「はい、お願いします!」

 

と、志願しました。

 

―――成神side―――

 

「・・・・・なぁ、ドライグ・・・・・」

 

『なんだ、相棒』

 

「俺・・・・・こんなんでいいのかな」

 

屋上の貯水槽タンクの上で空を見上げていた。あいつが死んでから皆、変わった。

落ち込んでいたり、必死になっていたりしている。俺はどちらでもない。

 

『さぁな。俺は相棒の力を貸すだけだ。

何をするか、行動を起こすのは何時も相棒、お前の意志だ』

 

「オーフィスと邪龍たちは・・・・・死んだのか?」

 

『・・・・・流石に、無限の体現者でも敵わない敵もいるということだろうな』

 

そっか・・・・・最強の龍神さまでも勝てない相手もいるわけか・・・・・。

 

『で、相棒。お前はこれからどうするのだ?』

 

どうするってお前・・・・・敵が来たら倒す。それだけだろう?そして、俺はハーレム王になる!

 

『変わらんな、そう言うところだけは。だが・・・・・ハッキリ言えば、

今のままの相棒ではかなり苦戦を強いられるだろう』

 

じゃあ、どうしろっていうんだ?

 

『あの男、兵藤一誠もいつかだったか言ってたではないか。神器(セイクリッド・ギア)を知れとな。

己の想い次第で神器(セイクリッド・ギア)は応え、進化する。

あの男もそうして強くなっていたはずだ』

 

・・・・・確かに言っていたな。

 

『修行も大事だが、兵藤一誠の言葉にも一理ある。―――「赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)」の

深奥にいる歴代赤龍帝の者たちと接触してみるのも、その一歩だと思うが?』

 

なんか、面白そうに言うな。お前・・・・・。

 

『―――相棒、兵藤一誠がお前に置き土産がある。

気になるなら、意識をこちらに集中して来てみろ』

 

はっ、置き土産だと?あいつ、何時の間にそんなもんを・・・・・。

 

『ゾラードからな。受け取ったんだよ。何の成長もしていないなら、

強くなる「鍵」を渡してやれと兵藤一誠からの伝言だと言われてな』

 

その伝言・・・・・相変わらずムカつく野郎だ!

 

『で、どうする?』

 

・・・・・癪だけどよ。俺、あいつを目標にしていたんだわ。

だから、目標を失ってこれからどうするべきか分からなかった。

 

『・・・・・そうか』

 

でもよ・・・・・。あの世で成長していない俺を見てバカにされていると思うと

腹が立ってしょうがない。どこまで俺のことを弱いままだと思われたくないからな。

 

『ふん、ならば、決まりだな?』

 

ああ・・・・・受け取ってやろうじゃないか。『鍵』を!

そんで、歴代の先輩たちにも会って俺に協力してもらおう!

 

『おう、その意気だ相棒』

 

ドライグが笑った感じがした。なぁ、兵藤。お前は死んだけど、お前は俺のライバルだ。

それぐらいの感情を向けても文句はないよな?

 

―――○●○―――

 

―――一誠side―――

 

「・・・・・」

 

自分の体を確認すること数分。ん、異常なし。問題なし。

 

「逆に前の体より軽くて力が湧く」

 

「グレートレッドの体の一部をあなたの体をベースにして作った肉体。

ですので、少なからず真龍の力も宿っているのですよ。

いまのあなたは小さな真龍・・・・・グレートレッドの子供だと思ってください」

 

「なるほどね・・・・・ガイアの子供か・・・・・」

 

人間じゃなくなっているのは変わりないか。人型ドラゴン・・・・・ということか?

 

「我、不満」

 

隣でオーフィスが頬を膨らませている。何故に?

 

「今のイッセーはガイアの子供。それ、ずるい」

 

「ふふっ、ヤキモチとは可愛いですねオーフィス。

でしたら、あなたの力も彼に注ぎ込めばよろしいのでは?」

 

「・・・・・そうする」

 

ぴょんと俺の方に乗っかったと思えば、

オーフィスから無限の力が流れ込んでくるぅぅぅぅぅっ!?

 

「これで、我の子供でも言える」

 

なんか、満足気に言われているんですが・・・・・。

 

「ですが、龍殺し(ドラゴンスレイヤー)には気を付けてください。

真龍と龍神の力の塊であるあなたは、それが唯一の弱点といえます」

 

「分かった。でも・・・・・俺にはこいつがいるからな」

 

サマエル、こいつを宿したら俺はどうなるのか・・・・・少し緊張するな。

 

「さて、ヴァン。お前の肉体も創造するがいいな?」

 

「ああ、同じ肉体にしてくれ」

 

了解。メリアに頼んでヴァンの肉体を創造してもらった。

完成すれば、ヴァンは無事に自分の肉体に定着して一つとなった。

 

「・・・・・死んで生き返るなんて、思いもしなかった」

 

「俺もだよ」

 

「私は嬉しいぞ?これで子作りができるのだからな」

 

ちょっ、そこ!何言っているんですか!

 

『一蓮托生とか言っちまったけど・・・・・本当、まだまだ付き合いが長くなりそうだな』

 

『ふん、簡単にくたばっては困る』

 

『・・・・・私もこの人間と居ないとダメなのか?』

 

『離れられるとでも思っておりますか?』

 

『今度は滅ぼされると思うが、死んでも良いんだな?』

 

『・・・それだけは勘弁だ・・・・・』

 

と、ドラゴンたちが雑談する。

 

「ふふっ・・・・・楽しそうですね」

 

「まあ、何時もの光景だ」

 

原始龍と微笑む。

 

「ところで、エンシェント・ドラゴンってハルケギニアのどの辺りに眠っている?」

 

「火竜山脈という大きな山の中に眠っています。

その昔、あのドラゴンは一人の魔法使いと四人の使い魔と激しい戦いをしていましたが

決着がつかず、封印という形でエンシェント・ドラゴンを退治しました」

 

「一人の魔法使いと四人の使い魔・・・・・強かったのか?」

 

「そうですね・・・・・現代と比べれば弱い方です」

 

そりゃ、そうだろうさ。和樹たち式森家が魔法使いを代表する魔法使いの家系だし。

どんな魔法を使っていたのか知らないけど、和樹たちの方が凄いに決まっている。

 

「封印・・・・・どんな封印式なんだ?」

 

そう尋ねると、原始龍は魔方陣を展開して―――世界地図を表示した。そして、とある場所に指す。

 

「ハルケギニアにはトリステイン、ガリア、アルビオン、ロマリア、ゲルマニアという国が

存在します。それぞれの国には塔が存在しており、

その塔こそがエンシェント・ドラゴンを封印している鍵なのです。

太古の魔法使いは何を思ったのか、秘宝と財宝をトリステイン、ガリア、ロマリア、

アルビオンに存在する塔に入れ、塔の名をそれぞれの国の名前にダンジョンと付け加え、

名付けました」

 

トリステインダンジョン、ガリアダンジョン、

アルビオンダンジョン、ロマリアダンジョンって名前か?

 

「って、ゲルマニアには秘宝がないのか?」

 

「ないです」

 

ないんかいッ!?

 

「過去幾度もその塔を攻略しようとハルケギニアの人間たちは挑戦しました。

が、全て失敗に終え命を落としました。ダンジョンに侵入したら最後、

攻略できるまで二度と外には出れない最悪の塔なのです」

 

「でも、それなら反っていいんじゃないのか?封印を解けることもないし」

 

「昔ならそうでした。でも、今はどうでしょう?

ダンジョンを攻略できる実力者がいまの世界にいるのですから」

 

「・・・・・なるほどな」

 

人間たちの手によって、とはそういうことか。

 

「兵藤一誠、封印を解かれるのはもはや時間の問題。

ならば、封印をどうにかしようとせず、敢えてエンシェント・ドラゴンを再封印、

こちらの世界に送くってもらった方がお互いのためにもなります。お分かりですね?」

 

「そうだな。だからこの大剣を授けてくれたんだろう?」

 

「親愛と友好の印として、その意味も込めて授けました」

 

どちらにしろ、俺は皆のところへ帰るのはまだ先のようだ。

 

「分かった。んじゃ、ハルケギニアに行こう。さっさと終わらせてな」

 

―――???―――

 

「えーと?蛮人が使い魔を契約するやり方は・・・・・っと」

 

一人の少女が片手に枝らしきものをフルフルと振りまわしながら

本のとあるページを見ながらブツブツと呟いていた。

 

「叔父さまに無理言って頼んで本当に良かったわ!

これでまた蛮人の研究がさらに捗るってものよ!」

 

吊り上がった切れ長の瞳に無造作に切りそろえられた長い金髪。そして、人間より長い耳を

持つ少女が嬉しそうに本に記されている文字を見ながら興味深そうに眺めている。

 

「ふふふっ、もし私が使い魔を召喚したら一体どんなのが来るのかしらね?

んー、できたら蛮人がいいわねぇー。それも、蛮人のことを精通している蛮人を」

 

でもなーと少女は悩む。仮に蛮人を召喚してしまったら自分は間違いなく追放される。

今の生活が出来なくなるのは嫌だが、自分は蛮人を研究する科学者。

もっとよりに蛮人を詳しく知り、調べたいという欲望と欲求がふつふつと沸き上がってくる。

この想いが抑えきれない自分がいることにも自覚している。

 

「・・・・・やってみよう」

 

やらないで後悔するよりはやって後悔した方が良い!少女は片手に枝らしきモノと

もう片手に本を持ってとある呪文を呟きだした。

ま、失敗したらそれはそれでとそんな思いを抱きながら・・・・・。

 

「我が名はルクシャナ。五つの力を司るペンダゴン・・・・・」

 

少女、ルクシャナは召喚呪文を唱え続ける。

集中して呪文を唱え続け―――後半の言葉を紡ぎ出した。

 

「我の運命に従いし『使い魔』を召喚せよ!」

 

呪文が完成した。さらにルクシャナの前方に光のゲートが現れた―――。

 

―――○●○―――

 

カッ!

 

「ん?なんだ?」

 

「これは・・・・・」

 

突如、出現した光。光は虚空で佇み、何かを待っているかのように存在する。

 

「・・・・・どうやら、向こうから出迎えてきたようです」

 

「え?どういうことだ?」

 

「あの光の中に通れば、ハルケギニアに行けます」

 

えっ、なにその好都合な展開は。あっという間じゃん!

 

「すぐに準備を」

 

「・・・分かった。お前ら、中に入ってくれ」

 

『かしこまりました』

 

メリアが返事をし、光の奔流と化となって俺に向かう。ゾラード、クロウ・クルワッハ、

アジ・ダハーカ、アポプス、、ティア、羽衣狐、ネメシス、オーフィス、そして――。

 

「サマエル、お前もだ」

 

金色の膜に包まれたサマエルも俺の中に入ってくる。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ・・・・・問題ない」

 

サマエルの毒が内側から侵されるかと思ったがそうでもなかった。

あいつの意思でそうしているのかどうか定かではない。

 

「では、お気をつけて」

 

「また、この世界に来れるか?」

 

「ええ、エンシェント・ドラゴンをこちらに送ってくれたら自由に行き来できるようにします。

あなたとドラゴンだけですが」

 

「だったら、今度はガイアも連れていく」

 

ヴァンを引き連れ光に足を運ぶ。

 

「行ってきます。原始龍、ウリュウ」

 

「行ってらっしゃい。兵藤一誠」

 

「また、お向かいに行きますからねー!」

 

原始龍とウリュウと挨拶をし、俺は―――ヴァンと光に包まれて視界が奪われていく。

 

「さぁ、旅の始まりだ」

 

「さっさと終わらせて極東の地に帰るぞ」

 

「当然だ。皆が待っている」

 

俺は最後にヴァンと手を繋いで笑んだのだった。

 

―――天界―――

 

「―――ヤハウェさま。これは・・・・・!」

 

「ええ・・・・・間違いないです」

 

「信じられません・・・・・本当に生存していたとは・・・・・」

 

「彼を迎えに行く準備をします」

 

「ヤハウェさま直々に?ここはジョーカーを行かせるべきではないでしょうか?」

 

「あの者をですか?・・・・・良いでしょう、すぐに手配を」

 

「はっ!」

 

「(本当は私が行きたかったのですが・・・・・・仕方がありませんね)」

 

―――devil―――

 

「うひゃひゃひゃ!この城はこの魔王、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーが攻略したぜ☆」

 

「魔王・・・・・っ!」

 

「さぁーて、この城の元王女さま?この弟くんの死を観覧しちゃってちょうだい!」

 

「ま、待って!その子だけは殺さないで!お願い!」

 

「んー?じゃあ、悪魔の俺に代価を払って弟くんを助けちゃうって感動的な展開をしちゃう?」

 

「・・・・・っ」

 

「なーんてね。そんなちっぽけな命なんか欲しくないってばよ!はい、さらば!」

 

ザンッ!

 

「―――――!?」

 

「うひょひょひょひょっ!これでこの城に残っているのは王女さまだけだねぇー?どうする?

その槍で俺と勝負する?のんのん、そんな武器じゃ僕ちゃんに届きません!

なんせ、俺は魔王だからねぇ?正義の味方はもっと強くなってから挑戦しないといけない王道的な

運命が待っているんです!だ・か・ら、王女さまよ?俺を憎いなら、復讐したいなぁーら、

死んだどこかの坊ちゃんのように復讐心を抱いて強くなって、

お祖母ちゃんになるまで生きてみたらどぉー?」

 

「よくもエリオットを・・・・・!」

 

「おおう、良い目をしだしたねぇ?うんうん、そうじゃなきゃ!

それじゃ、またどこかで会おうぜ元王女さま!うひゃひゃのひゃー!」

 

「おのれ、リゼヴィム・リヴァン・ルシファァァアアアアアアアアアッ!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode3

「あれ?失敗?」

 

うーんと唸り首を傾げる私、ルクシャナ。召喚儀式は成功していると確信している。

でも、肝心の召喚される使い魔が光のゲートから一向に現れず、閉じてしまった。

 

「まあ、蛮人と私たち種族とは違いがあるし成功しても不発って可能性も

あるって頃かしらね」

 

もういいやと杖らしきものを放り出して本のページを読むことにした。

ただの興味本位で行った召喚儀式。自分が使い魔を呼んだところで

何をさせようともする気はない。自分の欲求を叶えてくれるのであればそれでいいのだ。

 

ドッボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

「えっ?な、なに?」

 

自分の家の外にある泉に盛大に弾ける・・・・・というより巨大な何かが泉に落ちた音が

長い耳に届いた。ルクシャナは今の音の原因を確かめに外に出た。扉を開いて外に出ると、

まず、直径百メートルほどの大きな泉が目に飛び込んできた。辺りは暗闇に包まれ、泉は

月の光によって照らされていた。泉の水面を見ると波紋が生じていて何かが落ちてきたという

証拠が私の中で確信した。

 

「アリィーじゃないわね・・・・・」

 

自分の婚約者はこんな事をするほど子供ではない。というか、蛮人の研究をしている私に

いい加減に蛮人かぶれは止めろ!と口うるさく言う彼は現在、首都アディールにいる。

 

「・・・・・もしかして」

 

先程していた召喚儀式が脳裏に浮かんだ。

もしかして、成功していた・・・・・?と、心の中で少なからず歓喜したと同時に

興味が沸いた。一体、私はどんなものを召喚したんだろう?

 

ザッパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

不意に、泉から膨大な水しぶきが生じた。私は両腕で顔を覆いなにごと!?

と思いながら水を全身で浴び続ける。激しく泉の水面が波紋を生じるが

しばらくして穏やかになり、顔を覆っていた両腕を解いて空を見上げた。

 

「ぬ、濡れた・・・・・」

 

「なんで出たところが水の真上なんだよ・・・・・」

 

泉の上に浮遊する二人の男女。全身ずぶ濡れで愚痴をこぼしていた。

真紅の長髪の少年に赤と黒が入り混じった女性。

 

「ん?」

 

「っ」

 

少年がこっちに振り向いた。整った容姿、金色の瞳を自分に向けられ、

不覚にもドキッと胸が高まってしまった。

 

「へぇ・・・・・」

 

何か興味を持ったのか、少年がこっちに降りてきた。

内心、ドキドキと緊張していつもの調子が出ない。

 

「ハルケギニアにエルフがいるなんてな」

 

「え、知らないの?」

 

「何がだ?」

 

キョトンと首を傾げる少年にルクシャナはもしかしたら、と思った。

使い魔召喚儀式に応じて呼ばれた目の前の少年が私の使い魔となる存在ではないかと。

気を取り直して説明した。

 

「ここは砂漠(サハラ)と言って、私たちエルフが住んでいる国、ネフテスなの。

ハルケギニアって言うのは蛮人が住んでいる国と町を全部含めて総称した名前なの」

 

「なんだ、ハルケギニアじゃないのか?

まあ、ハルケギニアも砂漠(サハラ)も来たことがないから分からない上に地理に関して疎いんだよな」

 

それが本当にそうならさっきの反応は当然ね。

 

「おい、さっさとハルケギニアに行くぞ」

 

「ああ、そうだな」

 

えっ、もう行ってしまうの!?なんか、色々と気になることがあるわ!

 

「ちょっ、ちょっと待って!」

 

「ん?なんだ」

 

蛮人がこっちに振り向く。せっかく召喚儀式を成功させたんだから目の前の蛮人を逃したら、

色々と手からこぼれて後悔しそうになる!

 

「蛮人の国に行ったことがないなら、行く方向も分からないんじゃない?」

 

「「・・・・・」」

 

私がそう言うと蛮人の二人は顔を見合わせた。

 

「それに、あなたたちは私の召喚儀式で呼ばれた。

だから私の願いに応えてから蛮人の国に行っても遅くはないと思うわ」

 

「・・・・・召喚儀式だと?」

 

蛮人が怪訝な面持ちとなった。

 

「確か・・・・・ハルケギニアって使い魔を召喚する儀式があると言っていたな。

それの類をエルフもしているのか?」

 

「私たちエルフはそんなことしないわよ。

というか、蛮人かぶれなことをしたら私、国から追放されちゃうもん」

 

「しちゃっているじゃないか」

 

鋭い突っ込むをする蛮人ね・・・・・。

 

「大丈夫よ。私が連れ込んだと言って、契約の儀式もしなければ大丈夫だし、

仮にしても黙っていれば問題ないわ」

 

「・・・・・それもそうだな」

 

あら、話が分かる蛮人ね。ちょっと意外。

 

「で、私たちを呼んだ理由はなんだ?」

 

女性が私に尋ねてきた。―――それは勿論、アレに決まっているわ。

もう、さっきから色々と聞きたくて仕方がなくうずうずしてたまらないでいた。

でも、それはもうちょっと先になりそうだ。

 

「私は蛮人を研究している学者なの。だから、蛮人のことを知りたくて召喚儀式をしたのよ。

その儀式にあなたたちが召喚された。だから、私に蛮人のことを教えてちょうだい?

ねぇ、蛮人って一体どんな生活をしているの?どんな食べ物があるの?

どうして悪魔を信仰しているの?住んでいる建物とか他にも色々と聞―――」

 

つい、我慢できなくなって自分の欲求を叶えようとした。

 

「その前に」

 

ピタリと蛮人は私の言葉を遮った。不満そうにな顔をして蛮人を見るが当の本人は

気にせずに口を開いた。

 

「俺たちも目的があって、ハルケギニアに用がある。

そう長くは滞在できないが、それでもいいか?」

 

「目的?」

 

「ん、詳しくは言えないけどハルケギニアにある五つの塔、ダンジョンをに行きたいんだ。

とある目的のために」

 

それって・・・・・悪魔が建てた塔のこと・・・・・?

 

「何をしに行くの?」

 

「悪い、それ以上は言えない。でも迷惑を掛けない。信じてくれ」

 

んー、気になるわねぇ・・・・・。

 

「私たちエルフに迷惑を掛けないって言うならその話、信じるわ。

悪魔は私たちが忌むべき存在ですもの」

 

「悪魔?」

 

「知らないの?悪魔って六千年前に私たちエルフを滅ぼしかけた始祖ブリミルって最悪の悪魔よ」

 

「・・・・・ヴァン、そんな悪魔いたか?」

 

「いや、聞いたことがないな」

 

正確には蛮人だけどね。そんなことも知らないなんて、この蛮人たちは違う国から来たようね。

 

「取り敢えず、夜も遅いし私の家で寝たら?」

 

「いいのか?」

 

「あなたたちを呼んだのは私だもの。最低限のことはするわ」

 

それから―――私の願いを叶えてもらうからね。

 

―――翌日―――

 

「ん・・・・・」

 

声を漏らす。ゆっくりと目蓋を開けてぼんやりと家の天井を見上げた。

 

「・・・・・ん?」

 

私の鼻に香ばしい匂いを感じた。

この家には火を扱う物がないハズなんだけど・・・・・。昨日の蛮人を寝かせた部屋から?

今でも漂う匂いに気になって身体を起こしベッドから降りて隣の部屋に顔を出した。

 

「お、起きたか?」

 

蛮人が私に気付いて声を掛けてきた。テーブルにはなにやら見たことがない料理が

置いてあった。蛮人が作ったのかしら?蛮人の女も起きていた。

 

「朝飯だ。因みに俺が作った」

 

「以外ね?作れるんだ」

 

「俺は料理が好きだからな。だから付いた二つ名は『女泣かせ』だ」

 

「ぷっ、なにそれ?変な二つ名ね?」

 

「まあ、食えば分かるよ」

 

おいでと手を招く彼に近づき用意された椅子へ座る。

 

「「いただきます」」

 

彼と蛮人の女が手を合わせてそう言うと自分が作ったと言う料理を食べ始めた。

私も蛮人を研究する学者なので彼の行動に興味が湧き、真似をした。

 

「いただきます」

 

さてと、と傍にあるレイピアを手にして蛮人が作った料理を―――。

 

バシンッ!

 

「いたっ!?」

 

「おい、誰がレイピアで食えと言った?」

 

蛮人に頭を叩かれた。頭を叩いたものを見れば白く折り重ねた紙を持っていた。

そんなことをする蛮人に不満気に言う。

 

「じゃあ、どうやって食べるのよ?」

 

「箸があるだろう、箸が」

 

「・・・・・これのこと?」

 

テーブルに二つの木の枝が置かれてあった。

その二つの木の枝を手にとって聞けばコクリと蛮人が頷く。

 

「俺のいた国ではそれを使って食べる風習があるんだ。

まあ、他にスプーンやフォーク、ナイフも使うけどな」

 

「へぇ・・・・・どうやって使うの?やっぱり刺すの?」

 

「ああ、こうやって使うんだ」

 

私の傍によって自分が持っている箸の持ち方を見せびらかせる。ふんふん、なるほど・・・・・。

 

カチカチッ

 

「あはっ、できたわ!」

 

「そうそう、そんな感じだ。それで食べてみろ」

 

蛮人は黄色くてふんわりとした料理の一つに指して言った。

その料理をつまんで私は口の中に運んだ。

 

「―――ッ!?」

 

咀嚼した瞬間、今まで食べた事がない感触と味が口の中で広がった。

なに、これ!甘くて美味しい!

 

「美味しいわ!ねえ、これは何て言うの!?」

 

「ああ、卵焼きだ。鶏っていう鳥を知っているか?その鳥が産む卵を使って作れる料理だ」

 

「じゃあ、この茶色のお湯は?」

 

「味噌汁といって、俺の世界・・・・・日本という国が良く飲むものだ」

 

「・・・・・温かい・・・・・それに、美味しいわぁ・・・・・」

 

はぁ・・・・・と味噌汁を飲んでのほほんと堪能した。

その後、彼が作った料理に興味を抱き、あれこれと彼に訊いては料理の味と感触を

楽しんでいった。

 

「「ごちそうさまでした」」

 

「ごちそうさまでした!」

 

元気よく、私は言った。蛮人の料理ってバカにはできないわね!

んー、蛮族の料理って蛮人が作った料理なのかしら?うーん、気になるわ!

 

「そういえば、この家はルクシャナだけ住んでいるのか?」

 

「違うわよ?婚約者と暮らしているわ」

 

「・・・・・俺ら、邪魔じゃないか?」

 

「いいわよ、あなたが気にしなくても大丈夫。それに首都に用があると言って出かけているわ。

数日は帰ってこないもの」

 

「そっか、さて、ルクシャナ」

 

「うん?」

 

「俺の国のことを知りたいか?」

 

「―――知りたいわ!」

 

目をキラキラと輝き始めた。ようやく話を聞けるわ!すぐさまペンと紙を用意して聞く姿勢、

書く姿勢でいれば、

 

「じゃあ、何から説明しようか。リクエストはあるか?」

 

蛮人は尋ねてきた。そうね、色々とあり過ぎるわ。

 

「えーと、うーんと・・・・・それじゃあ―――」

 

私は彼に質問をする。その質問に蛮人は説明し答えていく。

蛮人の女にも聞いて見たらびっくしりた。だって堕天使だもの。

それから私の質問攻めは深夜になっても続いた。途中で夕飯にして中断したけれど、

蛮人の料理に何度も説明を求めた。だって、美味しいんだもの。

 

―――一誠side―――

 

俺がハルケギニアという世界、ルクシャナの家に住んで数日が経った。

毎日毎日、ルクシャナから質問され続け、俺の料理を子供のように楽しみ、

ルクシャナにとって今までにないほどの充実感を感じているそうだ。

 

「それで、そいつらが―――」

 

「へぇ、そうなんだ!」

 

学者として俺から出る言葉を一つも聞き逃さずにレポートしていく。同時に、

俺が住んでいた国は

この国と色々と違うところがあると言うことにさらに好奇心が湧きだす。

何時か、俺の国に行ってみたいと言い出す始末だ・・・・・。

 

「よし、今日はここまでにするわ」

 

「そうか。んー、色々と喋ったなぁー」

 

「ええ、実に興味深いものばかりよ。鉄の塊が地面を走ったり空を飛ぶことができる

乗り物とか、魔法とか精霊は存在するけれどそれは普通の蛮族が知られていないとか、

色々とね?」

 

「お前たちエルフは自分の国から出ようとしないのか?」

 

そう訊くと、首を横に振られた。

 

「蛮人の国ならともかく、遠い国には行けれないわ。移動手段もないし、

違う国はそれぞれ通貨も違うって聞いたしね」

 

「それ以前に、ハルケギニアはどうやら隔離された国らしいな?

私も昔ちらっとした程度で聞いたことがある。他の国と交流しないとか」

 

「そこまでは知らないわ。でも、蛮人のことよ。杖を持たない蛮人と関わりたくないんじゃない?

自分たちが悪魔から授かった奇跡の方が強いとか考えている蛮人は結構多いらしいわよ」

 

うわー、カリン。お前はまともに育ってくれて良かった。ルイズの方はちょっと・・・・・な。

 

「なぁ、そろそろ行かないか?もう、数日は経っているぞ」

 

ヴァンが促してきた。んー、確かにそうだな。そろっと、行った方が良いだろう。

 

「なら、行きましょう」

 

「・・・・・なに?」

 

「だから、あなたの目的である悪魔が作った塔に行きましょうって言っているの。

行き方、知らないんでしょう?案内人が必要だと私は思うの」

 

彼女がが再度言った。まあ、それはどうだが・・・・・。

 

「おい、良いのかよ?特に婚約者」

 

「そうね・・・・・出掛けてくると書き置きでもすれば大丈夫よ」

 

「絶対に探しに来るぞ。お前のことを」

 

「私って愛されているわねー」

 

そう言って椅子から立ち上がり、ルクシャナは自分の部屋に向かった。

 

「・・・・・」

 

自分の部屋に入っていったルクシャナを見て本気だと理解した。いや、嬉しいことは

嬉しいんだけど・・・・・本当に大丈夫か?自由奔放なエルフだ・・・・・。

 

「おい、本当に連れていく気か?」

 

「・・・・・そもそも、俺たちって無一文だよな?」

 

確かめるように言った。ヴァンは押し黙った。

 

「俺、ハルケギニアの言葉分からないけど、ヴァンは分かるか?」

 

「悪魔と同じで、言葉が分かる。それだけなら通訳できるぞ」

 

「そうか、頼もしいな」

 

問題は金銭だな。どっかで売買してくれる店があると―――。

 

「・・・・・ん?」

 

次の瞬間、扉の向こうから―――。

 

バッシャアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

と弾ける音が聞こえた。もしかして、ルクシャナの婚約者が帰ってきたか?外に赴き、

俺は扉を開いた。照りつける日差しが、砂漠の大地を焼いていた。

泉に視線を向けると一匹の竜がいた。

 

さらに桟橋の上を歩く一人のエルフを視界に入った。線の細かい雰囲気の若い男のエルフ。

なるほど、あいつがルクシャナの婚約者のエルフか。

と認知すれば、歩いてくるエルフも一誠の存在に気付き―――不機嫌な表情になった。

 

「おい、どうして蛮人がここにいる」

 

「ルクシャナの婚約者と見て間違いないな?」

 

「ッ!?貴様・・・・・ルクシャナに何かしたのか・・・・・!」

 

腰に携えていた刀剣を素早く抜き放って敵意を向けてくる。・・・・・スキだらけだな。

 

「いやいや、逆だ。俺が世話になっている。お前の婚約者にな」

 

「・・・・・彼女はどこだ、蛮人」

 

「家の中で支度をしているぞ?」

 

支度だと?と、怪訝な表情を浮かべるルクシャナの婚約者。その疑問を解消しようか。

 

「ああ、ハルケギニア―――お前らエルフが言う蛮族の国に案内をしてくれるそうだ」

 

「ルクシャナが案内だと、蛮人が彼女を攫おうとしているんじゃないだろうな」

 

俺はそんなエルフに対して苦笑を浮かべる。

 

「どうしてそんなことしなくてはならない?彼女の意思だ」

 

そう言って踵を返して家の中に戻る。尻目で見ればかなり警戒した面持ちで

ルクシャナの婚約者もついてくる。いざ、あいつが家の中に入ってくれば―――。

 

「あっ、蛮人・・・・・って、アリィー!」

 

「ルクシャナ・・・・・!」

 

「あちゃー、帰って来ちゃったんだ」

 

はぁ、と溜息を吐くルクシャナにアリィーは叫ぶように問いかける。

否、問いかけなければならないと、感じで。

 

「ルクシャナ!どうして蛮人と共にいるんだ!?」

 

「どうしてって・・・・・私が呼んだからよ?」

 

「呼んだ?キミ・・・・・一人で蛮人の世界に行ったと言うのか・・・・・?」

 

「違うわ。呼んだと言うより・・・・・召喚したのよ」

 

自分の婚約者の言葉に理解ができず、怪訝な顔になったアリィー。

ルクシャナはそんな顔をする婚約者にとある本と杖を見せた。

 

「蛮人がどうやって使い魔を召喚するのか知りたくって叔父さまに頼んだのを

知っているわよね?それで、あなたがいない間に私は使い魔の召喚をする儀式をしてみたの」

 

「・・・・・まさか・・・・・」

 

「そう、儀式が成功したの。この蛮人たちが私の願いに応じて召喚魔法から現れたのよ」

 

「泉の上、だけどな」

 

ヴァンが突っ込んだ。ルクシャナの言葉にアリィーは声を失った。

自分の婚約者の気持ちを露知らず、ルクシャナは語る。

 

「しかもね!この蛮人、この世界とは違う国から来たんだって!私、彼から色々と教えて

もらったけれど凄く興味深い話ばかりだったわ!アリィーでも信じられないと言うと

思うことが一杯よ!それに。蛮人が作る料理ってすっごく美味しいの!

タマゴヤキとかミソシルとかナットーとか色々!」

 

あー、瞳がキラキラと輝いているよ。それよりもだ。

 

「というか、本当に良いのか?」

 

「・・・・・どういうことだ?」

 

アリィーは訝しんだ。ルクシャナに何が良いのか、分からないようだ。

 

「いや、そろそろ彼女とハルケギニアに行こうと言ったらルクシャナが・・・・・」

 

「私も蛮人たちと一緒に蛮族の世界へ案内しようと決めたのよ。

まあ、途中まで私も分からないけど」

 

「なっ!?」

 

ルクシャナの答えに、アリィーは彼女の足元を改めて見れば大きな鞄があった。

彼女は本当に行く気なのだとアリィーは気付いたようで。顔を青ざめて彼女に食って掛かった。

 

「お、おい!?ルクシャナ!どうして君までも蛮人の世界に行くと言うんだ!

蛮人たちと一緒に行く気なんて正気か!?」

 

「だって、アリィーは反対するでしょ?私と一緒に蛮人の世界に行くって」

 

「絶対に嫌だ!」

 

「そう言うと思ったわ」

 

やれやれと両手を広げた。それを見た途端にアリィーが激昂する。

 

「その仕草はなんだ!蛮人のジェスチャーじゃないか!」

 

「そうよ?彼に教わったの。本当に色々と教えてもらったわ!」

 

ルクシャナは嬉しそうに笑み、対してアリィーは

「ルクシャナに余計な事を」と敵意と殺意を瞳に込めて俺を睨んできた。

 

「貴様・・・・・!」

 

腰に携えていた短剣を手にした瞬間。ルクシャナが俺とアリィーの間に割って入った。

 

「ダメよ、この蛮人は私のものなんだから。私の研究をさらに捗らせてくれた

貴重な存在なんだから殺させないわよ」

 

・・・・・いつ、俺はお前のものになったんだ。

 

「ルクシャナ!」

 

「いやよ!」

 

「・・・・・何も言っていないんだが」

 

「どうせ、蛮人と一緒に行くなー!って言いたいんでしょ?

でも、私は行くわ。アリィーも一緒に来てくれば嬉しいけど、嫌なんでしょう?」

 

「誰が好き好んで蛮人の国に行くか!」

 

「ほらね?」と呆れ顔で言い続ける。

 

「私は彼らを召喚した責任があるの。その責任を果たしたいだけ。それでもダメなの?」

 

「キミが一緒に行かなくても、適当に道を教えればそれでいいじゃないか!」

 

「おい、適当に教えられたらこっちは困るぞ」

 

「知るか!蛮人は蛮人らしく、同族から金品でも奪って生き長らえていればいいんだ!」

 

・・・・・どーして、ここのエルフは(まだ二人目だけど)人間を見下す言い方をするんだか。

 

「なあ、お前らが言う蛮人は全員が野蛮な奴らだと思っているのか?」

 

「少なくとも、私は思っていないわよ?」

 

ルクシャナに問えばそう答えてくれた。

 

「蛮人って呼ぶのはそう言う風に育てられたからだけで、

別に蛮人を見下しているわけじゃないわ。他のエルフの八割は蛮人を見下しているけどね。

過去六千年間、何度も私たちの住処に襲撃してくるもんだから何度も何度も追い返して

私たちは自分の土地を守ってきた。それだけよ」

 

「・・・・・」

 

ハルケギニアの人間とここのエルフの中はかなり溝が深いようだな。

修復が不可能に近いぐらいに・・・・・。一体、何が起きているんだ?

カリンから色々と聞くべきだったな。

 

「ルクシャナ!」

 

「いやよ!」

 

「・・・・・最後まで言わせてくれたっていいじゃないか?」

 

流石に可哀想だと思うが、ルクシャナは慣れているかのようにアリィーと言い合う。

 

「あー、もう!どうして分かってくれないのよ!

私は案内するだけですぐ戻ってくると言うのに!」

 

「そのすぐ戻ってくるという時間と日にちがどれだけ掛かると思っている!

大方、蛮人の世界を全部見回るまで戻ってこないつもりだろう!?」

 

「あら、バレちゃった?というか、当然じゃないの!文句、ある?」

 

「―――キミって奴はぁぁぁあああああああっ!」

 

・・・・・なんだろう、アリィーの方が可哀想に思ってきたな。

 

「夫婦漫才も飽き飽きだ」

 

ヴァンが嘆息した。

 

「まだ、婚約者よ。夫婦でもないわ」

 

「・・・・・もしかして、キスすらしていない?」

 

「ええ、当然じゃない」

 

・・・・・というと、アリィーを視線に向けた。

 

「童貞くんか」

 

「―――――っ!」

 

顔を真っ赤に染めたアリィーくん。なんとまあ、初々しい反応をするのでしょうか。

 

「こ、殺すぅぅぅっ!」

 

短剣を手にしたアリィーがルクシャナを突き飛ばして、俺に飛び掛かってきた。

 

「おいおい、婚約者を突き飛ばすなよ」

 

ビュンッ!と短剣が真っ直ぐ水平に振り払ったアリィー。が、ガキンッ!と

その短剣が俺の首を切ることもなく砕け散った。―――首が赤い鱗に変化して、

硬い鱗に堪え切れず短剣が砕けたのだった。

 

「なっ―――!?」

 

「ん」

 

デ コ ピ ン☆

 

ズドンッ!とアリィーの額に炸裂した。あいつは玄関に向かって外へと吹っ飛んで行った。

 

「あなた・・・・・その首の鱗は」

 

「ああ、俺は人じゃないんだ。人型のドラゴン、そう言うわけだ」

 

ポリポリと首筋を掻く。痒かったな。

 

「・・・・・そこまで知らなかったわ」

 

「だって、俺のことを一切聞かなかっただろう?」

 

当然のように言うと、ずぶ濡れのアリィーが戻ってきた。おお、早い。

 

「蛮人・・・・・いや、蛮人じゃないな・・・・・!?お前は一体、何者だ!」

 

「何者か・・・・・」

 

死んで生き返った存在、人間からドラゴンになった存在。さて、俺は一体、何なんだろうか?

ヴァンに尋ねた。

 

「世間はきっと、俺は死んでいると知れ渡っているんだろうな?」

 

「ああ、そうだろう」

 

「なら・・・・・死人に口なしか」

 

顎に手をやって悩んだ。今さら自分が兵藤一誠だ、何て言えるわけもない。

・・・・・偽名、でも言うか。

 

「・・・・・イッセー・D・スカーレット」

 

「は?」

 

「うん、今日からイッセー・D・スカーレットと名乗ろう」

 

スカーレットは今の俺の髪の色と同じだ。だから、そう名付けた。

 

「(それに・・・・・もう、兵藤と名乗れるような状況じゃないしな)」

 

自嘲を心中で呟く。兵藤の血もサマエルの毒と呪いでダメになったし、

今の俺はドラゴンの血が流れている。

 

「ヴァン、今日から俺はそう名乗る。前の名前を呼ばないでくれ」

 

「・・・・・良いのかよ・・・・・?」

 

「ああ」

 

「分かった・・・・・イッセー」

 

照れているのか?顔を赤くして小さく俺の名前を呼んだ。

 

「ルクシャナも何時までも蛮人と呼ぶな。俺のことを名前で呼んでくれよな」

 

「まあ、呼びやすい名前ならいいわ。よろしく、イッセー」

 

「さてと」と、ルクシャナは。

 

「そう言うわけだから、しばらくの間は留守にするけどちゃんと私を待っててね?」

 

そう婚約者に向かって言ったんだが、

 

「だーかーらー!キミがで行く必要ないって何度言えば分かってくれるんだよ!」

 

婚約者があんな反応をするわけだから話が平行線に続く。

 

「なぁ、いつまでこんな話が続くんだろうな」

 

「俺も知りたいところだ」

 

夫婦喧嘩にでもなったらこんな感じなんだろうか・・・・・。

ギャーギャーと言い合う二人にヴァンと様子を見ていてしばらく経つと、

 

「だったら、私も一緒に行く具体的な理由があれば文句はないはずよね!」

 

・・・・・なんだか、嫌な予感をしてきたぞ。ルクシャナが徐に本を開いて杖を構えた。

 

「ねぇ、イッセー。そういえば召喚したんだけど、まだ儀式まではしていなかったわね?」

 

「そう言われても、俺はどんな儀式なのか分からない。―――って、おい、まさか―――!?」

 

「我が名はルクシャナ。五つの力を司るペンタゴン。

この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 

俺の中の嫌な予感と予想がどうやら的中した。朗々と、呪文らしき言葉を唱え始めた。

すっと、杖らしきものを俺の額に置いた。そして、なぜか、ゆっくりと唇を近づける。

 

「ん・・・・・」

 

「なっあああああああああああああああああ!?」

 

「・・・・・」

 

ルクシャナの唇が、俺の唇に重ねられる。一拍して、ルクシャナが唇を離す。

その顔に朱が染まっていて俺の視線から逃げるように顔を反らした。

その様子に初めてだったんだなと気付く。

 

「・・・・・これで契約はできたのかしら?」

 

「知るか!というか、俺を使い魔にするなんてどういうことだよ!?」

 

俺自身が使い魔になるなんて有り得るのか!?召喚の契約を無効化にできるのか・・・・・!?

そのとき、俺の身体が妙に熱くなった。

だが、俺だけじゃなく、ルクシャナも同じだった。

 

「いた!痛い!?というか、熱い!」

 

「・・・・・なんだと?これは一体・・・・・」

 

俺は困惑な表情を浮かべる。これが召喚された使い魔が主に主従の契約を交わす時の痛みだと

言うのか―――?熱いのはほんの一瞬だった。直ぐに身体は平静を取り戻した。

 

「ちょ、ちょっと・・・・・どうして私の身体が熱くなったのよ・・・・・?」

 

「俺も知りたいところだ。しかも・・・・・なんだよ、これ・・・・・」

 

右手に奇妙な文字が浮かんでいた。だが、俺は熱く感じたのは右手だけではなく、

額と胸も感じた。服をめくると、胸に右手と同じ奇妙な文字が刻まれていた。

 

「あなたの額にも文字が浮かんでいるわ」

 

「あ、やっぱり?」

 

「それに・・・・・」

 

ルクシャナは左手、手の甲に視線を落とした。

その手の甲に一誠の右手と胸の文字と似た文字が彼女の左の手の甲に刻まれていた。

 

「えーと?つまり、俺がお前の主人で?」

 

「私があなたの主人?」

 

「「・・・・・」」

 

二人の身体に使い魔としての証が刻まれていた。

―――つまり、二人は主でありながら同時に使い魔と言うことになる。

 

「・・・・・ねえ、使い魔をする契約って主人にも刻まれるものなの?」

 

「それこそ知るかよ!?・・・・・どうなるんだよ、俺がお前の使い魔と同時に主で、

お前が俺の主で俺の使い魔だってことになるのか?」

 

「それこそ私だって知らないわよ。こんなことになるなんて聞いてないもん」

 

・・・・・俺が使い魔だけじゃないならまだマシだったか・・・・・。

俺も同時に主ならルクシャナと対等と言うことだ。こんなこと、

ガイアに知られてみろ。ぜってぇー、

 

『一誠が使い魔だと・・・・・!?ふざけるなぁぁぁぁっ!』

 

って、真龍の怒りが見る羽目になるって・・・・・。

 

「そ、そんな・・・・・ば、蛮人と・・・・・キスするなんて・・・・・」

 

あっ、婚約者が泣いてしまった。何て言うか・・・・・俺は不可抗力だよな?

アリィーが頭を垂らして体を震わせているもルクシャナは言った。

 

「これでイッセーたちと蛮人の世界に行く理由はできたわ。

アリィー、私は蛮人たちと蛮人の世界に行くね?しばらくしたらまた、この家に―――」

 

「・・・・・戻ってくるな」

 

「えっ?」

 

「・・・・・キミがそこまで自由奔放だとは思わなかった」

 

婚約者の声音がどこまでも冷たかった。同時に怒気が籠っていた。

 

「アリィー?」

 

「・・・・・誰がキミと結婚なんてするか・・・・・婚約は解消だ。ルクシャナ」

 

「―――――え」

 

「出て行け・・・・・この悪魔め」

 

ポツリと呟くアリィー。ルクシャナは信じられないものを見る目でアリィーを見詰める。

婚約解消という言葉に少しずつ理解していき、うろたえ始める。

 

「ア、アリィー・・・・・?」

 

「もう二度と、キミなんかの顔を見たくない!キミに振り回されるのはもうウンザリだ!

出ていけ!蛮人とキスをするお前なんか誰が好きになるか!こっちから婚約を解消してやる!」

 

ギロッ!と顔を歪ませて怒りが籠った瞳を婚約者に向けた。

 

「―――っ」

 

ルクシャナは瞳を潤わせて鞄を持って外に駆けだした。

 

「ヴァン」

 

「しゃーねーな」

 

俺の意図を気付いて、ルクシャナの後を追うヴァン。

 

「・・・・・」

 

俺とアリィーだけとなったが、あいつはただ体を震わせて、涙を流すだけでいる。

そんなこいつに、俺は声を掛ける資格はないと思い、踵を返して外に出た。

 

「・・・・・遅いわよ・・・・・」

 

桟橋に腰を下ろしていたルクシャナが開口一番にそう言う。

 

「後悔しているのか?」

 

「・・・・・なにに対してよ・・・・・」

 

「それはお前が一番分かるんじゃないか?」

 

そう指摘されルクシャナは口を閉ざした。

 

「ま、確かに俺たちはお前が必要だ。

自分から買って出てくれたからには責任を果たしてもらわないと困る」

 

「・・・・・」

 

沈黙するルクシャナ。彼女の荷物を亜空間に仕舞ってドラゴンの翼を展開する。

 

「んしょ」

 

ルクシャナを横に抱きかかえてヴァンと共に砂漠の空を飛翔する。

 

―――???―――

 

「始祖ブリミルの秘宝・・・・・もしかしたら、魔王リゼヴィムを

倒す武器があるのかもしれない・・・・・。必ず皆の仇を、エリオットの仇を・・・・・!」

 

 

―――???―――

 

「なぁなぁ、今回の依頼って塔をクリアするだけなんか?」

 

「それだけじゃない、秘宝を手に入れて依頼者に渡すそうだ」

 

「秘宝ぁー。きっと綺麗な宝石とかだったりして」

 

「ルーシィ、猫糞しちゃダメだよぉ?」

 

「猫のお前がそう言うか?」

 

「とにかく、私たちはガリア王に謁見しに行くぞ」

 

―――???―――

 

「はぁー、ミカエルさまも人使いが荒いっす。

ハルケギニアの料理も食べながらあのヒトを探すとしましょうかねー」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode4

 

―――銀華side―――

 

今日は魔法使いとの契約の話題となった。魔法使いと言えば、式森和樹。

彼も魔法使いなのだけれど、一体誰と契約を結ぶのか少しだけ気になるが

もっと気になることを聞いた。

 

禍の団(カオス・ブリゲード)』がフェニックス家の関係者と接触。

 

それを魔法使い協会の理事長のメフィスト・フェレス、

番外の悪魔(エキストラ・デーモン)の悪魔が口にした。

その他途端に、皆が怒りを抱いたのは当然だった。

イッセーを殺したのは紛れもなく『禍の団(カオス・ブリゲード)』だから

 

「(テロリストが現れたら生け捕りにしてイッセーを殺した奴らのことを吐かしてやるにゃん)」

 

―――グレイフィアside―――

 

「ユーグリット・・・・・」

 

私とシルヴィアの実弟が生きていたことに驚いた。でも、それ以上に一誠さまのご両親を甦らせ、

イッセーさまを殺させたことも驚いた。ユーグリットが仕出かした行動に私は上層部から

動きを宣言される事となった。何せ、私たち三人は兄弟姉妹で、今でも繋がっているのでは?と

疑惑を抱かれている。家から出ることも、禁じられて・・・・・元々、

あまり外に外出することはないですが、完全に外出することができなくなってしまった。

 

「イッセーさま・・・・・」

 

申し訳ございません・・・・・あなたを殺した弟の責任を私はこの命を懸けて償います。

 

―――プリムラside―――

 

お兄ちゃんが死んだ。その事実に私はとてもショックを受けた。

でも、もっとショックを受けたのはネリネだった。ネリネが声を出せなくなった。

あの綺麗な声が二度と聞こえない。おじさんも励まそうと頑張っていたけど、

魔王としての仕事が急激に増えたようで冥界に帰ってしまった。

 

「・・・・・」

 

だけど、どうして私はこんなにも落ち着いていられるのか分からない。

皆、泣いたり落ち込んだり、怒ったりしているのに、私は今まで通りにしていられる。

―――もしかしたら、と思ったからなのだろうか?

 

「お兄ちゃんは・・・・・」

 

そう、きっと死んでも私たちをどこかで見守ってくれているはずだから・・・・・。

 

―――ソーナside―――

 

「では、これより婚約を懸けたチェス十本勝負をしてもらいます」

 

冥界のとある会場で、私はイッセーくんが知らない事実、

私の婚約者とチェスで婚約を懸けた勝負を始めようとしていた。

 

「ソーナさん、十本も長いから三本勝負にしませんか?先に二本勝ち取ったものが勝利と」

 

「構いません」

 

私自身もそう思っていた。だから、彼の提案に躊躇もなく承諾する。

チェスの駒を動かす。相手も自身の駒を動かす。

 

「ソーナさん、幼馴染が死んでしまってとても辛い思いをしているのが

手に取るように分かります」

 

「・・・・・だから?」

 

「その辛さを私が何とかしたい」

 

「・・・・・」

 

今の私の気持ちをどうにかしたい・・・・・ですって?彼は何を言い出すのでしょうか。

 

「あなたを守った彼の意志を継ぎたい。そう思ってはいけないでしょうか」

 

彼の意志・・・・・?

 

「美しいあなたを守ったのはきっとあなたを命に代えても守りたかった。―――友達として」

 

「―――――」

 

『今までずっと・・・・・こんな俺を好きでいてくれてありがとう・・・・・』

 

あの時の言葉が脳裏に浮かんで、私の心を揺らぐ。

 

「チェック」

 

「っ・・・・・」

 

一本先手を取られた・・・・・っ!

 

「さて、残り一本です。ソーナさん、私はあなたと結ばれたい。

後にも先にも私はあなたしか愛すると誓います」

 

「・・・・・」

 

「結婚の式には―――その左手の薬指に嵌められた指輪を私が用意した指輪と変えてもらいます」

 

―――指輪。私は左手の薬指に嵌めている指輪に視線を向けた。

どこまでも青い指輪。彼が最期に渡してきた箱の中身―――。

 

「玩具の指輪ですか?そんなもの、あなたには似合いません。

きっと、私が用意した指輪のほうが数万倍にも・・・・・」

 

「玩具の指輪ではありません!」

 

つまらなさそうな面持ちで言う彼の言葉を強く遮る。

 

「彼が、イッセーくんが最期に渡してくれた大切な彼の贈り物!

初めて、初めて彼が私に送ってくれた唯一の贈り物を・・・・・あなたは私の気持ちを

理解しようとしていない・・・・・!」

 

怒りと悲しみが混じり、全身から魔力が漏れてしまっている。でも、これだけは譲れない。

 

「あなた言いましたね。後にも先にも私だけを愛すると。なら・・・私は―――!」

 

駒を一つ、動かす。

 

「例え、この世からないからいなくなっても私は後にも先にも彼を、

兵藤一誠を一生愛し続けます!」

 

そのためには、この婚約を懸けた勝負を勝たなければなりません。イッセーくん、

見ていてください。私は必ず勝って見せます。あなたをいつまでも想うために―――!

 

―――椿姫side―――

 

会長の付き添いでやってきた私は、会長の言葉に改めて気付かされた。

私、真羅椿姫は兵藤一誠と言う少年に恋をしているのだと。あんな真摯に言う会長が

とても羨ましい。小さい頃から想っていたと言うほどで、生徒会の仕事の曖昧に、

私たちに内緒で密かに恋愛の類の本を呼んでいることを会長以外の私たち眷属は

知っていましたけどね。

 

初めて異性に恋した時にはどうすればいいのか分からなかった。

でも、そう難しく考えずに接することが大事だと知り、彼とは友達以上恋人未満な

関係でいました。ですが、私の初恋は呆気なく終わった。彼の死と言う形で。

 

「・・・・・」

 

藍色の指輪・・・・・彼が最期にくれた贈り物。

 

―――アレインside―――

 

彼が死んで、もう二週間も過ぎたか・・・・・。

 

「皆を悲しませ、若くして死んだ貴様はマイナス100万点だぞ」

 

そう言わずにはいられない。出会ったあの時から私はあの男を鍛えていた。

―――逆に逆手に取られて私の方が鍛えられている方が多かったが。

 

「・・・・・私は、これからどうするべきであろうな・・・・・」

 

―――一誠side―――

 

砂漠を越え、ハルケギニアに入国した。他の国と世界と隔離した国とよく言ったものだ。

現代の機械らしきものが一切なく、遠乗りする際には馬か

ドラゴンに引っ張られる竜籠と言う乗り物で行くらしい。夜の際に町中を照らす街灯も無く、

店の明かりのみで道が小さく照らす。雨の日は傘と言う雨具がない代わりに、

フード付きのローブで雨を凌ぐようだ。そして、俺たちがいる国、ガリアもそうだった。

 

「ここがガリアという国か・・・・・」

 

「私も初めて来たが・・・・・綺麗だな」

 

白と青が基調とした建造物がちらほらと見える。町の建物はレンガや木造で作られた店や建物が

多い。違う国は自分が住んでいる国とまるで違う事実に突き付けられる。

 

「そして、俺たちが向かうのがあのガリアダンジョンか・・・・・」

 

どこまで高いのだろうか、百メートル以上はあるデカい塔だ。

柱のように白く特に装飾が凝った塔でもない。

 

「というか・・・・・ヴァン、今さら何だけど聞いて良いか?」

 

「なんだよ?」

 

「自分を言う時に『俺』じゃなくなっているけど、どうしてだ?」

 

初めてで会った時から、俺と一緒に死んだ時まで自称『俺』と言っていたヴァンが『私』と

言うようになった。その心の心境は一体・・・・・。

 

「はっ、自分をどう呼ぼうが気にすることか?」

 

「うん、だってヴァンには感謝しているし」

 

「・・・・・感謝だと?」

 

「―――俺を一人にはしない。一緒に死んでやる。そう言って俺にキ―――」

 

俺の言葉は途中で止まった。ヴァンが俺の首元に光の槍を突き刺したからだ。

 

「それ以上言ったら、もう一度殺すぞ」

 

顔を薔薇色に赤く染めて脅迫された。

 

「へぇ・・・・・2人ってもしかして、恋人同士?」

 

「「いや、違う」」

 

「へっ?」

 

ルクシャナは勘違いしている。

 

「此間まで、俺はヴァンを殺そうとしていたし」

 

「私はこいつに殺されそうになった」

 

「・・・・・2人ってどういう関係なのよ・・・・・」

 

何故か呆れられちゃっている。

 

「俺たちって、どういう関係だ?」

 

「知るか。まあ、一度共に死んだ仲だ。分かるとすればそれぐらいだろう」

 

「―――最期に女の喜びを知りたい」

 

「よし、もう一度殺してやる!」

 

光の槍が突き出された!真剣白刃取りで防いで拮抗する!

 

「くそ、どうして私はあんなことをしてしまったんだ!」

 

「知るか!でも、嬉しかったけどな!」

 

「私にとってはアレが人生一番の黒歴史だ!」

 

「うわ、傷つくな・・・・・」

 

苦笑を浮かべ、光の槍を粉砕した。

 

「取り敢えず、塔に行こう」

 

「・・・・・そうだな」

 

不毛な攻防は終えた。デカい塔へ目指して歩く。

 

―――???―――

 

「ついに、この日が来てしまったか」

 

「そうだな・・・・・」

 

「兄上、この日のために依頼した者たちは大丈夫なのでしょうか?」

 

「娘たちの護衛をするには相当な実力ではないとダメだ。フィオーレ王国一というギルドに

懸けるしかあるまい。ガリアダンジョンの攻略を娘たちとともにしてもらう」

 

―――ルクシャナside―――

 

私はルクシャナ。エルフで蛮人=人間を研究する学者。

いま、悪魔の塔に向かっているところだけどイッセーと堕天使の関係に驚いたわ。

殺し合う仲だったって言うもんだから、そりゃ誰でも驚くわよね。

でも・・・・・今はそんな危険な仲じゃなさそう。

 

「なぁ、ヴァン。秘宝って何だろうな」

 

「宝ではなさそうだな。・・・・・何か強力な武器とかじゃないか?」

 

「武器か・・・・・じゃあ、いらないな」

 

こんな感じで不穏な雰囲気を感じさせないほど、雑談しているんですもの。

 

「・・・・・あー」

 

不意に、イッセーが声を発した。気のない声だけど、どうしたのかしら。

 

「門番がいる。こりゃ、普通に堂々と入れなさそうだな」

 

塔のところに辿り着いた私たち。塔を中心に囲むように建物が建てられていて、

どうやら広場でもなっている。蛮人が大勢行き来する最中、イッセーが塔の門のところに目を

向けていた。彼の視線を辿ってみれば、蛮人二人が鎧を着込んで佇んでいた。

 

「どうするんだ?」

 

「んー、とりあえず、尋ねてみよう。通訳、頼む」

 

「分かった」

 

聞くのね。まあ、何もしないよりはいいでしょう。私たちは蛮人の兵士に近づいた。

 

「すまない、尋ねたいことがある」

 

「なんだ?」

 

「私たちは旅人の者でこの塔は何なのか知りたい。教えてくれるか?」

 

堕天使がそう尋ねると、蛮人の兵士たちが顔を見合わせる。

 

「まあ、聞くだけなら大丈夫だろう。―――この塔は六千年前、始祖ブリミルさまが創造した塔だ」

 

「門があるようだが、中に入れるのか?」

 

「入れるが平民を入れることは許されていない。王族が許した者しか許されない」

 

「塔の中に侵入した者たちは?」

 

「昔は大勢いた。だが、塔の中に入ったら最期。二度と出られない。皆、死んだと云われている」

 

話を聞いた通りね。やっぱり悪魔の塔だわ。この塔は・・・・・。

 

「興味あるなぁ、入っちゃダメか?」

 

「ダメだ」

 

あれま、やっぱり断われた―――。

 

「と、本来は言うところだが、王族がこのガリアダンジョンを攻略するそうだ。

その際、ダンジョン攻略に傭兵を募集している。命を捨てる覚悟があるのならば、

これから言う建物に向かえ。ダンジョン攻略は二日後だ」

 

って、入れちゃうんだ?しかも募集って・・・・・悪魔の秘宝を手に入れたいのね、蛮人って。

・・・・・そう言えば、イッセーたちはどうして悪魔の塔に行きたがっているのかしら。

秘宝には・・・・・興味なさそうだったけど。何故なのかしら。そして、

 

「じゃあ、教えてくれ。その建物の場所を」

 

私たちはダンジョン攻略の募集している建物の場所を知るのであった。

 

―――ヴァンside―――

 

人間から聞いた場所へ訪れれば、屈強な人間どもがわんさかいた。

どうみたって、ろくでもない奴らしかいない。ダンジョンの中はどうなっているのか知らないが、

ただの人間が六千年間も攻略できなかったと聞く。ならば、今回もそうなんじゃないか?

 

「・・・・・不思議だったな」

 

「何がだ?」

 

「俺、ハルケギニアの言葉が分からないって思っていたんだけど、普通に分かったんだよ」

 

「じゃあ・・・・・通訳していた時からずっとか?」

 

こいつは頷いた。んだよ、そう言うことならさっさと教えろよな。

しかし、元人間が他国の言葉を理解できるようになったんだ?

 

「でも、会話ができても、文字は書けないかもしれない。ルクシャナ、書いてくれるか?」

 

「ええ、分かったわ」

 

それもそうだな。会話と文字は別物だ。文字で伝えたいが、

文字を扱えれないならその時点でダメだな。

その点、あのエルフがこの世界の文字を書けることができるならば、大助かりだ。

イッセーとルクシャナと一緒に受付でダンジョン攻略の参加をルクシャナが記入してもらった。

これで二日後のダンジョン攻略に参加できる。

 

「―――おいおい、女子供もあの塔に行くってのか?」

 

明らかに見下す声がどこからか聞こえてきた。

 

「止めとけ止めとけ、子供があの塔を攻略なんかできないって」

 

「ははは!ちげぇーね!」

 

途端にゲスな笑い声が私たちを包む。

 

「・・・・・はぁ・・・・・」

 

イッセーはただ溜息を吐いた。

 

「行こう。相手するほど、暇じゃないしな」

 

そう言ってここから私たちを引き連れて出ようとする。それについては同感だ。

 

「おいおい、ちょっと待ちなって」

 

「・・・・・」

 

出入り口をチビ、デブ、ブスが塞ぐ。

 

「ガキ、お前、その背中に背負っている大剣を置いて行けって。

その大剣はお前みたいなガキじゃ、震えることはできないだろう?」

 

封龍剣のことか。確かに、ここじゃあの大剣は目立ち過ぎる。鞘なんて差していなかったから

周囲の目が明らかにイッセーの大剣に向けていた。

 

「これは大事なモノなんだ。悪いけど、置いていけない」

 

「俺たちは怖い大人だぜ?言うことを聞かないとこわーい目に遭っちゃうぞぉ?」

 

各々と武器を手にしてイッセーに脅迫か・・・・・。無知とは愚かだな。この人間ども。

 

「そこ、どいてくれないか?」

 

「その大剣を置いたらな」

 

「・・・・・」

 

この人間ども・・・・・いや、目の前の人間どもだけじゃないな。

明らかに周りの人間どももイッセーの大剣を狙っている。隙あらば、奪おうと魂胆か。

 

「・・・・・はぁ、しょうがない」

 

右手を背負っている大剣の柄を握った。

 

「―――これは何の偶然だろうな?お前がここにいるなんてさ」

 

・・・・・なに?イッセーは何を言っているんだ?そう思った私の疑問はすぐに解消した。

 

「ドラゴンの臭いがしていたからどこのどいつかと思ったら・・・・・、久し振りじゃねぇか」

 

ドゴンッ!

 

「ぐおっ!?」とデブが勝手に吹っ飛んでイッセーに向かったが、

タイミング良く振り下ろされた大剣の腹で床に叩きつけられた。

 

「久し振りだな。ナツ・ドラグニル」

 

「おお、久し振りじゃないか。兵藤一誠」

 

出入り口から桜色の髪に銀色のマフラーを巻いた人間がいた。

 

「取り敢えず、立ち話も何だ。後の二人も潰す」

 

「オーケー。んじゃ、俺はブスだ」

 

「俺はチビだな」

 

「「ひっ!?」」

 

次の瞬間、チビとブスはイッセーと桜髪の少年によってボコボコにされた。

 

―――○●○―――

 

―――一誠side―――

 

「お前!死んだんじゃねぇーのかよ!?」

 

久々に再会した戦友、ナツ・ドラグニルにそう言われ、

 

「色々と遭ったんだよ。訳あって甦った」と言うしかないだろう?

 

「甦った・・・・・って。でもよ、どうしてお前からドラゴンの臭いがするんだよ。

いまのお前、ドラゴンそのものだぞ」

 

「その認識で問題ない。いまの俺はドラゴンだ。人間じゃなくなっているんだ」

 

「マジでか・・・・・」

 

目を丸くするナツ・ドラグニル。でも、俺よりもお前がこの国にいることが驚いたぞ。

 

「お前、どうしてここにいる?」

 

「ああ、依頼で来たんだよ。あのダンジョンを攻略をして欲しいって依頼が来てさ、

仲間と共に来たんだ」

 

「へぇ、俺と同じか」

 

「なんだ、お前もか。じゃあ、ライバルだな!」

 

いや、ライバルって・・・・・そんな嬉しそうに笑ないでくれるかな?

 

「因みに、ガリアダンジョンの塔だけか?」

 

「んや、トリステインとゲルマニア、ロマリア、アルビオン、全部だ」

 

「なんだ、結局俺と変わりないじゃないか」

 

「お前もかよ!?真似すんな!」

 

真似って・・・・・何だろう。理不尽な怒りを向けられたぞ。

 

「で、お前の仲間はどこにいるんだ?」

 

「ああ、宿にいるぜ。お前は?」

 

「・・・・・まだ宿は取っていないな」

 

「じゃあ、俺たちと一緒に泊らないか?」

 

気前が良いな。そもそも無一文の俺たちにその提案はありがたい。

 

「こっちは男一人と女二人、そっちは?」

 

「俺んとこは男二人と女二人だ。あと猫一匹」

 

猫?まあ、問題ないか。

 

「じゃ、よろしく」

 

「おう!よろしくな!」

 

ガシッ!と握手をして二人に振り返る。

 

「二人とももいいか?」

 

「ああ、別に構わない」

 

「私もよ」

 

ヴァンとルクシャナも同意した。俺たちはナツ・ドラグニルの仲間がいる宿へ赴く。

それから色々と聞いた。

俺と雑談しているナツ・ドラグニルはとても楽しそうだった。死んだ俺が生きていたことに

嬉しそうだった。

 

「ここだ」

 

と、どこかの宿に辿り着いた。『金の玉』・・・・・という、名の宿だった。

中にはいれば、広いフロアが出迎えてくれてナツ・ドラグニルは二階に上がる階段へ上る。

上がりきれば、赤い絨毯が敷かれた廊下を歩き、豪快にとある扉を開け放った。

 

「おい、ルーシィ!エルザ!」

 

刹那―――。

 

ドンガラガッシャアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

部屋の中から大量の無機質の物体が出て、ナツ・ドラグニルをぶつけた。

 

「「「・・・・・」」」

 

扉の向かいの壁に様々な物が積み重なってナツ・ドラグニルの姿は見えなくなった。

ルクシャナとヴァンに頼んで、中の様子を見てもらうと声が聞こえた。

 

「ちょっと待ってもらえるだろうか」

 

「まったく!ナツったらドアを開けるときにノックしてって何時も言っているじゃない!」

 

どうやら男に見られてはならない状態でいるようだ。

俺が部屋の中を覗き込んだたらナツ・ドラグニルの二の舞になっていたと・・・・・。

 

「ナツ、大丈夫か?」

 

「お、おう・・・・・大丈夫だ・・・・・」

 

―――そんな時、隣の部屋の扉が開いた。

 

「んだよ、うっせーな。またナツの奴がやらかしたのか?」

 

黒い髪に鋭い目つきの少年が現れた。―――全裸で!

 

「ん?お前は・・・・・」

 

「・・・・・どうして、全裸なんだ?」

 

「ふっ、癖だ。気にするな」

 

気にするなってお前・・・・・。呆然とする俺を余所に、

騒ぎの元凶と思った変質者はナツ・ドラグニルが開け放った部屋の中に入った。

 

「おい、ナツの奴が―――」

 

刹那―――。

 

ドンガラガッシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

ナツ・ドラグニルの二の舞となった変質者。しかもさっきより二倍の物質量で。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode5

「すまないな。片付けまで手伝ってくれて」

 

「いや、こっちこそ世話になるんだ。これぐらいは当然だ」

 

鎧を着込んでいる赤い髪の少女と片付け終えて一拍。ようやく一段落して自己紹介に進んだ。

 

「俺はフェアリーテイルのナツ・ドラグニルだ」

 

「フェアリーテイルのグレイ・フルバスターだ」

 

男子陣の挨拶は終わった。次は少女組だ。赤い髪の少女が口を開く。

 

「同じくフェアリーテイルのエルザ・スカーレットだ。よろしく頼む」

 

次は金髪の少女。

 

「私はフェアリーテイルのルーシィ・ハートフィリアよ。よろしくね」

 

最後は・・・・・青い猫。

 

「オイラはハッピーだよ。好きな食べ物はお魚」

 

「・・・・・」

 

ジィーと青い猫を見た。こんな生き物がいるなんてな・・・・・・。

世界は広い・・・・・。

 

「え?なに?」

 

「いや、珍しい猫だなって。喋っているし」

 

「ハッピーはエクシードって種族の猫なんだ」

 

「エクシードか。覚えておこう」

 

亜空間から魚を取り出してみた。すると、ハッピーが目を輝かせた。

 

「お魚ーっ!」

 

「食べるか?」

 

「あい!」

 

嬉々として魚を受け取って食べ始めるハッピー。猫そのものだ。

 

「今度は俺たちだな。俺はイッセー・D・スカーレットだ」

 

「私はヴァン、堕天使だ」

 

「私はエルフのルクシャナよ。よろしく」

 

「・・・・・イッセー・D・スカーレット?兵藤一誠じゃないのか?」

 

グレイ・フルバスターが疑問をぶつけてきた。

 

「俺は死んで人間じゃなくドラゴンとして甦った。

だから、『兵藤一誠』は死に『イッセー・D・スカーレット』として生きていこうと思って

この名を名乗っている」

 

「・・・・・無神経なことを聞いちまったな。悪い」

 

バツ悪そうにグレイ・フルバスターが言うも俺は首を横に振った。

 

「気にするな。死んだのは俺が弱かったからだ。次は負けないつもりだ」

 

「うむ、その心意気だ。負けても前に進む。私はそう言うのが好きだ」

 

「でも、甦るなんて凄いわね。一体どんな魔法を使ったの?」

 

「正確には魂だけの状態で生きていた。

そこに別の新しい肉体に定着して復活を成し遂げたんだよ」

 

「なるほど・・・・・」

 

納得した面持ちを窺わせるルーシィ・ハートフィリア。

 

「そんで、ナツから聞いたんだけど。ハルケギニアに存在する塔を攻略するんだって?」

 

「ああ、そう言う依頼が来てな。私たち四人だけでハルケギニアの五つの塔を

全て攻略しなければならない」

 

「実は俺たちも塔を攻略しないといけないんだが・・・・・。

仮に全部の塔を攻略したらどうなるか知っているか?」

 

尋ねてみると、四人は首を傾げた。・・・・・知らないのか。

 

「なんだ、五つの塔を攻略したら何か起きるのか?」

 

「・・・・・ハルケギニアの未来が掛かることが起きる」

 

「なんだと?」

 

「聞きたいか?」

 

再度尋ねれば、ナツ・ドラグニルたちが頷いた。

 

「分かった。ルクシャナも聞いていろよ」

 

「ええ、分かったわ」

 

「それじゃ、これは俺とヴァンがとある人物から頼まれていたことだ」

 

五人に告げた。塔の全てを攻略すると封印されていたドラゴンが目覚め、

ハルケギニアを襲う話しを。

 

「・・・・・そんな情報、依頼にはなかったぞ」

 

「まさか、依頼主がそのことを黙っていた?この国を壊滅させるために」

 

「いや、これは六千年も前の話しだ。現代の人間たちが知っているとは思えない」

 

「でも、どーすんだよ。俺たち、そのドラゴンを目覚めさせることをしなきゃいけねーぞ」

 

「だからだ」

 

背負っていた大剣を掴んで四人に見せびらかす。

 

「この大剣でそのドラゴンを封印する。俺たちはそのためにハルケギニアに来たんだ。

―――俺たちとお前たちの目的は一緒だ。塔の攻略を協力してほしい。

ギブアンドテイク、だろ?」

 

「「「「・・・・・」」」」」

 

四人は顔を見合わせる。すぐにこっちに顔を向けてきた。

 

「ならば、共に塔の攻略をしよう。お前の実力はあの時の大会で知っているからな」

 

「おう、ありがとうな。エルザ」

 

「ああ、イッセー。・・・・・ふふっ、それにしてもだな」

 

ん?

 

「私と同じスカーレットと名を付けるとは、もしかして狙っていたか?」

 

「あっ、エルザ・スカーレット、スカーレット・イッセー。確かにそうだね」

 

「名前と名字は違うが、同じ名前があるな」

 

「ついでに言えば、髪の色も同じだしな」

 

髪の色に関してはノーコメントだ。最初からそうなっていたからよ。

首を横に振って「違う」と言い、ナツ・ドラグニルたちとこれからのことを相談し合った。

寝るときは当然、男女分かれて就寝した。

 

―――二日後―――

 

いよいよダンジョン攻略の日がやってきた。デカい塔の周囲には大勢の傭兵、兵士、

ならず者が集まっている。

 

「それでは、これよりガリアダンジョンを攻略するため、

貴殿らにはダンジョンの中に入ってもらう!」

 

青い髪、青い美髯の中年男性が叫ぶように言葉を発する。見に纏う衣服はどこかの貴族、

もしくは王族が着るような服装だった。

 

「その際に、未来の女王となる我が娘たちと同行してもらう。

無事、我が娘たちとダンジョンを攻略した暁に褒美は思いのまま与えてやろう」

 

その中年男性の言葉に集まった大勢の人間たちが怒号を町に轟かせる。

―――その娘たちと言うのは青い髪の三人の少女のことだろう。

 

「あれが噂に聞くガリア王家三姉妹か」

 

「姉妹?」

 

「正確に言えば、一人だけガリア王の兄の娘だ。残りの二人は現ガリア王の娘、姉妹だったな」

 

エルザ・スカーレットが情報を提供してくれる。

 

「私たちはあの三人を護衛するために塔を攻略しに来た」

 

「じゃあ、他の国の塔はどうなんだ?」

 

「それは別の依頼だな。それぞれの国の王から指名されて、ダンジョンを攻略しないといけない。

所謂長期任務だ」

 

そいつは大変だな。って、俺たちも似たものか。

 

「おい、イッセー。絶対に攻略してやろうぜ」

 

ナツ・ドラグニルが戦意の炎を瞳に籠めてそう言ってくる。

というより、ワクワクしている様子だな。

 

「ああ、そうだな」

 

「―――では、ガリアダンジョンに入るがいい!」

 

ガゴンッ!と、塔の扉が開いた。その瞬間、我先へと塔の中へ侵入する挑戦者たち。

三人の姫たちは全員が入るまで動かずにいる。

そして、俺たちを除いて挑戦者たちが入り終えると、中年の男性と三人の娘たちがこっちに来た。

 

「娘たちをよろしく頼む」

 

「はい、お任せください。必ず帰還してまいります」

 

「うむ。・・・・・」

 

不意に、俺に目を向けてきた。

 

「・・・・・髪と瞳の色は違うが、どことなく懐かしい男と思わせる顔だな」

 

「・・・・・」

 

まーさーかーねー?まさかと思うけど、一応・・・・・ね?

 

「兵藤誠のことか?」

 

「っ!」

 

やっぱりか・・・・・もう、ここは父さんと母さんを知る者に対する絶対的な証拠の出番だな。

あの二人の写真を中年男性に渡す。

 

「それ、俺が返ってくるまで持っていてくれ」

 

「お前は・・・・・」

 

「真実を知りたかったら首を長くして待っていてくれ」

 

エルザ・スカーレットに目を配らせ、彼女は俺の意図に理解し、

三人の姫を守るように先頭に立ち、俺たちも塔の中に入る―――。

 

 

塔の中は洞窟だった。一体どういう構造をしているんだ?摩訶不思議な洞窟だ。

 

「・・・・・さて、そろそろ出させるか」

 

「何を?」

 

「こいつらだよ」

 

周囲に魔方陣を展開した。その魔方陣からオーフィス、

クロウ・クルワッハが光と共に出現した。

 

「うお!」

 

「こいつら・・・・・ドラゴンの臭いがすんぞ」

 

「ああそうだ。人間の姿でいるけど、この二人もドラゴンだ。小さい方はオーフィス、

女性の方はクロウ・クルワッハだ」

 

オーフィスが早速、俺の方に乗っかる。

 

「我の特等席」

 

満足気に言う。

 

「さて、行こうか」

 

「そうだな。さっさと攻略しよう」

 

「警戒して進む」

 

俺たちは歩を進める。先に行った挑戦者たちは今頃どうなっているんだろうか。

岩肌らだけの暗い洞窟。人の心を恐怖に陥らせるには十分なシチュエーションだ。

それは心が弱い奴に限るが。

 

「「「・・・・・」」」

 

三人の姫は無言で囲む俺たちと同じ歩調で進む。

どんな心境でこの最悪な塔に攻略するつもりでいるのか定かではない。

 

「そういや、イッセー。見てたぞ。俺の技を使っていたところを」

 

「ああ、お前の技のおかげで倒せたぞ」

 

「俺もお前の技を観てさらに技を改良したんだ。今度見せてやるぜ」

 

「そいつは楽しみだ。なんなら、勝負するか?」

 

「おう!全部のダンジョンをクリアしたらな!」

 

ナツ・ドラグニルが笑う。

 

「なら、私も少しだけ手合わせを願おうか」

 

エルザ・スカーレットも申し出てきた。

 

「二人纏めてかかってこい。―――俺は強いぞ?」

 

不敵の笑みを浮かべ、挑戦を受け入れる。洞窟はまだまだ続いていた。

―――と、少し下り道になってきたな。

 

「足元にご注意を」

 

エルザ・スカーレットが三人の姫に注意を告げる。洞窟は未だに岩肌ばかり、

足元を注意しなければ躓いて転んでしまいそうだ。

 

―――――ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・ッ

 

「ん?」

 

地響きが鳴りだした。地震か?でも、発信源は・・・・・後ろからだ。振り返ってみると―――。

 

「・・・・・おおう」

 

俺たちがいる洞窟をスッポリは待ってしまうほど大きな岩の塊が

転がってきたではありませんかー。

 

「・・・・・こういう時は」

 

ガシッ!×2

 

「「え?」」

 

ガシッ!×2

 

「「え?」」

 

「この瞬間を楽しんで逃げる!」

 

三人の姫とルクシャナを翼と腕で捕まえて走り出す。

俺に続いて、ナツ・ドラグニルたちも追いかけてきた。

 

「うおい!あんな岩、砕いてもいいんじゃないのかぁっ!?」

 

「バカだなぁー、こんな貴重な体験を簡単に終わらしたらつまらないだろう?」

 

「お前、楽しんでいるな!?」

 

「ハッハッハッ!勿論!」

 

ゴロゴロと迫ってくる岩から逃げる俺たち。―――すると、視界にとあるものが映り込んだ。

真新しい死体だ。何かによって潰されたようなスプラッタな状態で洞窟の至るところに

存在していた。

 

「これは・・・・・!」

 

「先に行った挑戦者たちだろうな。この岩に押しつぶされたんじゃないか?」

 

「魔法使いもいたはずだ」

 

「なら、この先にいるはずだ」

 

走り続けていれば、真新しい死体が忽然となくなった。

代わりにこの岩の破片と思しき物が散らばっていた。

 

「・・・・・」

 

突然、腕に抱えていた眼鏡を掛けた姫が自分より身の丈ある杖を振るった。

その際に魔力を感じ、

 

パキィィィンッ!

 

洞窟の足元が氷の床となった。

 

「うお!?」

 

「きゃっ!?」

 

足がもつれ、尻持ち付いたナツ・ドラグニルとルーシィ・ハートフィリアが

 

「いやあああああああああああああああああっ!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

二人仲良く抱き合って滑っていく。俺たちは体勢を整えてスケートのように滑る。

しばらくすると、光が見えてきた―――。

 

スッポ――――――――ンッ!

 

『・・・・・・はい?』

 

洞窟から放り出されるように抜け出た俺たちの足元は―――真っ暗な深い奈落の底だった。

目の前には途中で壊れている橋が見えた。

 

「ちょっ」

 

ルーシィ・ハートフィリアが言った。青ざめた顔で、

 

「ちょっと待ってぇえええええええええええええええええええっ!?」

 

それは俺たちのいまの心情とも言える言葉だった。

―――って、あいつ等は空を飛べれないのかぁっ!?

 

「浮遊魔法ぐらいできてほしいもんだよ!」

 

四つの魔方陣を展開して、奈落の底に落ちるナツ・ドラグニルたちに放った。

その魔方陣はあの四人を乗せても大丈夫なぐらい丈夫な強度を持ち、フワフワと上がってくる。

 

「た、助かったぁ・・・・・って、イッセー!上えええっ!」

 

「あ?」

 

上を見た。丁度、大きな岩が洞窟から出て来て俺の真上に落ちてきたところだった。

 

「ん、我、イッセーを守る」

 

手元を光らせるオーフィス。次の瞬間、岩が爆発を起こして木端微塵となった。

 

「ありがとう」

 

向こうの橋に辿り着き、ルクシャナと三人の姫を下ろした。

 

「イッセー、助かった、感謝する」

 

「魔導士って空、飛べないのか?」

 

「残念ながら、そのような魔法は得意じゃない者が多い。私は別だがな」

 

あれま・・・・・魔導士って意外と空飛べないんだ。苦労するな、お前たち。

 

「・・・・・」

 

そういえば言ってなかったな。

 

「姫さん、ありがとうな。洞窟内のスケート、楽しかったぞ」

 

頭を撫でて感謝する。と、彼女はコクリと頷いた。

 

「・・・・・シャルロット」

 

「ん?」

 

「私の名前」

 

・・・・・・この姫さんの名前か。

 

「私たちの命、あなたたちなら預けれる。だから、名前を教える」

 

「分かった。そう言われたら何がなんでもダンジョンを攻略しなきゃな。

期待してくれ、シャルロット」

 

「・・・・・任せる」

 

コクリと頷くシャルロット。

 

「うわあああああああああああああああああああああああああっ!」

 

『っ!?』

 

橋の向こうから悲鳴が聞こえた。まだ、生き残っている奴がいた。

 

「行くぞ」

 

―――○●○―――

 

「―――なんだ、ここは」

 

悲鳴が聞こえた場所に辿り着くと、広い空間に惨状と物語らせる血痕が広がっていた。

死体は一切なかった。

 

「さっきまで何かと戦っていた、ようだな」

 

「でも・・・・・一体何と・・・・・」

 

「・・・・・」

 

皆は背中を合わせて警戒する。―――不意に、気配を感じた。

 

「上か!」

 

俺の発言と同時に、上から鋭く何かが降ってきた。

 

「換装!」

 

エルザ・スカーレットの鎧が光に包まれ、白銀の鎧へと一変した。背中に二対四枚の翼のような

形状に、腰を覆うドレス上の白銀の鎧、肘まで覆う籠手の手に二つの剣を持っていた。

 

「ふっ!」

 

彼女はその鎧のまま上に飛翔した。降ってくる影に擦れ違い様に五芒星を描くように切り裂いた。

 

「おお、やるな」

 

「だろう?なんたってエルザはS級魔導士だからな!」

 

「またの名を『妖精女王(ティターニア)』と称されている」

 

ナツ・ドラグニルとグレイ・フルバスターがエルザ・スカーレットの情報を教えてくれた。

 

「でも、一体何が落ちてきたの?」

 

「さあ・・・・・なんだ?」

 

今のが何らかのモンスターなら呆気なさすぎる。まだ何かあるはずだ。そう思っていると、

エルザ・スカーレットが叫ぶように言った。

 

「全員!そこから退けっ!」

 

「っ!」

 

その言葉に反射的で動きだす。三人の姫とルクシャナをまた翼と腕で抱えて壁際に

避難したその直後。今度は物質が落ちてきた。鈍い音を立て、軽く床を揺らす。

 

「・・・・・なんだ?」

 

肉の塊と表現がピッタリな赤黒い大きな塊が落ちてきた。

こんなものが塔の中にいたというのかよ。『幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』を装着して警戒する。

 

「まさに悪魔の異形・・・・・」

 

侮蔑を含んだ声音がルクシャナから聞こえた。

 

「こいつが最後の敵だって言うんなら、俺がぶっ倒す!」

 

そう言うナツ・ドラグニルが腹を膨らませた。

 

「火竜の咆哮ぉっ!」

 

膨大な熱量で灼熱の炎が口から出て目の前の肉を焼き焦がす。―――だが、

 

「なんだと」

 

肉の塊は燃え尽きないどころか、ダメージを与えれなかった。

ナツ・ドラグニルの炎を肉の表面に開いた穴が吸い込んだからだ。

 

「こいつ・・・・・俺の炎を吸いこみやがった!」

 

「いや、正確には魔法、魔力を吸いこんだ」

 

「なんにせよ、攻撃しない訳にはいかないだろう!」

 

バサッ!と上半身裸になるグレイ・フルバスターが左拳を右手の平に置いて魔方陣を展開した。

 

「アイスメイク氷雪砲(アイスキャノン)ッ!」

 

氷が大きな大砲となり、氷の塊の砲撃をする。あいつの氷の弾丸は―――また、

肉の表面に開いた穴に吸い込まれた。

 

「んだと・・・・・!」

 

次の瞬間、肉の塊から蔓のような、鞭のような形状の肉厚が無数に飛び出して来て俺たちを襲う。

 

魔法無効化(マジック・キャンセラー)の能力を持っているぞ!」

 

「こなくそぉっ!」

 

一気に形勢が逆転した。魔法、魔力を吸収されては打つ手もない!ナツ・ドラグニルたちは

襲いかかる肉の触手に迎撃する。防戦一方だ。唯一、物理攻撃ができるエルザ・スカーレットは

舞うように剣を振るい、触手を斬り捨てる。

 

「はっ!」

 

大剣で一閃。一気に無数の触手を切り捨て、片手に金色の錫杖を虚空から展開して床に突き出す。

そして、シャルロットたちの周りに金色の膜を張る。

 

「何か遭ったら誰でもいいから叫べ!」

 

「・・・・・分かった」

 

「オーフィス、クロウ・クルワッハ。念のために四人を守ってくれ。

ついでに肉の塊にも攻撃してくれ」

 

「「わかった」」

 

もうこの二人がいれば最強の砦だろう。ヴァンと共に肉の塊に突貫する。

そっちが鞭で来るなら、こっちも鞭だ。

籠手の能力、消滅のオーラを鞭の形状に具現化して振り回す。消滅の鞭に触れたとこから

触手の肉は削れる。一気に数十の触手に襲われても消滅の鞭によって無効化される。

俺の隙を突こうとする鞭はヴァンに切り裂かれる。そんなことを繰り返していると、

 

「・・・・・すげぇ」

 

「ナツ、感心している場合じゃない。私たちも負けていられないぞ」

 

「おう!わかってらぁっ!」

 

「そうだな。フェアリーテイルの名に懸けてこいつを倒すぜ!」

 

あいつらも気合が入ったか。これならなんとかなりそうだ。

 

「滅爪」

 

空間を引っ掻くように爪を立てて振るった。消滅のオーラの斬撃が肉の塊の表面を削る。

 

「滅び玉」

 

ギュンッ!と籠手の手の平に消滅のオーラを極限まで圧縮した小さな玉を作りだす。

 

「お前ら、一旦離れろ!」

 

そう告げて、小さな玉を肉の塊に投げた。俺の力に反応したようで肉の表面に穴が開いた。

―――それは喰らえないぞ?

 

ギュポンッ!グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

滅び玉が一気に膨張して肉の塊だけじゃなく床まで文字通り削る。

 

「す、吸い込まれる・・・・・っ!?」

 

「あ、すまん。忘れていた」

 

アレはいわゆるブラックホールに近い。吸引の力も含まれている。

魔方陣を展開して肉の塊を覆うようにし、防風対策もした。

そして、しばらく経った頃には眼前の肉の塊が消失していた。

 

「あっ、失敗したなー」

 

「どうした?」

 

魔法無効化(マジック・キャンセラー)なんて貴重な能力、強奪すれば良かった」

 

「なんだ、そう言うことか」

 

あれ、呆れちゃっている。まあいいや。

 

「敵は倒したことだ。次に進みたいところだが・・・・・」

 

「次に進むって・・・・・進む道がないぞ?」

 

階段も扉もない。さて、どうやってこのダンジョンをクリアする?

 

「・・・・・イッセー」

 

シャルロットが俺を呼ぶ。何でしょうかね?

 

「どうした?」

 

「・・・・・多分、上」

 

「上・・・・・?」

 

肉の塊が降ってきたところか。見上げて、視線を天井に向ける。

 

「あれ、なんか・・・・・紋様が刻まれている」

 

「紋様と言うより・・・・・文字か?ありゃ・・・・・」

 

見たこともない文字が天井に記されていた。えーと・・・・・ミョズニトニルン・・・・・?

なんのことだ?

 

「・・・・・あれ、イッセーの額にある文字と同じ」

 

「なに?」

 

聞き捨てならないことをルクシャナから聞こえた。

振り向けば、手鏡を取り出していたルクシャナが俺に突き出してくる。

 

「ほら、前髪を上げてみてみなさいよ」

 

「・・・・・」

 

その通りに前髪を上げて額に刻まれた文字を見た。こんなことをしている俺に気になったのか、

ナツ・ドラグニルたちが集まってくる。

 

「あっ、本当だ。同じ文字よ?」

 

「どーなってやがる。アレとお前の額に刻まれている文字と何の関係があるんだ?」

 

「・・・・・」

 

「というか、あの肉の塊を倒したのに、俺たちはいつになったら外に出られるんだ?」

 

そのことについては同感だ。なんだ、他にまだやり残していることがある?

 

「・・・・・イッセー、試してもらいたいことがある」

 

「エルザ、なんだ?」

 

「同じ文字を記されているなら、お前があの文字に触れてみたらどうだ?」

 

「・・・・・・」

 

今はそれしか方法がないか・・・・・。彼女の提案に同意した天井まで飛んだ。

そして、同じ文字同士をくっ付け合う―――。

 

カッ!

 

次の瞬間、天井の文字が光り輝きだした。それだけじゃない、俺の額の文字も光り輝く。

文字から光の粒子が降り注ぐ。ゆっくりと下に落ちて皆と様子を見守る―――。

 

フッ。

 

『・・・・・・』

 

あれ、足場の感覚が無くなったぞ?視線を下に向ければ―――。真っ暗な奈落の底だった。

 

「え・・・・・・」

 

一拍して、穴から強烈な吸引が発生して俺たちは穴の中に吸い込まれた。

 

「うわああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

ガッシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

吸い込まれてすぐ。俺たちはどこかに落ちた。体を起こして辺りを見渡すと・・・・・。

 

「・・・・・凄い」

 

周りは金色に輝いていた。いや、違う。金銀財宝ザックザク!

膨大な量の財宝がそこらじゅうにあった。

 

「うっはーっ!すげぇ、お宝だぁっ!」

 

「わぁ、綺麗な宝石だわ!」

 

「おお・・・・・・本当に財宝があったんだな」

 

「マジでか・・・・・これ、持って帰っていいのかよ・・・・・?」

 

ナツ・ドラグニルたちが大はしゃぎ、俺たちはと言うと、呆然としていた。

 

「これはこれで凄いんだけど、どうやったら外に出られる?」

 

「さあな。だが、ダンジョンは少なからず面白かったのは事実だ」

 

「後、四つ。こんなことをしなくちゃいけないんだな」

 

「イッセー、頑張る」

 

マジですかぁ・・・・・ん?中央に置かれているあの香炉はなんだろうか?

中央に向かって跳んで香炉を観察するように見詰めていると、

コンコンと固い感触が頭から感じた。

振り向けば、シャルロットを含めた三人の姫がいた。どうした?と視線に乗せて見詰めていると、

杖で香炉を突き刺した。

 

「・・・・・それ、貰ってもいい?」

 

「ん?ああ、香炉のことか?別にいいぞ。秘宝は興味ないからな」

 

「・・・・・興味ない?」

 

うん、と頷く。俺は別の目的がある。それさえ果たせばそれでいいわけだ。

 

「・・・・・あなたはとても不思議」

 

「はは、異例とか非常識とかよく言われたが、不思議か。初めて言われた」

 

パチンと指を弾く。すると、周囲の財宝の周りにポッカリと空間に穴が開き、

掃除機のように吸い込む。あっという間に財宝を吸いこめば穴を閉じて、

それから中央に置かれた香炉を手にする。

 

「はい、ダンジョン攻略達成だな」

 

笑みを浮かべ、香炉をシャルロットに突き出す。

彼女は若干、頬を赤く染め、コクリと頷いて香炉を手にした。

 

「・・・・・あなたたちがいなかったら私たちは死んでいたかもしれない」

 

「んじゃ、運が良かったな」

 

「・・・・・お礼、何が良い?」

 

お礼?んー、お礼か・・・・・。

 

「じゃあ、一つだけ良いか?」

 

「・・・・・なに?」

 

「シャルロットとあと二人の姫と友達になりたい。ダンジョンを攻略した仲だしさ」

 

「―――――」

 

シャルロットが目を丸くした。あれ、意外そうな顔だな。他の二人も同じ感じだ。

 

「・・・・・私たちと友達になりたいなんて、あなた、変わっているわね」

 

「そうね。普通、ガリアの姫である私たちと婚約したいとか言い出すのかと思った」

 

ここに来て、初めて喋ったガリア王国の姫たち。

 

「いやー、なんとなくだけど、お前ら。友達いないだろう?」

 

「「「・・・・・」」」

 

押し黙った。図星だったのか?

 

「それとそこの姫さん。どうせ拒否される願いを俺がすると思ったか?

そりゃ、今でも可愛いが数年後にはガリア王国が誇る美しい女性となるだろうけど、

それは自分が好意を抱く異性に―――って、何故顔を赤くする?」

 

「・・・・・っ」

 

率直な意見を述べただけなのに・・・・・ああ、照れているのか。初々しいな。

 

「ジョ、ジョゼット・・・・・」

 

「え?」

 

「私の名前です。イッセー。これから私のことをそう呼んで。

・・・・・友達、なりたいんでしょう?」

 

・・・・・・。ちょっとびっくり。まさか、姫さんからそう言いだすなんてな。

 

「ああ、友達になりたい。よろしくな、ジョゼット」

 

手を突き出せば、ジョゼットは恐る恐ると小さな手を出してきて俺の手を握り返してくれる。

 

「大きい・・・・・」

 

「ん?」

 

「い、いえ!何でもないわ!」

 

バッと手を離された。―――と、思ったらシャルロットが握ってくれた。

 

「・・・・・友達」

 

「おう、シャルロットも友達だ」

 

「・・・・・」

 

コクリと、シャルロットは頷いた。すると、今度は

 

「そんじゃ、ここまでしてくれた礼に私も友達になってやろうじゃないか」

 

明らかに二人より年長だと思しき少女が手を出してきた。

 

「私はイザベラ。よろしくね。イッセー」

 

「おう、よろしくなイザベラ」

 

「ガリア王国の姫にタメ語なんて肝が据わっている平民だこと。面白いわね」

 

・・・・・・元、次期人王だったんだけどねぇ・・・・・一気に平民に降格か・・・ぐすん。

 

「さて、どうやって帰ろうか?」

 

「・・・・・多分、あの扉から」

 

またしてもシャルロットがどこかに指摘した。そこに向けば、静かに佇んでいる扉があった。

 

「あれか・・・・・皆、準備は良いか?」

 

そう全員に訊けば、全員は頷いた。その様子に俺も頷いて扉に向かう。

そして―――扉のドアノブを掴んで、火なりながら開け放った。

 

その瞬間、扉の向こうから光が洩れて俺たちを包んだ。

 

視界が白く塗られしばらく視界を奪われていると、耳にざわめきが聞こえてきた。

目をゆっくり開けると―――。ガリアの町が映り込んだ。

 

『・・・・・・・・・・・・・』

 

沈黙がこの場を支配する。後ろに振り向けば、皆がいる。

そして、塔が突然に光の粒子と化となってガリア王国から姿を消した。

 

「えーと・・・・・ダンジョン攻略しました・・・・・?」

 

―――次の瞬間。周りから歓声と言う怒号が轟く。この六千年間、

誰も成し遂げれなかった偉業なことを俺たちがした。だから感動をしているんだろう。

 

「―――まずは、一つ」

 

残りは・・・・・四つか。先が長いな。

 

―――○●○―――

 

ガリア王国は賑やかになっていた。もうお祭り状態と言っても良いだろう。

国だけじゃなく、王城ヴェルサルテイル宮殿も似たような感じだった。

ナツ・ドラグニルたちが任務を達成したお礼に、今回ダンジョン攻略した俺たちも一緒に宮殿に

招かれてちょっとしたパーティを楽しませてもらっている。

そして・・・・・この国の王とその弟に絡まれている俺であった。

 

「フハハハハ!懐かしい奴らの子供であったか!道りで似ているわけだな!なぁ、シャルルよ!」

 

「そうだね、兄さん。イッセーくん、娘たちを守ってくれてありがとう。心から感謝しているよ」

 

「俺だけの力じゃないんだがな・・・・・」

 

それに今の父さんと母さんは敵となっている。そんなこと、言えるわけがないだろう?

いまの現状にとっても複雑だ。

 

「王族の掟とはいえ、娘たちをダンジョンに攻略させるために行かせるのは本当に心を痛んだ。

だが、それはもう終わった。あの塔は消失したのだからな」

 

「始祖ブリミルの秘宝も手に入れた。これからはガリアの統治に意識を向けようよ兄さん」

 

「もちろんだシャルルよ」

 

酒で顔を赤くしても瞳には意思が籠っていた。この二人、良い人たちだな。

 

「イッセー」

 

俺たちの横から青いドレスを見に纏ったジョゼットが近づいてきた。因みに俺はタキシード姿だ。

他の皆もガリア王から借りているドレスとタキシードを見に包んでいる。

まあ、食事に夢中だけどな。

 

「ジョゼットか。綺麗なドレスでさらに美が引き出されているな」

 

「も、もう・・・・・お世辞言っても何も出ないわよ」

 

「何も出なくても、綺麗なものが目の前にいる。それだけで十分だ」

 

「・・・・・」

 

モジモジとジョゼットは照れているようで顔を赤くする。

 

「ほう・・・・・?」

 

現ガリア王のシャルルが瞳を煌めかせた。あれ、この感じ・・・・・物凄く覚えがあるぞ。

 

「ふふっ、なるほど、そういうことか」

 

「なにがだ、シャルル」

 

「いやいや、兄さん。これは当事者たちの問題だ。外野である我々は少しだけ離れていよう」

 

「む?お前がそう言うなら・・・・・」

 

なんだろう、あのヒト・・・・・物凄くフォーベシイと似ているところが一瞬だけあったぞ。

シャルルの兄であるジョゼフをどこかに連れていく姿を見ていると、ジョゼットが口を開いた。

 

「あ、あの・・・・・イッセー?」

 

「なんだ?」

 

「私と・・・・・踊ってくれない?」

 

踊り?ああ、なるほどな。俺は恭しくお辞儀をする。

 

「かしこまりました。この私でよければ、

ジョゼットさまの踊りのお相手を務めさせてもらいます」

 

自分でして、似合わない言動だぁー。彼女の手を引いて、

ダンス会場と化となっている空間へ赴き、流れる音とリズム合わせて、ターンやステップ、

彼女の動きに合わせてしばらく踊り続ける。そうこうしている内に、周りが俺たちを見ていた。

 

「・・・・・」

 

ジィーと俺を見上げるジョゼット。何だろう、言いたげな顔だな。

 

「俺のダンスがおかしいか?」

 

「ち、違います。―――あっ」

 

彼女の足が俺の足に引っ掛かって床に倒れそうになった。ジョゼットの腕を引き上げ、

腰に腕を回して抱きかかえるように体勢を整えて立ち直す。

 

「大丈夫か?」

 

「―――――っ!?」

 

バッ!

 

突然、彼女が俺から離れて駈け出した。・・・・・え?何事?

 

「・・・・・」

 

徐に俺に近づきて来たのはシャルロットだった。

 

「次、私の番」

 

「え?」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・分かった」

 

だから、そんな睨むように見ないでくれよ。

 

―――ジョゼットside―――

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・」

 

お、思わず彼から逃げ出すように離れてしまった。きっと変な子だと思われたに違いないわ。

 

ドキドキ・・・・・。

 

この胸が高鳴るのって・・・・・本で読んだのと同じ・・・・・私、まさか平民に

恋しちゃっているの?そんな、身分も地位も天と地の差なのに、許されない恋を

私はしちゃっているの・・・・・?

未だに高鳴る胸、心臓に手をやっていまの自分の気持ちに葛藤していると、

 

「ジョゼット、どうしたんだい?」

 

「お父さま・・・・・」

 

父が尋ねてきた。

 

「顔が赤いが・・・・・もしかして風邪でも引いているのかい?」

 

「い、いえ・・・・・そうではありません」

 

そう答えると、お父さまは笑みを浮かべた。

 

「では彼に、イッセー・D・スカーレットという平民に恋を抱いているのかな?」

 

「なっ・・・・・!」

 

核心を突いた事実を突き付けるお父さま。私の気持ちを気付いて―――!?

 

「ジョゼット、平民と王族と結ばれることは決して許されない。

これは先祖代々ガリア王国を守ってきた先代のガリア王たちもその子供もそうだった」

 

「・・・・・」

 

やはり、私は彼と結ばれることはダメと、そんな運命に縛られるのですね。

 

「が―――、兵藤家の者なら話は別だ」

 

「・・・・・兵藤家?聞いたことがない貴族の名前ですね」

 

「貴族ではない。僕たち人の頂点に立つ王、人王なのだよ」

 

人王・・・・・兵藤家?でも、それが彼と何の関係が・・・・・。

お父さまは私の気持ちを理解したのか、説明してくれた。

 

「彼はね、ジョゼット。僕と兄さんがまだ若い頃に色々と世話になった両親の子供なんだよ。

その両親は人王、兵藤家の一族の者だ」

 

「え・・・・・!?」

 

「ということは、彼も人王の一族だ。いまはイッセー・D・スカーレットと名乗っているが、

本名は兵藤一誠のはずだ」

 

兵藤・・・・・一誠・・・・・・。

 

「だから、違う国とは言え彼は王族の子供。ジョゼットこれから末永く彼と仲良くして交流をしてもらいたい。ガリア王国は次代の王に掛かっているからね」

 

「お父さま、それって・・・・・」

 

「ふふっ、今の僕は酔っているからね。自分の娘に何を言ったのか明日になったら

忘れているだろうから言わせてもらうよ。イッセーくんを色んな方法でもいい、

―――彼を手籠なさい」

 

「んな―――っ!?」

 

自分の父親がとんでもないことを発した。絶句して顔がいつにも増して赤く熱くなっているのを

自覚している私を余所にお父さまは、どこかに行ってしまった。

 

「・・・・・あの人と恋愛ができる・・・・・」

 

そう思った瞬間に、私は堪らなく嬉しくなった。だって、私の恋はまだ終わっていないから!

 

―――一誠side―――

 

シャルロットとダンスが終えたと思ったら今度はイザベラと踊り、

さらにクロウ・クルワッハとも踊れば、オーフィスを肩に乗せたまま、

エルザ・スカーレットと踊った。

それからパーティは幕を閉じてそれぞれ設けられた部屋で就寝するハズだった。

 

『こんばんわ、聞こえていますか?原始龍です』

 

脳裏にあの龍の長から話しかけられた。心の中でも聞こえる?

 

『ええ、口で言わなくても思いで返事をしてくれれば問題ないです』

 

なるほど、便利だな。それで、何か用か?

 

『そうですね。労いの言葉を、と思い話しかけました。お疲れ様です』

 

大して疲れはしなかったけど、色々と遭ったのは間違いない。見ていたから分かるだろう?

 

『エルフの少女と共に使い魔のルーンを刻まれ、主と使い魔の関係となったことも

こちらで確認しました。しかし、あなたは本当に異例中の異例です。

そのルーンの意味は分かりませんよね?』

 

勿論だ。なんだ、これは?

 

『簡単に言えば、始祖ブリミルの使い魔である四人のルーンです。

確には使い魔が三人で弟子が一人』

 

始祖ブリミルって・・・・・このハルケギニアの魔法の祖だった魔法使い。

その魔法使いの使い魔と弟子のルーンがこれだって言うのか?

 

『まず間違いないです。あなたは一人で四つのルーンを持ったドラゴンです』

 

おおう、俺の存在がグレートアップしたぞ。

 

『始祖ブリミルと三人の使い魔と一人の弟子についてはそちらの国で学べます。

気になるんでしたら独自の方法で調べてください。私はあまり詳しくないので。

―――さて、話は変えさせてもらいます。とても重大な話なので聞いてください』

 

原始龍の声に真剣さが籠っていた。

 

『とある国が一夜にして滅びました。その元凶はリゼヴィム・リヴァン・ルシファー』

 

―――っ!あの悪魔が・・・・・国を滅ぼしただと・・・・・!?

 

『そちらの世界では他の国の情報を知ることはできません。

、あなたが知らないのは仕方がないことなのです』

 

・・・・・そうか、そうだよな・・・・・。

 

『ですが、その国の生き残りがハルケギニアに向かっております。

兵藤一誠、どうかその者に手を差し伸べてやってください』

 

そいつはいまどこに?

 

『―――ゲルマニアに向かっております。目的はダンジョン攻略するようで』

 

そっか、そいつらしい奴を見掛けたら誘う

 

『ありがとうございます。では、ダンジョンを攻略したら話しかけます。お休みなさい』

 

お休み―――と、聞こえなくなった。さてと、俺も寝るとしよう。ふわぁぁぁぁ・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode6

 

 

―――翌日―――

 

俺たちはナツ・ドラグニルたちとどうこうすることに決めているので、あいつらと一緒に次の国、

好都合にもゲルマニアへと向かう。馬だと数日間も掛かる距離らしい。

 

「・・・・・行ってしまうの?」

 

「そうだな。俺はハルケギニアの全ての塔を攻略したいんだ。だからあいつらと一緒に行く」

 

「・・・・・そう、残念・・・・・」

 

寂しそうにシャルロットは呟く。背後にはガリア王と弟、ジョゼットとイザベラもいた。

 

「また会いに来るさ。ダンジョン全て攻略したらな」

 

「本当・・・・・?」

 

「約束だ」

 

小指を突き出す。シャルロットは少しの間を開けて小指を小指で絡めてくれる。

 

「いや、ちょっと待ってくれるかな?イッセーくん。

どうせなら、ジョゼットも連れて行ってくれるかな?」

 

「・・・・・へ?」

 

「正確に言えば、シャルロットもだけど。

ああ、ダンジョン攻略するまでの間だけだから安心してくれ」

 

間抜けな返事をしてしまった俺を余所にシャルルは、なに言いだすのかと思えば、

シャルロットとジョゼットも連れて行けだと・・・・・?

 

「どうやら、キミと離れるのがとても辛いらしいからね。

それに、他の国のことをその目と足で確かめに行って欲しいと思っていたところだ」

 

シャルルさん、あなたは何言っちゃってんの?と、思っているとジョゼットが近づいてきた。

 

「あ、あの・・・私も微力ながらお手伝いさせてもらいます」

 

「・・・・・・」

 

ジョゼット・・・・・本気でそう言っているのか?

でも、ジョゼットの瞳を覗けば、一緒に行きたいという決意が籠っていた。

 

「・・・・・エルザ」

 

「依頼、であれば仕方がない。よろしいですね?」

 

「ああ、もちろんだ。報酬は帰って来てから渡そう」

 

エルザ・スカーレットが了承した。この瞬間、シャルロットとジョゼットも共にダンジョン

巡りに参加することとなったのであった。

 

「それじゃ、龍に乗ってゲルマニアまで行くぞ」

 

「竜?どこに竜がいるんだ?」

 

「ん、俺自身。―――龍化」

 

想うのはガイアの姿。真紅のオーラに包まれる俺の体はどんどん大きくなり、

外見から見れば五十メートルぐらいの真紅のドラゴンに変貌しただろう。

 

「んなぁぁぁぁああああああああああああああああっ!?」

 

「お、おまっ、ドラゴンになれんのかよ・・・・・」

 

「言っただろう。俺自身のことをさ。これぐらいで来て当然だと思うけど?」

 

体勢を低くして全員を乗せやすいようにする。「乗れ」と催促すれば全員が背に乗り出す。

エルザ・スカーレットの荷物を両手で抱え、改めてシャルルとジョゼフに振り返る。

 

「また会おう」

 

「娘たちをよろしく頼むよー!」

 

バサッ!

 

二人の送り迎えの言葉を聞き頷いて、翼を羽ばたかせ宙に浮く。

宮殿から高く浮かんだところで一気にゲルマニア方へ飛翔する。

 

「うっはっー!すげぇーぜ!」

 

「これなら、数日掛かるはずが数時間で辿り着きそうだな」

 

「イッセー、お前って奴は・・・・・」

 

「本当、凄いヒトね。あっ、ドラゴンだったわね」

 

フェアリーテイルの皆が称賛する。

 

「ゲルマニアに辿り着いたらシャルロットとジョゼットの必要なモノを買わないといけないな。

女性陣、頼むぞ」

 

「うむ。任せろ」

 

「うん!」

 

「しゃーねーな」

 

「ま、蛮人のことを知る一環だと思えばいいわね」

 

青い空の下で飛翔する。その背に俺の仲間たちがいる。

その仲間たちと冒険・・・・・楽しいな。こういうのって。

 

 

―――???―――

 

「いやーねー、なんで私がダンジョン攻略しなきゃなんない訳?

いくら優秀な軍人を輩出した家系だからって・・・・・絶対、死ぬに決まっているわ。

はぁ・・・・・最期に親友の顔を見たかったわね」

 

 

―――???―――

 

 

「あれが・・・・・秘宝が眠る塔・・・・・っ。絶対に、秘宝を手にしなきゃ・・・・・」

 

 

―――一誠side―――

 

 

予想していたより早くゲルマニアに辿り着いた。エルザ・スカーレットたちは一度、

ゲルマニア現皇帝と会わないといけないらしく、俺たちと別れて別行動だ。現に俺たちは

町中を歩きながらゲルマニアダンジョンを見上げていた。

 

「ガリアダンジョンと同じで大きい塔だな」

 

「そうだな。壮大だ」

 

隣で肯定するヴァン。ゲルマニア首都、ダルファグにいてかれこれ三十分が経過している。

ルクシャナの蛮人=人間観察をするために色んなところを歩き回っている。

一時間後に塔のところに集合と事前に決めていたからのんびりと観光ができる。

 

「うーん、やっぱりイッセーたちと一緒についてきてよかったわ」

 

「そうか?でも、全てが終わったら俺たちは自分の国に行くつもりだ。一緒に来るんだろう?」

 

「勿論よ。私、帰る場所が無くなってしまったからね」

 

若干、顔を曇らせるルクシャナ。婚約者にあんなこと言われ、引き摺っている様子だった。

 

「自分の国?イッセーの故郷?」

 

「ああ、極東・・・・・日本っていう国が俺の故郷なんだ」

 

「『東の世界(ロバ・アル・カリイエ)』・・・・・それがあなたの故郷」

 

東の世界(ロバ・アル・カリイエ)・・・・・?聞いたことがない単語だな。首を傾げていると、

ジョゼットが「エルフが住んでいるさらに東方に位置する世界のことです」と補足してくれた。

 

「なるほど、そういう意味だったのか。やっぱり、違う国は文化と風習、言葉は違うな」

 

「東方から来たあなたはどうしてこの世界に来たのです?」

 

「使い魔として召喚された。彼女と共にルクシャナにな」

 

当の本人はゲルマニアの町を熱心に見て、レポートしている。

 

「もしかして、その額の文字は使い魔としての文字(ルーン)・・・・・?」

 

「どうやらそうみたいだな。ただし、ルクシャナとは主であり、使い魔の関係だ。

理由は知らないけど、俺と彼女はお互い、使い魔と主なんだよ」

 

「「・・・・・」」

 

本当、どうなっているのやら・・・・・。そう思っていると、

 

「キミがダンジョンに行くなんて嘘だろう!?」

 

「そんな、どうしてキミが・・・・・!」

 

「キミが死に行くなら僕も一緒に死のう!いや、キミを絶対に守りきってみせる!」

 

何やら悲鳴染みた声が聞こえてくる。

恋人がダンジョンに行ってしまうと言う事実に嘆いでいるのか?

俺にとって関わりのない話だな。

 

「・・・・・」

 

スッと、シャルロットが俺たちから離れた。

 

「お姉さま?」

 

ジョゼットは不思議そうに姉を見詰める。

シャルロットが行く先は何かに群がっている男たちの方へだ。

 

「ルクシャナ、こっちだ」

 

「え、なに?」

 

彼女の腕を掴んでシャルロットを追う。彼女は一国の姫だからな。

単独で行動させる訳にはいかないだろう。

シャルロットの後を追うと、群がっていた男が彼女の存在に気付き反射的にだろう、

道を開けたのだった。その瞬間、豊かな赤い髪に褐色の肌、

人を魅惑させるほどの美貌の少女がいた。

 

「・・・・・キュルケ」

 

「え・・・・・シャルロット・・・・・?」

 

キュルケと呼ばれた少女はシャルロットの存在に大層驚いた表情をしていた。

知り合い・・・・か?ジョゼットに視線を向け、尋ねた。彼女からの返答は、

 

「ええ、お姉さまと親しくしていた友達に間違いないです。

ロマリア連合皇国から全てのダンジョン攻略するようにと御触れが出るまで、

私とお姉さま、キュルケはトリステイン魔法学院に留学生として通っていました」

 

「ロマリアから?でも、ガリアは王族としての掟でとか言ってなかった?」

 

「時期が重なってしまったんです。

どちらにしろ、私たちはダンジョンに攻略しないといけなかった」

 

なるほどな・・・・・今回の原因はロマリアか・・・・・こりゃ、一波乱がありそうだ。

 

「でも、どうしてそんなことをロマリアが?」

 

「さぁ・・・・・分かりかねます」

 

・・・・・ナツ・ドラグニルたちに依頼した奴って・・・・・一体どんな奴だ?

 

 

―――○●○―――

 

 

「初めまして、私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。

シャルロットの親友よ」

 

あれからしばらくして、シャルロットの友達を塔の付近まで連れて自己紹介をしてきた。

 

「でも、まさか驚いたわガリアダンジョンを無事に攻略するなんてね」

 

「お父さまが雇ったフィオーレ王国一のフェアリーテイルというギルドの集団と

イッセーたちのおかげ」

 

「フィオーレ王国って・・・・・噂に聞く魔導士って人たちがいるあの国の?

よく、雇えたわね」

 

どうやらハルケギニアと離れた国らしい。

 

「で、今度はこのゲルマニアダンジョンを攻略しようって?」

 

キュルケの問いにシャルロットはコクリと頷いた。

 

「そう・・・・・なら、私も死なずに済むかもしれないわね。

強引にダンジョン攻略にさせられるから嫌で仕方なかったわ。

いくらロマリアからのお触れだからって他人の意志を無視してして良い事と悪い事があるわ」

 

嘆息する彼女。本当に嫌だったのだと伺わせてくれる。

 

「あー、外国に行ったあの子たちは羨ましいわね。

ハルケギニアの今の情報なんて知る由もないんだから」

 

「あの子たち?」

 

「ええ、とある姉の病を治すために極東の国に行ったのよ。最後の希望だって」

 

・・・・・もしかしなくても、あいつらのことか?亜空間からアルバムを取り出した。

ページを開いてキュルケに見せつける。

 

「もしかして、こいつのことか?」

 

「え?・・・・・。―――――っ!?」

 

写真を見てすぐに過激な反応をした。―――カリンが写っている写真だ。

 

「ど、どうして・・・・・あなたがあの子の写真を・・・・・?」

 

「俺はその極東の国からやってきたんだよ。で、カリンとルイズと交流を持っている」

 

「ルイズ・・・・・久し振りに聞いたわね。あの子、元気にしている?」

 

「ああ、色々と遭ったけど、人一倍プライドが高い少女だよ」

 

苦笑を浮かべる。今頃、あいつはどうしているのか今の俺には知る由もない。

キュルケは微笑んだ。

 

「そう・・・・・相変わらず変わらないのね」

 

「嬉しそうだな?」

 

「ヴァリエール家とツェルツプストー家は昔から恋に関して因縁があるからね。

だから、必然的に私もルイズとよくいがみ合ったわ。邪険ってほどじゃないけど、

それなりに仲が良かったわよ?」

 

「へぇ、意外だな」

 

あのルイズがねぇ・・・・・。

 

「おーい!」

 

すると、待っていた人物たちが戻ってきた。

キュルケも含めナツ・ドラグニルたちと合流を果たす。

 

「どうだった?」

 

「問題ない。何時でもダンジョンを攻略してほしいそうだ。その書状ももらった」

 

「そうか。それじゃ、準備を万全にしてから挑戦しようか」

 

「まだ時間はある。宿を取って出発しよう」

 

「お金も一杯あるしね!」

 

その後、ダンジョンを攻略は明日になった。キュルケと別れ、宿を取って、明日に備える。

―――俺はルクシャナとヴァンを引き連れてシャルロットとジョゼットが必要なモノを

備えるために本人たちも連れて町中を歩いて女性専用の店の前でボーっと待っていた。

 

「・・・・・暇だ」

 

かれこれ、二時間も経過している。一時立ったまま寝てしまった。

 

「まだ・・・・・掛かりそうだな」

 

ちらほらと店の窓から覗ける皆の姿。そう言えば、俺は皆と出掛けたことって

滅多になかったな。多かったのは・・・・清楚だけか。

俺の目の前で行き来するゲルマニア住民たち。

二人で歩いている者がいれば、一人で歩いている者もいる。

中には、布で何かを巻いた全身をすっぽり覆う謎めいた人が―――。

 

ドサッ・・・・・。

 

倒れた・・・・・って、どうした!?慌ててその人に近寄って介護する。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「・・・・・うっ・・・・・」

 

次の瞬間。

 

ギュルルルルルルル・・・・・・・・・。

 

盛大に音が鳴った。そう、倒れた人の腹から。・・・・・・こいつ、腹減って倒れたのかよ。

横に抱えて、建物の壁際にまで連れていき、

亜空間から出来立てホヤホヤのおにぎりを数個取り出す。

 

「ほら、食え」

 

「あ、ありがとうございます・・・・・」

 

パクっと食べた瞬間。行儀もクソもないと、おにぎりをバクバクと食べ始めた。

 

「うっ!?」

 

「・・・・・なんちゅー王道的なことをするんだろうか」

 

案の定、米粒を咽喉に詰まらせた。水を差し出せば俺から受け取って飲み干す。

 

「げほっ、げほっ、す、すいません・・・・・」

 

「おにぎりは逃げないからゆっくり食え」

 

「は、はい・・・・・」

 

空腹で倒れた人はゆっくりとおにぎりを食べ始めた。その間、ようやく店から皆が出てきた。

 

「イッセー、お待たせ・・・・・って、誰、その人」

 

「空腹で倒れた謎の人物Aさん」

 

「ああ、そういうこと。さて、買い物を終えたし帰りましょう?」

 

その手には大量の袋を持っていた。

お前ら、渡した金を全部使い切ったわけじゃないだろうな・・・。

 

「ほら、貸せ。亜空間に仕舞ってやる」

 

「便利な力ねー?」

 

ヒョイヒョイと皆の買い物袋を仕舞い、それから謎の人物Aの横に金が入った袋を置いた。

 

「え?」

 

「また空腹で倒れたら敵わないだろう?それ、やるよ」

 

それじゃ、と手を振り皆と歩を進める。

 

「お前ら、時間掛かり過ぎだろう」

 

「あら、女の子の買い物は時間が掛かるものよ?」

 

「ご、ごめんなさい。つい、夢中になって・・・・・」

 

うん、ジョゼットは良い子だな。その意味を籠めて頭を撫でてやろう。

 

「まあ、明日はダンジョンを攻略しに行くんだ。しょうがないと思ってやろう」

 

―――???―――

 

不思議な人だった。見ず知らずの私に食べ物をくれたどころか、お金までくれた。

ここに来るまで水や木の実だけでなんとか凌いでいたけど全てなくなって路頭に彷徨っていた。

あの塔に入るにも門番がいて入れそうにもなかった。

私の目的が目の前にあると言うのにどうすることもできなかった。

 

「・・・・・」

 

あのヒトがくれた袋を見詰める。中にはズッシリと重みがあるお金だとすぐに分かる。

この量のお金なら、門番に渡して中に入れてくれるかもしれない。

 

「・・・・・」

 

でも、あの人がくれたお金をそんなことに使いたくない。

だけど、どうしたらあの塔に入れるのかしら・・・・・。

 

「まあ、明日はダンジョンを攻略しに行くんだ。しょうがないと思ってやろう」

 

―――っ!

 

私から離れていく恩人が衝撃的なことを言った。明日、ダンジョンを攻略しに行く・・・?

それって・・・・・!

 

「ま、待って―――!」

 

呼び止めようにも、あの人たちの姿はもういなかった。追いかけようにも一人で探すのは大変。

でも、あの人は言った。明日、ダンジョンを攻略する。

 

「・・・・・明日・・・・・」

 

この好機を逃さない。明日・・・・・明日・・・・・!

 

 

―――○●○―――

 

 

―――翌日―――

 

 

朝食を済ませ、俺たちは準備も整え終え、塔に赴く。二回目の塔の攻略。

今度はどんな障害が俺たちを阻むのか、緊張と高揚が混じり合って楽しみだと思った。

時刻は六時だ。早い方が良いだろうと決めて、塔の攻略を挑戦する。いざ、塔に辿り着けば。

 

「おはよう、待っていたわよ」

 

昨日知り合ったシャルロットの親友、キュルケがいた。

手には細い木の枝・・・・・杖を持っていた。

 

「時間もジャストだ。問題はないな?」

 

「ええ、勿論よ」

 

笑みを浮かべるキュルケはシャルロットに言う。

 

「死なないように頑張りましょう?」

 

「・・・・・」

 

シャルロットは頷く。さて、これで全員が揃った。塔も目の前。

 

「今回も燃えてきたぜ!」

 

「今度は私も頑張るんだから!」

 

「ふふっ、それは頼もしいな」

 

「そうだな」

 

フェアリーテイルチームが気合を入れる。俺たちも負けられないな。

エルザ・スカーレットが号令を発す。

 

「では、ゲルマニアダンジョンを攻略する!」

 

『おう!』

 

エルザ・スカーレットが先陣を切って歩を進める。それに続く俺たち。

門番によって開け放たれていた扉の向こうへ―――。

 

ダッ!

 

「ん?」

 

入ろうとしたその時、全身をローブで覆う謎の人物が駆けてきた。

門番が不審者と反応し、対応しようとしたが・・・・・軽やかな身のこなしで避けられ、

塔の中を俺たちと一緒に侵入を許してしまった。

 

「―――お願いします、私も連れて行ってください・・・・・!」

 

「お前は・・・・・」

 

フードから覗く素顔。青い瞳と金の髪、額には緑色の結晶を付けている。

いや、頭に翼のような飾りと一緒にくっついた装飾品か・・・・・?

気がつくとダリアダンジョンとは違い、今度は―――砂漠だった。

 

「さ、砂漠!?」

 

「おいおい・・・・・一体全体どーなってんだよ」

 

「あ、熱い・・・・・」

 

皆も唖然としていた。だが、それよりも。

 

「お前は・・・・・昨日の謎の人物Aさんだったな」

 

「ち、違います。私の名前はリース・ローラントです。昨日は本当にありがとうございました」

 

ペコリとお辞儀をするリース・ローラントという少女。

 

「ああ、それは気に知るなよ。でも、どうしてこんな形で俺たちと

一緒にダンジョンに入ったんだ?攻略しないと外に出られないんだぞ?」

 

リース・ローラントに尋ねた。

 

「―――始祖ブリミルの秘宝が欲しいのです。目的のために」

 

「―――――」

 

すると、彼女の瞳の奥を見てしまった。復讐、憎悪、恨み・・・・・。

こいつ、まるで俺みたいじゃないか。

 

「・・・・・なんのためだ?」

 

「・・・・・魔王を倒すため、弟を、家族を、民を殺した魔王を倒すためです・・・・・!」

 

俺は目を細めた。魔王とは一体誰のことだ。他の神話体系に存在する者のことか?」

 

「そうか・・・・でも、その魔王ってどんな奴だ?取り敢えず歩きながら聞かせてくれ」

 

何時までもこの炎天下の中で立ち止まるわけにはいかない。

エルザ・スカーレットを先頭に歩かせて俺たちは進む。そして、彼女から色々と聞く。

 

「名は―――リゼヴィム・リヴァン・ルシファーです。私の国をローラントを滅ぼした魔王です」

 

「リゼヴィム・・・・・!?」

 

あの悪魔が・・・・・そうか、原始龍が言っていた生き残りはこの少女のことだったのか!

 

「知って、いるのですか・・・・・?」

 

「俺もあの悪魔には因縁がある。

そうか、あいつ魔王と名乗って好き勝手にしているんだな・・・・・」

 

このこと、あいつ等の耳に届いているのだろうか。とても気になるところだ。

 

「リースだったな?お前はリゼヴィムを追い掛けているのならば、俺と一緒について来い」

 

「・・・・・どうしてですか?」

 

「俺と一緒に来ればリゼヴィムと会える可能性がある。俺もあの魔王に一度殺された身だ。

その上、俺はドラゴンだ。ドラゴンの特性は様々な力を引き寄せる。

だから、リゼヴィムと出会う可能性が高い」

 

リース・ローラントは俺の話しを聞く姿勢のまま、耳を傾けてくれる。

 

「リゼヴィムの居場所を分からないまま充てのない旅をするより、奴の情報を持っていて

、奴を倒すために集結している仲間と一緒にいた方がより効率的だ。リースの目的も叶えるはず。

それにお前を鍛えることもできる。リース、一緒にリゼヴィムを倒そう。

答えは全てのダンジョンを攻略してからでいい」

 

あまり長話はできない。この暑さじゃ思考も低下する。

 

―――三十分後―――

 

「あちぃ・・・・・」

 

ナツ・ドラグニルが重い足取りで砂漠の砂を一歩、一歩と踏む。何時まで経っても、

ダンジョンとらしきものが見えないし起こらない。延々と歩き続けるだけだった。

皆、暑さにやられている。

 

「お前ら、大丈夫か?」

 

「お前・・・・平気なのかよ」

 

「俺、小さい頃、砂漠の中を三日間歩かされたことがあるからな。それを何度もさせられた」

 

「・・・・・お前、何て鍛え方をされているんだよ」

 

何て鍛え方って・・・・・ガイアに鍛えられたんだぞ、スパルタなんだぞ、分かるか?

その時の俺の気持ちを。

 

「「はぁ・・・・・はぁ・・・・・」」

 

シャルロットとジョゼットがとても辛そうだ。

少し、休憩した方が良さそうだ。龍化になって日陰を作る。

 

「エルザ、休憩した方が良い」

 

「ああ、そうだな・・・・・実のところ、流石の私も辛かった」

 

「み、水・・・・・」

 

「お魚ぁ・・・・・」

 

ハッピーは食欲か。魔方陣を展開して、冷たい飲み物と食べ物、それと魚も出してやった。

 

「一息ついたら、俺の背中に乗れ。空から探した方が良さそうだ」

 

「分かった。だが、お前は大丈夫なのか?」

 

「俺はドラゴンだからな。このぐらいは平気だ」

 

ジリジリと背中が焦げているけどな。

 

「・・・・・お前に助けられているばかりだな」

 

エルザ・スカーレットが水の入った容器を俺の体に上って持ってきてくれた。

 

「ほら、飲め。平気だからとはいえ、ドラゴンも生物だ。咽喉も渇くはずだ」

 

「・・・・・」

 

無言で口を開ければ、口の中に水を入れてくれた。胃の中に流し込んで彼女に例を言う。

 

「ありがとう」

 

「気にするな。仲間だろう?」

 

うわ、いま恰好良いセリフを言ったぞ。―――姐さんと呼びたい!

 

「・・・・・」

 

眼下でシャルロットが杖を徐に振るった。俺の上に氷の塊が空気の水分を急激に凍らせる―――も、

あっという間に溶けてしまった。丁度、その溶けた氷の水滴が俺を濡らす。

 

「体も熱くなっているはず」

 

「ああ、そういうことか。ありがとうな」

 

生温かいけど・・・・・と、俺のために気を使ってくれた彼女に口が裂けても言えなかった。

 

「そう言うことなら私もできるな」

 

そう言ってヴァンが俺の頭上に魔方陣を展開させた。

次の瞬間、膨大な水が流れ出て来て俺の全身を濡らす。

あー、エルザ・スカーレットもずぶ濡れだ。

 

「ヴァン、ありがとうな」

 

「気にするな」

 

彼女のおかげで体温が低下した。それからしばらくして、

皆の休息を終えれば俺は別のドラゴンの姿と変わる。全員を乗せて、砂漠の上を飛行する。

 

「お前、何でもありだな」

 

「三つ首の龍・・・・・あの時の大会にいた龍だな」

 

「そーいや、お前だったんだよなー?でも、なんで今頃そんな龍になったんだ?」

 

「ああ、この姿の方が視界も三倍も増える」

 

「そっか、六つも目があるもんね」

 

ルーシィ・ハートフィリアの言う通りだ。探すにはこの姿の方が良い。

 

「それにしてもナツ。お前、酔わないのか?」

 

「なに言いやがるんだグレイ。イッセーは仲間だぞ。乗り物なんかじゃねぇ」

 

なんだ、こいつは乗り物酔いをするのか。見た目じゃ分からないものだな。

 

「―――ちょっ、なにあれ!」

 

突如、悲鳴が上がった。どうした?とばかり尻目でルーシィ・ハートフィリアを見た途端。

俺の視界に砂色の巨大なウェーブが発生しているのが見えた。

 

「砂嵐か!?だが、そんな生易しい規模じゃねぇぞあれは!」

 

「イッセー!もっと空高く飛んで!」

 

「了解だ!」

 

翼を羽ばたかせて急上昇する。砂の波より空高く飛んでいると、

俺たちの下で砂が前へ前へと進んでいく。

 

「・・・・・・マジで驚いた」

 

「本当ね。イッセーがいなかったら、私たち呑みこまれていたわ」

 

「ついでに言えば、空高く上昇したおかげでようやくダンジョンらしき場所を見つけた」

 

そう、俺の前方。うっすらと見えるが三角形の造形が確認できた。―――ピラミッドの類だろう。

そっちに飛行していく。

 

―――○●○―――

 

ピラミッドに辿り着いた俺たちは入口を探していた。それはすぐに見つかった。

グレイ・フルバスターが見つけた入口に集合して俺は皆に伝える。

 

「俺もピラミッドの中を探検したことで分かったことが色々とある」

 

「どんなだ?」

 

「このピラミッドも現世のピラミッドと同じなら、

障害物の他にも人間のミイラや人喰い虫がいるはずだ」

 

「ミ、ミイラ?」

 

「人喰い虫って・・・・・」

 

そこ、今から入るのに怖がるな。俺だって当初はマジで怖かったんだぞ!

 

「だから、攻撃する際は炎と氷が有効的だ」

 

「じゃあ、ナツとグレイの出番ってわけね」

 

「うむ。二人は炎と氷の魔法が得意」

 

「おー、やってやろうじゃん。グレイになんかには負けねぇ」

 

「はっ、言ってろ」

 

おーい、喧嘩腰になるなよ。チームワークが大事だって、

 

「シャルロットとジョゼット、キュルケも頼むぞ」

 

「分かった」

 

「私も頑張ります」

 

「私の炎をみせてあげるわ」

 

ハルケギニア組も気合を入れる。

 

「エルザは全員のサポートだ。

ピラミッドの中は狭い通路が多いから剣での物理攻撃も制限される」

 

「心得た」

 

「それと障害物と言っても罠の意味だからな。それが張り巡らされている可能性もある。

無暗に壁とか天井に触れてはダメだ。これは体験した俺が言えるからこそ言えるんだ」

 

『・・・・・・』

 

皆は俺の話に真摯に聞いてくれる。俺の話しは以上だ。

 

「それじゃ、行くぞ!」

 

『おう!』

 

そして、俺たちはピラミッドの中へ侵入した―――。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode7

 

 

ピラミッドの中は予想通り、石の壁出てきた通路だった。

大の大人が横二三人ぐらい並んでいけるぐらいの幅だ。

 

「足元に気をつけろよ。人喰い虫が地面から盛り上がってくるからな」

 

「うわ、考えただけでゾッとしたわよ」

 

「人を食わない分、ゴキブリの方がまだ可愛いもんだ」

 

「どっちもイヤよ!?」

 

「まあ、その時は床に氷を張って出れなくすればいいだけだ」

 

あっけらかんと言う。狭い通路を歩き続け、左に行ったり右に行ったり、

階段を上がったり下りたりすると、―――全員が溜息を吐いた。

 

「何時になったら辿りつくのよぉ・・・・・」

 

ルーシィ・ハートフィリアは腰を下ろして嘆息する。

 

「全くだぜ。こうも歩き続けているのに扉らしいものすら見つからないなんてよ」

 

「ピラミッドは迷宮のような構造でできているようだな・・・・・。

こういう時はあれか・・・・・?」

 

「あれって?」

 

キュルケが尋ねてくる。勿論、あれだ。

 

「人は言う真っ直ぐ進めば何時かゴールに行けると、ナツ」

 

「なんだ?」

 

「得意分野の破壊をしようか」

 

右手に炎を纏う。ナツ・ドラグニルは俺の意図に気付いたようで笑みを浮かべた。

 

「いいじゃねぇか。そっちの方が単純で分かりやすい」

 

あいつも手に炎を纏う。

 

「え?イッセー?ナツ?」

 

「お前らは結界の中にいろ」

 

金色の錫杖を虚空から出現させてルーシィ・ハートフィリアに渡す。

錫杖から金色の膜が展開して俺とナツ・ドラグニル以外の面々が包まれる。

仮に人喰い虫が出て来ても、あの結界の中なら安全だ。

 

「そんじゃ」

 

「始めようか」

 

次の瞬間。

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

 

ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!

 

俺たちは周りの壁を破壊行動を始めた。

 

「うおりゃああああああああああああああああっ!」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

次々とピラミッドの中を破壊していく。

 

「む、無茶苦茶よぉーっ!?」

 

「いや、案外これでいいんじゃね?」

 

「うむ。なんだか道も広くなって私たちが通っていない道も見えてくるぞ」

 

「だからって・・・・・こんなやり方で攻略していいのかしら?」

 

「や、野蛮なやり方だわ・・・・・」

 

後で何か言っているが気にしない!

 

「今度は下だナツ!」

 

「おうよ!」

 

粗方周りを破壊つくした。その結果、ミイラや人喰い虫の存在は見当たらない。

ゴウッ!と膨大な熱量の炎を拳に纏わせる。

ナツ・ドラグニルと息を合わせて床に拳を突き付けた。

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

呆気なく床は崩壊した。その威力は下の階層にまで轟き、どこまでも崩壊していく。

そんなことをすれば俺たちも落ちるのは必然的で、翼を展開してナツ・ドラグニルを抱え、

ヴァンたちを包んでいる金色の膜とゆっくり下に降りていく。

 

「これだけ破壊尽くしたんだ。何かしらの結果がなければ困る」

 

「だな」

 

暗い底に降りていく俺たち。しばらく降りていくと、とある階層で扉みたいなものを発見した。

 

「扉だわ!」

 

「二人の行動に無駄はなかったわけだな」

 

その扉に近づく。まだ膜を解かない。念には念をだ。

 

「・・・・・鍵穴があるぞ?」

 

「おいおい、鍵がないとダメなのか?」

 

扉に一つのカギ穴を見つけた。どこかに鍵があったのか?

でも、そんな探す暇もないし・・・・・アレの出番だな。

 

「杉並に教えてもらった技術を使う時が来るなんてな」

 

興味もないのに、熱心に教えてくるもんだからな。覚えてしまったよ。―――ピッキング技術を。

亜空間からピッキング技術に必要な道具を取り出し、鍵穴の前で跪き、解錠する。少しして、

 

「・・・・・」

 

ガゴンッ!

 

「よし、開いたぞ」

 

『おお・・・・・』

 

少し手間取ったが何とかできた。杉並も役立つことを教えてくれた。ありがとうよ。

 

「そんじゃ、開けるぞ」

 

「分かった」

 

ナツ・ドラグニルとドアノブを掴む。

 

「「せーの!」」

 

ガチャッ!

 

扉が・・・・・開かなかった。あ、あれ?

 

「なぁ、開かないぞ」

 

「ちょっと待て、確かに解錠したはずだが・・・・・・」

 

扉に付けられている輪っかは外側に向かって開くもののはず。・・・・・どうしてだ?

 

「・・・・・扉って横に開いたり、上に開いたりする種類があったよな?」

 

「・・・・・」

 

後からそう聞こえた。・・・・・まさかな?始祖ブリミルがそんなお茶目なことを・・・・・。

 

ガラッ!

 

「あっ、開いたぞ」

 

ナツ・ドラグニルが扉を横にスライドした。・・・・・・ええええええええ?

 

「うわ・・・・・チョー恥ずかしい・・・・・」

 

「はははっ!」

 

「そこ、笑うな!」

 

ヴァンが堪らなくなったのか笑いだした。くそ、始祖の奴。生きていたらぶん殴りたいのに!

開けた扉から中へ侵入する。―――中はとても真っ暗だった。

大きな火の玉を複数作りだして辺りを照らす。

照らされた暗い空間に俺たちの視界も周りが見えるようになった。

 

「っ!」

 

キュルケが短く悲鳴を上げた。無理もないな。俺も驚いた。

なんせ・・・・・俺たちがいるホールを囲むようにズラッと壁の中にミイラが数多くいたからだ。

 

「うん、大体次の展開が読めてきたぞ」

 

「と、いうと?」

 

「今度の相手はこのミイラくんたちだ」

 

パァアアアアアアアアアアアアアアアアアァンッ!

 

手と手を強く合わせて音を鳴らした。

それが呼び水となったようで・・・・・壁の中にいるミイラたちが次々と意志を持っているかの

ように動き出した。金色の膜を消して皆を解放する。

 

「全員、背中合わせだ」

 

ザッ!と互いの背中を向け陣を組んだ。

 

「そんじゃ、始めようか」

 

パチンッ!と指を弾いたら、上に浮かんでいる大きな火の玉からまるで流星のように

火の玉が降り注ぎ始めた。それは真っ直ぐミイラたちに向かう。

 

「さっきも言った通り、炎と氷が有効的だ。

この状態で襲いかかってくるミイラどもを屠るぞ」

 

『了解!』

 

杖を構え、武器を構え、拳を構え、鍵を構え―――鍵?

 

「いでよ!金牛宮の扉、タウロス!」

 

ルーシィ・ハートフィリアがそう力強く叫ぶと鍵が光り出して―――煙が発生したかと思えば、

 

「ンMOOOOOO!」

 

人、いや、牛が出てきた!?

 

「牛っ!?」

 

人型の牛が出てきた!なんだ、獣人か?それとも人獣か?背中に大きな鉞を持っているぞ!

驚いている俺にルーシィ・ハートフィリアが口を開いて教えてくれた。

 

「そう言えば、イッセーは知らなかったわね。私は精霊使いの精霊魔導士なの。

今呼びだした精霊はタウロスって言って、この鍵は精霊を異世界から召喚するために

必要な黄道十二門の鍵の一つなのよ」

 

「鍵で精霊を呼びだすなんて・・・・・」

 

その上、あれが精霊なんて・・・・・どこかの雪ゴリラ並みに有り得ない。

 

「さぁ、タウロス!目の前のミイラをやっつけたって!」

 

「分かりましたルーシィさん。それが終わったら、あつーい抱擁を・・・・・」

 

「はいはい、今は忙しいから早くやっつける!」

 

「あふん!冷たいルーシィさんも良いですMOO!」

 

・・・・・ぜってぇー精霊じゃないだろう、あの牛。牛肉にしちまおうか・・・・・。

 

―――○●○―――

 

―――和樹side―――

 

深夜、僕たちの家にギャスパーくんと同族だった吸血鬼たちが訪問してきた。

その理由は、ギャスパーくんの力を借りて、現在男尊と女尊と別れた吸血鬼二大派閥である男尊、

ツェペシュ派の暴挙を止めること。何でも、生命を司る神滅具(ロンギヌス)

幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』が男尊派のハーフヴァンパイアに宿って、

その力で男尊派の吸血鬼たちが絶対的な不死になろうとしているだけじゃなく、

女尊派のカーミラに被害を出しているようだ。

その抵抗とギャスパーくんを借りたいと言うんだけれど、

 

『真龍と龍神の傍にいる且つ、兵藤誠さまと兵藤一香さまのご子息

、兵藤一誠さまと共にいれば新たな力を目覚めているのかもしれません』

 

彼女は全人類の中で異例中の異例である一誠に何らかの期待をしているのが良く分かった。

確かに彼の傍にいれば様々なことがよく起こる。

結果、ギャスパーくんは吸血鬼の世界、ルーマニアへ行くことになった。

勿論、僕たちも行くつもりだ。

 

だって、生命を司る神滅具(ロンギヌス)なら、一誠を甦らせる可能性があるからだ。

その力を借りてなんとしても一誠を甦らす。皆もその希望を抱いている。

いや、光を見つけたと言うべきか。―――一誠を甦らすんだ。

そして、またあの時のように笑いがある生活をしたい―――!

 

―――一誠side―――

 

「ふぅ、ようやくゲルマニアダンジョンを攻略した」

 

男部屋で開口一番に言った。あれからすでに、攻略してから三十分が経過した。

ミイラどもを倒しつくしたが、今度はボス級のミイラまで現れた。

しかも、不死身で何度倒そうも、起き上がる。まあ、皆で攻略して倒したけどな。

 

「ハルケギニアのダンジョンはすげーよな。俺が想像していたのより驚くことが多いや」

 

「今度はさらに大変なダンジョンがありそうだな」

 

ナツ・ドラグニルとグレイ・フルバスターが感想を述べる。

 

「お前らの国は一体どんな魔導士がいるんだ?」

 

「どんな魔導士つったって、色々いるぞ?」

 

「一言で言い表せないな・・・・・実際その目で確かめてきた方が早いと思うぜ?」

 

「おっ、そいつは良い提案だなグレイ!

なぁ、イッセー。全ての塔を攻略したらお前もフィオーレ王国に来いよ。すっげーぞ!」

 

なにが凄いんだ?そう尋ねると。

 

「俺みたいな竜滅魔導士(ドラゴンスレイヤー)もいるし、S級魔導士もいるんだ。それに―――」

 

ナツ・ドラグニルが楽しそうにフィオーレ王国のことを教えてくれる。

たまにグレイ・フルバスターも付け加えて説明してくれる。とても魔法の分化が進んでいる国だと

言うことはよく分かった。

和樹をそこに連れて行ったら興味を抱かないわけがないだろうな。でも、

 

「悪い、俺の帰りを待っている家族がいるんだ。

お前たちの国に行くとしたら皆と再会してからだ」

 

「そっか、お前にも家族がいるんだな」

 

ニッ!とナツ・ドラグニルは笑んだ。

 

「お前も家族いるのか?」

 

「おう、ハッピーやルーシィ、ギルドの皆が仲間であり家族だ!」

 

「そっか、お前と気が合うな。家族を大切にしたい気持ちもよく分かるだろう?」

 

「そうだな。仲間を、家族を傷つける奴は誰であえ、許さないつもりだ」

 

・・・・・本当、こいつは面白いし、気が合う。

 

「次はどこのダンジョンに行くんだ?」

 

「この国から近いとすれば断然トリステインだ。そこの国に行く」

 

「思ったけど、お前らを依頼した奴らは一体誰なんだ?」

 

ずっと疑問に思っていたことをぶつけてみた。本人たちも依頼の裏を知って驚いてもいた。

なら、こいつらを依頼した人物は誰なんだ?

ナツ・ドラグニルとグレイ・フルバスターが顔を見合わせる

 

「最初はガリアの国からだったよな?」

 

「ああ、その後にロマリアからも同じ依頼の内容が来たわけだ」

 

「やっぱり、ロマリアが今回のダンジョン攻略の騒動を起こした元凶か」

 

「元凶って、ロマリアは悪い国なのか?」

 

「いや、そういう意味で言ったわけじゃない。

ただ、どうして六千年間も攻略できなかったダンジョンを今さら攻略しようと試みるだ?

と思っただけだ」

 

「それは・・・・・」とグレイ・フルバスターは言う。

 

「いい加減に攻略したいからじゃないのか?」

 

「そんな程度の考えで他の国にダンジョンを攻略しろと言っているんなら、

ロマリアの頭はおかしいな」

 

「だから」と俺は言った。

 

「ロマリアの王にどうしてこんな依頼をしたのか聞いてくれないか?」

 

―――翌日―――

 

「そっかぁ、残念ね。もう行っちゃうんだ」

 

「また学校で会える」

 

早朝、キュルケが俺たちを見送ってくれた。彼女も無事にダンジョンを攻略できたので、

生還で来た。しばらくシャルロットとキュルケが話をしていたが、

何やらニンマリと笑みを浮かべ出したぞ。

 

「―――じゃあ、私も行こうかしら?」

 

「え?」

 

「だって、外国に行くんですもの。私も行きたいわ。力にもなれるし」

 

キュルケさん?

 

「それに、私が黙って行った理由がダンジョンを攻略しに行ったって言えば、

親も文句だけで済ませてくれそうだしね」

 

「・・・・・本気?」

 

「ええ、本気よ?」

 

あれま、本気か。エルザ・スカーレットに振り向けば、溜息を吐いた。

 

「私たちの依頼に邪魔をしない且つ協力してくれれば、問題ない」

 

「あら、ありがとう♪」

 

話は決まったようだな。俺が龍化になって全員を乗せて―――トリステインへ飛んで向かう。

 

「どのぐらい時間が掛かる?」

 

「また数時間ぐらいだろう。で、また、翌日になったらダンジョンに攻略しに行くのか?」

 

「トリステイン王国の王女と話もしないといけないからな。

イッセーたちも共に王女の謁見に参加するか?」

 

エルザ・スカーレットの提案に俺は否定した。

 

「いや、待っているさ。俺たちはフェアリーテイルじゃないからな。

皆と協力しているからと言って、正式なメンバーじゃない。

一緒にいればバレないと思うが、それでも相手に失礼だろう?」

 

「・・・・・そうか、お前がそう言うのならば仕方がないな。

待ち合わせはトリステインダンジョンだ」

 

「分かった」

 

さらに飛ぶ速度を上げる。さっさと終わらせよう。ダンジョン攻略を。

 

 

―――???―――

 

 

「へぇー?今度はこっちに来るんだ。

じゃあ、私のところに来てもらおうじゃない。ふふっ♪ねぇ、兵藤一誠くん?」

 

 

―――トリステイン―――

 

 

あっという間に小国のトリステインに辿り着いた俺たち。

エルザ・スカーレットたちは首都トリスタニアの宮殿にいる王女と謁見。

その間、俺、ヴァン、ルクシャナ、シャルロット、ジョゼット、キュルケは白い石造りでできた

建物がある街中を歩き回っている。

 

「綺麗な街ねぇ」

 

「流石は外国というだけある」

 

「なにそれ?」

 

「初めて違う国に来たら誰でも思う感想だ」

 

地面の道を歩くこと十分ぐらいだろうか、

ブルドンネ街という場所をルクシャナが満足したら裏町のチンクトンネ街にも足を運んだ。

 

「ここはどうやら、酒場や賭博が多い街のようね」

 

ルクシャナは街の店を見て興味なさそうに言うもレポートする。

エルフだと象徴する長い耳を帽子で隠している彼女を、どこの誰が見ても美少女だ。

 

「ねぇ、イッセー。あのルクシャナって子はなにをしているの?」

 

「人間の観察」

 

「なにそれ?同じ人間を観察して楽しいの?」

 

人間じゃないから観察するんだよな。

クシャナのことを知っているのは今のところキュルケ意外だ。

シャルロットとジョゼットは知っている。最初は驚いていたと聞いていたが、

すぐに仲良くなったそうだ。

 

「そう言えば、お前たちが留学していた学校ってこの国の学院だって?」

 

「ええ、そうよ?それがどうかしたの?」

 

「じゃあ、知り合いとかいるんじゃないのか?」

 

「まあ、いないわけじゃないかもね。

でも、どの国もダンジョン攻略のために夢中だからそう簡単に―――」

 

キュルケが喋っていたその時だった。キュルケの名を呼ぶものが現れたのだ。

その人物に振り向けば、

 

「やあ、キュルケじゃないか!」

 

「あら、ギーシュじゃない。こんなところで会うなんて奇遇ね?」

 

一言でいえば、ナルシスとみたいな少年がいた。同級生?

 

「って、シャルロットとジョゼットまでいる!どうしたんだい?

キミたちは自分の国に戻ってダンジョンを攻略と戻ったんじゃなかったのかい?」

 

「それが終わったからここにいるのよ」

 

「ナ、ナンダッテー!?」

 

あからさまな反応だなぁおい。

 

「で、では・・・・・ダンジョンを無事に攻略したのかい?」

 

「ええ、シャルロットとジョゼットの両親が雇った人たちと、この人たちのおかげでね?」

 

「この・・・・・平民たちが?」

 

そっか、貴族と王族以下の人間は平民と扱われるのか。

 

「ギーシュ、彼は平民じゃないわ。私たちを守ってくれた勇者よ」

 

「・・・・・」

 

ジョゼットとシャルロットが俺をフォローしてくれる。シャルルさんとジョゼフさん。

良い娘たちですよ!本当、良い娘さんたちだ!

 

「いや、二人とも。そこの平民は杖を持っていないじゃないか。

一体どうやってダンジョンを攻略したと言うのだね?」

 

「杖がないと戦えれないのか?」

 

「貴族は皆、そうだが?それと僕にそんな口を聞いたらいけないよ?僕の父親は―――」

 

「はいはい、親の七光もその辺で止めなさい?

あなた、昔カリンにコテンパンにされたこと、忘れたわけじゃないでしょう?」

 

カリンに・・・・・?へぇ、じゃあこいつはカリンとルイズの同級生なのか?

 

「キュ、キュルケ!そんな平民の前で前のことを掘り返すなんて貴族として―――」

 

「因みに、彼はカリンとルイズのお友だちよ?」

 

「―――へ?」

 

意地の悪い笑みを浮かべたキュルケに彼女の言葉を耳にした途端に唖然となったギーシュ。

その証拠だとばかり、俺とカリンが映っている写真を見せたら―――。

 

「おお、懐かしい友の写真だ。キミ、カリンとルイズは元気にしているかね?」

 

「ああ、風紀員長・・・・・学校の風紀を守る生徒の長を務めているぞ」

 

「ははっ、彼女は相変わらずだね。魔法学院でも風紀を乱す生徒がいれば、

風の魔法で厳しく粛清していたんだ」

 

友達のことを懐かしげに語り始めた。というか、カリンよ。

魔法で風紀を守ろうとするんじゃない。いや、最初にあった頃していたな。

 

「彼女の友と言うのであれば、僕の友達とも言える。

僕の名はギーシュ、ギーシュ・ド・グラモンだ」

 

「スカーレット・イッセーだ」

 

「では、平民・・・・・と、失礼な言い方だね。イッセーと呼ばせてもらうよ?

イッセー、どこかの店で彼女たちのことを教えてくれないか?

久しく会っていない友のことを知りたいんでね」

 

「じゃあ、カリンのことも教えてくれないか?彼女、自分のことをあまり話したがらないからさ」

 

「勿論だとも」

 

決まりだ。ギーシュのオススメでとある店の中に入って、エルザ・スカーレットたちが

王女の謁見を終えるまでずっとカリンたちのことで話が盛り上がった。

そして、ギーシュ・ド・グラモンもトリステインダンジョン攻略に参加することも分かった。

 

―――その日の夜―――

 

エルザ・スカーレットたちと合流し、ギーシュ・ド・グラモンと別れ、時刻は深夜。

・・・・・眠れないな。今日に限って珍しい。

 

「いや、カリンのことを話したから今頃どうしているのか気になって眠れないだけか」

 

カリンだけじゃない。他の皆もそうだ。

俺が死んでいることに皆は悲しみに暮れているんじゃないかって、

思うと気になってしょうがない。甦った俺を知らずにいることに申し訳ない思いが一杯だ。

 

「はぁ・・・・・」

 

明日はダンジョン攻略だというのに、俺がこんなんでは皆が心配を掛ける。―――寝よう。

そう思って目を瞑った。

 

コンコン・・・・・。

 

「ん?」

 

ドア・・・・・を叩いた音じゃないな。窓から?体を起こして、

窓を見れば・・・・・一匹のフクロウがいた。その視線は真っ直ぐ俺に向けている。

寝ているナツ・ドラグニルとグレイ・フルバスターを起こさないように忍び足で窓に近づき

、開け放つ。そのフクロウは窓を開けた俺の頭に乗り出して、とある方へ翼で指した。

 

「・・・・・行け、ってことか?」

 

「ホー」

 

その通りだとばかり、フクロウは鳴いた。俺をどこに行かせるのか、

そう思うもフクロウが指す方向へ宿から飛び降りて、翼を展開して空を飛ぶ。

俺の頭から離れて先導するフクロウに続いて飛んでいると、とある建物の開いた窓から

入っていく。俺も中に入って辺りを見渡す。別に変った部屋ではない。木造で作られた建物だ。

さっきのフクロウは―――人の姿へとなり、

部屋の扉を開けると俺についてくるように催促してくる。

 

「お前の主が俺を呼んでいるのか?」

 

言葉が通じるのか、コクリと頷いた。

さて、俺を呼ぶ主は誰なのか・・・・・足を動かしてフクロウの主のもとへ―――と、

フクロウが部屋から出てすぐ隣の部屋の扉の横に立った。って、そこかよ!?

 

「・・・・・・」

 

コンコン。

 

一応、ノックしてみた。

 

「入ってちょうだい」

 

・・・・・女の声?訝しむ気持ちで扉を開け放った。

部屋の中に侵入すれば・・・・・有り得ないものがそこらじゅうにあった。部屋がコードや

パソコンで埋め尽くされている。いや、寝るためかベッドがある。それだけだ。

機械とベッド、それだけしかない。

そして、この部屋の主が、椅子に座ってパソコンと面を向かっている。

顔は見えないが桃色の髪に悪魔の翼を模したカチューシャが肉眼で捉えた。

 

「お前・・・・・悪魔か?」

 

「正解」

 

椅子を回転させて、俺に体を向けてくる。人を見ただけで魅了させるような瞳、

スレンダーな体なのに豊満な胸を強調させるフリルが付いている

黒いシャツを身に包んでいる少女だった。自分が悪魔だと証明するように背中から翼を展開した。

 

「私は悪魔のナヴィよ。初めまして、兵藤一誠くん」

 

「・・・・・会ったことがないのに俺の本名を知っているなんて

どこかと繋がりを持っているのか?」

 

「別に?ただ、あなたの行動をずっと見ていたわ」

 

「ここでか?」

 

機械がないハルケギニアにどうやって俺を見ていた?

俺の気持ちを代弁するかのようにナヴィはパソコンに指す。

 

「私は人間と悪魔のハーフなの。知っている?ガーゴイルって悪魔よ?」

 

「ガーゴイル・・・・・世界を監視する悪魔だったっけ?」

 

「そ、で、私たちガーゴイルの一族は現魔王アスモデウスさまと繋がっているわけよ」

 

意外な人物が挙がったな。―――まさか、俺のことを知っているのか?

 

「まだ魔王さまには伝えていないわよ?」

 

「どうしてだ?」

 

「だって、私たちガーゴイルの一族の務めはありとあやゆる世界の情報をアスモデウスさまに

伝えることが第一。魔王さまから『兵藤一誠を見つけろ』なんて、指示が出てないもん。

もう、あなたは死んだと認知されているわね」

 

・・・・・ああ、そうだろうな。死んだ奴を探してもしょうがない。

 

「まさか、どうやって甦ったのかしらないけど、ドラゴンとしてハルケギニアにやってくるなんて

最初は驚いたわ。どうやらダンジョンを攻略するために現れたようだけど、

どうしてなの?あなたをそこまでさせる動機を私は知りたいわ」

 

と魔方陣に乗ってこっちに近づいてきた。

 

「俺を呼んだのはその理由か?」

 

「世界を見守り、監視する私たちガーゴイルでも人の心までは見ることはできない。

長い間、ハルケギニアを監視していたけど、誰もあの塔を攻略しようなんてしなかった。

でも、ここ最近は違う。なんかしらないけど、塔を攻略しようと人間が躍起になっているわ。

その中心があなたたち」

 

「・・・・・」

 

「ねぇ、情報を教えてくれたら、あなたが知りたがっている情報も提供しても良いわよ?

―――あなたの家族やリゼヴィム・リヴァン・ルシファー。何でもよ?」

 

―――――っ!

 

こいつ、どこまで知っているんだ・・・・・?情報網が計り知れない・・・・・。

 

「・・・・・分かった、じゃあ教える代わりに」

 

「うん」

 

「ナヴィ、お前のことを知りたい」

 

「・・・・・え?」

 

ポカンとナヴィが呆けた顔となった。

 

「え?私?あなた、自分の家族のこととか、

あのルシファーさまの弟のことを知りたくないの?」

 

「それも確かに知りたいが、ナヴィという情報が気になるな。ガーゴイルなんて初めて見たし」

 

「・・・・・あなた、変わっているわね」

 

「良く言われる。当然、皆のこととあの悪魔のことも教えてもらうけどな」

 

「座らせてもらうぞ」とベッドに座る。

対して彼女はパソコンの電源を落として俺の隣に座りだした。

 

「それでは、あなたから教えてちょうだいね?」

 

どこからともかく紙とペンを取り出す。俺は頷き、事の顛末をナヴィに告げる―――。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode8

 

 

「―――で、イッセー。そいつは一体どこのどいつなんだ?」

 

現在、俺はヴァンの光の剣に突き付けられています。その理由は―――。俺の背中にいる存在です。

 

「えっと、悪魔と人間のハーフ、ガーゴイルのナヴィだ」

 

「ガーゴイルだと?下級悪魔がどうしてここにいる」

 

睨むように俺の背中に抱きついているナヴィを睨むヴァン。

 

「イッセーに頼んで私も同行させてもらうことにしたのよ。私の情報はとっても役に立つわよ?」

 

「はっ、情報が役立つなんて、敵を倒すにはあまりにも非力じゃないか?」

 

「相手の情報を知って倒す方法もあるのよ?それに情報は時として武器にもなれるの。

そんなこと知らないの?」

 

ナヴィが一理あることを言う。が、ヴァンは侮蔑を含んだ言葉を発した。

 

「情報が武器だと?そんなもん、役に―――」

 

「堕天使の女帝、ヴァン。好きな食べ物は甘い物、嫌いなものは退屈。趣味はデザート作り」

 

「―――――」

 

ヴァンの顔が引き攣った。心なしか、光の剣を握る手が震えている。

 

「そして、あなたの部屋には兵藤一誠の―――」

 

「わ、わかった!それ以上言うな!」

 

意外にもヴァンが降参したので、俺は驚愕した。が、続きがあった。

 

「因みに、あなたの友達がそれ(部屋)を見て顔を引き攣らせていたわよ?」

 

「んなっ!?」

 

ガーンッ!と擬音が聞こえるぐらいヴァンが絶句した。

こいつの部屋に俺の何があるって言うんだよ。

 

「ふふっ、何時も強気で態度がデカいけど、ヴァンって乙女心があるのよ?

