この命、君に捧げよう (HIKUUU!!!)
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救出依頼

平行世界線の話。そしてまたの名をセイジ君独り旅ともいう(にちゃあ)


―――――――――ババババババババ・・・

 

上空を飛ぶ一機のヘリコプター空を裂き、何処かへと進んでいく。

 

『分っているとは思うが、君の任務はI.O.Pの技術の粋を集めた戦術人形の奪還だ。当人形は【手違い】により、違法改造を施された状態だがデータを何としても取り出したい。君の仕事は、最悪でも彼女のメモリーを無傷で手に入れる事だ』

 

機内で男が独り、流れる音声をつまらなそうに聞きながら懐から煙草を取り出し、火を付け煙を吐き出す。

 

『良いか。何としてもだぞ。最悪ボディを廃棄してもかまわ―――――』

 

 

バギンッ!!!

 

 

傷だらけの顔面に、幽鬼の様に濁った光を灯す双眸が喧しくがなり立てる無線機を睨みつけると、そのまま右手で握り拳を作り、振り下ろして機材を壊す。煙草の灰を機内の床へと乱雑に払いながら、男は一仕事終えたと言わんばかりに満足気に煙を吐き出す。

 

「旦那ぁ!これ結構高かったんですぜ?!」

 

「後で俺の報酬額から抜いておけ。なんなら多少多めに抜いても文句は言わん」

 

「言質取りましたからね?!」

 

ヘリを操縦するパイロットの咎めるような視線と、大声にめんどくさそうに傷面の男はあしらい、フィルターギリギリまで喫い切った煙草を『鋼鉄製の右手』で握り潰して消火し、吸い殻を床へと捨てる。

 

「旦那、降下地点です。ご武運を!ってもあんたなら死なんでしょうがね」

 

「・・・いつも通りにやるだけだ。出撃する」

 

ヘリの後部ハッチが開かれ、突風が吹き荒れる中、至極めんどくさそうに左手に握りっぱなしだった鋼鉄製の髑髏面を男は被り直し、パイロットのゴーサインと同時に外へと飛び出して行った。

 

太陽に照らし出されて男の姿が露になる。金属製の手足に強固さが伺える堅牢な外骨格鎧。黒づくめの全身に、鎧の背中には笑顔を浮かべた髑髏のエンブレム。

髑髏面のデュアルアイカメラから真紅の光が煌めき、降下先を男は見据える。

 

「糞野郎の依頼に糞共の排除に目標物の奪還。糞だらけの依頼だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「んだありゃ!」

 

「ヘリから何か降りて来やがったぞ!撃ち落とせ!」

 

「オラテメェら!仕事の時間だ!」

 

「畜生。あいつらだけ味見かよ、ついてねぇな・・・」

 

降下する先に、荒野を走るトラック群が減速して停まり、わらわらと装備を身に着けた薄汚い髭面の男達が口々にぼやきながら展開されていく。

銃器が降下中の全身強化外骨格と機械義肢で身を固めた男を銃撃し始める。

銃撃は男の強固な装甲を貫く事なく、火花を散らしながら表面を撫でて虚空へと消え去っていく。

 

「あいつらわざわざ足を止めてくれるのか。まぁ、良い。ゴミムシの駆除からだな」

 

銃撃を物ともせず悠々と自由落下していき、じめんいまで50mを切った時点で髑髏面は足元と背中の開口部から、

燃焼材をジェット噴射しながら、重力の引力を無理矢理打ち消しやんわりと地面に降り立ち、右手に持った異形の大型銃器を構える。

 

「・・・死ぬ時間が来ただけだ。土へ還してやる」

 

降下して苛烈さを増した銃撃にビクともしないまま髑髏面はのそりと、野盗共に向かって威圧感を放ちながら歩き出して右手の銃器をこれ見よがしにぶっ放した。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・」

 

無言で銃火を潜り抜けながら自分の中の感覚が鋭敏になって行き、野盗共の驚愕し脂汗を流して必死に抵抗する様が、鮮明にカメラアイ越しに自分の視界を移り行く。一発ぶっ放せば胴体から中心に花が咲いた様に血液と臓物を巻き散らせて蛆虫の命が潰えて行く。どれだけ撃たれようが義肢も、この強化外骨格も敵の弾丸は貫くことはない。肩にマウントした短めのランチャーでグレネード弾を放って、逃げ出そうとしたトラックの先頭車両を爆発四散させる。ガチャリとランチャーを肩から背中の方へとスライドさせて待機状態へ移行し、罵声や悲鳴に特に何も感じず作業の様に、爆発に巻き込まれてもんどりうって倒れている野盗達の命を丁寧に狩り取って行く。

 

「頼む。ど・・か・・・助け・・・」

 

また一匹死んだ。

 

「俺達の積み荷はやるよ・・!ドスケベな人形なんだ!嘘じゃねぇ!お前も気にいっt」

 

赤の花がまた咲いた。せめて死に際ぐらいは美しくしてやるから黙って死ね。即死ね。

 

ちらりとトラック群を見れば先頭車両が爆発して横転し巨大な障害物になってるせいで、後続の車両はこの荒野の谷地を抜け出せないでいた。タイミングを見てここを通るのは分かり切っていたからこその強襲であったが、目論見通り奴等は右往左往している。疎らになった銃撃を未だに送ってくる馬鹿共を反撃で、ミンチへと変えてやり完全に、俺以外の銃火がなくなり黙ったのを見届け積み荷を確保するべく、俺は積み荷が入っているであろうトラックを探し当てるべくトラックの幌を右手の義肢で強引に破りながら探し出した。

 

 

 

 

「へへへ、ホワイティ。もっと厭らしく鳴けよ」

 

「たまんねぇなぁ!この淫乱人形が。搾り取る動きしてやがるぜ」

 

「うぇ・・・っ・・・んちゅぅ・・・」

 

―――耳障りな汚い欲望をぶつける声と、か弱く響く女の子の嫌そうな呻き声。水音、リップ音・・・つまりはこの大惨事にまだ『味見』と称して戦術人形を嬲っている馬鹿共が生き残っているのかと俺は当たりを付け、ずんずんと大股で横転もせず、停止しているだけのトラックの幌へと近づき、中を開ける。

 

「おせぇぞ。ようやく終わったのかよ・・・ってなんだテメ」

 

暗がりで良く見えないが銀色の髪が、一瞬見えたのを確認し、驚愕して俺に怒鳴り出した薄汚い下半身を露出した男の顔面を吹き飛ばす。間違いなくターゲットがここにいる。確信した俺はスラグ弾を詰めたショットガンが自動廃莢され、トラックのカーゴの床へとカラカラと音を立てて転がり落ちる音を聞く。

暗がりに目が慣れ、美しい銀髪をツインテールと言うのだったかな・・・二房に纏めた背が小さな女の子が衣服を剥ぎ取られ、胸部を曝け出されながら、股下に潜り込んで陰部をズボンから出していた男が俺を見て慌てた様にっ叫ぶ。

 

「おい待て!止めろ!俺は殺すな!本拠地の情報を知りたいんだろ!?俺を殺したら二度と手に入らねぇぞ!」

 

冷や汗を流しながら嘯く男を眺めながら、上に乗せていた女の子に平手打ちを食らわせて男は怒鳴る。

 

「降りろ雌豚!」

 

「う!はい・・・」

 

雪のような白い肌が叩かれて赤く腫れ、勢いで倒れた彼女が男から退いたのを見た瞬間、俺はすかさず男の首を片手で掴み、宙吊りの状態へとしてやる。ギシギシとトラックが揺れるが構わずにこの糞野郎を自らの顔面の位置へと顔を近づけさせてやる。

 

「テメェ!こんなことしてただで――――」

 

ズドン!!

