ポケモン世界に転生したと思ったらミカンちゃんだったのでジムリーダーになることにした。【完結】 (木入香)
しおりを挟む

第1話 vs コラッタ

 初めまして、木入香です。
 初投稿です。
 「小説家になろう」や「カクヨム」でオリジナル小説を投稿していましたが、ネタ切れで休止。気分転換で二次創作に手を出しました。
 世間ではポケマスが流行らしいですが、流行の波に乗れない、乗らない、乗っても落ちますのでやってません。
 タイトルの通りです。ただ結構設定をいじくっていますので、面倒くさい話になっています。ご了承下さい。
 後、ミカンちゃん可愛い。鋼タイプ格好いいです。
 ストックは4話分しかありません。以降続くかは、作者次第。


 アサギシティのとある大型施設。この中で、今日も激しいポケモンバトルが繰り広げられていました。

 

「コラッタ、スタミナ切れ(・・・・・・)により戦闘不能。勝者、ジムリーダー、ミカン」

 

 フィールドの中央で審判(しんぱん)を行っていた女性トレーナーさんが、その姿に似合わない真剣な眼差(まなざ)しで公正にジャッジを(くだ)します。

 

「ありがとうございました」

「あ、ありが、とう、ぐすっ……ございま、ひっく、ました……」

 

 私は相手に頭を下げます。相手の男の子もまだ駆け出しなのでしょう。悔しさで涙を流しながらも、賢明(けんめい)に私を見てお辞儀(じぎ)をして下さいました。

 この瞬間、私達の戦いを見守っていた周囲の観客からざわめきが聞こえてきます。

 口々に、私が全く攻撃をせずに勝ったとかで話題に上げていますが、むしろ、攻撃どころか一切の技を繰り出すことなく今回の試合を終えていることに、果たしてどれだけの人が気付いているのでしょうか。常連の人は何となく分かっていると思いますが、その真意まで見通すことは出来ていないはずです。

 

「では、まだ少し時間がありますので、それまで論評(ろんぴょう)に入りましょうか」

「え?」

 

 キョトンとした表情を浮かべた駆け出しの新米トレーナーである男の子に、私は首から()げられた腕時計のような形をした高性能機器、ポケギアで時間を確認して告げます。

 

「通常のポケモンバトルでは、戦って賞金のやり取りをして終了かもしれませんが、せっかくのジム戦という貴重な機会です。何が良くて何が悪かったのか。ここでそれを学んで、そのことを次に生かし、そしてまた一回り成長して挑戦して下さい。これでもポケモンバトルのプロです。教えられることは沢山あると思います。是非(ぜひ)、私をあなたの成長の(かて)として下さい」

「は、はい!」

 

 多少回りくどい表現になってしまいましたが、ようは「アドバイス送るので次頑張って下さい」です。

 こうして、残り時間を使って、私は出来る限りの意見を述べて授業の真似事(まねごと)のようなことを行いました。この時には、目の前の少年だけでなくバトル直後にザワザワしていた周囲の人達も、私の話に耳を(かたむ)けているようでした。

 

「お疲れ様でした」

「お疲れ様です。レミさん」

「飲み物をどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

 論評、もしくは感想戦を終えた私は、次の予約の時間までまだ時間があることを確認しながら、女子高生トレーナーのレミさんから携帯飲料を受け取ります。ゲームではミニスカートの分類に入るのでしょうが、実際にそう呼んでしまうとセクハラに該当(がいとう)しますから、気を付けないといけません。肩書きが職業やそれに近いものならともかく、服装で肩書きが決まるって嫌だと思いますし、私も嫌です。海パン野郎って……冬はちゃんと服着ているはずですから、海パンじゃないはずです。そうなりますとただの野郎になってしまい、ややこしいですし失礼です。

 私がこのアサギジムのジムリーダーに就任してから1年が経ちました。ようやくジムリーダーらしくなってきたかなと思い、これまでの自身のことについて少し振り返ります。

 

 

 私の名前はミカンです。

 現在はアサギジムのジムリーダーをしているのですが、実の所、転生者です。それもこの世界ではなくポケモンがゲームやアニメなどのコンテンツを広げている世界からの転生だと思います。それも、ミカンになったということで憑依(ひょうい)転生ではないかなと思っています。

 生まれた時から記憶のあった私は、特に何か行動を起こすということもなく、ただただポケモンの世界に来たのだと感動しながら過ごしていました。ポケモンの知識もガチ勢ではなかったことからにわか程度にしかありませんでしたし、そもそも記憶にある知識を生かして無双するようなことも考えていなかった私は、幼少期をただのほほんと過ごしていました。

 それが変わったのが5歳で小学校に入学した頃です。自身がミカンという名の少女であること、ここがジョウト地方のアサギシティという街であることに思考が(いた)った時「私将来のジムリーダーじゃないですか」と気付き、一人悶絶(もんぜつ)してしまったのは今思えば良い思い出です。多分。

 当初は、憑依で彼女の人生を(つぶ)してしまっている罪悪感こそ(いだ)いてしまったのですが、だからといって私がジムリーダーを目指さなければならないという理由もありませんし、そして心の優しい彼女もそれを認めてくれるだろうと思っていました。

 ですが、ジムリーダー云々(うんぬん)は別としても、ポケモンには関わりたいと考えていた私は、両親にお願いをして地元のポケモントレーナーを養成する塾、トレーナーズスクールに通わせてもらうことになりました。そこで学んだことは、タイプの相性こそは前世と同じではありましたが、レベルや種族値、個体値に努力値などのゲームシステムに必要なパラメーター類が存在しないということを認識しました。あるとすれば健康診断をした際にポケモンセンターのジョーイさんから告げられる、健康度を示す数字くらいでしょうか。

 知ってはいたと言いますか、予想はしていました。この世界で生まれて多少なりともポケモンと関わる生活を送っていますと、そのような数字の集合体ではなく、あくまで生き物で、私達人間と同じように意思があって生きているということを強く実感しました。その為、そのことをスクールで確認することが出来て安心したのです。

 この手に触れる体温と鼓動(こどう)は決してデータではないと、そう感じられたのです。

 それから私は10歳で小学校を卒業し、ポケモントレーナーの資格となるトレーナー免許が卒業生に配られました。トレーナーズスクールも卒業し、私はいよいよポケモントレーナーの道を歩むこととなりました。

 そして月日は流れ現在15歳。ジムリーダーとして活動を始めて1年が経ち、様々なトレーナーと関わる機会を得ることが出来、新しい発見の毎日で、とても充実した生活を送れていると思います。

 

「しかし、こうしてミカンさんの戦いを何回も観ていますが、本当に驚くことばかりです」

「そんな……というかいつも言っていますが、レミさんの方が年上なんですから、無理して敬語にしなくても良いんですよ?」

「いえ、これは私なりにあなたへ敬意を払っているということで」

「でも、その格好で敬語ってすごく違和感(いわかん)があると思うのですが……」

「え? そうですか?」

 

 そう言って彼女は自分の制服姿を見直します。

 彼女の姿は……その、所謂(いわゆる)ギャルというものでしょうか? 肌は焼いていないですし髪も黒いままですが、着ている高校の制服は着崩していますし、アクセサリーなどの装飾が所々光っているのも目に映ります。ネイル何かもポケモンを傷付けないよう配慮(はいりょ)しつつも、キラキラと輝いていてとても綺麗(キレイ)だと思います。原作(ゲーム)のように全員同じ姿形ではなく、あくまで生きた人間である為、その格好も身体付きも性格も千差万別(せんさばんべつ)です。

 そんなギャルな彼女が、ジムリーダーとジムトレーナーという立場の差こそあれど、年下の私に対して敬語を使うというのは何だかくすぐったく感じてしまいます。まぁ、1歳差ですので、そこまで気にする必要もないのかもしれませんが、学校生活での一学年差は結構大きい差だと思いますので、通う高校は違えども同じ高校生としてつい学年での上下を付けてしまいます。あ、だからといって、私が年上だったとしても偉ぶるつもりはありませんよ? 本当ですよ?

 ちなみに私の見た目は原作に近く、薄い茶髪のロングヘアをオールバックにして(ひたい)を出しつつ、私の名と同じミカンをモチーフにしたヘアアクセサリーで二房にまとめたもの。服装に関しては原作と若干違い、白いワンピースの上から緑色のジャケットを羽織り、なんとワンピースの下にはスパッツを履くという邪道(じゃどう)も邪道なファッションをしています。理由としては、動き回った時に下着が見られるのが恥ずかしいからです。靴もサンダルではなく動きやすいようにスニーカーなのですが、このファッションセンスは同僚のレミさんには不評です。衣装がちぐはぐで何とかしたいとよく言われます。

 私も一応そのことは自覚していますが、出来るだけ格好を原作のミカンに近付けつつも、実用性も考慮(こうりょ)した時に、どうしてもこういった変な組み合わせとなってしまうのです。というか、スカートをヒラヒラとさせて走って跳んでって、私にはそんな勇気ありません。ですので、せめてもの保険としてのスパッツなのです。

 服装に関しては、私なりのこだわりを理解も納得も出来ていないようですが、私の熱意が伝わったのかどうにか飲み込んでもらえました。ただ、髪型に関してはいつも同じなのは女子としてどうなのよということで、時々いじられます。三つ編み、ツインテール、ポニーテール、お下げ、ヘアバンドやカチューシャの時も……

 

「しかし、相手のスタミナ切れを狙うとは……普通のポケモンバトルでは見られない光景ですね」

「そうですね。他のジムでも早々ないことだと思います」

「それを一日に1回は少なくとも入れてくるって、すごいですね」

「すごくないですよ。挑戦して下さるトレーナーさん、そしてポケモンの力を全部出し切らせて上げるのがジムリーダーの務めです。それを見ないでただ上から叩き潰してしまうのは、指導者として失格です」

「私が思うに、そういうジムリーダーがほとんどだと思うのですが」

「否定はしませんよ。それに擁護(ようご)する形になりますが、彼等は彼等でちゃんとした物差しでトレーナーの実力を(はか)っているのですから問題ありません。もし問題があればジムリーダー同士の連絡会で話題に上がりますし、最終的にはポケモン協会からの厳重注意、もしくはジムリーダーの免許剥奪(はくだつ)がありますからね」

「そういうものですか」

「そういうものです。私はただ長く相手の実力を見たいので、どうしてもあぁいった立ち回りになってしまうのです」

「それにしても技を一切使わないって……観客からも今日は技が出るのかと、別の注目のされ方をしている人もいますよ」

「あ、そうなのですか?」

 

 それは気付きませんでした。

 アサギジムのジムリーダーである私の手持ちは鋼タイプで構成されています。ただ、先代のジムリーダーさんのタイプは岩タイプでした。

 一般的な認識としては、防御面は高いが素早さが低いという弱点を持ちます。ただしそれは、あくまで一般論ですし、ゲームでもそういう認識のはずです。アニメやポケスペでは、割と自由に動き回っていたと思います。

 そういえば、この世界についてですが、アニメ世界なのかポケスペ世界なのか、それとも全く関係ない世界なのか考えたことがあります。トレーナー時代にジョウトを含めて、カントー、ホウエンを旅したことがありますが、多分ですがポケスペ世界に近いかなという印象です。シンオウは縁がなく訪れることが出来ませんでしたが、機会があれば行ってみたいと思います。と言っても、ジョウトもカントーもホウエンも、本当に一部を、ジムも三つずつ巡っただけですので全部を見て回れた訳ではありません。

 ちなみに、ポケスペ世界に”近い”と表現した理由としては、この私がいる世界では、既に鋼タイプどころかフェアリータイプも浸透(しんとう)していることからです。ポケスペではジムリーダー対抗戦に()いて、初めて鋼タイプが認識されたような描写がされていましたので、その違いからそう考えました。

 しかし、それだけでしたら全く別の関係のない世界だと思えたのですが、カントー地方を回った時に、クチバジムとヤマブキジムに挑戦する機会があり、その時に対峙(たいじ)した際に、何となくロケット団と繋がっているのではないかと思えなくもないような、そんな感じがしたのです。非常に根拠(こんきょ)(とぼ)しいのですが、ポケスペを知っているだけに、その言動を観察していると、いくつか共通点があるように思えて、それでロケット団ではないのかもしれないが、繋がっている可能性がある。つまり、ポケスペ世界ではないかと(なか)ば強引に結論付けた訳です。

 そこまでして、無理矢理世界を確定させたい理由としては一つ。ポケスペ世界ですと、割と人命含めてポケモンの命も危ない場面が多いので、ジムリーダーとなるのであれば少なからず関わる必要が出て来ます。アニポケですと、大体が一回出て終わりですのでそこまで気にしないのですが、ポケスペは油断すると死んでしまうなんてこともないとは言えませんので、対策は……難しいかもしれませんが、心構えだけでもしておこうと思った次第です。

 

「戦い方についてですが、もしよろしければ時間がある時にお教えしますよ?」

「本当ですか! ありがとうございます! いやー本当にアサギジムの、というかミカンさんのいるジムのジムトレーナーになれて良かったー……あ、です。ジムトレーナーはジムリーダー程ではなくても、周囲から実力が認められている仕事ですので、募集があった時には真っ先に飛び付いちゃったのですが、まさかあんなに倍率が高かっただなんて……」

「ふふっ、私自身、まだ新米のジムリーダーですし、一度に多くのトレーナーさんを(やと)っても上手く意思疎通(コミュニケーション)などが出来るか不安でしたので、出来れば1人か多くても2人に絞って考えていたのですが……32人も来ましたので驚きました」

 

 ほとんどが男性の希望者だったのは、私が女子高校生だったからでしょうか。いえ、当時は中学生でしたね。

 今思えば、中には(よこしま)な考えを持つ人がいたかもしれませんが、あの頃は、ただポケモンとトレーナーに真摯(しんし)に向き合える心の優しい人という基準で面接を行いましたので、レミさんが合格したのは本当に偶然です。合格を通知して改めて挨拶をした際に、原作でもジムトレーナーとして在籍(ざいせき)していたことを思い出しましたので、これも運命だと1人で感動していました。

 

「そろそろ次の予約の時間ですね。準備に取り掛かりますので、レミさんもお願いします」

「はい、分かりました」

 

 こうして、今日も変わらないジムリーダーとしての日常を過ごすのでした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 vs レアコイル

 ゲームの世界では、何曜日何時に行ってもジムリーダーもジムトレーナーもいますが、明らかな過重労働ですね。
 ということで、それなりに変更させてもらいました。
 後、ミカンちゃんの両親の職業はオリジナル設定です。ご了承下さい。


 朝になりました。

 いつも通り5時に設定したポケギアのアラームが鳴る前に目が覚めた私は、上体を起こして軽く伸びをしてからベッドから出ます。そして、パジャマからランニングウェアに着替えて一階へ降り、水を一杯飲んでから外に出ました。そして、簡単に準備運動を行った(のち)に早朝の街へと走り出します。

 40番水道へと繋がるアサギ海岸へと到着しました。まだ朝も早く、また春先ということで若干冷えることもあるのでしょう。海岸沿いに人は誰もいなくて、細波(さざなみ)の音が静かに聞こえます。

 これは1年半前から続けている日課です。旅をしていた頃は、船での移動もありましたが、基本徒歩での移動ですので運動量はそこまで問題なかったのですが、ジムトレーナー、そしてそれを経てジムリーダーとなって地元のアサギシティに腰を()えた今では、運動不足は解決しなければならない問題です。

 ポケモントレーナーとは、ポケモンの後ろで指示を出すだけが仕事ではありません。トレーナーとは、そのままの意味で練習の指導者、もしくは競技者の肉体的コンディションを整える担当者、あるいは動物を訓練する人、訓練士、調教師などと表現出来ます。一括(ひとくく)りにすると指導者となりますが、いずれもポケモンを正しく導く存在でなければなりません。その為には、より多くポケモンとコミュニケーションを図り、お互いの信頼関係を高める必要があります。私が行う体力作りはその一環(いっかん)です。

 

「みんな、出て来て下さい」

 

 私は6個のモンスターボールを出すと、軽く放ります。中からは手持ちのポケモンが飛び出して来ました。みんな元気な様子で、体調不良といった感じは見受けられません。

 

「レーちゃん」

 

 まず呼んだのはレアコイルのレーちゃんです。

 私の最初の相棒で、まだ6歳の頃に父の務めるアサギ鉄鋼へ遊びに行った時に、フワフワと移動していたコイルを、両手でハシッと捕まえたのが最初の出会いです。

 いきなり野生のポケモンを素手で触れたことに周囲の大人は驚いていましたが、人の出入りの多い会社の近くに生息しているだけあって人慣れしているからか、いきなり攻撃をしてくることもなく落ち着いてこちらに視線を投げてきた覚えがあります。

 のんびりとしているように見えますが、意外と冷静な子で、捕まえたのが幼い私と見ると仕方ないなぁとでも言うように目を閉じた時はつい笑ってしましました。

 それから、父からモンスターボールをもらって交渉開始です。

 コイルから手を離して、私は彼か彼女か、性別がないので表現が難しいですが、その子の正面に座って、友達になって下さいといった思いを延々と語りました。呆れたのか諦めたのか分かりませんが、とにかく一緒に来てくれるという意思を感じたのでモンスターボールを差し出すと、自ら入ってくれました。これが初のポケモンゲットとなります。

 

「ルーちゃん」

 

 次に呼んだのはハガネールのルーちゃんです。

 10歳で旅に出てちゃんとポケモンバトルをして捕まえた、最初のポケモンです。

 私は、旅の始めにアサギジムに(いど)んでバッジを入手し、それからどうするか検討(けんとう)してからジョウト地方を回るのではなくまずカントー地方に行こうと思いました。思い立ったらまず行動です。すぐに高速船アクア号に乗り込んでクチバシティへと移動しました。チケット売り場で働く母と遭遇(そうぐう)した時は、呆れられてしまいましたが、(こころよ)く送り出してくれました。

 クチバシティ到着後は、まずジム戦の前にクチバシティ近くにあるディグダの穴へ移動し、そこでイワークを捕まえました。

 ゲームでは登場しない場所ですが、地中や洞窟(どうくつ)に住むという生態ですからいたのでしょうね。最初遭遇した時は驚きました。クチバジムに挑むなら地面タイプが必要と考えて訪れてみれば、まさかの大当たりです。

 ポケモンバトルに関しては4年間ずっと一緒にいたことで意思疎通(いしそつう)も完璧で、かつ練度(れんど)も高いコイルを相手に(ひる)むことなく勇敢(ゆうかん)にも向かってきて……見事に【ラスターカノン】を食らって返り討ちにされていました。

 そんな彼も今ではハガネールとなって、立派に育っています。

 ちなみに、ディグダの穴ではもう一匹ポケモンをゲットしていたのですが、その子はすぐに旅立ってしまいました。

 

「クラウン」

 

 三番目に呼んだのはエンペルトのクラウンです。

 ニックネームから察することが出来ますが、交換で手に入れました。ジム戦を終えてポケモンセンターへ行った際に、シンオウ地方から来たというトレーナーさんが、私の色違いの赤いサイホーンを見て是非(ぜひ)交換してくれと持ちかけられ、それで交換して手に入れたのが当時まだポッチャマだったクラウンです。

 交換したポケモンはバッジがないと言うことを聞かないというのはゲームでありますが、ようは、いきなり主人が替わったことで信頼関係も築けていない、新しい主人の指導力、胆力(たんりょく)も分からず不安で疑ってしまう。そして前の主人のことを思い出して反発してしまうことが原因と考えています。

 そこで私が行ったことは単純です。ただ愛情を込めてしっかりと正面に向き合ってコミュニケーションを取るというだけです。

 言葉だけでなく、身体を撫でたり、一緒に遊んだり、食事も睡眠も一緒にして、時間を掛けて焦らずゆっくりと。そうして関係を繋いできました。

 元々穏やかな子だったのか、割と早く(なつ)いてくれたように思えます。

 クラウンというニックネームは元々付いていたので変えられませんが、女王らしい気品も感じられますのでむしろこのままの方が良いですね。

 

「ムーちゃん」

 

 クラウンの次に呼んだのはエアームドのムーちゃんです。

 相変わらず羽毛がゴワゴワです。

 ジョウト地方に戻る途中、トージョウの滝近くの草むらでアリアドスの糸に絡まって動けなくなっていた彼を助けたのが出会った切っ掛けです。しかし、元々は脳天気な子なのか、糸に絡まれながらも気にする様子もなく、のんびりぐっすりと眠っていたのは呆れてしまいます。そもそも何故糸に絡まっていたのか、未だに不明です。

 羽が生え替わっても古い羽が抜け落ちない体質なのか、普通のエアームドと違ってすごく見た目がゴワゴワしています。冬場はそれで良いのかもしれませんが、夏場は暑そうです。

 羽が多く邪魔なのか、上手く飛べなかったり動きが遅かったりしますが特に問題ありません。

 バトルになると意外な一面が見られるので面白いです。

 

「クーちゃん、ラーちゃん」

 

 続けて二匹の名前を呼びます。

 クチートのクーちゃんとココドラのラーちゃんです。

 トージョウの滝から真っ直ぐアサギシティまで歩いて来てから再びアクア号に乗って、今度はホウエン地方へと行きました。そしていくつか船を使って辿り着いたのが、ムロタウンの北、石の洞窟です。

 そこで仲良く遊ぶ二匹のポケモンと遭遇、ダブルバトルを挑んで勝利を収め、仲間になったのがクーちゃんとラーちゃんということです。

 クーちゃんは女の子、ラーちゃんは男の子で一見カップルのように見えますが、タマゴグループが違うのでタマゴは出来ません。それに、見た感じカップルというよりもすごく仲の良い親友という感じで、いつも元気に遊んでいます。

 今もモンスターボールから飛び出したと思えば、真っ先に波打ち際を競争してしまったので呼び戻します。

 無邪気なクーちゃんとやんちゃなラーちゃんで相性が良いのか、何をするにも一緒にいることが多いです。時々悪戯(いたずら)に巻き込まれてしまうのが悩みの種ですが……とはいえ、仮に悪戯を仕掛けられたとしても、すぐにレーちゃんが見破ってくれますので大事(だいじ)に至ったことはありません。流石(さすが)相棒です。

 以上が私の手持ちです。

 しかし、旅の中で、そして旅を終えてからもしっかりと鍛錬(たんれん)と育成を続けてしまったことで、生半可(なまはんか)な相手では負けない子達になってしまいました。その為、私のジム戦は倒せなくてもしっかりと実力を見せることが出来ればバッジを差し上げるという形を取っています。

 ジム戦用のポケモンを用意するか、ポケモン協会から借りるというのも手ですが、やはり自分のポケモンで向き合ってあげないと、ポケモンバトルも立派なコミュニケーションですので、そういう小さなことも(おろそ)かにする訳にはいかないのです。

 

「準備運動しますよー」

 

 そう声を掛けて、思い思いに身体を動かしていく。レーちゃんだけはフワフワと浮かんでいるだけですが、動かす関節などがないので仕方ないです。一応特殊能力みたいな感じで、磁石やネジは分離して一定の距離以内なら遠隔操作出来るので、体操もどきは出来ますが意味あるのでしょうか?

 

「それでは、よーい、ドン!」

 

 運動の後は走り込み。砂浜という不安定な足場でいかに素早く移動するかですが、レーちゃんとムーちゃんは空中にいるのであまり意味がないですね。ムーちゃんは一応走ることも出来ますが、羽毛の関係上、走るというより歩くという感じになってしまいます。

 しっかりと身体を動かした後は、軽めのスパーリング。ちなみに私はやりません。どの子と組んでも鉄を殴るのと同じですからね。一人寂しく合気道の型を行います。私自身が戦ったりする訳ではないのですが、精神を落ち着かせ、呼吸を整え、思考を真っ白にする意味も込めて続けています。

 

「ふぅ、それでは、家に帰りましょうか」

 

 時間を見ると6時を過ぎた頃。鍛錬の終了を告げ、モンスターボールに入れていく。

 そしてまた、私は来た道を走って家まで戻る。これが毎朝欠かさず行う日課です。

 帰宅してからは、シャワーを浴びて汗を流し、着替えを行った後に朝食を食べます。ポケモン達のご飯はジムに行ってから行います。クーちゃんやラーちゃんのような小型サイズのポケモンなら家で食べさせることも出来るのですが、ルーちゃんのように大きくて重い子となりますと、家へのダメージが深刻なものとなってしまいます。そして食事時間に違いを作らないように配慮した結果が、ジムでの食事ということです。そして、ジムでの食事は休日であっても行います。他の大型のポケモンを持つトレーナーさん達は、普段どこでポケモンに食事を与えているのか、不思議です。

 食事を終え、身支度を調(ととの)えたら時計は7時半。出勤です。

 ジムに到着したら鍵を開けて、ポケモン達を出して食事。その間、私は室内を軽く掃除を行い、書類の整理。ポケモン協会への報告書などをまとめます。

 

「おはようございます!」

「レミさん、おはようございます。今日もよろしくお願いします」

「よろしくお願いしまーす」

 

 8時になりますと、ジムトレーナーのレミさんが来てくれます。そして二人でジムの点検や予約の確認、ポケモン達のご飯の後片付けなどを行います。そしてそれが終わると、私の化粧や髪型いじりが始まります。

 私も女性ですから、身だしなみはしっかりしたいと思っていますが、こう毎朝忙しいと中々メイクに時間を作ることも出来ませんので、簡単な下地だけ作った後はジムへ行って、そこでレミさんに手直しや仕上げを行ってもらうというのが日常です。

 しかし本当にレミさんのメイク術は素早くてでも繊細(せんさい)です。流石現役女子高校生です。私も一応高校生なのですが、ジムリーダー業務の他にも二つ仕事を(かか)えていますのでとても通う時間はなく、通信教育で単位を取得しています。ちなみに中学の単位も旅をしながら通信教育で行い、レポートをポケモンセンターのパソコンで送信したり配達を依頼したりすることで提出していました。

 レミさんはジムトレーナーを務めていますが、単位を落とさない程度にはちゃんと高校に通っています。というか、ジムトレーナーを務めていることで、ある程度の単位は免除されているそうです。なので毎日という訳ではないですが、週6日の営業の内4日もジムトレーナーとして活躍してくれています。水曜日と金曜日は、午後から別の業務がありますのでジムは午前のみ。ですので、レミさんとは別にジムトレーナーを雇っています。まぁ、母ですが。ジェントルマンのカーネルさんではないです。あの人は時々ふらっとアサギの灯台に現れては、ヨルノズクと(たわむ)れて帰って行く謎の存在です。

 ちなみに、ジムの営業時間はジム(ごと)に違います。週に2日しか開いていないジムもあれば、午前のみ毎日開いているジム、私の所と違って予約なしで飛び込みのみ受け付けているジム、不定期で場所問わずジムとして活動しているジムリーダーや、深夜まで営業しているジムなど全国には多種多様なジムがあります。

 

「それでは、そろそろ9時になりますのでジムを開けますね」

「はい。レミさんお願いします」

 

 ジムの運営時間は月曜日から土曜日までの6日。水曜日、金曜日、土曜日は午前のみ営業。水曜日と金曜日は午後から別の仕事を入れいて、土曜日の午後と日曜日は休みです。基本完全予約制で、前日までに予約をしたトレーナーさん1組当たり30分の枠を設けて相手をします。

 挑戦者が勝てばバッジと賞金を差し上げます。負けてもお金をもらうことはありません。ここはゲームと違う所ですね。技マシンも渡しません。ここもゲームと違う所です。

 

「挑戦しに来ました! よろしくお願いします!」

「はい、お願いします」

 

 今日もジムリーダーとしてのお仕事、頑張ります。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 vs ケーシィ

 この世界の教育機関ってどうなっているのですかね?
 10歳で小学校を卒業って設定は知っていますが、そこから中学、高校はどうなっているのでしょうね。
 ミニスカートは制服を着ていますし、見た目的に高校生っぽいですから、多分あるのでしょうね。
 この物語では、中学校を4年制としています。小学校を仮に5歳で入学としても5年で卒業ですから、学習期間が足りないのではと思って4年にしています。高校は普通に3年です。
 しかし、中学からは行きたい人が行くというのは……自由なのは良いことですが、職に就く際に、最終学歴が小学校卒業ってだけでは中々厳しいのではないでしょうか?
 ポケモントレーナーの夢が絶たれたら、ニート一直線ですか? それとも夢を諦めた時点で中学に通い始めるんですかね? 分かりません。
 その点、ミニスカートは多分ですけど高校まで進んでいる訳ですから、結構優秀で真面目な子ばかりなんじゃないかなと思っています。


 午前の部、最後の挑戦者さんの相手をしてお昼休憩に入ります。

 休憩時間は11時から13時までの2時間。長いと思いますが、この中には私の食事だけでなくポケモン達の食事やコンディションチェック、ジムの点検や必要とあらば身だしなみを整えるなどやることが多いです。

 午後の部は13時から18時までです。

 

「初めまして。アサギジムのジムリーダー、ミカンです。本日はよろしくお願いします」

「エンジュシティのクリオです。お願いします」

「バッジを確認しますね」

「はい」

 

 ファントムバッジ一つですね。相手のポケモン次第ですが、エンジュジムのマツバさんの人を見る目は本物です。きっと良いトレーナーなのでしょうね。楽しみです。

 

「それでは両者用意して下さい。ポケモンはそれぞれ2体ずつ、入れ替え制です。よろしいですね?」

「「はい」」

「では、始め!」

 

 レミさんの号令と共にお互いにポケモンを繰り出します。

 

「頑張って下さい、ココドラ!」

「行け! ケーシィ!」

 

 ニックネームを呼ばなかったのは、相手トレーナーさんへの配慮(はいりょ)です。初見でいきなりニックネームで呼んで、どんなポケモンを出すのか(まど)わせてしまってはフェアではありませんからね。

 しかし、相手はケーシィ、エスパータイプですか。ゴーストタイプのマツバさんとは相性が悪いようですが、どのようにして突破したのでしょうか。気になります。

 

「ココドラ、ダッシュです!」

 

 指示を受けてココドラがケーシィに向かって走り出す。

 

「っ! ケーシィ、【シャドーボール】!」

 

 なるほど、ゴーストタイプにはゴーストタイプの技ですか。流石(さすが)勉強していますね。

 

「右へ!」

 

 しかし目前に迫った相手の技もしっかりと見極めて、ラーちゃんは指示通りに右へジャンプし(かわ)します。

 

「くっ、もう一回【シャドーボール】!」

 

 続けざまに放たれた技も、今度は左へ身体をズラすことで見事に避けました。

 ココドラの大きさは大体体長40cm前後。この子は36cmと更に小柄です。的が小さいので早々に当たりません。無論、本来のココドラの素早さであれば当たってしまいます。何せ普通のココドラは体長40cmに対して体重が60kgもあり、とても重いです。そして短い四本の脚で全身、主に最も比重の高い頭部を支えていますのでアンバランスで、動きが(にぶ)くなります。私のココドラも例に漏れず、平均よりも小さいとはいえ重いです。と言いますか、平均よりも重いです。このサイズで70kg近くあります。

 それでも機敏(きびん)に動ける理由は単純ですが、(きた)えているからです。

 毎朝の海岸の砂浜ダッシュを行っていることで、不安定な足場で安定した瞬発力、持久力を身に付けることが出来ているのです。

 

「て、【テレポート】!」

 

 物理アタッカーであるココドラに遠距離戦を挑んだのは正しかったですが、それも当たらなかったことで接近を許してしまいましたね。ゲームであれば意味のない【テレポート】ですが、この世界では活用法があります。それは、瞬時に相手と距離を離すなどが出来ることです。

 

「なるほど」

 

 しかし、それは距離を離すよりも相手の死角に入るなどで使用した方が良いと思います。やはり指示通りに動くといっても、相手の姿を視認していなければ若干のタイムラグが発生し、ワンテンポ遅れて行動することになります。これも普段からの鍛錬やコミュニケーションによって、様々な場面を想定することで対処出来ます。

 トレーナーはただ指示を出すのではなく、ポケモンの第三の目となってフィールドを俯瞰(ふかん)、つまり全体を見つめ、正確に素早く指示を飛ばす必要があります。

 

「ここは追い詰めてみましょうか」

 

 相手に聞こえないように呟き、すぐに「ココドラ、走って相手を翻弄(ほんろう)させて」と声にします。

 それからは繰り返し、相手との距離を詰めようとするココドラと、距離を稼ぎつつ【シャドーボール】で迎撃するケーシィ。しかし、次第に壁際へと追い詰められたケーシィに挑戦者さんも焦っているようです。

 さぁ、ここからどうしますか?