ついでに言えば彼女の情報は日本を監視していた前任のガーゴイルからの情報。

下級悪魔だからといって、私たちガーゴイルを舐めたら痛い目に見るわよ?堕天使の女帝さん」

 

不敵に笑むナヴィだが、ヴァンは地面に四つ這いになって、

自分の秘密を知られたことにとてもショックのようで、物凄く落ち込んでいるぞ。

 

「も・ち・ろ・ん、あなたたちの秘密を私は知っているから―――そのつもりでね?」

 

「「「「―――――」」」」

 

シャルロット、ジョゼット、キュルケ、ルクシャナが顔を引き攣らせる。

力は非力だろうが、こいつの武器は情報だ。物理的に倒されるよりよっぽど怖い。

この瞬間、立場が一気に逆転したと感じた。

 

「あっ、当然フィオーレ王国にいる同族から届いたあなたたちの情報もあるからね。

ギルド、フェアリーテイルの魔導士さんたち」

 

「「「「―――――」」」」

 

トドメとばかり、ナヴィがエルザ・スカーレットたちにも言ったのであった。

もう、彼女に逆らう方法はなかった。

 

―――一時間後―――

 

なんとかヴァンと立ち直らせ、中央広場にやってきた。

トリステインダンジョンがある広場ですでに、大勢の人間たちがいた。

 

「ナヴィ、ハーフだから神器(セイクリッド・ギア)を所有しているのか?」

 

「『千里眼(サウザント・アイズ)』。この目で見た対象の情報を全て

ステータスとして見れて、相手の全ての情報を知ることができるの。

例えば、女の3サイズとか体重を見ただけですぐに分かるわ」

 

そいつはなんとも便利な能力だな。隠し事もできないんじゃないのか?

 

禁手(バランス・ブレイカー)に至れるのか?」

 

「勿論。でも、使う機会がないからお見せすることはできないかもね。

能力は秘密だけど『千里眼奪取(サウザント・アイズ・ジャック)』よ」

 

「―――では、これより、トリステインダンジョンを攻略する!攻略した暁には王宮から

莫大な褒美を与えられる!これはアンリエッタ王女から直々のお言葉である!」

 

一人の騎士がそう宣言した。周りは歓声で湧く。広場には人間たちだけじゃなく、

書物で見たマンティコアやグリフォン、ヒポグリフ、さらにはドラゴンまでいる。

その生物らに跨っているのは、この国の騎士たち。馬もいるぞ。

 

「無理に決まっているじゃないの。杖がないと魔法を使えない人間はどこまでも弱いわ」

 

「そう言うな。それがハルケギニアなんだろう?」

 

「ええ、そうよ」

 

「だが、本当なのか?あの話は・・・・・」

 

彼女から教えてもらったとある話し。ナヴィは首を縦に振った。

 

「エンシェント・ドラゴンが目覚めると遠くない内に二次災害が起きるのはまず可能性は高いわ」

 

「・・・・・だからなのか、ロマリアがダンジョン攻略をするように他の国に仕向けたのは―――」

 

「でも、私たちには関係の話しよ。違わない?」

 

「・・・・・」

 

「イッセーの目的はドラゴンを倒すこと。二次災害まで何とかする義理はないと思うわよ。

それはこの国に住む人間たちの問題。どうなろうが、あなたの関わりがないこと。

この世界のためにあなたは家族を放っておく男じゃないと知っているわよ、私は」

 

そう言われて沈黙してしまう。彼女の言うことはもっともだ。

そこまでしろと原始龍にも言われていない。

 

「イッセー、行くぞ」

 

エルザ・スカーレットに声を掛けられた。

何時の間にか殆どの人間が塔の中へ入ってしまっていた。俺たちも続いて後を追う。

 

「・・・・・ここは」

 

塔の中のエリアは森林だった。

 

「森か。他の塔のエリアより環境が整った場所だな」

 

「ナツ、間違って森を焼かないでよ?」

 

「そうだな。間違って森を焼いてしまったら私たちまで丸コゲだ」

 

いや、お前らの実力じゃそんなことにはならないだろう?

 

「さて、ゴールはどこだろうな。空から探すぞ」

 

龍と化となって皆を乗せて空を飛ぶ。―――すると、森から土の塊でできた人型が現れた。

 

「なんだ、あれは?」

 

「あれはゴーレムよ。土系統のメイジが使役する魔法の一つ」

 

「脆そうだな」

 

と、空に飛んでいる影も見えた。広場にいたグリフォンとヒポグリフ、

マンティコアやドラゴンだ。

翼をもつ生物に跨って空から俺たちのように探しているようだな。

 

「イッセー、あの大きな巨大な木がそうじゃない?」

 

ルーシィ・ハートフィリアが俺に話しかけてくる。

俺たちが飛んでいる空からでも分かるほど大きい巨大な木。壮大だと一言が尽きる。

 

「言ってみる価値がありそうだな」

 

「では、向かってくれ」

 

「了解」

 

翼を羽ばたかせて巨木に向かう。翼を持つ生物に跨っている騎士たちを追い越して。

 

「速いわね・・・・・」

 

「私たちはもう慣れたけどね」

 

「・・・・・快適」

 

「気持ちいいわねぇー」

 

おい、キミたち。俺の背中でのんびりとしないでくれるかな?

現に―――こっちに何かが向かっているんだからさ。

 

「お前ら、しっかりしがみついていろよ」

 

真っ直ぐ向かう巨木と、巨木から現れた謎の物体と接触するのは時間の問題。

皆にそう伝え、一気に速度を上げて巨木へと飛翔する。

 

「―――なんだ、あれは!」

 

謎の物体を肉眼で捉えた。姿形はクワガタムシ。でも、胴体がまるでムカデのように細長く、

背中に翼を生やしている怪物がいた。他にも虫もどきもわんさかいる。

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

地上から轟音が聞こえた。下を見れば山のように大きな生物が何匹も森から出現していた。

十個以上ある眼球みたいな物が青から赤に変わり、何かを目指して動き出した。

その瞬間、地上から悲鳴と怒号が聞こえてくる。

 

「こっちもこっちで忙しいな!」

 

なんか、数多くの虫もどきに狙われている!逃げてもずっと追いかけてくるんですけど!

 

「しょーもない、奴らを出すか」

 

「イッセー、何を言っている?」

 

「こういうことだ」

 

カッ!と俺の周囲に二つの巨大な魔方陣が展開した。

その魔方陣の光と共にゾラードとアジ・ダハーカが姿を現す。

 

「地上と空にいる虫もどきを滅ぼしてくれ」

 

『かしこまりました』

 

『思う存分に殺戮の限りやらせてもらうぞ』

 

それぞれ地上と空にいる虫もどきへ向かう。刹那―――。上と下から轟音が鳴り響いた。

 

「うわー、流石だね」

 

「これがイッセーの力だ」

 

ナヴィが感嘆し、ヴァンが威張る。

 

「イッセー・・・・・あなた、なに者?」

 

「スカーレット・イッセーだ。そんなことよりも、辿り着くぞ。巨大な木に」

 

 

―――○●○―――

 

 

巨大な木の麓に降り立ち、ゾラードとアジ・ダハーカたちを中に戻し、

ここに来るだろうトリステインの人間を待っていた。

 

「イッセー、待つ必要あるの?」

 

「一応な。もしかしたら、いるかもしれない。いたらそいつらと一緒に行くつもりだ」

 

かれこれ十分は経過している。残り五分で行くつもりだ。

 

バサッ!

 

空からグリフォンが舞い降りてきた。騎乗している人物は長い口髭が凛々しい、

精悍な顔立ちの若い男。黒いマントを羽織っていてマントの胸にはグリフォンを象った

刺繍が施されている。

 

「はぁっ!ひぃっ!はぁっ!」

 

森の向こうから、ギーシュ・ド・グラモンが恐怖に満ちた顔で駆け走って現れた。

 

「あら、ギーシュじゃない」

 

「キュ、キュルケ!他の皆もいたぁっ!」

 

俺たちの存在に安堵して、倒れ込むように地面で四つ這いする。

 

「ねぇ、他の人たちはどうしたの?」

 

「きゅ、急に現れた怪物にやられてしまったよ・・・・・」

 

「ご愁傷さま・・・・・」

 

それから出発の時間となった。ギーシュ・ド・グラモンとグリフォンを騎乗していた男以外、

誰も現れなかった。

 

「生き残りはこの二人だけか。行こう」

 

エルザ・スカーレットがそう言う。皆、各々と動き出し巨大な木の中へと入っていく。

巨木の中は空洞で壁際に螺旋状の階段があった。そこ階段へ上へと進んでいく。

 

「で、お前は本当に動かないんだな。少しは動いたらどうだ?」

 

「―――ガーゴイルは動かない―――」

 

背中で負ぶさっているナヴィ。何故か知らんが、俺の背中が気に入ったようだ。

 

『我の特等席・・・・・』

 

いや、オーフィスさん。お前の特等席は肩じゃなかったのか?

 

『我の特等席は、イッセー自身』

 

あー、サイですか。後で好きなだけ抱きついて良いから我慢してくれ

 

『・・・・・我慢する』

 

一応、納得してくれたか。

 

「はぁ・・・・・あとどれぐらい登れば頂上に着くんだい?」

 

「おや、貴族が弱音を吐くのか?」

 

「なっ!なにを言っているんだいキミは!

僕はただ、何時モンスターが現れるのか警戒しているだけだよ!」

 

「じゃあ、モンスターが現れたら迎撃頼むよ」

 

「はっはっはっ!任せてくれたまえ!」

 

ギーシュ・ド・グラモン、何て扱いやすいんだか・・・・・。

 

「しかし、こんな時にカリンがいたら風の魔法であっという間に行けそうなんだけどね」

 

「彼女は極東の地にいるから無理だろう。

それに、魔法学院にいたころよりかなり強くなっているぞ」

 

「そ、そうなのかい・・・・・?」

 

ちょっと、青ざめたギーシュくん。この世界の貴族のメイジは強さのランクがあるらしい。

カリンはランクが高いスクウェアクラスだったそうだ。

 

「まあ、ルイズは爆発ばっかりだったがな」

 

「―――ルイズだって?」

 

グリフォンに乗っている男が反応した。

 

「キミ、もしかしてヴァリエール家のルイズと知り合いかい?」

 

「ああ、そうだけど」

 

海で撮った写真を男に投げ放てば、二つの指で受け止め、

その写真を見た途端に懐かしそうな顔付きになった。

 

「なるほど・・・・・なんという偶然だろうか、

僕の婚約者を知っている者がいたとはね」

 

・・・・・婚約者?

 

「・・・・・婚約者?」

 

「僕の名前はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。ルイズの婚約者なんだ」

 

「―――――」

 

え・・・・・マジで・・・・・あいつに、こんなダンディな男の婚約者がいるなんて、

有り得ない!婚約者の男が確かめるように尋ねてきた。

 

「キミは東方の世界(ロバ・アル・カリイエ)から来たんだね?」

 

「ああ、そうだ」

 

「彼女はどうだい?元気にしているかい?」

 

「あんまり接していないけど、元気だったな」

 

婚約者の男は「そうか」と満足げに答えた。

 

「なら、ダンジョンで死ぬわけにはいかないな。僕の婚約者が待っているからね」

 

「ギーシュも頑張れよ?俺にハルケギニアの貴族の実力を見せてほしいもんだ」

 

「はっはっはっ!任せてくれたまえ!僕の実力にビビらないでくれたまえよ?」

 

うん。多分、ビビらないから安心してくれ。

さて、しばらく木の階段を上がっていくと天井がぼんやりと見えてきた。・・・・・ん?

 

「どうしたの?」

 

「なんか、天井にぶら下がっている物があるなって」

 

「ぶら下がっている物って・・・・・」

 

ナヴィが視線をまだ高い天井に向けた。そして・・・・・言った。

 

「イッセー、ハチの巣があるわ。それもドデカいの」

 

「ハチの巣?・・・・・てっことは、まさか・・・・・」

 

俺は嫌な汗を掻いた。その瞬間、耳にあの特有の羽の音が聞こえてきた。

 

「―――全員、戦闘態勢!」

 

『っ!?』

 

その刹那。上から膨大な数の大きな蜂が現れた。

 

「は、蜂ぃっ!?」

 

「火龍の咆哮ぉっ!」

 

ナツ・ドラグニルが炎を吐くが、たったの数匹しか倒せなかった。

 

「デカ過ぎだろう!?いくらなんだって!―――うおっ!」

 

ドンッ!

 

蜂の尻の針が木の壁に激突した。げっ、撃てるのか!

 

「こんな数の大きさのモンスターに相手をしている暇はないな。駈け上がりながら迎撃だ!」

 

そう言うと、皆が階段を上るように駆けだす。その間、巨大な蜂の攻撃が降り注ぎ、

俺たちを上に行かせないと阻んでくる。

 

「鬱陶しい!」

 

手の平から魔方陣を展開して雷を迸らせた。そのまま階段を駆け上がり蜂を倒していく。

 

「―――――」

 

ルイズの婚約者が何やら呪文を唱えだした。すると、婚約者が何人にも増えた。

数は本体も含めて6人だ。グリフォンも同時に増えて、巨大な蜂に向かっていく。

 

「へぇ、ハルケギニアの魔法か?」

 

「どうだい?この世界の魔法も捨てたもんじゃないだろう?」

 

「ああ、そうだな。―――よし、俺もやってみよう」

 

「なに・・・・・?」

 

杖がないと発動しなさそうだな。金色の錫杖を展開する。

その錫杖自体を軍杖に変えて、婚約者が言った呪文を唱えた。―――そして、

 

「おお、俺もできた!」

 

「な―――っ!?」

 

俺が俺も含めて十人になった。ははっ、面白いな!

よし、いけ!俺の分身たちが一斉に巨大な蜂に襲いかかる。

 

ボオオオオオオオオオオオッ!

 

ビガッ!ガガガガガガガッ!

 

ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

炎、雷、吹雪、風の属性魔法が同時に放たれ、巨大な蜂が次々と倒されていく。

ルイズの婚約者も負けてはいないが、数と威力は圧倒的に俺が上だった。

 

「イッセー、あなた凄いわね」

 

「うん、俺自身もちょっぴり驚いている。・・・・・ん?まさか、あれもできるか?」

 

試しにちょっと頭の中で指示を出してみた。

―――そしたら、複数の俺の手から極太の気のエネルギー砲が出て来て天井にある

ハチの巣を貫いた。

 

「はは・・・・・これ、便利すぎだろう」

 

「すっげー!あっという間に蜂が全滅だ!」

 

「こいつ、味方で良かったな。敵だったら怖いぞ」

 

「ふっ、倒し甲斐があるというものではないか」

 

「そうだな!この旅が終えたら、あいつと一勝負だ!」

 

上から落ちてくる巨大なハチの巣の残骸。それを見て、俺は気付いた。

 

「あっ、また失敗した」

 

「今度はなんだよ?」

 

「アレぐらいの大きさなら、ハチミツが手に入るんじゃないかって」

 

「・・・・・」

 

ヴァンが突っ込まない。あれ、反応なし?ねえ?

 

―――○●○―――

 

ようやく階段を登り切れた。巨大なハチの巣があった場所は俺の分身が気のエネルギー砲で

撃ち抜かれていて、天井にまですっぽりと穴が開いていた。

 

「扉だわ!」

 

「今度は鍵は必要なさそうだな」

 

「そこでどうして俺を見る」

 

「・・・・・ふっ」

 

意味深な笑みを浮かべるヴァンだった。

 

「よし、ナヴィ。ヴァンの情報を―――」

 

「わ、分かったから!それ以上私の情報を漏らそうろするな!謝るから!」

 

ヴァンが慌てだす。なんだか、ヴァンの弱みを握った気分だな。くくく・・・・・・!

 

「あなた、いま悪魔らしい笑みだったわよ」

 

あれ、そうだった?ナツ・ドラグニルが扉を開けて中に入った。俺たちも続いて中に入る。

 

「・・・・・外だ」

 

扉の向こう側は外に繋がっていた。しかも、登っていた巨木じゃない。違うエリアだった。

周りを見渡せるほどの野原だけだった。

 

「なんだ、もうクリアなのか?」

 

「いや、そんな感じは・・・・・」

 

ないと、言いかけたその時だった。

 

ドッ!

 

突如、地面が深く抉った。皆が悲鳴を上げて、バラバラになって倒れた。

 

「なっ、なんだぁっ!?」

 

「一瞬だったが、鳥みたいなやつだったぞ」

 

「でも、どこにいるの!?」

 

ルーシィ・ハートフィリアの言う通り、敵の姿は見えない。

それどころか、気配も感じない。

 

ドンッ!

 

「ぐおっ!」

 

「グレイ!」

 

グレイ・フルバスターが勝手に吹き飛んだ。見えない敵・・・・・?

 

「・・・・・ドラゴンの臭いがする」

 

「俺か?」

 

ナツ・ドラグニルに尋ねると案の定、首を横に振られた。

 

「違う。微かだけど、確かに風に乗ってドラゴンの臭いがするんだ」

 

「見えないドラゴン?透明なドラゴンか?」

 

「多分、そうだと思うぜ」

 

それが証拠とばかり、どこからか炎が出現した。

 

「そこかぁっ!」

 

と、炎を纏った拳を空に振るったナツ・ドラグニル。

しかし、何かとぶつからず逆に横に吹っ飛ばされた。

 

「埒が明かないな。相手が透明な敵だったら、化けの皮を剥がしてやる」

 

空に巨大な魔方陣を展開した。俺たちを覆うほどその魔方陣から雨のように水が降り注ぐ。

 

「雨・・・・・・?おい、なにするんだ?」

 

「実態があれば、雨に濡れるはずだ」

 

土砂降りの雨、俺たち自身も濡れるが―――相手も濡れるはずだ。

 

『・・・・・』

 

すると、虚空に雨が弾いている場所があった。

それは次第に形を浮かばせて―――ドラゴンの姿へと現す。

 

「見つけた!」

 

倒さんとばかりにナツ・ドラグニルは動きだした。

が、ドラゴンは俺たちが見えると分かったのか、翼を広げて空に逃げ出す。

 

「くそ!雨の中じゃ炎も碌に纏えねぇ!」

 

「でも、こうしないと敵の姿が見えないわ!」

 

「どうにか動きを止めなければ倒せんぞ」

 

「なら、俺が動きを封じ込めてやる!」

 

透明なドラゴンが地面に降りた直後、グレイ・フルバスターが魔法を発動する。

 

「アイスメイク牢獄(プリズン)!」

 

辺り一帯の水が急激に冷気を帯びた結果、氷と化となり、

次第に透明なドラゴンを覆う氷の牢獄と化となった。

 

「イッセーが降らす雨のおかげで、魔力の消費が何時もより最小限で発動できたぜ」

 

「俺たちのコンビネーションの勝利―――」

 

ドガッシャアアアアアアアアアァンッ!

 

「は、まだまだ先のようだな・・・・・」

 

「マジかよ・・・・・」

 

氷の牢獄を突破した透明なドラゴン。あっ、魔方陣の外に逃げやがった!

 

『まったく、見ていられないな』

 

その声・・・・・ネメシス?

 

『私を出せ、私なら捕まえられる』

 

力を貸してくれるのか?

 

『ふん、クロウ・クルワッハに礼を言えよ』

 

あいつに説得されたのか、ありがとうな。龍門(ドラゴン・ゲート)を展開した。

そのゲートから新たに仲間となった『魔煌の絶禍龍(カオス・ブレイカー・ドラゴン)』。

 

「ド、ドラゴン・・・・・!」

 

「イッセー、お前は一体、何体ドラゴンを宿しているんだ・・・・・!」

 

え?えっと、メリアとゾラード、オーフィス、クロウ・クルワッハに

アジ・ダハーカとアポプス、ティアマットとネメシスとサマエル、

 

「九匹だな」

 

『九匹!?』

 

ガイアも含めて、十匹になるけどな。

 

「ネメシス、頼む」

 

『俺の縛りから逃れる存在はいない』

 

目を輝かすネメシス。それに反応して、地面から、虚空から大きな鎖が飛び出してきて、

どこかに伸びていった。

 

『―――(ロック)

 

ネメシスがそう言ったその直後だった。鎖がビシッ!と何かを捕えたのか、

張ってすぐに鎖が巻き戻る。

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

雨で濡れて透明なドラゴンの姿が見えた。鎖に絡んで動きを封じられている透明なドラゴン。

背負っている大剣を手にして透明なドラゴンに飛び掛かる。

 

ドッ!

 

「封龍!」

 

透明な体に大剣を突き出して発した瞬間、大剣に埋め込まれている宝玉に透明なドラゴンが光と

化となって吸い込まれていく。しばらくすると、透明なドラゴンはこの場からいなくなった。

 

「ありがとうな、ネメシス」

 

『次も現世に出せよ』

 

それだけ言うと、龍門(ドラゴン・ゲート)の中へと姿を消した。

雨を降らす魔方陣も消失させて、一息吐いた。

 

「イッセー!あのドラゴンはどうした?」

 

「ああ、俺の中に封印した。透明なドラゴン、珍しいドラゴンだからな」

 

「と言うと、イッセーの中にいるドラゴンの数は十匹と言うことになるか」

 

そう言うわけだ。―――と、話していると虚空に光が集束しだした。

その光は次第に扉へと具現化して、俺たちの目の前に姿を現す。

 

「どうやら、ゴールのようだな」

 

「始祖ブリミルもなんだってこんな塔を作ったんだろうな」

 

そんで、扉にルクシャナの左手と同じ文字(ルーン)が刻まれている。

 

「ルクシャナ、開けてみてくれ」

 

「分かったわ」

 

スタスタと扉に近づく。そして左手で扉に触れ途端に―――扉の文字が光り輝き、

勝手に開いたのだった。

 

―――○●○―――

 

「皆さんのおかげで無事、トリステインダンジョンは攻略できました。

トリステイン王女としてあなた方に心から感謝をしております。

どうも、ありがとうございます」

 

ダンジョンを攻略してその日の夜。俺たちは王宮に召喚され、この国の王女と謁見している。

 

「ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。及びギーシュ・ド・グラモン」

 

「はっ」

 

「は、はっ!」

 

「お二人もよく御無事で攻略をしてくれましたね。お二人はトリステインの誇りです。

後日、褒美を授与します。そして、ギーシュ・ド・グラモンには騎士(シュヴァリエ)に任命します」

 

おお、昇格したのか?ラッキーだったな、ギーシュ・ド・グラモン。

 

「正式な儀式は後日で。

いまはダンジョンを攻略した者たちの労いと称したパーティをしましょう」

 

王女がそう言うと、テーブルに様々な料理が置かれだした。

それがパーティの始まりとばかり、この日のために集まった貴族たちが賑やかになった。

 

「どーして、攻略に参加していない貴族たちまで集まるんだ?」

 

「さあな。貴族の考えることに私たちが分かるわけあるまい」

 

隣に赤いドレスを身に包むエルザ・スカーレット。俺の背中にナヴィはいなく、

代わりにオーフィスがしがみ付いていて約束通り、好きなだけ抱きついている。

 

「それにしても、お前は強いなイッセー」

 

「そうか?過剰評価はしないほうがいいぞ」

 

「過小評価もしてはならないぞ」

 

ズイと肉料理が盛った皿を突き出された。その骨付きの肉はオーフィスが取って、

俺の肩に乗り移ると食べ始める。

 

「お前がもし、フェアリーテイルの魔導士としていれば、S級魔導士になる素質がある」

 

「S級魔導士・・・・・・か」

 

「ナツも言っていたが、お前がギルドに入る気あれば私からマスターに頼んでおこう。

無論、お前が家族と再会を果たしてからだ」

 

エルザ・スカーレットから誘われた。でも、悪い。

 

「お前たちと何年も早く出会っていたら、その誘いを乗っていただろうな」

 

「・・・・・そうか、それは残念だな」

 

俺の言葉の意図に気付いた彼女は苦笑を浮かべた。

 

「でも、俺とお前たちは仲間だと思っている」

 

「ああ、当然だ。私もお前のことを大切な仲間だと思っている」

 

笑いあい、ドリンクが入ったグラスを軽くぶつけ、音を鳴らす。

 

「次は―――」

 

「アルビオンダンジョンだ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode9

 

ダンジョンを攻略して翌日。事態は急変した。

 

「ロマリアに行くだって?」

 

朝、エルザ・スカーレットたちが宮殿に召喚され、一時別れたが戻ってくるなり、

トリステインの南方の浮遊大陸、アルビオンではなく、

ガリア王国の南方に存在するロマリア連合皇国に行くと開口一番に告げた。

 

「ああ、ロマリアからの使者が昨夜に訪れていたらしくてな。

何でも、三つもダンジョンを攻略した私たちを一度顔を合わせたいとロマリアの教皇からの

直々の手紙が届いたそうだ」

 

「ロマリアがねぇ~?なんか、急に呼び出すなんて胡散臭そうよ。

それに私はあの国が嫌いだわ」

 

レヴィよ。悪魔だからしょうがないと思うが?聖なる場所だし、

『光の国』とか呼ばれているみたいだしな。

 

「イッセー、ロマリアに連れて行ってくれないか?」

 

「ロマリアにも塔があるし、ダンジョン攻略するのも変わりない。いいぞ、乗れ」

 

アジ・ダハーカに変化して皆を乗せたら、俺たちはガリアを目指し、

さらに南のロマリア連合皇国へと進む。

 

 

―――???―――

 

 

「これで良かったのですか?神の使いよ」

 

「はい、ご協力感謝します。それにそちらの情報が正しければ間違いなく、

探し求めている人がおりますんで」

 

「そうですか。神が探し求めているほどの人物は一体どんな人なのですか?」

 

「良い意味でも悪い意味でも純粋な人、です。聖エイジス32世さん」

 

 

―――ロマリア連合皇国―――

 

 

ハルケギニアの中で最古の国の一つに数えられ、短く『皇国』と呼ばれることが多いこの国は、

ガリア王国真南のアウソーニャ半島に位置する都市国家連合体。始祖ブリミルの弟子の一人、

聖フォルサテを祖王とする『ロマリア都市王国』は、当初、アウソーニャ半島の一都市国家に

過ぎなかった。

 

しかし、その『聖なる国』との自負が拡大を要求し、次々と周りの都市国家家群を

併呑していった。大王ジュリオ・チェザーレの時代はついに半島を飛び出し、ガリアの半分を

占領したこともある。だが、そんな大王の時代は長く続かなかった。

 

ガリアの地を追いだされた後、併合された都市国家群は何度も独立、併合を繰り返した。

そして幾たびもの戦の結果、ロマリアを頂点とする連合制をしくことになったのだった。

そのためか、各都市国家はそれぞれ独歩の気風が高く、特に外交戦略において必ずしもロマリアの

意向に沿うわけではない。

 

ハルケギニアの列強国に比して国力で劣るロマリア都市国家群は、

自分たちの存在意義を、ハルケギニアで広く信仰される。

『ブリミル教の中心地である』という点に強く求めるようになった。

停まりあは始祖ブリミルの没した地である。

 

祖王、聖フォルサテは、『墓守』として

その地に王国を築いたのだ。その子孫たちはその歴史的事実を最大限に利用し、

都市ロマリアこそが『聖地』に次ぐ神聖なる場所であると、自分たちの首都を規定した。

その結果、ロマリア都市国家群は『皇国』となり、その地には巨大な寺院、

フォルサテ大聖堂が建設された。代々の王は、『教皇』と呼ばれるようになり、

すべての聖職者、及び信者の頂点に立つことになった。

 

「って、ロマリア連合皇国の情報はこんなもんよ」

 

長々と情報を教えてくれたナヴィであった。 

 

「なるほどねぇー」

 

「色々と複雑な事情も絡んでいそうな話だったな」

 

ルーシィ・ハートフィリアとエルザ・スカーレットが真摯に聞いていた。

トリステインを経って数時間、俺たちはロマリア皇国に向かっている。

その間に皆はナヴィから色々と情報を聞いていた。ロマリア皇国の話もその一つ。

 

「ねぇ、イッセーの情報もある?」

 

「ちょっと待とうか、何を聞こうとする?」

 

「ごめんね?なんか知らないけど、ガードがかなり堅くて情報が殆どないの」

 

「殆どないってことはあるにはあるんだな?」

 

え、そうなの?ちょっとどんな情報を持っているのか気になるんだが、

 

「いま、大体分かっていることはイッセーが宿しているドラゴンとイッセーと

関わりを持つ人物たちぐらいしか知らないの」

 

「イッセーと関わりを持っている人たち・・・・・一体、どんな人?」

 

「女性が多いわね。それとかなりの実力を持っている。その上、地位と権力も持っているわ。

具体的に言えば、シャルロットとジョゼットみたいな家の人たちよ?」

 

「・・・・・イッセー、玉の輿、狙っている?」

 

狙っていないからな!?俺の家だってそれなり権力がある家だからな!?

首を激しく振って否定した。

 

「まあ、ハルケギニア出身のあなたたちに言ってもピンとこないでしょうから言わないわ。

フェアリーテイルの皆もね」

 

「えー、とっても気になるわ」

 

「そうだな、私も気になる」

 

女性は恋バナに目がない・・・・・。っと、あの山は・・・・・・。

 

「ナヴィ、あれが『火竜山脈』なのか?」

 

「ええ、そうよ。私も生で見るのは初めてだから壮観だわね」

 

東西に伸びる山脈。マグマが流れていて俺が今まで見てきた山より遥かに雄大だ。

 

「イッセー、あの中にドラゴンがいるんだな?」

 

「ああ、全ての塔を攻略すれば、ドラゴンは目覚め暴れる。

最後はロマリアにしようと決めていたんだけどな・・・・・」

 

そうしないと対処できなくなる。だから、ロマリアの用事が終えれば、

またトリステインに戻って南に進み、アルビオンに向かうつもりだ。

 

「―――ロマリアが見えた来たぞ」

 

バサッ!と翼を羽ばたかせる。皆に告げれば俺の頭に移動してきたり、

肩越しから前方に視線を向ける面々。

 

「あれが・・・・・ロマリア連合皇国」

 

「そして、私たちが最初に辿り着く場所が、ロマリア南部の港、チッタディラよ。

それとロマリアに入国する際には武器を袋に入れたほうが良いわよ。持ち運びは禁止だから」

 

「流石は情報を武器にすると言うだけあって物知りだ。

皆、ナヴィの言う通りにな。俺も大剣を亜空間に仕舞わないと」

 

そう口にしながら港に近づく。ナヴィから情報を訊けばチッタディラは、

大きな湖の隣に発達した城塞都市で、フネを浮かべるのに都合がいい、

ということで湖がそのまま港になったそうだ。

 

岸辺から幾つも伸びた桟橋には様々なフネが横付けされていた。それだけ見ると、海に面した、

普通の船が停泊する港とそう変わらない。さて?俺たちはフネで入国するわけではない。

龍になった俺が皆をロマリアまで乗せて飛んでいるから―――。

 

ドスンッ!

 

いざ、桟橋に到着すると、

 

「ド、ドラゴンが現れたああああああああああああああっ!?」

 

「に、逃げろぉおおおおお!」

 

うん、騒ぎになるのは必然的だった。

 

「・・・・・なあ、どう収束するんだ?」

 

「・・・・・すまない、流石の私のここまで想定していなかった」

 

これじゃ、俺が怪獣みたいじゃないか。桟橋を歩いて石のロマリアの港を歩く。

すると、俺の周りに白いローブを羽織った騎士たちが囲み始めた。

 

「ロマリア聖堂騎士(パラディン)だわ!」

 

キュルケが叫ぶように言った。その騎士たちをよく見れば、こいつらの首に、

銀の聖具がかかっている。悪魔が嫌う十字架と同類のものか。

 

「おのれ!悪しきドラゴン!このロマリアを襲撃してくるとはなんと愚かな!」

 

「我々聖堂騎士団の力を持って退治してくれる!」

 

その瞬間。騎士たちの杖から様々な魔法が俺の体に直撃する。

 

「・・・・・なあ、どうすればいい?」

 

ロマリアの騎士たちの魔法を受けながら首を背中に向ける。対して効かないんだけど。

 

「・・・・・しょうがない。イッセー、咆えろ」

 

「マジで?」

 

「ああ」

 

エルザ・スカーレットから指示を受けた。しょうがない、後でどうなっても知らないぞ?

 

「―――ギェエエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

眼下の騎士たちの咆哮した。その咆哮の衝撃波に騎士たちが吹っ飛んで、

紙クズのように転がっていった。

 

「ひっ!?」

 

「わ、我々の魔法が効かないだと!?」

 

「て、撤収だ!撤収ぅっ!」

 

うわー、退治するとか言っといて、逃げちゃうんだ?ロマリアの騎士たちは。

って、本当に蜘蛛の子が散らばるように逃げて行っちゃっているし。

 

「これで、ロマリア教皇の耳に届いてここに来てくれば御の字だ。今回の移動手段は失敗だ」

 

「お前らの姿は見えていない。誰かが代表で教皇と会ってくればいいんじゃないか?」

 

「そうしたいが・・・・・今となっては会えるかどうか分からん」

 

じゃあ、このまま待つとするか。

 

―――???―――

 

「せ、聖下!一大事でございます!港に三つ首の邪悪な龍が現れました!」

 

「・・・・・なんですって?」

 

「今現在、ロマリアが誇る軍事力の全てを投入し、

邪悪な龍を討とうとしております!聖下は安全な場所に避難を!」

 

「三つ首の邪悪な龍・・・・・ああ、どうやら探し人が来たようですね」

 

「では・・・・・?」

 

「はい、危険はないのでご安心を。顔見知りなんで大丈夫っす。

ちょっくら迎えに行ってきますんで」

 

―――一誠side―――

 

「いいかげんに、しろぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

ビュォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

『ぎゃあああああああああああああああああああああああっ!』

 

何時まで経っても教皇とやらが現れない。その間に騎士たちからの魔法、

何やら巨大な亀の甲羅に設置された訪問の砲弾に攻撃され続け、鬱陶しくてしょうがない!

翼を羽ばたかせて突風を起こして全てを薙ぎ払った。

 

「イ、イッセー・・・・・いくらなんでもやりすぎなんじゃ」

 

「しょうがないだろう。こっちが手を出さないことをいいことに、向こうが攻撃してくるんだ。

結界も、魔方陣も張らずに待っているんだぞ?」

 

嘆息する。皆はなんとも言えない雰囲気に包まれていて俺の背中に腰を下ろしていた。

 

「なあ、このままじゃ埒が明かないから。依頼主のとこに行かないか?」

 

「いや、もう全て遅いかもしないけど?」

 

「・・・・・やっぱりか」

 

これからどうしようか。

もう騒ぎは収拾はつかないまでになっていそうだし・・・・・困ったな。

 

「いっそのこと、アルビオンのダンジョンを攻略しに行って、

それから今度はフネで入国するか?」

 

尻目で尋ねれば、

 

「うん、その方がいいと思う」

 

「ええ、私もそうした方がいいわ。幸い、私たちの姿を見られていないし、

あなたの本当の姿は私たち以外知らないわ」

 

「私も賛成だ。イッセー、ここから離れるぞ」

 

了解、それじゃ・・・・・アルビオンへ行くとするか。

 

「―――おっと、すんません。どこかに行こうとしないでください」

 

第三者の声が真上から聞こえてきた。って、この声は―――!

 

「うそ、どうしてあいつがいるのよ・・・・・!?」

 

「イッセーを探しに来たのか・・・・・・」

 

ナヴィとヴァンが意外な人物に目を丸くした。

ああ、俺もビックリだよ。どーして、ここにいるんだろうか。

 

「デュリオ・ジェズアルド・・・・・」

 

「はい、お久しぶりっすね兵藤一誠くん。甦ったようで一度共に戦ったものとして、

嬉しく喜びを感じているっすよ」

 

五対十枚の金色の翼に、金色の輪っかを頭に浮かばせる青年こと

デュリオ・ジェズアルドが俺の眼前に降りてきた。

 

「デュリオ、感動の再会としたいが一つ聞きたい。―――どうして俺がここにいると分かった?」

 

俺の生存を知っている奴はいないと思っていた。

なのに、こいつはピンポイントで俺の前に現れた。デュリオ・ジェズアルドは答えた。

 

「あなたたちを呼んだのは実は俺っす。ロマリアの教皇陛下に頼んでもらいました、はい」

 

「私たちをか?」

 

「そうっす。俺の目的は甦った兵藤一誠くんを天界に招くことなんで」

 

『なっ!?』

 

天界を連れていく?俺をか?一体、どういうつもりだ?

 

「おい、俺の問いの答えになっていない。どうして俺がここにいると知った?」

 

「勿論、天界の、ヤハウェさまが御作りになったシステムで知ったんですよ。

ヤハウェさまと熾天使(セラフ)メンバーしか知りませんがね」

 

「アザゼルたちは知らないのか?いや、伝えていないのか?」

 

「どんな姿で兵藤一誠くんが甦ったのか想像していないんで、ヤハウェさまは見つけ次第、

天界に連れてくるように言われているんっすよ。もしも、異形の姿で甦ったら、

兵藤一誠くんを慕う彼女たちが驚いちゃうかもしれないっすよ?」

 

・・・・・それは・・・・・否定できないな。

 

「んじゃ、早速ですけど天界に行きましょう。ヤハウェさまが待っているんで」

 

カッ!

 

俺の足元に転移用魔方陣が展開した。

ちょっ、俺にはやらないといけないことがあるっていうのに―――!

視界が次第に白く塗り潰され、視力を奪われた―――。

 

―――○●○―――

 

「・・・・・マジかよ」

 

アジ・ダハーカの姿のまま、ポツリと呟いた。見知らぬ場所に連れて来られた俺。

見知らぬ場所に連れてきたデュリオ・ジェズアルドは、

 

「んじゃ、行きましょうっか」

 

「・・・・・」

 

「あっ、龍化を解いてくれるとありがたいっす。邪龍がいると天界の住民たちが恐れるんで」

 

そう言われ、龍化を解いた。対して変わりないけどな。

 

「・・・・・なるほど、ドラゴンに転生したんっすか」

 

「悪いな、人間じゃなくて。ヤハウェが嫌いなドラゴンでさ」

 

「多分、ヤハウェさまはそんな事よりもあなたのことを心配しているっすよ」

 

それは本人にあって確かめるまでさ。デュリオ・ジェズアルドの後を追う。

幾つも立ち並ぶ白い柱、白い床、白い天井ばかり通る。

時々、天使を見掛けると向こうがギョッと目を見開いて俺を見詰めていた。

しばらく白い廊下を歩いていると回廊に進み、右に曲がったところで階段があって、

デュリオ・ジェズアルドはその階段に分で上がっていく。三分ぐらい歩いていると階段を上り切り、

また白い通路を歩けばとある装飾が凝った扉の前に立ち止まった。

 

コンコン。

 

デュリオ・ジェズアルドがノックをする。

 

「ヤハウェさまー。兵藤一誠をお連れしましたっす」

 

そう言った次の瞬間。扉の向こうから入室の許可の声が聞こえた。

 

「んじゃ、俺はハルケギニアの食べ物巡りをしてきますんで」

 

それだけ言い残してあいつは魔方陣を介して姿を暗ました。本当に行きやがったのか!?

だが、相手が待っているから待たすわけにもいかない。扉を静かに開け放った。

部屋の中は眩しいほど綺麗で、煌びやかな家具や私生活用品、天蓋付きのベッド。

そして、その主は―――。

 

「・・・・・」

 

部屋の中央に設けられたソファーに腰を下ろしていた。

久し振りに見る女性、聖書の神、ヤハウェ。

 

「・・・・・イッセーくん・・・・・・」

 

「ヤハウェ・・・・・」」

 

彼女はゆっくりと椅子から立ち上がって俺に近づいてくる。

手を俺の頬に添えるように触れてくる。

 

「・・・・・ドラゴンに転生したんですね」

 

「・・・・・ドラゴン、極度なほど嫌いなんだろう?アザゼルから聞いた」

 

彼女から離れようと一歩だけ下がった。

でも―――逆に引き寄せられて、ヤハウェに抱きしめられた。

 

「良かったです・・・・・っ!イッセーくん、本当に・・・・・良かったです・・・・・っ!」

 

「ヤハウェ・・・・・」

 

神が涙を流している。これは、夢なのか・・・・・?

俺のために泣くなんて有り得ないだろう?

 

「サマエルの呪いと毒であなたが死んだと、誠殿と一香殿の手によって死んだと、

あなたの死因を聞くたびに心を痛めました。サマエルの件については私も責があります。

アレに怒りと憎しみ、全ての負を受けさせてしまったのですから・・・・・」

 

「(そのサマエルは俺の中にいるんだけどね)」

 

「イッセーくん。今までどこで何をしていたのか、教えてください」

 

涙で濡れる瞳を俺に向けてくる。本当に俺のことを心配しているんだとハッキリ分かる。

 

「分かった。ちょっと長くなるけど、いいか?」

 

「ええ、構いません」

 

俺の手を引いて、ソファーに座らせる。ヤハウェも俺の隣に座って顔をこっちに向けてくる。

 

「じゃあ、俺が死んだところから話す」

 

「お願いします」

 

真摯に聞く姿勢になるヤハウェ。

エルザ・スカーレットたち、待っているんだろうなぁ・・・・・。

 

―――エルザside―――

 

イッセーが天界とやらに連れて行かれ、私たちは今回のダンジョン攻略を

依頼したロマリア教皇聖下、聖エイジス32聖と謁見を果たすことがようやく出来た。

 

「初めまして、フェアリーテイルの皆さま。

私は聖エイジス32聖ことヴィットリーオ・セレヴァレと申します。

こうしてお互い顔を出し合うのは初めてですね」

 

「はい、私は今回の依頼を務める責任者のエルザ・スカーレットです。

今回のダンジョン攻略のことについてお聞きしたいことがあります。よろしいでしょうか」

 

「構いません。何でしょうか」

 

イッセーからも言われたことだ。イッセーの話しがもし、本当ならこれは一大事だ。

 

「どうして六千年間も攻略できなかったダンジョン攻略を他の国に促したのですか?

そのおかげで、何百人の命が数日間で落としてしまいました。

今になってダンジョン攻略をしないといけない理由があなたにあるのですか?教皇陛下」

 

「ええ、勿論です。私はとある目的のために、

各国のダンジョンに眠る始祖の秘宝を必要としているのです」

 

「始祖の秘宝・・・・・ですか?それはなんのために・・・・・?」

 

教皇は一度瞑目して、口を開いた。

 

「虚無の担い手と虚無の使い魔が今世に出現していることが分かったのです。

ですので、全ては四の四を揃えるためにダンジョン攻略をしなければならないのです」

 

虚無の担い手、虚無の使い魔、四の四・・・・・なんだ、分からないことを口にする。

 

「トリステインには始祖の祈祷書、ガリアには始祖の香炉、アルビオンには始祖のオルゴール、

そしてここ、ロマリアには始祖の円鏡・・・・・」

 

「「っ!」」

 

ガリアの姫君たちが目を見開いた。

 

「それら四つの秘宝と四つの国の王家が伝えられている四つの指輪、

ルビーもあるべき者に持って来るべき事態に備えて欲しいのです」

 

「四つの始祖の秘宝と四つの指輪をあるべき者に・・・・・とは、

どういうことなのか説明してくれますか」

 

「始祖の秘宝を虚無の担い手に持っていて欲しいのです。始祖ブリミルの子孫である者に」

 

「その子孫はどの人物ですか?」

 

そう問いかけると、教皇陛下は・・・・・ジョゼットに視線を向けた。

 

「この場にいる虚無の担い手は私とガリア王家の姫、ジョゼットがそうです」

 

「・・・・・私が、虚無の担い手・・・・・?」

 

「ええ、まず間違いないでしょう。始祖ブリミルの三人の子供と弟子の一人がトリステイン、

ガリア、アルビオン、ロマリアに国を建国したのです。その子孫は私とあなたなのですよ」

 

「では・・・・・トリステインとアルビオンの虚無の担い手は誰なのですか?」

 

ジョゼットが教皇に問いかけると教皇が首を横に振った。

 

「残念ながら、トリステインの虚無の担い手は東の国に行ってしまい、

アルビオンの虚無の担い手は現在捜索中です」

 

どちらにしろ、残りの二人の虚無の担い手が欠けている状態のようだな。

 

「陛下、全て揃えてなにに備えると言うのですか?

私たちはダンジョンを攻略のために派遣されている。残りアルビオンダンジョンと

ロマリアダンジョンだけ残っておりますが、あなたは一体何をお考えになられておるのです」

 

真っ直ぐ聖下に視線を向ける。聖下は私の視線を軽く受け入れ、私に視線を向けながら口を開く。

 

「私たちの拠り所、聖地を奪還するためです」

 

「はぁっ!?」

 

異議有りとばかり、ルクシャナが声を上げた。

 

「私たちをダンジョン攻略させる理由はそのためだったの!?

悪魔の秘宝を集め、悪魔の末裔に持たせて!

―――悪魔の門(シャイターン)を開けさせないわよ!?」

 

悪魔の門(シャイターン)・・・・・だと?」

 

「・・・・・そちらのお嬢さんは?」

 

教皇は私たちに尋ねてきた。ハルケギニアの人間はエルフを畏怖している。

だから、エルフの象徴である細長く尖った耳を幻覚の魔法で施して普通の人間と変わらない

耳を見させている。ルクシャナはその魔法を解いて真実の姿へとなる。

 

「私は砂漠(サハラ)のエルフよ。蛮人」

 

「・・・・・エルフ」

 

「あの地は元々、私たちエルフが住んでいた地よ。悪魔が勝手に現れ、

私たちエルフを滅ぼそうとした悪魔。それが、ただ私たちの地に悪魔が降臨した、

それだけであなたたち蛮人が『聖地』なんて崇めて聖地奪還なんて、

野蛮な戦争を最初に仕掛けたのもそっち。―――最低な蛮族ね」

 

今まで見たこともないルクシャナの怒り。知らなかった、今回の依頼に裏があっただなんて。

私たちは一つの種族を滅ぼすため、加担していたとは・・・・・。

 

「エルザ、この依頼を反故してほしいわ。でなければ、私たちの土地が蛮人に奪われてしまう」

 

「ルクシャナ・・・・・それは・・・・・・」

 

私も今の話しを聞いて苦渋する。依頼のために一つの種族を滅ぼすための協力を加担するか、

一つの種族の存亡の阻止のため、依頼を反故するか・・・・・。

 

「それは困ります。聖地奪還には他にも理由があるのです。

いま、反故されたらハルケギニアの民たちの運命が大変な道に進んでしまいます」

 

「大体、蛮人が砂漠(サハラ)に住めるとは思えないわ。

杖がないと魔法が使えない蛮人が到底、長生きできるとは思えないけどね」

 

「協力すれば、できないことはないのです」

 

「だから、大勢で私たちを襲ってくるんだ?私たちより弱いから群れで襲いかかって?

まるで蟻じゃない」

 

・・・・・・ダメだ。私の一存では決断できるレベルじゃない。マスターに伺わないと・・・・・。

 

「ねぇ、聖地奪還以外にも理由があるってどういうこと?」

 

ナヴィが教皇に問いかけた。何やら四角い機械を持って。

 

「申し訳ないのですが、話しても信じてくれないと思いますのでお伝えできません」

 

「ふーん、じゃあ、仮に全ての塔を攻略してその後に大変なことが起きても、

私たちは知らないわよ?いいのね?」

 

「・・・・・」

 

教皇陛下は沈黙した。しかし、口を開こうとした―――。

 

「ふふっ、その一瞬の反応は・・・・・どうやら、五つの塔を攻略したら、

どうなるのか知っているようね?」

 

ナヴィが満足気に言う。

・・・・・では、イッセーが言っていたあの話は本当だったのか・・・・・!

まさか、教皇陛下はそれを含めて私たちを依頼したのか・・・・・?

 

「エルザたちの依頼は『ハルケギニアに存在する五つの塔を攻略』。

でも、その後のことが起きた時の対処の依頼は引き受けていないから、

それはあなたたちの力で何とかするって意味よね?」

 

ナヴィは言い続ける。

 

「どちらにしろ、あなたはハルケギニアの民が大変な運命に辿ることをしているのは

事実だってわけ。私たちは関係ないわよ?私たちもダンジョン攻略しないといけない理由が

あるから彼女たちと共に攻略しているわけだし?

まあ、あとはあなたたちの勝手にどうにかしなさいってわけよ。

例え、世界が火の海に飲み込まれようともね。皆、出ましょう?依頼を続けなきゃね♪」

 

私たちをこの場から離れようと促す。ルクシャナの腕を掴んでだ。

 

「なぁ、エルザ・・・・・どうすればいい?」

 

「・・・・・イッセーもいない。マスターに聞くしかない。取り敢えず、今日は宿に泊るぞ」

 

「分かったわ」

 

教皇に一瞥するも、すぐに視線を前に向けてナヴィに続く。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode10

 

 

「・・・・・・そう、あなたにそんなことが・・・・・」

 

「あの世界にいたのもその理由だ」

 

「原始龍・・・・・始まりのドラゴンがあなたの命を救ったのですね」

 

あれからしばらく時間を費し、全て話し終えた。

 

「この旅が終えたら、皆のもとに帰るつもりだ」

 

「ええ、そうしてください。皆さんもきっと喜びます」

 

「そうだな・・・・・ところで、ヤハウェ」

 

「はい」と答える彼女に疑問をぶつけた。

 

「どーして、俺に抱きついているの?」

 

と言っても、腕にだが。肩に頭乗せてくるしさ。

 

「・・・・・私も一人の女というわけです」

 

「え・・・・・?」

 

「私・・・・・あなたという存在を失って気付きました」

 

ジッと青い瞳を俺に向けてきた。

 

「驚くかもしれません。いえ、私自身も驚いていますが・・・・・。

どうやら、私は・・・・・あなたのことが好きみたいです・・・・・・」

 

「・・・・・」

 

はい?神が、聖書の神が?俺のことを好きだって?

俺―――なんかヤハウェに対する事をしたっけ!?

 

「イッセーくん・・・・・私・・・・・あなたが好きです」

 

「ヤ、ヤハウェ・・・・・」

 

「神であろうと感情があります。心だってあります。何かに好きになることだって

当然あるんです。それが・・・・・兵藤一誠と言う存在に好意を抱いているんです」

 

腕に絡めていた腕を解いて、俺の頬を挟むように沿う。

 

「どんな姿になろうと、私はあなたの味方となり、愛を捧げ全てを捧げます。―――大好きです、

イッセーくん」

 

当惑中の俺に顔を近づける。そして―――互いの唇が重なった。それからそのままの状態でいる。

一分、十分、そう思うほど彼女との口付けは長くしているのだと思ってしまう。

 

「・・・・・」

 

徐に顔を俺から遠ざけ、手の平に魔方陣を展開した。その魔方陣を俺に。

 

「受け取ってください」

 

彼女に言われるまま、魔方陣を受け取った。

 

「これは?」

 

「この部屋に出入りできる扉だと思ってください。私はそう易々と下界に赴くことはできません。

ですので、イッセーくんからこの部屋に来てくれれば何時だって会えるのです」

 

扉か・・・・・。拳を握ると、魔方陣は消失した。

彼女の部屋に行きたいと考えれば出展開できるのか?

 

「その魔方陣をイッセーくんの部屋に施してください。

ふふっ、たまに就寝する時はイッセーくんの部屋で寝るのも良いですね」

 

「・・・・・ガイアたちと喧嘩しないでくれよ」

 

「善処します」

 

本当に頼むからな!?

 

「さて・・・・・そろそろあなたをハルケギニアに送りましょう。やるべきことをやり遂げ、

皆と再会を」

 

「ああ、勿論だ」

 

「・・・・・もう一度」

 

と、再び唇を押し付けてきた。なんだか、神なのにこうしていると普通の少女のようだな。

手が思わずヤハウェの金の髪を撫でてしまった。

 

「イ、イッセーくん・・・・・?」

 

「悪い、嫌だったか?」

 

「・・・・・その問い方はズルイです」

 

頬を朱に染めて、俺の胸に頬を押し付けてくるヤハウェ。

ははっ、可愛いなぁー。と、しばらく彼女の頭を撫でていた俺であった。

 

―――ロマリア―――

 

魔方陣の光と共に再びロマリアの地に舞い降りた。気を使ってくれたようで、

街の裏通りに転送してくれた。

 

「さて、皆はどこだ・・・・・?・・・・・こっちか」

 

ナツ・ドラグニルたちの気を辿って裏通りを出る。

素早く人混みの中を駆け―――大聖堂の前に辿り着いた。

丁度、俺が探し求めていた人物たちが出てきた。

 

「あっ、イッセー!」

 

ルクシャナが声を上げる。その声に、皆が俺の存在に気付き、こっちに来る。

 

「お前、本当に天界のところに行ったのか」

 

「ああ、と言ってもどこかの建物中で、ヤハウェと再会した」

 

「あの神とか・・・・・で、何を話していたんだ?」

 

「俺が死んだところからハルケギニアにいる理由までだけど。で、そっちは?」

 

問うと、エルザ・スカーレットが。

 

「お前の言う通り、全ての塔を攻略すればドラゴンが目覚めるのだと分かった。

そして、ロマリア教皇は・・・・・」

 

言い辛そうにルクシャナに視線を向けた。

 

「彼女の種族が住んでいる土地を奪おうとしていることが分かった。

最悪の場合、虚無の担い手、始祖ブリミルの子孫と虚無の使い魔、

四つの指輪と四つの始祖の秘宝を使って滅ぼそうとしている」

 

「・・・・・」

 

なんとまあ、物騒なことを・・・・・。

 

「アルビオンに向かう。話は移動しながら教えてくれ」

 

「イッセー・・・・・」

 

「ルクシャナ。お前の種族と土地を奪わせはしないさ。俺が汚れ役となってやる」

 

「というと・・・・・?」

 

口の端を吊り上げた。

 

「始祖の秘宝は俺がもらう」

 

―――○●○―――

 

―――ルクシャナside―――

 

イッセーが龍になって私たちを乗せてアルビオンへ向かう最中、

彼がいない間に教皇の蛮人と話していたことを全て伝え終えると「そうか」と頷いた。

 

「聖地奪還のためにダンジョン攻略を促したのか」

 

「どーも、その理由の他にも理由があるらしいのよね?教えてくれなかったけどさ」

 

「・・・・・火竜山脈に封印されているドラゴンの存在も知っていた。

その封印を解いてでも教皇は聖地奪還をしたい。でも、それをするにも理由がある。

で、認識して良いんだな?」

 

「ああ、そうだ」

 

答えを導こうと思案するイッセー。彼はエルフの味方?蛮人の味方?一体、

どっちなんだろう・・・・・。

 

「お前ら、どう思う?」

 

イッセーが私たちに問いかけてきた。「お前らの考えを、答えを聞きたい」と

 

「んなもん、分かるわけがないだろう」

 

「右に同じく」

 

この二人の蛮人どもは・・・・・もう少しぐらい考えても良いんじゃないかしら。

 

「ハルケギニアの民の運命が大変な道に通ってしまうとか言っていなかったっけ?」

 

「では、ハルケギニア中の人間に被害が出るほどの大規模なことが起こると?

それは・・・・・災害か?」

 

こっちの蛮人たちは考えてくれているわ。ありがとう。好感度が上がったわよ。

 

「シャルロットたちはどう思う?」

 

と、イッセーはまた訊く。

 

「私も、ルーシィたちと同じ」

 

「そこが重要ってわけね」

 

「でも、それだけの災害が起きるのかしら・・・・・」

 

そう・・・・・今の蛮人の世界に、世界中(ハルケギニア)を震撼させうほどの災害が起きると、

そんな予兆も感じないし至って平和だと思うのだけれど・・・・・。

 

「あの・・・・・」

 

「なんだ、リース」

 

「ドラゴンに関係しないかしら?」

 

ドラゴン・・・・・火竜山脈に眠る封印されているドラゴンのことね。

 

「イッセーから聞いたドラゴンか。確かに辻妻が合う。

が、それだけではないと私は思う。分からないがな」

 

「災害と言ったら様々ね。自然現象、気象現象、地質現象、生物、天文現象とか」

 

「自然現象・・・・・地質現象・・・・・だと?」

 

イッセーが反応した。

 

「エンシェント・ドラゴンは火竜山脈に封印されている。

その封印が解ければ眠りから覚めて火竜山脈は大噴火を起こすだけじゃなく、

地震だって起こる可能性もある。地震は人類が闊歩している地面の下で起こる」

 

・・・・・イッセーの話を聞いて私の中で予想が生まれる。

 

「いや、ハルケギニア中に地震や地割れが起こす程、エンシェント・ドラゴンは凄いのか?

んー、ナヴィ。火竜山脈を調べれるか?封印が解けたら山脈がどうなるか知りたい」

 

「じゃあ、火竜山脈で下ろして。山を調べるなんてやったことがないから」

 

「分かった。丁度、見えてきたしな」

 

翼を動かして飛行の速度を上げるイッセー。あの山に眠るドラゴンが原因と言うことなら、

イッセーの手に蛮人の世界の運命が握っているようなものだわ。

 

―――一誠side―――

 

「うわー、なにこれ・・・・・最悪じゃない」

 

山脈の麓、マグマが流れていない安全地帯の場所で、様々な機械で山脈を調べていた

ナヴィの口から嫌な予感をさせる言葉を発した。

 

「どうなんだ?」

 

「・・・・・言っちゃっていい?」

 

「言っちゃってくれ」

 

「はぁ・・・・」とナヴィが溜息を吐いた。人差し指を地面に突き付ける。

 

「八百メートル、ハルケギニアの長さでいえば、八百メイル。

そのぐらいの深さにとんでもない大きさの風石の鉱脈が眠っておるわ」

 

「「「っ!?」」」

 

風石?風の石と読むのか?ハルケギニアの住民が知っているようだが、

違う国から来た俺たちは首を傾げる。

 

「ナヴィ、風石って何だ?」

 

「精霊の力の結晶とハルケギニアの人は言うわ。風の精霊、火の精霊、

水の精霊とそんな精霊の力の結晶がハルケギニア中に存在するの。

その内の一つの精霊の力の結晶がこの火竜山脈の下で眠っているのよ。

しかも、とんでもない大きさ。これ、ちょっとしたショックでも与えたら、

大陸ごと持ち上がるわよ」

 

『なんだってっ!?』

 

そんな力の結晶が・・・・・よりによってエンシェント・ドラゴンが眠っている

この山脈の地下にあるなんて。

 

「大陸が持ち上がる・・・・・」

 

「そんな!それじゃあ、ゲルマニアだけじゃなく、他の国まで被害が出るじゃない!」

 

「ドラゴンが目覚めたら、その時に大陸が・・・・・」

 

「なんということだ・・・・・」

 

俺も含め皆が絶句の面持ちとなる。

 

「でも、これで全てが合点した。教皇はこのことを危惧している。

何時その現象が起こるか分からないが、今いる国には住めなくなるのは間違いない」

 

「じゃあ、蛮人たちが私たちエルフに攻撃してくるのも、悪魔の門(シャイターン)を開こうとするのも」

 

「全ては安全な場所に移住するため、だと可能性がある」

 

どうやら・・・・・本当の元凶はこの火竜山脈の地下深くにあるそうだ。

 

「じゃあ、その風石って石をどうにかすれば全てが丸く収まるってことね!」

 

「だと、思いたいな」

 

「え?」とルーシィ・ハートフィリアが疑問を浮かべた。

俺は何でもないと首を横に振り、口を開いた。

 

「そもそも、どうやってこの風石を取り除くか問題だ。

しかもかなりの深さだ。かなりの時間と人材が必要だし、

大量の風石を運ぶにしたって大変だぞ」

 

「ちょっとしたショックで、大陸が持ち上がる」

 

「慎重にやらないとダメってわけね」

 

次々と難題が浮かび上がる。ドラゴンだけじゃなく、

この世界自体の問題も目の当たりにしてしまったら、他人事じゃなくなる。

 

「・・・・・精霊の力の結晶・・・・・」

 

精霊・・・・・精霊魔導士のルーシィ・ハートフィリア。

ジィーと彼女を見詰めていると、彼女は俺の視線に気付いて戸惑った。

 

「な、なに?」

 

「いや、精霊関係だったらお前なら何とかできるんじゃないかなーって思った」

 

「わ、私が!?」

 

うん、そうだと首を縦に振ったら―――、

 

「おお、イッセー。ナイスアイディアじゃないか」

 

「そうだな。ルーシィは精霊魔導士だ。風石は精霊の力の結晶。

だったらルーシィが適任じゃね?」

 

「ふむ、一理あるな」

 

「あい!」

 

フェアリーテイル組が同意したのだった。でも、ルーシィ・ハートフィリアが

首が千切れんばかり横に振った。

 

「ムリ言わないでよ!?いくら精霊魔導士だからって、

地下深くの精霊の力の結晶をどうにかできるわけじゃないのよ!?」

 

「じゃあ、精霊自身だったらどうにかなるのか?」

 

「・・・・・」

 

彼女が沈黙した。というより、思案している?

 

「地面を掘るならバルゴだな」

 

「バルゴ?精霊か?」

 

「あい、その通りだよ」

 

「ふーん、地面を掘る精霊って変わっているな。

じゃあ、精霊にどうにかできないか聞いてみるか?」

 

「妙案だな。ルーシィ、誰でもいいから精霊を呼んでくれ」

 

エルザ・スカーレットの促しに何やら金の鍵を手にしたルーシィ・ハートフィリア。

 

「開け!処女宮の扉、バルゴ!」

 

金色の鍵が光り輝き―――。煙と共に桃色の髪に両手両足に鎖がついた手枷、

メイド服を身に包む少女が現れた。

 

「人間!?」

 

「精霊は様々な姿をしているのだ」

 

「イッセーにとって驚くことばかりだろうけどな」

 

グレイ・フルバスターの言葉には肯定する。精霊って・・・・・不思議ばっかりだ。

 

「お呼びですか姫」

 

「バルゴ、聞きたいことがあるの。

精霊の力を封じた結晶を衝撃を与えずにどうにか取り出せない?」

 

「精霊の力を封じた結晶、でございますか?」

 

「ええ、それがこれよ」

 

ナヴィがバルゴという精霊に火竜山脈の地下深くにある風石の情報と見せた。

 

「風石と言って、振動を加えると浮遊する石なの」

 

「それが地下化深くに眠っており、衝撃を与えるとこの山脈が持ち上がるということですね?」

 

「山脈どころか、私たちがいるこの大陸が持ち上がってしまうのよ。

そしたら住める場所が無くなってしまう。

だから、風石だけ取り除いて大陸が持ち上がらないようにしたいわけよ。

どう、良い案があるかしら?」

 

「・・・・・」

 

バルゴは顎に手をやって考える。

 

「ないですね」

 

たった一秒で打つ手がないと、言われた。

 

「ちょっ、バルゴ!あんた、もう少し考えて言ってよ!」

 

「姫、これだけの風石を私個人ではどうすることもできません。

地面を掘るだけならまだマシも、衝撃を与えず地下深くに眠る大量の風石とやらを

取り出すのはまず不可能に近いのです」

 

彼女なりに考えていたわけか。では・・・・・打つ手はないと言うことだな。

 

「ですが、風石に宿っている精霊の力だけを何らかの方法で取り出せば、なんとななるかと」

 

「精霊の力の結晶から、精霊の力だけ取り除く?」

 

「その通りです。精霊の力が込められた結晶なら、逆に吸い出す方法もないわけではないのです」

 

『あっ』

 

そうか、その方法もあるんだな。でも、どうやって吸い出すんだ?

 

「バルゴ、どうやったらそれができる?」

 

「人がパイプのように精霊の力を体に通して別の何かに込めるのが早いかと」

 

「・・・・・これだけの量だと、相当体に負担が掛かるわよ。

それに、ハルケギニアに風石は欠かせない代物。これほどの風石の鉱脈を無駄にできないわ」

 

「それだと、その風石に籠った精霊の力を籠める別の器も必要だよな?なにがいい?」

 

「そうですね・・・・・何個か精霊の力を分けて再び結晶化にすれば問題ないかと。

膨大な力に無機質や無機物の入れ物では堪え切れませんので」

 

そうなると・・・・・アジ・ダハーカ。お前の力で結晶化にできないか?

 

『面白い、やってやろう。俺を出せ』

 

了解、龍門(ドラゴンゲート)を展開し、アジ・ダハーカを現世に出す。

 

「んなっ!本物か!?」

 

『さっさと始めるぞ。まずは、風石とやらを剥きだしにしろ』

 

「分かった。ナヴィ、俺が消滅の力で地面を掘る。お前が指示をしてくれ」

 

「任せて、掘る場所は・・・・・そうね、あっちで十メートル四方の範囲で掘ってちょうだい。

出っ張っている風石を剥きだしにして欲しいから」

 

ナヴィの指示通り、『幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』を装着して消滅の力で十メートル四方に掘り続ける。

 

―――○●○―――

 

「・・・・・ふぅ、結構繊細な作業だった」

 

地上から八百メートル掘り続け、ようやく風石がある地盤まで掘った。

そっからナヴィの適切な指示で、化石を発掘する作業のように細かく丁寧に、

風石を傷つけないように消滅の力で掘り続ければ―――。

緑色に輝く結晶が剥き出しにできた。それから俺がいる穴を平らにするように消滅で削って、

皆と合流する。

 

「へぇ・・・・・これが風石なんだぁ・・・・・綺麗ね」

 

「同時にこの大陸に住む人間たちに脅かす元凶だ」

 

岩盤から剥き出しになった風石を見詰める面々。

俺はパイプ役となり、そっと剥き出しの風石に触れた。

 

「そんじゃ、アジ・ダハーカ。頼んだぞ」

 

『言っておくが、別の魔力を体に通すことは負担が掛かるぞ。

それも永続的にだったら尚更だ。休憩もすることも忘れるな』

 

「分かった。辛かった自主的に休憩する。―――始める」

 

風石から精霊の力だけを抽出する。やり方はアジ・ダハーカから聞いた。

ので、イメージ通りにすれば・・・・・異様な力が手の平から、腕から通っていく感じが伝わる。

そして、反対側の腕へと、手の平へと伝わり、抽出している精霊の力はまるでシャボン玉のように

ドンドン膨れ上がって風船のようになる。

 

『・・・・・この大きさぐらいだな』

 

目を煌めかすアジ・ダハーカ。手頃の大きさに膨らんだ精霊の力が一瞬で氷のように凍って、

宙に浮く。でも、それだけで終わりじゃなく出口と言える俺の体から絶え間なく

風石の力が出てくる。

 

「イッセー、体の調子はどうだ?」

 

「変な気分だな。まあ、命に関わるような状態じゃない」

 

「でも、これどれぐらい時間が掛かるのかしら?」

 

「・・・・・結構な量だからね。三日間ぐらいだと思うわ」

 

ナヴィの発言に俺は溜息を吐いた。

 

「三日!?おい、その間にイッセーは大丈夫なのかよ?」

 

「必ず休む。だから心配するな。でも―――」

 

「でも、なんだ?」

 

「その三日間。俺はダンジョン攻略に行けれないな。俺の代わりにアルビオンに連れていく―――」

 

ドラゴンを出す、そう言おうとしたがエルザ・スカーレットの人差し指で唇を押し付けられて、

遮られた。

 

「仲間を置いてダンジョンに行かないぞ」

 

「・・・・・」

 

でも・・・・・と目で訴えれば、「ふっ」と笑われた。

 

「私たちの依頼の期間は長期。ダンジョン攻略が終わるまでは、フィオーレ王国に帰れないんだ。

だから、無期限の依頼と言える。それにここのところ、連日でダンジョン攻略をしている。

休息も必要だとは思わないか?」

 

そう言われて、皆を見渡せば・・・・・。

 

「そうね、イッセーは何度も私たちを乗せて飛んでくれているし」

 

「三日ぐらいのんびり寛ぐのも悪くないな」

 

「俺はその三日間、エルザと勝負だ!」

 

「ナツー、返り討ちに遭うってー」

 

「イッセー、辛くなったら水魔法で癒してあげる」

 

「私もです」

 

「私の体で癒してあげようかしらぁ?」

 

「というか、辛くなったらやめなさい。いいわね?」

 

「私にできることがあれば何でも言ってください」

 

「以下同文だ」

 

・・・・・皆、俺と共にいる気だった。

 

「・・・・・ありがとうな」

 

そんな皆に応えて俺も頑張らないとな。―――精霊の力を抽出する速度を上げる!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode11

―――セルベリアside―――

 

 

川神学園の教師として早数週間、我が主であるイッセーが亡くなって数週間。

グラウンドで川神学園と駒王学園の合同体育をし、教師として立ち合っている。

イッセーが死んでからというもの、この学園の生徒はすっかり何時もの調子に戻っている。

一部の者以外だが・・・・・。グラウンドでマラソンをしている生徒たちを見詰めていると

何故か溜息が出る。

 

「平和だな・・・・・」

 

それは悪くないことだ。だが、その平和を感じで苦痛を感じるものもいるだろう。

様々な感情を抱いて。

 

「・・・・・」

 

授業もそろそろ終わる時間だな。生徒たちに声を掛けるか。授業が終わるまで走り続けさせていた

生徒たちに向かって口を開く。

 

「お前たち、そこまでだ!五分間休憩終えたら、各自自分の教室に戻れ!いいな!」

 

『は、はい!』

 

私の言葉に返事をした生徒たち。―――その時だった。

 

キュイイイイイイイイイイイイイイイィィイイイイッ!

 

コロの警報・・・・・さて・・・・・私は・・・・・。

 

「せ、先生?どうして魔方陣を展開するんですか?」

 

一人の生徒が尋ねてくる。が、それに応えず、私の愛用の武器を魔方陣から取り出す。

 

「全員集合!一ヶ所に集まれ!口答え、質問、一切受け付けない!」

 

「え?」

 

「三秒以内に集まらなかったら、その場でタイヤ引き三十周をさせる!三、二―――」」

 

私の合図に生徒たちは一斉に一ヶ所に集まった。その瞬間、

 

ドドドドドドドオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

私が瞬時で張った魔方陣の障壁に激しい衝撃が生じた。

 

「な、なんだぁぁぁぁっっ!?」

 

「きゃあああああああああっ!」

 

騒然となるグラウンド。生徒たちは全員、私の張った魔方陣の後ろにいる。

軽傷者がいるかもしれんが問題ないだろう。

 

「やってくれるな・・・・・魔法使い」

 

眼前に睨む。魔法使いのローブのようなものを着込んだ者たち複数人が、

こちらに手を突き出していた。

祖の足元には、魔方陣が輝いている。奴らの正体は・・・・・大体予想がつく。

 

「はぐれ魔法使い」

 

―――ロスヴァイセside―――

 

イッセーくんが死んだというのに、どうしてこうもトラブルが起こるんですか・・・・・!

生徒たちにこの場にいるように指示をし、廊下を出れば、敵がいて瞬時で鎧を纏い、

戦闘態勢になる。

 

「兵藤一誠のヴァルキリーか!」

 

「相手にとって不足はない!」

 

その言葉に怪訝となった。どういうことです?彼らの目的は一体・・・・・。

いえ、考えるのは後です。いまは―――この学校を敵から守る事だけ集中しましょう!

 

―――百代side―――

 

「敵が向こうからやって来てくれるなんてありがたいな!」

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

「が、私の相手にするにはまだまだ早かったかな?」

 

「つ、強い・・・・・」

 

三年の廊下にいた魔法使いみたいな奴らを粗方倒し終えた。

今倒した敵も私の拳の一撃で倒れた。顔を廊下の向こうに向け、そこにいる人物に声を投げた。

 

「サイラオーグ、そっちも終わったようだな」

 

「ああ、今回の襲撃の黒幕を吐かせる捕虜を捕えた」

 

両手で複数の敵の襟を掴んでいるサイラオーグ。私が廊下に出たと同時にこいつも出て来て、

敵の油断を吐いてあっという間に倒し終えたわけだが・・・・・。

 

「で、こいつらの目的はなんだ?」

 

「わからない」

 

―――レイヴェルside―――

 

な、何が起きていますの!?窓からグラウンドを見れば、

セルベリアさんが防御魔方陣を展開しつつ、攻撃用の魔方陣で敵と交戦しているのが伺えます。

でも、どうしてこんな真昼に敵が襲撃してくるんですか!

 

ドッガアアアアアアアアアアアアンッ!

 

教室の外側から爆音が生じた。それだけじゃなく、この教室の扉、壁までも吹き飛んで壁側にいた

クラスメートたちが巻き込まれた。その原因を作ったのは―――。

 

「いたいた、フェニックスのご令嬢と実験体三号だ」

 

魔法使いみたいなローブを着込む異国人・・・・・・。数は数人。

目的は・・・・・私とプリムラさん?

 

「一緒に来てもらうぞ。じゃなきゃ、お友だちの一人が死んでしまうぜ?」

 

魔方陣を横に展開してクラスメートたちに向ける。な、なんて卑怯な・・・・・!

 

「あなたたちの目的は私とプリムラさんですか・・・・・」

 

「最初からそう言っているぜ?さあ、一緒に来てもらおうか」

 

「「・・・・・っ」」

 

きっと、はぐれ魔法使い。メフィスト・フェレスさまも仰っていた。

はぐれ魔法使いがフェニックス家の関係者と接触していると。

ですけど、どうしてプリムラさんまで連れ去ろうとしているのです―――?

そう脳裏で考えていると、はぐれ魔法使いの手が私たちに届く―――。

 

ガシッ!

 

と、思っていた矢先、はぐれ魔法使いの腕を掴む人物がいた。

その人は・・・・・兵藤名無さん。

 

「あっ?」

 

「・・・・・」

 

刹那―――。

 

ゴキンッ!

 

「っっっ!?」

 

はぐれ魔法使いの腕から鈍い音が聞こえました。途端に、はぐれ魔法使いの表情が一変して苦痛に

歪んだ。でも、その表情を見るのはあっという間に終わった。その理由は、兵藤名無さんが

そのはぐれ悪魔の顎に拳を突き上げて天井に突き刺したからです。その動作はたったの三秒。

 

「お前!」

 

別のはぐれ魔法使いが魔方陣を展開し、炎を放ってきました。

ですが、そんな炎は効かないとばかり真正面から受けて、そのまま真っ直ぐ飛び掛かり、

全身を捻って、その遠心力を最大限に力として敵ごと魔方陣を粉砕し、蹴り飛ばしたのです。

さらに傍にいた敵の顔面を掴んで―――口から泡を吹かせるほど握力で倒してしまいました。

 

「名無・・・・・」

 

プリムラさんが彼の名を呼んだ。彼は小さい、本当に小さい声で言った。

 

「兵藤一誠との約束、守る」

 

―――アザゼルside―――

 

皆の奮闘のおかげで、生徒の被害はほぼゼロ。

学校側の被害は甚大だが、神王と魔王の二人の力で問題解決だ。

放課後、今回の襲撃のことで関わったメンバーを全員、新オカルト研究部に

集まっているわけだ。だが・・・・・相手が誰だか知ればこいつら・・・・・怒りと憎悪、

恨みを隠すこともなく撒き散らしていやがる。

 

「一誠を殺すに飽き足らず、レイヴェルちゃんと

プリムラちゃんまで手を出そうとするなんてね・・・・・」

 

「ふふふ・・・・・どこまでやれば気が済むんでしょうかね・・・・・」

 

「いっくんを殺した奴ら・・・・・皆殺し」

 

「そうですね・・・・・」

 

「絶対に・・・・・許さない・・・・・・」

 

うわ・・・・・テロリストよりこいつらの方が

よっぽど怖い・・・・・・思わず冷や汗が出てしまう。

 

「杉並、どうですか?」

 

シーグヴァイラ・アガレスが自分の眷属に尋ねる。

襲撃後、はぐれ魔法使を解放した。それは杉並の策だ。

餌をばら撒いて大物を釣る。つまり敵の潜伏先を行ってもらい、

敵の居場所を分かり次第俺たちが襲撃する手筈だ。

こんなこと、本当に成功できるか半信半疑だが・・・・・。

 

「餌に食らいつきました我が主よ」

 

小さく笑う杉並。よし、本当に掛かったなんてな。奴さんもそう頭が回らないようだ。

 

「居場所はどうです?」

 

「・・・・・駅、いや、駅の地下?・・・・・なるほど、灯台下暗しとはよく言ったものだ」

 

「なにを言っているのです?」

 

怪訝な表情で問う主に杉並は告げた。

 

「はぐれ魔法使いの潜伏先は、悪魔専用の冥界行きの列車がある地下ホームです」

 

『―――っ!』

 

はー、あの駅の地下ホームかよ。

確か、あそこも調査していたはずだったんだが・・・・・どうやら掻い潜られていたようだな。

 

「襲撃するなら、いまですが?向こうも俺たちの動向を見張っているはずだ」

 

善は急げってことか?でもな・・・・・騒ぎが起きたその直後に襲うのはどうも・・・・・。

 

「行きましょう。敵が敵に回してはいけない存在を知らしめ、後悔させてやります」

 

ソーナが立ち上がってそう宣言した。それに同意する奴らは次々と立ち上がる。

そして、オカルト研究部からいなくなった。

 

「たくっ、少しはこっちにも気遣って欲しいもんだぜ。

あいつら、終わった後の後始末は俺ら大人がやらないといけないことを知っているはずなのによ」

 

「彼女たちの行動の源は兵藤一誠を死に追いやった者に対する復讐、怒りですよアザゼル総督」

 

「これじゃまるでイッセーみたいな奴が何人もいるみたいじゃないかよ」

 

杉並の言葉に俺は嘆息した。

 

―――○●○―――

 

―――和樹side―――

 

川神市の駅のホールにやってきた僕たちは、

地下に降りて冥界行きの列車用に建設されたホームを

進んでいく。広い空間を抜けて、右に左に通路を進んでいくと―――。

途端に不穏な気配を察知した。

 

・・・・・いま歩いている通路を抜けた先に敵が待ち構えて

いるのだろう。前衛、中衛、後衛とそれぞれ整えて通路を抜けていく―――。

そこは初めて足を踏み入れる地下の開けた空間だった。

 

地下のホーム以上に広大な場所。天井も一層高い。・・・・・こんな所があるなんて。

この町の地下にはどんな領域が隠されているのやら。人間界は既に万魔殿じゃないか?

と、前方に目を向ければ、かなりの魔法使いの集団がいた。

 

全員、魔術師用のローブを着込んでいる。ローブの種類は様々だが、学園を襲撃した奴等と

似たようなローブ姿も確認できた。僕たちは距離を置いて、奴らと対峙する。

・・・・・パッと見て百は超えてるんじゃないかな?

召喚したであろう魔物も結構な数がいる。と、はぐれ魔法使いの一人が前に出てきた。

 

「こんなに早く、俺たちのの前に現れるとはな・・・・・」

 

「(・・・・・これだけの数のはぐれ魔法使いを侵入を許していたとは・・・・・)」

 

目元を細め、目の前にいるはぐれ魔法使いたちに睨む。これは問題だ。

でも、一体どうやって潜伏を許したんだろうか。

 

「あなたたちの目的は何ですか?フェニックスとプリムラさん?それとも私たちでしょうか?」

 

ソーナ先輩が問うた。ロスヴァイセさんが言っていた。

『兵藤一誠のヴァルキリー』『相手にとって不足はない』と。

まるで強者と戦いたがっていたような発言だったため、予想として彼女は訊いたんだろう。

 

「どっちもですな。ま、フェニックスのお嬢さんの件は失敗したが、

もう一つの件は果たせそうだ。つまり、あなたたちとの件だ。―――気になって仕方ないんだよ。

メフィストのクソ理事とクソ教会が評価したっていうあんたらの力がね。

この思い、理解できます?できないですよね?ま、強い若手悪魔がいたら、

試したくなるでしょ?魔法を乱暴に使う俺たちならね」

 

その魔法使いが指を鳴らす。刹那、この場にいる魔法使い全員が攻撃魔法の魔方陣を

展開し始めた。

 

「俺たちと勝負だッ!悪魔さんたち!魔力と魔法の超決戦ってやつをよ!」

 

 

それが開始の合図となった。怒涛の如く、炎、水、氷、雷、風、光、闇、

あらゆる属性の魔法が俺たちに向けて放たれる。使役している魔物の群れも突っ込んできた。

その無数とも思える激しい魔法の雨が降り注ごうとしているなか、僕は短くため息を吐いた

 

「―――どれもこれも全然ダメだね」

 

バシュンッ!

 

僕が腕を横に薙ぎ払っただけであらゆる属性魔法が全て一瞬で消えた。

 

「一誠を殺したテロリストに容赦しないからね。例え、関わっていないとしても、

テロリストに加担するなら僕の敵だ」

 

敵の足元全体に魔方陣を展開した。魔物も含まれる。

 

「彼を甦らすために禁断の魔導書まで手を伸ばした。

その結果、僕の知らない魔法の知識も得たよ。後でかなり怒られたけどね」

 

苦笑を浮かべたその時だった。敵の足元に展開している魔方陣が回転をし始め、

はぐれ魔法使いたちと魔物たちまでもがグルグルと回り始める。

 

「なっ、魔方陣ごと俺たちが回される・・・・・!?」

 

回る敵の上空にもう一つ魔方陣を展開した。下で回る魔方陣に対して逆回転する魔方陣。下で同じ向きで回る魔方陣と同時に敵も回っているならば、上で逆回転している魔方陣も同じ原理だったら・・・・・どうなると思う?

 

ブチブチブチブチブチッ!

 

何かが引き千切れるような音が空間に鳴り響く。それはね―――?

 

『ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』

 

はぐれ魔法使いたちや魔物の筋肉が引き千切れる音だよ。

だから、下半身と上半身、首が千切れてあっという間に死んだ。

 

「お、お前・・・・・」

 

「敵は容赦しない。ただそれだけだよ」

 

川神先輩にそれだけ呟く。人の死を目の当たりにするのは初めてかな?

そう思っていたら少し離れた場所で魔方陣が出現した。敵の魔方陣だろう。

まるでこっちに来いと言っているようにも思える。

 

僕たちは頷き合い、その魔方陣に向かって足を運び、次の空間に転移した先に

広がっていたのは―――。・・・・・だだっ広い白い空間だった。何もない、ただ白いだけの空間。

上下左右も白い四角い場所だ。・・・・・天井はかなり高い。

転移用魔方陣で次の場所に移動したら俺たちは此処に辿り着いた。

 

「ここは次元の狭間に作った『工場』なのですよ。

悪魔がレーティングゲームに使うフィールド技術の応用です」

 

突然の第三者の声。そっちに視線を送れば・・・・・。さっき、空間を見渡した時には

見当たらなかった人影がそこにあった。そして、同時に僕の中でとある感情が湧きあがった。

 

「ユーグリット・ルキフグス・・・・・!」

 

一誠を死に追いやった一人、ユーグリット・ルキフグスに対する怒りと憎悪を!

 

「お久しぶりですね。皆さん」

 

『っ!』

 

いけしゃあしゃあと・・・・・!一誠を殺した僕たちの怒りと悲しみを存分に与えてやりたい!

でも、それはどうやら叶わないようだ・・・・・。

 

「あれ、アザゼルはいないのか?」

 

「残念ね、せっかくついてきたのに」

 

禍々しい剣を持った一誠の父親、兵藤誠と一誠の母親兵藤一香が

あの悪魔の背後から現れたからだ。

 

「誰だ?あの二人は」

 

「・・・・・一誠の両親だよ」

 

「なんだと・・・・・?じゃあ・・・・・あの二人が・・・・・」

 

ああ、あの二人も敵だってことだよ。

一誠の胸を突き刺したその剣・・・・・アレはなんとしても破壊したい。

 

「あら・・・・・もしかして、百代ちゃん?」

 

「おっ、本当だ。見ない間に随分と綺麗に成長したじゃないか」

 

敵であるにも拘らず、親しげに語りかけてくるあれはなんとも戦い辛い・・・・・。

 

「成神と匙。一誠の父親の持つ剣に気を付けて、というか、逃げた方がいいよ」

 

「ちょっと待て!?戦わずに逃げるなんてできねぇぞ!」

 

「キミまで死んだら、リアス先輩は今度こそ精神を崩壊しちゃうけどいいの?」

 

「―――っ!?」

 

そのリアス先輩は木場はルーマニアに向かっている。

遅れてアザゼル先生もルーマニアに向かっているはずだ。

これ以上、彼女が大事にしているものを失わせたらどうなるか火を見るより明らかだと

思っていたその時だった。

 

「いえ、彼らは私の護衛としてもらいますので攻撃はさせませんよ。

あなたたちに相手をして欲しいものがいますので、そちらと戦ってもらいたいです」

 

僕たちと戦ってほしいもの・・・・・?それは一体誰だ。でも、気になることが一つだけある。

 

「どうしてプリムラちゃんとフェニックス家のレイヴェルちゃんを連れ去ろうとしたの?

お前たち『フェニックスの涙』を別の方法で量産していると聞いたけど」

 

僕の質問にユーグリットは指を鳴らした。すると、右手側の壁が作動して、下に沈んでいった。

壁の向こうが見えてくる。そこにあったのは―――多くの培養カプセルが並んだ、

実験室みたいな光景だ。機器に繋がれた数多くの培養カプセル。

その中には―――何かが入っている。

僕たちがカプセルの中身を確認すると―――液体に満ちていて、

そのなかに浮かんでいたのはヒト・・・・・

 

「フェニックスの涙の製造方法、知っていますか?純血のフェニックス家の者が、

特殊な儀式を済ませた魔法陣の中で、同じく特殊儀礼済みの杯を用意して、

その杯に満ちた水に向けて、自らの涙を落とすのです。涙の落ちた杯の水は

『フェニックスの涙』にはならないとされています。感情のこもった涙は、

『その者自身の涙だから』、だそうでして。自らの為に流した涙と、

他者の為を思って流した涙では、効果が生まれない」

 

ユーグリットが培養カプセルに指を指す

 

「ここが『工場』だと言ったのは、あれを魔法使いたちが量産しているからです。

上級悪魔フェニックスのクローンを大量に作り出し、カプセルの中で『フェニックスの涙』を

生み出させる―――。ここの『工場』は既に放棄する予定なので、

あの者たちももう機能を停止させています」

 

―――っ!?

 

偽の『涙』を生みだすだけに生み出されたフェニックスのクローン。

用済みだから機能を停止されたあのクローンたちが余りにも不憫だ。

ソーナさんが目を細めながら嫌悪の言葉を吐きだす。

 

「・・・・・ここで生み出したものを闇のマーケットで流して莫大な資金を集める。

考えそのものがおぞましい限りです。あなた方がフェニックス家の者に

手を出そうとしていたのは、あれを作り出す精度を上げようとしたためですね?」

 

「ご理解が早くて助かります、シトリー家次期当主。

どうやら、魔法使いたちの研究でもフェニックスの特性をコピーするのに

限界があったようでして、最終手段としてフェニックスの関係者をさらって

直接情報を引き出そうとしたそうです。結局、純血の者からではなければ、

解らない事があったようで、

レイヴェル・フェニックスを連れ去る事にしようとしたのですが、失敗に終わりました。

それとプリムラ・・・・・人工生命体三号を連れ去ろうとしたのは彼女の内に宿る

無限に近い魔力を得るため、です。それも失敗に終わりましたがね」

 

当り前だよ、一誠が守った家族を僕たちが守れないでどうするんだよ!

命を掛けて守ってくれた僕らを一誠が死んでしまったんだぞ・・・・・!

 

「―――さて、我々が欲する要求の最後です。

あなたたちのような強者と戦いたいと願う者がいるので、お相手をしてもらえませんか?

実は私にとって今回の襲撃はそれが主目的でいた。

魔法使いたちの要望を叶えたのは、あくまで『ついで』でして」

 

そう言うリーダーが僕たちとの間に巨大な陣形を作り出していく。光が床を走り、

円を描いて、輝きだした。・・・・・来るかと思っていた僕に匙があの魔方陣を見て

匙が漏らす

 

「―――龍門?」

 

龍門。一誠が良くしていた魔方陣の一種、龍門は力のあるドラゴンを招く門だったね。

龍門の輝きは呼ぶ側のドラゴンのカラーを発しながらそのドラゴンを招く。

オーフィスやガイアから二天龍と五大龍王のカラーを聞いて知っているんだけど、

―――どれも聞いた色に当てはまらない。だって、いま龍門の輝きは―――深い緑、深緑だ。

深緑の龍門の魔方陣が輝きを一層に深くしてついに弾ける!

 

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!

 

白い空間全てを震わせるほどの声量―――鳴き声とも言える咆哮が、そのものの大きな口から

発せられた。僕たちの眼前に出現したのは、浅黒い鱗をした二本足で立つ巨大なドラゴン!

太い手足、鋭い爪と牙と角、スケールが違い過ぎる両翼を広げ、長く大きい尾をしている。

―――巨人型のドラゴン!あんなドラゴンも存在していたのか!?

 

「―――伝説のドラゴン、『大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)』グレンデル」

 

巨大なドラゴンは牙の並ぶ口を開く。その銀色に輝く双眸と眼光は鋭く、

ギラギラと戦意と殺気に満ちていた。

 

『グハハハハハ。久方ぶりに龍門なんてものを潜ったぞ!

さーて、俺の相手はどいつだ?いるんだろう?俺好みのクソ強ぇ野郎がよぉっ!』

 

大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)』グレンデルの登場に僕たちは神経を集中する。

何時でも戦闘に入れるようにする為だ。それにしても身に纏うオーラは禍々しい。

見ているだけで邪悪さがうかがえるほどにドス黒いオーラをしていた。

匙の陰から人間サイズの黒い蛇―――ヴリトラが出現する。

ヴリトラは目の輝きを濁らせながら、驚きに包まれた声音を漏らす。

 

『・・・・・ッ!グレンデル・・・・・ッ!?・・・・・あり得ぬ。

奴は暴虐の果てに初代英雄ベオウルフによって完膚なきまでに滅ぼされた筈だ』

 

『―――ッ!グレンデルだと・・・・?どうなっている?

こいつは俺よりもだいぶ前に滅ぼされたはずだ』

 

匙と成神に視線を配らせる『大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)』グレンデル

 

『天龍、赤いのか!ヴリトラもいやがる!なんだ。その格好は?』

 

と興味深そうに銀の双眸を細めるグレンデル

 

「二天龍はすでに滅ぼされ、神器に封印されていますよ」

 

悪魔の言葉を聞いてグレンデルは哄笑を上げた。

 

『グハハハハハッ!んだよ、おめぇらもやられたのか!ざまぁねぇな!ざまぁねぇよ!

なーにが、天龍だ!滅びやがってよっ!まあだが、確かになぁ!

目覚めにはかなり良い相手だ!』

 

グレンデルはひとしきり笑ったあとに両翼を大きく広げて、体勢を低くする。

うん、僕たちはドラゴンと戦い慣れているから問題ないね。

 

『俺のように神器に魂を封じられていたようでもなさそうだ。

・・・・・いったいどうやって現世に甦った?』

 

『細けぇことはいいじゃねぇか。ようはよ、強ぇ俺がいて、強ぇお前らがいる。

じゃあ、ぶっ殺しあい開始じゃねぇかッッ!』

 

そして、あのドラゴンは言った。

 

『でも、てめぇらと戦うのも良いが。俺は邪龍の筆頭格、

グレートレッドとオーフィスが認めたガキと戦ってみたかったぜ』

 

「・・・・・っ」

 

『なんでも、この二人の人間と同じぐらいつぇーんだろう?グハハハハ、戦ってみてぇーなぁ!ま、自分の両親に殺されるようじゃとんだアマちゃんだったわけか?今頃、地獄で自分の親に殺されてピーピー泣いているんだろうよ!』

 

このドラゴン・・・・・!よくも一誠に対して・・・・・!許せないぞ・・・・・!

 

「・・・・・殺す」

 

その時、悠璃が動き出した。手には何時の間にか大鎌を持っている。

それを見てグレンデルは愉快そうに笑んだ。

 

『おほっ!いいじゃねぇかよぉぉぉっ!真正面からかっ!そうそう、そういうのでいいんだ!』

 

グレンデルの巨大な拳が悠璃に飛んでくる。

まともに受けたら、彼女の華奢な体が木端微塵になるに違いない。

でも、あろうことかその拳を悠璃は避けて、浅黒い鱗が覆う腕に飛び乗って駈け出した。

 

「す、すげ・・・・・悪魔じゃないのに、なんて動きをするんだ」

 

「兵藤家は何度もドラゴンと戦った過去があります。その身体能力は悪魔に劣らないですよ」

 

「死ねっ!」

 

彼女がグレンデルの首元に飛び掛かった。そして―――鎌を大きく振るった!

 

ガキンッ!

 

鉄と鉄がぶつかったような音がした。グレンデルの首は・・・・・薄皮一枚どころか、

鱗に傷一つすら付いていない!

 

『痒いなっ!』

 

「っ!」

 

グレンデルの拳が、宙にいる悠璃に直撃した。彼女は吹っ飛び、壁に激突した。

 

「悠璃!」

 

「今度は私が相手だ!」

 

川神先輩が動く。グレンデルは嬉々として笑む。

 

『そうそう、どんどんこいやっ!』

 

また巨大な拳が振ってくる。その拳は川神先輩を襲うが、彼女は横に避けて前に走り続ける。

そして、途中で飛んだ。

 

「川神流 無双正拳突き!」

 

彼女の必殺技ともいえる正拳突きはグレンデルの顔面に直撃した。

その衝撃にグレンデルは大きくのけ反りm後方に倒れそうになるが、すんでで持ち堪えた。

正面から顔面に拳を受けたグレンデルは、自分の頬を擦る。

 

『・・・・・・っ。なんだこりゃ?おいおいおい』

 

「―――っ!?」

 

彼女は・・・・・酷く驚いていた。

 

『ユーグリットから聞いた話じゃ、相当強い人間がいるって言うからどれぐらいの力だと思えば

こんなもんかよ?』

 

グレンデルの防御力が予想を遥かに上回っているのか!彼女の拳の一撃は、

一誠だって認めるほどの威力なのに!

 

『グレンデルは滅んだドラゴンの中でも最硬クラスの鱗を誇っていた。

生半可な攻撃力では突破できないぞ』

 

成神から聞こえる声。正確には左の赤い籠手からだ。

 

「じゃあ、それ以上の攻撃力をすればいいわけだ」

 

え?川神先輩?

 

「川神流・・・・・」

 

両手を合わせて、腰辺りに引いた。その技って・・・・・

 

『今回、町の地下という事で戦いによる制限があります。大きな破壊は崩落、

地盤沈下の影響が出てしまいます。極力、派手な攻撃を避けねばなりません。

ですから、破壊はできうる限り回避しなければなりません。必要以上の威力は控えて下さい』

 

―――っ!

 

今になってようやくこの地下のホールに降りる前に先輩から言われたことを思い出した。

あの川神先輩の技はまさに派手な攻撃だ―――!。

 

「ちょっ、川神先輩待って下さい!その技だけは―――!」

 

「星殺しぃぃぃっ!」

 

制止の声を掛けようとしても遅く、彼女は極太の気のエネルギー砲を放ってしまった。

そんな威力の技をグレンデルが避けたらこの空間は一溜まりもない―――!

 

『おほっ!おもしれぇ、受けてやる!』

 

あっ、受けてくれるんだ。ありがとう。

言葉通りにグレンデルは真正面から川神先輩の技を食らった。

―――それでも、グレンデルは立った。胸辺りに青い血液が流れているけど、

戦闘に支障がないとばかり交渉を上げる邪龍。

 

『グハハハハッ!さっきのより良い攻撃だな!でも、まだまだ物足りねぇ―ぞ!』

 

「バカな・・・・・私の技を食らって平気な奴がいるなんて・・・・・」

 

『今度は俺の番だ!』

 

腹を膨張させたかと思えば―――。口から巨大な火炎球を吐きだした!

 

「防ぎますわ!」

 

朱乃先輩が防御魔方陣を展開して迫りくる火炎球を受け止めた。

 

『ドライグゥゥゥゥッ!』

 

―――火炎球はフェイントか!先輩が防いでいる間に、

何時の間にか僕たちの背後に回っていたグレンデルの拳が成神に伸びていた!

 

「させん!」

 

ドッゴオオオオオォォォォォォォンッ!

 

サイラオーグ先輩が成神を守るようにグレンデルの拳を拳で受け止めた。な、なんて悪魔だ!?

 

『おっ!俺の拳を受け止める悪魔がいるなんて嬉しいな!楽しいな!』

 

「(あのドラゴン、見た目があれなのに何て速さだ・・・・・!)―――捕縛する!」

 

グレンデルの足元に魔方陣を展開して、魔方陣から極太の鎖が出て来て、邪龍の体を縛った。

その鎖に対してグレンデルが苛立ち、

 

『んだよ、こいつはよ!?』

 

バキバキバキッ!

 

「・・・・・マジで?」

 

強引に体を動かして鎖を引き千切っていく。

でも、そんなグレンデルの腹部に向かってサイラオーグ先輩が突貫し、

拳が深く突き刺さった。その衝撃でグレンデルは口から血反吐を出し跪く。

 

「もう一発だ」

 

今度は淡い光を拳に纏わせ、グレンデルの顎の下から拳を打ち上げた。鈍い音が空間に響く。

それでも―――!

 

『グハハハハッ!いてぇ、いてぇじゃねぇかっ!でもよ、それがまた良いんだ!

生きている実感を与えてくれるんだよなっ!』

 

全ての鎖が引き千切られた。あのドラゴン、何て耐久力なんだ・・・・・。

でも、負ける気はしない。どうやら不死のドラゴンではないみたいだし、

僕たちはドラゴンを相手に強くなってきたんだ。

 

「今度は全員で行こう」

 

『・・・・・』

 

各々と武器を構え、攻撃態勢になる皆だった。

全員で掛かれば倒せない訳がない。そう思った時だった。

 

ジャララララララララララッ!

 

突如、グレンデルの体にどす黒い鎖が巻かれていき―――何者かの手によって拘束された。

 

『うご!?』

 

しかも・・・・・どこかで見たことがある縛り方だよね・・・・・。デジャブだ・・・・・。

縛られたグレンデルが倒れてうつ伏せになれば、

どこからともかく現れた影がグレンデルの背に舞い降りた。

 

「おや、どうしてここにいるのですか?

あなたはリゼヴィムさまの護衛を務めてもらわないと困るのですが」

 

背後からユーグリットが問いかけてきた。彼が尋ねた影の正体は・・・・・。

少女だった。金色の瞳、膝まで届く黒い髪だけど、両脇だけ赤いリボンでツインテールに

結んでいた。肌は褐色、なぜか黒い浴衣を着ていて黒いサンダルを履いていた。

 

「・・・・・・」

 

彼女は僕たちを見下ろす形で見渡してくる。

 

「・・・・・」

 

そして・・・・・口を開きだした。

 

「私の下僕に相応しい存在はいないな」

 

『下僕っ!?』

 

い、いきなり何を言うんだろうかこの少女は!?

 

「また、悪い癖でリゼヴィムさまから離れたのですか」

 

「お前でも構わないぞ?ユーグリット、私の犬になるか?」

 

「・・・・・いえ、御遠慮させてもらいます」

 

なんだろう・・・・・本当に似ているんだけど・・・・・どうしてなんだ?

 

「リゼヴィムからの伝言だ。『とある国の城を魔王らしく滅ぼして満足したから、

早く帰ってきてくれ』だ」

 

『っ!』

 

国の城を滅ぼした・・・・・!?

あの悪魔、僕たちの知らないところでそんなことをしていたのか!

 

「そうですか。こちらも実験の成果も出ましたし、十分でしょう」

 

『ちょっと待てやっ!俺はまだ―――!』

 

「黙れ」

 

ジャラッ!

 

『あふん!』

 

・・・・・本当に、あの言動は似ているんだけど・・・・・死んだ親友にさ。

彼女は一体何?前と後ろに魔方陣が展開した時だった。

 

「赤龍帝とはどいつだ?」

 

「お、俺だが・・・・・」

 

彼女が成神を見詰めた。

 

「お前か・・・・・」

 

ジャラリと鎖の束を見せ付けた。

 

「調教のし甲斐がありそうだ」

 

不敵の笑みを浮かべた!いや、それって本当に親友の趣味と同じだよ!?

ほら、成神が体を恐怖で震わせているよ!

 

「だが、もう少し強くなってからだな。

―――兵藤一誠と龍神の力から生まれた私を認めさせるほどの力をな」

 

―――っ!?

 

一誠とオーフィスの力から生まれた存在・・・・・。彼女はドラゴンだと言うのか・・・・・。

だから、親友と似ていたのか・・・・・納得したよ!

 

―――一誠side―――

 

「クシュンッ!」

 

「どうした、風邪か?」

 

「いや・・・・・噂されたような・・・・・」

 

「お前が死んだんだ。噂やお前の話しの一つや二つもするだろう」

 

「・・・・・そうだよな」

 

「後もう少しだわ。頑張って」

 

「おう、頑張るわ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode12

火竜山脈地下深くに眠る風石、精霊の力の結晶から精霊の力だけ取り除く作業をして二日目。

ナヴィに訊けば、三分の二は無くなっていると言う。

この調子なら明日までに全て抽出し終えるそうだ。

 

「イッセー、休憩の時間だ」

 

「おー」

 

剥き出しの風石から手を離してその場で倒れる。体に負担が掛かるなー。

にしても、風石・・・・・どれだけあるんだよ。アジ・ダハーカが抽出した精霊の力を

結晶化にしてもらっているけど、視線をとある方へ向ければ山のように積み上がっている

風石が視界に映る。

 

「随分と大量の風石だな」

 

「そうだな。これ、どうしようか」

 

「各国に渡せばいいのでは?」

 

妥当だな。でも、一つや二つは貰いたいな。アザゼルかアジュカ辺りに渡せば、

人類にとって便利な道具となるだろうな。使い捨てだけど。

 

「イッセー、夕飯の準備ができたわよー」

 

「分かったー。今日は何だ?」

 

「きっとイッセーが美味しいと言うほどの料理よ」

 

ルーシィ・ハートフィリアがニッコリと笑んで言う。それは楽しみだな。

異国の料理は興味が尽かない。皆がいる場所に赴けば、

設けたテーブルに乗った様々な料理があり、用意された椅子に座って合掌した。

 

「いただきます」

 

『いただきます』

 

―――数十分後―――

 

賑やかな夕食は終え、再び俺は精霊の力の抽出を始めていた。

パイプ代わりに精霊の力だけを通して手の平に集めている作業だから、暇と言っちゃあ暇だ。

だから、皆が俺に話しかけてくる。

 

「イッセーって好きな趣味とかある?」

 

「のんびりと寛いだり、本を読んだり、料理を作ったり・・・・・色々だな」

 

「へぇ、イッセーって料理作れるんだ?美味いのか?」

 

「美味いどころか、家族に中々作らせてくれないんだよ。

自分の仕事を奪わないで欲しいって言われるんだ」

 

「メイドでも雇っているのか?」

 

「ああ、そんなところだな。逆にエルザとルーシィ、お前らは彼氏いないのか?」

 

そう尋ねてみれば、ルーシィ・ハートフィリアが苦笑いを浮かべ、

エルザ・スカーレットが首を横に振る。

 

「そんな人いないって」

 

「私もそうだ」

 

「なんだ、二人とも美人なのにな。グレイ、ナツ。二人のことをどう思っている?」

 

男どもに訊いた。

 

「ルーシィもエルザも大切な仲間だ。でも・・・・・エルザは怖い」

 

「ああ、限りなく怖い」

 

「ほう?私のどこがどう怖いのか説明してもらおうか?―――その体からなぁっ!」

 

「「ぎゃああああああ!ごめんなさーいっ!」」

 

あっ、エルザ・スカーレットが般若になって二人を追いかけ回し始めた。

 

「あーあー、あの二人。絶対にボコボコされちゃうね」

 

「どこに行っても変わらないよね」

 

変わらないか・・・・・俺は色々と変わった。肉体も種族も力も・・・・・後悔はしていない。

ただ、少し寂しさが感じるだけだ。

 

「でも・・・・・もう少しでこの冒険も終わるんだね」

 

「この数日間、色々と刺激的だったな」

 

「その度にお前らという仲間も増えた」

 

ルクシャナ、シャルロット、ジョゼット、キュルケ、ナヴィ、リースの顔を見る。

 

「ルクシャナとナヴィ、リースはともかく、シャルロットとジョゼット、

キュルケとは旅が終わったら別れてしまうな」

 

「寂しいわねぇ。いっそのこと、故郷に帰らず、ここ(ハルケギニア)で暮らしたらどう?」

 

「そ、それだったらお父さまたちに頼んで衣食住提供してもらうように頼むわ」

 

「・・・・・」

 

ジョゼットの提案にシャルロットも賛同とばかりコクリと頷いた。気持ちは嬉しいけど、

俺には家族が待っているんだ。それはできないと首を横に振る。

 

「悪い。家族が待っている。帰らないと」

 

「・・・・・そう」

 

残念そうな顔をするジョゼット。シャルロットも同じ表情を浮かべていた。

物凄く罪悪感を感じるのは何故なんだろうか?

 

「・・・・・さて、そろそろ寝るか」

 

精霊の力の抽出は終わり。残りは明日で終わらせよう。

 

「それじゃ、お休み」

 

全員分のテントがある場所へ赴こうとする。

 

「イッセー!助けてくれぇっ!」

 

「まったく・・・・・あの二人は・・・・・」

 

未だに仲間に追いかけられている二人から助けを求められたのだった。

 

―――翌日―――

 

精霊の力の抽出は順調に進み―――昼頃になった頃にようやく、全ての風石の力を抽出し終えた。

 

「終わったぁー!」

 

『お疲れさま!』

 

俺の傍には直径十メートルの緑色の丸い結晶の塊が山積みになっている。

高さは百メートル以上もある。

こうして見れば、綺麗だけどこんなのが地下に埋まって大陸を持ち上げる

『災害』となる危なっかしい代物だ。

 

「ナヴィ、もうないんだよな?」

 

「ええ、殆どないわ。またあの規模の風石が蓄積するのに千年以上は掛かるわ」

 

「それでもハルケギニアの人間が平和に過ごせれる時間は長いから良しとしよう」

 

結晶を亜空間に仕舞いこんで片付ける。

 

「これでエンシェント・ドラゴンが目覚めても大陸が持ち上がる可能性の心配はなくなった。

思う存分に戦える」

 

龍化になって皆に告げる。

 

「それじゃ、遅れた分を取り戻そう。俺の背中に乗れ」

 

―――○●○―――

 

ガリア王国の上空を飛び、トリステインの国境を越え南に進む俺たち。

天気も晴天で飛行するには最適な環境だった。

 

「次のアルビオンダンジョンは一体どんな試練が待ち構えているんだろうな」

 

「どんな試練だって、私たちが挑めば乗り越えられるわよ」

 

「そういや、お土産買ってくるようにマスターから言われていたな。アルビオンで買うか?」

 

「そうだな。そろそろ何を買うか考えねばな」

 

「そーいう時は私の出番ね。各国に存在する店の商品の情報はあるわ。どんなのがいい?」

 

複数の魔方陣を展開して立体映像を浮かべる。

その映像に見詰めるナツ・ドラグニルたちをよそに俺は前進する。

 

「・・・・・」

 

首筋を歩いて俺の頭に乗っかってくるリース。

 

「あの、イッセー。あなたと共に行動することなのだけれど」

 

「決めたか?」

 

「あなたと共にいれば魔王と会えるのは本当?」

 

その質問にこう答えた。

 

「必ず会えるわけでもないが、それに関わることはまず間違いない。

あの悪魔に加担している奴とも戦うだろう」

 

「・・・・・」

 

「だけど、今のリースの力じゃ魔王の足元にも及ばない。さらに力が必要なら、

俺と俺の家族と一緒にいたほうがいい。お前を鍛えることができるからな」

 

徐に跪いて俺の頭に腰を下ろす彼女は布に巻いていた物を見て、布を外し始めた。

それは三つ叉の槍でだった。

 

「この槍でも、魔王を倒すこともできない?」

 

「一般的な武器、特殊な力が施されていなければ悪魔に勝つことすらできない。

リース自身が不思議な力を有しているのなら話は少し変わるが」

 

「・・・・・」

 

リースは顔を曇らす。俺の周りは一般な人間とは言えない奴らばかりだからな・・・・・。

彼女みたいな人はとても貴重かもしれない。

 

「皆の仇すら取れないのね・・・・・今の私じゃあ・・・・・」

 

「だからだ。俺たちと一緒にいればお前を鍛えられて強くすることができる。

もしかしたら、リースが知らない秘めた力が覚醒することもできるはずだ」

 

「秘めた力・・・・・」

 

それは彼女自身の問題となるが・・・・・この先、彼女の成長次第だ。

 

「リース、お前は一人じゃない。俺たちがいる。一緒にリゼヴィムを倒そう」

 

「・・・・・ええ、イッセー」

 

コクリと首を縦に振ったリース。彼女の願いを叶えたいものだな。―――俺も同じ願いだからさ。

 

―――???―――

 

「神聖アルビオン共和国の誕生に万歳!」

 

『万歳!万歳!万歳!万歳!万歳!』

 

「諸君のおかげで、無能な前王を崩御することに成功した!

この機に乗じ、アルビオンダンジョンを攻略し、始祖の秘宝を手に入れ、『聖地』を奪還する!」

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

「・・・・・こ、これでよろしいのですね?」

 

「くくく・・・・・ああ、これでいい」

 

「癪だが、あの男の言う通りこの地を手に入れることはできた。

残るは始祖の秘宝と虚無の担い手やらだな。その者の調査はどうだ」

 

「い、未だ行方を探しております。何分、誰が虚無の担い手なのか判明しないのです」

 

「ふん、役立たずだな。さっさと見つけ出してここに連れてこい。

特徴ぐらいは分かっているだろう」

 

「は、はい!それと・・・・・次々とダンジョンを攻略している者たちは

この地にやってくると思いますが・・・・・如何致しましょう」

 

「放っておけ、寧ろ好都合ではないか。攻略してもらい後に殺して秘宝だけ奪えばいいだけだ」

 

「わ、分かりました」

 

―――港町ラ・ロシェール―――

 

トリステインから離れること早馬でならば二日、アルビオンへの玄関口である。

港町でありながら、狭い峡谷の間の山道に設けられた、小さな街である。

 

人口はおよそ三百ほどだが、アルビオンと行き来する人々で、

常に十倍以上の人間が街を闊歩している。

狭い山道を挟むようにしてそそり立つ崖の一枚岩を穿って、旅籠やら商店が並んでいた。

 

立派な建物の形をしているが、並ぶ建物の一軒一軒が、同じ岩から削り出されたもので

あることが近づくと分かる。『土』系統のスクウェアクラスメイジたちの匠の技であった。

峡谷に挟まれた街なので、昼間でも薄暗い。

 

狭い裏通りの奥深く、さらに狭い路地裏の一角、はね扉のついた居酒屋があった。

酒樽の形をした看板には『金の酒樽亭』と掻かれている。金どころか、一見すると

ただの廃屋にしか見えないほどに小汚い。

 

壊れた木製の椅子が、扉の隣に積み上げられている。中で酒を飲んでいるのは、傭兵や、

一見してならず者と思われる風体の者たちだった。彼らは酔いが回ってくると、些細なことで

すぐに口論をおっぱじめる。

 

理由はくだらないことばかり。俺の杯を受けなかった、とか、目つきが気にいらないとか、

そんなことで肩をいからせ、相手に突っ掛かっていく。ケンカ騒ぎが起こる度に、傭兵たちは

武器を抜くので、死人や怪我人が続出する。見かねた主人は、店に張り紙をした。

 

『人を殴る時はせめて椅子をお使いください』

 

店の客たちは、主人の悲鳴のようなこの張り紙に感じ入り、

ケンカの時には椅子を使うようになった。それでも怪我人は出たが、

死人が出なくなっただけマシというものである。

 

それから、ケンカの度に壊れた椅子が扉の隣に積み上げられるようになった。

さて、本日の『金の酒樽亭』は満員御礼であった。そしてはね扉ががたんと開き、

新たな来客が、酒場に十二人の男女と一匹の猫が現れた。

 

ゾロゾロと店の中を歩き、空いている席はないかと探すが今は満員御礼。

精々、一人か二人分の席しか空いていない。すると、扉の隣に積み重ねられている壊れた

椅子に目をつけて「ふむ」と、何かに思い付いたようだった。

男は店の主人の下へ近づい壊れた大量の椅子をもらって良いかと問う。

 

「へ、へぇ・・・・・構いませんがどうするつもりで?」

 

「なに、リサイクルをするだけさ」

 

男は虚空から金色の錫杖を出してその錫杖の柄を握りしめ、トンと床を突いた。すると、

壊れた大量の椅子が光り輝き、宙に浮いた。大量の椅子が複数に分かれ、

何かの形になっていき床に設置された。

 

「提供感謝する。あと、この店一番の料理を十二人分頼む。それとできるだけ大きい生魚も」

 

何か詰まっている袋を店主に渡して男は壊れて積み重ねられた椅子が新しく

巨大なテーブルと十二人分の椅子となった場所へと赴いた。

 

「凄いわねー。壊れた椅子が元に戻ったり大きなテーブルになっちゃったわ!」

 

「この店にとっても利益になるだろう。ギブアンドテイクってやつさ」

 

俺、スカーレットイッセーは燃えるような赤い長髪の少女の言葉にそう言いながら席に座る。

その隣に赤と黒が入り混じった女性と金髪の少女が当然とばかりに座る。

 

「ナヴィ、アルビオンに出向するフネは何時だ?」

 

「二つの月が重なる晩の翌日、明日の朝よ。アルビオンが一番ラ・ロシェールに近づくから」

 

「イッセーがドラゴンになってアルビオンに行けばいいんじゃないか?」

 

ナツ・ドラグニルがそう提案するが・・・・・あの時の二の舞になる。

 

「ロマリアみたいに騒ぎが起きるからダメだ」

 

「・・・・・そうだったな」

 

赤い髪の少女、エルザ・スカーレットが思い出したかのように頷いた時だった。

 

『主、ステルスが自分の力を使えば周りに気付かれることもなく侵入できると仰っております』

 

内にいるドラゴンがそう教えてくれた。お、そうなのか?それじゃ、後で試してみよう。

 

「訂正だ。ドラゴンになっていく。透明になってな」

 

「ドラゴンで透明って・・・・・あっ、もしかしてトリステインダンジョンで

戦ったドラゴンのこと?」

 

「そうだ」と肯定する。あの透明なドラゴン・・・・・。

名前を付けて『ステルス』の能力は面白い。

ナツ・ドラグニルの臭覚さえ微かぐらいしか感じさせない。気配も感じなかったし、

なにより魔力でさえ放つ直前まで感じない。禁手(バランス・ブレイカー)に至ったらきっと

面白い能力を得れるだろう。

 

「そう言うわけだ。明日もアルビオンにはドラゴンで向かう」

 

「分かった。本当にイッセーの移動手段は便利だ。

これが乗り物だったらナツは乗る度に酔うからな」

 

「全くだぜ。竜滅魔導士(ドラゴンスレイヤー)はどうして乗り物に関して酔うんだがな」

 

グレイ・フルバスターが嘆息したら、ナツ・ドラグニルが食って掛かった。

 

「うるせっ!知るか!グレイのバーカッ!超バーカ!」

 

「お前がバカだろうが!」

 

「周りを凍らせて寒がらせるだけじゃねぇか!」

 

「んだったら、てめぇの魔法は周りを燃やして熱がらせるだけじゃねぇか!」

 

「「やるかこの野郎っ!?」」

 

とうとう二人は額をぶつけ合い睨み合った。

 

「止めんかバカ者!」

 

が、エルザ・スカーレットの鉄拳により、二人は吹っ飛ばされた。

 

ドガッシャアアアアアアアアンッ!

 

周りの客の食卓にぶつかりながらだ。

 

『・・・・・』

 

巻き込まれた客たちが―――ギロリッと俺たちを無言で睨んだ。

 

「エ、エルザ・・・・・」

 

「お前・・・・・・」

 

「す、すまない。つい、何時もの調子でやってしまった」

 

いつもって・・・・・いつもこんな風にやっていたのか!?

 

「おい、ちょっと面、貸せや」

 

うわー、怒っちゃっている。マジで、かなり怒っちゃっているよ。

 

「俺が合図をしたら、一斉に出口に駆けるぞ」

 

『・・・・・』

 

コクリと皆が頷いた。俺は息を吸って―――。

 

「―――あっ!あそこにアンリエッタ王女が際どい服を着て股を開いて手招いているぞ!?」

 

とある方へ指を差して叫んだ。

 

『なぁぁぁぁぁにいいいいいいいいい!?』

 

男はなんて・・・・・悲しい生物なんだろうか。瞬時でエルザ・スカーレットに吹っ飛ばされた

二人の襟を掴んで、皆と共に店の外に出た。一拍して、店から―――。

 

『俺たちを騙しやがったなあの野郎ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!』

 

怒号が轟いた。現在は夜だ。闇夜に紛れて逃走する。

 

「この三バカ!料理を食べれなかったじゃないのよ!」

 

ルクシャナが怒鳴った。でも、二人は未だにいがみ合っていた。

 

「ナツのせいだ!」

 

「グレイのせいだ!」

 

「貴様ら、いい加減に―――!」

 

「エルザも怒る時に手を出さないようにな」

 

「・・・・・はい」

 

(^-^)と、彼女に向けて窘めたら、青ざめてコクリと頷いた。

 

「こ、怖い・・・・・」

 

「笑っているけど、威圧が物凄く感じるな・・・・・」

 

「イッセーだけ怒らせないようにしなきゃね」

 

おや、皆が何か言っているな。まあ、今は―――このままアルビオンに行くしかないだろう。

 

「崖に飛び降りろ!」

 

「マジでッ!?」

 

「後ろ見て納得するはずだ」

 

ルーシィ・ハートフィリアが背後に向けた。俺も尻目で見れば―――怒り狂う男どもが武器を

片手に追い掛けていた。

 

「うん、納得したけどどうして飛び込むのよ!?」

 

「俺が龍化になってお前らを背に乗せるからだ」

 

走り続けていると、もう目と鼻の先に崖が見えてきた。

 

「飛べ!」

 

ダッ!

 

バッ!

 

全員が全員、ラ・ロシェールの大地から飛びこんだ。

その瞬間、俺は龍化となって皆を背中で受け止めて空を飛行する。

 

「夕食はアルビオンに着いてからだな」

 

―――???―――

 

『ん・・・・・?』

 

「アルビオン、どうした?」

 

『いや、呼ばれた気がしたのでな』

 

「気のせいだろう?ああ・・・・・一誠・・・・・」

 

―――○●○―――

 

空を飛んでしばらく経った頃に雲の切れ間から、黒々と大陸が覗いていた。

大陸は遥か視界の続く限り延びている。地表には山がそびえ、川が流れていた。

その川、大河から溢れた水が、空に落ち込んでいる。

 

「・・・・・すげぇ・・・・・」

 

「ああ、壮大だな・・・・・いや、雄大とも過言ではない」

 

その大陸に向かって前進する。空は暗いため、俺の姿を肉眼で捉えることは難しいだろう。

どこかの森で夕食&就寝だな。バサッ!と翼を羽ばたかせてアルビオンの空へと舞い上がる。

眼下で密集して光る場所が見えた。あそこが首都のようだ。

 

「(ん?)」

 

その町から離れた場所で一つだけ明かりが点いている場所があった。しかも、そこは森の中だ。

・・・・・あそこでいいか。その森に向かって舞い降りる。

森の中で照らしている家より少し離れた場所で降り立つと、皆が俺から降り出した。

 

「イッセー、家があるみたいだけど」

 

「気になるか?」

 

「うん、家の人と会っていい?」

 

エルフだとバレなければいいか。俺も一緒についていくと告げて人間の姿に戻る。

亜空間から寝具と夜食用の材料を取り出して、

皆によろしく頼むと伝えてルクシャナと一緒に歩を進める。

夜の森の中を歩き続けて木々を分けるように目的地に向かうと、木造で藁葺きの家を発見した。

ルクシャナが駆けだして家の扉にノックをした。

 

「こんばんわー!」

 

元気で声を掛けた。・・・・・でも、返事はない。気で探知すれば・・・・・いるな。

 

「あれ、いない?」

 

「いるぞ。もしかしたら、こんな夜に訪れているから不審感を抱いていると思う」

 

「えー?別に怪しくないのに」

 

「相手にとって夜に見知らぬ人が訪れたら誰でも不審がる」

 

そう言うと、つまらなさそうな顔をして俺に口を開こうとした

彼女が背を向けていた扉が光を漏らしながら開いた。

 

「・・・・・」

 

家の主は夜なのに帽子を被っていた。家から漏れる光で髪は金だと伺える。瞳は翠だ。

 

「どちらさま・・・・・?」

 

「あっ、ゴメンなさいね?ちょっとこの家から離れた場所で食事をしたいけれど、いいかしら?」

 

「食事?こんなところで?」

 

「うん、ダメだったら他のところで食べるわ」

 

「どう?」とルクシャナは家の主・・・・・少女に尋ねたところ、

少女は小さくコクリと頷いてくれた。

 

「ありがとう。それと、自己紹介していなかったわね。

私はルクシャナ、こっちはイッセーよ。あなたのお名前、何て言うのかしら?」

 

「・・・・・ティファニア」

 

「ティファニアね?じゃあ、ティファニア。もしよかったら一緒に食べない?」

 

「え?」

 

ティファニアは目を丸くした。まさか、夕食に誘われるとは思ってもいなかっただろう。

俺も誘うとは思いもしなかった。ルクシャナは再度誘う。

 

「一人で食べるより皆と食べたほうがいいわよ。ね?そうましょう?」

 

「・・・・・」

 

彼女の誘いにティファニアは首を横に振った。

その際、揉み上げのところの髪から耳が見えた。人の耳より尖っている耳だ。

 

「・・・・・もしかして、お前はエルフか?」

 

「っ!?」

 

ティファニアの肩がビクリと跳ね上がった。

それが彼女の正体だと理解し、ルクシャナに視線を向けたら、

 

「嘘!あなたもエルフなの!?」

 

「あなた・・・・・も?」

 

「そうよ?ほら、私もエルフなのよ」

 

ルクシャナは自身に掛けた幻を解いた。すると、彼女の耳が人の耳より尖ったのだった。

 

「わ、私と同じ種族のヒト・・・・・」

 

「うわぁ、こんなところでエルフと出会うなんて物凄い偶然だわ。

でも・・・・・目が蛮人みたいだわね?もしかして、ハーフ?」

 

「・・・・・ええ、私は混じりものよ」

 

何故か自嘲気味に言うティファニア。何時しか、顔だけ出していた扉から出て来て姿を現した。

粗末で丈の短い、草色のワンピースに身を包んでいた。短い裾から細く美しい足が伸び、

そんな足を可憐に彩る、白いサンダルを履いている。

 

「エルフと人間のハーフか。珍しいな。しかもこんなところで一人で住んでいるなんて」

 

「きっと、蛮人に酷い目に遭ってここでひっそり暮らしているんだわ。

ねぇ、この子も連れて行かない?」

 

「皆のところになら構わないぞ」

 

「それだけじゃないわよ。ハーフとはいえ、私と同じエルフの血を流している存在よ?

こんなところで一人だけ暮らさせたら、見つかった時には蛮人に殺されちゃうわ」

 

・・・・・ようは、ダンジョン攻略が終わっても俺の故郷に連れて行きたいという魂胆か?

 

「ティファニア。私たちと一緒に行動しない?私とイッセーの仲間は私がエルフだと知っているから、あなたがついてきても怖がらないわよ」

 

「・・・・・ルクシャナを、エルフを怖がらない人がいるの?」

 

「ええ、話せばすぐに仲良くなっちゃうほど変わった蛮人よ。ね、イッセー」

 

「それ、俺も含まれるのか?」

 

「当然じゃない」

 

だから、とティファニアの手を掴んだルクシャナ。

 

「一緒に夕食を食べましょう!これは決定事項だからティファニアの言い分は聞かないわ!」

 

「えええっ!?」

 

驚く彼女の手を引っ張って、皆がいる場所へと戻っていくルクシャナは。

俺は家の明かりを消してから追った。

 

「ただいまー」

 

「あっ、戻ってきた・・・・・って、誰連れてきたの!?」

 

「私と同じだけど、エルフと蛮人の間と生まれたハーフのエルフのティファニアって子よ」

 

さっそく、ティファニアを紹介した。料理の準備はできていた。

そして、ルクシャナが連れてきた彼女に興味深々とばかり、集まってきた。

 

「へぇ、ハーフのエルフか。初めて見たな」

 

「ティファニアって言うんだね。私はルーシィ・ハートフィリアよ。ルーシィって呼んでね」

 

「俺はナツ・ドラグニルだ。よろしくな!」

 

「私はエルザ・スカーレットだ。もし共に行動するなら仲良くしよう」

 

「俺はグレイ・フルバスターだ。よろしく」

 

「オイラはハッピーだよ!よろしくね!」

 

と、フェアリーテイル組の自己紹介に続き、他の皆も自己紹介を始めた。

そんな皆に戸惑いながらもちゃんと挨拶するティファニアであった。

 

「あ、あの、エルフを怖がらないの?」

 

「逆に言うけどエルフって怖いのか?怒ると怖いなら話は別だけど」

 

「エルザ並に怖かったら怖いけどな」

 

「同感だぜ。エルザだけは―――」

 

「私だけは・・・・・なんだって?」

 

はい、もう一回ナツ・ドラグニルとグレイ・フルバスターがエルザ・スカーレットに

追いかけられ始めました。

 

「ティファニア、エルフだからって怖がらない奴だっているんだ。最初は驚くだろうけど、

話し合えば普通に接してくれるはずだ」

 

「・・・・・」

 

「ま、そう言う奴は俺の周りにゴロゴロといるんだけどな」

 

ははは、と笑い彼女を安心させるように頭を撫でた。

 

「それと、悪いな」

 

「はい?」

 

「―――彼女、ルクシャナはしばらく付き合って分かったことがあるんだ」

 

ルクシャナに視線を向けながら言った。

 

「ルクシャナは我がままで、一度決めたことを絶対に曲げない。

だから、ルクシャナは何がなんでもお前を連れて行こうとするぞ」

 

「・・・・・」

 

ティファニアは悟ったのかもしれない。自分の人生が一変するんだと。

実際、俺も彼女と出会ってから色々とあった。

 

「すまない。そして、よろしくな」

 

「・・・・・よ、よろしくお願いします」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode13

 

 

―――エルザside―――

 

ルーシィとナツとグレイ、ハッピーと共にこの国の王がいる場所を街の人たちから聞きながら、長い時間を掛けてようやく宮殿に辿り着いた。イッセーたちは何時も通り私たちの王の謁見が終わるまで別行動だ。

 

「私たちはロマリアの依頼でダンジョンの攻略の許可を得ている。

攻略する前に、この国と王族と挨拶と攻略の許可を得たい。通してくれ」

 

と、門番に乞うたが・・・・・。門番の口から思いもしない言葉が出てきた。

 

「ダメだ。不審な輩に神聖アルビオン共和国の神聖皇帝と謁見など許されん」

 

「神聖アルビオン共和国?神聖皇帝?このアルビオンはアルビオン王国で、

アルビオン王家が統治していたはずだが?」

 

私たちがくる前に名前と王が変わっていたことに訝しんだ。

宮殿の門番は嫌な笑みを浮かべこう言った。

 

「無能な王族たちは新たな光であるレコン・キスタにより滅ぼされたのだ。

そんな古めかしい名と王はすでに存在しない」

 

「では、あの塔の管理は一体誰がしている?

ここに来る前に見てきたら、扉が開きっぱなしだった。この国の民がもしも間違って

入ってしまったら二度と外に出られないのだぞ?この国の塔の管理はどうなっているのだ?」

 

「平民の命など知ったことではない。我らは聖地奪還という重大な任務があるのだ」

 

―――――聖地奪還・・・・・。

 

「始祖の秘宝を手に入れる準備はすでにできている。現在、神聖皇帝の協力者たちが

塔の中にいるのだ。貴様らがあのダンジョンを攻略する意味もない。早々に立ち去れ」

 

「・・・・・」

 

失礼だが、この国の魔法使いたちではとても攻略できるとは思っていない。

なのに、私たちを抜きで攻略に臨んでいるとは・・・・・。踵を返して歩を進める。

 

「彼らのところに戻ろう」

 

「いいのかよ?」

 

「会えないのであればしょうがない。それに・・・・・」

 

足を停めて、後ろに佇む宮殿を見上げた。

 

「この国の様子が少しばかりおかしいようだ」

 

―――一誠side―――

 

「王と会えなかった?しかもすでに塔を攻略している最中って・・・・・」

 

エルザ・スカーレットたちが戻るや否や、呆れた話を聞かされた。

とある店の中で昼食と料理を食べている。

 

「ああ、今までなかったことだ。王の謁見ができないどころか、攻略の必要がないと言われる。

その上、何時の間にか王が変わっている様子だったぞ」

 

「ナヴィ、前王って誰だ?」

 

「えっと・・・・・ジェームズ一世よ。家族関係はウェールズ・デューダーという息子がいて、

王に弟がいたわ」

 

王に弟がいた、そのナヴィの口から出た瞬間にティファニアが顔を曇らせた。

・・・・・どうしてだ?

 

「しかもだ。始祖の秘宝を手に入れて聖地を奪還するとか言っていたぜ」

 

「はっ?ここもなの?まったく・・・・・ふざけんじゃないって話だわ・・・・・・」

 

グレイ・フルバスターの話を聞いた途端に、

グチグチと文句を零して不機嫌な顔になるルクシャナ。

 

「ねえ、これからどうするの?必要ないって言われたんじゃ、

私たちは行く必要ないんじゃないの?」

 

「いや・・・・・イッセーから聞いた話では、始祖ブリミルとやらの子孫の一人が

このアルビオンの王族だと言う。そして、その秘宝を渡すに相応しい存在は

その始祖の子孫か王族の関係者だ」

 

「その王族が全員何らかの理由で変わっているとなると・・・・・とても、

今の王族は良心的な考えを持った人間ではないと私は思う」

 

「じゃあ・・・・・」

 

皆の視線はエルザ・スカーレットに向く。彼女は重々しく頷いた。

 

「私たちも行くぞ。始祖の秘宝については・・・・・イッセー、お前が持ってくれるか?」

 

「そのつもりだ。全部揃わないと意味がないんじゃ、そうしないとな。

ルクシャナの故郷を守るためにも」

 

話は決まった。そう思ったその時だった。

 

「―――あっ、丁度良かった!知り合いがいたっす!」

 

この声は・・・・・。店内を見渡せば、こっちに近づいていくる青年がいた。

 

―――○●○―――

 

「いやー、ありがとうございました。お金が足りずどうしたらいいのかと

困っていたところにだったんですよね、はい」

 

「お前な・・・・・・」

 

俺が溜息を吐く原因である目の前の青年、デュリオ・ジェズアルド。

まだハルケギニアにいたのか。

 

「最悪、食い逃げでもしようと考えていたところでした」

 

「天界の重要な立場にいるあなたが食い逃げなんて・・・・・」

 

ナヴィが呆れ顔で溜息を一つ。

 

「お前、まだいたんだな?」

 

「やることがないっすからね。暇なときは必ずグルメツアーみたいなことをするんっす」

 

こんな奴が二番目に強い能力を宿しているなんて・・・・・神の悪戯にしては

お粗末ではないか?

 

「今回のお礼に俺もダンジョン攻略とやらを手伝います。いいっすか?」

 

「お前も加わると、もはや何が出て来ても怖ろしくないな」

 

「んじゃ、よろしくお願いしますねぇ」

 

互いに握手を交わし、新たに仲間になったデュリオ・ジェズアルドを迎えた。

―――塔の目の前で。

 

「それでは、私たちも塔の攻略に行こうか」

 

エルザ・スカーレットの問いに俺たちは頷いた。そして―――塔の中へと侵入する。

 

ゴボ・・・・・ッ。

 

『・・・・・っ!?』

 

刹那。俺たちは―――水の中にいた。俺たちが出た先が水の中だと誰も思わなかった。

水の中は酸素がない。

俺たちは驚きのあまりに目を丸くしてゴボゴボと酸素を吐いてしまった。

必然的に呼吸困難と陥り、いずれ水の中で溺死となる。

 

「(こんなところで死んでたまるか!)」

 

金色の錫杖を虚空から出して能力を発動する。水中にどこからともかく酸素の塊を集め

、空気の玉へと成せば、今度は魔方陣を展開して水を操り、皆を空気の玉の中へと入れていく。

 

「(やば・・・・・酸素が足りねぇ・・・・・・)」

 

意識が遠のいていくが自覚する。皆が空気の玉の中で何か言っているのが分かるけど、

声が聞こえない。

急いで皆のところに泳ごうとした時だった。突如発生した激しい水流に俺は抵抗ができず、

皆と離れてしまった。

 

「(ちょっ、こんなのってないだろぉぉぉぉっ!?)」

 

―――ルクシャナside―――

 

「イッセー!」

 

彼が水流に逆らえず私たちから離れてしまった。追いかけようにも、

私たちを包んでいる空気の塊も彼と正反対の方向へ流されてしまっている。

 

「イッセーを助けないと!」

 

「ダメだ・・・・・流れの勢いが速い!」

 

「だったら、私の精霊で!」

 

蛮人が金色の鍵を手にした。

 

「開け、水瓶宮の扉!アクエリアス!」

 

鍵が光り輝き、水の中で煙が発生したと思えば、水色のオールバックに上半身が蛮人の

体で下半身が魚みたいな体、青い髪をオールバックにして水色の壺を抱えていた。

 

「アクエリアス!向こうに流されたイッセーを連れて来て!」

 

「ちっ、デートの途中だったのに呼び出されたかと思えば人助けかよ。しゃーねーな」

 

な、なんか・・・・・口の悪いわねアレ。

でも、蛮人の願いを聞くためにイッセーが流れてしまった方へ泳いでいった。

 

「これで、なんとかなったかも・・・・・」

 

「後の問題は・・・・・私たちはどこまで流されていくのかだな」

 

・・・・・そうね。空気の塊の中でいられるから何とかいられるけど、

何時までもこうしていられるとは思えない。

 

「もしものことが起きたら、私とお姉さまの魔法で水の中を進めるようにするわ」

 

「ええ、お願いするわ」

 

そしたら、私も精霊の力で水の中でも呼吸ができるようにしなきゃね。

 

「イッセーは大丈夫だ。あいつは強いからな」

 

堕天使がいきなりそんなことを言う。でも・・・・・やっぱり心配だわ。

 

―――一誠side―――

 

「ふう・・・・・溺死なんて、嫌な死に方をしそうだった」

 

あれから遠くに流された俺は、空気の塊を作りだして難を逃れた。

今は海面でプカプカと泳いでいる。

 

「さて・・・・・ここは海のようだな。皆の気の探知ができやしない」

 

そもそも、どうやって攻略すればいいのか分かりもしない。

今までより難易度が高いような気もする。

 

「・・・・・」

 

海面でのんびりと揺らいでいると、俺の傍で海面から何かが顔を出す。

 

「よーやく見つけたぞゴラ」

 

「・・・・・誰だ?」

 

「あ?あの餓鬼の精霊のアクエリアスさまだ。覚えておけ」

 

精霊?ルーシィ・ハートフィリアの精霊なのか?

 

「おら、さっさと私について来い。こっちは彼氏を待たせているんだからよ」

 

「あー、何かごめんなさい。お楽しみのところを邪魔しちゃって」

 

「ふん、最初に謝るとは礼儀が良いな」

 

「それで、皆はどっちの方向へ?」

 

そう訊くとアクエリアスはとある方へ指した。方向さえ分かれば何とかなるか。

 

「ありがとう。それじゃ行こうか」

 

「―――は?」

 

翼を展開して海面から浮けば、アクエリアスの腕を掴んで抱えるように抱きしめたら、

彼女が指した方へ飛行する。

 

「ちょっ!おまっ!?私を抱きしめるな!」

 

「って、人魚だったのか!?・・・・・ルーシィの奴は本当に色々な精霊と仲が良いな」

 

「誰が仲が良いんだよ!私は別に仲良くなんてないぞ!つーか、降ろせ!」

 

ジタバタと魚のような下半身を動かし、暴れ出すアクエリアス。生憎だが、放す気はないぞ。

このまま皆のところへ直行だ。

 

「なあ、お前の他にも人魚の精霊はいるのか?」

 

「この状況で何を聞くんだお前は!?NOだ!」

 

「なんだ、いないのか」

 

何気に教えてくれる礼儀正しい人魚だ。いや、精霊か。さらに質問する。

 

「なあ、彼氏って恰好良いのか?ワイルド?それともダンディ?」

 

「そ、そうだな・・・・・どちらかつーと、ワイルドの方だ・・・・・って、

何を言わせやがるんだ!?」

 

「なるほど、ワイルドな彼氏に惚れたということか。可愛い精霊だな」

 

「か、かわっ!?」

 

急に顔を赤くするアクエリアス。おお、面白い。―――弄び甲斐がありそうだ。

 

「彼氏の自慢なところの話、ルーシィたちを見つけるまで話せれるか?」

 

「ふ、ふん。私の話は長いぞ。良いんだな?」

 

「どうぞどうぞ」

 

話し相手ができた。皆を探しながら訊くとしようか。

 

―――○●○―――

 

―――ヴァンside―――

 

どれぐらい水流に流されたのか分からない。が、私たちはしばらくして変な洞穴の中に

入り込んだかと思えば、人工的な地下の空間に辿り着いた。

火が灯されて辺りは薄暗い明るさで照らされて通路の入り口もうっすらと見える。

 

「ここ・・・・・どこかの建物?」

 

「そのようだな。だが、私たちだけじゃなさそうだぞ」

 

海面に浮かぶ謎の黒い影が数多。堕天使の視力は伊達じゃない。

その影の正体はあっという間に理解した。

だからだろう、皆、目を丸くした。―――溺死したと思しき数多の死体を。

 

「アルビオンの兵士たち・・・・・!」

 

「必然的だな。出た瞬間に水の中じゃ呼吸もできず溺れ死ぬ。

私たちも水から守られていなければ私たちもああなっていただろう」

 

「・・・・・イッセー、大丈夫かしら」

 

あの男はきっと無事だ。きっと私たちのところに向かっているはずだ。

そう思いながら、空気の塊から出た。

そして、魔方陣で空気の塊を乗せて足を踏める場所へと動かす。すると、空気の塊が消失した。

 

「行くぞ」

 

『・・・・・』

 

通路へ赴く私たち。通路の中も蝋燭の火で灯されて明かりを照らしていた。

静寂で私たちの足音だけが聞こえる。警戒して歩を進めていると、別れ道と遭遇した。

一旦立ち止り、相談し合い右の通とに向かうことに決めた。

その通路に進めば、様々な武器を片手に佇む古ぼけた甲冑が見えてきた。

 

「なんか、今にでも動きそうな感じだね」

 

「実際に動いたりしてな」

 

「その時は迎撃するだけだ」

 

同感だと思い、立ち並ぶ甲冑の間を通る。

 

「・・・・・・」

 

―――ドッ!

 

後に向かって槍を放った。全員の頭や頬を掠めながら槍は、

背後にいたナヴィを斬りかかろうとしていた甲冑に突き刺さった。

 

「・・・・・へ?」

 

「油断するなよ。ガーゴイル」

 

ガチャ、ガチャ、ガチャ・・・・・・。

 

倒れた甲冑が呼び水とばかりに通路に佇んでいた甲冑たちが動き始めた。

尻目で見れば、倒したはずの甲冑も動き出す。

 

「魂のない人形・・・・・か」

 

「じゃあ、ダメージを与えてもすぐに起き上がるってこと!?」

 

「いや、倒せないわけではない。おい、お前の出番だぞ」

 

「はいはい、分かっているっすよ。お金を払ってくれた分、きっちり働かせてもらいますよ」

 

デュリオ・ジェズアルドが動き出す。ただ、腕を横に振るった動作で―――甲冑たちの周りに

冷気が帯び、次第に全身が氷に包まれて完全に氷によって動きを封じられた。

 

「こんな感じで動きを封じればどうってこともない」

 

「な、なるほど・・・・・」

 

「イッセーだってそうしたはずだ」

 

あいつの名を挙げれば、納得した顔で頷いた。氷漬けの甲冑たちを通り越して通路を出る。

私たちが出た空間に長い階段が存在していた。その階段に登って上がり切れば、

大きな扉が私たちを出迎えてくれた。

全員が真剣な面持ちとなり、扉を開け放った。扉の向こう側は・・・・・。

二人の人間がひれ伏していた。

 

「生き残っていた奴がいたのか」

 

「でも、倒れているわ」

 

何人かが倒れている二人に駆け寄る。私たちも部屋の中に入った。

 

ガゴンッ!

 

『っ!』

 

刹那。開けた扉が勝手に閉まった。・・・・・罠だったか。

辺りを見渡して警戒をしていると、真上から眩い光が生じた。

 

「なっ・・・・・!」

 

誰かが驚愕の声を漏らした。その理由はすぐに分かった。真上から発行している光によって、

足元の影が大きくなり―――影から私にそっくりな影が生じたからだ。

 

「今度のダンジョンのボスは自分だって言いたいのかよ・・・・・!」

 

「自分と戦うことになるとは・・・・・」

 

「おもしれぇ、自分に勝って強くなろうじゃんか。燃えてきたぜ!」

 

自分に勝ってダンジョンを攻略・・・・・中々シビアな試練だ。

こんな時、イッセーはどう戦うのだろうか?

 

―――一誠side―――

 

海の上を飛んでしばらく、アクエリアスが教えてくれた方向に飛んでいると、

海上に浮かぶ城に辿り着いた。

 

「んじゃ、私は帰らせてもらうぜ」

 

「ああ、ありがとうな」

 

「ふん、じゃあな」

 

アクエリアスは煙と共に彼女が住んでいると言う精霊界に戻ったら、

翼を羽ばたかせて城に向かう。

 

バチンッ!

 

「っ・・・・・」

 

でも、城に入ることは叶わなかった。結界のようなもので阻まれる。

 

「・・・・・だったら、こうだな」

 

幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』を装着した拳を前に突き出して突貫すれば、

ガラスが割れたような高い音と共に侵入することができた。

城の玄関、扉の前に降り立って扉の表面に穴を広げて城の中へ入る。

赤いカーペットが二階に上がる階段にまで敷かれていた。天井には大きなシャンデリア。

至ってどこにでもありそうな城の中だった。皆の気配を探知すれば・・・・・下?

 

「地下があるのか」

 

地下に繋がる階段を探すのは面倒だとばかり、消滅の力で足元を削って下に進んでいく。

 

「到着」

 

しばらく下に進んでいたら、地下通路に到着した。

 

「って、なんだこりゃ?」

 

氷漬けの甲冑が存在していた。・・・・・まさか、あいつらか?そう思って通路を駆けだす。

通路から出て前方に階段が見えて一気に跳躍して階段を上り切る。

俺の視界に扉が映り込んで扉に手を掛けた。

―――扉の向こうには、はぐれた皆が満身創痍の姿でいた中にはひれ伏している奴もいる。

唯一、ルクシャナとナヴィ、ティファニアは無傷で負傷している皆を介抱していた。

 

「お前ら!」

 

「っ!?イッセー!」

 

ナヴィが俺に気付く。皆のもとへ駆け寄って彼女に訊いた。

 

「一体、ここで何があった?」

 

「それが、黒い影にやられちゃったの」

 

黒い影?いまティファニアが介抱しているヴァンの胸元に手を触れると、

心臓が動いているのが分かった。まだ、生きているということだ。

一先ず、安堵で胸を撫で下ろした―――その時だった。真上から眩い発行が生じた。

その光にティファニアが焦った表情で言う。

 

「気を付けて!この光を浴びたら自分自身の影と戦うことになるの!」

 

「自分自身の影?」

 

そう言われ、反射的に自分の影を見詰めた。

―――すると、光によって大きくなった影から俺そっくりな奴が浮かび上がった。

 

『・・・・・』

 

「・・・・・」

 

自分と戦うってことか。こんな経験はもう二度と味わうことがないかもしれない。

 

「いくぞ?俺」

 

ダッ!と影に飛び込めば、同じ速度で影も俺に飛び込んできた。

拳を突き出せば同じように拳を突き出してきて互いの拳がぶつかり合う。

その刹那に右足を振りあげれば、影も右足を振り上げて互いの足と足がぶつかり合う。

こいつ・・・・・俺の動きを読み切っている・・・・・?

 

『・・・・・』

 

いや―――、こいつは・・・・・・!

 

ドゴンッ!

 

「ぐっ!?」

 

俺の次の一手も二手も先の攻撃をしてくる・・・・・!

だからヴァンほどの実力者がひれ伏していたのか!

しばらく俺と影の攻防が続いた。だが―――、一方的に俺の二倍強い影と戦うのも結構しんどい!

だけど、俺が皆を守らないといけないんだ!俺が勝って、皆を―――!

 

「・・・・・」

 

不意に脳裏で甦ったあの時の光景。皆を守ろうと最大の敵、

サマエルと父さんと母さんに突貫したあの時の光景を―――。それで俺は皆を守って死んだ。

 

ドンッ!

 

「―――っ!?」

 

また、また俺は・・・・・皆を残して死んでしまうのか・・・・・・?

また俺は皆を悲しませてしまうのか・・・・・?

 

「・・・・・もう、そんなことはしたくもないしするつもりもない・・・・・」

 

右手に気、左手に魔力。感卦法を発動させて身体能力を上昇させる。

 

「俺が・・・・・皆を守るんだ!」

 

ドンッ!と足元の床を抉った同時に影に飛び込んだ。

この状態は封通の状態の俺より強くなる。だから―――。

初めて影の懐に拳を突き刺せることもできる。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

虚空に消えて、何度も瞬時で影を殴り、蹴り飛ばしていく。

 

「おい、ナツ。何時までへばっているんだよ」

 

ゴウッ!と炎の魔力を手の平から燃えだした。

 

「真龍と龍神の子供の俺の炎の味。しっかり味わって俺と一緒に戦おうぜ」

 

炎の塊を寝転がっているナツ・ドラグニルに放った。

その瞬間、あいつを中心に火の柱が立ち昇る。

 

「―――ああ、悪いなイッセー」

 

火柱の中でナツ・ドラグニルが立ち上がり―――俺の炎を吸収し始めた。

 

「お前のおかげで力が湧いたぜ」

 

あいつの全身からあふれ出る炎。吸収しきれなかった力が外に放出しているのだろうか。

 

カッ!

 

また真上から光が発光した。ナツ・ドラグニルの影から人の形をした影が出てきた。

 

「フェアリーテイルの紋章を刻んでいるからには二度も負けることは許さない」

 

俺の隣に寄りながら両手に炎を纏う。俺も炎と雷を拳に纏う。

 

「俺もそうだ。二度と負けるつもりはない」

 

「んじゃ、最大の一撃を俺たちの影にぶつけてやろうぜ」

 

「ああ、いいぜ。―――俺も燃えてきたところだからな」

 

拳だけじゃなく、全身にも炎を纏う。

 

「行くぜ、ナツ」

 

「おうよ、イッセー」

 

ナツ・ドラグニルの奥義の構えは覚えている。

だから、俺もナツ・ドラグニルの奥義の構えをする。

 

「真・滅竜奥義」

 

「真・滅龍奥義」

 

俺たちは同時に属性魔法を纏った両腕を螺旋状に振るった!

体に纏っていた炎も全て両腕に込めてだ!

 

「紅蓮爆竜炎刃っ!」

 

「九焔爆炎雷刃っ!」

 

俺の雷を纏った炎は途中で分身したかのように九つに増えた雷と爆炎の螺旋状。

ナツドラグニルの炎は螺旋状の炎が竜の形に具現化して咆哮を上げながら影に襲いかかった。

 

『『・・・・・』』

 

大して二つの影は―――なんと、俺たちと同じ技を放ってきた!

四つの炎は直撃して床が激しく抉れていく。

 

「やろう!どこまでも人の真似をしやがって!」

 

「しかも、同じ威力までだから面倒この上ない!」

 

このままじゃジリ貧だ。もっと魔力を籠める必要があるな、とそう思ったその時だった。

 

ナウシド・イサ・エイワーズ・・・・・

 

後ろから声が聞こえた。緩かな、歌うような調べ。

 

ハガラズ・ユル・ベオグ・・・・・・

 

・・・・・今まで聞いたことのない呪文だと分かった。

 

ニード・イス・アルジーズ・・・・・

 

尻目で見れば、ティファニアは小さな杖を握っていた。ペンシルのように小さく、細い杖だ。

 

ベルカナ・マン・ラグー・・・・・

 

まるで指揮者がタクトを振り下ろすような自信に満ちた態度で、

ティファニアは杖を下ろす。陽炎のように、空気がそよいだ。

俺たちの影を包む空気が歪む。すると、一瞬だけ影の攻撃が止んだ―――。

 

「ナツ!今だ!」

 

「分かったぜ!」

 

互いに炎を再び纏わせ―――炎の魔力を一点に集中に収束し融合させた攻撃を放った。

 

「「真・滅竜奥義(滅龍奥義)紅蓮爆竜炎刃(九焔爆炎雷刃)っっっっっ!」」

 

二つの炎が融合し雷を纏った九匹のドラゴンと化となって二人の影に襲いかかった。

これが俺とナツ・ドラグニルの最強の合体技だ!

 

『『・・・・・』』

 

二人の影は一瞬だけ攻撃の手を止めていたが俺たちの攻撃に気付き、

魔方陣を何重にも展開した。―――でもな、影のお前らにないものがある。それは―――。

 

「「俺たちの絆の力を舐めるんじゃねぇええええええええええええええええっ!!!!!」」

 

長いようで短い付き合い。でも、それでも俺たちはしっかりと絆が結ばれている。

その絆の力をお前ら影には無い!俺たちの炎の合体技は、

張り巡らせた魔方陣を紙のように破いて二人の影自身を飲みこんだ。

そのまま九匹の雷を纏った炎のドラゴンは外まで壁を貫いた。

 

「ついでに、真上にもだ!」

 

「おう!」

 

同時に天井にも向かって炎の魔力を放った。

天井にぶつかって炎はそのまま天井を突き破って―――この建物の中に光を照らしたのだった。

 

「「・・・・・」」

 

しばらく真上から照らされる太陽の光を浴びていた俺とナツドラグニルは、

徐に手を振り上げた。

 

パンッ!

 

「俺とお前の合体技、最高だったぞ」

 

「イッセーと戦えば、どんな敵だって勝てる気がするぜ!」

 

一拍して笑う俺たち。これで、俺たちの勝ちだ。皆も応急処置を施されてこっちに向かってくる。

後は変えるだけだ。そう思った矢先、

 

ドスッ!

 

「―――――」

 

俺の腹に赤い突起物が生えた。・・・・・なんかデジャブなんだけど?

背後に尻目で見れば・・・・・。

 

「まさか・・・・・死んでいたと思っていた奴が俺たちの目の前に現れるとはな」

 

「だが、今度こそ俺たちの手で葬ってやろう」

 

「・・・・・お前ら・・・・・!」

 

目を丸くした。どうしてこのダンジョンの中にいるのか疑問に尽きなかった。

―――シャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウスの二人だ。

 

「イッセーッ!」

 

皆が傷付いた俺を守るように囲んでくれる中、俺は聞いた。

 

「どうして、お前らがここにいる?まさかと思うが・・・・・悪魔が聖地を欲しているのか?」

 

「ふん、聖地なぞ興味ない。俺たちはリゼヴィムにこのアルビオンと始祖の秘宝、

そして虚無の担い手を手に入れろと言われてここにいるだけだ」

 

「リゼヴィム・・・・・!」

 

リースが激しく反応した。彼女が復讐したい人物の関係者が目の前にいたからだ。

 

「しかし、不覚だった。人間を何度も大勢この塔の中に送りこんだのが、

誰一人として始祖の秘宝を持って来ないことにしょうがなく我ら自身で手に入れようとしたが、

こんなあり様だ」

 

「だが、結果的にお前らの働きのおかげで敵を倒してくれた。

―――残るは秘宝を手に入れるのみだ」

 

・・・・・でも、この二人はその秘宝をしらないはずだ。

どうやって手に入れるのかも。

俺の体を貫いた突飛物はどうやら魔力で出来たものらしく、

消失すれば腹の穴から血が大量に出てくる。

 

「イッセー!いま傷を癒すわ!」

 

シャルロットとジョゼットが魔法を掛けてくれる。すると、傷口が徐々にだが治っていく。

 

「落ちたものだな兵藤一誠。下等な人間の魔法に頼るほど弱っているのか?

サマエルとやらの呪いと毒で真だと聞いたのだがな」

 

「生憎、俺はしぶといんでね。死ぬのは当分先のことだ。それに―――」

 

カッ!と魔方陣を展開した。

 

「俺は前よりも強くなっている。―――縛れ」

 

魔方陣から幾重の鎖が飛び出した。

その鎖はシャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウスに向かう。

 

「舐めるな!」

 

あの二人は防御式魔方陣を展開する。一度その魔方陣で弾かれた鎖は魔方陣の中に戻った。

代わりに―――。

 

『直接、私の手で縛ったほうが早いな』

 

ドラゴンが出てきた。見たことのないドラゴンにあいつらは目を丸くする。

 

「なに・・・・・!?なんだ、このドラゴンは!

兵藤一誠の内にいるドラゴンの中にあのようなドラゴンは存在していなかったはずだ!」

 

「兵藤一誠・・・・・貴様・・・・・どこまでドラゴンを取り込めるつもりだ・・・・・・!」

 

取り込めるって人聞きの悪いことを言う・・・・・。

 

『奴らをお前の内で縛らせてもらうぞ』

 

「構わない」

 

(ロック)

 

感情が籠っていない呟き。シャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウスの足元に魔方陣が

出現して、そこから大量の鎖が飛び出て、厳重に縛られた。

 

「く、くそ!放せ!」

 

「おのれ、おのれ兵藤一誠!貴様を必ず我らの手で―――!」

 

「その前に、アスモデウスとベルゼブブの説教が待っているからな。

俺を倒したいのならその後で」

 

最後の別れとばかり、手を振った。二人は鎖と共に魔方陣の中に引きずり込まれ

この場から姿を消した。あの二人を縛ったドラゴンも魔方陣の中に消えていった。

 

「私のミスだ。まさか・・・・・あの二人が気絶していた振りをしていたとは」

 

「気にするなヴァン。こうしてお前らと再会できたんだ。あっ、ルーシィ。

ありがとうな。アクエリアスのおかげで助かったよ」

 

「ううん、当然のことをしたまでよ。だって、私たちは仲間でしょう?」

 

「・・・・・そうだったな。お前らも無事で良かった」

 

皆の顔を見渡して安堵する。シャルロットとジョゼットの魔法で傷も大体癒えた。

 

「しかし、ティファニア。さっきの呪文は何だ?」

 

「人の記憶を奪う魔法・・・・・昔、私の夢の中で何度も聞かされた言葉なの。

最初は訳分からなかったけどね」

 

「そっか、だから俺とナツの影が俺たちと戦うことを忘れていたから攻撃の手が止まったわけか」

 

彼女の魔法のおかげで何とか勝ったようなものだ。今回の功労者はこの場にいる皆だ。

 

「さて・・・・・始祖の秘宝が保管されている扉もあの壁に出現したし、

現世に戻ったらティファニアの家でパーティでもしようか」

 

「おっ、そいつはいいな。最後のダンジョン攻略の前に盛り上がるのは悪くないぜ」

 

「そう言うことなら、早くこのダンジョンから出よう」

 

エルザ・スカーレットの言葉に俺たちは同意した。残すダンジョンは―――ロマリアダンジョンのみだ。

 

―――ロマリア―――

 

「陛下、アルビオンダンジョンが攻略されました」

 

「そうですか。では、始祖のオルゴールも彼らの手中にあるというわけですね」

 

「まず間違いないかと」

 

「残すはこのロマリアにあるダンジョン・・・・・。必ず彼らはやってきます。

―――極東の地にいる虚無の担い手を迎えに行った彼はどうです?」

 

「現在、このロマリア連合皇国に向かっております。家族も一緒だと言うのですが・・・・・」

 

「構いません。彼女さえここに連れて来てくれれば問題ありません」

 

「―――失礼します。トリステイン王国、アンリエッタ女王及びガリア王国、

シャルル王とジョゼフ大臣がご到着なさりました」

 

「わかりました。ここへご案内を―――聖地奪還の会談のために」

 

「はっ!」

 

―――ヴァリエール家―――

 

「ロマリアがワシの娘だけ呼び出すとはどういった理由かね?」

 

「それは、教皇陛下がご説明します」

 

「・・・・・敢えて、キミの口から語ろうとしてくれないのだな?」

 

「私は一介の神官ですので。教皇陛下のお考えは分かりませんよ」

 

「・・・・・」

 

「ちょっとカリン!何時までもメソメソしないでよ。死んでしまった人間は泣いても

甦らないわよ。寧ろさっさと忘れて元気になりなさい。こっちまで気が滅入るじゃないの」

 

「・・・・・忘れろ・・・・・ですって・・・・・?