 

 

宙吊りにした状態で左手に持ち替えていたショットガンで胴体をぶち抜き、幾分か軽くなった男の体をカーゴの床へと放り、マガジン内の弾が切れるまでその死体にスラグをぶち込みただのミンチへ変えてやる。地獄で懺悔しろ。

 

蹲り呆然とする彼女をやんわりと抱き上げ、マスク内の通信機を作動させて喋る。

 

「目標を確保した・・・」

 

はだけた胸を隠すべく、その辺に転がっていた・・・学校の制服か。フェチな趣味してやがる糞共だったな。それを、彼女に掛ける様に被せ、歯軋りをしながら唸る。

 

「うぅぅぅ・・・!!」

 

俺の様な者を人間と認めず、戦術人形だからとこのような小さな娘迄食い物にするこの世界の悪辣さに反吐が出る程の思いを抱えながら俺は、パイロットに速く迎えに来るように指示を出した。

彼女は涙をはらはらと流しながら、状況を理解したのか。安心したように眠り出したため、俺は一層起こさない様に迎えのヘリを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こっちの方は基本気まぐれ更新の本編より戦闘描写削り目になります。それdえも良いならご覧ください。


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D08地区G&K前線基地・特殊傭兵課 GoodSmileCompany

どんなときだろうと人は笑顔を絶やしてはいけないらしいぞ?だから笑えよ。お前の最期の時だぞ。
―――GoodSmileCompany 今月の標語より。


深い眠りについたのか微塵も起きる気配のない彼女をヘリの機内で抱き抱えたまま、依頼主に依頼達成の報告をしようとして気づく。そういえばさっき壊したなと。

手持ち無沙汰になった俺は、彼女の身じろぎに合わせて揺れる美しい銀髪をさらりと撫でながら、ぼけっと傍らに置いたショットガンを見やり溜息を吐く。

 

「・・・俺の戦術に合ってるが有効射程が短い。それになんだ?スラグ弾か、フラグ弾しか撃てない上にライフリングが刻まれてる?馬鹿が作った銃だろ・・・」

 

俺に良い笑顔で渡してきた依頼主と懇意にしているというガンスミス・・・が作った試作品と言う名の廃棄処分品を受け取って実戦でのデータ取りを任されてはいたが、正直、糞ほど信用はしていなかった。ライフリングを刻んだせいでバレルに耐久に難がある可能性があると、俺の義肢をメンテナンスしていたメカニックに、出撃前に説明されてから何時バレルが変形して暴発するか分からない危険な代物を好んで使いたいとは思わない。

 

現にさっき確認したが、内部のライフリングが煤でかなり汚れていた。多分あと10数発以内にクリーニングしてないと確実に暴発していた筈だ。

 

耐久性に難あり、早期クリーニングの必要性があり、誇れるのは威力と精度だけ・・・使用弾薬は10ゲージシェル。控えめに言って頭が可笑しいなんてもんじゃない。発射方式はガス圧利用のセミオート。自動廃夾されるタイプだが、廃夾するスリットを覆うカバーがガスで噴射されて開くまでのタイムラグが長い。不満を上げればきりがないが、オリジナルの銃を創ると息巻いていた奴さんには悪いが・・・落第点だ。

 

轟音とまでも行かないもうるさいローターが回る音を響かせて飛ぶヘリの狭い窓から首を動かして外界を見やり、ふぅと溜息を再び吐き出す。

 

「俺の名はデッドマン・・・GoodSmileCompany・・・。それしか分からないな。相変わらず・・・」

 

今回の依頼は貧困に喘ぎ出した俺自身の財布を潤す目的もあって飛び込んだ依頼だった。目論見通り報酬は高かったが、同じくらい胸糞も悪くなった。こんな娘が・・・違法改造された上に、違法人形娼館に流される寸前だったとはな・・。見た感じ、そういう調教を施された形跡が幾分か見受けられる。衣服から覗く、黒のソックスに包まれたむっちりとした太腿や、身長に見合わない巨大に突き出た胸に、男受けしそうな愛嬌のある小顔が、今は俺の胸元に縋り付く様にして目を閉じ、寝息を立てている。

こういう時にこそ、俺の様な死に損ないが何を出来るでもなくせめて眠る彼女を起こさない様に抱き枕宜しく、なるべく衝撃や振動を殺しながら機内の窓から覗く風景を黙って見ていた。

 

 

 

 

 

 

「おお!待ち侘びたぞ!で?サンプルは?」

 

「この娘がそうか?」

 

「ああ!そうだとも。ささ、こちらに渡したまえ」

 

見慣れた光景の我らが基地のヘリポートに特に何もなく無事に着陸して俺は髑髏面を機内に置き去りにしながら、欠伸を噛み殺しつつローターが完全に止まったのを確認してから外へ繰り出す。この娘の寝顔を眺めてたら俺迄眠くなってきた。降りた途端に控えていた白衣のちょび髭を生やした男が喜色満面の笑顔を浮かべ、俺へと駆け寄りながら尋ねてきた。それを、俺は彼女が起きない様に配慮し、顎でしゃくってやりながら聞き返すと、そうだとの事で引き渡しを要求してきた。

 

当然俺はそれを、笑顔を浮かべて―――――

 

 

 

「カーター・クルザス。貴様にはG&K社の戦術人形に対する違法改造。及びに違法取引による引き渡し実行犯、そして余罪数点に対する逮捕状が出ている」

 

貴様の罪状が出ていると事実を突きつけ、彼女を左手で抱き抱え直しながら、右手を自動変形した太腿からM93Rをベースに開発された俺専用の大型ハンドガン、オート9を太腿の内部から引きずり出し、そいつの眉間に突きつけながら、我ながらイイ笑顔を浮かべているのだろうなと頭の片隅に思いつつ更に告げる。

 

「余計な問答はしない。貴様を連行する」

 

丁度計器やらエンジンの調整やらが済んだヘリのパイロットも操縦席から降りてきて風船ガムを膨らませながら、めんどくさそうにノロノロと胸元のホルスターに収めていたベレッタF92をそいつの足に向けながら俺に話しかける。

 

「旦那、こいつ馬鹿何で?」

 

「言ってやるな。大馬鹿野郎だよ」

 

「な、ななななな・・・」

 

どもりながら顔面を蒼白にしたカーター容疑者が逃げ出そうと慌てて踵を返して走り出したのを見て、ヘリのパイロットが口笛を吹く。

 

「ひゅー♪引き籠りにしては早いですな」

 

「命の危機でブースト掛かってるだけだろ」

 

「俺は弾代ケチりてぇ旦那。今月やらかして、うちのかみさんがうるせぇんですよ」

 

「なら良い。任せろ」

 

ぶー垂れるヘリパイロットに苦笑を漏らしながら、俺は即座にカーターの貧弱そうな脹脛に狙いをつけ発砲する。

セミオートに事前に切り替えていた為、一発の弾丸が奴の左ふくらはぎを貫通し、床に突き刺さる。そのまま奴は走ってた勢いのまま床へとヘッドスライディングを決めて悲鳴を上げる。

 

「あ、足が!足がぁぁぁぁ!!!」

 

「ナイスショット旦那」

 

「お前でも出来るだろ」

 

「めんどくせぇから俺なら胴体撃つ」

 

「おい、奴は容疑者な?」

 

「あ、やべ。忘れてた」

 

「な、なになに?!銃声!?」

 

「安心しろ、俺が撃っただけだ・・・」

 

俺に凭れ掛かり寝ていた嬢ちゃんが飛び跳ねる様に起き出して、周りをきょろきょろと見渡す。そして飛び起きた瞬間に、衣服越しにでもわかるボリュームのある胸の躍動感。ばるんばるん言ってたぞ。密かに心のデータフォルダに先程の衝撃的な光景を保存しながら、俺は蹲ってすすり泣きだしたそいつにオート9の銃口を向け再度伝える。