 

「け、ケーシィ! ココドラの背後へ【テレポート】!」

 

 合格です。まぁその指示はココドラにも聞こえていますし、私もそれに合わせて行動させることも出来ますので、もっと相手に分かりづらいように言うべきですが、そこはこれからですね。

 

「【シャドーボール】!」

「打点をズラして!」

 

 背後に回られ、しかも至近距離。この場面での【シャドーボール】は本来なら(・・・・)必中コース。ですが、全てを読み切っていた私のココドラなら躱せます。しかしあえて(・・・)躱させずダメージを最小限に出来るよう身体を(ひね)らせます。また、当たる瞬間に後ろへ跳んでいますね。これではほぼダメージはないようなものですが、この場面で技が当たったというのが重要です。

 焦りながらも集中力を切らさず、反撃に打って出る。まだ冒険に出て日も浅いはずですが、良い判断です。

 

「やった、当たった!」

「よい奇襲です」

「よーし、ケーシィ! あれ? ケーシィ!」

「スタミナ切れのようですね」

 

 散々技を繰り出したことで、スタミナを消耗(しょうもう)させてしまったのでしょう。【シャドーボール】を放ってから力が抜けたようで、地面に倒れてしまいました。

 この世界では技ポイントなどもなく、全部がポケモン本体の体力、スタミナに依存しています。なので、同じポケモン、同じ技を使ったとしても、何年も鍛錬を積み重ねたポケモンと、タマゴから(かえ)ったばかりのポケモンとでは、威力(いりょく)勿論(もちろん)ですが、使える技の数にも限りがあります。

 こればかりは一朝一夕(いっちょういっせき)で身に付けられるものではなく、日頃からの積み重ねが必要なのでルーキートレーナーさんでは難しいと思います。

 

「では、2匹目にしましょうか。私のココドラも散々走りましたので、一度ボールに戻しますね」

 

 まだまだスタミナには余裕がありますが、ここで2タテする程大人げなくないです。

 

「レアコイル、お願いします!」

「い、行け! バリヤード!」

 

 エスパータイプで固めていましたか。しかもバリヤードはフェアリータイプも入っていますね。ただ、今回の相手は鋼タイプなので相性は悪いです。さて、どのように立ち回るのでしょうか。

 今度は真っ向勝負を仕掛けてみますが、さて、あのバリヤードはどちら(・・・)ですかね?

 

「レアコイル、【ちょうおんぱ】」

「効かないよ! バリヤード、【きあいだま】!」

「左に避けて」

 

 やはり【ぼうおん】でしたか。

 バリヤードの特性の一つ【ぼうおん】。音に関する技を無効化するものですが、これにより私のレーちゃんの【ちょうおんぱ】と【きんぞくおん】が封じられた形となります。残りの技は【ほうでん】と【ラスターカノン】ですね。フェアリータイプが入っているので鋼タイプの技である【ラスターカノン】は効果抜群です。

 また、レアコイルは言わばコイルが3匹くっついているだけのポケモン。ですので、コイル3匹に分離させることも出来ます。そして3方向から相手を囲んで技を繰り出せば、勝負が付いてしまいます。ついでに【ほうでん】で相手の足を止めてしまえば完封(かんぷう)出来ます……が、それでは意味がありません。せっかくのジム戦です。ただ奇策かつ力業(ちからわざ)でゴリ押すのはフェアプレイに反します。勝つだけが目的ならそれでも良いのですが、あくまで相手の力を見るバトルですので、そこは妥協(だきょう)しません。

 まずは相手の技を見極める所から始めましょう……

 

「違いますね」

「?」

 

 相手トレーナーさんには聞こえていなかったようですが、審判のレミさんには聞こえていたようで、首を傾げられてしまうが気にしないです。

 私は今、油断をしていました。というより、相手をまだバッジ1個の新米トレーナーさんだと、相性も良いからと(あなど)っていました。そんな弱い心を(いまし)めます。

 この状況、確かに私が有利です。ですが、有利だからと相手を下に見て気を(ゆる)めるなど、先達者(せんだつしゃ)としてあるまじき行為です。

 例えばヤマブキジムのナツメさん。ポケスペでもヒワダジムのツクシさんと戦った際にバリヤードで、奇策を仕掛けて見事に勝利を収めていました。実際に私自身一般トレーナーだった頃に手合わせして頂いたことがありますが、そのような立ち回りではなく、あくまでジムリーダーとしての戦いをしていましたが、随所(ずいしょ)であっと驚くような仕掛けをしてきました。

 

「距離を取って下さい」

「今度は当たるよ! 【きあいだま】!」

「伏せ!」

 

 レーちゃんの頭上を【きあいだま】が通過して行きます。

 ナツメさんなら、【ぼうおん】で音系の技を封じつつ、私が不用意に指示した【ちょうおんぱ】を【アンコール】で固定してくるはずです。その後は得意の”壁張り”でこちらの動きを封じ込めるか、更に補助技を重ねるかしてレーちゃんの手段を奪っていくでしょう。

 そういったことを想定してって……

 

「えー……」

「バリヤードっ!」

「えぇと、バリヤード、スタミナ切れで戦闘続行不能。勝者、ミカン」

 

 【きあいだま】は原作でもポイントが少ない威力の高い技です。つまり、それだけ精神力や体力を奪うということ。それを短時間にこれだけ撃てば、元々スタミナに(とぼ)しいバリヤード、力尽きてしまうのは自明(じめい)()でしょうか。

 とにかく、私としては不本意ながらこれからという時に相手側の自滅によって、勝ってしまった訳で……とりあえず時間はありますし、いくつかアドバイスを送ることにします。

 

「お疲れ様でした」

「はい……」

 

 論評を終え、トボトボと帰って行くトレーナーさんを見届けた私は、レミさんから飲み物を受け取って口にする。

 1戦目のケーシィとココドラの戦いでは、追い詰められた時に見事に私の期待通りの動きをしてくれたことで、次の戦い次第では負けてしまってもバッジを渡そうと考えていましたが、2戦連続でスタミナ切れというのは、ちょっと駄目ですね。

 消耗の激しい技を繰り出すなら、確実に当てられるように立ち回ったり、スタミナを管理したりするようにして、ポケモンのほんの少しの疲れを敏感(びんかん)に感じ取って的確に指示を出さなければならない。特にトレーナーのことを信頼しているポケモン程、そういった管理をトレーナーに任せて自身は戦いに集中する傾向にあります。

 仲が良いことは良いのですが、ポケモンはトレーナーの信頼に応えようと頑張りすぎてしまうので、そこをちゃんとコントロールをしてあげるのがトレーナー(指導者)としての役割だと思います。

 

「また技を出さないで勝ちましたね」

「いえ、一応【ちょうおんぱ】を出しましたよ?」

「無効化されましたのでノーカンです」

「そういうものですか?」

 

 観戦者の皆さんも(おおむ)ねそういう考えのようで、私が攻撃技を繰り出す瞬間を見ようと毎日やってくる大人の男性の方もいる……仕事、していますよね? 大丈夫なのでしょうか?

 とりあえず先程のトレーナーさんは、次回のバトルで改善が見られましたらバッジを渡すこととします。勉強熱心な男の子でしたから、問題ないはずです。

 それからもジムリーダーの業務として挑戦者さんとのバトルを行いましたが、本日のバッジ取得者はいませんでした。

 何故か最近、新米トレーナーさんはまずアサギシティ(ここ)に向かう傾向にあるらしく、バッジがないか1個のトレーナーさんが遙々(はるばる)やってきて、ジム戦を挑むというのがちらほらあります。遠い所ですと、ヨシノシティからというトレーナーさんもいました。

 その理由を同じジムリーダー仲間であるコガネジムのアカネさんに相談したことがあるのですが「そんなん簡単やわ。ミカンちゃんのとこで修行した方が成長早いねんってもっぱらの噂やで? 実際に、あんたんとこのバッジを持ったトレーナーは、同じ数のバッジ持っているトレーナーと比べても強かったで? それよりも聞いてや、この間、新しくオープンしたタコ焼き屋に行ってきたんやけどな……」という話を延々と聞かされました。

 相変わらず元気そうで良かったです。アイドルって忙しそうですので、電話取れないかもと思って駄目元で連絡を入れたのですが、まさかそこから1時間ずっとタコ焼きの中にタコが入っていなかったという話をされるとは思いませんでした。

 

「では、本日の報告書をまとめちゃいましょうか」

「はい、お手伝いします」

 

 ジム戦は18時で終了ですが、それからは書類整理、ジム内の清掃にポケモン達の夕食と、やることはまだまだあります。結局、全てを終えてジムを出るのが20時を回ることも珍しくないです。

 ここから家に帰って夕食と入浴を済ませた私は、0時まで通信教育で高校の勉強を行います。将来はタマムシ大学へ行って、ポケモンの研究をしたいと思っていますのでサボる訳にはいきません。

 原作ではエリカさんと交流があるようでしたので、私も繋がりを作るべくカントーへ行ってジム戦を挑みました。ジムリーダーになってからでは、とてもではないが会いに行けるとは思っていませんでしたからね。ではどうしたら別地方のジムリーダーと交流を持てるのかと考えた時に、一般トレーナーならジム戦で繋がりが持てると考え、行動に移したのです。

 結果、幸いにも私がジムリーダーを目指していること、そして実際に会ってみて彼女のジムリーダーとしてのあり方に憧れた私は、かなりどもりながらも何とか思いを告げた所、無事に連絡先を受け取ることに成功したのでした。

 以来、ジムリーダーの先輩として、そしてタマムシ大学の教授としてアドバイスを頂きながら、日々精進しています。

 私、夢に向かって頑張ります。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 vs ラッキー

 とりあえずストックはここまでです。続きを書くかは、作者のテンションとリアル次第。元々のオリジナル小説の構想も練らないといけないですしね。
 それに、他にも手を出してみたい二次創作がありますので、本当に片手間にちょいちょい書き足していく程度になると思います。
 ということで、ジョウトのジムリーダーが一堂に会します。人数が多いとキャラの書き分けが難しいので大変です。
 その中でアカネちゃんはとても動かしやすいキャラで助かります。流石ダイナマイトプリティギャル!
 また、ポケスペではあくまで芸能人という表現に留めていますが、この作品ではアイドルということにしています。
 今の時代、アイドルもタレントも似たようなものです。何でも出来なきゃ弱肉強食の芸能界で生きていけません。
 この回を書くのに当たって、ポケスペを読み直しました。面白かったですが、女性キャラの腰付きとか、どこか妙に色気があるような気がします。まぁ電撃ピカチュウ程ではないですけどねw

追記:誤字報告ありがとうございます。


 もうすぐ春です。

 春は小学校を卒業してポケモントレーナーの資格を得た子供達がトレーナーデビューして旅立つ季節です。そして、その頃が最もジムが忙しくなる時期でもあります。よって、卒業シーズンを前に、多くのジムはこの1年で(いた)んだ箇所の修復工事や大規模なメンテナンスを行うこともあって、数日から1週間程度休みとなる所が多いです。

 私のいるアサギジムも例に漏れず、季節の変わり目の年4回、1週間休みをとって修繕(しゅうぜん)作業に入ります。

 そして、多くのジムが休みとなるこの頃、同時に行われるのが地方(ごと)のジムリーダー連絡会です。

 ジョウト地方での連絡会の主な開催場所は、コガネシティで開かれることが多いです。交通の便であったり地方のほぼ中央に位置していたりと、比較的に集まりやすい場所にあるという理由もありますが、やはりポケモン協会ジョウト地方本部がある街というのが一番大きいですね。

 そしてこの春、キキョウシティで新たにジムリーダーが就任するということで、そのお祝いも兼ねて連絡会が開かれました。

 広い会議室のような場所で8人のジムリーダーと、数人のポケモン協会やポケモンリーグ理事会の職員が長机に、お互い向かい合うように座っています。その席に着いた人達の周りを、ポケモンのラッキーがコップではなく湯飲みを持って各自の前へお茶を配っています。あ、左隣のイブキさんの湯飲みのお茶、茶柱が立っています。(うらや)ましいです。

 

「それじゃあ、早速始めるで? 第……あぁ何回目や? まぁええや、ジムリーダー、連絡会始まりやー! わーパフパフドンドン!」

「え、えーと……わ、わー?」

「ミカン! あんただけやちゃんと反応してくれたんわ。ただ出来ればもうちょっと明るく元気良く頼むで?」

「え、えー……」

「そんなことよりも、まずやることがあるのではないか?」

「シジマさん、分かってますわ。それじゃあ、本日のメインイベント。キキョウジムに新しいジムリーダーが就任したってことで、はい、自己紹介!」

 

 空手の胴衣を着た恰幅(かっぷく)の良い(ひげ)の男性が腕組みをしながらツッコみます。原作では上半身裸ですが、今回はちゃんと上も着ています。彼の威圧に押されてか、早々にトークを切り上げたアカネさんが一人の人物に話を振る。

 紹介されて席を立ったのは、青い(はかま)を着た片目が前髪で隠れた少年でした。

 

「は、はい! 前任のジムリーダーだった父から引き継いで、新しくキキョウジムのジムリーダーとなりましたハヤトと申します。(いた)らない所も多いと思いますが、ご指導ご鞭撻(べんたつ)の程、よろしくお願いします!」

 

 今年のジムリーダー就任試験をパスして、念願の夢を叶えたハヤトさんへ向けて各自拍手を送るなどして歓迎しています。

 私も皆さんと同じように手を叩いていますが、裏で別のことを考えています。ポケスペでは、彼がジムリーダーになるのは本編が始まってから。実際にカントー地方でロケット団が壊滅(かいめつ)したとニュースになってから3年経ちましたが、ついに物語が動き始めたということですね。

 まぁ、私が本編の中で関わる機会というのはほぼありませんが……一つあるとすれば、エンジュシティの人為的な震災に巻き込まれてしまい、そこを主人公達に助けられるというものがあります。ただ、それを知っていて巻き込まれるという訳にはいかないですし、何よりロケット団が関わってくる以上はジムリーダーとして無様な姿は見せられません。

 こうして、私が一人で気合いを入れている中で連絡会は粛々(しゅくしゅく)と進みます。

 

「協会からですが、各地で3年前に壊滅したとされているロケット団が、このジョウト地方で活動していると報告があります。詳細はツクシさんから」

「はい。先日、アルフの遺跡で行方不明になってしまった調査隊の捜索中に、ロケット団の残党と思われる集団と遭遇(そうぐう)しました。その時に、偶々一緒にいた少年と対処をしましたが、残念ながら確保にまでは至らず見失ってしまいました。調査隊の救助を優先する必要があったとはいえ、取り逃がす結果となってしまったことは申し訳ありません」

「いえ、全員が無事だったのならそれで良いのです。現在、報告は以上ですが、活動しているのがごく僅かとは考えられません。引き続き、各ジムリーダーは警戒をお願いします」

「「「「「「「「はい」」」」」」」」

 

 悪の秘密結社ロケット団。3年前までカントー地方で活動していたポケモンを利用して悪事を働く組織。原作でもあったことですが、やはり流れはポケスペの方ですね。

 そして、連絡会は最後の各自連絡事項を残すのみとなりました。

 

「うちからは、テレビ(・・・)番組の収録でジムを離れることが増えるんで、その予定表をあらかじめ配っとくわ」

 

 原作などではラジオが主流でしたが、この世界では普通にテレビがあります。とはいえラジオ塔は顕在(けんざい)で、現在もクルミさんが務める番組は大人気です。その収録風景は、テレビの収録とまた違って面白いと有名です。

 

「私は逆に当分はジムに引きこもって創作活動を行いますので、ご用があれば手紙でお願いします」

「ヤナギのじいちゃんいい加減電話引いたら? 今はポケギアっちゅう便利なもんもいっぱいあるで?」

「私は電話が苦手でしてね。見えない相手との会話はどうも……手紙も手書きが良いですな。一文字一文字の暖かみというのがあって、氷使いの私が暖かさを求めるというのも変な話ですが」

 

 ポケスペのようでポケスペではないこの世界。実際にこの目で見ますと実感します。

 現にポケスペではラジオ番組の収録のロケで初めて邂逅(かいこう)するアカネさんとヤナギさんですが、こちらの世界ではこうして連絡会を含めて数回、対面する機会があります。二人が交流する姿は、久々に会った孫と話をするお爺さんそのものです。

 これを見ているからでしょうか。ポケスペでの事件の主犯格がヤナギさんだと知っていますが、実際にこの世界でもそうなのか自信がありません。ですが、原作と違って車椅子に座っていますから、そうなのかもしれないですし……うーん、今の時点では判断出来ません。

 かといって、私から積極的に動くということはありません。事件そのものは主人公さん達が解決してくれるでしょうから。私はジムリーダーとして正しいことをただ(まっと)うするだけです。

 あ、私の番ですね。

 

「えぇと、アサギシティのミカンです。私からもいくつか報告があります。観光名所にもなっているアサギの灯台ですが、機械のメンテナンスの為に明日明後日の2日間定休日となります。それと、アサギ鉄鋼からアカネさんに企業宣伝用のプロモーションビデオを撮影したいとの依頼です。また詳しい話はマネージャーさんに話を通すそうですが、一応事務所からも承認を得ているそうですので、詳しい日取りが決まりましたら連絡するとのことです」

「あぁそれな。話は聞いとるよー。でも、アサギ鉄鋼の広告塔のミカンを差し置いてうちでええの?」

「構いませんよ。私はただの広報ですから。ここはやはり、全国的にも有名なアカネさんに是非やってもらいたいです」

 

 私は現在、アサギジムのジムリーダーを務めると同時に、アサギの灯台の管理人または広告塔、あるいは案内人を務め、また父が務めるアサギ鉄鋼でも同じように広報の一員として、広告塔の役目を(にな)っています。

 アサギ鉄鋼は父の紹介で社長さんと知り合い、いつの間にか決まっていました。会社側としてはジムリーダーを広告塔にすることで、良い宣伝になるとか。私も鋼タイプのジムリーダーとして、それっぽい仕事もしてみたいと思っていましたので丁度良いですね。

 そして、ジムリーダー就任と同時に行っていたアサギの灯台の管理ですが、あくまで私は責任者というだけで実際の管理は、管理会社が行っています。毎日出勤する訳でもないですからね。ただ、管理者に就任と同時に、デンリュウのアカリちゃんには、マスコットキャラクターとして灯台に変わらず住んでもらっています。原作と違って、灯台の光を担うこともなくまたそれによる過重労働での疲労からの(やまい)という悪い流れになっていませんので、そこはポケスペの世界で良かったと思っています。

 まぁ、仮に原作の世界だったとしても、私が何としても()めさせましたが。ポケモンをこき使うのは、例えそれが人の為とはいえ許せません。というか人間の都合の良いように扱うことは駄目だと思います。

 

「うーん、分かったわ。とりあえずまた事務所で相談してから答えを出すで、そん時でええかな?」

「はい、よろしくお願いします」

 

 それからもいくつか話がありましたが、ロケット団関連の情報に進展はなく、今回の連絡会はこれにて終了となりました。いえ、なるはずでした。その理由が……

 

「よーし、終わった終わった。ちゅーことで、ハヤトやったな? どうや、新人ジムリーダーとして、ちょいと実力見せていかへんか?」

「え、じ、実力ですか?」

「そうや。勿論、厳しい試験を突破したんやから申し分ないやろうけど、ジムリーダーっちゅうのは、普通の一般トレーナーと(ちご)うてな。ただ強い、勝てば良い訳やあらへんのよ」

「はい、そこは学んでいます。経験不足なのは否めないですが、自分なりに正しい目を持って良きジムリーダーとなれるよう奮闘します」

「うんうん、それで最初に戻る訳や」

「実力……ですか」

「そ、(うたご)うてる訳やないけど、やっぱこの目で(じか)に見たいやんか。ゆうことで、お願いや」

「はぁ、分かりました」

 

 何やらアカネさんが強引に決めてしまいましたね。ですが、他の人のバトルを見るのは勉強になりますので、私も是非とも見学したいです。

 

「そんでな、場所はポケモン協会(ここ)のバトルフィールドを使うとして、問題は対戦相手や」

「え、アカネさんが務めるのではないんですか?」

「うちがやっても良いんやけど、それ以上の適任がおるよ?」

「それは?」

「な、ミカン?」

「……へ?」

 

 見学じゃなくて勝負する方ですか?

 

「まぁ、ミカンなら問題ないだろうな」

「え、シジマさん?」

 

 うんうんと頷くシジマさん。その手には羊羹(ようかん)が握られています。え、もしかして一本丸ごとですか? そんなことですから、最近奥さんからお腹が出ていると注意されるんですよ?

 タンバシティは薬の街として有名で、私も定期的に薬を買いに訪れるのですが、その際にジムに寄ってシジマさんと手合わせをすることがあります。ただ、その後に奥さんから愚痴(ぐち)を聞かされるので、私としてもシジマさんの甘い物好きには、少々自重してもらいたい所です。

 

「そうだな。アサギを突破したトレーナーは皆とても強い。オレも随分と苦戦している」

「マツバさん……」

 

 厚着をして、更に首元にはマフラー、頭にもバンダナを身に付けた男性のマツバさんもシジマさんの意見に賛同します。

 

「噂としては聞いている。私もアサギジムのバッジを持つトレーナーと早く手合わせしたいが、生憎(あいにく)とまだフスベまでは来ていないのでな」

「イブキさん」

 

 キングドラを彷彿(ほうふつ)とさせるような衣装とマントを身にまとった、キリリとした(たたず)まいの女性、イブキさん。

 アサギとフスベでは距離もあることから、直接話をする機会はほとんどないですが、イブキさんとは偶にポケギアでオシャレの話をしたりします。私も詳しい訳ではないので、無難なことしか言えていないのですが。そういうのはやはり、専門のアカネさんやジムトレーナーのレミさんが適任だと思います。

 

「ほう、そんな話があるのですか? それは興味深いですね」

「ヤナギのじいちゃんも、もう少し外の様子を見なあかんよ?」

「ははは、こりゃ手厳しいですな」

「ヤナギさんまで」

 

 ヤナギさんは非常に小柄なおじいさんで、今も車椅子に座っていますが、快活(かいかつ)な方で、今もアカネさんと話に花を咲かせています。

 

「ボクもまだまだ未熟者だからね。是非とも勉強されてもらいたいかな」

「ツクシさんも?」

 

 一見少女に見えてしまう少年のツクシさん。男の娘というものでしょうか。このジムリーダーの中で一番若いですが、ジムリーダー歴は私よりも1年長く、またそれとは別に遺跡調査隊のメンバーでもあることから、その見た目とは裏腹に高い能力を持っています。可愛いですが。

 

「よっしゃ決まりやな。それじゃあ早速移動するで?」

「え? あの、まだオレやるとは……」

「わ、私もまだ、そんな……」

 

 突然決まったことに、驚き慌てふためく私達を置いて、他のメンバーは全員会議室を出て行ってしまいました。いつの間にかポケモン協会やリーグ理事会の職員も一緒について行ってしまったようで、二人ポツンと取り残されてしまった形です。

 

「行きましょうか……」

「はい……」

 

 諦めて私達は(なか)ば強制的に決まった試合に(のぞ)むべく、移動するのでした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 vs ピジョン

 まさかのお気に入りや評価の伸びに驚いてしまい、一応構想にはありましたので急いで執筆しました。
 ですが、まさか1話では収まりきることが出来ませんでしたので、次回に続きます。が、仕事の都合で執筆時間が中々取れませんので、遅れると思います。ご了承下さい。
 ということで、前回の続きでミカンちゃんvsハヤトです。どうぞ。


 ポケモン協会主催のジムリーダー連絡会を終えて、場所を移した私達。私とハヤトさんは互いに向かい合うような形で、それぞれバトルフィールドの両端に立っています。

 

「それじゃあ、両者見合って見合ってぇ」

「アカネさん、それは相撲じゃ……」

「ツクシくん、冗談や冗談。そんじゃあ、始めるで? 2人共準備はええな?」

 

 アカネさんの確認に、私とハヤトさんは頷きます。

 

「大丈夫です。こうなってしまった以上は、全力でお相手させて頂きます」

「お手柔らかにお願いします。オレも自分の実力がしっかり示せるよう、頑張ります」

「よっしゃ、使うポケモンはそれぞれ2匹。入れ替え制で、先に2匹とも戦闘不能になった所で終了や」

 

 今回の試合会場となる場所ですが、ポケモン協会の屋内にあるフィールドです。しかし、屋内でありながら地面は土で、ディグダなどの、地面タイプのポケモンにも対応したものとなっています。水タイプのポケモンを使用する場合は、また別のフィールドを用いることになります。

 これから始まる試合は、新米ジムリーダーのハヤトさんの実力を観るものとしていますが、私はジムリーダーとしてではなく、1人のトレーナーとして勝つつもりで(のぞ)ませて頂きます。

 

「それじゃあ、始め!」

「行け、ピジョン!」

「頑張って、クーちゃん!」

 

 場に繰り出されたのは、相手がピジョン、こちらはクチートのクーちゃんです。

 クーちゃんは身体をこちらに向け、頭のツノが変形した大きなあごを相手に向けています。

 

「っ! 【いかく】か」

 

 ハヤトさんはすぐに気付きましたね。【いかく】はゲームでは相手の攻撃力を一段階下げる特性でしたが、相手を怖がらせることで手を遅くしたり(ゆる)ませたりすることで、攻撃力の低下に繋がるということになります。本体はこんなに可愛いのですけどね。

 実際に相手のピジョンは、クーちゃんのあごを直視しないように、目を逸らしているように見えます。

 

「クーちゃん」

 

 名前を呼んだだけで彼女はくるりと振り返り、相手へ向けて猛然(もうぜん)とダッシュを始めました。

 クーちゃんに特殊技があればそれを使いましたが、こちらの攻撃手段はいずれも物理技、つまり接近しないと戦えません。

 

「速い! ピジョン、距離を取れ!」

「させません。動きを封じて下さい!」

 

 すると、彼女の大あごの牙が、ピキピキと音を立てて冷気をまとっていきます。試合開始早々の正面からの奇襲。ピジョンがクーちゃんのあごを見ないように視線をチラチラとさせていた為、ハヤトさんの指示にもコンマ数秒ですが、反応が遅れてしまいます。

 一気に距離を詰めたクーちゃんは、羽ばたいて高度を上げようとするピジョンに(せま)ります。そして、勢い良く振り回したあごがピジョンの右の羽を(かす)りました。

 並のトレーナーのポケモンでしたら今ので羽にダメージを受けてしまい、飛ぶことが出来なくなっていましたが、流石(さすが)(きた)えられているだけあって、直撃を避けて受けるダメージを最小限に(とど)めました。ですが、軽くであっても触れたのであれば、効果は現れます。

 

「ピジョン! そうか、【こおりのキバ】!」

「はい」

 

 翼の一部が凍り付いたことで飛びにくそうにしていますが、それでも高度を保っていますね。飛行タイプに相性の良い氷タイプの技で奇襲を仕掛けた訳ですが、半分失敗になってしまいました。

 

「しかし、最初の行動の動き出しが早かったのは、何かカラクリがあるのですか?」

「えぇと、内緒です」

 

 何故クーちゃんは名前を呼んだだけで私の思考を読み取って、行動に移すことが出来たのか。そのカラクリは簡単です。彼女は場に出てから、ずっと相手に背を向けていました。それは私とずっと目が合った状態であったということです。

 場に出てからもずっと相手に背を向けるポケモンは、ポケモンの数が600種以上いると言われている中でも数少ないです。それも、背を向けることで相手の攻撃の意欲を奪うという特性を持ったポケモンは、私が知る限りではクチートだけです。

 それからも、目線でいくつかのやり取りをし、私はチラチラと相手のピジョンのある一点を見つめます。

 

「まぁ、そうでしょうね。オレも油断しないようにと気を付けていましたが、まさかオレのピジョンが少し目を逸らした隙を突いて飛び込んでくるとは……勉強になります」

「いえ、それは私もです。油断はしません。力も抜きません。突然の流れで試合をすることになってしまいましたが、戦う以上は全力で頑張ります」

「ははは、これは厳しいですね。でも、オレも全力ですよ。【ねっぷう】!」

「っ! クーちゃん!」

 

 ピジョンの翼が熱を帯び、それを激しく羽ばたかせることで(すさ)まじい熱量の風が吹き抜けていきます。クーちゃんは急いで距離を取りつつ、あごを【こおりのキバ】の応用で冷気を使って(おお)って盾にすることで、何とか火傷(やけど)を回避することに成功します。しかし、せっかく羽を凍らせて奪った機動力も、熱をまとった羽によって溶かされてしまいました。

 鋼タイプのクーちゃんに対して、飛行タイプであるピジョンは有効打が(とぼ)しいです。ですので、候補には入れていました。技から【どろかけ】がなくなっていることから鋼タイプに対して取れる手段としては、やはり炎タイプの技、つまり【ねっぷう】だと。

 想定はしていましたが、いざ対策を取るとなると難しいです。まぁ想定内である以上、最初に取る手段としてはクチートのクーちゃんではなく、エンペルトのクラウンを出すべきでしたが、私は今回あえてクーちゃんを選択しました。

 物理技しか持っていないクーちゃんでは、どうしても接近する必要があります。対して相手は、距離が離れていても攻撃が出来る特殊技。それもこちらに対して相性が良い技。素早さも瞬発力なら負けませんが、やはり縦横無尽(じゅうおうむじん)に空中を飛び回れる機動力を持つ相手の方が上です。

 それでも勝てると踏んでの選択です。私は私の判断を信じますし、と同時に相棒であるポケモン達を信じています。

 

「【かぜおこし】【ねっぷう】!」

「離れて!」

 

 クーちゃんが距離を取ったことで【ねっぷう】の範囲から逃れたと思ったのですが、【かぜおこし】でその距離と稼いで範囲もカバーするとは……しかも風によって威力も上がっていますね。

 冷気をまとったあごで防御しながら相手から離れていますが、このままではジリ貧です。流石飛行タイプのエキスパートです。あそこから技が当たる所まで接近するのではなく、その場から当たる手段を執る。ですが、道は残されています。

 

「クーちゃん、ちょっとの熱さは我慢して下さいね」

 

 そう言って私はウィンクをします。それを見て笑顔で(うなず)いたクーちゃんは反転し、相手のピジョンを見つめます。そして……軽く(しな)を作って、色っぽい表情を向けます。すると目が合った相手は、クーちゃんのあごを見ていた時とは同じように、しかし違った意味で視線を彷徨(さまよ)わせます。

 

「これは、【ゆうわく】!」

「正解です」

 

 異性が相手であれば、その色気で誘惑することで攻撃の意欲を奪う。つまりゲームで言う所の、特攻をガクッと下げると言った感じです。

 元々悪戯(いたずら)好きの、無邪気(むじゃき)な小悪魔的存在のクーちゃんです。それも、ケモナーにも人気の可愛さ。これを本人の意思で全力をもって色気を振りまいたら、そりゃ落ちちゃいますよね。

 

「くっ(まど)わされるな。【かぜおこし】」

 

 技のキレが落ちていますし、狙いも甘いですね。突破口、見つけました。

 

「呼吸を合わせます」

 

 この場面、焦らずしっかりトレーナーである私は、クーちゃんの呼吸に合わせて意識を一体化させます。

 私の行動を見たあの子は、次に半身の姿勢を取り、指をしゃぶって片目で相手に視線を送ります……ってやり過ぎです! そんな知識どこで覚えたんですか! あ、もしかしてまた私の知らない所で勝手にボールから出て、パソコン使いましたね! というか、何を検索したらそういった仕草が出来るようになるんですか!

