転生者達の地球連邦奮闘記 (宇宙戦争)
しおりを挟む

奮闘の始まり

◇西暦2199年 9月7日 国連宇宙軍 参謀本部

 

 国連宇宙軍参謀本部。

 

 それは国連宇宙軍の作戦、指揮統括等を請け負う部署である。

 

 今、その一室では地球の運命を決めるとある話し合いが起こっていた。

 

 

「で、ヤマト計画は無事に進行しているんだろうな?」

 

 

 男の一人が問う。

 

 彼の名前は神川。

 

 この会合の長であり、統括者でもある。

 

 

「はい、我々が居ることで“原作よりイズモ計画派が少ないこともあり、ヤマト計画は原作より3週間早く進行“・・・つまり、1週間後には発動できるでしょう」

 

 

 神川の言葉に、一人の男がそう答える。

 

 そう、この会話から分かるように、彼らは“原作宇宙戦艦ヤマト”を知る転生者だった。

 

 この世界に転生した彼らは原作よりも地球を良い方向に導こうと奮闘していたのだ。

 

 原作では10月8日(旧作版)にヤマト計画が開始されたのが、この世界では3週間も早まっているのは、彼らの功績である。

 

 しかし、懸念材料もあった。

 

 

「しかし、表立ってはイズモ計画派は弱体化していますが、それが却って不気味ですね。下手したら、クーデターでも起こす気かもしれません」

 

 

「まあ、原作でもヤマト内部でクーデターを起こしたからな。この世界では我々が万が一の事態が起こらないように、事前にイズモ計画派を強引にヤマト乗組から外したから、向こうも相当追い詰められているんじゃないか?」

 

 

「・・・追い詰め過ぎたか」

 

 

 神川は苦虫を噛み締めたような顔をする。

 

 そう、原作ではヤマト計画と対になるイズモ計画。

 

 その全容は分かりやすく言えば、旧作ヤマトⅢの移民計画に近く、ヤマト計画の実現性の上昇に伴い、破棄された計画である。

 

 この世界では更にヤマト計画派に転生者達が加わっている事もあり、その勢力は原作よりもかなり小さい。

 

 が、小さくとも全く政治に影響力が無いわけではない。

 

 現に、未だにイズモ計画を唱えている者も少なからず居るのだから。

 

 しかし、逆に言えばイズモ計画派は原作よりも追い詰められているとも言える為、2、26事件や第二次世界大戦のドイツみたく、過激な行動を起こす可能性があった。

 

 転生者達は現在、それを極度に恐れていた。

 

 まあ、原作でもヤマト内部でクーデターを起こしているので、この懸念も当然と言えば当然なのだが。

 

 

「まあ、この辺りはどうにか公安部や秘密組織を駆使して情報を集めるしかありませんね。・・・しかし、この世界は複雑ですね。旧版とリメイク版がごちゃ混ぜになってる」

 

 

「ああ、このせいでなかなか動きにくかったからな」

 

 

 そう、この世界は宇宙戦艦ヤマトの旧版とリメイク版がごちゃ混ぜになっている世界なのだ。

 

 例を上げると、旧作では旧防衛軍(暗黒星団帝国の逆襲より)と呼ばれていた組織がこの世界ではリメイク版と同じ国連宇宙軍と言われていたり。

 

 旧作では影も形もなかった2180年代の第二次内惑星戦争がこの世界で起こっていたり、リメイク版では2141年の生まれだった沖田艦長が、この世界では旧作と同じ2147年になっていたりしたのだ。 

 

 しまいには、リメイク版では1月17日に起きた冥王星会戦がこの世界では旧作と同じ8月21日に起きている。

 

 この微妙な違いのせいで、転生者達はどちらか分からず、苦悩することになったのはよく覚えていた。

 

 

「こうなると、後の彗星帝国も問題だな。どちらの年に接触、決戦になるか分からない」

 

 

 出席者の一人が懸念を示すが、それも当然だった。

 

 彗星帝国との接触が旧作では2201年で、リメイク版では2199年だった。

 

 そして、決戦の年は旧作では2201年、リメイク版では2202年である。

 

 しかし、この世界の前例から、もしかすればそれがごちゃ混ぜになる可能性がある。

 

 例を言うと、接触がリメイク版と同じで、決戦が旧作と同じ、といった感じにだ。

 

 

「まあ、それは旧作を基準にして、動くしかないだろう。あっちの方がきついからな」

 

 

 神川は苦笑する。

 

 確かにリメイク版もかなり綱渡りではあったが、旧作はそれよりもかなりきついのだ。

 

 なんせ、1年ごと(2203年に至ってはボラーとディンギルの2つ)に強大な敵がやって来るのだから。

 

 その為、原作では地球防衛軍は復活する度に撃滅されたりしている。

 

 

「ともあれ、まずは原作の第一段階であるガミラス戦を乗り切る事が重要だ。それさえ乗りきれば、俺達にも挽回のチャンスは巡ってくるだろう」

 

 

 こうして、1週間後、ヤマトは無事発進することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が、彼らは知らない。

 

 後年、彼らが予想すらしていなかった新たな勢力が介入してくることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇2201年 地球防衛軍 参謀本部

 

 ヤマトが帰還してから約1年。

 

 原作通り、地球は復興を始め、転生者達が備蓄していた物資もあり、復興は原作よりも迅速だった。

 

 そんな中、地球では軍を始めとした政府組織の組織改編が行われ、国連は地球連邦政府へと変わり、国連軍は地球防衛軍へと変わった。

 

 そして、現在、その参謀本部では次に来襲するであろう彗星帝国に対応する為の会議が転生者達の間で開かれていた。

 

 

「いよいよ、今年か来年には彗星帝国戦ですが、問題は防衛軍の危機管理の無さと、相手の物量ですね」

 

 

 男の一人はそう言って問題点を指摘する。

 

 旧作にしろ、リメイク版にしろ、地球と彗星帝国の物量はかなり引き離されている。

 

 更にこの世界ではリメイク版のような次元断層などというチートな代物がない。

 

 故に、物量が余計に揃わないのだ。

 

 まあ、そうでなくとも、現在の防衛軍ははっきり言って、危機管理が足りているとは思えない。

 

 一応、ガミラスが“半ば残っている”だけあり、原作よりは危機感は有るが、それですら彗星帝国を相手にするには足りない。

 

 

「防衛マニュアルすらろくに有りませんからね。一応、この前の会議で土星決戦構想を提出しましたが、あれではろくな議論を行うとは思えません」

 

 

「あとガミラスとの同盟が無いのも痛いな。一応、“星の方舟”は有ったみたいだから、関係改善の兆しは有るが・・・」

 

 

 ガミラスとの戦いは、ガミラス本星の“半壊”という転生者が予想していなかった方向で終わった。

 

 なので、てっきり旧作みたく壊滅するか、リメイク版みたく一部の建物が壊れる程度で済むと思っていた転生者達は泡を食う形になったのは記憶に新しい。

 

 だが、本星が半壊し、民間人にも多数の死傷者を出した為に、リメイク版であったガミラスとの同盟は不可能だ。

 

 一応、星の方舟騒動でのバーガー艦隊との共闘があった為、関係改善の兆しは有るものの、彗星帝国戦に関しては旧作通り、地球単独で対応せざるを得ないものと転生者は考えていた。

 

 ボラー連邦と接触して手を組むという案も有るにはあったが、彗星帝国、暗黒星団帝国よりは多少穏健とはいえ、やはりリスクが高すぎると判断し、中止となっていた。

 

 

「あとはあれだな。スターシャ女王がリメイク版の方だったのも痛いな。これでもし暗黒星団帝国戦が有れば、面倒な事になるかもしれない」

 

 

「まあ、ユリーシャ王女が居る時点でそれは予想済みだったんだ。仕方ないだろう。あとは古代守に期待するしかない」

 

 

 そう、旧作で生存していて、リメイク版では死んでしまった古代守はこの世界では旧作通り生きていた。

 

 そして、やはりこれも原作通りと言うべきか、スターシャ女王と駆け落ちしてしまったので、今後の地球とイスカンダルの友好に非常に役立つものと予測されていた。

 

 が、転生者の言う通り、スターシャがリメイク版の方だったのは問題だった。

 

 何が問題かと言えば、一言で言えばそれは波動砲の使用問題だ。

 

 旧作では全く口出ししなかった波動砲であるが、リメイク版ではかなり煩く言っていたので、地球とイスカンダルの間には僅かな溝が出来てしまっていたのだ。

 

 まあ、それはこれから大きくなるだろうが。

 

 しかし、暗黒星団帝国戦を考慮するとこれは大問題になる。

 

 一応、ガミラスがなんとか残っているので、原作とは違い撃退されるかもしれないが、万が一ガミラスが敗れて、ガミラシウムやイスカンダリウムが採掘されてしまうと、波動融合反応についての問題が解決してしまい、地球のエネルギー兵器の優位が揺らぐ可能性があった。

 

 そして、もう1つの問題は、そうなった場合、原作通りにイスカンダル救援に行けないという点だ。

 

 何故なら、ガミラス、イスカンダルのどちらの星にも大なり小なり溝が出来てしまっているからだ。

 

 要するに、救援の口実が付けづらいのだ。

 

 

「問題は山積みだな。だが、最大の問題は・・・」

 

 

 そこで全員が声を揃えて言う。

 

 

「「「「「なんで、ヤマト内部でも原作崩壊が起こっているんだ!?」」」」」

 

 

 そんな絶叫にも近い現状だった。

 

 そう、原作の根幹である宇宙戦艦ヤマト。

 

 地球防衛軍では既に原作崩壊が起こっていたが、それはヤマト内部でも同じだったのだ。

 

 基本的にリメイク版の人物がヤマトに乗り込んでいた(と言うより、ほぼ全て。違いは旧作の山本明とリメイク版の山本玲が別人としてヤマトパイロットになったくらい)が、なんと原作ヒロインの森雪がガミラス戦役で戦死してしまったのだ。

 

 これには流石の転生者達も泡を吹かんばかりに驚いた。

 

 そして、こうなると、原作補正でヤマトに全面的に頼るのは、やはり危ういと考え始めていた。

 

 なんせ、既に原作崩壊が起きているのだから。

 

 

「兎に角、防衛マニュアルの作成及び、艦の建造、それと無人艦隊の造成を急がせよう」

 

 

 神川はそう言うと、まとめにかかる。

 

 この時、転生者達はガミラスの脅威を出して、宇宙戦艦の建造や無人艦隊の造成などを急がせていた。

 

 その結果、前者は地球に原作よりも余裕が有ることもあり、旧作より潤沢な戦力が整えられそうだし、後者もほぼ8割のシステムが完成している状態となっていた。

 

 しかし、後者は原作の暗黒星団帝国戦みたく、あっさりと殺られてしまう可能性もあったが、それは暗黒星団帝国艦隊の奇襲とコントロールセンター占拠があったからであり、ゲーム版のプレイで活躍することからも分かる通り、正面戦力としてなら、それなりに強力な戦力なのだ。

 

 故に、転生者達はこの無人艦隊を戦力に入れる事を目論んでいた。

 

 

「だが、その前にテレザート星の調査をヤマトに行わせよう。今度は独断ではなく、命令という形でね」

 

 

 かくして、転生者達の方針は決定した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

この物語でのリリカルなのははForse直後。つまり、新暦81年という設定です。ちなみに高町なのははこの時点で24~25歳です。ちなみに古代や島の年齢はリメイク版を参考にしており、2201年の時点で22~23歳となっています。流石に旧作の年齢は無理が有りすぎるので。


新暦81年 

 

 時空監理局。

 

 それは文字通り、様々な世界を管理している組織であり、魔法という変わった代物を主力兵器に置いた警察組織でもある。

 

 そんな時空監理局の海。

 

 本局にある次元航行部隊の総本部では、新たな世界が発見され、その調査の為に調査艦隊が出発しようとしていた。

 

 

「司令、全艦発進準備完了しました」

 

 

 まだ少年の面影が抜けきれていない一人のオペレーターが、この第50調査部隊の司令ハミルトンに報告する。

 

 

「ご苦労。では、出発しよう」

 

 

 ハミルトンはそう言って、調査部隊を発進させるよう命令する。

 

 今回の調査では少々旧式ではあるが、XV級次元航行艦船4隻で編成されている。

 

 戦闘に行くのならば、全然足りない数字だが、今回は調査目的だし、そもそも時空管理局が今まで担当した事件で、自分達を上回る宇宙船を保有している組織が居なかったので、これで十分だと判断されていたのだ。

 

 

「出港!」

 

 

 こうして、第50調査部隊は新たに発見されたという世界に向けて発進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、彼らは知らなかった。

 

 そこが彼らを上回る力を持つ諸勢力が、戦国時代さながらに争い合っていることを。

 

 ・・・そして、そこから来る自分達の運命を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇2201年 地球連邦 参謀本部

 

 彗星帝国の金星基地襲撃。

 

 原作でも起こった展開ではあるが、この事件により、防衛軍は大騒ぎとなっていた。

 

 が、転生者達が事前に打ったエネルギー施設分散構想により、どうにか地球の全エネルギーが停止するなどという事はなくなり、若干だが落ち着きを取り戻していた。

 

 だが、転生者達の動きはこれで終わらない。

 

 転生者達(の上層部)はこれを『ガミラスの襲撃』だと主張(本当は彗星帝国であると知っているが、分かりやすく脅威を煽る為にそう説明した)し、太陽系の哨戒網を強化する事を主張したのだ。

 

 更に、例の通信を会議の場に上げ、情報収集の為にヤマトや数隻の艦隊を偵察に向かわせる事も提案した。 

 

 これは藤堂長官の後押しもあり、承認されたが、転生者達はこれで満足せず、次の手を打つために会議を行っていた。

 

 

「まずは一段落だが、問題は十一番惑星基地だ。もうすぐ向こうは来襲してくるだろうが、どうする?」

 

 

「コスモタイガーを配備するしかないだろう?流石に艦船の配備は無理があるし、状況によっては奇襲で失いかねない。なに、今度の攻撃で我々以外の連中も少しは目覚めるだろうさ」

 

 

「そうだな。哨戒網強化のついでという形で増強すれば、誰も文句は言わないだろう。が、問題はその彗星帝国自身だな」

 

 

 その言葉に、出席者達は頷いた。

 

 ちなみにここで言う問題とは、先の会議で話し合われた彗星帝国の物量についての問題ではない。

 

 いや、それもあるが、最大の問題は彗星帝国が“リメイク版の彗星帝国”であるという点である。

 

 

「あの星の方舟が起こっているからだいたい想像はついていたが・・・あの彗星帝国は旧作とは打って変わってのキチガイ連中だからな。相手にするとなるとかなり骨が折れるぞ」

 

 

「更に体内に自爆装置が仕掛けてあるから、敵兵士への近接戦闘や調査は自殺行為。ほんと、何をどうすりゃ良いんだ?」

 

 

「しかし、この彗星帝国の物量だと、今の状態はかなり不味いのでは?」

 

 

「「「・・・」」」

 

 

 その言葉に、一同は沈黙せざるを得なかった。

 

 そう、リメイク版の彗星帝国と言えば、地球に次元断層というチートが有ってもなお、優位に立てる物量を有していた。

 

 更に彗星帝国本体そのものもかなり強固であり、ガミラスの協力が無ければ、原作で負けていたのは地球だっただろう。

 

 

「彗星帝国本体が旧作であれば、手はあるんですがね」

 

 

「それとついでにテレザートが旧作であってくれると助かるな。あれなら、“あの手”が使える」

 

 

「しかし、“あの手”はよっぽど条件が揃わないと不可能ですよ。一応、準備はさせていますが」

 

 

「そうだな。だが、こちらは生き残る為にも、なんとしても彗星帝国を撃滅しなくてはならん」

 

 

 神川はそう言いつつも、内心ではかなり焦っていた。

 

 なんせ、兵器関係においては、転生者達のてこ入れにより、波動爆雷や波動カートリッジ弾、波動ミサイルの実用化など、通常兵器は数年先を行っている。

 

 波動砲においても、拡散波動砲を始め、拡大波動砲がもう少しで実用、更に一点突破の威力を重視した旧来の収束波動砲についても性能の向上が進められている。

 

 だが、これをもってしても、なお安心できないまでの物量が向こうには有るのだ。

 

 

「それでだが──」

 

 

「失礼します!!」

 

 

 神川が続きを話そうとした時、一人の男が報告書を携えて入ってくる。

 

 

「どうした?」

 

 

「緊急事態です!!冥王星基地が正体不明の艦隊と接触しました!!」 

 

 

「なに?」

 

 

 その報告に転生者達は顔を見合わせる。

 

 

「彗星帝国か?」

 

 

「いや、それにしては可笑しい。連中ならいきなり攻撃してくる筈だ」

 

 

「では、ディンギルとかボラーの勢力か?随分と早い接触だが」

 

 

「いや、諸君。報告を取り敢えず最後まで聞こう。で、何処の勢力なんだ?」

 

 

「そ、それが・・・」

 

 

「なんだ?」

 

 

「相手は時空管理局、と名乗ったそうです」

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇冥王星基地

 

 その頃、冥王星基地はかなり大騒ぎになっていた。

 

 当たり前だろう。

 

 つい先程まで何もなかった空間からいきなり艦隊が現れたのだから。

 

 最初はガミラスの次元潜行挺かと思われたが、相手からの通信でそれは覆された。

 

 

「時空管理局だと?」

 

 

 冥王星司令は聞き覚えのない名前に首を傾げつつも、本国に通信を入れつつ、取り敢えず話を聞くことにした。

 

 が、話し合いにはならなかった。

 

 何故なら──

 

 

「その星には我々の求めるロストロギアが有る。それは我々が管理しなければならない物でね。出来れば、早めに接収したいのだ」

 

 

 言い方は丁寧なものの、一方的な要求であったからだ。

 

 その後、本星に伝えると相手に言う形で一旦通信を終えた。

 

 

「ふぅ。なんなんだ、あいつらは?いきなり来て冥王星にある物を寄越せとは」

 

 

 司令は向こうの言い分を不快に思っていた。

 

 当たり前だろう。

 

 ろくな話し合いもせずに、いきなり物を寄越せと言われて不快に思わないわけが無いのだから。

 

 ましてや、ついこの前まで戦争をしていた者達からすれば尚更だった。

 

 

「司令、第一艦隊は既に発進準備が完了しましたが、どうなされますか?」

 

 

「そうだな・・・取り敢えず、待機だ。ただし、ゲートは開いて、砲門は向こうに向けておけ。何時でも応戦できるようにな」

 

 

「了解」

 

 

 かくして、地球は時空管理局の存在を知ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇数日後 地球連邦 参謀本部

 

 

「で、戦闘になったという訳か」

 

 

 神川は苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

 数日前現れた時空管理局という組織。

 

 ガミラス戦役の反省から、外交官が交渉に向かったものの、交渉はのっけから躓いた。

 

 何故なら──

 

 

『あなた方は宇宙船を有している。なら、私達の管理下に入るべきだ』

 

 

 向こうが言ってきたのを要約すればこんな感じだからである。

 

 当たり前だが、この傲慢とも言える要求を外交官は拒否した。

 

 そうしたらなんと、向こうの船が冥王星基地に対して、砲撃をしてきたのだ。

 

 その後、第一艦隊が応戦したことにより、結果的には勝利を得て、時空管理局の艦隊は敗走した。

 

 

「冥王星基地の損害は?」

 

 

「壊滅とは言わないまでも、多少の被害は出ていますね。他にも駆逐艦1隻が大破、2隻が中破しています」

 

 

「それでこちらが挙げた戦果は?」

 

 

「XV級次元航行艦船3隻撃沈。1隻が大破した後、消えたとの事です」

 

 

「ふーむ」

 

 

 神川は唸る。

 

 何処に消えたか、だいたいの想像がついてしまったからだ。

 

 

「そもそも、なんで時空管理局なんか出てくるんだよ?あれって、完全に別作品だろ?」

 

 

「そんな事言っても、現れちまったものは仕方ないだろう。それで、どうする?向こうは原作のあの独善的な組織構造だ。逃した以上、このまま黙っているとは思えないが、正直言って彗星帝国と争おうとしている時に時空管理局の相手なんてしていられる余裕はないぞ?」

 

 

 その通りだ。

 

 この襲撃は転生者以外の防衛軍上層部に危機感を取り戻させる事に成功したが、正直、彗星帝国と相手をしている間に、時空管理局の相手などしてられないのだ。

 

 

「それだけじゃないぞ、太陽系内部が攻撃されたという事で、ヤマトなどの調査艦隊を一旦太陽系内の防衛に組み込もうという動きもある」

 

 

「不味いな。ちっ、あいつら、とんでもないタイミングで来てくれたな」

 

 

 転生者の一人が舌打ちするが、無理もないだろう。

 

 原作(旧作)よりも不利な状況で、彗星帝国戦に挑まなければならない羽目になっているのだから。

 

 

「兎に角、こうなった以上、どうにかするしかない。各自は外交、軍事なんでもいい。この状況を切り抜けられる手段を考えてきてくれ。勿論、俺も考えよう。では、今日の会議を終了する」

 

 

 こうして、原作よりも不利な情勢下で、転生者達は地球を守る為に奮闘しようとしていた。




ちなみにこの世界の地球は約60億人余り(ガミラス戦前は人口200億人以上)という設定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

西暦2201年 第十一番惑星軌道上

 

 

「これが・・・地球防衛軍の真の強さか」

 

 

 男──ナスカがそう言った直後、地球防衛軍の艦艇から放たれた攻撃が自身の乗艦する艦に命中し、本人共々光の塵へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時空管理局来襲後、地球防衛軍は厳戒体制に入っていた。

 

 具体的には哨戒網を以前の倍以上の分厚さにし、テレザート星の調査に向かわせる予定だったヤマトとその艦隊まで動員して太陽系内を巡回させた。

 

 そして、地球防衛軍がその厳重な哨戒網をしていたところに、丁度ナスカ率いる十一番惑星攻略部隊が進撃してきたのだ。

 

 結果、殺到した防衛艦隊によって、ナスカ艦隊はほぼ一方的ななぶり殺しに遭い、全滅してしまったのである。

 

 そして、暫く経ち、太陽系外周に居るパトロール艦隊や哨戒機から地球にガトランティスの大艦隊が接近しているとの情報を受け、防衛軍司令部では転生者達が造ったマニュアル通り、土星決戦を行う為に、土星のタイタン基地や予備戦力の基地として、木星のガニメデ基地に戦力が集中しようとしていた。

 

 ちなみに木星のガニメデ基地に予備戦力を設けたのは、原作のように彗星都市がいきなり土星周辺に転移して全ての戦力が1度に失われるのを避けた為である。

 

 土方長官はそれを不満に思ったが、転生者がどうにか説得して納得して貰った。

 

 そんな中、再び転生者達は集まって会議を開いていた。

 

 

「諸君、いよいよ土星決戦だが、ここで朗報がある。ガトランティス艦隊の規模は(旧作)程度であると判明した」

 

 

 神川のその言葉に、転生者達は安堵の息を吐いた。

 

 正直、ガトランティスがリメイク版の規模であったなら、現在の防衛軍の規模では詰んでたところであったからだ。

 

 

「だが、安心するのはまだ早い。原作のシリウス、プロキオン艦隊に加えて、原作ではテレザート周辺でヤマトに撃破されたゴーランドのミサイル艦隊やデスラー艦隊も健在だ。ついでにザバイバル率いる地上軍団も」

 

 

「あと火炎直撃砲搭載艦も本来の旧作より多いそうです。まあ、方舟の件で既に1隻出てきていたので、量産艦が居ることは予想されていましたが」

 

 

「だが、対策は既に練っている。そうだろう?」

 

 

「ええ、まったく。しかし──」

 

 

 そこで転生者達は沈黙する。

 

 それは彗星都市本体が旧作なのか、リメイク版なのかが分からなかったからだ。

 

 そして、もし後者ならば、艦隊を撃滅したとしても原作のようなガミラスの次元潜行艇が無い以上、間違いなく詰んでしまうだろう。

 

 

「ま、まあ、そこら辺は兎も角として、あれから時空管理局はどうなってあるんだろうな?まさか、自分達の艦船を殺られて黙っているとは思えないが・・・」

 

 

 そう、時空管理局はリリカルなのはの世界では主人公の所属する正義の組織として名が通っていたが、黒いところも微妙に垣間見えていたし、そもそもあの独善的とも言える組織構造と思考から、こちらの対応に黙っていられるとは思えなかったのだ。

 

 

「もしかして、あの大破した船が向こうに着いていない、とかですかね?」

 

 

「さあ、な。まあ、また冥王星に来るにしても、冥王星基地は既に放棄されているし、もうすぐガトランティスもやって来るから暖簾に腕押しだと思うけどね」

 

 

 地球防衛軍は既に土星以降の外惑星基地、つまり、第十一番惑星基地、冥王星基地、海王星トリトン基地、天王星チタニア基地を既に放棄していた。

 

 放棄していないのは、それより内側に存在する木星のイウ、エウロパ、カリスト、ガニメデ基地、火星基地、月面基地、地球本星基地、水星基地、金星基地だけである。

 

 当然、放棄された基地に存在していた軍事資料は既に処分されている。

 

 なので、仮にあの星を時空管理局が占拠したとしても、後で取り返せば良いのだ。

 

 

「しかし、現在戦力が集中しようとしている土星にやってこられると面倒な事になりますな」

 

 

「まったくです。艦隊を停泊させている間にアルカンシェルを放り込まれたらかないません。まあ、そうならないように駆逐艦や哨戒機は常に土星や木星宙域を警戒させていますが、それでも次元を航行できる事を考えれば適切とは言えないでしょう」

 

 

「まあ、幸いなのが、向こうの艦艇がこちらに比べて劣る事ですね」

 

 

 既に先の交戦からXV級では、攻撃力はアルカンシェルを除けば、こちらの駆逐艦と同じか、そのちょい上くらいだと判明している。

 

 そのアルカンシェルにしても、波動砲には及ばないのだ。

 

 おまけに発射までにタイムラグが存在する。

 

 なので、時空管理局は小賢しいが、致命的な脅威にはならないと転生者の間では判断していた。

 

 が──

 

 

「物量が問題ですよ。原作ではあまり描写はされていませんが、数十という数の世界を管理しているんです。少なくとも数百隻の艦船、下手をすれば千隻を越える艦艇を持っているでしょう」

 

 

 そう、問題はガトランティスの問題と同じくその物量だった。

 

 なんせ、あれだけの世界を管理しているのだ。

 

 戦闘艦の数は多いであろうという事は、容易に予想できることだ。

 

 ガトランティスと一緒に攻めてこられたら、ただでさえ低い勝率が更に下がってしまうだろう。

 

 

「しかし、ガトランティスの性格はリメイク版のあれだ。まともに時空管理局と組むとは思えん」

 

 

 転生者の一人が否定する意見を言う。

 

 前述した通り、ガトランティスはリメイク版のそれであり、完全なキチガイ人間達なのだ。

 

 転生者達からしてみれば、時空管理局が組もうとしても、逆に殲滅される未来しか見えなかった。

 

 

「・・・そうですね。すいません。少しばかり怖じ気づいていたようです」

 

 

「いや、相手があれだからな仕方ないさ。それより土星決戦だが、基本的には土方長官に任せるとして、彗星都市への対応は諸君が提案した“あれ”で良いな?」

 

 

「「「異議無し!!」」」

 

 

 かくして、転生者達の方針は決定された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇新暦81年 ミッドチルダ 首都クラナガン 本局 大会議場 

 

 さて、地球が彗星帝国との決戦を迎えようとしていた頃、件の時空管理局はどうしていたか?

 

 一言で言えば、大混乱だった。

 

 第一艦隊によって撃退された第50調査部隊であったが、どうにか1隻が帰り着き、状況を報告することができた。

 

 しかし、その報告は管理局に激震をさせるのに十分なものだった。

 

 

「地球連邦だと!?」

 

 

 時空管理局上層部はその名前を聞き、第97管理外世界の事を思い出す。

 

 しかし、あの世界には宇宙船を建造できる技術力は無かった事をすぐに思い出し、同名の別世界だろうと思い直した。

 

 まあ、その考えは強ち間違いでもなかったかもしれないが、問題はこれからどうするかだった。

 

 いや、取るべき手は既に決定している。

 

 報復だ。

 

 

「あれだけの質量兵器を持つ輩は危険だ!!」

 

 

「その通り。管理世界として認定するべきだ!!」

 

 

 そんな声が管理局の上層部、特に“海”から上げられていた。

 

 更に“空”の魔導至上主義者や管理世界拡大派、更に他の勢力に比べれば少ないが、“陸”の一部でもそんな声が上げられたのだ。

 

 相手の情報がない事もあり、評議会もそれに反対することができず、報復措置を追認するしかなかった。

 

 こうして、XV級十数隻の艦隊が太陽系、それも先に交戦した冥王星に派遣されたのだが、そこは既にもぬけの空だった。

 

 当然だろう。

 

 そこに駐屯していた基地要員や第一艦隊は、前者は撤退、後者は既に決戦の為に土星や木星に集結しようとしていたのだから。

 

 空振りに終わってしまった時空管理局の報復であったが、数日遅れでやって来たガトランティス艦隊と遭遇してしまった。

 

 そして、接触が行われたが、このガトランティスは転生者が知っていた情報通り、キチガイな人間の集まりだった。

 

 まあ、そうでなくとも時空管理局の方も一方的に武装解除を行うように言ったので、話し合いになるわけがなく、一方的な攻撃が行われ、報復のための艦隊は壊滅してしまったのだ。

 

 それにより、時空管理局は大混乱となり、カオスと化した会議が行われる事となっていた。

 

 

「兎に角、もう一度、彼の世界に艦隊を派遣させるべきだ!!」

 

 

「いや、XV級が10隻以上派遣させてもあっさり殺られたんだ!!もう少し、慎重に行くべきだ!!」

 

 

「なんだと、腰抜けが!!」

 

 

 そんなやり取りが強硬派と慎重派の間で繰り出され、会議は延々として進まなかった。

 

 そんな光景を見ていた“海”の長、リンディ=ハラオウンは、そのやり取りを見ながらこう思う。

 

 

(強硬派が多いわね)

 

 

 そう、端から見ると、強硬派と慎重派が言い合っているように見えるが、強硬派の方が圧倒的に多いのだ。

 

 ざっと8・2といった割合だろう。

 

 いや、残った2の慎重派でさえ、彼の世界の探索中止を言わない辺り、強硬派の考えに近いと言える。

 

 

(不味いわね。どうしてこうなってしまったのかしら)

 

 

 彼女は“海”の配属されてから、結構長い。

 

 故に、その仕事の過程で何処が引き際かという事もきちんと弁えていた。

 

 しかし、今回、どうしても自分の配下である“海”の高官達は慎重派も含めてその引き際を弁えているようには見えなかったのだ。

 

 彼女には、何故そうなっているのか分からなかった。

 

 が、それを地球の人間達、特に転生者が聞いたら、呆れながらこう言うだろう。

 

 『今まで自分達より強い敵が居なかったので、調子に乗っていたところを鼻っ柱をへし折られたので、過剰な反応を起こしているだけ』と。

 

 要するに、甘やかされた人間がヒステリックを起こしているだけという事だ。

 

 だが、彼女はその事に気づいていなかった。

 

 何故かと言えば、それは簡単だ。

 

 彼女でさえ、仕事の事で自分が不利になるという状況は殆ど経験したことが無いからだ。

 

 部下達が自分が経験したことの無い失敗を起こしている以上、彼女には違和感に気づけても、その根幹に気づける筈が無かったのだ。

 

 そして、それが後々、大変な事になっていく事を彼女は知らなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

◇西暦2201年 土星 ヒペリオン宙域 

 

 

「ヤマトより無電。『ワレ、奇襲ニ成功セリ』」   

 

 

「「「オオオ!!」」」

 

 

 その報告にヒペリオン艦隊旗艦、『琉球』の艦内では歓声が上がった。

 

 原作通り、ヤマト率いる空母部隊は奇襲に成功し、無事に敵空母部隊を全滅させたという報告が入ったからだ。

 

 そして、その報告を受け、艦内の人間とは逆に、気合いを入れ直す者が居た。

 

 

(よし、ここからは俺の出番だ。なんとしても、死亡フラグを回避してやる!!)

 

 

 それは転生者であるヒペリオン艦隊司令だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男は燃えていた。

 

 原作では笑いが出そうになる程、呆気なく壊滅したヒペリオン艦隊。

 

 その艦隊司令に就任した時から、男は死亡フラグを全力で回避しようと必死だったのだ。

 

 その闘志に脅され、もとい、感激したのか、地球防衛軍上層部は男の希望するある艦種を最優先で揃えてくれていた。

 

 

(ふっふっふ。見ていろよ、ガトランティス帝国!!貴様らの好きにはさせんぞ!!)

 

 

 男は艦橋の職員が見たら、間違いなく引くであろう程の笑みを浮かべたまま、そう考えていた。

 

 そして、運命の命令が来る。

 

 

「司令、土方司令から出撃命令が来ました!」

 

 

「よし、全艦出撃。敵艦隊を撃滅する!」

 

 

 こうして、ヒペリオン艦隊は出撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ば、馬鹿な!!」

 

 

 ガトランティス帝国第1、第2艦隊及びゴーランド艦隊を主軸とする前衛艦隊は既に地球艦隊との交戦に入っていた。

 

 原作の因縁というべきか、接近したヒペリオン艦隊に対応したのはガトランティス帝国第2艦隊だったが、現在、ガトランティス帝国第2艦隊の司令は信じられないような目で現状を見ていた。

 

 

「たかが駆逐艦に!!」

 

 

 そう、自分達を苦戦させているのは、ヒペリオン艦隊に所属する“無人”駆逐艦だった。

 

 無人駆逐艦。

 

 それは有人艦には出来ないような機動や高速性を発揮し、敵を撹乱させる目的で造られた船である。

 

 今回は巡洋艦の一部を改装して、この無人駆逐艦の操作を行わせ、敵艦隊を攻撃させていたのだ。

 

 結果、当初、原作通り(この世界のガトランティスは勿論知らない)、衝撃砲でヒペリオン艦隊を葬ろうとした第2艦隊であったが、ヒペリオン艦隊が出してきたこの切り札があっという間に自分達の懐に飛び込んできてしまい、それを不可能にしていた。

 

 加えて──

 

 

「なんという威力のミサイルだ!」

 

 

 その無人駆逐艦隊が使うミサイルは一発か2発で戦艦クラスを大破させる程の威力があった。

 

 これは地球防衛軍が新たに開発した波動ミサイルだった。

 

 波動カートリッジ弾の亜種とも言える存在で、文字通り、内部に波動エネルギーを込めたミサイルである。

 

 このミサイルにより、第2艦隊は既にかなりの損害を受けていた。

 

 が、それでも第2艦隊はヒペリオン艦隊よりも数が多い上に、ヒペリオン艦隊の中でも第2艦隊と戦っているのは無人駆逐艦36隻のみである。

 

 つまり、多勢に無勢。

 

 既に22隻が撃沈され、残り14隻と数を大きく減らされていた。

 

 更にこの頃になると、第2艦隊は既に無人駆逐艦隊を包囲目前という状況であったので、あと数分で残り14隻も沈められるというところまで来ていた。

 

 だが、彼らは気づかなかった。

 

 自分達がいつの間にか誘導されていたことを。

 

 そして、それこそが命取りとなった。

 

 

「拡散波動砲発射!」

 

 

 かくして、ガトランティス帝国第2艦隊は無人駆逐艦共々、ヒペリオン艦隊の波動砲搭載艦から発射された拡散波動砲によって、呆気なく宇宙の塵と化したのである。

 

 ・・・原作が覆された瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、艦隊総司令のバルゼーは主力艦隊の半分(前衛艦隊の総数で言えば4割)が呆気なく消滅させられた事に暫し絶句したものの、我に帰った瞬間、溢れんばかりの怒りに包まれた。

 

 

「おのれぇ!!」

 

 

 そう言いながら、火炎直撃砲の発射準備をさせる傍ら、自身の艦隊の一部を割いてヒペリオン艦隊に迎撃に向かわせた。

 

 しかし、その前にヒペリオン艦隊は、あらかじめ予定されていた第2の攻勢に打って出ていた。

 

 

「ば、バルゼー提督!!我が艦隊の付近に敵小型艦がワープアウトしてきます」

 

 

「なに!?」

 

 

 それは波動砲を搭載せず、更には一部の巡洋艦のように無人駆逐艦を操作している訳でもなかったヒペリオン艦隊の駆逐艦(有人)及びパトロール艦であり、彼らは戦艦や巡洋艦が波動砲を発射したり、無人駆逐艦を操作したりしている間、ひたすらこの攻撃の為にワープ準備を行っていたのだ。

 

 そして、バルゼーの艦隊のすぐ近くに転移する事で、第1艦隊の撹乱を狙った攻撃を仕掛けていた。

 

 

「ワビルーダに(波動)ミサイル命中!!火炎直撃砲が使用不能!!」

 

 

「なんだと!?」

 

 

「アキルーダに敵の実弾砲撃(波動カートリッジ弾のこと)が命中!!同じく火炎直撃砲が使用不能となりました!!」

 

 

「くそっ、最初からこれが狙いだったか!!」

 

 

 そう、彼らの狙いは最初からこれだった。

 

 彼らは混戦へと持ち込み、どさくさに紛れて火炎直撃砲の砲口を破壊することを目論んでいたのだ。

 

 ヤマトから報告された星の方舟事件から、防衛軍はガトランティス帝国の火炎直撃砲を脅威に思っており(実際には転生者が必要以上に脅威を煽った)、もし同様の兵器を持つ敵が現れた時は弾道を分析するか、砲口を破壊するしかないと見られていた。

 

 そして、今回、ガトランティス帝国軍にその火炎直撃砲搭載艦が含まれている事を知り、その内の後者が実行されたのだ。

 

 

「おのれぇ!!」

 

 

 バルゼーは再び怒声を上げるが、今の状況はかなり不味かった。

 

 なんせ、火炎直撃砲搭載艦はガトランティス帝国にとっても貴重な船であり、前衛艦隊でさえ3隻しか配備されておらず、加えて、先程2隻の砲口が破壊されたので、火炎直撃砲が使用できるのはバルゼー自身が乗艦するメダルーザ1隻のみとなってしまったのである。

 

 

「バルゼー提督!前方から地球艦隊の本隊が!!」

 

 

「側面の艦隊からも、戦艦及び巡洋艦が前進してきます!!」

 

 

「敵本隊はゴーランドに足止めさせろ!!側面の艦隊は・・・」

 

 

 バルゼーは一瞬、どうするか悩んだ。

 

 既に火炎直撃砲搭載艦は1隻にまで減っている。

 

 前方の艦隊はゴーランドに足止めさせ、側面の艦隊も第1艦隊の一部を割いて対処している。

 

 だが、敵艦隊はバラバラの方角から来てのだ。

 

 これではどちらかしか相手が出来ない。

 

 そして、悩んだ末、バルゼーは決断した。

 

 

「先に敵本隊に火炎直撃砲を浴びせる!側面の艦隊は後回しだ!!」

 

 

 先に脅威度が高い敵本隊を片付ける事としたのだ。

 

 しかし、彼は気づかなかった。

 

 先程から、敵小型艦からの攻撃が止んでいることに。

 

 そして、現在進行形で起こっている爆発が味方艦の同士討ちか、敵艦の撃破かのどちらかになっているという異常な状態になっていたことに。

 

 そして──

 

 

「敵小型艦、反応消失!!ワープアウトしました!!」

 

 

「側面の敵艦隊より高エネルギー反応!!」

 

 

「おのれ──」

 

 

 そして、それがバルゼーの最期の言葉となった。

 

 かくして、第1艦隊は第2艦隊と同じく拡散波動砲の餌食となったのである。

 

 その後、前進したゴーランド艦隊も土方長官率いる本隊の拡散波動砲により、宇宙の塵と化し、前衛艦隊は完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ヒペリオン艦隊

 

 

「ふぅ、終わったな」

 

 

 ヒペリオン艦隊司令は前衛艦隊を壊滅させた事に一先ず安堵した。

 

 敵の第1、第2艦隊を撃破するために乱暴な手を取ったヒペリオン艦隊であったが、そのお蔭でどうにか無人駆逐艦の全てと敵の攻撃により、突入した小型艦の何隻かが失われるだけで済んでいた。

 

 そして、直前で小ワープさせたその小型艦隊の残存艦も無事であり、現在はヒペリオン艦隊本隊に合流している。

 

 

(だが、まだ敵は残っている。彗星都市という厄介極まりない代物がな)

 

 

 そう、白色彗星本体は未だに健在。

 

 原作を見れば、油断は出来なかった。

 

 加えて──

 

 

(まさかヤマトがあんなタイミングで襲撃を受けるとはな)

 

 

 そう、ヒペリオン艦隊の小型艦を敵艦隊周辺にワープアウトさせた直後、ヤマト率いる艦隊から『デスラー艦隊の襲撃を受けている!』という報告が入ったのだ。

 

 

(まあ、向こうはヤマトに任せるしかないとして、空母部隊は無事かな?)