 

「貴様を、連行する」

 

 

ある意味今日はツイてる日だな。懸賞金が掛ってた馬鹿を依頼とは別口で捕まえれるとは。

オート9を突きつけながら奴を立ち上がらせ、足を引き摺ってでも歩けと強く命令し、背に銃口を突きつけ、立ち上がるのに偉く時間をかけている様にまだ時間がかかると判断した俺は、ヘリパイロットに声を掛ける。

 

「トニー、この娘を処置室と入浴させる様に他の子達に伝えておいて、案内してやってくれ」

 

「えぇ・・まぁしゃあなしですな。旦那は?」

 

「俺達の『指揮官』の元にこいつ引き摺って行って余罪追求と報酬金の分け前を貰いに行く」

 

「旦那、もう戦術人形扱いは慣れたんですかい?」

 

「事実そうなのだろう?法律上は」

 

「すいません・・・」

 

「・・・・」

 

トニーのブラックジョークに思わずきつい返しをしながら俺は無言でようやく立ち上がったカーターに罵声を浴びせて急かす。

 

「何時までうじうじしてるんだ蛆虫が!さっさと歩けボンクラ!」

 

「ひぃっ!」

 

よたよたと左脚を引き摺りながら前を歩きだした奴を後ろから追跡して、目まぐるしく変わっていく状況にポカンとしている彼女に思い出したかの様に俺は言葉を投げ掛ける。

 

「ああ、そうだ。言い忘れてた。ようこそD08地区防衛基地へ。歓迎するぞ」

 

トニーにもう一度彼女を頼むと伝え、埒が明かないと判断しボンクラを片手で引き摺りながら俺はヘリポートを後にした。さて、どれだけ余罪出てくるかな?罪状が増えれば単純に懸賞金額も査定で上がるからなぁ。たっぷり吐かせるぞぉ・・・!

 

 

 

 

 

 




ほんへと違って人権なしの戦術人形扱い、コールドスリープ状態でD08地区の指揮官の部隊が作戦展開中に施設を発見、たまたまサルベージされて今に至る。ただし詳細な記憶がなく、覚えていることがデッドマンと言うコードネームとGoodSmileCompanyと言う民間軍事会社の名前のみ。この会社名、又はコードネームを知っている者を探す為に傭兵稼業中。そして本名も自分で覚えてない為、もっぱらデッドマンとしか呼ばれない。最初にサルベージされた際に人間ではなく、サルベージ情報を察知した人権保護団体から戦術人形という悪意のある間違いを受け、法律上、人形と定義されてしまった。独立傭兵でありながらG&K社の『所有物』扱いと言うかなり珍しいケースでもある。
しかし、周りの人間や人形達は彼をちゃんとヒトとして扱ってくれるため、あまり気にしていない模様。


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戦術人形?デッドマン

―――ある日の出来事だった。俺は眠りから覚めて、今の指揮官に拾われた。スケベで頭は回る癖に、変に人情味のある・・・男の俺からしてもいい男の部類に入れたくなるそんな指揮官。俺は、人間らしい本当は、だが世界がそれを許さなかった。俺は戦術人形としてこの世界を生きながら俺の記憶の手掛かりになるものを探している・・・。

俺は一体何処の誰で、どうしてこんなカラダなんだ?誰か教えてくれ・・・

死人の手記より


「おー、デッドマンお帰りー。そいつは?」

 

「違法改造と横流しの容疑者。良かったなディーノ。臨時ボーナス確定だぞ」

 

「やりぃ!良くやった!出来る部下を持つのは違うなぁ」

 

「今回は此奴が底抜けのバカだっただけだ。俺は何もしてねぇよ」

 

「むぅ!ダーリンこっち見てくれないとやだぁ!」

 

「あー、ごめんよハニー」

 

「今日の副官はⅯk23か・・・サボりすぎてまた俺に書類押し付けるなよ?」

 

「「てへ・・?」」

 

「二人揃って舌出して笑うな・・・メンテ終わったら残りやっとくから上がって休んでろ」

 

「何時もゴメンね?デッドマン」

 

「暇だし構わんよ・・・そうだ、こいつの罪歴リストアップと罪証の書類だけ出しておいてくれ」

 

大馬鹿野郎を引き摺って司令室に行けば、指揮官がⅯk23を膝に乗せながら書類と向き合っていた。相変わらず手は出してないようだが・・・やるなら吹っ切ればいい物を・・・俺と違って人間として生殖器も正常なんだからお前に好意を寄せている人形達を抱いてやればいいのに・・・全く変な所で臆病な奴だな全く。

 

両手を合わせて、片眼をウィンクして謝ってきたⅯk23に気にするなと片手を振って、被りを振り、デスクに放置されていた携帯端末を起動して電源を入れる。

 

「あー、もしもし?これから独房に容疑者ぶち込むから一つだけ解放しておいてくれ。多分スムーズに終われば30分後だ」

 

【はいはい!また賞金首捕まえたんですかお兄さん?】

 

「そんな所だ。しょぼい金額だろうがな」

 

【じゃあまた、手作りコーラ飲めるの?!】

 

「ん、お前が望むならな。デッドマンアウト。ちゃんと支度だけはしとけよ?」

 

画面上に映るSAAがニコニコ笑いながら返事を返してくれ、元気な様子に思わず俺も破顔する。相変わらず元気な娘だ。見ててこっちも元気になる。早速準備に入った彼女の後姿を眺めつつ携帯端末の電源を落とし――――

 

「何見てんだ?さっさと仕事をしろ」

 

こっちを揃って見ていたディーノとⅯk23がニヤニヤと笑っていたのを文句を言い放ち、デスクの引き出しを勝手に開けて、包帯を取り出し、出血している容疑者のふくらはぎを包帯で乱雑に処置し、痛がる様子にわざと苦痛を感じるように乱暴に傷口を触ってやる。

 

「あがぁぁ・・・!」

 

「いてぇか?まぁそうだろうな。痛くしてやってるからな」

 

「き、君は慈悲という物はないのか?」

 

「慈悲?最大限配慮してんだろーが。じゃなきゃテメェ俺の前にいた時点で死体だぜ」

 

言外にテメェの首に賞金が掛ってて余罪を追及できるからそうしただけだと伝え、脂汗を流して歯を食い縛って耐えるこいつの頭をぺしりと叩く。生きてるだけ儲けもんだと思え。

 

「デッドマンこれー」

 

「ほいほい・・・何々?横流しに違法改造、違法娼館からの賄賂受け取りに野盗との癒着。殺人に詐称・・・おーおー極悪人だなコレ」

 

Ⅿk23が投げて寄越したプリントアウトした書類をざっと流し読みしてもかなりの罪状に思わずニヤリと笑いを浮かべる。コイツ懸賞金額跳ねあがってるなこりゃ。

 

「うわぁ・・悪い顔・・・ダーリンはあんな顔しちゃやーよ?」

 

「勿論しないさハニー」

 

「聞こえてるぞー貴様等ぁ」

 

イチャイチャするわりにはお互い線引きしてんだよなこいつ等。面退くせぇ・・・。早くくっつけよなぁ・・・。

 

「そんじゃ、指揮官殿。私目はこれより容疑者を独房に移送。その後に定期メンテナンスし、残った書類の片づけを行います。宜しいですかね?」

 

「そんなに気を使って業務しなくてもいいんだぞ?急ぎの書類は終わってるわけだし」

 

「良いって。どーせ、暇だしよ」

 

ディーノの此方を心配してくれる態度に苦笑を漏らしながら、早く休んでおけと一声掛け、カーター容疑者の髪を引き摺ってドアを開けて出て行く。邪魔者は退散しねぇと。

 

「痛い痛いいたぁいいいいい!!!!!」

 

「痛くしてるんだって。分かれよ」

 

