ファースト・オブ・バレット (パルバール)
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1話(プロローグだけどね)

始まりのお話


『プロローグ』

 

いつからだろうか

 

悪を倒せばその後はハッピーエンドだと思われるようになったのは

 

いつだったのだろうか

 

人が初めて悪を倒したのは

 

いつなのか

 

悪と正義の戦いが終わるのは

 

ある者はこう言う

悪は倒すべきだと、悪は滅びるべきだと

ならその後は?また新しい悪が生まれるだけである、いつしか人間は悪をどんどん倒す事になる

正義を信じて、悪を滅ぼす為

たが必ず少数の悪党は残ってしまう

そして…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

そこはどこかのビルの路地裏だろうか、5人程の男達がそれぞれ木材や鉄パイプ等の鈍器を持ち数は少ないが拳銃を持ってるのもいる。

5人のうち2人は曲がり角を見張り残りの3人は話し合っている

 

「お、おい向こうに逃げた奴ら電話に出ねぇよ…」

と、携帯を持ちどこかに電話をかけていた男が震えた声で他の男達に言う

 

「ちくしょう!何なんだよあいつら!急に現れて拠点破壊しやがって!」

「どうする…違う方に逃げた奴ら…もしかして…」

「…くそっ!」

 

男達はそれぞれどうにかして『何か』から、逃げようとしているようだ

 

「大丈夫だ…隣の県にまだ拠点がある、そこまで逃げりゃどうにでもなる」

「…行くぞ、出来るだけ音は立てるな」

 

拳銃を持ったリーダー格の男が周囲を見る

 

「まて、見張ってた奴らはどこ行きやがった?」

 

リーダー格は言う、さっきまで曲がり角を見張ってた2人が見当たらない

 

「あいつらもしかして逃げやがったか…ちっ!もういい、俺達だけでも………」

 

ドサッドサッ…

突如物音がしてリーダー格が振り返る…そこには地に倒れ首から大量の血を流している仲間がいた

 

「なっ…何が…」

 

男は異常さに気がつき拳銃を路地裏の左右に向けるが誰もいない

そしてリーダー格が上を向くと

 

「お前でラストだ」

 

そこには壁の出っ張りに掴まりナイフを片手に持った全身を黒色の迷彩で完全装備の小柄な男とガスマスク越しに目が合ってしまう

 

「な、ち、超人…」

 

ガスマスクの男は素早く着地して一閃

 

「……………!!!」

 

リーダー格の首から血が溢れ叫び声すら出せずに絶命する

 

「超人達のような大層な者じゃねぇよ…」

 

 

「…こちらα、残党を処理したそっちはどうだ」

『こちらβ…こちらも残党殲滅…帰還します』

「こちらα了解」

 

ガスマスクの男はトランシーバーを片手に持ち通信を始める

 

「オペレーター…後処理をする、増援を頼む」

 

『りょーかいっす!今日も手際がよかったっすねぇ』

「かなり隙だらけだったからな、恐らく俺達の事を知らなかったんだろう」

『あぁー…確かに隊長の事超人とか言ってたし、そう思ってたっぽいですからねぇ』

『まぁとりあえず今日もお疲れ様っす!柏崎隊長!』

「あぁ、まったく…超人って奴は何でこう後処理をちゃんとしないで野放しにするんだ…」

 

そう言いながら男がガスマスクと軍用ヘルメットを外す

ヘルメットを外すとボサボサで金色の髪が現れ翡翠色の目をキョロキョロと動かす、ガスマスクを外すと明らかに中学生くらいの顔立ちの男の顔が露わになる

 

「…さて…もう少しで帰れるし…頑張るか…」

 

これは1人の男が属する組織

「エイレーネー日本支部」裏社会から掃除屋と呼ばれる組織の黙示録である




プロローグです、最近暑くてとろけそうな日々ですがいかがお過ごしでしょうか。
私は凄く暑くてとろけてます、いやぁ…やはり水分摂取大事だなって思いましたよね。
では次のお話で会いましょう。

〜貴方にとってヒーローは誰ですか?〜


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2話『何気ない朝』

2話目です


朝、起きる時様々な起き方がある事を知ってるだろうか

起きるのに起き方とかと思うかもしれないが聞いて欲しい

 

まず普通に自分で起きる、これは普通だ

次に親に起こされる、これは学生時代よくあった人もいるのではないだろうか…一人暮らしになり初めて起こされるというありがたみを感じるのもこの時かもしれない

 

他にもあるが今回は割愛させてもらおう、時間が無い

最後に、親ではなく親友、幼馴染み、恋人、妻等の信用してる人から起こされる事である

 

これは少し憧れてる人もいるのでは?朝、幼馴染みが文句垂れながらも自分の部屋に来て起こして貰う事に。

幼馴染み等構わず、信頼してる人が朝起きた時にいの一番に見れるのだ、とても安心するだろう。

だが例え信用していたとしてもやっていい事といけない事がある事を忘れてはいけない…

 

───────────────────────────

 

 

早朝、7時30分

 

俺の名は柏崎悟、25歳独身、仕事は会社員…という突然の自己紹介を挟む…

そろそろ起きなければならないが、とても起きる気分になれない…朝に強い人は尊敬する…どうしても朝起きるにはこの眠気は強すぎる…この眠気の強さをどう表現したものか…

と、微睡みながら考えてるとガチャッ…という扉の開く音が聞こえる

 

…おかしい、この前玄関の鍵変えた筈なんだがな

突然の不安が込み上げてくる、まさか…もう合鍵を作ったというのか…?

 

そして家の玄関から足音が聞こえてくる…

…明らかに聞こえるようにしてやがる…どうしたものか

そう考えてる間にも足音の主はもう部屋の前に着いたのか

コンコン…という控えめなノックが聞こえた、不法侵入して控えめとはこれいかに

 

『入りますね』

 

しかもこっちの承諾は聞かないつもりらしい

ドアがゆっくりと開く、起きてるのも面倒なので寝たフリをキメてやるぜ

 

特に何も物音が聞こえない

 

…………………………………………あれ?

 

ゆっくりと目を開ける、おかしい、開けただけか?

いや、いない…何処だ…?周囲を見る

 

「居ない…だと…?」

 

開けるだけ開けて何処かに消えたのか…なんのイタズラだろうか

 

「ふぁぁ…眠いな…2度寝をする…か…侵入者を排除するか…」

 

寝起きの働かない頭を無理やり動かして考える

 

「寝るか」

 

そして思考を放棄してベッドに倒れる、2度寝をキメてやるぜ!

 

ドサッ!ギュッ、スヤァ

 

ん?

今変な擬音が混じったな…恐る恐る後ろを見る…寝る時は横向きに寝る派なのだ。

 

後ろを見るとそこには同じように横向きにベッドに横になり俺が見た瞬間ニコッと微笑む美女がいた。

白くに近い銀色…いや、銀に近いのか?そんな微妙な髪色で肩の辺りで切りそろえている、目は黒色で顔はかなり整っている

微笑んだ顔だからか優しそうな雰囲気を感じる

良く言えば大人しそうな人、悪く言えば悪い人に騙されやすそう…

そして何故か抱きしめられている…ここは恋愛ゲームもしくはそういう系のゲームだった…?

 

普通の人なら驚き誰だ!となる、その次に通報

1部のそういう人達は「知らない人だけど美女だ!やったぜ!」的な態度をとるだろう。

 

だが俺はこいつを知っている…という身内である

同じ職場の部下であり右腕ポジションなんだが…

 

「おはようございます、柏崎さん」

「お…おう、おはよう矢本…今日もいい天気だな」

 

天気の話をする、会話のきっかけを作るのに使うがまさかベッドで横になりながら言う事になるとは…

 

「とりあえず現状の説明を頼む」

「はい、現在朝の7時34分52秒です、柏崎さんの起床時間の約25分08秒前に柏崎さんの家に入り音もなく寝床に入り込みました」

 

そうかぁ…入り込んじゃったかぁ…

 

「分かった、では起きてここから俺は退散する」

自分のベッドから追い出される気持ちを味わったのは初めてだよ…

 

「分かりました、では朝食はベーコンエッグにしますね」

そう言って矢本…矢本美鈴は部屋から出てキッチンへと移動した…家の冷蔵庫はもう把握されてるのか…

おかしいなぁ…

 

俺は黙々と寝巻きから普段着に着替えリビングに移動する、キッチンとリビング繋がってるのいいよね

キッチンの方を見ると凄い速度で料理をしている矢本がいた、残像出来てない…?

 

面倒になったので頭を振り思考を放棄する、そしてテレビをつけるためにリモコンを取り朝のニュースをピピッと

 

『次のニュースです、超人須郷雅弘の活躍により麻薬組織が一夜にして…』

というニュースが流れる、超人…それは一般人よりも優れた『何か』を持ってる者達の事だ、言うならば天才…と言った所か

 

pipipipipi…と、俺の仕事用のスマホが着信が来たのを知らせる

今日は休みなんだが…出ない訳にもいかない

 

「はい、もしもし」

『あっ!柏崎さんっすか?休みの所申し訳ないんですけど仕事っす!』

 

という元気の塊のような女性の声が聞こえる…とても五月蝿い

 

「ん…他の奴らじゃ処理できないのか?」

『今全員出払ってて1番近いのが柏崎さんっすよ…』

 

えぇー…俺休日なんだけどな…だが駄々をこねるのは流石に忍びない…

 

「飯を食ってからでいいか?」

『全然構わないっすよ!それでは15分後に車そっちに行かせますんで!』

 

と、電話が切れる…忙しない奴だ

 

「矢本、飯を食べたら仕事だ」

「了解です、早めに食べて急いでいきましょう」

 

と、ササッと料理を置く

それを素早く食べ出掛ける準備をする

 

「さて、せっかくの休日を潰した奴を締めに行くか」

玄関を開け外の世界に飛び出し、太陽の光を浴びる

 

「今日は良い天気だな…」

そしてやって来た車に乗り俺と矢本美鈴は現場に




どうも、この話なんですが何やかんやあっても朝起きてご飯食べて外に出ただけなんですよね。
物語の進みがゆっくりなのは最初部分だけだと思うので許してください…
ゆるして☆

それでは次の話で会いましょう


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3話『憧れる地下施設』

矢本美鈴、20歳、仕事は会社員

 

元々は医者を志していた医学生だったがとある事件に巻き込まれ様々な事を経て現在はうちの所で働いている

事件の影響で髪が白く変わり事件からしばらくは黒く染めてたがいつしか染めるのは止めてしまった。

 

元々はそこまで明るい性格ではなく突然男の家に入ってきたり、ましてはベットに潜り込もうとする人ではない

…らしい、兎も角俺が言えるのは…とても話し上手ではないのは確かだ

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「だからよぉ姉ちゃん?俺は今忙しくて次の現場行かないといけないんだよ…」

 

………

 

「そうですか、では事件の件を教えてくれると助かります」

 

………

 

「いや今用事あるから他の人に聞いてくれって暗に伝えたよな!?」

 

………これで3回目か、同じ問答がいつまで続くんだろう

何故か矢本は休憩上がりの工事現場のおっちゃんを捕まえて同じ質問をしている

 

「…矢本、流石に可哀想だから解放してやれ」

「あんちゃん助かるぜ…さっきから俺の携帯に着信が来まくってて恐怖してた所なんだ…」

 

そう言っておっちゃんは電話越しに平謝りしながら、去っていった…ごめんな…

 

「柏崎さん、いいんですか?」

「あぁ、今は忙しそうじゃない…暇そうなやつに聞こう」

そう言って俺は現場を見る

 

そこには大勢の警察官と野次馬が集まっていた

今から約3時間前…今は9時頃、つまり早朝の6時に1人の男性が顔を何度も何度も殴られ…死亡した死体が発見された…という事前情報を貰い俺達は歩き出す

 

「しかし、凄い人混みだな」

「恐らく大半は興味本位でしょうが、マスコミが先程から集まりつつあります、早めに終わらせるのがいいでしょう」

「絡まれたくないしな」

 

と言い俺は固まって話し合っている女性の方に移動する

こう言うのは噂好きに聞くのが手っ取り早い

…信憑性は皆無だが

 

「あの、すみません実はさっきここに来たばかりで、何があったんですか?」

 

声をかけると話をしていた3人の女性…恐らく主婦だろう

 

「あら、そうなの?実はね、工場で働いてる山内さん家の旦那さんが亡くなったそうなのよ」

「そうそう、なんでもお金が無くて怪しいお金に手を出しちゃって返せなくなって…」

「可哀想よねぇ」

と、ペラペラ喋る…こんなもんだろう、何があっても彼らには話のタネにしかならない

 

「山内さん、まだ幼い娘さん居るのに…」

 

そう言うとチラッとある方向を見る、そこには警察に話を聞いて泣き崩れる女性とその服を掴んでキョロキョロしてる幼い少女の姿があった

 

「(おかしいな、発見された時間を考えるにもっと早く身元が分かって連絡が行くから早く来ててもおかしくないと思うんだが…)」

と、思いよくよく見ると女性の目の下には濃いクマができていた

 

「(…そうか、共働きなのか…夜勤明け…?寝てたのか?)」

 

「あ、ありがとうございます、気になってたから助かりました」

「いいのよ〜、僕も記者さんの真似は程々にね」

 

………はっはーん、そう言うか

俺の身長は160cmジャスト!…顔も傍から見たら中学生くらいに見えるらしい…

 

「ハハハハ…ソウデスネ…」

こう言うのは否定せずさっさと退散するに限る

 

「柏崎さん、どうでしたか?」

「どうにもこうにも、周囲は金銭のトラブルだと思ってるらしい、申し訳ないがしばらくはそういう事にさせとこう」

 

と、俺は懐から煙草を取り出…そうとして変わりに飴玉を食べる

…横からの視線が痛い…

 

「ま、まぁ実際はどうかはあの親子に聞くのが手っ取り早いが今はそっとしておこう、あまり多くのことが起きると混乱させてしまう」

「なら一旦支部に戻りますか?」

「そうだな、しかし…まさか潰した組織の後釜狙って1ヶ月後に新しい集団がやってくるはな」

 

そして俺はもう一度山内親子を見る、まだ女性は泣き崩れており少女も現状が分かったのか大泣きし始めた。

 

「今回の件は早めに政府に伝わるだろうな、超人が動くのを待ってる間情報を集めて残党を処理する」

そしてスマホの取り出し

 

「オペレーター、さっきの車もう一度寄越してくれ」

『支部に戻るんすか?』

「あぁ…一応他の奴も集めておいてくれ、それと今回の案件は俺達で処理する」

 

『了解っす!』

 

「行くぞ矢本、戻り次第資料を作成し会議を始めるぞ」

「分かりました、凄いやる気ですね柏崎さん」

 

「…あまり女性が泣いてるのを見るのは好きじゃない」

そして戻ってきた車に乗り込み、俺達の仕事場に行く

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

車を進ませ、どんどん街から離れていく

景色は少しずつ自然が目立つようになった、ここはとある山奥

走ってる先には建物が見えてきた

建物は『老人ホーム菊野』と、書いてある看板を立てている。

 

「おぉ、悪ガキが帰ってきたわい」

「誰がクソガキだ」

「そこまでは言っとらんわ」

 

建物前の庭に置かれてる椅子に座っていたクソジジ…爺さんが車から降りた俺を見て軽口を叩いてくる

 

「何かあったりしたか?敵が襲ってきたとか、ゴ〇ラ出たり」

「敵なんぞ来るわけなかろう、あとゴジ〇は映画であったわい」

 

まぁこれは挨拶変わりだ、この爺さん含め、ここに住んでいる老人や職員全員『訓練された兵士』くらいなら片手間で倒してしまう程の実力者だ…連戦と飛び道具はもうキツイらしいが

 

俺が所属している組織は様々な場所に拠点の入口を設置しており、またその入口は現役を引退した者達が管理する活動が行われている

 

そしてここ『菊野』はそんな現役の人達が協力してくれる事によって出来た施設だ

…まぁ単に職が職のせいか春が来なくて家に家族が居ない連中がほんとんどだが

 

「あらぁ、美鈴ちゃん今日も可愛いわねぇー…」

あの婆さんは数々の男を暗殺したプロのスパイだ

 

「おぉー美鈴ちゃんや、よく来たなぁ…せんべいでも食べるかい?」

あの爺さん(ふくよかな)は素手で敵組織を一人残らず壊滅させた実績がある

 

よぼよぼの老人達が矢本に集まる…っておい

 

「誰も俺に歓迎はしないのか…?」

「悟くんは…ねぇ?」

「うむ、ワシらの美鈴ちゃんをこき使いおって」

 

うっせ、圧倒的人材不足なんだい

集まるよぼよぼの(ただし強い)老人達をやり過ごし

関係者以外立ち入り禁止の場所に入る

 

中は少しだけ広い空間だった、俺は1部の壁に手を当てる

 

『認証中…認証中…ピピッ…確認、柏崎悟、矢本美鈴』

 

すると地面が下がり、俺達は地下に降りていく

ゴゴゴゴ…と上はダミー用の地面に変わり…

 

俺と美鈴は職場に着く

 

エイレーネー日本支部に




やはり最初ですから、投稿ペースは駆け足がいいかなと思いました。

今回はやっと支部入りです、そして次には『濃い』仲間達と合流です
一癖二癖あるキャラクター達なので…柏崎の胃に穴が空くのは時間の問題ですね!美鈴ちゃんと寝た罰です

では次の話で会いましょう


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第4話『やかましい仲間達』

エイレーネー日本支部

組織は作られてなかったが活動自体は江戸時代から行われていた、世界には必ずと言っていい程悪がいてそれに対抗するように正義が生まれる

ただ正義は弱い、だから正義をサポートする為に出来上がったのだ。

 

時代は進みアメリカの曰本との接触、そして様々な思惑が飛び交う世界大戦にかけて世界中の同じ活動をしていた者達が偶然出会い、同じ志を胸に動いてるのを世界各国にいるのを知ってからは行動が早かった

 

同じ志を持った者達は1つの組織になり、世界中に支部を設置した

彼等の目指す事は同じ、世界平和と正義が執行するのをサポートする事だった

人間も群れば強い、個より群、少人数より大人数…

 

そしてエイレーネー日本支部はアジアにおける2つの支部のうち1つに当たる。

 

『組織の歴史』著作:情報屋 飲み過ぎたタヌキ

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

支部は5層の空間に別れている

 

1層目、日本各地に向かって伸びている道でここから様々な場所に行ける

 

2層目、主に戦闘員達の訓練施設になっており数々の訓練器具が設置されている

 

3層目、会議室や各部隊の部屋、また食堂などの生活に欠かせないものは大体3層目に集まっている

 

4層目、エイレーネー日本支部の支部長『岸井修二』の部屋があり、支部長と各部隊の隊長が集まる会議室がある

 

5層目、主に研究員達の研究所状態で昔は何も無い空き層だったらしい、武器や薬品等を作っている

それに並行してエンジュニア達の工房にもなってたりとごちゃごちゃした層だ

 

 

俺と矢本は1層目、2層目、3層目と降り俺達の部屋

『第1特殊部隊』の部屋に入る

中は特に変な事はない、左右に資料を置く棚があり部屋の真ん中には机が向かい合うよう置かれ1番奥に飛び出るように向かい合う机の真ん中に向くように置かれた机がある

奥の壁には街の地図やホワイトボード、湯のみや菓子を入れるボックスが置かれている

そして椅子にはもう全員座っており

 

 

「あ、柏崎隊長ー!遅いっすよ!」

 

と、1人の女性が椅子から立ち上がり時間通りに来た俺に文句を言い始める

 

彼女は『天田美琴』俺達第1部隊のオペレーターでもあり俺と同じ時に同じ歳で入った同期でもある…のだが自称永遠の17歳らしい、ちなみに俺は今年で25だ…つまりそういう事だ

茶髪のツインテールに黒目、そして俺より1cm身長が高い…

 

「なぁ隊長よー、俺今日休みだったんだせぇ…?」

「俺も休みだっんだよ…」

「かーっ!疲れてるってのによぉ…上の人らは人使いが荒いぜ…」

「え、柏崎隊長私を無視しないで欲しいっす!」

 

ダルそうにしてるのがうちの特攻野郎『宮島敦』まだ20歳と若いが根性はある…赤髪のオールバックに赤目の男だ…そして身長はかなり高い、178だったか

 

「隊長、流石に隊長の招集であろうと私の一時の安らぎを壊すのはいかなものかと」

と、七三分けの男が眼鏡をクイッと上げる

 

「猫と戯れてただけだろ、猫カフェで」

「あそこは素晴らしい…」

「隊長ー?隊長ー?見えてるっすよねー?隊長ー?」

 

七三分け野郎事、『雨森真』第1部隊の狙撃手で索敵が主な任務になる事が多い

青い髪に青い目、猫好き身長は172cm…削ろうか?

 

「まぁまぁ、いいじゃない…休みが無くなるなんていつもの事でしょう?」

 

と、ほんわかとした女性が話しかけてくる

 

「否定ができないのが心苦しいんだが…」

「なら今日は解散する?」

「無理だな」

「隊長そろそろ怒っちゃいますよ?」

 

ゆったりとした口調の彼女は『雨宮みより』第1部隊の…あー…情報を取り出すプロフェッショナルだ

どうやって生身の人間から聞き出してるかはあまり思い出したくない

薄いピンクの軽い天然パーマで淡いピンクの目、それなりに身長はあり168cmとこの前自慢して来た…俺に

 

「悪を切れるのであれば私は何でも構わない、早く内容を教えろ」

 

と、日本刀をかちゃかちゃ鳴らす

 

「その前に隊長に対しての態度を改めない???」

「………そろそろ怒るっすよ」

 

日本刀を所持してるのは『宮本亜美』第1部隊の遊撃担当であり正義感が強い女子高生である…てか呼んだの俺だけど学校どうしたんだろ…

黒い長髪にポニーテール、黒目の少し目つきが悪い

そして身長166cmらしい、ふーん、ふーん

 

「人の話をきけぇ!」と、ドロップキックしてくる奴を避けて俺は席に着く

そしてある方を見る、壁際の椅子に座って本を読んでいる少女…フードを深く被り顔はよく見えない

 

「おいエン、調子はどうだ?」

「…………………」

「…調子は良さそうだな」

「いや、何も言ってないっすよね」

 

うるさい奴を無視して俺は新しい本を買ってやるべきか考える

エン…本名は分からない、ある『事情』により第1部隊に配属された少女だ

 

俺は視線を全員に向ける、オペレーターを除いて全員話を聞く態度をとっている

何やかんや言ってちゃんと話を聞くんだよな、こいつら

 

「…さて、では今回の仕事について説明する」

 

そう言って俺はホワイトボードを用意した

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

今回の死者は『山内和夫』36歳、妻と一人娘の3人家族

山内和夫は殺される前、仕事で残業をしており夜中の暗い道を歩いて帰宅していた。

 

が、運悪く山内和夫はこの街のルールを何一つ知らない

3流詐欺組織の構成員に見つかり、何かしら因縁をつけられ殺害された…

 

のがうちで解析した結果の予想図だ

実際は違うだろうが細かい事はこの際必要ない、だが

詐欺組織の連中が街に入って来ているのは確認済みだ

ズカズカと街の裏を仕切ってる連中の縄張りに入るからか

相応周囲は怒ってるらしい

が、これは俺達の仕事なので今回は辞退してもらった

 

「あれ、和夫さん帰る前に何か買い物してるっすね」

 

説明をしてる時に口を挟んでくる、確かに監視ラメラにはデパートに入っていく山内和夫の姿が写っていて何かを手に出てきてるのを確認している

 

「ん、あぁ財布のレシートを見るからにくまのぬいぐるみだとよ、娘さんがいるらしいからお土産だろ」

「んだよいい親父じゃねぇか」

「と言っても死んでしまっては渡すにも渡せませんが」

「あらぁ…それは…可哀想ね…」

「でもそんな物、現場では見つからなかったっすよ?」

 

そう、無かったのだ…くまのぬいぐるみ何て物は

 

「盗られた、だな」

 

言わずもがな、詐欺組織の構成員だろう

奴等は少しやり過ぎた…だからやる時はとことん潰さなければならない

 

「以上だ、俺は山内家の方に向かう、他は準備しろ…今夜で全て片をつける」

 

「了解だぜ!」

「えぇ、善処します」

「はぁーい」

「私は敵を切れればそれでいい」

「了解っすー!」

「………」

「お供します、柏崎隊長」

 

全員それぞれ敬礼…数人しかしてないが俺達は行動に移る

 

「さて…行くか」




どうも、やっと登場したキャラクター達、何故か身長が必ず出てくるのは私にも分かりません()

後1話くらい前置きですかね、その次はとうとう…

では次の話で会いましょう


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第5話『不幸は突然に』

エイレーネー…その組織の勢力は世界各国に支部を設置している。

まず日本にエイレーネー日本支部

そして中華人民共和国…中国支部

欧州、イギリス支部

アジアから欧州にかけてロシア支部

そしてアメリカ支部

 

この5カ国を主に存在する支部から他の国にまた戦力を出して世界をカバーしている

またエイレーネーは平穏な日々を過ごしている人々に知られてはならない、平和が続く限り…

 

──────────────────────────

 

午後14時30分

 

……………………

 

「…柏崎さん?」

 

……………………

 

「あの、少し言いずらいんですが…」

「…なんだ矢本」

「凄くその…やってる事が犯罪者です」

 

そう指摘され俺は今やってる事を確認する

俺は今ビルの屋上からあんぱんと牛乳片手に双眼鏡で山内家の行動を遠くから確認している

 

「おかしな点が見つからないな」

「そ、そうですか…所で何故牛乳とパンを…?」

「…いや…雰囲気出るかなって」

 

少し憧れてたんだよ…

 

「ま、見た所…話に行く機会はありそうだ…」

「ですけど…何を聞くんですか?」

「…一応一家の大黒柱が襲われる理由があるかないか…無いなら無いでいいんだが後回しにする程重要じゃないわけじゃない」

 

もしかしたら噂通り借金で…というのもありえる

 

「それに渡す物もあるしな…とりあえず、会ってみないと始まらない」

「そうですね」

 

アンパンと牛乳を素早く処理し俺と矢本は山内一家の所に行く

 

──────────────────────────

 

夫が他界して心から何かが抜け落ちるような…そんな気持ちになる。

娘はまだよく分かってないからか、お父さんはいつ帰ってくるの?と聞いてくるのが心苦しい…私はこれからどうすればいいのか

何をすればいいいのか…さっぱり分からない

 

娘のおやつを準備しなくては、と今は目の前の事を考えようとした時突然インターホンが鳴る

誰だろうか…と思い玄関に行き扉を開ける

 

「どうも初めまして、私達こういう者でして」

 

と小柄な男が警察手帳を見せてくる

 

「今朝方の事件いついて申し訳ございませんがご協力いただけませんでしょうか」

「…はい、分かりました…どうぞ、少し散らかってますが」

 

出来るだけ警察の人には協力しようとしていたから丁度いいと思った

夫のような被害者が出ないように…

 

小柄な男と、白髪の女性を居間に案内し椅子に座ってもらい

 

「お飲み物とお菓子を用意しますね」

「あぁ、お気になさらず」

 

キッチンに行き、お茶とお茶受けを用意して居間に戻ると小柄な男は娘にポコポコと殴られていた

 

「ち、ちーちゃんやめなさい!」

「あぁ、大丈夫デスヨ」

 

男の顔は少しひきつっている

 

「すみません…ほらちーちゃんも」

「ごめんなさい…」

「大丈夫ですよ、突然来て殴り始めたのはびっくりしましたが」

「すみません…ちーちゃんどうしたの?お部屋で寝てたんじゃないの?」

 

娘は少し俯き

 

「ママ…パパまだ帰ってこないの…?」

 

娘は、夫の帰りを待っており…夫が帰って来たと思ったのだ

 

「ちーちゃん…あのね」

 

幼い娘に教えていいものなのか…悩んでいると

 

「ちーちゃんだったか、君のパパはな、今遠い遠い場所にお仕事に行ってるんだ」

 

男が言う

 

「お仕事…?」

「そうだぞ、大変な仕事で今日は帰って来れないらしい」

「いつ帰ってくるの…?」

「良い子にママの言うことちゃんと聞いてたら褒めに来てくれるかもな」

 

男はそう言いながらこちらに目線をこちらに向けてきた。

…確かにまだ言っても理解出来るか分からない…もう少し大きくなってから…

 

「ほらちーちゃん良い子にしてお部屋で待ってないと」

「いや、あんたはその子と一緒にいてやりな」

「え?ですが…」

「いいから、ぶっちゃけ協力とかは建前で本当はこっちを渡すつもりだった」

 

と、男は財布から何かを取り出した

 

「…名刺?」

「どうしても、どうにもならなくなってしまった時はここに来てくれ」

 

その名刺には『菊野』と、書いてあった

 

「んじゃ行くぞ、矢本」

「はい柏崎さん」

 

男…柏崎という人は女性…矢本という人に一声かけ席を立つ

そして2人は玄関まで行き

 

「それじゃ…突然来て、すまなかった」

「い、いえ…あの…貴方達は一体…?」

 

柏崎は少し考える素振りをし

 

「ただの一般人だ」

 

と、返した

そして2人は玄関を出て扉が閉められる

 

「ママー…あの人達誰ー?」

「…さぁ、ママもちょっと分からないや」

 

突然やって来て特に何かするわけでもなく、ただ名刺を渡しただけのあの二人

ただ本当に何をしたいか分からなくて悩んでた自分が馬鹿馬鹿しくなってきた

 

──────────────────────────

 

「『会ってみないと分からない』」(キリッ

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

 

矢本が俺のセリフを復唱しやがった、恥ずかしい…

本当は色々聞き出すつもりがあのちびっ子が登場したせいでうやむやで名刺だけ渡す事に…

支部までの出入口でもある『菊野』は俺達のせいで、もしくは巻き込まれてしまった人達に対するアフターケアも行っておりその為に来たんだが…

 

「恥ずかしいですよね、かっこよく言ったのに何も出来ず名刺だけ出すの」

「く、くそぉ…」

 

なんとも言えない恥ずかしさが込み上げてくる

 

「でも名刺は渡せた、後は」

「私達のやる事を済ませるだけですね」

「そういう事」

 

そして携帯を取り出し

 

「オペレーター、こちら柏崎…帰投する」

 

支部に帰り、準備をする

 

──────────────────────────

 

 

夜の21時

辺りは静まっており聞こえるのは時折通る車のみ

暗い街の路地裏、1人の男がフラフラになりながら歩いている

 

「くそ…少し飲み過ぎたか…」

 

フラフラと歩く男の耳に微かにカチャリ…という音が聞こえる

 

「何の音…」

 

それが男の最後の言葉だった

パシュッと短い音が聞こえ糸が切れた人形のように倒れる

 

そしてゾロゾロと5人の人影が歩いて倒れた男に近づくのが見える、全員黒の迷彩、ガスマスク、ヘルメット等

明らかに普通じゃない

 

『さぁ…平和執行の時間だ』

 

先頭の小柄な男が言うと全員一斉にバラバラに移動する

夜の街に正義の鉄槌が下される




どうも、ストックが早くも消えた私です(話は頭に入ってる)
あと進みが遅いこの物語を見てくださいましてありがとうございます。

これからも細々ながらも物語を進めて行きたいと思います!

では次の話で会いましょう


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第6話『不穏な空気』

⚠︎流血等注意⚠︎


 

魔法や魔術等はフィクションの世界では当たり前のように存在しており派手なものが多い

だがこの世界の魔法…魔術はそこまで派手な攻撃等は存在しない、1部炎を飛ばしたり…等は存在するがあまりにも使える人が少ない為見かける事はかなり少ない

 

魔系を使用する場合『魔力』を消費する

魔力は普通にあるものではなく修行、外部からの手助け、元から体内にある、無理やり発生させる…それら以外にもある可能性があるが大体はこんなもんである

 

が、1部例外も存在しているが…その説明はまたいつか

 

────────────────────

 

5人の人影はそれぞれ、とあるビルを見ている

事前情報だと雑貨ビルの中に事務所があり20名ほどいて全員その中にいる予定だったのだが…

 

『…情報と違うじゃねぇか』

 

ビルの周囲にはバットや木刀等を装備した厳つい男達が彷徨いていた

今回の任務の件は外に漏れる筈もなく、気づかれる可能性は無いはずなんだが…

 

『まるで来るのを警戒してる感じですね』

 

矢本が敵の動きを観察しながら言う、確かに出歩いてる4人程の男達はやけに周囲を警戒してる

1人で歩いてた奴は恐らくの他の奴の行動に合わせなかった脳天気な野郎だったのだろうが…

相手に予知能力者でもいるのか…?

 

『隊長よぉ、どうすんだ?』

『このまま見てるわけにもいかない、宮島と宮本、お前らは外にいるのを始末しろ』

『了解だぜぇ』

『ふん、あんな奴等私が本気を出す必要も無い』

 

元気があってなりよりだよ…

 

『雨森と雨宮はサポート、特に雨森は逐一報告を』

『了解しました』

『はぁい、頑張るわ』

 

今回は20人いる、こいつらのサポートで楽になるかどうか決まる…

 

『オペレーター、全員の状況を確認しといてくれ』

『了解っす!心置き無く戦ってもいいっすよ!』

『矢本、お前は俺と一緒に一直線に親玉の所に向かうぞ』

『はい、分かりました柏崎さん』

 

全員の確認を終えて時計を確認する

現在夜の21:07…

 

『オペレーター、10分になったら作戦を開始する』

『OKっす!3分後に作戦開始!作戦時間は30分っすから気をつけてください!』

『あまり時間をかけると一般人に気づかれるからな…』

 

俺は周囲の仲間達を見る

全員準備は出来てる、覚悟も…そして時間は過ぎ21:10…

 

『作戦開始だ』

 

俺の合図と共に全員が動き始める

 

 

───────────────────

 

外にいた男達は内心恐れていた、あの『アドバイザー』の話通りなら今夜俺達を殺しにくる奴等が来る筈なのだ

 

他の仲間の荒い息遣いが聞こえる、もしかしたら自分達も死んでしまうのではないかという恐怖が充満している

だが逃げるとしても逃げれない…

そんなどうしようもない空気が重くのしかかる男達の耳に

 

カラーン…っ!

 

という金属の音が聞こえる、音は空き缶が置いてあった場所から聞こえた…というのが理解出来た男達は恐怖と同時に安堵した

見えない、分からないという恐怖より確実にそこにいるという安心感と自分達が囲めば勝てるという慢心がそうさせるのだ

 

男達はそんな解放された気分のまま、だが警戒しながら音がした方に向かう

暗い道をゆっくりと歩き確認していく

誰もビルの周囲を守ってないが目の前の事の方が重要なのだ

 

ビルから少し離れた場所に、空き缶が1つ転がっていた

風はそこまでない、野生動物もいない

それらを考え空き缶が勝手に倒れて転がるのはおかしい

 

空き缶を調べた男が、誰かいる…と思った瞬間

 

後ろにいた男2人が1人が吹っ飛び壁に叩きつけられ気絶し

もう1人は体力の血を流している

 

「な、なんだ!何が起きた!?」

 

無事な男の手を無理やり引っ張り距離をとる

自分達がいた場所の、来た方向に2人の人影が見えた

1人は月明かりに光る血塗れの日本刀を持っており

1人はゴツゴツとした拳を握り仁王立ちしていた

顔はガスマスクで見えずヘルメットと黒迷彩を見て

男は戦慄した

 

「て、テメェらがエイレーネーか…本当に来やがった」

『あん?本当にってどういう事だ?』

『知らん、それらを調べるのは隊長がやるだろう』

 

日本刀を持った…外見的には女性が日本刀を構える

 

『そうだな、とりあえずぶっ飛ばす!』

 

拳を前に出して構える

 

男はあと1人になった仲間を見る、木刀を持ってるが日本刀を見ると頼りなく感じる

だが戦うしかない、男はバットを振りかぶり拳を構える男の方に大振りに叩きつける

何故か避けない上にガードもしない

 

「(舐めやがって!)」

 

バットをまた振りかぶり叩きつける、1回2回3回4回…

何度叩きつけても怯むどころか仁王立ちのままだった

 

「な…なんだよ…なんで効かねぇんだ…」

 

バットを弱々しく下ろし男は2歩下がる

 

『良い攻撃だ、だが俺を倒すには根性が足りねぇ!』

 

明らかに骨を折ってもおかしくない攻撃を無防備に受けていた男…宮島が男に近づき拳を大きく下から持ち上げるように男の顎に叩き上げる

顎が砕け歯が折れの首の骨が限界を超えるほど曲がり背中から地面に倒れる

 

「ひぁ…あ…やめ…死にたくな…」

 

仲間が死んだのを何も出来ず眺めていた男は逃げるように走り出そうとする

 

『逃がすわけがないだろう?そのお命頂戴させてもらおう』

 

と、日本刀を持った宮本に逃げ道を阻まれてしまう

 

「う…うわぁあああああああ!!!」

 

男は半狂乱になりながらデタラメに木刀を振り回すが1回も当たらない

まるで動きを先読みされてるようだった

 

『ふん、ど素人め』

 

何かが光ったような光景を見てた男の視点がどんどんと下に落ちていく

そしてベチャッ…という音と共に自分の体が倒れていくのを見ながら男は意識が無くなる

 

『なんつーか強くねぇ連中だったな』

『ただの雑魚だ…次行くぞ』

『へいへい、こんなのとビルの中でもやるのか…』

 

2人の人影はビルに向かって歩き出しその場を後にした

 




どうも、今回は少し長くなったので6話と7話に分けさせてもらいました
7話は残りの4人の行動からになります
そう言えば皆さんは木刀、持ってますか?私は持ってないのですが観光地とかに置いてあったら何故か買いたくなっちゃうんですよね…需要はないですけど

今回日本刀が出てきましたが、日本刀ってカッコイイですよね…
なんて言うんでしょうね、男のロマンというやつです
日本刀はカッコイイ!(断言)

ではまた明日、次の話で会いましょう


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第7話『魔術師』

⚠︎流血等注意⚠︎


魔術の中には詠唱者自身の魔力を必要としないものがある

それらは紙や物等に事前に魔力を込めることで魔力を持たない者にも使える

 

ただし威力は格段に落ち、どれだけ魔力を込められるかは注ぎ込む魔術師の魔力量や技量に左右される為めったに使われる事は無い

 

情報提供:情報屋 飲み過ぎたタヌキ

 

──────────────────────

 

時間は少し遡りビル

裏口の勝手口にピッキングしてる雨宮を見つつビルの壁にガスマスクとヘルメットを外し耳を当て軽くコツコツと叩いている雨森を見る

 

『中の様子はどうだ?』

「………1階に…10人…2階に4人…3階に1人ですね」

 

と、答える

どうやら1階に戦力を固めてるらしい

 

『ふむ…下から行って…は面倒だな』

「多少は武装してるでしょうし、4人組を倒しに行った2人が帰ってこないと無理かと」

『…では2人が帰ってきたらここから一気に奇襲、その間に俺と矢本は上に行く』

「ですが1階は…」

『壁を登るしかないだろ…一応屋上がある、そこまで行けば上からの下から攻めれるから多少は楽だ』

 

と、言ったのはいいが…掴める場所がそこまで多くはないからかなりキツイだろうな…

 

『隊長開いたわよ』

 

と、雨宮が小さくカチャリ…という音と共に言う

 

『よし、それでは作戦開始』

『了解』

「了解です」

『はい、行きましょう隊長』

 

そして俺と矢本は壁をよじ登り屋上を目指す

 

──────────────────────

 

しばらくして下にいた雨森は二人分の人影を背後に確認する

 

『早かったですね』

『おぉ、とんだ根性無しだったぜ』

『よくもまぁ、あれを守りに使ったのもだ』

『とりあえず全員揃ったからいくわよぉー』

 

雨宮はゆっくりと勝手口を開け中に素早く入る、他のメンバーも入り近くの物陰に隠れる

物置なのか様々な物が置かれてる場所に侵入した

雨森が目を閉じて靴をコンっと地面に叩く

 

『…扉付近にはいません、入口に6人、階段に4人固まってますね』

『んじゃ俺は6人の方やるわ』

『私は階段の方をやろう』

『それじゃ〜、私は入口の方ね?』

『分かりました、では私は階段の方を援護しましょう』

 

全員が頷き、雨森が扉に手をかける

手の指を三本立て、スリーカウントをとる

 

『…(3…2…1…GO!)』

 

扉を勢い良く開けて1階のフロアに足を踏み入れる

 

「て、敵しゅ…」

 

宮島が最初に気づいた男の顔面を殴り飛ばし入口側に走る

 

「くそっ!やれ!やれ!」

 

と、まとめ役らしい男の掛け声と共に戦闘が始まる

 

「てめぇら!」

 

殴り飛ばされた男を見て激怒したガタイのいい大男が宮本に殴り掛かる

だが顔面を狙った拳は首を少し傾けるだけで避けられ

伸ばした手が宙を舞い視界がズレていくのを感じながら死んでしまう

 

「弱そうなお前を捕まえれりゃっ!」

 

と、目つきの悪い男が雨宮の死角から走る

 

『雨宮さん、右斜め後ろ高さ173cmに攻撃を』

『了解〜』

 

と、違う敵と戦闘をしていた雨森が見えない筈の雨宮に指示を出す

雨宮はポケットから何かを握り体を反転させ目つきの悪い男に向かって投げる

それはビー玉サイズの鉄球だ、それを役10個投げつける

 

「そんなのでどうにかなるってかよ!」

 

手をクロスさせ鉄球から顔を守る、手に足に腹部に鉄球が軽く当たる

男は勝ちを確信した時、鉄球の当たった部分に少しずつ痛みを感じ始めた

 

「…あっ…?」

 

痛みは段々と強くなり男は痛みに悶える、ただ鉄球が軽く当たっただけなのに鉛玉が当たったような辛い苦しみが男の手足腹部に襲いかかる

 

『ふふふ、きゃはははははははは!!!』

 

雨宮が高笑いする、その顔が見えていたらそれは狂気を感じる程だ

 

『その顔がいいわぁ…さぁ!もっともっともっともっと…苦しむ姿を見せて』

 

そう言ってポケットからまた鉄球を取り出す

男は恐怖に包まれる、この痛みがまたくる…と

 

そんな阿鼻叫喚の現状を見てまとめ役の男は呆然と立ち尽くしていた

何故こんなのに敵対してしまったのか、割に合わない、逃げ出したい、助けて欲しい誰か…とグルグルと頭の中でその言葉が永遠と続き思考が乗っ取られる

 

しばらくして、周囲は静かになる

もう仲間は誰も立ってない、もう自分だけだ

 

「あぁ…神様…」

 

男は人生で何度も言った言葉を呟き

その人生に幕を閉じた

 

 

───────────────────

 

現在21:18

 

屋上に到着して下に降りている二人分の影

 

『矢本、お前は上に上がってくる敵を倒しといてくれ』

『大丈夫ですか?1人でいるという事はそれなりに腕に自信があるようですが』

『ま、多少はどうにかなるだろう』

 

と、ガスマスクを外す

 

「それよりも気をつけろよ?敵は3人いるからな?」

『ふふ、隊長は心配性ですね』

 

と、美鈴もガスマスクを外す

 

「下の人達に比べたら楽です」

「確かになっ…と」

 

3階に辿り着く、部屋が手前から3つありそのうちの1番手前の部屋から明かりが漏れている

 

「よし、では作戦通りに頼むぞ」

「はい、気をつけて下さいね」

 

と言って美鈴は下に続く階段に向かう

 

「………さて、どんな面してるのやら」

 

と、言い部屋の扉を蹴破る

中はいかにも高そうな机にソファー、棚には資料が置いてあり正面奥の椅子には人が座っていた

その人物は普通の体型、スーツ、糸目の人が良さそうな見た目をしている、知らない人が見たらセールスマンにも見えなくはない

 

 

「おやおや、ちょっと開け方が乱暴なのでは?」

「悪党にはこれくらいがお似合いなのさ」

「ふふふふっ…私達から見たら貴方の方がもっと悪党ですよ?」

 

軽く話し合う、まるで久しぶりにあった友人のように

 

「ところで俺がここに来た理由は知ってるか?」

「えぇ、知ってますとも」

「なら俺が今からすることは?」

「知らないですねぇ…ですが黙って殺られるのも嫌ですし、少しは抵抗させてもらいますよ」

 

と、椅子から立ち上がり近くにあった棒を手に取る

 

「棒術か?」

「えぇ、護身用に学んでたんですよ」

 

と、棒を構える

柏崎も腰からナイフを抜き構える

 

「リーチの差を考えると私が有利ですが?」

「なに、そんなの気にする必要はないっ!」

 

と、一気に距離を詰めようとする…が

 

「っっっっっっっ!!!!」

 

突然心臓を握られるような痛みが全身に走る、膝をつき倒れないように体を支えナイフを近くのソファーに突き立てる

 

「(なんだ…!?…いや、知ってる…これは…!)」

「はははははは!!!いやぁ!見事に引っかかりましたねぇ!貴方まさか、私が正々堂々と戦うと思いで?笑わせないで下さいよ」

 

と、腹を抱えて笑ってるその男の手には

 

「なっ…!」

 

1枚の紙切れが握られていた

柏崎は気づく、それは魔力が込められた呪文の紙だ

 

「ぐっ…ぁ…お前…魔術師か…っ!」

 

明らかに科学では証明出来ない力、そんな力を使う相手に柏崎は覚悟する、死ぬかもしれないと




どうも、最近童貞を30歳まで守ると魔法使いになれると信じてる私です

今回の話には第一特殊部隊のとある秘密全員出たんですが分かったでしょうか
分かった貴方はエスパーです!今すぐカバンに入りましょう!(お持ち帰り)

そう言えば隊員達の名前、微妙に似てるんですよね…これはミスではありません!本当です!………多分!自信ありませんが!

た、多分…

では明日、次の話で会いましょう


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第8話『全ての始まり』

⚠︎流血等注意⚠︎


 

魔術は一般人が理解するのはほぼ不可能と言われている

高度な専門的知識を持ち合わせてる、もしくは教えてもらわない限り初歩的な魔術も満足に覚えられない

 

が、魔力と呪文を紙に込めた場合話が変わる

例えどんなにセンスが無くても読み上げるだけで魔術を使用可能になるのだ

 

紙に入ってる魔力量が多い程沢山使えるが、使う度に心の中の何かが削れていくような感覚に陥る

最初は何ともないが、使う度に少しずつ魔術を理解し逃れられない魔術の泥沼に嵌ってしまう

 

魔術は便利だ、時には誰かを救う時もある

だが逆に便利過ぎて自分を見失う事がある、何事も適度が大切なのだ

 

情報提供:情報屋 飲み過ぎたタヌキ

 

────────────────────

 

下での騒ぎが収まったのを感じた二階にいる男達、それぞれ顔には恐怖に歪んでいた

出来るだけ階段にバリケードを作り3階に上がる階段付近に居座る、そうしないと下に降りる階段に近い為自分が襲われるのではないかという恐怖に駆られるからだ

 

二階にいる男達はそれぞれ銃を所持している、いつもは脅しにしか使わない物を手に持つ事で平常心を保たせる

銃という人類の作り上げた武器が心の支えになっていた

 

しばらくして、上から足音が聞こえた

それは3階からという事もあり男達は驚く、何故なら上には主任しかいない上に降りてくる事は無い筈だ

 

足音はゆっくりと下に、つまりここ二階に降りてきている

それぞれ銃をお守りのように構える

コツ…コツ…コツ…と、足音は踊り場まで辿り着き

 

「初めまして皆さん」

 

と、明らかにこの場には不似合いな挨拶と人物が立っていた顔は見えており、白髪のかなり顔が整ってる女性がペコりと頭を下げる

 

「だ、誰だお前…?何処から来やがった…?」

「はい、丁度屋上の鍵が開いていたのでそこから」

 

男は言葉が出なかった、突然過ぎて思考が滞ってしまっている

だが他の仲間が居たおかげでどうにか考える

 

「へ、へへ、嬢ちゃん?お前凄く勇気あるみたいだが1人で俺達がどうにかなるとでも思ってるのか?」

 

銃をチラつかせる、これで何人のも人間を脅してきた功績があった…だから不安など無かった、が

 

「はい、むしろ少ないと思いますが」

 

男の中で何かが切れた

 

「てめぇ、あんま舐めた口きいてるとへそがひとつ増えちまうぜ?」

「そうですか」

 

ここまで舐められているとは、男は…いや男達は頭に血が上りすぎて正常の判断がつかなくなる

 

「へっ!減らず口が!」

 

と、拳銃を構え発砲する

他の男達もそれに続いて発砲する、4人の男達による拳銃の乱射撃ちが矢本に向かって放たれる

 

「では始めますね」

 

と、言うのが聞こえた後建物の壁に銃弾がめり込む

男達は無我夢中に撃ちまくったが、最後に見たのは銃弾を避けながら脱兎のごとく近づいてくる頭部に耳を生やし手には大きな鉤爪を付けた化物の姿だった

 

 

────────────────────

 

「ほらほら!避けないと死にますよ!」

 

と、糸目の男が棒を突き出す

それを横っ飛びに回避してナイフを投げつける、が手に持ってる棒を使い弾かれてしまう

が、それは囮でもう一本のナイフを取り出し切りつけようとする

 

「っと!」

 

糸目の男は手に持ってる紙の呪文を唱える

 

『酷使せよ!』

 

そう唱えた瞬間俺はドクンっ!と心臓が痛い程脈打つのを感じ、全身が痺れ倒れそうになる

 

「ほら寝てる場合じゃないですよっと」

 

倒れそうになった俺の顎に棒を持ち上げるように叩き上げる、一瞬の激痛と共に体の自由を取り戻す

 

「ぐっ…が…はぁ…」

 

先程からこれを繰り返している、何をしても呪文を使われ動きを封じられ殴られる

しかも途中からなぶり殺しにするつもりか、手加減して殴ってくるのが釈然としない

 

「まったくエイレーネーが来ると聞いて警戒してたのですがこんなもんだったんですねー?あ、すみません…少し弱過ぎて」

 

言いたい放題である、だが実際手足も出ないのだ

 

「ほざけっ…呪文が無かったらお前は俺に勝てない、だろ?」

「ふふふふっ、外部からの攻撃も実力のうちですよ」

 

と言って棒を構える、さてどうしたものか…いや、手段は無くはないが

 

「使うのは…怒られか」

 

が、そんな事を言ってられる状況ではないのは確かだ

こいつを確実に殺る

 

「ほら、では次行きますよ!」

 

と、棒を突き出してくる

それを避けナイフを『上に放り投げる』

 

「っ?」

 

と、糸目の男は一瞬ナイフに気が逸れる

それと同時に先程投げて弾かれてしまったナイフを手に切りつけようとする

 

『酷使せよ!』

 

が、一瞬早く呪文を使われてしまった

 

「残念でし…」

 

男が言い終わる前にナイフを男の腹部に深く突き刺す

心臓が痛む事も全身が痺れることも無い

 

「あ…がっ…なん…なんで…」

「何でもいいだろ?ほら、笑えよ」

 

ナイフをそのまま上には切り上げ男の顎を殴り飛ばす

糸目の男は血を大量に撒き散らしながら壁に激突してもたれ掛かるように地面に腰をつける

この傷ではどんなに治療しても生きるのは厳しいだろう

 

「あ…くっ…くそっ…使えない呪文を…押しつけ…やが…」

 

糸目の男は何かに悪態をついている、誰かは知らないが聞き出すのは無理だな…

 

男を放置して俺は壁の資料を漁る、今回の件何が原因で起きたのもか…それを調べなければならない

 

しばらくして机の上にとあるUSBメモリと、とあるを見つけた

USBメモリとある物を回収して俺は部屋を出る、呪文が書かれた紙は燃やし下にいた連中と合流してビルを後にした

 

ここからは処理班の仕事だ、俺達はさっさと撤退するに限る

 

────────────────────

 

葬式、とある一室で2人の親子が部屋で体を休めていた

悲しいがこれからを考えると私が頑張らなくては…と母親は思い、娘はおままごとをしている

 

しばらくして、部屋の扉がノックされる

 

「はーい」

 

と、娘…ちーちゃんが扉に向かっていく

扉を開けて何か紙袋を手に母親の所に向かっていく

 

「ママっ!これ、私にって!」

 

と、嬉しそうだ…親戚の誰かが娘の為に何かプレゼントしてくれたのだろうか

そう考えながら袋を開けると

 

中にはくまのぬいぐるみが入っていた、背中の繋ぎ目が歪だが新品のぬいぐるみだった

 

「わーい!ママ!くまさんのぬいぐるみ!」

「良かったわね…けど誰が…?」

 

疑問が残るが、これから先もこの親子は逞しく生きていくだろう

 

────────────────────

 

とある暗い部屋、1人の男と女がパソコンを見ていた

 

「柏崎さん、これやばいっす…あの街の裏社会にどっぷり嵌ってる悪人の個人情報や住んでる場所とか載ってるっす…」

「なんでこんなもんが…あそこにあったんだ?」

 

これ1つあれば、マスコミに売るもよし、別の組織の交渉に使うもよし…ある意味街を掌握出来てしまう

 

「誰かがこれを詐欺組織に渡して駒にしようとしたって考えるのが妥当か…?」

「うーん、私達が考えてもしょうがないっすし、支部長に押し付けましょう」

「名案だ、よし、今すぐ押し付けるぞ」

「了解っすー!…ってあれ?柏崎さんその手の絆創膏どうしたんっすか?」

 

と言った天田の頭を叩き俺は部屋を出る

 

「痛ったぁぁぁぁあああ!」

「変な事に気がつくのが悪い」

 

そう言って俺は支部長室に向かう、今回の件は何かしらの…魔術師の陰謀があった…これは気をつけないといけない

 

────────────────────

 

ここは夜中の工事中のビルの上、地上から100m以上ある鉄骨に座って夜の街を眺める男が1人

 

「くくくははははは!…やっぱり柏崎君は凄いや…これくらいじゃ流石に苦労なく跳ね除けちゃうんだからね」

 

と、立ち上がり夜風にあたる

 

「次はどんな風に楽しませてくれるのか楽しみだ…くふふふふふふふふっ…」

 

その顔は狂気に染まっており正常とは思えない

 

「さぁ!次のステージに進もう」

 

と、手を前に出し

 

『酷使せよ、門よ』

 

男の目の前に鉄作りの扉が現れドアノブが軽く開いている

それを躊躇なく掴み男は中に入り鉄骨の上には元から誰も居なかったかのように静けさを取り戻す

 

0章~完~




どうも、夏風邪に蝕まれてる私です

いやぁ、暑さと寒さがマッチして体が耐えきれなかったぽいですね!HAHAHA!
…皆さんも風邪には気をつけましょう

さて、今までの話は0章…つまり始まってもないという事です
次回から1章に始まりこれからも柏崎達の苦労は絶えないでしょう!
ちなみに柏崎も一応秘密はあります、が…1番多分分かりずらい秘密だったですから、分からなくてもOK!ちなみに隊員達の秘密が分かった人はもれなく

私の夏風邪をプレゼント!

………いらないですよねー…私もいりませんもん…

ではまた、明日のお話で会いましょう


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第1章『超人編』
第9話『超人』


この世界には『超人』が存在する

全世界にいるが、日本には4人在籍しており

 

格闘界の超人 『須郷雅弘』

メディア界の超人『長内青葉』

探偵界の超人『道華翔太郎』

武道界の超人『涼風緋彩』

 

これら4人はまだ学生であり精神的に独立してないという名目の元1つの街に集めて管理されてるのが現状である

 

コンクリートの地面を破壊し、鉄板をも突き破る『剛腕』

 

優れた読心術と先読みで情報を搾り取る『判断力』

 

隠密能力が高く目の前にいても認知不可『ステルス能力』

 

ずば抜けた脚力と跳躍力で翻弄する『機動力』

 

優れた才能を手にしている超人達は

ある者は警察に協力し

ある者は世界中のネタを求め奔走し

ある者は街の平和を守る為に事務所を立ち上げ

ある者は誰かを支える為に尽力している

 

国民は超人達を尊敬し、憧れ、恐怖し

そして彼等にとっては正義の使者なのだ

 

───────────────────────

 

夕方15;00

 

柏崎こと俺は壁に取り付けてある時計を見ながら静かにため息を吐いた、室内には俺の他に6人いる、その内4名はまだやることがあるのか室内にいる

が、残りの2名は

 

「はぁ…」

「はぁー…」

 

と魂が抜けたような顔をしている

 

「………んじゃお疲れー」

「お疲れ様です」

「おつかれ〜」

「お疲れ様です、柏崎さん」

「………」

 

相変わらずエンは喋らないし目も合わせようとしない

フードを深めに被っちゃってまぁ…

やはり仲良くなるためにはプレゼントなのだろうか…支部長野受け売りなので信用できないが

 

荷物を持ち扉まで行くと左右から全力のタックルされる…っておい

 

「何のつもりだ…?天田、宮島」

「ふ。ふふふ…何定時に帰ろうとしてんだ隊長?」

 

いいじゃねぇか定時帰り、この職場任務だと勤務時間とかそんな細かいこと気にするな状態だぞ?

 

「困ってる後輩とセクシーな同僚を見捨てるんすか?!」

「おう、鏡見てこい」

「スッッッッッッッッッッッッゴイ美人がいるっす」

「あ、そう…お前がそう言うならそうかもね…」

 

アホなことをしているこの二人、仕事が終わらず帰れない状態なのである

俺達の仕事は何もただ戦うことだけじゃない、任務の報告や使った備品、壊れた支給品などの申請などの事務作業があり

パソコンに打ち込み上…つまり支部長に送られる、これにより経費を削減や増加などをしているのだが…

 

「宮島お前、特に多く書くことないだろ」

「パソコンが分からねぇ!!!!」

「おい現代人」

 

宮島敦、熱い男だが新しい事には熱くなれず後回しにしてそのままにする癖がある

 

「お願いしますから…手伝ってくださいっす!」

「いや、無理だわ…」

 

天田はオペレーターであり、俺達とは違い全員分の行動報告書を出さないといけないのだ

その報告書は後日、反省会や自分達の行動の見直しが出来る為オペレーターとして書くのが常識らしいのだが…

 

「お前の字汚くて分からないんだよ!」

 

天田は報告書に書く際、より細かく書く為メモに逐一書いてるのだが、字が汚くて読めたもんじゃない上に分かるのが天田のみ

昔忙しそうだったから手伝ったのだが…何故か夜があけて出勤時間になってた…解読が大変と言うのがよく分かる出来事だった

 

「いいから、頑張れ…後回しにはできねぇから」

「くっそー…」

「おかしいっすよね?!私だけ仕事量多いんですけど?!」

 

ごちゃごちゃ言ってる2人を振りほどき俺は扉を出るっ!残業はせん!

 

 

 

廊下に出て3層から2層…1層と上がり菊野方面の出入口に向かう

向かってる途中、目の前から誰かが歩いて来て俺の前で止まる

それはガスマスクを付け白衣を羽織っている科学者風の少女らしき人物だった

身長は俺と同じで金髪だ、ポニーテールにしておりゆらゆらと後頭部で揺れている

 

「…なんだよ」

「………」

 

何も言わない、だが何かを言いたそうにしている

 

「…用がないなら退いてくれ」

 

目の前の少女を押し退けるように進もうとする

 

『…そろそろ自分を許してもいい…と思う』

 

何気ない一言だ、普通の人はなんの事かと思うだろう

だけど俺は一瞬で頭に血が上ってしまった、少女の胸ぐらを掴み近くの壁に叩きつける

 

『………』

「……っ!…くそっ…」

 

すぐに冷静を取り戻し手を離す

 

「…すまない」

 

またやってしまったという罪悪感が込み上げてくる、俺はいつになったら

自分を許せるのだろうか

痛む背中が考える事をさせてくれない事に苛立ちながら俺は菊野に向かう道を歩く

 

───────────────────────

 

菊野を出て絡んでくる爺さん達を避けつつ帰路につく

今住んでいる街はかなり規模がデカい、一種の観光地のようになっているからだ…ホテルが立ち並びスーパー等が多く立ち並ぶ

何故か、それは…

 

「きゃあぁぁぁぁあああ!引ったくりよぉ!」

 

ド定番というか、ギャグじゃないかという声が聞こえる…声は大真面目に叫んだろうが

人々はザワザワと騒ぐだけで犯人を捕まえようとしない、捕まえようとしてた勇気ある人は犯人を興味本位で撮ろうとする学生や野次馬に阻まれて身動きかとれなくなっていた

 

「まぁ誰も自分の事じゃないから、こういうもんか…」

 

他人の不幸は蜜の味とも言う、それを話題に話たり飯を食うんだろうな

が、犯人は長くは逃げれなかったらしい

 

「おいおいてめぇ…何してんだァ?」

 

と、2m程の大男が犯人の胸ぐらを掴んで宙ずりにする

その体は筋肉が弾けんばかり付いており顔には骨董品なのか仮面を付けている

犯人は息ができないのか、それとも恐怖なのか…いや両方かもしれない

気絶してしまったようだ…体の力が抜けだらーんとなる

 

『須郷だ…』

『須郷?』

『知らないのかよ、この街の超人四天王の中の1人だよっ』

 

いつの間にか超人達は四天王という事になってるらしい、まぁ4人いるしな

超人、『須郷雅弘』は鞄を犯人から取り最初に金切り声を出した女性に渡した

女性は凄く感謝してるからか、はたまた超人に出会えたからか

涙を流しながらお礼を言ってる

 

「…(須郷雅弘…か…最近かなり警察に協力してるが…まぁ言う必要もないか)」

 

と、何気なく眺めてると須郷と『目が合った』

 

「っ?!」

 

そりゃ目は合うだろう、だがあいつは『俺が見てるのを感じて』見返して来たんだ、あまり長居してると絡まれかれない

俺は急いでその場を後にして家に向かう、須郷はずっと俺が居た方向を見てたが…

 

──────────────────────────

 

「くそっ!超人の奴らっ!」

 

と、1人の男が近くにあった空き缶を蹴飛ばす

近くにいた男は咎める事はしない…いや、出来なかった

部屋には7人、それなりに身なりは整っていた服を着ている、今は泥と埃が付いている

 

「あいつらのせいで、うちはボロボロだ…まだ辛うじて構成員が残ってるが怯えちまってる」

「こっちもだ、あいつらは…化物だ…人間じゃねぇ」

 

愚痴を言う、彼等は超人に潰された裏社会の人間達で後一歩で豚箱行きになる

もう自分達に後はない、だがこのまま何もしないのはプライドに関わる

しかし超人がいるのが厄介だった、あれには勝てない

 

そう考え絶望してた男達の耳に高笑いが聞こえる

 

「あぁごめんごめん、君達を見てると滑稽でさぁ」

 

いつの間にか自分達の座ってる椅子の空いてる所に1人若い男が座っていた

男達は戸惑い困惑する、誰だこいつは…と

 

「初めての方はこんばんは、そうでもない人はお久しぶり」

 

「僕は『A』さん、しがない教祖さ」

 

茶髪の短髪、茶色い目、高身長の細い体、顔は整っておりイケメンの分類に入るだろう

手を大きく広げまるで導いてやらんと言わんばかりの態度と、その自信満々の顔に男達は希望を見出したように立ち上がる

 

全て手のひらの上なのを気づかず




どうも、無理したら風邪をぶり返した私です

今回から1章です、1章のテーマは『超人』です
4人の超人達はどんな人物達なのか…次回をお楽しみに!

では明日のお話で会いましょう


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第10話『超人、須郷雅弘』

 

須郷雅弘、17歳

現在高校2年の学生であり身長は2mピッタリ、学力は高くないが街の不良に好かれる性格をしていて彼の周囲は少し治安が悪い

 

彼は元々超人ではなかった、勿論生まれた時から超人というのはない、彼が超人として目覚めたキッカケは現在不明だが中学生の時に何かがあった模様

 

正義感が強く人助けをよくしてるのをこの街に住んでいたらよく目にするだろう、あの身長と筋肉を見ただけで不良集団が恐怖し舎弟に入る程の威圧が悪さをする人間を見逃さないのだ

 

情報提供 :二日酔いが治ったタヌキ

 

────────────────────

 

ここはエイレーネー日本支部、第1特殊部隊の一室

いつもなら全員何気ない会話を楽しみ笑いに包まれてる筈が今はカオスな状況になっている

 

「あああああああ!!!」

「終わらないっす…終わらないっすよぉ…」

 

発狂する宮島、絶望したように天井を眺める天田

他の隊員達は特にそういった感じではないが、全員忙しそうに作業している現在彼等がやってるのは資料作成

言い換えるなら求人の紙か

現在エイレーネー日本支部は驚異的な人手不足に陥っている…理由としては簡単だ、命が常に危険な職場を望む人なんてそうそういないからだ

しかも、それなりに実力もあり信用に足る人材でなければエイレーネーの情報が漏れる可能性もある

 

「くそ…16、17部隊がヘマして壊滅しなければ作る必要はないんだっ!」

 

と、宮島がドン!と机に拳を振り下ろす

エイレーネー日本支部には47の部隊が存在する

単純に考えると1、都道府県に1部隊いると思って欲しい

 

そして16、17部隊は合同でとある任務を遂行してる時に『何者かに襲われ全滅』したのである

この職場はよく人が死ぬ、いつ隣にいる奴が死んでもおかしくない

だが仮にも訓練された部隊2つが壊滅するのは異常過ぎた

その調査をしつつ、新しい戦力を探す為に求人の紙を作成してるのが現状である

 

「宮島、黙って作れ…現状暇な部隊は俺達なんだからな…」

 

俺達だけで47…今は45だが、その分の部隊の特徴やどんな職場なのか、そしてこの職に合うかどうかなどなど…

ぶっちゃけ俺達のやる事ではないが…広告等をしてる部署に行った時のあの空気、彼等は死にかけていた

仕事量という重圧に…

あと天田はいつものに加えて仕事が増えて絶望してただけなのでスルーする

 

そんなカオスな状況で、目の前の事で周囲に目が届かず一心不乱に作業してた俺達は

誰かが部屋から出ていくのが気づかなかった

 

─────────────────────

 

少女はこの本がとても面白いと思った

手に持ってる本は推理もので調べた結果もう次の巻が発売されていた

 

少女…エンは周囲を見る、全員忙しそうに作業をしている

エンは誰かに買って来てほしかった、彼等だけは多少信用出来たから

だがそんな彼等はちょろちょろと動き気づいてほしそうにしてたエンに気づかず…

だがエンは諦めず自分の財布を探す、見つけた財布の中身は1万円入っていた、これなら足りるだろう

 

深呼吸をし、覚悟を決める…話をしなければ大丈夫、目さえ合わせなければ大丈夫…普通にしていれば『この時代の人間』は怖くはない…と

そう自分に言い聞かせ立ち上がり部屋を出る、運よく誰からも気づかれることなく

 

外に出るのは久しぶりだった、外に出る必要がなく出てもほんの数秒だ…妙に視線を感じながら支部を出て菊野を気づかれないように出る

気持ちはさながら、いたずらする前の子供だ

どんな理由があってエイレーネーにいたとしてもエンはまだ小さな子供だ、感情のまま動き楽しむ…

そんなワクワクしているエンは小走りに、ただしフードを抑えながら街に向かう

 

街はいつものように大勢の人が行き来している、エンは多すぎる人の目線が怖くなった

見られている、蔑まれている、嫌われている、などの負の感情が溢れる、『あの頃』の自分を思い出し泣きたい気持ちになった

だがせっかく来たのだ、目的は達成したい

そう思い、出来るだけ人がいないところに…と歩き始める

 

─────────────────────

 

須郷雅弘はとても無関心だった、ちやほやしてくる人達も、ちょっとテレビに出ただけで凄い凄いと言ってくるクラスメイトも、何もかもがどうでもよかった

須郷にとっては、『お前達俺の事を何も知らないくせに』という話だった

俺の事を知らないのに、目に見える功績に踊らされ昔俺がどんな奴だったかを知らないで…と

 

須郷は街を歩いていた、周囲には人々が超人を一目見ようと野次馬の如く集まっている

ため息を吐き仮面の位置を直す、頭部を丸々覆う仮面…というよりヘルメットが近いだろう

流石にそろそろこの人集りをどうにかしないといけないと思った時

 

「おらぁ!てめぇら!兄貴は見せもんちゃうぞ?!」

 

と、12人のいかにも不良という容姿の男と女が須郷の周囲を囲む、須郷を中心に2m程の空間が生まれる

 

「へへへっ、兄貴!こいつらは俺達がどうにかしますんで!」

「兄貴は早く行ってくだせぇ!」

 

と、いい笑顔で須郷に言う

彼等は元々外から街に入ってきた不良だった、だが今は須郷にコテンパンにやられ

部下を名乗り、舎弟と名乗り、須郷の名が傷つかないようにボランティアや清掃活動を行い須郷の知名度向上に尽力している

 

「…たく、お前ら、程々にな」

「へへへへ…この前作ったクッキーの試食会がここになるとはなぁ!」

 

という声に背を向け出来るだけ人がいない場所を進む、どこに行こうという目的はない

ただ歩いて考えたくなかっただけだ

 

須郷がビルやホテル等の建物群の路地等を歩いている

ふいに空を見ると良い天気だ、今日はいい日になりそうな気がした

が、空を見て歩いていたせいか、曲がり角を曲がった直後誰かとぶつかってしまう、須郷の体格はかなり大きい

ぶつかって相手が勝てるわけなく尻もちをついた

 

「っ…すまねぇ、大丈夫か?」

 

と、須郷が膝をつき少女に安否を尋ねる

少女は真っ青を通り越して真っ白な顔で須郷を見ていた、須郷はその顔が

 

痛いほど分かってしまった




どうも、暑くなったり寒くなったり…日本やばい(確信)

では明日の…って今回の話に全く触れてないですね、まぁ…あれですよ…
主人公の影が薄くなっただけです、えぇ

では明日のお話で会いましょう


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第11話『似たもの同士』

エン 出身地不明、年齢10歳

エイレーネーに所属したのは1年前、とある事件巻き込まれ

仕方なく第1特殊部隊に配属された

彼女は基本無口だ、というより誰も信用してないからか話してないだけかもしれない、同じ部隊の人間と1年一緒にいたが多少意思疎通が出来るぐらいに留まっている

 

エンは詳細は不明だが視線…というよりも人間に怯えている、彼女が感情を制御出来なくなると彼女の『能力』が

暴発してしまいとても危険である

その為極力他人との接触を禁止させるように、例え彼女が大丈夫と言っても

自分の事は自分が一番よくわかると言うが、本当に分かるのは周囲の人間の場合が多い

 

 

情報提供 エイレーネー日本支部

第1特殊部隊 隊長 柏崎悟

 

─────────────────────

 

エンはぶつかってしまった大男を見て一瞬目の前が真っ暗になった、謝罪の前に恐怖が先に出てくる

大男…須郷は何も言わない少女を見てあえて何もせず、ただそこにいる

怯えてる以上、変に動いたり話しかけても逆効果だ…須郷の威圧感と仮面のせいでもはや状態だが

 

須郷はさっさとその場を後にしてもよかったが、目の前の少女を見なかったことにするのはできなかった

昔の自分を見てるようで気に入らなかった

 

 

「おいお前…」

 

須郷が話しかける、数分待ったおかげでエンも平常心を取り戻しどうにか顔を上げる

 

「は…はい…?」

 

小さいが声を出す、話すのは得意ではなかったが喋らなければいけない…今の状況では

 

「お前こんなところで何してんだ?お前みたいなガキがこんな人気ない場所によ」

「ぁ…えっと…こ…これ…」

「ん…?」

 

と突然向けられたスマホの画面を見る、画面には『恋とサスペンス!〜そして突然の死〜』と書いてある

書籍の広告サイトが載っていた

 

「………………お…おう…これを買いに来たってわけか」

 

エンはコクリ、と頷く…題名はともかく須郷は疑問を感じた

 

「ってもよ、ここら辺に本店はないぞ」

「あの…その…人が怖かったから…」

 

須郷はため息を吐く、お人好しの性格だから不良達から慕われるようになったが…

 

「おいお前、俺は須郷雅弘、お前の名前はなんだ」

「あ…えっと…エン…です…」

「よし、エン!行くぞ、ついてこい」

 

と、須郷はドシドシと歩き出す

 

「ぇ…?何処に…?」

「本屋だ、言っとくがお前の為じゃねぇ、俺が行く用事がたまたまあって、お前が丁度同じ目的地だったから言っただけだ」

 

お人好しだから、目の前の少女を放っておけなかった

このまま帰ったらエンはトラウマを抱えてしまうかもしれない、だがら須郷は多少強引でも連れて行くことにした

不器用だが…

 

エンは困惑しながらもどんどん歩いていく須郷に置いていかれないように少し距離を開けてトコトコついて行く

 

…人影か2人を追いかける

 

─────────────────

 

「わぁ…!」

 

と、エンが嬉しそうな雰囲気を出す

人の視線は須郷の方に一斉放火されてるのでエンは比較的に楽に感じられ、尚且つ本屋に来れた事でテンションが上がりあがって店内をうろちょろしている

 

須郷は感じる視線をどうにか振り払い店内をあっちこっち見回り目的の本を探す、近くの本棚から本を1冊抜き取り立ち読みをする

本の内容はかなり難しい、須郷は頭が痛くなってきた為

そっと本を本棚に戻してエンの所に向かう

 

「おいエン、見つけたか?」

「あ、うん!」

 

と、本を見せてくる

『恋とサスペンス〜そして突然の死〜』⑦

とてもふざけてる題名で7巻まで出てるのが不思議だ…

 

「お、おう…よかったな」

「うん!すごうのおかげ!」

 

少し興奮し過ぎてるが、余程嬉しいようだ

 

「んじゃ会計して…」

「あれ?兄貴じゃないですか!?」

 

と、ざわっ…と須郷の周囲の不良達が集結する

 

「兄貴!?その少女はいったい?!」

「ばっか、兄貴は小さい子がきっと大好きなんだ」

「な、なんだってー?!兄貴!流石に小学生はまずいです!せめて中学生にしてくだせぇ!」

 

と、途端騒がしくなる

 

「うるせぇぞ!お前ら!」

「ひえっ…」

「兄貴が怒ったー?!?!?!」

 

と、蜘蛛の子散らすように不良達が散る

その間に女性陣がエンに集まり『可愛いー!』『ちっちゃーい!』

と、わっちゃわちゃ

 

興奮し過ぎたエンはフードが取れてしまったらしくエメラルドグリーン色で長髪の髪の毛が撫でられてるエンの頭に連動してサラサラと動く

 

「わぁ?!うぅ…」

 

突然の事だらけで目がグルグルと回り始める

 

 

そこから不良達の行動は早かった、須郷とエン…エンが買う予定だった本はいつの間にか払われていた

 

2人は不良達に連れられゲーセン、マック、カラオケと2人を連れ回して遊び始める

最初は怖がってたエンも初めての体験が多過ぎ…好奇心が勝って最後のカラオケは知らない曲が殆どだったが全力で歌う程、不良達に溶け込んでいた…

 

「ぁ…あの、今日はありがとうございました」

「いいってことよォ!ってもエンちゃん家まで送らなくて大丈夫だった?」

「不安だしぃー、けど親来るって言ってるしぃー、いいんじゃなぁい?」

 

もう夕方から夜になりそうな時間帯だった、エンはエイレーネーの場所の事もある為親が来る…という事にした

 

「おいエン」

「何…?すごう…さん」

「さん付けは要らねぇ、気をつけて帰れよ」

「うん!ばいばーい!」

「じゃあな」

 

エンが須郷と不良達に手を振る

 

「ばいばーい!」

「気おつけて帰るんだぞー!」

 

不良の1人が応える

 

「ばいばーい!」

「じゃあねぇ〜」

 

女性陣のリーダー的女性が手を振る

 

「ばいばーい!」

「気をつけ(ry」

「帰れねぇ!」

 

エンがばいばいと言う度に1人ずつ反応してエンがそれにばいばい…という謎のエンドレス

放っておいたら何時までもその場で続いてたであろう…

須郷が不良達を無理矢理引っ張ってどうにか終わらせる

 

─────────────────

 

エンはどうやらまだテンションが高いのか意気揚々と歩いている、フードは外してるからしない方がいいとか言われたんだろう

 

どんどん暗くなる街、そしてエイレーネー日本支部は山奥の菊野の所だ、今から歩いて行くと夜中だろう

 

それに気がついたエンは空を見上げて泣きそうな顔になる

 

「出してくれ」

 

と、運転手に声をかけ車を先に行かせ待機させる

俺は歩いてエンに近づき、エンの頭にチョップを叩き込む

ただし威力は低めだ

 

「っ?!?!」

 

ビクッ!と、エンは飛び跳ね恐る恐ると俺の方を見る

 

「よぉ、エン」

 

俺…柏崎がここにいるのが理解できないのか、あわあわ…と慌て始めるエン

 

「まったく…出掛ける時は一声を…って声掛けずらかったか」

 

確かに少しエンを放置してたのもこっちに非がある

 

「んで、どうだった、久しぶりの外は」

「ぁ…すごかった!」

 

と、エンは嬉しそうに話し始める

エイレーネーに来てからあまり話したがらず、俺達とも多くは喋らず…たまにはああいうのに会わせて刺激を与えるのもいいのかもしれない

 

…エンは自分の事を言いたがらない、もしかしたら

『昔のエン』の話を聞ける日も近いかもしれないな…

 

そう思いながら車に乗り込み支部に帰る

 

─────────────────

 

須郷は帰り道を歩いていた、夜になり月明かりない今街頭が唯一の明かりだ

 

「……誰だ」

 

不意に止まり暗がりに向かって呟く

 

「おやおや、流石須郷さん、完璧に隠れてたんですがねぇ」

 

と、コツコツ…と須郷に近づく1つの影

 

「…なんのつもりだ、青葉」

「なんのつもりもありませんよ、少し忠告しに来ただけですよ」

 

メディア界の超人、記者でもある『長内青葉』がそこには立っていた、ピンクの髪にポニーテール、顔は美少女の分類に入るだろう

 

「忠告だと…?」

「えぇ、貴方にとって聞いてても損は無い忠告ですが聞きます?」

「…なんだ」

 

極力、青葉には敵対しないようにする、須郷のような力がある訳では無いが情報操作か大得意な青葉が不機嫌にならないように

 

「ふふふ、須郷さん、貴方とても面倒な方と仲良くなったようですね」

「っ…」

 

これは気づかれてもおかしくはないと須郷は思った

そして青葉は話を続ける

 

「そして2つ目は…貴方を恨んでる人が近々貴方を狙うかもなのでお気をつけて」

「…ふん、そんなの大した事はねぇな…だがなんでわざわざ教えてくれるんだ?」

 

須郷は青葉が何をしたいのかさっぱり分からなかった

 

「そんなの簡単な話ですよ、私達仲間じゃないですか」

 

そう言ってのける青葉の顔はとても良い笑顔をしていた

 

「では私はこれで!」

 

と、去っていく青葉、何をしたかったのか、本当に忠告だけだったのか、それよりも

 

「仲良くなる…エンの事か?…面倒…何言ってんだあいつは」

 

そう呟き、須郷は家に帰る




どうも、昔始めての場所に行った時調子乗って迷子になった私です

今回の話はエンちゃんの初登場!(初ではない)
あっ…ちなみに今回出てきた『恋とサスペンス!〜そして突然の死〜』は
とある友人が小説の題名考えてたので思いついたこれを親切に教えてあげたらマジで恋とサスペンス!〜そして突然の死〜、を書いてました。

冗談が通じないかもしれない時は説明を加えてあげましょう!

では次回、明日のお話で会いましょう


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第12話『予感は確信に』

超人によって栄えた街、その街の華やかさと人々の活気とは真逆に作り過ぎた建物や失敗してしまい職を失った人々が集まってしまっている場所が存在する

 

廃墟になってしまったスーパーやホテル等、一定の範囲で誰もいないある意味ゴーストタウンのようになってしまった場所は街の闇と光を表すように今も尚存在している

 

また密売人や麻薬組織、ヤクザやマフィアが居るなど噂が後を絶たず、復興をする企業もおらず

そんな光が強くなった反面闇が深くなったのがこの街だ。

 

街の知識 著作:情報屋 酔っ払いタヌキ

 

─────────────────────

 

土曜日、朝の10時を過ぎ清々しい日だ

そんな良い日のとあるオシャレなカフェに6人の人影が座っている、その中でもとてもイケメンオーラを撒き散らしコーヒーを優雅に飲む男

 

「あの柏崎さん」

 

そう!その男こそ俺こと柏崎悟だったのだっ!

 

「あれ、聞こえなかったっすかね」

 

その姿は細マッチョの高身長、そしてブラックコーヒーを1口…うん美味い

 

「高身長はともかく今飲んでるの砂糖めちゃくちゃ入ってるくそ甘いやつっすよね?」

 

外野がうるさいが無視する

 

「誰が外野っすか!てか柏崎さん」

「んだよ天田」

「…1人で何ブツブツ言ってんすか…?」

「………画面の向こうの君は怪しい人を見つけたら目を合わせないようにするんだぞっ!」

「あ、すいません通報したっす」

 

なんて奴だ、お父さんそんな子に育てた覚えありません

とまぁ、そんなどうでもいい茶番はここまでにして…

俺達、エンを除く第1部隊の全員がおり各々好きな飲み物を頼んでいる

 

「私としては猫カフェの方が個人的にとても良かったのですがね」

「私はどこでもいいから別にって感じよねぇ〜…あ、カプチーノ1つ」

「俺はコーラっ!」

「ふん、私は暇ではないのだがな………オレンジジュースを頼む」

「私はコーヒーで」

「あ、私はこのチーズケーキがいいっす!柏崎さんゴチになります!」

「んー?天田いい加減にしないと手が出ちゃうぞー?」

 

まぁこれも経費にねじ込むとして、何故俺達が集まってるのか、それは…

 

「しっかしよぉ、意外だなぁ」

「ん?何がでしょう?」

「エンだよエン、あいつ来てから俺達ともまともに話せなかったくせにあいつらと喋るようになるってのがよ」

「分かるわぁ…私としては気を使ってたんだけど逆効果だったかしらぁ…」

 

現在遠くに見えるゲーセンにエンと須郷、そして取り巻きの不良達が入って行くのが見える

エンが須郷と接触した事はすぐに仲間達の間に広まり現状このままで良いかどうかの確認中である

かれこれ5日経つが…

何故確認をするのか、それは須郷は超人でエンはエイレーネーの人間だからだ…現エイレーネーの方針としては超人に存在を知られるのは限りなく無くす事だった、超人も十人十色…必ずしも協力的とは限らない

 

その上超人は普通ではない、どんな思考回路なのか…例え協力を得られたとしても昔は裏切られ手痛い損害を出してしまった実例がさらに接触する可能性を潰す

 

つまり今エンはかなり危険な状況とも言える、須郷がもしかしたら…という可能性も無くはないから

 

「ま、見た限り普通にエンは楽しく遊び須郷は特に何かするわけもなく、ただ振り回されてる感がするな」

「そうですね、エンさんに良いお友達が出来て私嬉しいです」

「良い友達…?なのだかはこの際置いとこう」

 

矢本があれを良い友達と考えるならそうなのかもしれない

…まぁパッと見楽しそうに遊ぶ学生に付いてきた妹的な普通に見える

 

「ま、大丈夫そうだから解散」

「柏崎はどうすんだよ?」

「そうっすよ、柏崎さんも帰って仕事するっすよ」

 

残業が続く2人が俺に色々と言ってくる

 

「俺はまだここに居る…というか…まぁお昼過ぎまでは監視だな…念の為」

「えぇー!柏崎さんだけずるいっすー!私も残って美味しいもの食べたいっすよぉ!」

「矢本、連れて行け」

「はい、では行きましょうね」

「あぁぁぁぁ!?嫌だぁ!もう資料作業は嫌っすあぁぁぁ!」

 

最後ちょっと語尾が怪しくなってる天田と宮島を連れて矢本達は支部に戻って行った

 

「さて、すみませーん!チーズケーキ1つ!あ、料金はここに請求しといてくださーい!」

 

───────────────────────

 

「むぅ…」

「エンはクレーン弱ぇな」

 

ゲームセンター、そこでクレーンゲームに興じてるエンとそれを見守る須郷

他の不良達は各々好きなゲームをしに行ったようだ

 

「これ…取れないよ…」

「んだよ、根性ねぇな…」

「取れないんだもん…っ!」

 

最初出会った時の怯えた雰囲気は感じない、良くも悪くも不良達の陽気な空気に当てられ元の自分を出せるようになったようだ

まだ誰かが近くを通ると怯えるが…

 

「…なぁエン、お前はなんで俺達と一緒にいるんだ?学校のダチや家族がいるだろ」

「………」

 

エンはクレーンゲームの方を見ながら何も言わない

突然の過ぎたか、あまりプライベートの事を聞くべきじゃなかったと須郷は後悔する

 

「…私…ずっと1人だったの」

 

チャリンと100円入れてクレーンゲームを始める

 

「ずっと1人で、お父さんもお母さんも居なくて、友達もいなくて…ずっと化物って言われて…石を投げられて…」

「…………」

 

須郷は何も言えなかった、こんな小さな少女が抱えている事を聞いて言葉が出なかった

 

「けどね…私…今は楽しいよ、だって知らない事だらけで…すごうが色々教えてくれて…皆が優しくしてくれて」

 

ウィーン…とクレーンが動く

 

「だから、その…私は皆が良ければずっと一緒にいたいなって…」

 

クレーンは景品のぬいぐるみをガッシリ掴み動いていく

そして…ポトっと下の取り口に落ちる

 

「えへへへ…これあげるね」

 

と、ぬいぐるみを須郷に渡す

あまり可愛くないぬいぐるみだ、だが須郷はとても暖かい気持ちになった

 

「…あぁ、俺達はお前を拒んだりしねぇ、好きなだけ居ろ、あいつらも拒みはしねぇからよ」

 

須郷はエンの頭に手を置き撫でる、もしかしたら、エンと不良達なら、打ち明けれるかもしれない『自分の秘密』を

 

「なぁ…エン…」

 

と、言った時、違和感を感じた、言葉を発してる時周囲にいた不良達が見えない

 

「…まて、おいエン、あいつらどこ行ったかしらねぇか?」

「ぇ…?知らないよ…?」

 

嫌な予感がする、青葉の言葉が頭の中で思い出し…そして予感は現実に確信した

 

『須郷雅弘、お前の仲間は人質として捕まえた、返して欲しければ廃校、体育館まで来るように』

 

須郷は走り出した、また自分のせいで誰かが…




どうも、ちょっと話の流れを見返してたら茶番が多かったのでカットォ!
して、ちょっと急展開っぽくなってしまって深く反省している私です

いやぁ…まぁ…茶番が2話分ってどうなんですかね、やはり休憩的な意味合いで出した方がいいんですかね…

では!また明日、次の話で会いましょう


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第13話『破壊の力』

人間界の頂点にして人々の希望である超人

そんな超人達は腐っても人間、様々な要因で負け、死亡してしまう事が多い

また超人は常識の中でその強さが猛威を振るうが常識外…つまり魔術や能力者に弱い傾向がある

 

超人に対抗するように存在し確実に抑止力となる魔術と能力者は誰かの差し金か…はたまた、ただの偶然か

 

『世界の理』著作:情報屋 酔っ払いのタヌキ

 

────────────────────

 

須郷雅弘は超人として目覚めたのは中学2年生の時だった

まだやんちゃ坊主だった雅弘少年には弟がおり、また父親が格闘家で強盗犯を捕まえたり等、須郷少年もこの時から超人としての片鱗は見えており父親と一緒に戦った

 

雅弘少年は父親を誇りに思っていた

 

が、良い事ばかりでは無かった

人の為に警察に協力する雅弘と父親を邪魔に思ったマフィア組織が雅弘とその弟を誘拐したのだ

雅弘少年は弟を守る為に奮闘したが捕まり

そして1人でやって来た父親が交渉をするが

マフィアは父親を脅す為、雅弘の頭に硫酸をかけた

 

刺すような痛みと、耐えられない激痛

 

理不尽な悪意

何故助けてくれないのかという父親に対する怒り

 

そして全てが憎くなった雅弘は超人として覚醒する

 

 

須郷が自我を取り戻した時、まず見えたのは苦しそうに

咳をして壁に寄りかかってる弟とその目の前にいた自分だった、弟の喉には手跡が付いており、須郷の手はまるでついさっきまで『弟の首を絞めてたように』思えた

 

周囲を見るとそこら中に人と血液が散らばっており

父親もその1人になっていた

弟は自分を見て怯えている、全身は血塗れだ

須郷雅弘は超人としての力を『破壊するだけ』に使ったのだ

 

それからは、須郷は超人として、弟は親戚を頼って違う街に行ってしまった

須郷雅弘は孤独になり、色々どうでも良くなった…が

 

「アイツらのお陰で変わったんだっ…!」

 

街中を走る須郷はそう昔の自分の考えを否定する、あの陽気な不良達によって孤独ではなくなり、また誰かの為に戦えるようになった、だから

 

「もう誰も失いたくない…っ!」

 

時刻はもうお昼に差し掛かる、須郷は自分を急かして目的地に急ぐ

 

────────────────────

 

呼吸を整え須郷は校庭を歩く、ここら辺も無理やり土地を使って建物を作ったが経営が苦しくなり無くなっていった建物が多い

罠だ、そう考えるのが妥当だが須郷は逃げるわけにはいかない

 

体育館の扉を開ける、中は薄暗い…2階の窓は全部板で塞がれておりそのせいだろう

中には入ると奥に人影が何人も見える、その内の椅子に座っているリーダー格のような男が須郷に気が付き

 

「よぉ?ちゃんと来たんだな、まぁ来ないとこの大切なお仲間は大変な事になってたけどなぁ?」

 

と、近くに座っていた不良の1人を蹴る、苦しそうな声が聞こえ須郷は苛立つ

 

「おいてめぇ!うちの奴らに何しやがる!」

「怖ぇ怖ぇ…まぁあれだ、交渉といこうじゃねぇか」

 

と、リーダー格の男は立ち上がり須郷にニコニコとした顔を向ける

 

「交渉だと…?」

「ちょっと他の超人達の情報を集めててなぁ、超人の事なら超人に聞くのが早いと思ってなぁ?つまり俺達が納得出来る情報話せばこいつら全員解放するぞって話だ、理解出来たか?」

 

そう言って肩を竦める、須郷に拒否する事は出来ない

だから須郷は

 

「あぁ、話す、だから約束は守れよ」

「話が早くて助かるな!んじゃ話せ」

 

教えるしか無かった、他の超人より、不良達の命の方が大事だったから

それから須郷は他の超人達の名前や住んでる場所、誕生日から電話番まで言い

そして超人としての力も話した

 

「…これで全部だ」

「ほぉほぉ、流石超人だなぁ、俺達が知らなかった事も知ってやがる」

「さぁ、もういいだろ!そいつらを解放しろ!」

 

と、須郷は気苛立ちを隠さず声を大きくして言う

 

「あぁ、んじゃ縄を解いてそっちに行けるようにするよ」

 

そう言うと他に居た4人の人影が不良達の縄を解く

 

「あ、兄貴!」

 

縄を解かれた不良達は一直線に須郷の元に向かう

怖かったのか中には泣いている女性陣もいた

 

そこからは須郷にはスローモーションに見えた、須郷の元まであと数メートル

そんな不良達に『拳銃』を向けているリーダー格の男が

 

「お前ら!」

 

言うのが早いか動くのが早いか、須郷は不良達を守るように飛び出す

乾いた音が数回、それは須郷の腹部と足と右肩に当たった銃弾を撃った音だ

超人と言えど人間である須郷、銃弾は貫通はしなかったが深く突き刺さってしまう

 

「ヒュー…カッコイイじゃねぇか?ヒーローさんよぉ」

「てめぇ…俺に殺されたいらしいな…」

 

普通なら重症だが、須郷は何事も無かったように筋肉をほぐして目の前の敵を見る…奴等は壊していい敵だ

拳を構え、その驚異的な攻撃をする…瞬間、須郷の体から玉虫色の槍が生える

なんの事か、須郷は理解出来なかった

背中から体を貫通して槍が出てきたらしい

 

背後を見る、そこには仲間達が居るはず

 

背後には口から玉虫色の液体を垂らし、玉虫色の槍の柄を手に持ち虚ろな目をしている不良が立っていた

その周囲には玉虫色のナイフや包丁等の武器を握った不良達が立っていた

 

「おま…え…ら…」

 

須郷は拳銃の弾以上の痛みを感じ膝をついてしまう

 

「はははははは!いやぁこれはすげぇや、まさか護身用に持たされたのがこうも使えるとはなぁ」

 

と、リーダー格の男が近づいてくる

須郷の体は凶器を持った不良達に無理やり押さえつけられ身動きがとれない

超人の力を使えば拘束を解くことが出来る…が、須郷は自分の力の調整が出来ない

1から100まであるとするなら、1か100しか選べない

100の力を出すと不良達は吹き飛び…壁に叩きつけられて

最悪死んでしまうだろう

 

「おいおい、大丈夫か?苦しそうな顔してよっ!」

 

と、須郷を蹴る

ダメージは微々たるものだが、須郷の冷静さは無くなっていく

 

「仲間だった奴に裏切られる気分はどうだ?今お前とっても良い顔してるぜ?はははははは!」

 

蹴りを何度も何度もする、その度に須郷の平常心が無くなっていく

 

「おいおい、そんな睨むなよ、って顔くらい見せたらどうだよ?」

「っ!」

 

そう言って須郷の仮面を蹴り飛ばしてしまう

 

「ぷっ!ははははは!なんだよその顔、きめぇな!」

 

あらわになった顔、その顔はただれていた、須郷の弟が怖がり拒絶し

そして須郷の忌み嫌う超人の力が覚醒した原因

 

「んだよ、こんな化物みてぇな奴に俺ら怯えてたのかよ!バッカみてぇだな!こんなっ!そりゃ隠したくなるよなっ!そんな顔じゃ誰もお前に接してくれないよなっ!と」

 

何度も何度も蹴る男に須郷は何も言えなかった

 

「ん?おーおー、死ぬなよ?お前は殺すつもりだったが…この力がありゃ俺はこの街を掌握出来る」

 

そう言うと1枚の紙を取り出し

 

『酷使せよ、死者の手』

 

と、唱える

すると不良達の体から玉虫色の液体がどろりと出てくる

槍やナイフ等も液体になり不良達は地面に倒れる

 

玉虫色の液体は1箇所に集まるとゆっくりと須郷の体に近づき、傷口から体内に入っていく

 

「がっ…!」

 

傷口から何かが入ってくるのが感じるが、体の自由が効かない

 

「お前を使えばそんじょそこらの奴らには負けねぇだろ…あの胡散臭いガキの言う事を聞く必要もねぇしな」

 

と、ブツブツと何かに対して言う

須郷は最後の抵抗として、リーダー格の男を睨む

 

「ん?なんだその目はよ、くくく…まぁいい、まずはお前の顔を仮面付けないまま街を歩かせてみるか、超人のお前がこんな化物みてぇな顔だとさぞ街の奴らは怖がるだろうなぁ」

 

と、面白い事を考えた子供のように言う

須郷はもうどうでもよかった、ただ1つあるとすれば、あの少女には見られたくは…

 

『すごうは化物じゃない!』

 

どこからか、少女の声が聞こえた

身体中を侵食されているのを感じながらも周囲を見る

 

体育館の入口に1人の少女が立っていた、急いでたのかフードを被らずその綺麗な容姿を隠さず

 

「え…ん…」

 

掠れた声で少女の名前を言う

なぜ来た…という意味を乗せて

 

「あん?…あぁ、こいつと一緒にいた子供か…なんだい嬢ちゃん?家はここじゃないぞ?」

 

冗談を言ってみる、だが少女の顔は怒った顔のままだ

リーダー格の男は舌打ちをしながら少女に言う

 

「おいおい、嬢ちゃんよ?お前どうしたいんだい?言っとくが須郷雅弘はもう俺の駒になったぞ?」

 

そう言って何かを指示する、須郷は掠れていく思考の中で最後にこう思う『逃げてくれ』と

傷口から玉虫色の液体がポタポタと垂らしながら須郷は起き上がる…だがその目は虚ろで意識があるようには思えない

 

「すごう…すごうを返して!」

「返して?はぁ?突然何言ってんだこの嬢ちゃん?そんな事言えるような立場じゃないだろ?ん?」

 

と軽く脅すリーダー格に怯むエン、勇気を出したとしても

エンにとっては怖い者だ

 

「おいお前ら、あの嬢ちゃんを捕まえとけ、そういうヤツらに高く売れそうだ」

「…!ぁ…いや…」

 

やってくる2人の男に怯える、が勇気を振り絞って声を出す

 

「皆を返して!じゃないと…」

「じゃないと?じゃないとってなんだい嬢ちゃん?君1人でどうにかなるってのかい?ん?」

「で、できなくても…!」

「意気込みだけじゃ何も救えないんだよ!嬢ちゃんみたいな小さいガキが何か出来ると思ってんのか?」

 

エンは言い返そうとするが近づいてくる男2人のせいで足が竦む

恐怖で震える事しか出来なかった、リーダー格の背後に立つ見慣れた姿を発見するまでは

 

『んじゃ5人追加だ』

 

キラリと何かが光る、リーダー格の男の首筋付近でキン!という金属同士がぶつかる音が聞こえる

 

『っと、いいアーマーを着てるな』

 

リーダー格の男の首筋には玉虫色の液体が滴っていた

エンに近づいていた男2人も殴られ、切られるが玉虫色の液体によって守られていた

 

『さぁ、正義執行の時間だ』

 

そう言い柏崎と第1特殊部隊は戦闘を開始する




どうも、エンちゃんが可愛い、わたしです(?)

いつもは2500文字くらいでぱぱっと読める感じにしてるんですが、今日は4000文字になりました…明日はもっと長くなる気がするなぁ…()

では明日、また次のお話で会いましょう


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第14話『守る為の力』

魔術には様々な種類があり、一般的には

1、肉体に直接攻撃をする魔術

2、召喚や移動等の魔術

3、次元をねじ曲げる高度魔術

4、精神汚染をする魔術

 

が魔術師達の中で認知されている、これらの魔術も極めれば強力なものになり極めた者を『大魔術師』と呼ばれる

 

『魔術の本』著作: 情報屋 酔いどれタヌキ

 

───────────────────

 

ここは何処だろうか…懐かしい感覚だ…

 

そう思った須郷雅弘は周囲を見る、板の床に広い空間

壁には須郷と弟と父親の写真…

 

「ここは…道場…か…?」

 

須郷家が運営していた格闘技道場、今は無い思い出の場所に須郷は立っていた

 

「…早く帰らねぇと、エンを、アイツらを助けねぇと」

 

出口に向かって進む須郷、だがその道を阻むように2つの影が現れる

それは、弟と須郷に硫酸をかけたマフィアに見えた、弟は何故か昔の姿だが…

 

「なんだ…お前ら…」

 

2人からは明らかな敵意を感じる

 

「…そうかよ、すまねぇな、俺は戻らなくちゃならねぇんだ!」

 

構えも何も無いただの喧嘩する時の構えをする

 

────────────────────

 

俺達が着いた時にはもう大体手遅れだった、支部に行った奴ら呼び戻して装備ならなんやらしてたら時間がかかってしまった

俺達が来た瞬間、嫌な笑顔をしてた4人の男とリーダー格の男は体育館を出て逃げ出した…っておい

 

「逃がすかよ!宮本と雨宮と矢本はあいつら追え!」

 

ガスマスクを外しながら言う、この際顔ぐらいバレても構わない

 

「了解しました、隊長は…」

 

と、矢本もガスマスクを外して問いかけてくる

勿論、俺と宮島は…

 

「あの超人の相手だ、流石に勝てねぇから早めに倒してくれよ」

 

虚ろながらも構えてる須郷が視界に見える、あれを抑えるのも骨が折れるだろうな…

 

「宮島、いけるか?」

「おうよ!ぶっ飛ばしてやるぜ!」

「無理だと思うが…まぁいい、行くぞ!」

 

俺と宮島はそれぞれ左右に別れ挟み撃ちにするように動く

その間に宮本と雨宮と矢本は逃げた奴らを追う

 

「くらえやぁ!」

 

と、宮島の大ぶりな拳を右腕で受け止め、受け止めたまま振り上げる

ただそれだけ、それだけの動作で宮島の足は地上から離され吹き飛ぶ

 

「ぬわああああ?!」

「宮島!っと」

 

ナイフを振り下ろそうと近づいてたが、後ろに跳躍する

俺が居た場所を須郷の蹴りが通り突風が起きる

その煽りに当てられよろめいてしまう

 

「ちょっと振っただけでこのパワーかっ!」

 

恐らくいつもはセーブしてるのだろう、だが自我という枷が外れ全力の攻撃をしている

 

「宮島!大丈夫か!」

「おう!つっても強ぇな!燃えてきたぜ!」

 

馬鹿だがこういう根性がある奴がいるだけでやれると思える、だが…

 

「もって10分…か」

 

長くは持たないだろう、そう考えるのは必然だった

 

「…すごう…」

 

エンはその場にいた、だが何も出来ずただ立ち尽くしている

この場での彼女は無力だった

 

─────────────────────

 

「くらいやがれ!」

 

拳で殴ってくるマフィアの奴の攻撃を受け止め思いっきり振り上げる、すると道場の壁に叩きつける事に成功し

 

「小細工は通用しねぇぜ!」

 

と、左から来ていた弟に蹴りを放つ

だが後ろに大きく跳躍され避けられたが風圧でよろけさせる事が出来ただけでも上々だった

 

「てめぇら、中々やるじゃねぇか」

 

と、須郷は素早く動きマフィアに拳を振り下ろす

マフィアはなんと拳を振り上げ須郷の拳を受け止めたのだ

 

「へっ!根性あるな!だが押し負けてるぜ!」

 

須郷のパワーが断然高くマフィアは膝をつく

が、ここで弟が須郷の両膝裏を蹴り須郷のバランスを崩してくる

須郷は一旦横に横転して体勢を整える、戦いずらい…が

 

「いいじゃねぇか…そうなくっちゃな」

 

指をバキバキと鳴らし

 

「さぁ!こい!」

 

と、言う、出る事など忘れて

 

 

───────────────────

 

 

「うぉぉぉぉぉぉ!根性ぉぉぉぉぉお!!!」

 

須郷の拳を自分の拳で受け止める宮島、無茶ばかりしやがって…

俺は須郷の背後をとり膝裏を蹴る、そしてそのまま背中を蹴る反動で後ろに下がる事に

 

「すまねぇ隊長!」

「おう、宮島気をつけろ?もう何回能力使った?」

「まだ4回だぜ!」

「…もう4回か…出来るだけ攻撃をくらうなよ?」

「無茶言うぜ!」

 

まぁかなり無茶だな…が

 

「宮島!俺に続け!」

 

ナイフを握り須郷の真正面から接近する

宮島もそれに続く、須郷は接近する俺に向かって拳を振りかぶる

飛んでくる拳の腕に手を置いてそのまま須郷の背後に跳躍する、かなりスレスレだったが上手く行くものだ

 

「宮島!」

「行くぜぇ!根性ぉぉぉぉお!!!」

 

宮島は能力を使いつつ須郷にの胴体に拳をぶつける

普通ならこれで気絶だが

 

…そこで俺の意識は一瞬途切れた、意識が戻ったのは俺は空中を横に飛んでいた時だった

 

「っ!」

 

慌てて受け身をとるが、明らかにダメージがデカい…

そして頬にはかなりの激痛を感じる、ヒビが入ったな

 

「おい隊長!」

 

と、須郷と戦闘をしてる宮島が心配そうな声を出す

俺はどうやら…須郷の裏拳をくらい吹っ飛ばされたようだ

無意識に殴られた方に体を回転させたみたいだが…

 

「っ痛ぇ…」

 

受け流してもこのダメージはキツすぎた…何かしないと保てないぞ

 

「かしわざきっ!」

 

と、エンが近寄ってくる

 

「っ!来るな!」

「ち、違うの!お願い、私をすごうの所まで連れてって!」

「はぁ?!」

 

何を言ってるか一瞬理解出来なかった、少し脳震盪を起こしてるようだ…だがエンの能力を思い出し

 

「…くそっ!だが…いけるか…?」

 

1歩間違えれば全滅だ、だがエンしか今の所打開策がない

 

「…ミスるなよ、エン」

「…!うん!」

 

エンはとてもいい返事をする

 

「隊長早く戻ってくれ!流石にキツイ!」

「宮島!あと何回残ってる!?」

「あぁ?!…あと2回だ!」

 

あと2回…いけるか!?

 

「一瞬でいい!時間を稼いでくれ!」

「………俺を誰だと思ってんだ隊長!そんなの5秒くらい作ってやるぜ!」

 

頼りになる奴だよ、まったく

 

「エン、しっかり掴まってろ?」

「う、うん…」

 

エンを背負いタイミングを見計らう、間違えたら終わりだ

 

「宮島!やれ!」

「行くぜぇ!根性ぉぉぉぉお!!!」

 

攻撃を避けてた宮島が須郷の拳をまともにくらう、が吹き飛ばず耐え

 

「お返しだこんちくしょうめ!」

 

と、逆に須郷をぶん殴る…いやお前な…だが

 

「よくやった!エン今だ!」

 

と、須郷に接近してエンに合図を送る

エンは俺から降りて身長の関係で太ももに手を置き

 

「…すごう」

 

能力を発動する

 

─────────────────────

 

弟とはあれから連絡すらしていない、あいつは俺を恨んでるだろう

俺は超人やらなんやら言われてるが結局の所ただの臆病者だったんだ…

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

くそ!くそ!くそ!

 

須郷は苛立っていた、この2人が抵抗してくるからだ

弟はどうにか当てたが、マフィアの奴が厄介だった

 

『壊さなくては、全部を』

 

嫌な声が聞こえてくる

 

『憎め、苦しめ、抗え、潰せ』

 

違う…違う違う違う!俺は…!俺は!

 

 

 

「…いつまで、そうしてるつもりだ?雅弘」

 

懐かしい声だ、昔を思い出す、弟と一緒に格闘技を覚えていた時によく聞いた声だ

疲れて面倒になって休憩してた時によく言われた言葉だ

誰が言ってただろうか…

 

「まったく、人様に迷惑をかけるとは何事か」

 

これもよく言われた、他校の奴と喧嘩した時に言われた…

誰が呆れてたのだろうか

 

「雅弘、お前は強い人間になれ、誰でも守れるように」

 

稽古をしてる時よく言われた、だが今は守るどころか…

 

「雅弘、お前は自慢の息子だ」

 

 

 

 

 

「おや…じ…?」

 

顔を上げる、誰もいない、弟もマフィアも

出口を見る、外には不良達が俺に手を振っているのが見える

 

そしてエンも見えた、とても悲しそうな目をしている

 

父親の事はあの時は恨んでいた、何故もっと早く助けてくれなかった…と

だが今は

 

「……そうだな…親父…俺は…守れる人間になるぜ」

 

そう決意した時、道場はガラスの様にバラバラになり

崩れていく

 

──────────────────

 

起きた時、須郷は天井を眺めていた

 

「すごう!」

 

と、テシッと何かが須郷に張り付く、顔を上げるとエンが俺に抱きついたようだ

 

「エン…か…ここは…」

「体育館だよ、あー顎痛ぇ…」

「てめぇは…」

「おっと、俺達は敵じゃねぇよ、エンの保護者みたいなもんだ」

 

と、手を振る

小柄な男と赤髪の男は傷の手当をしている

 

「…迷惑かけちまったみてぇだな…」

「本当にな」

「すごうは迷惑じゃない…っ!」

 

エンが小柄な男に言い返す

 

「エンお前なぁ…まぁいい、時間が無い」

 

と、小柄な男は須郷の前に立つ

 

「俺は柏崎悟、そっちの赤髪は宮島敦」

「てめぇ!良い根性してるじゃねぇか!お前の拳効いたぜ!」

 

と、サムズアップしてくる

 

「須郷…超人須郷雅弘、お前に頼みたい事がある」

 

と、言う男…柏崎は須郷に言う

 

「まぁ簡単な事だ、俺達は今敵と戦闘中なんだが如何せん戦力が足りなくてな」

「…戦えって言うわけか?」

「ご名答」

 

須郷は今の自分の体を見る、腹は貫通した跡があり所々銃弾で穴だらけだった

 

「この状態じゃ無理だ」

「何、エン、出来るか?」

「が、頑張るっ!」

 

と、エンは須郷の体に手を置く

するとエンを中心に淡い緑色の光が広がり、そして須郷の傷がどんどん治っていく

 

「なん…だこりゃ…?治ってる…?」

「正確には巻き戻ってる、だがな」

 

巻き戻ってる…?須郷が聞き出す前にエンは能力を切る

 

「す、凄い緊張したよぉ…」

「お疲れさん」

 

ヘタァ…と座り込むエンは安堵した顔だ

 

「よし、早くあっちに合流するぞ」

「行くぜぇ!」

「…ちっ、たっく…」

 

と、立ち上がる…体の傷は本当に塞がっているのが分かる

 

「あ、すごう…これ」

「ん?」

 

エンは何かを渡してくる、仮面だ、あの時蹴り飛ばされた

 

「ありがとうな…だが…もう俺には必要ねぇ」

 

受け取り、仮面を粉々に砕く

あの頃を思い出さないようにして隠してた仮面とも今日で終わりだ…近場の壁を調整しながら殴る、いつもなら壁は粉砕されるが、軽くへこむ程度に抑えられる

 

「もう『破壊する力』はおしまいだ」

 

そう言って須郷は柏崎達の後を追う

『守る為の力』をその手に宿しながら




どうも、幼少期、大人になったらなんか凄い事に巻き込まれてヒーローになれると思ってた私です

超人といえど、中身は未熟な子供…という感じです、これから須郷雅弘はどんどん成長していくことでしょう

では明日、また次の話で会いましょう


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第15話『一瞬の油断』

本日のタヌキは終了しました、次のタヌキにご期待ください

 

情報屋:夜逃げ中のタヌキ

 

────────────────

 

時間は少し遡る

 

矢本美鈴は校庭にいる4人組とリーダー格の男がニヤニヤと笑ってるのに違和感を覚えた

 

「宮本さん、何故彼らはあの様に笑ってるのでしょう?」

「ふん、どうせ女ばかりだと舐めてるに決まってる」

 

と、宮本は吐き捨てる

本当にそれだけなのだろうか?とても嫌な予感がするが

気にする必要はないだろう

 

「ふむふむ、では始めましょうか」

「早めに終わらせなければ…」

「何を急いでるのぉ?」

「宿題が終わってないんだっ」

 

という話をしてるとリーダー格の男が話しかけてくる

 

「やぁやぁ麗しきお嬢さん達、私達はちょっと悪い事をしただけで君達に狙われるような事はしてないのだが?」

「ほう?では身柄確保に協力してくれないか?」

「無理だなぁ、俺達は無実だしなぁ」

 

と、おどけた調子で答える、それに宮本はイライラし始める

 

「まったく、困ったわねぇ…さっさと捕まえて、後は隊長達に任せてもいいんじゃなぁい?」

「その通りだな、副隊長はどう思う?」

「私は構いませんが、彼達が大人しく聞いてくれるといいんですけど…」

「有り得んな」

「ですよね…」

 

リーダー格の男と4人組はニヤニヤしてるが明らかな敵意を出している

日本刀に手を添えて、ふと思い出す

 

「そう言えば副隊長、今…太陽が照ってるが能力は使えるのか?」

 

矢本は少し考え

 

「満月でもなければ夜でもないので無理ですね!」

 

と、元気よく答える

 

「あ、私も援護は出来るけど戦えないからぁ」

「うーん、使えない副隊長と同僚だなぁ!」

 

宮本は考えるのをやめた…自分しか戦える人がいないらしい

 

「副隊長と雨宮は私のサポート!接近し過ぎないようにっ!」

「はぁ〜い」

「了解しました」

 

苦労人である宮本は泣きたくなった、この人達自分の得意分野じゃないからって適当に言ってる

 

「ちっ、やっぱ戦うしかないよなぁ、おめぇら!女に負けるなよ!」

 

リーダー格の男が他の仲間に言う

宮本は日本刀に手を添えつつ体を倒し走り出す

居合の構えをとり、1番近い…この場合男Aとしよう、男Aに日本刀を振るう

 

が、日本刀と玉虫色の液体が接触して火花を散らす

 

「くっ!」

 

あまりの硬さに一旦後ろに下がる、手は軽く痺れていた

 

「宮本っ!」

 

雨宮がカバンからビー玉サイズの鉄球を数個取り出し敵全体に投げつける、あまりコントロールは良くないのか何個かは外れるがそれでも1個、男Bに当たる

しかし、それも玉虫色の液体に当たって地面に落ちる

 

「ちょっとー!なによあれ、あんなのあったら私の攻撃意味無いじゃない!」

 

文句を言う雨宮に男Bが玉虫色の棒を振りかざす、間一髪避けるがそれでも危険だった

 

男A、C、Dはそれぞれ玉虫色の武器を持ち宮本にAとC

矢本にDが向かい全員戦闘する形になった

ただ1人、リーダー格の男は全員の行動を観察していた

 

───────────────────

 

宮本は焦っていた、仲間と分断された上に2人は現状戦える状況じゃない事がさらに宮本を焦らせる

 

「くらえ!」

 

男Aが玉虫色のナイフを振りかざす

とっさに男Aの方を見て能力を発動させる、すると男Aの動きの『先が』見えるようになる

男Aは振り下ろしたナイフを宮本の右肩に突き立てそのまま押し倒し首を切る…という未来が見えた

 

宮本はすぐさま日本刀を切り上げ玉虫色のナイフを弾く

そしてそのまま男Aの胸元を蹴り男Aと距離をとる

 

「全くもって好きになれん能力だっ!」

 

そのまま日本刀を男Aに振るがまたしても玉虫色の液体に弾かれてしまう、どうやらこの玉虫色の液体は男達の体に入りまるで生きた防具のようになってるらしい

 

「っ!」

 

男Aとの戦闘に集中し過ぎ、男Cの攻撃に気づかなかった為

玉虫色の棒の様なもので背中を殴打される、背中に激痛が走るがどうにか耐え日本刀を下から背後に向けて切り上げる

が、またしても玉虫色の液体に弾かれてしまう

 

「勝てるのか…?」

 

そう思いつつ、日本刀を構える

勝てるか勝てないかじゃなく、勝たないとならないから

 

──────────────────

 

「困りましたね」

 

矢本はそう言って目の前の男Dを見る、手には玉虫色のハンマーが握られている

 

「あ、平和協定とか興味ありませんか?」

「うるせぇ!このアマが!」

 

と、男Dはハンマーを大きく持ち上げ振り下ろす

矢本は何もせずただ、振り下ろされるハンマーを見て

 

「あ、夜ではないですけど一瞬なら使えるんでした」

 

と、右腕を振り上げる

すると右腕に絡みつくように白い風が吹き大きな鉤爪を作る、鉤爪はハンマーに当たると横にずらした

鈍い地面を叩く音が響き、男Dの動きは一瞬止まってしまう

 

「あ、隙ありです」

 

と、鉤爪を男Dに向けて突くが、やはりと言うべきか玉虫色の液体に弾かれてしまう、そして鉤爪は霧散して消えてしまった

 

「む、やはり長くは保てないようですね」

 

と、困ったように考え込む、男Dはその間にハンマーを持ち上げ下がる

 

「どういう原理なんですかね」

 

魔術の事なんてさっぱりな矢本は無くなった鉤爪を生成する為に能力を発動する

 

───────────────────

 

「ちょっとちょっとー!私戦闘なんて無理よぉ!?」

 

全力で走る雨宮とそれを追いかける男B、足はそこまで遅くない雨宮は出来るだけ全力で逃げ

逃げる合間に能力を使いつつ鉄球を投げてみる

が、玉虫色の液体に阻まれて当たりもしない

 

「なんか私だけ難易度高いと思うけどぉ!」

 

人生でここまでダッシュしたのは初めてかもしれないと言うほど走り…突然男Bが音を立てて倒れる

 

「え?」

 

男Bの頭の側頭部に穴が、雨宮はこれを銃弾の穴と理解した瞬間安堵し座り込む

 

「はぁー…助かったわ…助かったわ、雨森」

 

と、トランシーバーを使い仲間に感謝を言う

 

 

────────────────────

 

地上から50mの高さあるビルの屋上、そこに2人の男女がおり1人は双眼鏡を使い遠くを見ており1人は寝転がって『スナイパーライフル』のリロードをしていた

 

「なかなかの腕前っすね、雨森さん」

「私にかかれば…あ、この腕を見込んで経費で猫カフェの料金出ません?最近貢いでるからか金欠で…」

「いや知らないっす」

 

ばっさり切り捨てて天田は双眼鏡を覗く、明らかに他の男達とリーダー格は驚いている、突然仲間が死んだのだ

そりゃそうだろう

 

「さーて、これで分かったっすね」

「えぇ、どうやらあの液体は攻撃を防ぐが完璧ではない…ですね」

「そうっす、後はあちらに任せて私達は撤収っす」

 

──────────────────

 

突然の出来事に宮本は一瞬考え、1番早く導き出せた考えを実行に移す

まだ突然死んだ仲間に動揺して動かない男A、Cの間を素早く横切り矢本と戦闘をしている男Dに日本刀を投げつける

 

「がっ!?」

 

男Dの首に刺さり貫通し根元まで刺さってしまう

どうにか抜こうとするがそれが逆効果になり傷口を広げ最後は血の泡を吐きながら倒れてしまう

 

「どうやら意識外の攻撃には疎いようだ」

「あ、そうだったんですね」

 

と、日本刀を抜く宮本と矢本が合流し雨宮も急いで合流する

 

「さて、原理が分かれば後は簡単だ…」

 

と、話してる時

乾いた音が響き、キン!という金属音がする

 

「…私が死ぬ未来が見えなかったら即死だったな」

 

と、欠けた日本刀を見る

そしてある方向を見ると拳銃を宮本に向けているリーダー格の男が怯えた表情で立っていた

 

「て、てててめぇ!あまり舐めた事してると次はお前らが死ぬことになるぞ!」

 

今になって死ぬという恐怖に直面したようだ

 

「須郷の野郎が来たらお前らに勝ち目なんてねぇ!…!?…っはははは!見ろ!須郷が来たぞ!」

 

1人で騒ぎ他力本願な男が体育館の方を指す

体育館からは2mの大男がノシノシと威圧感を出しながら歩いてくるのが見えた

 

「くはははははは!!!これで俺はこの街を…掌握…でき…」

 

と、声が途切れる…何故なら

 

「あれ、なんか嬉しがってた奴黙ったぜ?」

「くっそ、俺達みたいなイケメンが出てきたからか!?」

「えっと…かしわざき?今多分そういうテンションの場面じゃないと思うけど…」

「あぁー…うるせぇ…」

 

須郷の後ろにはボロボロだが宮島と柏崎、そして須郷の背にはエンが乗ってたからだ

 

「つかエンお前セミ?セミなの?」

「違うもん!かしわざきいい加減にしないと怒るよ!」

「こっちは隊長権限を使用するぜ!」

「隊長子供相手に何してんだよ…」

 

わちゃわちゃと喋りながらやってくる集団に男達とリーダー格の男は戦慄する

 

「んで?俺を使ってどうするってんだァ?」

 

『超人』須郷雅弘を目の前に、リーダー格の男はこう思う

 

どうやって生き延びるか…と




どうも、友人がエン中毒気味なのでどこの山に埋めるか考えてる私です

どんな強い技や攻撃や防具でも長所もあれば短所もある…というのが今回の話です
今考えたらデロッデロの玉虫色の液体が体に入ってるって嫌ですね、寄生虫か!

では明日、また次の話で会いましょう


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第16話『決着』

逃走中の所発見されたタヌキは命乞いを初めたが仕事に強制送還されました、今後のタヌキの活躍にご期待ください

 

情報屋:軟禁されたタヌキ

 

───────────────────

 

空気が震えてるような感覚がする、須郷雅弘が歩く度に

例えるなら熊に直面したかのような緊張感と威圧と恐怖がビシバシと体に当たっては震えが止まらなくなる

 

「お、お前…『死者の手』はどうした…?」

「あぁ?んなの知らねぇよ」

 

須郷はそう吐き捨てる

 

「くっ、くそ!『酷使せよ!死者の手!』」

 

リーダー格の男は須郷の中に居るはずの『死者の手』を操る為に呪文を唱える、がどんなにやっても須郷に変化は無く魔力の無駄遣いで終わってしまう

 

「嘘だろ…?」

「嘘かどうかは知らねぇがよ、お前…俺の仲間に手を出して無事でいられると思うなよ?」

 

と、指を鳴らし握り拳を作る

 

「んじゃやるか…宮島、お前は残りを宮本と雨宮と矢本で片付けろ、俺は…この超人のサポートをしてやるか」

「ふん、足引っ張るんじゃねぇぞ?」

「馬鹿言え、エイレーネーは元々サポートする為に作られた組織だ、今は昔と違うがサポートくらいなら得意分野だ」

 

ナイフを抜き構える柏崎と拳を構える須郷が並び、リーダー格の男と向き合う

 

「どうやったか…知らねぇが…『死者の手』がある限り俺達に負けはねぇ、さっきみたいに不意打ちしようとしても気をつけれりゃ意味ねぇぜ…?ほら、休戦にしないか?な、なぁ?」

 

リーダー格の男はどうにかしてこの場を離れたかった、プライドもへったくれも今となっちゃ知ったこっちゃない

 

「と言ってるが?」

「寝言は寝て言え、お前は確実にぶっ殺す!」

 

問い掛ける柏崎、それに答えるうに須郷は怒気を含ませながらリーダー格の男を睨む

 

「…………くくくく…ははははは…」

 

リーダー格の男は静かに笑い

 

「くはははははははははははははははははははは!!!」

 

突然狂ったように笑い出す

手負いの獣程気をつけろ…とはよく聞くが

 

「んじゃ、やりますか」

「おう!」

 

はたして超人に勝てるかな?

 

────────────────────

 

先手は俺が取る事に成功した、ナイフを持ち体勢を低くして走る

狙うはアキレス腱、あそこを切られたら大抵の生き物は行動を制限出来るが…

 

「っとー!?」

 

接近したのを確認して玉虫色の液体は男の手の中で大きなマチェーテのようなものに変わり、切りつけてくる

寸前で止まり事なき得たが後一歩進んでたら首が飛んでたな

 

「やっぱり一体一だと分が悪いっ!」

「どけ!」

 

俺が気を引いてる間に須郷が来ており、リーダー格の男にその力を使い殴る

リーダー格の男はまともに当たり地面を数回バウンドして約25m程飛んだ、あんなのまともに当たったら即死だろ…

 

「く…がぁ!…ははは…目が回った」

 

が、何事も無かったように立ち上がり少し危ない笑い方をしている

 

「おいおい、一応手加減したが普通立てねぇぞ」

「ってことは、あれは衝撃もブロックするのか…」

 

無敵のスーツかな?あんなのよく呼び出せたな…

 

「…とりあえず俺が何度か仕掛けるからお前は1発違う場所狙ってくれ、もしかしたら薄い部分があるかもしれない」

「いいがよ、死ぬなよ?」

「ほざけ、まだ死ぬには早い」

 

そう言い俺はナイフを構え走る、出来る限り接近しないと攻撃すらできない

 

「おら!防御しないと切られるぜ!」

 

ナイフを斜めに、縦に、横に、切りつけるがマチェーテや玉虫色の液体でガードされてしまう

ナイフを見るとかなりボロボロになっていた、エイレーネー日本支部特製のナイフなんだが…

 

「こっちだよ!」

 

と、また須郷が一瞬の隙を突いて拳を叩き込む

しかし今度は吹っ飛ばず、少し横にずれただけだった

 

「おいおい!須郷お前手加減してる場合かよ!」

「うるせぇ!さっきよりも本気でやったぞ!どうなってやがるんだ!」

 

リーダー格の男はマチェーテを振り回し俺と須郷を退かせる、顔は相変わらず危ない顔をしている…正気がなくなりつつある…のか?

 

「おいチビ」

「誰がチビだお前?ん?削られたいか?」

「いいから聞け」

 

と、俺の横に来た須郷…いや近いわちょっと見上げるのが辛いんだけど

 

「…打開策はある、だがちょっとばっかし隙が生まれる」

「…え?つまり何?」

「だから、俺が隙だらけになるから守れって事だよ」

「いや無理だからあれ、あれ見ろよちょっとイってる顔」

 

そう話してるうちもリーダー格の男はマチェーテを振り回し俺達に攻撃している、避けるだけなら簡単だ

 

「この汚ぇ色のやつをどうにかすりゃいいんだろ?」

「まぁ、多分な」

「ぜってぇ成功させてやるから、手伝いやがれ」

「えぇー…っと」

 

横振りで振られたマチェーテをバク転で避けつつ考える

現状考えられるのはエンの能力を使う事だが…あれは宮島が囮になったから出来たことで今はもう使えない…

 

俺の能力は使えない…他の仲間のも現状使えない…

乗るしかない…か

 

「ああ…くそ!死んだら化けて枕元に立つからな!」

「任せとけ!どうせ失敗したら俺も立つ側だ!」

 

縁起でもない事を言いやがる…俺は何度目か分からないマチェーテの振りを避け一気に男の胸元に近づき首を掴もうとする

が、やはり玉虫色の液体が邪魔をする

 

「残念、お前が守るべきなのはこっちだ」

 

掴んだ手を首に回し固定する、そして右手に持っていたナイフを男の目に向けて刺す…が金属の折れる音と目の前を回りながら飛んでいく刃、やはり玉虫色の液体はかなり固いようだ

だが

 

「上手くやれよ!」

 

急いで離脱する、俺の目線の先には我流じゃない…明らかなその道の者の構えをした須郷がそこにいた

 

─────────────────────────

 

親父に格闘技を教わった中にある技があった、それは防具を身に纏ってたり厚手の衣服など

打撃を緩和してしまうものに対して有効な物らしい…あの時はなんの意味があるのか分からずサボり気味だったが

 

「今だけは感謝するぜ、親父…」

 

須郷は構える、数年ぶりだが体が覚えている…準備は終わった、後は

 

「てめぇの敗因は…守る者がいなかったことだ」

 

目の前の男を昔の自分と重ねる

拳を柏崎の攻撃で目の周囲についた破片を取り除いてた男に向け、走り出す

男はそれに気づき液体をガードに使う

 

「もう意味ねぇよっ!」

 

構えてた拳を一気に液体に当てる

液体の防御は完璧だった、なのに男は大量の吐血し地面に膝をつく

 

「須郷流『震破拳』…さっきの会話聞いて液体の方に攻撃すると思ったろ?本当の狙いはお前なんだよ」

 

リーダー格の男は薄れ行く視界の中見えたのは倒されていた仲間と、負けたと言う真実だった




どうも、無事(?)友人を埋めた私です(予定)

今回の話、超人須郷雅弘の編(ちょっと本能寺の変っぽい)は明日でラストとなります
これから須郷はどうなるのか…乞うご期待

あ、あとあと少しでUA(意味をちゃんと理解出来てない)が200なんですよね
皆さんありがとうございます、やっぱりあれですね、次は…5000兆を目指しますかね…5000兆というパワーワード…

あ、ちなみに『震破拳』は「しんはけん」と読みます

では明日、また次の話で会いましょう


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第17話『後日談』

 

社畜タヌキ、定時退勤したいが同僚の目が怖い…今日のお仕事はお休みさせてもらいます

 

情報屋:社畜タヌキ

 

──────────────────

 

あの後エイレーネーの処理班が来て須郷は一時的に身柄を保護する事になった、意外にも須郷は抵抗はせずエイレーネーの贔屓にしている病院に連行される

あの玉虫色の液体が体内に入ったからには何があるか分かったもんじゃないからだ

 

が、意外にも検査の結果は至って普通…それどころかあの不良共も傷はあるが何かある訳でもないようだ

須郷は体を槍で刺されたらしいが…超人の回復速度が異常過ぎる…

 

エンはあれから須郷達の所によく遊びに行く仲になったようだ、ぶっちゃけ超人の近くにいた方が安全なのでとやかく言えないのが歯がゆいが…何かしたら刺し違えても俺は須郷に挑む、何があってもだ!

 

まぁ、俺達は…

 

────────────────

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」

「おい誰か天田を止めろ!女性が出しちゃいけない声出して発狂してるぞ!!!」

 

積み重なる資料と報告書とデスクワークの数々にとうとう精神がおかしくなった天田を全力で拘束して落ち着かせる。

くそっ!ちょっと報告しないで戦闘したからってここまで仕事増やすか?!

 

「たっくよぉ…隊長さんよぉ、なーんで超人助けた俺達が仕事増えてあっちは特に何も無いんだぁ…?」

「人避けと支部に報告しないで戦闘、んでそれらが上層部に伝わったせいだよ…報告書にまとめるの大変なんだが」

 

ここはエイレーネー日本支部、第一特殊部隊…の部屋

矢本と雨宮、雨森達は素早く終わらせてそれぞれしたい事をしている

こいつらパソコン操作早過ぎない?