 

 

 司令は若干冷や汗を流した。

 

 ヤマトは空母部隊のほぼ全てを引き連れて出撃した。

 

 なので、デスラー艦隊の巻き添えを喰っているとすれば、大損害を受けている可能性がかなり高かったのだ。

 

 

(まっ、今考えることじゃないか。取り敢えず、乗員に警戒配備を──)

 

 

「司令!我が艦隊より2万宇宙キロに巨大なワープアウト反応を感知しました!!」

 

 

 白色彗星本体は来た。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話

◇地球防衛軍 土方艦隊

 

 

「・・・」

 

 

 土方は目の前の光景を口には出さないが、内心で驚愕していた。

 

 突如転移してきた彗星都市に対して、艦隊は慌てて陣形を組み、波動砲を撃った。

 

 戦力が余った為、正面からではなく、彗星を半包囲する形で発射し、撃った後に現れたのが、この彗星都市だったのだ。

 

 

(拡散波動砲をあれだけ撃っても、ほぼ無傷か。これは・・・)

 

 

 どうするべきか?

 

 まあ、選択肢は2つしかない。

 

 1つは撤退。

 

 文字通りこの場から撤退して再起を図ること。

 

 まだ本隊を始め、主力艦隊は無傷であるし、木星のガニメデ基地には予備部隊も居る。

 

 それを考えれば、悪くない選択肢だろう。

 

 だが──

 

 

(それをすれば、タイタン基地は間違いなく陥落する)

 

 

 ガニメデ基地まで後退するという事は、当然の事ながらタイタン基地は放棄するという事でもあり、そこに駐留している基地要員達は間違いなく犠牲となるだろう。

 

 勿論、地球人類全てと比べれば、天秤にかけるまでもないが、後味が悪いのも確かである。

 

 そして、もう1つの選択肢。

 

 それはこのまま敵に向けて突撃することだ。

 

 自らの最大の攻撃を防がれ、敵の崩し方が全く分からない以上、攻めて情報を集めるというのも手だった。

 

 まあ、どちらにせよ、原作(勿論、土方は知らないが)と違い、エネルギーは殆ど消耗していないので、特攻という選択肢は土方の頭には無かったのだが。

 

 土方が暫しの間思い悩んでいると、通信士から報告が入った。

 

 

「防衛軍司令部より入電が入りました!」

 

 

「読め」

 

 

「はっ。『直ちにガニメデ基地まで撤退せよ』、であります」

 

 

「・・・」

 

 

 土方は眉をしかめる。

 

 本来、戦場に居ない防衛軍司令部がこのような現場の判断に介入するのは宜しくないと感じたからだ。

 

 だが、言っている事は理解できたし、宜しくないからと言って、それを敢えて虚ろにしようとするほど、土方は愚かでも馬鹿でもなかった。

 

 なんせ、自分は防衛艦隊の将兵の命を預かっているのだから。

 

 それに先程、判断に迷っていたのも事実であったので、これで腹は決まった。

 

 ・・・残されるタイタン基地の基地要員の事を思えば、心が痛んだが。

 

 

「・・・全艦反転。木星まで撤退する。タイタン基地には敵が攻め込んだら、『機密文書を処分して降伏しろ』とだけ伝えておいてくれ」

 

 

 こうして、土方艦隊は土星圏から撤退していった。

 

 そして、それを彗星都市は黙って見届けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ヒペリオン艦隊

 

 

「アンドロメダより通信。直ちに撤退せよとの事です」

 

 

「分かった。すぐに撤退してくれ」

 

 

「はっ。しかし、宜しかったのですか?」

 

 

「何がだ?」

 

 

「いえ、拡散波動砲モードを勝手に収束波動砲モードに変更して」

 

 

 そう、実はヒペリオン艦隊は彗星都市への攻撃の際、完成していた拡大波動砲を搭載していた本艦は、他の艦がやっていたような拡散波動砲ではなく、拡散波動砲モードになっていた拡大波動砲(拡散波動砲と収束波動砲を切り換えられる波動砲のこと)を収束波動砲モードに変更して発射していたのだ。

 

 そして、彼らは知らないことだが、この艦以外にも、主に転生者が指揮する艦、特に拡大波動砲を搭載されている艦では収束波動砲モードで発射されていた。

 

 これは勿論、原作の『愛の戦士たち(旧作)』やPS版のように拡散波動砲を撃っても効果が出ず、彗星都市に呑み込まれるという事態を確実に避ける為である。

 

 実際、愛の戦士たち(旧作)やPS版では、多数の艦が拡散波動砲を撃ったにも関わらず、彗星都市に呑み込まれる艦艇が続出し、対して収束波動砲は撃ったのがヤマトだけにも関わらず、彗星都市の彗星状態を強制的に解除させるという効果を挙げている。

 

 まあ、ヤマト2ではテレザートで受けた損傷が原因だったのか、拡散波動砲でも解除されるのだが、司令や他の転生者の艦長はより確実性の高い方を選択したのだ。

 

 しかし、当然の事ながら、このような事情を転生者以外の者達は知らない。

 

 

「良いんだよ。相手は彗星都市1つだ。ならば、拡散波動砲を撃つより収束波動砲を撃った方がより確実に撃破できる。まあ、結果はご覧の通りだがな。幸い、俺達の行為はバレていない。この場に居る人間が漏らさなければ誰も分からないさ」

 

 

 そう、拡散波動砲と収束波動砲は実を言えば別々な方向に撃ったりせず、同じ方向に撃った場合、撃った艦以外にはどちらがどちらの波動砲を撃ったのか分からないのだ。

 

 なので、この艦の職員が漏らしたりしない限りは、収束波動砲を撃った事など分かりはしない。

 

 

「そもそも拡散波動砲を必ず撃てとも、収束波動砲を撃つなとも言われていない以上、幾らでも言い訳は立つさ」

 

 

「は、はぁ」

 

 

「兎に角、今は帰還に集中しよう。彗星都市の監視を怠るなよ」

 

 

「はっ!」

 

 

「・・・・・・・・・・・後は頼むぞ。第5艦隊」

 

 

 最後にボソリとそんな言葉を残しながら、ヒペリオン艦隊を含めた土方艦隊はこの宙域を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地球艦隊、撤退していきます」

 

 

「うむ」

 

 

 通信士官からの報告に、ズウォーダーは頷く。

 

 その顔は一縷の焦りも見せておらず、地球艦隊が撤退することにも何ら興味を示していない。

 

 だが、ズウォーダーはそうでも、他の者はそうではなかった。

 

 

「何故、攻撃なさらないのですか?」

 

 

 サーベラーは少々不機嫌そうな顔でズウォーダーに言う。

 

 

「向こうが勝手に逃げ出していくのだ。追う必要はあるまい。奴等ではこの彗星都市をどうこう出来る筈もない」

 

 

 ズウォーダーはそう言っていたが、内心ではかなり歯噛みしていた。

 

 実は先程受けた波動砲、特に一点突破型(収束波動砲のこと)の攻撃が思ったより深刻な打撃を与えており、こうして足止めを食らう羽目になったのだ。

 

 おまけに前衛艦隊や空母艦隊は壊滅状態に追い込まれるという甚大な被害を受けてしまっている。

 

 こんな事は長い間、他の惑星に愛を与えてきた(殺し尽くしてきた)ガトランティスにとって始めてのことだった。

 

 

(地球人を侮りすぎていたか・・・)

 

 

 彼は改めてそう思った。

 

 しかし、そんな彼の思考も途中で打ち切られる事となった。

 

 

「大帝!新たな艦隊がワープアウトしてきます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木星のガニメデ基地には3個艦隊の予備部隊が存在している。

 

 その内の1つ──第5艦隊は現在、地球防衛軍司令部からとある命令を受けて、彗星都市のすぐ近くまでワープアウトしてきていた。

 

 

(旧作の彗星都市だな。これは助かった)

 

 

 第5艦隊旗艦『陸奥』環境で第5艦隊司令(転生者)はそう思いながら安堵していた。

 

 この陸奥は見た目は主力戦艦だが、原作ゲーム版で出てきたアーカンソーなどと同じく波動砲を搭載しておらず、代わりに艦体の装甲を厚くし、波動防壁の最新版を積むなど、防御重視の設計となっている。

 

 また、無人戦艦のコントロール機能も搭載しており、今回はこれを活用する予定だった。

 

 

「よし!無人戦艦、波動防壁展開!!彗星都市の下部に向けて突撃せよ!!」

 

 

 作戦はこうであった。

 

 まず先行量産型の無人戦艦4隻(ゲーム版のあれ)を波動防壁を展開させたまま、彗星都市の下部に突撃させる。

 

 そして、そうなると彗星都市の下部に突っ込んだまま停止するので、その次に波動砲をチャージ発射する。

 

 実にシンプルで乱暴な戦術であるが、有効な手でもあり、なにより成功すれば彗星都市を内部に存在するであろう巨大戦艦共々、木っ端微塵に破壊できる。

 

 かくして、そんな地球防衛軍の思惑の下、無人戦艦4隻は白色彗星の下部に向けて突撃していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「て、敵大型艦、突っ込んできます!!」

 

 

「なに?」

 

 

 ズウォーダーは地球艦隊の不可解な行動に眉を潜めるが、次の瞬間には当然と言えば当然の指示を出す。

 

 

「迎撃しろ!」

 

 

 だが、ここまでは地球艦隊側も計算していた。

 

 波動防壁を展開させたまま、突撃させたのにはそういった事態を想定しての事でもあった。

 

 そして、地球防衛軍の目論見通り、彗星都市は下部の砲口やミサイルなどで応戦するが、波動防壁に防がれてしまう。

 

 結果、これまた計算通り、無人戦艦4隻は彗星都市の下部に突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇第5艦隊

 

 

「無人戦艦が全艦、彗星都市下部に接触しました!!」

 

 

「よし、『波動砲チャージャー』に接続。波動砲発射準備」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「突入した敵艦の艦首からエネルギーがどんどん上がっていきます!!」

 

 

「・・・なるほど、そういうことか」

 

 

 ズウォーダーは相手の目論見を大体読み取った。

 

 が、同時に理解してしまう。

 

 悠長にはしていられないと。

 

 

「ミサイル発射!!それと、艦載機にも迎撃させろ!!」

 

 

 これが適切だった。

 

 現在、突入した無人戦艦は波動砲に全エネルギーを込めている為、波動防壁は展開されていない。

 

 そして、波動砲はこれまでの情報からエネルギーの溜めから発射までに1分近くの時間が掛かる事が分かっている。

 

 対して、こちらの発射したミサイルが無人戦艦に着弾するまで約30秒。

 

 艦載機は今発進した為、間に合わないだろうが、ミサイルは確実に間に合う。

 

 

(地球人め、なかなかやりおるわ。だが、残念だったな。その程度のそこの浅い手では我がガトランティスには通用せぬわ!!)

 

 

 そう思うズウォーダーであったが、彼は1つ誤った考えをしていた。

 

 確かに波動砲の溜めから発射まで1分近くの時間が掛かる。

 

 が、それは普通にエネルギーを溜めた場合であり、地球防衛軍が新たに開発した(実際には転生者の入れ知恵によって、本来の歴史より早く完成させた)波動砲チャージャーを通して溜めた場合、その半分──つまり、30秒までに短縮されるのだ。

 

 そして、波動砲のエネルギーを込めるタイミングはズウォーダーがミサイル発射を命じるより数秒速かった。

 

 つまり、それの意味するところは──

 

 

「敵艦の高エネルギー反応!波動砲の発射エネルギー量まで到達!!」

 

 

「な、なんだと!!」

 

 

 それがズウォーダーの最期の言葉となった。

 

 そして、次の瞬間、無人戦艦の艦首から波動砲が発射されて、彗星都市は粉々に砕かれていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話

新暦81年 ミッドチルダ

 

 地球防衛軍が白色彗星を砕いた頃、時空管理局では平穏な雰囲気が漂っていた。

 

 

「クロノ君、お久しぶり」

 

 

 20代半ばの女性──高町なのははそう言って旧来の友人に対して挨拶する。

 

 ここミッドチルダのとある施設では、休養の為の施設は色々ある。

 

 第2次元航行艦隊司令官に就任したクロノ・ハラオウンは、ここに高町なのは、フェイト・テレタロッサ・ハラオウン、八神はやての3人を呼び出していた。

 

 

「どうしたの?急に会いたいって?」

 

 

 フェイトはそう言いながら、クロノに尋ねる。

 

 ここに居る3人は大の親友同士ではあるものの、管理局では所属はバラバラだ。

 

 例えば、はやては“陸”の所属であるし、高町なのはは“空”の所属、そして、フェイトはクロノとは少し部署が違うものの、同じ“海”の所属なのだ。

 

 故に、クロノが呼び出したとなると、何か有ると勘繰っても、別に不思議な事ではなかった。

 

 

「ああ、実はね。冥王星って知っているかい?」

 

 

「冥王星?冥王星って、私達の世界にあるあの冥王星?」

 

 

 クロノの言葉に反応してなのはは答えるが、同時に首をかしげる。

 

 何故そんな質問をするのか見当もつかなかったからだ。

 

 

「そうだ。先日、その冥王星でロストロギアが発見されてな」

 

 

「ふーん」

 

 

「・・・意外と興味なさそうなんだな?」

 

 

「そら、まあな。うちらの世界はそもそも宇宙船を保有しとらんしな。何かしらの衝突が起こることも無さそうやし」

 

 

「でもね。先日発見した冥王星では既に人が住んでいて、接触した管理局の船に対してこう名乗ったそうだ。地球防衛軍、と」

 

 

「「「ええ!!」」」

 

 

 3人は思わず声をあげてしまう。

 

 地球防衛軍。

 

 この名称だけ聞けば、大体どんな組織で、何処の星に所属しているのかは想像はつくが、そんな組織は自分達の世界には無い筈なのだ。

 

 

「そして、その地球防衛軍という組織が管理局船に攻撃し、追い返したらしい」

 

 

 クロノはそう言うが、事実は少し違う。

 

 確かに管理局の船を攻撃したのは事実であるが、それは管理局の船が先に手出しをしてきた為に、応戦せざるを得なくなってしまったからだ。

 

 だが、このような事情をクロノは知らなかったし、管理局上層部もこのような“不都合な事実”を馬鹿正直に下の方へ拡散する訳もなかった。

 

 

「えっ!それで管理局は?」

 

 

「それが・・・その地球防衛軍は何処かと戦争でもしていたみたいでな。報復に行った管理局の艦隊はその相手国と思われる未確認勢力によって襲撃されたよ。そして、全滅したらしい」

 

 

「ぜん・・・滅?」

 

 

 フェイトは信じられなかった。

 

 フェイトは“海”に所属しているので、管理局の艦の強さは知っている。

 

 しかし、それを以てしても今回はどうにもならなかったのだ。 

 

 驚くのも無理はない。

 

 

「・・・念のために言っておくが、この事は管理局の外へ漏らしてはならないぞ?」

 

 

「分かってる」

 

 

 クロノの言葉になのはは頷く。

 

 なのはももう大人だ。

 

 この事が公表されれば、ミッドチルダを始め、管理世界に動揺が走ってしまう事は嫌でも想像できる。

 

 

「でも、クロノ君。それを私達に話したってことは・・・」

 

 

「ああ。向こうが地球って言葉を使ったから、君達の世界に何か関係があると思ったんだが・・・どうやら違ったみたいだ──」

 

 

『緊急連絡!緊急連絡!!クロノ・ハラオウン司令官はただちに次元航行部隊本部に出頭してください!!繰り返します!クロノ・ハラオウン司令官はただちに次元航行部隊本部に出頭してください!!』

 

 

「おっと。どうやら行かなきゃならないみたいだ。ごめんな。急に呼び出して」

 

 

「あっ、クロノ君!」

 

 

 クロノはそう言って、次元航行部隊本部に出頭すべく立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇地球防衛軍 参謀本部 議長執務室

 

 あの白色彗星との戦いから3日後。

 

 地球防衛軍は残った白色彗星帝国の残党を片付ける傍ら、被害についての集計を行っていた。

 

 そして、今、地球防衛軍参謀本部議長、神川は頭を抱えていた。

 

 

「被害が思ったより大きいな」

 

 

 この戦いで被害を受けたのは、主に3個艦隊──ヒペリオン艦隊、第5艦隊、ヤマト艦隊である。

 

 まず一番被害が少ないのが第5艦隊だ。

 

 零距離で波動砲を発射した為、無人戦艦4隻は全て失われたが、逆に言えばそれだけだ。

 

 人的被害はない。

 

 次に被害が大きかったのは、ヒペリオン艦隊だ。

 

 主力艦こそ無事であったものの、小型艦艇は8割以上を喪失していたし、無人駆逐艦に至っては全失だ。

 

 相手に潜空艦が居ることを考えれば、一度艦隊を解体して再編成した方が良いと思う程の被害である。

 

 最後に一番被害が大きいのはヤマト艦隊だ。

 

 こちらはデスラー艦隊の猛攻によって、ヤマト以外の艦艇が全て撃沈されてしまっていた。

 

 ヤマトが引き連れていたのは、空母部隊の全艦も含まれていたので、これらの再建の事を考えると頭が痛かった。

 

 なんせ、空母部隊は航空隊を含めて、ほぼ一から再建しなければならなくなったのだから。

 

 まあ、戦いの最中に建造中の艦艇が在ったので、それを戦列に加えれば、どうにか暗黒星団帝国戦までには2~4隻が間に合う寸法であったが。

 

 

「しかし、まさかあの山本玲が森雪の立場に立つとはな」

 

 

 原作(旧作)ヤマト2でもあったあのデスラーと森雪、古代進のシーン。

 

 あのシーンを森雪の代わりに山本玲が入る形で発生したらしかった。

 

 

「山本玲は原作2199ではヤマト内部のクーデターまでは古代進に一定の想いを寄せていたからな。こうなっても無理はないか。まあ、これで原作通り、デスラーは綺麗なデスラーになったみたいだし、結果オーライか?」

 

 

 神川はそう思ったが、少しだけ違う点がある。

 

 確かにあのシーンは今回、山本玲が入る形で発生し、山本玲も現在、古代進に想いを寄せている状態だ。

 

 だが、古代進の方はというと、そうではなかった。

 

 あの森雪以来、古代は誰にも想いを寄せていなかったのだ。

 

 今回の騒動も山本には感謝こそしているが、好意を寄せているとは言い難い。

 

 しかし、このような事情の細かいところまで神川が知るよしもなかったし、他の転生者達も知らない。

 

 まあ、知っていなくても、“今のところは”影響は全く無いと言えたのだが。

 

 

「しかし、原作の新たなる旅立ち、あるいはイスカンダルへの追憶が起こるまで約1ヶ月。ガミラス星にガミラスが残存している現状ではデザリアムも採掘なんて出来ないだろうし、そうなると、いきなり地球に攻めてくる可能性があるな」

 

 

 なんせ、イスカンダルへの追憶ではオリオン座のアルファ星まで進出していたのだ。

 

 いきなり攻めてきても不思議ではない。

 

 だが、ある問題があった。

 

 

「あのスーパーチャージャーが無いとデザリアム本星までとてもじゃないけど行けないんだよなぁ」

 

 

 そう、『ヤマトよ永遠に』では何処からか持ってきた謎技術で、『暗黒星団帝国の逆襲』ではデスラーから貰った技術を吸収して完成した連続ワープ技術の象徴たる波動砲エンジンのスーパーチャージャーだが、この世界ではどうなるか分からない。

 

 が、あまり進んでいないところから見て、おそらくこの世界はPS版の方であると神川は推測していた。

 

 しかし、そうなると、デスラーから一定の技術を貰わなくてはならないのだが、今回の歴史に限って言えばそれは少し難しい。

 

 なんせ、ガミラス星の状況が状況なので、イスカンダルへの追憶が起こる可能性は限りなく低い。

 

 故に、仮に地球が占領された場合、ヤマトが敵本星へ乗り込める確率は絶対無いと断言しても良い程だ。

 

 

「あれ?もしかして、これ詰んだ?」

 

 

 そう言って神川は冷や汗を流すが、すぐに思い直す。

 

 

「い、いや、まだ決まった訳じゃないし、デザリアムを太陽系で撃退できれば問題ない。兎に角、今は何か理由を付けてアルファ星の敵を始末しなければな」

 

 

 万が一、アルファ星でハイパーノヴァが起きれば、地球は壊滅的な打撃を受ける。

 

 まあ、そうなるのは距離の関係で、爆発してから500年後らしいのだが、それでも手を打っておくに越した事はないのだ。

 

 かくして、地球防衛軍は動き出そうとしたが、それから暫く立ったマゼラン星雲では、原作には無かったとんでもない事が起きようとしていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話

西暦2201年 大マゼラン星雲 ガミラス本星付近

 

 緑を基調とした艦色をしているガミラス艦。

 

 現在、そのガミラス艦隊は突如現れた敵──時空管理局の次元航行船を追い回していた。

 

 何故こうなったかというと、時は少し遡る。

 

 状況は概ね地球の冥王星の時と同じであり、時空管理局と名乗る勢力がガミラスの地下に存在するロストロギア(ガミラシウムのこと)を回収させろと言ってきたのだ。

 

 この一方的な通告を当たり前だが、ガミラスは拒否した。

 

 一方的によこせと言われて、不快だということもあったが、それ以上にガミラシウムを採掘されたら星の寿命が縮んでしまうからだ。

 

 時空管理局の方も先日の地球防衛軍の事があったからか、少しは話し合おうという気概を見せてはいたが、所詮は見せ掛けであるのがバレバレなので、ガミラス側は更に不快な想いを時空管理局という組織に寄せた。

 

 それでもなんとか大国のプライドによって我慢して交渉していたが、時空管理局は1つの逆鱗に触れてしまった。

 

 なんと、イスカンダルにも同様の要求をし、更にこの星の住人が4人──古代守、スターシャ、ユリーシャ、サーシャ(赤ん坊)──なのを良いことに、強引に採掘しようとしたのだ。

 

 リメイク版のように信仰こそしていないとは言え、ガミラス人は旧版ほどにはイスカンダルの事を友人や兄弟のように思っていた。

 

 故に、この行為が許せず、時空管理局に武力を持って対応したのだ。

 

 

「ふん!こんな貧弱な船と戦意で大ガミラスに喧嘩を売るとは・・・地球の方がよっぽどましだったぞ」

 

 

 ガミラス人たちはそう言ってはばからなかった。

 

 実際、時空管理局の戦意はかなり低かった。

 

 当たり前だろう。

 

 彼ら“海”は、艦船の性能が低いという事もあるが、そもそも戦争という行為に足を突っ込んだ事が無かったのだから。

 

 いや、それどころか、格上はおろか、同格の相手とも戦ったことがなかったのだ。

 

 負けるのも無理はなかった。

 

 かくして、マゼラン星雲に派遣された時空管理局第38調査部隊は全滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇時空管理局 大会議場

 

 第38調査部隊、通信途絶。

 

 またもやもたらされた凶報は、ただでさえ混乱していた時空管理局を更に混乱の渦へと巻き込んだ。

 

 

「すぐに救援部隊を送れ!!」

 

 

「馬鹿な!また先の冥王星の二の舞になるぞ!!」

 

 

「しかし、このまま手をこまねいて放っておけと言うのか!!」

 

 

「そうだ!管理局に逆らう危険な勢力を野放しにしろと!!」

 

 

 会議場は紛糾していた。

 

 しかし、既にこれだけの被害が出ているにも関わらず、未だ殆どが強硬派が優勢だった。

 

 慎重派もまた、慎重に行動すべきというだけで、心理的には強硬派と同じで、出来れば救援よりも敵を叩くべきと考えている者が大半だった。

 

 この歪としか言えないような考え方は時空管理局の局員に共通する者であったが、これは彼らは軍隊より警察としての側面が強いことから来る考え方でもある。

 

 まあ、極論をしてしまえば『全ての世界は既に自分達のものであり、自分達が管理する世界の治安を維持しなければならない』。

 

 このような考え方が大なり小なり、局員には無意識、意識問わずあったのだ。

 

 しかし、これを地球の転生者が聞いたらこう言うだろう。

 

 『限りなく中華思想に近い思想』、と。

 

 まあ、現実にはこれより酷く、はっきり言って地球の転生者、特にリリカルなのはファンがこの会議を知れば、『夢を壊された!』と絶叫すること間違いなしだった。

 

 まあ、先の冥王星基地攻撃で既に壊された者も居るだろうが。

 

 そんな中、一人の男が口を開く。

 

 

「いい加減、この世界への進出を諦めたらどうですかな?犠牲をこれ以上出さないためにも」

 

 

 そう呆れたように言うのはロルメス=フロール。

 

 時空管理局地上本部、通称“陸”の本部長でもある。

 

 

「なんだと!!犠牲になった局員を無にしろというのか!?」

 

 

「その犠牲になった局員の為に更に局員を送って殺されるのでは負の連鎖が続くだけだ!!」

 

 

 ロルメスは額に青筋を浮かべながらそう主張した。

 

 彼がこう言うのも無理はない話だった。

 

 そもそも“陸”の任務は、“空”や“海”とは違い、治安維持がその任務の大半だ。

 

 故に、地球の警察とさして変わらない考え方や価値観を持っており、時空管理局では一番の穏健派とも言える組織と言えた。

 

 だが、その任務の内容上、“海”(たまに“空”)が強引に管理世界に引き入れた世界の治安維持も請け負う為、“海”や“空”がやらかした“暴挙”の行為に怒っている住民達の負の感情を真っ先に向けられる。

 

 そして、その過程で住民達と陸の局員の摩擦なども起こり、良くも悪くも心理的なダメージを局員達に与えていたのだ。

 

 そんな彼らからすれば、海や空は面倒事を押し付けた挙げ句、放置する無責任な組織に見えてくる。

 

 そして、今回も仮にその管理世界に入れた場合、海や空が手に余るような世界をこちらに押し付けようとしてくる可能性が高いので、彼としてはなんとしても反対したかったのだ。

 

 まあ、海や空と一歩引いたところから現状を見ているロルメス自身はこの世界が管理世界に入る可能性は無いと考えていた。

 

 何故なら、パット見だけで海や空より相手の方が格上と分かるからだ。

 

 そして、彼や陸の幹部達の大半は今回の事件についても『来るべき時が来たか』という思いを抱いているだけだった。

 

 彼らはこうやって他世界と接触し続けていれば、何時かは格上の存在に出くわすかもしれないと考えていたからだ。

 

 まあ、それが何時になるかは分からなかったので、口には出さなかったし、口に出したところで海や空は相手にしなかっただろうが、それでも常日頃から言っておくべきだったと、今更ながらに陸の幹部達は後悔していた。

 

 

「だいたい、もう敵が格上の存在である事は理解しただろう。なら、ここら辺が引き際だ」

 

 

 そう言って管理局の傷口を広げるのを防ごうとするが、強硬派──特に海の人間が猛烈に反発する。

 

 

「馬鹿な!あんな蛮族の方が格上だというのか!?」

 

 

「今回は偶々だ!!数に任せたから、偶然あの野蛮人達が勝っただけだ!!」

 

 

 ガミラス人達が聞いたら怒り狂いそうな事を叫びながら、彼らはそう主張するが、ロルメスは呆れながらこう言った。

 

 

「なるほど。では、仮にそうだとして、我々を撃退する程の物量を持った彼らをどうやって管理世界に引き入れるのだ?向こうはこちらが接触しているだけで、それだけの力を持った連中は3つ有るぞ?まさか、他の管理世界の治安維持機能を停止させてまで、その世界を強引に編入しようとでも言うつもりか?」

 

 

「決まっているではないか!その通りだ!!」

 

 

「・・・は?」

 

 

 この発言に、思わずロルメスは呆けてしまうが、男は構わず続けた。

 

 

「相手は我々を凌ぐかもしれない危険な物量と質量兵器を保有している。なら、尚更、かの世界を組み込むのが我々管理局の義務だ!!」

 

 

「その通り!そして、かの世界の質量兵器を接収して、我々が管理しなければならない!!」

 

 

 男達の言葉に同調するかのように、他の強硬派も次々と自分の主張を行う。

 

 

「そうだ!そもそも世界を管理することが時空管理局に課せられた使命だ!!故に、我々に逆らう者は犯罪者にすぎない!!」

 

 

「陸はそんな犯罪者達を見逃せと言うのか!」

 

 

「はっ。流石は腑抜けの集まり。言うことが違うな」

 

 

 そう言って彼らは陸の侮蔑まで始めた。

 

 だが、当の陸は、あまりと言えばあまりの山賊発言に絶句していた。

 

 

(こいつら・・・ここまで腐っていたのか?)

 

 

 そう思いながら、ロルメスは内心で頭を抱えた。

 

 そして、そんな会議の光景をリンディ提督は見つめていたが、流石にこれは不味いと思い始めていた。

 

 

(不味いわね。このままじゃ、何かの拍子に暴走しかねない)

 

 

 とは言っても、強硬派が大半である以上、この場ではリンディは何もできない。

 

 下手に首を突っ込めば、自分は次元航行部隊の長から引きずり下ろされ、益々管理局は危険な領域に突っ込んでしまう可能性が高いからだ。

 

 そして、リンディのそんな考えを他所に、この会議によって、第124管理外世界(第2の地球世界)の冥王星、ガミラス本星、イスカンダルへのロストロギア回収部隊の派遣が決まった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話

◇西暦2201年 冥王星近辺 地球防衛軍 第2艦隊 旗艦『ヤマト』

 

 白色彗星との戦いから既に3週間。

 

 地球防衛軍は天王星と海王星を既に奪還し、現在は冥王星奪還に取り掛かっていた。

 

 

「良いか?これが先程偵察機からもたらされた敵艦隊の情報だ。我々はヤマトを以て敵と正面から対峙しつつ、側面より第2艦隊全艦を投入して敵を撃破する」

 

 

「我々は囮という訳ですね?」

 

 

 古代の説明に、南部がそう言って答える。

 

 

「そうだ。場合によっては全部倒してしまっても良いと言われているが・・・当たり前だがそのような無茶はしない」

 

 

 その言葉にヤマトのクルーの面々は苦笑する。

 

 当たり前だろう。

 

 無茶をやって良いと言われて、本当に無茶をやる人間はただのバカなのだから。

 

 まあ、これは転生者が聞けば突っ込みどころ満載の台詞である。

 

 何故なら、旧版宇宙戦艦ヤマトで彼らがもたらした戦果は細かいところを切り取ってもこうなる。

 

・ガミラス帝国崩壊。

 

・白色彗星帝国撃破。

 

・暗黒星団帝国(2つの銀河共々)消滅。

 

・ディンギル帝国撃破。

 

・SUS撃破

 

 当たり前であるが、どれか1つ取っても通常の一戦艦が成し遂げられるものではない。

 

 まあ、それは兎も角、彼らが攻略しようとしていたのは冥王星であったが、ここはガミラス戦の頃からヤマトとは因縁があった。

 

 そう、あのシュルツとの戦いである。

 

 故に、古参のヤマトクルーの気合いも十分に入っていた。

 

 こうした中、冥王星攻略は行われようとしていた訳だが、思わぬ邪魔が入ってきたことで混純化することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・またか」

 

 

 神川は溜め息をつきながら報告書を見る。

 

 冥王星作戦は成功した。

 

 元々、白色彗星は既にやられていた上に、ここは彼らの支配地であるアンドロメダ星雲から50万光年も離れている場所。

 

 距離的なものだけでも暗黒星団帝国よりも補給の条件は厳しいのだ。

 

 しかも、ガトランティス帝国はどういうわけか、特定の星を本星と定めておらず、あの白色彗星こそが事実上の本星だった。

 

 お蔭で彼らは護るべき本星を失ってしまい、精神的な支柱は失われていたのだ。

 

 まあ、まだ全軍に伝わったわけではないだろう。

 

 特にアンドロメダ星雲の軍団は彗星都市消滅を信じていない可能性が高い。

 

 しかし、太陽系の部隊は既に知ってしまっている。

 

 お蔭で、太陽系内のガトランティス帝国人の心は折れかかっており、戦意喪失、あるいはやけくそになって突撃してくるかのどちらかだった。

 

 そんな中行われた冥王星作戦。

 

 これは前述したように成功はして、既に奪還は完了された。

 

 されたのだが──

 

 

「ここに来て、また連中の妨害か」

 

 

 そこに時空管理局から派遣されたロストロギア回収部隊が遭遇したのだ。

 

 一応、一度敵対したとはいえ、話し合いだけでも行おうと、通信においてやり取りを行ったのだが、返ってきた返事は要約すれば『我々の軍門に下れ!』という要求だった。

 

 当たり前だが受け入れるわけにもいかなかった為、そのまま交渉は続けられたのだが、向こうは願としてそれを譲らず、挙げ句の果てには先日の冥王星での交戦で失われた謝罪と賠償を求めてきた。

 

 まあ、そもそも一方的に言い掛かりを着けて殴り掛かってきたのは時空管理局なので、怒りを覚えつつもそれでも交渉は行われようとしたが、時空管理局側が業を煮やしたのか、強引に接収すると言い出して交戦を開始してきた。

 

 まあ、そもそも宇宙での戦闘が前提で造られている上に、波動エネルギーを有して強化された地球連邦軍の艦艇と相手が宇宙戦艦などの宇宙での戦闘艦艇を持ち出してくることを想定していない時空管理局の船では勝負になるわけもなく、小艦艇に多少の被害を出しながらもあっさりと殲滅されたが、数がそこそこ多かった為に処理に手間取り、その間に冥王星に居たガトランティス帝国艦隊は十一番惑星まで撤退してしまったので、結果的にそちらの撃滅には失敗してしまった。

 

 結果的に冥王星は無事地球の手に戻ったものの、後味の悪い結果となってしまったのだ。

 

 

「まあ、収穫が無かった訳じゃない」

 

 

 今回の交戦によって、地球防衛軍は時空管理局の艦艇は全て撃沈してしまったものの、資源の再利用の観点から残骸は回収している。

 

 そこから転移装置のサルベージを行うことも不可能ではないかもしれないのだ。

 

 まあ、発信器の役割を果たしているかもしれないので慎重に調査する必要があるが、それがあればメリットも大きい。

 

 もっとも、サルベージ自体は簡単な作業ではないのだが、そこら辺は真田や大山が何とかしてくれるだろう。

 

 本人たちが聞けば、ふざけるなと言いたくなるような神川の考えであるが、それを気にする余裕は神川達には無いのだ。

 

 

「それにしても冥王星か。おそらく、ここに次元のワープアウト地点は設定されたみたいだが、本星まで直接来られたりはしないだろうな?」

 