あーうるせー。そこまで強く引っ張ってねぇよ。

 

「あ、やべ」

 

「私の髪がぁぁぁ!?」

 

引っ張る力に耐え切れなかった脆弱な髪の毛が結構ぶちぶち抜けた。やっべ。ま、いっかどうせ、こいつ死刑みたいなもんだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ彼の記憶に関する資料や知ってそうな人物見つからないの?ダーリン」

 

「ああ、必死に探してるんだが・・・なんのヒットも無い。此処迄見つからないとはね・・・」

 

「早く、自分を取り戻せる様になれば良いのにね。可哀想なヒト・・・」

 

「それでもめげないで俺達を助けてくれてるんだから、頭が上がらないよなぁ」

 

「あら?彼も同じ事この前愚痴ってたわよ?記憶喪失のサイボーグなんかをよく助ける気になったものだーって」

 

「マジで?別に大した事はしてないんだがなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい!お兄さん!」

 

「おう、ただいま。こいつぶち込んでおいたわ」

 

「髪・・・私の・・・」

 

「うっせ、もう寝ておけ」

 

独房エリアに着いてから早速空いていた独房へとコイツをぶち込んでおく。あーめんどくさかった。賞金首はやっぱデッドオアアライブの方が楽だわ。基本殺す方が後腐れないし。

ぶち込んだ後に伸びをしていると、駆け足でやってきた元気印のカウガールに軽く手を振り、駆け寄ってきた彼女の頭を、ハット越しに撫でてやる。身長差からちょうど手の位置なんだよなこの娘。呆然とバーコード禿になった

頭部を何度も気が狂った様に撫で続ける容疑者に、サッサと寝ろと伝えぐりぐりと俺の義肢に頭を押し付けてくるカウガールの様子に苦笑を漏らす。

しっかし、偉くなついたよなぁこの娘。まぁ、きっと兄さんみたいな感情なのかね?俺が・・・か。フーム何か思い出しそうな・・・?

 

「どうしたのお兄さん」

 

「んー?なんか思い出せそうな気がしてな・・・まぁ別に大したことないだろ」

 

一瞬脳裏を過った薄幸そうな小さな女の子が俺に向かって笑いかけていたヴィジョンが浮かんでいたが、きっと気のせいだろう。俺のこのカラダの状況的に、そういう肉親がいたとは考えづらいからな。

薄暗くなった廊下を薄暗くなった自動でついた照明が照らし出し始め、もう夕方を過ぎたかと感じてSAAに声を掛ける。

 

「俺はまだ仕事あるから先に飯食って来いよ。遅くなるし」

 

「えー!デッドマンも一緒じゃなきゃやぁだぁ!」

 

「駄々こねるなよ。じゃないとこの基地の業務回らなくなって困るのは俺もそうだが皆もだぞ?わがまま言うなって。明日からは緊急の依頼ない限り基地に当分いるから安心しろって」

 

「朝食は絶対一緒に摂ってよ?」

 

「あー、じゃあ指切りげんまんな」

 

「嘘ついたら誓約指輪ね?」

 

「や、もっとイイ男探しなさい。ディーノとか」

 

「やー!!」

 

「俺にどうしろと?」

 

ぽかぽかと頬を膨らまさせて俺のアーマーを殴ってくるSAAに何とも言えない気持ちになり、冗談にしては笑えない言葉に思わず口元を引き攣らせながらやんわりと拒絶する。俺なんかよりイイ男なんて一杯いるから探しなさいってマジで。

何とか宥めつつ、夜食を食べて来るように言い包めてメンテナンスを受けるべくSAAと別れて薄暗い廊下を一人で歩いていく。

 

「おー、旦那来ましたね?目測終わり!解散!」

 

「おい、手ぇ抜きすぎだろ」

 

「だって傷ついて無いじゃないですか。装甲もブースターだって」

 

「いや、そりゃそうだが・・・」

 

「それに男の裸見る趣味はない!」

 

「そっちが本音だろ主任よぉ!俺だって晒したくて晒してるわけじゃねぇよ!?」

 

二人で狭いメンテナンスルームに閉じこもりながらギャイギャイと喚きあう。俺だって機能不全起こして死にたくねぇから任せてるんだがなぁ!?

 

「と、まぁ冗談はさておきスキャナーで見ても出撃前と大差ない状態だ。オーバーホールもこの前したばかりだから大丈夫だ」

 

「ん、サンキュ。何時も助かってるぜ」

 

「それが俺の仕事だからな。さて、イサカが待ってるから帰るぜ?」

 

「おーすまねぇな、業務終了してんのに」

 

「構わないさ。お前さん程働いてないからな」

 

「俺はあくまで間借りさせて貰ってる身だからな。これ位しないと釣り合わないだろ?」

 

「・・・お前さんがそれでいいならそれで良いんだが」

 

「性分だ許せよ」

 

スキャナーによる簡易診断を済ませて、機材を片付けた主任が何とも言えなさそうでこっちを見るのをこちらもしょんぼりした顔で見ながらしっしと手で追い払う。早くイサカと一緒に飯食ってイチャコラして来いって。俺のkとはもう良いから。

主任がチラチラとこっちを見ながら去っていくのを見送りつつ、溜息を吐いて司令室への道へと戻って行く。さぁてもうひと踏ん張りだ・・・。どうせディーノの事だ。ちょっとは減らしてくれてるんだろ。

 

二人がいなくなってガランとした司令室のデスクチェアにどっかりと座り込んで積み上がった薄い書類の山と、ディーノが残した書置きを左手に持ち読む。

 

『この書類の山だけ。指揮官が必要なサインは先に署名した。悪いけどまた頼むな』

 

「分かってるって。指揮官様ッと・・・」

 

デスクに転がっていた万年筆を拾い上げ、カリカリと必要な文面と結果などを記し、サッサと終わらせるべく無言で書き上げて行く。今日も残った夜食だけ、スプリングフィールドに貰うか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ほんへより明らか楽天的で明るい奴になってはいますが、他人からの好意は基本受け取れないスタンスは変わらない定期。


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HK417

―――何処かで見覚えのある人間と俺が戦っている風景。こんな手足じゃなくて生身の俺だ。けどその俺は何時も憎しみに染まった目で敵を惨殺していっている。俺は一体誰だったんだ?なぁ、誰か答えてくれ・・・


「あぁ~あっと・・・書類終わりぃ・・さぁて飯食ってシャワー浴びて寝るか」

 

2時間ちょい程度で書類の山も片付き、俺はチェアの背もたれを倒して伸びをする。全身義肢の為にそう言った疲労とは無縁だが、どうにも肩などはまだ生身な為凝っているような気がする。まぁそれも、一晩寝ればどうにかなるだろうが・・・。

ギシリとチェアから立ち上がり、そういえば昼間救出した人形・・・あの娘はどうしてるか気になり、携帯端末を通話モードにて立ち上げて、医療班に連絡を取る。

 

「こちらデッドマン。昼間救出した娘はどうなってる?」

 

【あ、デッドマン。丁度良かった。あの娘、入浴とか着替えも済んだんだけど・・・】

 

「おう、トラブルか?」

 

【それが精神的に弱ってるからか、やっと自分が救出されたって理解した途端に怯えちゃって・・・ご飯も、口に入れた途端に戻しちゃってるんです】

 

「ふーむ、精神的なショックから食べ物を受け付けないのかね?まぁ良い。一度そっちに行って様子を見よう」

 

【お願いしますね?医療知識がインストールされてるのはあなたと複数名だけなんですからね】

 

「分かってるさ。だから他の出払ってる奴等に代わって今日は俺がここにいるだろ?しばらくはいるしな」

 

【ふふふ、じゃあお願いしますね?待ってますからね?デッドマン】

 

「ああ、今行くさ。デッドマンアウト」

 