 後で説教をする必要が出て来ましたが、今は置いときます。それに、半身になったことでもう片方の目は相手からは見えないので、何をしているか分からないはずです。特に特別なことをしている訳ではありません。私と呼吸を合わせて動きを減らし、私側の目を閉じているだけです。

 そして、私は両目を閉じてゆっくりと呼吸をしながら聴覚に集中します。

 1秒、2秒、3秒、4秒……

 

「何かをするつもりかは知りませんが、この距離でそちらが取れる手段はそうありませんよ。ピジョン、いい加減に」

 

 相手の言葉をシャットアウトして、1つの言葉にのみ意識を向けます。

 7秒、8秒、9秒……

 

「【ねっぷう】!」

「クーちゃん!」

 

 指示はほぼ同時。

 クーちゃんはすぐさまダッシュします。

 

「なっ速い!」

 

 誰かの叫びがフィールドに響きますが気にしません。

 技を繰り出そうと大きく翼を広げたその瞬間、一気に(ふところ)まで飛び込む姿があります。しかし相手も対応が早く、熱せられた風がクーちゃんを襲います。ですが、直前まで【ゆうわく】によって攻撃の手を緩めさせていましたので、咄嗟(とっさ)のことに追い付かず、その威力は先程までのと比べると雲泥(うんでい)の差です。

 多少の熱い風。冷却が追い付いたクーちゃんには意味がありません。そしてそのままの勢いで、一気にジャンプして接近。相手の喉元(のどもと)に向けて(するど)いパンチを繰り出しました。

 その攻撃によって吹き飛ばされたピジョンは、フィールドの壁まで飛ばされ、叩き付けられてしまいました。

 派手に飛ばされた上に、喉を突かれたことで咳き込みはしていてようですが、体調に問題はなさそうです。しかし、戦闘続行は不可能と思います。

 それをアカネさんも察したのか「ピジョン、戦闘不能!」と判定しました。

 

「まさか攻略されてしまうとは……流石にお強いです」

「ありがとうございます」

「今のは【ふいうち】ですか? 技を言わずに指示が出せるとは、しかもタイミングもピッタリと。恐ろしい相手です」

「ふふふ、ありがとうございます」

 

 【ふいうち】は相手が攻撃技を仕掛けた時に、相手の不意を突いて攻撃をする技です。技を繰り出す瞬間、自身の技に意識を向けて相手に当たるように集中します。その小さな意識の隙間に入り込んで攻撃を仕掛けることで、相手は攻撃態勢に入っていて防御が追い付かないことから、高い威力を発揮します。

 そして、ハヤトさんの指摘は半分不正解です。【ふいうち】だけでは倒しきれないかもしれないと思った私は、保険として【とぎすます】を使用しました。

 本来なら、動きを完全に止めて両目を閉じてしっかりと集中する技。行動が制限されますが、その極限まで高まった集中力から繰り出される技は、相手の急所を(つらぬ)(ほこ)となります。しかし、クーちゃんは【ゆうわく】の真っ最中。一体いつ【とぎすます】を使ったのかとなりますと……私がその代わりを(つと)めていました。

 あの時クーちゃんと呼吸を合わせたのは、あの子の意識に合わせる為。相手の技のタイミングを読んで素早く指示に繋げるには、トレーナー自身が集中していないといけません。でないと【ふいうち】は失敗に終わってしまいます。ゲームのように順番に技を繰り出す訳ではないのですから、刻々と状況が変わる中で使用するには難しい技です。

 【とぎすます】を私が一部肩代わりしましたが、では、相手の急所はどうやって指示したのか。それは【こおりのキバ】が掠った最初の行動の後、あの時に視線で狙う場所をあらかじめ教えていました。

 

「ふぅ」

 

 一気に集中力を開放したので、一呼吸入れます。

 すると、トコトコと笑顔で私の所まで向かってくる姿があります。

 

「クーちゃん、良く頑張りました」

 

 私の意思を全部汲み取って、それを信じてその通りに動いてくれた彼女に(ねぎら)いの言葉を贈り、目一杯撫でて可愛がってあげます。

 クチートは、鋼タイプの技のデパートと言われることもあるくらいに使える技のレパートリーが広く、器用なポケモンです。それなら【れいとうビーム】【だいもんじ】または【かえんほうしゃ】。【ソーラービーム】に【チャージビーム】と、特殊技だけでもまだまだあります。

 本来ならそれらを覚えさせて、それを用いて距離を保つ相手と戦うのが定石なのでしょうが……それでは”ポケスペっぽくない”と考えたのです。ゲームなら使い道がなかったり下位互換だったりと、使われない技が多くあります。しかし、ポケスペの世界では、どのような技でも使う場面があり、使い道があります。それを生かし、ポケモン自身の潜在能力を引き出すことがポケモントレーナーの役目だと思っています。

 

「さぁ、次に行きましょうか」

「あぁ、オレも負けませんよ? 次のコイツで、君のクチートももう一匹も倒して、勝ってみせます」

「でしたら、万全を期してクーちゃんには一回休んでもらいますね。油断はしません。このまま疲れたこの子をぶつけてもし負けてしまえば、そのままの勢いで押し切られてしまう可能性がありますからね」

「少しは手を抜いても良いと思うんですけどね」

 

 そう笑いながらも、お互いにモンスターボールを出してそれぞれピジョンとクーちゃんをボールに収めます。そして、2個目のボールを出して投げました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 vs エアームド

 遅くなりました。ミカンちゃんvsハヤトの第2ラウンドです。
 この対決は多くの人が想像出来ていたと思います。格好良いですよね。空中戦。
 次はどんな話を書こうかなと考えつつ、またしばらく間が空くことをご了承下さい。というかあくまで息抜きですので、書かないという可能性も無きにしも非ずですが。

 話は変わりますが、第3話にアサギジムへの挑戦者として登場したクリオですが、原作にもいたことを覚えている人は果たしてどれくらいいるでしょうか?(私は全く覚えていませんでした)
 エンジュシティからモーモー牧場の間の38番道路に登場する塾帰りです。
 手持ちのポケモンはバリヤードのみ。再戦時にレアコイルが追加されます。HGSSはコイルが追加され、そこから段々と強くなってレアコイルになります。
 余談でした。

 余談ついでに……ミカンちゃんと言ったらハガネールですが、一向に出番がありません。どうしましょう? エンペルトも……うん、いつか出します。

追記:誤字報告ありがとうございます。


 場に出た2匹のポケモンを見て、周囲にどよめきが起こりました。

 

「まさか!」

「エアームド対!」

「エアームドだと!」

 

 そう、私もハヤトさんも繰り出したのは、よろいどりポケモンであるエアームドです。

 アルフの遺跡でツクシさんが、恐らくゴールドさんと思われる人物とロケット団と戦ったと話にありました。そして、ポケスペによれば、ハヤトさんがエアームドをゴールドさんと協力して手に入れるのが、その前のエピソードです。ですので、持っていてもおかしくはないですし、この残り1匹という場面で出してくるとしたらエアームドであろうと予想出来ていました。

 そこで、またしても私はあえて同じエアームドをぶつけるという手段に出ました。同じポケモン同士の戦いって展開的に熱いですからね!

 

「頑張れエアームド!」

「起きて下さい。ムーちゃん」

 

 ……同じエアームドでも、かなり違うようですね。

 と同時に、流石(さすが)コガネシティのアカネさんとその他の職員さん、見事なズッコケをして下さいました。

 審判(しんぱん)であるアカネさんは、起き上がりながら「しっかし、ミカンの方のエアームドはなんや、えっらいモッサリしとるなぁ」と言っているのが聞こえます。モッサリではありません。ゴワゴワしているんです。

 それはともかく、私の呼び掛けでハッと起きたムーちゃんは、辺りをキョロキョロと見、そしてバトルだと気付いてくれたようで、そこでようやく対戦相手の方へ向きました。

 

「えぇと、随分(ずいぶん)脳天気(のうてんき)な子みたいですね。それに、それは羽毛……? オレのエアームドとはかなり量が違うようですが」

「あはは……すみません。もう、ムーちゃんったら……すみません。それと、羽毛が多いのはこの子の体質です。換羽(かんう)をしても抜け落ちにくい体質で、どうしても抜けずにここまでになってしまいます」

 

 なるほどと(うなず)き、何やら考えている様子です。きっと、この羽毛の量から動きにくいだろうと予想しているのでしょうか。考えている時間は短かったですがすぐにまとまったようで、私に向き直ります。

 

「あなたが育てたポケモンです。気は(ゆる)めません。それに、せっかく同じポケモン同士なのですから、飛行タイプのエキスパートとしてのエアームドか、鋼タイプのエキスパートとしてのエアームドか。どちらが上か、挑ませて頂きます」

「はい、私も負けません!」

「先程は先制を取られて流れを持って行かれた。だから、【こうそくいどう】!」

「速い!」

 

 私のムーちゃんと違って真面目(まじめ)な子なのか、場に出てからほとんど微動だにせず、ジッと対戦相手を見つめていましたが、いざ指示が入るとすぐさま忠実(ちゅうじつ)に行動に移しています。

 

「【はがねのつばさ】!」

 

 その速さを維持したまま、ただでさえ硬い羽を更に硬質化させて衝突(しょうとつ)してきました。その速さに付いていけないムーちゃんは、直撃を受けましたが、多すぎる羽毛によってダメージはほとんどない様子で、数歩後ろに下がっただけで踏ん張ります。

 

「くっ流石に硬いですね!」

「羽が沢山あるおかげです」

 

 成体のエアームドの体重は、平均で50kgを少し超える程度です。鳥ポケモンとしては重い方で、大体が最終進化形でも30kgを切ります。ピジョットやヨルノズクといった40kg前後の個体でも、サイズが大きい故の重さであって飛び回るのに支障はありません。それはエアームドも同じことで、鋼の身体を持つが故に普通の鳥ポケモンよりは重いですが、それでも十分機動戦が行える身体をしています。

 ですが、私のムーちゃんは体長こそは平均のエアームドとほぼ同等ながらも、その体重は70kgととても重いです。ですので、一応飛ぶことは出来ますが、戦闘機動を取ることを考えると、とてもではないですがその重さでは無理があります。

 

「まだまだ終わらないですよ。【はがねのつばさ】」

「ムーちゃん、耐えて下さい!」

 

 鋼の羽毛のおかげで何とかダメージは食らわずに踏みとどまることが出来ていますが、どんどんと相手の攻撃力が上がっているように感じます。

 それもそのはずです。【はがねのつばさ】は一定の確率で防御力を上げる技。硬くなった羽は、防御だけでなくそれそのものが武器となります。しかも、【こうそくいどう】によって速度も上がっています。

 

「まだです。まだ耐えて下さい」

「【スピードスター】!」

 

 誘導型の弾幕がムーちゃんに殺到しますが、金属音が響くのみで彼にダメージが届いている様子はありません。

 

「まだです」

 

 速さとは、重さです。

 ゲームでは攻撃力の種族値があって、個体値があって、努力値があって、技の威力があります。ですから、例えばどんなポケモンが【たいあたり】をしようと、タイプ一致や特性での威力の底上げ、急所でない限り、威力は40で、それ以上でもそれ以下でもありません。ですが、本当にそうでしょうか?

 例として、イワークとバタフリーの2匹を挙げます。ゲームでは、攻撃力と素早さ種族値は同じです。

 つまり、個体値も努力値も性格も同じ場合、互いにタイプ不一致である【たいあたり】は同じ威力40になるということになります。しかし、少し考えただけで変だと思うはずです。

 体長8.8m重さ210kg防御160のイワークと、体長1.1m重さ32kg防御50のバタフリーが繰り出す【たいあたり】が、果たして同じ威力だと言えるのでしょうか?

 確かに、攻撃力も素早さも同じです。ですが、重さも硬さも全く異なる2匹が同じ壁に衝突した場合、結果がどうなるかは……考えなくても分かるはずです。

 

「こうなりますと、鳥ポケモンとしては重い体重も、立派な武器となっていますね」

「そう。飛行タイプの神髄(しんずい)は、高い機動力と素早さで空を制し、相手を翻弄(ほんろう)することです。ここに弱点である防御力をカバーすることで、非常に高いポテンシャルを発揮することが出来ています。それに、指摘の通り、重さは素早い動きをするにはネックですが、そこも【こうそくいどう】を使うことでカバーしています」

「となりますと、私のムーちゃんは防御こそ非常に高いですが、肝心な鳥ポケモンとしての素早さが圧倒的に足りないことになりますね」

「同じポケモンといえど、飛行タイプのエキスパートとしてのオレのスタイルと、鋼タイプのエキスパートとしてのミカンさんのスタイルで違うのは当然です。ですが、このまま受けるばかりでは勝てませんよ?」

「……そうですね」

 

 これは暗に、反撃して下さいと言っているのでしょうか? それとも挑発ですかね? ハヤトさんの真面目な性格のせいで、どうにも挑発が挑発っぽくないです。ただ、まだ攻撃に打って出る訳にはいきません。

 これまで私があの子に攻勢に出ないようにさせているのは、タイミングを(はか)っているからです。

 ムーちゃんは脳天気でマイペースな子ですが、戦いの場に出たら問題なく臨戦態勢(りんせんたいせい)に入ることが出来ます。(たま)に先程のように居眠りしていることもありますが……

 ただ、今のように多すぎる羽毛という足枷(あしかせ)がある状態では、攻撃に移ったからといって有効打は与えられません。であれば、チャンスが巡ってくるまで防御態勢を取ってダメージを最小限に食い止めることが先決です。ですので、今にも飛び出しそうな彼を、言葉で何度も引き留めています。

 普段はここまでの強い意志は感じないのですが、きっと相手が同じエアームドだからでしょうか。同族には負けたくないという思いから、普段ののんびりとした風貌(ふうぼう)からは考えられないくらいに鋭い目付きをしています。

 

「まだ守りますか。だけど【はがねのつばさ】!」

「ムーちゃん!」

 

 今の一撃は強かったです。おかげでムーちゃんも数歩、踏鞴(たたら)を踏んでしまいました。羽毛のおかげで、すごく高い防御力を手に入れていますが、それだけです。こちらからの攻撃が当たらないとなると一方的なサンドバッグ状態。いつかは攻略されてしまいます。

 

「あっ」

 

 その時、ハラリと一枚の羽が落ちました。

 私は、思わず口角が上がってしまうのを我慢し、ムーちゃんの状態を注視します。

 このまま耐え続けるだけでは、いずれ攻略されてしまいます。ならばと攻勢に出ようにも、まさしく重りが付いた状態では満足に動けないですし、しっかりと威力の乗った攻撃も出来ません。

 だから身に付けさせました。彼が足枷を(はず)し、大空を飛び回れる自由を手に入れ、その実力を十二分に発揮する為の技を……

 

「【ボディパージ】」

 

 その瞬間、バラバラとムーちゃんから余分な羽が抜け落ちて、小さな山を作りました。下ろした重さは30kg弱。自身の本来の体重の約70%の重りがなくなったことで、身軽になったムーちゃんはバッと羽ばたき……一気に相手の死角へ移動していました。

 

「なっまた!」

「またです! そして、ここからお返しです!」

 

 そこからは激しい機動の空中戦です。お互いに速く、ものすごい勢いで立ち位置が変わる為、外野からではどちらがどちらのエアームドか分からないと思います。ですが、私もハヤトさんも自身の相棒を見失うこともなく、指示を飛ばし続けます。

 速さ自体はほぼ互角です。ですが、明らかに私の相棒の方がキレの良い動きをし、確実に相手に攻撃を仕掛けることが出来ています。

 

「くっ、素早さは同じくらいのはずなのに、何故追い付けないのですか!」

「確かに、最高速度はほぼ同じくらいでしょう。ですが、私のムーちゃんはそちらのエアームドよりも、体重が10kgも軽いのです」

「それが何の……まさか!」

 

 そうです。同じ速度、同じ硬さであれば、より重い方が衝突の衝撃は大きいです。ですが重いということの弱点は、そのまま先程のムーちゃんが示していた通り足枷にもなるとうことです。

 重いと加速は遅く、また急に止まることも出来ないですし、急角度で曲がることも難しいです。そして、それを無理矢理やろうとしてしまうと身体に大きな負担ですし、スタミナの消費も激しくなりますので、長期戦が出来なくなってしまいます。

 そして、軽いということはその逆と言えます。速度の緩急(かんきゅう)が付けやすく、より鋭角に曲がることが出来ます。しかも、今のムーちゃんは重りを取り外したばかり。一時的なドーピング状態のように身体が本来の体重よりも軽く感じ、より素早く動ける感覚にあります。

 つまり、速度を維持したまま細かく動くムーちゃんの動きに、相手のエアームドが着いてこられなくなってきているということです。

 

「【ブレイブバード】で追い掛けろ!」

「こちらも【ブレイブバード】で逃げて下さい!」

 

 そして、熾烈(しれつ)な機動戦は更に激しさを増し、戦闘機のゲームのような複雑で(いびつ)ながらも美しい線を(えが)くように飛び回っています。

 

「くっ反転しろ!」

「させません! 今度は追い掛けて下さい!」

 

 体勢を立て直すつもりでしょう。しかし、このチャンスを逃す手はありません。

 

「ふっ【ブレイブバード】!」

 

 まさかの連続での【ブレイブバード】! しかもこの位置と距離では、確実に正面衝突コースです!

 そうなりますと、防御力も羽毛を脱ぎ去ったことにより本来の状態に戻ったことで、相手の【はがねのつばさ】で上がった防御力に勝てません。おまけに、何度も言うように重さは武器です。10kgの違いでも硬く、重い方が断然有利です。

 ですが、身軽になったことでこの技が使えるようになったんですよ?

 

「【フェイント】」

「なっどこに!」

 

 一瞬で目の前から姿を消したムーちゃんを探そうと、急停止しようとしたエアームド。ですが、それによって射程圏内となってしまいました。衝突の寸前に【フェイント】によって半バレルロールから相手の頭上へと移動した彼は、そのままの勢いで(ひね)り込んで真下に向けて加速します。

 

「【つじぎり】です」

「しまった!」

 

 狙いはエアームドの細い首。

 翼は【はがねのつばさ】によって散々硬くなっていますので論外。胴体と頭部は元々硬い鎧で(おお)われていますので、急所となりにくい。足は、攻撃が通ったとしても狙った効果は得られづらい。よって、首を狙いました。しかも【つじぎり】は素早く一閃をすることで、相手に(かわ)す暇も与えずに急所を狙うことが出来る技です。

 いきなり死角となる真上から首に向けての激しい攻撃に、ハヤトさんのエアームドはそのまま地面へと叩き付けられてしまいました。

 しかし、高い防御力のおかげでかろうじて体力は残っていたようで、何とか地面から起き上がろうとしますが、そこにムーちゃんが首筋に薄い鋭利(えいり)な刃物と化した羽を突き付けて、また【つじぎり】が放てる体勢になっていたことで、悔しそうに一声鳴き、地面に再び倒れ込みました。

 

「ハヤトのエアームド、戦闘不能。よってミカンの勝利や!」

「ふぅ、お疲れ様でした」

「あ、あぁ、お疲れ様でした……」

 

 負けたことによる悔しさもあるのでしょうが、切り札まで倒されてしまったことで自信をなくしてしまったのでしょうか、やや呆然としています。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「え? あ、あぁ、申し訳ないです。いやぁ、やはり世界は広いなと実感したんですよ。オレの父もエアームドを持っていて、その強さに追い付きたいとオレもエアームドをゲットして修行をしていましたが、いやはや、まだまだ遠いですね。まるで父と戦っているような感覚になりました」

「そうでしたか」

「というか、父より強いんじゃないですか? ミカンさんのエアームドは、明らかに飛行使いであるオレですら見たことのない機動をしていましたが、一体どんな修行をすればそこまで高みに行けるのですか?」

「ほんまそう思うわ。ミカンの実力は、多分この中で一番。もしかしたら四天王の席に座ることが出来るくらいの実力があるかもしれへんくらいやしな」

「そ、それはちょっと誇張(こちょう)し過ぎだと思います」

 

 突然割り込んできたアカネさんに、否定の言葉を(こぼ)すも、すぐに「そんなことあらへんで」と更に反論してきました。

 

「実際にうちがミカンに挑んでも、10回やって1回勝てるかどうかやと思うで? 同じジムリーダーやのに、実力差がここまであるってどうやねん?」

「どうと聞かれましても……」

「よっしゃ決めたわ。ミカン、今からご飯食べに行こうや。そこで目一杯愚痴(ぐち)ったる」

「えぇ……あ、でも、それって……」

勿論(もちろん)割り勘や。当然やで?」

「えぇー……」

 

 そんな私達二人のやり取りを、ハヤトさんはオロオロと見つめていましたが、マツバさんやツクシさんに「いつものことだから問題ない」「女子同士の話に割り込むと面倒だよ」などと言われてアッサリ引き下がってしまいました。ちなみに、女子仲間であるイブキさんは「良いもの見れたし、早く帰って修行し直さなきゃ」と言って、一番に帰ってしまいました。いつの間にかヤナギさんは姿を消し、シジマさんは「そろそろ帰らんと妻が心配する。あ、土産(みやげ)でも買っていくか」と言って協会本部を飛び出して行きました。

 他にも協会やリーグの職員さん達もさっさと帰り支度を始めたり、「これからまた会議だな」と言って観戦席から出て行ったりする姿が多く見られました。というか、いつこんなにも人が集まっていたのですか? 最初試合開始した時にはもっと少人数だったはずですが、皆さんお仕事はよろしかったのですか?

 そんな疑問はさておき、私もアカネさんに引きずられる形でフィールドを後にします。

 

「夕食にはまだ少し早いけど、混み出すと面倒やし、このまま行くで?」

「分かりました。割り勘ですね?」

「そうや」

「どうしてもですか?」

「そんな目で見てもあかんで?」

 

 こうして私とアカネさんは2人(そろ)って、日が沈み掛け、夕日によって黄金色(こがねいろ)に染め上げられた街へと繰り出すのでした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 vs イトマル

 ものすごく今更ですが、アカネちゃんの言葉遣いは適当です。関西弁難しいです。
 対するハヤトの言葉遣いは、あえて無理矢理丁寧口調にしていました。理由としては、初対面かつ先輩ジムリーダーに対する礼儀を示す為です。

 食事回です。
 食を扱う作品は多く、大食いがテーマのもいくつもありますが、私が個人的に好きなのは、電撃文庫発行の「イリヤの空、UFOの夏」に登場する無銭飲食列伝の回です。
 というか、久々に「イリヤの空」を検索した所、なんとカクヨムにて一部ですが無料で公開されているみたいです。興味がある方は是非読んでみて下さい。無銭飲食列伝はない模様です。

追記:ポケスペを読み返したらゴールドが乱入したラジオ配信は、夜ではなく朝もしくは昼のようでしたのでそれに合わせて一部加筆修正をしております。


 コガネシティのポケモン協会本部を出た私とアカネさんは、夕方の賑わう街を歩き、手頃な飲食店を物色しています。ただ、私はともかくアカネさんは全国的に有名なアイドルです。それに変装もしていないですし、すぐに多くの人に気付かれて声を掛けられます。そもそも変装した所で(かも)し出されるオーラによってすぐにバレてしまうでしょうが……

 声を掛ける人の多くが地元の人達で、アカネさんが有名人だからというよりも、その持ち前の明るく物怖(ものお)じしない性格のおかげで気軽に接することが出来るということで、非常に人気があります。観光客からも、偶々(たまたま)街で遭遇(そうぐう)した有名人に興奮して、写真撮影や握手(あくしゅ)を求めていました。

 勿論(もちろん)、ジムリーダーを務めていることからもその実力は折り紙付きで、芸能人に興味のないポケモントレーナーさんにも広く知られています。

 時々、何故か私も一緒に声を掛けられていますが、何故なのでしょうか?

 それからは、多くの人達にもみくちゃにされながらも何とか人混みをかき分けて、目に付いたラーメン屋さんに入ります。

 

「ふぅ、やれやれやで」

流石(さすが)人気アイドルですね。アカネさん可愛いですし人とのふれあいも大切にしていますから、多くの人が引き寄せられるんだと思います」

「そう言われると照れくさいなぁ。でも、そんな他人行儀な評価はいらんで? うちとミカンは友達や。やったら、もっと素直な言葉で言ってくれて構わへんのやで?」

「えー……でも、これが私の思ったことですし」

「素で言っているんやとしたら、益々(ますます)恥ずかしくなってまうなぁ」

 

 そう言って「なはは」と笑うアカネさん。このやり取りはいつものことですので、互いに定型文みたいな感じで疎通(そつう)しています。そして、この次に続く言葉も定番です。

 

「そういうミカンも可愛いんやで、だから何人もの人から声掛けられていたやん?」

「そ、そんな、可愛いと言われましても、その、よく分からないですし……」

 

 これも何度も交わされた言葉。ですが、私は未だに可愛いと言われることに慣れていないですし、そもそも元々のミカンちゃんの身体に精神だけ入り込んでいる私は、容姿を褒められても複雑な感情になってしまいます。この世界に生まれて早15年。色々と許容出来るくらいには精神も成長したつもりですが、こればかりは、何年経っても完全に受け入れることは難しいです。

 

「外見だけやないで? その中身も可愛いと思うで?」

「え、その、えぇと、ありがとうございます」

 

 これにはどう返したら良いか分からず困惑してしまいます。

 中身、精神は私自身ですので、それが褒められることは純粋に嬉しいです。ですが、私がミカンちゃんでなければこの関係に至ることもなかったことを考えると、やはり素直に言葉の全てを受け入れるというのは、まだ未熟な私では難しいみたいです。

 

「よっしゃ、注文しよしよ。すんませーん!」

「はいよ!」

「えぇと、この半ラーメン定食を1つ。醤油(しょうゆ)で。ミカンは?」

「へ? あ、あぁはい、注文ですね。えぇと……」

 

 呼ばれて我に返った私は、慌ててメニューを流し見ながら今の空腹具合を確認します。

 よし、このくらいですかね。

 

「えぇと、味噌(みそ)塩醤油の三連単。もやし増し増しチャーシュー別盛り、後は大チャーハンも付けて下さい」

「え? えぇと……」

「あ、えぇでえぇで、そのまま注文通して?」

「わ、分かりました。注文を繰り返します」

 

 そして注文の確認を終えた店員さんは、動揺(どうよう)を隠しきれないまま厨房まで去って行きました。

 

「で、その三連単ってなんや?」

「え? あ……」

 

 慌てての注文でしたので、つい慣れ親しんだ地元のアサギシティのアサギ食堂でのやり方でやってしまいました。

 説明するまでもない簡単なことですが、味噌ラーメン、塩ラーメン、醤油ラーメンの3つを単品で、それぞれにもやしを山盛りにしてもらいます。しかしそうしますとチャーシューの乗せる場所がなくなってしまいますので、あらかじめ別盛りにしてもらい、ラーメンを食べますとお米も食べたくなりますから、そこで3つのラーメンのおかずとして大チャーハンを頼んだということです。

 そう説明をすると、アカネさんは数秒の間、口が開きっぱなしでしたが、すぐに呆れたように溜め息を()きました。

 

「やっぱり割り勘でゴリ押ししといて良かったわ」

 

 彼女は、私の食べる量の指摘はしません。以前は何度もツッコミを入れられていましたが、流石に飽きたというか慣れたというか、とにかく私の食に対して何も言わなくなりました。

 

「はぁ、そんだけ食べて太らんって、あんさん一体どんなハードな運動しとるんや?」

「シジマさんよりは少ないと思いますよ? ただあの人は間食が多いので、奥さんからしょっちゅう怒られているみたいですが。私は、食事はしっかり食べますが、休日ならともかく仕事日にお菓子はほとんど食べませんので、まだカロリーの摂取と消費のバランスが取れているんだと思います」

「さっきも羊羹(ようかん)丸ごと1本食べてたしな」

 

 そうやって女子トークに花を咲かせていますと「お待たせしました」と言って、店員さんとその後ろにサポートのワンリキーがそれぞれ注文の品をお盆に載せて現れました。

 テーブルの上に並べられた商品を見て、同じくらいのサイズの女子にも関わらずこの量の違いに、並べた店員さん本人だけでなく周囲のお客さんもこちらのテーブルを見て驚愕(きょうがく)(あら)わにしていました。

 

「そんじゃあ、麺がのびる前に食べよか。頂きます」

「頂きます」

 

 それからも会話を挟みながら食べ進めます。私もそれなりに話しているつもりですが、やはりアカネさんの方が話す量が多いです。流石コガネ出身ということでしょうか。それ(ゆえ)か、互いの元々の量に大きく違いがあったはずなのに、食べ終わるのはほとんど同時となりました。

 

「アカネさん話してばかりですから、いつも食べるの遅いですよね」

「いやいや、ミカンの食べる速度が半端ないんやって。いつも言っとるやろ?」

「そうですか?」

 

 そうですか?