本気で言っているの・・・・・ルイズ姉・・・・・」

 

「そうよ、それに久し振りにハルケギニアに帰れるじゃない。あの男なんて忘れて―――」

 

「ルイズ!お前は黙っていなさい!カリン、お前もそうだ。ルイズの言葉に一理ある。

何時までも泣いていたらあの子がお前を心配して成仏してくれないではないか」

 

「・・・・・」

 

「ワシもあの子の死に深く悲しんでいる。だがなカリン。今のお前の姿を見たら

あの子はどう思うか想像してみなさい。

自分が知っているカリンはもっと威風堂々としていると言うと思わないか?」

 

「・・・・・私はイッセーと会えればどんな姿でも構わないです・・・・・」

 

「カリン・・・・・」

 

「ただ、それだけが私の願い・・・・・会えるとしたらの話ですがね・・・・・・」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode14

 

 

アルビオンダンジョンを攻略したその日の夜。

俺はティファニアが住んでいた家に戻った。すでにパーティが始まっている

 

「ただいま」

 

「あっ、帰ってきたわね。一体どこに行っていたのよ?」

 

ルクシャナが出迎えながら問い詰めてきた。

 

「王さまがいる城にだ。宝の持ち腐れを貰って来たんだよ」

 

「・・・・・宝の持ち腐れ?」

 

怪訝に呟く彼女から視線を外して、ナヴィに向ける。

 

「ナヴィ、こいつか?風のルビーとやらは」

 

ポケットからとある指輪を取り出す。それを見たナヴィは満足気に頷いた。

 

「ええ、間違いなくそれよ。短時間でよく持ってきたわね」

 

「気絶させて奪ったからな」

 

木の椅子に座りこんでテーブルに指輪とダンジョンで手に入れた始祖のオルゴールを置く。

 

「こいつが始祖の秘宝ねぇ・・・・・一見、ただの指輪と壊れたオルゴールにしか

見えないんだけどな」

 

「各国の代々王家に伝わる指輪と王家の秘宝。

その二つが虚無の担い手の手の中にないとだめと教皇が言っていたぞ」

 

「じゃあ、アルビオンで生まれた奴が虚無の担い手ってことになるんだろう?

・・・・・だとすると、ティファニアか?」

 

俺の目の前に座っていたエルザ・スカーレットの言葉を聞きながら、

少し離れたところで料理を食べているティファニアに視界を入れる。

 

「彼女がアルビオン王家の血筋であれば可能性はなくないと思う」

 

「だと、思いたいな」

 

ドリンクが入ったグラスをエルザ・スカーレットに向ける。

 

「ん?」

 

「これで最後の晩餐となるな。明日はロマリアダンジョン攻略してその日にシャルロットと

ジョゼット、キュルケを自分の国に連れて行って、お前たちフェアリーテイルと別れだ」

 

「・・・・・」

 

徐に俺のグラスに自分のグラスを軽くぶつけた。

 

「そうだな。お前たちとの冒険は明日でお終いか。

ふっ、我ながら何時までも続く楽しい時間だとつい思ってしまった」

 

ああ、俺もそう思ったよ。不覚にも何時までもお前らと

長い冒険をしてみたいと思ってしまった。

 

「イッセー。私たちと別れても、私たちと冒険したこの時だけを忘れてくれるなよ?」

 

「それはこっちのセリフだエルザ。俺たちのことも忘れるなよ?」

 

「では・・・・・互いに忘れないようにするためにも」

 

エルザ・スカーレットが立ち上がって、魔方陣から剣を取り出した。

 

「私と一勝負をしようじゃないか。その大剣は飾りではないのだろう?」

 

「・・・・・」

 

そーくるか。徐に立ち上がって背中に背負っている大剣の柄を握り、彼女に突き付ける。

 

「良いだろう。今日は寝かせないぞ?」

 

「はははっ、面白いことを言うなイッセーは。―――それはこちらのセリフだ」

 

深く笑みを浮かべる彼女は剣の切っ先をティファニアの家から離れた森に突き付けた。

 

「場所はあそこでいいな?」

 

「自然破壊するつもりかよ!?」

 

「違う、野原で勝負しようと言っている」

 

それなら良いけど・・・・・。

 

「おっ、なんだ。イッセーと勝負すんなら俺も交ぜろ!」

 

と、いきなりナツ・ドラグニルが両手に炎を纏って攻撃を仕掛けてきた。

 

「「ここで攻撃してくるな!」」

 

ドゴンッ!

 

「ああああああああああああああああああああ!?」

 

エルザ・スカーレットと一緒にナツ・ドラグニルを殴り飛ばした。

あいつは真っ直ぐ野原の方向へ吹っ飛んで行く。

 

「ナヴィ、あっちの方角にいるからな」

 

「はーい、行ってらっしゃい。あんまりはしゃがないでよ?」

 

「善処する。行こうか、エルザ」

 

「ああ、全力でお前を倒してやろう」

 

不敵の笑みを浮かべ、森の向こうに駆けだしていった。俺も続いて野原に向かう。

―――その後、俺とエルザ・スカーレット、ナツ・ドラグニルは

数時間にも及ぶ三つ巴勝負をした結果、俺が勝った。

 

―――ロマリア―――

 

翌日、ステルスの能力で俺は透明化となって皆を背中に乗せて飛行を続けること数時間、

朝早くから飛んでいるためロマリアには昼頃に到着した。

港を見下ろせば、かなりの人数の兵士たちが警備していた。

蜘蛛の子のように散らばって逃げていたくせにな。

 

「そう言えばデュリオ。お前、強いのにどうして倒れていたんだよ?」

 

アルビオンダンジョンで何故か倒れていた。

二番目に強いはずの神器(セイクリッド・ギア)の所有者が負けるとはとても考えにくい。

 

「俺の神器(セイクリッド・ギア)は確かに強いんスけどね。

でも、ド派手な攻撃しかできなくてあんな狭い場所でやったら周りまで被害が出てしまうんすよ。

んで、俺の影が同じ能力を使ってきた始末で」

 

「あー、そう言うことか。お前、何気に苦労しているところもあるんだな」

 

「こんなことヤハウェさまに知られたら、絶対にしばらく下界の料理を食べ歩くことを

許してもらえなさそうっす。だから、秘密にしてくださいね?」

 

いや、俺に言うんじゃなくてナヴィに言え。ほら、また秘密を握ったと嬉しそうな

顔をしているぞ。ロマリアにある塔の前に降り立ち、皆を下ろさせてから人化になる。

 

「それではイッセー、私たちは教皇陛下のところへ行ってくる」

 

「ああ、気を付けてな。一時間後、ここで集合だ」

 

「分かった。皆、行くぞ」

 

彼女たちフェアリーテイル組と別れ、俺たちはロマリアの街を歩き回ることにした。

 

「やった、食べ歩きができそうっす」

 

こいつはこの状況に嬉しそうだけどな。

 

―――フォルサテ大聖堂―――

 

―――エルザside―――

 

数日ぶりの教皇陛下の謁見。私たちを依頼した人物がいる大聖堂。

その中に入る許可を得ると金髪にオッドアイの長身な少年の案内によって大聖堂の中を歩く。

 

「こちらに教皇陛下たちがお待ちしております」

 

「・・・・・たちだと?」

 

あの教皇の他にも誰かいるのか?少年に怪訝な視線を送っても扉を開けて中に入ってしまった。

仕方なく、私たちも中に入った。そして、部屋の中を見渡せば―――ゲルマニアとアルビオンを

除いて、トリステイン王国とガリア王国の女王と王に大臣がいた。勿論、教皇陛下もいる。

 

「あなた方は・・・・・」

 

「キミたちは・・・・・そうか、キミたちも呼ばれたのか」

 

「呼ばれた?いえ、現状の報告とお伝えにここへ参った所存ですが・・・・・。

あなた方がどういったご用でここにおられるのです?」

 

私はそう問うた。やすやすと自分の国から王が離れるとは、

とても重大な話しをするためにいる集結しているのでは?と思っているからだ。

 

「その前に労いを言わせてくれ、アルビオンダンジョンの攻略を成功したようだね。

おめでとう。娘たちは元気にしているかな?」

 

「はい、息災です。彼女たちのおかげで助かったこともあります」

 

「そうか。二人も行かせた甲斐があったようだね。今はどうしているかな?」

 

「ロマリアの街を歩き回っているかと」

 

「ふふっ、そうか。どうやら頑張っているようだね」

 

・・・・・何を頑張っているのだろうか?少し気になる発言だが、追及するのは失礼だろう。

 

ガチャ・・・・・。

 

扉が開いた。教皇陛下もいるからこれで全員では?と、思ったが・・・・・。

また新たな人物たちが入ってきた。

金髪に片目にモノクルを嵌めた中年男性と桃色の髪の二人の少女。

私はその二人を見て目を丸くした。

それもそのはずだ。彼女たちは―――イッセーの友人たちだからだ。

でも、どうしてここにいる?極東の地に住んでいると聞いた。

これも教皇が呼んだからか・・・・・?

 

「役者が揃いましたね。では、皆さん席にお座りください」

 

教皇が促す。何故、私たちまで同席しないといけないのか理解が追いつかないまま、

席に座ってしまった。

 

「知っての通り、ハルケギニアに存在する五つの塔は残り一つを残して消滅しました。

彼女たちフェアリーテイルの働きによって始祖の秘宝を手元に置けたのも彼女たちのおかげです。

ガリア王国の秘宝、始祖の香炉。トリステイン王国の秘宝、始祖の祈祷書。

そして、アルビオン王国の秘宝、始祖のオルゴールを」

 

「ええ、アルビオンのことはまだお聞きしていませんですが、

アルビオン以外の塔の攻略のことは私の耳にも届いております」

 

「はい、これで始祖の指輪が三つ、始祖の秘宝が三つ揃っていると言うことです。

いえ、厳密に言えば二つ(・・)でしょうか」

 

「二つ?どういうことですか?」

 

トリステイン女王の疑問に教皇は私たちに視線を向けてくる。

 

「彼女たちフェアリーテイルが保有しているからです。

有るべき虚無の担い手の手に渡していないからです」

 

彼以外の者たちが目を丸くしてこちらに視線を向けてきた。だが、正確には違う。

 

「恐れながら発言を申し上げます。私たちがアルビオンに辿り着いた頃には

アルビオン王国国王であるジェームズ一世を含む王族は、レコン・キスタという者たちの

襲撃によってお亡くなりなっておりました」

 

私の発言に教皇陛下以外の者たちは絶句した。私は言い続ける。

 

「始祖ブリミルの子供の子孫と弟子がそれぞれ国を興したとお聞きしました。

ならば、始祖ブリミルの子供の子孫ではないレコン・キスタという輩たちに始祖の秘宝と指輪を

渡すに相応しくないと判断し、私たちの手元に置いているのです。

―――テロリストに始祖の秘宝と指輪を預けてもよろしかったのでしょうか?教皇陛下」

 

「・・・・・」

 

「もしそうなら、今すぐ指輪と秘宝を渡しに行きます。東方の言葉で言えば

善は急げと言いますしね。外で待たせている私たちの協力者のもとへ帰らせてもらいます」

 

「では、イッセーくんによろしく言っておくれ。娘たちをよろしく頼むと」

 

「「「っ!?」」」

 

「ええ、分かりました」

 

イッセーの友人、家族が目を丸くしたな。どうやら、読みがっていることを知らないようだ。

席から立ち上がり、お辞儀をしてこの場から退出しようと足を動かした矢先。

 

「いえ、それには及びません」

 

彼が、教皇が私を制した。

 

「申し訳ございません。少し私の早とちりでした。気分を害してしまったのならば謝罪をします」

 

「・・・・・」

 

このままイッセーのもとへ戻ろうとしたのだがな。席に座り直し、教皇陛下の言葉を聞く。

 

「話を続けましょう。始祖の秘宝と指輪は共に三つここに集結しております。

残りは四人の虚無の担い手と四人の虚無の使い魔のみです」

 

一人はジョゼットだと知っている。残りの三人は一体誰だ?虚無の使い魔も気になるところだ。

 

「ガイア王国の虚無の担い手はジョゼット、トリステイン王国の虚無の担い手はルイズ、

そしてここロマリア連合皇国の虚無の担い手はこの私です」

 

『・・・・・』

 

な・・・・・んだと・・・・・・?

 

「ジョゼットが虚無の担い手・・・・・?」

 

「ワシの娘が虚無の担い手だと・・・・・?」

 

「教皇陛下が虚無の担い手・・・・・」

 

ジョゼットはともかく、教皇自身が虚無の担い手だとは思いもしなかった。

 

「そして、虚無の使い魔は私の横にいるジュリオ・チェザーレ。

ルイズの後にいる少年、平賀才人です」

 

この場に二人もいたのか。

 

「お、俺が虚無の使い魔?」

 

「そうです。その左手の甲に刻まれた文字はあらゆる武器や平気を使いこなすガンダールヴ。

始祖ブリミルの使い魔の一人の証でもあるのです。

私の使い魔はあらゆる生物を乗りこなすヴィンダールヴ。あなたと対極の位置ですね」

 

「よろしく兄弟」

 

ジュリオ・チェザーレという少年がにこやかに言うが平賀才人という少年は当惑するばかり。

 

「秘宝が三つ、指輪が三つ、虚無の担い手が三人、虚無の使い魔は二人。

四の四が全て揃うのは時間の問題といえるでしょう」

 

「ですが。どうして六千年も攻略できなかった塔を攻略し、

始祖の秘宝を集めようとしているのですか?」

 

アンリエッタ女王が教皇に問うた。―――私たちはすでに聞かされているからな。

 

「その理由も含め、本日こうしてお集まりいただいたのは他でもない。

私は、あなた方の協力を仰ぎたいのです」

 

「協力とは?」

 

ガリア王国現王のシャルルが尋ねた。

 

「はい、それは―――」

 

教皇から告げられる今回のダンジョン攻略の真相。要略すれば聖地奪還のためだと言う。

 

「聖地の奪還・・・・・」

 

「始祖ブリミルの降臨したと言う地を取り戻すために・・・・・」

 

「・・・・・」

 

私たちフェアリーテイルと教皇以外の者たちは驚きの色を隠せないでいる。

 

「・・・・・どうして、聖地を回復せねばいけないのですか?」

 

ルーシィが教皇に問うた。教皇が口を開く。

 

「それが、我々の『心の拠り所』だからです。何故戦いが起こるのか?

我々は万物の霊長でありながら、どうして愚かにも同族で戦いを繰り広げるのか?

簡単に言えば、『心の拠り所』を失った状態であるからです」

 

心の拠り所か・・・・・。

 

「我々は聖地を失ってより幾数年、自身を喪失した状態であったのです。異人たちに、

『心の拠り所』を占領されている・・・・・。

その状態が、民族にとって健康なはずはありません。自身を失った心は、

安易な代替品を求めます。くだらない見栄や、多少の土地の取り合いで、

我々はどれだけ長さなくてもいい血を流してきたことでしょう」

 

・・・・・。

 

「聖地を取り返す。伝説の力によって。そのときこそ、我々は真の自信に目覚めることでしょう。

そして・・・・・、我々は栄光の時代を築くことでしょう。

ハルケギニアはその時初めて統一されることになりましょう。そこにはもう、争いはありません」

 

「・・・・・」

 

統一すれば争いが無くなる・・・・・理想的なことだが、完全になくなるとはない。

これ以上彼の話しを聞くまでもないと判断し、私は静かに立ち上がる。

 

「皆、明日に備えて宿を探そう」

 

「エルザ?」

 

「この会談は異国から来た異人である私たちが同席していいものではないようだ」

 

視線で立ち上がるように促す。すると、教皇が首を横に振った。

 

「いえ、あなた方も同席してほしい。聖地の奪還のためにあなた方の力も必要です。

無論、あなた方の協力者もです」

 

「ハルケギニアの民ではない私たちはここにやってきたのは

『ダンジョン攻略』の依頼を受けているからです。

さらに何か依頼してほしいのであればフィオーレ王国に存在する『フェアリーテイル』で正式に

依頼してください。それと明日、ロマリアダンジョンを攻略します。それで依頼は達成です。

よろしいですね」

 

教皇に尋ねれば瞑目して小さく溜息を吐いた。

 

「では、ロマリアダンジョンを攻略次第、始祖オルゴールと風のルビーをお渡しください」

 

「―――いえ、それはできません」

 

「・・・・・どういうことです?」

 

この方は忘れているのだろうか?

 

「各国に存在するダンジョンに眠る秘宝はその国の王家に渡す依頼も含まれております。

ので、秘宝と指輪はアルビオン王家の者に渡すのが道理です。

あなたはロマリアの教皇でアルビオンの王族の者ではございません」

 

「ですが・・・・・アルビオン王国はレコン・キスタによって滅ぼされたと

仰りませんでしたか?」

 

「ええ、言いました。ですが、気になる少女がいるのです。もしかしたらその少女が

王家の生き残りだとすれば・・・・・その少女の出生を問い、彼女がアルビオン王家の王族で

有ることが判明したら始祖のオルゴールと風のルビーを渡すに相応しいでしょう。

それまでこちらで預かっております」

 

歩を進め扉に向かう。

 

「依頼を反故して私たちから指輪と秘宝を奪うのであればどうぞご自由に。私たちは幾数年間、

攻略できなかったダンジョンを攻略してきた。―――実力はすでに歴然だと思いますが」

 

それだけ言い残し、私たちは部屋から出て廊下を歩き大聖堂から出た。

 

「エルザ、あんなこと言っていいのかよ?」

 

「私たちは非道なギルドではない。それにイッセーも望んでいないはずだ」

 

「そりゃそうだろうけど・・・・・」

 

「イッセーのところに戻る。彼には色々と伝えないといけないことができた。

まずは、そのことを告げよう」

 

一時間後と言ったが・・・・・随分と早く出てしまった。さて、どこにいることやら―――

 

「待ってくれ!」

 

思案していると、私たちの背後から桃色の髪の少女が声を掛けてきた。

 

「どうした?」

 

「・・・・・」

 

彼女は私に近づき、濡れた瞳で口を開いた。

 

「お前が言う『イッセー』とは・・・・・もしかして、兵藤一誠という男か・・・・・?」

 

「・・・・・」

 

「答えてくれ!」

 

私は彼女の問いに―――首を横に振った。

 

「違う」

 

「え・・・・・」

 

「彼の名前はイッセー・D・スカーレットと言う。お前が言う兵藤一誠ではない」

 

そう言うと彼女はガクリと跪いた。

 

「そう・・・・・か・・・・・」

 

そして、嗚咽を漏らし始めた。この少女はイッセーの友達。

彼女の気持ちを踏み躙ったと思ったら、何だか罪悪感を感じ始める。

というより、なんで私はこう言ってしまったのだろうか?

 

「・・・・・なあ、会わせてやったらどうだよ?」

 

「うん・・・・・なんだか可哀想よ」

 

グレイとルーシィが声を掛けてくる。・・・・・そうだな。あいつも会いたがっているだろうし。

そうしよう。

 

「おい、お前。私と来い」

 

「・・・・・なんでよ」

 

「問答無用だ」

 

と、彼女の腕を掴んで歩く。イッセーが塔の傍にいてくれたらありがたいが・・・・・いるか?

そう切に願い、塔の方へ足を運ぶ。街中を歩く人々を掻き分けるように前へ前へと進んでいく。

―――ふと、見覚えのある真紅の後髪が目に入った。おお、いたぞ。

 

「イッセーッ!」

 

彼の名を叫んだ。大勢の人が私の叫び声に反応してこっちに視線を向けるがこの際気にしない。

真紅の髪の人物が私がいる方へ振り向いてくれた。来いと手を招くように振るうと

私たちがいる方へ来てくれる。彼と一緒に町中を歩き回っていた仲間たちも一緒だ。

 

「エルザ。もう謁見を終えたのか?」

 

「ああ、そしてお前の友達も出会ったぞ」

 

「・・・・・はっ?」

 

珍しく驚いた表情をするではないか。視線を私の左に向けた途端に、目を大きく開いた。

そして、桃色の髪の少女が彼を、イッセーを凝視してゆっくりと口を開いた。

 

「イッセー・・・・・なのか・・・・・?」

 

「・・・・・」

 

驚いた表情が一変して、バツ悪そうに、申し訳なさそうな顔をしたイッセーは―――彼女を

抱きしめた。

 

「―――――っ!?」

 

言葉は不要とばかり互いの気持ちは通じあったのか、

桃色の髪の少女がボロボロと涙を流し始めた。

 

―――一誠side―――

 

「うわああああああああああああああああんっ!イッセーッ!イッセーッ!イッセーッ!」

 

宿を取って部屋の中に入った途端に、彼女・・・・・カリンが泣き始めた。

 

「カリン・・・・・ごめんな・・・・・」

 

「本当よ!どうして私たちのところに姿を見せてくれなかったのよ!

私たちはイッセーが死んで凄く悲しんだからね!」

 

ポカポカと俺の胸を叩く。でも、大して痛くなかった。

 

「今まで一体何をしていたのか、教えてくれるまで絶対に放さないから!」

 

そう言って俺の太ももに跨って対面の形で抱きついてきた。

 

『・・・・・』

 

俺たちの様子を見守っていた皆が何とも言えない雰囲気包まれていることに気付いた。

 

「・・・・・俺たち、邪魔か?」

 

「いや、気にしないで居てくれ。お前たちからも伝えて欲しいこともあるからさ」

 

カリンの背中を宥めるように撫でる。

 

「まさか・・・・・あのカリンがあんなに泣くなんてね・・・・・」

 

「・・・・・意外」

 

「東方の地でイッセーとあんなに仲が良いなんて知らなかったわ」

 

ハルケギニア組のシャルロットとジョゼット、キュルケが呆然としていた。

 

「カリン、ちゃんと話すから少し離れてくれ」

 

「いや!」

 

いやって・・・・・・。どうしたもんだと困惑しているとキュルケが口を開きだした。

 

「ねぇ、イッセーとその子の関係は何なの?」

 

「ん?ああ、友達以上恋人未満・・・・・かな?戦友とも言え―――」

 

「―――私はお前が好きだ!」

 

カ、カリンさん!?信じられないことを聞いた俺はカリンに目を向けた。

 

「お前が死んでようやく気付いたんだ。私はお前のことが好きなんだと。

でも、お前が死んで私は物凄くショックを受けた。でも、お前は生きていた。

―――私はそれがとても嬉しいのよ・・・・・!」

 

「カリン・・・・・」

 

「今度は私があなたを守ってみせる。あなたが命を懸けて私たちを守ったように、

今度は私があなたを守るわ」

 

揺るがない決意と濡れた瞳から感じ取れる。カリンは本気だと実感した。

 

「私はあなたの騎士となる・・・・・これは絶対の契約」

 

俺が何か言おうとする前に、彼女の唇に塞がれた。

 

『な・・・・・っ!』

 

うん、案の定・・・・・皆が驚愕している。

 

「イッセー、私の主・・・・・大好きよ・・・・・」

 

俺の首に両腕を回してきて耳元で愛の言葉を囁く。―――が、それは終わった。

 

「ちょっと待ちなさいカリン!イッセーは私の騎士なの!」

 

ジョゼットが異議有りとばかり声を張り上げたからだ。

 

「いえ、私の使い魔なんだけど?」

 

「ルクシャナ。それを言ったらお前も俺の使い魔だからな?」

 

至って普通に挙手して言うルクシャナに思わず突っ込んでしまった。

 

「なによ、イッセーのことを知らないくせに!」

 

「関係ないわよ。これから知っていけばいいもの」

 

「イッセーの情報なら私に訊いてねぇー♪」

 

ちょっと待とうかナヴィさん!勝手に人の情報をオープンしようとしない!

 

「ははっ、イッセーが女に囲まれて戸惑っているぜ」

 

「と言うより、責められているようにも見えなくないけど?」

 

「でもよ。何だか嬉しそうじゃねぇ?」

 

「そうだな。久し振りに再会した友との会話は良いものだからな」

 

はいそこ、見てないで少しぐらいフォローしてくれ!

 

「・・・・・」

 

「シャルロット?」

 

背中から覆い被さるように抱きついてきたシャルロット。あの・・・・・どうしたんだ?

 

「あなたの背中、私の特等席に・・・・・する」

 

ポッと頬を赤らめた。そんな彼女に異議を言う存在は―――。

 

「我の特等席、奪わせない」

 

久々のご登場のオーフィスさんだった!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode15

 

それは突然のことだった、僕たちは兵藤家上階にあるVIPルームにて一堂に会していた。

ルーマニア―――カーミラ側の本拠地に赴いているアザゼルから直通の回線が開いている。

僕たちは魔方陣から移される立体のアザゼルからすぐに事情を聞き、そして驚いた。

 

「―――リアスさんたちが!?」

 

清楚さんの驚きにアザゼルも頷く。

 

『ああ、どうにもツェペシュ側の方で大きな動きがあったようでな。ツェペシュ、カーミラ、

両領地の境界線上が一時混乱状態になった。あちらでクーデターが起きたと見ていい。

リアスと木場兵藤誠とイッセーの奴もそれに巻き込まれた可能性が高い。

というよりも拘束されているだろう。こちらからリアスに通信ができん。

そちらも同様じゃないか?』

 

『・・・・・』

 

突然の報告に全員が息を呑んでいた。

朱乃さんが小型の魔方陣を描いてリアスさんへ通信を送るが・・・・・反応は全くなかった。

 

「クーデター・・・・・」

 

小猫ちゃんがボソリとそう呟く。・・・・・まいったね。

彼女があっちに行っている時に起こるなんて、誰も思いもしなかった出来事だよ。

ギャスパーくんは顔を強張らせているし・・・・・、

 

『カーミラ側の幹部の話では、今回のクーデターでツェペシュのトップが

入れ替わったそうだ』

 

『―――ッ!?』

 

全員がその一方に表情を激変させる。

ちょっと、トップが入れ替わったって・・・もう、事が終わったあとじゃないか。

 

「と、とんでもないことになってんじゃないですか」

 

龍牙の言葉にアザゼルも息を吐く。

 

『・・・・・現在。ツェペシュの当主、つまり、男尊派ツェペシュの大元たる王が

首都から退避したとのことだ』

 

「・・・・・ツェペシュの王が逃げるだなんて、相当なことが起きた証拠ですわね」

 

アザゼルの報告に朱乃さんも眉をひそめてそう漏らした。

ソーナさんが顎に手をやりながら言う。

 

「おそらく、聖杯に関与した件で『禍の団(カオス・ブリゲード)』の介入があったのでしょう。

―――ツェペシュは『禍の団(カオス・ブリゲード)』に裏から支配されたと見ていいと思います」

 

リゼヴィム・リヴァン・ルシファーが率いる現『禍の団(カオス・ブリゲード)』が、邪龍を連れている以上、

生命の理を司るという聖杯を持つ吸血鬼側(ツェペシュ派)と繋がっている可能性は

極めて高いと報告を受けていた。

 

つまり、『禍の団(カオス・ブリゲード)』は吸血鬼側と接触して、聖杯の力を得た。

それを用いて滅んだ邪龍(グレンデル)を復活させたのだろう―――と、

アザゼル、ソーナさんをはじめ、各陣営の方々の共通見解だった。

 

『ああ、裏で「禍の団(カオス・ブリゲード)」が手引きしたんだろうな。それについてカーミラ側も同意見だ』

 

アザゼルも面白くなさそうにそう漏らし、さらに続ける。

 

『・・・・もともと、吸血鬼の連中はツェペシュもカーミラも他の勢力との接触を避けて、

内々に独自の内政を行っていた。だからこそ、「禍の団(カオス・ブリゲード)」もそこにつけいる隙が

あったんだろう。内部に現政権を疎む連中なんざ、どの勢力にも必ず一派はいるもんだ。

聖杯の噂を聞き、そいつらを通して、裏からじわじわと侵食していったんだろう』

 

「反政府の過激派の動きに気付いても現政府側は他に助けを呼ばなかったんですね」

 

僕がそう言う。よほどの馬鹿でもない限り、過激派の怪しい動きを多少なりとも掴むだろう。

王の傍にまで食い込まれる前に他へ助けを求めればよかったのに、

ツェペシュは―――吸血鬼はそれをしなかった。アザゼルが言う。

 

『・・・・・自分たちの事を至高の存在と位置づけて、誇りとやらを重んじだ結果だろう。

死んでも他に助けを求めたくもなかった。

または聖杯の存在を意地でも他に漏らしたくなかった。

そんなところだろう。というわけでツェペシュの本拠地が気がかりでな。

俺はカーミラの根城からあっちに向かう予定だ』

 

聞いて分かった。貴族って―――馬鹿だね。

 

『―――おまえらを召喚することになるな。てなわけで直ぐに飛んで来い。

リアスたちと合流しつ、ツェペシュ側の動向を探らなければならん。

お前たちの戦力が絶対に必要だ。

何せ、ツェペシュ側の反政府グループ以上に危険なものが関与しているんだろうからな』

 

―――なんとなくだけど、こうなると予想はしていた。

 

『だが、戦力をこちらに集中させるわけにもいかない。そこは一度襲撃を受けているからな。

こちらに来るのはグレモリー眷属、イッセーと小猫、ギャスパー。葉桜と式森と龍牙、

イリナとゼノヴィア、以上だ。シトリー眷属と名前を呼ばれていない奴らは

その町に待機してもらう。いいな』

 

アザゼルの言う通り、この町は先日襲撃を受けている。。

二度とあんなことのないよう町を覆う結界、

関係者の出入りにも細心の注意を今まで以上に払うようになった。

 

「・・・・・私もそっちに行く」

 

悠璃が不満そうにアザゼルに言うと

 

『こちらも重要だが、そちらも大事だからな。かなりの実力者たちを

そっちとこっちで分散させた方が良いだろう』

 

リアス先輩と木場のことだろう。―――ソーナさんの挙手に視線が移った。

 

「いい機会です。皆さん、うちの新人一名を連れて行ってもらえないでしょうか?」

 

「新人・・・・・ですか?」

 

僕がそう訊く。彼女の眷属に新たに加わっていることは知らなかった。ソーナさんは頷いた。

 

「ええ、彼らまだ悪魔としての戦いが経験不足な面があります。

それに今回の一件、彼の力が役立つ可能性も高いでしょう」

 

ふーん、戦闘経験知稼ぎってことかな?アザゼルがレイヴェルちゃんに視線を送った。

 

『レイヴェルはそこに残れ。さすがに今回は客分のお前さんが立ちあうには辛い局面だ。

わかってくれるな?』

 

レイヴェルちゃんもアザゼルの言葉に頷いた。

 

「はい。心配ごともありますけれど・・・・・、兵藤家と駒王学園はお任せください」

 

聞き分けの良い子だよ。本当に。文句の一つ言わず応じてくれた。

彼女はフェニックス家から預かっている大切で大事な客分。

危険な場所にはおいそれと連れてはいけない。彼女の実力が上がっているからといってもね。

アザゼルが僕たちを再度見渡す

 

『詳しい事は現地で話す。―――では、準備ができ次第、こちらにジャンプしてくれ。

カーミラ側に受け入れ用の転移魔方陣を敷く。状況開始だ』

 

『はいっ!』

 

皆が応じる。―――ルーマニアに突入だ。現地に行くメンバーは僕と清楚さん、

龍牙、イリナ、ゼノヴィア、成神、小猫ちゃん、ギャスパーくん、

シトリー眷属の新メンバー一人。他のメンバーはここに待機。

 

 

―――一誠side―――

 

「おお・・・・・イッセーくん!生きておったのか!」

 

ロマリアダンジョンの前で俺はカリンの父親強く抱きしめられた。

 

「久し振り、サンドリオンさん」

 

「髪と瞳の色が変わっているが、生きていたのならばワシは安心した!

これで、極東の地にいるカトレアに嬉しい報告ができると言うものだ!」

 

そう言えば彼女はどうしていたのだろうか。すっかり忘れていた。

 

「しかも、キミもダンジョン攻略に協力していたとはな。うむ、キミだったら納得できるぞ」

 

「俺だけの力じゃない。皆と協力してダンジョンを攻略したんだよ」

 

「そうだとしても、イッセーくんはやはり凄いな。

うむ、キミならカリンやカトレアの婿に相応しいだろう」

 

ちょ―――このオッサンはなに言っているんだよ!?カリンはともかく、カトレアもって!?

 

「お父さま・・・・・」

 

「カリン、私はルイズと共に帰るがお前は彼と共にいなさい。

お前がいない間にお前の荷物を全て彼の家に移しておこう」

 

「えっ、それって・・・・・!」

 

「彼を守り抜け。良いな」

 

えっと、カリンが俺の家に住むことになったのか?当のカリンは嬉しそうに頷いた。

 

「サンドリオンさん。聖地のことに関しては・・・・・」

 

「無論、ワシの娘が伝説の虚無の魔法が使えようと聖地奪還のために戦場に

送るようなことはしない。

心の拠り所が必要だと教皇陛下は仰ったが、今のワシの心の拠り所は家族が待っている家だ」

 

「・・・・・」

 

「極東の地、日本。あの国に来てワシも変わったようだな。

故郷のことよりも家族の方が大事だと今ならばハッキリと言える」

 

俺とカリンの頭を撫でながらサンドリオンは言った。その表情は父親のそれだった。

貴族としての振る舞いをせず、一人の父親として俺に接してくれる。

 

「イッセー、出発の時間だ」

 

「分かった」

 

エルザ・スカーレットに促されサンドリオンと握手を交わす。

 

「行ってきます」

 

「カリンをよろしく頼むぞ。未来の義息子よ。

カリン、しっかりとヴァリエール家の名に恥じない戦いをし、イッセーくんを守るのだよ」

 

「はい!」

 

俺の手を握り、カリンに引っ張られる形で仲間のもとへ連れて行かれる。

 

「久々にイッセーと共闘だわ。イッセー、一緒に戦いましょう?」

 

「了解だ。攻略してやろう最後のダンジョンを。なっ、お前ら」

 

『おおっ!』

 

皆が気合の声を上げた。そして、俺たちはダンジョンの中へと侵入する―――。

 

―――○●○―――

 

ダンジョンの中は・・・・・。

 

「え、ここって・・・・・」

 

「火竜・・・・・山脈?」

 

ガリアとロマリアの国境の東西に伸びる山脈の前にいた俺たち。

空は灰色の雲に覆われていて天侯があまりよろしくない。

 

「まさか、次の試練は・・・・・あのドラゴンってわけじゃないよね?」

 

「いや、ロマリアダンジョンをクリアしていないんだぞ。

あのドラゴンが眠りから覚めるとはとてもだが、有り得ないだろう」

 

「じゃあ・・・・・どうしてここにいるんだ?」

 

そう言われこの場にいる俺たちは首を傾げた。

―――すると、上空から音が聞こえてきた。その音がする方へ顔を向けると、

 

「―――見たことない」

 

『・・・・・・』

 

「数のドラゴンだな、おい!?」

 

東洋、西洋のドラゴンが上空から現れて俺たちに襲いかかってきた!

 

「ちょっと待ってぇえええええええええっ!?」

 

グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

ルーシィ・ハートフィリアの叫びに、ドラゴンが吠えだした。

 

「最後のダンジョンはやっぱりこうじゃないとな!」

 

「燃えてきたぁー!」

 

「相手がドラゴン。私の剣で全て倒してくれる!」

 

フェアリーテイル組が不敵の笑みを浮かべ、襲いかかるドラゴンたちに攻撃し始める。

 

「お前らも大暴れして来い。相手が豊富だぞ」

 

内にいるサマエルだけ残して龍門(ドラゴンゲート)を開いて現世に出す。

 

『ようやく戦いらしい戦いをさせてくれる』

 

「おら、私に倒されたい奴は掛かってこい!」

 

「我、イッセーを守る」

 

透明なステルスも含めて九匹のドラゴンたちも攻撃を開始した。

俺自身も創造の力で創った金色の軍杖を構えて呪文を呟き、俺を含めて十人の分身を生みだした。

 

「っ!イッセー、その魔法は・・・・・・!」

 

「ああ、ルイズの婚約者と言う人から盗んだ魔法だ。これ、便利だよな」

 

「―――凄い、やっぱりイッセーは凄いわ!私も負けていられない!」

 

カリンは嬉々として呪文を呟いた。

そしたら、カリンも俺と同じ魔法で本体も含めて八人を生みだした。

 

「「いけ!」」

 

 

―――数十分後―――

 

 

「って、全然数が減っていないようなんですけど!?」

 

ルーシィ・ハートフィリアが愕然と言う。うん、そうだな。一向に減る気配も感じない。

全員で合わせば百体は越えていると思うんだけどな。一体どーなっている?

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・」

 

エルザ・スカーレットが全身で息をする。彼女もグレイ・フルバスターもよく戦った。

でも、数の暴力に苦戦していた。メイジのシャルロット、ジョゼットキュルケも魔力が

底を切れ俺の傍で休んでいる。

 

「おりゃあああああああああっ!」

 

まだ戦っている奴がいる。特にナツ・ドラグニルはまだまだ元気が有り余っているな。

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

「っ!」

 

西洋のドラゴンが迫ってきた。そのドラゴンに対して極太のレーザービームのような炎を撃ち、

消滅させた。

 

「く・・・・・っ!」

 

祖までカリンが苦悶を漏らした。彼女も魔力が底を尽いたようだ。

 

「ごめん・・・・・イッセー・・・・・」

 

「いや、よく頑張ってくれた。ありがとうな」

 

「・・・・・帰ったらイッセーがしているような修行をしなきゃ」

 

いや、それこそしなくていいからな!?あれ、マジでヤバいからさ!

 

「ナヴィ、この辺りの調査は終わったか?」

 

「ええ、イッセーのドラゴンは凄いわね。疲れ知らずのように、

次々とドラゴンを倒しちゃっているわ」

 

「久々に体を動かせれるからはしゃいじゃっているんだろうな」

 

チョコンと肩に乗っかっているオーフィス以外は。

 

「でも、それでもどこからともかくドラゴンが出てくるわ」

 

「その場所はどこからだ?」

 

「空からよ」

 

「空か・・・・・だったら、そこへ行こうか」

 

真紅のオーラを全身に纏い、真紅のドラゴンへとなり変わる。

 

「イ、イッセー・・・・・その姿は・・・・・・」

 

「昨日宿で話しただろう?俺はドラゴンに転生したって」

 

体勢を低くして皆を背中に乗せる。

 

「ナツ!ヴァン!空に行くぞ!俺の背中に乗れ!」

 

未だにドラゴンと戦っている二人に咆哮する感じで催促し、体に乗せれば空へ飛翔する。

 

「って、俺を置いていかないでくださいっすよ~!」

 

デュリオ・ジェズアルドが追い掛けてきた。

いや、お前一人だけでも大丈夫かと思ったんだけどな。

俺が空に飛翔すれば、クロウ・クルワッハたちも何かあるのだと察したのか、

俺についてくる。

 

「雲の上からドラゴンの臭いがすんぞ」

 

「雲の上だな?分かった」

 

バサッ!

 

翼を大きく羽ばたかせ、雲に突っ込んだ。しばらくして、雲から抜け出した。

青い空に太陽の光が目に映る。

 

「・・・・・なんだ、あれは」

 

向こうに黒い玉のようなものが浮かんでいる。ジッと凝視してみたら―――俺は絶句した。

 

「マジかよ・・・・・・」

 

冷や汗を掻く。いくらなんでもあれは・・・・・あんまりすぎるんじゃないか?

 

「イッセー、どうした。あの黒い塊が何だか分かるのか?」

 

「・・・・・あれ、全部ドラゴンだ」

 

俺の言葉で背中に乗っている全員が呆けた声をする。俺の目に映る黒い塊は、

グルグルと数えきれないほどの東洋と西洋のドラゴンたちが動きまわっている。

 

『おいおい、なんだよ。あの数のドラゴンどもは・・・・・・』

 

「流石にあの数と戦うのは・・・・・」

 

邪龍や龍王たちすら絶句して様子だった。

 

「イッセー・・・・・流石に今回は死んだかもと思っていいかしら?」

 

「却下。まだ負けちゃいない」

 

「でも、イッセー。見えないけど黒く見えるのが全部ドラゴンなんでしょう?

流石にイッセーでも・・・・・」

 

ジョゼットが顔を青ざめて話しかけてくる。まあ、俺一人だったらそうだけど。

 

「メリア、皆をお前の背中に乗せてくれ」

 

『主?』

 

「オーフィスの力で鎧を纏う」

 

金色のドラゴンに近寄り、エルザ・スカーレットたちを乗り移させれば、オーフィスに問うた。

 

「オーフィス。あの時以来にお前の力を貸してくれ」

 

「ん、我はイッセーを守る」

 

頭の上から無限の魔力を感じる。俺も魔力のオーラをオーフィスの魔力と

融合させるように放出する。

 

「我、無限を司る龍神なり」

 

「我、無限を司る龍神に認められし者」

 

「我は無限の力を認めし者のために振るい」

 

「我は愛しい者たちのために力を振るい」

 

「我らは共に一つとなりて―――」

 

「我らの敵を嗤い、我らの敵を憂い」

 

「「汝らを無限に葬り去ろう!」」

 

インフィニティ・ジャガーノート・ドラゴン・ドライブ!

 

 

―――エルザside―――

 

 

カッ!

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

イッセーがオーフィスと融合した。見れば綺麗だった真紅の体が黒に浸食されていくように紋様が

浮かび、体がさらに大きくなった。・・・・・六百メートルぐらいだろうか。

とにかくデカい。翼も六対十二枚にまで増えていた。

 

「す、すげぇ・・・・・」

 

「ああ、イッセーの奴・・・・・とんでもねぇ野郎だな」

 

ナツとグレイが感嘆する。ああ、そうだな。私もまだまだイッセーの力をそこが知れないと

思い知らされたよ。

 

バサッ!

 

と、あいつが翼を羽ばたかせて黒い塊の方へ飛んで行った。他のドラゴンたちは動かない。

 

「お前たちは行かないのか?」

 

そう尋ねれば、首を横に振られた。

 

『今の主は真龍と龍神が一つになった状態。ならば、我らが出る幕はない』

 

『くくく・・・・・こんな気持ちは生まれて初めてだ。戦いたくないと思ってしまったぞ。

奴の底知れぬ無限の力を感じてな』

 

「やっぱり、あいつは有り得ない人間・・・・・ドラゴンだな。もしかしたら、

ガイアを倒してしまうんじゃないか?」

 

青いドラゴンが笑みを浮かべたその時だった。

 

チュインッ!

 

黒い塊から一瞬の閃光が走った。―――刹那。黒い塊を飲み込むほど真紅と黒の光が激しく膨張した

直後に私や皆に突風が直撃してきた。

 

『な・・・・・なんて馬鹿げた魔力の塊だ・・・・・っっっ!?』

 

「あんな魔力、今まで感じたことがないぞ!」

 

『あれが今の主の一撃・・・・・!』

 

ああ、あんなに離れているところから感じる膨大な魔力!

アレが本気の一撃ではないと言われたら、イッセーはこの世界、地球を破壊するほどの力を

有していると言うことになる!膨張した真紅と黒の光は未だに宙で浮き続けている。

―――その中からこっちに向かってくる一つの影が。

 

「ただいまっと」

 

平然とした態度と調子で私たちに声を掛けてくるドラゴン、イッセー。

 

『あ、主・・・・・今の攻撃は・・・・・?』

 

「あー、面倒くさかったから本気で攻撃したんだよ。一応、始祖の秘宝は手に入れたけどな」

 

『アレで本気か・・・・・お前と言う奴は、ガイアを越えるつもりか?』

 

「いずれ越してみたいよ。まだまだ掛かりそうだけどな」

 

目元を細め口の端を吊り上げた。微笑んでいるのか?だが、すぐに真剣な瞳となった。

 

「これで全ての塔を攻略した。残すは―――エンシェント・ドラゴンを倒すだけだ」

 

そうだ。それがイッセーがハルケギニアにやってきた最大の理由。

火竜山脈に眠るドラゴンを封印することがイッセーの目的だった。

 

「現世に帰るぞ」

 

イッセーはどこかへと飛んで行く、私たちを乗せている金色のドラゴンもついていくのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode16

―――エルザside―――

 

ロマリアダンジョンを攻略。これで俺の目的の第一段階が終了した。

残すは原始龍が願っているエンシェント・ドラゴンを再封印。

そう心に秘めてダンジョンから脱出の形で現世に出た私たちに―――。

 

「お疲れ様です。フェアリーテイルの皆さん」

 

朗らかに言う濃い紫色の神官服に高い筒状の帽子を被った物腰の柔らかそうな男性。

その男性の背後に佇む大勢の騎士たち。

 

「教皇陛下・・・・・」

 

「無事に始祖の秘宝を手に入れたようですね」

 

「ええ、こちらに」

 

そう言って俺が手に入れた円鏡を教皇に渡した。教皇はその鏡を受け取って満足気に頷いた。

これで依頼は達成だ。

 

「これで依頼は全ての塔の攻略は達成しました。これで私たちは失礼させてもらいます」

 

「―――いえ、まだやってもらいたいことがあります。フェアリーテイルの皆さん」

 

「・・・・・なにをですか?」

 

怪訝な面持で教皇に問う。教皇はとある方へ視線を向けた。

 

「火竜山脈という山をご存じですよね?あの山にはとあるドラゴンが封印されているのです」

 

「申し訳ございませんが、そのドラゴンをどうにかしてほしいと言うのであれば、

正式に私たちのギルドに依頼してください。数日前にもその話しをしたはずです」

 

教皇の話しを遮り。数日前の話しを持ち上げる。

 

「・・・・・」

 

彼は沈黙したが私は言い続ける。

 

「信じてくれないと思うからお伝えしない。そう教皇陛下は仰ったではございませんか。

今さらそう言った教皇陛下ご自身が信じてくれないことを私たちに依頼するとは

虫が良過ぎではございませんか?」

 

私は徐に腕を上げた。私の背後にいるイッセーが・・・・・。

 

ギェエエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!

 

三つ首の龍となったようだ。

 

「あ、あの時の邪悪な三つ首のドラゴン!?」

 

「バカな・・・・・・!」

 

「この者たちの中に潜んでいたと言うのか!おのれ・・・・・異端者どもめ!」

 

騎士たちが動揺、絶句、畏怖の念を抱く。鍛練が足りない証拠であるな。

私たちは慣れているだけだがな。

不意に、浮遊感を覚えた。足元を見れば、地面から浮いている。背後に振り向けば、

六つの瞳の内の二つが怪しく煌めかしていたイッセー。私以外にも他の皆も地面から浮いてる。

私はイッセーの頭に乗せられ、他の皆は背中に乗せられた。

 

「それでは教皇陛下。私たちはこれにて失礼させてもらいます。行くぞ、アジ・ダハーカ」

 

敢えてイッセーの名前を言わない。彼には協力してもらっている立場だ。

イッセーを巻き込むわけにもいかない。三対六枚の翼を羽ばたかせ、ロマリアの地から浮遊する。

そして、イッセーの目的であるドラゴンが眠る火竜山脈へと飛んで行く。

 

「―――随分と悪役染みた演出をするなエルザ」

 

「そうか?」

 

「ああ、意地の悪い女だよ。そして、最高に面白い良い女だ」

 

・・・・・前の私はそんなことをしなかっただろうな。

それはお前と接している内に移ったのだろうか?

 

「さて・・・・・追手がきたようだがどうする?」

 

―――っ!

 

イッセーの言葉にロマリアに振り向いた。

私の目にドラゴンと翼を羽ばたかせる馬に乗った騎士たちが追い掛けている光景が映った。

 

「狙いはどうせ始祖の秘宝と指輪だろうな」

 

「イッセー、どうするつもりだ?」

 

「放っておくさ。お前らも疲労困憊だろう?エンシェント・ドラゴンは俺たちが何とかする」

 

最後の最後で私たちは役に立たないな。すまない、イッセー。

 

ブロロロロロロロロロロロ・・・・・・ッ。

 

・・・・・なんだ?この機械音のような音は。どこからだ?

 

「・・・・・教皇の野郎。珍しい物を持っているじゃないか」

 

イッセーが何かに気付いた様子だった。私が口を開こうとしたその時。

目の前から鉄の塊が飛んできた。

 

「イッセー!アレは一体何だ!」

 

「フィオーレ王国には存在しないのか?飛ぶ鉄の塊が。あれは戦争のために作られた戦闘機、

またの名を飛行機と言う」

 

飛ぶ機械だと?そのような機械は私たちの国には存在していない。

別の国はやはり技術や文化が違うな。だからこそ面白いが、

こうも敵に回ってしまうと驚異的であることには間違いない。

イッセーが言った飛行機とやらが私たちの横に現れ同じ速度で飛行する。

 

「―――って、ルイズと才人が乗っているのかよ!?」

 

「何だって!?」

 

下からカリンの驚愕の声が聞こえた。飛行機に乗っている二人の少年と少女を覆う物が

少女の手によって開かれ、身を乗り出して叫んできた。

 

「こら!あなたたち停まりなさい!」

 

「いやいや、ルイズ姉がどうしてそれに乗っているんだ!?」

 

「教皇陛下から賜ったのよ!カリン、そこからその龍の翼を切り落としなさい!」

 

「そしたら私たちも落ちるんですけど!?」

 

「そんなこと私が知るもんですか!」

 

・・・・・な、何て姉なんだろうか。訊いた限りではカリンの姉らしいが、本当に姉なのか?

 

「ルイズ姉はどうしてここにいる!?お父さまと一緒に帰ったんじゃなかったの?」

 

「私に教皇陛下を逆らったあなたたちを説得する、とても名誉ある任務を受けたからお父さまと

一時別行動よ!だから、あなたたちは私の言う通りにしなさい!」

 

いや、それが・・・・・説得する言動か?とても説得に向かないぞ彼女は。

そして、ロマリアの騎士たちが私たちを囲んだ。

 

「停まらないと、魔法を撃つわよ!良いわね!?」

 

「えっと・・・・・言い辛いけどルイズ姉って魔法じゃなくて爆発だったハズじゃ・・・・・・」

 

「ふん、それは昔の話しよ。今の私は―――虚無の魔法を放つことができるのよ?」

 

―――――!

 

そう言えば、彼女は虚無の担い手だと教皇が言っていた。

虚無の魔法はどれほどの威力なのか・・・・・?

 

「イッセー、どうするつもりだ?」

 

「・・・・・」

 

一つの首を飛行機に向けたイッセー。すぐに前へ戻してこう言った。

 

「無視だ」

 

思いっきり嘆息するイッセーだった。―――と、一匹の白いドラゴンが私たちに近づいてきて、

イッセーの頭に長身の少年が降り立った。

 

「話を聞いて欲しい。できれば停まってくれないかい?」

 

「お前は・・・・・ジュリオ・チェザーレだったな」

 

「覚えてくれて光栄だ。そして、僕はあらゆる生物を操るヴィンダールヴだってことも

覚えているんだよね?」

 

―――しまった!イッセーはドラゴンだ。虚無の使い魔の力はあまり知らないが、

力が本物ならば、あの男はイッセーを操る!ジュリオは右手をイッセーの頭に触れた。

 

「・・・・・・」

 

ゆっくりとイッセーが止まった。まさか・・・・・あの男に操られているのか・・・・・?

 

「ダンジョン攻略後で疲労困憊で魔力もないはずだ。だからこそ、

キミたちに無駄な争いもせずに協力してほしいことがあってきたんだ」

 

「イッセーを操っておきながら説得とは、神官の名が泣くぞ」

 

「僕たちは本気なんだよ。ハルケギニアを守るためならどんなことだってするつもりだ」

 

「・・・・・」

 

魔方陣から剣を取り出す。あいつをイッセーから落とせば支配は解かれるはずだ。

 

「おっと、攻撃してこないでよ?じゃないと、このドラゴンで―――」

 

ゴンッ!

 

ジュリオを乗せたイッセーの頭が突然別の首にぶつかってあの男は空に落ちていった。

 

「たく・・・・・俺が支配したと思っていい気になるなってんだ」

 

「イッセー・・・・・支配されていなかったのか?」

 

「まあな。支配されていた振りしていた」

 

イッセーは山脈の上にグルグルと回り出す。様子を見守るようだ。

 

「イッセー、どうだ?」

 

「・・・・・気配はまだ感じない」

 

「ならば、麓で休憩しよう」

 

私の提案に首を縦に振ってイッセーは急降下したのだった。

 

 

―――その日の夜―――

 

―――一誠side―――

 

 

ガツガツガツッ!

 

夜食の時間となり俺が作った料理をナツ・ドラグニルとグレイ・フルバスターが自分の物だと

ばかり食べ続ける。

 

「お前ら、もう少し落ち着いて食えよ」

 

「いや、お前の作る料理は美味いからよ」

 

「ああ、まだまだ食べれるぜ!」

 

そう言ってくれると作った甲斐があるってもんだ。

 

「だが、お前は作ってばかりで何も食べていないではないか」

 

「ヴァン。俺の心を読まないでくれるか?」

 

「読んでいないさ。ただ、現実的に言っただけだ」

 

・・・・・はぐらかされた気分だ。

 

「では、私が変わりに作ろう」

 

「エルザ、料理を作れるのか?」

 

「ふん、私にできないものはないぞ?」

 

不敵に言うエルザ・スカーレットだった。本当にできるのか?と思いナツ・ドラグニルたちに

視線を向ければ・・・・・首を傾げられた。分からないのか?

 

「では、調理を開始だ」

 

彼女の周囲に様々な包丁が出現した。―――何故か、エルザ・スカーレットがビキニ姿で。

俺は呆れて即行動に移る。

 

「ごめん、やっぱり俺が作るわ」

 

「な、なぜだ?」

 

「いいから」

 

「う、うむ・・・・・」

 

絶対に料理が作れないと判断した。有無を言わさず、彼女を席に着かせた。

 

「ううう・・・・・イッセーの料理美味しいよ・・・・・でも、悔しいよ・・・・・」

 

「どっちか感じながら食べてくれないかな、カリンさんよ」

 

カリンが歓喜と悲哀が混じった声音で言う。悔しいなら料理の腕を上立つするんだな。

 

「うーん、イッセーの料理って美味しいわね。これは、食事の楽しみが増えるわ」

 

「そうね。私は玉子焼きが一番好きだわ」

 

ナヴィとルクシャナが称賛する。おう、後で玉子焼きも作ってやるぞ。

 

「イッセー、フェアリテールのコックになってくれ!」

 

「ごめん、無理だ。ほら、燃え上がるステーキだぞ」

 

「うっはっ!炎を食いながらステーキも食べれるなんて初めてだ!」

 

「どうやってステーキを燃やしているの!?」

 

ルーシィ・ハートフィリアは突っ込み役だな。最近分かったことだけど。ナツ・ドラグニルが

太鼓判を打ちながら燃えるステーキを食べている様子を見ながら答えた。

 

「炎の質を変えているんだ。風や水で消されないようにな」

 

「へぇー、マカロみたいなことをするんだな」

 

「マカロ?」

 

「私たちフェアリーテイルの仲間よ。ナツと同じ炎を使うのよ」

 

なるほど・・・・・フィオーレ王国も魔法が進んでいるんだな。

 

「グレイの造形魔法も面白いよな」

 

「そうか?俺の氷の造形魔法に興味を持つなんて珍しいな」

 

「見たことがないものを見れば誰だって興味を持つさ。エルザやルーシィの魔法もそうだぞ?」

 

「私は精霊魔導士だから、魔法ってわけじゃないんだけどね」

 

「私も似たようなものか。瞬時で違う鎧と武器を変えて応じた戦いをするだけだぞ」

 

それでもさ。凄く興味がある。

 

「んじゃさ、エルザの魔法を詳しく教えてくれ。そしたらエルザが願う鎧や武器を創造して

提供するからさ」

 

「なに?本当か?」

 

「ああ、嘘は言わない」

 

真っ直ぐ瞳を彼女に向ける。興味津々、好奇心、純粋な瞳でジッと彼女から聞かされる

彼女の魔法を静かに耳を傾ける。

そんな俺にエルザ・スカーレットの顔が赤くなるのはなぜだろうか?

 

「う、うむ。では、私の魔法『換装』を教えよう。だが、できるかどうか分からないぞ?」

 

「聞くだけでも価値があるさ。後は努力でできるようにする」

 

「そうか・・・・・」

 

嬉しそうに口元を緩ませたエルザ・スカーレットは立ち上がって俺に彼女の魔法を教えてくれた。

 

「では、『換装』というものはだな―――」

 

―――○●○―――

 

小一時間ぐらい『換装』の魔法を教えてくれたエルザ・スカーレット。

なるほど・・・・・魔法空間と言う特殊な空間に入れて持ち運び、瞬時で武装を変化させるのか。

 

「ありがとう。勉強になった」

 

「ふふっ、『換装』ができるようになったらお前と私の似ている部分が増えるな」

 

「そうだな。髪の色と『スカーレット』、そして魔法もだな」

 

「もしも私の魔法が習得できたらいつかまた再会した時に見せてくれ」

 

その発言に同意と頷き、口を開こうとした。

 

「ああ、その時は―――」

 

ドッガアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

山脈の麓にいた俺たちのところまで噴火の轟音が聞こえた。そして忽然と感じる大きな気配。

 

「火山が噴火したのか?」

 

「いや、違う・・・・・ドラゴンの臭いがすんぞ」

 

「ああ、ナツの言う通りだ。―――どうやらエンシェント・ドラゴンが目覚めたようだ」

 

『っ!』

 

封印されていたドラゴンが目覚めた。その事実に皆は驚き、真剣な表情となった。

 

「全員、俺の背中に乗ってくれ」

 

真紅の龍となり全員を体に乗せて火竜山脈の上まで飛翔する。

 

「―――あれか!エンシェント・ドラゴンというドラゴンは!」

 

火竜山脈のとある山の大地から溶岩が溢れ出てきた。

その溶岩の中から黒い霧みたいなものを纏った巨大な岩のような

四肢のドラゴンが姿を現していた。

 

「デカい・・・・・!アレがイッセーが求めていたというドラゴンか・・・・・」

 

「ああ、何て禍々しいオーラを纏っているんだ。エンシェント何て名前と真逆だろう」

 

グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァッ!

 

刹那―――。エンシェント・ドラゴンからレーザービーム状の炎を俺に向かって放ってきた。

 

「ここなら誰も来ないよな!」

 

カッ!

 

「ロンギヌス・スマッシャー!」

 

口から放った真紅の魔力は迫りくる炎を弾きながら、エンシェント・ドラゴンに直撃した。

 

「やった!」

 

「いや・・・・・まだだ!」

 

ジョゼットの歓喜は一瞬で終わった。―――俺の攻撃が通じていないからだ。黒い靄

 

「な、なんだと・・・・・っ!」

 

「あの黒い霧がイッセーの攻撃を無効化をしているようだな」

 

目を細めてエンシェント・ドラゴンを見る。翼がないから空に飛べれないだろう。

 

「さて・・・・・魔力が効かないならば物理攻撃しかないか」

 

空中に魔方陣を展開する。魔方陣からティアとメリア、ゾラードを現世に出す。

 

「ティア、こいつらを頼む」

 

「イッセー、あのドラゴン・・・・・かなり厄介だぞ?」

 

「大丈夫だ。さっさと封印してくる」

 

皆を魔力で浮かせてティアの背中に移動させた。これで思う存分に動けれる。

 

「イッセー!無茶だけするなよ!」

 

ヴァンの話を聞きコクリと頷いて真っ直ぐエンシェント・ドラゴンに向かう。

 

「さあ、エンシェント・ドラゴン。俺と勝負しようか。―――真龍と龍神の子供のこの俺とな!」

 

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!

 

―――カリンside―――

 

イッセーがエンシェント・ドラゴンと戦い始めた。

魔力での攻撃が効かないと分かったイッセーは拳や足、尾であのドラゴンと戦い始めた。

 

「イッセー・・・・・大丈夫かしら」

 

「心配する事より、信じて見守る方があいつは強くなれるぞ」

 

そうだ、私はイッセーを信じる。だって、私の主なんだもの・・・・・!

 

『メリア、あの黒い霧は魔力が効かないのであれば物理攻撃・・・・・人間の作った

大砲のような物理攻撃が効くのでは?』

 

『なるほど・・・・・試してみましょう』

 

そう言って金色のドラゴンが全身から一瞬の閃光を放った。あまりにも眩い光に腕で

目を覆っていたら、光は消えた。目を開けると―――巨大な鉄の筒状が空一面に浮かんでいた。

 

『主!一旦そこから離れてください!砲撃をします!』

 

そう言った次の瞬間、数多の大砲から鉄の塊が飛び出てエンシェント・ドラゴンに

飛来し―――直撃した。

 

ドドドドドドドドドドオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

『まだまだです!』

 

これでもかとばかり、砲弾がエンシェント・ドラゴンに集中する。

イッセーはすでに退避していた。

 

「私もやってやるぜ!」

 

『我もだ!』

 

ティアマットとゾラードも火炎球を吐きだした。―――しばらくして、

攻撃の手を止めたドラゴンたち。イッセーも私たちのところによって下にいる

エンシェント・ドラゴンの様子を窺う。

 

『やりましたか・・・・・?』

 

『本気ではないがこれだけ攻撃をしたのだ。効果がないと困る』

 

「そうだな・・・・・」

 

立ち籠る煙が晴れていく。エンシェント・ドラゴンの姿は・・・・・・。

 

ギュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

岩の体が六割ほど剥がれていて、まるでマグマの塊と思わせる赤い体を露わにしていた。

というか、あれだけ食らっていたのにまだ倒れていないなんて!

 

「黒い霧が・・・・・少なくなっている」

 

ジョゼットがそう呟いた。あっ、本当だ。確かに岩のようなものが無くなっているから

黒い霧も少なくなっているわ。

 

「あの赤い体がエンシェント・ドラゴンの本来の肉体と言うことならば―――」

 

イッセーが龍化を解いて人間に戻った。背中に翼を生やしていて、

背中に背負っていた大剣を握って―――。

 

「いまのエンシェント・ドラゴンならば封印できる!」

 

大剣が神々しい光を輝きだした。

 

「開け、時空の扉よ。これより目の前のドラゴンを牢獄に投獄する!」

 

手にした大剣を虚空に大きく縦に振った。―――その瞬間、虚空が大きく開いた。

そしたら、裂けた空間から巨大な龍の鱗が覆われた手がゆっくりと出て来て

エンシェント・ドラゴンを捕まえた。

 

ギュアアアアアアアアアアアアアッ!

 

叫ぶエンシェント・ドラゴンが裂けた空間の中に引きずり込まれていく。

そして、完全に引きずり込まれると裂けた空間が元に戻った。

 

「・・・・・ふぅ・・・・・終わった」

 

やっと終わったとイッセーは溜息を吐いた。・・・・・やっぱり、イッセーは凄いわ。

私・・・・・あなたの傍にずっといる・・・・・ずっと、ずっとよ・・・・・・。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode17

 

 

エンシェント・ドラゴンを原始龍がいる世界の牢獄に送って数十分。俺の目的も果たしたことで

ハルケギニアにいる理由もなくなった。

だから、共についてきたシャルロット、ジョゼットをガリア王国とゲルマニアに送っている。

 

「長いようで短い冒険、だったけどとても刺激的な数日間だったわ。

でも、残念ねもうお別れなんて寂しいわ」

 

「旅や冒険に別れはつきものだろう?」

 

「それと良かったの?私までダンジョンの中にあったお宝を分けてもらって」

 

「いいさ。今回の冒険した仲だ。受け取ってくれ」

 

ゲルマニアに訪れていま、キュルケの周囲に黒いケースが数個浮遊している。

 

「そう、それじゃあ、ありがたく頂くわ」

 

受け取ると言う彼女にコクリと頷いて手を差し伸べる。

キュルケからも手を差し伸べてくれて俺の手を握ってくれた。

 

「元気でな、キュルケ。もしよかったら極東の地の日本、光陽町って場所に遊びに来てくれ。

カリンたちも極東の地に来れたんだからお前も来れるだろう?」

 

「かなりのお金と権力者じゃないと行けないって知らない?」

 

「じゃあ、シャルロットやジョゼット辺りに頼んでみたらどうだ?」

 

「それもそうね」とキュルケは微笑んで頷いた。

 

「また会おう。キュルケ」

 

「ええ、イッセー。また何時か会いましょう!」

 

翼を羽ばたかせ、皆を乗せているメリアのところへ戻る。次は―――ガリアだ。

 

―――ガリア王国―――

 

「では、依頼通りにお二人を無事に送りました」

 

「ああ、ご苦労だった。二人とも、見ない間に少しばかり凛々しくなっている気がするね」

 

ガリア王国の宮殿にシャルロットとジョゼットを送り届けた俺たち。

ここでフェアリーテイルとシャルロットたちと別れると思ったんだが・・・・・。

 

「イッセーくん、個人的にしてほしいことがある。簡単なことだけどいいかね?」

 

「してほしいこと?」

 

「ああ、ラグドリアン湖って湖がガリアとトリステインの国境近くにある。

その湖の水が上昇して付近の町が水に浸水しているんだ。

ラグドリアン湖には水の精霊と言う精霊がいてね、どうしてそんなことをしているのか、

空気の塊で湖の中に入って水の精霊に会って聞いて欲しい」

 

と、調査の依頼をされた。まあ、その町の住民が困っているなら助けないといけないな。

 

「フィオーレ王国行きの船は明日の午後に着く予定だ。それまでキミたちは宮殿で過ごしてくれ」

 

「分かりました。お気使い感謝いたします」

 

じゃあ、俺はさっそくその湖に行くとしようかな。踵返して翼を展開したところで―――

 

「イッセー!私も行く!道案内が必要だろう?」

 

「ああ、そう言えばその湖の場所まで分からなかったな。んじゃ、頼む」

 

「ちょっと、主の私を置いていくわけじゃないわよね?」

 

「お前の主でもあるからな?ルクシャナ」

 

「「私も行く」」

 

って、シャルロットとジョゼット?お前たちは久し振りに帰って来たんだからここで・・・って、

なんで睨むんだよ。分かったよ。だからそう強く眼を向けてくるなって。

って、お前たちも来る気満々だな!?

結局、殆どの皆が俺と一緒にラグドリアン湖についてくることとなった。

 

―――ラグドリアン湖―――

 

ガリア王国から飛んでカリンたちの道案内であっという間にラグドリアン湖という

湖に辿り着いた。

 

「なるほど、確かに水が溢れ返って町のが水で沈んでいるな」

 

一度、町の様子を見に来た訳だが、本当に町が水に飲み込まれていた。

 

「今の今まで知らなかったわ」

 

「水の精霊ってどんなやつだ?」

 

「物体のない水の塊」

 

・・・・・ブヨブヨしか思い付かないんだけどシャルロット。ラグロリアン孤に戻って

皆を湖の岸辺に降り立って皆を下ろして人間化になる。

 

「さて、空気の塊で水の中を進めばいいんだな?」

 

「気を付けてね、水の中で水の精霊と戦うのは無謀よ。

一瞬でも水に触れたらあなたの心を奪われちゃうわ」

 

「俺の心を奪っていいのは俺に好意を持つ女だけで十分だ」

 

「うわー、キザっぽいことを言ったぜこいつ」

 

そう言いつつもヴァンの顔が赤いのは何故なんだろうね?

金色の錫杖を手にして俺たちの周囲に金色の膜を張り、いざ―――水の中へ沈んでいった。

 

「こーして水の中でいるとまるで水族館のようだな」

 

「水族館って?」

 

「色んな海の生物を建物の中で見聞することができる館だ」

 

「へぇ、面白そうね」

 

「フィオーレ王国にはないのか?」

 

俺の問いに「見たことも聞いたこともない」とルーシィ・ハートフィリアが答えた。

 

「そうか、だったら日本に来てみるか?フィオーレ王国にはない物がたくさんあると思うぞ」

 

「行きたいところだが、依頼を完遂したら帰らなければならないのだ」

 

「そうか・・・・・んじゃ、後で良い物を渡すよ」

 

「良い物?」

 

「おう、良い物だ」

 

それ以降、話はしなくなり水の精霊を探し続ける。湖中を彷徨っていると、

俺の視界に一点だけ光る光が視界に入った。気になってその光に近づいてみた。

 

「なにようだ、単なる者たちと単なる者ではない者たちよ」

 

光が喋った!まさか・・・・・こいつが水の精霊?

 

「水の精霊と認識しても?」

 

「肯定だ、単なる者ではない者よ」

 

精霊って水の体でできているんじゃないのか?心の中で怪訝でいながら、口を開いた。

 

「質問だ。どうして水嵩を増やすんだ?その理由を教えてくれ」

 

「聞いてどうする?」

 

「理由もなく水嵩を増やそうとしているわけじゃないんだろう?

お前はそんな精霊ではないと思っているけど違うか?」

 

「・・・・・」

 

水の精霊は沈黙したが、さらに言い続ける。

 

「俺に出来ることがあったら何でもする。お前の願いを必ず叶えてみせる」

 

そう言った時、光が近づいてきた。

 

「その言葉、誠だな?」

 

「二言はない」

 

光が点滅する。

 

「任せて良いものか、我は悩む。しかし、単なる者ではない者の言葉を賭けてみようと思う」

 

水の精霊は光を点滅した後、語り始めた。

 

「数えるほどもおろかしいほど月が交差する時の間、我が守りし秘宝を、

単なる者ではない別の者が盗んだのだ」

 

「秘宝?」

 

一体、どんな秘宝なのか。聞いて見たら、

 

「『アンドバリ』の指輪。我が共に、時を過ごした指輪」

 

カリンが呟く。

 

「『水』系統の伝説のマジックアイテム。書物で読んだことがある。

たしか、偽りの生命を死者に与えるという・・・・・」

 

「そのとおり。誰が作ったものか分からぬが、単なる者ではない者よ。お前の仲間かもしれぬ。

ただお前たちがこの地にやってきたときには、すでに存在していた。死は我にはない概念ゆえ

理解できぬが、死を免れぬお前たちにはなるほど『命』を与える力は

魅力と思えるのかもしれぬ。しかしながら、『アンドバリ』の指輪がもたらすのは偽りの命。

旧き水の力に過ぎぬ。所詮益にはならぬ」

 

「そんな秘宝を、誰が盗ったんだ?」

 

「単なる者ではない者は単なる者の風の力を利用して、我の住処にやってきたのは数個体。

眠る我には手を触れず、秘宝のみを持ち去っていった」

 

「名前とか分からないの?」

 

「分からぬ。だが、個体の一人が髪の色が銀であった。その者は悪しき存在であることも」

 

悪しき存在・・・・・髪の色が銀・・・・・。

 

「悪しき存在って悪いヒト?」

 

「悪い人間なら水の精霊は『単なる者』と言うと思うわ。その存在は人間とは違う存在?」

 

「もしかして・・・・・悪魔?」

 

―――――っ!

 

そうか・・・・・そういう事か!俺はようやく気付き、水の精霊に尋ねた。

 

「水の精霊。そのアンドバリンの指輪の力で甦った単なる者は偽りの命で甦るんだったな?」

 

「そうだ。本来の魂とは違う偽りの魂が宿る。そして偽りの魂を宿した者の命で動く」

 

・・・・・ははっ・・・・・そうか・・・・・・それを聞けて嬉しいよ。

 

「イッセー・・・・・・?」

 

「お、おい。どうして泣いているんだよ」

 

おっと・・・・・泣いていたか。頬に濡れた涙を拭いて。水の精霊に頷いた。

 

「必ずアンドバリンの指輪をお前に返す。だから、水嵩を増やすのを止めてくれ」

 

「誠だな?」

 

「ああ、約束する」

 

「・・・・・わかった。お前を信用しよう。指輪が戻るのならば、水を増やす必要もない」

 

ありがとう。これで町も元に戻るだろう。

 

「何時まで取り返せばいい?」

 

「お前の寿命が尽きるまでで構わぬ」

 

「気の長いことだな」

 

「我にとっては、明日も未来もあまり変わらぬ」

 

そうか、水の精霊って寿命がないのか。水の精霊に別れを告げ、湖中から出た。

 

「イッセー、あんなこと言っていいのかよ?誰が指輪を奪ったのか分からないんだぞ?」

 

「いや、ヴァン。俺たちはもう知っているぞ。指輪を奪った張本人と」

 

「なんだと?」

 

湖面から岸辺に上がって金色の膜を解く。

 

「アンドバリンの指輪を持っているのは―――ユーグリット・ルキフグスだ」

 

「「なっ!?」」

 

ヴァンとカリンが目を丸くした―――その時だった。俺たちの上空に穴が開いた。

敵の襲撃か?と思って警戒していると。

 

「う、うわああああああ!ど、どいてくださぁぁぁあああああああああいっ!」

 

「―――へ?」

 

見覚えのある姿と声に思わず間抜けな声を出してしまった。

穴から出てきた人物に押しつぶされる形で地面に倒れた。

 

「いった・・・・・なんなんだよ」

 

「あたたた・・・・・一度ならず二度までも・・・・・あのバカ龍!絶対に帰ったら説教よ!」

 

その瞬間。

 

「「え?」」

 

俺と金色の瞳で青い髪の少女の顔の唇が重なってしまった。

 

「「―――っ!?」」

 

反射的に離れて向こうが赤く染めた。

 

「な、ななななななにするんですかっ!?」

 

「いや、今のは事故だろう!というか、どうしてお前がここにいるんだよウリュウ!」

 

そう。ドラゴンの世界にいた原始龍のメイドが俺たちの目の前にいた。

 

「ううう・・・・・・私のファーストキスがこんな形で、

事故で奪われてしまうなんて・・・・・絶対にあのバカ龍を

お仕置きしないといけないわね・・・・・・!」

 

「いや、だからどうしてお前がここにいるんだって?」

 

「・・・・・そうですね。先にお伝えしましょうか」

 

咳を一つ。ウリュウは俺に向かって言葉を投げてきた。

 

「エンシェント・ドラゴンは無事に送られてきました。

そのことに原始龍さまはあのドラゴンを調―――もとい説得して忙しいため、

あなたに労いの言葉を送れないので代わりに私が感謝の言葉を言いに来たのです」

 

「いま、調教と言おうとしなかったか?」

 

「いえ、何のことでしょう♪」

 

笑顔ではぐらかそうとするな!あいつ、龍を大切にしているのか本当に!?

 

「それで、その封龍剣をあなたにそのまま授けると原始龍さまが仰っておりました」

 

「いいのか?まあ、くれると言っていたけど返してくれっと言われたら

返すつもりでいたんだけどな」

 

「問題ございません。こちらにも同様の大剣がもう一本ございますので」

 

そういうことなら・・・・・このまま俺の愛用の武器として振るわせてもらおう。

 

「それとアルビオンとドライグがルーマニア、吸血鬼がいる根城にいます」

 

「アルビオンとドライグ?―――ヴァーリと成神か。でも、なんでルーマニアに吸血鬼?

それに根城って・・・・・俺がいない間に何が起きているんだよあいつ等は・・・・・」

 

「さあ、私たちにも分かりかねます。

私たちはドラゴンを見守ることが仕事のようなものですからね」

 

ウリュウが徐に腕を振るった。そしたら空間に裂け目ができた。

その裂け目の向こうには雪が降っている町だった。

 

「直接吸血鬼たちの根城に繋げました。ただし、水面から水の底を覗くような感じですので、

本格的に繋げていません」

 

「え、そんな簡単に吸血鬼たちの根城に繋げられるものなのか?」

 

「ドラゴンのオーラの波動を利用して開いているんですよ。

ドラゴンに関する事なら何でもできますからね」

 

流石だな・・・・・と、裂け目から覗ける向こうの町の様子が―――。

と、思った矢先に、数多の黒いドラゴンが現れて町を襲撃し始めたぞ?

 

「な、なんですって!?」

 

ウリュウも驚く。あの禍々しいオーラは・・・・・邪龍か?

 

『ああ、間違いない。俺たちにとって雑魚だがな』

 

内にいるアジ・ダハーカが肯定の言葉を言う。すると、また俺に話しかけてくる存在がいた。

 

『兵藤一誠、原始龍です。いま、こちらでも吸血鬼の根城に起きていることを確認しています』

 

原始龍、俺はルーマニアに行けれないか?

 

『そのつもりであなたに話しかけたのです。あの邪龍たちを屠ってください。

あれは龍であって龍ではない。吸血鬼たちの成れの果てなのです』

 

一体・・・・・あっちで何が起きている事やら。

分かった。俺たちを吸血鬼たちの根城に転送してくれ。

 

『分かりました。では―――』

 

俺の足元を中心に魔方陣が展開した。ヴァン、ルクシャナ、リース、ティファニア、

カリンも魔方陣の光に包まれ始めた。

 

「はっ?ちょっと待って!まだ、さっきの映像に移っていたドラゴンを倒すんなら俺も行くぞ!」

 

ナツ・ドラグニルが魔方陣に入ってきた。って、おい!?

 

「帰りがもっと先になっちまうぞ!?」

 

「だーいじょうぶだって、お前が俺たちを送ってくれればそれでいいんだからな」

 

「そ、そういう問題じゃないだろう?」

 

「いや、そういう問題だと私は思うぞ?」

 

エルザ・スカーレットまで!いや、グレイ・フルバスターやルーシィ・ハートフィリアもか!

ハッピーも!?

 

「待って!こんなお別れはいや!私も行く!」

 

「・・・・・行く」

 

と、シャルロットやジョゼットまで!流石にこの二人はダメだろう!?

魔方陣から追い出そうとしたが一足遅く、魔方陣が俺たちをルーマニアへ転送してしまった。

 

―――○●○―――

 

―――和樹side―――

 

リゼヴィム・リヴァン・ルシファー・・・・・・!何てことをしてくれたんだ!

男尊派のツェペシュ派の町が大量の量産型邪龍に破壊尽くされている。

ギャスパーくんの幼馴染のハーフヴァンパイアの子を助けようと尽力を尽くした。

でも、よりによって亜種で三セットの神滅具(ロンギヌス)だったなんて。

それをあの悪魔が一つを奪ってその上、弱点のない肉体を願った吸血鬼たちを量産型の邪龍に

変化するようにも仕組んでいた。

 

「うひゃひゃひゃっ!どんどん暴れちゃえー!」

 

「リゼヴィム・・・・・!」

 

「おっと、近づけさせないよ?」

 

一誠の父親、誠さんが立ちはだかる。それに母親の一香さんも。

この二人が僕たちに対する絶対の絶壁と言える。この二人と・・・・・。

 

「・・・・・」

 

謎の少女をどうにかしない限り、リゼヴィムには近づくことができない!

 

「リゼヴィム!一誠の仇を取らせてもらう!」

 

「およよ?死んだ坊ちゃんのことをまーだ好きなのかい?」

 

「当たり前だ!あいつは私を救ってくれた唯一の存在・・・・・!

それを、私は彼の傍にいてやらず死なせてしまったんだ・・・・・!

お前たちの手で一誠が死んだ!」

 

「うひゃひゃひゃ、ヴァーリちゃんが泣くなんて久し振りだねぇ?

お爺ちゃん、ナデナデして慰めたいかも!」

 

軽い口調でリゼヴィムはそう言う。

 

「この、イッセーくんの恨みを晴らすわ!」

 

イリナが青白い六対十二枚の翼を展開して、レーザービームのような青白い光を放った。

その攻撃は誠さんと一香さんが守るかと思ったら。

 

「って、どうして守ってくれないの!?

お願い、僕ちゃんを守って!このままじゃ死んじゃうぅっ!」

 

あろうことか、リゼヴィムアから離れて回避した。

―――でも、彼女の攻撃はリゼヴィムには届かなかった。

 

「なーんてね♪うひゃひゃっ!」

 

『―――――っ!?』

 

イッセーの神滅具(ロンギヌス)が効かない・・・・・!?

どういうことなのだと、僕が思っているとアザゼルが口を開いた。

 

「あの野郎は超越者の一人だ。―――『神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)』って、

神器(セイクリッド・ギア)によるいかなる特性。神器(セイクリッド・ギア)によって底上げされた全ての能力が

効かないんだ・・・・・ッ。だから、イッセーの神滅具(ロンギヌス)神器(セイクリッド・ギア)である以上は、

リゼヴィムに一切ダメージを与えることはできない!」

 

ちょっと待って、それじゃ・・・・・ここにいる神器(セイクリッド・ギア)の所有者は

リゼヴィムに攻撃を無効化されるってことじゃないか!

 

「・・・・・およ?」

 

不意にリゼヴィムが展開した立体映像を見て首を傾げた。どうしたんだ?

と、僕も怪訝に首を傾げ、立体映像を見ると・・・・・映像に真紅の龍が映っていた。

・・・・・ガイアさん?でも、一回りほど小さいような・・・・・・。

 

「なーんで、あんなところにグレートレッドがいるんだぁ?」

 

リゼヴィムの疑問に応えるかのように、真紅の龍が口から真紅の光の柱を放って

量産型の邪龍を一掃し始めた。すると、僕たちの足元に巨大な転移型魔方陣が展開し始めた。

 

「気になるし、見にいこっか」

 

あいつがそう言うなり、魔方陣は眩い光を発して弾けていく―――。

 

 

 

 

目を開けると―――そこは夜の風景。度とだ。周囲に目を配る僕たち。

―――あちらこちらに空中を飛びまわる数多くの黒い龍の姿。転移された場所は―――城にある塔の

一つ。その頂上のようだ。町全域を展望できる場所は、真紅の龍の攻撃で

あっという間に屠られていく黒い龍たちを見えてしまう。

 

「おい、誰かガイアを呼んだか?」

 

「いえ、呼んでいませんよ」

 

「・・・・・じゃあ、どうしてガイアと似ている真紅の龍がいるんだよ」

 

アザゼルが訝しんだ。―――すると、真紅の龍がこっちに顔を向けてきた。

僕とあのドラゴンの視線がぶつかったと感じたら真紅の龍は翼を羽ばたかせ、

黒い龍たちを倒しながら迫ってきた。

 

「―――ほう、私の下僕に相応しい奴がいるではないか」

 

リゼヴィムの隣にいた謎の少女が嬉しそうな笑みを浮かべた。

そして、真紅の龍は僕たちとリゼヴィムたちの間に割る感じで近づいてくると、

 

「皆!」

 

「―――え?」

 

真紅の龍の背中から、ここにいるはずもない少女・・・・・カリンちゃんが顔を出してきた。

ど、どうして彼女がここに!?たしか、故郷に帰ったんじゃなかった!?

 

「カ、カリンさん?どうしてあなたがここに?

いえ、そもそも・・・・・真紅の龍に乗っているんですか?」

 

―――それだけじゃなかった。真紅の龍から続々と顔を出す人物たちが現れる。

 

「おっ、ロンギヌスチームのやつらがいんぞ!」

 

「久し振りだな」

 

「このような状況でなければ、微笑ましい光景だったろうに」

 

「さっさと倒しちゃいましょうよ!」

 

次期人王決定戦で出会ったあの時の人たちがいた!さらに、

 

「さ、寒い・・・・・」

 

「しょうがないわよ。今の時期は冬なんだし・・・・・同感だけどね」

 

「・・・・・私は平気」

 

「うん、私も寒いわ」

 

「・・・・・寒いわ」

 

「リゼヴィム・・・・・・!」

 

見知らぬ少女たちもいた。一人だけ激しくリゼヴィムに睨んでいたけど・・・・・。

中には驚くべき人物もいた。

 

「おー、こんなところで会うなんて、奇遇だなぁアザゼル?」

 

「―――ヴァン!?」

 

そう、一誠の両親を殺したと一斉に言い聞かせていた堕天使の女までもいたんだ。

 

「なんだ、あの面子は・・・・・・」

 

「カリンと一緒にいると言うことは・・・・・・知り合いのようだな」

 

「エルフもいるわよ?でも、どうしてあの人が一緒に・・・・・」

 

皆も困惑している。その中で堕天使のヴァンが真紅の龍から降りて来てアザゼルの隣に寄った。

 

「おい、どうしてお前がここにいる。そして、あの真紅の龍は何なんだ?」

 

「まあー、色々と遭ってな?私たちは一緒にここまで来たわけだ。

―――丁度、探し求めていた悪魔もいるわけだしな」

 

そう言って光の槍を投げ放った。が、誠さんが持つ剣によって弾かれた。

 

「また会ったな、誠」

 

「そうだね。久し振りだ。でも、気になるね。その龍は一体誰なんだい?」

 

「―――こいつを見れば分かるんじゃねぇか?」

 

ヴァンが意地の悪い笑みを浮かべた。その瞬間、一つの魔方陣が展開して、

その魔方陣から―――上半身が人間、背中に黒い翼、下半身が蛇のような体の生物が出現した。

 

『―――――っ!?』

 

その生物には一度だけだけど、確かに見覚えがあった。だって、そうでしょう?

―――ドラゴンに対する絶対的な悪意を持つ元は天使であり、

ドラゴンであり、堕天使でもある『龍喰者(ドラゴン・イーター)』サマエル!

 

「あれれ?サマエルじゃん。どーしてここにいるんだ?

坊ちゃんを殺した後、捨てたんだけどなぁ?」

 

「―――俺が拾ったんだよ。リゼヴィム」

 

真紅の龍が初めて口にした。・・・・・・この声・・・・・・。

 

「・・・・・おい・・・・・まさか・・・・・」

 

アザゼルが信じられないと面持ちで呟いた。真紅の龍は一瞬の光を放った。

光に包まれた龍は見る見るうちに小さくなり、人の形へとなる。

龍の背中に乗っていた人たちは魔方陣の上に乗って佇んでいる。

 

「お前らに殺された後、俺は確かに死んだ。でも―――こうして再び俺は甦った」

 

光が消失し、姿を見せるのは―――腰まで伸びた真紅の髪、金の双眸の少年だった。

だけど、その少年の顔は―――。

 

「イッセー・D・スカーレットとして、俺はお前の前に現れたんだよ。

―――リゼヴィム・リヴァン・ルシファーッ!」

 

「―――一誠・・・・・!」

 

僕の目の前に、僕たちの目の前に、死んだはずの親友がドラゴンの翼を生やして浮遊していた。

信じられない人物にリゼヴィムは目が飛び出そうなほど、驚愕していた。

 

「ええええええええええええええええええええ!?ぼ、坊ちゃん!?嘘、

どうして生きているのさ!?サマエルの呪いと毒で身も心も滅びたんじゃなかったの!?」

 

「俺だけじゃないぞ?」

 

また魔方陣が出現した。そこから―――久し振りに見る『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィスが現れた!

 

「我もいる」

 

「―――オーフィス!?」

 

オーフィスの出現に彼は本物の一誠だと実感できた。だから、リゼヴィムは珍しく呆然となった。

 

「・・・・・坊ちゃん・・・・・・お前、いったい何者さ・・・・・」

 

「言っただろう。イッセー・D・スカーレットだって」

 

容姿も名前も変わっている。

でも・・・・・僕たちの目の前に紛れもなく親友が生きて姿を現している・・・・・!

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode18

 

「お、おい!本当にお前はイッセーなのか!?」

 

アザゼルが近寄って信じられない者を見る目で問いかけてきた。

俺がそうだと証拠にどこからともかく鎖を取り出して、アザゼルを縛ろうとする。

あいつは慌てて避ける。

 

「・・・・・間違いねぇ。この理不尽に縛ろうとする行動をする奴は一人しかいねえ!」

 

「理解してくれてありがとうよ。

色々と積もる話もあるが・・・・・まずは、目の前の敵を倒すことに集中しよう」

 

「ああ・・・・・・ああ・・・・・・そうだな・・・・・!」

 

なに泣いているんだよ・・・・・。お前らしくないなアザゼル。

 

「まさか、一誠が甦っていただなんてな」

 

「本当、ビックリしたわ」

 

父さんと母さんが近づいてきた。

 

「今度は確実に殺そう」

 

「私たちの手で」

 

「・・・・・」

 

俺は両親に対して両腕を広げた。

 

「もう、前の俺じゃないんだよ。父さんと母さん。―――(ロック)

 

と、そう言った直後、ジャラッ!と二人の周囲の空間に穴が開いてそこから鎖が飛び出し、

瞬時で拘束した。

 

「っ!?この鎖は・・・・・!」

 

「うっ、外れないなんて・・・・・!」

 

「俺の新しい家族の力はどうだ?なんか知らないけど、俺の中で封印されていたんだよね」

 

「そうか・・・・・あのドラゴンの封印を解いたのか」

 

どうやら、父さんたちは知っていたんだな。二人に近づき手を伸ばした―――。

 

「リリスちゃん!二人を助けてちょうだいな!」

 

「っ!」

 

その時だった。黒い髪に金色の瞳、褐色肌を包む黒い浴衣の少女が音もなく

俺の目の前に現れるどころか、拘束していた二人の鎖を解いた。

 

「うひゃひゃひゃ、その子は坊ちゃんと龍神ちゃんの力から生まれたドラゴンだぜ?

力はオーフィスと同じ無限。さーて、どう戦うのかなー坊ちゃん?」

 

「俺とオーフィスの力・・・・・」

 

肯定と頷く少女。

 

「そうだよ、兵藤一誠。こうして会うのは初めてだな。私はリリス。以後よろしく頼むぞ。

我が下僕となる者よ」

 

げ、下僕って・・・・・。

 

「先ほどの高速の縛りは見事だった。私も相手を拘束することが好きでな。

やはり、お前の影響も受け継いでいるようだな」

 

「そうなんだ?じゃあ、ある意味俺とオーフィスの子供と言うわけか。

俺自身、ガイアとオーフィスの子供みたいなもんだし」

 

腕に真紅の鱗が覆い、ドラゴンと化する。

 

「―――イッセー、お前・・・・・ドラゴンになっていやがったのか」

 

「色々と遭ってな。この肉体もガイアが俺の前の肉体のベースで作ったものなんだ。

人型のドラゴン。それが今の俺さ。―――デュリオ!」

 

「はいっす」

 

とある方へ指を差した。

 

「あっちの方角にも邪龍がいる。サマエルと一緒にお前の力で一掃してくれないか?」

 

「いいっすよ。んじゃ、ちょっくら行って来ますね」

 

デュリオ・ジェズアルドはそう言って金色の翼を羽ばたかせてサマエルと共に

俺が指した方角へ向かって行った。

 

「・・・・・どうしてあいつと一緒にいるのかも気になるところだが?」

 

「後で説明するって。―――ここにユーグリットはいないのか?」

 

辺りを見渡してもいない。ので、尋ねると首を横に振られた。

 

「そっか、しょうがないな。んじゃ、やるか」

 

金色の錫杖を虚空から出して錫杖自身を軍杖へと姿を変え、呪文を唱えた。

そうすることで俺も含めて十一人が増えた。

 

「っ!なんだ、その力は!?イッセーが分身したぞ!」

 

「―――ハルケギニアの魔法だよ」

 

アザゼルが驚く中、父さんがそう言ってきた。

 

「一誠。お前はハルケギニアにいたんだな?

その魔法と呪文はハルケギニア特有の風魔法の上位魔法だ」

 

「ああ、そうだよお父さん。俺はハルケギニアに行っていたんだ。

そこでダンジョンを攻略もしていた」

 

「ダンジョンを?まさか、全て攻略したっていうのか?」

 

その問いに肯定と頷く。父さんたちはしなかったのか?

 

「―――なるほど、俺たちもダンジョン攻略したかったなぁ。

あの時の時代は攻略しようとすらしなかったからできなかったけど」

 

「結構シビアな試練ばかりだったよ。入った瞬間に水の中とか有り得ないって」

 

分身たちに指示を送る。全員、全身を真紅の鱗に覆われドラゴンと化となる。

 

「そんなことまでできるのか」

 

「便利だよなこの魔法は。力も変わらない俺が十人以上いるんだからな。―――いけ」

 

刹那。真紅の光を残して宙を移動する俺の分身たち。父さんたちでも少しは手間取るだろう。

 

「さてと」

 

フッと姿を暗まして―――リゼヴィムの背後に姿を現す。

 

「うげっ!?何時の間に―――!」

 

「お前には色々としてくれやがったからな。そのお礼をここでさせてもらう」

 

ドゴンッ!

 

「うぎゃあああああああああああああああああっ!」

 

真紅の拳が狙いを違わずリゼヴィムの頬にヒットし、下へと吹っ飛んで行った。

 

ジャラララッ!

 

俺の全身に鎖が巻かれていく。

 

「お前は私の下僕だ!」

 

「こ・と・わ・る!」

 

完全に縛られる前に移動してリリスと言う少女に拳を突き出す。

俺の拳をリリスは容易く受け止めた。

 

「っ・・・・・流石に真龍と龍神の子供と言うだけあるな。力が凄まじいぞ」

 

じゃあ、こいつも食らえよ。背中に背負っている大剣を掴んで前に振り下ろした。

 

ズバッ!

 

「―――――っ!?」

 

浅い・・・・・!かすり傷程度か・・・・・でも、それでも効果はある。

 

「ぐ・・・・・その大剣・・・・・ただの剣ではないな。掠った程度でこの痛みだぞ・・・・・」

 

苦痛に顔を歪めて、掠ったところを抑えて俺から離れるリリス。大剣を前に突き付ける。

 

「こいつは龍を封印するために造られた大剣だそうだ。―――封龍剣『神滅龍一門』―――」

 

「なんだと・・・・・」

 

俺は動きだす。

 

「俺たちドラゴンにとって最悪の力が宿った剣だ。

―――串刺ししたらいくらお前でもただでは済まないぞ!」

 

―――アザゼルside―――

 

あの野郎・・・・・甦っただけじゃなくてパワーアップもしているじゃねぇか・・・・・ッ。

何て奴だよ、お前は・・・・・!分身のイッセーたちは誠たちを若干押している。

どうやら神滅具(ロンギヌス)の能力を発動できないようだが、それでもあいつは強い。

と、このことを他の奴らに教えないとな。魔方陣を展開し、とある奴に通信をした。

しばらくして、魔方陣に立体映像のように浮かび上がるサーゼクス。

 

『アザゼル、どうしたんだい?』

 

「よう、サーゼクス。アレ、誰だか分かるか?」

 

イッセーとリリスを見せるように魔方陣を動かす。

ところが、二人を知らないサーゼクスは首を傾げた。

 

『・・・・・誰だい?』

 

「真紅の髪の奴は―――兵藤一誠だ」

 

『―――――っ』

 

サーゼクスが珍しく目を丸くした。そりゃそうだろう。

今の今まで死んだと思っていた奴が俺たちの目の前で戦っているんだからな。

 

『・・・・・・本当か。彼は、イッセーくんなのかい?』

 

「ああ、元の髪の色と人間じゃなくなっているが、正真正銘、兵藤一誠だよ。

―――おい、イッセー!」

 

俺も嬉しそうに笑みを浮かべ、あいつを呼ぶと。

 

「なんだ、こっちは忙しいんだぞ!」

 

そう言うも俺の方に来てくれるお前は、まだ余裕があるってことか。

そんで、サーゼクスが映っている魔方陣を突き出す。

 

「・・・・・って、どうしてサーゼクスと通信しているんだこんな時に」

 

『・・・・・本当に、イッセーくんかい?』

 

「ああ、髪の色と瞳の色が違うけど確かに兵藤一誠だ。もうその名前は捨てたけど」

 

名前を捨てようがどうしようが、お前はお前だぞイッセー?

 

『そうか・・・・・良かった・・・・・―――すぐに魔王さまたちに伝えるよ』

 

それだけ言って、あいつが通信を切りやがった。

 

「なんなんだ?」

 

「くくく、さあな。ほら、さっさと戦って来い」

 

「・・・・・人を呼んでおいてそれかよ。後で縛ってやる」

 

―――サーゼクスside―――

 

アザゼルに見せられたイッセーくんの生存。私は嬉しい気持ちを抑えきれず、

彼と交流を持っている魔王さまたちや神王さまに一斉に通信を入れる。

少しして魔方陣から様々な人物たちの立体映像が浮かび上がる。

 

『おう、どうしたんだサーゼクス坊』

 

『あなたから通信を入れるなんて、何かあったの?』

 

「はい、先程アザゼルから知らされた事実を皆さんにもお伝えしようと思いまして」

 

早く、早く彼の存在を教えたい。そう思いが一杯で魔王さまが口を開こうとしたところで

私は言った。

 

「兵藤一誠くんの生存を確認しました。彼は甦っておりました」

 

真っ直ぐ魔王さまたちに告げた。その後、沈黙が続いた。

 

『・・・・・悪い、いま信じられないことを聞いたような気がするんだが』

 

「事実です神王さま。彼は、兵藤一誠くんは生きております」

 

『・・・・・その話しは本当だろうな?』

 

証拠とばかり、先ほどの通信の記録を魔王さまたちに見せた。そして、目を丸くした。

 

『・・・・・間違いねぇ・・・・・一誠殿じゃねぇかっ!』

 

『イッセーくん・・・・・ああ・・・・・・!』

 

『良かった。彼は甦ったいたんだな。本当に・・・・・!』

 

『すぐにネリネちゃんたちに伝えなきゃ!』

 

『俺はシアにだぜ!』

 

様々な反応をした後、通信が次々と切れていく。彼の存在を伝えるためだろう。

 

―――フォーベシイside―――

 

「ネリネちゃああああああああああんっ!」

 

冥界から飛んで帰るように私は人間界の家に帰った。

すぐに愛しいネリネちゃんの部屋に飛び込んだ。

 

「・・・・・」

 

部屋にネリネちゃんはボーと部屋の中にいた。その傍にはリコリスちゃんもいる。丁度良い。

二人の娘の肩を掴んで嬉しそうに言う。

 

「聞いておくれ、イッセーちゃんが生きていたよ!」

 

「「・・・・・」」

 

あ、あれ?反応が薄いね・・・・・。そうだ、アザゼルちゃんが見せてくれた記録を!

そう思い、魔方陣を展開して愛しい娘たちに見せた。

 

「・・・・・イッセー・・・・・さま・・・・・」

 

「―――――っ!」

 

彼の死にショックを受け、声を失っていたはずのネリネちゃんが声を発した!

 

「イッセーさまが・・・・・生きている・・・・・・?」

 

私は娘たちを強く抱きしめた。

 

「ああ、ああ!イッセーちゃんは生きていたんだよ!

だから、彼が帰ってくるのを彼の家で待とうじゃないか!」

 

 

―――ユーストマside―――

 

 

「シアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!キキョオオオオオオオオオオオオオウッ!」

 

娘がいる部屋へ俺は豪快に駆けだす!そして、辿り着くや否や豪快に開けて中に入る!

 

「きゃあああああああっ!」

 

そこは下着姿の娘たちがいた―――!俺を追いだそうと何時の間にか掴んでいた椅子を

俺に振ってきた。だが―――!

 

「ぬんどりゃあああ!」

 

俺の拳一つで椅子を粉砕してやった!今までしたこともないことを俺がしたもんだから、

二人は目を丸くした。そんな娘たちの肩を掴んで、俺は言った。

 

「お前ら!一誠殿が生きていたぞ!間違いねぇ、あの顔は一誠殿だ!」

 

「・・・・・嘘、イッセーくんが生きている?」

 

「・・・・・冗談にもほどがあるわよ」

 

「嘘でも冗談でもねぇっ!ほら、こいつを見やがれ!」

 

サーゼクス坊から見せられた映像の記録を見せた。

そしたらどうだ、シアとキキョウの目が大きく開いたじゃないか。

 

「イッセーくん・・・・・!」

 

「・・・・・」

 

二人の反応に俺は笑みを浮かべた。

 

「今すぐ一誠殿の家に言って迎えてやろうじゃないか!一誠殿が帰ってくるまでにな!」

 

「うん・・・・・うん!」

 

「・・・・・そうね。そのまえにやらないといけないことがあるから、それが終わってからね」

 

キキョウの手に高密度に圧縮された魔力の塊が―――。キキョウの可愛い笑みと共に俺へ放たれた。

 

―――一誠side―――

 

「さっさと封印されろ!」

 

「私の下僕となれ!」

 

「「誰がだ!」」

 

ある意味低レベルな言い合いをしながらリリスと激しく戦いを繰り広げていた。

 

「というか、どうして下僕にしたがる?」

 

「決まっているだろう?気に入ったものを自分の手元に置きたいではないか」

 

「あー、分からないわけじゃないな」

 

「ふふっ、やはり私はお前の力を受け継いだものだと実感するよ。なぁ―――パーパ♪」

 

「誰がパパだ!?」

 

ブオンと渾身の一撃を振るったが、

 

「おおおおおっとおおおおおおおおおお!?」

 

チッ、リリスは全力の紙一重で避けやがった。

まだ子供を作っていないのにこの歳でパパなんて言われたくない!逆から言えるけどな!

 

「危ないではないか!私を殺す気か!?」

 

「無限なんだろう?死にはしないさ。オーフィスと同じならばな」

 

「仮に自分の力から生まれた者に対して酷くないか?」

 

「そう思うなら、今すぐこっちに来いよ。家族として歓迎するぞ」

 

「だが、断わる!」

 

あら、断われちゃったよ。ちょっと、ショックだな・・・・・。

 

「―――おや、これは驚きですね」

 

俺の誘いを断ったリリスの真上から銀髪の青年が降りてきた。―――ユーグリット・ルキフグス。

 

「まさか、兵藤一誠が甦っていたとは・・・・・サマエルの毒と呪いは効いていなかったと?」

 

「いや、肉体が滅んだからな。かなり効いたぞ。

でも、対処方法があったから魂だけは無事だっただけに過ぎない」

 

「・・・・・なるほど、肉体が滅ぶ前に魂だけとなって生き延びたと。

それなら、別の肉体に定着すれば確かに生きれますね」

 

こいつ、よく分かったな。そこまで言っていないのによ。

 

「では、兵藤一誠が甦った記念として良いモノをみせましょうか」

 

そう言って魔方陣から何か取りだした。―――ベルトだ。そのベルトを腰に巻き付けた。

そして赤い三つのメダルをベルトに差し込んだ―――って、あれは―――!?

 

「変身!」

 

『グレートレッド!』『ドライグ!』『フェニックス!』

 

『グッドクッス、グドックッス、グッドクッス!』

 

ユーグリットが赤いオーラに包まれ―――赤い全身鎧を纏った。頭部に立派な赤い角、

腕には『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』、背中と腰辺りに燃える翼と尾羽が―――!

 

「これはあなたが最後に遺した子供向けの玩具でしたね?

ですが、これを我々は戦闘用に作り変え、実用化に至るまでにできたんですよ」

 

「おいおい・・・・・そんなことされたら販売できなくなるじゃないか」

 

「因みに全種類のメダルも持っていますよ?」

 

「ほら」と本当に全ての種類のメダルを見せてくれた。・・・・・何気に持っているんだな。

あれ、製造の制限をしているつもりだったんだけど。

 

「ふふっ、この姿の名を『真なる不死の龍』と名付けましょうか。お気に入りの姿ですしね」

 

「本当に不死でも、倒す方法はある」

 

左手に魔力、右手に気を出して融合する。―――感卦法。

 

「そんで、俺もようやく相反する力を融合することもできるようだ」

 

「ほう?」

 

背中に『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』、

左手に『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を装着し―――。

赤と白のオーラを全身に纏う。

 

禁手化(バランス・ブレイク)ッ!」

 

と力強く発した。俺の全身から出ている赤と白のオーラは鎧と化となって俺を包んでいく。

 

「―――『二天龍の鎧(ツー・ザ・スカイ・スケイルメイル)』」

 

赤と白が基調とした全身鎧。不恰好だろうが、能力は凄まじいだろうな。

 

「―――奪った白龍皇と赤龍帝の力を融合させたと言うのですか」

 

「ああ、そうだ。前から考えていた力だけど、相反するからかなり苦労した。

でも、俺がドラゴンとなって最近、できるんじゃないかって思ってな。

ぶっつけ本番だが、成功したようだ」

 

「・・・・・あなたはやはり、他の周りとは何かが違う。

ですが、今の私は不死の力を得た真龍と赤龍帝の力を持った存在です。

真龍を未だに勝てないあなたは私に勝てるでしょうか?」

 

その問いに俺は口の端を吊り上げた。

 

「―――だったら、その真龍の力を纏えばいいだけの話しだ。龍神の力もな?」

 

徐に腕を上に向け、レーザービーム状の真紅の光を放った。

 

「俺のもとに来い、愛しい真紅の龍、ガイアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

真紅の光は空間を歪ませた。グニャリと渦を描きながら空間を歪ませ続けていると―――歪んだ

空間が忽然と開き、開いた空間の向こうから真紅の体のドラゴンが現れた。

それを見て俺は鎧を解除して呪文を呟いた。

 

「我、夢幻と龍神の子の者なり」

 

『我、夢幻を司る真龍「真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)」グレートレッドなり』

 

「我、無限を司る龍神「無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)」オーフィスなり」

 

『我は無限を認め、夢幻の力で我は汝を誘い』

 

「我は夢幻を認め、無限の力で我は汝を葬り」

 

『我らは認めし者と共に生く!』

 

「我らは認めし者と共に歩む!」

 

2人の呪文のような言葉の後に俺も呪文を唱えた。

 

「我は夢幻を司る真龍と無限を司る龍神に認められし者。

我は愛すべき真龍と龍神と共に我等は真なる神の龍と成り―――」

 

「「『我等の力で全ての敵を倒す!我等の力で汝等を救済しよう!』」」

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!

 

眩い深紅と黒の閃光が辺り一面に広がっていく。そして、閃光が止んだ時。

周りから見れば、俺は深紅と漆黒の二色のドラゴンの姿を模した全身鎧(プレート・アーマー)

立派な角が生えた頭部、胸に龍の顔と思われるものが有り、

特に胸の龍の顔は意思を持っているかのように金と黒の瞳を輝かせる。

瞳は、垂直のスリット状に黒と金のオッドアイになっていて、

腰にまで伸びた深紅と黒色が入り混じった髪をしている。

 

「―――この鎧を纏うのも久し振りだな」

 

『一誠。この戦いを終えたら全て教えろよ』

 

「悪かったな。ガイア・・・・・そして、この体を作ってくれてありがとう」

 

『・・・・・バカ』

 

はは、怒られちゃったな。まあ、いまは―――あいつらを倒そうか。

 

「夢幻と無限の融合鎧・・・・・それを目の当たりにすると

私の存在がちっぽけだと思わされますね」

 

「だろう?さて、お前からある物を奪ってあいつに返さないとな」

 

「・・・・・何のことでしょうか?」

 

刹那。リリスを弾き飛ばしてユーグリットの前に現れる。

―――右か。右の籠手を粉砕して手を曝け出した。

右手の中指に嵌められた紫の宝石の指輪を見つけた。

 

「そいつか」

 

「―――っ」

 

その指輪を取ろうと腕を動かした時だった。横から黒い影が現れる。

殺意のない一撃から避け、アンドバリンの指輪奪還を断念した。

 

「ふぅ、ようやく倒し終えたよ」

 

「皆、強かったわー」

 

「・・・・・」

 

父さんと母さん・・・・・もう倒したのか。

 

「助かりました」

 

「気にしないでくれ。でも、そろそろ退散したほうがいいと思うよ?」

 

「そうですか、この鎧の力を試したかったのですが・・・・・」

 

「今の息子は強いわよ?もう、何の揺るぎもなく私たちを倒そうとするわ。実の親でもね」

 

姿形はそうだけどな。中身が違うんなら、そうするさ。

 

「ユーグリットっ!」

 

「リゼヴィムさま」

 

「もー、坊ちゃんに殴られたところ、痛くてしょうがないから帰ろうぜー?」

 

今になってリゼヴィムも現れた。だから、ヴァーリが怒る。

 

「リゼヴィムッ!貴様をこの場で殺してやる!」

 

「んーなんだか、うちの孫もしつこそうだな。ここはおいとましようや。

町も大分ぶっ壊したし、帰っぞ、ユーグリットくん、強制転移でよろしく♪」

 

ユーグリットが素早く転移型の魔方陣を空中に展開させた。逃がさないとばかり、

ヴァーリと成神が追撃する。

 

「待て、リゼヴィム!」

 

「てめぇらには一発ぶん殴らないと気が済まねぇっ!」

 

しかし、二者が手元から放った波動はリゼヴィムに直撃した途端に何事もなかったように

霧散していく。―――どういうことだ!?驚きを隠せない俺を余所に、

リゼヴィムは指を左右に振ってチッチッチッと舐めたようにする。

 

「残念♪その力が神器(セイクリッド・ギア)に関わっている以上、俺には効かないぜ?

んじゃね♪また盛大にテロっすから応援してくださーい!

今度も伝説の邪龍くんをつれてくるよ!」

 

神器(セイクリッド・ギア)の攻撃は効かない・・・・・!?

神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)だというのか!?

本当にそうだったらここにいる神器(セイクリッド・ギア)持ちの皆の攻撃は一切、リゼヴィムに

通用しないという事になるじゃないか!

転移の光に消えていくなかでリゼヴィムは最後に宣言する。

 

「あ、そうだ。俺たちの名だ。―――『クリフォト』。いい名だろう?

『生命の樹セフィロト』の逆位置を示すものだ。セフィロトの名を冠する

聖杯を悪用するってことで名付けて見た。悪の勢力って意味合いもあるよねん♪ちゃお☆」

 

リゼヴィム、ユーグリット、リリス、父さんと母さんたちはジャンプの光に消えていった―――。

最後の瞬間、リリスは俺に視線を送っていた・・・・・。

 

「また会おう」

 

と、口を動かしてもいた―――。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode19

 

吸血鬼の根城で暴れていた邪龍たちを全て駆逐し、

その元凶と思しきリゼヴィム・リヴァン・ルシファーが率いる『クリフォト』が撤退して

破壊された町ともう一つの町も破壊される前の頃に戻して建物を治してすぐのこと。

久し振りに再会した皆に―――土下座されていた。

 

「なあ・・・・・どうして俺は土下座なんだ?」

 

しかも膝から伝わる雪の冷たさはしょうがないほど感じる。普通に立って言いたいのに、

何故かそれを許してくれない。

 

「イッセー・・・・・ここは感動の再開で涙を流すところなんでしょうけど」

 

「うん、俺もそう思っているけど」

 

「ごめんなさい・・・・・あなたと共にいる少女たちの存在でそれができないわ」

 

ですよねー。リアス・グレモリーが溜息を吐いた。

 

「イッセー、どうして見知らぬ女の子たちと一緒なのよ・・・・・こっちは悲しい

思いをしていたのに」

 

「ハルケギニアでなにをしていたのさ?」

 

「どうして、すぐに私たちのところに来てくれなかったのだ?」

 

次々と俺に追求してくる皆!ううう・・・・・こっちだって事情があるんだよぉ・・・・・。

 

「―――お前たち、イッセーにも事情があるのだ。そろそろ責めるのを止めろ」

 

エルザ・スカーレットが俺をフォローしてくれた!

 

「・・・・・なんですって?」

 

「・・・・・別に責めていません」

 

「その態度と口調が物語っているぞ。

その上、雪の上に土下座など久し振りに再会した家族にさせることか?

お前たち家族の絆というものはその程度か?」

 

『・・・・・』

 

「お前たちもイッセーのことを思っているようにイッセーもお前たちのことを思っていた。

それはここにいる私たちが知っている」

 

徐に俺の襟を掴んで強引に猫の首の肉を掴んで持ち上げられた。―――俺は猫か!?

というか、どこからその腕力がある!?

 

「お前たちが何時までもその態度でいるならば―――私はイッセーをフィオーレ王国に連れていく」

 

・・・・・・・・・。

 

え?

 

『ええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?』

 

この場にいる全員が驚愕の声と目を大きく見開いた。

 

「・・・・・なんでそうなる?」

 

「正直に言おう。私はお前が気に入った。何より私とナツを倒したんだからな。

だから、お前をフェアリーテイルに入れるのもいいだろう?

お前のギルド加入に反対する者はきっといない」

 

真顔で言われちゃったよ。でも、待ってくれよ。ここにそれを反対する奴らが大勢いる―――。

 

「ちょっと待ちなさいよ。イッセーは私の使い魔(・・・)よ?勝手に連れて行かないでちょうだい」

 

「同時にお前も使い魔なのだろう?良いではないか、お前も来れば問題ない」

 

「・・・・・確かにそうね。蛮人と使い魔って一心同体って聞くし、

私もついて行けば何の問題ない?寧ろ、違う国の蛮人の私生活や文化を見聞できる・・・・・」

 

あれ、あっという間に話が終わった!?こんなにあっさりと!?

 

「―――使い魔?」

 

「―――一心同体?」

 

「あ」

 

やべ・・・・・聞かせてならない奴らがいるんだった。

皆の方へ恐る恐ると見れば―――不穏な雰囲気を感じさせていた。

 

「なあ、一誠。お前は一体違う国でなにをしていたのか

根掘り葉掘り聞かせてもらおうじゃないか?」

 

「私たちが悲しんでいる最中。あなたは新しい女を作り続けているなんて・・・・・」

 

「・・・・・酷い」

 

「お前・・・・・部長を泣かせておいて最低だな」

 

「すまない、一誠。流石の私も・・・・・な?」

 

あれ・・・・・皆、どうして手に濃高密度の魔力を出しているの?

ガイアまでもそうだし・・・・・

 

『・・・・・もう一回、死んでみる?』

 

「―――」

 

魔力を放てる家族が俺に向かって放たれた―――!エルザ・スカーレットを金色の膜で守って

俺は皆の攻撃をあえて受けようとしたその時だった。

俺に向かっていた全ての魔力が忽然と消失した。

 

「まったく、どいつもこいつも兵藤一誠の事情も知らないで魔力を放つとは―――呆れて

何も言えませんね」

 

フッと虚空から―――人間界に干渉しないと言った本人が、原始龍が姿を現した。翡翠の角を、

緑色の髪から突き出ていて、水色を基調としたドレスを身に包んでの登場だ。

メイドであるウリュウもいた。

 

「・・・・・誰だ。お前は」

 

「グレートレッド、こうして会うのは初めてですが怒りを抑えなさい。

それでも、彼と愛し合ったドラゴンなのですか?」

 

―――刹那。ガイアが、勝手に正座した。

 

「ぐうっ!?」

 

「なっ、ガイアさん!?」

 

「ドライグ、アルビオン、あなたたちもです」

 

成神一成とヴァーリまで勝手に正座をし始めた。

 

「な、なんだ・・・・・!体が勝手に・・・・・・!」

 

「体が言うことを効かない・・・・・っ」

 

二人の言葉に驚きを禁じ得なかった。二天龍の二人はともかく、

あのガイアが跪いているなんて・・・・・。

 

「き、貴様は一体・・・・・・!」

 

「貴様ではなく、あなたと訂正して言いなさいグレートレッド?」

 

「あ、あなたは一体・・・・・。―――!?」

 

言った本人にも驚愕の色を浮かべ出した。

原始龍・・・・・ドラゴンに対する効力がここまでなのか・・・・・。

 

「おい、お前・・・・・こいつらに何しやがっている」

 

アザゼルが警戒の色を浮かべ光の槍を突き付けた。対して涼しい顔で原始龍は言った。

 

「ちょっとしたお仕置きです。ファフニール、動こうとしないでくださいね?」

 

「っ!」

 

龍牙が直立不振となった。それから原始龍が咳を一つして口を開いた。

 

「私は最初のドラゴンでありドラゴンの祖。原始龍と申します。以御お見知りおきを」

 

「―――原始龍だと?」

 

そう呟いた後アザゼルは俺に顔を向けてきた。

なにを言いたいのか分かっているからコクリと頷いた。

 

「ああ、彼女は原始龍だ。彼女の自己紹介の通り、地球が生まれて最初に誕生したドラゴンで、

全てのドラゴンの祖だ。アザゼル、本当に存在していたんだよ」

 

「・・・・・マジかよ。そんなドラゴンがどうして―――いや、

まさか・・・・・イッセーを甦らせたのは原始龍だというのか?」

 

「正確には魂だけ私たちドラゴンの世界に召喚しました。

肉体はサマエルの毒と呪いで滅びかかっておりましたので」

 

彼女の言葉に肯定と頷いた。さらに口を開いた。

 

「俺がこうして甦ったのは原始龍の存在のおかげ。

そして、俺が皆のところに戻らずハルケギニアに行っていた理由も

原始龍と関わっている話なんだ。原始龍、ガイアたちを許してくれ」

 

「・・・・・少し、物足りないですがいいでしょう」

 

そう言った直後、三人が顔を上げれるようになった。

各々と立ち上がって、原始龍に警戒する。

 

「最初に生まれたドラゴンって・・・・・・」

 

「そんなドラゴン、我は知らんぞ」

 

「当然です。私は異界からこの人間界に住むドラゴンたちの様子を見ていたのですからね。

グレートレッド、ドライグ、アルビオン、五大龍王、邪龍と全てのドラゴンは

私から生まれた存在ですから見守る義務があります」

 

「―――我の親だと言いたいのか」

 

原始龍は首を横に振った。

 

「また正確に言えば私は龍を生みだす世界が生んだシステム。

実際に親と言う存在ではないですが、

それでも全てのドラゴンの長として君臨しています。

とは言っても、真龍や龍神のような力はないですがね」

 

「さっき赤龍帝と白龍皇、真龍のこいつらを正座させたのはドラゴンの長としての力か?」

 

「物理的な力の攻撃は皆無ですけど、相手をそうさせる絶対的な言葉の力を有しており、

砕いて言えば言霊みたいな感じでドラゴンを従わせているのです」

 

「・・・・・ドラゴンだけ効く力か。厄介だな、その力は」

 

「ドラゴンにしか効果がないので、堕天使の総督に攻撃されれば私は一溜まりもありません。

まあ・・・・・」

 

不意に、俺の背後から気配を感じ始めた。後ろに振り返れば―――空間が大きく横に開いていて、

こっちを見ている複数の巨大なドラゴンたちが顔を覗かせている。

 

「私には一族がおりますのでその者たちに任せます」

 

『・・・・・っ』

 

皆が顔を強張らせた。蛇に睨まれた蛙のようだよ。

 

「さて、私から兵藤一誠のことを説明しましょう。

全ては私が招いたことから起きたことですからね」

 

開いた空間が閉じて、変わりに俺たちの足元に魔方陣が展開した。

そして、魔方陣の光は俺たちを包んで―――弾いた。

 

 

 

 

光が止む頃には俺は、懐かしい自分の家の前に立っていた。他の皆も一緒だ。

 

「さあ、中に入りましょう。全てお話しします」

 

「・・・・・分かった」

 

怪訝な面持でガイアが先に家の中へ入っていった。彼女に続き、他の皆も入る。俺たちもだ。

皆に続いて、リビングキッチンに侵入すると―――。

 

『・・・・・』

 

ああ・・・・・久し振りに見る皆の顔がそこにあった。俺と視線と合って数秒後。

俺の名前を言いながら皆、駆け寄ってきて抱きついてきた。

ルーマニアで再会したガイアたちと真逆の反応で波をを流して感動の再会を分かち合った。

 

「一誠殿ぉぉぉおおおおおおおおおっ!」

 

「一誠ちゃあああああああああああんっ!」

 

うん、このバカ親どもも懐かしいな!

 

「このヒトたちが・・・・・イッセーの家族なんだね」

 

「そーみたいだな」

 

「なんだか、ギルドの皆を思い出すな」

 

「ああ、奴らと同じ雰囲気がここにあるな」

 

「皆、元気にしているかなー」

 

 

―――○●○―――

 

 

皆と再会して数十分ぐらい経った頃、少しばかり落ち着き原始龍から語られる

俺のことを静かに耳を傾けていた面々。全て話し終えると一斉に俺を見てくる。

 

「なるほどなぁ・・・・・一誠殿はハルケギニアの存亡を救ったってことか」

 

「甦らせてくれた恩を返したい想いでいたんだね。うん、一誠ちゃんらしいね」

 

ユーストマとフォーベシイが笑みを浮かべながらそう言った。俺も言う。

 

「使い魔になった理由は、ルクシャナが発動した召喚魔法でハルケギニアに

行ってしまったからなんだ。まあ・・・・・使い魔にする儀式にキスされたけど」

 

『・・・・・なんですって?』

 

「うっ・・・・・物凄い視線が感じるわ・・・・・というか、怖いわよ」

 

鋭い視線もとい鋭い槍のようにルクシャナへ視線を向ける皆。

 

「まあ、それから各国のダンジョンを攻略していくにつれ、仲間を増やしていたんだよ。

この仲間たちがいなきゃ、攻略できなかったダンジョンもあったほどだ」

 

「うん、ダンジョンについては私も体験しているから本当のことだぞ」

 

カリンがフォローしてくれた。

 

「でも、ガイアの肉体で復活するなんてね・・・・・」

 

「そうだ、我が一誠の肉体をベースにしていた肉体が忽然と姿を暗まして驚いたぞ。

それが原始龍が掻っ攫っていたからだとはな・・・・・っ」

 

「あなたが兵藤一誠の新たな肉体を構築していなければ今頃、

本当の意味で龍に転生していましたよ。今でもドラゴンですがね」

 

原始龍に睨むガイアに、ペコリとガイアへお辞儀する原始龍。

確かに今の俺は人型のドラゴンです。はい。心は純粋な人間だけど!

 

「じゃあ、アスカロンを受けたらダメージが食らっていうのか?」

 

「そうだろうな。でも、こっちも似たような武器もあるから負けないぞ?」

 

「それはお前が背負っているその大剣のことだろう?」

 

アザゼルの視線は俺が背負っている大剣に向けられた。

「原始龍から貰ったものだ」と宙に浮かせて伝える。

―――と、木場祐斗が興味津々に俺の大剣を見ていた。

 

「これは聖剣と似ている感じがするね。神々しいオーラを感じるよ」

 

「うん、私も感じるな」

 

ゼノヴィアも同意した。聖剣か?封龍剣だと聞かされていたんだがな。

 

「これまでの兵藤一誠にハルケギニアに眠るドラゴンを、

私たちドラゴンが住んでいる異界に送ってもらうように頼みました。彼でなければ、

ハルケギニアの人間たちは火の海に飲み込まれて死んでいたでしょう」

 

「だから、一誠はハルケギニアにいたわけなんだね」

 

「そこで仲間と友達ができたからな?」

 

『・・・・・』

 

ハルケギニアで出会ったメンバー以外、俺の家族が訝しんだ顔で俺を見る。

甦って悲しんでいる皆を余所に他の女といちゃついていることを根に持っているようだ。

 

「だから、ごめんってば・・・・・。そんな目で見ないでくれよ。

そんなんじゃ、俺は死んだままでいた方が良かったのかよ・・・・・?」

 

「っ・・・・・それは・・・・・」

 

「俺だって罪悪感も感じていたし、早く会いたいと思っていたんだけどな・・・・・」

 

はぁ・・・・・とあからさまに溜息を吐いた。皆、俺から視線を逸らす。

エルザ・スカーレットが俺の肩に手を置きだした。

 

「やはり、イッセーをフィオーレ王国に連れていくべきか?

こうしてイッセーは家族と再会を果たしたし、私たちの国に遊び来る約束した訳だしな」

 

『っ!?』

 

「そう言えばそうだな?んじゃ、このまま一緒に行こうぜイッセー」

 

ナツ・ドラグニル笑みを浮かべてそう言う。が―――。

 

「なら、ガリア王国にあなたを招く」

 

「うん、私もそうしたいわ」

 

シャルロットとジョゼットがそんな提案をし出した。

 

「いえ、私と共に住んでもらうのも悪くないですね。

彼はドラゴン。私の子供みたいな存在ですから」

 

おい、親みたいな存在ではないって言わなかったか?って、

エルザ・スカーレット。また猫のように掴み上げるな!

 

「いいな?」

 

と、彼女は俺の家族にそう言った瞬間。視界が一瞬ブレたと思えば、次に真紅の色に覆われた。

 

「我が許すと思ったか」

 

ガイアの声が間近から聞こえる。何時の間にかエルザ・スカーレットから引き離されていて、

ガイアに抱きしめられていた。

 

「一誠が甦ったことには深く嬉しく思っている。

だから、ようやく再会した愛しい男を再び手放す気はない」

 

「イッセーに攻撃したドラゴンが何を言う?」

 

「・・・・・っ」

 

「嫉妬するのはヒトとして、ドラゴンとして当然だろうが、怒りに任せてイッセーに攻撃する

女をようやく家族と会いたがっていたイッセーはどう思っていたんだろうな」

 

エルザ・スカーレットの言葉はガイアを噤ませるには十分過ぎた。だが―――。

 

「それでも・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「それでも我は・・・・・一誠を手放す気はない」

 

ギュッと俺を抱きしめる腕の力が増した。

 

「こんな気持ちは二度と感じたくない。攻撃したことについては悪いと思っている。

だから・・・・・」

 

俺の顔を覗き込むガイア。俺も彼女の顔を覗きこめば、瞳が悲しみで潤っていた。

 

「一誠、ごめんなさい。もう二度と攻撃なんてしないから、

我から離れないで傍にいて・・・・・」

 

「―――っ!?」

 

いつもの威厳ある口調、威風堂々とした態度しか見たことがない彼女が初めて

普通の女の子のように

言葉を発し、弱弱しく謝罪の言葉をしてきた。驚きのあまり、開いた口が塞がらなっかけど、

次第に落ち着きを取り戻して彼女の頬を添えた。久しく触れた彼女の肌。ほんのりと温かく、

さらさらした真紅の横髪が俺の手の甲に当たる。

 

「俺の心の拠り所はここだ。ガイアやリーラ、皆がいるこの家だ。

自分からここから離れたいと思わないって」

 

「―――――」

 

「言い遅れたけど、ただいま。ガイア」

 

笑みと共にそう言った瞬間。

ガイアがボロボロと涙を流して俺の名前を言ってから―――唇を重ねてきた。

 

『あああああああああああああああああっ!』

 

まあ、案の定。皆が絶叫した。その後、何故か兵藤一誠争奪戦まで勃発したのだった。

ちょ、皆。ここで暴れるなってええええええええええええええ!

 

―――devil side―――

 

「はー、まいったまいった。坊ちゃんが甦るなんて予想外もいいところだぜ」

 

「そうですね。ですが、作戦は達成したのでよろしいのでは?」

 

「うひゃひゃ、ハルケギニアって国に浮かんでいる浮遊している

大地の強奪しにいったシャルバくんたちは失敗したようだしねぇ?まっ、どうでもいいけど」

 

「では、次の計画までにリゼヴィムさま専用のベルトでも考えましょう。

悪魔らしく、魔王らしい姿がよろしいでしょう?」

 

「うひょひょひょっ!もっちろんだぜ!頼むぜ、ユーグリットくん!

かっちょいい姿でお願いね!」

 

―――Heros.―――

 

「曹操、兵藤一誠が甦ったってさ」

 

「ほう・・・・・あの男が甦るとはな・・・・・」

 

「嬉しそうだね?」

 

「ああ、嬉しいさ。何せ強敵が再び現れたんだからな」

 

「でも、兵藤一誠は人間としてじゃなく、ドラゴンとして甦ったらしいよ?」

 

「ふむ、残念な気持ちもあるが、ドラゴンとして俺の前に立ちはだかるならば、

英雄としてドラゴンを退治しよう」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Life×Life
Life1


『・・・・・』

 

ここに複数の男女が円卓を囲って座っていた。その理由は―――。

 

「王様ゲームッ!」

 

『イエーイッ!』

 

開口一番に発した神王ユーストマが言った王様ゲームをするためだ。

発案者は勿論、神王ユーストマ。なにを思ってこんなことを考えたのか

俺、兵藤一誠ことイッセー・D・スカーレットは知りもしない。

 

参加者は俺を含め、葉桜清楚、成神一成、神城龍牙、匙元士郎、イリナ、カリン、キキョウ、

ネリネ、木場祐斗、リアス・グレモリー、そして・・・・・全身にフードで覆う謎の人物。

 

「んじゃ、ルールの説明をすんぜ。ルールは王様のくじを引いた奴が数字を引いた奴らの

数字を言い、絶対的な命令を言い渡して実行してもらう」

 

「特に変わったルールではないですね」

 

「まだあんぞ、命令する時に相手の人生に関わる命令は厳禁だ。それと王様の命令は絶対!

この二つのどれかでも守れなかった奴にはそれ相応のお仕置きが待っている。

考えて命令するんだ。いいな?」

 

「・・・・・ところで、そこの人は誰ですか?」

 

外野、観戦とばかり俺たちの背後に座っている和樹が指摘する。

ああ、こいつか。俺は挙手して言う。

 

「俺が呼んだ」

 

「あなたが?知り合いなの?」

 

「知り合いじゃなきゃ、この家に呼び寄せないって。こいつを知っているのは俺とリーラだけだ」

 

「ふーん、僕たちが知らない人か・・・・・誰なの?」

 

俺は意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「こいつが命令された時に知れるさ。それまでこの状態だ」

 

「そんじゃ、始めるぜ!クジを引け!」

 

このゲームの参加する権利を得るためにじゃんけんをして負けたユーストマが俺たちに促す。

 

『王様だーれだっ!』

 

そして、俺たちは円卓の中央に置かれた王様のくじと一から十一までのくじを引いた。

全員、取った紙を開いて、見た瞬間・・・・・。

 

「あっ、僕が王様です」

 

『・・・・・』

 

龍牙が王様のくじを引いた事実を知り、俺たちは不安が胸で一杯になる。

 

「それじゃあ・・・・・十一番の人が一番から十番の人に・・・・・誰にも言えない

秘密を告げる、です」

 

そう言った龍牙に反応したのは―――リアス・グレモリーだった。

 

「なっ・・・・・!」

 

「では、秘密をお聞かせてください♪王様の命令は―――絶対ですからね」

 

イイ笑顔で龍牙は言った。対してリアス・グレモリーは

顔を真っ赤に染めて体をプルプルと震わす。

 

「い、言わないと・・・・・ダメ・・・・・?」

 

「ふふ・・・・・ダメです」

 

「・・・・・くっ」

 

これほど屈辱的はない、とリアス・グレモリーからヒシヒシ伝わる。

 

「わ、私は・・・・・イッセーのことを・・・・・。

お、思いながら・・・・・し、していました・・・」

 

「具体的に言ってください」

 

「―――――っ」

 

リアス・グレモリーが涙目になった。

 

「イッセーを思いながら―――しています!」

 

『・・・・・』

 

彼女の発言に気不味い雰囲気が漂う。龍牙は笑みを浮かべたまま

「ありがとうございました」と感謝を述べる。

初っ端からこんな空気の中でやれと言うのは・・・・・ヘビーではないだろうか。

 

「次は・・・・・私が王様になるわ!―――せーの!」

 

『王様だーれだっ!』

 

再びくじを引く俺たち。俺は・・・・・五番だ。残念、王ではなかった。

逆に王は誰だ?辺りを見渡すととある奴が王のくじを見せびらかした。

 

「俺だ」

 

『・・・・・』

 

匙元士郎。こいつ、一体どんな命令を下すのだろうか・・・・・。

 

「正直・・・・・誰かに命令するガラじゃないんだけどな。

えっと・・・・・んじゃあ、五番が九番に膝枕してやるっていいか?」

 

あいつの命令に安堵で胸を撫で下ろす俺たち。俺は挙手する。

 

「質問だ。そいつは何時まで膝枕をしてやるんだ?」

 

「ん?そんな細かいことも必要なのか?」

 

「いや、なんとなく思っただけだ。ユーストマ、どうなんだ?」

 

「そりゃ王様ゲームが終わるまでか、時間制だな。そいつは王が決めることだ」

 

と、ユーストマは言う。匙は顎に手をやって考える仕草をしてそのまま告げた。

 

「じゃあ、王様ゲームが終わるまでだ。

くじを引く時は膝枕をしている奴がもう一枚代わりに引いてやる。こんなところか?」

 

「おう、それでいいぜ。さあ、五番と九番は誰だ?名乗りあがれ」

 

「「はい」」

 

五番は俺だ。そして、もう一人は―――ネリネだった。

 

「―――っ!」

 

俺が五番だと知ったネリネは明るくなった。

逆に、「自分が九番だったら・・・・・っ!」と悔しがるリアス・グレモリーたちが

紙を見詰めていた。

 

「イ、イッセーさま・・・・・よ、よろしいですか?」

 

「おう、こい」

 

「はい!」

 

嬉しそうにネリネはこっちに来て、体を倒して俺の膝に頭を乗せる。

 

「はぅ・・・・・とても、幸せです・・・・・」

 

「いいなーリンちゃん。私もイッセーくんので膝枕したいっす!」

 

はい、外野。文句はダメだぞ。

 

「んじゃ、進めるぞ」

 

匙の促しに俺たちはくじを引く。

 

『王様だーれだっ!』

 

三度目の正直。俺が王!・・・・・と、二枚分くじを引いて一枚はネリネに手渡す。

いざ、紙を開いたら・・・・・。

 

「よし、俺だぁっ!」

 

成神一誠が喜びを露わにして飛びあがった。あ、あいつか・・・・・。

 

「ぐふふ・・・・・んじゃあ・・・・・一番から十一番まで・・・・・いや、

これじゃ男も入るからダメか・・・・・。―――思いきって言う!」

 

おう、さっさと言え。

 

「一番、三番、五番、七番、九番は俺におっぱいを突かせてもらう!」

 

『なっ・・・・・!?』

 

おっぱいドラゴン・・・・・その名に恥じない言動をしようとしていやがる・・・・・!

 

『断わる!』

 

「イッセー、あなたって子は・・・・・」

 

女性陣が胸を庇うように腕で覆う。リアス・グレモリーは嘆息する。

だが、王の命令は絶対だ。俺の番号は―――三番だった。他の奴らは・・・・・?

 

「うげ、九番だ」

 

「僕は五番ですね」

 

「七番だよ」

 

「・・・・・」

 

刹那、

 

「なんだとぉおおおおおおおおおおおおっ!?」

 

見事に男子陣が奇数の数字のくじを引いていた。その事実に成神一成は驚愕した。

 

「くくっ、お前・・・・・・男の乳首をつつきたいなんて・・・・・ホモだな」

 

「て、訂正!訂正を求めます神王さま!」

 

成神一成は乞うた。が―――、

 

「ダメだ。数字のくじを見せた、聞いた後での訂正は無効だ」

 

神さまはとても厳しかった。俺たちは立ち上がって、成神に近づく。

 

「あっ、フード取っていいぞ」

 

俺がそう言うと、謎の人物がフードを脱ぎ払った。謎の人物の正体は―――。

 

『―――――』

 

全員が硬直するほど衝撃的な人物だった。

 

「ぐふふ、私の乳首を突きたいなんて・・・・・いやらしい子ねん♪」

 

鍛え上げられ、隆起している肉体。スキンヘッドの左右にピンクのリボンで結んだ三つ編み。

下半身にはピンクのビキニだけ装着していてほぼ全裸な漢女がこの場に姿を現した。

 

「だ、誰だよあんたはぁっ!?」

 

指を突き付け叫ぶ成神一成に、変質者とも言える人物は自己紹介し始める。

 

「はぁーい、私は皆の踊り子の蝶蝉ちゃんよん♪よろしくねぇ?」

 

「ちょ、蝶蝉・・・・・?」

 

匙が困惑気味で呟く。肯定と頷き、説明する。

 

「三国志に登場する絶世の美女、蝶蝉の魂を引き継いでいる人物だ」

 

「えええええええええええ!?」

 

「あの英雄の・・・・・信じられないわ・・・・・」

 

「うん、実際に俺も今でも信じられないんだよな。

でも、本人が嘘吐いているわけでもなさそうだから信用はともかく信頼はしている」

 

出会いも衝撃的だったな・・・・・その話についてはまた何時か話そう。

 

「ほら、成神。さっさと男の乳首を突っつけ」

 

「誰が悲しくて男の乳首を突かなきゃならないんだよっ!?」

 

「王様の命令は絶対だ。さあ、早く」

 

「・・・・・ぬおおおおおおおおおおおおおおん・・・・・・・・」

 

成神一成はその場で蹲って無念の声音で唸る・・・・・。そして、涙を流しながら、

あいつは男たちの乳首を突っついた。

 

『王様だーれだっ!』

 

それからというものの、ネリネを膝枕にしたまま王様ゲームは続行。

未だに王になれなかった奴もなれて俺たちに指示を与える。蝶蝉の存在が明らかとなり、

おいそれと過激な命令はできなくなり、十数分間にわたった平行線で王様ゲームをしていたら、

 

「よし―――」

 

すくっと誰かが立ち上がって、

 

「私だわぁっ!」

 

リアス・グレモリーが歓喜の雄叫びを上げたのだった。あーおめでとう。因みに俺は十一番。

ギラギラと瞳を輝かせてリアス・グレモリーは言った。

 

「十一番は私に何をされても抵抗してはいけないわ!」

 

「・・・・・マジで?」

 

ピンポイントで俺が持つ番号を言い当ててた彼女に、思わず自分が十一番だと教えてしまった。

リアス・グレモリーは獲物を狙う鷹のような目で俺を睨む。

 

「うふふ・・・・・そう、イッセーなのね・・・・・私はとても幸運だわ」

 

「・・・・・今のお前、何か怖いぞ・・・・・」

 

「あら・・・・・私は怖くないわよ?」

 

俺のところに近づいて徐に俺の襟を掴んだ。

 

「ここじゃ、私がしたいことができないから部屋でさせてもらうわ。

その間、私たち抜きでやってちょうだい」

 

「ちょっと待て、部屋で俺に何をしようとするんだ!?」

 

「・・・・・そんなの」

 

途端に顔を赤らめるリアス・グレモリー。

 

「恥ずかしくて言えないわ」

 

「こいつ変態だぁっ!?」

 

そう叫ぶ俺だが問答無用とこの場から離される。

 

「あ、あの。私もついて行ってよろしいでしょうか?」

 

しかし、そこでネリネが待ったを掛ける。

リアス・グレモリーは考える仕草をして・・・・・ネリネに言う。

 

「そうね、匙くんの王さまの命令は絶対だし・・・・・一緒に来ても構わないわ」

 

「あ、ありがとうございます・・・・・」

 

いや・・・・・俺は一体何をされるんだろうか・・・・・。

ズルズルとリアス・グレモリーの部屋まで引きずられて―――。

 

「ふふふ・・・・・それじゃあ、シましょうかしら」

 

「え・・・・・?」

 

ネリネが扉を閉めた途端、俺は・・・・・赤い悪魔に襲われた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Life2

俺が甦った。それは変わらない事実。だけど、俺に色々な問題が浮上した。

その一つは人王のことだ。既に全世界では次期人王死亡と認知していて、

甦った俺はただの人型ドラゴンとして世に存在する。

幸い、次期人王と(仮)結婚した悠璃と楼羅の立場は未亡人扱いとなっている。

だが、そう安心していられない現状だ。人王がいない妻は他の人王候補生と

結婚せざるを得ないからだ。その人王候補制はまだいないらしいけど、

何時現れるのかは分からない。

 

「兵藤家には一誠様の事は知れ渡っているようですが、

甦った一誠様をこのまま人王にするべきだという一派とまた新たに人王を決める大会を、

新たな人王を決めるべきだという一派の二つに分かれているようです」

 

と、楼羅からそう聞かされた。俺もその考えには理解できる。甦ったからといって、

また人王になれるとは思えない。それに世界が俺の生存を知らないし、

死んでいるのだと認知している。今さら俺は甦った!とお茶の間に言えるわけがない。

 

「仮に新たな人王を決めるとしたら、どんなことになる?」

 

「分かりません。こんなケースは過去に一度もなかった事です。お父さま以外の兵藤家当主だった

当主さまたちは次期人王になった瞬間に狙われた事はあったとしても死んだ事はありません」

 

「・・・・・あの人は一体、どんな決断をするんだろうか」

 

「決まり次第、報告をするそうです。今は・・・・・こうしていましょう」

 

そう言って楼羅は俺に覆い被さった。

 

―――バンッ!

 

「イ、イッセーくん!・・・・・って」

 

「・・・・・」

 

俺の部屋を豪快に開け放ったイリナが硬直した。ベッドの上で楼羅に覆い被されている俺を見て、

イリナは指を差してきた。

 

「ちょっと!いくら(仮)妻でもイッセーくんに手を出さないでほしいわ!」

 

「あら、(仮)妻でも私と一誠様は心も体も一つになったのですよ?

一度や二度の性交をして何が悪いのですか?」

 

「せ、せせせ性交・・・・・!?」

 

一気に顔を赤くするイリナだった。・・・・・それはそうと、

 

「イリナ。何か用があって来たんじゃないのか?」

 

「―――そうだった!」

 

イリナは駆け寄って来た。

 

「色んな神話体系の神様たちが集まって来ているのよ!?

甦ったイッセーくんを一目でも見ようって!もう、

この家は神さまの博物館となっちゃっているわ!」

 

「・・・・・マジで?」

 

俺は唖然となった。となると、オー爺ちゃんや骸骨のお爺ちゃんもいるということか?

素早く起き上がって、リビングキッチンに姿を現すと―――過去に出会った神さまたちが勢揃いして

いた。その壁際に清楚たちが固まって、緊張した面持ちでいた。

 

「うわ・・・・・本当だ」

 

「ん・・・・・?おお、坊主じゃないか!」

 

上半身の裸のヒゲを生やしたおじさんが俺の存在に気付いた途端に、

他の神さまが一誠に俺に視線を向けてきた。次の瞬間、わっ!と俺に集まってきた。

 

「デハハハハハッ!本当に甦っておったか!アザ坊から聞いて色々と準備をしてから来てやったぞ!」

 

「ガハハハハッ!坊主の顔をまた見れて嬉しいぞ!」

 

王冠にトーガという出で立ちのヒゲを生やしたおじさんが満面の笑みを浮かべてそう言いだす。

他にも色んな神に属する存在にも話しかけられた。

本来、下界には滅多に降りて来ない神さまもいたほどだ。

 

「・・・・・本当、一誠って物凄いよね」

 

「恐縮しまいますよ・・・・・」

 

「うん、いま一誠くんに話しかけることもできないよ」

 

「流石の私も、あの中に介入する勇気はないにゃん・・・・・」

 

和樹達が何か言っているようだが・・・・・気持ちは分からなくはないぞ・・・・・。

 

《・・・・・》

 

そう思っていた俺に骸骨のオー爺ちゃんが近寄って来た。

 

《・・・・・すまんな、私の力及ばず、あやつらを止めれなかった》

 

「骸骨のお爺ちゃん・・・・・」

 

《サマエルは、お前の中にいるのだな?》

 

確認するかのように問いかけてきた。俺は肯定と頷くと骸骨のお爺ちゃんはただ頷く。

 

《押し付ける感じで悪いが、サマエルはお前に与らせた方が良いだろう。

またあの蝙蝠の小僧がサマエルを利用してくるかもしれんからな》

 

「うん、ありがとう。でも、俺は一度死んで良かったかもしれない」

 

俺の言葉に皆が怪訝な面持ちとなった。なんでだ?とそんな感じだ。

 

「死んで俺は、いろんな奴らと出会って、いろんな体験もできたんだからね。

サマエルもその中に含まれている。もう死ぬつもりはないけど、

このきっかけを俺は大切にしたい。だから、骸骨のお爺ちゃん。そう気を悪くしないでね」

 

そう言って安心させるために微笑むと、骸骨のお爺ちゃんは徐に深く被ったフードをさらに

赤い眼光を隠すように下げだした。

 

《・・・・・そろそろ、お暇させてもらおう。お前の顔を見ればそれで十分だ》

 

「そう、また来てね。何時でも遊び来てもいいからさ。また、一緒にスイカ食べよう?

季節過ぎちゃったけどさ」

 

俺の言葉に返事をしないまま、骸骨のお爺ちゃんは足元の影の中に沈んで、

目の前から姿を消した。それを意外そうに、

 

「あいつ、泣きそうになっていたな」

 

「坊主にあんなこと言われて嬉しかったのであろう」

 

天空と海のおじさんがそういった後、笑みを浮かべた。えっ、泣きそうだったの?

 

カッ!

 

すると、この空間に魔方陣が出現した。その数は複数以上だった。

誰かがここに転移をしてくる?そう思っていると、魔方陣の光が弾け―――。

 

「イッセーくぅぅぅんっ!」

 

「セ、セラフォルー!?」

 

魔方陣の一つからセラフォルー・シトリーが飛び出してきた!俺に抱きついて、泣き始めた。

 

「うぇええん!甦って良かったよー!これで、またマジカル少女戦士セーラーたーん☆の

映画の撮影ができるよ!」

 

「・・・・・そっちの意味で俺は喜ばれているのか?」

 

「あっ、ごめんなさい。それは半分だよ」

 

半分って・・・・・じゃあ、もう半分は何なんだよ・・・・・。

 

「本当は本当にイッセーくんが甦って私は嬉しいんだよ!

だって、大好きな人がこうして生きている喜びがたまらなくてしょうがないんだもん!」

 

―――――っ。

 

その気持ちは、何度も味わった。皆のもとへ帰ってからしばらく、

皆が片時から俺から離れようとはしなかった。セラフォルーもその一人だったんだろう。

 

「やあ、イッセーくん。久し振りだね」

 

「サーゼクス・グレモリー」

 

「ふむ、こうして君を間近で見ると真紅の髪がまるでリアスのような髪の色だね。

ふふっ、私とリアスの同じ髪でなんだか嬉しいな。本当の兄弟のように思ってしまうよ。

もちろん、私が兄だよ?」

 

「兄弟って・・・・・」

 

サーゼクス・グレモリーの話になんと答えればいいか分からなかった。

 

「原始龍というドラゴンに助けられたとアザゼルから聞いたよ」

 

「知っているのか?」

 

「いや、そんなドラゴンの存在は誰も知らないだろう。だが、一人だけ知っている者がいた」

 

小首を傾げていると、サーゼクスの肩にちっちゃい生物が現れた。

 

「・・・・・ドラゴン?」

 

「こうして会うのは初めてだな。俺は『|魔龍聖《ブレイズ・ミーティア・ドラゴン』タンニーン。

元五大龍王・・・・・いや、ティアマットと同じ龍王だったドラゴンだ」

 

「・・・・・ちっちゃい」

 

「こう言う場所に入るにはこの姿で常にいるんだ。そこは気にしないでくれ」

 

あっ、そうなんだ?というか、ドラゴンはそんなことができるんだな。

 

「知らなかったとはいえ、俺を解放してくれてありがとう」

 

「解放?」

 

「俺は堕天使のヴァンに破れ神器(セイクリッド・ギア)として封印されていたんだ。

だが、あの堕天使は俺を解放した。その理由はお前にあるそうだ」

 

「・・・・・」

 

そう言えば、そんな事を言っていたな。

 

「感謝の念を抱いている。だが、ずうずうしい承知の上で頼みがある。

俺を原始龍のところに連れて行ってはくれまいか?」

 

「原始龍?って、知っている者ってタンニーンだったのか」

 

「俺はあの世界に生まれたドラゴンだからな。人間界に降りたのはいいが、帰れなくなったのだ。

人間界とドラゴンの世界を通じる扉を閉められたからな」

 

それは、ご愁傷様というべきなのか?いや、自ら人間界に移ったんだから同情の余地はないか。

 

「原始龍に連れてなにがしたいんだ?」

 

「原始龍がいる世界にはドラゴンアップルがあり、ドラゴンアップルに関する資料がある。

それを俺は求めているんだ」

 

「ドラゴンアップル?」

 

「その名の通り、ドラゴンのリンゴだ。そのリンゴしか食べない龍がいてな。

いま、独自の方法で人工的にドラゴンアップルを研究しているのだ。

ドラゴンアップルしか食べれないドラゴンのために、ドラゴンアップルを増やすためにな」

 

・・・・・王さまがいるぞ。

ここに王さまが。ドラゴンのために尽力を尽くそうとしているドラゴンがいる。

 

「分かった。約束する」

 

「感謝する」

 

それにしても・・・・・ちっちゃい

 

「そこは気にするなと言っているではないか」

 

「あっ、顔に出ていた?」

 

「うん、思いっきりね」

 

セラフォルーにまで言われてしまった。

 

「んじゃ!もう一回、一誠殿が甦った祝いとしてパーティをしようじゃないか!」

 

「うんうん!いいね!私もそう思っていたところだよ神ちゃん!」

 

「デハハハハ!そう思ってほら、我が海の幸を大量に持ってきたぞ!ドンドン食え食え!」

 

「こっちも特産品を大量に持ってきたぞ!」

 

ユーストマとフォーベシイの言葉に、天空と海の神のおじさんたちが魔方陣を展開して

色んな食材を出してきた。・・・・・これ、調理するのに時間が掛かるな。

 

―――○●○―――

 

結局、俺のための祝いと称したパーティは、ただの飲み会となり変わった。

ガタイの良いユーストマ、天空と海の神のおじさんが互いに肩を組んで酔っ払い、

日本の神さまは無礼講は久々だ!とこの瞬間を無駄にしないように楽しんでいる様子だった。

・・・・・これ、絶対に一泊していくつもりだろうな。

 

「そういえば」

 

俺はサーゼクスに近寄った。

 

「なあ」

 

「うん?なんだいイッセーくん」

 

「俺、学校はどうなるんだ?」

 

「・・・・・」

 

俺が甦ったことで、学校はどうするべきなのか、理事長のサーゼクス・グレモリーに訊ねた。

サーゼクス・グレモリーは顎に手をやった。

 

「ふむ・・・・・学校に復帰するならば、キミはFになるだろうね」

 

「やっぱりか」

 

「いきなりSクラスに戻すことはできない。それに君は世間で死んでいる事になっている。

だから『イッセー・D・スカーレット』と名乗っていたのだろう?」

 

その問いかけに俺は首肯する。その名はハルケギニアで名乗っていた偽名だ。

 

「そうだ。それに俺は次期人王の肩書も失っているだろうし、

これからどうすればいいか分からない」

 

「・・・・・そうだね。『兵藤一誠』は死に『イッセー・D・スカーレット』が存在している」

 

しばらくして、サーゼクス・グレモリーは俺に向かって言った。

 

「キミにしかできない事をやってもらおうかな」

 

俺にしかできない事、それはなんだろうか?サーゼクス・グレモリーは後日教えると言うが・・・・・。

いったい、なんだろうか?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Life3

騒ぎは唐突に起こるものだと、誰もが思ったり、知るであろう。

 

「・・・・・四種交流運動会?」

 

「・・・・・ああ、そうだ」

 

ソファに座る俺と対峙するように、目の前に腰を下ろしている兵藤照が肯定した。

その隣に兵藤麗蘭と兵藤千夏がいる。俺は怪訝な面持でいると、兵藤照が口を開いた。

 

「聞いて理解したと思うが悪魔と堕天使、天使、人間が揃って運動会をするんだとよ」

 

「なんでまた、それに今の時期は運動会をするような季節じゃないだろう」

 

「んなこと、俺が知るわけねぇよ。俺らに告げた源氏さまが『兵藤一誠にそう伝えろ』としか

言わなかったしよ」

 

四種交流運動会・・・・・。四種の友好をさらに深めようって魂胆かな?

 

「当然、人間の俺達も代表として出場しなきゃなんねぇわけだ。お前は特に強制参加だ。

それとお前の女どもな」

 

「式森家の和樹も参加せざるを得なさそうだな・・・・・それで、何時何だ?」

 

「明日だ」

 

「明日かよ!?あの人がお前に報告してきたのは今日だって言いたいのか?」

 

そう訊ねたら、兵藤照が視線を泳がせた。え、なにその反応は・・・・・?

 

「えっと・・・・・実はこの話、一週間前から報告されたことなんですけど」

 

「このバカがその報告を忘れてしまって・・・・・今日、源氏さまが返事を確認のため

連絡をしてきた途端に・・・・・」

 

「ああ・・・・・なるほどね」

 

大体想像がつく。こいつ―――その時はかなり焦っていたんだろうな。

 

「う、うるせぇなっ!?ちゃんと伝えてから問題ないだろうが!」

 

「「一週間も伝え忘れたあなたが逆切れする権利はない!」」

 

「ぐっ・・・・・!」

 

兵藤麗蘭と兵藤千夏に怒鳴られ、兵藤照は口を噤んだ。

 

「まあ、その運動会を参加するにはするよ。それでいいだろう?」

 

「・・・・・ああ、そうだ」

 

「申し訳ございません、一誠さま。一週間も伝えずに」

 

「本当に、こんな重要なことを私達が告げるべきだったのですよね。

一週間も伝え損ねるなど、兵藤家の人間がしてはならない事です」

 

・・・・・何気にこの二人って毒舌だよな、辛辣というべきか?

俺は思った事を兵藤照に告げた。

 

「お前、絶対尻に敷かれるな」

 

「よし、表に出ろ」

 

案の定、兵藤照が怒ったが横にいる二人に張り倒され、

問答無用に家から連れだされていなくなった。

 

 

 

 

『四種交流運動会ッ!?』

 

その日の夜にて、俺を含んだ兵藤家メンバーの皆が同時に素っ頓狂な声をあげた。

 

「ああ、兵藤照から聞かされた」

 

「・・・・・そう言えば、お兄さまから特大なイベントをやると言われたわね」

 

「お姉さまからもそんな感じで」

 

リアス・グレモリーとソーナ・シトリーが思い当たる節があるようだった。

教会側のイリナとゼノヴィアは?

 

「なるほど、そういうことだったのね」

 

「となると、私とイリナは天使側に属する事になるね」

 

と既に伝えられていた様子だった。

 

「じゃあ、ここにいる悪魔と天使、人間がそれぞれの陣営に別れるんだね」

 

「今の時期に運動会なんて、思いきった事をしますね。。一体誰が発案なんでしょうか?」

 

「さあ、こう言うお祭りみたいな展開が好きな奴じゃないと―――」

 

そこで、思い当たる人物が浮かんだ。まさか・・・・・な?

 

―――○●○―――

 

バン!バン!バン!

 

運動会の花火が鳴る。俺達は四種の種族が開催する運動会の会場に来ていた。

使われているのはRG(レーティングゲーム)用のゲームフィールドで、

かなり広めな空間となっている。頭に輪っか、背中に真っ白い翼を生やした天使たちや

黒い翼の堕天使たちが大勢いるぞ。もちろん、悪魔や人間(兵藤家であろう)も大勢いるけど、

こんなに多くの天使や堕天使に会えるなんてそうないから、新鮮さがヒシヒシと感じるな。

皆、ジャージ姿だった。天使が白、堕天使が黒、悪魔は赤、人間は青となっている。

だから、人間の俺たちは青のジャージだ。

リアス・グレモリーやソーナ・シトリーたちとその眷属、グレイフィア、ナヴィーは悪魔側、

イリナとゼノヴィアは人間だけど教会側として天使側の選手となっているから

俺たちのもとにはいない。今日だけは敵同士ってことになる。

まあ、その際に、イリナから能力をコピーさせてもらった。

イリナから取り出すことはできないし。

 

「あっ、次期人王・・・・・って、ええ!?」

 

「甦っていたのか!?」

 

「いや、甦ったからといっても、次期人王の座は剥奪されているんだぞ」

 

「これからどうなるんだ?」

 

やっぱり、俺の存在は疑問を生むようだな。そのへんを歩くだけで、俺達に好奇の視線が向く。

―――と、イリナとゼノヴィア発見。金色の翼を生やす明らかに高貴な雰囲気の人と

立ち話をしている。あの人は・・・・・。イリナがこちらに気付き、

手を振りながら男性と女性と共に近づいてくる。

 

「あ、イッセーくん、皆!来たのね!」

 

男性が俺たちに微笑む。

 

「お久しぶりですね、皆さん。初めてな方もいますね。私は天使長のミカエルです。

四大勢力の和議以来でしょうか」

 

「て、天使長・・・・・」

 

「うわー、初めて見ました。とても神々しいです」

 

ミカエルと初対面のカリンや清楚といった面々が緊張したり感嘆する。

 

「イッセーくん、お久しぶりです」

 

そう言って俺に抱きついてくるのは神ヤハウェだった。

 

「セ、セルベリア・・・・・ヤハウェ様さまですよ?また神さまが目の前にいますよ!」

 

「そうだな、だからロスヴァイセ。緊張するか興奮するかどっちかにしろ」

 

「というか、エルフの私たちも参加していいのかしらね?」

 

「さ、さあ・・・・・」

 

俺の背後にヴァルキリーのロスヴァイセとセルベリア。

エルフのルクシャナとティファニアが話し合っていた。が・・・・・い、息が・・・・・。

 

「ヤハウェさま。同士たちの前でイッセーくんに抱きついてはいけませんよ」

 

「あともう少しだけです」

 

「すいません、イッセーくん」

 

「・・・・・」

 

「イッセーくん?」

 

―――数十秒後。

 

「し、死ぬかと思った・・・・・」

 

「す、すみません!」

 

ヤハウェの豊満な胸を隠す白いジャージの布地に鼻が塞がれていて、呼吸ができなかった。

それをミカエルは気付き、慌てて俺とヤハウェを離してくれたおかげでなんとかなった。

 

「今度は神直々に殺されるのかと思ったぞ」

 

「も、申し訳ないです・・・・・」

 

ヤハウェがシュンと落ち込んだ。

 

「イッセーって身近に危険が纏わりついているようね」

 

他人事のようにルクシャナが言ってくる。

 

「一誠さまのヴァルキリーとしてなにがなんでも危険から守らないといけないのに・・・・・」

 

セルベリアが自分の立場と役割が果たせていない事に悔んでいた。

 

「ヤハウェさまーっ。開会式が始まりそうですわよー」

 

突然の声。そちらに目を向ければ―――ウェーブの掛かったブロンドでおっとり風の

天使の女性が近づいてきた。背中の翼が多い翼だ。

 

「ま、まさか・・・・・あの人は・・・・・!」

 

イリナがキラキラと目を輝かせた。ヤハウェは顎に手をやり、失念した様子だった。

 

「そうですか。イッセーくんたちとの挨拶だけで時間は過ぎてしまいますね。

皆さん、紹介が遅れました。こちら、ミカエルと同じ四大セラフの一人で―――」

 

「ごきげんよう、私、四大セラフのガブリエルと申します」

 

ガブリエルと名乗った天使の女性がニッコリしながら、そう挨拶をしてくれた。

おー、ミカエル以外のセラフと会うのは初めてだ。―――向こうはどうだろうか?