 

 この世界は高町なのはの故郷である21世紀の日本の存在する第97管理外世界と星の座標が全く同じだ。

 

 ある意味同じ世界であるのだから当然と言えば当然なのだが、そこから逆算されていきなり本土に直接攻め込まれても困る。

 

 まあ、この点については第97管理外世界という存在があるために、いずれこの世界の地球の座標を知られるのも時間の問題だろう。

 

 しかし、せめて転移してくる前兆を感知したい。

 

 そう思うのもまた当然だった。

 

 

「しかし、本当にイスカンダル救援はどうしようかね」

 

 

 神川はそれを真剣に悩んでいた。

 

 原作において、イスカンダル救援は今から1~2週間後であるが、この世界においては分からない。

 

 なにしろ、新たなる旅立ちでも、イスカンダルの追憶でも消滅していた筈のガミラスが半壊という形とはいえ、残っているのだ。

 

 暗黒星団帝国も攻めあぐねるだろう。

 

 下手をしたら攻めて来ないかもしれない。

 

 

「・・・いや、それはないか」

 

 

 イスカンダリウムやガミラシウムが暗黒星団帝国でどの程度の価値を秘めているかは転生者達にも分からないが、波動融合反応を抑えるために必要な物質であるということは、暗黒星団の逆襲の終盤で真田が言っている。

 

 故に、どんな行動を起こすか分からない。

 

 

「まあ、こっちの存在を知れば、こっちを攻める事を優先してくるだろうけどね」

 

 

 原作においては、イスカンダルの救援に駆け付けた時点で暗黒星団帝国はこちらの存在を関知していた。

 

 だが、あれはおそらくイスカンダルの追憶に出てきたアルファ星や七色星団における戦闘からこちらの正体を割り出してきたのだと神川は思っている。

 

 ・・・新たなる旅立ちの方は分からないが。

 

 まあ、どちらにしても暗黒星団帝国が本気で調べれば、地球に間違いなく攻め込んでくると断言できる。

 

 何故なら、地球には彼らが戦争を行う根幹である“新鮮な若々しい肉体”が存在するのだから。

 

 それこそ多少の無理をしてでも攻めてくるだろう。

 

 そして、暗黒星団帝国の逆襲のプロローグによれば、暗黒星団帝国が地球に攻めてくるのは、イスカンダル救援から数ヶ月後。

 

 ということは、この世界の時系列的にも数ヶ月という時間しかないことになる。

 

 年が2202年に明けてからであるものの、それでも準備期間が短いことに間違いはない。

 

 

「さて、本当にどうするかねぇ」

 

 

 こう見ると、イスカンダル救援をする余裕など無く、防衛体制を整えることを最優先にした方が良いように見えるが、実際は意味は大いにある。

 

 なんせ、ガミラスとイスカンダルが落ちればガミラシウムとイスカンダリウムが彼らの手に落ちて、彼らの弱点である波動融合反応の問題が解決してしまうし、そもそもスーパーチャージャーが完成しなければ40万光年も離れた二重銀河に逆侵攻も出来ないのだ。

 

 それに規定事項だったとはいえ、イスカンダルは地球の恩人でもある。

 

 流石に恩人を虚仮にするほど、神川も他の転生者達も恥知らずではないのだ。

 

 しかし、現状ではイスカンダルに向かう大義名分がないし、そうでなくとも連続ワープの情報が送られてこなければ、向こうに艦隊を到着させるだけでも半年近くは掛かってしまう。

 

 それでは遅い。

 

 だからこそ神川はどうするか悩むが、良い案は出てこない。

 

 しかし、この1週間後、神川の悩みはあっさりと解決することになる。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話

◇西暦2201年 地球 参謀本部

 

 

「・・・これ、本当のことなんですか?」

 

 

 会合に参加している転生者の一人が神川に問う。

 

 

「ああ、本当らしい。信じがたいがな」

 

 

「「「「「・・・」」」」」

 

 

 転生者達は絶句せざるを得なかった。

 

 何故なら、地球防衛軍の駆逐艦『むらくも』が、キラ・ヤマトと名乗る少年を救出した(・・・・・・・・・・・・・・・・・)という報告をしてきたのだから。

 

 キラ・ヤマト。

 

 ガンダムSEEDの主人公の一人である少年だ。 

 

 当然、転生者達の居るこの“宇宙戦艦ヤマト”の世界や、この世界に何故かちょくちょく出てくる時空管理局の登場する“リリカルなのは”とも全く別の作品に登場する人物であり、宇宙戦艦ヤマトの世界との接点など有るわけは無いのだが、何故かこの世界に登場したらしい。

 

 

「それで本人に聞き取り調査を行ったところ、彼はC・E70年4月6日から来たらしい」

 

 

「C・E70年?確か原作の開始は・・・」

 

 

「そう、C・E71年の1月だ。どうやら彼は原作1年前の時間軸から来たらしいな」

 

 

 神川がそう言って説明する。

 

 原作前のキラと言えば、まだ平和なヘリオポリスで暮らしていた頃であり、フリーダムはおろか、ストライクにすら乗っておらず、それどころかアークエンジェルとその関係者にも接触していない頃である。

 

 

「C・E70年4月6日ということは、エイプリルフールの惨劇の直後辺りですね」

 

 

 エイプリルフールの惨劇。 

 

 それはC・E70年の4月1日に起きた事件である。

 

 元々はC・E70年の2月14日にプラントを構成するコロニーの1つであるユニウス7に地球連合が核兵器を撃ち込んだ“血のバレンタイン”事件の報復として、プラントの軍事勢力であるザフトが地球へと投下したNJ(ニュートロン・ジャマー)と呼ばれる核反応無効化兵器の事である。

 

 一見すれば、イスカンダルから供与されたコスモクリーナーと同じように思えるが、コスモクリーナーが駆除する定義はあくまで“人体に有害なもの”という広い範囲で使える代物であるのに対して、NJは核反応しか無効化させることが出来ない。

 

 しかも、タキオン粒子という新たなエネルギー源を既に保有しているヤマト世界の地球連邦とは違い、ガンダムSEEDの地球連合はあくまでそのエネルギーのほとんどを原子力や核融合炉関連の施設で賄っていた。

 

 当然、NJが投下されたということは、それらによって催されるエネルギーは使えないということであり、地球連合ではかなり深刻なエネルギー不足に見舞われ、インフラは壊滅的打撃を受ける。

 

 そうなると生活インフラが失われるので、水道もガスも電気も使えず、流通にも支障が出る。

 

 結果、家を失った訳でもないにも関わらず、多数の難民が発生することになり、それによって死者も大量に出ることになった。

 

 これがエイプリルフールの惨劇である。

 

 もっとも、キラが転移した頃はまだNJが投下されてから2週間余りしか経っていないので、まだエイプリルフールの惨劇とまでは言われていないのかもしれないが、おそらくもう2週間か、あるいは少し経てば、遅効という形でとんでもない被害に見舞われる筈だ。

 

 だが、転生者達が気にしているのはそこではない。

 

 

「もしかして、SEEDの世界と何らかの形で繋がったりはしませんよね?例えば、ゲートみたいに」

 

 

「「「・・・」」」

 

 

 否定できなかった。

 

 なにしろ、既にリリカルなのはの世界がこの宇宙戦艦ヤマトの世界と邂逅を果たすという有り得ない現象が起こっている。

 

 そこから考えると、キラ・ヤマトが出てきたということはSEED世界と何らかの形で繋がる可能性があるという事でもある。

 

 単なるキラの異世界転移くらいなら問題ないかもしれないが、それこそ『ゲート 自衛隊』に出てくるようなゲートが出現してSEEDの世界と繋がり、地球連合やプラントと邂逅した時には面倒なことになる予感しかしない。

 

 

「あの世界で脅威になりそうなのって・・・ジェネシスくらいか?」 

 

 

「いや、メテオとかも十分脅威だろう。あとサイクロプスも」

 

 

 転生者の何人かは早速、その場合について話し合っていた。

 

 ガンダムシリーズで有名なのは、その象徴たるロボット兵器であるガンダムこと、モビルスーツであるが、これは使えるかもしれないが脅威にはならない。

 

 なんせ、ビームライフルは76ミリレーザー砲程の威力しかないのだから、とてもではないが戦艦どころか、巡洋艦にすら歯が立たないだろう。

 

 まあ、後者については当たり所が良ければ行けるかもしれないが。

 

 しかし、ジェネシスは違う。

 

 あれは一発地球に撃つだけで、地球上のほぼ全ての生命体が死滅するというとんでもない代物なのだ。

 

 単純な威力においては波動砲には劣るものの、攻撃効果という意味では波動砲を上回る。

 

 

「まあ、ザフトについてはいざとなればプラント本国に波動砲を撃ち込めば良いし、連合に至ってはそこまでするまでもない」

 

 

「・・・そうですよね。マスドライバーを破壊すれば、地球連合の艦船は宇宙まで上ってこれませんし」

 

 

 神川の言葉に転生者は同意する。

 

 そう、ガンダムSEEDの世界では|マスドライバーが無いと宇宙船は宇宙まで上がってこれない《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》のだ。

 

 だからこそ、原作ではパナマのマスドライバーを破壊されたことでマスドライバーを持つ有数の国になったオーブに向けて大西洋連邦が強引に侵攻を開始した。

 

 しかし、地球連邦の艦船はガミラス戦以前から自力で宇宙に上がれる代物なのだ。

 

 もしこれに地球連合が興味を持って接触を行ってきたらどうだろうか?

 

 確かに貿易という観点では価値があるかもしれないが、戦争に確実に巻き込まれる可能性が高いし、面倒事を増やすことにもなりかねない。

 

 おまけに肝心の貿易についても、民需については戦争によって購買欲が低下しているし、武器を輸出しようにも前述したように面倒事が起きる予感しかしないし、そんな余裕もないのだ。

 

 ただでさえ、デザリウム、ガミラス、ディンギル、ボラーなど、厄介な敵となりうる存在が残っているのだから。

 

 おまけに時空管理局という組織も潜在的脅威。

 

 これ以上面倒事を増やすなど、真っ平御免というのが彼らの意見だった。

 

 

「まあ、キラ・ヤマトについては『むらくも』に任せましょう、彼の技術レベルは確かですから、もしかしたらMSを造れるかもしれませんし」

 

 

「そうだな」

 

 

 地球連邦、と言うより転生者達の間ではMSのような地上戦用の人形兵器を開発することを目論んでいた。

 

 何故かと言えばそれは簡単である。

 

 地球連邦の地上戦装備では、暗黒星団帝国には全く歯が立たないからだ。

 

 それは戦車も同様。

 

 少なくとも、現行の物では原作で実際に地球連邦の戦車を一方的にやっつけたデザリウムの三脚戦車どころか、パトロール戦車にすら負けてしまうだろう。

 

 いや、それ以前に頼りになる地上戦力が空間騎兵隊の歩兵戦力だけという有り様では情けないにも程がある。

 

 そうなると早急に戦力を整えなくてはいけない訳だが、現状では宇宙艦隊の増強が最優先であり、更に復興にも予算も割かなくてはならないので、地上軍や空間騎兵隊にまで予算を割く余裕がないのだ。 

 

 しかし、原作でも技術者として有能だったキラ・ヤマトであれば、少ない予算や資材でもMSのような物を開発可能かもしれない。

 

 まあ、あの人物は大の戦争嫌いではあるのだが、それは原作で直接相手を殺さなければならない仕事を強要されたからであって、技術士官として雇うならある程度話は聞いてくれるだろう。

 

 

「じゃあ、キラ・ヤマトについてはそういう処置で決定する」

 

 

「「「異議無し」」」

 

 

 こうして、キラ・ヤマトはむらくもで世話をされることが決まった。

 

 そして、この数日後、デスラーからイスカンダルの危機と連続ワープの技術情報に関する情報が届けられ、ヤマトと何隻かの艦隊でイスカンダル救援作戦こと、第二次イスカンダル遠征(第一次はヤマトがコスモクリーナーを取りに行ったやつ)が行われることとなる。

 

 その中には先に言った駆逐艦『むらくも』も含まれていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話

◇西暦2201年 イスカンダル軌道上 地球防衛軍 駆逐艦『むらくも』

 

 

「綺麗な星だなぁ」

 

 

 15歳の少年、キラ・ヤマトは感慨深げに地球よりも海の面積が広いイスカンダルという星を眺めていた。

 

 あれから色々あって第二次イスカンダル遠征にキラも同行することとなり、救助してくれた『むらくも』の乗員と共にここまで来ていた。

 

 しかし、ここに来るまでは、決して楽な道程ではなかった。

 

 アルファ星では採掘を行ってハイパーノヴァを起こそうとしていた暗黒星団帝国艦隊と交戦する羽目になったし、続く七色星団の戦いでは『むらくも』の艦長が戦死してしまった。

 

 そして、先程、デーダー率いる艦隊を撃滅して平穏を保っていたが、それも何時まで続くか分からない。

 

 キラはその3度の戦いのいずれも参戦しており、オペレーターやFCS(火器管制システム)などを扱うCIC(戦闘指揮所)要員などの配置に着いて戦いに貢献していた。

 

 

「本当にこんなところまで来ちゃったんだな。今でも信じられないや」

 

 

 キラはそう呟く。

 

 まあ、当然の話であり、キラの世界では大マゼラン雲どころか、太陽系、それも火星に行くまででも一苦労という有り様なのだ。

 

 更に地球連邦にとってはかなり狭いと言われるであろう場所も、ザフトと地球連合軍が戦争を行っている。

 

 なので、キラは始めて見るその広い世界に改めて感激していた。

 

 なんのことはない。

 

 彼もまた男だったという訳であり、男のロマンには一定の理解を持っていたのだ。

 

 そんな彼に声を掛ける一人の男が居た。

 

 

「すまねぇな。こんな戦いに巻き込んじまって」

 

 

 そう言って話し掛けてきたのは、この『むらくも』の副長であり、艦長が戦死した為に艦の全権を担っている男でもある。

 

 

「あっ、副長」

 

 

「あまり畏まる必要はねぇぞ。お前の扱いは軍属だ。正式な軍人じゃない」

 

 

「いえ、これが僕の生まれつきのしゃべり方でして、すいませんが治せそうにないんです」

 

 

 キラは苦笑しながらそう言った。

 

 この3度の戦いでキラは肝が少しばかり据わってきていた。

 

 まあ、それはそうだ。

 

 駆逐艦と言えば、ヤマトなどの戦艦とは比べ物にならない程、装甲が貧弱であり、消耗しやすい艦艇でもある。

 

 しかし、だからこそ、そのような艦に乗って激戦を潜り抜けた者は、戦艦に乗って戦っている乗員よりも自然と肝が据わってくる。

 

 これは殺されやすい分、無理矢理にでも精神を鍛えないと自分を保てないという半ば強迫観念から来るものであったが、これによってキラの精神は遠征前と比べると、大分太くなっていた。

 

 だからこそ、本来内気な性格の筈のキラでも、このようなはっきりとした物言いが出来るようになったのだ。

 

 

「それにしても、あの戦艦、なんか皆さん、特別扱いしているような気がするんですが、どういう事なんですか?」

 

 

 キラはこの第二次イスカンダル遠征の旗艦でもある1隻の戦艦を指差した。

 

 

「ん?ああ、ヤマトの事か。あの艦は多大な功績を残してきた船だし、コスモクリーナーを持ち帰って人類を救ったのもあの艦だからな。そりゃあ、特別扱いもするさ」

 

 

「へぇ」

 

 

「そういや、お前の名字もヤマトだったよな?じゃあ、もしお前があの戦艦に勤務することになったら、乗員にからかわれる事になるだろうな」

 

 

「ははっ、流石にそれは無いですよ」

 

 

 キラは笑いながらそう言ったが、彼は知らない。

 

 そう遠くないうちに、あの戦艦に自分が勤務することになることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同年 参謀本部

 

 

「ふむ・・・これは・・・」

 

 

 神川は第二次イスカンダル遠征の報告書を読みながら唸っていた。

 

 第二次イスカンダル遠征の結末は新たなる旅立ちとも、イスカンダルへの追憶とも違う道程を辿った。

 

 いや、地球防衛軍の展開的にはイスカンダルへの追憶そのものだったのだが、ガミラスやイスカンダルへの結果は違っていた。

 

 

「まさか、ガミラスに対してハイペロン爆弾を使ってくるとは・・・」

 

 

 流石の神川もそれには驚いていた。

 

 まさか、ガミラス星を攻略するために原作では地球に対して使われたハイペロン爆弾を投入してくるとは思ってもいなかったからだ。

 

 しかも、原作の地球に対する扱いとは違い、問答無用にガミラス星に居た住民を一人残らず抹殺している。

 

 それからデザリアム帝国の採掘艦隊がやって来て、ガミラシウムの採掘を始める算段だったようだが、彼らは原作同様に運がなかったようで、同じくガミラシウムやイスカンダリウムというロストロギアを求めにやって来た時空管理局の艦隊と遭遇してしまった。

 

 まあ、これは問題なく蹴散らせたらしいのだが、戦闘の過程でアルカンシェルを乱射したことでガミラス星に何発か当たってしまい、星にダメージを与えてしまい、更にそこから原作と同じく、丁度、ガミラス星に別れを告げに来たデスラー艦隊と遭遇してしまい、採掘艦隊はデスラー艦隊によって撃滅されたものの、その戦闘の過程によって、原作イスカンダルへの追憶のように輸送戦艦が墜落してしまい、ガミラス星がそこに据えられたままだった重核子爆弾共々消滅してしまったらしい。

 

 そこからはイスカンダルへの追憶通りの流れだったらしいが、まさかここでハイペロン爆弾が投入されるというのは予想外だった。

 

 

「あの爆弾・・・本当に数はそれほど無いのか?」

 

 

 神川はそこを疑問に思う。

 

 転生者達の間ではデザリアムのハイペロン爆弾は保有数が少ないという説が有力だった。

 

 何故かと言えば、原作では一発しか撃ち込んでこなかったからだ。

 

 もし何個も保有しているのであれば、保険のために何発か撃ち込んでいた筈である。 

 

 しかし、原作を見るに、ハイペロン爆弾が襲来したのは太陽系の各惑星が直線上に並んだ時に襲来している。

 

 何発も有るならば、わざわざそんな時期を選ぶ必要はない。

 

 まあ、高いからなるべく節約したかったのだという意見もあったが、原作でのデザリアム帝国の地球人の肉体の重要性を鑑みるに、その可能性は低いと思われた。

 

 それに地球側に万が一迎撃された場合、地球占領の頼りになるのは送り込んだ艦隊だけという事になるので、やはりその可能性は低いだろう。

 

 いや、そもそもの話、原作では(特に旧作)幾つもの国が存在したが、ハイペロン爆弾を保有していたのは暗黒星団帝国とシャルバート星の2ヵ国しかなく、その内、シャルバートは戦いを放棄していたので、実質運用していたのは暗黒星団帝国のみである。

 

 となると、相当な科学力と資源と金を費やさないと簡単には造れないと見た方が良いのだろう。

 

 しかし、それだけの判断材料が揃っていてもなお、いざその時が近づいてくると、神川は不安に襲われた。

 

 

「ふむ、今のところ、デザリアム帝国の襲来で一番可能性が高いのは、やはり太陽系の各惑星が直線上に並ぶ時だが・・・念のためにその前から警戒シフトを強化しておくべきか?」

 

 

 神川はそう考える。

 

 もし原作崩壊にしろ、転生者達の勘違いにしろ、転生者達の想定とは少しでも違う時期にハイペロン爆弾が来襲すれば、どんなに早く対応しても、地球の幾つかの基地は壊滅してしまうのだ。

 

 切り札(・・・)は幾つかあるとはいえ、用心するに越した事はない。

 

 いや、既にガミラス星が半壊という旧作ともリメイク版とも違う運命を辿ったことや、ヤマトの森雪が死んでいること、更にはテレザートにヤマトが派遣されず、テレサと出会わなかったこと、そして、今回、ガミラス星に住む人々がハイペロン爆弾で滅ぼされたことなど、原作と違う点は幾つか見られている。

 

 その為、少々酷ではあったのだが、暗黒星団帝国とハイペロン爆弾の脅威を煽って警戒体制の強化を計るべきだと神川は思っていた。

 

 しかし、同時にチャンスだとも思う。

 

 この時期にハイペロン爆弾の存在を地球防衛軍が知ったということは、その為の対策も比較的取りやすくなったという事でもあるのだから。

 

 もしかしたら、原作にはなかったハイペロン爆弾ジャマーという物が作れるかもしれない。

 

 

「まあ、これを作るのは真田さんになりそうだな。大山さんはエンジンとかの専門で暗黒星団帝国の逆襲ではスーパーチャージャーを造ったのは殆ど大山さんとか言っていたし」

 

 

 真田が聞いたら過労死させる気かと怒鳴り込んできそうな神川の発言だったが、神川は気にしない。

 

 ここを乗りきらなければ、事は真田の過労死では済まなくなるのだから。

 

 かくして、神川は数ヶ月後に来襲してくるであろうデザリアム戦に向けて他の転生者達とも協力して準備を進めることとなる。

 

 しかし、数ヶ月後、暗黒星団帝国は意外な方法で攻めてくることを、彼らは知らずにいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話

◇西暦2202年 地球 防衛軍司令部

 

 あのイスカンダルでの戦いから数ヶ月後。

 

 転生者達の予測とは少し違ったが、だいたい同じ時期に敵はやって来た。

 

 しかし、その展開は転生者達はおろか、敵である暗黒星団帝国にとっても予想外なものになっていた。

 

 

「大統領官邸、包囲!」

 

 

「首相官邸応答なし!!」

 

 

「戦車部隊、全滅しました!!」

 

 

「空間騎兵隊の状況、不利!」

 

 

 防衛軍司令部では勤務するオペレーター達が次々と戦況を報告していくが、その戦況は思わしくない。

 

 と言うより、地球での地上戦は原作とさして変わらない。

 

 このまま行けば、あと半日も経たないうちに防衛軍司令部は占拠されるだろう。

 

 しかし、そんな状況でも神川に焦りはなかった。

 

 

「地球本星防衛艦隊と月面艦隊を直ちに敵艦隊迎撃へ向かわせろ!そちらが撃破され次第、地上援護に掛かれ。地上軍には一旦下がって態勢を整えさせるように伝えろ。必要なら、ここも放棄する!」

 

 

 最後の発言には防衛軍のオペレーターや要員は驚いた顔になり、少しばかりその動きを止めてしまう。

 

 あまりにも思い切りの過ぎる発言であったからだ。

 

 それでも今は戦闘中であるため、オペレーター達は我に返った後、すぐさま作業を再開した。

 

 代わりと言わんばかりに、藤堂長官はそんな発言をした神川に問う。

 

 

「ここを放棄するのかね?」

 

 

「ええ、この際、仕方有りません。ここに居ても占拠は時間の問題でしょう。幸い、敵の兵力は主要都市に集中しているようです。態勢を整える隙は十分に有ります」

 

 

 神川はそう言いながら、あくまで司令部を放棄してでも態勢を建て直すべきだと主張する。

 

 暗黒星団帝国はこのメガロポリスを始め、地球の各地に同時に降下しているが、その兵力は主要都市に集中しており、地方都市などはほぼ無視されていた。

 

 おそらく兵力が地球全体を満遍なく占領するには足りないので、電撃的に主要都市を落とせば地球連邦と防衛軍は統率を取れずに崩壊すると読んだのだろう。

 

 実際、それはあながち間違いでもない。

 

 そういった施設は主要都市に集中しているのだから。

 

 しかし、逆に言えばそういった地方に逃げれば、態勢を整える時間を見つけられるという事でもある。

 

 そうであるならば、早めにここを放棄してでも地方に逃げて態勢を建て直す必要があるのだ。

 

 

「・・・ふむ、分かった」

 

 

 神川の説明に、藤堂長官もそれを理解したのか、ゆっくりとだが確かに頷いた。

 

 そして、長官の許可を取り付けた神川であったが、内心では“なんでこうなった”とため息をついていた。

 

 転生者達のプランでは重核子爆弾を撃破した後、その後にやって来るであろう本隊であるカザン率いる第1特務艦隊と別動隊であるミヨーズ率いる第2特務艦隊を撃破することを考えていたのだ。

 

 しかし、やって来たのは重核子爆弾ではなく、原作でグロータス准将が率いていたゴルバ七基だった。

 

 これには神川はおろか、転生者達の知るよしもないことではあったのだが、デザリアム側のとある事情が存在していた。

 

 神川を含めた転生者達の予想通り、ハイペロン爆弾は確かにデザリアムにとっても貴重な兵器だったのだ。

 

 それこそ一発しか存在しない程に。

 

 だが、その1発をガミラス星で使って消失してしまった為、デザリアムの元にはハイペロン爆弾は1発も無くなってしまったのだ。

 

 そこで彼らが地球攻略において立てたシナリオはゴルバ7基で地球の前線基地を潰し、注意をそちらに引き付けているうちに原作で地球の攻略を担当したカザン率いる第1特務艦隊とミヨーズ率いる第2特務艦隊で地球を素早く占領すること。

 

 はっきり言えば、重核子爆弾の代わりにゴルバを7基も使うこと以外は原作と同じだったのだが、てっきり初戦は重核子爆弾だと勝手に思い込んでいた転生者達は、まさかゴルバ7基が初戦で思いもしていなかった為、結果として完全な奇襲となった。

 

 そして、慌てふためいた神川は思わず原作の地球侵攻軍の存在を一時的に忘れてしまい、相手がゴルバ、それも7基ということもあり、地球本星の艦隊と月面艦隊を除いて各惑星の艦隊をそちらに向かわせてしまったのだ。

 

 しかし、それらの行動が結果として隙になってしまった上に、暗黒星団帝国の思惑通りであったので、原作と同じくほぼ奇襲に近い形で、まずカザン率いる第一特務艦隊が姿を現した。

 

 そして、気づいたときにはこうなっていたという訳である。

 

 

(後手に回ったが・・・どうやら原作と違って重核子爆弾の存在はない。これなら多少時間は掛かるが、処理できそうだな)

 

 

 神川はそう思いながら、尚も闘志を失っていない目で戦闘の指揮に取り組んでいた。

 

 それは後に太陽系攻防戦と呼ばれるようになる戦いを構成する内の1つ、地球本土防衛戦が序戦から本戦へと変わった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇冥王星沖

 

 

「メイン動力部に被弾、次々と誘爆しています!」

 

 

 オペレーターが悲鳴を上げながら報告する。

 

 実際、誘爆は次々と起こっており、このままでは数秒後にこのゴルバは跡形もなく消え去るだろう。

 

 

「ば、馬鹿な──」

 

 

 七基のゴルバの指揮官、グロータス准将は自分の乗っているものも含めた七基ものゴルバが呆気なくやられたことに驚愕しながら、宇宙の塵となっていった。

 

 冥王星沖。

 

 そこでは駆け付けた地球艦隊とゴルバ七基が交戦していたが、こちらは地球の状況とはうって変わってデザリアム不利、地球連邦有利な戦況で続いていた。

 

 全ての順調に行っていたと思われるデザリアムであったが、実際は幾つかの誤算が生じている。

 

 1つ目はまず最初に攻撃を加えた拠点が第十一番惑星であったこと。

 

 実はここは未だにガトランティスの勢力下にあったのだ。

 

 ガトランティス兵は前述した通り、あのリメイク版のキチガイ兵ばかりであったので、地球連邦の方もおいそれと彼等をどうにかするのを躊躇っていた。

 

 そこで選んだのが、艦隊を撃滅した後の第十一番惑星に対する兵糧攻めである。

 

 流石にガトランティス兵も同じ人間。

 

 食料などが供給されなければ死ぬと判断されたのだ。

 

 おまけに旧作と違って支配ではなく、一方的な破壊を行っていた為、元居たアンドロメダには彼らの拠点すらない。

 

 故に、補給が来ないために艦隊さえ撃滅すれば飢え死にすると見られたのだ。

 

 ついでにハイペロン爆弾襲来時に死んでくれれば、手間が省けるという転生者達の黒い思惑もあった。

 

 そして、十一番惑星のガトランティス艦隊を撃滅した後、この作戦は実行され、十一番惑星は暫くの間放置されることが決まった。

 

 そこに転生者達の考えとは少し違ったものの、デザリアムが来襲し、ガトランティス兵はゴルバのアルファ砲によって吹っ飛ばされることになったのだ。

 

 しかも、実際、この時、地球防衛軍はなんら被害を受けていない。

 

 包囲していた部隊はゴルバ七基という相手を発見するや否や、勝てないと悟ってすぐさま撤退を行ったからである。

 

 つまり、第一撃で地球防衛軍に被害を与えられなかったこと。

 

 これが第一の誤算となっていた。

 

 そして、この時の通報によってデザリアムのゴルバが七基も襲来したことは地球防衛軍全体に知らされ、両者は冥王星沖で衝突することとなった。 

 

 しかし、彼らにとって不幸だったのは転生者達がゴルバを戦うことを見越しており、波動カートリッジ弾の設計を原作より早く行っており、既に前線で戦う部隊(特に転生者達が率いる艦隊)にはその配布が終わっていたことであり、尚且つ相対したのが転生者達の率いる艦隊であったことだった。

 

 原作とは違い、戦う場所が黒色銀河ではなく、太陽系であった為に派手な誘爆こそ起こらなかったものの、それでもゴルバを構成する元素や物質の波動融合反応の効果は免れず、一基、また一基と削られていき、こうして撃破されたわけである。

 

 

「やっと撃破したか・・・予想以上に被害が出たな」

 

 

 転生者の艦隊司令官はそう言いながら苦い顔をする。

 

 そう、艦隊はゴルバを撃滅した訳だが、損害がなかった訳ではなかった。

 

 アルファ砲の存在を地球防衛軍はイスカンダルでの戦闘から、転生者達は原作知識からそれぞれ知っていたが、原作とは違って一基一基撃破しなければならなかった為にアルファ砲やゴルバから発進したテンタクルスや戦闘ヘリによって、主力戦艦が3隻、巡洋艦が2隻、駆逐艦が8隻、パトロール艦が2隻、艦載機が10機程犠牲になっていた。

 

 幸い、空母に被害は出なかったし、損害もガトランティス戦の被害が原作よりも圧倒的に少なかった為、戦力が原作と比べて温存されていたことから、地球防衛艦隊全体的には大した被害ではなかったが、やはり被害が出たことは心理的に辛い。

 

 しかし、ここで立ち止まるわけにはいかない。

 

 地球は現在進行形で危機に見回れていたのだから。

 

 

「よし、全艦反転!地球周辺の敵艦隊を撃破する!」

 

 

 こうして、ゴルバを撃滅した地球艦隊は奇襲を受けた地球本星へと向かうことになった。




ちなみに今更ですが、古代の年齢は旧作設定(西暦2199年の時に18歳)に戻しました。性格も旧作準拠です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話

本作オリジナルキャラの登場です。と言っても、ほぼ(今は)モブ同然ですが。


◇西暦2202年 地球 メガロポリス

 

 

「くそっ!数が多すぎる!!」

 

 

 空間騎兵隊の隊員である大久保少尉(非転生者)は迫り来るデザリアム兵を撃ち倒しながらそう吐き捨てる。

 

 メガロポリスの戦いは空間騎兵隊が不利な状況で行われていた。

 

 元々、デザリアム兵は文字通り空から降ってきて攻撃してくるのに対して、空間騎兵隊は地上から打ち上げる形で応戦しなければならない。

 

 しかも、出動した地球防衛軍の戦車部隊はデザリアム軍の掃討三脚戦車の前に呆気なく敗北し、また空間騎兵隊の前にもパトロール戦車が現れてデザリアム兵に応戦する空間騎兵隊を横から殴ってきたことから、空間騎兵隊の敗北は決定付けられた。

 

 空間騎兵隊以外にもメガロポリスには地球防衛軍の地上部隊が居たが、それらも同様に殺られていき、この時点になってくると。メガロポリス守備隊の戦線は既に崩壊しているも同然の状態となっている。

 

 しかし、そんな状況下でも大久保は空間騎兵隊が正規採用している銃であるAK01 レーザー自動突撃銃で応戦を続けながら、兎に角、一度メガロポリス市街から脱出しようと懸命に走っていた。

 

 その間にも彼の働きぶりは物凄く、遭遇した敵兵を次々と撃ち倒しながら進んでいる。

 

 そして、数時間後、彼はどうにかメガロポリス市外へと辿り着いた。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・くそっ!」

 

 

 彼は助かったことに安堵しながらも、メガロポリスが燃える光景を目にして悔しげに涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ヤマト コンピュータールーム

 

 

「まさか、本当に1隻で突破するなんて・・・」

 

 

 キラ・ヤマトは凖尉の階級を与えられ、宇宙戦艦ヤマトの技術工作班の一員として乗り組んでいた。

 

 技術班の班員であることを示す白地に青い錨の紋章の制服に身を包みながら、キラ・ヤマトは今目の前で起こった事が信じられずにいた。

 

 ヤマトは原作通り、イカロスに隠れていたのだが、その乗員は原作とは違って既にあらかじめ集められていた。

 

 これは原作では主要な乗組員は森雪を除いて到着しているとはいえ、万が一、原作と違って到着しなかったらヤマト敗北の可能性も有り得ると考えた転生者達が半ば強引な根回しの末にそうさせたのだ。

 

 よって、ヤマトの準備は原作よりも早く完了したのだが、発進の直前に地球が襲われていると聞いてゴルバの対処を他の地球艦隊に任せてヤマトは単艦で一足先に地球救援に向かった訳である。

 

 そして、カザンとミヨーズの率いる艦隊に襲われて窮地に陥っていた地球本星艦隊と月面艦隊を救援しつつ、カザンとミヨーズの率いるデザリアム帝国第一、第二特務艦隊を撃滅に走った。

 

 そこでヤマトは猛烈に暴れまわり、遂に敵艦隊を撤退に追い込んだというわけである。

 

 現在は状況の確認を行っている最中だった。

 

 しかし、キラは当初、ヤマト単艦で敵艦隊殲滅に向かうことは危険だと考えていた。

 

 まあ、常識的に考えればその通りなのだが、このヤマトはその常識には入らないのだ。

 

 よって、実際にほぼ無双してしまった結果、戦闘が終結した後も目の前の光景が信じられず、呆然自失といった感じになってしまっていたという訳である。

 

 まあ、それでも数ヶ月の間、軍人として鍛えられただけあって、作業の手を止めることはなかったが。

 

 だが、キラ以上にヤマトの活躍に驚愕している者が居ることを彼は知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇太陽系外 戦艦『ガリアデス』

 

 

「恐ろしい敵だったな」

 

 

 第二特務艦隊司令官のミヨーズ大佐はそう言いながら、一先ず逃げ切れたことに安堵していた。

 

 艦隊は第一、第二特務艦隊を合わせても既に地球侵攻前の4割弱まで減っている。

 

 ミヨーズは艦隊総司令兼第一特務艦隊であるカザンが戦死した事で指揮権が途中から移行されたが、既にゴルバが撃滅された報告を受けて、形勢逆転は不可能と判断すると、すぐさま撤退行動に移った。

 

 ここら辺の切り替えの早さは、彼が切れ者である所以であり、もし戦死した人間がカザンではなく、ミヨーズであったら、今頃艦隊は壊滅していただろう。

 

 それは転生者達からしても同じであり、もしカザンを生き返らせることと引き換えにミヨーズを死なせることが出来るのであれば、迷わずそちらを取ったのは間違いない。

 

 なんせ、その切れ者ぶりはこの世界では既にこの世から去ったグロータスをして、『自分の地位すら脅かす存在』であったのだから。

 

 実際、原作の暗黒星団帝国の逆襲ではヤマトとゆきかぜ、及び第七艦隊は彼の張った狡猾な罠によって苦戦することとなっので、地球側からすればこの人物が生き残ってしまったことは最大の不幸だったと言えるだろう。

 

 まあ、そんなことはミヨーズからしてみれば知ったことではないのだが。

 

 

「おい、あの突如現れた宇宙戦艦はなんだ?」

 

 

「は?」

 

 

「あの単艦で現れた戦艦だ!」

 

 

「は、はい!宇宙戦艦ヤマト、と言われているそうです」

 

 

「ヤマト・・・あれがか」

 

 

 宇宙戦艦ヤマト。

 

 その名はデザリアムでも有名となっていた。

 

 まあ、たった1隻でガミラスを次々と撃ち破り、更には本星まで半壊させてしまったとあれば、有名になるのもある意味当然と言えたし、実際に数ヶ月前はマゼラン方面軍がヤマトによって散々な目に遭わされている。 

   

 デザリアムが警戒の過程でこのヤマトを話題にするのも当然だった。

 

 しかし、何処まで本当か分からなかったので、単なる誇張と考える者も少なくなかったし、ミヨーズもその一人であったのだが、今回の戦いでその認識は大いに改められた。

 

 

「ふむ・・・あれがヤマト。正に私の獲物に相応しいな」

 

 

 そう言うミヨーズの目は正に狩人の目をしていた。

 

 もっとも、転生者が見れば原作通りであり、想定の範囲内であったと言えるだろうが、ミヨーズに目を付けられて幸運か不幸かなど考えるまでもないので、これを知ったら転生者達はヤマトに哀れみの視線を向けることとなっただろう。

 

 そんな目をしているミヨーズに少しばかり怯えながらも、部下は恐る恐るといった感じで話し掛けた。

 

 

「あの、ミヨーズ司令?」

 

 

「なんだ?」

 

 

「上にはなんと報告致しましょうか?今回の敗戦、いえ、戦いを」

 

 

「ふん、言い直さなくても良いぞ。負けたのは事実だからな。上には私から直接報告する。お前達は気にしなくて良い」

 

 

 ミヨーズは軍人としてのプライドは高い。

 

 それは原作でもガリアデスの最期の時、部下を脱出させて自らは残って艦と運命を共にしたことからも分かる。

 