 言葉でも内心でも首を(かし)げます。

 私達は食べ終わってからもしばらく談笑していたが、お客さんが増え始めた所でお店側に迷惑が掛かるからと退席しました。

 日はすっかり暮れ、街灯と建物から漏れる光が通りを照らし、さながら昼間のように明るいです。そんな街中を2人で歩いていると、野外バトルフィールドが設置された公園が目に入ります。

 

「アカネさん、ポケモンバトルしているみたいですよ?」

「ん? あ、ほんまや、何? ちょっと見てくか?」

「はい!」

 

 他人(ひと)のバトルを見るのも勉強です。まぁ私自身ジムリーダーですから、並のトレーナーさんに負けないだけの実力があると自負していますが、未熟ながらも勝つ為の努力や工夫は、時折ハッとさせられるものがあります。そういうひらめき、発想を見つけられるかもしれない野良(のら)試合の観戦は、仕事と勉学によって時間のない私にとって、密かな楽しみであったりします。

 自分自身で全て決めて、全てこなすと決意したのですから後悔はありませんが、時々、こうして羽を伸ばしてのんびり他者の試合を眺めるのも良いものです。

 バトルフィールドの周りにはちらほらと観戦する人の姿がみられた為、私達は邪魔にならないように人の少ない場所まで移動してベンチに座ります。

 

「あ、あのイトマルの動き良いですね。【いとをはく】ですか。この時間帯、照明器具のおかげで十分過ぎる光量を得ていますが、それでもどうしても光の角度や当たり方でムラが出来ます。そこに見えづらいくらいに細い糸を飛ばしていますので、あのオタチも、そのトレーナーさんも気付いていないようですね」

「そうなん? まだ効果は出ていないようやけど?」

「すぐに分かりますよ」

 

 そう言って試合が進むのを見つめます。最初は気付かなかった糸も、何度も絡み付くことで次第に糸が巻き付いていることにオタチも、そのトレーナーさんも気付いた様子です。しかし、素早さを奪う程の糸ではなかったので、無視して攻撃に出ていますね。対するイトマルは、糸を吐きながら逃げ回って……罠を張っているようですね。トレーナーさんも良く見ています。

 最初は気付いても無視していた糸も、幾重(いくえ)にも巻き付かれたことで明らかに素早さが落ちていることでついに無視出来なくなってしまったようですね。

 その隙を突いてイトマルが技を繰り出します。

 

「あ、【どくばり】です」

「うん? 避けんかった? いや、避けられんかった?」

「そうですね」

「さっきの【いとをはく】か?」

「はい。糸自体が細いので(わずら)わしい程度にしか思っていなかったのでしょうが、そうやって絡みつく(たび)に振り払っていたら集中力も散漫になりますし、動きも(にぶ)くなってしまいます。そこを狙われましたね」

「はぁなるほどな。やっぱミカンと一緒に観戦すると、色々解説してくれるで楽やわぁ。ポケモンリーグとかで解説者の席に座ったらどうや?」

「そ、そんなこと、む、無理です! 恥ずかしいじゃないですか! 私はのんびり観客席で眺めていたいです」

「というよりも出る側やと思うんやけどな?」

「ジムリーダーなので無理ですよ?」

「分かっとるよ」

 

 ジムリーダーは、ポケモン協会公認の実力者です。そんな人がポケモンリーグに出場するというのはレギュレーション(規定)違反です。まぁゲームでは普通に1人のトレーナーとして戦っていましたが、少なくともこの世界では駄目です。ただ、エキシビションマッチとかデモンストレーションみたいな形であれば参戦出来るかもしれないですね。ポケスペでもイベントとしてジムリーダー同士のチーム戦が組まれた訳ですし(ただし、そのイベントもロケット団の黒幕を(あぶ)り出す為の偽装工作のようなものでしたが)。

 

「イトマルが勝ちましたね」

「毒が回って、糸も絡み付いて、時々【すいとる】をやって、オタチもどうしようもなかった感じやな」

「とことん相手が嫌だと思う戦法を採っていましたが、面白いものが見られました」

 

 結局、野良試合はイトマル側の勝利に終わり、トレーナーさんとハイタッチしていました。イトマルはすごく小さいので、トレーナーさんが地面にしゃがみ込んでのタッチですので、ハイタッチかどうかは分かりませんが。しかし、良い関係を築けていると思います。このまま成長をしてもらいたいと思います。

 

「さぁて、それじゃあ帰ろか?」

「そうですね」

 

 2人揃って腰を上げ、アカネさんはそのまま伸びをします。

 

「ミカンは今日どっかに泊まるんか?」

「いえ、その予定でしたが、ムーちゃんが軽くなりましたので、飛んで帰ろうと思います」

「あぁ、あの抜けた羽毛はどうすんやろな?」

「協会の職員さんには処分をお願いしてありますが、処分の仕方もお任せしておりますので、何らかの加工がなされて販売とかあるかもしれませんね」

「あーあるかもしれへんね。コガネっ子は商魂(しょうこん)たくましいでな。きっと、あのジョウト最強のジムリーダー、ミカンの手持ちのエアームドの羽毛ということでグッズ化するんやないの?」

「……え? えぇ、色々とツッコミたい所ですが……」

 

 少なくとも最強のジムリーダーという所は訂正したいです。弱いとは言いませんが、私よりも強い人は他にいると思います。ジムリーダー歴が長いヤナギさんや、カントー地方ではトキワジムに新しくグリーンさんがいます。まだ就任の時期ではないと思いますので、トキワシティのジムリーダーの席は現在も空いたままのはずですが、原作的にもポケスペ的にもジムリーダーになるでしょうから、最強はその2人だと思います。

 ポケモンリーグ準優勝者ですからね。それに、スオウ島での戦いでは、セキチクジムのジムリーダーでありロケット団の幹部であったキョウさんとのタッグとはいえ、四天王の1人と渡り合って勝利を収めましたので、その実力は疑うべきもありません。

 そんな考えを巡らせている間も、グッズ化の話は進みます。

 

「というかうちが主導でやろうかな。エアームドの羽は薄くて軽くて頑丈や。それが30kg分もあるんやったら、結構な儲けになるで?」

「そ、それは……」

「なはは、冗談や。まぁうちはやらんけど、協会が公式グッズ化とかするんやないんかな」

「結局グッズになっちゃうんですか?」

「あれだけ上質なエアームドの羽は貴重や。それがあれだけの量あるんやで、そんくらいはえぇと思うで? せっかく処分するんなら有効活用せんとな」

「はぁ、まぁ全部お任せしましたし、どう扱っても構いませんが……私の名前は外してもらえないですかね?」

「さぁ? それは協会側が決めることやしなぁ。それにグッズ化も、うちが勝手に言っているだけで正式にそうなるとは分からんしな」

「心配するだけ無駄ということですか」

「まぁそういうことや」

「はぁ……」

 

 ここは諦めて帰りましょう。今から再び協会へ行く気力もありませんし。

 

「それでは、私は帰りますね。お疲れ様でした」

 

 エアームドのムーちゃんをモンスターボールから出して、その上に乗ります。

 

「では、アサギ鉄鋼の件、考えておいて下さいね」

「分かっとるよー。明日は朝からクルミちゃんとラジオ生配信だから、聞いてや? それやで、早くても返事は明後日以降になると思うわ」

「分かりました。返事は直接アサギ鉄鋼の方へお願いしますね。私は明日明後日と灯台の仕事で連絡が取れないですが、ラジオは聞かせて頂きますね」

「了解やー。そんじゃあ気を付けてなー」

「はい、ありがとうございます」

 

 互いに言葉を交わしてから、私を乗せたムーちゃんが飛び立ちます。

 

「そういえば、明日クルミさんとラジオ番組って言っていましたね」

 

 アサギシティに向けて上空を飛んでいる最中、ふと思い出したことがあります。クルミさんとアカネさんのラジオで、ゴールドさんが乱入して番組が滅茶苦茶になってしまうんですよね。アルフの遺跡での事件からも時間が経っていますし、そろそろ来てもおかしくない頃ですものね。さて、どんな番組になるのか楽しみです。

 ということは、丁度今の時間辺りにコガネシティに(とど)まっていたら、生ゴールドさんが見ることが出来たかもしれませんね。ドーブルとの街中での追いかけっこ。

 残念ですが、明日は朝から仕事ですのでこの広いコガネの街を1人の少年を探す為にウロウロする時間はありません。本当に残念ですが……

 ちなみに、後日、ムーちゃんの抜けた羽毛で作られた、エアームドのクリアフィギュアが数量限定で販売されることが決まりました。しかも丁寧にもジムリーダーミカンのとも付けられていました。サンプルが家に届いた時にはアカネさんの予言が当たったと(ひざ)を付いてしまったのは、また別の話です。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 vs ヨルノズク

 全然話が進みません。
 ポケスペ本編は時間の進みが早いですが、ポケモンの力を借りているとはいえ子供の足での冒険ですからそれなりに時間が掛かると思い、このようなのんびり時空で物語を進行させています。
 まぁ、実際は本編ものんびりと時間が過ぎているのかもしれませんが……

 そういえば、ポケスペの主人公の1人であるゴールドの手持ちにトゲピーがいますが、トゲピーの親のトゲチック夫婦はミカンちゃんが育て屋夫婦に預けていた所でタマゴが生まれて、それをゴールドに渡したという経緯があります。
 しかし、本作ではそのような描写を入れるのを忘れていましたし、そもそもミカンちゃんには鋼タイプしか持たせる予定はありませんでしたので、ジムトレーナーのレミさんの手持ちということにしておきます。本編には関係ないのでどちらでも良い話です。
 また本作のミカンちゃんは、エンジュシティの震災に巻き込まれるのを回避する予定ですので、ゴールドがホウオウの像を見ることも、ニョロモからニョロゾ、そして通信交換してのニョロトノへの進化の機会を奪ってしまいます。
 そこを何とかカバーしようと現在構想中です。

追記:誤字報告ありがとうございます。


「ご来場ありがとうございます。こちらで受付を行っております。順番に、押さないようお並び下さい」

 

 現在、アサギジムが整備作業によってジムリーダー業が休みの私は、アサギの灯台での案内人のシフトを増やして業務に当たっています。

 

「当アサギの灯台の歴史は古く、海流の変化が激しく、また季節によっては霧が発生する40番41番水道に()いて、目印となるこの灯台は長いこと活躍してきました。科学技術が進み、ほぼ全ての船舶(せんぱく)にレーダーやGPSが搭載(とうさい)されている現代でも、この灯台は1つの道標(みちしるべ)として、日夜(あか)りを(とも)しております」

 

 アサギの灯台は歴史的にも価値があり、また内部は資料館の役割も持っていることから、平日でもそれなりの観光客がいらっしゃいます。私の役割は、一応肩書きとしては灯台守(とうだいもり)となっていますが、ただの案内人です。こうして勤務日には観光客の皆様を案内したり、灯台の歴史を語ったりしています。

 原作のゲームでは灯台の中はポケモントレーナーでいっぱいで、ポケモンバトルを繰り返して灯台を登る必要がありましたが、この決して広いとは言えない灯台の中で、しかもこの歴史的遺産の価値がある建造物の中でバトルをして、それで損傷したら大変です。それに、トレーナーさんやポケモンにも危険が及びますので、この世界では元々灯台の中でのポケモンバトルは禁止となっています。

 

「あ」

 

 ふと窓から外を見ると、丁度ヨルノズクが飛んでいく姿が見えました。今日はカーネルさんがいる日みたいです。原作ではジェントルマンの肩書きを持つポケモントレーナーで、このアサギの灯台でポケモンバトルを仕掛けてくる身なりの良い高齢の男性ですが、この世界では、不定期にこの灯台の近くにふらっと現れては手持ちのヨルノズクと(たわむ)れて、またふらっと去って行く謎の存在として知られています。それは私達地元の住人だけでなく、アサギシティの外でも話題になったことがあるとかで、中には、彼目当てで灯台を訪れる観光客もいるらしいです。幻のポケモン扱いですね。また一緒に写真を撮っては、SNSに投稿している観光客もいるそうです。本当に何者なのでしょうね。

 さて、お仕事お仕事。

 

「通路はこちらになります。途中、整備の関係で照明が暗くなっている場所がございます。お足元にご注意し、お進み下さい。もし何かございましたら、お近くの係員までお申し付け下さい」

 

 このアサギシティには、観光名所と呼ばれるものがあまりありません。元々は鉄鋼業、造船業、海運業によって(さか)えた街ですので、人を呼び込む為にグルメであったり、私の職場の1つであるここアサギの灯台であったりと何か注目出来るものをと努力しているみたいです。

 最近は、ジムに挑戦するポケモントレーナーさんやそれを見学する人達が、私がジムリーダーに就任したばかりの頃よりも増えていますので、飲食や宿泊、お土産(みやげ)の売り上げにも貢献(こうけん)出来ているはずです。

 それに、夜の工場は写真映えがするとかで、ツアーを組んだりと頑張っている様子です。

 また、現在アサギシティ郊外で建設が進められている複合施設、バトルフロンティアが完成すれば、ジョウト地方だけでなくカントー地方などの周囲の地方からも多くのトレーナーさんや、その集まる人達に向けて品を扱う商人さん達が多く来るでしょうから、より盛り上がること間違いなしですね。

 別にアサギシティの経済が破綻(はたん)寸前とかそういうではないですし、そもそも多くの工場がひしめき合っているこの土地は、多くの従業員さんとその家族がいらっしゃいますから、かなり発展している方だと思います。ただ、目玉となるランドマークがありませんでしたのでそれを作りたい。そしてどうせ作るなら人を呼び込んで経済回したいと、この街のお偉いさんが言っていたと思います。

 

「お疲れ様。ミカンちゃん、いつもありがとうね。こっちは私が代わるから休憩に入っちゃって」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 一息()いた所で同僚の方から交代を告げられましたので、更衣室へ向かいます。

 現在も灯台としての役割を果たすアサギの灯台ですが、数年前から資料館としてこの地域や海域の歴史を展示しており、整備員用の更衣室や準備室とは別に、受付や案内人を務める従業員用の更衣室や休憩所が増設されています。

 

「ふぅ」

 

 休憩所と言っても、狭い給湯室にテーブルが2つと椅子がいくつか並べられている程度の部屋ですので、飲食をするならともかくそれ以外の時間はこうして更衣室にいた方が気楽に過ごせます。

 確か、アカネさんの言っていたラジオの時間のはずです。私は早速ポケギアでラジオを起動し、周波数を合わせます。

 

『かかってこいや! お前が主人()なんだろ! 隣の女-!』

『何すんやこのアホ!』

『アホだと! オレはゴールドっつー名前があるんだよ!』

 

 あらら……真っ最中でしたか。これは運が良かったというべきでしょうか。アカネさんには災難でしたと言うしかないですが、私としては生の主人公の声が聞くことが出来てラッキーだったと思っています。

 それからしばらくラジオを聞いていましたが、喧嘩(けんか)応酬(おうしゅう)は留まることを知らず、時折、スタッフの方でしょうか? 何人かの男性の声が乱入し、ゴールドさんを連れ出そうとしているようでしたが抵抗を続け、結局残りの放送時間いっぱい使って謎の少年ゴールドさんとコガネ出身アイドルのアカネさんの喧嘩は電波に乗って各地へお届けされてしまいました。

 

「あらら……」

 

 ウツギ博士も、彼は電話が繋がらなくても行動が筒抜けで分かりやすいみたいなニュアンスのことをポケスペで(おっしゃ)っていましたが、きっと今もそう言って呆れているのでしょうね。そう思うとつい笑いが零れてしまい、慌てて他に人がいないか周囲を確認しました。

 ですが、エンジュの震災まで残りそう時間がないことがこれで分かりました。あれはあくまでロケット団による人災であることが分かっている以上、事前に止めることが出来るはずなのですが、私程度の情報網では彼等の動きを察知することが出来ず、また職務があってアサギを中々離れられないという事情から、震災を止められないかもしれないと焦りがあります。

 

「明後日からジム営業再開ですが、しばらく休業にして動き始めた方が良いかもしれませんね」

 

 そう決意をし、休憩時間の終わりと共に更衣室を出ます。それからは勤務時間いっぱい業務に従事し、退勤時間となりましたのでそのままの足で近くの野外バトルフィールドへ向かいます。

 理由は、現在ジムが整備点検で使用出来ませんので、手持ちのポケモン達へのご飯を食べさせる場所を確保する必要があったからです。家からですと海岸に向かうのが良いですが、灯台からだとバトルフィールドが近いので、帰り道に寄ることが出来ます。

 

「あれ?」

 

 それで公園に併設(へいせつ)されたフィールドへ到着すると、先約がいたようで、カーネルさんが手持ちのヨルノズクにご飯を与えていました。

 

「こんにちは」

「おや、こんにちは。今お帰りかな?」

「はい。カーネルさんもお元気そうで。”今日の”その子はどんな感じですか?」

 

 私の視線の先にはカーネルさんの手に乗るご飯を(ついば)むヨルノズクの姿。今日のと聞いたのは、彼のヨルノズクは会う(たび)に技構成が違うからです。ですので手合わせする時に毎回驚かされます。

 

「ふむ。そうだね。では、軽く手合わせしながら見てはどうかな?」

「分かりました」

 

 そして、いつもの流れで手合わせをします。互いに本気ではありません。私もジムリーダーの時のような相手を試す動きではなく、軽くスパーリングをするような感覚ですので気楽です。

 

「では、YORU(ヨルノズク)行ってきなさい」

ムーちゃん(エアームド)、お願いします」

「ほぅ、随分(ずいぶん)と見た目スッキリしているね」

「はい、スピードでは負けませんよ?」

「ふむ、では、お手柔らかにお願いするよ? 【ふるいたてる】」

「【かげぶんしん】です」

 

 先日のハヤトさんとの試合に於いて、【ボディパージ】を使用してしまったことでパージする部分がなくなってしまいましたので、その代わりとして【かげぶんしん】を覚えさせました。ただ、まだ訓練は不十分ですので、出せる分身の数も2体まで。完成度問わないのであれば4体まで出せますが、そのような出来の悪い技を出す訳にはいかないので分身は2体に留めます。とはいえ、今のムーちゃんは高い機動力を持っていますので、それを駆使して相手のヨルノズクに接近戦を仕掛けることが出来ます。

 

「流石の速さだ。【シンクロノイズ】」

「残念、ハズレです」

「うむ、確実に(とら)えたと思ったが、幻影だったか」

 

 しかし危なかったです。【ふるいたてる】で火力を上げつつ、飛行タイプを持つムーちゃんに対して、同じタイプにのみダメージが通る高火力な技【シンクロノイズ】ですか。使い道が難しい技ですが、それをあえて仕掛けてくるのがカーネルさんです。

 彼(いわ)く「そのポケモンがその技を覚えるのには必ず理由がある。覚える以上は何かしら使える場面があるというものだ」とのことです。

 私も構想だけですが特殊型のルーちゃん(ハガネール)を考えたことがあります。【げんしのちから】で火力の底上げを狙いつつ、タイプ一致の【だいちのちから】【ラスターカノン】。残りに【りゅうのはどう】もしくは【あくのはどう】を入れるというものです。生憎(あいにく)と、自身で威力の底上げが(はか)ることの出来る変化技に(とぼ)しいので、どうしてもフルアタッカーになってしまいますし、立ち回りが難しいので不採用としたのでした。

 

「では【みやぶる】」

「【フェイント】です」

 

 【みやぶる】は、【かげぶんしん】などで回避率を上げてもそれを無効にしてしまうものです。ならば、見破られても追い付けない攻撃をすれば良いのです。目にも留まらない速さで側面から突撃を受けたヨルノズクはよろけてしまい、若干高度を下げました。

 

「うーむ、そう来たか。となると、詰みかな。ははは、今回も負けてしまったな」

「ちなみに最後の技は何だったのでしょうか?」

「【オウムがえし】だよ」

「それでしたら、まだ突破の見込みがあったと思いますよ」

「ほぅ」

「ムーちゃんが最初に【かげぶんしん】した時に使えばこちらから、そちらを見破る(すべ)はありませんので数に翻弄(ほんろう)されている間に、見せかけでも良いので多方向からの【シンクロノイズ】でしたら対処が追い付かなかったかもしれないです」

「なるほどな。いやいや、この歳になってもまだまだ学ぶことが多いな。あなたの造詣(ぞうけい)の深さには毎度驚かされる」

「いえ、私もまだまだ勉強の身です。そもそも一生掛かってもポケモンのこと全てを知ることが出来るとは思っていませんので、人生全てを賭けても私の知りたいことを知れるように頑張ります」

「ははは、頑張りたまえ。夢に向かう若者を見るのはとても楽しいものだ」

 

 別れの挨拶を告げ、カーネルさんはフィールドを去って行きました。私はポケモン達のご飯がありますので、皆を呼び出してご飯の時間です。

 全てを終えた私は家に帰ります。その頃にはすっかり日が沈み、月が出ていました。

 食事と入浴を終え、髪を乾かしながら明日以降の予定を確認します。

 

「明日は通常通りアサギの灯台での業務。明後日は早朝にジムの点検を行った後に通常営業再開ですが……やはり、一週間程休みを頂いてエンジュシティへ向かうべきでしょうね」

 

 そうなりますと、アサギ鉄鋼、アサギの灯台それぞれに休暇申請。ポケモン協会にジムの臨時休業届けを送る必要がありますね。

 

「確か書類は……あ、ありました」

 

 申請書類を積み上げられた紙の(たば)から引っ張り出して、必要事項を記入していきます。

 

「よし、書けました」

 

 3つの書類を用意。1枚は明日朝にお父さんに渡し、1枚は明日灯台へ出勤の際に直接上司へ渡します。ポケモン協会への申請書は、ピジョン郵便で郵送してもらいましょう。

 必要書類を書いた後は、就寝時間まで勉強です。単位は十分取得出来ていますが、高校卒業だけが目標ではなく、私はあくまでタマムシ大学へ進学することが夢ですので、まだまだ頑張らなければと思います。

 

「それではおやすみなさい」

 

 そして、本日の勉強を終えた私はベッドへ潜り込むのでした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 vs イノムー

 長いです。
 ガッツリ戦闘描写を入れようと思いましたが、長くなりすぎましたのでほぼカットです。
 とにかくハガネールを出したかった回です。
 無双というか集団(いじ)められが発生します。
 登場人物が多くて誰がどの台詞を言っているのか混乱してしまいます。極力頑張りましたが……分からなくても、受け止めて下さい。それがミカンちゃんの愛です。
 そして何故かギャグ展開?

追記:誤字報告ありがとうございます。


 あれから数日後。私とレミさんの2人は、現在アサギシティからエンジュシティへと繋がる38番道路を歩いていました。

 何故か。その理由は、レミさんの元へ育て屋のご夫婦からタマゴが(かえ)ったという連絡が入ったのだ。そこで、その様子を見に行くべく高校を休んでコガネシティへ向かうことに。私も偶々(・・)仕事を全て休んでエンジュシティへ行く予定がありましたので、同行することにしたのです。

 私にはムーちゃん(エアームド)、レミさんも2匹のトゲチックが手持ちにいますので空を飛べばすぐに着くのですが、(たま)には一緒に旅しましょうという彼女の提案で徒歩での移動となりました。

 

「このモーモーミルク美味しいですね」

「そうですね。何か疲れた身体でも元気を取り戻せる感じです」

「はい! このまま休まずエンジュシティまで行けそうです!」

 

 私達は、道中立ち寄ったモーモー牧場にてモーモーミルクを購入し、こうして旅の途中で飲みながら歩いています。ちなみに、牧場では新鮮なモーモーミルクを使ったソフトクリームも売っていましたので、2人して真っ先にそちらに飛び付いていました。女子ですもの仕方ないことです。

 しかし、そうやって寄り道をしたのが良かったのでしょうか。遠くにスズの塔が見えてきた所で、異変は起きました。

 

「え? 何?」

「地震です! 姿勢を低く!」

 

 エンジュシティから割と近いとはいえ、それでもこの威力。流石(さすが)、街を壊滅(かいめつ)に追い込んだだけのことはあります。何も知らなければ、これがただの直下型地震という自然災害として(とら)えていたのでしょうが、明らかな人災、しかもかなり悪意のある事件であることを知っている以上、ジムリーダーとして、そしてポケモンも人も愛する1人の人間として許せることではありません。

 知っていて防ぐことが出来なかった悔しさはありますが、今は後悔よりも目の前で起こった出来事に巻き込まれた人の救助と支援です。

 

「急ぎましょう」

「はい!」

 

 飲みかけのモーモーミルクを、一気に(のど)へ流し込んでから走り出しました。

 

 

「ひ、ひどい……」

 

 瓦礫(がれき)の山となった惨状(さんじょう)を見つめ、レミさんが(つぶや)きます。私も首肯(しゅこう)し、しかしいつまでもそうしている訳にもいきませんので、すぐにレミさんに指示を飛ばします。

 

「レミさんは救護所へ。そこで怪我人の誘導や物資の運搬(うんぱん)を手伝って下さい」

「はい」

「私は、逃げ遅れた人がいないか探しに行きます。ジムリーダーとして救護所、避難所に顔を出すべきでしょうが、今は悠長にしている時間はありません。今も助けを求めている人がいるはずです」

「分かっています。どうかお気を付けて」

「レミさんもです。余震があるかもしれませんし、先程のが本震とも限りません。十分注意して落ち着いて行動して下さい」

「はい! 皆も手伝って!」

 

 そう言ってレミさんは手持ちのポケモンを出しました。

 2匹のトゲチック、マリル、コイル、クヌギダマの5匹。

 【ちからもち】のマリルには瓦礫の撤去(てっきょ)などを手伝ってもらいたい所ですが、レミさんを遭難者の捜索(そうさく)に回す訳にはいきません。何より、ロケット団と遭遇してしまう可能性が高いので、もし本人が希望したとしても全力で阻止(そし)するつもりでいました。

 私はレミさんと離れて1人、美しい街並みが崩壊したエンジュシティへと足を踏み入れます。

 

「逃げ遅れた人はいませんか-!」

 

 それからしばらく、声を掛けながらゴツゴツとした足場を進みますが、人の気配がありません。この辺りは全員避難が出来ているということでしょうか。ポケスペでも、怪我人こそいましたが、(さいわ)いなことに死者が出た様子はありませんでした。しかし、それはあくまで漫画での話ですので楽観してはいけません。

 子供が読む物語に、わざわざ死人が出たことを記述する必要はありません。もしかしたら舞台の裏で何人も巻き込まれている可能性があることを覚悟して、慎重(しんちょう)かつ迅速(じんそく)に行動しなければなりません。

 その時に、見つけてしまいました。

 赤毛のロングに黒い服を着た少年と、その少年と対峙する帽子にゴーグルを付けているツンツン頭の少年。間違いありません。シルバーさんとゴールドさんです。

 場面が場面でなければ生の主人公2人を見ることが出来たことに歓喜していた所ですが、今はそのような場合ではありません。(ゆる)み掛けた(ほお)を引き締め直し、話し掛けます。

 

「そこのお二方! 大丈夫ですか! お怪我はありませんか!」

「うぉ! 何だ可愛い姉ちゃんじゃねぇか。おぅオレは今来たばかりだから無事だぜ」

「ふん、大きなお世話だ」

「あ、あの、ここは危険ですので、子供は早く避難して下さい」

「ん? あぁ、あんたこの子を知らねぇか?」

 

 ツンツン頭の少年が、(ふところ)から1枚の写真を取り出して見せてきました。

 

「育て屋のじいさんから頼まれてたんだけど、この子がこの地震に巻き込まれたんじゃねぇかって心配しててよぉ」

「えぇと、あぁ、レミさんですね」

「知ってんのか!」

「はい、彼女と一緒にここに来たんです。彼女なら今救護所の手伝いをしているはずです。私は別行動で要救助者の捜索に動いていました」

「はぁ、そりゃ良かった。ならオレもそっちに行くか」

「はい、案内しますよ? そちらの彼は?」

「ん? あぁ、おいシルバー、おめぇはどうする?」

「オレに構うな。オレはオレの目的がある。邪魔をするな」

「んだとてめぇ……っ!」

「余震かっ」

 

 この揺れに乗じて、私は1つのモンスターボールを瓦礫の隙間に放り込みます。指示はあらかじめしてあります。大きな子ですので地中の移動で多少揺れるでしょうが、元凶を(あぶ)り出してくれるはずです。

 その時、1人の男性の声がしました。

 

「おいおい、住人全員避難したと聞いていたが、これはどうだ? ガキが3人残っていたぞ? お前ら仕事が雑なんだよ」

「あなた達は誰ですか?」

 

 声のした方を見ると、いつの間にか数十人の黒ずくめの大人達が周りを囲っていました。その内の中央に立つ、2人の男女だけは格好が違います。

 

「お前ら、ロケット団!」

「ほぅ、オレ達を知っているのか」

「知っているも何も、アルフでもヒワダでも悪さをしやがっただろ!」

「……ということは、報告にあったガキはお前か。なるほど。まぁ我らを見られたからには……」

「フフフ、そうね、タダで帰す訳にはいかないわね」

 

 幹部と思われる男女とゴールドさんが言葉を()わしていますが、私は1つ確かめることがあるので前に出ます。

 

「あん? てめぇは、報告になかったな?」

「1つ、(うかが)います。この震災、これは自然災害なのではなく、あなた達が引き起こしたことですか?」

「「!」」

 

 私の質問を聞いて、後ろのゴールドさん達が驚いたように息を()むのが聞こえます。

 

「……それを知ってどうする?」

「否定しないのですか?」

「うぐっ」

 

 口が軽い人ですね。明言は避けていましたが、その答えと態度は認めたも同然です。

 

「お、おい、姉ちゃん、そりゃいったいどういうことだ!」

 

 ゴールドさんがこちらに向かって叫びますが、私はそれを無視して続けます。

 

「どうもしません。いえ、これは正確ではないですね。それが正しいか否かはどちらでも構いません。悪党を見つけたら捕まえる。ただそれだけのことです。ですが、これをやったのがあなた方であるのであれば、私は絶対にあなた達を許しません!」

 

 この(いきどお)りは、多くの人やポケモンを巻き込んだ事件を起こしたロケット団に対するものであると同時に、知っていて止めることが出来なかった私自身への怒りでもあります。私は相手を許さないと同時に、自分も許しません。

 相手のロケット団の幹部は、私の怒りに(ひる)んだ様子もなくスッと右腕を上げました。

 

「はん! だったら何だ! 総員戦闘態勢! かかれ!」

 

 それを合図に、一斉にロケット団のポケモンが襲い掛かってきます。

 そして、私達も同時にモンスターボールを手に、それぞれ相棒を呼び出します。

 

「くそ、バクたろう(マグマラシ)!」

「っち、アリゲイツ!」

「2人とも気を付けて下さいね。クラウン(エンペルト)

 

 それからは乱戦です。

 ゴールドさんのマグマラシが【ひのこ】を()いて牽制(けんせい)している間に、シルバーさんのアリゲイツが【ひっかく】や【みずでっぽう】で弱らせていきます。行き当たりばったりな連携ですが、それでも何度も顔を合わせていがみ合っている中で築かれた(いびつ)な信頼関係が、ギリギリの所で上手い具合に()み合っています。

 そのギリギリを確実なものとする為に、私のクラウン(エンペルト)が【アクアジェット】で周囲を駆け回り、相手の動きを(にぶ)らせます。

 ただ、相手の数がとても多いので、こちらから仕掛けようとすると穴が出来てしまうので、攻めるに攻めることが出来ない状況です。

 それを見てか、更に戦力を投入してきました。相手に地面タイプや炎タイプが多いように見えるのは、恐らくこの震災(人災)を確実に成功に導く為の補助要員ということでしょう。しかし、その2つのタイプはこちらにとって好都合です。

 

「数が増えやがった。行け! ニョたろう(ニョロモ)!」

「仕方ねぇ! シードラ!」

 

 水ポケモンの更なる追加で巻き返せるかと思いましたが、シルバーさんのシードラはともかく、ゴールドさんのニョロモは練度が足りない為か、少しずつ防衛ラインに(ほころ)びが出て来ます。これは時間の問題ですね。