 

「やっぱり、天界一の美女にして、天界最強の女性天使さま!ゼノヴィア!

憧れのガブリエルさまと出会えたわ!」

 

「うん、何て神々しいのだろうか。とても眩しく見えるよ」

 

イリナとゼノヴィアがはしゃぎ始めた。教会に属する女戦士はガブリエルが人気のようだ。

 

「・・・・・なんか、色々と負けたわ。なにあれ、チートでしょ」

 

「・・・・・うん」

 

「・・・・そうですね」

 

あれ、悠璃たち女子人が何だかショックを受けている様子。

 

「あら?」

 

ガブリエルが俺に意識を向けてきた。

 

「・・・・・」

 

じーと興味深そうに俺を見つめてくる。

 

「・・・・・」

 

不意に笑みを浮かべた。

 

「ヤハウェさまが夢中になる理由がなんとなく分かった気がしますわ。

ふふっ、赤ちゃんの時はもっと可愛かったですのに

今ではとても逞しい男の子になったのですね」

 

やっぱりぃぃぃぃっ!?この天使も俺の事を知っていたよ!

というか―――何故俺を抱き締める!?

 

「ヤハウェさま。この子、私がもらってもいいですか?

私、この子みたいな弟が欲しかったのですよ」

 

『んなっ!?』

 

「―――ダメです。イッセーは私の愛しい大切な子なんです。いくらあなたとはいえども、

この子だけは譲りません」

 

そう言ってヤハウェも俺を抱き締めてきた。な、なに・・・・・この状況・・・・・。

 

「イッセーじゃねぇか。って、おー、なんだか良い思いをしていますなぁ?」

 

黒いジャージに身を包んだアザゼルがガタイの良い男性を引き連れて現れる。

男性は―――姫島朱乃の父、バラキエルだ。ロキ戦以来だな。

 

「これはアザゼル。お久しぶりです。相変わらず、お元気そうで」

 

「ハハハ、まあな。今日だけは負けんからな、天使さま」

 

「それはこちらの台詞とだけ言っておきましょう」

 

おおっ、アザゼルとミカエルが笑顔で握手をしながらも異様な

プレッシャーを辺りにはなっている。

 

「・・・・・兵藤一誠」

 

「ん?」

 

「我が妻を、朱璃を甦らせた事についての礼を言い遅れた事に申し訳ない」

 

唐突にバラキエルが頭を下げだした。俺は首を横に振るだけだ。

 

「気にしないでくれ。それだけだ」

 

「・・・・・」

 

「あんたの娘と妻はこの場にいる。親子水入らず、昼でも一緒に食べなって」

 

「・・・・・ああ、勿論そうするつもりだ」

 

この日、バラキエルにとって楽しい一日になりそうだな。―――そう思ったその時だった。

RG(レーティングゲーム)用のゲームフィールドの空間が大きく縦に裂けだした。

俺を抱き締めているヤハウェとガブリエルが離れ、

アザゼルとミカエルが警戒して戦闘態勢に構えた。

 

「なんだ?禍の団(カオス・ブリゲード)か?」

 

「有り得ない話ではないが・・・・・あの小僧がこんなお粗末で大胆な襲撃をしてくるとは

思えないな」

 

他の勢力もこの異常事態に気付き、警戒態勢の構えとなっている。

未だに縦に裂けた空間は静寂を保っている。

 

ヌゥ・・・・。

 

と避け目から顔が出てきた。―――ドラゴンの顔だ!

 

「ええっ!?」

 

「な、邪龍じゃない・・・・・?」

 

邪悪な感じをさせないドラゴン。辺りをキョロキョロとなにかを確認するかのような様子を

見せたかと思うと、俺と視線が合った。

 

『見つけた』

 

初めて発した言葉。ドラゴンが裂け目から出てきたらーーー頭に角を生やした人型の

ドラゴンたちが続々と出てきた!しかも、なぜか黄色のジャージ姿。

 

「・・・・・なあ、どういうこと?」

 

「その疑問は、この場にいる全員が同じ気持ちだろうし、知るわけがないだろう」

 

アザゼルが当惑した面持ちで答えた。大勢の人型ドラゴンたちが出てて来ると、

一ヵ所に固まり代表と思う女性が前に出てきた。ーーーって!?

 

「源始龍!?」

 

命の恩人もとい恩龍がこの場にいるなんてどういうことだ!?しかも黄色ジャージ姿!

アザゼルが警戒して訊ねだした。

 

「これはこれは、源始龍殿。そんな多勢のドラゴンを率いて

この場に現れるとはどういうことか説明してくれるかな?」

 

「・・・・・」

 

源始龍は辺りを一瞥して告げた。

 

「私たちドラゴンはこの運動会に参戦したいがために失礼を承知で、とても柔らかい異次元空間を

突破させてもらいました。もう少し強度があったほうが良いですよ、堕天使の総督」

 

源始龍たちが運動会に参戦・・・・・?なに、この混沌の運動会は・・・・・四種どころか、

五種勢力運動会になろうとしているじゃん!

アザゼルは源始龍の物言いに額に青筋を浮かべ出す。

 

「いきなり運動会に参加したいとは、そっちはかなり暇そうだな?

こっちはいろいろと苦労の連続だと言うのによ」

 

「偶数では、面白味がないと思い尚且つ、

我が勢力の力を少しばかりお見せしようと思ったまでです」

 

「へぇ、俺らにそれをしてそっちはなんのメリットがあるんだ?

是非とも聞かせてほしいもんだな」

 

その言葉に源始龍は笑みを浮かべた。

 

「自慢です。四種の中でも娯楽とはいえ、

私たちが勝利すれば他の勢力より優秀だと証明できますから」

 

―――カチンッ!

 

あっ、変な音が聞こえた。

 

「・・・・・いいだろう。お前らの参戦を認めてやる。ヤハウェ、お前はどうだ?」

 

「ええ、私も構いません」

 

ヤハウェがいい笑顔で了承した。ーーー目が笑っていないから余計怖い!

その後、悪魔側と人間側の代表が現れると事の経緯を説明したら、源始龍たちの参加を認めた。

やっぱり目が笑っていないままでだ。

 

「では、兵藤一誠。こちらに来てください」

 

「・・・・・えっ?」

 

「あなたはドラゴンなのですから、私たちといるべきなのは当然のことなのですよ?」

 

襟を掴まれドラゴンの集団に連れていかれそうになった。

 

「またんか!その者は人間側の選手の一人だぞ!」

 

人間側の代表、兵藤源氏が怒鳴った。

源始龍は子首をかしげる。

 

「この子はドラゴンですが?」

 

「魂は人間だ。我が兵藤家の者の人間だということは変わりはない」

 

「・・・・・」

 

その言葉に俺は思わず感動してしまった。

未だに俺を人間扱いしてくれる人がいるなんて思いもしなかった。

 

「・・・・・」

 

源始龍が兵藤源氏と対峙した。―――そして、

 

「最初はグー」

 

「「ジャンケン―――ポンッ!」」

 

結果は―――源始龍はパー、兵藤源氏はグー。

 

「では、失礼します」

 

勝ち誇った笑みを浮かべた源始龍が俺をドラゴン側へと高笑いしながら連れていく。

兵藤源氏はその場で膝を崩してショックを受けた。ーーー後に兵藤源氏が俺を懸けたジャンケンに

負けたことで周りからタコ殴りされていたことを俺は知らないでおこうと心から決めた。

 

―――○●○―――

 

「では皆さん。我らドラゴンの底力としぶとさを他の勢力に思い知らせましょう。

退治され、封印された仲間たちの無念を少しでも晴らすために。―――敵に逆鱗を」

 

『敵を踏み潰し、噛み砕く!』

 

何て恐ろしい掛け声なんでしょうか!

しかし、原始龍やウリュウみたいに頭から角を生やす人間って皆ドラゴンって不思議だよな。

 

「兵藤一誠さま」

 

声を掛けられた。声がした方へ振り向くと、黄色いジャージ姿のウリュウがいた。

 

「あっ、久し振りだな。元気にしていたか?」

 

「はい、兵藤一誠さまも変わらず元気のようで」

 

「フルネームじゃなくて名前で呼んでくれ。というか、偽名を名乗っている俺にそっちで呼ぶのか?」

 

「そうですね。それにあなたの偽名は他の方々には知らされていませんし、

結局あなたのことは『兵藤一誠』と認知されます。偽名を名乗ろうが大して意味がないかと」

 

・・・・・それもそうか。まあ、名前の事に関しては置いておこう。

 

「これからは名前で呼んでくれよ。で、どうして原始龍がこのイベントに参加なんて?

確か、あんまり関わりたくなかったんじゃなかったのか?」

 

「ええ、本来ならば私たちが住んでいる世界であなたたちの私生活を傍観する

はずだったのですが、原始龍さまがあなたとこうしたかったらしく、

初めてこのようなことをしたのです」

 

「・・・・・俺のプライベートを侵害しているって理解しているんだよな?」

 

「そ、それについては・・・・・申し訳ないとしか言えません」

 

半眼でウリュウを見れば、申し訳なさそうに恐縮する。

 

「・・・・今度、ウリュウの私生活を見せてもらおうかな」

 

「なっ!?どうして私の私生活なんか見たがるんですか!原始龍さまでしょう!そこは!」

 

「いや、原始龍って寒がりだったし何時もコタツに入っていそうだから―――」

 

「・・・・・」

 

ウリュウがあからさまに俺から顔を逸らした。え・・・・・本気で?

 

「・・・・・亀になってんの?」

 

「・・・・・はい」

 

―――――龍の始祖の貫禄が崩壊した瞬間を実感した俺だった。

そんな俺を余所に選手宣誓は終わりを告げて、

四種交流運動会改め、五種交流運動会が開催した。え

ーと、俺が個人で参加するのは「障害物競争」と借り物競走」だ。

 

「兵藤一誠」

 

「うん?」

 

「あなたの内にいるドラゴンたちにも参加してもらいましょう」

 

そう言って原始龍が手を俺の胸に触れた途端に、

幾重の魔方陣が出現して―――俺が呼び出したわけでもなく、人型のメリアたちが現世に出現した!

しかも黄色いジャージ着用済み!てか、ステルスがおかしい!

黄色いジャージを着ているんだけど、

透明な体だからジャージが浮いているようにしか見えないって!

 

「な、何故我らまで・・・・・?」

 

「ふふっ、勝つためです」

 

「・・・・・ならば、暴れてもいいんだな?」

 

「その時が来たら思う存分に」

 

「一誠、どうだ?何時の間にかこの姿になっていたが」

 

クロウ・クルワッハが訊ねてきた。黒と金が入り乱れた長い髪に黄色いジャージ姿・・・・・。

 

「うん、悪くないな」

 

「そうか。悪くないか」

 

なんだか、クロウ・クルワッハも女の子らしく感情を出すようになったな。

笑んでいる顔も可愛いし。

 

「あと、グレートレッドとオーフィスも呼びましょうか。

これぞまさしく不動に最強といいましょう」

 

・・・・・それ、なんか違う。そして、そのコンビが組んだら誰にも勝てないってば!

 

―――○●○―――

 

○トライアスロン

 

「・・・・・なんだ、これ?」

 

というか、運動会の領域を超えちゃっている。

これ、どういうことだ?トライアスロンって水泳・自転車ロードレース・長距離走の

はずだけど・・・・・このフィールドに海なんてなかったはずなのに何時の間にかできているし!

しかも、海の向こうに島が見える!卵みたいな形をした島だ。

 

『えー、急遽。ドラゴンの勢力も参戦したので、

通常の種目ではどうしても差がついてしまうと言う事で、種目を変え、

フィールドの一部も変えてみました。参加する選手は十五名まです。

選手が決まり次第、砂浜に集まってください』

 

「・・・・・マジで?」

 

他の勢力の皆を見れば、困惑の面持ちで砂浜に向かっていく。

その中には見知った顔の奴もいた。

 

「サイラオーグ」

 

「おお、兵藤一誠。久し振りというべきだろうな」

 

朗らかに笑うサイラオーグ。うん、確かに久し振りだな。

久し振りに家へ帰ったその日にサイラオーグも呼んでパーティをしたんだからな。

 

「お前、泳げる?」

 

「無論だ。俺は様々なことをして鍛えているのだからな」

 

「じゃあ、今のところ強敵はサイラオーグか」

 

「俺の強敵はお前だ。共に悔いのない競いをしよう」

 

拳を突き出される。その拳に俺も拳をぶつけて応えた。

 

「ん、だな」

 

『なお、他の選手に妨害行為をした者には、

神ヤハウェさまから天罰が下されますのでご注意を』

 

・・・・・それを聞いてもした奴はとんだ大馬鹿野郎だな。

 

『それでは競技をスタートします!』

 

おっ、ついに始まるか。俺は駆け出す構えを取った。

 

『位置について、よーい・・・・・ドン!』

 

掛け声と共に、砂を大量に蹴り飛ばしながら海へ跳躍した。

隣を見ればサイラオーグも跳んでいて、海へ落ちていく。

 

「負けん!」

 

「俺だって同じだ!」

 

海に飛び込んだ拍子に激しい水しぶきを上げた。直ぐに海面に顔を出してクロールをする。

サイラオーグも物凄い勢いで島へ泳いでいくのが分かる。

 

「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」

 

―――リアスside―――

 

「やっぱり、イッセーがサイラオーグと張り合うのね」

 

「予想していた通りですね」

 

私。リアス・グレモリーは最初の競技を中継している映像を見て苦笑を浮かべた。

隣にいる親友のソーナも当然とばかり首肯する。

 

「まさか、砂浜から跳躍して海に飛び込むなんて誰も想像していなかった。

見て、他の選手たちとかなり距離があるわ」

 

「・・・・・何名かその中から物凄い勢いで抜いていますけどね」

 

ええ・・・・・こういう方に向いていそうな人たちが物凄い速さで泳いでいるわね。

 

「さて、悪魔側のサイラオーグを応援しましょうか。今回はイッセーくんの敵となっているので、

あまり彼に応援はできませんが・・・・・」

 

「敵となって私たちに攻撃をしないでほしいと切に願ってしまうわ・・・・・」

 

「同感です」

 

―――和樹side―――

 

うーん、僕が行かなくて正解だったかも。やっぱり一誠が出ていたしね。負けが見えていたよ。

ああ、今の一誠?あっという間にサイラオーグ先輩と島に辿りついて自転車を漕いでいるよ。

一旦頂上まで進んで、また降りて来て、

また海に泳いでここの砂浜にゴールって決まりなんだよね。

 

「あの二人、化け物ですかね?」

 

「疲れの表情を見せないからね。体力が無尽蔵だってきっと」

 

「二人とも共通しているのは小さい頃から鍛えていると言う点。

きっと、その恩恵が発揮しているんだよね」

 

「だが、この競技はあの二人のどちらかが決まる。イッセーとサイラオーグ先輩、

どっちが勝つと思う?」

 

悩みどころだよカリンちゃん。二人とも、戦闘は主に格闘術と体術。

サイラオーグ先輩と戦ったのは期末試験の時だったけど、決着がつかなかった。

だったら、競技で競わせたらどっちが勝つ?―――それは分からない。

映像を見れば・・・・・頂上にたどり着いてまた降りていく。

それも物凄い勢いでだ。見ているとジェットコースターを眺めているような気分になる。

一切ブレーキなんてしていないんだろう。常人からしてみれば、怖い事をするよあの二人は。

 

―――一誠side―――

 

○借り物競走

 

トライアスロンは俺とサイラオーグの同一着で決着がついた。

ドラゴンと悪魔側が優勢に立ったところで。他の勢力側が緊張感を張り詰め出した。

 

「借り物競走にしては・・・・・あの宙に浮いている輪っかはなんだ?」

 

そう、空に大きな輪っかが浮いているんだ。空飛んであの中を潜れと言いたいのか?

 

『借り物競走に参加の選手は指定の場所に―――』

 

俺の疑問は解消されることなく。借り物競走のアナウンスが流れる。

 

「それじゃ、再び行ってくる」

 

「はい、頑張ってください」

 

原始龍からの応援を受けて、俺は集合場所に赴く。列に並び、自分の番を待つ。

そして俺の番になった。俺の番になるまで見ていると、

あの輪っかに跳び込んだ瞬間に封筒が降り注いで、それを受け取りながら全ての輪っかを

潜ってからようやく借り物を借りて地上のゴールに進む感じであった。

 

『位置について、よーい・・・・・ドン!』

 

開始宣言が告げられた。一度は跳躍して背中にドラゴンの翼を生やして羽ばたかせ、

輪っかに潜ると、上空に魔方陣が出現して封筒が降ってきた。

その一枚を手にして一気に他の輪っかを潜る。

全ての輪っかを潜り終えると、封筒を開けて借り物が書かれている紙を確認する。

 

「・・・・・」

 

俺は紙の内容を見て、思わず笑みを浮かべた

『幼馴染』―――とだけ書かれている。俺は周囲にいる幼馴染を探した。

これ、複数でもいいんだよな?

―――六対十二枚の金色の翼を生やして各陣営にいる幼馴染に向かって伸ばし、捕獲した。

 

「えっ!?」

 

「なんだ?」

 

「いっくん?」

 

「一誠さま?」

 

「俺と来てもらうぞ」

 

四人の幼馴染を捕獲して、俺はゴールまで走り切った。

 

『ドラゴンの選手が一位でーす!』

 

ん、また一位だ。これで貢献できただろう。そう思った俺に四人が訊いてきた。

 

「イッセーくん、借り物はなんだったの?」

 

借り物が書かれている紙を見せると、四人は納得した面持ちで頷いた。

 

「ふふっ、私だけじゃなくヴァーリも連れていくなんて」

 

「私と悠璃も幼馴染・・・・・一誠さまは誰一人欠けることなく、集めたのですね」

 

「幼馴染として嬉しいな」

 

「うん、嬉しい」

 

ゴール付近で俺は四人に抱きつかれた。

その瞬間、嫉妬の視線が感じたのは当然だったのかもしれない・・・・・。

 

○水上戦

 

 

海のど真ん中に置かれた丸い足場に各選手三人が乗って、

相手を海に突き落とせば勝利という競技が行われている。

今回は参戦しないが、代わりにクロウ・クルワッハたちが参加している。

ドラゴンVS天使と競技は始まった。天使側は・・・・・ミカエル、ガブリエル、

それとユーストマ。ドラゴン側はクロウ・クルワッハとアジ・ダハーカ、アポプスの

邪龍の筆頭格だ。この競技は水着を装着して競う事だから必然的に選手たちは

水着を着なければならない。だから、女性であるクロウ・クルワッハとガブリエルの肌が露出して

各陣営の選手(男)たちはヒートアップ(興奮)する。

 

「こんな形で邪龍と戦うことになるとはなぁ」

 

「神王とセラフ・・・・・相手にとって不足はないな。そう思わないか。クロウ」

 

「そうだな。私は・・・・・ガブリエルと戦おう。他は任せた」

 

「あらあら、ご指名されてしまいましたわね。その理由はお伺いしても?」

 

「―――兵藤一誠は渡さん」

 

純粋なる嫉妬心からの使命だった。クロウ・クルワッハ物凄い速さでガブリエルに跳びかかった。

ガブリエルは笑みを絶やさず、鋭く伸ばされてくる腕を容易く弾いたり、

かわしたりとおっとり風な天使にしては驚きの動きを見せてくれた。

あれで、マジな攻撃を加えたらどうなるんだろうか。とても気になった。

 

「ぬおおおおおおおお!」

 

「ギェエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

ユーストマとアジ・ダハーカが力の根競べを始めた。おお、海が荒れている荒れている。

空間も歪んでいるって。アポプスとミカエルは・・・・・相手の様子を窺って警戒していた。

こっちは頭脳派勝負をしている。

 

『ユーストマさま、ミカエルさま、ガブリエルさま!頑張ってくださいッ!』

 

『ドラゴンの力を天使と神に思い知らせてやるんだっ!』

 

天使側とドラゴン側からの応援が凄まじい。

だが、一向に状況は変わることもなく時が進んでいく。

―――しょうがない。奥の手を使おうか。

 

「クロウ・クルワッハ!」

 

大声で叫ぶ。

 

「勝ったら一つだけ何でも聞いてやるぞ!」

 

―――刹那。クロウ・クルワッハから禍々しいオーラが迸った。

 

「ふふふっ・・・・・その言葉、待っていたぞ」

 

案の定、クロウ・クルワッハが全力でガブリエルに跳びかかった。

それにはガブリエルが防戦一方となり―――最後は海へ突き落された。

続いてミカエルに襲いかかるとそこでアポプスも動き始めた。

ミカエルも二対一で応戦する事になり、いい勝負をしたが結局、数に負けて海に落とされる。

ユーストマもアジ・ダハーカに足場から落とされた。

そして水上戦はドラゴン側の勝利を収めたのであった。

 

さらにここで面白い光景が。悪魔と堕天使の水上戦でのことだ、悪魔側は姫島朱乃、木場祐斗、

塔城小猫とチームで堕天使側はバラキエル、知らない堕天使の男女だった。

 

「あ、朱乃・・・・・」

 

どう声を掛けていいか分からないでいるバラキエルに向けて、

姫島朱のは手を組み、瞳を潤ませながら懇願した。

 

「・・・・・父さま!私、父様とは戦いたくない!お願い、助けて!」

 

なんて憂いのある表情だろうか。それを聞いたバラキエルは―――。

 

「・・・・・うぅ、うおおおおおおおっ!」

 

叫びながら、同じ堕天使の選手たちを抱えて海へ飛び込んだのだ!

これには堕天使側から驚きの声が盛大に聞こえた。

―――悪魔(愛娘)に翻弄された堕天使(父親)という光景を目の当たりにして、

俺は思わず笑った。

 

○騎馬戦

 

次の競技も団体戦の騎馬戦だ。各勢力の選手たちは馬を組み、上に騎手を乗せる。

五大勢力の皆さんは殺気と敵意がむんむんの戦場と化していた。

これは相手に直接物理的なダメージを与えることができるから、

各勢力に日ごろ思ってきた鬱憤を晴らすチャンスでもあるからだろう。ここにきて―――。

 

「原始龍に呼ばれてきてみれば・・・・・運動会だと?」

 

「我、参加しないといけない?」

 

超が五つ付いても足りない最強の助っ人が登場した!ガイアとオーフィスだ。

少々、面倒くさそうな面持ちだったが、

 

「ここで、兵藤一誠にいいところを見せたら・・・・・惚れ直すと思いますよ?」

 

「よし、やってやる。今回だけお前の言う事を聞いてやろう」

 

「イッセーのため、頑張る」

 

あっさり堕ちた真龍と龍神!俺を含め、代表的なドラゴンは騎手となりチームを組む。

 

『それでは騎馬戦スタートです!』

 

アナウンスの掛け声と同時に各勢力の騎馬が戦意満々で飛び出していく。

 

「おりゃあああっ!カタストロフィだっ!死ね、天使どもぉぉっ!」

 

「天使を舐めるなぁぁぁ!最後の審判だっ!」

 

「天使も堕天使も共に滅べぇぇぇぇっ!」

 

「散々俺たち人間を利用するお前達に天誅をくだしてやるぅぅぅっ!」

 

「一方的に退治される我らドラゴンはこの機を持って退治する側となろう!」

 

皆、光力、魔力、気を絶大に放ちながら総力戦してる!まるで戦争じゃないか!

騎手の帽子を取る競技のはずなんだけど!?

 

「ふはははっ!こいつは面白い、この戦場は愉快だ!」

 

あー、アジ・ダハーカが興奮しちゃっているよ。

周囲に膨大な魔力を放って当たり構わず吹っ飛ばしているし。

 

「てめぇっ!それ以上の攻撃は俺が許さん!」

 

ユーストマが威風堂々とアジ・ダハーカとぶつかり合った。っと、俺も動かないとな。

 

「ゆっくり前進」

 

「ゆ、ゆっくりですか?」

 

「向こうから相手が来るからな」

 

騎馬となってくれているドラゴンたちに指示を出す。―――案の定、

 

「兵藤一誠、覚悟!」

 

「くたばれぇっ!」

 

「その帽子()を貰い受ける!」

 

「お前を倒す!」

 

四方向から相手が駆け寄ってきた。

 

「旋回」

 

騎馬のドラゴンたちは忠実に旋回してくれる。

襲い掛かってくる四種族の選手たちの帽子を旋回した際に奪い取って吹き飛ばした。

 

『皆さーん、ここであの戦争の続きを始めないでくださーい!

しかもあの時より過激になっていて

再現されてますよ!本当にあの戦争が見事なぐらい再現されてますからね!

やめろって言ってんだろぉぉぉっ!ひゃっは――――っ!』

 

アナウンスも絶叫を張り上げながら実はノリノリの様子だった!

今にでも自分も参加したそうな声だったな。

 

「―――見つけたぞ!」

 

「お?」

 

何時の間にか俺は囲まれていた。それも強敵揃い。兵藤照、サイラオーグ・バアル、

リアス・グレモリー、ソーナ・シトリー、ミカエルといった面々だ。

 

「あなたは危険ですからね。ここで留まってくれないと後に困りますから」

 

「悪いが、相手をしてもらおう」

 

おおう・・・・・人気者は辛いな。でも、相手をする暇はないんだよ。

 

「全力で全速前進」

 

「ほ、本気で?」

 

「大丈夫。抜け道はある。GO!」

 

騎馬のドラゴンたちは俺の言葉に信じて全力で前進した。

 

「バカみたいに向かってくる!?」

 

「一体、なにを考えて―――!」

 

まあ、俺の考えなんて誰も理解できるわけがないだろう。

サイラオーグ・バアルに向かって駆ける俺たちに周りが詰めてくる。

 

「こい、兵藤一誠!」

 

嬉々として構えるサイラオーグ・バアル。だけど、悪いな!俺たちの眼前に虚空に開いた穴に

跳びこんで―――別の場所に出た俺たち。背後を見れば、

固まっているリアス・グレモリーたちがいた。

 

「バカ正直に相手をしていられるか。相手は山ほどいるんだからな」

 

「お、お見事・・・・・」

 

唖然と称賛するドラゴン。

さて、誰を狙おうかなーっと思って辺りに視線を向けていると女性の悲鳴が上がった。悲鳴?

 

「なんだ?」

 

騎馬のドラゴンたちに悲鳴がした方へ向かわせると、全裸な女性騎手たちが大勢いた。

その近くに成神一成とアザゼルがいた。あー、なるほどな。成神一成を煽ったのはアザゼルか。

 

「よし、あの赤龍帝をぶっ殺す」

 

「殺してはなりませんよ!?」

 

「言葉の綾だ。とりあえず、赤龍帝に向かって進んでくれ」

 

成神一成は動いていた。その向かう先に―――ガブリエルがいた。

 

騎馬のドラゴンたちは物凄い速さでガブリエルと成神一成の間に割り込んでくれた。

 

「んなっ!?」

 

「―――この変態乳龍帝が!」

 

ドゴンッ!

 

肩腕を龍化にして成神一成だけ殴り飛ばした。

 

「女の敵は排除した。んじゃ、次に行くか」

 

その時、俺の頭に一瞬の温もりを感じた。―――やばっ!?

慌てて頭を抑え、尻目で見るとガブリエルが満面の笑みを浮かべていた。

 

「ふふっ、自分から近づいてくるなんて可愛いです」

 

「いや、別にそういうわけじゃないんだけど・・・・・この手、放してくれるか?」

 

「やです」

 

な、何気に手の力が強い・・・・・!?クロウ・クルワッハとやり合うだけあるか・・・・・!

 

「見つけたわ!」

 

「くっ!?」

 

リアス・グレモリーが現れた。しつこいな!?他の奴らも俺に気付いて襲い掛かってくる。

このまま膠着していると、武が悪くなる・・・・・。しょうがない・・・・・!

背中に翼を生やしてガブリエルの身体を拘束した。

 

「え?」

 

「仮に帽子を取られても、騎馬から離れるお前も失格となる」

 

騎馬の天使たちを弾き飛ばしてガブリエルを拘束したまま騎馬のドラゴンたちに移動をさせた。

未だに俺の頭から手を離さそうとしないガブリエルを背中に背負って片手だけで

辺りの選手たちを弾き飛ばしたり、帽子を取ったりしていく。

 

「・・・・・温かい」

 

○決戦!バトンリレー!

 

五大勢力の合同運動会もついに最終決戦となっていた。バトンリレーだ。

 

『各チーム、選び抜かれたリレー選手が各ポジションに待機しております!

さあ、長らく競い合ってきた運動会もついに最後となりました!』

 

アナウンスも最後の声出して会場を盛り上げる。各勢力の得点はドラゴン側が一歩リードと

有利な状況だ。だが、この競技でドラゴン側が勝たないと負けてしまう。

このラストのバトンリレーで勝敗が完全に決まる状態となっていた。俺はリレーのアンカーだ。

 

「ふふふ、俺の相手はお前らか、ダブルイッセー」

 

「お、お手柔らかに・・・・・」

 

「頑張りましょうねー」

 

「ぜってぇー負けられねぇ・・・・・!

 

悪魔側は禁手(バランス・ブレイカー)の鎧状態の成神一成、堕天使側はアザゼル。

天使側はガブリエル、人間側は兵藤照だった。

 

『さあ、最終決戦スタートです!』

 

バンッ!

 

リレーのピストルが撃ち鳴らされ、軽快なBGMと共に各勢力、

最初の選手が飛び出していった。ドラゴン側の最初は―――ステルスだった。

透明人間がバトンを持って走る光景はとても異様だった!

バトンが上下に振って進んでいるようにしか見えないからだ!

そんな珍しい光景を目の当たりにしてもリレーは続き、選手たちはグラウンドを駆け回っていく。

そしてついに俺の手前の選手―――ガイアにバトンが手渡され、走りだした。

 

「不動と称されている我に負けなどない!」

 

凄まじい速度でガイアが駆けていく。

速っ!?物凄い速いぞ!もうあっという間に俺のもとまで来た!

 

「いってこい一誠!」

 

「了解!」

 

俺はバトンを受け取り、自分の足でコースを走る。しかし―――!

 

「てめぇだには負けられねぇんだよぉっ!」

 

全身に闘気を纏った兵藤照が爆走してきやがった。

その背後にアザゼルと成神一成、ガブリエル。

 

「なろう!」

 

俺も全身に闘気を纏ってさらに速度を上げるが、

兵藤照の執念が凄まじいのか、俺の肩に並んで来るほど追いついてきた。

 

「おらぁっ!」

 

と、あいつが気弾を至近距離から放ってきた。俺が避けると、

その隙にあいつは先に行ってしまった。

 

「この野郎・・・・・攻撃がありならこっちだって考えがあるぞ!」

 

瞳を怪しく煌めかせて、兵藤照の足の動きを停止させた。

 

「っ!?」

 

足が動かなくなった事で、あいつは顔から地面にダイビングして倒れ込んだ。

その間に俺は兵藤照を追い抜いた。

 

「て、てめぇっ!?」

 

「フハハハハッ!そこで何時までも這いつくばっているがいい!」

 

高笑いしながらの俺は既にゴールテープと目前だった。あのテープを切れば、

俺たちの―――と思った直後だった。俺の全身が停止した。

 

「こいつは・・・・・!?」

 

顔だけとある陣営に向けた。―――頭を覆う紙袋に赤く怪しく煌めかす二つの双眸。

その傍には満面の笑みを浮かべるリアス・グレモリーがいた。

 

「あいつら・・・・・!」

 

場外からの妨害はありなのか!?幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)を装着し、

能力を無効化すれば再び駈け出した―――。

 

「お先に~」

 

その俺の横にガブリエルが通り過ぎて行き、ゴールのテープを切ってしまった。

 

『ゴ―――――ルッ!バトンリレーを制したのは天使チームでしたーっ!』

 

「なに・・・・・っ!?」

 

得点板を見れば、たったの一点差で天使側に負けてしまっていた。

な、なんてことだ・・・・・!

あまりにもショックで俺はその場で落ち込んだ。

 

「・・・・・一誠」

 

背後からガイアの声がした。俺は振り向かず、ポツリと呟いた。

 

「言い訳はしない。でも、ごめん」

 

「・・・・・」

 

足音が徐々に近づいてきた。そして、足音が止まったら、俺の頭に温もりが感じた。

 

「気にするな。予想外な出来事は常にある。

まさか、場外から妨害されるとは誰も思いはしなかっただろう?」

 

「うん・・・・・」

 

「ならば、今回の敗北を糧にして前に進め」

 

振り向けば、ガイアは真っ直ぐ俺を見つめていた。俺はコクリと頷き、感謝の言葉を述べた。

 

「原始龍たちに謝らないとなぁ・・・・・」

 

「我も付き合おう」

 

「ありがとう、俺の愛しいガイア・・・・・」

 

かくして、大運動会は天使チームの優勝という結果で幕を閉じた。

各陣営の面々は日頃の鬱憤が吐き出されたのか、終了際に疲れた表情ながらもどこか満足げな

様子だった。それを受けて、すでに「来年も開催しようか」って

話になっているようだ・・・・・。

来年もやるなら俺はもう一度ドラゴン側となって今度こそ勝利したいな。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

異世界の魔法少女と異世界のデビルとドラゴンの遊記
Episode1


 

 

―――???―――

 

「この辺りにあの子が住んでいるのよね・・・・・えっと、どこかしら」

 

「やあ、そこの綺麗なお嬢さん」

 

「ん?」

 

「こんな天気のいい日だ。どこか喫茶店でお茶を飲まないかい」

 

「あー、遠慮します。・・・・・そうだわ、一つ尋ねたいことが」

 

「なんだい?」

 

「―――式森和樹が住んでいる家ってどこかしら?」

 

―――○●○―――

 

皆と再び暮らしてそれなりに日が経った。正式に俺の生存は公表されず、

一部の者以外が俺の死亡と認知し、もしかしたらすでに記憶から抜けているかもしれない。

だが、それがどうしたというんだ?俺は新たな家族を増やして愛しい家族たちと暮らせて

これ以上の無い幸福感を得ている。片時も離れようとしない家族とのんびり過ごし、

朝昼晩と共に食事をし、風呂に入ろうとすれば問答無用に女風呂へガイアに連行され、

就寝時には当然のように俺の周りに集まって寝る。まあその際、誰が俺のどの身体にしがみ付く

権利に様々な方法で決め合っているがな。今日も学校には行かず、家にいる皆と過ごしていると、

不法侵入をしたアザゼルにグレイプニルで縛り上げ、事情を聞いた。

 

「事情を話す前に、これ解け!」

 

「玄関から入れと何時も言っているんだけど?」

 

「面倒くさい!」

 

「よし、蝶蝉に連絡―――」

 

「すまん!これから絶対に必ず玄関から入るからそいつだけは勘弁してくれ!」

 

芋虫のように体を動かして懇願してきた。あいつに畏怖の念を抱いている様子だった。

あの時は本当に面白かったな。うん。

 

「で、どうしたんだ?」

 

「・・・・・あの魔石の件だ」

 

グレイプニルを解いてやると、アザゼルは言った。

 

「結論から言えば、前も言ったように似て異なる魔力の結晶だ。

俺が今まで感じた魔力とはまた違う魔力が検出されているが、

現時点で俺たちグリゴリがあの魔石について調べ上げられるのはこれが限界だ。すまんな」

 

「そっか。分かった、ありがとうな」

 

「気にすんな。こっちも未知な魔石を調べられて言い経験になった。ほら、返すぞ」

 

魔方陣を展開して、もう一つの赤い結晶を発現した。それを手にして手の平で弄んでいると、

この空間にエイリンとユーミルが現れた。

 

「むっ、その結晶・・・・・」

 

「ん?」

 

「イッセー、その結晶はどこで見つけたものなのじゃ?」

 

なんだか、知っているような口振り。

 

「鉱山を掘っていたら見つけたんだけど?」

 

「ほう、あの鉱山にか?意外なところにまた見つかるとはのぉ」

 

また・・・・・ということは、この二人もこの赤い結晶を持っているという事だ。

 

「持っているのか?この赤い結晶を」

 

「うむ。わしらのお気に入りとして大切に保管しておるからの。

その赤い結晶をどんな武具に利用しようか検討しておったからな。

かなりの魔力を秘めておるから、武具にすれば、物凄い力を秘めたものになるじゃろうし」

 

「ユーミル姉とわちらの分、二つあるのじゃ」

 

「ってことは、あのリゼヴィムとお前らの分を合わせると五つあるってことか。

こりゃ、いったいなんなんだ?」

 

アザゼルが怪訝に眉根を寄せる。さて、もう一つは・・・・・アジ・ダハーカ。

そっちはどうなんだ?話しかければ、手の甲に黒い宝玉が浮かんだ。

 

『そこの堕天使と大して変わらん。変わった魔力を持った魔石。それだけだ。

これがどんな用途に仕えるのか定かではないな』

 

「・・・・・千の魔法を使役する邪龍でさえも分からんか。

だったら、他の奴にも聞いてみるか」

 

「誰にだ?これ以上聞いても変わらないと思うんだけど?」

 

「魔石に魔力が籠っているんだ。

だったら、魔力に関して詳しい奴ならもしかしたら違う意見が出るかもしれないぞ?」

 

結局、その他の奴とは誰なのか俺は分からなかった。―――と、インターホンが鳴った。

リーラかグレイフィアが応対してくれるだろうから動かず、ユーミルとエイリンに赤い結晶を

持ってきてほしいと頼んで自室に向かわせた。二人と擦れ違うようにリーラが現れた。

 

「一誠さま、お客さまです」

 

「俺に?・・・・・知らない気を感じるんだけど?」

 

気を探知すれば、俺が感じたことがない気を感じた。リーラは俺の疑問を解消してくれた。

 

「正確には和樹さまの知人ですが、和樹さまは学校におりますので」

 

「和樹の知り合い?分かった。ここに連れてきてくれ」

 

リーラは頷き、俺の前からいなくなった。

少しして、再びリーラが和樹の知人を引き連れて現れた。

背中にまで伸びた茶髪に青い瞳の女性だ。それなりに背が高く青い瞳は強い意志が籠っている。

 

「こんにちは。突然、訪問してごめんなさいね。私は蒼崎青子。以御お見知りおきを」

 

「よろしく。ところで和樹の知り合いと聞いたが、一体どんな関係で?」

 

「うーん、師弟関係ね」

 

その言葉に俺は思い出した。和樹には師がいた事を。

 

「・・・・・ミス・ブルーってあんたのことだったんだ?」

 

「あら、あの子が私の事を教えていたの?」

 

「師匠がいるとしか言っていないけどな」

 

蒼崎青子は「そう」と言ってアザゼルと俺の間にあるソファに座った。

 

「和樹を会いに?」

 

「ええ、最近のあの子を見たくなってね。どう?あの子は」

 

「魔力と魔法に関しては和樹が世界一だと俺は断言する」

 

「へぇ、ちゃんと成長しているようね。まあ、一勝負して確かめないと分からないけど」

 

そこへ、アザゼルが口を開いた。

 

「お前さんが有名な魔法使いの一人か。こいつは驚いたな」

 

「確か・・・・・堕天使の総督だったわね?写真や新聞で何度か見聞させてもらったわ」

 

「おう、堕天使の総督のアザゼルさまだ、よろしくな」

 

アザゼルと蒼崎青子が握手を交わす。

 

「よろしく。まさか、あの子がこんな有名な人と知り合いなんてね。あの子も凄いじゃない」

 

「いやいや、そこのイッセーの方がよっぽど凄いぜ?訊いてみたらぜってぇ驚く」

 

「ふーん?そうなの?」

 

「いや、驚くようなことはないと思うけど?」

 

「嘘吐け!色んな神と交流を持っている人間、ドラゴンが何人もいてたまるか!」

 

アザゼルに鋭く突っ込まれた。

 

「色んな神と?それ、一体どんな神と?」

 

蒼崎青子が好奇心に聞いてきた。俺は色んな神の名前を告げたら、

 

「・・・・・」

 

ぼーぜんと開いた口が塞がらないでいる蒼崎青子が完成した。

 

「あなた・・・・・何者なのよ?」

 

「イッセー・D・スカーレット。本名は兵藤一誠だけど」

 

「兵藤・・・・・一誠!?」

 

いきなりソファから立ち上がって愕然とした面持ちで叫んだ。

 

「・・・・・一香さんの子供・・・・・」

 

「知っているんだ?俺の母さんの事」

 

そう言うと、蒼崎青子が詰め寄ってきた。

 

「知っているも何も、あの人の旧姓は式森一香。

元式森家当主でその時の式森家の魔法使いの中では魔法に関して右に出る者はいないと

称されるほど伝説的な魔法使いなのよ!?魔法使いの世界じゃ、

式森一香は千の魔法を使いこなす『千の魔法使いの男(サウザント・マスター)』の魔法使いと同等の

有名人!その名を聞いた下級魔法使いは恐れ戦き、

どんな優れた魔法使いが式森一香と対峙しただけで戦意がなくすというほどの魔法使いよ!」

 

「・・・・・なに、その逸話。初めて聞いたんだけど」

 

「寧ろ、あの方の息子であるあなたがそんな事を知らないなんて事が驚きよ。

今までどんな風に過ごしていたのよ?」

 

「えっと・・・・・色んな神さまと会わしてくれたり、色んな町や国に連れて行ってくれたり、

人間じゃ絶対に入れない場所にも一緒に行ったな。冥界とか天界とか、あと真っ暗な世界も。

骸骨のお爺ちゃんがいた世界だったな」

 

思い出しながら言っていると、アザゼルと蒼崎青子が目を見張っていた。

 

「お、お前・・・・・その頃の歳で冥府に行っていたのかよ・・・・・!?」

 

「なにこの子・・・・・そんな経験を何度もしていたの?別の意味でこの子は怖いわ」

 

いや、そういわれても・・・・・。と、その時。ユーミルとエイリンが戻ってきた。

 

「持ってきたぞ・・・・・と、誰じゃ?」

 

「和樹の魔法の師匠だ」

 

「ほう、師匠なのか。わちはドワーフのエイリンじゃ。よろしくの」

 

「ドワーフ?へぇ、この家にドワーフがいるんだ。珍しいわね・・・・・って、その結晶は」

 

蒼崎青子がユーミルの持つ赤い結晶に意識を向けた。

 

「知っているのか?」

 

「ええ、旅先に見つけたのと同じだわね。他にもあっただなんてね」

 

「マジか。実は俺も持っているんだ」

 

魔方陣を展開して赤い結晶を発現し、アザゼルから手渡されてもう一つの赤い結晶をテーブルに置

いてみせた。ユーミルも二つの赤い結晶を置いた。

 

「四つ!?四つも同じ赤い結晶があったの?」

 

そう言いながら魔方陣を展開した蒼崎青子も、赤い結晶を一つ発現した。

この場に五つの赤い結晶が集まった。

 

「五つ・・・・・いや、あいつのも含めて六つか・・・・・」

 

「六つ?他にも誰かが一つ持っているの?」

 

「ああ、厄介な奴の手にな。あいつが言うには異世界の物だとか

言っていたが・・・・・本当かどうか未だに分からないでいる」

 

「異世界の物・・・・・だとしたら、どうしてそんな物がこの世界にあるのかしらね。

とても気になるわ」

 

俺たちは揃って疑問が浮かぶ。

 

「ところで、これからどうするつもりなんだ?」

 

「そうね、和樹の顔を見て少しばかり雑談してそれから式森家に顔を出す予定よ」

 

「式森家とどういう関係なんだ?」

 

「遠い親戚よ」

 

―――○●○―――

 

「せ、先生!?どうしてこの家にいるんですか!?」

 

和樹たちが学校から帰ってくると、蒼崎青子と出くわした和樹が驚愕した。

 

「弟子のあなたの顔を見にね。

ナンパしてきた魔王にあなたが住んでいる家まで道案内してもらったのよ」

 

・・・・・魔王がナンパって・・・・・本当に魔王なのか?

 

「一誠くん。あの人は一体誰?」

 

「蒼崎青子。和樹の魔法の師匠だってさ」

 

「へぇー、和樹くんのお師匠さまなんだ。綺麗な人だね」

 

「そうだな」と相槌を打って和樹と蒼崎青子のやり取りを見守る。

二人とも、同じ魔法使いだから積もる話もあるだろう・・・・・。

 

「なあ、良かったら一泊していくか?」

 

「い、一誠!?」

 

「あら、いいの?それじゃ、お言葉に甘えるわ」

 

あっさりと蒼崎青子が了承した―――と、和樹が詰め寄ってきた。

 

「き、キミは一体何を考えているの?」

 

「うん?久し振りに会う師匠なんだから、色々と話したいことだってあるだろう?」

 

「そ、それはそうだけど・・・・・」

 

なんだか、様子がおかしいな。それに怯えているような・・・・・?

 

「もしかして、怖いのか?」

 

「・・・・・」

 

俺の問いかけに沈黙した。沈黙は是也。なるほど、和樹にも怖い人がいるんだな。

多分、修行の際に怖い思いをしたのだろう。―――その気持ち、物凄く分かるけどな!

 

「まあ、今日ぐらいはゆっくり話し相手になってやれ」

 

「う、うん・・・・・でも、助けてね?」

 

助けを求めるほど和樹は何かやらかされるのか!?

 

 

 

翌日。和樹たちは学校にいる間、俺は蒼崎青子を光陽町に案内していた。

 

「天使と堕天使、悪魔と人間が交流の象徴の町・・・・・。ほんと、凄い事を考えたわね」

 

「主な目的は種の滅亡を阻止するためだとか。でも、ここの地域しかないけどな。

観光目的で来る人間は多いらしいけど」

 

「確かに、観光目的なのは分かる気がする。こんな綺麗で特別な町だもの、

一度は来てみたいわ」

 

蒼崎青子の言葉に相槌を打って町中を歩く。

平和に日常を送っている風景は何度見ても変わらない。

裏で何が起きているのか露も知らずにな。

 

「なあ、喫茶店に行くか?美味いデザートを作る店なんだけど」

 

「デザートか。うん、あなたのオススメな店なら美味しそうね」

 

満更でもなさそうな反応だった。目的地フローラに足を運んで店内へ侵入。

すぐに店員に出迎えられるが、

 

「すいません。どの席も満席状態なので・・・・・合い席でよろしいでしょうか?」

 

「ええ、構わないわ」

 

そう決めた蒼崎青子に店員が誘導する。店員に続くと男性と女性、

それに幼い子供が座っている席に案内された。

 

「―――って、なんでいるんだよ・・・・・!?」

 

「うん?・・・・・あら、一誠じゃない!」

 

意外は意外でも―――敵が堂々とのんびり満喫しているなんて、どういうことだよ!?

女性が俺の姿を見るや否や、立ち上がって抱きついてきた。

 

「・・・・・なんで?」

 

蒼崎青子も愕然としていた。店員は困惑した表情で佇む。

 

「あ、あの・・・・・ご一緒によろしいでしょうか?」

 

「ええ、問題ないわ。あっ、この子たちにロイヤルパフェを二つお願いするわ」

 

「かしこまりました」

 

店員がいなくなると、俺は女性から離れた。声を殺して話しかけた。

 

「随分と、余裕なんだな。三人の実力からしてみれば潜入なんて朝飯前か」

 

「潜入なんて人聞きの悪い。私たちは普通にこの町を訪れているのよ?」

 

「その理由は?」

 

「観光♪まあ、取り敢えず座りなさい。何時まで立っていたら邪魔になるだけよ」

 

そう言われ蒼崎青子に視線を来ると、

コクリと彼女が頷いたから警戒心を抱きながら幼い子供の隣に座った。

 

「吸血鬼の根城以来だな。我が下僕よ」

 

「誰が下僕だ」

 

「では、パーパと呼ぼうか?」

 

黒いワンピースに子供用のハイヒールを履いていた、

褐色肌で背中にまで伸びている黒髪の少女―――リリスが意味深な笑みを浮かべる。

 

「サマエルの毒、そのパフェにかけてやろうか?」

 

「んなっ!?何て非道なことをしようとする!パフェには罪がないだろうが!」

 

リリスはパフェを庇うようにして俺を非難する。

そんな少女から視線を外して目の前の二人に向けた。

 

「ただの観光でこいつも連れていくか?」

 

「その子も興味があったのよこの町をね。私と彼も一度は来てみたかったし、

オフを使って観光をしに来たのよ。それにしても―――久し振りね青子ちゃん。

元気にしているようね?」

 

「・・・・・」

 

女性はニッコリと笑みを浮かべ蒼崎青子に話しかけた。

話しかけられた彼女は当惑した面持ちで答えた。

 

「やはり・・・・・あなたなのですか?式森―――いえ、兵藤一香さん」

 

「ええ、そうよ?一度は死んだけれど再び蘇ったの。

その時、息子と熱ーい抱擁を交わしたものだわ」

 

「・・・・・俺はあんたらに殺されたけどな」

 

「・・・・・っ!?」

 

俺の言葉に蒼崎青子は面を食らった。男性が苦笑を浮かべ出す。

 

「にしても、お前はどうやって甦ったんだい?

サマエルの毒から逃れられるほどの力はなかったはずだけど・・・・・」

 

「それだけは絶対に教えないよ、父さん。教えたら興味持ちそうだし」

 

「自分の息子が甦ったからには興味を持たないわけがないだろう?そ

れに、一誠からグレートレッドとオーフィスの感じがする。

どうやら、肉体はドラゴンのようだね。髪の色も真紅だし。

まさか、反抗期の末、ヤンキーになってしまったのか?」

 

「なるか」と男性―――兵藤誠に言い返していると、リリスがもぞもぞと動き出した。

あろうことか、俺の足と足の間に割り込んでチョコンと座りだした。

 

「ふむ、居心地がいい。しばらくはこうしていよう」

 

「・・・・・」

 

この反応はどうしようか悩んだが、止めた。

 

「・・・・・質問にいいか?」

 

「おっ、なんだ?」

 

「魔力が籠った赤い結晶のことだ。二人は何か知っているのか?」

 

そう問いかけると二人は顔を見合わせる。

 

「あの結晶の事かな?」

 

「そうね。でも、一誠。どうしてそんな事を聞くの?」

 

「彼女がその結晶を持っているからだ」

 

俺たちが四つも持っていると伝えず、敢えて彼女が持っていると教えた。

 

「青子ちゃん、本当なの?」

 

「え、ええ・・・・・確かに持っています。あの結晶は一体何ですか?」

 

「うーん、俺たちも詳しくは知らないが。確かなのは異世界の代物だろう。魔力が違うからね」

 

「どうして、異世界の物だと断言できる?」

 

疑問をぶつけた。あの赤い結晶が全ての始まりでもあるからだ。

父さんは俺の疑問に笑みを浮かべた。

 

「若い頃、今は一誠が宿している俺の神器(セイクリッド・ギア)で異世界に行ったんだ。

その異世界で七つほど赤い結晶を見つけて持ち帰ったんだけど、

急に赤い結晶が光り輝いて世界中に散らばってしまったんだ。

その内の一つをどうにか散る前に掴んだが、他の六つはどこかに行ってしまった」

 

「・・・・・それ、本当の事?」

 

「おいおい、父さんが嘘を吐いたことはあったか?」

 

「一度はあったな」

 

「うぐっ・・・・・あの時のことか・・・・・」

 

父さんはすまなさそうな顔をする。蒼崎青子は何のことだろうか気になったようで訊ねてきた。

 

「ねえ、なんのこと?」

 

「他愛のない事だよ。何時も忙しい仕事をしている二人に俺の誕生日を一緒に祝う

約束だったけど、二人は仕事で帰ってこなかったんだよ。ただそれだけ」

 

「ああ、そういうこと・・・・・」

 

「・・・・・そういえば一誠。イリナちゃんとあの約束はできているの?」

 

母さんの言葉に首を横に振る。丁度、ロイヤルパフェが二つテーブルに置かれた。

 

「・・・・・家が全焼したんだ。アレがないと行けれないし、

今まで生き別れになっていたから約束は果たしていない」

 

「そう、なら丁度良いわね」

 

魔方陣を展開したと思えば、魔方陣から一つのベルが出てきた。―――それは。

 

「そうだろうと思って、これを一誠に渡そうと思っていたわ。

これでイリナちゃんと約束は果たせるわよね?」

 

「・・・・・なんで、こんなことをするんだ?」

 

「今は敵同士の関係だけど、こうしている間だけでも家族として接してもいいでしょう?」

 

―――――。

 

「はい、これでしっかり頑張りなさい。今のあなたなら約束は果たせれるはずよ」

 

ベルを握らされる。その時の母さんの手の温もりは変わらず温かった。

 

「それじゃ、やることはやったし、帰ろうか」

 

「そうね。こうして話し開いただけでも十分満足だわ。

今度は三人だけゆっくり話をしましょう。家族としてね?」

 

父さんと母さんがた立ち上がると、リリスも俺から離れた。

あの三人は悠然とこの場からいなくなった。

 

「・・・・・」

 

手の中にあるベル。揺らせば小気味の良い音色が鳴る。

 

「・・・・・あなた」

 

「なんだ・・・・・」

 

慰めてくれるのか、励ましてくれるのか、そう思って蒼崎青子に視線を向けると―――。

 

「あの三人、払っていないわよ?」

 

―――その後、会計の時はとんでもない額を支払う事となった。

あの三人・・・・・どれだけこの店のメニューを食べつくしていたんだよ!?

 

 

 

家に帰ると、和樹たちは帰っていた。何やらテレビに釘付けになっている様子。

「どうしたんだ?」と声を掛けたら。

 

「某国で古代の遺跡が発見したんだって」

 

「古代遺跡か。水の都アトランティスなら行ったことあるけど」

 

「・・・・・もう、キミはどんなことをしていたんだい」

 

「父さんと母さんについていっただけだけど」

 

そう答えると、一人の中年男性が映った。古代遺跡を発見した人物だろう。

それから個人で撮影した古代遺跡の映像を見ることになった。保存状態が良く、

見慣れぬ古代文字が壁一面に刻まれていて、

さらに深奥では太陽と月が重なっている絵が描かれていた。

その意味はなんなのかは定かではない。

 

『探検をしている途中でこのような結晶を見つけましたよ』

 

男性は手に赤い結晶を見せびらかした。菱型の赤い結晶―――って、

 

「「あれはっ!」」

 

『え?』

 

魔石!最後の一つが人間の手に渡っていたとは・・・・・。

 

「ナヴィーにあの男の事を調べてもらおう」

 

「情報収集に長けた人間がいるの?」

 

「正確には悪魔と人間のハーフだ」

 

善は急げとナヴィーがいる部屋へと足を運んだ。

きっと父さんたちもこの事を知ったはずだから―――。

 

 

 

「はい、調べたわよ」

 

「ありがとう。それで風間翼ってどんな奴だ?」

 

「趣味はトレジャーハンターね。それと家族構成は妻と一人の息子がいるわ。

年齢はイッセーと同じね」

 

「俺と同い年か。因みに、そいつの名前は?」

 

「風間翔一、川神学園2-Fに所属している」

 

「―――あいつかよ!?」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode2

 

川神学園川神市、川神学園に俺は訪れた。その理由は風間翼の息子の風間翔一に会うためだ。

・・・・・そう言えば、俺の事・・・・・百代たちに教えていなかったな。

まあ、いつか再会する時が早まっただけか。まずは学長の川神鉄心に挨拶だ。

誰もいない玄関ホールを入り、川神鉄心がいる場所へと足を運ぶ。

とある扉の前に立ち止まるとノックをする。

 

『入ってよいぞい』

 

入室の許可が下りて扉を開け放って中に入る。

 

「・・・・・誰じゃ?」

 

「久し振りだな。川神鉄心」

 

「・・・・・お前さん、兵藤一誠かの?」

 

肯定と首を縦に振る。

 

「ああ、言い遅れた。俺は甦ったんだよ」

 

「ほう・・・・・そうじゃったのか。それなら百代は喜ぶじゃろうな」

 

嬉しそうに目を細める川神鉄心。世間話をしに来たわけじゃないから、早速本題に。

 

「風間翔一をここに呼んでくれないか?」

 

「風間翔一?一子の友人を?」

 

「ああ、あいつの父親に用があってな」

 

「ふむ・・・・・モモじゃなく、モモの友人に会いに来たというわけか。

ならば、直接会いに行こう。今は授業中じゃからな」

 

川神鉄心が立ち上がり、学長室から出る。

後を追うと、廊下を進み階段を上がっていくと2-Fのクラスに辿り着いた。

 

ガラッ・・・・・。

 

と授業中のクラスに川神鉄心が入る。俺も入ると、

 

「風間翔一。ちょいと学長室に来なさい」

 

「へっ!?」

 

赤いバンダナを巻いた男子生徒が驚いていた。

そこへ小豆色の髪の女性が怪訝な面持で話しかけてきた。

 

「学長。今は授業中です。なのにどうして風間翔一を?」

 

「なに、この者が指名したのでな」

 

「・・・・・この少年が?」

 

このクラスの担当教師と思しき女性―――知っているけど小島梅子が俺に視線を向けてくる。

 

「授業を邪魔して悪いな、小島先生」

 

「っ!?」

 

俺の言葉に聞き覚えがあったようで、目を丸くした。

 

「・・・・・兵藤一誠なのか?」

 

「まあ、本名はそうだな。今は―――」

 

「いっせえええええええええええええええええええええええええええええっ!」

 

紫がかかった青髪の女子生徒が叫びながら俺に抱きついてきた。

 

「って、京!?」

 

「嬉しい!生きていたんだね!夢じゃないんだね!?」

 

女子生徒、椎名京が涙を流して訊ねてくる。

 

「ああ、心配を掛けた。ごめんな」

 

「ぐす・・・・・うん・・・・・」

 

頭を撫でてやれば、泣き止んだ。

 

「・・・・・お前が生きていたとはどういうことだ?」

 

「正確には甦ったと言うべきかな。まあ、甦り方はちょっと特殊だったけど。

っと、それより風間翔一に用がある」

 

「お、俺に用だって?」

 

「ああ、お前に話があってな。お前と話しをしたい」

 

風間翔一に手招く。あいつは困惑した表情ながらも、席から立ち上がる。

 

「待ってくれ」

 

男子生徒の制止が掛かった。

 

「なんだ?」

 

「俺たちのキャップに一体なんのようなんだ?

お前ほどの人物が高が学生の生徒に用があるなんて、よほどの事なのか?」

 

「・・・・・」

 

真実を告げても、なにも変わらないか?いや、説明してもいいか・・・・・。

 

「詳細は教えれないが、風間翔一に深い関わりがある。それだけしか言えない」

 

「具体的に教えてくれ」

 

「それは俺がいなくあった後にこいつから聞け」

 

指をクイッと動かすと風間翔一の体が宙に浮き、俺のもとへ寄ってくる。

 

「全てが終わった後になるだろうがな」

 

宙を浮かせたまま風間翔一を教室から連れだした。

 

「で・・・・・俺は何時まで浮いたままなんだ?」

 

「まあ、屋上に行くまでだな」

 

―――屋上―――

 

屋上に着くや否や、風間翔一を下ろした。

 

「それで・・・・・俺に話ってのはなんだよ?」

 

「お前の父親、風間翼のことだ」

 

「俺の親父?親父がどうかしたんだよ?」

 

「お前の親父さんがテレビに出ていただろう。古代遺跡を発見したトレジャーハンターだ」

 

俺の言葉に風間翔一は頷いた。自分の父親の事に関係があると理解した様子だった。

 

「風間翼が持っていたあの赤い結晶。今どうなっているか知っているか?」

 

「えっと、確か・・・・・一旦この日本に持ち帰ってそれから芸術館に展示するってメールで」

 

「となると、あの赤い結晶は日本に持ち込まれるわけか。移動手段は飛行機でいいんだよな?」

 

「ああ、日本に戻るために今ごろ飛行機の中だと思う。

でも、どうして親父とあの赤い結晶の事を聞くんだよ?」

 

風間翔一は怪訝となる。まあ、確かにそんな事を聞かれたら不思議に思うよな。

 

「あの赤い結晶を狙っている奴がいるんだ。

まず、赤い結晶を欲するためにお前の親父を殺してでも奪い取るだろう」

 

「なっ!?」

 

となると・・・・・飛行機を探さないといけないわけか。

もしかすると、飛行機を襲撃しようとしている可能性があるな・・・・・。

 

「分かった。取り敢えず飛んで飛行機を探してみよう。

お前は心配せず授業を受けてくれ」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!どうして親父が殺されるんだよ!?

あの赤い結晶が一体何だって言うんだ!」

 

「相手はテロリストだからだ。それに赤い結晶はただの結晶じゃない。

あの結晶は膨大な力が秘めていてその力を欲するテロリストが現れているんだ」

 

「な、何だって・・・・・」

 

「そういうことだ、情報をありがとうな。お前の親父さんは必ず助ける」

 

その場で跳躍して金色の翼を生やして一気に飛翔した。

 

「ナヴィ、風間翼の現在位置を教えてくれ」

 

『りょーかい。でも、急いだ方がいいわよ』

 

「なに?」

 

『―――そこから百キロ以上先の空域に黒いドラゴンたちが飛行機を

襲いかかろうとしているから』

 

―――○●○―――

 

ナヴィの言う通り、とある飛行機は遠くから黒いドラゴンたちに囲まれていた。

そのドラゴンたちの一匹の頭部には銀髪の中年男性がいた。

 

「うひゃひゃひゃっ!まーさか、異世界の結晶がもう一つあるなんてなー。

こいつは驚いたぜ☆さてさて、これをぶっ壊して探すのは流石に骨が折れるかーら。

翼を破壊して全員拉致るとしましょっかね!」

 

リゼヴィム・リヴァン・ルシファーが指を動かすと呼応してドラゴンたちが

雄叫びを上げながら飛行機に襲いかかった。

 

「見つけたら人間共には用がないからなー。餌にしちゃいましょうかな!」

 

高みの見物とこれから破壊される飛行機を眺めるリゼヴィムの視界に突如、

真紅の光が横切った。黒いドラゴンたちはその光に呑みこまれ消滅した。

 

「うそんっ!?」

 

いくらなんでも気付かれるのは早過ぎると、予想外なことにリゼヴィムが驚愕する。

その光が現れた場所へ視線を向ければ、さらに目を見張った。

 

「なんでここにいんの!?」

 

「お前と同じ目的だろう?」

 

真紅の髪を靡かせる少年。兵藤一誠がリゼヴィムの前に立ちはだかった。

 

―――一誠side―――

 

あっぶねっ!全力で来てようやく間にあった!

 

「吸血鬼の根城以来だな。リゼヴィムおじさん」

 

「えー、いくらなんでも気付くのが早過ぎだぜ?一体誰から聞いたんだ?」

 

「情報収集が得意な家族がいるんでね。大いに助かっている」

 

「なーるなる、坊ちゃんところもなんだか凄くなって来ているねー。

もう、一つの勢力と化になっているんじゃない?」

 

勢力ね。まだまだ若輩もんだろうがな。

 

「あの異世界の物、赤い結晶を求めているんだろう?それは俺も同じ事だけどな」

 

「うひゃひゃひゃっ、そんじゃどっちが早いか競争すっか?」

 

口の端を吊り上げるリゼヴィムおじさんに問うた。

 

「知ってたか?あの結晶は七つもあるんだって」

 

「七つ?へぇ、そうなんだ?そいつは知らなかったなぁー」

 

「その内の五つが俺の手中にあると言ったらどうする?」

 

「マジで!?こっちが知らない内にもうそんなに集まってんの!?」

 

目が飛び出んばかりに驚愕するおじさんだが、

 

「嘘だけどな」

 

意地の悪い笑みを浮かべてそう言ってやった。

 

「どっちだよ!?・・・・・でも、坊ちゃんが持っていそうなのは確かだねぇ?」

 

「まあ、本当は持っているけどな」

 

魔方陣を展開してユーミルと蒼崎青子から借りた結晶も含め、

五つの赤い結晶が魔方陣の光と共に発現する。

 

「うっはっ!マジじゃん!本当に異世界の物が複数ある!チョー欲しいな!」

 

リゼヴィムおじさんも赤い結晶を懐から取り出した。

この場に六つ。残りの一つは―――あの飛行機の中だ。

 

「ぼーっちゃん。それ、おじさんにくれない?」

 

「嫌だと言ったら?」

 

「んじゃ、無理やりにでも奪っちゃう!あの飛行機の中にある結晶も含めてな!」

 

その言葉に黒いドラゴン、邪龍たちが襲い掛かって来た―――その時だった。

この場が急に暗くなった。暗くなった空を見上げれば―――太陽が月に隠れていた。

日食・・・・・?

 

―――カッ!

 

「なんだ?」

 

カッ!

 

「はっ?」

 

俺とリゼヴィムおじさんが持つ赤い結晶がここで反応し始めた。

赤い光を放っている。なんだ、あの日食と呼応している・・・・・?

 

「・・・・・もしかすーるとだ、坊ちゃん」

 

「なにがだ」

 

「この異世界の物が七つ揃い、あの日食と反応しているんじゃないかな?」

 

七つ―――ということは。飛行機の方へ向ければ、なんか赤く光っていた。

そんな光景を見ていると、飛行機から赤い光が飛んできた。

 

「うひゃひゃひゃっ!ここで全ての結晶が揃った!

さーて、俺たちにその力を見せてもらおうじゃん!」

 

リゼヴィムおじさんが喜ぶ最中、七つの赤い結晶が動き始め、

輪っかになりながら空高く飛んで行く。日食の輪っかと重なり合うように浮かんだかと思えば、

結晶の光がさらに強まると―――輪っかの中の空間が煌めき始める。

 

「おおっ!」

 

刹那。この辺りの空間が一気に歪み始め、空にどこかの町の光景を映し出した。

 

「なんだ・・・・・この現象は・・・・・!?」

 

「坊ちゃん、どーやらあの輪っかが入口のようだぜ?」

 

リゼヴィムおじさんが赤い結晶でできた輪っかに指さす。その輪っかは未だに光を発していて、

空の光景と全く同じ光景を映していた。そこだけはまるで膜のように張られている。

 

「うひゃひゃひゃっ!まさか、まだ準備もできていない内に異世界と繋がっちゃうとはね!

―――一足早く行ってみようじゃん!」

 

おじさんが輪っかに向かって飛翔する。父さんたちとリリスは姿を見せていないが、

いずれこっちに来そうだ。その前にリゼヴィムおじさんを連れ戻さないと!

 

―――○●○―――

 

輪っかを潜ると―――そこは別の世界だった。って・・・・・!

 

「どこだよ!?」

 

眼下には建物に人々。でも、肝心のリゼヴィムおじさんの姿が見当たらない!

 

「やべぇ・・・・・」

 

今頃、この世界の町を好き勝手に破壊し始めているわけじゃないよな?

そう思うと焦心に駆られそうになる。

 

「そもそも、元の世界に戻れるのか?」

 

あの赤い結晶の輪っかが見当たらない。空を見上げれば・・・・・あっ、見えた。

 

「俺がいた世界・・・・・」

 

水中を覗くような感じで海や空、建物が見える。

取り敢えず、帰れそうなのは確かだった。

取り敢えず動こう。この辺りにリゼヴィムおじさんはいないようだし・・・・・。

だが、探すのも大変だ。

 

「路地裏に入るか」

 

―――すると、俺の顔の近くに小型の魔方陣が出現した。魔方陣が立体映像を映し出す。

 

『一誠っ!』

 

「和樹!」

 

焦った表情を浮かべている和樹からの通信だった。

 

『キミはどこにいるんだ!?皆、キミを探し回っているけど見つからないんだけど!?』

 

「だろうな。というかしょうがないかもしれない。

そっちの空に映し出されている光景は見えるか?」

 

『うん、空になんか海や街が映っているんだけど・・・・・あれはなんだい?』

 

「お前と連絡ができるという事なら、

この世界、異世界とそっちの世界とまだ繋がっているからだろう」

 

そう言うと和樹が驚愕した表情を浮かべる。路地裏に入って壁に背中を預けて空を

見上げながら言った。

 

「しかも、最悪なことにリゼヴィムおじさんが異世界に侵入してしまった」

 

『なんだって!?』

 

「おじさんを追って俺も異世界に侵入したのは良いんだけど、はぐれてしまった」

 

『ちょっ!君は僕たちが知らないところで何とんでもないことをしているんだ!?』

 

いや、不可抗力化と思うんだが?

 

「この世界に入ったのは七つの赤い結晶が日食に反応して異世界との道を開いたからだ」

 

『日食が原因?―――って、その日食はあと数分で終わってしまうんですけど!?』

 

「なんだと!?」

 

思わず足を停めて驚愕した。元の世界に帰るにはおじさんを連れ戻さないといけなくなる。

おじさんをこのまま異世界に閉じ込めたら―――とんでもない事になるに違いない。

 

『一誠!早くその世界から戻ってきて!』

 

「リゼヴィムおじさんが見つかっていない。

あのヒトをこの世界に閉じ込めておけないだろう」

 

『あーもう!なんでよりによってリゼヴィムがいるんだい!それにキミもだよ!』

 

なんか怒られているし!?

 

「お前の魔法で異世界に繋げる魔法はないのか?」

 

『僕が知る限りないよ。でも、式森家の現当主、僕の両親に聞けばあるいは・・・・・』

 

「それでもなかったら、別の魔法を調べてくれ。

そうだな・・・・・虚無魔法とかありそうだな」

 

『虚無って、一誠が言っていたハルケギニアの魔法?』

 

「そうだ」と首肯する。

 

「方法が見つからなかった場合、カリンに頼んでルイズに協力してもらおう。

その時に『お前の姉の病を治したお礼として別の世界に繋がる虚無魔法を探せ』と

ルイズに言ってくれ」

 

『虚無魔法にそんな凄い魔法があるのか分からないけど・・・・・一先ずは分かったよ』

 

「頼んだ」

 

『リゼヴィムを早く連れ戻してきてね』

 

「了解だ。それと赤い結晶が浮いている場所はナヴィに聞いてくれ。

途中までナヴィと連絡し合っていたから」

 

和樹は『分かった』と通信を切った。さて、こっちは一先ず・・・・・。

 

「地下水路かな?なんかいるな」

 

リゼヴィムおじさんを探すため、気の探知を広範囲に広げていると、下から微弱な気を感じた。

すぐ傍にマンホールがあった。マンホールを開けて落ちれば直ぐに地下水路。

 

「・・・・・あの子か」

 

まるで囚人服と思しきボロボロな服を身に包み、

左腕に二つの箱を巻き付けている鎖を引っ張っている幼女がいた。

これ、井上準が目の当たりにしたら真っ先に駆けつけそうな光景だな。

幼女に近づき問いかける。

 

「おい、ここで何をしているんだ?」

 

「・・・・・?」

 

幼女が俺の声に反応して顔を上げてくる。赤と緑のオッドアイの幼女だった。

だが、俺を見た途端に倒れた。

 

「なんだ・・・・・?」

 

取り敢えず、保護するか。跪いて幼女を抱き抱える。

鎖も外して二つの箱を脇に抱える。地下水路から出て溜息を吐く。

 

「まったく、おじさんを連れ戻さないといけないのに妙なことに関わってしまった―――」

 

「そこのあなた!何をしているんですか!」

 

ほんと、関わってしまったな。背後に振り返ると赤髪の子供と桃色の髪の子供がいた。

 

「子供?そう言うお前たち子供もここで何をしている?」

 

「子供じゃありません!僕たちは機動六課の者です!」

 

「機動・・・・・六課?」

 

聞いたことがない単語に首を傾げる。と、赤髪の子供が目を丸くしだした。

 

「キャロ、あのケースは・・・・・」

 

「まさか・・・・・。――――そのケースをこちらに渡してください!

その中身はとても危ないものなんです!」

 

・・・・・でもなぁ・・・・・。

 

「子供にこんな危険な物を渡す訳にはいかないと思うんだけど?」

 

「だから、僕たちは子供じゃありません!

確かに子供だけど僕たちは時空管理局、古代遺物管理部 機動六課という部隊の者です!」

 

「こんな子供を働かせるなんて、この世界の機関はどうなっているんだ?」

 

「この世界・・・・・?」

 

頷いて空に視線を送った。

 

「あの空に見えるもう一つの世界だ。俺はあの世界から来た」

 

「「っ!?」」

 

「この世界に来た理由は、とある人物がこの世界に入ってしまってな。

そのヒトを追って来たわけだ」

 

説明すると、二人の子供が顔を見合わせて頷きだした。

 

「申し訳ありませんが、僕達と一緒に御同行してください」

 

「嫌だ」

 

「即答!?」

 

赤髪の子供が突っ込んできた。

 

「子供と遊んでいる暇はないんだよ。さっさと知り合いを連れ戻さないと帰れなくなるからな」

 

「その知り合いを僕たちも協力して探します」

 

「お前らみたいな子供が、あの人をどうこうできるとは思えないから拒否させてもらう」

 

そう言い残して空高く跳躍する。

 

―――???―――

 

「申し訳ございません。この騒乱とあの次元世界の原因と思しき少年を逃がしてしまいました」

 

『そう、どんな少年だったか分かった?』

 

「はい、映像に残しました。それにレリックらしきケースを二つと幼い子供を連れ去って」

 

『その少年の目的はレリックだったの?』

 

「いえ、そうとは思えません。・・・・・なのはさん、そっちはどうなっているんですか?」

 

『うん、あの次元世界を管理するか管理外するか、お偉いさんが会議を開いているそうだよ』

 

「次元世界に調査はするのですか?」

 

『するだろうね。現に調査部隊が編成されているし、編成が完了次第行くかもしれない』

 

―――○●○―――

 

―――和樹side―――

 

天を仰いで空一面に移る別世界を僕たちは見ている。

僕の周囲には大勢の悪魔と天使、堕天使たちが警戒して待機している。

 

「一誠、大丈夫だろうか?」

 

「あいつの事は心配しなくても問題ない。あいつは強いしクロウ・クルワッハ共がいる」

 

「・・・・・そうですよね」

 

隣にいるアザゼル先生がそう言う。

 

「しっかし、あの赤い結晶がこんな現象を起こすなんてな。驚かせてくれるじゃねぇか」

 

「しかもリゼヴィムが異世界に入ってしまったことが問題だ」

 

「だが、日食と関係しているならば、こちらからおいそれと派遣を送るわけにはいかねぇな。

繋がりが途切れたら二度と帰ってこれなくなるからよ」

 

魔王フォーベシイと神王ユーストマがアザゼル先生の言葉に真剣な面持ちでいる。

 

「あの日食は持って一分で終わる・・・・・イッセー、リゼヴィムの野郎を連れて来られるか・・・・・?」

 

「多分、その可能性は低いですよ。

だからこそ、一誠は異世界に行ける魔法を探せと僕に言ったのですから」

 

―――あと30秒で日食が終わる。ナヴィから聞いた七つの赤い結晶が日食と重なり合うように

輪っかとなって赤い光を放ち続けている。しばらくすると、その時がやってきた。

―――日食が終わったんだ。なのに―――。

 

「変わっていない・・・・・?」

 

空が別の世界を映す光景が消えないでいる。日食が関わっているんじゃなかったの?

 

「あの赤い結晶はまだ空に浮いているところを見れば・・・・・結晶に秘めている膨大な魔力が

尽きない限り、異世界の光景は消えないのかもしれねぇな」

 

「それでも、いつか魔力は無くなるんですよね」

 

「オーフィスやプリムラみたいな無限の魔力じゃないならそうだろうさ」

 

それでも、不安は続く。一誠がリゼヴィムを連れて帰らない限りは、

この現象は続き、一誠とリゼヴィムがあの世界に閉じ込められる可能性だって大きいんだから。

 

「総督!邪龍たちが攻め込んできました!」

 

「んだとっ!?」

 

刹那、この場に緊張が走った。向こうから蠢く黒いのが迫ってきている。―――何て数だ!

 

「あの野郎!ユーグリットたちに通信して邪龍を引き連れて来いって言いやがったか!」

 

「ちょっと待って。どうやってあの数を異世界に突入する気なんだ?

入口は人が入れそうな大きさなのによ」

 

「とにかく、あの邪龍たちを迎撃しないと!関わりのない世界まで被害が出てしまうからね!」

 

「全力で止める!」

 

地上で待機している皆も気付いているだろうし、それまで頑張らないとね!

 

ヒュンッ!

 

と、何かが通ったような音が聞こえてきた。振り返ると―――。

 

「懐かしいなっ!一香、あの世界だぞ!」

 

「あの赤い結晶は異世界に繋げる力を秘めていたようね!」

 

―――っ!?

 

邪龍より最も危険な存在が異世界に繋がる輪っかへ飛翔していく!

 

「誠と一香!?やべぇ、いくら一誠でも手に負えないだろうが!」

 

アザゼル先生が驚愕していた。それもそうだろう。

一誠並みの実力者が二人揃ってリゼヴィムと行動しているんだから。

 

「アザゼルちゃん!一誠ちゃん並みの実力者をあの世界に行かせるべきだよ!」

 

「分かっている!グレートレッドを行かせたいところだが、あいつは無理だ。

だとすればオーフィス辺りが妥当か。後は・・・・・!」

 

刹那、銀色と蒼い光が現れた。

その光は真っ直ぐ異世界に繋がる輪っかの方へと向かって行った。

 

「今のは・・・・・?」

 

「まさか・・・・・あいつらか!?」

 

―――○●○―――

 

機動六課とか言う奴らから離れて、とある場所で幼女と共にいる。

未だに眠り続ける幼女の体力を回復させ、それからケースの中身に怪訝した。

 

「あの赤い結晶と似ているな。これがレリックというやつか」

 

英語で数字が刻まれている。ⅥとⅨ。

 

「これが危険な物か。俺からすればただの魔力が籠った宝石にしか見えないんだけど」

 

ケースの中に仕舞って傍に置く。

 

「さて・・・・・こいつをどうするかな」

 

「ん・・・・・」

 

胡坐掻く俺の足の上で寝ている幼女。

どうしてこのケースを引きずっていたのか未だに疑問なところだ。

リゼヴィムおじさんも見つからないし、こいつの面倒も見ないといけなさそうだし、

まいったな。そう思っていると、カプセルに似た円錐型の機械が複数現れた。

 

「・・・・・なんだ?」

 

すると、触手みたいなものを生やしだした。というか、コード?

 

「俺、そんな特殊なプレイは嫌いなんだけど・・・・・・」

 

次の瞬間、機械が襲ってきた。敵として認識されている?

 

「襲い掛かってくるなら容赦はしないけどな」

 

口から業火の火炎を吐きだして機械を燃やしつくした。

 

「俺に襲うなら、もっとマシな奴をよこしてこいよ。―――そこで指を出している奴」

 

コンクリートから指が出ている。ビクッと指が震え、水の中に沈んだように指は消えた。

 

「・・・・・」

 

ジィーと眼前を見つめていると一向に姿を見せない。帰ったか?―――いや、

 

ガシッ!

 

「ケースが目的だったか?」

 

隣に置いているケースに手が出て来たところを掴んだ。

引っ張り上げれば、困惑した水色の髪の少女が出てきた(上半身だけ)。

 

「なっ!?」

 

「さーて、俺の質問に答えてもらおうか?」

 

「え、えっと・・・・・NOと言ったら?」

 

「生と死。どっちがいい?」

 

右手にバチッ!と電気を迸らせ見せた。捕まえた少女は青ざめてコクコクと頷く。

 

「で、できれば・・・・・話せるレベルでなら・・・・・」

 

「じゃあ、それでいい」

 

パッと手を話す。少女は地面から完全に出て来て口を開いた。

 

「・・・・・何を話せばいい?」

 

「名前とこの世界の事、

それとどうして俺に襲いかかったのかとこのケースを狙ったのかをだな」

 

「名前はナンバーズ六番、セイン。

この世界はミットチルダ・・・・・の説明も含まれている?」

 

「そうだな。世界の名前だけ知っても根本的なことは分からないし、教えてくれ」

 

セインと名乗った少女にそう付け加える。

 

「ミットチルダは多数存在する次元世界を管理・保護・維持する機関が存在しているんだ。

その期間の名前は時空管理局。ほら、あの空に映っている世界が見えるだろう?

あれのことを次元の世界の一つなんだ」

 

「ふーん、そうなんだ?」

 

「って、キミはこの世界の人間なんだろう?なんでこんなことを聞くんだ?」

 

「悪いが、俺はその次元世界からやって来た人間だ」

 

ぶっちゃけるとセインが目を丸くし「マジで?」と呟いた。

 

「ああ、マジだ」

 

「うわー、よく来られたね」

 

「実際、あの世界とこの世界が繋がっているからな。

お前が狙っているレリックとかいう赤い結晶でな」

 

「はっ?そんな情報知らないんだけど?」

 

「そりゃ、そうだろうな。さっきこっちの世界でそうなったばっかりだし、

この世界の管理局だって今頃は調査しているんじゃないか?」

 

「こっちの世界って・・・・・まさか、君の世界にレリックがあるのかい?」

 

その質問は首を横に振った。

 

「いや、どうやらこの世界から持ち込んだ物らしい。七つが揃った瞬間にこの世界と

俺の世界が繋がったんだ」

 

「なっ、そんな力のあるレリックは聞いたことないし!」

 

「それはこっちの台詞だ。で、俺の質問に答えろ」

 

促せば慌ててセインは説明しだす。

 

「えっと、君を襲いかかったのはそのケースと女の子を奪取するため」

 

「その目的は?」

 

「それは・・・・・私も詳しく分からない。ドクターやウーノ姉なら知っていそうだけど」

 

どうやら、仲間がいるそうだな。それにセインが言う言葉に嘘を感じない。

 

「これで全部話したよ。今度はこっちが訊きたいんだけど」

 

「それは構わないが生憎、忙しい身なんだよ。この世界にとんでもない奴が

入りこんでしまったからな」

 

「どんなの?」

 

「・・・・・言わない。信じないだろうし」

 

幼女と二つのケースを抱えて足を動かそうとする。

 

「ちょっ、ちょっと待て!その子とケースをこっちに渡してもらわないと困るんだけど!」

 

「じゃあ、俺から力づくで奪ってみせろ。―――できたらな?」

 

六対十二枚の金色の翼を背中から広げ出して戦闘態勢に入る。

 

「・・・・・マ、マジで・・・・・?」

 

「おう、マジだ」

 

朗らかに笑う。セインは頭を抱え、「どうしよう・・・・・」と悩み出す始末。

―――すると、セインの目の前に立体映像が浮かび始めた。

その映像に白衣を身に包む紫の髪に金色の瞳の男性が映り出す。

 

『やあ、こんにちは』

 

「誰だ?」

 

『私はジェイル・スカリエッティだ。君の目の前にいるセインの生みの親の存在だ』

 

白衣を身に包んでいるから科学者の人なのだろう。ジェイル・スカリエッティは。

 

『私と取引をしないかい?君が求むものを私が全力で応じる。

代わりにその子供とエリックを私に与える』

 

「・・・・・」

 

取引、か。・・・・・少し話を聞くぐらいは良いだろう。

 

「お前は科学者だと認識するつもりで問う。俺の要求を一科学者のお前が叶えてもらえるとは

思えないんだが?俺は金銭でも女でも権力を欲しているわけじゃないぞ」

 

『では何かな?君が来たという次元世界に帰るための手段かな?』

 

「へぇ、そんなことが可能なのか?」

 

『君が協力してくれれば、必ず応えよう』

 

ジェイル・スカリエッティは不敵に笑む。だが、それだけじゃ足りないな。

 

「俺が求むものは二つだ。一つはあの次元世界に帰ること。

もう一つはとある人物を捕まえることだ」

 

『誰だい?』

 

「俺と同じくこの世界に侵入した悪魔だ。名はリゼヴィム・リヴァン・ルシファー。

そいつを見つけだし尚且つ捕まえてくれる協力するならば、お前の願いに応えよう」

 

この二つの要求にジェイル・スカリエッティは口の端を吊り上げた。

 

『なるほど、悪魔を捕まえるとは中々興味深い。いいだろう。君の要求を叶えようじゃないか』

 

「んじゃ、取引成立―――と言いたいところだが」

 

『なんだね?』

 

幼女を一瞥して目の前の立体映像を見据えた。

 

「この子は俺が保護している立場だ。常に俺はこの子と一緒にいるつもりだ。

お前がこの子を利用して何をするのか見定めさせてもらう。互いに利用しながらな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわー、ここって違う世界なのかしら?」

 

「そうみたいだな。そして、あの男の野望がここで行われるはずだ」

 

「一誠くん、どこにいるのかしら」

 

「一誠さまならあちらです」

 

「えっ、どうして分かるんですか?」

 

「一誠さまの服や携帯に発信機を備えさせてもらっていますので」

 

「・・・・・それ、一誠くんは絶対に知らないよね」

 

「全ては一誠さまのためです」

 

「我も、イッセーのために頑張る」

 

「そうね、私も一誠くんのために頑張らないと!」

 

「勿論、私もだ。さあ、行こう。一誠のもとへ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うひゃひゃひゃっ!呼んでもいないのによく来たねぇ?」

 

「そんな水臭い事を。俺たちは元々トレジャーハンターみたいな事をしていたんだぞ?

こんな大規模な展開を何もしないわけ無いじゃないか」

 

「それにここにいればあの赤い結晶は手に入るわよ?」

 

「おお、そうなんだ?でーも、今の俺はこの町で大暴れをしたい気分だよね!」

 

「そのためにあの世界にユーグリットくんを置いてきたんだ。―――邪龍を召喚するためにね」

 

「でも、その前にこの世界の町を出歩きましょう?どこが大切で重要な場所なのか。

それを知りつくしてからでも遅くはないわ。そう、人がとても大切にしている物を

目の前で破壊された時に表れる絶望感を拝めるために」

 

「おーおー、おばあちゃん、お主は悪よのぉ」

 

「ふふっ、お代官様ほどではないわ。それと・・・・・」

 

「ん?」

 

ゲシッ!

 

「誰がおばちゃんなのよ!?これでも私はまだ十分若いの!」

 

「いだっ!?ごめんなさーい!」

 

「やれやれ、締まらないものだな。(でも、俺と同じ歳だから、十分な歳だと思うけど)」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode3

セインについていくと、とある人工的に掘られた洞窟に入った。

進んでいくと洞窟には無いはずの建造物が見える。

 

「あっ、ケースの中身を確認したいんだけど」

 

「ⅥとⅨって書かれたケースだったが?」

 

「そ、そうなんだ」

 

頬を引き攣らせて苦笑を浮かべ出す。

 

「それにしてもお前は妙だな」

 

「なんで?」

 

「ただの人間じゃないんだろ?」

 

率直な疑問をセインに言った。セインは俺の疑問に感嘆を漏らした。

 

「へぇ、分かるんだ?」

 

「それだけだよ、分かるとしたら」

 

「ふーん。ま、私らは確かにただの人間じゃないね。機械と人間が融合した人間って」

 

「機械と人間が融合した?」

 

それはまるでサイボーグみたいだな。そんな技術は今のところ聞いたことがない。

 

「お前らを生んだジェイル・スカリエッティの技術の結晶が目の前にいるということか」

 

「そ、凄いでしょ?」

 

「驚いたことは確かだな。その腕があれば天才の部類に入るだろうに」

 

「ドクターはそんなこと興味ないだろうけどね」

 

雑談をしていれば、セインはとある部屋の中へ入っていく。続いて入れば俺の目の前に

ジェイル・スカリエッティと紫色に金色の瞳、スーツを身に包む秘書みたいな女性がいた。

 

「やあ、待っていたよ。改めて名乗ろう。私はジェイル・スカリエッティだ」

 

「イッセー・D・スカーレットだ」

 

互いに握手を交わし、二つのケースを改めてセインに渡す。

 

「俺には不要な物だったからな。手に余っていた」

 

「すまないね。まさか、君のような人間の手に渡すとは思いもしなかった。

訊けば、あの次元世界から来たと聞く。その経由はレリック。中々興味深い事を聞いた。

次元世界と次元世界を繋げるレリックは聞いたことがない。

それに未だにあの世界とつながっているのだからね」

 

「繋がっている?・・・・・あっ、そう言えば時間が過ぎていたな」

 

日食はとっくの昔に過ぎている。

でも、まだ繋がっていると言われたからどうやら帰る可能性はまだあるようだ。

 

「それにしても、ここはどこなんだ?洞窟の中にいるのにまるで船の中にいるようだ」

 

「良い線だ。確かにここは船体の中だよ。

そして、この船を動かす鍵となるのが―――その少女なのだ」

 

ジェイル・スカリエッティの視線は抱えている幼女に向けられる。

 

「この子が?」

 

「そうだとも、次元世界から来た君には分からないだろうが、

この世界は色々と絡んでいるのだ」

 

「で、この子を利用して船を起動させたいと?何のためだ?」

 

「私の(技術)の結晶を管理局に魅せるためさ。

戦闘機人を創らせるために私を生ました時空管理局の最高評議会にね」

 

・・・・・なんだか、王道的な展開になりがちじゃないか?

 

「戦闘機人って?」

 

「私の隣にいる彼女とそこにいる私の娘の存在を意味する。

私の技術で創り上げた最高傑作であり私の愛しき娘たちの一人だ」

 

「他にもいるのか?どのぐらい?」

 

「調整段階の娘たちも含めて12人だ。いずれ会わせてやろう。私の協力者となるのだからね」

 

「俺の目的にも協力してくれよ」

 

「無論だよ。勿論、君自身の事も調べさせてほしいものだ。

次元世界から来た人間は興味深いからね」

 

これで話が終わった。と自己完結をしたら。けたたましい警報みたいな音が鳴り出した。

 

「侵入者?この中に直接?」

 

秘書の女性が手を動かした。宙に立体映像が発現して侵入者を映しだした。

 

「・・・・・へ?」

 

「おや、どうしたんだい?」

 

唖然と漏らした俺にジェイル・スカリエッティが訊ねてきた。

でも、その問いには答えれなかった。―――なんで、あいつらがここにいんの?

 

「あー、悪い。今侵入してきた奴ら・・・・・俺の家族だわ」

 

「家族・・・・・つまり次元世界から来た者たちだと?」

 

「うん、どうやってここに来たのかは分からないけど。

多分、俺を追って来たんだろう。手を出さないでくれ。勝手にここまで来るから」

 

「分かった。待機している娘たちに伝えておこう」

 

ジェイル・スカリエッティは了承してくれた。

その間にも物凄い速さで移動し続ける俺の家族たち。そして―――この部屋に侵入してきた。

 

「お前ら・・・・・」

 

「ようやく見つけたぞ、一誠」

 

侵入者もとい俺の家族―――リーラ、オーフィス、イリナ、ヴァーリ。四人が俺の前に現れた。

 

「なんでここに?」

 

「だって、一誠くんが異世界に行ってしまったからいてもたってもいられなくて・・・・・」

 

「話は聞いた。あの男がこの世界にいるのだろう?私も手伝う」

 

「我、イッセーの傍にいる」

 

「私もですよ」

 

公私混合・・・・・というより、俺のために元の世界に戻れないことを

覚悟の上でこの世界に来たようだ。

 

「一誠さま。その方々は?」

 

「ああ、今しがたこいつらと協力関係になった」

 

「協力関係・・・・・?」とリーラが不思議そうに小首を傾げた。

 

「一人じゃあいつを探しだすのは困難だし、こいつらの力を利用させてもらうんだ。

で、こいつらも俺の力を利用する。ギブアンドテイクだ」

 

「そう言うことだ。彼の願いを叶えるために私の手伝いをしてもらう予定だ」

 

「・・・・・一誠さまに悪事をさせるようなことはしませんか?」

 

「それは約束はできないだろう。が、無理矢理に私の手で従わせている事にすれば、

仮に管理局に捕まっても彼はすぐに釈放されるはずだ」

 

ジェイル・スカリエッティの言葉にリーラは厳しい目をする。

 

「リーラ、俺でも限界がある。それにこの世界に詳しい人物の協力は必要不可欠だと思う。

俺も正体を明かさないように気を付けて手伝うつもりだ」

 

「一誠さま・・・・・」

 

「俺のために思っていることは重々承知している。

でも、この世界をあいつの好きにさせちゃいけない。

だから、行動しづらい正義よりも動きやすい悪と一緒にいたいんだ。

それに、この科学者は絶対に悪い奴じゃないみたいだしな」

 

さっきの愛しき娘たちという言葉に、この科学者は本当に愛情を注いでいるんだと思った。

自分が創り上げた最高傑作の戦闘機人()より、

自分の手で創り上げた戦闘機人()としての意識が強いようだしな。

 

「・・・・・分かりました」

 

リーラが渋々と折れてくれた。ほんと、ごめんな。

 

「話は終わったかい?」

 

「終わったところだ」

 

「なら、これから君たちの寝る場所を案内しよう。その後は食事を兼ね、

私の娘たちの紹介を済ませよう」

 

「この子に用がある時は俺も一緒だからな」

 

「分かった。ではセイン。彼らの専用の寝室へ案内してくれ」

 

「りょーかい。それじゃついてきな」

 

この場から去るセインに続いて足を運ぶ俺たち。

尻目でジェイル・スカリエッティを一瞥して部屋から出た。

 

「ドクター。本当によろしいので?」

 

「構わんさ。お互い利用し合い、私の夢が叶った時は彼の願いも達成した頃だろう。

それにあの少年から生えた十二枚の翼・・・・・中々興味深いし娘たちの稼働データと

戦闘データの糧となってくれるはずだ」

 

「本当にあの少年を利用するのですね。抜け目のないお方・・・・・」

 

「ふふっ、私は根っからの科学者なのだよ?それに娘たちのためならば、

何だってするつもりさ」

 

「・・・・・しかし、あの少年を任務中のドゥーエが見たら気に入りそうですね」

 

「ほう、それはまたどうしてだい?」

 

「さあ、そんな感じがします。理由は分かりませんが」

 

「なるほどね。ならば、彼女と近日中に会わせてみるか。

意外と面白い反応を見れるかもしれないからな」

 

―――○●○―――

 

セインに案内された部屋は四人部屋。俺とオーフィスが寝れば何とかなれる範囲。

 

「一誠、その子はどうしたんだ?」

 

「地下水道で見つけたんだ。名前はまだ知らない」

 

「なんでまた、そんなところにその子が?」

 

「さあ、あの科学者が言うには、この子がこの船を起動させる鍵だとか」

 

「船?この中って船だったの?」

 

イリナが辺りを見渡しながら信じられない面持ちでいる。俺もそうだったように。

 

「そうみたいだ」

 

「それで一誠。これからどうするつもりなんだ?リゼヴィムを探さないといけないのだろう」

 

「どこにいるのか分からないし、見当違いな場所で探しまわったら時間の無駄だ。

結局俺たちは後手に回らわせるんだよ。

あのおじさんが事を起こさない限り俺は探しようもなかった」

 

「だから・・・・・あの者たちと協力を?」

 

リーラが訊ねる。肯定と頷いて他の理由も述べる。

 

「それもあるし、この子を安定して落ち着いた場所にいさせたい気持ちもあった。

まあ、そこは悪の科学結社みたいな場所だけど、俺がこの子の常に傍にいれば、

非道なことはしないだろう」

 

「それで、その子の名前は?」

 

「分からない。急に倒れたからな」

 

「お腹、空いているんじゃないかな?」

 

そう言うイリナだったが、その直後。イリナの腹から音が聞こえた。

 

「っ!」

 

「ははっ、お腹が空いているのはイリナのようだな」

 

「うう、私、食いしん坊じゃないんだからね!」

 

顔を赤くしてヴァーリに抗議するもう一人の幼馴染。

 

「ん・・・・・」

 

幼女がゆっくりと身を起こしだした。目をこすって辺りを見渡す。

 

「起きたか」

 

「・・・・・」

 

そう訊いたら幼女はビクリと体を震わせた。

 

「大丈夫、ここにいる女の子や女性は優しいから」

 

俺の膝にいるオーフィスを幼女の前に置いた。

 

「自己紹介だ」

 

「我、オーフィス。お前は?」

 

「・・・・・ヴィヴィオ」

 

ヴィヴィオか。ジェイル・スカリエッティが名付けたのかな?

 

「ん、ヴィヴィオ、よろしく」

 

オーフィスは手を前に出した。ヴィヴィオは何度かオーフィスと差し出された手を見たら、

恐る恐るとその手を握った。

 

「おー、オーフィス。凄いじゃないの」

 

「龍神が自らコミュニケーションをする光景は何だか微笑ましいな」

 

「そうですね」

 

よし、取り敢えず触れ合いは成功かな。オーフィスとヴィヴィオは同じ背丈だし、

オーフィスの今の姿は子供だ。同じ子供同士だと警戒心は少しずつ緩まるだろう。

 

「我、お腹空いた。ヴィヴィオは?」

 

「・・・・・」

 

ヴィヴィオは自分の腹に手を当てると、小さな音が鳴った。

 

「どうやら、ヴィヴィオも空いているようだな」

 

「じゃあ、ご飯にしましょう!」

 

「イリナがお腹を空かせているしな」

 

「もう!ヴァーリはいつまでもそれを引っ張らないでよ!」

 

はいはい、そこで喧嘩しない。

 

「それじゃ、ジェイル・スカリエッティに頼んで飯でも食べるか」

 

ちょっと行ってくると、部屋から出た。

それから真っ直ぐジェイル・スカリエッティのもとへ歩んでいく。壁に穴を広げ、潜ってだ。

 

「ジェイル・スカリエッティ」

 

「おや、どうしたんだい?」

 

「ヴィヴィオが腹を空かせているから何か食べ物をくれないか?ああ、六人分だ」

 

ジェイル・スカリエッティの首が縦に振った。

 

「分かったすぐに弁当を用意しよう」

 

「・・・・・弁当?」

 

「そうだが?」

 

不思議そうに小首を傾げられる。・・・・・今思えば、

こいつらの食生活は一体どうなっているんだろうか?

 

「質問だけど、お前らは料理して食べているんだよな?今日はたまたま弁当ってことか?」

 

「いや?私たちは最低限の栄養と空腹を満たせて稼働できればそれで十分だよ」

 

「つまり、弁当だけで済ませているってやつ?」

 

「その通りだ・・・・・どうして頭を抱えるんだね?」

 

―――抱えたくもなるわ!神器(セイクリッド・ギア)マニアのアザゼルだって・・・・・あれ、

あの堕天使も弁当を食べている光景しか浮かばないぞ・・・・・?

 

「・・・・・この船に厨房はあるのか?」

 

「ああ、あるよ?」

 

「・・・・・風呂はあるのか?」

 

「勿論あるとも。だが、入ることは滅多にないから使ってないよ。私は」

 

生粋の科学者ここに極まる・・・・・か。

 

「その弁当はどうやって手にしている?」

 

「密かに任務中の娘に頼んであるが、それがどうしたかね?」

 

なら、その人に弁当じゃなく食材を送ってもらうとしよう。

 

「数日は弁当で我慢するが、

その人に色んな食材を弁当の代わりに送ってもらうように頼んでくれ」

 

「それはどうしてだい?」

 

「―――俺が料理を作るからだ」

 

―――○●○―――

 

六人分の弁当を貰い、リーラたちに渡して雑談しながら食べ終わると、

部屋にセインが入ってきた。

 

「意外と大人しいんだね」

 

「なんだ、開口一番に」

 

「いや、様子を見に来たんだけど、次元世界の人ってどんな人なんだろうなーって」

 

まるで珍獣扱いされている気分だ。

 

「一誠、こいつは誰だ?」

 

「ジェイル・スカリエッティの娘のセインだ。機械と融合したサイボーグみたいな人間らしいぞ。

戦闘機人だって」

 

「なるほど、アザゼルが好奇心を抱きそうな存在だな」

 

「ああ、有り得るな」

 

総督であり研究者でもあるからな。あの独身堕天使は。

 

「ところで、そっちの世界は一体どんな世界?興味があるんだよねー」

 

セインの好奇心に俺たちは顔を見合わせる。

 

「うーん、どんな世界って・・・・・一言で言えばファンタジー?」

 

「ファンタジー?」

 

「人間以外の種族が生存している世界だろうな。砕いて言えば」

 

「あと、不思議な力を宿していたり強力な能力を持っている存在もいるわね」

 

「ほほう」とセインは顎に手をやって俺たちの話に耳を傾けてくれる。

 

「んじゃ、魔法とか稀少技能(レアスキル)とか存在するわけ?」

 

「魔法は存在するぞ。稀少技能(レアスキル)というのは・・・・・俺たちの世界で神器(セイクリッド・ギア)

神滅具(ロンギヌス)に当てはまるかな?」

 

「へぇ、魔法は存在するんだ。セイクリッド・ギアとロンギヌスってなに?」

 

それは教えるより見せた方が良いかな。百聞は一見に如かずって言うし、

 

「神からのプレゼントって言った方がロマンチックかな?

セインには見せたこの翼が神器(セイクリッド・ギア)より強力な神滅具(ロンギヌス)

神を滅ぼす可能性を秘めた不思議な力だ。

―――そう言えばセイン。地面から出てきたよな?アレはお前の能力か?」

 

「うん。インヒューレントスキル・・・・・通称『IS』って言うんだけど、

私のIS(インヒューレントスキル)はディープダイパー。無機物を透過して自在に潜行できる能力だよ」

 

「へぇ、初めて聞く能力だ。しかし・・・・・透過か・・・・・セイン。

ちょっと模擬戦をしてくれないか?」

 

「・・・・・本気で?」

 

唖然と問われた。俺は当然とばかり首肯する。

 

「閉じこもってばかりだと暇なんだよ。それにジェイル・スカリエッティの娘の戦闘能力を

把握しておくのも悪くはないだろう?大丈夫、腕の一本が折れるか折れないかの程度で戦う」

 

「それ、訊いても安心できないから!」

 

「まあいいだろう?ジェイル・スカリエッティも俺の力を知りたがっているんじゃないか?」

 

「そりゃあ・・・・・そうだろうけど、手加減してよな?」

 

「善処しよう」

 

こうしてセインと模擬戦をする事となった。

セインが訓練室まで案内してくれると、俺と対峙する。

 

「さて、始めようか」

 

「何だか不安だなぁ・・・・・」

 

「お前を破壊するようなことはしないって。ただの模擬戦だぞ?」

 

「うわっ!?」

 

一瞬でセインの前に現れると、軽く腕を突き出してみたら、セインはかわした。

 

「あ、あぶなっ!模擬戦とはいえ、合図ぐらい出してくれたって―――!」

 

「問答無用」

 

セインに跳びかかり回し蹴りをする。

二度、三度と回りながら蹴りを突き出すが、セインは辛うじて避け続ける。

逆に拳を突き出してくるが手で弾き、懐に潜り込んでセインの腹部に軽く拳を突きつけた。

 

「ぐっ!」

 

「もういっちょ」

 

左手を握ってセインに突き出せば、俺の拳をセインは後方に跳んで避けて床に沈んだ。

セインの能力で無機物に潜行したようだ。

 

「―――ステルス。俺のに力を貸してくれるか?」

 

内にいるドラゴンに問いかける。ステルスは透明なドラゴンだ。

ならば、透過の能力が秘められているはず。

だから、その力を貸してほしいと家族に願った。右手の甲に無色の宝玉が浮かんだ。

 

『私の力が役に立つなら、お貸ししましょう』

 

―――ありがとうな。力強く「禁手(バランス・ブレイカー)」と呟いた瞬間。

俺を中心に無色のオーラが迸った。オーラが無くなると俺の頭にとある情報が浮かびあがる。

やはり、予想通り!

 

「無機物の中に入るの初めてだから、楽しみだな!」

 

跳躍して頭から床に突っ込んだ瞬間。

水の中に入ったような感覚と同時に無機物の中へと潜行ができた。

 

「―――っ!?」

 

そんな時、セインの姿を捉えた。

目を見張って無機物の中に入った俺を開いた口が塞がらないでいる。

ふふふ、同じ対等の場にいられるようになったぞ?

無機物の中はまるで水の中にいるような感じだった。

そして、金色の翼を展開し、十二の帯状の光を放った―――。

 

その後―――。

 

「いくらなんでも、有り得ないって!どうして人間が私と同じ無機物の中に入れるのさ!?」

 

「できるもんはできちゃうんだからしょうがないだろう。

それと、俺は人間じゃないし、ドラゴンだし」

 

「ドラゴンっ!?」

 

セインとの模擬戦を終えて、一休み。戦った結果、俺の勝利だ。

 

「ただ無機物に潜行できるしか能がないんだな」

 

「そう言う能力なんだし、しょうがないじゃないか」

 

俺の発言にセインは不貞腐れて言う。偵察とか潜入向きな能力だろうけど、

戦闘になったら不利になる。

 

「無機物から攻撃とかできないのか?銃とか荷電粒子砲とかで」

 

「いやいや、無理だから。いくら無機物を透過して潜行できても、

地中から砲撃すれば、物理的攻撃の銃弾は撃った瞬間に停まったり、

エネルギー的な砲撃は水中と違って穴を作っちゃうんだぞ」

 

「それでも使えるんじゃないか?エネルギー的な砲撃は」

 

「カノンみたいな大きな銃は潜行速度を遅くなるからダメだって」

 

色々と欠点というか、不具合なことがあるんだな。

 

「んじゃ、セインの腕にエネルギー砲として改造―――」

 

「いくらなんでもそれは鬼畜だって!?」

 

「日常生活に支障がないよう、ジェイル・スカリエッティに改造してもらえば良いじゃん。

変形できるようにしてもらってさ」

 

不意に、セインがジト目で言葉を発した。

 

「・・・・・もしかして、他人事だからって楽しがっている?」

 

「おう、楽しいな」

 

ニヤリと口の端を吊り上げた時だった。この空間に見知らぬセインと同じ体のラインが

浮き彫りになるほどのスーツを身に包んだ女性が現れた。

 

「あっ、トーレ姉」

 

「ここにいたか」

 

長身で紫色の髪、鋭い金の眼光をセインや俺に向けてくる女性が、口を開いた。

 

「ドクターの協力者というのはお前たちだな?」

 

「ああ、そうだ」

 

「ドクターが呼んでいる。私について来い」

 

それだけ言って踵返して歩を進め出した。

セインや他の皆と顔を見合わせた後にトーレという女性に続く。

 

「トーレ姉、帰っていたんだね」

 

「お前たちがレリックの回収をしているところを監視していただけだからな。

さっさと戻ってきた」

 

「んじゃ、クア姉たちも戻って来たってことか」

 

セインとトーレが雑談する。他にも姉妹がいるという話しは聞いたから疑問は湧かない。

 

「お前、どうしてあの部屋にいた?」

 

「イッセーが私の能力を知りたいって言うからちょっと教えていたんだ。

・・・・・負けちゃったけど」

 

「負けた?お前がか?」

 

トーレが俺に尻目で向けてくる。俺はただ視線を送って目を合わすだけ。

 

「協力者と名乗るからにはただ者ではないと少なからず思っていたが・・・・・。

まあ、愚昧が弱かっただけだろう」

 

「ちょっ、そんな言い方ないって・・・・・」

 

手厳しいトーレの発言にげんなりと言い返すセインであった。

さほど仲の良い姉妹とは言えない様子だった。

それ以上トーレは何も言わず、視線を前に向けて足を運び続ける。

ついていけば、見知らぬ通路へと進み、

 

「やあ、来たね」

 

数人の少女、女性と一緒にいるジェイル・スカリエッティのもとに辿り着いた。

 

「紹介しよう。彼らは私たちの新たな協力者だ。仲良くしてくれたまえ」

 

ジェイル・スカリエッティはそう言う。

 

「さて、早速なのだが、キミたちにやってもらいたいことがある」

 

やってもらいたいことねぇ・・・・・・まあ、できる限り穏便に済ませて終わらせよう。

 

「その内容は?」

 

 

 

 

 

 

私、高町なのは。空域に別の次元世界と繋がる現象が起きて数時間が経過しています。

あれから変わった異変もなく、上空に次元世界の姿を水面から覗くように未だ、

存在し続けている。この現象はなにで発生したのか、テレビ局や地上本部、

他諸々な人たちが検討、推測をしている。だけど、これといった確実で決定的なことは分からず、

結局は曖昧な自分なりの考えを理論する話ばかりしか私の耳に届くばかり―――って、

ちょっと休憩の時間で共同の食堂ルームに設けられているテレビを見ている

私があの次元世界のことを考えている暇はないかも。謎の少女とレリックのケース、

そして赤い髪の少年の謎が包まれているままだからね。

 

「うーん、話を聞く限り・・・・・悪い子でもなさそうかな?」

 

子供だから、とエリオとキャロに言って姿を暗ました。でも、レリックのケースを何も

知らないまま持ち出してしまった少年の身柄を確保しなきゃ。

でも、どこにいるのか全然わからないんだよね。

それに今の私たちは宙吊りな状況。次元世界への視察、

派遣はされそうにないし、かといって目立った事件はないので

私たち機動六課は動くこともできない。

 

「あの次元世界、地球に似ているねぇー」

 

「うん、そうだね」

 

ふぇ・・・・・?私の独り言を返してくる男の人の声。

 

「というより、あの次元世界は地球なんだよ。―――久し振りだね。なのはちゃん?」

 

「っ!?」

 

この声は――――!?声がした方に目を張ったまま振り向いたら、

 

「今日から機動六課に配属されました兵藤誠と兵藤一香一等陸佐と一等空佐でございます!」

 

「よろしくお願いします!」

 

「ま、誠さん・・・・・一香さん・・・・・!?」

 

十年前、お世話になった人達があの頃の姿と変わらないまま制服を身に包んで立っていた。

しかも綺麗に敬礼をして私に挨拶をする二人はど、どういうことなのー!?

 

 

―――Devil―――

 

「ぶーぶー!坊ちゃんのパパンとママンだけズルイ!

ねえ、そう思わないかいユーグリットくん!」

 

『通信をしてきたと思えば、いきなり愚痴を言われましてもねぇ・・・・・』

 

「だってだって!

『リゼヴィムさまは何もせずに合図が出るまで良い子で待っていてください』と言っては

自分たちだけでなんか、面白いことを企んだ顔で置いて行ったんだぜぇ?

あれ、絶対に波乱万丈な事をしようとしているって絶対に!」

 

『あのお二人ですし、仕方がないかと。それにこちら側の世界で残っている私とリリスは今忙しいんですからね?』

 

「あー。そういえばそっち順調?」

 

『ええ、オーフィスの力から生まれたリリスは完璧にしてくれましたよ。

―――冥界に存在する空中都市アグレアスを丸ごと奪取しました』

 

「うひゃひゃひゃっ!そーかいそーかい!リリスちゃんには感謝しないとねー!」

 

『そちらで思う存分遊び終えたらこちらに帰ってきてくださいよ?

まだ、あの封印を解いていないのに、そこで満足されたら困惑しまいますから』

 

「えー、なんだか異世界に来れたし、

ここで邪龍の軍団を解き放てればこれはこれである意味達成なんだけどなぁー」

 

『はぁ・・・・・あの二人に指示を出させますよ?

あなたを異世界から連れて帰ってくるようにと』

 

「ちょっ!それはいくらなんでも横暴だい!

いくら僕ちゃんでもあの二人に勝てる自信はないぜ!」

 

『だったら戻ってきてくださいね。そこの世界であなたの願望である異世界の侵略の

イメージの練習として、後に本格的にすればあなたは悪魔らしく

異世界を蹂躙する事ができるのですから』

 

「ちぇっ、ユーグリットくん。まだまだ反抗期だね!」

 

『それなりにそちらの世界に邪龍を送りますので一先ず我慢してください。

その世界には兵藤一誠もいるんですから油断はできないでしょう』

 

「うひゃひゃひゃ、まーね。坊ちゃんもどこかで身を潜んでいるだろうし、

いずれどこかで会うっしょ」

 

『因みにですが、そちらの世界とこちらの世界に繋がる道に堕天使の総督を始めとする

各勢力のトップたちが集まっていますから帰る時はお気をつけてください』

 

「はいはーい。どーせ、逃げちゃうから関係ないんだけどねー」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode4

ジェイル・スカリエッティの頼まれごとに俺はガジェットドローンという機械に

騎乗して飛んでいる。

 

「機動六課に保管されているレリックの奪取って・・・・・はあ、憂鬱だ」

 

正体を明かさないように全身にセインと同じスーツを纏い、

素顔を隠すため頭を覆うマスクを被っている。念のため、声音もマスクの機能で変えている。

 

『そろそろ管理局の、機動六課の本部に近づく。準備は良いかね?』

 

「レリックの保管場所、教えてくれよ」

 

『当然だ。だが、気を付けてくれたまえよ。機動六課には凄腕の魔導士たちがいるからね』

 

魔導士、この世界で魔法を使役する者のことを差す単語。俺の世界と変わらない魔法使いの一種。

 

「ま、極力戦闘を控え目にレリックをもらうとしようか」

 

『キミの言動は我々が見聞させてもらうよ』

 

「うわー、ストーカ極まりない発言だな」

 

胡坐を掻いたままジェイル・スカリエッティにそう言う。

立体映像のモニターが閉じてしばらく飛んでいれば、肉眼でとある施設の形が見えてきた。

 

「こちら管理局。こちらあなたの個人識別表が確認できません。

直ちに停止してください。それ以上進行すれば迎撃に入ります」

 

―――脳に直接届く声が警告を発する。念話・・・・・?

と、さらに進んだところで、奴さんが現れた。

赤いゴスロリに兎のぬいぐるみがついた赤い帽子を被った幼い子供だ。

 

「子供?」

 

「おいこら、外見で判断するんじゃねーよ」

 

手の中にあるハンマーの柄を俺に突き付ける。

 

「これ以上の空域及び海域に侵入するならば、所属不明の侵入者としてお前を逮捕する」

 

「・・・・・」

 

まるで警察みたいなことを言うなと思いながら俺を乗せているガジェットドローンを指で小突く。

前進―――と。ガジェットドローンも俺の意思に従い前進し始める。

 

「じゃあね、お嬢ちゃん。ちゃんと幼稚園に行かないとダメだよ?」

 

「誰が幼稚園児だぁっ!私はこれでも―――!」

 

と食って掛かる子供を余所に物凄い速さで逃走もとい、前進すれば、子供が追いかけてきた。

 

「人の話を聞けぇっ!」

 

いやー、相手にするほど暇じゃないからなー。取り敢えず前に進もう。

機動六課の本部に進もう。うん。だが、簡単には行かせてくれないようだった。

尻目で見れば、なんか銀色の玉をハンマーで打ってきた。

ガジェットドローンに指示を出して、背後から飛来してくる銀色の玉から回避する。

 

「避けれたからと油断はしないぞ」

 

追尾性があるようで銀の玉が再び飛来してくる。

両手で複数の銀の玉を素早く掴み取って握り砕いた。

 

「んなっ!?」

 

「ぜんそくぜんしーん」

 

「ま、待ちやがれ!」

 

「待ちやがれと言って待った奴はバカだぞ?バーカ」

 

「バカって言う奴がバカなんだよ!」

 

子供の言い分だ。ガジェットドローンを巧みに使役してサーフィンをする感じで空を飛ぶ。

 

「(ハンマーを持っているから近接距離の実力者か。

だったら、さっきみたいに玉を弾いての攻撃を無効化すればこのまま―――)」

 

そう思った矢先に、数多の金色の魔力弾がどこからともなく襲い掛かって来た。

避け続け、辺りを見渡せば、黒い軍服に白いマントを羽織る金髪のツインテールに黒いリボンを

結んだ女性が俺の前に立ちふさがる。

 

「止まりなさい。これ以上の騒動を起こせば、あなたの罪が重くなります」

 

管理局、機動六課って本当に警察みたいなことを言う。

だったら―――。ニヤリとマスクの中で口角を上げた。

 

「た、助けて!私、無理矢理命じられてこんなことをしているの!」

 

両手を合わせた助けを請う風に懇願する。

 

「え?」

 

彼女は目を丸くして警戒心を緩めたその時。

 

「―――なんてな」

 

一瞬だけ動揺した女性の横を通り過ぎながら言った。一拍して、

 

「フェイト!なにボーとしているんだ!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

フハハハハハッ!甘い、甘すぎるぞ!

 

「鬼さんこちら手の鳴る方へ~♪」

 

「ぜってぇ捕まえてやる!」

 

「ま、待ちなさい!」

 

「助けてー、ストーカー二名に増えましたよー、おまわりさーん」

 

「「誰がストーカーだっ!」」

 

なんだかおちょくるのが楽しいな。もう少し遊んで行きたいところだが、目的を果たそう。

 

「もう少しだけ頑張ってくれよ」

 

ガジェットドローンに触れながら言う。意思はないものの、俺を乗せてくれる機械だ。

労いの言葉を掛けるのは当たり前だろう。尻目で見れば―――。

赤い玉や金色の極太のレーザーが迫っていた。

 

「おおう、回避だ」

 

俺の指示通りに二つの攻撃からかわす。

もう少しで機動六課の本部―――と目前に桜色の魔力光が見えた。

と、思ったら胸元に赤いリボン、白を基調としたワンピースみたいな服を身に包む

サイドテールの茶髪の女性だった。

 

「止まりなさい!」

 

「降参します!」

 

「へ?」

 

どこからともなく取り出した大きな白旗を取り出して言った瞬間。

 

「「なのは!騙されるな!」」

 

背後から叫び声。なのはと呼ばれた女性が真剣な面持ちで赤い宝玉がある杖を突き付けた。

 

「ところでジェイル・スカリエッティ。聞こえているか?」

 

虚空で声を掛けると、俺の傍で立体映像が浮かびあがった。

 

『なんだい?それと随分余裕そうだね』

 

「まあな。んで、どいつが一番強いんだ?」

 

『目の前にいる魔導士だよ。名前は高町なのは。

「エースオブエース」と無敵のエースであると管理局内や雑誌にも載るほどの凄腕魔導士だ』

 

「そうか。それと武器を持っているようだが、この世界は武器を持つことが主流なのか?」

 

『ああ、デバイスのことかい?魔導士は魔法使用の補助として用いる機械だ』

 

デバイス、この世界の魔法使いが魔法を使う際に

補助するための機械か・・・・・和樹が知ったらどんな反応するだろうな。

 

「じゃあ、デバイスとやらを壊したり奪えば、魔法は使えなくなるんだな?」

 

『その通りだ』

 

だったら―――奪おうかな?腰を上げて立ち上がり、ガジェットドローンから一気に跳躍して、

 

「っ!?」

 

ガシッ!

 

一瞬で高町なのはの目の前に移動して杖の柄を掴んで力づくで奪い、

その場で体を回転させ、高町なのはの肩にかかと落としを食らわして海へと叩き落とす。

 

「「なのはっ!?」」

 

背後の二人が驚愕の声音を発する最中、

タイミング良く飛行してきたガジェットドローンに乗っていよいよ機動六課に接近。

 

「エースオブエース・・・・・にしてはあっさりやられたな」

 

ガジェットドローンから降りて機動六課本部の真上に降下する。

 

『いやいや、お見事だよ。では、レリックが保管されている場所は本部の地下だ』

 

「あいよ。―――禁手(バランス・ブレイカー)

 

透過の力を体に纏い、無機物の中へと侵入する。本部の中を通り過ぎる度に人と目が合い、

驚いた色を浮かばせる。その中で―――見知った男女がいた。

 

「(な、なんで父さんと母さんがここにいるんだよっ!?)」

 

一気に速度を上げて地下に侵入した。薄暗い場所で周りを見渡すと機械で埋め尽くされている。

厳重にここで何かを保管している場所だと直ぐに分かった。

 

『着いたようだね』

 

「ああ、奪ったらすぐに撤退する」

 

通信が切れたことでレリックを探す。

 

―――一分後。

 

「よし、見つけた」

 

亜空間に保管されたレリックを仕舞って外へと脱出するため無機物の中へと潜行した。

その際、杖を折った。

 

―――○●○―――

 

―――イリナside―――

 

『ジェイル・スカリエッティ。レリックを奪ったぞ』

 

「ご苦労。見事までの潜入だったね」

 

『物凄く冷や汗を掻いた事があったけどな。無機物の中を潜行してそっちに戻る』

 

「分かった。無事に戻ってくれたまえよ」

 

たったの数分でイッセーくんはレリックとかいう物を手に入れたみたい。

犯罪者の加担をしてなんだか複雑な気分だけど、色々と頼らずにはを得ないよね。

 

「ドクター。彼は有能ですね」

 

「くくくっ、実に興味深いね。あの次元世界にいる人間は、

どうやらあんな素晴らしい能力を持った人間がいるようだ」

 

うわー、怖い笑みを浮かべているわ。イッセーくんを守らないといけない気がしてきた。

 

「トーレ、彼が一瞬で高町なのはに移動した瞬間は見れたかい?」

 

「・・・・・」

 

トーレと呼ばれた女性は無言で首を横に振った。当然よね。私でも全然見れないんだから。

ドクターって人は手を顎に当てて愉快そうに言った。

 

「ふむ、私の娘たちを彼と戦闘させてデータと蓄積させればより高性能になるかもしれないね」

 

「ド、ドクター・・・・・マジで?」

 

「セイン、キミが彼と一勝負した映像も記録させてある」

 

宙に腕を振るったら、それに呼応するように立体映像が現れ続けた。あっ、本当だわ。

 

「なにより、キミの戦闘スタイルに指摘したし、それを聞いて私は面白いと思ったよ」

 

「・・・・・まさか、私の腕を変形できるように改造したりしないよね?」

 

恐る恐るセインがそう訊くと、ニヤリと口角を挙げるドクターにとセインが頭と肩を垂らした。

 

「よかったっスねーセイン。もっと強くなれて」

 

「他人事に言うなっ!くそぅ、イッセーの奴、帰ってきたら文句を言ってやる!」

 

そう言った瞬間。セインの背後にイッセーくんが床から出てきた。

 

「―――なんか言ったか?」

 

「きゃっ!?」

 

背後から声を掛けられ、セインは可愛らしい女の子らしい悲鳴を上げた。

 

「おや、意外と早かったね」

 

「待たせると悪いと思ってな」

 

空間を歪ませて亜空間から何か入っている袋をドクターに手渡した。

その袋の口を開けば、赤い結晶がちょっと見えた。

 

「うむ、ありがとう」

 

「協力しているからな。これぐらいは当然だ」

 

マスクを外してイッセーくんの顔がようやく窺えた。うん、とっても恰好良いわ。

 

「こっちも協力してもらいたいことがある。機動六課のメンバーの詳細を知りたい」

 

「ふむ、それは構わないがどうしてだい?」

 

ドクターはそう訊くと、イッセーくんは溜息を吐いた。

 

「物凄く厄介な二人がいたんだ。気を消して侵入したから気付かれなかったと思うけど、

ほんと冷や汗を掻いた」

 

「一誠さま、その厄介な二人とは?」

 

「・・・・・」

 

リーラさんの問いかけにイッセーくんは口を開いた。

 

「父さんと母さん・・・・・兵藤誠と兵藤一香がいた。機動六課の本部に」

 

「「「なっ・・・・・!?」」」

 

う、嘘・・・・・あの二人までもこの世界に!?

 

「兵藤誠と兵藤一香・・・・・それは本当かい?」

 

「ジェイル・スカリエッティ?」

 

「いやはや・・・・・これは驚いたね。まさか、キミがあの二人の子供だったとはね」

 

え・・・・・?この人、異世界の人なのに知っている!?イッセーくんのご両親を!

 

「・・・・・なんで、知っているんだ?」

 

イッセーくんもドクターの言葉に怪訝な面持で問いかける。

 

「知っているも何も、十年ぐらい前だね。

彼らがこの世界でまだ幼かった高町なのはとPT事件、闇の書事件を解決していたんだ。

その頃は私も戦闘機人を創っていたり、戦闘機人の試運転を兼ねて色々としていたがね」

 

「それから二人は?」

 

「とある日にパッと姿を暗ましたよ。死んだとは思っていないが・・・・・まさか、

次元世界の人間だったとはね。今日は驚くことが多い日だ」

 

そう言う割には楽しそうに笑っているわよね・・・・・。

 

「因みに、キミは自分のご両親に勝てるかな?」

 

「・・・・・一対一なら何とか、二対一で戦闘されたら苦戦に強いられる。

足止め程度が限界だな」

 

「それで十分だ。他の者にはガジェットドローンや娘たちで当たらせよう」

 

「高町なのはが率いる機動六課にか?だったら、セインたちの強化としないとな。

それと、セイン以外の皆の能力を知りたい」

 

「いいとも。もし何か進言したいことがあったら気軽に言ってくれ」

 

ドクターの言葉にイッセーくんは頷いた。

何だかこの二人、お似合いだわね・・・・・良く分からないけどそんな感じがする。

 

 

 

 

「これは大失態やなぁ・・・・・」

 

「「ご、ごめんなさい・・・・・」

 

「すまん・・・・・」

 

とある部屋で襲撃者と接触した私たち三人が申し訳なさそうに謝罪の言葉を発する。

位の高い人間が使う机、椅子があり、

その椅子に座っている制服を身に包む女性は関西弁で話している。名前は八神はやてちゃん。

 

「まさか、なのは隊長とフェイト執務官、ヴィータ副隊長の三人がかりででもってしても、

軽くあしらわれた上に保管していたレリックを強奪されたなんて・・・・・機動六課を

結成して以来の前代未聞の事件や。しかも、本部や六課に努めている人員に被害を出さず、や」

 

「「「・・・・・」」」

 

「幸い、この件については一部の者しか知らん。今回の件に関わった

三人はお咎めなし・・・・・とは言い切れれんな。特にフェイト執務官、油断し過ぎやで」

 

「うっ・・・・・」

 

「なのは隊長のレイジングハートは折られているし、修復にはちょっと時間が掛かる。

今回分かったのはガジェットドローンと関わりがある人物の襲撃」

 

机に肘を突き、両手の指を交差して今回の件について思考の海に潜りながらも様々な仮説を立てる

はやてちゃん。ちなみに機動六課の正式名称は、

時空管理局遺失物管理部機動六課でその課長・本部隊舎総部隊長・中枢司令部の肩書を

持つのがはやてちゃんなの。

 

「今度会ったら、ぜってぇ、とっ捕まえてやる・・・・・っ!」

 

「うん・・・・・今度は油断しない」

 

「そうだね・・・・・」

 

私たちはそれぞれ決意を胸に秘めたその時。コンコンと扉を叩く音が聞こえた。

はやてが声を出すと扉は開き二人の男女が入室してきた。

 

「お邪魔するよ」

 

「こんにちは」

 

兵藤誠さんと兵藤一香さん!二人の登場に私たちは目を張る。

 

「ま、誠さんと一香さん!」

 

「どうしてここに・・・・・?」

 

「うん、ちょっとお願い事があってね」

 

誠は朗らかに言う。そのお願いとは・・・・・とそう思っているとヴィータちゃんが

一香さんに抱きかかえられた。

 

「は、離せよ!」

 

「やーん、可愛いわねぇ・・・・・あれから十年経っているのに全然成長していないのね。

―――色々と」

 

「ひ、人が気にしていることを言うなよ!」

 

あー、捕まっちゃったね。

 

「それで・・・・・お願いとはなんでしょうか」

 

はやてちゃんがそう声を掛けた。

 

「ええ、こうしてあなたたちと再会したおかげなのは息子のおかげなの」

 

「む、息子・・・・・?」

 

「ええ、誠と間に生まれた子供。一誠というの」

 

えええ!二人に子供がいたの!?十年経つとやっぱり色々と・・・・・。

 

「は、はあ・・・・・そのお二人の子供がどうしておかげなんですか?」

 

「まあ、詳細は教えれないけどこの世界に私たちの息子がどこかにいるようなのよ」

 

「だけど、俺たちだけじゃ探しようがない。だから、仕事の曖昧でも捜索してくれないか?」

 

そうなんだ。もしかして、この世界に来てしまった時にはぐれてしまったのかな?

はやてちゃんは私やフェイトちゃんを一瞥して頷いた。

 

「分かりました。お二人にはお世話にもなりましたし、一誠くんの捜索もしましょう」

 

「ありがとう。助かるわ」

 

「それで、一誠くんの容姿を教えてください」

 

うん、そうだね。それを聞かないことには探しようもない。静かに耳を傾ける。

 

「腰まで伸びた真紅の髪に金色の瞳。身長は・・・・・大体170㎝ぐらいだったかな?」

 

―――――あれ?どこかで聞いたような。はやてちゃんに顔を向けると、

はやてちゃんは机にあるキーボードを操作してとある画面を展開してた。

 

「もしかして、このこの子でしょうか?」

 

今日、エリオとキャロが関わったと言う一人の少年の画像だ。誠さんと一香さんは微笑んだ。

 

「ええ、その子よ」

 

「良かった。どうやら無事みたいだな」

 

・・・・・この子がお二人の子供・・・・・驚いた。でも、髪と瞳の色は違うね。

どうしてなのかな?

 

「でも、どうしてあなたたちは急に姿を消したのですか?」

 

「うーん、帰らないといけないことがあったからね。時期が時期だったし」

 

「それは一体・・・・・」

 

「おっと、それ以上は教えれないさ。これは大人の事情なのだからね」

 

うー、教えてくれないかー。私たちも大人だけど、二人には敵わないからなー。

 

「あの、二人の子供にしては・・・・・ちょっと雰囲気が違うような気もしますが

どうしてたのですか?」

 

フェイトちゃんが訊ねる。私が気になることをフェイトちゃんは聞く。―――ナイスだよ!

 

「「・・・・・」」

 

二人は顔を見合わせて、途端に暗い顔を浮かべる。

 

「・・・・・とある人にね、誘拐され、調教され、肉体を改造され、洗脳されちゃっているの」

 

「元々は人間だったんだけど、今の息子は人間じゃないんだ」

 

なっ・・・・・!?

 

「一見、優しそうに見えるけど、それは息子を裏で操っている人物がそうさせているの。

私たちは息子を私たち家族の手で取り戻そうとしていたところ、私たちの敵がこの世界に

繋げて逃げてしまったの」

 

そんな・・・・・この子は洗脳されちゃっているの・・・・・?

 

「どうやら、一時的に洗脳から解き離れていているようだが、

また俺たちの敵が現れて息子を洗脳されたら・・・・・」

 

誠さんは悔しそうに握り拳を作った。とても悲しくて辛そうな顔を浮かべて・・・・・。

 

「教えてください。一誠くんを裏で操っている人のことを」

 

気付けば私は二人にそう訊ねた。そんな辛い目に会っている人を見逃すわけにはいかない。

この二人には恩もある。だから、力になりたい!

 

「強力、してくれるの?」

 

フェイトちゃんが手を胸に当てて口を開く。

 

「当然です。お二人の気持ちは痛いほど分かります」

 

「せや。あの時の事件もお二人には感謝しています。今度は私たちが二人を助ける番です」

 

続いてはやてちゃんも言った。うんうん、そうだね!今度は―――私たちの番!

この十年間、培ってきた力を、皆を守るこの魔法を役立てなきゃ!

 

 

 

 

 

 

「うん、素直で優しく良い子に育っているな」

 

「そうね。―――私たちに騙されるほどね?」

 

「申し訳ないけど、利用させてもらおう」

 

「私たちが楽しむためにね」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode5

 

レリックを奪取した後、俺はジェイル・スカリエッティから貰った十二人の戦闘機人の

IS(インヒューレントスキル)の記された詳細の紙を見ていた。まだ調整段階の戦闘機人(武装)も含めてだ。

 

不可触の秘書(フローレス・セクレタリー)』 ナンバーズ1、ウーノが持つIS。

自分や自分のいる施設をレーダーなどの探知から隠す「ステルス能力」と、知能の加速による

「情報処理・統括力の向上」という二つの能力の総称。

 

偽りの仮面(ライアーズ・マスク)』偽りの仮面 ナンバーズ2、ドゥーエが持つIS。

自身の姿形を変える偽装能力。管理局と主要世界の身体検査を欺けられるように調整されている。

 

『ライドインパルス』 ナンバーズ3、トーレが持つIS。

機動力の強化に重点を置き、高速移動に特化した身体強化系の能力。

両の太ももと踝の部分に備えられた装甲から伸びる、虫状の羽として発現する。

 

『シルバーカーテン』 ナンバーズ4、クアットロが持つIS。

電子を操る能力で、効果範囲が非常に広い。レーダーや通信系統の混乱、

コンピュータへのクラッキングは勿論、幻影や姿を隠す光学迷彩を起こすことも出来る。

手の甲に備えられた逆三角形の部品を介して発動する。

 

『ランブルデトネイター』 ナンバーズ5、チンクが持つIS。

金属を爆発物に変化させる能力で、平時は投げナイフ型の固有武装「スティンガー」を用いて

発動させる。「スティンガー」は投げて用いるため射程が広く、

また転送によって唐突に出現させる事も出来る。

 

『ディープダイバー』 ナンバーズ6、セインが持つIS。

無機物を透過し自在に潜行できる能力。

人差し指に小型カメラ型の固有武装「ペリスコープ・アイ」が付いており、

潜行時はそれを潜望鏡の様に突き出して地表の様子を伺う。

基本的に使用者であるセインのみに効果があるが、

密着状態ならばセイン以外にも透過効果を与えることが出来る。

また連れ込む対象がバリアジャケットなどの防護系能力が強く展開していると

連れ込むことが出来ない。

 

『スローターアームズ』 ナンバーズ7、セッテが持つIS。

ブーメラン型の固有武装「ブーメランブレード」の扱いや投擲時の軌道制御などを為す能力。

 

『レイストーム』 ナンバーズ8、オットーが持つIS。 手の平より無数の光線を放つ。

その性質は攻撃には勿論、対象を束縛するバインドや結界としても用いることができ、

「レイストーム」はそれらの総称。

 

『ブレイクライナー 』ナンバーズ9、ノーヴェが持つIS。

固有武装であるガンナックルとジェットエッジ、

そしてウィングロードに酷似した能力「エアライナー」の三種を統合した、

蹴りを主体とする格闘技術の総称。ちなみにガンナックルには射撃機能があり、

それは牽制程度に使われる。

 

『ヘヴィバレル』ナンバーズ10、ディエチが持つIS。

ディエチの体内で生成されるエネルギーを大型の砲身、

イノーメスカノンで砲撃として出力する能力。砲撃の性質は変更することが可能で、

スコープ機能を持つ左目と連携させることで長距離狙撃を可能としている。

 

『エリアルレイヴ』ナンバーズ11、ウェンディが持つIS。

巨大な盾型の固有武装を飛行させる能力。速度と運搬性に優れ、発動者であるウェンディに

加えて、人一人を詰めた大型スーツケースを楽々と運搬することが出来る。

 

『ツインブレイズ』ナンバーズ12、ディードが持つIS。

赤い光を刃とする双剣型の固有武装を用いる能力。

 

「どうだい?何か指摘する事はあるかな?」

 

隣からジェイル・スカリエッティが声を掛けてくる。

俺が立っている場所は上を見上げれば数多のカプセルに入っている女性たちがいる通路。

そこでジェイル・スカリエッティとウーノが魔法で構築したピアノを演奏するかのように

手鍵盤を押していく。その光景を好奇心と興味深々で見詰めていると、

ウーノが声を掛けてきた。

 

「どうしました?」

 

「いや、異世界の魔法は面白いなって。手鍵盤のようなもので操作しているんだからな。

こっちの世界とは大違いだ」

 

「では、そちらの魔法はどういったものか私に見せてくれるかい?」

 

ジェイル・スカリエッティにそう言われ、魔方陣を展開した。

 

「これが俺の世界の魔方陣。その一つだ」

 

「ふむ・・・・・魔方陣の外側に見たこともない文字が記されているね。

それに真ん中の紋様はまるでドラゴンを模しているようだ」

 

「これ以外にも俺の世界には様々な種族が存在して色んな魔法や魔方陣があるんだ。

その種族を象徴する紋章の魔方陣とか、摩訶不思議な現象を起こす魔方陣、魔法とかさ」

 

「なるほど。だったら魔力変換資質もできるかな?」

 

訊ねられて、魔力で炎、水、氷、雷、風、光、闇の自然属性を含めた全ての属性魔法を

宙に発現した。

 

「これは・・・・・」

 

「こんなこと、俺みたいな逸脱した魔法使いだったらできる」

 

「キミもその魔法使いなのかね?」

 

首を横に振って否定する。

 

「生憎、俺は魔力を持っていないんだ」

 

「おや、いま見せているのは魔力で変換したものではないのかね?」

 

「確かにこれはそうだ。でも、この体に流れるドラゴンの力でできているんだ」

 

ジェイル・スカリエッティとウーノは理解ができないと怪訝に訊いてくる。

 

「どういうことだい?」

 

「俺はその昔、一度死んだ形になったことがあるんだ。

その時、俺の肉体をベースにした新たな肉体に俺の魂を定着してこの体を手に入れたんだ。

でも、死ぬ前の体だった頃は魔力なんてなかったし魔法を使えなかった。

魔法を使えるようになったのはこの体にドラゴンを宿した瞬間だ」

 

「「・・・・・」」

 

「だから、俺自身の魔力でやったわけじゃない。全部、ドラゴンの力でしている」

 

それでも俺の力だ。俺自身の魔力であろうが無かろうがもうそんなこと関係ない。

ふいに顎に手をやってジェイル・スカリエッティが口にする。

 

「あの二人の子供だから魔法を使えるのは当然だと思うが、

キミが魔法を使えなかったことには気になるね」

 

「というか、俺の家系や両親が物凄かったなんて数ヵ月まで知らなかったんだけどな」

 

その時の記憶が脳裏に浮かび苦笑を浮かべる。

 

「と―――話が反れたな。セインたちのIS(インヒューレントスキル)の話に戻す」

 

「ああ、それでどう思ったかい?」

 

「実際にセインのように戦ってみないことには分からないな」

 

そう言うとジェイル・スカリエッティが

「ウーノとクワットロは非戦闘機人だが?」と指摘してくる。

 

「二人には魔力無効化の効果か、魔力を反射する効果がある物で補えば十分だと思うぞ。

この世界は主に魔法で戦うらしいしな」

 

「なるほど、AMFか。面白い発想だ」

 

「AMF・・・・・?」

 

聞いたことがない単語だとばかり首を傾げるとウーノが説明してくれた。

正式名称は『アンチマギリンクフィールド』。

効果範囲内の魔力結合を解いて魔法を無効化するAAAランクの高位防御魔法で、

フィールド系に分類される。その効果範囲内では攻撃魔法どころか移動系魔法も妨害される。

しかし無効化するのはあくまで魔力の結合であり、魔力によって加速された物体や

魔力以外のエネルギーは防御出来ず、強化が成された物体に対しても充分な防御はできない。

上級者はこの空間内でも魔法を使って戦うことが出来るが、

それでも激しい消耗を強いられるそうだ。

 

「へえ、面白い魔法だな。・・・・・あっ、面白いことを考えた」

 

「なにかね?」

 

「そのAMFの塊を作ってできるだけ広範囲に発生させれば相手の魔導士たちを

一網打尽にできるんじゃないか?」

 

「「・・・・・」」

 

ジェイル・スカリエッティとウーノが顔を見合わせた。

 

「なるほど・・・・・そんな考えは思い付かなかったね」

 

「もしそれが現実となれば、管理局の魔導士たちは魔法を使えなくなり、

妹たちは自由に事を起こせますね」

 

「ガジェットドローンも同様ということだ。・・・・・くくくっ、実に面白くなりそうだよ」

 

あらら、嫌な笑みを浮かべているこの科学者は。

 

「イッセー・D・スカーレット。また何か閃いたら私かウーノに教えてくれたまえ。

キミの考える発想は実に興味深いからね」

 

「了解」

 

踵返してジェイル・スカリエッティとウーノから遠ざかる。さて、皆のところに戻ろう。

リーラたちがいる場所へと足を運び、通路を進む。

それにしても、ここを秘密基地にするなんてジェイル・スカリエッティは

よくこんな場所をしたもんだな。

辺りを見渡しながら進んでいくと、目的地に辿り着き中に入る。

中にはリーラたち(ヴァーリとイリナ)が―――戦闘機人たちと模擬戦をしていた。

うん、圧勝だな。

 

「お帰りなさいませ」

 

「ただいま・・・・・って、ここは俺たちの家じゃないんだけどな。で、どうだ?」

 

「ええ、ヴァーリとイリナのコンビネーションで圧勝しております」

 

だろうなー。二人とも神滅具(ロンギヌス)の所有者だし、激戦を体験しているし、

負けるわけがないと思うぞ。二人は翼を展開しているだけで戦っているが、

未だに倒されていないトーレを相手にしているが・・・・・あっ、負けたか。

 

「お疲れー」

 

「あっ、イッセーくん」

 

「どうだった?」

 

「サイボーグと戦って興味深かったが、色々と物足りないな」

 

ヴァーリがそう指摘する。

 

「どんな風にだ?」

 

「具体的に言えば、攻撃の威力も私にとっては不足がちだ」

 

あっ、そっちのほうなのね。というか、それは仕方がないことだと思うぞ。

 

「えーと、お前ら大丈夫か?」

 

「ああ、なんとかな」

 

トーレが答えてくれる。目立った外傷はないようだ。

 

「異世界の人間は翼を生やすのが多いのか?」

 

「あー、そうじゃないさ。あれはそっちでいうとレアスキルみたいなもんだよ」

 

「そうか。ああ、そういえばドクターに私たちの食料の代わりに食材を要求したそうだな」

 

首を縦に振って肯定と態度をしたら、

 

「厨房でその食材を運んである。お前が作ると言ったらしいからな。さっさと作ってもらおうか」

 

おっ、そういうことか。今日頼んだって言うのに早いな。んじゃ、早速調理を始めようかな。

現在の時刻は夜だし、夕食をする時間だ。

 

「セイン、厨房を案内してくれ」

 

「私かよ。あー、分かった分かった。案内するよ」

 

溜息を吐きながらも俺たちを厨房へ案内してくれる。

 

「食器類とか調理器具も何故かあるから使ってくれよ?」

 

「って、それらすらもなかったのかよ?お前ら、弁当と箸で食べてばっかりだったのか」

 

「だって、私たちは戦うために作られた戦闘機人だし、ドクターやウーノ姉は私たちの調整やら

ガジェットドローンの生産やらで忙しいし、誰も料理を作ろうなんて考えもしないんだ」

 

「なんというか・・・・・悪役って何気に食生活にだらしがないと言うか・・・・・思いもしない一面を見聞するとはな・・・・・」

 

セインに案内してくれた厨房は完全な設備だった。オーブンや台所は勿論、

蛇口を捻れば水が出るし、コンロの方も中華の店並みに火力が強かった。

 

「皆はどこで食べているんだ?」

 

「適当だよ。自分の部屋だったり、皆で集まって食べたりとかね」

 

「じゃあ、皆で集まる場所で料理を運ぼう。料理ができるまでセインはここで待機」

 

「マジで?物凄く暇そうなんだけど」

 

「だったら一緒に作るか?戦闘機人以前にセインは女だし、

それぐらいのスキルを覚えないとダメだからな」

 

「えー」と嫌そうに反応する。働かざる者は食うべからずという言葉は知らないのかなー?

 

「因みにセイン。好きな料理はなんだ?」

 

「ハンバーグ」

 

「ん、了解。リーラ、食材ある?」

 

俺とセインが話し合っている余所に、

リーラたちが複数の段ボールを開けて確認していたので訊ねてみると、

 

「食材を送ってくれた者が私たちの分も考慮してくれたおかげでしょう、

一ヶ月分の食材がございます」

 

「それでも足りなかったら買出しに行かないとダメだろうな」

 

さて、調理を始めようか。

 

―――○●○―――

 

―――セインside―――

 

次元世界から来たイッセーと接触して数時間が経過した。

まだあいつと付き合いは浅いのに何だか長く感じる。それに異性とこうして会話するのは

ドクター以外いなかった。意外と男って話しやすいんだなぁと感じる自分がいることに気がつく。

 

「はうう・・・・・目が、目がぁ・・・・・」

 

「こんなことなら、ルフェイからもっと色々と調理の仕方を教えてもらえば良かったな」

 

「リーラさん。お野菜洗ったよー」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「我、野菜の皮を剥いた」

 

「おー、あっという間だな。魔力を使ったんだろうがな」

 

そして、イッセーたちが料理を作っている光景は家族みたいだ。

ドクターが狙っていた子供も違和感なく溶け込んでいるしね。

 

「(あー、良い匂いがしてきなぁ・・・・・)」

 

今日の昼はカレーハンバーグ。食欲がそそる匂いと私の好きなハンバーグを作ってくれている。

私もレタスやトマト、野菜類を盛り付けをさせられているけどこれは簡単でいいや。

これもデータとして蓄積されるだろうけどねぇ。

 

「―――よし、完成っと」

 

イッセーがそう言った。うん、確かにできたみたいだ。

山積みにされているハンバーグと大きな鍋の中はカレーがたんまり入っている。

人数分のサラダもあるしこれで完成だろう。

 

「ご飯も炊けたわ!」

 

「我、お腹空いた」

 

「だな、それじゃ。これを皆が集まる場所へ持って行こう」

 

イッセーが複数魔方陣を展開したと思えば、その魔方陣の上に鍋や食器類など乗せて

厨房から出ようとする。って、場所も分からないのに勝手に動かないでってば!

 

 

 

宙に浮いている今晩の夕食を引き連れているイッセーたちを私が先導する。

姉や妹たちが今頃いるであろう場所へ向かう。背後にいるイッセーたちの話に耳を傾ければ

他愛のない内容だった。別に私が気にするようなことでもないし、ドクターや私たちに

危害を加えるような人たちでもなさそうだ。

まあ、犯罪者の私たちに何らかの理由で加担しているようだけど。

 

「(悪くない人が悪いことをしようとする心情は分からないねぇ・・・・・)」

 

私には関係ないけどね、と思いながら目的地に辿り着いたわけだよ。

中に入るとドクターやウーノ姉以外の姉や妹たちが長いテーブルを囲んで椅子に座っていた。

ここがいつもご飯を食べる場所でもある。

 

「腹減ったっスよ~」

 

「不味かったら承知しねぇぞ」

 

皆、良い感じでお腹空かせているね。イッセーたちに振り向けば、各々と動き出していた。

開いているテーブルに食器類やカレーが入った鍋や山盛りのハンバーグを盛られている

皿を置きだしてご飯が入っている機械の蓋を開けては皿に盛ってご飯にハンバーグとカレーを、

と繰り返して姉や妹たちの前に置いたところでイッセーが口を開いた。

 

「ジェイル・スカリエッティとウーノは?」

 

「武装の調整をしているっスよ」

 

「ふーん、分かった。ちょっと待ってくれ」

 

すると、一誠が無機物へ潜行して行った。ドクターとウーノ姉のところに行ったのかな?

そう思った次の瞬間。この部屋の扉が開いたかと思えば―――。

ドクターやウーノ姉を両脇で抱えているイッセーが入ってきた!?

 

「キミ・・・・・私たちは忙しいんだがね?」

 

「互いが利用する立場とは言え、飯の時間ぐらいは揃って食わすからな」

 

「拒否権は?」

 

「ある、と思うか?」

 

威圧を二人に放つイッセー。私たちを創ったドクター、

私の姉というべきウーノ姉が沈黙する。

あ、あんな二人は見たこともない!流石に非力な科学者や秘書でも武力には

勝てないってことだろう。空いている席にドクターとウーノ姉を強引に座らせた後で

カレーハンバーグを盛った皿とサラダ、水、スプーンを置いた。

それからイッセーたちも座りだせば、「いただきます」と合掌した。

それが合図となり皆が今晩のご飯を食べ始めた。

 

「う、美味いっス!」

 

「真空パックで送られてきた弁当より、確かに美味いな」

 

「美味しい・・・・・温かさを感じる」

 

うん、本当に美味しいね。弁当にもこんな料理は食べたことあるけど、

段違いの美味しさを感じるよ。もう、この美味しさを感じたら今まで食べてきた弁当より

イッセーたちの料理が食べたくなるじゃんか。

 

「おかわりっス!」

 

「セルフサービスだ。自分でやって来い。ハンバーグは一つだからな?」

 

「おおう、手厳しいっスね」

 

苦笑を浮かべながらも赤い髪をまとめた戦闘機人、ナンバーズ11のウェンディ、

私の妹は立ち上がってご飯をお代わりをしに行った。

 

「・・・・・」

 

おっ、トーレ姉もお代わりしに行ったよ。いつも二つか三つぐらい弁当を食べるから一杯だけじゃ

足りなかったんだろうねぇ。

 

「私もおかわりしよっと」

 

かく言う私も大好きなハンバーグにカレーだから美味しさが二倍も三倍なってあっという間に

食べてまた食べたいと言う食欲が湧きあがり、

 

「(これからの食事が一気に楽しくなったなぁ。こんな感じ、生まれて初めてだ)」

 

おかわりをしに行くのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode6

異世界に来て翌日。ジェイル・スカリエッティに頼んで外の様子を見させてもらうと、

まだ俺達の世界が空に浮かんでいた。

 

「キミの世界に持ち込まれたと言う七つのレリックに宿る膨大な魔力は、

どうやら魔力が尽きない限りあの次元世界と繋がったままになるだろうね。

キミたちにとっては朗報とも言えるじゃないかな?」

 

と、ジェイル・スカリエッティが予測を告げてくれた。

 

「何時間、何日保つと思う?」

 

「ふむ・・・・・このケースのレリックは見聞したことがないから予想不可能だ」

 

天才科学者でも予想不可能。まあ、知りたかったことが知れたし用は済んだ。

リーラたちのところへと踵返した時だった。

 

「ああ、また頼みごとがある。また興味深い物が骨董美術品オークションで売買されそうだ。

今回は別の協力者と一緒にそれを奪ってくれてもいいかね?」

 

「別の協力者?」

 

「そうとも。行ってくれるかね?」

 

そう言われ、俺は少しだけ脳裏で悩むが首肯する。

 

「分かった。そのオークションの場所と協力者の情報を提供してくれ。―――それと」

 

「なんだい?」

 

人差し指を立ててジェイル・スカリエッティに頼んだ。

 

「簡易的で頑丈な刀剣を一つ作ってくれないか?」

 

 

 

―――ホテル・アグスタ。

 

主に骨董美術品をオークションで売買するために作られた森に囲まれた山奥にある施設。

その数キロ離れた場所には大きな湖があり、オークション会場は宿泊も可能でもあった。

取引許可の出ているジェイル・スカリエッティが興味を抱く物を奪取―――それが今回の頼み事。

 

「なあ、なんだか色々とガジェットドロー―ンがいるのは何故だ?」

 

『なに、ちょっとした陽動のためだよ。それと管理局のデーターを収集を兼ねてだ』

 

アグスタへの移動中は、俺を乗せてくれたガジェットドローンを騎乗しての移動。

俺の周りには大型の丸いガジェットドローン、カプセルに似たの円錐型のガジェットドローン、

カプセルに似た円錐型のガジェット・ドローンにTの字型シールドをバックに付け左右に

6連装ミサイルポット二個装備しているガジェットドローン。

それらが共に目的地へと移動している。

 

『キミの要望通りの武器の調子はどうだい?』

 

「悪くない。試し切りもしたところ、急ピッチで作らせてくれたにも拘らず、良い刀剣だな」

 

腰に差してある刀剣。銘は未だにない。

 

「そんじゃ、別の協力者と合流させてもらうぞ」

 

『次の報告はロストロギアの奪還後。吉報を待っているよ。

私の欲しい物は協力者にデーターを送ってある』

 

それだけ言い残して宙に出現しているモニターが消えた。

さて、行くとしようか。その前に、左手に赤い籠手を装着。

 

「敵に壊されるなよ?」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!』

 

『Transfer!』

 

騎乗しているガジェットドローンに力を譲渡する。

その後、飛び降りて協力者がいる場所へと駆け走った。

 

「あれ、機械に譲渡したらどうなるんだ?」

 

まあ、いいデーターとなるだろう。そう思いながら感じる二つの気の前に辿り着けば、

巨躯の中年男性と薄紫色の髪と赤い瞳の少女と出会った。

 

「初めまして、ジェイル・スカリエッティの協力者だな?」

 

「・・・・・何者だ」

 

「イッセー・D・スカーレット。ジェイル・スカリエッティの二番目の協力者だ」

 

「あの男の協力者?」

 

怪訝に眉根を上げる中年男性。まあ、誰が好きこのんであの科学者と協力するのか、

その心情は定かではないだろう。

 

「ジェイル・スカリエッティの欲しい物のデーターは送られたと聞いたんだが」

 

訊ねると少女が宝玉が嵌められているグローブをかざしてくれて、データーを見せてくれた。

 

「ん、ありがとう。感謝の印にこれをやろう」

 

亜空間からマシュマロが入っている袋を取り出して少女に渡す。

 

「そんじゃーな」

 

二人に手を振って、爆発音がする場所へ向かった。

 

「あ・・・・・」

 

爆発音の発信源に辿り着くとガジェットドローンが破壊されていた。残骸だらけだ。

すると、見覚えのあるガジェットドローンの残骸を見つけた。

俺をここまで運んでくれたガジェットドローンまでもが破壊されていた・・・・・。

 

「・・・・・」

 

少しブルーな気持ちになった。短い付き合いだけど破壊されていたなんてな・・・・・。

 

「上か」

 

跳躍して森から抜けだして宙に浮くと、

 

「あっ、てめぇはっ!」

 

あの時の赤い子供がいた。

ということは、ガジェットドローンを破壊尽くしたのはこいつだったのか。

 

「ここで会ったのが百年目!てめぇを捕まえてやる!」

 

そう言って銀の玉を複数発現したかと思えば、魔力で強化して打ち出してきた。

 

「機械に心はないが」

 

腰に差していた刀を抜き放って、横に一閃した。

 

「機械に魂はないが、それでも」

 

眼前に爆発が生じた瞬間に突貫し、赤い子供の懐に一瞬で飛び込む。

 

「っ!?」

 

「仇は討たせてもらおうか!」

 

デバイスを含め、気を纏う十二の斬撃を放ってダメージを与えた。

 

「ぐあああああああああああっ!?」

 

一拍して、体中から血を迸らせながら赤い子供は地面へと落下していく。

 

「傷は浅い。すぐに回復するだろうさ」

 

森の中に入って金色の錫杖を発現して手にする。それから能力を発動―――。

全てのガジェットドローンを一ヵ所に集め、結合、合体、構築を繰り返していけば。

 

「巨人型のガジェットドローンの完成だ」

 

ズンッ!と鈍い音を地鳴らせながらオークション会場へと巨人型のガジェットドローンが

足を運ぶ。

 

―――ジェイルside―――

 

「くはははっ!素晴らしい、彼は素晴らしいじゃないか!全てのガジェットドローンを

全く新しい別のガジェットドローンに組み替えるなんて私の想像を遥かに越えさせてくれる!」

 

「ガジェットドローンⅤ型と呼称しましょうか?」

 

「ああ、そうだね。さて、私の欲しい物が手に入る他に興味深い私の玩具の性能を、

見させてもらおうじゃないか」

 

心を躍らしてくれるよ・・・・・あの少年には・・・・・くくく・・・・・っ!

 

―――なのはside―――

 

「な、なにこれ・・・・・?」

 

会場を外から護衛している仲間から知らされた大きな人型の機械。

ガジェットドローンが現れたのは分かっていたけれど、

こんな急展開、あのガジェットドローンがこんな機能を持っているなんて誰が思うかな?

 

『なのは、このガジェットドローン。前線フォワード部隊の皆じゃとても歯が立たないと思う』

 

頭の中にフェイトちゃんの声が聞こえてくる。魔力で直接声を飛ばしてくる魔法、念話。

 

『でも、外にはヴォルケンリッター・・・・・ヴィータちゃんたちがいるはずだよ』

 

『既に防衛ラインが超えられそう。ここは私たち隊長も出た方が良い』

 

『・・・・・分かった。はやてちゃん、それでいいかな?』

 

『ええよ。ここは任せて二人は外へ行ってちょうだいな』

 

『『分かった』』

 

誠さんと一香さんは本部で待機しているからここは私たちでなんとかしないとけない。

ジェイル・スカリエッティの仕業に間違いない・・・・・!

 

―――○●○―――

 

表で巨人型のガジェットドローンが暴れている余所に、俺は施設内に入った。

地下ホールの駐車場で少女から知ったデーターを頼りに探すと直ぐに発見した。

一台のトラックだ。トラックの中にジェイル・スカリエッティが欲しがっているものを

収容されているそうだ。どーやらオークションに出す出品じゃなく、密輸品のようだがな。

トラックの荷台に能力で穴を広げて中に入り、詰められている木箱が視界に入る。

目に留まった木箱を刀で一閃して真っ二つにし、静かに開けるとシルバーのケースを発見した。

中身の確認とケースを開ければ、青い結晶が複数収まっていた。―――これだ。

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

外から大きな爆発音。破壊されたか・・・・・。

 

「まあいい。こっちの目的は果たせた」

 

トラックから出て、透過の力で無機物の地面の中へと潜行する。

 

―――セインside―――

 

おー、イッセーの奴、今回は派手にやったなー。

秘密基地に戻ってきたイッセーはドクターにケースを渡しているところだった。

 

「見事だよ。特にあのガジェットドローンⅤ型を再構築したのが実に興味深かったよ」

 

「ガジェットドローンⅤ型・・・・・?」

 

「あの巨人型のガジェットドローンの名前さ」

 

「ああ、あれか。囮になってもらうために俺の力で再構築しただけなんだけどな」

 

「なるほど。では、またあのガジェットドローンⅤ型を作ってくれるかい?

他のガジェットドローンの生産のコストは余裕でクリアしているから何百何千と作れるのでね」

 

ドクターは愉快そうに言う。イッセーはイッセーで楽しみができたと風にドクターに進言した。

 

「それだったら、生物型のガジェットドローンも作っていいか?