 だからこそ、ミヨーズは自らの敗戦を下に押し付けたりはしない。

 

 まあ、地球侵攻軍はデザリアムでもそこそこの大兵力であり、ゴルバ七基に至っては替えが効かない代物でもあった。

 

 それが撃滅され、おまけに将軍は二人戦死、更には地球侵攻軍そのものも4割を切る程に減らされた以上、自分を罰している余裕などないとミヨーズは予測している。

 

 まあ、上が相当な馬鹿で短気な人間で、更にミヨーズを脅威に思っている人間なら話は別だが、そういった人間は今回の戦いで殆ど討ち死にしている以上、そうはならないだろう。

 

 もっとも、だからと言ってそれに胡座座を掻く訳にはいかない。

 

 前述したように、ミヨーズは軍人としてのプライドは高いのだから、負けたままで終わらせるつもりは毛頭なかった。

 

 

(だが、このままで帰るのも不味いな)

 

 

 ミヨーズが憂慮しているのは、地球に取り残された味方の事だった。

 

 自分達が撤退し、ゴルバも全基が撃破され、更にあのヤマトすら居るという状況では、彼らがやられるのも時間の問題だろう。

 

 ただでさえ地球は彼らのホームグラウンドな上に孤立している状況なのだから。

 

 しかし、暗黒星団帝国、その中でも本星の人間であるデザリアム人は貴重な存在だ。

 

 なんせ、次世代の人間が産まれてこない(・・・・・・・・・・・・・・)ので、人的資源が失われたらそれでお仕舞いなのだ。

 

 もっとも、この問題さえ解決できれば無理に地球に戦争を仕掛けることもなかったのだが、それは今考えても仕方がないだろう。

 

 ミヨーズはそう思いながら、その切れ者と呼ばれた頭脳でなんとか味方を救出する方法を考える。

 

 そして──

 

 

(危険だが、向こうと交渉してみるか)

 

 

 ミヨーズは少々の危険を犯してでも向こうと交渉することを考える。

 

 艦艇が40パーセントを切っている上に、兵士が地球各地に散らばっており、更には地球防衛軍も態勢を建て直した以上、強引な救出作戦はほぼ不可能だ。

 

 故に、交渉によって取り戻すしかない。

 

 もっとも、ただで撤退させてくれるとは思えない。

 

 そもそも攻め込んでおきながら味方だけ返してくれと告げるなど、虫が良すぎて話すら聞いて貰えないだろう。

 

 故に、何らかの交渉材料と場合によっては対価が必要となる。

 

 だが、地球に居る味方が死ぬよりはマシと、ミヨーズは今あるものを全て頭の中に入れて計算を行っていた。




はい、というわけでグロータスとカザンは退場しました。原作でも二人は死亡しますが、それはミヨーズより後の話です。なので、この世界で二人が先に死んでミヨーズが生き残ったのは皮肉以外の何者でもありませんね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話

◇西暦2202年 地球 メガロポリス

 

 ミヨーズが太陽系外に艦隊を撤退させることを完了した頃、地球では壮絶な地球防衛軍と暗黒星団帝国軍による殴り合いが行われていた。

 

 当初こそ、暗黒星団帝国軍の艦隊から発進した艦載機によって各有人基地、特に航空基地が壊滅してしまい、艦隊の迎撃に出た地球本星艦隊や月面艦隊はミヨーズ率いる第二特務艦隊による奇襲と第一特務艦隊の数のごり押しによって危機に見舞われたが、ヤマトが出現し、両艦隊を追い払うと、地球防衛軍は途端に士気を上昇させ、地上に居た地球防衛軍の地上軍や空間騎兵隊も息を吹き返し、降下した暗黒星団帝国軍に反撃を行い始めていた。

 

 しかし、敵も然るものであり、暗黒星団帝国軍は戦車などの機甲化戦力の優位を生かす形で地球軍の地上部隊の反撃を受け流す。

 

 おまけに彼らがサイボーグ兵士であり、地球の兵士よりも頑丈であるという現状も防衛軍地上部隊の苦戦を招いている。

 

 もっとも、制宙権は既に地球側に確保されており、制空権すら落ちるのも時間の問題という状況では、さしもの暗黒星団帝国軍も士気を落とさざるを得なくなっていた。

 

 更に──

 

 

「な、なんだ!こいつは!!」

 

 

「速い!」

 

 

 先日、メガロポリスから逃げた大久保少尉はとても人間に出せるとは思えない速度で動き、レーザー自動突撃銃の弾丸を次々とデザリアム兵に向けて撃っていく。

 

 

(たくっ。こればっかりはあの研究所の人間に感謝だな)

 

 

 大久保は吐き捨てるようにそう思った。

 

 実は彼は転生者達ですら知らなかった宇宙戦艦ヤマトの闇の存在でもある。

 

 彼は幼少時、ガミラスの遊星爆弾によって家族が全員死に、その後、とある経緯を経てマッドサイエンティストが集う研究所にモルモットとして送られてしまったのだ。

 

 結果的にはその研究にて大久保は人間のリミッターを外す事と、それに耐える肉体を得ることになったが、当然のことながら無断で実験された大久保にとっては苦痛でしかなかった為、研究員を皆殺しにしながら研究所を脱走し、その後は地下都市で盗みなどを働いて食い繋いでいたが、これまたとある経緯によって空間騎兵隊に入隊することが出来たのだ。

 

 そして、その身体能力を使うことでこうしてサイボーグ兵士であるデザリアム兵相手でもこうして自在に翻弄することが出来ていた。

 

 もっとも、先日はほぼ全方位から攻撃を受けたことで逃げることを余儀なくされてしまったが。

 

 

(ナイフが使えないのは痛いが・・・まあいい)

 

 

 相手はサイボーグであるがゆえに、ナイフもあっという間に刃毀れしてしまって意味がない。

 

 格闘技も然りだ。

 

 肉体部分である顔以外は殆ど効果が無い。

 

 いや、厳密にはあるが、大久保にもダメージが跳ね返ってくるため、やはりそういうことは避けたかった。

 

 だからこそ、レーザー銃やコスモガンを使って敵を倒していたのだが、その途中にとんでもないものを見てしまった。

 

 

「ッ!?」

 

 

 自分が逃げ込もうとした建物には赤ん坊をその腕に抱えた一人の母親らしき女性が居た。

 

 しかも、間の悪いことにデザリアムはグレネードランチャーらしき物の砲口をそちらに向けている。

 

 

「くそッ!」

 

 

 大久保は素早くそちらに移動し、その母娘を庇う形で抱き竦める。

 

 しかし、無情にもランチャーの弾丸は発射され、このままでは最低でも大久保の命、悪ければ彼が庇った母娘共々ミンチになるのは確実だった。

 

 そんな時──

 

 

 

ドゴオオォオン

 

 

 

 ──一体のロボットが立ち塞がり、そのランチャーの弾丸を防いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫ですか!?』

 

 

 キラはその全長15メートル程の巨大ロボット──ガンダムに乗りながら、スピーカーでそう声をかける。

 

 ガンダム。

 

 それは地球連邦が開発したロボット兵器だった。

 

 もっとも、転生者からすれば丸っきりモビルスーツのパクリであるのだが、幸いなことにこの世界にはガンダムは存在しないため、非転生者からはオリジナルだと思われている。

 

 動力炉はヤマトと同じ波動エネルギーだ。

 

 しかし、波動エンジンの小型化は真田をもってしても成功してはいなかった。   

 

 なので、当初は旧式のバッテリーエネルギーが導入される筈だったのだが、ここで転生者がある案を出した。

 

 『ケーブルで電力を供給すれば良いんじゃないか?』

 

 それはエヴァンゲリオンを参考にして発案されたものだった。

 

 勿論、ケーブルを使うということはそのケーブルを造らなくてはならないし、戦闘中に切断される危険性もある。

 

 しかし、旧式のバッテリーと波動エネルギーを搭載するのでは出せる出力やパワー、機動性が全然違うのだ。

 

 そこで色々と考えた結果、電源をロボットに照射して充電するシステムにすれば良いという結論に至った。

 

 これもまた転生者がゴジラに出てくる三式機龍を参考に考え出したシステムである。

 

 もっとも、それが出来たら出来たで、別の問題も起こった。

 

 それは出力が強すぎて常人では耐えられない点だった。

 

 本来なら改良すべき点ではあったのだが、その前にデザリアム戦が始まってしまい、そんな暇が無くなってしまったのだ。

 

 そして、今に至るが、ここで名乗りを挙げたのがキラだった。

 

 彼はコーディネーターであり、その体の頑丈さは常人より遥かに優れている。

 

 なにしろ、ガンダムSEEDの原作では大気圏突入の際に“常人(ナチュラル)には絶対に耐えられない温度”に耐えたのだから。

 

 真田は安全性が確立されていないと渋ったのだが、キラの熱意に折れて仕方なく無理をしないという条件で許可したのだ。

 

 そして、こうして地上に降りてきたというわけである。

 

 ちなみに先程のランチャーはこのガンダムに直撃したものの、真田製の超合金のお蔭で少し焦げる程度で済んでいる。

 

 

「あ、ああ。大丈夫だ。ありがとう」

 

 

『そうですか。では、急いでその人達を連れてここから退避してください』

 

 

「分かった。・・・この借りは必ず返す」

 

 

 大久保はそう言い残すと、母娘を連れて退散していった。

 

 それを見届けながら、キラは改めて敵を見据える。

 

 

『あなた達に恨みは無いけど・・・僕はこの人達を守りたいんだ』

 

 

 そして、同時に彼の中で何かが弾け、瞳の色が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これまでか・・・」

 

 

 暗黒星団帝国技術部情報将校、アルフォン少尉はそう呟きながら自分の最期の時を悟った。

 

 彼は先発の部隊より少し遅れて降下したのだが、それゆえに今の状況がどれだけ不利なのか、冷静に見つめることが出来ていた。

 

 そして、艦隊が撃滅された時、自軍の敗けを悟っていたが、諦めるという選択肢は無い。

 

 何故なら、自分達は何処からどう見ても侵略者そのものであり、今更投降したとしても地球軍が許してくれるとは思えないからだ。

 

 まあ、確かにいきなり殴り掛かってきて、不利になったら敗けを認めるなど、認める者は少数だろう。

 

 普通はそのまま殴って止めを差す。

 

 少なくとも、自分達ならそうする。

 

 ましてや、軍民を無差別で殺しているのなら尚更だ。

 

 故に、自分達は最後まで抵抗して、そして、死ぬしか道はないのだ。

 

 まあ、先程までは状況の変化に焦りながらも、ここまで悲観的ではなかった。

 

 何ヵ月か粘っていれば新たな増援がやって来ると判断していたからだ。

 

 ここにはそれだけのことをする価値があったのだから。

 

 だが、突然、巨大ロボットが現れてこちらの機甲戦力を蹂躙しはじめてからその考えは脆くも崩れ去った。

 

 掃討三脚戦車は巨大ロボットの手に握られた刃がビーム式となっている剣のようなもので脚を切断され、機動力を奪われた挙げ句に撃破されていたし、パトロール戦車に至っては胴体を真っ二つに斬られて爆発四散している。

 

 しかも、これが鬼神のような戦いぶりで行われていた為、このメガロポリスに侵攻した暗黒星団帝国軍の兵士達は士気が下がるを通り越して恐慌状態となっており、既に統制は崩壊しているも同然となっていた。

 

 もっとも、それは戦っている暗黒星団帝国軍ほどではないにしろ、地球軍も同じであり、あまりの戦い振りにドン引きして思わず反撃を停止させていたのだが、我に返った部隊から反撃を開始し、チャンスと言わんばかりに、暗黒星団帝国軍の部隊を次々と撃破していく。

 

 このままではアルフォンの言う通り、全滅も時間の問題なのは明らかだった。

 

 そんな時だった。

 

 

「・・・ん?なんだ?」

 

 

 突如として地球軍からの砲火が止み出したのだ。

 

 アルフォンはその光景に首をかしげるが、その時、通信機からこのような声が入ってきた。

 

 

『こちら第二特務艦隊司令のミヨーズだ。味方部隊に告ぐ。戦闘を停止せよ。繰り返す、戦闘を停止せよ』



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話

◇西暦2202年 メガロポリス郊外 地球防衛軍 地上軍野戦指揮所

 

 それはアルフォンが死を覚悟する少し前の事だった。

 

 軌道上にまたもや突如として敵艦が現れたのだ。

 

 それもガリアデス単艦で。

 

 すぐさま迎撃しようとした地球艦隊だったが、敵艦から通信が入ったので、ひとまずそれに答えることにしたのだが、そこで告げられたのは休戦の提案だった。

 

 何を虫の良いことをと思う防衛軍だったが、それを通信に答えたミヨーズは承知しながらも、対価は払うと言ってきた。

 

 その内容はガリアデスに使われている偏光バリヤーの技術情報や意外なことに、ガミラス戦で使われたハイペロン爆弾の詳細まで明かすと言ってきたのだ。

 

 事の次第がかなり重要なため、今頃は既に占拠されたであろう地球防衛軍司令部に残った藤堂長官から全権を託された神川が直接交渉にあたった。

 

 

『──という条件で撤退を了承してくれぬか?』

 

 

「・・・それにそちらが確保した捕虜を全て解放するという条件を付け加えれば、そちらの撤退を了承しよう」

 

 

「議長!」

 

 

 相手の提案に応えるように言った参謀本部議長に部下は抗議しようとするが、神川は黙っていろと目で制した。

 

 

「すまんな。話を続けよう。それで、捕虜の解放は了承して頂けるのかな?」

 

 

『ああ、構わない。了承しよう』

 

 

「では、早速と言いたいところですが、通信が錯綜しているので・・・そうですね。現時刻から地球時間で一時間後以降をもってこの休戦協定は施行される。これでどうです?」

 

 

『感謝する。では──」

 

 

 そう言って両者の通信は切られた。

 

 

「議長、何を考えておられるんですか!!みすみす敵を逃がすなんて!!」

 

 

「そうです!ここで踏ん張れば、奴等を駆逐できます」

 

 

「・・・その間に何人の犠牲者が出る?」

 

 

「は?」

 

 

「何人の犠牲者が出ると聞いているんだ!!」

 

 

 神川はそう言いながら、ドンと机を叩く。

 

 

「ああ、私だって腸は煮え繰り返っているさ!!いきなり侵略してきた挙げ句、軍だけではなく、市民を無差別に殺されたんだからな!!だが、これ以上市街戦を行えば、市民にも大勢の犠牲者が出る!ならば、我々が怒りを抑えてでも敵を見逃すしかないだろうが!!!」

 

 

 神川は一通り怒鳴ると、指揮所に居る人間を見渡す。

 

 皆、怯えていたり罰が悪そうにしている者が大半であり、悔しげな表情をしている人間も少数居た。

 

 だが、その誰もが神川の言葉に反論したりはしなかった。

 

 皆、本当は分かっていたのだ。

 

 これ以上戦闘を行えば、市民に犠牲者が増えていくことは。

 

 そもそもこの暗黒星団帝国の侵攻事態が事前に分かっていたものではなく(実際は転生者は知っていたが、それは襲来の事実そのものであり、襲来方法は予想外だった)、突発的であり、尚且つあまりにも鮮やかな電撃戦が行われた為、市民の大半が主要都市に取り残されたままだったのだ。

 

 故に、このまま戦闘を続ければ、市民を巻き添えにすることは必然だった。

 

 しかし、軍の高官達は突如として攻撃されたことで頭に血が上り、それらの事が見えていなかった。 

 

 だからこそ、神川の言葉に反論することが出来ない。

 

 

「・・・分かったな?では、戦闘停止命令を出せ」

 

 

「了解、しました」

 

 

 高官の一人が悔しげにそう言いながら、戦闘停止命令を通達すべく野戦指揮所から出ていく。

 

 そして、一時間後、休戦協定が守られる形で両軍は戦闘を中止し、その更に数時間後には暗黒星団帝国軍は撤退していった。

 

 彼らの撤退をもって、太陽系攻防戦は終結した訳だが、どちらが勝ったかと言われれば微妙なところだった。

 

 戦略的には撃退に成功した防衛軍の勝利だが、本国のあちこちを荒らされた上に艦隊にも地上軍にも大打撃を与えられたからだ。

 

 こうして、歯切れの悪いまま、地球防衛軍と暗黒星団帝国軍の戦いの第一幕は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇新暦82年 ミッドチルダ 

 

 地球防衛軍が暗黒星団帝国と戦っていた頃、ミッドチルダは新暦82年を迎えてから数ヶ月が経っていた。

 

 しかし、ミッドチルダの時空管理局の本部は日々騒然となっている。

 

 

「もう一度派遣するべきだ!今度こそ、やつらの国力は限界かもしれない!!」

 

 

「そんな曖昧な情報にもならないもので納得できるか!!もう何百人も死者が出てるんだぞ!!」

 

 

 もう数ヶ月間もこの議論が続いていた。

 

 数ヶ月前、イスカンダル、ガミラス、地球の3つの地域に向けたロストロギア回収艦隊は悉く壊滅し、管理局は外に対する手出しをする余裕を失って戦力再編に勤めざるを得なくなっていた。

 

 だが、僅か数ヶ月でなんとか回復の目処が建ったのは管理局が幾つもの世界を管理して国力を保っている所以だろう。

 

 なにしろ、総合的に見れば国力だけは時空管理局は地球連邦を越えていたのだから。

 

 まあ、流石にボラーやガミラスなどと比べると霞んでしまうが。

 

 それは兎も角、ようやく一息着けた時空管理局は再度かの世界を調査するべきだという強硬派ともうちょっと様子を見るべきだという慎重派、更にかの世界で被害を出したことから新しく出来た派閥である不干渉派と三巴の論争を繰り広げていたのだ。

 

 それぞれはだいたい3・6・1の配分である。

 

 僅か全体の3割に減ってしまった強硬派であるが、それでも尚、彼らはかの世界に手を出すことを強調して主張していた。

 

 その理由は経済的なものが主だった。

 

 時空管理局は当たり前であるが、予算無しで動けるわけではない。

 

 当然、ミッドなどの本部や支部の管理世界政府から予算が出されることで機能している。

 

 しかし、時空管理局はあくまで警察組織という概念なので、その治安活動に戦力的な問題がなければ予算の増額はあり得ない。

 

 軍隊のように自分達と同格か、それ以上のものを相手にする事をあらかじめ想定して予算を得ている組織とは根本的に違うのだ。

 

 だからこそ、管理世界を拡大し、それを維持するという名目を立てることでしか既得権益や予算を増額することが出来ないのだ。

 

 ここで問題なのが、時空管理局は舐められてはいけないということである。

 

 軍隊の場合も弱いと反対勢力に漬け込まれる隙を与えてしまったりするのだが、警察が弱いと判断されるのはもっと不味いのだ。

 

 何故なら、軍隊は外敵などを相手にする外向きな機関に過ぎず、本来なら治安機関ではないので、よっぽどな暴動や状況でもない限り、軍隊は治安機関として出張ったりはしない。

 

 だが、警察は違う。

 

 警察は最初から内的なものを専門にする治安機関だ。

 

 極端な言い方をすれば、これが弱いと見られる、あるいはその存在が気にならないくらいのものが民衆の目に映ると、治安が崩壊してしまう可能性がある。

 

 ましてや、軍組織という概念を持たない時空管理局は自分達以外に頼る組織がないのだ。

 

 時空管理局が弱いと見られた時点で、離反する勢力でさえも少なくない。

 

 いや、むしろ、強引に管理世界として入れられた世界は喜んで歓迎するだろう。

 

 だからこそ、強硬派は例外を造るべきではないと主張するのだ。

 

 そして、6割の勢力を持つ慎重派。

 

 全体的な勢力的にこれが主流ではあるが、実際のところ彼らの考えはほぼ不干渉派と変わらない。

 

 では、何故、慎重派という中間的な派閥となっているかというと、いざというときに強硬派や不干渉派の意見にも鞍替えできるようにだ。

 

 蝙蝠。

 

 八方美人とも言うが、保身に走りやすい人間がよく所属する勢力である。

 

 彼らは考えが玉虫色な分、保身を計っているとして敵を作りやすい。

 

 だからこそ、6割という全体の半数を越える最大勢力という形で群れている訳である。

 

 ちなみに意外に思うかもしれないが、魔法至上主義者は数ヶ月前の敗戦を受けて、この勢力に鞍替えしている。

 

 本能的に自分達の立場や既得権益を脅かす存在であり、自分達よりも強力な勢力であると自覚したからだ。

 

 そして、自分達の立場を守るためには不干渉としたいが、万が一、あれが手に入れられる場合にも備えておきたい。

 

 そんな考えからこの派閥に属していた。

 

 最後に1割しか居ない不干渉派。

 

 これは読んで字の如く、あの世界からの完全な撤退を主張する派閥である。

 

 彼らの主張からすれば、自分達があの世界に1度干渉した以上、これ以上干渉すれば向こうからこちらに攻めてくる可能性も高い。

 

 だからこそ、あの世界に手を出すことを止めるべきであると主張する人間たちの集まりだ。

 

 ちなみにリンディもこの派閥に属している。

 

 しかし、この主張は主流ではないし、机上の空論と主張する人間も居る。

 

 自分達が実際に干渉しておきながらそう言うのも変なものだが、時空管理局は自分達よりも強い勢力と張り合った事がなく、脅威だったのは組織ではなく、個人単位な事が多く、また組織だったとしてもそれが脅威になったのは組織が時空管理局よりも強かった訳ではなく、様々な工夫を凝らしたに過ぎない。

 

 だからこそ、彼らは自分達よりも強い組織がこちらに干渉してくるというのが想像に浮かんでいないのだ。

 

 まあ、これは特別珍しいことではない。

 

 日本の自衛隊であっても発足から1度も戦争していないので、戦争を想定した組織でありながら戦争を知らないという存在でもあり、戦争となった際の具体的な戦略ビジョンなど無いのだから。

 

 要するに、想定はしていても具体的な想像が出来ないという例は決して少なくないということである。

 

 時空管理局もその1つに過ぎなかった。

 

 現に不干渉派ですら、あの世界の具体的な脅威を想像できていなかったのだから。

 

 だからこそ、彼らは気づかない。

 

 既に自分達は高みの台から見下ろす支配者ではなかったということに。

 

 自分達が狩られる側の獲物に成り果て、また実際に狙われた時、無様な様しか晒せないであろうであろうと言う現実に。




私の意見としては魔法至上主義者みたいな人達は既得権益を侵されないように保身に走るのが普通だと思います。ヤマト×なのはの二次創作などではやたら過激な魔法至上主義者が目立ちますが、ぶっちゃけ自分達の立場が侵されると認識し、それが強い存在だと判断すれば、触らぬ神に祟りなしと放置しておくと私個人は思っています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話

◇西暦2202年 参謀本部

 

 暗黒星団帝国の撤退から1週間が経過して、一時期は占拠された参謀本部もようやくある程度は復興できたが、神川は入ってきた被害報告に頭を抱えた。

 

 なにしろ、地球本星艦隊及び月面艦隊は戦力の3割が完全喪失、残り7割の内、4割がドッグ入りし、3割がどうにか使えるという有り様であり、とてもではないが再建には最低半年は掛かる数字であった。

 

 まあ、それ以外の各惑星の地球艦隊に関しては多少の損害で済んでいたのだが、暗黒星団帝国と結んだのはあくまで“休戦”であり、いつ戦いが再開しても可笑しくはない以上、現状の艦隊ではごり押しされれば勝てるかどうかは微妙なところだ。

 

 

「地球本星艦隊及び月面艦隊は事実上戦力の7割が僅か一夜で使えなくなったか。だが、なにより痛いのは──」

 

 

 神川はそこで別の書類を見る。

 

 今回の戦いで防衛軍が被った一番の打撃。

 

 それは地球本星艦隊の司令官、古代守が負傷して重症な状態であることだった。

 

 そして、今も入院中だという。

 

 古代守は優秀な指揮官の一人であるために、この打撃はかなり痛い。

 

 まあ、逆に言えば古代守が指揮官でなければ地球本星艦隊と月面艦隊は全滅していた可能性があるのだが。

 

 

「だが、それ以上に厄介な問題があるな」

 

 

 それは暗黒星団帝国を攻める方法が無くなってしまったことだった。

 

 原作の暗黒星団帝国の逆襲では第七艦隊が敵のワープアウト反応を観測したことでだいたいの場所を特定したが、このワープアウト反応の特定は艦艇の正面からしか出来ないのだ。

 

 そうなると、手探りで相手を探さなくてはならないことになる。

 

 勿論、転生者である神川は地球から40万光年離れた地点に敵母星が存在することを知っているが、それを明かすわけにはいかないので、どうしたものかと迷っていた。

 

 ちなみに迎え撃ち続けるというのは勿論却下である。

 

 ボラー連邦やガルマン・ガミラス相手なら赤色銀河交錯の事もあるので、その手も使えたかもしれないが、あいにく今回の敵は別銀河に居る敵だ。

 

 おまけに国力も段違いであり、波動エネルギーが弱点とはいえ、長期戦になれば国力の差でやがては負けてしまうだろう。

 

 

「さて、本当にどうするべきなんだろうな。いっそのこと、ガルマン・ガミラスとでも組むか?」

 

 

 神川は一瞬だけそう考えるが、すぐに却下する。

 

 何故なら、ガルマン・ガミラスが発足したのはヤマトⅢの原作1年前であり、ヤマトⅢは西暦2202年~2203年の間に起きた話だ。

 

 なので、おそらく今年か、あるいは去年の末頃ではあったが、今の時点ではまだ小規模勢力であると予測されるので、同盟の打診をしたところで、それどころではないと相手にされないだろうし、仮に成功したとしてもボラーという強大な敵を呼び寄せてしまう可能性が高い。

 

 いや、そもそも原作を見て分かる通り、話がデスラーまで通らなければその間に部下が勝手に侵略してくる可能性もある。

 

 やはり、ガルマン・ガミラスと仮に組むことがあったとしても、それは原作通り、ガルマン・ガミラスがボラー連邦と渡り合う程の勢力となった後の話となるだろう。

 

 つまり、それまでの間、地球は単独でデザリアムと渡り合うしかないのだ。

 

 それにディンギルが西暦2203年、つまり、来年に来ることも考えると、どんなに遅くとも来年末までに決着をつけなくてはならない。

 

 この無理ゲー的な状況に神川は絶望しそうになるが、どうにか踏み留まった。

 

 

「くそっ!原作者め!なんてハードスケジュールな設定で創ってくれたんだ」

 

 

 神川は原作者に対して罵声を浴びせるがそれも無理はないだろう。

 

 実際こうしてヤマト世界に入ってみると、原作がいかに無理ゲーだったか実感できたのだから。

 

 

「・・・まあいいや。取り敢えず、今はどうにかデザリアム戦を──」

 

 

「た、大変です!」

 

 

 神川の居る部屋に入ってきたのは、彼の秘書官(転生者)だった。

 

 

「どうした?」

 

 

「その・・・今病院から連絡があって、古代守さんが亡くなったと」

 

 

 その報告に神川は一瞬だけ目を見開くが、やがて諦めたように深くため息をつく。

 

 

「そう、か」

 

 

 ・・・地球防衛軍の傷跡は深かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 デザリアム星

 

 一方、地球から40万光年離れたデザリアム星では聖総統であるスカルダートが報告書を読んでいた。

 

 

「ふむ・・・思ったよりやるな。地球人」

 

 

 スカルダートはそう呟く。

 

 実際のところ、地球侵攻艦隊の60パーセント以上を失ったことはそれほど大したことではない。

 

 確かに大損害ではあったが、補充できない程の損害でもないからだ。

 

 しかし、ゴルバを7基も失ったのは非常に痛い。

 

 あれは本来なら一方面軍につき一基の配分で配備されている筈だったのだから。

 

 それほど造るのは簡単ではないのだ。

 

 もっとも、ハイペロン爆弾ほどではないのだが。

 

 

「新たな重核子爆弾の建造はどうなっている?」

 

 

 スカルダートは傍らに居たサーダに尋ねる。

 

 

「はい。なにぶん難しいので、建造するだけでもあと数ヶ月、実際に使うのならば半年は見積もってほしいところです」

 

 

「半年、か」

 

 

 半年。

 

 それは本来ならば、地球を屈服させるのには十分な期間だった。

 

 普通に考えればその通りだろう。

 

 なんせ、暗黒星団帝国は二重銀河を支配し、その外にも勢力を延ばしている。

 

 対して、地球は銀河どころか、最大でもオリオン腕一帯の恒星系の領土しか有していない。

 

 国力の差から、どうやっても地球に逆転の術はない。

 

 ・・・ただ一点を除けば。

 

 

「奴等の持つエネルギーとの融合反応、なんとかならんのか?」

 

 

「・・・以前報告しました通り、ガミラシウムもイスカンダリウムも、もはやこの世に存在しません。よって、解決は現段階では不可能です」

 

 

 そう、波動融合反応。

 

 それを彼らは極度に恐れていた。

 

 まあ、原作では彼らの本星の中心に波動砲を撃ち込んだことによって二重銀河は文字通り崩壊したので、彼らの懸念は決して間違いではなく、むしろ、彼らの恐れの方が生温いと言える。

 

 そして、波動融合反応を打開できる可能性があったガミラシウムとイスカンダリウムも、前者は母星ごとバラバラに散ってしまったことで採掘は不可能となり、後者も地球とガミラスの手によって全く別の物質へと変えられてしまったので、彼らの焦りは当然と言えば当然だった。

 

 そこまで恐ろしいのなら手を出さなければ良いのだが、彼らには生物としての種の確保という重大な問題を解決しなければならないのだ。

 

 だからこそ、リスクを侵してでも地球を攻略する必要がある。

 

 まあ、これも今回は失敗したわけだが、諦めるつもりは毛頭なかった。

 

 

「・・・そう言えば思い出したのだが、メルダースの報告にあった時空管理局。あれは何処の勢力なのだ?」

 

 

 スカルダートは思い出しかのように言う。

 

 以前、今は亡きメルダースから、時空管理局の存在を報告されたことがある。

 

 結局、最終的に何処の勢力か分からなかったので気にしなかったのだが、改めて見直すとふと気になった。

 

 まあ、分からないのも当然だった。

 

 まさか、この世界ではない別の異次元世界から来たなど、流石のスカルダートも想像すらしていないだろう。

 

 

「はぁ。そちらについては依然、分からずじまいです。詳しく調査してみれば分かるかもしれませんが・・・」

 

 

「いや、そこまでは良い。今は地球との戦いに集中しろ」

 

 

「承知しました。それで聖総統閣下、1つご提案が有るのですが・・・」

 

 

「ん?」

 

 

「イスカンダルに現在も居る女王。彼女を地球に対する人質に出来ないでしょうか?」

 

 

「・・・ふむ」

 

 

 これを聞いたスカルダートは暫しの間考える。

 

 

「・・・確かにイスカンダルと地球は関係があるが・・・所詮は他国人だ。人質にはならないかもしれぬぞ?」

 

 

「いえ、現在の地球防衛軍には女王の夫である人間が要職に就いていると聞きます。それならばあるいは」

 

 

「ふむ、確かにやっておいて損はないな。良いだろう。だが、誰に行かせるつもりだ?」

 

 

「確か今度中間補給基地に就任する人間にグノンという人物が居ました。その人物を遣わせましょう。今、有能な人間を派遣する訳にはいきませんから」

 

 

 言外にグノンを無能だというサーダであったが、それを咎めるものは誰も居ない。

 

 ・・・もっとも、彼らの言うこの人質作戦は古代守がこの時点で亡くなっていることによって半分以上が意味を成さなくなってしまっているのだが、彼らはそれを知るよしもなかった。

 

 

「良いだろう。やってみせよ」

 

 

 スカルダートは作戦を承認した。

 

 ・・・そして、スターシアごとイスカンダルが自爆し、グノン以下の派遣された艦隊共々全滅したという報告を受けるのはこれから2週間後の事であった。




はい、グノンはこの作品では登場する間もなく退場しました。ついでにスターシアも。ちなみにグノンは“暗黒星団帝国の逆襲”で中間補給基地の司令を勤めていた人物です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話

新暦82年 ミッドチルダ 次元航行本部

 

 

「クロノ君」

 

 

 ミッドチルダの次元航行本部。

 

 そこで一人の女性が提督であるクロノ・ハウラウンに話し掛ける。

 

 彼女の名は高町なのは。

 

 言わずと知れた“魔法少女リリカルなのは”の主人公である。

 

 既に20代半ばにも関わらず、魔法少女というのも痛いところがあるが・・・まあ、その辺は気にしてはいけないのだろう。

 

 それは兎も角、本来なら“空”に属する彼女が“海”の本部に来ることは珍しいため、クロノは少々驚きつつもそれに応じる。

 

 

「どうしたんだい?」

 

 

「あの・・・次のあの世界の調査にクロノ君も行くって聞いて」

 

 

「ああ、その事か。心配しなくて良い、とは言えないか」

 

 

 クロノは苦笑しながら自らの言葉を否定する。

 

 もう数ヶ月前の事とはいえ、あの世界の調査で数百人もの人命が一斉に亡くなってしまったのだ。

 

 彼女が心配する気持ちも分かる。

 

 なんだかんだで彼女とは10年以上の付き合いとなるのだから。

 

 

「まあ、大丈夫だ。なんとかするよ」

 

 

「ううん、そうじゃなくて」

 

 

「ん?」

 

 

「私もそこに乗せて欲しいの。何か出来ることが有るかもしれないから」

 

 

 その言葉にクロノは一瞬驚くが、同時にかなり道理に叶っているとも思った。

 

 何故なら、彼女は世界が違うとはいえ、これからクロノが接触する地球出身。

 

 確かになのはの言う通り、出来ることも有るかもしれない。

 

 だが──

 

 

「危険すぎるな。地球に派遣されたやつらは皆、全滅させられているからな。過激な連中の可能性が高い」

 

 

 クロノはそう言うが、地球連邦からすれば『それはこっちのセリフだ!』と主張するだろう。

 

 なにしろ、時空管理局は地球防衛軍に対して、無茶苦茶で地球連邦(転生者以外)からすれば訳の分からない要求をしてきた挙げ句、先制攻撃を掛けてきた危険な存在だったのだから。

 

 地球防衛軍では時空管理局を脅威度こそ低いものの、危険度ではデザリアムとどっこいどっこいと判断されている。

 

 だが、これらのことをクロノは知らない。

 

 帰ってきた人間の誰もが地球防衛軍の事を悪く言うだけで、先制攻撃を行ったことを誰も話さなかったのだから。

 

 まあ、話していたとしても、時空管理局上層部は治安維持の関係で悪評が立てられるのを防ぐために事実を改竄するだろうが。

 

 

「でも・・・」

 

 

「心配するなって。それじゃあ」

 

 

「あっ。クロノ君!」

 

 

 そう言いながらクロノは立ち去ったが、なのはは不安な顔付きでそれを見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇シリウス

 

 

「ふん、つまらんな」

 

 

 ガリアデスの艦橋でミヨーズはそう呟いた。

 

 その視線の先では地球連邦の貨物船が骸を晒している。

 

 通商破壊。

 

 デザリアム帝国は前回の地球侵攻の反省を踏まえて、暫くは地道な策を取ることにし、太陽系外縁で地球防衛軍の手が届きにくい地球連邦船籍の船に対してこのような攻撃を仕掛けていたのだ。

 

 しかし、ミヨーズとしては面白くない。

 

 先も言った通り、彼は軍人としてのプライドが高かったので護衛も居ない民間船をいたぶる趣味など無いのだ。

 

 まあ、それでも命令には従うが。

  

 

「まあ、私も敗戦した上に機密情報の幾つかを地球側に渡してしまったからな。仕方ないと言えば仕方ないか」

 

 

 ミヨーズは自嘲気味にそう言った。

 

 そう、彼は交渉のためとはいえ、暗黒星団帝国が秘密にしている情報の幾つかを地球側に渡してしまった。

 

 それでもミヨーズが処断されてないのは、ミヨーズの読み通り、将兵が足りていないのと、その交渉の対価として地球に降下して孤立した多数の将兵を救い出すという成果を挙げていたからだ。

 

 そうでなければミヨーズの首など、当の昔に飛ばされていただろう。

 

 

「まあいい。次の機会を待とう」

 

 

 ミヨーズはヤマトと戦える機会をてぐすねひいて待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇地球 地球防衛軍参謀本部

 

 デザリアムのミヨーズが中心となって行っている通商破壊。

 

 当然、被害を受けている側の軍である地球防衛軍でも無関係ではない。

 

 そして、その対策として転生者達は対策会議を開いていた。

 

 

「太陽系の外ではあちこちで被害が出ていますね。今のところ、太陽系の中までは踏み込んできていませんが」

 

 

 今現在、先の反省を生かして太陽系内は更なる哨戒網を強化しており、蟻の這い出る隙間もない状態となっている。

 

 ちなみに十一番惑星も既に地球防衛軍によって奪還を完了しており、コスモタイガーⅡと空間騎兵隊が配備されていた。

 

 だが、太陽系の外はその限りではなく、艦船の数の不足から精々が戦闘衛星くらいの装備しか配備されていない。

 

 だが、太陽系の外もまた地球の軍拡や復興のためには必要な資源があり、またここをどうにかしないと地球連邦は太陽系内に閉じ込められてしまうことになる。

 

 なんとかしなければならなかった。

 

 

「・・・やはり、例の作戦を行うしか有るまい」

 

 

 神川は口を開く。

 

 例の作戦とは地球とデザリアム星の丁度中間、つまり、20万光年の場所にある中間補給基地を占領、あるいは破壊することだった。

 

 ここを破壊することは暗黒星団帝国が行っている通商破壊に何らかの影響を及ぼせると目された為、提出された作戦であったが、破壊か、占領で意見が割れている。

 