 あの時、私がもっと早くエンジュシティに来ていれば。そして巻き込まれていたら、彼等はもっと強いポケモンを手にしていたはずなのに……そう後悔しそうになった瞬間でした。

 

「お、ニョたろう(ニョロモ)!」

 

 ハッとしてそちらへ目を向けると、何とこのタイミングでニョロモがニョロゾに進化していました。流石主人公補正です。そしてそうなれば……

 

「おいゴールド! 今すぐそいつをボールに戻せ!」

「はぁ! 何でだよ! こっちは今すぐでも突破されそうだよ!」

「大丈夫です。私がカバーします。お願いします。ラーちゃん(ココドラ)

 

 シルバーさんの考えを読み取った私はラーちゃん(ココドラ)を出して【いばる】や【ちょうはつ】をして攻撃を引き付けます。

 

「急げ! 通信するんだ!」

「それでどうなるってんだ! それにお前と通信なんざ嫌だぞ!」

「んなこと言っている場合か! やるんだよ!」

「くそ!」

 

 そして、互いにボールが図鑑を通して移動しボールが飛び出したその瞬間、ボールから出て来たポケモンはすっかり変わっていました。

 

「な、なんだこりゃ!」

「通信交換ですね。本来ならポケモンセンターの設備で行うべきことを、ポケモン図鑑を持つトレーナー同士なら場所を問わずに行うことが出来ます。そして、それによって進化するポケモンがいます」

「! じゃあ、今あいつの所にいるのはニョたろう(ニョロゾ)の進化形ってことか! でもニョロボンじゃねぇぞ!」

「そいつの進化は2種類ある。王者の(しるし)を持たせていただろ。それでニョロトノに進化したんだ」

「んで、こっちにはお前のシードラ……じゃねぇな。何だ?」

「キングドラですね」

「再度通信して戻す時間はない。今ある戦力でこいつらを叩くぞ!」

「てめぇに指図(さしず)されるまでもねぇ!」

 

 そんな2人の様子に戦闘中だというのに溜め息が出てしまいます。

 

「仲が良いのか悪いのか分かりませんね」

「「良かった時なんてない!」」

「息もピッタリですね」

「「んぐ!」」

 

 2匹が進化したことでこちら側の総合火力が上回り、ジワリジワリとラインを押し上げることが出来ています。

 それに(しび)れを切らしたのか、幹部達が何やら騒いでいます。

 

「くそっ、何で突破出来ねぇ!」

「あのガキ2人の実力は大したことない。問題は、あの女だ」

「あいつか……確かに、妙に良い動きでガキ共の(すき)をカバーしやがっている」

「となると、あいつを出すしかないんじゃないか?」

「あぁ、オレもそう思っていた所だ」

 

 男性幹部が、今度は左腕を(かか)げます。

 その時、再び強い揺れが発生します。

 

「くそ、また地震が!」

「原因のお出ましってことか!」

 

 ですが、揺れ方が想定していたものではないのでしょう。動揺はロケット団側にも広がっている様子です。

 

「お、おい、この揺れは何だ?」

「一体何が……」

 

 女性幹部が言葉を続けようとしたその時、それは勢い良く地面から飛び出しました。

 

「よくやりました。ルーちゃん(ハガネール)!」

 

 あの時、瓦礫の隙間に放り込んだボールの中身の正体です。そして、ルーちゃん(ハガネール)が姿を(あらわ)したことで、周囲の人は全員驚きで表情が固まっていました。

 

「で、でっけええぇぇぇええええ!」

 

 真っ先に言葉を発したのはゴールドさんでした。

 

「な、何だあのサイズは! 本当にハガネールなのか!」

 

 ロケット団の戦闘員も、そして幹部も口が開きっぱなしです。

 驚くのも仕方ないです。私のルーちゃん(ハガネール)は、通常のハガネールの平均よりもとても大きいです。身体付きは一回り以上。そして体長。平均が9.2mなのに対して、目の前にいる個体は12.5m。単純に巨大化しただけでなく、身体を構成する鋼の球体の数も2つ増えており、また突起物(とっきぶつ)も1本増えています。

 そして身体が大きくなったことで、当然ですが体重も増えています。平均は400.0kgなのですが、私のルーちゃん(ハガネール)は660.0kgもあります。最早怪獣です。まぁタマゴグループは怪獣ではなく鉱物ですが。

 通常よりも明らかに大きく育った理由は簡単です。感染率が非常に低くまたポケモンにのみ感染し、しかし感染したからと不調となることもなく普通に過ごしていたら気付かない為に認知件数が明らかに少ないもの。成長促進(そくしん)特殊ウィルス、通称ポケルスです。

 原作(ゲーム)では努力値の上昇に用いられるシステムですが、こちらの世界では異常に成長するという特徴があります。しかし急激に成長をする為、そのパワーの上昇速度にポケモン本体が付いていけず、パワーを持て余してしまって制御出来なくなり、結果トレーナーから捨てられるという場合があります。

 私が感染に気付いたのは偶然です。普段ない所に突起物が1本、ほんの数ミリですが飛び出ていたのでもしかしたらと受診したら発覚したのです。常にポケモンの様子に気を配ることで、ちょっとした違いに気付いたということです。感染源は不明です。また他のメンバーの子達にも感染はしていないようです。

 そのルーちゃん(ハガネール)が、地面から飛び出してくる際に、地震の元凶であるポケモンを口に(くわ)えていました。

 

「あ、あれは!」

「イノムーですね」

「なるほど、確かに氷タイプと地面タイプを持つあいつなら出来るだろう。だが、それだけじゃない。通常のイノムーの大きさは平均が1.1m。大きくても精々が1.5mといった辺りだ。だが、あれは見た感じ3mくらいはありそうだ。それだけの大きさならあの大規模な地震も説明が付く」

「まぁそうなんだけどさ。それよりも明らかにデカイのがいるせいで、どうにもすごさが伝わらねぇと思うんだ」

「えぇと、すみません?」

 

 とりあえず謝っておきます。

 

「くそ! 何だアレは! これ以上は無理だ!」

「あぁ撤退(てったい)しよう!」

 

 切り札が封じられたことで戦意を損失した彼等はすぐさま退()くことを決め、この場から逃げようとします。

 

「言ったはずですよ? 許しませんと。そして悪党は捕まえると。レーちゃん(レアコイル)ムーちゃん(エアームド)クーちゃん(クチート)。お願いします」

「なっ!」

「うわっ!」

「こっちもだ!」

「逃げられません!」

「何なんだお前は! ただのトレーナーのガキじゃねぇのか!」

 

 逃げ道が防がれたことで動揺が広がり、恐慌(きょうこう)状態となっています。

 

「名乗り遅れました。私、アサギシティでジムリーダーをしています。ミカンと言います。よろしくお願いしますね」

 

 自己紹介をしたことで、今度は驚愕(きょうがく)が広がります。忙しい方達ですね。

 

「ジムリーダーだと!」

「聞いたことがあるぞ! アサギのジムリーダーって言ったら、ジョウト地方最強クラスで四天王クラスとも言われているって」

「そんな奴が何でここ(エンジュ)に!」

 

 何でと言われましても、詳細を語る必要はないですし……そうですね。こういうことにしましょう。

 

「えぇと……偶々(たまたま)です♪」

「「「「んな訳あるかー!」」」」

 

 その声は、ロケット団の人達だけでなく、何故か後ろの少年2人からも飛び出していました。

 ()せません。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 vs ゴースト

 ポケスペ本編のミカンちゃんはマツバのことを呼び捨てにしていますが、本作では大体の人物には地の文でも「さん」付けにしております。
 また少し長くなりました。戦闘描写と説明を入れると必然長くなっちゃいますね。

 まさか日間ランキング入りしているとは思わず、三度見くらいしてしまいました。
 私自身、二桁話数も続けるとは思っていませんでしたので、皆さんの評価やコメントなどのおかげです。
 私はいつでも打ち切りの準備は出来ていますので、無事に完結まで向かうかどうかは皆さん次第です(丸投げ)。

追記:誤字報告ありがとうございます。まさか初っぱなからミスっているとは……
追記2:日間8位ですと!?(唐突な死)


 ロケット団の団員とその幹部を拘束した私は、レーちゃん(レアコイル)ルーちゃん(ハガネール)を警戒に残し、その他のポケモンをボールに収めます。

 

「すげぇ、1人で全員捕まえちまった……」

「……これがジムリーダーの実力か」

「ありがとうございます」

 

 取り逃がしがないことを確認し、私は首から()げたポケギアでとある人達に連絡を入れます。あ、繋がりました。

 

「もしもし? ミカンです」

≪ミカンさん? は、はい。ハヤトです。突然どうしましたか?≫

≪あれ? グループ通話なん? 珍しいなってもう1人はハヤトかいな。どうしたんミカン?≫

「お忙しい所すみません。本当はマツバさんにも連絡を入れたかったのですが、不通でしたので緊急でお2人のみに連絡を入れています」

≪緊急やと≫

≪何がありました?≫

 

 私は息を吸い、ゆっくりと吐きます。

 

「エンジュシティでロケット団と遭遇しました」

≪なっ≫

≪は?≫

「マツバさんが不在の時を狙われました。偶々私が現場に居合わせましたので対処しました。現在はこの場にいた関係者全員を拘束中です。ですが人数が51人と多いので、アカネさんには現場の収拾の援助を。ハヤトさんにはロケット団の団員の逮捕、連行をお願いしたいです」

≪エンジュシティっちゅうと、震災の現場やな? ミカンは大丈夫なんか?≫

「私は大丈夫です。そして、詳細は(はぶ)きますが、震災ではなく人災です。ですので、その容疑者として彼等を確保したということです」

≪分かった。マネージャーには言ってすぐ向かうわ≫

≪こちらも了解です。管轄(かんかつ)は違いますが、ジムリーダー権限を使って他の警察署に応援要請(ようせい)をしつつ、オレもそちらに向かいます≫

「はい。よろしくお願いします」

 

 ピッとポケギアを切って、周囲を見渡す。(ひら)のロケット団の団員達は諦めたような、絶望したような顔をしていますが、幹部の2人はまだギラギラとした目をこちらに送っています。往生際(おうじょうぎわ)が悪いですね。

 

「あ、あんた本当にすげぇな……」

「ありがとうございます。あ、えぇと……」

 

 そういえば、私はまだ直接彼等から名前を聞いていませんでした。まぁお2人の会話を聞いていましたので問題ないと思いますが、ここは礼儀です。

 

「あ、忘れていたぜ。オレの名前はゴールド。コイツはシルバー。助けてくれてありがとな。えぇ、ミカンさんで良いのか? いや、ですか?」

「ふふ、無理して敬語にしなくても良いですよ? ゴールドさんですね。よろしくお願いします。そちらのシルバーさんも、よろしくお願いしますね」

「ふん」

「あ、てめぇシルバー。そういやニョたろう(ニョロトノ)返せよ。そいつはオレの家族だ」

「それを言うならキングドラもオレの手持ちだ」

 

 2人の少年が再びポケモンをトレードしていた所に、どこからか冷気が(ただよ)ってきました。

 

『指定時間になっても連絡がないと思えば、こんな所で油を売っていたのか』

「そ、その声は!」

「まさか!」

 

 真っ先に反応を示したのは、ロケット団の幹部の2人。ということは、まさか来ちゃったのですか? こちらに?

 周囲が霧で(つつ)まれたと思ったら、その中からスッと1人の人間と思われる影が出て来ました。線のような目と口だけが(えが)かれたシンプルな仮面。体格と性別を隠す為でしょうか、ウィッグだと思われる大量の髪の毛に黒い大きなマントで、その正体は分かりません。

 声もボイスチェンジャーを通しているのか、機械的なものに変換されており、こちらも性別の判断に用いることは出来そうにありません。

 

『目的は達成したようだが、その後に邪魔が入ったということか』

 

 周りの様子を眺めながらも、こちらの、というか私を警戒した感じの視線を感じます。

 

「あなたが親玉ですか?」

『アサギのジムリーダーか。なるほど、道理で計画が進まない訳だ。それにシルバー、やはりお前か。アリゲイツを連れた私を付け狙うガキがいることは知っていたが。それに、いつかのガキもいるな。たった3人にこの大人数で、しかもシャム、カーツ、お前達がいながらやられたということに怒りはあるが、そこのジムリーダーが関わっているとなると、多少は仕方がないと思うべきか』

「ゴチャゴチャとうっせーぞてめぇ!」

「ゴールドさん、抑えて下さい。ここは私が。ジムリーダーとして街は違えど市民を守るのは当然。それに、目の前に組織のトップがいるのでしたら話が早いです。あの人を捕まえます。ゴールドさんとシルバーさんにはお願いがあります。私が戦っている間、ロケット団が逃げ出さないように見張っていて下さい」

 

 すぐに熱くなりすぎる性格のゴールドさんに注意しつつ、相手の様子を(うかが)います。ちなみに、シャムさんがロケット団の女性幹部。カーツさんが男性幹部のようですね。しかし、悪の組織の女性幹部。縮めて……いえ、何でもありません。それに、ナツメさんの方が綺麗だと思います。

 

「お、おぅ。分かったぜ」

「……」

「シルバーさん?」

「……ちっ、分かった」

「ありがとうございます」

 

 お礼を言って私は1人、仮面の人と対峙(たいじ)します。

 位置的には、私達3人の背後にロケット団がまとめて()らえられていて、仮面の人は私達を挟んで反対側にいます。つまり、私が突破されてしまえば、彼等を解放されてしまうということになりますので、何としてでも死守しなければなりません。

 

『ふむ、1人か。いや、この場合1人の方が都合良いか、ジムリーダー?』

「出会ったばかりのトレーナーさんと連携が取れる程、私は完璧ではありませんから」

『ククク、よく言う。行け、デルビル、アリアドス、デリバード、ゴースト』

 

 タイプに(かたよ)りがないですね。得意なタイプを読ませない為でしょうか。これに関してはポケスペにも出ていましたので、不思議ではないですね。違いと言えば、ゴースがゴーストになっているということくらいでしょうか。

 

「お願いします。レーちゃん(レアコイル)ルーちゃん(ハガネール)

『見たことのない大きさだな。だが、大きければ良いというものでもない。的が大きくなり、身体が重くなったことで動きも(にぶ)くなる』

「それは、どうですかね? やってみなければ分かりませんよ?」

『フフフ、それもそうだな』

 

 そして、その会話が途切れたと同時、合図らしい合図もなく戦いは唐突に始まりました。

 

レーちゃん(レアコイル)

『ゴースト』

 

 レーちゃん(レアコイル)が3つに分離。言わば3匹のコイルとなって相手に向かいます。そしてそれを迎撃しようとゴーストが前に出て来ます。ゴーストも両手が離れているので、それぞれコイルの向かう先を封じようと動いています。

 

レーちゃん(レアコイル)

 

 再び名前を呼ぶと、今度はネジや磁石が分離し、周囲を(ただよ)います。

 

『むっ』

「「なっ」」

 

 私のレーちゃん(レアコイル)は、パーツの1つ1つに分離し(あやつ)ることが出来ます。長年一緒にいて、ずっと修行を積んできたからこその秘策です。コイルとしての分離とは違いますので、精々(せいぜい)が本体を中心に1mくらいの範囲くらいでしか離せませんが、これで手数は増やせます。

 

『アリアドス!』

「糸に気を付けて下さい」

 

 非常に見づらい程に細い糸をかいくぐりながら、レーちゃん(レアコイル)は一斉に聞こえない(・・・・・)音を発します。

 

『これは!』

 

 音の発生源は、コイルの本体だけでなく、分離したパーツの1つ1つが小さなスピーカーの役割を持って、広い範囲にばらまきます。音の向きも規則性はないので、敵味方関係なく効果があるのが玉に(きず)です。つまり、私とルーちゃん(ハガネール)以外に効果があります。

 

「ぐおぉぉおおお……何だ突然気分が……おぇ……」

「何だこれは……くそっ、何が起こって……まともに立っていられない!」

 

 当然、ゴールドさんやシルバーさんにも効果があります。ごめんなさい。

 

『ぐ……こ、これは……【ちょうおんぱ】!』

「正解です」

 

 ゲーム(原作)の【ちょうおんぱ】は方向性が指定出来、1匹のみに効果がありますが、それはスピーカーの役割を果たす部分、主に口になりますが、そこから方向を定めているからです。ですが、今私のレーちゃん(レアコイル)が行った【ちょうおんぱ】は、無差別に音を撒き散らす為に防ぎようがありません。

 【ちょうおんぱ】は聞いた相手を混乱状態にする技です。しかし混乱と一言に言っても様々な状態があります。幻覚が見えていたり、極度な興奮状態によって前後不覚になったり、三半規管(さんはんきかん)に異常が起こったりなどです。

 そして、【ちょうおんぱ】によって引き起こされる現象は、三半規管へ働き掛けて、平衡感覚(へいこうかんかく)を失わせ、フラフラにさせます。特性【ちどりあし】はこういう時に発揮しますが、混乱に区分分けがない為、こちらの世界では【ちどりあし】が発動する混乱とそうでない混乱があり、トレーナーが混乱する事態となっていたりします。

 また、ポケモンの技の【ちょうおんぱ】にはポケモン(ごと)に周波数が決まっています。私とルーちゃん(ハガネール)が無事なのは、レーちゃん(レアコイル)の放つ周波数を浴びすぎて慣れたからです。つまり、三半規管がぶっ壊れているということです。乗り物酔いしやすい人も、その乗り物に乗り続けたら慣れて酔わなくなると同じ理由です。

 現実で超音波を浴びたからと言って、直接人体にすぐにでも影響が出ることはないはずですが、あくまでポケモンの技としての【ちょうおんぱ】ですので効果が現れるということです。

 

レーちゃん(レアコイル)

 

 私はただ名前を呼ぶだけですが、それだけで私の意思を汲み取ってこの子は判断して行動をしてくれます。長年一緒に過ごし、また厳しい修行も行ってきたことで、私の考えていることは多分、ほとんど把握(はあく)されているのではないでしょうか。

 私が名前を呼ぶ時は、ただそのタイミングを告げる時のみ。そして、今の呼び掛けによってレーちゃん(レアコイル)は【ほうでん】を開始します。

 

『ぐ……くそ、避けろ!』

 

 【ちょうおんぱ】によってまともに立っていられない状態。そんな状態では当然回避するだけの力もなく【ほうでん】の餌食(えじき)となっていきます。威力自体はそこまで高くないですが、筋肉を痙攣(けいれん)させて麻痺(まひ)状態にすることで更なる機動力の低下に繋げることが出来ます。

 霊体のゴーストや昆虫がモデルのアリアドスに筋肉あるのか疑問ですが、まぁ、神経も電気信号を伝える線を【ほうでん】によって誤作動を起こさせているという解釈(かいしゃく)をしておけば、この2匹が麻痺になるのも……うーん、少し苦しいでしょうか。まぁ(しび)れてくれたので問題なしです。

 ちなみに、この【ほうでん】もまた分離した各パーツから放たれています。しかし、本体から離れていることでどうしても威力が弱くなってしまうので、決定打にななりえません。

 これが私のレーちゃん(レアコイル)の戦い方です。更にここに【きんぞくおん】を加えて、音と電撃で翻弄(ほんろう)し機動力を(うば)いつつ、トドメに【ラスターカノン】を放つことで勝負を決めるというもの。しかし、特性が【ぼうおん】であったり【マイペース】で混乱を封じたり、【じゅうなん】や電気の効かない地面タイプ、麻痺にならない電気タイプなど、対策は十分取れますので、そこを起点としてジムに挑んだトレーナーさんには漏れなくバッジを進呈(しんてい)しております。

 

『ちっ、ビリリダマ!』

レーちゃん(レアコイル)

 

 仮面の人が次に出してきたのは、【ぼうおん】に電気タイプを持つビリリダマ。この音麻痺戦法を人前で使う機会は滅多になかったはずですが、やはり1回でも使うと何らかの手段で目の前の相手に情報が伝わり、それによって対策が立てられるということですか。少なくともポケスペでは登場しなかった手持ちです。

 私はレーちゃん(レアコイル)の技を中断させ、元のレアコイルの姿に戻します。こちらから相手への有効打はありませんが、向こうもそれは同じです。ですが、高い素早さでパーツを1つ1つ潰されては戦術が崩壊してしまいます。よって、残念ですがこうして分離を()めて元の姿に戻ってもらいました。

 

『ポケモン1匹にこの対応。少々警戒し過ぎなのではないかな?』

 

 【ちょうおんぱ】と【ほうでん】がなくなったことで余裕が出たのか、強気な発言が飛んできます。

 

「そうかもしれませんが、元々素早さが低い子が多い鋼タイプを扱う以上、そちらのように足の速いポケモンは十分に警戒に(あたい)しますよ。これがジム戦でしたらバッジを差し上げるくらいです」

『ほぅ、それは光栄だな』

「あなたが悪の首領ではなく、1人のトレーナーとしてであれば、ですが」

『ふむ、残念だな。で、どうする? こちらは混乱が解け、麻痺もしばらくしたら回復する』

「続けますよ? 何せ悪の組織のトップが目の前にいるのです。捕まえないという選択肢は、最初からありません。ルーちゃん(ハガネール)!」

 

 名を呼んだ瞬間、ずっと私の(そば)鎮座(ちんざ)していた巨体が動き出し、その長い尻尾を天高く振り上げたと思えば、それを勢い良く地面に振り下ろします。

 

『何をするつもりだ?』

「答える必要はありませんよね?」

 

 ルーちゃん(ハガネール)の【たたきつける】によって瓦礫(がれき)は粉々となり、細かい粉塵(ふんじん)が舞い上がります。そして、その砂塵(さじん)(まぎ)れて尾を大きく横滑(よこすべ)りさせ、振り抜きます。

 

『なっ!』

 

 相手からしたら突然砂埃(すなぼこり)の中から大小様々な岩が高速で真っ直ぐに飛んできたので驚いたのでしょう。すぐに指示を飛ばそうとしたものの、それは追い付かず、ゴーストとデリバードに命中し、地面へと叩き付けられてしまいました。デルビルとビリリダマは本能で回避、アリアドスは命中した様子ですが、巻き上げられた粉塵によって詳細は不明です。

 

『これは、【うちおとす】!』

「さっきのは【たたきつける】。【うちおとす】をするに瓦礫を破壊して準備をしていたのか」

 

 シルバーさん、あまり敵に聞こえるような解説は避けて頂きたいですね。出来るだけ情報は相手に渡したくないですし。

 

(たた)み掛けて下さい」

『くっ、デルビル! 【かえんほうしゃ】!』

 

 確かに鋼タイプに対して炎タイプの技は効果抜群です。しかし、こちらの身体が大きいということは、当然尻尾も長いということ。しかも指示を飛ばす速さの違いによってラグが(しょう)じ、こちらに炎が届く前に、ルーちゃん(ハガネール)の【アイアンテール】が届きます。重量差と硬さ、そして速さの乗った鉄の尻尾の突き出しに、デルビルは()(すべ)もなく飛ばされ、瓦礫の山に叩き付けられます。

 

「降参して自首して下さい。このままでは勝ち目はありませんよ? 私は応援として2人のジムリーダーと警察を呼びました。近い内に到着するはずです」

『なるほどな。あくまで時間稼ぎということだったか。この私がジムリーダーとはいえ、1人のトレーナー相手に時間稼ぎをされた……くくく、これ程の屈辱(くつじょく)があるだろうか』

「……何が可笑(おか)しいのですか?」

『いや何、必ずしも時間稼ぎをしていたのはそちらだけではないということだよ』

「? ……先程よりも周囲の霧が濃く? まさか!」

 

 慌てて振り向くも、ゴールドさんもシルバーさんもキョトンとした様子。しかし、その奥、音もなく静かに行われた犯行に私は目の前の敵に夢中になり過ぎて周りが見えていなかったことを自覚します。

 

「逃げられました」

「は? 何言って……はぁ!」

「嘘……だろ?」

「んなはずねぇ、だって、つい今までいたはず……」

 

 そこにいたのは、アリアドス1匹のみ。先程の【うちおとす】で当たったのは【かげぶんしん】で、本体は霧の中を【かげうち】で回り込んで団員と幹部を逃がしたということでしょうか。

 

『ククク、実力は高いがまだまだ甘さがあるな。だが、今の私では負けることもないが勝つことも出来ないだろう。そこは評価しようではないか。こちら側の人間でないことが非常に悔やまれるが、精々足掻(あが)くが良い。これから先の運命を勝ち取る為に……』

 

 ハッとしてつい今まで対峙していた仮面の人の方へ向き直りますが、既に霧に(おお)われて姿が見えなくなってしまいました。そして、数分後、霧が晴れた時にはロケット団もその首領の姿はなく、呆然と荒れたエンジュの地に立ち尽くす私達3人の姿があったのでした。




 待ち合わせ時間になっても誰も来ないし連絡もないから、待ち合わせ相手の家までお迎えに行くマスク・オブ・アイスさん……もとい、仮面の人です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 vs マリル

 私はただ、鋼タイプが活躍し、ミカンちゃんが可愛い話が読みたかっただけなんです。
 所が、そういった物語があまりありません。種族値の高いポケモンや伝説、準伝のポケモンが活躍している話が多いので、そうでない地味なポケモンを出来るだけ出して行きたいです。
 まぁ、ポケスペに於いて、伝説や準伝説は必ず物語の中核を成す為に登場しますので、無理して出そうとしなくても勝手に出て来ますので問題ないですね。
 当初の目的としては、転生者ミカンちゃんとアニポケの主人公サトシが戦う短編を書く予定でした。
 「頑張れ」「踏ん張れ」「避けろ」の魔法の言葉と攻撃技のみで構成されたサトシのパーティを、変化技や技発動による二次効果を使ってボコボコにし、変化技の大切さを教えるもののはずでした。何がどうなってこうなったのか。私自身謎です。
 ポケモンとの信頼関係だけはピカイチなサトシですので、もう少しポケモンに合った戦法が採れるようにアドバイスを贈って上げたいというコンセプトでした。

追記:誤字報告ありがとうございます。


 霧が晴れたエンジュシティに西日が差し込みます。

 

「すみません。取り逃がしてしまいました」

「いや、ミカンだけのせいじゃねぇって。オレらもアイツら逃がしちまったしな」

「あぁ、せっかくのチャンスを無駄に……」

「あ、いえ、気にしないで下さい。子供のあなた達に数十人の悪党を見張れという無茶を言ったのは私です。人手が足りなかったとはいえ、ジムリーダーでありながら情けない話です」

 

 ロケット団残党の首領と思われる仮面の人と戦い、そして結果は私の戦略的敗北に終わりました。あの人は、自身を(おとり)として派手に立ち回ることで、裏での行動を読みづらくさせていました。そして、せっかく捕縛したロケット団の人達を逃がすこととなってしまい、協力して下さった2人に対し、申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 しかし、幹部はともかく、ロケット団の団員の実力は大したものではありません。実際にポケスペでもゴールドさんが多数を相手に勝利を収めたことからも、その実力の低さは察することが出来ます。それでも全員を助けた理由。それは、個々の能力よりもその数そのものが必要だから……ということになります。やはり、知ってはいましたが、中々に巨大で厄介な相手です。

 

「私は、このエンジュのジムリーダー、マツバさんが不在の今、代理のジムリーダーとして行方不明者の捜索(そうさく)や救護所での支援活動の陣頭指揮(じんとうしき)()る必要があります。お2人はどうされますか?」

「オレはアイツを追う」

 

 シルバーさんは考えるまでもなく即答しました。まぁ分かっていましたが。

 

「止めても無駄だ」

「はい、止めませんよ。きっと大事なことなのでしょうね。でも、気を付けて下さいね」

「あぁ……」

 

 そう返事をして、彼は瓦礫(がれき)の中を歩き始めます。

 

「あ、おい、シルバー!」

「ゴールドさん、あなたはどうされますか?」

「オレは……んーまだ決まっていない。だが、あんにゃろー(仮面の人)が何かしようとしているのは気に入らない」

「ふふふ、ゴールドさんも気を付けて下さいね」

「おうよ!」

 

 元気に返し、シルバーさんの後を追おうとしていた時に、私は2人の背中に問い掛けます。

 

「お2人は、ホウオウについてどれくらい知っていますか?」

 

 その時、シルバーさんの足がピタリと止まりました。ゴールドさんは何が何だか分からない様子ですね。スズの塔の中のホウオウの彫像(ちょうぞう)も見ていないでしょうから、きっとどんな姿かも想像出来ないと思います。

 

「ホウオウ?」

「……」

 

 シルバーさんは沈黙。まぁ当事者ですし、ある程度のことは知っているでしょうね。ポケスペでもゴールドさんにホウオウの伝説を語っていましたし。

 

「スズの塔は、伝説の鳥ポケモン、ホウオウの巣であるということは広く知られた伝説です。そしてその巣であるスズの塔に異常があれば、ホウオウは戻ってくると()われています」

「……つまり、ロケット団は人為的に震災を引き起こして、ホウオウを呼び込む実験をしたということだ」

 

 私の説明を補足(ほそく)するように、シルバーさんがロケット団の目的を話します。それに対してゴールドさんはその行為に驚きと同時に呆れている様子です。

 それにしても、10歳11歳辺りの子供がする話じゃないですね……ポケモンを扱う以上、精神の成長が早いのでしょうか。

 

「なんちゅう実験だよ……こんな多くの人とポケモンを巻き込んで、一体何をしようとしてんだ」

「それは分からない。だが、オレの目的には関係ない。オレの目的は奴らの組織を(つぶ)すこと。そのついでとして、奴らの計画の妨害を(はか)っていたが、まさかこんな大規模な手段に出るとはな……こちらも本腰を入れる必要がありそうだ」

 

 最後にそう言い残して、今度こそシルバーさんは去って行きました。そして、それを追ってゴールドさんも……私はただ見送るだけです。ただ「気を付けて下さい」としか言えない自分自身が情けなくなります。しかし、落ち込んでばかりいてはいけません。私は目の前で助けを求めている命を救う為に動かなければなりませんから。

 

 

「アサギシティから参りました。ミカンです。挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。これより、この場の支援に入りますので、よろしくお願いします」

 

 救護所でレミさんと合流して互いの無事を簡単に確認した後、その場の責任者と話をし、私も支援に加わることとなりました。救護所ではレミさんのマリルが【ちからもち】を発揮して、通り道に邪魔となる瓦礫の撤去(てっきょ)(いそ)しんでいます。

 私は断りを入れて、こちらに向かっているだろうアカネさん、ハヤトさんにはロケット団を取り逃がしたこと、現在は救護所にて支援活動を行っていることを伝えました。

 アカネさんの方がエンジュに近いですが、鳥ポケモンによって一直線で移動が出来るハヤトさんの方が早く到着しそうです。

 また、ポケモン協会、ジムリーダー理事会にも話をし、より一層警戒を強めるよう打診しておきました。どこまで防げるか分かりませんが。

 

「日も沈みましたし、私も一回休憩に入ります。レミさんも適度に休息を取って下さいね。決して無理をしませんように」

「分かりました」

 