それぞれ攻撃力、防御力、機動力があるガジェットドローンをさ」

 

「ふむ・・・・・生物型のガジェットドローンか・・・・・。

よかろう、試作品として作ってみてくれ」

 

「了解。セイン、案内してくれるか?」

 

「はいはい、分かったよ」

 

まっ、私がイッセーといる理由はこの秘密基地の案内をするため。

何気に私もイッセーたちの見張りみたいな感じでイッセーとよくいるけどね。

別に悪い気はしないけど。ガジェットドローンの量産をしている場所へと案内する。

 

「ところでイッセー」

 

「ん?」

 

「イッセーはどうしてドクターに協力する気になったんだ?」

 

なんとなく問うてみた。イッセーは次元世界から来た人間。

そんな人が私たちに協力する気になるなんて少しだけ気になった。

 

「昨日も言ったが、俺はとある奴を探しにこの世界に来たんだ。

そのためにジェイル・スカリエッティの協力が必要と感じてあいつの協力をする代わりに

こっちの協力もしてもらう。それだけさ」

 

「イッセーが探している人ってどんな人?」

 

「・・・・・」

 

不意にイッセーが沈黙した。教える気がないならそれはそれでいいんだけど。

 

「まあ・・・・・一言で言えば悪魔だ」

 

「悪魔・・・・・?」

 

「俺の人生を変えた張本人・・・・・だな」

 

悲しみ、怒りの色を浮かべない。でも、苦笑を浮かべた。

 

「ヴァーリの祖父なんだよ。俺が探しているのは」

 

「へ・・・・・?」

 

「取り敢えず、俺が教えれるのはここまでだな。

セインや他の皆に言ってもピンとこないだろう」

 

それ以降、イッセーは口を閉じて黙った。私が案内している場所までずっとだ。

目的地に辿り着くと、イッセーの口から感嘆の声が漏れる。私にしてはもう見飽きて

どうでもいい場所なんだけど、初めてこの場所に来たイッセーにとっては興味深いかもしれない。

 

「さて、やるか」

 

何時の間にか金色の錫杖を手にしているイッセーは、錫杖を輝かせ始めた。

すでに出来上がっているガジェットドローンが宙に浮き、あっという間に分解したかと思えば、

また再構築し始め、体が四肢型の形をした機械が出来上がった。

 

「名付けてガジェットドローンⅥ型の一型と呼ぼうかな」

 

「一型?他にも何か作るの?」

 

「生物シリーズだからな。これ以上、名前が増えても面倒くさいだろう?Ⅶ型とかⅧ型とかさ」

 

―――確かに。納得する自分がいて首を縦に振っていた。

 

「こいつは機動型。で、攻撃型はこいつでいいかな」

 

またガジェットドローンが宙に浮き、分解した。

そして、今度は―――両腕が大きく太いのが特徴の見たことがない

生物のガジェットドローンができた。

 

「ガジェットドローンⅥ型の二型。次は三型だな」

 

となると防御力があるガジェットドローンか。見守っていると。

大きい甲羅がある生物のガジェットドローンができて宙に浮いた。

 

「というか、このガジェットドローンの元となる生物は何?」

 

「あれ、この世界には動物がいないのか?」

 

「いや、いるんだろうけど見たことがないから・・・・・」

 

というか、そんな知識なんて必要もないしね。戦うために作られた私たち戦闘機人は。

 

「ふーん、そうか。まあ、試作品はこんな感じだろう。

これをジェイル・スカリエッティに見せて更なる改良を施してもらえば良いかな」

 

「実際、どんだけ性能があるのか気になるところだけどね」

 

「当然、弱点もある。それを補うためにこの三機は三位一体で動いてもらう」

 

うわー、攻撃しにくそう・・・・・。

でも、それを全部一つにしたらいいんじゃないかって思うのは私だけかな?

 

「それは人型のガジェットドローンにするさ」

 

「・・・・・口に出ていた?」

 

「いや、顔に出ていた」

 

あはは・・・・・。思わず苦笑を浮かべる。

 

「なあ、管理局本部に攻めるのか?」

 

「え?うーん・・・・・するんじゃないかな?」

 

突然の質問に曖昧だけど、ドクターの考えは分からないだけど答えた。

多分すると思うね。私たち戦闘機人とガジェットドローンの性能を披露するために―――って、

イッセーがここで初めて邪な笑みを浮かべ出したぞ?

 

「くくくっ、だったら・・・・・超コストが掛からない生物でも作ろうかな」

 

そう言ってイッセーがまた錫杖を光らせ―――私が初めてゾッと背筋が

凍るガジェットドローンを作った。後にイッセーはドクターに色々と

試作品のガジェットドローンを見せたら大絶賛をしたのは余談だ。

 

―――○●○―――

 

金色の六対十二枚の翼を広げて、でっかい風呂を一人占めしている俺がいた。

あれからセインたちとの模擬戦をしたり、食事を作ったり、

その後はのんびりと過ごして今に至る。女性陣が先に入ったことで後は

俺とジェイル・スカリエッティの男性陣だが、ジェイル・スカリエッティは滅多に風呂には

入らないので、俺一人で必然的に入ることに。

 

「にしても、電気、水の供給の仕組みはどうなっているんだ?」

 

火は魔法の力で料理ができる。それ以外が謎だ。

 

「まあ、この秘密基地の構造はジェイル・スカリエッティたちが知っているだろうから―――」

 

「私たちがなんだって?」

 

・・・・・・あれ?返事が返ってきたぞ?声がした方へ振り返れば―――片手にタオルを持っている

全裸のセインがいた。

 

「・・・・・なんで、ここに?先に皆と入ったんじゃないのか?」

 

「え、えーと・・・・・定期的検診をしていたから私だけ風呂に入れず・・・・・」

 

「「・・・・・」」

 

気まずい雰囲気が風呂場に包む。セインは異性、男と入ったことがないだろう。

体を少しも隠そうとせず、俺に全てを見せ付けるように佇んでいる。

 

「一応聞くけど、俺が風呂にいて恥ずかしいって感じはするか?」

 

「いや、しないけど?」

 

「・・・・・羞恥心を感じてくれ」

 

「羞恥心・・・・・?」

 

なにそれ?とばかりに首を傾げないでくれ!戦闘機人の前にセインは女なんだからね!?

こんなの、成神一成だったら大喜びするシチュエーションだ!

 

「まあ、イッセーが私と入るのは嫌なら離れた場所で入るけど」

 

「別に嫌とは言っていない。確認をしただけだ」

 

「確認する必要、あるの?」

 

「お前を襲う男が必ずいるからだ」

 

「逆に返り討ちするよ。ディープダイバーで潜行して体を地面に沈めるとかさ」

 

・・・・・ダメだ、こいつなんとかしないと!と、本当にセインが入ってきた。

 

「・・・・・」

 

「どうして私に背を向けるんだ?」

 

「いや、お前は女だし、まだ出会って間もない女の裸を見ちゃダメだろう。

さっきは不意打ちだったけど」

 

「私は別に問題ないけどなぁ。

というか、私を一人の女として接するなんてイッセーは不思議だね」

 

不思議か・・・・・。

 

「戦闘機人の前にセインは一人の女だろう」

 

「・・・・・」

 

セインが沈黙した。また不思議に思っているんだろうか。

尻目で見ると、ジッとセインは俺の背中を見つめているのが見えた。

 

「イッセー、少し質問して良い?」

 

「なんだ?」

 

「取り敢えず、面と向かって話をしたいからこっち、向いて欲しいかな。

私の裸を見たくないならタオルで巻くけど」

 

「見たくないと言ったら嘘になるけど・・・・・ごめん、タオルを巻いてくれ」

 

そう言うとセインは苦笑を浮かべて、タオルを巻き始めた。

セインから了承の声が聞こえると改めて彼女に振り返った。

 

「イッセーってさ、この後どうするの?」

 

「この後って?」

 

「イッセーの目的が達成した後のことだって。元の世界に戻るんだろう?」

 

ああ、そう言うことか。首を縦に振って首肯する。

 

「そうだな。あの世界には家族がいるし、俺の帰りを待っている奴らも大勢いる」

 

「へぇー、イッセーに家族がいるんだ?」

 

そこで、セインが疑問の声を漏らした。

 

「それってこの世界にいるイッセーの父親と母親もそうなんだろう?

イッセーが探し求めている人って、父親と母親とは違う別の人?」

 

「ああ、その通りだ。それと・・・・・俺に父親と母親はいない」

 

「へ?だって・・・・・」

 

言おうとしていることは分かるからセインの言葉を遮って言い続けた。

 

「ああ、確かにこの世界に俺の両親はいる。でも、あの人たちは違う。

魔法によって甦った偽りの両親だ」

 

「・・・・・っ!」

 

目を丸くしてセインは驚愕の色を浮かべる。

 

「俺の世界では生物を甦らせる術はあるんだ。その内の一つが死んだ両親が甦った。

ただし、俺が知っている両親ではないけどな」

 

「じゃあ・・・・・イッセーの両親は・・・・・」

 

「敵だ」

 

真っ直ぐセインに向かって言う。どんな言動で俺を接しても敵なのは変わりないんだ。

 

「・・・・・」

 

当惑するセイン。肉親が敵なんてそうそうあることじゃない。

 

「私がイッセーの立場だったら・・・・・どうしたらいいか分からないかも」

 

「自分が信じれると思うべき道に進めばいいさ」

 

「信じれると思う道・・・・・・?」

 

「ああ、そうだ」

 

ポンと、セインの頭に手を置いて撫でる。

 

「俺の場合、敵が把握しているから敵を倒そうとしているわけだ。

それが相手は父さんと母さんでもだ。セインはセインの敵を倒せばいいだけだろう?」

 

「私の敵・・・・・ドクターや姉や妹たちの敵・・・・・」

 

「生みの親であるジェイル・スカリエッティはお前ら戦闘機人を娘のように

愛情を注いでいるようだ。あいつの目的が果たせばもしかしたらお前たちの幸せのために

自由を与えてくれるんじゃないか?」

 

「自由・・・・・」

 

ポツリとオウム返しで呟いた。

 

「戦うために作られた戦闘機人は、幸せになるために一人の女として未来に生きていく。

それがお前ら十二人の未来だと俺は思いたいな」

 

「・・・・・」

 

「もしも、セインや他の皆が自由に生きたいなら、俺が何とかしてやる」

 

信じられない顔を浮かべ始めたセインに、俺は微笑み返す。

 

「約束だ。お前らを幸せに、自由にしてみせる」

 

「・・・・・っ」

 

すると、セインの顔が赤くなった。不思議に思ってセインの頬に手で触れて訊ねた。

 

「おい、のぼせたか?顔が赤くなっているぞ?」

 

「ふ、ふぇ・・・・・?」

 

刹那、プシューとセインの頭から蒸気が立ち昇った。

と、思ったら・・・・・セインが湯の中に頭から突っ込んだ!

 

「セ、セイィィィィィィン!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ・・・・・彼には敵わんな・・・・・」

 

「ドクター?」

 

「そうだね。目的を果たせば・・・・・いや、心のどこかでそうしようと思っていたさ。

我が愛しき娘たちの幸せを願ってね・・・・・」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode7

「ガジェットドローンⅥ型の性能を試す?」

 

「ああ、そうだ」

 

三日目の朝、朝食時にジェイル・スカリエッティがそう言いだした。

 

「そこで、ガジェットドローンⅥ型の試運転をキミに頼みたいのだ」

 

「なんだ、試運転のために俺と戦わせようって?」

 

「いやいや、相手は管理局だよ」

 

・・・・・あー、そういうことか。この科学者の言いたいことは瞬時で理解した。

 

「新しいガジェットドローンを率いて管理局にちょっかいだせばいいんだな?」

 

「ふふっ、話が早い。どうだい、やってくれるかい?」

 

「その前に、どーやって試作品を管理局本部にまで運ぶんだ?あれ、飛べないぞ?」

 

「そこは大丈夫だ。遠隔召喚魔法であっという間に遠くまで運んでくれる少女がいるのでね」

 

「ふーん、少女ね・・・・・」

 

セインたちではなさそうだ。だとすれば・・・・・あの紫の髪の少女のことかな?

 

「んじゃ、人に被害が遭わない場所の情報を教えてくれ。

そこなら管理局の奴らだって思う存分に戦えるだろうからな」

 

「分かった。ある程度試運転をしてもらえば独自に動いていいよ」

 

「了解。その間、ヴィヴィオには手を出すなよ?」

 

「おやおや、釘を刺されてしまったね」

 

するつもりだったのかこの科学者め。

 

「トーレたちは引き続き、データを蓄積のために彼の友達と模擬戦をしてもらうよ。

中々興味深いからね」

 

「うぇー・・・・・まじっスか」

 

と、長い赤髪を纏めた少女、ウェンディが渋々と発する。

 

「んじゃ、俺が帰ってきたらウェンディの好きな料理を昼食にしてやろう。それまで頑張れ」

 

「俄然にやる気がでたっスよぉっ!」

 

現金だな!

 

「はい」

 

「どうぞ、ディエチ」

 

ナンバーズ10、茶色の長髪を黄色いリボンで()わえている少女が手を挙げた。

 

「私も、付いて行っていい?」

 

その言葉に、一瞬だけ静寂が包んだ。

 

「なんでだ?試験運転が目的だから俺が出張るようなことはしないぞ?」

 

「ん、そうだろうね。でも、ここで見るよりは間近で見たいから」

 

「ふぅん?まあ、断わる理由もないし、別にいいぞ」

 

「感謝」

 

コクリと首を縦に振るディエチだった。

 

「あっ、そういうことなら私も行こうかな」

 

「私も暇だから行くわぁ」

 

「セイン?それにクワットロもか?」

 

「もしものために私がクア姉とディエチごと無機物に潜行して逃走する。

イッセーも無機物の中か空に飛んで逃走できるしさ」

 

うーん、敵に見つかるようなことはないと思うけど・・・・・。

父さんと母さんがいるからな・・・・・。

念には念を、絶対逃げれるようにしないとすぐ捕まってしまう可能性は大きい。

 

「分かった。一緒に行こうか」

 

「おう!」

 

『・・・・・』

 

と、なんか見る視線が変わったような・・・・・?

 

「セイン、なんだか嬉しそうっスね?」

 

「そうねー、何と言うか・・・・・」

 

「欲しい物が手に入った時の?」

 

「セインは物欲ではないだろう」

 

「んじゃ、なに?」

 

「さあ・・・・・」

 

なんだか、俺とセインのことで会話の花が咲いたぞ・・・・・?

別に深い関係でもないんだがな。

 

「まさか、ね?」

 

「いや、イッセーの魅力は凄まじいからな。敵であった私を魅了させたのだぞ?」

 

「ヴァーリは元々イッセーくんのことが好きだったじゃないの」

 

「そう言うイリナもだろう?」

 

「も、勿論よ!」

 

「お二人とも、同じ頃に一誠さまに恋をしたのですね」

 

「我も、イッセーが好き」

 

「ん~?」

 

こっちもこっちで、会話の花が咲いているぞ。

 

 

 

 

 

まあ、そんなこんなで俺たちは、バラバラでミットチルダの廃墟と化となっている市街地の

とあるビルの屋上でセインとディエチ、クアットロと待機。

後は俺が作ったガジェットドローンⅥ型の生物シリーズが遠隔召喚魔法で現れるのを待つだけだ。

そんで俺は正体を明かさないために全身黒づくめで髪を隠すマスクも被っている。

 

『ところで、どんなガジェットドローンを作ったの?』

 

顔の横に浮かぶ立体のモニターの映像にディエチが訊ねてきたので答える。

他にもセインやナンバーズ4のクアットロを映すモニターがある。

 

「攻撃、機動、防御、それぞれ特徴のあるガジェットドローンさ。

今までのガジェットドローンとは違うガジェットドローン。ま、見ていれば分かるさ。

その弱点も把握するのも勉強だしな」

 

『管理局に分析されるだろうけどねぇー』

 

『まあ、所詮は足止めしか役に立たないガラクタ。

分析されたところで痛くも痒くもないわぁー』

 

「そん時は別のガジェットドローンを作り直せばいい。形は無限に存在するんだからな」

 

『おー、何だか恰好良いね』

 

実際、事実だし。

 

『そろそろ時間だ』

 

「だな。さーて、楽しみだな。三位一体のガジェットドローンの性能を」

 

『イッセーは一機だけ、また大きなガジェットドローンを作ったからねぇ』

 

ボスがいないと面白味がないじゃないか。しかも今回は前回よりパワーアップしております。

 

カッ!

 

廃都市の高速道路に幾重の三角型の見たことがない魔方陣が出現し、

そこから次々とガジェットドローンⅥ型の生物シリーズが続々と出始めた。

中には巨人型のガジェットドローンⅥ型もいる。

 

『おお・・・・・・』

 

ディエチが感嘆の声を漏らす。俺が腕をバッと前に突き出せば、

全てのガジェットドローンが動き始める。

 

「さて、エースオブエースはどうでるかな?」

 

―――なのはside―――

 

『市街地に多数のガジェットドローンが出現!しかもどれもこれも新型です!

中には巨大ガジェットドローンが一機!』

 

『近隣の地上部隊と連絡をしていますが、全てが整い出動するまで時間が掛かるそうなので、

機動六課の皆さんで迎撃をお願いします!』

 

昼食間際に通信での凶報。あーもう、なんでここ最近は襲撃が多いのかな!?

絶対あの時の全身黒ずくめの謎の人物の仕業だよね!これ絶対に!

 

「あんにゃろう、また懲りずに襲撃しやがって・・・・・!今度こそ捕まえてやる!」

 

ほら、ヴィータちゃんが燃えあがっちゃっている。何度も屈辱を味わわされているせいか、

ヴィータちゃんはここのところ物凄く不機嫌なんだよね。

 

「誠さん、一香さん。一緒に迎撃しましょう」

 

「勿論だ。ははっ、不謹慎だがワクワクしてきたぞ」

 

「懐かしいわね。なのはちゃんと一緒に事件を解決するなんて実に十年振りだわ」

 

そうですね。でも、喜んでいられる時間はない。

新型のガジェットドローンはどうやら三機一チームで動いているそうで、

手当たりしだい市街地を破壊しているそうだ。

でも、どうしてわざわざ破壊してるのかは不明。何かを探している?でも、それは一体何なの?

 

―――○●○―――

 

「お・・・・・来たな」

 

『え?どこにも見当たらないけど』

 

「俺は相手の気、生命エネルギーと言った方が分かりやすいか?

それを半径十キロまで探知できるんだ」

 

『うわ・・・・・それは凄いね。でもどうやってしているの?そんな素振りはしていないけど』

 

そう言われ、どう説明しようか悩んだ瞬間。遠くから爆発音が聞こえてきた。

爆発音がした方へ振り向くと―――極太の桃色の魔力が柱みたいに眼下で伸びて高速道路にいる

ガジェットドローンを一掃した。

 

『『『「・・・・・」』』』

 

これ、試運転すらならないだろう・・・・・ちったぁ空気か状況を読め!このKY!

 

『ねえ、今ので殆ど消滅したんだけど、どうするのぉ?』

 

「え?マジで?」

 

『うん、マジで』

 

ディエチの言葉に俺は信じられなかった。高速道路だけじゃなく、

バラバラに配置させていたはずだ。なのにこの短時間で全て破壊されたなんて・・・・・。

 

「(いや、あの二人も前線に出てくればそれを可能にするか・・・・・!)」

 

『イッセー、戻った方が良いかも』

 

「だな、これじゃ意味がない」

 

『じゃあ、決めた合流地点で会おう』

 

ディエチの言葉にそうしようと、動いた瞬間。上空から金色の魔力弾が複数飛来してくる。

屋上から飛び降りて別の屋上へと移り回避する。

 

「見つけた」

 

「速い・・・・・」

 

金髪のツインテールに軍服みたいな服を白いマントで身に包んだ女性が現れた。

 

「っ!あなたは・・・・・」

 

「おや、数日ぶりだな」

 

異世界に来てその日の海上で出くわした女性に手を振る。

確か、名前はフェイト・T・ハラオウンだったな。

 

「市街地での騒乱、破壊の現行犯で逮捕―――」

 

「逃げるが勝ち!」

 

彼女が言い切る前にまた屋上から飛んで空を蹴る。

 

「待ちなさい!」

 

「ストーカがまた現れたぞ!」

 

「誰がストーカだっ!」

 

あっ、怒った。まあ、捕まらないけどな。ステルスの能力を発動。―――透明。

俺と接触した物を含め透明化になる能力(そのままだけどな)。すると―――相手が離れた。

 

「離れたなんで?」

 

道路に降り立って姿を現した直後。道路からセインが出てきた。

 

「イッセー!」

 

「あっ、セイン・・・・・じゃなくてどうしてここに来た!?いま、狙われていたんだけど!」

 

「えっ?あ・・・・・」

 

セインも今の状況に気が付いたのか、冷や汗を流し始めた。

すると、今度は別の方からディエチとクアットロまでもが現れた。

 

「おいおい・・・・・合流地点で会おうと言ったんじゃなかったっけ?」

 

「そこへ行こうとした途中でイッセーたちがいたんだ」

 

「ああ・・・・・そういうこと。で、あれはなんだ?」

 

そう言いながら空を見上げた。

そこには―――バチバチと黒い雷が迸っている黒い塊が浮かんでいた。気になって三人に問うた。

 

「広域・・・・・空間攻撃の類の魔法!」

 

「うそぉー!?」

 

ディエチとクアットロが驚愕の声を漏らすだとすると・・・・・。

もう一度空を見上げた途端に、黒い塊が消失したと思えば、一気に膨張して俺たちに迫った。

 

「ちょっ!どっちが市街地を破壊しているんだよぉっ!?」

 

「あれ、食らったら絶対にヤバいからね!?」

 

空を飛べないセインを抱き抱えて空を飛んだ。ディエチはクアットロに抱きかかえられている。

が、迫る魔法攻撃のほうが早く、俺たちは攻撃を食らいながらも空を飛んだ。

 

「っ・・・・・」

 

クアットロの肩にダメージが食らった。

 

「大丈夫か!」

 

「ええ、なんとかだけど・・・・・!」

 

「―――おおおおおおらあああああああああああああっ!」

 

「っ!?」

 

怒号と共に巨大なハンマーが真上から迫って来た。そのハンマーに対して鋭く蹴り返した。

 

「「はぁあああああああああああっ!」」

 

今度はなんだよ!と辺りを見渡すと魔力で構築しただろう水色と青の道に分厚い装甲と

蒸気を吐き出すマフラーを備えたインラインスケートで駆けてくる二人の少女と女性。

 

「タイプ・ゼロとタイプ・ファースト!」

 

「なんだと?」

 

迫ってくる二人から重厚な籠手を突きだしてくる。

 

「セイン、俺の背中にしがみ付いてくれ」

 

そう促し、背中にしがみ付かせると、両腕を横に突き出して少女と女性の拳を受け止めた。

 

「良い突きだ。ただそれだけだがな」

 

逆に掴んで二人の腕を凍らせていく。

 

「「なっ・・・・・!?」」

 

「そのまま、凍れ―――っ!?」

 

不意に、殺気を感じて二人から離れた瞬間に斬撃が放たれていた。

 

「ほう、避けたか」

 

「そりゃあ、殺気を感じたらな」

 

桃色のツインテールの女性。手に機械の剣を持っている。

 

「イッセー!」

 

セインが声を掛けてくる。言いたいことは分かる。囲まれているんだろう?

複数の男女、そんでドラゴンみたいな生物。その中に父さんと母さんの姿が見えない。

どうしてだ?だが、そんな事を考えている暇はないようだ。急激に膨れ上がる魔力を感知した。

同時に俺の体が白い帯状の魔力に拘束された。セインやディエチ、クアットロもそうだった。

その刹那―――。

 

「トライデント・スマッシャー!」

 

「エクセリオン・バスター!」

 

俺の視界に金色と桜色の光が迫って来た。

 

―――なのはside―――

 

私とフェイトちゃんの砲撃魔法は間違いなく直撃した。

眼前に二つの巨大な魔力同士の直撃で轟音と共に生じた煙を睨むように見据える。

他のメンバーも警戒して陣形を崩さない。なのに、この嫌な感じはなんなのかな。

 

『なのは、犯人は逃げたと思う?』

 

「ううん、逃げていないと思う。そんな感じはしなかった」

 

『じゃあ・・・・・直撃してダメージが負った?』

 

うーん、その線だと思うんだけど・・・・・。しばらく様子を見ると煙が晴れた時、

私は信じられないものを見る目で視界に入った金色の球体を見つめた。

 

「なに、あれ・・・・・」

 

―――バサッ!

 

金色の球体と思えば、十二枚の翼だった!つ、翼・・・・・!?

 

「ふー、驚いた」

 

機動六課に襲撃した黒尽くめの人がそう言った。翼が完全に広がると、

仲間と思しき少女たちが無傷で浮いていた。何時の間にかバインドが解除されているしね。

 

「中々の威力だったな。が、この翼を貫くほどまでもなかったようだ」

 

「っ・・・・・!」

 

フルパワーではなかったけど、あの翼は頑丈だってことが直ぐに理解した。

あの翼は魔法によるものか、それともレアスキルによるものか・・・・・理解しがたいよ。

 

「退く気はないか?」

 

「あなたたちを捕まえるまではないよ!」

 

私たちの任務は目の前の主犯を捕まえること!

もう一度、レイジングハートの砲撃の構えをして―――!

 

「じゃあ、いっぺん死んでみる?」

 

ゾッッッッ!!!!!

 

背筋が凍り、今まで感じたことがない悪寒を肌に突き刺さるほど感じた。

その上、脳裏で警報が急に高鳴る。―――逃げろと。

 

「(なに・・・・・この感じは・・・・・!?)」

 

恐怖、その一言に尽きるだろう。他の皆も見渡せば、顔に緊張の色や絶句、

恐怖の色を浮かべていた。

 

「出血大サービス。お前らが退避するしか方法がない理由を作らせてやろう」

 

そう言った黒尽くめの身体に異変が起きた。全身が漆黒の光を放ち始めた。

光は見る見るうちに大きくなり、やがて私たちが見上げる形で顔を上に、

視線を上にする頃には光が消失して―――影ができた。

それもただの影じゃない六つの赤い双眸が妖しく煌めかせている。

 

「・・・・・え?」

 

次の瞬間だった。

 

『ギェエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』

 

思わず耳をかたく抑えてしまうほど、物凄い叫び―――獣の咆哮!

しばらくして声が収まった。恐る恐ると再び顔を上げて六つの赤い双眸を見ると、

キャロのフリードみたいなドラゴンの顔をした生物が私たちを見下ろしている。

しかも三つも顔があった。こんな生き物・・・・・今まで見たことも聞いたこともない!

そう思っていると、三つの口が徐に開いた。一体、なにを―――?

 

―――次の瞬間。三つの口から極太の魔力の砲撃が放たれ、

横薙ぎで私たちの背後の市街地に直撃した。

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

『―――――っ!?』

 

市街地の景色は一瞬で生じた大爆発で塗り替えられた。大爆発が生じている場所は街の人たちが

いないところだったのが幸いだった。いや、あの怪物が敢えてそうしなかったんだろう。

 

『次は、人間がいる場所に放つ。脅しではないぞ?』

 

「なっ・・・・・!?」

 

『お前たちが取るべき行動はたった一つ。―――分かっているな?』

 

怪物が喋ったことよりも、街の人たちを人質にしたことの方が驚いた。

その見せしめのように三つの口内からまた膨大な魔力が集束し始める。

 

「させるか!」

 

「その口、閉じてもらう!」

 

「フリード!」

 

皆が果敢に怪物に襲いかかった。怪物の身体に次々と魔法を、斬撃を、打撃を与えていく。

 

ギャシャアアアアアアッ!

 

ガアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

ギャッ!ギャッ!ギャッ!

 

だけど、ダメージを与えていく度に怪物の身体から

また小さな怪物が出て来てフェイトちゃんたちに襲いかかって来た!

 

「な、なんだこの化け物は!?」

 

「鬱陶しい!」

 

皆が出てきた小さい怪物を倒していく。すると、怪物が声を掛けてきた。

 

『お前らの言動で答えは理解した』

 

三つの口の中で集束していた魔力が一気に凝縮した。―――アレは不味い!

もう、魔力のランクなんて計る以前の威力を誇っていることは間違いないよ!

 

『恨みはないが、お前たちのせいで何千、何万の命は一瞬で消えるな』

 

「ま、待って―――!」

 

『遅い』

 

私の制止を余所に、凝縮した魔力は―――一気に膨張して地上本部の方へと伸びて行った!

誰もが怪物の攻撃に絶望を胸に抱いた。

あの三つの砲撃は瞬く間に地上本部を消滅させるだろう。

その光景が直ぐに目の当たりにする。―――私は思わず目を瞑って顔を逸らした。

・・・・・でも、なにも起こらない。何も聞こえなかった。

不思議に思い、目を開けると・・・・・爆発が生じていなかった。

 

「まったく、こんな危ない物を街に向けて放つなんて、ダメじゃない」

 

「ねえ?そこのドラゴンくん」

 

「い、一香さん・・・・・!?それに誠さん・・・・・」

 

怪物が放ったと思う魔力が、上空から現れた誠さん、一香さんの手に大きく蠢いていた。

 

「ほら、返すわよ」

 

そう言ってその魔力を怪物に突き出した瞬間。魔力が解放して怪物に襲いかかった!

だけど、その魔力に対して怪物は手で上に弾いて―――一拍したら上空から轟音が鳴り響いた。

 

『・・・・・分が悪いな』

 

怪物の背後に大きく空間が裂けた。

 

『今回はこれで退こう』

 

それだけ言い残して、怪物は完全に避け目の中に入って姿を暗ました。

裂け目も閉じて追いかけることもできない。

 

「皆、大丈夫?」

 

「は、はい・・・・・」

 

「そう、なら良かったわ。でも・・・・・報告書がいっぱい書かないといけないかもね」

 

あはは・・・・・・そうでうしょね。それに、あんなに破壊された市街地、

地上本部のお偉いさんたちが絶対に驚くに決まっているかな。

だけど、あんな危険な生物がジェイル・スカリエッティのところにいるとなると、

ますます彼は危険人物だ。早くどうにかしないとミッドチルダの存亡が・・・・・!

 

 

 

 

「どうやら、どこかの家の人といるそうだね」

 

「ええ、そうみたい。ねえ、誠」

 

「うん?」

 

「そろそろ、あの子に施した封印・・・・・解いてもいいんじゃない?」

 

「あの封印をか・・・・・?だが・・・・・」

 

「昔はともかく、今は違うわ。あの子ならきっと・・・・・」

 

「・・・・・分かった。今度会う時はそうしよう」

 

―――○●○―――

 

『・・・・・』

 

秘密基地に戻るや否や、物凄い視線を一身に浴びる。

 

「なんだよ」

 

「お前・・・・・あんなことできたのかよ?」

 

「自己紹介の時、曖昧だけど教えたよな。俺、ドラゴンだからって」

 

「いや、言ったっスけど、まさかドラゴンになるなんて思いもしなかったっス」

 

ウェンディの発言にナンバーズの殆どが首を縦に振った。

 

「協力者としてここにいるが、なにも全部伝えると思うか?」

 

「それは・・・・・そうだけど」

 

「別に隠していたわけじゃない。する機会がないからしなかっただけだ」

 

「でも、翼を生やしたりドラゴンになったり・・・・・イッセーは色んな意味で凄いね」

 

セインが俺の背中を叩きながらそう言う。

 

「そうだね、実に興味深い。―――一度解剖してみたい。いいかね?」

 

「おい、ジィエル・スカリエッティ。そんな事をする気ならこっちも抵抗せざるを得ないぞ」

 

足元の影から巨大な蛇が這い出て来くる。

 

「・・・・・冗談だよ」

 

「冗談でも言うなって」

 

言いながら大蛇を影の中へ入れると、ウェンディが口を開いた。

 

「なんだか、逆らっちゃいけない協力者を招いちゃった感じっス」

 

「別に逆らってもいいぞ?お前らの飯が一品だけ減るか弁当に戻るだけだけどな」

 

「ちょっ、あんな美味しい物を食べた後にそれは勘弁してほしいっス!」

 

あはは、面白い反応をするな。と、そう言えば・・・・・。

 

「ウェンディ。お前の好きな料理は何?」

 

「えっ?うーんと、ナポリタンっスけど」

 

「了解。今日の昼飯はナポリタンにしよう」

 

「おおっ!嬉しいっス!ありがとうイッセー!」

 

満面の笑みを浮かべる彼女の期待に応えようと踵を返して厨房へ赴く。

 

 

 

「イッセー・D・スカーレット」

 

「なんだ、チンク」

 

複数の鍋の中で沸騰する湯に大量のパスタを入れている最中にナンバーズ5のチンク、

腰まで伸びた銀髪に右目に黒い眼帯を装着している小さい少女が俺に話しかけてきた。

 

「お前は協力者なのだな?」

 

「そうだけど?」

 

「では―――お前は私の弟だ」

 

「・・・・・はっ?」

 

なにを言っているんだ?と俺を弟宣言をしてきたチンクを見下ろした。

 

「よろしくな、私の弟イッセーよ」

 

「ちょいまち、なんで俺が弟なんだ?体格差的に俺が兄ではないか?」

 

「私は五番目に作られた戦闘機人な故に活動時間も長い。十年以上前から活動してきたからな」

 

・・・・・それを言われると、俺を弟と言う理由が納得してしまうんだけど。

 

「ふふっ、姉や妹たちばかりの環境の中で男の弟ができたと思えば、

何とも言えない心地好さが生まれてくるな」

 

「体がちっちゃい姉だがな」

 

「うっ、うるさい!私が気にしていることを口にするな!」

 

おや、そうだったのか?

 

「まあ、体が小さくてもチンクはチンクだ。気にする必要ないんじゃないか?」

 

「だが・・・・・ナンバーズ十二人の中で私が一番背が低い。

だから姉としての威厳がないように思うのぞ」

 

「普通に家族として接していればそれでいいんじゃないのか?」

 

「なに・・・・・?」

 

沸騰する鍋を見据えながら、横目でチンクを見つめる。

 

「確かに姉としての威厳は必要な時もあるが、

それ以上に家族を想いやる気持ちが大事だと思うぞ?」

 

「・・・・・」

 

「それを証明するためにチンクは今どうしたらいいと思う?」

 

「むっ・・・・・?」

 

小首を傾げだすチンク。その仕草はまるで子供のようで微笑みながら鍋に指した。

 

「姉として妹たちに手料理を食べさせてやることだ」

 

その後、チンクと昼飯を作ってジェイル・スカリエッティたちに食べさせた。

俺が作ったと思っている皆が「美味しい!」と言う度にチンクは嬉しそうに顔が綻ぶ。

 

―――○●○―――

 

「やっほーイッセー」

 

「って、なんで俺が入っている時にお前も入って来るんだ・・・・・」

 

「弟の背中を流しに来てやったぞ」

 

「チンクまで・・・・・」

 

のんびりと湯に浸かっている俺に歩み寄るセインとチンク。って、また全裸で・・・・・。

 

「うーん、のんびりと入るのって悪くないかも」

 

「そうか?入るだけで一緒ではないか」

 

「チンク姉、それだけじゃないって。イッセーと入るとなんだか楽しい気分になるんだよ?」

 

「むっ、それは知らなかった。なら、明日も弟と入るとしよう」

 

おい、本気かよ。というか・・・・・井上準がこの場にいたら、血の涙を流しかねなさそうだ。

心中で溜息を吐いていると、セインが近づいてきて俺の胸や腹、肩など触りだしてきた。

 

「どうした?」

 

「いやー、ドラゴンになれるのに体は普通なんだね。

それと、これが男の身体・・・・・私たちのように胸が膨らんでいないんだね」

 

「知識はあるが、実際に見るのは初めてだな。ふむ・・・・・これが男の身体か、不思議だな」

 

チンクまでも俺の身体に興味を抱き初めて触ってくる。

 

「結構、筋肉質だね」

 

「まあ、鍛えているからな」

 

「さて、そろそろ姉が背を流してやる。湯から上がってくれ」

 

俺に促すチンクの言葉に首を横に振った。既に洗い終わった後だからだ。

 

「や、遠慮する。背中は自分で洗い終わったし」

 

「なに、そうなのか・・・・・」

 

残念そうに目を落とす。ああ、そんな仕草されたら罪悪感が・・・・・。

 

「・・・・・代わりにこっちを洗ってくれるか?」

 

背中に六対十二枚の金色の翼を展開した。この翼を見たチンクは目を見張るが、

嬉しそうに頷いた。

 

「任せろ。綺麗に洗ってやるからな」

 

「私もしよっと」

 

セインもタオルを片手に参加してくる。俺が縁に移動して腰を下ろせば、

 

「でも、頭と体を洗う洗剤・・・・・どっちを使えば良いんだ?」

 

「体の方を頼む」

 

「了解した。ちょっと待っていろ」

 

ボディーソープを取りに行ったのだろう、チンクが離れて行った。

 

「ところでイッセー」

 

「ん?」

 

「腰にタオルを巻いているけど、どうして?」

 

視線が俺の腰に巻いているタオルに注がれる。俺は無難な返答を述べる。

下手に言ったら変な知識を植えつけてしまうからだ。

 

「男と女が風呂に入る時では、これが常識なんだ」

 

「へぇ、そうなんだ?」

 

まあ、それは混浴のことだけどな。ガイアたちとだったら・・・・・強制的に剥がれてしまう。

 

「もしかして、私にタオルを巻けって言ったのもその風呂の常識だから?」

 

「そうだ」

 

「なるほどねぇー。ドクター以外、女しかいないから気にしていなかったよ」

 

でも、直す気はなさそうだ。風呂の湯は透明でセインの体がハッキリと覗ける。

白く綺麗なボディライン。ほっそりとした腕や足。

そして年齢相応に育っているセインの豊かな胸。

 

「綺麗だな」

 

「え・・・・・?」

 

と、思わず口に出てしまった。キョトンとするセインの顔が視界に入るが、

 

「はは、ありがとう」

 

褒め言葉として受け取ったようで笑って感謝された。

 

「ボディーソープを持って来た。さあ、弟の翼を洗おうじゃないか」

 

嬉々としてチンクが持って来たボディーソープを突き付けた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode8

「そう言えば、娘たちの調子はどうだい?」

 

「戦う様子を見ていたけど、決定打がないな」

 

「つまり、必殺技みたいな攻撃がないと?」

 

「うん、そんなところだ。ISはともかく武装がイマイチだ」

 

風呂を入った後の俺は、武装の調整をしているジェイル・スカリエッティの隣でそう言う。

 

「今のままじゃ、管理局に負けてしまうぞ?魔法の威力、あっちの方が強力だ」

 

「ならば、それに負けない兵器を作るまでだ。何か考えは浮かんでいるかな?」

 

質問されて、取り敢えず十二人のナンバーズと武装の詳細の資料を見ながら言う。

 

「ウーノとクアットロは以前も言ったように魔力無効化か魔力反射を備えさせるべきだ」

 

「他の娘たちは?」

 

俺は答える。

 

「トーレのラインドインパルスは身体強化の能力で結局は接近戦で拳や足を繰り出す格闘になる。

両の太ももと踝の部分に備えられた装甲から伸びる、虫状の羽をもっと鋭く頑丈に。

刃として備えているなら伸縮自在にするべきかな。

それと魔力の斬撃が放てるよう遠距離からの攻撃が必要だろう」

 

「ふむ・・・・・」

 

「チンクのランブルデトネイターは管理局が持つデバイスの破壊に有効だと思うぞ?

金属を爆発物に変える能力なら投げナイフじゃなくても

手で触れてデバイスを爆発させればいい」

 

「ほう・・・・・そういう考えもあったのか。私としたことが思い浮かばなかったよ。

他には?」

 

俺の話に耳を傾け、次と催促する。科学者として興味、

好奇心が湧き新たな発見は楽しいのだろう。

 

「セインのディープダイバーは視界でも見れるようにできないか?

できないならゴーグルみたいな物で無機物を透過して覗けれるように開発してさ。

それと両手の指からレーザーを放てるようにしてくれ。それで刃に具現化できれば、

もっと戦い方がマシになるはずだ」

 

「やってみよう」

 

「まだ会ったことがないナンバーズ7と8、セッテとオットーのISは取り敢えず思い付き、

セッテの固有武装はビームかレーザーでも放てるようにしてほしい。刃が備えたブーメランを

ただ投げて機動制御するだけじゃかわされるか、弾かれるか、防がれるのが関の山だ。

オットーのレイストームは捕縛、結界の性質の他に斬撃も入れてほしい。

ああ、オットーにも魔力無効化か魔力反射を備えてくれ」

 

「わかった。他は?」

 

「相手に幻影使いがいるそうだし、ノーヴェの固有武装のガンナックルに射撃の機能があるなら

マルチロックオンの機能を備えるべきかな。それと手のひらから砲撃もできるようにしてくれ。

エクセリオン・バスター並みの威力ぐらいの砲撃が好ましい」

 

次はディエティ。

 

「ディエチが持つIS、ヘヴィバレルは体内で生成されるエネルギーを大型の砲身、

イノーメスカノンで砲撃として出力する能力なら、拡散とノーヴェのようにマルチロックオンも付け加えればいいと思う。砲撃の種類が豊富だと何かと便利だろうし」

 

「ウェンディの固有武装は?」

 

「これもマルチロックオンを加えてほしい。それと、相手の魔法による防御魔方陣を貫く貫通性、魔力弾の強化と盾に隠し刃だ。それを複数、ビットとして展開した方が良いかもしれない」

 

「ほう、ビットとしてか・・・・それに防御魔方陣を貫く貫通性・・・・・AMFを魔力弾に纏わせると言うことかな?」

 

その問いに首肯する。

 

「そうだな、そうしてくれ。できる?」

 

「できるとも。キミの考えはとても面白いな。他にはあるかい?」

 

「最後はナンバーズ12のディードのツインブレイズ、

トーレ同様遠距離からの攻撃をできるようにしてくれ。射撃型と斬撃を放てるように」

 

「わかった。だが、まだ一人残っているよ。ドゥーエを忘れてはいないかい?」

 

ジィエル・スカリエッティに指摘され、頭を掻く。

 

「彼女は姿を変える能力そうだから・・・・・これといって戦闘に関わらなさそうに思うが?」

 

「確かに、彼女は潜入、諜報、暗殺を主体にしているからね」

 

「暗殺か・・・・・じゃあ、暗殺しやすいように影の中へ入れる能力とピアッシングネイルから

捕縛、射撃、エネルギーで伸縮を自在にできるように調整してくれ」

 

全員の固有武装の改良の余地を言い終わり、吐息を一つ。

 

「ありがとう、いい参考になったよ。これから忙しくなりそうだ」

 

「そうか、んじゃ俺は寝るよ。ジェイル・スカリエッティも程々にして寝なよ」

 

「ああ、わかった。おやすみ」

 

ジェイル・スカリエッティと別れ、リーラたちがいるところへ戻った。

いざ、部屋の中に入ると、

 

「あっ、おかえりー」

 

「・・・・・なんだ、この状況は」

 

リーラ、イリナ、ヴァーリ、オーフィス、ヴィヴィオは当然とする。

一緒にこの部屋の中で過ごしているからな。

だが―――セインを始め、チンク、ディエチ、ウェンディがリーラのメイド服を着ていた。

 

「リーラ、これはなんだ?」

 

「セインさま方が私の着ているメイド服に興味があるようで、着させておりました」

 

「・・・・・何時の間にセインたちのサイズに合うメイド服を持っていたんだ?」

 

「メイドですので」

 

いや、それ、答えになっていないから・・・・・それにチンクの身長に合う

メイド服なんて・・・・・リーラの身長と合わないはずなんだけど・・・・・。

いや、深く考えない方が良いか。リーラもリーラで父さんと母さん並みに凄いからな色々とさ。

 

「イッセーイッセー。どう?似合っている?」

 

セインが興味津々に訊いてくる。似合っているかだって?

そりゃ―――似合っているに決まっている。

 

「ああ、とても似合っているぞ。可愛いじゃないか」

 

「えへへ、ありがとう」

 

笑みを浮かべるセイン。

そこへ「弟よ。姉の姿はどうだ?」とばかり視線を送ってくるチンクがいた。

似合っていると、親指を立てると、チンクはチンクで腰に手を当てて胸を張った。

 

「なんだか、変な気分」

 

「そうっスねぇー。通気性が良いようで体中がスースーするっス」

 

ディエチとウェンディはメイド服の着心地に困惑中だった。

 

「二人とも、似合っているぞ?可愛いし」

 

「それ、喜んでいいっスか?」

 

「女が綺麗とか可愛いとか言われて嬉しくないわけがないじゃないか?」

 

「うーん、嬉しいって感じがあんまりしないんだよね。

でも、胸辺りにポカポカする。これ、悪くない」

 

自分の胸に手を当てながら言うディエチ。そう、そう言う反応だよ。

 

「それが嬉しいって感情だ」

 

「これが・・・・・?」

 

「うん、そうだ」

 

「・・・・・これが、嬉しいか・・・・・」

 

自分の胸の奥から湧きあがる気分に浸る。自然とディエチの口角が少し上がる。

 

「・・・・・さて、そろそろ寝る時間だから俺は寝たいんだが?」

 

既にヴィヴィオは寝ているからな。

 

「ならば、姉と一緒に寝よう。ここでな」

 

「・・・・・」

 

俺のベッドに跨ってポンポンとチンクが「こっちに来い」と言わんばかりに視線を送ってくる。

 

「あっ、私もここで寝ようかな。戻るのも面倒だし」

 

セイン?

 

「そうっスねぇ。他にも空いているベッドがあるし、そこで寝ようっス」

 

「賛成。じゃあ、これを脱いじゃおうか」

 

ディエチがそう言いだすと、セインたちが徐にメイド服を脱ぎ始めた。

・・・・・あれ、こいつらの寝間着ってどうなっているんだ?

気になってセインたちに視線を向けると―――。

 

「見ちゃダメ」

 

背後からイリナの手で視界が塞がれた。

 

「いやイリナ。もっと手っ取り早い方法がある」

 

「え?なに?」

 

視界が暗い中、体が勝手に動き出してベッドの縁に腰掛けさせられたと思えば、

太股に温かくて弾力がある重みが感じた。すると、今度は顔全体にも―――。

 

「ヴァーリったらズルい!」

 

途端に塞いでいた手が離れた。目を開けると・・・・・目の前に白い二つの塊が見えた。

・・・・・なんだ、これ?甘い香りもするし・・・・・。

 

「ふふっ、どうだ?私のイッセーに対する想いが詰まっている胸の心地好さは?」

 

「・・・・・」

 

は・・・・・?と眼だけ上へ動かすと、俺を見下ろし微笑んでいるヴァーリの顔が入ってくる。

 

「これなら、他の女を見ることができない上に私だけ見つめてくれるという、

男の意識を自分に向ける究極の方法・・・・・と本に載っていたが、どうやら本当のようだな」

 

いやいや・・・・・ヴァーリ?これは向けざるを得ないと思うんだが・・・・・。

 

「ん・・・・・イッセーの温もりをここまで感じるのは久し振りだ・・・・・もっと感じたいぞ」

 

いつしか、ヴァーリは俺を押し倒して俺にすり寄ってくる。

 

「ちょ、ヴァーリ・・・・・」

 

「んん・・・・・なんだ・・・・・?

ああ、中途半端に服を脱いでじゃああまり感じられない・・・・・」

 

何かに取り憑かれたかのようにヴァーリが服を脱ぎ出す。

ワイシャツを脱いだら黒いブラジャーが視界に飛び込んできた。

それすら鬱陶しいと外してヴァーリの豊満な胸が曝け出した。

 

「イッセー・・・・・」

 

そして、ヴァーリはそのままの状態で圧し掛かってきた。

 

「・・・・・」

 

しばらくして、ヴァーリから寝息が聞こえてきた。

 

「おいおい・・・・・」

 

「ふーん?そうやって寝ているんだ?」

 

セインが不思議そうに声を掛けてきた。

・・・・・何時も着ている戦闘服みたいなスーツを纏って。

ディエチも俺たちを交互に見て口を開いた。

 

「上半身裸で寝るなんて、風邪引きそうなことをしているけど大丈夫なの?」

 

「ああ、布団を掛ければ大丈夫だろう」

 

「・・・・・我、寝る」

 

モゾモゾとオーフィスが動き、上掛け布団をヴァーリと一緒に掛けてもらったがオーフィスは

俺の左腕に頭を乗せて俺にしがみ付く態勢で寝始める。

 

「うう・・・・・ま、負けていられない!」

 

イリナまでもが寄ってきて羞恥で顔を赤くしながらも俺の右腕に

頭を乗せて体にしがみ付いてきた。

 

「・・・・・」

 

残るリーラだが。既に抱きつく場所は無くなっているしベッドのスペースもなくなった。

 

「リーラ、床に布団を敷いてもらえるか?」

 

「はい、かしこまりました」

 

忠実な愛しいメイドは疑問を浮かべずに指示通り床に布団を敷いてくれた。

俺は十二枚の金色の翼を展開して、器用に翼を動かし、

布団が敷いた床へ移動して改めて寝転がった。さらに翼を大きく広げて。

 

「おいで」

 

「失礼します」

 

金色の羽毛だらけに足を踏み入れて俺の傍で寝転がった。

っと、そうだ。仲間外れは可哀想だよな。

 

「チンク、ヴィヴィオを翼の上に移動させてくれるか?」

 

「まさか、その状態で寝るのか?」

 

「まあ、何時もしていることだし・・・・・・なんなら、寝てみるか?」

 

そう問いかける。チンク、セイン、ディエチ、ウェンディは顔を見合わせた後にヴィヴィオを

翼の上に移動させてくれたら金色の絨毯とも言える俺の翼の上に寝転がった。

 

「おお・・・・・ふかふかだ」

 

「うわ・・・・・・」

 

「なんだか・・・・・心が安らぐ」

 

「温かくて・・・・・落ちつくっス・・・・・」

 

翼の感触と温もりを感じるセインたちは何時しか、寝息を立て始めて寝始める。

 

―――○●○―――

 

翌日の朝。朝食を終えてナンバーズの皆の固有武装のことをジェイル・スカリエッティが

伝えているところに通信式魔方陣を展開してある奴に連絡を取った。

小型魔方陣は立体映像となり、一人の中年男性の姿を発現する。

 

『よう、数日振りだな。どうやら、まだそっちの世界と繋がっているようだな』

 

「ああ、それより父さんと母さんの姿を確認したぞ」

 

『分かっている。邪龍共を囮にしてそっちに行きやがったんだ』

 

そんなことがあったのか。

 

「そっちの状況はどうだ?」

 

『今のところ何の変化もない。が、お前の女どもがうるさくてしょうがねぇ』

 

「・・・・・帰ったら誠心誠意コミュニケーションしないとけないか」

 

『モテる男はつらいねぇ~?』

 

こいつ、ムカつく・・・・・ッ!

 

『リゼヴィムの野郎を連れて来られそうか?』

 

「おじさんが見つからないから何とも言えない。

いま、協力者にも手伝ってもらっているけど発見していない」

 

『協力者?』

 

「ああ、科学者だ。アザゼルと気が合いそうな奴だ」

 

そう言うと顎に手をやって興味深そうな面持ちとなった。

 

『そいつはぁ会ってみてぇな。いま会えるか?』

 

「ちょっと待ってくれ。ジェイル・スカリエッティ」

 

「ん?なんだい?」

 

「次元世界いる知り合いの研究者がお前と話をしたいって」

 

こっちに来いと手を招けば、ジェイル・スカリエッティは来てくれた。

俺が展開している通信式の魔方陣を見て興味深そうに見据える。

 

『ほう、そいつがイッセーの協力者か?俺はアザゼルと言う。お前の名はなんだ?』

 

「私はジェイル・スカリエッティだ。アザゼルと言ったかね?キミは研究者だと聞いたが?」

 

『まあ、他にも総督って肩書きもあるが、研究者でもあるな』

 

「なるほど・・・・・では、どんな研究をしているか私に教えてくれないだろうか?」

 

と、二人のマッドサイエンティストが会話の花を咲かせ始めた。

魔方陣を固定化にして離れたところでセインに話しかけられた。

 

「ねえ、イッセー。ドクターは誰と話しているの?」

 

「俺の知り合いの研究者だ。

違う研究をしているけどジェイル・スカリエッティみたいなやつだ」

 

「へぇ、もしかして次元世界の人?」

 

そうだと首肯する。ジェイル・スカリエッティを見れば、

目にキラキラと輝いているのが目に見えた。

次元世界の研究者の研究の話を訊き、興味深くもっと知りたいと思っているんだろうな。

 

「それはそうと、イッセー。私たちの固有武装、考えてくれたんだね。ありがとう」

 

「ん、どういたしまして」

 

「まさか、このまま私の手が砲門に改造されるのかと

ビクビクしていたけど・・・・・指先にレーザーを放てるって聞いた時は安心できたよ」

 

「改めて色々と考えた結果だ。新しい武装、楽しみだな」

 

「うん、そうだね」

 

頷くセイン。完成したら一勝負してみたいな。

 

「ちょっといいかしら」

 

「ウーノ姉?」

 

「どうした?」

 

向こうから話しかけるウーノ。

 

「この封筒を管理局の地上本部にいるナンバーズ2、ドゥーエに渡してきてほしい」

 

そう言いながら茶色い封筒を手渡してきた。

 

「俺がか?」

 

「ええ、あなたの正体は管理局には知られていないし、簡単に受け渡せることはできる。

頼まれてはくれないかしら?昼頃に指定した場所へ合流してもらう指示は出してあるから」

 

「ふーん、分かった。昼頃なら昼飯は―――」

 

「はいはい!お昼はシチューが食べたいっス!」

 

『昼飯』という単語に耳が良いようで、ウェンディが昼飯を要求してきた。

 

「あら、私はビーフシチューがいいわぁー」

 

クアットロはビーフシチューが好きなようだな。

 

「んじゃ、両方作ってやる。それで腹が満足するだろう?」

 

「おお、両方とは豪華・・・・・」

 

「うん、楽しみだな」

 

ディエチとセインがそう声を漏らす。

 

「・・・・・」

 

何か訴えるかのような視線をチンクが送ってくる。

その視線の意図に理解してチンクに向かって頷けば、

彼女はいそいそとリーラと共に食器を片づけて厨房のへと

食器を乗せた台車を押していなくなった。

 

 

 

ミッドチルダ首都クラナガン

 

ウーノに頼まれた封筒を片手に合流地点に足を運んだ。

辺りは市街地そのもので、噴水がある場所だ。その場所で俺は一足早く佇んで待っていると、

 

「だーれだ?」

 

と、声と共に視界が塞がられた。目を覆う手は柔らかく温もりを感じる持ち主に応えた。

 

「ウーノの妹さん」

 

「う~ん、八十点」

 

「いや、監視されているかもしれないから遠回しで言ったんだが」

 

「それでもちゃんと言わないと、このままいたずらしちゃうわよ?」

 

耳元で艶かしい声音で呟かれ、声を殺して言った。

 

「ドゥーエ」

 

「正解」

 

俺の手の中にある封筒を抜き取った女性に振り向く。

綺麗な女性だという第一印象だった。女性、ドゥーエは優しい笑みを浮かべ口を開いた。

 

「初めまして、あなたがドクターの協力者にして次元世界からきた少年、

イッセー・D・スカーレットね?私はナンバーズ2、ドゥーエ。よろしくね」

 

「イッセー・D・スカーレットだ」

 

握手を交わして挨拶を終える。

 

「なるほど・・・・・ウーノの言った通り可愛い」

 

「帰ったら絶対何て言ったのか吐かせてやる」

 

「乱暴はだめよ?」

 

「大丈夫、言葉通り縛るだかだから」

 

不敵に言う。ドゥーエはニッコリと口元を綻ぶ。

 

「あなたって面白いわね。妹たちは元気にしているかしら?」

 

「主食が弁当だって知ったときは驚いたぞ。今は俺たちが料理を作っていて、

最近はチンクが姉として6番以下のセインたちのために俺と一緒に料理を作っている」

 

「あら、あの子が?」

 

「その上、俺のことを弟と呼ぶ始末だ」

 

付け加えて言ったら、彼女は一拍して、小さく笑い出した。

 

「ふふふっ、なんだか楽しそうね。

それに、ウーノから聞いた話だけど私の固有武装を考えてくれてありがとう」

 

「どういたしまして。ああ、これ、弁当だ」

 

亜空間から弁当を取り出して、彼女に渡した。

 

「これは?」

 

「俺からの細やかな挨拶代わりだ。まだ食べていないだろう?」

 

「ええ、気を使わせてくれてありがとう。食べて良い?」

 

「感想も言ってくれよ?」

 

噴水の縁に座って彼女は弁当の蓋を開け、箸を手にして食べ始めた。

 

「・・・・・」

 

「どうだ?」

 

タイミングを見計らって訊ねると、ズーンと落ち込んだ。

 

「女としてのプライドがズタズタにされたと言っておくわ」

 

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

勝利!と勝手に自己満足して心の中で高らかに笑う。

 

「そう言えば、封筒の中身ってなんだ?あいつからの命令書?」

 

「違うわ。妹たちのメッセージよ。任務中、滅多にウーノやトーレ、

クアットロたちと会えないからたまに手紙を送ってもらっているの」

 

「・・・・・とても、悪道に歩んでいる特殊な人間とは思えないな。

本当にこれから悪いことをしようとしているのか?」

 

「ええ、ドクターの願いは私やウーノの願いでもあるの。

それに妹たちを想う気持ちは違わない」

 

そう言って弁当を隣に置いて封筒の中身を取り出した。

十数枚の紙が入っていてそれを静かに目を通す。

 

「・・・・・」

 

しばらくして、俺に視線を向けてきた。

 

「今日は何時もと違ってあなたのことがたくさん書かれているわね。

不思議な少年、凄い男、美味しい料理を作ってくれる、初めて弟ができた!

など色々とあなたのことを含めて書かれているわ」

 

「ははは、そうか」

 

「本当、あなたがドクターに協力して以来、妹たちに良い意味で変化が起きているようね。

はい、これをドクターに渡して」

 

俺に別の封筒を差し出してきた。きっとウーノたちのために書いて手紙なのだろう。

それを受け取って亜空間に仕舞い立ち上がる。

 

「それじゃ、ウーノからの頼み事も果たせた。俺は帰らせてもらうよ」

 

「気をつけなさい?正体は暴かれていないけど、管理局は黒尽くめの人物を血眼になって

探しているわ。中にはロストロギア扱いをして封印をするべきだと声も挙がっている」

 

「あらら、そこまで有名人になっていたか」

 

「そうよ。だから―――」

 

「ちょっとキミ、いいかしら?」

 

声を掛けられた。反応して声がした方へ振り向けば・・・・・げっ、

 

「あ・・・・・やっぱり」

 

確か・・・・・タイプ・ゼロとか言われていた女性がいた。

 

「あなた、自分の名前を言えるかしら」

 

「・・・・・イッセー・D・スカーレット」

 

「イッセー・D・スカーレット・・・・・?―――兵藤一誠という名前じゃなかった?」

 

「いや、イッセー・D・スカーレットと言う名前だけど・・・・・誰?」

 

「・・・・・ちょっと私と同行を願えないかな?」

 

そう言ってタイプ・ゼロは俺に手を伸ばしてきた。

が―――。

 

「少しお待ちください」

 

ドゥーエが助け船を出してくれた。

 

「私は本局者ですが、あなたの所属している部署と階級を名乗ってくれませんか?」

 

「本局の方・・・・・?私はギンガ・ナカジマ。

所属部署は時空管理局・陸士108部隊所属の捜査官。階級は陸曹でございます」

 

「捜査官がどうしてこの子を同行しようとするのですか?」

 

「その子は私がいま勤めている機動六課が探している子と酷似しているんです」

 

「なるほど・・・・・ですが、この子は違うと仰りましたが?

それでも連れて行こうとするのはいささか強引ではないでしょうか?」

 

鋭く指摘するドゥーエにギンガ・ナカジマは食い下がる。

 

「深い事情があるのです。話によればこの子は裏で操っている者に調教や洗脳、

改造されているそうなんです」

 

「(・・・・・はあっ!?)」

 

調教・・・・・?洗脳・・・・・?改造・・・・・・?―――なんじゃそりゃあああああっ!?

 

「・・・・・とてもそのようには見えませんが」

 

だよね!なに身に覚えのないことを俺はそうなっているんだ!

―――あの人たちか、あの人たちだな?絶対あの人たちだ!

 

「いまは操っている者の手から離れて自我が正常に戻っているのでしょう。

また操る者の手に渡ったら大変です。だから、こちらで保護をしようと同行を願ったのです。

失礼ですが、あなたはこの事どういった関係で?」

 

「・・・・・ただの話相手です。私が弁当を持ってここで食べようとしていると、

少し話相手が欲しくなったので隣にいた人がたまたまこの子だったので」

 

無難な説明だな。ドゥーエの説明にギンガ・ナカジマは俺に視線を向けてくる。

 

「イッセーくんだったね?あなた、どこの生まれなのかわかる?」

 

「・・・・・」

 

心中で悩む。えーと・・・・・俺、洗脳されていることになっているんだよな?

んで、自我を取り戻していると・・・・・。だったら普通に接しても問題は・・・・・ないか?

 

「地球・・・・・」

 

「次元世界のことね。あなたのお父さんとお母さんが

機動六課にいるから直ぐに送り届けてあげる」

 

彼女の言葉に思わずドゥーエに視線を向けた。アイコンタクトでやり取りする。

 

「(どうすればいい!?)」

 

「(とりあえず、疑われないように付いていくしかないわ。

それで、その後はどうにかしてドクターたちのところへ戻るしかない)」

 

「(機動六課には父さんと母さんがいるけど、あの二人は敵なんですケド!?

しかも、俺と同等かそれ以上の強さなんですけど!)」

 

「(じゃあ、戦った記憶があって物凄く警戒してそのタイプゼロ・ファーストと一緒にいるように

しなさい。それとできたら懐柔してくれるかしら。ドクターが彼女を欲しがっているから)」

 

「(マジで・・・・・?俺、ここ最近動いてばっかだなぁ・・・・・無事に戻れたら

ドゥーエさんの膝枕を所望します)」

 

「(戻ってきたら、ね?)」

 

俺はギンガ・ナカジマと機動六課に同行せざるを得なくなり、俺のことをドゥーエが

ジェイル・スカリエッティに連絡してもらうことでギンガ・ナカジマと行動することになった。

 

―――○●○―――

 

「・・・・・」

 

「「・・・・・」」

 

機動六課に連れて来られた俺はさっそく父さんと母さんと面会され、物凄く警戒心を剥きだして

臨戦態勢の構えとなる。

 

「洗脳されていた時の記憶が残っていて私たちを警戒しているようだね」

 

「そうみたいね・・・・・」

 

あんたらが可笑しな設定をするからだろうがぁっ!こうするしかないんだよぉっ!

 

「イッセーくん、ダメだよ。実の両親にそんな態度をしちゃ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「いや、無理もない。一誠を操っていた者に私たちの、

親の記憶も操作されて忘れてしまっているのかもしれない」

 

父さん・・・・・あんたはなに言っちゃっているんですか?敵だと知っている俺からすれば

芝居にしか見えないって。逆にこいつら、機動六課の連中は父さんと母さんのことを

何も知らないから疑う余地もないんだろうさ。しょうがないとはいえ、能天気にも程がある。

 

「では・・・・・どうすれば・・・・・?」

 

「私たちが近づこうとするとこんな態度をされてはね。少しずつ接していくつもりだ。

だが、この子をどこかへ泊らせる必要があるね」

 

意味深なことを言う父さん。すると、ギンガ・ナカジマが口を開いた。

 

「あの、私がお世話をします」

 

「「「・・・・・」」」

 

なんか、好都合な展開になったな。父さんと母さんを顔を見合わせてからこっちに振り向いて

口を開く。

 

「大丈夫かい?この子は私たちと同じぐらい強い。もしも襲いかかれたら、

キミは一瞬でやられてしまうぞ?」

 

「大丈夫です。この子は同行中でも大人しかったので、

人を傷つけるような子ではないと私は信じます」

 

ギンガ・ナカジマが俺の肩に手を置く。

 

「お父さんにも事情を話せば理解してくれると思います。

この子は一時的な保護として私が引き受けます」

 

「そうか・・・・・では、お願いできるかな?」

 

「はい、かしこまりました。イッセーくん、行こう?」

 

手を掴まれ優しく引っ張られる。その際、俺は二人に視線を送った。

 

「(二人とも、ぜったい楽しんでいるだろう!)」

 

「「(当然っ!)」」

 

「(いつか必ず張り倒すっ!)」

 

その後、機動六課から連れ出されギンガ・ナカジマが住んでいる家へと連行された。

リーラたち、心配をしているだろうな・・・・・。

 

 

 

 

「これは面白いことになったな。タイプゼロ・ファーストと接触するとはね」

 

「ドゥーエからは問題はないと言いましたが、本当に大丈夫なのでしょうか?」

 

「なに、心配など不要だろうさ。彼は忠実に任務を遂行し続けてくれた。

彼をこのまま泳がせよう」

 

「ドクター」

 

「おや、セイン」

 

「イッセーが見当たらないけど、まだ帰ってきていないの?」

 

「ああ、彼ならば管理局と一緒にいるそうだ」

 

「・・・・・へ?」

 

「彼についてはさほど問題はないだろう。だからキミたちは―――」

 

「イッセーを奪還しに行ってくる!皆、イッセーが管理局に捕まっちゃっているよ!

オットーとセッテ、ディードも連れて管理局からイッセーを奪還しに行こう!」

 

「ちょっと、セイン?彼は任務中―――ってもういない・・・・・」

 

「・・・・・本当、彼と関わっていると色々と変化が起きるようだね。

だが、今はその時ではない。ウーノ、セインを止めに行ってくれ」

 

「分かりました」

 

「まったく、セインが自らあんなことを言うなんて生みの親である私は少し複雑な気分だ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode9

ギンガ・ナカジマの家に連れて来られた俺は、彼女の父親、ゲンヤ・ナカジマと挨拶を終えて、

何故か可愛らしい部屋へと招かれた。

 

「今日はここで寝てね?」

 

「・・・・・」

 

心中唖然となる。マジで?俺、この女性の部屋で寝ろと?タンスやベッド、机、

束ねられた書類らしき物や収納されている本、写真立てもある。椅子に座るよう促され、

俺は椅子に座るとベッドの縁に腰を下ろした彼女が自己紹介をし始めた。

 

「改めて名前を言うわね?私はギンガ・ナカジマ。よろしくねイッセーくん」

 

「・・・・・よろしく」

 

若干警戒が含んだ声音で言うと、

 

「警戒しなくてもいいの。ここにいる人・・・・・って私とお父さんしかいないけど

とても優しい人よ?私もあなたに危害を加えたりしない」

 

優しく微笑みながらそう言うのだ彼女は。俺が黒尽くめの奴だって知ったら、

こいつは管理局として態度を切り替えるだろうなぁ・・・・・。

 

「さて、あなたのことを色々と聞かせてくれるかしら?」

 

「・・・・・」

 

難色を示すと自分が失言したことにバツ悪そうに言った。

 

「あ・・・・・ごめんなさい、記憶がないのよね・・・・・お父さんとお母さんの記憶もないって

言っていたし・・・・・」

 

いや、結構覚えていますけどね?あの二人が楽しんで誤報をしているだけだから。

 

「・・・・・気にしていない」

 

「そう・・・・・?」

 

コクリと頷く。ギンガ・ナカジマはホッと安堵で胸を撫で下ろす。

 

「じゃあ・・・・・私のことをギンガさん、またはキギン姉と呼んで頂戴ね?」

 

「・・・・・」

 

なぜ?と小首を傾げると、彼女は俺が首を傾げる意図に気付き、こう言った。

 

「しばらくの間、あなたは私が保護をするの。だから私のことをそう呼んでほしいの。

それに―――」

 

「・・・・・」

 

「妹のスバルって女の子がいるけど、私、男の子の弟もできたらいいなーって思っていたの。

イッセーくん、私より年下のようだし、私のことを姉として接してもらいたいの」

 

・・・・・なんで俺の周りは姉属性が多いんだ!

妹属性なのはプリムラしかいないんじゃないか!?

同年代の清楚やイリナ、ヴァーリみたいな女もいるけどそれでも年上が多いなおい!

 

「ギン姉・・・・・」

 

「うん、イッセーくん」

 

嬉しそうに彼女は笑った。腰を上げて、ベッドから離れたと思えば俺に近づき、抱きしめてくる。

 

「あなたのことは私が守ってみせる」

 

「・・・・・」

 

―――弱いくせに、とは言わない。その想いはより強くしてくれるから。

彼女の言葉を耳にしても返事はしない。ただただ沈黙で貫く。

 

「それじゃ、夕飯にしましょうか」

 

ギンガ・ナカジマはそう言う。

夕飯か・・・・・あっ、あいつらの夕飯・・・・・リーラがいるから大丈夫か?

 

 

―――ギンガside―――

 

「ふんふんふーん・・・・・」

 

鼻でリズムよく鳴らしながら私、ギンガ・ナカジマは台所に立ち料理を作っています。

今日はなんたって初めて(仮)弟ができたから嬉しくてしょうがない。

男の子だからたくさん食べるよね?

当のイッセーくんはお父さんと一緒に待っている。

ちょっと尻目で二人の様子を見ていると・・・・・。

 

パチッ・・・・・。

 

「王手」

 

「おいおい・・・・・マジかよ」

 

二人は遊んでいてなんだか楽しそうだった。お父さんがたまに一人でしている

娯楽道具の遊び方を説明したらあっという間に覚えてお父さんに勝っちゃった。

お父さん自身が強いのか弱いのか私には分からないけど、お父さんはお父さんで

一緒に遊べれることができて楽しそうだから問題はないよね。

 

「(妹も帰ってくればもっと賑やかに・・・・・)」

 

でも、妹は仕事先の宿舎で生活している。だから帰ってくるのはあんまりない。

妹もいっぱい頑張っているし、私も仕事を頑張らないと。

 

「―――よし、完成っと」

 

今日の夕食はカレー。たくさん作ったし男の子だからたくさん食べるよね?

私もたくさん食べるけどね。出来上がった料理を二人のところへ持って行き、

 

「夕飯にしましょ?」

 

「おっ、今日はカレーか。・・・・・にしても、少し多くはないか?」

 

「イッセーくんは男の子だし、いっぱい食べるだろうと思って」

 

「俺的にお前が一番食べそうな気がするけどな」

 

お父さんからの指摘に何も言い返さず準備を進める。

だって、本当のことだし美味しい食べ物をいっぱい食べたいじゃない?

準備を終えると、私も席に座って手と手を合わせて合掌する。

 

「「いただきます」」

 

「・・・・・」

 

イッセーくんも無言で合掌する。それから私とお父さん、

時々イッセーくんと話し合いながら夕食の時を楽しんだ。

こんな気分は久々。夕食が終わったらイッセーくんが寝る布団を用意しないとね。

 

 

 

 

夕食を終えて、私はお父さんに食器洗いを任せてイッセーくんが寝るために必

要な布団を用意する。昔、ギンガが使っていた布団がまだあって良かった。

 

「よいしょっと」

 

イッセーくんはお風呂に入っている。先に入らせてその間に準備を済ませる算段。

今日は彼をお父さんに説明して認めてもらうためにこの家に帰って来たようなもの。

明日は私が使わせてもらっている六課の施設内の部屋に―――と考えていれば、

この部屋の扉が開いて、イッセーくんが入って来た。

 

「・・・・・」

 

声を掛けようとしたら言葉が出て来なかった。

彼の着替えがないから今日だけ私のワイシャツを着てもらった。

―――腰まで伸びた真紅の髪が少し濡れていて、ワイシャツのボタンを留めないでワイシャツから

覗けるイッセーくんの上半身。水に滴る良い男・・・・・と、

いつか見た雑誌で恰好良い男性が載っていたけど、

その男性より目の前にいるイッセーくんの方が恰好良いと心から思ってしまった。

 

「・・・・・どうしたの?」

 

「えっ?う、ううん!なんでもないわ!ほら、ちゃんと髪を拭かないと風邪引いちゃうわよ?」

 

部屋にあるタオルを手にして彼の頭を拭いた。あ・・・・・サラサラしている。

まるで女の子みたい。体を改造されたって報告を聞いたけど、

こうして対峙しているのにそうは思えないなぁ・・・・・。

 

「ん・・・・・ありがとう」

 

「うん、どういたしまして」

 

ちょっとドギマギしたけど、もう大丈夫。さて、私はお風呂に入りに行こうかな。

 

「眠かったら先に寝て良いからね?」

 

「・・・・・分かった」

 

うん、良い子だね。

 

―――○●○―――

 

ナカジマ家で寝泊りして翌日。俺は再び機動六課の施設に連れ戻されて、

窮地に立たされた気分になった。

 

「へえ・・・・・この子が誠さんと一香さんの子供・・・・・」

 

「髪が真っ赤ですね・・・・・エリオくんみたい」

 

「中々いい面をしているな。意思が強そうだ」

 

珍獣の気分で機動六課の連中に囲まれて顔を覗きこまれたり、髪を触れられたりとされている。

 

「ギン姉がこの子を保護するんだって?」

 

「ええ、そうよ。大人しいから大丈夫だろうと思ってね」

 

「操られていないから大人しいんでしょうね」

 

既に変な設定が知れ渡っている。そんな設定をした二人は―――良い笑顔で俺を見ている。

そんな二人に少なからず怒気を孕まして睨むと、周りが一歩遠ざかった。

だが、ギンガ・ナカジマが近づいてきて俺の頭を撫でる。

 

「イッセーくん、怒っちゃダメ」

 

「・・・・・」

 

完全に子供扱いされているんだけど・・・・・。ここで事を起こす訳にもいかないか。

怒りを抑えて自然になる。

 

「うん、良い子ね」

 

そう言いながら彼女は俺の頭を撫でる。何だか調子狂うな・・・・・・。

 

「あ、あの・・・・・」

 

「・・・・・?」

 

「あの女の子はどうなったんですか?」

 

赤い髪の少年が訊ねてきた。ヴィヴィオのことか・・・・・うーん、あいつを利用しよう。

 

「攫われた」

 

「・・・・・え?」

 

「変な奴らに攫われた。そいつらを追っていたところをあの場にいた」

 

嘘だが、そんな嘘を吐いていると赤い髪の少年が食って掛かった。

 

「ど、どうして誰にも言わなかったんですか!?」

 

「俺の話を信じてくれるとは思えない。ましてや身分も証明できない人間の話はな。

それに俺はこの世界のことを知らない。見たことも聞いたこともない場所で、文字も読めない。

会話はできるが信用できる人間はこの世界に一人もいない」

 

『・・・・・』

 

周りは沈黙で包まれた。そんな場の雰囲気を壊すかのように、ギンガ・ナカジマが口を開いた。

 

「大丈夫、ここにいる人たちは皆、信用して良い人たちだよ。

だから、イッセーくんは私たちのことを信じてほしい」

 

「・・・・・出会ったばかりの奴にそんなことはできない」

 

「うーん、そうかもしれないけど・・・・・でも、イッセーくんを悪くお思う人はいないよ?」

 

「・・・・・どうだか」

 

ぷいっと顔を逸らす。こんな俺の態度に周囲は当惑し、顔を見合わせる。

 

「だったら、信用が得られる方法をするのはどうかな?」

 

―――父さんが意味深なことを言いだした。俺も含め周りは怪訝な面持で父さんを見つめる。

 

「というと・・・・・?」

 

「一誠を知りたいなら、この子と戦ってみれば良い。

戦うなかで少しは分かるかも知れないだろう?それに俺と一香の子供だから皆は一誠のことを

気になっているようだしね」

 

『・・・・・』

 

ギンガ・ナカジマたちは顔を見合わせる。

 

「どうします・・・・・?」

 

「そりゃ、二人のお子さんのことは気になってはいるけどなぁ」

 

「だけど、戦って分かるものかな?」

 

「でも・・・・・そろそろ仕事も迫ってきているし、フォワードの訓練もある」

 

色々と相談をし始める面々だったが、話が付いたようで俺に振り向く。

代表としてなのか高町なのはが一歩前に出てくる。

 

「イッセーくん。私たちとちょっとだけ訓練をしよう?残念だけどイッセーくんとお話できる

時間はあんまりないからね」

 

「・・・・・」

 

別に話をしなくてもいいと思うが・・・・・暇つぶしになるか。

 

―――○●○―――

 

―――なのはside―――

 

誠さんと一香さんの子供、兵藤一誠くんは並はずれた身体能力とスタミナの持ち主のようで・・・・・初めてやる訓練をフォワードの皆より早く終わらせた光景を見させてくれた。

 

「これで終わり?」

 

ケロリとした態度で私に問いかけてきた。それには思わず頬を引き攣らせ、

ぎこちない笑みを浮かべてしまった。でも、これからすることに彼はきっと驚くだろう。

 

「それじゃ、機動六課フルメンバーとイッセーくんの模擬戦でしよっか」

 

そう切り出した私に、皆が唖然となった。

 

「え、えーと・・・・・なのは隊長?流石にそれは・・・・・ねぇ・・・・・?」

 

「ぼ、僕も流石に気が引きますよ・・・・・」

 

「私もそう思います・・・・・」

 

「右に同じく・・・・・」

 

フォワードの皆が戦慄している。あれ?そうかな?

フェイトちゃんにそう視線で乗せて訊ねると。

 

「なのは、それは鬼だよ」

 

「せやなぁ・・・・・いくらあの二人の子供だからってフルメンバーはないやろ」

 

フェイトちゃんだけじゃなく、はやてちゃんまで窘められた。ええー?だって・・・・・。

 

「あの子、物凄くその気でいるんだけど?」

 

ほら、準備運動しているし、まだやらないのか?って視線を時折送ってくるよ?

 

「イッセーくん、誰と戦いたい?」

 

「ん・・・・・全員」

 

『・・・・・』

 

ほらほら、あの子もそう言っているじゃない。だから、ね?

 

「・・・・・フェイトちゃん、それに他の皆。手加減しぃや」

 

「うん、流石にね・・・・・」

 

「分かりました」

 

「へいへい、分かったよ」

 

呆れ顔のはやてちゃんの指示に皆が首を縦に振る。

 

「それじゃ、合図は俺がしよう」

 

審判を買って出てくれる誠さんが私たちとイッセーくんの間に立った。

 

「―――模擬戦開始!」

 

刹那。イッセーくんの姿が消失した。あまりの速さに私は唖然となったけど、

 

ゴンッッッッ!

 

と物凄い鈍い音で意識を音がした方へ思わず向けると―――悠然と佇んでいるイッセーくんがいた。

でもその場所にはエリオがいたはず。エリオは・・・・・いた。

模擬戦をするために移動した森林があるこの場所、その木の下で横に倒れていた。

 

『っ―――!?』

 

一体、何時の間に・・・・・とそう思った。でも、その考えはあっという間にできなくなった。

今度はキャロがイッセーくんに捕まれて―――思いっきり地面が凹むほどに叩きつけられた。

 

「このぉっ!」

 

「シュートッ!」

 

スバルがウイングロードでイッセーくんに迫り、

ティアナがクロスミラージュの魔法射撃でイッセーくんに放った。

ああ、そんな単調なことじゃ、

避けられちゃう―――と思った私の考えは呆気なく覆された。

イッセーくんは迫って拳を突きだしたスバルを容易く捕まえて

ティアナの魔法射撃をスバルで盾にし、防いだのだ。

 

「ス、スバル!?」

 

「単調な攻撃は仲間を傷つける」

 

何時も何かティアナの目の前に移動して、ティアナの頭を掴んだまま、

スバル諸共キャロのように地面に叩きつけた。―――これでフォワードのメンバーが全滅。

 

「・・・・・」

 

ヴィータちゃんが真剣な面持ちで足を運びだす。

 

「手加減、必要なさそうだぜ。あいつ」

 

「ああ、そのようだ」

 

シグナムも肩を並べるようヴィータちゃんの隣に移動した。

 

「鉄槌の騎士、ヴィーダ」

 

「烈火の将・騎士シグナム」

 

「「いざ―――参る!」」

 

二人が決め台詞を言いイッセーくんに跳びかかった。対してイッセーくんは、また姿を消した。

 

「どこに消えやがった!」

 

ヴィータちゃんは辺りを見渡す。数十秒経っても姿を見せない。逃げちゃった?

有り得ない可能性を脳裏に浮かんだ私の視界に、

異様に盛り上がっているヴィータちゃんの足元が留まった。

 

「―――ヴィータちゃん、足元!」

 

「なっ―――!?」

 

私が警告をした直後、盛り上がった地面から人の腕が飛び出してきて、

ヴィータちゃんの足を掴んだ。

 

「こ、この野郎!」

 

グラーフアイゼン、形状変化した大きなハンマーが地面に振り下ろされるも、

ヴィータちゃんの足が一気に地面へ引きずり込まれる方が早く、生首だけのヴィータちゃんが

そこにいた。その傍に地面がまた異様に盛り上がって―――イッセーくんが出てきた。

 

「て、てめぇ・・・・・っ!」

 

「・・・・・」

 

なにを思ったのか、ヴィータちゃんのデバイスを掴んでそのまま持ち上げた。

それにはヴィータちゃんが顔を引き攣らせ、発する声が震えていた。

 

「お、おい・・・・・それをどうするきだ?」

 

「モグラ、スイカ割り、餅つき、太鼓、鐘―――」

 

「全部、叩くに関する事ばかりじゃねぇか!って、アイゼンであたしを叩く気かよっ!?」

 

「YES」

 

意地の悪い笑みを浮かべた。流石にそれは不味いんじゃないかなぁーって思っていれば、

シグナムが斬りかかった。

 

「悪ふざけはそこまでだ」

 

ギィンッ!

 

「半分は本気だ」

 

アイゼンの柄でシグナムの一閃を防ぎきった。

 

「ヴィータのデバイスで私の一撃を防ぐとはやるな」

 

「そいつはどうも」

 

「ヴィータのように不覚は取らん」

 

シグナムはイッセーくんに跳びだした。対するイッセーくんはヴィータちゃんのデバイスを

後ろへ放り投げて、なんと、無謀にもシグナムを迎撃しに行った。

 

「腕の一本、へし折られる覚悟をしろ!」

 

デバイス、レヴァンティンを躊躇もなく振るった。

イッセーくんは武器も持たず生身でシグナムに跳びだした。

一体どうするつもりなのかと様子を見守っていると―――素手でレヴァンティンを受け止め掴んだ。

 

「なに・・・・・?」

 

「俺の腕一本をへし折るんじゃないのか?」

 

嘘・・・・・。信じられない光景を見た私はイッセーくんが手を離したことで

後方に下がったシグナムを見つめる。

 

「改造されたと言う話しはどうやら本当のようだな」

 

「・・・・・」

 

敢えて答えずどこからともなく刃が備わったトンファーを手にして構えた。

 

「どこからとりだしたのだ?」

 

「企業秘密」

 

「まあいい。素手の相手と戦うのはいささか、気が引く。

―――これなら、思う存分に剣を振るえるというものだ」

 

シグナムは嬉しそうにカートリッジシステムを使い、

刀身に炎を纏いだす。本気で戦うつもりだね。

 

「・・・・・」

 

イッセーくんの武器にも纏いだした。―――雷と氷!?それに体全体に覆う風・・・・・。

 

「魔力変換資質・・・・・それも三つ・・・・・中々手ごわそうだ」

 

「逃げるか?」

 

「逃げないさ。―――久しくである強敵を相手にな」

 

凛々しく、シグナムがレヴァンティンを前に構える。

イッセーくんも武器を構えて―――二人は激突した。

 

―――○●○―――

 

模擬戦を終えて六課の施設内にある食堂で昼食を食べている。

 

「ほらほら一誠。ちゃんと食べないとダメだぞぉ?」

 

「はい、あーん」

 

「・・・・・」

 

満面の笑みを浮かべて敵である父さんと母さんが俺と一緒に昼食をしている。

さらに俺の隣にギンガ・ナカジマが座っている。

 

「イッセーくん、スマイルスマイル」

 

「(できるかぁぁぁぁぁぁっっ!)」

 

何故に二人と食べなきゃならないんだ!?敵同士なんだぞ!一応は!

 

「そう言えばギンガちゃん。一誠のことお父さんに認めてもらったかい?」

 

「はい、お父さんも息子ができたようだと喜んでいました」

 

「あらあら、その言い方はまるで結婚を前提に付き合っている初々しいカップルのようね。

そのまま一誠と結婚したら―――ギンガちゃんは一誠のお嫁さんになるわねぇ」

 

「え・・・・・っ!?」

 

ボフッ!とギンガ・ナカジマが顔を紅潮になった。

 

「そうだな。いやー息子にとうとう春が到来したかー。

ギンガちゃん、一誠のことをよろしくお願いする」

 

「一誠と幸せにね?」

 

「ちょっ、ふ、二人とも!どうしてそ、そんな急な展開になるんですか!?」

 

おー、慌てているな。父さんたち、楽しそうにギンガ・ナカジマをからかっている。

 

「え、ギン姉・・・・・その子と結婚するの?」

 

「ということは、誠さんと一香さんとは義理の両親となるんだねぇ」

 

「めでたいことじゃねぇか」

 

何だか周りからも騒がしくなってきたな。場を収拾しよう。

 

「ギン姉」

 

「え・・・・・?」

 

「からかわれている」

 

彼女はビシッ!と硬直したその時だった。

 

「それにしても、公開意見陳述会はもうすぐだね」

 

「うん、もしかすると襲撃してくる可能性があるからね。ぬかりなく警備をしなくちゃ」

 

公開意見陳述会・・・・・?高町なのはたちの口から意味深な発言が飛び出していた。

そのことに気になってギンガ・ナカジマに問うた。

 

「襲撃・・・・・?」

 

「あーうん、次元広域犯罪者が襲撃してくるかもしれないって可能性が浮かびあがったの」

 

「そうなんだ」

 

「だから、私たち機動六課もその警備をするために中央管理局地上本部へ行くことになったのよ」

 

まー、俺には関係ないが・・・・・ジェイル・スカリエッティがしそうだな。

 

「ほらほらギンガちゃん。一誠にあーんってしてやってくれ」

 

「その瞬間の写真を撮りたいから」

 

「勘弁してください!私はイッセーくんと、恋人関係じゃないんですから!」

 

「大丈夫、もしも恋人関係になったら私たちは二人の中を認めるし応援もするからさ」

 

「早く孫の顔を見てみたいわー」

 

この二人をどうしてくれようか・・・・・。

 

―――セインside―――

 

「んー、イッセーのやつ大丈夫かなぁ・・・・・」

 

イッセーが管理局に捕まった(ドクターたちはタイプゼロ・ファーストを

手に入れるためと言っていた)。

それが今日で二日目となる。ご飯はイッセーのメイドってのが代わりに作ってくれているから

食生活に関しては問題ない。イッセーがいない間、チンク姉は任務でいなくなり、

ドクターやウーノ姉は私たちの武装とナンバーズ7、8、12の妹たちの調整で忙しい。

今日も引き籠って調整を行っているし・・・・・暇だなぁ。

 

「イッセーは強いんだから大丈夫っスよ」

 

「まーね。でも、二日も音沙汰も無しだと、どーも気になって仕方がないんだよ」

 

「ドクターも言ってたじゃないっスか。タイプゼロ・ファーストを手に入れるために

動いているって、私たちじゃ、戦わないとじゃなければできないっスからねぇー」

 

そのための戦闘機人、イッセーみたいに自由な行動はできない。

今の私たちは武装の完成待ちで待機。その間は訓練訓練とデータを蓄積し続けている。

そのおかげか、何時もより動きやすくなっている。

 

「それにしても次元世界から来たイッセーの友達は怖ろしいっスねぇ。

一人で私たちと戦ってほとんど無傷で勝つんだからさ」

 

「次元世界とこの世界の力と概念、魔法も違うから当然じゃない?」

 

「いやいや、それにしたってあのちっちゃい女の子とメイドさんは有り得ないっスよ?

なに素手で私たちを勝っちゃうの?って感じでさ」

 

・・・・・た、確かに・・・・・。翼を生やすあいつらはともかく、

戦う力がなさそうな子供とメイドが私たちを相手に勝ったあの時は目を疑った。

 

「まあ、そんな相手を何度も何度も模擬戦をし続けた賜物によって私たちは強くなったと

思うっスよ?新しい武装で鬼に金棒っスね」

 

「まあ、それはそうだけど」

 

だけど、なんか物足りない・・・・・ああ、いつもイッセーといたからかな?

今はイッセーの傍にいないから・・・・・物足りなさ以外にもちょっと寂しさが感じる。

 

「ウェンディってイッセーのことをどう思う?」

 

「うん?イッセーのことっスか?」

 

うんと首を縦に振ってウェンディに問うた。ウェンディは指を一本一本立てながら言い続ける。

 

「次元世界から来た人型のドラゴン・・・・っスかね?それなりに興味はあるっスね。

それに男の子なのに料理が上手で美味い、それと、ドクターの協力者だけあって、

ドクターからの頼み事を全部こなしているし・・・・まあ、一言で言えば

凄いなってイッセーのことをそう思っているっスよ」

 

「そうなんだ・・・・・」

 

何故かホッとしている自分がいた。まあ、イッセーのことを悪く言うとは思っていないけどさ。

それでもちょいと気になっちゃうわけで・・・・・。

 

「そういうセインはイッセーのこと、どう思っているっスか?」

 

「わ、私・・・・・?」

 

「そうっス。さあ、私も言ったんだからセインも話すっス」

 

墓穴を掘ったかな・・・・・?楽しそうにウェンディが迫って来た。

イッセーのこと・・・・・。

 

「・・・・・」

 

改めてイッセーのことを考えたら、顔が熱くなった。

 

「おやおや~?セイン、顔が真っ赤になったっスよ~?一体、

イッセーのことでなにを考えたら顔が真っ赤になるんっスかねぇ?」

 

「な、なんでもない!なんでもないから!」

 

「ふっふっふっ・・・・・そう慌ててはぐらかそうとする態度をすればもっと

怪しく感じるっスよ?ますますセインがイッセーのことをどう思っているのか、

知りたくなったっスよ」

 

ううう・・・・・ヤバいここは何とか回避をしないと―――!

 

『セインちゃーん。ドクターが呼んでいるから来てちょうだーい?』

 

クア姉ぇっ!いまクア姉が天使のよう見えたよ!宙に発現した立体のモニターに映るクア姉こと

クアットロに心から感謝をしつつウェンディから離れる。

 

「ごめん、また後で!」

 

「ああ!逃げたっス!」

 

追いかけられないようにディープダイバーで無機物の中へ潜行し、ドクターのところへ赴く。

はぁ・・・・・もう、こんなことになったのは全部イッセーのせいだ。うん、そうに違いない。

 

「(でも・・・・・イッセーがいないと、なんか暇さを感じちゃうんだよなぁ・・・・・)」

 

早く、イッセーと会いたいな・・・・・。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode10

管理局機動六課にギンガ・ナカジマと過ごしてそこそこ日が経った頃。

公開意見陳述会の日が訪れた。俺は関係ないと思ってギンガ・ナカジマに問うと。

 

「ごめんね。イッセーくんを一人にできないから私と一緒にいてもらわないといけないの」

 

「・・・・・分かった」

 

共に行動しないといけないらしい。

だから―――時空管理局中央本部グラナガンに行くこととなった。

管理局の制服を身に纏い、ギンガ・ナカジマと高いビルの周辺で彼女と警護。

とは言っても、会議が始まって既に数時間・・・・・四時間も過ぎたが騒ぎも事件も起きない。

 

「イッセーくん、疲れていない?」

 

「大丈夫」

 

「うん、疲れたなら遠慮なく言ってね?」

 

肯定と首を縦に振って頷く。辺りを見渡すと、

デバイスを持っている警備が見掛けただけで数十人はいた。

 

「あ・・・・・」

 

ギンガ・ナカジマが声を上げ、申し訳なさそうに声を掛けてきた。

 

「ごめん、ここでちょっと待っててくれない?北エントラスに報告をしないといけないから」

 

「ん、分かった」

 

「それじゃ」

 

駆け足でギンガ・ナカジマが俺から離れて行った。

―――その直後。俺の脳裏に直接話しかけてくる声が聞こえてきた。

 

『はぁ~い、イッセーちゃん』

 

クアットロか。その声を訊くのは久し振りだ。

 

『うふふ、お姉さまと離れて寂しくてしょうがなかったかしらぁ?』

 

想像に任せる。

 

『あらぁ、釣れないわねぇ~?それと、タイプゼロ・ファーストはどうかしら?』

 

俺を弟のように接してくる。

 

『うふふ、チンクちゃんが訊いたら嫉妬したいそうね♪さぁーて、ウーノお姉さまがねぇ?

速やかにタイプゼロ・ファーストを捕獲してほしいって言うのよ。

それと、私たち姉妹が攻撃をするから気を付けてねぇ?ガジェットドローンもそっちに

送っちゃうからぁ』

 

・・・・・あのガジェットドローンを使うか?

 

『勿論♪イッセーちゃんが考えたガジェットドローンⅥ型のシリーズも含めてね』

 

そうか―――管理局が怖がる顔が目に浮かぶ。

 

『うふふ・・・・・イッセーちゃん、良い感じで私好みの性格をしているわねぇ?』

 

なら、今度二人きりで話をするために夜を過ごすか?

 

『あら、それはとても楽しみ♪それじゃ―――ミッションスタートッ!』

 

クアットロの作戦開始宣言が告げられたその刹那だった。、周囲に紫の魔方陣が出現し、

ガジェットドローンが魔方陣から出てきた。管理局の局員、

警備員がガジェットドローンの出現に混乱、困惑する。

―――中には百や二百と数えきれないほど、

黒光りで小さい膨大な数の小型のガジェットドローンが続々と四方八方、移動し、

 

「ひぃっ!?」

 

「ゴ、ゴキ―――!」

 

「いやああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

警備の奴らに群がって襲い始める。あれは肉体的損傷を与えるんじゃなくて、

精神的な意味でダメージを与える。

そんで、魔力を奪いその魔力で攻撃に回すというガジェットドローンだ。

 

「(あれ、本物ではないといは言え、物凄く本物と酷似しているぞ)」

 

他のガジェットドローンとは違い、カラーが塗装されている。

あれを機械だと思うのに少し時間が掛かりそうだ。

 

ドドドドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン・・・・・ッ。

 

どこかで激しい轟音が聞こえてきた。砲撃ぽかったな。そんな他人事のように思っていると。

黒い斬撃が、辺りのガジェットドローンを一掃した。

 

「こんなところでなにしているんだ?」

 

「・・・・・」

 

黒い剣を持ったお父さんが現れ、俺に訊ねてきた。

 

「ギン姉がここに待っていろって言われていたから待っていたらこんな状況になった」

 

「おや、そうだったのか。―――なら、好都合かな?」

 

・・・・・どういうことだ?目を細めて警戒の色を浮かべる。

父さんが朗らかに笑みを浮かべ出して俺に言った。

 

「さっき、リゼヴィムさまに言ったんだ。―――派手に動いてもいいよって」

 

「っ・・・・・!?」

 

その意味が直ぐに理解した。

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

 

どこからか獣のような咆哮が聞こえてくる。この禍々しい感じは・・・・・!

 

「おっ、どうやらおっぱじめたようだな」

 

「まさか・・・・・・邪龍をここに!?」

 

「ああ、そうだ。この世界にリゼヴィムさまは大量の量産型邪龍を解き放ったんだ。

ほら、丁度―――」

 

父さんは上に指した。顔をその指した方へ上げれば巨大な魔方陣が出現していて、

そこから―――黒いドラゴンたちが大量に出て来ている!

 

「一香が俺たちの世界にいるユーグリットくんと共同で量産型の邪龍ドラゴンを召喚している。

当然、この世界を滅茶苦茶にするためにね」

 

「おじさんはどこにいるんだ?」

 

「うーん、どっかで会うんじゃないか?高らかに笑いながらさ」

 

・・・・・有り得る・・・・・。

 

「さて、一誠。ドラゴンたちを相手にしながら俺と一香を相手になってもらおうか」

 

「いいのかよ。管理局の局員として働いていたのにさ」

 

「働いた理由はちょっとしたスパイだよ。重要拠点を探すためにね」

 

眼前にドラゴンたちが街を襲い始めた。―――この世界の魔導士じゃあ、

どうにかなるような生物じゃない。

 

「さて、一誠。俺に付き合ってもらおうか」

 

「悪いけど、街に暴れているドラゴンを殺してからにしてもらうよ。

父さんはこいつらと相手になってくれ」

 

俺の言葉に呼応するかのように生物型のガジェットドローンが父さんを囲んだ。

 

「おや、もしかして・・・・・このロボットたちは一誠が作ったのか?」

 

「厳密に言えば、考案しただけだ」

 

それだけ言い残して、無機物の中へ潜行した。いくら父さんでも無機物の中に入ってこれない。

その中で俺は通信式の魔方陣を展開してヴァーリに繋げた。

 

『イッセー』

 

『悪い、皆とこっちに来てくれ。邪龍が暴れ出した』

 

『ああ、分かっている。こちらでも確認していたところだったからな』

 

ん、そうだったのか。

 

『セインたちを退かせるようにジェイル・スカリエッティに言ってくれ。

ドラゴンの相手なんて、この世界の魔法じゃ歯が立たないからな』

 

『分かった。それまで頑張ってくれ』

 

了解と、魔方陣を消してある程度先行したら無機物から浮上した。

 

「・・・・・」

 

『・・・・・』

 

その丁度目の前に浅黒い肌の巨人・・・・・ドラゴンと目が合った。

 

『ふむ、これは懐かしいドラゴンと出会ったな』

 

知っているのか?

 

『ああ、―――「大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)」グレンデルだ』

 

―――そう言えば、どんなドラゴンと戦ったって和樹たちから訊いたな。

巨人型のドラゴン、グレンデルが口角を吊り上げ、銀の双眸が愉快そうに目を細めた。

 

『グハハハハハッ!こいつはぁ驚いた!あの邪龍の筆頭格のドラゴンどもと

ここで出会うなんてよぉ!つーことは、てめえがグレートレッドとオーフィスが

認めているって言うガキで間違いないなぁ?』

 

「ああ、そうだ。お前こそグレンデルって言う名前で合っているな?」

 

『そうだ。俺がグレンデルさまだ。今からお前を踏みつぶすドラゴンの名だぁっ!』

 

そう言って巨大な拳を振り下ろしてきた。その迫力は凄まじく、

常人だったら呆然としていただろうが―――。

 

「ふん!」

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

俺は―――ドラゴンだ!グレンデルの拳を龍化した拳で突き刺して受け止めた。

 

「龍化」

 

全身に一瞬の閃光を迸らせて、五十メートルぐらいの真紅のドラゴンへとなり、

 

『俺を踏み潰すって?―――踏み潰してみろよ』

 

『グハハハハハッ!おう、上等だぁっ!』

 

嬉々としてグレンデルが突っ込んできた。

この街をできるだけ破壊させないように気を配らないとな。

善処しないと・・・・・。

 

―――ディエチside―――

 

「なんだろう・・・・・この状況は・・・・・」

 

ドクターの指示で私たち十一人の戦闘機人は地上本部の制圧、タイプゼロ・ファーストの捕獲、

可能ならばタイプゼロ・セカンドの捕獲をしに来たというのに・・・・・黒いドラゴンたちが

街を襲い、滅茶苦茶にしている。

 

『ディエチちゃん、ドクターから引き返せって』

 

「作戦は?」

 

『作戦は中止。それにイッセーちゃんがドクターに言ったらしいわ。退き返らせてやれって』

 

イッセーが・・・・・。宙に浮くモニターに映るクアットロに訊ねた。

 

「他の皆は?」

 

『すでに退き始めているわ。私も今その最中』

 

「イッセーはどうするの?」

 

『イッセーちゃんの友達が迎えに行ったわ。流石にあそこに行くとしたら、

私たちじゃ無謀だわぁ。セインちゃんだったら別だけど』

 

だろうね。セインのディープダイバーは無機物に潜行して移動するから、

人と接触することはまずない。

 

「分かった。私もガジェットドローンで退くよ」

 

『はいはーい。それじゃあね』

 

モニターは閉じられた。私は傍に待機させてあるガジェットドローンに騎乗する。

 

「・・・・・イッセー」

 

どうか、無事で帰ってきてね。

 

―――○●○―――

 

拳と拳が互いの体、顔に突き刺さり、足や尾で体勢を崩そうとしたり、

時にはドラゴンらしく火炎球を吐き戦い続ける。俺が空に飛翔するとグレンデルも

翼を広げて俺のところまで飛んで来て火炎球を吐く。

真っ直ぐ火炎球に突っ込んでグレンデルの顔にサマーソルト(尾)で攻撃。

グレンデルも負けじと俺の尾を掴んでは引き寄せて、俺を振り回して下に放り投げたかと思えば

真っ直ぐ突っ込んできて地面と挟んで俺を足で突き刺した。

 

『この野郎・・・・・!』

 

口内から真紅の砲撃を放った。グレンデルはそれを避けた隙に尾でグレンデルの足を絡めては

体勢を崩して俺が起き上がった。

 

『グハハハハハッ!やるじゃねーの!今のはちょーっと危なかったぜ!』

 

チッ、見掛けに寄らず素早い上に、硬いな。

 

『あいつは滅んだ邪龍の中では最硬の鱗を誇っていた。並みの攻撃じゃ通用しない』

 

んじゃ、クロウ・クルワッハでも勝てないか?

 

『私を誰だと思っている?グレンデル相手に私が負けるはずがないだろう』

 

『因みに俺もだぜ』

 

アジ・ダハーカまでもが話に参加してきた。この間にもグレンデルが飛び蹴りをしてきて、

横に体を動かし、足を掴んで俺が落ちた場所が廃棄都市だったため、街の住人たちがいないから

思いっきり振り回した後に放り投げて真紅のレーザー状の一撃を放った。

 

『イッセー、私たちを現世に出してはくれないか?』

 

そうしたいけど、父さんが持っているあの剣、サマエルの毒と呪いの剣があるし、

おいそれとお前らを出せることはできない人化をしても父さんと接触したら戦わずを得れないし、

もしもお前らがアレを食らったら流石に俺は嫌だ・・・・・。

 

『・・・・・優しいな、お前は』

 

ただの臆病なだけだ。お前らが失うなんてごめんだ。

 

『いってぇなぁっ!こんちくしょうがぁっ!だが、それが良いんだよなぁぁぁぁぁっ!』

 

と、グレンデルが街を破壊しながら突貫してきた。

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

『ウゴォッ!?』

 

『・・・・・・は?』

 

グレンデルが何か知らないけど吹っ飛んだ。

 

「イッセーくん!」

 

「久し振りだね、イッセー」

 

俺の横にイリナとヴァーリが現れた。

そして、頭の上にちょこんと乗っかるオーフィスに―――リーラまでもが現れた。

 

『今のはお前らか?』

 

「ああ、オーフィスだ」

 

ヴァーリがそう言った。なるほど、納得。

 

「ん、イッセーの温もり・・・・・」

 

本人は本人で、俺の頭の上で寝転がってなんか堪能しちゃっている。

で、グレンデルとは言うと、

 

『アルビオンにオーフィスか!こいつはぁ豪華な相手が揃ったもんだなぁっ!』

 

俺と対峙しながら訊きとして笑みを浮かべていた。が―――、

 

「おや、ヴァーリちゃんとイリナちゃん。それにリーラとオーフィス」

 

「皆、久し振りね」

 

父さんと母さんがグレンデル側へと姿を現した。

 

「誠さま・・・・・一香さま・・・・・」

 

「おじさま、おばさま・・・・・・!」

 

「「・・・・・」」

 

リーラたちはなんとも言えない面持ちで気持ちとなっている。

こうして皆と父さんたちと対峙したのは学園祭以来だな。

 

「グレンデル、どうだい?俺たちの息子と戦って」

 

『グハハハハ、悪くねぇな。殺し合いの甲斐がある!てめぇらのガキとやらはなぁっ!』

 

「当然じゃない。私たちの息子なんだから」

 

そこ・・・・・自慢するところか?

 

「おじさま!おばさま!どうしてこんなことをするの?

それに操られていないならどうしてイッセーくんの敵になっちゃうの!?」

 

「イリナちゃん、相変わらず純粋だな。だからこそ息子の一誠に心から惹かれたんだろう。

だが、敢えて言うなら大人の事情って奴だ。子供がどうにかなるようなもんじゃない」

 

「誠さま、一香さま。本当にあのお方と共にいらっしゃるおつもりなのですか?

あの時のように四人で・・・・・」

 

「リーラ、もう今と昔は違うわ。あの時のような生活は

もう二度とできない・・・・・ちょっと寂しいけれどね」

 

母さんが自嘲染みた笑みを浮かべる。

 

「―――だから、新しい子と共に生きることにしたの」

 

・・・・・・。・・・・・え?

 

「新しい・・・・・子供・・・・・?」

 

「ええ・・・・・今の私のお腹に新しい子供を宿しているの。勿論、誠の子供よ?」

 

「「「『―――――っ!?』」」」

 

その衝撃な言葉に俺たちは硬直した。母さんが愛おしそうに自分の腹を撫でる。

 

「あなたは兵藤一誠じゃなく、イッセー・D・スカーレットとして生きるならば、

この子は兵藤一誠と言う名前にしようと思うの。

私たちの息子はもうこの世にいないことになっちゃっているしね」

 

『・・・・・』

 

思わず、俺は後退りしてしまった。背後にある建物が崩壊したような音が聞こえてきたが、

その音こそがまるで俺の心のようだった。

 

「そ、んな・・・・・」

 

「おじさま・・・・・おばさまの・・・・・新しい子供・・・・・?」

 

「それでは、それではイッセーが、イッセーが可哀想ではないか・・・・・っ!」

 

リーラやイリナ、ヴァーリが愕然となっていた。俺は思考すら停止していた。

だけど、無情にもあの二人は言い続けた。

 

「もう、あの頃のような生活ができない。

なら、もう一度最初から、零から始めようと思ったことだ」

 

「やっぱり、大勢で人生を送る方が楽しいからね」

 

「「だから一誠・・・・・・あなた(お前は)は息子として接することはできない」」

 

『・・・・・っ』

 

直接、真正面から、本人たちから生きた屍とはいえ、実の両親に

そう言われ・・・・・俺はとても悲しかった。親子の縁がここで

絶対的な意味で切られたんだから。

 

「だから、私たちから最後のプレゼントをあなたに授けるつもりよ」

 

「受け取れ、きっと今後に役立つだろう。が、兵藤家の皆が煩くなるだろうけどな」

 

「・・・・・まさか、お二人は・・・・・!?」

 

リーラが何かに察したようで目を丸くしていた。何のことだろうと思った瞬間。

二人が俺に向かって飛び出してきた。

 

「酷い・・・・・あまりにも酷いわ!」

 

「二人には恩があるとはいえ、イッセーに対するその物言い方に私は・・・・・!」

 

「「二人を許さない!」」

 

イリナとヴァーリが父さんと母さんに向かって行った。

でも、呆気なく弾き返させられてあの二人は真っ直ぐこっちに来る。

 

「誠・・・・・一香・・・・・それ、本気?」

 

「ああ、オーフィス。本気だよ。もしよかったらオーフィスも一緒に来るか?

家族として、俺たち四人と一緒に暮らすんだ」

 

「・・・・・」

 

オーフィスは無言で沈黙を貫いた。オーフィスなりに答えを出そうとしているんだ。

しばらくして、オーフィスは言った。

 

「我、誠と一香、イッセーとだったらいい。でも、イッセーじゃないイッセーは嫌」

 

オーフィス・・・・・ッ!

 

「そうか・・・・・残念だよ。昔のあの約束、お互い破っちゃったね」

 

「我も、悲しい」

 

彼女の小さな体から膨大な魔力が感じた。

 

「誠、一香・・・・・イッセーの敵、だから・・・・・我の敵。

あの時の誠と一香じゃない。あの時の誠と一香はもういない」

 

手元を光らせた直後―――。

 

「さようなら」

 

父さんと母さんが爆発した。これで終わった―――とは一瞬も思わなかった。

 

「うひゃひゃひゃひゃっ!いいねいいねぇ!さいっこう!

親子の縁が切れた瞬間って物凄くワクワクドキドキものだったぜいっ!」

 

この声は・・・・・あのヒトか!本当に高笑いながら出てきたな・・・・・。爆発の際に生じた

煙が風で流された頃には父さんと母さん以外にも、リゼヴィムおじさん、リリスまでもがいた。

 

「リゼヴィム・・・・・ッ!」

 

戻ってきたヴァーリが今にでも殺したいと言う気持ちが伝わるほど、顔を歪ませた。

 

「ちゃおー♪ヴァーリちゃん、おっひさー」

 

『最悪な展開となったな・・・・・』

 

「俺っちにとっては最高の展開だぜ?ほら、あっちにいる量産型の邪龍軍団はもう、

好き勝手に派手に暴れちゃってもらっているから八割ぐらい、破壊したんじゃないかなぁ?」

 

両腕をバッ!と空へ上げて嬉々として発した。

 

「―――これこそが俺がしようとしたかった異世界の侵略っ!その練習をするためにまずは

この異世界に存在するありとあらゆる人間と街を蹂躙にしてやるんだぁっ!」

 

おじさんはグレンデルに言う。

 

「だから、グレンデルくんは街の方に行ってくれないかなぁ?」

 

『おいおい、ふざけんなよ!俺は今そこのガキと戦っていたいんだよ!

それをしながらでもいいだろうが!』

 

「うーん、それもそうだねぇ。でも、あっちに行かないと、

楽しみが減っちゃうのは事実だよ?それでもいいのかなぁ?」

 

『・・・・・』

 

ギリッ!と奥歯を噛みしめて、グレンデルは体の向きを街へと変えた。

 

『後でここに戻ってくる。俺がここに戻ってくるまでそのガキをとっておけよ!いいな!』

 

それだけ言い残してグレンデルは街の方へと飛んで行った。

 

「さて、続きをしようか。リリスちゃん、オーフィスの相手をしてくれるかな?」

 

「パフェを馳走してくれるならいい」

 

「なら、決まりね。たくさん作ってあげるから」

 

食べ物で釣られた!なんだか、そーいうところもオーフィスに影響されているんだろうか。

元はオーフィスの力からも生まれたって言うし。

リリスを含め、あの二人はまたしてもこっちにきた。

 

「邪魔」

 

ドッガアァアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

オーフィスが攻撃する。だが、傷一つなく飛び出してきた三人。

 

「お前は私が相手になろう。母上?」

 

「・・・・・」

 

リリスとオーフィスが直撃した。二人は違う場所で戦い始め、残る父さんと母さんは俺とイリナ、

ヴァーリで戦うことになった。龍化を解いて、人間に戻れば二人と構える。

 

「おっ、人型になったか。丁度良い、あの大きさだと足りなかったからどうしようか考えたよ」

 

「・・・・・なんのことだ?」

 

「そうだなぁ・・・・・これからやることをするまえに少しだけ話をしようか。

一香、準備してくれるか?」

 

「分かったわ」

 

母さんは魔方陣から二つ赤い液体が入った大きな瓶を取り出した。

・・・・・あの液体、血なのか?

 

「一誠、どうして俺と母さんが兵藤家に住んでいなかったと思う?」

 

それは・・・・・と喉の奥から出ようとしたが敢えて呑んだ。

理由は分からないからが大きな理由だからだ。

 

「分からないだろう?今の今まで気にもしないで生きていたんだからな。

でも、今は少し違うはずだ。だから教えよう。俺と一香はとある掟を破り兵藤家から、

式森家から追放されたんだ」

 

掟・・・・・?

 

「兵藤家と式森家の間に子供を作ってはならない。当主でもその一族でもだ」

 

「なんでだ・・・・・?」

 

「兵藤家は体術、式森家は魔力あるいは魔法にそれぞれ長けているだろう?

だけど、兵藤家と式森家はもともと仲が悪かった。魔法が使えない兵藤家を蔑んだりすれば、

体力がない頭でっかちな式森家と蔑んでいたほどだ。関係が悪化するまでではないけれど、

それでも小競り合いはあった。そこで、その状況に憂いた者たちも存在していたのも事実。

その者たちとは兵藤家と式森家の男女の当主だった。その当時の当主は幼馴染であり、

密かに愛し合ってもいた。だからこそ、今の境遇、状況を打破しようと考えていたようだ。

そして、決行した。兵藤家と式森家を一つにしようと」

 

その意味は理解した。その幼馴染が結婚して二つの一族を纏め上げようとしたんだろう。

 

「二人の当主は周囲の反対を押し切ってまでも結婚した。

同時に兵藤家と式森家は一つとなったわけだけど、やはりうまく事を進めなかった。

一つになったとは言え、対立が目立っていたからな。

しかし、二人の当主は時間を掛けてようやく二つの一族を

一つに纏め上げた直後に事件が起きた」

 

「事件・・・・・?」

 

「兵藤家と式森家の当主だった二人の間に子供ができたことだ」

 

それがどうして・・・・・事件となるんだ?理解ができないと父さんの話に耳を傾け続けると、

 

「最初こそ、理由は分からなかったけど・・・・・子供が生まれて成長し続けるにつれ、

気と魔力が増え続けたんだ。―――最後はその増え続ける気と魔力に耐えきれず、

その子供は周囲を巻きこみながら消滅した」

 

「「「なっ・・・・・!」」」

 

ヴァーリたちと絶句した。リーラが驚いていないのは教えられたからだろうか?

 

「幸い、その場にいた当主がいたからこそ、被害はなかったが、失ったものが大きかった。

後に当主以外の者たち、兵藤家と式森家の者たちも子を作り、子ができたが・・・・・結果は、

二人の当主の子供と同じ増え続ける気と魔力に耐えきれず、周囲を巻きこんで消滅した。

その原因が分からないまま、兵藤家と式森家が必然的か自然と子を作らなくなり、

それぞれの一族同士と子を作るようになった」

 

「ちょっと待って・・・・・じゃあ、俺は一体どうなっているんだ?

俺は父さんと母さんの子供だろう?」

 

「ああ、そうだったな。自分がどうしてその道に歩まないでいるのか不思議だろう?

その理由はこれから話す」

 

父さんは視線を母さんの方へ向けた。母さんは、宙に筆で赤い液体を何か、

儀式の際に媒体として使う摩訶不思議な円と紋様を描いていた。それを一回だけじゃなく、

二回もなぞってだ。

 

「あの液体は兵藤家と式森家の者の血だ。つまり俺と一香の血だ」

 

「あれでなにを・・・・・?」

 

「話の続きだ。最初に子供を失った当主は、どうして気と魔力が増え続けるのかその理由を

長い時間を掛けて探ったところ、とある理由が判明した。気と魔力は相反していたからだ」

 

相反って・・・・・。相容れない力ってことだろう?

 

「相反し合う力が自己主張を始め、結果。器たる子供の肉体が耐えきれず、

相反する力が爆発するのが大きな理由だった」

 

ますます分からなくなった・・・・・。だったらどうして今の俺がいるんだ?

人間では無くなったっとはいえ、この十年間・・・・・俺は確かに生きていた。

俺の疑問はイリナが変わりに訊ねてくれた。

 

「あ、あの・・・・・じゃあどうしてイッセーくんは大丈夫なんですか?」

 

「相反するならば、相反しないようにすればいいだけの話だ。

だから、相反する力の片方を何らかの方法で抑えて、片方の力のみをそのままにしたんだ。

その実証は千年前で確認された。そう、俺の父である兵藤源治がその方法を編み出したんだよ」

 

「あの人が・・・・・?でも、だったらどうして追放されたんだよ?」

 

それを訊くと父さんは肩を竦めた。

 

「もう兵藤家と式森家の一族の間で子を成すことは禁忌としてされていたからだ。

また子供が力に耐えきれず、周りを巻きこんで消滅をしてしまうからな」

 

「じゃあ・・・・・その方法で俺は生きているのか?」

 

「ああ、一香の力、魔法を封じてな」

 

母さんに振り向く。

 

「一香とは本当に偶然的に出会った。俺と一香は一目惚れですぐに交際を始めた。

兵藤家と式森家は交際するだけなら目を瞑ってくれたけど、

子供を作る事だけは許してはくれなかった。その理由は後日知ったけど、俺はその掟を

破ってまでも彼女を愛したかった。

だから、俺と彼女は自ら当主という地位を捨てて野に降ったんだ」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

「そして、一誠。お前が生まれたんだ。

俺と一香の子供。俺の誠と一香の一を合わせて俺たちの子供だと証として一誠と名づけた」

 

それが俺の名前の由来だったんだ・・・・・。

 

「生まれた直後。すぐに一香の魔法の力を封印した。

でも、片方の力を封印した子供がその後どうなるのかその時の俺たちは知らなかった」

 

「・・・・・それは一体」

 

「一誠、それはお前が一番知っている。その身で感じているはずだ」

 

「・・・・・」

 

俺は父さんと母さんの子供。小さい頃は楽しい思いもいっぱいした。

でも、理由も分からず俺は兵藤家の、同年代の子供、兵藤照たちと稽古をした。

でも、その中で俺は一番弱かった。

 

「・・・・・まさか」

 

「気付いたようだな。そうだ、兵藤家と式森家の力の片方を封印した子供は―――かなり弱体化に

なるんだ。兵藤家の気の力を封印しても、式森家の魔法の力を封印しても、

結果はその子供が弱体化になる」

 

だから・・・・・だから・・・・・俺は弱かったのか?

でも・・・・・俺はガイアのもとで強くなった。それだけは間違いない。

 

「一誠、お前は俺と一香の自慢の子供だった。

めげずに頑張るお前に申し訳ないと気持ちも感じていた。だけど、俺と一香が死んだ後、

お前は強くなった。お前は努力と目標のために強くなったんだ。お前が唯一兵藤家と式森家の間に

生まれ、強くなれるんだと言う証明した存在だ」

 

「・・・・・」

 

「だからこそ、お前はもう一人前の子供で男だ。もう、俺と一香がお前に教えることはない。

だからこそ親子の縁を切らせてもらう。俺と一香は死んだ身だ。お前はお前で自由に生きろ。

そして、幸せになれ」

 

「―――完成、したわよ」

 

今まで筆で何かを描いていた母さんが声を掛けてきた。

母さんの目の前に怪しく煌めく魔方陣みたいなものが宙に浮いていた。

 

ガシッ!

 

「っ!?」

 

「今からお前を封じていた一香の、式森家の魔法の力を解除する」

 

何時の間にか父さんに捕まれていて抵抗も虚しく、赤い血のような魔方陣に押し付けられた。

そして、懐からナイフを取り出して―――一瞬で俺の身体を切り刻んだ。

 

「ぐっ・・・・・!」

 

「一香」

 

「了解」

 

父さんから膨大な闘気、母さんから膨大な魔力を感じた。すると、魔方陣に変化が起きた。

二人の血で作られた魔方陣が意思を持っていたかのように蠢き始めた。

 

「ドラゴンの肉体なら、お前は堪え切れるはずだ。

人間の肉体じゃ、消滅してしまう恐れがあるしな。だからこそ―――封印を解く」

 

血で描かれた魔方陣は切り刻まれた俺の身体の傷口に入り込んできた。

 

ドクン・・・・・ッ!

 

「うぐ・・・・・っ!?」

 

なんだ・・・・・これは・・・・・っ!血がどんどん俺の中に入ってくる度に

激しい痛みを全身で感じる・・・・・っ。意識が途切れそうだ・・・・・・っ。

そう思っていると、視界の端に青い道が宙に出来上がった。

その道に滑るように駆け上がってくる誰かが―――。

 

「イッセーくん!」

 

俺の名前を呼んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode11

 

―――ギンガside―――

 

黒い生物たちが街を襲い、蹂躙している。ガジェットドローンまでも攻撃をしているから

敵同士だろうと判断し、待たせていたはずのイッセーくんがいないことにウィングロードで

人を救助しつつ探していると、廃棄都市の方から異様な力を感じて、

いざ来てみれば―――誠さんと一香さん、それに数人の少女、一人の中年男性がいたが。

 

「誠さん、一香さん。イッセーくんになにをしているのですか!?」

 

魔方陣がイッセーくんの体の中に入っていく光景に嫌な感じを覚え、

イッセーくんの両親である二人に問い詰めた。

 

「この子が秘めている力を解放しているところだ。邪魔しないでくれ」

 

「力の解放・・・・・?いえ、それ以前にどうして街に暴れているあの黒い生物たちを

倒さないでここにいるのですか!いま、なのはさんたちが何とか応戦をしています!

お二人も早く!」

 

だけど、二人は動かない。

 

「うひゃひゃひゃ!この世界の魔法なんかで量産型邪龍軍団がぜーんぶ、

倒しきれるとは思えないねぇ?」

 

中年の銀髪の男性が嫌な笑みを浮かべる。まさか・・・・・この男性が元凶?

 

「あなた・・・・・あの黒い生物を召喚したのですか?」

 

「だーったら、どうすんのかねー?」

 

―――――っ。確信した。この男性が元凶だと。

 

「街の破壊および騒乱、住民に対する犯罪行為であなたを逮捕します!」

 

「俺を逮捕?のんのん、そんなことはできないって。こう見ても俺、強いよ?」

 

それを予想した上であなたを捕まえる!

ウィングロードを螺旋状に中年の男性の周囲に張り巡らせて滑走する。

 

「はああああああああああああああっ!」

 

重厚な左籠手を真っ直ぐ突き付けた。中年男性は笑みを浮かべ、

私の拳を難なく人差し指で止めた。

 

「ね?言ったでしょ?今度は俺の番♪」

 

右手を握り出す。

 

「ルシファーパーンチ!」

 

私の腹部にその拳が深く突き刺さった・・・・・っ!その衝撃で意識が飛びそうになり、

かなり重い・・・・・!それでもなんとか堪えて距離を取ったら・・・・・。

 

「おお?意外と頑丈だねぇ?だったらこれはどうかな?」

 

手の平を私に向けた直後、魔力弾が撃ちだしてきた。ウイングロードで避け続け、再び迫ると。

 

「みょーな、魔法を使うんだねー。でも、俺には勝てないよん」

 

中年男性はイッセーくんの方へ手をかざした。―――まさか!

 

「そーれ、坊ちゃんが大変だよー」

 

軽い口調で魔力弾を放った。急いでイッセーくんの方へ滑走する。

でも―――白い光がイッセーくんの前に現れてその魔力弾を明後日の方へ弾いた。

 

「貴様・・・・・!」

 

光の正体は青い翼を生やしている少女だった。少女の顔は怒りに満ちている。

 

「およよ、そーいやぁヴァーリちゃんがいたんだっけ?んじゃ、おっちゃんたち。

坊ちゃんだけ構っていないでヴァーリちゃんたちにも構ってあげてちょーだいな」

 

中年男性は真っ直ぐ誠さんと一香さんに。・・・・・あの二人がこの中年男性の

仲間だと言うの・・・・・?誠さんと一香さんは顔を見合わせた。

 

「だってさ、どうする?」

 

「そうね・・・・・このこの封印は―――もう終わったところだし、いいんじゃない?」

 

っ!そうだ、イッセーくん!イッセーくんへ視線を向けると、

意識がないのかぐったりと体をくの字に垂れていた。

 

「やはり、相反する二つの力を暴発せずにいられたな」

 

「ええ、肉体がドラゴンだからこそ成せれることなんでしょうね」

 

あの二人はイッセーくんの顔を触れて何か呟いていた。声が小さすぎて聞こえなかった。

でもそれから、一香さんがイッセーくんを横抱きに抱えて、

魔方陣の上に乗っている銀髪の女性に近づいた。

 

「一香さま・・・・・」

 

「リーラ。雇い主としての最期の命令。―――一誠を愛して、ずっと支えてちょうだい。

これからもずっと、見守ってね」

 

イッセーくんを銀髪の女性に渡して遠ざかった。その光景が無性に寂しくて堪らなかった。

私は彼女に近づく。

 

「あの・・・・・」

 

「・・・・・今は目の前の敵に集中してください」

 

敵・・・・・彼女の眼は真っ直ぐ誠さんと一香さん、中年の男性に向けられていた。

 

「うひゃひゃひゃっ!さーて、今度はこっちも動こうか!」

 

「そうだね。グレンデルも戻ってきたことだし」

 

「リリスちゃん、オーフィスとまだ戦っているようね」

 

―――本当に、あの二人は敵なんだ。

どうして、どうしてこんなことになっているのか・・・・・私には理解できなかった。

 

「ギン姉ぇっ!」

 

「っ!?」

 

妹のスバルの声。声がした方へ顔を向けると、ウイングロードで空を滑走する妹と、

六課のメンバー全員がこっちに来ていた。

 

「っ!?これは・・・・・どういうことなの?」

 

「一香さん、誠さん・・・・・これは一体・・・・・?」

 

何も知らない皆が困惑していた。中年の男性が口角を上げだすと、口を開いた。

 

「量産型の邪龍軍団と相手してまだ生きていた人間がいたんだねぇー?

意外としぶといしぶとい♪」

 

「・・・・・まさか、あの黒い怪物はあなたが召喚したと言うの?」

 

「のんのん、正確に言えばそこにいる坊ちゃんのママン、

兵藤一香があの黒いドラゴンたちを召喚したんだぜぇ?」

 

『―――っ!?』

 

衝撃的な発言になのはさんたちは目を丸くした。私も少なからず驚いた。

 

「う、うそ・・・・・」

 

「ど、どうして・・・・・?そんな、何かの間違い・・・・・」

 

「いえ、本当よ?ほら、こうすると―――」

 

一香さんが腕を上げた途端に、四方八方から黒い怪物たちが集まって来た。

 

「私たちの意思に従ってくれるの。可愛いでしょう?」

 

・・・・・本当に敵なんですね。一香さん、誠さん・・・・・。

あなたたちと接し合ってまだ浅いですけど、

とても許し難いです・・・・・。尊敬に値する人たちだと思っていたのに・・・・・。

 

『おいおい!どーなっているんだよ!あのガキ。気を失っているじゃねぇか!?』

 

「ちょっと、力を解放した時にああなったんだよ。一日もすれば目を覚ます」

 

『俺は今、戦いてぇんだよっ!せっかく、楽しめる奴と戦えると思っていたのによぉっ!』

 

巨人みたいな怪物が誠さんを激しく睨んだ。

間近で睨まれているにも拘らず、あの人は平然とした態度で―――。

 

「グレンデル。あんまり粗暴で、我儘でいるなら・・・・・お前の魂を砕くぞ?」

 

『―――――っ!?』

 

誠さんの声音がガラリと変わった。絶対零度、そんなどこまでも冷たい感じを覚えさせた。

あの巨人みたいな怪物が急に口を噤んで大人しくなった。

 

「おー、こわぁ・・・・・おっちゃんがキレたところなんて滅多に見ない上に、

今のはただの怒りだからな・・・・・本気でキレたおっちゃんはどうするのか

俺っちでも予想付かないってばよ・・・・・」

 

中年男性は自分の身体を抱き締めて冷や汗を流していた。

わ、私も・・・・・自分に向けられていた言葉ではないのに、物凄く恐ろしかった。

 

「・・・・・誠さん、一香さん・・・・・。お二人は敵なんですか?」

 

「うん?ああ、そうだね。一応、敵だよ」

 

「・・・・・イッセーくんはどうなるんですか?お二人の子供じゃないですか」

 

「あの子はもう俺たちの息子じゃない。お互い一度死んだ身だからね。死人に口無し、だ」

 

お互い一度死んだ身?イッセーくんは一度死んだってことなの?

とても信じられないわ・・・・・。

 

「・・・・・数々の犯罪を重ねたあなたたち三人を現行犯で逮捕します」

 

なのはさんがレイジングハートを突き付けた。

だけど、それより早く誠さんたちの足元に魔方陣が展開した。

 

「今日はこの辺にしよう。次は・・・・・そうだな、三日後だ。三日後、この世界を蹂躙する」

 

「うひゃひゃひゃっ!それじゃ、ヴァーリきゅんと坊っちゃんたち!またなぁー!」

 

「待てリゼヴィム!」

 

青い翼を生やす少女が中年男性に突貫するも、一歩遅くあの三人が魔方陣から発した一瞬の閃光と

共に姿を暗ました。そして、私たちを囲んでいた黒い怪物たちが上空に展開している

巨大な魔方陣へと向かって行く。

 

『おう、アルビオン。次だ、次会ったらお前とそこのガキと纏めて殺してやんよ』

 

あの巨人みたいな怪物も翼を羽ばたかせて空へと飛んで行った。

そして、残ったのはイッセーくんと少女たち、機動六課の私たちだけとなった。

 

「・・・・・ヴァーリ、リーラさん。私たちも帰ろう?」

 

「ああ、そうだな・・・・・」

 

「・・・・・」

 

あの子たちもどこかへ帰ろうとする。でも、そう簡単にはいかないのが現状。

 

「待って。あなたたちは何者なの?」

 

なのはさんが彼女たちに問いかけた。彼女たちは顔を見合わせ、

改めてなのはさんの質問に答えた。

 

「ごめんなさい。私たちの問題をこの世界に巻き込んじゃって。

でも、あなたたちに話してもどうにかなるような問題じゃないの」

 

「話をしてもらわないと、こっちはどう対応して良いのか分からないんだけどなぁ。

さっきの怪物たちの襲撃で街が滅茶苦茶になって、大勢の人が死んじゃっているの」

 

「その怪物を一匹でも倒せたか?」

 

「・・・・・何匹か倒せたよ」

 

平行線で話は続く。取り敢えず、イッセーくんの友達みたいな関係のようで、

話に少なからず応じてくれた。

 

「話せることは話しておく。私たちは次元世界から来た。

その目的は先ほどの奴らを追いかけにだ。奴らの目的は次元世界を侵略することだ」

 

「侵略・・・・・?このミッドチルダを侵略しに来たの?」

 

「そうだ。それをできる可能性をあいつらは持っている。

だからこそ、それを食い止めるために私たちは動いている」

 

「じゃあ・・・・・キミたちは私たちの敵じゃないんだね?」

 

「同時に味方でもない」

 

少女は淡々と言う。

 

「できる限りのことはする。そっちはそっちで動いてくれ。フォローはできないがな」

 

「・・・・・」

 

なのはさんは無言で挙手した。その意味は―――。

 

「任意同行お願いできるかな?」

 

「断わる。―――やるか?」

 

「ううん、この事件に関与している人を見逃す訳にはいかないんだよ。

だから―――あなたたちを捕縛します」

 

挙手した腕が一気に振り下ろされた。それに呼応して、フェイトさんや、

シグナムさんを始める航空魔導士の人たちがあの少女たちを捕縛しようと動いたその直後。

 

「―――ISラインドインパルス!」

 

「―――IS発動、スロータアームズ」

 

「レイストーム」

 

上空から声が聞こえた。同時に数多の魔力弾と光線、ブーメランが降ってきた。

 

「な、なに!?」

 

「これは・・・・・!」

 

なのはさんたちが当惑して後方へ下がった。

そんな行動をするなのはさんたちの前に―――数人の女性や少女たちが舞い降りた。

 

「三人とも、大丈夫か?」

 

「感謝する。だが、どうしてここに?」

 

「帰ってくるのがあまりにも遅くてな。

迎えに来たわけだが・・・・・そいつは気を失っているのか?」

 

―――せ、戦闘・・・・・機人・・・・・!?このタイミングでどうしてここに・・・・・!

 

「話は帰ってからする」

 

「どうでもいいがな。だが、作戦は一先ず成功のようだな」

 

・・・・・・作戦?

 

「タイプゼロ・ファースト、いやギンガ・ナカジマ。

こいつの命を守りたいなら我々と来てもらおうか」

 

戦闘機人がイッセーくんの首に手首から生えている紫色の刃を突きつけた。

この戦闘機人たち・・・・・イッセーくんと私が目的なの・・・・・!?

イッセーくんを守ることもできず、私の背後で戦闘機人が私をワイヤーみたいな物で縛り上げる。

 

「管理局ども。そこから一歩も動くなよ。

タイプゼロ・ファーストとこの少年の命が失いたくなかったらな」

 

「くっ・・・・・!」

 

「なんて卑劣な・・・・・!」

 

なのはさんたちは何もできないことに歯痒い思いをしていた。

スバルはジッと悔しそうに拳を震わしている。

 

「それでいい」

 

すると、虚空に穴が開いた。戦闘機人たちはその穴の中へ警戒しながら入り込んでいく。

少女やイッセーくんを抱えている女性も、イッセーくんも。

 

「ギン姉ぇ!」

 

「スバル・・・・・ッ!」

 

私は大丈夫、と首を縦に振った直後に戦闘機人の手によって穴の中へ引きずり込まれ、

視界が真っ暗に染まった―――。

 

 

 

「む・・・・・?あっ、何時の間にかリゼヴィムたちがいなくなっているぞ」

 

「・・・・・イッセーもいない・・・・・」

 

「しょうがない。一時休戦だ。次に会った時こそが決着だ」

 

「我、負けない」

 

―――○●○―――

 

「・・・・・」

 

目を開けると見慣れた天井がそこに映った。目を横に向ければ

 

『・・・・・』

 

ジィーと俺を見つめている。リーラたちがいた。中にはギンガ・ナカジマもいた。

 

「ご気分は・・・・・」

 

そう訊ねられ、腕を動かそうとしたら、筋肉痛になったような痛みが全身で伝わる。

 

「二重の意味で痛い・・・・・」

 

心身ともにな・・・・・・。絶縁された心の痛みとさらに増えた魔力が体から溢れんばかり

肉体を刺激する意味でだ。

 

「あれから、どうなった?」

 

「取り敢えず、秘密基地に戻ったわ。それと彼女も連行してね。

さっき、事情を説明したところなの」

 

イリナが説明してくれる。事情を説明したところで彼女の立場が俺たちを許さないだろう。

 

「イッセーくん・・・・・」

 

ギンガ・ナカジマが寄ってきた。

 

「あなたたちのことを話されて色々と知った。

次元犯罪者のジェイル・スカリエッティを利用して、協力していたことも」

 

「この世界を守るためにな。でも、結果があのザマだ。

まさか、父さんたちがいるとは思いもしなかったがな・・・・・」

 

「どうして、私たち管理局に協力要請をしてくれなかったの?」

 

「あの時言っただろう。俺は自分の身分を明かすこともできず、

この世界のことも知らないんだって。そんな状況の俺がどうやって機動六課に協力できるよう

頼めれるんだ?」

 

ギンガ・ナカジマは口を噤む。

 

「でも・・・・・犯罪者は犯罪者よ・・・・?」

 

「まあ、そうだろうな。でも、あいつには愛情って感情がある」

 

「愛情・・・・・?」

 

「ん、そうだ。接して行くうちにジェイル・スカリエッティが戦闘機人たちに

娘として接しているんだよな。

戦闘機人も戦闘機人で仲が良いしさ」

 

上半身を起こそうとすると、痛みで思わず顔を顰める。

そこへリーラが背中に手を回してくれてゆっくりと起こしてくれた。

 

「はぁ・・・・・結構、ダルいな・・・・・体が重く感じる」

 

「イッセーから膨大な力を感じるぞ。とても隠しきれていない」

 

「気と魔力がイッセーくんの中で相反し合っているんだと思うわ。

・・・・・あの人たちの言う通り、ドラゴンの身体だからイッセーくんは・・・・・」

 

あの二人の仮説が実証したな。これ、慣らさないと今後しんどいぞ・・・・・。

 

「で、今はどうなっているんだ?・・・・・そういや、ヴィヴィオがいないんだが」

 

「えっと、さっきウーノさんが連れて行っちゃったわ」

 

「・・・・・」

 

まさかな。嫌な予感が覚えたので、魔方陣を展開してその上に

何とか乗ってジェイル・スカリエッティのもとへと赴いた。

 

「おい、ジェイル―――」

 

「いやああああああああああああああっ!」

 

ジェイル・スカリエッティの気が感じる部屋へと侵入する。

直後、ヴィヴィオの悲鳴が耳に届いた。

ヴィヴィオは寝台で何故か拘束具で固定され、

その傍にはディエチとクアットロ、ウーノとジェイル・スカリエッティが佇んでいるところを

見て―――。

 

「チェストオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

魔方陣から飛び出してジェイル・スカリエッティに飛び蹴りを食らわした。

「ぐはああああっ!?」と悲鳴が聞こえたが知っちゃこっちゃない。

ウーノたちが驚愕した面持ちもだ。あれ、痛みは?だって?―――知るか!

 

「おいこら、そこのマッドサイエンティスト。

誰が勝手にヴィヴィオを何かさせることを許したよ?」

 

怒気を孕んだ声音を発しながらジェイル・スカリエッティに近づく。

 

「ちょ、ちょっと待っておくれ!?私はただ、彼女を完成させようと―――!」

 

「それを、俺の許しもなく、お前は勝手に、しようとしたんだ?と訊いているんだよ。

俺とお前の中で交わした中の約束、忘れたわけじゃあるまいな?」

 

「・・・・・」

 

こいつは、あからさまに俺から視線を逸らして目を泳がせた。

 

「ウーノ?」

 

「は、はい・・・・・」

 

「お前もお前だと思うから・・・・・ちょっとジェイル・スカリエッティと来てもらおうか?」

 

ジェイル・スカリエッティの白衣の襟を掴んでウーノの手を掴んで

この場から連れて行こうとする。

 

「ク、クアットロ!ディエチ!私たちを助けておくれ!」

 

娘たちに懇願する科学者の願いは―――クアットロが目と共に顔を逸らして、

「生きて帰ってください」とディエチの合掌で二人の運命が決まった。

 

「や、優しく・・・・・お願いできるかな?」

 

「極刑だ」

 

その後、ジェイル・スカリエッティは全身包帯だらけのミイラみたいな恰好で

夕餉の時間に現れたのは余談だ。ウーノは俺を見て体を震わす始末。

 

『(イッセーを怒らせないようにしよう・・・・・)』

 

と戦闘機人、トーレたちの思いが一致していたことに俺は知る由もなかったがな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode12

三日後、それがリゼヴィムおじさんたちが現れる予告。

翌日の朝、俺は新たに出会った戦闘機人たちを見ていた。桃色の長髪、

頭にバンド状の装甲を付けている少女がナンバーズ7、セッテ。

散切りで中性的な外見をしている。体型や男が着るような服装ゆえに性別が分かりにくいが、

れっきとした女性だ。

栗色のストレートヘアの容姿が大人びいているナンバーズ12、ディード。

 

「昨日はありがとうな」

 

リーラたちを捕まえようとした管理局を阻んでくれた話を訊いて。

改めて今日お礼をと三人に声を掛けた訳だ。

 

「ええ、問題ないです」

 

「僕たちの武装を考えてくれてありがとう」

 

「ドクターの協力者なのですから当然のことです」

 

「ん、そうか」

 

スゥーと魔方陣の上に乗っている俺は宙に浮いている。

ちょっとでも動くと全身に痛みが生じて満足に歩けもしないからなぁ。

軽く雑談してそれから三人と別れ、秘密基地内を移動する。

しばらく移動していると、大勢の女性が入っているカプセルが並んでいる場所へと辿りついたら

見覚えのある少女がカプセルの中にいる女性を見上げていた。

 

「久し振りだな」

 

「・・・・・」

 

少女はこっちを剥いた。紫色の髪に赤い瞳、黒と紫を基調としたゴスロリの服を着ている。

 

「誰を見ていたんだ?」

 

「お母さん・・・・・」

 

「お母さん?お前の母親か?」

 

「らしいよ・・・・・」

 

らしい・・・・・?不思議になる俺に彼女は言い続ける。

 

「この人のこと覚えていないから・・・・・」

 

・・・・・そう言うことか。彼女の頭を優しく撫でる。

 

「お母さん、目を覚ますと良いな」

 

「うん・・・・・目を覚まして、お母さんになってくれれば私には心が生まれるんだって」

 

「きっと、心が生まれるさ」

 

それだけ言い残し、彼女から離れて―――ジェイル・スカリエッティのもとへ、訪れた。

 

「やあ、ジェイルくん」

 

「わ、私は何もしていないぞ!?」

 

「あれ、どうしてそんなに怖がっているんだ?」

 

ビクゥッ!とジェイル・スカリエッティが体を跳ね上がらしていた。

そこへクアットロが指摘した。

 

「イッセーちゃん、顔笑っているけど目が笑っていないわよ?」

 

「・・・・・ああ、そういうことか?相手を話すときは笑顔でと、

母さんに教わったからそうしたんだけどな」

 

「イッセーちゃん、絶対に怒ってドクターに声を掛けていたわよ。

ドクターが何かしたのかしら?」

 

「ちょっと待ってくれないか。私が既に何かしたような前提で言わないでもらおうか」

 

自分の胸に手を当ててみろと言いたいところだが、気になることを言うのが先決だ。

 

「さっき、母親を眺めていた少女と見掛けたんだけど。どうすれば母親が目覚めるんだ?」

 

「母親を眺めていた少女・・・・・?ああ、ルーテシアのことだね?」

 

ルーテシア・・・・・それがあの少女の名前か。その通りだと肯定すれば、

ジェイル・スカリエッティは言った。

 

「彼女には11番のレリックを見つければ、母親は目覚めると言ったんだよ」

 

「11番のレリック・・・・・どうしてレリックが必要なんだ?」

 

「おや、疑うのかね?」

 

「レリックに人の病を治すような力はないと踏んでいる。

主な理由は、レリックは魔力の結晶だからだ」

 

そう言うとジェイル・スカリエッティが肩を竦めた。

 

「やれやれ、キミには参るよ。ああ、今のところレリックにそんな力を秘めた実例は

確認されていない。私自身もそんなレリックは存在しないと思っているよ」

 

「お前が否定するのか。じゃあ、どうして彼女にそう言ったんだ?」

 

「ルーテシアの能力が魅力的でね。彼女の母親を利用して我々に協力してもらっているのだよ。

無論、全てが終わったら彼女の母親を目覚めさせるつもりだったがね。

ルーテシアの働きに感謝の印としてでね」

 

・・・・・ほう・・・・・つまり、あれか?いたいけな少女に、純粋無垢な子供に、

この科学者は騙していたと・・・・・そういうことだな?自分の野望のために母親を捕まえて

娘の力を利用するために。

 

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・。

 

「あー・・・・・ドクター?私、お手洗いに行ってくるわぁ・・・・・」

 

クアットロが何かに察知したようであからさまにこの場から去ろうとする。

 

「うん?分かった・・・・・いや、クアットロ。ここにいてくれないか?

物凄く寒く感じてきたからね」

 

ジェイル・スカリエッティが俺の様子に気付き、

いなくなろうとしたクアットロの肩を掴んで制止するが、クアットロはギョッと異議を唱えた。

 

「ちょっ、ドクターのとばっちりは勘弁してほしいですわ!私には一切関係ないんですもの!」

 

「頼む!このまま私一人でいたら彼に殺されてしまう!」

 

おいおい、協力者に殺すようなことはしないさ。さーて、どんな方法でこらしめようかなー?

笑みを深めてゆっくりと二人に寄ったのであった。

 

 

―――ジェイル・スカリエッティを処刑し、ルーテシアの母親を目覚めさせることにお願いした後、

リーラと共に昼食作りを始めた。全身が筋肉痛で筋肉が引き締まった状態の今の俺の身体は、

あんまり動かすことができず翼で調理を始めているところを、

セインとチンクが現れて手伝ってくれた。

夕食後はトレーニングルームでヴァーリに付き合ってもらい、模擬戦をした。

 

「っ・・・・・!」

 

いざ、魔力を放てば身体中に激痛が生じる。でも、放った魔力は―――ヴァーリが目を張るほどの

一撃だったようだ。白龍皇の能力『半減』で、俺の一撃を半分し続け、相殺した。

 

「イッセー、今のは本気か?」

 

「いや・・・・・体に激痛が生じていたから本気を出せないでいたよ」

 

「本気でもないのにさっきの魔力は魔王並みのほどだと思ったぞ」

 

「マジで?」

 

信じられないと俺は漏らした。ここで本気を出せないから軽く撃ったはずなんだが。

 

『彼女の言う通り、魔王の力は知らないが今の魔力数値で言えばキミの魔力はSSSを

上回っていたよ』

 

突然現れた立体型のモニターに映るジェイル・スカリエッティ。

 

『だが、あんまりそれ以上の魔力を放たないでくれたまえよ?ここが保たないからね』

 

「あー、了解」

 

疲れた顔で挙手する。

すると、その挙手した手が―――俺の意思と関係なくドラゴンの鱗が浮かんだ。

 

「ん?」

 

「きっと相反する力の余波で、ドラゴンの力までもが反応してしまったのかもしれないな」

 

「うわー・・・・・これ、本格的にコントロールしないといけないな」

 

龍化になった腕を見て溜息を吐くところで、

 

「イッセー、こんなところに―――って、なにその腕は!?」

 

セインが現れ、俺の腕を見て驚愕していた。

 

「ああ、大丈夫だ。腕がドラゴンになっただけだから」

 

「それ・・・・・本当に大丈夫なのか分からないんだけど」

 

「それで俺に何か用があるみたいだけどどうした?」

 

問うと、セインの指先に五つの光が伸びて、五つの光が合わさると、剣のように具現化した。

 

「イッセーが考えてくれた武装が完成したから見せに来たんだよ」

 

「おお、そういう事だったのか」

 

「うん、しかもこれは伸縮自在だから最大二十五メートルまで伸ばすことができるよ」

 

そこまで考えていないんだけど・・・・・あいつが付け加えたんだろうか。

光を消失して、セインは口を開いた。

 

「それよりイッセー。体の調子は大丈夫?」

 

「んー、まだ本調子ってわけじゃないけど、今のところは大丈夫だ」

 

「そっか。あんまり無茶しないでくれよ?皆、イッセーのことを心配するんだからさ」

 

「分かっているさ。心配してくれてありがとうな」

 

水色の髪を撫でて感謝の言葉を述べる。そうすると、セインは嬉しそうに微笑む。

 

「そうだ、イッセー。久し振りに一緒に風呂に入ろうよ」

 

突然のセインの申し出に、反応しない訳がない奴がいた。

 

「一緒に・・・・風呂だと?」

 

必然的にヴァーリだった。セインは「うん」と首肯する。

 

「二回ぐらいだけど、イッセーと一緒に入ったよ」

 

「・・・・・」

 

セインの言葉を訊き、ヴァーリは無言で俺の肩を掴んだ。

 

「イッセー、私も今日からイリナと一緒に今夜、お前と一緒に風呂を入りに行く。

これは決定事項だ、異論は認めない」

 

「お、おう・・・・・分かったから肩を離してくれないか?

いま、肩が痛くてしょうがないんだけど」

 

掴む力が強く、筋肉痛みたいな痛みを感じ続けている俺にさらに痛みが強まって、

顔が引き攣ってしまう。

その後、俺はセインたちと風呂に入ったのだが、何故かクアットロ、ディエチ、ウェンディ、

セッテ、オットー、ディードまでもが入ってきて色々と遭って疲れたのは別の話しだ。

 

―――○●○―――

 

「やあ、来てくれてありがとう」

 

「どう致しまして。だが珍しいな。お前が外に来いと言うなんて」

 

「今日は月が満月だからね。なんとなく月を見ながらキミと話しがしたくなった」

 

白衣を身に包みジェイル・スカリエッティは本当に珍しく、

俺が作った団子と用意した酒に手を出した。この状況は月見に等しい。

 

「残り二日。激戦が始まるようだね」

 

「ああ、そうだな。できれば決着をつけたいが簡単にはいかないだろう」

 

団子を摘まんで口にする。この月を見たら狼になるなんて狼男は不思議だよなぁ・・・・・。

 

「イッセー、キミに頼みたいことがある」

 

「・・・・・初めて呼んだな。頼み事とは?」

 

「私は二日後にゆりかごを起動させる」

 

ゆりかご・・・・・。それが、ヴィヴィオを求めていた理由でヴィヴィオがゆりかごを

起動させる鍵。

 

「ゆりかごを起動させれば、あの黒いドラゴンたちと対抗できるはずだ。

多分だが、兵藤誠と兵藤一香も二つの月の魔力を得たゆりかごには手も足も出ないだろう」

 

「・・・・・そう思いたいもんだな」

 

常識外れなあの二人に常識が通用しないとは思えないから。

俺はそんな二人の子供だったけどさ。

 

「ヴィヴィオでゆりかごを起動させることは分かった。

彼女を利用させてほしいと言う願いなのか?」

 

「それもあるが、キミたちはいつか次元世界に帰るのだろう?だからその際に―――」

 

ジェイル・スカリエッティは真っ直ぐ俺に視線を向けてくる。

 

「娘たちをキミたちと一緒に次元世界へ連れて行ってくれ」

 

「・・・・・」

 

「それが最後の願いだ。ルーテシアの母親もその頃に目が覚ますはずだ。

ここに乗り込んでくる管理局に保護されるだろう」

 

ジィエル・・・・・。

 

「頼んだよ、最初で最後の―――私の友よ」

 

俺にそう言ったこいつの顔はどこまでも清々しい笑顔だった。

そう言われては断われないだろうが・・・・・。

 

「・・・・・憎まれ役になりそうだな」

 

「ふふっ、キミと娘たちはとても仲が良い。特にセインがね。私から娘たちに伝えておくよ」

 

「お前はどうする気だ?」

 

「さて、夢が叶った時はやることもないからね。大人しく捕まるかな?

それとも別の次元世界で新たな研究と開発でもしているかな?悩みどころだよ」

 

そうか・・・・・。

 

「ま、お前の人生だ。お前が決めることだろうさ」

 

「その通りだ。私は自由に生きるさ。誰かに指図を受けずにね」

 

ジェイル・スカリエッティは満月を眩しい物を見る目でそう言うのだった。

 

―――リーラside―――

 

あのお二人が一誠さまの魔法を解放した。今のところ、生活に支障はなく、生命に危険はない。

それだけが幸いと言えましょう・・・・・。

なにより、ドラゴンの身体だからこそか・・・・・。

一誠さまは一誠さまですが、あのお方に降りかかる火の粉はこれから必ず降りかかってくる。

 

「私もただのメイドとしてじゃなく、戦いでも一誠さまを支える時が来たかもしれません」

 

両手を何か持つように構えれば、虚空から一冊の本が発現した。

 

「―――あなたの力、私に貸してくれますか?」

 

そっと本を胸に抱えると・・・・・本は水の中に沈むかのような感じで

私の身体の中に入っていく。

 

『―――ああ、私の力をお前に貸そう。主に対するその忠誠心に、

主に対するその愛に応えよう』

 

どこからか声が聞こえる。その言葉に私は頭を下げた。

 

「感謝します。これからは共に一誠さまと生きましょう」

 

これで、私は本当の意味で一誠さまのお傍にいられます。誠さま、一香さま・・・・・。

 

「このリーラ、一誠さまと共にあなた方を倒しましょう。

それが長年、共に暮らした者のとしてそうするべきことのはずですから・・・・・」

 

一香さまに言われるまでもありませんよ・・・・・。私は既に決めていましたから。

あのお方と、一誠さまとどこまでもお傍にいると、

そう心から命の次に大事なことと決めたのです。

 

―――ギンガside―――

 

深夜、皆が眠りについている頃に私は起きた。

このまま静かに脱走・・・・・と思ったけどジェイル・スカリエッティの秘密基地故に

私の行動を見張っているだろうと考えを切り替えて断念。辺りを見渡すとイッセーくんは

まだいなかった。「外に行ってくる」と言ってあれからまだ戻ってきていないみたい。

部屋を出るぐらいは警報なんてなりはしないだろうと思ってイッセーくんを探そうと静かに

部屋から出た。

 

「どこにいるんだろう・・・・・」

 

敵なのに、トイレ、厨房、トレーニングルームの場所を教えられた。

最初に厨房の方へ行ったけど、がらんとしていてイッセーくんの姿は見当たらず、

次にトレーニングルームへと足を運んだ。

 

「あ・・・・・」

 

いた・・・・・。寝転がっている・・・・・。ここで何かしていたのかしら・・・・・。

静かにイッセーくんに近寄る。顔を覗き込むと遠い目で何かを見据えているように

天井を見ていた。その視線が私に向けられた。

 

「どうしたんだ?」

 

「それはこっちの台詞。どうしてここに寝転がっているの?」

 

「・・・・・少し、一人になりたくなってな」

 

「風邪、引いちゃうよ?」

 

やんわりと部屋に戻ろうと窘めるも、彼は動こうとはしなかった。

 

「ギンガ」

 

ギン姉じゃなく、呼び捨て。これが彼の本性なのだろう。

お父さん以外の異性に呼び捨てなどされたのは生まれて初めてだ。

 

「自分の両親は好きか?」

 

「え?うん、好きだよ」

 

「俺もだった。小さい頃は本当に幸せだったよ。色んな場所に連れて行ってくれたり、

色んな人と会わせてくれたり、暇だと思った時は一度もなかった。

こんな幸せな日が続くんだろうなぁーって思ったこともあった。でも・・・・・」

 

その両親に絶縁された―――。と訊かされた私の心は悲しんだ。

イッセーくんは私のことを知らない。私と妹はお父さんの実の娘じゃないことを。

でも、それでも幸せにお父さんと死んだお母さんと暮らしていた。

死ぬことよりも辛い切られた親子の縁。

 

「好きだった。大好きだった。でも、もうそんな感情を父さんと母さんに向けることはできない」

 

すると、イッセーくんは腕で目を覆ったかと思えば、

 

「こんな辛い気持ちは家族を悲しませた以上だ・・・・・」

 

無色の液体が目を覆う腕の下から流れ出した。

彼は、イッセーくんは泣いているんだと私は気付いた。

 

「・・・・・」

 

体が勝手に動いた。イッセーくんの上半身を半ば強引に起き上がらせて、

私の胸に顔を抱き抱えながら押し付けた。それ以上はしない。声を掛ける言葉も見つからない。

ただ、こうしないといけないと思ったから。

 

「・・・・・ありがとう」

 

「うん・・・・・」

 

私の行動の意図に察し、感謝の言葉を言ってくれた。ゴメン・・・・・スバル。

私・・・・・この子を放っておけない。

この子は誰かが支えないと直ぐに崩れてしまいそうだから・・・・・。

 

「(私は皆を裏切るつもりはない。でも、この子を守りたい)」

 

例え、それでも戦うことになるとしても、私はこの子の傍にいる。

 

―――○●○―――

 

―――セインside―――

 

明日が作戦の実行の日となった。今日は久し振りに再会したドゥーエ姉と一緒に朝食を

食べてから姿を見せないイッセーのもとへと歩んでいるところを珍しい光景が目の当たりした。

なんか知らないけど、ウーノ姉以外の姉妹が全員とイッセーの友達たちが

扉の前に立っていたんだ。

 

「皆、どうしてそんなところを立っているんだ?」

 

「あっ、セイン。それにドゥーエ姉!」

 

「久し振りね。感動の再会と会話の花を咲かせたいところだけれど、

なにをしているのかしら?」

 

ウェンディが代表として説明してくれた。

 

「イッセーがこの中で籠りっきりになっているからって聞いたっスから気になって。

それで、中に入ろうとしたら扉が閉まってて中に入れないっスよ」

 

「壊そうとしたが・・・・・こんな感じだ」

 

トーレ姉が思いっきり扉に拳を突き立てたら、

扉を守るようにして魔方陣がトーレ姉の拳を防いだ。

 

「ドクターやウーノお姉さまは放っておいて構わないと仰ったけれど、

やっぱり気になっちゃうわねぇー」

 

あの二人は知っているということかな?でも、皆の話からすると、

教えてもらっていなさそうだなぁ。

 

「ここはセイン、お前がディープダイバーで中に入って行け。

無機物に潜行できるお前なら扉を超えることはできる」

 

「そうっスね。セイン、お願いしまっス」

 

んー、まあ、イッセーに用事があったし、断わる理由もないね。

そう思い、無機物の中に潜行して進んで、扉を潜れば直ぐに浮上したところで―――。

 

ガシッ!

 

「へっ?」

 

「セイン獲ったどぉぉぉおおおおおおおおおおおっ!」

 

頭を掴まれたかと思ったら思いっきり無機物から引っ張られた!―――私は魚かぁっ!?

 

「って、こんなふざけた場合をしているんじゃなかった」

 

私を放っておいて、イッセーは私に背を向けて、床に腰を下ろしたかと思うと、

何やら忙しそうに手を動かした。気になり、イッセーの前に移動すると・・・・・。

綺麗な宝石を削っていた。

 

「イッセー、なにしているの?」

 

「秘密だ。集中していたかったから誰も入れないようにしていたけど、

やっぱりセインが予想通りに来たな」

 

あっ、そうなんだ?

 

「ドゥーエが来たそうだな。ジェイル・スカリエッティから聞いたぞ」

 

「うん、だからイッセーに会わせようと思ったんだけどね」

 

「もうちょい待ってくれ。これで完成できるからさ」

 

だったら眺める。邪魔しないようにね。イッセーの前に跪いて様子を見守る。

削っている宝石の他にも色んな花々があって、

宝石と花が一つになっている完成したものと思しき宝石があった。

 

「よし、後は―――」

 

何時の間にか金色の錫杖を持っていて、イッセーは12個の宝石に金色の錫杖を向けた途端に、

宝石が光に包まれた。光はやがて消失すると・・・・・宝石が嵌った腕輪となっていた。

 

「これで完成だ」

 

十二の腕輪を一纏めにして立ち上がった。完成したようだけど、それどうするんだろう?