 破壊派は波動融合反応などでまともな運用が出来るとは思えないので、破壊するのが一番安全で手っ取り早いとする意見だ。

 

 対して、占領派はゲームの二重銀河の崩壊で登場した第8補給基地からするに、こういった大きいところの基地には何かしらのデザリアムの機密が隠されているので、それを接収するべきだという意見である。

 

 確かに現状では敵の母星を転生者以外の人間に知らせる方法がない(ちなみに中間補給基地についてはゴルバの残骸などから真田と大山が特定した)ので、ここで真田がダイソン球殻の事について気づけば、二重銀河の崩壊の無駄な分の行動を短縮できるかもしれない。

 

 が、破壊が一番手っ取り早く安全であるというのも確かなので、その点を考えればなかなかに悩ましいところではあった。

 

 

「占領で行く。例のMS中隊を投入してな」

 

 

 神川は占領派の意見を採用することを宣言する。

 

 ちなみにMS中隊というのは、空間騎兵隊に新たに設立された兵科であり、隊長はあの宇宙戦艦ヤマトⅡで有名な斉藤始大尉が勤めている。

 

 それは文字通りガンダムを使用する部隊であるが、結局、波動エネルギーの小型化は間に合わなかった事と、二重銀河に侵攻する際は過剰な波動融合反応を生み出して自滅してしまう可能性があることから旧式のバッテリーに変更された。

 

 更にキラ・ヤマト少尉(昇進した)もまたこの部隊に出向という形で入っている。

 

 更なる余談だが、大久保中尉(こちらも昇進した)もまたこの部隊に居り、偶然ながら再会を果たしていた。

 

 

「このまま長期戦になっては不味い。こちらは技術も国力も、おそらくは人口も劣っているからな。長期戦になれば到底勝ち目はない。・・・おまけに時間制限もあるしな」

 

 

 最後のところは苦々しげに言った。

 

 まあ、あまり遅れると暗黒星団帝国とディンギルの両方の戦線を戦わなければならないという事にもなりかねないし、そうでなくともデスラーがこちらを認識する前のガルマン・ガミラスの来襲やプロトンミサイルの流れ弾がこちらに飛んできたりという事もある。

 

 特にプロトンミサイルについては、原作では太陽に直撃したもの以外にも、何発か流れ弾が太陽系に侵入してきており、ヤマトが迎撃している。

 

 現在の地球にそれだけの問題を同時に対応できる力はない。

 

 いや、ここまでになるとボラー連邦クラスの国ですら不可能だろう。

 

 要は国力が有ろうと無かろうと、時間は地球に味方しないのである。

 

 これだけ悪条件が揃えば苦々しい言葉も吐きたくなるだろう。

 

 

「・・・そうだな」

 

 

「確かにやるしか有りませんな」

 

 

 転生者達も同意見なのか、神川の言葉に賛同し始める。

 

 そして、最終的に幾つかの修正を受けて、地球防衛軍による中間補給基地占領作戦は可決された。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話

話を少し変えます。


◇西暦2202年 地球より20万光年 中間補給基地

 

 

「作戦成功、か」

 

 

 大久保中尉はそう呟きながら、周囲の警戒を行う。

 

 中間補給基地の戦い事態は順調に進んでいる。

 

 原作(大久保は知らないが)同様、コスモタイガーⅡの編隊の奇襲によって大打撃と大混乱を同時に与え、ヤマト率いる艦隊が残った艦隊を掃討し、同時に斉藤率いるMS中隊を中間補給基地に突入させた。

 

 未だ混乱と動揺から立ち直っていなかった中間補給基地のデザリアム兵は次々とMS中隊によって蹂躙されていき、占領も時間の問題となっていたのだ。

  

 そんな時、キラを含めた大久保率いる別動隊は一旦機体から降りて中間補給基地の細部を調べていた。

 

 

「どうだ?何か分かったか?」

 

 

「ええ、まあ、色々と機密データらしき物が多数」

 

 

 キラはそう言うと、端末の中身を大久保に見せる。

 

 

「・・・これは貴重な情報だな。急いで知らせた方が良いな」

 

 

「ええ、そうですね」

 

 

 二人がそのような会話している間も斉藤率いる本隊によって中間補給基地の占領は順調に進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同年 地球防衛軍 参謀本部

 

 中間補給基地占領の成功。

 

 それは防衛軍全体を歓喜に沸かせていたが、転生者達はそんな中を次の手を打つべく準備を始めていた。

 

 

「今回の中間補給基地占領の際に出てきたデータから、新たな重核子爆弾の建造データを入手することが出来ました。それによると、あと数ヶ月で完成するそうです」

 

 

「数ヶ月か・・・」

 

 

 転生者の一人が呟く。

 

 これを数ヶ月しかないと判断するか、それとも数ヶ月もあると判断するかは人によるが、なんにせよ時間は地球側に味方しないという事は改めて実証された事になる。

 

 やはり、デザリアム星の攻略は急がなくてはならないだろう。

 

 

「・・・そう言えば、時空管理局の事だが、奴等は何か言ってきたか?」

 

 

「いえ、今のところは」

 

 

「そうか」

 

 

 それは中間補給基地の占領が行われた少し後のことだった。

 

 また冥王星にあの次元航行艦隊が現れたのだ。

 

 地球連邦側は半ばうんざりしながら、それでもなんとか半ば投げやりではあったが交渉を始めた訳だが、その交渉の相手がクロノだったお蔭か、意外な程に平和的に接触できた。

 

 もっとも、前回二つがあまりにも酷すぎたせいでクロノが紳士的に会話しても不信感は拭えず、むしろ、紳士的な対応すぎて却って不信感を煽ることになっていた。

 

 まあ、曲がりなりにも友好的な姿勢だったのでそれなりの対応を行ったのだが、トロイの木馬にならないために地球本星に案内したりはせず、冥王星のロストロギアを回収したいと主張しても、これまでの事の上層部に対する誠意的な謝罪をまずするべきだと地球側も主張したのだ。

 

 その後、クロノは本部に伝えると言って帰っていったが、あれでどのようになるのかは検討もつかなかった。

 

 

「次元航行技術の方は?」

 

 

「色々と戦争が続いて後回しになっていましたが、どうにか1ヶ月後には完成するそうです」

 

 

「そうか。まあ、急いで開発する技術でもないしな。今はデザリアム戦に集中するか」

 

 

 神川はそう言うが、もう1つ気になったことを口にする。

 

 

「そう言えば、この場では関係のない話なんだが、赤色銀河の交錯って、SUSがやったのではないかという非公式設定があったよな?」

 

 

「えっ?・・・ああ、そう言えばそんなのがありましたね。確かに辻褄は合っていますけど、謀略論と見れないこともないですね」

 

 

 完結編に出てきた赤色銀河。

 

 それを起こしたのは復活編に出てくるSUSなのではないかという議論は非公式設定で存在した。

 

 まあ、確かに異次元からいきなり銀河が現れて、ガルマン・ガミラスとボラー連邦を崩壊させた後に同じく異次元からSUSが現れて、銀河の一部分とは言え、当時、起こっていた戦争を治めて平和を築いていたのだから、それが全てマッチポンプであり、赤色銀河もSUSが仕業ではないかという考察はある意味理に叶っていると言える。

 

 と言うより、当時の銀河のボラーとガルマン・ガミラスの勢力からするに、そうでもしないと銀河系の国家間の交流に割り込むのは難しかっただろう。

 

 だから一度勢力を整理するためにガルマンとボラーを壊滅させた。

 

 確かに理には叶っているが、公式設定ではないし、証拠もない以上、謀略論という見方も出来なくはない。

 

 

「・・・次元航行技術を使ってそれらを調査できないかな?」

 

 

「「「!?」」」

 

 

 その神川の発言に転生者達は驚く。

 

 

「し、しかし、確かにSUSと赤色銀河は何か関係があるのかもしれませんが、あまり下手に手を出すとこちらが原作よりも早く目を着けられるかもしれませんよ?」

 

 

 原作でおそらくSUS、ひいてはカスケードブラックホールが地球に目を着けたのは、復活編本編より3年前である西暦2217年。

 

 しかし、本編より3年前から対策が検討されていた事からすると、その3年の間にも真っ直ぐ地球へと向かっていたと目されるため、カスケードブラックホール出現から地球に到達するまでは約3年と見た方が良いだろう。

 

 しかし、現時点で目を着けられた場合、たった3年では対処不可能だ。

 

 よって、ここは触らぬ神に祟り無しと触れないのが一番である。

 

 そう主張する転生者であったが、神川には何かが引っ掛かっていた。

 

 

「そうか。まあ、そうだよな。だが、なんか嫌な予感がして、な」

 

 

 神川はそう言うが、どうしても嫌な予感は拭えなかった。

 

 しかし、この時の懸念は間違いではなかったということを後に嫌という程思い知らされることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇新暦82年 ミッドチルダ 最高評議会

 

 

「謝罪だと!ふざけるな!!」

 

 

 評議会に居る議員は憤慨していた。

 

 クロノ・ハラオウン率いる艦隊が地球艦隊に接触して友好な対話を築いたという報告を受けた時は驚きつつも報告を聞いていた議員達だったが、向こうが出してきた謝罪要求を聞いて怒りの声を上げたのである。

 

 が、ぶっちゃけ時空管理局がやったことを考えれば、これが過激な国であるならば謝罪どころか、賠償金の要求すら出されても可笑しくはなかったのだ。

 

 いや、それ以前にいきなり攻撃されても可笑しくはなかった。

 

 更に地球連邦側が戦争中でピリピリしていることを考えれば、この要求で済ませた地球連邦は十分穏健と言えるだろう。

 

 しかし、そんな地球の温情を時空管理局が察するかと言われれば答えはNOである。

 

 そもそも双方が感じている空気が違う。

 

 地球側からすれば、脅威度こそ数段落ちるとはいえ、存在の危険度そのものは暗黒星団帝国とはそう変わらないし、むしろ、実際に攻撃してきたので、準敵対国家と見なしている。

 

 対して、時空管理局の方もそれは同じだ。

 

 時空管理局側からすれば、地球連邦は自分達の組織に局員を殺した犯罪者なのだから。

 

 ちなみに『先に攻撃して地球連邦の人間を殺傷したのは犯罪にはならないのか?』という突っ込みは彼らには無駄である。

 

 警察組織が実際に身内が犯罪を犯しても、自分達側の非を認めたがらないのは、時空管理局だけの話ではなく、何処の世界でも同じなのだから。

 

 まあ、それは警察組織だけの話ではないのだが、警察組織が他の組織よりそれが顕著なのもまた確かだった。

 

 当たり前と言えば当たり前であり、彼らは法の番人であり、その法の番人そのものが犯罪を犯すなど、示しが付くわけが無い。

 

 だからこそ、彼らは自分達の非を認めたがらないのだ。

 

 

「こうなったら、連中の本拠地に突っ込んで首脳部を逮捕しろ!!」

 

 

「いや、いっそのこと、管理世界に編入させてしまえ!!」

 

 

 そう主張する者の中には、先日の強硬派の他に不干渉派も混じっていた。

 

 彼らも地球連邦の物言いには怒りを感じていたのだ。

 

 両者合わせて全体の4割の主張ではあるが、その声は大きく、残り6割の慎重派の心も動きかけている。

 

 そんな中、リンディは今回の地球連邦の主張について考える。

 

 

(謝罪要求だけということは、向こうはそれほどこちらに対して怒っていないのかしら?)

 

 

 彼女は時空管理局の中では珍しく自分の非を認める方の人間だった。

 

 まあ、そもそも彼女も強引なやり方で管理世界に入れたり、任務のどさくさに紛れて管理外世界で金品の略奪や無用な現地人の暴行を行う輩が居るとは聞いたことがあったし、実際に見て罰しようとした(・・・・・・)事も何度かあったので、一概に時空管理局が正しいように言う報告も半信半疑だった。

 

 故に、迷惑である地球連邦は相当怒っていると思っていたのだが、謝罪要求だけを出すという事はあまり怒ってはいないのかもしれないと彼女は思っていた。

 

 もっとも、これは大きな勘違いであり、実際は地球連邦政府はかなり怒っている。

 

 しかし、曲がりなりにも交渉を求めている相手に喧嘩腰なのは不味いという主張を転生者達を中心に行っていたので、要求がそれだけになったに過ぎない。

 

 まあ、そんな事情を彼女が知るよしもないのだが。

 

 

(だとしたら、まだチャンスはある)

 

 

 彼女はそう思ったが、元々この状況では事を大きく動かすのは難しい。

 

 時空管理局は新しい人材こそ様々な世界から入れているが、組織そのものが大きい上に組織構造は長い間手を入れられていなかった為に硬直化しており、何か事を動かすにも色々な根回しが必要なのだ。

 

 もっとも、それは地球側も同じであり、現にガミラス戦前は国連も組織がかなり硬直化しており、転生者達は苦労した経験があった。

 

 今の地球連邦政府が比較的柔軟な思考をしているのは、ひとえに大きな犠牲を出して組織構造の改革を半ば強制されたこと、更には全人口の3分の2以上が死んだお蔭で、地球各国の貧富の差や主義主張の問題がスッキリしたからに過ぎない。

  

 寒気がするような話ではあるが、大きすぎる組織というのは、そこまでしないと改革が進まないのだ。

 

 

(でも、動かなきゃ。クロノの為にも)

 

 

 リンディは微かに母親の色を見せながらそう決意した。

 

 だが、彼女は知らない。

 

 それが彼女の勘違いであったという事を。

 

 そして、彼女の決意を転生者が聞けば『謝るのは良いから、せめてこっちの世界に手を出さないでくれ』と泣きながら懇願する勢いで言ったであろうことを。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18話

ちょっと話が行き詰まってしまったので、話を少しばかり変更します。


◇地球連邦 参謀本部

 

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」

 

 

「・・・・・・なんでや」

 

 

 長い沈黙の末、一人の転生者がそんな突っ込みを行う。

 

 このままでは済まないだろうという予感はした。

 

 SEED世界とこの世界がゲートか次元の壁か何かで繋がるという想定もしていた。

 

 しかし、誰が想像するだろうか?

 

 SEED世界の月とプラントを含めた(・・・・・・・・・・)太陽系(・・・)の各惑星が一セット(・・・・・・・・・)丸ごと(・・・)この世界に転移してくる(・・・・・・・・・・・)などと。

 

 しかも、すぐ隣に。

 

 はっきり言って、あまりにもウルトラC過ぎる状況であり、転生者達もどう反応して良いのか分からなかった。

 

 

「そして、聞いたところ、向こうはCE70年7月だそうです。キラ・ヤマトの事も調査してみましたが、ヘリオポリスに本人が居ないので、あれはこの世界にやって来たキラの居た世界で間違いありません」

 

 

「つまり、向こうの時系列では3ヶ月間、キラ無しで進行していたということか。まあ、原作の半年前だから殆ど影響が無いかもしれんが」

 

 

「それよりCE70年7月と言ったら、新星攻防戦の頃ですね。原作では来年の9月末にジェネシスが撃たれたので、あと1年くらいでジェネシスは完成することになります」

 

 

「しかも、ジェネシスは60パーセント(・・・・・・・)の出力で地球の生物(・・・・・・・・・)の8割が死滅(・・・・・・)だからな。これが100パーセントで撃たれた時なんて考えたくもない。しかも、たぶんあの兵器はこっちまで届くぞ」

 

 

 突如降ってきた新たな地球滅亡の可能性の案件に、転生者達は思わず頭痛を訴えたくなった。

 

 これが核兵器くらいなら良い。

 

 それならば、こちらに幾らでも対抗手段があるし、わざわざ艦隊を出すまでもなく戦闘衛星でも十分対処可能だ。

 

 だが、ジェネシスは違う。

 

 あの兵器はヤマト世界に出てきても可笑しくはないくらいの大量殺戮兵器なのだ。

 

 それも脅威度はハイペロン爆弾やプロトンミサイルとどっこいどっこい。

 

 なんで、あのガンダムの世界線で突如こんな超兵器が現れるんだと突っ込みたくなる。

 

 

「まあ、現れて、しかも接触しまったものは仕方がないが・・・問題はクルーゼだな」

 

 

 ガンダムSEEDの、特に今の時点で問題なのは、ザフトならばパトリック・ザラ、連合ならムルタ・アズラエルだが、前者はまあ、工作次第ではどうにかなるし、後者も反コーディネーター強硬派で小物ではあるが、同じブルーコスモスのジブリールよりは話が通じる。

 

 だが、クルーゼは違う。

 

 あの人物は連合、ザフト双方、と言うより人類を破滅させようとしている。

 

 いずれその矛先はこちらに向いても、なんら可笑しくはないのだ。

 

 特にあの人物が罷り間違ってジェネシスの発射装置を手に入れたりしたら最悪だ。

 

 となると、早急に排除する必要があるのだが、問題はどうやってそれをするかだった。

 

 あの人物は別世界のガンダムなら間違いなくニュータイプと呼ばれていたであろう人物であり、ある意味SEED持ちよりも排除が難しい。

 

 暗殺などもっての他だ。

 

 まあ、最悪の場合、プラントを波動砲で跡形もなく吹き飛ばしてしまうという手もあるが、なるべくそんなことはしたくない。

 

 

「くそっ!デザリアム戦も後少しでチェックメイトなのに、なんでこんな面倒な案件が転がり込んでくるんだ!!」

 

 

 デザリアム戦は終盤まで近づいており、つい最近は狙撃艦隊を撃破して黒色銀河を突破し、白色銀河に入っていた。

 

 何故かミヨーズの迎撃は無かったのは気になったが、本星に近づけば出てくるだろうと、あまり深くは考えてはいない。

 

 しかし、あと少しでチェックメイトまで来ていたのに、その途端にこれだったのだ。

 

 罵声を溢したくもなるだろう。

 

 

「まあ、今の時点ならば太陽系に残った戦力でも十分対処可能だろう。幸い、地球本土防衛戦のお蔭で軍拡に対する予算は増大しているしな」

 

 

「ですが、財務省は悲鳴をあげていますよ。まあ、国が滅んでは仕方ないので、軍拡はしょうがないんでしょうがね」

 

 

「ああ、俺達だって早いところ復興や産業の育成にも力を注ぎたいさ。だが、次から次へとやって来る敵が多すぎるんだよ。しかも、どいつもこいつも強大な勢力だったり、圧倒的な戦力を持っていたりするしな」

 

 

 この時点で地球連邦はヤマトの他にアンドロメダ級戦艦5隻、改アンドロメダ級戦艦を2隻の他に主力戦艦が45隻、空母が5隻、戦闘空母が1隻の他に巡洋艦や駆逐艦、パトロール艦、無人戦艦及び無人駆逐艦も合わせると、約250隻もの艦艇を保有していたが、この中にはドッグ入りしている艦艇も居るし、デザリアムへの遠征に出掛けている艦艇も居る。

 

 更にそうでないにしても、ボラーなどに対抗するにはこれでも足りない。

 

 なんせ、復活編のほんの初めの序盤に出てきたSUS単独の艦隊だけでも900という数なのだから。

 

 まあ、その頃の防衛軍も第三次移民船団の護衛としてアマールに着いた3個艦隊(第七、第八、第九防衛艦隊)だけで162隻の艦艇を有していたし、おそらく全て合わせると500隻は越えているので、今の防衛軍が余裕が無いだけとも言えるのだが。

   

 しかし、太陽系内に残っている艦艇だけでも、仮に地球連合軍とザフトが共闘戦線を組んだ(そんなことが有るとは思えないが)としても対処可能だ。

 

 そもそもエネルギーや宇宙進出技術の基礎段階からして、天と地ほどの差があるのだから。

 

 

「しかし、これで警戒網は再シフトしなければならないな。いきなり星が多数現れたんだから」

 

 

 転生者の一人が苦言を言う。

 

 まあ、確かに星が太陽系内にいきなり現れたら新たに警戒シフトを考え直さなくてはならないだろう。

 

 現代で言えば、領海内にいきなり多数の島々が現れたようなものなのだから。

 

 島影にレーダーが通りにくいように、星影にもレーダーは通りにくいのだ。

 

 

「その点は仕方あるまい。開拓すべき星が増えたとボジティブな考えをしよう」

 

 

「しかし、あれはSEEDの世界の星々ですよ。勝手に開拓するのは不味いのでは?」

 

 

「問題ないだろう。向こうは殆ど月と地球とその近くにある宙域、あと火星も有ったか。だが、それ以外は開拓していないんだからな。こういうのは早い者勝ちだ」

 

 

「うわぁ、まるでドラえもんのガルタイト鉱業みたいな所業ですね」

 

 

「いや、違うぞ。ドラえもんでは移民した住民が居たが、この世界では移民した住民が居ない。無人の星を開拓するだけだ」

 

 

 神川の言葉はかなり強引な理屈と言えるが、魅力的なのも確かだった。

 

 なにしろ、ただでさえヒト、モノ、カネの三大要素が何もかもが足りていないのだ。

 

 おまけにこれからも強大な敵が来ると来ている。

 

 そんなときに新たに現れた餌があれば、飛び付きたくなるのも当然と言えた。

 

 そんなとき、転生者の一人がSEEDのある人物を思い出した。

 

 

「そう言えば、ラクス・クラインなんですが・・・」

 

 

「ん?」

 

 

「彼女、こちらに何か手を出してきたりはしませんかね?」

 

 

「「「あっ!」」」

 

 

 指摘されたことで転生者達は思い出す。

 

 原作のラクス・クラインがどういう人物であったかを。

 

 そして、徐々に顔を青ざめる。

 

 ラクス・クライン。 

 

 ガンダムSEED及び続編であるディスティニーでは、キラ・ヤマトのヒロインであった人物だ。

 

 人物そのものは平和の歌姫と言われている程、温厚なのだが、彼女の行動が問題だった。

 

 まあ、簡潔なものを言うと、フリーダムを(勝手に)キラに与えたり、最新鋭の戦艦を強奪したり、第三勢力として連合軍とザフトの戦いを引っ掻き回したりした。

 

 それはテレビを見ている人間からすれば、平和のために戦争に参加した人物と見られるかもしれない。

 

 実際、彼女達の活躍で人類滅亡阻止が出来たのは紛れもない事実なのだから。

 

 しかし、それは結果論であるし、実際に戦っている人間や被害を負わされた人間からすれば、単なる悪魔な存在であることに変わりはない。

 

 まあ、世の中は結果良ければ全て良しの世界でもあるのだが、その後、戦後処理も行わずにオーブに引っ込んでしまったのは頂けないだろう。

 

 彼女達もこの戦争を生き抜いた当事者であり、戦争を引っ掻き回した責任者として戦後処理を行う義務があったのだから。

 

 しかし、彼女達はそれを放棄している。

 

 それも問題なのだが、一番の問題は彼女の行動力だ。

 

 なんせ、戦艦を強奪したりしているのだ。

 

 バルトフェルドと組んで万が一こちらの艦艇、それも波動砲を搭載した戦闘艦など強奪されたりしたら堪らないし、ヤマト世界は向こうの連合軍やザフトより過激な絶滅戦争などをしているし、これからもするつもりでいる。

 

 それを知った彼女がこちらを見逃してくれるとは思えない。

 

 つまり、はっきり言って、SEED原作なら兎も角、この色々とカオスになってしまった世界で生きる転生者達からすれば、SEED原作でキラを道具として使うと同時に、逃げ道ともなっていたフレイ・アルスターの存在より、更にたちが悪い存在なのがラクス・クラインという少女だった。

 

 いや、普通に過激な行動を取る分、ヤマト世界のイスカンダル(リメイク)などの平和主義者よりも断然危険な人物である。

 

 

(((なんとかしなければ)))

 

 

 それは転生者達の共通な思いでもあった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19話

◇西暦2202年 白色銀河 デザリアム星内

 

 

「急げ!」

 

 

 大久保中尉は叫ぶ。

 

 白色銀河に侵入した後、中間補給基地で得たデータを頼りに真田がダイソン球殻の説を考え、本星の位置を発見した。

 

 ・・・ちなみに、ヤマトと共に行動している艦隊のとある転生者の艦長は、事前資料が有ったとはいえ、あまりにもあっさり本星の仕掛けを見破った事に内心でドン引きしていたのだが、今はどうでも良いだろう。

 

 まあ、それを言うならデザリアムの首脳部の方は、何故ヤマトが来ていきなり自分達の本星の位置を見破ったのか分からなかったので、かなり慌てふためいていたのだが、これもまたどうでも良い話である。

 

 そして、調査の為の先遣隊として先行して上陸した大久保中尉率いるMS中隊第2小隊と何故か着いてくることになったサーシャであったが、その時にヤマト艦隊はサーグラス准将率いる本星直援艦隊の迎撃を受けた。

 

 そして、激戦の末、これを撃滅したが、その際の波動融合反応によってこのデザリアム星は機械星へと変化を遂げてしまう。

 

 一方、サーシャのお蔭で生きてはいたものの、孤立する形となってしまったMS中隊であったが、ここで活躍したのがキラと大久保だった。

 

 キラはデザリアム人を見て、あることに気づいたのだ。

 

 それはデザリアム人が管理するシステムそのものがコンピューターウィルスに弱いのではないか?

 

 そういう疑問だったが、これは奇しくも二重銀河の崩壊のサーシャ生存ルートで真田が築いた疑問と同じだった。

 

 そして、キラの目論見通り、キラの造ったコンピューターウィルスにデザリアム人は大混乱となる。

 

 その間に大久保が動いた。

 

 彼はソフト面ではキラと比べると明らかに見劣りするレベルのものしか持っていなかったが、ハード面に関しては並々ならぬ知識を持っていたのだ。

 

 そして、大久保や他の空間騎兵は攻撃してくるデザリアム兵の攻撃を潜り抜けながら艦隊が内部に入る門を開けた。

 

 その隙を突いて突入したヤマトとゆきかぜは途中にあったバリヤの外部装置を破壊しながら、空間騎兵を救出しようと動いた。

 

 大久保、キラ、サーシアを始め、生き残った部隊の仲間は現在は脱出のために接岸しているゆきかぜまでダッシュしている最中だった。

 

 バリヤ装置に集中的にウィルスを流すという置き土産を残しながら。

 

 そして、何人かの犠牲を出しながら、どうにかゆきかぜ・改まで辿り着いた。

 

 

「大久保さん!MSはこのままにして良いんですか!?」

 

 

 生き残った空間騎兵隊員達やサーシアがゆきかぜ・改へと乗り込む中、キラは大久保にMSをここに置いていくのかと言う。

 

 

「入らないんだ、仕方ないだろう!それにどうせ吹っ飛ぶんだ!機密が漏れる心配はない!!それよりお前も早く乗れ!!」

 

  

 実を言うと、この大久保達が乗るMSは以前キラが乗った15メートル大の半分ほどの大きさである8メートル程までに縮小されていた。

 

 これは地球本土防衛戦で使った際のキラのものとは違い、波動エネルギーではなく、旧式のバッテリーを使っているためエネルギー出力、機動性確保の問題の解決策という意味合いもあったのだが、それ以前に15メートルの物では大きすぎて戦艦や空母クラスの大きさでないと搭載できないという欠点があった。

 

 もっとも、この8メートル大の物も巡洋艦にどうにか搭載できるという大きさだったので、元が旧式の駆逐艦であるゆきかぜ・改には搭載できない。

 

 よって、ここに置いていくしかないのだ。

 

 爆破する時間も惜しい。

 

 それにここはもうじき波動砲で吹っ飛ばされるだろう。

 

 その時に塵となってしまえば同じだと大久保は言った。

 

 かなりの暴論ではあったが、大久保の言葉も決して間違いではなかったので、キラも自分の意見を引っ込める事にして、ゆきかぜ・改の中へと乗り込んだ。

 

 そして、大久保もまた乗り込み終え、ゆきかぜ・改は離陸する。

 

 その直後、ヤマトの波動砲によって要塞の中心核に波動砲が撃ち込まれ、中心核は木っ端微塵となり、波動融合反応が発生、その爆発はデザリアム星はおろか、デザリアム星が白色銀河、更にその隣の黒色銀河にも及び、二重銀河は文字通り崩壊した。 

 

 そして、ヤマト以下の艦隊は連続ワープによってそれを回避し、無事そこから地球へと帰還することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 太陽系 冥王星 軌道上 アンドロメダ

 

 ヤマトが二重銀河を崩壊させたのとほぼ同時刻。

 

 この冥王星(ヤマト世界)では、時空管理局と地球連邦の平和的な(・・・・)会談が行われていた。

 

 

「・・・」

 

 

 アンドロメダ級戦略指揮戦艦一番艦アンドロメダ。

 

 本来の世界ではガトランティス戦で散っていた筈の戦艦ではあったが、この世界ではまだ健在だった。

 

 もっとも、改・アンドロメダ級であるしゅんらん及びその二番艦のネメシスが竣工してからは旧式と化してしまった艦型ではあるが、同艦はアンドロメダを含めて5隻も建造されており、事実上の戦略指揮戦艦の主力の座は未だこの艦型にある。

 

 そして、この席に座る男もまた、ガトランティス戦時と変わらぬ男であり、地球防衛軍でも片手で数えるほどしかいない名将の一人、土方竜だった。

 

 土方は相手の言い分を聞いて、じっと目を瞑ったままだったが、それに相対しているクロノからすれば、胃を痛めるような事象でしかない。

 

 

(くそっ!なんでこんな役が回ってくるんだ!!)

 

 

 クロノは現在、100隻以上もの艦隊を率いる提督だった。

 

 これだけを見れば、偉大なようにも聞こえてくるが、先程アンドロメダに対して時空管理局から出した要請(・・)を考えれば、そんな爽快感など感じる暇もない。

 

 ちなみにクロノが手渡した時空管理局の要請(・・)は以下の通りである。

 

・地球連邦は時空管理局の管理下に入ること。

 

・その際、地球防衛軍は解体すること。

 

・地球連邦の持つ全ての技術を時空管理局に渡すこと。なお、今後、その技術の活用は管理局の許可なしには行わないこと。

 

・この3つの条件が飲まれない限り、時空管理局は地球連邦を武装テロリスト集団と断定し、武力鎮圧を開始すること。

 

 まあ、要約するとこんな感じであったが、言うまでもなく喧嘩を売っているとしか思えない。

 

 いや、と言うより、戦争の最後通諜そのものだろう。

 

 ただし、中学生や高校生クラスの人間が書くようなレベルのもの、という但し書きが着くが。

 

 当然、こんな条件を出された方は面白いわけもなく、パネルに映るアンドロメダの艦橋に居る防衛軍兵士を見るだけでも、かなり殺る気の視線をこちらに向けている。

 

 そして、黙ったままだった土方が遂に喋った。

 

 

「確認するが、これはそちらの意思なのだな?そして、これを断れば今すぐにこちらに武力制裁を行うと」

 

 

『そ、それは・・・』

 

 

 クロノは言葉に詰まる。

 

 なにしろ、言葉を少しでも間違えれば、自分の命はまず間違いなくないのだ。

 

 それにこちらに後ろめたい気持ちがある以上、毅然として答えられる訳もない。

 

 実際、土方はクロノがそうだと言ってくれば、すぐにでも攻撃を開始するつもりだった。

 

 土方に交渉を任せた連邦政府からも謝罪要求を向こうが飲まなければ向こうの用件を聞く必要はないと言われているし、場合によっては攻撃も許可されている。

 

 そして、その“場合”の中には向こうが謝罪を行わずに、向こうがふざけた要求を出してきたものも含まれていた。

 

 これは転生者達も同調しており、転生者達にとっても、これ以上時空管理局に甘い顔を見せるわけにはいかないという意見が大半であり、開戦やむ無しというのが彼らの心情でもある。

 

 

「それで、どうなんだ?」

 

 

『い、今すぐではありません。この艦隊はあくまで交渉のための護衛です』

 

 

「ほう?」

 

 

 土方は意外な顔をするが、額面通りには受け取らない。

 

 まあ、100隻もの艦隊で来ていて戦う意思がないと言うのを真に受ける人間は、よほどの馬鹿か、頭がお花畑な人間くらいしか居ないのだから当たり前だが。

 

 

「では、返答は拒否だ。交渉だけなら直ちに帰りたまえ。そして、次に会った時は敵だ。その時は問答無用に攻撃する」

 

 

『わ、分かりました』

 

 

 そう言ってクロノはパネルから消える。

 

 

「・・・本当に素直に帰りますかね?」

 

 

 副司令が懐疑的に言う。

 

 

「おそらくダメだろうな。さっきの返答はあの提督の独断だ。一部が暴走する可能性がある」

 

 

「では?」

 

 

「全艦、第二種戦闘配置だ」

 

 

「はっ」

 

 

 その言葉に副司令は全艦に第二種戦闘配置を命じた。

 

 そして、その直後、案の定、暴走した向こう側の一部からアルカンシェルが発射され、防衛軍側の駆逐艦が3隻ほど一気に沈められたことから、防衛軍からの反撃が開始され、後に第二次冥王星会戦と呼ばれる艦隊決戦が発生することとなる。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20話

◇CE70年 8月12日 地球(SEED) 大西洋連邦

 

 

「欲しいですね、アレ」

 

 

 大西洋連邦のとあるビル。

 

 そこでは一人の男が地球連邦の船の写真を見ながらそう呟く。

 

 男の名はムルタ・アズラエル。

 

 反コーディネイター団体であるブルーコスモスの盟主であり、大西洋連邦の事実上のリーダーである人物でもある。

 

 彼は今、つい最近に現れたもう1つの地球の艦船を欲していた。

 

 

「マスドライバー無しに航行する宇宙船。これさえあれば、別にマスドライバーに拘る必要がなくなりますねぇ」

 

 

 この世界にある船はマスドライバー抜きには宇宙に出れない。

 

 その常識があったからこそ、連合はマスドライバーを必死に死守し、またザフトに占領されたマスドライバーを奪取しようと試みていたのだ。

 

 だが、直接宇宙に出れるのならば、わざわざそんなことをする必要はない。

 

 

「そうなると、益々空の化け物どもが問題になってきますねぇ」

 

 

 同じことはプラントなども気づくだろう。

 

 その時、彼らが取る手段については正直言って分からない。

 

 友好か、それとも敵対か。

 

 まあ、どちらにせよ、彼らが益々連合にとって邪魔になるであろうという点では同じなのだが。

 

 

「なんとかこちらに引き入れられませんかね?」

 

 

 そう言いながらも、それが困難であろう事くらいはアズラエルには分かる。

 

 アズラエルも馬鹿ではない。

 

 癇癪を持った小物染みたところはあるが、伊達にこの地位に就いている訳ではないのだ。

 

 コーディネイターの事をよく知らない人間から見たら、自分達ブルーコスモスは人種差別団体にしか見えないことくらいは容易に想像がつく。

 

 

「・・・癪ですが、あの空の化け物の出方に掛かっていますね」

 

 

 そこでアズラエルは溜め息をつく。

 

 どう頑張っても、自分達からは打つ手が無いという事に気づいたからだ。

 

 地球連邦との外交は、プラントがどういう外交手段に出るかに掛かっているだろう。

 

 もし地球連邦に対して、プラントが友好的な態度を示せば、こちらもそれ以上の誠意を見せなくてはならないだろうし、反対に敵対するならば連合が友好キャンペーンを行うことでこちらの陣営に引き入れられるかもしれない。

 

 ・・・決して間違ってはいない理論だったが、第三の選択肢であるオーブのように、地球連邦が中立を保ってくるという可能性が彼の頭から抜け落ちていた事は、彼の思考能力の限界を示している。

 

 地球連邦からすれば、必ずしも付き合わなければならないなどという理由はなかったのだから。 

 

 だが、この時に限っては、アズラエルの予想は彼の予想の斜め上を行く形ではあったものの、全くもって正しかった。   

 

 

「さて、どうなることやら」

 

 

 そうとは知らず、彼はプラントの出方を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同年 8月13日 プラント

 

 

「不味いことになったな」

 

 

 そう呟くのは、コーディネイターだけでも6000万人の人口を誇るプラントの長であるプラント評議会最高議長のシーゲル・クライン。

 

 転生者達が問題視しているラクス・クラインの父親である。

 

 彼は突如現れた地球連邦の存在を危険視していた。

 

 彼は戦争後半こそ穏健派であったが、エイプリルフール・クライシスに執行のサインを押し、10億人もの人間を殺した過激な人物である。

 

 まあ、はっきり言えば、連合とプラントの戦いが激化するのをだめ押しした人物であるので、現在は穏健派に属するとはいえ、何を起こすか分からず、ある意味ではパトリック・ザラ以上に危険な人物というのが、転生者の彼への評価だった。

 

 そんな彼からすれば、自力で宇宙を航行する宇宙船を保有する地球連邦の存在は目障り以上の何者でもない。

 

 更に彼らは太陽系やその外縁部にも宇宙開発の手を延ばしているという話であるので、益々彼らの存在は放ってはおけないだろう。

 

 

「・・・」

 

 

 シーゲルは考える。

 

 自分の意見としては友好な接触が一番だ。

 

 幸い、向こうにはコーディネイターという存在はなかったので、良くも悪くも悪感情は持っていない。

 

 今こそ、自分達を売り込むチャンスだ。

 

 しかし──

 

 

「問題なのは国民だな」

 

 

 半年前の血のバレンタイン以降、プラントの反ナチュラル感情は留まるところを知らない。

 

 このプラントにも一応ナチュラルは存在するのだが、それでもコーディネイターの数の方が多いし、彼らこそがプラントの政治の主流な存在でもある。

 

 そして、地球連邦の国民は当たり前だがナチュラル。

 

 手を結ぶとなれば反発も大きいだろう。

 

 勿論、地球にも大洋州連合などの親プラント勢力は居るので、一概には言えないが。

 

 

「まあ、敵対する理由もない。ここは国交を結ぶ程度に留めておくか」

 

 

 シーゲルはそう呟くが、既に地球連邦からプラントに対して、とある工作が行われていることなど知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇西暦2202年 地球防衛軍司令部