くすくすと何が楽しいのか、上品に笑っている画面越しのスプリングフィールドに軽く手を振り通話モードを終え、司令室に来る前に、廊下にあるトニーのロッカーからパクっておいた風船ガムを口に含み咀嚼する。ここの基地の、一部の戦術人形達は何故か俺が喫煙してると取り上げようとしてくる為、今はめっきり喫煙する事も減った。どうしても我慢ならん時などは見逃してもらっているが、まぁ仕方ない事だな。女性の方が多い職場だしな。

くちゃくちゃとガムを咀嚼し、ストロベリーフレーバーの甘い香りと甘酸っぱい味を楽しみつつ、ぷぅと口内の息をガムに吹き込み風船にして膨らませる。

 

「おー、デッドマン。それコンドームか?」

 

「馬鹿言えコンドーム息で膨らませて歩いてるなんて只の変態だろうが。お前らと一緒にするなー?」

 

「お前こそ馬鹿言ってんじゃねぇよ!欲望を開放しろよ!」

 

「その結果痛い目を見るのは火を見るより明らかだから遠慮しておく」

 

「お前、ディーノ指揮官と同じくらい人形ちゃん達に慕われてんじゃん!羨ましいぞ!」

 

「自分の勤務態度を見直すべきだな。後は有事の際俺が先頭立つから単に頼りがいのある盾として信頼してるだけだろ」

 

「あほー!むっつりー!」

 

「おめぇら本当に元気だよな・・・俺はむっつりじゃなくて今は、記憶の手掛かり探すのに忙しいからそういうことを考えてないだけだ」

 

移動中、すれ違うスタッフの一団と軽く談笑しながら目的地を目指すが、男の連中は良くこうやって俺を揶揄ってくる。全く、お前らに惚れてる娘もいるのを知ってるんだがなぁ?もうちっと周りを見るべきだなー。こいつら。

 

「んじゃあな。さっさと歯ぁ磨いて糞して寝ろ」

 

「うるせぇ!むっつり!」

 

「おっぱい万歳!」

 

「尻が見てぇ!」

 

「・・・後ろから来た人形達が冷ややかな目で見てんぞ。俺は知らねぇからな」

 

後ろからわいわいと賑やかな様子で来た戦術人形の一団がスタッフ達を冷ややかな目で見つめて場が膠着し始めたが、こんな事はココでは日常茶飯事だ。俺はスルーして医療施設・・・基、医療室へと歩を進めた。

 

「あんた達またそんな馬鹿なことしてるの!?」

 

「や、俺達は・・・」

 

「言い訳無用よ!明日起きたら指揮官に言いつけてやるから覚悟しなさいよ!?」

 

「わーちゃん許して!」

 

「五月蠅い!変態!」

 

あちゃー、わーちゃん迄聞きつけて説経か。あいつ等今日は寝れねぇな。まぁご褒美だろうし黙っておこう。わーちゃん、潔癖症だからなぁ・・。

背後から聞こえる怒鳴り声や悲鳴を無視して俺は更に奥へ進んで行った。ガムは途中で吐き出してゴミ箱に包み紙と一緒に捨てた。ずっとは噛んでいたくはないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うえぇぇ・・・・」

 

「大丈夫、此処にはあなたを傷つけるヒトなんていませんから。落ち着いて・・・」

 

「ご、ごめんなさい・・・ホワイトローズは卑しい雌おぶぇぇ・・・」

 

医療室のドアを開けた瞬間、蹲り床に向かって吐瀉物をぶちまけ過ぎて、胃液しか出なくなったあの娘の背中を優しく撫でながら、語り掛ける様に喋り掛けているスプリングフィールドとあの子の背中を見つけ歩み寄り、近くの救急ボックスから生理食塩水のボトルと医療用グローブを取り出す。

 

「フラッシュバックか?」

 

「ええ、多分」

 

スプリングフィールドに声を掛け、ちらりと彼女を見れば、涙を流しながら舌を突き出して餌付き続けている。生理食塩水のキャップを開け、ボトルを床に置き、彼女を正面から見える様に、色々と胸糞の悪い物の形跡が見える吐瀉物を意図的に彼女から見えない様に俺の方へと手を使って顔を固定してやる。

目を見開いて恐怖に引き攣った顔、舌を突き出して吐き出したりないのか俺の顔を見て一瞬治まるも、また顔色を青くして吐こうとしたので、医療用グローブを填めた手で口を無理矢理開き口内と喉を診察する。

胃液で口内とが荒れ、喉が出血を起こしてる。無理くり吐かない様にするしかないな。これ以上は彼女の弱り切った体に毒だ。

 

「名前は?」

 

「卑しい雌豚・・うっぷ・・ホワイトローズです・・・ご主人うえぇ・・・」

 

「違う。お前自身の戦術人形としての名前だ。その名前はもう必要ない」

 

ポタポタと唾液交じりの胃液を口の端から垂れ流しながら自己紹介する彼女に奴隷娼婦としての名前はもういらない。お前は戦術人形だろうと伝え、彼女の遠い日のメモリーから呼び覚ませるべく声を掛け続ける。

 

「HK417・・・HK417です・・・」

 

涙を流しつつ、幾分か落ち着きだした彼女に更に声を掛ける。

 

「思い出せ。お前は戦術人形だ。過去の事は忘れろとは言わない。俺がお前を戦場に連れて行ってやる。また戦えるようにしてやる。だから今は自分の本分を思い出せ」

 

酷な様だが、自身の存在意義を無理矢理剥ぎ取られた戦術人形は違法解体によって精神的なダメージが残り易いと聞く。故に思い出させてやる。自分の本分を。

・・・本当ならこんな娘達に戦わせなければならない俺達人間が不甲斐ない話なのに。こんな方法でしか今は、彼女を助けられない。

メモリーから引き摺り出した記憶で目に見えて安定化し始め、吐き気が治まった彼女の口元を医療用のガーゼで丁寧に拭ってやり、廃棄ボックスの中にガーゼをぶち込む。

 

「自己肯定させて安定化させたのですか?」

 

「正直賭けだったが、メモリーが消去されてたらアウトだった・・・メカニック達はなんて?」

 

「ハード面、ソフト面からの記憶の消去が出来なかったそうです」

 

「だからスプリングフィールドと俺に頼ったわけか。ワンオフの戦術人形か・・・AR小隊達の様な・・・」

 

喉の痛みに気づいたのか喉を頻りに撫でる彼女に生理食塩水のボトルを手渡し、救急ボックスから抗生剤入りのトローチを取り出し、追加で手渡す。

 

「まずいだろうがゆっくり飲め。そして喉が潤ったと思ったらこのトローチを舐めるんだ。自分のペースでいい。ゆっくりあせるな」

 

「・・・お食事を持ってきましょうか?デッドマン。あなたまだ食べてなかったですよね?」

 

「俺の事は良い。経過を見ないとな・・・俺は一食くらい抜いても大丈夫だ。見ての通り栄養の必要な細胞が少ないのでな。サイボーグな物で」

 

「デッドマン、そういう冗談はやめてくださいとあれほど言ったでしょう?」

 

「わ、悪かった。俺が悪かったから怒るのはやめてくれ・・・」

 

後ろからのぞき込む様に彼女の様子を俺とな児く見守っているスプリングフィールドの言葉に振り向きつつ、返事を返し、彼女の綺麗な緑色の瞳を見つめる。いや、別にエプロンで強調された彼女の豊かな胸がぽよんと、震えたのを見て気まずくなって顔を見たとかそういう事ではなくてだな・・・。

ずいっと、跪いている俺に顔を寄せてぷんすか怒りだしたスプリングフィールドに慌てて謝罪しつつ、クリーンボックスの中に納まっていた吐瀉物処理セットを使って吐瀉物を処理していく。さっさと終えて消毒すらした頃に、彼女は生理食塩水を飲み終え、トローチを舐めていた。