 

「さて、ウーノのところへ行こうか」

 

「ウーノ姉のところに?」

 

「それとナンバーズ全員だ」

 

もしかして、その腕輪は―――。と思っているとイッセーが扉に向かって歩きだしていた。

 

 

 

「それで、イッセーちゃん、私たちを集めてどーしたいのぉー?」

 

「その前に・・・・・見たことがない顔の女性がいるんだけどドゥーエなのか?」

 

イッセーがウーノ姉を含め、私たち十二人の姉妹を集めた。

って、ドゥーエ姉の顔を知らないんだっけ?

ドゥーエ姉を見れば、

 

「ええ、この顔が本来の私の顔よ」

 

と、答えていた。イッセーは納得した顔で頷いた。

 

「なるほど、ジェイル・スカリエッティに影響された顔だな。

ウーノもそうだったし、ほんと姉妹だな」

 

それ、褒めているの?って思う。

まあ、クア姉以下、チンク姉から下の私たち妹はドクターの影響ってあんまりないんだよね。

 

「集まってもらったのは他でもない。俺から皆へプレゼントを渡したい」

 

「プレゼント?」

 

「ん、そうだ。今日まで・・・・ドゥーエは一度しか会っていないけど、皆とは過ごしたんだ。

形に残る物を皆に渡したい」

 

そう言って、ウーノ姉から順にドゥーエ姉、トーレ姉、クア姉、

チンク姉・・・・・と渡していった。

 

「はい、セイン」

 

「ありがとう・・・・・」

 

渡された腕輪にある宝石は三つもあった。でも、何だか綺麗だと思った。

イッセーを見れば、ディードに宝石を渡していたところでウェンディが声を掛けた。

 

「イッセー、この腕輪にある綺麗な石はなんなんっスか?」

 

「それぞれの名前に関わる石だ」

 

私たちの名前に・・・・・?

トーレ姉も「どういうことだ?」と口にしてイッセーに問いかけていた。

 

「皆、自分の誕生日とかなさそうだし、

皆の名前は数字だと言うこともジェイル・スカリエッティから聞いている。

だから、皆の名前を誕生日として誕生日石の腕輪を作ったんだ」

 

あー、そう言うことか。私は六番だから六月の石を渡されたんだね。

 

「皆は知っているかどうか分からないけど、その石には名前と石言葉って言葉があるんだ。

例を挙げれば、ウーノの誕生日石はガーネット、または柘榴石。一月の誕生日石で、

石言葉は『真実・友愛』だ」

 

「真実・・・・・友愛・・・・・」

 

「ウーノに友愛なんてあったかしら?」

 

ちょ、ドゥーエ姉ぇっ!そこは突っ込まなくてもいいんじゃないかな!

 

「ドゥーエの腕輪の石はアメジスト、または紫水晶。二月の誕生石で石言葉は

『誠実・心の平和・高貴・覚醒・愛情』」

 

「・・・・・ドゥーエに似合わない言葉が殆どあったわね」

 

ウーノ姉が冷笑を浮かべる!ドゥーエ姉に心の平和ってあったかなぁ・・・・・って思ったのは

秘密。

 

「トーレの腕輪の石はアクアマリン。色々と名前はあるけど、

敢えて言うなら、藍玉もしくは水宝玉。三月の誕生日石で石言葉は『勇敢』」

 

「「納得だわ」」

 

「なるほど、確かに私にピッタリな石だな」

 

満更でもなかったトーレ姉だった。次はクア姉だね。

 

「クアットロの腕輪の石はクォーツ(水晶)、または石英。

四月の誕生日石で石言葉は『完璧・冷静沈着・神秘的』」

 

「あら、完璧、冷静沈着ってのは私に合っているわ言葉だわぁー。でもイッセーちゃん、

他にももう一つの石があるんだけど、これも石言葉って言葉があるのかしら?」

 

「ああ、他にも同じ誕生日石があったから嵌めこんだ。それはダイヤモンド、

またの名を金剛石だ。石言葉は

『永遠の絆・純潔・不屈』」

 

『ぶはっ!』

 

何人かが噴いた。ク、クア姉に似合わなさ過ぎる石言葉が出てきたよ・・・・・っ!

 

「・・・・・さっきの石言葉のほうが私に似合っているわよ」

 

クア姉が拗ねた!

 

「まあまあ、そう拗ねるなよ。そんで、チンクにも誕生石が二つだ。一つはエメラルド、

他にも翆玉や緑玉と呼ばれている石で、石言葉は『幸運・幸福・希望・安定』。

深緑な半透明な石は翡翠、エメラルドと同じ誕生石で石言葉は『長寿・健康・徳』だ」

 

「なんだか、良い言葉しか出て来ない石だな」

 

それも、チンク姉には合っているのかどうかすらも分からないね。で、次は私なんだけど・・・・・。なんか、三つも石があるんだよね。これ、石言葉って言葉が三つもあるんだよね?

 

「六番のセインは、六月の誕生石が三つもあるから嵌めた。

一つは真珠、またの名をパールと呼んで石言葉は『健康・富・長寿・純潔』。

二つ目は月長石、またの名をムーンストーン。石言葉は『恋の予感・純粋な恋』。

三つ目はアレキサンドライト、石言葉は『秘めた思い』」

 

ドクン・・・・・。

 

私の心臓が高鳴った。戦うために作られた私に似合わない言葉なのに、

何故だか嬉しいを思った。

 

「セッテの石はルビー、別名は紅玉で七月の誕生日石の

石言葉は『熱情・情熱・純愛・仁愛・勇気・仁徳』。

もう一つはカーネリアン、紅玉髄とも言う石で、

石言葉は『勇気・友情・連帯・喜び・落ち着き・精神バランス』」

 

「・・・・・連帯、落ち着き、勇気は合っていますね」

 

「オットーの八月の誕生石はペリドット。石言葉は『夫婦の幸福』」

 

「僕・・・・・イッセーと結婚するの?」

 

『んなっ!?』

 

オットー!?なにを言っているんだ!?って、なにオットーは顔を赤らめているんだよ!

 

「や、石言葉だからな?その言葉通りになるわけじゃないし、なるもんじゃない」

 

やんわりとイッセーが言った。だ、だよね・・・・・。って、何で私は安心したんだ?

 

「ノーヴェの九月の誕生日石はサファイア、

石言葉は『慈愛・誠実・貞操・高潔・徳望・心の成長』。もう一つの誕生石はアオライト。

誕生石は『初めての愛・徳望・誠実・心の安定・癒し・不安の解消』。

最後の一つはラピスラズリ、『尊厳・崇高』の石言葉がある」

 

「初めての愛って何なんだよ・・・・・そんな言葉がある石をどーして私にしたんだよ」

 

「俺に言うな。この石言葉を創った本人に言え」

 

その本人って一体どんな人だろうねー。

 

「んで、ディエチの十月の誕生日石、オパールの石言葉は『希望、無邪気、潔白』、

トルマリンは『希望』だ」

 

「私、無邪気じゃないんだけどな・・・・・」

 

笑った顔を見たことないぐらいだしね。

 

「楽しいことをすれば自ずと無邪気になるんじゃないか?次はウェンディ」

 

「はいっス!」

 

「ウェンディは十一月の誕生石、トパーズとシリトンだ。

トパーズの石言葉は『誠実・友情・潔白』で、

黄水晶―――シリトンの石言葉は『社交性・人間関係・自信・生きる意欲』だぞ」

 

「おお、悪くない石言葉っスね」

 

ウェンディは笑みを浮かべる。うん、確かにウェンディのためにありそうな石言葉だ。

 

「最後にディード。十二月の誕生日石はタンザナイト、

石言葉は『誇り高き人(高貴)・冷静・空想』。

そしてノーヴェと同じラピスラズリ、石言葉は『尊厳・崇高』。

―――以上、一から十二の誕生日石だ。他にも誕生日石が合ったけど、これだけにした」

 

イッセーが私たちの腕輪にある石の石言葉を説明し終えた。

私たちの手の中にある腕輪はそれなりに凝ってあって一つの石(宝石)があれば複数もある。

 

「いらなかったら捨ててもいいから」

 

って、なに言っているんだよ。

 

「いや、そこまで説明されて今さらいらないなんて言えるわけ無いっスよ」

 

「初めてプレゼントされた物に対して、そんなことできない」

 

「大切に付けさせてもらいます」

 

そうそう、そう言うことだよ。私も腕に差し込んで嵌めた。おお、ピッタリだ。

腕にある腕輪を眺めていると、イッセーはドゥーエ姉に声を掛けていた。

 

「ドゥーエはどうしてここに?任務中だったんだろう?」

 

「ええ、そうだったけどドクターに新たな武装と調整とクローンの除去をするために

呼ばれたのよ」

 

「クローン?」

 

ああ、イッセーは知らなかったんだっけ。っと、クア姉が説明してくれた。

 

「もしものためにドクターが捕縛もしくは殺されちゃったら、

逃走、生き残った私たち十二人の戦闘機人の誰か一人でもいれば子宮に植え付けた

ドクターの遺伝子、クローンが生まれる仕組みになっているのよねぇー」

 

「・・・・・ほう?」

 

あっ・・・・・イッセーが纏う雰囲気がガラリと変わった。これは―――アレだね。

 

「だけど、ドクターはドゥーエお姉さま以外の私たちの子宮にあるドクターのクローンを

処分するようになったのよ。もう必要ないって―――イッセーちゃん、

どうしてドゥーエお姉さまをお姫様抱っこしてどこへ行こうとするの?」

 

「ああ、ちょっとあの変態科学者のところに行ってくる」

 

―――怒っている!もう、顔は笑っているけど目が全然笑っていない!

仕舞いには頭から赤い角が出ているよ!?

 

「そ、そう・・・・・いってらっしゃい」

 

「おう、行ってくる。ドゥーエ、俺と一緒に来てもらうぞ」

 

「は、はい・・・・・」

 

あのドゥーエ姉がイッセーに怖がっているぅ!?

でも、頬がちょっと赤いけど?どうしたんだろうと思っている私を余所に、

イッセーとドゥーエ姉はいなくなり―――しばらくした時に聞こえた。

ドクターの叫び、絶叫がさ。

私たちは徐に顔を見合わせた。

 

「イッセーって怖いっスね」

 

「怒らしてはいけないのと、逆らっちゃいけないベストワン確定ね」

 

クア姉の言葉に私たち十一人の姉妹は頷いた。

その後、ドクターが私たちの前に現れたら全身包帯だらけだった。

ドクター、イッセーを怒らしちゃダメだって。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode13

この日がやってきた。リゼヴィムおじさんたちが再びこの世界を蹂躙しようとするこの日が。

ジェイル・スカリエッティはゆりかごを起動させるべく、

ヴィヴィオをゆりかご内にある王座へと配置させた。

 

「お兄ちゃん・・・・・」

 

「大丈夫だ。ヴィヴィオの傍にいるよ」

 

「うん・・・・・」

 

不安げに俺を見上げてくる。俺の他にいるのはクアットロだけだ。他の皆は別の場所にいる。

今回は地上本部を襲撃するんじゃなくて、リゼヴィムおじさんたちを迎撃。

このゆりかごをミッドチルダの軌道上まで昇ってそこに浮かぶ2つの月からの魔力供給を受ける事で次元跳躍攻撃や亜空間内での戦闘も可能になるほどの性能を発揮する。

そんな性能の船が異世界に存在するなんて、初めて聞いた時は驚いた。

 

「クアットロ、出力を低下さえてくれよ?」

 

「はいはーい。起動させるぐらいなら大出力じゃなくても問題ないのよねぇー」

 

手鍵盤を操作するクアットロや俺の前にウーノを映し出すモニターが出てきた。

 

『そっちの準備はどうかしら?』

 

「問題ないですぅー。後は合図を待つだけで準備万端ですわぁー」

 

「ウーノたちのほうは?」

 

『私とドクター、トーレ、セッテ、セインは配置を終えているわ。それとあなたの分身もね』

 

全員、アジトを放棄してゆりかご内。ルーテシアとルーテシアの母親もこの船の中だ。

理由は後ほど説明しよう。

 

『では―――始めようか』

 

ジェイル・スカリエッティが狂気に塗れた笑顔で実行が開始する。

 

―――devils.―――

 

「おおお!なんだあれ!なんだあれ!すげぇー!うひゃひゃっ!」

 

「これは驚いたなー。あんな大きな船があったなんて知らなかった」

 

「それに、感じるわ。あの中に一誠がいるわよ?」

 

「坊ちゃんが?んじゃ、うちの孫娘もいるんだろうねぇ?―――きーめた、

あれ、クリフォトがいただこうぜぃ!」

 

「それは面白そうだ。宇宙へ旅立てるかもしれない。

それじゃ、俺たちも動こうか。―――世界を蹂躙に」

 

「世界を破滅に」

 

「クリフォト、出陣だぁっ!」

 

―――なのはside―――

 

「動いた!」

 

「皆、これが正真正銘の真剣勝負や。ジェイル・スカリエッティと及びその一味、

ミッドチルダを蹂躙しようとするあの人たちをなんとしても止めなあかん!」

 

「全力で行こう。これが最終決戦!」

 

―――○●○―――

 

衛星軌道上まで上昇を開始してしばらくしたころ。異常が発生した。

外の映像を見れば、黒い塊がこっちに向かって来ているのが映っていた。

分身を作ってヴィヴィオの傍にいさせ、ゆりかごの外へと出た。

―――いるな。リゼヴィムおじさんとリリス、父さんと母さん。

 

「イッセー」

 

背後からヴァーリが声を掛けてきた。イリナとオーフィス、リーラもいる。

 

「量産型の邪龍はこの戦艦でも対応できる。私たちは主力を潰しにかかろう」

 

「ああ、そうするつもりだ。―――俺は父さんと母さんとしよう」

 

「イッセーくん・・・・・」

 

不安げな顔でイリナが俺の名前を漏らした。俺のことを心配しているんだろうな。

 

「大丈夫だ。俺にはお前らがいる。―――前に進まないとダメなんだよな」

 

俺の視界に黒い塊とは別に、飛来してくる集団が飛び込んできた。管理局か。

 

「一誠さま、あの者たちは私が」

 

「リーラ?」

 

彼女が買って出た。だけど、彼女はメイドだ。力のないはずだ。

 

「ご安心を、私には力がございます」

 

「・・・・・どういうことだ?」

 

俺の心を読むのは彼女にとってたやすいことだろうけど、

俺は彼女の発言に怪訝な気持ちで問いかけた。

今日まで、リーラは戦闘に関わるようなことは絶対になかった。

彼女は俺や他の皆の世話を重視に動いてくれているが―――。

 

「もう、主の帰りを待つだけのメイドではいたくないのです」

 

虚空から一冊の本が発現した。剣十字の紋章が施されている本だ。

 

「それは・・・・・?」

 

「―――今から十年前です。誠さまと一香さまが脈絡もなしにこの一冊の本を渡されました」

 

・・・・・あの二人らしいことだな。俺もいきなりわからないものを貰ったことがあったし。

それはもう無くなっているけどさ。

 

「一香さまが言うには人と融合する人格がいると仰っておりましたが、

その人格は力を失っており、このままでは一誠さまをお守りすることはできません」

 

そう言って俺に本を差し伸べてくる。

 

「一誠さま、一誠さまの気と魔力をこの本とリーラにお与えてください」

 

「・・・・・」

 

本気か?視線でリーラに問いかければ真剣な面持ちで頷いた。

時に物凄く頑固になるから俺でも頑固になった彼女には折れるしかない。

―――今がその時なんだよな。心中で苦笑して、彼女が持つ本に気と魔力を与えた。

すると、本が鼓動を打ち始めた。やがて、発光したと思えば消失した。

 

「ありがとうございます」

 

一歩二歩下がったリーラは本を開いた。また本が発光しだして光はリーラの前に集束した。

それは次第に人の形へと成り、姿を現した。銀色の長髪に赤い瞳の少女だった。

外見から見て言えば十代後半ぐらいだろうか?

 

「・・・・・誰?」

 

訊ねれば、少女は自己紹介をした。

 

「初めまして。私はリインフォース・アインス。我が主リーラ・シャルンホルストの主よ」

 

なんだかセルベリアみたいな人が現れたー。

 

「アレイン。敵が迫っています。すぐに迎撃をしましょう」

 

「わかりました。初戦闘ですが、大丈夫ですか?」

 

「この命、この身は全て一誠さまに捧げ、

一誠さまのためならば一誠さまの敵を排除と心掛けています」

 

リーラの言葉にリインフォース・アインスは小さく笑んだ。

 

「その意志、何時何時も変わらないですね。―――主リーラ、参りましょう」

 

全身に魔力で覆い、リーラに向かった。魔力に包まれたリーラが変化を始める。

メイド服が弾け瞬時に黒が基調とした衣服を纏い、束ねていた銀髪がストレートになり、

背中から三対六枚の黒い翼が生え出した。リーラの瞳も赤と成る―――。というか、リーラの容姿が

アインスになったと言うべきだろう。

 

「では、行って参ります」

 

宙に浮き、彼女は管理局たちの方へ飛んで行った。

その光景を見送った後は、量産型邪龍軍団の方へと飛翔する。

 

―――リーラside―――

 

多くの赤いダガーを発現し、空を飛ぶ魔導士たちに放って迎撃。一誠さまの邪魔をする者は、

これ以上先にはいきません。腕を突き出して手の平の先に白銀の魔力を集束し、

一気に解き放った。レーザー状に撃った魔力は敵を呑みこみ、次々と落ちていく。

 

「数が多いですね・・・・・」

 

ポツリと漏らしていると、ゆりかごからガジェットドローンが

続々と出て来ては敵に襲いかかっていく。

これなら、無理に相手をする必要も―――。と、思っていたら気合の入った女性の声が聞こえ。

防御魔方陣を展開すると、魔方陣は剣を防いだ。

その剣の持ち主は桃色の髪をポニーテールにした女性でした。

 

「・・・・・っ」

 

その女性の顔に驚愕、当惑の色が浮かんでいました。

 

「・・・・・なぜ、なぜあなたがここにいる。―――初代リインフォース」

 

「・・・・・」

 

この人はアインスを知っている・・・・・?

 

『ええ、我が主よ。この者は私と同じ存在だった。私はとある事情で本来消失するはずでしたが、

ある男性と女性の手によって運命は変えられたのです』

 

それが―――誠さまと一香さま、ということですね。

 

「答えろ、初代」

 

彼女はさらに力を籠めてくる。彼女の問いかけに私は答えた。

 

「残念ながら、私はリインフォースではございません」

 

「なん・・・・・だと?」

 

防御魔方陣を展開している手と別の手を彼女に突き出して、

 

「私はリーラ・シャルンホルスト。主一誠さまに付き従うメイドでございます」

 

極太の魔力を放って攻撃。彼女は私の一撃から間一髪でかわして距離を取っていると、

周囲から仲間と思しき者たちが集結した。

 

「おい・・・・・これは何の冗談だよ・・・・・!」

 

「まさか・・・・・そんな・・・・・」

 

「・・・・・」

 

アインス、あの者たちもあなたと同じ存在ですか?

 

『はい、懐かしいですね。既に柔軟の月日が流れていると言うのに・・・・・彼女たち四人は

守護騎士ヴォルケンリッターと総称しています。ポニーテールの女性は「烈火の将」シグナム、

赤い服を身に包む少女は「鉄槌の騎士」ヴィータ、金髪の女性は「湖の騎士」シャマル、

頭に獣の耳が生えている男性は「盾の守護獣」ザフィーラです』

 

「答えろ!どうしてお前が、お前がここにいるんだよ!

あの時、あの時はお前は消えたはずじゃなかったのかよ!?」

 

鉄槌の騎士が叫ぶ。アインス、どうしますか?

 

『・・・・・主の意のままに。私は一度消失した身。言葉を交わす必要はないです』

 

・・・・・分かりました。手を天に向かって伸ばし、魔方陣を展開する。

 

「リインフォースッ!」

 

「―――デアボリック・エミッション」

 

私を中心に魔力攻撃は広がり、守護騎士たちに迫る。

 

「―――デアボリック・アミッションッ!」

 

「っ!」

 

私と同じ魔力攻撃が目の前に発動して私の魔力攻撃と相殺し、爆発した。

爆発で発生した煙は直ぐに風でなくなり眼前の光景が視界に映る。

守護騎士たちの他に新たな敵がいた。

 

『・・・・・懐かしい』

 

アインスが漏らす。

 

『主はやてと小さな勇者たち・・・・・』

 

アインスが懐かしげに漏らす。小さな勇者とは誰のことか分かりませんが、

目の前にいる敵は皆、アインスと関わりのある者たちだということは理解しました。

 

「リインフォース・・・・・」

 

背中に私と同じ黒い翼を生やす少女が懐かしげに、悲痛の色を浮かべながら近づいてきた。

 

「ほんまに、リインフォースやな・・・・・?」

 

その問いに私は沈黙で貫く。―――アインス、融合を解除しましょう。

 

『主・・・・・!?』

 

強制解除。そうすれば、私は一瞬の光に包まれ、

元の姿に戻り、足元に足場として魔方陣を展開し、少女に向かって話しかけた。

 

「私はリーラ・シャルンホルストでございます。以御お見知りおきを」

 

「リーラ・・・・・シャルンホルスト・・・・・?」

 

「先ほどまでの姿はあなた方が存じ上げているリインフォースは、

確かにこの本の中に存在しています」

 

―――剣十字の紋章がある白銀の本を見せ付ける。少女たちはこの本を見て様々な反応をする。

 

「できれば、あなたがたと戦いは避けたい。どうか、退いてはもらえませんか?

私たちはあのゆりかごで、この世界を蹂躙しようとしている

あの敵を倒すために起動させたのです」

 

視線を一誠さまたちの方へ。何度も気や魔力が肉眼で捉え、ゆりかごからは

量産型の邪龍たちを屠るために砲撃が絶え間なく続いていますが、それでも攻撃を受けている。

 

「この世界に住むあなた方もこの世界を蹂躙されたくはないでしょう。

敵の敵は味方、共にあのドラゴンたちとドラゴンを操っている者たちを倒しませんか?」

 

『・・・・・』

 

「その沈黙は肯定と受け取りますが・・・・・答えは?」

 

面々に問いかけますと、少女が口を開いた。

 

「質問や。その本は一体どこで手に入れたん」

 

「この戦いが全て終えれば、全て答えます」

 

「ジェイル・スカリエッティと戦闘機人とどういう関係や」

 

「その質問も同じ答えです。いまは共に戦い、世界を守ることが先決では?」

 

少女は沈黙し、しばし無言で私を見据える。

 

「さあ、どうしますか?」

 

催促する。目の前の少女は辺りに眼だけ動かして戦況の状況を脳裏で把握、

確認して―――ようやく口を開いた。

 

―――○●○―――

 

「ギンガ、あんまり無茶するなよ!」

 

「分かってる!」

 

リゼヴィムおじさんと父さんと母さん、リリスの他、

邪龍たちが来たかと思えばそうじゃなかった。

―――クリフォトメンバーと思しき悪魔たちもいた。中には魔法使いたちも現れている。

 

「数が多いとこれほどまでに面倒だな」

 

「でも、全部倒さないとこの世界が危ないわ!」

 

ヴァーリとイリナが敵を倒しながら言う。俺も十人の分身を作って倒しているが、

如何せん数が多いったらありゃしない。その上―――。

 

『再戦といこうじゃねぇかっ!』

 

グレンデルと鉢合わせしてしまった。悪魔と魔法使いたちがゆりかごへ迫っているし、

侵入を許している。だが、あの中はAMFで充満しているから魔力、

魔法を使うことは至難するはずだ。状況はとても有利とは言えないが・・・・・。

 

『イッセー、私たちを現世に出してくれ』

 

クロウ・クルワッハ・・・・・。

 

『大丈夫だ。お前を心配するようなヘマはしない』

 

『グレンデルは俺が相手をしてやる。お前はさっさとケリを着けてこい』

 

ティア、アジ・ダハーカ。お前らまで・・・・・。

 

『『主、お願いします』』』

 

『ここで戦力を出し惜しみすればお前らは負けるが?

それに、どうやらあのグレンデルだけじゃなさそうだぞ?』

 

メリア、ゾラードに続いてネメシスが意味深なことを言う。

巨大な魔方陣が突如に出現したかと思えば―――巨大な大地が出現した!

その巨大な大地から再び量産型の邪龍たちが現れる最中、

俺の目の前に真帆ず院が出現して―――巨大な木の姿をしたドラゴンが出現した。

 

『ほう・・・・・これは懐かしい奴も現れたな』

 

アジ・ダハーカがそう言う。くぼみがあるところは怪しく赤く煌めいている。

あれは眼光なんだろう。

 

『兵藤一誠ですね?初めまして「宝樹の護封龍(インソムニアック・ドラゴン)」ラードゥンと申します』

 

「お前も邪龍なのか?」

 

『ええ、グレンデルやあなたの内にいる邪龍たちと同じ存在です。

私は主に結界、障壁を担当しておりまして―――』

 

刹那、俺は多重の結界に閉じ込められた。

 

『このように、あなたを封じることが得意なのです』

 

これは・・・・・パワータイプがもっとも苦手そうだな。

 

「はいはい、そこで幻想殺しっと」

 

黒い籠手を装着して結界に触れれば、ガラスが割れたように結界が割れた。

 

『なるほど・・・・・聞き及んでいた無効化の力ですか。

ならば、別の方法であなたを封じましょう』

 

そう言って赤い眼光はとある方へ向けた。俺もラードゥンが視線を向けている場所へとみれば、

魔力で道を構築しているギンガがいた。あいつの意図に気付いた俺は飛び掛かる。

 

『おっと、テメェの相手は俺だぜぇッ!』

 

グレンデルが俺を阻んだ。が、分身がグレンデルの横から飛び蹴りをして蹴り飛ばした。

その隙の時間で―――ギンガはラードゥンに捕獲されていた。

 

『動かないでくださいね?』

 

「・・・・・お前、自慢の結界と障壁じゃない方法で動きを封じるなんて、護封の名が泣くぞ」

 

『でしたら、この人間に構わず私を攻撃すればいいですよ?

まあ、私が結界を圧縮して殺す方が早いですがね』

 

言葉通り、ギンガを包む結界が段々と小さくなり、ギンガに圧迫を与えた。

 

「・・・・・っ」

 

手も足も出ない。ラードゥンは優越感を感じているようで、笑みをこぼしていた。

 

『さてさて、あなたは一体どう動くのか楽しみですねぇ?』

 

・・・・・こうするんだよ。禁手(バランス・ブレイカー)と呟き、透明化と成り、

ラードゥンの視界から消えれば、一気にギンガへ接近して結界を通り越し、

ギンガを抱き締め、結界から通り抜く。

 

『なに・・・・・?』

 

案の定、ラードゥンは呆然とした面持ちで呟いた。

透明化を解除してラードゥンの前に姿を現す。

 

「ギンガ、大丈夫か?」

 

「う、うん・・・・・」

 

「良かった。安心した」

 

―――ネメシスの言う通り、戦力を惜しみ出したら負けか。

そう思い、周囲に複数の龍門(ドラゴン・ゲート)を展開した。

 

「ゾラード、ラードゥンの相手をしてくれ」

 

『ああ、了解した』

 

「他の皆は邪龍どもを倒してくれ」

 

俺の言葉に魔方陣から出現したメリアたちが応答した。

 

「一誠、グレンデルとラードゥンが欲しいか?」

 

クロウ・クルワッハが俺に問いかけてきた。あの二匹の邪龍か・・・・・。

 

「そうだな・・・・・うん、欲しいな。頼めれるか?」

 

「お前の頼みを叶えられないほど、私は弱くなどない」

 

それだけ言い残し、クロウ・クルワッハは俺の分身と戦っているグレンデルへ向かった。

 

『んなら、俺はラードゥンだな』

 

『「魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザント・ドラゴン)」アジ・ダハーカ・・・・・』

 

警戒の色が急に濃くなり、アジ・ダハーカの名前を唸るように漏らした直後。

 

『ふははは!お前の得意の結界と障壁は我が千の魔法の前では無意味だ!』

 

嬉々として、アジ・ダハーカがラードゥンに襲いかかる。途中で結界に封じられるが、

呆気なく結界が解除されて二匹の邪龍は激突した。ゾラードたちは各々と動き始め、

量産型の邪龍たちへ攻撃を仕掛けた。

 

「イッセーくん・・・・・あなたは一体・・・・・」

 

「俺は俺だ。ギンガ」

 

戦いはまだ終わっていない。それに、まだ見ぬ父さんたちはどこへ―――?

と思ったら上空に映像が空一面に広がりだした。

 

『―――んちゃっ♪うひゃうひゃうひゃうひゃうひゃっ!皆のアイドル、リゼヴィムおじさんです☆

皆、初めまして、あるいはお久しぶり!なんだか、大変なことになっちゃっているだろうけど、

説明なしではなんだから俺が直々に説明してあげようかなって思った次第です!

ほら、敵方が説明するのがこういうのってお約束でしょ?こちらが不利になっても

種明かしするのがお約束じゃん』

 

リゼヴィムおじさん!?いや・・・・・最後の方は違うと思うのは俺だけだろうか?

あるいはそこをこんな状況で突っ込みたいと不謹慎な思いをしているのは俺だけだろうか?

だが、どうして急にあのヒトが映像に・・・・・?

 

『今上空に飛んでいる大きな船、物凄いよね!俺、一目で物凄く興奮しちゃったぜい!』

 

・・・・・嫌な予感が感じ始めた。この場に父さんたちがいないことも今ようやく理解した。

あのヒトは朗らかに爆弾を言い放った。

 

『なんでも、この船って衛星軌道上まで上昇して、

二つの月からの魔力供給を受ける事で次元跳躍攻撃や亜空間内での戦闘も可能になるほどの

性能を発揮する事ができるってさっき、快く教えてくれた科学者から聞いたんだよねー?

だーかーらー、俺たちがハイジャックしちゃいました!』

 

な・・・・・んだとぉっ!?映像は切り替わり―――魔法で構築した縄により

拘束されているジェイル・スカリエッティを含む11人のナンバーズ、ウーノたちが映しだした!

そして王座にいるヴィヴィオの傍には父さんと母さん、リリスまでもがいた。

 

『うひゃひゃひゃっ!この船、俺たちクリフォトがもらうねー?

そうすれば、この世界をあっという間に蹂躙できちゃうって凄いよね!

流石は異世界!こんな便利なアイテムがあるなんてほんとすんばらしぃー!』

 

「・・・・・っ」

 

『さーて、この船でこの世界を爆撃をしちゃうぜぃっ!

でもでも、軌道上まで上昇する時間がありそうだから

この船の中にゲストとして招待しちゃいましょう!

―――坊ちゃん、一人でこの船の中においで?この船の中で坊ちゃんのパパンとママンが

待っているからさー。早く来ないと、坊ちゃんの大事なお友だちが死んじゃうかもよー?』

 

それだけ言って映像が消失した。

 

「イッセーくん・・・・・」

 

「・・・・・行ってくる。皆を殺させない」

 

亜空間から封龍剣を取り出してギンガに手渡す。

 

「これを分身の俺に渡してくれ」

 

「え・・・・・?」

 

「後は頼んだ」

 

彼女から離れて奪われたゆりかご内へと転移魔方陣で侵入する。

ステルスの力で無機物に潜行して皆がいる場所まで移動し―――リゼヴィムおじさんに

飛び蹴りを食らわした。

 

「久し振りだな、一誠」

 

「信じていたわ。あなたが生きていることをね」

 

嬉しそうに父さんと母さんが笑んだ。

 

「イッセー!」

 

その二人の背後にいる皆、セインが俺を呼んで叫ぶ。

 

「お前ら、大丈夫か?」

 

「ああ、すまない。見ての通り捕まってしまった」

 

トーレが自嘲する。俺は首を横に振る。気にするなと。

 

「相手が悪過ぎるんだ。―――いま、助けてやる。待っていてくれ」

 

闘気を纏い、父さんと母さんと対峙する。

 

「好い目だ。誰かを守りたい気持ちがヒシヒシと伝わる」

 

「こうして戦うのはこれで二度目ね。あなたを殺したあの時以来・・・・・」

 

父さんは気を、母さんは魔力を纏いだした。

五大魔王と神、神王、堕天使の総督が二人と戦ってようやく互角と訊いた。

それが今じゃ俺は一人だ。この二人に勝てるかどうかの問題じゃない。―――皆を助けるんだ!

 

「行くぞ、感卦法!」

 

相反する力を融合させ、一気に二人へと迫った。あの二人は互いの気と魔力を合わせて―――。

 

「「感卦法」」

 

俺と同じスタイルで俺に迫ったのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode14

ドラゴンの身体で二人と戦うのは初めてだ。今回は毒を盛られていなく、

万全な状態で戦うことができる。

二人との経験の差は埋まることはない。それが証拠とばかり、

一方的に攻撃され防戦一方だった。

十二枚の翼と九本の尾を生やして応戦しても、容易くかわされ攻撃される。

拳を突き出せば、父さんも嬉々として拳を放って俺の拳をぶつけてくる。

母さんが背後に現れて魔力弾を放ってくる。翼で母さんに向けて放って応戦し、

息を吐く間もないほど激しい戦闘が繰り広げる。

体勢を低くして刃状にした翼を振るっても防がれたりかわされたり。

 

「っ・・・・・」

 

新しい体、新しい力を得てもこの二人に届く気がしない。

どこまで、どこまで二人との距離は遠いんだ。

リゼヴィムおじさんよりこの二人の方がラスボスって感じがするって。

 

「ほらほら、もっと速くするぞ」

 

父さんはそう言って攻撃の速度、移動速度を上げた。俺も負けずに速くするも二対一だ。

母さんが数多の魔方陣を展開して全ての属性魔法を放って、俺の動きを一瞬でも動きを

止めたらその隙に父さんの拳。遠距離と近距離の攻撃が絶妙すぎるって・・・・・!

 

『あの二人と戦った時?・・・・・そうだな。二人はコンビで戦っていたな。

片時から離れようとはしなかった。まるで強い鎖にでも結ばれているかのようだった。

二人相手に戦う時は別れさせて戦うべきかもな』

 

アザゼルから聞いた父さんと母さんと戦った心境。その時のことが脳裏に浮かんだ。

・・・・・その手を使ってみるか。金色の軍杖を亜空間から取り出して呪文を呟き、

俺を含めて十一人の分身を作った。

 

「お?」

 

父さんが不思議そうに漏らした。―――五人五人で父さんと母さんに飛び掛かり、

ちょっとずつ二人を別れさせる。

すると、さっきまで苦戦していた戦いが嘘のようにやりやすくなった。―――これなら!

 

「なるほど、一香と別れさせて潰す気だな?」

 

ニヤリと父さんが口の端を吊り上げた。

 

「その程度の考えで、俺と一香が離れさせられると思ったか?」

 

思っていない。当思った瞬間だった。

父さんが横に腕を突き出して極太の気のエネルギー砲を放った。

逆に向こうからレーザー状の魔力が現れて二つの相反する力がぶつかり爆発する。

 

「くっ・・・・・!?」

 

衝撃に備えて構えていると、次々に分身が消されていく感じが伝わった。

この二人・・・・・マジで強い・・・・・!

 

「俺と一香は離れていても意志の疎通ができる。だから一香の考えが手の取るように分かれば、

俺の考えも一香に分かり、これから成すことを伝え合い実行できるんだ」

 

「どれだけ話されていても、私と誠は心から通じ合っているの。

一誠、あなたは誰と通じ合えているのかしら?」

 

・・・・・そこまできているのか。この二人は・・・・・。

 

「それって、何時できたんだ?」

 

「割と早かったよな?」

 

「そうね。別に修行してできるようになった訳でもなく、

互いが求め合っていると自然とできちゃったのよね。だから、誠が他の女と楽しく喋っている

余所に脳裏で考えていることが筒抜けで・・・・・いやん♪」

 

おい、そこで何恥ずかしがっているんだよ・・・・・。

父さんも照れくさそうにしないでくれよ。

 

「・・・・・俺の場合、一方的に心を読まれる」

 

「「一誠が尻に敷かれている・・・・・」」

 

うっさい!というか敷かれてなんかない!二人に飛びかかって気と魔力の砲撃をした。

二人も気と魔力を放って俺の攻撃と鍔迫り合いする。

 

「ははは!楽しいな、一誠との戦いは!」

 

「式森の魔法が解放されて強くなっているからかしらね」

 

「「でも、まだまだ」」

 

―――っ、徐々に押され始める。あの二人、まさか本気も出していないのか・・・・・!?

 

「全力だ・・・・・!」

 

気と魔力を放っている手に炎と雷を纏う。

 

「滅龍奥義!九焔爆炎雷刃っっっ!」

 

両腕とを螺旋状に振るった!最初は一つの螺旋状だったけど、

途中で分身したかのように九つに増えて、爆炎の螺旋状は真っ直ぐ二人に向う。

 

「「っ!?」」

 

父さんと母さんの攻撃を呑みこみながら俺の一撃は襲いかかった!

その上、気と魔力も付加されているから―――。

 

「一香!」

 

「ええ!」

 

二人が互いの手を握り締め合い、

 

「「はぁっ!」」

 

魔力と気が融合している砲撃を放って・・・・・俺の一撃を呆気なく弾き返して俺に迫った。

防御魔方陣を展開して、防いでいたら真横から音もなく

父さんと母さんが現れて―――気と魔力の攻撃を食らった。

 

「―――瞬間、回復!」

 

百代の流派の一つを使い、ダメージを回復させた。

 

「ダメージが回復した・・・・・?」

 

「気が減ったな。なるほど、気でダメージを回復したのか」

 

百代、お前の技をここで使わせてもらう。

 

「無双正拳突き!」

 

「むっ!?」

 

必殺技に昇華した正拳突きが父さんの手の平に炸裂した。そのまま―――!

 

「五十連無双正拳突き!」

 

宙に穴を広げて突っ込めば、父さんの腹部に別の穴が開いて、

その穴から俺の拳が父さんの腹部に直撃した直後、連続の衝撃を受けながら吹っ飛んでいった。

 

「誠!?」

 

ガシッ!

 

母さんを抱き締め、

 

「大爆発」

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

体を爆発させ、母さんに大ダメージを与えた。自身のダメージは瞬間回復で回復。

それから後ろへ跳躍、離れて警戒して様子を窺う。

 

「・・・・・」

 

しばらくして―――。

 

「久し振りだよ。こんなに痛みを感じたのは」

 

俺が人間爆弾をして発生した煙から父さんが姿を現す。口の端から血を流していた。

 

「一香、大丈夫か?」

 

「ええ・・・・・至近距離からの大爆発なんて、初めて経験したわ」

 

服がボロボロだが、それでも健在とか・・・・・この親はありえねぇ・・・・・。

 

「誠、そろそろ全力で戦わない?」

 

「そうだな。俺たちに一撃を与えた一誠に教えよう。

アザゼルたちでさえさせることはなかった俺たちの全力を」

 

・・・・・マジで?そう思っていたら、父さんと母さんが纏う闘気と魔力が段違いにも

跳ね上がったと思うと手を握り締め合った。気と魔力がうねり合い、次第に二人の姿を隠した。

 

カッ!

 

一瞬の閃光が発した。腕で目を覆い、眩い光を遮っていれば、気と魔力が消失した。

 

「・・・・・は?」

 

そこに誰かがいた。というか、見覚えのないヒトだった。

男か女か、性別でさえ判断できないヒトが。

 

「・・・・・父さんと、母さん?」

 

「「この姿は兵藤家の気と式森家の魔力が一時的に融合した姿。

だが、飛躍的に力は増大、高まっている」」

 

「―――っ!?」

 

俺は目を見張った。父さんと母さんが融合した姿を見たからじゃない。

唐突で俺の腹部に拳が突き刺さっているからだ。ま、まったく反応できなかった・・・・・。

 

「「一誠、この姿を見せたのは様々な神話体系の神と戦って以来だ。

あの三大勢力戦争では見せたことがない」」

 

「ぐはっ・・・・・!」

 

それだけの挙動で俺は呆気なく壁まで吹っ飛んだ。

ほ、本当、こんな呆気なく・・・・・!?

 

「「この姿を保てる時間は限られている。一誠、その時間まで、持ち堪えてみなさい。

―――全力で」」

 

それから、俺は歯牙も掛けず、融合した父さんと母さんの攻撃を食らい続けた。

攻撃、速度が遥かに俺を上回っている・・・・・!

 

―――セインside―――

 

イッセーが手も足も出なくなっている。

イッセーの家族が一つと成った結果、飛躍的に力が上昇したのが誰から見ても明らかだった。

 

ドッガアァアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

「イッセー・・・・・ッ!」

 

壁にまで吹き飛んで壁に激突したイッセー。

その直後、イッセーが戦意を失わず自分の両親へ飛びかかった。

それでも、イッセーの両親の方が圧倒的に強く、何度も倒されては立ち上がって

戦い続けるの繰り返し。

 

「「どうした、もうお終いか?」」

 

「っ・・・・・」

 

ダメージは自己再生して怪我は見当たらないけれど、焦っているのがなんとなく分かった。

イッセーは苦虫を噛み潰したかのような表情と成っている。

 

「「一誠、気付いているか?」」

 

何にだろう?そう思うとイッセーに指した。

 

「「戦意は感じる。でも、両親に対する殺意が感じられない。

それでは守りたいものを守れない」」

 

「っ!」

 

それは無理があるよ・・・・・。大好きだった両親を殺すなんて、

誰が簡単にできるんだよ。イッセーだってそうなんだ。

 

「「もうお互い親子ではないんだ。全力で殺しに来い」」

 

イッセーの足元に魔方陣が出現した。

魔方陣から幾重の鎖が飛び出してきてイッセーの全身を絡め、拘束した。

 

「「それができないんなら、もう一度―――死なそう」」

 

手元を光らせ、イッセーに跳びかかった。あのままじゃ、イッセーが死んじゃう。

そんなのダメ、ダメだ。両手を拘束された状態でも私のISは発動できる。

―――ディープダイバー!無機物の中へ潜行してイッセーのところへ移動し、

 

「イッセー!」

 

「セイン・・・・・!?」

 

刹那、私の身体に衝撃が伝わった。同時に激痛が体全体から感じて

思わずイッセーの身体にしな垂れる。

ああ・・・・・ちょっと、痛いかな・・・・・。

 

「お前・・・・・どうして・・・・・!」

 

「はは・・・・・イッセーを死なせたくなかったから、

そう思ったら体が動いてイッセーを守りに来ちゃった」

 

「―――バカ・・・・・っ!」

 

バカなんてひどいな・・・・・イッセーを守りたかったのに・・・・・。

体から何かが抜かれて段々と眠たくなってきた。

 

「ねえ、イッセー・・・・・」

 

「なん、だよ・・・・・」

 

「私、イッセーと過ごした時間・・・・・とても楽しかったよ」

 

不意に体中が温かくて柔らかい何かに包まれた。

これは、イッセーの翼で寝た時と同じだ・・・・・。

 

「でも、今日でお終いなんだね・・・・・」

 

「違う・・・・・これからも続くんだよ・・・・・」

 

「はは、じゃあ、たまに私と二人きりでどっかに出かけよう?」

 

「ああ・・・・・約束だ」

 

うん、約束だよ・・・・・。最後にアレ、しようかな。

イッセーの首に腕を回して引き寄せると、

 

チュッ・・・・・。

 

私はイッセーの唇を自分の唇で重ねた。それを最後に私は意識を失った。

 

―――一誠side―――

 

腹部に空いた穴を治癒して塞いだら、セインがキスしてきた。

静かに寝息を立てているセインはまだ生きている。

 

バキンッ!

 

強引に鎖を引き千切り、セインを抱き抱えてトーレたちのところへと移動する。

 

「セインを頼む」

 

「あ、ああ・・・・・」

 

トーレにセインを任せて父さんたちの前に対峙した。

 

「・・・・・」

 

許さない・・・・・。それが心の中で一杯になった。俺の大切なヒトを父さんたちは二度も・・・・・。

だから―――もう、この人たちは俺の親じゃない。俺の敵だ。

 

「殺す・・・・・殺してやる・・・・・!」

 

だから、だから―――!

 

「この場で、この世界で死ぬ覚悟はあるんだろうなぁあああああああああああああああっ!?」

 

体から膨大な魔力と闘気が噴き上がる!腕が魔力と気に覆われて黒い装甲と成っていく。

 

「「なに・・・・・それは・・・・・」」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

―――源氏side―――

 

「一誠の魂が・・・・・どうなっている・・・・・!?」

 

一つの蝋燭だけ激しく燃え上がり、火が黒く染まっている。

兵藤家の魂の火は全て赤なのに、一誠の魂の火は黒く染まりつつある。

 

「こんなことは、今までになかった・・・・・一誠、

お前自身に何が起きていると言うのだ・・・・・!」

 

―――和樹side―――

 

「っ!?」

 

突然感じたこの魔力。今は授業中で僕は反射的に窓の外へと視線を向けた。

 

「和樹さん、どうしたんですか?」

 

龍牙が声を殺して声を掛けてきた。どうやら、この魔力を感じているのは僕だけのようだ。

この今まで感じたことがない魔力の質・・・・・気になる。

 

「先生、僕トイレに行ってきます」

 

それだけ言い残して、先生の声を無視して教室から出た。

 

―――アザゼルside―――

 

「なんだ、この魔力は・・・・・?」

 

異世界を繋げる穴から感じるこのプレッシャーもだ。辺りを見渡しても変化はない。

こっちの世界は無害ということか。だが、あっちの世界では一体なにが起きている・・・・・。

 

「アザゼル先生!」

 

俺を呼ぶ声だ。声がした方へ振り向けば、式森和樹が浮遊魔法で俺に近づいてきた。

 

「和樹、なんでここに?」

 

学校にいたはずだ、と暗に訊ねると。

 

「この魔力を感じていてもたってもいられないですよ」

 

ああ、そういうことか。この魔力を感じてきたんだな。リアスたちは・・・・・来ないか。

 

「和樹、異世界に行ってくれるか?」

 

「分かりました。一誠のことも気になりますし、様子を見に行ってきます」

 

頼んだぞ。

 

―――○●○―――

 

―――イリナside―――

 

量産型邪龍を後もう一息ってところで感じたこの魔力。

敵も味方も関係なく動きを止めて―――ゆりかごの方へと視線を向けた。

 

「ぐ・・・・・!?」

 

すると、イッセーくんの分身たちが次々と消えて行っちゃった!

中にはイッセーくんの武器、大剣を持っていたイッセーくんが消えちゃったから、

大剣は海へと落ちていく。そんな落ちていく大剣はリーラさんが受け止めた。ナイスキャッチ!

 

「一体なにが・・・・・」

 

そう思っていると、ゆりかごから巨大な黒い腕が突き出てきた・・・・・ってええええええ!?

 

「な、なに!?どうなっているのぉっ!?」

 

「さあ、分からないが・・・・・どうなっているんだろうな」

 

幼馴染のヴァーリが寄ってきながら言うと、ゆりかごに開いた穴から誰かが出てきた。

 

「うひゃー!なんなんだよ、あの坊ちゃんは!何だか危なそうだから逃げちゃおうぜ!」

 

「急展開なオンパレードが豊富な奴だな」

 

―――ヴァーリのお祖父さん!それとリリス!

 

「リゼヴィム!」

 

「およ、ヴァーリちゃん」

 

逃走をしようとしていた敵が私たちの前で立ち止まった。

 

「貴様、あの中で何が起きている」

 

「んー?俺もよく分からないんだよねー。坊ちゃんがキレたと思うと、

魔力の塊になっちゃったんだよ」

 

魔力の塊・・・・・?どういうことなんだかさっぱり分からないでいる

私にゆりかごがさらに壊れて行った。それからまた誰かが逃げるように出てきた。

―――おじさまとおばさまだ!一拍して、二人に迫る黒い塊が見えた。

おじさまとおばさまは気と魔力で迎撃しながら高速で動いているけど、

黒い塊の方が素早く動き、おじさまとおばさまにそれぞれ攻撃をしている。

 

「あれが正体か・・・・・」

 

「そうみたいだね。でも・・・・・誰なんだろう?」

 

「いや、アレは坊ちゃんだぜ?」

 

イッセーくん・・・・・!?ヴァーリのお祖父さんの発言に驚いた私の視界に、

おじさまとおばさまが近づいてきた。

 

「およよ、結構派手にやられたねー」

 

「ええ・・・・・まさか、こんなことになるなんて思いもしなかったわ」

 

「一誠、何かに目覚めたな・・・・・今は暴走状態みたいだが・・・・・」

 

見たことがないぐらいボロボロなおじさまとおばさま。

そんな二人の前に、私たちの前に黒い塊が音もなく現れた。

 

―――っ。

 

姿はまさしくイッセーくんだった。でも、両手と両腕を覆う黒い籠手。

背中に紋章状の翼を三対六枚も生やしていて、髪の色が真紅じゃなくて真っ黒・・・・・。

瞳が片方だけ真紅だった。

 

「イッセー・・・・・なのか?」

 

ヴァーリも信じられない面持ちでイッセーくんを見つめる。

 

「今の一誠に近づかない方が身のためだよ」

 

おじさまが私たちに警告した。だけど、そんな事を言われても・・・・・。

 

『主・・・・・?』

 

『おい、なんだその姿は・・・・・?』

 

「一誠、お前は・・・・・」

 

イッセーくんのドラゴンたちが集まって来た。イッセーくんの変わり果てた姿に皆、

不思議がって、当惑していた。

 

「――――――」

 

次の瞬間。イッセーくんの体が桃色の縄に縛られた。だ、誰の仕業!?

 

「なんだか、大変なことになっちゃったみたいだね」

 

茶髪のサイドテールの女性が私の視界に入って来た。

 

「イッセーくん・・・・・!」

 

ギンガさんも、管理局の人たちまで集まって来た。

この状況、イッセーくんが敵になっちゃったような雰囲気だよ・・・・・。

イッセーくんは桃色の縄を強引に引き千切った瞬間、また桃色の縄に拘束された。

 

「―――俺の邪魔を、するな」

 

「大人しくして、今のキミはとても危険だよ」

 

「上等だ。あいつらを殺せるなら、世界を敵に回しても構わない」

 

―――初めて見る狂気の笑み。

 

『主!気を確かにするんだ!』

 

ゾラードが叱咤する。イッセーくんはそんなゾラードにキョトンとする。

 

「俺は正気だぞ?どんどん体の奥底から溢れてくるこの力に

振り回されがちだが―――ぐっ・・・・・!」

 

不意に、イッセーくんが苦痛に顔を歪ませた。

見れば、顔に紋様が浮かびあがってイッセーくんの顔を埋め尽くしていく。

そして、体から禍々しい魔力が荒れ狂い、桃色の縄がまた千切れた。

 

「ぐうううううううううっ・・・・・・!」

 

イッセーくんがとても苦しそう・・・・・っ!

 

「―――ああ、そう言えば」

 

ヴァーリのお祖父さんが何か思い出したかのように発した。

 

「むかーし、パパンから聞いた話だったんだけど悪魔とは違う魔の種族がいたんだっけ。

確か、魔人って言う種族だったな」

 

「魔人?」

 

「おうよ。実際、この目で見たことがないけどさ、俺たち純血悪魔たちが元七十二柱になる前より

ずっと前に存在していたらしいぜ?そいつら、悪魔のように魔力を持っていて人の姿を

していたってさ。因みに、それを見習って、古の悪魔も人の姿でいるようになったんだぜ?」

 

そんな種族がいるなんて、今まで知らなかった。

 

「なーるほど、坊ちゃんは魔人の力を宿していたんだねー。

でも、どーして坊ちゃんなのか不思議でしょうがない。

生みの親である坊ちゃんのパパンとママンにもあんな感じになるかな?」

 

「いや、それはないと思うよ。多分だが・・・・・相反し合う力を

宿した一誠だからこそだと思う」

 

「んじゃ、坊ちゃんのパパンたちの家が何らかの理由で魔人を封印して、

先祖返りでもしたんじゃない?魔人ってそれなりに強かったって聞いたしさ」

 

先祖返り・・・・・。そんなこと、本当に起こるものなの?

イッセーくんを見れば、全身で息をしていた。

―――背中に紋章状の四対八枚の黒い翼に増え、腰辺りに尾も生えていた。

 

「おー、坊ちゃんは見事にビフォーアフターしてんじゃん。

さてさて、魔人の強さは一体どのぐらい―――」

 

ヴァーリのお祖父さんが好奇心に呟いたけど、

 

ドッ!

 

「・・・・・およ?」

 

あのヒトの腕が宙を回った。・・・・・え?

 

「ととと、どうなっているんだ?」

 

ヴァーリのお祖父さんは両断された腕を掴んで自分の腕をくっつけながら言った。

 

「く」

 

「・・・・・?」

 

「くくくっ」

 

イッセー・・・・・くん?

 

「くはははははははっ!」

 

唐突にイッセーくんが笑い始めた。全身から禍々しい魔力を放ちながら。

 

「なんだ、この力は・・・・・!?いい、実にいい。

これなら、これなら、俺は誰にも負けない!この力ならば、皆を守れるじゃないか!」

 

真紅の双眸を妖しく煌めかせ、狂ったかのようにイッセーくんは笑い続ける。

 

「・・・・・リゼヴィムさま」

 

「んん?」

 

「今の一誠はかなり危険だ。ここは退いた方がいい」

 

「そうなの?」

 

おじさまが腕を上げて前へ振り下ろした直後、

まだいる量産型の邪龍が一斉にイッセーくんに襲いかかった。

 

「―――雑魚が、お前らじゃ物足りないんだよ」

 

イッセーくんが腕を横薙ぎった瞬間だった。量産型の邪龍たちが勝手に爆発した。

 

「おおう・・・・・」

 

「生と死、どっちが所望で?」

 

「もちろん、生だぜぃ!」

 

ヴァーリのお祖父さんが高らかに発現した時、足元に魔方陣が出現して光に包まれた。

逃げるつもり―――!

 

ガシッ!

 

「逃がすと思ったか?」

 

「―――っ!」

 

イッセーくんはおばさまの首を掴んで不敵に笑んだ。

 

「一香!?」

 

「―――先に戻って!」

 

おばさまは、おじさまやヴァーリのお祖父さん、リリスをどこかへ転移した。

その刹那、おばさまの腹部がイッセーくんの魔力で吹き飛んで、

上半身だけの状態と成った・・・・・っ!

 

「これで、新たな一誠が死んだな?」

 

「・・・・・ふふ・・・・・っ」

 

「・・・・・?」

 

おばさまは笑い出す。上半身だけと成っているのに・・・・・。

 

「どうやら、私は運が良いようね」

 

その意味は直ぐに分かった。イッセーくんに飛来する数多の巨大な魔力の塊が襲い掛かった。

 

「ちっ」

 

イッセーくんは目を煌めかせ、襲いかかる巨大な魔力の塊を暴発させた時、

おばさまが手をイッセーくんの顔に向けて魔力を放った。

首から手が離れた瞬間、おばさまが転移魔方陣で姿を消した。

すると、それに呼応して巨大な大地が魔方陣の中へと沈んでこの世界からなくなった。

 

「―――一誠!」

 

「・・・・・和樹か」

 

し、式森くん!?どうして、この世界にきたの!?

 

「一誠・・・・・その姿は一体・・・・・」

 

「さあな。だが、そんなことはどうでもいい。―――どうして、兵藤一香を殺すのを邪魔をした?」

 

「・・・・・っ!?」

 

式森くんが驚愕した。目が大きく見開いて、口を開いた。

 

「一誠、自分の両親を殺そうとしたの?」

 

「敵だぞ?倒すなり殺すなり、個人の自由だろう?」

 

「それは・・・・・」

 

「くくくっ!和樹、この力を感じてくれ。俺は新たな力が手に入ったんだ」

 

黒いオーラが隠しようがないほど体から出てくる。

とても、私が知るイッセーくんじゃない力だ。

 

「俺も式森家の魔法、魔力の力を使えるようになったんだ」

 

「な、なんだって・・・・・?」

 

「そうだ―――。和樹、俺の相手をしてくれないか?式森家のお前と魔法合戦をしてみたい」

 

そう言うなり、イッセーくんは式森くんに向かって黒い魔力を放った。

突然のイッセーくんの言動に式森くんは驚愕しながらも防御魔方陣を展開して迎撃し始める。

 

「い、一誠!?」

 

「ははははっ!俺自身の力だ!俺の魔法だ!ドラゴンの力じゃない、俺の力だぁっ!」

 

―――狂っている。今のイッセーくんは間違いなく、狂っている!なんとか、止めないと!

 

「・・・・・一度だけ、一誠さまは仰っていました」

 

「リーラさん?」

 

「和樹さまのように魔法が使えれたらいいなと、羨ましそうに言っておりました。

いま、一誠さまは魔法の力を得れて、喜んでおりますでしょう。

ですが・・・・・今の一誠さまはその力に溺れてしまっています。

私たちを守れる力が得れたことに歓喜して・・・・・」

 

背中に三対六枚の黒い翼を生やして、リーラさんはイッセーくんに向かって行った。

 

「「・・・・・」」

 

私とヴァーリは顔を見合わせる。

 

「イッセーくん、止めないと」

 

「当然だ」

 

「我も」

 

あっ、オーフィスちゃん。うん、そうだね。大好きなイッセーくんを止めないと!

そう意気込んだ私の肩に手を置く人が現れた。

 

「いえ、ここは私に任せてください」

 

「え・・・・・?」

 

頭に二本の角を生やしたメイドが私の横を通り過ぎて、イッセーくんに向かって―――攻撃した。

 

「この、なに暴走しちゃっているんですかぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ウリュウ・・・・・!?」

 

イッセーくんが驚愕の色を浮かべた。うん、確か原始龍って言う龍のメイドの龍だったわね!

 

「ちょっと、お仕置きをします」

 

「なっ!?」

 

どこからともなく振り上げた黄金のハリセン!え、あれでお仕置き?とてもじゃないけど、

イッセーくんの力で吹き飛んじゃいそう・・・・・。

 

「そんなの、当たってたまるか!」

 

案の定、イッセーくんは魔力をレーザー状にウリュウさんにはなった。

対するウリュウさんは、避ける素振りもせず、巨大なハリセンを思いっきり振り下ろした。

すると、どうでしょうか。イッセーくんの魔力が弾けて、そのまま―――イッセくんに直撃した。

 

「光になりなさい!」

 

「―――――ッッッ!?」

 

バンッ!とイッセーくんは鈍い音と共に海へ真っ逆さまに落ちて行っちゃった!

しばらくして、遥か下の海面から水しぶきが上がったのが何とか見えた。

 

『・・・・・・』

 

たった一発のハリセンで、決着がついた。私たちはただただ、唖然としているだけでいた。

いい仕事をしたとばかりウリュウさんは腕で額を拭う。

 

「さて、あのヒトを連れて異世界に戻りましょう」

 

「えっと・・・・・どうしてあなたがここに?」

 

「どうしてもなにも、あのヒトが暴走しちゃっていましたから、

原始龍さまの命により、お仕置きをしにきたんですよ」

 

ああ、そういうことなんだ。納得していると、ゆりかごがこっちに向かってきた。

取り敢えず・・・・・世界は守れたかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――devils.―――

 

「一香・・・・・大丈夫か?」

 

「ええ、なんとか。ユーグリットくん、ありがとうね」

 

「あなたというものがあそこまで負傷して帰って来た時は驚きましたよ。

この―――聖杯がなければどうなっていたことやら」

 

「しかし、リゼヴィムさまが言う魔の種族、

魔人か・・・・・我が息子にそんな種族の力があったとは」

 

「というより、兵藤家と式森家の力が原因で目覚めたのかもしれないわね」

 

「・・・・・だとすれば、俺たちの家は何か隠しているな。

兵藤家と式森家の者同士が子を作ってはならない理由が他にもなにかある」

 

「調べてみる価値がありそうね。ユーグリットくん、手伝ってちょうだい」

 

「準備が整い次第でいいならば」

 

―――???―――

 

「同族が、同族の力が目覚めたようだ」

 

「あの一族からか。それは好ましいことだ」

 

「我らを差別した冥界の悪魔どもにも復讐の時が近い。

同じ魔でありながら、我らを弾いた古の悪魔どもに」

 

「まだ戦力が足りない。気付かれず戦力を整えるぞ。―――冥界を我が手に」

 

「「「「「冥界を我が手に」」」」」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode15

「・・・・・う」

 

体が重い・・・・・。それに頭がズキズキと痛い・・・・・。

目を開けて目の前の光景を眺めると、

 

「・・・・・」

 

オーフィスがジーと俺を見下ろしていた。うん、これは何時もの光景だな。

 

「・・・・・イッセー、起きた?」

 

「ああ・・・・・起きた」

 

俺の身体を跨って見下ろしているオーフィス。体が重いのはオーフィスの重みだったわけか。

 

「オーフィス、ここは・・・・・?」

 

「ゆりかごの中。我ら、元の世界に戻っている」

 

・・・・・戻ったか。だとすれば、外は賑やかになっているだろうな。

 

「皆は?あーいや、皆のところへ行こう」

 

「ん、分かった」

 

体を起こそうとしたが、力が入らない。魔方陣を展開して、

オーフィスに手伝ってもらいながら乗っかって皆のところへ。

いざ、皆がいる場所へ入ると―――。

 

『・・・・・』

 

視線が一身に浴びる結果と成った。そして、俺の名前を発しながら戦闘機人、

ウーノたちが駆け寄ってきた。

 

「イッセー、心配したんだよ!」

 

「大丈夫?」

 

「もう、急に雰囲気とか態度がガラリと変わっちゃったから驚いちゃったわぁー」

 

「傷はないっスね。はー、安心したっス」

 

心配してくれているんだと、申し訳なくなった。

 

「悪い、心配掛けた」

 

「ううん。助けてくれたんだから気にしないで」

 

セインが笑みを浮かべて言う。そこへ、何故か和樹が近づいてきた。

 

「一誠、大丈夫?」

 

「・・・・・和樹、どうしてお前がここに?」

 

「え?」

 

「ん?」

 

和樹の反応におかしいと俺は首を傾げる。すると、リーラが話しかけてきた。

 

「一誠さま、もしかして記憶がございませんか?」

 

「記憶・・・・・?・・・・・たしか、父さんと母さんを追いかけたところまでは

覚えているけど・・・・・あれ、その後の記憶がないぞ・・・・・?」

 

『・・・・・』

 

俺の発言にこの場が静まり返った。

 

「まさか、あの状態になってから一誠は・・・・・?」

 

「だと、思います」

 

なんだか、俺は大変なことをしたようだな・・・・・。頬をポリポリと掻いていたら、

 

「おう、イッセー。無事でなによりだ」

 

「お帰り、イッセーちゃん」

 

冥界と天界のトップたちが声を掛けてきた。

 

「ただいま・・・・・この状況はどうなっているんだ?」

 

「ああ、イッセーたちがリゼヴィムとの戦いを終えた直後、

異世界の繋がる道が閉じちゃいそうだったから急いで和樹に通信して、

この世界に戻ってきてくれたのは良いんだけどよ。

まさか、この船ごと戻ってくるなんて思いもしなかったぜ。閉じかけた道にこの船の機能なのか、

次元を跳躍してこっちの世界へ強引に潜って来たんだ。

そんで今後どうしようか検討していたんだよ」

 

・・・・・改めて周りを見渡そう。ジェイル・スカリエッティを含め、十二人の戦闘機人が

揃っている。そして―――何故かいる管理局、機動六課のメンバーまでもがいた!

勿論、ギンガもいる。

 

「なんで、六課の奴らもいるんだ?」

 

「私たちを捕まえようとゆりかごに入って来たのさ。

だが、その最中に私たちはキミの世界に跳躍してしまい、

ミッドチルダに変える手段がないままこの世界に来た。旅は道連れ世は情け、ってね」

 

肩を竦めるジェイル・スカリエッティ。

 

「あの世界に繋げていた結晶はどうなった?」

 

「何とか回収できたが、もう魔力がないただの石になった」

 

アザゼルは一つのレリックを見せてくれた。輝きが失っているレリックを。

 

「もう二度と、あんな現象が起こらずあの異世界に繋げることもできないだろうさ」

 

「私と娘たちはキミの世話になろうかと思っているが、管理局はどうする気だろうね」

 

高町なのはたちはさっきから一言も喋らず、どうしようかと苦悩の色を浮かべている。

 

「次元のことならガイアに頼んでみる。もしかしたら、

ミッドチルダの世界を見つけてくれるかもしれない」

 

「まあ、妥当だな。んで、こいつらをどうするんだ?

個人的に異世界の魔法を見聞してみたいんだがな」

 

瞳をキュピーンと光らせ、高町なのはたちを見据える。研究者の血が騒いだか?

 

「それは本人たちの意思によって決まるわけだ。えーと、じゃあ高町なのは」

 

「・・・・・何かな」

 

「お前はどうしたい?この世界でお前たちはしばらく生きるしかないが?」

 

「・・・・・次元広域犯罪者のジェイル・スカリエッティを逮捕したいところなんだけど」

 

「それは元の世界での話だ。この世界でその務めは無意味だな。

お前たちの行動はこの世界じゃ通用しないから」

 

指摘すれば、彼女は口を噤んだ。

 

「この世界でのジェイル・スカリエッティはただのマッドサイエンティスト。

十二人の戦闘機人はただの少女と女性。お前たち管理局も少年、少女としか認知されない。

結果、この世界で管理局としての仕事は無化される」

 

「それじゃあ・・・・・この世界で生きるにしても私たちは生きる手段がないよ。

身分も、衣食住、お金もない私たちにどうしろというの?」

 

何を簡単なことを・・・・・。アザゼルやユーストマ、フォーベシイを一瞥して言った。

 

「因みにこの世界のことを管理局はどう認識しているんだ?」

 

「まだ調査団も編成中だったし、管理世界にするか、

管理外世界にするかも判断を下されていないから分からないかな」

 

なるほど、じゃあちょっとだけ自己紹介しようか。ユーストマに視線を送りながら言う。

 

「浴衣を着ている男性は神王ユーストマ。天使を束ねる天界という異世界の王さまだ」

 

「おう、よろしくな」

 

「黒い服を身に包んでいる銀髪の男性は悪魔を束ねる王さま、フォーベシイ」

 

「よろしくね」

 

「んで、いかにも悪戯好きそうな顔をしている浴衣を着ている

おっさんは堕天使を束ねる総督のアザゼルだ」

 

「おい、俺だけ自己紹介が雑過ぎるだろう」

 

と、こんな感じだ。高町なのはを真っ直ぐ見据える。

 

「この三人はそれぞれ偉い立場にいる。

だから、この三人に誠心誠意を籠めて頼めばお前たちの衣食住の援助をしてくれると思うぞ?」

 

『・・・・・』

 

高町なのはたちが顔を見合わせて無言でいることしばらくして、一人の女性が頭を下げた。

 

「お願いします。身寄りのない私たちに助けてください。できることならば協力も惜しみません」

 

「うん、いいよ」

 

あっさりとフォーベシイが了承した。だから、女性は呆けた顔を浮かべた。

フォーベシイは俺に苦笑を浮かべる。

 

「イッセーちゃんも人が悪いね。

こんなことしなくてもイッセーちゃんは彼女たちを助けるだろう?」

 

「立場を改めさせたいだけだ。どっちが従う立場なのか、さ」

 

意地の悪い笑みを浮かべ、俺は頭を下げた女性に向かって訊ねた。

 

「できることなら協力は惜しまないって言ったな?」

 

「・・・・・そうや」

 

「じゃあ、異世界の魔法の知識とそのデバイスの構造を俺たちに提供してくれ。

その代わり、俺たちもできる限りお前たちの力と成る。勿論、ミッドチルダに帰る方法も探す」

 

「本当やな?」

 

嘘は吐かないさ。肯定と首を縦に振った。

 

「時間は掛かるだろうけどな。お前たちが生きている間は見つけてみせる」

 

「・・・・・おおきにな」

 

女性はお辞儀をする。女性に続いて他の六課のメンバーもお辞儀をした。

 

「さて、話はこの辺にしてこの船を冥界に転送したい。

何時までも人間界に置くわけにもいかないからね」

 

「それからどうするつもりだい?」

 

「勿論、調査をするためだ。大丈夫、壊したりはしないさ。

ただ、キミの説明を求める時もあるだろうからその時は私たちに応じてくれると嬉しい」

 

異世界の巨大な戦艦。この世界にとって、異世界の技術で作られたこの船から

新たな技術の発展と成りうるかもしれない。さらに異世界の科学者と開発者である

ジェイル・スカリエッティという人材も欠かせないだろう。ジェイル・スカリエッティは

フォーベシイの言葉に頷き、快く応じた。

 

「んじゃ、本題に入ろうか」

 

不意に真剣な面持ちと成ったアザゼルが俺に視線を向ける。

 

「イッセーお前、式森家の魔法を扱えるようになったんだってな。リーラから全部聞いた」

 

「ああ、そうだ」

 

「んで、悪魔の他にも魔の種族がいるとリゼヴィムの野郎が言ってたそうだ」

 

それは知らない。だからどうしたんだ?小首を傾げると、

アザゼルが頭をガリガリと頭を引っ掻いた。

 

「そいつらのことは俺も知らない。が、現魔王ルシファーたちの父、

元魔王だったルシファーたちの時代に生きていたフォーベシイが

その魔の種族の存在を確認しているそうなんだよ」

 

その言葉でフォーベシイに視線が向けられた。フォーベシイは重々しく頷く。

 

「純血の悪魔、七十二柱が元という称されるより前の事だ。

アザゼルちゃんを筆頭とする堕天使たち、グリゴリが誕生する前に冥界には

二つの魔の種族がいた。一つは私たち悪魔だ。そして、もう一つは魔人」

 

「魔人・・・・・?」

 

「人でもない、悪魔でもない、言わば半端な種族だ。

悪魔、魔法使いのように魔力を扱えるけど、当時はそれほど脅威でもなかった。

半端な人でも悪魔でもない種族が同じ冥界に生きることなど前魔王たち、

ルシファーたちは許せずにね、魔人たちを冥界から人間界へ追いやったんだ。

二度と冥界に入れないように施してね」

 

・・・・・その魔人たちはどんな思いでいたんだろうな。

 

「それから魔人たちはどこかに身を潜んだ。その後の行方は今現在、把握できていない。

だが、魔人は悪魔同様に寿命は永遠に近い命でね。きっとまだあの時人間界へ追いやられた

魔人たちは生きているんだと思うよ。

恨み、復讐を心に抱いてね」

 

顔を暗くして漏らすフォーベシイに、場の雰囲気は静寂に包まれた。

 

「イッセーちゃんは何らかの理由で魔人の力を宿してしまった。

その理由は私でも分からないけど、きっと魔人たちはイッセーちゃんを狙いに来るだろう。

だから、気を付けてほしい」

 

「・・・・・分かった。でも、魔人は俺を狙う理由って―――」

 

あるのか?そして、どうしてなんだ?と言おうと口を開こうとした瞬間。

俺は不意に察知して、とあるほうへ魔力弾を放った。

 

「―――おっとっと、流石。もう気付いたのね」

 

『っ!?』

 

女の声だった。俺が放った魔力弾は、俺の背後へ向かったが、

声からして受け止められたようだ。

 

「しかも、私に向けて放ったこれ、軽い。もしかして、遠慮してくれたとか?」

 

「・・・・・想像に任せるよ」

 

「ふふっ!じゃあ、そうさせてもらうわ」

 

バシュンッ!と弾けたような音がした。改めて後ろを見た。一体いつの間に入って来たのか、

黒と入り混じった紫のロングストレートの少女。

黒い瞳、肌を覗ける首や頬にかけて刺青のような紋様、

身長は少女にしては割と高い、170ぐらいある。

 

「個人的にあなたとはこうして会うのは初めて。

でも、あなたとしては懐かしく久し振りでしょう。魔王フォーベシイ?」

 

「―――まさか、キミは・・・・・ッ!」

 

フォーベシイが席から立ち上がった。魔王の様子からしておかしいのは一目瞭然で

この少女とどこかで出会ったのだろうか?二人を交互に見ていると、リーラがポツリと呟いた。

 

「その顔の紋様は・・・・・一誠さまと同じものですね」

 

「へえ、そこまで覚醒したんだ?うんうん。―――同族として嬉しい限りだわ」

 

「・・・・・魔人」

 

魔人・・・・・?この少女が?そうなのかとリーラに視線を送れば首肯した。

 

「ええ、確かに一誠さまのお顔に黒い刺青がありました。

まさか、それが魔人の証だとは・・・・・」

 

「でも不思議ね。力が覚醒したなら、

顔に浮かんでいるはずなのに・・・・・どうなっているのかな?」

 

魔人の少女は悠然と歩を進めてくる。

立ち上がって警戒する俺ににっこりと安心させるように笑みを浮かべ出す。

 

「―――イッセーちゃんに何か用かい」

 

俺の横に音もなくフォーベシイが移動してき、て何時でも攻撃できるように魔力まで発現した。

こんなフォーベシイは初めて見るから目をパチクリとしてしまう。

 

「安心してちょうだい?今日は魔人の力を覚醒した人物の顔を見に来ただけ。

―――冥界から追い出された我が一族の想いを果たすまでは動くつもりはないの」

 

「・・・・・やはり、あの時のことを」

 

「私たちのような世代にはちんぷんかんぷんな話だけどね」

 

肩を竦め「迷惑な話よね」と、溜息混じりで言う。

 

「だけど、酷い話しだってことは分かるわ。

なにも、故郷から追い出さなくてもって良いじゃないって話よ」

 

「・・・・・こんなこと言ってもキミたちには通用しないだろうけど、

私は反対したよ。同じ冥界に住む者同士、種は違えど同じ魔の存在だと、

前魔王たちに説得した」

 

「結果、その説得は聞き受けてもらえず、私たち魔人は故郷から追い出された」

 

魔人とフォーベシイ+前魔王の間に深い溝が生まれている。

なんとなくだけどそれが理解できた。

 

「今の魔王たちは違う。前魔王の子供たちだ。彼女たちは話が分かる娘たちだよ?」

 

「私に言われても仕方がないわ。そう言うことは古き魔人たちに言って。

居場所を教えるつもりはないけど」

 

「まだ故郷に帰りたいならば、私たち魔王はキミたちを出迎えるつもりだ。

互いに争いはしたくないはずだよ?」

 

「私はそうね。でも、それで何百何千年も間、故郷を追い出された古き魔人たちが、

はいそうですかって納得できないわよ。―――前魔王と古き時代から存在している悪魔たちを

根絶やしにするまで、魔人たちはあなたたちを許さない。

これが古き魔人たちの想い、だそうよ」

 

ある意味、真魔王派みたいな発言だな。

そうなると、リアス・グレモリーたちの世代の子供の親が対象と成るわけか・・・・・。

 

「・・・・・争いは避けれないか」

 

「遠からず、必ずね。えーと、そこのキミ」

 

俺に声を掛けてきた。「名前は何?」と問われ、「イッセー・D・スカーレット」と名乗れば。

 

「そう、名前と顔、覚えたわ。それに・・・・・結構イイ男じゃない。私好みのタイプ♪」

 

『んなっ!?』

 

背後からイリナたちの声が聞こえた。

 

「ケータイ、持っている?」

 

「持っているけど・・・・・魔人は近代の機械を持ち歩いているのか?」

 

「私たち魔人の姿が姿だしね。学校にも通っているよ」

 

・・・・・不思議な一族だな。彼女は徐に携帯を取り出して俺に突き付けた。

 

「メルアド、交換しましょう?」

 

「断わる理由もないし・・・・・変なメールをするなよ?」

 

「しないしない。なんなら、愛の告白メールでも送ろうか?」

 

悪戯っ子め。彼女とは赤外線でメルアドを交換し合った。

 

「そう言えば、あなたって学校に通っているの?」

 

「していない。俺は世間から死んだことになっているし」

 

「あらま、そうなの?んじゃ、家に籠ってばかりじゃつまらないんじゃないの?」

 

そうでもないと首を横に振った。というか、暇を感じる暇さえもないんじゃないか?

 

「そう言えば、次期人王おめでとう」

 

「・・・・・は?」

 

「私たち魔人もあの夏に開催された次期人王を決める大会に参加していたのよね。

まあ、どっかの強大な一撃であっさりと敗北しちゃったわけなんだけど」

 

『・・・・・』

 

彼女の問いに視線が一身に俺へ向けられることに嫌でも分かった。―――俺だ!

 

「でも、思い起こせば当然の結果でしょうね。

兵藤家か式森家のどっちかが人王になる可能性が高いんだから」

 

「俺たちのこと、知っているのか?」

 

「うん」

 

彼女は当然のように頷いた。それから俺の耳にとんでもない爆弾発言を聞くこととなった。

 

「だって、兵藤家と式森家って元を辿れば―――私たち魔人の一族から抜けた一人の魔人が

とある人間の間に生まれた子供のさらに生まれた双子がそれぞれ兵藤と式森の者と結婚、

婿入りした結果で魔人の血が流れているんですもの」

 

―――○●○―――

 

 

「ねえ・・・・・一誠」

 

「なんだ、和樹」

 

魔人の少女は俺たちに爆弾発言を発した後、帰っていった。

久し振りに帰った我が家に入った瞬間に、久し振りに再会した家族に色々とされ、遭って、

ようやく一段落したところで和樹に話し掛けられた。

 

「僕と一誠、兵藤と式森に魔人の血、力があるんだね」

 

「だから俺は魔人化になったんだろうな。それが良い証拠だ」

 

「一誠は式森家の魔法を使えるようになったから魔人になったんじゃなくて、

兵藤家と式森家の力が一つになったから魔人になったんだと僕はそう思うよ」

 

「魔人の力がどっちか一つでも封印されたら魔人になれなくどころか、

封印しないと相反し合う力によって周囲を巻き込みながら消滅してしまうリスク・・・・・。

なんか、謎だらけのことがピースのように嵌っていく感じがしてきた」

 

人間の体である限り、相反し合う力に耐えきれないんだろう。ドラゴンの身体の俺だから

耐えきれ、魔人化になった。式森家の魔法を使えるようになったからのも理由の一つか。

 

「一誠が魔人の状態で魔法を放ってきた威力、凄まじかったよ。あれが魔人の力だとすると、

冥界にいる悪魔たちはただじゃ済まされない。

最悪、最上級悪魔クラスの悪魔だって倒されるかも」

 

「昔はそれほどでもないってフォーベシイが言っていたが、現在の魔人の力は計り知れない。

はぁ・・・・・リゼヴィムおじさんで忙しいって言うのにここに来て魔人か」

 

「僕は親が同じ魔法使いだから魔人になることは絶対にないけど、

一誠は兵藤と式森の間で生まれ、魔人の力を覚醒した」

 

「兵藤と式森が魔人から生まれた事実だってのも知れた」

 

「・・・・・こんなこと、僕たちの家の現当主に言えないよ」

 

「何時かバレるだろうがな」

 

はあ・・・・・と和樹と一緒に溜息を吐いた。俺たちどこまでも切るに切れない関係だな。

 

「取り敢えず、魔人たちはまだ動かないことだけは分かった。

いまは、リゼヴィムおじさんたちに目を向けよう」

 

「うん、そうだね。異世界は蹂躙されたけど、二度と思い通りにはさせない」

 

互いに拳を突き出し、軽くぶつけあった。

魔人の存在・・・・・これから魔人たちの動きで俺たちは

どう左右され動くんだろうか・・・・・。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Life×Life
Life1


ミッドチルダから帰還して家でのんびりしていた俺だった。

この家の前に新たな家が建てられた。

その家はウーノたち、ナンバーズの家だ。外に出なくても家の中からこの家に行き来できるよう

転移用魔方陣の術式を施していて、何時でも玄関から入ってこられるようになっている。

管理局はウーノたちの家の隣の家だ。彼女たちの家も同様に転移式魔方陣の術式を施している。

毎日のようにウーノたちは異世界の町中を自由に闊歩している。俺の分身と一緒にな。

目を瞑って分身に意識を飛ばせば―――。

 

『イッセー!』

 

『弟よ、姉はクレープを所望するぞ』

 

『いやー、楽しいっスねー』

 

『あ、この服・・・・・可愛いかも』

 

まあ、皆と楽しく動いているなー。麦茶でも飲もうかなって思い、目を開けた次の瞬間。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

目の前に、黒歌がいた。こいつ、気を隠していたな。珍しく美猴までもがいた。

 

「にゃん♪」

 

「にゃん」

 

猫言葉には猫言葉、言っても分からないけどな。さて、なにしに来たんだ?

 

「ねーねー、イッセー。ちょーっとあなたの九尾を借りたいんだけど」

 

「羽衣狐を?それはまた珍しい。んで、その理由は?」

 

「ここにいない銀華も誘うんだけど、今夜ねお墓に行くんにゃん」

 

墓・・・・・?しかも夜にって・・・・・何を仕出かすんだ?

美猴にそう視線を送れば、あいつは俺の視線の意味に気付いたようで、朗らかに言った。

 

「運動会だ」

 

「・・・・・運動会」

 

「そ、妖怪、妖魔だけの運動会にゃん。まあ、私は悪魔に転生したから白音同様、

妖怪じゃないけど運動会をしに行くのにゃん」

 

よるーのはかばでうんどうかい・・・・・って歌がどこからともなく・・・・・。

 

「だから羽衣狐と銀華も誘うって?」

 

「そうそう。相手が相手だし、戦力が必要なのよねー。

もう、ここんとこ負け越しが多くてそろそろ勝ちたいのよ」

 

なんだか黒歌がやる気だ。と、こいつはそう言うけどお前はどうなんだ?

 

『妖怪だけの運動会のぉ・・・・・。まあ、妾の力が欲しいと言うなら、

参加してやらんこともないがな』

 

「参加するって」

 

「ほんと?ありがとうにゃん♪」

 

俺に抱きつき、すりすりと頬を俺の顔に擦る。

 

「美猴、相手ってどんな奴なんだ?」

 

「日本に妖怪がいるように、他んとこにも妖怪がいるってことだぜぇい」

 

・・・・・まさか、

 

「中国妖怪?」

 

美猴と黒歌は正解だと首を縦に振った。うわー、あの国の妖怪かよ。

 

「四凶、四神、四霊の奴らも来るのか?」

 

「「・・・・・」」

 

問いかけたら二人は頬を引き攣らせた。

 

「お前・・・・・各神話体系の他にそんな奴らと会っていたんかよ」

 

「もう、イッセーは驚かすビックリ箱そのものにゃん」

 

だから、それは父さんと母さんに付いて行ったからそうなったんだよ!

 

「んまあ、何人か運動会の審判として、運営係としてくるぜぃ」

 

「・・・・・マジか」

 

「マジよ。あ、なんならイッセーも出るにゃん?イッセーはドラゴンだし、

特別に参加できるかもしれないかもよ?」

 

ドラゴンって妖魔扱いされるもんなのかな・・・・・。

だとすれば、邪龍たちも妖魔扱いになるんだが。

 

「・・・・・妖魔か」

 

「どうしたにゃん?」

 

「妖怪、妖魔なら誰でも誘っていいのか?」

 

「ええ、いいわよ?」

 

なるほど・・・・・じゃあ、あの先輩を呼ぼう。そう思い携帯を手にして通信を入れた―――。

 

 

 

 

時間はあっという間に過ぎ、黒歌と美猴に付いて行く形でとある某墓場へ。

 

「・・・・・」

 

『・・・・・』

 

そんな俺の腕に離れようとしないでしがみ付く先輩、―――安倍清芽に背後から

物凄い怒気のオーラを放ってくるのが俺の家族である(ヴァーリチームも同行)。

 

「あー、先輩。そろっと離れては・・・・・」

 

「嫌です・・・・・この私を悲しませた代償は高いですのよ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

そんな事を言われ、結局俺は彼女の好きにさせることしかできないでいる。

というか、俺の生存は一部の者しか知らない。

 

「どうして、甦ったのであれば、報告をしてくださらなかったのですか?」

 

「・・・・・色々と忙しくて」

 

苦しい言い訳だ。だけど、そう言うしかないんだ。

 

「兵藤くん・・・・・色々と変わっているのですね」

 

「まあ・・・・・な」

 

「でも・・・・・あなたはあなたですよね?」

 

潤った瞳を俺に向けてくる先輩。そんな先輩を安心させるために栗毛の頭を撫でる。

 

「ああ、俺は俺だ。先輩が知っている俺は変わらず傍にいるよ」

 

「・・・・・っ」

 

先輩は一度は目を見開いて、俺を見つめる。でも、俺の腕を絡める腕に力を籠め、

そのまま無言で歩を進める。

 

「イッセーの魅力に、落ちたわね」

 

「あらあらうふふ。リアスが嫉妬していますわ」

 

「・・・・・否定しないわ」

 

「というか、イッセーって人気あるんだな」

 

「そうっスよ。もう、ここにいる皆はイッセーくんにメロメロっス!」

 

「そうっスかぁー。シアもそうなんっスか?」

 

ウェンディの問いに、シアは「そうっス!」と元気よく答えた。

何だかこの二人は直ぐに意気投合したから仲良しになった。

さて、黒歌と美猴に付いて行くことしばらくして、ようやく目的地へとたどり着いた。

途中、体に違和感を感じたが目の前の光景を目の当たりしてそれどころではなかった。

 

『うわ・・・・・』

 

そこはまさしく奇人変人怪奇に満ち溢れていた。

二手に分かれるように今か今かと様々な妖怪たちが待ち構えていて、その時を待っていた。

強大な力のオーラすら当たり前のように周囲へ放っている。

 

「ここは・・・・・天国ですわ・・・・・!」

 

魔物使いの先輩にとって、魔物だらけの場に居合わせて聖地とも過言ではないだろう。

目がキラキラと輝いているしな。新たな魔物を契約できたらいいな。魔物使いの先輩だから

こうして運動会に招いたわけだ。

 

「こんなに妖怪が集っているなんて・・・・・生まれて初めて見たわ」

 

「凄いですね・・・・・妖気が密集していますよ・・・・・」

 

「あ、悪魔の俺たちがここにいていいのかって思っちゃうぜ・・・・・」

 

「は、はい・・・・・私もそう思います」

 

悪魔側のリアス・グレモリーたちが緊張の面持ちでいる。

実際に俺もこんな光景を見るのは―――何度かある。

 

「んじゃ、俺はこっちだから」

 

「じゃーねー」

 

美猴は俺たちと別れて、密集している妖怪たちの方へ行った。

 

「どうしてあいつはあっちだ?」

 

「孫悟空の力を受け継いでいるから、必然的に中国の妖怪としてあのお猿さんは

そっち(中国)の方へ行っちゃうのよん。この手の祭りみたいなこと、

美猴にとっては欠かせない楽しみの一つだしね。毎回この運動会に顔を出しているわよ?」

 

「それは知らなかったな・・・・・」

 

ヴァーリが呟いた。いや、それはここにいるメンバーもそうだろう。

 

「白音、白音はこの運動会を参加するのは初めてだろうけど、

元妖怪としてこのイベントには出ないといけないの。強制じゃないけど、

中国妖怪に舐められてばっかだと日本の妖怪の存在意義が薄れてしまうにゃん」

 

「・・・・・そうなのですか」

 

「現に中国妖怪の方が何度も勝っているからね。日本妖怪も負けちゃいないけど、

向こうは化け物揃い。主に武闘派が多い」

 

「あー、確かにそう言う奴らは多いわね。戦いに対する容赦ないのが特に」

 

銀華までもが首肯した。黒歌に続いて行けば、何やら狐耳を生やし、

狐の尻尾を腰から垂らしているヒトの方へと進み、

巫女服を着た九本の狐尾を生やしている女性へと案内された。

 

「にゃー、お久しぶり」

 

「ん?おお、猫魈の。此度も来てくれたか」

 

「今回は助っ人と観客たちも連れてきたにゃ」

 

黒歌が横に動いて、俺たちの姿を女性に覗かせた。―――あっ、この人は。

 

「九尾のお姉さん」

 

「・・・・・もしや、坊やか?」

 

「ああ、兵藤一誠だよ。今はこんな姿だけど、久し振り」

 

久しく会う九尾のお姉さん。九尾のお姉さんは俺を見て目を丸くし、

それから微笑んで俺に抱きついてきた。

 

「次期人王決定戦でのお前の戦いを見ておった。

色々と忙しくお前に会いに行けなくて残念だった上に、坊やが死んだと聞いてショックも

受けたのだが・・・・・こうして私の前に元気な姿で現れてくれて・・・・・」

 

「ごめんね。心配掛けて」

 

「いや、気にしていない。寧ろ、お前の両親のことが気になっておる。坊やよ・・・・・」

 

心配そうに俺の頬を両手で挟むように添えてきた。

 

「親が子の敵になるとは、その心情を私は計りしれぬ。坊や、辛いだろうに・・・・・」

 

「辛くないといえば、嘘になるけど。もう、クヨクヨなんてしていられない。前に進まないと」

 

「おお・・・・・そうか・・・・・坊やは強いのぉ」

 

なんか感動したのか、九尾のお姉さんは俺の後頭部に腕を回してきてあろうことか、

巫女服から飛び出んばかりの豊満な胸の谷間へと押し付けては頭を撫で始める。

 

「むぐっ・・・・・!」

 

「よしよし・・・・・」

 

本人は慰め、褒めているつもりだろうが・・・・・俺は生き地獄を味わわされている。

 

『デ、デカ・・・・・ッ!』

 

後ろから絶句、驚愕の声音が聞こえてきた。というか、そろそろ意識が・・・・・。

 

「―――九尾の御大将、八坂さま。一誠さまが苦しがっておられます」

 

と、そこへ後ろに引っ張られる形で九尾のお姉さんの胸から解放された。

 

「む、お主はリーラと言ったな。久しいの」

 

「八坂さまもお変わらずのご様子で」

 

「それは互い様じゃろう。が、苦労しておるな」

 

「一誠さまを支えるのがメイドの、私の本望ですので苦労など感じたことなど

一度たりとも御座いません」

 

リーラ・・・・・。

 

「九重さまは?」

 

「うむ、今日は連れてきておる。まだ早いんじゃが、娘が言う事を聞かなくての」

 

えーと・・・・・九重って・・・・・あのちっちゃい女の子だったかな?

リーラと九尾のお姉さんは徐に周囲へ顔を動かす。

 

「いないようですが?」

 

「うむ、目を離した隙にいなくなったのじゃ。いま、捜索をしているが・・・・・」

 

「や、八坂さま!一大事でございます!」

 

そこへ黒い翼を羽ばたかせ空から舞い降りた初老の男性。

九尾のお姉さんは初老の男性の言葉に反応して訊ねた。

 

「どうした?」

 

「姫が、姫が中国妖怪の虎人と言い合いを始めてしまいましたぁっ!」

 

「な、なんと!?」

 

慌てだした九尾のお姉さん。周りの妖怪を掻き分けながら、

前へ前へと走り出して―――五メートルほどの身長がある頭が虎の獣人とちっちゃい

九本の尾を生やしている巫女服の幼女を発見した。

 

『んだとぉ!?もういっぺん言いやがれ!』

 

「何度も言う!お前は妾たち妖怪に負けるのじゃ!」

 

『日本の妖怪どもはよわっちぃのしかいねぇんだろう?それがこの俺さまに勝つってのか!

笑わせてくれる!』

 

「日本の妖怪は皆、心優しくて強いのじゃ!お前みたいな力しか興味ない乱暴な獣に、

負けるわけ無いのじゃ!」

 

日本と中国の妖怪の言い合い。こんな場所で国際問題になっているじゃん。

 

『んだったら、てめぇが証明してみろよぉ』

 

ニヤリと嫌な笑みを浮かべた獣人の身体に変化が起きた。

獣人の体がどんどん膨れ上がるように大きくなり、体の大きさが倍と成った。

 

『この俺さまを倒して見やがれ、狐のガキ!』

 

あろうことか、獣人が拳を幼い子供に振り下ろした。その刹那、我が子を守ろうとした

九尾のお姉さんより動いて、獣人の前にたち、振ってくる拳を片手で受け止めた。

 

『んだとぉ・・・・・!?てめぇは誰だ!』

 

「・・・・・俺か?」

 

腰に九本の狐の尾を生やして宣言した。

 

「九尾の狐に憑かれたドラゴンだよ」

 

獣人にそう言って睨んだ。すると、獣人が思わずと言った感じで後方に一歩二歩と下がった。

 

「今日は運動会なんだろう?お互い、力の見せ合いをしたくてウズウズしている。

それを運動会の競技で見せびらかせばいいだけじゃないか」

 

『言っておくが、最初にそのガキが喧嘩を売ってきたんだぜ』

 

「宣戦布告をしたかっただけじゃないか?」

 

『それだけで済む話じゃないだろうが』

 

攻撃態勢になった獣人。

 

『さんざんこの俺をバカにしたんだ。ちったぁガキに教育をしてやるってもんが

強者の務めだと思うよなぁっ!?』

 

獣如く、得物を狙う猛禽類の目で駈け出して来た。

 

『この俺の恐ろしさを、その身に味わえっ!』

 

あっという間に獣人は至近距離まで移動してきた。流石に速い。

巨大な手の指、指の先に伸びている人の体など簡単に切り裂いてしまうだろう鋭利な爪を、

斜め上から振り下ろした瞬間。俺は息を吸って―――。

 

「ギェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

咆哮を上げた。至近距離で、獣人に向かって叫んだ。獣人は上半身を仰け反らせ、

驚愕の色を目から浮かばせ、後方に叫んだ際に生じた衝撃で吹っ飛んで行った。

 

「―――お前の恐ろしさが、何だって?」

 

不敵に言ってやった。そうしている間にも九尾のお姉さんが「九重!」と言いながら

九尾の幼女に抱きついた。

 

『て、てめぇ・・・・・っ』

 

獣人が毛を逆立てさせ、警戒の様子で俺を睨んだ。

 

「これ以上、騒ぎを起こしたくないし俺は何もしたくない。だから、手を引いてくれ」

 

『ふざけるなよ、てめぇは一体どこのどいつなんだよ!』

 

「初めてこの運動会に参加するドラゴンだ。気にするな」

 

話は終わりだと獣人に背を向けて、九尾のお姉さんと九尾の幼女に声を掛けようとした。

 

『―――それで、俺が納得するとでも思ったかぁっ!?』

 

懲りない奴だと、襲いかかる獣人に対して呆れ顔で溜息を吐き、

五指の関節を鳴らして迎撃しようとしたら、

 

「お前さん。そこの坊主が騒ぎを起こしたくないって言っているんだ。

ここは身を引くべきじゃないかぁ?」

 

真上から、獣人の頭の上に難なく乗った園児ぐらいの身長のヒトが獣人にそう言った。

すると、獣人の体がピタリと停まる。

 

『うっぐ・・・・・!』

 

「これ以上、お前さんが騒ぎを起こせば、この運動会の主催者がお前に酷い

罰を与えかねないぜぃ?それでもいいって言うんなら、儂は止めないがなぁ」

 

「―――あ」

 

そのヒトは知っている。―――お猿のお爺ちゃんだ!お猿のお爺ちゃんは咥えている

煙管を吹かしながら、俺に話しかけてきた。

 

「よぉ、久しいの。坊主、甦ったって話は本当だったようで、安心したぜぃ」

 

「久し振り、お猿のお爺ちゃん。それと心配掛けてごめんね」

 

「なぁーに、笑いながら言う天釈帝の坊主のほうがよっぽど呆れたわい。

『あのガキ、しぶといなー』っと言いながらだ」

 

俺がしぶといと言うか、原始龍に助けられたんだけどな。

 

「そろそろ開催式が始まるから、儂らはこの辺でさせてもらうぜぃ。

ほれ、さっさと並びに行くぜぃ。若いの」

 

『・・・・・』

 

獣人は俺を睨んだ後、お猿のお爺ちゃんに言われるがまま、踵返して歩を進め出した。

さてと、こっちも・・・・・。

 

「このバカ者!母上から離れて中国妖怪と言い合いするなど、

母上はそんなやんちゃな子に育てた覚えはないぞ!」

 

「ご、ごめんないなのじゃ、母上ぇっ!」

 

こっちで、叱られているなぁ・・・・・。

 

―――○●○―――

 

開会式は何事も問題なく終わり、すぐに競技が始まった。

ドラゴンも参加して良いということなので、何時ぞやの四大勢力大運動会のように

ゾラードたちも参加させることにした。

 

「突っ込みたい。こんな大勢の妖怪、妖魔が集まっても

まだスペースがある墓場なんて見聞したことがない」

 

「ここは現実世界ではないぞ?」

 

「え、そうなの?」

 

「うむ、RG(レーティングゲーム)で利用する異空間を応用したものと同じじゃよ。

以前は、運動会をするために人間たちの目から隠れてやってたが、此度は魔王に協力してもらい、

この異空間で運動会をする事に決めたのじゃ」

 

その魔王って言うのは・・・・・ニコニコと微笑んでいるフォーベシイのことだろう。

そう言えば違和感を感じたが、まさか疑似空間へ入った時の感じだったなんてな。

 

「さて、最初の種目は百メートル走じゃな」

 

普通だな。てっきり、力の見せ合いか根競べでもするのかと思った。

 

「種目って自由に参加していいの?」

 

「勿論じゃ、各種目は三回ずつする。そして各種目に一人一回の規則」

 

それもそうだろうな。

 

「ところで、妖怪の運動会が始まったのはどうしてなんだ?」

 

「ふむ、簡単に言えば、他の妖怪たちと交流を持つためじゃ。

妖怪だけの運動会を考えたのは―――お前の両親じゃよ」

 

「って、お父さんたちかよ!?」

 

愕然とした。当たり前だ。本当、あの人たちは一体何を考えて―――!

 

「みんな頑張れー!」

 

「ファイトーォッ!」

 

「おーおー、妖怪どもが張り切っちゃっているなぁー」

 

『・・・・・』

 

隣でとっっっても聞き覚えのある声が聞こえた。錆びて壊れたブリキのおもちゃ如く、

俺だけじゃなく他の皆もギギギッ・・・・・と聞き覚えのある声の方へ視線を向けると―――。

 

「ほら、一誠。お前も応援しなさい」

 

「日本妖怪のみんなが頑張っているからね」

 

朗らかに笑みを浮かべ、何時の間にかブルーシートを

敷いて応援している二人の男女―――俺の両親+悪魔がいた。

 

『な、なんでここにいるんだぁぁぁぁああああああああああっ!?』

 

異口同音で俺たちは叫んだ。本当だよ!どうしてこの二人がここにいるんだよ!

この場所、俺だって初めて来た場所なんだぞ!?全員が戦闘態勢、臨戦態勢になり、

俺の両親を囲んでいるにも拘らず、この二人はキョトンと首を傾げた。

 

「なんでここにって、今日は妖怪だけの運動会をする日だし」

 

「応援しに、観戦しに行こうかと思って行動していると、

一誠たちが集団でどこかへ行くのを見かけて追いかけたら」

 

「「妖怪だけの運動会の会場に辿り着いた」」

 

『・・・・・』

 

ダメだ・・・・・この二人、なんとかしないと!

 

「お、お主ら・・・・・」

 

「やあ、八坂さん。久し振りだねぇー」

 

「お元気そうでなによりだわ」

 

九尾のお姉さんも目を丸くして呆然としていた。

 

「敵ではないのか・・・・・?」

 

「一応敵だ」

 

あっさりと答えた父さんはさらに言い続ける。

 

「でも今はオフだから何もしないよ。今の俺たちはこの状況を楽しみたいだけだから」

 

「よくとまあぬけぬけと・・・・・お前ら、自分の立場が分かっているのか?」

 

目を細め、ユーストマが闘気を纏いだした。父さんと母さんは笑みを崩さない。

まるで、余裕を保っているかのようだ。いや、余裕なんだろう。

 

「おや、ユーストマじゃないか。かなり久し振りだね、それとフォーベシイも。

サイネリアは元気にしているかな?」

 

「ああ、元気だよ。でも、今ここでキミたちを捕えておけば―――」

 

「それは止めた方が良い。ここは守るべき者が多すぎるからね」

 

―――――っ。この場にいる妖怪たちのことか。この二人ならあっという間に妖怪たちを屠ることは

可能のはず。この場の妖怪たちが人質と成っていると気付いた瞬間だった。

 

「―――うひゃひゃっ!そういうことだよー。まっ、今日ぐらいはお互い楽しもうや」

 

・・・・・何でこの人までいるんだろうなぁ・・・・・リゼヴィムおじさん。

それとリリスにユーグリット。

 

「・・・・・こ奴らが『クリフォト』と名乗っておる者たちで間違いないのじゃな?」

 

九尾のお姉さんが警戒心を剥きだしながら呟いた。誰かが肯定の言葉を放ち、

 

「仕方がない・・・・・人質がいるこの場で事を起こすことは敵わん。

このまま運動会を続行させるが」

 

不意に、父さんたちの周りに狐の尻尾や黒い翼を生やすヒトたちが現れた。

 

「監視をさせてもらう」

 

―――○●○―――()

 

妖怪だらけの運動会が始まってそれなりに時間が経った。駆けたり、パン食い競争だったり、

無茶苦茶な騎馬戦を始めたり、中国と日本妖怪が魅せる運動会とは無関係な歌や踊りまでもが

競技の種目として進み、いよいよ後半戦となった。何やら雰囲気がガラリと変わり、

空気も重々しくなった。

 

「黒歌、これはなんなんだ?」

 

「にゃー、前半は運動会。後半は裏運動会と何時しかやるようになったんだよねー」

 

「裏運動会とは?」

 

「ガチなガチンコ勝負。前半はお遊戯って感じで、

後半は本気で決着をつけるって感じなんだにゃん」

 

マジですか・・・・・。唖然としていると、黒歌は言い始めた。

 

「トーナメント戦だったり、勝ち抜き戦だったり、バトルロワイヤルだったり、

毎年戦い方は変わるにゃん。今年はどんな戦いになるんだろうにゃー。

しかも、中国妖怪から出てくる奴って―――大人気もなく、

四凶とか四神とかそう言う奴らばっかなのにゃん」

 

「うわ・・・・・ぜってぇー並みの妖怪じゃ勝てないって」

 

「だーから、負け越しが多いのよ。主に四凶の奴らが毎回毎回出て来て・・・・・」

 

不機嫌な面持ちとなった黒歌。不意に、疑似空間上空に立体映像が浮かんだ。

 

『三回連続勝ちぬき戦』

 

と―――ガチンコ勝負の種目が決まった。中国側から途轍もないプレッシャーを感じ、

俺は思わず冷や汗を流した。

 

これ(プレッシャー)は四凶の?」

 

「ええ、そうよ」

 

黒歌が首肯すると、中国側の妖怪たちから一際大きい妖怪が出てきた。

体は牛か羊で、曲がった角、虎の牙、人の爪、人の顔などを持つ妖怪だ。

 

「おー、饕餮(とうてつ)か。こいつは懐かしいやつが出てきたな」

 

「『魔喰らい』という別名を持つ四凶の一角ね」

 

父さんと母さんが懐かしげに言う。

日本妖怪側から―――人の何倍も大きい巨躯の妖怪が気合満々と前に出てきた。額から二本の角。

 

「お兄ちゃん!頑張って!」

 

すると、応援の声が聞こえてきた。兄妹らしい。

 

「あれって・・・・・」

 

「鬼ね。地獄の仮想の一つに生息している妖怪たちの中で一番力のある三大妖怪の一種」

 

鈍い足音を立てながら中国妖怪の前へと対峙する。

その時、二匹の妖怪の足元から地面が盛り上がり、まるでリング場みたいな舞台が

出来上がった。誰かが合図をしたわけでもなく、日本、中国の妖怪がぶつかり合った。

二つの妖気がこの場を支配し、荒々しくなる。

 

「すげ・・・・・こんな妖怪の戦いは初めて見る」

 

「ふふっ、坊やの戦いと比べれば大したことではないのだろう?」

 

「いやいや、これは凄いよ。妖怪同士の戦い方は初めて見る」

 

激烈な戦い方だった。体と体をぶつけ合い・・・・・って妖力まで放ち始めているし!

だけど、中国側の妖怪が大きく口を開けて妖力を喰らった。それだけじゃない、

そのままブラックホールのように凄まじい引力が鬼の妖気、妖力を吸い取っていく。

 

「あー・・・・・あれをやられたらもう終わりにゃん」

 

黒歌が結果は見えたとばかり嘆息した。黒歌の言う通り、

鬼が次第に力を失っていき、最後は跪いて敗北した。

 

「あんな感じで、中国の妖怪、四凶が勝ってしまうのよね。妖怪の力の源を喰われちゃ、

勝つことは難しい」

 

鬼が負けたことで次は誰が出るのか、ざわめきだし始める。

対して中国の妖怪側から阿鼻叫喚みたいな声が聞こえる。というか、ヤジだろうこれは。

 

「九尾のお姉ちゃん。次は誰が?」

 

「・・・・・」

 

九尾のお姉ちゃんは顎に手をやって、黙り込んでいた。

あの妖怪がとても厄介だと言うことは理解した。

周りの妖怪たちも誰も出ようとはしない。あの鬼のように力を吸い取られて破れてしまう

現実になるからだろうか。

 

「一誠、お前が出てみろ」

 

いきなりガイアが言う。

 

「四凶など、お前が負けるわけがない。我はお前を信じている」

 

不敵に笑みガイアは俺の背中を後押しをする。・・・・・そう言われちゃ、行くしかないだろう。

一歩、足を前に出して―――四凶の一角へと歩み進んだ。見ていてくれよ。皆。

リング場に上がり、四凶と対峙する。

 

『・・・・・なるほど、今度は貴様が相手か』

 

「よろしく、四凶の饕餮。俺はイッセー・D・スカーレット。

一応言うが、俺は兵藤誠と兵藤一香の息子だった」

 

『なに?』

 

俺の発言に眼を丸くした。この反応・・・・・覚えていたんだな。じゃあ・・・・・。

 

「成長した俺の力、その身に覚えてもらおう」

 

饕餮は口角を吊り上げた。全身から妖力を迸る。

 

『いいだろう。貴様の力をとくと我に示せ』

 

戦いは始まった。腰に九本の尻尾を生やして、尻尾から刀を抜き取った。

構え、饕餮に跳躍した。

 

『ドラゴン・・・・・にしてはその妖気は狐。狐に憑かれたようだな』

 

百戦錬磨、なのだろうか。俺の刀太刀筋をなんなく見極め、かわして蹴りを放ってきた。

尻尾の一つでガードし、逆にその足を別の尾で絡め取り、饕餮の体勢を崩した。

 

『ちっとはやるようだな』

 

ムクリと起き上がる饕餮は、

 

『だが、力を全て奪われては戦いようがないだろう』

 

と、口を大きく開いた。―――あれは!気付いた時は引力に引かれるような感覚が。

吸引力が凄まじく、俺から妖力が奪われていくのが肌で感じる。早々に決着をつける気かよ!

 

『貴様の力、喰らってやる!』

 

「くっ・・・・・!」

 

こんな感じはサマエル以来だ。さて・・・・・どうしたものか・・・・・。

・・・・・・そうだ。

俺はとあることを考えて饕餮を見据える。

 

「・・・・・」

 

俺はあろうことか―――饕餮に向かって走り出した。

 

『なに・・・・・?』

 

饕餮は怪訝な面持でいた。力を吸われる者がバカみたいに突貫してきたんだ。

それが何の意味を成すのか、

理解しがたいはず。饕餮へ跳躍して、

 

「これでも喰らっていろ!」

 

魔力で具現化した氷の塊を饕餮の口へ押し込んだ。

 

『むごぉっ!?』

 

策士、策に落ちる・・・・・ってわけじゃないが、

これで一時は俺の力を喰らうことはできないだろう。

 

「―――九妖奥義」

 

九本の尻尾に闘気と妖気を纏い刃状に具現化する。

 

「九十九一斬ッ!」

 

ザンッ!

 

全ての尾で饕餮の全身を切り刻み、最後は刀で斬撃を与え、

リング場から吹き飛ばした。一拍して、饕餮は地面に小さいクレーターを作って倒れた。

 

『くくくっ、流石であるぞ、四凶の一人を倒すとは』

 

相手がワンパターンな攻撃のおかげだったから倒せたようなもんだ。

次はそうもいかないだろう。待ったなしの勝ち抜き戦、リング場に上がってくるのは―――。

 

『次は俺だ』

 

虎に似た体に人の頭、猪のような長い牙と、長い尻尾を生やしている妖怪だ。

 

『饕餮を倒したことは素直に驚いた。だが、俺は奴のように油断はしない』

 

「御託はいい。掛かって来い。日本妖怪に勝たせたいからな」

 

構える。相手は深い笑みを浮かべ、腰を落として手を握りしめて構えた。

 

『―――四凶の一角、檮杌(とうこつ)

 

「イッセー・D・スカーレット」

 

『「いざ、勝負!」』

 

互いが飛び出し、拳を突き出した。

それから、一歩も引かずただ相手を倒すために攻撃を繰り返す。

 

「九妖炎乱舞っ!」

 

踊るように九つの炎が檮扤へと襲う。燃え上がる炎は真っ直ぐ檮扤に直撃―――。

俺はそう思って見据えたら目を見開いた。―――いや、こいつ、かわそうともしない・・・・・!?

まるで、サイラオーグみたいな相手だ!

俺の攻撃を自ら受けて尚も俺に跳び掛かってくる。恐れないその強み―――まさしくつわもの。

 

『「おおおおおおおおおおお!」』

 

避けない相手なら、真っ向勝負をする他ない。激しく拳を突き出し合い、

時には物凄い速さでリング場を駆け回り、激突して肩や肘、膝や足、頭突きをして戦い続ける。

その度に衝撃波が発生し、リング場に罅が生じ、抉れ、クレーターが増え続ける。

 

『日本にお前みたいなものがいようとは、日本も大概捨てたものではないと言うことか』

 

「お前みたいな中国の妖怪がいるなんていい勉強になった」

 

五メートルぐらい距離を取って、対峙する。

 

『まだまだ戦いたいところだが、時間は有限。これでケリをつけよう』

 

妖力の塊を作りだした。それで砲撃として放す気なのだろう。

 

「分かった。そうしよう」

 

同じように妖力の塊を発現した。

 

『「・・・・・」』

 

そして、どちらからでもなく、妖力の塊を放った。リング場の中央で俺と檮扤の一撃が拮抗し、

鍔迫り合いをする。だが、何時しか俺は檮扤の妖力を受け止める側と成ってしまった。

檮扤の力・・・・・とても凄まじいな・・・・・!

 

『どうした、このぐらいで負ける一誠ではないと妾は知っておるぞ』

 

いやいや、四凶って強いなって感嘆していただけだぞ。

 

『ならば、本気を出せばいい。妾とお前の力を』

 

―――本気か。んじゃ、羽衣狐・・・・・や、

 

『む?』

 

・・・・・今日からお前のことを玉藻と呼ぶよ。何時までも最後に狐なんて、

お前が動物みたいな言い方は嫌だし。

 

『・・・・・一誠』

 

「玉藻、俺と一緒に四凶を倒そう」

 

そう言うと、全身から妖力が漲ってきた。

 

「――無論だ。この妾とお前が力を合わせば、どんな敵だろうと全て葬れる」

 

耳元で彼女の声が直に聞こえてくる。

 

「憑依合体だ。妾の愛しき(おのこ)よ」

 

『―――お前は!』

 

玉藻はクスリと妖艶に笑んだ。

 

「四凶よ。お前はこの子に破れる。妾とこの子になぁ・・・・・?」

 

姿を消し、再び俺の中へ。

 

『いくぞ?』

 

「おう、何時でもいいぞ」

 

準備は整っていると玉藻に伝え、全身に妖力を纏いだす。

 

『「―――オーバーソウル」』

 

全身に変化が起きる。第三者から見れば俺は、体が黒と金の衣服へと変わり、

真紅の髪と金色の双眸は黒に変色。胸に狐を模した顔、腰には変わらず

金色の九本の狐の尾が生えているが、それとは別の九本の尾が俺の四肢、

胴体に巻きついている。それと、頭に狐の耳が生えているだろうな。

 

「黒装九尾の甲縛」

 

この姿の名を発して、全身に巻きついている狐の尾が解け、檮扤の妖力を受け止め、

吸収し始める。

 

『なに・・・・・!』

 

「お前の妖力、返すぞ」

 

胸の狐の顔の口が上下に開いて、吸収した妖力を放った。放った妖力が返ってきたことに檮扤は、

一度攻撃の手を止めて俺が放った妖力を受け止め始める。

 

『この程度のことで負けると―――!』

 

「ああ、思うさ」

 

全身に巻きついている尾が俺から離れ、煙と化となったら、一本の狐の尾を生やす俺が現れ、

九人の俺は一斉に檮扤へ飛びかかった。

 

「「「「「「「「「―――ノーヴェキック!」」」」」」」」」

 

「私かよ!?」

 

背後からノーヴェの声が聞こえた。空耳かなぁ?九人の俺の飛び蹴り、膝蹴りに対応できず、

檮扤はリング場から出てしまい、敗北と成った。これで二勝一敗。残り一回戦。

さて・・・・・誰が出てくる?

 

「―――四凶の内の二人が負けてしまうなど、思っていませんでしたわ」

 

どこからともなく炎翼を羽ばたかせて舞い降りた女性・・・・・。

 

「さあ、次はこの私と勝負ですわ!」

 

赤いチャイナドレスを身に包み、両手に巨大な扇子を持って

構えた燃えるような赤い髪に青い瞳の女性。

 

「・・・・・」

 

俺は悠然と歩を進め、その女性に近づく。

 

「え?」

 

戦意がないことに気付いたようで、唖然と近づく俺にキョトンとした。

俺の身体は見る見るうちに縮んで―――子供と成り、女性を見上げる形で言ってやった。

 

「―――お姉ちゃん、大好き♪」

 

そして―――!

 

「ぎゅーっと!」

 

「―――――っ!?」

 

女性は満面の笑みを浮かべ抱きついた俺を見て、顔をボンッ!と紅潮させた。

 

「あ・・・・・う・・・・・・」

 

目をキラキラと純粋無垢な子供のように輝かせ、女性を見上げることしばらくして―――。

 

「ダ、ダメ!この子を傷つけることができない!」

 

そう言って自らリング場から降りて試合放棄をしたのであった。

 

―――ふふふっ!我、勝利!

 

『なんとまあ・・・・・腹黒い勝ち方をしたものであるな』

 

玉藻もやってあげるよ?

 

『・・・・・』

 

あっ、満更ではない反応した。結果、今大会は日本妖怪の勝利として運動会は終了した。

中国妖怪は各々と、さっさと自分の国へ戻って行った。

 

『次は負けない。次の運動会も必ず顔を出せ』

 

『ふごっー!ふぐっー!』

 

『饕餮、帰ったらその氷を何とかしてやるから今は我慢しろ』

 

あっ、まだ氷を咥えたままだったんだ。四凶も帰っていき、

 

「じゃ、じゃあね・・・・・」

 

赤い髪の女性は何度も俺を見ながら帰って行った。

 

「坊や。今回は感謝するぞ。久し振りに中国を負かしたのじゃからな」

 

九尾のお姉さんが嬉しそうに笑って俺(未だ子供バージョン)の頭を撫で始めた。

 

「・・・・・」

 

その足元に、袴を握って母親の影を隠れて俺を見つめる九尾のお姉さんの娘と視界が合った。

どうしたんだ?と首を傾げていると、

 

「あ、ありがとう・・・・・なのじゃ」

 

感謝の言葉を送られた。俺は「気にしないでいい」と言って笑って返した。

 

「今度、九尾のお姉さんと一緒に俺の家に遊びにおいで。待っているから」

 

「う、うむ・・・・・分かったのじゃ」

 

「暇が取れたら是非とも遊びに行かせてもらう。ところで坊やよ・・・・・」

 

九尾のお姉さんが俺から離れて両腕を広げ出した。

 

「私にもぎゅっと抱きついてくれないか?」

 

「・・・・・」

 

彼女の意図に気付き、俺は―――もう一度あれをした。

 

「ぎゅーっと!」

 

袴に抱きつく感じで九尾のお姉さんの腰辺りに腕を回し、

顔を見上げ、九尾のお姉さんの顔を覗き込んだ。

彼女はどこまでも顔を緩ませて、抱きしめ返してきた。

 

「ああ・・・・・なんという多幸感・・・・・っ!たまらん、たまらんぞ!」

 

仕舞いには九尾の尾まで使って俺を囲んで、

 

「坊や・・・・・私の坊や・・・・・愛おしい過ぎるぞ」

 

周りの視界を遮ったことをいいことに、このヒトは―――俺の唇を重ねてきたのだった。

 

「―――ちょっと、うちの子供になに襲っちゃっているのかしら?」

 

そこへ、絶対零度の声が聞こえてきた。俺を囲む尾が強引にこじ開けられ、

俺の襟が掴まれ引き摺りだされた。

 

「まったく、この未亡人は・・・・・人の子供に手を出すなんて信じられないわね」

 

俺は母さんの胸の中に収まって(捕まって)呆然としていた。

 

「・・・・・ねえ、一誠」

 

「・・・・・なに」

 

「その・・・・・あんなこと言っちゃった後でこんなことを言うのは図々しいのは

承知の上でお願いがあるんだけど・・・・・」

 

うん、絶縁された。この二人から。で、この人は俺に何を頼もうとしているんだろうか?

 

「お母さんにもギュッとしてほしいかなーって思っちゃったりしているのよねぇ・・・・・」

 

だが、その願いは叶えられなくなった。

 

「おい貴様。身勝手に親子の縁を絶縁した女が何を言うか」

 

「坊やを返してもらおうか・・・・・」

 

「一香さま、一誠さまを返してもらいますよ」

 

年上組が怒気を孕んだ声と共に襲いかかってきたからだ!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Life2

「・・・・・」

 

『・・・・・』

 

リビングキッチンに何とも言えない空気が漂う。昼頃、家にいる家族たちと

ほのぼのとした時間で過ごすはずだった。だが、突然見覚えのある魔方陣が発現して光と共に

土下座をしたままの見覚えのある奴が現れた。その現れ方と人物に俺たちは信じられないものを

見る目で何度も目蓋を瞬いた。

土下座をする奴は何か必死そうにジッと額を床に付けて、

雨の中で震える子犬と幻想を見せてくれる。

―――というか、プライドが高い奴が土下座なんぞ、どんなことがあってもしたくないだろう。

だが、何かを優先のために堪えて、屈辱に耐えているのだとハッキリ伝わった。

 

「ねえ、イッセー。あいつ、誰なの?」

 

「というか、あんな現れ方をするところ初めて見たわ。―――マジ、ウケるんですけど?」

 

ルクシャナとナヴィが言う。なんと言えば良いんだろうか・・・・・。

一応、知り合いっちゃあ知り合いだ。

だけど、あいつがなんでそんな事をしているのか俺は困惑するばかりだ。

関わったことがあるのは一、二度ぐらい。それ以来は何の音沙汰も無しでどうなっているのか

あいつの血縁者から聞いただけだ。

 

「・・・・・取り敢えず、頭を上げてくれないか?」

 

そう言うと、土下座をしていた奴が顔を覗かせた。夜の繁華街、それもホストが働いていそうな

顔立ちに胸元をはだけたワイシャツとスーツを着こなしているワルメンホスト。

 

「イッセー、あいつは誰なんだ?」

 

「・・・・・まあ、一度戦ったことがある奴だ。

元七十二柱の―――純血悪魔のフェニックス家の三男、ライザー・フェニックスだ」

 

『・・・・・知らない』

 

だろうな。言っても知らないと思ったよ。

 

「んで、お前が面白可笑しく登場した理由は何なんだ?」

 

「・・・・・」

 

あいつは俺の問いに直ぐには答えず、数分経った頃でようやく口を開いた。

 

「―――――れ」

 

「・・・・・ん?」

 

「俺に・・・・・・れ」

 

「声が小さい。なに言っているのか聞き取り辛い」

 

怪訝に大きい声で言えと催促した。あいつは、ライザーは急に握り拳を作って叫びだした。

 

「俺に女を悦ばせる縄の結び方を教えてくれって言ったんだっ!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

『・・・・・・』

 

最初は、言っていることが分からず、思考が停止した。

他の皆も「なに言っちゃってんの?頭おかしいんじゃね?」

って感じでライザーを見つめていた。

 

「・・・・・なあ、いま、縄の結び方って聞こえたんだけど」

 

「ああ・・・・・そうだ・・・・・」

 

「女を悦ばす縄の結び方って・・・・・。

何でまたお前がそれを知りたがっているんだよ・・・・・理解しがたいぞ」

 

そもそも、そんな結び方は俺は知らない。というか、したことすらないんだが?

そんな風に見据えていれば、ライザーは苦々しい面持ちで言葉を発した。

 

「・・・・・満足、してくれなくなったんだ」

 

「なににだ?」

 

なんだか、言い辛そうに口を動かす。

 

「夜の営みだ・・・・・」

 

『・・・・・』

 

あいつの言いたいことが今ようやく理解した。そして、どうすればいいか分からないから

俺に訊ねてきたと。

 

「―――昼飯時に、んな話を持ち込んでくんじゃねぇよ!」

 

グレイプニルでライザーを亀甲縛りで縛り上げて天井に吊り下げた。

 

「いだっ!?ちょ、おい!俺はただ縛り方を知りたくて

こんな汚い風の人間界に来てやったんだぞ!こんな仕打ちはあるのか!?」

 

「だったら来るんじゃねぇ!強化した聖水のプールにブチ込んでやろうかああ!?」

 

「ふん!前の俺じゃないことを今ここで証明して―――って、解けないだと!?」

 

炎で燃やそうとしたが燃えない鎖に絶句していた。こいつ、見ない間に馬鹿になったのか?

それ、フェンリルでも噛み千切れない鎖なんだぞ。

 

「神を噛み殺す牙を持つ狼を縛るための鎖だ。不死鳥の力を有しているからって

悪魔がその鎖をどうにかできるとは思えないんだが?」

 

「ぐ・・・・・っ」

 

「それで、なんでまた俺から縛り方を学ぼうとしたんだよ。

お前、眷属に愛想を尽かれているのか?」

 

直ぐに「違う!」と否定の言葉が返ってきた。

 

「ユーベルーナが、何だか物足りなさげな顔をするんだよ。・・・・・あのゲームの以来から」

 

「ユーベルーナ?・・・・・・ああ、爆発ばかし起こしていた悪魔か」

 

確かに、縛ったな。うん。

 

「彼女は確かに感じてくれてはいるが・・・・・どこか上の空なんだ。

俺が色々と手を尽くし、ユーベルーナとシているんだ。だが・・・・・何時も溜息を吐くんだよ」

 

想像・・・・・できねぇ・・・・・。というか、したくもねぇ。他人の情事のシーンなんざ。

 

「そこで、聞いたんだ。なんで溜息を吐くんだと。そしたら―――」

 

ライザーは悲痛な面影を浮かべた。

 

『ライザーさまとの情事は・・・・・私でも分かりません。ですが、刺激が足りないのです』

 

『あの・・・・・その・・・・・兵藤一誠に縛られ屈辱極まりない快感が、忘れられないのです』

 

―――――と、ライザーは語った。

 

「そう訊いて、俺はお前のように縛ってみたんだ。

だが、ユーベルーナは苦痛しか感じられないと・・・・・ここ最近、

俺では満足できなくなっているんだよぉぉぉぉぉ・・・・・」

 

嘆くライザー。溜息を吐いて一言。

 

「帰れ」

 

『ひどっ!?』

 

周りから突っ込まれた。面倒くさそうな顔で皆に言う。

 

「何で俺が、こんな相談を乗らないといけないんだよ?これはこいつ自身の問題だろうが」

 

「確かにそうだけど・・・・・イッセーの友達なんでしょ?」

 

ナヴィの言葉に俺はキョトンとした。それから手を横に振ってナヴィの言葉を否定した。

 

「はっ?俺とこいつが?全然。友達でもなければただの顔見知り程度の奴だぞ。

リアス・グレモリーと結婚騒動に巻き込まれた結果だがな」

 

「結婚騒動?どういうことなの?」

 

ルクシャナが気になると、視線を向けてきた。

大雑把にライザーとリアス・グレモリーの結婚騒動を説明すれば、

皆は急にライザーを見る目が変わった。

 

「女の敵ね」

 

「いくら親同士が決めた事だからって、好きでもない男と結婚させられる女のほうは

嫌に決まっているわ」

 

「私も・・・・・そう思うわ」

 

「私も」

 

と、女性メンバーが答えた。対して宙吊りのライザーは、反論した。

 

「純粋な悪魔の血を絶やさないための結婚だったんだ!純血の悪魔は純血同士で結婚しなければ、

純血の血が薄れてしまうんだよ!」

 

「自業自得じゃないの?勝手にその純血悪魔が減らすようなことをした悪魔の方がさ。

減らさなければ、かなりの純血悪魔がいたでしょうに」

 

ナヴィが一刀両断。それ、魔王たちに対する非難の言葉だと思うが。

 

カッ!

 

すると、この場に新たな魔方陣が。

その紋様は・・・・・・ライザーの家の紋様だ。誰が来る?光る魔方陣を見つめていると―――。

噂をすれば影か、ライザーの『女王(クイーン)』が現れた。

 

「ユーベルーナ?」

 

「ライザーさま。『(キング)』とあろうものが、『女王(クイーン)』である私おろか、

眷属の一人も同行させずに人間界へ行かれては困ります。

お一人でここに足を運ぶほど重要なことなのですか?

・・・・・何故、縛られ宙吊りになっているのか、いささか気になりますが・・・・・」

 

「・・・・・」

 

ライザーは沈黙した。というか、理由なんて言えないんだろうな。

―――一人の女を満足させるが為に俺を頼ってきたなんて。リアス・グレモリーが知ったら、

呆れかえるだろうよ。

 

「久し振りだな。ユーベルーナだったか?」

 

「っ!?」

 

すると、彼女は体をビクッと強張らした。恐る恐ると俺に振り返った彼女は目を丸くする。

 

「・・・・・兵藤・・・・・一誠・・・・・?」

 

「ん?ああ、そういえば知らなかったっけ?この姿は色々とあってな。

まあ、気にするな。―――ところでさ?」

 

彼女に近づいて。

 

「お前、ライザーとじゃあ満足にならなくなったんだって?」

 

「―――――っ!?」

 

ユーベルーナは驚愕の色を浮かべた。俺はさらに近づく。

 

「本当は、ライザーがどこに行ったのか知って、ライザーを窘めるために来たんじゃなくて、

心のどこかでじゃあ俺に会いたかった思いがあったんじゃないのか?」

 

「ち、違います!私はライザーさまを―――」

 

「声が震えているぞ?」

 

ライザーを縛っていたグレイプニルを解いて、ユーベルーナの腕を掴んだ。

 

「っ・・・・・!」

 

「違うなら、この手を放してみろよ。力、込めていないから直ぐに放せるぞ」

 

彼女は視線を泳がせ始め、掴むんでいる腕がゆっくりと俺の手から放れるが―――。

 

「っ!?」

 

俺はそれを許さず、腕を掴まえた。

 

「んじゃ、防音が整備されている部屋に行くとしようか」

 

ライザーの襟も掴んで、ユーベルーナを強引に連行する。

その部屋は家の深奥にある。所謂隠し部屋だ。

ヒトの気、魔力を完全に遮断、隔離している場所は俺とリーラ、ガイアしか知らない。

その部屋へライザーとユーベルーナを案内した。

生活ができ、必要な物は全て揃っているから問題はない。

 

「んじゃ、始めるか」

 

「い、一体なにを・・・・・・?」

 

「何って・・・・・あの時の続きだが?」

 

左手と腕に赤い籠手が光と共に覆う。そして、ユーベルーナの肩に触れると小型の魔方陣が。

それを確認した後に―――指を弾いた瞬間。彼女の衣服が、下着すらも弾けた。

 

「この技、使いたくなかったがな。色気も微塵もないし」

 

「って、ユーベルーナになにをしやがる!」

 

右拳に炎を纏って殴ってくるライザーには金色の翼で殴打し、壁に叩きつけてそのまま拘束。

 

「こうした方が快感を与えられるんだよ」

 

縄でユーベルーナの豊満な体を亀甲縛りで縛った。

 

「うっ・・・・・!」

 

「くくく・・・・・こうするのは何ヵ月振りだろうなぁ?」

 

彼女に手を伸ばす。

 

「今度はちゃんと触ってやるよ。ライザーに見られながら、快感を味わえ」

 

その後、ユーベルーナをライザーの前で調教を施し、

面白いぐらい嬌声を上げて、俺を楽しませてくれた。

 

―――○●○―――

 

調教を終えて、リビングキッチンでのんびりと過ごした。

オーフィスは俺の膝に座り、当然のように隣にはルクシャナが座っていて、

目の前にはティファニア、その隣にはリースが座っている。

 

「・・・・・」

 

リースは何か言いたげに俺を見つめてくる。

 

「リース、どうしたんだ?」

 

「・・・・・こんなにのんびりとしてていいのかなって」

 

「リゼヴィムおじさんのことか?」

 

彼女はコクリと頷いた。復讐の対象者を倒すだけの力が欲している彼女にとって、

今の時間は無意味なのかもしれない。

 

「探しようがないからな。それ以前に、リースには色々と強くなってもらわないと。

今日も修行するんだろう?」

 

「うん、アレインさんに鍛えてもらうの。中々手厳しいけれど、手応えを感じる」

 

「同じ槍使いだからな。勉強になることが多いだろう」

 

実を言うと俺も色んな武器の扱い方を学んでいる。刀剣類は当然だがベルゼブブが師匠だ。

槍はアレインだ。龍牙なんて、ユーストマを師匠としているんだから驚いた。

 

「そういえばテファ」

 

ティファニアの愛称を呼ぶ。ティファニアは返事をして視線をこっちに向けてきた。

 

「あのオルゴール、聞けたのか?」

 

アルビオンで出会い、アルビオン王家の秘宝。彼女自身もアルビオンの出身者だと言うから

二つの秘宝を渡してみた。それ以来、聞くのを忘れていたからどうだったのか気になった。

ティファニアは俺の問いに対して首を縦に振って首肯した。

 

「うん、風のルビーを嵌めて聞いたら、音が聞こえたわ」

 

「そっか。俺じゃあ聞こえなかったからな。やっぱり本来の持ち主にしか聞けないものかね」

 

「ど、どうなんだろう・・・・・私もさっぱり分からないわ」

 

虚無の担い手・・・・・で、間違いないだろうな。ティファニアは。

 

「ねーねーテファ。あなたも使い魔を召喚したらどうなの?」

 

「わ、私が?」

 

「そう。蛮人とエルフのハーフなら、私みたいに使い魔の儀式ができるんじゃないかって

思うわけよ」

 

ルクシャナが好奇心でティファニアに言った。困惑したティファニアは視線を俺に向けてくる。

彼女が言いたいことを理解し、答えた。

 

「必要と思えばすればいいさ。使い魔召喚の儀式の仕方はカリンかルクシャナが知っている。

それに無理して召喚をする必要もない」

 

「うん・・・・・分かったわ」

 

使い魔召喚する機会はいずれ訪れるだろう。その時まで、彼女はどうなっているのか

誰も分からない。まあ、この家にいる限り、何も心配する事はないだろう。

 

「・・・・・」

 

すると、オーフィスが顔を見上げてきた。

 

「どうした?」

 

「我は、イッセーの使い魔」

 

「なんでだ?」

 

唐突にそう言いだしたオーフィスに首を傾げたら、オーフィスは理由を述べた。

 

「我、イッセーと家族だから」

 

・・・・・理解しがたい。が、オーフィスの頭を撫でる。

 

「そうだな。オーフィスは皆と同じ俺の家族だ」

 

「ん♪」

 

嬉しそうに目を細める・・・・・。と、ジトーと目を細め、

何やら不機嫌そうなルクシャナさん。

 

「なんだか、使い魔の存在意義がないような気がするわね」

 

「あるだろう。互いが必要とし、互いが協力し合う。今の俺たちと何の変わりようもない。

だからルクシャナもこの家に、俺の傍にいてくれるんだろう?」

 

「そりゃそうよ。私とあなたは―――」

 

「「同じ存在、一心同体だから」」

 

言いたいことが手を取るように分かり、異口同音でルクシャナと同時に発した。

 

「ふふん、私の言いたいことが分かってきたじゃないの?」

 

「お互い様だろう。まあ、あんまり分かり過ぎられても困るが」

 

「あら、どうして?」

 

ナヴィが不思議そうに訊く。お前の場合は相手の弱みを握れるから

好都合だと思っているだろうが、

 

「心を読まれ過ぎて嫌だからな。嫌だろう?読まれる立場としてなるのは」

 

「あー・・・・・確かにそうね。読む側としては良いけど、

読まれる側は溜まったもんじゃないか」

 

そーいうことだ。分かってくれてなにより。

 

「でも、そう言う能力を持っている種族はいるわよ?そいつが敵だったらかなり厄介。

どうするの?」

 

「単純に無心になるしかないだろう。それか別のことを考えながら戦うかだ」

 

「妥当ね。それともしくは、相手が予想した動きを上回るか」

 

「電光石火、それ以上の音速と神速で攻撃か」

 

まあ、そんな心を読む奴と出くわすような状況にはそうそうならないだろう。

今はクリフォトのことで各勢力は警戒しているし。

 

「さて、そろそろ修行でもしようかな」

 

オーフィスを肩に乗せ、俺が立ちながら言えば、リースが立ち上がった。やる気満々だ。

だったら―――。

 

「ほら、ルクシャナも修行すんぞ」

 

「えー、私は学者筋なんだけどー?」

 

「戦えるんなら話は別だ。自分の身を守れるぐらいの器量を持ってくれよ」

 

問答無用と金色の翼でルクシャナを確保。強制連行だ。

 

「ちょ、ちょっとー!?」

 

「オーフィス。練習相手になってくれ」

 

「ん、分かった」

 

「イッセー。後で私の相手になってね」

 

「ん、分かった」

 

「って、私まで連れて行こうとしないで!テファ、助けて!」

 

「え、えーと・・・・・ごめんなさい」

 

「は、薄情者ー!」

 

これこれ、ティファニアに当たるんじゃない。

そう思いながら地下にあるトレーニングルームへと運ぶ俺たち。

そうだ。あの力、魔人の力を制御しないとな・・・・・。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

聖誕祭のファニーエンジェル
Episode1


とある建物に大勢の人間たちが重々しい雰囲気を発し、厳つい顔を浮かばせては

誰一人も言葉を発しないで静かに時を待っているかのように胡坐、正座をしている。

その人間たちの中で黒く燃える蝋燭が一本置かれており、

それを見た人間たちは怪訝な気持ちを抱いている。

 

「この蝋燭の命の炎の者は、次期人王だった兵藤一誠のものだ」

 

静寂を破ったのは兵藤家現当主である、兵藤源治。

源氏もまた、蝋燭の炎の色を見て目を細めている。

 

「あの者の身に何か起きたのかもしれぬ」

 

「ですが、世間はあの者の死を認知しており、次期人王ではございません。

ならば、放っておいてもよいかと」

 

「兵藤家しか灯さない蝋燭に火が付いている時点で、例え追放された親の子であっても、

兵藤家の血を受け継いでいるのだ。これは兵藤家の歴史の紐を解いてもなかった現象だ。

易々と放っておけるほど我ら兵藤家は甘くはない」

 

「ならば、この炎を燃やす者をここに招くと?

この黒い炎を燃やす原因を追及、調査をするために」

 

一人の男性が源氏に進言すると、場がざわめきだす。だが、源氏は首を横に振った。

 

「この場所に追放された兵藤家の者を招くことを禁じる掟がある。

無論、その掟に従いこの場に招くことはしない」

 

「では、どうなさるおつもりなのです?」

 

「お前の言う通り、兵藤一誠の身を調査する。

丁度、あの者の周囲には兵藤家と式森家の者たちがいる。

彼の者たちに一任しようと思っている」

 

「ですが、あの子たちでは荷が重すぎるのでは?我々の誰かが

赴いた方が良いかと存じ上げます」

 

「・・・・・」

 

兵藤源治は無言で顎に手をやり悩む面持ちとなる。

 

「もしも、もしもの話です。この色を燃やす者が人間で在らない異なるものへとなっていれば、

それはもう兵藤と名乗る資格はございません。

仮に兵藤と名乗るのであれば―――抹消をしたほうがいいですぞ。兵藤家は人、全ての人間、

人類の頂点に立つ人間でなければ兵藤家の存在意義が崩れてしまいます」

 

男性は源氏に真摯に発する。兵藤家に仕えて永い男性にとって兵藤家は心の拠り所であり、

家族が住んでいる家。そこへ不穏分子が王となるとすれば、

周りが陰で反発し、反旗を翻すだろう。

 

「分かっている。この者はすでに次期人王ではない。

また新たな次期人王を選出しなければならぬな」

 

「それでしたら、兵藤照か兵藤名無でいいのでは?」

 

そこへ、第三者が進言した。顔に白く厚化粧をした長身痩躯の者だ。

 

「惜しくも破れてしまいましたが、この炎を燃やす者の次に強い兵藤家の者。

次期人王を決めるための戦いをまたしても、

結果はこの二名のどちらかが勝つかとございまする」

 

「・・・・・仮にその二人に王候補とすれば、どちらだ?」

 

長身痩躯の男性は深い笑みを浮かべるために、口角を上げた。

 

「―――兵藤名無、と私は推挙します。本気になれば、兵藤名無は兵藤照よりも強いのですから。

膨大な気と魔力の持ち主でもありますからね。良き人王となるでしょう」

 

 

 

源氏と男性以外、場に大勢の人間がいなくなると、源氏は問うた。

 

「どう思う?」

 

「十中八九、かとございます」

 

「そうか・・・・・だが、取り押さえるのに証拠がない。しばらく泳がせよう」

 

「かしこまりました。ですが、兵藤一誠のほうはどうなさるおつもりで?」

 

「先ほど言った通りだ。兵藤一誠の身を調査する。

もしかしたら、何かしらの力を得ているのかもしれんからな」

 

「その力を兵藤家の力になさるので?」

 

「兵藤家に役立つ者であれば、だ。―――行ってくれるな?」

 

「御意に」

 

―――○●○―――

 

二学期の終業式が終わった和樹たちが戻ってきた。

同じく終業式後の仕事も終えたロスヴァイセ、セルベリア、呼んでもいないのにアザゼルも。

それと、見知らぬシスターが家に上がってきた。

 

「誰?」

 

「あっ、イッセーくんは知らなかったわね。このお方はグリゼルダ・クァルタさん!

この地域一帯の天界スタッフを統括しているシスターなの!因みにゼノヴィアの上司の人よ?」

 

と、イリナが説明してくれた。なるほど、ゼノヴィアの上司か。

頭が上がらないだろうなーと思ったら、

シスターがこっちに来た。

 

「あなたが兵藤―――」

 

「悪い、その名前の俺は死んだ。今はイッセー・D・スカーレットだ。

イッセーって呼んでくれ」

 

兵藤一誠と呼ぼうした彼女を遮っていま名を名乗っている偽名を呼んでくれるように頼んだ。

彼女は申し訳なさそうにお辞儀をしてから自己紹介をしてくる。

その後、グレモリー眷属の他にシアやネリネ、

キキョウやリコリス、ユーストマとフォーベシイまでもが家に上がってきた。

 

「これ、何の集まりだ?」

 

「それは私が言うわ!」

 

イリナが代表して高らかに言った。

 

「もうすぐクリスマスでしょう?だから、クリスマスを通じて、

この光陽町の皆さんにプレゼントを配るの!」

 

リアス・グレモリーが続く。

 

「この町は四大勢力の和平、交流の象徴であり、重要拠点の一つ。

けれど、それ以前にこの町に住む者たちの大事な場所。

普段からこの地を私たちが利用しているのだから、クリスマスは住民たちをお祝いしましょう」

 

イリナもうんうんと頷いた。

 

「そうそう!そこで天界と冥界、人間界が手を組んで、

この町にいる皆にプレゼントを配るのよ!そして、配るメンバーが―――」

 

この部屋の扉が開く音が聞こえ、振り返ると―――兵藤家のメンバーがいた。

 

「この場にいる皆を中心にした、私たち!」

 

・・・・・何時の間に、兵藤家の奴らも話をつけたんだ。

 

「てか、人間と天使がサンタになるのは良いとして、悪魔がサンタなんて、

キリスト教の行事を体験して良いのか?」

 

「そこは何の心配もいらないぜ一誠殿!―――俺が許す!」

 

親指を立てて、朗らかに笑んだユーストマ。あ・・・・・そうなの。

なんだか、この神王が職権乱用して下々の部下たちは大変な思いをしていそうだな。

 

「しかし・・・・・クリスマスか」

 

懐かしげに遠い目でポツリと呟いた。あの時の約束、まだ果たせていないな。

 

「また、サンタさんにソリを乗せてもらえるかな?」

 

『・・・・・』

 

不意に、周りが静かになった。まあ、いつものことだろうな。

 

「な、イリナ」

 

「そうね!」

 

『えっ、イリナも!?』

 

俺とイリナ以外の面々が驚愕した。ああ、皆は知らないんだったな。

 

「小さい頃、何度かイリナとサンタさんの仕事を手伝ったことがあるんだ」

 

「懐かしいわよねー。サンタさんも豪快で優しい人がいっぱいで、

手伝いが終わると私たちにたくさんのプレゼントをくれちゃったわ!」

 

その殆どをイリナとこっそり、ヴァーリにあげたんだよなぁー。

次の日、ヴァーリが嬉しそうに『サンタさんからプレゼントをもらった!』って、

言ってくるから俺とイリナは良い仕事をしたとばかり笑みを浮かべたんだ。

 

「でもでも、あのサンタさんたちのプレゼントは絶対に手に入れましょうね!」

 

「ああ、今の俺たちなら、あのサンタさんに勝てる!」

 

うん、とイリナと頷いたらアザゼルが怪訝な面持で声を掛けてきた。

 

「なあ、お前ら。なに言っているんだ?」

 

それには俺とイリナは笑みを浮かべ、言った。

 

「秘密です!」

 

「秘密だ」

 

それから、色々と話し合った後、グリゼルダが今回の企画の中身―――プレゼントの確認と、

ヤハウェ、ミカエルからの年を明ける前のあいさつを

いただくために天界へ案内をしてくれるというので地下室へ。

だが、その途中でリーラに呼び止められた。何やら真剣な顔で。

 

「どうした?」

 

「お客様です」

 

「俺にか?」

 

「はい。―――兵藤家の使者です」

 

っ・・・・・。兵藤家の使者か。・・・・・俺に何の用だろうか。分かったと頷き、

来た道に戻ろうとしたら案の定、皆が不思議そうに訊ねてくる。

 

「俺に客が来た。天界は皆だけで行ってくれ」

 

「・・・・・じゃあ、僕も残るよ」

 

何かを察知したのか、和樹が言う。

 

「何だかね、僕にも関係がありそうな感じがするんだよ」

 

「いいのか?」

 

「うん、天界は次の機会に」

 

和樹の気持ちは変わらないようで、俺と和樹だけ退き返して応接室に足を運んだ。

既に客はそこにいるらしく、俺たちも早足で駆けつける。

 

「・・・・・」

 

応接間に入ると、ビシッとしたスーツを身に包んだ男性がソファに腰を下ろしていた。

俺を見ると立ち上がってお辞儀をした。

 

「初めまして、私は兵藤家現当主、兵藤源治さまに仕えている者です。

お会いできて光栄です。―――兵藤一誠さま」

 

「・・・・・」

 

最後、俺の名を発した瞬間・・・・・鋭い眼光になった。

なんか、俺に対する何かを抱いているんだろう。

話を進める。

 

「それで、今回はどのようなご用件で俺に?」

 

「はい、甦ったあなたさまのご様子をお伺いに参りました。

・・・・・人間ではないようですね」

 

「ああ、甦る際に人間を辞めた。だから、次期人王の肩書は捨てているつもりだ」

 

ソファに座りながら語る。男性はあからさまに安堵で胸を撫で下ろす。

 

「そうですか、それはなによりです。人王は人間でなければならない掟なので、

甦った次期人王が人間ではない異なるものとして

人王になるおつもりでしたら―――辞退してもらおうと考えておりましたので」

 

「・・・・・っ」

 

和樹から怒気を感じた。頼むから、ここで魔力を放つなよ・・・・・?

 

「それを言いにわざわざ訪問を?」

 

「いえ、それはついでです。―――これをご覧ください」

 

傍に置いてあった、鞄を手にして中から蝋燭を取り出した。炎が黒い蝋燭を。

 

「これは?」

 

「兵藤家の者の命そのもの・・・・・と言いましょうか。

この蝋燭の炎は兵藤家一人一人の命が分かる兵藤家の命の灯火であります。

兵藤家の者に子が誕生すれば、その子の蝋燭が特殊な場所で出来上がり、

その子の命の炎が燃え上がります」

 

蝋燭の向きを変えた男性。その蝋燭には黒い字で名前が書かれていた。―――兵藤一誠と。

 

「・・・・・俺の命の蝋燭か」

 

「はい、兵藤家の命の火は様々な色を灯火ますが、兵藤家が誕生して以来、

このような禍々しい黒い炎の蝋燭は源氏さまも初めて見たと仰っておりました。

あなたが死ぬ以前の命の炎はとても綺麗でした。

―――ですが、何故このような色の炎になったのか私たち兵藤家は理解できません。

ですので、あなたと会い、話をし、できればあなたの身体を調べさせてもらいたいと

思っております」

 

「「・・・・・」」

 

和樹に視線を向ければ、和樹も俺に視線を向けていた。アイコンタクトで会話する。

 

「(大方、俺が魔人の力を覚醒、したからだろうな)」

 

「(どうするの?言っちゃう?)」

 

「(言わないより、言ってからどんな反応をするか、様子を見よう)」

 

「(フォローするよ)」

 

頼もしい魔法使いだ。たったの三秒で和樹と決めて視線を前に戻す。

 

「身体の調査はご免被りたい。だけど、その炎の色が黒くなったのか原因は分かっている」

 

「・・・・・教えてくれますか?」

 

肯定と頷き、父さんと母さん、それにあの時であった魔人の言葉を包み隠さず告げた。

 

「・・・・・」

 

男性は俺の話を聞くにつれ、険しい顔になったり驚愕の色を浮かべたりした。

兵藤家と式森家は魔人という種族から誕生したと言った時は目が飛び出んばかり

驚いたほどだ。

 

「そう言うわけだ」

 

「・・・・・なるほど、禁忌を犯した兵藤家、式森家の者たちの間に生まれた子が、

強い肉体を得たことで、相反する力は肉体に収まって・・・・・魔人となった・・・・・」

 

「唯一無二の存在だろうな。相反する力に耐えきって生きている兵藤家と式森家、

父さんと母さんの間に生まれた子供が俺なんて、今でも俺自身は驚いている」

 

「それで・・・・・あなたはその魔人の力をコントロールできているのですか?」

 

その質問はNOだ。

 

「俺も魔人の力を扱えるように努力しているところだ」

 

「そうですか・・・・・」

 

「まあ、俺みたいな禁忌を犯してまで強い子をを作ろうなんて考えをする奴はいないだろう。

魔人のことなんて、現当主だって知らないんだろう?」

 

「ええ、私自身もあなたから聞くまでは存在すら知りませんでしたよ」

 

溜息を吐き、自分の手を見下ろす男性。

身体に流れる力と血は魔人・・・・・と思っているのかな。

 

「次期人王のことはどうなっている?」

 

「一応、候補は挙がっております。今のところは―――兵藤名無です」

 

「・・・・・あいつが?」

 

「ええ、本気を出せば兵藤照より強いだとかとあるものがそう仰っておりましたので」

 

あいつがねぇ・・・・・。確かに強かった。

あの時は兵藤照に言われるがままで戦っていたから、あいつ自身の意思で戦っているわけでも

ないかもしれない。だけど、確かに強かったな。それは確かだ。

 

「また、大会を開催はしないんだな?」

 

「既に終わってしまい、次期人王の死は世間に認知されましたからね。

ですが、突然に別の者が人王などと、世界中の人類は納得しないでしょうし、

現当主は何かしらの対策を考えているかもしれません」

 

「悠璃と楼羅はどうなる?」

 

「・・・・・」

 

男性は口を閉ざし、考える仕草をし始める。

 

「今のところ・・・・・何とも言えませんね。

次期人王だったあなたと(仮)結婚してしまったので、

このようなケースは初めてなので、私から言えることはございません」

 

なるほど・・・・・取り敢えずは安心か。男性は蝋燭を鞄の中に仕舞い、立ち上がった。

 

「それでは、私は兵藤家に戻ります。あなたから得た情報はとても興味深く、驚きでした。

この事は当主にお伝えします」

 

「ん、よろしく言ってくれるとありがたい」

 

「かしこまりました」

 

「ああ、それと」

 

応接間からいなくなろうとする男性を呼び止め、俺は名乗った。

 

「兵藤一誠としての俺は死んでしまったから、今の俺はイッセー・D・スカーレットだ。

よろしくな」

 

「・・・・・かしこまりました」

 

男性はお辞儀をし、俺と和樹の視界からいなくなった。

 

「・・・・・これで、大変なことにならないと良いんだけど」

 

「その時は、振るいかかる火の粉のように払うまでさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「源氏さま、ただいま戻りました」

 

「ご苦労だった。どうだ、兵藤一誠の様子は」

 

「はい。元気でおられました。そして、とても信じられない情報を得れました」

 

「そうか・・・・・では、皆を招集させて聞かせてもらおうか」

 

「・・・・・」

 

「どうした?」

 

「いえ・・・・・かしこまりました」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode2

兵藤家の使者がいなくなってしばらくして、天界に行ってしまった皆を待っていた。

俺と和樹、リーラとグレイフィアに、シンシア、オーフィスが家にいる。

ガイアは次元の狭間に行っている。

キッチンの方に視線を向ければ、リーラがアインスにメイドとしての務めを教え込んでいた。

融合騎とかいう存在らしいが、誰でもユニゾンすることはできるんだろうか?

 

「・・・・・」

 

和樹がリーラとアインスを見つめている。

 

「どうした?」

 

「いや・・・・・一誠のメイドって銀髪の女性しかいないなぁーって思ってさ」

 

「それってお前のシンシアだってそうじゃないか?」

 

「まあ、そうだけど、一誠って銀髪フェチだったっけ?」

 

いや、そういうわけじゃないんだけど・・・・・。何故か皆の髪が銀なだけだと思う。

 

「ヴァーリも銀髪だったよね」

 

「いや、あいつって元は黒だったぞ」

 

「えっ、そうなの?」

 

「ああ、いつかだったかな。急に銀になったんだよ。

まあ、俺とイリナは気にもしなかったからヴァーリと遊んでいたけどな」

 

今思えば懐かしい記憶だ。

 

「そういえば、学校のほうはどうだ?」

 

「変わらないさ。まあ・・・・・サーゼクス理事長が学校の護衛として依頼した人たちには

驚いたけどね」

 

「ああ、九十九屋の皆か」

 

「・・・・・知っていたの?」

 

「サーゼクスから聞かされた」と教えた。龍牙の奴は絶対に関わり合おうとはしないだろうな。

完全に絶縁したって言ったし。

 

「一誠、もしも九十九屋と出会ったらどうするの?」

 

「父さんと母さんを殺した総大将と―――って間違いじゃないか?」

 

「・・・・・」

 

和樹は肯定と沈黙する。和樹の質問にはどうでもいいって感じで答えた。

 

「別に何も感じない。もう昔のことだ。最初はヴァンたちを殺し復讐をしようと思ったのは

事実だけど、龍牙の兄貴をどうこうしようとしても、何の変わりもないさ。

責任を感じているのなら勝手に感じていろ。いつか報いを受けるためにな」

 

それだけ言ってソファに寝転がる。と、インターホンが鳴った。今日で二度目の訪問だな。

身体を起こすとアインスが訪問者を出迎えに行った。

しばらくして、アインスが中年の男性を引き連れて現れる。

 

「あ」

 

俺は牧師の服を着た栗毛の男性を見て漏らした。

男性も俺を見て、目を丸くするけど直ぐに笑顔になった。

 

「おお、一誠くん。久し振りだね!」

 

「お久しぶりです」

 

ソファから立ち上がって中年男性と握手を交わす。

背後から「知り合い?」と和樹が訊いてくる。

その尋ねに男性に視線を向けながら答えた。

 

「イリナの父親だ。紫藤トウジさんだ。

確か、教会の関係の仕事をしていたような・・・・・?」

 

「うん、合っているよ。私はプロテスタントの牧師兼エージェントをやっているんだ」

 

すると、イリナのお父さんが俺の両肩に手を置いた。そしたら―――号泣し出した!

 

「・・・・・イッセーくん、孫を、よろしくお願いします」

 

「え・・・・・は、はい・・・・・?」

 

いきなり、孫と言われても・・・・・俺もどう反応したらいいか・・・・・。

しかし、困惑する俺の想いなど通じず、イリナのお父さんは一人頷く。

 

「うんうん!男の子でも女の子でもどちらでもいいのだよ!

いや、むしろ、たくさん子作りに励んでどっちの孫の顔も見たいかなって!

ああ、女の子はイリナちゃんに似てとても愛らしいだろうなぁ・・・・・・。

男の子はイッセーくんに似てとても勇ましい子になるんだろうか・・・・・」

 

・・・・・ああ、一人妄想の世界に入り込んでしまった。

この癖、イリナにそっくりだ。やっぱり、親子だな。この人の悪いところが

イリナにも遺伝しちゃっているよ。最近のイリナは妄想なんてしなくなっているけどさ。

 

「最初、イッセーくんが生きているとイリナちゃんから手紙を見てあまりにも

嬉しくて部屋で踊り回ってしまったよ。これで孫の顔が見れる!ってね。

でも、イッセーくんが死んだと知った時は物凄くショックだったよ。

でもでも、イッセーくんが甦ったって話を聞いた時は部屋で光力を空に放って打ち上げ花火を

してしまったね!―――まあ、それでおママにこっぴどく叱られてしまったけど、

イッセーくんが甦って良かった!そういえば、ドラゴンの身体になったんだって?

だとすればイリナちゃんとの子作りには何も問題ないだろう!ドラゴンはせい―――」

 

ガンッ!

 

イリナのお父さんが思いっきり殴られた。

 

「トウジさま。そのへんで話を打ち切ってください」

 

調理道具の一つ。フライパンを片手に持っているリーラによって。

イリナのお父さんは頭に両手で押さえてリーラに視線を向けた。涙目で。

 

「リ、リーラさん・・・・・久し振りだねと言いたいけど、痛いよ?」

 

「一誠さまが困惑しております。

それにそのことについては当人たちの意思で・・・・・子作りを励むものです」

 

あ・・・・・可愛い。最後辺りでリーラが頬を淡く朱に染めて小さく発した。

 

「・・・・・それと、あなたの娘が帰ってきておりますが」

 

「・・・・・へ?」

 

あ、本当だ。―――青白い六対十二枚を展開して顔全体が赤く染まって

全身をプルプルと震わすイリナが筆頭に、天界に行っていた皆が戻っていた。

 

「パ・・・・・パパ・・・・・イッセーくんになに言っちゃっているのよ・・・・・」

 

「や、やぁ、マイエンジェル・・・・・?綺麗な翼だね・・・・・ところで、

どこまで聞いていたのかな?」

 

「イ、イッセーくんとこ、子作りの話のところからよ・・・・・・」

 

それ、一部始終じゃないか?あ・・・・・バチバチと青白い放電が・・・・・。

 

「パパのバカァーッ!」

 

ビッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

「娘からの愛の攻撃ぃぃぃぃぃっ!」

 

全身に駆け回る放電にイリナの父さんは痺れまくり、黒コゲとなった。

 

「なんだろう、イリナちゃん・・・・・私たちと同じ感じがするっす」

 

「そうね、特に父親が『ああ』だから」

 

「同じ苦労をなされておるのですね・・・・・」

 

「今度、イリナちゃんを含めて自分たちのお父さんのことについて語り合ってみる?」

 

神王、魔王の娘である四人がひそひそと話しあっていた。

 

 

 

その日の夜。どこから嗅ぎつけたのか、ユーストマとフォーベシイが家に上がり込んで

イリナの父さんを交えての夕食となってしまった。三人の娘たちは頭を抱え、

何事も起きませんようにと呟いていた。

しばらくして、酒でアルコールが回った証拠、

顔を赤らめながら改めてイリナの父さんはこう言う。

 

「では、改めまして。元教会の戦士(エクソシスト)でクリスマス企画の立案者である紫藤トウジです。

イギリス―――プロテスタント側の牧師をしております」

 

そういや、カトリックでは男性聖職者を神父と呼び、プロテスタントでは牧師と呼ぶんだっけ。

あれ?牧師は聖職者じゃなくて、教職者だっけ?

まあ、宗教によって呼び名や戒律も変わるそうだからな。

ただ、プロテスタントの牧師はカトリックの神父とは違い、結婚できるんだよな。

もう少し、その辺の知識を調べるか。

 

「そのようなわけで、今回の立案理由と、細かな確認だけして、当日に備えるようにしましょう」

 

そこから、イリナの倒産による発案に至った経緯、今回の企画の注意点などが語られる。

発案に至った理由は、陽はこの地に住む者たちへの感謝の気持ち、

もっと雑に言ってしまえば迷惑料である。今回の説明で一番の驚いたのは、

イリナの父さんがプロテスタント側の局長であるということ。

何でもとある支部の役所に就いているそうだ。一通り、クリスマスの概要説明も終えた

イリナの父さんは、俺に「そうそう、お土産があります」と鞄から中を探りだした。

取り出したのは―――ドアノブだった。・・・・・ドアノブ。何故にドアノブ?