 

 

「これは本当の事なのかね?」

 

 

 地球本土防衛戦で負った怪我から復帰した藤堂は、神川からある資料を渡されていた。

 

 そして、今は若干であるが、その顔を青ざめさせている。

 

 

「はい、間違いありません」

 

 

 神川はそう言いながら肯定した。

 

 こうなる経緯は、前日の転生者によって行われたある会談から始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇前日

 

 

「プラント占領、ですか?」

 

 

「そうだ」

 

 

 会議に出席した転生者の問いを神川は肯定する。

 

 プラント占領作戦。

 

 それは文字通りの意味でプラントを占領する作戦である。

 

 もっとも、占領と言っても一時的な話であり、用が済んだらとっとと撤退する予定だった。

 

 ナチュラルに悪感情を持つ6000万人ものコーディネイターの支配領域の管理など、考えたくもなかったのだから。

 

 

「まだ原作は開始前で原作をぶち壊すことは確定だが・・・ここは一気にやってしまおうと思う」

 

 

 この作戦の第一目標はジェネシスの破壊だ。

 

 藤堂長官にもそういう兵器があり、地球に向けられると危ないと説明する予定であり、尚且つザフトという集団が正規軍ではなく、民兵集団であるらしいという点を強調して、そんな連中にこれだけの兵器を持たせるのは危険だと主張するつもりだった。

 

 ジェネシスの脅威度については地球本土に照射された場合、地球の生物は完全に死滅すると伝える予定だが、まあ、原作でも60パーセントの出力で地球の生物の8割が死に絶えるという話であったので、この報告も間違いではないどころか、本来のジェネシスはこれを上回る可能性もある。

 

 そして、資料については先行してプラントに潜入させたキラから既に情報が送られてきているので、それを挙げる予定だ。

 

 ちなみに、キラは侵攻直前にこちらへと戻し、侵攻の案内をさせるつもりだ。

 

 もっとも、ジェネシスは元々、プラントにおけるソーラーセイル開発において、セイルをレーザー推進させるためのX線レーザー発信施設として開発されており、それが兵器に転用されたのはザラ政権になってからであり、今のクライン政権ではまだ兵器として開発されていないのだが、どのみち隠して開発していることは確かであり、そこら辺はでっち上げればどうにでもなる。

 

 だが、神川の本当の目標はクルーゼの殺害、あわよくばラクスも事故に見せかけて殺すことであった。

 

 とは言っても、ジェネシスの破壊は神川にとっても望むべきものではあるので、クルーゼとジェネシス、どちらを優先するかと言えば、ジェネシスの破壊を優先するだろう。

 

 だが、クルーゼの殺害もそれには少し劣るものの、かなり重要な事柄だった。

 

 なんせ、こいつさえ殺害できれば、転生者の頭を痛めるイレギュラー要素が1つ無くなるのだから、当然と言えば当然だろう。

 

 あとはもう1つのイレギュラー要素になりうるラクスをどさくさ紛れに殺害できれば完璧である。

 

 

「しかし、今度は連合が増長したりしませんか?それにザフトから報復もされるかも・・・」

 

 

「分かっているさ。だからこそ、電撃的に占領してプラントの政権を握る。で、戦争を続けさせる予定だ」

 

 

「プラントを制圧させてですか?」

 

 

「どうせ連合はザフト兵の虐待とかするだろう。そうなるのを我々が抗議したが連合が聞かず、仕方なく我々がザフトに対して連合と戦争を続けることを認める、というのがシナリオだな」

 

 

「・・・悪どすぎませんか?」

 

 

「そうか?だったら、もう1つプランがある。それは我々がプラントを制圧した後、正式にプラントの独立を認めるということだ」

 

 

「「「!?」」」

 

 

 その提案に転生者達は驚く。

 

 

「し、しかし・・・そんなことをすれば連合も猛反発をしてきますよ?」

 

 

 元々、あのプラントは連合が出資して造ったもので、当然、利益が期待されて造られたものだ。

 

 原作では何をとち狂ったのか、自分達で造ったプラントを破壊してしまったが、確かにそんなことをしてしまえば連合の反発を必至だろう。

 

 だが──

 

 

「構わないだろう。なんだったら、それで武力に頼った攻撃をしてくるようなら向こうの地球も制圧してしまえば良い」

 

 

「「「・・・」」」

 

 

 あまりの乱暴な意見に絶句したが、真っ向から反対しようという者はいなかった。

 

 確かに神川の言うことも一理ある。

 

 ただでさえ、この敗北=絶滅な過酷な状況の中で太陽系の惑星がもう一セット出現したことで、太陽系の警戒シフトも再配置を余儀なくされているし、本来には無かった余計な艦艇も造らなければならなくなった。

 

 そんな中で目前の揉め事であり、しかも、場合によってはこちらも対応する必要がある。

 

 はっきり言おう。

 

 SEED世界はとても邪魔な存在だった。

 

 この際、神川の言うことに乗るのも手だと思っていたのだ。

 

 SEEDを知るものにとっては、少々惜しくはあるが、自分の命には変えられない。

 

 

「では、異論が他に無いようであれば、私が長官に持っていく」

 

 

「「「・・・」」」

 

 

 異議は出なかった。

 

 そして、翌日、神川の提案によって一時的なプラントの電撃占領案が藤堂長官にもたらされ、最初は渋った長官もそれが脅威であることは理解できたので、プラント占領作戦は可決されることとなる。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21話

◇西暦2202年(CE70年8月15日) プラント

 

 

「な、何故、こうなった!?くそっ、私の計画が・・・」

 

 

 プラントの一角。

 

 そこではクルーゼが隠れ潜みながら、己の計画を狂わせた存在を忌々しげに見つめていた。

 

 あっという間だった。

 

 いつの間にか現れた艦船から緑色の服に包まれた兵士たちが放出され、瞬く間にプラントを制圧し始めた。

 

 勿論、ザフトも出動したが、自分達よりも圧倒的に小さい5メートルくらいのMSらしきものに逆に蹂躙されてしまい、あっという間に出てきた部隊は全滅し、そうでない大半の部隊はあまりにも敵の早い侵攻に降伏するか、基地に引きこもらざるを得ない状態となってしまったのだ。

 

 そして、アプリリウス市の最高評議会が制圧され、議長であるシーゲル・クラインが拘束された時点で、勝敗は決したと言っても良いだろう。

 

 しかし、クルーゼのシナリオは完全に破綻してしまった事になる。

 

 元々、クルーゼはナチュラル、コーディネイター問わず、全人類を滅ぼすことを目論んでいた。

 

 それは端的に言えば、自分が短命であるので自棄を起こしたとも言えるのだが、兎も角、そういうわけで彼はザフトに所属しながらも戦力の釣り合いを取らせて殺し合いを続けさせるために連合に情報を流したりしていたのだ。

 

 そして、血のバレンタインとエイプリルフール・クライシスを初めとして、彼の計画は順調だった。

 

 しかし、それが狂い始めたのが、1ヶ月前に現れた地球連邦という勢力。

 

 なんでも、突如現れた地球(実際は現れたのはクルーゼ達の方)の勢力らしいが、それでもクルーゼとしてやることは変わらない。

 

 今プラントのとある場所で開発されている大量殺戮兵器(後のジェネシス)を完成すれば、一掃は可能だと思っていた。

 

 ・・・もっとも、だからこそ狙われたとも言える。

 

 クルーゼの本性を知っている転生者達からすれば、クルーゼとジェネシスが揃う事は鬼に金棒を渡すを通り越して、人類滅亡を企む魔王に核兵器とそのスイッチを渡すようなものなのだから、早めに何とかしたいと思うのが普通だろう。

 

 それが地球連邦の主流派である転生者達をこのような行動に走らせていたのだ。

 

 しかし、クルーゼの方は当然の事ながら自分が原因でプラントが攻められたとは思っていない。

 

 だからこそ、自らの自業自得だということも気づいておらず、計画を破綻させた地球連邦をただ恨むだけだった。

 

 そして、そのクルーゼの計画だが、実際、ジェネシスを使えば地球連邦殲滅も夢ではなかっただろう。

 

 幾ら技術力が圧倒していても、ジェネシスの直接照射に耐えられる訳ではないのだから。

 

 しかし、それらも今回の侵攻で完全に破産となっていた。

 

 

「おのれ!このままでは終わらんぞ!!」

 

 

 彼はそう言いながら落ち延びるように逃げていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 アプリリウス市 

 

 

「呆気なかったな」

 

 

 大久保はそう言いながら、あまりに呆気ない戦闘の経過に驚いていた。

 

 デザリアム戦後、大尉に昇格した大久保は、同じく中尉に昇格したキラと共に、再び同じ部隊として活動することになり、こうしてプラント占領作戦に参加していた訳であったが、当初は苦戦すると考えていたのだ。

 

 なにしろ、相手のMSは20メートル前後の大きさがあり、こちらが初期に造った15メートルの物ですら大きさ的に上回っている。

 

 対して、こちらはデザリアム戦後に駆逐艦にも搭載できるように量産された5メートルのもの。

 

 一応、デザリアム戦中に活躍した8メートル式のものも未だに量産されており、この作戦に参加していたが、それでも焼け石に水で、向こうの方が大きい分、パワーも圧倒的に強く、機動力でどうにかするしかないと思っていたのだ。

 

 しかし、実際に戦ってみると全く違う結末になった。

 

 そもそもヤマト世界のMSは、宇宙戦闘機程の速度は出せないとはいえ、艦艇などが行う亜光速戦闘には対応できるように造られている。

 

 そうでないと、宇宙での戦闘で役に立たないからだ。

 

 しかし、SEED世界では艦艇が亜光速どころか、ヤマト世界の内惑星戦争で使われた戦闘艦艇よりも遅い速度しか出せないのだ。

 

 一見、SEED世界にも光学兵器が有るならば、光速戦闘にも対応することは可能と思うかもしれない。

 

 だが、現実にはそうではないのだ。

 

 これは音速を越える弾丸を発射するアサルトライフルを持った兵士が、同じく音速で飛ぶ戦闘機を撃ち落とせないことからも分かるだろう。

 

 つまりはそういうことだ。

 

 光速という概念は、あくまでSEED世界では“兵器”という視点で留まっており、ヤマト世界の“戦闘”というレベルの視点ではないのだ。

 

 しかも、そのSEED世界の光学兵器は威力こそ、ヤマト世界基準のヤマト以前の戦闘艦艇と同等だが、射程はかなり劣る。

 

 当然、そうなると亜光速に対応するほどのMSを開発する必要性など感じず、必然的にヤマト世界と比べて低性能なものになってしまう。

 

 おまけに攻撃能力も愕然としており、ヤマト世界の強力な兵装を前に、プラントの方がMSのサイズが圧倒的に大きいはずなのに、逆に蹂躙されるという戦闘結果を生み出していた。

 

 つまり、地球防衛軍からしてみれば、プラントのMSなど、図体がでかいだけの(・・・・・・・・・)ゴミ(・・)に過ぎなかったのである。

 

 

「この分だと占領はあと一時間で終わりそうだな」

 

 

 まだ自分達が侵攻してから2時間くらいしか経っていない筈なのだが、プラントは早くも落ち始めていた。

 

 むしろ、ここまでスムーズに行ったことに大久保は困惑している。

 

 デザリアム本星の時はもっと苦戦したからだ。

 

 まあ、あの時は建物の規模の割りに、敵も味方も少数しか居なかったのだが。

 

 

「まあ、焦る必要はないか」

 

 

 しかし、大久保はこの状況に焦っている同僚が居ることを知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 プラント 某所

 

 

「まだクルーゼは見つからないか?」

 

 

 とある転生者の中佐の階級を着けた空間騎兵隊員が、同じく転生者の空間騎兵隊員へと尋ねる。

 

 彼らの仕事はクルーゼを抹殺することだった。

 

 その為だけに、この戦闘が行われている地域の中でもあちこち駆けずり回っていたのだが、一向に見つかる気配がない。

 

 

「いえ、まったく。しかし、ジェネシスらしきものは既にこちらの手に有ります」

 

 

「それだけが救いだな、とは言え、クルーゼはイレギュラー要素だからな。連合にジェネシスの設計図を渡すなんて事をやりかねない。早急に始末する必要がある」

 

 

「はい、その通りです」

 

 

 中佐の言葉に部下はそう言って返したが、彼らの懸念はそれだけではない。

 

 ディスティニーになってからではあるが、連合はレクイエムという大量破壊兵器を運用するようになるのだ。

 

 このレクイエムはヤマト世界で例えるならば、反射衛星砲であり、どの角度からでも砲撃できるといった代物だ。

 

 おまけに威力は同等な上に、射程もヤマト世界のものと同等か、それより少し劣る程度と見られているのだ。

 

 もしクルーゼを逃がしたことによって、レクイエムが原作よりも早く完成してしまい、それを手にしてしまえば、ジェネシスが無くとも彼の悲願が叶ってしまう可能性があるのだ。

 

 それを絶つためには、クルーゼを殺害してしまうのが一番だったのだが、そのクルーゼが見つからなかったのだ。

 

 

「・・・これ以上探しても見つからないようだったら、しょうがない。政治家連中に直接聞き出す」

 

 

「それは他の非転生者に気づかれるのでは?」

 

 

「いや、大丈夫だ。これを使えばな」

 

 

 そう言って、中佐はある日記のようなものを部下に見せる。

 

 

「これは・・・」

 

 

 その日記にはクルーゼの本名が書かれてあり、原作における本人の計画について書かれている。

 

 勿論、これはでっち上げではあったが、(クルーゼにとっては)たちの悪いことに、クルーゼ本人の事情と内心、更には彼が計画していた人類破滅計画そのものと同じな上に、ご丁寧にクルーゼの筆跡まで書かれている。

 

 これでも不足するようなら、こちらが手に入れたクルーゼが連合に情報を流していたという証拠を渡す予定であり、これで議員連中に自白させ、尚且つ彼が二度とプラントに戻れないように工作するつもりだった。

 

 

「まあ、そういうわけだ。兎に角、任務は継続だ。我々の任務は地味だが、それでも重大ではある。頼んだぞ」

 

 

「はい!」

 

 

 転生者の男達はそのような会話をしていたが、結局、クルーゼは見つかることはなかった。

 

 ──そして、後に転生者達は彼をここで仕留められなかったことを、盛大に後悔することとなる。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22話

◇西暦2202年(CE70年8月16日) プラント クライン宅

 

 

「それで、私に何の用かね?」

 

 

 クライン宅にて、シーゲルは忌々しげな顔をしながら、訪問者に向かってそう尋ねる。

 

 だが、その訪問者はそれを気にした様子はなかった。

 

 

「まあ、怒る気持ちはお分かりになりますよ。ですので、用が済んだらすぐに撤退する予定です。それと今日の訪問はその対価についてのものでもあります」

 

 

「対価だと?」

 

 

 いきなり侵攻してきて何を言うのだ?

 

 シーゲルは怒りに包まれた感情でそう思うが、彼が何を言おうがどうにもならない。

 

 なんせ、僅か数時間。

 

 数時間でプラントは地球防衛軍によって制圧されたのだ。

 

 そして、その旨は既に発表され、自分の権限が取り上げられる旨も報道によって伝えられている。

 

 もっとも、プラント以外のザフトに事が詳細に伝わるまでは時間が掛かるだろう。

 

 なにしろ、一晩過ごしていたら、本国が制圧されていましたという状態なのだから。

 

 

「ええ、そうですよ。そこで提案なのですが、あなた方、コーディネイターは確か第二の火星にも同胞が住んでいましたよね?そちらに移民しませんか?その為の移民ならこちらで手配しますし、なんなら我々地球連邦政府はそちらの独立を承認するつもりです」

 

 

「!?」

 

 

 シーゲルはその提案に驚くが、気を取り直すとこう尋ねる。

 

 

「我々にプラントを出ていけと言うのか?」

 

 

「このプラントは元々、地球連合の出資で造られているんですよ?それなのにそのまま独立というのは、弾圧されていたことを加味しても、あまりにも不義理ではありませんか?」

 

 

「それは・・・」

 

 

 道理的にはその通りだ。

 

 そもそも金を出して建設したものを勝手に乗っ取られたりして納得する人間など、居るわけがないだろう。

 

 しかし、彼も穏健派とはいえ、プラントの独立派だ。

 

 今まで弾圧されてきたことの怒りはある。

 

 

「しかし、だからと言って核兵器で破壊するのはやりすぎだろう!!」

 

 

「そこら辺の事情は我々は知りません。地球連合に言ってください」

 

 

 男はシーゲルの言葉を切って捨てる。

 

 そもそも地球連邦からしてみれば、血のバレンタイン事件など、全く身に覚えがないどころか、その頃にはまだ存在すらしなかったのだ。

 

 それは政府組織だけでなく、国民全体もである。

 

 なので、地球連邦としてはそんな怒りをぶつけられても困るのだ。

 

 

「まあ、そういう提案ですが、どうします?勿論、強制はしませんが」

 

 

「・・・検討してみる価値はある話だな。そちらが本当に移民先への輸送と承認をしてくれるならば、だが」

 

 

「その点は問題ありません。地球連邦の名誉にかけて、独立をお約束しましょう」

 

 

 これは地球連邦政府の承認を取り付けた行動だった。

 

 最初は地球連合との関係も悪化するのではないか?という疑念もあったのだが、そもそもそれでは戦争が何時まで経っても続くのは間違いない。

 

 情報収集しただけでも、コーディネイターとナチュラルの憎悪のぶつかり合いは凄まじかったし、プラントそのものが地球連合側の出資で造られた以上、戦争を諦めないだろうと目された。

 

 ならば、この際、既に少数だがSEED側の世界の人間が居る第二の火星に住居を移して貰い、そこからプラントの存在を承認することで戦争を強制的に治めようという目論見があった。

 

 コーディネイターをこちらで制圧してしまい、連合に恩を売ったら良いのではないかという話もあったが、それでは民族浄化の片棒を担ぐ事になるだろうし、そもそも連合という存在が信頼に値するかどうかも怪しいという転生者と、藤堂長官ら穏健派の人間が反対した為、却下されている。

 

 

「しかし、地球連合が納得するかね?」

 

 

 シーゲルはその点を疑問に思う。

 

 コーディネイター殲滅論があるとはいえ、実際にコーディネイターを殲滅してしまって困るのはナチュラルなのだ。

 

 なんせ、プラントの労働者が居なくなってしまうのだから。

 

 

「納得しないでしょうな。まあ、その点はどうにでもなりますよ。なにか言ってきたら、我々の方から差別主義者という形で非難することも出来ますし。力で抑え付けることも出来ます」

 

 

 男はそう言って笑う。

 

 とんでもない暴言だが、地球連合が何を言ってこようが、このヤマト世界は弱肉強食だ。

 

 殲滅戦争を今まで生き抜いてきた外交官は、そう言うことになんの躊躇いもなかった。

 

 一方、シーゲルはその男の発言に寒気を覚えるが、取り敢えず検討してみる価値はあると思った。

 

 しかし──

 

 

「君達が我々を占領してまでやる用とはなんなのかね?」

 

 

「ああ、その事ですか?これですよ」

 

 

 そう言って、男はある資料をシーゲルに渡す。

 

 

「な、こ、これは・・・」

 

 

「お分かりになりましたか?」

 

 

「しかし、あれは元々兵器として開発されてはいないぞ!!」

 

 

「惚ける気ですか?それに兵器としては使えるでしょう?」

 

 

「うっ」

 

 

 その発言を受けて、シーゲルは言葉に詰まる。

 

 確かにこの資料の通りなら兵器に使えるだろう。

 

 だが──

 

 

「それでも我々は兵器として開発した覚えはない!」

 

 

「そうなんですか?まあ、我々の脅威になりうるという点では変わりません。それは諦めてください」

 

 

 男はシーゲルがここでなんと言おうが、例の代物を破壊する予定だった。

 

 なにしろ、直接照射されるだけで人類を滅ぼすことが可能なのだ。

 

 如何な理由であれ、そんな代物を許す理由は全くない。

 

 

「傲慢すぎるぞ!」

 

 

「それがこの世界です。この世界は弱肉強食。力が弱いものは奴隷となるか、死ぬかしか道はありません」

 

 

 そうはっきり言う男の言葉に、シーゲルは開いた口が塞がらなかった。

 

 ──そして、この日の内に、プラントが地球防衛軍によって制圧されたことは地球連合にも伝えられた。

 

 しかし、第二の火星にコーディネイターを移民させる話はとある出来事によって頓挫することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇西暦2202年(CE70年8月18日) 参謀本部

 

 

「消滅しただと!」

 

 

 参謀本部で、神川は秘書官からの報告を聞いていたが、その報告に神川は思わず飲んでいたお茶を吹き出してしまった。

 

 

「は、はい。第二の火星ですが、どうやら観測衛星の映像からするに、例のプロトンミサイルの流れ弾が命中したようで・・・」

 

 

「あれか・・・」

 

 

 おそらく、原作で太陽に直撃したガルマン・ガミラスのプロトンミサイルだろう。

 

 おそらく、この世界でも太陽に向かっていたが、その先に、つい1ヶ月前に出現した第二の火星が在り、直撃して消滅したという訳だ。

 

 神川はそう推測した。

 

 

「しかし、消滅とは。伊達に惑星破壊ミサイルなんて言われていないという事か。原作では数発が命中してようやく破壊されていたような気がするんだが・・・」

 

 

「そこら辺の事情は分かりませんが・・・当たり所が悪かったとかでは無いでしょうか?」

 

 

「・・・まあ、そう思うことにしよう。だが、これで火星移民の件はパーだな。まあ、太陽に直撃するよりは良かったかもしれんが」

 

 

 しかし、神川は太陽に直撃するよりはマシだと思っていた。

 

 なにしろ、原作通りに太陽に直撃すれば、原作通りに行動する以外に方法がなく、それはディンギル戦への備えに多大な支障が出てしまうだろう。

 

 更にSEED世界の人間に至っては太陽系の外へと出られるかどうかも怪しい。

 

 そして、地球滅亡という話になれば、地球連邦に泣き付いてくるしかなく、連邦もそんな余裕はないと蹴るしかないのだ。

 

 それを考えれば、第二(SEED)の火星に暮らしていたであろう人間たちには気の毒な話ではあったが、彼らが盾になってくれたことでこの世界とSEED世界の地球は守られたと言える。

 

 

「プラントのコーディネイターのことについては、また新たに考え直す必要がありそうだな。まあ、これでディンギル戦に備えた軍拡をまた煽れることを考えれば、そう悪い話でもないか」

 

 

「ええ、ですが、程なくしてダゴン将軍のガルマン艦隊はやって来ますね。原作では2話でケンタウルス座アルファ星形第4惑星を襲撃してきていますから」

 

 

「そうだな。それにも備えなければ・・・」

 

 

 かくして、転生者達は方針を固めようとしていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23話

◇西暦2202年 地球(ヤマト世界) 参謀本部

 

 

「それで、ダゴン将軍をやっつけてしまったと」

 

 

「はぁ、その通りです」

 

 

 原作通り、ガルマン艦隊はやって来た。

 

 まず、地球にボラー艦隊を追う形で偶々侵入したガルマン艦隊の艦艇の1つは原作同様、ヤマトの航空隊に滅多撃ちにされて撃沈し、続くラジェンドラ号の一件でも偶々(・・)警備のために通り掛かったヤマトと山南率いる太陽系外周艦隊が対応したのだが、ここでは原作より戦力が多かったお蔭か、ラジェンドラ号が助かるどころか、ガルマン艦隊を1隻残らず撃沈したのだ。

 

 当然、ダゴン将軍の乗っていたであろう艦船もここに含まれている。

 

 つまり、原作よりも1、2ヶ月程早くダゴン将軍は戦死してしまったのだ。

 

 そして、原作とは違い、ラジェンドラ号は無事バース星に帰ったのであるが、ここで考えてみよう。

 

 原作でダゴン将軍が死んだ後、ガルマン帝国が取った行動を。

 

 あの後はフラーケン率いる潜宙艦隊と東部方面軍司令長官であるガイデル率いる機動要塞が直々に出張ってきて、ヤマトを見事に捕獲してしまったのだ。

 

 その為、結果的に旧作の歴代登場人物のなかで、彼がヤマトに唯一勝利した人物という称号を頂いたのである。

 

 そして、ダゴン将軍が戦死した今、彼がどういう行動を取るか?

 

 まあ、簡単に考えられるのは潜宙艦隊によるこちらへの通商破壊、あるいは直々に出張る形で地球に侵攻してくるかだ。

 

 そこまで思い付いた時、転生者達は慌て出した。

 

 

「ま、不味いぞ!あんなチート要塞を相手に出来るのか!?」

 

 

 そう、ガイデルの機動要塞は内部でさえ重厚な空間磁力メッキが張り巡らされており、ヤマトの波動砲はおろか、ヤマト自身が体当たりしたって破れない程の固さなのだ。

 

 要塞外部の固さなど言うまでもないだろう。

 

 実際、原作では要塞外部にヤマトの主砲を撃ち込んでいたが、かの要塞はケロリとしていたのだから。

 

 しかも、ヤマトを捕獲した後、ガイデルは地球を侵攻しようと発言していたが、もしデスラーが気づかなければ本当にそのまま地球は侵攻されていただろう。

 

 焦るのも当然と言えた。

 

 

「やはりデスラーがベムラーゼをやっつけた時みたく、何処かに穴を開けてそこに波動砲を撃ち込めば・・・」

 

 

「理屈はそうだが、何処にどうやって穴を開ければ良いんだ?。あの時はブラックホール砲の発射口にコスモタイガーが突っ込んだからなんとなったが、あの機動要塞にそんな大きな主砲みたいなのがあるかどうか分からん。波動砲の威力で強引に破壊しようにも今の波動砲はハイパーデスラー砲程の威力はない」

 

 

「では、この世界の白色彗星の時みたいに波動防壁を纏わせて突っ込ませればどうですか?」

 

 

「・・・良い案かもしれないが、果たして同じ手が通用するかね?」

 

 

「しかし──」

 

 

 転生者達は色々議論を行っていたが、そこに秘書官が入室してくる。

 

 

「どうした?」

 

 

「それが・・・」

 

 

 秘書官がもたらした情報。

 

 それは地球連合艦隊がプラントに向かったという情報であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「拒否します」

 

 

 プラント周辺の警護艦隊として派遣された地球防衛軍の司令官は地球連合──厳密にはユーラシア連邦と東アジア共和国──の要求にそう答えた。

 

 彼らの要求は簡単に言えば『占領政策は大変でしょう。お手伝いしますよ』であったが、違った見方をすれば『俺達にも分け前寄越せよ!こらぁ!!』であった。

 

 ちなみに、大西洋連邦はここに含まれていない。

 

 彼らは彼らで、今回の地球防衛軍のプラント攻略によって、“とある処理”に奔走するはめになっていたのだ。

 

 そして、それを見た両国はチャンスとばかりに防衛軍の手伝い(火事場泥棒)に来ていた。

 

 しかし、当たり前だが、地球防衛軍が許す筈はない。

 

 彼らは彼らで、侵略者という汚名を被るリスクを犯してプラントを攻めたのだから。

 

 おまけにザフトの件など、色々とやることが有るのだ。

 

 しかし、当然、それでは連合の方は納得しない。

 

 彼からすれば、プラントと戦争していたのは自分達であり、地球防衛軍など横からしゃしゃり出てきた勢力に過ぎない。

 

 よって──

 

 

「・・・そうか。では、仕方あるまい」

 

 

 そう言って地球連合側は通信を切った。

 

 

(何をするつもりだ?)

 

 

 防衛軍側の司令官はそう思いつつも、戦闘になったケースを考える。

 

 こちらが使えるのは、自分が乗る戦艦(主力戦艦。防御力が通常のものより上。無人艦艇誘導能力有り。波動砲無し)が1隻と、無人戦艦(波動砲有り)と無人駆逐艦がそれぞれ1隻ずつの計3隻。

 

 他の艦艇も居ないことはないが、例の第二の火星消滅事件や新たに現れたガルマン艦隊の来襲を受けて、その調査に向かったり、あるいは地球本土の防衛に戻ったりしている。

 

 なので、この3隻がプラント占領部隊に対する最後の砦だ。

 

 ・・・いや、訂正しよう。

 

 この艦がやられてしまえば、無人艦艇は運用できなくなるので、この艦が事実上の最後の砦である。

 

 しかし、それは不味い。

 

 何故なら、この艦は確かに通常の主力戦艦よりは装甲が厚く設計されているし、波動防壁も強力なものを積んでいるが、代償として波動砲は無い。

 

 同行している無人戦艦には有るが、敵が撃たせてくれるかどうかは微妙なところだろう。

 

 何故なら、相手の数は大小様々ではあるが、約60隻程の数が居るのだから。

  

 ざっとこちらの20倍である。

 

 そして、敵の艦艇の性能は今一つよく分からない。

 

 大きさはこちらと同等程度であるが、こちらのタキオン粒子エネルギーすら上回るエネルギーや、高性能なミサイルを搭載している可能性がある。

 

 

「しかし、やるしかない」

 

 

 司令官は悲壮な覚悟を固めていたが、その後、危惧通り起こってしまった戦いでは、意外な結末を辿ることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ガルマン帝国 東部方面軍 機動要塞

 

 

「ダゴンがやられたか・・・」

 

 

 東部方面軍司令長官ガイデルは、有能な部下の一人であったダゴンが戦死したと聞いて、どうするべきか悩んでいた。

 

 このままデスラー総統が示した方針通り、バース星を攻略するか、それともダゴンを討ち、帝国の顔に泥を塗った地球に復讐戦を挑むか。

 

 原作ではヤマトを捕らえた時点で、バース星はボラー連邦のプロトンミサイルによって消滅していた為、迷わず地球攻略を公言したガイデルであったが、この世界にはまだバース星が存在しているため、デスラー総統の方針を完全に無視するわけにもいかなかったのだ。

 

 なにより、バース星の位置的にもし地球攻略を優先した場合、ボラー連邦に背後を突かれる危険性がある。

 

 そうなると、健全な策としては、まずバース星を攻略して、その後にバーナード星に造り上げた前線基地を拠点に地球攻略を開始する。

 

 これが安全策だろう。

 

 しかし──

 

 

「やはり、帝国の顔に泥を塗った存在は捨て置けんな」

 

 

 ガイデルはそう思う。

 

 ガイデルに限らず、ガルマン帝国人はガミラス人の祖先だけあってプライドが高い。

 

 その彼らからしてみれば、自分達の顔に泥を塗った存在は捨て置けなかったのだ。

 

 ・・・もっとも、今回の事は彼らから手を出してきたので、逆恨みではあったのだが。

 

 

「それに手駒はある。これを使えば、通商破壊戦は可能だな」

 

 

 ガイデルの手駒。

 

 それはフラーケン率いる潜宙艦隊だった。

 

 彼らを使えば、地球連邦の通商破壊も可能だろう。

 

 補給基地としてはバーナード星を使えば良いのだから。

 

 

「そして、バース星攻略には総統からお預かりした新鋭空母艦隊を以て当たる。うむ、これで行こう」

 

 

 ガイデルはバース星攻略に、原作でのバーナード星の戦いの後、この世界では既に亡きダゴンが率いていた新鋭空母艦隊を差し向けることを考えていた。

 

 原作ではこの艦隊はヤマト討伐に向かったのだが、この世界のこの時点では、ヤマトの脅威を十分に認識出来ておらず、ヤマトを通常の地球戦艦と同等のように考えてしまったのだ。

 

 更にダゴンが戦死するのが原作より早すぎた為、地球の軍事力を過大評価?することになってしまい、まずバース星の問題から片付けることにしたという訳であった。

 

 かくして、バース星は原作より苛烈なガルマン・ボラーの攻防戦に巻き込まれる事となる。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24話

◇西暦2202年(CE70年11月2日) 大西洋連邦

 

 

「面倒なことになってきましたね」

 

 

 アズラエルは忌々しげにそう呟く。

 

 先月に行われた10月会談。

 

 原作ではマルキオ導師によって行われたこの会談は、この世界では地球連邦主導で行われることとなった。

 

 その会談ではプラントの住民であるコーディネイターを地球連邦側のコロニーに移すことが提案された。

 

 忘れている人間も居るかもしれないが、ヤマト世界の地球連邦にもコロニーは存在する。

 

 第二の火星が消滅した今、そちらに移すしかないし、地球連邦からしてみれば、ガミラス戦で人が死にすぎた上に、デザリアム戦でも少なからず(それでも死者だけで数万人)死人が出た為、人手不足であり、6000万人のコーディネイターの存在は非常に有り難い存在だった。

 

 ちなみにこの話にはシーゲル・クラインの了承も得ている。

 

 そして、話し合いに応じた大西洋連邦だが、こちらは意外にも渋った。

 

 確かにプラントが戻ってくるのは喜ばしいことであったが、コーディネイターという奴隷に値する人間が居なくなるのは大きなダメージだったのだ。

 

 しかし、大きく反対することは出来ない。

 

 特にアズラエルに至っては強硬論を唱えていたことで、これに反対するとブルーコスモス内での自分の支持者を失いかねないという有り様だった。

 

 なにしろ、これに反対するということは、プラントのコーディネイターを消滅させるべきだという自分が発言していた言葉を覆す事になってしまう事になりかねないのだから。

 

 そして、彼が殲滅したかったのはプラントのコーディネイターであり、コーディネイター全般ではない。

 

 と言うより、彼自身が経営するアズラエル財閥にもコーディネイターが居るのだから、コーディネイター全般を抹殺するのは、むしろマイナスになってしまうのだ。

 

 この状況で更に大声を上げてコーディネイター抹殺を唱えられるのは、ブルーコスモス内でも過激派のジブリールくらいだろう。

 

 

「・・・と言うか、段々邪魔になってきましたね。ブルーコスモス」

 

 

 アズラエルはブルーコスモスという立場が今後、段々と邪魔になってくるのではないかと思っていた。

 

 3ヶ月前にプラントが地球防衛軍によって制圧されて以来、地球連合の反コーディネイター感情はトーンダウンしている。

 

 何故かと言えば、彼らと同じナチュラルがプラントを赤子の手を捻るかのように制圧したことで、自尊心が十分満たされたからだ。

 

 お蔭で国民は大分、エイプリルフール・クライシス以来、ハイになっていた頭をある程度冷静にすることに成功していた。

 

 となると、ブルーコスモスはこれから段々と危険思想団体と思われ、評判もどんどん落ちるだろう。

 

 ただでさえ、その傾向があり、嫌悪している人間も多いのだから。

 

 おまけに──

 

 

「あの3ヶ月前の時はジブリール君のせいで色々と手間取らせてくれましたからねぇ。まあ、お蔭で無様な様を晒さずに済んだのですが」

 

 

 ちなみに3ヶ月前に行われた“とある処理”とは、ジブリールがプラント占領を受けて活発化させたテロ行為のことである。

 

 なにせ、彼からすれば地球のコーディネイターを始末して、然る後に地球連邦と交渉すれば彼の悲願は叶う・・・そう思い込んでいる。

 

 そして、今後、地球のコーディネイターは地下に潜ってしまうだろう。

 

 そうならないように、所在の分かる今のうちに地球のコーディネイターを始末しようと考えた訳である。

 

 しかし、このテロ行為はあまりにも苛烈すぎ、反コーディネイター強硬派のアズラエルですら眉をしかめた程であると聞けば、どれだけ酷い惨状だったかが分かるだろう。

 

 結局、軍が出撃する形で収束したものの、ナチュラルの一般人も多く巻き込まれたことから、この件でブルーコスモスの評判は大きく落ちることになり、脱退者もそこそこ出ている有り様だった。

 

 主導したジブリールは色々な手を使って逮捕を免れたものの、反コーディネイター派閥からは常に監視者が送られる程になっている。

 

 しかし、まあ、偶然とはいえその時はそれで良かったとアズラエルは思う。

 

 なにしろ、強引にプラント接収に向かったユーラシア・東アジア共和国宇宙艦隊60隻は、たった3隻の地球防衛艦隊に敗北する事となったのだから。

 

 おまけに艦隊が交戦するのと同時に、両国が“地球連合として”地球連邦に宣戦布告をしてしまった為、大西洋連邦まで巻き添えを食うことになった。

 

 幸い、先方は大西洋連邦の立場を憂慮してくれたのか、交渉の場は依然として保たれていた。

 

 しかし、10月会談では地球連邦との提案に乗らない限り、プラントと連合の問題に関与することはないと地球連邦側に宣言されてしまっている。

 

 これはつまり、呑まないとザフトと地球連合の戦争は続くということでもあるのだ。

 

 そして、大西洋連邦と地球連邦の間で何かしらのこと(・・)が起きた場合、地球連邦はザフトに着くことになるかもしれない。

 

 そうなった場合、本当に地球連合は敗退してしまうかもしれない可能性が高い。

 

 ・・・もっとも、アズラエルは知らないことだが、敗退で済めば良い方であり、あまりに血迷う行動を取るようなら大西洋連邦という国そのものが文字通りの意味で消滅してしまう可能性が高かったりする。

 

 まあ、それは兎も角、10月会談の内容からするに、地球連邦はコーディネイター擁護をある程度決めているらしいので、ブルーコスモスに居る人物がプラントについての交渉などしたら、地球連邦は話し合いの席にすら着いて貰えない可能性が高い。

 

 

「頃合いを見て切り捨てましょう。後はジブリール君に任せれば大丈夫でしょう」

 

 

 アズラエルはブルーコスモスを切り捨てる算段をこの時点で決めることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 バース星付近

 

 

「そうか。バーナード星が潰されたか」

 

 

 ガイデルはそう言いながら、既にガルマン・ガミラスによって制圧されたバース星に建設された前線基地で報告書を読んだ。

 