 

「そう言えば隊長、結局あの液体は何だったので?」

「全く分からん、うちに魔術師は居ないから一体何の魔術で何の効果…まぁ効果は分かるが…なんなのかは分からない」

 

雨森の質問に答える、あの玉虫色の液体は男達を倒した後いつの間にか消えていた

まるで役目が終えたように音も残さず

 

「ま、捕虜にしてるから聞き出すだけだよ、という事で雨宮頼む」

「…いいけど、嫌なのよね…この能力使うの…」

 

渋る雨宮…まぁ嫌ならいいんだけどね

 

「あの敵は何処からのだったのでしょうか?」

「恐らく超人に怨みがある連中の1つだろ、良くも悪くも超人ってのは有名人だしな」

「なるほど…しかし魔術を使ってくるのは凄いですね」

「だな」

 

確かに魔術を使ってた…が、使えるのはあいつらじゃなく

『あいつらに呪文を』渡した奴だ…明らかに関わっている

誰かは分からないが確実に『魔術師』が…

 

「ん、そろそろ行くか」

「お供しましょうか?柏崎さん」

「いや、矢本はここに居てくれ、雨宮は…まぁ後で来れたら来てくれ」

「は〜い」

 

そう言って俺は部屋を出て扉を閉める

 

─────────────────────

 

夕方の街通り

須郷はあれから仮面の変わりに何故か兎のお面を付けている、エンの趣味らしい…2mの大男が兎のお面を付けているのはかなりシュールだが…

 

「兄貴見てくれましか!俺のダンスステップを!」

「ばーか、お前最後転んでたじゃねーかよ」

「うるせぇ!兄貴に聞いてんだ!」

「まじウケる、盛大に転んだもんねー」

「おめぇらうるせぇぞ…エン、そろそろ帰らないと夜になるぞ」

 

須郷は隣で歩いている少女に言う、未だに人の目に馴れずフードを深く被ってるエンは少し顔を上げて

 

「えっと…あのね、すごうに二人っきりで話したい事があるから…」

 

瞬間、不良達によるアイコンタクトが行われ全員が頷く

 

「あ、いっけねー!妹の迎え行かなきゃ!」

「んあ?お前の妹もう中学生だったろ」

「え?、えええぇ!最近甘えてくるんすよ!えぇ!だからちょっと行かなきゃー!」

「あ、私も〜家に帰って晩御飯作らなきゃ〜」

 

とか何とか、理由を付けて颯爽とバラけていく不良達

そして全員エンに向かって親指を立て良い笑顔で消えていく

 

「っーー!!!」

「んだよあいつら…って、どうしたエン?」

「な、なんでもない!」

 

と、1人で歩いていく

 

「あ、おい待てよエン!」

 

須郷は後を追って走る…

 

 

 

ここはホテル等が経営難で潰れゴーストタウンのようになってしまった人気の数ない場所…

須郷とエンが初めて出会った場所だった

 

「お前突然ここに来てどうしたんだよ」

 

須郷はすっかり日が沈み街灯が灯り始めた道路をエンと歩く

 

「…あのね、私すごうと会えて本当に良かった」

「…エン?」

 

エンは立ち止まり須郷の方を見る

 

「皆や新しい事や…人が怖くなくなったのもすごうのお陰だよ」

「…まだ知らない奴とかにはビビるけどな」

「ち、違うもん!あれは突然来るのがいけないから!ちゃんと分かってれば怖くないもん!」

 

エンをからかう須郷、エンは楽しそうに怒り、そして笑う

 

「…貰ってばかり…私は貰ってばかりだよ…すごう」

「てめぇはまだガキだ、俺達大人はガキを守り育てる義務があるんだよ…まだ俺は学生だがよ」

「うん…けど、私なりにお返しがしたいの…すごう」

 

エンはフードを外して真剣な顔で須郷を見る、須郷はその顔を見て自分も真面目な顔をする

 

「…何をするんだ?」

「えっと、あのそういう意味じゃないんだけど…すごう少ししゃがんで目を閉じて…?」

「…しょうがねぇな」

 

と、須郷は目を閉じてしゃがむ

丁度エンと同じぐらいになる高さだ…エンは須郷のお面を取り

 

「…『タイムオペレーション』」

 

と、静かに呟く…須郷の顔にはムズムズする感覚が起こりかいてしまいたい気持ちになるがぐっと我慢する

 

「…いいよ…目を開けても」

 

須郷は静かに目を開ける、まず驚いたのは目の前に自分の顔があった事だ

どうやらエンが鏡を持っていてこっちに向けてたらしい…そして

 

「どう…なって…やがるんだ…?」

 

そこには『傷一つない男の顔』があった、まるで産まれたて…とは言わなくてもツヤツヤとした綺麗な顔がそこにはあった

 

「上手くいって良かった…」

「エン、お前がこれを…?」

 

エンは少し不安そうな顔をする

 

「や、やらない方がよかった…?」

 

どうやら顔を勝手に…これは作ったなのだろうか?作ったのを怒ったと思ったらしい

 

「…いや、なんと言うか…久しぶりに自分の顔を見たぜ」

 

事件からずっと鏡を見る事が少なかった須郷は鏡の自分をじっくり見る

 

「しっかし、もっと男前だと思ったんだがなぁ…」

「えっと、今のすごうもかっこいいよ…?」

「ん?あぁ、ありがとうな」

 

と、エンの頭をわしわしと撫でる

 

夜の街灯に照らされ一人の男が顔を取り戻したのだった

 

 

──────────────────

 

暗い部屋が並ぶ地下5層目のさらに下の層

 

「…何か吐いたか?」

「いえ、特にこれと言って」

 

金色の髪を揺らしながら柏崎は拷問等を一手に任されている拷問官に話をする

 

「…ちょっと入っていいか?」

「えぇ、ですが気をつけて」

 

拷問官の許可を貰い中に入る

 

「…よぉ?元気か」

「………何しにきやがった」

 

中にはあのリーダー格の男が椅子にガッシリと固定されて座らせていた、顔には打撲痕が痛々しく残っている

 

「いや何、何も喋ってないらしいから様子見をな」

 

と、近くの椅子に座る

リーダー格の男は柏崎をじっと見てケタケタと笑い出す

 

「ん?何かいい事でもあったか?」

「ははは…あぁ、あったさ」

 

突然、椅子ごと柏崎の近くに倒して近寄る

驚く柏崎をよそに男は

 

「無防備に近寄りやがった!けははははは!『酷使せよ!死者の手!』」

 

男が呪文を唱えると男を中心に魔法陣が浮かび上がり

そして玉虫色の液体がゴボゴボと魔法陣から溢れてくる

 

「お前を待ってたんだよぉ…お前さえ操れば…」

 

男の言葉は続かなかった、何故か

それは玉虫色の液体が男の体を包んで骨を砕き始めたからだ

 

「ギャッ!?い、痛てぇ!?や、やめろ!『酷使せよ!』『酷使せよ!』」

 

呪文を何度も唱えるが液体は止まることは無く

そのまま男は地面…魔法陣の奥にぐちゃぐちゃになりながら消えていってしまった

 

「……魔術の才能がない奴が格上の魔術師しか呼べないものを呼ぶからそうなるんだ、魔力の足りないお前は一生奴らの遊び道具だな…」

 

椅子から立ち上がり外に出る

 

「すまない、逃げられちまった」

「いえ、一部始終は見てましたので」

「また何かあったら頼む」

「はっ」

 

柏崎はそのまま上の層に向かう為に歩き出す

 

「魔術師…早急に対処しないとな」

 

 

───────────────────

 

 

「うーん、困ったねー」

 

Aは周囲を見る、7人いた連中は2人を残して居なくなっていた

 

「失敗するだけでは飽き足らず全滅とは呆れるねぇ」

 

と、コツコツと部屋の中を歩く

残った2人は怯えながら嵐が通り過ぎるのを待つように静かにする

 

「困ったなー…」

 

「お困りのようですね」

 

3人しか居ない部屋の中で4人目の声が響く

2人の男達は驚き周囲を見て、Aは入口を見る

 

「んー?誰だい?君?」

 

「どうも、私長内青葉と言います、お見知りおきを」

 

超人『長内青葉』がそこに立っていた




どうも、頭が良くないのがバレそうな私です

あ、いやもうバレてるか…まぁとりあえず、超人『須郷雅弘』編
~完~でごさいます

顔が元通りになった須郷なんですがイケメンではありません、普通のなんか無口の筋肉ムッキムキの人がうむ…とか言ってそうな顔です(?)

次はなんの話になるかは…楽しみに!

では明日、次の話で会いましょう


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補足回

 

あれ、今日私のコーナーじゃないんですか?え、不定期?ちょっ困ります生活が!!!

 

情報屋:仕事奪われタヌキ

 

────────────────────

 

「皆さんどうもっす!エイレーネー日本支部、オペレーターの天田美琴っす!今日はエイレーネー日本支部第一特殊部隊の現在提示可能な情報をピックアップしていくっすよ!」

「おいちょっとまて、なんか俺もここに無理やり連れてこられたんだが」

「柏崎隊長は黙ってろっす!」

「えぇ…」

 

 

エイレーネー日本支部第一特殊部隊『???』

 

隊長 柏崎悟(25)

能力「???」

 

 

「さっそく隊長っすけどぶっちゃけ能力っぽい感じは出したんすけど未公開っすね、てか部隊名まだ出さないんすか?」

「いや部隊名はぶっちゃけただ出てないだけでいつか出るぞ」

「まじっすかー、んで能力は?」

「ひ み つ (キラキラした目)」

「あははは、死にたいっすか?」

「スマセン…」

 

副隊長 矢本美鈴(20)

能力「???」

 

「あれ、副隊長も未公開でしたっけ?」

「一応須郷の時に出したが昼間だったし長くは使えなかった感じだな」

「へー」

「お前興味無いのが分かりやすいな…」

 

 

隊員 宮島敦(20)

能力「アドレナリンブースト」

『約10分の間体内に特殊なアドレナリンが分泌され様々な効果がある、効果継続中に10回のみダメージを最小限に軽減またダメージを底上げする事が可能

ただし過度な肉体的ダメージは軽減しても多少残ってしまう可能性がある為乱用不可』

 

「脳筋っすね」

「脳筋だな」

「あ、何かコメントあるっすか?」

「特にない…かな…」

「そうっすか…」

 

隊員 雨森真(19)

能力「???」

 

 

「雨森さんって凄く影薄いっすよね」

「まぁ何もしてなければただの猫大好き青年だし…」

「能力も地味っすし…これ公開してもいいのでは?」

「ばっかお前雨森が泣くぞお前…そんな軽く公開したら」

 

 

隊員 宮本亜美(17)

能力「未来死」

『自身の死に直結する攻撃等を死ぬ瞬間まで予知する事が出来る、ただ死ぬ事は無い事に関しては予知されない

また予知する度に精神的ダメージが高い為数回の使用は可能だが過度に使用すると精神が壊れてしまう可能性あり』

 

 

「これ自分が死ぬ未来が見えるんっすよね?」

「そうだな、それを覆す事をしないと死ぬらしい」

「なんか嫌っすよね、自分が死ぬのを見るのって」

「悪趣味な能力だよ、死ぬ瞬間まで見せられるからな」

 

隊員 雨宮みより(23)

能力「???」

 

 

「また未公開っすか」

「けどそこまで難しくない能力だぞ」

「まぁ今までの会話見る限りそっち系の能力だとは思うっすけど…」

「なーに、簡単な事だよ…俺の口からは言わないが」

 

隊員(仮) エン(10)

能力「タイムオペレーション」

『自身を含む様々な物や生物の時間を操作出来る、どこまで戻せて、進めれるのかは未確認だがそれなりに出来る模様、ただ使いこなせてない部分もある為実験は不可能』

 

「エンちゃんの能力って事によっては最強っすよね」

「あれ使い過ぎると死ぬぞ」

「まじっすか!?」

「強力な能力程、負荷が大きいんだよ」

「そういうもんっすかねぇ…」

 

 

 

「あれ?全然公開されてないからもう終わったっすよ?!」

「マジか…残りの時間は天田の1人ダンスで乗り切るしかない」

「無理っす!私ダンス出来ないんすよ!?」

「それでもオペレーターか!」

「オペレーターは踊らないっすよ?!」

「使えん奴め」

「理不尽!」

 

 

「まぁあれっすね、また新しく公開されたらっすかね」

「近いうちに全員分出るだろ、まぁいつか分からないが」

「そうっすか…あ、ではここまでお付き合いいただきありがとうっす!今後も私達の活躍応援よろしくっす!」

「お疲れー…所で天田誰に話してんの?」

「画面の向こうの良い子にっす!」

「あ、はい」




どうも、これは補足?回です
まぁまだ公開されてないのが多いので分かりやすく…分かりやすく?した感じです

18話は5時5〜10分の間に投稿します、是非見てくれると嬉しいです

ではまた次の話で会いましょう


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第18話『超人、涼風緋彩』

超人『涼風緋彩』

武道術の達人でありながら、その機動力をフル活用して

相手を翻弄する攻撃を得意とする超人である。

風の噂では跳躍力は8〜10m、2段ジャンプ出来る、武道術は使えば相手の骨が簡単に折れてしまう等々…

相棒である超人『道華翔太郎』とタッグを組んでいたが

突然別々の事務所を立ち上げ活動を共にしているのを見かけることは無くなった

 

『超人』情報屋:不満げタヌキ

 

────────────────────

 

朝、窓から朝日が入ってきて目を覚ます

気だるくやる気が起きないが起きなければならない、そう思いベッドから起き上がり背伸びをする

 

目元付近まで伸びた髪を横に流しそれなりに整った顔立ちは眠たそうな顔でぼんやりとした雰囲気を出す

朝はコーヒーを飲むことから始まると考えておりコーヒーを作り始める、インスタントのコーヒーを作りコップに注ぐ…香りはいい匂いだ

ゆっくりとコップを傾けて…吐き出す、物凄く不味い

 

「うーん…ボクが作ったのじゃ美味しいの作れないや…」

 

そう言い立て掛けられている写真立てを見る、そこには30〜40代の男性と10代の青年と少女の姿が写っている

 

「…やっぱり君のコーヒーが1番だよ、翔太郎」

 

そう言って少女…涼風緋彩はコーヒーを置き朝の支度を始める

 

 

───────────────────

 

「おらグラァ!新しいナイフの注文だグラァ!」

 

俺は5層目…開発部の扉を蹴破り中に入る、研究員達はざわっ…となるが俺を見た瞬間何事も無かったように仕事を続ける、俺も気にせず奥に進む

 

「なぁ、開発部長いるか?」

「一番奥の机に寝てますよ」

「おう、ありがとうな」

 

話しかけた研究員によると奥にいるらしい、礼を言いつつ俺はどんどん奥に進んでいく

しばらく歩き目的の場所に辿り着く、机には謎の薬品が入ったフラスコに明らかに多いエナジードリンクの山…の中に1人の男が埋もれていた

 

「起きろ、仕事だぞー」

 

軽く揺するが起きる気配はない

 

「…甘味処のどら焼き…」

 

と、耳元で囁くと勢いよく起き上がり俺に詰め寄ってくる髭面の男…怖いわ

 

「近い近い、落ち着けよ田村さん」

 

彼の名は田村清彦、黒髪のボサボサ、黒目眼鏡、白衣を着て髭面が目立つが開発部の最高責任者で開発部長である

エイレーネー日本支部の武器や防具等を製造している部署であり俺のナイフもここ製なのだ

 

「……………どら焼き」

 

…あと田村さんは大の甘味好きでよく食べている…

髭を剃ればイケメンだし見栄えにはなるが田村さんにとっては脳の栄養補給だから外見を気にしないんだよな…

 

「あぁ、それよりもちょっと新しい武器の件なんだが」

「………どら焼き」

「…後で買ってくるから」

 

キラキラした目をこちらに向けてくる田村さん…おっさんにそんな目で見られても嬉しくない

 

「んで、新しい武器なんだが…ナイフに魔力を付けたいんだ」

「……………難しい」

 

武器や無機物に魔力は宿らない、その為俺の要望はかなり難しい事だった

世界でも魔力を持ち合わせている武器や物が存在するがそれらは偶然の産物で出来上がった物でそう簡単に作れるものでは無い

だが

 

「………けど作ってはみる」

 

田村さんはエイレーネーの一二を争う優秀な発明家だ

必ず俺の要望に近いものを作ってくれるだろう

 

「助かるよ田村さん、んじゃ後は…」

 

と、研究所を出ようと歩き出す…後ろに立っていた人物に気づかずぶつかってしまうが

 

「………またか…今度はなんの用だ?」

『………………』

 

そこにはガスマスクを付け金髪のポニーテールを揺らしている少女が立っていた

 

「……また喧嘩…?」

「いや、そういうわけじゃないけど」

 

様々な理由があるが俺は…

 

「…まぁいい、田村さんありがとうな」

 

と、無理やり少女の横を通る…が

 

「………………待って」

 

と、何故か田村さんに腕を掴まれ行動を制限される…

 

「…田村さん、これは俺の問題であって貴方には関係…」

 

と、言いかけてる途中なのに田村さんは俺の手を無理やり引っ張り手に何かを置く

…それは1万円札だった…

 

「…あー…田村さんこれは?」

「………どら焼き」

 

と、白衣のポケットに手を入れて何かを探し始める

って今スーパーボール出てきたぞ、田村さんそのスーパーボールで何してたんだ…

 

「…………あった」

 

田村さんが取り出したのはクシャクシャになったチラシだった、それはどうやら有名などら焼き等の専門店らしく…

 

「え、買ってこいって事?」

「………そう」

 

…やけに全力で掴んでくるなぁ…とは思ってたけど…

 

「あー…うん…買ってくるよ…だから武器頼むね」

「………………(コクコク)」

 

田村さんは嬉しそうな表情でパタパタと仕事場に戻る

俺は…何となく気まずくなりその場を退散した…なんで俺が逃げるように帰らないといけないのか…

 

 

─────────────────

 

「行列はもういいかな…辛いわ」

 

田村さんにパシられ長い行列に並んでもう心身ともに死にかけな俺は手に入れたどら焼きを片手に道路を歩く

 

「足が……どっか公園で休憩するか…」

 

丁度近くに公園があったので急いで中に入りベンチに座る

 

「はぁー…………ん?」

 

公園の日陰に位置するベンチで休憩してると不可思議な光景が視界の先で行われていた

 

「よーしよし…猫ちゃん落ち着いて…」

 

と、猫に凄い真剣な顔で近寄ってる銀髪の少女がいた

危ない奴だと思った俺は、急いでこの場を逃げなければならないという生存本能で立ち上がろうとする…が…不審者(?)から逃げるように猫が木の上に登ったのを見て一瞬視界をそっちに向ける

 

「あちゃー…困ったなっと!」

 

その少女は約6m程の高さにいる枝にしがみついていた猫まで『垂直跳び』で飛んだのだ

 

「はぁ?!」

 

あまりの現実離れした現象に思わず声を上げてしまう、そして嫌な汗がダラダラ流れる…あの銀髪…あの脚力…

 

そして少女は猫を優しく抱き抱えて地面に着地する

俺が声上げたからか、俺の存在に気づき慌てて俺の方にダッシュしてくる…やべぇ…それなりに離れてたのに2秒で来たぞ…

 

「あの、その!君…ボクがやった事は…そのー…見なかった事にしてくれないかな?」

 

俺の目の前には困った顔をした『超人』涼風緋彩が立っていた…嫌な予感がする…




どうも、5〜10分くらい投稿と言ったな…あれは嘘だ…(ちょっと早めたんです…)

今回出てた涼風緋彩…ボクっ娘です、現実にいるんですかね、ボクっ娘…

では明日、次の話で会いましょう


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第19話『始まっている』

超人達は四天王と呼ばれているが全員仲がいいわけではない、彼等はそれぞれしたい事をして好き勝手に生きている

お互いを牽制するように

 

情報屋:ただのタヌキ

 

────────────────

 

やばい…これはとてもやばい…普通に過ごしてたら会うことなんてない超人とこうも出会うって不運過ぎないか…?

あぁクソッタレな神様…俺が何したってんだ…

 

「あのー…聞いてる?あれ、ボク今無視されてる?」

 

突然空をボーッと見て黄昏始めた俺を見て涼風緋彩は慌て始める

 

「いや聞こえてる、完璧に聞こえてるよ?うん…」

「良かった良かった…それでその、今の件なんだけど…」

「見てない見てない…突然6mくらい跳ねて猫助けてたのなんて知らない知らない…」

「ばっちり見てるね!?細部までちゃんと見てたね!?」

 

うるせぇ…超人はうるさい奴らだっけ…須郷は…体格がうるせぇ…

 

「分かってるから、忘れた…今忘れたぞ」

「そ、そう?ならいいんだけど…って、それあの超有名店の甘味処のどら焼きじゃないか!」

 

くそっ!勘づかれた…ヤバいくらい見てるよ…どーしよ…これ使えばいい感じに身代わりに出来ないだろうか…

…そう言えばこいつはなんで『1人』なんだ?確かもう1人の超人と一緒にいる筈なんだが…

と、キョロキョロ探したのを気づかれてしまい緋彩は困ったように笑う

 

「あ、翔太郎を探してるのかな?ごめんね今居ないんだ」

「そうなのか?確かあんたら2人は探偵してるとか聞いたんだが」

「うん、そうなんだけど…あ、隣座るね」

 

し、しまった…興味が先走って当初の目的忘れてた…うわぁ…どうしよう…もう語り出す感じだよ…

 

「翔太郎、今は1人で事務所を動かしてるんだ」

「へぇー」

 

とりあえず相槌を挟む、とりあえず喋らせて満足したらどら焼きを献上して逃げるしかない

 

「ボクも本当は翔太郎と一緒に探偵を続けたかったけど…あれがあってからはどうもギクシャクしてさ」

「へぇー」

 

あれって何だ…うーん…思い出せそうだが…

 

「だから今はちょっと時間を置いてまた会いにいくつもりなんだ、翔太郎も落ち着いてまた昔みたいに笑ってくれると信じてるから」

「へぇー」

 

すっごい信用してるんですね〜…

 

「だから今は翔太郎は居ないんだ、分かった?」

「へぇー」

「…聞いてる?」

「へぇー」

「…実はボク…武道を嗜んでてね」

「あ、すんません謝るんで…どら焼き渡しますので…」

 

ベンチの上で素早く土下座してどら焼きを献上する

 

「えぇ?いいよ、そんな…ボクが脅迫したみたいに見えるからやめてくれよ…」

「いえいえ…どうぞどうぞ…」

「うーん…なら貰っとこうかな…」

 

どら焼きを生贄に俺は逃げるっ!

 

「あ、んじゃ俺はこれで」

「ん?あぁ…さっきの件ちゃんと忘れるように、あとどら焼きありがとうね、君いい人なんだね!」

「あ、分かる?俺超いい人デス」

 

とりあえず話を合わせて…俺は逃げる!

人生で何度かしかない強歩を駆使して俺は公園から離れる

…どら焼きどうしよう

 

───────────────────

 

1人になった緋彩は捕まえてた猫を撫でながらどら焼きを食べる、あの少年に話してから…自分の相棒を思い出す

あの男は今何をしてるのだろうか

 

「ま、今は依頼人に猫を届けるのが先だよねー」

 

最後の一口になったどら焼きを口に入れ猫を抱き抱える

 

「…あ、名前聞くの忘れてた」

 

名も知らない少年を記憶に留めつつ緋彩は公園を後にする

 

───────────────────

 

ここは道華探偵事務所

かの有名な超人『道華翔太郎』がいる事務所だ

 

「……………………」

 

黒髪に黒目、黒いハット帽を被り窓から外を眺める

顔は至って普通で身長も高くはない、ただ何故か彼の姿が少しホログラムのように消えかけている部分がある

 

「…………っと来客か」

 

と、振り向きコーヒーを作り始める…手つきはもはやプロの領域だ、2つカップに注ぎ1つを手に取り飲む

 

そしてしばらくすると事務所の扉が静かにノックされる

 

「開いてるぜ、鍵は掛かってない」

「おや、それは不用心ですね」

 

と、事務所に入ってきた1人の人物…超人、長内青葉だった

 

「青葉か、久しぶりだな」

「えぇ、本当に久しぶりです。翔太郎さんも、緋彩さんも、雅弘さんも」

 

青葉はそう言いながらソファーに座り用意されていたコーヒーを飲む

 

「………やっぱり翔太郎さんのコーヒーは美味しいですね」

「ありがとよ、んで俺に何の用だ?」

「あぁ、いえ、ちょっとしたお話をしに来ただけですよ?」

 

コップを置きそれとなく手帳とペンを取り出す

 

「最近、雅弘さんが変わったのはご存知で?」

「ん、風の噂程度にはな」

「なら話は早いです。ズバリ雅弘さんはとある裏組織に捕まり…現在は外見を変えられた上に監視下に置かれてる状態です」

 

翔太郎は青葉の顔を見る………嘘はついてないように思えた

 

「…んで、それを俺に教えてどうする気だ?」

「心外ですね。管鮑の交わり、です。他意はありませんよ?」

 

と、コーヒーを飲む

 

「……ま、普通に考えましょう。私達の中で1番戦闘能力が高いのは誰です?そして裏組織が次に狙うのは?」

「………」

「例えば翔太郎さんとかかもしれません。或いは、戦闘能力のない私とか…力を誇示するために、緋彩さんとか。」

「………っ!」

 

翔太郎の顔が少し強張る、だが直ぐにポーカーフェイスを作り上げ貼り付ける

 

「翔太郎さん、私、貴方のあの台詞が好きだったんですよ。」

 

「今、風を泣かせようとしてるのは誰か…時間は待ってくれません。決断はお早めに…でないと、手遅れになりますよ?『また』」

 

そういった瞬間翔太郎の姿は消え

青葉の目の前に現れる、その手にはコンパクトだが拳銃が握られていて引き金に指が添えられていた

 

「おっと落ち着いて下さい、あくまで雑談です、雑談。決まったわけじゃありません」

「…すまねぇがもう帰って貰えるか?」

「そうですね、翔太郎さんも少し気分が悪そうですしお暇します…あぁ、あと」

 

と、事務所を出る前に青葉は翔太郎の方を向き

 

「翔太郎さん、いつでも頼ってくれていいんですよ?私達、仲間なんですから。」

「…………」

「それでは…また会いましょ?」

 

青葉はそう言い残して事務所を出る、翔太郎は青葉が出ていった出入口を睨みカップを壁に投げ捨てる

 

 

────────────────────

 

俺は柏崎悟!25歳!今かったい机の上に正座してる!

 

「………………………」

 

目の前には田村さんが凄い目で見てくるよ!わぁ!眼力で人が殺せそう!

 

「……………田村さんあの…その…すみませんでしたァ!」

 

俺は今日も土下座する…




どうも、どうもが定着した私です、今日は後書きが雑です、すみません…()


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第20話『超人、道華翔太郎』

道華翔太郎、その持ち前のステルス能力で他の超人を寄り付かせない程の実力を持ち合わせている

 

超人になる前は同じく超人になる前の涼風緋彩と共にとある人物の元で探偵業をしていたが、その人物がとある依頼の途中で事故死してから別々の道を歩むようになる

 

超人達の中で一二を争う程、情報が公開されておらず

ファン達の間ではちょっとしたアイドル的な立ち位置になっている

 

情報屋:タヌキ

 

────────────────────

 

「あ、足が…」

 

約小一時間…いや普通に3時間くらい説教されていたせいで足が棒のようだ…田村さん怒ると怖いんだよな…

外はもう夕方だ…夕焼けが地上を照らしてる中俺は車に乗り込みエンジンをかける

 

「しっかし、流石にそんな直ぐに作れないとはいえ訓練用のナイフを渡されるとは…」

 

田村さんは優秀な発明家だ、だがそんなすぐ作れるわけもなく代用品として訓練兵が使っているナイフを渡された

確かにこれも素晴らしい物だとは思うけどな…

 

「訓練時代が懐かしいよ…」

 

苦しくも楽しかった訓練時代…そして思い出したくない事がフラッシュバックする

 

雨の中、助けられない命、自分より他人を心配する…

 

頭を振り思考を切り替える、思い出して後ろばかり見ても駄目だ…先の事を考えなければ

そう思いお昼に会った超人の事を思い出す

 

「やっぱり超人ってのは化物揃いだな…」

 

車を走らせ、あの脚力と須郷の剛腕を脳内で比べる

パワーだけなら須郷の方が上だが…機動力は明らかに涼風緋彩の方が上だな…そう言えば

 

「他の超人はどうなんだろうな…」

 

超人、長内青葉、道華翔太郎…

 

情報としては素性を軽く知っている…というよりこの2人の情報は無いに等しい、名前と年齢…超人としての能力等は判明すらしていない謎が多い分類の超人だ

 

「あんまり関わりたくない…ん?」

 

車を走らせ山道を走ってると大きな岩が道の真ん中にポツンと置いてあるのが見えた

周囲には落石する崖も無ければ森だ、大きな岩が落ちてたとしても道の真ん中に転がってくるわけがない

 

「……ちっ…」

 

俺は訓練用のナイフを腰に装備して外に出る

防具は支部に置いてある、武器は不安になる訓練用のナイフたった1本…普通なら逃げる場面だが

 

「…俺が来た道に岩なんて落ちてないんだがな」

 

来た道にも岩が道を阻むように置かれていた、車では逃げれそうにない

 

「姿を見せたらどうだ?それとも俺が怖いか?」

 

軽く挑発する、ここまで段取りよく策を考えてる奴がこんな安い挑発に乗るわけもなく何も起きない

 

いや、起きていた

夕日を背後に1人の男の姿が『現れた』それは現れた

…と言っても過言ではない、空間に突然男の体が少しずつ現れ立っていたのだ

 

黒いハット帽に黒髪、その黒目は真っ直ぐ俺に向けられていた…明らかな敵意を含ませて

 

「手荒い歓迎だな、お前はなんだ?昔殺った奴の仲間か?それとも関係者か?もしくは」

 

と、俺はナイフを腰から抜き構える

 

「超人…か?」

 

狙われる理由は分からない、だが目の前の男は普通ではない威圧感と能力を見せつけてきた

そしてあのハット帽…超人『道華翔太郎』の特徴的な物と一致する

 

「………1度だけ言う、俺達に関わるな」

 

目の前の男…翔太郎は俺に向かってそう言う

 

「関わる?なんの事かさっぱり見当もつかない」

 

白を切る、少しでも情報を手に入れなければ勝てない

 

「…今この風は泣いている…」

「………」

「何故か分かるか?」

「…さっぱりだな、後学の為に教えて欲しいな」

 

翔太郎はゆっくりと1歩、前に足を踏み出し

 

「お前らみたいな悪党がいるからだ」

 

そう言い終わる翔太郎の『その姿が消える』、まるで漫画やアニメで見る光学迷彩のように、体の左から空気に溶け込むように

 

「ちっ!」

 

俺は完全に消える前に一撃叩き込むつもりで接近する

が、後一歩遅く翔太郎は完全に消えてしまう

 

「超人っていうかエスパーだろ…」

 

ナイフを後ろに移動させ体勢を低くする、見えないというだけでここまで恐ろしいのか…

 

「ぐっ!が…っ!」

 

背中に激痛が走る、一瞬の油断と予想外の攻撃により膝をついてしまいナイフを取りこぼす

一瞬見えた翔太郎の姿はまた消え始めナイフは遠くに蹴飛ばされてしまった

 

「くそが!」

 

翔太郎が消えた場所に回し蹴りをするが当たった感触はしない、むしろ逆に俺の右膝、腹部、右肩を蹴られたらしく痛みが体に制限をかける

 

ふと、俺は違和感を感じた…手加減されている…?

 

「お前…手加減するなんて余裕じゃないか?」

 

虚空に話しかける、翔太郎はここの何処かにいる

翔太郎の蹴りは確かに脅威だが躊躇や戸惑いを感じる

 

「……ここだ!」

 

一瞬の気配を感じ、そこを上段蹴りをする

鈍い音と確かな感触がする、ビンゴだ

しばらくすると、どうやら顔に当たったらしい…鼻血を流しており血を拭っている

 

「おいおい、お前は何しに来たんだ?」

 

何とかなってるように見えるが超人に勝てるわけがない

だから話し合いで解決したかったが…

 

「悪党に話すことは無い」

 

そう言って翔太郎はまた姿が消える…顔に当てた蹴り…あれはまぐれだった

これから起きる事は…語るのは後にしよう

 

 

──────────────────

 

「ぐっ…ぁ…はぁ…はぁ…」

 

あれから俺は攻撃を避け、避け…たまに反撃するが当たらずまた避ける作業

翔太郎の蹴りの一撃はそこまで重くないのが救いだったがダメージは蓄積していき、もう膝をつくだけで精一杯だ

 

「がっ!?…はぁ…死体蹴りか…?ん?」

 

満身創痍の俺を執拗に攻撃してくる翔太郎にジョークの1つ飛ばしてやるがこっちに答えることなく攻撃を続けている

もう姿は消えていない、だが俺は反撃する気力すら起きない…俺は仰向けに倒れる

 

「…この選択で間違いない筈なんだ」

 

微かに翔太郎の声が聞こえる、選択…?

 

「だから俺はっ!」

 

と、俺の頭目掛けて足を合わせる

やめろよお前…頭蓋骨意外と固くて潰すには時間かかるんだぜ…?流石に俺もキツいってもんだ

そんな言葉すら出てこない程俺はボロボロだった、どうしたもんかな…

 

翔太郎が振り上げた足を下ろす…が、その足は俺の眉間の数ミリ手前で止まっていた

見えるのは翔太郎の靴底と、ゴツゴツとしたデカい手だ

 

「おい翔太郎、お前何してんだ…?」

「…雅弘」

 

翔太郎の足を掴み困惑した顔の超人、須郷雅弘が立っていた…その顔はエンが用意した兎のお面を付けている

…やはりシュールだ…

 

「…離せ」

「すまねぇが俺の知り合いがボロ雑巾みてぇになってるのを見て素直に聞くわけにはいかねぇよ」

 

と、その手に力を込める…力加減が出来るようになってそんな器用な事が出来るようになったらしい、てか誰がボロ雑巾だ

 

「…雅弘…お前やっぱり…」

「んぁ?声が小さくてよく聞こえないぞ?」

 

小声で何かを言う翔太郎に文句を言う須郷

 

「…もう一度言う…離せ、小学生でも分かるように教えてやらないと分からないか?」

「なんだ翔太郎、喧嘩売ってんのか?」

 

須郷の手に力が加わる…翔太郎は涼しい顔で須郷を睨んでおりいつ戦闘が始まってもおかしくない

 

「あー…須郷実はそいつに喧嘩ふっかけたのは俺でな、今ボロボロにされて…今そいつ止められてると俺が凄い恥ずかしいというかなんと言うか」

 

超人達がこんな所で戦闘を始めたらニュースどころの話じゃなくなる上にエイレーネーの場所がバレる恐れがあった

だからここは穏便にすませよう、翔太郎にお前も須郷と戦いたくはないだろ?というアイコンタクトを送る

 

「…んだよ、だせぇな柏崎」

「うるせぇ、超人に勝てるかなーって思ったんだよ」

 

須郷はパッと翔太郎の足を離してやる、翔太郎は数歩後ろに下がると姿が少しずつ消えていく

その顔はなんとも言えない顔をしていた、不安と後悔している奴の顔だ

 

「…翔太郎の野郎…変わっちまったな」

「そうなのか?まぁ今はとりあえず俺を運んでくれねぇか?全身の怪我がやばくてな」

「おう、んじゃ行くか」

 

と、俺を脇に抱え道を塞いでた岩を砕き俺の車は横に移動させられた…片手で…

 

「ん?」

 

脇に抱えられている為視界が固定されてるのだが何故か俺の同じ目線にエンがいた…てか背中に張り付いていた

 

「…お前何してんの…?」

「す、すごうが…急に走って…あの…柏崎私の迎えに来ないから文句言うって…掴まってたらここに…」

「ごめんちょっと何言ってるか分からない」

 

とりあえず…須郷に救われて俺はエイレーネーの医務室に運ばれていく

 

医務室に着いた俺はしばらく安静と言われベットに横になって一休みする

この件でエイレーネー日本支部には2つの事が実行に移されていた

 

1つ、エイレーネー日本支部所属で武装部隊の隊長が狙われた事により超人、道華翔太郎は監視を付け今後の行動をチェックする事、エイレーネーに不利益な事をしていた場合殺処分が決定される

 

2つ、今回の件を聞いた第1特殊部隊、副隊長が単独で道華翔太郎の所に向かった事だった

 

──────────────────

 

 

暗い部屋…『道華探偵事務所』

 

そこには机に立て掛けてある写真立てを見てぼんやりとしている男…翔太郎の姿があった

 

「………師匠…俺はどうすりゃいいんだ…」

 

翔太郎はそう言い写真立てを手に取り眺める

 

暗く静かな事務所にノックの音が響く、この時間は誰かがくる予定は無い…翔太郎は写真立てを元の位置に戻し『ステルスモード』をいつでも発動出来るように準備をして

 

「…開いてるぜ」

 

ノックに返事をする…ノック音はしなくなり、ドアノブが回され1人の人影が入ってくる

 

『初めまして、道華翔太郎さん…貴方を殺しに来ました』

 

それはガスマスクに黒の迷彩、完全装備の女性からによる

殺害宣言だった




どうも、この前友人に文章力と語彙力の差を見せつけられた私です
…もっと上手くなりたい()

さて、今回ですが…実は超人ぶっちゃけ真正面からじゃ勝てません!
ぶっちゃけ人外なんですよね…超人怖い

ではまた明日、次の話で会いましょう


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第21話『大切な人』

エイレーネー日本支部 第1特殊部隊『バレット』

現在の部隊員は全て隊長、柏崎悟のスカウトによって構成されている、柏崎の前任者が死去してからしばらくの間

柏崎とオペレーターのみの部隊だったが現副隊長 矢本美鈴を救出してから

様々な人材をスカウト、現在の部隊が結成された

 

『第1特殊部隊バレット』情報屋:最近会ってないタヌキ

 

───────────────────

 

それは私達が仕事を終えて帰ろうとしてた時に知りました

 

「皆さん聞いてほしいっす!」

 

そう言って天田さんが扉を勢いよく開けて中に入ってきました、膝に手をついてかなり急いでた様子です何があったんでしょうか?

 

「大丈夫ですか?水飲みます?」

 

まだ開けてないペットボトルの水を差し出す、天田さんはキャップを開けて一気に飲みました

 

「…ぷはぁー…み、皆さん落ち着いて聞いてほしいっす」

 

と、天田さんは皆さんの顔をじっくり見てそう言いました

こういう話は柏崎さんがいる時の方がいいのではないでしょうか?

私はそう思いましたが柏崎さんはエンさんを迎えに行ってしまい、帰ってくるのはまだ先になりそうなので後でもいいのでしょう

 

「…隊長が超人に襲われて重症っす、丁度須郷雅弘が来たから事なきを得たらしいっすけど死んでもおかしくなかったっす」

「…は?どういう事だよ!隊長は今どこだ!?」

 

宮島さんが机を叩いて立ち上がり天田に詰め寄りました

 

「私も気になりますね、隊長はどの超人に襲われたので?」

 

雨森さんは静かにそう言って天田さんの方に体を向けます

宮島さんも雨森さんもそれぞれ怒りの表情を浮かべて

 

「お、落ち着いて下さいっす、隊長は超人『道華翔太郎』に襲われたらしくて今医務室で寝てるっす」

「隊長がやられちゃったのはビックリねぇ~…やっぱり強いわね超人って」

「ふん、弱くなったものだ」

 

雨宮さんと宮本さんがそれぞれ自分の思った事を口にしました。

私は…

 

「だから道華翔太郎は今後厳重監視…って矢本さん…?」

「なんですか?」

「その、ダメっすからね?厳重監視っすから」

 

突然そう言い始めた天田さん、何故そう言うのでしょう?

 

「何故私に?」

「えっと…そのっすけどね」

「はい?」

「…ちょっと能力が出始めてるっす」

 

そう言われて頭に手を当てます、すると何か手に当たる感触と何かが『耳』に当たった感触がしました

 

「…矢本さん?」

「大丈夫ですよ天田さん」

 

私は笑顔で天田さんに安心させるように言います

 

「それ相応の罪は償ってもらいます」

 

────────────────────

 

「殺す?物騒だな」

 

翔太郎は少し下がりながら突然の訪問者に返答する

明らかに一般人じゃないのは一目瞭然で、超人の所に1人で来るのはそれなりの自信があってこそだと思っての後退だった

 

『あぁ、すみません感情が先走ってしまいました…』

 

と、ガスマスクの女性が申し訳なさそうに頭を軽く下げる

翔太郎は様々な要因を考え1つの答えに辿り着く

 

「…お前はあの男の仲間…と言った所か」

 

あの男…様々な情報を集めやっと見つけ出した謎の組織…そして須郷雅弘の変化に関わっていた件…翔太郎はあの男がそれなりの地位の人間として接触したのだ

 

『話が早くてとても助かります、あまり時間も無いので』

 

そう言って女性はガスマスクとヘルメット、手袋を外した

ガスマスクを外した顔は美女と言っても過言ではない程の顔でヘルメットの中で纏まってた白髪の髪が肩まで流れるように落ちる

 

「…女を殴る趣味はない」

 

そう言ったが実際は嫌な予感がしたからだ、この時の予感はよく当たる…

 

「お気になさらず、貴方の攻撃は当たりませんので」

 

そう言って女性はゆっくりと翔太郎に近づく、その顔には笑顔が貼り付けられておりこの場所では狂気に思える

 

「…穏やかじゃない…っ!」

 

言い終わる前に、喉を掴まれた感触がした

女性の姿はもう目の前まで接近しており不意打ちだった

 

「ぐっ!?」

 

喉を掴まれたまま、大きく振り回され窓の外に投げ出される…月明かりが照らされる道路に受け身しつつ着地する

 

「ゴホッ!ゴホッ!」

 

あまりの展開の早さに脳の処理が追いつかない…何が起きた?翔太郎は事務所の方を見る、割れた窓からゆっくりと先程の女性が出てくるのが見え

 

「…犬…いや、狼の…か?」

 

その白髪からピョコっと白い獣の耳が生えていた、その耳はちゃんと動いており作り物ではないのは明白だった

 

「あ、これですか?お気になさらず…ただの耳です」

「そのただの耳が気になるってんだろうが…」

 

あのスピードは想定出来なかった…そう思い翔太郎は女性を『敵』として認識する事にする、全力を出さなければ勝てない

 

「まぁ…始めるか」

 

そう言い翔太郎の体が消える、夜の闇に紛れるように

女性は特に消える前に攻撃しようとはせず突っ立っている

 

「(おいおい…あの強気はハッタリか?)」

 

超人としての能力を知らなかったのか…それとも…

翔太郎は左に大きく迂回して女性に中段蹴りを当てようとする…が

女性は『真っ直ぐ』翔太郎の方を向き蹴りを避け、逆に反撃してきたのだ

 

「っ!…危ねぇ」

 

女性の拳をギリギリで避け…た筈だった

翔太郎の腹部の服が三つの線が切り込まれており言わば獣の爪で切られたように思えた

その女性の手をよく見てみる…すると微かに鉤爪のようなものがうっすらと見える

 

「言わば獣の爪ってわけか…」

 

そう言いつつ翔太郎は『ステルスモード』を発動し姿を消して今度は上段蹴りをするが避けられ、また鉤爪が襲ってくる…が2度目もあってどうにか避ける

 

「よく避けましたね」

「避ける事は得意なんでな」

 

こうして話を挟むも…もう話す余裕も無くなりそうだ

 

「それでは…死なないでくださいね」

 

そう言って目の前の女性は左右の手に鉤爪を生成して

翔太郎に襲いかかる

 

───────────────────

 

「うーん、なんでエイレーネーの人間が道華翔太郎の所にいるんだろう?」

 

そこは丁度、道華翔太郎と矢本美鈴が戦ってる場所のすぐ近くの高層ビルの上

茶色の毛が風になびかれながら1人の男と1人の女がら立っていた

 

「恐らく翔太郎さんを引き込もうとしてるのでしょうね」

 

女…長内青葉はそうAに言う

 

「ならなんで戦ってるんだろうね」

「突然の事で翔太郎さんも抵抗してるのでしょう」

「ふーん…ま、いいや」

 

と、Aは自分の背後に置いてあった麻袋を掴む

それは人が1人入りそうな程大きく…そして中では何かが暴れていた

 

「ほーらほら、落ち着いて…君は翔太郎が憎いだろう?せっかくのチャンス逃すのは勿体ないよ」

 

そう言い落ちる手前まで麻袋を転がす、そしてその麻袋に足を置きグリグリと押す

その麻袋には様々な色の模様が書いており…一見魔法陣にも見えなくはない

 

「君に力を与えるんだ、精々頑張って殺すんだよ?」

 

Aは強く麻袋を蹴り…麻袋は宙を舞いそして重力に従うように下に落下していく

 

「………………」

 

青葉はそれを憎悪の目で見ていた…何かを我慢するように

 

────────────────────

 

翔太郎と美鈴は激しい攻防を繰り返していた、元々戦闘が得意ではない翔太郎と巧みな技で翔太郎の動きを見切り確実にダメージを与えてる美鈴

 

翔太郎の回転蹴りをしゃがんで避け下から突き上げるように半透明な鉤爪を振り上げるが翔太郎は空中で避けバク転で距離をとる

 

そもそも体力がそこまで無い翔太郎は少しずつ動きが鈍くなりステルスモードもそこまで長く続かないのに効果の切れるのが早くなっている

 

そんな攻防を破壊するかのような…何かが落ちる音がその場に響く、それは麻袋だった…その麻袋からは大量の血液が流れてるのか滲み出てその付近を赤く染めている

 

「な…なんだ?」

 

思わずその麻袋を眺める、美鈴も突然の事に同じく眺める

 

 

 

 

 

それは突然だった、麻袋が弾けんばかりに膨らみ…そして『それ』は姿を現す

 

『クケハハァ…ケハ?』

 

その大きさは3m弱…大きな腕にアンバランスな小さな顔、体は小さな手が生えており…動いている

全身白く…明らかにこの世界の生き物ではない何か…というのが分かる

 

「なん…」

 

翔太郎が下がろうとするとその『化物』は両手両足を使い急接近してくる、回避も出来ずその大きな手は翔太郎の体をすくい上げるように叩きつけ遠くまで吹き飛ばされてしまう…何度もバウンドして遠くの道路で倒れる

 

「………」

 

美鈴は明らかに戦ってはならない雰囲気を感じ静かに逃げようとする…が

 

『ケハケハケハケハ!』

 

その小さな顔をこちらに向け笑っていた…

そして同じように両手両足を使いこちらに接近してくる

両手に鉤爪を生成して構え攻撃に備えるも

 

『ケハ!』

 

突然体が動かなくなる、それは恐怖か…それとも敵の攻撃か…何であろうと敵の目の前で無防備な姿を晒した

 

「しまっ…」

 

それが決定的な隙となり、化物の手が美鈴の体を上空に殴り飛ばす…殴れる前に手でガードすることが出来たが手からは鈍い音と骨が砕ける音がする

 

上空に吹き飛び、しばらく留まり…重力に従うように落下していく、どうにか近くの屋根に着地するが衝撃を流しきれず倒れてしまう

 

遠くからあの笑い声が聞こえる、遠くからゆっくりと近づいてくる

そしてとうとうこの場所まで来たようだ…屋根にあの大きな手が見え登ってこようとしてるのが分かる

 

「…油断…と冷静じゃなかったから…ですかね…」

 

自分のミスを思い返す、あの人の為にと思っての事が自分を殺す事になる…なんて事だろう

 

死が確実に近づいてきている、そしてあの小さな顔が屋根の上に上がってくる

 

「…すみません…」

 

 

 

「謝るくらいなら勝手な行動は控えるように」

 

突然の声に無理やり顔を上げる、いつの間にか自分の隣にあの人が立っていた

 

「柏崎…さん…?」

「無茶しやがって…なんだこの化物…きもっ」

 

いつものように軽口を言う自分の大切な人がいる事にも驚きだが…

 

「柏崎さん…怪我は…?」

「あー…そのー…能力使った、天田から話を聞いてなっ!」

 

そう言い終わると登り終えた化物に向けて何かを投げる

それは細い筒状の…フラッシュバンだ

 

「ちょっと失礼」

 

と、美鈴の目と自分の目に手でガードする

すると強い光と音が響き化物の悲鳴が周囲に響き渡る

 

「よしっ!全部隊発砲許可!」

 

トランシーバーを使い何かに向かって言う、すると様々な場所から非戦闘員達が銃を構え発砲する

化物は突然の光と攻撃にパニックを起こしてそこら辺の物を壊し始める

 

「これだけの人数どうやって…」

「ちょっと情報提供があってな」

 

化物は暴れまくり…突然動かなくなる、柏崎は一旦発砲を止めさせ様子を見る

 

『ケハケハ…ケハハハハハハハハハハハ!!!!!』

 

化物は突然高笑いをして自分の足元に手を置く、足元には血溜まりが広範囲に広がっており手はその血溜まりに置かれる…すると血溜まりが赤く輝き始め化物はボコボコと鳴る血溜まりの中に消えていってしまう

 

「…逃げたか…よし、総員後処理だ!通行止め、メディアにはマフィアの抗争でも言っとけ!本当の事言っても混乱を招くだけだ!」

 

柏崎が構成員達に指示を出し

 

「お前の処罰は帰ってからだ、今は体を休めろ」

 

そう言われ、矢本は体を休める為に眠りにつく

 

───────────────────

 

この一件は穏便に済まされる…筈だった

 

超人道華翔太郎が行方不明になり様々な憶測が飛び交い街はこの件を囁き合う




どうも、そろそろUAが300になりそうで舞い上がりそうな私です
これからもこの作品をどうぞ、よろしくお願いします

さて今回ですが出てきた非戦闘員というのは特殊部隊じゃない主に処理班や
情報操作などをしてる部隊のことを指します
彼らは様々な資格と身分を持ち合わせており時と場合によって使い分けてる人達で戦闘は出来ないがサポートに特化した部隊です
彼らのサポートがあるから無茶な事も出来るのでエイレーネーでも人材を募集してる感じです

では明日、また次の話で会いましょう


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第22話『意外な再開』

エイレーネー日本支部 第1特殊部隊『バレット』

副隊長 矢本美鈴

能力『変身』

特定の条件でその能力を使用可能(一時的ならいつでも)

夜、もしくは満月の時に狼の聴力、脚力、体力を保持する

また体内の魔力を使用して鉤爪を生成する事ができ大きさも変更可能、ただし魔力がそこまでなく使い過ぎると魔力切れを引き起こす

 

 

 

『報告書』エイレーネー日本支部:オペレーター 天田美琴

 

──────────────────

 

時は少し遡る

 

エイレーネー日本支部 医務室、医務室の責任者は現在日本中の怪我人を助ける慈悲活動をしに行っておりスタッフに治療され俺はベットに横になっていた

 

「あー、スタッフさんタバコ吸っていいか?」

「駄目ですよ柏崎さん、ここ医務室です」

「ちぇー…」

 

怪我は動けなくはないが激しい運動や戦闘はしばらく絶対やらないようにと厳命されてしまった、今日は様子見としてここで一日を過ごすのだが

 

「…暇だなぁ…」

 

やる事が無いというのは、かなりの苦痛なものだ

普段は忙しいから休みが欲しいとか思うが…いざ暇になると何かしたいと思うのが人間だと思う

そう考えてると医務室の扉がノックされ誰かが中に入って来た

 

「……………………さっきぶり」

「げっ、田村さん…」

 

手には林檎を1つ持ってる田村さんが入ってきた…林檎かなり萎んでない?

 

「…………お見舞い」

「田村さんそれいつの林檎?」

「………五日前」

 

そっかぁ…それ持ってきてどうしろって言うんだよ…

田村さんと雑談してる時…天田が息切れしながら医務室に飛び込んできた

 

「なんだ?天田お前そんな急いで…お見舞いならちゃんと茶菓子をだなー…」

「そんな場合じゃないっす!矢本さんが道華翔太郎の所に…」

 

伝えられたのはそんな言葉だった、失念してた…矢本ならやりかねないのを…

 

「くそ!…田村さんナイフは!?」

「…………まだ未完成」

 

なら普通のナイフで戦うか…そう思いベットから出ようとすると

 

「あのー、柏崎さん宛にお手紙です」

 

と、スタッフが手紙を片手に医務室に入ってくる

 

「んなの見てる場合じゃねぇ!」

「で、ですが早急見るようにと表に書いてあって…」

「はぁ?」

 

急いでるってのに…そう思いつつ手紙の送り主の名前を見て見ない…という選択は無くなった

 

「柏崎さん誰からっすか?」

「…………気になる」

 

天田と田村さんが後ろから覗き込んでくる

 

送り主は『情報屋タヌキ』からだった

俺は手紙の封を破り中身を見る…

 

『柏崎へ

貴方のお仲間さん危険かも?魔術師が接近中!かなりの戦力を用意した方がいいかもねー

情報屋 タヌキ』

 

最後にタヌキのイラストが描かれてたがそこまで上手くはなかった

 

「…うわぁ…情報屋っすか…」

「……………関わりたくない」

 

情報屋達はあまり好かれてない…個人情報も商売として扱ってる為エイレーネーの人間にちょっと距離を置かれてる連中だ

しかし…

 

「…どこでそんな情報手に入れたんやら…とりあえず天田、非戦闘員を片っ端に集めてくれ、武装は忘れるなよ?」

 

 

────────────────────

 

「という事があったのさ」

「…柏崎さん誰に話してるっすか?」

「………………」

 

俺は黙秘権を行使する…

現在エイレーネー日本支部の医務室で俺はベットに横になっていて天田がお見舞いに来た所だった

俺の隣のベットには矢本が寝ており絶対安静と言われた…何故俺?

 

「いやー、それにしても道華翔太郎はどこ行ったんすかね」

「もう昨日の話だからな…そこまで遠くは行ってないだろうが…どうなのやら」

 

あれから様々な事をしてる合間にもう日をまたぎ朝の7時だ

あれ以来翔太郎の姿は確認されておらず行方不明状態でニュースになっている

 

「あ、林檎剥きましょうか?」

「え?お前そんな女子力高い事出来たの?」

「林檎の皮剥きで…てか女子力の使い所微妙っすよね」

「結構難しいんだぞ…ってお前それ田村さんの林檎だろ」

「なんで分かったっすか?!」

「めっちゃ萎んでるんじゃん…」

 

そんなの自分の同期に食わせるな…

 

「あ、そうだ忘れてたっす」

「なんだ?その林檎は食わんぞ」

「支部長が呼んでるっす」

 

俺は毛布を体に巻き付けるように体を回転させてミノムシのようになる

 

「駄目っすよ行かなきゃ!嫌でも行くんすよ!」

「俺は拒否するぞー!どうせ昨日の件をネチネチ言う気だぞ!あのおっさん!」

 

そぉい!と、天田に毛布を奪われ俺は無理やりベットから退場させられる

 

「くっそ…お前許さんからな…」

「はいはい…いいから行くっすよ」

 

と、無理やり俺の手を引き天田は支部長室まで連れていく…行きたくねぇなぁ…

 

──────────────────

 

エイレーネー日本支部のトップであり全特殊部隊の総司令でもある支部長

『岸井誠二』、36という若さで日本支部の支部長に着任した為実力不足と囁かれている

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

「失礼します!」

「失礼します」

 

支部長室に入る前にノックをし、どうぞと返答があった為中に入る

支部長室の中は多少の広さがあり壁には様々な賞のトロフィー等が飾られていたり…いかにも権力者の部屋

 

「独裁者め…」

「言いがかりはやめてもらおうか、柏崎君」

 

俺のジョークを潰そうとしてるのは誰だ!…まぁ天田の他にはあの人しかいないが…俺の目の前にはかなり豪華な机が置かれており…その隣の質素な机の椅子に支部長が座っている

 

「支部長ちゃんと机に戻れよ」

「私にはちょっとあの机は豪華過ぎるのだよ…」

「黙れサングラス野郎」

「隊長相手支部長!支部長っす!」

 

知るか、自分の地位に萎縮してんじゃねーか

 

「…んでなんの用だ?」

「……柏崎君、君は部下のミスをどう思う?」

「…………俺の教育不足です、彼女ではなく俺の責任です」

 

実際俺が翔太郎にやられなければ、矢本にちゃんと言っておけば…翔太郎が行方不明になる事も非戦闘員達にも無駄な仕事が起きなかった

 

「…申し訳ございません」

 

頭を下げ支部長に謝罪をする、この世界は一瞬のミスが生死を別ける…矢本も俺達が間に合わなければ化物に殺られていて俺は部下を失ってしまう所だったのだ

 

「…分かってるならいい…だが次はないと思うといい」

 

支部長は立ち上がり俺の肩に手を置く、その手は力強く安心感も感じた…この人はやっぱり統率者に向いている

昔は…頼りなかったが

 

「それでは柏崎君、君には罰として1つの任務を言い渡す」

 

恐らくこれが本題だろう、俺は顔を上げて支部長を見る

 

「今回の件で超人、道華翔太郎は行方不明になったが…超人はそう簡単には死なない、それでエイレーネーとしては道華翔太郎を生きてると仮定して捜索隊を組む事になった」

「その捜索隊に俺…というわけですか」

「そういうわけだ、だが今回の件で非戦闘員は後処理などに追われて捜索隊には入れない」

 

超人が行方不明になった事でメディアが様々な手段で捜索したり等をしていて非戦闘員達はその妨害や誘導を行っている

 

「そして君達、特殊部隊も参加は出来ない」

「な、うちのもか!?」

「そうなる」

 

雨森と矢本がいればいけると思ったんだが…

 

「オペレーターは多分呼ばれたから私として…誰が参加するんすか?」

「…君達の他に1人頼りになる者に『依頼』した」

「…依頼?」

「そうだ、入ってくれ」

 

支部長がそう言うと扉が開けられ1人の人物が入ってくる

 

「なっ!?」

「えぇー?!」

 

俺と天田は驚きのあまり声を上げてしまった…

 

「初めまして、ボクは涼風緋彩って言います」

 

なんで超人がいるんだ…?!

 

「今回…件の化物というのもあり柏崎君だけでは危ないと判断してね、道華翔太郎をよく知っており超人でかなりの戦力が期待できる涼風緋彩に協力を求める事になった」

 

と、支部長は真剣な顔でそう言う…かなり本気にこの件に対応してるようだ…まぁ支部としてもやられっぱなしは…無視できないんだろう

 

「よろしく…って君はあの時の!」

「め、めんどくせぇ!お前どこの転校生?!」

 

こんな超人と上手くやれるのだろうか…




どうも、私だぁ…(誰だ)

今回の話では超人、涼風緋彩との再開の話です
あと新キャラの支部長ってイケおじ的な空気を出してる…出してる?人です
かなり凄い人なんですけど自分を過小評価しちゃったりする人で仕事中は普通という人です


では明日、また次の話で会いましょう


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第23話『再開』

 

エイレーネー日本支部

第16、17特殊部隊の生き残りが発見された、あの壊滅した状況…山の中に逃げ込み生存していたのを確保しこの件について話を聞くが瀕死の状態の為に聞き出せなかったが一言だけ『悪魔』…と意識を手放す前に言い残した模様

回復次第話を聞き出す必要性がある為医療班の活躍に期待する

 

『通達』エイレーネー日本支部、支部長 岸井誠二

 

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「いやぁー…まさか君がえいれーねー…?って所の人だったとはね…あ、クレープ食べる?」

「いや、まぁ…知ってたら怖いわ…あ、イチゴ入ってるやつな、クリームたっぷりの」

 

現在お昼の街中のクレープ屋前

俺と涼風緋彩は街の怪しい場所を片っ端に探したり聞き込みをしたりする作業をしている、この街はかなり大きい

しかも10割中4割は人が住んでいないゴーストタウンのような場所になってしまっていて2人だけでは正直言ってお手上げ状態である

 

「しかし…どこも超人超人…話のタネは超人ってか」

「ははは…ボク…あまり超人として有名じゃなくて良かったと今思ってる…」

 

街の聞き込みをしてみたがどこも道華翔太郎の行方不明になった話ばかりしている、まぁ彼等にとってはこの街のヒーロー的な立ち位置でもある超人が行方不明になるのは…想像出来ないか

 

「あ、探偵のおねーちゃんだー!うちの猫見つけてくれてありがとー!」

「あら緋彩ちゃん?この前助かったわぁ…あ、そうだこの飴ちゃんあげるから食べちゃいなさい」

「押忍!涼風さんお久しぶりです!今度是非うちの道場の指南に来て欲しいです!」

 

と、クレープ食べてたら涼風の周囲に人がゾロゾロと集まっていた…涼風緋彩は超人…と言うよりも身近な頼れる人だったり、人助けしてくれる良い人だったり、武道の名人でもあり…まぁ超人とは思えないな、うん

 

「ちょ!皆落ち着いてよ!ボク今お仕事してる所なんだよー!」

 

うわぁ…あれが人混みでもみくちゃにされると言うやつか

絶対関わらないでおこう…あ、目が合った…めっちゃ助け求めるじゃん無理無理あの人混みに入れないって

アイコンタクトを送りまくって近くのベンチに座る

 

「しっかし…支部長も無茶言うな…」

 

支部長から課せられた任務は

・道華翔太郎の確保

・例の化物に遭遇した場合弱点をさがすこと(無理しない)

・涼風緋彩の能力を測ること

 

この3つだ…1つ目はまぁ分かる、だが2つ目は正直弱点探す余裕ないと思うが…それに3つ目は超人を引き入れたいという下心が凄いするな…

涼風にはこの任務伝えずに翔太郎探す事だけを教えといたからいいが…ただ化物の事と翔太郎がそれに襲われて行方不明だというのは知ってるらしい

 

しばらく俺がやって来た野良猫を可愛がってたらフラフラになった涼風が俺の隣に座った、ちょっと疲れてない?

 

「酷いよ…助けてくれたっていいじゃないか…」

「いや、邪魔したらあれかなー…って」

 

いつの間にか手には紙袋を持っており中には飴やら色々なお菓子が入っていた

 

「…人気者なんだな」

「はは…そうでもないよ、ボクなりに探偵の仕事をしてたらこうなってたんだ…まぁ失敗も多いけど」

「ふーん…」

 

照れてるのか頭をかいて困ったような顔をする

 

「翔太郎なら完璧に依頼を達成するんだけどね…人付き合い上手くないけど」

「そうかい、それを聞く限りお前らはいいバディだな」

 

涼風は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてしばらく思考してるのか何も反応しない、その間にクレープ食い切るか…クレープ美味いなぁ…

 

「そう…なのかな?…うーん…うん、翔太郎はボクの相棒だからね!」

 

そう言って眩しい笑顔をする…くっ!直視出来ねぇ!

穢れてしまった俺の心ではこの純粋な子を直視出来ねぇ!

俺が某目がぁ!…をしてる間に涼風はクレープを食べきり立ち上がる

 

「よし!翔太郎を見つけてボク仲直りするよ!ボクと翔太郎が揃えば最強だからね!」

「そ、そうか…見つかるといいな…」

 

俺も涼風に続いて立ち上がり携帯でこの街の地図を開く

 

「天田、この街で人が少ない場所に目星つけといてくれ」

 

さて…翔太郎は一体どこにいるやら…

 

 

─────────────────────

 

暗く窓を板で塞いだ部屋…そこは何処かの広い工場跡地

翔太郎は痛む傷を手当しながら今後の作戦を考える

あの化物はこの街を脅かす存在だ…だから倒さなければならない…それには怪我を治し探す必要があるが…

 

遠くから足音がする、それに気づいた翔太郎は立ち上がりステルスモードに切り替わる

翔太郎の体は少しずつ空間に溶け込み完全に見えなくなった…足音はどんどん近づいてきて…

 

 

─────────────────────

 

「ここ辺りにいるかな?」

「知らん、まぁ天田が街の至る所を見て考えた結果ここになったんだ、信用していいだろ」

 

俺達は今はもう廃れてしまった工場群がある場所に来ている、昔は街の産業を支える場所だったが全自動の最新な工場が出来上がり廃れてしまったのだ

 

「…微かに誰かがここに来た形跡があるな」

「うん、それもかなり最近」

 

そんな工場が立ち並ぶ道路に数滴の血が落ちていた…

恐らくいる、ここの何処かに

 

「探すか」

「それじゃ、順番に見ていこう」

 

俺と涼風は工場の一つ一つを見て周り何か痕跡が無いか探したが…

 

「…閉め忘れ…かな?」

「最近開けた感じだな、多分中にいる…か?」

 

途中、工場の大きな扉を開けた形跡があった、どうやら中に入ったらしい

 

「…行くか?」

「うん、行こう」

 

中に入るとホコリっぽい空気が充満してるが息ができないという程ではない…そして

 

「あ、見て…!奥に明かりがついてる!」

 

そう言って奥を指す、確かにほんのり明かりが灯っており放置された重機によって見えないが…ここに元々住んでるとかではなければ

 

「道華翔太郎の可能性が高い」

 

そう言って俺は歩いて奥を目指す、こんなにあっさり見つかるとは思わなかったな

ふと、隣を見ると涼風がそわそわしてるのか…ちょっとステップをしている

 

「…行きたいなら先に行ってもいいぞ?俺はどうせ警戒されるし」

「い、いいのかい!?ならちょっとボク行ってくる!」

 

そう言って涼風は猛ダッシュで明かりを目指す…元気だなぁ…俺もあの頃は元気が有り余って…

 

違和感を感じた、それは微かに…だが確信に迫る事だった

 

 

 

 

 

 

『微かに血の匂いがする』

 

 

 

 

「涼風!止まれ!」

 

俺は急いで涼風の後を追う、嫌な予感がする…こんな所でまさか…

 

涼風の背中が見えその、奥を見る

 

 

 

『ケハケハ…ケハハハハハァ…』

 

白い体、アンバランスな大きな腕、小さな顔、その体には赤ん坊から成人までの手が生えており普通の生き物とは言えない

 

「嘘だろ…」

 

その手には血塗れの人が握られていた




どうもー!ちょっと遅れたァ!すみません☆

緋彩って人望あると思ってるいじられキャラです、反論は認めます(?)

ではまた明日、次の話出会いましょう


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第24話『昔と今』

 

我々がいるこの地球には神が存在する

神と聞いて何を想像するだろうか?ある人は全知全能の神と答え、またある人はこの世界を作った神と答えるだろう

だがこの世界の神は『信仰』されれば神となる

もちろん心からとかそういうのは必須だがそれでも『神に近い何か』になれてしまう、この世界に存在する宗教達はむやみやたらに『神に近い何か』を生まれさせない為に様々な事をしてるが一度生まれ落ちた『何か』は眷属を作り規模を拡大させていく

 

『信仰』情報屋:無宗教タヌキ

 

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目の前の情報量の多さに俺は一瞬思考が止まってしまった

なんせあの化物が普通にいて尚且つ手には人間らしき物体を握り締めてるからだ

 

「ぁ…あれ…?翔太郎…じゃない?」

 

よくよく目を凝らしてみると確かに握られてる人物?は茶色い髪だった、翔太郎は黒なのでどうやら俺達の早とちりらしい

 

「ってそんな場合じゃねぇ!涼風、逃げるぞ!」

 

一応隠してたナイフを腰から抜き涼風に言う、涼風緋彩の脚力なら逃げれる筈だ

 

「…いや、ボクは逃げない」

「はぁ!?」

 

こいつ何言ってんだ!?俺はジリジリと後退しつつ化物を見る、手に持ってる物体を放り投げこちらを向いて近づいてくる

 

「勝算はあるのか?!」

「分からない…けどこのまま放置しても結局変わらない、だからボクは戦うよ、手伝ってくれないかい?」

 

無茶言う…だが今回は俺と涼風だ…勝てる…か?

 

「えぇい…くそ!何すりゃいい!?」

「ボクに合わせてくれ!」

 

そう言って涼風は姿がブレたと思ったらもう行動を開始しており化物に接近すると大きく跳躍して化物の背後を取る

化物は涼風を追うように背後見るが

 

「遅いっ!」

 

あの脚力から出る強烈な飛び蹴りを化物の脇腹に直撃する

 

『ケハッ!?』

 

涼風の飛び蹴りをモロに食らった化物はその巨体がまるで飾りのように吹っ飛んでしまう

工場の壁に叩きつけら老朽化した壁を砕きそのまま外に飛んでいく

 

「規格外過ぎるだろ…っと、俺も行くか!」

 

流石に何もしないのは気が引ける、俺は急いで外に出て化物の姿を探す

どうやら隣の工場の壁まで破壊したらしく大穴が空いた壁とポロポロと瓦礫が落ちている

 

『ゲハゲハ…ケハハハハハァ…』

 

化物は吐血しつつも瓦礫の中から這い上がって来た、かなり頑丈な体をしてるな

化物は大きな腕を使い素早く俺に向かってくる…いや俺がやったわけじゃねぇよ

 

「そっちから来るのは好都合!」

 

走ってくる化物に向かって走り、スライディングで足の間を通りつつ足とアキレス腱を狙うが…硬い、コンクリートの壁に切りつけてるような感触がする

 

「またこういう系かよ!こいつらどんだけ俺に苦労させたいんだ!」

 

化物の突進をやり過ごし立ち上がる、大きな腕を振り回して壁や重機を破壊してその瓦礫や破片を投げてくる

 

「あっぶね!涼風、流石にキツい!」

「ごめん!ちょっと攻撃するタイミング測ってた!」

 

そう言って砂煙の中から涼風が高速で化物に向かっていく

化物の投げる瓦礫や破片等を左右に動きながら避け回転蹴りをする、化物は大きな腕でガードするが少し動いただけであまり効果が無さそうに見える

 

「柏崎さん!」

「おう!」

 

涼風が蹴った反動で後ろに跳躍して俺の隣に立つ、そして俺は右回りに涼風は左回りで移動する

が、ここである問題に直面した

 

「(タイミングが分からねぇ!)」

 

涼風と一緒に戦闘するのは初、また何故か涼風の方が速度が早いのに俺に合わせる…というより違う『誰か』と一緒に戦闘してるような感覚で戦闘してるように思えた

 

「くそっ!やるしかないか!」

 

いい感じに翻弄はできた、後は攻めるだけ…

 

「わわわわ!?柏崎さん!」

「ん?なっ!?」

 

俺がナイフで攻撃しようとしてる場所に涼風が同じタイミングで攻撃を仕掛けていた…俺と同じ方向に高速で移動しながら

 

「きゃっ!?」

「うおっ!?」

 

急ブレーキした涼風と俺は派手にぶつかりその場に倒れてしまう

 

「涼風!お前ちゃんと周り見ろ!」

「わ、分かってるよ!」

 

そう言って涼風と俺はその場を退避する、その場所に大きな腕を振り下ろした化物は俺達がいた場所を粉々にする

 

「お前の方が速いんだ!合わせてくれないと俺が戦闘できねぇよ!」

「分かってる!だけど…分からないんだ!翔太郎と以外一緒に戦闘した事がなくて…」

 

そう言い合っている俺達を化物はその大きな腕で攻撃しようとする…が

 

突然ガクッと膝を折り、中腰になる

そして眩い紫色の光が化物の周囲に発光する、それは様々な謎の文字が書かれている…魔法陣?

 

光が消えたのを確認して俺は目を開ける…そこにはもう化物はおらず…

 

「あ………翔太郎…?」

 

黒いハット帽と手には謎の紙を手に道華翔太郎が立っていた

 

「………緋彩か」

 

翔太郎は緋彩を見てポツリとそう言う

 

「翔太郎!どこ行ってたんだ、心配してたんだよ!」

「…お前も『そっち側』なのか…」

「え?翔太郎…なんて?声が小さくて聞こえないよ?」

 

小さく言う翔太郎、そしてそれが聞こえなかった涼風は翔太郎に聞き返す

 

「…いや、なんでもねぇ…ここで何してんだ?」

「え、何してるって…翔太郎を探しに来たんだよ!」

「…誰も探して欲しい…とは言ってないがな」

 

静かに聞いてると翔太郎が何やら思春期の男子中学生みたいな事言い始めたぞ、嫌な予感がする

 

「何言ってんだ!君が化物に襲われたって聞いてボクは助けようと…」

「誰が助けろって言った!」

 

翔太郎は怒気を隠さず涼風に言い放つ、その顔は…恐れてる奴の顔だ

 

「な…そこまで言わなくたって…」

「…いや、はっきり言うぜ…迷惑だ、俺に関わるな…とっとと自分の事務所に戻ったらどうだ?」

「…翔太郎…怒るよ」

「勝手にしてくれ、誰もお前の助けは必要としてねぇ」

 

隣からガキっ!と歯を思いっきり噛む音が聞こえる

 

「け、けど…ボクは…」

「…なぁ緋彩…俺は…お前の事が昔から大っ嫌いだったんだよ、ヘラヘラした顔しやがって…もう俺の目の前に顔を出さないでくれ」

 

翔太郎は振り向き背中越しに涼風にそう言い放つ

 

「……あぁ、そうかい」

 

下を向いた涼風緋彩は怒りを隠さず

 

「わかったよ…ボクだって、君のことなんか!」

「そこまでだ、まったく思春期かバカヤロー」

 

お前がそれ言っちゃ駄目だろ…お前らの仲どんなのか知らんが

俺は涼風の口を手で塞ぎ何も言えないようにする

 

「翔太郎、お前何しに来たか知らないが…俺達に保護される気はあるか?」

「ない、お前らと戯れる気もな」

 

そう言って翔太郎は姿を消しこの場には下を俯いたままの涼風緋彩と俺だけが残った

 

「はぁ…さてどうするかな…」

 

タバコを吸いたい気分だが未成年の前なのでやめる事にする




遅れましたァ!ネタ考えてたら遅れましたァ!決して散歩してて遅れたわけじゃないよ!(ほんとだよ!)

今回ですが…ピリピリするなぁ!思春期かっ!私もこんな時期が……友達いなかったな…

では明日、次の話で会いましょう


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第25話『不器用な男』

※タヌキは情報をタダで提供した為上司に怒られ出禁になった為今回はおやすみさせてもらいます

 

 

情報屋 出禁タヌキ

 

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「ほれ、缶コーヒーだ」

 

あれから俺と涼風緋彩は工場地帯を出て涼風と初めて会った公園に休みに来ていた、相変わらずどんよりとした空気でとても居心地が悪く自販機で缶コーヒーを買ってきた

 

「あ、ありがとうございます…」

「おう」

 

会話が続かねぇ…確か涼風は16だったか…俺この歳頃の女の子の心情とか分かんねぇよ…最近の子は何が流行ってんだよ…タピオカ?タピオカなのか?俺とうとうタピオカデビューしちゃうの?

 

「…さっきはすみません…」

 

俺がタピオカ買うか悩んでたら突然涼風が謝ってきた、恐らくあの喧嘩の事だろが…

 

「まぁよくある事だろ、こんな事でウジウジしててもしょうがねぇ」

「う、うーん…そんな軽く流していい事なのかな?」

 

うるせぇ、男ってはのな馬鹿な生き物なんだよ…ちょっと機嫌悪いとそりゃまぁ怒るよ多分

 

「とりあえず、翔太郎の生死の確認は出来た…後はあの化物だなぁ」

 

支部長から出された任務、翔太郎の確保は兎も角涼風緋彩の能力は分かった…後は化物をどうにかするのと翔太郎を確保だな

 

「うーん…ボクの蹴りは効いてたけどそこまで…って感じだったかな」

「俺のナイフも、まー…通らない…さっき確認したら刃がボロボロだったよ」

 

数回切っただけでナイフの刃はボロボロになっていた、かなり頑丈で切れ味も最高傑作…と言われてるんだが…

 

「……………ねぇ、翔太郎どうしちゃったのかな…」

 

涼風はポツリと呟く、そんな事言われても分かるわけないだろう

 

「………あの事まだ気にしてるのかな…」

「あの事?」

「うん…」

 

そう言って喋り始める…俺は相槌打っとけばいいか

 

「昔ね、翔太郎とボクは師匠の所で探偵として…修行してたんだ、ボクが前に出て翔太郎を守って…翔太郎がボクの背後を守ってくれる…翔太郎が考えて、ボクがその障害を排除して…」

「いいコンビだったんだな」

「うん、言っただろう?ボクと翔太郎が組めば最強だってね」

 

少し、顔が明るい表情になる

 

「ただ…たまたまボクが違う依頼を受けてて…翔太郎と師匠が危険な依頼を受けてたんだ」

 

飲み終えてない缶コーヒーを眺め1口飲む

 

「…ここからは人から聞いた話なんだけど…翔太郎…いつもの様に動いてて…師匠が対処出来る敵からの攻撃を庇おうとして…逆に師匠に庇われて死んじゃったらしいんだ」

「………………」

「翔太郎が超人として目覚めたのもその時からだったかな…けど翔太郎はあまりその力が好きじゃないみたい…使いまくってるけどね」

 

…嫌な予想が頭に浮かぶ、超人達というのは…いや…今は目の前の事だ

 

「…んで、翔太郎は誰とも組まなくなってお前は翔太郎から拒絶された…と」

 

そう言えば納得出来なくもない、不器用な奴だよ

 

「…あははは、ごめんねこんな話しちゃって」

 

と言って頭をかいて缶コーヒーを飲みきる、口に出かけていた言葉を一緒に飲み込みながら

 

「…ま、ああいった頑固で不器用な奴には本心語ってやればいいんじゃねぇかな」

「本心?」

「そう、本心」

 

言葉にしないと相手に何も伝わらない、何もかも察するのは不可能に近いのだ…

 

「だからお前は次会った時、お前の心の中に溜まってる言葉を思いっきり吐き出しちまえばいい」

「…はは…簡単に言うね」

「そう思うだろ?けど言いたい時に言わないと結局言えないまま終わるぞ」

 

嫌な思い出が脳内にチラつく、頭を振りその思い出を記憶から追い出して涼風を見る

その顔は覚悟を決めた顔だ、いいツラしてる

 

「さーて…んじゃ…天田?そろそろ場所特定は出来たか?」

 

携帯を取り出して我らがオペレーターに聞く

 

『もうバッチリっすよ!しかし柏崎隊長は器用っすねー』

「?」

 

涼風が疑問に思ってますよー的な顔で俺を見てくる

 

「ちょっと比較的に安全で接近出来た機会があってな、軽く発信機付けてみた」

 

あの神出鬼没な移動方法…まぁ今回は翔太郎がやったが、あれを対処する為に発信機をスライディングしてる時に突き刺してやった、エイレーネー特製の刺せる発信機…今なら20万円

 

「いつの間に…」

『流石柏崎隊長!小賢しいっすね!』

「賢いって言ってくれない?」

 

とりあえず天田から送られた地図を見る…位置的に潰れたデパート辺りか

 

「…っと、そうだ…天田『あいつ』に連絡とれるか?」

『あいつ…あ、あいつっすね!全然出来るっすよ!』

「…あいつ?誰だいそれ」

 

キョトンとした顔で見てくる涼風

 

「ふふふ…俺達の最終兵器さ」

 

それと準備もある為…俺と涼風は一旦支部に戻る事にする

空はそろそろ暗くなり…夜だな

 

───────────────────

 

遠くを見てると日が沈みかけており、夕日が辺りを包み込んでいく…そんな街中を1人歩いている道華翔太郎…彼はもう誰も住んでいない住宅が立ち並ぶ道を歩いている

 

「…師匠」

 

頭の中で師匠の言葉が思い出される、翔太郎の判断ミスで死んでしまった師匠が残した言葉を

 

『…翔太郎…お前は賢い子だ…俺が居なくても…もう立派な1人前…だ…緋彩は強いが…優しい子だ…守ってやれ…この帽子はお前に貸す…お前がジジイになってこっち来る時土産話と一緒に…返してもら…う…』

 

師匠はとても頑固で多くは語らず厳しい人だった…だが俺は人殺しも同然な事をした、ただの馬鹿野郎だ…師匠のようになれない…誰も守れない…こんな俺を見ないでほしい…そう願っていたらこの力を手に入れた

 

「緋彩…」

 

やはり少し言い過ぎただろうか…だが…これでいい、俺みたいな死神と一緒にいるとあいつまで…

 

「あれ、翔太郎さんじゃないですか、お久しぶりです」

 

目の前から歩いてくる人影…また長内青葉だ

 

「お前…」

「そう言えば私が渡した情報と魔術は役に立ちました?」

 

青葉は傷ついていた翔太郎の前に現れ緋彩が化物に遭遇しそうな事と、転移の魔術?を押し付けてきたのだ…

 

「…あぁ、それは礼を言う…青葉」

「はい?何でしょう?」

「…お前の目的はなんだ」

 

翔太郎は青葉の目的がさっぱり分からなかった、何故そこまで自分に関わるのか、何故情報等を渡してくるのか

 

「藪から棒に…前も言いましたよね?私は貴方達の味方ですよ?翔太郎さんや緋彩さんや雅弘さんの…ね」

 

その表情はあまりにも変わらなさ過ぎて恐怖を感じる、何を考えているのか分からないという恐怖が

 

「…そうかよ、それで…また俺の前に現れて何の用だ」

「まぁまぁ、落ち着いて…鷹揚自若…ですよ?」

 

青葉のペースに呑まれないようにするが…何故かどうやっても青葉から会話の主導権を握れない

 

「…ちっ…早く言え」

「せっかちですねぇ…まぁいいでしょう、今回翔太郎に良いニュースと悪いニュースがあります…どちらから聞きます?」

「良いニュースから聞こう」

 

あまり長く話してると完全に逆らえなくなる、その為素早くこの会話を終わらせるべきだと判断する

 

「では良いニュースですが…翔太郎さんが転移させた化物、今とあるデパートを住処にしてるうです、叩くなら今ですね」

 

青葉から渡された魔術と魔力が込められた紙…あれを使って飛ばした化物の居場所だった

 

「…悪いニュースは?」

「悪いニュースなんですが…」

 

と、少し言いずらそうに言葉を詰まらせる

 

「…緋彩さんがあの小さな男性と件のデパートに赴いてるようなんです」

 

 

それを聞いた翔太郎は頭をハンマーで叩かれたような感覚に陥る、戦闘を見ていた限りあの二人ではあの化物は倒せない

 

「…くそっ!」

 

翔太郎は痛む傷を無視して走り始める

 

「あぁ、あとそれと…茶色の髪の男にはお気をつけて」

 

すれ違い様に青葉がそう言い翔太郎は先を急ぐ

 

 

───────────────────

 

「うーん、夕日だな」

「夕日だねー」

 

俺と涼風は今デパート近くの空き家に待機している、天田に周囲に人が居ないか確認してもらっている為だ

 

『隊長ー、今の所人っ子一人いないっすよ』

「ん、早いな…んじゃ行くぞ涼風、覚悟は出来たか?」

「そんなもん最初っからさ」

「威勢がいい事で」

 

いつもの装備に着替えた俺と、念の為プロテクター等を付けた涼風は潰れたデパートに向かって行く

夕日が完全に沈んだ時、戦いが始まる…




どうも、最近眼鏡の度が合わなくなって恐怖してる私です

缶コーヒー…飲んでみたいけど私子供舌なので飲めないんですよね…砂糖これでもかと入れたら大丈夫なんですけどねー…タピオカ入れれば…同じか(適当)

では明日、また次の話で会いましょう


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第26話『相棒』

あのグラサン最近人使い荒くてブラックだと思う、ちょっとは残業代出せって思う、あとクソ支部長のサングラスはダサい、たまに加齢臭もするしあとグラサンもダサい

 

『送信、エイレーネー日本支部愚痴投稿』

「送信先、エイレーネー日本支部:支部長」

 

エイレーネー日本支部第1特殊部隊 K

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

送る所間違ってるよ

あと柏崎君は後で支部長室に来るように

 

『返信、エイレーネーの1番偉い人』

 

───────────────────

 

化物は1階の広い場所を陣取って食事中だった

…あまり見てて気持ちのいいことじゃないな…涼風の方を見ると少し顔が青くなっている、まぁ超人と言えど死体に慣れてるわけないか…しかもそれを貪ってるやつが目の前にいるし…平気でいる俺はもう普通には戻れないかもな…

 

「大丈夫か?なんならお前は後からでも構わないぞ?」

「ば、バカ言うなよ…それに君一人じゃあの化物はきついだろう?」

「ごもっとも…さーて…」

 

ナイフに手を添え、涼風も体を低くしていつでも走り出せる準備をする

 

「いくぞ!」

 

物陰から飛び出た俺と涼風は出来るだけ離れて戦う事になった、何故なら俺と涼風は息を合わせる事は難しく必然的に一体一のような事をしないとならないからだ

 

化物は足音に気づいたのかゆっくりと振り向く…その小さな顔のさらに小さな口の周囲を血でべっとりと濡らし、俺達を見た瞬間楽しそうに、嬉しそうに笑った

 

「笑ってられるのも今のうちだっ!」

 

ナイフを抜き接近する、化物はその大きな腕を振り攻撃をしかけてくるが横に避けて攻撃を回避する…って地面が粉々じゃねぇか…当たったら即死じゃん…

 

「そらよ!」

 

すぐ側まで接近してナイフを化物の足に一筋の切り込みを入れる…やはりか

ナイフを見る、ナイフは紫色の…オーラ?的なのを出しながら淡く発光している、このナイフは田村さんが1晩で作り上げた魔力が込められたナイフだ…田村さん過労死しそうだったがこれで化物に攻撃が通る…が

 

「くっそ…やっぱり作ったものじゃこれが限界か」

 

確かに切れていた…ほんの1cm程度、しかもナイフにはもう刃こぼれが…確かに耐久値は下がるがそれでも基本くらいの耐久値は期待できてた筈…

 

「まさか」

「とりゃー!」

 

俺がある事を気づいた時、丁度いいタイミングで涼風が攻撃を仕掛ける

化物は咄嗟にその大きな腕でガードし…轟音と軽い突風のような波動だけで終わった

化物はピクリとも動かずその攻撃を耐え切ったのた

 

「なっ!?」

 

そしてそのまま足を掴まれ投げ飛ばされ、空中でどうにか体勢を持ち直し着地する

 

「やっぱりか…」

 

この化物…『硬くなってる』

それもこの短時間で急速に進化するように

 

「涼風!出来るだけ絶え間なく攻撃を続けるぞ!」

「う、うん分かったけど…どうしたんだい!?」

「こいつ戦闘をする度に強くなってやがる!しかも尋常じゃない速さだ、悠長に戦ってたらジリ貧になる!」

 

言い過ぎとしても間違ってはない筈だ…さぁ…勝てるか…?

 

 

────────────────────

 

 

あれから20分程、休憩もなく戦い続けている

どうにか化物の攻撃を避け攻撃を繰り返すがやはり時間が経つにつれてどんどんダメージが通らなくなってきている

だがまだ柔らかい脇下や股下、関節等はどうにかダメージが通るが…そこを重点的に守り始めてからはどうしようもなくなってきてしまった

 

「はぁ…はぁ…涼風!まだやれるか!?」

「も、もうキツいかも…」

 

化物との生死を賭けた戦い、またノンストップの戦闘が精神的にも肉体的にも疲労が積み重なっていく

 

「くそぉ!」

 

これ以上は撤退も視野に入れないと俺か緋彩が死ぬ…だから俺は

 

「涼風逃げろ!」

 

俺は化物に接近して大きな腕による攻撃をジャンプや回避で避けやながら攻撃を続ける、時間くらいは稼いでやるさ

 

「なっ、無理に決まってるだろ!」

「無理とか、んなの知らねぇよ!俺だけなら逃げれるんだ、お前が邪魔で逃げれねぇんだよ!」

 

涼風は一瞬ビックリした顔をして、そして泣きそうな顔になった…どうせあの野郎の言葉でも思い出したんだろ

 

「……ごめん」

 

そう言って涼風は走って戦闘を離脱した…これでいい

 

「っと!」

 

俺は化物の攻撃を避け…いや、軽く当たったらしい

少し吹っ飛びそこら辺に落ちていた廃材の山にぶつかって止まる

 

「っくー…」

 

体も武器もボロボロ、に対して化物は傷だらけだがピンピンている…涼風に言った言葉は嘘だった、俺は逃げれる手段もなければ能力は逃げる時に便利なもんでもない

だが

 

「ぺっ!…こいよ化物、俺は生き恥晒してもお前に一泡吹かせてやるぜ?」

 

血が混じった唾を吐き俺はナイフを構える、ガキの前くらいかっこつけさせて欲しいもんだ

 

──────────────────

 

 

ボクは夜道を走っている、柏崎さんから言われたから…という言い訳を使ってボクは逃げたんだ、怖かった…ただただあの化物が…怖かった

 

雅弘やエイレーネーの人を呼んで…戻らなければ、早くしなければあの人が死んでしまう

 

 

「…緋彩!」

 

ボクを呼ぶ声が聞こえた、下を向いて走ってたせいか誰かの横を横切っていたらしい

 

「…えっ…翔太郎…?」

 

そう、街灯が灯ってる場所に立っていたのは翔太郎だった

 

「お前こんな所で何を…ボロボロじゃねぇか!」

「翔太郎…そうだ、翔太郎!お願い力を貸して!」

 

翔太郎は強い…ボクよりも強い、だから今翔太郎と戻ったら確実に助けられる

ボクはそう思ってた

 

「…分かった、だが緋彩…お前は逃げろ、お前じゃ危険だ」

 

その言葉にボクは時の流れが止まったような感覚がした

 

「…翔太郎」

「まず雅弘のところ行け、あいつは今悪党の所にいるがそれでも安全な筈だ」

「翔太郎…」

「そして青葉には気をつけろ、あいつは何かおかしい…絶対に近寄るな」

「翔太郎…!」

「あと…」

 

「翔太郎!!!」

 

ボクはいつの間にか大声を出して翔太郎の胸ぐらを掴み塀に叩きつけていた、やったボクも驚いたが…それ以上に頭に血が上っていたらしい

 

「…なんだよ」

 

苦しそうに咳き込みながら翔太郎はボクを睨む…

 

「…ボクと師匠を重ねるな!」

 

この男は…ボクと師匠を重ねて、ボクを死なせないように過保護になっていた

 

「ボクも師匠も弱くない!信じろよ!何で自分の中で完結して決めつけてるんだよ!」

 

ボクはずっと心の中で思ってた事を、吐き出した

 

「翔太郎…」

「………」

 

翔太郎は、何も言わない、その顔はハット帽で隠して

 

「翔太郎は…ボクが信用ならないのか…?」

 

あの頃のボクと翔太郎が揃えば最強だって…相棒だって言ってたじゃないか…

 

「翔太郎にとってボクは…弱いボクなのか…?」

 

ボクの中で何かが溢れ…そして何も思わなくなった

翔太郎を離して数歩後ずさる…翔太郎は腰が抜けたように地面に腰を下ろす

 

「…ごめんよ翔太郎…ボクは君にとっていらない存在なんだね…」

「…………」

 

翔太郎は何も言わない…そうかい…

 

「…ボクは戻るよ、君は…自由にしてくれ」

 

柏崎さんを死なせるわけにはいかない…だからボクは戻る

ボクは後ろを振り返らず、元きた道を戻る

 

───────────────────

 

俺は…何をしたかったのだろうか

 

誰も信用出来ず、師匠も信用出来ず、緋彩も…

 

「俺は…馬鹿野郎だ…」

 

どうすれば良かったのか、どう選択すれば最善の手を取れたのか

…消えたかった、こんな俺が憎く嫌いで…誰にも見られたくなかった

 

「………消えろ…消えろ…消えろ…」

 

何度も願った、そして手に入れた能力は使えもしない一時的なものだった

 

「…消えろ…」

 

誰も救えない、誰も信用出来なかった、こんな俺は

 

「…消えたい」

 

…パサりと何かが落ちる

顔を上げると、ハット帽が落ちていた、師匠の形見だ

 

「師匠…」

 

守れ…か…師匠ならどうしただろうか

 

「いや…俺は」

 

俺は、師匠じゃない、もう師匠はいない

誰も俺を導く人はいない、だが信用出来る奴はいる

今ならやり直せるか?いや、やり直せるか否かじゃない

 

「俺は…」

 

 

───────────────────

 

 

「ぐっ!」

 

俺は吹き飛び壁に叩きつけられる、これで何度目だろうか

涼風を逃がして俺は化物と何度も戦闘をして攻撃をくらった、どうにか受け流して凌いでたが…

 

「これまでか…」

 

ダメージが蓄積し過ぎて骨折しそうだ、もう動くのも苦痛だ…まだだ…まだ能力は使えない

 

「とりゃー!」

「は…?」

 

マヌケな声と共に涼風が飛び蹴りをしてるのが見えた…

なんで

 

「なんで戻ってきた!」

「見捨てられない!ボクは誰も見捨てない!」

「ワガママ言うんじゃねぇ!」

「黙ってくれ!」

 

くそ!誤算だった、このままじゃ…

 

「せりゃー!」

 

威力が下がった蹴り、それを化物は軽くガードして

 

「…あ…」

 

その大きな拳を涼風に合わせ

 

爆風と砂埃が撒き散らされる、涼風が居た場所から

 

「涼風!」

 

砂埃から化物がのっそりと現れる…涼風は…

 

 

 

 

「緋彩、俺は…実は後悔してた」

 

声が聞こえた、何処からだ?

…俺の真後ろじゃねーか…

 

「俺はお前すら信用出来ないでいた、何故か…それは俺が自分に自信が持てなかったからだ」

 

「俺は…足りない、何もかもが足りない…だから緋彩…俺の相棒にまたなってくれねぇか」

 

涼風緋彩は翔太郎に小脇で抱えられており驚きと泣きそうな顔をしている、それは俺の時に見せた顔ではなく

 

「…緋彩、俺とお前は2人で1人だ…どっちも欠けちゃ意味ねぇ」

「…うん、分かるよ…翔太郎」

 

そして翔太郎と涼風緋彩は俺の前に立つ

 

「さぁ、いくぞ緋彩」

「あぁ、いこう翔太郎」

 

「「さぁ、お前の罪を数えろ」」

 

 

 

…なんともまぁ…頼もしくて最強な2人だな




今日は雰囲気的に後書きはおやすみさせていただきます


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第27話『動き出す最後の一人』

俺の目の前に並ぶ2人は勇ましく見え頼りになりそうだが…

 

「…何とかなりそうか?」

 

少し休憩すれば動けなくはない…しかし今すぐには戦闘に戻れないからこの2人に任せるしかない

 

「大丈夫だ、お前は少し休んどけばいい」

「ま、見ててよ」

 

そう言って翔太郎と涼風は俺の方を見て言う…大丈夫ってもよ…

 

「緋彩」

 

翔太郎は涼風に握り拳を向ける、涼風はそれに応えるように拳を突き合わせ…少しずつ翔太郎と涼風の姿が消え始める

 

「な、翔太郎…」

「少し能力の使い方が分かってな…行くぞ」

「…うん!」

 

完全に消えた2人は化物に向かって行く、化物は見えないが確実に何かが接近してるのが本能で分かるのだろう

大体の場所に向けて攻撃を仕掛けるが…

 

「残念!」

「こっちだ」

 

翔太郎の蹴りが化物の膝裏を的確に当て体勢を崩して涼風が隙だらけの化物の脇腹に強烈な蹴りを突き刺す

 

『ゲハっ!?ゲハ…』

 

化物は翔太郎達を払い除けるように腕を振るうが予想してたように翔太郎は攻撃圏外に、涼風には跳躍され避けられてしまう

 

「翔太郎!」

「ああ!」

 

攻撃をした為か姿が見えていた2人だがお互い素早く化物の周囲を動き、すれ違いざまに手と手を叩き…言わばハイタッチだな、するとまた2人の姿が消える

 

『ケハハハハハハハ!』

 

自分の下に溜まった血溜まりに手を置き、何かをしようとする化物

 

「おっと、逃がしはしないぜ」

 

そう言って翔太郎は1番体重が掛かってる関節に蹴りを入れ化物の体勢をまた崩す

 

「とりゃー!」

 

崩れた体勢に追い討ちをかけるがごとく化物の首筋に高速の蹴りを叩き込む

化物は前のめりに倒れ顔面は地面にキスをする…なんともまぁ…

 

「…戦いたくはないな」

 

完全にあいつらのペースだ、お互いにカバーして不足を補っている

翔太郎は涼風のような強力な蹴りやスピードはないが的確に相手の隙をつく

涼風は翔太郎のように頭が回らないが翔太郎にない決定打を持っている

 

「さぁ!ボクと翔太郎を止めれるかな!」

「ま、止める時間すらないから大変だぜ?」

 

化物は抵抗するも、自分のペースを乱され痛手を確実に加えられ逃げようにも逃げれず攻撃するにも相手が見えない

 

「ワンサイドゲームってか……さて、天田?そっちはどうだ?」

『そろそろ到着するっすけど…なんか大丈夫っぽい感じっすね、何があったんすか?』

「それがなー…」

 

目の前の光景を見つつ今まで起こった事を説明していく

 

 

───────────────────

 

 

「うーん、なんかおかしいよねー」

 

1人の男がそう言って同じ部屋にいる人間に話しかける

男…Aは手に持っている綿が詰まった人形をゆらゆらと揺らしながらこの部屋に残った最後の協力者を見る

 

「いやー、やっぱり翔太郎さんも緋彩さんもお強いですね…ですがご安心を、久しいあの2人が突然協力するとしても…そんな直ぐには出来ませんよ?攻めるなら今です」

 

最後の協力者…長内青葉はAにそう答える

その顔は常に笑顔で自信が表れ何かを知ってる…そんな雰囲気が周囲に漂っている

 

「ふーん…そう言えば君何かと他の超人と会ってるらしいじゃん?そこ辺りどうなの?」

「ははは、ただの調査ですよ調査…私達記者は足で稼いでこそ本領発揮されますからね」

 

申し訳なさそうな顔をしてそう答える、何を考えてるのか分からない…いや、分からせないような…そんな表情だ

 

「それにしても随分と慎重ですね?」

「慎重にもなるよ、柏崎くんだよ?彼には敵わないから」

「ほうほう、貴方までの魔術師が慎重にならざるを得ないような人が存在するとはこの世は何があるか分かりませんね」

 

何気ない会話、そんな会話でも互いの腹を探り合う

 

「そう、まぁそろそろ…どうにかしないとねー…あ、そうだいい事思いついたよ」

 

きた、と青葉は心の中でガッツポーズをとる

 

「なんでしょうか?あ、私戦えないので首取ってこいとかそんな戦国時代の人のような事は出来ないですよ?」

「違う違う、君に最後の『眷属』を渡すからさ…あそこに放ってきてよ」

 

そう言って手に持っていた人形を投げ渡す、それは何処と無くあの2人だけ残った組織の人間の1人に見えなくはない

 

「なんともまぁ責任重大ですね、私なんかでいいんですか?」

「君が何かと頑張ってるからね、僕なりの応援の気持ちだよ?」

「それなら有難く貰っておきましょう」

 

と、鞄に人形を入れて扉に向かっていく

 

「あ、そうそう…失敗したら言ってね!僕が助けてあげるからさ」

 

青葉はAを見る、その顔は無邪気な子供のような笑顔だ

 

「えぇ、その時は助けてもらいましょうかね」

 

そう言って扉を開け外に出る、その背中をAはとても、とても…楽しそうに眺めていた

 

 

───────────────────

 

「っと…あんまダメージが通らなくなったな」

「やっぱり柏崎さんの言う通り硬くなってるっぽいね…」

 

化物を一方的に封じ込め攻撃を続けていた2人だが…

 

『ケハッ…ケハハハハ…』

 

まだしっかりと立っており吐血しつつも笑っていた

どうやらそれなりに辛いっぽいな

 

「んじゃ…俺も動くか」

 

俺は立ち上がり2人の場所まで移動する、涼風と翔太郎は俺に気づき拳を突き出してくるので合わせるように俺も拳を突き出して合わせる

 

………………………………………

 

 

「いや俺は消えねぇのかよ!?」

「すまねぇな…このステルス2人用なんだ…」

「なんかノリで…ごめんね?」

 

こいつら!俺ちょっと…あれ?俺も姿消えるの?…ってワクワクしてたのに…!なんて奴らだ!俺のワクワク返せ!

 

「…んで、どうする?」

「どうするってもよ」

「あの化物まだ動くよ?」

 

とりあえず翔太郎に聞いてみたが特に良い案は無いらしい

 

「…困ったな、あと少しって言ってたが…」

 

俺がそう言っていたら…横の壁が吹き飛んできた

何言ってるか分かんねぇと思うが俺もよく分からねぇ…

俺は咄嗟に体勢を低くして避け、翔太郎は涼風に抱えられて事なきを得ていた…てかやっぱ足速いな涼風

 

「な、なんだ…?」

 

俺は埃が舞っている中を目を凝らして見る…大きな影が見える

 

「おやおや?皆さんお揃いでどうしたんですか?」

 

そんな声が聞こえてくる、女の声だ…

 

「え?今の声…」

「…やはり来たか」

 

どうやら超人達は誰か気づいたらしい…という事は

 

「どうも!毎度お馴染み長内青葉です!」

 

ピンク色の髪にポニーテール、笑顔で学校の制服を身に纏う少女と

 

 

 

大きな腕にアンバランスな小さな顔、体には赤ん坊から大人の手が生えている…

 

 

黒い化物がその隣に立っていた




どうも、バールの先っちょの二又の左側です(分かりずらい)

シリアスとか盛り上がりに後書き書きたい病の私、とある知り合いに自重しろと言われました…何でだっ!!!

では明日、また次の話で会いましょう


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第28話『違和感』

強力な『眷属』を作り出すにはそれ相応の魔力と信仰が必要とされる、どちらかが低いとアンバランスになりどちらも高すぎると加減が分からない『眷属』になってしまう

 

 

『眷属とは』

エイレーネー日本支部 『魔導書』保管室

 

────────────────

 

超人、長内青葉

優れた観察眼と先読みにより情報戦を勝ち残りメディア界の超人…他の超人のような分かりやすい凄さは無く知名度でいえば翔太郎と同じぐらいとも言える

 

「…あれが」

 

見た目は普通の学生だ、他の超人のような絶対的な強者の雰囲気は感じられない

むしろ俺達のような『普通の人間』と言われても納得してしまうだろう

 

「え…青葉…?」

 

涼風が困惑した声で呟く、そりゃそうだ…超人の1人が今戦っていた化物の色違いだが…同じ個体の隣に立っていてるから

 

「おや?皆さんどうされました?私が突然現れて驚いたんですかね?大丈夫ですよ!私達、お仲間じゃないですか」

 

そう言ってニコッと笑う長内青葉の笑顔はとても正常ではない…そう思えた、何故なら俺達が戦ってるやつの隣に何食わぬ顔で立っていて仲間…とほざいてる

 

「…おい青葉!お前は…『そっち側』だったのか?」

「私にあっちもそっちもないですよ?私は皆さんの仲間、であり中立なんですよ?」

 

翔太郎の問いに答える長内青葉の回答は何とも言えない程、胡散臭い

言ってる事とやってる事が滅茶苦茶だ…こいつの目的が見えない

 

「ちょっと質問いいか?」

「はい?なんでしょう『柏崎』さん?」

 

こいつ…俺の名前知ってるのか…いや、調べれば簡単な事だな

 

「…お前はここに来て何をしたいんだ?」

 

俺達を消すならあんな派手な登場せずこっそり殺ればいいし、あの化物が2体とも同じ身体能力なら俺達はどうせ保ちきれなくなって全滅する…

 

「簡単な話ですよ?いつでも『殺れる』から最後の言葉を聞いてあげようという優しさです」

「そりゃあまり嬉しくない優しさだな」

 

…何となく翔太郎の方を見る…翔太郎は動き出す準備をしていた、青葉を止める気か…それとも

 

 

──────────────────

 

「さぁさぁ、他に言い残す事はありますか?」

 

これでいい

 

「おや?何も言えない程絶望しましたか?笑えますね〜、超人と言ってもこんなもんですよ?翔太郎さんも緋彩さんもただの人間で一般人で愚かな生き物というのを自覚してます?」

 

これでいい、後は

 

「…青葉、お前ずっと俺達を陥れる為に動いてたのか?俺の所に来たのもこのチビに協力させないように」

「浅はかですね〜、そんな翔太郎のような器の小さい人が理解できると思ってました?だから貴方のせいで人が死ぬんですよ」

 

後は

 

「青葉!なんでそんな事言えるんだよ!ボク達同じ仲間なんだろ!?」

「はいはい仲間ですよ?けどそっちが誠意を見せてくれないと私とてしも何とも言えないんですよね」

 

後は…

 

「…青葉…俺は」

「私を殺しますか?貴方みたいな腰抜けにできますかね?」

「…青葉…」

「緋彩さんはそろそろ1人立ちしたらどうです?いつまでも翔太郎さんに寄生してるのはよろしくないですよ?」

 

後はこれで私が

 

「…てめぇを刺し違えてでも」

 

私が…

 

──────────────────

 

 

何かおかしい、そう思ったのは超人達が言い合ってる最中だった…明らかに長内青葉は『誘導』しようとしてる

 

「おい……」

 

俺が止めるより早く翔太郎が動き出す、涼風はその場に立ち尽くしており動く気配はない

 

「くそっ!止まれ、翔太郎!」

 

煮えくり返った思考は俺の声を聞き入れてはくれなかったらしい、翔太郎は長内青葉に接近して蹴りを頭部に目掛けて実行する…青葉は避ける事はしない、それどころか笑顔だった…

 

───────────────────

 

これでいい、これで全てが上手く纏まる

これで、私の役目は終わった

 

迫り来る翔太郎さんの足がスローモーションで見える、これが死ぬ直前というやつですかね?私は死んだ事は無いので初めての体験ですね〜…あ、翔太郎さんの蹴り変わった?ちょっと威力が強めに見えますね、これは当たったら生きれないだろうなー…

 

そんな考えが思い浮かぶ、死ぬ前の考える事がこれというのは何とも言えない程、私らしい

これで良かった…

 

いつまで経ってもこない衝撃、嫌な汗が流れる

計画が狂い始めている予感がした、これは、まさか

 

 

 

 

 

「あっぶないなー…青葉ちゃん、避けないと駄目じゃないか」

 

 

 

 

あぁ、失敗してしまった

 

 

─────────────────────

 

 

「なっ!?」

 

翔太郎の蹴りは長内青葉に届かなかった…というより邪魔をされた

 

「やー、危ない危ない☆…あと少しで大切な協力者が死んじゃうところだったよー!」

 

そんな軽い雰囲気の男が翔太郎の常人離れした蹴りを腕1本でガードしてた、それもビクともしてない

 

「…くっそ!」

「翔太郎!」

 

相棒の危険を察知した涼風が高速で側まで行き男を蹴りその反動で翔太郎を掴みつつ俺の所まで戻ってきた

しかし…涼風の攻撃も特に動きがない

 

「な、なんだいあれ、翔太郎とボクの攻撃効いてないの?!」

「いや、そんなわけが無い…人間がお前らの攻撃を耐えきれるわけない」

 

あれは…

 

「…恐らく『魔術』…」

 

茶色の髪の毛に軽そうな雰囲気だがイケメンの分類に入る…そんな男が立っていた

 

「ほら、青葉ちゃん大丈夫かい?」

「はい!助かりましたAさん」

 

長内青葉と…A…?と呼ばれる男は話し合っている

 

「…おいお前!…最近魔術関連の紙と知識を持ってる奴がいたんだが…お前が黒幕か?」

 

超人2人の攻撃を耐え、関連的には玉虫色の液体、化物2体を使っている…魔術師…それもかなり極めている

 

「…んー?あれ!柏崎くんじゃん!久しぶりー!」

 

と、俺に手を振ってくる…?

 

「え?知り合いなの?」

「いや…俺の知り合いに男の魔術師は…」

 

女の魔術師は知り合いに一人いるが…

 

「……………………はぁ…忘れちゃったのか」

「…すまねぇな、とりあえず俺達に捕まってくれはしないか?」

「はは!面白い事言うね?流石に無理だよ柏崎くん!」

 

あっちは俺を知ってて俺はあっちを知らないというのはなんか…凄く気持ち悪い

 

「AさんAさん」

「どうしたんだい青葉ちゃん」

「親睦?を深めるのは構いませんけど…見た所翔太郎さんと緋彩さんは協力しあっているようですし、倒すのは難しいかと」

「というと?」

「今日は撤退するのが吉です」

 

そう話し合い始めたAと長内青葉、何か青葉は焦っているようにも見える

 

────────────────────

 

早く離さなければ、皆からこの狂人を…怪物を

 

「うーん、確かに言われてみればそうだね」

 

まだ策はある、一旦戻って準備をもう一度すれば

 

「…青葉ちゃん」

「はい?なんでしょうAさん?」

「ごめんね?」

 

あ、これはバレてますね

 

そう思い、私は激痛と共に自分が倒れたのを他人事のように思えた…傷口を見ると玉虫色の液体が出てくる

いつの間にか私の中にも居たらしい、なんという失態か

 

遠くでは驚いている顔の翔太郎さんと柏崎さん、そして信じられないものをみるような顔をしてる緋彩さんが見える

あぁ…予定とは違うが結果が同じなので全て良しというわけですか…

 

はぁー…もっと…良い…方法…考え…ば……ったなぁ…




どうも、、、、、、、、、、私でデデデ☆(あっ!やめろ何をする!アー!)

ふぅ…プププなんちゃらに消される所だった…私です

今回の話なんですが書いてる途中翔太郎のシーン
完璧にあの例の乗るなエー〇!なんですよね、多分オヤジ(師匠)を馬鹿にされたんだね…

では明日、次の話で会いましょう


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第29話『超人、長内青葉』

ただ、全員とは言わずとも大多数が仲良くなればいいと思っていた

何も無くただ人脈と少し話が上手かっただけで超人と言われ、いつの間にかあの化物達の仲間入りをしていた。

 

何故だろうか

あの超人達は私よりも『強く、尊敬され、慕われていた』

しかし彼等は笑顔にならない

 

何故だったのだろうか

そんな超人達に話しかけ昼休みには食事に誘ったのは

 

何故なのだろう

彼等といる時間はとても楽しく幸福になれ満たされた

 

何故そうなったのだろう

いつの間にか雅弘さんも翔太郎さんも緋彩さんも互いの顔も見ず怯えている

 

何故なんだ

私ではあの超人達をどうにかする事も出来なかった

 

 

 

私なんかより必要とされている彼等が何故こうならなければならなかったのか、世界は彼等を特別とし社会は彼等をこの街という広くも狭い世界に隔離した。

 

私は様々な手を尽くした、けど私なんかではどうしようも無かった

 

それは偶然だった、たまたま柏崎という男が人間を殺している場面を見てしまった

そしてエイレーネーという存在を知って、Aという男を知ってとあることを思いついた…

 

「そうだ、彼等を利用すれば」

 

ただ利用するのは不安があった、だから私が『悪』として動けば全てが私の思い通りに動く

 

「こうすれば」

 

エイレーネーという組織の事を様々な情報源から入手して雅弘さんに近づき情報と警告をして

 

翔太郎さんの不安を煽り1歩を後押しして、タヌキという情報屋を使いエイレーネーと翔太郎さんに無理やり繋がりを付け

 

そして最後に私が『悪』としていなくなれば…彼等はまた一丸となって戦える、私という『悪』を忘れて…

 

 

───────────────────

 

「青葉ぁ!」

「う、嘘だろ…青葉…?」

 

突然の事だった、長内青葉の腹部から出血したと思ったら玉虫色の液体が飛び出て青葉は倒れピクリとも動かない

どういう事か分からないが…

 

「翔太郎、長内青葉は重要参考人だ…生きて保護しないとならない…いいか?」

 

何がなんだろうが黒幕があの男とするなら青葉は今回の件に深く関わってる筈で

 

「行くぞ」

「…あぁ、青葉には聞きたい事が山ほどある」

 

「はーいストップ、動いたら化物2体とも街に解き放っちゃうよー?」

 

俺と翔太郎が動こうとした瞬間Aからそんな言葉が出てくる、俺と翔太郎…そして裏で動こうとしていた涼風は動きを止める

 

「ははは、あと皆動かないよーにね?動いたら…」

 

そう言って右手を上げる、すると…どこからともなく足音がして2階から、出入口から、瓦礫の影から黒いローブを纏った人間が俺達の周囲を取り囲む

その見た目はまさしく『魔術師』

 

「んふふふ…いやー、これ1回やってみたかったんだけど…あんまり面白くないね?」

 

と、退屈そうに玉虫色の液体に戯れる

 

「…んで?確かAだったか?」

「んー?あー…そうだね、Aさんと呼んでくれても構わないよ?」

「んじゃ…A、お前の目的はなんだ?」

 

Aはキョトンとした顔をして俺を方を見て…笑う

 

「くふふふ…いやぁごめんよ、昔を思い出してね…僕の目的は『ゲーム』さ」

「…ゲーム?」

「そう!それもただのお遊びじゃない真剣なゲーム!」

 

と、両手を天に伸ばして新しい玩具を貰った子供のように早口でまくしたてる

 

「僕達『魔術師+α』VSエイレーネー!血で血を洗う戦いをしたいのさ!」

 

…あぁ、こんな顔をする奴は見た事ある

人が死ぬ事になんの興味も湧かない、逆に遊び道具だと思い込んでる『狂人』の顔だ

 

「ルールは簡単!この眷属2体と君達がここで戦って、そっちが勝ったらそっちの勝ち!こっちが勝ったらこっちの勝ちだ!」

 

うーん、説明が下手くそかな?あっちそっちどっち?

 

「んで?その説明の為にこんな大人数用意したのか?」

「落ち着きなよ柏崎くん?焦るな…もちろん、彼等にも出番があるよ」

 

と、周囲にいるローブの人間達を見て

 

「戦ってる最中は『彼等は街に攻撃を仕掛ける』」

「………」

「どこから来るか分からないこの66人の魔術師を一気に街に行かせるのさ…魔には魔でしか対抗出来ない…さぞ楽しい事になるだろうなぁ…?」

 

魔には魔…か…

 

「…お前…!何がゲームだ!何が戦いだ!他人に迷惑かけて何が真剣なゲームだ!」

 

涼風がAを睨み黙って聞いてた分、思ってた言葉を吐き出す…が…そんな理屈は通用しない何故なら

 

「は?君何?KYってやつかい?はー…興ざめしちゃったなー…もう関係なく眷属をそこら辺に攻め込ませてもいいんだよ?」

「やってみろ!ボクがお前を…」

 

「…っと、落ち着け…確かに思った事吐き出すのはいいと言ったが何でもかんでも吐き出せばいいわけじゃないぞ」

 

あと少しであの化物が街に解き放たれてしまう所だった…

 

「落ち着け、今この会話の主導権を握ってるのはAだ…俺達は癪だがあの狂人の言う事を聞くしかない」

 

理屈や常識が通用しない、力を手に入れたら最後…手をつけられない獣…それが狂人だ

 

「いいじゃんいいじゃん、流石柏崎くんだよ!僕のことよく分かってるんだね!」

「お前じゃなくて狂人だがな…んで?そのゲームってのはいつあるんだ?」

 

今回出来ることは奴の話を聞き終え無事にこの場から離脱する事だ、漫画の主人公とかなら…そんなの事させねぇって1発ぶん殴りに行くんだが…

 

「おぉ?乗り気だね!ゲームは明日の深夜0時に始まるよ!」

「OK、んじゃ今日はそういう事で解散としないか?」

「うん!そうだね…ただ」

 

と、Aはゆっくりと涼風を見る

 

「やっぱりちょっと…イラッとしたからそいつだけは殺すね☆」

 

そう言ってAは右手を上げると

 

『『『『『酷使せよ、死者の槍』』』』』

 

周囲にいた魔術師達が詠唱を初め、俺達を囲むように黒い槍が出現する

 

「緋彩!」

 

咄嗟に翔太郎は涼風に手を伸ばす、ステルスにする気だろう…だが…間に合わない

槍はゆっくりと…しかし確実に涼風に照準を合わせ一斉に飛んでいく

 

 

 

一瞬視界に約10m程ある大きな瓦礫が横切った気がした

…いや、気がしたじゃない…大きな瓦礫は槍を全て巻き込み奥の壁に激突して崩壊する

 

「…おいおい、来てみりゃ…なんだ?この騒ぎはよォ…?」

 

のそっと壊れた壁から大男が入ってくる

2m程の体格に似合わない兎のお面を付けて、はちきれんばかりの筋肉が自己主張するように1.5倍膨らみ…

 

「おい柏崎!てめぇ…また俺を面倒事に巻き込みやがったな?」

「すまんすまん、まぁ許せよ…『須郷』」

 

その大男…須郷雅弘は中に入って来て周囲を睨む

 

「あァ?誰だてめぇら…?…って翔太郎と緋彩じゃねぇか…奥に倒れてるのは…青葉…か…?」

 

周囲を観察して位置配置や次の行動を考えてるのだろう…頭悪そうだがこういうセンスはあるんだな

 

「ふ…ふははははは!いいねぇ!まさか超人がここまで化物とは思ってなかったよ!」

 

そう言ってAは楽しそうに…そして嬉しそうに俺達を見る

 

「その大男に免じて今回の件は水に流すよ…それじゃあ…柏崎くん?」

「…なんだよ」

「…『また』会おうね」

 

そう言ってAは右腕を化物、そして周囲に向けて

 

『酷使せよ、門よ』

 

周囲にいた魔術師、そして2体の化物は突然現れた大きな石造りの門に入って行き…場は静かになった、さっきまでの戦闘は嘘のように

 

「なんかよく分かんねぇが…おいエン!」

 

と言うと須郷の背中からひょこっとエンが顔を出す

 

「なに?」

「あそこに倒れてるやつ治療してやってくれ…ダチなんだ」

「はーい!」

 

そう言ってエンは青葉の所まで走っていく…とりあえずは

 

「首の皮一枚…繋がった…」

 

だが繋がっただけで、まだ脅威は去ってない…だが

 

「…今は生きてる事に感謝…だな」




どうも、友人に須郷ってあの須郷じゃね?と言われた私です

…あの須郷…?須郷…(検索)…須郷…(ヒット)

S〇Oの須郷じゃねーか!
全く関係はありません()

では明日、また次の話で会いましょう


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第30話『準備』

 

予定調和のように医務室で目を覚ます、なんか鳩尾に圧力を感じる…顔だけ起こして見るとエンが俺の腹を枕に寝ていた

 

「………」

 

とりあえずこのままだと俺の鳩尾が危険なので気持ち的に横スライドするようにその場から抜け出して伸びをする

 

周囲を見ると翔太郎、涼風、須郷が眠っている青葉のベット付近で爆睡していた…あれ?君達あれなの?こう、同じ部屋に男女いるのは無理的なあれないの?…ないのか…

 

「…はぁ…」

 

あの後俺達は一旦エイレーネー日本支部に戻り、青葉はエンの治療で一命を取り留めた

腐っても超人らしくそれなりの回復力はあり今は絶対安静だが数日後には完治するとの事、他の超人も少し休めば治療は要らないらしい…羨ましい

 

「…やる事やるか」

 

若干涎まみれの服を着替える為に俺は医務室を後にする

 

 

───────────────────

 

適当な服に着替え支部長室を目指し歩く俺は道中、矢本を見つける

 

「おい矢本!」

「あ、柏崎さんどうかしました?」

 

もう怪我は完治したらしく忙しく何処か向かおうとしてた矢本が足を止める

 

「いや、ちょっとな…夜に隊員達を部屋に集めてくれ」

「…例の件ですか?」

「そういう事だ、どうするかは決まってないがお前を倒すのも頷ける程の化物がいたからな…全員に話しとく必要がある」

 

矢本はエイレーネー日本支部でも上位に入る強さを持っていたが歯が立たないとなると全員に話しておき、いざとなったら…

 

「了解しました、それでは私はこれで」

「おう…んじゃ行くか」

 

俺は支部長室に向かって歩き出す

 

──────────────────

 

今日、エイレーネー日本支部の各部署にいる最高責任者達を呼び…例の件を話し合う緊急会議を支部長室で行われる事になっている

 

支部長室の中に入るとやっぱり質素な机の上に資料を広げながら何かを考えてる支部長と…

開発部の田村さん、総務部の代理、営業部の代理、支援部の代理、人事部の代理、隠蔽工作部の代理、医療部の代理…

 

「ほぼ全員代理じゃねーか!」

 

こいつらエイレーネーの危機なのに何やってんの!?

代理の人達凄い居心地悪そうにしてるじゃん!来いよ!最高責任者達!

 

「柏崎君、着席してくれ…これよりエイレーネー日本支部、緊急会議を始める」

 

質素な机から支部長の机に移動した支部長は長方形に向かい合うように座っている各部の最高責任者(笑)達に言う

とりあえず俺は邪魔にならないように支部長の後ろ辺りにでも立っておこう

 

「…今回の超人を狙った件は各自報告が来てると思うが…今度は街を人質に取られた状態での『ゲーム』を仕掛けてきたのが昨日、そして今日の夜中の0時にて始まる」

 

Aとかいうふざけた奴…俺達が強気に出るのは不可能なので

 

「…奴らの土俵で徹底的に叩き潰す」

 

支部長がそう言うとザワっと代理の面々が騒ぎ始める

まぁ代理だからあまり強く発言出来ないだろうがやんわりと大丈夫なのか?と聞いてくるのが殆どだ

 

魔術師というのは常人では理解出来ない、だから彼等は不安で仕方ないのだ…知らないというのは何よりも恐ろしくそして恐怖をかき立てる

 

「…………化物はどうするの」

 

田村さんが彼等に変わって質問をする…田村さんが会議で積極的に質問とかしないといけないってやばいだろ…

 

「ふむ、件の化物については…我々では対処できない…だが我々には超人がいる」

 

そう言うとわっ!と歓声が上がったような空気になる

超人は彼等にとっても正義の味方なのだ、分かりやすい戦力に勝ち確ムードになっている

 

「が、街に攻めてくる魔術師は我々で対処せざる負えない」

 

そう、攻めてくる魔術師はこっちでどうにかしないとならない…しかし

 

「……………部隊が足りない」

 

現在支部に駐屯してるのは俺達第1特殊部隊、そして比較的近くに来ていた第11〜13特殊部隊、そしてどうにか来れそうな第19特殊部隊が現在こちらに向かっている

合計5部隊、支援部隊も合わせると多少増えるが…足りない

 

「それに関してはどうしようも出来ない、民間組織に協力を要請するにも魔術に対抗できないのが目に見えている」

「んでも支部長?俺達だけじゃ魔術師達と正面衝突した場合超人達の方に戦力回せないぞ?」

 

Aは魔術師66人と言っていた、あれを信じるなら頭数で同じ人数になって戦えなくもないが生きるか死ぬか分からないだろう

 

「…超人側には戦力を向かわせない、冷たいようだが彼等だけで化物を倒してもらうことになる」

 

支部長の発言にまたザワつく代理達

 

「では部隊の配置、支援の補給ルート、隠蔽作業の説明を始める」

 

支部長の話は長く続き、代理人達は様々な意見や報告…それらを済ませ全員が準備の為に退室する

支部長室に残ったのは俺と支部長と田村さんだけだ

 

「…しかし、やっぱり外からの奴が叩き上げで役職につくとこうなるんだな」

「頭痛がする話だよ、私としては全力で出席してくれると助かるのだが…」

「……………他人事と思ってそう」

 

今回出席した各部署の代理人達、それが何を示すかと言うと最高責任者達のうち医療部以外は元々エイレーネーの人間ではなく違う組織の人間なのである

彼等にとってエイレーネーはそこまで重要ではなく、あまり積極的に尽力しない

 

「もうあの頃から生き残ってるのは私達だけか」

「………………偉くなったけど複雑」

「良い人達だったのに…惜しい人達を亡くしたもんだ…」

 

『あの事件』を思い出しつつ三者は今後の事を話し合いその後は解散となった

 

 

─────────────────────

 

 

俺はとある場所を目指す、今回の件…生半可な準備では命を落としてしまうかもしれない

だから俺は自分の『能力』を最大限に引き出す為にとある奴に頭を下げなければならない

 

「っと…久しぶりに来たな」

 

5層目の一番奥の一室『遺伝子操作実験室』の扉の前に立ちノックをする

 

しばらくするとドアノブが回り、ひょこっと小さな顔が出てくる

翡翠色の目に金髪の髪をポニーテールにして顔は整っており身長は俺とほぼ一緒

 

「…ちょっと話があって来た、中入っていいか?」

「…いいよ」

 

そう言って扉を開け中に戻っていくのを追うように俺は中に入る、中に入ると何ともまぁ何も無い…机とタンスとベットにソファー、無数のフラスコビン、謎の液体…

 

「少しくらいなんか買ってもらえばいいのにな」

「興味無い」

 

そう言ってソファーに座って隣をペシペシ叩く…えぇ…

 

「座れって事…?」

「それ以外何が?」

「あ、はい…」

 

とりあえず隣に座ってみる…

 

「…そう言えば怪我はどうだ?まだ治らないのか?」

「…順調に回復中、あと少しで外出歩けるかも」

 

その顔は嬉しそうなのか嬉しくないのかちょっとよく分からない…無表情だなぁ…まぁ昔からそうか…

 

…いや、俺のせいか…

 

「…あー…そのなんだ…ちょっと能力使うかもしれない」

「…」

「だから…あれだ、また迷惑かけるかもしれない」

 

今回言いに来たのは二つの意味がある、前回の突然使った事と…

 

「また辛い思いさせるかもしれない」

 

『能力』を使えば回避できない事だった…だが

 

「…別にいい、辛くはない」

 

そう言い切られるとな…

 

「すまないな…『マヨイ』」

「大丈夫、『サトル』」

 

俺はしばらくその場に留まり思いにふける

 

─────────────────

 

そろそろ作戦準備時間…だが何か3層から上が騒がしい

 

「おい何の騒ぎだ?」

 

偶然近くにいた天田を捕まえて問いかける

 

「隊長大変っすよ!」

「何が?」

「長内青葉がいなくなったんすよ!」

 

…うそぉーん…




どうも、どうもぉ君です(N○Kじゃないよ!)

今回の話はちょっと準備回と昔を思いふける回です、いつか明かされるかも?


では明日、また次のお話であいましょう


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第31話『四天王』

 

「結局青葉見つかんなかったねー…」

 

涼風緋彩は暗い夜道を歩きながら他の2人にそう言う

 

「つってもよ、時間ねぇから隅々まで探してないがな」

「ま、青葉なりの考えがあるんだろ」

 

須郷雅弘と道華翔太郎が各々返答する、現在3人は化物を倒す為にあの場所を目指して歩いていた…着く頃には丁度いい時間で、そして生死を賭けた戦いが始まる

 

「柏崎さん達大丈夫かな」

「大丈夫だろ、秀でた奴はいなかったが全員平均以上の奴の佇まいだったからよ」

「俺達が化物倒してたとしても街が崩壊してたりな」

「縁起でもないよ?!」

 

と、ツッコミを入れる緋彩に翔太郎と須郷は苦笑する

ありえなくはない、むしろ逆もありえる…

 

「そう言えば翔太郎知ってるかい?雅弘ってエンちゃんとよく一緒にいるっぽいよ」

「まじかよ雅弘お前流石に手出すのは良くない」

「別にそういうのじゃねぇ!」

「全力で否定してるあたり怪しいね翔太郎」

「あぁ俺の探偵としての勘が怪しいと囁いてる」

「てめぇのその勘鈍ってねぇか?!」

 

お面で隠れてるが恐らく顔が真っ赤になってるのだろう

湯気が出そうな程怒って拳を振り回す

当たると普通に重傷なので避けながら須郷をからかう翔太郎と緋彩と諦める須郷

 

 

「おやおや、それはスクープですね?是非お詳しく聞きたいですね!」

 

そんな声が混ざってくる、3人にとっては知った声で馴染みがあり…また探してる人物だ

 

「…青葉」

「どうも皆さん…って何ですかその顔、私そんな信用なりません?」

 

3人は青葉をジト目で見て三者からのジト目に青葉は苦笑いをする

 

「信用って…ねぇ…?」

「あんま信用出来ねぇな」

「右に同じく」

「そんな!酷いですよ!こんな美人を信用しないのは人としてどうかしてます!」

「まず自分を美人だと言い張る方がどうかしてると思うよ…青葉…」

 

ふふーんとドヤ顔する青葉にツッコミをする緋彩

だが須郷と翔太郎の顔は未だ険しいままだ

 

「…んで、青葉…お前何しに来た」

「簡単な話ですよ、私は貴方達を死なせたくないので止めさせてもらいます」

 

そう言って青葉は両手の袖から何かを素早く取り出す、それは小さいがフラッシュの部分が魔改造されているカメラだ、青葉の唯一の反抗手段で…

 

「…青葉、お前そんなんで俺達を止めるって言うのか?」

「窮鼠猫を噛む…絶対この先は行かせません」

 

両手にカメラを構え仁王立ちする青葉、そして…ゆっくりと須郷は歩き始める

それに続くように緋彩と翔太郎も歩き始め

 

「青葉、俺達はな…あいつに借りができたんだよ、それにな…俺達の街が脅威にさらされて…それを無視するってのはなぁ、無理なんだよ」

 

歩みを止めずに歩く須郷と緋彩と翔太郎…すぐそこに青葉がいる

 

「誰にも倒せねぇ化物がいる、どうしようも出来ねぇ…だがな『俺達がいる』」

 

そう言って青葉の横を通り過ぎる、通り過ぎざまに見た青葉の頬には一筋の涙が流れていた

 

「お前がどんなに止めようと俺達は行く、それぞれ守りてぇもんがある…俺達は誰かの為に行くんじゃねぇ、自分の為に街を助けに行くんだよ」

 

振り返らない、青葉は振り返れなかった

溢れる涙は後悔の涙か?嫉妬か?恨みか?いや違う

 

無力な自分ではどうしようも出来ない悔しみの涙だ

 

 

「だがな青葉、お前が来るなら俺は止めねぇよ…自己責任だからな」

 

その言葉に青葉は振り向く、眩しく感じる超人達の背中が見える

 

「お前がよければ、ついてきて欲しい…俺達は4人揃って『超人』だからよ…最後の1人が揃ってないと格好がつかない」

 

背中越しに言う須郷の言葉に、心の枷が外れたような気がした…だから青葉は

 

「…しょうがないですね、僭越ながらこの記者の超人…『長内青葉』貴方達の行先を記録させてもらいましょう」

 

そう言っていつもの様に手帳とボールペンを取り出しバシッとポーズをキメる

すると背中を向けていた緋彩が突然プルプルと震え始め

 

「ぅ…あ、青葉あああああ!!!」

 

と、大号泣と鼻水を垂らしながら高速で青葉に飛びつく

 

「うわ!?ちょっと緋彩さん!き、汚い!」

「青葉ああああ!!!ボク心配で心配で…!」

「分かりましたから離れてください!」

 

と、抱きついてくる緋彩のベットベトの顔を手帳でガードしつつ…青葉は笑顔になる、いつもの作っている笑顔ではない…自然な笑顔だ

 

「おいおい、青葉?お前大人気だな?」

「これが人気に見えるなら翔太郎さんの目は腐ってると思いますが…」

「うわーん!」

 

ニヤニヤしながら青葉の顔を覗き込む翔太郎に緋彩を押し付けて立ち上がる

 

「…なんだかよ、青葉は頭良いがたまに馬鹿になるよな」

「はい!雅弘さんよりかは頭いいですよ!」

「てめぇ!」

 

須郷の剛腕を避けつつ青葉は違う手帳を取り出す

 

「私が意味もなく抜け出したと思いですか?ちゃーんと今回の情報を入手してきましたよ」

「お、んじゃその情報使えば楽になるか?」

「いえ、翔太郎さん…情報は言わば少し有利になる手段の1つです、だからどんなに情報を集めても苦しいのは間違いないでしょう」

 

そう言って手帳をパラパラとめくる

 

「ですが…大丈夫でしょう、何故なら『私達』がいますからね」

 

と、ウィンクを須郷に向けてする

 

「…だな…んじゃ行くか」

「おー!」

「だりぃ…」

「はい」

 

横一列になり歩き始める『超人』

 

「久しぶりだね、こうやってボクらが一緒になるのは」

「だなぁ…俺達それぞれ事情があったからな」

「…んだな…だが俺達は」

「もう離れ離れになる事は無いでしょう、なんてったって私達は街を救う予定の集団ですよ?」

 

 

人類の頂点にして人々の想いの結晶である『超人』

今日は、日本に4人しかいない彼らが力を合わせる記念するべき日である




どうも、朝が寒くて辛い私です

今日はちょっと短めで主人公は登場しませんでした、今後の展開的にはここで切らないと中途半端になるなー…と思いまして
次の話はとうとう化物VS超人達です(あと魔術師VSエイレーネー)

では明日、次の話で会いましょう


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第32話『戦闘開始』

月がゆっくりと上を目指し上がっていく

月明かりは街を照らし、建物を照らし、四人を照らす

 

格闘家の超人、須郷雅弘

探偵の超人、道華翔太郎

武道家の超人、涼風緋彩

記者の超人、長内青葉

 

4人はとある場所を目指していた、今は廃れてしまい廃業になったスーパーだ

 

「はぁ…来ちゃったねー…」

 

緋彩がため息を含ませながらぼやく

 

「なんだ緋彩?お前もしかしてビビってるのか?」

「ぼ、ボクが怖気ついてるとでも言いたいのかい!?」

「普通はそれが一般的ですよ?相手はこの世の存在ではない化物ですから」

 

言い合いを始める緋彩と翔太郎に仲裁に入る青葉、須郷はそれを眺めつつも建物を見る

 

「…おい青葉、お前あの化物について何かしってねぇか?」

 

青葉は手帳を取り出しパラパラとめくる、めくりながらうーんと唸りとあるページに手を止める

 

「あの化物は『神様』の眷属であり、生まれ落ちた時は弱き生き物だが時と『捕食』により…その力を高めるという情報なら」

「捕食だ?んだよあいつ飯食うのか」

「まぁ捕食対象は…『人間』らしいですがね」

 

青葉の一言に場の空気が冷たくなる、自分達が負けた時の事を考えてしまったのだ

 

「と言っても黒い方はまだ生まれたての小鹿のようなものですから、楽に倒せるでしょう!では皆さん行きますよ!」

 

と、建物に歩いていく青葉を苦笑しつつもついて行く3人

この先に化物がいる

 

 

 

────────────────────

 

 

 

青葉は心の中で少し後悔していた、化物と超人達の実力を比べ勝てる確率は10割中3割以下しか無い

 

「…だけど」

 

3割ならある、高くもないが極端に低いわけでもない

きっと彼らとなら…

後ろから付いて来ている3人の超人を振り向く

 

「ん?どうしたの?」

「あ、いえなんでもありません」

 

振り向くと緋彩に尋ねられた為前を向く、緋彩は不思議そうな顔をしながらなんだろうと他の2人をキョロキョロ見る

 

「お前もしかして口にケチャップ付いてんじゃね?」

「嘘!?ボクそんなドジしてた?!」

 

と、口元に手を慌てて当てるがケチャップなど付いてない

 

「はい引っかかった」

「…翔太郎、ボク実は武道を嗜んでてね…」

「おい馬鹿やめろ」

 

緋彩の蹴りを避け…れず尻に1発当たり痛みに悶絶する翔太郎とそれを指で指して大爆笑する緋彩…

 

「…さて、お遊びはそこまでですよ?」

 

と、入口に手をかける…この先に化物が待っている

痛みをやらわげている翔太郎と、笑い過ぎて半笑いの緋彩と集中している須郷を順番に見て

 

「では、私達がこの街最強だというのを化物に見せつけてやりましょう」

 

そう言って入口の扉を開け中に入る、過酷な戦いの場に

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

中はいつの間にか瓦礫などが無くなり広いフィールドが整えられていた、だが件の化物が見当たらない

 

「…いないね」

「俺達にビビって逃げたんじゃね?」

「んだよ根性無しだな…あの宮島とかいう奴の方が根性あったぞ」

 

おかしい、青葉はぐるっと周りを見る…あの巨体の化物が隠れる場所はそう多くない、だとしたら…

 

その場に場違いな音が鳴る、それはアラームの音のようにも聞こえ…ふと携帯を見ると夜中の0時…戦いの時間だ

 

パラパラと、上から何かが落ちてくる

それを空中で手に取り見ると…それはコンクリートの小さな破片だった

 

「まさか!」

 

青葉は上を見る、上には大穴が空いており

 

 

『ケハケハケハ…』

『ケハハハハハハハ…』

 

黒と白の、大きな腕にアンバランスな小さな顔、その胴体には赤ん坊から大人の手が無数に生えておりまるで助けを求めるように蠢いている

 

「皆さん避けて…!」

 

そう言い終わる前に2体の化物は大穴からその身を踊らせ落下してくる、他の超人は動かない

 

「(間に合って!)」

 

3人の所に行って何かできる訳では無いだが何もしないは選択肢になかった。

重い振動と埃が舞い散りその場一帯が煙で見えなくなり…

 

「あっぶないなー…あと少しでぺっちゃんこだよ」

「これがギャラ〇ホルンのやり方か!」

「おい馬鹿やめろ」

 

青葉は緋彩に小脇に抱えられ少しの間の浮遊感を感じていた、翔太郎も同じような感じだがあっちは冗談を言う余裕があるらしい

 

「あの…これは」

「あ、ごめん苦しかった?」

「お前が言ったお陰で緋彩が反応出来てな、今小脇に抱えられ空中を跳躍ぢぅう!」

 

話してる途中で地面に着地した為翔太郎から苦しい声が聞こえる

 

「翔太郎今なんかモノマネした?」

「おう、今ちょっと某ネズミの真似したんだぜ」

「下手くそだったよ」

「お前っ!」

 

小脇に抱えられながらそのコントを見てると1つの事に気づく

 

「あ、緋彩さん!雅弘さんが!」

 

須郷雅弘の姿がこの場にいない、ましてや緋彩が抱えるには須郷は大きな過ぎた…つまり

 

「あぁ大丈夫だよ、ほら」

 

と、煙の方に指を向ける…まだ視界を遮る煙は風によって少しずつ晴れていき

 

「…おい化物」

 

中から須郷の声が聞こえ、煙は風によって視界がクリアになる

 

「てめぇら…覚悟は出来てんだろうな」

 

そこには化物の大きな腕を受け止め、無理やり捻り地面に倒している須郷の姿が見える

化物は無理やり、もう片方の腕を使い須郷に攻撃を仕掛けるが…パッと離されて攻撃を避けられる

 

「へ、お前らの攻撃…止まって見えるぜ?」

 

化物2体は立ち上がり…超人達を睨む

 

「翔太郎!緋彩!カバーは頼んだぜ!」

「おっけー!」

「おう、くたばるなよ壁役」

 

そう言って戦闘態勢にはいる2人を見つつ

 

「青葉ぁ!…頼んだぜ」

 

須郷は指の骨を鳴らしながら青葉に言う、全てを任せる…と

 

「…はい!青葉にお任せを!」

 

そう言ってカメラを構え…覚悟する、超人VS化物2体との死闘を

 

 

─────────────────────

 

暗い夜道、複数人の人間が歩いていた

全員お揃いのローブを身に付け片手には本を携帯している

 

「…っ!」

 

突然先頭の男が立ち止まると顔に向かって飛んでいた弾丸が何かにぶつかるように止まり地面に落ちる

 

「んー…やっぱり障壁持ちか…厄介だな」

 

そんな声がどこからか聞こえローブの男達はそれぞれ背中合わせになり死角を無くす

 

「多少訓練はされてるっぽいか…まぁ警戒しなさんなって、どうせ死ぬ」

 

声がより聞こえやすくなり聞こえた方を向くと路地から1人の男が歩いて来ていた、金色の髪に翡翠色の目で小柄な体格だ…身につけている装備を見るにローブの男達は敵だと理解する

 

「おいおい、挨拶もしないでもう戦闘か?…まぁいい」

 

そう言って右手を上げると建物の屋上、建物の中から、自分達の来た道から、進んでいる方向から

同じような装備に身を包んでいた人影が見えた

 

「んじゃ、エイレーネー日本支部第1特殊部隊「バレット」…これより正義を執行する」

 

静かな街で様々な場所にて激しい戦闘が始まろうとしていた




どうも、少し遅れそうな私です(遅れたァ!)