 

「落ち着いたか?」

 

「はい・・」

 

「飯は食えそうか?」

 

「・・・フルフル」

 

首を横に振って拒否を示す彼女にそうかとだけ返し、戸棚に収まった注射器を取り出す。

 

「ひとまず、体自体が弱っていることにはどうしようもない。生体パーツが多い部類らしい君は・・・だから即応処置だが、今晩は栄養剤の注射と水分補給で様子を見る。俺も本職じゃないもんでな許してくれ」

 

「いえ、ありがとうございます・・・」

 

彼女の細い小さな左手を取り、一思いに注射器を刺して中身を注入する。ハイカロリーな流動液剤だ。経口摂取じゃなくても血中で後々消化されて吸収されるタイプの注射だ。

 

「痛かったか?」

 

「ううん、ただ、媚薬を刺された時の事を思い出してちょっと怖く思っちゃったなって」

 

「・・・配慮が足りなかったなすまん」

 

ペタンと床に座り込み涙も引っ込んだ様子の彼女がゆっくりと立ち上がろうとして、すとんと腰を再度床に落としたのを見て、グローブを廃棄ボックスに投げ入れてから横抱きにして抱え上げる。ブルンとかなり大きな胸が治療着と言う薄着のせいで、勢いよく震える瞬間をじかに見てしまい思わず横を見る。

 

「・・・」

 

「あ、ありがとう・・」

 

何故か冷ややかな目をしたスプリングフィールドが俺の事を睨む様にして見ていた。待ってくれ。不可抗力だ。抱え上げた娘は恥ずかしいのか顔を赤らめて小さく礼を言ってくれた。するとスプリングフィールドからの威圧が更に増した。俺が一体何をしたと言うんだ。

彼女が寝かされていたであろう医療用ベッドに彼女の体を横たえ、薄手のタオルケットを掛けてやり、俺はそのまま離れようとして――――

 

「行かないで・・・」

 

俺の左義肢をキュッと握ってきたHK417の言葉と不安そうな表情に思わず立ち止まる。

仕方ないか・・・。

 

「スプリングフィールド。明日の朝にまた・・」

 

「ええ、分かりましたよ。シッカリ見張ってあげて様子を見てあげてくださいね?デッドマン」

 

「ああ、無論だ」

 

微笑を携えたスプリングフィールドが、豊かな美しい茶髪を左右にゆらゆらと振りながら

医療室を出て行き、俺はベッドの傍らにあったパイプ椅子を二個取り出して座り込む。一個だと俺の体重のせいで壊れるんだよな。

 

「あなた、お名前はなんていうの?」

 

「デッドマンだ」

 

「なぁにそれ?皮肉?」

 

ようやくくすくすと笑いだした彼女の額と髪を撫でながら俺は、答えた。

 

「いや、これしか・・・覚えてないんだ。自分の名前だったものが」

 

「本当に?」

 

「ああ・・」

 

俺達は下らない、どうでも良いような会話をしながら時間を潰し、彼女がうとうとし出すまで俺は絶えず彼女に話しかける様にして、彼女が眠るまで辛い事を思い出さないように努めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




同僚としては信頼されてるデッドマン。尚、ほんへ同様EDとするも、女性への興味は本へよりは多少ある。


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早朝のトレーニング

格闘?いや、俺は記憶がないんだ・・・自分の戦闘スタイルがどうだったかさえ覚えてない。起動した時に、見たことも無い格闘術で反撃された?すまない。起きた当初の記憶が本当に無いんだ。俺が何処の誰で、何故こんな目に合っているのかもな。

――――死人の再起動後の証言。


――――風切り音と共に飛来するダミー人形の拳を寸での所で躱し、首を振って躱したせいで飛び散る汗の飛沫が陽光に照らされ、煌めきながら視界の端へと消えていく様を捉えながらも、目の前ののっぺりとしたなんの表情も無いダミー人形の拳に合わせてこちらも反撃に鋭いジャブを放つ。

ボッ!と空気を引き裂く様な音を放ちながら、相手の左頬を打ち据えた拳をインパクトしたと知覚した瞬間に腕を振り抜く。

 

「オォリャッ!!!」

 

気合一閃。咆哮と共に相手を空中へと吹き飛ばし、態勢を整え、拳を再び構える。

 

「シェェアッ!!!!」

 

ダメージも無さげに首を左右に振って、綺麗に着地したダミー人形が果敢に俺へと突撃してきたのを確認し、足を突き出して相手の拳が届く前に、その動きを止める。くの字に曲がった相手の態勢を更に崩してダメージを与えるべく、蹴り抜いた足を引き戻し、軸にした足を一歩踏み込み、今度は外から薙ぎ払う様に回し蹴りを放つ。

相手の右腕を巻き込んでの回し蹴りにダミー人形は吹き飛び、地面を数度転がり、今度こそ沈黙。

 

「・・・・・・ふぅぅ・・・」

 

振り抜いた足をゆっくりと地面に下ろし、荒い息を吐き出しそうになるのを堪えて大きく息を吐き出し深呼吸を行う。

 

「前より、格闘能力が向上してるようだな?デッドマン」

 

「負けっ放しは癪だ。俺だって成長する」

 

横合いから掛けられたディーノの感心したような声に思わず返す。記憶がないとはいえ、今の所一番しっくりくる格闘ぐらいこなせないのでは、俺がここの基地に戦術人形として存在している意味がなくなってしまう。のっぺらぼうの、表情も糞も無い簡素な造りの、強化プラスチックの骨格に肉の代わりに、衝撃用クッションが全身を包むダミー人形が再起動し、所定の待機位置へと戻る。俺はそれを見やり、吹き出す額の汗を右手の義肢で乱雑に払い、蒸気が立つ程熱せられた傷だらけの上半身を脇に置いておいたタオルで拭っていく。

 

「なぁ、いい加減上半身裸で格闘訓練するのやめないか?」

 

「なぜ?」

 

「朝早すぎるせいであまり目撃者がいないとはいえ、お前の裸体を見に早起きを敢行するような戦術人形達がいるんだが?」

 

「俺の様なサイボーグを見に?冗談だろ?」

 

「・・・事実なんだが」

 

ディーノの納得いってない様な表情を見ながら俺はその言葉の意味を反芻する。何故そんな酔狂な真似をするのか良く分からないが、業務に支障がない様にして貰いたいものだな。

 

「救援したあの娘は如何する手はずになった?」

 

「他の娘達と一緒にウチで面倒を見て良い事になったよ。ペルシカリアがカンカンに怒ったらしい。聞けば独自のメンタルモデルを持った稀有な戦術人形だったらしい。彼女の目を盗んで馬鹿な真似をした連中のせいで行方知らずだったらしい」

 

「杜撰な管理だ。創りっ放しの彼女らしいな」

 

「そうはいっても彼女が大事に管理していた人形を目を盗んでまで違法娼館に流そうとするなんてよっぽど彼女に恨みがあったんじゃないのか?盗み出した奴は。彼女の人形に対する愛情をよく理解している」

 

「だからこそ、実行したんだろうさ。それが最もダメージになるのを理解しているからな・・・」

 

俯きながら、そんな程度のバックストーリーだと思ってはいたが、個人の恨みから巻き込まれての被害のあの小さな娘に同情を禁じえない。所有物としての自由しか、戦術人形の彼女達にも、俺にだって、そんな程度の物しかない。管理され、使い潰されるまで戦い続けるしかない。まぁ。このお人好しの指揮官と、あの何時も会う度に気だるげにしながら俺の体を触診と称して良く触ってくるエロ猫がここの人形達ぐらいはと大事にヒトの様に扱ってくれるからな。あまり実感はないが・・・

 

背後から視線を感じ、振り向きながら、視線の先の主へと声を掛ける。

 