 バース星の攻略は思った以上に手間取ったが、約1ヶ月の時間を掛けて、どうにか占領することに成功し、今はこうしてガルマン帝国が治める形で君臨していたが、基地攻略の際のどたばたで大量の銃器がこの星に流れ着いた囚人達によって持ち出され、占領から2ヶ月が経った現在も、レジスタンス活動をしている。

 

 バーナード星を拠点にして、通商破壊作戦を開始したフラーケン率いる潜宙艦隊であったが、当初は成功して地球の輸送船や軍艦を血祭りに挙げたものの、地球防衛軍が新型の亜空間ソナーを配備し、軍艦に装備し始めると、思うように戦果が挙げられなくなっていた。

 

 そして、そうこうしているうちにバーナード星に築かれた前線基地が発見され、半ば独断で突っ込んだヤマトによって奇襲された結果、完全に撃滅されてしまうこととなったのだ。

 

 今はフラーケン座乗艦を含めた残存の潜宙艦がこちらに向かっている最中である。

 

 

「ふむ、そろそろ地球攻略を行うべきかな?」

 

 

 ガイデルはそう考える。

 

 だが、地球の軍事力は思った以上だ。

 

 既に分かっている被害だけで、ダゴンと彼が率いていた艦隊が全滅、フラーケンの潜宙艦隊が半壊、そして、バーナード星系第一惑星に配備されていた新反射衛星砲までもが破られ、同基地は壊滅した。

 

 特にヤマトという艦艇の挙げた戦績は凄まじいものがある。

 

 

「こうなったら、私直々に攻めるしかないな。それで──」

 

 

「ガイデル司令長官!!」

 

 

 ガイデルが今後の計画を考えていた時、突如として彼の副官が入ってきた。

 

 

「どうした?」

 

 

「はっ!南西部方面に派遣された調査艦隊から緊急電が入っています!!」

 

 

 副官はそう報告する。

 

 実は東部方面軍はバース星占領後、地球の他に未知の勢力が居ないかどうかの調査のため、あちこちに調査艦隊を派遣していたのだ。

 

 

「分かった。繋げてくれ」

 

 

「はっ」

 

 

 そう言って副官は通信を繋げる。

 

 すると、すぐに南西方面調査艦隊司令が出る。

 

 

『ガイデル司令長官・・・』

 

 

「何があったのだ?」

 

 

『それが調査中に謎の勢力に襲われまして・・・連中は強力な対艦ミサイルを持っており、こちらの戦艦をたった一発で撃沈しました』

 

 

「ほう、なかなか強力な兵器を持つ者達のようだな。それで連中の正体は分かったのか?」

 

 

『いえ、私以外の艦が撃沈されて、なんとか命辛々逃げ帰った有り様でして・・・』

 

 

「そうか、分かった。では、こちらに急いで戻って来い。そして、詳しく聞かせろ」

 

 

『はっ』

 

 

 そう言うのを最後に、南西方面調査艦隊司令からの通信は切れた。

 

 それを見たガイデルは考える。

 

 

「私の担当する管区にまだ地球以外の未知の勢力があったとはな」

 

 

 ガイデルはそう思いながらも、この時はあまりこの報告を軽くもないが、重くも見ていなかった。

 

 先に地球の方を解決するのが先決だと思っていたからだ。

 

 だが、彼らがこの時接触した勢力は、地球に居る転生者達が聞いたら驚くべき勢力だった。

 

 何故なら、その勢力は本来の歴史でもそうだが、この世界でも1年後に地球防衛軍対峙する予定だった勢力──ディンギル帝国だったのだから。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25話

◇新暦82年 ミッドチルダ 次元航行本部

 

 

「おかえり、クロノ」

 

 

「・・・」

 

 

 リンディの言葉にクロノは憮然とした態度を取る。

 

 そのクロノの態度に、リンディはため息をつく。

 

 

「まだ怒っているの?」

 

 

「当たり前ですよ!あれで怒らない奴が居ますか!!」

 

 

 クロノは怒鳴る。

 

 それは半年前、あの土方艦隊と邂逅する少し前のことだった。

 

 クロノはリンディに呼び出され、第二の地球派遣の艦隊の指揮を執るように言われたのだ。

 

 ここまでは良い。

 

 正直、行きたくはなかったが、これも仕事だと割り切っていたからだ。

 

 だが、問題はその後だった。

 

 なんとクロノはリンディからこう頼まれたのだ。

 

 あの要求書(宣戦布告文書)を向こうが拒否した後、他の仲間を見捨てて自らの艦は次元転移を行ってすぐに離脱せよ、と。

 

 なんでも、第二の地球に対する遠征はクロノ以外は大半を強硬派で固められているらしく、見殺しにしてやられてくれた方がこちらに都合が良いと言ったのだ。

 

 当初、クロノは当たり前だが反発した。

 

 そんなことはやりたくないと。

 

 しかし、今後の犠牲を増やさないためだと根気強く説得され、更にはダメなら他の人間に任せることになるという脅しまで掛けられた結果、渋々だが了承することとなったのだ。

 

 そして、思ったより残ってしまったが、派遣された半数以上の艦艇と強硬派の人員が失われたことで、強硬派の力を大いに削ぐことに成功した。

 

 もっとも、クロノも敵前逃亡したということで責めを負う筈だったのだが、あらかじめ様々な準備を進めていたリンディは、そこは数ヶ月間の自宅謹慎という形で終息させている。

 

 そして、この情勢に慎重派の何割かの人間も不干渉派に降ることになり、遂にかの世界に対する不干渉方針を成立させることが出来たのだ。

 

 しかし、それでもクロノからすれば、味方を見捨てたという思いは重くのし掛かっており、簡単に振り払えそうにはなかった。

 

 

「あなたの気持ちは分かるわ。でも、そのお蔭で管理局はあの世界に対して不干渉の方針を打ち出すことが出来たのよ?」

 

 

「・・・」

 

 

「今日はもう帰って休みなさい。それで、落ち着いたら仕事に就きなさい」

 

 

 クロノはその言葉を聞いて、無言のままドアを乱暴に閉めて部屋を出ていった。

 

 

「・・・ごめんなさい」

 

 

 リンディは息子に深い傷を負わせてしまった事を後悔しつつも、仕方のないことだと思っていたし、傷は時間をもって癒すしかないだろうと感じていた。

 

 しかし、彼女は知らない。

 

 本来の歴史で、後にかの世界(ヤマト世界)に大きく関わった勢力と管理局の接触が近いという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、時空管理局か。奴等を殲滅して、管理世界を食い尽くせば我らの繁栄に役立つかもしれぬな」

 

 

 ──管理局の危機はすぐ身近まで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇西暦2203年(CE71年1月2日) 地球(ヤマト世界) 参謀本部

 

 このヤマト世界にとって、大きな運命の分かれ目になるであろう2203年は遂に明けた。

 

 そして、同時にSEEDの原作開始も近づいていた為、転生者達は参謀本部にて何時もの邂逅を行っていた。

 

 

「それでジャンク屋ギルドの殲滅はどの程度進んでいるんだ?」

 

 

 転生者の一人が尋ねる。

 

 この発言を聞けば分かると思うが、この時点で地球防衛軍とジャンク屋ギルドは敵対関係にあった。

 

 その因縁は、5ヶ月前の地球防衛軍の軍艦3隻と地球連合の軍艦60隻が衝突したあの会戦まで遡る。

 

 あの会戦によって、連合軍は60隻の軍艦の内、58隻の軍艦を失い、片や防衛軍は操作ミスによって敵艦と衝突してしまった無人駆逐艦1隻のみの被害で済んだ。

 

 しかし、ここからが問題だった。

 

 なんとジャンク屋ギルドがこちらの無人駆逐艦の残骸まで回収しようとしたのだ。

 

 当然のことながら防衛軍司令部は慌てた。

 

 何故なら、無人駆逐艦にも当然の事ながら搭載されている波動エンジンは防衛軍でも機密中の機密の代物であり、ジャンク屋ギルドなどという得たいの知れない組織に渡すわけには行かなかったからだ。

 

 そして、当然の事ながら、その回収を妨害した防衛軍であるが、ジャンク屋から抗議が来た。

 

 更にジャンク屋と多大な繋がりがあるシーゲル・クラインからも抗議が来て、防衛軍はジャンク屋の存在について協議することとなったのだが、ここで動いたのが転生者である。

 

 彼らはジャンク屋の存在を通して地球連合にこちらの軍事機密の存在がバレる可能性が高いと主張し、ジャンク屋ギルドをテロリスト団体として処断するべきだと主張したのだ。

 

 もっとも、この思惑にはジャンク屋ギルドと繋がりが深いマルキオ導師の力を削ごうという思惑も含まれていた。

 

 はっきり言って、あの人物はクルーゼ程ではないにしても、ラクスと並ぶレベルで危険な人物であるからだ。

 

 更にデブリの回収も万年予算や資源不足に悩んでいる転生者達からしてみれば貴重な存在だった。

 

 つまり、この資源を自分達が奪ってしまえば、マルキオ導師の力も削げる上に、資源不足の問題も少しは解決できるという一石二鳥の黒い思惑があったのである。

 

 そして、後者は兎も角、前者の思惑を全く知らない非転生者の人間(特に強硬派)からしてみても、確かに大量のデブリの存在は魅力的な存在であると感じざるを得なかった。

 

 結果、ジャンク屋ギルドはテロリスト団体と認定することに決定され、その掃討が定期的に行われることになったのだ。

 

 当然の事ながら抗議し続けたシーゲルであったが、地球連邦がジャンク屋ギルドを認めた覚えはないという事実を盾に、これを一蹴していた。

 

 

「順調に進んでいます。少なくとも宇宙においては彼らの出る幕はプラント周辺では殆ど無くなっているかと」

 

 

「なら良いが・・・それより原作のことだが、クルーゼが居ない以上、原作そのものが起こらない可能性がある。だったら、キラをそのままヘリオポリスで療養させた方が良いんじゃないか?」

 

 

 神川はそう発言する。

 

 地球連邦とオーブは既に国交を結んでおり、キラの地球連邦への国籍の移籍は勿論のこと、キラ本人も度重なる戦役で精神を少しばかり病んでしまった療養という形で、本来住んでいたヘリオポリスに留学という形で戻していた。

 

 もっとも、オーブの国交を結ぶことに関しては反対する転生者も多かった。

 

 その転生者達が警戒していたのは、オーブの政治を司る五大氏族の中の2家──セイラン家とサハク家だった。

 

 アスハ家に関しては良い。

 

 オーブの理念である中立を守る形であり、原作を知る者からすれば突っ込みどころも多少ある方針ではあるが、地球連邦からしてみれば参戦すると言われた方が困るので、その方が都合が良いからだ。

 

 しかし、この2家に関しては要注意が必要だ。

 

 セイラン家は原作のディスティニーでジブリールを匿うという暴挙の他、まともな緊急時対応を行えないなど、かなりの醜態を晒しており、とても信用するに値する存在だと思えないからだ。

 

 もっとも、連合の侵攻によってほぼ完全に崩壊したオーブの経済を2年で建て直しているところからするに、完全な無能という訳ではないのだろうが、だからこそ質が悪い。

 

 しかも、連合と繋がっており、もしこちらの技術情報が流れた場合、連合に情報を横流しされる可能性がある。

 

 そして、サハク家もサハク家で別な問題がある。

 

 特に原作でロンド姉弟と言われている二人の姉弟は、それぞれ理想と私利私欲の違いこそあれ、オーブによる世界征服を企んでいるというとんでもない者達だ。

 

 そして、地球連邦やまだ知らないが、もし異星人の存在を知った場合、世界征服どころか、宇宙征服すら企んでも可笑しくはないのだ。

 

 そんな者達に地球連邦の技術情報を流すなど、万が一にも在ってはならないことである。

 

 そういう考えから反対している人間も居たが、外需を確保するための足掛かりという形でオーブとの国交を欲していた人間も居た為、結局は技術交流は一切行わない上に、技術漏洩には細心の注意を払うという条件でオーブとの国交は成立された。

 

 しかし、原作でオーブ襲撃を命令したクルーゼは既にプラントには居ないし、戻っても彼の居場所は無いだろう。

 

 何故なら、偶々(・・)地球防衛軍の将校が落としたクルーゼの計画や連合への情報流出についての情報がどういうわけか(・・・・・・・)、プラント中に広がってしまったのだから。

 

 そういう訳で、クルーゼが居ない以上、キラが原作の戦いに巻き込まれる可能性は低いと神川は判断していた。

 

 まあ、とは言っても、G計画は原作通りヘリオポリスで行われている(おそらく、セイラン家の仕業)可能性が高いので、原作の時系列ではないにしても、いずれ巻き込まれる可能性があるだろうが。

 

 

「まあ、それで良いんじゃないか?今のところは戦況も落ち着いているし、大分態勢も整ってきた。それにすぐ近くだから、何かあれば迎えを寄越せば良いしな」

 

 

 転生者の一人の言う通り、現在の状況は驚くほどに落ち着いている。

 

 防衛軍の総艦艇は既に300隻を越えており、ヤマトが基地を破壊した後、占領したバーナード星にも前線基地が築かれている。

 

 おまけにガルマン・ガミラスもボラー連邦も時空管理局も来襲する様子は今のところはない。 

 

 勿論、油断は禁物だが、ここからヘリオポリスまではヤマト世界ではほんの少しの距離なので、迎えようと思えばすぐに出来るのだ。

 

 だったら、そのまま精神の療養をさせておいた方が良いと判断していた。

 

 

「では、キラについてはそのままということで。それで次の議題だが──」

 

 

 こうして、キラの方針については現状維持が決められた。

 

 ──しかし、彼らは知らなかった。

 

 後日、原作補正としか思えない事態が起きることを。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26話

◇西暦2203年(CE71年1月25日) ヘリオポリス周辺

 

 

「どうしてこうなったんだろう?」

 

 

 キラは地球連合軍の最新鋭戦艦らしいアークエンジェルの艦内で、どうしてこうなったのかと自問自答していた。

 

 事の始まりは、ザフトが中立国のコロニーであるヘリオポリスを襲撃したことだった。

 

 いや、厳密な原因は地球連合軍がここでG計画を遂行するためにガンダムを製造していた事なのだが、引き金を引いたのは間違いなくザフトの指揮官である。

 

 プラント占領から5ヶ月が経つが、ザフトは未だに解体されておらず、地球連合軍と交戦中だった。

 

 これは地球防衛軍、特に転生者達が地球連合から半ば宣戦布告を受けたこともあって、積極的に殺し合ってくれた方が都合が良いと思ったからだ。

 

 そして、キラも大久保と共にプラント占領作戦に参加していたのだが、占領後、“とある姉妹との出会い”と親友の父親であるパトリック・ザラが戦争を煽った罪という形で地球連邦によって処刑された(ちなみにキラは知らないことだが、この他にも彼の派閥に属するエザリア・ジュールなどの強硬派の人物が処刑されたり、不慮の事故(・・・・・)に遭ったりしている)事から、少し精神を病んでしまって、このヘリオポリスに精神の療養の為に送られていた。

 

 幸いだったのは、プラント占領の間、転生者達の配慮によってアスラン・ザラと再会させないようにされたことだっただろう。

 

 こんな中でかつての親友と再会させれば、傷が深くなるとキラと接触した転生者達は感じ取ったのだ。

 

 そうしてキラは再びこのカレッジに通うことになったのだが、そこで原作の学友達と再会し、共に友人として接していたことでキラの心の傷も大分癒えてきていた。

 

 もっとも、国籍を変えている事や軍に居ることなどは流石に話していなかったが。

 

 そして、今日、どういう経緯でそうなったかは知らないが、ザフトがヘリオポリス内にある地球連合の施設を襲撃してきたのだ。

 

 結局、偶々逃げ回った先に在った低性能のMS(ストライク)を動かして撃退した訳だが、マリューという地球連合大尉の女性に銃を向けられて半ば拉致する形でアークエンジェルに連れてこられた。

 

 こういう場合、仮にキラが抵抗して連合の軍人を傷つけたとしても特に国際問題にはならない。

 

 何故なら、彼ら連合の軍人は、本来、ここに存在してはいけない存在なのだから。

 

 キラもそれは知っていて、抵抗しようかとも思ったのだが、その時、友人達と一緒に居たことで彼らが死傷する確率を踏まえると断念せざるを得なかったのだ。

 

 

「・・・しかし、居心地が悪いな」

 

 

 キラはそんな感想を抱く。

 

 ヤマトに配属されていた時や、空間騎兵隊に居た時は感じなかったアークエンジェルでの違和感。

 

 それはコーディネイターに対する悪意だった。

 

 今現在、プラントと地球連合は戦争をしているが、その戦争は理性的とは言えない。

 

 いや、戦争そのものが理性的でないと言えばそれまでなのだが、流石にここまでの悪意と悪意のぶつかり合いは、それこそ世界大戦でも無い限り、あり得ない筈だったのだ。

 

 が、残念なことにこの戦争はそのあり得ない筈の戦争であり、国と国との戦いではなく、人種間戦争と考えている人間も多い。

 

 それは先程のマリューの『ナチュラルとコーディネイターの戦争』という発言や、アークエンジェルの乗員が自分がプラントの国民でないにも関わらず、コーディネイターというだけで銃を向けてきた事からも分かる。

 

 まあ、そういう事情を薄々感じ取っておきながら、連合軍の前で自分のことをコーディネイターだと指摘したムウという大尉には少し腹が立ったが、地球連邦の軍人とバレるよりは良いと考え直していた。

 

 なにしろ、地球連邦からはほぼ無視されているとはいえ、地球連邦と地球連合は戦争中の間柄なのだ。

 

 一応、アークエンジェルの所属する大西洋連邦とはこれまで交戦による軋轢はなく、交渉が持たれていたが、自分の正体がバレるとかなり面倒なことになる。

 

 最悪、スパイだと疑われかねない。

 

 もっとも、勝手に拉致してきたのは向こうなので、そう言われるのは甚だ不本意なのだが。

 

 いや、それよりも問題なのは──

 

 

「・・・でも、この展開は流石に予想していなかった。どうしよう?」

 

 

 キラは冷や汗を流さざるを得なかった。

 

 まさか、このアークエンジェルの強大な戦力の1つであるあのMS(ストライク)をOSを弄ったことで自分しかほぼ動かせなくなり、おまけにヘリオポリスが崩壊してアークエンジェルに乗艦することになったヘリオポリスの避難民やキラの友人をザフトから守る為に、ほぼ他国民の、それも建前上とはいえ民間人である自分を徴用して、連合軍の機密らしいMSの機体のパイロットにするというウルトラCな展開など、流石のキラも全く予想していなかったからだ。

 

 まあ、これが予想できたら頭良いのレベルではなく、超能力者(もしくはガンダムSEEDを知る転生者)の次元になってしまうのだが。

 

 それは兎も角、キラはこの状況は非常に不味いと思っていた。

 

 なにしろ、前述した通り、地球防衛軍と地球連合軍は戦争中だ。

 

 万が一、この事がバレたら、自分が裏切り者などという謂れのない中傷を受けかねないし、そのまま地球連合に残ったら残ったで前述したようにスパイと疑われる。

 

 しかし、かといって、この艦を守らないという選択肢も取れない。

 

 何故なら、その行為はヘリオポリスの友人を見捨てるという事でもあるのだから。

 

 キラはあまりの状況の不味さに卒倒しそうになったが、どうにか堪えて必死に頭を回す。

 

 

(いっそのこと、本当にスパイになろうかな?・・・いや、駄目だ。自慢じゃないけど、僕にそんなことが出来るとは思えない。そうなると、地球防衛軍が今まで通り無視してくれることを祈るか)

 

 

 キラはそう思うが、1つ懸念事項があった。

 

 それはアスランの事である。

 

 キラは一時期、プラント占領軍に居た為、プラントの住民の中にはキラの顔を知っている者も居る。

 

 しかし、プラント占領時にアスランには会わなかったし、ヘリオポリスで再会した時のアスランのあの反応から、おそらく自分が地球防衛軍に所属していて、プラント占領軍に居たことも知らない。

 

 だが、自分の顔を知っている誰かからその情報が出回って地球連邦に伝わる可能性もあることを考えると、キラは胃が痛くなる感覚を感じざるを得なかった。

 

 

(い、今は考えないようにしよう。うん)

 

 

 あまりの胃の不快感に、キラは現実逃避しながらそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 ディンギル本星 周辺

 

 

「ば、馬鹿な!!こんなことがぁ──」

 

 

 ガイデルは目の前に光景に驚愕しながら、機動要塞もろとも、ディンギル帝国の誇る都市要塞『ウルク』の放ったニュートリノビームによって、文字通りの意味で溶かされる事になった。

 

 ディンギル帝国と接触した後、ガイデルはディンギル帝国の情報収集を行ったのだが、分かったことは地球とほぼ同規模の勢力を持っていること、そして、全体的な科学力に関しては地球を上回っていることだ。

 

 その為、こちらの方が脅威になりそうと、ディンギル帝国の攻略を先にすることにしたのだが、ディンギル帝国は思ったよりも手強く、特にハイパー放射ミサイルを持つ水雷艇に苦戦することとなった。

 

 それでも科学力と戦力、物量や戦闘技術にものを言わせる形でディンギル帝国の殆どの艦艇を沈め、ルガール大神官大総統の長男、ルガール・ド・ザールを討ち死にさせたのだが、最後にプロトンミサイルで消滅させたディンギル本星から出てきたウルクという本星の首都によって苦戦させられることとなる。

 

 そして、ガイデルの機動要塞が直々に出てきたわけだ。

 

 都市要塞VS機動要塞という戦いはある意味ロマンチックではあったが、実際戦ってみると、呆気なく終わった。

 

 ガイデルの機動要塞はウルクのニュートリノビームに敗退したのだ。

 

 それは原作でニュートリノビームが、波動砲発射の影響で偶然起こった波動エネルギーの漏れによってヤマトに意外とあっさり突破されたことを知る転生者達からしてみれば信じられない光景であったのだが、考えてみれば道理でもある。

 

 装甲を物理的に突破できないのであれば、溶かしてしまえば良いのだ。

 

 かくして、ガルマン・ガミラス東部方面軍とディンギル帝国戦いは、ディンギル帝国の勝利に終わった。

 

 ガルマン・ガミラスの方は残った艦艇は離脱したが、機動要塞が破壊された以上、しばらくは攻めては来れないだろう。

 

 しかし、勝利したディンギル帝国も多大な損害を負ってしまっていた。

 

 具体的には艦隊の殆どが全滅し、特にディンギル帝国自慢の水雷艇と水雷母艦に至ってはガルマン・ガミラスが脅威と感じたことから優先的に撃破されており、攻撃能力は衰えてしまっている。

 

 そして、なにより痛かったのは業を煮やしたガルマン・ガミラスによってプロトンミサイルが撃ち込まれたことでディンギル本星が消滅してしまったことであり、更に彼らの国是である弱肉強食的理論から女子供、老人は切り捨てられた為、ディンギル帝国の国としての能力はほぼ回復不能ではないかと思える程までに落ち込んでいた。

 

 なので、ルガール大神官大総統は最後の力を振り絞って地球侵攻を行うことを決める事となる。

 

 それは原作よりも大分早い時期だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

27話

◇西暦2202年(CE71年1月27日) 地球(ヤマト世界) 地球防衛軍 参謀本部

 

 

「ふむ、予想と違って原作が、それも全く同じ時系列で始まってしまった訳だが・・・どういう経緯でそうなったんだ?」

 

 

 神川は情報担当の転生者に尋ねる。

 

 

「どうやらイザーク・ジュールが暴走したようですね。母親が処刑されたせいか、原作よりも精神的に余裕がなかったようで・・・」

 

 

「「「・・・」」」

 

 

 その言葉に転生者達は沈黙せざるを得なかった。

 

 転生者達にとって、プラント占領を機に、パトリック・ザラやエザリア・ジュールを始め、政治的に地球連邦の方針に邪魔な存在や危険な存在は排除しておきたく、プラントの強硬派を片っ端から処刑したり、不慮の事故(・・・・・)に遭って貰ったりしたのだが、今回はそれが裏目に出た形だ。

 

 本来なら、穏健派のギルバート・デュランダルも転生者達からしてみれば不慮の事故に遭って貰いたい人物だったのだが、彼はどういうわけか雲隠れしてしまい、それは叶わなかった。

 

 ちなみにシーゲル・クラインはジャンク屋ギルドの件もあって、どうするか迷ったのだが、彼を殺してしまうとラクス・クラインが暴走してしまう可能性があったので、殺害は無しということになっている。

 

 そして、現在、プラント評議会議長の席にはそのままシーゲル・クラインが居座っていた。

 

 これも本来ならば、アイリーン・ガナーバにすげ替えたかったのだが、下手にその座から引きずり下ろすと何をするか分からないということもあり、目の届く範囲で活動させるためにそのままにしておいたのだ。

 

 

「では、原作と時期が被ったのは偶然ということか。まあ、それは良いとして、肝心なヤマト中尉の行方はどうなっているんだ?」

 

 

 神川は肝心な点を再び尋ねるが、問われた彼は気まずそうにしていた。

 

 

「なかなか情報収集が難しくて・・・しかし、アークエンジェルが無事なのは確認されていますし、ヘリオポリスも崩壊しましたから消去法で行くと死んだか、アークエンジェルに収容されたかしか有りません」

 

 

「なるほど・・・」

 

 

 神川はそこまで聞いて非常に悩んでいた。

 

 原作に介入するのかどうかを。

 

 介入する理由はある。

 

 大西洋連邦にこちらの士官を中立国で拉致して、おそらく戦わせているであろう証拠を掴んで、その事を非難すれば良いのだ。

 

 ついでにオーブにこちらが掴んでいる地球連合軍のG兵器開発の情報をちらつかせれば、外交的に更に優位に立てる。 

 

 かの国は建前上、中立を理念として掲げているので、こういった攻勢には弱くならざるを得ないのだ。

 

 しかし、これからおそらくガルマン帝国やボラー連邦が襲来してくる可能性もあるし、その警戒もしなくてはならない。

 

 ちなみにこの時点で転生者達はバース星が既にガルマン帝国によって落とされていることを知らない。

 

 ついでにガルマンとディンギルが交戦したことも。

 

 まあ、これだけでも問題なのだが、半年以上前には時空管理局からも宣戦布告され、その時の戦闘によって敵艦を50隻ほど沈めているが、その代償として巡洋艦が1隻、駆逐艦が3隻、無人駆逐艦が2隻失われている。

 

 そうなると、まずそちらの対処に戦力を割くべきだろう。

 

 しかし──

 

 

「このまま放置しておくのもなぁ」

 

 

 甘いと言われるかもしれないが、確かに精神の療養の為にヘリオポリスに帰していた手前、ここで放置しておくのも後味が悪すぎる。

 

 しかも、あの艦の幹部は序盤で佐官級が全滅したお蔭で無能な尉官以下の幹部しか乗っていないのだ。

 

 原作の例を挙げると──

 

マリュー・ラミアス大尉(後に少佐)・・・技術士官であった為か、指揮能力が殆ど無い。しかも、情に厚すぎるせいで原作の第8艦隊の先遣隊の一件では、難民などの避難民を乗せているにも関わらず、戦闘に参加してしまい、アークエンジェルを危険に晒すという失態を犯す。

 

ナタル・バジシール少尉(後に中尉)・・・マリューとは逆に指揮能力は高いが、それ以外が駄目。中でも第8艦隊先遣隊との一件では敵国の住民、それも重要人物であったとはいえ、“民間人を人質にして”艦の危機を乗り越えるという政治どころか、軍人として問題が有りすぎる行為を行う。もっとも、これは前述したようにマリューの失態の要素もあったので一概には言えないが、軍人としての性格に問題があったのは間違いなし。

 

ムウ・ラ・フラガ大尉(後に少佐)・・・3人の中では一番まともではあるが、それでも軍人として問題はある。特に原作の第8艦隊先遣隊の壊滅後に卑怯な手を使って危機を切り抜けていきり立つキラに『そういう情けない事しか出来ねえのは俺達が弱いからだよ』と諭すが、ぶっちゃけて言えば、当時はまだ民間人の延長線でしかなかったキラにそこまで強さを期待するのはどう考えても間違っており、そういうのは本来ならば軍人である自分達で完結させる問題であるという事に気づいておらず、ナタル程ではないにしろ、軍人としての性格に問題があったのは間違いなし。

 

 ・・・まあ、ざっとあげるだけでも、こんな感じの問題点があった。

 

 そして、これだけ問題点があってアークエンジェルがアラスカまで無事に辿り着けたのは、どう低く見積もっても80パーセント以上はキラの活躍のお蔭だろう。

 

 よって、原作であまりの負担によって心が潰れかけた挙げ句、復讐心からとは言え、自分に優しくしてくれたフレイに溺れ、肉体関係を築いてしまったのは、ある意味で当然の帰結だったと言える。

 

 この世界では原作開始前にヤマト世界で精神、肉体的に鍛えられたとは言え、原作と同様にならないとは限らない。

 

 なので、何とかしてあげたかったのだが、かといって艦艇は出せない。

 

 となると──

 

 

「空間騎兵隊を派遣するか?」

 

 

 転生者の一人が提案する。

 

 プラント占領戦でも活躍していたので知っていると思うが、空間騎兵隊にはMS部隊が存在する。

 

 このMSは先日のデザリアム本星で使われた8メートルクラスのMSから更に小型化が進められて5メートル大の大きさとなっており、ゆきかぜ・改にも2機積めるようになっていた。

 

 ただし、小型化の代償としてパワー不足が懸念されたので、波動ビームサーベルの性能向上及び小型化、更に波動カートリッジ弾を小型化して弾薬として採用したマシンガンも開発されている。

 

 特に後者は仮にフリーダムが相手だったとしても、直撃すれば、何処に当たろうが、最低でも半壊させられる程の威力を持っており、仮にザフトとMS戦を行ったとしても勝機は十分に存在する代物となっているし、そもそも機動力において艦艇の亜光速機動戦闘に対応するように造られたヤマト側と、そもそも艦艇が亜光速にすら達しないSEED側ではMSの性能にも差が出てくるので、転生者達は負ける心配は殆どしていなかった。

 

 まあ、SEED側のMSに熟練者のコーディネイター、ヤマト側のMSに新人のナチュラルといった状況なら前者にも勝機は見えてくるだろうが、それでも苦戦することは間違いない。

 

 事実、プラント占領作戦では大いに活躍している。

 

 もっとも、クルーゼなどのニュータイプ擬きやSEED持ち、中でもトップ3であるキラ、アスラン、シンでも連れてくれば話は別だろうが、内キラはこちらで確保しているし、もう二人の内、シンは現時点ではパイロットですらない普通の民間人であるし、クルーゼも死亡確認こそされていないが、既にプラントには居ないだろう。

 

 となると、残るはザフトに所属するアスランだけとなるのだが、幾らSEED持ちでも彼一人ではどうにもならない。

 

 なので、空間騎兵隊を派遣すれば優位に立てるのは間違いないだろう。

 

 だが──

 

 

「それは止めといた方が良いだろうな。介入の理由がないし、今は敵と潜在的な敵が多すぎてそれどころじゃない。それに原作を動かすのも不味いしな」

 

 

 神川は反対の意見を述べる。

 

 確かに現時点では、デザリアムこそ滅ぼしたものの、地球防衛軍と時空管理局は交戦状態にあるし、その内ガルマン・ガミラスやボラー連邦も本格的にやって来る。

 

 そして、半年後にはディンギル戦だ。

 

 とてもではないが、介入している余裕など無い。

 

 やはり、ここはキラに頑張って貰うしかないだろう。

  

 ・・・本人にとっては、かなり気の毒な話であろうが。

 

 

「まあ、上手く行けばディスティニーには介入できるだろうから、それまで我慢だな」

 

 

 かくして、転生者達の方針は決定された訳だが、彼らは知らなかった。

 

 彼らが想定しない、いや、厳密にはもう来ない(・・・・・)と思っていた勢力と半年ぐらいは先と思っていた勢力がほぼ同時に、太陽系に徐々に近づいてきていたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同日 某所 暗黒星団帝国 残存艦隊

 

 

「ミヨーズ司令、例の兵器の改修は順調に進んでおります。このままであれば、あと2週間程で地球侵攻は可能かと」

 

 

「そうか。分かった。作戦開始は2週間後だ。本星と二重銀河の同胞の仇を打つぞ」

 

 

「はっ!」

 

 

 某所の星にて、暗黒星団帝国の残存艦隊は続々と集まって地球侵攻の準備を進めていた。

 

 しかし、残存艦隊と言っても、それはかなりの数であった。

 

 二重銀河に存在した味方は全て吹っ飛んでしまったが、暗黒星団帝国はその外にも多数戦力を持っていたので、それらが集まって地球に復讐するための準備を進めていたのだ。

 

 ・・・とは言っても、全員が全員、そんなことをしたとしても、自分達は破滅するであろう事は分かっていた。

 

 なにしろ、こちらの本拠地は母星はおろか、2つの銀河共々吹き飛んでいるのに対して、向こうには本星があるため、国力は言うまでもなく、現在は向こうの方が上だし、戦力の補充能力もある。

 

 こちらには艦隊や2基のゴルバと、後は本国が建造を進めていたが、もはや本来の機能(・・・・・)としての完成は自分達の手では永遠に出来ないであろう超兵器が1つ。

 

 しかし、死ぬ前にせめて自分達の同胞や家族の命を奪った地球に一矢報いたい。

 

 そういう思いから、こうしてミヨーズの呼び掛けによって集まっていたのだ。

 

 もっとも、集めたミヨーズには別に地球にこれといった恨みという感情は持ち合わせていない。

 

 いや、思うところがないわけではないが、彼はこれが戦争だと割り切っていたのだ。

 

 そして、彼の討つべき敵は地球艦隊、いや、ヤマトただ1隻。

 

 

「見ておれ、ヤマト」

 

 

 ミヨーズは闘志を燃やす。

 

 しかし、この時、流石の切れ者の彼も予想できていなかった。

 

 数ヶ月前まで自分達が侵攻した太陽系に、地球とその惑星群がもう一セット出現したなどという事を。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

28話

◇西暦2202年(CE71年2月上旬) アークエンジェル

 

 

「ザフトに告ぐ!これから、こちらで保護しているラクス・クラインの返還を行いたい!速やかに戦闘を中止されたし!!」

 

 

 ストライクの中で、第8艦隊先遣隊に襲い掛かるザフトのMS集団に向かってキラはそう告げる。

 

 ヘリオポリスが崩壊してから、キラは原作通りにアルテミスに行ったり、ユニウスセブン周辺の落とし物の中からピンクの妖精(ヤマト世界の地球に居る転生者達にとっては疫病神)を拾ったりしたが、その間、キラとしては何時防衛軍上層部から連絡が来るか、ヒヤヒヤしていた。

 

 なんせ、キラは本来、スパイとしてアークエンジェルに派遣された訳ではない。

 

 そんなときに地球防衛軍から連絡を受ければ、まずスパイ扱いされることは間違いないだろう。

 

 ・・・ほぼ拉致同然に連れて来られた身からすれば、理不尽でしかないが。

 

 しかし、幸いなことに防衛軍からの連絡はなかった。

 

 死んでいると思われているのか、もしくは連絡したら不味いことになると気遣われているのかは分からないが、とにかく地球に降りたら、隙を見つけてすぐに連絡する必要があるだろう。

 

 ちなみに、現在、キラがラクスを連れる形でこのような行動に走ったのには幾つかの理由がある。

 

 1つ目は、キラがラクスを地球連合が政治的材料に使われようとしていることを不快に思ったこと。

 

 いや、政治的材料に使われるだけならまだ良い。

 

 最悪なのは、見せしめとして処刑されるか、あるいは何処かしらの人間の慰み者にされること。

 

 前者(これだけでも大問題だが)は兎も角、後者はないとは思いたかったのだが、あいにく地球連合、特にアークエンジェルの所属する大西洋連邦はブルーコスモスが主導権を握っており、絶対無いとは言えなかったのだ。

 

 自分が救助した事もあり、救助した人物をそのように扱われることは、キラとしても我慢ならなかった。

 

 2つ目は、カレッジに戻った時、赤毛の少女に一目惚れをし、その女の子に父親を自分達が守ると宣言してしまった事だ。

 

 まあ、赤毛と言うと、プラントで出会ったあの姉妹を思い出してしまうのだが、あの二人とは根本的に違うとキラは思っていた。

 

 何故なら、彼女らには彼女──フレイのような高潔なオーラが漂ってこなかったのだから。

 

 そんな二人が聞いたら激怒しそうなことを思いつつ、キラは彼女に真剣に惚れていた。

 

 そして、本来なら、このようなことを言うべきではないと分かっているのだが、彼女を安心させるためにもそうせざるを得なかったのだ。

 

 しかし、相手は複数居ると目されたMS部隊。

 

 自分一人で複数のMSと戦いながら、第8艦隊の先遣隊を守るのは困難と思ったキラは、出撃前にあまり気は進まなかったのだが、ラクスというカードをここで(アークエンジェルに無断で)切ることにしたのだ。

 

 ちなみに当のラクス本人はストライクの抱えている救命ポッドの中に入っている。

 

 すると、ザフトの攻撃が止む。

 

 

『卑怯だぞ!キラ!!これが地球軍のやり方か!!』

 

 

 通信からアスランがそう叫ぶ。

 

 まあ、それはそうだろう。

 

 キラは不慮の事故(・・・・・)によってラクスの命が失われるかもしれないと、暗に脅しをかけているのだ。

 

 卑怯な手だと言われるのも仕方がない。

 

 しかし、これでもキラは捕虜返還という建前を行使しているので、本来の歴史を知る転生者からすればあまり卑怯とは思えないだろう。

 

 なにしろ、原作ではナタルが建前もへったくれもなく(もっとも、原作では建前を行使する余裕がなかったとも言える状況でもあったのだが、本人の性格からするに余裕があっても同じ行動をした可能性大)ラクスを思いっきり人質として使ったのだから。