今日まで少し短めの前置き回です、明日はちょっと長い…かも?


では明日、また次の話で会いましょう


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第33話『不敵に笑う』

破壊音と崩れる音が聞こえ気色悪い笑い声が聞こえる

 

『ケハハハハハハハ!』

「とりゃー!」

 

緋彩は化物の攻撃を当たるスレスレで避け、その顔面に素早く蹴りそのまま後方に下がる

それに交代するように翔太郎が顔を蹴られ怯んでいる黒色の化物の顔に一寸の狂いもなく緋彩と同じ場所に蹴る

 

「くそ、硬いなこいつ!」

「翔太郎下がって!交代だ!」

 

黒い化物はその両手を無茶苦茶に振り回して攻撃を図るが避けられてしまう、後退する翔太郎と緋彩はすれ違いざまに手を叩き合い緋彩と翔太郎の姿が消える

 

『ケハ…?』

 

突然消えた2人を探してるのかキョロキョロと周囲を見る、だが翔太郎と緋彩の姿はどこにもなく不思議そうに瓦礫の下などを探してると

 

「おっと、ごめんよボク達はアリさんではないんだ」

 

という声と共に背中に強い衝撃を感じて前向きに倒れかけ膝をつく

 

「お前の戦ってる相手はありじゃなくて2体の熊だぜ」

 

膝をついて低い位置にきた化物の顎を透明だった翔太郎が蹴り化物の頭は45度曲がる、普通ならここで死ぬのだが…

 

『ゲハッ…ゲハッ…ケハァ…』

 

化物は片手を頭に置き掴む、そして無理やり頭を正常に戻して不敵に笑う

 

「うわー…自分で戻したよ、最早生き物と疑うね」

「だがまだ関節攻撃とかは効くっぽいな…続けるぞ緋彩」

「うん了解、翔太郎」

 

お互い拳をぶつけ合って透明になる2人は攻撃を続ける

 

 

場面は変わり少し離れた場所では須郷が白い化物と戦闘を続けていた

 

『ケハハハハハハハ!』

 

化物は大きな手を須郷に叩きつける、叩きつけた衝撃で周囲に一瞬の突風が起こり砂煙が舞って視界が制限される

化物が勝ちを確信したようにニタァと笑うが何かに気づいて後ろに下がる

 

「…ぺっ!…いい攻撃してんじゃねぇか」

 

血が混じった唾を吐き出し軽く擦り傷ができている須郷が砂煙から出てくる

 

「今度はこっちからやらせてもらうぜ?」

 

そう言うと須郷は化物に向かって走り握り拳を作る、化物はその大きな腕を前に出してガードをするが…

 

「そんな付け焼き刃のガードで耐えれると思うなよ!」

 

型の攻撃を一気に化物に向けて放つ、その拳は化物の腕に当たるとその巨体が軽々と飛んで壁を破壊しながら飛んでいく

須郷は一旦構えをやめ飛んで行った化物に歩いて行き…後ろからの黒い化物の攻撃を受け止める

足は地面に数センチ埋まり一瞬動きが硬直するがそのまま押し返しぶっ飛ばす

 

「おい緋彩と翔太郎!てめぇら何してんだ!」

「ごめん雅弘、抑えられなかった!」

「こいつら地味に連携してるからな…直ぐに移動するぞ」

 

一連の流れを見て青葉は1つの手段を思い浮かぶ

 

「雅弘さん!緋彩さん!翔太郎さん!私が言う通りに移動してください!」

 

青葉の一声に須郷と翔太郎と緋彩はお互いを見て頷く

 

「翔太郎さんと雅弘さんは左右に!緋彩さんは真っ直ぐに!」

 

その声に反応して左右に移動する翔太郎と須郷、そして化物の真ん中を突っ切る緋彩

突然の事に唖然とする化物は移動する翔太郎と須郷を追うように見る

 

「翔太郎さんと緋彩さんは戻ってきてください!」

 

声に反応して化物の真上を、真横を通り越して青葉の元に戻ってくる翔太郎と緋彩

 

攻撃もしてこない、ただ移動してる敵に油断していたのか…化物は『青葉の方を見る』

 

「はーい!笑ってください!」

 

次の瞬間、暗い戦いの場に1つの太陽が出現した

 

 

────────────────────

 

 

「あー…痛てぇ…くそ、魔術師とは戦いたくねぇ」

 

俺はそこら辺に倒れているローブの魔術師を見る、もう息絶えているので危険はもうない

 

『隊長〜終わったっすかー?』

 

トランシーバーに通信が入る、俺はトランシーバーを手に取り返答する

 

「今ので4人目…他はどうだ?」

『他では全部隊合わせて14人気絶、重症、何人かは死亡したっす』

「こっちの被害は?」

『第1はいないっすが…他の部隊は4名死亡、7名重症っす』

 

やはり魔術師を相手にするには実力が足りないのが多い…と言っても彼等の半分は支援部隊、元々戦闘員ではないから仕方のないことだ…だがそれよりも

 

「…あいつは何処にいた?」

『それが…何処からも目撃報告がないっすよ、出来る限り広範囲の監視カメラと衛星を駆使して監視してるんすが…』

 

あいつ…A、あいつさえ捕まえれば今回の件で全てが終わる、だがまだ見つかっていない…

 

「…何処にいるんだ…?」

 

そう考えてると何処からか殺気を感じる、魔術師が近くにいるのか

 

「天田、このまま索敵を続けてくれ、それと第1の連中にはそろそろ離脱すると言っといてくれ」

『りょーかいっす!』

 

「…早くしないとな」

 

俺はナイフを取り出し構え魔術師達に向かっていく

 

 

───────────────────

 

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!』

 

黒い化物があまりにも耐えられない激痛に叫び声を出す

白い化物は咄嗟に対応したのか顔に腕を被せて閃光を回避していた

 

「今です!」

 

その声と共に須郷の剛腕による重い一撃が黒い化物に、翔太郎と緋彩の絶え間ない連続攻撃が白い化物に襲いかかる

 

「ふふ、多少なりとも知性があるのが仇となりましたね、馬鹿正直に敵の後を追うのは愚策ですよ?」

 

青葉は手に持っているカメラを撫でる、愛用してるカメラに魔改造を施したフラッシュを取り付けた唯一の反抗手段、威力は1分間何も見えなくなる

 

「さぁ!ボコボコにしてやりましょう!」

 

 

 

────────────────────

 

あぁ…面白い…なんとも勇敢で、強く、そして愚かだ

 

「くふふふ…いつになったら気づくかな」

 

超人と化物の戦闘を見ながらAは静かに笑う

 

「自分達の方が悪で…そして残酷なんだってね」




どうも、最近とても眠い私です

今回の話は少し…短くなりました、時間が取れず書けない….˚‧º·(ฅдฅ。)‧º·˚.ウワ-ン
世間では三連休らしいので…その間に書き貯めですかね…


では明日、また次の話で会いましょう


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第34話『遅れるのは定番』

 

気づかなくていい、このまま何も気づかず全てが終わればいい…知ったとしても良い事ばかりではない、無知は罪だが知る事もまた罪な事もある

 

知らない方が救われるのだ

 

─────────────────────

 

「翔太郎さん、そのまま化物の体勢を崩してください!そのまま緋彩さんは右関節に攻撃を!須郷さんは白い化物を押さえ込んで!」

 

轟音が響く戦場に青葉の指示が飛ぶ、化物の攻撃を避けるタイミングや攻撃を仕掛けるタイミング…何処が1番効果の高いダメージを与えられるか、全てを観察し相手の仕草や重心のかけ方等を瞬時に理解してる青葉にとっては造作もない事だった

 

「緋彩さん攻め過ぎです!一旦下がって翔太郎と交代してください!翔太郎さんはカバーを!」

 

戦闘なんて出来ない青葉、だが今は超人という人類の化物達が3人も揃っていて信頼関係が築けている

負けるはずが無い…が

 

「あぁー!もう!ゴム蹴ってる気分だよ!」

 

緋彩が一旦後退してきて青葉の隣に立ち化物との戦闘の感想を伝える

 

「…(やはりもう『進化』が始まってましたか…恐らく雅弘さんと緋彩さんの攻撃に耐える為だろうですが…このままじゃ…)」

「青葉、どうする?このままじゃジリ貧だよ」

 

緋彩が青葉が考えていた言葉を口にする、そう最初は確実にダメージを与えていたが今では多少の威力なら耐えるようになっていたのだ、明らかな成長、明らかな進化

 

「…化物が2体いるのが問題ですね、片方どちらかだけなら雅弘さんと緋彩さんと翔太郎さんが一気に攻撃をすれば」

「そう言っても…化物達お互いが一定距離遠くに離れると何がなんでも合流するからね」

 

白と黒の化物は緋彩の言う通りお互いが離れていると戦闘中でも、攻撃を食らっても近くまで行き合流するのだ

これにより一体を集中狙い…という事が出来ないでいた

 

「…ならこうしましょう、まず緋彩さんと翔太郎さんでどちらかの化物に攻撃を仕掛け緋彩さんが化物の頭を攻撃して強く揺らしてください」

「強く揺らす?」

「えぇ、見た所化物にも脳があるようなので顎か、こめかみを強く攻撃してください…脳震盪になれば多少有利になる筈です」

 

緋彩の攻撃ならかすっても重い一撃の筈…

 

「OK、やってみるよ」

 

そう言って緋彩は翔太郎の近くに行き戦闘しつつ会話を始める、翔太郎は直ぐに理解したらしく能力を使用する

かなり能力を使った為か息が上がってステルスになるのも時間がかかっている

 

「…早く終わらせなければ」

 

須郷の方を見る、黒い化物相手にタイマンを張っており殴り殴られるを繰り返していた

未だに成長を続ける化物と超人として覚醒した須郷のタフネス…お互いに引かず殴る時の轟音と振動がこっちにまで響いてくる

 

「…緋彩さん、翔太郎さん!今です!」

 

合図を送り翔太郎がまず化物の視界を途切らせる為に手に持ってた砂を化物の目に投げる、化物は咄嗟に目を閉じ…

 

「とりゃーー!」

 

緋彩の蹴りが下から上に突き上げるように化物の顎に叩き上げる、化物はクラクラと体を揺らし酔いどれのようにフラフラとバランスが保てなくなっている

 

「よし!このまま!」

 

一気に片をつける為に化物に近づく、ここで一体でも減らせれば勝ちが見えてくる

 

「とりゃーー!…あ?」

 

目が合う、化物と…濁った目をしていた化物…だが今は確実に生きてる目をしている

 

「…え?…あれ…?」

 

思わず蹴る寸前で立ち止まり…立ち止まってしまった

 

『ぁ…あぁ…死にたくない…死にたくない…やめてくれ…助けて…誰か…誰か…殺さないで…痛いの嫌だ…痛い…痛い…怖い…痛い…たすけて…』

 

化物の口から、そんな声が聞こえてきた

助けを求める声が聞こえる、その声に偽りも感じさせない心の底からのSOS

 

「その、え?」

「緋彩さん!」

 

緋彩は左から強い衝撃としばしの浮遊感を味わう、そして地面に落ち地面を滑りながら壁に当たって止まる

 

「緋彩!くっ!」

 

突然の相棒の脱落に翔太郎は白い化物の攻撃を避けきれず近くの柱に叩きつけられてしまう

 

「………」

 

恐れていた事が起きてしまった、まさかここで…

 

『ああぁ!やめろ!やめろ!いやだ!だれかとめてくれ!たすけて!ころしたくない!』

 

白い化物はそう言いながらゆっくりと緋彩の元に歩いて行く、その顔には涙を流していた

 

『こんなつもりじゃないんだ!こんなののぞんじゃいない…ゆるしてくれ…』

 

恐れていた事…それは『化物が人間の自我がある』という事だった

 

 

─────────────────────

 

「くはははは!素晴らしい…まさか自分達の敵である化物がまさか人間で喋るとは思ってなかったかー…」

 

特等席で戦闘を眺めていたAは高笑いをしつつ頬杖をつく

 

「やっぱり超人と言ってもまだ子供だねぇ…その化物は裏社会の人間…犯罪者だよ?殺したって誰も気づかないさ…ま、そう割り切れてたら躊躇しないもんねー」

 

その顔はいやらしく笑い邪悪な顔だった

 

「君達は人殺しをしてヒーローになれるかな?」

 

─────────────────────

 

「緋彩、翔太郎!くそっ!」

 

戦闘不能になった緋彩と重傷を負った翔太郎を見て直ぐに駆けつけるつもりが黒い化物が行く先を阻む様に立ちふさがる

 

「てめぇは後だ!どきやがれ!」

 

渾身の一撃を化物の腹に叩き込むが、黒い化物は少し後ろにズレただけで何食わぬ顔で須郷を見る

 

『ケハハハハハハァ…』

「くそがああああああああぁぁぁ!」

 

化物に連続で攻撃を当てるも耐えられ、横を通り過ぎようとしても須郷のスピードでは化物の横を通るの至難の業だった

 

 

白い化物はブツブツと何かを言いながら緋彩に近づいてくる、緋彩は掠れてる意識を気合いで繋ぎ止めながら化物の方を見ると

 

「おっと、この先は行かせまんよ?」

「…お前の相手は…俺達だ…」

 

カメラを片手に緋彩と化物の間に立つ青葉と血を流しながらも重い体に鞭を打ってやって来る翔太郎

 

「ダメ…だよ2人…とも…逃げない…と…」

 

体の節々が軋むそんな状態の緋彩は2人に言う『逃げろ』と

 

「おや?この私に逃げろとは無理な質問ですよ、ねぇ?翔太郎さん」

「俺に聞くな…でもよ緋彩、俺はお前を見捨てねぇよ」

 

化物はゆっくりとやって来る、その顔は後悔と悲しみの顔に歪んでいてそう時間もかからずともここまで来てしまう

 

「バカ…ヤローだよ…二人とも」

「ふふ、確かにそうですね…どうしようもない馬鹿ですね…私以外」

「おい青葉お前…何自分だけ外してんだよ」

 

もう誰も失いたくない翔太郎と仲間を助けたい青葉は動かない

 

「お前ら…!くそっ!邪魔だあぁぁぁぁ!」

 

須郷が遠くで黒い化物を倒そうとするが少しずつ進化してる化物はもはや須郷の攻撃を避ける必要がないのだろう…

 

「…そう言えば翔太郎さんあれ行きました?この前駅前にオシャレなカフェが出来たんですよ、あそこのコーヒーは美味しいとのタレコミが」

「へー…1回は行ってみてぇな!」

「ボクも…行きたいね…あ、ボクは…砂糖8個…」

「流石に入れ過ぎでは?」

「糖尿病になるぞ」

 

数年ぶりの雑談に花を咲かせる、化物はもう目の前まで来ておりその大きな腕を振り上げる

 

「最後くらい生き恥晒しても抵抗しますよ?」

「同感だ」

 

緋彩の前に立ってる2人は何処と無く満足気な顔だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しの浮遊感、そしてゴムのような着地場所

 

「おっと、真上から失礼」

 

一閃、化物の首にナイフを当てて思い切り突き刺し横に切り裂く

まるで熱されたバターナイフで斬ったかのような切れ味に満足してガスマスクを付けていた男は化物から降りる、化物はゆっくりと地面に倒れ絶命する

 

「…なん…」

 

翔太郎は突然、化物が倒れたのに驚きを隠せなかった

 

「やっぱり奇襲だと切れやすいな」

 

ガスマスクを装着していた男はガスマスクを取り外す

 

「よっ、手伝いに来たぞ」

 

エイレーネー日本支部、第1特殊部隊隊長 柏崎悟

魔術師達と戦闘をしてる筈の男が超人と化物がいる戦場に現れたのだった




後書きはおやすみです

Byバール


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第35話『眷属』

 

「か、柏崎さん…?」

 

青葉が唖然とした顔で俺を見てくる、なんじゃわれぇ

 

「お前…なんでここにいんだ」

「なんで…か…強いて言うならば魔力の塊である、あの化物達のようなのには魔力を宿した武器か魔術でしかトドメを刺せないんだ」

 

そう言ってナイフを見せる、ナイフからは紫色の淡いオーラのようなのが出ており不気味な雰囲気を感じる

ただ刃がもう大きく欠けており何回か振ると折れてしまいそうだ

 

「そんで元々ここに来るつもりだったんだが…予想以上に魔術師達がな…来るのに時間がかかった」

 

そう言いながら俺は黒い化物の方を見る、須郷の全力の攻撃をものともしていない

 

「んじゃ、お前らは休んでろ」

「柏崎さんは…?」

「俺か?俺はな」

 

ナイフを黒い化物に向けて構える

 

「あの化物を倒す」

 

俺は走り出し化物に攻撃を仕掛ける、須郷は俺が来た事に驚いていたが直ぐに化物を抑え込む…やっぱり馬鹿力だな

 

「須郷!そのまま動かすなよ!」

「てめぇ!簡単に言いやがって!」

 

とか言うがちゃんと実行に移して成功させる辺り流石だと思う

化物が俺に気づいて腕を振り上げ攻撃を仕掛けてくる、横に避けて攻撃を避けさらに接近して近距離まで近づく

 

「そらよ!」

 

化物の腕に1回…2回…3回と斬撃を食らわせて離脱、俺がいた場所に轟音と共に化物の攻撃が降り注いで地面のコンクリートを粉々に砕く、だが切られた腕は痛むらしく苦痛の悲鳴を上げる

 

「こっちを無視すんじゃねぇ!」

 

隙だらけの化物に須郷の重い一撃が襲いかかる不意をつかれた攻撃に堪えきれず化物は地面に倒れる

 

「やっぱ意識外の攻撃は耐えるのは難しいらしいな」

「あぁ…俺の攻撃を耐えてたが今の一撃は通じてた気がするぜ…」

 

須郷の隣に立ち意見交換をする、今のうちに攻めるのもいいが俺はさっきまでの超人達の戦闘での情報を俺は持ってない…例えチャンスだとしても情報は欲しい

 

「あの白いやつと黒いやつは連携しててな、黒い方は最初はダメージがかなり通ったんだが時間が経つにつれてゴム殴ってるような感触がした」

「んー…つまり打撃に強い方に進化したって事か」

 

武器は殆ど使わない超人達には少し厳しいかもしれない

それに魔力を扱えるわけでもない…倒すのは絶望的だ

 

「…よし、お前はあいつを止める、俺は攻撃する…これでいいか?」

「異論はねぇな…んじゃ行くか」

 

立ち上がる化物に合わせ攻撃の準備をして、戦闘が始まる

 

 

──────────────────────

 

 

「ははは…君はやっぱり遅れて来るんだね…君がもっと早く来てたら…」

 

天井から眷属に向かって落下していく柏崎を特等席から見ていたAはそう呟く

 

「けどごめんよ柏崎くん…このまま簡単に勝たせるわけにはいかないんだよ…『6席会』が許してくれないんだ」

 

しばらくしてAは両手を化物2体に向け

 

『酷使せよ、融合』

 

「まだ早かったけど、柏崎くんなら出来るだろう?」

 

そう言ってAはまた頬杖をつく、その顔はとても懐かしそうだった

 

───────────────────

 

「行くぞ!」

 

俺と須郷は黒い化物に近づいて行く、化物が振り落とした腕を須郷がガードし俺は化物の懐に入り一閃、どうにか刃は通ったが耐久値がないナイフは音を立てて壊れてしまう

 

「っと、須郷!少し耐えてくれ!」

 

化物とタイマンを張る須郷の少し後方に下がって懐から新しいナイフを取り出す、あと2本…

 

「…あと少し致命傷を与えれば」

 

ナイフを構え戦闘に戻る

 

「柏崎!てめぇ本当に大丈夫なんだな!?」

「大丈夫かどうかはやってみねぇと分かんねぇよ!」

 

絶対なんてない、魔術が1番効果的なのだが使えるわけもなく微妙に魔力を宿してるナイフを使うのが精一杯だ

 

「いいから集中しろ!1歩でもミスったら死ぬぞ!」

 

一旦化物の視線をこっちに誘導する為に化物の右側を大きく旋回する

化物は一瞬俺を見た、その瞬間を須郷が逃すわけもなく一気に詰め寄り化物にラッシュを叩き込む

 

「よそ見禁止だ!」

 

そして化物の顔面にコンクリートも破壊する一撃が叩き込まれ、化物は悲鳴にもならない悲鳴を上げ悶絶する

俺はその隙を突き化物の肩に思いっきりナイフを刺す、根元まで深々と入りさらに化物は悲鳴を上げ俺を振り落とそうと体を振る

このままでもよかったが…危ないので離脱して最後の一本を取り出す

 

「なんとか勝てそうではある…が」

「…なんか様子おかしくないか?」

 

のたうち回っていた化物は突然その動きを停止させ動かなくなる…死んではない、手応えはなかった…なら何故…?

 

「柏崎さん!雅弘さん!」

 

後ろから青葉の切羽詰った声が聞こえてくる

後ろを振り向くと…白い化物が立っていた、確実に殺した筈の化物がさぞ当たり前のように

 

「須郷!」

「くそっ!間に合え!」

 

あの化物を抑えられるのは須郷だけでナイフは後一本、化物は2体

 

「ギリギリ足りないかもしれない…」

 

須郷は急いで白い化物に向かう、あそこには戦えない超人達がいる

 

が、何故か白い化物は倒れている超人に目もくれずこっち…つまり黒い化物の方に向かってくる

 

「うお!?」

 

突然の事に攻撃‪ではなくガードをする須郷…だが化物は須郷もスルーしてこっちに向かってくる

 

「やっべ!」

 

化物の突進を横に避け化物の方を見る、白い化物と黒い化物は見つめ合うように立ち

 

『ケハハハハ…』

 

黒い化物が白い化物を『捕食し始めた』

 

「…は…?」

「………食ってやがる、同じやつを」

 

どうしようも出来ず、ただ見ていた俺達だが手帳をめくってた青葉が何かに気づいたのか

 

「柏崎さん!須郷さんあれを止めてください!『進化』する気です!」

 

大声で、そう聞こえた瞬間俺と須郷は行動に移す

須郷は右側から全力の拳を、俺は左からナイフを1振り

 

だが捕食中の化物に当たらなかった、化物と俺達の間に何かがあるような、そんな感触が

 

「くそっ!障壁か!」

 

こうなってはどうしようもない…

 

「須郷、覚悟しとけよ…多分今から戦うやつは今まで戦ってた化物とは違う」

 

捕食を終えた化物はゆっくりと顔を上げる、その顔は優越に浸っていた

そして体に変化が起きる…体は2倍ほど膨れ上がり、その体色は黒と白を混ぜたような灰色になり…まるで2体を合わせたような姿だ

 

「今から戦う敵は…『完成された眷属』だ」

 

昔に見た事ある、眷属と眷属を組み合わせる事により出来上がる眷属…昔現れた時はエイレーネー日本支部は半壊する程の被害を受けた

 

「…使うしかない…か」

 

俺はナイフを構え『完成された眷属』と向き合う…勝てるかな…




どうも、最近一気に寒くなって色々辛い私です

いつの間にか10月に入ったもう半月程、時代の流れは早いなぁ…曜日感覚が無くなってきたなぁ…


では明日、また次の話で会いましょう


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第36話『能力発動』

 

現状確認

 

こちら側の戦力、俺…柏崎と須郷、戦闘不能3名

対してあちら側、化物…完成された眷属一体

 

頭数ならこちらが有利だ、頭数だけなら…だが

 

「おい柏崎…」

「なんだよ須郷、ビビったか?」

 

横に来た須郷が俺に何か言いたそうにしていた、まぁ何を言いたいのかは分からなくはないが…

 

「…須郷、俺達は負けれない…分かるか?俺達の後ろには3人、そのさらに後ろには数多くの関係の無い人達がいるんだ…負けられないんだ」

 

負ける事は許されない、ここで倒さなければさらに進化を繰り返し手のつけようがなくなってしまう

 

「やるぞ、須郷」

「…あぁ」

 

再度化物を見る、6m程の大きさになった化物は周囲のコンクリートの壁などを破壊して自分が動きやすいように改装していた、俺達を警戒すらしないとは舐められてるよな

 

「先に行くからな」

 

攻撃の隙を伺っていた須郷より先に攻撃を仕掛ける、スピードが遅い須郷より俺が行った方がやりすやいだろう

コンクリートの壁を破壊してる化物、その姿は隙だらけとも見えるが…

 

「まずは一撃!」

 

化物のふくらはぎに一撃ナイフを切りつける…が

 

「…は?」

 

ナイフは1mmも化物の肉体に切り傷すら付けられなかった

 

「なんで…だ?」

「柏崎!」

 

須郷の俺を呼ぶ声、咄嗟に反応出来ず化物の振り回した腕が俺の側面に迫ってるのに気づかなかった

ミシミシという鈍い骨が軋む音と地面に落ちた時の何かが折れる音…左腕が逝ったらしい

 

「がっ…ぁ…っ…」

 

立ち上がらなければ、このままでは格好の的だ…だが…

上手く力が入らない…頭がクラクラする、何処からか出血してるのか血が足りない…目の前が赤い…頭蓋骨が割れたのか…?

動けない変わりに思考がグルグルと頭の中でループする

 

掠れる視界の中、遠くから化物がこちらに歩いてくる

死ぬのか…

 

「おい化物」

 

声が聞こえる、どうやら俺の前に誰かが立ってるようだ

 

「須郷…逃げろ…」

「うるせぇ、お前もちょっと休んどけ…俺がこの化物を殺す」

 

そう言って須郷は化物に向かって歩いて行く…死ぬぞ…

 

しかし…まさか化物の格が上がったからって魔力が宿ったナイフが通らないとはな…

急いで立ち上がって…手伝わない…と…

 

───────────────────

 

俺じゃ勝てねぇくらい分かってる、俺達は超人って言われてはいるが…言ってしまえば『人間止まり』だ、眷属だか何だか知らねぇが…んなのに勝つのは無理な話だ、なんなら柏崎を見捨てて逃げるのもいい…

 

「だがよ…俺達は1度は救われた、だから恩返しはさせてもらうぞ…柏崎」

 

 

そう言って壊れかかっている兎のお面を外し優しく近くの瓦礫の上に置く、似合わねぇと自分でも思ってるが大事なもんだ

 

「青葉、翔太郎!柏崎と緋彩頼んだぜ」

「…雅弘さんは?」

「俺は…」

 

ゆっくりと化物を見る、ニタニタと俺達を見てやがる…嫌な性格をしてやがって

 

「…こいつを殺す」

 

化物は俺を見て嬉しそうに笑ってやがる、その笑みがいつまで続く楽しみだ

 

「さぁ来いよ化物よぉ!俺は超人、須郷雅弘だぜ!」

 

 

────────────────────

 

 

暗い空間、ただ言えるのはそれだけだ

俺はそんな空間の…何処だろうか?まぁどこかに立っている、何も無い…何も聞こえない、何も見えない

そんな空間

 

 

「……そう言えば…何か忘れてるな…」

 

ふと何かを思い出しそうになるが何だったか…忘れるという事は大した事ない事なのだろう、昔そんな話を聞いた事がある

 

「…寂しいな」

 

本当に何も無く、遠くまで真っ暗な空間

 

そんな空間に突然テレビが現れた…昔のブラウン管テレビだった、昔はこれに家庭用ゲーム機の3本の配線刺したっけ…だがなんで今更こんなのが…

そう思いとりあえずななめ45°!これやればテレビが何かなるってばぁちゃんが言ってた

 

『ちょ、ストップストップ!叩くなー!』

 

テレビからそんな声が聞こえ画面を覗くと小さな子供がテレビに映っている

 

「…これは教育テレビだった…?」

『うーん、違うんだけどなー…』

 

小さな子供…いや、よく見ると小さな子供っぽい体型の黒い人型の何かだ、マネキンのみたいなのっぺらぼう

 

「うわっ…俺疲れてるのかな…」

『過労死必須だね』

「何言ってんだお前」

 

とりあえず話を合わせてみる、しかしなんかこう頭の側頭部が痛くなる

 

「んで、お前は誰だ?」

『僕は君で君は僕さ』

「うん、わからん」

 

このガキぃ…

 

『…なんで能力使わないのかな?』

「…何のことかな?」

『君、やっぱり臆病だね…あっちはもう覚悟は出来てるのに君はその覚悟に応えてやれないなんて僕は悲しいよ』

「………お前は、何者だ」

 

俺の心を見透かしてくるような、そんな物言いのガキ

 

『だから僕は君で君は僕なんだよ、君が臆病者だから…ほら』

 

と、横に避けるように移動して画面の中心を空ける

すると中心に何かの映像が流れ…

 

『があああああ!』

 

灰色の化物に足の骨を折られてる大男が映っていた

化物は楽しそうに足の骨を、腕の骨をゆっくりと折っている

 

「…は?」

『君が能力を使わないからこうなっている、君が臆病者だから彼はゆっくりと殺される…分かるかい?これを見ている2人はどうする事も出来ずただ仲間が殺されていくのを見てるんだよ』

 

そう言って何かを映すように指を回すと今度は立ち上がろうとする銀髪の少女と押し留めているピンク髪の少女、上手く立ち上がれず悔しそうな顔で地面を睨んでいる

そして…

 

「お、俺…?」

 

その近くに俺が倒れていた、虚ろな目に頭からは止血してるが少しずつ血が流れていた

 

『君が臆病者だから…君が躊躇するから、こうなった』

 

そう言って子供は映像を消し俺の方を向く

そうだ…俺は眷属と戦ってて…

 

「……俺は…」

 

考えが纏まらない、俺は…

 

「俺は…どうしたらいいんだ…」

『そんなの自分でどうにかしなよ、君の人生なんだよ自分で解決しろよ、誰かに責任を押し付けるな』

 

子供からなんともまぁ…言われ放題だ

 

『君は僕だ、そして僕は君だ、君が死ねば僕も死ぬ…だから君には生きてもらわないと困るんだよ』

「んな事言われてもな…」

 

そう言えば、あの映像の中に何か見えた気がした…あれを使えば

 

「…いや…やるしかないのか…」

『そうそう、よく言ったね』

「あぁ、そうだなっ!」

 

起き上がる瞬間にテレビを蹴り倒す

『あ、ちょっとー!』

「んじゃな、二度とここに呼ぶなよ」

 

 

─────────────────────

 

「離せ青葉!ボクはこんなの見てられない!」

「貴方のその体では無理です!犬死ですよ!」

「うるさい!雅弘が死んじゃうぞ!このままじゃ!」

 

ボロボロの状態で立ち上がろうとする緋彩を青葉は必死に押し留めていた、この状態で行かせたとしても死に行かせるようなものだった…だから止めるしかない

「…青葉…どうにかなんねぇか」

「翔太郎さん…いえ…お二人は瀕死…私も戦闘は無理なのでどうしようもないです」

 

翔太郎は悔しそうに目の前の現実を見る、血まみれで折れた足からは白い骨が見え隠れして倒れている須郷がいる

 

『ケハハハハ…』

 

須郷の体を指先で突き生きてるか確認する、だがピクリとも動かない須郷に飽きたのか化物は立ち上がりゆっくりと青葉達を見る

 

「…来るぞ、俺達とあいつの玩具に大変身ってか?」

「笑えないよ翔太郎…」

「笑えませんね……ん?」

 

ふと、目の端に映っていた柏崎の体が見えなくなっているのを青葉は気づいた

あの死にかけの状態で動けるわけでは無いだが実際にその場には柏崎はいなかった

 

「柏崎…さん…?」

 

血の跡を追って目を動かすと、化物の前に柏崎が立っていた…血だらけの体に金色の髪も血が付着して少し赤い

 

『ケハ?』

「…よぉ、化物…お前を殺しに来たぜ」

 

柏崎はナイフを取り出し一気に化物の距離を縮める、化物は軽く腕を振ると柏崎の足にぶつかり柏崎の足はくの字にへし折れる

 

そして柏崎は『走って』化物の懐まで近づきナイフを片手に登り始める

 

『ケハ!?』

 

体には無数の腕が生えており掴むには苦労はしない…化物は体を思いっきり壁に柏崎を間に挟み…背中からブチッという何かが潰れる音が聞こえた

 

柏崎は『未だ登り』化物の肩にまで来る

 

『ケハ?』

 

そして化物の右目にナイフを思いっきり突き立てる

 

『アアアアアアアァ!!!』

 

化物は見える片目を使い柏崎を捕まえ腕に力を込める

柏崎は抵抗するが少しずつ潰れ最後には下半身と上半身が千切れてしまう

化物はニタァ…と笑う…そして柏崎も『笑う』

 

素早く『立ち上がり』化物の肩に刺さっていたナイフを抜き

 

「これで最後だよ、化物」

 

もう片方の目にナイフを思いっきり突き立て、そのまま力を込める

 

『アアアアア!アアア!アアアアアアア!!!』

 

化物は柏崎の体を叩き、握り、壁に叩きつける

その度に柏崎の骨は折れ、潰れ、粉々になるが

『柏崎は死なない』

 

『アア…アアア…ア…』

 

そして少しの軽い感触と共にナイフは奥深くまで突き刺さって化物は動きを止めて、地面に倒れる

 

 

「化物が…倒れた…?」

 

青葉の一言で翔太郎と緋彩は我に返り戦場を見る、柏崎はゆっくりと立ち上がり青葉の方を見て片手を上げる…この日柏崎と超人達は『完成された眷属』を倒したとしてゲームは幕を閉じる

 

 

─────────────────────

 

新規情報

 

エイレーネー日本支部第1特殊部隊 隊長柏崎悟

 

能力

『他者にダメージを押し付ける能力』





どうも!ちょっと手直ししてたら普通に時間が過ぎてた、私です!

遅れてすみませんでしたああぁああああ!ちょっと…手直しが楽しくて…
さて!今回にて、第1章『超人編』は終了でございます!明日には後日談を投稿し、明後日には新章となります!

では明日、また次の話で会いましょう


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第37話『後日談』

「おーい!皆こっちこっち!」

 

緋彩の大きな声は喧騒にまみれた駅前に負けない程大きく

 

「うるせぇぞ緋彩!」

「雅弘落ち着け、事務所でもあんな感じだ」

「うーん、あの大声を何か宣伝とかに使えませんかねー」

 

緋彩に遅れ駅から出てきた四人の人影、翔太郎に須郷、青葉…そしてエンだ

 

「エンさん大丈夫ですよー、ほーら誰も貴方を見てないので」

「ほ、ほんと…?大丈夫…?」

 

エンはボロボロになり、骨が繋がるまで車椅子生活の須郷を手伝う為に車椅子を押してたのだがあまりの人の多さに放心状態になってたのを青葉が変わって押してるのだ

 

「しっかし…生きてるなぁ…俺達はよ」

「そうだな、まぁ今では生きた心地はしないが…」

「おや?緋彩さんと同じ屋根の下で住んでいる者の言葉とは思えませんねぇ?」

「あいつこの前トイレぶっ壊してたんだよ…」

 

そんな雑談をしつつ、緋彩の先導に導かれとある場所に着く…そこは駅前にあるカフェだ

 

「ほー、かなり良い感じのカフェじゃねぇか」

「ふふふ、この青葉情報網に見つからないものはない」

「この前チラシで見たとか言ってなかったっけ」

「言ってたよ翔太郎」

「はうっ!…それは秘密と言ったではないですか緋彩さん」

「私カフェ来るの初めて…」

 

店前で騒ぐ超人達+エンは扉を開けて中に入る

 

「…あまり客はいねぇみたいだな」

「バイトの為にわざと客を選んでるとか何とか」

「はぁ?んなの商売にならねぇだろ」

「それでも大丈夫な程人気なんですよ、ここは」

 

そう言って5人は席に座りメニューを見る

 

「…そう言えば皆はどうするの?」

「どうするって何がだ?緋彩」

「ほら、柏崎から言われた」

 

エイレーネー日本支部としては超人の戦力があればこの先何があっても戦闘面では安全に、情報戦でも優位に立てる為超人達にエイレーネーに所属しないかと話がされた…だが話した柏崎は

 

『お前達は超人ってもまだガキなんだ、ガキってのは大人に守られてお前らが大人になったら守る大人になりゃいいんだ、だから今すぐに入らなくてもいいし…入らなくてもいい…そこ辺りはお前達で話し合ってくれ』

 

と、言って柏崎は支部に戻って行ってしまった

あのゲームからかれこれ1週間…そろそろ決めなければならない

 

「私としてはどっちでもいいんですよね、柏崎さんの言う通り私達はまだ子供…という立ち位置です、無理して大人にならなくてもいいんですよ」

 

そう言って青葉はカメラの整備を始める

 

「わ、私としてはすごう達がエイレーネーに入るなら嬉しい…よ?」

「あぁ、そうだな…俺は入ってもいいと思ってる、あんなイカれた野郎がいるってんなら俺がぶちのめしてやる」

 

須郷はエンの頭を撫でつつ力の篭もった目で他の超人を見る

 

「うーん、ボクらはどうしよっか翔太郎?」

「俺達は探偵だ、正義の味方じゃねぇ…だが…街が泣いてやがる、俺はそれを見逃せねぇ…だろ?緋彩?」

「そうだね、ボクは君について行くよ…翔太郎」

 

そう言って緋彩と翔太郎も決心する

 

「では今回は私達の記念としてパーっと優雅にお茶会ですよ!店員さーん!」

 

青葉は何故かニヤニヤしながら店員を呼ぶ、そして奥からパタパタと店員が走ってきて

 

「はい、ご注文は…」

 

やって来たのは少し頼りない体格の男だ、エプロンにメモと鉛筆を手に持っており…その目は須郷を見ていた

 

「…兄さん…?」

 

 

─────────────────────

 

 

「ああああああああああああ!!!」

「総員天田を止めろ!」

 

俺含め第1特殊部隊、全員で発狂しかけてる天田を取り押さえる

 

「落ち着いてください天田さん!ほーら可愛いミーヤキャット…ぐふぁ!」

「雨森ー!お前眼鏡が粉々だぞ!?」

「わ、我が生涯に…」

「それ以上は言わせねーよ」

 

とりあえず雨森は生きてるので放置、ここはエイレーネー日本支部第1特殊部隊の部屋…そして我が部隊のオペレーターである天田は報告書を全員分作成しなければならないのだが…100枚程手書きで書いてる…うわぁ…これは…うん…

 

「天田、落ち着けー…はいひっひっふー…ひっひっふー」

「フシュー…フシュー…」

「隊長、天田さんは一体…」

「見るな矢本…こいつは違う生命体になろうとしてる…」

 

暴れる天田を椅子に縛り付けてどうにか平穏を取り戻した

 

「ふぅ…しかし、全員無事とは思ってなかったな」

「ほう?それは宣戦布告という事だな柏崎」

「黙れ日本刀マニア、全国の侍ガール好きに捕まれ」

 

俺含め、隊員は全員怪我はしてたものの死者は出ず生存率はうちの隊がトップだった

 

「無事でも、魔術師を取り逃したのは私達のミスです…柏崎さん」

「不甲斐ない!俺は自分が不甲斐ない!」

「まぁまぁ、私達が生きてたからそれでいいじゃない」

 

そう、他の隊員にも聞いたが俺達が化物を倒した後くらいで突如魔術師達が姿をくらましたのだ、捕まってた…戦ってた魔術師はまるで死体すらやらないと言わんばかりに玉虫色の液体が溢れ消えてしまった

つまり

 

「…言ってしまえば俺達は何の収穫もないってことか」

「そう言えば柏崎さんは何か…眼鏡を持ってましたが」

「ん?あぁ、あの建物の2階に落ちててな…かなり古い眼鏡って事しか分からなかったし…これを見てるとなんか頭痛がするんだよな」

 

机の引き出しに入れていた黒縁メガネを取り出し机の上に置く

 

「…普通の眼鏡…ですか?」

「普通の眼鏡、だと思うんだがなぁ…」

 

ま、今はそんなのはいい…今は

 

「んじゃ俺出掛けるから後は頼んだぞ」

「はい、行ってらっしゃいませ柏崎さん」

 

俺は部屋を出て…ある場所を目指す

 

 

─────────────────────

 

時はさかのぼり一週間前、下で戦闘が終わったのを見たAは微笑む

 

「流石柏崎くんだよ…僕みたいなのじゃ太刀打ちできないや…だけど僕を忘れてたのは酷いから褒めた分とプラマイゼロね」

 

そう言ってAは座ってた場所にある物を置く

それは黒縁メガネだ、それを大事そうに置いて呪文を唱える

 

「もしそれでも思い出せないなら…その時は…」

 

「僕が君を殺しに行くよ」

 

 

─────────────────────

 

 

ここは遺伝子操作実験室

俺は少し躊躇してノックをする、すると扉が開いて中から田村さんと支部長が出てくる

 

「…面会可能か?」

「………………今なら大丈夫」

「私も今来た所だ、顔を見せてやるといい」

 

俺は中に入り奥のベットを見る…そこには上半身を起こしてこっちを見ている少女がいた

 

「…よぉ…元気か?」

「至って元気」

「……………嘘言わない、さっきまで吐血してた」

 

田村さんの言った言葉が図星だったらしく微妙な顔をする

 

「…何回死んだ…」

「…数えてない」

「そうか…」

 

ふと、自分の頬に何かが落ちていく…涙だ

 

「…すまない…俺はやっぱり弱いな…」

「悟は強い、誰よりも…」

 

そう慰めてくれる…あぁ…俺は誰かを苦しませなければ勝てないのか…

 

 

俺の能力は『他者にダメージを押し付ける能力』

だがこれには欠点があり自分の…俺の遺伝子により近い者でなければ押し付けられない…つまり俺の『妹である柏崎マヨイ』にしか能力を使う相手いない上に妹の能力は『不死身』

 

俺は妹に苦しみを押し付け…蘇る妹は精神と肉体が少しずつ死んでいく…

 

 

俺はどうしようもないクズ野郎なのだ




どうも、最近見てくださる人が増えてとても嬉しい私です

今回にて第1章は終わり…次は第2章となります
柏崎達はどうなるか…乞うご期待

では明日、また次の話で会いましょう


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第2章『魔術師編』
第38話『黒猫』


この世の生き物や物は様々な信仰を受けている、ある地域では忌み嫌われるカラスも場所によっては崇められる存在で人間によっては信仰度が違う、またどんなに少数でも長年崇められ続ければそれは『神』と同等なのではないだろうか?

 

あ、久しぶりの仕事ですー…え?不定期?それ困る!

 

『信仰とは』情報屋 お久しぶりタヌキ

 

────────────────────

 

男は急いで荷物をまとめていた、その顔は必死で脂汗が出ていて焦ってるのが目に見えて分かる

 

「くそっ!くそっ!聞いてないぞ、誰だよこの街なら安全に取引できるって言ったやつ!」

 

男の悪態は虚しく響く、廃ビルの一室のここには誰もいない…取引相手はまだ来ておらずこのまま商品を持ってとんずらするしかない

 

「せっかく苦労の苦労に重ねて捕まえたってのにっ!」

 

僅かに揺れる黒い布を被せたキャリーケースを掴み立ち上がる、今はこの場を離れなければ『あいつら』が来る

護衛をどんどん倒したいったガスマスクの集団が…

 

何かが階段を上がってきている音が聞こえた

 

「ヒッ!?」

 

手に持っているヤクザから借りたレンコンを構える、この裏社会に来てから人を殺したことはないがこの『荷物』を取られるわけにはいかなかった

 

足音は入口前まで来て足音はパタッと音が聞こえなくなり

男の恐怖は最大限まで上がってしまった

 

「うわあああああ!!!」

 

乾いた音が何回も響く、1発、2発、3発、4発…5発…

銃撃を止めて様子を伺う…特に反応はなくほっ…と息を吐く

 

「な、なんだよビビらせやがって…」

 

安心して『荷物』を持って雲隠れしようとしたが…突如首に圧迫と背中に誰かが密着してるのか人の気配がする

 

「ぐ…がっ…だれ…」

『動くな…今なら簡単安心、そして出血大サービスの痛みすら感じず気絶できるぞ』

 

首は少しずつ締められもう息する事すら厳しい

 

『話は後で聞いてやるから、今は眠ってな』

 

最後に一気に締められ男は気絶する、そして手に持っていた『荷物』は金具が外れ扉が開いた

 

 

──────────────────

 

『こちら柏崎、ターゲットを確保…だが情報にない物がある、どういう事だ?』

 

トランシーバーを手に持ちオペレーターへ確認を頼む

 

『えっと…こっちにも特に物関係の話は聞いてないっすから…多分そのターゲットが独自に持ってきたんじゃないっすかね?』

『ふむ…念の為持って帰るか』

 

そう言ってガスマスクを外しヘルメットを外す、金髪に翡翠色の目が目立ち体格はそこまで大きくなく小さい

気だるそうな顔にボサボサの髪がやる気の無さを表現している

 

「はぁ…んじゃ持って帰る…か…?」

 

荷物を見るとどうやらキャリーケースらしく…黒い布の間から扉が開いてる事に気づいた

 

「っ!」

 

咄嗟にナイフを構えて周囲を見る、恐らく何か『生物』かそれに近い何かを入れてた筈だ、そしてあの黒い布は暗くてよく見えなかったが術式が書かれてあった…

 

「あれを使う程…」

 

何処だ…?何処にいる?

俺は部屋の隅々を見てみたが…何処にもいない

 

「…まさか中にいるのか…?」

 

あのキャリーケースの中に…

 

「…フー…!」

 

キャリーケースの中からなんか聞こえる…これ

 

「猫…か?」

 

実際見てみなければ分からない、俺はゆっくりとキャリーケースを倒して中にいる生物を外に出す

 

「フニャッ!」

 

その生物は顔面から地面にポテッと落ちてパタパタと両手で顔を擦る…いやこれ

 

「…子猫…だな」

 

黒猫だ、暗闇に目が光っており不気味さも感じる

 

「…よーしよしよし…」

 

猫には上からではなく下から行った方がいいと聞いた事がある、とりあえず手を下に持っていき手の甲を下にして指先をちょいちょいと揺らす

 

「…ニャー…」

 

結構長く子猫は考え、考えた結果俺の方によちよちと歩いてくる…ちょっと嬉しいな…なんかこうも懐かれやすいと動物に好かれてると思う

これも1つの長所かもしれない、いやぁ!嬉しいなぁ!

 

「ニャッ」

 

と、俺の指は猫野郎に深々く噛まれてしまう、こうカプっ!とかそんな生易しいのではなくガブー!だった

 

「痛ったああああああああああ!!!!」

 

これが俺と子猫の出会いだった…出会い最悪だな




どうも、最近UAが600になりとても嬉しい私です

今回の話ですがかなり短めです、スタートダッシュ…得意ではないんですよね(言い訳)
あ、あと新章です

では明日、また次の話で会いましょう


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第39話『子猫と馬鹿と』

実際の所『神に近い何か』になってしまった生物や物は信じてない者によって奪われ売買されてる事もある、とある収集家や企業等が回収をしているが全体の一割しか回収できてないとされている

 

『信仰とは』情報屋 タヌキ

 

 

────────────────────

 

「可愛いっす!柏崎さん私にも触らせてほしいっす!」

「勝手にせーい、俺は噛まれたから関わりたくない」

 

ここはエイレーネー日本支部、第1特殊部隊の部屋だが今はとてもうるさい…その原因は…

 

「ニャ!」

「痛ったー!噛まれたっすー!」

 

この子猫だった、依頼に存在しない物だった為どうするか話し合われとりあえずこの第1部隊のマスコットになった…っておい

 

「なんというか…一気に賑やかになりましたね、柏崎さん」

「賑やかというかうるさくなっただけだぞ、矢本」

 

子猫をとりあえず早朝噛まれながら机の上に放置したら緊張してたのか座ったままの姿で動かなくなり置物になっていた…そこに天田がやって来てこの喧騒である

 

「おう!おはようございます!ってなんだこの猫は!?」

「あ、うるせぇ奴が増えた」

「隊長この子猫はなんだ!?」

「保護した猫だよ落ち着けこの根性バカ」

 

1発拳を顔面にシュートしつつ俺は威嚇して威嚇し返してる子猫と天田を見る、あいつ子猫相手に何威嚇してんだ…

 

「シャー…」

「フグー!」

「お前のはただのやられてるフグだ」

 

頬を限界まで膨らませて威嚇してる…ただのフグじゃねーか…子猫は天田の威嚇が怖かったのか(どう見てもフグ)踵を返して何故かこっちに向かってくる、やはりあれだな…最初に出会った俺を1番信用してるぜ的なあれだな…いやぁどんなに噛み付いて来てもやっぱり子猫なんだなぁ!

 

「さっこい」

 

俺はテテテテ!と走ってくる子猫を受け止めるように両手を広げ待ち構える…子猫はあと少しの所で大ジャンプを魅せ

 

「痛たたたた!」

 

前足後ろ足を使って俺の頭にしがみついてきた、あるよね小動物を頭に乗せるってやつ…あれどうやってんのかと思ったらこういう事かぁ…小動物の方が必死に頭皮に爪突き立てたのか…

 

「あぁ!柏崎さん羨ましいっす!変わってほしいっすよ!」

「おう今からでも変わってやりたいぞ」

 

ぶっちゃけ痛いしちゃんと掴めてないから少しづつ落ちてきて顔に猫の腹が見えるわ

 

「ふっ…無様な者達だ」

「だ、誰だてめぇ!」

 

宮島が叫ぶ、いやこんな喋り方すんの1人だけだが

 

「私の名は宮本亜美…ただの侍だ」

「ラストサムライってやつか…」

「くっ!何故侍がこんな所に!」

 

お前ら適当に言ってるだろ…あとここは俺達の部屋です

 

「侍…猫…隣に並ぶと…映える!」

「な、なんだって!?」

「これは一本取られたっす…」

 

こう見ると宮本も女子高生だよね、ちょっと刀狂いの

 

「よーしよしよし…」

「い、いったー!」

「まさか子猫も現役女子高生に撫でられるとは思うまい!」

 

天田ちょっとおっさん化してない?

 

「シャー!」

 

伸びた宮本の手は子猫の頭を撫でようとして近づくが猫パンチ(爪出てる)によって弾かれた

 

「…」

「…」

「…」

 

動かなくなった3人、そして未だに俺の頭の上にいる猫野郎は動かないってか威嚇してる

 

「…エイレーネーやめる…」

「落ち着け宮本!お前はちょっと猫に好かれなかっただけだ!」

「そうっすよ!猫が駄目でもまだ犬がいるっすよ!」

 

いじけた宮本を励ます2人、見てる側だとちょっと笑える

 

「ふっ…ダメダメですね皆さん」

「だ、誰だてめぇ!」

「天丼すんな」

 

入口から雨森が入ってきて何かを取り出す…それは棒に紐が付いておりその先には…

 

「ね、猫じゃらし!」

「なんってことっすか!まさか猫じゃらしを出すとは!」

「ふふふ、まず一緒に遊ぶ事により警戒心を無くす事が最優先ですよ皆さん、では失礼」

 

と、猫じゃらしをチョロチョロと俺の目の前で揺らす、それに合わせて子猫も興味深い感じで動くので俺の頭が大変な事になる…将来禿げたらお前らのせい

 

「ニャッ!」

 

とうとう我慢できなかったのか俺の頭から跳躍して猫じゃらしに飛びつく、だから痛てぇって

 

「ふふはははは!次にしばらく遊ぶ…カワイィィィィ…」

「あれ本当に猫好きの顔?ちょっと顔変形し過ぎてデレ顔なんだけど」

「あれが猫好きっす」

「全国の猫好きに謝れ」

 

雨森はちょっとお見せできない顔をしながら猫じゃらしを使い子猫の警戒心を解いていく

 

「さ、さぁ…後は撫でるだけ…」

 

ゆっくりとその手を…指をわちゃわちゃさせんな…

手を子猫に近づける…

 

「ニャッ!」

 

猫パンチ(かなり強め)によって雨森の手は弾かれ子猫は脱兎のごとく俺の腹に頭突きして服の下に隠れる

 

「今のワンクッション必要だったのだろうか」

 

無理やり出そうとしたら俺の腹がズタズタにされそうなので放置する

 

「ああぁ…猫ちゃん…行かないで…」

「雨森…お前も仲間だぜ!」

「そうっすよ!同じ猫に嫌われた人種として生きていくっすよ…」

 

子猫に拒否されただけで…ん?俺の目の前にビーフジャーキーがゆらゆらと揺れる、辿っていくと何故か矢本がビーフジャーキーを持ちながら俺の目の前で揺らしてた

 

「矢本お前どうした?」

「?警戒心を無くすにはまず遊ぶのがいいと…」

「うーん、何故ビーフジャーキーなのかと…それを俺に実行しようとする意図が分からんわ…」

 

とりあえず放置しよ…関わったら負けな気がする

 

「とりあえずこの子猫の事を調べるわけだが…お前ら見てたか?」

「えぇ、猫じゃらしを遊んでる時に何度か」

「流石に気づくに決まってるだろう?」

「わっかんね!」

「なんの事っすかね!」

 

アホ2人は置いといて…あの子猫の爪…あれは『金属』だ

切れ味は無く本当に猫の爪みたいな感じだが光の反射があった為金属類で間違いないだろう

 

「んー、言った所金属でできた猫っすかね」

「しかしそんなのが存在するのでしょうか?私としてはそんなの聞いたことはないですが」

「雨森の言う通り、存在はしない筈だ…だが今ここに存在しない筈のがいる」

 

チラッと服の下から外を見てる姿は子猫のそれだ、好奇心と警戒心が混ざって変なテンションになっている

 

「うーん…私としてはこの子猫…今すぐ捨てたいっすね…変なのに巻き込まれるとこっちとして大損害っすよ」

「まぁ薄情だがそれが1番簡単で安全…」

 

子猫は俺達の言ってる事が分かるのか…捨てるという言葉が出た瞬間ガッツリと俺にしがみついてきた

 

「…まぁ出処探す為にあいつに頼るか…」

「あいつ…?」

「情報屋のタヌキだよ」

 

子猫の隙をついて首根っこを掴み宙に吊るす、暴れるのにため息する

 

「お前はどこの猫なんだ…?」

 

 

────────────────────

 

ここはとある薄暗い部屋、ゴミや空き缶がてんこ盛りの一部が揺れ1本の手が生える

それは女性の手で器用にゴミ山から這い出てくる

 

「危ないなぁ…あと少しで押し潰されてタヌキうどんになっちゃう所だったよー…」

 

目の下には大きなクマができており長い栗毛を適当に纏めて近くにあるパソコンに手をつける

 

「さてさて、何かいい情報ないっかなー…」

 

ポチポチとしてるとメールが届いてる事に気付きニヤリと笑う

 

「ふふふ、とうとう私を頼るようになったんだね柏崎君」

 

情報のプロフェッショナル、情報屋タヌキは不敵に笑いながらいそいそと掃除を始める




どうも、気温差に負けそうな私です

今回は癒し…癒し?回です、次回はとうとう物語の上部分で色々言ってた情報屋のタヌキの登場です、お楽しみに


では明日、次の話で会いましょう


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第40話『子猫とタヌキ』

説明しよう!

情報屋タヌキとはボンキュッボンのナイスバディで高身長美人という高ステータスの持ち主だー!

ただし彼氏ができた事はない、これは戦略的な独り身なのであって面倒臭いわけではなーい!年齢は秘密だー!

 

 

情報屋 自己紹介タヌキ

 

────────────────────

 

「結局俺だけかよ」

 

俺は未だに頭の上に居座る子猫をどうにか落とそうと試みながらため息をする、情報屋に会いにいくと言った瞬間…天田は俺に威嚇してきて雨森は猫じゃらしを囮に逃げ、宮本は日本刀抜いたり宮島は筋トレしたり…雨宮はまず来てなかった

極めつけは矢本すら行く事を拒否、嫌われ過ぎだろタヌキ

 

「はぁ…俺も1人で会いたくねぇってのに…」

「ニャッ!」

 

と、額をペシペシ叩かれる…自分もいるぞ的なあれか

 

「お前がいても変わんねーよ…」

 

暴れる子猫の首根っこを掴み情報屋の住処を目指す

 

 

────────────────────

 

とある団地の一室、周囲にはほぼ誰も住んでおらずタヌキが団地の主的な立ち位置になっている

タヌキの部屋の前に来てインターホンを鳴らす

 

「おーいタヌキ、来たぞー居るのは分かってんだぞーこの前貸した400円返せ」

「400円はこの前返したじゃないかー柏崎君!」

 

と、勢いよくドアが開かれ部屋の中が見えるようになる…やっぱりゴミだらけじゃねぇか…掃除しろって言ったろ…

 

「あれー?柏崎君タヌキを無視してないー?おーいタヌキさんだぞー!」

「やかましい!お前はその姿をまずどうにかしろ!」

 

タヌキは目の下に大きなクマがありダボダボの大きなTシャツを1枚着ただけの姿で出てきていた…タヌキは言う所のボンキュッボン…という体型の為かなり危ない、天田とか連れてきたらあいつ発狂してたかもしれない…

 

「あー、掃除に集中してたから忘れてたやー…んじゃ入ってー」

「これ掃除したか…?」

 

とりあえずゴミを避けつつ中に入る…び、ビールの匂いが凄いな…あ、子猫が空気に酔って落ちてきた…

ダウンした子猫を抱えながらタヌキの後を追うと…リビングか?多少人が座れそうな地面と机が置かれておりその周囲にゴミ山が生成されている

 

「タヌキさんやタヌキさんや」

「なんだーい柏崎君」

「お前これ掃除って言うんじゃなくて隅に追いやったって言うんだ」

「柏崎君ってばさっすがー!その通り!」

 

震える拳をどうにか押しとどめて子猫を机の上に転がす

タヌキはゴミ山から冷蔵庫を引っ張り出し中からピーナッツを取り出して机に置く

 

「食べるー?」

「もっとマシなのなかったのか…」

 

出されたからには食べないわけにもいかずポリポリ…

 

「さて…んじゃ何の情報が欲しいのかなー?敵対組織の情報?それともあの『化物』について?それとも『A』の事かなー?それとも『6席会』かなー?それとも能力を『治す』方法ー?」

 

一気に出せる情報を並べていく…俺はタヌキを睨みナイフをちらつかせる

 

「…それらの情報料はいくらだ?」

「柏崎君の『命』だよー」

「…それは無理だな」

「ならしょうがないねー」

 

 

タヌキはまず適当な情報を並べ自分がどれだけ情報を持ってるかを提示して無理難題な情報料を要求してくる、大体は名前だけ…等の情報だが自分以外ではこんな情報は持ってないという事を暗に伝えてくる

 

「それとも…私の彼氏の数かなー?」

「黙れ独り身、この前婚活行こうとしたらビビって逃げ帰って来たって聞いたぞ」

「誰それ言ったのー!?」

「君ん所のボス」

 

情報屋も集団で活動する事で自分達の身の安全を確保してるのだが身内の恥ずかしい情報は結構ペラペラ喋る…仲間意識は低いかもしれない

 

「うぅ…そんなの聞かれたらお嫁に行けないー…」

「面倒だからって婚期蹴った奴が何を言う」

「責任取れー!」

「無理です」

 

殺気立っていた空気は無くなり穏やかな空気が流れる…いやアルコールの空気だけど

 

「んじゃ本題に入ろっか…その猫でしょー?」

「あぁ、この子猫は『神に近い何か』か…もしくは『眷属』なんだろうが…出処が分からなくてな」

「なるほどー…ではちょっと待ってねー」

 

そう言ってパソコンのある机まで移動し、パソコン操作を始める

 

「…あ、そう言えばお前」

「んー?何ー?」

「あの青葉にパシられたんだろ?なんでまた」

 

あの時手紙を送られてなかったら俺は部下を1人失っていた、だがあの手紙はタヌキではなく青葉が出した情報をタヌキが俺に渡したものらしく…珍しいとも思えた

 

「あー…面白い情報があったからそれと引換にねー」

「面白い情報…?」

「そーそー、彼女記者の超人?らしくて凄い量の情報持っててさー、私が知らないのもあったからそれとねー」

「ふーん…」

 

お互い情報を扱う職なだけあって情報の量には差が出たりするのか…まぁ、まだ青葉は未成年な上に危ない橋は渡れないだろうからそこ辺りは差があるだろう

 

「そうそう、青葉って言ったらさーなんであっちじゃなくて私の方来たのー?あっちとは仲良くなったんでしょー?」

「あー…それなんだが…関わりづらくてな…何考えてるか分からない上にあわよくばこっちの情報抜こうとするし…」

 

実際この前エイレーネー日本支部の警備状況を抜こうとしてた…理由はいつでも遊びに来る為らしいが…

 

「へー?私信用されてるんだねー」

「いや、いざとなったらお前の過去の黒歴史を世界に公開する事が出来るから」

「脅しだよねー?!」

 

ばっか、人間脅しには一時的な効果を発揮するんだぞ…やり過ぎると捨て身の反撃してくるが

 

「だがよく会ったな、お前ちょっと引きこもりがちだから意外だった」

「あ、そうそう実はねー」

 

そう言ってパソコンに向きながら手を上にあげて指をくるくると回してその時の事を表現しようとしてる

 

「そうあの時は将棋の王将だけでチェスのキングを倒せるかどうか物議を醸してた時だった…」

「うーん何してんの?」

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

『難しい…何故チェスはチェスで将棋は将棋なんだろうか…』

「そういう遊戯だからだよ」

 

私は窓の外を眺め黄昏れる

 

「ゴミの山で窓の外見えないんだけど」

 

『くっ!何故王というのはこんなにも弱いんだ…!』

「ていうかちょっと美化してるよね、口調違うし」

 

黙れ

 

「おい回想で言うな!」

 

私がチェス盤と将棋盤を見ていると1人の女性の声が聞こえた…

 

『おや?それは無益な思考ですね、それよりも…面白い事をした方が有益では?』

『だ、誰だ!(キラキラ)』

 

私は身長が低く見上げなければならなかった…

 

「うーん、ちょっと身長気にしてたんだね」

 

『ふふふ、私が誰だろうとどうだっていいじゃないですか』

 

と言いながら、何故か並べてた将棋の駒を取り払い…王将だけを並べた

 

『さぁ、始めましょう』

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

「そうして私は超人と王将のみの将棋対決をして…今に至るってわけですねー」

 

うーん

 

「今の時間返して?」

「あ、そうそうそれっぽい情報見つけましたよー」

 

俺の事を無視して情報を提示する

 

「この子猫は恐らく『鉱山の神』に近い存在なのかもしれません」

「鉱山の?まぁ沢山いるとは思うが…」

「その沢山の1つですねー、むかーしむかし…とある鉱山で崩落事故があり、中にいた人を助けたのは1匹の猫だった…猫は多くの人間を導き外に逃がし…そして最後は落ちてきた岩にあっけなく死んでしまった…」

 

なるほど、まさに崇められてもおかしくない…かもしれない

 

「生還した者達は猫に感謝し猫を崇める場所を作り崇めたそうな…が、最近ではもはや覚えてる者がおらず…また信じられないとされ今では忘れ去られた『神』…と」

 

そう言いタヌキは子猫を見る

 

「もしかしたら…神様の子かもしれませんねー」

 

神の子…か、よく聞くが実際に会ったこともない…しかしこの世界では何が起こってもおかしくはない

 

「…神の子…ね…巻き込まれた気がするな…」

 

その後もタヌキに情報を聞く為俺はその場に留まる

 

 

 

────────────────────

 

 

豪華な部屋に金属や鉱石が並ぶ部屋の椅子に座ってるふくよかな男は苛立っていた

 

「ふん、まさか小さい方をエイレーネーに取られるとは情けない…」

 

そう言って目の前に座ってる男はごまをする

 

「申し訳ございません!うちの者が大変ご迷惑を…」

「よい、貴様のような所の者だと本題の方で限界だった…エイレーネーの動きを察知できただけでもマシな方だ」

 

ごまをする男は苛立ちを隠し目の前の男に媚を売る

 

「しかし…大きい方と小さい方を揃えてやらんとなぁ…?ふふふ…」

 

そう言って首に様々な模様が入ったスカーフを付けられた『黒猫』を撫でながらふくよかな男は笑う、その顔は貪欲な欲望にまみれた顔だった




どうも、どうもどうも、後書きの書き方を忘れかけてる私です

タヌキ…青葉に似てるようで似てないキャラです、2人が合わさった瞬間この世が終わります(適当)

では明日、また次の話で会いましょう


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第41話『見えない恐怖』

 

「くっそー…タヌキのやつ情報を出し惜しみしやがって」

 

あれから俺はタヌキから情報を聞き出そうとしたが何故か情報をすぐには出さず焦らしてきたり子猫と戯れ始めたりと時間がかかりもう夕方だ…多分昼飯とかをたかりたいがためなんだろうが…

 

「お前もお前であそこに居座ろうとするな…」

 

と、デローンと俺の頭の上で伸びてる子猫の眉間をつつく

あの空気に酔った子猫は気に入ったらしく逃げるわ噛んでくるわで…今ではほろ酔いと言った所か

 

「さて…そう言えばお前の名前決めてなかったな…いや、まぁあるかもしれないが…タマ…クロ…」

 

車に乗りながら考えてると子猫が軽く額を叩き拒否してくる、人の頭に乗って偉そうに…

 

「だーもう、お前はカクロだカクロ、神の子で黒いからカクロ」

 

適当に決めて抵抗するカクロを助手席に放り投げる、少し抗議の目で見てくるが知ったことではない…一時的な呼び名だ、あだ名とも言える

どうせ何処から来たのか分かればそこまでの関係だ、タヌキの情報をもってしても鉱山の猫神を崇めている場所は見つからなかった、だから探す必要ができたわけで…

 

「はぁ…面倒だな…」

「にゃ」

 

俺の声に応えるようにカクロは短く答える、知性はかなり高いらしい…なら俺の膝の上に来て太ももを両前足で揉まないでくれないだろうか、俺お母さんじゃないぞ

 

「…はぁ、子猫にはミルクあげればいいんだっけ…?」

 

帰ったら猫狂いの雨森に聞いてみよう、しばらくは家に帰らず支部に泊まって子猫の様子を見とかなければ何をしでかすか分からない…

 

そう考え車を運転してるとミラーにずっと等間隔でついてくる車に目を向ける、運転席には少しガラが悪い男か俺が見たのに気づいて上手く他の車に紛れてその場を離れ違う車が尾行をしてくる、手馴れてるな

 

「カクロ、ちょっと寄り道するからな」

「んみゃ…」

 

返事すら怪しい鳴き声をしてカクロは応え、車を少しでも人気ない所に向け走らせる

あの様子だと支部の場所はまだバレてない、だからここで奴らを『殺る』…1人は残すが…あいつに頼るか

俺は死角になるようにスマホの電話帳を開きある奴に電話をする

 

────────────────────

 

「おい、どんどん誰もいねぇ場所に向かってるぞ?大丈夫なのか?」

 

尾行をしているチームのリーダー格に尋ねる戦闘員、リーダー格の男は少し考え

 

「…1台見つかってやがる、ここで迎え撃つ気だな…せめてエイレーネーって所の場所は把握したかったが子猫を回収するのがノルマだ、男だけ殺るぞ」

 

そう言ってリーダー格の男はスマホを取り出し他のメンバーに指示を出す、その辺一帯を囲うように

 

 

車を走らせる事30分、尾行を続けてると…

 

「こんな場所もあるのか」

 

窓などは全て板で打ち付けられ建物の中が見えないようにされている…元々は何かの集会場だったのだろうか、そこそこの大きさの二階建ての建物の前に車が置かれている

 

「ここに入ったのか?」

「えぇ、男が1人…黒猫を抱えて」

 

リーダー格の男は下っ端の話を聞きどうするべきか考える、敵は1人に対してこちらは10名…頭数ならこちらが圧倒的有利であり数で攻めれば勝てる筈だ…だが

 

「本当にそうか…?」

 

相手はエイレーネー…実際の正体は分かっておらず裏社会を暗躍しているとしか分かっておらず実力も未明、無理して攻める必要はあるのか…?

 

「何悩んでるんだ俺は…お前ら準備しろ、5人は裏から回れ…さっさと猫を捕まえて金もらって帰るぞ」

 

その言葉に他のメンバーは応え5人は裏口から、残りは正面から建物に侵入していく

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

裏口を探してた5人は建物の周囲を移動してると唯一の扉を発見してお互いを見合いドアノブに手をつけゆっくりと開ける

中は暗く一寸先は闇になっていた、明かりを灯さなければ満足に足元も見えないだろう

 

「(行くぞ、足元気をつけろ)」

 

小声でそう言うとやせ細った男が先頭に男達は中に入っていく、あまりにも暗いため明かりを灯して進んでいく

だが見つからないようにする為最小限の明かりと足音を心がけ1歩…1歩と進んでいく、後ろに続く男達も前の男のように動き進んでいく

 

「っ!…(へへ、急いで作ったのがバレバレだな)」

 

男は姿勢を低くして後ろの男達に見るように促す、男達の視線が集まったのを確認して最小限に明かりを少なくしたライトを足首あたりに持っていき照らす、すると黒色のロープが張られており何も気づかず進んでいたら転んでいただろう

 

「(こんなのに引っかかったら笑いもんだぜ、お前ら間違えても触れるなよ)」

 

もしかしたら触れたら発動するタイプかもしれない、念入りに男達に忠告してやせ細った男はロープを跨いで先に進む、その次、その次の男も同じ場所を踏んで続くが4人目の男が『違う場所』を踏んだ瞬間、4人目と5人目の足に突然何かが絡みついて引っ張られ…1人は頭を壁に強く叩きつけ1人はぶつけはしなかったが宙ずり状態になってしまった

 

「な、なんだ!?」

 

音に気づいた3人が後方にいた2人を見たが、左右から何人

かの人影が飛び込んできて拘束されてしまう

 

「ぐむぅ!?」

「ねんねの時間だぜぇ、若モンよぉ?」

 

その声と共に顔に強い衝撃がしてやせ細った男は意識を手放す

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

正面から中に入ったリーダー格を含む男達は懐中電灯を手に奥を進む

 

「いいんですかい?こんな明かりをつけちまって」

 

下っ端の男はリーダー格の男に尋ねる

 

「暗殺ならあんまり褒められた事じゃねぇが…あっちは1人に対してこっちは10人もいる、ちょっとやそっとじゃ負けはしない…逃げるにしても板を外す音で気づく、ゆっくり追い詰めればいい」

 

そう言うと他のメンバーは安心したように談笑をしながら先を進む、リーダー格の男は失敗したか?と感じてしまう

誰も緊張を解けとは言ってないが…まぁ緊張しまくってるよりかはいい

 

周囲を見てたリーダー格は異変にやっと気づいた…1人足りない

 

「おい、1人足りねぇぞ」

「え?あ、ほんとだ…便所行ったんじゃないですかね?」

 

こんな時に便所に行く…?ありえない、異常だ

 

…カラーン…

 

男達の進む先から何か音が聞こえる、懐中電灯を先に向けると

『血と人間の手が付いた懐中電灯が落ちていた』

 

「うっぷ…!」

 

メンバーの1人が見てしまい胃の中のものを戻してしまう、異様、異常、異変、リーダー格の男は逃げるという選択肢を出そうとした瞬間

 

「くっ、くそ!ふざけやがって!出てこい!ぶっ殺してやる!」

 

この中で1番体格のいい男が通路を走り曲がり角を曲がって行った

 

「まて、止まれ!」

「ど、どうするんですかリーダー!」

 

残りの2名が不安そうにリーダー格を見る、リーダー格もまた不安と恐怖に押しつぶされそうだったが

 

「…行くぞ、見捨てるわけにはいかねぇ」

 

男達は急いで、だが慎重にゆっくりと男の後を追う

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

「何処だグラァ!」

 

怒気を含ませた大声を出しながら片っ端に扉を蹴破り中を確認する、だが中には誰もおらず舌打ちする…が、その1個隣の部屋からドサッという何かが落ちる音がした

 

「っ!そこか!」

 

隣の部屋まで行き扉を開ける、すると部屋の中心に腕が無くなってる男が傷口を抑えながら震えていた

 

「大丈夫か!?誰にやれた!」

「…………………………!」

 

傷口を抑えてる男は必死に何かを伝えようとするが声が小さく聞こえない

 

「なんだ…?」

 

と、口元に耳を近づける

 

「…………うえに…いる……!」

「…上?」

 

男が上を見上げる、大穴が空いていて…誰かが落下してきていた、それはターゲットを運んでた男で…

 

「ぐっ!」

 

あまりの突然のことに背中から倒れ、両腕の二の腕を踏まれてしまった…咄嗟に顔を上げると

 

「2人目だ」

 

喉にナイフが当てられており冷たい感触がした

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

慎重に進んでいた男達はとある部屋の扉が開けらていたのを目にした、他の扉は壊されておりその一つだけが待ち構えてたように開いている

 

「…行くぞ」

 

戻れない、進むしかない…ゆっくりと進み部屋の中を見る

…暗い、懐中電灯で足元を照らしつつゆっくりと中に入り部屋全体を見る為に懐中電灯を周囲に向ける…

 

部屋には苦しむが口にガムテープを貼られてるため声が出せない者、死んでる者、恐怖に怯えてる者…仲間がいた

 

そして後ろの扉はゆっくりと閉じて

 

「おしまい」

 

後ろにはエイレーネーの人間が扉の前に立っていた




どうも、最近風邪気味の私です

今回は少し視点を敵に合わせてみました、柏崎達がしてる事ってこういう感じだから凄く暗殺してる感じなんですよねー…

では明日、また次の話で会いましょう


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第42話『宣戦布告』

 

外に出て一服しようとタバコを咥えてライターを取り出す…だがカクロにじっと見つめられ気まずくなり胸ポケットに入れる

吸わないからそんなに見るな…

 

「おぉーおぉー…天下のエイレーネーさんはろくにタバコすら吸えないのでぇ?」

「はぁ…うるさいぞ龍」

 

俺は振り向いて後ろにいた男を見る、ヨレヨレのスーツに茶色のロングコートに葉巻を咥え猫背の初老の男…岡薗龍エイレーネーの勢力下に入っているヤクザの1人だ、エイレーネーも万能ではない…隅々まで監視などは不可能に近い為様々な契約に従ってもらう代わりに多少の事は目を瞑る…という事になっている

 

「しかししかしぃ?そちらさんから協力を求められるとは世の中何があるか分からないですねぇ?」

「うるせぇ、あんたはさっさと引退して若頭にその席譲ってやったらどうだ?」

 

ケタケタと笑う岡薗にそう言いすっかり暗くなった空を見る

 

「あいつにゃまだ早い、特にエイレーネーさん所を馬鹿にしてる感じがしてなぁ…そんなのに継がせねぇよ」

「そうかよ、そいつが代替わりしたら速攻で潰すから」

「おぉ怖ぇ怖ぇ…ちゃんと教育せな…ならんなぁ…」

 

葉巻を吸ってる龍に鋭い目線を向けてるカクロを無視しつつ空を眺める

 

「龍さん、終わったぜ!」

 

そんな声が聞こえ声がした方を見ると短髪の黒髪に活発そうな青年が立っていた

 

「おぉ、誠早かったじゃねぇか」

「あいつらすぐにゲロったからな、あんなのなら簡単」

 

龍は優しそうに誠と呼ばれる青年を見て青年は犬のように褒められるのを待ってる、情報が書いてある紙を渡して

が、俺に気づいて明らかな敵意を向けてきて

 

「お前がエイレーネーって所の下っ端か?」

「まぁ下っ端と言えば下っ端」

 

エイレーネーの番犬的な立ち位置だし

 

「お前らみたいな殺人集団にこの街は任せられねぇ、俺達岡薗組がこの街を守るんだ、そこ辺りちゃんと理解しろよ?」

 

と、メンチ切って建物の中に戻って行った

 

「…龍お前もしかして『あれ』まだ言ってないのか?」

「はははっ…そうだ、だがあんなんでも俺の後継者だ、大目に見てれや」

「ん?若頭ってもうちょい老けてなかったか?」

 

俺が会った時は20代後半くらいだった気が…

 

「あぁ、あれはふぇいくだ…うちの大事な若頭を守る為のな」

「…そうかい、まぁそこまで干渉する気は無いが…早めに言わないと暴れるぞ」

「ま、心配なさんなって…エイレーネーさんとこには迷惑かけねぇよ」

 

そう言って龍は紙を広げ俺に見せてくる

紙に書いてあったのは2つ

 

・宝石店から雇われた、それ以上は知らない

・小さい子猫を奪えと言われた

 

「徹底してるな」

「まぁ自分の駒使わないで他の奴雇って情報は最低限に目的だけを伝えて…こりゃ厄介な敵に出会ったなぁ?」

「全くだ」

 

頭の上で紙を覗き込んでるカクロにチョップして紙を折り畳み胸ポケットに入れる、帰ったら調べなくては

 

「困ったらまた頼みなぁ?あんたの前任者には世話になったしなぁ」

 

龍の言葉に心臓が強く脈打つ、俺の前任者…つまり第1特殊部隊の前隊長であり…俺の師匠で…

 

「…『勇人さん』はもういない」

「だからだ、あの人ならあんたに協力しろって言う…だから俺はあんたに協力するって言ってんだぜぇ?」

 

龍の目は真剣だった、俺は複雑な気持ちになったが好意を無下にするわけにもいかず

 

「…ま、その時は頼む」

「あぁ、まかせなぁ」

 

そう言って短くなった葉巻を吐き捨て新しい葉巻を咥える

 

「んじゃ手筈通り…あいつらは貰っていくぜぇ?」

「分かってると思うがやり過ぎて捕まるなよ?」

「はははっ!何十年この社会に生きてると思ってんだ、そんな簡単に捕まっかよぉ?」

 

そう言って龍は自分達の車に向かっていく、そして部下の男達の手には先程の10人の男達が…誠はもう車に乗ってるのか

 

「ひーふーみー…ははは!今日も稼げそうだなぁ?大丈夫大丈夫、お前らみてぇな汚ねぇ心でも臓器と血は他の人の役に立つんだぜぇ?」

 

そう、捕まってる男達に言うと高笑いをしながら龍達は車に乗り込み…岡薗組は去って行った

 

「…俺達も帰るか」

「ニャー」

 

俺とカクロは車に乗り込みエイレーネー日本支部に戻る

 

─────────────────────

 

支部に帰り菊野の老人達がカクロを甘やかして餌付けするというハプニングはあったがどうにか部屋まで辿り着く

 

「はぁ…お前少しは遠慮って言葉を知れ」

「ニャ?」

 

何のことでしょう?という感じで見てくるカクロ、てめぇ

流石に隊員達は帰っただろう、そう思い扉を開ける

 

「にゃんこ!」

「………エン…」

 

エンがこの部屋に住んでるの忘れてたぁ…

部屋の扉を開けた瞬間待ってましたと言わんばかりに寝っ転がってた状態から起き上がって俺の方に詰め寄ってきた

…エンは未だに能力が若干不安なのでここに住んでもらってるが…そろそろ部屋を用意した方がいいのだろうか…

 

「にゃんこがいるって!あまたが言ってた!」

「おう…好きなだけ可愛がってやれ…」

 

面倒になる前にカクロをエンにリリースして落ち着かせる

エンはカクロをキャッチするとモフモフと触り抱きしめて可愛がる…カクロも満更ではなさそう

 

「ん?あれエン、天田は何処だ?」

 

まだ夜の7時…この時間ならエンが寂しがらないように天田が部屋にいる時間だと思うのだが…

 

「あまたならそこ」

 

カクロと目を合わせてニコニコしてるエンが指す方向を向くと白くまるで灰のように真っ白になっている天田がうつ伏せになっていた

 

「…あぁ…柏崎さんっすか…おかえりっす…私もう眠いんで…おやすみっす…」

「お、おう…お疲れ様」

 

天田の目の前には山ほどの紙の束…天田をソファーまで運び毛布をかける

それからエンはカクロと遊び、俺は色々調べたりと時間を潰し就寝する

 

────────────────────

 

 

「柏崎さん起きてっす!」

「ぐはっ!?」

 

腹に強い衝撃を感じ飛び起きる

 

「敵襲か!?」

「違うっすよ!早く!早くテレビ見るっす!」

 

寝ぼけてる俺の手を引っ張り誘導する天田、お前許さんからな

 

「これ!これ!」

「あぁん?お前これでロクでもないものだったら許さ…ない…」

 

テレビにはとある展示会の事が流れていた、それは宝石の展示会で

 

『それでは金郎さん、今回の目玉となる宝石があると?』

『えぇ、今回展示するものはとても素晴らしいものばかりで…』

 

恰幅のいい男が座りながらナレーターの質問に答えている、だが今はそれよりも

 

「…カクロ…?」

 

男の膝の上に乗っている猫…スカーフを巻いてるがカクロによく似ていて…少しだけ見えている爪が『輝いている』

 

「…柏崎さんこれって…」

「あぁ、この野郎…『わざと見せてる』」

 

誰に?ナレーターに?テレビの視聴者に?いや違う

 

『是非とも我が宝石店『金郎』が主催する展示会に大勢来てもらいたいですね』

 

と、黒猫を撫でる

 

「俺達『エイレーネーに』喧嘩売ってやがる」

 

カクロはテレビの前で黒猫を見て小さく鳴く

 

「カクロ、任せとけ…お前を絶対にあの黒猫に会わせてやる」

 

カクロの頭を撫で立ち上がり支部長室を目指す

 

「エイレーネーに喧嘩売ったのを後悔させてやる」




諸事情により後書きは無いです、遅れてすみません


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補足回『青葉とタヌキ』

※これは作者の友人が書いたものです、タヌキによってぼやかしてた部分となります


 

 

青葉「どうも!私です!」

 

ゴミ屋敷…屋敷でもないが、に入って開口一番。

 

タヌキ「君は初めてのお客さんかなー?」

「君みたいな若い子が知ってるって、結構問題だと思うけどなー」

 

青葉「これでもそれなりに苦労したんですよ?」

「この長内青葉、まさか調べられる側になろうとは思いませんでしたし」

 

タヌキ「そっかー」

「まー、一応の条件はクリアしたんでしょー」

 

青葉「はい、清廉潔白な私が通らないなんて有り得ませんからね!」

 

辺りにはビール缶が転がっている。酒気のせいで、この空間にガスが撒かれても察知は難しいだろう。と予測する。

普段なら絶対に近付かない。取らぬ…いや、取れぬタヌキに近付いても損をするだけだし、何より食い合いになれば経験が浅い自分では最悪消されて終わる。

だが、今回だけは無茶を通さなければならなかった。

裏ルート、情報、甘言、誘導、規制。

自分に使えるものは何でも使った。

私は「皆」と違って、出来損ないだから。

戦えない私の、唯一の「闘い」

勝敗を決める為ではなく、ただ負けてはいけない勝負。

 

タヌキ「…さて、んじゃ何の情報が欲しいのかなー?」

「『A』の事かなー?『柏崎悟』についてー?それとも『魔術』の事かなー?或いは『超人』ー?」

 

「それか、『自分』についてー?」

 

1つ1つ、それらの言葉を聞いた瞬間、仮面が剥がれそうになる。

警戒をしてはいけない。

警戒をするという事は、何か好ましくないという事だから。

だから、私は丁寧に答える。

 

青葉「……いいえ、どれも要りませんね」

「『もう持ってます』」

 

それを聞いて笑みを深めるボンキュッボン。

……青葉も、まだ成長しますし???

 

タヌキ「そっかー、じゃあお姉さんの事でも知っとくかなー?」

 

青葉「遠慮します、黒歴史なら知ってますから」

「婚活パーティー」

 

タヌキ「誰から聞いたのー!?」

 

青葉「それを教える訳ないでしょう?」

 

タヌキ「それはそうだけどー」

 

青葉「本題に入りましょう」

 

タヌキ「そうだねー」

「で、君は何を払ってくれるのかなー?」

 

青葉「……私は買いに来たんじゃありません。」

「売りに来ました」

 

…さて、此処からだ。

踏み外すな、私に価値があると思わせなきゃ。

あの化け物に比べたら、まだ人間相手だ。

それも、最上級の。

『誰も泣かせない為に』

あの人達の、笑顔の為に。

 

タヌキ「……なるほどー。君はそっちだったかー」

「確かに私はタヌキさんで、情報屋だねー?」

 

青葉「えぇ、何、簡単ですよ」

「この情報を柏崎さんに流して貰うだけでいいんですから。」

 

一通の手紙と手帳を取り出す。

彼女が知らないはずの情報を纏めたモノを。

 

タヌキ「それでー?」

「私が売る情報は安くないぞー」

 

青葉「さて、何を要求しますか?」

 

タヌキ「……君の『誇り』だねー」

「君の持ってる全てが代金さー」

 

青葉「おや、『命』と言ってくるかと思ったんですが」

 

タヌキ「私は要らないものは要求しないからねー」

「お互いにとって価値がないと意味が無いだろー?」

 

青葉「ッ…」「はは、何を言うんですか。青葉も命は惜しいですよ?」

 

しまった、一瞬、一瞬『剥がれた』

だが、まだだ。逆に利用しなければ

 

タヌキ「へー?まぁ、良いよー」

「じゃあ、君の誇り…記者としての嘘偽りない情報を貰おうかー」

 

見透かされている気分になる。

だが、それは嘘だ。

見透かすことが出来たとしても、そこに意味は無い

故に、あちらは私の反応を観ているだけだと断ずる。

思考を切り替え、落とす。

 

青葉「えぇ、好きなだけ見てください」

 

予備の手帳を差し出し、鞄に詰めた記事や写真、音声データ。

そして媒体を残すと危ない情報を私の記憶から探り、支払いする。

人間、記憶の管理くらいその気になれば出来るものです。

 

タヌキ「うん、ありがとー」

「取引成立で良いかなー」

 

青葉「ありがとうございます。では、私はこれで」

 

立ち去ろうとする。私の頭が、直感が危険だと告げている。

これ以上は喰われる、と。

 

タヌキ「あ、ところでさー」

「何で『王』はこんなに弱いんだろうねー?」

「護られるばかりが王の資質って訳でもないのにー」

 

 

青葉「……それは無益な思考ですよ」

「もっと面白いことを考えたらどうです?」

 

タヌキ「それもそうだねー」

「『君は誰』だいー?」

 

青葉「……ふふふ、私が誰であろうとどうだって良いじゃないですか」

 

タヌキ「教えてくれれば追加を払う。って言ってるんだよー」

 

青葉「…なるほど」

 

私は、警報を無視した。

喰われたって構うものか、私1人で贖えるならそれでいい。

掛かった釣り針を逃す訳にはいかないのですから

それが、罠だと分かっていても。

 

───さぁ、始めましょう───




どうも、最近腰を痛めた私です

今日の話は補足回です、ちょっと友人と、タヌキと青葉ってどんな会話してんだろうなーと話してて私が友人にリクエストして書いてもらったものです
大体は私の考えてた通りなんですが…文章力がケタ違い過ぎて私も負けてられないと思う今日この頃でした

あ、本編は明日に更新されます

では明日、また次の話で会いましょう


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第43話『誘導』

 

宝石店『金郎』

その店は1代で全国に支店を置く程大成功をおさめた宝石店で特にやってる事は他の店とも変わらない…だが金郎で買った宝石には『不思議な力』が宿ってるらしく

 

宝石を買うと病気にならない、事故や事件で奇跡的に生き残った、宝石を触った重病の者が健康体になった

 

そんな噂がまことしやかに囁かれている

 

 

宝石店『金郎』 情報屋 上機嫌なタヌキ

 

───────────────────

 

 

「こちら柏崎、展示会に侵入した」

 

目的地に到着して我らが頼りになるオペレーターに連絡を入れる

 

『はいはいっす…他の皆さんはどうっすかね』

『こちら矢本、異常なし』

『こちら雨森、少し注目されてます』

『こちら宮島、上腕二頭筋が震えてるぜ』

『はいはーい、こちら雨宮〜素敵な紳士が多くてこまっちゃうわ〜…』

『ふん、石ころに興味はない』

 

うーん、まず誰からツッコミ入れればいいんだ?

 

『雨森さん今何してるっすか?』

『私は今普通に展示会を見て回ってますが…』

『監視カメラから見たら中世の貴族みたいな服着てる馬鹿が見えるんっすけど?!』

 

まぁ金持ちっぽい服装しろとは言ったな

 

『はぁ…宮島さん上腕二頭筋って突然どうしたんすか』

『おう!ちょっといい感じのでっけぇ石があったから筋トレしてるんだ!』

『やっぱり馬鹿っすよね?!目立つなって言ってたでしょう?!』

 

まぁ作戦開始までは自由にしていいと言ったけどさ

 

『…雨宮さんは?』

『それが宝石見てたらプレゼントするって言ってくる紳士が多くて〜…』

『なんすか!?やっぱり世間は顔と体っすか?!しね!』

 

普通にメイクとオシャレな服着た雨宮って綺麗だもんな

 

 

『宮本さんは…別にいいっすね』

『私にも何か言わないのか!?気にならないのか!?』

『んじゃ一応聞きます』

『ふふ、よくぞ聞いた…石などに興味ない為私は素振りを…』

『はい柏崎隊長、全員揃ってるっすよー』

 

宮本減給な

 

「…しかし人が多いな」

「かなり有名らしいです、私はあまり興味ありませんでしたが」

 

展示会に潜入するにあたって出来うる限り不自然ではない風を装っていなければならない、ので矢本と俺はタッグを組み「背伸びして宝石を彼女に買おうとしてる彼氏」的な役で来ている…ふふ、俺にもとうとう春が来たか

 

『隊長』

「なんだ天田」

『背伸びして姉に買おうとしてる弟にも見えなくないっす』

「貴様ァ…」

 

相手はこちらを知ってる可能性もある為黒のカツラを被ってるのだが…

 

「黒髪だとそう見えるらしいですね、周囲から暖かい目で見られてます」

「てめぇら見てんじゃねぇ!」

 

暖かい目を向けてた人々を蹴散らし一息つく

 

「…流石は全国に支店を置く有名店、やる事する事が豪華だな」

 

宝石を見ながら食べれる出店型星付きレストランの料理に俺でも見た事ある様々な高級品…挙句の果てにはその場で加工して指輪やネックレスにするサービス…

 

「なんでもありかよ」

『まぁ展示会って言ってるっすけど目的は私達に対する宣戦布告っすから客には楽しんで欲しいって事じゃないっすかね?』

「………」

 

特に監視の目はない、誰かを探してる様子も今の所見当たらない…ん?

 

「天田、なんかロボット?あるんだが」

 

俺の目線の先にはゴテゴテに飾りを施された人型ロボット…?かなりでかくずんぐりむっくりだが…

 

『なんでも社長の金郎さんが大のロボット好きらしくこういったイベントでは必ず置いてるらしいっすよ』

「宝石でかなり豪華なロボットだな…動くのか?」

『中身は無いっぽいっす』

 

大人になっても子供の心を忘れないその精神は素晴らしいと思うよ、うん

 

「んじゃ天田、そのまま会場の調査と金郎って奴の居場所を探してくれ」

『りょーかいっす、皆さんは各々好きに動いてくださいっす』

 

そう言って天田との通信を切り周囲を見る、しかし凄い量の宝石の数々だな…俺でも知ってるのが普通にあるのが怖いな…庶民感が拭いきれない

 

「ニャッ!」

 

カクロが鞄の中から頭を出す、流石に姿をそのまま出すわけにもいかず古典的だ鞄に入ってもらった

…置いていこうとしたら死ぬほど噛まれて大変だったよ…

 

「それでは行きましょう?柏崎さん」

 

そう言って矢本が手を差し出してくる、とても気恥しい…女性と手を繋ぐとか義母と義妹しか無かったぞ…あ、超人に1人居た気がする、けどあいつはノーカンだな…うん

 

「お、おう…行こうか」

 

恐る恐る手をとる…くそ!全国のヘタレの皆…俺に力を…

その後、矢本が見てた宝石をカッコつけて買おうとして値段に殺されかけカクロが宝石を飲み込むというハプニングがあったが…警備の配置や監視カメラの位置は大体把握した

他の隊員も何やかんやあったがそれぞれ作戦開始位置を見つけたようだ

ただ1つ気になったのはあのゴテゴテに飾りを施された人型ロボットが人通りが多い場所に設置されてる事だ

 

『はいはーい、柏崎さん大体調べ終わったっすよー』

 

カクロが飲み込んだ宝石を吐き出させようと試行錯誤してたら天田から通信が入る

 

「早かったな、まだお昼回ったくらいだぞ」

『ま、私ができるのはこれだけっすからね…急ぐに決まってるじゃないっすか』

 

そう言う天田の声には寂しさを感じられた

 

「いや、お前はよくやってるよ…5年前からな」

『…と、とりあえず分かった事を伝えるっすよ!』

 

妙に早口になった天田、気になったが今は情報か

 

『まず会場の警備はそこまで多くはないっすね、スタッフは多いっすけど』

「警備が多くないって、宝石を扱うのにか?」

『理由は分からないっすけど実際会場の大きさの割に少ないんっすよ』

 

周囲を見る、確かにかなりの広さに対して警備員等が少ないように見える

 

「私服警備員がいるんじゃ?」

『かもしれないっすねー…まぁ警備員は一般会社から来たらしいっすから大丈夫でしょう』

 

そう言って天田は何かを取ってるのか声が聞こえず物音が小さく聞こえる

 

『あったあった、今ちょっと写真送るんすけど…』

 

そう言って矢本の携帯に通知が来る、矢本が携帯を操作して俺に見せてくるので覗き込む…それは地図だ、恐らく会場の地図で…監視カメラのマーク?か?が至る所に配置されている

 

「…?これがどうした?」

『よーく見て欲しいっす』

 

とりあえず矢本に携帯を借りて地図をじっくり見る

 

「何もない…いや…これは…」

「どうしたんですか?」

 

矢本が覗き込んでくるので見せながら天田に聞く

 

「…これは誘われてるな」

『そうっすよね、ある一定の場所だけ『監視カメラも警備もない』っすからね…』

 

地図をよく見ると監視カメラの見える範囲と警備の配置が『まったくない』道が存在する、それは関係者以外立ち入り禁止の場所まであり…

 

『宝石店金郎の社長はその周辺で監視カメラから見えなくなってるっす』

 

明らかな誘導…と言ってもおかしくない、完全に来いと言ってる様なもので

 

「天田、他にその立ち入り禁止の場所の中に行ける方法は?」

『それが会場にはその近くの入れる場所が…』

 

これは…

 

「罠ですか?」

「罠、だろうな…」

 

俺だったらまとめて潰す為にやるな…いつもなら逃げる、そんで後から攻めるが…今回はカクロの『親』がいる

いつもは人前には現れず攻めるとしたらかなり厳しい…だから今日しかチャンスがないと言っても間違いではない

 

「…ニャ?」

 

カクロが小さく鳴く、俺はその頭を軽く撫で

 

「…行くぞ、矢本と…室内戦だと雨宮だな、2人は俺についてこい、他の3人は会場で待機だ」

 

『了解』

『了解!』

『了解〜』

『ふん、せいぜい足を引っ張らないようにな』

 

「…さぁ」

 

俺は服の下に隠してるナイフを確認しつつその場所を目指す

 

「正義執行の時間だ」




どうも、寒い夜にコンクリートの上に座って完全に腰をやらかした私です

宝石って綺麗だけどあまり良さが分からないんですよね…いや綺麗なのが良さ…?んー、よく分からない()

では明日、また次の話で会いましょう


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第44話『酷使する』

 

人混みを通り、警備の目を避け、件の関係者以外立ち入り禁止の扉の前にやってくる

一瞬の隙をついて扉を開け中に入る俺と矢本と、後から合流した宮本…中は少し通路になっており奥に下に降りる階段が見える

 

「地下か…」

「どうしますか?隊長」

 

矢本が尋ねてくる、どうする…つまり進むか戻るか…

 

「…進むぞ」

 

地下に進む為外と連絡とれないが…ここで戻るという選択肢はない、俺を先頭に進み階段を下りていく

 

階段を下りてまず分かるのはかなり地下深く進めること、そして一番下まで辿り着き…

 

「ここにもあるのか…」

 

あのゴテゴテに装飾されたロボットが左右の壁に埋め込み式で飾られていた、しかも上とは違い腕に…

 

「何かの…発射口…ですかね?」

「しかしそうだとして、何故前ではなく斜め後ろ側に向いてるのだ?」

 

よく分からないが肘あたりから飛び出てる突起物…形的に…銃か?このごつい腕の中に他の部位が内蔵されてるなら分かるが…

 

「…進むか」

「はい」

「こんなのに用はない」

 

よくある城の鎧を飾り付けるようなものなのだろうか…ん?

鞄からカクロが飛び出してきて俺の肩にバランスよく乗る…バランス感覚がよろしいことで

 

「…フー…!」

 

カクロは鼻をヒクヒクさせ何かを嗅いだ後ロボットに威嚇する…まさかな

 

俺達は長く、そして広い廊下を進み…曲がり角を曲がった先には扉があり…ちょっと…というか…かなり不自然だ

 

「俺が先行する、矢本はカバーに…宮本はいざとなったら退路確保を頼む」

「了解です」

「私はそれで構わん」

 

全員の確認を取り…ゆっくりと扉を開ける、だが拍子抜けでまだ廊下は続いておりその先にまた扉がある

 

「ふぅ…変な所にあるな…」

「何故ここにも扉が?」

「分からないが…進むぞ」

 

俺は扉をくぐり…咄嗟に来ようとしてた矢本を来た道に突き飛ばす

次の瞬間、分厚いシェルターのような壁が扉とその壁を持ち上げ来た道はシェルターのような壁に阻まれてしまった

 

「あっぶな…あと少し遅かったらぺっちゃんこだった…」

 

カクロも俺にしがみついて無事だったらしくプルプル震えていた…あっちは無事なのだろうか?この壁は…壊せそうにない、綺麗に分断されたな…

 

『ようこそ、エイレーネーの犬よ…そのまま進むといい』

「………」

 

何か言い返したいところだが…変に刺激して隊員達が危険な目に遭うのは困るので大人しく従う事にする

俺は廊下を歩き…ドアノブに手をかけて開き中に入る

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

中に入ってまず目に入るのは豪華な室内という事だ、至る所に宝石が埋め込まれ飾られ置かれている

そして当たり前のようにかなりスリムなロボット?が置かれていた、そして…

 

「よく来たエイレーネーの犬よ、君達を私は歓迎する」

 

そう言って出迎えるのは割腹のいい男だ、歳は40後半と言った所だろうか?豪華な服に指には数多くの宝石が嵌った指輪を付けている

 

「…あんたが金郎か?」

「いかにも、私が金田金郎だ…覚えとくといい」

 

そう言って椅子に深く座る

 

「座ったらどうだね?ん?」

「流石に敵の目の前で座る程度胸はないな」

 

金郎は少し不思議そうな顔をするが咳払いをして俺を鋭く睨む

 

「まぁそんな事はどうでもいい…何故ここに来ている?」

「エイレーネーとして見過ごせないからだな」

 

襲わせといて自分はカクロの親を持っている事をテレビに映し…ここで俺達が何もしなかった場合他の敵対組織に軽く見られる場合がある

抑止力として機能してたエイレーネーが機能しなくなった瞬間争いと牽制が始まる、どの組織が後釜をとり掌握するかの

 

「だからあんたからの挑発に乗るしかなかった…かなりいやらしい手を使うな、あんた」

「…なんの事かさっぱりだが…君達は私の『野望』を邪魔するというのだな」

 

しらばっくれる金郎は威圧感を含めた声と共に俺に尋ねてくる

 

「…さぁな?あんたの対応次第だ、そっちで捕まえている黒猫をこちらを渡してもらおうか?」

 

俺がそう言うと金郎はゆっくりと下を向きプルプルと震え始める

 

「…おい?」

「……か…」

 

小さな声で何かを言う金郎

 

「なんだって?」

「貴様らのような野蛮な者達に猫神様を任せられるか!」

 

と、机を強く叩く…その姿は怒り狂ったイノシシ…とでも例えようか

 

「な、なんだ突然?」

「ふぅ…ふぅ…貴様らはここで消す、猫神様の為に!」

「ちょ、ちょっと待て!なんかとても嫌な予感が…」

 

俺の静止を聞かず金郎は握り拳を作り

 

『酷使する、ゴーレムよ』

 

と、唱える…まて、酷使『する』?こいつまさか

 

嫌な予感を感じしゃがむ、すると俺の腹があった部分にゴウゥ!と拳が突き出されていた

腕を辿るとそこに立っていたのは先程の『スリムなロボット』だった

 

────────────────────

 

 

「柏崎さん!」

 

そう言って矢本は魔力の鉤爪を生成して壁を攻撃する、だが傷一つ付かない所を見るにただの壁ではなさそうだ

 

「諦めろ矢本、無駄だ」

「宮本さんも手伝ってください、2人で協力すれば…」

「くどい!」

 

その一喝に矢本は冷水をかけられたように冷静になる

 

「あ、その…すみません取り乱しました」

「ふん、矢本は柏崎の事になると冷静を無くすのはどうにかするべきだろう、あいつも男だ…そこまで心配する必要はないだろう…それよりも」

 

と、後ろを振り向く

ゆっくりと、だが確実に接近する2体の『ロボット』

 

「まさか動くとは思わなかったな、どうする副隊長…階級的にはあんたが上だ」

「…ここで倒し柏崎さんの退路を確保します」

「あいわかった」

 

2人はお互いを見合い鉤爪を生成し、日本刀を抜く

 

─────────────────────

 

 

地上、賑やかな会場は悲鳴と阿鼻叫喚の地獄絵図が完成していた

会場の様々な場所にあったロボットは動き出しゆっくりと徘徊し始める、そして近くにある建物や建造物を破壊し始めたのだ

 

「っと筋トレしてる場合じゃねぇな…」

 

宮島はでかい宝石(模造品)を放り投げ拳を合わせる

 

『こちら雨森、狙撃ポイントに到着…指示を待つ』

『はいはーいこちら雨宮〜、私も準備万端よ〜』

『こちら天田っす!隊長と副隊長らとの連絡がとれないっすので現場の指揮をとらせてもらうっす!』

 

そう言って各々は準備を終わらせ

 

「んじゃやるとするか!」

 

 

──────────────────────

 

ズゥゥン…ズゥゥン…

 

上から振動がする、どうやら上で何かあったらしい…というより元凶がそこにいる

カクロが入った鞄を部屋の隅に投げる、俺といるよりかは安全だろう

 

「…さて、酷使する…か」

 

目の前の男、金郎は恐らく

 

「お前、錬金術師だな?」

 

錬金術師、この世界には数人としかいない希少な存在が目の前で怒り狂っている

 




どうも、かなーーーーり!遅れた私です。

申し訳ございませんでしたー!()
5時投稿、遅れるとは万死!…万死?とりあえずすみませんでした。

今回の話の最後辺りに出てくる『酷使せよ』と『酷使する』の違いは明日判明!(勘のいい人は分かるだろうけど…)

では明日、また次の話で会いましょう


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第45話『錬金術師』

錬金術師とは現代科学に様々な恩恵をもたらした…が

彼達の中に『魔力』の概念が入り込み全てが狂い始める

魔力を使った『科学では証明できない』方法で作られた金属や人体実験

『科学的に証明された』精錬された金属

 

無限の可能性を秘めている『魔力』

人類の知恵と努力の『科学』

 

錬金術師達は対立し、今では世界でも両手で数えられるくらいしかいないとされている

 

『錬金術』情報屋 タヌキ

 

──────────────────────

 

 

「…錬金術師がなんでここに」

 

俺が金郎を錬金術師と分かった理由は1つ『酷使する』と、唱えたからだ…詳しい事は分からないが魔術は呪文を使うので早く『使われる』という表現が正しい

呪文に魔力を使わせる…『酷使せよ』、何故命令形かは知らないが昔からの名残りなのかもしれない

 

逆に錬金術師は魔力を『使う』…己の魔力を使い様々な事を酷使できるため『酷使する』

 

なんでも魔術は自由に使えない代わりに威力が落ちるが魔力消費量を減らし

 

錬金術は自由に使えるが魔力消費量が多い

 

「ふはは…やれ!128号!」

 

金郎がそう命令するとスリムなロボットは回し蹴りを驚異的な速度で俺に向かって実行される

 

「危なっ!」

 

全力で跳躍して避け距離をとる、ナイフを取り出して構え臨戦態勢に

 

「なんてもんを作ってんだこのおっさん…」

「ふふふ…私の最高傑作達が貴様らを捻り潰すだろう」

 

俺の呟きは聞こえてないっぽい、1人でブツブツと何か言っている

 

「…ま、あいつらがいるから大丈夫だろ」

 

俺には絶対的な自信があるからな

 

「んじゃ、やるか」

 

─────────────────────

 

「宮本さんは左を、私は右をやります」

「ふん、こんな鉄の塊…バラバラに斬り裂いてやろう」

 

2体の装飾が施されたロボットは広い廊下を上手く使い着実に距離を詰めている、だが重い体だからか動きはそこまで素早くはない

 

「攻撃と防御に重点的なんでしょうか?」

「スピードが無ければ木偶の坊と変わらん!」

 

言い終わると同時に矢本は右側、宮本は左側にいるロボットに接近戦を仕掛ける、宮本は日本刀を一旦鞘に収めて柄に手をかける

 

「居合っ!」

 

一気に日本刀を抜き左腕に日本刀を振るう、だが宝石の1つに軽く傷を付け弾かれる

 

「く…っ!やはり装甲は硬いか」

 

接近してきた宮本にロボットはその大きな腕を振り上げ地面に叩きつける、だがその動きは遅く簡単に避けられてしまう

 

「ノロマめ、副隊長!」

「はい」

 

右側のロボットとも戦闘をしていた矢本は手に魔力の鉤爪を生成して日本刀で傷を付けた場所に鉤爪を突き立てる、これもまた軽く刺さる程度ではじかれる

 

「…ん?…!副隊長!私の後ろに来い!」

 

矢本は声に反応して宮本の背に隠れた瞬間、乾いた爆音が連続で響く

 

「(最小限に、致命傷以外は避ける事だけをっ!)」

 

宮本は日本刀で飛んできた『弾丸』を弾き弾けないのは避ける、矢本もそれに合わせて動き約4秒の掃射を耐えきる

視線を前に向けると右側にいたロボットが肘を曲げて発射口を矢本達の方に向けていた

 

「軟弱者め、銃を使わなければ戦えないというのか」

「ふむ、見た限り宝石がある所以外は案外脆いのかもしれません」

 

右側のロボットをカバーするように左側のロボットは銃口を向けてくる

 

「ふん、私に合わせろよ副隊長?」

「合わせるのは得意です」

 

そう言い2人はロボット2体相手に白兵戦を仕掛ける

 

─────────────────────

 

『これより作戦を開始するっす!総員マスクと装備着用!』

 

天田の声を聞きつつ宮島、雨森、雨宮の3人はそれぞれ行動を開始する

 

『すげぇ数じゃねぇか…!』

『こちら雨森、狙撃ポイントから見てるがロボット達の動きが変に思えますね』

『変?』

 

天田が聞き返す

 

『まるで誰かを探してるようですね、逃げている客や警備員に目もくれず…しかし出入口に2体いる辺り探してる相手を逃がすつもりはなさそうですね』

 

突然動き始め破壊活動を行っているロボット達から逃げるように来客達は出入口を目指す、ロボットは合計18体いるらしくそれぞれバラバラに動いている

 

『…ちっ!気づきやがった』

 

ガスマスクを付けヘルメットを装着し黒色の迷彩の完全装備の宮島の近くにロボットの一体が近づき腕を振り上げ叩きつけようとする

 

『根性ぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

叩きつけられる腕に能力を発動した拳をぶつけて威力を相殺する

 

『くそっ!こいつら硬ぇ!』

 

いつもなら相手の骨を砕くのだが相手はロボット、しかも硬い宝石を身につけ凹みすらしない

 

『ちょっと、また私の能力効かない敵じゃないの〜!』

 

雨宮は追いかけてくるロボットから必死に逃げる、彼女の能力は『痛みの増加』物理が効かなければ意味が無いのだ

人がいない所を全力で走りどうにか生き残る

 

『123…多い…隊長達がいないのは痛いな…』

 

雨森は全体の様子を見てどうするべきかを考える、戦闘員が宮島と自分、雨宮しかいない分あの3人が別行動なのは厳しいとも言える

 

『っ!まずい!雨宮さんその先は駄目だ!』

『え?』

 

雨宮が曲がり角を曲がる、その道の奥からは5体のロボットが走って(比較的に)来ており…

 

「うぅ…ままぁ…」

 

逃げ遅れたのか、逃げてる時に倒れ膝を痛めたのか足が紫色に腫れていた

 

『っ!』

 

後ろにはもうすぐそこまでロボットが来ている、そして奥から来てるロボット達は障害物を破壊し踏み潰し最短距離で近づいてきている

このまま違う方向に逃げても『子供が巻き込まれてしまう』

その考えに行き着いた雨宮は子供の近くに走り抱き抱える、だがロボット達との距離は7m程

 

『くそっ!』

 

ロボットに何かが当たり弾け飛ぶ、それは弾丸で雨森が撃ったのだろう

 

『宮島さん!』

『どけ!この!』

 

天田が宮島に呼びかけるが宮島もすぐには動けそうにない

 

『…ごめんね…』

 

雨宮は小さく子供そう言って子供を包み込むように抱き守る

気休め程度でも無駄でもやらなければならない

誰かを守れる人に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりゃー!」

 

気の抜けそうな声と何度かの重い何かが倒れる音がする

顔を上げると、1人の少女が立っていた

 

「お待たせ、もう大丈夫」

『え…?』

 

「緋彩、お前先に行きすぎだ」

 

そう言ってロボットの関節部分に何かを付けスイッチを押す青年

するとそこから小さな爆発音とロボットの下半身が動かなくなる

 

「やっぱり青葉の言う通りだな、関節の腰部分はかなり弱い」

「ふふふ、私の賢さに惚れました?」

「いやそこまで」

 

声がした方を向くと車椅子を押すピンク髪の少女と

 

「須郷さん、まだ骨は完全にくっついてないので無理は…」

 

という少女の言葉を無視して大きな青年は起き上がろうとしているロボットに近づき胴体に拳を振り下ろす

すると地震と間違えてしまうのではないかという程の振動が起こりロボットは粉々になる

 

「…怪我人を呼び出すとはいい度胸してんなァ?柏崎の野郎が…」

「同感です、私にではなくタヌキとかいう駄肉の如きに頼るとは心臓に毛が生えてるんてますかね?」

「ま、まぁまぁ…落ち着いてよ二人とも…今回は頼られたからいいとボクは思うなぁ…」

「早く終わらせるぞ、緋彩が壊したトイレの修理が終わってない」

 

そう言ってロボット達の前に並ぶ4人の若者

人は彼らをこう呼ぶ

 

「さぁ、てめぇらが何か知らねぇが破壊し尽くしてやるよ」

 

 

超人…と




どうも、今度は時間前ですよっ!ふふん!(時間通りが当たり前)

今回は主人公薄めの地上では何があったか的な回です
次回は…戦闘多めですね、うーん!読みやすく書きます…()

では明日、また次の話で会いましょう


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第46話『カクロ』

 

 

あれから俺は敵の攻撃を避けナイフを切りつける…を数回繰り返していた、スリムなロボットの動き素早く力強いが動きがぎこちない

 

「おらっ!」

 

しゃがんで避けると同時にロボットの足に横蹴りし、転倒させそのままチャンスを無駄にしない為に接近してナイフを突き立てる…が少し刺さる程度でナイフは止まる

 

「やっぱり魔力を混ぜた装甲かっ!と」

 

危険を察知して顔を後ろに避ける、顔があった所に空気を切る音と高速に横切るロボットの拳

 

「動きが素人だ、金郎?あんたが動かしてるんだろ」

 

金郎の方を見ると悔しそうに握り拳を作っている姿が見える、恐らく自動にすると単純な動きしかできずに自分で操作する必要があったのだろう

 

「どんな強力な武器や装備でも使いこなせなければ意味は無いっ!」

 

言い終わる同時に背後に回っており背中から攻撃してくるロボットの蹴りを避け足を掴み、その下を通るように全体重をかけて回り

ロボットの足は外側に回り可動範囲以上を超えた為体ごと横向きに倒れ、俺は距離をとる

 

「さて、最後はあんただ金郎…大人しく捕まってもらおう」

「ふざけるな…私は貴様らのような非人道的な集団等に捕まるわけにはいかない」

 

そう言い金郎は壁を背にする

 

「あー…あのな、やっぱり勘違い…」

 

言いかけていた時、背後の気配が急激に近づいたのを感じた

咄嗟に倒れるように横に避けたが脇腹を少し切られてしまう

 

「なん…」

 

背後を見る、そこにはスリムなロボットが…『黒い刀』を手にして立っていた

 

「猫神様、お逃げください!この場は私が何とかします故!」

 

金郎がそう叫ぶ…猫神…?何故カクロの親…?が俺に攻撃してくる…?

 

『…我が子を返してもらおう、人の子よ』

「げっ、あんたもかよ」

 

こいつら…『誰かに騙されてる』

それも普通の話術ではなく『呪文』を使った…何故か?

 

こいつらの見える所にカクロがいるのに

『一切そちらに気づいてない』、何かしら反応してもいい筈なのに

 

「…案外近くにいたりしてな?」

『そうか、しかしその体に直接聞いた方が早いと私は思う』

 

そう言って刀を構える、殺意高いな…どんな嘘を刷り込まれたんだ?

 

『最後の警告だ人の子よ、我が子を返してもらおうか』

「嫌だね、今のあんたには任せられない」

『そうか…ならば後悔するがいい』

 

そう言うとスリムなロボットの体がブレ…俺のナイフの刃が宙を舞う

 

「…は?」

『今ので1度死んだ、次は貴様がこうなる番だ』

 

微かには見えた、だが避けるのは厳しい…

 

「簡単には殺られねぇよ…!」

 

俺は予備のナイフを取り出して猫神が憑依したロボットに白兵戦を仕掛ける

 

 

───────────────────

 

 

何が起きてるのかさっぱりだった、ただ自分は会いたかっただけなのに今目の前で起きてるのは助けてくれた人間と親が死闘をしてる事だった

 

何故こうなってしまったのか?

自分は見てる事しかできないのか?

どちらに助けを求めればいいのか?

 

助けてくれた恩人か、育ててくれた親か

 

分かるのは親は冷静ではないという事だった、そして今恩人が防戦を強いられている…自分は名をくれた恩人を救いたかった…だが…鉱山の神、猫神様…それは様々な金属を操る神

まだ未熟な自分は何もできない

 

ふと、近くに光の反射で輝く何かを見つける

それはナイフの刃だ…恩人の使っているナイフの刃が不思議な紫色のオーラを出しながらそこ場に留まってる

 

ふと、そのオーラが自分の方に伸びてきた

身構えるが敵意はないらしい、オーラがユラユラと揺れゆっくりと自分に当たる

 

すると様々な事が脳内に流れる、魔力の使い方から『変化』のやり方まで全てを

 

『全てを知り己の力を最大限に活かせ…小さな神よ』

 

そして目の前には小さな金属の破片…ナイフの破片だ

自分…『カクロ』は破片を飲み込み…

 

 

─────────────────────

 

 

「あっぶね!」

 

全力で回避して刀を避ける、だが次の攻撃がすぐきて反撃すら出来ずにいる…何気にスピード、パワー、装甲の硬さが数段に上がってるのが辛い

 

「…ん?」

 

回避してる時にとある事に気づいた、それは刀の柄の部分…何か巻かれている

よくよく見るとそれはスカーフ…それもテレビで見た時と同じやつだ…という事は

 

「あれさえ…どうにかすれば!」

 

だが現状を打破する手段はない…だから

 

「こうするしかないっ!」

 

刀を避け、一気にロボット…猫神に近づく

が、読まれてたらしく刀を突き出され腹部に深々く刺さり貫通する

 

「ぐっ…だがこれで」

 

刺された…だがそのまま前進して近づきナイフを振り上げ…激痛がする、腕を見ると手とナイフの柄が仲良く黒い細い刀に貫かれていた

背後を見ると背中から生えてる刀身から伸びておりそれが後ろから刺したと…

 

「なんでも…ありかよ…」

 

根元まで来てるのでスカーフまでゼロ距離に等しい筈なのに届かない

俺の手を貫いていた細い刀は抜かれナイフはバラバラにされる

 

『何か言い残す事は?』

 

猫神がそんなことを尋ねてくる

 

「はっ…慈悲深いな、敵に遺言聞くとか」

『久々に歯ごたえがあったのでな、聞いといてやろう』

 

そりゃそうかい…ん?

俺の視界の端に何かが映る、あぁ…血流しすぎて考えられねぇ…だが何をしたいかは分かった…賭けだなこりゃ…

 

「そうだな…んじゃ…」

 

と、腕を持ち上げ親指を喉に添える

 

「反省しろ騙されやすい神様よっ!」

 

と、思いっきりロボットの体を蹴り飛ばし距離を作る

その過程で突き刺さった刀が抜かれたが今はそんなの気にする暇はない

 

『なっ…!?』

 

俺の行動が理解できなかったのか困惑する猫神…てかやっぱり元は猫だから驚いたりはするのね…

 

俺は走り…飛んでくる『ナイフ』を掴む、それは刃から柄まで黒く魔力を帯びており俺のナイフに瓜二つで…

 

「いくぞ『カクロ』」

『ニャ!』

 

力が湧くような感覚と自分の体とは思えない程身体が軽い

その変わり何かが抜けていくような感覚がするが今は気にしないでおこう

 

「そらよっ!」

 

立ち上がり刀を振るう猫神の攻撃をナイフで弾きそのまま懐まで接近し、柄をロボットの手ごと切り裂く

 

『ぁ…ぁ…すまぬ…』

 

そう言ってロボットは倒れ、その隣に黒猫が横たわっていた

スカーフは真っ二つに切られており効力がなくなったように模様は無くなりシンプルな黒一色のスカーフになる

 

「…ありがとうな、カクロ」

 

何があったか知らないが手助けをしてくれた子猫にお礼を言い…俺はとある方向を向く

 

「うぅ…頭が痛い…ここは…何処だ?何故私はここに…?」

 

と、頭を抱えてる金郎

 

「よぉ金郎さんよぉ?俺の事覚えてる?」

「…誰だ君は?」

「ほぉほぉほぉ!」

 

恐らくスカーフを破壊したおかげで金郎にかけられていた呪文が消えたのだろう…んなの知るかぁ!

 

「…んじゃ思い出すまでショック治療だ」

「な、待て…何故凶器の柄をこちらに向けてる?ショック治療…まさか!」

「記憶が掘り出されるまで殴るんだよぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

そして俺は金郎をグーで殴り続けた、カクロで殴るのは可哀想なので(カクロが)

 

その後他の連中がやって来て、俺は気絶するように眠る…

 

 

────────────────────

 

神の子『カクロ』

 

記憶状況

・ナイフ

・無し

・無し

 

〈身体強化〉

使用者の魔力を消費して身体能力を数倍に上げる

しかし未熟な為燃費が悪い




どうも、私かもしれないし私じゃないかもしれない私です

今日の話にて、猫神の話は終了!明日は後日談です

では明日、また次の話で会いましょう


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第47話『後日談』

後書きにプチ重要報告


 

情報屋は贔屓する場合もあるが中立の立ち位置を好む、情報を扱う職種の為何処かに傾くと一気に均衡が崩れ災害レベルの大惨事が起きる可能性がある

そうならないように情報屋は出来うる限り中立の立場でいる

 

『情報』情報屋 タヌキ

 

──────────────────────

 

展示会のゴタゴタから数週間、そろそろ暑くなってくる時期で夏バテに気をつけないとなぁと思うこの頃

俺はしばらく安静にと医療部の代理に叱られ蛇に睨まれた蛙のように俺は大人しくする…医療部の最高責任者がそろそろ帰ってくると分かって喜んでた所にやっぱ帰らないと連絡がきたのだ、怒らせてはいけない…殺られる

 

俺が治療を受けてる間に起こった事を聞いたが…超人達は来てくれてたらしい、超人と言えど個人の判断で協力を要請するわけにもいかず支部長に頼んどいたのだが…何故か4人中2名が俺に苦情があったらしいく、誰かは言わないが引き続きタヌキに頼るとしよう、うん

 

外にいたロボットは全部破壊されており矢本達もまた2体破壊していた、この事を金郎に言うと滝のような涙を流してしばらく誰とも喋らなかったとか…他の事は完璧な人だが趣味になるとダメ人間になるタイプだ…

 

そして今回の件に関わった全ての人間はどうしたかというと隠蔽工作部の連中が全力で情報操作をして口止めをして…一番大変だったのはネットに上がってしまったことだが、それは苦渋の決断で情報屋達に情報と引き換えに違う事件をでっち上げ今では違う事が話題となっている

 

猫神は2日くらい金郎の近くに居たが金郎に何かを渡して元の住処に戻ったそうだ、まだ信仰している集落があるらしくそこで傷を癒すらしい…ちょっとスカーフを切ろうとしたらスカーフごと切っちゃったらしい…てへっ!…申し訳ない

 

カクロはどうしたかと言うと未だに俺の所にいる、あれ以来様々な物に変化しようとしたがイマイチ上手くいかないらしく俺の所で修行する…という感じの事を体全体を使って伝えてきた、ちょっと癒された…

 

俺の読みが当たっており、金郎とスカーフに微力な魔力が残っていたらしく操られていた…というより違う考えを刷り込まれた?と考えられる、今後金田金郎はどうなるか?

今後はエイレーネーの支援者として活動するらしい…錬金術師でもある金郎が魔力を宝石に入れると様々な恩恵を得る

だが一つ作るのに膨大な魔力を必要とする為沢山に作れないとのこと

 

俺がベットから起き上がり服を着替えてるとカクロが足元から登って俺の頭の上に乗ってくる、どうやらお気に召されたようでちょっと偉そうに俺の頭をペシペシと叩く…進めということか

俺はカクロの首根っこを掴みながら外に出てとある場所を目指す

 

そう言えば…雨宮が膝に包帯を巻いてる女の子からお手紙と花を貰っていたが…何があったのだろうか?

 

────────────────────

 

 

「おらぁ!」

「誰ですか扉を破壊する人は」

「俺だ」

「貴方でしたか、扉代は請求しますね」

 

扉を蹴り破り中に入る、中は様々な宝石が置かれており数体のロボットが作りかけで置かれていた

 

「金郎さんよ、俺の事は思い出した?」

「さっぱりですね、私としてはあの最悪な事件の時に初めて会いましたので」

 

あの時とは口調は違うが顔がまだ少し腫れているふくよかな体型の男、金田金郎

全国に支店を置く大物社長が良い椅子に座って手にっていた宝石を置いてこちらを向く

 

「残念だ…んで、思い出せそうか?あんたを嵌めた奴の顔は」

「それも、というのがこの件において最適な発言でしょう」

 

今回来たのは他にも理由があるが金郎と猫神…呪文を付けたのは誰かが未だに分かってない

記録によると金郎は頻繁にとある男と会ってたようなのだが覚えてないらしく現状どうしようも出来ない

 

「あぁ、そう言えば猫神様からこのような物を」

 

そう言って金郎は俺に手紙を渡してくる

 

「猫神から?…怖いな…見ないって選択は…?」

「ないに決まってるでしょう」

「ですよねー…まぁ見るか」

 

手紙の封を切り中身を取り出し広げる、カクロも気になるらしく頭の上から手紙を覗き込んで来る為少し上に上げながら読み上げる

 

「『この手紙は読まれた後消えるように貴様の魔力に反応して消えるのですぐ読むように』…ってもう消えかけてる!?」

 

馬鹿だー!読み終える前に消えかけてるじゃん調整ミスってるぞバカ神ー!

どうにか急いで読もうとするが長文過ぎてよく読めず最後の文だけは微かに読めた

 

「『我が娘を頼む』…ん?」

 

俺はカクロの首根っこを…掴もうとするがカクロは素早く動いて俺の手から逃れる、気づかれたか…

 

「…お前メス…女の子だったのね…」

「ニャ!」

 

カクロはキリッとした顔で(雰囲気)俺を見てくる、とりあえず無視して俺は金郎にあるものを頼みその場を後にした、カクロという新しい仲間が来てうちも大所帯になった…居心地がいいと思えるようになったのはいい事だろう

 

 

──────────────────────

 

あぁ…またもや解決されてしまった…そう思いながら夜道を歩く1人の男、金郎と頻繁に会っていた男…だが黒のローブを見に付けておりその姿はまるで『魔術師』

 

「君はいつだってヒーローさ…だけどそろそろ時間がない」

 

そう言い自分の顔を掴み、無理やり引っ張る

すると肉と皮膚が千切れる音がしてその隙間からは違う『顔』が現れる

全てを剥ぎ終えるとそこには茶髪の短髪、茶色い目、高身長の細い体…顔はイケメンの分類に入るだろう

捨てられた『顔』は玉虫色の液体となり地面に溶けるように消えていく

 

「くふふふ…そろそろ始めようか…恐怖、狂気、滑稽で哀れでどうしようもない者達のパーティーを…ね」

 

『A』は遠くに見えるとある屋敷を見る、大きな木の板が門に貼られており『岡薗組』と書かれていた

 

始まりは、終わりに向かっていく…

 




どうも、私です?私が私ではないかもしれない…私です

今回は後日談回となります、金郎は基本的に真面目で親切で正義感に溢れる…趣味になるとダメ人間になる人です、えぇ新キャラです…錬金術師です!