「態々、個人的な訓練にまで視察とは恐れ入る。隊長殿」

 

「・・・デッドマン、服着ろ。早く」

 

「な、なななな・・・別にあんたが心配で見に来たわけじゃないんだからぁぁぁぁぁぁ!」

 

「・・・彼女は、何がしたかったのだろうな?」

 

「だから、わーちゃんも見てるんだって」

 

「嘘だろ?真面目で他人にも自分にも厳格な彼女が?」

 

物陰からこちらをきっと睨みつける様に様子を窺っていたWA2000に声を掛けると、彼女は、驚愕したように顔を赤らめて叫びながら、トレーニングルームを走り去っていってしまった。ディーノの一言にそれはないだろうと笑い飛ばし、物陰から更に出てきた他の戦術人形達の走り去っていく姿に思わず俺自身も、真顔になる。

 

特徴的な後ろ姿で全員把握してしまったが、慌てて逃げて行くカウガールに、朝から菓子を頬張りながら逃げて行く人懐っこい水色髪の娘、エプロン姿の豊かな茶髪にジーンズのスプリングフィールドが悪びれもせずに、こちらににこりと笑い、最後に優雅に去っていく姿に、俺は頭を抱える。

 

何やってるんだ此奴ら・・・!

 

「だから言ったじゃないか」

 

「今度からアンダーウェアだけでも着用しておく・・・」

 

ディーノの疲れたような一言に、頭を下げて反省する。風紀を乱すつもりは微塵もない。許してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンダーウェアを着て、一息ついた俺はたまたま早起きしたディーノに今日は休日なのだから、もう少し休んだらどうだと提案し、MK23がディーノを探してここまで来たため彼女にディーノを任せ、地下にある防音設備が整った普段は人が来ない射撃訓練場にオート9を太腿の開口部から抜き出し、ヒト型に配置された的をサイト上に見つめて発砲。

 

「当たらない・・・!」

 

狙い通りの筈なのに、ヒト型に配置された的の左上を3発の銃弾が通り抜け、奥の壁を叩く。前回の容疑者確保の時は上手く狙えたのに、糞!やはり俺は射撃が下手なのか・・?!

 

苛立ちから熱中する様に片手で構えたオート9を何度も連射するが、思った様に軌道上の的を弾丸は貫かない。9㎜の弾丸が奮起する俺を嘲笑う様にチュイン、カンと奥の壁を叩いて消えて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――温かい。消えたと思った記憶なのに、ヒトだった頃のお母さんの安心できる温もりに抱かれているような安心感に包まれながら、私は覚醒した。

 

「ここは・・?」

 

目覚めた私は、全てを思い出した。そうだ、私・・・あの髑髏の不気味な強化外骨格の人間に助けられたんだった・・・

のそりと掛けられたタオルケットを半分に畳んで、ぼーっと思い出しながら、だるさが残る体を動かして、誰もいないガランとした治療室を見渡す。

 

「誰もいない・・・」

 

あの傷だらけの顔面で、凄味があったのに妙に優しかった背の高い全身義肢のデッドマンと呼ばれていた男の人の姿を無意識に求めて、私はふらふらと歩き出した。

もう、私は玩具になんかなりたくない。初めて安心できたの。男の人と一緒にいて・・・あの人を探さなきゃ・・・

 

素足のままぺたぺたと治療室の自動ドアを潜り抜けて、何となくこっちの方にいそうと予感がした方へと歩いていく。ふらつく体は頼りないけれど、気を抜くとあの男達の下卑た笑い声と欲望をぶつけられた時の事を思い出しそうで、一刻も早くあの人に会いたかった。

 

ふと、何処からか、微かに私の耳に最近聞いた特徴的な銃声を聞きつけてそっちの方へとふらふらと歩いていく。

 

「当たらない・・・!くぅ!」

 

地下へ潜る階段を抜けた先に、こっちに背中を向けて的に向かって大きなハンドガンを構えて、右手だけで発砲している全身義肢の背の高い白髪の男性の後ろ姿に自然と笑みが出て、私は抱き着く。

 

「おはようございます」

 

「!?・・・集中し過ぎてたか。おはようHK417。少しは休めたか?」

 

「はい」

 

急に彼の腰に抱き着いた私に驚いたのか、トリガーに掛けた指をすぐさまトリガーから離しながら、振り返って私の姿を見た彼は驚いた様に表情を変え、すぐさま跪いて私の顔色を覗き込んできた。太腿に大型のハンドガンを収納しながら私の顔を覗き込む真剣な表情に思わず私は気が抜け、彼の体に凭れ掛かる。

 

「大丈夫か?やはり体力が戻り切ってないようだな・・・楽にしてるんだ。今治療室に運んでやる」

 

私の返事も聞かずに、私の体を壊れものを扱う様に丁寧に横抱きにした彼は大股で歩きながら私の来た道を戻って行く。彼の汗ばんだアンダーウェアに顔を埋めながら、何時もは嫌いな男の匂いなのに、彼のだけは違う特別なものに感じられ、鍛えられた胸元に顔を押し付ける様にしてバレない様に吸い続ける。

くらりとくるような濃厚な雄の香りより、彼の上昇した体温の温もりに何よりも安心感を覚えて私は再び眠ってしまった。

 

彼の・・・此方を心配そうにのぞき込む姿に、失礼ながら、大型犬の様な何とも言えない可愛さに笑みを零しながら・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シベリアンハスキーデッドマン


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歩くような速さで

この腕で、冷たい義肢の中で安心したように眠る彼女に何かを感じる。無くした大切な何かを思い出せそうな気がする。






—――――今度は守り通して見せる。



俺は一体、何を感じた・・・?


俺の汗ばんでお世辞にも清潔とは言えないアンダーウェアを片手で握りしめたまま心底安心した様に、俺なんぞのカラダに凭れ掛かって眠るHK417を俺は起こさぬ様に背中から彼女を抱き留め、支えながらゆっくりと冷たく硬いだけのコンクリで打設された床へと一旦座り込む。

 

彼女の美しい髪を何となしに空いた左手でさらりと額に流れる髪を触れ、梳く。さらりとした心地よい手触りなのだろうが、残念ながら俺の手は何も感じない。その小さな体躯に似合わない大きな胸部が俺の腹部で潰れ、むにゅりと、いや、グニグニと面白い様に形を変える。不思議と欲情はしなかった。ただ、得も知れぬ安心感が俺を包み込んでいた。

記憶にはないが母の抱擁とはこうだったのだろうか・・・。と言っても彼女は寝ていて、俺が一方的に抱き留めているのに抱擁も糞もない、か・・・。

何故か湧く一抹の寂しさに、すっと瞳を閉じる。所詮俺はこの世界では、現状ではヒト型の兵器。愛など、感情など有って無い様なもの。

死ぬまでの些末の夢。一時の希望、言い方は数あれど、俺は起きてから殺し過ぎた。排除しなけらばならない屑共だろうと、命を奪ったのは事実。命の価値に貴賤はないはずだ。それなのに俺は・・・、自分の身勝手で、俺の過去を、真実を知りたいがために回り道をしようがこんな、他者を排除してまでも生き延びる生き方をしているのを知って何処かで俺を待っているはずの友人や家族はこんなに変わり果てた俺を見て、どう思うのだろうか。

 

郷愁の念は正直捨てきれない。だがそれが強いがために、命に手を掛ける事に何も感じないのかと言われればそれは否だ。感じる事はある。食う物もなく、飢えた我が子を食わせる為に暴徒となるしかなかった子の両親を手に掛けた任務だってあった。この基地から派遣されて、自ら望んだとはいえ、少しでも俺を助けてくれる彼らに何かを返すべくコネや金銭、物資という形で返すべく戦地へと赴むき、報酬や物資をほぼ手渡し、微々たるもののコネを繋いできたが、この腕の中で眠る彼女の受けた状況に思うところがないわけではない。元々キナ臭かったI・O・Pの連中やグリフィンの一部の指揮官や、上層部の役員共の腐敗化が進んでいるのではないかと疑念が強くなっていく。