 

 だが、この場には原作を知る転生者など居ないため、アスランの言葉の刃がズキズキとキラの心に響く・・・かと思われたのだが、そんなことは全然なかった。

 

 キラも軍人として精神的に成長していたのだ。

 

 もっとも、関わった地球連邦の人間が軍人としてのプライドを持った人物ばかりであり、そんな人間たちの影響を受けたキラもその例に漏れなかったので、こういう手を使うことには抵抗はあったが、それでも何かを救うためには仕方のないことだと割り切っていた。

 

 加えて、この時、キラは相当のフラストレーションを溜め込んでいた。

 

 プラントでは精神を止み、続いて療養先であったヘリオポリスの崩壊によって自らの平穏と予定が狂い、乗り込んだ先のアークエンジェルでは乗員から時折敵意や憎悪を向けられ(当初は銃も向けられた)、アルテミスでは道具のように思われた挙げ句、好きな人に売られるような真似をされ、友達はトールを除いて腫れ物のように見てくるし、拾ってきた手前、ラクスの扱いにも気を配らなければならなくなった。

 

 更に原作では引っ込んでいたキラの精神力はヤマト世界の戦闘で培った経験によってかなり鍛えられており、その事が本来の歴史では封じ込められていたキラの精神を表に押し出すことになっていた為、原作のような優しさは未だに持っていたものの、それでも戦争に対応した考え方が大きくなっている。

 

 そして、これは意外に思うかもしれないが、キラのイラつきを加速させている理由として、ストライクというMSの低性能振りがあった。

 

 なんせ、ヤマト世界のMSは亜光速戦闘も行えるように造られているだけあって、その戦闘スピードもかなり早い。

 

 そんな機体に乗っていたキラからすれば、ストライクはあまりに動作が鈍すぎる機体であり、自分の思ったように動かせないという確かな苛立ちがあったのだ。

 

 まあ、これについては今まで満足に悠々自適な暮らしをしてきた人間が、いきなり不便な生活に立たされたという状況だった。

 

 もっとも、この場合、悠々自適な暮らしをしていた人間の方が不便な生活をしている者よりも、より過酷な戦いに身を投じていた、という但し書きが着くが。

 

 なので、キラとしてはアスランに負い目もあったのだが、だからと言ってカレッジの親友たちの居場所を奪った所業を許せるわけもなく、更に先のイラつきも合間って複雑な思いに駆られていた。

 

 しかし、それでも目的は果たそうとする。

 

 

「じ、じゃあ、取り敢えず、これは置いていくね。あっ、そうだ。くれぐれも不意打ちなんてしないことをお勧めしますよ。その救命ポッドには爆弾を仕掛けてありますので」

 

 

 キラは周囲に向かってそう宣言すると、救命ポッドを投げ捨て、そのままアークエンジェルまで去っていく。

 

 ちなみに、最後の言い残した発言は万が一の追撃や不意打ちを避けるためであり、爆弾そのものはブラフだが、そんなことを相手が知るよしもないし、何処に仕掛けてあるかは明言していないので、それが分かるまで時間が掛かるだろう。

 

 もっとも、これらの一連の脅しも普通の民間人なら無視されてしまうかもしれないが、幸いにしてラクスは有力者の娘であり、そう言い残せば下手な真似は出来ないと踏んだのだ。

 

 かくして、少々カッコ悪い形とはなったが、本来の歴史とは違い、第8艦隊先遣隊は救われた。

 

 しかし、キラは少し後に彼らを救ったことを後悔することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇アークエンジェル

 

 

「どういうことですか!?キラ君を独房に閉じ込めたって!!」

 

 

 マリューはモントゴメリーの艦長であるコープマンに向かってそう叫んだ。

 

 それに対して、コープマンは罰が悪そうにしていたが、代わりにフレイの父親であり、外務事務次官でもあるジョージ・アルスターが答える。

 

 

「しょうがないだろう。彼はコーディネイターなんだから」

 

 

 彼は事も無げにそう言った。

 

 そう、彼は反コーディネイター団体であるブルーコスモスの一員であり、コーディネイターを嫌悪している。

 

 と言っても、強硬派のアズラエルや過激派のジブリールのようにプラントを滅ぼしたい、あるいはコーディネイターを殺したいと平然と口にするような者とは違い、彼はブルーコスモスの中でも穏健派に属する人間だった。

 

 しかし、ブルーコスモスの一員である以上、コーディネイターに対する一定の嫌悪感をジョージは持っている。

 

 まあ、そうでなければ、娘のフレイが必要以上にキラに嫌悪感の伴った視線を向けるなどという事はあり得なかっただろう。

 

 いや、実のところ、彼はジブリール程ではないが、アズラエルよりも悪質な考えを持っていた。

 

 それはコーディネイターを奴隷として酷使するという考え方だ。

 

 そして、そういうコーディネイターを有効に活用する考えを持っているからこそ、彼はブルーコスモス内では穏健派という立場だったのだ。

 

 

「それに彼はラクス・クラインを逃がしている。そんな彼がザフトのスパイではないと言い切れるのかね?」

 

  

 ジョージが侮蔑を隠さない顔でそう言った。

 

 彼からしてみれば、奴隷である筈のキラに救われ、尚且つ政治的材料に出来た筈のラクス・クラインを敵側に渡したという事が我慢ならなかったのだ。

 

 それにコーディネイターに救われたなどという話が広まれば、ジョージのブルーコスモス内での立場にも影響が出る。

 

 なので、なんとしてもそれを帳消しにしたかったのだ。

 

 その結果がこの独房入りであるが、やがては事故(・・)で死んで貰う予定だった。

 

 

「それにMSのデータはこの艦に保管されているのだろう?私をこの艦に送ってきた艦隊はこの艦への補充人員や物資は勿論、MSのパイロットまで連れ込んでいる。あのコーディネイターを独房に放り込んでもなにも問題はあるまい?」

 

 

 ジョージはそう言いながら余裕を見せるが、マリューはナタルと顔を見合わせながら、ある事実を発言する。

 

 

「その事なのですが、実は──」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

29話

 

 

「・・・」

 

 

 アークエンジェルの独房の中。

 

 キラは膝を抱えながら、俯いた状態となって黙り込んでいた。

 

 

「あれは堪えたなぁ」

 

 

 キラはポツリと呟く。

 

 帰還した後、キラはまずフレイからお礼を言われた。

 

 そして、サイと付き添っていた時とは違い、ちゃんとした自分の意思で彼女はキラに改めてアルテミスの時の謝罪を行った。

 

 それは原作を知る転生者から見れば、驚いたであろう光景だったが、これが本来のフレイ・アルスターだ。

 

 彼女は原作では当初はキラが惚れた無神経な女、次いてキラを戦いに駆り立てた悪女、最後にキラを戦いに駆り立てた事を後悔し、逆に好きになってしまったキラを目前にしながら命を散らされた悲劇の女という色々と曰く付きのキャラだった。

 

 特に最初の点ではこの世界でも変わらない。

 

 故に、その人物像にはラクスとはまた違った意味で賛否両論があったのだが、それでもこの戦争の犠牲者だったという点では一致している。

 

 そして、家族を愛していたという事実は確かであり、原作ではそれ故にキラを憎み、キラにコーディネイターを殺して貰い、本人も最終的に死んで貰おうと考える一方、紛い物とは言え、キラの心の支えにもなった人物であり、だからこそ彼女はそんな家族を守ったキラに対して、コーディネイターに対する嫌悪感を超越した感謝の念を抱いていたのだ。

 

 もっとも、コーディネイターに対する嫌悪感は変わっていなかったのだが、それでもキラは例外と認識できる程度にはなっている。

 

 そして、しばらく雑談を交わしていた時、やって来たのはジョージ・アルスターと銃を構えた兵士だった。

 

 

『娘から離れろ!化け物!!』

 

 

 そのジョージの言葉に、キラはショックを受けた。

 

 確かにナチュラルがコーディネイターに良い感情を持っていないことは知っている。

 

 しかし、ヤマト世界でナチュラルと仕事をしていたが、彼らは決して自分を差別しなかったし、こういってはなんだが、コーディネイターである自分に着いてこれる頭脳を持っており、それどころかあっという間に自分の先を行かれてしまったので、『コーディネイター=ナチュラルより優れている』という理論は間違っていると、身をもって思い知らされていた。

 

 まあ、これはヤマト乗組員が異常なだけなのだが。

 

 アークエンジェルに乗ってからは、自分を敵視する視線を交えたもので見られていたが、なんとかやって来れた。

 

 しかし、アルテミスのガルシア、そして、今回のジョージによって完全に思い知らされる。

 

 地球連合にとって、自分は異端者なのだと。

 

 そして、そのショックのせいかは分からないが、大人しく拘束されて、何かの罪状を言われた挙げ句、こうして独房に入れられたわけだが、独房に入れられたことそのものはそれほど何も感じていなかった。

 

 なにしろ、勝手にあのようなことをしたのだ。

 

 最悪、処刑される覚悟を決めていたキラからすれば、独房入りなど何て事はない。

 

 ・・・もっとも、だからと言って全て受け入れて納得した訳ではない。

 

 別に自分が第8艦隊先遣隊を救ってやったなどという自惚れはない。

 

 元々、やった行動は軍隊ならば、独断専行の行為であることは、地球連邦で軍人でもあったキラ自身がよく知っていたので、それによって得た功績を誇ることは出来ないとキラは思っている。

 

 もっとも、ラクスの解放の事については自分が半ば拉致され、アークエンジェルで半強制的に戦わされているという状況の結果だと思っていたし、自分が拾ってきたので最後まで責任を持たなければという使命感もあった。

 

 ・・・それに個人的な感情を加味するならば、ラクスという少女を汚い大人達の道具にしたくはなかったし、そもそも自分達を拉致して戦わせている方は、戦わせている事に対する罰を受けるどころか、謝罪すらしていない上に、キラは地球連合軍に入ったつもりは一切無かったのだ。

 

 これで完全に納得して受け入れろという方が無理だろう。

 

 まあ、軍組織としての体裁という観点はキラにもよく理解できたので、大人しく独房には入っていたが。

 

 

「──まあ、結局は僕に頼るしかないんだけどね」

 

 

 キラはそう言いながら、戦いの中で培った何かを確信する笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻

 

 

「なにぃ!データがロックされて、送られていない!?」

 

 

 ジョージは怒鳴りながら言う。

 

 戦闘やOSのデータ。

 

 特に後者は地球連合軍がナチュラル用のMSを開発する上で重要な要素になってくる代物である。

 

 しかし、それらのデータをロックされて送られていないという事は、ナチュラル用のMSを完成させるのは事実上不可能となる可能性があるという事でもあるのだ。

 

 慌てるのも当然と言えば、当然だろう。

 

 

「はい。キラ君が言うには、元々そういう仕様だったんじゃないかって・・・それに元々G計画は極秘中の極秘でしたし、この計画を主導したハルバートン少将は元々そちらを快く思っていないようでしたし、そういうこともある、かと」

 

 

「ふん!あのコーディネイターか。奴が何かをしたんじゃないのか?」

 

 

 そう決めつけるジョージであったが、この時に限っては、全くもってその意見は正しかった。

 

 実際、キラはOSのデータが解析されて、もしナチュラル用のMSを地球連合が造れば、戦争が激化するだけでなく、自分も用済みとばかりに殺されてしまうのではないかという疑念を当初から抱いていた。

 

 それはそうだろう。

 

 大西洋連邦と言えば、ブルーコスモスの巣窟であるという噂は、コーディネイターの間では有名な話なのだから。

 

 その為、OSや戦闘データを自分以外では絶対に開いたり流れたりしないように、何十にも渡ってプロテクトや“仕掛け”が仕組まれてあったのだ。

 

 更に、念には念を入れて、無理をして開ければ自壊プログラムが発動するようになっている。

 

 そして、マリュー達には最初からそういう仕様になっていたと嘘をついていた。

 

 ダミーを作ってそれをデータとして流すという手もあったが、それだと自分の仕業であると丸分かりになってしまう。

 

 その為、この手段を取った訳だが、幸い、キラが設定するのを誰も見た者はいなかったので、疑われても誰も証拠を示すことが出来なかったし、ストライクに唯一乗れるキラにへそを曲げられる訳にはいかなかったので、それ以上追求は出来なかったのだ。

 

 そして、キラは自分を『ストライクに乗れる唯一のエースクラスの人材』として売り込むことで、どうにか生き残りのための交渉を計ろうと考えていた。

 

 勿論、マリュー達には内緒で。

 

 なにしろ、キラはヘリオポリスの一件からこれまでの件で半ば人間不信に陥っていたし、そもそも拉致同然に連れてきてヘリオポリスが崩壊する一端となったアークエンジェルの人間たちを快く思っていなかった。

 

 それはそうだろう。

 

 正常な感情とちゃんとした考えを持っている人間ならば、自分達の平和をぶち壊す一端を担っており、銃を向けてきて、普段から侮蔑や恐れの視線を向けてくる人間達に対して好意的に思うわけがない。

 

 しかし、自分や友人たちが生き残るにはそれしかないという事で、仕方なく力を貸したのだ。

 

 そうでなかったら、とっくの昔に地球連邦にどうにかして戻るか、ストライクを手土産に一旦プラントに亡命するかしていただろう。

 

 要するに、彼も生き残るのに必死なので、自分が用済みだと判断されるような要素など、残そうとするわけがなかったのだ。

 

 まあ、宇宙戦争を経験したお蔭でキラの精神が鍛えられていたことと、マリューがヘリオポリスで『ナチュラルとコーディネイターの戦争』と言ってしまったことで地球連合に不信感を抱いていたこともその1つの原因だったので、ある意味では彼らの自業自得とも言えたのだが。

 

 ちなみに、ストライクはOSの関係もあって、元からキラ以外動かせないようになってしまっている。

 

 まあ、コーディネイターであるキラに合わせたものであるのだから当然と言えば当然であるし、そもそも前述したようにナチュラル用のOSが完成していない以上、書き換えたとしてもナチュラルは乗れないし、乗れたとしても大した性能は出せない。

 

 実を言うと、この現実はこの時点においては本来の歴史でも変わらない。

 

 本来の歴史でナチュラル用のOSが完成するのは、もう少し後になってからである。

 

 勿論、ブルーコスモスの盟主であり、軍需企業の元締めであるアズラエルはこの事を知っていたのだが、ジョージには教えられていなかった。

 

 同じブルーコスモスでもアズラエルは強硬派、ジョージは穏健派なので、派閥関係から何らかの利益にならないと余計な情報を教えるわけもなかったのだ。

 

 加えて、ジョージは外務次官であり、軍事の素人である。

 

 パイロットさえ連れてくれば安易に動かせると考えていたので、もうコーディネイターは用済みだと今の今まで考えていた。

 

 まあ、それはジョージだけでなく、そういった事情を知らなかった軍人達も同じであったが。

 

 

「ちっ、仕方がない。奴を独房から出すしかないか」

 

 

「・・・従ってくれるでしょうか?」

 

 

「従わせるのだよ。幸い、この船には彼の友人達も居るのだろう?なんなら、私が直接オーブと交渉して奴を大西洋連邦国籍にしても良い。それから徴兵すれば良いだろう」

 

 

「そ、それは・・・」

 

 

 流石のマリューにもそれは躊躇いがあった。

 

 マリューにも半ば自分が戦争に巻き込んでしまったという自覚はあったのだ。

 

 地球に着いたならば、平穏に暮らして欲しいという願いがあった。

 

 軍人という理屈でなんでも正当化してしまう傾向のあるナタルならまた違った意見もあるだろうが、あいにく彼女はまだまともな感性を持ち合わせていた為、あまり賛成はできない。

 

 もっとも、キラからすれば、ヘリオポリスで銃を向けられた事もあって、どっこいどっこいだと思っただろうが。

 

 しかし、そんな彼女の思考を見透かしたように、ジョージは言葉を重ねる。

 

 

「なんだ?君はあのコーディネイターを庇うのかね?」

 

 

「それは・・・」

 

 

「もし庇ったりすれば、君はアラスカに戻った時、軍法会議の席で裁かれるかも(・・)しれないよ?気をつけて喋りたまえ。で、改めて聞こう。私の方針に異議はあるかね?」

 

 

「・・・」

 

 

「無言なのは気に入らないが・・・無いようなら結構。では、彼を独房から出してきたまえ」

 

 

「・・・はい」

 

 

 マリューには頷くしか選択肢が残されていなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

30話

◇西暦2203年(CE71年2月13日) 地球 軌道上

 

 アークエンジェル及び第8艦隊先遣隊は多少の戦闘の末に第8艦隊本隊へと合流し、現在は地球へと入ろうとしていた。

 

 そんな中、ヘリオポリスの学生である彼らはハルバートン少将の副官であるホフマン大佐から除隊許可証を貰っている。

 

 

「・・・」

 

 

 そんな中、シャトルに入るのを迷っている一人の少女が居た。

 

 フレイ・アルスターだ。

 

 

(このままで良いのかな?)

 

 

 彼女は疑問に思っていた。

 

 彼女の父親は知っての通り、穏健派ではあるがブルーコスモスだ。

 

 その為か、母親が幼少期に亡くなったということもあって、彼女もまたコーディネイターに偏見とも言うべき感情を抱いている。

 

 それはキラを別だと本心から思うようになった現在でも変わらない事実だ。

 

 しかし、そんな別だと思い始めたキラに対して、恩を仇で返すかのように扱う父親の姿に、彼女は醜いと感じてしまう。

 

 それでも父親を愛す心は変わらないが、やはり、このままではいかないという思いもある。

 

 故に、彼女は迷う。

 

 そして──

 

 

「あ、あの・・・」

 

 

「ん?」

 

 

「私が兵隊に志願することって出来ますか?」

 

 

 ──彼女は本来の歴史である父親の復讐のためではなく、父親が救われた事によって芽生えた1つの思いによって、その選択肢を選んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇地球(SEED) 低軌道上

 

 

「くそっ!くそっ!くそぉ!!」

 

 

 イザーク・ジュールはデュエルを駆りながら、この状況に苛立っていた。

 

 低軌道上の会戦はザフト側の圧倒的有利だ。

 

 それは変わらない。

 

 しかし、第8艦隊の旗艦メネラオスやその艦に乗艦するハルバートン、そして、アークエンジェルも既に離脱しかけているという状態であり、ザフトにとっては消化不良とも言うべき結果だった。

 

 そして、味方の被害もかなり少なく済ませている。

 

 それもこれもストライク(キラ)が上手く立ち回った結果であった。

 

 彼は戦況を見るや、一機一機チマチマ潰していくのを諦めて、ストライク自身を囮にすることで地球連合軍を逃していたのだ。

 

 そして、ザフトの部隊もなるべく撃破しない。

 

 ちなみにキラがこのような博愛主義に目覚めたとでも言うべき行動を取ったのは、彼のいつの間にか複雑になってしまった身の上が原因だった。

 

 そもそも彼の所属は地球防衛軍であり、地球連合軍でもザフトでもない。

 

 故に、国際問題になりかねないような派手な行動はなるべく避けたいので、キラは自然と両軍を殺さない方針を取らざるを得なかったのだ。

 

 これは皮肉なことに本来の歴史のキラとほぼ同じ行動だった。

 

 もっとも、本来の歴史ではそれはキラの迷いから来るものであったのに対して、この世界では様々な事を考慮した結果、それしか選択肢が無かったという違いはあったのだが。

 

 これが正しいかどうかなど分からないし、そもそも間違っていたとしても誰もキラを責めることなど出来ないだろう。

 

 何故なら、キラの今の立場を考えれば、正解など誰も答えられないであろうからだ。

 

 しかし、まあ、そんな事情はイザークにとってはどうでも良いことであるし、彼は母親を処刑されたことに怒りの感情を抱いていた。

 

 当然だろう。

 

 エザリアはヤマト世界の地球に居る転生者達からしてみれば、パトリックの後継者になってナチュラルを滅ぼすと叫びかねない危険人物だ。

 

 ジェネシスは完全に破壊した上に、研究資料も破棄、更には関わった研究者もヤマト世界の地球に強制連行という形にされるなど、徹底して再建阻止を行った為、新たにやり直すにはどう頑張っても数年は掛かるし、SEEDの時系列には完全に間に合わない。

 

 原作のディスティニーの時系列にしても、何もかもが跡形もない状態ではその時期でのジェネシス再建ですら困難だ。

 

 しかし、そんな状態を考慮してですら、プラント強硬派は危険な存在であり、保険という意味で殺すのはある意味で当然の行為だった。

 

 だが、イザークからすれば、れっきとした家族なのだ。

 

 そして、イザークはその母親を殺したナチュラル(厳密には地球連邦だが、同列に見ている)に対して、原作よりも憎しみを抱いた。

 

 その結果がヘリオポリスの暴走行為に繋がり、同じ部隊だったアスラン達も仕方ないとばかりに付き合う羽目になったのだ。

 

 特にアスランはイザークの気持ちがよく分かった。

 

 彼もまた血のバレンタインにて、母親を亡くしていたし、今回の地球防衛軍のプラント占領によって戦争を助長させた存在として父親も処刑されてしまったのだから。

 

 アスランからしてみれば、戦争を助長させる原因を造ったのはナチュラル達であったので、理不尽なことであり、彼もまた原作以上の怒りを抱いていたのだ。

 

 ただし、彼の場合は元々激情家ではなかった上に、キラというストッパー的な存在が相手に居たので、そこまでの暴走はしなかった。

 

 もっとも、キラが地球防衛軍の所属であり、プラント占領にも関わっていたと知っていれば、また話も違っただろうが。

 

 しかし、イザークの場合、そんな存在は全く居なかったのだ。

 

 故に、その暴走を止める人間が居るわけもなく、更にはこの戦況がなかなか上手くいっていない事に苛立ち、原作よりも更に視野が狭くなっていた。

 

 そんな中、彼は原作同様と言うべきか、ヘリオポリスの避難民を乗せたシャトルをその目に映す。

 

 

「このナチュラル野郎!」

 

 

 イザークはビームライフルの銃口をシャトルに向ける。

 

 原作でも同様の行動を取った彼だが、冷静な頭であったとしてもシャトルを見逃したかどうかは分からない。

 

 何故なら、こんな戦場のど真ん中で民間のシャトルを放出して避難民を脱出させているなど、普通は考えないからだ。

 

 なんらかの理由で逃げ遅れた軍事用のシャトルだと考えるのが普通だろう。

 

 まあ、どちらにせよ、彼がシャトルに殺意を向けたのは確かであり、それを見たキラは慌ててストライクを操って止めようとしたが、現実は無情であり、ビームライフルの光線は原作同様にシャトルを貫き、爆散させることとなった。

 

 

「へっ!ざまあみやがれ!!」

 

 

 彼は憎き敵であるナチュラルを殺したという愉悦感からか、そう言うが、彼が愉悦感に浸れたのはそれから数秒にも満たず、更には彼の命が尽きるまで10秒とない時間だった。

 

 何故なら、この後、彼は怒り狂ってSEEDを発動させたキラによって乗機であるデュエル共々葬られる事となったからだ。

 

 そして、そのストライクの回収のためにアークエンジェルは降下ポイントを変更せざるを得ず、アークエンジェルは原作通り、ザフト勢力下である北アフリカへと降りることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇バナディーヤ

 

 ザフト勢力圏内への降下後。

 

 アークエンジェルは砂漠の虎こと、アンドリュー・バルトフェルドの襲撃を受けたものの、ゲリラとの共闘を経てどうにか撃退し、原作通りと言うべきか、キラはカガリと再会した。

 

 その後、原作で起きたキラとサイのいざこざもフレイがキラに必要以上に接近する行動を起こさなかったことから発生せず、原作通りタッシルの街の騒動が起きた後、これまた原作通りキラとカガリはバナディーヤの街に買い出しに出掛けてアンドリュー・バルトフェルドと邂逅し、ブルーコスモスに襲撃された後、彼の邸宅へと案内されていた。

 

 そこでキラはSEED世界に住む住人ならば、誰もが一度は見たことのある化石を見ている。

 

 そこにバルトフェルドがコーヒー両手に戻ってきた。

 

 

「Evidene01、実物を見た事は?」

 

 

「一応・・・」

 

 

 そこまで言ったところで、キラはそれが失言であることに気づいた。

 

 何故なら、この化石はプラントにしか存在しないものだ。

 

 自分はプラント占領の時に見たことがあったが、基本的にプラントの人間しか知らない。

 

 とすると、この発言からプラント→コーディネイターと結び付けるのはそう難しいことではないだろう。

 

 キラは自分の発言の迂闊さに内心で舌打ちするが、バルトフェルドはそれを笑い飛ばすかのように言う。

 

 

「ははっ、気にすることはないよ。こんな時代だ。同胞同士で争うこともあるだろうからね」

 

 

「・・・気づいていたんですか?」

 

 

「うん、まあ、薄々ね。あんな機動がナチュラルに出来るなんてとても信じがたかったからね」

 

 

「・・・」

 

 

「おっ、どうやら彼女も来たようだね」

 

 

 その後、アイシャに連れられてドレス姿へと着替えたカガリがキラとバルトフェルドの前に現れた。

 

 そして、バルトフェルドに戦争終結の見通しについて尋ねられたが、キラはこう答える。

 

 

「この戦争に限って言えば、戦争を終わらせる何か決定的な出来事、あるいは存在が現れて双方が認識すれば終結すると思います。まあ、そうでなかったらどちらかが完全に滅ぶところまでやらなければならないでしょうけどね」

 

 

 キラはそう主張する。

 

 そして、その主張に一理はある。

 

 そもそもこの戦争は何処ぞのUC世界(キラはその存在を知らないが)とは違い、ナチュラルとコーディネイターという人種間戦争だと双方が錯覚してしまっているのも、戦争が終結できない理由の1つだ。

 

 この世界の地球連合とプラントの関係をUC世界に例えると、『地球連合=地球連邦、プラント=ジオン』となる。

 

 両者は似て非なる存在かとも思えるが、決定的に違うのは、UC世界はあくまで抑圧されたスペースノイドを主軸とするジオンが、抑圧する側であるアースノイドを主軸とする地球連邦への反乱の意味合いで戦争を起こしたが、このスペースノイドとアースノイドが半ば定義が曖昧だったので、人種間戦争というところまでは発展しなかったのに対して、CE世界はナチュラルとコーディネイターという産まれがはっきりした形で別れてしまっているのだ。

 

 だからこそ、国家間戦争よりも規模の大きい人種間戦争となっており、戦争がなかなか終結しない。

 

 とは言っても、キラはここまで考えていた訳ではない。

 

 特に滅ぼして戦争を終わらせるという点は、デザリアム戦役で実際に地球防衛軍がやったからこそ現実味を帯びているように見えるだけだ。

 

 もっとも、キラの言う『戦争を終わらせるような存在』という部分をヤマト世界の地球に居る転生者達が聞いたら苦々しい顔をしていただろう。

 

 何故なら、原作では実際にその通りになったのだが、今の状況でそんなことをされても迷惑なだけだったからだ。

 

 が、そうだったにせよ、この発言はバルトフェルドの興味を引いた。

 

 

「ほう」

 

 

「あとはプラントの住民が実際に地球連邦のコロニーに移動するとか」

 

 

 キラはそこまで言ったところで、また失言したことに気づいた。

 

 プラントの住民が地球連邦のコロニーに移動するという話は、去年の10月会談の時点で地球連邦が提示したものだが、公にされたものではないからだ。

 

 地球防衛軍では特に機密指定されてはいなかったので、キラも上司の大久保からこの話を聞いて知っていたが、プラントの住民はまだ知らない筈だったのだ。

 

 まあ、バルトフェルドぐらいの地位だと知っているかもしれないが。

 

 しかし、その発言にバルトフェルドは興味を示しつつも、反応した様子はなかった。

 

 いったいどういうことだろうかと首を傾げたその時だった。

 

 

 

ドガアアアアン!!!

 

 

 

 ──外から轟音が鳴り響いた。

 

 そして、この日を境に、SEED世界の住民はヤマト世界の異星人の恐ろしさを身に染みて思い知らされることになる。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

31話

さて、蹂躙の時間です。もしよろしければ、劇場版の『永遠に』か、ゲーム版の『暗黒星団帝国の逆襲』のデザリアム兵が降下してきた時のあのbgmを頭の中で思い浮かべながら見てください。


◇西暦2203年(CE71年2月中旬) バナディーヤ

 

 外に出て状況を確認しにいったバルトフェルドやキラ達が街が蹂躙されていたのを目にしたが、その中でも一番信じられないといった視線を向けていたのはキラだった。

 

 

「ば、バカな!」

 

 

 キラはそう言わざるを得ない。

 

 まずキラ達の目に入ってきたのは、SEED世界のMSを圧倒的に上回る全長を持つ巨大戦車──掃討三脚戦車だった。

 

 そして、上をよく見ると、小型ロケット降下装備を着けた多数の降下兵がバナディーヤに降下してくる光景がある。

 

 まだ視認していないが、この分だとパトロール戦車も存在するだろう。

 

 特にキラは地球本土防衛戦にて、実際に交戦した為、それらの存在や強さをよく知っていた。

 

 しかし、これらは言うまでもないが、デザリアム帝国の装備ばかりである。

 

 故に、キラは目の前の光景が信じられなかった。

 

 何故なら、デザリアム帝国は既に滅んだ筈なのだから。

 

 もっとも、驚いているのはバルトフェルド達も同じであったが、それでもキラよりは立ち直りが早い。

 

 

「連合の新兵器か!?まあ、兎に角、迎撃する必要がありそうだ。君達は何処かに隠れていろ!!」

 

 

「あっ、バルトフェルドさん!!」

 

 

 キラは止めようとしたが、その前に彼とアイシャ、その部下達は去っていってしまう。

 

 そして、その場に取り残されたのは不安に駆られたキラと何が起こっているか分からないでいるカガリだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 オーブ

 

 デザリアム兵の降下攻撃を受けていたのはバナディーヤだけではなかった。

 

 いや、むしろ、都市とはいえ田舎街に近いバナディーヤに比べると、こちらの方が苛烈だったかもしれない。

 

 バナディーヤと同じように降下したデザリアム兵はオーブの各島を襲い、平和を謳歌していた人々を次々と蹂躙していく。

 

 オーブ軍は当初、何が起こっているのか分からず、その蹂躙劇を黙って見ているしかなかった。

 

 元から戦時下ではなかったのに加えて、戦争当事国を刺激しないように軍備も最低限にしてあったからだ。

 

 もっとも、駐屯基地などが襲撃され始めると、ようやく敵の襲撃だと認識し、迎撃を行った。

 

 しかし、デザリアム兵の行動はあまりにも早すぎた為か、武器を取る前に兵士が殺られてしまったり、攻撃する前に撃たれたりして次々と倒れていく。

  

 また、応戦した部隊も無事では済まなかった。

 

 なにしろ、デザリアム兵は歩兵装備である回転銃身式ハンドガンでさえ、ガトランティス帝国の戦闘車両を格段に上回る性能を持つ地球防衛軍の二連砲塔戦車を上面装甲からとはいえ、一発で撃破する威力を持っている。

  

 そんなもので滅多打ちにされれば、オーブのMSであるM1アストレイですらあっという間に撃破される標的でしかない。

 

 そして、MSですらそれなのだから、主力戦車(MBT)であるオーブ軍のリニアガン・タンクなど、ひとたまりも有るわけがなく、ましてや戦車より装甲の薄い装甲車を始めとした軍用車両など的同然だった。

 

 ちなみにこれはあくまで歩兵を相手にした場合の被害であり、歩兵より威力の高い装備を持つパトロール戦車や、それより更に威力の高い装備を持つ掃討三脚戦車に遭遇した部隊や兵士の運命など、もはや語るまでもないだろう。

 

 地上はこんな有り様だったが、他も酷いものだった。

 

 オーブ国防宇宙軍の艦艇の中で宇宙に浮かんでいた艦艇はデザリアム艦隊と艦載機の攻撃を受けて壊滅。

 

 ドッグ入りしていた艦艇も戦闘爆撃機の攻撃を受けて破壊された。

 

 その中には原作で三隻同盟の一翼を担ったイズモ級二番艦のクサナギも含まれていている。

 

 海軍も同様だった。

 

 艦艇は全て建造中やドッグ入りされているものも含めて、戦闘爆撃機の空襲を受けて沈むか、破壊され、脅威度が低いと判断されたよっぽどの小型艦以外は既に全滅しており、航空機に関しても同じく戦闘爆撃機によって事前に撃破され、飛び立った機体も新円盤型戦闘機によってあっという間に撃墜される。

 

 そして、全体的に見ると、攻撃開始から30分が経つ頃にはオーブ軍の指揮系統は早くも崩壊しており、殆ど機能しなくなっていて、一時間が経つ頃には戦力の大半が全滅、もしくは壊滅していた。

 

 もはやこの時点でオーブ軍は存在しないも同然となっていたのだが、それは政府機関も同等であり、既にオーブ本島であるヤラファス島の行政機関は制圧されており現オーブ首長であるホムラ以下、政府関係者も既に軒並み殺されている。

 

 本来なら、捕らえることを選ぶべきだったのだろうが、デザリアム兵はとある理由から政府要人を見つけ次第、殺害する方針で暴れまわっていた。

 

 そして、被害は軍や政府機関だけには留まらない。

 

 現在はサハク家が管轄している宇宙ステーション──アメノミハシラもデザリアム軍が目を着けたせいか、徹底的に破壊され、モルゲンレーテ社もまた攻撃開始から40分が経つ頃には発見されて制圧された。

 

 ちなみにマスドライバー施設も攻撃開始から10分後には制圧されており、オーブの宇宙に出る手段はこの時点で絶たれたと言っても過言ではない。

 

 そして、1年前にヤマト世界の地球を蹂躙した時と同じであったが、民間人もまた犠牲になっていた。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ。急ぐぞ!マユ!!」

 

 

「ま、待って!お兄ちゃん!!」

 

 

 燃え盛るオーブの街を必死で逃げ回る二人の兄妹。

 

 ディスティニーの主人公であるシン・アスカとその妹、マユだった。

 

 ちなみにこの兄妹の父親は既にパトロール戦車によって踏み潰され、母親も父親を踏み潰したパトロール戦車の銃撃によってミンチと化している。

 

 しかし、兄妹はそれを目撃しながらも、それを悲しんでいる余裕などある訳もなく、シンがマユの手を引く形でデザリアム兵が徘徊する中を必死に逃げ回っていた。

 

 

「くそっ!なんでこんなことに・・・」

 

 

 シンは逃げながら悔しげに現状を罵る。

 

 それは1年前にデザリアムの侵攻を受けた際に、街を蹂躙されたヤマト世界の地球の住民が抱いたものと同じ心境であった。

 

 もっとも、異星人の脅威を知っていたヤマト世界と、そもそも異星人の存在すら関知していないSEED世界ではショックの大きさが違うので、全く同じとは言いがたかったのだが、それでも平和に暮らしていた街並みを蹂躙され、こうして家族を殺された者という意味では全く同じである。

 

 それは兎も角、シンはマユの手を引きながら何か隠れられるような建物はないかと周囲を見渡した。

 

 ・・・もっとも、そんな建物が在ったとしても、攻撃を受ければあっという間に倒壊してしまうものでしかないが、シンはそんなことは知らないし、知っていたとしても現状を打破する手段がない以上、同じ行動を取っただろう。

 

 そして、なんとか手頃な隠れられそうな建物を見つけ、そこにマユと共に隠れる。

 

 

「お兄ちゃん・・・」

 

 

「大丈夫だ、安心しろ」

 

 

 シンはそう言って、不安そうな顔をする妹を抱き締めながら慰めるが、それは気休め程度にしかならないのはシン自身がよく分かっていた。

 

 なにしろ、いきなり両親が殺された上に、そもそも何が起こっているのか分からないのだ。

 

 もっとも、簡潔に説明すれば答えは簡単であり、異星人の襲来であると言うしかないだろう。

 

 だが、それを認知している者は全く居ないと言っても良い。

 

 あまりに行動が早すぎて対応に精一杯であり、とてもではないがそういうことを考えられる余裕が無かったからだ。

 

 いや、そもそも異星人の存在そのものがSEED世界からしてみれば信じられないものであったので、考える余裕があった人間もザフト、次点で地球連合軍、あるいは何処かしらのテロリストの襲撃としか考えないだろう。

 

 人間というのは、自身の常識よりあまりに斜め上な存在は想像できないものなのだから。

 

 しかし、なんにせよ、そんなことはシンには関係ない。

 

 ただ、この惨状を造り出した人間への恨みと、両親を殺されたことへの怒り、そして、妹を守るという決意のみがシンの心を支配していた。

 

 だが──

 

 

「!?」

 

 

 マユを抱き締めているシンの視点からは見えていなかったが、抱き締められているマユの視点からは見えてしまった。

 

 一人のデザリアム兵がこちらにレーザー自動突撃銃を向けるのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、SEED世界の地球各地ではデザリアム兵の降下によってあらゆるものが蹂躙された。

 

 そこには大西洋連邦も、ユーラシア連邦も、東アジア共和国も、それと敵対しているザフトも何もかもが関係ない。

 

 また、被害が出たのは地球だけではない。

 

 プラントのコロニーこそなんとか攻撃を免れたものの、月に存在する地球連合軍基地とその艦隊、更には月の中立都市郡までもが、デザリアム艦隊の砲撃を加えられる形で壊滅している。

 

 そこには軍と民間人、更にはナチュラルとコーディネイターの区別など、付けていない事は丸分かりだろう。

 

 こうして、SEED世界は初めてヤマト世界の異星人の侵略の洗礼を受けることになった。

 

 そう、破壊と虐殺と理不尽な力の暴力の洗礼を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そして、SEED世界の地球が完全に占領されたのは、攻撃開始から僅か2時間後の事だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。