まぁ登場回数は少ない…かも…いや多いかもしれないかもしれない(ややこしい)

さて、プチ重要報告なんですが…5時投稿やめますー!!!!!
あ、毎日投稿は続きます

平日に5時投稿ってかなりキツかったんですよね…まぁちょっと慣れ始めてましたが、今後は午後…夜に投稿になるかと
何時にかは決めてませんがねっ!

では明日、また次の話で会いましょう


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第48話『地獄への片道切符』

とある屋敷内の一室、そこには葉巻を咥え窓の外を眺める男…岡薗龍

岡薗組の組長にしてエイレーネーの傘下に入り街で大成功を果たした男であり若き頃は敵対事務所を1人で壊滅させたと噂されている

 

そんな男、実は少々困っていた…それは

 

「龍さん!この前病院に入院させたって奴は何処だ?あいつらはそんな悪い奴らじゃない、俺がやれば頼りになる構成員になる!」

 

龍の部屋に入るなりノシノシと龍の机まで近づいて机を両手で叩く、ひとつため息をしてどうしたものかと考えにふける

この部屋に入ってきた男は岡薗誠、幼い頃に龍が拾い育て上げた青年だが…正義感が強く、殺す事を何とも思わず…むしろ快感にすら感じるような人物ですら「更生できる」と思っている

1度狂気に陥ってしまったら最後、戻る事は容易ではない

 

「…誠、てめぇはまだ何も分かっちゃいねぇよ…明日は学校だろう?さっさと寝ろ」

「…くそ」

 

流石に育て親のような存在の龍に強く出れないのか大人しく従う誠

 

「…諦めねぇからな」

 

そう、捨て台詞を言い部屋を出ていく

龍はまた深くため息をしてどうしたものかと外を眺め葉巻を吸う

 

──────────────────────

 

 

夏だ!海だ!仕事だー!!!!

その場任せのテンションで職場に来た俺は勢い任せに扉を開ける、中は普通に仕事をしてる矢本と雨森、化粧をしてる雨宮に屍Aと屍B、カクロは俺の席の上で丸まっておりいつもの風景だ

 

「おはようございます柏崎さん」

「おう、おはよう矢本…ん?」

 

視線を矢本の後ろに向けるとエンが『恋とサスペンス!〜そして突然の死〜外伝』を読んでいた、よく見たらタヌキの出したのだった…後で燃やしとこう

 

「今日は行かなくていいのか?エン」

「あ、かしわざき…すごうが今日は学校行かないといけないって」

「学校…あぁ、そろそろ夏休みだからか」

 

超人達はまだ学生の身分だが実は学校に通う必要はほぼほぼないのだ、ただ出席日数はかなり少なくなってるが一定数は学校に行かないといけない、だから今日は学校に行ってるのだろう

 

「学校かぁ…」

「柏崎さんは学生時代どんな風だったのですか?」

「俺か?俺は…教室の扉破壊したり窓ガラス割ったり…」

「…かしわざき、不良さん…?」

「違う!ちょっと友人達と騒いでたら勝手に壊れたんだ」

 

あるあるだよな!そうだよな!…そうだ

 

「学校と言えば…宮本はちゃんと行ってる?」

「はい、1度ここに顔を出しに来ましたが」

「良かった良かった」

 

超人達がエイレーネーの…まぁ遊撃隊?的な立ち位置になった為、彼らが通う学校にエイレーネーの隊員を1人配置する必要性があり…第1部隊の刀狂いであり現役高校生、宮本亜美に白羽の矢が立った

彼女を超人達の通う学校に入学させ報告や万が一のために護衛として入学してもらったが…

ぶっちゃけると超人達があんまり学校に行かない為宮本も学校に行かずちょっとなんというかボッチなんじゃないか疑惑が…

 

「…心配だ」

「宮本さんは別に1人でも大丈夫かと…」

「おバカ!おバカだよ矢本!このご時世でボッチは死より辛いんだぞ!某SNSで色々言われちゃう時代だ!俺心配で飯すら喉に通らねぇ…」

「柏崎さん…流石です、隊員の事をそこまで思ってくれるなんて…」

 

矢本が尊敬の目で俺を見てくる、よしよし…

 

「んじゃ俺心配で仕方ないから見てくるからな!」

 

全力でUターンして部屋を出ようとした瞬間、殺気を感じ回避行動をした瞬間俺の顔があった場所に空気を切る音とごつい拳が出現、当たってたら粉々だな…

 

「隊長よぉ…根性足りねぇんじゃないか…?」

「な、なんの事だ宮島隊員、隊長に分かるように答えろ」

「オレ、オマエ、ニガサナイ」

「分かりやすいが断る!」

 

扉のドアノブを掴捻る…が、扉は開かない

 

「なん…!?」

「ふ、ふふふ…はは…」

 

驚愕してると背後から笑い声が…後ろを振り向くと手にはなんかスイッチを持った天田が…

 

「鍵はかけさせてもらったっすよ…さぁ…隊長も仕事をしましょう?」

「い、いや、嫌だっ!」

 

その後第1部隊の部屋は半壊になったとか、ならなかったとか

カクロは今日も平和だと思った、まる

 

──────────────────────

 

雲ひとつない晴天の朝、慣れない制服を身に纏い鞘袋に日本刀を入れ街中を歩く1人の女子高生

宮本亜美は街1番の規模の国立高校『日月学園』

様々な最先端技術を導入しやる気が出る学び舎として街の名所の1つだったりする

 

校門を通り靴箱で履き替え教室を目指す

その道中の自販機で缶コーヒーを一気飲みしてる人影が、一気飲みをしてる女子生徒は銀髪に活発そうな雰囲気を感じある意味一気飲みが様になっている

 

「ぷはー!うん、不味い!」

 

そう言って缶をゴミ箱に投げ入れこちらに振り向く

 

「あ!宮本ー!」

「…(見つかってしまったか…)」

 

関わりたくないがとんでもない瞬発力で距離を詰めてきて目の前で急ブレーキして笑顔を向けてくる

 

「おはよう!今日も清々しい朝だね!」

「…ふん、私は今とても不愉快になったがな」

「???ボク何か気に障ること言っちゃった?」

 

と、不思議そうに考え込む…超人、涼風緋彩は普段はパーカーを身につけてるが今は学生らしい制服を見に纏っており大人しくしてればさぞモテるだろう

 

「まぁいいや!いこ!」

「なっ!こら引っ張るな!」

 

緋彩は宮本の手を引っ張り教室を目指す

 

「それにしても本当にビックリしたよー、まさか宮本がボク達と同じクラスに転校してくるなんてさ」

 

ちゃんと説明した筈なのに偶然だと思ってる緋彩、他の超人達はあえて言わずいつ気づくか検証してるが気づく可能性が無いことを青葉が導き出した為未だに偶然という事に

 

2人が教室に入るとクラスメイト達がおり入ってきた2人に挨拶をする、そしてその風景に一番合いそうにない男が腕組をしながら眠っている

 

「雅弘起きろー!」

 

緋彩が須郷雅弘を蹴る、洒落にならない轟音が響くがクラスメイト達は慣れたのか誰も何も言わず雑談を続ける

 

「ん、おう…起きてる、起きてる」

 

兎の仮面を付けてる為表情は見えないが起きたらしい

 

「ねぇねぇ雅弘、翔太郎は?」

「あん?翔太郎ならそこに…いねぇな」

 

自分の目の前の席を指したがそこには誰も居らず椅子だけが引かれた状態だった

 

「あぁ…翔太郎起きろー!」

 

と、蹴りを放つ瞬間椅子が突然ひとりでに動き出し倒れる

 

「緋彩、流石にお前の蹴りは洒落にならない」

 

そう言って焦った顔の道化翔太郎の姿が現れる

 

「なんで男2人寝てるのさ」

「寝みぃからに決まってんだろ」

「そうだな、ちょっと依頼が長引いて眠れなかったんだ」

 

雑談を始める超人達を横目に宮本は自分の席に座る…ちなみに席は

 

□□□

□□□

□□□

 

こうだとすると

 

□□□

翔□青

雅宮緋

 

翔→翔太郎

青→青葉

雅→雅弘

宮→宮本

緋→緋彩

 

となっている、つまり

 

「…(やはり囲まれてる)」

 

守る筈が位置的に逆に守られているのだ

 

そんな事を考えてると教室の扉が開き教室は静まり返る

入ってきたのは短髪の黒髪の青年…

 

「(岡薗だ…)」

「(最近いい噂聞かないよねー…)」

「(なんで学校来てんだよ)」

 

岡薗誠にそんな話し声が聞こえてくる、ヤクザの所にいるというだけで集団は異物を拒み隔離しようとする

 

「…何見てんだよ」

 

その声に怯えクラスメイト達は道を開ける、誠はその間を通り自分の席に着く

 

「…ふん、岡薗…か」

「岡薗って言えば確かうちの所のだったよね?」

「確かな…俺達にゃあんま関係はねぇがな…」

「友達いなさそうだなー」

「翔太郎煽んないの」

 

そう囁き合う宮本と超人達、そしてその視線に気づいた誠は席を立ち上がり宮本達の前に立つ

 

「…何見てやがんだ?」

「誰もお前の事は見てねぇよ」

 

誠の問いに答える翔太郎、だがその答えが気に入らなかったのか近くの机を蹴る

 

「…やるってんなら相手になるぜ」

 

立ち上がり威圧する雅弘にたじろぐ誠、だが引くに引けなくなったのか握り拳を作り…

 

「やめてください!私のために争わないで!」

 

と、棒読みのセリフと共に2人の間に入ってきたのはピンク色の髪を揺らしながらペンと手帳を2人の顔に突きつけている女子生徒…長内青葉、いつも制服の為新鮮味はない

 

「お二人が争う必要性はなく、そしてまだ続けると言うのなら私は奥の手を使わざる負えなくなってしまいます」

「奥の手…?」

 

誠は思わず聞き返す

 

「そう…私の赤裸々な情報をここで音読します!」

「なっ!?………ん?、」

 

勢いに一瞬驚くが困惑顔になる誠、そして呆れる宮本と超人達+α

 

「もしくは光さんのお兄さんをバラします」

「なんで私なのー?!」

 

青葉が後ろにいる黒髪ポニーテールの女子生徒に矛先を向ける、ちょっとほんわかしており矛先を向けられ涙目になっている

 

「あ、誠さん泣かせましたねー最低ですねー」

「いや俺何もしてないよな!?」

「私は止めたのに…誠さんが無理やり…」

「誤解招く事言うんじゃねぇ!」

 

嘘泣きする青葉と目に涙をためてる光の前に誠はたじろぐ

 

「罪悪感があるなら仲直りしましょう!はい雅弘さんと誠は握手」

 

と、嘘泣きをやめて雅弘と誠の手をとる青葉

 

「うっ…でもよ…」

「でももへちまもないですよ?それともまだ続けます?」

「…すまねぇ」

「いいってことよ、青葉に巻き込まれて災難だったな」

 

誠は謝った後自分の席に戻り青葉は満足げな顔になる

 

「柏崎ー、ちょっと来てくれー」

「あ、はーい!青葉ちゃんまたね!」

 

と、光は先生に呼ばれ教室から出ていき朝の喧騒は終わる

 

──────────────────────

 

またやってしまった、そんな事を思いながら帰路を辿ってる1人の男…岡薗誠は後悔していた

 

「…俺はただ…ヒーローに…」

 

ただ誰かを助けられるヒーローになりたかった、超人達のようになりたかった…だが現実はそう甘くなくヤクザという肩書きのせいで馴染めず、超人達とも亀裂が入り…どんどん自分の理想ともかけ離れ…そして龍達は何かを隠している

 

「…どうすりゃ…」

 

どうすればいいのか、そんなのは何度も考えた…だが答えは出ずに今に至る

 

「…俺はどうすりゃいいんだ」

 

夕日が照らす道、誰かが返す筈もない問い…だが

 

「簡単な話だ、君は何がなんでもヒーローになるんだよ」

 

問いは返され答えを目の前に出してくる

 

「だ、誰だ?」

 

振り向くとそこには茶髪に高身長な男がローブを身に纏っており…

 

「初めまして岡薗誠くん、僕はAさん…しがない教祖さ」

 

悪魔の囁きが誠を地獄の道に誘う




どうも、寒さに喉をやられた私です

今回の話は初の学校の描写がありましたが、しばらくは軽く程度で今後の出番は少ないです
あ、いやかなりあるかも(どっちだよ)

では明日、また次の話で会いましょう


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第49話『狂っているのは街か人か』

そろそろ蝉が長年の眠りから起きてやかましい音を鳴らす時期に入りそうなこの頃、いかがお過ごしだろうか

俺は今日も今日とて仕事…ではなーい!今日は有給もらってとある場所に来ていた、 とあるビルに入り受付の人にアポイントはあると伝え上を目指す

 

ちなみに入る過程でカクロはナイフになってもらい隠しといたのでエレベーターに乗った時に取り出しとく、息苦しかったのか軽く溜息を吐いて俺の頭の上に登って一息つく

もう面倒なのでそのままにする、エレベーターは最上階に着いてゆっくりとその重い扉を開く

俺はエレベーターから降り廊下を歩く、外はガラス張りで外の景色がよく見え遠くに薄らと今まで戦った場所が見える

 

そして廊下を進みとある扉の前で立ち止まる、至る所に宝石が散りばめられた無駄に豪華な扉だ…いらんだろ

俺は軽くノックをした

 

しかし返事はない

 

俺はノックを5回行う

 

しかし返事はない

 

俺はノックを連続で行う

 

返事がない、ただの屍のようだ

 

「いや早く気づけやオラー!」

 

しびれを切らして俺は豪華な扉にドロップキック攻撃をして中に突入する

 

「あああああ!!!この前直したばかりなのに!!!」

「うるせぇ!ならもっと早く俺のノックに気づくんだな!」

 

まぁ壊すけど

部屋の中はかなり広く垂れ幕と金庫が置いてあり…

吹き飛んだ扉の前で膝をついている男、金田金郎

錬金術師にして宝石店金郎を1代で大企業まで育て上げた男が大事そうに扉を壁に立てているのを見ると罪悪感を感じなくはない

 

「はぁ…それで何ですか突然本当に私に対する精神攻撃ですか?」

「よく分かってるじゃないか」

「…ブチ切れますよ?この歳なのに脇目を振らず人の目気にせず」

 

それは…ちょっと…

 

「…すみません」

「分かればいいんです、まぁ用事は大体分かりますが…例の件ですよね?完成してますよ」

「…早いな」

「この道30年くらいですから」

 

と、金郎は頑丈そうな金庫の前に行き手を当てる

すると模様が浮き上がりガチャ…とロックの外れる音

 

「魔力を流して開閉するのか」

「まぁ調整が難しいので頻繁には使わないですけどね」

 

そう言いながら1つの小さな袋を取り出し渡してくる、中には小さな感触があり目的の物だというのが分かる

 

「…本当に大丈夫なのか?これ」

「まぁ私も作るのは初めてじゃないですし簡単ではないですが安全は保証いたしましょう」

 

俺が金郎に頼んだ物…それは『魔力貯蔵庫』だ

カクロを使うのはいいんだが如何せん俺の魔力がそこまで多くはない

常人が0とすると俺は10段階の3くらいだと思う…金郎は7とか8とか

別に魔術師にも魔法使いにもなりたいわけではないのでいいんだがカクロの恩恵『身体強化』はかなり強力だった

切り札くらいには持っておきたい物の一つだったので今回金郎に頼み作ってもらった

 

「…んで、代金の方なんだが…」

「私今お金は困ってないのですよね」

 

宝石店金郎の社長、金郎は大金持ちである…ので代金ではなくお願いを一つ聞けという条件を出てきた、まぁ無理難題ならカクロの錆が増えるだけだ…カクロ錆ないけど

 

「…それで一体どんな難題をふっかける気だ?」

「ふふふふ…それは…」

 

と、金郎は…ずっと気になってた垂れ幕に向かっていく

突然カクロがだらけてたのに起き上がり興味津々に垂れ幕の向こうを覗くように前のめりになる

 

「これです!」

 

勢いよく垂れ幕を剥がしその向こう側に置いてあるのが見える

 

「こ、これは…」

「ふふふ…これぞカクロ様専用人体!合法ログファ?!?」

「てめぇはこんなの作る暇あったら普通のロボット作れよ!」

金郎に腹パンをキメる

垂れ幕の向こうにあったのは一糸まとわぬ姿の少女だった

無駄に作り込んでおり肌のツヤ加減から髪のサラサラ加減まで…趣味は好きにしてもいいと思うが…その…作り込みすぎだって

とりあえず近くに落ちてる垂れ幕を体に纏わせ頭だけ出せるようにしてたらカクロが頭の上から降りてキラキラした目でロボットを見ていた…気に入ったのね

 

「ふ、ふふふ…柏崎様が否定してもご本人が気に入ったのならどうしようもできないでしょう…?」

「突然の様付け!?」

 

怖っ!何考えてるか分かんねぇ!…てか

 

「多分カクロは俺に少し似てるから喜んでるんじゃないだろうか…」

 

このロボット…金髪で顔が少し似てる…いや、マヨイに似てるな…金郎もしかしてマヨイと知り合いなの?

 

「まぁこれは未完成ですが、完成したら猫神様のように入り込み操る事が可能です」

「操る…」

「聞いた話ですが猫神様とお戦いになったでしょう?あれは猫神様が私が作ったロボットに入り込み操作を行ってたのですよ」

 

確かあの時黒い刀を見たが…なるほど、つまり金属を操る事ができるから操れると…まぁ多少は快適にしてるのだろう

金郎の事だし

 

「ん?けどあと何が未完成なんだ?」

 

見た限り普通に動いたら人間と見間違えそうだが…

 

「ふふふ…実はまだ私の技量では肝心な馴染みやすさを追求するのが難しくてですね…機械など開発の専門家がいればいいんですが…」

 

どうやら趣味の範囲でやってる為全部を理解してるわけではないらしい…ん?開発の専門家…

 

「うちの開発部長はかなりの腕前だぞ、田村さんって言うんだが…」

「田村!?」

 

金郎がすごい勢いで迫ってくる、やめろ!むさ苦しいおっさんに詰め寄られても嬉しくもなんともない!

 

「あああ…あの田村清彦様ですか!」

「どの田村さんか知らないが清彦は田村さんだ」

「あぁ…知らないとは…田村清彦といえばあの某ロボットの1/2スケール…しかも完全操縦で戦えるロボットを開発した!…あぁ私があと数十年若ければ弟子入りを申し込みましたよ…」

 

なんな田村さん凄い人だった、確かに無理難題も簡単に答えてくれたけど…

 

「ま、次会ったら紹介しとくよ」

「ありがたい限りです、はぁー…楽しみ」

 

その後俺は金郎と雑談をして家に帰る事にした

 

 

──────────────────────

 

 

葉巻の煙が揺らぐ、岡薗龍は後ろを振り向かず問う

 

「…誠、てめぇ何のつもりだ?」

 

龍の背後、入口側から入り龍に向けて拳銃を向ける1人の青年…岡薗誠

 

「龍さん…俺は全部知ったぜ…この前の病院送りにした奴らの最後を、今まで俺が助けようとしてた奴らがどうなったか」

「………」

「…エイレーネーって所と手を組んで悪巧みしてたって事を」

 

いつでも撃てる状態の拳銃、そして誠から感じる真剣な声

 

「…誠、てめぇはまだ分かっちゃいねぇよ…やる時は覚悟決めて死ぬ気でやりやがらんかぁ!」

 

左脇の下から右腕を通し、リボルバーを誠に発砲する

驚きトリガーを引いた誠の弾は龍の腹部に当たり、龍の弾は誠の頬をかする程度で扉に弾丸がめり込んでいた

 

「ぐっ…誠、てめぇが…染まるのは…早い…」

 

そう言い机の裏に付いている隠しボタンを押す、すると龍がいた場所の床が開き龍の体は穴に吸い込まれるように消えていく

 

「龍さん…いつの間にこんなものを…」

 

誠は震える手を抑えやがら言う、これでいい

 

「組長!どうしやした!」

「誠ぼっちゃん!組長は!?」

 

銃声を聞きつけ屋敷にいた構成員達が部屋にやって来る

 

「…お前ら準備しろ」

「は…?」

「…龍さんは『エイレーネー』の奴らに襲われ連れ去られた」

「な、なんですって?!」

 

ここで長年いる構成員ならデタラメだと言えた、だが屋敷にいるのは若い構成員が多い、全部誠によって構成員になったどうしようもない者達だ

 

「…これでいい」

 

この日の深夜、街にて任務を遂行していた支援部隊が襲撃されるという事件が発生し街は狂い始める




どうも、寒さで腰を痛めた私です、寒い…

今回は話の始まりにすぎず、ここから狂い悩み何が正しいのか分からないようになる…かもしれません、多分恐らく私の事ですからそんな事にならないでしょう(適当)

では明日、また次の話で会いましょう


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第50話『良い事』

 

人助けをするのは自己満足か?いや、誰かの為にするのにそんな細かい事は気にしてられない

何が人を救いどうすれば人々が安全に過ごせるのか…その答えを導き出すのがこれほどまで簡単に思えるのは何故だろうか

 

─────────────────────

 

「んで?今日は銀行強盗を捕まえて?さらに窃盗犯も捕まえたと、ただのヒーローじゃないか」

「いや、そんな簡単に済まされる事じゃないっすって」

 

俺はナイフの手入れをしてるのに無理やり視界に入ってくる天田、ツインテールをビシバシ俺の顔にぶつけてくる為かなり集中力が削れていく、そしてカクロ…お前ナイフを睨んで威嚇するな…これ俺の趣味…

 

「私らの部隊が襲われたんすよ!このまま放置するのは良くないっす!」

「確かにそうなんだが…今は無理だ、『岡薗組』は大衆のヒーローになっちまったんだから」

 

そう、岡薗組…いつの間にか誠が組長となっておりまず行ったのはエイレーネーの支援部隊の襲撃…重傷だが命に問題はなく狙いが何なのか見極める為に支部長が怒り狂う支援部署、人事部署にストップをした、がそれがこうなってしまった決め手だったとも言える

 

岡薗組は支援部隊を襲撃した後、まずコンビニ強盗を捕まえ窃盗、凶悪犯、挙句の果てには人身売買と怪しい粉を取引してた組織すら壊滅させ…またボランティアや慈悲活動もしていた

なんて『良い奴ら』なんだ、『彼らは完璧なヒーロー』だ

俺もエイレーネーなんて辞めてアイツらの組に入れてもらおうかなー

 

「んじゃ、俺出掛けてくるから」

「え?ちょっ、柏崎さん!?今から支部長室で会議で…」

 

そんな天田の声を俺は無視して街を目指す…カクロは何故か付いて来てくれなかった何故だろうか?まぁいいか…あぁ…なんていい朝なんだ…こんな日は誰かの為に…

 

────────────────────

 

まるで水中から水面に浮かび上がるような感覚がして俺は目を開ける

 

「…ん?ぁ?ここは何処だ?」

 

俺はいつの間にか大量のゴミによって体を拘束されていた、そして酒臭いこの部屋…何処かで…

 

「や、やっと捕まったねー…柏崎君」

「…?タヌキ?」

 

声がした方を向くと全身傷と血だらけのタヌキが壁に寄りかかって肩で息をしていた

 

「な、お前どうしたんだその傷!」

「何も覚えてないのかー…君は魔術の効果で僕を襲撃しに来たんだよ?」

「俺がお前を…?」

 

何を言ってるかさっぱりだった、確かにタヌキは情報屋という職業上知ってはならない情報も持っており狙われる事もあるらしいが…俺が狙う理由がない、というか記憶がない…

 

「…俺は…何をしてた?」

「突然ここに来てねー、柏崎君だったから普通に玄関の扉を開けたけどそれが失敗だったねー…第一声がおはようじゃなく『悪は滅ぼせ』だったよー」

 

悪…悪?俺がタヌキを?

 

「その後はどうにか抵抗したけど柏崎君を捕まえるにはちょっとタヌキさんでは難しくてねー、無理やり隙を作って捕まえれたけどこのザマなのさー…」

 

…話だけ聞くと俺はどうやらタヌキを『悪』と認識して攻撃を仕掛け、どうにかタヌキに止めてもらった感じか…

 

「なんか…迷惑かけたな」

「いいよー、これで貸し1つねー」

「まったく…んじゃとりあえず治療するから、これどうにかしてくれ」

 

俺の体を拘束してるゴミの山を見る

 

「あ、はいはーい」

 

タヌキは右腕をゴミの山に向け

 

『酷使せよ、万物の兵士』

 

そう唱え右腕を横に振るとゴミの山は人の形になり壁際まで移動してゴミの山となる

 

「…しかしゴミが兵士なのどうなのかと思うんだが」

「しょうがないでしょー、私の操れるのこれくらいなんだからさー」

 

タヌキは情報屋であり『魔術師』でもある、ただ本人が言うにはかなり弱い魔術しか使えない低位の魔術師らしいが

俺はタヌキの傷に治療を施す、ただ治療の訓練はしたはしたが矢本に丸投げしてたのでそこまで上手くない為悪戦苦闘した…

 

「柏崎君へたっぴー」

「うるせぇ、俺は治療は苦手なんだ」

 

どうにか治療を終える、だがまだ完全ではないので後ほどうちの医療部署に任せるしかない

 

「…タヌキ」

「なんだーい?柏崎君?」

「…お前の知ってる事を教えてくれ」

 

タヌキはこの現象について何かを知ってるかもしれない、知らないとしても何かしら手掛かりが欲しかった

 

「うーん…まぁ今回は緊急事態だから情報料はとらないであげようー!」

「これでとってたら俺はお前をタヌキ鍋の材料にしたからな?」

「あ、ははははソンナワケナイジャナイカ…」

 

ちょっと最後怪しかったがタヌキから情報を聞く

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

まず分かったことは以下の事だった

 

・この街にいる住人の大多数が『良い事』をしている

・その良い事は様々だが大体はゴミ拾いやボランティア

・だが1部いじめや嫌がらせをしていた者が『殺されていた』

・この事を街の人々は『良い事』とした

・一定数この事に対して否定的な言葉を言っている者もいるが数は少ない

 

 

…こう情報だけ見るとおかしな事だらけだな

 

「君のところはどうだったかなー?ちなみにタヌキさんの組織はボスを除いて大体が『狂ってた』よー」

 

『狂ってた』…というのは『良い事』をしてたという事か…内容は聞かなくてもいいだろう

 

「…エイレーネーは…どうだったろう?俺は多分『狂ってた』1人だったからな…」

「んー、一見普通だったもんねー」

 

実際どうなったのか、街の様子は分からない

 

「…タヌキ、お前ちょっと今暇?」

「タヌキさんは暇だー」

「そうか…ちょっと大通りまで行かない?」

「了承ー、流石にこれは解決してくれないとうちの組織崩壊するからねー」

 

今現在もネットに情報屋の情報が流れ続けている、今はそこまで重要そうな情報は流れてないが…

 

「うちの事やそっちの重要情報が流れるのも時間の問題かもしれないな」

「それは困るねー、私達どれだけ恨まれてると思ってるのかなー?」

「ま、岡薗組どうにかすりゃいい、今回の敵は岡薗組だしな」

 

そう言い合いながら俺とタヌキは扉を開け外に出る

 

 

─────────────────────

 

 

………………あいつを見つけなければならない……………

 

情報屋が言うにはエイレーネーの奴らの場所は誰も掴めてはない、1人だけいるが居場所はボスしか知らないらしい

 

あのチビを見つけなけれならない、エイレーネーを潰せば『平和が』

 

─────────────────────

 

「…タヌキさんやタヌキさんや」

「なんだい柏崎君〜」

「あー…もっと違う服なかった?」

「…タヌキさんの私服はこれなのだー」

 

今俺は変装の為に黒のカツラを付けて、タヌキは何故か

魔女っ子服を着ていた…何してんの?

 

「…まぁ今はそれはいいんだけど何故魔女っ子?」

 

ちょっとサイズ合ってなくてそっち系の人に見えるから目のやり場に困る…

 

「…ボスの趣味〜…」

「あぁ…お互い無能が組織の上にいると苦労するな」

 

さて、ここまで普通に雑談してて気づいた事

俺達はタクシーでここまで来たんだが…

 

『着きましたよお客さん』

『はい、いくらですか?』

『あぁいいよいいよ、今までちょっと他のお客さんにもね冷たい対応しちゃってたから君達のお代はいらないよ』

『ん?けど商売だろ?』

『いいんだいいんだ、今までの罪滅ぼしだよ』

 

なんとタクシーのお代払わずここまで来れたのだ、いやぁいい事をしてるとこういう事もあるのか

…なわけがない、異様過ぎる

 

「あー、なんというか皆誰かの為に何かしようと必死だねー」

 

タヌキが見てる方を見ると恐らくこの状況を不思議に思っていた旅行客に町人が大人数で押し掛け道案内、代金を肩代わり、名所を教え赤ん坊を代わりにあやして豪華な旅館の予約をしてあげる

 

まったくの赤の他人、知らない人に親切をする町人達

旅行客は不気味がり怖がり走って逃げていってしまう、普通…これを普通というのは違うと思うが普通ならここで終わり…だが

町人はそれを追いかけて『良い事』をしようとする

まるで『罪滅ぼし』のように

 

「…なんだこれ」

「さぁ〜、でも分かるのは皆何かの為に必死になって『良い事』をしようとしてるねー」

 

これが良い事?俺には他人の迷惑を考えずに自己満足を満たそうとしてる人らにしか見えなかったが…

 

「…エイレーネー支部に戻る、タヌキも来てくれ」

「ん、いいのかい?何か情報を取っちゃうかもよ〜?」

「勝手にしろ、今はそんな事気にしてる場合じゃない」

 

口を手で隠してにやけ顔をするタヌキを無視して支部を目指す

 

「あぁー!ちょっと待ってよー!せめて服屋に寄らせて!このままじゃ恥ずかしい〜!」

「ならもっとまともな服を着てこいよ!」

「これ以外は水着だったのー!」

 

何故水着しかない…タヌキを話しながら街中を歩く、だがもう少し警戒すれば良かった…ここ最近…少しぬるま湯に浸かり過ぎた

 

『…あいつが悪だ』

 

そんな声が聞こえた、咄嗟に声の方を向くと…

 

「…岡薗誠?」

 

件の岡薗組、自称『現組長』の岡薗誠は俺達に…いや俺に指を向けてくる

一瞬街の時が止まったのかと思った、街の人々はゆっくりと『俺達を見てくる』

 

「やばい!」

 

俺はタヌキの手を引き走り出す、タヌキも異常性を感じ取り走り出すが周囲の行動も早かった

 

『『『『悪は滅ぼせ』』』』

 

敵は岡薗組だけではない敵は『街全体』だった

 

─────────────────────

 

民衆に、紛れた一人の男、男は笑い

 

「さぁ、ゲームの始まりだ…柏崎くん」

 

そう言って人混みに紛れるように消えていく

 




どうも、久しぶりに早め投稿私です

昨日はお休みしたので体調回復!もう大丈夫です!

あ、あと明日はハロウィンという事で本筋は一旦置いといてハロウィン回を投稿します(ほんぺは明後日です)

では明日、また次の話しで会いましょう


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ハロウィン企画!『エンの大冒険(1)』

ハロウィン、それは現代だと人が怖いお化け等に仮装して他の人にトリックオアトリート…お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ、という脅しをかけ…え?脅しじゃない?脅しだろ

 

とにかく、そんなイベントを知った一人の少女のお話である

 

───────────────────────

 

服を身に纏い、ちょっとオシャレをして準備万端!と意気込む一人の少女…エン、彼女は超人達が集まるハロウィンパーティーに誘われ仮装して行く事になったのだ

 

「うーん…何か足りない…」

 

鏡の前でくるっと一回転する、魔女っ子服の装飾がヒラヒラと揺れて可愛らしいが彼女には何かが足りないらしい

 

「うーん…あ、そうだ!」

 

部屋を走りとある机の前に行く、机の上にはナイフや写真立てなどの小物…そして1匹の子猫が丸まって寝ていた

 

「カクロ!一緒に来て!」

「にゅ?」

 

寝惚け気味のカクロの体を無理やり持ち上げ抱き上げるエン、時計を見ると午後の4時…まだ時間はある

 

「トリックオアトリート!」

 

エンは期待に胸を膨らませてまずは1人目の場所を目指す為に移動を開始する

 

──────────────────────

 

ピンポーン、ピンポーン、ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン

 

 

「うるせぇ!ぶち〇すぞ!」

 

玄関の扉を全力で蹴り開けたのは金髪の男、柏崎悟…物語の主人公だが今回はエンが主役なのでモブ扱いである

 

「トリックオアトリート!」

「…トリックオアトリート…?」

「トリックオアトリート!」

「…トリートオアトリート?」

「????」

「????」

 

エンと柏崎はお互いの顔を見合って困惑顔になる

 

「すまないなエン…俺四徹の夜勤明けでさっき帰ってきたばかりで…眠いんだが…」

 

と、若干クマができてる目の下を指さす

 

「…トリックオアトリートっ!」

「お前今の話聞いてた?!」

 

ゴリ押しをするエンにチョップする柏崎はため息を吐いて財布を取り出す

そして1000円を取り出しエンが持ってるカゴに入れた

 

「これで好きな物を買いなさい」

 

そう言って扉を閉めて鍵をかける

エンはポカーンとした顔をしてカクロを地面に下ろす

 

「カクロ」

「ニャ」

「ごー」

「ニャッ!」

 

カクロは尻尾を鍵穴に差し込み回して中に侵入する

どこでそんな技術身につけたのか、誰にも分からないがしばらく待つ

 

『痛たたたたたた!?やめ、やめてカクロそこ噛まないで!痛たたたた!!』

 

断末魔が響き少しの沈黙の後、満足した顔のカクロが戻ってくる

 

「ニャッ!」

 

その口にはドーナッツの袋が咥えられていた

 

「トリックオアトリート!」

 

エンとカクロはホクホク顔で柏崎の家を後にする

 

───────────────────

 

「トリックオアトリート!」

 

エンがとある部屋で魔法の言葉を言う

 

「ハロウィンですか?」

「うん!」

「ハロウィンって…なんだったっけ?」

「ハロウィンってのは小さな子供が可愛く仮装する日よ、とっても可愛くて食べちゃいたいくらい」

「ふん、興味ないな」

 

ここはエイレーネーが設置している部隊の為に用意された休憩所、様々な物やベット等が設置されており休憩するには十分な場所が用意されている

そして今現在、柏崎が不在の第1特殊部隊の面々が休憩していた所で雨森は外にて警戒をしていた

 

「お菓子ちょうだい!」

「可愛いわね〜…」

「なぁここに何か菓子あったか?」

「探してみましたが…見当たりませんね」

「ニャ」

 

矢本がお菓子を探すがそんなものはここには無く肩を竦める

 

「どうしましょう?」

「ん、食い物あげればいんだろ?」

 

と、宮島が鞄から何かを取り出しエンのカゴに中に入れる

それはエイレーネーが各部隊に支給してるレーションだった

 

「………」

 

エンが困惑してると雨森が部屋に入ってくる

 

「皆さん、そろそろ時間です」

「お、もうそんな時間か」

「それじゃあ行きましょう」

「はい、皆さん気を引き締めて」

 

ゾロゾロと4人は外に出ていき部屋にはエンと宮本だけが残った

 

「…ふん」

 

宮本はすれ違いざまにカゴの中に何かを入れる

それは小さな袋、そして開けると中身は金平糖だった

 

「…トリックオアトリート!」

 

────────────────────

 

「トリックオアトリート!」

「ん?お前は確か須郷とよく一緒にいる…」

 

エンは街中を歩いていた岡薗誠に突撃してカゴを差し出す

 

「お菓子くれないと…潰すよ?」

「お前どこでそれを教わった!?教えろ!そいつぶっ飛ばしてやる!」

 

エンは黙秘権を行使する、どこかの金髪の小さな男に教えられてなどいない

 

「…しかし、今なんか持ってたか…?」

 

カバンを漁り探す誠、そして1つの袋を取り出す

 

「ほら、これやるからイタズラはやめてくれ」

 

それは、チータラだった

 

 

 

─────────────────────

 

 

「ふふん!カクロ見て!沢山貰ったよ!」

「ニャッ!…ニャ?」

 

エンのカゴには1000円、レーション、金平糖、チータラが入っておりカクロは微妙と思わざるを得ない

 

「それじゃ行こ!」

 

と、カクロを肩に乗せて走り出すエン

カクロは死ぬ気で肩に…爪を立てないように全力で肩に掴まる

人混みが多く進むのも一苦労だった…が、突然浮遊感を感じる…そして口を塞がれてカクロは落とされ人混みに消える

エンは突然の出来事に放心してたが自分が運ばれてる事に気づいて抵抗しようとするが人気のない場所に連れていかれる方が早かった

 

「むぐぐぐ…」

「黙れ」

 

ドスの効いた声を耳元で言われ体が硬直してしまう、分かりやすい程の脅しにエンは怖くなり震える

 

「へへへ、嬢ちゃん1人で無防備に歩いてるのは危ないぜ?こわーい誘拐犯が拐っちゃうからさぁ」

 

男はエンを小脇に抱えながら人気のない場所を走り…突然壁にぶつかったように男は何かにぶつかり尻もちをつく

エンも同じように落ちるはずだった…が一瞬体に圧力がかかり景色が変わる

 

「ごめんねー、けどもう大丈夫」

 

頭上から声が聞こえ顔を上げる、どうやらお姫様抱っこされてるらしく銀色の髪がヒラヒラと見える

 

「くっ、なんだ!?」

 

男が正面を見ると、少しずつハット帽子を被った男が姿を現す

 

「すまねぇな、他の道あたってくれ…あと、あまりそいつをキレさせるなよ?」

 

そう言い終わると男の肩は肩を壊されんばかりの力で掴まれる

 

「お前…いい度胸してんなァ?」

 

2m程の大男が男の体を押し潰さんと言わんばかりの力で押さえつける

 

「まぁまぁ、皆さん落ち着いて下さい…この人が誘拐犯じゃないかも知れませんじゃないですか」

 

 

そう言って男に歩いてくる一人の少女、何故か身体中に包帯を巻き血糊を付けてるピンク髪の少女は男の前に来て座ってる男に目線を合わせる

 

「さて、ではとりあえず…貴方はどこの誰ですが?」

「けっ、教えるわけないだろ」

 

男は強気に言う、今ここでバラす訳にはいかなかった

 

「…ふむふむ…田中隆志34歳、母と兄弟3人の5人家族で父親は他界しておりお金に困った貴方は裏稼業をするようになりこの街に最近やってきた、そしてこのハロウィンのイベントに乗じて1人2人拐っちゃうと…?」

 

少女はゆっくりと手帳を閉じる、男はダラダラと汗を流し下を向く

 

「これも様々な情報とこの街に来た余所者を照らし合わせて導き出したものですけどねー…さぁ?どうです?」

 

男は何も言わない、いや…言えないでいた

 

「…ちゃーんといい子のように答えてくれないとイタズラしちゃいますよ?…後ろの方が…ね?」

 

男は怯え言葉を捻り出す

 

「な、何なんだよお前ら…!」

「私達ですか?私達はですね…」

 

少女は立ち上がり男に不敵な笑みを浮かべる

 

「超人、ですよ?」

 

─────────────────────

 

「エンさん?貴方はまだ子供なんですから気をつけないとダメですよ?この子猫さんが教えてくれなかったらどうなってたか」

「ごめんなさい…」

 

とあるカフェ内にある椅子に座るエンと叱ってる青葉、そして須郷と翔太郎…そして緋彩が1つの机を囲むように座っている

 

「まぁまぁ、青葉の言う通りこの子猫のおかげで事なきを得たんだしいいじゃないか」

 

と、何故か吸血鬼の仮装をした緋彩が青葉を宥める

 

「たく…しかしこの子猫賢いな…名前はなんて言うんだ?」

「カクロ!」

「カクロか、てめぇやるじゃねぇか」

「ニャッ!」

 

カクロは誇らしげに座りしっぽを揺らす

 

「はわわわ!翔太郎ボクも猫欲しい!」

「うちには珍獣がいるだろうが」

「え?何処に?」

「緋彩と言ってだな、トイレをよく壊すんだ」

 

翔太郎をポカポカ殴る緋彩を横目に青葉はため息を吐く

 

「はぁ…まぁ次からは気をつけましょう、とりあえず今は…ハッピーハロウィン!です」

「あ、トリックオアトリート!」

 

エンが思い出して魔法の言葉を唱えると超人達は互いを見合って苦笑する

 

「怖いですねー、イタズラされたくないのでお菓子をあげましょう」

「ボクもボクも!自信作なんだ!」

「俺が作ったやつだけどな」

 

3人がエンのカゴに豪華なお菓子を入れる、その過程で1000円とレーションと金平糖とチータラを見て訝しげな顔をしたが…

 

「…?すごうは?」

 

と、エンは須郷を見る

須郷はお面を外して机の上に置く

 

「ん、ちょっと待ってろよ…おい!出番だぜ!」

 

そう言うと奥から足音が聞こえ一人のエプロンを付けた男が現れる、その両手には蓋が付いた皿を乗せて

 

「兄さん、もう少し良い登場のさせ方はなかったのかい?」

「へ、いいんだよ…今回の主役はエンだからな」

 

と、エンの頭に手を置く須郷

 

「はいはい…どうもエンちゃん、僕はそこの馬鹿兄の弟でね…君のおかげで兄さんが救われたんだろう?ありがとう」

 

と、手に持ってる皿を置いてエンに頭を下げる

 

「おいてめぇ!小っ恥ずかしいから頭上げろ!」

「何言ってるのさ、兄さんの命の恩人だよ?」

「つってもよ…」

「はいはい!お二人共落ち着いてください!今はパーティーしますよ!」

 

と、青葉がエンに皿の蓋をとるように促す

エンが恐る恐る蓋を開けると、中にはかぼちゃのパンプキンパイが

 

「わぁ!」

「これは僕が兄さんに無理やり作れって言われて作ったものなんだ」

「へぇ、雅弘の弟さんって料理上手なんだ」

「かなり上手だぞこれ」

 

緋彩と翔太郎が大絶賛するのに照れながらも誇らしげな顔をしながら男は次の料理を取りに行く

 

「エン、どうだったんだ?ハロウィンは」

 

と、須郷がエンを見ながら尋ねてくる

 

「えっと…凄く…楽しかった!」

 

途中ハプニングがあったが…これもまた思い出の1部となるだろう

 

 

ハッピーハロウィン?

 




どうも、ハロウィンは特に何も無い私です

ハロウィン…特にイタズラもした事ない無縁のイベントですね、うん…エンが可愛いので許すけど…(?)

では明日、また次の話して会いましょう


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第51話『溢れ出る狂気』

 

「走れタヌキ!捕まっても良い事はなさそうだ!」

「分かってるよー!けどタヌキさん最近運動してないから…つらい!」

 

できる限り人気のない場所を目指す、俺達のかなり後方だが人々が追いかけて来ており少しずつその数が増えてるのような気がしなくもない

 

「柏崎君ー!これどこ向かってるのー?!」

「ちょっとな…くそっ!これじゃ行くに行けない…タヌキ!一瞬でもいいからあれ止めれないか!?」

 

と、俺は走りながら後ろの人々を指さす

 

「一瞬だけな…らっ!」

 

タヌキは近くのゴミ箱に手のひらを向け

 

『酷使せよ、万物の兵士』

 

そう唱えるとゴミ箱は意思のあるように他のゴミと連結して人の形になり群衆の前に立ちはだかる

 

「よし、タヌキこっちだ!」

 

タヌキの手を掴み小道の方に向かう

 

 

突然のゴミ箱に阻まれた群衆だが数の暴力でゴミ箱を破壊、そして小道に入る…がそこには誰もおらず電柱やマンホールしかない道が続いていた

人々はさらに奥に進んだのだろうと思い足並みを揃えてさらに進む

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

「…行ったかなー?」

「…恐らく…な」

 

俺はマンホールの蓋がちゃんと閉まってるか確認して下に降りる、ここは昔のエイレーネー日本支部特殊部隊の面々が作った秘密の通路で何ヶ所か入口があるが行き先は菊野がある山付近に出る予定だ…てかあの老人達が若い頃に作ったやつだ

 

「はぁー…疲れちゃったよー…」

 

そう言って壁にもたれて座り込むタヌキ、いつもなら笑い飛ばして先を急ぐように促すのだが…肩で息をしており顔も少し青白い

 

「…魔力がもうないのか?」

 

俺がタヌキの隣に座り尋ねる、横目で見てはにかむタヌキは溜息を吐いて冗談を言うように両手を上に向ける

 

「柏崎君止める時に大体使い切ってたからさー、もうすっからかん…それにタヌキさんそこまで魔力量は多くないのだー」

「…無茶させたな」

「無茶もしょうちのすけ!あれで使わなくても結局使ったろうし」

 

そう言って俺の肩を強めに叩き笑顔を向けてくる…地味に痛い

 

「それで、この後はどうするのかなー?」

「うーん…最優先事項は支部に帰還、もしくは…」

 

俺はあの顔を思い出す

 

「今回の重要人物…岡薗誠の捜索と確保だな」

「そうだねー…けどタヌキさんもう戦えないし走れないからついていけないやー」

 

タヌキは俺の方に倒れてきて頭の上に頭を乗っけてきた…肩ではない、何故か…

 

「タヌキさんがいないからって寂しがるなよー?」

「うるせぇ、このまま通路進めばエイレーネー支部近くだから援軍呼んどいてくれ」

「あいあいさー」

 

個人的には超人達がいいが…居場所が分からないし無理か

 

「んじゃ、そういう事で…気をつけろよ」

「そっちこそー」

 

俺とタヌキは立ち上がり、タヌキは通路を…俺は梯子を上りマンホールから外に出て探索を続ける

とりあえずは…情報集めからだな

 

───────────────────────

 

理性が戻り、感情が正常になり、罪悪感が芽生え…そして意識が朦朧になる

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

何回目の事だろうか、同じ事を繰り返し繰り返し…そしてまた繰り返す

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

「…ここは…」

 

男…岡薗誠は街中に立ち尽くしていた、周囲には人々が忙しそうに走り何かに追われてるように必死さを感じる

 

「ママぁ!ママぁ!」

 

何処からか子供の泣き声が聞こえる…誠は声がした方を向き走り出す

人混みに紛れ小さな女の子が泣いていた、その手にはクマのぬいぐるみを大事そうに握りしている

 

「おい、大丈夫か?お母さんは?お父さんは?」

 

できるだけ、目線を合わせるように怖がらせないように

気をつけながら誠は小さな女の子を宥めるように話しかける

 

「ママが…ママがどこかいっちゃって…」

「そうかそうか…よし!お兄さんに任せろ!」

 

そう言って誠は立ち上がり女の子を肩車する

 

「わぁ!」

「これで見えやすくなっただろ?お母さん見えるか?」

「えっと…あ!ママ!」

 

と、女の子が指を向けた先には焦った顔の女性が必死に何かを探してるようだった

 

「ママ!」

「ちーちゃん!」

 

女性は女の子の声に気づき近づいてくる

 

「すみませんうちの娘が…」

「いや、いいってことよ!人が多いからはぐれやすいからな!」

 

誠は女の子を降ろして女性の元に向かわせる

 

「本当にありがとうございます…ほら、ちーちゃんも」

「ありがとー!」

「おう!今度ははぐれないようにな!」

 

手を振り離れていく女の子と女性を見送る誠は自分の行いに満足する

 

 

「おやぁ?自分ではぐれる原因を作って自分で助けて…マッチポンプかな?誠くん!」

 

そんな軽い雰囲気の声が聞こえる、誠が振り向くとそこには茶髪に高身長の男…『A』が立っていた

 

「…お前…よく俺の前に現れたな」

「おやおや?おこかな?誠くんおこ?」

 

誠はそんなAの言葉を無視して懐から拳銃を取り出し構える

 

「ふざけるな!お前…俺に何をした…?あの夕方、お前に会ってからの記憶が曖昧なんだ…」

 

片手で頭を抑えるように、何かを思い出すように手を添える

 

「ぷっ、ぷははははははは!今更ぁ?君の心がもう少し強ければあと少しだけ早く気づけただろうにねー?」

 

拳銃の銃口を触り銃口を下に向ける、そして誠に近づき耳元に顔を近づける

 

「君が弱くワガママでなーんにも見えてないからこうなってるのさ、君が『強ければ』前までの日常が続いてたし君が『世界を』ちゃんと見えてればもっと良かったね」

 

誠の頭に手を置き無理やり視点を移動させる

 

「見なよ、今までは明日の為に働き誰かの為に色々な事をしてた人達は君が『ヒーロー』になる為に悪役になってくれてるよ」

 

視線の先には旅行者に『良い事』をしようとしてる人々、恐らく部下に様々な嫌がらせをしてたのだろう

スーツ姿の40代くらいの男の人が同じスーツ姿の若者達に蹴る殴るの暴行を受けていた

 

「ほら、君が止めれば『ヒーロー』になれる…僕が『君の為』用意してあげたステージだ…楽しむといい」

 

そう言って背中を押すAの顔はとてもいい笑顔をしていた、第三者から見ると『狂気を感じる笑み』だろうが…

 

「お前は…狂ってる」

「それは元々だ、人は皆狂っていてそれを表に出すか出さないかの違いでしかない」

 

誠は震える手を握りしめAに向けて殴りかかる

 

「…はぁ、君には残念だよ…親から教わらなかったかい?人の親切は受け入れましょうってね」

 

Aは避けず誠の拳を顔面に受ける…が、逆にダメージを受けたのは誠の方だった…その手は様々な刺傷を負っており痛々しい

 

「君の判断は自分の首を絞めてるようなものだ、自分のミスを反省するといい」

 

玉虫色の液体がAの顔の表面からドロっと落ち、Aは誠の体を押す

 

『酷使せよ、門よ』

 

押された誠は後ろ向きに倒れ…突如出現した扉の先に倒れていき…その扉はゆっくりと閉じる

 

「くふっ…ふふふ…さぁ…あと少しだ」

 

Aは笑いながら人混みの中に入っていき、まるで何も無かったかのように喧騒だけが響く

 

─────────────────────

 

「はぁー…どっこい」

 

近くの廃ビルの中に侵入して休憩する、何故かすれ違う人々から悪認定されるんだがこれは俺の顔が悪いんだろうか?誰が悪人顔だ

 

「たく…ん?」

 

廃ビルはもう長く使われてない…だが誰かがここにいた形跡がある、真新しい缶詰の缶が落ちていたのだ

 

「…ホームレスか…もしくは…」

 

部屋の扉を1つずつ開けていき…とある扉に鍵か掛かっていた

俺は少し後ろに下がり…思いっきり蹴破り中に侵入する、そして中にいた人影にナイフを向け相手もこちらに『拳銃』を向けてきていた

 

「…少し音が漏れてましたぜぇ?エイレーネーの」

「あんたは…」

 

暗がりから少しずつ現れるその姿…

 

「…龍?」

 

岡薗組の組長にして行方不明だった岡薗龍、腹に荒い治療した形跡があるが五体満足の男が拳銃片手に俺に苦笑いを向けてきたのだった




どうも、この時間に投稿するの何気に初めて私です

今回はちょっと進展が少ない…ぐらいです、次からはサクサクと物語が急変するかも…しないかも…いやするかな?

では明日、また次の話で会いましょう


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第52話『ヒーロー』

 

俺は腹の傷口を見る…あまりいい状態ではない、このまま放置したら長くは生きられないだろう

 

「まったく…こんな傷を受けるのはらしくないんじゃないか?龍」

「いやはや…なーに、ただへそが1つ増えただけだ」

 

と、言って葉巻を咥える

 

「何があったんだ?」

 

俺は龍に尋ねる、この傷はどう見ても銃弾による傷口で貫通はしてないが酷い傷には変わりない

 

「一言で言うなら…迷いによる失敗…とでも言おうか」

「迷い?」

 

葉巻を深く吸い吐き出す、傷口が痛むのか僅かに苦痛の表情を見せるが俺の方を向き口を開く

 

「あぁ…あんたは誠を見たか?」

「誠か、ここに来る前に見たぞ…かなり雰囲気の違ったが」

 

最初見た時は正義感溢れる青年だったが…いやメンチ切ってきたから普通の不良だったわ

そして俺とタヌキを襲うように言ってたのも誠だ

 

「今思い返せばあいつは少しおかしかった、あいつは俺に銃向ける事はない…が俺に向け発砲した…この意味が分かるか?」

「まぁそれだけ聞くなら誰かにそそのかされてやったようにも思えるな」

 

龍は歯ぎしりをし、悔しそうな表情をする

 

「俺の息子に、俺を殺せと強制した奴がいるって事だ!」

 

近くにあった缶詰を壁に投げる、壁に強くぶつかった缶詰は中身を撒き散らし地面に転がる

 

「俺は生き延びた後、そいつを探す為に情報集めをしててな…そして1つの場所を見つけた」

 

そう言ってポケットから何かを取り出す、それはこの街の地図である1箇所に丸印が付けられていた

 

「…ここからそんなに遠くもなく近くもなく…」

「あんたが来る前に行く準備をしててな、つまり丁度だったわけだ」

 

立ち上がり俺の方を見る龍

 

「ついてきてくれねぇか?俺一人じゃキツい」

「それはいいんだけどよ、何があるんだ?ここに」

 

ここ、つまり丸印の箇所を指す

 

「実は前から余所者がかなり集まる場所が報告されてたのを思い出してなぁ…見に行ってみたら案の定『ローブ姿』の男が建物に入っていくのを見てよ」

「ローブだと?」

 

ローブ姿の男…もしかして

 

「そいつ茶髪でそこそこ身長高くなかったか?」

「ん?んー…どうだったか…あぁ、確かそうだったなぁ」

 

違う可能性もあるが…奴が絡んでる可能性が高い

 

『A』が

 

──────────────────────

 

『それ』はどこにでもいる、近くにいたり、遠くにいたり

ただ分かるのは『それ』はかなり巨大で醜く

 

そして無限の力を持っている

 

──────────────────────

 

「ぐっ…」

「おい龍大丈夫か?」

 

痛みで膝をつく龍を立ち上がらせる

 

「無理なら戻った方が…」

「うるせぇ、俺が決めたことに口を挟むんじゃねぇ…エイレーネーの」

 

ニカッと笑う龍に溜息を吐く、大丈夫なのだろうか

 

「それよりも…誰もいねぇな」

「あぁ、見張りくらい1人立ってたっていいはずなんだが」

 

今俺達は件の建物に来ていた、構造はビルと同じらしくかなりわかりやすい

窓ガラスにガムテープを貼って叩き割り侵入する…龍には泥棒の手口とか言われた…

 

「さて、龍?援護任せたぞ」

「誤射っちまったら許してくれよぉ?」

「HAHAHA、その時は化けてお前の首筋を切ってやる」

 

笑えないジョークを言う龍を黙らせ、1つずつ扉を開けていく

中は特に何かあるわけでもなく…ある1つの扉に鍵がかかっている事ぐらいか

3階の真ん中の部屋の扉、耳を当てると中から一人分の息遣い…俺は後ろにいる龍に手で来るように伝える、気づいた龍は扉の前に来て俺の顔を見てくる

 

「(やるか?)」

「(やるっきゃないだろぉ?)」

 

龍は扉の鍵穴に拳銃を向け、発砲

その次に俺が素早く扉を蹴破り中に入って周囲警戒をする

中は埃っぽく長く使われた形跡はない…そして暗がりの向こうに1人の人影が横に倒れていた

 

「…龍」

「任せなぁ」

 

龍にいつでも発砲するよう頼み懐中電灯を向ける、照らされる明かりはゆっくりと人影に移動し…1人の青年が倒れているのがはっきりと分かった

 

「誠!」

 

龍は倒れてるのが誠だと分かった瞬間傷を負ってるとは思えない程の走りを見せ倒れてる誠の横に膝をつく

 

「おい、誠!」

 

誠の上半身を持ち上げ頬を叩く龍、だが誠は目覚める様子はない

 

「龍、生きてそうか?」

「勝手に殺すんじゃねぇ!…生きてる、だが何でこんな所に」

「さぁな、とりあえず聞きたいことは山ほどあったし今はそいつを連れて帰ろう」

「あぁ…」

 

龍は誠を背負って立ち上がる時苦痛の表情になる

 

「大丈夫か?なんなら代わってやるが」

「大丈夫だ…こいつもでかくなりやがって」

「今ちょっと俺が小さいってディスらなかった?」

 

俺が先頭を歩き進みその後に龍が続く、龍は誠が心配なのかしきりに誠の顔を見ようと顔を向ける

 

「まったく、お前の腹に穴開けたのそいつだぞ?」

「お前さんは分かってねぇな、子がやった事は寛容に受け止めて間違ってたら叱ってやるのが親の仕事ってもんだよ」

「ちなみにその判定だと誠は?」

「カミナリ親父みてぇにブチ切れよぉ」

 

と、カカカッと笑う…さっきまでの切羽詰まってた顔から一変して安心しきった顔だ

 

「…ん…ここは…」

 

話してると誠が目覚めたのか龍の背中で顔を上げる

 

「よ、元気にしてたか?誠ぼっちゃんよ」

「てめぇは…!」

 

と、俺を睨んだが自分が背負わられてるのに気づいたらしく顔を下に向ける

 

「龍さん…?」

「気づくの遅くねぇか?誠」

「龍さんなんでここに…?」

「いやなに、ちょっと今回の元凶を見つけてとっちめようとな」

 

と、笑顔で言う龍…だが誠はそんな龍に恐怖と顔を向けていた

そして無理や龍の背から降りて距離をとる

 

「誠…?」

 

龍は困惑した顔をする

 

「今までの事を隠してたのがやっぱり許せなかったのか…?…すまない…だがこれはお前をこちら側に来させるのはまだ早いと…」

 

頭を下げ言葉を並べていく龍、しかし誠は頭を抱えて苦しそうに呻いている

 

「誠!どこか痛いのか?帰ろう、医者に見せれば…」

「…せいだ…」

 

ボソッと呟く誠

 

「俺の…せいだ、俺があいつに出会わなければ、俺がもっと強ければ…!」

「誠…?」

「お、おい龍?どうにかして静かにさせろ、敵がいたら気づかれるぞ」

 

とにかく龍に頼み俺は周囲警戒をする、龍は色々な言葉を使い誠に言うが…

 

「俺がいけなかったんだ…俺が…なれないものになろうとしたから…皆…俺のせいなんだ!」

「誠!お前は悪くない!お前に強制させた奴が…」

「俺が全部やったんだ…俺が…」

 

そう言い膝をついて泣き崩れる誠…そして俺は気づいた事がある、まず誠から紫色のオーラのようなのが出てる事…そしてそれは龍、俺を通り抜け続いていた

何気なく振り向くと

 

『それ』は当たり前のようにそこに鎮座していた、泥を上からかけたような若干三角形の形で丸みがあり玉虫色の『それ』は1つの大きな目で俺達を見ていた

そして誠から出ていた紫色のオーラは『それ』に吸収されるように消えていき…大きくなる、もう天井スレスレだ

 

「…龍、ヤバいかもしれない」

「なんだエイレーネーの!こっちは今大変なん…だ…」

 

龍もこっちを振り向き気づいたのか声が途切れる

 

「…なんだこりゃ…」

「逃げるぞ、できるだけ刺激しないように」

 

龍と俺は誠の近くまで移動しようとした…しかし『それ』は突然震え…その全身…?から何かがこぼれ落ちる

それは小さな…眼球に手足が生えたような…そんな姿だった

玉虫色の『それ』は増えていき10体程だろうか

 

『俺達の方を向いて歓喜するように上下に割れ歯が見える』

 

「龍!誠を立たせて逃げるぞ!」

 

俺は危険を感じ体を180度回転させ走り出す、それと同時に眼球のようなそれは一斉に俺達に向かってくる

 

「くそっ!誠、立てるか!?」

 

龍は誠を立たせようとするが誠はフラフラと立ち上がればしたが歩くのが精一杯だろう

 

「龍、こうなったらやるしかない!弾は何発ある!?」

「今中に入ってるのも入れて15発だ!」

 

と、言いながら眼球の1体に発砲する

当たった瞬間眼球は爆散して消えた…が奥からまた数体生まれ俺達の方に向かってくる

 

「そらよ!」

 

接近してきた5体を切り裂く、5体全部爆散するが…キリがない気がしてきた

 

「…エイレーネーの、あんたは誠と先に行きな」

「お前はどうするんだよ」

「俺はできるだけここで耐える」

 

龍は発砲して眼球達を牽制する、あぁ…そうか…こいつ…

 

「んじゃ、またな」

「あぁ、またな」

 

俺は嫌がる誠を引っ張り階段を下りていく

 

───────────────────────

 

「行ったか…はぁ、たっくよぉ…長生きするのは良くねぇな…こんな敵と戦わないとならないってよぉ…」

 

葉巻を吸いながら発砲、1体倒すがまだ奥からやってくる

 

「…貸りを返すぜ、優人さんよ」

 

龍は拳銃を構え発砲をする

 

───────────────────────

 

「離せ!離せよ!」

「黙ってついてこい!」

 

嫌がる誠を引っ張り下を目指す、このまま外に逃げてエイレーネー日本支部に行って…対策を

 

「離せって言ってるだろ!」

 

誠は俺の手を無理やり振りほどき立ち止まる

 

「なんで龍さんを置いていったんだ!戻って龍さんを助けないと…」

 

そんな事を言う誠の顔面を俺は殴り服の襟を掴み壁に叩きつける、誠は痛かったのか苦しそうに呻く

 

「な、何しやが…」

「龍の覚悟を踏みにじるな」

 

できるだけ高圧に、誠に分からせるように言う

その効果もあって誠は静かになる

 

「龍はな、お前と俺を生かすためにわざわざ『囮』になったんだぞ?」

「な、なんでだよ…お前強いんだろ?龍さんも強いし皆で力を合わせれば…」

「それが出来てたら苦労はない」

 

俺は今持ってるナイフが1本、龍は拳銃の弾があと15発で誠は戦えない…そして『あれ』は恐らく地球上の生物じゃない

眼球には攻撃が効いてもあの本体をどうにかしない限り倒せやしない

 

「俺のナイフは元々あんなのを相手するように作られてない、多少魔力が宿ってるが気休め程度だ」

 

カクロならどうにかなったが…今のナイフでは数回切るだけで折れるだろう、ましてや倒せるとは限らない

 

「だから龍は俺達を『逃がして』くれたんだ」

「…」

 

黙り込む誠、俺は力を緩める

 

「だから俺達は逃げなければ…」

 

『があああああああああああ!!!!』

 

誠に言ってる途中で、何処からか男の苦痛の叫び声が聞こえる

 

「やばい…龍がもう…逃げるぞ誠…!?」

 

突然の衝撃と浮遊感、そして地面に倒れてしまう

 

「あ、この!誠!」

 

俺の目線の先には誠が上を目指して走り出していた

 

────────────────────

 

失いたくなかった、もうこんなのは嫌だった

いったところで何も出来ない、むしろ邪魔にしかならないかもしれない…だが

 

「それでも、じっとしてれない!」

 

誰かに頼るのは嫌いだった、例え無力だったとしても

 

 

 

 

階段を上がり廊下に出る、そこには倒れてる龍と

 

『龍を捕食してる眼球達が群がっていた』

 

「あ…あぁ…ああああああ!!!」

 

 

必死に近づき、眼球を蹴り殴り引き離す

だが群がっていた眼球達は誠にも群がり初めて

 

『捕食される』

 

「がぁ!この!くそ!」

 

殴り蹴り引き離し…だが減る事はない

 

「馬鹿野郎!」

 

そんな声が聞こえて群がる眼球達はどんどん弾け消えていく

 

「誠!龍を頼むぞ!」

 

群がっていた眼球達を全て倒し本体に攻撃していく柏崎、誠は痛む噛み傷を抑えながら龍に近づく

 

 

 

 

 

「龍さん」

 

誠は倒れてる龍の横で膝立ちになり話しかける、龍はうっすらと目を開け誠を見る

 

「ぉ…おう…お前なんで…逃げなかったんだ…」

「龍さんを見捨てて逃げれるかよ!今までは守ってくれてたけどよ!今度は俺が守るぜ!」

「はは…そうか…そりゃ…頼りがいが…あるな」

「だろ?」

 

そんな血は繋がってないがよく似ている親子の会話が弾む

 

「俺実は龍さんに隠してたんだけどよ!トレーニングしてたんだ!だから昔の俺とは違うぜ!」

「そうか…そうか…」

「あぁ!構成員達は全員倒せるんだ!すげぇだろ!」

「…お前は…最後まで親父とは…呼んでくれないんだな…」

 

誠はピタッと喋るのをやめる

 

「…あぁ、何度でも言ってやるよ…だから…立ってくれよ…親父」

 

龍の体は片腕が無く腹が破かれ内蔵はひとつも残っておらず生きるのは不可能だった

 

「…誠、お前は優しくて強い男だ…お前が今後の未来を切り開いていくんだ…」

「………」

「お前は自慢の…………」

 

龍の言葉はそこで途切れ、喋らなくなる

 

「…俺は…」

 

 

 

 

「俺は…岡薗誠、岡薗組『組長』で『ヒーロー』だ」

 

言い終わると同時に誠の体は淡く輝き…

 

 

─────────────────────

 

「くそ、何体出てくるんだ!?」

 

群がってくる眼球を切り裂き進もうとするが止めどなく生まれてくるので上手く勧めない

 

「このまま…じゃ…?」

 

俺の横を何が高速で横切り眼球達を倒していった、その姿は全身を装甲で守られその姿はまるで…

 

「ヒーロー?」

 

子供の時思い描いたヒーロー像、それが眼球達を倒していき

 

『唸れ!この1発に全てを!』

 

そう叫び天井まで大きくなった『それ』に拳を突き出す

『それ』はバラバラに弾け飛び眼球と本体は消える

 

「…誰?」

 

そんな疑問が残るが、まぁ助かったので良しとしよう

 

 

───────────────────────

 

今日この日、世界に新たな『超人』が誕生した瞬間だった




どうも、今回は長めのわたしです

ちょっと筆が乗って…載って?まぁいいか(適当)


では明日、また次の話で会いましょう


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第53話『終わりのカウントダウン』

その全身に装甲を付けた人物は何かを実感するように手を開いたり閉じたりを繰り返していた

 

「…あー、すまないが…多分お前誠だろ?そろそろ行かないと支部が心配なんだ」

 

そいつは…まぁ『ヒーロー』と呼称しとこう、ヒーローはゆっくりと俺の方を向く

その顔は隠されており表情が分からないが動きなどから同意してるようにも思える

 

『行こう、龍さんは…申し訳ないが後で迎えに来よう』

 

そう言って何処からか上着を取り出し龍の遺体にそっとかけてあげ瞼を閉めてあげる、龍の顔はどこか誇らしげで…なんとも言えない最後だよ

 

「…所でなんだがな?」

『なんだ?』

「…その姿はどうにかならない?」

 

誠の体赤と黒の装甲に包まれており暗闇ならそこそこの迷彩効果はあるが…まだ夕方、目立つことこの上ない

 

『…これどうやったら解けるんだ?』

「え?」

 

俺と誠の間に誰かが横切ったような静かさがしばし続いて俺はハッとなる

 

「いや、お前…え?それ呪いの装備だったの?」

『…やべぇ』

「馬鹿かお前!どうにかして解くんだよ!」

『分かんないんだって!』

 

しばらく言い合いをして疲れたので休憩を挟み解決策を話し合う

 

「…最悪このまま行くぞ」

『…ちょっと恥ずかしくなってきたんだが』

「いやお前のコスチュームなんだから恥ずかしがるなよ」

 

今更恥ずかしがる誠のケツを蹴り出入口を目指す、そして蹴った時俺の足は死にかけた…くっそ痛い…

 

「…いい人かどうかと聞かれたら十分クズ野郎とは思うがちゃんと芯の通った人だったよ」

『………』

 

歩きながら俺はふと誠に話をしていた、何でかは分からないが…親近感を感じたと言うべきか…

 

「初対面の俺に色々教えてくれたり無茶な注文をやってくれたり…あー、なんて言うんだ?まぁとにかく、龍は根は優しい人だったって事だ」

 

言葉が見つからず勢い任せに言うがこれで良かったのだろうか

 

『…あんたは…』

「ん?」

 

しばらく沈黙だったがふいに誠は口を開く

 

『あんたは…親父の事、ちゃんと見てくれてたんだな…行くぞ』

 

ボソッと言って急ぎ足で廊下を歩く誠を俺は後ろからポカーンと眺める

 

「お前よりかはな」

 

呟いて後を追う…そして変化は突然やってきて事態の急変を伝えてくれるのだ

 

『おい、窓の外見ろ!』

「どうし…た…?」

 

誠が焦った口調で窓の外を指さすのでつられて外を見る

 

 

 

 

空は少しずつ玉虫色に変化していき色の境目は街を覆うように地面に垂れていく

それは驚異的な速度で街全体を覆っていき街は一時的な暗闇に包まれる

 

 

 

そして1分程時間があっただろうか、暗闇は空から…玉虫色の淡い光によって照らされて『空から何かが落ちてくる』

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

─街中のとある店前ー

 

「これは…」

 

1人の少女が空を見上げる、玉虫色の空から落ちてくる『何か』そして少しずつ何かに操られてるように室内に入っていく人々

 

「…やはりこの状態を解決するには私だけでは難しいですね…」

 

クルクルとペンを回して手帳を閉じる

 

「ここはエイレーネーさんに頼るとしましょう、私の予想では…」

 

ピンク色の髪をなびかせて走り始める少女はエイレーネー日本支部がある山を目指す

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

「あっちゃー…柏崎君大丈夫かなー?」

 

菊野から外を眺めるタヌキは少し青くなっていた

 

「なんじゃ、怖いのか若いの」

 

近くに座って外を眺めていた老人がタヌキに声をかける

 

「怖いよーおじいちゃん、逆になんでおじいちゃんはそんな平気なのさー?」

「長生きすると多少の事は平気になるのじゃ」

「ふーん…あ、そこゴキブリいるよー」

「ふぁあ?!」

 

飛び跳ね老人を見て笑うタヌキだが内心は焦りに焦っていた

 

「柏崎君早く帰ってきてよー…?タヌキさんは戦えないのだ」

 

玉虫色の空は少しずつ街から外に向かって広がっていたのだから

 

─────────────────────

 

 

「くふ、くははははは!あぁ…なんて楽しいんだろう」

 

ここは日月学園の屋上、1人の男が空を眺めながら楽しそうに笑顔でクルクルと回っている

校庭には大きな魔法陣のようなのが書かれており、その陣から紫色のオーラのようなものが上空に向かって霧散しながら伸びていた

 

「嫉妬も、罪悪感も、悲しみも、苦しみも…ぜーんぶ忘れよう」

 

そう言って懐から1枚の写真を取り出す、そこには黒縁メガネをかけ本を片手に持った少年と金髪の少年が肩を組んでピースをしている写真だ

 

「君が苦しいのなら解放してあげよう

悲しいのなら励ましてあげよう

罪悪感を感じるなら忘れさせてあげよう

嫉妬するなら存分にするといい

君が僕を忘れたのなら思い出させよう」

 

写真を懐に戻して両手を天に向ける

 

「『6席会』の『6席目』にして『ナイトウォーカー』の教祖でもある僕がこんなクソッタレな世界に終止符を打ってあげようではないか」

 

手を叩くと屋上に扉が多数現れ大人数のローブの人々が出てくる、そして一斉にひざまづいてAは振り向き声を大きくして言う

 

「さぁ!始めよう皆…終末の時を」

 

 

──────────────────────

 

「行くぞ誠!走れ!」

 

俺は走り窓から飛び降りて地面に着地する、誠も後から続いて降りてきて俺の後を追いかけてくる

 

「くそっ!どこの誰かは知らないが好き勝手やりやがって!」

 

支部に戻り解決策を出さなければ…

 

「この街…いや、世界がやばい!」

 

──────────────────────

 

終わりまであと数時間




どどどら〇もん



はい、すみません…どうも私です

今回は少し短め、明日から少し長い…かも?

では明日、また次の話で会いましょう


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第54話『まずは落ち着いて』

むかーしむかし、2人の少年がいました

少年2人はとても仲良しで2人の両親もとても仲良でした

茶髪の少年は本が好きで金髪の少年に読むようにおすすめしますが遊びたい年頃の少年は茶髪の少年の手を引き山に遊びに行くのでした

 

これは、始まりのお話

 

───────────────────────

 

「嫌な色の空だな…しかもどんどん広がってやがる」

 

走りながら空を見ると玉虫色の空が広がっており支部の山も危ないのではないだろうか…

 

 

『ちょ…早い…キツい…』

 

後ろから誠の情けない声が聞こえてくる

 

「情けないなぁ!男だろ?さっさと走れ!」

『くそっ、この装甲…重いんだよ…』

 

そう言った瞬間誠の体を包んでいた装甲は無くなり、誠の姿が現れる

 

「え?」

「お、使い方分かったのか?」

「いや…そういうわけじゃないが…」

「そうかよ、それよりも車を借りて行くぞ!」

 

窓ガラスをナイフの柄で何度か叩き割り鍵を開け映画等でよく見る配線を切って無理やりエンジンをかけるのに挑戦する

 

「やり方知ってるのか?」

「知らん」

「は?」

「え?」

 

俺と誠はお互いのあほ面を見て一時の間ができる

 

「え?できるからやってんじゃないの?」

「お前、エイレーネーの訓練に車の配線切ってエンジンつける訓練なんてないんだぞ」

 

やってる所はあるかもしれないが俺の訓練にはなかった…と思う

 

「なんだよ期待したってのに…」

「エンジンがかかったら泣いて喜べよ」

 

何度か試したり構造を見たりとしてる間に誠には周りの警戒をしてもらう

 

「なぁ」

「なんだよ中二ヒーロー」

「誰が中二ヒーローだ!あのスーツカッコよかったろ!?」

 

そんな訳なかろう…まぁ見て一瞬でヒーローと思った俺も俺だが…

 

「それでなんだよ、知性低い話題なら切るぞ」

「こいつ…!………勝てるよな…?」

 

そんな声を聞いて俺はゆっくりと誠の方を向く、その顔は不安でいっぱいいっぱいでその不安を取り除いてほしそうな…そんな顔だ

 

「…分かるわけないだろ、魔術師ってのは常識が通用しない…俺達が想定してた事より180度違う事だった事もあったらしい」

 

狂人、狂ってしまった人…俺達の『常識』から外れた者

 

「だから今回の件はもしかしたら、見せたいだけですぐに消えるかもしれないし…消えないかもしれない」

「分かんねぇって事かよ?」

「そゆこと」

 

あいつらは何をするか分からない…時には大切な人の命を奪う事さえ…

 

「おい!やべぇぞ…すげぇ量だ」

「ん?」

 

考え事をしてると誠の切羽詰まった声が聞こえ誠が見てる方を向くと…

 

「げっ…」

 

遠くから山ほどの大群で押し寄せてきていた…『眼球のような生物が』

 

「ああああああ!!?」

 

俺は死ぬ物狂いで配線を繋げるがエンジンはかかりそうにない

 

「おい急げよ!」

「おおお落ち着け!まずは深呼吸をしてだな…」

「そんな時間ないって言ってるだろ!?」

 

焦らせてくる誠を1発ぶん殴りたかったがそんな時間も無さそうだ

 

「くそっ!くそっ!」

 

 

遠くから聞こえてくる多数の足音が俺の平常心を乱してくる

 

「これ走って逃げた方がいいんじゃないか?!」

「支部までどんだけあると思ってんだ!」

 

車で行くのはいいが徒歩だと時間がかかる上にこいつらを引き連れていく事になる

 

「あぁくそっ!」

「その配線ではなくこっちですよ」

 

と、後ろから手がにゅっと出てきて試してない配線を指さす

 

「こ、これだな!」

 

何度かバチバチさせ…エンジンがかかる

 

「よしっ!誠乗れ!行くぞ!」

「お、おう…って青葉!?」

「え?」

 

青葉?と助手席を見るとそこにはちょこんと助手席に座ってこちらに手を振ってる青葉がいた

 

「なんでお前こんな所に…?」

「ちょっと野暮用でして…それより急がないとあれ、来ますよ」

「やっべ!誠乗れ!」

 

誠を無理やり後部座席に押し込み俺は運転席に乗り込む

 

「ちょっと運転荒いが我慢しろよ!」

「あ、ちょ俺車酔いしやす…」

 

何かに言いかけてた誠を無視して車を急発進させ、後ろから追いかけてくる眼球の群れを振り切った

 

「つかまってろよ!」

 

そのまま車を走らせ俺は支部を目指す

 

──────────────────────

 

「どうにかなったな…」

「そうですね、いやー!流石柏崎さん、運転がお上手で」

 

街を出て山道を通り支部を目指す俺達は一息ついて話し始める

 

「しかし、なんでお前がここにいるんだ?」

「おや?私がいては駄目でしたか?」

「いや、ダメではないけど」

 

青葉は溜息を吐きながら前を向く

 

「少し野暮用です、お二人こそあそこで何を?」

「あぁ、実はな…」

 

青葉に今まであった事を説明する、何度か相槌を打って話を聞く

 

「なるほど…誠さんはお辛いでしょう」

「今は違う意味で辛いっぽいけどな」

 

後部座席で青い顔で口を抑えてる誠をミラーで見ながら苦笑する

 

「そう言えば他の超人は?」

 

超人4人組とエンはよく一緒にいる、だが他の人影はなかった為青葉1人なのが不思議で仕方なかった

 

「あの現象を柏崎さんも見たでしょう?皆さんが異常な程良い行いをしようとするのが」

「あぁー…つまり?」

「そのせいではぐれたんですよ、今は恐らく無事でしょうが…」

 

そう言って窓の外を眺める、外は未だにゆっくりと玉虫色の空が広がりつつあり止まる気配はない

 

「…早くしないと」

 

─────────────────────

 

「ようジジイ、まだ生きてたのか」

「ガキが、わしより先に逝きたいか?」

 

老人ホーム『菊野』に着いての第一声がこれってめちゃくちゃ仲悪いと思う

 

「柏崎さんご老人に対してそのような言動はよくないですよ?」

「おー、若いの分かってるじゃないか」

「おじぃちゃーん!お年玉欲しいです!」

「分かってないのぉ?!」

 

2人を無視して後部座席から誠を引きずり出す

 

「ほら起きろ」

「うぅ…気分悪ぃ…先いっててくれ…」

 

弱気を吐いて倒れ込む誠、どうしたものか…

 

「あ、私が見てるので行っても構いませんよ?」

「そうか、なら頼む…ジジイあんたは早く部屋に帰れ!」

「口縫い合わせるぞガキが」

 

苦笑する爺さんの横を通り過ぎて支部の入口を目指す

 

「あら、悟ちゃん元気?」

「あぁ、元気だよ婆ちゃん…危ないから部屋に戻った方がいいよ」

「やだわぁ、安全な場所なんて意味無いわよ」

 

椅子に座ってお茶を啜ってた婆さんが手を振りながら話しかけてきて微笑む

 

「あとタヌキちゃん、彼女を待たせるなんて悟ちゃんも罪な男ね〜…」

「タヌキは待たせるものだよ婆さん」

 

あれは待たせていいタヌキだから

 

「んじゃまた」

「えぇ、気をつけてね」

 

婆さんに手を振り俺は支部の入口に立ち壁に手を当てる

床はゆっくりと下がり支部に近づいていく…さて、準備をしなくてはならないな

 

 




どうも、寒いを何度も書いてる気がする私です

今回は移動というか、準備前の話しです、はい進んでませんゴメンナサイ

では明日、また次の話で会いましょう


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第55話『神降ろしの儀式』

山は少年達の遊び場で毎日のように行き楽しく遊んでいました

ある時、少年達は山で不思議な男性と出会ったのです

その男性は黒いローブ、そして日本語ではない違う言語で書かれた本を持ってました

少年らは黒いローブをカッコイイ、何の本なのか、と尋ねて男性は優しく対応して少年達と男性は友達となりました

 

────────────────────

 

「おいおい…」

 

支部の3層目に来た俺が最初に見たのは阿鼻叫喚な地獄だった

 

「どいてください!怪我人なんです!」

「西地区に1分隊送れ!」

「おい、15分前に行った部隊から連絡がこないぞ!」

「くそっ!支援部隊をこれ以上戦闘に向かわせたら補給が届けられない!」

 

医療室に入らず廊下までいる怪我人達

隠蔽工作部の人々が指揮をとって前線を構築させようと必死になっており忙しそうに走り回っており

支援部のオペレーターが名簿を確認して頭を悩ませている

 

「あ、柏崎さんですね?支部長が至急支部長室にと!」

 

支援部のオペレーターが俺の肩を掴み周囲のざわつきに負けないように大声で言う

 

「お、おう…まて、支援部隊と工作部隊まで戦闘に行ってるのか?特殊部隊はどうした!?」

 

矢本達や周囲の特殊部隊が来てもおかしくないはずだ

 

「第1特殊部隊はすでに先行した部隊に合流しました、現在はあの化物達と交戦中とのこと…それと他の特殊部隊ですが…今回の件、長く時間をかけられない為補給が間に合わない…そして少数精鋭で元凶を倒す…と」

 

オペレーターはとても言いずらそうに言う

 

「…誰が時間がないって?」

「情報屋のタヌキさんです」

「タヌキが…?…ありがとう、職務に戻ってくれ」

「はっ!」

 

敬礼をして戻っていくオペレーターを見送り俺は下の層を目指す

 

──────────────────────

 

「やっと来たか柏崎君、遅いぞ」

 

支部長が腕組みをしながら椅子に座って俺を待っていた

支部長室には田村さん、そしてタヌキもいた

 

「すまない支部長…状況を説明してくれ」

「まず言えるのは現在とてもよろしくない状況とでも言おうか」

 

そう言って立ち上がりコーヒーメーカーの所まで歩きコーヒーを作り始める

 

「まず街はあの目玉のような化物に占拠されつつある、そして今起きてる現象は…そこのタヌキ君から説明されたよ」

「はいはーい!ここからはタヌキさんの説明なのだー!」

 

と、ぴょこんと軽く跳ねて俺の前に来たタヌキは胸を張り人差し指を立てて説明を始める

 

「今起きてる現象、これは『神降ろし』の儀式だねー」

「神降ろし?」

「そう、神をこの世界に呼び込んで対話するってやつだねー」

 

対話?対話だけでこんなカオスな状況になるのか…?

 

「ここからがミソなんだよー、神降ろしは大量の魔力を必要としててねー…そしてね、神が降臨した時にどうなるか誰にも分からないんだなー」

「分からない?」

 

タヌキは支部長の作りたてのコーヒーを横から奪い取り飲む

 

「ぷはー!そう!もしかしたらちょこっと話て帰るかもしれないし、沢山の眷属引き連れてくるのもあるし」

「今回は?」

「まだ来てないっぽいけど…もう眷属が暴れだしてるねー」

 

その為支援部隊と工作部隊が前線に貼りついてると…

 

「不可解なのが建物を攻撃してない事だねー、まるで人間を攻撃しないような」

「そうかよ…んで?このままだとどうなるんだ?」

「うーん…今も尚空ではあの玉虫色が広がりつつあるから…街は確実に終わるね」

 

さらっと言ったタヌキだが、街はかなり広く人も多い…終わる…つまり

 

「…あれが街の外に出るのか?」

「神降ろしが成功したらそこに定住して眷属がさらに広がるだろうねー」

「そう言われ今支援部隊と工作部隊が前線を構築して街から出さないようにしてるんだ…他の特殊部隊は来るのに時間がかかる」

 

そう言い支部長は新しいコーヒーを作る

 

「………1番近い部隊でも…3時間」

「そして、私の予想では神降ろしは…あと『2時間』で終わるねー」

 

2時間…全然間に合わないじゃないか

 

「だから少数精鋭でこの元凶を倒す必要がある」

「場所分かるのか?」

「日月学園の校庭…そこから広がっていたという情報が多くあってね」

 

まぁ街で広い場所と言えばそこくらいか…

 

「んで、誰が行くんだ?」

「本当は第1特殊部隊で対処してもらおうと思っていたんだが…」

「…………予想外に敵が多かったから…前線に向かってもらった」

 

つまり…

 

「俺だけ…?」

「いや、今回は柏崎君だけではなく…」

「はいはーい、タヌキさんも行くよー!」

 

タヌキが元気よく手を挙げて俺の視界に入ってくる

 

「タヌキ…大丈夫なのか?」

「大丈夫…かもしれない、だが彼女も魔術師…もしかしたら魔術的なものに対抗できるかもしれない」

 

そんなもんかね…

 

「あ、そうだ…途中で青葉と誠を拾ったぞ、喜べ…新しい超人だ」

「なんだと!?」

 

支部長は新しい超人と聞いて机をバン!と叩いてたちあがる

 

「いける…青葉君にはオペレーター達の手伝いを、誠君には前線に参加してもらうようにお願いしてこよう!」

 

と、支部長が支部長室から飛び出て行ってしまった…支部長…それ下っ端の仕事…

俺は横目でタヌキを見る、タヌキは俺の視線に気づいて手を振ってくるので無視する…大丈夫だろうか




どうも、最近物語の進み遅い…遅くない?私です

違うんです(?)
書いてる時こう、あーここで切らないとキリ悪いなぁって…明日は長いです多分

では明日、また次の話で会いましょう


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第56話『長年の経験』

だが本当は男の目的は自分の後継者を探す事でした

男は少年2人に魔力の才能を確かめ、そしてついに茶髪の少年に絶大までの魔術に対する才能が発見されたのです

喜び茶髪の少年に旅に出ないかと誘いますが少年は友達や家族がいるから行けないと拒否しました

 

男は考え考えた結果

『少年の周囲の人物を消す事にしました』

 

──────────────────────

 

支部長の依頼を青葉と誠は二つ返事で承諾してくれた為かなり戦況に余裕が生まれに…ように思える

 

「そう言えば青葉」

「なんです?」

 

他の天田率いるオペレーター達と話し合いをしてた青葉に俺は1つの疑問を言う

 

「須郷や涼風…翔太郎、エンとカクロはどうした?」

 

青葉以外の超人3人、そしてエンとカクロも現在消息不明であり心配なのだが…

 

「…恐らくあの3人とエンさん、あとカクロさんも無事でしょう」

「そうか、それなら合流するのが先か…」

 

超人3人は強い、共闘すれば前線を押し上げれるかもしれない…エンとカクロはそもそもが心配である

 

「…さて」

 

俺はいつもの装備を身に付けて上を目指す

 

「そうだ…青葉、出来れば上の菊野で作業をしててくれないか?あそこはここに最短で来れる場所なんだ」

「構いませんよ、まぁ戦闘力ないので敵が来たら守らないで逃げますが」

「それでいい、最悪支部さえ無事なら…な」

 

田村さんから貰った魔力が宿っているナイフを装備してガスマスクを装着する

 

『行くぞタヌキ!』

「はいはーい、タヌキさんにおまかせあれー」

 

と、お菓子を食べていたタヌキを呼び俺は1層に行く道を歩く

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

「お待ちしてました、柏崎さん!我々第40支援部隊、計7名で現地まで護衛します!」

 

と、明らかに20代…いやまぁ俺も25だけど、それでも20歳とかそこら辺の女性がガスマスクを腰に下げ敬礼をしてくる

 

『支援部隊はもうほとんど前線に?』

「…はい、ベテランの方々は…し、新米兵士ですが必ず送り届けます!」

 

力強い言葉と熱意が伝わってくる

 

『頼りにしてるぞ』

「はっ!」

 

支援部隊の装備を確認する、全員近接武器、サブマシンガンを主体にスタンスモーク等の投擲物を1個ずつ…

 

『まず今回の作戦について説明する、俺達は街までの地下通路を通って街中に入った後日月学園まで前進…俺とタヌキが目的地に着いた後第40支援部隊は後退、支部に帰還を最優先だ』

 

俺、タヌキ、そして上行くついでに来てた青葉、支援部隊の面々は話を聞いて頷く

 

「私達は後退…でよろしいのでしょうか?確かに経験不足ですが援護は訓練で学びました!私達も戦えます!」

「いや、お前達は撤退だ」

「しかし!」

 

何がなんでも食い下がる支援部隊長に困り果ててると青葉がずいっと前に出てくる

 

「おやおや?時間もないというのに作戦にいちゃもんつけて駄々をこねるので?それは楽しそうですね、そのまま続けていいので私達は先に行きますが?」

 

支援部隊長は一瞬ポカーンとなった後歯ぎしりをして顔を赤くする…はぁ…

 

『これは第1特殊部隊の隊長である俺の命令だ、支援部隊は目的地に到着後早急に撤退する事』

「…っ!……了解しました」

 

どうにか自分を納得させて引き下がったようだ

 

『それじゃ行くか』

「はっ!」

「はいはーい」

「分かりました」

 

1層目の通路、街中の1つに行く為の通路に向かう車に乗り込む為に車に向かう…俺は青葉の横に行き他には聞こえないようにして青葉に文句を言う

 

『(あそこまで言う必要ないんじゃないか?)』

 

青葉は俺の方を見て小声で返してくる

 

「(ああいう人はちゃんと言わないと伝わらない人なんですよ、察しろとか無理な人ですね…だからちゃんと言って1度頭に血が上りますけど、その後ちゃんと冷静になって反省する傾向があるので)」

 

な、なんともまぁ…あの短時間でそんなのを見極めたってのか?

 

「(…緋彩さんがそうなんですよ…)」

『(あぁ…大変そうに…)』

 

そして俺達が車に乗り込み青葉は俺達を見送る為に近くに立っていた

 

「誠さんには酔いが治ったら街に行くよう言っときます」

『頼む、よし…行くぞ』

 

青葉は手を振りながら俺達を見送り、俺達は街に向かう

 

 

─────────────────────

 

 

「うっ…気分悪ぃ…」

「大丈夫かいお前さん」

 

老人からお茶を受け取り一気飲みする乗り物酔いした誠

 

「ぷはぁ…あー…そろそろ行かねぇと…」

「お主乗り物が無理ならどうやって行くつもりだ?」

「走るっ!」

「oh......」

 

握り拳を作り玉虫色の空に喧嘩を売るように睨みつける誠を老人はため息を吐く

 

「誠さん、行くならあるルートが最短距離ですよ」

「ん?」

 

声の方に振り向くと青葉が手帳と地図を広げた青葉が立っていた

 

「最短距離?」

「はい、ここの崖を飛び降りて川を下り…」

 

と、本当に街までの一直線の道を誠に教える

 

「出来ますよね?今尚戦ってる部隊の人達や街の人々が困ってるんですから、ね?ヒーローさん?」

 

誠にとってはこれが決定的だったのかもしれない

 

「任せろ!俺がいれば敵なんてコテンパンだ!」

 

と、手を空に向けて伸ばすと誠の体が淡く光って黒と赤の装甲に守られた『ヒーロー』が現れる

 

『んじゃ行ってくるぜ!』

 

そう言って誠は本当に一直線の道を突き進んでいく

 

「…若いのぉ…」

「若く熱意のある若者って事ですよ」

 

そう言って青葉は地図を見る

 

「…そう言えばなんで私は他のオペレーターの方と同じ部屋ではなくここにいるんでしょう?」

 

オペレーター達と連絡をとる通信機は置いてあるが何故ここにいないといけないのか?見せられないものでもあるのか?

 

「それは恐らく、しばらくすれば分かるじゃろう…む?」

 

老人がふと、外を見る…青葉もつられて見るが何も見えない

 

「何か…」

「しっ…もう特定したのか…早いのぉ…」

 

そう言って老人は立ち上がり外に出る扉を開き外に出る

青葉はどうするべきか考え最悪の想定が現実となったと断定し外に向かう

 

「…おるんじゃろ?さっさと姿を表したらどうじゃ?」

 

外に出て大声で何かに言う老人…しばらくすると近くの木々の合間から黒いローブの集団が現れる、その数は…およそ20人

 

「…最悪ですね、私の予想ではあと1時間は大丈夫だと思ってたんですが…」

「何事も予想通りには行かぬものよ」

 

さらに老人は前に進みローブ達との距離が15mになるまで近づく

 

「どうした、何か用か?今は立て込んでいるんだが」

 

手を振りながら帰るように促す、その瞬間老人の顔の横を何かが高速で通り過ぎ頬を切る…そして少量の血液が流れ地面に垂れる

老人が後ろを振り向くと玉虫色の槍のような形状の突起物が刺さっており霧散するように消える

 

『…A様に忠誠を、A様に勝利を!』

『『『敵には死を、信徒には奇跡を』』』

 

「な、なんじゃ?」

 

突然1歩ずつ出てきて何かを言い始めるローブの集団に困惑する

 

『A様に忠誠を!A様に勝利を!』

『『『敵は苦しみを、信徒には幸福を』』』

『敵は殺せ!A様にその命を捧げよ!』

『『『正義を語る悪には死を』』』

 

『『『『酷使せよ、死者の槍』』』』

 

魔術に酷使を命じてローブ達の上空に無数の玉虫色の槍が出現する、あれが一斉に飛んできたらひとたまりもないだろう

 

「っ!おじいさん逃げましょう!」

 

ポケットから改造を施したカメラを取り出し構える、ただこれだけでどう抵抗出来るというのか

 

「はははっ、君だけでも逃げなさい…私はこやつらに用ができた」

 

言い終わるとローブ達は老人に、手を振り下げる

すると上空に留まっていた無数の槍が老人に向かっていき地面に突き刺さる、そして砂埃を巻き上げる程の勢いで突き刺さっていく槍は15秒も続いた

 

「おじいさん!」

 

青葉が助けに行こうとする、だが腕を突然捕まれ老人の元に向かえない

 

「大丈夫よ青葉ちゃん」

「え…?おばあさん…?」

 

手には現代ではあまり見ない鎖鎌を持っており優しい微笑みを向けてくるのは老人ホームにいるおばあさん

 

「大丈夫…って…」

「まぁまぁ、見てて」

 

そう言われどするか悩み…大人しく言うことを聞くことにした青葉

砂埃はしばらく続いたが、大きな乾いた音が3回響く

 

「ゴホッゴホッ!むぅ…流石に砂埃はキツいのぉ…」

 

砂埃から現れた老人、その手にはゴツゴツした拳銃…?のようなものを持っておりその銃口からは僅かに煙が出ていた

銃口の先を見るとローブの1人が倒れており見た限りだと眉間に1発撃ち込まれたらしい

 

「ふむ、やはり障壁を持っておったか…最近の魔術師は優秀じゃの」

『………………』

「なんじゃ…だんまりか?もしや相手がただの老人と思っておったのか?ハッ!馬鹿にしよる」

 

青葉の後ろ、老人ホーム『菊野』からゾロゾロと足音が聞こえてくる

振り向くと日本刀を腰に差したおじいさん、ダーツのような投擲物を両手に持っている気の強そうなおばあさん

拳から紫色のオーラが出ているふくよかなおじいさん等々…

 

「舐めるな若造が、わしらは『50年以上』お主ら魔術師と戦ってたのじゃぞ?まぁもう歳が歳だが」

 

そう言って拳銃に弾を入れる老人、その弾も紫色のオーラが漂っている

 

「さて、正義執行の時間じゃ」

 

 

 




どうも、若者が戦ってる中いつもはガミガミ文句言ってるが仕方なく若者の為に戦場に立つ老人…的なのが好きな私です

エイレーネーの部隊員達は死亡率が高い分老人になっても強い場合が多いです、魔力を知らず知らずマスターして肉体が衰えにくいのか…もしくは不思議パワーか…

では明日、また次の話で会いましょう


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第57話『手のひらの上で』

 

男はまず茶髪の少年の両親を殺害しました、しかしここで男にとって誤算がありました…なんと金髪の少年の両親が現場に来て男とほぼ互角に戦い始めたのですから

だが男が負ける事はありませんでした、何故なら『神』がついてるのです

全てを終わらせた男は茶髪の少年を捕まえ両親達の遺体を見せ絶望させると共に洗脳を開始しました

そして移動中金髪の少年が襲ってきましたが相手は少年、男の足元にも及ばず茶髪の少年に絶望を与えただけでした

誰もいなくなった時、金髪の少年の指が動く

 

────────────────────────

 

目的地について車から降り設置されてる梯子を登る

 

『全員ガスマスク着用、いいか?何があっても焦るな、間違って味方のケツに穴を増やさないように気をつけるように』

 

柏崎のジョークに支援部隊…特に男性陣が軽く笑う

 

『よし…行くぞ』

 

マンホールの蓋を軽く上げて周囲を確認する、近くに敵は見えない…ゆっくりと蓋を開け地上に立つ

 

『…いい天気だなぁ…』

『柏崎さん…空気持ち悪い色ですけど…』

「柏崎君たまーに息吐くようにボケるから無視していいんだよ~」

 

失礼だな…ちょっと現実逃避したかっただけだわ

 

『よし、ではこれより日月学園に向けて…』

 

ふと他の全員が見てる方向を見ると200mくらい先に日月学園があった

 

『あれ?なんかこう、2kmくらい走っていく的なの言ってなかった?』

『い、言ってませんが…?』

「タヌキさんは知ってたけどね~」

 

俺達は特に問題もなく日月学園の校門近くまで来れてしまった、敵すらいなかったよ…

 

『………』

『………』

「…は、はははは~…」

 

ま、まぁ大丈夫大丈夫…まだ大丈夫なはずなんだ、何が大丈夫かは分からないが

 

 

『…これより俺とタヌキは日月学園に潜入する、第40支援部隊はこのまま撤退…っと』

 

通信機から声が聞こえてきた、どうやらかなり後ろがざわついてるらしく聞き取りにくい

 

『こちら支援部オペレーターです、第56工作部隊が救援要請…近くの部隊は至急救援に向かってください、場所は南地区の商店街通り…』

 

南地区の商店街通り…ってそこそこ近いな

 

「んー?どうする?時間は1時間あるし…急いでいけば間に合わなくはないよー?」

『そう言ってもな…どうなるか分からない以上時間には余裕を持っていたい』

 

相手はこの状況を作り出した張本人…体力を使いたくはない

 

『で、では!私達第40支援部隊に任せてはもらえませんか!?』

 

と、熱意を表すように詰め寄ってくる

 

『わわ!分かったから!近い!』

『え?ぁ…す、すみません!』

 

急いで下がってもらい俺は一息つく

 

「おやおやー?柏崎君実はかなりウブさんー?うっふーん」

『何してんだこのタヌキ』

 

急にクネクネ動き出したタヌキにドン引きする俺とその他

 

「うぅ…タヌキさんの悩殺ポーズはいつになったら成功するのだ…」

『あれで悩殺…』

 

死にかけのミミズみてぇだったよ…

 

『とりあえず、支援部隊はすぐに工作部隊がいる商店街通りに急行し救助せよ、以上』

『はっ!よし、皆行くぞ!』

 

その掛け声と共に第40支援部隊の計7人は大通りを通って南地区の商店街通りを目指し向かって行った…さて

 

「柏崎君ー…やっぱり気づいた?」

『あぁ…相手もかなり準備万端らしい』

 

見える箇所では4つトラップが発見された、これらを避けながら…屋上か?誰かいるがよく見えない

 

『タヌキ、お前ならどこに陣取る?』

「タヌキさんなら屋上だねー、逃げる時は魔術を使えばいいから」

『便利だな魔術…まぁいい、行くぞ!俺のあとを辿ってこい!』

「あいあいさー」

 

俺が先行してトラップを解除、わざと発動させ、必要最低限の場所を通り校舎を目指す

 

──────────────────────

 

「っと…なんだこりゃ…」

 

誠が街に着いた時には過酷な戦闘が起きていた

 

『GO!GO!GO!』

『負傷者は下がれ!動ける奴は前進だ!』

『引き寄せろ!一斉射撃!』

 

道路から向かってくる目玉のような化物が上下に割れ口のように開閉しながら走ってくる、それにエイレーネーの兵士達が攻撃を仕掛けるが…あまりにも数が多い

 

『あああ!!!』

『衛生兵!隊員がやられた!』

『くそっ!何体いやがるんだ!?』

 

最初はゆっくりとながら前線を押せてたが今は逆に押され気味になっている

 

『…今までの俺だったら…何も出来やしなかった…だが今は違う!』

 

一気に戦場に近づき障害物を飛び越え兵士達の横を通り過ぎる

 

『な、誰だ!?』

『下がってな!行くぜ、もうお前らは怖くないっ!』

 

突然出てきた誠を見て化物達はカモを見つけたように誠に群がっていく

 

『へっ!単調な奴らだ!辻風!』

 

群がってきた化物達が一定の距離に近づいたのを確認した誠は全身を使って体を回転させる、すると軽い回転の筈がまるで竜巻のように化物達を巻き上げ上空に飛ばす

 

『はぁぁぁあ!!!』

 

上空に飛んで飛んだ化物全部蹴り飛ばす、壁に地面に叩きつけられた化物は玉虫色の液体となり溶けてしまう

 

『超人…?』

『超人だ…やっと超人が来たんだ!』

『やったぞ!これで前線を押し上げれる!』

 

誠の攻撃を見て浮き足立っていた気持ちを落ち着かせれた兵士達、そして1人の男が誠の隣に来る

 

『助かった、私はここの指揮を任されてる第8工作部隊隊長の者だ…まずは早い到着感謝する』

『いいってことよ!そんな事よりどこまで進むんだ?俺が道を切り開くぜ!』

 

ガスマスクを付けてる為表情が分からないが誠の言葉に驚いた雰囲気を出している工作部隊隊長は肩を震わせ苦笑する

 

『ではこのまま前進して、道路を右に曲がる…超人青葉が言うにはそちら側に化物達の拠点があるらしい』

『青葉が…よし、好都合!俺についてこい!』

 

そう言って誠は走り出して向かってくる化物を蹴散らす

 

『総員!超人の後に続け!敵の拠点を破壊できれば他の戦線に余裕ができるはずだ!前進せよ!』

『『『『『おおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』』』』』

 

大勢のエイレーネー兵士達が誠の後に続く、だがここで誠は1つ違和感を感じた

 

『(…敵の数が減った?)』

 

倒しながら進むが少しずつ、だが体感的にはほぼ変わってないように思えるが…来る敵が減ってるように思えた

 

『だけど…止まれねぇ!』

 

ここで引き返すという選択肢はない…そして青葉が『敵の拠点がある場所と同じ所まで』一直線に行くように言ってたのだから

 

『よし!化物の数が減ってるぞ!突撃!』

 

誠と兵士達が道路を曲がる…その先にあったのは大量の『目』

化物と、誠があの時見た泥を上からかけたような若干三角形の形で丸みがあり玉虫色で1つの大きな目が付いている…それが10数体…?そしてその周りには数えきれない程の化物がいた

 

『ぁ…う、撃て!撃て!』

 

咄嗟に発砲命令を出すが押し寄せる化物の『波』

それに撃ってもまるで意味が無いように押し寄せてくる

 

『に…逃げろ…退避!退避ー!』

 

来た道を戻るように下がろうとするが周囲はもう囲まれていた…どうやら数が少ないと思ってたのは周囲を囲う為に数を割いてたからだったらしい

 

『ははっ…やべぇ…』

 

絶望?恐怖?そんなものは誠の頭の中にはなかった、あるのはただ一つ

 

『俺はこいつらを守る!』

 

攻めてきてるのは正面の化物の『波』

それを止めれれば

 

『無茶だ!何か方法が…』

『方法なんてねぇよ!あるのは戦わねぇと生き残れないっていう事実だ!』

 

誠の力強い言葉に言葉を詰まらせる隊長、そして周囲の兵士達はそれぞれの武器を構える

 

『…倒すんだよ、俺達で』

『……あぁ!くそっ!総員構え!タイミングを合わせろ!』

 

武器を構えてそれぞれのポジションにつき合図を待つ兵士達

 

 

 

 

が、それを撃つ必要はなくなる

化物の『波』は忽然と玉虫色の液体となり地面に消えていく

 

『…こちら矢本、作戦区域に到着』

『こちら宮島!同じく作戦区域に来たぜ!』

『こちら雨森、狙撃ポイントに到着…指示を待ちます』

『…宮本、敵は殺すだけだ』

『雨宮で~す!同じく作戦区域に到着~!』

 

隊長の通信機からそんな声が聞こえてくる

そして波が来ていた場所に1人の人影が立っていた

 

『エイレーネー日本支部、第1特殊部隊…戦闘を開始します』

 

────────────────────

 

老人ホーム菊野、未だ外で戦闘が続いているが青葉は中で街の地図を確認していた

 

「…敵はあまり戦略は得意ではないようですね…私なんかの作戦でこうも上手く行くとは」

 

予め誠を『重要場所、自分ならここに置く』場所に向かわせ派手に暴れてもらい、第1特殊部隊の方々を向かわせて一網打尽…

 

「思い通りに動いて怖いくらいですね☆」

 




どうも!祝!アクセス1000!ありがとうございます!そしてお気に入り7!ありがとうございます!!!

これからもファースト・オブ・バレットをよろしくお願いします!

では明日、次の話で会いましょう

…あ、あとTwitter始めました


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第58話『合流』

 

少年達はそれぞれ違う道を歩む事になる、1人は魔術師として

1人はとある一般家庭の養子として迎えられ…とある事件を切っ掛けにエイレーネーという組織に所属する事になったのは

偶然か必然か

 

1つ分かることは、金髪の少年は事件のショックで茶髪の少年を忘れてしまったことだろう

 

─────────────────────

 

『確かこの辺りだったはず…』

 

第40支援部隊はまったく見当たらない敵に怯えつつも南地区にある商店街通りに来た一行、暗い道をライトで照らすが人影は見当たらない

 

『こちら第40支援部隊、目的地に到着した…しかし救助目標が見当たらない』

『こちら日本支部、最後に通信が入ったのはそこです…捜索の続行を』

『こちら了解、捜索を続ける』

 

銃を構えながら歩いていく一行、耳を研ぎ澄ましてライトをあらゆる方向に向ける…ここで隊長の耳に人の声が聞こえた

 

『っ!誰かいるんですか!』

 

路地に入る前にあるゴミ箱の後ろから1人のエイレーネー兵士が出てくる、そのガスマスクは壊れており僅かに素顔が見える

 

『ぐっ…救援だな…?感謝する…』

『大丈夫ですか?皆!彼に肩を貸してやってくれ、こちら第40支援部隊!救助対象を発見、帰還します』

 

通信機越しににそう言い負傷者を囲むように移動して1番近い地下通路を目指す

 

『はぁ…はぁ…俺達は他の部隊と連携して…化物を囲むつもりだったんだ…順調だった…けどあの化物が現れた…』

『あの化物…?』

 

満身創痍だが何かを伝えようとする肩を借りて歩いている兵士に近づき耳を傾ける

 

『あれはもういない…そう思ってた…だが思い返せばあれを出したのも今回の敵だったな…』

『あれ…?あれって何ですか!』

『それは………』

 

 

男が言おうとした瞬間、商店街通りに1つの高笑いが場を支配する

 

『ケハハハハハハハハハハハハハハ!!!!』

 

『っ!!!』

 

聞いた事がある、あの時柏崎が副隊長を助ける為に招集した部隊にいた時に聞いた…あの白い化物…その声が聞こえる

 

『ど、どうする!?』

『逃げるしかないだろ!』

『どこに逃げるのよ!』

 

隊員達が口論を始める、元々つい最近編成されたばかりの部隊…連携もクソもない

 

『俺が…囮になる…全滅よりかは…マシだ…』

 

負傷者の男が口論を止めるために提案する、薄情だが1人を助ける為に全員が死ぬ…というのは駄目だ…が

 

『そんな事できるわけない…!皆、このまま進んで…私はこのまま化物を引きつける』

『な、お前はどうするんだよ!隊長!』

 

ガスマスクを外し負傷者の壊れた物と取り替えてマガジンの数を数える

 

「私は隙を見て逃げる、だから皆…投擲物を何個か渡してくれ」

『無茶だ…死ぬぞ』

「無茶も承知…!」

 

話してるとかなり近くで化物の声が聞こえる、もう時間はない

 

「行け!負傷者は任せたぞ!」

『隊長!』

 

他の隊員の制止を振り切り出来るだけ目立つように道の真ん中を走る…道を曲がり走り…走ってる時、あるものが見えた

それはあの時見た化物よりも小さく…大きさは2m程だろうか?全身に赤ん坊から成人の腕が男女関係なく生えておりその化物の顔は常に笑ってるのか笑顔の人間のような顔をしていた

 

「ぁ…」

『ケハッケハッケハッ!』

 

次の瞬間、白い化物の体がブレて見えた

咄嗟に勘に任せて回避行動をとる、勘は時には自身を守る最強の能力とも言えるだろう

 

「あっ…ぶない!」

 

顔のスレスレ…いや…少し当たってたらしく頬が切れ地面を転がる、化物は瞬間的に飛んできてその爪を武器に切りかかってきたのだ

 

「くらえっ!」

 

スタングレネードのピンを抜き化物の目の前に投げる、太陽が地上に現れたかのような光と鼓膜を震わせる音が化物を中心に響く

 

『アァァァァァァァ!!!』

 

目に手を当て悶絶する化物の隣を駆け抜け全力で逃げる、捕まったら最後…死ぬのは避けられない

 

「くっ!」

 

後ろから圧力を感じて振り返りサブマシンガンの弾を全て使い切る勢いで弾をばら撒く

迫ってきていた化物に何発か当たるが止まらせる事は出来ず腕の1つに首を捕まれ地面に倒される

 

「くそ!このっ!」

 

ナイフを抜いて切りかかろうとする…しかしそれをする暇すら与えてはくれないらしい

腕のひとつが顔スレスレを通り地面を砕く、顔に当たっていたら簡単に潰されてしまうだろう

 

「ぁ…ぇ…」

 

化物はゆっくりと腕を振り上げもう一度地面を砕く

何をしてるのか?簡単な話である、実力の差…当たったら死ぬという結果を教えて恐怖させるのが目的だった

支援部隊の隊長はこんな化物に戦おうとした事に後悔し恐怖し…結果的には化物の目論見通りになったのである

あとは煮るなり焼くなり…

 

 

 

 

「おい」

 

化物の頭を鷲掴みにする1人の大男の影、似合わない兎のお面を付けたその男はゆっくりと鷲掴みした腕を持ち上げる

 

「てめぇ…何度現れる気だ?」

『アアァ…ァァ…』

 

ミシミシと軋む音、頭蓋骨がゆっくりと握られていき白い化物は悲鳴すらあげれない

 

「おっと、淑女には見せられないぞ」

 

違う男の声が聞こえ目を手で隠され視界はシャットダウンされる

風を切る音、そして轟音が響き地面が軽く揺れる…しばらくして目を覆っていた手は外され目の前には地面に突き刺さる白い化物、少し待つとドロドロの玉虫色の液体になり地面に溶けていく

 

「やっぱりあの頃のやつより小さい上に弱ぇな」

「雅弘が規格外なのもあるが…っと、緋彩が帰ってきたな」

 

そう言って上を見たハット帽を被った青年の視線を辿るように上を見るとはるか上空から1人の少女が落ちてきて地面に着地した…三階建ての建物の屋上から

 

「見てきたよー、なんか凄い人が集まって戦ってる場所があったからそこ行けば何か分かるかも」

「そうか…エン!行くぞ!」

 

そう言うと近くの物陰から1人の少女と抱き抱えられてる子猫が出てくる

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

『ん?』

 

誠が化物の一体と戦ってると遠くからなんか遠い所から轟音が聞こえてくる

 

『な、なんだ…?』

 

周囲の兵士、矢本達も戦闘しつつもその方向を見る

 

「なんか敵多くない?気持ち悪いし…」

「そうだな…多分パーティーなんじゃないか?」

「そんな訳ねぇだろ…おら、お前らも手伝え」

 

そう談笑しながら歩いてくる3人の人影+α

 

「…何で私ここにいるんだろう」

「げ、元気だして?お腹痛いの…?」

「ニャッ!」

 

遠くから歩いてくる人影に誠は見覚えがあった

 

『な…超人!?』

「おう…おう?なんか聞いた事ある声だが…何処だったか?」

「しらね」

「わっかんない」

 

超人

須郷雅弘、道華翔太郎、涼風緋彩

 

超人達が『偶然』やってきたのであった

 

───────────────────────

 

全てを聞いてた青葉が一言

 

「いやぁ…偶然って怖いですね!」




どうも…とどうも(?)

今回の話は街の戦闘部分を軽く書き起こしてみました、明日は柏崎達の話になりますが…どうなる事やら


では明日、また次の話で会いましょう


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第59話『魔術師『A』』

 

道中のトラップを解除したり破壊したり…俺とタヌキは屋上を目指す、ここまで来たらガスマスクは外してもいいだろう…俺はガスマスクを外しヘルメットも取る

 

「おやおやー?装備を外して大丈夫なのかなー?」

「いいんだよ、お前知ってるだろ?俺は素早く動けないと意味がないんだ」

 

超人のように超次元的な身体能力がある訳でもなく、他の隊員達のように便利な能力でもなく…ナイフの技術が少し高いだけの俺があいつらと肩を並べる為にはナイフの技術を磨き長所を生かすべきだ

 

「…それより、タヌキはよかったのか?」

「何がだーい?」

 

タヌキは歩きながら俺の方を向く

 

「お前は情報屋だ…俺と一緒に来なくても」

 

情報屋のタヌキは戦闘は得意ではない、魔術師ではあるがそこまで強くもなく…ついてくるメリットは無いはずだ

 

「んー、借りかなー」

「はぁ?」

 

おちょくるように指で俺の側頭部を突いてくる

 

「タヌキさんはタヌキさんなりの借りが柏崎君にあるんだなー」

「借りって…お前会ってから特に借りを作るような事は無いはずだが…」

 

頭の中で記憶を掘り返してみる、だが特にタヌキには…あ、400円貸したな

 

「…無理して来なくてもいいんだぞ?」

「タヌキさんが勝手についてきてるだけ、嫌なら追い返せばいいんじゃないかなー?」

 

ごもっとも、だが今は戦力は多ければ多い程いい…しかも敵が魔術師となると…

 

「…いや、一緒に来てくれ」

「よろしいー、タヌキさんは素直な子が好きだな」

 

と、ウィンクしてくるタヌキにイラッとしたが反応すると面白がるので何か反撃せなならん

 

「あー、そうだなぁ…タヌキさんに好かれて嬉しいなぁ…今度海にデート行かない?…なんつって」

 

言ってたら恥ずかしくなったぞ?あれ?おかしいな…もっとこう…すらっと言うはずが最後に冗談にしようとしてるぞ…

流石に馬鹿にされるか…そう思いタヌキの方を向くと

顔を真っ赤にしてあわあわと慌ててるタヌキ…俺の視線に気づいて両手で顔を隠す

 

「ち、違うんだよ柏崎君!タヌキさんはね!その…べ、別にあれだよ!?夏だからって男の人と海とか…そんなの別に憧れてたとかそんなのじゃないんだよー?!」

 

と、かなり大振りの拳が飛んでくる

 

「危な!?わ、分かったからタヌキ落ち着け!今はこんな事してる場合じゃないだろ!」

「こんな事とはなんだー!タヌキさんにとっては大事な事なんだぞー!」

 

と、聞く耳を持たないのでトラップに引っかからないように誘導しながらタヌキの拳を避けながら上を目指す、大丈夫なのだろうか…

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

「えっと、柏崎君…ごめんね?」

「次は怒るからな」

 

屋上に繋がる階段の踊り場で俺は頬をさする、避け損ねて顔面に一発いいのをもらったのだ

 

「け、けど柏崎君がいけないんだぞー!次あんな冗談言ったら柏崎君のあんな情報やこんな情報横流しにするからなー!」

「…冗談じゃなかったんだがな…」

 

聞こえないように呟き俺は装備の確認をする

 

「それよりタヌキ…いると思うか?」

「…いるねー、隠れる気はゼロ…そしてどうやら戦う気は十分らしいねー」

「そうか…」

 

俺は…あいつを何処かで会った気がする…A…あの眼鏡を拾ってから俺の記憶にまるで思い出せと言うように問い掛けてくるような…

 

「柏崎君?」

「ん、あぁ…ちょっと考え事だ」

 

顔を覗き込んでくるタヌキに気づかれないように気持ちを切り替える

 

「…行くぞ」

「いつでも〜」

 

踊り場から階段を一段ずつ上がっていき屋上に出る扉のドアノブに手をかける…鍵は当たり前だが掛かってないようだ

ゆっくりとドアノブを回し押し開ける

 

─────────────────────

 

空は未だに玉虫色の空によって月明かりが遮られ淡い光が地上を照らす、そして街のある方角から破壊音と銃声と悲鳴が聞こえてくる…どうやらあそこで戦闘が起きてるようだ

 

この街に俺達以外いないような感覚になるが…どうやら街の人々はちゃんといて、無事なようだ

俺は屋上を歩き進む、タヌキも俺に続くようについてきており…俺達の視線はある場所に向いていた

 

「…見てごらんよ柏崎くん、人が生きる為に頑張って戦ってるのを見ると命とはなんて素敵なんだと思えないかい?」

「…それを見る為に『神』を呼ぼうとは思えないな」

「あれ?共感できなかった?まぁしょうがないよね、僕と君は同じではなく違う人同士なんだからね」

 

そう言って屋上の金網の上に立ち街を眺めていた男…Aは俺達の方を向く

茶髪の茶目、かなり身長は高く黙ってればイケメンの分類に入るだろう

 

「よっと、僕としては君と僕なら分かり合えると思ってたんだ…本当だよ?」

 

金網の上から降りて笑顔で俺の方を見るAの顔は仮面のような感情の無さを感じた…まるで笑顔という仮面を付けてるような

 

「お前の目的はなんだ?何のために俺達…エイレーネーと超人…街を狙った?」

「簡単な話だ…」

 

そう言ってAはゆっくりとこっちに近づいてくる

 

「君と話したかったんだ」

「…は?」

「ん?分からなかったかな?君と会ってゆっくりと話したかったんだ」

 

近づく早さを変えずに笑いながらやってくるAを俺はずっと見ていた

 

「僕はね、君にずっと会いたかったんだ…数十年も…ずっとずっと…君と話して君と笑って君と日常的な時間を体験したかったのさ」

 

距離が縮まる、敵に近づかれてるのに俺はピクリとも動かない…まるで第三者目線から見てるような…

 

「今までは許されなかった…けどもう僕は自由だ!だから柏崎くん」

 

Aは俺の目の前に来て上半身を折り俺の耳元に顔を近づける

 

「『助けて、柏崎くん』」

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

「柏崎君!起きろ!」

「ぐっ…」

 

思いっきり頬を殴られよろめく…なんだ…?

 

「さっき殴っといて正解だったよ…痛みが継続してるからタヌキさんの殴りでも引き戻せた」

 

拳をさすってるタヌキと降り立った場所から動いていないA…

 

「何が…」

「君は幻覚を見せられてたんだよ…どうにかタヌキさんが目覚めさせたけど」

 

俺が幻覚…?Aを見ると笑顔をこちらに向けている

 

「あちゃー、そこの女性は魔術師だったのか…魔力が少なすぎて気づかなかったよ」

「残念ながらタヌキさんはそちらの幻覚は効かないよー?その類は抵抗できるようにしてるのだ」

 

タヌキは俺の前に立ち右手をAに向ける

 

「これ以上柏崎君に小細工するならタヌキさんが相手するよー?」

「おぉ、怖い怖い…そうだね、おしゃべりより戦った方がいい気がしてきたよ…君がとても‪邪魔だからね」

 

そう言ってローブをはためかせ両手を広げるA

 

『酷使せよ』

 

Aの全身を包むように地面から玉虫色の液体が溢れ出てきてAの顔はドクロの仮面のような形になった玉虫色の液体によって見えなくなる

 

『さぁ始めよう、悪と悪の戦いだ』

 

滴る玉虫色の液体を操りジリジリと距離を詰めてくるA

 

「柏崎君、いけるかな?」

「あ、あぁ…」

 

俺は曖昧な返答しか出来ずにいた、頭の中でずっと響くあの言葉

 

『助けて、柏崎くん』

 

その言葉が何故か、心を苦しめる

 

いったい誰の…言葉だ…?

 




どうも、今回の件を続けて書こうか悩んだ私です

今回は明日の為に少し短め、明日はとうとうAの実力がいかなものか判明します。お楽しみに

では明日、また次の話で会いましょう


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第60話『魔術師vsエイレーネー』

 

 

場所、日月学園屋上

時間、午後20時

人物、柏崎、タヌキ、A

タイムリミット、約1時間

 

──────────────────────

 

魔術師…今まで戦った事はあるが大体は前衛の後ろで呪文を使ってくるぐらいだった、接近戦に持ち込めば勝機はある

ナイフを構えタヌキの横に並びAとの距離を詰める…が、予想外の事が起きた

 

『そっちから来ないなら僕から行くよっと!』

 

Aは一気にこちらに向かって来て右手を突き出してくる、その手には玉虫色の液体が滴っておりAが右手を突き出した瞬間鋭利な刃物にへとその姿を変える

 

「なっ!?」

 

咄嗟に仰け反るようにして避けるが左手からの攻撃も迫ってきている

 

『酷使せよ!障壁!』

 

タヌキが呪文を唱えた瞬間Aの攻撃と俺の間にシールドのような見えない壁が構築され俺は事なきを得た

 

『酷使せよ』

 

Aが呪文を唱えた、がタヌキとは違いその後がない…

 

「柏崎君!」

「っぶね!」

 

地面から玉虫色の液体が尖った棘のような形でせり上がってきたがタヌキの声にギリギリ反応して串刺しにはならずに済んだ

バックステップの要領でAと距離をとる

 

「タヌキ助かった!」

「気をつけてねー…この人詠唱を端折ってるよー…」

 

詠唱を短くしてるのか…?そんな事が可能なら素早く反応しなければ串刺しになるじゃないか!

 

「今度はこっちから行かせてもらうぜ!」

 

左回りでAに接近してナイフを一閃、だが玉虫色の液体に阻まれナイフが通らない

 

「いくよー!」

 

『酷使せよ!万物の兵士!』

 

タヌキが呪文を唱えると屋上のフェンスがひとりでに動きだして人型のような形になる、それが3体分出来上がりAを囲むように配置される

 

『数が増えても形だけのもので勝てるとでも?』

 

そう言ってAは両手を横に広げ

 

『酷使せよ』

 

呪文を唱え、その手にいた玉虫色の液体を伸ばす

そしてムチのような形態になった玉虫色の液体は意思のある生物のように高速で動いたと思ったらフェンスで出来た兵士はバラバラにされてしまった

 

「なっ…」

『残念ながら無意味なんだなー、これが』

「なら、これならどうだっ!」

 

玉虫色の液体を伸ばした状態でタヌキの方を向いていたAに張り付くように接近してナイフを横切りする

鈍い音が聞こえ俺はその場を離脱してAから離れる

 

『危ない危ない…あと少しで切腹されるところだったよ』

「…そうかな?」

 

俺はナイフの刃を見る、先っちょのほんの数ミリ…赤い血が付着していた

 

「そんな変な色の液体を体に付けてるわりには普通に血の色なんだな」

『…………………』

 

ナイフの先端を見せるように前にナイフを持っていくとAは黙り込んで動かなくなる

 

「…ん?なんだ、まさかあれか?1度も傷ついた事ないのにーってやつか?」

 

そう問いかけるがAは何も言わず…両手を天に向ける

 

『ははははははは!!!いやぁ…流石だよ柏崎くん…君は凄い…その通りだよ、僕はこの君が言う変な色の液体で守られててね…僕に傷を付けたの君が初めてかもしれないね』

 

本当に傷ついた事ないの人だったー…いるもんだな…

 

『あぁ…やっぱりダメだ…無理だ…』

 

ドクロの仮面のようにっている玉虫色の液体の上から両手で顔を覆う、そして震えるように肩を揺らす

 

「…?」

『あぁごめんこっちの事だ…いや、君の事かな』

 

そう言ってAはゆっくりと俺に『右手を向ける』

 

「おっと!タヌキさんがいる限り柏崎君に魔術は使わせないよー!」

 

そう言ってタヌキは俺とAの間に立ちAに右手を向ける

 

『あぁ、大丈夫…君には『僕をとめられない』』

『酷使せよ』

 

突然、沈むような感覚が足元からした…下を向くと玉虫色の液体が水溜まりのように…

 

「柏崎君!くそっ!『酷使せよ!万物の手!』」

 

タヌキの服の袖から様々な小道具等が伸びてきて俺の手に絡まる…が、玉虫色の液体がそれを切断して俺は一気に沈んでいく

 

「くそっ!タヌキ!エイレーネーに逃げろ!俺に構うな…」

 

最後まで言えず俺は液体の中に頭まで沈んでいってしまう

 

───────────────────────

 

「柏崎君!」

 

タヌキは完全にただの地面になった床に魔術を酷使させる、だがもう柏崎の魔力を辿れなかった

 

「…柏崎君をどこにやったのかな?」

 

ゆっくりと振り向きAを見る、Aは右手を向けた状態からゆっくりと腕を下ろしてドクロの仮面を剥がす

 

「ちょっと彼には色々とね…それに僕はやっぱり柏崎くんを殺せないよ、友達だからね」

「友達がこんな魔術師なら私は絶交するね」

「何とでも言うがいい、君はどうせ死ぬ」

 

Aは右手をタヌキに向ける

 

「…柏崎君、早く帰ってきて」

 

タヌキもAに右手を向け魔術を酷使させる

 




どうも、話の続け方を完全に間違えた私です、昨日のを続けて書いときゃ良かった…

今回は戦闘開始そうそう主人公フェイドアウト、あれ?おかしいな…

では明日、また次の話で会いましょう


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第61話『特殊部隊』

 

場所、日月学園近く街道

時間、午後20時20分

人物、エイレーネー支援部隊工作部隊、計16部隊

特殊部隊、計5名、エン、カクロ

超人、須郷雅弘、涼風緋彩、道華翔太郎、岡園誠

タイムリミット、残り40分

 

────────────────────────

 

「行くぞ緋彩!」

「あぁ!行こう翔太郎!」

 

超人2人が化物の群れに突撃して行き迫ってきていた全ての敵を蹴散らす、だが2人の力を持ってしても奥にいる化物を生み出し続けている場所まで行くには力不足だ

 

「総員一斉砲火準備!構え!撃てーっ!」

 

負傷者や戦闘不能になった味方を囲むように陣形を作り近寄ってくる化物に弾をばら撒く兵士達、ただ熟練度が足りないせいか命中精度も低く良くて近寄るのを倒す程度に留まっている

 

『おいおい!やべぇじゃないか?!』

「口動かす暇あったら体動かせ!俺とお前がここを離れる訳にはいかねぇんだよ!」

 

須郷雅弘と岡園誠はお互いのパワーとタフさを武器に1番敵が多く攻めてくる化物を生み出し続けている場所の正面に陣取って戦っていた、敵は数を割いて囲むように動いており他のサポートに行きたかったが…ここから2人が動くと一気に押し負けてしまう

 

『けどよ!あの気持ち悪ぃ手がめっちゃ生えた化物も来てんだぞ!』

「あいつらがいる、俺達はここで踏ん張るんだ!」

 

以前超人達と戦った白い化物…あのミニサイズ版のようなものが数多く出現し全方向から攻めてきてるが第1特殊部隊の面々によって抑えられている…が、どこが崩壊すれば全滅するのは時間の問題だろう

 

「くそっ!青葉!何か手はないのか!」

 

須郷は自分の後方にいる支援部隊の通信兵に向かって言う、その手には通信機が握られておりその向こう側にいる青葉にも須郷の声が聞こえていた

 

「…(まずい状況ですね…エイレーネーの人達が邪魔すぎる…けど居なかったら雅弘さん達が押し負ける…強くないが確実に雅弘さん達の援護を効果的に作用させてる…)」

 

青葉の当初の作戦は簡単なもので超人のパワーで相手の拠点をぶっ壊す事だった、小細工なんてない純粋な力が一番手っ取り早く

そして効果的だと思っていた…実際に最初はかなり前線を押し上げれていたが…

 

「…(敵が質ではなく『量』で攻めてくるとは…)」

 

報告によると敵の行進が明らかに衰えたが最初の倍以上の数になってきていた、つまり知性があるのか…はたまた本能か…物量という力技でこちらの作戦を押し返したのだ

 

「…(まずい…考えろ…死ぬ気で考えろ…思考を止めるな…)」

 

個は量に勝てない、青葉の頭の中で占められてる言葉はただ一つ

 

『勝てない』

 

どんな戦略も、小細工も、物量の前では無意味…どこかにこの状況を打破できる作戦がある人がいるなら出てきて欲しかった…自分のミスで誰かが死ぬ、それがとても辛く自分が恥ずかしく思えた…だから

 

「物量には物量を…では皆さん行きましょうか」

 

そう言って同じ車に乗っていた者達に振り向きながら言う青葉の顔には確信した作られてない本当の笑顔があった

 

─────────────────────

 

「根性ぉぉぉぉぉ!!!」

 

白い化物と掴み合いになり能力を発動させる、化物の手は能力の力により粉々に砕けるがここで宮島の体に異変が起きる

 

「な…もう時間切れか!?」

 

能力を使用してかれこれ12分…気合いで2分伸ばしたが能力の使用時間が限界に達していた

それを予測してか見て判断したのか、白い化物の集団はニタァと笑い一斉に宮島に飛かかる

 

「宮島、頭を下げろ!」

「っ!」

 

突然の声に頭を下げる、すると頭上を何かが空気を切り白い化物達はバラバラになっていた

 

「能力が切れたのなら邪魔だ!下がれ!」

「…っ!…後は頼んだぜ、宮本!」

 

日本刀に付着した玉虫色の液体を振り落とし鞘に戻す宮本は後退して行く宮島の後ろ姿を見ながら目の前を向く、どんどん白い化物の数は増え囲まれそうだ

 

「逃げるのも戦略…だ!」

 

宮本は全力でUターンして戻る

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

『須郷!そっち行ったぞ!』

「おう!須郷流、『震破激烈拳』!」

 

須郷が1匹の白い化物の顔を殴り、吹き飛ばす

その後ろにいた白い化物…そして眼球のような化物もまとめて吹き飛ばされ破裂する

 

『お前…そんな技あるなら早く使えよ!』

「また修行中だったんだ、それに精度が甘い…親父なら地面ごと破壊してたな」

『こわっ…須郷家に近寄らないでおこう…』

 

須郷と誠はお互いの背を守りながら戦っていたが限界が近い

 

『はぁ…はぁ…なぁ…なんか増えてね?』

「…さっきの倍くらい…か…」

 

ゆっくりと増えていく化物の集団、エイレーネーの兵士達は未だに戦ってるが…弾が尽きかけてるようだ

 

「ここまでか…」

『…おい!何諦めてんだよ!』

 

須郷は背中に軽い衝撃を感じて目線を後ろに向ける、背中を任せていた誠が手の甲で須郷の背中を叩き装甲の仮面の下から鋭い目が見える

 

『諦めるんじゃねぇよ、お前はあそこに大切な奴がいるんだろ!』

「………」

 

誠の拳は震え何かをこらえるようにその拳を自分の目の前に持っていく

 

『守るもんがあるなら戦え、死ぬ気で守れ…いなくなった後じゃもう守る事はできねぇんだよ』

「………はっ、言うじゃねぇか」

 

誠と須郷はお互いの拳を敵に向けて構える

 

「よぉ、手伝うぜ?」

「いやぁ…疲れるね、ボクもそろそろ特攻しようと思ってたんだよ」

 

その後ろに翔太郎と緋彩の姿が現れる、どうやら姿を消してたようだ

 

「勝てる確率は?」

「多く見積って…1割未満じゃねぇか?」

「少な!そんなの賭けだよ!?」

『賭けるしかねぇよ…俺達はよ』

 

化物達は超人達を囲むように動き、ここで倒すつもりなのだろう…超人達も各々拳を構え、跳躍する準備をして、徐々に透明になり、覚悟を決める

 

 

 

「はーい、皆さんフラッシュにお気をつけて〜」

 

そんな声が聞こえてきたと思った瞬間、眩い光がこの暗闇を照らす

超人達はどうにか超人の反射神経で瞼を閉じるがそれでも目が痛いくらいだ…そして光の後に響く化物達の悲鳴、何かを潰す音

 

「な、何が起きてやがる!」

「落ち着いてください、敵ではないですよ」

 

その声はここにいるはずもない人物で…

 

「青葉!?」

「ども!毎度おなじみ長内青葉です」

 

魔改造されたカメラを手に決めポーズをする青葉がそこには立っていた

 

「青葉?!なんでここにいるんだい!?」

「おや?私がここにいたら何か不都合でも?」

「いや、そうではないけどさぁ!」

 

青葉に遊ばれる緋彩だが…青葉以外にも『いる』

 

 

よく見ればエイレーネーの兵士達がいる所にも『いる』

その人物達は全員黒迷彩にガスマスク、ヘルメット…そして全身に装備を装着したエイレーネー兵士に思えだかそれぞれ特徴があった

 

今目の前で化物達を棒に様々な動物の牙などを付けたもので殴り潰してる集団は全身ボロボロで野生感が溢れ右二の腕に狼のマークが書かれていた

 

エイレーネー兵士達の近くにいる集団の1つは化物達の間を縫うように進みすれ違いざまに白い化物は首を、眼球のような化物は目を、折られ潰され倒されていく

 

ある集団は負傷者達に尋常ではない速さで治療を行いそのヘルメットの上には可愛らしい兎耳が付いている

 

ある集団はお互いに等間隔で並んで何かを唱えている、その身に白色のローブを纏い全員が『魔術師』にも見えなくはない…

 

『第2特殊部隊『ウルフ』!作戦区域に到着!殲滅するぜ!』

『第3特殊部隊『スネーク』…同じく到着…サポートを開始する』

『だ、第4特殊部隊『ラビット』!ちちちちち、治療を開始しましゅ!』

『第5特殊部隊『ブラックキャット』…ふふ、始めるわよ…『酷使する!』』

 

狼、蛇、兎、黒猫のマークが二の腕に付いているエイレーネー特殊部隊の上位

 

化物達がどんどん倒され、行動不能になり、兵士達は支部に搬送され、至る所で炎や雷が落ちる

 

「な…なんだ…こりゃ…」

「エイレーネーの方々ですよ?まぁ本当に強いの第5までらしいですが」

 

普通に言う青葉だが、誠は理解できない事だらけだった

 

『ま、まて青葉!確か特殊部隊の奴らって来れないんじゃ…』

「間に合わないだけで来れない訳では無いんですよ実は」

 

そう言ってある方を指さす

 

「彼が今回の大手柄です」

 

そう言った後ゆっくりとやって来たのは…

 

「んふふふ、どうも皆さんお久しぶりですねぇ?」

「…誰だこいつ」

「わっかんね」

「誰この人」

『成金っぽいな…』

「こわーい」

 

言われ放題である

 

「ちょっと君達!私を忘れるとは酷いですね!あと青葉さんはわざとですよね?!」

 

恰幅のいい男…金田金郎、錬金術師であり大手宝石店社長でもある

 

「んで、なんでてめぇが?」

「口が悪いですね…まぁ一言で言うならパシられました」

「人聞きが悪いですね〜、私は柏崎さんに心配すらされず誰からも気づかれなかった金郎さんを有効活用しようと…」

「失礼ですねぇ!?」

 

金郎は悔しそうに拳を地面に叩きつける

 

「くぅ…私柏崎さんとは友達かなーと思ってたのに…」

「まぁ暇そうだった金郎さんに頼みエイレーネーの特殊部隊の人達を呼んでもらった感じですね」

「人使い荒いんですよこの超人、確かに私は『扉』を作れますけど錬金術師ですから燃費悪いんですよ?」

 

文句を垂れる金郎を無視して青葉は超人達に向く

 

「あと助っ人を呼んでもらいました…人ではないですけど」

「助っ人だと…?」

 

青葉が金郎に何か合図すると金郎は紙を取り出し地面に広げる、サイズはB4くらいだろうか?様々な模様が書かれている

そして金郎は『祈る』、ふざけもなくただただ…『祈る』

 

『猫神様、我らが神よ…私めらをお救い下さい…』

 

そう金郎が祈りながら呟く…

 

『よいだろう』

 

金郎周辺にいる人達全員にその返答が聞こえ、紙は光り輝く

光が弱くなると紙の上に座っている1匹の黒猫…『猫神』が降りてくる

 

『…ふむ、ここはかなり不安定な場所のようだ…ん?』

 

周囲を見てた猫神はふと、遠くから走ってくる何かが目に入った

 

「ニャッ!」

 

猫神に当たるか当たらないかのギリギリで急ブレーキをするように止まるのは猫神の子、カクロ

その目はまるで実家から一人暮らしになり久しぶりに親に会ったような…そんな目だ

 

『…我が娘よ、何故ここにいる?あの小僧は何処だ』

「柏崎さんは今別の場所にいますよ、離れ離れだったんです」

『…そうか』

 

猫神はゆっくりとカクロの方を向きその目を見る、カクロも同じように見返す

 

『我が娘よ、あの小僧の元に向かいなさい…猫神の加護がなければあの小僧も苦戦するであろう』

「…ニャッ!」

『む?…そうか…』

 

猫神とその子の会話?を聞きながら誠は青葉に聞く

 

『な、なぁ…何話してんだあれ?』

「さぁ…私猫語分からないので…」

「カクロ様は、自分の名で呼べと言っておられるのですよ」

 

金郎が2人の疑問に答える

 

『…我が娘、カクロ!あの小僧の元に向かい力を貸してやりなさい、ここは私が場を収めよう』

「…!ニャ!」

 

カクロはテテテッとかけて行く、その向かってる先は日月学園

 

『…では始めよう』

 

猫神が超人達の方を向き、何かを呟く

すると誠、須郷、翔太郎、緋彩は体の奥底から力が湧くような感覚になる

 

『な、なんだこりゃ…力が…』

「猫神様の加護ですよ、んふふふ…猫神様が言うには加護を与えるのは数十年ぶりらしいので若者風に言うならレアですねぇ…」

 

「…よし!行くぞお前ら!」

「おう!」

「さぁ、行こう!」

「あ、私は応援しときますので」

『おうよ!』

 

事態は加速していく




どうも、1日休み疲れが取れたり取れなかったりしてる私です

今回の話は第1以外の特殊部隊の登場と猫神ちょい久しぶりの登場です
ちゃんと柏崎達以外にもいるんですよ!特殊部隊!まぁ1番最初の設定作りではいませんでしたけど

では明日、また次の話で会いましょう


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第62話『死を司る神』

ぼんやりとした頭で考える…

今俺はどこにいる?敵は?Aは?タヌキは?皆は?