最近では傭兵仲間の一団が謎の武装集団に成す術もなく壊滅したとの噂も聞く。

 

こんな酷い世界で、一目見た時から何かを感じるこの娘・・・。願わくば、守りたいものだ。そうすれば俺の失った記憶に繋がる、そんな気がする・・・。

漠然と、何故と聞かれても勘としか言えないが、俺は確信めいた予感をひしひしと腕の中で眠るこの娘の熱から心地よさを感じつつ、脳裏で静電気が帯電しているかの様なぞわりとした感覚を味わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

羽毛の様に・・・は言い過ぎだが、俺の膂力的に言えば微塵の負担にもならない彼女をそろりと横抱きにして、振動を与えぬ様にナマケモノの様にのそりとゆっくり起き上がりながら(アンダーウェアは結構しっかり握られているのでこのままにした)照明が効いても尚、薄暗い寂れた雰囲気の地下射撃場から階段を使って基地内部へと戻ってみれば、そろそろ皆が起き出す時間からか、早番のスタッフや深夜警戒組の戦術人形達が帰投し始め、チラホラと姿を現している。

もうそんな時間か、と思いつつ、何かとパワフルな此処の奴らにやっかまれたら寝ているこの娘が起きてしまうなと考えつつも、そもそも俺の義肢は動く度に駆動音が鳴る為、諦めて進む以外に無く俺は小さく溜息を吐きながら廊下を進む。

 

「あ、おはよう。デッドマン」

 

「ああ、おはよう。今帰投したらしいな?襲撃は?」

 

「スクランブルの連絡がなかったでしょ?そういう事よ」

 

「ああ、まぁだろうな。だが一応、な・・・」

 

「ちょっと心配しすぎじゃない?ま、私もみんなも無事よ」

 

「そうか、主任にはもう会ったか?」

 

「いえ、今から行くところよ。早く無事な所見せなきゃね。あなたも無理はだめよ?」

 

「ふ、した覚えがないな。おい、FAL・・・俺を睨むな。心当たりがないのって?悪いな、ない。悪いがもう行く、この娘ベッドに運ばなければ・・・」

 

対面からお互いに歩み寄る様に、帰投した今回の夜襲警戒メンバーを代表してか先頭に立っていたイサカと軽い会話を交わしつつ、彼女の後ろでこちらの腕に抱くHK417の眠る姿に興味津々の彼女らを静かに躱そうと試みる。イサカはこちらの気持ちを組んでくれたのか微笑んで小さく手を振りこちらを見送ってくれたが、何が気に入らないのかFALにお小言を貰ってしまった。

全く、俺に構うなど無駄な時間だろうに。そんな事よりディーノに構えディーノに。あいつああ見えてお前らの前ではまだボロ出してないが結構、裏では片付いてない仕事黙ってやってるからな。お前らが止めてやれ。というか今度こいつらにチクって強制的に休ませるか・・?

 

そんな事を考えつつ、軽く首だけで会釈をして俺達は別れて、俺も医務室への道を再び歩みだす。

 

 

 

ぐぅーー・・・

 

 

 

数歩進んだ先で、俺の腹から情けない音が鳴る。ここしばらく任務続きで碌なモノ食ってなかったせいか、気づけば結構腹が減っていた。昨夜はスプリングフィールドにああは言ったものの俺もヒト、か・・・。

 

「ん・・・」

 

「お?起きたか・・?」

 

「えっと・・・うん・・・」

 

俺の腹の虫が五月蠅かったのか、先程会話中も起きなかった彼女が目を覚ます。ぱちくりと大きく綺麗に輝くライトグリーンの瞳を瞬かせてしっかりとした様子で起きた彼女の顔を覗き込む。顔色は、寝落ちる時よりはマシ。何やら顔が赤いが、それ以外は特に問題はなさそうだ。

 

「立って歩いてみるか?辛いなら悪いがこのまま俺に運ばれてくれ」

 

強面の傷面で良ければだが。HK417に尋ねてみれば、「ちょっとまだ気持ち悪いから、できればこのまま運んでくれる方が、嬉しいです・・・」との事だったので不肖ながらこの俺が変わらず彼女の華奢な体を運ぶ手筈となった。

 

くーー・・・

 

 

小さな腹の音・・・。まぁ、栄養剤の点滴と、ここ何日も碌な食事には有りつけていなかったろうからな。先程の謎の赤面とは別の羞恥心からの赤面かと何かにつけて此処の戦術人形に鈍いと馬鹿にされる俺でもそれは判断でき、彼女に提案する。俺を鈍いと彼女等は言うが、義肢のレスポンスも反応速度だってこの基地では上から数えた方が早いくらい高いのに、何がそんなに鈍いというのだろうか?まぁ、そんな事は一旦起きつつ・・・

 

「もしよければこのまま食堂に行くか?向かえば丁度料理は・・・今日はパン食の日か。それなりに揃ってると思うが、どうする?」

 

「多分、食べれると思う」

 

「ああ、食べれなさそう、とか違和感を感じたら俺に伝えてくれれば良い。最悪また様子見で栄養剤を使おう。今度は浸透注射タイプか、錠剤を用意する」

 

「あの、何から何までありがとう」

 

「気にするな。困った時はお互い様だ」

 

彼女の気に負った様な様子に首だけでそんな事気にする必要はないと過振りを入れ、食堂に続く廊下を歩くべく来た道を引き返す。

歩く度に彼女の、入院用の薄い救護衣の下で胸が振動でぶるん、ぶるんと視線をやらないようにしていても視界の端で大きく揺れ動く胸に遂迂闊な発言をしてしまう。

 

「その、揺れて痛くはないか・・・?」

 

「え?あ、その、あんまり・・」

 

俺の発言にぼーっと何故か俺の顔を眺めていた彼女がはっとした様子で返し、お互いに気まずさから沈黙してしまう。迂闊な発言だった。いや、だがああもこう、上下左右に縦横無尽にあのわがままボディがっと・・・煩悩だな。はぁ、彼女は被害者だぞ。何を考えているのか・・・。

 

自分のふと思いついてしまった事に嫌気が差し、首を左右に振り考えを再度改める。

 

「どうかしたの?私は気にしてないよ。そういう目でずっと見られてきたし・・・私も自覚あるもん。おっきいもんね・・・」

 

「違う。俺は、君をそういう目で見たいがために助けたわけではない。それは・・・本当だ・・・」

 

不意に俺に更に身を寄せてきたHK417の柔らかさを胸板や腹部で感触として、お互いに薄着なのも相まってダイレクトに受け取った俺はびくりと体を硬直させて立ち止まる。

 

「うん、大丈夫。分かってるよ。あなたはそんな人じゃないって、最初に抱きしめてくれた時から・・・」

 

彼女のそんな言葉に何処かでほっと安心した俺は、身を寄せて俺に密着する彼女の体をぎゅっとこの鋼鉄製の義肢の冷たさに負けない、肉体の熱を感じさせる様に抱きしめた。

まだ知り合って間もないのに不思議と、この娘と居ると、俺はどうにもHK417を優先させてしまうようだ。

 

 

食堂の方向からふんわり香る焼き立てのパンの良い香りを鼻腔に感じ取りながら俺は彼女を、無意識に親が子を守るように大切に抱きすくめながら食堂へと歩を進めた。

今日は、バターロールとかが食べたい気分だな。

 

 

 




こいつ417に抱きしめるしかしてねぇなぁ?????
すいません許してください。幸せにしますんで(や・き・ど・げ・ざ)


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