皆が首を傾げて視線を注ぐ中で、イリナの父さんはそれを俺に手渡してきた。

 

「これはねイッセーくん。どこでもいいから扉のドアノブと交換して取り付けてみたまえ」

 

「・・・・・それで、なにがなる?」

 

「ふっふっふっ、それは俺から説明するぜ!」

 

ドンッ!とユーストマが自慢げに胸を張ってドアノブの説明をした。

 

「そのドアノブを取り付けた部屋は天使がどんな種族と子作りしても何ら問題がないよう

作った特別な専用の異空間に繋がるんだぜ!

つまり、天使であるシアがイッセー殿と子作りをしてもシアが堕天使になることは一切ない!」

 

『―――ッ!?』

 

ユーストマの発言に皆が一様に驚く。そ、そんなものを、天界が作ったのかぁっ!?

シアの肩を置いて、ユーストマは力強く言い放った。

 

「シア!遠慮なくイッセー殿と愛を育み孫の顔を見せてくれ!」

 

「え・・・・・ええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」

 

予想もしていなかったであろう父からの言葉を聞いて、シアは心底仰天した様子で叫んだ。

というかおいこら、シアのためだったら何でイリナの父さんが俺に手渡す。フツー逆だろ、逆。

 

「・・・・・まあ、私は神王の娘だけど悪魔だし、

 ・・・・・・その、イッセーとシても問題、ないわ」

 

キキョウが顔を赤らめてブツブツと言う。

 

「・・・・・ヤハウェ、お前は一体なにを考えているのか、

さっぱり俺には分からないよ・・・・・・」

 

手の中にあるドアノブを見下ろして、深く溜息を吐く。

 

 

 

―――兵藤家―――

 

「―――以上が、兵藤一誠の身に起きた事の始終の報告でございます」

 

兵藤源治の使者が鏡を合わせる形で座る兵藤家の重臣たちと現当主、兵藤源治に報告を終えた。

面々の反応は様々だった。

 

「兵藤家と式森家の血が、我ら兵藤家が・・・・・魔人と言う種族から

生まれたものだとは・・・・・」

 

「信じられん!我らは由緒正しき人類の頂点に立つ一族であるぞ!

何故、魔の種族の血がこの体に流れていると言うのだ!?」

 

「式森家の者との間に生まれた子が死ぬ理由はそう言う事だったのか」

 

「おのれ、あの者どもが余計なことをしなければ・・・・・!」

 

怒り、驚き、困惑、納得と反応、感情を露わにする。

 

「お静まりください。皆さまのお気持ちは式森家の者たちと同じ。

それに、この場に現当主がおられるのですぞ」

 

『・・・・・』

 

使者の一言に場は静まり返った。周りから視線を一身に浴びる源氏は、

腕を組んで瞑目している。

 

「当主さま。彼の者は『兵藤一誠は死んだ』と仰りました。

なので、彼は兵藤家の者ではないという事実を自分でお認めになりました。

ですが、・・・・・式森家と我ら兵藤家の血と力を身体に宿す者は、

この兵藤家の歴史の紐を解いても存在は確認できておりません」

 

「・・・・・」

 

「しかし、魔人と言う種族のことに関しては兵藤家の歴史の中では書かれていないことも事実。

現当主である源氏さまもご存じないのは重々承知です。

だからこそ、我らが魔人から生まれた一族と言う事実をこの場にいる者たちの間だけの

秘密にしたほうがよろしいかと」

 

使者の言い分に沈黙を貫く面々。それについては同感だと反応なのだろう。

そこで、一人の男性が口を開く。

 

「だったら、魔人の力を覚醒した者を野放しにしてはおけないと言うことでもあるな。

彼の者が兵藤家ではないと言っても、出世が割れている。―――元兵藤家当主の兵藤誠、

元式森家当主の式森一香。両名禁忌を犯し、子を生んだ。

その子供の名は兵藤一誠・・・・・禁忌を犯し者たちの子。忌まわしい子」

 

不穏な空気が漂い始める。

 

「(・・・・・彼の者の存在がし続ける限り、我らの存在意義がなんなのか・・・・・)」

 

「(・・・・・彼の者が存在し続ける限り、

我らは魔の血と力を宿していると立証し続ける・・・・・)」

 

「(・・・・・彼の者が存在が、兵藤家の名誉と栄光を穢す・・・・・)」

 

では、それらを正当に戻すにはどうすればいい?兵藤家の重臣たちの思考と理想が一致する。

王侯貴族、高貴な一族ならば、自分の家の闇を世間に知らせたくがないため、

自分の悪行を周りに知らせたくないため、

秘密をバレないように、漏らさないように、誰もがするある方法を脳裏に思い浮かべた。

それは―――。

            

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             ―――――兵藤一誠をこの世から抹消する―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode3

次の日―――。

その日は午前中をトレーニングに当てた後、午後はクリスマス企画のために動き出していた。

俺とオーフィス、ゼノヴィア、イリナ、ロスヴァイセ、セルベリア、イリナの父さんという

メンバーで、地元の駅から二つの町まで赴いていた。この町にある大型家電量販店や品揃えの

良い本屋などでプレゼントの下調べをしてきた。実際に流行のものを確認して、

店員さんにも品物などについて訊く。クリスマスで配るプレゼントも一部

まだ決めかねているものは、今回の下調べを参考に用意していこうと皆で判断したんだ。

やっぱり。ある程度新しくて需要のあるもののほうが、プレゼントされて嬉しいだろうしな。

住民のリサーチをできなかったのが。若干辛いところだが・・・・・。

 

「貴重な時間を付き合わせてしまって申し訳なかったね」

 

イリナの父さんが俺たちに謝る。

 

「気にしないで、学校を行っていないから丁度良いよ」

 

「イッセーさまを守護するのが我らヴァルキリーの務めでもありますし、

気にしないでください」

 

セルベリアが軍人のように言う。ヴァルキリーとしての務めが中々できなかったため、

俺が外に出かけると知ったら、ロスヴァイセを引き連れてお供しますと張り切っていた。

イリナがメモ書きを確認しながら言う。

 

「あとは、コスチュームを下調べするだけね。

コスプレ衣装が置いてあるショップに向かいましょう」

 

イリナがそう言うなり、先導してくれた。サンタのコスチューム。やっぱり、女性が多いので、

その辺り気になるのだろう。道を歩く中、不意にロスヴァイセが訊いてくる。

 

「と、ところでイッセーさま。

こ、これは一つの参考として訊くんですけど・・・・・あくまで参考ですよ?」

 

と、断わった上でロスヴァイセがもじもじしながら言う。

 

「私たちの勇者であるイッセーさまを悦ばすのもヴァルキリーのつ、務めです。

ですので・・・・・イッセーさま的に女性が着る

サンタのコスチュームは・・・・・従来のズボンか、

それとも・・・・・・スカートでしょうか」

 

ズボンか、スカート。うーん・・・・・穿くものによって動きやすさが違うからな・・・・・。

 

「スカート・・・・・かな?動きやすさを重視に考えれば、ミニスカート。

うん・・・・・ロスヴァイセは、サンタのスカートが似合いそうだ。

セルベリアはミニスカートかも」

 

俺がそう答えると、ロスヴァイセは顔を真っ赤にした。

 

「―――ッッ!も、もう!そっだらこど、むやみに女子に言うもんじゃねぇしっ!」

 

お、怒られた!?しかも初めてロスヴァイセから聞く方言!

だが、すぐに咳払いして改まり、小声で呟く。

 

「そ、そうですか。スカートですね、スカート。

・・・・・足、細く見えるかしら・・・・・いまから準備しても間に合うわけ・・・・・魔法で

誤魔化す?けれど、そんなことしたって男子の目は誤魔化しきれないって、

前にばあちゃんが―――」

 

・・・・・ロスヴァイセ、何だか変。俺の腕に優しく叩く感触が伝わる。振り返れば、

セルベリアが口を開いた。

 

「彼女は田舎にいる祖母と長らく住んでいたため、お祖母ちゃんっ子なんです」

 

「ああ、そうなんだ?びっくりしたよ。初めて彼女が方言を言うもんだから」

 

「ふふっ、ロスヴァイセはイッセーさまに変な姿を見せたくないと前に言っていましたからね」

 

「ちょっ、セルベリア!なに言っちゃっているんですかぁっ!?」

 

ロスヴァイセがセルベリアに顔を赤くしたまま怒った。

 

「大丈夫だロスヴァイセ」

 

「ふぇ・・・・・?」

 

「どんなロスヴァイセでも、俺はロスヴァイセを受け入れるから」

 

微笑みながら言うと―――ロスヴァイセは首と耳まで赤くした。

 

「あう・・・・・あ、あの・・・・・そ、その・・・・・・ありがとうございます・・・・・」

 

照れているのか、顔を俯いてセルベリアの背後に隠れた。その仕草が可愛くて愛くるしかった。

 

「イッセーくんの笑う顔・・・・・やっぱりイイわね」

 

「うん、こっちまで安らぐぞ」

 

「ふふっ、小さい頃と変わりない笑顔だね、イッセーくん」

 

「我、見えない」

 

だからって俺の首に両腕で回して、両足を胴に回して抱きつかないでくれ・・・・・。

ショップに向かう途中、ぽつぽつと空から雨粒が降ってきた。それは直ぐに

土砂降りの様相となり、十二枚の翼で傘代わりにし、近くの公園に会った東屋に駆け込んだ。

 

「止むまで少し待ちましょう」

 

「さっきのように翼で傘代わりにして進まないか?」

 

「ジュリオがいれば、天候を操って雨なんて一発なんだが・・・・・」

 

ゼノヴィアが冗談交じりにそう漏らしていたが・・・・・無暗に天候を操るもんじゃないぞ。

で、俺の考えは雨の状況を見てそうすると保留になった。

皆で東屋にて、雨が止むのを待っていると、ぴちゃぴちゃと雨の中を進む誰かの足音が

聞こえてくる。前方に視線をやれば―――雨の中、傘を差している大勢の存在が立っていた。

皆、黒いローブに仮面をつけていた。禍々しい気を感じさせない。凄まじい闘気だ。

 

「クリフォトか・・・・・?」

 

「気を感じるにそんな風じゃないんだが・・・・・」

 

ゼノヴィアがデュランダルを取り出しながら言う・・・・・って、何だその剣。

俺が見たデュランダルじゃないぞ?俺の視線に気付いたゼノヴィアが不敵に笑みを浮かべた。

 

「ああ、これか?名前はエクス・デュランダル。神王さまに頼んでエクスカリバーと

デュランダルで錬金し、新たなデュランダルにしてもらったんだ。

イッセー、キミが死んだ時にね」

 

「エクスカリバーって・・・・・アーサーが持っている聖剣はどうしたんだ?」

 

「譲ってもらったよ。ルシファーさまを経由してね」

 

い、何時の間に・・・・・。もしかしたら、他の皆も俺が知らないところで

強くなっているのかもしれない。

 

「・・・・・兵藤一誠」

 

「っ!?」

 

傘を差している一人の者が俺に指した。俺を狙っているのか・・・・・?

 

「―――貴様の命、貰い受ける」

 

刹那。バッ!と傘を上空に放り投げ、一斉に駆けだしてきた。

 

「なんで、イッセーくんの命を狙うの!?」

 

「敵が誰であえ、イッセーを守る!」

 

「「主を守護するこそヴァルキリーの務め!」」

 

「イッセーを守る」

 

イリナの父さん以外の皆が敵に掛け出す。手をイリナの父さんに向けて金色の結界を張った。

これで、攻撃を防ぐ―――と思った直後。凄まじい殺気が感じ腕を前に構えたら敵の足を防いだ。

強い―――!なんだ、この敵は・・・・・!?

 

「忌まわしい者よ・・・・・今すぐこの世から消し去ってくれる」

 

「俺が、お前らに何したって言うんだよ?」

 

「お前の存在こそが我らに屈辱を、我らの存在を穢しているのだ!」

 

俺から宙返りして離れ、再度襲いかかってきた。

悪魔や堕天使、天使でもない・・・・・妖怪でもない・・・・・人間?

こんな強い人間が百代以外いたのか・・・・・?

そんな疑問を浮かべながら俺は迎撃する。

 

ドッ!ガガッ!ゴッ!ドンッ!

 

敵の突き出される拳、薙ぎ払われる足を的確に紙一重でかわし、一瞬の隙を見つけて攻撃する。

 

「はっ!」

 

「ぐぬっ!」

 

仙術を纏った拳の一撃を敵の腹部に突き刺した。そうすることで、相手の気を絶ち、

生命ダメージを与えて行動を不能にする。

 

「お、おのれ・・・・・!」

 

倒した敵を放っておいて次の敵に襲いかかる。一番苦戦しているゼノヴィアに援護だ。

 

「ゼノヴィア!」

 

「すまん!」

 

「帰ったら聖剣の能力をマスターしような。特にテクニック方面を重視に」

 

「・・・・・力で押し切る考えはダメかな?」

 

ダメに決まっている!だから相手に押されているじゃんか!金色の軍杖を亜空間から取り出して

呪文を唱え、相手と同じ数の分身を風の魔法で作りだして、指示を下す。―――敵を倒せと。

 

―――十数分後。

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・」

 

「つ、強かったわね・・・・・イッセーくんがいなかったら負けていたわ」

 

「というか、なんだかイッセーくんと戦っているような感じでした」

 

何とか敵を倒し、グレイプニルで縛り上げた敵の前で俺たちは佇んでいた。

 

「体術だけで戦っていたからな。そう思うのは仕方がないだろう」

 

「クリフォトではなさそうですが・・・・・一体誰ですかね」

 

ロスヴァイセじゃなく、俺たちも同じく疑問を抱いている。

 

「んじゃ、尋問タイムといこうか?」

 

そう言うと敵は顔を見上げてきた。

 

「・・・・・殺せ」

 

「そう言うのは三流の悪役が言うもんだ。殺しはしない。

―――どうして俺の命を狙う?具体的にいえ」

 

「・・・・・」

 

敵は口を割ろうとはしない。当然っちゃあ当然だ。誰が素直に目的を言うか。

 

「んじゃ、その仮面の裏を見せてもらおうかな」

 

問答無用に敵の仮面を奪い取って顔を覗いた。俺の視界に中年の男性の顔が映る。

その瞳はギラギラと俺に敵意を宿している。俺、こいつらに対して何かしたか?

全然思い当たらないんだが・・・・・。

 

「イッセー、この人たちって一体誰なのかしら?」

 

「命を狙われるほど、イッセーは何かやらかしたのか?」

 

「おいゼノヴィアさん。俺は誰かに恨みを買うような真似はしていないぞ。絶対にだ」

 

言い切ったその瞬間。―――俺たちの足元に魔方陣が展開した。目を見開いて驚く俺たちに、

敵は高笑いした。

 

「はははははっ!我らと共に死ね兵藤一誠!貴様の死は我らの願望!」

 

「だから、どうして俺の命を狙うんだって!」

 

「貴様の存在が憎い!貴様が存在しなければ、我らは―――!」

 

光がさらに強くなり、『幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』を装着して地面に突き刺そうと

腕を上げた時だった。―――魔方陣の光が勝手に消失し、魔方陣そのものも消えた。

 

「・・・・・イッセーがやったのか?」

 

「いや、俺は何もしていない。・・・・・不発か?」

 

が、疑問は直ぐに解消した。雨の中歩く音が聞こえてくる。―――新たな敵か?

警戒して構えると、向こうから・・・・・。

 

「こんなところで会うなんて、世界は狭いもんだな」

 

「本当ね」

 

『――――っ!?』

 

父さんと母さんが傘を差して俺たちの前に現れた。

しかも、母さんが持つ禍々しい波動を放つ剣の先が、野太い丸太のような大きさが八つも

枝分かれしていて二人の背後に伸びていた。

 

「だが、俺たちにとってはありがたいことだ」

 

「・・・・・どういうことだ」

 

「丁度、式森と兵藤と関わりある魔人のことを調べていたんだ。

だから、他の兵藤と式森家の人間を何人か捕えたかったわけだ」

 

俺の背後にいる敵を父さんは腕を伸ばして指した。

 

「一誠の後ろにいる奴らは―――兵藤家の者だ」

 

「なっ!?」

 

『っ!?』

 

「そんで、さっき魔方陣が出現したけど、それは―――こいつら式森家の仕業だ」

 

八つに枝分かれているものが動き始め、俺たちにその全貌を視界に映す。

ドス黒く強大な邪気の塊と表現がピッタリだ。八つの頭部を持つ巨大なドラゴン!

真っ赤な血の涙を流し、大きな顎の間にはぐったりとしている人間がいた。

 

「貴様ら・・・・・!禁忌を犯した者どもが、

のこのこと我らの前に現れてただで済むと思うなよ!?」

 

「一誠に倒された弱小がなにを言っているんだか。

いや、たかが兵藤家のプライドと自分たちのプライドで

一誠の命を狙おうなんて―――お前ら何時そんなにちっちゃくなったんだ?」

 

「黙れ!禁忌を犯した貴様らが生んだ、この忌まわしい力を覚醒したこの者を抹消しない限り、

我ら兵藤家の存在意義が―――」

 

「黙れよ?」

 

ゾッッッ!

 

たった一言で、父さんは喚く敵を濃厚な殺気で黙らした。

父さんは頭を掻きながらため息交じりで言う。

 

「はぁー・・・・・どうせ、独断で事を起こしたんだろうな。

あのジジイが一誠の命を狙うような真似はしないからな」

 

「ぐっ・・・・・」

 

「一誠は人気者だな。クリフォトだけじゃなく、

味方だった兵藤家と式森家にまで狙われるなんてな」

 

・・・・・嬉しくない人気だよ。まさか、俺が魔人で魔人から兵藤家が生まれたって聞いて、

式森家までがこんなことをするなんて思いもしなかった。

 

「・・・・・あの時のようにはならないか」

 

父さんは俺を見据えてそんな事を言う。あの時、暴走した俺のことを言っているんだろう。

と、思っていると背後にいる兵藤家の足元に魔方陣が出現して、

グレイプニルを残して光と共に消失した。

 

「それじゃ、また会おうな。まあ、近いうちに会いそうだけど」

 

「行きましょう?都合良く欲しかった物は手に入れたし」

 

あの二人の足にも魔方陣が現れ、俺たちを残してどこかへ転移した。

 

『・・・・・』

 

俺たちはなんとも言えない雰囲気、空気になって

しばらく父さんと母さんがいた場所を見つめた。

 

―――○●○―――

 

「―――兵藤家と式森家に襲撃されただとぉっ!?」

 

目玉が飛び出んばかりにアザゼルが叫んだ。遠出から帰った俺たちは

ユーストマ、フォーベシイ、アザゼルを呼んで、事の様を説明したら、

アザゼルは絶叫した訳だ。

 

「独断で行ったようだった。勝手に自白したよ」

 

「マジかよ・・・・・あの一族がお前に襲撃するなんてよ・・・・・んで、

誠と一香に連れ去られたと」

 

「ああ、魔人のことを調べているみたいだ」

 

「・・・・・そいつらはもう死んでいると思った方が良さそうだな。

力と血を抽出するだけして、殺すに違いない」

 

テロリストだし、そうだろうな。同情もしないがな。

 

「今頃、兵藤家と式森家は騒がしくなっているかもしれないな」

 

「ああ、今まであの一族が自分から襲撃なんてしなかった。

ちっ、面倒くさいことになりやがって・・・・・!」

 

「歯痒い思いだけど私と神ちゃん、冥界と天界が人族である

兵藤家、式森家に手を出せない・・・・・」

 

「手を出したら、宣戦布告と取られちまいそうだからな。

そうなったら、またあの時の戦争の続きをしかねないぜ」

 

真剣な面持ちで言う。確かに、その代表が自ら攻撃したらそうなる可能性は大だ。

人間には人間でやりあうしかない。

 

「因みにだが、この事は兵藤家のあいつらには?」

 

「いや、まだだ。だけど―――」

 

ドドドドドドドッ!!!!!と走る足音が聞こえ、扉が勢いよく開け放たれ。

 

「いっくん!」

 

「一誠さま!」

 

「一誠!」

 

イリナたちから知らされたんだろう、悠璃と楼羅、和樹が入って来て俺に抱きついてきた。

 

「ああ、お前の言いたいことはよーく分かった。―――このリア充め」

 

最後、妬みにしか聞こえないぞ?

 

「大丈夫!?怪我ない!?」

 

「兵藤家と式森家に襲撃されたと訊きました!」

 

「いっくん!いっくん!」

 

心配してくれているのは嬉しけど、ちょいと離れてくれないカナ・・・・・マジ、苦しい。

 

「ああ、イッセーちゃんから離れて離れて、顔が青ざめているよ」

 

悠璃と楼羅がバッと離れてくれた。フォーベシイ、サンキュー。

 

「大丈夫かい?」

 

「なんとか・・・・・それと、俺は大丈夫だよ。悪いな心配掛けて」

 

「いえ・・・・・元々は兵藤家が悪いんです」

 

「式森家もね。でも・・・・・どうして一誠の命を狙うんだろう・・・・・皆、優しい人たち

だったのに」

 

和樹が物凄く落ち込んだ。和馬さんは俺の命を狙うようなことはしない。

だけど、人の心には闇がある。その闇が大きくなればなるほど、

人は変わってしまうんだろう・・・・・。

 

「人は心に光と闇の二種類の顔がある。

イッセーちゃんを襲ったものは闇に負けてしまったのだろう」

 

「だから、お前たちが悩み、気にするようなことじゃない。いいな?」

 

「「「・・・・・」」」

 

そう言われても、意識をしてしまうのが人間なんだよ。

 

「また、襲撃される可能性はあるかもしれない」

 

「イッセー殿?」

 

「たとえ、元同じ一族だとしても。俺はイッセー・D・スカーレット。

愛する家族、仲間を守りたいからこそ強大な力を欲し、得たいんだ。

―――俺は敵を倒す。だから」

 

和樹たちに話しかける。

 

「もしも、また俺が襲撃された時は、お前らは手を出すな」

 

「な、なんで・・・・・?」

 

当惑する和樹に言った。

 

「だって、反逆者になるだろう?特に和樹、お前は両親がいるんだ。

一族の反逆者になったら悲しむはずだ。お前の帰りを待っている一族がな」

 

次に悠璃と楼羅にも告げた。

 

「悠璃、楼羅もだ」

 

「「・・・・・」」

 

「現当主の娘なんだ。今は一緒にいるだけで、咎められないだろうけど―――」

 

俺の口が塞がられた。悠璃の唇によって。直ぐに彼女の唇は離れた。

 

「私は、いっくんの傍にいると自分の意思でここにいるの。

だから、いっくんの敵となる奴は例え、一族でも家族でも・・・・・」

 

「悠璃・・・・・それ以上は言うな」

 

「いえ、言わしてもらいますよ。一誠さまの敵となる者は全て倒します。

―――家族であってもですよ」

 

楼羅が悠璃の代わりに言った。俺は悲しげに二人に訊ねた。

俺みたく、家族と戦う必要がないのにこの二人は敢えて自らしようとしているんだ。

そうする必要はないと説得しているのに・・・・・。

 

「なんでだ・・・・・・」

 

「一誠さまの妻らからです」

 

「もう、いっくんを失いたくないの。死なせたくないの。新しい力を手に入れたとしても、

いっくんを守りたいの・・・・・」

 

俺の胸に顔を埋めて、悠璃が気持ちを伝えようとする。

楼羅も悠璃の隣で俺の胸に顔を埋めてくる。

 

「一誠、僕だってそうだよ」

 

真剣な顔で決意に秘めた瞳を俺に向けてくる和樹が言う。

 

「大切な親友を二度と失わせないよ。魔法使いとしてまだ未熟かもしれないけど、

それでもキミを守る」

 

「和樹・・・・・」

 

親友までもがそんな事を言うのに、俺は止めることができないでいる。

 

ポン・・・・・。

 

「イッセーちゃん彼女たちの気持ちは本物だよ」

 

「イッセー殿がなにを言おうと、意思が固いようだ」

 

フォーベシイとユーストマが俺の肩に手を置いてそんな事を言う。

すると、アザゼルが意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「強大な力を得て、圧倒的な強さで敵を倒すお前が、

身内に甘過ぎて身内に言い負かされるなんてな」

 

「・・・・・うっさい」

 

アザゼルにそっぽ向いた。んなこと、自覚しているよ。

 

「いっくん」

 

「一誠さま」

 

二人に呼ばれ、振り向くと。

 

「「私はあなたを心から愛し、あなたと共に生きたい」」

 

・・・・・そう言われちゃ、何も言えなくなるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――devilhuman―――

 

「おい、聞いたか?兵藤一誠が同族に襲われたってよ」

 

「えっ、本当?」

 

「マジマジ、たまたま能力で観ていた奴が言っていたぜ。

魔人の力を覚醒したからって殺そうとしていたって。んまぁ、別の奴がついでに守ったようだ」

 

「そう・・・・・その時、魔人の力は?」

 

「いんや、使っていない。本当に魔人の力を覚醒しているのか?」

 

「私自身も、話を聞いただけだから何とも言えない。そうね・・・・・久し振りに会ってみようかしら」

 

 

 

 

 

 

―――human―――

 

「なんということをしてくれたんだ・・・・・あのバカどもが・・・・・!」

 

「式森家の方にも数名いなくなっていると報告があります」

 

「あの者を放っておけばいいものの・・・・・・。我ら兵藤家と式森家は世界中にいる

人類を見守るこそが役目だと言うのに、目の先のプライドを優先しおって・・・・・」

 

「帰ってこないということはおそらくは・・・・・」

 

「一誠の奴は殺すとは思えない。第三者が介入してバカどもをなにかしたんだろう」

 

「兵藤照たちに要請しますか?」

 

「あやつらを護衛の任をか?まだ未熟の者どもにそんなことできるか。

―――俺が直々に一誠のもとへ赴く、和馬を引き連れてな。羅輝とともに留守を頼んだ」

 

「警戒なされておると思いますが・・・・・お気をつけて」

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ・・・・・良い感じになってきましたね。

当主もいなくなるようだし、もう少し影から煽いでみましょう」

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode4

俺の命を狙って襲撃されたその日、どうやら俺はトラブルメーカーぽっそうだ。

家の床に見覚えのある魔方陣が現れて、和樹はいち早く俺の前に立って周囲に魔力弾を展開、

悠璃が大鎌を前に構え、楼羅は警戒して魔方陣を睨む。

他の皆も、臨戦態勢になって魔方陣を囲んだ時に光と共にこの場の空気と皆を察知して、

 

「矛を収めろ。俺たちは話をしに来ただけだ」

 

―――兵藤源治が溜息を吐いてからそう言う。

 

「・・・・・お父さん、本当?」

 

疑心暗鬼に和樹は自分の父親に訊ねた。

 

「ああ、だから和樹。その魔力を消してくれ。こっちとしても、

お前たちと戦う理由なんて少しもないんだ。寧ろ、申し訳ないと感じている。

一誠くんに襲撃したと言う話しはさっき知ったばっかりでね、

今の今まで知らなかった。何人かの同族がいなくなっていることに気になってからようやくだ」

 

式森数馬は申し訳なさそうに言葉を発する。皆に警戒を解くように窘めて二人の前に立った。

 

「久し振り」

 

「やあ、久し振りだね。・・・・・うん、和樹から聞いた通り、ドラゴンになっているんだね。

しかも、キミから式森家の魔力を感じる。よく気と魔力、

相反する二つのエネルギーを身体に宿しているね。それは、ドラゴンの身体だからかな?」

 

「父さんと母さんが言うにはそうらしい。でも、それは実証された。

お爺ちゃんの話もちょっとは聞いたよ。相反する力の片方を封印する事で兵藤家と式森家の者の

間に生まれた子供は生き長らえる方法を編み出したって」

 

「・・・・・」

 

現当主は腕を組んで無言のまま真っ直ぐ俺を見据えるだけ。

そんな当主に和樹の父さんは俺に話しかけてきた。

 

「一誠くん、どんな経緯で式森家の魔力を得るようになったのか話してもらえるかな?

何分、まだなにも知らなくてね」

 

「じゃあ、ソファに座って。もう一度説明するから」

 

二人をソファに腰を下ろしてもらい、兵藤家からきた使者に説明した話を復唱した。

 

「・・・・・兵藤家と式森家は魔人から生まれた一族だって・・・・・?」

 

「うん、そうみたいだ。その話は魔人本人から聞いた。それは間違いないと思う」

 

「人間の器だからこそ、相反する力に耐えきれず、暴発してしまうわけか・・・・・

 

和樹の父さんが納得した面持ちで、興味深そうに言葉を漏らした。

 

「ドラゴンの肉体だからこそ、相反する力が一つとなって魔人の血と力が揃った結果、

魔人の力を覚醒する・・・・・でいいんだね?」

 

「うーん、自分でもあんまり確証がないんだけど、多分そうだと思うよ。

とにかく、相反する力には頑丈な肉体という器が必要不可欠なんだ。

生まれてすぐの赤ん坊では、耐えきれない」

 

「片方の力を封印していたからこそ、生き長らえた。封印は無駄ではないってことなんだね。

あとは強靭な肉体まで鍛えれば・・・・・」

 

ブツブツと思考の海に潜ってしまった和樹の父さん。

いや、何度も言うけど人間の身体じゃ保てないと思うよ。

 

「一誠よ」

 

お爺ちゃんが話しかけてきた。

 

「お前を襲撃した者たちはどうした?」

 

「父さんと母さんが連れ去った」

 

「・・・・・二つの血と力を手に入れようとしているのだろうな。

その方法は俺たち兵藤家と式森家にある。あの二人ならば容易いことだろう」

 

うわ・・・・・んじゃ、リリスのような奴が生まれるってことかよ。

どんどんクリフォトの勢力が強まっていくな。

 

「・・・・・」

 

ふいにあの時と同じ感じを察知した。立ち上がってソファの後、窓に移動して開け放った。

外は既に夜。雨も止んでいて、空気はちょっと冷たいが・・・・・。

 

「噂をすれば影か。出てこいよ」

 

催促したその時。目の前の空間が歪んで、穴が開くと一人の女性が現れた。

 

「なんで、分かったの?」

 

「さあな。何故だか、来るって感じがするんだよ」

 

「それも―――魔人の力を覚醒した副作用かしら」

 

微笑む女性は魔人だ。手を招いて家の中に上がらせた。

 

「・・・・・一誠くん、彼女は誰だね?」

 

「魔人だ」

 

「魔人・・・・・!?」

 

和樹の父さんが目を丸くした。魔人はただ笑みを浮かべる。

 

「初めまして。一応兵藤家と式森家は私たち魔人の血と力を受け継いでいるから、

いとこみたいな関係かしら。私は魔人のラクシャ。

人間としてはシオリって名前で通じているわ」

 

自己紹介を終えると彼女は俺の頭、頬、首、肩、胸、腹を触りだした。

 

「うーん・・・・・本当に魔人の力、覚醒したの?魔人としての力が感じないんだけど」

 

「俺が覚えている辺りは、両腕に黒い装甲を装着して背中に紋章状の黒い翼を生やしていた」

 

「なるほど・・・・・その話を聞く限り、確かに覚醒しているのね」

 

ラクシャは顎に手をやって頷いた。そこで、和樹の父さんが口を開いた。

 

「キミたち魔人はどのぐらい強いんだね?」

 

「うん?うーん、個人によるからなー。それと能力も。

教えることはできないからごめんなさいね」

 

「・・・・・だったら、ちょっと力づくで知ろうかな」

 

え・・・・・?唖然と和樹の父さんを見ていると、いきなり魔力弾を放った。

 

「あははー、こりゃあ不可抗力でいいわよね」

 

苦笑いを浮かべるラクシャの眼前で魔力弾が何かに吸われるように消失した。

 

「・・・・・ほう」

 

また、魔力弾を前触れも無しにはなった。今度の数は数十だ。

―――それでもラクシャの前で魔力が吸われていく。

 

「式森家の魔力が魔人だから無効化されるわけ・・・・・ではないよね?」

 

「さあ、丁度ここに悪魔とかいるし、やってみれば分かるんじゃない?」

 

不敵に挑発する。負けない余裕があるんだろう。

 

「では、魔力ではない気で放ってみようか」

 

お爺ちゃんが座ったまま手の平を翳してきた。刹那、気弾を撃ってくる。

ラクシャはかわす素振りもせず、ラクシャの前で気弾すら、何かに吸われてしまった。

 

「ふふっ♪」

 

魔力と気を無効化にする・・・・・。だけど、それだけじゃないと思う。

 

「あなたも、魔人として覚醒できたらこんなふうにできるわよ?」

 

「それは、魔人全員がそうだと言う風に聞こえてくるな」

 

「想像に任せるわ。なんなら一緒についてくる?魔人の力を知っているのは魔人だけ―――」

 

刹那。俺はラクシャから離され、皆に抱きしめられ、囲まれ、守られた。

 

『行かせるかっ!』

 

「・・・・・今の、全然見えなかったわ。なんて独占欲なのかしら」

 

や、これは純粋な思いの行動だと思いたいぞ。だから、そう唖然としないでくれ。

 

「でも、いいのかしら?そのままで」

 

『・・・・・?』

 

「その子が魔人の力を覚醒したと聞いた兵藤家と式森家が

その子を襲撃したってことは知っているわよ」

 

皆が愕然とする。情報が早いな。今日起きたことだと言うのに一体どこで知ったのやら。

 

「だったらいっそのこと、私たち魔人のところで暮らさない?

また身近な味方に襲われたら堪ったもんじゃないでしょ?魔人の本来の力、興味ないかしら?」

 

「・・・・・」

 

ないといえば嘘になる。だけど、それを口実に冥界に繋がる道を案内、

もしくは作れと言いだしそうだ。

 

「ああ、別に見返りなんていらないからね。

ただ、あなたと言う存在が個人的に気になっているの」

 

「なんでだ?」

 

「だって、純粋な魔人以外で魔人の力を持つ存在なんて生まれて初めて見たから。

できれば、あなたの傍でじっくりと観察してみたいわ」

 

彼女の背後に空間が避けた。

 

「それじゃ、そろそろ帰るわ。魔人の力の使い方、知りたくなったらいつでも連絡してね。

待っているから」

 

それだけ言い残し、空間の避け目に入って避け目が閉じたことで彼女の姿は消えた。

 

「・・・・・あれが魔人」

 

「得体の知れない者だったな。俺とお前の攻撃を吸収したのだからな」

 

「どうやって吸収したのか、不明ですけどね」

 

何らかの力を発動した様子も見当たらなかった。魔力も感じなかった。

 

「まあいい。魔人の存在も確認できた。収穫も得たわけだ」

 

「ええ、ですが、連絡してというのは・・・・・一誠くん、彼女と連絡ができるのかな?」

 

「まあ、そうだけど。魔人の力を知っているし」

 

答えるとお爺ちゃんと和樹の父さんが顔を見合わせる。

 

「魔人どもを一掃できるか」

 

「可能性はありますね」

 

ちょっ・・・・・この二人は何考えているんだ!?脳裏にある予感が浮かび、

まさかと思いながら問うた。

 

「魔人と戦うなんて考えはしていないよな?」

 

「魔人の存在が今の兵藤家と式森家を乱している。―――元凶を討たなければ正当に戻せん」

 

―――――っ。戦う気だ、この人は・・・・・。

 

「大丈夫。戦うにしてもRG(レーティングゲーム)の異空間の中でするさ。

そうすれば、死者はでないからね」

 

和樹の父さんが俺を安心させるためか、微笑みながらそう言う。

そこへ、和樹が話掛けてきた。

 

「でも、今の見た限り、気と魔力が通じなかったよ?どうするの?」

 

「式森家は魔力だけが能じゃないって知っているだろう?体術や武器の扱い方も

取り入れているから大丈夫だ」

 

手を伸ばして和樹の頭を撫でる。

 

「では、戻りましょうか。当主が留守にしている間、家では暗躍している者が煽っている

可能性がありますし」

 

「これ以上、同族を減っては困るからな」

 

二人の足元に魔方陣が出現する。転移魔方陣か。

 

「一誠、時が来たら魔人どもに連絡しろ。―――兵藤家と式森家がお前たちに戦いを挑むと」

 

「・・・・・」

 

「今回は済まなかったな。こんなことが無いようにしっかりと見張る」

 

「式森家もだ。それじゃあね」

 

二人は魔方陣から発する光と共に消え、この場からいなくなった。

 

「一誠・・・・・」

 

「止められないだろうなぁ・・・・・でも、あの異空間の中でやるっていうんなら、

命の保証はあるはずだ」

 

「兵藤家と式森家が負けないよね?」

 

「俺はそう思っている。ただ、魔人の力は計り知れない」

 

手の甲に話しかける。

 

「ティア、母さんの剣から出てきたあの蛇みたいな奴はなんだったんだ?」

 

蒼い宝玉が浮かびあがり、点滅を繰り返しながら教えてくれる。

 

『あの蛇は邪龍だ。霊妙を喰らう狂龍(ヴェノム・ブラッド・ドラゴン)八岐大蛇だ』

 

―――邪龍だって?剣に宿る伝説の邪龍か。

 

『気をつけろよ。サマエルほどではないけど、強力だ。放っておけば数日を保たず魂まで

毒に汚染されて息絶える。解毒ができるのも限られた術者か、施設のみだぞ』

 

「既にサマエルの毒と呪いを体験した俺だけど、その邪龍も邪龍で危険か」

 

 

 

 

 

 

―――Heros.―――

 

「曹操、魔人の存在が確認できたよ」

 

「悪魔以外にも魔の存在がいたとはな」

 

「でも、居場所までは突き止められない。見つけたらどうする?」

 

「俺たちは英雄だ。英雄らしく人間の敵を倒すまでだ。ふふっ、悪には悪を・・・・・。

俺たちが導いてやろうじゃないか。―――冥界へさ」

 

「腹黒い英雄の子孫さまだね」

 

 

 

 

―――devil―――

 

「んで、おっちゃんたちは人工的に魔人を作りたいって?」

 

「スペックは落ちるだろうけど、戦力にはなるはずだって言ってましたので」

 

「うひゃひゃひゃ!そーかいそーかい。これで、またクリフォトの戦力が増えちゃうねー!

さーて?現代の悪魔と魔人、どっちが強いんだろうか、気になってしょうがないね!

ユーグリットくん、魔人の潜伏先をなんとか見つけてくれない?」

 

「おや、それはどうしてですか?」

 

「僕ちゃんは優しいからねぇ―。数百、数千年振りに故郷(冥界)へ帰郷させてやるのさ!

うひゃひゃひゃっ!」

 

 

 

―――devilhuman―――

 

「ただいまーっと」

 

「お帰り、どうだったよ?」

 

「ちゃんとした検査をしないと分からないわね。

でも、あの子のところに兵藤家と式森家の当主たちはいたわ。

軽く攻撃されたけど、無効化したわ」

 

「永い年月を掛けて編みだした魔人の新しい力、大いに役立つようだな」

 

「それでも、弱点はあるけどね」

 

「分かっている。だからこそ、この力なんだ。―――倒し、故郷を取り戻そう」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode5

深夜―――。俺は家の縁に腰を下ろして、

夜空に浮かぶ満月を傍に置いてあるきび団子を食べながら眺めている。所謂月見だ。

 

「・・・・・ふぅ」

 

「―――どうした、溜息吐いて」

 

「・・・・・」

 

返事をせず、横に振り返る。横には青い翼を生やし、

俺を見下ろすダークカラーが強い銀髪に青い瞳の少女がいた。

 

「久し振りだな、ヴァーリ。勝手に人間界に来てもいいのか?」

 

「ルシファー・・・・・魔王に一言言っているから問題ない」

 

俺に断わるわけでもなく、俺の隣に腰を下ろして満月を見上げるヴァーリの口が開いた。

 

「聞いたよ。同じ同族に、式森家と一緒に襲われたんだってね」

 

「悲しくて辛い感じは覚えなかったけどな」

 

「・・・・・」

 

ナデナデ・・・・・。

 

頭を撫でられる。なんだ?ヴァーリに視線で訊ねると。

 

「小さい頃、三人の中で一番背が小さかった私にこうしてイッセーが頭を撫でてくれたな。

それがいま、思い出したんだ」

 

と、微笑みながら答えてくれた。ああ、そうだな。

 

「まあ、俺だけじゃなく」

 

「・・・・・」

 

「イリナも撫でたがな」

 

背後から気配を感じ、小さく笑う。

傍に置いている団子を膝の上に置いてポンポンと空いたとなりを叩けば、イリナは座る。

 

「こうして、三人で月を見るのも久し振りだとは思わないか?」

 

「うん、そうだね。それで、一緒に団子を食べて、いっぱい話もしたわ」

 

「その最後の一つの団子で私とイリナは良く喧嘩もしたな」

 

「んで、俺がその団子を二つに分けて二人に渡せば、喧嘩を止めたんだ」

 

懐かしげに談笑。うん、十年振りの幼馴染だけの月見は変わらないな。

 

「二人とも。もうすぐクリスマスだが、二人は何が欲しい?

私がお前たちにプレゼントをしたい」

 

と、ヴァーリが訊ねてきた。俺とイリナは一度だけ顔を合わせてからヴァーリに言葉を発した。

 

「ヴァーリ、そう言うのはサンタさんがプレゼントをしてくれるもんだぞ?」

 

「そうそう、今年もサンタさんがプレゼントをしてくれるわ」

 

俺たちの言葉に、ヴァーリは「そうだな」と目を細め、嬉しそうに弾んだ声で返事をした。

 

「幼馴染と言う二人のサンタが私にプレゼントをしてくれたな」

 

「「・・・・・」」

 

その言葉に、イリナ共々硬直してしまった。あ、あらぁ・・・・・・?

もしかして、気付かれておりました?

 

「え、えっとぉ・・・・・ヴァーリ?なんのことかしら?」

 

とぼけた風にイリナはヴァーリに問うた。ヴァーリは意地の悪い笑みを浮かべ、こう言った。

 

「ふふっ。私がただ眠っているだけだと思っていたか?サンタさんはどんな人なのか、

誰でも興味があるだろう?それは私も同じだ。

だから―――狸寝入りをしてサンタさんを待っていたんだよ」

 

「「・・・・・」」

 

頬に冷や汗が流れる。

 

「するとどうだ?私が待っていたサンタさんは子供で、しかもサンタのコスプレをした

二人の幼馴染ではないか。ちょっと思っていたサンタさんではないことに残念だったけど、

それ以上に嬉しかったよ。こんな私のために二人がたくさんプレゼントを

置いてくれたんだからね」

 

バ、バレているし!んじゃ、何度もプレゼントした時は起きていて

とっくに俺たちがヴァーリにプレゼントをしていたのを知ってて・・・・・あんなに嬉しそうに

笑っていたのか・・・・・。

 

「二人とも、ありがとう。私には勿体ない幼馴染だよ」

 

ヴァーリは俺たちに抱きつきながら感謝の念を発したのだった。

 

「だけど、今度は直で渡してほしいな。そしたら私はもっと嬉しい」

 

「・・・・・だって、イッセーくん」

 

「ああ、んじゃ。今度は三人で行くとしようかイリナ」

 

「うん!幼馴染三人、サンタさんからプレゼントを奪いましょう!」

 

イリナが高らかに腕を満月に向かって伸ばす。俺も同じようにすれば、

ヴァーリも腕を上へ伸ばす。

 

「ところで、サンタさんは強いのか?」

 

サンタさんの実力を気になったのか、俺たちに訊いてきた。

 

「物理的な意味では分からないなぁー。いっつも、雪合戦で戦っていたし」

 

「そうそう、相手は一人だったけど、

物凄く素早くてあっという間に雪玉を当てられちゃうのよ」

 

「素早いんだね、そのサンタさん」

 

「ああ、それが何時も相手にしてくれたのは黒い翼を生やしたサンタさんだ」

 

脳裏に浮かぶ懐かしいサンタさん。元気にしているかな?今年は負けないぞ、絶対に!

 

「・・・・・黒い翼を生やしたサンタさん?」

 

疑問を浮かべるヴァーリを余所に俺はそう誓った。

 

「あっ、そうだイリナ、ヴァーリ。明日、天界に行くけどどうだ?」

 

 

 

 

翌日。俺は皆に天界に行ってくると伝えると、イリナは当然としてオーフィスやリーラ、

悠璃と楼羅が一緒に行くと今朝来たヴァーリと共に俺の部屋へ。

 

「え、どうしてこの部屋に?」

 

「こっからヤハウェの部屋に行くんだ」

 

「ヤハウェさまの部屋って・・・・・え、うそ!?」

 

驚くのも無理はないだろう。俺は壁に向かって手を伸ばし、光力を放てば、

金色の魔方陣が壁に出現してた。

すると、魔方陣の真ん中に避け目が生じて、勝手に開いた。

 

「イリナ、先に入ってくれ」

 

「え、どうしてなの?」

 

「神とは言え、ヤハウェは女性だぞ?着替え中だったらどうするんだ」

 

「あっ、そっか。じゃあ、リーラさんも一緒にお願いします」

 

リーラを引き連れ、イリナは扉の向こうへ足を踏み込んだ。

すると、向こうから驚愕の声が聞こえた。

しばらくして、イリナが顔を出してきた。

 

「入ってきていいわよ。イッセーくんの言った通り、着替え中だったわ」

 

「予想的中だったな」

 

「残念だ。私の胸で視界を閉じてやるのに」

 

息苦しくなるだけだから勘弁してくれ。扉を潜り、中に入る。

以前デュリオに案内されたヤハウェの部屋と変わらず、神々しく、豪華で綺麗な部屋だった。

 

「イッセーくん・・・・・おはようございます」

 

俺に声を掛けてくる金髪の女性こと神のヤハウェ。戸惑いの色が若干浮かんでいた。

 

「突然の来訪にごめんな。天界に来たくなったからさ」

 

「そうでしたか。あなただけ来ていなかったのでどうしたのかと

思いましたが・・・・・災難でしたね」

 

どうやら、こっちの事情を知っているらしい。ユーストマが伝えていたんだろう。

 

「・・・・・」

 

突然、ヤハウェが俺に近づき、頬を添えてくる。その表情は真剣で、

俺の何かを探るような面持ちをしていた。少しして、ヤハウェが口を開いた。

 

「確かに・・・・・以前感じなかった力がありますね。これが、魔人の力ですか」

 

「分かるのか?あれから俺は魔人の力を扱うことはできないんだ」

 

「・・・・・考える可能性は無意識に魔人の力を封じ込めているのかもしれません。

もしくはきっかけがあれば魔人の力は使えるかと」

 

きっかけか・・・・・。父さんと母さんに敵意と殺意を抱いた瞬間に・・・・・俺は

暴走したと聞いた。

 

「魔人の力は天界でも一切情報がありません。これはもしかしたらいい機会かもしれません。

もしよろしければ、身体調査をさせてもらえませんか?」

 

「ああ、別に構わないよ。でも、その前に」

 

「はい?」

 

「天界を見学したい。いい?」

 

ヤハウェに問うと、彼女はニッコリと笑んで了承してくれた。

 

「では、一番初めに第一天に行きましょう」

 

「第一天・・・・・?」

 

訊き慣れない単語に俺は首を傾げた。

そこへイリナが助け船をしてくれ、天界のことを教えてくれた。

それと、俺たちがいる階層は第七天という最上層で、神器(セイクリッド・ギア)の『システム』もあり、ヤハウェが住んでいる階層でもあり、セラフ以外しか入れない絶対的な意味で立ち入り禁止の階層。

因みに下の階層、第六天はセラフの大天使たちが住んでいる現天界の中枢機関―――『ゼブル』で、

第五天は研究機関が多い階層、第四天はアダムとイヴの話で有名なエデンの園!

サマエルの故郷とも言える階層だな。

第三天は全ての階層の中、一番広大で一般的な『天国』と呼べる場所、信徒の魂が集まる階層だ。

でも、第二天は見学させてもらえなかったということで、どんな階層なのかは不明だ。

第一天は天使たちが働く場所でもあり最前線基地のようなものだと、

全ての階層を教えてくれた頃には第一天の階層に辿り着いた。だが、第一天に赴く途中で、

俺は巨大な胸に襲われた。―――セラフのガブリエルの胸にだ。

正確に言えば、俺と目が合うと否や、満面の笑みを浮かべ俺に抱きつき豊満な胸に顔を

押し付けられて、危うく窒息死になるところだった。

そして第一天までは各層に通じるエレベーターで降下して、俺たちは第一天に辿り着いたんだ。

 

「おお・・・・・ここが第一天・・・・・」

 

石畳の白い道、ずらりと並ぶ石造りの建物、空にも浮かぶ建造物、

行き交う純白の翼を持った天使たち。なんていうか、眩しいな。空が白く輝いているのもあるが、

天使や建物、今の俺たちが歩いている道すら光っているように感じてならない。

道には塵一つ落ちていない。

擦れ違う天使たちがヤハウェとガブリエルを見て仰天をした顔を浮かべる。

 

「建物が雲の上に立っているということは、あの雲は乗れるってことだよな?」

 

「ええ、そうですよ」

 

「・・・・・食べれるかな」

 

なんとなく思った事を口にすると、ヤハウェがクスリと笑った。

 

「子供の発想ですね」

 

「いやー、雲ってわたあめみたいでさ?空に飛んであの雲を食べてみたいと

子供の時に思ったことがあるんだよ」

 

「うんうん、そうだね!三人で一緒に食べれたらいいなーって空を眺めていたわ!

懐かしいわねぇー」

 

「味のしないわたあめは不味そうだがな」

 

俺たち三人は懐かしげに話し合って、歩を進める。

多分・・・・・初めてだと思う天界(第一天)を隅々まで案内してもらい、

公園のような広場で一休み。

 

「次は第二天だけど・・・・・行けれないんだっけ?」

 

「第二天は、主に星を観測する場所であり、罪を犯した天使を幽閉する場所でもあるので」

 

「罪を犯したって・・・・・よくアザゼルはその階層に幽閉されなかったな」

 

「人間界で邪な心を抱いた時点で、堕天使となり天界に上がってこれなくなったのですよ。

まったく、女に魅了されて・・・・・」

 

それを聞いて俺は意地の悪い笑みを浮かべて言った。

 

「んじゃ、俺も女に魅了されないように気を付けよう。邪な心を抱きたくないからな」

 

ヴァーリが背中から抱きついてきた。

 

「それは困るぞ。私の魅力を感じてもらわなければ、お前の子供を産めないだろう?」

 

「ヴァ、ヴァーリ!はしたない発言はダメよ!

で、でも・・・・・確かに魅力に気付いてもらわないと困るのは事実だし・・・・・」

 

「あらー、そうですねー。私もそう思いますわー」

 

イリナが右、ガブリエルが左と俺の腕を抱き抱えながら

言うんだけど・・・・・なに、この状況。

 

「・・・・・」

 

ヤハウェが、半ば強引に俺の股の間に座って背中を押しつけてきた。若干、頬を朱に染めて。

 

「あなたなら・・・・・、邪な心を抱いても問題ないですよ・・・・・?」

 

おーい、それはどう答えろっていうんだよ。

 

そう思った時だった。

 

―――ッ!天界が大きく揺れる!

 

天界は人間界に存在していない上に、空の上だ。地が揺れるはずもない。

イリナとヴァーリも一様に不審に思ったのか、辺りに視線を走らせた。

道を行き交う天使たちも仰天している様子だった。天が揺れるなんて、

天使も想定外のことが起こったに違いない。途端に空一面に警戒を知らせる

赤い天界文字が点滅を繰り返しながら幾重にも大きく飛び交じ出した。

そんな天界の光景に驚く俺たちのもとに、警備の天使が走り寄ってくる。

 

「・・・・・邪龍が、クリフォトが天界に攻めてまいりました・・・・・ッ!」

 

その報告に俺たちは戦慄した。―――父さんと母さんたちが天界に侵攻?

どこぞの武将みたいに天下を取るつもりか!?

 

「なんですって・・・・・!?」

 

ヤハウェも驚愕の色を隠せないでいる。それから、俺に視線を送ってくる。

 

「申し訳ございません。あなた方の力をお貸しください。

クリフォト―――兵藤誠と兵藤一香の相手だと私一人では困難に極まります」

 

神すら相手にするあの二人だ。その気持ちはよく分かる。俺たちは当然、頷いた。

 

―――○●○―――

 

第一天にある作戦司令室に集まる俺たち。ヤハウェ、ガブリエルとイリナ、ヴァーリ、

オーフィス、リーラと大を囲んで作戦会議を開いていた。

中央の台には、立体映像で各層の様子が映し出されている。

・・・・・・本当に邪龍が天界で暴れている。第二天、第三天、第四天に敵が攻め込んでいて、

天使の兵団を激しい攻防戦を繰り広げている。

 

「どうやら、敵は第三天―――信徒の魂が行き着く場所である『天国』から侵入したようですね」

 

ガブリエルが顎に手をやって映像の光景を見て分析した。

映像に―――巨大な浮島が映し出されている。

あのミッドチルダで見た巨大な浮く島だ。いくら第三天―――天国が天界一広大だからって、

アレをそのまんま乱入かよ・・・・・豪快なことをしてくれるし、

あの浮島から邪龍が湧いてきていた。

さらに映像に、俺たちと相対した強敵の姿も映されていた。

 

「・・・・・兵藤誠、兵藤一香、リリス・・・・・」

 

それに見知らぬゴシック調の紫色の日傘に、紫色のゴスロリの服を着ている二十代前半と

思しき女性が映っている。ただ者ではないなと、すぐに分かった。

それとあの時、捕えることができなかったラードゥンもいて、天使たちを打倒していく面々・・・・・。ああ、天使たち。相手が悪過ぎだって・・・・・。

映しだされている映像に俺が言う。

 

「いったい、クリフォトはどうやって天界まで入ってこれたんだ?」

 

「意外とおばさまの転移魔法で来ていそうだわ」

 

有り得そうなことを言うイリナ。でも、それでも天界へ入る手段は限られているはずだ。

独自の方法を編み出して天界に入るほど母さんはしていないと思う・・・・・多分。

 

『―――冥府サイドだろうな』

 

台の一角に見知ったおっさんの映像が唐突に出現する。現在地上にいるアザゼルからだった。

ヴァーリが訊く。

 

「アザゼル、そっちはどうだ?」

 

アザゼルは首を横に振った。

 

『ああ、ダメだ。天界への入口がこっちからも閉じていてな。増援は送れない』

 

マジか・・・・・。こっちから開けることができず、あっちからも無理とされてしまった。

 

『原因は不明か?』

 

アザゼルの問いにヤハウェが頷いた。

 

「ええ。現在、ガブリエル以外のセラフの方々に原因を究明させておりますが、

それ以上に『システム』に影響が出ないよう、

私も第七天に戻らなければなりませんが・・・・・」

 

『戦いに関しては、そこにいるイッセーたちに任せるしかないだろう。

「システム」のほうはミカエルたちに任せる他ない』

 

まあ、何とか撃退してみる。

 

「アザゼル、冥府って・・・・・」

 

俺がアザゼルに訊く。アザゼルは俺が訊きたいことを理解したようで頷いた。

 

『もし、この天界に入り込めるとしたら、手段は限られる。お前たちのように正規に門を潜るか、

死後に教会の死ととして迎え入れられるか。もしくは他から上がってくるか』

 

・・・・・俺、直接ヤハウェの部屋に入ったんだけど、それって正規に入ったってことになる?

それを聞いてヤハウェが何かに気付く。

 

「―――辺獄と煉獄」

 

アザゼルが頷いた。

 

『ああ、天国とも地獄とも違う、信徒が死後に辿り着く場所だ。

辺獄も煉獄も特殊な事情を抱いたまま亡くなった者のために用意された。

どちらも行き着いた者は身を清めた後、天国に誘われる。

そう、どちらも天界に入れる扉があるのさ。―――知っているか?』

 

アザゼルが皆を見渡しながら言う。俺は知らなかった。

―――だとすれば、あの二人は知っていてそこから入ってきたということか。

 

『辺獄や煉獄、それらを教会では―――「ハデス」とも言う。

そこにいるヤハウェは、冥府を参考にして、辺獄と煉獄を定義した。

・・・・・これはあくまで推測だが、冥府の神ことハーデスの野郎は辺獄か、煉獄か、

そこに侵入できる方法を知っていた、あるいは編み出した可能性がある』

 

一名の天使が報告を持って現れる。

 

「報告です!煉獄から第三天へ通じる扉が破壊されているとのことです!」

 

―――――アザゼルの予想が当たった。

 

『あの野郎がクリフォトに手を貸すとは思えねぇ。

一度、サマエルを奪取した時にリゼヴィムは誠と一香を差し向けてたからな。

だとすれば、一香が煉獄から天国に行ける方法を編み出したとしか考えられない』

 

骸骨のお爺ちゃんが教えるとは思えないけど・・・・・まさか、また父さんたちに

やられたってことかな。もしそうなら、災難としか言えないって・・・・・。

 

「奴らの目的はなんだ?」

 

ヴァーリがそう口にする。

 

「最上階の『システム』かしら?」

 

イリナがそう言うが、アザゼルは首を横に振る。

 

『そう簡単には行けんよ。あそこは基本的にセラフ以外が足を踏み入ることができない。

異物が入り込むと、別の場所に強制転移させられるのさ。

それこそ、神の御業とも思える強力な転移をくらっちまう。

それでも奴らは何仕出かすか分からない』

 

「まるで経験があるみたいな言い方だな?」

 

俺が言うと、ヤハウェが呆れた顔と共に嘆息した。

 

「アザゼルは昔、私に黙って『システム』を見ようとしたことがあったのです。

で、結果は特殊な結界によって異物と判断され、人間界の僻地に強制転移されたのです」

 

『ただ神器(セイクリッド・ギア)のシステムを見ようとしただけなのに、

ヤハウェときたらケチでなぁ・・・・・』

 

「ケチとはなんですか。セラフ以外入ってはいけない聖域に、

邪な気持ちを抱えた天使が強制転移されて当然です」

 

『失礼なッ!あんときの俺は純粋無垢でちょっと好奇心から生んだ行動をしただけだ!

神が隠し事をしていいのか!』

 

アザゼルとヤハウェが口論し始めたぞ。おいおい、いまはクリフォトのことで・・・・・。

 

「|閃光と暗黒の龍絶剣《ブレイザー・シャイニング・オア・ダークネス・ブレード》総督」

 

『―――っ!?』

 

ブレイザー・シャイニング・オア・ダークネス・ブレード総督・・・・・?

ヤハウェから発せられた言葉に俺とリーラ、ヴァーリ、イリナ、オーフィスは小首を傾げた。

アザゼルはどうやら知っているようで、顔が強張った。

 

「ヤハウェ、何だその長々しい名前は?」

 

『訊くな!そいつにそんな事を聞くな!』

 

アザゼルが必死に叫んできた。

 

「ふふふっ。アザゼル、私に対してそんな口の聞き方をすれば、

あなたが残した『あの資料』をイッセーくんに見せますよ?」

 

『んなぁっ!?』

 

か、神が脅している。そんなこと、神がしていいのか・・・・・?

アザゼルは悔しげにヤハウェをただただ視線だけで殺せそうな勢いで睨み、

 

『・・・・・第三天にある生命の樹と第四天ことエデンの園に

ある知恵の樹はいまどうなっている?』

 

そう訊いた。生命の樹と知恵の樹・・・・・どっちもエデンの園に関する樹だな。

サマエルが知恵の実を唆して食べさせたことでも有名だ。

 

「どちらも樹自体は健在で、実は実のっておりますが・・・・・。

―――――まさか、彼らの狙いは!」

 

ヤハウェは何かに気付いて目を大きく見開いた。

 

『生命の樹の逆位置となる「クリフォト」。

それを名乗る奴らだ。狙っていてもおかしくはない。

あれらの実があれば666(トライヘキサ)の封印解呪も劇的に早まるだろうしな・・・・・。

それをネタに他勢力の邪な考えを持つ神クラスと交渉するってのもあり得る』

 

―――――っ!?

 

それほどまで超貴重な実が父さんと母さんの手に渡ったら・・・・・というか、

今頃すでに手中だと思う。

 

「行こう。ここで話している間にも天使が倒され、クリフォトが天界を蹂躙している」

 

ヴァーリが俺たちに向かって行った。同意と俺たちも立ち上がって第二天がある扉へ、

イリナの先導のもとで向かおうとする。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode6

クリフォトを迎撃、天界を防衛するため、知恵の実と生命の実を奪取されないため、

第四天までの道は、それぞれの階層の門を通らねばならない。

しかし、第三天から侵入した父さんたちは第二天と第四天に通じる門を占拠していて、

そこからさらに第四天の後門も奪っていると言う。

 

つまり、現状、第二天から第五天まで攻め込まれている。

第二天は前線基地足る第一天に近いため、天使の軍勢にてどうにか持ち堪えているが、

第三天から第五天まではクリフォトが優勢だろうと皆は見ている。

天使の本拠地である第六天は、ミカエルをはじめ、ガブリエルが抜いたセラフの皆が何名か

待機していたおかげで侵入を許していない。

 

先ほど第五天にセラフの天使が部下を連れて向かったと報告を受けている。

だが、邪龍の数はどう見てもミッドチルダと同等の数と思わせる。

こっちは人間界との門を閉じられているため、ユーストマをはじめとする増援は届かず、

天界に残った戦力で邪龍たちに当たらなければならない。俺たちは第二天の前門から突撃して、

第三天に通じる門に向かって駆けだす。

 

各層に通じていたエレベーターも停止させられており、

上へ行くには各層を直接通らないといけなくなったからだ。第二天は暗闇が支配する世界。

ヤハウェが説明してくれた階層だ。天界とは思えないほど、暗い世界が続く。

ただ、プラネタリウムのごとく、空から星々の煌めき届くので完全な暗黒と言うわけではない。

 

「どけ!」

 

「はっ!」

 

俺たちは邪龍を蹴散らしながら先を進んでいく。

その途中で、天使たちが邪龍に向かって光力を放っているのが伺える。

そこで何体か分身を作り、真紅のドラゴンをなってもらい、天使たちの援護をさせに行かせた。

この階層は無事に突破できそうだ。

 

「邪魔」

 

こっちには純粋無垢でマスコットの龍神さまがいるからな。

手元を光らせたオーフィスは襲いかかる量産型邪龍に奔流と化となった

波動を放って吹き飛ばした。

 

「我、原始龍のおかげで完全回復」

 

だな。オーフィスの頭を撫でる。

 

「頼もしいですねー」

 

ガブリエルがほのぼのと緊張感なさすぎる・・・・・。

さて、量産型邪龍を倒しながら第三天に向かって進んで最初に相対したやつは―――。

封龍剣を亜空間から出して第三天に通じる門が見えるところまで、来た時だった。

暗闇の中から、邪気を放ちながら立ちふさがる影があった。

 

『これはこれは、お久しぶりですね』

 

木の幹が幾重にも重なって形を成したかのような異様な生物。

ドラゴンの形をした樹―――いや、邪龍ラードゥンが現れやがった!

その周囲には大群ともいえる邪龍の数々。門まで、完全に邪龍で塞がれていやがる。

 

『ひとつ、私と遊んでください』

 

「雰囲気読まないから無理だ」

 

幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』を装着して無色で透明な半球状の巨大なドームを展開した。

そうすることで異能、魔力が使えない空域、地域、空間となった。

当然、ラードゥンの結界もこの中じゃ使えないわけだ。ご自慢の結界ができないことに

目を細めるラードゥン。

 

『厄介ですね。ある意味、私の結界よりそちらの無力の結界の方が面倒です』

 

「そうでもないさ。これ、この結界の中じゃ俺ですら神器(セイクリッド・ギア)の力を

使うことだってできないんだ」

 

『それでは、意味がないのでは?それに魔力が使えなくとも、

こちらは数の暴力であなた方を押し潰すことができますよ』

 

現に、量産型邪龍たちが襲い掛かってくる。

 

「俺にはこいつがある」

 

封龍剣を大きく振るった。天界の上空で不振った際に生じた斬撃が、空間を裂いた。

 

「時空を超え、開け扉よ。目の前のドラゴンを牢獄に投獄せよ!」

 

強く発したその時だった。空間の裂け目が一気に広がり、左右に開かれた。

その開いた空間の奥底から―――大量の触手みたいなものが鋭く、量産型邪龍の体に巻き付け、

裂けた空間の奥へと引きずり込まれる。あらかた引きずり込まれたかと思うと、

今度は巨大なドラゴンの手が出てきた。

 

『なっ―――!?』

 

驚くラードゥン。呆気なく握るように巨大なドラゴンの手に捕まった。

そんで、ラードゥンは引きずり込まれる。

 

『くっ!こ、これは一体なんなんですか!?』

 

「ああ、お前らは牢屋行きだ。じゃーなー」

 

『おのれ!』

 

空中に魔方陣が描かれる。龍門(ドラゴンゲート)だ。ドラゴンを今さら新たに召喚するのか?

すると、龍門(ドラゴンゲート)が深緑の鈍い輝きを放ち始めた。それを見ていてイリナが横で叫ぶ。

 

「―――っ!う、嘘、あの龍門(ドラゴンゲート)の輝きは!」

 

その色に覚えがあるようで、様子を見守っていると龍門(ドラゴンゲート)の輝きが弾け、

そこから現れたのは―――黒い鱗を持つ巨大なドラゴン。

 

『ゴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!』

 

空気を震わせる声量。魔方陣から現れたのは―――グレンデル!?

しかも、一体だけじゃない。グレンデルが三体だと!?

 

『私はここで表舞台から退場と言うわけですが・・・・・一矢報いを果たせてもらいますよ』

 

それだけ言い残してラードゥンは裂けた空間の奥へと姿を消し、

裂けていた空間もあっという間に閉じた。

 

「まあ、問題ないけどな」

 

「まあ、イッセーくんだし、それにヴァーリだって強いもんね」

 

「まあ、イリナだって強いだろう?私たち三人とガブリエル、ヤハウェが力を合わせれば

量産型と思しきグレンデルなんて―――」

 

言いかけたヴァーリに、俺たちの目の前に一筋の閃光が降り立つ。

その瞬間、一体のグレンデルが崩れ落ちた。俺たちの視線が前方に集中する。

聖なる波動を放つ槍が、俺の目に映った。

 

「―――――久し振りだな。兵藤一誠、ヴァーリ」

 

―――っ!

 

俺たちはその男の登場に驚愕した。感服を羽織った若い男が同じ感服を羽織った

数人の仲間を率いて、聖なる波動を放つ槍を引きぬいた。それを肩でトントンとさせて、

二体のグレンデルの前に立つ。

 

「お前・・・・・」

 

「見ない間に、随分と異質な形になってしまったようだな」

 

俺たちの前に現れたのはただの槍ではない―――聖槍。神滅具(ロンギヌス)のひとつ

黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』だ!そしてその槍の所有者は―――。

 

「―――曹操っ!?」

 

「な、なんで!?」

 

「・・・・・」

 

三者三様。俺とイリナは叫んで驚いた。ヴァーリは冷静に曹操を見つめる。

英雄派の首魁―――曹操の子孫の曹操。

良く見れば、引き連れている仲間は神滅具(ロンギヌス)の所有者たちと初めて見る者がいる。

 

「・・・・・なんでお前らがここに?」

 

曹操は嫌味な笑みを見せる。

 

「―――邪龍狩りに興じようと思ってね。奴らと同様煉獄の門から上がってきた」

 

いやいや、あそこはそう、ほいほいと煉獄から天国にこれるもんなの?

後でそこらへんのことを聞かないとな。

 

「ここの邪龍を俺たちが引き受けよう。―――行け」

 

あいつは槍の切っ先を第三天の門へと向けた。

 

「人間を辞めてしまい、異形になってしまったことに残念に思うが、

それでも倒したい相手は変わらないもの。それ以上に倒したい相手が異形になったことで

倒し甲斐があるというもの。―――そう、いつだって、異形を倒すのは、『人間』だ」

 

「・・・・・」

 

人間・・・・・か。イリナたちに視線で促し、第三天の門へと足を運ぶ。

 

「何時でも掛かって来い。英雄の進撃、楽しみにしている」

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

曹操とそれだけ言葉を交わし、前へ進んだ。

 

「・・・・・あれが、曹操が言っていた気になる奴?」

 

「そうだ。まともに戦えば俺たちは負けるだろうがな」

 

「そんな弱気なことをったら英雄失格だぞ」

 

「ちっ。どーでもいいが、さっさと片付けてしまおうぜ。

・・・・・いつどこで組織が俺を狙ってくるか、分かりやしねぇんだからよ」

 

―――○●○―――

 

門を潜り、第三天―――天国のある層に辿り着いた俺たち。俺たちが走るのは、

第三天の中央通りのせいか、天国の概要は良く分からない。ただ真っ直ぐに次の門まで白い道が

伸びているだけだ。途中、通り過ぎた横道を行けば、天国などに行けるそうだが、

今はそっちの見学をしている暇はない。進むのみだ。

次の門が目前と言うところで俺たちを迎え撃ったのは、

 

「おほほほほ♪こんにちは~♪燃え萌えさせにきたわよん」

 

ゴスロリ衣装の女性。構える俺たちにもう一つの影が姿を現す。

 

「久し振りね」

 

―――兵藤一香、母さんがゴスロリの女性の横に位置した。

 

「・・・・・」

 

俺は視線と共にゴスロリの女性に一言。

 

「変な服。それにまるでおばさんみたいな口調をするなあいつ」

 

―――――ビシッ!

 

ゴスロリの女性の表情が固まった。

 

「イッセーくん、思っても口にしちゃダメだよ」

 

「んじゃ、イリナは思わないのか?」

 

「・・・・・・」

 

俺から視線を、顔を逸らすイリナ。ああ、思ったんだ。

次から口から出ないように気を付けよう。

 

「一香さまぁー!あの子、ひどいですのー!」

 

「一誠、素直すぎてもダメよ。心の中で呟きなさい」

 

女性が母さんに泣きつく。嘘泣きだろうがな。

 

「・・・・・一人なんだ?」

 

「誠のこと?ええ、同じ魔法使い同士。たまにはこんな組み方もいいかなって思って彼女、

ヴァルちゃんと戦おうって決めたのよ」

 

「ヴァルちゃん・・・・・?」

 

首を傾げる。母さんはゴスロリの女性に視線を向けながら口を開いた。

 

「彼女の名前はヴァルブルガ。神滅具(ロンギヌス)の『紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)』の所有者よ」

 

―――神滅具(ロンギヌス)!?ここで、俺が初めて見る神滅具(ロンギヌス)の所有者の登場だったのか!

 

「あの一香さまと組めるなんて私、萌えちゃいます♪」

 

「魔女の業界じゃ、私は有名みたいね。少し照れちゃうわ」

 

「んで、一香さまのお子様というのは彼ってわけね?」

 

「だった、のほうが正しいわ。親子の縁を切ったもの」

 

・・・・・悲しくなんて、ないもん。

 

「さあ、始めましょうか」

 

「・・・・・」

 

先手必勝。『幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』を装着して無効化の結界を張った。

これで、魔法使いの二人は魔力を放つことはできない。

目を細め、俺が何かしたのを察知したようで低い声音で声を掛けてきた。

 

「・・・・・やって、くれたわね。私から魔法を取ったら、ただの人妻じゃないの」

 

「それでいいじゃないか。それに魔力なしでも強いじゃん」

 

「当然よ」

 

どちからでもなく母さんと一瞬で拳と拳を付き合わせた。

父さんより、力がないが、油断はできない。

 

「縛ってやる!」

 

「SMプレイ!?一誠、私はそんな子に育てた覚えはないわよ!」

 

「俺がそうなったのは全部リゼヴィムおじさんのせいだ!」

 

「あの中二病め・・・・・帰ったら問答無用にお仕置きするわ」

 

と、怒りの矛先がリゼヴィムおじさんに向かった。

敵だけど・・・・・どうか無事でね。

魔法を放てなくなった母さんは肉弾戦で戦うことに強いられ、

父さんとのコンビネーションもできず

俺と戦うことに。この好機を逃す訳にはいかない。―――全力で母さんを叩き潰す!

 

「くっ・・・・・これはちょっと危ないかも・・・・・」

 

母さんの顔から苦難の色が浮かぶ。それに、ヴァルブルガからの援護はない。

 

「私でもなんとか捕まえれたわ!」

 

「オーフィスがいるんだ。それにお互い神器(セイクリッド・ギア)が使えない状況でも、こっちは有利だった」

 

「イッセーくん、こっちは終わりましたよー」

 

「頑張る」

 

と、まあ、あんな感じでヴァルブルガが皆に捕縛されているわけで。

 

「嘘!?こんなあっさり!?・・・・・やっぱり、誠と一緒に来てもらうべきだったかしら」

 

後悔するのは後の祭り・・・・・だと思うよ?

 

「あー、そうです。ところで一香さーん」

 

ふと、ガブリエルが母さんに声を掛けてきた。母さんは一度攻撃の手を止めて、

ガブリエルに返事をした。

その返事に何故か戦闘中の俺に近寄って・・・・・。

 

「この子、可愛いので私がもらっていいですか?」

 

『・・・・・』

 

背後から抱き締めて来るガブリエルがあろうことか母さんにそんな事を言うのだ。

 

「なに、言っちゃってんの?」

 

「だって、イッセーくんは一香さんのお子さんだし、確認をしたかったのでー」

 

いやいや、親子の縁を絶たされている状況だし、訊くのは野暮じゃないかなー。

と、思っていたら母さんの姿が消え―――ガブリエルの背後から襲いかかってきた。

ガブリエルを守るため、ドラゴンの翼でガブリエルを覆った直後、

彼女と一緒に吹き飛ばされた。

 

「ちょっと一誠。そこの天然牛乳天使をこっちに渡してくれないかしら?」

 

剣を持って八岐大蛇を具現化する母さん。

―――ガブリエルに対する暴言!?なんか、怒気を感じるんですけど!

 

「あははー、一香さんが怒るのって初めて見ましたー。イッセーくん、助けてくださいね」

 

「煽った本人が押し付けないでくれよ・・・・・」

 

「煽っていませんよ?私は本気(真剣)で言ったんです」

 

刹那。母さんが目の前にまで移動してきて、剣を振るって八岐大蛇を襲いかからせきた。

 

「玉藻、少しの間だけあの蛇を止めてくれ」

 

「―――よかろう。早々に決着をつけるが良い」

 

羽衣狐こと玉藻を具現化させて、八岐大蛇を相手にしてもらった。

彼女は九本の尾で八岐大蛇の首に巻き付けて動きを拘束した。

その瞬間、俺は母さんの懐に飛び込む。

母さんは口元を緩ませて口を開いた。

 

「九尾の狐を何時の間に?」

 

「生まれて以来ずっとだよ」

 

拳を突き出す。母さんは八岐大蛇を宿した剣を手放さず片手で俺の拳を弾いた。

うん、片手だけでも手強いな。―――よし、アレで行くか。

指を弾いたら、俺の体が見る見るうちに小さくなる。

 

「あら・・・・・」

 

意外そうに俺を見つめる。そんな母さんに俺は自然体で近づく。

 

「ぎゅーっと!」

 

満面の笑みを浮かべて、母さんに抱きついた。

以前、俺を抱き締めてほしいと願っていたから―――。

 

「~~~~~っ!」

 

案の定、幸せ絶頂だと多幸感を伝えてくる。そして、俺を抱き締めてきて・・・・・。

 

「ああ・・・・・久し振りに抱きしめれるわ・・・・・」

 

そう言われるとこれからする事に物凄く罪悪感が感じてならない。

だが―――やるしかないんだよな。

 

「母さん、掛かったね」

 

「なんですって・・・・・?」

 

怪訝になる母さんの顔は次に目を見開くことになる。

俺の両手に『幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』を装着し、無効化結界を解くと。

 

「新技、無効化の捕縛」

 

母さんの体が光る縄によって螺旋状に拘束された。

それでも、母さんは自力で脱出しようと様子を窺わせてくれる。

 

「こんなもの―――!」

 

「無駄だよ。母さん」

 

縄がさらに強く発光し、縛る強度が増す。

 

「それは縛る対象の魔力を吸うことで強度が増すんだ。ただ、欠点がある。

相手の身体に十秒間密着しないと発動できない。母さんに抱きつくぐらいのね」

 

「・・・・・やられたわね」

 

―――初めて母さんに勝った。一息吐いてオーフィスに言った。

 

「そこの魔女をこっちに連れてきてくれ」

 

「ん」

 

―――○●○―――

 

第三天の門を潜った俺たちは、第四天―――エデンの園に突入していた。

見渡す限り、色鮮やかな草木が咲き誇っている。遠くに見える小山や木々も盛観だった。

 

「母さん、父さんはどこだ?」

 

煉獄からここ第三天に侵入したんだ。

ここまで連れてきたヴァルブルガではなく母さんに訊ねた。

 

「知恵の実を取りに行っているはずよ」

 

「生命の実は?」

 

「もう採取したわ。たくさんね」

 

あの浮島の中にあるということか・・・・・。視線を母さんに戻す。

 

「母さん」

 

「親子の縁を切ったと言うのに、まだ私のことを母親だと思っているの・・・・・?」

 

自嘲染みた発言をする母さんだが、俺は真剣に問うた。

 

「どうして、リゼヴィムおじさんと組んでいるんだ?間接的とはいえ、

母さんはおじさんに殺されたんだ。父さんとどうして・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「甦って、何がしたかったの?父さんと母さんらしくないよ。

敵対している俺に昔のように話しかけ、笑いかけ、

俺に式森家の力の封印を解いたり・・・・・敵だったらそんなことはしないはずだ」

 

俺の問いに何も言わず沈黙を貫く。

 

「・・・・・色々として、色々と楽しみたかったのかもしれない。

あの(リゼヴィム)に反旗したり攻撃ができないよう魂に刻まれているからね」

 

「・・・・・」

 

「でも、意外と敵になるのって楽しかったわよ?正義と悪の戦いも悪くなかったわ。

いつも正義が悪を倒す話はよく聞くけれど、悪側の話しは聞かないでしょう?

だから、私たちは逆らえないなら色々と楽しませてもうらったほうがいいかもしれないと

結論を出した。おかげで、本当に楽しい思いをしたわ。自分の息子と戦ったり、

異世界に行けれたりとかね」

 

母さんらしい・・・・・行動理由だ。

母さんは父さんもそうだけど楽しみながら生きるのが生き甲斐、って昔聞いたことがある。

 

「母さん・・・・・」

 

母さんの身体を縛る縄を消失させた。そのことにイリナたちが目を丸くするが、

俺は真っ直ぐ母さんに言った。

 

「親子の縁を切られたけど、もう一度・・・・・結んでくれないかな」

 

「どういうこと・・・・・?」

 

「そのままの意味だよ。もう一度、あの時のように暮らそうよ。

リゼヴィムおじさんの呪縛を何とか俺が解くからさ。

父さんも一緒に・・・・・また一緒に暮らしたい」

 

「―――――」

 

目を見開く母さん。俺がそんな事を言うなんて露にも思わなかっただろう。

俺は手を差し伸べる。

 

「零から始めるんじゃない。一から始めよう。それから楽しい生活を過ごそう母さん」

 

「一誠・・・・・」

 

差し伸ばす手と俺を交互に見て・・・・・母さんは口を開いた。

 

「・・・・・ええ、今は無理だけど、いつかきっと―――」

 

母さんはそう言いながら俺の手を取ろうとした。

 

ドンッ!

 

と鈍い音が俺の耳に届く。手が重なる瞬間、

横合いから飛んできた何かが―――母さんの胸を貫いたからだ。

ぽっかりと穴の開いた母さんの上半身。母さんはごぶっと大量の血を口から吐き出して、

 

「一誠・・・・・・」

 

俺のところに倒れ込んできた。

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃっ!そりゃ、ダメっしょ?」

 

不快な笑いが周辺に響き渡る。その笑いには覚えがあった。

忘れたことは一度もない。独特な笑い方だ。

俺は笑いのした方へ顔を向けた。

そこには、銀髪の中年男性が愉快そうに醜悪な笑みを見せていた。

ヴァーリがその男の名を叫ぶ。

 

「―――リゼヴィムッッ!」

 

リゼヴィムおじさんは軽々しく手を上げてきた。

 

「やっ♪様子見に来たら、楽しい親子喧嘩が、なーんか、感動の場面になっているからさ。

合いの手を入れてみましたっ!」

 

「・・・・・母さん!」

 

母さんの傷を治そうと、身体を横たわらせて治癒の力を施す。

だけど、母さんの傷は塞がらない。なんで・・・・・なんで!?

どうして傷が塞がらないんだよ!?

不治の病すら治せた俺の力は甦った身体じゃ塞げれないっていうのかよ!

 

「うひゃひゃひゃっ!ほんじゃ、もう一つオマケにっと!」

 

指をパチンと弾くリゼヴィムおじさんに呼応して―――母さんの体が光りだした。

唖然と見ていると、

 

ドッガアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

俺は大爆発に巻き込まれた―――――。

 

「・・・・・」

 

しばらくして、俺は身体に損傷を負いながらも何が起きたのか分からないと呆然と佇んでいた。

 

「・・・・・」

 

横たわっていたはずの母さんが・・・・・小規模のクレーターを残して消失していた。

いや・・・・・上から丸い物が落ちてきた。

それを視界に入れた途端、俺の心は空っぽになった。

 

「母・・・・・さん・・・・・?」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode7

―――イリナside―――

 

おばさまが、爆発でまた・・・・・死んだ。

爆発に巻き込まれたイッセーくんは、ボロボロな状態で首だけとなったおばさまに

跪いて震える腕と手で伸ばした。

 

「あっ、いっけねぇー。これ、おっちゃんの方にも爆発しちゃうんだった。

まあ、別にいっか!うひゃひゃひゃっ!」

 

―――おじさまも、おばさまと同様に爆発で死んじゃった・・・・・?

信じがたいことを耳にして私は、考えることができなくなっていた。

 

「・・・・・」

 

呆然としている私を余所にリーラさんが悠然とした態度で歩を進め出した。

 

「・・・・・リゼヴィムさま」

 

「ん?なんだい、メイドちゃん」

 

「一度ならず二度までも・・・・・一香さまと誠さまを殺して・・・・・、

一誠さまの目の前で殺して・・・・・私は―――」

 

銀色の書を手にし、銀色の光を発光させた。

 

「あなたが地獄に行っても許しません!」

 

刹那。リーラさんが銀色の光に包まれ、姿が変わり、

黒い両翼を生やしてリゼヴィムに白銀の魔力での砲撃を放った!

 

「およよ?そいつは神器(セイクリッド・ギア)かなぁ?無駄無駄、俺っちに神器(セイクリッド・ギア)なんか―――」

 

「ならば、食らってみれば分かることです」

 

リーラさんの一撃は、リゼヴィムを呑みこんだ―――。

 

「なにをしているんだまったく」

 

呆れた声が聞こえたと思ったら、白銀の魔力が軌道を反れて遠くに着弾した。

リゼヴィムは無傷、それに―――リゼヴィムの前には何時の間にかリリスがいた!

 

「おろ、リリスちゃんじゃん。どうしたの?」

 

「誠が勝手に爆発をしたから元凶のお前に訊きに来たんだ」

 

リリスの片手に・・・・・おじさまの頭部があった。

 

「あーあー、やっぱり?失敗しちゃったなー。こんなことなら、

別々に発動するようにしておくんだったぜい」

 

「まったく・・・・・」

 

あの子はゴミのようにおじさまの頭部をイッセーくんの方に放り投げた。

イッセーくんの膝にまで転がって止まると、おじさまの頭部をイッセーくんは

おばさまの頭部と一緒に抱きかかえた。

 

「・・・・・許さない」

 

オーフィスが小さい身体から魔力を迸らせた。つぶらな瞳は真っ直ぐリゼヴィムに向いている。

 

「お前、許さない。絶対に、許さない」

 

「おっと、龍神さまがお怒りのようだ。リリスちゃん、相手をしてやってくんねぇか?」

 

「リゼヴィムを守るこそが私の仕事だからしょうがない・・・・・」

 

渋々と、リリスはオーフィスちゃんと対峙した。

 

カッ!

 

その時、第四天の階層に魔方陣が出現した。―――龍門(ドラゴンゲート)

どこまでも黒く光る魔方陣だった。

 

「・・・・・母さん・・・・・父さん・・・・・」

 

イッセーくん・・・・・!?

 

「せっかく・・・・・せっかく・・・・・二人と暮らせるかと思って嬉しかったのに・・・・・」

 

おじさまとおばざまの首を抱き抱えたまま立ち上がるイッセーくんから、

禍々しいオーラが迸る。顔を俯いたままだから、

どんな表情をしているのか・・・・・分からない。

 

「ふざけるなよ・・・・・どうして、二人が死なないといけないんだよ・・・・・」

 

黒い魔方陣から・・・・・上半身が人間、下半身が蛇のような尾、

背中に黒い両翼を生やす巨大な生き物―――堕天使であり、ドラゴン、サマエルが出現した!

 

「久し振りの故郷だろう、サマエル・・・・・。お前の遊び相手が目の前にいるぞ」

 

俯いた顔が上がった。

イッセーくんの顔を覗きこんだら・・・・・金の目が真っ黒な瞳になっていた!

 

「一緒に遊ぼう、サマエル」

 

刹那。

 

「俺の大事な、肉親を、家族を、大好きな父さんと母さんを殺した

悪魔と悪魔を守るドラゴンと―――」

 

イッセーくんから迸っている禍々しいオーラが集束して、イッセーくんを包みこみ始めた。

 

「復讐だ、復讐を再び始めよう・・・・・」

 

包まれる禍々しいオーラの中で、イッセーくんの体が変化する。頭に角を生やし、

顔中に紋様のような刺青が浮かび、背中に三対六枚の紋様状の翼が生え出して、

両腕に黒い装甲を纏った。腰にも尾が生えた。

 

「殺してやるよぉおおおおおおっ!

リゼヴィム・リヴァン・ルシファァァアアアアアッッッ!!!!!

このクソ悪魔がぁああああああああああああああああああああああっ!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

怒り狂い、叫ぶイッセーくんに呼応してサマエルも咆哮をあげて、

イッセーくんはリゼヴィム、サマエルはリリスに襲いかかった。

 

「うひゃひゃひゃっ!魔人化(カオス・ブレイク)ってか?

面白いじゃん、坊ちゃん!いいよいいよ。この中年で中二病のおじさんが遊んでやるよ!」

 

「ちょっと待て、私はあのサマエルだぞ!?

ドラゴンの私がサマエルなんかに勝てるわけがないぞ!逆に殺される!」

 

「んじゃ、こっそりといなくなろうとするヴァルちゃんと一緒に戦ったら?」

 

え・・・・・?―――あっ!何時の間にかいなくなっていた!

 

「いやん!無理無理ですぅ、ここは退いた方が賢明ですってリゼヴィムおじさま!」

 

・・・・・なんだか、お笑いコントを見ている感じがするわ。

私たちが手を出すことは・・・・・できないわ。サマエルと今のイッセーくん。

どっちも凶悪で最凶の存在だから・・・・・。

 

―――ヴァーリside―――

 

今のイッセーは、まさしく復讐の塊り、復讐の権化。黒いオーラを纏わせ、

黒い力を放ち憎いリゼヴィムに襲いかかる。神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)

神器(セイクリッド・ギア)の能力を無効化する力は、今のイッセーには通じない。

 

「ほれほれ!どんどんいっちゃうよ!」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

リゼヴィムが連続で魔力弾を放つ。対するイッセーは避けることすらせず、

真っ直ぐ攻撃を受けながら―――いや、あいつの魔力弾はイッセーに直撃する直前で

飲みこまれるように消失し続ける。アレは・・・・・以前現れた魔人の女と同じ能力だ。

 

「んん?魔力を吸収しちゃってんのかな?だったら、肉弾戦で勝負ってか!」

 

嬉々としてイッセーに拳を突き出した。

 

ガッ!

 

呆気なく、リゼヴィムの拳はイッセーの顔面に直撃した。だが、その腕をイッセーは掴んだ。

 

「お?」

 

「――――――」

 

次の瞬間。リゼヴィムから魔力がどんどん吸われていくのが分かった。

魔力が減り続けることでリゼヴィムの顔に焦りの色が浮かんでくる。

 

「ちょ、マジで?坊ちゃんが魔力を奪い続ける力があるなんて聞いたことがないって!」

 

もう片方の手をイッセーに突き付けるが、その手すらも掴んでさらに魔力が吸われる。

手がダメなら足だとばかり、足を振るったが・・・・・逆に足が踏まれ、地中まで沈んだ。

 

「マ、マジかよ・・・・・!?魔人ってのは、ここまで強かったってのかよ・・・・・!?」

 

―――今の私ならばリゼヴィムを倒すことができる可能性まで浮かぶほど、魔力を吸われている。

魔力がなくなると悪魔は行動不能となる。いくら魔王でも魔力は命の源でもあるからな。

それがたとえ魔王の息子だとしてもだ。

 

「・・・・・」

 

イッセーが口を開いた時、口内で光が集束し始める。

 

「うげ・・・・・マジかよ」

 

冷や汗を浮かべたリゼヴィム。身動きが取れない状況で零距離からの砲撃―――。

誰もがまともに食らえば、一溜まりもないだろう。

あのまま、攻撃されればリゼヴィムだって―――。

 

「そうはさせませんよ」

 

横合いから何かが現れ、イッセーを吹っ飛ばした。

 

「リゼヴィムさま、大丈夫ですか?」

 

「おお、ユーグリットくん!ナイスタイミングだぜぃ!」

 

―――ユーグリット・ルキフグスか。姿を見せないと思えば、このタイミングで現れるとはな。

 

「戻りましょう。ここにはもう用はないはずですよ」

 

「素直に退くよ!リリスちゃん、ヴァルちゃん!

帰るよ―――って何時の間にかいなくなっているし!?」

 

「あの二人ならば、さっき戻ってきていましたよ?」

 

カッ!とユーグリットとリゼヴィムの足元に魔方陣が出現した。

転移式魔方陣。この場から逃走しようと図っているのだろうが、

イッセーはそれを許さないと物凄い勢いで飛びかかった。

が、どこからともなく現れた一匹の邪龍に阻まれてしまい―――。

 

「坊ちゃん!今度会う時は本気の本気で戦ってやるからねー!」

 

あと一歩のところで、リゼヴィムが逃げてしまった。

阻んだ邪龍を爆発させたところでイッセーは。

 

「クソォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!!!!!」

 

悔しげに、涙を流して何時までも、何度も天界の空に叫ぶ。

 

「・・・・・イッセーくん」

 

イリナが悲しげにイッセーを見つめる。二度も私の恩人ともいえるイッセーの家族が殺された。

その気持ちは・・・・・計り知れない。

 

「・・・・・あれは、なんだ?」

 

私に声を掛けてくる第三者。声がした方へ振り向けば、

英雄派、曹操たちがこっちに近づいていた。

 

「終わったようだな」

 

「ああ、新人の良い戦闘経験をさせてもらった。ヴァーリ、

兵藤一誠はどうしたのだ?特にあの姿は・・・・・」

 

「・・・・・いまは、そっとしておいてくれ。帰るなり、ここにいるなり好きにしろ」

 

それだけ言って私は転がっているイッセーの家族の首に歩み寄って、

 

「・・・・・一香さん、誠さん」

 

それぞれ声を掛ける。

 

「こんな形で申し訳ございません。あなた方に何度もお礼を言いたかった。

私を助けてくれて、ありがとうと―――」

 

二人の首を手にしてイッセーのもとへと近づく。

 

「イッセー」

 

叫び続けるイッセーに首を見せた。彼は視界に入ったのだろう、叫ぶのを止めて私に振り返る。

 

「この人たちを天国で埋めてあげよう・・・・・」

 

「・・・・・」

 

イッセーの纏うオーラは次第に消失して・・・・・元の姿に戻った。

そして、私からゆっくりと誠さんと一香さんの首を自分の胸に抱かせて。

 

「・・・・・ああ」

 

悲痛に涙を流して、第三天こと天国に重い足取りで歩き始めた・・・・・。

 

「(私とイリナで、イッセーを支えよう・・・・・。

彼は、誰かが支えないと直ぐに崩れ落ちてしまう)」

 

「・・・・・絶対に、あのヒトを許してはならないわ・・・・・っ!」

 

「ええ、必ずやこの世から消して見せます」

 

「あいつ、二人の仇・・・・・殺す」

 

ほら、イッセーを慕うイリナたちが怒りを抱いている。

―――私もその一人だ。個人的な怒りと憎しみじゃない、イッセーに対する非道にだ。

許してはならない。

 

―――リーラside―――

 

第三天、天国にやってきた私たちは、生えている樹の傍で地面を掘っている

一誠さまを窺っており、一誠さまは首だけとなった一香さまと誠さまを完全に

肉体を復元していて、その状態で埋葬しようとしております。

 

「・・・・・」

 

ある程度の深さを掘ったら、一香さまと誠さまを穴の中に。

その際、二人の手を握らせてしばらくその様子を見て・・・・・一誠さまは掘った

天国の土を穴の中へと入れ始めました。

 

「(一誠さま・・・・・)」

 

完全に穴へ土を入れ終えると、手を合わせて無言で黙祷。

その行動に私は一誠さまの横に並び跪き黙祷します。

その直後、足音がこっちに近づいてくるのが耳に入ります。

彼女たちも黙祷しようと思っての行動なのでしょう。

 

「(一香さま、誠さま・・・・・あなた方に仕えてこの数十年・・・・・とてもメイドとして、

個人的に充実した日々でした。もう静かにお眠りする事ができます。

やらすかにここで私たちを見守ってください)」

 

―――オーフィスside―――

 

また、誠と一香が死んだ。我、こんな気持ちになるのは久し振り・・・・・。

人間の死、我にはどうでもよかった。我、次元の狭間に帰りたかったから。

でも、我と仲良くなった誠と一香が死んで、とても寂しい・・・・・。

 

「・・・・・」

 

イッセー、きっと悲しんでいる。なんとなくそう思う。

我は、イッセーが泣かないようにどうにかしたい。

何をすればいいのだろうか?我は分からない。

 

「・・・・・」

 

分からない。だから、我はイッセーの背中に抱きついた。

 

「我、イッセーの傍にいる。我は死なない」

 

我は無限。死と言う概念はない。だから、我は今まで生きている。

これからは、イッセーの傍で生きる。

 

「・・・・・」

 

イッセーが我に振り返って抱きしめてくる。変わらない温かさ。我が好きな温もり。

だけど・・・・・イッセーの顔は、我の好きな笑顔がしていない。

 

「・・・・・」

 

何かを我慢しているような、堪えているようなそんな顔、涙はもう流れていない。

身体はずっと震え続けている。

 

「父さん・・・・・母さん・・・・・っ」

 

我・・・・・人間のこともっと知る。そうすれば、きっとイッセーを・・・・・。

 

―――○●○―――

 

「・・・・・」

 

天界での一騒動後、無事にクリスマスに突入して、プレゼントも配り終わった。

少し遅めのクリスマスを皆た堪能している。あの天界での一戦後、俺たちは第一天に戻って、

俺や動けるメンバーは怪我をした天使を治すために動いていた。

天界への門が開いたおかげであの後、人間界から増援も駆け付けた。

 

「・・・・・」

 

皆には買い物を行ってくると言って、一人だけ外へ出た。

天界は無事に守れた。天使たちは安堵で胸を撫で下ろして安心したが、

俺の心は未だに晴れることはない・・・・・。あの時以上の辛さを抱いたままだ。

 

「イッセーくん」

 

コンビニでの買い物帰りで真っ直ぐ帰らず、公園のベンチで腰を下ろして夜空を眺めていた。

そんな俺に俺の名を発する存在―――青白い翼を羽ばたかせて俺の前に降り立ったイリナだった。

 

「帰りが遅いから、迎えにきたよ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「まだ、なんだね・・・・・」

 

イリナは敢えて指摘しない。俺の心情を知っているからだ・・・・・。

 

「私には両親を二度も失った気持ちは分からないよ。

でも、大切な人を失った痛みはイッセーくんが死んだ時に知ったよ・・・・・?」

 

彼女は悲しげに微笑みながら、自分の青白い翼を触れた。

 

「イッセーくんから与えられたこの翼を、力を貰った時にね・・・・・」

 

「・・・・・迷惑だったか?」

 

「ううん、最初は戸惑ったけど・・・・・イッセーくんの隣で戦えるんだと分かって、

嬉しかった―――」

 

ベンチに座る俺に近づくイリナは手を差し伸べる。

暗闇の中で青白く光りによって照らされるイリナはとても幻想的だった。

イリナの手を握り、立ち上がると―――俺の手を思いっきり引っ張って、イリナの唇と俺の唇が

重なる。その時だった。夜空から雪が降ってきた。

まるで俺たちを祝福しているかのような・・・・・。

イリナは頬を赤く染めて、潤った瞳を俺に向ける。

 

「―――元気・・・・・でた?」

 

イリナはさらにこう続ける。

 

「実はセカンドキスだったりするのよ。初めてもイッセーくんなんだけどね」

 

「・・・・・覚えがないんだけど・・・・・」

 

当然の疑問をぶつける。イリナはイタズラな笑みを浮かべて言った。

 

「うふふ、それはそうよ。だって、子供の頃、イッセーくんの家で寝ている

イッセーくんに不意打ちでキスしちゃったんだもの」

 

・・・・・そりゃ、気付く訳もないわな。

イリナの言い分に俺は内心呆れると俺とイリナの前に、人影が一つ現れる。

 

「―――いや、最初にイッセーのファーストキスは私が奪ってやったぞ」

 

青い翼を広げた―――ヴァーリだった。ヴァーリの言葉に強くイリナが反応する。

 

「嘘でしょう!私がイッセーくんとキスしたわ!」

 

「私はイッセーに救われてから数日後、

イッセーの家に泊った時に感謝の印と私のファーストキスを捧げたぞ?」

 

「な・・・・・なんですってぇっ!?」

 

「その時は当然、イッセーが起きていた時だ」

 

―――――ああ、男だったっと思った時・・・・・ヴァーリがいきなり唇を押し付けてきたな。

その光景を父さんと母さんが見ていて、何か知らないけどはしゃいでいたし・・・・・。

 

「ふふふ、イリナは何時も後手に回っているな?

このまま私が先に結婚してイリナが私の次にイッセーと結婚するのかな?」

 

「冗談じゃないわよ!私が先にイッセーくんと結婚するわよ!」

 

「ならば、私は先に処女をイッセーに捧げようかな。

・・・・・なんなら、ここでもいいぞ?」

 

恥ずかしげに頬を染めたヴァーリが徐に服を脱ぎ始めた。

 

「―――そうは、させない!」

 

翼から十二の青いレーザーをヴァーリに放って攻撃したイリナ。

でも、白龍皇の名は伊達ではない。威力を半分、半減し続けて無効化した。

 

「いきなりだね・・・・・イッセーに処女を捧げる決闘でもする気なのか?」

 

「そ、外でスるのはダメ!二人っきりでムードがある場所でしなさい!」

 

「・・・・・敵に塩を送られるようなこと言われたんだが」

 

知るかよ・・・・・。―――と、俺はイリナに抱きしめられた。

 

「ううう!ヴァーリが嘘をつくとは思えないけど、

やっぱり私が最初にイッセーくんとキスしたの!」

 

再び俺の唇に重ねだす。しかもヴァーリの目の前でだ。

これではあいつを挑発しているようにしかしていないぞ・・・・・。

 

「これでサードキスね!ヴァーリはまだ二回だけしかしていないわよね・・・・・?

回数だったら今私が超えたわ!」

 

「・・・・・」

 

イリナの誇らしげに発言した言葉を聞いたヴァーリが綺麗な柳眉を吊り上げては、

ズンズンと俺たちに近づき、

 

「回数だけで勝てるとは大間違いだぞ」

 

腕を俺の首に回し、引き寄せられてヴァーリの唇と重なり、

ヴァーリの舌が俺の口を、歯をこじ開けて校内に侵入させて蹂躙してくる。

 

「―――――っ!?」

 

ディープなキスをするヴァーリに絶句の面持ちで見守るイリナだった。

 

「互いが、気持ちよくなり、幸せを感じさせることも大切なんだ。

自分が劣勢だからと、相手より優位になるようになって自己満足していると、

好意を抱いている男は呆れるぞ?」

 

説得力ある。あのヴァーリが珍しく正論なことを言ったぞ。

 

「ううう・・・・・!」

 

ああ、悔しそうに涙目になるイリナ・・・・・。

もう俺が暗くなる暇なんてなくなったじゃないか・・・・・。

 

「イリナ・・・・・」

 

「なに―――?」

 

今度は俺からキスをした。それからすぐにヴァーリの唇にも唇を重ねた。

 

「・・・・・誰が優劣だからと、俺を争って喧嘩をして欲しくない。

できる限り平等に―――二人を愛したい」

 

「「っ!」」

 

イリナとヴァーリが目を見開いた。

 

「二人が俺のことを好きなように、俺も・・・・・二人のことが好きなんだ。

こんな俺を心から支えてくれる二人を・・・・・」

 

そんな二人を抱き締めて、耳元で発する。

 

「これからも、俺の傍にいてくれ・・・・・」

 

「うん・・・・・うん・・・・・勿論だよ・・・・・!」

 

「私もだ・・・・・。イッセーの隣以外、私の居場所がない。

他の男など、目を向けることもしたくない」

 

二人の腕が俺の背中に回り、互いが引き寄せ合い抱きしめあう。

 

「「「大好き」」」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode番外編

とある日、俺はベルを片手に家の裏―――広場にいた。

俺が立っている中心からランニングコース、花壇と設けられている。

寒い時期だから花は咲いていない。地面は若干、雪に覆われていて冬到来と実感させてくれる。

 

「さて、久々にいこうか」

 

「うん!」

 

「楽しみだな」

 

俺と同じくベルを片手に持っているイリナと同行するヴァーリ。

この二人と一緒にとある場所へと行くつもりだったのだが―――。

いて当たり前みたいに兵藤家、神王一家(父と娘)、魔王一家(父と娘)、兵藤家2、

機動六課、ナンバーズ、アザゼル、サーゼクス、五大魔王(四人)、

ヤハウェ、ガブリエル、ミカエルまでもが広場にいる。―――数多っ!

 

「で・・・・・何でお前らがいるんだよ」

 

「つれねぇことを言うなって一誠殿!俺たちも子供たちにプレゼントをする

手伝いをしたいだけだぜ?」

 

「うんうん、ロマンティックに煙突から入ってね!」

 

ユーストマとフォーベシイが朗らかに言う。

 

「・・・・・天界の方は大丈夫なのかよ?」

 

「ええ、視察、と言う名目で人間界に訪れましたので」

 

・・・・・職権乱用っぽそうだなぁ・・・・・・。

 

「機動六課メンバーはどうしてだ?」

 

「えと、ユーストマさまから誘われて・・・・・」

 

「ああ、いいよ。断わり切れなかったんだろう・・・・・なんだかすまない」

 

脳裏にユーストマが機動六課メンバーを誘う構図が思い浮かぶ。

 

「ナンバーズは?」

 

「私たちは魔王に誘われた」

 

「・・・・・」

 

楽しむなら大勢で、ってか?

 

「それにしても・・・・・こんな大勢で大丈夫かな」

 

「本職の仕事を手伝うから多分、大丈夫じゃない?」

 

「・・・・・まあ、どうにかなるかな。イリナ、始めるぞ」

 

ベルを掲げる。イリナもベルを掲げて共に大きく振るうと、

ベルから綺麗な音色がこの場を響かせる。

 

「なんて美しい音色なんだ・・・・・」

 

「惚れ惚れしますねぇ・・・・・」

 

「この時期だからこそ、かもしれないね」

 

周りが口々に言う。俺とイリナはベルを振り続ける。

しばらくして、俺とイリナの前の空間が一瞬の閃光を放つ。空間に光の切れ目が生じて、

何かが描かれていく。窺って見ているとそれは扉の形に成して、物質の無い空間の扉が完成した。

その扉には二つのくぼみがある。

 

「空間に扉が・・・・・?」

 

「これから行くところに直接繋がっている扉だ。イリナ」

 

「うん」

 

二つのベルを二つのくぼみに収めた瞬間に、空間の扉が開いた。扉から光が漏れ、

俺たちを照らす。懐かしい光景だ。イリナとヴァーリと一緒に扉を潜った。

―――扉を潜ると、そこに広がる光景に初めての皆は唖然とする。

 

ガタンゴトンッ!プシューッ!

 

機械的な音が聞こえる。辺りを見渡せば機械がこの場の空間を覆い尽くし、

赤と白の温かそうな服を着込んでいる、白い髪と髭の太った体格の初老の男性たちが忙しなく

動いている。

 

「お疲れさまでーす!」

 

いきなりイリナが叫びだした。すると、一斉に視線がこっちに集中しだした。

 

「おお、イリナちゃんか!一年振りだな!」

 

「今年もよろしく頼むよ!」

 

「綺麗な子に育ってきておるのぉー」

 

―――なんか、イリナが人気者だぞ。というか一年振りって?

そんな思いを籠めて視線をイリナに向けると

俺の気持ちに気付いたのか、イリナは説明してくれた。

 

「私、毎年サンタさんのお手伝いをしているの。だからサンタさんたちとは親しいのよ」

 

「そうなんだ。じゃあ、俺のこともすっかり忘れているだろうな」

 

寂しい気持ちが少し感じる。が、今はサンタさんのお手伝いだ。

と、そんな気持ちでいると、向こうから一人のサンタさんが来てきた。

 

「あっ、代表!」

 

「やあ、イリナくん。待っていたよ。今日は随分と・・・・・って、神さまぁっ!?」

 

『ナ、ナンダッテーッ!?』

 

あ、この人は久し振りだな。このサンタクロースたちの代表ともいえる人だ。

サンタクロースにはアザゼルのような堕天使を束ねる総督、

悪魔を束ねる魔王―――みたいな存在はいない。皆、世界中の子供たちに

プレゼントを配るという使命を全うするために存在している。

クリスマスが過ぎれば、人間界で正体を隠してほのぼのと寒い国に住んでいるらしい。

そして、教会の行事であるため、神であるヤハウェの存在がとても大きい。

 

「お仕事ご苦労様です」

 

「い、いえいえ!滅相もございませぬ!

で、ですが・・・・・どうしてここにおられるのですか?我々の仕事に何か不備でも

ございましたでしょうか・・・・・?」

 

「いえ、今日は私も子供たちにプレゼントを配ろうかと思いまして。

ほら、この子―――兵藤一誠くんと紫藤イリナさんと一緒に」

 

「兵藤一誠・・・・・?」

 

ヤハウェの言葉に、紹介された俺を代表がジィーと見つめてくる。

 

「・・・・・もしや、兵藤誠と兵藤一香の子供でしょうか?」

 

「ええ、そうです」

 

「おお・・・・・随分と変わった成長をしていますな。

言われるまで誰なのか分かりませんでしたぞ」

 

代表が俺の頭をポンポンと優しく撫でてくる。

 

「キミが来なくなってから、イリナくんは一人で手伝いに来てくれていた。

キミのことをイリナくんに訊くと何だか寂しげな表情をするもんでな。

敢えて聞かなかったが・・・・・キミを見ると大変な思いをしていたようだね」

 

代表・・・・・今の俺を気付いたのか?

 

「神さま、悪魔と堕天使もおるようですが、この者たちもですか?」

 

「お願いできますか?悪魔と堕天使は友好的に交流関係を結んでおりますので」

 

「分かりました。では、世界中に配るプレゼントが準備でき次第手伝ってもらいましょう」

 

代表はパンパンと手を叩いた時、俺たちの服が光に包まれ、

光が弾いた瞬間にサンタクロースの服に変わった。頭にはちゃんと帽子もあった。

 

 

 

そして、その時が来た。大きなソリに複数の袋が置かれていた。

そのソリに繋がれている真っ赤なお鼻のトナカイさんがいた。代表は俺たちにこう告げた。

 

「全部プレゼントを配り終えるまで、ここには帰ってこれない。

イリナくんとイッセーくんは何度も体験しているから分かっていることだと思うが、

決して子供たちに怖がらせてはならないよ。見つかってもだ」

 

プレゼントを配る場所はトナカイが連れて行ってくれる。プレゼントを配る基準は

純粋な願いが強い子供。稀に大人にも配るそうだ。基本的にサンタクロースは大勢で、

一人で世界中を移動してプレゼントを配る。今回は三人一組で世界中に配る。

ので、俺は―――イリナとヴァーリとユーストマが考案したくじ引きで行った結果こう決まった。

 

「幼馴染パワーが発揮したわっ!」

 

イリナは嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 

「・・・・・私も、いっくんと幼馴染なのに・・・・・」

 

逆に悠璃が頬を膨らませて俺の腕にしがみ付く。

 

「帰ったら、いっぱい甘えて良いから今は我慢してくれ」

 

「・・・・・分かったよ」

 

俺から離れてくれたことで、くじで決まったメンバーがそれぞれのソリに乗っていざ出発。

俺を真ん中にしてイリナとヴァーリも座り、俺たちも出発。

 

―――○●○―――

 

俺たちがプレゼントを配るところは―――なんと、日本だった。

トナカイはプレゼントを渡す家に移動しては停止して、俺たちは静かに家へ忍び込んで寝ている

子供の横にプレゼントを置くと繰り返して日本中を飛び交う。

 

「次はここのようだ」

 

「・・・・・ここって川神院よね・・・・・」

 

「さ、最難関・・・・・」

 

武の総本山とも言われている川神院に住む川神家・・・・・。

 

「気の扱いが長けている一族の家に止まるなんて・・・・・これ、なんの罰ゲームだよ?」

 

「取り敢えず、プレゼントを渡さないことには終わらないわよ」

 

「・・・・・だな」

 

袋を担いで、歩を進める。念のために気配を消して川神院へ侵入する。

二人は表で待機だ。

 

「・・・・・」

 

無機物の中で移動し、プレゼントを渡す人物へと進む。

 

「・・・・こいつか」

 

いざ、川神院のとある一室に侵入すると、その部屋に寝ている少女を見下ろす。

 

「うーん・・・・・お姉さまぁ・・・・・」

 

確かに、こいつは純粋に間違いないな。穢れなんてない心の持ち主だ。

おっ、お約束の靴下を発見。中は・・・・・やっぱ、願い事が書いてある紙があったな。

・・・・・なになに?

 

『お姉さまのようなバインバインになれるものをください』

 

「・・・・・」

 

お前・・・・・それは儚いだろう・・・・・。俺は可哀想な子を見る目で見つめた後、

袋からプレゼントの箱を取り出して傍に置いた。よし、終わった。

 

「帰ろう」

 

「―――帰らすと思ったか?」

 

「っ!?」

 

刹那。俺は誰かの手によって吹っ飛ばされた。壁に激突せず、すり抜けて外へと出た。

 

「お、起きていたのかよ・・・・・!?」

 

唖然と眼前に目を向けると、ひとつの影が現れた。

 

「なーんか、外に大きな気が感じて目が覚めたら・・・・・ははっ、これはどういうことだ?」

 

赤い双眸が煌めく。夜の外に黒い長髪が揺れる。そいつは真っ直ぐ俺に飛び掛かってきた。

 

「目の前にサンタの格好をした一誠がいるじゃないか!」

 

「川神・・・・・百代!」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

寝間着姿で襲いかかる川神百代。深夜にも関わらず、あいつは俺に戦いを挑んでくる。

 

「川神流、無双正拳突き!」

 

「悪いな―――。お前の相手をする暇はないんだよ」

 

赤く瞳を煌めかせ、川神百代を停止させた。

拳を突き出す姿勢で停止した川神百代の横を通り過ぎる。

 

「いずれ、お前の所に顔を出す。じゃあな」

 

 

 

 

「お帰り、遅かったね」

 

「川神百代に襲われた。ある意味肉体的な意味で」

 

「えええっ!?」

 

「まっ、停止させたから大丈夫だ。次に行こう」

 

 

―――○●○―――

 

 

数時間という時間を掛けて全てのプレゼントを配り終えた。

俺たちが戻る頃には他の皆が楽しげに雪だるまやかまくらを作っていた。俺たちも交ざり、

まだ帰ってきていない皆を待つことにする。

 

「イリナ、今年は何がなんでもあのサンタさんを倒してプレゼントを奪うぞ」

 

「そうね。あの箱の中身が気になってしょうがないわよ」

 

幼い頃からの念願。何故だか、あのサンタさんだけは他のサンタさんとは違う。

その理由は今でもよく分からない。

 

「なあ、二人とも。そのサンタクロースは本当に翼を生やしているのか?」

 

ヴァーリが疑問をぶつけてきた。イリナと一緒に頭を縦に振る。

 

「そうよ?翼で私たちの雪玉を弾いて勝負にもならないわよ」

 

「あれって卑怯だよな。当たるわけ無いし、

『当てたかったらもっと力をつけろ』ってバカにするしさ」

 

「でもでも、今の私たちなら絶対に当てれるわ!」

 

グッ!と両手を強く握りしめて意気込むイリナに相槌する。

 

「・・・・・見たところ、他のサンタクロースに翼を生やしている者はいないぞ?」

 

「そう言われてもなぁ・・・・・」

 

「ねぇ・・・・・?」

 

顔を見合わせて小首を傾げる。建物の中を窓ガラス越しで覗けば、

翼を生やすサンタさんの姿はいない。

 

「おう、お前ら。そっちも終わったんだな」

 

背後からアザゼルの声が聞こえてくる。

振り返れば、サンタクロースの格好をしたアザゼルが佇んでいた。

 

「うん、全然似合わないな。浴衣のほうが似合っていたのに」

 

「自覚してるぜ。ユーストマだって浴衣のほうが動きやすいってぼやいていたほどだ。

だが、これが正装だから仕方ない」

 

「他の皆は?」

 

「何チームかはまだだな。んで、お前と紫藤イリナはサンタさんと戦ってプレゼントを

奪うような話をしていたが、どいつなんだ?そのサンタさんはよ」

 

そう言われ、建物の中を覗きこんで探す。・・・・・いないな。

 

「建物の中にはいないようだ。イリナ、毎年あのサンタさんと戦ってた?」

 

「ううん、していないわ。何度か会ったけど、私だけじゃ勝てないから・・・・・」

 

そうか。イリナの話だとまだいるみたいだな。そこは安心した。

 

―――ゴッ!

 

「いでっ!?」

 

「へっ!?」

 

俺の頭になんか、硬い物がぶつかった。涙目で頭を擦りながら辺りを見渡す。

 

「なんだ・・・・・?」

 

「えっと・・・・・これ」

 

イリナが手の中にある物を見せてくれた。くしゃくしゃな白いものだ。

でも、良く見れば何かを包んだ紙だった。それを取って紙を開くと、石が入っていた。

しかも紙には文字が記されている。日本語だ。

 

『裏で待っている』

 

と、しか書かれていない。裏・・・・・ああ、あそこか。

 

「イリナ、裏にいるって」

 

「裏って・・・・・あっ、あそこね!」

 

ポンと手を叩いて何かの意図に気付くイリナ。

 

「裏ってのは?」

 

アザゼルが腕を組みながら訊いてくる。

 

「いつもサンタさんと戦っている―――裏山のほうだ」

 

「・・・・・なんで裏山なんだよ?」

 

さあ、いつもあそこだったし。皆が戻ってきたら裏山へ行こう。

 

 

 

 

それからしばらくして、全員が集まると、裏山へ移動した。

大量の雪で積もった山は白銀の世界を作りだしていた。イリナと共に馴染みのある町のように

迷うこともなく目的地へと到着した。

そこには一人の初老のサンタさんが腕を組んで佇んでいた。他のサンタさんとは違い、

白い髪と髭じゃない。真逆の色、黒だ。髭なんて生えてすらいない。

 

「・・・・」

 

あのサンタさんは黒い双眸を俺とイリナに向けてくる。

 

「お久しぶりです!」

 

「久し振りだな。サンタさん」

 

イリナと共々、挨拶をする。だけども、サンタさんは無言で目だけ動かしている。

俺とイリナ―――じゃない、俺たちの背後にいる面々に。あれ、もしかして連れて来ちゃ

いけなかったのか?そう思っていると、後ろから驚愕の声が聞こえてきた。

 

「おい・・・・・こいつは夢を見ているのか・・・・・?」

 

「まさか・・・・・」

 

「なんで・・・・・こんなところに・・・・・?」

 

なんだか、この雰囲気・・・・・物凄く知っているぞ。

 

「―――ずいぶんと、懐かしい者たちを引き連れたな」

 

静かに、感情が籠っていない声音を漏らしたサンタさん。

刹那、巨大な光の槍がサンタさんに突き刺さった。

 

「アザゼル!?」

 

「黙って見ていろ」

 

アザゼルが真剣な面持ちで口を動かした。サンタさんの方へ視線を戻せば、アザゼルの光の槍が

粉々に砕けた。その光景を見てアザゼルは唸った。

 

「てめぇ・・・・・やっぱりお前かよ・・・・・っ」

 

「若造が。俺に傷をつけることなど未だに不可能のようだな」

 

「ちっ!イッセーには色々と驚かされたが、今はそれ以上に驚かされているぜ!

―――なんで、生きていやがる!?サタン、いや前魔王ルシファーッ!」

 

・・・・・ルシファー・・・・・?

ルシファーって・・・・・現魔王のルシファーとリゼヴィム、

ヴァーリ以外のルシファーって言えば・・・・・前魔王のルシファーぐらいしか知らないぞ?

そのルシファーが目の前にいる・・・・?

 

「お、お父さま・・・・・?」

 

「・・・・・久しいな。我が娘よ」

 

ルシファーが娘!?ということは、本当に前魔王ルシファー!?

 

「彼が・・・・・私の・・・・・曾お祖父さん・・・・・なのか・・・・・?」

 

ヴァーリが唖然としている!

 

「・・・・・イッセーくん。私たちって物凄くとんでもないヒトと会っていたんだね」

 

「みたい、だな。俺、全然知らなかった」

 

イリナも呆然として、俺も驚きで思考が停止しかけた。

 

「ルシファー・・・・・どうしてキミがここにいるんだい?

あの時、キミは確か死んだはずだよ」

 

「久しいな、フォーベシイ。ああ、確かに死んだな。あの二天龍との激闘の末に。

だが、俺は甦った。あの男と女の手によってな」

 

「・・・・・誠と一香か」

 

アザゼルは目を細めた。あの人たちかー。ああ・・・・・そんなことができそうだ。

 

「その際、俺は力の殆どを失った。以前のような力は振るえんよ」

 

「俺の一撃を無効化した奴がなに言っているんだよ・・・・・」

 

「ふん、それぐらいの力は残してあるし新たに力を付けている最中だ。

いずれ、冥界に戻るつもりだ」

 

「今は・・・・・戻らないのかい?」

 

問うフォーベシイ。前魔王は俺とイリナに顔を向ける。

 

「そいつらが俺に勝てるまではこの場から動くつもりはない。

それにあのサンタどもの酒は美味いからな」

 

それを聞いてアザゼルとルシファーが嘆息した。

 

「それが大きな理由だろう絶対」

 

「お父さまは・・・・・無類の酒好きだったわね・・・・・」

 

そこへ、レヴィアタンが口を開いた。

 

「あの、私たちの父も甦っているのですか?」

 

「ふむ、レヴィアタンの娘だな?―――ああ、俺だけじゃなく、

アスモデウス、ベルゼブブ、レヴィアタンも力の殆どを失いながらも甦っている。

ただし、四方に散らばって今にでもどこかで生きているだろうよ」

 

「―――――っ!」

 

レヴィアタンが歓喜で目を見開いた。

 

「どうして、甦ったのですか?」

 

「アスモデウスの娘。それは俺を甦らせた張本人どもに聞け。

今は生きているか死んでいるか知らんがな」

 

父さんと母さんのこと、知らないんだ・・・・・。

 

「では、私たちの父がどこにいるか分かりますか?」

 

「さてな。一応連絡は取れている。ただし、居場所は教えれん。あの人間共との約束だからな」

 

「・・・・・そうですか」

 

「―――東西南北」

 

・・・・・なに?

 

「俺がこの場にいる北の他に、他の魔王は北以外の方角のどこかにいるはずだ。

悪魔の寿命は長い。暇つぶしに探し続けばいつか見つかるもしれんな」

 

「・・・・・分かりました」

 

敢えて、具体的な居場所を教えないか。それでもレヴィアタンたちにとって良い朗報だと思う。

 

「さて、久方ぶりに始めるとしようか」

 

前魔王が指を弾いた。あのヒトの背後に魔方陣が出現して巨大なプレゼントが出てきた。

―――アレだ!アレが俺とイリナが欲しがっている巨大なプレゼント!

 

「よし、勝つぞ。イリナ、ヴァーリ」

 

「ええ!」

 

「そうだな」

 

「ほう?今回は三人で来るのか?しかも、その娘は・・・・・悪魔だな?」

 

前魔王がヴァーリに関心を持った。ヴァーリが口を開く。

 

「初めまして。私はヴァーリ・ルシファー。あなたの息子のリゼヴィムの孫です」

 

「リゼヴィム・・・・・ふふっ、あのバカ息子に孫がいたとはな。

―――これは嬉しい出会いだ。ルシファーの血は未だ絶えていないことに俺は安心した」

 

あのヒトが初めて笑みを浮かべた。

 

「はい。私もあなたに出会えて嬉しい限りです。

もしも、あなたを越えれば、リゼヴィムを越えたということになるんですからね」

 

「俺を超えるだと?くくくっ!まだまだ十数年しか生きていないだろう

小娘が―――咆えてくれるわ!」

 

と、前魔王が叫んだ。それだけで周囲の雪を吹き飛ばし、

俺たちのところにまで衝撃波が伝わった。

 

「元魔王として俺たちの力を見せてくれる!」

 

「俺たち・・・・・?」

 

疑問が浮かんでいると、前魔王が雪が無くなった地面に手をつけて三つの魔方陣を出現させた。

 

「来い!我らの力を見せつけようぞ!」

 

―――三つの魔方陣の光が弾いた。光と共に・・・・・見知らぬ初老の男性が現れた。

 

「あーっ!?」

 

「嘘・・・・・こんな早く・・・・・?」

 

「・・・・・」

 

レヴィアタン、アスモデウス、ベルゼブブが開いた口が塞がらないでいる。

どうしてだ?と思っていれば、

 

「おいおい・・・・・本当に甦っていやがるよ。

フォーベシイを含めた前五大魔王が揃いやがった」

 

「昔の戦争を思い出しますわね・・・・・」

 

アザゼルとヤハウェが硬い笑みを浮かべる。

 

「おおー、我が娘がいるではないか!」

 

「ふふっ、それだけではないようだ。神に天使長、堕天使の坊主がいる」

 

「また、あの時のように戦争をするのかな?」

 

フォーベシイを除く前五大魔王が現れたぁぁぁぁぁっ!?

 

「んで、ルシファー?俺たちの力を見せるつって、どいつにだ?」

 

「我が息子の孫とあの二人の少年と少女にだ」

 

「おっ、お前の息子に孫ができたのか!そいつは愉快だな!

あのやんちゃな坊主が子を成していたとはな!」

 

「だが、あの少年・・・・・人間ではないな?力の波動が凄まじいぞ」

 

「ふむ。そうだね・・・・・キミ、名前は?」

 

と、前魔王に問われて・・・・・緊張気味で名乗った。

 

「イッセー・D・スカーレット。前の名前は兵藤一誠」

 

「兵藤・・・・・?」

 

「まさか、兵藤家の者か?」

 

「それだけではない。俺たちを甦らせたあの人間の子供だ」

 

ルシファーの父親が俺のことを教えた途端に、

 

「「「はぁぁあああっ!」」」

 

いきなり前魔王三人から魔力弾を放たれたっ!しかもすごそうな威力!

幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)』で魔力を無効化して叫んだ。

 

「いきなりなに!?」

 

あのヒトたちは悪びれた様子もなく答えた。

 

「いやー、すまんすまん。あの人間どもには勝手に甦らせたかと思えば、

勝手に散り散りにさせられたからな。つい、イラっときてしまった」

 

「仕舞いには力の殆どを失ってしまったから。魔王としての力を再び得るために

修行を励む羽目になった」

 

「まあ、生き返ってめっけもんだと思っているけど・・・・・」

 

「「「やっぱり、一度あの人間たちをぶん殴らないと気が済まない!」」」

 

魔力を迸らせてハモって断言したよ!

 

「それが、あいつらの子供だと知れば―――」

 

ルシファーの父親が三人の元魔王と肩を並び―――。

 

「愉快に攻撃をしたくなるに決まっているだろう?

今のお前ならば、雪遊びではなく実戦ができるはずだ」

 

四人揃って、何故か俺を集中的に攻撃をし始める!

 

「イッセーくんは守るよ!」

 

「そして、勝ってみせる!」

 

「いくぞ、二人とも!」

 

             ―――禁手(バランス・ブレイカー)!ッ―――

 

イリナとヴァーリがそう叫んだ。俺はオーフィスとガイアに

「呪文だ!」と共に戦おうと促した。

 

「我、夢幻と龍神の子の者なり」

 

「我、夢幻を司る真龍『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッドなり」

 

「我、無限を司る龍神『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィスなり」

 

呪文を呟き続けるなり俺とガイア、オーフィスの全身が光り輝く。

 

「我は無限を認め、夢幻の力で我は汝を誘い」

 

「我は夢幻を認め、無限の力で我は汝を葬り」

 

光の奔流と化となったガイアとオーフィスが俺に向かってくる。

 

「我らは認めし者と共に生く!」

 

「我らは認めし者と共に歩む!」

 

2人の呪文の後に俺も呪文を唱えた。

 

「我は夢幻を司る真龍と無限を司る龍神に認められし者。

我は愛すべき真龍と龍神と共に我等は真なる神の龍と成り―――」

 

「「「我等の力で全ての敵を倒す!我等の力で汝等を救済しよう!」」」

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!

 

光に包まれ、眩い深紅と黒の閃光が辺り一面に広がっていく。そして、閃光が止んだ時。

周りから見れば、俺は深紅と漆黒の二色のドラゴンの姿を模した全身鎧(プレート・アーマー)

立派な角が生えた頭部、胸に龍の顔と思われるものが有り、

特に胸の龍の顔は意思を持っているかのように金と黒の瞳を輝かせる。

瞳は、垂直のスリット状に黒と金のオッドアイになっていて、

腰にまで伸びた深紅と黒色が入り混じった髪をしている。

 

「グレートレッドと・・・・・オーフィスだと!?」

 

「真龍と龍神が一つとなって・・・・・」

 

「あの子供の力となったのか・・・・・!?」

 

「信じられない・・・・・あの不動と無限が・・・・・有り得ない!」

 

前魔王たちが絶句、混乱している。古から存在していたあの悪魔たちにとって

信じられない光景なんだろうな。イリナとヴァーリの肩に触れ、力を譲渡する。

 

「―――力が増幅した。我らの力と同様・・・・・いや、それ以上か!?」

 

「それよりも、ルシファーの息子の孫から龍の力を感じ、

白い龍のような鎧を纏っているが・・・・・まさか白龍皇か?」

 

「あの少女は天使なのか・・・・・?青白い天使とは聞いたことないが、いずれにせよ」

 

「油断は―――!」

 

前魔王が言いかけた瞬間。懐に潜り込んで一撃を与えた。

 

ドンッ!

 

「ッッッッッ!?」

 

一人の前魔王が目を見開いたまま、悶絶をして膝をついた。

 

「アスモデウス!?」

 

「今の俺は無敵に近い」

 

手を一人の前魔王に開いた。

 

「力を失った魔王とはいえ、俺が負けることは絶対に―――ない」

 

魔力の波動を放って、さらに前魔王の一人を倒した。

 

「レヴィアタンまでもが・・・・・!」

 

「後の二人は任せるよ。―――ヴァーリ、イリナ」

 

「ええ!」

 

「ああ!」

 

イリナとヴァーリが残りの前魔王に飛び掛かる。力を譲渡した上に、二人の神滅具(ロンギヌス)は強い。

以前の力がない今の前魔王たちは―――いい勝負するだろうが、最後は敗北するだろう。

 

―――○●○―――

 

「念願のプレゼント、手に入れたわぁっ!」

 

「中身はなんだろうなー」

 

「開けてみよう」

 

『・・・・・』

 

周りが可哀想な物を見る目で四人の前魔王を見ている間に、

俺たちは巨大なプレゼントの紐を解き始める。十年間の念願がついに叶った!

 

「・・・・・ん?」

 

「あれ・・・・・また箱?」

 

開けたらまた箱。この中にあるのか?と思い、二人と一緒に箱を開けると―――。

 

「また箱だ」

 

「・・・・・なーんか、お約束な展開のような・・・・・」

 

また箱を開けると、また箱だ。さらに開けるとまた箱だ。さらに―――箱だ。

 

「燃やして、いい?」

 

「ダ、ダメよ!根気よく開けてみましょう?」

 

「これで何もなかったら・・・・・あの悪魔どもをこいつで火炙りにしてやる」

 

俺は指を弾いて四つの炎の十字架を発現した。

 

「こ、これって・・・・・」

 

「ヴァルブルガの『紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)』だ。

俺の場合、紫炎じゃなくて黒炎だけどな」

 

ジロリ、と前魔王たちに尻目で見れば、冷や汗を流しているのが窺えた。

それから根気よく箱を開け続けること十数分。巨大なプレゼントは手の平サイズの箱にまで

小さくイリナとヴァーリと一緒にその箱を開けた。

 

「・・・・・これは」

 

五つの指輪が箱に収まっていた。銀色で装飾が凝った指環だ。

 

「魔力が込められているな」

 

「大きさが一緒だわ。どうしてなのかしら?」

 

「―――――それは、兵藤誠と兵藤一香が俺に渡したものだ」

 

前魔王ルシファーが説明をする。

 

「あいつは言っていた。『息子に五人の少女の幼馴染がいる。

きっとその子たちに渡せば喜んでくれる』とな」

 

「五人?私とヴァーリ、悠璃さんと楼羅さんの他にイッセーくんに幼馴染がいるの?」

 

「イッセー、そいつは誰なんだ?」

 

イリナとヴァーリに問われた。最後の一人の幼馴染・・・・・。

俺は夜空を見てポツリと呟いた。

 

「あいつか・・・・・元気にしているかな?」

 

「「っ!」」

 

ガシッ!

 

「ん?」

 

「「その幼馴染は・・・・・女の子?」」

 

何か真剣な顔で問われた。俺は最後の幼馴染の顔を浮かべる。

 

「うーん・・・・・まだ子供だったからな。分からないや」

 

「そ、そうなんだ・・・・・」

 

「何度か会ったぐらいだし、俺を嫌っていたしな」

 

「え?なんで?」

 

そう言われても・・・・・頬をポリポリと掻いた。

 

「『こっちにくるな!』って顔を赤くして殴ってきたり物を投げてきたりしてくるんだ。

俺、何もしていなかったんだけど・・・・・」

 

「「・・・・・」」

 

何か言いたげな顔をする幼馴染の二人。

ふと、前魔王ルシファーを残して他の三人の前魔王が魔方陣で姿を消した。

 

「さて、俺も帰るとしよう。この後、約束があるのでな」

 

「お父さま・・・・・」

 

「娘よ。成長したお前の姿を見れて俺は嬉しいぞ。それと冥界の事情と今騒がしている

バカ息子の話もな。俺は何も手助けする気はないが、現在の冥界はお前たちの世代に任せる。

いつか冥界に帰ったらゆっくりと親子水入らず話をしよう」

 

「・・・・・はい」

 

ルシファー一家の話はそれで終わった。前魔王が魔方陣を展開してどこかへ転移しようとする。

 

「小童」

 

「お、俺・・・・・?」

 

「ああ、お前だ。真龍と龍神を手懐ける存在が現れるとは驚いた。

だが、強大な力を振るい過ぎて自分が孤立しないよう気を付けることだ。

例え、その力を得る理由はどんなことでもだ。周りに畏怖されては元も子もないからな」

 

今度はヴァーリに視線を向けた。

 

「ヴァーリ。ルシファーと名乗るからにはルシファーの名に恥じない生き方をしろ。

俺から言うことはそれだけだ。リゼヴィムをどうこうしようがお前の自由だ」

 

「はい、そのつもりです」

 

「・・・・・まったく、今世の者たちはかなり逸脱している。特に若い世代は―――」

 

魔方陣の光が弾け、溜息混じりに最後まで言い切ることはできなかった前魔王が姿を消した。

 

「それについては同感だぜ、前魔王ルシファー。

こいつらは、俺たちの正直を上回る成長速度をする」

 

アザゼルまでもが同意する。

 

「でも、それがいいじゃねぇか!」

 

「そうだね。その強さは純粋に何かを守るために振る舞われているならば、

私たちはただ見守るだけだよ?」

 

「・・・・・約一名、危ない子はいますけど」

 

「大丈夫だ。彼は良い意味で悪い意味で純粋な子だからね」

 

後半は絶対俺のことだろう。まあいい。どうでもいい。

 

「はい、ヴァーリ」

 

「イッセー?」

 

「あの前魔王ルシファーから頑になってもらえなかったプレゼントだ。

俺とイリナはこのプレゼントをどうしてもヴァーリに渡したかったんだよ」

 

「―――――」

 

ヴァーリは目を見開いてイリナと俺を交互に見る。そんな彼女にイリナと微笑む。

 

「これで、ようやくヴァーリに最後のプレゼントを渡せたな」

 

「待たせてごめんなさいね。でも、最後は三人で戦って勝ち取ったプレゼント!

この日のことを私は忘れはしないわ」

 

一つの指環をヴァーリに、もう一つの指環をイリナに渡す。後で悠璃と楼羅にも渡そう。

 

「さて、帰ろう。俺たちの家に」

 

「うん!」

 

「うん・・・・・二人とも」

 

「「・・・・・?」」

 

「―――ありがとう―――」

 

その時、咲く花のようにヴァーリが笑った。それは幼少の頃以来の笑みだった。

俺は笑みを浮かべ返事をした。どういたしましてと―――。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

カオスヒューマンと暗躍の冬休み
Episode1


「いいですね?この者をどんな方法でもいいので、この場所に連行してください。

生死は問いません」

 

「・・・・・御意」

 

「あなたの力も、頼りにしていますよ?少々計画がずれましたが、

この日のためにあなたを引き取ったようなものですからね」

 

「はい・・・・・」

 

「ふふっ。では、華麗に行きなさい」

 

 

 

 

 

「おい、またあいつのところに行くのか?」

 

「そうよ?」

 

「本当に魔人の力を覚醒したのか分からない奴のことなんて放っておいて、俺と―――」

 

「悪いわね。あなたと付き合う気はないの。というか、私の好みは知っているでしょう?」

 

「ちっ、そいつがお前が求めている好みのタイプってやつかよ?」

 

「ただ単に強い奴なんてそこら辺にゴロゴロいるし、私はいつも刺激が欲しいのよ。

私の予想を、想像を遥かに超えて強くなるそんな強者の隣にいれば退屈なんてしないもの」

 

 

―――○●○―――

 

 

「あー、炬燵の時期がきたなぁ・・・・・」

 

「そうですねぇ・・・・・」

 

「そうだねぇ・・・・・」

 

「足元に銀華さんがいるから気をつけないとねぇ・・・・・」

 

リビングキッチンの一角で巨大な炬燵の温もりでだらける俺たち。

原始龍の気持ちが今なら良く分かる。

 

「「「「・・・・・」」」」

 

そして、そのまま俺たちは―――。

 

「寝ては風邪を引きますよ」

 

睡魔に負けそうなところでリーラに話しかけられた。

 

「おお・・・・・」

 

「・・・・・」

 

気のない返事をしたら、リーラに炬燵から離された。

 

「・・・・・」

 

そんな俺の脚の上にはオーフィスが寝転がっていた。中は熱くなかったのかな?

 

「リーラ、他の皆は?」

 

「それぞれ自分の時間をお過ごしです。部屋に籠っていたり、修行をしていたりと」

 

「修行か・・・・・そろそろ成神のやつも成長しているかな?赤龍帝として、

本格的に強くならないとこの先辛いだろう」

 

「ヴァーリさまも冥界で修行しているでしょう」

 

あいつか・・・・・噂に聞く二天龍の極覇龍(ジャガー・ノート・ドライブ)より強い力を習得していそうだな。

俺みたいに龍化―――なんて、できるわけないか。

 

「まっ、あいつはあいつなりに、強くなろうとしているに決まっている。なんせ―――」

 

俺のライバルだと言おうとした矢先、一瞬の違和感を感じた、

怪訝に辺りを見渡すと・・・・・。

 

「和樹?」

 

話しかけても返事がない。―――これって、ギャスパーの能力と酷似している。

 

「・・・・・まさか、こうもあっさり奇襲を受けるとは・・・・・な!」

 

腕を龍化+闘気を纏い、背後に振り返りながら

 

ガキンッ!

 

刃を受け流して、敵に臨戦態勢となる。

 

「なんだか、デジャブを感じるよ」

 

「・・・・・」

 

襲撃者は―――全身を黒いマントで身に包んでいる二人だ。

 

「どうも・・・・・俺とオーフィス以外の全員が停止されているようだな」

 

「我、効かない」

 

最強の龍神さまは伊達じゃない。だが、相手は相当の手練だ。

この停止した空間の中で動けれる理由とすれば・・・・・。

 

神器(セイクリッド・ギア)の力か―――」

 

刹那、俺の目の前にナイフが迫っていた―――!?

 

「うわっ!?」

 

間一髪避けたが―――また、ナイフが目の前に―――ッ!

 

「やっろう!」

 

空間を歪ませ穴を広げてナイフを吸いこませる。さらに幻想殺しの籠手(イマジンブレイカー)を装着して―――!

 

「・・・・・」

 

と、今度は襲撃者の一人が小太刀を持って迫ってきた。

 

「イッセー、守る」

 

俺の間にオーフィスが割り込んで手元を光らせた。

だが、一瞬でオーフィスの前から姿を消した襲撃者。

次に現れた場所は―――!

 

ザシュッ!

 

「っ!?」

 

俺の首が切り裂かれた。急いで治癒して治す。もう片方の手で無効化の空間を―――!

 

「って、またかよ!」

 

やり辛いな!いきなり目の前にあるナイフをかわすのってよ!

 

禁手(バランス・ブレイカー)!」

 

二天龍の鎧(ツー・ザ・スカイ・スケイルメイル)を纏い、生身を隠した瞬間。

鎧に刃物が直撃した感触が覚えた。襲撃者の一人の気配が感じられない。

気配の隠し方が熟練だ。まるで忍者みたいだ。

 

「・・・・・」

 

だがな、

 

「もう、身切った!」

 

ガッ!ドゴンッ!

 

真上から迫る襲撃者を掴んで床に叩きつけた。瞬時で襲撃者に鎖で縛って動きを封じた。

さらには迫りくるナイフをかわしながら無効化の空間を作って神器(セイクリッド・ギア)の能力を封じ込め、

目の前の襲撃者に迫る。しかし、襲撃者は懐から何かを取り出して床に叩きつけた。

カッ!と一瞬の閃光が迸り、視界が白く塗られる最中、

気がこの場からガラスを割れた音と共にいなくなった。

 

「オーフィス」

 

「・・・・・逃げられた」

 

鎖で縛った襲撃者は・・・・・丸太に変わっていた。本当に忍者のようだ。

一拍して、

 

「・・・・・へっ?」

 

「え、一誠さん?どうして鎧を纏っているんですか?」

 

「って、窓ガラスが割れちゃっているよ!?寒ッ!」

 

「・・・・・」

 

停止した時間が解けたのか、和樹たちが動き出して現状を把握できないでいる。

 

「(あの二人・・・・・何者なんだ・・・・・?)」

 

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ・・・・・問題ない」

 

「対象は一筋縄にはいかないようですね」

 

「私の動きももう見切ったほどだ。だが、貴殿の力があればいける」

 

「今回の一件で把握できました。次で任務を遂行しましょう」

 

―――○●○―――

 

「この家に直接襲撃してくるなんて・・・・・」

 

「しかも、僕たちは停止されていたなんて・・・・・」

 

「油断大敵どころではありません。僕たちを気付かせずに無力化したんですから」

 

皆を呼び寄せて俺とオーフィスが今回起こった件を説明中。

トレーニングルームにいた皆は修行に励んでいた。

ということは停止されていた空間はリビングキッチンのみとなる。

 

 

「時間を関する神器(セイクリッド・ギア)か・・・・・」

 

「アザゼル、何か知らないか?」

 

念のために呼び寄せたアザゼルに訊ねると、顎に手をやって口を開いた。

 

「誠の、お前の神器(セイクリッド・ギア)の他に時間を関する能力の神器(セイクリッド・ギア)

あるとすれば・・・・・『時間を操る支配者の領域(タイム・オペレーション・ルーラ・ドメイン)』しか知らないな」

 

「それ、どんな能力なんですか?」

 

「無論、時間を操る能力だ。ただ、時間を戻すことはできず、

移動していた物を元にあった場所に戻す程度の力しか無い。

まあ、空間を弄ることもできるがな」

 

俺と同じ系統の所有者か。

 

「どうして俺は動けれたんだ?」

 

「そばにオーフィスがいたからか、

あるいは・・・・・お前自身が無意識に襲撃者の神器(セイクリッド・ギア)の能力を弾いたかだな。

俺たちみたいな力の強いやつは、呼吸をするようにそういった特殊な力には効かないんだ。

要するに、お前が襲撃者より強いってことだ」

 

「でも、和樹はどうなるんだ?」

 

魔力が俺たちの中で上位に入る。俺みたいに強いんだ、和樹は。

 

「んー、お前を狙っているということは、この家にいるお前らのことを調べていたか

知っていたからか、式森を念入りに停止させたかもしれんな。

流石に無限の体現者さまには無理だったようだがな」

 

「えっへん」

 

小さい胸を張るオーフィス。

 

「不覚を取ったけど・・・・・次は・・・・・そうはいかないよ」

 

和樹が何やら燃えていた。

 

「しっかし、この家に襲撃してくるなんざとんでもねぇやつらだな。

あの和平を結んだ時を思い出すぜ」

 

アザゼルは苦笑を浮かべる。だろうな、俺も思ったぞ。

 

「お前を狙っているとすれば・・・・・また近々くるかもしれねぇな」

 

「俺が一人で歩いていればくるんじゃないか?」

 

「お前を狙っているなら、必ずそうなるかもしれないが・・・・・危険性はあるぞ?」

 

百も承知だ。そうするしか方法がないんだからな。

 

「まあ、俺も策が無いってわけじゃない」

 

「ほう、それは一体どんな策なのか、教えてもらおうか?」

 

口角を挙げるアザゼルに俺は告げた。所謂・・・・・囮作戦だ。

 

 

 

 

まーさか、こんな形であの人たちの力を借りるとはな。

数日後、俺は一人で夜道を歩いていた。すぐに行動したかったが、

向こうが俺が何か仕出かしていることを察知するだろうから間を置いて行動開始だ。

今現在、怪しい雰囲気は感じない。

 

『イッセー、配置完了。今のところ周囲に人はいないよ』

 

―――分かった。引き続き、探索を頼む。寒い中、悪いな。

 

『気にしないで。私たちは半径一キロの位置で待機しているし、

どんな人でもそこまでの距離に敵が待ち構えているとは思えないよ』

 

―――相手は時間を操る。お前らを停止することだって可能だ。敵が現れたら俺が合図を出して、

長距離から攻撃を頼む。それか捕縛魔法だ

 

『了解』

 

念話が途切れた。それ以降、片手に持つ買い物袋をぶら下げて帰宅最中に―――待ち望んでいたことが起きた。

 

「―――――っ」

 

闇夜に紛れてナイフが迫ってきた。顔を逸らして避けていると、

鈍く光る銀が振り下ろしてきた。

前に両腕で交差して、その一閃を肉で切らせて骨を切った。

 

「っ!?」

 

襲撃者に拳の一撃を与えた。上空に襲撃者を打ち上げた瞬間に極太のエネルギー砲を放つ。

―――これが合図だ。一キロからここまで来る時間は約数分。それまで時間を稼がせてもらうぞ。

そう思って構えていると襲撃者が―――。

 

「何時の間にか増えているし!?」

 

一気に九人と増えていた。こいつ、本当に忍者か?暗殺向きの職人だな!

そして、俺のすぐ傍にナイフが迫ってくる。腕を龍化させてナイフを弾き返して、

直ぐに襲いかかる襲撃者たちに迎撃をする。

 

「何気に素早い・・・・・!」

 

その上、今は夜だ。一瞬だけ見失ってしまう。拳を突きだしたり、

かわしたりとそんな事を繰り返し続けていると―――時折、俺の身体に切り傷が生じる。

 

「・・・・・ぐっ!?」

 

しばらくして、俺の身体に異変が起きた。痺れるような感覚が覚え、

身体が重く自由に動くことができないつつある。

俺の異変に襲撃者は―――一気に決めようと迫ってきた。

 

「ちくしょう・・・・・っ!」

 

両腕を交差して闘気を迸り次の攻撃を防ごうとした。

が、俺の頭部に鈍い感覚と痛みが覚えた時には目の先が真っ暗になった―――。

 

―――○●○―――

 

「・・・・・」

 

暗殺対象が頭に突き刺さったナイフによって倒れた。警戒して近づいても動く様子はない。

跪き、首筋に触れると・・・・・。

 

「死んでいる」

 

死んだことを確認し、手を挙げれば闇夜の向こうから相方が現れた。

 

「死んだのですね?」

 

「ああ、間違いない」

 

小太刀を暗殺対象者の背中から心臓に突き刺した。抜けば刀身に血が濡れている。

 

「・・・・・では」

 

「うむ」

 

この死体を速やかに指定された場所に―――。と、そう思った束の間だった。

地面から伸び出てきた手が私の足首を掴んで引きずり込まれた。太股まで引き摺られると、

私の足は完全に地面と融合してしまった・・・・・!

 

「敵っ!?」

 

相方が地面に視線を落として警戒している時、相方の身体に光の粒子が発現したかと思えば、

一瞬で光の縄と化と成り、拘束した。

 

「ISレイストーム」

 

虚空から二人の少女と一人の女性が姿を現した。

周りの風景と擬態して姿を隠していたというのか・・・・・!

地面からも一人の少女が出てくる。

 

「私たちは彼と関係する者よ?」

 

「くっ・・・・・情報に聞いていない者たちか・・・・・」

 

「最近ことだからしょうがないと思うけどねー?

まっ、これでお前たちを捕まえれたから結果オーライ」

 

・・・・・気になる。どうして対象者が死んでもこの態度でいられる?

怪訝な面持でいると、敵は愉快そうに言う。

 

「どうして彼が死んでいるのに平常にいられるのか気になるようね?」

 

「・・・・・」

 

「沈黙は肯定と取らせてもらうわ。その理由は・・・・・彼は偽物だもの」

 

女性の言葉に呼応して、私が殺した対象者が、ユラリと姿を消した。

 

「なっ・・・・・!?」

 

「ふふふっ!彼の偽物に踊らされている様子を見て、笑いを堪えるのは大変だったわぁ~」

 

「待て・・・・・あの血は一体、私が心臓を貫いたあの感触は一体・・・・・・!」

 

「うふふのふぅ~。クアットロさんの偽りと幻術による感覚よぉ~?

この辺り一帯にあなたたちを騙すための細工を施してあったのよねぇ~?」

 

全てが・・・・・全てが私たちを誘いこみ、嵌めこむためだったものか・・・・・!?

最初から私たちはこの者たちの手に踊らされていいたとは・・・・・!

 

「さてさて、皆も集まってきたし、連行しちゃおうかしら。セインちゃん、よろしくねー?」

 

「あいよー。無機物の中だったら抵抗もできないだろうしねー?」

 

足のつま先を地面に小突く。―――地面に潜るつもりか・・・・・!?

 

「地面の中は文字通り無機物。私が手を放したらお前たちは地面の圧力に

一瞬で潰れちゃうから、抵抗なんて考えないでね」

 

・・・・・万事休す。ここまでか・・・・・。私の首筋に軽い打撃が与えられた時、

私の意識は遠のいたのであった。

 

ドサ・・・・・・。

 

―――○●○―――

 

「イッセー、ただいまー」

 

「お帰り、首尾はどうだ?」

 

「バッチリ、襲撃者を捕まえてきたよ」

 

セインが床から顔出して報告。それから床から出てくれば、

あの時の二人の襲撃者たちが出てきた。

 

「ありがとう、助かったよ」

 

「えへへ、どういたしまして」

 

頭を撫でて労うとセインは嬉しそうに目を細める。他の皆にも労いに行かないとな。

 

「さて、お前らは誰なのか教えてもらおうか」

 

「「・・・・・」」

 

沈黙・・・・・。まっ、当然か。

 

「ナヴィ」

 

「はいはい、調べるわ」

 

魔方陣の上に乗って宙に浮くナヴィが二人の襲撃者のフードをはぎ取った。

一人は銀髪の女性で、もう一人は黒いポニーテールの・・・・・。

 

「子供・・・・・?」

 

「大人だっ!」

 

―――えっ!?大人!?どう見たって小学生ぐらいだぞ!ナヴィに視線を送る。

 

「ナヴィ、本当か・・・・・?」

 

「本当ね。見た目に反してその背は有り得ないわね・・・・・歳は十代後半よ?」

 

「うわー、ビックリしたなぁ・・・・・」

 

しばらくナヴィは二人を見つめる。それからカタカタとノートパソコンに記入していく。

 

「子供みたいな大人の子の名前はアカツキ、伊賀と甲賀の血を引く末裔ね。

もう一人は十六夜咲夜、神器(セイクリッド・ギア)の所有者よ。

あの時間を関する神器(セイクリッド・ギア)のね」

 

「こいつか・・・・・」

 

銀髪の女性こと十六夜咲夜を見据える。アザゼルの予想通りだった。

 

「この二人・・・・・兵藤家の手の者よ」

 

「・・・・・」

 

そんな事だろうと思ったよ。俺を狙ってくる奴なんて限ってくるし。

 

「俺の命でも狙いに来たのか?」

 

「「・・・・・」」

 

沈黙する・・・・・。

 

「イッセー、口を割らないなら強制的に割った方が良いわよ?」

 

「ん、やっぱりそうなるか。んじゃ、精神的なダメージを与えるか」

 

こうなると思い、事前に用意していた二つのヘッドオンと録音機を二人の前に。

ヘッドホンを二人の頭にかぶせ耳に装着・・・・・。録音機を操作する。

二人の表情は最初こそなんとでもなさそうにしていたが、徐々に険しくなり、

冷や汗を流し始める。それから―――青ざめたり顔が赤くなったりと顔色を何度も変えた。

 

「ねぇ、一体なにを聞かせているの?」

 

「知らなくていいぞ」

 

ピッと流している曲を停止させてヘッドホンを取った。

 

「さて、教えてくれるか?」

 

「「・・・・・っ」」

 

頑になって口を割ろうとしなかった。

 

「しょうがない。バージョン2だ」

 

再びヘッドホンを生着させて、録音機を操作する―――。

 

「「―――――っ!?」」

 

後に二人は絶叫する。頭を振ってヘッドホンを振りほどこうとしても、

俺が曲を止めない限りヘッドホンは外れることはないぞ。

 

「い、言います!言いますからもうこれを聞かせないでぇっ!見せないでぇっ!」

 

とうとう屈したか。意地の悪い笑みを浮かべ、俺は告げた。

 

「もう十分♪」

 

「う、うわああああああああああああああああ!」

 

「いやああああああああああああああああああ!」

 

この日、襲撃者たちの耳と目が死んだ。

 

 

 

 

 

 

―――おまけ―――

 

『ッ!?』

 

「なんだ・・・・・この悪寒は・・・・・?」

 

「曹操も感じたか・・・・・」

 

「俺たちと同じ体験している者の悲鳴が聞こえたような・・・・・」

 

「ま、まさか・・・・あいつがまたとんでもないことをしているんじゃ・・・・・」

 

『・・・・・』

 

―――全力で忘れようっ!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode2

「あー、取り調べた結果。あの襲撃者たちは俺を生死問わず、

どこかへ連れて行こうとしていたらしい。その理由は告げられていないため詳細は不明。

あいつらを動かしていたのは兵藤白良。兵藤家の幹部の一人だ」

 

翌日の朝、あの二人から聞きだした情報を皆に告げる。

地下の牢屋に放り込んでいるため脱走は不可能。

 

「あの人が・・・・・」

 

「薄気味の悪い人がね・・・・・」

 

悠璃と楼羅が呟く。どうやら知っているようだな。

 

「どんな人物だ?」

 

「詳しくは・・・・・ただ、幹部の中で発言力は高いと聞いております」

 

「私も、そのぐらいしか知らない」

 

その言葉を聞いて、場に静寂が訪れ、それを挟んで各々と思案をぶつけあった。

 

「でも、どうしてそんな人があの二人をイッセーに襲わせたのかしらね・・・・・」

 

「前に魔人のことでイッセーくんは襲われましたので・・・・・今回もそのことででは?」

 

「生死問わず指定された場所に連れて来いなんて気になる」

 

「ええ、その場所に何があって、何をするのかもですが」

 

「次もまた刺客が送られてくる可能性が高いわね・・・・・」

 

・・・・・。

 

「―――――皆」

 

皆に声を掛ける。

 

「これは虎穴に入らずんば虎児を得ず・・・・・危険を冒さないと

分からないことだと思う。だから俺は指定された場所へ行ってみる」

 

『ッ!?』

 

「もちろん、何人か引き連れる。姿を隠して貰ってな」

 

「それで・・・・・誰を連れていく気なの?」

 

リアス・グレモリーの問いかけに皆を見渡す。脳裏に他の皆も浮かべて―――。

そうだな・・・・・あのヒトの力を借りるとしようかな。

 

―――京都―――

 

十六夜咲夜とアカツキと共に京都へ。彼女たちに案内させてもらうと嵐山の奥深い森の中。

 

「こんな場所に指定された場所のなにがあるんだ?」

 

「私たちも詳しくは・・・・・ただ、兵藤家の者しか入れない場所とか」

 

「俺、人型ドラゴンなんですけどねー。未だに俺は兵藤として扱われているのは

不思議でしょうがないんだが」

 

「血肉はそうでじゃなくても、魂は兵藤家だと思うぞ」

 

魂は兵藤家・・・・・だから命の蝋燭が燃えているんだな。

 

「こんな形で京都に来たくなかったな。・・・・・寒いし」

 

嵐山の木々が冬の冷たさに枯れ葉ばかり・・・・・。帰ったら焚火をしたくなった。

それか炬燵でぬくぬくと・・・・・。

 

「二人みたいな存在は兵藤家にいるのか?」

 

「ええ、人それぞれですが私たちみたいな者を侍従や駒として扱っております。

兵藤家の皆さんは優秀な人材を探し出して、

見つけたらその人材を傍に置かせる交渉をし、兵藤家の者の配下として付き従わせるのです」

 

「そんな風習みたいなもんがあったんだな」

 

「ええ」

 

枯れ葉ばかりの山を歩き続けること一時間。寺院が見えてきた。

こんな場所に寺院が・・・・・?

 

「にしても二人って思っていたより悪い奴じゃないんだな」

 

「まあ、私たちは引き取られる前に別々で生きていましたし」

 

「例えば?」

 

二人は一度だけ顔を見合わせて口を開く。

 

「私はヴァンパイアハンターを生業として生きていました。

アカツキは忍びの集落で依頼をこなし生きていました」

 

「おー、ヴァンパイアハンターか。生で見るのは初めてだ。吸血鬼を倒せたのか?」

 

「不死とはいえ、吸血鬼にも弱点があります。そこを突いて狩っていました」

 

寺院の閉った門に触れるアカツキを余所に雑談する俺たち。

門はアカツキの手により開け放たれ、俺たちは潜り、寺院の中へと侵入。

 

 

 

 

「ようやく来たようですねぇ・・・・・?さあ、今度はあなたの番ですよ。

昨日の指示通り、行動して戦ってください」

 

「・・・・・それで、人王となれるのかよ」

 

「ええ、彼を倒せた暁に、私から当主に進言しましょう」

 

「・・・・・行くぞ、名無」

 

 

 

 

白い壁に囲まれた空間に俺たちは侵入。床は道場みたいに木の板で設けられている。

特に変わった物はなく、神聖、聖域とような感じはしない。

この場所に俺を来させて何がしたいんだ?

 

「二人もここに来るのは初めてか?」

 

「はい、そうです」

 

「そうか・・・・・」

 

佇んで目の前を見据えていると―――壁が回転してとある二人が出てきた。

隠し部屋!?ここは忍者の屋敷かよって―――あいつらは・・・・・!?

 

「なんで、お前らがここにいるんだよ・・・・・?」

 

「「・・・・・」」

 

兵藤照と兵藤名無・・・・・。次期人王決定戦を思い出すな。

いや、そんな事を思っている場合じゃないって。どうしてあいつらがこの場にいるんだ。

それが疑問過ぎる―――。

 

「名無、やれ」

 

「・・・・・」

 

照が名無に命令した時。名無の姿は消え―――。

 

「っ!」

 

十六夜咲夜とアカツキの背後から襲う名無の一撃を防いだ。

 

「「え―――?」」

 

「どういう、ことだよ・・・・・お前ら」

 

「―――どうもこうもないんだよ」

 

今度は真正面から照が飛び掛かってきた。狙いは俺じゃなく、

二人に襲いかかっている!?

 

「のこのことお前に負けた使えねぇ駒をこの場で処刑するんだよ!」

 

「「っ!?」」

 

なんだと!?

 

「お前っ!」

 

掴んだまま名無を照に向けて放り投げて当てた。照が名無を無造作にどかして立ち上がる。

 

「お前は知らないがな。ここは罪を犯した兵藤家を処刑する場所なんだよ」

 

「処刑場・・・・・!?」

 

「兵藤家を処罰する者は兵藤家―――そう言う掟としきたりがあるんだよ。兵藤家にはよ!」

 

またしても飛び掛かってくる。

 

「ましてや、使えない兵藤家の侍従、駒も含まれる!