 レミさんもずっと働き通しで、疲労の色が見えます。それでも弱音を吐かずに歯を食いしばり、賢明(けんめい)に活動しています。

 私達は仮眠を挟みつつ、互いの出来る範囲での支援を続けました。

 そして翌朝。まだ日が昇る前の薄暗い中で、異変は起こりました。

 被害甚大(じんだい)により立ち入り禁止区画に指定されている方向から、微細(びさい)な振動と砂嵐が巻き起こるのが見られたと報告があったのです。大方、ゴールドさんとシルバーさんの決闘でしょうと思われますが、念の為に私はムーちゃん(エアームド)と一緒に見に行きました。

 2人気付かれないようにコッソリとでしたので詳細は不明ですが、バンギラスが倒れている場面を目撃しましたのでたった今、決着が付いた所だったようです。そして、シルバーさんが東へ向けて走り出し、それを追ってゴールドさんもまた走り出しました。

 丁度その時、遠くに見える山の向こう側から朝日が顔を覗かせ、2人を照らします。何も知らなければ、朝日に向かって走り出すとか青春ですねと言いたい所ですが、彼等の抱える事情を少なからず知っていて、そしてこの先に起こるであろう出来事を知る身としては、ただただ、怪我のないよう気を付けて欲しいと願うばかりです。

 調査から戻った私は、責任者の方々に問題がなかったことを告げ、朝ご飯を食べます。ちゃんと良識に沿って手の平サイズのおにぎり2つに留めましたよ? その辺りの常識はちゃんとあります。

 食べ終わる頃にはハヤトさんが到着し、昼前にはアカネさんと多くのボランティアの皆さんが駆け付けて下さいました。

 救援物資が潤沢(じゅんたく)に得られるようになってからは、この臨時救護所にも人が多く滞在するようになり、いつの間にかエンジュシティの中で最大の避難所となっていました。

 前世では、インフラを整備したり、ヘリで空輸したりするなど色々と大変な思いをして物資の輸送を行っていましたが、ここはポケモンが普通に存在する世界です。

 水は水タイプのポケモンがいれば確保出来ますし、調理も炎タイプのポケモンが、電気も電気タイプに、輸送も飛行タイプが活躍してくれています。他にも瓦礫の撤去に格闘タイプやエスパータイプ。悪路の移動で岩タイプや地面タイプ。夜間の哨戒(しょうかい)にゴーストタイプや悪タイプ。建築の補助として虫タイプの糸、気分が悪い人の為の草タイプの落ち着ける香りや氷タイプの氷嚢(ひょうのう)。ゴミや排泄物などの処理には意外と毒タイプのポケモンが活躍されています。

 ノーマル、フェアリー、ドラゴン、鋼タイプですか? まぁ、一応それぞれ複合タイプがありますので、もう1つのタイプの方で活躍してくれていると思います。ノーマル単体は……子供達のケアとか……色々大事なことをしています。はい。

 

大分(だいぶ)落ち着いてきましたね」

「そうですね」

 

 私は隣に立つレミさんに話し掛けます。震災から1週間経ち、避難所での生活もすっかり慣れた頃、一昨日よりスズの塔の復興(ふっこう)を開始しました。街の整備が最優先だと主張する人も確かにいましたが、ホウオウ伝説で、ホウオウの怒りに触れると更なる災いが降りかかることをこのエンジュの地の人達は代々受け継がれていますので、すんなりスズの塔再建計画が始動することとなりました。

 マツバさんからもすぐには戻れないことの連絡を受け、またスズの塔の復旧を急がせてくれという一言が後押しにもなりました。決まってからの行動は早く、翌日には大型の重機や力自慢のポケモン達が勢揃(せいぞろ)いし、(かたむ)いた塔を再び安定させるべく奮闘(ふんとう)しています。

 アカネさんやハヤトさんは既に自身の街に戻っています。いつまでもジムリーダー不在の街をいくつも作っておく訳にはいきません。私は臨時休業届を事前に協会の方へ提出してありますので、大丈夫ですが、2人は犯人逮捕の手伝いとして急遽(きゅうきょ)お呼びしたに過ぎませんのでそのような手続きを行っておらず、渋々と帰って行かれました。

 

「ミカンさんもレミさんもいつも子供達の相手、ありがとうございます」

「いえ、好きでしていることですので」

「はい! 私もです!」

 

 私達は、現在街の復興を見守りつつ、避難所で生活している子供達のケアを行っています。劣悪な環境とは言いませんが、それでも不安はあるようで、そんな子達の気を(まぎ)らわせる為に私はジムリーダーとして、簡単なジム戦を行っています。公式のジム戦のようなものではなく、どちらかと言えばゲーム(原作)のように順番に技を出し合って(更に私は威力を弱めています)、どういった時にどの技を使えば良いのか、時々試合を中断しては説明を入れたりして、まだトレーナーの卵である子供達を指導しています。

 レミさんにも同じようなことをさせて、足りない私の分を(おぎな)ってもらっています。公式戦のような立ち回りが出来なくとも、ずっと私の側で戦いを見てきて、ポケモンの種類や技を勉強してきていますので、その復習も兼ねてこうして実戦練習をしてもらっているということです。

 今はジムトレーナーの立場ですが、いずれはジムリーダー昇任試験へ推薦(すいせん)するのも良いかもしれませんね。その為には、まだまだバトルだけでなく、勉強しなければならないことも多くありますが、見た目の派手さの割に勤勉な彼女ならきっとやってくれるでしょう。

 そう思っていた時、私のポケギアに着信が入ります。

 

「もしもし? ミカンです」

≪もしもし、ポケモン協会副会長です。エンジュでの復興支援、ありがとうございます≫

「いえ、好きでしていることですから。それで突然どうされましたか?」

 

 通話の相手は協会の副会長さんでした。先日、ロケット団と遭遇(そうぐう)し取り逃がしてしまった件については仕方がなかったとして不問とされましたが、やはり、何か問題があったのでしょうか。

 

≪いや、エンジュの件に直接関係するか分からないのだが、チョウジタウンの北部にある”いかりの湖”を中心に、通信状態が悪く通話が出来ないと各地から情報が上がっていてね。もしかしたら向こうの基地局に何か異常があるかもしれない。悪いがミカンさんには、現在連絡の取れないマツバさんとヤナギさんにこのことを伝えてもらいたい≫

「マツバさんはともかくヤナギさんもですか?」

≪あぁ、湖の近くにはチョウジタウンがある。もしかしたら既に現場に向かっていて連絡が届かないのかもしれないが、念の為にそちらからもアプローチを掛けて欲しい≫

「分かりました」

 

 通話が切れたのを確認し、考えます。

 私の存在によって多少の違いはあるものの、流れ自体は大きく変わらずむしろ何らかの軌道修正が図られて進行しています。今回、いかりの湖の怪電波事件が発生したということは……やはりヤナギさん、あなたなのでしょうか……?

 ポケスペでの知識に頼らず、この世界に来てから幾度(いくど)も顔を合わせ、会話をし、時折手合わせをして彼と接することで見極めようとしましたが、アレが素なのか、巧妙(こうみょう)に隠されていたのか、未熟な私では見抜くことが出来ませんでした。

 もし、本当に彼なのだとしたら、そしてこの世界の進みがポケスペ本編と同じ結末を迎えるのでしたら、彼は必ず目的を達成した上で死んでしまいます。それだけは絶対に避けなければなりません。

 

「私は一体どうすれば……」

 

 私の(つぶや)きは誰にも届くことなく、虚空(こくう)へと消えてきました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 vs トゲチック

 遅れてしまい申し訳ありません。
 言い訳をしますと、仕事で中々執筆時間が取れず、また感想欄で指摘されましたが展開の構成を考えていました。
 遅れた割には話が進みません。

 とりあえず、ヤナギの代わりにミカンちゃんが時空の狭間(はざま)に落ちるエンドにはしないことは決めました。
 将来的にはハッピーエンドに繋がるかもしれませんが、この物語の時点では私にとってはバッドエンドですので採用しません。
 ディアルガ、鋼・ドラゴンですからミカンちゃんが【ちからづく】で手持ちに加えたり出来ないかな……ポケスペ未読です。
 というか、何やらサカキも色々と面倒くさいことになっている模様……もう未来は未来に全てぶん投げて、この時空の時点でのハッピーエンドを目指しますかね?
 時空の狭間に居続けたことで、耐性が付いたって……船に乗り続けて船酔いにならなくなったレベルじゃないんですから……何か最近そんな話を書いたような……?


 エンジュシティの震災から1月(ひとつき)が経ちました。

 最優先として行っていたスズの塔の再建も2週間前に落ち着き、現在は街全体の復興(ふっこう)を進めています。そして、主要施設や避難所となる仮設住宅の完成の目処(めど)が立った所で、本来のこの街のジムリーダーであるマツバさんが帰ってきました。

 

「ありがとう。この街を守ってくれて。感謝している」

「守れ……ては、いないです、よね……」

 

 あの惨状(さんじょう)を思い出すと、とてもではないですが守ったとは言えません。しかし、マツバさんは首を横に振りスズの塔を指差します。

 

「守れたさ。オレの指示とはいえ、この街の象徴(しょうちょう)であるスズの塔の再建に尽力(じんりょく)してくれたのだからな。それに、そんな大事(だいじ)な時に長く街を()けていたオレにも責任はある」

「……ありがとうございます」

「フフフ、納得していないというのが手に取るように分かるよ」

「それは、千里眼(せんりがん)ですか?」

「いーや、()を使わずとも顔に出ているよ」

 

 そう言われて、私は思わず顔に手を当ててしまいました。それを見て、マツバさんは更に笑みを深めます。というかこの世界、目の前のマツバさんといい、ナツメさんといい特殊能力持った人が多すぎな気がします。特にトキワ出身のあの人達とか……

 

「大丈夫だ。エンジュの人達は強い。(はる)か昔からこの古き土地を守ってきた人々の子孫なんだ。この程度ではへこたれない。それに、仲間、家族、友達もいる。何とでもなるものさ」

 

 マツバさんの言う「仲間、家族、友達」の中には当然ポケモン達も含まれます。強い(きずな)で結ばれた彼等、彼女等は、きっとこのエンジュの地を再び夕日の似合う街として立て直すことが出来るでしょう。

 そんな彼の言葉を受け止めた私は、今度はしっかりと(うなず)き、涙が(こぼ)れないように目に力を入れます。

 

「私はこれで復興活動を終え、アサギシティに戻ります」

「お疲れ様。君がいてくれて本当に良かった」

「いいえ、私だけの力ではありません」

「分かっているさ。だが、君が率先(そっせん)して動いてくれたおかげでもある」

「それは……いえ、これ以上は無粋(ぶすい)ですね」

 

 知っていたのに止められなかった。災害に立ち会ってしまった。ジムリーダーだから。それに、仮に私がやらずとも誰かが動いてくれる。そんな様々な思惑(おもわく)はありますが、それをあえて言葉にしないことにします。それを言ってしまうと、きっと話が止まらなくなってしまいます。それに、言葉にしなくとも相手にはしっかりと伝わっているようで、(おだ)やかな笑みを浮かべています。

 

「そういうことだ。それじゃあ、後は任せてくれ。ありがとう。またお礼は正式な場で返すこととしよう」

「ふふふ、そうですね。では、この街の定食屋さんのお食事券何かを期待していますよ?」

 

 心に少し余裕が出来た私はそんな注文をします。すると、マツバさんは焦ったように。

 

「そんなことをしてしまったら、せっかく立ち直った飲食店は再び閉店になってしまうよ」

 

 と、冗談()じりに(つぶや)いていました。

 

「では、レミさん、行きましょうか」

「はい」

 

 ずっと私の後ろで待機してくれていたレミさんに声を掛け、それぞれポケモンを出します。レミさんはとげちん(トゲチック♂)、私はムーちゃん(エアームド)にそれぞれ乗って、アサギを目指して飛び立ちました。

 下に目を向けると、大勢の人達が手を振って、感謝の言葉を叫んでいるのが聞こえます。

 私もレミさんも笑顔で手を振りながら、エンジュの地を離れました。

 

「そういえば、あの麦わら帽子の少年はどこへ行ったんですかね?」

 

 手を振り終えたレミさんがふと呟きます。

 彼女が言う麦わら帽子の少年とは、3週間程前にエンジュシティに降り立ったイエローさんのことですね。正確には彼ではなく彼女なのですが、私も知識として知っていたおかげでよく見たら気付けた程度でしたが、何も知らなければ分からないでしょうね。

 あの整った顔立ちと、まだ12歳という年齢を考慮(こうりょ)したら、髪型を隠して服装に気を付ければ確かに性別を(いつわ)れるでしょうが……それでも子供っぽさから女性へと変化が近くなる年齢です。顔や手先などの露出部や、立ち振る舞いを注意深く見ていると、案外分かるものです。

 まぁ、隣を飛ぶ若者の女性代表であるレミさんが気付かないとなれば、帽子1つでも十分な変装なのでしょうね。

 

「さぁ、分かりません」

 

 カントー地方で1年程前にあった四天王のワタルさんが筆頭となって起こした事件。その時に現れたルギアを追って、ジョウトまで来たのですよね? そして、そのついでとオーキド博士からの依頼でポケモン図鑑所有のトレーナー、クリスさんをタンバシティへ連れて行く為に、釣り人のおじさんの船を用意した。

 その航路上にある”うずまき島”周辺でルギアと遭遇(そうぐう)し、ゴールドさん、シルバーさんと出会う……はずです。

 “いかりの湖”での怪電波事件が終息してから3週間。その頃から、私はポケモン協会、そして協会からウツギ博士経由でゴールドさんのポケギアの番号を聞き出して、無事を確かめるべく何度も掛けているのですが、当然と言うべきか繋がることはありません。

 ポケスペの展開では無事と分かっているのですが、やはり心配は尽きません。

 

「焼けた塔から飛び出して来た3匹のポケモンについても、何も情報が入ってきませんし」

「そうですね。見たことのないポケモンでしたし、もしかしたら伝説のポケモンかもしれませんね。レミさんはどう思います?」

 

 とりあえず、流れは物語と同じように進んでいます。焼けた塔でイエローさんが3匹のポケモンのスイクン、エンテイ、ライコウを封印から解き放つことが出来、3匹はそれぞれの意思で各地へと走り去っていきました。

 いかりの湖の事件から3週間。正しく歴史が(きざ)まれているのだとしたら、そろそろ湖で行方不明になっているゴールドさん達が目覚め、動き出す頃ですかね。無事であれば……いいえ、弱気になってはいけません。楽観的になるのは駄目ですが、希望を捨てることもしてはいけません。とにかく、物語の進行云々(うんぬん)以前に、2人の命が無事であることを祈りましょう。

 

「えぇと……伝説かは分かりませんが、すごく珍しいポケモンだとは思います」

「綺麗なポケモン達でしたから、またいつか近くで見てみたいですね」

「はい。すごくキラキラ輝いていました」

 

 私よりも年上なのに、時々このような真っ直ぐな言葉で表現してくれますので、レミさんは本当に良い人です。

 

「あ、アサギシティが見えてきましたよ」

「空はショートカットが出来ますから早く到着出来ますね」

 

 アサギとエンジュを繋ぐ主要道路は大きく遠回りになる為、直線距離で進める空路はとても早く感じます。

 

「あれ?」

「ミカンさん? どうしました?」

「いえ、今日のこの時間でしたら、まだアクア号が停泊しているはずですよね?」

「え? あ、本当ですね。ありませんね。臨時休業でしょうか?」

 

 いえ、このアクア号の船長でありクチバシティのジムリーダーであるマチスさんが動いているのでしょう。だとしたら、2人は無事である可能性が高いです。

 

「ふぅ」

「お疲れですか?」

「へ? あ、そ、そうですね。ずっと気を張っていたものですから。戻ったら少し休みます」

「それが良いと思います」

 

 危ないです。安心の溜め息が聞かれてしまいました。

 

「念の為、アクア号の出航記録の確認をしてからジムに立ち寄って、それから家に帰ります。レミさんは先に家族へ無事な姿を見せてあげてください」

「ご一緒しなくて良いのですか?」

「大丈夫ですよ。母はチケット販売員です。記録に関しては母に聞くだけですし、ジムもちゃんと問題なく使えるか軽く見るだけですので」

「分かりました」

 

 それからアサギシティに降り立った私達は、それぞれの行動へ移ります。

 まずはアサギ港へ行きます。

 

「すみません。アクア号の記録を確認したいのですが」

「おや、ミカンちゃんじゃない。母ちゃんなら奥にいるから呼んでくるよ?」

「はい、お願いします」

 

 それから母と一緒に記録を確認し、マチスさんが一部の船員さんだけを連れて、アクア号で出港したことが記録に残されています。予定航路は、カントー地方のクチバシティとなっていますが、行程表を見るに日数が少しいじられていますね。どこか(・・・)を経由する気満々ですね。

 航路の確認を終えた私はそのままの足でジムに向かいます。途中、ポケモンセンターから出て来た見覚えのある姿を見つけましたが、今回は関わらずにスルーすることにします。

 髪を横で跳ね上げる形で2つ結びにし、星形のアクセサリを耳に付けた少女。絶対にクリスタルさんですね。本音ではお話したい相手でありますが、この場面で話す必要性はありませんし、ここで話し掛けてイエローさんとの接触のタイミングがズレてしまったらいけません。

 ということで、ジムに到着しましたが、私はまずジムの外周を軽く見て回り、侵入者の痕跡(こんせき)がないかの確認を行います。異常が見られないことを確かめた後は中へ入り、窓などを中心に入念にチェックします。

 

「防犯システムも稼働(かどう)した様子もないですし、その通知もポケギアには来ていませんね」

 

 次に調べるのはジムの事務所に当たる場所。多くの挑戦者の個人情報などの資料やポケモン協会からの書類が保管されていますので、特に厳重にいくつかの金庫に分けて仕舞ってあります。

 

「これも大丈夫ですね。これもこれも問題ないです。紛失(ふんしつ)したものはなさそうですね」

 

 先程から私が調べているのは、ロケット団による空き巣がなかったかどうかです。直接仮面の人(マスク・オブ・アイス)と対面して戦い、そして私の戦略的敗北。良く見ても引き分け。第3者からすると撤退(てったい)に追い込んだ。同じ場面でも視点によって結果が違いますが、ようはせっかく()らえたロケット団の下っ端とその幹部を逃がしてしまった結果は変わりません。

 とにかく、私の素性は元々相手に知られている訳で、今回直接対峙(たいじ)したことでより一層警戒させてしまうこととなってしまったと思います。それ(ゆえ)に、少しでも私の情報を得ようとジムに侵入して物色(ぶっしょく)する(やから)が出て来たとしても不思議ではありません(何より1ヶ月もジムを空けていたので、防犯システムを突破さえ出来れば時間たっぷりに情報を盗むことが出来るはずです)。

 そう思って十分警戒してジムに踏み込んだのですが、肩透かしを食らった気分です。本当に何もありません。何も減っていないですし、逆に何も増えていません。私がジムを出た時のままの状態です。

 

「警戒に(あたい)しない存在だった……?」

 

 それは考えにくいです。あの仮面の人、中身は恐らくヤナギさんでしょうが、彼ならば綿密(めんみつ)に情報を集めるはずです。

 アカネさんがヤナギさんのいるチョウジジムでスイクンの氷像と戦った時も、いつその情報をどのようにして入手したのか分からないようなものまで把握(はあく)し、氷像の動きを再現していました。

 私が仮面の人と遭遇した時も、ポケスペ本編では登場しなかったビリリダマを用いて、私のレアコイルを封じようとしてきました。つまり、ちょっとしたことも情報として相手に伝わってしまう。ですから、私がジムを離れているこの期間に侵入して情報を得ようと動くのもあり得ないことではないと思っていたのです。

 

「うーん……自意識過剰(じいしきかじょう)でしたかね?」

 

 それともルギアの行方を追っていて、それどころではなかった……とかでしょうか? あり得ない話ではありません。彼にとって、ホウオウから入手出来る虹色の羽、ルギアから取れる銀色の羽は時を超える手段として必要不可欠です。

 

「優先度が違った可能性がありますね。私に構うよりもルギアが巣に帰ってくるタイミングを掴みたかった……いずれにせよ、ジムが無事で良かったです」

 

 最悪、エンジュシティのような大規模な震災、地盤沈下(じばんちんか)でなくとも建物1つ潰すくらいなら手段はありますからね。

 そう思って事務所の整理を行っていた所、突然ピーピーガーガーと機械音がしました。

 

「この音は……あ、ジムのファクシミリ(ファックス)に……?」

 

 何やらファクシミリが動き出し、紙を吐き出そうとしています。

 というか、リニアモーターカーが開通し、ポケモン転送システムがあり、ポケギアという高性能な機器が手軽に入手出来るこの時代に、今時ファクシミリって……パソコンかポケギアのメールで良いでしょうに……

 

「えぇと、何ですか? あ、ポケモン協会からですね……え、ポケモン協会ですか? ということは……」

 

 確か、丁度これに近いタイミングで、この先の海、うずまき島近辺で停泊しているアクア号にも同じ文章が送られているはずです。

 私は、吐き出された紙を広げ、ジックリと(なが)めます。

 

「ジムリーダー、緊急招集……ってこれ、昨日送られたものですね。私がいない時に不用意に受信して紙が出ないようにセキュリティで私が来たら稼働するようにしていたのでした」

 

 普段ファクシミリなんて使いませんので忘れていました。

 すると、紙を読んだタイミングで丁度ポケギアの方にメールが届いたことを(しら)せる信号が発せられます。

 メールを開き、しばらく無言で見つめた後「はぁ」と溜め息を()きます。

 

「やはり、そうですか……いよいよ、始まるんですね」

 

 そこには、近々行われるポケモンリーグに()いて、カントー地方ジョウト地方合同のジムリーダー全員による対抗戦(エキシビションマッチ)開催(かいさい)すると書かれていました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 vs クチート

 遅れてしまいました(定期)。
 ただし、特に投稿日時を決めている訳ではないですので遅刻ではありません(言い訳)。
 はい、すみません。頑張ります。

 今回から対抗戦(エキシビションマッチ)です。
 オリジナル要素を出そうと、組み合わせと使用ポケモンを変更します。
 あみだくじツールで組んでみましたが、一発で面白い結果となりましたのでそのまま採用。
 一応、1回目引いた後、5回引き直しましたが、どうにもしっくり来ませんでしたので1回目のをそのまま採用としました。
 ということで、次回からバトルたっぷりお送りします。どうぞ(つまり話は進まない!)。

 それとすごく今更ですが、本作は登場ポケモンこそ4世代までとしていますが、タイプや特性、技の構成や仕様などは全て7世代に沿っています。
 分かりづらくて申し訳ありません。
 というか、現時点で3世代、4世代までのポケモン使っているのミカンちゃんだけじゃないですか……しまったな……テコ入れします。


 おはようございます。ミカンです。現在私は、コガネシティのリニアモーターシステムの駅にて、リニア車内で待機しています。

 もうすぐ対抗戦(エキシビションマッチ)の会場となる、セキエイ高原へ向けて出発する頃です。

 昨夜はコガネシティの宿泊施設でジムリーダーが一堂に(かい)しました。ただ、カントー地方とジョウト地方のジムリーダーが出会うことがないように調整されており、今朝もリニアに乗り込む順路、順番、車両を指定することで、徹底(てってい)して顔を合わせないようにされております。

 レミさんは学業の都合で、会場へ応援に行けないとのことでしたが、ジムには顔を出せると言われましたので、1つお願いをしておきました。それは、赤髪ロングで黒い服を着た少年が現れたら何も言わずにジムバッジを渡して欲しいと。

 当然、疑問を返されましたが、エンジュシティの震災で出会ったその少年と一緒にロケット団を撃退した(むね)を伝え、バッジを渡し忘れたことにすることで納得したようで、笑顔で(うなず)いてくれました。

 シルバーさんは、セキエイ高原の会場に手続きなく潜入(せんにゅう)するべく、ジムバッジを集めていたはずです。私が昨日アサギを出るまでには、ジムに侵入(しんにゅう)しようとした痕跡(こんせき)などはなかったので、恐らくまだ来ていないのだと思います。そこで、レミさんにお願いをして、彼にジムバッジを渡して欲しいと言いました。

 ちゃんとお留守番出来ているだろうかと、年上を心配する少女の図は違和感(いわかん)がありますが、これでも転生者です。転生前の記憶に関しては、ないのか忘れたのかないことにしたのかは分かりませんが、それでも前世の生きた時間と今の時間を足すと、絶対にレミさんよりも年上になりますので問題はないはずです。

 

≪間もなく、セキエイ高原へ向けて出発します。皆様のご武運をお祈りします≫

 

 そうアナウンスがあって数十秒後、揺れはないのですが、何となく今発車したと分かりました。窓の外を見ると、ゆっくりと景色が後ろに流れ、徐々に速度が上昇しているようです。

 

「いよいよやな」

 

 ワクワクした面持ちで、隣に座るアカネさんが両手で(こぶし)を作っています。

 

「そうですね。良い結果を残せるよう、努力します」

 

 私も彼女に同意し、目標を(かか)げます。

 

「ミカン、そんなんじゃあかんで」

 

 しかし、それは即座に切り捨てられてしまいました。何故なら……

 

「ジョウト地方ジムリーダー軍団の主将(・・)を務めんねんから、もっと優勝するで! くらい言わなあかんで!」

「は、はい……」

 

 そう、何故か私が主将を務めることとなってしまいました。

 昨日宿舎では、ジムリーダーの主将を決める会議のようなものが行われたのですが、当然私はポケモン協会がヤナギさんを推薦(すいせん)するものだと思っていました。経験も実力も確かなものがありますので、順当(じゅんとう)ですね。それにポケスペでもその流れでした。

 しかし、(ふた)を開けてみると協会が推薦したのは私の方。何でも、以前ハヤトさんの就任式(しゅうにんしき)()いて行われた試合を観戦した協会の職員、理事の方達から、私を()す声が上がったのだそうです。

 そういった経緯があり、私は主将となってしまいました。

 アカネさんは「気合いや気合い! 熱くなるんや!」と昔どこかで聞いたような言葉が混ざった鼓舞(こぶ)をしています。

 

「そうだぞ、主将? 我々の代表として最後はビシッと決めてもらわねばな?」

 

 そしてアカネさんの言葉に、真っ先に追随(ついずい)したのは、まさかの真面目一辺倒(いっぺんとう)なはずのイブキさんでした。

 

「えぇー……」

 

 普段のキリリとした表情は(ゆが)められ、まるで笑いを(こら)えるように口角をヒクヒクとさせています。彼女にそんな【いたずらごころ】があっただなんて、気付きませんでした。

 

「そうだぞ。こうして選ばれた以上はしっかりと役目を(まっと)うしなければな」

「シジマさん……そういうことはまず、そのカステラを置いてから言って下さい」

「うっ」

 

 カステラ1本に(かじ)り付いているとかどういう食べ方ですか。真面目な顔して何てことしているんですか。また奥さんに言い付けますよ?

 

「だが、こうなることは必然だったのかもしれない。恐らく、この中で1番実力があるのか君だろうからね」

「そうですな。やれやれ、これでも長くジムリーダーを務めてきましたが……もう、若者の時代なんですな」

「マツバさん、ヤナギさん……」

 

 マツバさんの言葉はすんなり受け入れられますが、ヤナギさんの言葉には何かトゲ……よりも小さい、ささくれ、いやほんの少しの引っ掛かりようなものを感じます。特に、時代の部分だったと思いますが……私が意識し過ぎているからでしょうか。ただ、事が起こる前に動く訳にはいきませんので、今は目の前のことを頑張ります。

 

「あれからジムリーダーとして経験を積ませて頂いていますが、やはりあなたは遠い。いつかあなたに追い付き、いや追い越せるよう、奮励努力(ふんれいどりょく)致します」

「ボクもミカンさんが主将で間違いないと思うよ。皆も言っているように、実力は本物だ。ジムリーダー就任時の頃も非常に高い実力を持っていたと思うけど、今はあの頃よりも更に強くなっていると思うよ」

「ハヤトさん、ツクシさん、ありがとうございます」

 

 ポケスペ本編と流れは違いますが、ここは切り替えて、しっかりと前を向こうと思います。

 

「しゅ、主将、頑張るんだぞ? ぷ、くくく……」

「主将! 妻には内緒にしていてくれ!」

「ふっ、主将、エンジュを救ったように、ジョウトに勝利を」

「ははは、頑張るんですよ、主将?」

「主将、応援しているからね」

「えぇと、しゅ、主将、オレも頑張ります!」

「王将! 気合い入れや!」

 

 主将連呼は()めて下さい! イブキさん、私が主将に決まった時の狼狽(ろうばい)っぷりを思い出して笑っているのでしょうが、どれだけツボにはまったんですか! もう昨日のことですよ? というかアカネさん、それ違います!

 

≪間もなく到着します。左側のドアが開きますので、待機していて下さい≫

 

 しばらくいじられていた所に、アナウンスが入ります。助かりました。

 そして速度が落ちてきた所で、先程の(さわ)ぎは何だったのか、一同表情を引き締めてジムリーダーの顔になっています。

 車内のテレビにはセキエイ高原の様子が映し出されており、協会の理事長司会の元、クルミさんの実況込みで放送されています。

 そして、ステージの真ん中で完全に停止します。私達はそれぞれドアの前に立ち、その扉が開かれるのが今か今かと待ち受けます。窓の外には多くの観客が(つど)い、それを見ただけで熱気が伝わってきます。思わず私も(にぎ)る手に力が入ってしまいます。

 

『お待たせしました! カントーの8人! ジョウトの8人!』

 

 理事長の長めの挨拶が私達の紹介に移った所で、それぞれの手にはモンスターボールが握られます。そして今、会場と(へだ)てる扉が、開かれました。

 

『全ジムリーダーの登場です!』

 

 皆さんそれぞれ相棒を場に出し、派手な演出で場を盛り上げます。

 私はクーちゃん(クチート)を出しましたが、すぐにトテトテと私の周りをはしゃぐように走り回ります。それを微笑(ほほえ)ましく見つつ、ヤナギさんがまだ来ていないことに気付いた私は周囲を見ると、ほんの数センチの隙間に手間取っている様子が見られましたので、慌てて補助に入ります。

 

「ありがとう」

「いえ、どういたしまして」

 

 ほぼ完全なバリアフリーとなっていますが、段差や隙間(すきま)がゼロという訳ではありませんし、ヤナギさんの車椅子はタイヤが小さいですからね。悪の首領だとしても、今この場のみは同じ勝利を見る為の仲間です。手を貸さない道理はありません。

 

≪今更言うまでもありませんが、ジムリーダーとはポケモンバトルや育成の技術向上を図るべく、ポケモン協会が各街で選出、任命した実力者達のことをです!≫

 

 実況席からクルミさんがジムリーダーの役割を説明します。その間にリニアは再び待機場所へ戻るべく移動し、2つに別れたステージは再び間が閉じられ、1つの巨大なバトルフィールドとなりました。

 

≪今回のイベントでは、その普段見る機会の少ないジムリーダー達の戦いを、間近で見て、その実力の高さを感じてもらえたら(さいわ)いです! この模様は、テレビ、ラジオで生中継にてお送りしております! 是非(ぜひ)、お茶の間でもお楽しみ下さい!≫

 

 この大舞台の中、堂々としたクルミさんの実況が会場内に響きます。

 

≪では、各ジムリーダーの紹介へ入ります! まずはジョウトです!≫

 

 カメラが向けられ、私達の姿が巨大なモニターに映されます。

 

≪この春からキキョウシティのジムリーダーとなりましたハヤト巡査(じゅんさ)! 華麗(かれい)なる鳥ポケモンの空中技で、空を支配します!≫

 

 紹介されたハヤトさんはエアームドを(あやつ)り、くるりと空中で一回転します。

 

≪ダイナマイトプリティギャル! ノーマルタイプのエキスパート、コガネジムのアカネちゃんは、アイドルとしても全国に笑いと笑いと、笑いを届けています!≫

「笑いだけかい!」

 

 アカネさんがすかさずツッコミを入れたことで、会場からも笑いが上がります。怒るアカネさんを相棒のミルタンクが(なだ)めます。

 

≪千里眼を持つマツバさんはエンジュのジムリーダーです! ゴーストタイプを使い、対戦相手を(まど)わせます!≫

 

 紹介を受けて、マツバさんと相棒のゴースがお辞儀(じぎ)をします。

 

≪竜の里として知られるフスベシティ。竜を操るジムリーダー、イブキさん! 扱いづらいドラゴンタイプと心を通わせ、戦いに(いど)みます!≫

 

 ハクリューの上に立つイブキさんは「フンッ」と鼻を鳴らします。

 

≪ヒワダジムのジムリーダー、ツクシさんは虫タイプの実力者! 遺跡調査でも活躍されている研究員です!≫

「応援をよろしくね!」

 

 そう言ってツクシさんは手を振り、ストライクも(かま)を振ります。危ない。

 

≪チョウジタウンからはヤナギさん! 永久氷壁(えいきゅうひょうへき)異名(いみょう)を持つその実力は!≫

 

 ヤナギさんは静かに頷き、膝の上に乗るウリムーを優しく撫でています。

 

≪タンバで道場を経営する格闘家、シジマさん! ポケモンだけでなく自身も(きた)えることで、心を1つにします!≫

 

 シジマさんとカイリキーはそれぞれ腕を前で組み、不敵な()みを浮かべます。

 

≪アサギジムのジムリーダーでアサギ灯台の管理人も(つと)めるミカンさん! 今回はジョウトをまとめる主将としてポケモン協会より直々(じきじき)に選出! 鋼タイプを駆使(くし)し、並み居る挑戦者を打ち(くだ)きます!≫

「え、砕いていませんよ?」

「砕いてるやん?」

 

 解せません。

 あ、クーちゃん(クチート)目一杯(めいっぱい)アピールしてくれています。というかそれ色気じゃないですよね? 誰を誘惑(ゆうわく)しているんですか?