思考が暗い深海で浮かんでるような感覚の中、俺は意識を覚醒させる

 

────────────────────

 

「…ん?どこだ…ここ」

 

見えるのは暗い空間にちゃぶ台にテレビ…あれ?既視感があるな…

 

「…あのクソ野郎またここに呼びやがったな」

 

あのテレビの中にいた子供、のような体型のマネキンみたいなもんだか…あいつ2度目だぞ

 

「チェストー!」

 

とりあえずブラウン管テレビはななめ45°ってばっちゃんが言ってた

 

『ちょっと、テレビ見えないんだけど』

「あ、すまん…って、誰!?」

 

人が必死にブラウン管テレビに必殺ななめしてると後ろから声をかけられた、振り向くとちゃぶ台の下に下半身を入れ寝っ転がりテレビを方を肘をつきながら煎餅を齧ってる女性…黒と白が入り交じった長髪に黒目、一見すれば日本人に見えるが…

 

『貴方がそこにいるから見えないって言ってるじゃない』

「す、すみません…」

 

とりあえずブラウン管テレビから下がって謝っとく

 

『いい子いい子、私の信者になる?』

「何の信者かは知らないけど入りたくはないな」

 

あぁ…嫌な予感する…こんな時の予感って良く当たるんだよな…

 

『しっかし…面倒ねぇ…私の可愛い信者君が私を地球に来させようとしてるけど実際行ってもね』

「…あ、あんた…誰だ?何者なんだ?」

 

今ので確信した、こいつは

 

『死に関する神よ、まぁ今は貴方が狂わないように人型になってるけど』

 

今回の敵であるAの信仰する対象であり、あの玉虫色の化物達の親分とも言える人物…いや、『存在』がそこに寝転がっていた

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

『そんな事より座る?飲み物は出ないけど』

「あ、んじゃお言葉に甘えて…」

 

座って一息つく、はぁ…最近まともに座ったのいつだろ…ずっと戦ってるような気がする…あれ、俺何してたんだっけ…なんか急がないと行けなかった気がするけど…

 

『Aに君の記憶戻すよう言われてるから、早速始めようか』

「記憶?俺は特に何か忘れてる様なことは…いや、まぁ人だから忘れるのは当たり前だけど」

『あぁ違う違う、ここは記憶がどんどん薄れていくけど埋もれた記憶を引き出す事が出来てね、本人すら忘れた事も見れるんだよ』

 

へぇ〜…まぁ忘れるなんて…

 

『んじゃ、やってみよう』

 

リモコンを取り操作をしながら俺の方を見てくる

 

「…なぁ、俺何忘れてんだ?」

『さぁ?けど私なりに順序よく探していくしかないよ』

「お前なりに?」

『死を司る神…まぁAの事だから目的はそこじゃないだろうけど』

 

そう言ってテレビが砂嵐になったと思ったらゆっくりと砂嵐が消えていき画面がハッキリする

 

『ん、これかなり最近だね』

 

そこに写ってたのは壁に寄りかかって倒れている糸目のスーツ姿の男…何処かで見たなぁ…

 

『…ん?あぁ、ここからは…ダイジェストでいこうか』

 

そう言ってチャンネルを変える…

 

 

『お前のせいで、父上は…!』

 

誰だろうか、日本刀を手に画面の中の俺に日本刀を向けてるのは

 

『なぁ…なんで兄貴が死ななきゃならねぇんだよ!答えろよ!なぁ!』

 

赤い髪の男は画面の中の俺の襟を掴み揺さぶっている、その隣にはよく似ている男が倒れており俺の愛用してたナイフが突き刺さっていた

 

『…貴方の行いにとやかく言う気はありませんが…私はいつでも貴方の頭に照準を合わせてますのでお忘れなく』

 

青い髪の男の周囲には自衛隊だろうか…多くの人々の遺体が倒れている、画面の中の俺は最後の1人にトドメを刺してるようだ

 

『ふふふ…私の復讐に首を突っ込むなんて…貴方も私を苦しめるのかしら?』

 

薄いピンク髪の少女が椅子に縛り付け女性の爪を剥がしやがら画面の中にいる俺に問いかける

 

『…ありがとう…ございます…』

 

白髪の少女は必死に笑顔を作っていた、その手には2人の男女の遺影を持ち…原因の男に向け感謝を…

 

 

 

 

 

場面がまた変わる、雨だろうか…ザーッと雨粒が地面に当たる音がまるでそこにいるような感覚にさせる…

画面の中央には4人の人物がいた、1人はヘルメットにガスマスクを付けており素顔が分からないが男性のようだ…地面に膝をついてその手にはぐったりと動かくなってる女性が抱きかかえられていた

 

『…柏崎…俺はもう無理だ…殺してくれ』

『優人さん、俺は…そんなの無理だ…あんたを殺せない』

『柏崎君…やるしかないっす、もう…人が死に過ぎたっすよ…ここで生かしても優人さんは…』

 

茶髪のツインテールの少女は拳銃を地面に落としながら画面の中の俺にそう言う

 

『…優人さん、俺は貴方みたいに仲間を…作れますかね』

『お前ならできる、柏崎…自分を信じろ…第1特殊部隊の隊長はお前に任せた…』

 

俺はゆっくりとナイフを振り上げ…振り下ろす

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

『これが君だよ、柏崎だっけ?君には大量の死者を殺した罪がその肩に重く乗っかってるのさ』

 

俺はぼんやりとしていく記憶の中で画面の中で起きた事は全部自分の事なのかと…自問自答する…俺は何をしている…?こいつは何をしたい…?

 

『そこで、提案なんだけど…私の信者にならない?君が辛くても死を司る神である私がその罪を軽くしてあげよう』

 

その言葉に俺は地獄に天から垂らされた蜘蛛の糸を見つけたような…そんな救いが目の前にある気がした、目の前の神?が言うにはここでは記憶が薄れるらしい…つまり『テレビであった事は俺がやってた事』になる、そう考えると吐き気が止まらない…何人殺したんだ、俺は?そもそも俺はなんだ…?俺は…

 

 

 

 

『はーい、そこまで…おいお前…あんまうちの奴に手を出すなよ、壊れるだろ』

『こっちは勧誘してたんだけど、邪魔しないでくれない?』

 

突然意識がハッキリとして、記憶が溢れてくる…どうにか気持ちを整理した記憶も取り戻して混乱していた頭を正常に戻す

 

「…あ、お前」

『僕とあろう者が何敵宗教に負けそうになってるんだよ、やっばり人間の精神は脆いなぁ…』

『分かる、最近の人間はすぐ壊れるんだから』

 

白い化物の戦いの時…ここと似たような暗い空間に呼び出してテレビの中にいた…小さな子供っぽい体型の黒い人型の何かだ、こいつ…テレビから出てこれるのかよ…

 

『あ、そうそう…君が本当に見るべきなのはこっちだよこっち』

 

そう言って死を司る神の手からリモコンを奪い取りチャンネルを変える

 

「おい!変な事したらただじゃ…おか…ない…」

 

テレビで流れたのは2人の少年が遊んでる風景だ、1人は本が読みたいが仕方なく付き合うように金髪の少年について行き…金髪の少年は冒険だと言って無理やり茶髪の少年の手を引っ張る…小さい頃の俺と…誰だろうか…?

 

『ま、待ってよ柏崎くん!』

『おっせーぞ!────!』

 

小さい頃の俺はもう1人の少年の名前を言ったと思うんだが…何故か聞こえない

 

「…おいおい、不良品か?」

『違うよ、君が思い出せないだけさ』

『そうそう、柏崎は…っと今流れてるね』

 

そう言って見るように促してくる、俺は画面を見ると黒いローブの男が茶髪の少年を小脇に抱えて小さい頃の俺を魔術で吹き飛ばした所だった

何度も吹き飛び死んだ筈だが何度も起き上がる小さい頃の俺に業を煮やしたのか頭を掴み何か呪文を唱える

 

『あれは記憶を書き換える魔術だね、あの男は魔術が弱かったがこの魔術でのし上がったとも言えるね』

 

男は倒れた俺を見て満足そうな顔になり小脇に抱えた少年を連れていく、少年は目に涙をためて俺に言う

 

『助けて、柏崎くん!』

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

『はい、思い出せた?』

 

黒い子供…?は俺に問いかける、思い出せた…か…

 

「…知らないな、んじゃ俺はそろそろ戻る…タヌキが心配だしな」

『あっそ、んじゃ勝手にどうぞー』

 

柏崎はそう言って最初からそこに居なかったように消える

 

『次うちのを引き抜こうとしたら潰すからね?』

『はっ!言うじゃん、私より2日くらい早く神になれたからって偉そうね』

 

黒い子供と黒と白の髪が入り乱れる少女は睨み合いお互いため息を吐く

 

『…ま、どうなるかは彼ら次第だから僕達が何しても意味無いからなぁ…』

『嘘つき、さっき帰らせる前に何か与えたでしょ』

『元々渡す予定だったの、まぁ使い方は気づくでしょ』

 

そう言って黒い子供はテレビの中に入っていきこの空間には死を司る神のみになった

 

『…ごめんねA、貴方の願いは私じゃ叶えられそうにないよ』

 

そう言って思い出すようにリモコンを操作してテレビをつける

画面に流れるのは1人の少女と少年、少女はやせ細り少年は泣きじゃくって怯えていた

 

『…何泣いてるのよ』

『だ、だって…君は近くの集落で死神って言われてる…』

『あぁ?』

『ピィ!?』

 

黒と白の毛が入り交じった髪を掻きむしりながら少女は何かを考えるがふらっと倒れてしまう

 

『だ、大丈夫!?』

『あー…お腹空いた…このまま私死ぬのかなー…』

『えぇ?!ぼ、僕何も持ってないよぉ…』

 

オロオロする少年、ぼーっとしてると少女は名案を思いついたように口の端を上げる

 

『そうだ、貴方…私の信者にならない?』

『し、信者…?』

『そう!昔何処かで聞いたんだけど私みたいなのって信仰されると神様になれるのよ!』

『か、神様…?けど君死神…』

『あれは関わった人達が勝手に死んでるだけよ!』

『ピィ!?』

 

突然の大声に少年は肩が跳ね上がり震える

 

『どうするの!なるの?ならないの!?』

『け、けど…僕…あ、そうだ…神様になったら何でも出来るの?』

『え?う、うん…そうよ!』

 

突然汗を滝のように流してるが少年は気づかない

 

『なら…あの、僕友達がいたんだけど悪い大人の人に記憶が消されちゃったらしくて…あの…その…神様なら記憶戻してあげる事出来る!?』

『…あ、え、えぇ!出来るわよ!』

『わーい!なら僕、信者になる!』

 

少年は少女の手を取り『信仰』をする

 

 

 

 

 

『はぁ…駄目な神様だなぁ…』

 

 

誰もいない空間で1人溜息を吐く神に気づくものはいない




どうも、今回ちょっと話の流れが早くないか心配な私です

そう言えば最近友人が小説投稿再開したらしいです、まぁ意地でも宣伝しませんがね!しないからな!!!!!
あ、あとさっき見たらUAが1111だったんですよね、ありがとうございます

では明日、また次の話で会いましょう


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第63話『ラストダンス』

誰かの為に戦い

親友の為に自分を殺し

 

血反吐を吐くような訓練を耐え

血反吐を吐くような呪文を繰り返し

 

その末に辿り着いたのがここなら

その末に辿り着いてしまったのがここなら

 

天国のような場所なのかもしれない…

地獄だ

 

──────────────────────

 

「あれ?もうおしまいかい?やっぱり魔力量が少ないと持って15分か」

「…何言ってるのかなー?タヌキさんはまだ負けてはないよー?」

 

膝をつき肩の傷口を手で圧迫させ止血する、全身ボロボロで視界も掠れて見えるがまだ『戦える』…タヌキは鈍っていく思考を回転させこの状況を打開させる作戦を考える

 

「今君の周りには眷属を配置させてる、僕の合図1つで君は串刺しになるって事は理解できるかな?」

「さっぱりだねー、まだ負ける要素にはなりきれてないよー?」

 

残り時間は5分程度…残り5分で『地獄』が始まる、柏崎は戻ってこない…向こうではまだ戦闘が続いており誰も来るはずがない

万事休す…と諦めるのは嫌いだった、だから負けを認める事はできない

 

「はぁ…諦めが悪い…それに僕を倒した所でこの現象は終わらないよ?」

「っ!?」

 

タヌキがずっと戦っていた理由、格上の敵に勝てないと分かっていても戦闘を続けていたのは魔力切れを狙っていたのだ

元々『神降ろしの儀式』は膨大な魔力を必要として1人でやろうとしても無理で普通は大人数で集中しなければならない

 

が、目の前の男は1人で行っていた

つまり膨大な魔力を保持して尚且つ儀式に魔力を供給してるのなら魔力切れを起こさせる…これがタヌキの狙いだった

 

「君は僕が1人でやってると思ったかい?残念ながら準備は柏崎君が詐欺組織を壊滅させた時から既に始まってたのさ」

 

詐欺組織、街にやって来て騒ぎを起こしエイレーネーに消された…

 

「人が亡くなればそこには僕の神様の眷属が生み出される、そしてその眷属は街を囲むように配置され…あとは僕が様々な方法でかき乱すだけだ」

 

そう言ってAは人差し指を立てる

 

「まずは超人に恨みがある連中を操り超人と衝突させ、眷属を作り、そして街を攻撃する」

 

2本目の指を立てる

 

「そして大手宝石店の主催された展示会で暴れさせ、街の人々に不安を植え付ける」

 

3本目の指を立てる

 

「最後は超人に覚醒する前の可哀想な少年に夢と希望を与える、そして僕は堂々と『儀式』の準備をする」

「…それだけではその魔力量は説明がつかないなー?」

「まぁ落ち着けよ、どうせ後…4分程度かな?そんな命だ」

 

そう言って4本目を立てる

 

「『儀式』には大量の魔力を使用する…僕でもそこまで多くはないから『街の人々』から貰ったのさ」

 

最後に5本目を立てる

 

「人々の『恐怖、不安、悲しみ、嫉妬、苦しみ…罪悪感』それは僕の神様にとっては『魔力』になりうるのさ、皆は許されたい、僕は魔力が欲しい…だから僕が『許されるように』してあげて『魔力』を貰ってたんだ」

 

街の人口は軽く都市部以上いる、その全員から少しずつ貰ったとしても軽く数百人分の魔力量になる

 

「悲しいよね、僕もここまで魔力が集まる事に気づいた時は驚いたよ…皆我慢して辛い思いして生きてるのが丸分かり…だから僕が『楽にしてやろう』」

 

そう言ってAは時計を見る、時刻は20時57分…神降ろしの儀式完了まであと3分

 

「…さぁ君はどうする?このままここに居ても…」

 

タヌキに笑顔を向け話しかけたAの足を地面に広がってた玉虫色の液体から出てきた『手』が掴む

驚きながらも何かを確信したようなAはその手を掴み引っ張る

 

「……ぷはぁ!うぷっ…」

 

玉虫色の液体から出てきたのは柏崎悟だった、口と鼻から玉虫色の液体を吐き出しむせている

 

「柏崎君!」

「あぁ…柏崎くん…君が戻って来たって事は…思い出したんだね…」

 

Aはむせている柏崎の顔を見るように両膝をついて背中に手を置いてさすってあげる

 

「…あぁ、久しぶりだな…」

「柏崎くん…!」

 

Aは嬉しそうに顔を明るくして柏崎に抱きつく

 

「嬉しいよ…また遊ぼう、最近いい本を見つけたんだ…君ならきっと気に入ってくれるよ、あと僕の友達がいるんだ!君が僕を忘れてた時ずっと一緒にいてくれて僕を助けてくれたんだ、君にも合わせたいんだ!僕達が揃えばきっと…」

「あぁ…それは楽しそうだな…けど」

 

柏崎は言葉を止める

 

「けど?」

 

Aは不思議そうに柏崎の顔を見ようと顔を下げる

 

「けどな…それは先の話だよっ!」

 

柏崎の渾身の右ストレートがAの頬にクリーンヒットしてAは1m程吹き飛んでいく

 

「お前が誰か知らねーし!まず敵だわ!アホ!お前をぶっ倒してこの儀式終わらせてその後じっくり拷問部屋で聞いてやるよ!」

 

倒れているAに指をさして怒りの表情で言う

 

「あとこの玉虫色の液体の味凄く不味いんだけど!」

 

味が悪いから機嫌が悪いらしい

 

「…あぁ…君は僕を『忘れたままなんだね』」

 

玉虫色の液体がAの体を持ち上げ全身に纏われる

 

「柏崎君!もう時間が無いよー?!」

「あぁ!けどやるっきゃ…っと!」

 

突然何かが飛んできて柏崎が咄嗟にとる、それは黒い刀身が光る柏崎の愛用してるナイフと形が瓜二つの存在

 

「…タイミングバッチリだなカクロ、お前ちょっと待ってたろ」

『ニャッ!』

 

どうやら図星らしい、刀身から冷や汗がポタボタ垂れている

 

「んじゃ、なんか新しい能力あるらしいし…さっさと終わらせるか」

「…君は変わらないね…柏崎くん…さようなら」

 

Aは全身の液体を、柏崎はナイフを構え最後の戦いを始める

 

残り時間、約3分




どうも、今日の後書きはおやすみです

明日、また会いましょう


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第64話『ファースト・オブ・バレット』

 

元々は違う部隊名だった、だが俺が第1特殊部隊の隊長になって部隊名を考える時…俺は1人だった

天田もいたが怪我の影響で前線に立てずオペレーターに転職した、1人だけの部隊…いわく付きの部隊…誰もそこに入ろうとはせず…

 

俺は1人でもいいと思っていた、生半可な奴が部隊に来るくらいならむしろ1人の方が気楽ではあった

ただ…

矢本が部隊に入り副隊長になって

雨宮が、雨森が、宮島が、宮本が、エンが第1特殊部隊に入ってくると何故か居心地が良くなり部隊名を決めるに至った

 

第1特殊部隊『バレット』

 

『ファースト・オブ・バレット』

最初の弾丸、守る為に…もしくは後々の奴らが倒しやすいように俺が戦う

例え死んでしまったとしても守れればそれでいい、撃った弾は強力だが帰ってくることはない…そういう意図で部隊名を『バレット』にしたのを知ってる者はいない…はず

タヌキと天田と支部長くらいにはバレてるかもしれない

 

さて、鉄砲玉は鉄砲玉らしく敵を倒すとしますか

 

──────────────────────

 

お互いの武器を構えていたが、突然Aが構えを解く

 

「…ん?なんだ?降参か?」

「そんな訳ないだろう?…僕は君を知ってるけど君は僕を知らないと思ってね、自己紹介をしようと思う」

 

そう言ってAは両手を広げ不敵に笑う

 

「僕はAさん、大魔術師が集う『6席会』の『6席目』であり死を司る神の宗教、ナイトウォーカーの教祖だ」

 

Aは俺に目線を向ける、やれってこと?しょうがないな…

 

「…柏崎悟、エイレーネー日本支部 第1特殊部隊『バレット』隊長、無宗教だ」

「うん、なんかそれっぽくなったね」

 

Aと柏崎は何故か少しワクワクしたようで体を揺らしてる

タヌキはちょっと分からなかった

 

「…さて…正義執行の時間だ」

 

ナイフを構え、液体を振るい…魔術師とエイレーネーの戦いの火蓋が切って落とされた

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

タヌキの予想時間であり神降ろしの儀式完了まであと2分くらい…スピーディーにそして確実にAを倒す必要がある

 

「…カクロ、全力で行くぞ」

 

俺の問いかけに応じるようにカクロから俺の中に暖かい何かが流れてくる、そして体を包むように力が湧き体が軽く感じる

本当は調整がまだ上手くできないカクロの為に魔力を温存するのだが…時間が無い、一気に魔力を送り身体能力強化に

 

「へぇ、そのナイフは加護を持ってるんだね」

「言っとくがこの状態になれば俺は負けないぞ」

「言うねぇ、んじゃ始めようか」

 

そう言ってAは手首を動かして指を上に向けた

すると下から殺気を感じ、俺は横に回避し避けると俺が立っていた場所には玉虫色の槍が生えていた

 

「くそっ!詠唱は必要なかったのかよ!」

「手の内はあまり見せたくはないからね〜、ほら避けないと串刺しだよ?」

 

そう言ってAは手を横に振る、俺がいた場所にどんどん槍が地面から生え何度か当たる寸前のもチラホラあった

いつもの俺なら5秒とかからず串刺しだろう、だが

 

「俺にはこいつがいる、いくぞ!カクロ!」

『ニャッ!』

 

カクロから流れてくる感覚と共に走る一歩にかけられる力が増えていく、視力は遠くの物も見えそうな程高められAの動作の一つ一つが鮮明に見える

 

「動きが良くなったけど、逃げ場がなかったら意味ないよねっ!」

 

両手を広げ真ん中に向かうように手をクロスさせるように腕を上に上げた、すると俺を囲むように玉虫色の棘が飛び出て向かってくる

 

「ほら、避けてみろよ」

 

360°全ての方角から飛んでくる棘の集合体、ナイフを構え1番生き残れる選択を考え当たる寸前に回転するように棘を切る1番近い棘を切り次に近いのを切り…これはカクロの身体能力強化が無ければ不可能だった、だが今なら出来る

 

「舐めんなぁぁぁぁあ!」

 

棘が密集してない場所を見つけそこに攻撃を集中させ外に飛び出る…が、飛び出た先にはAが立っており腕をこちらに向け笑っていた

 

『酷使せよ、死者の手』

 

地面から大量の手が生え空中にいた俺の足を掴み、俺は地面に叩きつけられ持ち上げられまた叩きつけられる

視界がチカチカし始めて鼻が折れた感触と鼻血が垂れ歯が折れ頭蓋骨に鈍い音がした

 

「ほらほら!どうしたんだい柏崎くん?さっきまでの威勢が台無しじゃないか!」

 

そう言ってさらに玉虫色の液体を出現させ追撃をしようとしているのを視界の端で確認して俺は足を掴んでいる手を切り地面に着地する

 

「あれ?あぁ、それ魔力も宿ってるのね…まぁいいさ、どうせいつか捕まる」

 

玉虫色の液体を操り俺の逃げ道を潰すつもりか左右に壁を作るように玉虫色の液体を配置する

 

「はい、これでチェックメイトだね…さっさと諦めてくれると僕は君を苦しませる事はしないと約束するよ」

 

勝利を確信した顔、油断した顔…絶対的な自信の表れであり『その時を待っていた』

 

 

 

俺は地面を思いっきり蹴り前に前進する、カクロから強化を貰ってはない…だがそれ以上の速度でAまでの距離を埋める

超人緋彩程ではないがそれに迫る瞬発力で近づきナイフを振るう

 

「っ!」

 

Aは咄嗟に体に纏わせている液体をナイフの当たる場所の脇腹に集めるが…カクロは玉虫色の液体をも切り刻む

ナイフは根元まで深く刺さりAは吐血する、このチャンスは逃せない…Aの顔を殴りナイフが刺さった場所を蹴り最後にそのヘラヘラした顔に頭突きをして後方に下がる

 

「…へっ、どうだ?カクロは凄いだろ?お前の自慢の玉虫色の液体は意味を無くしたぜ?」

 

顔を抑えてふらついているAに俺は話しかける、体にかかる負荷が酷い…これが魔力を使い過ぎた状態のようだ…気をつけなければ

 

「…柏崎くん、君は頭蓋骨が割れた筈だ…何故『血が止まってる?』」

 

俺は服の袖で頭の血を拭うと生まれたての赤ん坊のよう…とは言わないが傷一つない綺麗な状態の額が見えることだろう

あの黒いガキが俺に押し付けた能力が生きるとは…

 

「…君の能力は確か押し付けるだったかな…つまり誰かに押し付けたって訳か」

「いや、俺は誰にも押し付けてない」

 

新しくなった能力…それはダメージ等を『一旦保留』できる

という能力のようだ、ま…それだけではないらしい

 

「ほら、避けないと死ぬぞ!」

 

一気に加速してAを翻弄するように移動する

Aは玉虫色の液体を自分の周囲に集め棘を作り周りに飛ばす

俺の体に何本も刺さる棘…それら全部『抜け落ち』俺の体の傷は無くなって『さらに加速する』

 

「っ!さらに身体能力強化系か!」

 

Aは槍を作り出し俺に向け飛ばすが今の速度の俺に当てるのは至難の業だろう

ダメージを負う度に俺の体は『加速』していく、これを使う為には痛みが伴うが…今はそんな事を気にしてる暇はない

 

「くっ!『酷使せよ、障壁!』」

 

飛び掛りナイフを振るう俺とAの間を壁のようなものに阻まれる、これは壊す場合当てないと無理だな…障壁を利用して蹴って後方に飛んで地面にナイフを刺す

 

「…よく分かったね」

「動きが単調になってるぞ、目線でバレバレだ」

 

ナイフを抜きしばらくすると刺した穴から玉虫色の液体が溢れてくる、俺を殺す為に配置してたのだろう

 

「諦めろA、お前はもうおしまいだ」

 

今の俺なら時間をかければAを倒すのは容易だ…だが時間がもうない

 

「…そうかい…大丈夫…僕は負けないよ…」

 

突然Aが下を向き1人言をし始めてる、その顔がよく見えないが…笑ってる…?

 

「柏崎君!上!」

 

避難してたタヌキの声に俺は空を見る、玉虫色の空…そしてここのすぐ真上の色が七色に変色し始める

 

「くそっ!」

 

まだ間に合う筈だ、俺は地面を蹴りAに接近する

 

「大丈夫…僕は…君の信者だから」

 

目の前まで接近出来た俺はナイフを振るいAの喉を狙う

だが、Aはそれを予測してたように俺の腕を掴んで止める

 

「くっ!」

「はい、捕まえた…諦めなよ柏崎くん、君は僕に勝てない…君がどんなに頑張っても僕は強い、君では僕に勝つ事なんて不可能だよ」

 

その肉体では考えられない程の力で動きを封じられ動けない

掴んだ腕を持ち上げ目線を合わせてくる

 

「…あぁ、俺だけじゃ勝てないな…けどな、お前とは違うところがあるんだよ…A…俺にはな」

 

そう言って掴まれてない腕でAの襟を掴む

 

「俺は1人じゃない」

 

次の瞬間、Aの体を有刺鉄線が絡まっていく

ある方向を向くと魔力をギリギリまで使った影響か右手をこちらに向け左手で支え体を肩で息をしてるタヌキの姿が

 

「カクロ!」

 

カクロは俺の右手から離れて子猫の姿に戻り俺の左手でナイフの姿になる

 

「え…」

「耐えろよ?」

 

Aの顎を蹴り上げ、右肘を切り、胸を靴底で蹴って宙返りして地面に着地する

接近して腹を殴り纏っている玉虫色の液体を切り顔を1発殴る

倒れそうになってるAの襟を飛びかかって掴みその勢いのまま地面に倒してナイフを首に添える

 

「ぁ…がっ…」

「A、儀式を止めろ…今すぐにな」

 

ナイフを少しだけ喉を切りつけ脅す

 

「はは…痛いなぁ…柏崎くん…君はやっぱり凄いよ…」

 

そう言ってAはナイフを掴む、手から血が溢れナイフを押し返してきたのだ

 

「…じゃあな」

 

手を切り喉を切り裂く…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまで」

 

俺の手を掴む女性の手…顔を上げると白と黒の髪が入り交じり気だるそうな目で見てくる…その『存在』はあまりにも神々しく…そして見てるだけで

 

『思考が支配されそうになる』

 

 

 

 

 

 

「シャー!」

「カクロ…」

 

端から黒く塗りつぶされていく視界の中、カクロがナイフから子猫の形態に戻り『神』に対して威嚇をする

すると思考が、視界がクリアになっていき頭の中がすっきりしたような感覚になる

 

「…神になりきれてない子供か…A、立てる?」

「あぁ、立てるとも…やっと戻ってこれたね」

「まさか神になった瞬間にこの世界から弾かれるとは思わなかったわ」

 

俺達を無視して全身傷だらけのボロボロなAは立ち上がり『神』と話す

 

「…会いたかった」

「そう、それで?本当にやるの?」

 

『神』は俺の方に手を向ける、するとその背後に大きな門が現れゆっくりと開く…中から大量の玉虫色の手が出てきてまるで俺達をその中に引きずり込もうとしてるようだ

 

「や…やらせない…よ…」

 

足を引きずりながらタヌキが俺の前に立ち両手を広げる、そして薄い障壁を作り上げるが少し殴っただけで壊れそうだ

 

「タヌキ、下がれ」

「柏崎…君」

 

フラフラなタヌキを座らせ『神』とAの方に近寄る

カクロは俺の足から登って俺の肩の上でナイフに変化する

 

「…何をするかは知らないが…止める」

 

勝つのは不可能、本能的にも逃げろと告げているが…逃げれない…いや、逃げたとしても逃げ切れない

 

「A、どうするの」

「…え、あぁ…そうだね」

 

Aは今更ながら疑問に思った、『神』が柏崎の記憶を戻せなかった…?有り得ない…だが目の前にいる柏崎は覚えてない

 

「…A」

「わ、分かってる…分かってるよ…やってくれ」

 

促され、急かされ思わずそう言う…最初の計画通りに

 

 

 

本当にそれでいいのか?親友が殺されるのを見る事ができるのか?

 

 

 

 

 

 

 

「いや…まって…もうやめよう…君が来れたんだ…目的は達成した」

 

伸ばした手を掴み懇願するように言う、死を司る神はその顔を見て溜息を吐く

 

「…帰ろう」

「そうね」

 

空からポタポタと何かが落ちてくる…雨だ、柏崎が空を見ると玉虫色の空ではなく暗い雨雲が見えた

 

Aと死を司る神は屋上のふちギリギリまで歩いていく

 

 

「待て!A!」

 

思わず、そう言って止める

突然戦意を無くして向かっていくAをこのまま行かせるのは、出来なかった

 

「…今度はお前を助けるぞ」

 

何故こんな事を言ったのか、Aは驚いたような顔をして下を向く

 

「…は…そうかい、なら僕は君を待つとしよう!」

 

Aは突然神をお姫様抱っこして柏崎の方を向く

 

「僕はAさん!6席会の6席目にして死を司る神の宗教…ナイトウォーカーの教祖……そして柏崎悟の親友だ、また会おう柏崎くん、次会う時を楽しみにしとくよ」

 

そう言ってAは屋上がそのまま飛び降りていく

見に行くと扉が出現しており扉が閉まって霧散していく

 

───────────────────────

 

「…びっくりした、突然お姫様抱っこってロマンチック?」

「どうだろうね?僕はロマンチックってのがよく分からないからさ」

 

Aは近くにあった椅子に座って窓の外を眺める

 

「こうして地に降り立ったわけだけど…力が殆どないわね…やっぱり地上は力が使いづらい…って、A…貴方泣いてるの?」

 

窓の縁を掴んで震えているA、背中をさすり尋ねる

 

「違うんだ…これは…あれだよ」

「なによ」

「…嬉し泣きだよ」

「変わらないじゃない」

 

Aは目を擦り窓の外を眺める

 

「君は本当に凄いよ…柏崎くん」

 

 

─────────────────────

 

 

「あ、やばい」

「…?どうしたの?柏崎君」

 

降りしきる雨の中柏崎は突然屋上から降りようとして立ち止まる、街や屋上はAと神が居なくなった瞬間…まるで何事も無かったように元通りになっていた…不思議な現象だ

 

「…忘れてた…能力の…」

 

突然俺の体に激痛が走り全身から血が吹き出る、新しい能力…『一旦保留』

効果が切れて今までのダメージが『戻った』

 

「柏崎君!」

 

タヌキは両手を倒れた柏崎に向け呪文を唱える

 

「死なせるもんか…まだ君に返せてない借りがあるんだ!」

 

暗い部屋の中、ただただ生きるだけの人生に光を指してくれた人物…底をついた魔力を捻り出すが全くもって足りない

 

「や、やべぇ…」

 

押し付ける能力は突然の事でどうやって使うのか分からない…死ぬのか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どいて」

 

タヌキの横に誰かが歩いてくる、ガスマスクに金髪で…その姿に見覚えがある

 

「…マヨ…イ…?」

「…死ぬのはまだ早い」

 

そう言って俺の体に手を置く、すると俺の傷が全てなくなってマヨイに『移動された』

 

「マヨイ…お前、いつからそんな事が…」

「…悟は、まだ死ぬ運命じゃない…」

 

そう言ってマヨイはフラフラと立ち上がり屋上から降りていく…どうやら俺は助かったらしい…

 

「…生きてる」

 

 

生きてる事を実感して俺はしばらく降りしきる雨の中屋上で横になった

 

魔術師による神降ろしの儀式は俺と1部の人物以外には

『失敗した』と、公開され今回の事件は幕を閉じる




どうも、最近体調不良な私です

かなり投稿時間遅れましたが…
今回の第64話にて、2章『魔術師』編…完結でございます
明日は後日談とちょっとしたアンケートを


では明日、また次の話で会いましょう


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第65話『後日談』

 

Aによる神降ろしの儀式は『失敗』とされエイレーネー日本支部の功績となった

街の人々は何があったか覚えておらず『良い事』をしてた時の記憶もなかったようで集団心理として処理される

 

支部長、田村さん、特殊部隊の1から5までの部隊、超人達、各国の支部には今回の件の結末を説明したが…

各支部の支部長の判断により今回の件に関しては何かが起きるまで放置となった

 

そして世間的にはそろそろ夏休みになりそうな頃

新しい超人として岡園誠が『ヒーロー』の超人として登録される事になった、今後は『ヒーロー』として認知され慕われるだろう

岡園龍の葬式は身内だけで行われてたらしく俺が気づいた時にはもう終わっていた、まぁ龍はあまり表沙汰にはして欲しくないと言いそうだろうし良かったのだろう

 

あれ以来、タヌキはごく稀にエイレーネー日本支部に遊びに来るようになった

引きこもり脱出の第1歩だろうか?まぁカクロに威嚇されてビビってたけど…怖いよねカクロの威嚇…寝ぼけてる時にやられて俺もビビったもん…あいつ本気で威嚇するし…

 

そう言えば俺がAと戦ってる間に青葉によって特殊部隊の面々が集まってたらしい、1度俺の所に各隊長がやって来て激励と言って煽ってきたので全員ぶん殴っといた

 

何故か金郎がカクロのボディを作っては俺に来るように言ってくるようになった、なんか俺が金郎の身を心配しなかったから拗ねたらしい…子供か

あと猫神も俺に怒ってたのでマタタビを囮に逃げたが猫神って腐っても神らしく逃げれなかった…

 

あれ以来街は平和が戻り今まで通りの日常が戻ってくる、あんな事件があっても世界は変わらずいるんだから変な気持ちにもなるよ

 

──────────────────────

 

「おい須郷!お前ん所の奴がうちの奴と喧嘩したって聞いたぞ!」

「てめぇの所にいる奴がうちの奴らにメンチ切ったのが悪ぃんだよ!」

「まぁまぁ、お二人とも落ち着いて!ほら、エンさんですよ〜」

「み、皆落ち着こ…?ね…?」

 

とある駅前のカフェ、その中で机を挟み立ち上がる誠と須郷とそれを止めようとする青葉とエン

 

「またやってるよ」

「はっ、どんぐりの背比べじゃないか?」

「んだと!?」

「やんのか翔太郎!」

「あぁもう!翔太郎さん何で煽るんですかね!」

 

横に座ってる緋彩と翔太郎がコーヒーを飲みながら須郷達を横目に溜息を吐く

 

「兄さん、騒ぐのはいいけど店の物は壊さないでよ?」

 

注文された物を運ぶ須郷の弟はカレーライスとジュースを誠の前に置き他の面々には飲み物を置く

 

「ん?俺頼んでないぞ?」

 

誠の前に置かれたカレーライスとジュースを指さす

 

「おまけですよ、それじゃ僕は仕事があるので」

 

そう言って戻っていく背を見ながら困惑顔になる誠に溜息を吐きながら須郷は補足する

 

「あいつなりの気遣いだ、親を失うってのは辛ぇからな」

 

誠はその話を聞き仕事をしてる須郷の弟を見て苦笑する

 

「知り合ってそんな経ってねぇのによ…」

 

スプーンを持ちカレーライスを1口、ほんのり甘めで個人的に好きな辛さだ

 

 

 

 

「…それにしてもよ、あのAって奴は結局なんだったんだ?説明では世界滅ぶとか言ってたと思うんだが」

 

あらかた食べ終わりスプーンを置いてジュースを飲みながら誠は他の面々に顔を向けて言う

 

「んー、狂人…っては確定だったし…飽きたとか?」

「飽きたとか思うのはお前だけだぜ、緋彩」

「普通にキツかったんじゃねぇか?柏崎はまぁまぁ強かったしよ」

 

あまり頭良くない3人が各々の意見を言い合ってる中青葉がふと口にする

 

「もしかしたら、狂人ではなかったのかもしれませんよ?」

「…え?」

「私達、先入観で狂人と思ってましたが…もしかしたら狂人の皮を被った正常者だったのかもしれませんね」

 

青葉がそう言うと他の面々は?となり思考が停止する

 

「(突然諦めてくれたから助かりましたけど…もしかしたら…全滅も有り得る話だった…何がしたかった…?)」

 

考えるも答えが出ない思考の中、超人達の日常は続く

 

──────────────────────

 

青い空、ミンミン鳴くセミ、そして多い蚊共、キレそうな俺

 

そんな菊野の上で寝っ転がってる俺は蚊取り線香を5個置いて、魔法陣を生成させて蚊を駆除する

 

「はぁ…あちぃ…別に日焼けしたい訳じゃないんだけど…」

 

何となく雰囲気でここにいたが…まぁいいか…

空を見ると雲一つない晴天晴れ…そして誰も居ない1人だけの空間…思考に耽るのは必然的かもしれない

思うのはA、あの男の事だ…俺はあいつを『知ってる』

だが名前が思い出せない、昔に一緒に遊び笑い泣き励まし合ったのは覚えている…だが何故か名前だけが思い出せない

 

「…っと…雨でも降ったかな」

 

目尻から伝う一線の水滴は屋根に落ちて蒸発する、暑くない?

 

「ニャ〜」

「ん、カクロか…」

 

いつの間にかカクロが俺の腹の上に座って丸まっていた、日向ぼっこしてたわけではないんだがな…

 

「カクロ、今後も頼むぞ」

「ニャ」

 

面倒そうに返事するカクロに苦笑しつつ俺は今日の仕事をサボりつつ日向ぼっこをする事にした、その後天田に見つかってしこたま怒られた…ぐすん…

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

暗い空間、その空間に5人の人影が椅子に座っており1つ分の椅子が空席の状態だ

姿は輪郭しか分からず顔や体格すらあやふやにしか分からない

その中の1人が椅子に座ったまま口を開く

 

「…Aが6席会会議に出席しないのは珍しいな…まぁ大方逃げたのだろう」

 

そう言って椅子に深く座る

 

「…今後はAを発見次第排除という方向で動いてくれ…そしてN」

 

喋りながらある方向を向く、向いた方向に座ってるのは輪郭的には女性だろうか?

 

「アメリカで派手にやってるようだが…やり過ぎてエイレーネーに目をつけられるなよ?」

 

言い終わると、椅子から立ち上がって暗い空間から出ていく人影達

最後に残ったのは喋っていた人影…溜息を吐き頭を搔く

 

「…魔神様の復活を…早めるべきか」

 

そう言って椅子から立ち上がり暗い空間には誰もいなくなり無だけが広がっていく




どうも、2章終わって初アンケをとろうとしてる私です

はい、2章完結!いぇい!3章に行く前に…少し小休憩というか、日常回もしくは違うキャラ視点のストーリーを数話やろうかなと思います
アンケートをとるのでどれかに、3日ほど期間を開けるのでその間によろしくお願いします

ではまた


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閑話ストーリー
無駄話1回目『巻き込まれました』


 

夏だ!花火だ!海だぁぁぁぁあ!!!

 

「柏崎君元気いいねー…」

「嘘でも元気でいなければ暑さに死にそうだからな」

 

船の中、揺られながら空からの太陽光がガンガン当たってる今の環境はサウナに近いのでは?まぁクーラーついてるから多少マシだが…

今俺はAの神降ろしの儀式を失敗させたという功績の報酬として海でのバカンスを貰って今そのバカンス先の島に向かってる最中である

タヌキも同じく評価され同行する事になった、というか社長に無理やり荷物纏められて追い出されたらしい

 

「家でネットサーフィンしたいよー…」

「馬鹿言え、ここで俺達が行かなかったら支部長とお前の所の社長の面目丸潰れになるぞ」

 

それに最近戦い過ぎたし、良い機会だ…体の傷は残ってないが体を癒すとしよう

 

「功績と言えば超人とか君の所の特殊部隊だっているじゃないかー…」

「あいつらやる事あるって言って断りやがった、カクロは海と聞いて逃げた…あいつ水は苦手な猫らしい」

 

泳げる猫はいるが恐らく猫神とかカクロは水が嫌なんだろう

 

「ま、たまにはいいだろ?ゆっくりと過ごすのも悪くない」

「そうだけどさー…はぁ…社長が選んだ水着だから嫌な予感しかしないよー…」

「まだ見てないのか?」

「着る時に見ろって呪文かけられて見れないんだよー…」

 

…一体何をタヌキに着させるつもりなんだ…?

俺とタヌキは溜息を吐きながら目的地の島まで船で揺られながら移動する

 

 

───────────────────────

 

太鼓の音と笛の音、そして鈴の鳴る音が聞こえる

そこは神社だろうか?大きな鳥居と境内、そして奥には建造物があり…その中の大きな広間で1人の少女と人々が演奏と舞をしていた、舞っている少女の手には深い海の底を思わせるような色のかんざしが握られており動く度にあまり派手ではない装飾品が揺れる

黒髪の長髪に黒の目、服装は巫女服を着込み優しげな表情が魅力的だった

 

「…?」

 

少女は舞を止めてとある方向を向く、窓の外から見える島の風景…神社は山の中腹にあり階段を降りると真っ直ぐの道がありその左右に集まるように町が作られ奥には港が作られていた

そしてその奥、海を見ると1隻の船がゆっくりとこの島を目指してやって来ていた

 

「どうかしましたか、香織様」

 

演奏をしていた1人が演奏を止めて黒髪の少女に問いかける

 

「いえ…少し不思議な感じがして…私少し見に行ってみます!」

「なっ!?香織様!まだ練習は終わってません!香織様!お前ら何してる!香織様を追え!」

 

少女が室内から飛び出し靴を履いて港を目指して走っていく、それを追いかけるように演奏をしていた人々はアタフタと楽器を置いて追いかける

 

「…はぁ…これで何度目か…」

 

1人残った男は溜息を吐きながら遠い目をする

 

───────────────────────

 

「うわ…凄い栄えてるな」

「柏崎君、田舎から上京して来た人っぽい」

 

誰が田舎っぺだべ!!!

まぁ冗談は置いといて…かなり島は賑わっていた観光客が多いのか旅行バックを手に歩いている人が目立つ、まだ森が目立つが1本道の左右に建物が立ち並びそこからさらに広がって多くの店や建物が作られていた、そして一本道を辿っていくと山が見えその中腹には鳥居と神社が見える

 

「ん、これはバカンス期待できるな」

「そうだねー」

 

荷物を持ち船から降りて島に上陸する、次の船は2日後と言ってたのでまぁ待つとしよう…あと祭りもあるとか、これは楽しみだ

 

「あ、見て柏崎君」

「ん?」

「新海水で作ったお好み焼きだって」

「深海水?」

「違う違う、新海水だよー」

 

タヌキが指を向けた先を見ると確かに新海水と書かれお好み焼きを焼いていた…てか祭り明日だよね?気が早くない?

 

「…新海水ってなんだ?」

「さぁ…海水なんじゃない?」

「塩分やばいだろ…」

 

雑談をしながら道を歩く俺とタヌキ、俺も少し気が抜けて無警戒過ぎたかもしれないな…走ってくる人影に気づかずぶつかってしまった

 

「おっと、大丈夫か?」

 

咄嗟に体勢を立て直してぶつかってきた人を受け止める

どうやら18そこらの少女のようだ、黒の長髪に…み、巫女服?を着ており息を切らしながら俺の方を見てくる

 

「助けてください!追われてるんです!」

「なるほど…なるほど?ん?」

 

困惑してると道の奥から…神社の方から5人の男達が厳しい顔でゆっくりと歩いて来ていた

 

「…あれ?なぁタヌキ」

「どうしたんだーい?」

「もしかして俺巻き込まれた?」

「そうなんじゃないかな?あ、タヌキさんは高みの見物をさせてもらうよー」

 

薄情なタヌキは俺を置いて建物がある脇にそれて見物を始めやがった

あぁ…俺…ここでも巻き込まれるのかよ…

 

─────────────────────────

 

これは俺とタヌキが海神と海人のいざこざに巻き込まれる話




ちょっとしたお話


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無駄話2回目『お父さん違うんです!』

 

なんか凄い人達と睨み合いになりお互い一歩も動けない状態になってしまった、体つき的にはそれなりの鍛錬を積んだ者達で俺では体格差的に負けてしまうかもしれない

 

「…ここに巫女服を着た少女は来なかったか?」

 

1番先頭にいてリーダーっぽい長い髪を後ろで纏めた男が口を開いて俺に聞いてくる、さてどう答えるべきか

普通に話すか、嘘をつくか

 

「…いや、知らないね」

 

よく分からんがあっちが良い人なら後で謝ればいいだろう

ちなみに後にタヌキから聞いたんだがあの少女俺の背後にしゃがんで隠れてたつもりらしいが体格差的に全然隠れられてなく俺のセリフ言った後周囲はあっ…となったらしい…

 

「…そうか、ではもし見かけたらそろそろお夕飯ですので早めに戻るよう言っといて貰えると助かります」

「そんな事くらいなら別にいいぜ」

 

まぁ真後ろにいるから聞こえてるけど

男達は来た道を戻るように振り返って歩いて神社を目指す、関係者の人か?

 

「…行った?」

「行ったな」

「はぁ…助かりました、最近練習練習とうるさくて」

 

そう言って少女は立ち上がりペコッと頭を下げてくる、普通に可愛らしいのでおじさん反応困るんだが

 

「柏崎君なに鼻の下伸ばしてるのかなー?」

「痛たたた…いきなり頬引っ張んな」

 

ほとぼりが冷めて戻って来たタヌキが俺の隣に立ち頬を引っ張りやがった、痛い

 

「それにしても、あまり穏やかじゃない感じだねー?君は何者なのかなー?」

 

タヌキが探るような目で少女の顔を見る、少女は今気づいたように慌てて口を開く

 

「す、すみません…自己紹介がまだでしたね…私は海沢香織、この島の神社の巫女であり海人です」

「かいじん?」

「うみびと、です」

 

少女…香織は自分の胸に手を当て誇らしげに胸を張る、どうやら海人というのは誇れるものらしい

 

「海人ってなんだ?」

「それは…あ、そろそろ夕方ですね…」

 

そう言われて周囲を見ると少しずつオレンジ色の光が島を包んでおり地平線には太陽が沈んでいた

 

「やっべ、タヌキ暗くなる前に宿行かねぇと」

「そーだねー…タヌキさんそろそろお部屋で休みたいよー」

 

タヌキに預けていた俺の荷物を取って宿に向かう準備をしてると香織が名案とばかりに手をポンと叩く

 

「そうだ、皆さん良かったら私の神社に来ませんか?海人の事など話すなら好都合ですし!」

「神社…神社ってあそこの事だよな?」

 

指を向けた先にあるのは山の中腹にある神社、そこまでは階段が続いておりあれを登るのかと思うとげんなりする

 

「…どうする?」

「まぁ気になるし行くのもありだねー」

 

情報屋としての癖なのか情報に貪欲なタヌキにとっては初めて聞く海人という言葉はかなり魅力的なのだろう

まぁ俺も気になるが…嫌な予感すんだよなぁ…

 

「…行こうかな」

「やった…!では先に向かって準備をさせてもらいますね!ゆっくり来てくたさい!」

 

そう言って香織は走って行ってしまった…若いって元気ね…

 

「なんだろう、首突っ込んでしまった感」

「バカンスがいつもとあまり変わらない感じになっちゃったねー」

 

俺とタヌキは苦笑しながら道を歩いて神社を目指す

ちなみに向かってる途中凄いスピードで階段を駆け上がる香織の姿が見えた、わかいってすごいね…

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

「し、死ぬ…これは足が死ぬ…」

「柏崎君さー、ちょっと仕事の時とプライベートの時と体力差ありすぎじゃないかなー?」

 

うるせぇ、仕事の時はこう…頑張るぞって気持ちで頑張ってるからであってプライベートの俺は手を抜いてるわけじゃないぞ

俺とタヌキは階段を上がって神社の鳥居の前までやって来ていた

 

「んじゃ行こっかー」

 

そう言ってタヌキは鳥居の端っこを歩いて境内の中に入って行った、よく分からないが俺もタヌキに習う…ここで実は真ん中に地雷設置されてるとかなら嫌だし

 

「あっ」

「あっ」

 

境内の中に入り掃除してた人の横通り過ぎようとしたら目と目が合い…その顔をよく見るとあの時の髪を後ろで纏めてた奴だ

 

「どうも」

「はぁ、どうも」

「………」

「………」

 

き、気まずい…何?この人ここで働いてる人?俺の嘘バレた?海沢帰ってきてたしバレてるよね?なんで目合わせないの???

 

「…香織様が迷惑をかけたようで、申し訳ございません」

「あ、いいですよ、別に迷惑じゃなかったので」

 

お互い被害者なので謝り合戦が始まってしまった、この人苦労してそうだな…

 

「申し遅れました、私この神社で演奏団のリーダーをやってる者で氷雨亜門と言います」

 

ひさめあもん、すごい名前だな…

 

「あ、俺は柏崎悟と…」

「タヌキさんでーす」

「柏崎さんとタヌキさんですね、香織様から話は聞いております…香織様話し相手が欲しかったようで、少し話せば解放されると思いますよ」

 

亜門はそう言って苦笑いする、これ絶対解放されないやつじゃんか…俺知ってるもんこの前矢本に同じ事言われて閉じ込められたし

 

「それでは案内します」

 

そう言って箒を近くの壁に立て掛けて俺達を先導するように歩き始める、境内はかなり広くぐるっと壁に囲まれ横に蔵があり神社の建物が真ん中にドーンとある、かなりでかいな…一応裏庭的なものがあるのか?後ろにも空間があるらしく奥側に壁が見える

 

「凄い広いな、神社ってこんなもんか?」

「場所によりますが、ここはかなり広い部類に入ると思いますよ」

 

そう言って建物の入口にたどり着き靴を脱いで中に入って行く

 

「厳太郎様も久しぶりのお客様という事もあってかなり張り切っていらっしゃてるんですよ」

「厳太郎?」

 

知らない名前だ

 

「この神社の神主をしている方で、香織様のお父様でもあります」

「へぇー…」

 

名前的に凄い頑固オヤジ的な先入観を感じる、まぁ本当に先入観だから実際はどうなのかは知らないけど

亜門に案内されリビングらしき場所に来た、もう既に料理は並べられており海沢香織が座っていた

 

「どうぞ、この島自慢の海鮮料理です」

「おぉー、すげぇ」

「凄いねー…凄いけど…」

 

タヌキが料理1品1品ずつ見ていく、海鮮料理、海鮮料理、海鮮料理、ご飯、海鮮料理、海鮮料理…全部海鮮料理じゃねぇか!

 

「あ、この島って海鮮系が主なの?」

「そうですね、海神様のお陰でこの島は海の幸が豊富にあるんですよ」

 

海神か…

 

「さて、んじゃ海神と海人について聞かせてもらおうか」

「いいですよ、父はまだ来なさそうなので先に食べちゃいましょう」

 

と、イタズラするいたずらっ子のように微笑み座るように促してくる

断る理由も無く座って料理に手をつける、どれもこれも海鮮料理だが味は凄く美味い

 

「さて、では海神様と海人の事について話しましょう」

 

そう言って香織は説明を始めてくれる

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

「海神様は100年前にこの島に来て飢餓に苦しむ島民を救ったという伝説があります、そして海神様は毎年大量の海の幸と引き換えに毎年島で祭りをするようにと新海水を飲むように当初の島民に言いました」

「新海水?」

「このまでに来る時に見ませんでしたか?新海水を使った出し物など」

「あ、柏崎君あれだよ、新海水のお好み焼き」

 

タヌキがそう言って箸をこちらを向けてキリッとした顔を見せてくる、箸を人に向けんな

ゲンコツ1発頭に叩き込んで香織の話に耳を傾ける

 

「新海水を体内に取り込むと海神様に近い存在になり海神様の言葉を聞く事が出来るとされてます」

「ふーん…今それあるのか?」

「ありますよ、亜門さん」

「こちらに」

 

香織が亜門を呼ぶと亜門が青いガラスコップに入った液体を持ってきて俺とタヌキの前に置く

コップを持ち覗き込むと微かに潮の香りがする…そして…俺はタヌキの方を目だけ向けるとタヌキが僅かに頷く…やはりか…

これは『魔力』が混ぜられてる、それもかなり特殊な

 

「そして海人というのは祭りの始まりと終わりの舞を踊る者で海神様の使者様を向かい入れるという重要な役目を担っています」

「つまり海沢が海人と?」

「毎年違いますけどね」

 

香織は新海水という水?を飲んで一息ついた、俺達も飲むかどうか躊躇われたがタヌキに何かあると困る…俺は一気に新海水を飲み込み飲みきる

…特に何も無い…?

 

「そして…あ、父が来たようですね」

 

そう言って香織は扉の方を向く、確かに足音が少しずつこちらに近づいてる感じはするな…

足音が扉の前で止まり、勢いよく扉が開かれる

扉の向こうにいたのは短髪の黒髪に厳しそうな顔、常に怒ってるのか?と言われそうな顔をしてる…そして何故か俺の方向いてるし、そのお腰に付けてるのは日本刀では???

 

「…貴様が香織が連れてきた馬の骨か」

 

誰かあああああ!!!助けてください!!!殺される!!!

俺は冷や汗と共に嫌な予感と隣で大爆笑寸前のタヌキにイラつきながらこの地獄をどう切り抜けるしか考えられなかった




どうも、どうもーつーどもー、無駄話2回目

雑になる後書き


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無駄話3回目『蚊帳の外』

Q、日本刀を装備した人が襲ってきました、どうする?

 

A、こうする

 

───────────────────────

 

「うおぉぉぉぉぉ!落ち着けぇ!」

「貴様許さん…許さんぞ…」

 

俺は真剣白刃取りを成功させ今拮抗してる最中である

じっちゃんから教わってなかったら危なかった…実際には死ぬ程危ないので悪い子は真似しないように!

 

「落ち着いて聞いてくれ海沢父!俺はなんか招かれただけで特に何かあるわけじゃない!」

「誰がお父さんだ!」

「言ってないけど!?」

 

あれ?俺お父さんって言った?あ、父をお父さんと判断したのか…

 

「もう、父さんやめてよ…」

 

香織が恥ずかしそうに両手で顔を隠して、ため息を吐く

恥ずかしがる前にこれどうにかして?!

 

「厳太郎様…流石に日本刀は危険ですよ」

「し、しかし亜門…」

「厳太郎様?」

「す、すまない…」

 

亜門が言葉だけであの危険人物を封じ込めた…凄いな…

厳太郎は力を抜き俺は白刃取りをやめる

 

「…無礼を許してくれ、私は海沢厳太郎…香織の父親だ」

「いや、まぁ人生で1度も使わないと思ってた真剣白刃取りが出来たから別に構わない」

「実際の所はー?」

「このクソオヤジ何してんだ」

「柏崎さん口が悪いですよ、アホ神主と言わなければ」

「亜門?お前もあまり変わらないように思えるが」

 

日本刀を鞘に戻して苦笑する厳太郎は壁に置いて自分の席について食事を食べながら俺とタヌキを見る

 

「しかし香織が誰かを連れてくるとは珍しい」

「彼らは旅行らしく、私がこの島を案内しようかと」

「厳太郎様、香織様は舞の練習が面倒のようです」

「亜門さん!そ、そんな訳ないじゃないじゃないですか」

 

少し声のトーンが怪しかったが顔でバレバレの香織、見てて面白いなこれ…コントかな?

 

「ご馳走様ー、私達って何処で泊まればいいんですかー?」

 

いつの間にか食べ終わっていたタヌキが厳太郎に聞く、やっべ俺も早く食べねぇと

 

「うむ、この先に空き部屋があるからそこに…亜門、連れて行ってあげなさい」

「分かりました、ではタヌキさん柏崎さんこちらへ」

「あ、ちょ…よし、行こう」

 

食べてる途中だったが一気に食べて立ち上がり荷物を持つ

 

「あ、柏崎さんとタヌキさん明日の用事は何かありますか?」

「ん?まぁ特には…なぁ?」

「そうだねー、特にないかなー」

 

立ち上がった俺とタヌキを見て香織が思い出したと言わんばかりに声を上げ尋ねてきた、この島に来たのはゆっくりする為だからまぁ…やる事ないな

 

「なら明日の午前は私と海水浴に行きませんか?」

「おっ、丁度いいんじゃないか?タヌキの例のアレ気になってたし」

「タヌキさん的にはこのまま封印したままでいたかったなぁー…」

 

タヌキの社長が無理やり荷物に持たせて着ろよオーラマシマシの例のアレ…理由としてはかなり合ってるのでは?

 

「香織様は遊びたいだけでしょうに…」

「む、亜門様はお堅い人ですね…私はこの島の良い所を知って欲しいだけなのですよ」

「本当ですかね…」

「本当です!」

 

香織がぷんぷんと頬を膨らまらせ拗ねてしまう…なんだあの可愛い生き物、お持ち帰りありですか?

 

「お父さんあれお持ち帰りOK?」

「柏崎と言ったか、三枚おろしというのを知ってるかな?」

「すみません…」

 

ちょっとしたジョークだったんだがなぁ…

その後俺とタヌキは亜門に案内されて廊下を歩き空き部屋へと案内された

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

用意されてた毛布を広げて荷物を隅に置いて日課のナイフ磨きをする、カクロがいるおかげで愛用してるナイフは引退気味だがずっとやってきた事を止める理由にはならない

あとカクロに同じ事したら触ったとこ舐められ毛ずくろいを始めた…凄く悲しい思いになったので二度としないと決めてる

 

「やっほー、柏崎君人の家で何してるのさー」

「お前も人の家でなんて格好してんだ」

 

ノックもせず襖を開けたタヌキが勝手に入ってくる、

その格好は何故かたぬきのキャラ寝巻き…?でタヌキがたぬきを着るというなんとも言えない格好をしていた

 

…実は端折ったがお風呂に先に入ったのだ、特に面白い事もなくラッキースケベもなく終わったので記さないでおく

タヌキは座ってる俺の前に座って何処からか取り出した缶ビールを開けて飲み始める

 

「ぷはー!今日何もしてないけどおつかれー!」

「こいつっ!飲めない俺に対する当てつけか!?」

 

最近禁酒始めました、理由は医療部代理から禁酒しないと2つのゴールデンボールをひとつにするぞと脅されたから…

禁煙はしません、最後の砦なんです…

 

「てかお前タヌキなのに何でたぬき着てるの?キャラ付けしたいのか???」

「…普通の寝巻きだったんだけどこれになってた」

「…あぁ…理由は言わなくていいぞ…」

 

お前の所の社長って実はお前の事嫌いなのでは?

 

「そんで?お前が用もなくここに来るって事はあれの事だろ?」

「え?あ、う、うん!そうに決まってるじゃないかー!」

 

なんかちょっと怪しい…こいつも青葉タイプか…?やめてくれよ…

 

「…新海水、あれどうみる?」

「タヌキさん的には眷属化、もしくは信徒化目的だと思うなー」

 

実は昔に魔力を大量に含ませた酒を信徒に飲ませエイレーネー日本支部に攻撃を仕掛けてきた宗教がいた、あの時は当時の俺とウルフ、スネーク、ラビット、ブラックキャットの現隊長達でどうにかしたが…あの効果は激大だった

 

「けど俺は特に何もないけど?」

「そこが問題なんだよねー、気づかない程の侵食速度なのか…はたまた本人に自覚しないようになってるのか」

 

どっちにしろ俺は多少耐性があるが…どうなんだろうか

 

「どっちにしろ調べるしかないねー…もしくは明日に行われる祭りを止めるか」

「止めた所でだろ、来年にもある…それに俺達エイレーネーは神と戦うのは極力避けたいんだよ」

 

エイレーネー各支部としては強大な悪には正義に戦ってもらいたいと思っている、どうしても能力と戦力があろうと俺達は『一般人』の領域から出れないでいる…

 

「だから最悪…害がなければ俺達はここまま立ち去り正義の味方に任せるべきだ」

 

言うなれば超人等だろう、あいつらに任せるしかできない

 

「それと…っ!」

 

言葉を続けようとしたが廊下から誰かが来ている足音が僅かに聞こえた、足音を極力出さないように…

俺は手で合図して襖の取手に手をかけタヌキが魔術をいつでも使えるように右手を向け準備した

襖が軽く開いて僅かに声が聞こえる

 

「あの…私です、香織です…入ってよろしいですか?」

「…ふぅ…どうぞ」

 

襖を開けて廊下に立っていた香織を中に招き入れる

 

「あ、タヌキさんもいらっしゃったのですね」

「どうもー」

 

香織が中に入ってタヌキの近くに座る、ナイフはどうやらタヌキが隠してくれたようだ

 

「どうしたんだ?あまり男の部屋に来るのは良くないとは思うが」

「?タヌキさんも来てますが…」

「あれは野生のたぬきだ」

「ぷぅ!」

「それはうさぎな」

 

とりあえず俺も座って一息つく、俺が座ったのを確認して香織が困ったような顔になって口を開く

 

「あの…実は特に何かある訳じゃなかったのですけど…何となく柏崎さんとタヌキさんが何と言うんでしょうか…他人とは思えないような気がして」

「ふむ?」

「うーん、それはデジャブ的な事かなー?」

 

俺の記憶には香織に会った記憶はない、タヌキも絶対にないと言えるだろうし…

 

「いえ、そういう訳では…困りましたね、1番これだとなる言葉が見つかりません」

 

そう言って香織ははにかみながら頬を触る

 

「そういう時は違う事をしてたら思い出すのさー、という事で柏崎君何かお題プリーズ」

「俺か?うーん、気分的には修学旅行なので恋バナで」

「柏崎君…君は修学旅行で恋バナする陽キャだったの…?」

「う、うーん…実はしてるのを横で聞いてた人だ」

 

俺とタヌキが話してる間香織はというと…

 

「えっと…その…こ、恋バナというのはちょっと…私は席を外させてもらいます!」

 

面白い程顔を赤くして立ち去ろうとしていた

 

「おっとー?逃がさないぞー?タヌキさん実はもう君の好きな人は分かっちゃったのだ」

 

ガッツリ香織の体を固定して耳元で何かを言ってるタヌキ、俺は結局聞けないのね…あぁ…灰色の修学旅行の記憶がっ!

タヌキが何かを言う度に香織は赤くなったり青くなったり…面白いな、俺もあれ欲しい

 

「タヌキ、それいくら?」

「税込45万〜」

「…ふむ」

「真面目に考えないでください!」

 

俺のジョークがお気に召さなかったらしい

 

「た、タヌキさんだって!」

 

と、言って香織はタヌキの耳元で何かを言う…聞こえない…

今度はタヌキが真っ赤になってあたふたとなり始める

 

「ち、違うのだ!タヌキさんはそんなあんなのそんな思ってない!うー!」

 

しばらくタヌキと香織は俺に聞こえないように話を続けていた…

 

 

 

香織とタヌキが2人で盛り上がってる中、俺は窓の外を眺めつつ悲しみに包まれる




どうも、最近忙しくなってきた私です
今後は投稿不定期になったりするかもですが今後ともファースト・オブ・バレット、閑話ストーリーをよろしくお願いします

では明日、また次の話で会いましょう


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無駄話4回目『海の生き物』

 

太陽が上目指して上がっていくのを眺めながら俺は荷物の中に入れてあるタバコを手に取り口に咥える

エイレーネー日本支部の開発部部長の田村さんが作ってくれた特別なもので、主に精神安定を通常より格段に向上うんたらかんたら…

まぁ今使う必要があるかと聞かれると特に意味は無い、けど咥えないと落ち着かないのでライターを探しつつ上下に動かす

 

「あー!みせいねんがタバコ吸っちゃダメなんだよー!」

「だよー!」

「…少年達よ、見た目で判断するのは愚かな者がする事で俺は25歳だ…まぁ確かに健康に悪いとか吸うより出ている煙吸う方が体に悪いと聞くが俺は1人待たされてるストレスを解放したいので、君達は離れるように…以上」

 

おっ、ライター見っけ

百円ライターを取り出して何度か火をつけるのを試みて火をタバコの先に付けようとすると、隣から水の壁が迫ってきており俺の全身とタバコは水に濡れ近くに置いて箱の中身も濡れてしまった

 

「めー!」

「めっ!」

「年上のお姉さんっぽく言えば許されると思ったかこのガキぃ!」

 

俺は素早く2人の少年を小脇に抱えて全身を使って回転し始める…人力遊具化!代償として酔いやすい

 

「わー!」

「わわわ!楽しいー!」

「くそったれぇ!田村さんに5000円払って1箱だったんだぞぉ!!!」

 

涙が零れてしまいそうだよ…

ここは海水浴、現在時刻午前10時…俺は女性陣2人の着替えを待ちながら荷物番をしていたのだが無邪気な少年達に俺は弄ばれていた…若い子は元気だね…

 

「ばいばーい!」

「ばーい!」

「二度と来んなー!」

 

くそぉ…俺は5000円のタバコの箱の中身を全て出してまだ使えそうなのを並べる…全滅してやがる、どんな水の入り方したんだよ…

使えないのを砂の山のてっぺんに突き刺して遊んでると遠くから騒がしい声が聞こえる

振り返って見ると誰かがド定番なのか凄いチャラチャラした男達…仮にチャラ男と呼称しよう、チャラ男が誰かに絡んでいた

 

「…まさかな」

 

嫌な予感がして立ち上がり騒いでいる集団に近づくと何を話してるのか聞こえてくる

 

「だからよぉ、もっといい水着があるからそっちにした方がいいって」

「そうそう、その格好じゃ誤解されるからさぁ…一緒に来なよ」

「そう言われましても…」

「困ったねー」

 

やはり香織とタヌキの声だ、少し小走りに走ってすぐ側まで辿り着く…香織とタヌキは男達が邪魔で見えないがタヌキがいるから無事だろう

 

「おいお前ら、俺の連れに何か用か?」

 

あまり騒ぎにはしたくない、できるなら穏便に済ませてこの場から離れたいが…無理なら強硬手段をとる

 

「あぁん?誰だあんた」

「今こっちは忙しいんだよ」

「子供は家に帰って温かい風呂に入って寝な」

 

逆に俺が囲まれてしまった…こいつらよく見たら凄い鍛えてるじゃん…こわっ…そして最後の奴は何言ってんだ

 

「あ、柏崎さん」

「柏崎君グットタイミングだよー、この人達どうにかしてー」

 

俺の目の前に立ってる男の向こうから香織とタヌキの声が聞こえる、男達はお互いの顔を見合い俺を見る

 

「知り合いみてぇだな…」

「そうだな、逆に好都合だぜ…へへへ」

「言ってやりましょうぜ」

 

…脅しか、あまり暴力で解決したくないが…

男達に気づかれない範囲で体の重心をズラして攻撃する準備をして相手の行動を待つ

 

「こいつらどうにかなんねぇか?」

 

そう言って男達は何故か左右に別れ奥にいた香織とタヌキの姿が見える…香織とタヌキは布面積が水着の標準?のギリギリを攻める水着を着ていた

 

「…お前ら何してんの?」

「た、タヌキさんがこれを着ないと………と…」

 

後半よく聞こえなかったがタヌキに脅されたらしい…可哀想に…

 

「そんでタヌキ?お前何してんの?」

「あはははー…社長の趣味らしいよー…タヌキさんだけ着るのは釈然としないから香織ちゃんにも着てもらったのだ」

 

あぁ…お前…純粋な心を持つ香織にお前みたいな心が薄汚れたのがいると汚れちゃいそうで怖いわ…

 

「まぁあれだ、俺達としては流石に青少年らの教育に悪いと思って着替えるよう言ったんだが聞いてくれなくてな…」

「なんかすみません、うちの者が…」

 

チャラ男とか言ってすみませんでした…ってあれ?

 

「お前らもしかして須郷とこの…」

「アニキを知ってるのか?」

「知ってるってか知り合い」

 

死線を乗り越えた事もあるよ

 

「いやぁ、なんかアニキがバカンスにでも行ってくれば良いんじゃないって言ってくださってよー!俺達夏休み入ったし祭りもあるらしいしな!」

 

超人、須郷雅弘…その舎弟を名乗ってる元不良集団で今はボランティアなど慈悲活動をしてるらしい…とエンが言ってた

 

「あー、んじゃちょっとこの馬鹿タヌキと香織を連行するぞ」

「おう、よーし!お前ら壁になれ!確か海の家で水着が売られてた筈だ!」

 

香織をガッツリと囲み周囲の目から逃れるようにしてやる紳士達、けど見た目がチャラ男なのであまり紳士には見えないだろうな…

 

さて、魔術を使って人目を避けて俺の隣まで来たタヌキが手渡してきた紙を受け取り俺は集団を見送って元いた場所に戻る

実はこの海水浴に来る前にタヌキにはあらかた知ってる情報を紙に書いて渡してもらう事になっていた、今回の件…あまり関わりたくないが自衛をするなら知っておくべきだと判断してタヌキに頼み込んだのだ、まぁかなりの情報料をとられたが…

紙を広げて中を見る、文字がびっしりと書かれているが…最後にこう書かれている

 

『情報が無い』

 

情報屋として膨大な表と裏の情報を保有してる筈のタヌキが島の…尚且つ宗教であろう海神と海人について全く情報がない、という事だろう

祭りに関しても祭り中の事の情報が無いらしい、これは体験しないと無理か…

 

「どうしたものか…ん?」

 

恐らく紙が足りなくなったのだろう、小さく書かれていた文字に目がいく

 

『島の森に何かがいる…と思う、朝何かが光ってるのを見たから』

 

「…森…」

 

島全体としては山を中心に南側に港と海水浴、そして真っ直ぐな道に町があり山の中腹には神社がある

そして異様な事に綺麗に神社が境界線のように町と森が別れている…森か…

 

「…確か香織が準備に行くのがお昼の12時…タヌキについて行くつもりだったが予定を変更しよう」

 

紙は折り畳んでライターの火で燃やす、誰が味方か分からないのではタヌキ以外に見られる訳にはいかない

 

その後俺は帰ってきたタヌキによって砂の中に埋められたり香織の水着が流されそうになったり須郷の好みがバレたりなどあったが割愛!あと水着が流されそうになってる香織をガン見してたらタヌキに殺されそうになったよ!なんで?!

 

──────────────────────

 

「それでは柏崎さんタヌキさん、私行ってきますね!必ず見に来てくださいよ?約束ですからね」

「あー…」

「いー…」

 

元気な香織は砂の上で死んでる俺とタヌキに手を振って神社に向かっていった、若いって羨ましいね…

 

「うー…」

「えー…タヌキ、お前この後どうするんだ?」

「おー…まず図書館かなー…多分表に出てないやつなら昔の事や祭りの事の記録が残されてる…といいなぁ…」

「希望論かよ…」

 

タヌキは起き上がり着替えが入った荷物を持ち上げる

 

「柏崎君はー?」

「俺は森だな…光ってたんだろ?一応調べて何も無かったら図書館に合流する」

「遅れたら置いていくからねー」

「少しは待てよ…はぁ…お互い気をつけよう」

 

起き上がってタヌキに拳を向け互いの拳をぶつけ合う

さて、鬼が出るか蛇が出るか…

 

──────────────────────

 

ナイフを装備して水着にパーカーを羽織る状態で森に辿り着く、最悪海に飛び込んで逃げる事を考えると服は厳しい

 

「んじゃ…ってカクロじゃないんだった…」

 

いつもの様に魔力を流して身体強化しようとしたが今思い出せば今持ってるのは昔からの愛用してるナイフでカクロじゃない…

 

「慣れって怖いな、たまには普通のナイフで戦うようにしないとな…」

 

いざカクロがいない状態で敵と戦って同じような動きをしてやられては目も当てられない…

町から森に入るとまず分かるのは潮の香りがすごい事だ

海に近い場所だからか?それにしたって…

潮の香りを我慢しながら進む

 

 

大体、島の北西くらいか?かなり歩いた気がするがまだ海が見えない…ずっと真っ直ぐ歩けば港の反対側の海に出るはずなんだが…

 

「…?…っ!しまった!」

 

ある事に気づいて踵を返す、潮の香りに思考が乱されてたらしい…こんな初歩的な事を忘れてたなんて…『地面を見ないなんて』

 

目の前に何かが刺さる、それは細い棒状の…槍…?いや!銛だ!

咄嗟に近くの木に身を隠して地面を見る、あんなに分かりやすく『人間ではない足跡』があるのに…俺は何してんだっ!

今すぐここから離れる為に立ち上がって走り出す

 

「っ!」

 

どこからか飛んできた銛をナイフで軌道をズラす、ナイフが少し欠けたか!?

 

「こんの…っ!?」

 

強い衝撃と共に俺の体は浮いて目の前の風景が横にズレていく、顔をどうにか衝撃がきた方に向ける

 

「ぎ、魚人…?」

 

びっしりと覆われた鱗、人間のような手足…だが顔はよく見る魚の顔をしており毛はなく頭部から背中にかけて人間のような凹凸はなくツルリとした鱗で覆われている

 

「こん…のっ!」

 

ナイフの柄を両手で掴み思いっきり魚人に突き刺す

 

『ギィ!』

 

俺を掴む魚人の手が緩んでいく、どうやら鱗はこのナイフでも多少攻撃が通る!

…が、緩んだのは痛みだけではなかったらしい

 

「えっ?」

 

投げ出された俺は遠ざかっていく魚人の姿を見ながら下へと落下していく

 

水面に叩きつけられ目がチカチカし始めた、そして…

 

『水中には魚人が数十体いた』

 

指先すら動かない…息ができない…苦しくなってきた

薄れていく意識の中俺は水中を漂いナイフが手から離れていく…そして目の前が真っ暗になり、意識が飛んでいく




どうも、最近文数がちょっと増えた私です

次回!柏崎死す

では明日、また次の話で会いましょう


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無駄話5回目『生贄』

 

「んー、かなり規模が大きい図書館だねー…これならありそうだ」

 

島にある大きな図書館に来たタヌキは周囲の目がない場所に行き、誰からも見られてないのを確認して魔術を酷使させるとタヌキの体は少しずつ見えなくなっていき完全に見えなくなる

例えるなら超人、道華翔太郎のステルスにも思えるが翔太郎はほぼノーリスクで行えるに比べ魔術だと魔力を消費する上に使ってる間常に減り続ける

 

「…(裏口は…ここかなー?ちょっと失礼して)」

 

図書館の裏口まで移動して、職員用だろう裏口を発見し魔術を酷使させ鍵を開けて中に入り鍵をかけ直す

ここまでは順調、そして中は通路になっており…十字路だ、来た道を南にするのなら真っ直ぐな道は恐らく図書館内に行けて…曲がり角から顔を出して左右を確認する

どうやら左側は職員の休憩スペースや手洗いがあり右側は頑丈な扉が設置されてるのが一つだけのようだ

 

「…(ん、あまりこっちには人来ないっぽいねー)」

 

足音を出さないようにゆっくりと歩いて進む、姿は消えてるが永遠に消せるわけではない…その上足音や息遣いは消せないので気をつけないといけない

 

「っ!」

 

あと少しという所で保管庫の扉が開いて中から誰かが出てくる、咄嗟に壁に寄って息を殺して様子を見る

中から出てきたのは

 

「…(亜門さん?)」

 

演奏団のリーダーであり、ここにいるのは不自然な男…

氷雨亜門…彼は今神社で準備をしてる筈なのだが何故か保管庫から出て扉を閉め…

突然その手を止め、タヌキの方を向いてくる

見えるはずがない…そう思っていても突然向いてきて目が合ってしまっては不安になり冷や汗が流れる

 

「…気のせいか」

 

そう言って亜門はそのままタヌキが来た道を辿るように裏口を目指して歩いていく…

タヌキは止めていた息を吐き出し鍵が閉まってない扉を開ける、掛け忘れた…と思うには上手くいき過ぎている…亜門が何者で何の目的で鍵をかけなかったのかは知らないが好都合だった

 

「おじゃましまーす」

 

中に人の気配がないのを確認して中に入る、念の為に鍵をして中の電気をつけ明かりを灯す

 

「…ふーん?予め用意したから何かしら手伝えって事かな」

 

明かりがついた部屋、その中心には大きな机と椅子が設置されており…机の上には無数の資料が広げられていた

そしてその資料は1番上のしか見えないが『祭りと島』に関する資料だった

 

「亜門さんは言うなれば妨害…もしくは行わさせないつもりか…それとも…」

 

悩んでも仕方ないと思い椅子に座って資料を読む作業に入る

かなりの量だが常に更新される情報の波よりかは簡単な事だろう

 

──────────────────────

 

資料を探してかれこれ何時間経っただろうか、分かったことは何点かある

 

祭りとは毎年『生贄』を海神に差し出し大量の海の幸を受け取る儀式である、また昔の神主は500年儀式を続ける事を約束してしまい毎年『海人の巫女』を生贄として差し出していた…だがいつからか、巫女ではなく『海人』になった旅行客、島民を生贄として差し出してたのが分かったと資料には載っていた

 

「…新海水、あれってもしかして海人を作り出してた…?」

 

別の資料には『生贄』を100人手に入れた海神は『上級紳』となり人族の言う所の名がある海の大部分を支配権に置く事が可能となり、今年で『100人目』である…と書かれていた

この資料を作った亜門はかなり調べてたらしい…しかし何故?

 

とある資料を持ち上げた際に何かが、机の上に落ちる

それは1枚の写真のようで…裏面には今から12年前の日付が書かれていた

 

「なんの写真かなー…?」

 

写真を持ち上げ裏返し表面を見る、表面を見たタヌキは最初写っていたものに何も疑問などなかった

だがある事に気がつき写真を落としてしまい…突然体が何かに圧迫されるような感覚に襲われる

 

「っ!『酷使せよ!』」

 

咄嗟に体周辺に魔力の壁を生成して圧力を跳ね除け一息つく

 

「一体何が…っ!今何時!?」

 

時計を見る、時刻は午後5時…資料を読むのに時間を忘れてたようだ…『祭りが始まる』

 

室内にいても香る潮の香り、苦しくなるが魔力の壁を作りながら部屋を飛び出して裏口から外に出る

 

「なっ…」

 

外に出てまず見えたのが島を覆う程の謎の『膜』、そして表に出て見えたのは町を闊歩する『魚人達』

まるで人間のように屋台で食べ物を作り、歩き、買い物をして、食べ、笑っている

 

「…祭りの影響…?そんな事より柏崎君は…」

 

周囲を見る、こんな現象の中彼が何もしてない筈がない…だがどこを探しても見当たらない、そして魚人達は敵意はないようだ…横を通っても何もしてこない

 

「…行くしかない…か」

 

恐らく元凶がある神社を見据えてタヌキは残りの魔力を測りながら…1歩を踏み出し神社へ1人で向かっていく

 

─────────────────────

 

「…ん…ん?なんだ…ここ」

 

暗い空間、だがあの机やテレビはない…寝っ転がってた床もなんかゴツゴツしてるし…

俺は上半身を起こしてポケットに入れてたライターを取り出す、何度かトライして僅かな炎が明かりを灯してくれる

 

「うわっ、眩しいな………ん?」

 

よく見ると俺の隣に何かいる…ライターをそちらに向けるとタコがいた

 

タコかぁ

 

「…たこ焼きか…って、なんで近づいてくるの?あれ、足が動かないっ!」

 

ヌメヌメしながら何故かこちらに向かってくるタコ、動けない俺…あれ、昔なんかで見たな

 

「ちょ、来ないで?やめて?ちょっと…!?来んなー!やめろー!!!誰かー!おとうさーん!おかあさーん!タヌキー!」

 

体をヌメヌメしてくるタコに弄ばれながら俺、柏崎は春画に出版されることになったのでした…~完~




柏崎×タコ、今ならなんと10円

では明日、また次の話で会いましょう


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無駄話6回目『神力』

 

潮の香りが強まる中、タヌキは神社を目指して走る

柏崎は害がないのなら…など言ってたがこれほどの規模では見過ごす事はできない、周囲を見ると魚人のような姿にはなってるが彼等は『島民と観光客』だ

 

「まぁ服着てるから間違えないけどねー」

 

兎にも角にもこの現象を止めるなら神社に行くべきだ、そう思いタヌキは神社の階段を駆け上がる

その道中、森を目の端で確認すると…魚人達が銛を片手に町に出てきているのが見えその数は10…20…30…もっといるだろう

 

「海底大戦争でもあったのかなー?…魔力が持つといいけど」

 

目の前の光景を後回しにする、神社まであと少し

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

広い境内、空の屋台に誰もいない舞台…いや、1人だけいた

境内の中心に作られた舞台は360度どこからも見れるような設計になっており簡易的な屋根と人が舞うには丁度いい広さだろう

 

「香織ちゃん!」

 

その舞台の中央には豪華だが動きやすいように作られ髪は纏められそこに深い青の簪が刺さっていた、その香織が舞台の上で横になっており気を失っているのが分かるだろう

 

「一体何が…っ!『酷使せよ!障壁!』」

 

突然背後から殺気を感じ、咄嗟に魔術の壁を生成する

だが障壁は少し耐えただけで粉々に砕け刀はタヌキに迫ってくる

 

「あっ…ぶない!」

 

顔スレスレに通っていく日本刀を避けタヌキは殺気の主と距離を取るために素早く舞台側に後退する

 

「…やはり魔術師だったか…厄介だ」

「いやぁ、貴方の方が厄介ですよー?…源次郎さん」

 

最初とは違う、刀身が深海を思わせる蒼色の日本刀を手にタヌキを睨んでいた海沢源次郎…その姿には青いオーラが纏われておりタヌキの目にはこの潮の香りから自分を守ってるという事が分かる

 

「源次郎さんって海人じゃなかったんだねー?」

「…何故そうだと思った?」

 

ジリジリと後退していくタヌキと距離を詰めようとする源次郎はお互い時間を稼ごうと会話を始める

 

「簡単な事だよー?ある物を見つけてねー…源次郎さん、貴方は何者なのかな?」

 

まだ距離が近い、ゆっくりと…それでも確実に距離を広げていく

 

「私はただの神主だ」

「ただの神主が日本刀を振り回して一般人襲わないんじゃないかなー?…それに、それ神刀でしょ?よくそんなの持ってるねー…」

 

神刀、文字通り神の刀…魔力とは違う神力を付与し絶大な力を所有者にもたらす数少ない宝具

 

「…これは海刀、海神様から与えられた『邪魔者』を消す刀…つまり貴様とあの柏崎とかいう小僧を消すためにこの刀を私が持っているのだ」

 

そう言い源次郎は刀を構えいつでも飛び出せるように準備をする

 

「ふーん…その刀で一体何人切ったんだろうねー…『自分の娘を守る為に』」

 

意味ありげに微笑み源次郎を見るタヌキ

 

「…何の事だ」

「いやぁ?タヌキさん的には大変だろうなーと…『100年』もの間、部外者から娘と儀式を守るなんてねー」

 

あの時見た写真、撮られた日付は今から12年前…そこには『今となんら変わらない姿の源次郎と香織』の姿が1人の少年と共に写っていたのだ

 

「『生贄』には『海人の巫女』と聞いてたんだけど気の所為かなー?香織ちゃんは今もいるし」

「…貴様はどこまで知っている…?」

 

あたかも自分は元々知ってたという風に話す、相手は何故と悩み…もしかしたら生け捕りを狙って手加減するかもしれない

 

「…いや、関係はないな…貴様を殺し儀式を成功させれば私達は開放される」

 

どうやら生け捕りは考えてないらしい、日本刀を軽く振ると潮の香りが一層強まり源次郎の体を包んでいるオーラはさらに色濃くオーラとしてユラユラと揺れる

 

「…うーん、考えるのは柏崎君に任せるかー」

 

タヌキは荷物から眼鏡ケースを取り出し開けると中にはロイド眼鏡…丸メガネがあり、タヌキは丸メガネを装着する

 

「社長ってどこまで予想してたのかねー…」

 

丸メガネ越しに見る風景は青く輝く何かの流れと空気中を漂う青く輝く球体のようなもの…神力だ

そして自身を見ると紫色のオーラがほんのり体を包んでいる…魔力である

 

「さらばだ…」

 

源次郎が日本刀を持ち上げ…振り下ろす

一見何をしてるのか分からないが、タヌキの目にはハッキリと見える『こちらに飛んでくる神力の斬撃が』

見てたからと言って身体能力が上がったわけじゃないので転ぶように避け危機を脱する

 

「あっぶないなー…何1人だけ異能バトル系の攻撃してるのさー」

「貴様…何故避けれた…?もしやその眼鏡…っ!?」

 

避けたタヌキを問い詰めようと言葉を口にしようとしていた源次郎に向け何かが高速で飛んでいく、それを目で見て日本刀で切り裂き難を逃れた源次郎が地面に落ちた飛んできた何かを見る

 

「…串…?」

 

イカ焼き等で使われるだろう串が地面には落ちていた、周囲を見ると誰かがいるようには思えない

 

「不思議かなー?不思議だよねー?」

 

タヌキが起き上がりつつ源次郎に煽るように問いかける

 

「貴様何をした」

「さっきから疑問ばかりだねー?まぁ特別に教えてあげようー!」

 

タヌキは右手を振り上げる、すると境内にあった屋台や機材等が動き始め人型に近い形態になっていく

 

「『酷使せよ、万物の兵士』…源次郎さんの相手はタヌキさんだけじゃなくて、『会場全て』だねー」

 

礫が、串が、熱された油が、電気のコードが、全てが源次郎を囲むように動き始める

 

「…(柏崎君が来るまで耐える…って前もしたねー…ま、やるけどさ)」

 

自分の周囲にも配置して長期戦を開始する

 

───────────────────────

 

暗い空間…恐らく洞窟等だろう

そんな空間に1人、タコに色々されてしまった男がいた

 

「うぅ…屈辱だぞ…誰だこんな所にタコ置いたの…」

 

誰もいない場所、いるとは思えない空間

 

そこに何かの足音が聞こえてくる、咄嗟にナイフを探すが見当たらず丸腰の状態だった

 

「くそっ!何か武器ないのか!?」

 

とりあえずまだ近くにいたタコを掴んでみる、盾くらいにはなるだろ

暗闇に目が慣れてきて…どうやら洞窟の横穴があるらしくそこから聞こえてきていた、足音はどんどん近付いて来て…その姿を現す

 

「お前は…」

 




特に何もなしっ!


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無駄話7回目『協力』

 

暗い洞窟、横穴から出てきた人物…

 

「…亜門…?」

 

足音の主は着物を着て腰に青い瓶を下げている氷雨亜門だった

 

「柏崎さん、起きましたね…よかった」

「寝起きがこのタコとかいう最悪な展開だよ」

 

手に持ってるタコをブンブン振り回しながら溜息を吐く

亜門は近づき近くの岩の上に座って一息ついた

 

「柏崎さんが海に落ちてきて気を失ってたと聞いた時は驚きましたよ…」

「聞いた?」

「…それは後ほど説明するとして今の状況を説明をします」

 

そう言っている亜門の顔には少し焦りが見えた、だが俺は現状知りたい事を聞かないとならない

 

「…そうだ、亜門…お前何か知ってるんだろ?…あの魚人とこの島について」

 

意味ありげに出てきた亜門、そして少なからず『敵ではない』とだけ確信は出来る

 

「…そうですね、時間は少しだけしかないので簡潔に教えましょう」

 

亜門は少し考えるような顔をして俺の方を向く

 

「簡潔に言えばこの島は『下級神』が『海神様』の名を語って生贄を得ている…つまりは使い勝手のいい島にされています」

「下級神?」

「はい、この海には様々な神がいましたが今はその下級神と海神様だけです」

 

亜門の言い方だと海神は位が高い神で、下級神はその海神の名前を使って好き勝手やってる位が低い神って事か?

 

「けどそんなの海神は許すのか?」

「…海神様は去年まで睡眠状態で会話をすることは出来ましたが何もできない状態でした」

 

去年?つい最近レベルだな…会話…会話…あっ

 

「もしかして、新海水って海神と会話する為って言ってたが」

「…効果が変わり今は違いますが海神様に近づき対話をする為の道具です、今は海人を作るものになってますが…」

 

何となく見えてきたようなこなかったような

 

「元々海神様は生贄を要求せず、信仰を望んでおり下級神達に後は任せ眠りについたのですが…」

「目を離した隙に色々やられちゃったと」

 

信仰が増えれば神となり、信仰がもっと増えればその力は爆発的に増えていく…余談だが生贄は信仰の表れとして神の存在を上げる行いだ

 

「…俺が見た魚人は?」

 

島で襲ってきて海に落としてきた魚人、そして海の中にいた魚人の群れ…恐らく関係がある

 

「魚人…あれは元々は海神様の眷属で今は大部分が下級神の支配下に置かれてます」

「大部分?」

「はい…皆さん!こっちへ!」

 

亜門が何か合図を送ると横穴からさらに足跡が聞こえその姿を現す

 

「…魚…人…か?にしては俺が見たやつとは…」

 

目の前に現れたのは6人の魚人、ただ俺が見た上半身が完全に魚の状態ではなく鱗とエラや水かきが付いてる程度で見た目は完全に人間だ

 

「海神様は人間が大好きらしく…眷属は人間に近い姿になるようです」

「人間が好きって珍しいな…まだそんな神が残ってたのか」

 

神はあまり人間に興味がない、猫神とかもそこまで人間が好きではない為に信仰が無くなっていっても何もせず金郎とかしか残ってない…

 

「はは…彼らが言うには海神様は人間になりたいと…」

「絶対襲う気だよな!?」

 

危ねぇ神だった、見つけ次第燃やそう

 

「まぁ海神様も柏崎さんと仲良くなれて嬉しそうですから…さらに人間になりたいと言いそうですけどね」

「ん?あれ、海神いた?」

 

周囲を見てもいるのは俺と亜門と魚人達とタコだけだ

…タコ?

 

『やぁ』

 

俺の手によって掴まれてるタコを見ると触手の1つを上げて挨拶してくる

 

「あ、どうも」

『私は人間好きだし柏崎?も気に入ったからこの無礼は許してやろう』

 

頭にガンガン語りかけてくるなこいつ…声的には雌か…?

 

「ふんっ!」

『うぁ!?』

 

とりあえずタコを亜門に投げて立ち上がる、体痛いなぁ…

伸びをしてると何故か魚人達が銛を片手に俺を囲い始める

 

「え?何?」

「人間、海神様になんて無礼な!」

「死して詫びよ!」

「詫びよ!」

「よっ!」

「っ!」

「!…今ヒトデいなかった?」

 

なるほど、唯一残ったこの眷属達は海神に深い忠誠心を持ってるから最後まで海神の眷属として残ったのか…

まぁ後半3人はちょっと怪しかったけど、挨拶してたし…いるはずないヒトデ探してるし

 

『あぁいいよいいよ、今私は機嫌がいいから許そう』

「はっ!」

「はっ!」

「はっ!」

「っ!」

「は!」

「びっくりまーく」

 

やっぱり後半の3人はちょっと怪しいよ?忠誠心ある?最後もうびっくりまーくって言ってるし

 

「あー…流れ的に俺が落ちて気を失った所をこの魚人達が助けてくれたと」

「そうなりますね、柏崎さんには私からお願いしたい事がありましたからお願いして…」

 

亜門は改まって俺の前に来て姿勢を正す、その目は真剣そのものでふざける余裕はなさそうだ

 

「あの人今から告白するらしいよ…(コソコソ)」

「凄いね…(コソコソ)」

「聞こえてるからねー?!」

 

くっそ、よく見たら顔似てる双子っぽい魚人か…少女っぽいし…あ、お下げが左右に別れてるから分かりやすい

 

「絶対海神の仕業だろ、眷属に何教えてんだ」

『人間の神秘だね』

「あの…話を続けても…」

 

亜門が凄く申し訳なさそうに言ってくる、ごめんね…

 

「実は…」

 

亜門の口から出た言葉、下級神が生贄を100人を使い上級神になろうとしてる事…神主、そして香織が歳をとってない事

そして今日が100人目の日である事を教えてくれた

 

「ふむ、そんで?俺に頼みってのはそれを阻止しろって?」

「はい、私と魚人達だけでは厳しいので…」

「…あれ戦えるの?」

 

俺は魚人達を見て亜門に尋ねる

 

「一人一人、コンクリートの壁を破壊するくらいなら出来ますよ」

「あ、調子乗ってすみませんでした…」

 

調子乗っちゃっだめ、これ教訓

 

「ただ何で俺なんだ?もっと…外から呼ぶとか…タヌキとかいただろ?」

『それは私が説明しよう』

 

そう言って亜門の元から飛んで俺の頭に着地したタコこと海神が偉そうにそういう

 

『実際偉いよ?』

 

思考読むじゃねぇよ

 

『亜門に柏崎を仲間にするように言ったのは私なのだ』

「あんたが?」

『祭りになるとこの島は神力が混じった空気が出始め膜がその空気の逃げ道を塞ぎ魚人が活動しやすい環境にするのさ』

 

確か潮の香りがかなり強まってはいたが…

 

『そしてこの空気を吸い込んだ人間は『死ぬ』』

「!?…え?俺実は死んでたのか?」

 

無意識に能力を使って生き返った…?いや、でも…

 

『君は新海水飲んでた上に『他の神の加護』があったから無事だったのさ』

「…猫神のか」

 

猫神というよりカクロの…加護が俺を守ってくれてたのか

 

『他にも魔力なるもので防いだりできるけど、人間では長くは持たないだろうね』

「…タヌキ…」

 

あいつは無事な筈だ、少しアホな部分があるが賢く無茶なことはしない

 

『そして相手には『島の守護者』がいる』

「守護者?」

「…源次郎様です」

 

何となく全体が掴めそうだ

 

「つまりそいつと俺を戦わせたいってことか?」

『そういう事、加護持ちは大抵強いからね』

「手伝ってはもらえないでしょうか」

 

もらえないでしょうかって、断ったら新しい上級神が生まれて何しでかすか分からないんだろ?…はぁ…バカンス…休みたいなぁ…

 

「…いいよ、手伝う…ただし条件としてタヌキを見つけたら助けてやってくれ」

「それくらいなら」

 

バカンスがまさかいつものと変わらないとは…世の中何があるか分からないな…はぁ…憂鬱だ




どうも、わたたたし!です

今日の話はちょっと海神登場、盛大に登場させてもよかったのですが…キャラ的にこうなりました
あとTwitterにてファースト・オブ・バレットの世界観を少しだけ公開予定

では明日、また次の話で会いましょう


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無駄話8回目『作戦』

 

体をほぐして準備運動をする、流石に突然には動けないからこれくらいはしとかないとならない

 

「ところで俺のナイフ知らないか?」

『一魚が持ってるよ』

 

と、言って頭の上に未だに居座ってる海神が足のひとつを使って坊主頭の魚人を指す

 

「…もしかして一魚ってあいつの呼称?」

『そうそう、あれが二魚、三魚、四魚、五魚、六魚』

 

順番に

凛々しい顔をした女性、真面目そうな天然パーマの少年

半目で片目を前髪で隠した少年、顔がそっくりなそれぞれ右側、左側にお下げをしている少女2人

 

「…もうちょいネーミングセンスどうにかならなかった?」

『名なんて人間が付ける呼びやすくしたものだろう?別に私がそれに合わせる必要が無い』

 

と言ってもな…あ、凄く嬉しそうにしてるよあの魚人達…気に入ったのか…

とりあえず一魚こと坊主頭の青年からナイフを受け取り軽く振ってみる、特に問題なく振れるので戦闘面はどうにかなりそうだ

 

「それで?どういう作戦でいくんだ?」

 

近くで俺の準備が終わるのを待ってる亜門に尋ねる

亜門は左右にお下げをしてる双子っぽい魚人に周囲をグルグル回られ困っていた、何してんだ…

 

「…実は私の肉体は上にあり、柏崎さんと合流するには柏崎さん自身が神社に向かってもらわなければなりません」

「上?肉体?」

 

頭の上で?マークが飛びまくるが双子の魚人が亜門に触ろうとするとその手が亜門の体をすり抜けてしまった

 

「っ!?…精神体か?」

「はい、私は今海神様の力によって精神だけがここに来ています、今戻れば私は神社の舞台近くで目覚める事になるでしょう」

「そ、そうか…ところで上って?」

 

もしかして島って浮いてるの?ラピ〇タ?

 

「ここ、実は島の真下にある海底トンネルなんですよ」

「…空気大丈夫?」

 

サーっと血の気が引いていく、さっきから準備運動とかしてるけど酸素あるよね…?ね?!

 

『そこは私が海中にある酸素をこっちに持ってきてあげてるから心配しなくていいよ』

「海神様って凄いなぁ!」

 

媚びなければ空気無くなって死ぬっ!

 

『あからさまな媚も可愛いなぁ、人間って』

「お前はちょっと趣味がおかしいよ」

『あ?』

「ゴメンナサイ…」

 

ちょっと息苦しくなった、やばい…死ぬ…

 

「…それで、亜門は上に戻るとして俺はどうやって戻るんだ?一応泳げるが…ここ深海何m?」

『ざっと80?』

「さらばだ!」

 

洞窟の奥に逃げ、俺は篭城戦を開始する

 

『大丈夫大丈夫、うちの魚達が送ってくれるからさー』

「息がもたないわ!」

 

能力とカクロの加護のお陰で諸々は大丈夫だと思うが溺れるのは辛いわ!

 

『まぁまぁ、ほら可愛いやつめー』

「くっそ!離れろこのタコがっ!」

 

頭の上から足で顔をペチペチ叩いてくるタコを引き離そうと力を込めるが吸盤が顔やら髪やらに…

 

「と、とりあえずあれだ…作戦、作戦が大事」

『そうだったね、亜門〜』

「はい、実は祭りの始まりの儀式は行われておらず中断されてるんです…」

「中断?」

「はい、祭りは信仰を海神様に向ける行事…それを中断する事により信仰が行き先を失ってこの島の周囲に留まり…違う神がその信仰を自身の信仰にできるんです」

 

信仰は神の力を維持するには必須だが…

 

「そんなことできるのか?」

 

信仰とは対象が明確でなければならない行いだ、そんなよく分からない神が信仰を受け取れるのか…?

 

「…悲しい話ですが島民や旅行者達は海神様の存在を信じておらず…」

『だから祭りがね、よく分からないけど信仰はあるみたいなね、そんなあやふやな信仰だからフリーな信仰って事だよ』

「んな適当に…」

 

だが話が事実なら、下級神は生贄と信仰をゲットできて一石二鳥ってわけか…

 

「儀式が始まれば海神様に信仰が向き…『海神様が降臨できる』」

「…ん?まて、今ここにいる海神様連れて行けばいいんじゃないか?」

 

現にここにいる海神様、亜門みたいに触らないわけじゃない…てかベッタリと張り付いてる、離れろ

 

『それがねー…信仰がないからこの寝床からも出れないんだよね…』

「えぇ…」

 

信仰がない神は物凄く弱い…子猫にも負ける…この前カクロが野良子猫に喧嘩で負けてたけど…

 

「ですから…まずは海神様に信仰を向けさせ、そして海神様の力をお借りして下級神を倒す…これが作戦です」

「ふむふむ、俺は?」

「柏崎さんはまず港から上がり…恐らく下級神の眷属が邪魔してくるでしょう、ですので海神様の眷属様達と共に神社まで来てもらい合流して…という感じです」

 

とてもシンプル、シンプルかつ俺の負担大き過ぎない?大丈夫?

 

「…んじゃ、行くか…タヌキも心配だしな」

 

ゆっくりと海神を引き離し近くの岩に置く

 

『君達にかかってるからね』

「はい…必ず…」

 

…何か訳ありっぽい、まぁ俺は知ったこっちゃないので無視だ無視

そんな事より俺はやる事がある

 

「あんのクソ魚人は俺が三枚おろしにしてやる…」

 

俺を海に投げ落とした魚人に復讐の念を抱きながら俺は魚人達に案内され地上を目指す




どうも、ミス多め私です

今回の話…無駄話7回目に続けて書いてた方が良かったなぁ…と、後悔する日々

では明日、また次の話で会いましょう


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無駄話9回目『私必要です?』

 

俺の名はジャァク、人間が言うところの魚人ってやつで今はこの凄く住みやすそうな島の港って言う場所でサボってるのさぁ

何をサボってるかって?俺達の主人が来る為の道を整備する為に陸とかいう海より住み心地悪そうな所に来て真っ直ぐな場所を作ってるのだ!…住み心地が悪かったり住みやすそうだったりする

 

だが俺はそんなことしねぇ!俺はいつか神になってこの海を支配するのさ!はははは!…実際は主人を見たかっただけだ

 

『ギャウ』

 

あー、家に帰りてぇなぁ…コンクリートとかいうクソかてぇ地面が足の裏にゴツゴツ微妙に凹凸が当たって不愉快だし…人間に刺された傷が痛むしよぉ…

 

『ギャウゥ…』

 

けど今日で主人が上級神になるし、我慢してやるか…そういや海神のとこの魚人がいたって聞いたが今更あんな負け組の海神にいる奴らは馬鹿だな、今俺達眷属が従うべき相手は主人で海神様ではない

…ん?

 

『ギャゥ?』

 

海にできるだけ近くの場所に寝転び海面を見てるとブクブクと気泡が海中から海面に上がってきているのが見えた

この近くに気泡が出る場所は無かったはずだが…

 

『ギャウ』

 

海中がよく見えない、海中に近づくように顔を近づける

するとぼんやりとだが何か…黄色?っぽい色が見え…

 

『ギャウ?!』

 

海中にいた何かは一気に海から飛び出した、その顔、頭、ジャァクは見た事があった

自分の体にナイフを突き刺した人間…

 

「みぃつけたァ…」

 

頭を掴まれ落下の勢いと共に人間と魚人は海中に戻って行き…赤い色がその場に広がる

 

─────────────────────

 

「なんか偶然だったのか、最初にあの魚人見つけれて好都合だったなぁ…しかし何でここにいたんだ?」

 

海から港に上陸して近くの遮蔽物に隠れる、海神の魚人達は俺に続いて遮蔽物に隠れ待機してもらう

今回の神社までの道中は俺に指揮権があり魚人達は従ってくれる…はず、海神の命令だから聞くとは思うが

 

「んじゃ、念の為に点呼する、一魚から」

「一魚、いるぞ」

「二魚、同じく」

「三魚、右に同じく」

「四魚、右だったり左だったり」

「五魚!右斜め上に同じく!」

「六魚!………右ってどっち…?」

 

やっぱり4から統率がとれてない、君達大丈夫?

 

「…さて、んじゃ作戦は至って簡単だ諸君」

 

魚人全員の目を見て言う、全員ちゃんと説明する時は真面目になってたので一安心した…これでふざけ始めたら海に叩き返す所だった

 

「まず俺が先頭、その次に二〜六が俺に続いて横からの攻撃に牽制…最後に一魚が殿だ」

「もっと作戦を練り慎重に行くべきなんじゃないのか?」

「一魚が言う事は至極真っ当だが…俺が思うに時間はそこまでないと思ってる」

 

儀式うんたらかんたらと言ってたが下級神とやらが来る時間は正確には分かってないようだった、つまり下級神は時間を決めてる訳ではないのかもしれない

 

「今日は100人目の生贄で下級神から上級神になる日だろ?絶対早く来るって」

 

まぁその理論だと儀式が中断された時に来ると思うが…神社までの道を見ると、魚人達が服を着た魚人達を移動させたり屋台を道からどけている…多分移動しやすいようにしてるのだろう

 

「つまり、ここで俺達が絡め手で攻めても時間が掛かりすぎてBADEND…だから脳筋プレーだ」

 

一魚にウインクして説得を試みる、本当は見つからないように〜…とか…一体ずつ暗殺〜…とか安全策をとりたかったが今回のメンツ…一〜六魚達の実力が不明過ぎてそんな事が可能かすら分からない、てか五六は絶対無理だろ…

 

「…致し方ないか…」

「致し方なし、んじゃ…いくぞ」

 

遮蔽物から飛び出しナイフを構える、一魚達も銛を手に後から続いて来ている

 

「さぁ!正義執行の時間だっ!」

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

まず1番近い場所にいた魚人、そいつがこちらに気づく前に近づいて目にナイフを叩きつける

 

『ギャッ!?』

 

ボコッ!と深く突き刺さりそのまま強く押して脳まで貫通させる…てか脳あるよね?大丈夫だよね?

 

『ギャ……』

 

小さく鳴いて静かになる魚人を見て上手くいったことに安堵する、多分ミスったらこっちも痛いしっぺ返しをくらってたな…

 

『ギャウ!ギャウ!』

 

魚人のあの鳴き声が聞こえ声がした方を向くと銛を持った魚人が銛をこちらを向けながら騒いでいた、どうやら仲間に伝えてるらしい

 

「くっ!」

 

ナイフを構えその声を止めようとし、走り始め…俺の両側から何かが素早く俺を追い越していく…五魚と六魚だ

 

「いっとー!」

「にとー!」

 

掛け声と共に手に持っている銛を大きく振りかぶり投げる、銛はありえない速度で飛んでいき騒いでいた魚人の頭と胴体に深々く刺さり…貫通した

それでは終わらず2人は刺さった銛を力任せに抜き、何の騒ぎかと近づいて来ていた魚人に向かって行ってしまった

 

「人間!早く進め!」

 

背後から一魚の声が聞こえる、振り向くと一魚が見ろと言わんばかりに視線を神社までの道に向けていたので促されるように俺も見る

 

「なん…だ…こりゃ…」

 

五、六魚から始まり、二魚、三魚が確実に魚人を仕留め

四魚は突っ走る五、六魚のサポートをしつつ二、三魚の援護をしていた…

 

「…なぁ、一魚」

「なんだ人間、急がなければいけないのだろ?」

「いや、そうなんだけどさ…俺必要だった…?」

「…あまり必要とは思えないな」

「正直に言うなよォ!もっとこう…オブラートに包めよォ!!!」

「…人間の事はよくわからん」

 

励ましもしてくれない一魚に急かされながら俺は神社を目指す…こいつら最初から脳筋プレーする気だったろ…

 




どうも、風邪から復活のP(パル)です

今回の話はそんなに主人公がいなくてもなんとかなるね的な話でした
主人公は強い部類ではありますが周囲が弱いかと言われるとそうじゃない的なあれです、あれ

では明日、また次の話で会いましょう


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無駄話10回目『氷雨亜門』

私の名前は氷雨亜門、27歳…生まれは島だが育ちは本州だ。

初めて彼女と出会ったのは12年前、15になった私は仕事が忙しく海外出張に行く親の元を離れ生まれた地…この島にやって来た

 

丁度祭りもあるとの事で、まだイタズラ小僧の私は今回の祭りの始まりと終わりの舞を踊る巫女にイタズラしようと考え神社まで向かいました、今思えば親が海外に行き寂しくなった当時の私なりのSOSだったのではないかと今になって思えます。

 

神社に向かい境内に入り舞台を通り過ぎようとすると足に何かが当たる、何かと思い下を向くとそれは深海を思わせるような青色の簪でした

気になって手で拾い上げ眺めてみる、その色はとても綺麗で眺めていると背後から声をかけられました

 

『あ、簪…そこにあったんですね』

 

突然の事で心臓が飛び出てしまうかと思いました、恐る恐る振り返ると私は危うく簪を落としてしまうところでした

夜空を思わせる黒髪に流れていくような長髪、彼女を見て簪の時の余韻はなくなり私は言葉を失いました

美しい、と

 

『えっと、その…これは…貴方のですか?』

『はい、儀式に必要だったんですけど無くしてしまいまして…舞台の近くに落としちゃってたなんて私ドジですね』

 

と、困った顔をする

 

『そんな事は…』

『香織、そろそろ時間だよ…と、そこの少年は?』

 

私が否定しようとしてると香織様が来た方角から源次郎様がやって来ました

 

『父さん、彼は深海様の簪を見つけてくださった方なんです』

『そうなのか?それはすまないね、ありがとう』

 

源次郎様の顔は怖く当時の私は怖くて仕方なく、香織様の美しさと源次郎様の厳つさに板挟み状態でした

 

『い、いえ!お気になさらずに!』

 

私は恥ずかしくなり簪を香織様に渡して階段を転げ落ちるように駆け下りて町に戻りました

 

 

祭りが始まり、私はもう一度見に行ってみるが悩みました

挨拶も名も名乗らず逃げ相手にとても失礼だと言う事に今になって思い出し後悔したからです

ですが今は恐らく舞の途中…行くとしても明日になりそうですね…

 

 

潮の香りがしたのは本当に突然でした、海の近くの町なのだからそりゃ潮の香りはするだろうと思えるでしょうが…通常では考えられない程の潮の香り…その香りを吸うと頭が痛くなり視界がボヤけていき、体に力が入らなくなり地面に膝をつく

 

『な…にが…』

 

薄れる視界の中、最後に見えたのは神社までの道を行進している魚のような人間…そして巨大な…………

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

『おや、私の眠りを妨げるのは誰かな…ふむ…人間の子供か…あぁ慌てないで、大丈夫大丈夫…私は君に何かするつもりはないよ…そう…分かってくれたかな?』

 

『君はどうやら私が人間に渡した簪に手をつけて私と繋がりを持てたようだね、新海水もちゃんと飲んでて偉いじゃないか…ん?私が誰かって?私は海神、君達からは海神様と呼ばれているよ』

 

『あの現象は何かって?…なんの事かな?私は今まで眠ってたから何を言ってるか分からないのだが…ちょっと君の記憶を見させてもらうよ、大丈夫…そんな深くは見ないよ』

 

『ふーむ、どうやら下級神のひとつが上級神になろうとしてるらしいね…それにしてもなんて神力だ…ふむ…ん?あぁこっちの話だから気にしないで、君はもう帰る時間だ…ゆっくりおやすみ』

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

目が覚めると私は屋台の前に立っていました、時刻はもう夜になっており潮の香りや頭痛がせず…まるで何事もなかったような感覚になりました

 

『…あれは一体………っ!確か神社に!』

 

頭が働き眠っていた思考を回転させ倒れる前に見た光景を思い出す

 

『急がなければ…』

 

足を動かし神社へ急ぐ、それにしても…あの夢に出てきた巨大なタコはいったい…?

 

 

 

 

神社に辿り着き鼓動が早まる心臓を落ち着かせて周囲を見る

すると源次郎様、香織様が並んで歩いてるのを見つけ心の底から安堵し服装を正して2人の元に向かう

 

『すみません』

『はい?』

『ん?』

 

2人が私に気づいて顔を向けてくる、2人とも無事そうだ

話しかけたからには何か言わなければ…突然魚のような人間が来なかったと言うのは流石に無理だった、私の妄想だったりや私だけにしか見えないというのも考慮して…

 

『あの時簪を拾った者です、先程は突然去ってしまって申し訳ございません』

『え?』

 

香織様が困惑した顔になるのは仕方ない事だと思っていました、礼も聞かず走り去ってしまった者が突然またやって来たのだ…普通なら…

 

『えっと…どちら様でしょうか…?』

『っ!?』

 

頭を鈍器で殴られたかのように呆然となり思考が停止する

 

『お父さん、知ってる?』

『いや…最近で見た事はない…忘れただけかもしれないな…すまない、いつだったか?』

『え、あ…いや…勘違いだったかもしれません』

 

半笑いを浮かべながら私の頭の中はある単語が浮かぶ

 

『記憶が無くなっている』

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

『…ん、また君か…何度も来れるというのは珍しいね、もしくは簪を触った影響かな?…ん?どうしたんだい?そんな顔をして』

 

『…なるほど、ごめんだけど今の神主と巫女の名は知ってるかい?…巫女名前だけ?それでも十分だよ』

 

『…一応神様だから最初の儀式の指名を受けた者の名は覚えてるんだけど…そうかー…いや、ちょっとね今の巫女は最初の巫女全く変わってないね…人間ってそんなに長生きだったかな?』

 

『どういう事かって?香織って巫女はもし同一人物なら『80年以上』生きてる、若かったかい?そりゃそうだろう…年老いてないからね…』

 

『私としては今すぐ降臨して止めるべきなのだろうが実はまだ眠から覚めれなくてね、あと11〜12年はかかる…うん、流石に人間の時間感覚だと長いよね…実は1度だけ人間として生活してたから分かるよ』

 

『…よし、君は無宗教かい?……無宗教だね、私の信者にならないかな?…なに、海神の加護と今後君の記憶が無くならないようにするのさ………うん、今回の記憶が無くならなかったのは私と対話したからだろうね』

 

『自分は何をすればいいかって?…準備だよ、時が来るまでのね………そう、目覚めた時の私は信仰が少なくて弱いままだろう…君は私が目覚めるまで自分達が有利になる準備をするんだ』

 

『最後に、君にはこれを与えよう…『海刀:守り』これは神主に与えた『海刀:破壊』の逆の物さ…ただこれは単体では弱い、元々2つでひとつの武器だったからね』

 

『さぁ、目覚めよ信者1号、君が頼りだ』

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

その後、私は島の住人として準備を行い…神社の演奏団の1人として神社に潜り込むことができた

香織様は毎年祭りの日になり祭りが終わると私を忘れていたが…変化が訪れた、私を忘れるが演奏団の者とは覚えてたのだ

この調子で準備を続けて時を待つ…絶対に救ってみせる

 

──────────────────────

 

破壊音と硬いものがぶつかる音が響き渡っている神社の境内に立つ2人の影、1人は日本刀を手に持ち刀を振っていた

1人はメガネの位置を直しながら右手を様々な方角に振り何かを合図している

 

「…はぁ…はぁ…勝てそうかなー…?」

 

メガネの位置を直し源次郎を見るタヌキ、魔力はまだ余裕があるが操る『万物の兵士』の数が少しずつ減らされていく

あれからどれだけの時間がたっただろうか…?

まだ柏崎は来ない、増援の見込みはなし、魔力はあれど兵士が少なくなっていく…

 

「あれ、無理ゲーで……っ!」

 

飛んでくる神力の斬撃をギリギリで回避する、が無理な体勢で避けた為バランスを崩してしまう

 

「しまっ!」

 

目の前に迫る日本刀がゆっくりと感じられ…

 

 

金属と金属がぶつかる音と火花が散る

深海を思わせる日本刀と、明るい色…青のような色の日本刀が刃をぶつけながら拮抗していた

 

「…亜門」

「源次郎様…いや、海沢源次郎…貴方を止めに来ました」

 

『破壊』の神刀

『守り』の神刀

 

2つでひとつの武器をそれぞれ持った者が遭遇した瞬間であった




どうも、ニット帽買ったけど不審者と言われた私です

今回の話は9割が氷雨亜門の話でした、明日どうなるか…お楽しみに

では明日、また次の話で会いましょう


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無駄話11回目『契約』

 

日が沈みかけて夕焼けがぼんやりと膜の外から差し込み2人の男を照らす

1人は深い深海を思わせる刀身の日本刀を右手に

1人は明るい青色の刀身の日本刀を左手に

 

「…亜門、貴様何故この中を動ける…?」

「潮の神力を防ぐ方法は貴方も知ってるはずでは?」

 

亜門に言われ源次郎は自分の日本刀を見る、視覚では分かりづらいが黄金色のオーラ…神力が日本刀から出て自分の体を包むように覆っていた

亜門を見る、亜門も全身が神力によって包まれており空気中に漂う神力を防いでいた

 

「…なるほど、何故亜門が『海刀』を持ってるかは知らないが…何故邪魔をする?」

 

数歩距離を置いて鋭い目付きで亜門を見る源次郎の威圧感に亜門は少したじろいでしまったが、ここで怖気付くと何の為に今まで準備をしてきたかを思い出して逆に威圧するように亜門を睨む

 

「貴方が信仰している神は海神様ではない!海神様の名を語るただの下級神だ、今なら止められる…私と共に下級神を倒しましょう!」

 

当初の目的は下級神の従順な信者である源次郎は…海刀で切り捨てるはずだったが、亜門は12年…源次郎と香織と過ごし、情が湧いて源次郎と香織を助けたいと思っていた

だが

 

「…ふ、最初から海神様ではない事は知っている」

「っ!なら何故!?」

「……契約だ、私は100年生贄を捧げ続けなければこの島と島民達を捧げると下級神と契約したのだ」

 

知らない情報、突然の事に亜門は慌ててしまう

 

「契約…何故そんなもの…!」

「100年前、この島は異常な程の飢餓に襲われた…作物は育たず家畜は病死し海は荒れていた」

 

これは亜門も知っていた、この島は食料が無くなり人が人を食うような事態になってしまったとも

 

「…そして人はある存在を崇め初め…あの方が降臨した」

「…海神様ですね」

 

海神は島に魚等の食料を恵む変わりに信仰を要求した…と

 

「我々は食料を手にし生き延び、私は島を守る者として…香織は海神の巫女となった…だが地獄はここからだった」

 

源次郎の手は怒りか恐れか、僅かに震えている

 

「次の日、海神と一緒に来ていた者が私の元に現れ…契約をするよう言われた」

「…」

「契約の内容は海人の生贄だった…そして新海水を定期的に島民に飲ませるようにと、受けなければ…また飢餓地獄と」

「そ、そんな無理矢理な契約…それに今ではもう飢餓はない…契約を反故するのは…」

「それは無理だねー」

 

亜門の言葉に拒否したタヌキはため息混じりに口を開く

 

「神との契約は下級神だろうが上級神だろうが『絶対』…まぁ基本的に契約はあまりできる事じゃないけど」

「そんな…」

 

源次郎は亜門とタヌキを見据え口を開く

 

「私はどうにかして『契約完了』までの存命を要求し…今までこの島を見ていた、香織を守る為に」

「っ!なら尚更私達は協力するべき…」

「亜門さんは知らないだろうけど…神同士が敵対すると信徒も敵対する傾向があるんだよ、亜門は敵意はなくてもあちらは分からないねー」

 

タヌキの言葉を肯定するように源次郎は日本刀を構える

 

「亜門…私はな…戦う気はなかった…だがお前が海神の信徒になり…私の奥底の感情がお前を憎く思っている」

「源次郎…様…」

「だが亜門、お前が来てから香織は笑うようになった…記憶が無くなり都合のいい記憶が無理矢理入れられていたのを薄々感じ取っていたのだろう…あの子は笑わない子になってしまってた…」

 

日本刀を構えながら少しずつ近づいていく

 

「あの子にとってお前は大切な弟の様なものだと言っていた…今では年上だと思ってるようだがな」

 

苦笑をする源次郎、だが歩みは止めない

 

「…私はまだ諦めん、刺し違えてでも奴を切る…だがこの感情を押さえつけれられない…すまない…亜門」

「源次郎様…私は」

「亜門さん!構えて!」

 

タヌキが狼狽する亜門の前に立ち魔術を使用して障壁を張る

 

「ふん、そんなもので止められると思っているのか…?」

「止めるか止めないかじゃない、行動が全てなのさー…」

 

一筋の汗がタヌキの頬から落ちる、体が震える…約100年に近い信仰と生贄を吸収した神の信者の威圧に足元がおぼつかない

 

「…さらばだ」

 

『海刀:破壊』を大振りに振りかぶる、タヌキはメガネ越しに異常なまでの神力が海刀の刀身に集まってるのがはっきりと分かった

あぁ、ここまでなのかと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁぁぁぁぁあああああああ!??!??!」

 

何処からか声が聞こえ…源次郎の頭に何かが落ちる

 

「いでぇ!?」

「ぐぅふぇ!?」

 

源次郎は勢い良く頭に何かがぶつかり白目になって倒れてしまった

 

「ぁぁぁ…あたまがいたい…」

 

そのすぐ横で悶絶してる1人の人影…

 

「柏崎君?!」

「…えっ?柏崎さん?」

「あぁ…?」

 

涙目になり痛みを堪えている顔でタヌキと亜門を見るその男、柏崎はゴロゴロ転がって痛みを堪えていた

 

「頭痛が痛い…」

「冗談言う余裕がある程なら大丈夫そうだねー」

「…酷くない?もうちょい労わって?」

 

頭をさする柏崎は思い出したかのように階段の方を向いて怒りの表情になる

 

「おい五魚と六魚!お前ら俺が途中休憩したからって投げる事ないだろ!」

 

怒鳴った後に階段から勢いよく何かがジャンプしてきて境内に着地する

 

「えー?だって急がないといけないのに休憩してたからー」

「職務怠慢?」

「職務怠慢じゃないし何処で覚えたそれ?海神だな?分かる」

 

お下げを左側と右側にしてる少女2人の頬を引っ張りいじめてる柏崎、光景が犯罪だがタヌキはある事に気づく

 

「…あれ?柏崎君それ魚人…?けど下で見たのと違うよね?」

「あ?あぁ、こいつらは海神の眷属だと」

「こいつら?」

 

タヌキが疑問を口にすると階段からゾロゾロと4人、少女と同じようにエラと水かきがある魚人達が歩いてきて横一列になる

 

「海神様の眷属、一魚到着した!」

「同じく二魚、到着!」

「同じく三魚、到着!」

「2+2=4魚、到着」

「えーっと…………………」

「えっと、片手が5本だから…」

 

横一列に整列した魚人達を見てタヌキは横目で柏崎を見る

 

「…ちょっと既視感あるねー?」

「ここに来るまでにばっちり叩き込んできたぞ!」

「そこの人間がする事ないと言って勝手にやってたがな」

「一魚うるさいぞ」

 

騒ぎ出す魚人と柏崎を見ながらタヌキはため息を吐く

 

「はぁ…柏崎君?まだやる事終わってないよ?」

「あ、やっべ…よし…亜門!」

「……あっ、はい何でしょう?」

「やるぞ」

「え…?……!は、はい!」

 

亜門の尻を蹴りつつ柏崎は周囲を見る

 

「所で…何があったの?」

 

とりあえずは事情説明からだ




どうも、ニット帽はいいぞ…私です

前回なんか亜門VS源次郎的な空気だったな…あれは、嘘だ(▂▅▇█▓▒(’ω’)▒▓█▇▅▂うわあああああああ)

では明日、また次の話で会いましょう


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無駄話12回目『回らない寿司は怖いが行ってみたい』

 

俺はタヌキと亜門から今までの事を聞きため息を吐く

 

「なんと言うか…俺はナイスタイミングで来たようだな」

「そうだねー、ぶっちゃけちゃうと大助かりの喝采ものだよー?」

「よし、なら俺をほめ讃えよ」

「亜門さんそろそろ香織ちゃん起こして儀式始めない?」

「あっ、そうですね…香織様を起こしに行きます」

 

亜門はハッとなり舞台に駆け足で向かって行った

 

「…無視はいけないぞタヌキ」

「無駄な労力は別料金だよー」

「あ、褒めるとかは金銭発生するんですね…」

 

冷たい世の中である…

 

「…タヌキ、間に合うと思うか?」

 

亜門が離れたのを確認して俺はタヌキに小声で尋ねる

下級神が来るまでに儀式が終えるかどうか…

 

「五分五分だねー…そろそろ来てもおかしくないし…まだかかるかもしれない」

「つまりは分からない…と」

「そうだねー、100年間信仰と生贄を集めた神相手に私と柏崎君だけじゃ長くは持たないから…今から来たら終わりだねー」

 

やはり一世紀という重みは計り知れない程の力を持ってるという事か…しかしそれにしては俺とタヌキでも多少は戦えるのか?