つまりてめぇーら三人は罪人なんだよっ!」

 

ふざけんな!俺が、俺たちが罪人なんて勝手に決め付けるな!

 

「覚悟、しやがれぇっ!」

 

「また返り打ちにしてやるっ!」

 

二対一、守るべき二人が背後にいる。負けるわけにはいかない。

いや、負けちゃならないんだ!

理不尽なルールに俺たちは抗うべきなんだ!それが―――いまだ!

 

―――○●○―――

 

「ぜぇ・・・・・ぜぇ・・・・・」

 

名無に無効化の縄で縛り、照には文字通り張り倒した。

壁に埋まって全身で息する照を睨む。

 

「以前よりかなり強くなっているじゃん。驚いたぞ」

 

「あの時以上、強くなっているお前に言われたくない・・・・・っ」

 

ふふん、それはそうだろう。あれから俺は強くなっているんだからな!

 

「兵藤白良の差し金か?」

 

「―――っ!」

 

「どうやら図星のようだな。あいつはどこにいる?」

 

答えてもらおうかとあいつに近づいた時だった。床一面に光が走ったのだった。

突然の光景に目を丸くしていると、鎖が飛び出してきて全身に巻きついてきた。

 

「こんなもの―――!」

 

だが、ドラゴンの力を持ってしても鎖は千切ることはできなかった。なんでだ!?

 

「わ、私たちまでも・・・・・!?」

 

「そんな、何故ですか・・・・・!?」

 

後ろから悲鳴が聞こえる。尻目で見ると十六夜咲夜とアカツキの身体にも縛られていた。

 

「―――ご苦労さまです」

 

―――っ!?

 

壁から一人の男が現れた顔中、厚化粧でもしているのか、白かった。

 

「白良さまっ!」

 

「お二人もご苦労さまです。形はどうであれ、

彼をこの場に招いたことに深く感謝します。そのお礼としてお二人を解放しましょう」

 

「「なっ!?」」

 

解放・・・・・?でも、二人の様子がおかしいな。

 

「おい、解放ってどういうことだ」

 

「そのままの意味ですよ?ああ、あなたは知りませんよね。

兵藤家が侍従を解放する意味を」

 

白良は薄気味の悪い笑みを浮かべる。

 

「死ですよ」

 

「・・・・・死だと?」

 

「ええ、配下となる者は兵藤家の者ではない。それに仕える者に離反、

または暗殺されては元も子もないので私たち兵藤家は配下となる者の魂に細工をするのです」

 

手を徐に上げた。それに呼応して鎖が俺引きずり込もうとし始める。

十六夜咲夜たちも引きずり込まれていく・・・・・!

 

「仕える者に反逆をした瞬間、魂に施した術式が発動し、

永遠の牢獄に投獄するようになっているのですよね。

そこは―――冥界に近い、地獄と言われている場所に」

 

「なんだと!?」

 

「配下となった者は、死ぬまでその仕える者から施された術式を消すことはできない。

逆に配下にした者を自分が施した術式が消えない限り、

新たな配下を加えることはできない。―――そう言う意味で私は解放するといったのですよ」

 

この野郎・・・・・っ!彼女たちをもう必要ないと殺すことをためらいが無い!

 

「白良さま!どうして、どうして私たちを・・・・・!?」

 

「新しい配下をしたい人が見つけましてね。

あなたたちの代わりにその人を配下に加えようと思ったのです。

だから―――邪魔なんですよ」

 

「そんな・・・・・っ!」

 

「最低だな・・・・・!」

 

彼女たちの心を、傷つけたこいつは―――絶対に許してはならない!

 

「お前、ぜってぇー覚えていろ」

 

「死人に口無しです。さらば、忌み嫌われるであろう魔人」

 

 

 

 

 

「ふふふ、これで疫病神が去りました。晴れて兵藤家は次期人王を決めることができる」

 

「・・・・・こんなことして、あんたに何の利益があるんだ?」

 

「利益などないですよ?」

 

「なに?」

 

「私は兵藤家のために動いているだけです。

間違っても人間ではない者が人王になるとはおこがましい。

その上、我々が魔人の血を流しているという事実と証拠を闇に葬るべきなのです」

 

「―――それが、お前の目的だとはな」

 

「っ!?」

 

「ふふ、ええそうですよ。―――当主」

 

「話は一切無用だ。独断で行動をしたお前を捕縛し、洗いざらい吐いてもらう」

 

「ご自由に、私の目的は全て達成しましたからね。あの魔人を地獄に送れたので」

 

「・・・・・ふん、案外。地獄から生還してくるかもしれんぞ。

なんせ―――あの禁忌を犯したバカ息子と式森家の元当主の子供だからな」

 

 

―――○●○―――

 

 

ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

「熱ッ!臭ッ!?」

 

暴風の熱風とこの世のものとは思えない悪臭が暗い空間に

岩肌だらけの場所にいる俺たちにぶつかる。

 

「ここが・・・・・地獄・・・・・」

 

「・・・・・」

 

彼女たちの顔に絶望の色で塗りかえられていた。俺もこの場所に来るのは初めてだ。

さて・・・・・どうやって地上に戻ろうか。

そう思っていると風に乗ってくる悲鳴を聞こえた。

俺は気になり二人を引き連れてその場所に足を運ぶと―――そこは地獄絵図、

阿鼻叫喚と化となっていた。

 

「ひっ!」

 

「・・・・・っ」

 

「うわぁ・・・・・」

 

俺たちがいる場所は高いところだったようで、眼下の惨状がハッキリと分かる。

人が拷問を受け、苦痛に満ちた表情を浮かべている。地獄に落とされた人たちは何かしらの

罪を犯したものだろう。そんな罪人に苦痛を与えているのは―――鬼や生物。

 

「まさに、現世で犯した罪の度を裁かれているな」

 

「わ、私たちも・・・・・あんな風になるというのか・・・・・?」

 

「俺たちは地獄に送られたわけで・・・・・死んだことになっているのか?」

 

「分かりません・・・・・」

 

だよな・・・・・。こんな感じ、原始龍に呼び寄せられた感じと似ているが・・・・・。

 

『今回は死んでいないぜ?』

 

っ!アジ・ダハーカ―――。

 

『くくく、龍の世界の次は天国、その次は異世界、

そして地獄とかお前は異世界旅行を満喫しているじゃないか?』

 

そう言うお前とお前らもな。それで、地獄から地上に脱出なんて―――。

 

『さぁな。俺や他の奴らも地獄に来るのは生まれて初めてだ。

地獄のことは地獄にいるう奴らに聞いた方が早い。神器(セイクリッド・ギア)もお前の中にあるから

戦いになっても問題ない』

 

戦うことになる要素があるのかな・・・・・。まあそうするよ。

 

「二人とも。俺の傍から離れるなよ」

 

「ど、どうするのだ?」

 

「聞くしかないだろう。戻る方法さ」

 

二人の腰に腕を回して抱き寄せると、背中にドラゴンの翼を生やして宙を飛翔する。

罪人に苦痛を与えている一人の鬼にの傍に降り立った。

 

「すいません、聞きたいことがあるんだけど」

 

「・・・・・?」

 

なんだ?とそんな面持ちでこっちに振り向いた鬼。こうして改めて鬼と対峙すると、

鬼の身長は軽く三メートルは超えている。

ファンタジーなモンスターで言えばオークみたいな体躯だ。

 

「人間・・・・・?お前ら死んじゃいねぇな。

どうやってこの八大地獄の一つ、焦熱地獄にきた?」

 

「俺たちもさっぱり・・・・・八大地獄とは?」

 

「んだよ、んなことすら知らねぇのか今の人間は。

地獄にはな、人間共が犯した罪をそれ相応に対応する八つの地獄が存在しているんだ。

それで、そのそれぞれの地獄に十六の小地獄、

十六小地獄っつう地獄に落ちた亡者の中でもそれぞれ設定された

細かい条件(生前の悪事)に合致した者が苦しみを受ける場所もあるわけだ。

 

「こいつみてえにな」と鬼は熱く熱した鉄板の上にいる罪人を串刺しした。

 

「お前らは罪を犯して死んだわけでもねぇから見逃すが、

あの御方たちに見つからねぇ内にどっか行きやがれ。仕事の邪魔だ」

 

「あの御方たち・・・・・?」

 

疑問を浮かべ、誰のことか訊ねるも、鬼はさっさと行けとばかり背を向ける。

 

「んー、帰り方分からないからな・・・・・地獄といえば閻魔大王ってのが定番だ。

閻魔大王、会いに行くか」

 

「ちょっと待てぇっ!?」

 

いきなり鬼に突っ込まれた。なんだよ?

 

「ば、バカかテメェは!?あ、あの閻魔さまに会いに行くなんて

魂が何百個合っても足りやしねぇよ!」

 

「いる場所、知っているの?」

 

「うぐっ・・・・・!」

 

鬼の顔に脂汗が絶え間なく出てきた。

そうだ、地獄にいるんだから知っていて当然だよな。

 

「ねぇ、鬼さん」

 

「な、なんだよ・・・・・言っておくが、閻魔さまに会いに行かせてほしいと言われてもな」

 

「素直に道案内してくれるか、ドラゴンに食われるの、どっちがいい?」

 

背後に展開する魔方陣から迫力満点のアジ・ダハーカくんが現れた。

俺の背後を見て開いた口と目が塞がらない鬼。

 

「な、なんでここにドラゴンがいるんだよぉっ!?」

 

「何でって、俺自身がドラゴンなんだし」

 

「はぁあああああああああああああああああああああああああああっっっ!?」

 

そろそろ教えてほしいかな?

 

「驚く暇あると思うか?ほら、鬼さん早く決めてくれないと―――」

 

『食っちまうぞぉ~?』

 

大口を開けるアジ・ダハーカ。こいつもノリが良いな。

 

「わ、分かった!分かったから俺を食べないでくれ!」

 

鬼は両腕を挙げながら懇願した。もう涙目だ。

あの鬼が怖がる様子を見るなんて俺たちが初めてに違いない。

 

「・・・・・この人、鬼より怖い」

 

「同感だ・・・・・」

 

 

 

 

「ふむふむ、地獄の知識も得れた。ありがとうな」

 

「いえいえ、滅相もございませんよ旦那!」

 

アジ・ダハーカの背で閻魔が住む閻魔宮に辿り着くまで鬼から地獄の知識を教わっている。

 

「鬼ってお前みたいな姿形をしたやつらだけなのか?」

 

「へ、へいそうですぜ」

 

「・・・・・別に敬語しなくてもいいぞ?食いはしねぇからさ」

 

「と、とんでもございません!お、俺が好きで言っているもんですので

気にしないでください!」

 

こいつ、完全に恐縮しちゃっているよ・・・・・。

 

「んじゃ、別の質問。鬼にも家族がいるのか?」

 

「一応いますが・・・・・鬼の女ってのは強い奴しか認めてくれねぇんですよ」

 

「おー、じゃあお前は強い奴だから認めてくれたんだ。凄いな」

 

「お、恐れ入りやす」

 

そう言えば、お兄ちゃんって呼ばれた鬼がいたな。

 

「なあ、兄妹の鬼っているか?」

 

「存在していますが・・・・・どんな兄妹で?」

 

「うーんと、銀髪の赤い鬼がお兄ちゃんって

呼ばれていたんだけど・・・・・どうして身体を震わすんだよ?」

 

鬼が分身してしまうんじゃないか?って程に身体を震わせた。

 

「だ、旦那・・・・・あんた、と、とんでもねぇ

御方とお会いしていたんですか・・・・・!?」

 

「正確に言うと見掛けたんだけど・・・・・どんな御方なんだ?」

 

「どんなって、そりゃあ最強の鬼っすよ!」

 

・・・・・九尾のお姉ちゃんも言っていたな。鬼は口を震わせながら説明してくれた。

 

「旦那が言う鬼の名前は『覇鬼』。破壊の権化で最強の戦鬼。

二男の名前は『絶鬼』。力の覇鬼ならば、弟の絶鬼は知。最後に妹の『眠鬼』。

その御方は兄二人より潜在力が高いです。

こ、この三人の鬼に俺たちは『地獄の三大鬼』と称しておるんです」

 

「へぇーそうなんだ。四凶の一人に倒されていたんだけどな」

 

「ああ、妖怪大運動会のことでしょうか?そう言えば、噂に聞いたんですがね。

なんでも覇鬼さまを倒した四凶を赤い髪の奴が倒したって・・・・・」

 

「それ、俺だ」

 

肯定と自分で指せば静寂が訪れ、

 

「「・・・・・え?」」

 

「・・・・・・へ?」

 

十六夜咲夜とアカツキ、鬼が呆然とした。

 

『おい』

 

「ん?」

 

アジ・ダハーカに声を掛けられた。歩みも止まっていてどうしたんだ?

 

『さっきの話の鬼があいつか?』

 

そう問われて俺はアジ・ダハーカの頭の上に移動して見下ろす。

眼下に大きな赤い鬼と白い服を身に包むイケメンの青年、水着みたいな物を身に付けている

桃色のツインテールの少女がいた。それを確認して、

鬼に「あいつらか?」と連れて確認させると、首が千切れんばかりに肯定と振った。

 

「か、帰っても・・・・・いいですかね?」

 

「ん、そうだな。お前も仕事があるし、悪かったな。ここまで連れて来ちゃって」

 

「え、閻魔さまがいる場所はずっとこの先におりますんで!」

 

逃げ去るようにアジ・ダハーカから降りて、去ってしまう鬼。

それを見送った後、俺は三兄弟の前に降り立った。

 

「こうして会うのは初めましてかな?」

 

「・・・・・あ、お前は・・・・・」

 

少女の方が口を開いた。どうやら覚えていてくれたようだ。

 

「俺の名前はイッセー・D・スカーレットだ。よろしく、地獄の三大鬼」

 

朗らかに挨拶すると、白い服を身に包んだ鬼が口を開く。

 

「人間・・・・・いや、キミは人間じゃないね?とても異質な力を感じるよ」

 

「俺自身、ドラゴンだ」

 

「ドラゴン・・・・・なるほど、納得のいく力だよ。

兄さんを倒した四凶を倒したのも頷けれる。僕の名前は絶鬼。

さっきの下っ端の鬼から聞いたようだね?」

 

「この地獄の事とお前たち三兄妹のことをな。親切な鬼だよ」

 

もういない鬼に笑みを浮かべる。

 

「この先にいる閻魔さまに会いたいんだけど、お前たちも知っているか?

地上に戻る方法をさ」

 

「地上に?キミたちは死んでここにいるんじゃ?」

 

「落とされたんだよ。生きたまま」

 

「ああ・・・・・そう言うこと。まあ、知っているけどね。地上に出れる扉の場所も」

 

おっ、それはいいことを聞いた。その扉に案内してもらえば閻魔さまに会わずに済むかも。

 

「だけど、タダで教えるほど鬼は甘くないよ」

 

「・・・・・命を寄こせって言われても、渡さないぞ?」

 

「ふふっ。ここにいる人間は罪人だらけだ。そんな人間から魂を食らっても

不味いに決まっている。

僕が要求するのは―――キミの力を貰うことだよ」

 

刹那、絶鬼の手が鬼の手と成り、五指が伸びる刃と化となって俺に迫る。

 

「どういうことだ?」

 

片手を龍化に、巨大化させて絶鬼の五指を纏めて握りしめた。

それでもあいつは表情を一つも変えない。

 

「僕たちは鬼はねより強い霊力を持つ人間を糧に強くなるんだ。

かと言って霊力じゃなくてもいいんだよね。

そう、キミみたいな強大な力を持つ存在でもいいんだよ」

 

ズドッ!

 

握りしめていた手が貫かれ俺に襲いかかる。

 

「チェックメイトだ」

 

「その言葉、そのまま返してやる」

 

俺の龍化の手を破るほどの威力。ならば、久々にこの鎧を纏おう。―――禁手(バランス・ブレイカー)

 

「なにっ?」

 

黒いオーラが俺から迸り、絶鬼の攻撃を消滅させた。

手を貫いていたものも消滅し、俺は『幻想喰龍之鎧(イリュージョン・イーター・スケイルメイル)』を纏った。

 

「こいよ。消えるけどな?」

 

「それがキミの本気か・・・・・」

 

頭から幾つものの角を生やした。絶鬼から妖力を感じる。

あいつも本気を出そうとしているようだ。

 

「じゃあ、僕も本気を―――――!」

 

「いい加減にしてよ、絶鬼お兄ちゃん!」

 

ドゴンッ!

 

「ぐえっ!」

 

「「「『・・・・・』」」」

 

・・・・・え?絶鬼、ふっ飛ばされたぞ。実の妹に。

 

「もう、さっきから話すタイミングを待っていたのに

絶鬼お兄ちゃんのせいで話せないじゃない!」

 

「い、いや眠鬼?だからって僕を殴り飛ばすのはないじゃないかな・・・・・?」

 

「問答無用!あたしはこいつに借りがあるんだから!」

 

借り・・・・・?俺、借りなんて作ったっけ?小首を傾げていると

眠鬼と呼ばれた少女がこっちに近づいてきた。

 

「あんた、イッセー・D・スカーレットって言うんだね?」

 

「ああ、そうだけど」

 

「・・・・・四凶、倒してくれてありがとう。覇鬼お兄ちゃん、

毎回毎回あいつらに負けちゃうから妹として悔しくてしょうがなかったのよ」

 

「ウ、ウガ・・・・・」

 

あ、覇鬼が初めて喋った。というか、ちょっとショックを受けている?

 

「あんたに感謝の言葉を考える前に、あんたに近づくタイミングも

分からなかったから有耶無耶になって、次の運動会で会えるかもしれないと

思っていたけど・・・・・まさか、こんなに早く会えるとは思いもしなかったわ」

 

「ははは・・・・・地獄に落とされるとは思いもしなかったがな」

 

「地上に戻りたいんでしょ?いいわよ。案内する」

 

「本当か?」

 

「ムカつく四凶を倒してくれたお礼よ。べ、別に大意はないんだからね!」

 

顔を薔薇色に染める眠鬼。所謂―――。

 

「ツンデレだね、眠鬼」

 

「ふんっ!」

 

余計なことを言う絶鬼の顔面に肘で殴った・・・・・。

 

「・・・・・」

 

不意に影ができた。その正体は覇鬼が俺に顔を近づけていたからだ。

 

「えーと、なに?」

 

「ウガ、お前、狐の妖力を感じる」

 

「ああ、玉藻のこと?」

 

「ドラゴンに妖怪・・・・・他に魔の力も感じる」

 

そりゃそうだろう。でも、何が言いたい?

 

「その魔、不安定だ。コントロールできていない」

 

そこを突かれるとはな。

 

「そのままこの先、生き続けるとお前自身が危険だ。なんとかしろ」

 

「なんとかって・・・・・どうすればいいんだよ?」

 

「ウガ、地獄で修行すればいい。あいつらも、そうしている」

 

「あいつら・・・・・?」

 

誰のことだ?そもそも、地獄と地上を行き来できるものか?そう思っていると、

眠鬼が教えてくれた。

 

「あんたと同じ魔を持つ者よ。どうやってだか知らないけど、

地獄の門を開いて入ってくるのよ。とても人間じゃないわね」

 

「―――――」

 

魔人、あいつらのことか!

 

「お前には四凶を倒してくれた借りがある。それを返す。その魔だけ使い、俺と戦え」

 

「コントロールできるまで帰らせないってことかよ?」

 

「ふん、それでもいいなら案内するウガ。だが、妹がしょっちゅう言うお前の力を改めて―――」

 

「ミンキーパーンツッ!」

 

太股を大きく広げて、覇鬼の後頭部に尻で打撃した。な、何て攻撃だよ・・・・・。

 

「い、今の忘れなさい!いいわね!?じゃないとぶっ倒すわよ!」

 

「・・・・・」

 

触れる神もとい触れる鬼になんとやら・・・・・。一先ず頷いて「分かった」と言う。

 

「んじゃ、始めるわよ。大体のやり方はこっそり見ていたから分かっているわ。

せいぜい、不安定な力を完全にコントロールできるまで頑張ることね」

 

そう言われて俺はちょっとカチンと来た。

 

「んじゃ、一日でコントロールできるようになったら、

何でも言う事を聞いてもらうからな。逆にできなかったら何でも言う事を聞いてやる」

 

「へぇ、そんなこと言っていいんだ?あたし、結構我欲が強いわよ?」

 

「上等だ。こっちは地獄より、死ぬ寸前の体験を何度もした修行をしていたんだ。

本場の地獄で修業なんて滅多にないことだ。

思う存分に堪能させながらコントロールできるようにする」

 

「言い切ったわね?ふふっ!久し振りに楽しめそうだわ」

 

眠鬼は新しい玩具を手にした子供のように笑みを浮かべた。

 

「お前、笑うと可愛いんだな」

 

「っ――――!?」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode3

「いっくんが地獄に落とされた!?」

 

私、兵藤悠璃は兵藤家現当主、実の父からの連絡に愕然とした。

電話の向こうで語る父は物凄く役立たずだと思った日は今日が初めてだ。

いっくんが協力してもらう人物こそ私と楼羅の父なのだった。

自分が囮となって、黒幕が出たところで父がその場に現れ、

 

黒幕及び協力者を一網打尽にする手筈だった。

なのに、いっくんが地獄に落とされるなんて誰もが予想だにしなかった結果になってしまった。

いっくんは生きたまま地獄に落とされたらしいけど、

いつ地上に出て来られるか把握できない現状。

 

「・・・・・ねえ」

 

『なんだ』

 

「地獄に落としたいっくんを向かいに行ってくれる?じゃないと

『父さん』なんて二度と言わないし口も聞かない」

 

絶句するバカ親を余所に通信を切った。

 

「一誠さま、地獄に・・・・・?」

 

「うん、あのヒトに嵌められて落とされたみたいだよ・・・・・」

 

「もしかしたら、一誠さまはこの事を予想して・・・・・」

 

だとしても、いっくんは私たちを心配させ過ぎだと思う。

 

「帰ったら、泣きついて怒るんだから」

 

視線を変える。私の視界に私の話を聞いていた奴らが険しい表情を浮かべている。

 

「地獄・・・・・」

 

「生前、罪を犯した人間が落ちるという異界ですね」

 

「一誠、本当キミってそういうトラブルに巻き込まれるのがうま過ぎて、

呆れを通り越して感嘆してしまうよ」

 

「だけど、どうやって地獄に行けばいいの?それ以前に、どうやって地獄から戻れるの?」

 

思い思いに呟いている。皆、いっくんを心配しているのが分かる。

 

「―――なんだ、彼、地獄に行っちゃっているの?」

 

っ!?

 

聞き覚えのない声が聞こえた。その声の方へ振り向けば、

 

「や、お邪魔させてもらっているわ」

 

魔人の奴が壁に寄り掛かっていた・・・・・っ!

 

「魔人!何をしに来た?」

 

「また彼に会いに来たけど、何だか彼、色々と苦労しているみたいだわね」

 

呆れ顔で肩を竦めるあいつに私は冷たく言った。

 

「他人事を言いに来ただけなら、帰ってくれる?」

 

「まーまー、彼なら生きて地上に戻ってこれるはずよ」

 

意味深なことを言う・・・・・。あいつ、どうしてそんな確信あるって顔をするの?

 

「どういうこと?」

 

「だって、地獄に私たち魔人はしょっちゅう行っているもの。

もしかしたら、いま地獄にいる私の仲間と鉢合わせして、

一緒に地上へ戻っているかもしれないわ」

 

『っ!?』

 

地獄を行き来できる方法を編み出しているの?だけど、そんな方法は当然知らない。

―――その時、魔人の傍に小型の魔方陣が出現した。あいつはその魔方陣に耳を傾けていると、

目を丸くした。小型の通信式魔方陣の類だろうけど、一体何の話を聞いたんだろう。

 

「それ、本当?・・・・・そう、分かったわ」

 

魔方陣が消え、あいつは息を一つ。

 

「彼、無事に地獄から帰って来たらしいわよ」

 

「ほ、本当に・・・・・?」

 

何故だか面白そうに笑みを浮かべるのだろう。だけど、嘘を言っている風には見えない。

本当のことなのかもしれない。

 

「ふふっ、あの子は面白いわね。落ちた罪人は罰を与えられ苦痛を味わわされる場所を、

無事に出てくるなんて・・・・・ますます気に入っちゃうじゃない」

 

魔人が私にとって嫌な予感を感じさせる発言をした時、床に光が走る。

丸く描かれ、紋様と紋章が浮かびあがり―――一つの魔方陣が完成した。

光る魔方陣からドス黒く、禍々しいオーラが迸る。

 

「そう・・・・・彼は、あの子は完全に覚醒したのね・・・・・っ!」

 

言葉を震わせながらも目が歓喜の色を浮かべている。魔方陣から数人の男女が現れた。

その内の一人を見て、私は言った。

 

「いっくん・・・・・!」

 

―――○●○―――

 

 

地獄から生還した俺は悠璃に抱きつかれた。その後、他の皆に纏わりつかれ、

心配の声を掛けられた。その最中、俺の背後にいる連中はなんだと、聞かされた時に言った。

 

「家族だ。今日からな」

 

『・・・・・は?』

 

案の定、唖然と呆けた顔を浮かべた。

その時、俺の視界になんでここにいるんだ?と思う魔人がいた。

 

「ラクシャ、どうしてここに?」

 

「あなたを会いに来たの。・・・・・いまなら感じるわ。あなたから魔人の力をね」

 

ふっ。コントロールするのも苦労したよ。

 

「ああ、地獄で頑張って身につけたよ。修行の場には最適だった。

地獄に行き来できる方法も知れたし、また行こうかなって思っている」

 

「へぇ、そうなんだ。じゃあ、一緒に修行する?」

 

おどけた風に言うラクシャ。そんな彼女には苦笑を浮かべるだけで他の皆に顔を見回す。

 

「悠璃、兵藤当主からは?」

 

「黒幕を捕まえたって、黒幕と一緒にいた名無とバカも事情聴取している」

 

「あっそ、そいつらに関してはどうでもいいな」

 

どうせ、この町に戻ってくるだろう。後で当主に声を掛けよう。

 

「一誠、魔人の力をコントロールできたってのは本当?」

 

「地獄の環境がそうさせた。・・・・・あそこ、物凄くキツいって。

臭いし熱いし鬼も強いし、なにあれ?」

 

「いや、そう言われても・・・・・鬼?」

 

「ああ、しかも最強の鬼にしごかれたよ。当然だけどガイアとオーフィス、

クロウ・クルワッハよりは強くなかった。―――この力をコントロールできるまではな」

 

自分の意思で魔人化(カオス・ブレイク)となった。背中に紋章状の四対八枚の翼、

真紅の髪は黒く染まり、金色の双眸は黒と変わり、顔中に紋様が浮かびあがり、

腰に尾が生える。両腕は黒い装甲みたいなものに成り―――。

 

「こいつは魔人の力を覚醒したというより、禁手化(バランス・ブレイク)に至った感じだ」

 

「バ、禁手化(バランス・ブレイク)!?一体、なんの神器(セイクリッド・ギア)なの!?」

 

「『強奪』だ」

 

未だに至れなかった神器(セイクリッド・ギア)。あれがようやく俺に応えてくれたわけだ。

 

「『強奪』って・・・・・そう言えば、あなたが禁手(バランス・ブレイカー)していない

神器(セイクリッド・ギア)はそれだけだったわね?」

 

「そうだ。ようやく至ったんだ。魔人の力が、父さんと母さんの力が俺に応えてくれたよ。

あの二人の力は俺の中に宿っている・・・・・」

 

『・・・・・』

 

皆がしんと静かになった。

 

「この力で俺はあのヒトを倒す。絶対にだ」

 

そんな空気の中で黒い手を強く握りしめた。それは決意。必ず成し遂げてみせる―――。

 

「―――気に入ったわ」

 

・・・・・?

 

「はぁ~・・・・・私ダメね。こんなものを見ちゃったら堕ちちゃうわよ」

 

ラクシャが唐突に話しだした。

 

「私の予想を遥かに超えた、魔人と異なる魔人・・・・・、

有り得ない存在・・・・・やばいやばいって、ドストライクって

きっとこんな感じよねきっと」

 

いきなり何を言い出すんだ?って、どうして写真を撮りだす。そして近づいてくる?

 

「ねえ、魔人は子を作る時、同じ魔人とかじゃないとダメなのよ。

他の種族と子を作ることも可能だけど、出産率が極端に低くなる。

その際、魔人同士が結ばれる時にとある事をするのよ」

 

「・・・・・何をだ?」

 

「―――こうするのよ」

 

ずいっと顔を近づけてくるラクシャが俺の唇に自分の唇で押し付け、

舌を入れてきたかと思えば、俺の舌を絡め取り、

ラクシャの口から液体みたいなものが送り込まれる。

 

ドクンッ!

 

「っ!?」

 

「―――ん」

 

足元に魔方陣が現れる。光が俺たちを包みこんだかと思えば、それだけで光は消失した。

それを満足気に見たラクシャは俺から離れ―――嫉妬で狂う皆の攻撃をあっさりと防いだ。

 

「お前、いっくんに何をした!?」

 

「マーキングよ。言葉は悪いけどこの人は私の物、ってね。

それをすれば、マーキングした互いの魂と力が共有し合って―――魔人はさらに強くなるのよ」

 

「なっ!?」

 

何て便利な・・・・・。と言うか共有って・・・・・マジかよ。

 

「ふふっ、凄い・・・・・力がどんどん溢れてくるわ。

今回、誰かとこんなことをするのは初めてだから分からなかったけど、彼とできて良かった」

 

「お前―――!」

 

悠璃が大鎌を手にして飛び掛かる。

 

「ああ、止めた方が良いわよ?私の死は彼の死に繋がるんだから」

 

「っ!?」

 

ラクシャの言葉を聞いた瞬間、鎌の刃先はラクシャの首筋に停まった。

 

「言ったでしょ、魂と力が共有し合うって。そう言うことも含まれているから」

 

「くっ・・・・・」

 

「それと・・・・・相手に対する想いもね」

 

唐突に、恍惚の表情となるラクシャ。熱い吐息を吐き、瞳が潤う。

 

「あなた、彼女たちに対する親愛、愛情が深いわ」

 

「ちょっ、そんなことまで共有されるのか!?」

 

「ふふ。ええ、そうよ?そこの悪魔に対する愛情も大きいわね」

 

リアス・グレモリーに向かって言う。それを聞いたリアス・グレモリーは

「え・・・・・」と、頬を朱に染めた。ぐおおおおおっ!

知られたくなかった事実が知られてしまった!

 

「ほ、本当に・・・・・イッセーが私のことを・・・・・?」

 

「本当よ。口から言わなくても、心はあなたのことを心配していたり、

好意を抱いているわ」

 

「・・・・・っ」

 

暴露したラクシャにリアス・グレモリーは顔を紅潮させた!

 

「頼むからこれ以上俺の心を代弁するな!というか、俺の心を読めれるのか!?」

 

「勿論♪しかも、相手が浮気しているなら一目瞭然よ?

魔人同士が交わすこれは一種の儀式。まあ、魔人同士の結婚みたいなものよ」

 

『結婚っ!?』

 

・・・・・今のが結婚の儀式?あっさり過ぎて実感が湧かないんけど?

 

「因みに、死ぬまで解除不可能だから。それに結婚した魔人は、

他の魔人と性交は絶対にできない。

無理矢理でもね」

 

ラクシャと言う魔人としか成功できないってことか・・・・・。まあ、それは置いといて。

 

「いいのかよ、俺とこんなことして」

 

「咎められるようなことはしていないわ。それに後悔なんてしていない。

私はもともとあなたのことを気に入っていた。そして、完全に魔人の力を覚醒、

コントロールしているからあなたと結ばれることに嬉しく思っているわ」

 

―――愛しているわよイッセーくん。

 

「・・・・・」

 

口に出さず、心から愛されていることが分かった。

それから彼女は手を振って家から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「♪~♪~♪~」

 

「・・・・・やけに上機嫌だな」

 

「あら。分かる?今日、いいことがあったのよ」

 

「お前から感じる巨大な力と関係があるの?」

 

「ええ、私―――イッセーくんと結婚したわ」

 

『・・・・・』

 

―――――な、なんだとぉおおおおおおおおおおおっ!?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode4

兵藤家と式森家が魔人と戦う日が迫った。お爺ちゃんから連絡があり、

魔人に伝えろと言われ、何とも言えない気分であの魔人、ラクシャに初めて連絡した。

少しして、

 

『よーやく、連絡入れてくれたわね♪』

 

何故か嬉しそうに声が弾んでいた。俺にとっては掛けたくなかったけどな。

こんなことを言うために。

 

『それで、おねーさんからなにを聞きたいのかなー?』

 

「いや、伝えたいことがあるんだ」

 

『なに?』

 

一息吐いて伝えた。

 

「兵藤家と式森家がお前たち魔人と戦いたいってさ」

 

『・・・・・』

 

「今日の深夜零時。光陽町の駒王学園の校庭で兵藤家と

式森家がお前たち魔人を待っている。兵藤家現当主の兵藤源治からの伝言だ」

 

それだけ言ってラクシャの言葉を待たず通信を切った。

それまでの時間はかなり時間がある。

 

「・・・・・」

 

元兵藤家の者、魔人の力を覚醒した者・・・・・俺は変な立場で立っているなぁー。

 

 

―――駒王学園―――

 

深夜零時の時間が間もない頃、駒王学園に大勢の人間が集結していた。

兵藤家と式森家の人間だ。

改築した以前の三倍も大きい校庭にいていつものメンバーと魔人の出現を待っている。

 

「凄いな」

 

「うん、こんな光景。一生に一度しか見れないと思う」

 

「懐かしいなぁー。あんときもこんな感じで戦争に介入してきたんだ」

 

和樹と話しているとアザゼルが肯定と割り込んできた。

 

「和樹、お前は戦いに行かなくていいのか?」

 

「うん、見守ることにしたよ。それに、式森家が負けるとは思えないし」

 

「兵藤家も負けるとは思えないさ」

 

互いの家の勝敗は戦いが終わった後でしか分からない。

取り敢えず応援に徹しようと思ったら、

視界に空間が大きく歪み、避け目からゾロゾロと誰かが姿を現した。

見れば、全員の顔に紋様みたいな刺青がある。

 

「―――魔人」

 

フォーベシイが難しい顔で呟いた。

古に冥界から魔人を追い出した全ルシファーと同じ魔王だったフォーベシイは

どんなことを思っているのだろうか。改めて魔人の存在、

生存を目の当たりにして、どんな気持ちを抱いているのだろう。

 

「来たわよ」

 

ラクシャが俺のところにきた。

 

「まさか、兵藤家と式森家が私たち魔人に戦いを挑むなんて耳を疑ったわ。

だけど、これはこれで良かったのかもしれない」

 

「どうしてだ?」

 

「それは、私たちの戦いを見ていれば分かるかも知れないわよ?

もしくは私たちと戦ってみればね」

 

・・・・・・。奥の手でもあるのか。随分と余裕だ。

 

「―――兵藤家および式森家の当主!提案がある!」

 

いきなりラクシャが叫びだした。俺たちは怪訝な面持で彼女の言葉を耳に傾ける。

 

「あなたたちの誘いに乗ったからには、敗者にはそれ相応の罰を受けてもらう必要がある!」

 

罰ゲームと言いたいんだろう。そのまんまだがな。

だけど、どうしてそんな事を言うんだ?

 

「もしも、あなたたち両家が私たち魔人に敗北した暁には―――!」

 

ラクシャの腕が徐に俺の肩に伸びてきた。肩に手が掴まれ、

 

「このイッセー・D・スカーレットこと、兵藤一誠を私たち魔人の勢力に加える!」

 

『・・・・・』

 

・・・・・・・・・・・・はい!?

 

『はぁあああああああああああああああああああああああああっ!?』

 

皆が驚愕した!というか、当然だろう!なんで俺が魔人の勢力に加わることになる!?

 

「おい、お前―――」

 

「神王は黙って。これは、私たち魔人と兵藤家と式森家の問題。

部外者は口出ししないでほしい」

 

「・・・・・っ」

 

ユーストマはラクシャの言葉に額に青筋を浮かべる。

 

「キミ、どうしてそんな提案を―――」

 

「魔王も黙って」

 

魔王すらも一刀両断。じゃあ、俺なら?

 

「何で俺がお前らんところに行かないといけないんだよ」

 

「あなたを野放しにすることはできないからよ。

人間でも悪魔でも、堕天使でも、天使でもないあなたはなに?」

 

「ドラゴン!」

 

ハッキリ言った。俺の身体はドラゴン、ガイアの肉体の一部で再構築され、

オーフィスの無限の力が俺の中に宿っている。もう、ドラゴンそのものだろう。

 

「・・・・・そうね、確かにあなたはドラゴンかもしれないけど、

それでもあなたを私の傍に置きたいの」

 

それだけ言ってラクシャは踵返して魔人たちのところへ足を運んだ。

 

「アザゼル、始めよう」

 

「ああ、数も質もお前と式森んとこの家が勝っている。一見、有利に思えるが油断できねぇな」

 

小型の魔方陣を展開し、操作する。それに呼応して校庭に巨大な魔方陣が出現した。

 

「この戦いは冥界と天界にも伝えてある。

ルシファーたちやヤハウェたちもそれぞれの場所で観戦しているはずだ」

 

校庭に広がる魔方陣の光が両者を包み始め、バトルフィールドである異空間へ転送された。

 

「ルールは至ってシンプル。相手の(キング)を倒した奴が勝者だ」

 

「負傷者の手当ても完備しているから、思う存分暴れることもできるわけさ」

 

校庭の上空に巨大な立体映像が出現し、広大な草原を映している。

遮蔽物は一切なく、戦場にピッタリなフィールドだ。

その場所に兵藤家と式森家、魔人たちが現れ、開始の合図を待った。その時間とは―――。

大小の針が重なって十二の数字を差す瞬間だ。その時が腕時計の針で確認できた。

この場が静寂に包まれ、何も聞こえなくなった。時計の針しか俺の耳に入ってこない。

ジィーと時計を見つめること数十秒・・・・・。

 

―――――カチッ。

 

二つの針が揃って十二の数字を差したその刹那。映像に映る兵藤家と式森家、

魔人たちが一斉に前進し、駈け出した。

 

―――和樹side―――

 

映像を見れば、数も質も有利な兵藤家と式森家が魔人を押していった。

式森家は魔力弾を一切放っていない。父さんが無効化されるって言い聞かせたんだろう。

皆、拳や武器で魔人と戦っている。兵藤家も同じことをしている。

そんな僕と一誠の家の戦い方に対して魔人は武器を持っていない。

兵藤家と式森家の攻撃を避け続けているだけで、攻撃をしようとしない。

何を考えているんだろう・・・・・?

 

そんな光景がしばらく続いた時だった。兵藤家と式森家が二手に分かれて、魔人を挟み打ち。

両家から膨大な気と魔力が可視化するほど具現化し膨れ上がった。

魔人たちはそれに警戒してそれぞれ身体を兵藤家と式森家に向けて防御態勢に構えた直後、

気と魔力の塊が魔人を襲い、呑みこんだ。

 

「やったっ!」

 

「すごい・・・・・」

 

「あれじゃ、魔人だって・・・・・」

 

皆が感嘆、勝利を確信した。一誠やフォーベシイさん、

ユーストマさん、アザゼルさん以外は。

映像に映る相反する力が直撃して起きた爆発の煙がようやく晴れた。

―――目を疑うような衝撃的な光景がそこに映った。

 

「なんだ・・・・・ありゃ・・・・・」

 

アザゼルさんが口から信じられないと漏らす。魔人たち全員、腕に黒い装甲を纏い、

紋章状の黒い翼を背中に生やしている。まるであそこに一誠がいるようだ。

と、魔人たちが動きだした。

魔人の一人から黒い魔力が噴き上がり、次第にそれは人の形へと成していく。

完成すると魔人の動きに合わせて腕が上がり、真っ直ぐ兵藤家に伸ばした。

迫る拳に兵藤家は極太の気のエネルギー砲を放って迎撃するけど、拳に吸収され、

拳がさらに大きくなって―――兵藤家に直撃した。

 

「んな・・・・・!?」

 

「マ、マジかよ!?」

 

今の一撃で兵藤家の殆どがバトルフィールド上から光と共に姿を消した。

残る僕の家は・・・・・。魔人によってかかって攻撃をしていた。

 

『・・・・・』

 

この戦いの行方は火を見るより明らかかもしれない。

それでも、生き残っている兵藤家や必死に抗っている式森家の皆は戦い続けた。

―――父さんと兵藤家当主の人だけとなっても。

だけど、結果は・・・・・敗北。魔人もそれなりに倒されているけど、

殆ど兵藤家と式森家が倒されている。

何て言う強さなんだ・・・・・魔人は・・・・・。

 

―――アザゼルside―――

 

あいつらが倒された。三大勢力戦争をしていた俺たちに介入して、

甚大な被害をお互い出してまでも戦争を止めたあいつらが、たったの一勢力に・・・・・。

 

「アザ坊、こりゃあ・・・・・ちょいっとやばいんじゃねぇか?」

 

「ああ、ちょっとどころじゃないと思うがな」

 

あんなやつらが冥界に侵攻したら・・・・・あっという間に冥界は魔人に

乗っ取られてしまうかもしれねぇ。

魔力、気を吸収してしまうんなら、魔力で攻撃する悪魔にとって天敵に等しい。

いや、俺たち堕天使や天使も同じか。

こんなやつらを前魔王どもが追い出しやがってのかよ・・・・・。

 

「―――さて、罰ゲームをしましょうか」

 

現世に戻ってきた魔人ども、一誠を欲している魔人の女が不敵に言う。

 

『・・・・・っ』

 

イッセーを取り囲む面々。勝手に言って、

勝ったからって勝手に連れていこうとするあいつに敵意が剥き出しだ。

 

「いっくんを、渡さない」

 

「そうです」

 

あいつの(仮)妻どもが言う。だが、有無を言わせないとばかり魔人の女が近づく。

 

「なら、今度はあなたたちが戦ってみる?」

 

魔人の女の身体から黒い魔力が迸る。それに呼応してイッセーを囲むあいつらが

攻撃態勢になる。おいおい・・・・・なんて、禍々しい魔力を放つんだよ。

 

「・・・・・三日間」

 

『っ!?』

 

「ん?」

 

「三日だけなら、俺はそっちにいてもいい。ずっとは無理だ」

 

指を三本を立てて提案するイッセー。

 

「じゃなきゃ、今度は俺がお前らと戦う」

 

瞬時で鎧を装着するあいつは、本気だとヒシヒシと肌で感じる。

さて、魔人の女の反応は・・・・・?

 

「・・・・・しょうがないわね。ここで、あなたに嫌われても困るし、個人的に嫌ね」

 

禍々しい魔力が消えた。

 

「分かったわ。こっちとしても、兵藤家と式森家の実力も把握でき尚且つ、

他の勢力のトップに私たちの力を見せ付けることもできた。

今回はこれで良しとしましょう」

 

「ところで、お前が魔人たちのリーダーなのか?」

 

「新世代の魔人たちならそうね」

 

新世代・・・・・?どういうことだ?

あの魔人の女は後ろにいる魔人たちに視線を向けながら言う。

 

「あそこにいる魔人は全員、新世代の魔人たち。古から存在している魔人のことは、

旧世代の魔人。当時、冥界から追い出された時の魔人たちのこと」

 

その新世代の魔人にやられたってのか・・・・・兵藤家、式森家のやつらは・・・・・。

まるで若手悪魔みたいな感じだ。

 

「それじゃあ、私たちと共に来てもらいましょうか」

 

「しょうがない。お前ら、三日後に会おう」

 

兵藤家と式森家が負けてしまったからな・・・・・。

不安げに俺たちから離れ、魔人たちと言ってしまうあいつらを

イッセーを慕うこいつらが見送る。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode5

魔人たち、ラクシャたちと亜空間の中を歩くことしばらくして、とある建物の中に侵入した。

 

「それじゃ、皆お疲れ様。後日パーティでもしましょう。

私たちの力は強大な勢力の一つに通用したのだからね」

 

他の魔人たちにそう言い、去っていく魔人たちを見送ると。

ラクシャは俺に振り返り、抱きついてきた。

 

「期限付きとはいえ、この家にいる限りあなたは私の夫・・・・・」

 

「実感が湧きませんが?」

 

「なら、実感を感じさせるわ」

 

そう言って顔を近づけてきた―――!

 

「・・・・・」

 

でも、途中で止まった。溜息まで吐いて視線を横に向けた。

 

「盗み見、盗み聞きをするとは無粋なことをするのね」

 

あー、そう言うことか。彼女が向けている視線に辿って俺も見れば、

曲がり角のところで半分だけ顔を出している数人の男女がいた。

 

「ははは。いやー、あなたが結婚した殿方はどんな人なのか気になってね」

 

「・・・・・」

 

「この人が兵藤と式森の間に生まれ、魔人の力を宿しているドラゴン・・・・・。

波乱万丈な人生を送ったヒトですか・・・・・」

 

「お前から感じる力の源はそいつのようだな」

 

「残念、女の子だったらフタ―――」

 

「はい、破廉恥な発言は禁止だよ」

 

なんだか、個性的なキャラもいるな・・・・・。ラクシャに誰だ?と視線で訊ねると、

 

「私を含め、若手の魔人たちよ。実力は申し分ないわ」

 

ほほう、この六人は強いのか・・・・・。

 

「ねね、キミ」

 

「ん?」

 

顔に刺青のような紋様がある茶髪にポニーテールの身長が俺より

高い女に声を掛けられた。

 

「もしよかったら今夜、私の部屋に―――」

 

「あら、ミリア。私の夫に手を出そうなんていい度胸ね?」

 

ラクシャから途轍もないプレッシャーを感じるよ・・・・・。

 

「人聞きの悪いことを言わないでよ。

ちょっと、あなたの夫の身体を調べたいだけなんだから♪」

 

「そう言って他の子の男を部屋に連れ込んで、腹上死させたのはどこの誰かしら?」

 

「・・・・・」

 

それを聞いた瞬間にミリアと言う女から距離を取ってラクシャの背後に隠れた。

 

「あー!それこそ人聞きが悪いよ!ただの暇つぶしをしていただけなんだから!

他の子の男の子の方が私より早くダウンしちゃうだけなんだからね!」

 

「煩いわよビッチ。他の女の男はどうでもいいけど、私の夫には手を出させないわよ」

 

「ぶー、その子の力に興味があるのになー」

 

それでも諦めていない目が俺に向けてくる。

 

「なあ、他の女に、男に手を出せないシステムじゃないのか?」

 

「・・・・・それを構築したのはこの子なのよ。

だから書き換えることだって朝飯前ってこと」

 

なんですと?この女がそんなことをしていたのか・・・・・。

 

「んで、お前は魔人の力を覚醒したんだってな?どれ、俺たちに見せてくんねぇか?」

 

「そのミリアってビッチ女を掴んでくれるなら」

 

「ひどっ!初対面に対して警戒心が半端ない!?

もう、これもラクシャのせいだよ!私の第一印象がビッチ女じゃんかぁっ!」

 

「「「「「「自業自得」」」」」」

 

「皆に揃って言われたぁっ!」と嘆くミリア。

そんな魔人たちに魔人化(カオス・ブレイク)の状態になって見せた。

すると、若手の魔人たちが俺を囲み出して凝視してくる。

 

「ほう・・・・・八枚の翼なんて初めて見たな」

 

「尻尾も生えていますね。ドラゴンだからでしょうか?」

 

「とても貴重な素材―――いえ、存在ですね」

 

おい、いま研究素材として言おうとしたな?

 

「失礼」

 

そう言って眼鏡を掛けた青年が拳を突きだした。

その手を片手で防いだ瞬間、青年の目が丸くなった。

 

「くっ・・・・・!?」

 

膝を屈しだした。慌てて手を放すと様子を窺った。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「ええ、少々驚いただけなので。・・・・・掴まれただけで魔力が

ごっそりと奪われてしまいましたよ」

 

「マジか?」

 

『強奪』の禁手(バランス・ブレイカー)状態だからな。

どうやら能力はこの手に触れた対象の力を、能力をコピーしないで奪い続けるようだな。

 

「私たちが対象の魔力と気を吸収する形で無力化にしますが、

彼も吸収だけじゃなく、根こそぎ奪うようですね」

 

「じゃあ、私ならどうかな?」

 

ラクシャが徐に俺の手を握った。・・・・・だが、彼女には変化がない?

 

「ふーん、魂と力を共有しているからかな?奪われないわ」

 

「マジで?んじゃ、お前しかそいつに触れることができないってことかよ。おっかねぇな」

 

「ふふっ。それはそれで嬉しいわ♪」

 

腕を絡めで抱きかかえるように抱きつくラクシャ。

 

「ふふん、ミリア?おいそれと彼に触れることはできなくなったわね?」

 

「それは魔人の状態だけだよ。普通の状態だったらべったりとくっついてやるんだから」

 

「イッセー。その状態で三日間保っていなさい」

 

「「あんたは鬼かっ!?」」

 

ミリアと一緒に突っ込む。俺は何かの魔除けか!?その後、六人の若手魔人と

別れてラクシャについていく。

幾つの扉を無視し、通り過ぎて行く最中に俺は問うた。

 

「この建物って家なのか?」

 

「そうよ?言ったでしょ、人間の時はシオリって名前で通っているって」

 

「学校にも行っていると言っていたな。人間に紛れこんで生きているのは分かったけどさ、

他の魔人たちはいつもどうしているんだ?」

 

「んー、一緒に学校行っていたり、修業したり、のんびりと暮しているわ」

 

おい、想像していたのと全然違うぞ。てっきり切磋琢磨、

毎日修行を励んでいるのかと思った。や、修行をしているようだけどさ。

 

「この建物がある場所って人間界・・・・・だよな?」

 

「当然じゃない」

 

だよな・・・・・少し安心した。また異界かと思ったぞ・・・・・。

 

「ここが私の部屋よ」

 

ラクシャが扉を開けて中に入ると、女の子らしい部屋が俺の視界に飛び込む。

ぬいぐるみが点々と置かれていたり、化粧台、

清楚なカーテン、シンプルな椅子とテーブル、本棚に置かれている数々の本・・・・・。

写真立てもある。ベッドは大きくお嬢様が好みの天蓋付きだ。

 

「風呂は?」

 

「共同よ?男用と女用の風呂は設けているの」

 

「って、あいつらもこの建物に住んでいるのか?」

 

そう訊くと、ラクシャは小さく笑んだ。

 

「家族だもの。当然じゃない」

 

―――○●○―――

 

翌日―――。ラクシャに抱き枕された状態で起きた。

その後、ラクシャも起き上がって羞恥心が無いのか俺の目の前で着替えをした。

 

「襲ってもいいわよ?」

 

「扉の向こうにあいつらがいるから」

 

「・・・・・」

 

「よいしょっ」と彼女が徐に椅子を掴んで―――扉に向かって放り投げたのだった!?

扉は頑丈なのか椅子が砕け散った。だが、その衝撃は向こうの廊下まで届いたのか、

廊下にいるあいつらは慌てて気が遠ざかっていくのが分かった。

 

「まったく、本当にいたのね」

 

「なんだ、気付いていたのか?」

 

「見くびらないで、これでも私は魔人のトップを名乗っていないわ。

相手の気とか魔力を探知できるんだから」

 

指をパチンとラクシャが弾く。壊れた椅子が宙に浮き、

光に包まれながら復元していく・・・・・。

 

「魔人の力か?」

 

「ふふっ、魔人はそんな万能じゃないわよ?」

 

「・・・・・まさか、神器(セイクリッド・ギア)か?」

 

有り得ないと思いながらも、そう呟いた。彼女の口から出た言葉は―――。

 

神器(セイクリッド・ギア)―――『奇跡の創造(ミラクル・クリエイション・メーカー)』。私が所持している神器(セイクリッド・ギア)

 

魔人が、神器(セイクリッド・ギア)を宿している・・・・・?どういうことだ?

 

「どうして魔人が神器(セイクリッド・ギア)を宿しているか・・・・・不思議みたいね?」

 

「ああ・・・・・」

 

「それは私たち若手が魔人と人間のハーフだからよ」

 

それを聞いて納得した。ラクシャは扉を開け放って出て俺もついて行く。

ラクシャが向かったのは数多くのテーブルと椅子がある空間。

 

「ここは食堂よ」

 

「作ってくれる料理人がいるんだ?」

 

「とある人たちが協力してくれてね」

 

こいつらの正体を知っている上で協力しているのか?一体どんな人たちなんだろう。

 

「時間はまだあるから適当な場所に座りましょ?」

 

そう言ってラクシャは俺の手を掴んで壁際にまで連れて行かれる。

 

「ところで新世代のお前らがいるなら、旧世代の魔人たちはどこにいるんだ?」

 

「―――殆ど死んだわ」

 

ラクシャがあっさりと言った。

 

「冥界から追い出された当時の魔人たちは本当に弱かったらしいの。

悪魔と同じ寿命が永遠に近くても、身体の構造は人間と変わりない。

自然災害、疫病といったもので命を落とした。今現在古くから生き残っている

旧世代の魔人は片手で数えるぐらいしかいない。

ある意味、私たちを束ねるトップメンバーね」

 

「永い間生き抜いた中でお前たち若手魔人が生まれたってことか」

 

「今の今までいろんな人間を洗脳しては子を孕ませてきたらしいわよ。

だから、私の両親は誰なのかさっぱりわからない。まあ、別に知ろうなんて思いもしないわ。

私には家族がいるもの。同じ血を流す家族がね」

 

その言葉は偽りがなかった。

なぜなら、ラクシャは綺麗な笑顔を浮かべたからだ。それからしばらくして、

この場に続々と少年少女たちが和気あいあいと雑談しながら入ってくる。

 

「適当に貰ってくるわ。待っていてね?」

 

「次は、ラクシャの手料理が食べてみたいな」

 

「・・・・・そうね、夫婦だもの。それぐらいは当然よね」

 

なんか顎に手をやって呟きながら離れて行くラクシャであった。

目の前に空いた椅子が虚しく感じさせる。

 

「・・・・・残り二日か」

 

あいつら、どうしているんだろうか。というかここ最近・・・・・色んな場所に行って

皆と離れることが多い気が・・・・・。うーん、一度どこかへ皆と行くとしようかな。

 

「―――あ、発見した☆」

 

こ、この声は・・・・・!?声がした方へ向いた瞬間―――。

俺の唇に柔らかいものが押し付けられた。

 

「んー☆」

 

「むぅっ!?」

 

がっしりと頭を抱えられ、視界に映る茶髪と目を瞑る昨日知り合った女の顔・・・・・。

 

「(ミ、ミリアァァアアアアアアアアアアアアアっ!?)」

 

口の中でする水音、口の中で蹂躙してくる熱が帯びた遺物、

俺から気と魔力が奪われ続ける感覚、

そして―――!

 

「人の夫に手を出すんじゃないわよぉっ!!!!!」

 

ラクシャの怒声!ミリアが俺から離れるとようやく

俺は解放された時、ラクシャが俺を庇うように現れた。

 

「よくも私の夫を・・・・・!」

 

「私は諦めたわけじゃないよ?それに・・・・・」

 

ミリアが俺を見つめてくる。

 

「結構・・・・・いいわ。ちょっと力を吸ったけど、

ここまで力が上がるなんて予想外もいいところ」

 

確かに、彼女から感じる力は昨日より数段パワーアップしている。

俺自身がドラゴンで、真龍と龍神の力を宿しているからだろう。

 

「ずるいわ。そんな極上な子を一人占めして強くなるなんて。

ねえ、ラクシャ。私にもその子ちょうだい?」

 

「渡さないわよ!いくらあなたがあのシステムを構築した張本人だろうとも、

この子は絶対にあなたの餌食なんかさせない・・・・・!」

 

「餌食なんて失礼じゃない?ちょっとその子に気持ちのいいことを

教えてあげようかと思っているのよ?ふふっ、さっきの反応からしてその子はまだ―――」

 

「あー、俺は経験しているんで問題ないぞ」

 

「あら、意外と・・・・・プレイボーイ?」

 

愛おしい女性が傍にいるからな。当然だろう?

 

「因みにラクシャはまだ処女だから♪」

 

「なっ・・・・・!」

 

顔を真っ赤にするラクシャ。あっ、そうなんだ?

いや、別にどうとも思っていなかったんだけど・・・・・ラクシャから感じる

怒りのオーラを察して・・・・・そろそろ止めた方が良いか?

 

「ミリア・・・・・ちょっとここじゃなんだし、表に出ないかしら?」

 

「その子と一緒なら♪」

 

「おい、ラクシャ」

 

「イッセー、ちょっと―――」

 

ダキッ、←俺がラクシャを抱き締める。ナデナデ、←抱きしめながら頭を撫でる。

「怒ったラクシャを見たくない、落ち着いて?」←耳元で囁く俺。結果―――。

 

「・・・・・」

 

別の意味で顔を赤くするラクシャはコクリと小さく頷いてくれた。

怒気のオーラも無くなって彼女は席に座ったのを見てミリアにも声を掛ける。

 

「ほら、ミリアも自分の席で食事をしてきなよ」

 

「う、うん・・・・・分かった」

 

ミリアは意欲がなくなったのか、あっさりと素直に聞いてくれて俺たちから離れた。

 

『(すごい!これが愛の力だというのかっ!?)』

 

この場にいた魔人たちが何を考えているのか分からないけど、

俺たちをいつまでも見ていた。

 

―――○●○―――

 

食事を終えると、俺はラクシャの部屋に戻った。これから彼女が学校に行くそうだ。

 

「そう言えば、ラクシャって何年生だ?」

 

「三年生よ?」

 

どこかで見覚えがある白い制服を身に包む。

 

「俺より年上か」

 

「ふふっ、そうなるわね」

 

どこかで見覚えがある白い制服を身に包んだ彼女が笑む。

 

「ところで、その制服を発注している学校はどこだ?」

 

俺は問わずにはいられずに、彼女に訊いたのだった。彼女は笑みを浮かべ、言った。

 

「川神学園よ?あなたたち駒王学園が一時期、川神学園に通ったあの学校」

 

―――川神学園―――

 

「って、どうして俺までここに来てしまったんだ!?」

 

「あら、愚問じゃない。ミリアが私がいない間にあなたを襲う可能性が深海のように深く、

山のように高い可能性があるもの」

 

「それ、百%って言いたいのか?つぅーか、他の魔人たちは?」

 

「皆、一緒だったり別の学校に通っているわ。一種のスパイ活動をしてね」

 

ガッチリと俺の腕を絡めてくる腕。

幻術で姿を隠しているからって俺もこの学校に行かないとダメなのかよ。

 

「川神鉄心はお前の正体に気付いているのか?」

 

「気付いていないと思うわよ?いまの私は人間のシオリ。

だから魔人としての力を自分の意思で封じているから、相手からは気しか感じないわ」

 

堂々と校舎の中を歩く。

知り合いとは出くわさずに―――三年S組の教室に足を運んだのだった。

 

「退屈な思いをしちゃうだろうけど、我慢してね?」

 

声を殺して言うラクシャ。俺、彼女の傍で佇まないとダメのようだ・・・・・。

 

―――昼休み―――

 

午前の授業が終わるや否や、ラクシャは布に包まれている二つの弁当を持って俺を屋上に連れ込んだ。

 

「ごめんね、つまらなかったでしょう?」

 

「そうでもなかった。ずっと学校に行っていなかったし、学んでいないことがある。

俺も勉強になったよ」

 

「そう言ってもらえると嬉しいわ」

 

はにかむ笑顔を浮かべるラクシャ―――いや、シオリ。

 

―――午後―――ラクシャside

 

無事に学校生活は終えた。これで何事もなく帰れるかと思ったら―――。

 

「「・・・・・」」

 

廊下に出たところで川神百代が待ち構えていた。

 

「川神さん、どうしたの?何か用?」

 

「ああ、用といえば用だな。

―――どうしてお前は私が知っている男の気を感じさせてくれるんだ?」

 

「誰のことかしら?あなたの知っている男と言うのは?私には知らないわ」

 

「・・・・・兵藤一誠、名前ぐらい聞いたことがあるだろう」

 

やっぱり、感じちゃうか。完全に隠しきれていないようね。

 

「ええ、聞いたことがあるわね。元次期人王でしょ?

詳細は分からないけど死んじゃったってね」

 

「・・・・・」

 

「せっかく神滅具(ロンギヌス)だらけのチームで優勝したっていうのに、

死んじゃったら結局は意味なんてないじゃない。彼は弱かったから死んだ―――」

 

言い切ろうとした瞬間だった。彼女から怒気を感じる。

 

「あいつは弱くない」

 

「でも、死んだんでしょ?」

 

「・・・・・っ」

 

「この世は弱肉強食。弱い者は淘汰される・・・・・そう私は思って今を生きているわ。

言い方は悪いでしょうけど、彼は弱かったから死んだ。死んだのは彼が弱かったから。

原因はそれだと私は思っているの」

 

ドンッ!

 

「っ・・・・・」

 

瞬時で両腕をクロスしてガードしていなかったら、かなりキツイ一撃をもらっていたわね・・・・・。

拳を突き出して私に攻撃をした川神百代を見据える。

 

「あいつのことを何も知らないくせにそれ以上言うな」

 

「随分と肩に持つのね。あなた、彼のなんなの?恋人?」

 

「―――――」

 

私の問いに、川神百代は口を噤んだ。

ふふっ、友達以上恋人未満・・・・・って、ところかしら?

 

「まあ、顔見知りでもない彼の気を感じてしまうのは知らないわ。

直接会ったことすらないものね」

 

悠然とした態度で彼女の横を通り過ぎる。

相手と魂と力を共有している魔人は相手の力を振るうことができる。

全てってわけではないけれど、それでも強大な力なのは変わりないこと。

 

「(さてと、彼女が来ることを察した彼のもとに行こうかな)」

 

それから二人きりで・・・・・うふふ♪

 

―――○●○―――

 

魔人たちが住む建物に戻った。ここはどうやら神奈川県のようだ。

どうしてこんな場所で魔人たちが住みついたのは定かではない。

 

「・・・・・良い風呂だな・・・・・」

 

巨大な湯船に入っている俺。川神学園から帰って一時間後、

この建物の男風呂に入ってのんびりとしている。

 

「おっ、新入りがいるじゃん」

 

「ん?」

 

この場に現れる魔人たち。昨日の奴らじゃないな。

 

「お前が兵藤と式森の間に生まれた魔人だよな?俺はタケルだ、よろしく!」

 

「イッセー・D・スカーレットだ」

 

黒髪に黒い瞳の少年が朗らかに挨拶をしてきた。

 

「んで、こいつはモウリでこいつはレオーネだ」

 

翠の髪に頬に一筋の傷跡がある瞳が青い男と目まで垂れている金髪の長身痩躯の男。

 

「当然だけど、お前らも魔人だよな?」

 

「じゃなきゃ、姐御とここにはいないって」

 

「姐御?」

 

「ラクシャさんのことだよ」

 

モウリが補足する。ああ、そういうことか。

 

「慕っているんだな」

 

「当たり前だ、彼女は俺たちのリーダ。敬うのは当然のことだ」

 

レオーネが髪の隙間から覗く赤い瞳を俺に向けてくる。

 

「いつも姐御からお前の話は聞くよ。一日一回は。これで毎日話を聞かなくて済みそうだぜ」

 

「ははは・・・・・そうなんだ」

 

「まあ?姐御に相応しい奴で安心した。じゃなきゃ―――」

 

タケルは笑みを浮かべながら言った。

 

「俺が闇討ちしていたぜ♪」

 

「・・・・・」

 

こいつ、本気だ!笑みを浮かべている顔と裏腹に、

あいつの背から異様なオーラを感じるんだもん!

 

「お前らも、誰かと結婚の儀式をしたのか?」

 

「ああ、あれ?別に女とじゃなくてもいいんだぜ?

あれは俺たち魔人がさらに力を上げるため、強くなるための力の向上の儀式みたいなもんだ。

女どもはそう認識しているけどな。それに相性もある」

 

「相性?」

 

「お前は知らないだろうが、魔人にも力の相性がある。

間違って不適合なやつと儀式をすれば拒絶反応を起こし、しばらく体中に激痛が起きる」

 

「相性が良かったら問題ないだけで済む」

 

なるほど、俺は元々彼女とは相性が良かった方か。

 

「ん?女とじゃなくてと言うのは・・・・・男同士でもいいってことなんだよな?」

 

「そうだが?」

 

「それって男同士だとそうやって儀式をするんだ?」

 

「「「・・・・・」」」

 

俺の質問に三人は沈黙した。モウリが口を開く。

 

「聞きたい?」

 

「・・・・・いや、なんだか温かい湯に浸かっているにも拘らず

寒気がしてきたからいいや」

 

「うん、賢明な判断だと思う。因みに―――」

 

タケルはモウリとレオーネに指していった。

 

「こいつら、儀式をした魔人たちだから。男同士で」

 

「・・・・・」

 

それ、どう答えろっていうんだよ・・・・・!?

 

「にしても、兵藤家と式森家って意外と弱かったね」

 

「いや、俺たちの能力が負かしたんだろう?俺たち自身が勝ったわけじゃないって」

 

「だが、勝ちは勝ちだ。次は―――悪魔どもだ」

 

こいつらも、冥界に帰りたがっているのか・・・・・。

俺、何とかできそうなんだけど納得してくれるかどうかだな・・・・・。

 

「お前ら、冥界に帰りたいのか?」

 

「帰りたいというか、奪還?それが僕たち若手魔人の宿命なんだって。

小さい頃から教えられたよ。それが当たり前、当然だって」

 

「古の魔人たちにしてきたことは許し難いと俺も思っているぜ。

今と昔は違うだろうが、忘れ去られている共に冥界にいた者を

思い出させるためには丁度良いんじゃね?」

 

「仮に冥界を奪還できたらお前らはどうするんだ?」

 

「冥界で生きていく」

 

幼少から冥界を奪還、悪魔を滅ぼすことが当然だと教育、洗脳が施されているな。

旧世代の魔人たち・・・・・あくどい事をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼を・・・・・会わせろと?」

 

『お前の報告を受けた一件から我々は考えた結果だ。我が一族から抜けた

魔人の末裔は我らが同胞。ならばその末裔の子も我ら魔人の同胞と変わりがなかろうて』

 

『真龍と無限の力を宿す魔人は我らの希望だ。是非ともこの目で見たいと思っておる』

 

『故に、若手最強のお前に命令をしている。彼の者を明日、我らのもとへ連れてくるのだ』

 

『よいな?これは決定事項だ』

 

『待っているぞ』

 

「・・・・・分かりました」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode6

―――Heros.―――

 

「おーい、曹操」

 

「どうした?」

 

「兵藤一誠と同じ気を感じる奴がいたってあいつらが言っていたよ」

 

「誰からだ?」

 

「上級生のシオリっていう女だ。どう思う?」

 

「似ているならばともかく、同じ気を感じることはまずあり得ない話だ。

だが、感じたって言うんだろう?」

 

「あいつは嘘を吐くやつじゃないって」

 

「・・・・・分かった。そのシオリと言う者と接触してみよう」

 

―――○●○―――

 

今日もまた、川神学園のシオリのクラスで共に授業を学んでいる(透明中の)俺であった。

 

『今日、あなたを連れていきたい場所があるの。お願い、一緒についてきて』

 

彼女から言われた言葉を聞いてから妙な胸騒ぎが覚える。シオリ自身もどこか可笑しかった。

だけども、俺は彼女のことを全部知っているわけじゃない。

だからここは彼女を信用して一緒に行こうと思っている。

 

「・・・・・」

 

授業を真摯に受けているシオリ。瞳は真っ直ぐ黒板にチョークで文字を描きながら

言葉を発し続けている教師に向けて耳も傾けている。

こうしてみると、彼女が魔人とは誰も気付くことは不可能に近いだろう。

そんな彼女に頭を撫でたいと駆られ、腕を伸ばしシオリの髪を梳かすように頭を撫でたら、

目を細め、口元を緩ました。すると、心が急に暖かくなる。

彼女の心から伝わっている証拠なのだろう。

 

―――誰も見えていないからって私以外の子の胸とかお尻とか触っちゃダメよ?

 

―――良い雰囲気が台無しだぁっ!?

 

頭の中からシオリの言葉が伝わった。たくっ、俺がそんな事をすると思うのかよ・・・・・?

 

ヌルッ・・・・・。

 

その時、あの生温かい感触を感じた。

下に視線を落とせば―――霧がシオリと俺の足元に発生していた。

―――ここで、あいつらがお出ましかよ・・・・・!?

 

「・・・・・」

 

シオリは俺に視線を配る。この事態でも冷静でいる彼女は

俺の手を握って霧に包まれる俺と共にどこかへと転移されたのだった。

 

 

 

 

転移された場所は、川神学園をベースにした異空間だった。

ここ、俺にとっては意味のある場所だな。

足元に広がる霧は向こうまでも漂っている。

 

「イッセー、この霧ってなんなの?」

 

「知っているかどうか分からないけど、禍の団(カオス・ブリゲード)の一派、英雄派の仕業だ」

 

「ああ・・・・・英雄と神滅具(ロンギヌス)神器(セイクリッド・ギア)の集団ね?

話だけなら聞いたことがあるわ」

 

知っていたのか。まあ、世間に知れ渡っているし当然か。さて、奴さんも現れた。

大勢の奴らを引き連れてな。漢服を身に包み、

槍の柄を肩でトントンと叩きながら―――現れた曹操たち一行。

 

「初めまして、シオリ殿」

 

「ごきげんよう、英雄派の首魁の曹操・・・・・だったわね?」

 

「ええ、合っていますよ。さて、あなたに問いたいことがある」

 

「答えれる範囲ならどうぞ」

 

悠然と答えるシオリ。曹操は槍をシオリに突き付ける。

 

「聞けば、あなたから兵藤一誠の気を感じると気の扱いが長けた同士から聞いたんでね。

是非ともその理由を聞きたいので授業中のところ失礼の承知の上であなたをここに招いた。

素直に答えてくれるなら、無傷で下界に戻すことも約束しよう」

 

「またその話?川神百代からもそんな事を言われたけど私にとって見知らぬことよ」

 

「シラを切ると?」

 

「事実よ。それにテロリストの言うことは信じられないわね。

この場で私を拘束して、調べられることもできそうだし、

なによりそんな大勢の人間を引き連れてきたもの。

―――どっちにしろ、私を捕まえる気なのね?」

 

シオリの発言に曹操は溜息を吐いた。

 

「やれやれ、最終的には確かにそうしようと思っていたが・・・・・まあ、

結果は予想の範囲だ。気になる素材だから俺たちと一緒に来てもらう」

 

英雄派の構成員たちが一斉に動き出す。幹部クラスは動かない・・・・・。

シオリ、どうする?

様子を窺うと・・・・・彼女の顔に紋様が走るように浮かび上がった。

 

「正当防衛。成り立ってしまったわね」

 

刹那、彼女の姿が見えなくなり、

構成員たちが歯牙にも掛けれずにシオリの格闘術で倒された。

 

「まったく、こっちから手を出していけないし

正体も明かしちゃいけないっていうのに・・・・・やってくれたわね」

 

「ほう・・・・・もしや魔人かな?これは良い意味で誤算だった」

 

「最近、変な奴らが私たちを探しているってこともしっていたけど、あなたたちなのね」

 

「その通りだ。俺たち英雄派は魔人に協力しようと思っていてね。

どうかな、一緒に冥界を侵略しないか?」

 

なんで英雄派が魔人に協力をしようとする?英雄派の考えることはよく分からないもんだ。

 

「理由は分からないわね。魔人に手を貸すなんて英雄派の名が地に堕ちるんじゃない?

―――答えはNOよ。私たちは私たちの思いで冥界に行くんだから。その方法も既に会得済み」

 

「敵の敵は味方・・・・・だと思ったがね。

致し方が無い、捕獲するか。魔人の力を調査、研究したかったところだったしね」

 

「じゃあ、俺が行こう」

 

ジークフリート・・・・・。

 

「手足を切っても問題ないよね?」

 

「ああ、生きていれば問題ない」

 

早々に確認したあいつは聖剣と魔剣を両手に持って襲いかかった。シオリは迎撃態勢になるが、

 

ガキンッ!

 

「なに・・・・・?」

 

両腕を気で纏いジークの剣戟を防いだ。

シオリの前で透明中の俺の防御に怪訝に面持ちでいるジーク。

 

「彼女だけじゃないんだよ。この場にいるのは」

 

「なっ・・・・・!?」

 

口内から火炎球を吐きだす。その後、透明化を解いて姿を現した。

 

「よう、久し振りだな英雄派」

 

「驚いた・・・・・まさか一緒にいたとは気付かなかった」

 

「新しい力だ。川神百代ですら俺の存在に気付かないぞ」

 

「・・・・・なるほど、合点した。キミと彼女の気が共有しているんだな?

そう言うことであれば納得できる」

 

あっさりと見破られましたよ。別に隠していることでもないけどさ。

 

「彼女には手を出すなよ?それでも襲い掛かってくるなら―――」

 

魔人化(カオス・ブレイク)と化となって、威嚇する。

 

「俺が纏めて相手になってやる」

 

さて、曹操はどうする?

 

「・・・・・」

 

曹操は一息吐く。

 

「止めておこう。一人とはいえ、ここで甚大な被害を出して

魔人を捕獲する事は俺にとっても好ましくない」

 

あっさりと退くことをした曹操。

 

「兵藤家と式森家を倒したその力を俺たち英雄派も

欲しかったが・・・・・また別の機会にしよう」

 

霧に包まれる曹操たちは最後まで俺たちを見据えた。

その後、俺たちは無事に現世に戻れた。彼女のクラスメートたちは

唖然と俺たちを視線を向けていたのがとても印象的だった。

あっ、姿を曝したままだった。

 

―――○●○―――

 

「イッセー、守ってくれてありがとうね」

 

「当然のことだ。それにあいつらは俺が認めるほど強い。

ラクシャだけじゃ苦戦に強いられる」

 

「魔人は光の攻撃が弱いしね」

 

「そうなのか?」

 

「だからこそ、私たちはこの力を得たのよ。相手の気と魔力を奪う能力をね」

 

学校から去り、ラクシャにとある建物の中へと案内されている。

そして、地下へ続く階段を降りると、とてつもなく威圧感を放つ扉の前に辿り着いた。

ラクシャは扉を開け放って横に移動する。俺から先に入らせるための行動だろう。

その通りに動き、中へ侵入する―――その時、扉が閉められた。

 

「ラクシャ?」

 

「―――きたな」

 

「・・・・・」

 

暗闇の空間から声が聞こえた。その声に呼応して俺を囲むように照明が光りだす。

光が闇を照らし、この場の空間が俺の視界に飛び込んできた。

眼前に階段のように鎮座している置き物があり、

その段の下から三人、二人、一人と六人の初老の者たちが胡坐を掻いて座っていた。

 

「お前が来るのをずっと待っておった」

 

「我ら魔人の希望よ」

 

「ようやく我らの悲願が叶う時が来た」

 

「あの裏切り者が離反した結果がこのような形になろうとは皮肉なものだがな」

 

「その上、裏切り者の顔とよく似ておるわ」

 

「忌々しい限りだな。だが、我らにとっては好都合なことかもしれんな。

別の形で魔人の力を残し、増やし続けたのだからな」

 

何だか好き勝手に言われているけど・・・・・この人たちがフォーベシイたちの

時代からいた魔人たちの生き残りなのか・・・・・。

 

「イッセー・D・スカーレットよ」

 

「なんだ?」

 

「同じ魔人、我らのために悲願を叶えるのは当然のことである。

お前の力は我らを冥界に導くための―――」

 

手で制して古の魔人の言葉を遮る。

 

「悪いけど、俺はこの力で冥界に侵略する気はない。俺は現在の五大魔王と接しているし、

天界の神と堕天使の総督とも交流をしている。お前たちの望んでいることは知っている。

冥界に戻りたいだけなら俺がルシファーたちに頼んでやるよ。それでじゃダメなのか?」

 

「ルシファーの小娘どもか。それが本当なら好都合だ」

 

・・・・・話、乗ってくれたのか?

 

「あのルシファーどもの子娘どもに近づき、殺すことも容易いだろう?」

 

「―――――っ!?」

 

「冥界は悪魔の世界ではない。我々魔人の世界だ。

今度は悪魔が人間界に追いやる番である」

 

こいつら・・・・・もはや交渉の余地すらしないってのか!

 

「そこまで、お前たちを追い出した魔王に恨んでいるのか?前魔王たちじゃないんだぞ」

 

「その血筋である者たちも我らの復讐の対象者だ」

 

「俺が何とか冥界に住まわせるように説得しようとしても、お前らは侵略する気なのか」

 

古の魔人は憮然とした態度で言い放った。

 

「悪魔の、魔王の恩恵で冥界に居座る気はない。―――魔人が冥界に住まう悪魔どもを蹂躙し、

我らの力を見せ付けて恐怖を植え付け、

冥界から追い出したその時こそが、我らの願望なのだよ」

 

「もう過去のことだろう。お前たちがどんな目に遭ったか

骨を齧った程度しか知らないけどな、

今のあいつらにまで巻き込むことはないだろうが。あいつらは()を生きているんだぞ。

自分たちのエゴのためにあいつらを利用して冥界に侵略させるなんてあんまりだ!

可哀想だろうが!」

 

「我らを残して死んでいった同士たちの無念を、

何時しか共に故郷へ帰ろうと想って死んでいった同士を背負う我らの想いを、

高が十数年しか生きていない小童に口出しするでないわ!」

 

「―――うるせぇっ!んなこと分かっているよ!このクソジジイどもが!」

 

「「「「「んなっ!?」」」」」

 

あー、ダメだ。久々にキレたわ。別の意味で。

 

「あーだーこーだ言って、お前らは何もしないのか!こんな暗い場所で引き籠って

ウジ虫のようにウジウジしてよ!ちったぁ外の世界に目を向けろ!

お前らが知らないことが星の数ほどあるわ!今の魔王たちだって、話せば分かる奴らだし、

前魔王の頃からいる魔王フォーベシイだって

お前たちを追いだしたことに悔いていたんだぞ!?お前らがしようとしているのは、

罪もない純粋な子供たちに銃を持たせて戦場に送らせる

非道な人間と同じ、テロリストと同列だ!」

 

「貴様・・・・・っ!」

 

「お前らの話を聞いて良く分かったよ。誰がお前らみたいな奴に手を貸すか!

俺も悪魔と堕天使は好きじゃないけど、殺してやりたいほどじゃない。

お前らの気持ちだって分からなくはないさ。

だけどな、解決の糸口があるっていうのにお前らは滅びの道へと自ら歩いていることを

気付いていない!」

 

踵返してこの場から去ろうとする。もう、あいつらと話すことなんてない。

ラクシャと一緒にあの家に帰ろう。

 

「待て貴様!」

 

「我らを裏切る気か!」

 

「裏切る?俺は魔人の力を宿しているだけであって、俺自身はドラゴンだ。魔人じゃない」

 

「おのれ・・・・・貴様もあの裏切り者と同じ道を歩むというのか・・・・・!」

 

その裏切り者も愛想を尽きたんだろうさ。本当のことは知らないけどさ。

 

「お前らと出会っただけでも良しとするよ。それじゃあな」

 

扉に触れようと腕を伸ばした。―――――だが、身体が何かに縛られたかのように動けなくなった。

 

「愚かな者よ。素直に我らの命令に従っておればよかったものの」

 

「致し方ないな。貴様は我らの有意義な手駒として扱わせてもらおう」

 

刹那―――全身に激痛が走る。

 

「我らとて、何もしてなどいないわ」

 

「魔人を洗脳、支配する力を我ら六人は編み出した」

 

「お前を支配した後は、冥界に侵略しよう」

 

ふざけんな・・・・・っ!そんなこと、俺が跪くわけが・・・・・!?

 

「言っておくが、我らが編み出した能力は対象の心に宿す闇の大きさに比例する。

さてさて、お主の闇はどこまで深いかのぉ・・・・・?」

 

「ち・・・・・く・・・・・しょ・・・・・・っ!」

 

意識が朦朧としてきた・・・・・せめて、皆に知らせないと・・・・・。

―――クロウ、頼む・・・・・!

 

『一誠・・・・・!』

 

最後の力を振り絞って、龍門(ドラゴンゲート)を展開させてクロウ・クルワッハを

現世に召喚した時に意識が途絶えた・・・・・。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode7

―――冥界―――

 

「ヴァーリ、精が出るわね」

 

「一誠の隣に立つに恥じないぐらい強くならないとダメだからね。

イリナも新しい力を得たわけだ。もう一人の幼馴染としては負けていられないんだ」

 

「にゃー、ヴァーリの乙女心が炸裂しているにゃん」

 

「んで、付き合わせられる俺っちたちのことも考えてほしいぐらいだぜぃ?」

 

「でもでも、そのおかげでヴァーリさまは新しい力を手に入れました!」

 

「まあ、まだ出力は不安定ですがね。これからの成長を楽しみましょう」

 

「ふふっ、自慢の孫だわ。その点だけあの愚弟に感謝しないといけないわね」

 

「そう言うあなたは誰かと結ばれ、子を作らないのか?」

 

「周りにい男がいないからね。それに魔王としての仕事が忙しいし

何時の間にか私はこの年齢だわ・・・・・」

 

「そう言ってもまだまだ若い生娘みたいだにゃん。

しかも、千万処女の魔王なんて聞いたことも見たことも―――」

 

「黒歌、あとでお仕置きね」

 

「にゃっ!?」

 

―――ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォンッ!

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

―――アザゼルside―――

 

「なんだと、冥界が襲撃されているだぁ!?」

 

『ええっ!まったくいきなりだわ!魔王都市ルシファードのど真ん中でよ!

いま、住民たちの避難を最優先にしているけど、相手がかなり強くて厄介だわ!』

 

「英雄派か?」

 

『いえ、特徴を挙げれば・・・・・顔に刺青みたいなものがあるわ。

例の魔人たちだと思う』

 

な、なんてこった・・・・・魔人どもが冥界に襲撃し始めたのか!?

イッセーの奴は一体どうなった?あいつは今、魔人たちと一緒にいたはずだ。

 

『待って・・・・・あれは・・・・・。―――――どうして、ここにいるの!?』

 

ルシファーの表情に戸惑いの色が浮かんだ。

 

「どうした、なにがいるんだ?」

 

『・・・・・アジ・ダハーカよ』

 

「はっ!?」

 

『いえ、でも、何か雰囲気が違う・・・・・。・・・・・様子がおかしいわ』

 

いやいや、あいつがなんでまた冥界にいるんだよ!?本当にイッセーの奴はどうしたんだ!

 

『とにかく、ここが襲撃を受けているなら他の魔王領にも襲撃されているはずだわ。

お願い、増援を呼んでちょうだい。・・・・・流石に邪龍を相手にするのは骨が折れるわ』

 

それだけ言って通信式魔方陣が切れた。

 

「ちっくしょう!魔人どもめ!」

 

すぐさま転移式魔方陣で兵藤家に転移だ!

 

―――リーラside―――

 

「イッセーが・・・・・!?」

 

「ああ・・・・・私だけ現世に召喚して伝言を頼まれた。

あいつは古の魔人たちの手によって操られている状況だ。きっと冥界に襲撃しているだろう」

 

クロウ・クルワッハがこの家に現れるなり事の詳細を説明してくれました。

なぜ、あの方は何時もこんな目に遭うのでしょうか・・・・・。

 

「私、グリゼルダさんに伝えてくる!」

 

「僕は神王さまに!和樹さんは魔王さまに伝えてください!」

 

「分かってるよ!」

 

行動が早い御三方です。家から飛び出す三人を見送った直後に魔方陣が出現し、

堕天使の総督アザゼルさまが現れました。

 

「お前ら!って、クロウ・クルワッハ!?お前、どうしてここにいるんだ!」

 

「一誠に伝言を頼まれた。今さっきリーラたちに説明していたところだ」

 

「そうか、んじゃ冥界がいま絶賛襲撃中だってことも知っているんだな?」

 

彼の言葉に冥界出身のリアスさまやソーナさまが絶句した面持ちでおります。

 

「魔王領を襲撃している。魔王領ルシファード以外の魔王領も襲撃されている

可能性はある。俺たちも準備して冥界に行くぞ。久々の実戦だからって畏怖するなよ」

 

「冗談じゃないわよ。こっちは真龍や龍神にしごかれている悪魔なのよ。

今さら実戦が怖いなんて有り得ないわ」

 

「恐れるというものがあれば、愛しい者を再び失うことです。

伝えられるだけ他の悪魔の皆に伝えましょう」

 

リアスさまとソーナさまは顔を見合わせて頷く。お二人とも、気が強くなりましたわね。

 

「サイラオーグは必須ね」

 

「百代先輩も呼びましょう!」

 

「父さん、兵藤当主も一応伝える・・・・・」

 

「一応、ヤハウェに頼んで協力態勢、同盟関係の神話体系にも伝えてもらおうか」

 

一誠さまを中心にした関わりある者たちが一誠さまに集まろうとしている。

誠さま、一香さま。見ておられますか?あなた方の行動と

一誠さまが周りを引き寄せる魅力が・・・・・一つになろうとしています。

 

 

―――Heros.―――

 

 

「曹操!冥界が魔人たちに襲撃されているよ!」

 

「早いな、もうか」

 

「しかも、アジ・ダハーカもいる。もしかしたらだけど・・・・・」

 

「確認はこの目でしよう。―――行くぞ、英雄派。人間の敵を倒す時だ」

 

 

―――devil―――

 

 

「うひゃひゃひゃっ!冥界が襲撃されちゃっているぜ!ユーグリットくんよぉっ!」

 

「そうみたいですね。これを乗じて動きますか?」

 

「いんや、映画館如く観戦しようぜ?高みの見物をさせてもらってさ!」

 

「では、あの実験体のデーターでも採りましょうか。いいですね?」

 

「オーケー!」

 

―――○●○―――

 

―――リアスside―――

 

少し時間がかかったけど、準備は整った。私たちは直接冥界に集団転移した。

普通の冥界行きの方法では時間が掛かる。

本当は色々と手続きをしないといけないのだけれど事が事。

だから―――目の前に広がる地獄絵図とも等しい光景に私はどうしようもない怒りを覚えたのだ。

魔王領ルシファードが見るにも無残に建物が崩壊されている。

 

「奴らは気と魔力を無効化する!極力、武器を使える奴は武器で戦え!

格闘術ができるやつは拳と足で倒せ!」

 

アザゼルが黒い十二枚の両翼を展開して、私たちから離れようとする。

 

「どこに行くんすか!?」

 

「堕天使の領土んとこだ!既に気付いているだろうがバラキエルたちを連れてくる!」

 

そう言って物凄い勢いでいなくなった。

 

「我が指示を下す」

 

グレートレッドが突然言い出す。

 

「至極的簡単だ。一誠を止める奴と魔人どもを倒すやつ。この二手に分かれて行動しろ」

 

彼女も真紅の両翼を生やし、オーフィスの首根っこを掴んだ。

 

「我らは一誠のところへ向かう。クロウ・クルワッハ、行くぞ」

 

「当然だ」

 

最強コンビがイッセーのところへと飛翔した。

 

「リアス、イッセーくんのことは彼女たちに任せよう。

我々は魔人たちを倒すべきだ。それがキミたち若手悪魔の務めだよ」

 

「お兄さま・・・・・」

 

「私もこれから眷属を率いて戻ってくる。それまで頑張ってくれ」

 

足元に魔方陣を展開したお兄さまは眷属がいるグレモリー領に転移していなくなられた。

 

「リアス、私たちも動きましょう」

 

「・・・・・ええ、そうね。皆、冥界を守りましょう!」

 

『当然!』

 

―――和樹side―――

 

何人か組んで共に冥界の町を駆け回る。メンバーは清楚さん(項羽)と龍牙、

カリンちゃん、イリナさん、ゼノヴィアだ。いつものメンバーだけど何時も共にいて

お互いのことが分かるメンバーの方が攻撃も動きやすいし問題ない。

 

「あ―――!」

 

イリナさんが声を上げる。その理由は僕も理解している。

目の前の十字道路に逃げている悪魔の女性がいる。

―――その背後から襲いかかろうとしている魔人がいた。

 

「させるかああああっ!」

 

風の如く、カリンちゃんは物凄い速さで魔人と悪魔の女性の間に割り込んで

風を纏う軍杖を振るって、魔人を吹き飛ばした。

 

「あ、ああ・・・・・」

 

「大丈夫ですか!」

 

「は、はい・・・・・」

 

「もう少しだけここに留まってください。いま、敵を倒します」

 

龍牙が女性に話しかける。今ので倒れたとは思えない。なぜなら―――。

 

「つぅー、いきなりやってくれやがったな・・・・・って、人間か?

どうして冥界にいるんだよ?」

 

僕たちと年頃が変わらないと思う黒髪の少年が怪訝な顔をする。

 

「どうしてこんなことをする!冥界を滅茶苦茶にしてお前たちは何がしたいんだ!」

 

「なにって冥界を取り戻すために決まっているじゃん。

俺たち魔人は元々この世界に住んでいたんだって話だ。中途半端な存在だからって

昔の魔王たちが当時の魔人たちを人間界にまで追い出して、

自分たちは悠々と冥界に住んでいる。そんな悪魔を聞いて許す訳には行かない。

―――俺たち魔人は冥界を手に入れるために、帰るために悪魔どもが

邪魔だから討伐しているわけだ」

 

「身勝手な・・・・・!」

 

「身勝手?んじゃ、昔の魔王たちがしてきたことは何なんだよ?

それこそ身勝手なことじゃないか?」

 

話が平行線・・・・・。とても説得できる雰囲気じゃないし、

なにより彼は何の疑いも持たずに冥界を蹂躙している一人のようだ。

 

「一つ良いかい。キミたちのところにイッセー・D・スカーレットがいるはずだよ。

彼はどこにいる?」

 

「ああ、あいつか?確かルシファーの娘と戦っているはずだぜ。

俺たちを育てた古の魔人、六大魔人と共に」

 

「・・・・・」

 

ここも殆ど破壊尽くしたからか・・・・・。

 

「んで、お前ら人間は俺たちの邪魔をしようって言うのか?」

 

「罪もない悪魔に、無益な殺生をするお前たちを見過ごせないんでね」

 

「はあ・・・・・そうか。人間には好意的に接しているんだけどなぁ。

できれば悪魔以外のやつらとは戦いたくなかったが、仕方ないか」

 

彼の顔に刺青みたいな紋様が浮かびあがり、

両腕に肘まである黒い籠手が魔力によって装着し、背中に紋章状の両翼が生え出す。

 

「なら、潰す」

 

次の瞬間。魔人が僕たちのところへ飛び掛かる―――!

 

―――サイラオーグside―――

 

「ふんっ!」

 

「なんだ・・・・・こいつは・・・・・!?」

 

リアスたちと別れた後、直ぐに魔人と出会い交戦を始めた。

なるほど、確かに気が徐々に吸われていくな。

これは並みの相手では天敵に等しい。

だが、魔力を持たない悪魔である俺にはあまり通用しないものだがな。

 

「こ、この・・・・・悪魔のくせに!どうして俺たちの邪魔をする!

俺たちは冥界に帰りたいだけだ!」

 

「ならば、イッセー・D・スカーレットの言葉に耳を傾けるべきだったな。

あの男は現五大魔王と親しい関係だ。あの男に頼めばお前たちの望みも―――」

 

闘気を纏った拳を、魔人の顎下から突き上げた。

 

「がっ・・・・・!」

 

「叶えられただろう」

 

―――リアスside―――

 

「魔力が・・・・・奪えないだと!?」

 

「私の魔力は滅びの力。奪うこともより全てを消滅する力を秘めているこの魔力は、

誰にも奪えやしないわ!」

 

背中に三対六枚の消滅の翼、肘まで覆う消滅の魔力。

魔力の質を変えて打撃ができるように物質にし、

同様の色を浮かべる魔人へ絶え間なく攻撃をする。

 

「なによりも、この力は守るべき者のために振るう力!

あなたたち魔人なんかにやられたら、グレモリーの名が泣くわ!」

 

「ふざけるな、ふざけるな!せっかく俺たちの故郷に帰れたのにここで死ぬわけには―――!」

 

殺しはしないわ。全てが終わるまでその場にいなさい―――。

滅びの魔力を巨大な手に具現化し、五指を伸ばし、魔人の両腕両足を切断する。

 

「あなたたちは敵に回してはいけない人たちを敵に回した。

それがあなたたち魔人の敗因」

 

―――ソーナside―――

 

「ぐおおおあああああああ!」

 

「流石です、椿姫」

 

「魔力と気が奪われるなら、この方が早いでしょう」

 

椿姫の神器(セイクリッド・ギア)禁手(バランス・ブレイカー)の能力で魔人に幾度も衝撃を与え、

眷属たちとのコンビネーションで一人の魔人を倒した。他にも魔人がいるはず。

 

「鎖で彼を縛り、転送しましょう」

 

―――○●○―――

 

―――ガイアside―――

 

「―――見つけた!」

 

アジ・ダハーカだが、あのドラゴンが好き勝手に暴れている。

そんなやつに戦っているのはルシファーとアルビオンどもだ。

奴の頭部に何者かがいるな・・・・・。

 

「アルビオン、ルシファー!」

 

「っ!ガイア・・・・・!」

 

「待たせたな」

 

「良いタイミングよ。あなたたちがこっちに来てくれたおかげで余裕ができたわ」

 

疲労の色が見える。流石に不死の邪龍と戦うのは面倒だったと見受けれる。

 

「アルビオン。アジ・ダハーカがいるということは他にも邪龍が現世にいるのか?」

 

「いや・・・・・どうやらあいつだけだ。・・・・・あいつが一誠なんだ。

アルビオンがそう言うんだ」

 

「なんだと・・・・・?」

 

龍化になっているのか?だが、どうしてあいつが冥界を襲撃するんだ・・・・・?

悪魔嫌いだからと言って自ら悪魔を、冥界を襲うわけがない。それは我が一番知っている。

 

「何度も話しかけても意思がないのか、答えてくれないんだ」

 

「・・・・・」

 

操られているのか・・・・・。もしもそうだったらしっくりくるな。

 

「ルシファー、他の魔王どもは?」

 

「襲撃している魔人たちと応戦。一人ずつだけど、倒していっているわ。

ベルゼブブはさっさと魔人たちを倒してアスモデウスの援護をしに行っている」

 

「奴は刀剣で戦う悪魔だったな。魔力と気以外の戦い方ならば魔人とて苦戦するか」

 

「そうみたいね。だけど、それでも厄介な魔人が目の前にいるのよ」

 

険しい表情を浮かべ、一誠を見つめるルシファー。

だが、それだけじゃない。一誠の前で宙に浮くあの女の魔人がいるのだ。

 

「彼女、私が認めるほど手強いわ」

 

「ふん、魔王ごときが認めようと我は認めん」

 

「我も」

 

「私もだ」

 

「・・・・・身も蓋もないことを言わないでくれるかしら?」

 

悪魔とドラゴンと例えて何が悪い?

 

「おい、貴様。一誠に何をしたか答えてもらおうか」

 

「・・・・・」

 

魔人の女は無表情で答える。それは我がムカつかせる十分な言い分だった。

 

「支配しているわ」

 

一誠を支配していいのは我だけだ!返してもらうぞ、一誠を!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode8

―――カリンside―――

 

「くっそが・・・・・!」

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・結構強かったですね」

 

「これが魔人・・・・・」

 

魔力の捕縛では無力化されそうだから頑丈な物質の鎖で縛り、囲む。

 

「聞こうか、他に何人の魔人がいるんだい?」

 

「聞いてどうする。この冥界はもう少しで俺たち魔人の世界になるんだ」

 

「キミが死んでも問題ないと?」

 

「ここで死ねるなら本望だ。俺たちの先祖は元々この世界で生きていたんだからな」

 

・・・・・こいつ、死すら恐れていない。ここで死ぬことすら望んでいる。

何て奴だ・・・・・!

 

「そう簡単に殺しはしないよ。キミは僕たちと同じ世代のようだし、死ぬなんてダメだ」

 

「ふん、俺は悪魔を何人も躊躇もなく殺した魔人だぞ。お前らが勝手に決めていいのか」

 

「一誠もきっと僕たちのようにしている」

 

「一誠?・・・・・ああ、姐御の男か」

 

姐御?一体誰のことだ?

 

「そういや、あいつ・・・・・様子がおかしかったな」

 

「どういうこと?」と、清楚が問うた。魔人は隠すまでもないと喋ってくれた。

 

「瞳に生気の色が無いって言うか・・・・・まるで操り人形のように

俺たちと一緒に来たんだ。

ルシファーの娘を殺すって旧世代の魔人と一緒に姐御も向かったんだ」

 

「・・・・・まさかだと思う。同じ魔人を支配することもできる?」

 

「そんなこと同胞に対する冒涜だ。俺たち新世代の魔人は

そんな能力なんて編み出さない。家族ならなおさらだ」

 

「新世代がしないなら、旧世代の魔人なら?」

 

「・・・・・」

 

不意に魔人は沈黙して考え始めた。

 

「・・・・・俺たちを育てた親みたいなあの人たちがそんなこと・・・・・」

 

「一誠はキミたち魔人とは別の存在だ。彼は旧世代の考えに彼は断固反対する。

それに自分たちの思い通りにならない旧世代の魔人たちは、

一誠の力を何としてでも手中に収めようと考え実行するはずだ。僕ならそうするよ」

 

「・・・・・だけど、俺たちは冥界を取り戻すために生きていたんだ」

 

「だとしても、もっと他にも方法があったはずです。

あなた方が帰りたがっている冥界をあなたたちの手で滅茶苦茶にしていることを

どうして分からないのですか?」

 

そうだ。そこまで帰りたがっているならば、こんな状況を望んでいないはずだ。

それなのにこいつら魔人は悪魔諸共町まで蹂躙しているじゃないか。

 

「あなたたちの育ての親もこの冥界に帰りたがっていたのかもしれません。

だけど、その思想は何時しか歪んでしまい、あなたたちに歪んだ使命を与え、

冥界を侵略なんて実行させた。そこにあなたたちの意思はどこにあるんですか?」

 

「俺たちの・・・・・意思・・・・・?」

 

「・・・・・どうやら、話す時間もこれでお終いのようですね」

 

龍牙がとある方へと振り返る。私たちも龍牙が向ける視線を辿れば、

三人の魔人らしき少年と少女がいた。

 

「おい、タケルの奴が負けてんぞ」

 

「マジか。悪魔ならともかく・・・・・人間相手にか?」

 

「きっと、強い人たちなんですね。でも、私たちは負けませんよ!冥界を取り戻すために!」

 

この魔人たちもとても純粋な人たちなのだろう。

だけど、幼い頃から植え付けられた『冥界の奪還』。

それを果たそうとしているんだ。彼らは悪くない。だけど、それじゃダメなんだ。

 

「皆、極力・・・・・殺さずに倒すよ」

 

「ええ、そうした方が今後のためになりそうです」

 

「ああ、分かっているさ」

 

「手加減はできないがな」

 

皆・・・・・どうにかしようとしている。無論、私もさ。

 

「行くぞ!」

 

―――成神side―――

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!』

 

『Transfer!』

 

赤龍帝の能力、力の倍増と譲渡で部長たちに力を与える!んで、鎧をスリムにして―――!

 

『Star Sonic Booster!!!!!』

 

身軽になった俺は神速ってほどじゃないが、

それでもそれなりに早く動きまわって魔人の注意を俺に引き寄せる!

―――これが俺の新しい力の一つ!

 

「これが現赤龍帝か!女の服を弾き飛ばし、

女の胸から相手の心を聞く変態極まりない赤い龍帝の悪魔!」

 

「女の敵だ!こいつは誰よりも優先的にこの世から消した方が全世界の女のためになる!」

 

「俺が女キラーみたいに言うな!」

 

「「事実だろう(でしょ)!」」

 

「うちのイッセーくんが変態過ぎてごめんなさい」

 

こらぁああああ!木場!お前まで何謝っているんだよぉぉぉっ!?

 

「・・・・・事実なのは変わりないです」

 

「ごふ・・・・・っ!」

 

小猫ちゃんの言葉のアッパーが俺にダメージを与えた・・・・・!

 

「新手ですわ!」

 

朱乃さんの切羽詰まった声!俺たちの戦闘音を嗅ぎつけてきやがったか!

こっちに向かってくる三人の魔人。前と後ろに魔人・・・・・・。

この位置的に俺たちは囲まれている状況だ。相手は五人、

こっちは七人。だけど、アーシアは回復役として非戦闘員だから実質六人。

戦力は五分五分と言いたいところだが・・・・・。

 

「厳しい状況下になってしまったわね・・・・・。

魔力と気を無効化する能力の魔人が五人も揃ったから」

 

部長がそう言葉を言う裏腹に苦笑を浮かべた。まだまだ何とかなるレベルなのだろうか。

 

「撤退して体勢を立て直しますか?」

 

「いえ、相手がそう簡単にさせてくれるとは思えないわ。

援軍を要請したいところだけど・・・・・その時間はあるかしら?」

 

「ある、というよりは僕たちが作りますよ。

主であるあなたを守るのは騎士である僕の務めですからね」

 

木場のイケメンが炸裂した!むぐぐぐっ!

お、俺だって部長を守る兵士だ!負けていらねぇ―――。

 

「久し振りだな。赤龍帝?」

 

『っ!?』

 

真上から声が聞こえた。

刹那、俺たちを囲むように多人数の漢服を着た奴らが舞い降りた。って、こいつらは!?

 

「英雄派!?」

 

「このタイミングで・・・・・!」

 

「・・・・・」

 

「なんてことだ・・・・・」

 

そうだ。こいつらは英雄派。英雄の魂を引き継ぐ者とか子孫とか末裔とか、

神器(セイクリッド・ギア)神滅具(ロンギヌス)を持つテロリストの一派!

 

「相変わらずパワー思考か?もっと柔軟にテクニック的な

動きもしたら戦況は変わると思うがね」

 

「テロリストにそう言われて屈辱的だわ。・・・・・私たちを殺しに来たのかしら?

この混乱に乗じて」

 

曹操は底意地の悪い笑みを浮かべ、腕を紫の空に掲げた。

 

「―――逆だよ」

 

英雄派の構成員が、魔人たちに襲いかかる!?そうか、魔人は気と魔力を奪う。

だけど、気を持つ人間が数で押していけば勝てない相手じゃないんだ。

その上こいつらは神器(セイクリッド・ギア)の集団。―――あっという間に魔人たちを撃退した。

 

「この機に乗じて俺たちも魔人を倒そうと思っている。

なに、どこぞの風来坊の集団が現れたと思えば良いさ」

 

おいおい・・・・・マジかよ。

こいつら、腹の底でなに企んでいるのか分かりやしねぇよ・・・・・。

 

「それと情報提供だ。この冥界に妖怪、神話体系の者たちが到着している。

魔人たちの侵略も潮時だ」

 

「・・・・・あなたたちに何のメリットがあるというの?」

 

あいつは、曹操は告げる。

 

「俺たちなりの正義を貫ける。―――そんなところだ」

 

―――○●○―――

 

―――ラクシャside―――

 

真龍と龍神と纏めて相手になるわけ無いじゃない・・・・・。

呆気なく倒された私は、鎖で結ばれた手首の冷たさを感じながら目の前の光景を

固唾を飲んで見守る。

ドラゴンになっている彼は旧世代の魔人たちの力で支配されている。

 

「・・・・・」

 

家族たちの気配が段々と無くなっていく・・・・・。

倒されたか、あるいは殺られたか・・・・・。

私たちの力は冥界を侵略するにもまだまだ力が足りなかったのね・・・・・。

 

「魔人の願望はここまで・・・・・か」

 

―――ヴァーリside―――

 

「おのれ、ルシファーの血を引く者と我らを邪魔する者よ!」

 

あれが旧世代・・・・・前魔王ルシファーの時代から存在している魔人か。

なるほど、確かに対して強くないな。魔力が乏しいわけでもないが、

悪魔の成り損ないと言われても仕方がない。

 

「全てを薙ぎ払え!」

 

一人の魔人が発すると、それに呼応して一誠が極太の魔力を放ってくる。

その魔力にオーフィスが、

 

「イッセーを返す」

 

鬱陶しい蝿を払うように魔力を明後日の方へ弾いた。

他の二つの魔力もガイアとクロウ・クルワッハが防いだ。

それからも一誠は三人に攻撃を仕掛けるも、相手が悪過ぎるだろう。

彼の攻撃は一切、歯牙にも掛けられずかわされ、防がれ、

時には弾き返され自分の攻撃に直撃してしまう。そんな三人に魔人が叫ぶ。

 

「貴様らは一体何だというのだ!我らの邪魔をするでない!」

 

「邪魔するさ。お前たちが操っているドラゴンは私の大切な男だからな」

 

「この者は我らと同じ魔人よ。我らがどうしようが我らの勝手である!」

 

ふざけたことを言うな・・・・・。あんな幼稚な言い方、

リゼヴィムの方がまだマシなことを言うぞ。

 

「この冥界は我が物とするため、全てを蹂躙してくれる!

ゆけ、全てを破壊尽くす破壊の魔龍よ!」

 

「前魔王の血を引く者どもも殺し、全ての悪魔どもも殺し」

 

「この冥界を我らが取り戻すのだ!」

 

もはや・・・・・三流芝居しか思えない。見るに堪えないな。

 

「そのドラゴンはその程度の力ではない。貴様らには宝の持ち腐れだ」

 

ガイアが手元を光らせる。

 

「多少の攻撃なら一誠も耐えれよう。貴様ら諸共消し去って―――」

 

最後の言葉は聞けなかった。なぜなら、冥界の空に大きな穴が開いたのだ。

誰もが怪訝にその空を見上げていると―――。巨大な手と共に腕が出て来て、

真っ直ぐ一誠に伸びて行く。

 

「な、なんだあれは!?」

 

「ええい!アレを消せ!」

 

一誠は向かってくる手を攻撃し始める。超極太のレーザー状のビームが巨大な手に直撃し、

一度は穴が開いた空間に引っ込んだ。

 

「ふははははっ!亀のように引っ込んだわ!」

 

「我らの力を思い知ったか!」

 

いや、多分・・・・・あれは・・・・・。予想していた私の視界に空間の穴から両手が

飛び出してきて、一気に穴を広げた瞬間。

 

『ギャッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

穴から巨大な異形が現れた。おぞましい生き物だ。フォルム的にドラゴンみたいだが、

アレはドラゴンと呼ぶべきなのか?

 

『・・・・・怖ろしい。サマエルよりも、怖ろしい・・・・・っ』

 

あのアルビオンが怯えているだと・・・・・!?

 

「ひ、ひいいいいぃぃぃぃぃっ!」

 

「ば、化け物だぁっ!?」

 

「に、逃げるのだ!」

 

旧世代の魔人たちが一誠から離れた。それでも尚、魔人が攻撃の指示を出しているが、

一誠の攻撃はとても小さく、致命的なダメージを与えれないでいる。

そして、異形は・・・・・一誠を蹂躙し、気が済んだとばかり穴の中へと戻って消え去った。

 

「い、今のは一体・・・・・」

 

「多分・・・・・原始龍の仕業だろう」

 

横たわるアジ・ダハーカ=一誠。そんな彼の傍に魔方陣が出現し、噂をすれば影とやらか。

原始龍が現れた。

 

「・・・・・」

 

一誠に手を触れた途端に、光が一誠を包み、見る見るうちに縮んで人型の一誠に戻った。

それを確認した彼女は私たちに振り返る。

 

「先ほどはどうも失礼いたしました。門番の者がキレてしまいましてね」

 

「あれが・・・・・門番だと?」

 

「ええ、龍には龍を。罪を犯した龍を捕まるだけに生まれた龍です」

 

ある意味、サマエルより厄介だな。一誠を一方的に蹂躙したのだから・・・・・。

 

「彼が負ったダメージは私の方で癒しました。後は彼が目覚めるのを待つだけです」

 

「ん、原始龍。ありがとう」

 

「どういたしまして。では、また会いましょう」

 

魔方陣の光に包まれ、消え去っていく原始龍。そして、この場に気絶した一誠と私、

ガイアとオーフィスにクロウ・クルワッハ、ルシファーに魔人だけとなった。

 

「さて・・・・・逃げた魔人どもを捕まえるとしよう」

 

「転移魔方陣で逃走していない。どこかに身を潜んでいる可能性はあるぞ?」

 

「我、あいつらを捕まえる」

 

最後の仕事と思いたいね。個人的に一誠の傍にいたいが・・・・・。

 

「・・・・・」

 

あの女の魔人に任せよう。この勝負は私たちの勝ちだ。

 

―――○●○―――

 

―――アザゼルside―――

 

俺たちグリゴリも魔人討伐及び捕獲をしようと部下供を引き連れて、魔王領に訪れれば

あと少しで戦いが終わろうとしていたところだった。俺たちも加勢して魔人どもを

抑え込みそれを捕縛し続ける。それが何度も何度も繰り返し、

どれだけ時間がかかったのか分からない頃に、戦いに終幕が訪れた。

 

できるだけ生かして捕えた魔人どもは、ルシファーの城に集めて囲んだ。

魔人の冥界侵略を防ぐために協力してくれた妖怪や神話体系の何人かも一緒だ。

他は急いで街の復興、復旧を始めている。

 

「全部で数十人か」

 

「百人以上はいたようだけど、数が足りないわね・・・・・」

 

「途中で出会った曹操たちが英雄派が連れ去ったか・・・・・」

 

「他の第三者が影から介入したかだな」

 

推測しても、今の俺たちじゃ分からないがな。

 

「それでアザ坊。孫はどうしておるのじゃ?」

 

「眠っている。傍に九尾の御大将やあいつの家族が診ているが、

今日中に起きるとは思えないな」

 

「坊主は騒ぎの中心だぜぃ」

 

オーディンのクソジジイと闘戦勝仏。この二人がかなりの魔人どもを倒した功労者。

 

「さて、魔人ども。お前らの処罰はかなり重い判決を下されるだろうな」

 

『・・・・・』

 

「主犯たる旧世代の魔人とかいうやつらも何人か捕まえている。

ある意味、お前らはこの冥界で一生を過ごすことができる。まあ、牢獄の中でだろうがな」

 

「・・・・・でしょうね」

 

魔人の女がポツリと呟いた。

 

「家族が何人も死んで、育ての親も私たちを捨てて逃走。

もう、私たちは何も起こす気もする気力もないわ」

 

「ずいぶんと大人しいじゃないか?」

 

「こうなった予想をしていた言動をしていただけよ。

だけど、叶うことがあれば・・・・・私の命を引き換えに、

私の家族だけは罪を軽くしてちょうだい」

 

『なっ・・・・・!』

 

その絶句の言葉は魔人どもからだった。

 

「待ってくれよ姐御!そんな事を言うなよ!」

 

「魔人の代表として言っているの。それに言ったでしょ、叶うことがあればって」

 

「だけど、それでもしも叶ってしまったら姐御は俺たちを残して死ぬ気なんだろう!?

俺たちはそんなこと望んでいない!」

 

式森たちから聞いた話の通りだな。こいつら、互いを大切に思いやっている。

魔人の女は真っ直ぐルシファーたちに視線を向ける。

 

「・・・・・魔王ルシファー。それと他の魔王たち。答えは?」

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

現五大魔王たちは顔を見合わせ考える仕草をする。

 

「私たちは多くの悪魔の命を狩ったのは事実。避けれない運命を私一人で背負う覚悟がある。

だからこそ、彼らの罪を軽くしてほしい。

魔人と人間のハーフだから数百年は軽く生きれるわ」

 

「だから、重い罪を背負うと?」

 

「独りよがり、傲慢でエゴだろうけど―――私は家族をなにがなんでも守りたいの。

唯一、私と共に今日まで生きてきた最初で最後の家族だから・・・・・」

 

「ラクシャ・・・・・!」

 

意思が固いな・・・・・。決意も揺らぐこともなさそうだ。

 

「どうするんだ?五大魔王さま」

 

「他人事のように聞かないでくれるかしら?」

 

「俺じゃなくてお前らに訊いているんだもん。他人事だろ?」

 

「まったく、嫌な堕天使ね」

 

ふふん、何とでも言え。さあ、どう決断する?

面白半分にルシファーたちを見ていると・・・・・。

 

「・・・・・ま・・・・・て・・・・・」

 

微かに制止をする声が聞こえてきた。その声がした方へ振り向く。

 

「そいつらに・・・・・罪は・・・・・ない・・・・・」

 

「イ、イッセー!?」

 

あいつ、もう意識を回復したのか!?

だが、あの疲労は尋常じゃない・・・・・支配されたせいなのか?

 

「イッセーくん、罪がないというのは?」

 

「二重の・・・・・意味でない」

 

「二重?」

 

怪訝な面持でルシファーは言う。イッセーは九尾の御大将やメイドに

支えながらこっちに近づいてくる。

 

「一つは・・・・・そいつらは小さい頃から植え付けられた・・・・・知識と使命から

生じた行動だ。冥界から追い出された・・・・・魔人の心情も理解している。

でも、あの旧世代の魔人に利用されていただけだ」

 

「それでも、彼女たちは民たちを殺した事実は変わりないわ」

 

アスモデウスが冷たく一誠に言い放った。断続的に息をする一誠は頷く。

 

「分かっている・・・・・。

だから、少しでも罪を軽くしてもらえるように・・・・・俺はとあることを・・・・・。

皆に止められながらした」

 

「一誠ちゃん、それは一体何かな?」

 

「―――死者蘇生だ」

 

『っ!?』

 

死者・・・・・蘇生だと・・・・・?―――バラキエルと朱乃の母親、

朱璃を甦らしたあの力か!?

 

「お、おい!お前、そんなことして大丈夫だったのか!?

かなりの数の悪魔が死んだはずだぞ!朱璃を甦らしただけで力の殆どが

なくなっていたじゃねぇか!あの時と比べて今回は何百倍の数だ!下手したらお前は死―――!」

 

「今の俺の状態がそれを物語っている・・・・・。

はは、オーフィスの無限の魔力と魔人の力が覚醒して飛躍的に増幅した気の

おかげか・・・・・しばらく車椅子の生活を余儀なくされそうだ」

 

この、バカ野郎が・・・・・!どれだけお前は無理をするんだよ・・・・・!

誠と一香がしなかったことをお前がするなんてよ!

 

「・・・・・本当に、死んだ民たちは甦ったのか?」

 

「嘘だと思うなら・・・・・見てくればいい。混乱していると思うし、

魔王の皆が声を掛けてやってくれ」

 

一誠の言葉に、アスモデウス、レヴィアタン、ベルゼブブが外へ向かった。

 

「イッセー・・・・・どうしてそこまで私たちのために・・・・・?」

 

魔人の女が信じられないといった表情でイッセーを見つめる。

イッセーはイッセーで、弱弱しく笑みを浮かべる。

 

「お前は、俺と同じだ」

 

「え・・・・・?」

 

「家族を思いやる、その気持ちは俺と同じなんだよ・・・・・」

 

ああ・・・・・確かにな。こいつらは似ているよ。

『家族』の言葉を重く感じさせてくれるところもがよ。

 

「お前が死んだら、タケルたちは悲しむ。その気持ちは俺も最近知ったばかりだ・・・・・」

 

イッセーは魔人の女のもとまで移動すると、ゆっくりと座りこむ。

視線を合わせるような感じでな。

 

「一泊二日の期間だけど・・・・・それなりに楽しかった。それにさ」

 

「なに・・・・・?」

 

「俺とお前は夫婦みたいな関係じゃん・・・・・?

男が女を守るのと同じで、妻を守るのは夫の役目だ。だから・・・・・」

 

ふらりと背後に倒れそうになったイッセーは、

魔人の女の手によって胸の中に引き寄せられた。

温もりを感じているのか、口元を緩ませて口を動かした。

 

「お前を守りたかったんだよ・・・・・ラクシャ・・・・・」

 

「―――――っ」

 

その言葉を発したイッセーに対し、微かに身体を震わせ、

優しくイッセーを抱きかかえこむ魔人の女。

 

「バカ・・・・・・バカ・・・・・・バカァ・・・・・・!

そこまでされて・・・・・ますます私はあなたに惚れちゃうじゃないのよぉ・・・・・・!」

 

なんだこれ、何かのラブシーンを見ているような・・・・・。

 

「・・・・・ええ、いつ人間界に戻れるか分からないけど・・・・・・ちゃんと罪を

償い終えたら、真っ直ぐあなたのもとへ向かうわ・・・・・。

その時、正式に私と結婚して・・・・・?

私、白い教会で白い純白なドレスを身に包んで結婚したいわ・・・・・」

 

「ああ・・・・・わか・・・・・った・・・・・」

 

そこでイッセーの意識が途切れた。いくらオーフィスからもらった

無限の魔力を持っているからと言って、生命・・・・・気まで無限じゃない。

今回死んだ悪魔の数がそのまんま甦ったからそれ相応にリスクをあいつは背負った。

 

「・・・・・そう、わかったわ」

 

ルシファーが何かを確認していた。耳元に小型の通信式魔方陣が展開してるな。

外に行ったアスモデウスたちからの通信だろう。

 

「今アスモデウスから話を聞いたわ。―――死んだはずの悪魔が一人残らず甦ったわ。

その上、壊された建物も全て直っているそうよ」

 

『な、なんだってっ!?』

 

おーおー、魔人どもが驚いていやがるよ。深い溜息を吐くルシファーは言う。

 

「まるで夢でも見ているかのような感じだわ。

こんな好都合的な展開になるとは思いもしなかったもの」

 

「ふふふっ、流石は一誠ちゃんだね。ある意味じゃあ誠ちゃんと一香ちゃんを超えているよ」

 

「そうね。それに、この子には大きな貸しができてしまった。

なら、その貸しを今ここで返すのが筋で一人の魔王として恩を返すのは当然でしょう」

 

ということは・・・・・?

 

「魔人たち、イッセーに感謝しなさい。あなたたちの罪は減刑間違いなしだからね」

 

「マジかよ・・・・・」

 

「罪は消えないだけよ。重さが軽くなっただけ。その魔人の力、

私たち悪魔のために振るってもらう。

だから―――この冥界に住んでもらうわよ?」

 

『・・・・・!?』

 

魔人たちの目が丸くなった。魔王が許したんだ、冥界に再び帰れるんだからな。

はぁー元の鞘に戻るっていうのはきっとこの事だろう。

 

「ふふっ。仮に戦争が起きても今なら堕天使と神、天使には負けない気がするわ」

 

「ほぉ、それは面白い冗談だなぁ?」

 

口角を最大限まで吊り上げる。こいつがそんな好戦的な発言をするなんて

久しぶりじゃねぇか?

 

「なんなら、イッセーを差し向けましょうか?」

 

「ちょっ、それは反則だろ!?今の俺じゃあ勝てるかどうか怪しくなっているんだからよ!」

 

その原因はそっちか!あっぶねぇっ!下手な発言をしたら絶対にイッセーと戦わされる!

 

「怪しいというか、既に通り越しているような・・・・・」

 

「ふん、当然だろう。真龍と龍神の力を一つの身体に宿しているドラゴンだ」

 

「力はともかく、コミュニケーション・・・・・交流関係も最強だと私は思うな」

 

「色んな神話体系の神々と交流しているしな」

 

「そうですね」

 

「うん、イッセーはサプライズの宝庫、ビックリ箱そのものだ」

 

ええい、うるさいぞそこ!後半は同意だけどな!

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・イッセー、ありがとう・・・・・心の底から愛しているわ・・・・・」

 

「ンン・・・・・ラクシャァ・・・・・ご飯・・・・・」

 

「・・・・・ふふっ。はい、あなた・・・・・」

 

 

 

 

 

『(なんだ、あの桃色的な空間は・・・・・!?)』



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編Episode1

()

 

「なあ、ほんっとうに大丈夫だよな?」

 

「何度も聞くなよ。何度も試したから問題ない。悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の製作者、

アジュカ・アスタロトにも手伝ってもらっているんだぞ」

 

「お前が関わっていることは碌なことが無いんだよ。あの件、忘れたわけじゃないよな?」

 

目を細め、アザゼルの研究に手伝わされている俺は―――カプセルの中で睨んだ。

俺を閉じ込めるカプセルは超長距離転移装置で地球の裏側にまで

一気に飛ばすという有り得なく、完成したら便利な装置になる。

ただ、この装置は既にどこかへ設置したもう一つのカプセルとでなければ

移動できない欠点がある。アザゼルが言うにはもう一つの装置はこの研究のために

借りたホテルに設置しているため、俺はそのホテルの中に飛ばされる予定だ。

 

「問題ない。色々と試してみたが、確かにアジュカと共に成功したんだ。

今までは無機物、魂が無い物でやっていたから今度は魂がある有機物を試したい訳だ」

 

「これで失敗したらお前、ヴァーリからフェンリルを借りて魔力が使えない空間で

走らせてやるからな」

 

アザゼルの顔に冷や汗が流れ出た。これ、決定だ。

 

「じゃ、じゃあ・・・・・はじめんぞ」

 

装置を起動させるアザゼルを見守る。ふと、俺が入っているカプセルに

電気エネルギーと魔力が伝わって、俺の視界は一瞬の閃光に包まれて視力が奪われた―――。

 

 

 

 

 

 

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォンッ!

 

「げほっ!げほっ!」

 

爆発で生じた煙で何度も咳し、転移先に設置されているカプセルが俺が辿り着いた

衝撃で壊れてしまったようだ。壊れたカプセルから抜け出て俺はようやく辺りを見渡す。

アザゼルが設置したホテルの中・・・・・じゃない?―――ここって、どこだ?

爆発の影響で散乱してしまった書類にフラスコ類の物、埃が被っている室内・・・・・。

もう、何十年もこの部屋は掃除されていなく使われていないと思わせる。

 

「・・・・・」

 

もう一つ設置した場所があった?そう思いながら改めて部屋の中を見渡すのだが―――は?

 

「なんだ、これは・・・・・」

 

壁に張られている新聞紙のような紙を見つけ、

俺は信じられないものを見る目で紙に載っている数字と文字を視界に入れた。

 

☓☓☓☓年 五月十一日―――(火)

 

「―――千年後・・・・・!?」

 

ちょっと待て。なんだ、この西暦は!?

今から千年後の世界にトリップしてしまったというのか!

待て待て待て!どうしたらこんな破天荒なことになるんだよ!?

前代未聞だろぉっ!?

―――取り敢えず、この世界の状況と情報が欲しい。

この場から抜けださないとと思って無機物に潜行し、

地上へと出て、空高く跳躍した瞬間・・・・・俺は信じられないものを目にした。

 

「なんだ、あれは・・・・・」

 

空高く、天まで伸びる巨大な塔が聳え立っていた。まるで宇宙にまで

建設されているのではないのか?と思ってしまう。

その塔の周辺には数多くの建物が見える。

 

「光陽町が・・・・・変わっているというか、無くなっている?」

 

というか、俺がいる場所はどこなんだ?駒王学園はあるのか?

 

「おっ・・・・・」

 

眼下に道を歩く人を見つけた。あの人に聞こうと地上に降り立って背後から訊ねた。

 

「あの、すいません」

 

「はい?」

 

振り返ったその人は、・・・・・えっ!?

 

「―――――清楚?」

 

目を疑った。俺が話しかけた人が清楚と酷似していた。

ただ、身長がやや高く、瞳の色が赤だった。まるで項羽のような女性だ。

 

「あの・・・・・私は清那と言いますが、どこかでお会いしたでしょうか?」

 

「・・・・・あ、え、っと・・・・・いや、知人と物凄く似ていたもので」

 

「ああ、そうなんですか。よくあることですよね♪」

 

笑顔までもが一緒だ。・・・・・名前、聞いとくか?

 

「失礼ですが、名前を窺ってもいいですか?」

 

「相手の名を聞きたいならば、あなたから名を名乗るべきだと思いますよ?」

 

朗からに高圧的な発言をされちゃったよ!?

 

「イッセー・D・スカーレット・・・・・です」

 

「イッセー・D・スカーレット・・・・・」

 

清那が俺の名を復唱した途端に、目を丸くした。

 

「え・・・・・?」

 

その疑問の声を発したのは俺だ。その理由は、

 

「父さんの名を偽る輩でしょうか?」

 

彼女の手に何時の間にか得物を手にしていて、俺の首を突きつけているからだ。

 

「と、父さん・・・・・?」

 

「ええ、ああ、私の名前は兵藤清那。私の父、イッセー・D・スカーレットと

母、兵藤清楚の間に生まれた娘です」

 

「なっ・・・・・!?」

 

俺はともかく、清楚が千年経っても生きているって・・・・・どういうことだ!?

 

「あなたは何者か知りませんが、よく見れば父さんの学生時代に酷似していますね。

どこかの組織が父さんの命を狙う輩が作りだしたクローンですか?

それとも、幻術で顔の容姿を変えているのでしょうか?」

 

驚く俺を余所に彼女は冷たい声音で発現する。

 

『おい、兵藤一誠。お前、気付いていないのか?』

 

―――何がだ?いま、混乱で思考が危ういくなんているんだけど?

 

『んじゃ、教えてやるよ。―――お前、囲まれているぞ?』

 

っ!?

 

内にいるドラゴンに教えられた直後に俺はようやく理解した。

塀や屋根、空、電柱に何時の間にか複数の男女がいて俺を見下ろしていた。

 

「おい、清那。俺たちを呼ぶほどだから

お前の身に何があったのかと思ったけど・・・・・そいつ、誰だ?」

 

「ドラゴンの気配・・・・・感じる」

 

「んー、どことなく、パパに似ているねー?」

 

「あっ、本当っす!」

 

・・・・・こいつらは・・・・・。

 

『ハハハ、どいつもこいつも、ドラゴンの波動を感じる。

―――真龍と龍神、グレートレッドとオーフィスの力を感じるぞ』

 

ああ、俺も気付いている。隠そうとしないから直ぐに分かったよ。

―――こいつら、千年後の俺の子供だ。

 

「ごめんね、この人は私だけじゃちょっと厳しいから・・・・・」

 

「良いって、俺たちは家族だ。家族のためなら協力は惜しまない。で、どうすんだ?」

 

「取り敢えず静かに―――捕縛しよう。近所迷惑にならない程度で」

 

清那がそう言った瞬間、周りが一斉に動き出した。ある者は真っ直ぐ向かって、

ある者は魔方陣を展開して、ある者は武器を手にして襲いかかってくる!―――ネメシス!

 

『了解だ』

 

俺の周囲の虚空から鎖が飛び出してきて、俺に向かってくる者たちを

あっという間に拘束した。

 

「なっ!?」

 

「この鎖は―――!」

 

「どうなっているの!?」

 

体験したか、見覚えがあるようだな。

 

「ふん!」

 

が、やはりというか鎖を強引に引き千切った奴がいた。

 

「お前は一体何者だ?」

 

「そう言うお前もな」

 

「敢えて答える気はないと、―――だったら、力づくで吐かせる」

 

目の前の奴―――俺と同じ真紅の髪に赤い瞳の少年が闘気を纏い始めた。

おいおい、そんなこともできるのか。

 

「一撃でKOだ」

 

「ならば、俺は一瞬だな」

 

不敵に漏らし、闘気を纏う。そして、俺と奴は飛び掛かり、交差して通り過ぎた。

一拍して、ダメージが食らった痛みが感じ始めた束の間、あいつは地面に倒れ込んだ。

 

「な・・・・・んだ・・・・・と・・・・・!」

 

信じられないといった表情であいつは身体を震わせながら起き上がろうとする。

 

「嘘、あの一瞬であいつがやられるなんて・・・・・」

 

「こいつ、ただ者じゃないっすよ・・・・・本気でやらないと勝てないかも」

 

「じゃあ、本気で?」

 

と、何人かが顔を見合わせる。だが、清那は首を横に振った。

 

「ダメだよ、ここであの力を解放したら、父さんたちに怒られちゃうよ」

 

「どんな力を解放するんだ?」

 

と、何気なく問うたけど・・・・・教えてくれるわけが―――。

 

「えっと、感卦法とか龍化とかするっすよ?」

 

「ちょっ!なに暴露しているんだよぉおおおおおお!」

 

「え?・・・・・あっ!?」

 

・・・・・あいつ、絶対天然でどこか抜けているだろう。

というか、感卦法と龍化って・・・・・。

 

「―――こんなもんか」

 

右手に魔力、左手に気を、相反する力を融合させて感卦法を発動し、

身体の表と裏に魔力と気を纏う。

 

「嘘・・・・・」

 

「こいつ、感卦法までできるのか・・・・・?」

 

「―――感卦法」

 

黒髪の少年が俺と同じことをする。

 

「清那姉、迷惑とかそんな事を考えていると、私たちが倒されると思うよ」

 

「九音・・・・・」

 

「ここは私が」

 

九音と言われた少年が俺と対峙し―――腰辺りに九本の尾を生やした。

それはまるで狐の尻尾のようだ。

 

「私は兵藤九音。以御お見知りおきを」

 

「名乗られたからには名乗らないといけないか。イッセー・D・スカーレットだ」

 

「・・・・・父と同じ名。あなたは一体、何者でしょうか?」

 

「知りたければ、俺を負かすことだろう?」

 

―――俺も九本の狐の尾を生やす。九音の目が大きく目を見開いた。

 

「母と同じ尾を・・・・・」

 

「んじゃ、これもそうか?」

 

体が黒と金の衣服へと変わり、

真紅の髪と金色の双眸は黒に変色。胸に狐を模した顔、腰には変わらず

金色の九本の狐の尾が生えているが、それとは別の九本の尾が俺の四肢、

胴体に巻きついている。それと、頭に狐の耳が生えているだろうな。

 

「黒装九尾の・・・・・甲縛だと・・・・・!?」

 

「ますます、訳が分からなくなったか?」

 

「・・・・・ええ、どうして父と母、私以外の力をあなたが持っているのか、

疑問で仕方がないです!」

 

九音が飛び掛かる。俺も迎撃とばかり飛び掛かって、九つの尾を振るい、妖力を放ち、

激しい激闘を繰り広げるが―――。

 

「はぁっ!」

 

あいつが作った一瞬の隙を突き、仙術を纏った一撃を食らわせた。

 

「ごふっ・・・・・!?」

 

「戦闘経験が浅いな」

 

吐血をし、崩れ落ちる九音。これで二人目か。

 

「次は、どいつだ?」

 

『・・・・・っ』

 

顔を強張らせ、緊張の面持ちで俺を睨む。それがしばらく続くかと思いきや、

 

「―――まいったね。子供たちが倒されていたり、苦戦しているじゃないか」

 

「っ!?」

 

俺の身体に魔力で具現化した鎖が巻きついていた。い、いつの間に・・・・・!?

 

「力が断続的に感じるから様子を見に来たけど・・・・・これはどういうことだい?」

 

俺の背後に誰かが降りてきた。この声って・・・・・まさか。

 

「お、お父さん・・・・・」

 

「最初に言うよ。修行不足だ。まだまだ経験が足りなかったようだね。

帰ったら地獄の模擬戦をするから覚悟死なよ?」

 

清那たちが途端に青ざめた。

 

『か、勘弁してください!』

 

「だーめ♪」

 

・・・・・なんだか、黒くなってやいないか?

 

「さてと、清那たちと戦っても無傷でいるキミは・・・・・」

 

俺の顔を覗き込む者。―――中年の男性、式森和樹だ。

 

「・・・・・一誠・・・・・?」

 

「・・・・・まともに話せそうな奴が来てくれて助かったよ、和樹」

 

「―――――っ!?」

 

そう言うと、和樹は大きく目を見開き、俺の肩に力強く掴んで口を開いた。

 

「ちょっ、マジで!?え、どうしてここにキミがいるんだい!?

家にいるはずなのに、なんで!?」

 

「えっと、お父さん・・・・・・その人、知り合いなの?」

 

恐る恐ると声を掛ける―――銀髪の少年。

ああ、こいつ、和樹の息子なんだ。髪が銀だから分からなかった。

シンシアとの子だからか。

 

「知り合いも何も・・・・・いや、お前たちに説明しても理解しがたいだろう」

 

自分の息子から視線を外し、俺に視線を向けてくる。

 

「家に来てもらうけど、いいよね?」

 

「ああ、俺も色々と知りたいからな」

 

「じゃあ、帰ろう」

 

指を弾いた和樹の足元に巨大な転移用魔方陣が展開し、

この場にいる俺たちは光と共にどこかへと転移した。

 

 

 

魔方陣の光と共に俺たちは建物の玄関ホールらしき空間に現れた。

俺が今住んでいる家と違うようだ。周りは石壁でできていて、

住んでいる家の玄関ホールより数倍広い。

 

「これを飲まして回復させて。僕はこの子を彼に会わせないといけないから」

 

「・・・・・分かりました」

 

ガシッと和樹の手が俺の腕を掴んだ反対側に、高級な小瓶を清那に二つほど渡してから

俺を引っ張ってどこかへと連れていく。

 

「名前、一応聞くけどさ。兵藤一誠だよね?」

 

「イッセー・D・スカーレットだ」

 

「うん、そう言うと思った。間違いなくキミは―――一誠だよ」

 

レッドカーペットに敷かれた玄関ホールを歩き、和樹はとある大きな扉を

開け放つと開口一番に言った。

 

「一誠、大変だよ!」

 

とな。和樹の視線の先を見れば、何人ものの女性たちに囲まれながらテレビを

見ている真紅の後ろ髪が見えた。その後ろ髪が動き、

 

「どうした、和樹―――――」

 

顔がこっちに向いた。歳は三十代だろうか・・・・・ダンディーに顎に髭が生えていて、

少し老けているが、金の双眸に強い意志が籠っている。

ああ・・・・・見間違うわけがない。あいつは―――俺だっ!

 

「・・・・・」

 

この世界の俺が俺を凝視する。それは信じられないものを見ているものだ。

 

「なあ、和樹?俺、とても疑い深いものを視界に入れているんだが。

はは、若い頃の俺が目の前にいるぜ」

 

「え?」

 

この世界の俺の発言に、

女性たちが一斉にこっちに振り向く―――って、えええええええええ!?

 

「せ、清楚に・・・・・カ、カリンに・・・・・も、百代に・・・・・ギ、ギンガ?」

 

まあ、次の瞬間だ。この部屋中に絶叫が響き渡ったんだ。

もう鼓膜が破けるんじゃないかってほどにうるさかった。

絶叫が収まると、この世界の俺が一瞬で俺の前に移動してきた。はやッ!

 

「間違いない・・・・・ガイアとオーフィスの力、それにゾラードたちを感じる」

 

「それはこっちも同じ気持ちだよ」

 

「・・・・・ということは、考えられることは一つだ。

お前、俺と同じ体験をしているんだな」

 

「同じ、体験?」

 

首を傾げると、物凄く深い溜息を吐いた。

 

「あのクソアザゼルの研究に手伝ったせいで千年後の未来に来てしまい、

千年後の自分と出会うことだよ。

俺もお前と同じぐらいの年頃の時に、千年後の世界に飛ばされ、

その世界にいる俺と出会っているんだ。

だから、お前がこれからこの世界で何をしようとしているのか、

どうやって帰れるのか俺は全部知っている」

 

「本当か!?」

 

「ああ。―――テファ」

 

この世界の俺はとある女性を呼んだ。

テファってもしかして・・・・・と視線をとある方へ向ければ、

 

「はい、あなた」

 

成長したテファニアがいた!千年経ってもそれ相応に老けていないってどういうことだ?

 

「彼女から魔法を教われ、虚無魔法だ」

 

「ハルケギニアの?」

 

「そうだ。どんな経緯で習得したのか、教えないがな。

そっちのテファもその内、虚無魔法を習得する」

 

なるほど・・・・・。

 

「なあ、千年後の俺。どうして人間の彼女たちがまだ生きているんだ?」

 

「それか。当初の俺も驚いたが、理由は簡単だった。こいつら、人間を辞めたんだ」

 

人間を辞めたって・・・・・他の異種族に転生したのか?

 

「その理由も、お前なら理解できるはずだ。だから、誰一人死んでいないんだ」

 

この世界の俺は嬉しそうに微笑んだ。ああ・・・・・やっぱりこいつは俺だな。

その気持ちはよくわかるよ。

 

「それじゃ、虚無魔法を教えるね?世界扉(ワールド・ドア)の呪文を。

その後、色々とお話をしましょ?」

 

この世界のテファが柔和に笑んだ。それから彼女から呪文を教われ、

俺も試しに呪文を唱えて発動すれば、異世界に繋げれる扉を開けることができた。

 

―――○●○―――

 

時間は過ぎ、夜となった。俺は呆然と目の前の光景を見つめた。

千年後の俺は和樹たちが立食パーティを提案して、

俺のことを紹介する事と成ったのだが・・・・・。

 

「やはりというか、人数が桁違いに多い」

 

「ははは!リゼヴィムおじさんの事件以降、色々と俺も遭ったからな。

俺を慕う人間も増えちまったんだ。

 

「お前、何していたんだよ」

 

「ふっ、それは教えられないな。教えたらつまらないだろう?今後のお楽しみだ」

 

この世界の俺は腕を俺の背に回して口を開いた。

 

「お前ら、薄々気付いていると思うが、こいつは千年前の俺自身、

旧名は兵藤一誠で偽名はイッセー・D・スカーレットだ。

仲良くし過ぎないように気をつけて会話しろよ」

 

「おい、なんで仲良くし過ぎちゃいけないんだよ」

 

「狼の群れに羊を放り込められる気持ちを浮かべてみろよ」

 

「納得しました!」

 

襲われるんだと悟り、

気持ちのいい返事をしたわけだが・・・・・うん、俺を見る視線が物凄い。

 

「それじゃ、パーティの開始だ」

 

この世界の俺が高らかにグラスを持った手を掲げると、一気に騒がしくなった。

 

「わぁー!学生時代のイッセーくんっす!」

 

「懐かしいですね!」

 

「可愛い!」

 

あいつの言った通り、俺は羊のような立場になった。

 

「初めまして、って可笑しいかな一誠くん?」

 

「ある意味会っていると思うけど・・・・・清楚だよな?」

 

「うん、ふふっ。子供の一誠くんが過去からきたなんて、驚いちゃったよ」

 

清楚に微笑む清楚・・・・・。

 

「項羽は?」

 

彼女に問うと、何故だか・・・・・清那に顔を向けた。

 

「私からいなくなっちゃって・・・・・私の娘になっちゃったの」

 

「はっ?」

 

「清那、おいで?」

 

清楚が清那に呼び掛ける。清那は歩み寄れば、清楚は彼女の頭を撫でる。

 

「清那自身が、項羽の存在なの。項羽の魂が私の娘に受け継がれている。

あの豪快な性格はすっかり無くなっちゃっているけどね」

 

「か、母さん・・・・・」

 

「ふふっ、でも私の自慢の娘よ?ああ、でもごめんなさい?

あなたを敵と勘違いしちゃって攻撃したみたいね?」

 

「あー、それは気にしなくていいよ。ちょっと千年後の俺の子供たちの実力を知れたし」

 

実力はかなりのものだった。ただ、戦闘経験が浅いぐらいだ。

もしも経験が豊富だったら、今の俺と同等かそれ以上だったかもしれない。

 

「母さん・・・・・本当にこの人は父さんの若い頃の人?」

 

「そうだよ?この時から母さんはメロメロだったんだから♪」

 

「そうなんだ・・・・・」

 

清那が俺をジッと見つめる。すると、俺の背中に温もりが感じた。

 

「・・・・・」

 

振り返ると俺を見下ろす黒い髪の長髪の女性・・・・・って、

 

「オーフィス・・・・・なのか?」

 

「ん、我、オーフィス」

 

と、オーフィスがスリスリと俺の頬に擦りつく。

この大人バージョンのオーフィスは変わらないようだ。

 

「となると・・・・・この世界のガイアは?」

 

「ようやく呼んだか」

 

威風堂々と歩みよる真紅の女性。うん、変わっていないな。

千年前と変わらない姿で俺の前に現れるガイアは。

 

「若い時の一誠が過去から来るとは面白いことがあるものだ。過去の我はどうだ?」

 

「多分、未来のガイアと変わらないと思うよ?」

 

「ふっ、そうであろうな。おお、そうだ。我の子を紹介しよう。煌龍」

 

「はい」

 

ガイアの子・・・・・あっ、朝の真紅の少年だ。

 

「こいつが我と一誠の子、煌龍だ。言わば二代目真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)である。

我と一誠の力を引き継いでいるが、まだまだ未熟者でな」

 

「・・・・・」

 

煌龍はプイッと顔を逸らしてふてくされた。

 

「若い頃の父親に負けた気分はどうだ、煌龍?」

 

「・・・・・あの時は本気じゃなかったから―――」

 

「言い訳は無用だ」

 

躾はとても厳しいようで・・・・・息子にチョップをかましたぞ。

ああ、痛そうに頭を押さえた。

 

「我の子供」

 

と、何時の間にかオーフィスの前に一人の少年がいた。

こいつも俺に襲いかかってきた一人だったな。

 

「我の子供、無々(むむ)

 

無限の無を取ったわけだな。無表情なところはオーフィスとそっくりだ。

 

「・・・・・」

 

ジィーと俺を見つめる無々。

 

「二代目無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)

 

「ああ、分かっているよ、オーフィス」

 

何とも言えないな。未来の自分の息子と対面するなんてさ。

 

「この世界のリーラは?」

 

「奴ならば、裏で仕事をしている。今は会えないだろう」

 

「そうか、会ってみたかったな」

 

「今はここにいる面子で我慢しろ」

 

いや、我慢するも何も・・・・・皆、今か今かと待ち構えているのが目に見えていますよ?

 

―――○●○―――

 

パーティはようやく終わり、未来の皆と未来の子供と会話し、

現在俺はトレーニングルームにいた。

 

「絶景、の一言だな」

 

模擬戦だろうけど、バトルロワイヤルに等しいぐらい激闘を繰り広げている。

攻撃の威力が強すぎて風景が変えられていく。

 

「うーん、まだまだ隙が多いな」

 

「お前の目からも見てそうか」

 

隣に立っている女性・・・・・千年後のアレイン。

 

「全員、己の力に過信しないように教育をしているが、

いつものメンバーとでは、刺激が足りないか」

 

意味深に言うアレインは俺に視線を配ってきた。

 

「俺に、あそこに行けと?」

 

「まだ帰らぬのであろう?千年前のお前の力を、見せてやれ」

 

不意に、アレインの頬が薔薇色に染まった。

 

「過去の私がいつか・・・・・お、お前の夫となる者だ。

負けたら私は彼と離婚してやるからな」

 

「張り切って倒しに行かせてもらいます!」

 

それは責任重大だ!俺は急いで戦場へと駆けて行った。

 

「いざ、尋常に勝負!」

 

『なっ!?』

 

『はいっ!?』

 

案の定、息子たちが驚愕して一瞬の攻撃の手を止めた。

 

「お前らを倒さなきゃ、俺は俺に殺されちまう!」

 

『なに言っているんだ、あんたは!?』

 

分からなくていい、今はとにかく俺と戦おうか!

 

 

 

 

 

「・・・・・あー、疲れたぁー」

 

深夜、夜空に浮かぶ満月の中で俺は一人、家の付近の公園に佇んでいた。

そろそろ過去に戻ると言い、皆と別れの挨拶を済ませてから公園にきたわけだ。

 

「どうしたんだ、未来の俺」

 

「見送りにしに来ただけだ」

 

既に過去へ戻るための扉を開いている。その最中、この世界の俺が現れた。

 

「そっちの俺はまだリゼヴィムおじさんの件をが片付けていないんだろう?」

 

「ああ、そうだ」

 

「忠告する。666(トライヘキサ)はかなり強い。戦う時は最初から全身全霊で戦え」

 

「・・・・・」

 

そうか、こいつはもう戦ったのか。俺もいつかそいつと戦う運命・・・・・。

 

「それと、魔人の件だ。魔人の力をコントロールしたかったら、魔人と接触しろ」

 

「お前はどうなんだ?」

 

「聞くのは野暮だとは思わないか?」

 

・・・・・そっか。

 

「んじゃ、またいつか会いに行くよ」

 

「いや、くんな」

 

「拒否されたっ!?」

 

「正確に言うと、今回のでき事が、今度はお前にも起こる。今度はお前の番だ。

千年後、過去からお前が来る。心構えておけよ」

 

あーそうなんだ。千年後・・・・・俺はこいつみたいになっているのか。

 

「じゃあな、過去の俺」

 

「ああ、また会おう。未来の俺」

 

それが過去の俺と未来の俺の最後の会話だった。扉を潜ると、

千年後の世界を繋げた扉が閉じたのを見て、顔を上にあげた。

まだ明るい。それほど時間が経っていないのか?

 

「まあいい。帰ろう」

 

丁度目の前に俺の家。未来の俺たちと子供たちを脳裏に浮かべ、

小さく口角を上げて家の中へ入ろうと玄関のドアノブに手を触れた―――。

 

「ただいま!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編Episode2

久々に駒王学園に訪れている俺、イッセー・D・スカーレットは理事長室に足を運んだ。

辿りつけばノックをし、中から入室の許可を得るとドアノブを捻って扉を開け放って中に入る。

 

「やあ、久し振りだねイッセーくん」

 

「久し振り」

 

理事長、サーゼクス・グレモリーと対面を果たす。俺をここに呼んだ張本人である。

 

「俺に頼みたいことって?」

 

「本題に入る前にこれを見てほしい」

 

資料を挟んだ用箋挟を受け取った。その紙にグラフみたいなものが・・・・・。

 

「これってなんだ?」

 

「過去から体育を行ってきた回数のグラフだよ」

 

・・・・・グラフね。見れば線が右下へと進んでいる。

 

「その資料を見て分かっただろう?近年の生徒たちは体育に意欲的じゃない。

理由は様々で棄権するクラスが多い。

このままでは駒王学園の存在意義が怪しくなってしまう。この学校は四種交流の象徴、

実力主義の学び舎だからね。そこで、私は考えを改めざることになった」

 

「それで、考えついたのか?」

 

ちょいっと催促して見るとサーゼクスは笑みを浮かべた。

 

「まだだ」

 

「・・・・・だろうと思ったよ」

 

「いや、厳密に言うと考案はできているんだ。点数で競うゲームをね」

 

「点数?」

 

肉体的な戦いじゃないんだ?なんだか興味深い・・・・・。

 

「学力で生徒が教師によって採点された点数で戦うゲームだ。

この学校に学びに来ている生徒たちは皆、優秀な学力を残して卒業している。

だから、肉体的なゲームより頭脳的なゲームに変えようかと思っている」

 

「どうやって点数で勝負するんだ?頭脳的な勝負をするなら物理的攻撃はダメだろ?」

 

「ゲームだからね。ゲーム的な感覚ができるようになればいいと思っている。

既にアジュカやアザゼルにも私の考えを伝えている。

それで私の考えをキミはどう思うか答えてほしいんだ」

 

感想を言うために呼び出されたのか。

内心、溜息を吐いていると二つの魔方陣がこの場に出現し、

 

「サーゼクス。おや、イッセーくんじゃないか、久し振りだね」

 

「ある意味、役者は揃ったって感じだな」

 

アジュカ・アスタロト、アザゼルが現れる。サーゼクスは口角を上げて口を開く。

 

「ここに来たという事は完成したのかな?」

 

「ああ、あとは蓄積データが必要だ」

 

「それさえありゃ、問題ないぜ」

 

準備ができた・・・・・って風な感じだな。二人の報告にサーゼクスは椅子から腰を上げた。

 

「では、イッセーくん。一緒に来てもらえるかな?」

 

「どこにだ?」

 

「冥界と天界、悪魔と堕天使、天使の混合施設の研究所だ」

 

 

 

 

 

 

サーゼクスにそう言われ、三人と一緒に転移式魔方陣でその施設に転移した。

場所は人間界のどこかだと思うが・・・・・。巨大な施設だな。

門を警備している天使と堕天使に通してもらい、中に入る。

施設の玄関を潜って歩を運び続けてついてくと、アジュカがとある扉を開けて中に入った。

一体なにがあるのだろうか?そう思う俺の心情を部屋は―――がらんとしていた。

上下左右、真っ白な壁と天井床しかなかった。

 

「さて、展開しようかな」

 

アジュカが徐に懐から取り出した携帯を操作し始めた時だった。

俺たちを囲む四方の立体的な空間がどこからともなく広がって展開した。

 

「これは?」

 

「サーゼクスの考えた提案を元に、アザゼルと考えた結果がこれだよ」

 

「んじゃ、イッセー。試験召喚獣召喚・試獣召喚(サモン)って言ってみな」

 

「言うだけ?」

 

「言うだけだ」とアザゼルは頷いた。まあ、それぐらいなら・・・・・。

 

「―――試験召喚獣召喚・試獣召喚(サモン)!」

 

と強く発したら―――俺をでフォメルトしたちっちゃいドラゴンが出現した。

しかも武装しているし、背中に封龍剣を背負っているよ!?

 

「ん?獣じゃねぇな。まあ、これはこれで問題ないようだな」

 

「これがサーゼクスが考えた結果か?」

 

「文武両道、ピッタリなゲームだと思わないかい?どれ、動かしてごらん?」

 

「んじゃ、テストだな」

 

アザゼルも携帯を取り出して操作した。

俺の召喚獣の前に藁人形がいくつも魔方陣と共に現る。

 

「そいつを斬ってみろ」

 

「初心者にそれってハードなことを言うな。操作の仕方は?」

 

「思考で動かすんだ。右腕を動かしたいと思えば、召喚獣は呼応して右腕を動かすよ」

 

シンプルな方法だ。・・・・・・よし、ぶっつけ本番。

 

「いけ!」

 

召喚獣は背負っている大剣を手にして藁人形に向かって駆けだす。

俺の思った行動を召喚獣に送る―――!

 

―――ザザザザザ、ザンッ!

 

あっという間に召喚獣は全ての藁人形を斬り捨てた。

が、召喚者である俺は精神を使うようだ。

 

「お見事、初めてなのに拘わらず惚れ惚れする動作ですね」

 

「はははっ!こいつは面白いもんを開発したようだな!」

 

「だけど、精神的に疲労がくるぞ。操作に集中しないと召喚獣が動かせない」

 

「現段階でそれは課題となるか。だが、それ以外の問題はあるかね?」

 

首を横に振ってないと意思表示する。

 

「おいサーゼクス。こいつに学力の点数をつけて競わせれば面白くなるぜ。

RG(レーティングゲーム)を応用した異空間で思う存分に召喚獣で暴れさせたらいいはずだ」

 

「これは世界中が話題となるに違いない。

今回の武装は主にイッセーくんが使っている武器で準備したが、

これからは学力に相応する武装と防具と設定、構築しよう。

ふふっ、面白くなりそうだ。彼、ジェイルくんにも協力してもらおうかな?」

 

いつの間にジェイルのことを知ったんだアジュカさんよ。

 

「イッセーくん」

 

サーゼクスに呼ばれた。

 

「これからも度々キミにお願いしたいがいいかな?」

 

それはこのシステムの実験に付き合ってくれってという意味だろうな。

 

「断わる理由もない。というか、これなら戦いに意欲がない奴らだって

積極的に戦ってくれそうだ」

 

「決まりだね」

 

嬉しそうに笑む理事長。これからの駒王学園はまた賑やかになりそうだ。

俺・・・・・学校に行けないけどな。

ちょっと寂しい気分でいるとアザゼルから黒い腕輪みたいな物を渡された。

 

「この腕輪はこの空間を作りだすものだ。起動キーは『起動(アウェイクン)』だ。

暇な時でいいからこいつを使って召喚獣を動かしてくれ。

その動作データーが自動的にこの施設に送られるから大助かりってわけだ」

 

「武器も変えることができる?」

 

「ああ、勿論だ。武器の扱いのデーターも欲しいからな。

その腕環に思った武器を思い浮かべて既に持っている武具と

入れ替えることをできるようにしてある」

 

おお、器用貧乏ができそうだ。家に帰ったら早速やってみよう。

 

 

 

 

 

 

「と言うわけで、サーゼクスから頼まれていたのがこれだ」

 

召喚専用のフィールドを展開しながら皆に説明した。

既に召喚獣を召喚していて、興味深いと俺の召喚獣を見つめていた。

 

「へぇ、可愛いね」

 

「お兄さまも苦労していたのね」

 

「確かに私たちが通っている間はあまり体育の授業は殆ど実習になっています」

 

「強い相手と戦いたくないのが本音でしょうけどね」

 

「特にサイラオーグと戦うことになる後輩たちは一目散に辞退してしまうほど」

 

流石にあいつに勝てる気がしないだろう。並みの奴じゃあ・・・・・。

 

「学力の点数が付いた召喚獣同士で戦うんですよね?」

 

「今さらながら、これならばクラス全員でクラス対抗戦ができるな。

今までの体育の授業とは違い、点数で物を言う戦争になる」

 

「うん!これだったら皆にだって勝ち目があるよ!」

 

清楚が満面の笑みを浮かべる。FだろうがSだろうが学力の点数、防具、

武装した召喚獣が戦うので人体的に被害はない。

 

「なあ、これって私たちも召喚獣を召喚できるのか?」

 

「え?うーん、それは分からないな。そう言う話しは聞いていない」

 

「じゃあ、試しに言ってみる?」

 

和樹の提案に皆は頷いて詠唱の言葉を言ったその直後。

皆の姿をデフォルメとした召喚獣が現れた。

 

「わっ、でてきた!」

 

「あら、イッセーのように尻尾は生えていないわ。悪魔の翼が生えているけど」

 

「・・・・・でも、飛べません」

 

「あらあらうふふ、見かけのようですわ」

 

武器を持っている召喚獣たち。和樹は杖で、カリンは軍杖、龍牙は大剣に清楚は方天画戟。

でも悪魔のリアス・グレモリーたちは武器を持っていないけど・・・・・どういうことだ?

いや、木場と椿姫は剣と長刀が持っていたか。

 

「悪魔の私たちは武器を持っていないですね」

 

「もしかしたら魔力で放つタイプかもしれません」

 

「所謂魔法使いってやつなのかしら?」

 

疑問を浮かべた面々は俺に視線を向けてくる。

 

『どうやって操作すればいい?』

 

―――数分後。

 

「覚悟、龍牙!」

 

「負けませんよ!」

 

「リアス、覚悟してください!」

 

「負けないわよソーナ!」

 

「和樹!いい加減に私の名前の語尾にちゃん付けをやめろ!」

 

「じゃあ、僕に勝ったら考えてあげるよ。―――一秒だけ」

 

ある程度の操作を教えると、フィールド内で皆は一対一で戦うことになった。

同じ大剣使い同士の龍牙と戦うことになった俺は横薙ぎで振るえば、

龍牙はステップでかわし、振るった瞬間を狙ってくる。大剣の切っ先を連続で突きつけられ

大剣の腹で何とかガードする。

 

龍牙の剣は下がった瞬間に後方へ下がり体勢を整えて再び飛び掛かる。

それを事前に分かっていたのか後方に飛び下がって、飛び掛かった俺は身体を捻らせて

駒のように前へ進みこむ。そんな俺に龍牙は横へかわして逃れた瞬間、

大剣を龍牙に投げ放った。

 

「なっ!?」

 

武器を投げ捨てるなんて有り得ないと、思いもしなかっただろう。

投げ放った武器を弾いた龍牙へ既に駈け出していた俺は拳を突き伸ばした。

 

「んのぉっ!」

 

上段からの斬撃、その刃を両手を合わせて龍牙の一撃を薄皮一枚ギリギリで止めた。

 

「龍牙、一つ忘れているぞ」

 

「なにがですか?」

 

「俺の身体は何も四肢だけじゃないってことだ」

 

尾を動かす。尾は龍牙の足を絡めとり―――。

 

「あっ!?」

 

引っ張って体勢を崩して、龍牙の首に尾を突きつけた。

 

「チェックメイト」

 

「・・・・・負けました」

 

勝利!

 

「まさか、尻尾も動かせれるとは思いませんでしたよ」

 

「尾も身体の一部だ。もしかしたらできるんじゃないかって思ったけど案の定できた」

 

「しかも、召喚獣を動かす集中力・・・・・精神力が結構使いますね。

思考が混乱してしまうと操作に支障があります」

 

「やっぱりそうか。初めて操作した俺もそうだったからな」

 

龍牙と共に一息。和樹たちも少しして模擬戦を終えた。

 

「このゲームは楽しいけれど、操作するのにちょっと苦労するわね」

 

「これは慣れないとスムーズに動かせません」

 

「カ、カリンちゃんに負けた・・・・・」

 

「正義は勝つ!当然だろう?というかちゃん付けするな!」

 

いや、このゲームに正義が拘わらないと思うんだが?

 

「しかし、残念だわ」

 

リアス・グレモリー?

 

「このシステムが実施された頃には私たちが卒業している時かもしれないじゃない」

 

「あー、そう言うことか・・・・・ニヤリ」

 

「そのあからさまに口の端を吊り上げるのを止めてくれないかしら?

一瞬、ほんの一瞬だけ滅びの力をぶつけたくなっちゃったから」

 

「全て無効化してやるよ。俺に一撃を与えたら一つだけ何でも聞いてやるよ」

 

そう言って召喚獣を構えさせると、リアス・グレモリーの召喚獣が動き出す。

 

「その言葉、忘れないでよね!」

 

「ふははは!すまん、一秒で忘れそうだ!」

 

「こんのぉっ!」

 

その後、愉快に召喚獣同士で激しい戦闘を繰り広げたのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。