 

≪続きまして、カントーの紹介です!≫

 

 次にカメラが向けられたのは、カントーチームです。

 

≪お転婆(てんば)人魚! 水の使い手はハナダジムのカスミさん!≫

 

 カスミさんが観客に手を振り、それに合わせてスターミーもチカチカと中心の宝石の部分が点滅しています。

 彼女はここに来るまでの途中、トージョウの滝にてスイクンと出会って、手持ちに加わえていると思います。

 

≪ポケモンの生態の研究で有名な研究者! 燃える熱き男カツラさんはグレンジムのジムリーダー!≫

 

 静かに(たたず)むカツラさんですが、自身の右腕を気にし、体調も(すぐ)れない様子。ロケット団時代にミュウツーを作り出す為に自らの細胞を提供した所、逆に入り込まれて右腕を中心に徐々に身体全体へ浸食(しんしょく)が広がっていき、現在は右上半身が取り込まれているはずです。

 そんな重病の状態でも、このようなイベントに参加して下さったのは、何か思惑があったのでしょうか? それともジムリーダーとしての使命感?

 少なくとも現時点では彼はエンテイを手にしていないと思われます。あれとはここ、セキエイ高原で出会うことになっているはずですから。

 対抗戦が始まる以前に入手出来ていたら、自身の命を守ると共にミュウツーの呪縛(じゅばく)()(はな)って自由の身にさせることを優先するのではないでしょうか。あくまでポケスペの知識による推察(すいさつ)で、この世界のカツラさんがそうであるかは分かりませんが……

 

≪ヤマブキから来たのは謎多き美女! 自身も超能力を扱うナツメさんはエスパータイプのエキスパート!≫

 

 紹介に不満があるのか、目を閉じ、眉間(みけん)(しわ)を寄せていますが、代わりにユンゲラーが手を振るというポケスペ本編では見られなかった愛嬌(あいきょう)があり、可愛いです。

 ですが、女の私から見ても美人で、数年前に一般トレーナー時代にジム戦として戦った時から全然変わっていないですね。歳取らないのでしょうか?

 

≪タマムシ大学で教鞭(きょうべん)を振るう知性の(はな)! 草タイプの強者、エリカさん!≫

 

 キレイハナと一緒に優雅(ゆうが)にお辞儀をし、とても様になっています。背後に花々があるように錯覚(さっかく)するようなオーラを感じます。

 

≪鉄よりも硬き岩石を操るタケシさん! ニビシティの博物館で警備員も勤める真面目な男!≫

 

 イワーク格好いいですね。私のルーちゃん(ハガネール)も出会った頃はイワークでしたので分かります。

 ポケスペでは、(ミカンちゃん)欺瞞作戦(ぎまんさくせん)(結果的にですが)によって破れた彼ですが、今回は対戦の機会はありませんので、どのような戦いをするのか楽しみです。

 

(うな)れ轟音、(たけ)稲妻(いなづま)! 電気使いのマチスさんは船乗りとしても活躍!≫

 

 豪快(ごうかい)に腕を掲げ、アピールするマチスさんと、それに合わせてライチュウも頬袋をバチバチと音を鳴らして電気を発しています。

 マチスさんもどのタイミングでライコウと出会ったのかは分かりませんが、この時点では既に手持ちにいるはずです。

 先の2人も含めて言えることなのですが、全て「はず」「だろう」という希望が多分に含まれています。というか、この地に3匹が集結していなければ詰みますから、お願いしますよ?

 

≪毒をもって毒を制す! 影に生まれて影に生きる女忍者(くのいち)、アンズさんはセキチクのジムリーダー!≫

 

 アリアドスの糸によって天井から逆さまに釣り下げられたままの姿勢で、軽く手を挙げて紹介に(こた)えます。いや、逆さまなのですから手を下げるが正しいのでしょうか? 分かりません。

 

≪前回大会では準優勝! 今年からジムリーダーに就任したルーキーのグリーンさんが、カントーチームの主将を務めます!≫

 

 これが一番驚いたことです。話自体は昨夜の内に聞いていましたが、今になっても信じられません。

 何でも、当初はカツラさんが主将を務める予定が体調を考慮(こうりょ)し辞退。そこで次に名前が挙がったのがエリカさんだったのですが、そのエリカさんがこちらの主将が私だと知ると、グリーンさんを推薦したのだとか。そして彼もそれを受諾(じゅだく)して現在に(いた)ると。

 この話は直接エリカさんとポケギアでやり取りして聞いたことです。顔を合わせないように徹底されていましたが、ポケギアでの連絡の取り合いは考えられていなかったのか、普通に個室で通話していました。あ、番号は一般トレーナー時代にジム戦の後に交換しました。ゲーム原作の方では、ミカンちゃんとエリカさんは友人となっていますので、私も繋がりを作りたくて少し子供らしく強引にやっちゃいました。

 ちなみに、何故私がジョウト側の主将だとグリーンさんなのかと聞くと「面白そうだから」と答えられました。何が?

 

≪彼等16人がカントーチーム、ジョウトチームそれぞれ8人ずつに別れて対戦を行います。そして、勝ち星の多いチームの勝利です! 8試合目は主将同士のバトルと決まっていますが、他の7試合はくじ引きにてこの場で組み合わせを決定致します!≫

 

 ジョウト側、カントー側に1つずつ箱が運ばれてきます。

 

≪それぞれの箱の中には、赤、青、緑、黄、桃、黒、白の7種類のぼんぐりが入っております!同じ色を手にした者同士が対戦相手となります! それでは、ジムリーダーの皆さん、くじを引いて下さい!≫

 

 順番に箱に手を入れていくのを見守りつつ、相手の主将であるグリーンさんの様子を(うかが)います。静かに目を閉じ、まるで瞑想(めいそう)しているかのように微動だにしません。流石(さすが)に精神も鍛えられていますね。分かっていましたが、これは一筋縄(ひとすじなわ)ではいきませんね。

 すると、いつの間にか全員引き終えたようで、全員がぼんぐりと手に持っています。

 誰がどの組なのか確認すべく、カントー側とジョウト側を交互に見ようとした所でクルミさんのアナウンスが入ります。

 

≪組が出来た所で、対戦順を決定します。コンピューターによってランダムに決められ……出ました! 皆さん、電光掲示板にご注目下さい!≫

 

 第1試合 マチス - イブキ

 第2試合 アンズ - アカネ

 第3試合 ナツメ - ツクシ

 第4試合 カツラ - ヤナギ

 第5試合 カスミ - マツバ

 第6試合 タケシ - シジマ

 第7試合 エリカ - ハヤト

 第8試合 グリーン - ミカン

 

 ポケスペ本編とはまるっきり違う組み合わせになっていますね。もうこれどうなるのか想像も出来ません。あ、ナツメさんとツクシさんの対戦は本編通りですね。それ以外はもう滅茶苦茶(めちゃくちゃ)です。もうどうとでもなれです。

 ということで、いよいよ試合開始です! はい。




 ということで、次回から対抗戦、今度こそ始まります。
 第1試合は、マチスvsイブキです。どのような戦いが繰り広げられるのか、こうご期待!
 注目の対戦カードはありますでしょうか? 本編のようにアッサリと終わらず、頑張って熱くしたいと思います。
 ネタバレですが、カツラさんは本編通りに棄権させます。でないとエンテイと出会えないかもしれないですからね。

 ポケスペ本編では主将(キャプテン)と呼んでいましたが、本作では普通に主将(しゅしょう)と呼んでいます。
 王将ネタがやりたかっただけです。はい。行ったことないんですけどね。

 余談ですが、あみだくじツールを使用して計6回引きましたが、その内3回がナツメvsツクシでした。もうこれ運命ですね。ナツメ×ツクシのおねショタ物はよ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 vs コモルー

 以前5話にて、クチートに特殊技を使わせないのは、ガチっぽくてポケスペっぽくないからだと言いました……が、あれ、撤回します。
 つまり、特殊技を解禁します。
 組み合わせを見て、使用ポケモンを割り振った時に、あれ、これ特殊技入れた方が面白いんじゃね? と思ったのが理由です。
 ということで、主将vs主将ではクチート登場をネタバレします。まぁバレた所で何も問題ないですけどね。
 ちなみに、どんな技を使うのかはお楽しみにということで、お待ち下さい。

 今更ですが、あくまでポケスペっぽい技構成で考えていますので、ゲームのオンライン対戦のような技攻勢では一切ありません。ご了承下さい。
 ゲームでは技の紹介はほんの少ししかありませんので、その技の解釈やそれが及ぼす効果を妄想するのが楽しいです。

 では遅くなりましたが、第1回戦、マチスvsイブキです。どうぞ。


≪第1試合! クチバジムのマチスさん対フスベジムのイブキさん!≫

 

 クルミさんのアナウンスで第1試合を行うメンバーだけがステージに残り、残りの私達はジョウト、カントーに別れてステージを(はさ)んで対面する形で、ステージ下の待機スペースに座ります。剣道や柔道の団体戦のようですね。

 この試合は通常のリーグ戦の6vs6とは異なり、手持ち6匹の中から2匹を選出して行う2vs2です。ポケスペ本編と違いますが、細かい所ですし、そもそも本編でもほとんどが2匹以下。3匹以上使用したのはシジマさんくらいですので、このルールでも全く問題ないと思います。

 そして、2匹の内、1匹でも戦闘不能になってしまったらその時点で負けとなってしまいますので、交換のタイミングを見極めることも重要です。

 

≪試合開始です!≫

 

 合図と共に、両者とも手に持ったモンスターボールを投げます。そこから飛び出して来たポケモンは……

 

≪マチスさんはエレキブル! イブキさんはコモルーを出しました!≫

 

 何でですか!

 何で4世代のエレキブルと3世代のコモルーがいるのですか! いや、エレキブルはエレブーの進化形ですので、持っていても不思議ではないといえばそうですが、それにしてもコモルーですか。ボーマンダの進化前のポケモンで、見た目の通り防御が高いです。

 

「フンッ、最初から全開だ! 【ばくれつパンチ】!」

「【まるくなる】!」

 

 思いっ切り殴りに掛かりましたね。それに対してイブキさんは守りを選択しました。直撃を食らうとあまりの衝撃に脳が揺れて混乱状態に(おちい)ってしまう【ばくれつパンチ】ですが、強力な分、大振りになることで見切りやすく、(はず)しやすいのが欠点です。それにゲームと違って当たれば100%混乱ですが、この世界ではまともなダメージがなければ混乱にまでは(いた)りません。無傷とは言えませんが。

 そこを出来るだけダメージを抑える為の選択が【まるくなる】ですか。身体を丸めることで受け流しやすくし、ダメージを最小限に(とど)めています。

 

「ちっ、まだまだ! 【ばくれつパンチ】!」

()けろ!」

 

 追撃が来ますが、身体を丸めていたことでそのまま転がって回避します。しかし、更に続けて【ばくれつパンチ】を放ってきます。

 

「きりがない。ならば【こわいかお】!」

 

 足の遅いコモルーにとって、動きが速くパワーもあるエレキブルの猛攻(もうこう)をいつまでも(かわ)せません。それを分かっているから早めに対処として素早さを奪う【こわいかお】ですか。

 対面していなければ意味がありませんが、マチスさんのエレキブルは何度も外れた【ばくれつパンチ】を今度こそ当てようと、しっかりと相手を見つめています。それによって目が合ってしまい、技を食らってしまいました。

 

「なっ! しっかりしろ!」

 

 コモルーは、全身が分厚く(かた)(から)(おお)われています。その為に、顔が見えないのでどのような表情をしたのか分かりませんが、エレキブルの(ひる)み具合を見るに、中々の迫力があることが想像出来ます。

 

「意外やな」

「? 何がですか?」

 

 隣に座るアカネさんが話し掛けてきました。

 

「いやな、イブキさんは本来なら強力なドラゴンポケモンで力押しするタイプやったん?」

「まぁそうですね。ただ、同じ攻撃でも緩急(かんきゅう)を付けることで行動を読ませず、確実に疲弊(ひへい)させて最後に強力な一発を食らわせるというのが上手かったと思います」

「そうやねん。それがいつの間にか、あぁやって変化技を使(つこ)うて場を支配する戦い方を身に付けとる。一体誰の影響やろうな?」

 

 そう言ってこちらを見つめてきます。

 

「私だと言うのですか?」

「他に誰がいんねん。まぁ、1つの戦い方に(こだ)らず色々出来た方が、幅が出来るんは理解出来るんやけどな……やっぱ、自分本来の得意を生かした戦い方が1番慣れているからな。中々変えられんのや」

「それはそうですね」

 

 アカネさんの言う通り、自分のやり方よりもより良いやり方があったとしても、長いこと続けてきた慣れたやり方を捨てることは非常に難しいです。しかし、目の前で戦っているイブキさんは、本来の自身のスタイルを変え、変化技を(もち)いた戦い方を身に付けています。つまり、アカネさんの言葉を借りるなら幅が出来ているということです。

 

「強いですね」

「せやな」

 

 言葉を()わしつつ目の前で繰り広げられる戦いに目を向けます。

 

「これじゃあ(らち)が明かねぇ! おいこら! いつまでも引きこもってんじゃねぇ! 【ちょうはつ】!」

 

 素早さを下げられてからも何度か攻撃の機会を(うかが)っていたエレキブルでしたが、【こわいかお】を直視してしまったことで、それからも顔を見ていないにも関わらず、脳裏(のうり)に相手の顔が浮かぶのか、所々で動きが(にぶ)いように感じました。

 動きが遅くなったのならば、足の遅いコモルーでも大振りの【ばくれつパンチ】を躱すことは難しいこともなく、仮に当たったとしても身体を丸めたまま転がっての移動なので、そこまでダメージにはなっていません。

 しかし、その状況を打破すべくマチスさんはエレキブルに【ちょうはつ】の指示を出しました。これに怒ったコモルーは、身体を丸めるのを()めて攻撃態勢(たいせい)に入ってしまいました。

 

「仕方ないな。ならば【かえんほうしゃ】!」

迎撃(げいげき)だ! 【ほのおのパンチ】!」

 

 炎技に炎技をぶつけることで相殺(そうさい)を狙ったのでしょうか。どこまでダメージを抑えられたのかは分かりませんが、少なくとも炎の腕でコモルーの【かえんほうしゃ】を受け止めたことで火傷(やけど)()うことを避けているよう見えます。

 

「【りゅうのいぶき】!」

「はん! 気合いで押し切れ!」

 

 【りゅうのいぶき】は、副次(ふくじ)効果で麻痺(まひ)を与えます。しかし、電気タイプは麻痺になりません。それを熟知(じゅくち)しているであろうマチスさんは、気にせず攻撃の指示を出します。

 

「お返しだぜ! 【ほうでん】!」

「なっ!」

 

 至近(しきん)距離でまともに受けてしまったことで、コモルーが大きく後退します。そして(ひざ)を付いてしまいました。すぐに立ち上がろうとしますが、(しび)れているのかその動きは遅いです。

 やはり、あの【ばくれつパンチ】のラッシュは、コモルーにとって痛手だったようです。混乱こそ()けましたし、ダメージも最小限に留めていましたが、それでも確実に蓄積(ちくせき)されていたようで、それが今の【ほうでん】の直撃で体勢が崩されてしまいました。

 しかし驚きなのはマチスさんのエレキブルのスタミナです。あれだけ体力を使うであろう強力な【ばくれつパンチ】を何発も放ち、コモルーの【かえんほうしゃ】や【りゅうのいぶき】を食らいながらも反撃し、それでいてまだピンピンしています。

 

「戻れコモルー!」

≪ここでイブキさん、コモルーをボールに戻しました。次に出してくるポケモンは何でしょうか!≫

「行け! キングドラ!」

 

 イブキさんと言ったらやはりキングドラですよね。

 

「何が来ようと関係ねぇ! いくぞぉぉおおお! 【ほうでん】!」

「【たつまき】!」

 

 激しい風を起こして【ほうでん】を散らしてしまいます。そして、その風の勢いに、エレキブルは少し怯んでしまった様子。しかし、その目の闘志は消えていないようです。

 

「だったら【ばくれつパンチ】!」

「左へ()けろ!」

 

 迷うことなく次の技を叫びます。マチスさんは本当に思いきりが良いですね。元ロケット団の幹部というのは良くないですが、この豪快(ごうかい)な性格は組織の特攻隊長として、先頭に立って部下を引っ張るに良いですね。仲間想いですし、多くの部下に(した)われるのも分かる気がします。

 ただ、その【ばくれつパンチ】は散々使ったことでイブキさんにはタイミングが読めているはずです。それを証拠に、初見であるはずのキングドラですが余裕を持って()けることが出来ています。

 また、エレキブル自身のスタミナが切れてきたこともあると思います。あれだけ強力な技を連発してまだ元気に暴れているのも驚愕(きょうがく)ですが、それでも無尽蔵(むじんぞう)という訳ではないはずです。いずれ体力切れで膝を付くのは明白です。それを分かっているのか、マチスさんは1つ溜め息を()くような仕草をして、エレキブルをボールに戻しました。

 

「仕方ねぇ、だったら!」

 

 そう言って繰り出されたのはコイルでした。

 ポケスペ本編でも対抗戦(エキシビションマッチ)でマツバさんとの試合に()いてコイルを使い、最後は【でんじほう】を決めた場面は最高に格好良かったと記憶しています。結果はマツバさんのムウマによる【みちづれ】によって引き分けになってしまいましたが、あの戦いはまさにマチスさんらしい戦いだったと思います。

 

「とにかく動き回れ!」

 

 技を繰り出すでもなく、キングドラの周囲を素早く移動します。

 

「何をするつもりかは知らんが、無駄だ。【たつまき】!」

 

 コイルの進路を妨害する形で竜巻が発生します。しかし、先程のエレキブルで見せた豪快さとは打って変わって、マチスさんは至って冷静に様子を見ています。

 

「今度はこっちだ!」

「だから無駄だと!」

 

 またも【たつまき】を繰り出し、動きを防ぎます。するとステージ上にはいつの間にかいくつもの竜巻があり、それによって気流が荒れ放題です。

 

「こうもいくつも竜巻があれば、そちらは満足に動けまい? 何が狙いだ?」

「はん! んなこと言う訳ねぇだろ!」

「それもそうだな。【みずでっぽう】!」

「っ! 【ひかりのかべ】!」

 

 【たつまき】によって動きが制限された所に、すかさず【みずでっぽう】が放たれます。その水球は細く(するど)くそして速く、まるでスナイパーライフルの弾丸のようです。【ハイドロポンプ】の水量ではこのような繊細(せんさい)な攻撃は出来ません。そもそも【ハイドロポンプ】はその水量で相手を吹き飛ばす技ですので、的確に一点を狙うよりもそれよりも大きい面で攻撃する技ですから使い方が違いますね。それに、もっと広い面で押し流すのでしたら【なみのり】がありますね。

 そんな弾丸のような水球ですが、コイルの【ひかりのかべ】によって威力が弱められ、また角度を付けていたことで命中には至りませんでした。ただ、一瞬判断が遅ければ、あの鋭い水の弾によって(つらぬ)かれていたかもしれませんね。

 

「なるほどな。【たつまき】によって動きを封じたつもりだったが、こちらからの技の軌道(きどう)(しぼ)らせることが目的だったか」

 

 なるほど、設置型の補助技である【ひかりのかべ】を有効活用するには技のコースを少なくする必要があり、それをさせる為にあえて動き回って相手に【たつまき】を撃たせたということですか。ですが、竜巻によって動きを封じられているのはコイルだけです。キングドラは自身が生み出した技なので、悠々(ゆうゆう)と動き回ることが出来ます。このままではジリ貧ですが、何か突破の手段でもあるのでしょうか?

 立場的にジョウト側であるイブキさんを応援すべきなのですが、マチスさんの真意が知りたいと思い、ついつい考えてしまいます。

 

「だが、そちらは自由に動けないのに対し、こちらは制限がない」

「はんっ、それは勘違いだぜ! 周りをよく見な!」

「っ! これはっ」

 

 いつの間にか、キングドラの周囲には無数の金属の欠片(かけら)が浮遊していました。これは一体……いえ、もしかして……

 

「遅いぜ! 【マグネットボム】!」

「くっ、キングドラ!」

 

 すぐに反応したイブキさんは、キングドラに()けるよう指示を出しますが、無数の金属片(きんぞくへん)殺到(さっとう)されたことで逃げ道を失い、一部を食らってしまいました。

 しかし、通常の【マグネットボム】よりも明らかに小さく、また金属片が多いです。そもそも技名にボムが付くように、相手に吸い付く小型爆弾のような技です。にも関わらず爆発したのはほんの一部で、その他多数の金属はキングドラに貼り付いた状態のままです。

 それと、いつ技を出したのでしょうか。しかも不発がほとんどだったとはいえ、あれだけの数の金属片を周囲に設置……あ、あの時ですか!

 私が答えに辿(たど)り着いたとほぼ同時に、イブキさんも気付いたようです。

 

「あの時、動き回っていた時か!」

Exactly(正解だぜ)! あの時、地面にあらかじめばらまいておいたのさ! それをご丁寧にお前のキングドラが【たつまき】で拡散してくれたおかげで、こっちも包囲網(ほういもう)が出来たぜ」

「この程度で舐めるな。実際、ほとんど不発ではないか。コソコソとやったつもりだろうが、結果としてこちらにはほとんどダメージがない」

「いーや、そのくっついている不発弾のおかげで、キングドラの機動力が落ちた。これで技が当てられる(・・・・・・・)ぜ」

「ならば、追撃を受ける前に片を付けないとな」

「あん?」

「【とぎすます】」

 

 その言葉の直後、キングドラは動きを()め、ジッと相手のコイルを見つめます。その行動にマチスさんは笑みを浮かべます。

 

面白(おもしれ)ぇ、その技こっちにも使わせろよ」

「何だと?」

「【じこあんじ】」

「なっ!」

 

 【とぎすます】はジッと相手を見つめて集中し、次の攻撃を確実に急所に当てる技です。それをマチスさんは【じこあんじ】を使うことで、コイルにも【とぎすます】状態を作り出します。

 キングドラ側は体表に貼り付く大量の金属片によって動きが制限され、コイル側も周囲の竜巻によって身動きが出来ない状態です。その中での両者【とぎすます】による急所狙い。

 これはつまり、次の攻撃で勝負が決します!

 

「ここは西部劇のGunman(ガンマン)らしく、一撃で決めようじゃねぇか」

「フンッ、負けんぞ」

「こちとら本場だ。負ける道理がねぇ!」

「時代が違うだろ?」

「うるせぇ!」

 

 辺りは竜巻によって発生した暴風がけたたましい程に音を()き散らしているはずですが、不思議と音の中心点である2者の間には無音の状態のように見えます。それ程にまで緊張し、集中しているということでしょう。

 

「行くぞぉぉおお! 【でんじほう】!」

「【オーロラビーム】!」

 

 2つの異なる光の線がぶつかり、盛大に爆発しました。




 あえてここで切ることでポケスペ風を演出。
 結果は次回へ続きます!
 そして第2試合のアンズvsアカネが始まります。こうご期待。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 vs ミルタンク

 第1試合、マチスvsイブキ決着。
 そして第2試合のアンズvsアカネ、始まります。

 ポケスペ本編では対抗戦は13巻の3分の2のページ数で終わってしまいます。
 その中で回想や会話のシーンが挟まれますので、実際のバトルは非常に短く、また本当にジムリーダーですか? みたいな一方的な展開のバトルだったりします。
 ジムリーダーの中でも実力差があるのは仕方ないことですが、それにしてもあんなに一方的だったり、一瞬だったりするのはどうなのかと思った次第です。
 第1試合はいかがでしたでしょうか? こんな感じを後6試合(カツラさん棄権の為)続きます。バトルだらけです。お楽しみに。


 光が収まると、いつの間にかステージ上で風を()き散らせていたいくつもの竜巻は消え、静寂(せいじゃく)が辺りを(つつ)んでいました。

 ステージ上は技が交錯(こうさく)したことによる爆発によって発生した煙で、試合結果がどうなったのかまだ分かりません。

 

≪激しい技と技のぶつかり合い! 果たして、どうなったのでしょうか! 煙が濃く、詳細が分かりませんが……いや、煙が晴れてきました。そして……あ、あれは!≫

 

 クルミさんのアナウンスを聞いて改めてステージへ目を向けると、そこにはフラフラになりながらもどうにか浮いているコイルと、地面に倒れているキングドラの姿がありました。

 

≪キングドラ、戦闘不能! 勝者、マチスさんです!≫

 

 結果が告げられた途端(とたん)、静かに様子を見守っていた観客から一斉に歓声(かんせい)が上がります。

 ポケモンをモンスターボールに戻した2人は、目を合わせることなくステージを降りていきました。

 

「お疲れ様です。イブキさん」

「あぁ、すまない。負けてしまったよ」

 

 真っ先に声を掛けるのは、主将であり、同じジムリーダーという仲間であり、友人である私の役目です。

 しかし彼女は疲労の色こそあるものの、落ち込んでいる様子はなく、むしろ笑みを浮かべていました。

 

「どうかしましたか?」

「いやなに、最後の最後までしてやられたなって。相手の言葉に翻弄(ほんろう)されっぱなしだったよ」

「とてもそうには見えませんでしたが? それに、どのように決着が付いたのでしょうか?」

 

 あの爆発と煙のせいで、どうしてコイルが勝ち、キングドラが負けたのか分からない私は疑問を投げ掛けます。

 

「あぁ、それはな。相手の【マグネットボム】は不発弾ではなかったということだ」

「え?」

「あの技の本当の狙いは、【でんじほう】を確実に当てる為の誘導(ゆうどう)用の金属の役目を持たせたものだったのだ」

「そんな……」

 

 【マグネットボム】の不発弾を身体にまとわりつかせることで、動きを制限する。その目的は確かにあったのでしょう。しかしその裏では、高威力(ゆえ)に非常に当たりにくい【でんじほう】を確実に相手へと届けさせる為のポインターとして、電気を通しやすい金属で目印をしたということらしいです。

 

「あの男にそのような知恵があったとはな」

 

 マツバさん、完全にマチスさんを馬鹿にしていますよね? 表情からして明らかに冗談を言っているのが丸わかりですので、アカネさんは思わず吹き出してしまっています。

 

「しかし、不発弾が不発ではなかったということはどういう?」

「【でんじほう】は、あくまで電気の(かたまり)だ。そしてキングドラの身体に無数にある金属。確かに電気は届くだろうが、その金属を辿(たど)ってキングドラには表面にしかダメージがないはずだ」

「確かに……はっ」

「気付いたか。流石(さすが)だな」

「いえ……つまり、相手は【マグネットボム】を(おとり)に本命の【でんじほう】を放った。しかし、それすらも囮で、その実は、その電気によって一斉に身体に貼り付けた【マグネットボム】を誘爆させることにあったということですか」

「のようだな。今思えば、最初のエレキブルの強引なまでの力押しは、そういう戦い方であると印象付ける為のものであったかもしれない」

 

 何か、ポケスペ本編よりもえげつないことになっていませんか?