 

「ん?あぁ、儀式中は基本的に儀式された対象の領域になって他の神の力は弱まるんだよー」

「…聞いた事はあるな、兎にも角にも儀式はさせるべき…と」

「そういう事なのだ、魔力にまだ余裕があるし…儀式が始まれば神力返し用の魔力が節約できるからねー」

「そうか…ん、起きたっぽいぞ」

 

少し離れた舞台の上で香織が上半身をフラフラさせながら起き上がったのを確認して俺とタヌキは香織の元に向かう、ちなみに源次郎は魚人ズによって縛られている

 

「よっ、元気か?」

「柏崎さん…ここは…私は儀式を…」

「香織様」

「亜門さん…?」

 

香織が虚ろな目で亜門を見る、しばらく眺めていたがはっきりと目に光が戻り香織は慌て始めた

 

「亜門…さん?亜門…君?亜門…?え…何…この記憶…」

「香織様…落ち着いて聞いてください、今その事は後で説明します…実は…」

 

亜門が香織に儀式の事や下級神の事を説明する、途中にタヌキや俺が説明を補足などをしたおかげか香織はあまり疑ってる様子はない

 

「そんな…お父さんが…」

「君のお父さんは俺が確キルしといたぞ☆」

「柏崎君〜?」

「すみません…」

 

タヌキにゲンコツを落とされ俺は小さくなる…誰がチビだ!?

 

「…分かりました、まだ…記憶が曖昧で理解出来てませんが…海人として、儀式を始めさせてもらいます」

「では、私は演奏を」

 

準備を始める亜門と香織を眺めつつ、俺とタヌキは神経を研ぎ澄ませていた…頼れる仲間はいない…カクロも、超人も、特殊部隊の面々も…

頼れるのはアル中気味の情報屋…横目でタヌキを見ると目を閉じ集中していたので邪魔したら悪いなぁと思いつつ開けた口を閉じる

 

「何か言いたい事があるのかなー?言うのが吉とみた」

「お前ちょっと薄目で見てるだろ……いや、巻き込んで悪かったなと」

 

昔、タヌキをこちら側の世界に連れてきたのは俺だった

俺が何もしなければタヌキは今も自分の安心出来る空間で平和に過ごせた筈なのに、今ではこうして危険な場所に連れてきてしまっている

 

「気にしなくていいよー、君が道を示してくれて…タヌキさんが勝手にその道に進んだだけだからねー…後悔はしてない」

「………そうかよ、ま…帰ったら一杯奢ってやるよ」

「わーい!なら回らないお寿司がいいなー」

「あれ?お酒の意味だったんだけど伝わりずらかった?ねぇ?聞こえないフリやめろ!給料日半月前だからお金使いたくないんだけど!?」

 

俺達(俺だけだが…)が騒いでると亜門が…なんだあれ?リコーダー?違うか…あれなんて言うんだっけ…

 

「尺八だねー、和楽器の1つだよ」

「リコーダー?」

「尺八ね」

「八尺様?」

「ぽっ!」

「あの…集中したいのですか…」

 

怒られてしまった、まったくタヌキは…

 

「柏崎君のせいだよねー?」

「知らんな」

 

魚人達は物珍しそうに準備をしている2人を見ており五六魚に至っては走り回ってる

 

「…では、始めます」

「分かりました」

 

まず、香織が膝立ちで簪を握りながら祈りを捧げるようなポーズになる

その後亜門が演奏を始めしばらくすると潮の香りが薄まったような気がした

 

「おっ、もう大丈夫っぽいねー」

 

タヌキがメガネの位置を直しながら言う、体感的にも神力が満ちてるのが分かるとは…凄いな

俺が関心してると香織が立ち上がって舞を踊り始める、その姿は一言で表すと…

 

「美しい…」

 

その一言に尽きる、タヌキも…そして魚人達も動きを止め見入っていた…そのくらい香織の舞には目を奪われる程の美しさがあり時間を忘れてしまいそうだ…

 

 

 

 

 

 

 

地震が起きたのかと思った、しかし実際は俺の体が震えている事に気づいたのはしばらくしてからだった

 

「な、なんだ…この震え…恐怖…?」

「柏崎…君…海っ!海見て!」

 

タヌキは震える体を抑えながら鳥居の向こうに見える海に指を向ける、俺はそれに従うように海を見ると…

 

「ぁ…か、神…?」

 

海が割れ、割れた海から何かが出てくる

遠いのでよく分からないが…それでも見える程『大きい』

 

「…ウツボか…?」

 

その姿はウツボの姿ながら宙を泳ぐように少しずつ島に近づいてくる、そしてその周囲にはおびただしい数の魚人達が島に上陸していた

 

「…タヌキ、あれ想定してた?」

「想定外…だねー…」

「くっそ、海神のやつどんだけ眷属いたんだよ…五魚!六魚!」

「あいあーい」

「おらうーたん?」

 

五、六魚が俺の横に立つ…あとオラウータン知ってるの?あと多分オラウータンではないと思うけどどうなんだろう?

 

「お前らは香織と亜門を頼む…まだ時間はかかりそうだしな…一魚!二魚!三魚!四魚!お前らは俺達についてこい、防衛戦だ」

「承知した」

「分かった」

「了解」

「承知之助」

 

ちょいちょいボケを挟んでくるが全員目は真剣だ、心配しなくてもいいだろう

 

「タヌキ」

「なんだーい?」

「行くぞ」

「はいはーい」

 

俺は階段を目指し歩き始め、タヌキは近くに落ちていた出店の残骸を魔術で動かし後に続いてくる

魚人達も香織達を守るように立ち、俺とタヌキについてくる

 

 

「さぁ、正義執行の時間だ」




どうも、寿司はマグロ、私です

今回は次の為に少し短め、明日は長文かも?

では明日、また次の話で会いましょう


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無駄話13回目『下級神』

 

飛び交う銛、そして怒声と奇声…飛び散る鮮血と転がる魚人の死体の山を見ながら俺はため息を吐く

 

「くそっ!お前ら下がれ!防衛線を後方に移動だ!」

 

階段を降り町に向かっていた俺達を待ち受けていたのは島に残っていた魚人達だ、そのせいで町に防衛線が張れずに現在神社の階段までそこまで遠くない場所で防衛戦を強いられていた

 

『酷使せよ!万物の兵士!』

 

タヌキが魔術を使用して地面に鉄板を突き刺す、簡易的だが盾になり飛んでくる銛から身を守る事ができる

 

「一魚、二魚は左から!三魚四魚はそのまま防衛、俺は右側から行く!」

 

指示を出して右側回りに走る、道中の魚人を切り捨てつつも前進を続けるが…海からやってきた魚人の大群が奥からやって来ているのが見えた

 

「柏崎君!あれが来たらここ崩壊するよー?!」

「分かってる!…っと!」

 

返事しつつ銛を突き刺してくる魚人の腕を切り落とし胸に一突きする、そのまま横に切って蹴り倒し次の魚人に戦闘を仕掛ける

 

「だが今戻っても負けるぞ!タヌキ、儀式はどのくらいだ!?」

「……あの大群がくるよりも遅いかなぁ…」

「聞きたくなかったよ、ちくしょう!」

 

魔力が込められたナイフは耐久値が低い、このまま戦闘を続けると戦闘に耐えられず折れてしまい俺は戦えなくなる…

 

「貴様ら!海神様を裏切るとは万死に値するぞ!」

『ゲガッガッガッ!』

「海神様を愚弄するな!」

「え?今会話が成立してたの!?」

 

一魚が敵の魚人と会話してたりとしてるが…現状このまま戦えば勝てるだろう

『あれ』が来なければ

 

「タヌキ…あれちょっと早くなってない?」

「奇遇だねー柏崎君、タヌキさんもそう思う」

 

ゆっくりと、だが着実に神社に向かっていた下級神の速度が少し早まった気がする

 

「…タヌキ、お前障壁を全力で張ったらどのくらい耐えれる?」

「んー?…普通の魚人なら1日くらい?…あれ相手は10秒かなー」

 

弱っているとはいえ神相手に10秒持つとは流石と言うべきか

 

「…よし、全員神社まで後退!」

「っ!まて人間!どうする気だ!」

 

一魚が近づいてきて俺の肩を掴む、その顔は不安の表情で…恐らく儀式が邪魔されるのを恐れてるのだろう

 

「儀式してる間はされてる側の領域だ、そこに近ければ近い程勝てる確率も高くなる…大丈夫だ…俺を信じろ」

「………分かった」

「さて、全員後退だ!銛に当たるなよ?」

 

階段を駆け上がり飛んでくる銛を避けながら俺達は神社に後退する、神社に近づくにつれて下級神の眷属になった魚人達は分かりやすく動きが鈍くなっていく

 

「ここまでは予定通り…あとはあれを倒す…か」

 

こちらに向かってくる下級神を見て俺は作戦を考えつつ、神社へと目指す

 

──────────────────────

 

吹きながら亜門は遠くから聞こえる戦闘音が近づいてきているのが聞こえてきたのを耳にした時、焦りが生まれた

 

「(何してるんですかっ!このままじゃ…)」

 

焦りが体の動きを阻害して音程が乱れそうになる、だがふと香織を見ると目が合い…自分の不安定になった精神を安定させる

 

「(落ち着け…信じるんだ…あの人達を)」

 

演奏を続け、儀式が終わるまであと少しという所で戦闘音がもうすぐそこまで来ているのに気づく

そして魚人達、タヌキ、柏崎が階段を上がりきって息を整える為に膝に手をつく

 

「はぁ…はぁ…タヌキ!」

「『酷使せよ!障壁!』」

 

鳥居を境目に紫色の薄い膜のようなものが張り巡らされて後々に来た魚人達は壁にぶつかったように跳ね返り階段を落ちていくのが見える

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

「はぁー死ぬかと思った…」

 

大きく息を吐いて一息ついた俺は一目散にある場所を目指す

今は見えないが深く青い刀身…『海刀』

あれは俺のナイフとは違うが神相手でも戦えると思い…

 

「っ!まて人間!それに触るな!」

「なんっ…」

 

一魚の警告の声が俺の耳に届いたがその手は止めるには遅すぎた

海刀に触った瞬間、刀から水が溢れ広範囲に広がり俺を包もうとする

 

「危なっ!?」

 

咄嗟にナイフを振り迫ってくる水を切りながら日本刀から離れると水は少しずつ日本刀に戻っていき、何事も無かったように刀に水が入りただの日本刀になる

 

「海刀は海神様によって渡された者以外使えないようになっている、無闇に触ると溺れるぞ」

「マジか…くそっ、計画が1つ潰れたな」

 

海刀を使用して一気に戦闘を終わらせる筈だったが…そう上手く問屋は卸さないらしい

 

「一魚、お前らあとどれだけ戦え…一魚?」

 

最悪全員で挑み時間を稼ごうと考え一魚を見ると一魚は俺を見ず違う方向を見ている

 

「おい、一魚…一魚?」

「…人間…あれを…見ろ」

「あれ…?」

 

促されるように『鳥居』の方を向く

 

 

 

 

そこには大きなウツボが浮いていた、まるで泳ぐように体を動かし大勢の魚人を引き連れその身には神々しい程の神力が漂っている

 

「なっ…まだ距離があった筈じゃ…」

「…眷属から力を取り自身の力にしたのだろう、神に仕える眷属はそのような事が可能と聞いた事がある」

「なんだよ…そりゃ…」

 

タヌキの張った障壁、下級神は1度それを見ると口を開けた

口の間に見える程の神力が集まっていき…

 

「やばい!タヌキっ!一魚達も避けろ!」

 

障壁を継続させるのに集中してるタヌキの所まで走り体を掴んで地面に倒れる、一魚達もそれぞれ衝撃に耐えれるように体勢を低くし…

 

光が障壁を破壊し、俺達の頭上を通り過ぎて島の外にある膜に当たって霧散する

 

「そんな…あの障壁は5tトラックに当たっても壊れない筈なのに…」

「そのくらいやべぇって事だ、タヌキ…お前は香織達のとこらまで下がれ」

「柏崎君は…?」

 

タヌキを立たせ、ナイフを片手に俺は境内に入ってくる魚人達と下級神を見る

 

「…時間稼ぐしかないだろっ!」

 

タヌキの背中を押して俺はそのまま下級神の所まで走る

一魚達は侵入してくる魚人達を相手にしている、俺は下級神を殴るしかない

 

「(大丈夫だ、俺ならできる、大丈夫…大…丈夫…)」

 

下級神に近づくにつれて俺の足は思考とは逆に重くなっていく、何故か1歩が踏み出せない…顔がどんどん地面を向いていき顔を上げられない

 

「(なん…でだ…やっぱり…神相手に戦えないのか…?)」

 

死を司る神との時もカクロがいなければ俺はダメだっただろう、だが今俺は…1人だ

誰も助けに来れる余力はない、俺がやらなければ全てがおしまいなのに体が言うことを聞いてくれない

 

 

『人間か…どけ、今貴様らのような雑種には用はない』

 

声が聞こえる、体が勝手に動きそうになるが必死にその場から動かないようにと無理やり動きを止める

 

『ふ…この私の声が聞こえない事はない、恐ろしいか?人間よ…無理もない…今貴様の前にいるのはこの海全てを掌握する海神である』

 

恐らく下級神が俺の目の前にいる、だが俺は顔を上げれない…ナイフを使い戦うべきなのに…俺は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いや、お前にはこの海を任せるのは不安が多いから私が引き続き海神を名乗らせてもらおうか』

 

その声と共に俺の体は硬直が解けたように自由になった、と言うより動きやすい…?

 

『…今更何しに来た、お前の時代は終わったぞ』

『いやー、信者からお願いされちゃったから…私の部下が好き勝手やってるってね』

 

ペタッと俺の頭の上に何かが乗る、視線を上に向けると…タコが俺の頭の上に乗って足をユラユラと動かしていた

 

『さて、反撃開始だ』




普通に予約の時間をミスってしまった件


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無駄話14回目『守護者』

頭の上に居座る海神のお陰なのか俺の体は自由に動けるようになった、後ろを見ると疲れ果てた香織と海刀を手に取りこちらに来ようとしてる亜門の姿が見えた

 

「亜門!あんたはそのままそこに!」

 

俺の声が聞こえ、こちらに来ようとしてるのを止めて向かって来ているタヌキを守るような立ち回りをしながら下がる亜門を見て俺は息を吐く

 

『いやぁ、助かったよ柏崎…君のお陰で早めに来れた』

「俺の?」

 

特にこれと言って何かした訳じゃないが…

 

『君を一時的に信者にしてたんだ、まぁもう違うけど』

「いつの間に…あ、あの時か」

 

洞窟にいた時、頭の上に乗ってきていたがちゃんと意味はあったんだな…けどなんか嫌だなぁ…そんなホイホイと信者にされるって自分勝手過ぎない…?…ちょっ顔を足で叩くな

 

『んじゃ私達も下がろうか』

「…は?いや、無理だろ」

 

今も尚俺達の目の前にいるウツボは何かを考えてるのか特に何もしてこない…が、普通に考えたら突然動き出す敵を野放しにはしないだろう

 

『大丈夫大丈夫、あれの相手は私達ではない』

「なら誰が…」

 

俺の肩を誰かが掴む、それに反応して俺は振り向くと…

源次郎が立っていた

 

「お前…気絶してたんじゃ…」

 

喋りながらあるはずのロープを探す…だがロープが見つかる前にある事に気づいてしまった

 

「…なんだよこれ」

 

源次郎の体は所々欠けていた、まるで石像のように…

ボロボロにヒビ割れ通常では考えられない姿をしていた

 

「おい源次郎、あんた…」

『今話しかけても無駄だよ、詳しい話はあっちに行きながら』

「お、おう…」

 

海神に促され俺は香織達がいる所まで移動する、俺がいた場所には源次郎とウツボの下級神だけが残った

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

『…貴様、やはり海神の手に落ちたか』

「……………………」

 

下級神の問いに源次郎は答えない、海刀を携え下級神を睨んでいる

 

『ふ、はははははは!…よかろう、貴様はよく頑張った…このくらいは大目に見てやろう…さぁどけ、海神と貴様達の神力を見てたが私の敵ではない』

 

下級神の周囲に魚人達が数体集まる、その手には銛がありいつでも投げれる状態だ

 

「…………ない」

『ふむ?何か言ったか、人間よ』

 

源次郎が何かを言う、だがその声は小さく聞き取りずらい

 

 

次の瞬間、魚人達の頭は消滅しその体は地面に倒れる

あまりにも突然の出来事で下級神も驚いたが源次郎の体に漂う神力の量に納得いく

 

『くははは!…人間の身にしてその程の神力をその体に留ませるとは…貴様、もしや死ぬつもりだな?』

「……貴様に」

 

源次郎は口を開き言葉を発する、そして『海刀:破壊』を抜き深い深海を思わせる刀身を下級神に向ける

 

「貴様に…島も…島民も…娘も…やらせはせんぞ…!」

 

怒りと憎しみと悲しみが目に見える程、神力が荒ぶり海刀に集まっていく

 

『はっ、意気込みだけでは何もできんぞ人間』

「やってみせる、私の役目はただそれのみっ!」

 

膨大な神力を纏わせた海刀を振り閃光を思わせる程の斬撃を飛ばし人間と神との戦いが始まった

 

 

──────────────────────

 

『元々源次郎には守護者として海刀を渡してた、ただ誤算だったのは海刀の力を利用してあのウツボが源次郎の命と海刀を繋げた事だ』

「繋げたらどうなるんだ?」

 

飛び交う銛を避けながら慎重にタヌキ達が待つ場所まで移動している俺と海神、飛んできた銛をキャッチしながら海神は話を続ける

 

『海刀は元々あった物を2つにした物なんだけど…長年私の近くに置いてあったから神刀としての格が上がってね、言うなれば寿命がそりゃもうね…500年は生きるよ』

「500…そりゃまた、1部の人達には喉から手が出る程欲しいだろうな」

 

源次郎が長く神主やってたのも納得だな

 

『そしてあのウツボの信者だったのを私が無理やりこちら側にした…だから体の中であっちの神力と私の神力が対抗し合って体の崩壊が始まった』

「…あれ、お前が何もしなければそんな事起きなかったんじゃん」

『私の信者にしないといけない理由があるんだ』

 

海神はあまりしたくなかったのか、声のトーンが落ちる

 

『海刀は2つで1つ…源次郎のと…亜門のと、今のあれに勝つには1つにする必要があって…尚且つ2つが別々の神力を持ってたら海刀が暴走する』

「あー…面倒なやつ」

 

そうこう話してるうちに舞台の近くまで来れた、一魚達が比較的近い場所で戦闘してるのであまり安全ではないが…

 

「やっほー柏崎君…元気ー?」

「元気元気、お前は?」

「あははー…魔力使いすぎたやーつだよー…」

 

タヌキは香織に膝枕されながら手をヒラヒラと振っていた、五魚と六魚が飛んでくる銛や近づいてくる魚人を倒してるお陰でこうして寝てるらしい

 

「海神様!」

『やぁやぁ亜門、さっきぶりだねー』

 

亜門が海神に近づき…まぁ必然的に俺にも近づいてくるので爽やかイケメンが急接近、蹴り飛ばしてぇ…

 

「え?海神様…?」

「香織様、こちらが本当の海神様です」

『偽物かもよ?』

「まぁ本当の神が俺の頭の上に乗るわけないよね?」

『違う神の匂いを消してやってるのさ』

「なんて事を?!カクロ最近シャンプー変えただけで不機嫌になるんだぞ!?」

 

あの子勝手に頭の上にくるくせに注文が多いんだよ

 

「海神様…私は…私は皆さんに酷いことを…」

「海神様、どうか香織様をお許しを!彼女はあの神に騙され利用されてただけなんです!」

 

香織が両手で顔を隠し下を向く、亜門は必死に頭を下げて許しを乞う…ふむ

 

「へへっ、どうします海神様?やっちまいましょうぜ」

「うわー、柏崎君凄い手下感」

『うん、柏崎は後でお仕置きね』

 

酷い、この空気を良くしようとしてただけなのに

 

『まぁあれだ、私の責任でもあるから…今回の件は許す』

「本当ですか!ありがとうございます!」

 

亜門が嬉しそうに何度も頭を下げてるのを見ると香織は人気者だなーと思ったよね、まる

 

『…さぁ、皆聞いてくれ』

 

海神が雰囲気を変え真剣な口調で話を切り出す、亜門と涙を拭き終えた香織が海神を見てタヌキも真剣な顔だ…俺は海神が見えないので3人の顔を鑑賞しとこう……ふむ、タヌキ最近クマ薄くなった気がする

 

「柏崎君、今真剣な話だからジロジロ見てこないでほしいなー?」

 

怒られた…

 

『…君達に頼むのは普通じゃ考えられないけど…今の私では無理だから君達に頼む』

「勿体ぶるな…何させる気だ?」

 

焦らすもので答えを急かす、答えは早めに聞きたいよね

 

 

 

 

 

『神殺しだ』

 

 

 

 




どうも、風邪気味の私です

今日の話は準備段階です、つまり明日からは…分かるね?

では明日、また次の話で会いましょう


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無駄話15回目『守護者として』

 

お互いが攻撃をし、攻撃で相殺し、その衝撃波でその周辺は誰も近づけない場所になっていた

海刀を振り斬撃を飛ばし時には直接切りかかる源次郎、そしてその攻撃を子供をあやすか如く受け流し逆に神力をぶつけ相殺するウツボの下級神

 

『ふむ、まぁまぁだな…やはり人間ではそれが限界か』

 

下級神の言葉が源次郎の耳には届かなかった、というよりも届かないほど源次郎は集中していた

今集中を解くと神力を保つのが難しくなり隙を見せる事になる…この神に隙を見せるという事はつまり死に直結すると言っても過言ではない

 

「があああああああ!」

 

脳が焼けるように熱くなってるように思える程、思考が働かず目の前の敵を倒す事だけを考える

何のために戦ってるのか、それだけを頼りに海刀を振るう

 

『飽きた、しかし格が上がる前でもこれほどまでの力を出せるとは…』

 

下級神が何かを言っているが源次郎は気にせず首を切断しようと海刀を振り上げる

 

『ふん、我を忘れた攻撃など避けるに足らず』

 

周囲に漂っている高濃度な神力がひとつに集まる

それはレーザーとでも言うのだろうか、黄金色の神力の集合体は一直線の光となり海刀を握ってる源次郎の両手を切断させ海刀とそれを掴んでいる源次郎の両手が宙を舞う

 

「ぁ…腕…が…」

『これで貴様も用済みだ、消えろ』

 

10以上はある神力の塊が源次郎を囲むように着弾していき、砂埃が源次郎の姿を隠す

 

『………なに…?』

 

砂埃が収まった場所には源次郎はおらず、陥没した地面だけが残っていた

周囲を見る、戦ってる眷属達と対抗してる海神の眷属…そして

 

「よし…ギリ間に合った!タヌキ、源次郎任せたぞ!」

「がってん!」

 

両手を失い呆然としている源次郎を後ろにいた人間に渡して人間の武器を手にする1人の小さな人間…

 

「よ、待った?」

『…誰だ貴様は』

「名乗るべきか?俺は…エイレーネー日本支部 第1特殊部隊『バレット』隊長 柏崎悟だ」

 

ナイフを片手に片目を閉じる人間を下級神は理解できなかった、見た目はただの人間だ

だが『中』にはとんでもない化物が住み着いているのだ

 

『…さっさと消えてもらおう、時間がかかりすぎだ』

「そうかい、ならあと少し俺と踊ってもらおうか…『一旦保留』」

 

今までの戦闘で傷を負っていた、が…その傷は全て消え傷一つない人間がそこに立っていた

 

「始めよう」

 

───────────────────────

 

「お父さん!」

 

香織がタヌキに肩を借りていた源次郎が来ると同時に駆けつけ体を支え舞台近くで横に寝かせる

腕は両手無くなり全身が文字通りボロボロで今にも砕けてしまいそうだ

 

『やぁ源次郎、君のおかげで…この島は守れそうだよ』

「海神…様…あぁ…本物の…海神様だ…私が…全てを…香織は…被害者…」

『分かってる、分かってるから無理に話さないように…』

 

1度は人間を夢見た海神は死にゆく人間を何度も見ていた事を後悔した、何故か?

 

源次郎はもうすぐ死ぬと悟ったからだ

 

「源次郎様…」

「亜門…お前には無理をさせたな…」

「源次郎…様…」

 

海刀を横に起き地面に手をつく亜門から水滴が落ちる、雨でも降っただろうか?…源次郎はそう思いながら娘の顔を見る

 

「香織…お前にも辛い事をさせた…すまない…」

「お父さん、違う…私は何も辛くなかったよ…お父さんが…全部背負ってくれたから…」

「お前は良い子だ……海神様…何をするかは…分かってます…亜門、海刀を…」

 

源次郎はもう存在しない両手で掴むように海刀に手を伸ばす、だが亜門は源次郎の言う通りには行動してくれなかった

 

「亜門…大丈夫だ、お前達ならきっとこの島を救える」

「違う…違うんです…源次郎様…これをしてしまったら…源次郎様は…」

「私は生き過ぎた…何人も騙し生贄にした…そんな男の最後が人助けならば……本望だ」

 

動かない亜門の変わりにタヌキが回収した『海刀:破壊』を源次郎の近くに持っていく

 

「亜門さん、香織ちゃん、お別れってのはちゃんとしてあげないと…相手に失礼だよ」

『死というのは生命の終着点だ、それを先延ばしにしてたから…そろそろ自由にしてあげるのも救いだ』

 

タヌキが2人の肩に手を置き、海神が諭すように2人に言う

 

「……分かりました……源次郎様」

「どうした亜門…言い残しか…?」

 

茶化すように笑う源次郎の顔は少しずつ崩壊していく

 

「…お疲れ様でした」

「………あぁ、お疲れ…私はしばらく…眠るとする…」

 

その言葉を最後に亜門は

右手に『海刀:破壊』を

左手に『海刀:守り』を

 

亜門を中心に、海刀から水が溢れ出て亜門の体を包んでいく

水が全身を満たすと亜門は頭の中に数々の記憶が流れてくるのを感じる

数々の苦悩を、喜びを、悲しみを、怒りを背負った男の背中と剣術がフラッシュバックする

 

『…さぁ、目覚めよ…海人よ』

 

──────────────────────

 

『くっ…ちょこまかと』

「はっ!速さならお前に勝てるぜ?」

 

傷を受ける度に加速していく人間に下級神はその動きに翻弄されていた、まさかここまで苦戦するとは…と思い神力を溜めていると、空間が震える程の神力が集まっている事に気づく

 

『な!?くそっ!間に合わなかったか!眷属達よ!一時撤退だ!』

 

体を反転させ、眷属の魚人達に命令して下がろうとする下級神…その体に武器を刺してくる人間に邪魔をされる

 

『貴様…雑魚が!どけぇ!』

 

神力を全体的に放出して爆発を起こす、通常なら耐えれるものでは無い…だがナイフを片手に張り付いてる人間は傷1つない姿で笑っていた

 

「確かにお前にとっては雑魚だな、だがな…雑魚は雑魚なりの譲れないもんがあんだよ!」

 

置き土産と言わんばかりに武器を奥深くまで突き刺し瞬間的に離れた人間にイラつきながらも急いで撤退しようとする下級神…だが判断が遅く、邪魔が入ったせいでその行動は実行できない事と知る

 

『…まさか…う、海人…だと…?』

 

奥から歩いてくる1人の人間、その手には淡い蒼色の刀身に全身を水色の神力を纏わせ一歩一歩が下級神の恐怖心を高めるには十分だった

 

『ま、まて!私が悪かった!今までの行いは反省する!だから私を『消滅』させないで……』

 

喋ってる途中の下級神を待たずに、亜門は『海刀:守護』を振り上げ…振り下ろす

たったそれだけの動作、だがその動作では思えない程の衝撃波と斬撃が飛ぶ

縦に振り下ろされた斬撃は雲を割り、海を割り、そして下級神の『存在を消滅させる』

 

『くそがっ…こんな…事に…なるなん…て……』

 

下級神としての存在が消されたウツボは完全に消え、亜門は全身から神力が消え海刀を落とし地面に倒れる

島を覆っていた膜は消え去り満天の星空が若者達を照らす

 

「…はぁ…バカンスが…パァ…はぁ…」

 

今回の一連で落ち込んでる1名を除いて、全てが解決したという事実は喜ばしい限りだ

 




どうも、今回にて閑話、無駄話シリーズ完結になります!明日は後日談を少々

そして…次は3章に突入

では明日、また次の話で会いましょう


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無駄話16日目『後日談』

 

あの後俺とタヌキはその後の魚人の処理や神社の戦闘の隠蔽などを行っていた、今回の件は公の場に出すのは止める事にしたらしい

源次郎がいない今、亜門が代役として色々な処理をするとのこと…まぁ…自由に生きたらいいんじゃないか?

 

海神はしばらく香織の近くにいて海人の巫女としての使命…祭りの始まりと終わりの儀式を見守るらしい、なんでも海人が2人になり場の神力が乱れておりあまり良くないとのこと

…実際は人間の近くにいたいんじゃないかと思う、ウッキウキで自分の眷属達に住む場所作らせてたし…人間が好きというのは本当なのだろう

 

タヌキや俺は元の場所にある自分の居場所に戻らないとならない為次の日の船に乗って島を去ることになった

香織や亜門は寂しそうにしていて本当はもう少し俺達も一緒にいて手伝ってやりたかったが立場上そういうわけにいかない

魚人達は何故か俺に懐いておりそれぞれ様々な帰らないでオーラを出していた

一魚は引き留めようとはせずまた来いと

二魚はいつか遊びに行くと

三魚はこの島を守ると

四魚は何故かウツボ(バケツに入ってる)を

五魚と六魚はセミみたいに前と後ろに張り付いてきた

…やっぱり四から六は違う次元に生きてんじゃないかと思う

 

離れていく島を見て、俺は凄く濃厚な3日間だと思った

香織に巻き込まれ、魚人に襲われ、海神に誘われ、神を倒し

ま…夏のはじまりには丁度いいのではないだろうか?

 

 

─────────────────────

 

「…という事があったんだよ、天田」

「へー、そうっすか」

 

ここはエイレーネー日本支部第1特殊部隊の部屋

俺はいつも通り仕事してる天田の横に椅子を置いて今回の事件の流れを説明してた

 

「柏崎さんまーた巻き込まれるとか呪われてるんじゃないっすかね」

「分かる、俺呪われてんじゃないかなぁ…」

「まぁそんな事よりっすよ」

「そんな事で済まされないと思うがなんだ?」

 

天田はため息を吐きつつ席を立ち部屋に設置されている冷蔵庫を開け何かを取り出す

 

「このウツボどうする気っすか?」

「………食べるに決まってるだろ」

「嘘っすよね?!絶対食べる気ないっすよね?!だってウツボ切って冷蔵庫に入れたの矢本副隊長っすからねぇ?!」

 

ち、違う…矢本の鉤爪って魔力の刃だから切れ味が良くてなぁ…

 

「ただいまー!…天田…それ…」

「あ、エンちゃん」

「…それ私嫌い」

「ほらぁ!エンちゃんがこう言ってるから柏崎さんが処理するっすよ!」

「嫌だね!俺はもうウツボは懲り懲りだ!」

 

ウツボにボロクソに攻撃された身としては見たくもないです

三魚ぁ…

 

「…はぁ…カクロぉ…お前だけが癒しだ…」

 

カクロをモフって癒されようとしたらカクロが脱兎の如く逃げる、そして微妙な距離で立ち止まり地面に唾吐いてそのまま逃げていく

 

「…柏崎さん何したっすか」

「かしわざき…」

 

俺は立ち上がりわざわざ買ったタコを冷蔵庫から出して地面に叩きつける

 

「海神のクソッタレがああああああああああ!!!!」

 

 

 

────────────────────────

 

目が覚めるとそこはゴツゴツとした岩の上だった

 

「ここは…何処だ」

 

上半身を起こして周囲を見る、そして自分の手を見て驚愕する

 

「手が…あるだと…!?」

 

手を吹き飛ばされ、無くなった筈の手が確かにある…これは夢か?いや…確かに死んだ筈…

 

『やぁ、目覚めたかい?』

「っ!その声は…」

 

視線を向けると岩の陰からタコが落下してきて着地する、そしてくつろぐように全身を動かして楽な体勢を探す

 

「海神様…私は…死んだはずでは」

『あぁ、君は死んださ…けど罪が重すぎて魂だけが戻ってきた…あの神なりの優しさだろうね、わざわざ私の所に戻してくれるとは』

「…香織と亜門は…皆はどうなりましたか!?」

 

体を起こそうとしたがバランスを崩して倒れてしまう、まだ起き上がるのは早すぎたらしい

 

『まぁまぁ落ち着いて…皆無事だ、ただ…君が戻ると混乱が起きる上に君は死者だ…会わせるのは私でも難しい』

「…なら、私は何故ここに…?」

『簡単な話だ』

 

海神はいつの間にかいた魚人に持ち上げられ近づいてくる

 

『海はね、広いんだよ…今の私では全てを統治するには神力と信仰が足りない…そこで君に頼みたい事がある』

 

そう言って取り出したのは『海刀:守護』

 

「これは…!」

『レプリカだけど、それなりの力はある筈だ…やっと解放された君にまた背負わせる事になる、断ってもいい…君はもう救われてもいい人間だ』

 

海神の言葉に悩み、悩んで…『海刀』を掴む

 

「いや、私はもう救われました…それに放置していては島が…香織達が危ないのでしょう?」

『…君は勘がいいね』

「これでも…120くらいは生きてましたから」

 

『海刀』を抜き、重さを確認して鞘に戻す

 

『…頼んだよ、『源次郎』』

「はい、おまかせを」

 

これは

1度は背負ったものから解放され、今度は誰かの為に背負う

望んでないものを背負っていた時よりも強く、そして誰よりも島と家族を愛する男の物語




どうも、風邪が悪化して寝込んだ私です

本日にて無駄話シリーズ、完全完結!
次回から第3章『下級席』編が始まります
これからもどうぞファースト・オブ・バレットをよろしくお願いします


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『下位席編』
第66話『説明求む』


緑が豊かなこじんまりとした集落に近い町、人口もそこまでおらず夢見る若者は都会へ

そしてこの町に骨を埋める事を決めた者や子供達が平和に過ごす中、イタズラばかりする厄介な少年らがいた

 

「コラー!お前らまたうちの壁にイタズラしよってー!」

「やっべ!エドワード逃げるぞ!」

「う、うん!」

 

1人の大柄な少年に引っ張られエドワードと呼ばれた茶髪の少年は走り出す、娯楽が少ないこの町ではこれも日常に見られている

 

「おいおい、また追いかけられてるじゃないか」

「エドワード、無理しないようにね〜」

 

店の前でお店を開く準備をしていた夫婦が追いかけられている2人の少年らに手を振りながら息切れをしつつ膝に手をついている老人に水が入ったコップを渡す

 

「またあいつらが何かしたいのかい?」

「うちの壁にラクガキしてたんだ、これで14回目だぞ!?」

「はははは、そう怒んなって血圧上がってまたぶっ倒れるぞ」

 

そう言って背中を撫で椅子に座らせる

 

「いいじゃないか、若い者が元気にしてるんだから」

「ふん、元気過ぎても困りものだがな!」

「この前町長さんから聞きましたよ?お爺さんも昔はイタズラばかりして町を自分のものにするんだって」

「む、昔は昔じゃ!」

 

顔を真っ赤にして否定する老人に苦笑する夫婦は遠くに見える少年2人の背中を見ながら微笑む

 

「あの子達がどんな大人になるか楽しみだ」

「そうね」

 

────────────────────────

 

「危なかったなエドワード」

「そうだね…それにしてもここだったっけ?」

「あぁ、ここに来りゃ酒が飲めるってボブが言ってたんだ」

 

イタズラ少年達は町近くの森に入り少し開けた場所に辿り着くと近くにある切り株や岩の上に座る

どうやら飲酒を嗜むつもりらしい、彼らは見た目は14〜16程度…飲める年齢ではない

 

「けど酒って不味いって聞いたけど…」

「そりゃお前の親父が酒に弱いだけだよ!うちの親父は美味そうに飲んでたし美味いもんなんだよきっと」

 

未知の事に夢を膨らませる少年2人だが未成年は飲酒、ダメ、絶対

 

「…おかしいな、そろそろ来てもいいと思うんだが…」

「まだ来ないの?」

「今12時か…12時には待ってるって言ってたから早めに来たんだけど…っと来たぜ」

 

近くの茂みからガサガサと音がして褐色肌のボブが歩いてくるのが見えた、だがそれと同時に不可解なのが目に入る

 

「お、おいエドワード!ボブがガールフレンド連れてきてるぜ!?」

「し、しかも年上じゃないか…?うわぁ…す、すごいな…」

 

内心は動揺しまくり外に出まくってるがどうにか平常心を保とうとする

歩いてくるボブの斜め後ろには布で頭と体を隠してるが隠しきれない素足と僅かに見える女性の美しい顔を見て少年2人の心は乱れ乱れまくる

 

「お、おいボブ!お前抜け駆けは良くないぞ!」

「そ、そうだぞボブ!………ボブ?」

 

2人は仲間に詰め寄り、茶髪の少年エドワードは異変に気づく

ボブの目には光がなく、虚ろな目をしていたのだ

 

「…あら、君達はボブ君の友達?」

「は、はい!ボブの大親友です!」

 

異変に気づかない仲間、どうするか悩んでいると女性と目が合う

その目は深く飲み込まれてしまいそうな程黒く意識が体から離れていくのを体感出来そうな程だった

 

「初めまして、私は『N』…貴方達を迎えに来たのよ」

 

そう言って片手を上げる、茂みからゆらりと何かが立ち上がりこちらに歩いてくる

 

「お、おい…なんかおかしい…おい?」

 

大柄な少年に警告して逃げようと思っていた、だが

 

「あぁ、N様…」

 

仲間は突然、女性に頭を下げ涙を流しながら両手を合わせて崇め始めたのだ

 

「あら…貴方は耐性があったのね…けど大丈夫、すぐ助けてあげるから」

 

茂みから歩いてきていた何かの姿が見える位置まで移動してきた…

 

それは体が腐敗しており骨が見え眼球が取れかけ髪は無くなりかけの『ゾンビ』だった

 

「な、ゾンビ…?」

 

何かのドッキリかと思った、だが漂ってくる腐臭とうめき声がした瞬間エドワードは踵を返して走り出す

 

「ふふふ…逃げるのはいい事よ、逃げる事は悪いことじゃない…それを阻む大人が悪いの」

 

Nと名乗る女性は両手を広げ祈りを捧げるように両手を合わせ

 

『酷使せよ、蘇りの術式』

 

女性を中心に広大な範囲に謎の魔法陣らしき文字と円が浮かび上がり…

 

 

『夜が訪れる』

 

 

──────────────────────

 

「俺は思うわけだよ天田」

「なんすか」

「やっぱり大人になってさ、こうして仕事してると昔に戻りたいと思うわけじゃん?」

「そうっすね」

「だから俺考えました、はいホワイトボードを見ろ」

 

カラカラとホワイトボードを持ってきて書き込んでいく

 

「まず『学生』!やっぱりね、学生に戻りたいですよ」

「まぁ青春っすからね」

「そう、青春!俺も甘酸っぱい青春をやってみたかったよ…学生だった頃はそんなの気にせず遊んでたが」

 

休み時間に携帯触ってて先生に捕まったのはいい思い出だ

 

「あの仕事あるので結論からお願いするっす」

「おう、お前は生き急ぎ過ぎだぞ…まぁいい!よーく聞け…題して!『学生に戻ろう!』を支部長に提案してみる」

「馬鹿の提案っすね」

 

辛辣な天田、しかも視線はパソコンに向けられており一切こちらを向こうとしない…

 

「…もう一度学校生活したくない?俺達生きるか死ぬかをスレスレで生きてるから平和な生活したくない?」

「したいっすねー、はい終わり、働け」

「ひでぇ…」

 

自分の席に戻るとカクロが素早く俺の頭の上に着地して一息つく、海神の匂いが取れたのか最近は近づいても怒らないし唾も吐かない…この前無理やり行こうとしたら毛玉吐かれた

 

「…支部長ってバカンスとか言っときながら俺が死ぬ気で働いてたって知ってんのかな」

「まぁそりゃ…知ってるっすよ絶対」

 

…ムカつくなぁ

 

「よし、ちょっと支部長シバいてくる」

「いってらっす」

 

俺は部屋から出て廊下を歩く、支部長室は下の層だから地味に遠い…

 

「っと、すまない大丈夫か?」

 

ボーッとしながら歩いてると曲がり角で人にぶつかってしまった、怪我も完治はしてないので集中力が減ってるな…これは不味い…ってかぶつかった相手…支援部隊…工作部隊?全身エイレーネー日本支部の装備だが知らない部隊の奴だ…

 

『あ、お久しぶりです』

「あ、どうも」

『では行きましょうか』

「はいはい…ん?」

 

俺はその誰かよく分からない人に関節をキメられ全身を拘束され、担がれて、地上出て、車に乗り、あれやこれやでエイレーネー専用飛行機に乗せられていた

 

「ん?ん?????」

『ご武運を…あれ?私まだ降りてませんよ…!?ちょっと!?聞いてないですよ支部長!支部長ー!!!』

 

扉は無慈悲にも閉められ降りれなくなった人…多分俺の知ってる奴だ

うーん、空の旅………ふぅ…とりあえずあれだ

 

 

「説明はーーーーーー?!?!?!?!?!」

 

 

なんの説明もなく俺は飛行機に乗せられてアメリカ大陸を目指す事になり…また働かされる事になるとは…この時は思いもしなかった




どうも、3章突入私です

今回の話は前菜に過ぎず(?)明日から本題のシーンに入るかな?

では明日、また次の話で会いましょう


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第67話『アメリカ支部』

とりあえず飛ぶらしいので空いてる席に座って一息つく、どうせ断れない仕事だというのなら今のうちにリラックスしとこう…

 

「ニャー」

「ん、カクロか………お前も連れてこれたって事は確定かぁ…悲しい」

 

通路を歩いて俺の膝に飛び乗るカクロ、あぁー…癒される

 

『うぅ…私は関係ないはずなのに…』

 

俺の隣の席に座って落ち込んでいる所属がどこか分からない人、ガスマスク付けてるが…

 

「あんた確か第40支援部隊の隊長だったよな」

『私を覚えてるんですか!?』

「まぁ、1度は同じチーム組んだ仲だし」

 

Aとの対決の為に護衛を務めてくれたエイレーネー日本支部第40支援部隊隊長、あの後別れ負傷者を逃がし超人達の援護をしたと支部長から表彰されてたので覚えてはいた

 

『わ、私実は功績を評価されて…新しく編成された第1機動部隊の隊長を任される事になったんです!』

「へぇー…何を装備してるんだ?」

『主に装甲車ですね、使う場面が限られますが…通常では普通車です』

 

まさか俺の知ってる人物が機動部隊に配属されるとは世の中どうなるか分からないな

 

「てかちゃんと動かせるのか?」

『一応軍等に使われてる戦車や戦闘機等も扱えます』

「…なんで支援部隊にいたの???」

 

エイレーネーでなくても自衛隊として活躍できるだろうに

 

『…元々は機動部隊配属だったんです』

「あー………ま、まぁとりあえず良かったな!んで他の隊員は?」

『私だけです』

「ん?」

『私だけです』

「………任命したの支部長?」

『は、はい!支部長直々に』

 

あぁ…人事部…この可哀想な新人をもっといい場所に配属してあげて…この人は言うところ支部長の私兵みたいなもんか…

 

「よ、良かったな…所で支部長から何か聞いてない?俺何も話聞かされずに拘束されて今空の旅してるんだけど」

『は、はい!えっとですね…こちらに』

 

十分な高度に到達し、立ってもいい状態なのを確認して俺は席を立ち上がり支援部隊の…いや、今は機動部隊か…てか名前知らないな

 

「そう言えばあんた名前は?」

『あ、申し遅れました…私は芦川明姫です』

「んじゃ芦川さんよ、どこに行くんだ?」

 

実はこの飛行機地味に内部が小分けされている

前と後ろを阻むように中心に横壁が作られており、個室があり…これ何用の飛行機?

 

『この先、前席の方に今回の作戦同行者の人達がいます』

「同行者?」

 

誰だろうか、特殊部隊の面々は全員それぞれの持ち場で忙しい筈だし…うちもそこまで離れられない筈だ

かと言って支援部隊と工作部隊等は戦闘専門ではない…

 

『柏崎さんのお知り合いですよ』

「ますますわからん」

 

とりあえず会ってみるしかないか…横開きの扉の1つを開け俺は待っている同行者達がいる飛行機前部に足を…

 

 

 

 

「なぁ?なんでビーフオアチキンって聞かれないんだ?」

「それはこの飛行機のCAさんが日本人だからですよ、海外行くからってビーフとチキン出されても困るじゃないですか」

「わー!翔太郎見なよ!ボク達の住んでる所見えるかな!」

「見えたらお前が人間かを疑うぜ、緋彩」

「うぅ、耳が痛てぇ…飴玉買えば良かったかな?」

 

う、うわぁ…!……俺はそっと扉を閉めて芦川を見る

 

「…あれ?」

『あれです』

「…帰っていい?」

『同じ飛行機です』

 

…俺は扉を少し開けて中を見ると真ん前に青葉の顔があった

 

「うわぁ!?!?!?」

「おや?人の顔を見て悲鳴を上げるのは酷いですね?これは傷つきましたね〜、慰謝料を請求します」

「唾でも付けときゃ治る治る」

「え?私の唾を舐めたい?」

「なんでそんな俺を変態にしたいのかな君」

 

くっそ、にこにこ笑いやがって…

俺が超人、長内青葉と話してると他の超人達も気づいたらしくゾロゾロと扉に集まってくる

 

「あー、柏崎だ!」

「よう、元気してたか元気馬鹿」

「おい柏崎、緋彩は馬鹿じゃなくて阿呆なんだぞ?そこ気をつけろよな」

「翔太郎ちょっと酷くないかなぁ?!」

 

緋彩がフルパワー元気パワーをぶつけてくるので翔太郎と手を組み虐める、あぁー…超人に勝った余韻が楽しい

 

「よぉ、最近また神と戦ったらしいじゃねぇか?」

「お前達がいれば即解決だったんだけどな、なんで来てくれなかったの???」

「いや、知らねぇよ…お前がいなかったの」

 

可愛らしい兎のお面付けやがって、エンからそれ貰ってなかったらただの図体でかい不良だからな須郷お前

 

「なー…飴持ってないか?飴舐めれば耳痛くならないって聞いたんだ」

「お前は………特に何も無いな、帰れ」

「おいおいおい!?突然呼ばれて来たら今度は帰れかよ!」

 

必死な表情で喋る誠

知るか、俺は誘拐されたんだよ…ん?突然呼ばれた?

 

「なんだ、お前らも何も聞かされてないのか?」

「そうだな、俺達はお前んとこの支部長に来るよう言われてここに来たんだ」

 

翔太郎がCAから貰ったコーヒーを飲みながら答える

つまりこの中で事情を知ってるのは芦川だけか…

 

『支部長から今回の作戦に関する説明が入ってるDVD持ってきてるのでそれを視聴しながら説明させていただきます』

「あの人そんな余裕あるなら自分で説明してほしいと切実に思うんだよね」

 

芦川が近くの壁にあるボタンを押すと椅子が移動し始め中心を囲むような席になっていくのを眺めつつカクロを撫でて癒される

 

「普通にしてるけどよ、これ凄いよな?」

「凄いよねー…ボクもあのボタン押しちゃ駄目かな」

 

誠と緋彩を無視しつつ俺は近場の席に座る、超人達もそれぞれ好きな席に座り天井からなんとテレビが出てきた

 

『では流しますね』

 

DVDを差し込みしばらくするとテレビの電源が入り椅子に座って机に肘をついて手を合わせた状態の支部長が映る

 

『御機嫌よう柏崎君と超人達…あと柏崎君はバカンスどうだったかな?実は言うとあれ知っててわざと柏崎君を行かせたんだけ…』

 

俺は近くにあったナイフをテレビに投げつけ強制的に電源を落とす

 

「柏崎さん流石に行動がワイルド過ぎじゃないですかね」

「ばっかお前テレビは叩いて落とすもんだよ」

 

思わず壊しちゃったテヘペロ

と、思っていたが画面がひっくり返って何故か新しい画面が現れ支部長の姿が映された

 

『柏崎君が壊すことを見越して実はこれ2枚分画面があるんだな、これが』

「完全に行動が予測されてるじゃないですか」

「…無念」

「馬鹿だろこいつ…」

 

支部長は少し微笑んでいた顔から一変して真剣な表情になる、どうやらおふざけは終了のようだ

 

『…話を始めよう、まず今回の作戦は柏崎君、カクロ君、そして超人の君達がメンバーとなり行動してもらう』

「俺達がメンバーか、まぁ何度か一緒に戦ったから問題はないな」

 

翔太郎がコーヒーの入ったコップを揺らしながら俺を見る、確かに何度か戦ったし背中を預けた事もある

 

『そして今回の作戦区域は…『アメリカ』だ』

「…アメリカ?ですか、海外には行くとは聞きましたが」

「ボク海外始めてたがら楽しみだ、ね?翔太郎」

「あぁ、と言っても俺はあるけどな」

「えぇ?!翔太郎ボクに内緒で海外行ったの!?」

「仕事だ」

 

うるさい超人達を無視しつつ俺はある疑問を口にする

 

「…アメリカ支部はどうしたんだ?あそこは『超人が主体』だった筈だが」

 

エイレーネーアメリカ支部は日本支部とは違い超人を多く雇用しており、1つの州に数名の超人と特殊部隊を配置する方法を採用しており全州をカバーしてるはず

 

『柏崎君は疑問に思ってるかも知れないが…今回の作戦区域にいた超人と特殊部隊は『壊滅』した』

「………は?…う、嘘だろ…?」

 

アメリカの特殊部隊や超人は平均以上の強さを誇る、それに一般市民達も超人達に感銘を受け自分達の故郷を守る為に超人達と共に活動をしていると聞いていた…壊滅するなんてありえない

 

『今から三日前、ある町との連絡が途絶えたのを確認する為保安官数名が区域に侵入して1人だけ生き残り戻ってきた

生きて帰ってきた保安官は『ゾンビ』と言い残して謎の死を遂げた…保安官の体には無数の噛み傷と噛みちぎられた痕があり…対処に向かった超人と特殊部隊との連絡が途絶えたのを確認したアメリカ支部長がこちらに援軍を求めたのが事の始まりだ』

 

…ふーむ、ゾンビね

 

『また今回超人に同行したのは第1特殊部隊『バード』だったらしい…彼女が死ぬのは有り得ないが救出作戦を行える戦力がいない為どうする事もできないと』

「…『ケイト』なら木に噛みついてでも生きてるだろうなぁ」

「ケイトって誰だ?」

 

誠が俺を見ながら聞いてくる

 

「アメリカの第1特殊部隊隊長、ケイト…昔何度か会った事がるけど愛国心が強くて自由大好き人間だよ…死ぬなら最後は国の為にってよく言ってた」

「へー、そんな奴がいるのか…」

「まぁとりあえず俺は苦手な人種と言っておこう」

 

無駄に絡まれた記憶が…

 

『アメリカ政府はこの事を重く受け止めており1部の派閥がその地区周囲を爆撃してこれ以上の拡大を防ぐべきと騒いでるらしく、早急な作戦遂行が要求される』

「無茶言うなぁ…」

『今回、アメリカ支部長『ジャンカルロ』が直々に護衛をしてくれるとの事…今回の作戦は一夜限りのミッションだと思ってくれ、諸君の健闘を祈る』

 

俺は席に体を預けてため息を吐く

 

「…ゾンビ…か」

 

その後、耳が圧迫されて誠が苦しんだり緋彩がCAに怒られたり等など…俺達はアメリカ大陸を目指す




どうも、疲れすぎていつの間にか寝てた私です


今回の話は作戦説明回と、海外支部の軽い話でした…ジャンカルロって誰!?ケイトって誰だ!?と思う方は明日の投稿にてお会いしましょう

では明日、また次の話で


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第68話『突入』

飛行機が降り立ったのは恐らく国にも言ってない着陸場だった、何故なら最低限の施設だけ置いてあり軍用に使うというより移動手段である飛行機の駐車場に思えたからだ

 

「なんというか、お土産コーナー期待してた訳じゃないけど遊び心欲しいよね」

「緋彩、お前隠してるだろう場所にお土産コーナーあったら雰囲気ぶち壊しだろ?」

「そうかなぁ…」

 

緋彩がぼやき翔太郎がツッコミを入れる、俺もちょっと期待してたんだよな…アメリカのお土産コーナー…

 

「さて、とりあえずここで待ってれば車で来てくれる…んだよね?」

『はい!ジャンカルロ支部長が来るらしいですか…』

「…あれでは?」

 

俺と芦川が話してると青葉が指を向ける、流れるように視線を向けた先には何故か日本の軽トラが遠くから走ってくるのを見てしまった、目撃したくなかった…

 

「…カルロ支部長…何故軽トラなんだ…」

「えっ、あれに支部長が乗ってんのか?嘘だろ?

「よく見ろ誠、運転席の窓から手を振ってるおっさん見えるだろ?あれ」

「えぇ…」

 

穏やかな表情で上半身を窓から出して手を振る坊主頭で褐色肌の男、それなりに鍛えられてるだろう筋肉が引き締まった手を振りながらこっちに軽トラが来てるのは少しシュールだな…

 

「私には日本の友人にこれが日本の普通車だと言われて購入した優しそうな人に見えますが…」

「普通にいい人なんだけどちょっと騙されやすいんだよな…ま、まぁ軽トラ普通に馬力あるしいいと思う…」

 

軽トラは少しドリフトしながら…ドリフトする必要あった?

俺達の前まで来て運転席のドアが開く

 

「やぁカシワザキ、久しぶりだね」

「ん?日本語喋れるのか?」

「君はスゴウだね?体格がいいし筋肉もバランスいい…日本の超人は質がいいね」

 

そう言いながら須郷の筋肉を叩き笑いながら頷くおっさん…

 

「カルロ支部長、自己紹介より前に聞きたいんだが」

「なんだい?」

「なんで軽トラなの?」

 

俺に言われて自分が乗ってきた軽トラを見るジャンカルロ支部長

 

「日本の友人にオススメされてね!山道とか荒れた場所に最適だったよ!」

「ほう!そうだったんだね!所でその友人名前何かな?」

「キシイセイジさ!」

「あんのクソ支部長がぁ!」

 

カルロ支部長はもっとこう…カッコイイ車に乗せるべきだろ!なんで軽トラなんだ!

 

「初めましてアメリカの支部長さん!私はただの一般人の長内青葉と申します!今度取材させてもらっても?」

「いいよ」

「わーい」

「青葉…あいつが一般人なら俺らなんだよ…」

 

誠の一言に頷く一同、あれが一般人なら俺はミジンコだな

 

「はぁ…皆紹介する、この人はエイレーネーアメリカ支部の支部長でジャンカルロ支部長だ」

「初めまして日本の超人の皆さん、気楽にカルロと呼んでいいよ」

「初めまして!涼風緋彩です!」

「道華翔太郎」

「俺は須郷雅弘だ」

「岡園誠、スーツアクターだ!」

「あ、私はもう自己紹介したので省略しててください」

 

自由だなこいつら…あ、カルロ支部長凄いニコニコしてる…この人また自分の若い頃思い出してそう…昔も若い頃はとか話し出したから本題切り出すか

 

「カルロ支部長、そんな事より本題だ」

「そうだったね、とりあえず乗って乗って」

『あ、私運転しますよ』

「ならカルロ支部長は案内役として助手席に…」

「え?僕も荷台に行くよ?」

「なら誰が案内するんだよ…」

「カーナビ付けてるからその通りに進んでもらえれば」

 

あ、この人凄いウキウキしてる…分かるよ?荷台に乗るのってちょっとワクワクするよね

まぁいいけど…

 

「んじゃ芦川が運転席、適当に青葉助手席の残りは荷台でいいだろ」

『えっ』

「よろしくお願いしますね、芦川さん?」

『は…はい…』

 

許せ芦川…青葉が荷台にいると俺の気が休まないからお前は生贄になってくれ…

俺達は軽トラに乗り込みカーナビの言う通り進んで目的地を目指す

 

───────────────────────

 

「さて、それじゃ今回の作戦の詳しい内容を説明しようか」

 

カルロ支部長が荷台に座りながら両手を使って色々表現しようとしている、それと須郷のせいで荷台が狭く感じるな…

 

「…今回のミッションは3つある」

 

指を3つ立てて1つずつ折っていくようだ、まず1本目が折られる

 

「1つ、内部の調査…これは中がどうなってるか、町がどうなってるかを確認してほしい」

 

2本目が折られる

 

「2つ、生存者の確保…町の人々や先に入って行った超人と特殊部隊…ケイトが生存していた場合外まで帰還する事」

 

そして最後の3本目が折られる

 

「3つ、原因の解析…今回の相手は敵なのか、もしくは自然に起こった事なのか…敵だった場合は排除、そして自然に起こった事ならば対処法を探してほしい」

 

カルロ支部長の話を聞いて緋彩が手を上げる

 

「あのー、1つ聞きたいんですけど」

「何かな」

「…飛行機乗ってる時に聞いたんですけど爆撃がなんちゃらって…」

 

誠二支部長が言っていた政府にいる派閥の1つがどうとか言ってたやつか、カルロ支部長は困った表情で口を開く

 

「実はその話は本当でね、しかもそれなりに発言力があるから実行されかねないんだ…実行されるとしたら明日の早朝…出来る限り時間は稼ぐけど…実行されたらかなり面倒になる」

「面倒?」

 

面倒と言ったカルロ支部長は俺の疑問に答えるように両手を使って説明してくれる

 

「君達の所に来たA…だったかな?そこが所属してるって言ってた『6席会』…報告で見て思ったんだけど、そこの1人がどうやらアメリカにいるらしいんだ」

「…よく分かったな」

「裏の連中には有名らしくてね、ある組織の資料に『N』って名乗る魔術師がこのアメリカ大陸に来てるって書いてあった…1ヶ月前の話しだ」

 

N…なんかAと近い何かを感じるな

 

「…それで、そのNってのがいて?爆撃とかされたら何が面倒になるってんだ?」

 

少し顔が青い誠が疑問を口にする、お前ちょっと酔ったろ

 

「もしだ、もしだよ?もし…今回の件にそのNってのが絡んでたら爆撃は無意味になる可能性も高い…そして下手に刺激して標的をこちらに向けられたら…どこにいるか分からない脅威に警戒しないとならなくなる」

 

人間がずっと警戒し続けるのは難しい、どこかで休憩しなければならずその隙を突かれたら崩壊するだろう

ましてやカルロ支部長の言い分を聞く限りN自体見つけれてないのだろう、そんな敵をずっと警戒する?不可能だ

 

「違ったとしても中にいるであろう超人と特殊部隊が巻き込まれる可能性もある」

「どっち転がってもあまり良い結果にはならない…か」

 

そう言いながら須郷がこちらを見てくる、なんだ?もしかして寝癖付いてる?

 

「お前はどっちだと思うんだ?」

「何がだよ」

「今回の件にそのNってのが絡んでるかどうかだよ」

 

Nねー…

 

「実際見てみないと何とも言えないな、どっちにしろ戦うのは俺じゃない」

「はぁ?お前!俺達に戦わせる気か?!それでも大人かよ!」

「ええい!超人に成り立てのお前は分からないと思うが俺とお前達じゃ強さの差が段違いなんだって!」

 

実際、あまりパワーがない翔太郎に負けた経験があるんだぞ俺は

 

「まぁいいけどねー、柏崎は柏崎の戦い方あるから」

「だな…あ、どうも昔柏崎をボコボコにした俺です」

「よし、おーい芦川車一旦止めてー?今からこいつをボロ雑巾にすっからー」

「どうやら俺にまた負けたいようだな」

 

少しずつ姿が消えていく翔太郎、くそっ!それ卑怯だからな!

 

「カシワザキ達は仲がいいんだね」

「「「「「仲良くない」」」」」

「そ、そんな全員で否定しなくても…」

 

茶番をしつつ、今回の目的に到着するまで色々と話し合って情報を集めたのであった

 

──────────────────────

 

車の荷台から降りて伸びをする、体が痛てぇ…荷台にずっと乗るもんじゃないな…

運転席から芦川が降りてきたが何故か凄く落ち込んでおり、逆に凄いにこやかに青葉が助手席から降りてきた

 

『うぅ…もうお嫁にいけないです…』

「青葉ー!?うちの機動部隊隊長さんに何したー?!」

 

こいつ!うちの兵士に精神攻撃したのか!?

 

「いえいえ、そんな仲間に何かするわけ…ちょーっと芦川さんの身の上話をすこーし聞いただけですよ☆」

「その身の上話って芦川は自分から言った?」

「………………………………さぁ?」

「カクロ!ナイフになるんだ!」

「落ち着け柏崎!青葉も多分わざとじゃない…と思うぞ!」

「離せ誠!俺はこいつを始末しなければ気が収まらねぇ!」

 

うちの仲間に何してんだこいつぁ!

 

「おーい、置いて行っちゃうよー?」

「もう俺達だけで行かねぇか?雅弘」

「流石に置いては行かねぇよ…」

「やっぱり仲がいいんだね〜」

 

その後色々あって俺と誠が殴り合う事になったがそこは割愛しよう

 

 

 

 

「では今から作戦区域に入る」

 

今回の目的地とされる町までの一本道、そこを進んで行く事になってるんだが…その道は途中から行かせないと言わんばかりに紫色の膜のように境界線が作られていた

その境界線はぐるっと大きく囲まれてるらしく地図を見る限りでは町が中心っぽい

 

「カルロ支部長、俺達が戻らなかった場合は死んだと判断してくれ」

「分かったよ」

「よし、現在時刻午後5時…作戦を開始する」

「おう!」

「了解です」

「はーい!」

「行くか」

「ま、熊くらいなら任せろ」

『あれ?私も行く事になってません?』

 

俺達と逃げようとする芦川を引っ張りつつ紫色の境界線に近づき…中に入る

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

外はまだ夕方だった

だが中は違った

 

 

 

 

 

満月が真上にあり星空が光を灯し、道路が木に侵食され荒廃している

遠くにはぼんやりと明かりが見えるがそこまでの道はあるとは言いづらい獣道だ

後ろから入って来た超人達は突然の暗闇に驚くが月明かりで見える事に安心したらしい、安堵の吐息が聞こえる程だ

 

「…須郷」

「…なんだ?」

「お前今回の件にNってのか関わってるか聞いたよな」

「そうだな」

 

俺はナイフになったカクロを片手に周囲の茂みを見る

『何かが近づいてきている』

 

 

「今ははっきりと分かる、『魔術師』が関わってるってな…お前ら準備しろ!一気に突破する!」

 

ナイフを構え俺は明かり見える方を目指す

 

 

現在時刻午後5時

爆撃予測時刻まであと14時間




どうも、9時頃の予定が10時過ぎ、私です

ちょっと書いてたら熱入って…しょうがないね

では明日、また次の話で会いましょう


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第69話『大軍の』

見えない脅威というのは恐ろしいものだ、人間は想像力がありすぎるが故にその見えない脅威に怯えてしまうことが多い

そしてそれが長く続くと…

 

『見えない恐怖』情報屋 久しぶりのタヌキ

 

───────────────────────

 

「柏崎!このまま向かって行ったら袋の鼠じゃねぇか!?」

「まさかこんなに暗いとは思わなかったんだよ!明かりがあるならそこに敵がいるだろ?つまりそれ倒す!はい簡単!」

「適当過ぎだろうが!」

 

俺達は足元が不安定な道を走り明かりが灯っている場所を目指している最中だ、体力がない青葉と芦川を須郷が背負い残りのメンバーは走っている

涼風に先行してもらい安全を確認しつつ進んでいるが…はっきりと感じる『脅威』がまだ俺達の周囲に感じる為に止まることができないのだ

 

「涼風!どうだ!?」

「特に何もなかったよ!」

「青葉何か見えないか!」

「いえ、柏崎さんが言う『脅威』なるものを探してますが…私のカメラには写りませんね」

 

須郷の背に乗っている青葉が手持ちのカメラの暗視機能を使って周囲を見てもらっていたが…何も写らない?

 

「はぁ…はぁ…!戦った方が早いんじゃないか!?」

「ならお前だけ戦え!敵の規模と配置が分からないとジリ貧になる!」

 

誠は変身すれば強いが生身だと不良の喧嘩レベルの力しかない、そろそろ体力の限界が近いのだろう…早く何か作戦を練らないとならない

 

「翔太郎、お前ステルスになって見てこれないか!?」

「流石に見られるだろ…それに音や匂いは普通にあるからバレやすい」

「私としては翔太郎さんを行かせるのは得策ではないと思いますね、翔太郎さんのステルスは逃げる時に必要です」

 

どうする?このまま走り続け敵と戦闘に入るか…今戦闘を仕掛けるか…

こんがらがってしまっている思考を落ち着かせる為に愛用しているナイフを握る、何度も命を救われたナイフを触りどうにか思考を落ち着かせる

 

「…よし、とりあえず広い場所を探すぞ!ここじゃ乱戦になった時全員が邪魔になる!」

 

人の手が入ってた森ならばそれなりの更地があっても良いはずだ、現に道路も植物に侵食されてるが残ってはいる

広い場所なら須郷と誠のコンビで敵を倒し青葉の観察眼で切り抜けられるはずだ

…緋彩の報告を聞くまでは

 

「柏崎ー!この先橋があるよ!」

「げっ、総員止まれ!」

 

急ブレーキをかけるように全身を使って走ってた勢いを殺す、そして他の面々も止まり青葉と芦川は須郷から降りる

 

「おいおい!なんで止まるんだよ!」

 

誠が息切れを起こしながら俺の近くに来て疑問をぶつけてくる

 

「この先に橋があるらしい、ある分には別に構わないんだが…進行方向が限定されるのは困る」

 

今なら道の脇に広がる木々を通るという選択もあるが…橋に辿り着いてしまうと進むか戻るしかない

まぁ橋から川?にダイブする手もあるが流石に高さが分からないのと下が渓谷だったら紐なしバンジージャンプになるのでしない

 

「ちなみにどんぐらいの高さだった?」

「えっとねー、かなりある」

「そうかーかなりかー…」

 

カクロにナイフになってもらい自分達が来た道を見る

 

「…んじゃ戦うか」

「おう、青葉と芦川さんは下がってな」

『わ、私も戦えますが…』

「俺達超人よりもか?」

『…分かりました』

 

芦川はしぶしぶ引き下がったが…不満げだな

 

「よし!いくぜ!」

 

誠がそう意気込み拳を構える、すると誠の体を淡い光が集まり発光する…赤と黒の装甲に身を包ませたその体

超人『ヒーロー』である

 

「俺は遊撃に徹する、接近戦は任せたぞ雅弘」

「おう、翔太郎も気をつけろよ」

「それじゃボクも遊撃するよ!」

「あ、私は応援してますね!」

 

超人達は馴染み始めたのだろう陣形を作りすぐそこまで来ている『脅威』に備える

ちなみに俺も青葉と同じ応援枠だ、え?戦えって?無理だって…あれの戦闘に巻き込まれたくないし…

 

俺達がそれぞれ準備をし、待ち構える…このメンツならそんじょそこらの敵なら即撃破だ

茂みから音が聞こえ何かが近づいてるのが分かる…分かるのだが…全員が気づく程の勘違いをしていた事に気づく

今までずっと『脅威が俺達を追い続けてる』と思っていた

だがそういう訳ではなかった

俺達の来た道から、茂みから、左右から黒い影が近づいてきている…『大軍』で

 

それは1つの表現をするなら『ゾンビ』というものだった

体は腐敗し、骨は外から見えるぐらい肉が抉れ…

あるものはほぼ骨の姿で歩いてきている

 

「…B級映画かよ」

 

須郷が少しずつ下がりながら呟く

それぞれの超人達も下がりつつある…そりゃそうか、なんせ死体が歩いてきている場面で恐怖しない方がおかしいのだ

…まぁ俺はおかしい部類に入るのだろう…

他の超人が大軍から遠ざかるように後退してる中、俺はある事に気づいた

 

「…あ」

「どうしました?柏崎さん」

「あそこと、あそこのゾンビ見てくれ」

 

俺がゾンビの集団の1部に指を向ける、そのゾンビには弾痕とエイレーネーの各支部が共通で支給しているナイフが突き刺さっていたのだ

 

「…なるほど、先に来た人達はこれに襲われたんですね」

「保安官達も…だな」

 

よく見ると保安官の制服を着たゾンビも歩いている、そこが原因っぽいな

 

「どうします?このまま戦うのは難しいと思いますが」

「難しいとかそれ以前に無理だ、どんなに須郷と誠が強くても物量で押し負ける」

 

ましてや翔太郎のステルスもほぼ無意味なんじゃないか?フィクションで見るゾンビは音に敏感と聞くが

 

「…では下がります?」

「…左右と後ろは絶たれた、進むしかない…!誠、涼風、翔太郎!下がるぞ!須郷は殿頼む!」

「おう!てめぇら行け!」

「くっ…すまねぇ須郷!」

 

須郷に言われ誠と翔太郎が下がりこちらに来る

 

「涼風、このまま橋に向かってくれ…橋の先に敵がいるかいないかの確認を頼む」

「おっけー!」

「青葉はそこでリバースしてる芦川に肩を貸してやってくれ!このまま橋を目指す!」

 

俺はガスマスクを外して地面に吐瀉物を吐き出していた芦川に水を飲ませ青葉に後は任せ

俺は殿を担当してくれた須郷の所まで行き戦闘に参加する

 

「須郷流…震波拳!」

 

須郷が近づいてきた一体に技をぶつける、だがゾンビはまるで効いてないようで接近して須郷に攻撃を仕掛けてくる

 

「くっ!柏崎か!あいつらは下がったか!!」

「あぁ、あとはお前だけだ!下がるぞ!」

 

強力な一撃を持っているがスピードがない須郷をサポートしつつ俺と須郷は素早く、だが確実に後退していく

 

───────────────────────

 

俺と須郷は囲まれないように下がりつつ戦闘を続けた

分かったことはゾンビにカクロのナイフは効果があるという事だ、だが須郷の打撃はあまり効果がなく須郷の技『震波拳』が不発に終わる事が多くなった

 

「須郷!先に下がれ!体力がもう少ないんだろ?」

「はぁ…はぁ…すまねぇ!」

 

肩で息をする須郷をサポートしつつ下がるがゾンビの大軍の勢いは止まることを知らないのか…先程よりも多くなってる気がしなくもない

 

「はぁ…カクロ、まだいけるか?」

『ニャ!』

 

カクロに魔力を流し身体強化の恩恵を受ける、だがそれでも尚戦況は良くない…

 

「柏崎!」

「っ!緋彩か!なんで戻って…」

 

戦闘に集中し過ぎて気づかなかったが俺はもう橋まで来ていたらしい、そして最悪な状況も知ってしまう

橋はかなりしっかりとした作りの2車線ある橋だった

下は深そうだが川が流れており確かにそれなりの高さがある

そして橋の向こう側には

 

『ゾンビの大軍がこちらに来ていた』

 

「…くそったれ」

 

橋の真ん中で誠がゾンビの大軍を処理していた、だがどんなに誠の装甲が硬かろうとゾンビの数が多すぎる…少しずつ…だが確実に誠は下がりつつある

翔太郎が戦闘に加わってるが元々戦闘向きじゃない翔太郎には荷が重く体力がギリギリに見える

 

「どうしよう柏崎!このままじゃ挟まれるよ!」

「分かってる!…どうする…?このまま戦うには…」

 

戦力が足りない、そうとしか言えなかった

アメリカの超人も特殊部隊も連絡が来ない筈だ、こんな敵の大軍に襲われたらどんなに個が強くても押し負けてしまう

どうすれば…

 

 

…突然、ゾンビの大軍の進行が止まる

誠と戦っていたゾンビも動きを止め、俺と戦っていたゾンビもその活動を止めてしまった

 

「なんだ…?」

 

ゾンビが止まる理由が分からない、だが止まる理由があるとするならば

 

『…初めまして皆さん』

 

ゾンビの大軍の中から声が聞こえた、声と共にゾンビの大軍は左右に別れ1つの道ができあがり…その道を1人の女性が歩いてきていた

その姿はローブで身を包ませているが大胆に素足を見せるようにしてその美しい顔が俺達を見ていた、紺に近い髪と目をしており優しい表情をしていた

 

「…どちら様でしょうか?」

 

青葉が前に出てきて女性に話しかける、交渉や話し合いで彼女に勝るとは思えないので俺は下がる事に

 

「私?私はN、貴方達を迎えに来たのよ?」

 

と、慈愛に満ちた眼差しで両手を広げる女性…N…N?

 

「私は待ってませんがね?」

「…あら?貴方も耐性があるのかしら…まぁいいわ、貴方が待ってる待ってないじゃなくて私が待ってたのよ」

 

1歩1歩と、青葉に近づくNの目は青葉を見ていたが視線がズレ芦川と俺を見る

 

「……………………あらぁ…駄目よ、あんな『大人』に近づいちゃ」

 

そう言ってNは『右手を上げる』

 

「『酷使せよ、腐敗の弾丸』」

 

 

 

「芦川ぁ!」

 

俺は咄嗟に芦川を庇うように飛ぶ、そして肩と背中に激痛と嫌な匂いが広がる

 

「え…柏崎…さん…?」

 

痛みから察するにはかなりでかい傷になってる、そしてこの匂い…腐敗臭か!

 

「ふふ、庇うなんて優しいのね…偽善で反吐が出そう」

 

そして再度魔術を酷使させるつもりなのだろう、右手を上げ俺と芦川に標準を定める

 

「させませんよ!」

 

青葉がNの右手にしがみついて妨害し始める、そして須郷が俺と芦川を立ち上がらせるが俺の傷が酷い為上手く立てない

 

「くそっ!おい柏崎!」

「騒ぐな…聞こえてんよ」

 

魔術は強力だ、超人といえど当たったら致命傷は避けられない…だが1つ分かった事とこいつらを一時的にだが安全…敵地で安全はないがこの窮地を脱出させる方法がある

 

「…須郷」

「あん?喋るな!傷が…」

「いいか、できるだけ暴れるな…相手を刺激するな…必ず助けに行く…」

「何を言って…」

 

俺は不安そうに見てくる芦川を抱き上げ橋の端に行き…

 

『川に飛び込む』

 

「柏崎!」

「え!?ちょっ!柏崎さん!?」

 

落下していく俺は橋の上にいる誠や涼風の顔を見ながら川に着水する、何故か分からないがNは『大人』に過剰に反応していた…俺と芦川がいなくなれば多分あいつは須郷達に何かする事はない…と思いたい…てかまって

 

「川の流れが早くないか!?ぐぅ!」

 

芦川をできるだけ上に持ち上げ息をさせる、傷が痛むが能力で誤魔化す

 

「絶対仕返ししてやるからな…っ!」

 

川に流されながら俺は必死に泳ぐ、次のチャンスを待つために




どうも、九時頃と言って40分オーバーの私です

違うんだ!手直ししてたら遅れて(言い訳)

と、とりあえず今回の話はNとの初対面でした、ゾンビを従えるNと超人を残し撤退する柏崎+芦川
次回柏崎死す(適当)

では明日、また次の話で会いましょう


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第70話『逃れられない』

 

流れていく柏崎と芦川を見ながら須郷は考えていた

『暴れるな、刺激するな、助けに行く』

柏崎が言ったこの言葉から分かる事は…柏崎は投降しろと言っている、あのNとかいうゾンビを従えてる奴に

 

「いやぁ…助かりましたよ、あの人達に脅されてて無理やりここまで連れて来られてたんです」

 

Nの右手を掴んでいた青葉は右手を離して安堵した表情でNに頭を下げる

 

「やっぱり、もう大丈夫よ?私が貴方達を守ってあげる」

 

Nは嬉しそうに青葉を抱き締めて慈愛に満ちた表情で青葉の頭を撫でる

突然の事で緋彩や誠が混乱するが…探偵の勘か緋彩の口を塞ぐ翔太郎とそれを見て場の空気に合わせようと口を閉じる誠、須郷も青葉の行動が理解できないが柏崎の言葉を思い出し口を閉じる

 

「ずっと飲まず食わずで…何か温かい食べ物と水はありませんか?」

「えぇ、あるわよ?貴方達を歓迎するパーティーがあってそこに沢山」

「わーい、私早速行きたいですね!ね!皆さん!」

 

青葉が他の超人達を見て答えを待つ

 

「おう、腹が減って仕方なかったんだよ」

 

何も言わないのは流石にまずいと思い話を合わせる

 

「誠さんも緋彩さんもそう思いますよね?」

「そ、そうだな」

「ボクもそう思うよ!」

 

誠、緋彩が答え青葉は向き直る

 

「では私達『4人』ご相伴に預かるとしましょう!」

「ふふ、貴方達が主役なのだからもっと堂々としてていいのよ」

 

Nが歩きだし青葉がその隣を歩きNに話しかける、青葉は話のタネが多いのでしばらくは時間が作れそうだ

 

「…翔太郎」

「おう、ここにいるぜ」

 

歩く須郷で死角を作り須郷の背後にいるステルス状態の翔太郎がハット帽を被り直しながら須郷に居場所を伝える

 

「誠と緋彩にもだが…俺にも教えてくれ、青葉は何してんだ…?」

 

恐らく翔太郎も最初は分からなかった筈、だが超人の中でも青葉に次ぐ頭脳を持っている翔太郎ならば何かしら分かるはずだ

 

「…俺の憶測だが、青葉は今を『耐える』時間と考えてるんじゃないかと思ってる」

「耐える?」

「あぁ、あのゾンビの大軍を相手するには俺達と柏崎がいても難しかった…だから青葉は柏崎と何かしらの援軍を待ってるんじゃないかと思う」

「援軍?そんなの…」

 

アメリカ支部が戦力を回せなかったから日本に要請が来ていた、援軍が来れるほどの戦力なんてあったら最初から来てるはず

 

「いるだろ、この空間の何処かに」

「………先に入ったアメリカの超人と特殊部隊か」

 

戦闘中、真新しい傷を負ったゾンビはいた…だがエイレーネーの戦闘服を着ていたゾンビや新しいゾンビはいなかった…つまり

 

「何処かで生きてるってのか?」

「分からないが…何人かは生きてるだろ、そして青葉はそれらを考え『耐える』という選択をしたんじゃないかと俺は思うぜ」

「そうか…すまん、誠と緋彩にも頼む」

「任せろ」

 

そう言って翔太郎の気配が消えていく、どうやらステルスのまま誠と緋彩の近くに行ったようで緋彩と誠が飛び跳ねていた…突然の声で驚いたのだろう

 

「…(…耐える…か…けどよ青葉…一体いつまで耐えるんだ?)」

 

敵の戦力は不透明、Nの実力もまだ分からない…超人と特殊部隊か生きてない可能性もある

 

「…(耐えるしかねぇのか?本当に)」

 

須郷は頭の中で混乱し始める思考をどうにか落ち着かせ先を行く仲間達の後に続く

 

 

───────────────────────

 

激流の中どうにか息を吸うために水面に顔を出す、芦川はまだ混乱してるらしく息を吸おうと必死になってるが上手く泳げていない

 

「(このままじゃそこら辺の岩にぶつかって死ぬっ!)」

 

今は大きな岩等は見えないが底は見えてる、いつかこの勢いのままぶつかってしまうだろう

 

「ごはっ!…カクロ!」

 

川の横、壁になってる部分に近づいていた時…ナイフになっているカクロが無理やりナイフの形態で動いて崖の1部に根元まで深く刃を刺しに行った

一瞬の間、次の瞬間には左肩と芦川を掴んでいた為右肩、肘関節等が悲鳴を上げる

あまりの激痛に手の力を緩めそうになったが能力を使って痛みを一旦保留し何とか耐える

 

「ぐっ…カクロ…無茶しやがって…芦川!」

「なんですか!?」

「そのまま俺を経由して壁を登れ!」

「わ、分かりました!」

 

カクロを握ってる手もあまり長くは持たない、ゆっくりとだが芦川が俺の左手から左肩、そして右肩まで移動する

 

「重た…」

「なんですか?」

「あ、いえ何でも…」

 

エイレーネーが支給している耐水と耐衝撃に優れた拳銃を向けてくる芦川、早く登って…

 

途中、芦川に銃を向けられたりしたがどうにか芦川は崖を登り始め俺も崖に手をかける

壁と言ってもかなり凹凸がある為、登るのはそう苦労しない

だが1つ不安があるとしたら…

 

「…(効果時間が…切れる)」

 

一旦保留しているが『一旦』に過ぎない、いつか俺が受けていたダメージは受ける事になっている

ゾンビとの戦闘での疲労、Nによる魔術の攻撃、さっきの衝撃…これら全てのダメージがあと少しで戻ってくる

 

「柏崎さん!」

 

上を見ると芦川が一足先に上に到着したらしく紐のようなものをこちらに垂らしていた、その先端を手に取り一気に登っていく

せめて…せめて上についてからではないと芦川に迷惑をかけてしまう、それだけは避けなければならない

 

「よし、芦川!一気に引き上げ…」

 

後は引っ張られながら登れば数秒もかからない…そう思い上を見る

だが返事は返ってこない…だが違う返事が返ってきた

 

 

乾いた発砲音、これは昔に何度も聞いた音だ

『エイレーネーが支給する拳銃の発砲音』

 

「芦川!おい!芦川!!」

 

何度も呼びかけるが発砲音が響く音でかき消される、発砲音の合間には呻き声のような普通では聞かない声が聞こえる

『ゾンビ』だ

 

「…考えろ、今この状況で1番早く上に行ける方法…」

 

一気に引っ張って行く?駄目だ、芦川が今耐えてるだけで精一杯なのに突然体重をかけたら最悪落ちてくる…良くて転倒だが無防備に…

…これしかない

 

「カクロ、一度に沢山魔力送るがいいか?」

『ニャ?…ニャ!』

「いい返事だ…よし!」

 

残ってるなけなしの魔力をカクロに注ぎ込み身体能力を爆発的に増加させる、そして腰に装備していた愛用のナイフを手に取り壁に突き刺す

 

「くそっ!愛用のナイフがこんな場面でお別れかよ!」

 

片足を上げ、突き刺したナイフに足を乗せ…一気に飛び上がる

その衝撃でナイフは壁から抜け…というか軽く折れて川に落ちていく、その代わりに俺は地面に着地する事に成功し前を見る

ゾンビの数は…3体、倒れているのは2体…支給されている拳銃は微量ながら魔力が込められている、魔術師や異形の者等に対抗する為作られたが…こいつらには魔力が有効なのは確定だな

 

「か、柏崎さん…よかった…」

「安心してる場合か、援護頼む!」

 

じわじわと近づいてくるタイムリミット、急がないと戦闘中に俺は戦闘不能になってしまう

その前に

 

「決着をつける!」

 

まず近くにいたゾンビの足を切り裂き転倒させ頭に突き刺す、カクロには申し訳ないが脳を破壊すれば倒せるという事は芦川が倒したゾンビを見れば分かる

俺の背後から襲おうとしていたゾンビの頭に数発の銃弾が命中する、見ると芦川が訓練で学んだのであろうマニュアル通りの姿勢でゾンビに銃口を向けていた

 

「よし、後は…」

 

最後に残ったゾンビを片付ける為に視線を向けナイフを構える…が、ある異変が起きていたのに気づいた

 

「…帯電してるのか…?」

 

そのゾンビの体は発光していた、電気と電気による火花によって…そして両手をこちらに向け…

 

『放電する』

 

「カクロすまん!」

 

芦川とゾンビの間に飛び込みナイフ状態のカクロを地面に突き刺す、するとカクロを避けるように電気が目に分かるほど左右に別れ虚空に消えていく

僅かに痺れを感じながらカクロを地面から抜き構える

 

「…芦川!頭を狙え!」

「はい!」

 

芦川の拳銃から撃たれた弾丸は真っ直ぐ俺に当たらないようにゾンビに向かっていく、だが弾丸は何かに弾かれるように違う方に飛んでいき地面に着弾する

 

「弾がズレた!?」

「いや、誘導したのか…?」

 

聞いた事がある、アメリカの超人は能力も持ちながら生まれやすいと…うちの翔太郎のように

 

「…超人だ、くそ!」

 

その力で国民を、家族を、愛する人を守っていたであろうアメリカの超人…

今では亡者となり、その力で俺達の道を妨害してくるのであった

 

 

 

 

───────────────────────

 

現在時刻 午後6時

柏崎活動限界まで後2分




本日の後書きはサボり侍


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第71話『魔銃使い』

周囲を死体が歩いているという現実ではありえない事が起きてると再確認した超人達は道無き道を歩きNの後に続く

 

「それにしてもどちらに向かわれてるので?」

「ふふ、それは行ってからのお楽しみ」

 

青葉がさりげなく聞くがはぐらかされてしまう、心の中で舌打ちしつつ青葉は次の質問を考える

 

「…(この方の事は大体分かった…後は目的と強さを…)」

 

次の一手を考えていたが、青葉の想定よりも早めに目的地に着いたらしくNが超人達の方を向く

 

「まず皆に約束して欲しい事があるわ」

「約束ですか?」

「えぇ、まず約束は破らない事、約束は絶対守る事、暴力はしない事、嘘はつかない事」

「…1つ目と2つ目は大体一緒では?」

 

青葉は疑問を口にする

 

「えぇ、念押しってやつよ」

「なるほどなるほど!確かに大事ですね!私達人間というのは忘れる生き物ですから大事な事でしょう!」

 

Nは少しムッとした表情になった為青葉は冷や汗をかきながらNの言葉に同意する『これが1番効果がある』

 

「それじゃ…こっちよ」

 

Nについて行き茂みを抜け…

 

「…すげぇな」

「わぁ…明るいね」

 

須郷と緋彩が思わず口を開き思った事を言葉にする、超人達が来た場所はとある町…今回の任務の1つの目的地でもある

町は電気によってまるで昼ではないかと思う程明るく、遠くから見えた明かりはこれだったと理解できる

 

「ようこそ、私達の町へ」

 

Nが超人達を見ながら微笑む、まるで自分の玩具を見せる子供のように

 

──────────────────────

 

迸る電流と発砲音が入り交じる戦場で1人の男は髪から落ちる水滴を払う、体の限界は近い…早く戦闘を終わらせたいという気持ちが先走りいつもの調子に戻らない

 

「…(…強い)」

 

超人は素の状態で強い、戦闘系ではない超人は流石にパワーはないが翔太郎等のサポート系でも俺達一般人を凌駕して勝ち目が少ない…目の前にいる超人は恐らく戦闘を中心に戦っていたであろう超人…そして雷を操る能力を保持している

 

「…(あと少しで俺は戦えなくなる…芦川を逃がして…難しいな…俺を見捨てるって選択を取らなそうだし…けどこのまま戦うとしても決定打がない)」

 

雷を操り接近を許さず、弾丸を吹き飛ばし、川を背に戦ってるせいで後方に逃げれない

 

「芦川、マガジンあと何個だ」

「あ、あと2個です」

「2個かぁ…」

 

超人の雷はカクロでどうとでもなる、まだ子猫と言っても神の子…俺が魔力を流す必要があるが多少の攻撃を受け流す事が可能だったらしい…俺もつい最近まで知らなかったが

 

「…速攻を仕掛ける、芦川はあいつのドタマぶち抜け!」

「了解!」

 

ただ攻める、小難しい作戦は逆に混乱させる恐れがあった

だから簡単な命令を言い俺はそれに合わせる

乾いた音が連続で聞こえ超人のゾンビに向かっていく

弾丸は真っ直ぐ飛んでいくが突然方向が変わり地面に、木に当たって止まってしまう

 

「当たらない…!」

「いや、ナイスだ!」

 

今までのダメージの蓄積分とカクロに流した魔力による恩恵が合わさった俺は普通では考えられない程の速度でゾンビに接近する、流石に対応できなかったのか…ナイフは『腕』に刺さる

 

「なっ!こいつガードするのか!?」

 

喉を狙っていた、だが今までのゾンビでは考えられない『腕でガード』をしたのだ

ゾンビの体が帯電していくのがスローモーションで見える、冷や汗と頭の中で警告音のように頭痛が激しく起こる

 

「(死…)」

 

最初に感じたのはピリッとした指先の感覚、次に痺れるような感覚と電気が体を通って足に向かってるのが分かるようで…

 

足が破裂する

 

「がっ…しま…能力…」

 

右足が動かない、背中や関節が痛む

能力が終わる

 

「柏崎さん!」

 

遠くで声が聞こえる、発砲音も…だが意識は飛ばない

能力が発動したのか…?いや、体が痛む…中途半端に発動したか…?いや、今はどうでもいい

 

「芦川…逃げ…ろ…」

 

声が自分でもちゃんと出てるか分からない、カクロが猫の形態に戻り俺を守ろうとしてくれているが…無謀だ

芦川も逃げないで銃を撃ちまくっている…使いたくなかったが…能力を使うしか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Hey!銃の扱いが慣れてないようだな!銃ってのは…」

 

突然の声、次に瞬間には爆弾が近くで爆発したのではないかと思ってしまう程の爆音が響く…なんだ…?デザートイーグル…?

 

「HAHAHA…おっと、ニッポン人には刺激が強過ぎたっぽいな!…ん?おぉ!カシワザキじゃないか!何寝てるんだよ!」

 

と、体が持ち上がり誰かの肩に乗せられる…目を開け俺を持っている人物を見て俺は謎の安心感に包まれた

 

「…そこの…やつは俺の仲間だ…守ってやってくれ…」

「自分が死にかけってのに他人の心配か?」

「俺が死ぬ事は多分ないからな…」

 

俺は担いでくれている…スーツを着て、カウボーイハットを被っている女性を見る

 

「とりあえず回復するまで頼んだ…『ケイト』」

「あぁ!任せな!」

 

ケイト、エイレーネーアメリカ支部の第1特殊部隊の隊長であり紅色の髪と目をしておりスーツとカウボーイハットという格好だがアメリカ支部の技術の結晶『魔銃』を唯一扱える者

 

俺はほっとしたせいか、意識を失ってしまう



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第72話『運に賭ける』

町を歩いて分かることは子供が多い事…そして大人が1人も見当たらない事だった

 

「すみませんNさん、大人の方はどちらに?」

 

青葉がNの隣を歩きながら尋ねる、Nは機嫌が良いのか青葉の質問に簡単に答える

 

「大人はとても薄汚れた存在だから1箇所に集めてるわ、私の楽園を作るのに邪魔だったから」

「ほう、楽園ですか?」

「えぇ、今までの大人とは違う綺麗な心を持つ大人に子供達がなれば素敵だと思わない?」

「はい!とても素敵な場所になると私は思います!」

 

ここで切り上げるべきだと判断した青葉は他の超人に目配せしてNを向く

 

「私達少し疲れてしまったので先に休ませてもらってもいいでしょうか?ずっと歩いててヘトヘトなんです」

 

そう言って本当に疲れた顔をする、実際青葉は体力はそこまであるわけではない…この空間に入ってすぐに走りここまで歩いて来た事で疲れているのだ…嘘はついてはいない

 

「…そうね、先に貴方達のお部屋に案内するわね」

「助かります!」

 

Nを先頭に超人達は街中を歩いてある場所に辿り着く、そこはある一軒家でかなり大きな家だ

 

「さぁ、入って」

 

扉を開けて中に誘導するNに従って青葉、緋彩、誠、須郷の順で中に入る

 

「この家は好きに使って構わないわ、1時間後に貴方達の歓迎パーティーを開くから起きててね?」

「歓迎パーティーとは嬉しい限りです!では寝ないように全員で集まって荷物を整理しましょうか!」

 

出ていくNを見送りながら青葉は全員にある部屋に行くよう指で指示する、それに気づいた須郷達は部屋の扉を開けて中にはいり青葉もNが遠ざかったのを確認して中に入る

 

「…ふぅ…」

「すまねぇな青葉、俺達が口挟むのは難しいと思ってな」

「いえ、雅弘さん達も喋っては良かったんですけど…」

「俺達が喋っても…な?」

「そうだね…ボクとか何喋ればいいか分からなかったよ」

 

誠と緋彩は肩を竦めて青葉を見る、2人にとっては口先では絶対勝てない存在なので邪魔したくなかったのだ

 

「…そんで?青葉、お前は何が分かったんだ?」

 

何も無い場所から翔太郎が現れ青葉の方を向く、青葉は少し考え言葉を選ぶように口を開く

 

「まず分かった事で1番重要だと思うのは…彼女は恐らく『子供』です…と言っても私達より少し幼い程度でしょうが」

「…子供?」

 

青葉の言葉に緋彩は困惑した顔になる、何故なら

 

「ま、まってよ青葉!あのNって人…どう見ても20代の女性だったよ…?」

 

自分達より年下…つまり15歳以下となる

Nの見た目は完全に大人の外見でありどう見ても未成年とは思えないだろう

 

「そう、そこが重要なんですよ緋彩さん…外見は大人で精神が子供の可能性があるって事です…つまり下手に機嫌が悪くなってしまったら感情の赴くままに何をするか分からないんですよ」

 

できるだけ感情を逆なでしないように言葉を選んで喋っていた為、何とかなったが…

 

「それと、どうやらこの空間だと言語が統一される魔術があるとか…本人もよく理解してないようですがね」

「便利だな、それ」

「そうなんですよ、誠さんもこれがあれば違う言語の人とお話できますよ」

「便利だと言ったが魔術関連はNGだ」

 

過去に魔術師に踊らされた過去がある為あまり魔術は好きではないらしい

 

「…後は何ですかね、まぁ皆さんに忠告する事と言えば彼女に対する言葉を気をつける…ですかねぇ…」

「おいおい、難しいじゃねぇかよ…俺には無理そうだな…」

「雅弘さんはそのままでいいんじゃないでしょうか?変に言葉を選んでも不自然なだけですからね…あと翔太郎さんには頼みたい事が」

「ん?なんだ?」

 

青葉は翔太郎の近くに行き、耳を貸すようにジェスチャーする…拒否する理由がないのでとりあえず耳を向け体を屈める

 

「…翔太郎さんは集められてるこの町の方々の解放と…柏崎さん達の捜索をしてもらいたいんです」

「…まぁ俺はNって奴にバレてはないからできるが…耐えるんじゃないのか?」

 

翔太郎の考えでは青葉の今回の選択は耐える、だと思っていたがどうやら違うらしい

 

「耐えるのは…まぁ無くはないですがあまりやりたくない行動とも言えるんですよ、今回の敵があのAみたいなら動かないのが得策です…ですがNは見張りを置いてるわけでもなく普通に私達から目を離してるのでチャンスでもあるんですよ」

「つまり今回の敵はあんまり考えてないからガンガンいこうぜ…と」

「まぁゾンビの大軍がいるので厄介なのは変わりないんですけどねぇ…とりあえずできそうですか?」

「任せとけ、町の人らは何処にいるかは分からないが…すぐ見つかるだろ…だが柏崎は川を辿って…まぁ数時間は欲しいな」

 

翔太郎の想定を聞き青葉は考え…今回の方針を固める

 

「皆さん聞いてください」

「はいはーい」

「おう、どうした?」

「なんだ?」

 

2人で話してるのを離れた場所で見ていた3人が反応したのを確認し青葉は話を切り出す

 

「まず今回…最優先事項は『柏崎さん達との合流』、そして『Nの弱点、戦力の把握』…これを行いながら明日の早朝6時に行動を開始します」

「え?明日の朝って青葉、爆撃の1時間前じゃん!?」

 

緋彩は驚愕して青葉の肩を掴み前後に揺らす

 

「お、落ち着いてください…ぶっちゃけてしまうと私達が出来ることは限られてます、無理に戦うよりも今の環境で体を休め決戦の時に戦うのが1番勝率が高いと私は思いますね」

「そりゃそうか…俺達ずっと戦ってたからなぁ…」

 

伸びをしつつ誠は呟く、体に負担が蓄積しており今から全力で戦うのは不可能だろう

 

「つまり、速攻を仕掛けるってわけか」

「はい…翔太郎さんの負担が大きいですが…」

「動けるのが俺だけしかいないからな、そっちは頼んだぞ」

 

翔太郎はハット帽を被り直し窓から外に飛び出して町を駆ける

 

「…青葉、今回の勝てる確率はどんくらいだ?」

 

須郷が青葉を見ながら尋ねる、柏崎達と翔太郎が合流できるかどうか…それ以前に先に入った超人とアメリカの特殊部隊が生きてるかどうか…かなりの博打だ

 

「…10割中…1割ですかねぇ…」

「低いな…」

「ま、なるようになれ…ですね」

 

窓の外を眺めながら青葉は今回の行動が成功するかどうか予測する

 

「…吉と出るか凶と出るか…」

 

あまり運任せは好きじゃないが運に任せるしかないと思いつつパーティーをどう乗り切るか考えるのであった




どうも、私です

今回は少し物語の展開は遅め、ここから少し早くなるかも

では明日、また次の投稿でお会いしましょう


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第73話『足しても足りない』

 

暗い空間…特に何か物があるわけではないこの場所で俺は1人佇んでいる

 

「…なんかいつもの場所とは違うな」

 

周囲を見てみるが本当に何もない…いや、遠くに何か見える…あれは…

 

「…光…?」

 

夜の蛍光灯に飛んでいく羽虫のように俺は目的もなく光に近づいて行く…それなりに歩き、光の元が少しずつ見えてくる

それはランタンのようだ…だがそれよりも気になるのは

 

「…檻か?いや、それにしたって厳重過ぎじゃねぇか?」

 

ランタンの隣にあったもの、それは大きな檻だ…四方八方全てを分厚そうな鉄の壁が覆っており扉と小さな小窓が付いている、小窓は横に開いて中を覗けるタイプのようで少しだけ開いていた

 

「…何もないし…見てみるか」

 

いつもなら、あまり近寄らない…だが何故か中を

『見てみたい』と思っている自分がいる

一歩一歩と近づいて行く度に背中と肩が痛む、そもそも何故痛むのかも思い出せない…あぁ…この感じなんか似たような事あった気がするな…

檻の前に辿り着き少しだけ開いている小窓の取手を掴み全開にする、そして中を覗き込んでみるが…中は暗く何も見えない

 

「見えねぇ…ランタン取るか」

 

地面に置いてあるランタンを取り小窓の近くに持ってきて覗き込む、中は簡素なベット、イス、トイレ…そして

 

「…誰だ…?」

 

奥に誰かが座っている、ランタンの光では奥まで照らせずもどかしい

 

「おい!ここは何なんだ?というかあんた誰だ…?」

 

俺の声に反応してか、奥に座っていた奴はゆっくりと体を起こし顔を下に向けてこちらに歩いてくる

近づいてくる姿は薄汚れた服を着た男だ、金髪に…黒の囚人服のような格好をしておりやせ細っている

 

「…?言葉が通じないのか?」

 

言葉が通じないのは困る、こんな何も無い場所で唯一見つけた人…?なのだから

 

歩いてきていた男は突然足を止め動かなくなる、止まる理由が分からないが何か考えがあるのだろうか?

そう思い顔をさらに小窓に近づけた…が、俺は失敗したと思った

 

 

 

 

男の姿がブレて俺のすぐ目の前に移動してきたのだから

 

「なっ!?」

 

分厚い鉄扉の筈だがまるで紙を突き破るように男は扉を素手で突き破り俺の首を掴む、片腕だけしか出てないがまるで両手で掴まれてるような力で俺を小窓の方に近づける

 

『くくく…まさかお前の方からここに来るとは愚かなものだ』

 

男は顔を上げて小窓越しに俺を見てくる、その顔はどこかで見たような顔だ…というより

 

「お…俺…?」

 

たまに鏡で見る自分が目の前に立っている…突然の事が多過ぎて頭の整理が追いつかなくなってきたが相手は待ってくれなさそうだ

 

『貴様の体、貰い受けるぞ』

 

淀んだ目で俺を見てくる男は腕の力を強め不気味に笑う、俺の顔でそんな笑い方すんなと言いたい所だが声を出すどころか息さえできそうにない

少しずつ意識が遠のいていく、なんで毎回こんな経験しないといけないんだ…そう愚痴りたいと思いながら俺は意識をまた手放す…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はいそこまで、君は何をしてるんだねこのポンコツは』

 

俺を掴んでいた腕は突然崩れ始め俺は力が抜けて地面に座り込む、喉が圧迫されてたせいで何度か咳をして顔を上げる

 

「…またお前か」

『いいから下がりなよ、邪魔だから』

 

黒い人の形をした子供の体型の何かは腕を振り上げると檻の周辺に大小の鳥居が地面から生えて…檻を完全に埋めてしまった

 

『はい封印、これ疲れるからあまりやりたくないんだよね』

「お、おう…」

 

なんかよく分からないが救われたらしい、立ち上がって背中や肩を触るが特に違和感はない…何だったんだ…?

 

『全く、魔術の攻撃の影響でここに来れちゃったのか…早く現実に戻った方がいいよ』

「いや、待てよ!あれは何なんだ!?というかここは?!」

『あーうるさいうるさい、はい帰れ』

 

また腕を振り、俺の足元の地面が消えて俺は重力に従うように下に落ちていく

 

「あああああ?!質問に答えろやこのガキィィィィ!」

 

地面が元に戻り暗くなって俺の意識は本当になくなる

 

────────────────────────

 

 

「このガキ…痛てぇ!?」

「いったああああああああ!?」

 

体を起こして叫ぼうとしたが硬い何かに額をぶつけて俺は地面転がって痛みを和らげようと試みる

 

「うぅ…柏崎さん…私もう20なのでガキじゃないです…」

「…芦川か…ここ何処だ…?」

 

焚き火がパチパチとなっており俺はその近くに寝かされていたようだ、何かを調理してたらしく美味しそうな匂いがする

 

「ここはケイトさんが拠点にしてる洞窟ですよ、それより柏崎さん凄いですね…」

「え?石頭って?」

「違いますよ!?…傷がもう治ってたから驚きました」

「…あぁ、そういう事…」

 

俺の能力は勝手に発動する時がある…というより多分マヨイが勝手に発動させてるのかもしれない、あいつこの前俺の傷を自分に移してたからな…

 

「…んで?件のケイトはどこだ?あいつには聞きたい事が山ほどある」

「多分そろそろエド君と帰ってくるかと…あ、来ましたね」

 

エド君とは…まぁ今は気にしないでおこう、洞窟の…多分入口側だな…そちらから足音が聞こえ姿が見える

 

「お!カシワザキ!起きたか!」

「よ、ケイト…久しぶりだな…てかそこの少年誰だ?あれか?攫った?とうとう」

「HAHAHA!カシワザキの言ってる事よく分からないが町の子らしくてね、保護してんのさ!ほら、挨拶しな!」

「わ、分かってるよケイトさん…」

 

ケイトの後ろでコソコソしてた少年が俺の方を向き姿勢を正す

 

「僕はエドワード、皆からはエドって呼ばれてるんだ」

「よろしくなエド…ちなみに日本の漫画には興味ないか?」

「え?日本ってあれでしょ?…あのオタク達が…」

「ははは!そこまでだエドワード君!それ以上はいけない!」

 

あまり好きじゃないのかな…悲しい…

 

「それより飯だ飯!飯食えば万事解決だ!」

「あ、まだ準備中でして…」

「…そうか」

 

夢…夢?の中の事もあり飯を食って忘れたかったが…タイミングが悪いなぁ…

 

「カシワザキ!話したい事があるから少しいいか?」

 

ケイトが笑いながら俺の二の腕を掴んで強制的に立たせる

 

「いや聞くつもりないよね?これ無理矢理っていうんだぜケイト」

「いいからいいから!アシカワ!こいつ借りていくよ!」

「はいどうぞ…」

「芦川…俺が寝てる間に何があったんだ…」

 

可哀想に…青葉に弱み握られケイトに恐怖を植え付けられたに違いない…俺はケイトに運ばれながらそう思うのであった

 

───────────────────────

 

「なぁケイト〜…どこまで行くんだよ〜」

「少しくらい我慢できないの?」

「突然口調変えるな、驚いたわ」

 

男が多いこの組織、ケイトは女だからと馬鹿にされないように口調を無理やり変えていた…結果はまぁ…うん…いいんじゃないかな?

 

「…カシワザキ、貴方達は増援…と思っていいのよね」

「そうだぞ、と言っても…一緒に来た超人は敵地にいるんだよな…」

 

青葉達ならどうにかするだろうが、放置するわけにもいかない

 

「お前達が協力してくれれば最悪でも敵を倒せる筈だ…と言いたいんだが…ケイト」

「何?」

 

未だに歩き続けているケイトは俺の方を向かない

 

「…お前達は超人3名、特殊部隊8名で侵入したんだよな」

「…えぇ」

「だが超人の1人はさっき俺達と戦った…ゾンビとして」

 

少しずつ洞窟から離れ、少しだけ地面が柔らかい場所に来てるらしい

 

「なぁ…ケイト」

「………」

「…あと何人残ってる…?」

 

ケイトの後に続いて歩き、ある場所に辿り着く

そこは少しだけ広い空間で木々が生い茂ってない場所…そして

 

「…皆勇敢で…守りたい人がいて…帰る場所があった、だけど『生き残ったのは私だった』」

 

立ち並ぶのは手作りの十字架に掘り返した後がある地面…そして武器や持ち物が十字架に立てかけられていた

 

「カシワザキ、私は手伝うわ…1人だけになっちゃったけど」

「…そうか…どうしたもんかね」

 

両手を合わせ黙祷しながら俺は今後について考える

 

「…(最悪な状況だな…これは)」

 

現戦力は

俺、芦川、ケイトのエイレーネー兵士

須郷、青葉、緋彩、誠、翔太郎の超人達

そして一般人のエドワード

 

敵は

ゾンビの大軍、数は不明

N、恐らくかなりの強敵

 

あぁ、これは

 

「…やばいな」

 

そう呟きながら俺は空を見る

 

──────────────────────

 

現在時刻午後10時

爆撃予想時間まで役9時間




特に明記なし!


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第74話『動き出す脅威』

星空はとても綺麗だ、こんな地獄みたいな地上よりもずっとな…俺はタバコを入れているポケットに手を入れ指先に何も当たらないのに気づく

 

「あれ?なぁケイト、俺のタバコ知らないか?」

「ん?あぁ…水に濡れてたからアシカワが捨ててたよ」

「芦川ぁ…」

 

まぁそろそろ禁煙しろって遠回しに矢本からも言われてたから…これを機に禁煙するか…

 

「そろそろ戻るか、芦川とエド少年が二人っきりという絶対会話もしてない場所に」

「それ言う必要ある?…あ、いや…言う必要あるか?」

「俺といる時は普通にしててもいいぞ…」

 

戻って作戦会議だな、ケイト一人だけとはいえ…かなりの戦力と言っても過言ではない

俺とケイトは来た道を戻りながら昔話に花を咲かせながら戻る

 

────────────────────────

 

時は遡り

夜の町、明るく灯されているがそれでも屋根の上や路地などは比較的暗がりが多くなっていた

光が強くなればなるほど闇は濃くなる、そんな闇の中を駆ける1人の男がいた…その姿は僅かに見える程度で家の屋根を、路地を、ある時は堂々と道の真ん中を歩いてある場所を探していた

 

「…(そこそこ家があるな…家1つに2人の大人として…かなりの大人数だ、そんな大人数を隔離するには…何処だ?)」

 

探偵の超人、道華翔太郎はハット帽を被り直しながら周辺を見回っていた…子供達は自由になったと言わんばかりに道のあちこちで玩具を広げ遊ぶ子供やサッカーをする子供…

 

「…(まるで子供の楽園だな、こいつらは親がどうなったか知ってるのか?)」

 

遊んでいる子供一人一人を観察して翔太郎は一つの仮説を立てる事にした

 

「…(親の存在を記憶から消した…?いや、思い出せないの方が正しいかもしれないな)」

 

記憶をどうにかするというのは難しい事だ、それも大人数にやって全員同じ事を忘れさせるのは時間がかかるだろう

 

「…(魔術か…便利だが関わりたくないもんだ、さて…捜索を続けるか)」

 

遊ぶ子供達にぶつからないように避けながら歩き…

 

「…(ん?あれは…パンと…鍋?)」

 

ローブを羽織り手足と頭を完全に隠している集団が車に食料らしきものを運んでいるのを翔太郎は目撃した

先程青葉が言っていたパーティーに使うにしては車を使う程なのだろうか?

 

「…とりあえず追うか」

 

恐らく詰め込み待ちであろう車の上に乗り適当な場所に掴まって出発を待つ

食料を車に入れている一行は何も喋らず、黙々と運んでいるのが不気味だがどうやら普通の人間らしくペットボトルの中身を顔を覆っていたローブの隙間から飲んでいる者がいた

ゾンビという線も考えたが…死人に水分が必要なのか?

 

「…(それにゾンビが車運転するとか聞いた事ないしな)」

 

発進し始める車にしがみつきながら翔太郎は揺られる

 

────────────────────────

 

体感的には15分くらい経っただろうか?距離にして2km程…車は止まる気配がない

 

「…(…ん?あれは…)」

 

暗く見えづらいが僅かに何か大きな影が見えた、それは十字架が立てられておりかなりの広さの建物…教会だ

翔太郎はあと少しで到着というところで車から脇の茂みに飛び込み身を潜める、気づかれた感じはしない…そのまま教会を目指して茂みを歩き木の陰に隠れ様子を伺う

 

「教会と…墓地か、ゾンビに墓地は相性抜群じゃねーか…」

 

恐らく何体かはあそこで蘇ったのだろう、土が荒れており穴が何個もある

 

「…ん…?…!?」

 

教会は建物を囲むように塀が作られておりその敷地内に墓地が作られていた、それを順番に見ていると教会の横…来た時には死角になっていた部分に『何かがいる』

 

それは適当に集めてくっつけたように人間がその『巨体』に張り付いていた、体長は教会よりも大きくない程度だろうか?それにしても大きい…そして尚且つあの巨大な人型の何かは…ゾンビなのだろうか?

偶然、その巨大な人型の生物の近くをゾンビが一体歩いていた…が、直ぐにそのゾンビは巨大な生物に掴まれ『捕食』される

 

「うっ…あまり見てて楽しいもんじゃなさそうだな」

 

遠くにいても聞こえるほどの咀嚼音、骨を噛み砕く音が生々しい…巨大な生物に集中してる間にローブ達は食料を教会の入口まで持っていき扉を開ける

開けたと同時に中から木材等を手に持った若者が現れローブの1人の頭をぶん殴る

 

「へ!くたばりやがれ!このイカれた野郎が!」

 

その後ろからさらに武器を持った者達が現れローブ達を襲い始める

 

「…町の住人達か?加勢するべきか…?」

 

数で押してる町人達に協力するか悩んでいた翔太郎の耳に何かが折れる音と砕ける音が聞こえ教会の方を見る

ローブの1人が木材を掴んで片手で折り、また1人が教会のコンクリートで作られた壁を『破壊』したのだ

 

「…あ、ま、まっ…」

 

止めようとした若者の1人の顔をローブの1人が殴る、その動作だけで若者は教会内に吹き飛び中で悲鳴と衝撃音が響く

他のローブ達は反抗してきた若者達を掴み無理やり教会内に連れて行き教会の扉は閉められた

 

「……人間…じゃないのか?………教会は後回しだ、柏崎達を見つけよう」

 

頭の中に響く警告音を信じ一旦町に戻ろうと立ち上がり振り返る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その先にはローブを羽織った人影が立っていた

 

「っ!…はっ…運がない…だがすまねぇな…見なかった事にしてくれ」

 

能力を使い体を透明にしていく翔太郎、だがローブは動く気配がない

 

「…(様子見か?もしくは援軍を呼ぶ気か?どちらにせよ…今は眠ってもらうぜ!)」

 

素早くローブの背後をとり首筋に回し蹴りをする、戦闘が得意ではないが普通ならこれで意識を刈り取れるはず

だがローブはそれを避け、拳を翔太郎に向け殴りかかってくる

 

「危なっ!」

 

咄嗟に避け、冷や汗が流れる…この反応速度と拳の『重み』どこかで見たことがある

ローブの人型は完全に翔太郎を見ており…『構えをとる』

 

「…っ!?…お前は誰だ…!」

 

相手を見ながら逃げる選択を取るしかないと悟る、何故なら

 

 

 

 

 

 

 

ローブの人影は

『須郷流』の構えをしていたからだ




どうも、今回短め私です

物語の進行が遅いような遅くないよなー…遅いな(確信)
明日から少し早めまーす

では明日、また次の話で会いましょう


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クリスマス企画『プレゼント大作戦』

時系列破壊系です


 

時が過ぎれば季節が変わるわけで

この世界にも冬が到来したらしい、冬将軍が猛威を奮っているこの時期に…俺は夜勤をしていた

 

「なぁ…天田…」

「なんすか柏崎さん」

 

夜勤明けの早朝7時、俺はソファに寝転がって死んだ魚のような目で未だにパソコンに向き合って作業をしていてる我らがオペレーターである天田美琴を見る

 

「俺は…思ったんだ…なんか…俺アメリカにいた気がするんだ」

「気の所為っすね」

「気の所為かぁ…そうか…この部屋暖房効きすぎじゃね?」

「今くらいが丁度いいんすよ」

「そうか…」

 

頭が働かない状況で大事な事を忘れてる気がするが…まぁ…気の所為だろう

 

「かしわざき!あまた!おはよう!」

 

眠い頭にガンガン響く声でエンが部屋に入ってくる、エンの部屋が作られてからここに来るのは珍しい事だ…何かあったのだろうか?

 

「エンちゃんおはよーっす…あれ?もう時間だったすかね?」

「うん!あまた!早く早く!」

「あぁ、ちょっと待つっす!この資料があと少しなんすよ!」

 

…なんか天田が慌て始めた、なんだなんだ?2人でお出かけか?…天田夜勤明けだけど

 

「…エン、天田と買い物か?」

「そうだよ!今日はクリスマスパーティーがあるからプレゼント買うの!」

「はぁ…プレゼント………ん?プレゼント?」

「?プレゼント交換するんだよ!」

 

そっと、携帯の画面を見て俺は頭を抱えた…なんてこった…

今日はクリスマスイブ、明日はクリスマスで良い子にしてた子供にサンタがプレゼントをあげるというイベントだ

…そして俺はエンにプレゼントを渡すサンタ役をやる予定だったのを忘れてたのだった

 

──────────────────────

 

一週間前、エンが珍しく第1特殊部隊の部屋でテレビを見てた日の事…テレビでは気が早い人達がそろそろクリスマスだと準備をしていた場面が映ってた時にエンが言った一言が事の発端だった

 

「…ねぇやもと」

「何ですか?エンちゃん」

「…サンタさん私の所に来てくれるかな…」

 

筋トレしてた宮島、眼鏡を拭いてた雨森、メイクをしていた雨宮、任務に行く途中だった宮本、そして仕事をサボってた俺とそれを怒ってた天田とカクロ…全員が空気が凍ったような感覚がしたと後日判明した

 

「え、えっと…来てくれますよ、きっと」

「ほんと!?やったぁ!」

 

この時矢本は生きた心地がしなかったと言っていた、俺達はぶっちゃけあまり良い子の組織ではないのでサンタがしっぽ巻いて逃げると思うがエンにそれを知られるのはなんか…困る!

 

「え、エンちゃんは何が欲しいっすかー?」

 

さり気なく天田が尋ね全員が良くやったとガッツポーズした、用意するのが誰か決まってないが知るのはいい事だ

 

「えっとね…24日の日に発売って言ってたウサギさんのぬいぐるみ!」

 

俺達はアイコンタクトをして雨森に視線が集まる、雨森はパソコンを高速に起動させ検索結果を俺達に見せてくる

矢本と天田がエンの気を引いてる間にパソコンの画面を覗き込む

…確かに24日の正午に販売開始と書いてあるな

集まってる面々で顔を寄せ合い作戦会議を始める

 

「…(これより第1回クリスマス『エンにプレゼント大作戦』の作戦会議を始める、進行役は雨森で)」

「…(よろしくお願いします、では早速今回の作戦を説明させていただきます…まず『エンにプレゼント大作戦』ですが最重要目標であるウサギのぬいぐるみですが正午に数量限定で売られてます、つまりこの日の正午から数十分しか時間がないかと)」

 

机の陰に隠れパソコンをこちらに向ける雨森、俺達は頭を悩ませそれぞれ疑問点をあげる

 

「…(24ってよ、確か一週間後だったよな…誰かその日休みの奴いねぇか?)」

「…(お前はどうなんだ?宮島)」

「…(俺はその日第2特殊部隊の援護に行く予定なんだよなぁ…)」

 

宮島はその日この町にいないと…

 

「…(雨森は?)」

「…(申し訳ありませんが私は故郷に戻るよう家から通達が…)」

「…(お前ん家厳しいもんな…)」

 

雨森は帰省と…

 

「…(宮本は?)」

「…(すまないがその日は例の連中とパーティーとやらに参加しなければならなくてな、準備の手伝いがあって抜け出せそうにない)」

「…(超人共がぁ…)」

 

宮本は超人に捕まったと…

 

「…(雨宮は?)」

「…(私もその日別の隊に要請されてた気がするのよね〜…)」

「…(要請…確か第1か)」

 

雨宮も駄目か…

 

「…(隊長はどうなんですか?)」

「…(え?俺?俺は…えーっと…)」

 

手帳を取り出してパラパラとめくっていく、確か24は…

 

「…(夜勤明けだな)」

「…(隊長)」

「…(どうした雨森、なんでそんな目で見るの?や、やめろ!そんな頼みました的な哀れみな目をやめろ!)」

「…(隊長以外その日に動けそうなのいないんですよ!)」

「…(ま、待て…確か天田が同じ夜勤明けの筈だ!俺である必要が無い!)」

 

俺一人であんな可愛い人形とか置いてある場所に行きたくない!

 

「…(天田さんはエンさんが近づかないようにする陽動にします)」

「…(お、お前…夜勤明けに容赦ねぇ…)」

 

こうして俺はプレゼントとついでにサンタ役を、天田はエンを連れてプレゼント交換用のプレゼント確保と誘導となり作戦が開始されたのであった

ちなみに今思えば矢本休日だった…やっちまったな…

 

 

──────────────────────

 

寒くないようにコートとマフラーを身につけ朝の町を歩く、ツリーが立ってたりサンタ服を着た人達がクリスマスイブを祝ったりなんなり…あとカップルが多い、消し炭にしてやろうか

 

「…うぅ…さむ…どう過ごそう…」

 

エナジードリンクを飲みながら歩き正午まで何をするか悩む、支部にいても寝てしまいそうだしどうせなら町に行こうという事になったのだが失敗だったかもしれない

カクロは寒いと威嚇して来たので置いてきた、酷いやつだ

 

「…そうだ、あいつのも付けてやると喜ぶかな」

 

いい事を思いついたと同時に時間を潰すには丁度いい場所を思い出し俺はある場所を目指す

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

「サンタさーん、プレゼント寄越せー」

「残念ながらサンタさんではなくタヌキさんなのだー」

 

インターホンを全力で連打したら中からタヌキが現れる、というかなんだその寝巻…たぬきか…

 

「お前確か本出てたよな」

「そうだよー、『恋とサスペンス〜そして突然の死〜』シリーズだねー…全17巻!そしてアフターストーリー8巻!」

「うーん、よく分からないが凄そう」

 

多分凄いんだろう、多分

 

「それで、どうかしたのかなー?もしかして読みたくなったのかなー?なら書店にGO!」

「いや、サインが欲しいんだが」

 

お前の本はこれっぽっちも興味が無い

 

「えー?どういう事かなー?」

「えっとだな、かくかくしかじか」

「うまうまもぐもぐ…なるほど、エンちゃんが私のフォンと」

「フォンではないがファンだな、あとよく分かったなお前」

 

情報屋だからこれくらい分かるのだろうか

 

「別にいいよー、んじゃ中に入って待ってて」

「助かる…ところで亜門達の事なんだが…」

 

俺は正午までタヌキと無駄話をしながら待つのであった

 

──────────────────────

 

「こ、ここが…なんか…入りずらい!」

 

俺はとあるスーパーの一角にあるぬいぐるみ専門店『銀郎』…ん?なんかデジャブが…

 

「完全に人選間違えたな…俺が入るには性別が違う」

 

店の中には大勢の女性や女の子が可愛いだのキモかわだの…男が圧倒的に少ない!中に入ってる恐らく彼氏らしき人物が死んだ目をしている、無理やり連れてこられたのだろうか…

とにかく男の俺が入るには勇気がいるな…

 

「「どうしたものか…ん?」」

 

悩んでると隣から全く同じセリフを言う奴が、こいつ人のセリフに被せてきやがって…って

 

「…須郷じゃないか」

「柏崎…てめぇ…なんでここにいやがるんだ?」

「いるもなにもお前こそなんでいるんだよ?お前ぬいぐるみ大好きっ子だったのか?」

「違ぇよ!…エンのクリスマスプレゼントにぬいぐるみを…って思ってな」

 

なるほど…こいつも同じ考えだったのか…なんだろう、一種の盟友的なあれだな…同じ目的があるから戦友的な感じがする

 

「皆さん!本日の目玉商品であるウサギのぬいぐるみ!ウサ男とウサ美の販売開始でございます!」

 

なんか見た事あるような男がベルを鳴らしながら棚を1つ使って置かれているウサギのオスとメスのぬいぐるみを見せてくる…こいつ錬金術とかしないよね?

そうこう思ってるうちにぬいぐるみに大勢の女性が集まりだしどんどん無くなっていく

 

「あっ、やっべ!おい須郷!急いで買いに行くぞ!」

「おう!」

 

1人だと勇気がないが2人だとなんか勇気が湧き出てきそう…だが

 

「か、硬ぇ!柏崎!これ以上進めそうにねぇぞ!」

「嘘だろお前!それでも超人か!」

「流石に押しのけてまで行くのは人としてどうかと思うぞ!」

 

あまりにも女性達のガードが硬く俺と須郷は1歩も前に勧めない状況だった、1つ、また1つとぬいぐるみが消えていくのを眺めるしかないのか…!

 

「…須郷」

「なんだ?」

「………人間砲丸投げって、知ってる?」

「…は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいのか!?投げるぞ!?」

「おぉ!やれ須郷!この際なりふり構わずやらなければゲットできない!」

 

俺は砲丸投げの投げる状態の須郷の手の平に乗り飛ぶ位置を調節する、ミスったらあの棚の後ろの壁と人の壁にぶち当たって俺が死ぬ…社会的にと物理的に

 

「おらよっ!」

「あ、やっぱやめ…あああああ!?」

 

寸前でなんか変なテンションになってる事に気づき止めようとしたが須郷は止まることなく俺は砲丸投げの要領でぶん投げられる

どうにか空中で体勢を立て直し棚の1番上にある2つのぬいぐるみを掴み壁に着地して、体全体を使って飛び人がいない所に着地する

 

「…ぶねぇ…あんまするもんじゃない……ん?」

 

俺の着地した目の前に女の子が立っていた、その手にはくまのぬいぐるみが握られておりキラキラした目で俺を見てくる

 

「…あー、えっと…」

「けいさつのひと!」

「…はいちーちゃん、これあげるからそれ他の人に言っちゃ駄目だよ〜」

 

あの時は警察手帳を持ってなかったから偽装したが実際には表の職業は警察官である、あまりそれを知られたくないのでウサ男を犠牲に俺はちーちゃんの口封じに成功するのであった

 

──────────────────────

 

「せーの…メリークリスマス!」

「メリクリ〜」

「メリクリ」

「メリークリスマスです」

「メリークリスマス!」

「ふん…」

「お前ら元気だな…」

「はは、皆さん今日は楽しんでください」

 

超人達が集うカフェ、そのカフェを独占してクリスマスパーティーをする面々…エン、緋彩、翔太郎、青葉、誠、宮本、須郷、この7名と店員、須郷雅雄…須郷弟である

計8名がクリスマスパーティーをしていた

 

「ではプレゼント交換を早速やりましょー!」

「青葉元気だねー…けどやろう!」

 

某クリスマスソングに合わせプレゼントがグルグルと交換されていき開封

 

「これなんでしょう…?」

「あ、それボクのだね!パーカー!」

「バカ?」

「パーカーだよ!!!」

 

「ボクのなんだろうなっ!………これ…」

「お!それ俺のレトルトカレーじゃん!大当たりだな!」

「当たり…?」

 

「俺はなんだろう……1レフカメラ」

「あ、それは私ですね!ぜひ大事に扱ってください☆」

「中に入ってる写真全部俺のくしゃみした時の写真ってどういう事なんだよ青葉!」

 

 

 

プレゼントがどんどんと開封されていく中、須郷はエンの前に1つの紙袋を置く

 

「ほらエン、メリークリスマス」

「?私もうプレゼント貰ったよ?」

 

プレゼント交換のプレゼントだと思ったのだろう、須郷は苦笑しながらもエンの頭を撫でる

 

「俺からのプレゼントだ、開けてみな」

「?うん………あ!ぬいぐるみ!」

 

中から出てきたのはウサギのぬいぐるみ、ウサ美である

 

「ありがとう!すごう!」

「いいってことよ」

 

余程嬉しいのかぴょんぴょんと跳ねるエンとそれを見てお面の下で笑顔になる須郷

 

「へぇ、兄さんってそういうの分かるんだ」

「お前俺を馬鹿にしてるのか!?」

「はははは!違うよ、凄いなってね」

「馬鹿にしてねぇか…?」

 

クリスマスパーティーは滞りなく進み、彼らのパーティーは続く

 

 

 

 

───────────────────────

 

暗い廊下、誰もいない廊下を1人の赤い服と白髭の男が小走りに移動していてとある扉の前に止まる…垂れ下がってる看板には『エンの部屋』と書いてある

 

「こちら柏崎、目標ポイントに到着した…これより潜入ミッションを開始する」

『了解っす、ターゲットはパーティーから帰ってきてクタクタっす、起きることはないでしょう』

「それは好都合だ…いくぞ!」

 

扉にピッキングを開始した

 

『…柏崎隊長、例のブツはあるっすよね』

「あぁ!ここにな!」

 

袋から取り出した物、それは…

 

「『恋とサスペンス〜そして突然の死〜(作者のサインを添えて)』だな!」

『流石っす!……って馬鹿!ハゲ!』

「禿げてねぇよ!」

 

ピッキング中にそんな不安になりそうな事言うんじゃない!

…ちょっと写真に撮って確認しよう………よし、大丈夫だ

 

『…なんでぬいぐるみじゃないんっすか』

「…ゆるせ…俺は頑張った…てか眠い…夜勤明け…」

『私もっす…これ終わったらさっさと寝るっすよ…』

「だな…っよし、開いた」

 

中に音もなく侵入して、エンのベットへと目指す

寝息と気配を頼りに近づき…本をそっと添える、そしてメリークリスマスのカードと良い子だったカードを

 

『最後のカード必要っすか?』

「…(とても必要!エンはいい子)」

 

プレゼントを置いてる最中、エンがウサ美を抱いているのを確認して帰ろうとした時…ある物を見つける

 

「…(なぁ天田、ここ最近この部屋に入ったの現状俺だけ?)」

『?そうっすよ?』

「…(…そうか、ミッション完了…これより帰る)」

『最後までちゃんと…まぁいいっすけど』

 

こうして俺達のクリスマスは終わった

 

 

ちなみにエンの机の上には『ウサ男のぬいぐるみ』が置いてあった

 

まぁ良い子にしてればサンタはやって来るってことか

メリークリスマス




どうも、メリークリスマス?私です

皆さんクリスマスいかがお過ごしでしたか?私は、えぇ、大人ですから…えぇ…特に…はい…うん…


では明日、また次の話で会いましょう


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第75話『暗い洞窟の中で』

食事を終えて、それぞれ楽な体勢になる

俺とケイトはともかく、芦川とエド少年は居心地が悪いらしくずっとキョロキョロと周囲を見ていた

 

「…しかし…あれだ、言葉が簡単に通じるのって便利だな」

 

普通に喋ってたが、ケイトはともかくエドワードの言ってる事が『日本語』として聞こえた…という事に気づいたのは洞窟に帰ってきてからだった

最初は気づかなかったが…英語にはない日本語特有の言葉が当たり前のように聞こえた時は驚きのあまり壁に頭をぶつけてしまった

 

「日本語なんて習ったことなんてないから…僕の言葉も分かるんだよね?」

「あぁ、エドが日本語バリバリ使える秀才じゃなければな」

 

日本語って難しいよね、たまに日本人より日本語喋る外国の人がいるけど尊敬する

…日本人でも日本語怪しい時があるが

 

「それで、これからどうするんだい?」

「んー…とりあえずケイトが1人だけになった経緯を教えて欲しいんだが…大丈夫か?」

 

表には出さないが…仲間達を失い、尚且つゾンビにされてしまった

ケイトだけに問わず普通ならあまり思い出したくないとは思うが…

 

「………大丈夫、ってか気にするなよカシワザキ!この仕事をしてるのなら覚悟の上…だろ?」

 

エイレーネーは正義のヒーロー…今は超人か、それらの戦闘に参加して戦力として戦っている

能力に目覚めた者でも超人達の戦闘では最悪命を落とす…どうしても覆せない事実だ、だから俺達はいつ死んでもおかしくはない…

 

「…だな、それじゃ…頼む」

 

だからこそ彼らの死を無駄にはしない為に、情報を少しでも手に入れる…今出来るのはこれくらいだ

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

「まず、3日目に数人の保安官が異変が起きた町に向かって1人だけしか戻ってこなかったって話はしってるだろ?」

「知ってる知ってる」

 

結局全員亡くなったが

 

「あの後私達…特殊部隊と超人達ですぐ町を目指したんだが…多分だけどタイミングが悪かったんだろうね」

「ん?」

「入ってすぐ『ゾンビの大軍』に襲われたのさ」

 

ゾンビの大軍…俺達も出会ったがあれと同じなのだろうか?

 

「目的は分からないが…あの大軍はここ辺り一帯を覆ってる範囲内を大移動してる、この3日間調査をして判明したってわけさ」

「…話を続けてくれ」

 

調査結果の詳細も気になったが今は全体を聞いておきたい

 

「まぁゾンビの大軍は良かったわけよ、超人達もいたし…念の為に軽機関銃を持たせてたからね」

「念の為に持たせるもんじゃないよ?知ってる?」

 

うちにも配備されないかな?軽機関銃とかの銃火器…使う場面少ないから無理か…

 

「…4分の1、片付けたと思ってた頃…『ヤツ』が現れた」

「ヤツ?」

「……全身を人間の体で覆っていて明らかに人間サイズじゃない…言うなれば『巨人』」

「巨人…ですか?」

 

芦川が震えた声で尋ねる、今更巨人が出てきてもなぁ…Aとの戦いで巨大な化物とかいたし

 

「ただ体はツギハギだらけで恐らくゾンビとは思うけどね」

「はーん、ゾンビ集めて作られたゾンビか…」

 

ケイトは遠くを見るような目で魔銃を触りため息を吐く

 

「私の攻撃や超人達の攻撃も通じてるようには見えなかった

…自信がなくなっちゃうレベルで簡単にウチの男連中も超人も巨人の1振りで吹き飛んで重症…悪夢だったね」

 

魔銃はここ半年で開発された最新式だ、だがそれが通用しないとなると魔力弾だけでは倒せないのか…?

 

「どんどん仲間が倒れていく中…あの女が現れたのさ」

「…『N』か」

「そう、まだ耐えれてた仲間達が一瞬で…そしてこう言ったわ………『貴方達はお呼びじゃない』ってね」

 

なるほど…

 

「しかし、あのNってのからよく逃げれたな…俺達でも超人の助けがなかったらやられてたのに」

「へぇ、優秀な超人が日本にいるのかい?」

「質だけが取り柄でな」

 

こう話してる間もケイトの表情は暗くなり魔銃を握る手が強くなる

 

「…こんな情けない隊長をあいつらが逃がしてくれたのさ…部下を捨てて…ね」

「…そうか」

 

ケイトは仲間を第一に考え、仲間が死なないように前線で戦い…部下達もケイトが死に急がないようにケイトの隣に立っている

ケイトが見捨てるというより、部下達が見捨てるようにした…という方が正しいだろう

 

「………ま、お前が言ってたようにいつ死ぬか分からないからな、この仕事」

「…だね!ま、暗い話はここまでで次はエドワードの事でも話すかね!」

 

いつものテンションを貼り付けるように元気を出すケイト、彼女が前を向いてるのならそれでいい

 

「エド少年とはどこでハンティングしたのかな?ケイト君」

「森の中で倒れてたのをガっ!とね!」

「ケイトさん!?違いますよね!?ケイトさんが倒れてて僕が偶然出会っただけでしたよね?!」

 

エドワード少年はリアクションがいいねー…嫌いじゃないぞ〜

 

「そうそう、エドワードは私を見つけて治療してくれたんだよ!」

「…僕がやった応急処置よりケイトさんの方が上手いし早かったですけどね…」

「まぁ治療訓練もしてるから…」

 

ケイトってこう見えて治療もできるのだ、何故かは知らん

 

「それで?エド少年は何故森を?」

 

時系列的には『N』の出現後…理由も無く歩いてるわけがない

 

「…僕は友人達と森にいて…」

 

エドワード少年は森で友人達と待ち合わせしていたらNと名乗る女性が現れたのと友人達が突然Nを崇め始め、怖くなり逃げた…という内容だった

 

「エド少年、なんか最初の部分嘘ついてない?」

「エッ!?そ、ソンナコトナイデスヨォー」

「そうか…そうなのか?」

 

なーんか最初の部分濁してる気が…

 

「………ただ、その…なんて言うんでしょう」

「ん?どうした?」

 

エド少年は言いにくそうに口をモゴモゴさせ何かを言うのを迷っているようだ

 

「何でも言ってみてくれ、もしかしたら君の一言が重要な情報かもしれない」

「あ、で…では…その…なんて言うか…あのNって人…

『懐かしいんです』」

 

………?

 

「懐かしい…?」

「はい…何でか分からないですけど…」

 

う、うーん…?懐かしい…

 

「会ったことがあるのか?」

「い、いえ!会ったことなんて…多分…ないです」

「そうか…」

 

あれかな、デジャブか?

 

「あ、あの…その…忘れてください…多分気の所為ですから」

「あー、まぁとりあえず覚えておいて…次は町に向かう案を考えよう」

 

重要かどうかは分からないが今は目の前の事を考えつつ町にいる超人達救出作戦を練るとしよう

 

 

 

 

『デジャブ:実際は一度も体験したことがないのに、すでにどこかで体験したことのように感じる現象である。』




投稿を3日遅れた者


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第76話『ハードな選択』

 

そろそろ夜の11時になる頃、1つの部屋にいた面々は疲れたように床に倒れる

 

「うぅ…疲れた…」

「たっくよぉ…子供ってのはどこから…あんな元気が出てくるんだ?」

 

パーティーの間、ずっと遊び盛りな子供達の相手をしていた緋彩&誠はやっとのこと解放され疲れを紛らわすように床を転がる

 

「こういうのは須郷の仕事じゃないのか?」

「てめぇ…確かにエンが遊びに来るが子供をあやすのが得意ってわけじゃねぇぞ?」

「まぁまぁロリコンさん落ち着いてください」

「青葉てめぇ!」

 

比較的その体格から子供が近寄らず安全圏にいた須郷とずっとNと話していた青葉は体力が有り余っており頬を抓ったり抵抗したりしており緋彩が白い目を向けながらため息を吐く

 

「ボク的には青葉がNと話しやすくなってたから別にいいんだけどね〜」

「だな…青葉、何か分かったのか?」

 

下手に行動を起こすわけにもいかない為にせめて、と子供達の相手をしていた誠と緋彩は何か情報があったかどうか聞く

 

「…まず、今回の件は私達…というよりも合流できてない柏崎さん達も含め『全員』で何かしら行動を開始しなければならないかもしれません」

「…ん?どういう事だ?」

 

深刻そうな顔の青葉に他の面々は不安そうな顔になるが、それに気づき咄嗟に笑顔になって手を振る

 

「いえいえ、そんなに大変な事になったわけでないのでご安心を」

「ならいいんだがよ…青葉、全員で行動ってのはどういう事だ?」

 

須郷が他の2人の心を代弁するように口を開き言葉が続くのを待つ、青葉は近くに置いてある冷蔵庫から瓶コーラを取り出して1口飲む

 

「ふぅ……まず、何故全員かと言うのも単純な理由として『圧倒的物量差』にあります、私は強くないですけど御三方良は一般人以上の強さを持ってます…が、フィクションの世界のように雑魚モブ達を一気に消し炭にするような魔法や攻撃がない限り通常では超人と言えど押し負けてしまうんですよ」

「前のAとの戦いの時もあの気色の悪い化物達の数が多くて押されてたな」

 

エイレーネーの工作、支援部隊達と共闘した時を思い出しながら誠は思ったことを口にする

 

「えぇ、あの時はまだ投入できる戦力があったからこそ私は戦線を無理やり押して囲いましたが…」

「今回は…無理だよね…?」

「今からでも使える超人が40人くらいいたら私もパーティーに参加せず戦いますよ…」

 

増援は期待できない、今ある戦力で恐らく自分達よりも数十倍いる敵と戦わないとならない…

 

「はっきり言ってこれがゲームなら適当にはいクソゲーと言って投げ捨てたいくらいですよ」

「なら、今からでも捨てるか?」

「まさか?私は途中から投げるのが大っ嫌いなんです」

 

手に持つ瓶コーラを飲み干し近くのゴミ箱に投げ捨てる

 

「私達が今から戦うとしても恐らくすぐに無力化されるでしょうね、だからこそ翔太郎さんに柏崎さん達の捜索に向かわせたんですが…遅いですね」

「ま、翔太郎の事だから1人で解決しちゃうかもね!翔太郎の事だから!」

「なんで嬉しそうなんだ…?こいつ…」

「知るか、緋彩の考える事なんさ誰にもわかんねぇよ」

 

何故かドヤ顔の緋彩をスルーして須郷は青葉の方を向く、難しそうな顔で

 

「…青葉、お前見てたか?途中会場に来た別の『紺色のローブ達』を」

「……いえ、私はNさんと話してたので…何か気づいたんですか?」

 

須郷の表情はお面が外されてる為よく見える、その顔は違和感があるがどうしようもできないような顔をしている

 

「あいつらの何人かは血がこびりついてやがった…まぁそれだけなら色々推測ができるが…最後に入って来たやつはボロボロの状態だったんだ」

「…どのように?」

「まるで誰かと戦ったようにな、それもかなりの激戦だったのか所々ローブが破けてた…まぁ気づいたのはこれだけだよ、もしかしたら野生動物と戦ったのかもしれぇな」

 

そう言い終わり須郷は立ち上がって冷蔵庫に向かう、コーラが飲みたくなったのだろう

 

「…野生動物ですか」

 

実際に見たわけではないがローブの人が戦ったのはもしかしたら『翔太郎』なのではないかと思ったが頭を振りその考えを振り払う

例えそうであったとしても魔術師1人に翔太郎が負けるはずがない、Aの信者達も魔術は凄かったがそこまで強くはなかった…だから大丈夫な筈だ

 

「…では話を」

 

続けましょう、そう言葉を続けるつもりで口を開きかけてた時…部屋にノック音が響く

シン…と静まり返った部屋に玄関の方から声が聞こえた

 

『朗報よ、あの時逃げた大人達がいる場所を突き止めたの!今から排除しに行くところなのだけど貴方達も来ないかしら?無理やり従わされてたのならあの大人達が憎いでしょう?一緒に復讐しましょう!』

 

 

 

 

「……………ぁ、いいですね!ですけど緋彩さんと誠さんはお疲れですので私と須郷さんでそちらに向かいますので少しお待ちを!」

『えぇ、早くね』

 

声が聞こえなくなり恐らく家から離れたのだろう…

 

「…あ、青葉…」

「どうする…?俺達も後から行くか?」

「まて誠、お前達がもし見つかったら今青葉が言った言葉が嘘になっちまうだろ」

「ならどうすんだよ!大人達ってのは柏崎達の事だろ?俺達が削りあったら意味ねぇだろ!」

 

…最悪だ、やはり世界というのはクソゲーなのかもしれない

青葉はそう思い深く息を吸う

咄嗟に緋彩と誠を残すと言ったのはもし翔太郎が戻ってきた時用だった、だが今思えば全員で行きできるだけ集まるのもいい策だったのかもしれない

だが全員で行ったとして柏崎達と遭遇した場合…戦う事になるだろう、手加減等をしNが少しでもこちらに不審に思ったら最後BADENDだ

 

「………緋彩さん、誠さん、お二人はこの町の大人の方々を探しといてください」

「え?でもそれって翔太郎が…」

「翔太郎さんは解放です、ですがお二人は『合流』してもらいます」

「…青葉、お前もしかして」

 

青葉の考えが分かり誠が声を出す、自身も大人数を動かす人間だからこそ…

 

「…物量には物量、ですよ」

 

苦笑いをしながら青葉は天を仰ぐ、あぁもっとイージーな人生を歩みたいと



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第77話『曖昧』

第77話『』

 

まずい

 

「いやー、それにしてもよくあっちの動向が分かりましたね」

 

厳しい

 

「えぇ、操ってる中に何体か視覚を共有してるのがいるの…それでそのうちの1体が明かりを見つけたのよ」

「なるほどなるほど!私実は記者をしておりまして…その力は羨ましい限りです!」

 

今はそんなのないと思いたかった

 

「ふふ…貴方魔術師の才能あるから一瞬で覚えちゃうかもしれないわね」

「いやいやいや!私みたいな凡人ではNさんみたいな魔術師さんにはなれませんよ!」

 

次の一手を、全員が助かる選択を

 

「さ、あと少しよ」

「はい!」

 

どうしてこうなったのか…思い返していく

ここは森の中、Nと私と雅弘は3人でNが見たという明かりを目指し歩いてる最中である

明かり…恐らくそれは柏崎達のでこちらが向かってるのを気づいていない

 

「しかし、今回はゾンビ達は連れていかないので?」

「後から沢山来る予定よ」

 

それと大量のゾンビが向かってきてる事も気づいてはないだろう

 

「…(どうしたものか…今はNが1人、雅弘さんと協力すればいける…か?)」

 

相手の実力は未知数、死者蘇生の中遠距離型なのは分かったがまだ他の力があるのかもしれないと思うと下手に攻撃を仕掛けられない

雅弘を見る、彼はお面を付けてるため表情は分からないが…恐らく私が何をしても手伝ってくれるだろう、例えそれが

愚策だったとしても

 

「…(まったく、どうして雅弘さんや緋彩さんや誠さんはこうも私に信頼を置くのか…)」

 

嬉しい事ではあるが私の全てが正しいわけではない、それを思うと信用し過ぎとも言える…

 

「…(その信用に応えるしかないじゃないですか)」

 

最悪『あれ』を使用してでも彼らを助けなければならない、例えそれが『あいつらから』裏切りだと思われても優先順位というのがある以上はどうしようもない

 

「…見える?あの洞窟がそうよ」

 

到着してしまった、そう思いながら顔をNが言う洞窟の方角に向ける

あと50mと言った所だろうか?先にはそこそこ大きな洞窟の入口があり、奥から僅かに明かりが見える…柏崎達だろう

 

「どうします?今攻め入って捕まえますか?私達狭い場所では存分に戦えませんが…」

 

嘘ではない、元々戦闘向きではない自分と圧倒的破壊力のある雅弘ではあの洞窟が崩壊する恐れもある

 

「私だけで行くわ、私は『死なないから』」

 

死なない、事実かどうかはともかくそんな情報は聞いてない…と言いたそうに雅弘が自分を見てくるのを背中に感じながら内心焦りで混乱しそうになる

 

「…(喋り過ぎだ、やはり耐性がある相手には効果は薄い…か…ならもう一度)」

 

後ろからと前から見えないようにポケットの中に手を入れる

外から分からない、だが確実に手には『紫色のオーラ』が集まりつつある

 

「なるほどなるほど!ですが心配なので私も同行を!おっと、貴方を弱いとか思ってるわけではなく単に友人として心配してるんですよ?『Nさん?』」

 

────────────────────────

 

いつの間にか自分は椅子に座っている事に気がついた、手にはキンキンに冷えた水が入ったコップがあり少し飲んだのか僅かに減っている

 

「…ん…俺なんでここにいんだ…?」

 

確かNって奴と青葉で柏崎達がいる場所に向かってた筈だ

そう思い周囲を見る、誠や緋彩の姿は見えない…恐らくもう出てしまったのだろう

 

「おや?お目覚めですか?雅弘さん」

 

扉が開く音と知り合いの声が聞こえ音の方角を見る、が一瞬で違う方向を見ながら赤面する…

扉から入ってきたのは青葉だったがその姿は風呂上がりなのか手で首元をうちわを扇ぐようにパタパタと動かし、服装はTシャツ1枚という直視するにはどこに視線を向けるか悩む姿をしていた

 

「お、お前!なんて格好してんだ!服着ろ!」

「おやぁ?私は服を着てるのに服を着ろとは摩訶不思議な事を聞くのですね雅弘さん?」

「ちげぇよ!ちゃんと服着ろって事だよ!」

「しょうがないじゃないですか、替えの服なんて手元にないですし私の服は乾かしてる途中ですし…それによそ様の服って落ち着かないからこれで妥協してるのですよ?」

 

手をピラピラと揺らしながら冷蔵庫の中にあるコーラを取り出し一気に飲む

 

「くぅー…夜中にお風呂上がりコーラ…こんな最強な組み合わせが今までありましたかね?」

「知らねぇよ…」

 

天井の一角を見ながら自分も風呂に入ろうか悩んでいると1つの疑問が頭に浮かぶ

 

「なぁ、青葉」

「なんでしょう?あ、お触り禁止ですよ?」

「誰がするか!!!……俺達あの後どうなったんだ?」

 

思い出せない、洞窟を見つけNが入っていくという発言の後の行動が

 

「お疲れで忘れたのですか?あの後中に入って結局誰もいなかったではないですか、そして結局町に戻って明日の朝またってNさんと別れたばかりですよ?」

「…そう…だったか…?」

 

思い出せないが…疲れて忘れてしまったのだろうか?だがそれにしては………そう言えば…炭酸飲料は元々この家にあっただろうか?不思議に思わず自分も飲んだ記憶があるが…曖昧になっている記憶では考えが纏まらない…

 

「ま、私達のできることは以上でしょう…後は早朝6時の為に休息をとるだけです、最大戦力なんですから早めに寝てくださいね?では私はこれで」

 

ウィンクを飛ばしながら寝床がある部屋に向かっていった青葉を見ながら頭の中にあるごちゃごちゃとした考えを一旦放り捨てて自分も風呂場に向かう

 

「…考えても分かんねぇ…なら今できる事をする…か…」

 

 

────────────────────────

 

暗い洞窟の中に高笑いが聞こえる、その声は洞窟内を反響して恐ろしい悪魔が笑ってるようにも聞こえなくはない…

洞窟の奥は明かりが見えその光源の元には4人と1匹の影が

 

「見よっ!カクロと俺の合わせ技!ジャパニーズ舞!」

「ニャッ!」

「はははははは!!はぁ…はぁ…!ごほっ!ごほっ!」

「え、エドワード君笑いすぎでは…」

「ありゃ変なツボに入ったね…」

 

俺が手を左右に振り体もそれに合わせ、カクロも俺に合わせるように頭の上で上手くバランスをとりながら踊っている

エド少年がこれでもかと爆笑するので何故か嬉しくなり踊り続けている俺とカクロを芦川がため息を吐きながら俺達を見る

 

「柏崎さん、ここ敵地で今私達は身を潜めてるんですよ?なのにこんなに騒いでは本末転倒では…?」

「いや、まぁ確かにそうなんだけど…まさかこんなにウケるとは…次の忘年会のネタにしようかな」

 

いやぁ、いいネタ思いついたな…そう思いながら踊りをやめて地面に座る

エド少年はまだ僅かに笑ってる…というか過呼吸になってない?大丈夫?

 

「ふぅ…日本人って面白いんですね」

「あの人が変なだけよ」

「一理ある!」

「一理も二理もねぇよ」

 

時間が過ぎていく、各々自覚できない疲れを癒しながら

 

 

爆撃まで後7時間




遅れはデフォです


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第78話『薄れる記憶』

 

パチパチと焚き火が燃えている、俺とケイトはそれを眺めながら楽な格好で座っており武器の手入れや考え事をする

芦川とエド少年は硬い地面の上に寝っ転がっており眠っていた、俺とケイトが寝ずの番をして2人は寝てもらっている

 

「…なぁケイト」

「どうしたの?」

 

2人が寝てるからかいつもの口調に戻りカウボーイハットを地面に置き、魔銃の手入れをしていたケイトは不思議そうに俺の方を見る

 

「今回の敵は『6席会』…の1人だと思ってんだがどう思う?」

「6席会…あぁ、少し前に日本であった…」

 

A…あの男も6席会という組織に属してると言っていた

今回の魔術師の名はN…Aとは近い何かを感じる

 

「と言っても確証はない…だが問題はなんでここを狙ったのか、何故こんなにもゾンビがいるのか…この謎がどうもな」

「それは考えてもしかたない、本人に聞いてみない限りね」

 

確かにそうだが…

 

「…ま、泣いても笑っても明日の7時にはここら辺は火の海だからな」

「え?そうなの?」

「あれ、言ってなかったか?実はな…」

 

ケイトに外の情報を伝えながら俺はエド少年を見る、寝ている彼は少しうなされてるのか苦しそうに寝返りを打っていた

 

───────────────────────

 

頭がぼんやりとする…ここはどこだろうか?

周囲を見るが…見えるのは木々や草花と今立ってる地面だけだ

 

「…ここは…」

 

少しずつ思い出していく、ここは町の近くにある森の遊び場だった…友人達と遊んでた記憶が薄らと思い出していくと自分の横を誰かが横切っていく

 

『エド!早く来いよ!』

『ま、待ってよ!』

 

横切ったのは幼い頃のボブと…

 

「ぼ、僕…?」

 

同じく幼い頃の自分だった、見た限りだと10歳そこらだろうか…?2人は走りどこかに向かっていく、何となく追いかけなければならないような気がして足を動かすと景色が突然かわり虫取り等をして遊ぶ2人がいる近くに立っていた

 

「…ね、ねぇ…」

 

幼い頃の自分にどう話しかければいいか分からず掠れた声で肩に手を置こうとして…手はその肩に触れることはなく体を貫通してバランスを崩しかける

 

「っ!?…さ、触れない…?…夢…なのか…?」

 

混乱する思考を整理する為、頭を抱える

自分は確か洞窟の中にいて寝ていた筈…そんな自分をよそに少年達は虫を取りながら雑談を始める

 

『おいエド知ってるか?』

『何が?』

『この森にはな…犬が出るんだぜ!それも人喰い犬がな!』

『え?ははは!ボブ、そんなのいるわけないだろ?それに人喰いなんて…』

 

少年達の会話を聞いて少しずつ思い出していく…当時森には大型犬が野生化しているから入らないように大人達が言っていた事を思い出した

 

『それがよ、どうやら嘘じゃねーみたいなんだよ…大人達は教えてくんねぇけど猟師の爺さんが2週間前から行方不明なんだよ、んで爺さんはその犬に食われたんじゃないか…ってな』

『…こ、怖い事を言うなよボブ…』

 

キョロキョロと周囲を見て何かがいないかを確認する、自分も確認してみるが動物などいる様子はない…大丈夫そうだ

 

『ビビってるのか?』

『び、ビビってなんか!』

 

ない、そう言おうとしていたが突如森に何かが吠える声が聞こえた…それは犬の声に聞こえなくはない

 

『………ぼ、ボブ?』

 

固まって動かなくなる友人に聞こえるように声を絞り出している、足が動かないのか動こうとはしない

 

「…そうだ、犬の吠える声が聞こえて…」

『う、うわあああああああああああ!!!』

 

友人は叫びながら元きた道を走っていく、その顔は恐怖に染っており自分でもかなり怖がっていたようだ

 

『な、待てよ!待って…』

 

友人が走り去っていくのを眺めている昔の自分を見てると情けない気持ちになる、だがこれが年相応なのかもしれない

突然近くの薮がガサガサと揺れる

 

『ひっ!?』

「ひっ!?」

 

昔の自分と同じリアクションをしてしてしまった、幼い自分にはもう厳しかったのか意識を手放して倒れてしまい目を回している

 

「はは…犬が怖くて気絶って…我ながらビビりというか…あれ…?この後どうなったんだっけ…」

 

薄れていく視界、まさか夢の中の幼い自分と連動しているのだろうか?

閉じていく視界、最後に見えたのは幼い自分に近づく人影だった

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

『…き……起き……て…』

「ん…誰…?」

 

意識が戻る…硬い地面に夕日が僅かに見え夕方だということが分かる

 

『ほら、起きて?お寝坊さん』

「え…?え?き、君誰…?」

 

上半身を勢いよく起こして声がした方を見る、そこに立っていたのはワンピースを着て黒髪の長髪を背中に纏めてる1人の少女…

 

『私は✕✕✕✕…ねぇ、遊びましょ?』

 

少女の声が途中電話が途切れ途切れになるように聞こえずらくなったが後半は聞くことができた、どうやら彼女は遊びたいらしい…というより

 

「…っ!な、なんで僕…」

 

さっきまで第三者の目線から見ていたはず、だが今はまるで幼い自分の視点のような…手を見て全身を見る

どこからどう見ても幼い頃の自分の体だ

 

「一体何が…」

『ちょっと!独り言してないでこっちで遊びましょうよ!』

「え?あ、ちょっ!待って!」

 

腕を掴まれ無理やり立たされ走らされる、触られた瞬間少女の手は凄く冷えており一瞬驚いてしまった

ここは何処なのか?君は誰なのか?どこに行くのか?そんな疑問があったが口にできない…どうやらこれも夢の中でさっき自分で喋れたのは幼い頃の自分が言った言葉らしい

…本当にそうなのだろうか?

 

『さっ!ついたよ!』

「え?…わぁ…凄い」

 

立ち止まり目の前の広がる景色を眺める、辺り一面花畑が広がっている…なんの花だろうか?花の名前を覚える機会なんてそうそうないからどれがなんの花なのか…

 

『行きましょう!』

「うわ?!」

 

やはり無理やり引っ張られ花畑に連れて行かれる

…少しずつ記憶が戻っていく、自分は何の疑問も思わずこの少女と遊んでいた…今思えば疑問くらい思えと言いたいが遊び盛りの子供にはしょうがないのではないだろうか

そこから記憶は飛び飛びになり目の前の景色もそれに合わせて切り替わっていき、もう外は暗く子供は帰らなければならない時間だ

 

「あ…そろそろ帰らないと…」

『…帰っちゃうの?』

 

花の冠を作っていた手を止め少女は悲しそうな表情をする、そうだ…あの頃は申し訳ない気持ちでいっぱいになった記憶がある、あの時はどうしたっけ…

 

「帰らないとお父さんが心配するんだ」

『………大人なんて……』

「え?」

『…なんでもない』

 

何かを呟いた気がするが聞き取れなかった、少女はなんでもないと言った後何か悩んでいる顔をするとすぐに閃いたような顔になる

 

『なら明日も来て、私ずっとここで待ってるから』

「君は帰らないの?」

『…私もちゃんと帰るから、来てくれる?』

 

昔では分からなかった、だが今なら分かる

彼女は一瞬暗い顔をして明るい表情をしている事に

 

「うん、明日も来るよ!…あ…けど…」

『?けど?』

「…犬が出るんだ、人喰い犬ってのが」

 

少女はポカンとした顔でしばらく沈黙してると突然笑い出す、笑われた事に恥ずかしくなった自分は

 

「な、なんで笑うんだよ!人喰いだよ!?吠える声も聞こえたんだ!」

 

声を荒らげて恥ずかしさを紛らわす

 

『ごめんごめん…そうだ、ならこれを持ってれば大丈夫』

 

そう言ってどこからか1冊の本を出す、それは3cmくらいの紫色の宝石のようなのが一つだけ埋め込まれた黒い本だった

 

「…?これは…?」

『これは私の本、その人喰い犬が襲ってきたら中に書いてある文を読んで…そしたらそんな犬イチコロなんだから』

 

自信満々に本を差し出してくる少女、受け取るか悩んだが受け取らないといけない気がして本を受け取る

手に取ると一瞬何かが自分の中に入ってくるような間隔がしたが…一瞬だった為驚く間もなく違和感はなくなりキョトンとなってしまった

 

『どうしたの?』

「い、いや…ありがとう!そろそろ行くよ」

 

立ち上がり少女を見る、少女も立ち上がってこちらを見る

どうやらお見送りしてくれるようだ

 

『またね』

「うん、また」

 

そう言った直後、さらに記憶は飛び周囲は朝になった

花畑は夜と変わらず咲いており幼い自分が立っている、ただ一つだけ違う事とは…少女がいないことだろう

 

「…そうだ、待っても…待っても…あの子は…」

 

ぐにゃあ…と視界が歪み最後は視界が真っ暗になっていく

あの少女の名前はなんて言っただろうか…?

 

───────────────────────

 

「…………という事なんだ…」

「…それは…本人と話し合ってもらうしか…」

 

俺はパチパチと焚き火が燃えるのを眺めながらケイトに愚痴をこぼしていた、事情を知らない人の方が気楽に言えるが相手が困惑するのであまりしてなかったがケイトなら大丈夫だ

 

「…本人ねぇ…まさか金郎がカクロとエンと超人達でアイドルグループを作ろうとしてるとは…っと、エド少年が起きたっぽいな」

 

話を切り上げ起き上がるエド少年を見る、うなされてる様子だったから心配したがどうやら大丈夫そう…って

 

「おいおい、大丈夫か?」

「…え…?」

「…何か夢に見ちまったのか?ま、ゾンビやら魔術やらを見せられちゃ嫌な夢を見るのも不思議じゃないさ」

 

エド少年は涙を流していた、寝てる時に流してたのか言われて気づいたのか目をゴシゴシを拭き始める

 

「す、すみません…少し…昔の事を思い出して…」

「へぇ、昔話か…話してみな、少しは楽になると思うぜ」

「…そう、ですね…」

 

ぽつりぽつりと話し始めるエド少年、話を聞いていくと少女がいたやら可愛かったやら…てめぇどこの主人公だ?

そして最後に渡された本と少女がいなくなってしまったこと…

恐らく大体の人は少女の方に注目するだろう、だが俺とケイトはそれよりも前に出てきた言葉に驚きが隠せなくなった

 

「な…お、おい!エド!その本の中身は見たのか?!」

「え?は、はい…けど途中気分が悪くなって…」

「…ケイト」

「あぁ、こりゃ…思わぬ所で…」

 

3cmくらいの紫色の宝石…黒い本…そしてエド少年が内容を見て体調不良…間違いない

 

「エド少年!その本は今どこにある!?」

「い、今は家の部屋にありますけど…あの、どうかしたんですか?」

「どうしたも何も、大発見だ…よし!ケイト、ちょっと行ってくる!芦川頼むぞ!」

「任せな!」

「あの…説明を…」

 

エド少年が困惑した顔でオロオロし始める、しょうがない説明するか

 

「エド少年、お前が渡された本はな…『魔導書』だ」

 

それも3cmの魔石となると魔術を連発してもちっとも減らないくらいやべぇもんだ

 

「魔導書があれば形勢逆転できるかもしれない、そんぐらい可能性を秘めてるのさ」

「そ、そんな凄いのが…」

「一刻も早く回収して戻るぞ」

 

俺は寝てるカクロを起こし洞窟の出口を目指す

夜はまだ続く




1日遅れはデフォです


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第79話『銀髪の男』

「んー、多分この道を進めば大丈夫だと思う」

「ほんとかぁ…?」

 

町から離れた道を歩いている2人の影…涼風緋彩と岡薗誠だ

2人の影は月光に当てられ伸び…地面を見る、道は車が通っているのか土の道に2つの溝があり頻繁にこの道が使われていることが分かる

 

「けどよ、翔太郎ならもう行動起こしててもおかしくはないんだろ?なのに町に変化はねぇしよ、この先にいる可能性だって」

「うるさいな!いいから黙ってボクについてきてよ!君は追跡とかした事ある!?現場でもしもとか偶然を頼るのは駄目なんだよ!」

 

2人の空気は悪かった、元々1人で行動とかが苦手な部類にはいる2人が揃ってもまとめ役がいないせいで今にも崩壊してしまいそうだった

 

「…分かったよ、でもよ…なんでこの先なんだ?」

「理由は2つある、まず1つは車が往来しないといけない理由があるくらいこの道は使われていること、2つ目はあのローブの人達がパーティーから帰ってきた時…来た方向がこっち側からだったんだ」

 

誠は顎に手を当てながら思考する

 

「…つまりこの先に町人達はいて、翔太郎ならこの先にいる…ってわけか」

「そういう事、翔太郎なら必ず発見してるはずなんだ」

「信用してんだな」

 

どこかららそんな自信が出てくるのか…呆れ気味に緋彩を見ると緋彩はドヤ顔をしながら誠の方を向く

 

「当たり前じゃないか、翔太郎はボクの相棒なんだぞ!」

 

と、嬉しそうにいう緋彩を誠は苦笑しながら横を通る際に肩にポンと手を置く

 

「なら早めに翔太郎と合流しないとな」

「おー!」

 

元々仲が悪いわけではないので会話でどうにか間を持たせる

道は長い、だが遠くに薄らと見える建物を見る限り極端に遠いわけではなさそうだ

2人は道なりに歩き建物を目指す

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

歩いてもかなりの時間がかかった、今は何時だろうか…?

 

「ねぇ誠、今何時か分かる?」

「ん?…んー…夜中の1時とか2時じゃねぇか?」

「そっかぁ…なら寝ないと明日の朝厳しいだろうね」

「まぁ翔太郎見つけたら寝るとするか」

 

静かな建物、近くには墓地があり土が盛り上がっており何かが中から出てきたのだろうか?

建物付近には何か重い生物…が通ったのか謎の足跡が残っている

近くにゾンビがいる様子はないのが救いか

 

「…この中に…?」

 

建物はそこそこ大きい、窓や扉には木の板で打ち付けられており中から出るのは難しいだろう

 

「いたとしたら町人達か…もしくは敵のアジトかだな」

「んー…ボクが上に登ってどこか中の様子が分からないか探してくるよ」

「お、んじゃ俺は地上から探すぜ」

「大丈夫なの?」

「何言ってんだよ、俺達は超人だろ?そんじょそこらの雑魚ゾンビじゃ負けねぇよ」

 

そういう心配ではないのだが…大丈夫だろうか?

こちらの心配をよそに誠は建物を一周しようと歩き始める

 

「…ま、いいか…さて…意外と足場があるから簡単だね」

 

その場で屈んで近くの塀にジャンプ、そして塀の壁を蹴り建物の出っ張りを掴みほぼ垂直に飛ぶ

屋根に着地し落ちないように足を踏ん張り周囲を見る

 

「うーん、お?あれは…謎の色付き斜めガラス!」

 

光を入れるためだろうが何故色付きかは分からない…とりあえず近づきそっと中を覗いてみる

中は暗くよく見えない…割って中に入ろうかと思ったが下にもしも人がいた時が危険過ぎる…ここは堪えて一旦誠と合流する事を優先しようと上から誠を探す

 

「周囲を回ってるなら…何処だ…?」

 

誠が回ってる方向から反対側に見ていく

そして、やっと見つける事ができた…地面に倒れている姿を

 

「っ!誠!」

 

屋根から飛び降りて地面に着地する、普通なら両膝がハイブリッドな変形をしてしまうが気にせず誠の近くに行き膝をついて体を揺する

 

「誠!おい!…一体何が…」

 

落ち着いて周囲を見る、地面を見るがどうにも戦闘が起きた様子はない…変身した誠を倒すのは容易じゃない、すると変身してない時を一瞬で意識を刈り取ったという事…

 

「…とりあえず安全な場所に運ばなきゃ…っ!?」

 

誠の体を持ち上げようとしてた所に背後から殺気を感じ咄嗟に横に避ける、空気を切り裂くような強烈な拳が目の端に一瞬見えあれが当たればひとたまりもないだろう

少し離れた場所に立ち拳を構える、目の前に立っていたのはあのローブの1人だった

 

「…っ、なるほどね…誠を囮にしてボクをおびき寄せようとしてたのか…」

『…………』

 

ローブの人…男だろうか?ローブの男は拳を構えている、それも『須郷流』の構えを

 

「雅弘の武術を使うのか…!?…厄介極まりない」

 

そう言えば須郷流って雅弘使えただろうか?弟子がいたとは聞いたことはないが…

 

『……お前…』

「っ!」

 

突然ローブの男は声を出しこちらをじっと見てくる、ローブを頭に深く被っている為表情等は見えないが…

 

『…そうか、お前はここにいたんだな…』

「な、何を言ってるんだ…?」

 

突拍子のない男の言葉に動揺して構えが緩んでしまう

 

戦闘が始まるというのに

 

 

 

男は素早く動き間合いを詰める、通常なら相手の間合いに入らないように後方に一気に跳躍して牽制するが動揺した事により反応か遅れてしまう

 

「しまっ…!」

 

ローブの男の拳は確実に腹を捉え、衝撃で体がくの字になる

男の追撃は続き回し蹴りで蹴り飛ばされ地上を何度も跳ねながら塀の壁にぶつかって止まる

肺の空気を全て吐き出したのではないかというほど口から空気が出ていき背中はミシミシと嫌な音を出す、頭を咄嗟に守った為どうにか気絶はしなかったが痛みにより体が思うように動かない

 

「(ゆ、油断した…!まさか…こんなパワーがあるなんて…これじゃまるで…)」

 

脳裏に1人の男が思い浮かぶ、あの男の破壊的なパワーを思わせるような一撃だ

 

『くっくっくっ…まさかここにいるなんてなぁ?』

 

動けない自分の近くに来て髪を乱暴に掴み顔の向きを変える、ローブの男は楽しそうに肩を震わせながら笑う

 

『大人しく日本のどっかにいりゃ良かったのによぉ?なぁ?おい!』

 

言葉を切ると同時に地面に顔を叩きつけられ鼻から鈍い音がした、痛みに叫びそうになったがぐっと堪える

 

「…っ…お前はどこの誰なのかな?ボクは…お前みたいなクズは知らないけど」

『うるせぇな、失敗作は失敗作らしく野垂れ死ね!』

 

鈍い音が響き時間が過ぎていく、しばらくしてローブの男は緋彩と誠の足を掴み引っ張っていく

 

『めんどくせぇが今の主様に明日見せなきゃならねぇしな…さっさと消せりゃ楽なのによぉ…』

 

舌打ちと共に建物の扉を強引に開け2人を中に放り投げる

そして扉を閉めまた強引に扉を封鎖する

 

『あー…寝みぃ…時差ボケいつになったら終わるんだ?』

 

ローブを掴み顔を出す、蒸し暑かったのだろう…頭をガジガジと痒い所をかいて伸びをする

銀色の髪の毛を揺らしながら

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

1つの個室にて医者であろう男性と、看護師であろう女性が2人の若者を治療していた

部屋の外では人々が大丈夫だろうかと話しており突然出入口から投げ込まれた若者を心配する

 

医者は一息ついて額の汗を拭う、看護師も同じように汗を拭いながら患者の治療が完璧にできたことに安堵する

 

「しかし、あのローブの化物に襲われて死んでないとは…幸運な若者達だ」

「けど何処の子かしら…町の子じゃ…ないわよね?」

「あぁ…それにアジア系の顔立ちだな、中国人か?」

 

医者と看護師は2人の若者が誰なのか分からず話し合っていると銀髪の少女がカバッ!と起き上がりキョロキョロと周囲を見る

驚きながらも医者は安堵し少女に話しかける

 

「良かった、目を覚ましたのか…私は医者だ…安心して欲しい」

「お医者さん…?」

 

知らない人がいたからか驚きベットから立ち上がろうとするが傷が痛むのか動きが止まる

 

「…ここは…どこ?」

「ここは教会の一室だ、君達を治療する為に無理言って空けてもらったんだ…頭を強く打ってたから混乱するだろう、君の名前は?どこ出身?何故この州に?」

 

どことなく安心感がある医者の言葉に少女は落ち着きを取り戻し質問に答える

 

「緋彩…涼風緋彩」

「ヒイロ、君はどこ出身なんだい?」

「日本…」

「ニッポンか、私も生きてる内に1回は行ってみたいと思ってたんだ…何故この州に…いや、この場所に来た?」

「…ボク達は…町を助けるために………ここに町の人達は…?」

 

ぼんやりとした目だったヒイロと名乗る少女、少しずつ目の光が戻り真剣な顔でこちらを向く

 

「あ、あぁ…全員この教会にいるよ、住むには狭すぎるけど」

「…そうか、やっぱりここだったんだ…」

 

少女は下を向き微笑む、医者は頭がおかしくなったのではないかと不安になったが顔を上げた少女の顔はキリッとしており…そしてまた周囲を見る

 

「翔太郎!いるんだろ?」

 

人の名を呼ぶ少女、すると少女が寝ているベットの横にいつの間にかハット帽を被った青年が立っていた

 

「なっ!?だ、誰だ!?」

 

驚く医者と看護師を無視し少女と青年はお互いを見る

 

 

 

 

 

 

「よく辿り着いたな、緋彩」

「君の相棒であるボクが、君がいる場所が分からないわけないだろう?」

「ふん…しかし、綺麗な顔がボロボロになっちまったな」

「お世辞かい?」

「本心だが?」

「………」

 

緋彩はため息を吐きながら服の下からくしゃくしゃの紙切れを取り出す

 

「これ、青葉から」

「青葉か?…あいつどこまで考えてんだ?」

 

紙を広げ中を読む、読んでる途中ふと思った事を聞いてみる

 

「そう言えば、よくあいつの攻撃くらって死ななかったな」

「いや、かなりのダメージだったし…てか翔太郎はあれと戦ったのか?」

「まぁな、と言っても構えた瞬間能力使いまくって逃げたけどな」

 

話しながら紙の内容を読み終え緋彩に紙を返す

 

「朝の6時には動く、ので町の人達と何がなんでも協力よろしく、はーと、だってよ」

「…青葉も無茶言うなぁ…」

「まぁ、誠がいるから大丈夫だろ」

「そっかー…まぁ誠なら大丈夫でしょ」

「な、なぁ…君達は一体…?」

 

恐る恐る声を出し2人を見る医者、何もないところから人が突然現れたらそうなるだろう

 

「ん?ボク達かい?ボク達は…」

 

緋彩がベットから立ち上がり翔太郎の隣に立つ

 

「「超人だ」」

 

2人の超人は声を揃え、町の人達に希望の光を指し示す




一日ズレは様式美


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第80話『魔導書を求め』

 

涼しい夜風が頬を撫で、俺と1人の少年は暗い道を歩いていた

向かうは町…少年の家にある魔導書を求め歩みを進める

 

「そういえばエド少年」

「な、なんですか?カシワザキさん…?」

 

とある事が気になりエド少年に話しかける、まだ時間がかかるので暇つぶしだ

 

「魔導書ってのは知らなくても使ってみたりしたりはしたのか?文字読んで唱えるだけだし」

 

紙に魔力を込めるのと同じように本自体か宝石に魔力を込めればただの紙に魔力を込めるより威力をそのままに使える筈

ただ、エド少年が何度か使ってた場合は俺達の誰かが補充しないといけないかもしれない…まぁできないけど

 

「あー…いえ、使った記憶はない…はずです」

「はず、ねぇ…少女の事も不自然に忘れてたって事だし…とりあえずはそのままの状態と見ておこう」

 

もしかしたら忘れてるだけで魔法使い(きゃぴ)と名乗って使いまくってる線も考えられるが…中身があればいい

 

「…君はもしかしたら」

「なんですか?」

「…いや、なんでもない」

 

喉まできていた言葉をぐっと飲み込む、エド少年はもしかしたら…

 

「よし、急ぐぞエド少年!早く取って帰って寝るぞ!」

「は、はい!」

 

もう時刻は夜中の1時だろうか?潜入にはもってこいだ

俺とエド少年は歩みを進める

 

────────────────────────

 

町が見えてきた、俺は近くの土に水筒の水を垂らし泥を作る

 

「カクロ、ちょっとだけ我慢してくれよ?」

『ニャー…』

「そう落ち込まないでくれ、お前が綺麗に輝くからいけないんだろう?」

 

泥をナイフ形態になってもらったカクロの刀身に入念に塗り全体を塗れたか確認する、どうやら大丈夫そうだ

 

「あの、それは何を…?」

「ん?あぁ…光が刀身に当たって反射しないようにな、愛用してたナイフには反射対策してたんだが…」

「なるほど…けどカクロさん?は嫌がってましたけど」

「泥塗られる気持ちは分からないが普通は嫌だろう…カクロも女の子だし」

 

少しだけの辛抱だ、我慢してほしい…日本に帰ったら労わってやらないと

 

「さて…エド少年、これより潜入任務の説明をさせてもらおう」

「は、はいっ!」

 

雰囲気を変えてエド少年を見る、突然雰囲気が変わったことによりかなり驚いていた…もしかして俺仕事中もあんな感じだと思われてるのかな?まぁ…否定はしないけど…

 

「第一目標は魔導書確保、第二目標は超人達と接触する、第三目標は敵戦力偵察…以上の3つを目標にしていく」

「み、3つも…!?」

「まぁ最悪魔導書さえ確保できれば問題はない、超人達も強い…俺達が心配する必要はない」

 

須郷、緋彩、翔太郎、誠、青葉…あの面々がそうやすやすと負けるのは考えられない、Aのようなのが現れない限り

 

「エド少年はどうする?今ならここに残って待つか戻るか選べるぞ」

 

そう言った瞬間、エド少年はビクッと肩を揺らしオロオロとし始める

内心逃げたくてしょうがないのだろう、そりゃそうだ…突然ゾンビ現れて魔術師現れて町から逃げて…普通なら精神的に参ってしまうだろう、だがエド少年は俺達に迷惑をかけないようにか我儘を言わない…歳は十代後半っぽいが我儘の1つは言いたい筈だ

 

「…どうする?」

「ぼ、僕は…行きます!僕だけ何もしないでただ怯えて隠れるなんて嫌なんです!」

「…そうかい、なら気を引き締めて俺の後ろにいろよ?お前は魔導書の確保だけを考えていればいい」

「はい!」

 

いい返事だ…もう少年とか付けるのは失礼だろう、エドの方を向き1番近い家屋壁に指を向けナイフを構えながら壁に一気に向かう

エドも遅れないように急いで走ってくる…足音が出ないよう場所を選んで走ってるのは良い判断だ

 

「…エド、できるだけ壁から体を離すな…見つかりそうになったら隠れろ…いいな?」

「は、はい…頑張ります」

 

小声で確認する、心配する必要はなさそうだ

壁から壁へ…人の目がなさそうな道を進みエドの指示で家を目指す、ここまででゾンビは見当たらない…どうやら街中には配置してないらしい

 

「…(町にゾンビがいないのは何故だ?拠点にしてるなら守りたい筈だろうに…)」

 

配置しない理由が何かあるのかもしれない、流石に理由は分からないが…敵の思惑がよく分からない…

 

「カシワザキさん、あそこです」

 

遅れてやって来たエドが指を向ける、そこそこ大きい家が1つ

 

「…どこに置いてあるんだ?」

「えっと、僕の部屋に…ですけど昔ダンボールに入れたので探すのに少し…」

「まぁ、俺が出入口を見張っていれば大丈夫か…よし、行くぞ」

 

周囲に人の気配がないか確認し一気に玄関へ到着、鍵がかかっておりピッキングを開始する

焦る気持ちを落ち着かせ慎重に音を出さないようにゆっくり鍵を開け扉を少しだけ開け中の様子を確認…誰もいないようだ

 

「よし、俺は玄関にいるから何かあったら俺を呼べ…それと時間はかけるなよ」

「は、はい」

 

中に入り自分の部屋に向かっていくエドを見送り俺は中に入って扉を閉める、念の為鍵をするがいつでも開けれるよう手を添えておく

 

「さて…今のうちに装備を…」

 

警戒しつつ、装備を確認する

まずカクロ…今は通常の姿になってもらっている

猫神の子の恩恵を受けるには俺の魔力を使う為乱用ができない

 

次に拳銃…アメリカ特殊部隊が所持してたのを借り装備している、日本製よりも威力は高くアタッチメントも豊富だ

しかしアメリカでは個人個人にカスタマイズされており使い勝手は良くない

 

他にはこっちに来る時に装備していた各種便利品とトランシーバー…大体は水に濡れてダメになったがピッキングツール等は生きていたのは幸いだった

 

最後はスタングレネードとスモークグレネードを何個か…

手榴弾は日本で使う機会がそこまでないので所持していない

 

愛用のナイフがない、カクロも拳銃も使うには場面が限られる上に拳銃はそこまで得意じゃない…最悪脅し用だ

エドが帰ってきたらそのまま洞窟に戻り明日に備える予定だ

 

「…あいつらは無事だろうか」

 

小生意気ながら日本が誇る超人達…今は確か夏休みだった筈だ、学校は大丈夫だろうがこんな危険な事に巻き込むのは申し訳ないと思う

 

「戦力になるとは言えどあいつらはまだ若いしな…」

 

学生という身分にも関わらず、この世界の裏側とも言える

場所に連れてきてよかったのだろうか?せめても学生時代くらいは謳歌させてやりたい…

まぁ俺らが馬車馬の如く働けばいいだけか…

 

「たっくよ………ん?」

 

ふと、拳銃の弾数を数えていたら通路方面から気配を感じた

エドかと思い振り向く

 

「……あー、君はエドワードの妹さんかな?」

 

そこに立ってたのは黒の長い髪を背中に纏めた少女だった

嫌な予感がして扉に手を置きながらカクロにナイフ形態になってもらう

少女は何も言わない、薄暗い場所に少女が立ってるだけで

恐怖を感じる…ただ自分がビビりだけではなく少女から漂う濃い『魔力』が俺の精神を揺さぶるように侵食してくる

 

『自らやってくるとは愚かだ、苦しみながら死ぬといい』

 

少女の口から出た言葉は機械的な感情のない言葉だった…

てかやばい!

咄嗟に玄関の扉を開け外に転がり出る、俺が立っていた場所には視覚できるほどの魔力が圧縮するように漂っていた…

あのまま留まっていたら精神を壊されるレベルの魔力が俺を殺してたろう

 

「…う、嘘だろ…?」

 

外には誰もいないはずだった、少なからず来た時には…

だが今は様々な場所からゆっくりと接近してくる影…ゾンビの群れだった

 

「クソッタレが!」

 

エドを回収して逃げようにもあの少女がいる、行くには危険過ぎる

 

「このままいてもジリ貧なら…カクロ!」

『ニャニャ!』

 

一気に魔力をカクロに送り恩恵を受け取る、俺が今できることはただ一つ

 

「撤退っ!」

 

どっかのヒーローや勇者や超人ではない俺ではエドを救出するには戦力不足だった、様子を見て潜入するが最悪町にいるはずの超人達…もしくはケイト達を呼びに行かなければならない…ただまだ総力戦には早い

 

「…魔導書でどうにか生き延びてくれよ、エド」

 

道を阻むゾンビの足を蹴り転倒させ森を目指す、木を登る知性があるか知らないが耐えるとしたらあそこだろう

俺はゾンビを蹴散らしながら撤退する

エドが上手く生き延びる事を信じて

 

───────────────────────

 

「えーっと…確かここに置いた筈…」

 

ダンボールを出しては中を開け魔導書を探す、もう何年も前の事だからか奥の方に入れてしまったのかもしれない

 

「急がないと…カシワザキさん待たせてるしなぁ…」

 

自分とほぼ同じ身長の日本人、頼りになる人だと思っているが同時に怖いとも思っていた…突然現れたケイトも同じだった…あの人達はエイレーネーという組織の人らしい、正義の…超人達等を助けたりしてるらしいがどこか彼らは

 

『正気ではない』

 

そう思ってしまう事があった、理由はない…ただの勘だった

確証もない理由で怖がっては相手に失礼だが意識してないのに彼らを恐ろしく思ってしまう

 

「…けど助けて貰ってるのにとやかく言えるわけないし…」

 

もやもやする考えを振り払うようにダンボールを出しては開けての繰り返し…………………部屋の入口に誰かが立ってるのに気づくのが遅れてしまう

 

「うわ!?だ、誰!?」

 

頭の中ではしびれを切らして柏崎が来たのかと思った、だが目の前にいたのは男ではなく

 

 

 

 

 

 

 

「君…は…」

『……………』

 

目の前には昔と変わらない姿の少女が立っていたさ




ようやく投稿


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第81話『新たな者』

 

夢で思い出した時と変わらない姿の少女

自分の目の前に立っておりどう話したらいいか分からない

けど、まず言わなければならない事があるとしたらこれかもしれない

 

「…ひ、久しぶり…元気にしてた…?」

 

思っていた言葉とは違うなんとも弱々しい言葉…本当は違う言葉を言いたいのに上手く口にできない

我ながらなんて情けないのだろうか、恥ずかしさのあまり隠れたい気持ちでいっぱいだった…

 

「今、君がくれた本を探してたんだ…ゾンビを出す魔女が現れて…あの本があれば皆を救えるんだ」

 

少女は何も言わない、その黒い目はずっと自分を見ている

その目はずっと見てるとまるで闇に呑み込まれてしまいそうな程の黒い…

 

『………』

 

ゆっくりと右手を上げ自分の方にその手を向ける、何をするのか分からないがどうしていいか分からず眺めそのまま棒立ちになってしまった

 

 

 

 

 

(避けて!)

 

 

 

 

 

そんな声が頭に響く、反射的に倒れるような形で近くにあったダンボールの山に体を投げ出す

そのすぐあと、自分が立っていた場所に何かが当たり異臭が立ち込める。すぐさま体を起こして自分が立っていた場所に目を向けると木の床が腐り始めていた

 

「ひぃ…!く、来るなぁ!」

 

自分は少女に向けてそこら辺に落ちている物を投げていた…怖い、恐ろしい、逃げたい…そんな思いで一心不乱に…投げていた

投げた物は少女の体を通り抜け地面に落ちる

 

「(な…何やってんだ僕は…!やめろ!やめろっ!)」

 

頭は何故か冷静でいられた、しかし体は冷静ではいられなかった…体というよりも本能が未知の恐怖に恐れ自身の思考とは逆の行動をする

 

「(やめて!頼む!止まってくれ!誰か!誰か…僕を…止めてください…)」

 

どんなに願っても、想っても、体が止まることはない

少女にはなんらダメージはない、無意味な行動を今してるとも言えるだろう…それに相手は攻撃をしてきた…反撃をしても何も問題はない

だがそれでも、そうだとしても自分の行動が情けなくなりこれ以上少女を攻撃はしたくはなかった

 

 

 

それは1冊の本を手に取った瞬間だった、体がピタリと止まり自分の思った通りに動けるようになったのは

 

「…ぁ…これ…は…」

 

それは黒い本だった、真ん中に紫色の宝石が埋め込まれており僅かに紫色のオーラが漂っている

手に取り、すぐさま開く…黒く表紙に何も書いてなかった本は宝石を中心に円状に謎の文字が広がっていく、まるで魔法陣のように

 

『…………』

 

少女はまたゆっくりと右手を上げこちらに向けてくる

 

「っ!え、えーっと…!」

 

魔導書は凄いものだと柏崎達は言っていた、ならばこの状況を打破できる何かがあるかもしれない

そう思いページをめくっていくがそんな都合のいいものは見つからず難航する

少女の手からドス黒い球体が出現し、こちらに飛んでくる

ゆっくりと感じ、周囲の風景もゆっくりと時間が進んでいく

魔導書の最後のページを開く、そしてそこに書かれていたものをやけくそで唱える

 

「こ、『酷使せよ!障壁!』」

 

 

エドワードを中心に膜のような壁が広がっていく、その壁はどんどん広がっていき…少女さえも包み込んでしまう

 

───────────────────────

 

暗い部屋、椅子に座る1人の男が不快そうに舌打ちをする

 

「…障壁で阻まれたか…だが逃れはしない、じっくり待つだけだ」

 

近くに置いてあったワインを手に取り1口飲みながら次の1手を考え始める

 

───────────────────────

 

障壁、使用者を守る為の魔術…そして囲んだ障壁の中は使用者の魔力が濃く漂う

 

「…ど、どういう事だ…?僕こんな広くするなんて…」

 

していない、魔術を初めて触れた者が使うには異質過ぎる程範囲が広い

 

『……………………』

 

少女は動かない、障壁の範囲内に入った瞬間まるで動きが止まったロボットのようにピクリとも動かなくなったのだ

 

「………っ!………なんで…こんな…」

 

強く握った拳を壁に叩きつけ怒りを紛らわす、記憶にある少女は楽しそうに笑う子だった…しかし目の前にいる少女は笑うことはなかった、むしろ攻撃をしてきた

 

「…君が…敵だなんて…」

 

力なく項垂れて壁に叩きつけた拳を見る、傷つき血が流れる手…痛みと現実の厳しさに涙が流れる

 

 

 

その手を、優しく包む細い手…エドワードの手は淡い光に包まれ傷が少しずつ治っていく

 

「え…?」

 

顔を上げる、この場には自分と………少女が立っていた

 

『……エドワード』

 

突然の事に思考が止まり呆然としてしまう、数秒の沈黙があったが何を言えばいいのか分からず手の傷が治るまで何も言えずにいた

 

──────────────────────

 

「うわぁ…こうも集まるとキモイのかゾンビって…」

 

木の上からこんにちは、俺は森の外付近の木の上に登りとりあえずの安全圏にいた

ゾンビ達はすぐしたで俺を食おうとしてるのか集まっている…が、登ろうとするやつどころかジャンプなどをする個体もいない

 

「これなら多少時間稼げるか…」

 

一旦離れたのはいいものの、エドを救うには戻るしかない

だがあの謎の少女がいる限り俺はむやみやたらに近づく事ができないでいた…どーしたもんかね

 

「最悪本だけでも…」

 

最悪の事態を想定しつつも回収する算段を立ててると遠くから騒がしい声が聞こえてくる…これは…?

 

『カシワザキさーん!!!どこですかー!!!』

 

………理由はともかく大声を出してる奴は後でタイキックの刑だな、声がした方を向くと多数のゾンビを引き連れながら必死に走ってるエドがいた…あぁ…自力で脱出したけどゾンビに見つかったのかな…?

 

「っと、流石に助けないとな…カクロ!」

『にゃ?』

「全力でいくぞ!」

『にゃにゃ!』

 

素早く助けに行く為にカクロに魔力を流しながら木の上から飛び降りる、多少集まっていたゾンビ達を落下する途中でナイフを振り処理する

頭部にナイフを突き刺されたゾンビ達は糸が切れた人形のように倒れ最初からそこにいたと言わんばかりに動く気配がない

 

「…ん?」

 

ナイフに付いた肉片を振り落としながらある一体のゾンビ…だった亡骸を見る

その亡骸は生前カバンを肩から下げてたのだろう、シンプルながらもボロボロになったカバンを下げていた…そしてそのカバンに何かが結びつけられている

 

「…紙?それも新しいな」

 

亡骸が下げているカバンに元々付いてたにはあまりにも真新し過ぎる、警戒しながらも結ばれた紙を解きゆっくりと広げ

 

背筋が凍るような悪寒がした、読み進めるにつれて顔から血の気が引いていくのが分かるくらい俺は恐怖した

 

「…俺が来るのは分からないはずだ、それに…ましてやこんな…偶然を頼るか…?…偶然じゃないとしたら…」

 

震える手を落ち着かせながら紙を折り畳みポーチに入れる

 

「と、とりあえずエドを救って…それから考えよう…」

 

カクロが心配するように1部を尻尾に戻し俺の手を撫でてくる

それに苦笑しながら大丈夫だと言いエドの方へ急ぐ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紙の内容は『青葉からの決行時間とそれぞれの立ち回り』が詳細に書かれた紙だった

 

────────────────────────

 

時間は少し遡り、障壁の中にいるエドワードと少女は向かい合っていた

 

少女はとても悲しそうな顔をしてこちらを見てくる、その表情が本当の表情かどうか分からなかったがエドワードは思った事を口にする

 

「なんで…傷を…」

 

柏崎達が見た魔女の魔法、そして今見た魔法を見て同一人物なのではないかと確信していた事もあり困惑してしまう

自分が子供だからだろうか?と思ったがなら何故最初に攻撃してきたのかが分からなかった

 

『…痛いのは私も嫌いだから…』

 

そう言い微笑む少女はやはり悲しそうな表情になる

 

『エドワード、時間がないの…1回しか説明しないからよく聞いて』

「な、何を…?」

 

少女の真剣な雰囲気に気圧され警戒を忘れてしまったエドワードは両肩に少女の手が置かれるのを見てるだけだった

 

『あの花畑…あそこに儀式の道具が埋めてあるの、いつもは障壁で守られてるから入れないわ…けど『私が』毎朝確認しに行く時だけ障壁が剥がされるの』

「……………」

『その時に貴方も入って…儀式を破壊してほしいの』

「…そ、そんな事突然言われても…」

 

敵だと思っていた、だが目の前の少女は儀式を破壊してほしいと願う

 

『儀式がめちゃくちゃになったら『夜』が終わる…私達の時間じゃなくなるの、そしたら皆助かる』

「…ぁ…け、けど…」

 

色々と聞きたい事があった、何故一緒に行ってくれないのか

何故『私達の時間』なのか、味方になってくれないのか

 

『…そろそろ障壁も消える、貴方と私の魔力が満ちてるからあの人の縛りから外れたけど元に戻ったらもう私じゃない』

「私じゃ…ない?」

『次に会った時は敵と思って、手加減はしちゃダメ…さぁ、行って!』

 

少女にぐいぐいと押され障壁の外に出される、障壁は少しずつヒビが入ってるらしくピシッ…とガラスが割れるような音がする

 

「…っ!」

 

これが壊れたらまた攻撃される、そう思うと体は踵を返して玄関へと足を急がせる

 

『……愛してるわ、エドワード…』

 

そんな声が…聞こえた気がした

 

────────────────────────

 

現実は厳しい、話を聞いたりするにも時間が足りない

ゲームのように選択肢は出てこない

漫画の主人公のように、少女に言葉をかけてあげることも

ヒーローのように皆を守ることさえままならない

 

「こんな現実はクソだ…出てこいよヒーロー、助けてくれよ…」

 

怯え、恐怖し、少女から逃げるように走っていくエドワードの姿は第三者から見たらとても滑稽で情けないだろう

何故自分がこんなめに、そう思いながら道を走ってるとはぐれゾンビ達がエドワードに気が付き後を追いかけてくる

 

「カシワザキさーん!!!どこですかー!!!」

 

後ろから多数の足音が聞こえる、ゾンビが自分を食おうと走ってくる死の足音だ

 

「…(この世にスーパーヒーローなんていない、カシワザキさんやケイトさん達は自分のできることをして頑張ってる)」

 

ならば、自分にもできることがあるのではないか?そう思い手に持ってる本を見る

淡く光るその本はまるで自分を使えと言わんばかりに存在感を出している、これを使えば

 

「…ぼ、僕だってっ!!!」

 

一気に距離を離して振り向く、いつもの自分なら迫ってくるゾンビに襲われ呆気なく死んでしまうだろう

だが

 

「今ならっ!今の僕なら!」

 

本を開き、ある1文の呪文を口にする

 

『酷使せよ!底なし沼!』

 

淡い光は右手に集まり頭の中には次はどうすればいいかハッキリと分かる

右手を地面に叩きつけ意識を集中させ範囲を決める、すると前方向の地面が広範囲の沼になりゾンビ達を飲み込み始める

 

沈んでいくゾンビ達を見ながらエドワードは自分のした事に驚きながらもこれならば、と覚悟を固めた

 

 

 

新たな魔術師の誕生である



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第82話『早朝に備えて』

走ってエドを追いかけていた俺は膝を折りながら地面に片手をついて荒い呼吸をしていたエドを見つけた

その手には何かを抱えているが…もし上手く事を運んでいるのならその手に持ってる何か…それは

 

「魔導書か!」

 

追っかけていたゾンビ達がいない、となるとエドが魔導書を使い倒したという事だ

 

「…魔術師の才能があったのか」

 

意外と思いつつも俺はエドにちかづいていく

 

「おーい、エドー!」

「…ぇ?か、カシワザキさん!来ちゃダメです!」

「え?」

 

何を言ってるか分からないまま走ってた俺は突然段差に気づかずそのまま足を下ろしたようにガクッ!と体が前に倒れてしまった

 

「な、なんじゃこりゃ?!」

 

地面だと思ってた所は何故かヌタヌタしてて少しずつ足が埋まっていく

 

「そ、そこ底なし沼です!早く出て!」

「こんな暗い道に底なし沼でも作ったのかお前!た、助けて!足がががが!」

 

その後どうにか引っ張ってもらい沼から脱出に成功した

エドが言うにはもうゾンビ数体が埋まってるらしい…あと少して俺も土に還るところだった…

 

「…あー、なんだ…ありがと」

「い、いえ…僕がもうちょっと違う魔法使えば…」

「魔法…ねぇ…」

 

魔法使いは存在する、魔術師よりも強力な呪文を備えた魔法使いや魔法を封印してる魔法使いもいるが…日本支部にも魔法使いは少数だが在籍してる

だがエドが持ってる魔導書は魔法使いのとは違うので魔法ではないが…彼にとってはどちらでもいいだろう

 

「さて、行くぞ…少し収穫があったしな」

「あ、はい!」

 

町を出て森を歩く、時計を見るともう夜中の1時…早く寝ないと明日に…いや、今日に響くな

 

「エド、今日の朝…6時丁度に町に攻撃をしかける」

「え?」

「町にいた超人達が上手く立ち回ってくれたおかげで町人達は無事…そんでもって6時に全員で行動を起こすらしい」

 

青葉からの紙によると翔太郎、緋彩、誠は町人達が捕まってる場所に…青葉と須郷はすでに準備を終わらせ町にいる謎のローブ達を襲撃するらしい…との事をエドに噛み砕いて説明しつつ続ける

 

「俺達は町に向かい…Nを倒す」

「っ…!」

 

エドは少し驚いた表情をした、まぁあのNを見たことあるなら倒すなんて無謀だと思うだろう…だが

 

「今回、俺とカクロ…ケイトと芦川の魔力付き銃…これだけで倒そうとは流石に思わなかったが今は」

 

腕を上げ、指をエドに向ける

向けられたエドはえ?…と、いう顔をしていた

 

「エド、お前と、お前の魔導書がある…それがあれば魔術師1人…なんてことはない」

 

魔には魔を…俺達の中で1番火力がでるのはエドだろう

まだ威力は未知数だが魔術師の魔導書ならばある程度の威力は期待できる

 

「は、はい…ありがとう…ございます…」

「え?あ、う…うん…」

 

明らかに落ち込んだ雰囲気のエド、そのまま何も話さず歩いてケイト達がいる場所を目指す

 

「………カシワザキさん」

「ん?どした」

 

泥だらけで不満そうなカクロを慰めてると唐突にエドが話しかけてくる

 

「…どうしても、助けたい人がいて…でも相手は僕よりもはるか上にいる人で…それでも、相手が苦しんでるのを見たら…カシワザキさんはどうしますか?」

「…そうだな」

 

と、突然の相談で困惑顔になるのをどうにか押さえ込んで

エドの顔を見る…彼の顔は真剣だ、恐らく詳しく聞いても話さないだろう

となると、俺の意見を言って彼の背を押す一押しにしてやろう

 

「まぁとりあえず拳を握るじゃろ?」

「はい」

「そんでもって相手をぶん殴って俺を頼れ!とハッキリと言え」

「はい!……はい?」

 

なんだその、何言ってんだこの人?みたいな顔は?しょうがないだろ俺メンタリストちゃうぞ

 

「相手の気持ちなんて知ったこっちゃねぇよ、相手がどう思ってようがお前がする事は自己満足と優越感に変わりはない、そんなら自分の気持ちぶちまけて…後は相手に丸投げだよ」

 

ちょい昔に同じような事を言ったような言わなかったような…どっかのひい…なんちゃらも同じような事を悩んでいた

それと同じなんだろう

 

「け、けど…」

「けどもへったくれもない、上手い言葉選びとかできるならそうしたらいい、だがそんなの誰でもできるわけないし…そんなら建前とかんなの投げ捨てて本音喋ってみろ」

 

俺はお世辞でも誰かに救いの言葉をかけたりとか気を楽にしてあげるとか、そんな事できない

…こんな職場だからこそ必要なかもしれないけど

 

「う、うぅ…」

「まぁ俺よりケイトの方がいいと思うぞ」

「え?あ…け、ケイトさんはちょっと…」

「そうか」

 

見た感じ馬鹿っぽいんだよね、見た感じは

 

────────────────────────

 

しばらく歩きケイト達がいる洞窟へと戻った俺とエド、エドは疲れたのかすぐさま横になり寝息が聞こえてきた

疲れてたのだろう、俺は前足で顔面にテシテシと講義してくるカクロの首根っこを掴みながら川を目指す

 

「…ん、芦川とケイトか」

「はい、エドワード君はぐっすり眠ってましたよ」

「エドは男だ、あいつだけ仲間ハズレにする必要はなかったんじゃないか?」

「ま、そうなんだけどよ…せめてあまり巻き込みたくないじゃん?」

 

魔導書を手に入れたからには少なからずエイレーネーに関わりを持ってもらうことになる、だがそうだとしても深く関わらせない事ができるならそれに越したことはない

 

「ま、勝手にすりゃいいさ…そんで?この紙なんて書いてあんだい?日本語はよく分からないんだ」

「え?ケイト日本語喋れたよな?」

「喋れても書くのは無理なんさ」

「なんだそれ…まぁいい、その紙にはな…」

 

洞窟を出る前に渡しておいた紙、それを確認してもらおうと思ってた…その紙には少し細工がされている

 

「えっとな…お、ライターはあったか…こうやって炙ると」

 

紙に書いてある文字を下にして下からライターで炙る、すると何も書いてない裏側に文字が浮き出てそれを芦川が横から覗き込む

 

「…なるほど、それで…」

「巻き込みたくない、それはエドを思っての事だけどそれ以外もある」

 

裏側に書かれていた事、それはNの早朝からの一日の流れだ

どうやって、また何故こんな情報を知ってるかは知らないが最後の文には『確実に殺れる瞬間』と書かれNがいる家に入った瞬間と書いてあった

 

「喋れても文字は読めない事を利用してる、青葉は知ってて日本語で書き俺達しか読めないようにして…尚且つこの文」

 

と、表の隅に書いてある文字を見る、そこには

 

『エドワード君には教えないように』

 

と、御丁寧に書いてあった

 

「…か、柏崎さん…私…長内青葉が…その…怖くなりました」

「分かる、こいつどこまで知ってるんだ?」

 

そもそもエドがNと何かしらあったのは知ってる、エドがあのNから逃げれる訳がない

となると、裏切りか…それとも

 

「…まぁ、今回は敵じゃないから安心だが…やっぱり超人は敵に回したくないな」

 

俺達が知りえない情報、明らかにおかしい情報収集力…

あいつは自分の事を一般人と名乗ってるが、馬鹿馬鹿しい

こんな一般人がいてたまるか

 

「とりあえず、芦川はエドと町を目指しつつ他の超人の合流と補助を頼む」

「は、はい!」

「俺とケイトは…」

「分かってる、久しぶりに血が騒ぐよ!」

「程々にな」

 

超人達は派手にゾンビと謎のローブ達を蹴散らしてもらおう

俺達はいつも通り死ぬ気で敵の大将を倒すだけだ

 

「…エドは、どう動くかね」

 

俺と離れた時に何があったのか、どうやってNから逃れたのか…いくつか予想できるが本当はどうなのかは本人達しか知らないが…朝になればどうでもよくなる

 

「…どちらにせよ、悪は殺す」

 

それがエイレーネーの使命なのだから



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第83話『予定通り…?』

 

アメリカ時間、早朝6時前

通常ならば朝日が見えるのではないか?と外を覗いても見えるのは夜空のみ。

 

「翔太郎、誠、やっぱり外は夜のままだよ」

「となると…大人数で動かず篭城戦が良いかもしれないよな…」

「夜道は暗いからな、俺だったら今の現象を利用して夜襲と同じように攻撃する」

 

道華翔太郎、涼風緋彩、岡園誠の3人は朝が訪れない外を見ながらお互い現状の策を考えていた。

 

「誠、やっぱり無理そう?」

「あぁ…衰弱してる人もいるし動けるのは医者の人達だけだったから元の作戦通りは無理だと思う」

「計算が狂ったが…最悪俺達3人で戦うしかない」

 

誠が主導となり動ける人を集め青葉の作戦の準備をしていた…が、蓋を開けてみたら動ける若者は全てあのローブの男達に恐怖しており戦うのは不可能に近かった。

 

「青葉の作戦通りにならないとなると…どうする?誰か1人でも青葉の所に…」

「いや、あの化物みたいに強い奴らと戦うのに1人でも欠けちゃ勝てないだろ?それに見ろ」

 

翔太郎に促され緋彩と誠が外を見る、遠くからライトの光が

ゆっくりと教会に近づいてくる。

翔太郎にはそれが見覚えがあり2人は嫌な予感がした。

 

「…やるしかないか」

「そうだねー…ボクとしてはもう関わりたくないけど」

「やるしかない…そう言えばお前ら」

「ん?」

「なんだ?」

 

口を開き…口を閉じる。

 

「…いや、何でもない」

「翔太郎?」

「…?」

 

来た時に見たあの『化物』、あんな巨大なのを2人が見逃すわけがないと考え翔太郎は近くにいないという予測を立てる。

 

「…(移動した、もしくは命令されて…か…どちらにせよ俺達じゃ倒せない以上気にしてもしょうがない…か)」

「んー、ちょっと気になるけど今は目の前の事!翔太郎行くよ!」

「おーい翔太郎、置いて行っちまうぞ」

「…ん、今行く」

 

探偵の超人、武道の超人、そしてヒーローの超人の3人はやってくる敵を待ち構え戦闘に備える。

 

★☆★☆★☆★

 

薄暗い部屋の中、一人の男が瞑想をしていた。

そんな事をする習慣は無かったが今は集中する時間が必要だった、戦う事は男にとって苦ではない…むしろ嬉々として戦う事だろう。

だが時と場合によっては集中しなければならない時がある、それは誰かを守りながら戦う時…そして今の自分が扱えるかどうかの『技』を使う時。

 

「須郷さん、時間ですよ」

「…青葉か、今行く」

 

部屋の扉を開け中を覗き込んでくる少女、記者の超人である長内青葉は格闘の超人…須郷雅弘を呼びに来たらしい。

研ぎ澄まされた集中力を感覚で覚えながら上着を羽織り部屋を出る。

部屋の外を出てリビングに行くと青葉が軽い朝食を作って待っていた。

 

「使った分お金を返さなきゃですねー」

「緊急事態だからいいんじゃねぇのか?」

「それとこれとは話が別になるんですよ?」

 

席に座り朝食を食べつつ青葉を見る、眉一つ動かさず朝食を…食べると美味しそうに微笑むので眉は動きまくってる。

須郷も苦笑しつつ朝食を食べる。

 

「青葉、お前は作戦が上手くいくと思うか?」

「いえ?上手くいくかなんて誰にも分かりません」

 

あまりの即答に思考が停止するが須郷は困惑顔になりなから青葉を見る。

 

「そこは上手くいくと言ってほしかったんだがな…」

「確証のない事に責任は持ちたくないですからね、それに恐らく他の人達が作戦通りに進められる訳がありません」

「そうか?」

「えぇ、実は少し前にローブの方達が車に乗って何処か行ったんですよね、十中八九緋彩さん達関係でしょう」

「…マジか」

「はい、そしてもうお気づきになられましたか?」

 

青葉がそう言い周囲を見る。

 

「あぁ…囲まれてる…な」

「恐らく柏崎さんあたりが気づかれた…もしくは私達の作戦が読まれていたですかね」

「おいおい、まさか…」

「どちらにせよ上手くいく作戦なんて存在しません、むしろ失敗前提で考えた方が良い時もあります」

 

敵に囲まれながらも2人は食事を続け、青葉はスマホで時間を確認する。

 

「あと30秒で6時ですよ須郷さん」

「もうそんな時間か」

「敵に囲まれてますけど投降します?今なら多分コラッ!ポカン!程度で済ましてくれるかと」

「ポカンが優しい擬音だな、多分頭蓋骨陥没してそうだが」

 

青葉ジョークに軽く笑いながら須郷は立ち上がりリビングの扉を見る、いつの間にかもうすぐそこまで来ているらしく何かしらの気配が1つ。

 

「っすー………須郷流…『震波拳!』」

 

扉に向かって構えた拳を放つ、振動は空気を伝わり扉に当たり扉ごと向こう側にいた何かを吹き飛ばす。

開放的になった扉の向こうには入ろうとしていたのか壊れたドアノブを持ちナイフを片手に持っているローブの男が1人伸びていた。

 

「青葉、ローブの奴はあと何人だ?」

「さぁ…恐らく8人程度では?」

「そうか…行くぞ!」

 

まだ気配は無数に存在あり倒す事になる事を直感した須郷と青葉は気を引き締め、戦いに身を投じる。

 

 

★☆★☆★

 

 

空を見上げて溜息を吐く男は遠い目で他の面々の準備が終わるのを待っていた。

 

「…今度は何度死にそうになるんだろうか、もしかしたら…本当の意味で死んでしまうのかもしれない」

「?」

 

ふと呟いた言葉を頭上にいた子猫が聞きペシペシと尻尾で男の後頭部を叩く、痛くも痒くもないが何を言いたいのか分かったので男…柏崎は軽く子猫の頭を叩く。

 

「心配すんなカクロ、俺は死なない」

「………」

 

納得してるとは思えないが柏崎は苦笑し街がある方を向く、時刻は朝方の5時30分を回ろうとしてる所で作戦の為に赴く予定の場所の地形などを覚えてる限り思い出す。

青葉の紙を信じるのであればNという魔術師はこの時間帯に外出し6時頃に帰宅する…その時を狙う。

だがそんな予定はあっさり崩れる事となる。

 

「柏崎さん!大変です!」

「大変なのいいがそんな走ると転ぶ……」

「エドワード君がいないんです!」

 

開いてた口を閉じ、頭を抱えてため息を吐く。

 

「…どこにも?」

「は、はい…少し目を離した隙に忽然と姿が消えちゃったんです」

「魔術か、もしくは芦川がただ単にドジって気づかなかったかの2択になるんだが個人的に後者の方が俺の中では可能性が高いと思う」

「………」

「そんな睨むなよ…冗談だって」

 

粋なジョークと思って言ったがあまりウケなかったらしい、謝りつつ魔導書を持って消えた少年の事を考える。

 

「ケイトは何か言ってたか?」

「か、柏崎さんに一任するって言ってしました」

「あいつ面倒事を押し付けやがって…仕方ない、俺が捜索するから芦川とケイトは作戦通り街に向かってくれ」

「は、はい!」

 

探す場所にあてはない、その為近場から探しつつ移動した痕跡を探す事にし柏崎は1人先に行動を開始する。

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

少年は眠い目を擦りながら本を大事そうに抱えある場所に向かっていた、時刻は6時前だろうか。

堅い決意と不安と興奮で吐きそうになりながら足を動かす。

 

木々が生い茂る森、見知った道、そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花びらが舞い散る花畑、人の手が入ってない自然の神秘。

その花畑に1人の人が花にジョウロで水を与えていた、美しく…たが悲しそうな顔をしている女性の顔を見てエドワードは見惚れつつも歩みを進める。

 

女性は歩いてくる少年に気づき、ジョウロを下に置く…そしてお互いが声の届く場所までエドワードが近づくの待った。

 

 

 

「貴方を…救いに来ました」

 

 

 

エドワードは一言、力強く言葉をはなった。

女性はわけがわからないのか困惑した表情を見せたが、少年にとってはどうでも良かった。

本を開き、自身の体から本に流れていく何かを感じながら

少年は覚悟を決める。

 

様々な場所で死闘が始まる。




久しぶりの投稿です


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第84話『それぞれの戦い』

街にいたはずの子供達は寝ているのだろうか?そう思いながら青葉は魔改造カメラを手に須郷の背後に立つ。

少し開けた道の中心で互いの背を預けた状態で戦う2人の周囲には数人のローブ姿の男女が横たわっていた、全員平等に須郷の拳が直撃して気絶したのである。

 

「…まだいますね」

「そうだな…だが、全部ぶっ飛ばせば問題はねぇ」

「ははは…私は一般人なので無茶は出来ませんけどね、ほら来ましたよっ!」

 

言い終わると青葉と須郷は左右に飛び、立っていた場所には無数の弾丸が着弾する。

素早く家の塀や壁に体を隠し銃を所持する敵を視認する。

 

「青葉ぁ!俺から離れ過ぎるなよ!」

「それが無茶なんですがねぇ…!」

 

襲撃者達の攻撃を避け、たまに反撃しながら2人はジリジリとある方向に向かっていた。

その方向は翔太郎達がいる教会…だが2人は教会がある事は知らない、ただ青葉が見たという車で出ていったローブ達の方向がそっちだった為に柏崎達か翔太郎達という目星をつけていた。

 

「震波拳!」

 

ブロック塀を殴り砕けたコンクリートが吹き飛ぶ、その飛んで行った破片は追ってきている襲撃者達の大体の位置に飛んではいったが当たった様子はなく反撃とばかりに銃弾が飛んでくる。

 

「くそっ!こういうのは翔太郎と緋彩が得意だってのに!」

「雅弘さんは小難しい戦法は苦手ですもんねー」

「正々堂々戦うのが好きなんだよ!」

 

たまに会話をするが頻繁に攻撃が飛んでくるので互いの距離感覚を確認する時くらいである。

青葉は常日頃の行いの成果なのか、ひょいっと障害物を飛び越え壁を登って向こう側に飛んだりと身軽な動きをしてる。

 

「お前…たまに見せてくる写真何処から撮ってんのかと思ってたが…」

「おや?記者として何時どこで事件があるか分からないので必須能力ですが?」

 

軽くウィンクしてくる仲間に苦笑しつつ須郷は後ろを確認する、距離は遠からず近からず、仲間の位置も常に同じであり順調…の筈だった。

 

「…(なんでこんなにも簡単に逃げられるんだ?)」

 

須郷は自身の能力と力を理解している、その上で敵に何故逃げれているのかが不思議で仕方なかった。

自身の考えではもう既に近づかれ肉弾戦に持ち込むつもりでいた、だが一向に相手は追いつかず遠距離攻撃ばかりしてくる事に違和感を感じていた。

 

「…おい青葉!………青葉?」

 

丁度路地から先に出て周囲の確認をしていた仲間が出た直後の場所で止まっていた。

敵は銃を使っている、止まるのはまずい…そう思い須郷は腕を伸ばし青葉の肩を掴む。

 

「おい青葉!急ぐ…ぞ…」

 

まっすぐ前を向く青葉の視線を追いかけその先を見る。

まだ薄暗い朝方だったからか、その『巨体』に気づかなかった事に須郷は苦笑いしかできなかった。

 

 

 

 

その姿を一言で表すなら『気持ちが悪い』であった。

人型をしてはいるが目と鼻と耳が無く、あるのは大きく裂けた口だけ…そして体内から出ているのか手足や人間の上半身

が生えていた。時には貼り付けたようにくっついてるのもある。

 

「…雅弘さん、あれ…倒せます?」

「倒せなくはないとは思うが…あそこまで大きいとなると何発かは耐えるだろうな」

 

須郷は背後を確認する、もう敵の気配はない…どうやら追い込み漁のようにここに誘導されたようだ。

巨大な化物はゆっくりと動いており…そしてその体から何かが出てきて地面に落下している、そして家3軒分離れているのにも関わらず異臭が漂ってくる。

 

「…くせぇな」

「まるで肉が腐ったような匂いですね」

「そりゃお前、俺の見間違いじゃなければありゃ…ゾンビを生み出してるんじゃないか?」

 

落下していた物体…それは人型ではあった。

そして須郷の予想が正しければそれはゾンビ…

 

「つまりはあれはゾンビ生産生物って言ったところだな」

「それはまた、パワーワードですね?記事にしたら売れますかね?」

「俺なら買わねぇな…さて、現実逃避はここまでにしてどうするよ、青葉」

 

須郷は横目で青葉を見ると思考してる状態でいた、青葉は現状の使える手札を脳内で作る。今戦えるのは須郷ただ1人…だが須郷の技である「震波拳」は人体の装甲を無視し内部を破壊する振動の技、ゾンビにそれが通用するのか?

その考えが思考を鈍らせ纏まらない。

 

「…須郷さん、ここは逃げて…」

「青葉」

 

逃走、それを提案しようとした瞬間須郷が割って入る。

隣を見ると腕組み闘志に溢れるオーラが見えるような気迫を感じた。

 

「あの化物、あれが柏崎や翔太郎達と出会って…勝てると思うか?」

「………いえ、翔太郎さん達はともかく柏崎さん達は厳しいでしょう…ですから今は後退して合流を…」

「青葉…よく聞け、俺は自分の力に過信をしてるわけじゃねぇ…だが今はハッキリと言える、アイツらを守る為に俺はあの化物を『ぶっ倒さなきゃならねぇ』」

「………」

 

現在、青葉の考える限りの最大戦力は須郷雅弘である。

戦う事は避けられないであろう事は分かっていた、だが1人で戦わせるのは不安があった…

だからこそ他の仲間と合流するべきだと考えていたが須郷本人が力強く戦うことを宣言した。

 

「…勝算が有るんですね?」

「あぁ、だがまだ未完成だ…成功した試しがない」

「…大丈夫ですよね?」

「俺はまだ自分の技を極められてない…だが1回だけなら無理してでも出来るはずだ」

「…仕方ないですね、ですがゾンビを避けながら行きますよ?」

「すまねぇな…行くぞ!」

 

拳を握りしめ須郷と青葉は化物の方へと向かっていく。

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

山道を走る車、車に4人乗っており教会の手前で停車する。

ドアが開かれ降りた面々が建物の方を向くと2人の人影が塀や道の真ん中に立っていた。

 

「…よぉ!深夜では世話になったな?」

 

岡園誠は腕を組みながらニヤッとローブの人物達に笑う。

少し怒気が含まれている声色で秒で無力化された事を思い出しているのだろうか。

 

「…………」

「無視か?それとも喋れないのか?…ま、どっちでも俺は構わないんだがな?」

「…誠、あいついない」

「緋彩を倒したって言うやつか、俺達相手に来る必要ないって意味と捉えてもいいと思う?」

「どうだろうな…ボクとしてはホッとしたというか」

 

敵を無視し話し始めた2人、特に興味が無いのかローブの人物達は一糸乱れぬ動きで駆け出し隠し持っていた小さな棍棒等を手に誠に殴りかかるが、誠は全て装甲でガードし衝撃を逃がしながら戦闘を始める。

 

「誠!」

 

手助けしようと緋彩は身構えた、だが誠は手を向け静止するようにジェスチャーする。

緋彩は一瞬躊躇したが仲間を信じローブ達の奥を咄嗟に確認した、木々で見えにくいがゆっくりと近づいてくる無数の人影が見える。

 

 

「緋彩!こいつらは俺には任せろ!お前はできる限り足止めをしてくれ!」

「…あぁ!任せたよ!」

 

人間とは思えない怪力で攻撃してくるローブ達の攻撃を受け流しつつ、緋彩や教会に向かおうとする者から片っ端に攻撃して注意を向けさせる。

 

「こっちを向きなお前ら!お前らが戦ってるのは日本のヒーローだぜ!」

 

体力管理なんて知らんと言わんばかりに大暴れを始めた誠を見つつ、緋彩は森から教会までのひらけた場所に出てきた大量のゾンビを見る。

 

「…さぁ、始めよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

戦い始める2人を見ながら最後の1人である翔太郎はあるものを作っていた、教会内部にあった油や布をありったけ集めて作っている物…これが完成すれば十分に戦えるはずだと考えていた、だが…

 

「…十分な量になるまで持ってくれよ」

 

予想よりも押されている誠、想像より多いゾンビの数…

翔太郎は焦る気持ちを落ち着かせながら作業を続ける。




少し書きました


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第85話『ピエロの魔術師』

暗い部屋の中、1人の男は顎に手を当てて考えていた。

 

「『Z』さん、どうした?」

 

思考してる男…Zは視線を向けるとピエロの服装で微笑みのピエロのお面をしてる男が立っていた。

 

「『K』か、いい所に来た…今すぐアメリカに行け」

「仕事で?」

「そうだ、Nが苦戦してるようでな…最悪お前が『儀式』を引き継げ」

 

Zはそう言うと近くに置いてあったワインを1口飲む。

Kは恭しく頭を下げ、背を向け部屋を出る。

 

「仰せのままに…」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

ひと吹きの風が花を揺らす。

 

2人の人間の髪が風で揺れる。

 

1人は二十代の女性、1人は十代後半の少年。

 

少年は本を広げじっと動かない、また女性も動かない。

 

膠着状態が続く中…強い風が吹き時間が進み出したように2人は口を開く。

 

『『酷使せよ!衝撃!』』

 

少年…エドワードと女性…Nから見えない強い風がぶつかったかのように2人の中心で衝突した痕跡だけが残る。

Nは落ち着いた顔だがエドワードはビビり散らかしていた、本には名だけ書いてあり効果や何が起きるかは書いてないのだ。

来る道中でそれっぽく最初のページに書いてある分かりやすい題名だけで選んでいた為に一瞬の油断が生じる。

 

『酷使せよ、腐敗の風』

 

Nは横投げをするように手を振る、すると虚空からどす黒い霧のようなものが湧き出て風に乗るようにエドワードに飛んでくる。

 

「っ!『こ、酷使せよ!障壁!』」

 

黒い風はエドワードを避けるように左右に広がり後方へ流れていく、風が当たった木々がジュグジュグと音を立て広がり数本の木があった場所は腐った木片の塊に変わる。

 

「『酷使せよ!衝撃!』」

 

対抗するように呪文を唱えるがNは見えてるようにサッと避け攻撃は避けられてしまった。

 

「な、なんで…?!」

「…ふふ…貴方まだ呪文を使い慣れてないようね、目線でバレバレ…初級の魔術で私に対抗しようなんて舐められたものね」

「…っ」

 

本には様々な呪文が書いてある、だがエドワードは使えない…と言うよりも使えるか分からないでいた。

衝撃の呪文や障壁は安易に想像できたが他の呪文はどういったものか分からない、もしかしたら先程のNが使った呪文があるかもしれない。

エドワードの目標はただ一つ、目の前の女性…を助ける事だった…だがもし彼女を殺してしまう程の呪文を使ってしまったら?

 

「怯えてるの?苦しんでるの?貴方が望めばその苦しみを解放してあげるわ」

「ぼ、僕は苦しんでなんかない…!」

 

そう言ってエドワードは本を開く、少しずつ体は脱力感を感じつつある…早急に『儀式』を見つけ破壊しなければならない…が、周囲を見ても儀式の道具など見つからない、あるの花だけ。

 

「…(どこかに…どこかにあるはずなんだ…あの子が嘘を言ってるとは思えない…!)」

 

自分だけが知っている情報、柏崎達には知られてない事…

エドワードにとって彼らは強い人達だった、だがそれが言えない原因であった。

彼らが目の前にいるNを殺してしまう可能性があったからだ、それだけは阻止しなければならない為に1人で単独行動している。

 

「…(どこかに…どこか…に…?)」

 

ふと、ある事に気づく。

エドワードはジリジリと左に移動するとNも対極線上になるように移動する。

近づくと呪文を使い、離れると近づかずその場に止まる。

 

「…!(多分…間違いじゃなければ…!)」

 

イメージを膨らませ呪文を口にする。

 

「『酷使せよ!衝撃!』」

 

地面から爆発させるようにイメージし、発動させる…すると一気に花びらが舞散り目くらましのように視界を覆う。

視界を遮り、エドワードは一気に駆け出す…目指すはN。

突然の目くらましにたじろぎながらもNは吹き飛ばそうと呪文を唱えようとするが…

 

「『酷使せよ!衝撃!』」

 

エドワードの呪文が先に発動し、Nの真下の地面が爆発するように膨れ上がり土埃が吹き荒れる。

 

「くっ…!『酷使せよ!突風!』」

 

視界を確保する為に風を起こし土埃と花びらを吹き飛ばす。

覆われた視界が晴れる…そして少年の姿は無く、Nの横を通り過ぎて地面に剥き出しになっていた手のひらサイズの『箱』を掴み持ち上げる。

 

「…や、やめろ!」

 

Nが必死の形相で向かってくるのを横目にエドワードは思いっきり箱を近くの木に投げつける。

箱は脆かったのか木にぶつかると蝶番が壊れ中身が零れる、中にはどす黒い液体…血液が入っており外気に触れた瞬間溶けるように地中に消えていってしまった。

 

「あ…あぁ…!あああ…!!!」

 

Nは苦しそうに呻き、地面に膝をつく。

自分の体を両手で抱きしめるように二の腕を掴んで痙攣を起こす。

 

少しずつ、空に光が差し込み始めた…『夜』が終わろうとしている。

 

「やった…やった!これで皆…!」

 

街の人々、柏崎達、そして目の前にいる人を救える。

震える手を握り、Nを見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ…ぐっ…あ…あぁ…」

 

Nは苦しそうに呻いていた…理由は明白だった。

彼女の体から『腕』が生えていて、その腕は激しく脈打つ『心臓』を掴んでいたからだ。

 

「んふふふ、『N』…仕方ないから私が後を続けてあげましょう、儀式を継続する」

 

勢いよく腕を引き抜き、Nはゆっくりと地面に倒れる。

Nの真後ろにいた人物はピエロの服装をしており微笑みのお面をしていた。

 

「さぁ、新たな母体と共に広がれ…『蘇りの儀式』」

 

少しずつ戻りつつあった空は、元に戻り…更に闇が広がっていく。

 

「あ…あぁ…」

「ん、誰で?んー…あぁ、抵抗する方かな?どうせ屍で蘇りますし殺しておきましょう」

 

そう言ってピエロの男は右手をエドワードに向ける。

 

「『酷使せよ、パレード』」

 

男の右腕がぐにゃあ…と歪む、エドワードが瞬きするとそこは楽しげに踊る人々の姿があった。

全員が幸福そうに笑い、何かを祝っている。

激しい音楽が流れてきた…

 

そして人々は『一斉に自殺を始める』

 

ある者達は喉元を切り裂き、建物から身投げをして。

ある者達は順番にナイフで相手をメッタ刺して、されて。

 

全員が『幸せそう』だった。

そしてエドワードの手には包丁があった、『優しい人が渡してくれた』のだろうと考え周囲の人に同調して包丁を首に添える。

 

 

 

 

 

『エドワード!ダメ!』

 

 

 

 

突然の声にハッとして頭を振り、頭痛のする頭の痛みを紛らわし前を向く。

 

「あれ?どうやって抜け出してきた?君みたいな雑魚魔術師には打ち消せないはずなんなけどなぁ…となると」

 

ピエロの男は苛立ちげにNの方を向くと右手をエドワードに向けて倒れていた。

 

「…この裏切り者がっ!」

 

そう言ってNの体を蹴る、面のせいで表情は見えないが相当腹立っているのかさらに追い討ちをかける。

 

「誰のおかげで魔術師になれたと思ってる!Zさんの手を煩わせてやがって!お前のせいで俺の仕事も遅れてんだよ!反省しろ!」

 

何度も何度も蹴り、時には何かが折れる音が響く。

 

「…ぁ…や、やめろ!」

 

止めようとピエロの男に近づき体を掴む。

が、ピクリとも動かない…まるで1本の大木を動かそうとしてる感覚がした。

 

「邪魔すんじゃねぇ、何も出来ない奴が」

「な、何も出来ないけど…僕だって何かしないといけないんだ!」

「お前1人がいた所で何も変わらねぇんだよ」

 

裏拳でエドワードの顔面を殴り、エドワードは地面をバウンドしながら飛んでいく。

鼻は折れ、血が止まらず軽く脳震盪が起きる。

 

「これが現実だ、カスがいた所で何一つ意味はない」

 

エドワードに右手を向け、諭すように言う。

朦朧とする視界の中、無力な自分が悔しくなる。

視認できる程集められた魔力を見ながらエドワードは後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、だがエドワードのおかげで良い事もあった」

 

何かが高速でエドワードの横を通り過ぎ、ピエロの男を蹴り飛ばす。

吹き飛んだピエロの男は驚きながらも受け身をとり体勢を立て直す。

 

「ふぅ…間に合ったか…」

「…か…柏崎…さん…」

「エド少年、相談してから行動して欲しかったが…その話はこの戦いが終わった後にみっちりとさせてもらおう」

 

1人の小さな男がナイフを逆手に持ち、ピエロの男に立ちはだかる。

 

「うわっ、なんだこのピエロ…サーカスに帰れよ」

 

柏崎悟、魔術師戦に参戦する。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

爆撃開始まであと僅か。



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第86話『極技』

 

異臭と目を覆いたくなる悲惨な現状に息を呑む。

青葉と須郷は徘徊するゾンビに気づかれないよう動きながらゾンビを生産し続けている巨大な化物に近づいていた。

 

「…ゾンビに感覚とかあんのか?」

「ゾンビ映画の定番としては音に敏感らしいですよ」

「小声で喋ってる今は大丈夫なのか?」

「さぁ…?ですが気づかれてない以上、この程度ならバレない事が証明された訳です」

 

小声で喋りながら壁や障害物を経由して移動する2人、徘徊するゾンビの数が多く巨大な化物に近づけば近づく程その数は増している。

 

「あんま悠長にしてたら囲まれるな」

「その場合は彼らの朝食になるだけですから安心ですね」

「安心要素あったか…?」

「まぁ私はその場合雅弘さんを囮にして逃げるので」

「とんでもねぇ奴だな…っ!」

 

移動の道中、邪魔になっていたゾンビの頭部を蹴り飛ばし道を切り開く。

その際に頭はあさっての方向に飛んでいく。

 

「うっ…やっぱり慣れませんね…」

「慣れたらおしまいだと思うぜ、相手はもう腐った死体だ…深く考えずに行くぞ」

「そう、ですね」

 

口に手を押さえながら青葉は須郷の後に続く。

 

 

 

 

それは突然起こった。

乾いた音が鳴り響き、近くに捨てられていた空き缶が甲高い音と共に跳ね上がり…音を鳴らしながら地面を転がった。

咄嗟に青葉が周囲を確認すると、遠くに銃を構え青葉達に銃口を向けているローブの姿がひとつ。

そして音に反応したのか、どこからともなく多数の呻き声と足音が向かってきていた。

 

「雅弘さん!」

「あぁ!俺から離れるなよ青葉ぁ!」

 

狙われているのも問題だったが、集まってきているゾンビの群れも脅威であり一瞬の思考で強行突破を選択する。

走っている2人の近くを弾丸が着弾し、発砲音が響き渡る。

 

「震波拳っ!」

 

巨大な化物までの道を塞ぐゾンビ数体に拳を叩き込み…だがゾンビの動きが止まらず殴った勢いで吹き飛ばす。

 

「くそっ…!肉体ダメージが少ねぇ!」

「雅弘さん、頭部もしくは下顎を狙ってください」

「頭は分かっけど顎だァ!?」

「最悪噛まれそうになっても顎がなければ大丈夫ですよ、ほら次来ましたよ!」

「だぁ!クソッタレが!」

 

須郷の猛攻によりゾンビの群れは文字通り肉塊に早変わりしたが数が減らない、むしろ増えていた。

 

「(やはり敵の数が多い…この数を雅弘さんが捌ききればいいんですけど…)」

 

青葉が少し前に進んでいる須郷を見る、まだ息は上がってないが巨大な化物との距離とその間にいるゾンビの数…そして継続して撃たれていることを考慮すると各箇所にいる狙撃手に気を配りながら敵と戦う…

 

「(途中で雅弘さんの体力が無くなり全滅バットエンド…戻ろうにもまだ把握できてない狙撃手がいる事を考えると蜂の巣エンド…救いないですね〜…)」

 

切り抜ける為の策を考える事に集中してしまった青葉、自分に向けられている銃口に気づくのが一瞬遅れてしまう。

 

「な…!しまっ…」

 

咄嗟に回避行動を行い数発の弾丸を避ける事に成功する、だが1発の弾丸が足を僅かに抉りながら貫通する。

激痛と回避している途中だったせいもあり青葉は体勢を崩し地面に倒れてしまう。

 

「青葉ぁ!」

 

それに気づいた須郷が戻ろうとするがゾンビがそれを邪魔する。

そして倒れている青葉にも3体のゾンビがゆっくりと近づいていた、近づいてくるゾンビを見て魔改造カメラを取り出し1体に投げつけるがグチャッと音を立て当たり地面に落ちる。

 

「はは…そのカメラ数百万するんですけど攻撃力は皆無のようですね」

 

諦めるように、へたり込み項垂れる。

今にも食いついてきそうなゾンビが近くまできている。

どこから間違っていたのかもと考え始める始末だ。

 

 

『全て狂気の世界を覗いた時からだったか』

 

 

 

 

 

 

腹の底を震わせるような振動が3回起き、青葉は驚き少し跳ねる。

 

「な、何ですか!?」

 

顔を上げるとそこには大きな風穴が頭にできたゾンビが3体目の前に倒れている。

 

「HAHAHA!見ない顔だね!アシカワ、あれがニッポンの超人かい?」

「そう、そうです!青葉さーん!須郷さーん!」

 

声がした方を向くと、スーツとカウボーイハットというコスプレのような格好をした謎の外国人…ケイトと芦川が走って来ていた。

 

「あ、芦川さん…?よかった…無事だったんですね」

「他人より自分を心配してください!止血します!」

「それもいいがここ射線が通らないからこっちでするのをオススメするよ」

 

ケイトが背にしている家は安全圏らしく、芦川は青葉を抱き抱え移動する。

その間に須郷がゾンビを文字通り蹴散らしながら青葉達の場所までやってくる。

 

「おい青葉無事か!」

「ははは…心配かけてしまって申し訳ありません」

「たっく…他の連中に俺が怒られるだろうが…んで、芦川だったか?そいつ誰だ」

 

安堵したのか一息ついた須郷は少しずつ距離を詰めてくるゾンビを紫色のモヤがかかった銃で撃っているケイトを見る。

 

「ケイトさんはエイレーネーアメリカ支部の人でして…」

「なるほど、先に来た特殊部隊のケイトさんという訳ですね」

「は、はい…本当は柏崎さんも一緒に来る予定だったのですけど…」

「どこも予定通りには事が運びませんか…」

 

青葉は呟きながらケイトを見る、近づいてくるゾンビを撃ち抜き接近を許さない立ち回りをしていた。

そして今ある全ての戦力を考え、須郷を見る。

 

「雅弘さん、良い作戦があるのですがやってみません?」

「勿体ぶるな…まぁ良い作戦ってなら聞いてみたいな」

「そんな難しい作戦じゃないですよ、芦川さんとケイトさんがいる今だからできる事です」

 

そう言って青葉は微笑み、立ち上がる。

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

須郷達に少しずつ近づいていたローブ達は射線が切れていた場所に回り込むように移動していた。

そして配置に着き顔を少し出して動きを確認すると大柄な男…須郷が走り出していた所だった、巨大な化物を守る為に銃を取り出し須郷に狙いを定める。

 

それは一瞬だった、まず手首が撃ち抜かれ銃本体が3発命中し地面に落ちてバラバラに壊れてしまう。

そしてそれは複数箇所でも起こっていた。

 

 

 

 

拳銃をクルクルと回し、まだ狙っている敵を確認してケイトは構える。

 

「さぁ、正義の前にこうべを垂れな!」

 

淡く拳銃が輝き弾丸が発射される、発射された弾丸は壁を跳弾し見えない所にいるローブ達に確実に命中する。

それを見ながら青葉は苦笑する。

 

「なんと言うか、当たり前のようにやってますけど透視でもしてるんですかね?」

「恐らく勘で撃ってる筈…」

「勘で百発百中?クソゲーですかね?逃げてるローブの人の足から順番に当たって頭にヒットしてるの見ちゃったんですが」

「…勘…ですかね…?」

「私に聞かないでくださいよ」

 

喋りながらも青葉を守ってくれている芦川と話しつつ、青葉は化物に向かって行ってる須郷の背中を見る。

 

「…簡単な話ですよ、私のような足でまといがいるから雅弘さんは十分に戦えない…守るものが出来てしまった者のジレンマですかね」

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

もう巨大な化物は目前にまで近づけている、須郷は化物の真正面に立つように移動し拳を握る。

一息ついて精神を落ち着かせ、拳を構える。

そして日本を発つ前に弟と会話した事を思い出す。

 

 

 

 

 

『兄さん、兄さんは僕達の技に『最終技』があるのは知ってる?』

『あぁん?なんだお前突然…そんなのがあったのか?』

 

弟が働いている喫茶店に1人やってきた須郷は水を飲みながら休憩中の弟と話す。

 

『そう、父さんが残してくれた伝承の書物に書いてあったんだ』

『親父が…ってもよ、なんで急に俺に?』

『…僕じゃ無理だったから…というのもあるけど…最近兄さん戦う事が増えたじゃない?』

 

そう言われ、須郷は言葉を返せなかった。

エイレーネーに協力してるのは弟には言ってない、だがことある事に怪我をしていたら気づかれてもしょうがないのかもしれない。

 

『兄さんも守るものが出来たんだから必要でしょ?』

『…エンは守るっていうそういうのじゃ…』

『ん?僕がいつエンちゃんって言ったかな?』

『…………』

 

射殺すと言わんばかりに睨みつけると笑いながら謝るように手を振る。

 

『ごめんごめん…………兄さん』

『あん?』

『……兄さんは何で戦うの?』

 

真剣な表情で戦う意味を問われる。

 

『前までは兎も角、今の兄さんは戦わなくてもいいと思うんだ…逃げた僕が言えることじゃないけど』

『…おいおい、俺に戦う意味を聞くってのは愚問ってやつじゃないか?………『仲間』を守る為だ』

『…そうだね、兄さん…なら兄さんにこの技を教えるかよく聞いて欲しいその技の名は…』

 

 

 

 

化物は須郷に気づいてないのかゆったりとした足取りで歩いている、研ぎ澄まされた神経とピリピリと肌が張るような気迫が溢れ一気に駆け出す。

 

巨大な化物に近づくにつれて握っている右拳が痙攣を始める、少しずつ技を抑える事が厳しくなっている。

ほんの数メートルという所で須郷は高く、ジャンプをする。

 

「…くらいやがれ、化物がっ!」

 

『その技の名は…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『極技!震波拳!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

拳が化物に当たった瞬間、巨大な化物は全身が激しく震え…体がパズルのピースが欠けていくようにボロボロと崩れ始め、地面に落ちる時には細かく千切れたように肉片に変わっていく。

 

『ガアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

苦しく呻き、崩壊を止めようとしてるか手で体を抑えたがその手すら崩れていき…

 

 

その場には謎の肉片が大量に残っただけになった。

 

 

「ぐっ…がっあぁ…!」

 

須郷は想像を絶する痛みに震えていた、右手が水袋になってしまったのかと思う程に柔らかくなってしまっている。

 

「…クソが…俺にはまだ…早いってのか…」

 

最終技、『極技:震波拳』は『塵すら残さず』破壊する技である。

 

自身の鍛錬が足りない事を悔やみながら、須郷は意識を手放す。



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第87話『見えない苦痛』

 

左右から、前後から…様々な攻撃が飛んでくる。

それを全て装甲で受け止め利き手側の敵に拳を叩き込む。

だがその一撃はさらに追撃してくる他の敵によって妨害される、拳に棍棒を叩き込まれ軌道がズレてしまい空振りしてしまう。

 

「だらぁ!」

 

体を軸として片足を360度勢いよく回転させフード達を後退させた、だがすぐさま囲まれ多方向から攻撃が飛んでくる。

 

「ちょこまか動きやがって!」

 

追撃しようと動けば妨害され、防御に専念すると様々な方角からの攻撃でジリ貧になりつつある。

洗練された動きに翻弄されながらも誰一人として他の場所に行かせないように立ち回る。

 

「(こいつらの狙いが俺達か街の人達かは知らないが…行かせるわけにはいかないな)」

 

都合よく誠の装甲は黒が殆どの面積を占めている、赤い部分もあるが上手く立ち回れる事が出来ればチャンスを伺っているローブ、または一瞬誠の姿を見失ったローブの男に攻撃が出来たりと反撃は出来ていた。

 

「(けど乱戦はキツイ…せめて翔太郎か緋彩がいてくれると楽なんだが…)」

 

喧嘩慣れしてるとはいえ、そこまでの実戦は積んでない誠にとって1人での乱戦はキツイ…よりも無理に近かった。

今は4対1を装甲で無理やり1対1のように戦っているが打撃系の攻撃が装甲を通り骨にダメージを蓄積していく、限界が近づいているのが身に染みてくる。

 

「ん?………ん?!」

 

1人ゾンビの群れを捌いてる筈の緋彩の方を向くとゾンビ数体が門の近くまで近づいているのが見える。

 

「こんのっ…!」

 

ローブ達の包囲網を強行突破してゾンビに近づき、頭部を蹴り飛ばす。

簡単に飛んでいく頭を見て胃から込み上げてくるものがあったが無理やり飲み込んで目の前の戦いを見る。

 

「緋彩!」

 

そこにはゾンビの群れに捕まりそうになりながら戦う緋彩の姿があった。

 

 

 

 

 

 

戦い初めた時は何ともなかった、しかし戦い始めた瞬間…異常が発生した。

 

「…(く、苦しい…)」

 

突然心臓辺りが締め付けられるように痛み始め体に上手く力が込められない、迫ってくるゾンビは止まるはずもなく緋彩に襲いかかってくる。

 

「くっ…そ…たれ…!」

 

力強く地面を蹴り、地面を駆けゾンビを蹴り飛ばす。

…が止まった瞬間に踏ん張る力が出ず地面に倒れてしまう。

起き上がろうとするがすぐ近くにゾンビの唸り声が聞こえ足を振り周りのゾンビを蹴散らして立ち上がる。

 

「はぁ…はぁ…なんだ…突然…体が…」

 

体が上手く動かない、それだけで緋彩は背筋が凍るように悪寒が走る…自分の取り柄である脚力が思うように動かない事に胸が苦しくなる。

 

遠くから自分を呼ぶ声が聞こえる、誰の声か判断できない。

ただただ足を動かしゾンビを倒していく。

冷や汗が流れる。

喉がカラカラになっていく。

少しずつ蹴る力が弱くなっていく。

 

 

 

 

 

「ボクは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい緋彩、諦めるにはまだ早いんじゃないか?ハードボイルドな探偵の相棒ならシャキッとしろ」

 

視界が狭まった中、ぽんと背中を叩かれ条件反射でビクッと背筋が伸びる。

ほんのりと肌に熱気が感じ周囲を見ると炎に包まれているゾンビの群れが見えていた。

そしてさらに奥にいるゾンビ達に背後から何かが飛んでいきぶつかる、すると炎が広がりこんがりと焼いていく。

背後を見ると街の若者達が手に火炎瓶を持ちゾンビ達に向かって投げていた、中には涙を流しながら。

 

「おかしいとは思ってたんだ、この教会がいくらデカかろうが街の住人全員が入るわけがない…ってな…まぁ…俺達がとやかく言えることじゃないな」

「翔太郎…」

「汗が凄いぞ緋彩、誠の手伝いに行くんだがお前は戻るか?」

 

翔太郎に言われ額の汗を拭い、笑いかける。

 

「何言ってんだ翔太郎、行くよ!」

 

大丈夫と言うように地面を駆けローブ達と戦う場所まで向かう、翔太郎は不審に思いながらも後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あっちはもう大丈夫そうだな、さて…お前らはどうする?今から危害を加えずに捕まえるけど」

 

ゾンビが燃えていくのを横目に見つつ、誠は未だに攻撃を続けるローブ達に話しかける。

だが言葉を返す事は無く休みなく攻撃が続けて飛んでくる。

頭をガードしながら誠はため息をつく。

 

「はぁ…答えないならNOって事でいいんだな?…なら怪我しても『文句ないよな!』」

 

頭部に装甲が張り巡らされ兜になり両手を広げ左右からの棍棒を掴む、そのまま折ろうとしたが少し曲がり折れることはなかった。

 

『鉄でも混ぜてんのか!?痛てぇ訳だよちくしょう!』

 

持ちながら棍棒を回転させローブ達の手から棍棒を奪い取り遠くにぶん投げる。

そしてさらに飛んでくる攻撃をガードした瞬間、ローブの1人が何者かに蹴り飛ばされ吹っ飛んでいく。

 

「おりゃー!誠大丈夫!?」

『俺は大丈夫だが頭蹴られた奴が可哀想だな…っと!』

 

未だに攻撃を続ける3人目の顎を横蹴りで刈り取る、頭が45度曲がりフラフラになりながら倒れる。

最後の1人は現状不利な状況だと判断したのか反転して森に走り出す、が何かに足を取られ倒れてしまい腕が勝手に動いて後ろに組まされてしまう。

 

「逃げるっていうのは戦うことより大変な時がある、勉強になっただろ?」

 

透明になっていた翔太郎の姿が現れ最後の1人は縛られてしまった。

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

未だに燃えているゾンビ…というよりも死体に戻れた者達を街の住人達が見ていた。

ある者は祈り、ある者は溢れ出る涙をこらえられなかった。

 

それを少し離れた場所で見ていた翔太郎と誠は静かに黙祷する、突然巻き込まれ死んでいってしまった人達に向けて。

 

「…勝った…勝ったが…苦いな」

「お前気持ちのいい勝利ができると思ってたのか?」

「そうじゃねーけどさー…なんと言うか…喜べないなって」

「…これからあの人達は悲しみを乗り越えて生きていく事になるだろうな、俺達ができるのは残った人達を守る事…それだけだ」

 

翔太郎は遠くを眺めながらハット帽を深く被る。

 

「…そういや緋彩は?」

「あいつは体調が良くなかったっぽいから中で休ませてる」

「確かにあいつらしくないというか…疲れが溜まってたのか?」

「わからん、だが俺達がやれる事は終わった…後は他の連中に任せるのみだ」

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

教会の一室、緋彩が休んでいた部屋で緋彩は苦しむように胸を抑えうずくまっていた。

あの時のように冷や汗が止まらず、目の焦点がブレ始める。

 

「苦しい…苦しい…誰か…青葉…雅弘…翔太郎…」

 

元気に振舞って誠を助けた時も続いていた胸を締め付けるような痛みが続き、また我慢出来るぐらいまでおさまるを繰り返す。

 

「…ボク…は…『何だ』…?」

 

 

突然口に出てきた言葉、それに気づかず…緋彩は暗い部屋で1人苦しむ。



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第88話『儀式の終わり』

静かな森に似つかわしくない金属と金属がぶつかる音が響く

薄暗い木々を駆け、激しい肉弾戦を繰り広げるピエロの格好をした男と柏崎悟。

互いにナイフを手に相手を牽制し、蹴りや殴りで体力を削り合う。

 

「カクロ、もっとだ…!」

 

柏崎はナイフに変化している相棒に合図をすると引き抜かれていく感覚で体から魔力が吸い取られている事が分かる。

その分、疲労が薄れいつも以上に体が自由に動く…身体能力を底上げして移動しながらの戦闘を継続する。

 

「随分と無理してるようだけど、あの少年から俺を離したいのかな?」

「………」

「図星か?ミジンコレベルの魔術師でも肉壁くらいになったのに勿体ない、相当その武器に魔力を使ってるようだけど自分がどのくらいの魔力量か分かってるのかなっ!」

 

喋りながらも戦闘を続け、大振りの回し蹴りが飛んでくる。

いつもなら避けれる攻撃だが上段蹴りを繰り出したばかりで避けるのは難しい。

「ぐっ…!」

 

どうにか腕でガードし、横っ腹を守ったが威力が高く吹っ飛び地面を転がる。

 

「(あいつら程じゃないが…キツイな…)」

 

痺れる腕を庇いつつ近づいてくるピエロの男に連続蹴りで牽制する、しかし攻撃軽くいなしたと思ったら男は右手を柏崎に向ける。

 

「『酷使せよ、束縛の執着心』」

 

ピエロの男がそう言うとノイズが走るように柏崎の視界に地面から多数の手が生えてくるのが断片的に見える。

魔術の一種だがカクロの力で多少対抗出来ている…が、それでも足を掴まれてる感触が無くなるわけではなく動きが止まってしまう。

 

「くそっ!」

 

男が突き出してくるナイフにナイフをぶつけるが動けないという状況のせいで上手く間合いを取ることが出来ずに何度も蹴りをくらい、一瞬足を掴んでいる手の力が弱まった瞬間にわざと派手にくらい後方に飛んでいく。

骨が軋む音がするがあのままリンチにされるよりかマシと考えながらナイフを構える。

 

「…ジリ貧だな…何か…何かきっかけがありゃ…」

 

きっかけがあればゴリ押しでいけるかもしれない。

だが警戒してる相手に対してそんなきっかけがあるわけもなく…

 

 

 

 

その時、ある変化が起きた。

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

溢れ出る血は止まらない、もう目の前に倒れてる人を助けられない事をエドワードは察してしまい…否定するように頭を振る。

何か助けられる方法がある筈だと魔導書を開きページをめくるがそんな都合のいい呪文は無く項垂れる。

 

「何か…何か方法があるはずなんだ…こんな終わり方があっていいわけがない…!」

 

目の前の女性…Nの目は少しずつ生気が無くなりつつある。

『死』が近づいている。

 

「…僕にもっと力があったら…」

 

噂に聞く超人、柏崎やケイトのように

彼らのように力があれば助けられたと。

だがエドワードは分かっていた、力があるから何だと。

ぽっと出の子供にスーパーパワーがあったとしても使い方を知らなければヒーローごっこと同じだと。

 

魔導書が凄いものだと聞いて慢心していた、柏崎達と行動していればもしかしたら助けられたのかもしれない。

そう現実逃避をしていた、目の前の事に絶望しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなエドワードの頬を、Nが優しく撫でる。

驚き離れそうになるがエドワードぐっとは堪えてNを見る。

もうNの目はほぼ何も見えてない、そもそもN自体は自分をよく知らない筈だった。

だがあの時と同じ雰囲気を感じてエドワードは確信する。

 

「…ごめん…」

 

すっと口から言葉が零れる、救えなかった事を。

だがNはゆっくりと頭を振り感謝するように僅かに微笑む。

そして、エドワードが持ってる魔導書に触れ口を開く。

声が出ず口パクになっていたが何かを言い終わり口閉じた瞬間、本に埋め込まれていた紫色の宝石が色を変え緑色に輝き始める。

そしてNは弱々しく腕を動かし、本の最後のページを開く。

 

「…これ…って…」

 

最後のページを見て、エドワードは呆然としNを見る。

Nは優しく笑うとエドワードの手を握り口を開く、だがやはり声にならないがページと表情で全てを察する。

 

「…分かったよ…僕が君のかわりになる…だから…安心して」

 

エドワードがそう言うとNは安心したように目を閉じ、手を下ろす。

苦しくなる感情を抑えつつ魔導書の最後のページを開き…、呪文を唱える。

 

 

「『酷使せよ、終わりの儀式』」

 

夜がくれば朝がくる、暗い世界に一筋の光が降り注ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『終わりの儀式』

・儀式を終わらせる為の呪文、術者の実力次第では様々な儀式に干渉できる。

・全ての縛られた魂を解放する。

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

銃声がひきりなしに鳴り響く、呻き声と少しずつ増えていく足音が恐怖心を煽る。

 

「芦川さん、この先は駄目です…恐らく360度全ての方角から向かってきるのかと」

「はぁ…はぁ…け、けど須郷さんが起きない以上逃げるしかないですよ!」

 

現在青葉、芦川、ケイトの3人は倒れていた須郷を見つけゾンビの群れから逃れている最中だった。

青葉は須郷を担ぐ事が出来ず、芦川は弾切れになり…必然的にケイトがゾンビの群れを削り青葉が逃走経路を探し芦川が須郷を運んでいた。

 

「ハッ!まるで的当てゲームだね!」

 

そう言うとケイトの魔銃から数十発の弾丸が一気に発射され前方にいたゾンビの群れを掃討する、だがその後ろから津波のようにゾンビが押し寄せてくる。

 

「…ケイトさんがいてもジリ貧ですね、雅弘さんがいればだいぶ変わるんですが…」

 

青葉が須郷を見る、片腕が異様に柔らかくなっておりどんな事があればこんな状態になるのか分からない程の怪我と何度起こそうとしても起きない。

技の疲労か、何かの攻撃をくらったのか。

 

「おっと、Heyアオバ」

「どうしました?」

「流石に使い過ぎた、繊細な武器でな」

 

そう言って光が薄くなっている魔銃を見せてきた、素人目でも分かるほどにこれ以上使うと壊れるのではないかと思わせる程だった。

 

「…万事休す、ですね」

 

口笛を吹きながら銃を回すケイト、オロオロしながら青葉とケイトを見る芦川。

 

「とても余裕そうですが、ゾンビとお楽しみする趣味でもあるんですか?」

「?HAHAHA!私にゃそんな趣味はないよ!ただアンタは知らないだろうが私は信用してない奴に大役を任せるつもりは無いんだ」

「…?何のことですか」

 

ケイトは帽子を外し空を見る、空は未だに夜のままで外は今何時なのかを感じさせない。

 

「つまりはあの2人を信じてるから、私は生き残る…ほら見な」

 

促され、空を見る。

空は夜空だった、だが…1部から僅かに光が漏れている。

 

「…ぁ…ひ、光が!」

 

芦川は震える目で少しずつ広がる陽の光を眺める、地獄のような空間から解き放たれる。

 

「…なるほど、成功…したんですね…柏崎さん」

「ついでにエドだろうね、コソコソと外に出ていったのは許してあげようかね」

 

遠くにも見えるゾンビの動きは鈍くなっていく、全てが終わろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

そう、終わりが近づいていた。

 

 

広がっていく穴から爆音の飛行音が聞こえてくる、そして日を背に何機もの爆撃機が飛行していた。

時刻は既に朝の7時のようだ。

 

「そ…そんな…ここまで頑張ったのに…」

「あれ、なんで入ってこなかったんですかね」

「そりゃ入りたくないさ、ここだけ夜で外から中はよく分からないからね」

 

絶望の声を出す芦川とは打って変わって2人は意見を交わしていた。

 

「なん…なんでそんな余裕でいられるんですか…?」

「おや?聞こえませんか?」

「……?」

 

そう言われ芦川は耳を澄ませる、飛行音に紛れ聞こえてくる音…それは。

 

「ヘリ…?」

 

その瞬間、数機のヘリが広がりつつある穴から続々と侵入し街へ向かってくる。

ある程度近づいたヘリにはアメリカ国旗が刻まれている。

 

「あ、あれって…」

「馬鹿な奴らだよ、成功するか分からないのに…成功する前提で来てるよ」

「信用されてたからでは?」

「そうかもしれないね、そしてこれでまた生き延びた」

 

ケイトは魔銃の爆発性を高め、上空に撃つ。

弾丸はまるで花火のように空中で爆発しそれ確認したアメリカ支部の部隊がパラシュート降下を開始する。

 

戦いは終わったのだ。

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

空は夜から朝に戻りつつある、儀式が終わりつつある。

 

 

「なんでだ…!儀式は継続されてるはずだ…!くそっ!」

 

そう言いピエロの男は雑にカバンにしまった心臓を取り出す、だが心臓とは言えない腐った肉の塊に成り代わっていた物があるだけだった。

 

「………っ!クソが!使えないカスが…このままでは怒られてしまう…」

 

 

 

 

「なんか知らないが…俺達の『勝ち』だ」

 

そんな言葉を投げかけられ男は苛立ちながら振り向くと刃先を男に向ける柏崎がニヤリと笑う。

 

「あれから1晩たった、もう周囲をエイレーネーアメリカ支部の連中が取り囲んでるだろうな…降伏するなら今だが?」

「舐めるなよ…俺達『6席会』がお前ら偽善者達に負けるわけがない!」

「威勢はいいが…逃げなくていいのか?魔術師さまと言えど俺達相手に1人で勝てるとでも思ってるのか?」

 

そう言われピエロの男は戸惑うように周囲を確認し、手に魔力を溜める。

 

「……エイレーネー…覚悟していろ、6席会4席目である俺がお前らを全員皆殺しにしてやる」

「やっぱり威勢だけだな、気をつけて帰れよ」

 

軽く煽られながらピエロの男は空間の歪みに消えその場には柏崎だけが残った。

 

「…はぁ…6席会ねぇ…」

 

遠くに見えるヘリを眺めながら柏崎はある男の事を考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

上がっていく太陽を眺めながら1人の男が街から離れていく。

銀髪を揺らしながら、男は悔しそうに、悲しそうに呟く。

 

「なんで…出てきちまったんだ…何の為に…お前は…」

 

男は避けられない運命を感じながら…今の居場所へと帰っていく。




これにてアメリカ編、終了でございます。
後日談の後、下級席編の次の話へ物語は続く…


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第89話『後日談』

あれから俺達は無事集まり、後処理を行った。

アメリカ支部の治療を受けたが須郷は右手が治らなかった、

これはエンに任せるしかない、そして街の事はエイレーネーアメリカ支部によって『無かった街』という事になった。

と言っても前の街から新しい街へと変わるだけになる、街の住人達は今回あった事は他言無用と誓約書を用意された。

街の子供達は1部の広い家に寝ていた、どうやらゾンビが入り込まないよう魔術を仕掛けてあったらしくその周囲は1匹たりともいなかったらしい。

そして俺達日本組は翌日にも帰国する事になった、俺や芦川は日本支部への報告、超人組は元の生活に戻る為に。

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

「こうあれだよな、帰るのに見送りが3人なのって悲しい」

「私達じゃ不満か?カシワザキ」

「いや不満じゃないけどさ」

 

ジャンカルロ支部長、ケイト…そして

 

「よう、気分はどうだ?エドワード」

「………」

 

魔力を使い果たし今まで眠っていたエドワード、その3人が見送ってくれる事になった。

 

「柏崎さん…ケイトさん…それと芦川さん…ごめんなさい」

「まぁ俺としては丸く納まったし別に」

「私は良い方向に傾くと信じてたから責めはしない」

「あの私だけおまけ扱いになってるのは気の所為ですか?」

 

落ち込んでる表情で見てくるため話題を変える事に。

 

「そう言えばエド少年はこれからどうするんだ?」

「ぼ、僕は…ケイトさんの所でお手伝いをする事になりました」

「エドワードは魔術師の才能があるからね!戦力が増えて魔術の対抗役がいて一石二鳥ってやつさ!」

「……んで実際は?」

 

エドワードがケイトと芦川と話し始めたのを確認し、カルロ支部長にこっそりと聞いてみる。

 

「…魔術師を放っておけないのが大きな理由だね、どうやら今回の敵と同じ魔術を使えるらしいからウチとしても国としても…ね」

「…ま、処分しない方がいい時もある…」

「そうだね、これから彼は我がエイレーネーアメリカ支部…唯一にして初の魔術師隊員かもしれない」

「うちの支部より遅い事について一言」

「今までなら正気を疑ってたが魔術師がいるだけでも対魔術を用意できて隊員達の生存率が上がるから良かったね」

 

エドワード本人の同情とかでは無く利益の事を優先するのは支部長らしいと言うかなんと言うかといった感じであった。

 

「…エドワード、彼女に関しては…残念だったな」

「…いえ…N…彼女の魂は救われた筈です、僕はそれならそれでいいんです」

「ま!エドワードには私がいるから安心しなカシワザキ!」

「それはそういう意味なのかケイト!俺はエド少年にも負けるのか!?」

「ふっ、カシワザキは一生そのままでいるといい」

「え、あの…え?ぼ、僕はどうすれば…?」

「エドワード君は…空を眺めてればいいのでは?」

 

肩を組みニヤッと笑うケイトとそれに戸惑うエド少年を見ると多少の殺意が………ん?

 

「…あぁそうだケイト、あれの後始末しないといけなかったよな?」

「ん?そうだったなーさっさと終わらせるぞカシワザキ!」

「おう、んじゃ芦川…あいつらに少し遅れるって伝えといてくれ」

「分かりました!」

「…あとエド少年」

「はい?」

 

突然呼ばれ何だろうという顔をしてる顔を見て少し同情する、どうやらエドワードはまだ気づいてないらしい。

 

「…新しい生活に慣れるのもいいが自分の事も見直すといい、俺としてはそれしか言えないな」

「…?は、はい?」

 

そしてケイトと一緒に俺は離れにある倉庫へと向かう。

エドワードの背中からケイトを睨んでる足が半透明の少女の事にいつ気がつくのか考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

暗い倉庫、そこにはいくつもの呻き声がしていた。

冷たい倉庫に転がっているもの…それはローブを纏っていた者達であり若い男女であった。

彼らの唯一の共通点は『目』が赤い事でそれ以外の事はわからずじまいであった、何故なら彼らは何も喋らず…どこから来たのが6席会の者か…何も分からない。

 

「…お前ら何も喋らないって聞いたんだが声でもなくなったか?」

「………」

 

柏崎が話しかける、だが誰も喋る気配はない。

 

 

「ケイト」

「あいよ」

 

短い合図と共に、1人の男の頭部が爆発したように飛び散る。

ケイトの持つ魔銃の破壊力によって周囲にいた者達に肉片が飛び散り短い悲鳴が何ヶ所から起きる。

 

「なんだ、声が出るじゃないか…質問に答えられないなら楽にするぞ」

「…しゃ…喋れば殺さないでくれますか…?」

「おう、いいぞ」

 

耐えきれなくなったのか1人の女が喋り出そうとする、だがそれを周囲が止めようと動き口を閉ざせる。

 

「なんだなんだ?…はぁ…1日待てば何かしらの敵が来ると思ったり自爆するかなと思ってたがハズレっぽいな…ケイト」

 

また短い合図と共に銃撃が再開する、悲鳴と泣き叫ぶ声が響く。

 

「話せば殺さないって…!」

「すまないがお前達に利用価値が無くなった、捕虜にする価値も情報も無さそうだしな」

 

銃声は何度も何度も行われ…そして静かになる。

そこにあるのはもう何も言わない存在だけ。

 

「………ふぅ…ケイト」

「なんだい?」

「…正義ってなんだろ」

「そりゃ私達エイレーネーの事さ?当たり前だろう?」

「そっか…そうなんだろうな、エイレーネーに入った時点でそういう事になるだろうな…けど俺ふと考えるんだよな」

 

光がない目と目が合うが柏崎は何も思わない。

 

「俺達は本当に悪と戦ってんのかなって…な」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして柏崎は超人達と共に日本へ帰国した。

波乱の生活は終わりそうには無い。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

皆が寝静まった夜中、人影が誰もいない場所に穴を掘り何かを埋める。

 

それはもう動かない心臓だった、誰のものか分からない。

人影は心臓を埋めると一息ついて空を眺める。

 

「…ちょっと…使い過ぎましたかね」

 

静かにそう言うと暗闇に歩き出してその姿は闇に消える。

カメラのレンズが僅かに光ながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第90話『夢と旅行と煙と』

夢を見ていた。

 

誰かに手を引かれながら走っている、2人は息が上がっており暗く人気ない夜道を走っていた。

 

街灯が点々と地面を照らし2人の姿がはっきりと見える、銀髪に赤目の子供…だが顔は影になってよく見えない。

 

『急げ…!捕まっちまうぞ!』

『もう…無理…足が…動かない…』

 

そう言い少女は足を止めてしまう、少女の足は縫い目跡がいくつもありその縫い目から血が流れ始めていた。

手術をしたのか移植をしたのか少女の足はチグハグだった。

 

『…くそっ!』

『私の事はいいから先に…』

『行けるわけないだろ!…っ!もう来てる…!』

 

少年が振り向くと遠くから何人かの足音が聞こえる、もうすぐ近くまで『奴ら』が来ている事に焦りと恐怖に震える。

 

『…お前はここに隠れてろ、いいか?俺が戻ってくるで絶対出てくるなよ』

 

近くの路地に置いてあるゴミ箱と本の山に少女を運び隠れやすくなるように物を移動させる。

 

『だ、駄目だよ…!見つかったら…』

『大丈夫だ…ちゃんと隠れてろよ!』

 

そう言って少年は路地から飛び出し走り始める、少年とは思えない速度で走り遠くへ消えていく。

 

 

 

 

何も聞こえなくなった路地近くをいつくもの足音が横切っていく。

 

『こちら第1部隊、ターゲットは更に奥に逃げたぞ…どーぞ』

『了解っす、それが最後らしいので確実に捕まえるっすよ…最悪殺処分も』

『分かった』

 

少女は隠れている物の隙間から外の様子を覗く。

 

そこには血が滴っているナイフを持った男が…

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

「っ………!!!」

 

勢い良く飛び起き周囲を確認する、あまり私物が置かれてない簡素な部屋…冷や汗が酷くつけっぱなしのクーラーが音を立てて冷気を出す。

 

「夢…だよな…」

 

頭を抱え涼風緋彩は夢か現実かあやふやになりつつある見た夢を思い出そうとする、だがもうほとんど覚えてなく謎ばかりが残った。

 

「…小さい頃…かな?思い出せない…」

 

僅かに残った記憶も微妙なものばかりで不思議な夢だったなと緋彩は無理やり納得する。

ベットから起き上がり若干ふらつきながら机に手を置いてバランスを取る。

あのアメリカの事件から1週間…日に日に体の調子が悪くなっていくのが実感出来るほどにひどくなっていた。

 

『緋彩、起きてるか?』

「っ!?」

 

部屋の扉の外から声が聞こえ、それに驚き手が当たり机の上の物を床にぶちまけてしまった。

 

『おいおい?早朝から暴れるってのはクールじゃないな』

「ち、違うよ翔太郎!今ちょっと着替えてる途中なんだ!」

『そうか、急げよ?朝飯とコーヒーが冷めちまうからな…それとエイレーネーの奴らに呼ばれてる』

「わ…分かった」

 

扉の外の気配は無くなり誰もいない事を確認すると深いため息をして頬を叩き気合をいれる。

 

「よし!今日も頑張るぞ!」

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

「おいおい、俺達全員呼ぶって何があんだ?」

 

エイレーネー日本支部、応接室。

そこには須郷雅弘、岡園誠、長内青葉、道華翔太郎、涼風緋彩が集まっていた。

応接室の椅子に座って対面しているのはエイレーネー日本支部第1特殊部隊隊長、柏崎悟。

 

「んな重要な事じゃないわ」

「おやおやおや?重要じゃないのに電話では今すぐと言われてましたよね?これはどういう事なのか…!この長内青葉による突撃インタビューが…」

「青葉お前こんなんだったか…?」

「気にするな誠、いつもの事だ」

 

謎にハイテンションの青葉を横目に誠と翔太郎は喋りだしたりなどカオスな状況になりかける。

 

「落ち着けお前ら、緋彩見習えよあいつ静かだろ?」

「……え?あ、何?」

「聞いてなかった見たいですね〜」

「…ま、まぁいいお前らを呼んだのは他でもない」

 

何かを合図すると応接室の扉が開き、エンが入ってくる。

 

「お、エンじゃねぇか」

「すごうおはよ!」

「エンさんエンさん!おはようございます!」

「ぅ…あおばおはよう」

「引かれてんじゃねーか」

 

エンは入ってくるなり駆け出し須郷の隣に座る。

 

「今回お前らには少し『東京』に滞在してもらう事になった」

「東京?」

「そう、東京だ…滞在っていうか旅行だな」

「旅行だぁ?」

 

柏崎はニコニコしながら資料を取り出し超人達に配る、そこには超人達のメンタルケアを〜…と長々と書いてあり須郷や誠はすぐさまダウンする。

 

「目がチカチカしそうだ…んだよこれ」

「前のアメリカの件、上の人らが言うには少し青少年達には刺激が強すぎたから少しは楽しい事をさせて使い潰すんだと」

「おい」

「冗談だって、アメリカの件ではよく頑張ってくれたから2泊3日の豪華東京の旅って事」

 

資料をめくると某有名レストランや某高級旅館の宿泊とドリーム的な国等などと予定等が組まれている。

 

「俺とはえらい違いだが大人として言葉を飲み込んで胸に秘めとくわ」

「ダダ漏れですね」

「とまぁ折角だし街と支部しか行けてないエンも連れてってあげてくれって感じ」

「よ、よろしくおねがいします!」

 

改まってエンは超人達に頭を下げる。

 

「いいですよ、むしろウェルカムです」

「あー、ちょっといいか?」

 

資料を見ていた誠が申し訳なさそうに手を挙げる。

 

「ちょっと俺無理だ、しばらく街から出れない」

「どうしたんだ?」

「最近街で事件とか増えてよ、俺それらの対応というか他の奴らまとめたりとかあってよ…ごめんだけど行けそうに…」

 

頭を下げ両手を合わせてすまないっ!というポーズをとる。

 

「残念ですが仕方ありませんね」

「次の機会に一緒に行こうよ、ね!翔太郎!」

「そうだな、別にこれで最後ってわけでもねぇ」

「すまねぇ…すまねぇ…」

 

超人達の会話が終わるのを待ち柏崎は声を上げる。

 

「それとだな…おい、入れ」

 

そう合図すると扉が開き…2人の男女が並び敬礼をする、方や穏やかそうな顔立ちで少し暗い金髪の女性。

方や一見普通の黒髪男性だが何故かC4爆弾を愛おしそうに撫でていた。

 

「…おい柏崎」

「どした兎仮面」

「なんだこの…変態と女は」

「おや?初対面の人に向かって女、ですか…あまり礼儀はなってないようですが大丈夫です…私が貴方に礼儀作法をお教えしましょう」

「…変人なのかもしれねぇ」

 

会って早々変態と変人扱いをされた2人だが特に反応すること無く立ったままでいる。

 

「こっちの変態は花村烈火(はなむら れんか)…まぁ見ての通り変態だ、爆弾処理に所属してたがちょっと色々あって機動部隊に移動した奴だ」

「……どうも…」

「そんでこっちの変人は貴寅 清星(きとら しほ)…ちょっとやかましいが実力もあるし人付き合いも良い…ちょっとやかましいけど」

「柏崎さん?ちょっとやかましいしか超人の人達に伝わってないと思いますが?」

 

柏崎はうるさそうに少し頭を振り超人達を見る。

 

「念の為こいつらがお前らの護衛をする事になってる、ちなみにこいつら芦川の部下で今日配属だったらしいけど引っこ抜きました」

「今頃芦川さん胃が痛くなってるでしょうね〜」

「初めての機動部隊の部下だって緊張してたからなぁ…」

「しみじみ話してるけど実行犯こいつだぞ」

「さ、流石にボクも酷いと思ったよね…」

 

咳払いをして柏崎は話を打ち切る。

 

「とりあえず、出発明日だから予定開けといてね」

「早いな!?」

「えー?私まだ水着選んでませんよ〜?」

「海水浴だった!?」

「ちげーだろ…ならさっさと準備するか…行くぞ緋彩」

「え!?待ってよ翔太郎!ボク水着持ってないよ!」

「…んじゃ俺らも行くか…」

「いこー!」

「行きましょう!」

「いいなぁ…事件さえなけりゃ…」

 

ぞろぞろと応接室から出ていく超人達、だが最後に出る途中だった青葉が突然立ち止まり部屋の隅を眺め始めた。

 

「どうした?」

「いえ………気の所為でした」

「なんじゃそりゃ…烈火と清星、一応お見送りしといて」

「………」

「私旅行ってそんな行ったことないから楽しみです」

「………俺達は仕事だ」

 

全員が出ていき、柏崎は懐から煙草を取り出し一服する。

何かを考えてるのか眉間にはシワがよっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おんやー?タバコやめたんじゃなかったっけー?」

「偶にはいいだろ…タヌキ」

 

部屋の隅、何も無い所が歪み目の下のクマが酷い情報屋…タヌキが現れる。

 

「それよりさー…あれ『気づいたよね?』」

「まだ分からん、観察眼が鋭いからな…」

「そっかー…」

「…タヌキ、俺達も準備するぞ」

「やっぱり…何かの間違いじゃないかなー?似てるだけじゃ確定なんて…」

「タヌキ」

 

何かを喋り出そうとするタヌキを睨み黙らせ、柏崎は煙を吐き出す。

 

「…いいか、今の俺達は『次は負ける』…だからやるしかない」

 

そして悲しい目で扉を見る。

 

「悪と正義…か」

 

ため息と共に煙を吐き出し、タバコを灰皿に捨て柏崎は旅行の資料をゴミ箱に捨



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第91話『シスターメアリー』

晴天晴れな夏、超人達は街の比較的外側にあるコンビニに集まっていた。

 

「いやぁ…良い天気ですね…」

「青葉溶けそうだね?」

「緋彩ほっとけ、日差しが弱い族だ」

「…あおば…大丈夫?」

「エンさん!私を心配してくれるとはなんて優しい!大丈夫です!この長内青葉…日光なんかに負けません!」

 

暑さでとろけかけていた青葉だったがエンが足元まで駆け寄って見上げるとヒシッ…と抱きつき腕でロックする。

突然抱きつかれてやだやだと抵抗するが拘束が解けず涙目になる。

 

「ずごうー…」

「はぁ…おい青葉、離してやれ」

「はい!分かりました!」

「そこは素直なんだな!?」

「真面目で素直で可愛い、長内青葉をよろしくお願いします!」

「しっかし来ないなあの2人」

「だね、ボク達熱中症になりそうだよ〜」

 

依然としてテンションが高い青葉をそこら辺に翔太郎と緋彩は遠くを見る。

東京までは駅で行くつもりだった超人達、だったが貴寅清星が電車に乗れない事が発覚し急遽たまたま車の免許証を持っていた花村烈火による運転で行く事になった。

 

「そう言えば誠が「お土産は東京○ナナ」がいいって」

「東京バ○ナか、定番の定番だが逆に定番すぎないか?」

「けど安定してると言うか…あ、あれじゃない?」

 

緋彩が指を指すと大きなワゴン車が向かって来ておりコンビニの駐車場に停まった。

そして運転席から花村、助手席から貴寅が降り超人達の所まで歩いてくる。

 

「お待たせしました皆さん」

「いえいえ、今来たところですよ?」

「今来たところ(30分)らしい」

「いま…いま?」

「今なのかな?」

「んな事はどうだっていいだろ?ってもあんた運転とか出来たんだな?」

 

須郷が関心してワゴン車を見ていると花村はチラッと貴寅を見てため息を吐く。

 

「…こいつが運転音痴だから仕方なく俺がしている」

「違います、この鉄の箱が私を拒むんです」

「今度は扉を破壊するな、いいな」

「仕方ありませんね…」

「音痴ってか無知じゃねぇか?」

 

訝しげにワゴン車を眺める貴寅にまた、ため息をして花村は車の方を向く。

 

「…そろそろ行くぞ」

「そうですね、皆さんどうぞ」

「わーい!」

「わーいです!」

「わ、わーい!」

「うちの女性陣は少し元気過ぎる気がするんだ、雅弘」

「俺に言うんじゃねぇ…俺達も行くぞ翔太郎」

 

手ぶらで走っていく少女達、そして1人で全員分の荷物を持つ須郷と翔太郎がワゴン車に向かう。

朝の8時頃、超人達は街を出て大都会へ。

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

時間は過ぎ昼を回った、喧騒が支配するこの場に須郷と翔太郎はあまりにも無力だった。

動くに動けず…かと言って動かないのもキツい。

そう、言わば2人は戦場に…

 

「おい翔太郎、俺達も見て回るのは駄目なのか?」

「雅弘…俺達の役目は長々と続くこの惨劇を見守り時間が過ぎるのを待ち、最後には財布の紐を緩める必要性がある」

「…俺手持ちそんな無いぞ」

「なら死ぬしかない、俺達は大人の余裕というのをあいつらに見せつける必要が…」

「翔太郎さん雅弘さん、これどっちがいいと思います?」

 

死んだ目で遠くを眺める2人の前に2つの服を持った青葉がやってくる、現在超人達はショッピングの真っ最中だった。

 

「こう、先に荷物を預けたりよぉ…」

「仕方ないだろ?旅館側に到着が夕方なんだから」

「おやー?無視はいけませんよ2人とも?」

「あー…どっちもいいと思うぞ」

「適当ですねー、まぁもうしばらくお待ちを…エンさんが楽しんでるのでここは待ってあげるべきですよ」

 

そう言われ須郷と翔太郎は店内を見渡すと少し遠くでエンと貴寅が服選びをしていた、ちなみに花村は車でお留守番である。

 

「…ま、いいけどよ」

「ん?なぁ青葉、緋彩の奴はどうした?」

「緋彩さんですか?今…荒れ狂う戦場に咲く一輪の花を摘みに…」

「トイレか」

「雅弘さん女性相手にトイレはいかなものかと」

「…便所か?」

「悪化しましたね!?少し教育が必要です…」

 

頭上にハテナマークが乱立してるような程頭を傾け悩み始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「〜♪」

 

緋彩は上機嫌に通路を歩いていた、久しぶりの休日らしい休日と超人達との買い物…そして体調が極めて良いことが主な理由だった。

注意散漫になっていた緋彩は、いつもなら気づく曲がり角から出てくる人に気づかず衝突してしまい相手側の荷物が地面にばらまかれてしまった。

 

「あぁ!ご、ごめんなさい!」

「いえ、大丈夫ですよ?はい」

 

地面に落ちた荷物は本らしくカバーが付けられたそこそこ分厚い本がいくつもありそれを慌てて拾ったせいであるひとつのカバーが外れ題名が見えてしまう。

 

『触手×触手!〜禁じ手50ページの行方〜』

 

 

 

「…………ん???」

 

緋彩にとって理解不能な文字が見え、動きが止まってしまい本を凝視する。

 

「あ、気になります?実はそれおすすめの1冊でして私としては何故襲う側が…」

「え?あ…うん…?は、はい…」

「ありがとうございます」

 

嫌な予感がして緋彩は集めた本を女性に押し付けるように渡す、ここで緋彩は違和感を感じた。

それはその女性の服装がシスター服だったからだ。

金髪に青い瞳、顔立ちは外国人っぽいが日本人にも緋彩は感じた。

 

「私の顔に何か?」

「いや!特に理由はないけど…」

「あぁ、もしかしたら本の説明をする時に思わずニヤけてしまったのでそれを見てしまったのですか…まぁ私としては布教できればそれで十分なのでオールオッケーです」

「うん…うん?」

 

会ってからずっと真顔なのにニヤけていたと言うのはボケなのだろうか?と緋彩は考えたが深く考えるのはやめた。

考えていると女性は緋彩をじっと見つめており思わず緋彩は後ずさりする。

 

「な、何かな?」

「……ふむ、貴方には悪いものが取り憑いてる…いえ、元々の自縛が貴方を苦しめてますね?最近体の調子が悪かったり苦しくなった事はありませんでしたか?」

「……!?なんでそれを…」

「見ての通り私は主の従順な信者ですので、見えるんですよ?そういうの」

 

そう言われ、シスター服の女性と目を合わせてしまう。

不安は感じない優しい目だがどこか…緋彩の直感が

『ヤバい』と告げる。

逃げようと体を動かそうとするが思考と違い体が動かない。

 

 

 

 

「おーいメアリーたーん!やっと見つけたー!」

「あ、輝夫さん」

 

緋彩の背後から声がして体の硬直が解ける、声がした方を振り向くと身長は190cm有るんじゃないかという程の長身に頭にバンダナを巻き付けている輝夫と呼ばれた男性が2人の近くで立ち止まる。

 

「もー、拙者の会計待たずに先に行くとはなんて人だと思う…心配した!」

「あ、この人はブヒブヒ言ってますが私の友人の輝夫さんです、最近人語覚えました」

「酷い!心配して探したあげく初対面にブタと紹介されるなんて…!でもそんなメアリーたんも好き!」

「私は嫌いでしたか?」

「ん…!…ん?それ日本語間違ってるかと…」

「なるほど、賢いですね」

 

怒涛の会話を繰り広げる2人は両手に大量の紙袋と輝夫には背中に大きなリュックを背負っていた。

 

「あ、ぼ、ボクはこれで…」

「はい、ではまたどこかで」

 

足早に緋彩はその場から離れ、謎の2人から離れる。

二つの意味で危ない気がしたから。

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

「ふむ、あれが例の?メアリーたん」

「えぇ…どう見ても普通の無知系少女ですね」

「危ないよ?危ないなぁメアリーたんが言うと」

 

2人が話し始めると多少人がいた通路に誰もいなくなる。

 

「それで輝夫さん、あれは手に入れましたか?」

「それは勿論!」

「ツンデレ×ツンデレ×ツンデレの」

「それは無いなぁ…」

 

そう言いながら輝夫はリュックから1枚の紙を取り出しメアリーに渡す、それは細かい文字が多く書かれており証明写真が張り付いていた。

 

「涼風緋彩…幼少期の記録は無く中学に超人としての力に目覚めたが義父を亡くす…その後は超人として探偵の相棒になる…と」

「メアリーたんはどう思う?」

「どう思う、ですか?まぁそうですね…私達は私達の役目を果たすだけですよ」

 

メアリーは紙を放り投げ、それを輝夫は慌てて拾い2人は出口に歩き始める。

 

 

「可哀想ですがこれもまた運命…命のいうのは儚く…また美しく散る…」

「あ、それ前あったアニメのセリフ!」

「いい文化ですね、様々な事を垣間見えて勉強になります」

 

騒がしくも2人は歩き続ける。



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第92話『決別』

 

ざわめく街にひとつの影が通り過ぎる。

人々はそれに気づかず、また注目する素振りない。

 

一目で見れば分かりそうなものだが誰にも気づかれないそれは歩く人々の隙間を縫うように歩き、目線の先にいる集団を目視する。

 

そして歩く勢いが増していき影はその集団に…

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

「…?」

「どうした、青葉」

「いえ…何かがこちらを見ていたような気がして」

「敵?」

「それはありえねぇな緋彩、少なくとも敵意があるなら俺達が気づかねぇはずがねぇ」

様々な観光をし、時刻は夕刻…超人御一行は宿泊する予定の旅館へと向かってい最中だった。

荷物持ちをしている須郷と翔太郎の両手には紙袋が数個あり初日の買い物は成されたようである。

 

「おや、刺客でしたら私が相手いたしまょう」

「落ち着け貴寅…勘違いという事もありえる」

「それもそうですね、それに超人と戦うには立地が悪いでしょうし今は安全でしょう」

 

パッと見では異色のカップルのようにも見えなくはない2人は周囲に気を配りつつも目的地まで進む。

 

「しかしよぉ、混んでたからって車を置いていくか?普通」

「あまり待つ…というのは好きじゃない、全ての車両を爆発してもいいのならスグにでも動かせるが」

「やめろやめろ!」

 

超人達が乗ってきた車は渋滞に巻き込まれてしまい、それにイラついた花村烈火が歩きの方が早いと言い乗り捨てたのである。

後で業者が回収するらしいが。

 

「それより見ろ、少し歩いたが…ふむ、少し都内から離れると田舎だな」

「なんか町外れに作りました感が凄いですね」

「少し(15km)…?」

「少しって距離なのか?」

「あいつやっぱりおかしいよ翔太郎…」

「見るな緋彩、距離感覚が狂った哀れな奴だ」

 

大分歩いた超人達が辿り着いたのは人々の五月蝿さから遠い場所にある、風情ある旅館だった。

中に入ると旅館の女将が出迎え、それぞれの宿泊場所に連れていく。

 

「おい花村…」

「なんだ筋肉ダルマ」

「なんでてめぇらは個室で俺達は同室なんだ…?」

 

部屋の割り振りを見て須郷が噛みつく、貴寅と花村はそれぞれ個室だが何故か超人達は広めの部屋に1箇所に集められていた。

 

「柏崎に文句は言え、俺達は何もしてはいない」

「あんのクソチビがぁ!エンが狭い思いをするだろうがっ!」

「そこですか!?もっとこうあるでしょう!?」

「ボクは翔太郎達と同じ部屋でもいいよ〜…」

「他に空室はないのか?」

 

翔太郎が不思議に思い、貴寅に話を振ると貴寅はにっこりと笑い疑問に答える。

 

「他は全部空室ですね」

「確信犯だな」

「完全に狙ってますね」

「許されざる行いだなー…」

「あのチビ帰ったら覚えとけよ…」

「わ、私は皆と一緒だと楽しいからいいよ…?」

 

仮面越しでも分かるほど怒っている須郷は携帯を取り出し柏崎に電話をかける。

だが何コール過ぎても出る気配は無く、機械音声が要件を録音すると伝えてくる。

 

「…はぁ、とりあえず風呂だ風呂!歩き疲れた…」

「混浴とは大胆ですね雅弘さん」

「ちげぇよ!男湯と女湯で分けてあるだろうが!」

「この旅館混浴あるの?」

「えっとですね…はい、ありますよ混浴」

「調べんな!」

「おいおい雅弘、あまり慌てるのはクールじゃないな」

「なんでお前は冷静なんだよ…」

「温泉初めてだから楽しみ…!」

 

ワイワイガヤガヤと騒ぎながらも須郷達は着替えを持ち、疲れた体を癒す為に温泉へと向かう。

 

 

 

 

騒がしい少年少女達が居なくなった部屋で、花村と貴寅は通信機を手に取りどこかへと連絡を取る。

 

「こちら花村…作戦を開始する」

 

 

──────────────────────

 

 

影は遠くの鉄塔の上から旅館を見ていた、傍観者である影は冷静に周囲を観察して全ての起きうる可能性を考慮し移動を開始する。

全ての出来事を確認し、記録し、見定めなければならない。

 

影はいつの間にか鉄塔から消えている。

その場には黒い鎖の破片が落ちているのみだった。

 

 

──────────────────────

 

「いやぁ、いい湯でしたねぇ…あ、今の私に恋するのは駄目ですよ?」

「しねぇし…はしたねぇから着崩すな」

 

服を着崩して須郷をおちょくる青葉にチョップして反省させる、全員風呂上がりで湯上りの風の涼しさを感じながら2階の階段を登って廊下を歩き部屋に戻っていた。

 

「エン、お前肌赤くなりやすいのか?」

「え?うん、そうだよ」

「おやおやー?駄目ですよ〜?女性の肌をジロジロ見るのは」

「なんでも駄目じゃねーか…!」

「いいか雅弘、男ってのはチラ見程度が1番紳士なんだ」

「翔太郎さんのは紳士ではないのでは…」

 

他の客が居ないからか、人目を気にせず大騒ぎする超人達だが青葉はひとつ気がかりがあった。

それは…

 

「緋彩さん?大丈夫ですか?顔色が悪いですが…」

「…ぁ、ごめん…大丈夫だよ青葉」

「なんだ、気分でも悪ぃのか?緋彩」

「大丈夫、大丈夫だから」

 

湯に入っている時から少しずつ顔色が悪くなっていき、明らかに体調が良くないように見える緋彩に青葉と緋彩は言葉をかけるが大丈夫の一点張りであった。

 

「…翔太郎さん、緋彩さんを病院に…」

「だ、大丈夫だから!少し疲れただけたがら、部屋で休めば大丈夫だから…」

「ですが…」

「青葉、緋彩が大丈夫だと言ってるんだ…そんくらいにしてやれ」

 

翔太郎は中途半端な笑顔をしている緋彩を見てため息を吐く。

 

「部屋で休ませよう、無茶はするな」

「ごめんよ…翔太郎…」

「…仕方ないですね、早く戻って休息を…」

 

 

部屋に急ごうとした瞬間、突然廊下を照らしていた蛍光灯の光が消え闇に包まれる。

 

「な、なに…!」

「落ち着けエン、停電だろうな」

「困りましたね、窓からの月明かりがあるとはいえ暗いのは変わりないですし…」

「しょうがねぇが…見えねぇわけじゃねぇからな…部屋に行けばスマホのライトで…」

「静かに」

 

動こうとした須郷の肩を掴み、翔太郎は人差し指で静かにするようジェスチャーをする。

 

「どうした翔太郎」

「………何人かの足音がこっちに向かってきる、それにこれは…金属が鳴る音…」

「…まさか敵ですか?」

「まだ分からない、旅館の従業員が移動してると思いたいが音は一直線にここに向かってる以上…な」

 

須郷と青葉は拳を、カメラを構え臨戦態勢を取る。

 

「音を鳴らすとはド素人ですね」

「そうなのか?」

「少なくとも奇襲をするなら音が出てしまうのは大失態ですからね」

「移動するぞ、花村と貴寅と合流する必要がある」

「そうだな、戦えるもんを増した方が…っ!危ねぇ!」

 

咄嗟に気づき須郷は手を伸ばし飛んできた何かを掴む。

 

「ッ!」

「雅弘さん!?」

 

須郷の手から血が流れ、何かを落とし廊下の床に突き刺さる。

それは金属の反射を防ぐ為なのか黒い刃のナイフだった。

 

「すごう!傷が…」

「こんくらい大した事じゃねぇ…が…!このナイフ…まさかな…」

「これは……なるほど、理由は分かりませんが私達を奇襲しようとしてるのがどこか分かりましたね…ですよね?『柏崎さん』」

 

 

青葉がそう言うと、廊下の奥からぬっとガスマスクを付けたエイレーネー戦闘員服を着ている男が現れる。

そしてガスマスクをゆっくりと外し、その顔がさらされる。

 

「よぉ、よく気づいたな」

「このナイフ、使ってるのは柏崎さんですからね〜、私記憶力はいい方ですので」

「羨ましいな、記憶力良いの」

「私の才能ですからね」

「…おい青葉、何悠長に喋ってんだ」

 

話し始めた2人を見て須郷は苛立ちげに声を荒らげる。

 

「おい柏崎!てめぇ…なんで俺達に武器を投げた?」

「武器の意味知ってるか?相手の命を奪う為にあるんだぜ?」

「…改めて聞くぜ、俺達に武器を向けた理由はなんだ!」

 

拳を握り、廊下の壁を横殴りで叩き木製の壁に大穴が開く。

 

「怖いな、俺達エイレーネーが矛先を向ける対象は何か知ってるか?」

「…人類の害あるもの、正義に対立するもの…組織の障害になるもの、でしたか」

「正解、すまないが平和の為の致し方ない犠牲だったんだと理解した上で受け入れてくれ」

 

ホルダーから変わりのナイフを取り出し、構える。

目からいつものふざけた雰囲気が無くなり冷水のように冷たい目をしている。

ヒシヒシと感じる殺意を振り払い須郷は拳を構える。

 

「…てめぇが俺達に勝てると思ってるのか?」

「そうだな、俺はお前達超人とは違い一般人だ…だから文明の力でお前達に対抗する」

 

柏崎を手を挙げ合図すると反対側の廊下から銃を構えた武装集団が一斉に銃口を超人達へ向ける。

その後ろに立っていたのは…

 

「タヌキさん…」

「やっほー、タヌキさんだよー」

「なるほど、物理面と魔術面でも完璧と言いたいので?」

「超人と言えどお前らは人間…刺されれば死ぬ、撃たれれば死ぬ…エン来い、そこにいると巻き込まれるぞ」

 

柏崎に呼ばれ、エンはオロオロしながら口を開く。

 

「か、かしわざき…なんで…?」

「なんで、もどうして、もないんだよエン、来い」

 

威圧をかけられ、エンは泣きそうになりながら須郷と柏崎を見て…須郷の裾を掴む。

 

「…なるほどな、最近喋ってくれるようになって嬉しかったが…残念だ」

「てめぇ…何が目的なんだ」

「それをお前らが知る必要は無い」

 

柏崎が合図する為に片手を上げた瞬間、翔太郎と須郷は互いにアイコンタクトをとり青葉、エン、緋彩を掴み体を盾に守ろうとする。

お互いの距離と最適手段を考えた結果、動くには遅過ぎると考え自身の体で耐えてから手段を考える結果に至ったのである。

 

「馬鹿な奴らだ…撃て」

 

上げていた手を下ろし、戦闘員達に合図を送る。

トリガーに指をかけ引く…

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、突然須郷達の床が爆発し煙と共に落下していく。

 

「ぬぁ!?」

 

咄嗟に着地し、落ちてくるエンと青葉を受け止めた須郷は周囲を確認する。

どうやら1階の廊下まで落ちてきたらしく緋彩を抱えている翔太郎の姿が目に入り…

 

「ふむ、威力よし…範囲よし…超人達に落下以外の不安要因なし…ふふふ…我ながら美しい計算された爆弾だ」

 

爆弾を片手に頬ずりしていた花村烈火が出迎えるように立っていた。

 

「お、お前…」

「おや、手の平が負傷しているが上で何かあったか」

「どけ須郷!」

 

唖然としている須郷の横を走り抜け翔太郎は花村に回し蹴りをくり出す。

それに気づいた花村は落ち着いた表情で小型の爆弾を時間差で床に落としスイッチを押す。

すると先に落ちた爆弾が爆発し、後に落ちた爆弾が丁度向かってくる翔太郎の顔近くに飛んでくる。

 

「なっ!?」

 

両手で顔をガードする…が、いつまでたっても爆発が起きる気配は無く隙間から見ると爆発しないまま爆弾が地面に転がっていた。

 

「人の話をよく聞くといい、それが生きる最大の術だ」

「こいつ…」

「………もしや私達を助けてくれるのですか?」

「助ける?勘違いしないでほしい、私はあまり今の方針が気に食わなくてね」

「……なるほど」

 

花村は全員いるのを確認して着いてくるよう手招きをして旅館の玄関へと向かう。

青葉達はそれを追いかけ花村の隣を急ぎ足で並ぶ。

 

「あの、貴寅さんは?」

「あの女は今頃…楽しんでるだろう」

「…?」

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

爆発が起き、下に落下していく超人達と入れ替わるように何かが煙幕から飛び出てくる。

手に持っている薙刀を振るい、柏崎に叩きつける。

それに気づき柏崎はナイフを盾にするように薙刀の刃を受け止める。

 

「てめぇ…裏切る気か?」

「如何なる理由があろうと、若者の命を摘み取る行いには賛同できませんね」

「…再属先を変えるだけじゃ済まなくなるぞ」

「エイレーネーは正義に従うのでしたよね、ならば私も私の正義に従います」

「そーかよ、なら芦川に貴寅は殉職したって伝えとく…ぞ!」

 

薙刀を振るう貴寅の攻撃を避けつつ蹴りやナイフで対抗する、突然の事に困惑していた戦闘員達は銃口を柏崎に襲いかかってきた貴寅へ向ける。

 

「ちょっとちょっとー!柏崎くんに当たっちゃうよー!君達は下に逃げた超人追っかけてー!」

「りょ、了解!」

 

タヌキに言われたどたどしく下の階に行く階段に向かって走っていく、それを見た貴寅は薙刀を上に放り投げ。

それに釣られて一瞬上を見てしまった柏崎の顎を的確に蹴り上げ、そのまま廊下の穴に落ちていく。

 

「それでは…ごきげんよう」

 

そう言って貴寅の姿は見えなくなり、その場には倒れた柏崎とタヌキだけが残った。

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

「…行った?」

「行ったよー」

 

気だるそうに起き上がり柏崎はタヌキに治療を受ける。

 

「………さて、ここからだが…巻き込んでごめんな」

「いいよー、けど命が危なくなったら身代わりになってねー」

「はいはい…」

 

治療を終え、柏崎は窓の外を眺める。

 

「1歩間違えれば全滅…か…」

 

新品のナイフを手に、柏崎とタヌキは暗闇に消えていく。



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第93話『作られた者』

夜道の住宅街を走る一行は追っ手が向かってきている事に気づきながらも手が出せず難儀していた。

 

「おい翔太郎!てめぇが透明になって襲撃するじゃ駄目なのか!?」

「雅弘さん、それは悪手ですよ…翔太郎さんの力は体力の消費が激しい上に相手はエイレーネー…どこからまた増援が来るか分からない以上、下手に戦って消耗するのは避けた方がよろしいかと」

「…クソッ!!!」

 

暗く、そして不気味な程静かなこの場に耐えきれないと言わんばかりに須郷が叫び、それを青葉が宥める。

戦えないエン、そして未だに翔太郎に背負われ返答が出来ない程にぐったりとしている緋彩がいる今戦うには守るものが多い。

 

「ならお前は何か出来ないのかよ!花村!」

「手持ちの爆弾があの2階爆発で使い切ってね、貴寅が合流するのはしばらく先だろう。この状況では足を動かすしかない」

「花村さん、私達は今どこへ向かってるのですか?」

 

息が少し乱れてる青葉が前を走る花村に聞く、闇雲に走り回ってるのなら隠れた方がいいのでは…と。

 

「そろそろだ、俺達の協力者がここ辺りで待機している」

「どこにもいる気配はないな、俺の予想が正しければ追っ手にもう追いつかれる」

「クソっ…翔太郎、最悪全員ぶっ飛ばすぞ」

「追いつかれた時点で蜂の巣にされる可能性が高いが…無抵抗よりはマシだろう」

 

抱えていたエンと緋彩を青葉に渡して戦闘態勢をとる須郷と翔太郎は自分達が来た道を見る。

奥から闇に紛れ向かってくる数人の人影が僅かに見え拳を構える。

 

「青葉ぁ!エンと緋彩、ついでに花村と物陰に隠れとけ!」

「ぐっ…おも…くはないですよ?緋彩さん、いやぁ…軽いなぁ…はは…」

「足が震えてるぞ超人」

「花村さん、超人と言えど皆須郷さん達みたいに力持ちじゃないんです…」

 

周囲に気を配りつつ、近くのブロック塀に身を隠す4人を確認し須郷はホッと一息をつく。

 

「雅弘!」

「ッ!震波拳ッ!」

 

咄嗟に呼ばれ技を繰り出す、空気を震わせ飛んでくる物体の勢いを失速させ地面に落とす。

飛んできた物体は弾丸であり、奥から軽い音と共に弾丸が無数に飛んでくる。

 

「あいつら…ッ!見境無しか…!?ここ住宅街だぞ!」

「自分達の存在が露見しても構わないって覚悟か…?」

「柏崎ならそんな事しねぇぞ…!」

「あいつらは俺達が知ってるエイレーネーの奴らとは違うらしいな…雅弘、これ以上騒ぎが大きくなる前にやるぞ」

「頼むぜ翔太郎!」

「任せろ、雅弘」

 

互いの拳をぶつけ翔太郎は透明になり、ブロック塀の上に立ち屋根の上に登ってエイレーネーの戦闘員達へと近づく。

須郷は拳を振るい、飛んでくる弾丸をどうにか落としてはいるが前に進む速度は早くはない。

 

「(遠距離攻撃をするにもこの猛攻じゃ無理だ…翔太郎急いでくれ…!)」

 

遠くから「本当に人間か!?」「ば、化物…!」という声が聞こえる、まさか銃弾を全て背後にも行かせず手前で止めるとは思わないだろう。

その間にも翔太郎は戦闘員達に近づき、跳躍し1人目をかかと落としで意識を刈り取り回し蹴りで2人目を始末する。

 

「懐が…がら空きだ」

「よし、今行くぞ!」

 

内側から荒らされ須郷から意識が外れた瞬間を狙い須郷は一気に距離を詰め戦闘員の残りを1振りで塀に叩きつけ無力化する。

 

「おいおい、俺が攻撃する必要無かったようだな」

「てめぇが意識を外してくれなけれぱ俺が穴だらけになってたんだよ、ありがとうな」

「まぁ今は戻って場所を移動しなけりゃな…」

 

と、話しているとさらに奥から数十人規模の気配がして2人は冷や汗を流す。

 

「嘘だろ…そこまでする程俺達を殺してぇのか…?」

「恐らくだがそれ相応の理由があるんだろうが…何か身に覚えはあるか?」

「ねぇよ…エイレーネーって所を怒らせる事はしてねぇはずだが…」

「………考えてもしょうがない、次の連中を倒して戻るぞ」

「数…ちと多かねぇか?」

「あの人数に追われるのは勘弁だ」

 

拳を構え、透明になる為に集中する。

少しずつ銃を持って向かってくるエイレーネーの戦闘員を視認し、駆け出す。

向かってくる超人達に気づき銃口を向けトリガーに指をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、両者の間に何かが落下し須郷達と戦闘員達は動きを止める。

コンクリートの道路を破壊する程の速度で落下してきたそれらはゆっくりと着地体制から立ち上がり着地と同時に巻き起こった煙から姿を見せる。

紺のローブに背丈やローブから見え隠れする姿から若者のような雰囲気を感じる…その姿に須郷と翔太郎は見覚えがあった。

 

「…ッ!てめぇら…あの時の…!」

「ここにもいるのか…」

 

アメリカの時、翔太郎を退け緋彩と誠を1度は倒したローブの者達が5人。

動きが起きず膠着状態になって場を最初に動いたのはローブの者達だった、5人中2人がエイレーネーの戦闘員達を襲い初め、残りの3人が須郷達の方へ走り出す。

 

「う、撃て!撃て!」

「ぎゃあああああああああ!!手が…手があぁぁぁ!」

 

銃を向かってくるローブに乱射するが当たる気配はなく簡単に接近され拳1振りで戦闘員の1人の腕があらぬ方向へと千切れ飛んでいく。

 

「雅弘!こいつらお前程じゃねぇがパワーがある!気をつけろ!」

「ハッ!俺以下なら恐れる程じゃねぇ!やるぞ翔太郎!」

 

拳を構え、殴りかかってくるローブの拳を受け流しその腹に渾身の一撃を叩きつけ吹き飛ばす。

吹き飛んだローブは威力を殺しつつ着地し、拳をまた構える。

その時、須郷は自身の拳…ではなく腕に違和感を感じる。

まるで数時間腕を酷使し、さらにトレーニングをする時のような脱力感。

 

「クソっ…なんだ…力が入らねぇ…」

「雅弘!1人抜けたぞ!」

 

1人のローブと激闘を繰り広げている翔太郎からそんな声が聞こえ振り向くと最後のローブが2人を抜いて奥にいる青葉達に向かっている姿が見える。

 

「こんの…!」

 

追いかけようと体を反転させた瞬間、背後から殺気を感じ避けると吹き飛ばしたはずのローブが殴りかかってきており外れた拳は地面を殴り、コンクリートを粉々にする。

 

「邪魔すんじゃねぇ!」

 

ローブに攻撃するが、避けられ反撃をくらい時間がかかる。

その間にもローブは青葉達に近づく。

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

「なるほど、戦えない人達を狙うとは恥ずかしくないのですかね?」

「あ、あおば!どうしよう…」

「花村さんが戦えれば万事解決なんですがね?」

「私は暴力が苦手でね」

「使えないですねー」

 

向かってくるローブに立ち向かうように青葉とエンは立つ。

 

「エンさんがいるのは心強いですね」

「わ、私だって戦えるもん…!」

「そうですね、ですが無茶をしないように」

 

エンの周囲に紫色のオーラが漂いはじめ、青葉はカメラを構え戦闘態勢を取る。

ローブは超加速で向かってきており1番近くにいる青葉に拳を振り上げ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…『アキラ』…?」

 

 

そんな声が聞こえ、ローブはピタッと動きを止める。

声は青葉達の背後……塀を背もたれにしぐったりとしていた緋彩が虚ろな目で青葉達の方を向き口を開いていた。

だが呟いた後気を失い眠ってしまう。

 

「…なるほど?貴方はアキラ…明?さんと言うのですね?緋彩さんが何故知ってるのは分かりませんが恐らく知り合いもしくは旧友といった所でしょうか?」

 

青葉の言葉にローブはたじろぐと同時に青葉は勝機を見出す。

 

「(少なくとも動揺してる、時間を稼げば稼ぐ程こちらが有利になる…)貴方は…」

 

優勢になりつつある2人を確認し、時間を稼ごうとした瞬間

ローブの体が一瞬にして消え横の塀を破壊し民家の庭に消えていく。

 

「おや、無事のようですね皆さん」

「貴寅、あまり派手な音は出すな…流石にそれはカバーできんだろう」

「戦いにくいものですね、私達が気を使うのではなく…あちら側が頑張ってもらいたいものです」

 

中段蹴りの体勢の貴寅が困ったような顔をする。

先程の破壊音が原因か、様々な家から物音や声が聞こえ始める。

 

「…不自然な程にここ辺りの住民に気づかれませんでしたが…何か理由があるようですね」

「はい、っと…お迎えが来たようですね」

「戦闘が終わるのを待っていたが騒ぎになってしまった以上来ざる負えなかったのだろう」

 

すぐ先の十字路、青葉達の方へスライドドアが向くように来た1台のワゴン車が停まる。

 

「行きましょう」

「まっ、まって!まだすごう達が…」

「…俺達ならもう来てるぜ…あいつらすぐに消えやがった」

 

多少の擦り傷を負いながらも戻ってきた2人、青葉が戦闘が起きた場所を見ると戦闘での破壊されたものだけが残り

人っ子一人いなくなっていた。

 

「私達も急ぎこの場から離れましょう、急いで」

「…あぁ、青葉…緋彩は大丈夫か?」

「はい…ですがまた気を失ってます」

「エン、お前の力で原因が何か分からないか?」

「うん…見てみたんだけど普通だったの…」

「…翔太郎、今はどうしようもねぇ」

 

須郷に促され、翔太郎は緋彩を抱えワゴン車へと乗り込む。

そして全部が乗ったのを確認し車はその場から逃げるように移動していく。

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

とあるホテル、そこに超人達が乗った車は停り降ろされ各個人へと部屋が割り振りされる。

他に客は居ないらしく、どこか寂しさを感じる廊下を歩きながら青葉は緋彩の部屋の扉を開く。

 

「皆さん、花村さんと貴寅さんが呼んでます」

「あいつらが…?」

 

中には寝ている緋彩、もたれ掛かるように寝てるエンと椅子に座り何かを考えていたのか静かにしていた翔太郎と須郷がいた。

 

「はい…重要な事だと」

「重要…か、行くぞ翔太郎」

「……いや、俺はここに残る」

「…分かりました、行きましょう雅弘さん」

「あ、あぁ」

 

緋彩を眺めている翔太郎を残し、2人は部屋を出て廊下を歩く。

 

「しかし、見た限り俺達の貸切みてぇだが…エイレーネーの所有物か?」

「私達は追われの身ですよ?…まぁ追われる筋合いはないのですが」

「そうだな…何か知ってるはずだ、納得出来る理由が聞ければいいが…」

 

廊下を歩き、花村の部屋の扉をノックすると鍵が開き花村が扉を開ける。

 

「…道華翔太郎はどうした」

「翔太郎さんは緋彩さんを見てます、私達2人でも構いませんよね?」

「……入れ」

「では失礼して」

「邪魔するぜ」

 

中に入りまず目に入るのはベットの上で瞑想してる貴寅と机の上に散乱してる火薬と配線等の小物が山ほど積まれていた。

 

「……………来ましたか、どうぞおくつろぎください」

「俺の部屋だがな」

 

仏の顔のように穏やかに言っていた貴寅の頭にチョップし、痛みに悶絶する貴寅を横目に須郷と青葉は椅子に座り真剣な表情をする。

 

「…花村さん、私達が何を聞きたいか…分かりますね?」

「分かってる、順を追って説明するが…まずこれを約束しろ」

「約束だと?」

 

花村は須郷、青葉の目を見て人差し指を立てる。

 

「この話を聞いても、取り乱すな…そして考えろ」

「考えろ…だと?」

「あぁ、これからのお前達の立場というやつを…だ」

「…話を続けてください、私達は常に自分達の道を選んでます…選択は聞いてからでも遅くはない」

 

足を組み、花村の目を見る青葉。

しばらくお互いの腹の探り合いをするように見つめ合って花村が先に折れてため息を吐く。

 

「一応信じるかはそちらに任せるが俺と貴寅はお前達の手伝いをする…言わば味方と捉えてもらってもいい」

「…柏崎さんから私達を助けてくれた事を考えて、今は信じるとしましょう…ですが私の目は誤魔化せませんのであしからず」

「超人は敵に回したくないと俺は考えている、それに貴寅がお前達を気に入っているしな」

「おや?私言いましたか?」

「見れば分かる」

 

須郷をそっちのけで話し始める3人を見て、須郷は咳をして注目を集める。

 

「…話が少ズレてねぇか?」

「そうだったな、ではまず…お前達は今3つの組織から狙われている」

「エイレーネーと、あのローブの人達の所でしょうね」

「あいつら人並み以上のパワーを持ってやがる…何もんだ?」

「まぁ落ち着け、お前達は『エイレーネー』『神聖連盟』…そして『日本政府』だ」

「…は?」

 

花村がサラッと言った2つの新しい組織名に須郷は困惑する。

 

「今俺達に協力しているのは『神聖連盟』…そして襲ってきたローブ達は政府に作られた超人だ、エイレーネーはそれら諸共消すつもりだ」

「お、おい」

「そして…それら全てはお前達の仲間…涼風緋彩を狙っている」

「おい!何のことだ!話が飛びすぎて…」

「雅弘さん静かに…花村さん、緋彩さんが狙われる理由と今の不自然な体調不良…関係があるんですか?」

 

青葉は手帳とペンを取り出し、花村へ質問をする。

 

「…俺達が今知ってる情報としては涼風緋彩は今超人の能力に心身が追いついてない状態だ、このままでは超人の力に食われ死ぬだろう」

「なっ…!」

「そして、涼風緋彩はお前達とは違う」

「私達と違う…?」

 

腕を組み、花村は諭すように口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「涼風緋彩は政府によって作られた『人工超人』で数万の命から生まれた完成された人工超人の1人…つまり、涼風緋彩は作られた超人という訳だ」

 

花村から出た言葉に須郷は固まり、青葉は頭を抱える。

 

 

 

 

 

 

真実と混沌とした苦しい戦いの火蓋が切って落とされる。



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第94話『影の者』

空から落下して落ちている感覚に襲われ緋彩は冷や汗を流しながら飛び起きる。

早まる心臓の鼓動を落ち着かせながら周囲を見ていると見慣れない壁にふかふかのベット、どうやらどこかのホテルらしいと理解する。

 

「……………」

「あ…翔太郎…おはよう」

「…あぁ」

 

横を向くと椅子に座り足を組んだ状態で寝ていた翔太郎が目も開けずに返事をする。

 

「…えっと、ここどこ?」

「どっかのホテルだ、お前の意識が無くなってからここに身を置いてる…気分はどうだ」

「え?うーん…大丈夫…だと思う」

「…そうか、下であいつらが待ってる時間の筈だ」

「あ、そうなの?」

「早く降りてこいよ」

 

そう言い残し、翔太郎は部屋を出ていき部屋の中には緋彩だけ残る。

しばらくしてベットから降りて伸びをして筋肉を解しながらぼーっと考え事をする。

 

「…何か…大事なことを、忘れてる気がする」

 

喉まで出かけている何か、それが分からないまま緋彩は服を着替え仲間達の元へと向かう。

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

人の気配がほとんどしない廊下を歩き、ホテル内レストランに入るとエンの頬を揉んで遊んでいた青葉が店内に入ってきた緋彩に気づき手を振って呼ぶ。

 

「緋彩さーん!こっちですよー!」

「…エン大丈夫かお前…」

「すごうぅ…」

 

涙目になっているエンを見て苦笑しつつ緋彩は席に着く。

花村や貴寅、青葉、エン、須郷、翔太郎もおり全員が一斉に食事を開始する。

 

「おい緋彩おめぇもう大丈夫なのか?」

「大丈夫だよー、なんか情けない姿見せちゃったかな?」

「体調悪ぃならよ…あんま無理すんなよ?」

「ごめんごめん、もう大丈夫だから」

「だといいが…」

 

疑い深く緋彩を見ながら巨大ステーキを頬張り喉に詰まりかけている須郷を見つつ青葉は花村に話題を振る。

 

「しかし、追われの身である私達ですが…普通に考えてこんな所即見つかるのでは?」

「しばらくは柏崎の妨害で見つかることはないだろう」

「何…?」

 

柏崎の名が出てきて翔太郎は食事の手を止めジロリと花村を睨む。

 

「なんであいつが出てくる」

「今回俺と貴寅がお前達の手助けをしているのは支部長からの命令だからだ、そして柏崎もその1人」

「あぁ?けどよ、あいつ俺達を殺す気で来てたぞ」

「今回の件で他の幹部達が猛反発してな、必ず超人達を始末する必要がある…と」

「…?何故ですか?昨夜聞きそびれましたがエイレーネーの方々が私達を狙う理由が分からないのですが」

「…?なんの話してるの?」

 

小難しそうな話が始まり翔太郎に聞く緋彩。

青葉、翔太郎、花村、そしてエン(須郷は気づかなかった)はアイコンタクトをして話すべきかを確認し合ったが翔太郎が首を振りまだ緋彩が何者であるかを言うのは遅らせる事になった。

そして気づけない須郷は何度か視線が集まり困惑。

 

「あー、今回の敵は超人を作り出す超人が現れている…だがそれらを悪用し…えー…超人を兵器として扱おうとしている者達が政府の中にいてな、昔にもそれを行いエイレーネーに大打撃を与えた事がある」

「いつの話ですか?」

「10年前の話らしい、俺達は知らないが柏崎が当時戦っていたらしい」

「あ、ちょっと待ってください」

 

そう言って青葉は手帳を取り出しメモを取り始める。

 

「どうぞ」

「あ、あぁ…その時にエイレーネーはその研究をしていた研究所を徹底的に破壊した…らしい」

「ですが現に襲ってきてるという事は」

「また研究が始まっている…そして…あー…幹部達はお前達の事も疑い始めている」

「俺達が敵だってか?」

「そうだ、組織の纏まりを考え最低限の逃げる手段と人員を護衛として預け今回の裏を取るまで潜むつもりだ」

 

話疲れたのか花村は飲み物を飲み一呼吸置いて超人達を見る。

 

「俺や貴寅はあの組織に未練はない、この件が解決しても戻るのは厳しいだろう」

「私としては芦川さんという人には会っておきたかったですね」

「誰だそいつは」

「私達が最初配属される予定だった隊の人ですよ」

「…興味無いな」

「おっと、話を続けても?」

 

コホンと咳をして時間を置いて青葉は口を開く。

 

「現状エイレーネーの方達は私達を狙っている、そしてその政府の方達も私達を狙っている…?のは分かりますが…」

「そうだな、おい昨日言ってた…あの…なんだったけ青葉」

「『神聖連盟』ですよ、雅弘さん…大層な組織名?ですが私達に隠れ場所を提供してくれるあたり優しい組織なんですね」

「…なんか難しいね、翔太郎」

「そうだな」

 

ペンを回しながら花村に質問をする青葉、それを聞きながら目を点にしている緋彩はストローでジュースを飲む。

 

「…なんと言うべきか、俺達に協力してくれいる幹部がいる

そしてその幹部は今日俺達の所に来る予定だ」

「ほう、幹部の方が直々に来るとは相当私達を重要視してるのですね」

「…いや、ある意味そうかもしれない」

「ん?どういう事です?」

「それは私が説明しましょう」

 

茶碗蒸しを食べ終え会話に混ざってきた貴寅が微笑みながら口を開く。

 

「まず幹部の方が直々にというのも、神聖連盟は各々勝手に行動してる組織なんですね、だから今回もその人が独断でやってるのでその人が来るしかないのですよ」

「…ん?それは組織…というので…?」

「思想が同じだけの集まりみたいなものですね、彼らは魔のものを嫌い…しかし中には魔も使い方〜…と言ってる者もいれば全ての関連する物人全てを消せという過激派もいます」

「なるほど…なるほど?」

 

納得しかけ、どうにか踏みとどまり目頭を抑えながらペンを机の上に置く。

 

「その幹部の人が来るということは、何かしらの見返りを求めてるのでしょうか」

「それは俺達にも分からん、だが…」

「…だが?」

「恐らく巻き込まれるだろうな」

 

花村はその言葉を最後に喋らなくなり、食事を続ける。

超人達は嫌な予感を感じつつ…食事を続ける。

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

昼前、2人の人物がビルの屋上を陣取って休憩をしていた。

 

「タヌキ、あいつらは無事に逃げれたかな」

「そーだねー、東京に駐屯してるエイレーネーの兵士は優秀ですけどそれでも人間止まりだから捕まることはないんじゃないかなー?」

「だといいが…あー水うめー」

「今日は暑いねー」

 

真夏のビル屋上は休憩には適してないがここにいる理由が2人にはある為炎天下の中居座っていた。

 

「タヌキ、それっぽいのはいたか?」

「いやー…まだ感じないねー…隠すのが上手いかここじゃないのか…」

「…もう少し探してくれ、そろそろ見つけないと上がうるさくてな」

「はいはーい」

 

アイスを食べながらタヌキは集中し丸メガネを付ける。

魔力を細かく視認するメガネと本人の視覚を最大限に引き出しある反応を探していた。

 

「…微力な魔力4つ…これは違う…」

「人が多いと、魔術の才能があるのがいてもおかしくはないか…やっぱり」

「まーねー、だけど魔術に触れない限りは何も気づかず過ごすよ」

「…やっぱりこの街じゃないのか?」

「これで9つ目だねー、研究所はどこにあるやら…」

 

柏崎とタヌキが探してるもの、それは超人を作り出している研究所だった。

人工超人、10年前エイレーネーが破壊した研究所の場所には当然いるわけがなく東京全体を探し回っている最中であり

柏崎はとある可能性を感じていた。

 

「恐らく6席会が関与してる、最高位の魔術師か…はたまた天才か…どちらにせよ魔力が隠せても残留して痕跡はあるはず」

「けど、尻尾どころか痕跡すら見つからないんじゃねー」

「…急がねぇとな、神聖連盟のどこのどいつが関与してるか知らないがあんまりあいつらと関わらせたくねぇ」

「私苦手なんだよねー」

「俺もだ、あいつらスグに噛みついてくるから」

 

苦い顔をしてこめかみを押さえる。

様々な意見が交差する神聖連盟の幹部達は時によってはエイレーネーの障害になる為交戦する事が多い。

 

「とにかく、あと10分何も無かったらここから移動する」

「そだねー…熱中症になるよ」

「そこら辺の喫茶店で休憩でもするか…」

「おー、何かおすすめの場所でもあるのかなー?」

「いや、それは…」

「私がお教えしましょうか?お二人さん」

 

自分達ではない第三者の声が背後から聞こえ、柏崎はナイフを構える。

自分だけではなくタヌキからも背後を取った相手を考え冷や汗が出ながらナイフを声の主に向ける。

 

「誰だ!」

「私を忘れるとは悲しい、言いましたよね?お前らエイレーネーを皆殺しにすると」

 

物陰から足音と共にピエロの仮面を付けた男が現れ、2人の前に立つ。

 

「…おいおい、誰かと思えば口調が安定しない野郎じゃないか?キレて本性出さないように訓練はしてきたか?」

「……貴方達が我々を探っているのは気づいていましたが、魔術師を使ってるとは驚きですね」

「タヌキさんはフリーの魔術師だからねー、君達の事も可哀想とも思わないねー」

「同じ魔術師としては仲間ではないのが悔やまれますね」

「すっごい無視するなこいつ…」

 

ナイフを構えジリジリと近づき、タヌキもじっくりと視覚的にも紫色の魔力を集めいつでも攻撃できるようにする。

相手に気づくようにしているのは現状でのこの場で戦うのは難しいと判断しての事だった。

 

「…(タヌキは兎も角、俺はあのピエロ野郎の魔術に対抗するのが厳しい…今の俺では逆に足でまといになる、どうにかしてここは撤退させるしかない)」

 

アメリカで戦った時の感覚と魔術を思い出しながら自身の実力が相手の力に負けている事を理解し、いつでも戦えるというハッタリを仕掛ける。

 

「…タヌキ、俺が前に出るから援護を頼む…………おい?」

 

反応のない相棒に違和感を覚え、目線を後ろに向ける。

 

 

 

 

 

タヌキは反応しなかった、のではなく出来なかったのだ。

口を背後から塞がれ背中から刃物で刺されていたせいで。

 

「…タヌキ…!」

「………………」

 

咄嗟にその場から駆けタヌキに奇襲を仕掛けた謎の影に回し蹴りをしようとする。

だがその影はタヌキから刃物…クナイを抜き柏崎の方へ突き飛ばす、避けられずタヌキにぶつかる形で柏崎はぶつかりタヌキの頭が頭から落ちないよう手で支え屋上の床に背中で着地する。

 

「おい!タヌキ!」

「油断…しちゃったよ柏崎くん…」

「くそッ!」

 

傷が深いらしく、傷からの出血が止まらないタヌキを応急処置しようとするが影からのクナイ投擲の追撃に邪魔される。

クナイを弾きつつ反撃しようとした瞬間、背中からの殺気に気づき手でガードするがそのまま腕がへし折れながらピエロの男の蹴りをモロにくらって貯水タンクにぶち当たり屋上の床に落下する。

 

「ぐっ…が…」

 

息が出来ず、肺が動きを上手く行うことができない。

骨が折れたのか身体中が激痛に襲われ腕から白い何かが飛び出ている。

 

「ふむ、これで大丈夫だろう…流石佐助…優秀ですね」

「……………」

「喋らないのが難点だ、が…残りの敵はあと少しだ、働いてもらいますよ」

 

そんな声が遠くから聞こえ、屋上からピエロと影の男…忍者装束が姿を消す。

全身の痛みに悶えながら柏崎は体を這いずってタヌキの元に向かおうとする。

 

「…くそ…がっ…タヌキ…タヌキ!」

 

何度も呼びかけるが声が帰ってくる事はなかった、気絶してるのか…それとも。

 

「…最悪だ、まさか…6席会の方が関与してる…とは…」

 

エイレーネーの兵士達も研究所を探している、だが魔術師が関与しているのなら今の兵士達では太刀打ちができない。

そして何よりも厳しいのは。

 

「あいつら…が…孤立する…」

 

超人達には戦力は少ない、柏崎が超人達の支援をしている状態でならイザとなればエイレーネーの兵士との衝突を避けさせる事ができる。

 

「…全面戦争になる…」

 

超人達の敵が増える事は負担が増える事に繋がる、神聖連盟は戦力になるのは難しい。

花村と貴寅がいるとはいえ、この東京という地に超人達だけが取り残された形になる。

 

「……やっべ…意識が…」

 

遠くなる意識の中、超人達の安全を祈る事しか出来ず

柏崎は意識を手放してしまう。



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第95話『狂い狂いされ』

 

 

昼ご飯を食べ、満腹になった超人達は神聖連盟の幹部が来る時間まで各々寛いでいた。

ホテルのロビーに警戒も含めた食後休憩をしていた涼風緋彩と道華翔太郎はトランプを片手にババ抜きに興じていた。

 

「翔太郎」

「なんだ緋彩」

「なんでババ抜きなの?」

「人数が足りないからな、青葉達は別の事をしている以上無理に誘うのは難しいしな」

「エンちゃんも雅弘にべったりだからねー」

 

圧倒的に顔に出てしまう緋彩がボロ負けし、表情筋をピクリともさせずに圧勝する翔太郎。

手に持っている2枚のジョーカーを上空に放り投げ全身を脱力させだらりとする。

 

「…緋彩、ちょっといいか」

「ん?どうかしたの?」

「……お前のその体調が悪くなるのはいつからだ?」

「…さ、最近だよ?」

 

うわずった声で下手くそな口笛と目逸らしでバレバレだが、言いたくないのだろうと判断し翔太郎は気づかれないようため息をする。

 

「そうか、体調が悪くなったら直ぐに言えよ?」

「あぁ!そうさせてもらうよ」

 

相棒の見え見えな嘘にチクリとした痛みを感じながら翔太郎は自身で作ったコーヒーを飲む。

 

「そう言えば翔太郎、神聖連盟?の幹部の人ってどんな人なんだろうね」

「ん、あぁ…確かもうそろそろ来るはずの奴か」

「そうそう!どんな人なんだろう…」

「好き勝手やってる組織の幹部だ、自由奔放な奴だろう」

「でも幹部だよー?ボクは誠実な人で優しくて勇気があって…あと凄く強くて真面目で勤勉な人だと思うなぁ」

「どこのスーパーウーマンだ」

 

協力者であり、何かを要求する者であろう幹部を待つ2人の妄想は広がり完璧人間のような人物像が出来上がる。

もちろんそんな人間そうそういないと分かってる2人の他愛のない妄想であるが。

 

「…ん?翔太郎、誰か来たみたいだ」

「気をつけろ緋彩…敵の可能性もある、その場合はお前は上に行って青葉達を呼べ」

「戦えば気づくと思うけどなぁ」

 

ホテルの外からゆっくりと来る2人の人影は少し反射し見えずらいガラスの自動ドアからその姿を表しホテル内へと入ってくる。

 

「あっ」

「どうした緋彩」

「あの人…知ってる」

「なんだと?」

 

緋彩が指を向けた先にいる向かってくる2人の人影、2人も気づきお互いの声が届く距離に近づき1人が微笑みながら口を開く。

 

「おや、涼風緋彩さんですね?また会えるとは奇跡としか言い様がないですね」

「奇跡って言葉好きだよねメアリーたん」

「奇跡と言えば大抵の人が私の姿見て納得するので楽なんですよ」

「悪用!?それは悪用だよメアリーたん!」

「誰も不幸じゃなければそれは良い行動ですよ輝夫さん」

 

漫才を始めたかのように喋り始める2人を呆然と見ていた緋彩と翔太郎に気づき、緋彩が最初に出会ったメアリーがニコッと微笑む。

 

「申し遅れました、私神聖連盟の幹部メアリー・ペリオットと申します、こちらは名もなき豚です」

「とうとう豚にされた!けど一応存在を伝えてくれたメアリーたんマジ神!ゴッド!」

「私は主に仕える信者ですよ」

「あ、いや比喩でねメアリーたん…」

「まぁいいでしょう」

 

どこからか取り出したハリセンで輝夫の頭を軽く叩き翔太郎達の方を向く。

 

「さて、仕事の話をしましょう

他の方も呼んでもらいましょうか」

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

ホテルの応接室、そこには須郷雅弘、長内青葉、涼風緋彩、道華翔太郎、エンが各々ある2人の対面する席に座っていた。

 

「…なぁ青葉」

「なんでしょう雅弘さん」

 

目の前のメアリーと輝夫に気づかれないように間にエンを置いてる上から2人は小声で話し始める。

 

「…あいつ何読んでるんだ?」

「…私から見える範囲では『激凸!炎の軟体生物!』…と」

「なんだよそれ」

「さぁ…恐らく同人誌?なのではないでしょうか…本屋で見た事ありませんから」

「カバー付けてるのにカバーが少し外れて見えてちゃ意味ねぇだろ…」

 

花村と貴寅が遅れてやってくると言い、2人が来るまでの時間をつぶす必要がありメアリーと輝夫にもそう伝えるとメアリーは本を取り出し輝夫はノートPCを取り出していた。

 

「輝夫さん、この文はなんと読むのでしょう」

「あぁ、これは『地獄の炎の力でお前をたこわさびにしてやる!』…こいつは何を言ってるんだ…?」

「この作者は勢いと迫力のある文は良いのですが時に表現がよく分からないのが難点ですね」

「けど輝くものがあると思う」

「そうですね、熱意と作品を楽しんで作っているのが伺えますね」

 

本を閉じ、別の本を読み始めた辺りで部屋に花村と貴寅が入って来て全員を見る。

 

「遅れてすまない、貴方が神聖連盟の?」

「はい、神聖連盟…メアリー・ペリオットと申します」

「そして漢の中の漢!竹之内輝夫と言えばこの男ォ!」

「彼はハイブリッド社畜です」

「そう!ハイブリッド社畜…ってメアリーたん!?」

「愉快な方達ですね花村さん」

「…頭が痛い」

 

コントをするように喋り始める2人を見て花村は頭を抱える、また面倒なのが来たと。

 

「さて、皆さん集まりましたし本題に入りましょう」

「本題に入るまでおせぇな!?」

「はいはい雅弘さんどーどー」

「…ボク達どうしよ翔太郎」

「聞いてればいいんじゃないか」

 

花村、貴寅がそれぞれ席に座り…部屋全体にピリッとした緊張感が張り詰める。

エンは怯え、超人達も咄嗟に臨戦態勢をとったがこの緊迫とした空気を作っているのはメアリー、花村の2名がお互い探り合うように鋭い目を交差させた為である。

 

「…早速聞こう、わざわざ俺達に接触しホテルまで用意して何が目的だ」

 

ドスの効いた…と言えど少し厳しめ程度の声で花村はメアリーに問いかける。

メアリーは輝夫に手を向け何かを受け取るとお互いの間にある机の上に受け取った物を花村の前に置く。

それは1枚の写真であり、その写真には…

 

「建物…それも山奥で撮られたようだが」

「はい、そこはとある研究所でして…貴方達…そこにいる涼風緋彩さんが今1番欲しいであろうものがある場所です」

「っ!?ぼ、ボク?」

「おいメアリーって言ったか?緋彩が欲しいものってなんの事だ」

 

木々の生い茂る場所、ポツンの広がる木が生えてない広場にある建物が映された場所…そこに突然名が上がった緋彩は驚き翔太郎は詰めようように身を乗り出しメアリーを睨む。

 

「涼風緋彩さん、貴方は自身の超人としての力を使う時…もしくは最近で体調の不調があるのではないですか?」

「…なんでそれを」

「私は知っているのですよ、貴方は体に心が追いつかず今にも爆発してしまいそうな爆弾のようになってるのです」

「…ボクが…?」

 

なんの事か分からず、だが体調不良は当たってる為冗談とも思えず困惑し頭を抱える。

その姿を見て花村は話を続ける。

 

「メアリーさん、あまりうちの者を困らせないで頂きたい」

「申し訳ありません…が、これは本人が自覚し知っておかなければならない事です」

「………話を続けてくれ」

 

諭すように話され、翔太郎は話の続きを促す。

 

「この建物は超人を研究してる機関の建物であり、超人の心理状況を整える薬を制作し完成しているという情報を手に入れまして」

「…!まて、それは」

「はい、貴方達エイレーネーが探してる研究所です…そしてそれが知られればその研究所は破壊され内部のは全て破壊されるでしょう、薬も含め」

 

話を客観的に聞いていた青葉は自身の情報を整理し始める。

まずエイレーネーは超人達全員と敵対しており話を聞くことはない。

また超人を作り続けているであろう組織もエイレーネー&超人達を始末しようと動いており、こちらも和平は厳しいとされる。

 

「…なるほど、私達はエイレーネーの方達が発見する前に薬を手に入れなければならない、そういう事ですね?」

「はい、その研究所にしかないと考えるとそこを潰されれば緋彩さんは苦しむ事になるでしょう」

「ま、まってくれ!」

 

話がかなりの勢いで進んでいる状況に緋彩は待ったをかける。

 

「ボクが…その薬を手に入れる?のは分かる、だけどなんでそこまでしてくれる?」

「というと?」

「ボクとメアリーさんはあの時会ったくらいでそこまで仲良い訳じゃないし…何が目的なんだ…?」

 

少なくとも現状緋彩が助かる美味しい話だけが来てる状況に危機感を覚える緋彩はメアリーに問いただす。

 

「私は主に仕え、主の方針に従い、また主の名の元に正しき道を歩く事を使命としています…というのは建前でして」

 

メアリーは姿勢を正し花村の方を向く。

 

「今回の件、手柄を私達神聖連盟にしてもらいたいというのが目的ですね」

「手柄…だと?」

「えぇ、この事件の黒幕がいるのは確実です…その身柄を捕まえ渡してもらう、私達は貴方達に隠れ場所を提供する、情報も渡す」

「…青葉」

「はい、メアリーさん少しよろしいでしょうか」

「何でしょう」

 

腕を組み考えていた須郷は青葉を見て呼ぶ、青葉はそれの意図に気づきペンと手帳を取り出す。

 

「まず、断る…というのは可能で?」

「断ってもいいですが、緋彩さんの事をお忘れで?」

「一応聞いただけですよ…まず貴方達の助力は得られるのでしょうか?私達は超人と呼ばれてはいますが未成年というのは変わりないのですよ?」

「人員は私と輝夫さんだけですが?」

「…話になりません、が緋彩さんの為に条件を飲むしかないのでしょう?」

 

青葉の鋭い目に動じる事も無く、メアリーは涼しそうな顔をする。

 

「えぇ、ですが最大限の手伝いはしましょう

お互いの『利益』の為に」

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

夏空の眩しい日光が全員の肌を焼き、だが木々が僅かに日を遮っている為極端に暑くはない。

 

「緋彩、大丈夫か」

「大丈夫だよ翔太郎」

「…エンはどうだ?」

「私も…大丈夫…だよ、すごう」

「エンさんかなり疲労してますしおんぶしては?」

「そうするか…」

「うぅ…ごめん…」

 

山道を歩いている集団、須郷雅弘、涼風緋彩、道華翔太郎、長内青葉、エンは動きやすい服に着替えとある場所を目指していた。

 

「あいつらが見せてきた写真の場所はあとどんくらいだ…?」

「もう少しです」

「そうか…潜入って言ったら翔太郎の能力が輝くな」

「俺の能力はそんな長くは続かない、ある程度近づく必要がある」

 

超人達はメアリーの条件をのみ、花村と貴寅は隠れ場所に待機して安全を確保している。

大人数で行くのは良くない、その上花村と貴寅はそこら辺の強者よりも強いが人間止まりなのもあり超人達にはついて行くことか不可能だった。

その為超人達と治療要員でエンが研究所を目指していた。

 

 

「…見えてきたな」

「恐らくあれでしょうね」

 

茂みを進み視界の先に大きなビルのような建造物が立っていた、外から見える窓には何人かの人影が歩いているのが見え人がいる事が分かる。

そして裏口らしき扉が見える。

 

「…翔太郎」

「あぁ、お前ら手を出せ」

 

翔太郎が全員の体に触れた瞬間、姿が消え始めパッと見ではどこにいるのか分からなくなる。

 

「…よし、行くぞ!」

 

 

──────────────────────

 

 

1人の男が目を覚ます、ダンボールに囲まれながら眠そうに目をこすりながら上半身を起こし伸びをする。

部屋のダンボールにあるのは資料なのか何人も出入りするが誰も男を気にしない…というよりも気づいてない。

誰もが寝起き缶コーヒーとあんぱんを食べてる男に気づかない。

 

「ふぁ…見つからないなぁ」

 

ダンボールを机に紙を広げる、それは何かの見取り図のようで1から5までの数字と階層が書いてあり、1〜4はバッテンが付けられていた。

 

「んー…分からない!あー!分からない分からない!神様成分も足りないー!」

 

ダンボールを押しのけ蹴散らしてゴロゴロ転がる姿は駄々っ子のようで文字だけなら可愛らしいが180も身長がある成人男性なので見苦しいとも言える。

 

「…ん?誰だ?…来客がいるとは言ってなかったしな…Kではないし…」

 

男は立ち上がり窓際から外を見て…ニヤリと笑う。

 

「まさかここで巡り会うとはね、これも運命かな?」

 

視線の先には何もいない、だか男が見ていたのは何かが通ったであろう僅かな土の飛び散った痕跡や微妙に見える足跡…翔太郎達であった。

 

「くふふ、彼らを使えばぐっと楽になるな…敵の敵はまた味方になる…熱いねぇ…嫌いじゃない」

 

男は窓際から離れ下に降りる為に扉を開け廊下に出る。

 

 

 

 

 

 

「また遊べるのが嬉しいよ、超人諸君」

 

 

 

 

破滅的で破壊的で狂信的な男、1度は超人達を苦しめた存在。

 

『A』

 

狂った男を解き放つように扉が静かに動き音を立て閉まる。

 



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第96話『既視感』

繁栄と喧騒が多い街、異常な程の開発計画で拡大し頓挫した事で廃墟が多いこの街の静かな誰もいない路地に何人もの男達が倒れていた。

 

「ふぅ…お前らこいつらを連れて行け、俺は残りを片付ける」

「へい!」

 

武器を手に持っている男達が倒れてる男達に引っ張り車に乗せ何処かへと運んで行き、その場には腰に手を当て伸びをする若者だけが残った。

 

「あいつら今頃何してるかな、行きたかったなぁ…東京…」

 

1人だけ残り街を守っている超人、岡薗誠は他の超人達が居ないことに更に調子乗って暴れようとしていた別組織を全部ぶっ飛ばしている最中であった。

 

「まぁ、超人と言ったらあいつら4人っていうのが根付いてるから仕方ないか…俺も最近超人って呼ばれるようになったし」

 

その身体能力や変身による装甲は他の超人に引けを取らないが知名度故にあまり知られてはない。

 

「…さて、さっきから物陰から俺を見てるのは誰だ?」

 

手足に装甲を纏わせ威圧するように曲がり角から感じる気配に問いかける。

すると簡単にふらっとバットを持った青年が姿を現し無表情のまま誠を見てくる、それに不気味さを感じながら装甲を纏わせた指を青年に指して口を開く。

 

「草野球が好きな好青年にしては来る場所やってる事が良くねぇな、目的はなんだ」

 

廃墟が目立つ街の1部、街の学校で義務教育を終えているのなら全員が知ってるはずの事であり近づいてはいけないのは絶対知っている。

だからこそ一般人がここにいるのは怪しいを通り越して敵、とも言える。

 

「…………………」

「だんまりか、まぁいい…俺に用があるならさっさとこい?のんびりと戦う…余裕…は…」

 

喋る度に何か違和感を感じ、ゆっくりと周囲を見る。

1人、2人、3人とどこからか鉄パイプ等の武器を手にした若者が誠を囲むように姿を現し逃げ道がほぼほぼ無くなってしまっていた事に気づく。

 

「…まぁ、嫌な予感はしてたんだ…逃げなかった俺の悪いところが出ちまったな」

 

苦笑しながら背後から近づいてきて誠の頭を狙った鉄パイプを装甲でガードする。

常人では考えられない威力と行動力からただの一般人とは考えず敵と認識し、片手で鉄パイプを掴み襲ってきた若者に回し蹴りを当て建物の壁に叩きつける。

 

「…この感覚、あの時会った奴らに似てるな…お前達の目的はなんだ?復讐か?それとも…」

 

ざっと周囲を確認すると先ほどよりも人数が増えていた、数人規模ではなく数十人規模になりつつあった。

 

「俺の始末、と言ったところか…いいぜ?あいつらが居ない今俺がこの街を守る」

 

全身に装甲を纏わせ手をクイクイッと動かし挑発する。

遠くから謎の人影に見られている事を知らずに。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

時を同じくある人物達が危機的状況に陥っていた、それは…

 

 

「…なぁもう壊した方が早くねぇか?」

「駄目に決まってるだろ雅弘、今緋彩が開けてる最中だろ」

「けどあまり時間をかけしまうとその分危険が高まるのですよね…」

「だ、大丈夫?ひいろ?」

「任せなさーい、この緋彩さんにかかれば鍵開けなんて一瞬一瞬…」

 

翔太郎の能力により建物の壁まで近づけて尚且つ裏口らしい扉を見つけ翔太郎と雅弘の聴覚が正しければ扉の先には誰もいない、そこまでは順調であった。

だが裏口の扉は鍵によって閉ざされており建物の中の人々は防犯対策は完璧だと言うことが分かる。

そして緋彩が鍵開けに挑戦するが難航しており5分が過ぎようとしていた。

 

「うーん…大体は合ってる筈なのに何が違うんだろう」

「…どけ緋彩、もう待ってる時間はねぇ」

「ち、ちょっと雅弘!?」

 

痺れを切らした須郷がドアノブに手を置き、最小限の音で扉を破壊する。

扉としての機能が完全に無くなりゆっくりと外側に開いていく、中は使われてない空室のようで一見ゴミなのでは?と思うようなのが沢山転がっていた。

 

「これで入れるな」

「はい器物破損」

「お前も鍵開けようとしてたろうが!」

「はいはいどーどー…落ち着いてください雅弘さん、侵入なのにそんな大声出したら本末転倒ですよ」

「…すまん」

「分かったならいいんです」

 

手に残ってるドアノブを放り投げ、それぞれ中に入ろうとするがエンだけはドアノブをじっと見ておりそれに気づいた青葉がエンの近くに行き顔を覗き込む。

 

「どうしました?」

「…あのすごうが壊したの…少し魔力のオーラが見えたの」

「…何?」

 

エンの言葉に翔太郎が反応し、ポケットから手袋を取り出し地面に落ちているドアノブを拾い上げ眺めるように色々な角度から見る。

 

「…魔力のオーラ?っては確か紫色だったか…そんなのは見えないが」

「ほ、本当に一瞬だったの…だから多分すごう達じゃ見えないかも…」

「まぁ私達は魔術師ではありませんからね」

「つまりなんだ?緋彩が開けられなかったのは魔力…魔術のせいってか?」

「うん…」

「つまりは魔術師がいる、という事ですか」

 

超人達は部屋の中の奥にある、建物の廊下に出るであろう扉を見る。

一見ただの扉だが…魔術師がいるとなると話が別になる、もしかしたらその扉の先には魔術師がおり戦闘になるのではないかと。

超人達が出会ってきた魔術師の殆どは常軌を逸した強さを誇り苦戦を強いられた事が多い。

 

「…戦いたくはねぇな」

「あぁ、魔術師というのは予測ができない」

「ですが皆さん、ここで引き下がるわけにはいきません」

「そうだねー、それにボク達なら大丈夫だよ」

 

全員の力を信じ須郷が先頭となり部屋の奥の扉に手をかけ、改めて全員の顔を見る。

それぞれ意を決した顔をしておりそれを確認した須郷はゆっくりと扉を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ…これは」

 

扉の先には廊下があった、左右と正面に向かう廊下でありダンボールの箱が雑に積まれている。

それと同時に倒れている白衣を着ている人が何人も倒れていた。

 

「これは…死んでるのか」

「いや翔太郎、息はしてるようだよ…寝てる?」

「とにかく現状確認です、ここだけなのか…それとも」

「チッ!エン!こいつを診てくれ!」

「う、うん!」

 

翔太郎、緋彩、青葉は他の部屋の確認へ行きエンは倒れている女性に近づいて手で触れる。

 

「…………」

「何か分かったか?」

「…命の別状はないけど…何で寝てるの…?」

「この人数、外傷は見えねぇな…睡眠薬とかそこら辺か?」

「分からない…けどみんな寝るのはおかしいよ」

 

廊下に倒れていた人達を診ていた2人、そして他の3人が各々部屋から戻ってくる。

 

「俺が見たところも全員が寝ていた、何かをしていた途中で突然倒れたようなのが多かった印象だ」

「ボクの所もそんな感じだった」

「私もです、この建物…この人達が眠ってしまっているようですね」

「…おい、これ」

 

須郷がある事を思い出し、それを言おうとした瞬間。

悪寒と底知れぬ恐怖が沸き起こり全員が背を合わせるように立つ、エンを咄嗟に抱き抱え須郷達と円になるように立った青葉は冷や汗を拭いながら唇が乾燥していくのを感じる。

 

「…これは」

「あぁ…誰かが居る」

 

全員が閉じられた廊下に続く扉を見る、扉の向こう…廊下から足音が聞こえ誰かがこちらに向かってきていた。

 

「どうする、今なら窓から逃げれるぞ」

「けどそうするとここに来るのは難しくなるんじゃないかな」

「誰か知らねぇが…俺達よりも早くここに来て襲撃してたんだろうな、何か知ってるかも知れねぇ…青葉、どうする」

「…………」

 

いつでも動けるよう扉側に須郷、窓側に翔太郎と緋彩が立ち青葉の合図を待つ。

 

「皆さんの意見も聞きたいですが、今はそんな時間もありまんね…この現場を見る限りでは相手さんは気づかれてもいいという動きです」

「誰にだ?」

「研究所を所有してる人達に、ですよ。

今ここで逃げても警備が強化…最悪ここは無かった事にされるでしょう」

 

話してる間にも足音は確実に近づいている。

 

「…こちらの事に気づいており尚且つわざと足音を聞こえるようにしている、つまり話があるか自信があるか」

「舐められたもんだな」

「雅弘さん達の実力を知らないだけかもしれませんがね …私は話してみる必要があると思います…皆さんはどう思いますか?」

 

青葉が超人達を見る。

 

「俺はいいぜ、敵対すんならぶちのめすだけだからよ」

「ボクはいいよ」

「わ、私はすごう達が残るなら…」

「俺もいいが…やばいと思ったらすぐに逃げるぞ」

「はい、何も相手がどう考えてるかなんて分かりませんし

…皆さん一応準備を」

 

全員の意見を聞き終えた辺りで足音が聞こえなくなり、聞こえた距離からもう扉の前まで来ている事が青葉には分かっていた。

緊張感と緊迫した空気に目の前が真っ暗になりそうなのをどうにか抑えながら扉が開くのを待つ。

 

 

 

 

だがいつまで待っても扉は開く気配無く、何も起きない時間だけが流れていく。

 

「…なんで来ねぇんだ…?」

「ボク達の事警戒してるとか」

「どうする青葉…俺が開けてくるか?」

「いえ…翔太郎さんが行くには危険過ぎます」

「俺がやる、翔太郎と緋彩は青葉達を頼む」

 

一向に扉の向こう側にいるはずであろう者が扉を開けず苛立っていた須郷が慎重に近づいて扉を開ける。

だが扉の向こうには誰もおらず須郷は肩透かしを食らう。

 

「…誰もいねぇぞ?」

「え?でも足音は…」

「どこかに行っちゃったんだろうね!」

「行った、と言うよりも消え…た…」

 

違和感を感じ、青葉が後ろを振り向く。

振り向いた目と鼻の先に胡散臭い笑みを浮かべた1人の男が立っていた、翔太郎も緋彩もエンも気づいてる様子はなく。

青葉が突然振り向いた事に気づき視線を追いかけようやく男の存在に気づく。

 

「い、いつの間に!?」

「緋彩、青葉!下がれ…!」

 

咄嗟に翔太郎は近くにあったペン等を投げつつ、追い討ちをかけるように回し蹴りを男の顔面に叩き込もうとする。

 

「戦うつもり、無いんだけどなぁ」

 

飛んでくる物を玉虫色の液体で弾き飛ばし、回し蹴りを避け翔太郎に玉虫色の液体を巻き付けさせ身動きをとれないようにする。

 

「くそっ!」

「はいちょっと拘束ね、そこのデカブツも動かないよーに」

「………てめぇ」

 

拳を構えて攻撃態勢をとっていた須郷は拳を下ろし、腕を組む。

 

「……お久しぶりですね」

「かなりね、君達色々やってるらしいじゃん?噂は聞いてるよ」

「貴方にも知られてるのは嫌ですね、Aさん」

「酷いなぁ」

 

ローブを身にまとい、ヘラヘラとした顔をしている男…Aは楽しそうに芋虫のように拘束されてる翔太郎を転がす。

 

「なんかさ、前回もう名が出たからインパクト薄くなったよね?別にいいんだけどさ」

「?」

「てめぇ…なんでここにいるんだ!」

「おー怖い怖い…君達も何故ここにいるのか聞きたいけど、僕は親切で優しくて聡明だから本題に移してあげるよ」

 

顎に手を当て、問題の答えを早く言いたい子供のようにニヤニヤしながら口を開く。

 

 

 

 

 

「僕と協力しようよ」



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第97話『奇妙な関係』

またゆったり更新していきます


「協力だと…?ふざけてんのか!?」

「僕は至って真面目さ!真面目過ぎるのが取り柄だよ!」

「こんの…!」

「須郷さん落ち着いて下さい」

 

今にも殴りかかろうとする須郷を青葉は止め、Aから目を離さず一歩前に出る。

 

「けどよ、青葉!」

「須郷さん、言いたいことは分かります…ですが翔太郎さんの生死が問われるのであれば私は貴方を止めます」

「くっ…」

 

Aの手によって翔太郎は捕まっている、むやみに攻撃して仲間が傷つくのは避けたい場面であった。

 

「うんうん、やっぱり冷静な人がいると楽だね~」

「…Aさん」

「なーんだい」

「話を聞かず攻撃したのは謝ります、さらに自分勝手なお願いでありますが翔太郎さんを解放してもらえると助かります」

「対等な会話したい?」

「貴方がよろしければ」

 

Aと青葉はお互いの表情、目線を見て探り合う。

 

「…んー、いいよ!ここでピリピリしても時間の無駄だしね」

「ありがとうございます」

 

グネグネと動く液体を翔太郎から剥がし、翔太郎は仲間たちの所へと戻る。

須郷、緋彩はいつでも戦える準備をしていたが場の空気が落ち着いて来たのを確認して拳を下す。

 

「いやー怖い怖い、か弱い魔術師相手にそんな殺気出さないでよ」

「Aさんなら、私達なんて1分もかからないのでは?」

「はははっ!無理無理!5分!」

「「「……」」」

「…須郷さん達、睨んでもこの狂人は死にませんよ」

 

ひとしきり笑った後、Aは腕を組んで困ったような顔をする。

青葉は他の超人達が冷静でない以上、こののらりくらり動く怪物を相手にしなければならないことにため息を吐く。

 

「…それではAさん、聞きたいことがあるのですが」

「いいよ、返答はその後に聞こう」

「……まず、この倒れてる人たちは?」

「一般人、カモフラージュ用の科学者達…一応生きてるよ、寝てるだけ」

「貴方は何故、この場所に?」

「んー、強いて言えば嫌がらせとあぶり出し?」

「細かく聞いても?」

「ここからは本題後で」

「分かりました、私達が来るのは?」

「知らない、というよりもさっき気づいた」

「『神聖連盟』に聞き覚えは」

「名だけは、けどあまり知らないかな」

 

青葉はとりあえずと言った感じに質問と返答をメモし、しばらく考える。

思考をめぐらせて様々な事を予測し、考え、脳内で上がってくる可能性を潰していく。

Aはニコニコ笑い、他のメンツは青葉の言葉を待つ。

場合によっては戦えるようにしながら。

 

 

 

 

 

 

「分かりました、Aさんと協力しましょう」

「なっ!?」

「なんでー!」

「…理由はなんだ?青葉」

「翔太郎さんは薄々気づいてるかもしれませんが…まずAさんが私達と手を組もうとしてるのがあります、少なくともAさんは私達個々よりも強い」

「照れちゃうな~」

「あとウザい」

「傷ついちゃったな~…」

 

シュンとするAを尻目に青葉は超人達を見る。

 

「Aさんが嘘をついてない事を前提になりますが、Aさんが1人行動しているが私達と協力を考えてるということは少なくとも1人では厳しいと考えてる可能性が高い、そしてこの場に必要なのがあり私達の手を借りたい」

「そだよ」

「私達がイレギュラーであり例の組織と繋がりがないのでメアリーさんが呼んだ助っ人でもない」

「かわいい名前だね!」

「はいはい、最後に…Aさんが協力的ならこの上なく心強い」

「けどよ、青葉…」

 

青葉の話を聞いていた須郷がAを見る、見た目は普通だが中身は吐き気すら覚える邪悪な存在なのは変わりないのだ。

 

「こいつが裏切る可能性があるだろ」

「それはありえない…とは言えません、ですが裏切るとすれば『今じゃない』」

 

そう言うと青葉はAを見て、探偵が犯人を追い詰めるが如く指を向ける。

 

「Aさん、改めて言いましょう…貴方と協力します」

「良い判断だね、他の子は良いのかな?」

「…俺はてめぇが気に食わないが青葉が言うなら、従う」

「ボクはどっちでも…」

「Aはなんか嫌いだ、シね!」

「わ、わたしはいいと思う…よ?」

「わー、僕大人気☆」

 

若干数名、というよりほとんどが納得してないがAとの協力関係を認めた。

Aは嬉しそうに青葉達に近づき、両手を広げ静止する。

 

「……あの」

「フリーハグだ!今までの事は水に流し協力しよう!」

「…やっぱりこいつと協力するのは間違っていると思うんだが」

 

白い目で見られていたAはシュンと項垂れたが近くの椅子に座るといつもの胡散臭い笑顔になる。

 

「それじゃ、お互い知ってることを少し話そうか?」

 

 

☆★☆★☆★

 

それは彷徨っていた、何かを探すように

何かを求めるように。

 

上との連絡が取れなくなり、周囲の研究者達が慌ただしく避難を始めていた。

研究していた物は置いて行き処分せずにしておく。

何故なら『それ』が居たから、もし侵入者が降りてきても負けることは無い事を知っていたから。

 

それはこの地下研究所を守るように命令されていた。

 

研究所から人気が無くなる、この場には誰も居ないようだ、静かな空間に鎖の金属音が響く。

黒い装束服、見た目は忍者だが身体に巻き付いている鎖が囚人のような雰囲気を出す。

 

それは待っていた、訪れる時を。

 

「……守らないと…みん…な…皆…?皆ッて…ダレだ…?」

 

それは上から降りてくる気配を感じながら、ブツブツと独り言を続ける。

 

 

★☆★☆★

 

「これが私達の話せる全てです」

「へー、君達も大変だね」

 

廊下を歩きながら青葉はAに全てを話した、緋彩の事以外だが。

 

「けどエイレーネーが都合の良い君達を切るなんて思い切った事したね、愚かだけど」

「柏崎さんや一部は手助けしてはしてくれますが…」

「そんな過度な期待は出来ないと、僕と出会えてよかったね!僕最強だし!」

「…そうですね、それではAさんも知ってることを教えてもらいましょうか?」

「良いけど、その前に」

 

Aは一階の廊下の途中で立ち止まり、後ろで歩いていた超人達を見る。

 

「あ?」

「そんな睨まないでよ凄いくん」

「須郷だ!」

「僕の話の前に、ちょっと彼女の力を借りたくてね」

 

そういうとAはとある人物の前まで歩み寄り、しゃがみ視線を合わせる。

 

「…?」

「おいA、エンから離れろ」

「言っただろ?彼女の力がいるんだって」

「わ、わたしの…?」

「Aさん、どういう…」

 

Aは立ち上がり、廊下がよく見えるようにエンの前から退く。

 

「僕や、超人の君達では無理だ、だが…」

「おい、意味がわからないぞ…A、変な真似をするなら…」

「翔太郎落ち着いて」

 

翔太郎が睨みながら近づこうとするのを緋彩が止め、エンを見る。

エンは困惑していた、自分に何ができるのかと。

 

だが、あるものが見えてエンは息を飲む。

それは…

 

「あ、あれ…い、嫌な感じがする…」

「エン?」

「エンさん……何が『見えた』んですか?」

 

一点を凝視し、だが怯えるエンが見ていた場所を見てもあるのは通路の壁。

全員が動かない中、Aだけが壁に歩み寄り手で触るように伸ばすと

 

 

Aの手は壁をすり抜け、手だけが壁の奥に入っていく。

 

「はぁ!?」

「ててて手が壁に食べられた!!????」

「今度はお前が落ち着け緋彩」

「Aさん、これは」

 

青葉がAと同じように壁に近づいて手を伸ばす…だけでは終わらず上半身を一気に入れると、視界の先には下に続く階段が見えた。

 

「道理で見つからないわけだ、脳で理解か、認識がトリガーかな」

「お、おいA?」

「魔術でも化学でもない、やはり神力の類か?」

「おい!」

 

1人で考え始めるAの胸倉を須郷は掴み意識を思考から現実に戻させる。

 

「あ、ごめんごめん」

「…Aさん、何が分かったのですか?」

「あー、ごめんそれも含めて歩きながら説明していいかな?君達の目的も下にあるかも」

「!それは本当か!」

 

Aの一言に翔太郎は詰め寄り肩を掴んでめちゃくちゃに揺らす。

 

「ほんんととととだから揺らさないでででで!」

「あ、す…すまん」

「まったく、とりあえずいこっか」

 

Aがため息をしながら壁の中に入っていき、それを追うように他のメンバーも続く。

 

「………」

「翔太郎さん」

「…青葉」

 

壁に入らず立ち止まってた翔太郎の前に青葉は歩いてきて覗き込むように下から翔太郎の目を見る。

 

「焦るのは時として重要です」

「……」

「ですが、貴方が冷静さを乱すのは…」

「分かってるッ!…大丈夫だ」

「…分かりました、ですが覚えておいて下さい、私は貴方の味方ですから」

 

そう言って、青葉は壁の中へと入っていく。

その場に残った翔太郎はハット帽を深く被り仲間の後を追う。



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第98話『崩れていく絆』

 

 

靴の音が響く、先頭を歩くのは胡散臭い笑顔を浮かべてる男。

超人達が警戒するほどの強さを秘めているその名はA、鼻歌交じりに階段を下りている。

その後を青葉達は降りていた。

 

「Kが関与してる」

「……はい?」

「僕がここに来た理由さ」

 

Aは指を上に向けクルクル回しながら話を続ける。

 

「『6席会』4席目で魔術師で少ない接近戦ができるピエロ野郎さ」

「なぁ」

「何かな須郷くん」

「6席会ってなんだ?」

 

須郷は度々耳にする6席会なるものが何なのか分からず、素で質問する。

 

「いいかい?6席会ってのは聞いた限りじゃ椅子取りゲームの会みたいに聞こえるかもしれないけど、中身は様々な魔術師が集まるサークルみたいなものさ」

「なる…なるほどなのかなぁ」

「理解できたのか…」

「いや分かんねぇよ」

 

頭上に電球が出てきたかのような閃き顔になった緋彩に男二人は頭を抱える。

 

「つまりKという方はそのメンバーだと」

「そだよ、ちなみに僕は元6席目」

「『元』ですか」

「今はフリーの魔術師、そんでとある理由で色々な場所に行ってるんだけど…目的の一つであるのがKと政府さんと関与してる事が分かってね」

「…なるほど、ちなみに聞いても?」

「Kの動きは昔から詳しくなかったけど、Kは何かの研究をしてる…っと、話が脱線したが6席会は魔術師の宗教だと思って」

「そうか…」

 

あまりにも長く感じる階段を下りていく。

その最中、エンが立ち止まってしまい全員が止まる。

 

「おいエン?疲れたのならおんぶするぜ」

「ち、違うのすごう…ダメなの」

「ダメ…?エンさん、ダメとは」

 

寒さをやらわげるように小刻みに震えてるエンに青葉は肩に手を置く。

 

「な、何か分からない…けどこれ以上下には…行きたくない」

「……Aさん」

「あぁ、多分だけど下に何かがいる…僕も肌に刺さるくらいの殺気といえばいいのか…けど行くしかなくない?」

「緋彩さんは今は落ち着いてますがいつまた体調が悪くなるか分かりませんですしね」

「ま、まって!エンちゃんも顔色悪いしボクは…」

「駄目だ!!!」

 

緋彩がへらへらしながら言うが突然声を荒げるのが少ない翔太郎が大声を出す。

自身も驚いたのか、言葉が途切れるがさらに口を開く。

 

「…青葉、緋彩、エンを連れて上に戻るんだ」

「し、翔太郎?」

「………」

「おい翔太郎」

「雅弘は黙っててくれ」

 

突然のことで全員が思わず黙るが、沈黙を最初に破ったのは青葉だった。

 

「分かりました!では緋彩さん行きましょう!」

「え、で、でも青葉」

「まぁまぁ!」

「ちょ、ちょっと!もう、翔太郎!早く戻ってくるんだよ!」

 

なぁなぁで、だが緋彩もエンが心配だったのかエンを抱きかかえ、上へと向かう。

 

☆★☆★☆★

 

階段を上がり始めた3人は青葉の扇動のもと景気よく登っていく。

 

「いやぁ!男子の考えることというのは分かりませんね!やはり本やテレビの言う通りだと思春期何ですかね!」

「うん」

「私は思春期なるものになったことないんで分かりませんが大人になるって事なんでしょうか?」

「うん」

「はっ!もしやエンさんも大きくなれば…?!私とても気になり…」

「ねぇ、青葉」

 

しゃべり倒してた青葉だったが、緋彩の言葉でよく滑る口も錆びついた機械のように止まってしまう。

 

「……ボクは足手まといなのかなぁ…」

「……」

「ひいろ…?」

 

緋彩の背中でぐったりしていたエンが異変に気付く。

 

「ボク…翔太郎の邪魔だったかなぁ…」

「そ…」

 

そんなことはない、言うのは簡単だが果たして今の彼女に必要なのはその言葉なのか。

青葉は言葉に詰まる。

 

「もっと強くて元気だったら良かったのになぁ…」

 

言葉の最後までしっかりと喋れていなかった、自身の体調の変化にしっかりと考え、普通の事ではないと薄々気づいてるてるのかもしれない。

 

「緋彩さん、貴方は今ちょっと疲れてるんですよ…上で休みましょう?私たちがいますから」

「ひいろ、大丈夫?」

「うん…うん…」

 

今は、休むのが大事だ。

青葉はそういう事に、した。

 

★☆★☆★

 

「ちょーーっと強引だったんじゃないかな?」

「お前は黙ってろ」

「ひゃー!超人が怒ったー!」

「……」

「気にすんな翔太郎、構ってると疲れるぞ」

 

A、須郷、翔太郎は階段を降りていた。

 

「しっかしよぉ、長すぎやしねぇか?」

「体感を長くさせられてるんだよ、実際は1分もかからないと思うよ」

「なんだそりゃ…お、終わりっぽいぞ」

 

下を見ると、扉と小さな蛍光灯が扉周辺を照らしていた。

 

「…なんか、ヒシヒシと感じんな」

「隠す気はないっぽい、ビビった?」

「俺の拳がお前の顔面に叩き込めれば安心するぜ」

「あー僕が不安になったなー!」

 

拳をゆっくりとAに近づけながら須郷は小さくため息を吐いて翔太郎の方を見る。

見た感じは普通、だが内心はどうなのかは分からない。

 

「(てめぇが焦っても緋彩が助かるわけじゃねぇ…落ち着けよ…)」

 

自分が一番で分かってるであるだろうから、あえて言わない。

 

「それじゃ、いこっか」

「パパっと回収して戻ろうぜ」

「……あぁ」

 

Aがドアノブに手を置き、一気に開ける…扉の先は真っ暗ではないが薄暗くパッと見える範囲で言えることは。

 

「…でかい空間だな?」

「でかい空間作って研究所と寮とスーパーとか娯楽施設…おいおいこんな職場僕なら嫌だけど君は?」

「ほぼほぼ、ここで缶詰じゃねぇか嫌だわ」

 

周囲には多くの建物、建物の奥に僅かに見える大きな建物。

 

「あれか、A…エンが感じてた何かは」

「入った瞬間消えた、逃げたかな」

「んなわけないだろ、おい翔太郎お前は…」

 

流石に鈍くはないが殺気などそれら以外は何も分からず仲間を頼ろうと振り向く。

 

 

 

その場にはもう翔太郎は居なかった。

 

「な…に…」

「須郷くん構えた方がいいよ!何か来る!」

 

動揺しいている頭にAの言葉が響く。

 

「A!翔太郎が居ねぇ!」

「嘘でしょ…?」

「ま、まさかやられたのか…?」

「それはあり得ない、僕はともかく君に気づかれる事無く暗殺は無理だろう……自分の意思で消えたんだ」

「翔太郎…あいつ…!」

「そんなことより今はこっちだ、僕と君とでもやばいかもしれない」

「…くそッ!A!今だけは信じるぞ!」

「流石の僕も背中刺すなら場合を選ぶさ!」

 

液体を身体に纏わせ、拳と型の構えを取り須郷が分かる程の存在に備え…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それ』はいつの間にかそこに立っていた当たり前のように、当然のように。

 

「…須郷くん」

「…なんだ」

「…作戦、言ってなかったね」

「……」

「作戦は『死ぬ気で逃げる』だ、最悪だ…ここがそんなに重要なのか…始末しに来たのか」

「…あれが何か知ってんのか?」

「知ってるも何も」

 

 

Aはゆっくりとそれを見る、忍者のような恰好に特徴が無さそうな顔に顔半分隠している青年。

 

 

 

 

 

 

 

「あれは『使徒』だ、善神の忠実な奴隷の化物さ」

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

 

 

 

大きな建物、恐らく研究所であろう場所に向かって走る1人の男。

 

 

翔太郎は息を切らしながら、だが全力で走っていた。

 

 

「もう、もう…家族を死なせてたまるか…!」

 

焦っていた、目の前しか見えていなかった、無警戒だった。

 

 

 

 

 

翔太郎を追うように超人的な身体能力の人影の集団に追われとぃる事に気づかず。



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第99話『脆さ』

口の中が乾いていくのが実感でき、唾を飲み込むのも辛く感じる。

須郷は自身を強者だとは思っていない、だが自身を弱いとは思ってもいない。

己の拳が、技が…誰よりも勝り守れる力だと自信を持っていた。

 

 

「……(な、なんだ…震えてんのか…?)」

 

 

今までも強敵と戦ってきた、その度に仲間と戦い勝利を掴んだ。

どんな敵でも勝てる、守るものがある限り負けはあり得ない

あってはならない。

だが身体は正直だった、目の前の存在に身体は不可能と合図を出し続けている。

 

「怖くなった?須郷くん」

「なわけねぇだろうが」

 

弱気にもなるわけには行かなかった。

 

「いいかい、逃げるんだ…僕はまだ死にたくないし、これ以上首を突っ込むのはまずそうだ」

「いや、逃げねぇ」

「…は?」

 

目の前にいる存在、Aが言うには使徒という青年を見る。

パッと見では負ける要素はない、だがこちらを見る目は気を引き締めるには十分だ。

 

「翔太郎が奥に行きやがったんなら、こいつが翔太郎を狙わねぇなんて事無い筈だ」

「…それで?」

「あいつがもっどってくんまでに俺はこいつを叩き潰す!」

 

須郷は拳を構え、一気に距離を詰めて使徒の顔面目掛けて拳を振り下ろす。

 

「『震波拳』!」

「……!」

 

使徒は腕で須郷の拳をガードするが、空気をも揺るがす拳の技はガードを貫通して使徒の脳を揺らす。

バックステップで下がり、その場でさらに型を構えて距離を詰め上段、中段、最後に振動を加えた回転蹴りを足を刈り取るように当て転倒させる。

 

「(いける!このまま反撃の隙を与えなけりゃ…!)」

 

転倒し、ガードの姿勢を崩さない使徒の頭目掛けて拳を振り上げた瞬間、須郷の身体をAが操る液体が包み後ろにいたAの元まで引っ張られてしまう。

 

「くっ!おいA!何しやがる!」

「何と言われても、むしろお礼言ってほしいな」

「あ?」

「見なよ」

 

 

Aに促されるように使徒の方を見る。

使徒は何事もなかったかのように起き上がり、服についた埃を片手で落としていた。

そしてもう片方の手には黒いクナイが握られていた。

 

「ありゃ…クナイか?」

「そうだね、周囲を見てみるといい」

 

さらに見るよう言われ、周囲を観察すると5本のクナイが戦っていた場所を囲むように刺さっていた。

 

「あのまま戦ってたら、恐らく結界張られて逃げられなくなってたかもね」

「……そうかよ、あいつもピンピンしてるって事は踊らされてたって事か」

「仮にも相手は使徒だ、人間が勝つのは難しい」

「んじゃどうすんだよ」

「……」

 

クナイを悠長に回収する忍者装飾の使徒を見て、須郷を見たAはしばらく黙りため息を吐きつつ液体を身体に纏わせる。

 

「いずれ戦うし、予行練習ということにしよう」

「やっとやる気になりやがったな」

「逃げたいけど協力関係結んじゃったしね…けど無鉄砲君が戻ったら逃げるよ」

「無鉄砲…翔太郎はそんな奴じゃねぇ」

「団体行動出来ない時点で、ほらやるよ」

 

須郷達をずっと見つめる使徒はどこからか鎖鎌を取り出し、けだるそうに構える。

 

「(こいつをここに留める事に意味がある…翔太郎が薬見つけりゃいい、だが…なんだ?何か違和感が…)」

「行くよ!『酷使せよ!』」

「!あ、あぁ!」

 

Aが液体の一部を針のように形を変え弾幕のように飛ばす。

それを見ながらいつでも飛び出せるように構え須郷は思考を一旦置いておく。考えるのは自身の役目ではないとして。

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

研究所、紙が散乱する一部屋で複数の人影が集まっていた。

その殆どが頭まですっぽり覆うローブを身に纏いある男を囲んでいる。

 

「…ごはっ…!」

「…………」

 

ローブの1人が周囲を見て倒れている男…翔太郎の腹部を目に見えぬ速さで蹴り上げる。

その度に翔太郎は呻き吐血しもがく、その反応が楽しいのか

1人、また1人と翔太郎に暴力を振るう。

一撃が重く、気絶しそうにも新たな一撃の痛みで意識を戻される。

 

「おい、俺達の目的は機密物の処理だ、余計なことはするな」

 

部屋の入り口から同じくローブの者が現れ、集団暴行を止め解散させるように人をかき分け翔太郎の前に立つ。

ローブの者達はしぶしぶのように部屋から出ていく。

 

「…さて…ん?」

 

ローブの男も出ようとすると足が止まる、片足をボロボロになった翔太郎がしがみ付いていた。

その目は虚ろでしがみ付く力も弱い。

 

「…薬…よこ…せ…!」

「………」

 

ハット帽が落ち、翔太郎の血で汚れていく。

ローブの男は足を無理やり引っ張り、翔太郎の拘束を解く。

翔太郎は最後の力を振り絞り、男の足首を掴む。

 

「よこせ…」

「……すまねぇがもうない、処分した」

「…な…」

 

薬は無い、途端に翔太郎の手の力は無くなり、男はゆっくりと足を引っ張りその場から出口へ向かう。

だが男は途中で止まり、翔太郎の方を向く。

 

「お前がもっと強ければ、早く来れてりゃ…結果は違ったかもな……じゃあな」

 

男はそう言い、その場を後にした。

翔太郎は薄ていく意識の中、ただただ自身の弱さに…後悔した。



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第100話『己の弱さ』

地下研究所にある広い空間、様々な目的で作られた建物が多く建つこの場所で激しい戦いが繰り広げられていた。

 

「『酷使せよ!死者の手』」

 

Aが呪文を唱えると使徒の周囲に魔法陣が展開され這い出るように魔法陣から血まみれの手が伸び使徒に襲いかかる。

 

「『酷使する…断罪』」

 

使徒が唱え、手を振り下ろすとその軌道から出るように僅かに発光する大量の刀身が迫ってくる手を切り裂き、そのままAの方へ飛んでいく。

 

「危ないなぁ、それ!お返しだ!『酷使せよ!』」

 

液体をガトリングのように飛ばし刃を弾きながら建物から建物に隠れながら攻撃する。

 

「『震波拳』!」

 

拳を近くの壁に当て破壊し、中に入って飛んでくる攻撃から避難してやり過ごす。

そして使徒の意識がAに向いた瞬間に急いで外へ飛び出し、拳を構える。

 

「『震振拳』応用版!」

 

空気を振動させ衝撃波を使徒へと飛ばす。

 

「『酷使する…結界線』」

 

クナイを取り出し地面一列に刺すとその出来た一列の線から発光する板のような壁が出来上がり衝撃波とぶつかり、鼓膜が痛くなるほどの音が響く。

衝撃でクナイは吹き飛んだが使徒には傷一つ入ってない。

 

「くそがッ!」

「攻撃を続けるんだ!『酷使せよ!』」

 

Aが標的を見定めるように指先を使徒に向けると排水溝や瓦礫の隙間から液体を槍のように変形させ貫かせようと飛ばす。

 

「…小細工」

 

飛んでくる液体槍を鎖鎌の鎖分銅を回し弾き飛ばし、そのまま回した勢いで分銅をAへ投げる。

飛んできた分銅をAはギリギリで避けるが地面に当たった瞬間道のコンクリートが大部分破壊され、破片がAに飛び頭部、足に被弾してしまう。

 

「あれが投げただけの威力かよ!」

「いててて…あれを人間だとは思わない方がいい、人間を辞めてる奴らだ」

「くそ…翔太郎はまだなのか?」

「言っとくけどほんとにやばくなったら逃げるよ?」

「あぁ、わってるよ」

「なら死なないようにねッ!」

 

傷口を塞ぎ、使徒の正面に飛び出す。

それに合わせて須郷も使徒の背後に回り囲む。

 

「須郷くん行くよ!」

「何すんのか知らねぇが来い!」

 

Aが指を鳴らすと傷口から血液が溢れ空中で何かを形作る、それは懐中時計へ形を変えてカチコチ音を周囲へ響かせる。

 

「……ッ!『酷使する…聖域』」

 

背後の須郷に気を配っていた使徒は血の懐中時計を目にした瞬間、懐から袋を取り出し中身を自身の周囲に撒く。

キラキラと光る鱗粉のような粉が使徒を囲むように散らばった時、懐中時計の針が12時を指す。

 

「できればこのまま、死んでくれ『酷使せよ!死の宣告』」

 

Aが呪文を唱えた瞬間、懐中時計が砕け地面へ落ちていく。

砕け散った時、使徒の近くに激しい音と共に何かが落ちてくる。

それは刃だけのギロチンであった、鈍く光るそれはひとつ、またひとつと落ちてきて雨のような量となる。

使徒の周囲の地面を落ちてくるギロチンが砕いていく、だが肝心の使徒には当たる瞬間にギロチンが粉々になっていきかすりもしない。

 

「強力な魔術なんだけどなぁ…ま、本命はこっちじゃない」

 

Aがニヤリと笑い、クナイを構えていた使徒が背後を見ると須郷がその場におらず…落ちてくるギロチンの隙間から大男が現れる。

 

「『震波拳』!」

 

下から殴り上げる拳に乗った振動が使徒の顎を捉え、そのまま殴り空中へ飛ばす。

すかさず両拳を構え、精神を集中させ使徒を目視する。

 

 

「須郷流戦技『震波空音拳』」

 

 

手を広げ、手と手を合わせるように叩く。

手の形を叩いた衝撃が一点に集中するように型を作り、衝撃波が濃密な音の大砲のように使徒へ飛んでいく。

空中で身動きが取れない使徒は音の塊にぶつかり、鼓膜が破裂し、遠くに飛ばされ天井へ叩きつけられる。

 

「ヒュー、そんな技あるならさっさと使えばよかったのに」

「……使いたくなかったんだよ」

「え?なんで?」

「未完成なんだ、本物はこんなもんじゃねぇ…それに」

「それに?」

「…いや、なんでもねぇ、まだ死んじゃねぇ筈だ、見に行くぞ」

 

須郷は使徒の元へ足を急がせる。

 

「(…俺は…弱い)」

 

本来は『極技』を使うつもりでいた、だが使うにはリスクが伴う…それは使うと自身にも当たり深刻なダメージを受ける事。

また、自身に扱いきれるかの不安が拭えなかった。

過去に一度使った時の記憶が須郷の本能に枷を付ける。

 

「(俺に使う資格はあるのか…?なぁ… 雅雄…親父)」

 

弟と、技を伝授させてくれた父親の事がふと脳内に過ぎる。

自身の未熟さと思わずとは言えひよった自分に怒り、そして悲しくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今のは40点、お前に合ってない武術だ」

 

突然、須郷の横脇に車が衝突したのではないかという衝撃が発生し、肋骨が数本激しい音と共に折れ近くの建物の壁に叩きつけられる。

 

「がっ……!な…ん……だ?」

「須郷くん!」

 

Aが離れた所で須郷の安否を確認する、近づかない理由は須郷が立っていた場所に誰かが居たからであった。

それは……

 

 

「お前には無意味な技だ、震波拳だったか?教えた奴は無能だったのだろうな」

 

ピエロの衣装と微笑みの仮面を付けた男が立っていた、その拳には紫色のオーラが少しずつ濃くなっていくのが見えその拳で殴られたのだろうと須郷は理解した。

だがそれよりも須郷は違う事に反応する事があった。

 

「……て、めぇ……誰が…無能だって?」

「ん?君の技を教えた奴さ、くだらない技だ…君は型にハマるべきじゃないポテンシャルを持っている、もっと本能に従い戦うのが君に合うスタイルだ」

「…………俺の技は…くだらなくねぇ!親父は無能でもねぇ!てめぇ…名を名乗れ!」

「ん?名前か」

 

男はサーカスのピエロが観客に挨拶するように深々と頭を下げ、顔を須郷へ向ける。

 

「私は6席会、4席目『K』さよならだ格闘の超人……須郷雅弘くん」

 

圧縮された魔力の塊を纏わせた拳を、Kは須郷が目で追えない速度で近づき顔面に叩きつけ瓦礫を破壊し、床を破壊し、地面に須郷の上半身が半分埋まる。

意識が一気に持ってかれ、頭蓋骨から鈍い音が響く。

 

「K……!君がここに来てるとはね!」

「やぁA、裏切り者?早速だが君には死んでもらおう」

「何が裏切りだ!君だって善神とつるんでるじゃないか!」

「利害の一致だ、そろそろ使徒が戻ってくる…どうする?」

「……須郷くんは置いていけないからね、抵抗させてもらおう……!

『酷使せよ!降臨の儀式!』」

 

須郷が最後に見たのはAが禍々しい魔力のオーラに包まれている所と、その背後にクナイを今にも突き刺そうとしている使徒の姿だった。

 

 

負けた

 

 

それだけが呪いのように頭に残り続け、意識を手放してしまう。



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第101話『二度目の準備』

翔太郎は夢を見ていた。

小雨が降る町のとある探偵事務所、窓から身を僅かに出し外を眺める数年前の翔太郎と部屋の中にもう一人居た。

 

「翔太郎、男ってもんは良い男にならないといけねぇ…その意味が分かるか?」

「なんだよ?いつものくだらない冗談でも言いたいのか?」

「まだ何も言ってねぇだろ!?」

「それっぽい事言おうとしてる時は基本くだらないもんだと思う事にしてる」

「かーッ!お前は可愛くねぇな!緋彩を見習え!」

「あんたの言葉信じてあいつ携帯爆発させてたぞ」

「………あれは反省してる」

 

男はハット帽を被り、煙草を取り出し火を付け深く吸う。

 

「ごふぁ!ゴホッ!ゴホッ!」

「なんで吸えないのに吸おうとすんだ…てか医者から止められてるのに吸おうとするな」

「馬鹿野郎、ゴホッ!良い男の条件である煙草珈琲酒は三種の神機だぞ」

「珈琲以外はお断りだ……んで?良い男にならないといけないってどういうことだ?」

「気になるんじゃねぇか」

「おやっさんは重要なことをサラッと言う事あるからな…買い物当番の緋彩が帰ってくるまで暇だし」

「俺の話は暇つぶしか」

 

苦笑しながらおやっさんと呼ばれた男は、机の上のコップに入ってる珈琲を一口飲み人差し指を立てる。

 

「良い男ってのは幸せで強いことが重要だ」

「幸せね…」

「良い男になりゃ、良い飯にありつけて、良い仕事に恵まれ、良い友情を手に入れ、良い相棒と組み、良い女と出会えて、良い家庭が築ける」

「はぁ…」

「つまりは良い男ってのは困難なことがあっても乗り越えられる男の中の漢ってことだ、俺みたいな男を言う」

「なるほどなぁ…けどよおやっさん?おやっさんが女とつるんでるのが見たことないんだが」

 

翔太郎の言葉に男は凍ったかのように動かなくなり、震えた手で珈琲を飲む。

 

「そ、そんな時もある…俺が良い男過ぎたせいだ」

「そーかよ、おやっさんの話は人生の参考にもなりそうにない」

「そこまで言うか!?おい翔太郎こっち向け!おい!」

 

鼻歌交じりにまた窓の外を見る、まだ曇り空だがしばらくすれば晴れるだろう。

 

「ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!」

「まーた吸えもしないのに吸ったのか?いい加減…」

 

咳き込む声が聞こえ振り向く翔太郎が見たのは、確かに咳き込んでいる姿だ。

だが抑えてる手には血がべっとりこべりついていた、明らかに普通じゃない事態に翔太郎は慌てて事務所にある棚を漁る。

 

「おやっさん!薬何処だ!確か前ここに閉まってたよな!?」

「いや、大丈夫だ翔太郎…大したことじゃねぇ」

「大したことじゃないだって?そんな雰囲気には見えねぇよ!」

 

口を片手で抑え、青い顔で答える男に大丈夫という言葉は似合わない。

翔太郎は棚から薬を見つけ、無理やり飲ませて一息つく。

 

「ふぅ…おやっさんの病気早く治ってくれりゃ依頼をもっと受けれるんだがなぁ…」

「そうだな…翔太郎」

「ん?なんだ?おやっさん」

 

椅子に座り一息ついていた翔太郎は、突然呼ばれなんとなく姿勢を正す。

 

「近いうち…とても危険な依頼がくるだろう」

「危険な依頼?」

「あぁ、俺でも命を落としかねない」

「そんな…なのか」

 

翔太郎はおやっさんが全力で戦った所を見たことはないが、世間で強い者が多いと言われる超人と引けを取らないのを知っている。

 

「…俺も付いていくぜ、緋彩も絶対そう言う」

「……お前には緋彩の説得してほしかったんだが…」

「おやっさんだって知ってるだろ?あいつはおやっさんが絡むと下がるってことを知らねぇ」

「…困った子だ、お前もそうなんじゃないか?」

「ご名答」

「…まったく」

 

クックック、と笑っていると外から声が聞こえ翔太郎は窓から身を乗り出し外を見る。

雨は止んでおり雲の隙間から太陽の光が差し込み、事務所に向かって歩いてくる緋彩を照らす。

 

「翔太郎!お野菜が安かったから沢山買ったんだ!今夜はシチューにしよう!作って!」

「いや、作るの俺なのかよ!?」

「いいだろ!ボク料理はからっきしなんだ!」

「……食材を無駄にはできないしな…仕方ない、おやっさん今日はシチューだ」

「そうか…なぁ翔太郎」

「ん?」

 

おやっさんの顔が翔太郎は何故か見えなかった、夢の事だからか、深い闇のように顔が見えず声だけが響く。

 

「お前は、良い男になれ、お前ならなれる」

「…おやっさん?」

「もし俺が死んだら緋彩を頼んだぞ、あの子は強いが…脆い」

「…おやっさん、何言ってんだよ?おやっさんは死なないぜ?何故なら俺がおやっさんも緋彩も守るからな!」

 

夢の中の翔太郎は無垢な笑顔をしていた。

守れない事実が待ち受けていたことを知らず、家族が居なくなる覚悟を持ち合わせてない…弱い心が自身を殺した事を。

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

目を開けると、身に覚えのない天井が翔太郎の目に映る。

事務所でも部屋の天井でもない、しばらく頭が働かない状態が続きやっと自分がホテルのベットに横たわっている事に気づく。

 

「こ…こ…は?」

「ここは拠点にしてるホテルです、貴方と須郷さんは重症の状態で見つかって死ぬか死なないかの瀬戸際にいたんですよ」

「…あんたは…貴寅…だったか」

 

穏やかそうな雰囲気に暗い金髪のエイレーネー戦闘員、貴寅清星が扉近くに椅子を置き座って本を読んでいた。

 

「記憶はちゃんとあるようですね」

「あぁ…ッ…!くッ…」

「一応重症だったんですから無理なさらず」

「何が…あったんだ…他の奴らは…緋彩は」

「その件ですが起きたら呼ぶよう言われています、まずは朝食をとりましょう」

「…朝食?まて貴寅、俺はどのくらい寝てたんだ!」

 

勢いよく起き上がった為、骨折した部分が軋んで激しい痛みが患部と頭を殴ったかのように痛むが無理やり立ち貴寅に詰め寄る。

 

「発見から18時間、貴方達二人は半日強の間眠っていたんですよ」

 

冷静に告げられるその言葉が脳内でかみ砕いて理解し、一つの疑問にたどり着く。

 

「……二人?」

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

「起きたようですね翔太郎さん、愛読書がほとんど読み切ってしまうかと思いました」

「メアリーたんまだ紙袋に7冊あるじゃん」

「どのくらい待ったのかを例えた比喩です、そのくらいも分からないのですか?だから親指がウインナーなんです」

「ウインナー!?けど物理的に攻撃してこないメアリーたん優しい!神!GOD!仏!」

「明らかに違う方針の方々が出てきて相手側に失礼なので極刑です」

「そんな!!!!」

 

コントのようにしゃべり始める二人を無視して翔太郎は須郷と花村烈火が座る席の椅子に座る。

静かに、だが肌にピリピリ感じる圧…翔太郎は須郷が怒り狂ってるがどうにか抑えてるのを感じ取る。

恐らく一番恐れてる事、一番考えたくない、だが居ない事が真実という事を伝える。

 

「早速、いいか?」

「手短にな」

「緋彩達は何処にいる」

 

花村はしばらく黙り、息を吐くように口を開く。

 

「俺達が来た際には何処にも居なかった、危機を察知し逃げたか……捕まったか」

「緋彩やエンは分からねぇが…青葉は逃げる際俺達に何かしらの手掛かりを残す筈だ、だがそんなのはねぇならよ…そうゆう事って事だよなぁ?」

 

声から怒りが溢れ始める、それは三人を上に行かせた翔太郎へのか、自身に対してなのか。

 

「暴れた形跡は無かった、地下には瀕死だったお前らが…居た」

「私達も行くべきでした…今言っても後の祭りですが」

「……翔太郎」

「なんだ」

 

包帯でグルグル巻きの須郷、翔太郎よりも重症…死んでいてもおかしくない状態の男は立ち上がり翔太郎を見る。

 

「探しに行くぞ、そこら辺の政府かなんか知らねぇが偉いやつ殴って青葉達の居場所を吐かすぞ」

「まて須郷雅弘、そんなしらみつぶしで見つかる訳がないだろ」

「なら他に方法があんのか?使徒の野郎が現われた厄介だがいつか当たりを引けるだろうが」

 

血走っている目で、拳を握る須郷は冷静とは言えない。

 

「翔太郎、てめぇなら見つけられねぇのか」

「いや…難しい、情報も時間も足りねぇ」

「なら、おいオタク野郎!」

「え?俺よんだ?」

「てめぇじゃねぇ!女の方だ!」

「そうですよ、輝夫さん茹でますよ」

「えぇぇぇぇぇっぇえぇぇぇえぇぇ!!!!完全に俺だったよねー

!?」

 

須郷は輝夫を押しのけ、メアリーの前までやってきて机を強く叩く。

 

「傷口に響きますよ」

「そんなことは関係ねぇ…てめぇなら何か知ってんじゃねぇのか?」

「はて、何のことで」

「そもそも、てめぇらがあの場所を知ってたのがおかしかったんだ

…何かしら情報源が相手側にいんだろ?」

「なんのことかさっぱり」

 

とぼけたような態度を取るメアリーに対し、須郷は拳をさらに机に叩きつけ高そうな机をバラバラに破壊する。

 

「てめぇみたいなのは何人も見てきた、嘘つきをよ」

「……分かりました分かりました、別に騙そうとしてた訳ではなくそちらの二人に伝えるつもりだったのですよ」

「俺達か」

 

ため息を吐いてメアリーは花村と貴寅を見る。

 

「情報によると、一度貴方達を襲った方達は高速道路の乗り途中のサービスエリアで何者かと待ち合わせをするらしいですよ」

「それはいつの話だ」

「今日のお昼です、ですが正確性は保証しません…これを逃すとあとは相手側の本拠地ですが自殺行為なのでここで救出したい」

 

メアリーがタブレットで地図を広げ印を付ける、どうやらこの高速道路はある一か所に行くための設備でサービスエリアもそこに向かう者達の為のものらしく、視線を道沿いに移動させるが途中から道はなく山の地形だけが映し出される。

 

「ここのでけぇ空白はなんだ」

「見た限りだと何かある…のか?」

 

翔太郎も横にやって来て画面を覗き込む。

 

「私達調べなので高速道路もサービスエリアも地図にもありますが本来は何も出てこないんです」

「となると、隠したい何かがあんのか…」

「まぁそんなことより、貴方達二人はここで輝夫さんと居てもらいます」

「「「はぁ!?」」」

 

翔太郎、須郷、輝夫がメアリーの言葉に驚愕し息が合ってしまう。

 

「どういうことだ、俺はまだ戦える」

「確かに怪我はしてるが足は引っ張らねぇ…なんでだ」

「メアリーたん俺この二人と話が弾むとは思えないよ!」

 

各々文句や理由を求める。

 

「まず超人のお二人は戦力外です…私はですね、迷いがある人が分かるんですよ…お二人は何か分かりませんが心が揺らいでしまっています、来ても邪魔になるだけ」

「んだと…!」

「須郷落ち着け」

「メアリーたん!俺は!?」

「ノーコメントです」

「酷い!?」

 

メアリーは立ち上がり、花村と貴寅の近くに立つ。

 

「今回は私達が行きます、貴方達は怪我の回復に専念しておいてください」

「そんな事、はい分かりましたって言えるわけねぇだろうが!仲間が捕まってんだぞ!」

「ですから、その身体でどうしようというのですか?次は死んでしまいますよ」

「死ぬのが怖くて仲間を助けられるか!おい翔太郎!てめぇも何か言え!」

「………」

 

須郷が感情的になっているのを逆に翔太郎は冷静になれていた、須郷がここまで荒れてなければ自分が騒いでいたであろう…と。

 

「…花村、貴寅、足は引っ張らない…俺達も連れて行ってくれないか?」

「その怪我で戦う気か?内臓のダメージがでかく、そこかしこヒビが入っているその身体で」

「……俺は身体を透明にできる能力を持っている、誰にも気づかれず敵地の奥深くに行けるはずだ」

「……ふむ」

「それに俺達なら青葉達と即座の意思疎通が可能だ、撤退の時お前達より早く青葉達も理解して逃げれるはずだ」

 

花村は翔太郎の言葉と考えを脳内でどのくらい有効なのかを考え、貴寅の方を向く。

 

「…私は構いません、というよりもついてくると言わなければも一度天井を眺めさせる予定でした」

「えッ」

「メアリーさん、この二人も連れていきます…もし何かあれば私が何とかしましょう」

「それはいいんですが…まぁ良いでしょう…輝夫さん車を」

「えっ」

 

輝夫が車の準備をしてるのを見ながら、須郷は花村達の元に近寄る。

 

「おい、俺が倒れてた近くにもう一人誰か居なかったか?」

「何のことだ?」

「……いや、なんでもねぇ」

 

須郷の質問に翔太郎は気づいていたがあえて同じようには聞かなかった、そして二人は青葉達とは別に消えた人物を考える。

 

A、須郷と共に戦った男は何処にいるのかと。



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第102話『出会い』

静かな場所、暗く寒く足の痛みで涙が出る。

だが足の痛みよりも意識を向けなければならない対象。

ナイフを喉元に添えて感情のない目で見てくる15歳程度の少年。

 

『……』

 

冷たい目で見てくるその少年は力を籠めナイフを引こうとする。

 

「おっと、そこまでだ若いの」

 

少年の後ろに誰かがやって来て、ナイフを持っている少年の手を掴み止める。

 

『…噂の探偵か、貴方が俺を止める理由はなんだ』

「言いたいことは色々あるが、始末は可能な限り無しと聞いているが?」

『組織の方針としてはそうだ、だがそれは建前だ…捕まり実験体として生涯を終える人生を生きさせるのは酷だと思わないか?』

「……」

『貴方も元超人なら分かる筈だ、超人 の力は強大で扱いやすい…だから人工超人が生まれる』

 

少年は掴まれている腕の拘束を振り解き、ガスマスクを取る。

 

「今後、そいつが生きてる事を後悔することが訪れる…これからエイレーネーは立て直さなければならない、その間人工超人を手に入れた腐った奴らが俺達の手が届かない深みに消え新たに作るだろうな……同じことが繰り返されないようそいつも…消す」

 

ナイフを逆手に持ち、少女を突き刺そうとする。

だがまた探偵がそれを阻み間に入る。

 

「俺がこの子を預かる、お前らに敵対する可能性が出ないよう育て普通の暮らしをさせる」

「……」

「俺は腐っても元超人だ、この子が1人で生きていけるまで守り育てよう」

「……何故そこまでする?」

「この子と同じくらいの歳のガキを育ててる最中でな、それに…泣いている奴を見過ごせないタチなんだ」

 

少年は視線を少女に向けると、表情が動かないが涙がポロポロと流れていた。

しばらく少年が動かないでいると胸元近くにあった無線から声が聞こえ始める。

 

『柏崎さんまだっすか~、それとも何か問題でも起きたっすか?』

「……」

 

柏崎と呼ばれた少年は探偵と少女を交互に見て無線に答える。

 

「こちら柏崎、対象が暴れ始末した」

『そうっすか…了解っす、作戦終了…帰還するっすよ』

「了解、それと無線はこちらがするまでやるなと言ったろうが」

『あっ…は、早く戻るっすよ!』

 

無線から声が聞こえなくなり、柏崎は探偵を見る。

 

「今回は俺は何も見ていない、暴れた人工超人を始末して探偵のあんたとは雑談をしただけ」

「そうだな、それじゃあまた会う時に」

 

ナイフをホルダーに入れ、柏崎は闇に溶けるように消えていく。

探偵はポケットからハンカチを取り出し、少女の涙を拭きゆっくりと抱きかかえ立ち上がり表に出る。

 

「おっさん!話し終わったのか?」

「おっ…!?もっとこうマイルドにならないか?」

「けどおっさんだろ?あれ、その子誰?」

 

誰もいない夜の町、そこに元気な声で1人の子供が走ってきて少女の存在に気付く。

 

「あぁ、この子は今日からうちで引き取ることになったんだ…翔太郎、挨拶しな」

「おう!オレ道華翔太郎!お前名前は?」

「わ…わたし…」

 

いきなりの事ばかりで頭の中がこんがらがっていたが、どうにか口を開く。

 

「ひ、ひいろ…緋彩…」

「緋彩か良い名前だな、な?翔太郎」

「そうだな!」

「…ん?」

 

探偵が何かに気づき緋彩の額に手を当てる。

 

「翔太郎、急いで帰るぞ…酷い熱だ」

「マジかよ…急げ!」

「う…うぅ…」

 

緋彩は安心か、緊張が緩み頭がぼーっとなる。

高熱で身体が熱く、強い眠気に襲われ緋彩は深い眠りへと沈んでいく。

 

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

 

冷たく硬い感触に緋彩はゆっくりと目を開ける。

横たわって床に寝そべっている事に気づき、周囲を見るとどうやら室内の一室にいるらしい。

窓から日差しが差し込み、朝より遅い時間に起きたらしい。

 

「ここ…何処?」

「やっと起きましたね緋彩さん」

「青葉?」

 

声が聞こえ視線を向けると壁を背に座っていた青葉と、その横に座って寝ているエンの姿があった。

手足を縛られた状態で。

 

「あ、青葉…ボク達階段のぼってて…あれ?」

「落ち着いてください緋彩さん、一瞬だったから覚えてないでしょうが…上の建物で須郷さん達を待っていたらピエロ風の男が突然現れて、緋彩さんの意識を刈り取って人質にされたのは覚えてますか?」

 

自身も縛られてるのを確認しながら記憶を掘り起こすが、給湯室を見つけて入った辺りから記憶がない。

 

「……いや、覚えてない…青葉、ここは何処?」

「さぁ…私も目隠しされていたので…ですがあそこから随分と遠い所までは運ばれているのは確かです」

「そうか…まだ状況が良く分からないけど、この拘束取らなきゃ」

 

緋彩は足に力を入れて足に巻かれたロープを引きちぎろうとするが、どんなに力を入れても千切れる様子はない。

 

「ぐぐぐぐッ………!!!!」

「無理だと思いますよ、普通のロープじゃないようです」

「ど…どういう…こと?はぁ…はぁ…」

「緋彩さんが寝てる間にロープをどうにかしようとしたのですが…エンさんが言うにはロープに僅かにいやな感覚がすると」

「よく分からないけど、お手上げ状態?」

「そういう事です」

「そ、そんなー…」

 

ぐでっと倒れ、どうにか動こうと芋虫のように動いて青葉の横に到着する。

 

「よっと」

「緋彩さん、これからどうします?」

「え?ボク?」

「緋彩さん以外となるとエンさんですが…」

「あ、あぁそうか…とりあえず…ここから逃げる?」

「今私達を縛っているロープがあって逃げれませんね」

「えーっと…」

 

もう一度緋彩は拘束ロープを引きちぎろうとするが、どうにも千切れる様子はない。

 

「うーん…青葉~…分からないよ…」

「そうですね…いいですか?私達が独力で逃げ出そうとしても恐らく…私やエンさんは逃げ切れず捕まるでしょう」

「それは…駄目だ」

「いざとなれば私が囮になりますが…少なくとも体感では数時間から数十時間経っています、しかも窓の外が見える太陽の位置を考えると…何時だと思います?」

「?????」

 

話を聞いていた緋彩の耳から煙が出るのではないか?という程悩み始め、目が点になる。

 

「……分かんない」

「大体朝の8時30分前後と言ったところですね、少なくとも須郷さん達が行動を起こしてくれているはずです」

「なるほど、翔太郎達が助けに来てくれるのを待てばいいんだね!」

「そういう事です」

 

名案と言わんばかりに笑顔になる緋彩を見て青葉は心の中でため息を吐く。

 

「(私達が捕まり、下にいたあの三人が無事だとは思えませんが…そんな死ぬような程安い人達じゃないですし今は変に動かずこのまま…)」

 

はらり、と青葉の手を縛っていたロープが緩み青葉の手に切れ先が乗る。

その切れ先を緩く結び傍から見て分からないよう細工する。

 

「(…いざとなれば、強硬手段ですね…だが今じゃない)」

 

緋彩でも千切れなかったロープをいつでも外せるようにした青葉はタイミングを図る。

全てを見通しているようにほくそえみながら。



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