 そんな私の動揺(どうよう)余所(よそ)に、試合は続きます。

 

≪さぁ、続きましては第2試合! セキチクジムのアンズさん対、コガネジムのアカネちゃんです!≫

「よろしくでござる」

「負けへんでー」

≪それでは、試合開始です!≫

ミルたん(ミルタンク)!」

「ベトベター!」

 

 両者のポケモンが場に出ました。

 すると、すぐに動きがありました。

 

「【ころがる】や!」

 

 先手必勝(せんてひっしょう)を体現するかのような速攻です。【ころがる】は連続して当たる程、速度が増して威力も上昇する技です。そして、その1発目をベトベターはまともに受けてしまい、勢いに押されて後退します。

 

「まだまだ行くで!」

「【ちいさくなる】」

 

 しかし、連続で当てなければ意味がなく、ベトベターは【ちいさくなる】で非常に見づらいサイズにまで縮小してしまったことで、【ころがる】は(はず)れてしまいました。

 

ミルたん(ミルタンク)! ブレーキ! ブレーキや!」

「【どくガス】」

 

 上手いですね。ミルタンクが減速した(すき)()いて【どくガス】を浴びせました。視界を(うば)うと共に、ミルタンクを毒状態に(おちい)らせます。

 

「あぁ! ミルたん(ミルタンク)! しっかり!」

「【ベノムショック】」

 

 相手が毒状態の時に威力が倍増する【ベノムショック】。この一連の流れが綺麗に運ばれていてすごいですね。流石忍者です。

 ですが、【ちいさくなる】で回避率、【どくガス】で毒状態と視界不良と、ミルタンクの攻撃が当てづらく、また動きにくい状態ですね。ゲームの【どくガス】に命中率低下の副次(ふくじ)効果はありませんし、本来のガスも透明なのですが、ポケモンの技だからなのか薄紫色(うすむらさきいろ)のような色が付いていて、それが結果視界を(さまた)げることとなっています。

 

「あーもう! ちまちまちまちまと鬱陶(うっとう)しいねん! ミルたん(ミルタンク)! 【いやしのすず】!」

「ほぅ」

「それから【ころがる】や!」

 

 【いやしのすず】にて状態異常を回復したミルタンクは、今度は攻撃というよりもベトベターの位置を特定する為の行動のようです。これはまだ決着が付かなさそうでしたので、先程の試合でのもう1つ聞きそびれた疑問を解消することにしましょう。

 

「そういえば、【オーロラビーム】はコイルには届かなかったのですか?」

 

 アカネさん達の試合を見守りながら、アカネさんの代わりに隣に座ったイブキさんに気になっていたことを聞きます。

 

「いや、届いた。届いたが【ひかりのかべ】によって威力が若干(じゃっかん)弱まってしまい、ギリギリで耐えられてしまった」

 

 ゲームと違いこの世界の【リフレクター】や【ひかりのかべ】といった壁は、急所技でも貫通せずに威力減衰(げんすい)の役割を果たします。

 急所に命中と言っても、壁を無視して通り抜けて相手に当たる訳ではないので当然です。

 一方で、壁があるからと全方位の攻撃を弱める訳ではなく、あくまで壁がある方向のみというのもこの世界ならではです。

 つまり、壁のない所を狙って技を放っていたら、イブキさんが勝っていたか、もしくは相打ちで引き分けだったのかもしれないですね。

 本来ならそれが出来たかもしれませんが、周囲にある竜巻が【オーロラビーム】の最適なルートを(つぶ)してしまったことで、正面から撃ち合うことになってしまったということのようです。

 

「なるほど。まさかそこまで読まれていたとは思いませんが、上手く試合を運ばれてしまいましたね」

「だが、次は負けない」

「はい、それでこそイブキさんです」

 

 落ち込んでいる様子も強がっている様子もなく、ただひたすら強くなることを目標に掲げる彼女に安心しました。

 

 「見つけたでぇ!」

 

 すると、試合が動いたようです。

 戦いに意識を向けると、ずっと【ころがる】を維持したままステージの上を縦横無尽(じゅうおうむじん)に転がり続け、その勢いで【どくガス】も霧散(むさん)してしまっています。

 ここからベトベター側から何らかのアクションを起こすと、その発射点から位置を特定されると踏んだのか、ガスの霧が消えた今、ベトベターからの攻撃の様子はありません。

 にも関わらず、アカネさんはベトベターの位置を掴んだと言っています。どういうことでしょうか?

 

「そこや! 【のしかかり】!」

「何っ!」

 

 転がった勢いのまま飛び上がり、そこから一気にステージに向けて落下していきます。そして、その先にはアカネさんの言う通り、小さなベトベターと思われる影が落下予測点から逃げようと必死に動いているのが見えました。

 

「くっ【とける】!」

「押し潰せぇえ!」

 

 ミルタンクがステージへと落ち、少ししてゆっくりと腰を上げたミルタンクの下からは、のそのそと移動する小さなベトベターの姿がありました。

 

「直前の【とける】でギリギリ耐えられてもうたか」

「戻れ」

 

 危機一髪(ききいっぱつ)の所で耐えたベトベターをボールに収めるアンズさん。

 

「何故、場所が分かった?」

「あんた、まだジムリーダーなりたてやろ? 経験が浅いねん」

「それが何か?」

 

 口元を布で隠しているので、アンズさんの表情は分かりづらいですが、目元を見るに明らかにムッとした様子です。

 

「目で追っとるんのがバレバレやったで?」

「何?」

「相手から姿を隠していても、トレーナーだけは絶対に見失ってはあかん。そのことに意識を向けすぎたな。おかげであんたの視線の先をヒントに、ミルたん(ミルタンク)を転がらせてみて、視線が動けばそっちに移動したと予想したんや」

 

 アカネさん、すごいです。

 しかもミルタンクの使った【のしかかり】は、相手が【ちいさくなる】を使った状態で行うと、ダメージが倍増するものです。普通ならそれを食らった時点で戦闘不能で試合終了のはずでしたが、直前になってアンズさんは【とける】を指示しました。身体をドロドロにすることで、相手の物理攻撃を柔軟(じゅうなん)に受け止めることが出来る、防御を上げる技です。それによって、ほとんどペチャンコでしたが、何とか戦闘不能にならずに済んだということです。

 

「ただまぁ、こっちも大分(だいぶ)やられたでなぁ。お疲れ、ミルたん(ミルタンク)

 

 そう言って、アカネさんもミルタンクをボールに戻しました。

 【いやしのすず】によって、状態異常を回復することは出来ましたが、減ってしまった体力まで回復する訳ではありません。それに加えてベトベターを探す為に、散々転がっていたのですから、結構限界だったのかもしれません。

 

「それじゃあ、仕切り直しや」

「はい」

 

 2人はそれぞれモンスターボールを取り出して構えます。

 

「勝負決めるで?」

「勝たせて頂きます」

「やってみぃ?」

 

 そして2人同時に投げたボールから出て来たポケモンは……

 

「やったりぃ! ザンたん(ザングース)!」

()け、ハブネーク!」

 

 ザングース対ハブネーク! これは、夢のライバル同士の戦い! すごく燃えますね。

 

「【かみなりパンチ】!」

「【ポイズンテール】!」

 

 ザングースが腕に雷をまとわせ、ハブネークも毒液が(したた)る尻尾をほぼ同時に相手へとぶつけます。

 

「へん、こっちのザングースは【めんえき】や。毒にはならへんで? それに比べて、そっちのハブネークは麻痺(まひ)ったやろ? 身体が動かんみたいやで?」

 

 互いの攻撃は浅かったものの、状態異常の付与(ふよ)の差で、若干ですがザングースが有利です。しかし、すぐにハブネークは身体をモゾモゾと動かし、皮をベロンと()がして中からツヤツヤなハブネークが飛び出してきました。

 

「残念、こちらも特性【だっぴ】だ。状態異常になっても回復する」

「振り出しかいな。やけど、燃えてきたで」

「さっさと終わらせる」

「「フェイント!」」

 

 今度は互いに相手の意表を突く【フェイント】を同時に行ったことで、場所を入れ替えて再び対面します。

 それから何度か互いに技を繰り出すも、微妙に体力を削るのみで、決定打になりません。しかし、2人とも技を2つしか出していませんので、何か奥の手があるのでしょう。

 

「あーもぅ、これもあかんか……何か隠し(だま)があるんやろ?」

「それはそちらもでござろう?」

「せやねぇ……せやっ、ほんなら、次の一撃で決めるってのはどや?」

「決まらなかったら?」

「決まるて。互いの体力はもう微妙な所。ここで大きいのを食らえば戦闘不能になるやろう」

「分かった。(のぞ)む所だ」

 

 これは、先程のマチスさんとイブキさんの試合であったようなガンマンの抜き撃ち……いえ、どちらかと言えば、刀を収めた武士同士が向き合っている、そんな感じの雰囲気(ふんいき)です。

 

「下準備といくで【つめとぎ】」

「ではこちらも【とぐろをまく】」

 

 攻撃と命中を上げる【つめとぎ】。そして先の2つに加えて防御も上げる【とぐろをまく】。この次に繰り出される技はいったい……

 

「泣いても笑ってもこれで(しま)いや」

「泣きも笑いもせん」

「そうか? んなら……【ブレイククロー】!」

「っ! 【つじぎり】!」

 

 ザングースは一気に加速して接近。相手の(ふところ)へ飛び込みます。そして、そのままの勢いで大きく左腕を振りかぶり(するど)(とが)った爪を、勢い良く相手に向かって叩き付けました。それに合わせてハブネークも、負けじと鋭利(えいり)な刃物のような尻尾で斬り付けます。

 接触はほんの一瞬。しかしほんの(わず)か、ほぼ同時ですが2つ(・・)の音が聞こえました。

 ザングースは腕を振り切ったまま通り過ぎ、ハブネークも尻尾で切り裂いた姿勢で静止します。

 どちらが先に倒れるのか、それを見守る時間が1秒か2秒か、それともまだ一瞬のことなのか、緊迫(きんぱく)した空間が辺りを支配していた所に、ぐらりとハブネークが崩れ落ち、そのまま動かなくなりました。

 

≪ハ、ハブネーク戦闘不能! よって、勝者、アカネちゃん!≫

「やったでぇ!」

 

 喜び飛び跳ね、そのままザングースに抱き付くアカネさん。それを困ったようにオロオロするザングース。

 おめでとうございます。

 この言葉は、アカネさんが戻ってきたら改めて(おく)ることにしましょう。




 誰やこのトレーナー! コガネのジムリーダー、アカネさんや!
 ポケスペ本編では、スイクンの氷像相手に中々の戦闘を見せていたアカネですが、対抗戦でのカスミとの試合では一方的に(2ページで)やられてしまい良い所ありませんでしたので、こちらで活躍させました。
 これなら立派なジムリーダーですよね?

 ザングース対ハブネークは、ポケスペ本編でも互いにライバルとしてルビーの前で決闘をしていましたが、あみだくじの結果でノーマルタイプのアカネと毒タイプのアンズがぶつかると分かったので、是非ともやりたいと思いました。

 所で、本作の主人公のミカンちゃん。出番がないので仕方ないのですが、完全に解説者ポジションですね。


 以下、技について
 ポケモンの二次創作をしていて思いましたが、色々妄想出来て面白いですね。その中でも技について、PPのことなどでご指摘を頂きましたので、私なりの見解を改めて記しておきたいと思います。

・PPについて
 ゲームなどでお馴染みの技の使用可能回数のことです。
 オンラインで使用するような主力ポケモンには、とりあえずマックスアップで上限を引き上げる作業を行いますよね(まぁ、PP切れを起こす前に決着が付くことがほとんどですが)。
 ポケスペでも、PPの設定は反映されています。PPだけでなくHPも表示されたりしており、ここの所はゲームの設定に沿っているものですね。
 本作に於いてはそのPP設定をあえて排除し、ポケモンの体力、スタミナによって使える技の数に(大雑把ですが)制限を設けています。理由としては、ポケモンをデータの集合体、デジタルの存在ではなく、あくまで息のある生物であると考えた場合に、このPPという表現は不釣り合いだと勝手に判断したまでです(まぁスタミナとは別に、ポケモン独自の何とかエネルギーとかからエネルギーが供給されるという考えもしましたが、そうなると仮にスタミナ切れで息も絶え絶えで地面に倒れ込んでも、【かみなり】はPP10なのでその状態でも撃てるというのは、何か違う気がしただけです。あくまで独自解釈です)。
 本作では、第1話から述べていますが、スタミナ切れで行動不能で敗北という表現がある通り、そういう勝敗の決め方もあるということにしています。自身のエネルギーを振り絞って技を放っている訳ですから、使いすぎれば消耗が激しくて倒れてしまうのは、生物としては普通だと思います。機械制御されたロボットなら別ですが(コンセントに繋いでいる場合に限ります)。

 他にも、技の練度や使用出来る技が4つなどに関することも一応、妄想しましたが、長くなりすぎましたので、今回はこれだけです。お目汚し申し訳ありませんでした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 vs アメモース

 ハッピーハロウィンって何ですか?(真顔)

 第3試合、ナツメvsツクシ始まります。

 ステージ上でのツクシの口調は、あえて丁寧口調を外しています。
 特に理由はありませんが、まぁ、戦いに出る為の覚悟ということに、そんないい加減な感じに考えておいて下さいw

追記:誤字報告ありがとうございます。


 第2試合目は無事にアカネさんが勝利を収めたことで、1勝1敗となりました。次の第3試合は、ジョウト側はツクシさん、カントー側はナツメさんの戦いです。

 試合開始前までに、先程のザングースとハブネークの一連の流れを振り返ります。

 最後の攻撃の前、お互いにゲームで言う所の積み技を使用して準備を整えました。ザングースは【つめとぎ】。ハブネークは【とぐろをまく】。

 ザングースの方は分かりやすく、両手の爪を(こす)り合わせることで技名通り、爪研(つめと)ぎと行って爪を(するど)くし、攻撃力を上げると同時に相手へ狙い定める為に命中率も上がります。

 一方でハブネークの【とぐろをまく】ですが、蜷局(とぐろ)を巻くことで弱点である前面を隠して背部の硬い(うろこ)で身体を守って防御を上げると同時に、精神が落ち着かせることで攻撃に集中出来るようになる為に攻撃力と命中率が上がるものです。

 しかし、蜷局を巻いた状態でなら守りは問題ないでしょうが、攻撃の為の移動が出来なくなってしまいます。自ら攻撃を行う為には、尻尾や牙が届く範囲にまで相手に近付いてきてもらう必要があるということです。

 蜷局を巻いたままでは移動出来ないので当たり前ですが、ハブネークから接近して攻撃を行うならば、元の状態に戻る必要がありますから、攻防一体の体勢を自分から崩すことになりそれは明確な(すき)となってしまいます。ですが、動かなければ隙のない完璧な形です。少なくとも並の物理攻撃では突破出来ないでしょう。しかし、それをアカネさんのザングースは一瞬で相手の防御を突破して一撃で仕留めてみせました。

 練度(れんど)の差もは勿論(もちろん)あるでしょうが、それよりもあの時の接触時に聞こえた2つの音。ザングースは左手の爪で攻撃しようとしていました。しかし、右側から来る尻尾の攻撃を右手の爪で(はじ)き返したのです。そうしてほんの僅かに(ゆる)んだ防御の隙間を見逃さず、すかさず左で一気に切り裂いたのだと思われます。

 【ブレイククロー】。攻撃時に相手の防御を崩すことがある技。それを1回目の右で受けた時に行い、そして崩された所に2回目の左をねじ込んだのでしょう。これは手数の差ですね。ハブネークが尻尾の一刀流だったのに対して、ザングースは二刀流で挑んだ訳ですから。

 いずれにせよ、1試合目も2試合目も、最後の最後に緊張する激しい試合でした。

 

「おめでとうございます」

「おぉ、ミカン! ありがとな!」

「アカネさんが引き戻した勢いに乗って、ボクも頑張ります」

「次はツクシ君やもんな。応援しとるで!」

「はい!」

 

 元気に返事をして、彼はステージへと駆けていきました。

 

≪お待たせしました! それでは、第3試合! ヤマブキジムのナツメさん対、ヒワダジムのツクシさんです!≫

「よろしくお願いします」

「……」

≪試合、開始です!≫

 

 宣言と共に場にポケモンが現れます。

 ナツメさんはバリヤード、ツクシさんはアメモースです。

 

「アクアジェット!」

 

 これまた先程のアカネさんと同様に先手を取って、その勢いのまま優勢を取ろうという算段でしょうか。しかも、アメモースの大きく発達し、巨大な目のように見える触覚(しょっかく)を直視してしまったバリヤードは、ほんの僅かですが動きが(にぶ)くなりました。

 

「【いかく】か……だが」

「そこだー!」

「無駄だ」

 

 ですがすぐに反応してどうにか水をまとった突撃を回避。そこから距離を置くような形で、ステージ上をパントマイムのような仕草をしながら走り出します。これは、ポケスペでも見た【バリアー】の家を建築しているのでしょうか? しかし、速度の乗ったアメモースはすぐに追い付いて攻撃を仕掛けます。

 

「逃がさないよ! 【あやしいかぜ】!」

「ほぅ」

 

 ゴーストタイプの技はエスパータイプにとって効果抜群です。風の勢いもあってか、大きく吹き飛ばされます。しかし、さほどダメージがないのかすぐに立ち上がります。

 

「【フィルター】……」

「ご名答」

 

 ナツメさんのバリヤードは【フィルター】でしたか。効果抜群の技を受けても威力を弱める特性でしたね。

 

「でも、まだまだぁ! 【アクアジェット】!」

 

 威力は弱いですが、確実に相手よりも素早く行動出来る技を選択することで、常に次の攻撃へ仕掛けられるようにしているようです。

 アメモースは、【いかく】にも用いることが出来る巨大な触覚を持っていますが、その大きさはそのまま弱点になっています。あの触覚は水に()れてしまうと重くなってしまって、空中で姿勢を保持することが出来なくなってしまうのです。しかし、ツクシさんのアメモースは機動力が落ちる様子もなく、連続して【アクアジェット】で機動戦を仕掛けています。

 

鱗粉(りんぷん)ですか」

「ミカン?」

「あ、いえ、何でもありません」

「何か気付いたって感じ丸わかりやで?」

「あー、まぁ、そうですね」

「何に気付いたん?」

「はい。アメモースは、触覚が塗れると重くなってしまい、飛び続けることが難しくなってしまいます。ですがツクシさんのアメモースは【アクアジェット】を使い続けているのにその様子がありません。きっと、自身の鱗粉で触覚を保護しているからではないでしょうか」

「そうなんか。そんな弱点があったんや……」

 

 ポケモン図鑑の知識ですので、知らない人は知らないでしょうね。ちなみにエメラルド版が初出(しょしゅつ)です。

 

「【あやしいかぜ】!」

 

 また鋭い突風で攻撃を仕掛けます。

 しかし、それはとある場所で突如向きを変え、霧散してしまいます。

 

「これは……まさか!」

「残念だったな」

「【ひかりのかべ】……いや、違う。あれは、ダメージを軽減しても、なかったことにすることは出来ない。しかも【ひかりのかべ】なら光に反射して視覚出来るはず。なのにこれは無色透明で(さかい)が分からない。見えない壁が間にあるようだ」

「……そう。これは、ただの見えない壁だ」

「何?」

 

 あのバリヤードのパントマイムの動き、私では知覚出来ませんが、細かく指先を震わせることで出る波動によって空気中の分子の動きを止めることで、見えない空気の壁を作り出しているようです。しかも空気をその場で固定していることで、激しい攻撃にも耐えることが出来る……技ではないですが、限りなく技に近い技術(スキル)。それが、バリヤードという生き物です。

 とはいえ、野生や並のポケモンでは、ここまでの完成度の高い壁は作れません。ナツメさんのポケモンだからとしか言いようがありません。

 

「えげつないなぁ」

「えぇ、ですが、見て下さい」

「あん?」

「ツクシさん、楽しそうですよ?」

 

 ツクシさんは、どこに壁があるのか分からないので無闇に動くことが出来ない状態。完全にアドバンテージはナツメさんにある訳ですが、この状況でも笑っています。どういうことでしょうか。

 ちなみに、本来ならステージ上の声はこちらには届きません。音は空気を振動させることで伝わりますが、今、あちらは空気を固定した壁で囲まれています。震える空気がなければ音は聞こえません。が、彼等の会話は筒抜けです。何故なら、観客にバトルの状況が分かりやすいよう、私達ジムリーダー達にはそれぞれ試合開始の直前にピンマイクが装着されます。ここから発する電波は壁を通り抜けるので、無事何事もなく会話を聞くことが出来るということです。

 

「舐めないでもらいたいな? 見えないなら、見えるようにするまでだ!」

「む?」

「全方向に向かって【ぎんいろのかぜ】!」

「何?」

 

 (はね)をばたつかせ、鱗粉を乗せた風をばらまきます。あれでは、威力がないので壁を破壊することが出来ないはず。しかし、ツクシさんの狙いは、壁を壊すことではなかったようです。

 

「これは?」

「どうかな? これで壁の場所は分かった」

 

 鱗粉を見えない壁に付着させることで、少なくともツクシさんの周囲の壁の様子が見えました。ただ、鱗粉が内側から付着していますので、中の様子を見ることが出来ません。

 

≪おおっと、ツクシさんは【ぎんいろのかぜ】を使って、見えない壁を見える壁にしました! しかし、周りの鱗粉で私達からは中で何が起こっているのか、音声で想像することしか出来ません!≫

 

 そして、その音声も、次第に聞こえづらくなってきました。鱗粉を拡散させたことで電波障害を発生させ、ピンマイクの電波を阻害させるようになったのです。

 

≪音も分からなくなった今、中の様子が全く分かりません! 果たして、どちらが勝つのか……!≫

 

 次の瞬間、ドゴン! と空気を振るわせてステージ上で音がしました。そして……派手な破壊音と共に、箱の中からバリヤードがボロボロの状態で吹き飛ばされてきました。しかし、かろうじて受け身を取ることで地面に叩き付けられることを回避した上で、更に立ち上がりました。

 遅れて、箱の中からはナツメさんが悠然(ゆうぜん)と歩いてきて、バリヤードの様子を確認してボールに収めました。

 

「驚いたな」

「危なかったけどね!」

 

 そして、続けて箱の中から飛び出して来たのは、ヘラクロスとツクシさんでした。アメモースと入れ替えたんですね。

 

「空気の分子を固定して作られたとしても、あくまで物質を固めたものだ。そして、それが”壁”であるなら、破壊出来ない道理はない!」

 

 ヘラクロスの【かわらわり】ですか! 壁を破壊しつつ、その壁を張った張本人……張ポケモン? (ごと)殴り飛ばしたということみたいです。

 しかし、バリヤードはエスパーとフェアリータイプを持っています。格闘タイプの技である【かわらわり】では、そこまでダメージを与えられないはずなのですが、現にあのバリヤードは立ち上がることが出来る程度の体力は残っていたものの、身体中の傷は相当強力な攻撃を打ち込まれた証拠。ツクシさんのヘラクロス、一体どれだけのパワーがあるんですか?

 

「仕方ない。あれで終わらせるつもりだったが……」

 

 そう言って繰り出されたのは、風鈴ポケモン、チリーンでした。

 

「もう少し付き合ってやる。ただ、退屈なものになるな」

 

 と、チリーンが口を大きく開けて眠そうな声を出しました。【ちょうはつ】……ではないですね? あ、ヘラクロスが釣られて……【あくび】ですか!

 欠伸(あくび)連鎖(れんさ)し眠気を誘うと言いますが、あれはポケモンの技、眠気を誘う所か本当に眠らせてしまいます。そのカウントダウンが今、始まりました。

 ヘラクロスが眠る前にチリーンを倒せればツクシさんの勝ち。眠ってしまえば、そこに追撃をしてナツメさんの勝ち。ですが、これは圧倒的にナツメさんが有利です。時間稼ぎをすれば、勝手に眠ってくれるのですから。

 

「くっ! 急いで倒すよ! 【メガホーン】!」

「【なきごえ】」

「ヘラクロス!」

 

 攻撃が当たる瞬間、大声で鳴き声を上げて攻撃の勢いを弱める技、【なきごえ】。【メガホーン】を当てようと、姿勢を定めたその瞬間をピンポイントに狙いました。それによって、一瞬(ひる)んでしまい重心移動がスムーズに行えず、十分な威力の技を繰り出すことが出来ませんでした。それでも、パワーのあるヘラクロスの一撃。チリーンは大きく後ろへ突き飛ばされます。

 

「それは危険だな。封じさせてもらう。【かなしばり】」

「しまった!」

 

 直前に使った技を封じる【かなしばり】。これによって、ヘラクロスのメインウェポンが使えなくなってしまいました。

 

「まだまだぁ! 【つのでつく】!」

「【なきごえ】」

 

 猛攻が始まりますが、その(たび)に絶妙なタイミングで【なきごえ】を行うことで、打点をズラしたり、勢いが弱まった所を躱したりして、極力ダメージを食らわない戦いをしています。しかし、同じことを繰り返せば慣れてきます。実際に、時折声を出す素振りを見せるだけで身構えてしまい、結果攻撃が遅くなって躱されてしまうということも出て来てしまった。

 そういったフェイクを混ぜつつ、絶妙に時間を(けず)っていきます。

 

「よし!」

 

 そして、刻一刻(こくいっこく)と制限時間が(せま)る中、ついに【かなしばり】を破ったヘラクロスがチリーンに向けて突撃します。

 

「【メガホーン】!」

「時間だ」

「あぁ! ヘラクロス! しっかり! 起きて!」

 

 しかし、ツノが届く直前に、急激な眠気がヘラクロスを襲ったのか、これまでの激しい動きが何だったのかその場に深い眠りに()いてしまいました。

 

「残念だったな。【サイコキネシス】」

 

 格闘タイプもあるヘラクロスにとって、エスパー技は効果抜群です。しかも眠っている状態で防御態勢も受け身も取れない状況で、直撃を食らってしまい、そのまま戦闘不能とされてしまいました。

 

≪勝者、ナツメさんです!≫

 

 やや落ち込み気味に戻ってくるツクシさんに、(ねぎら)いの言葉を(おく)ります。

 

「お疲れ様です。残念でしたね」

「いやー、あの戦い方はえげつなかったわー。流石の強さやわー」

「オレは、あの透明な箱の中で何があったのか、知りたいな?」

「え、あ、はい。それはですね……」

 

 マツバさんが切り出したことで、ツクシさんが鱗粉で内側から染め上げられた箱の中での出来事を語り出します。

 中が見えない程に撒かれた鱗粉でしたが、ある程度ムラがあったようで、特に上部に光が差し込む穴がいくつも()けられていたそうです。そこから入り込んだ光が鱗粉で反射し、そこそこ明るかったのだとか。

 

「ボクは、壁を突破する為に、それを行ったバリヤードを倒すことにしました。まず動きを封じようと。ただ、相手はかなりの強者です。そうなると、正攻法では駄目だと思い、【しびれごな】を混ぜた【ぎんいろのかぜ】で攻撃しました」

 

 1回目は成功したそうですが、効果は薄く、またすぐに見破られてしまったことで2回目は防がれた所か跳ね返してきたそうです。

 

「【マジックコート】ですか」

「はい」

 

 状態異常にさせる技を相手へと返し、相手を状態異常にさせる技です。それによってアメモースは(しび)れてしまい、そこに【でんげきは】が撃ち込まれたことですかさずヘラクロスにチェンジ。

 ヘラクロスの格闘技も、タイプの相性で問題なく受けられるはずだったのでしょうが、アメモースとの戦闘で思いの(ほか)にダメージをもらっている上に、少量でも【しびれごな】を受けていたことで行動にほんの僅かな遅れが生じ、そこを見逃さずに【つっぱり】で壁に押し付けたのだそうです。あの傷はその時に付いたものだったのですね。

 そして、後のことは私達も見ていた通り、バリヤード毎【かわらわり】で壁を突破してみせたヘラクロスは、チリーンと戦い負けてしまったということです。

 ポケスペでも、ナツメさんとツクシさんの試合はナツメさんの一方的な試合運びによって、ツクシさんは惨敗してしまいます。この世界でのツクシさんも、同じ負けとなってしまいましたが、実際にこの目で見て、ツクシさんの話を聞くに、十分健闘(けんとう)したのではないかと思います。ポケスペではバリヤードに敗れたヘラクロスでしたが、今回は逆にヘラクロスがバリヤードを追い詰める展開となりました。

 次は第4試合ですね。果たしてカツラさんは出てくるのでしょうか?

 私は、ステージを挟んで反対側のカントー地方ジムリーダー達が座る席へ目を向けました。




 鱗粉って、あんな(本文参照)こと出来るんですかね? 分かりません。
 まぁポケモンの技だからということでご容赦をw

 以前も出したバリヤードですが、別に私は特にバリヤードが好きという訳ではありません。
 初代から大好きなのはコイル、レアコイル(ポケモン総選挙は知りません。4コマ漫画も知りません。知らないことにさせて下さい)です。
 2代目に鋼タイプが追加されて、鋼という響きだけで格好いいと興奮し、以降鋼タイプ統一パーティを組むようになりました(一時期砂パに浮気しましたが)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話 vs ムウマ

 遅くなりました(定型文)。
 次こそは頑張ります(余所見)。

 ということで、第5試合。マツバvsカスミです。どうぞ。


≪さぁ、続きまして第4試合です! グレンジムのカツラさん対、チョウジジムのヤナギさん! 両地方の一番のベテラン対決となります! え? あ、少々お待ち下さい……えぇ、申し訳ありません! カツラさんですが、体調が思わしくないとの情報が入りました! よって、試合順を変更し、第5試合を繰り上げて行います! 以降は、カツラさんの体調が戻り次第、試合を行う予定です!≫

 

 そのアナウンスを聞いたマツバさんが立ち上がり、カントー側もカスミさんがステージへ上がってきました。

 

「頑張って下さい」

「努力はするよ」

「勝つ努力をするんやマツバさん!」

「ははは、分かった。精一杯頑張るよ」

 

 軽く笑って、マツバさんもステージへ向かいます。

 

≪さぁて、お待たせしました! 第5試合をこれより開始します! ハナダジムのカスミさん対、エンジュジムのマツバさん! 試合開始です!≫

マリちゃん(マリルリ)! お願いね!」

「ヨマワル。出番だ」

 

 カスミさんはマリルリ、対するマツバさんはヨマワルを出しました。

 

「【アクアブレイク】!」

「引き付けて避けろ! 予想よりも動きが速い。しっかり相手を見て動きを合わせろ」

「逃がさないわよ! もう1回【アクアブレイク】!」

「くっ、ヨマワル」

 

 流石(さすが)カスミさんですね。水のエキスパートだけあってパートナーのポケモンの動きも(よど)みなく、川のような流れる動きでマツバさんのヨマワルを翻弄(ほんろう)しています。

 水をまとって突撃する【アクアブレイク】。技の発動の仕方としては【アクアジェット】に近いですが、【アクアジェット】は威力よりも加速の速さを求めるのに対して【アクアブレイク】は威力を重視し、そのぶつかった勢いで相手をよろけさせて防御の構えを(ゆる)める効果があります。

 その(すき)を突いて更に攻撃を重ねようと接近しますが、そこはジムリーダーが手塩に育て上げたポケモンです。ヨマワルも的確に動きつつ【ナイトヘッド】によって幻影を見せることで回避しています。

 ゲームでは固定ダメージの【ナイトヘッド】ですが、こっちの世界で言う幻影を見せて驚かせて精神攻撃をする、言わばSAN値チェックのようなものです。多分。

 

「【じゃれつく】よ!」

 

 その可愛さを振りまいて相手に密着しつつ、超至近距離から攻撃を仕掛けることでダメージを与える【じゃれつく】。これもまた高威力な技です。物理技を立て続けに出したということは、カスミさんのマリルリの特性は十中八九(じゅっちゅうはっく)【ちからもち】で間違いないでしょうね。マツバさんもそれを察知していたのか、口元に笑みを浮かべています。反撃ですね。

 

「厄介だが、突破口は見えた」

「だったら、隙を見せないままどんどん攻撃よ! マリちゃん!」

 

 再び【じゃれつく】を仕掛けるべく、接近するマリルリ。【じゃれつく】は、その可愛さに当てられて攻撃の意欲を奪う、ゲームでの攻撃を下げる効果があります。それを立て続けに食らわせることで、今度こそ物理攻撃の手段を奪おうというのかもしれません。

 しかし、ここでヨマワルが動きます。

 

「そこだ! 【おにび】!」

「しまった!」

 

 無闇に接近したことで、相手の【おにび】に自ら突っ込む形となってしまい、火傷(やけど)を負ってしまいました。

 次に仕掛けてくるタイミングを、ピッタリと予測出来たマツバさんすごいです。

 火傷状態になってしまうと、その部分が痛み、そこを気にしたり(かば)ったりしながら戦うこととなることになりますので、攻撃力を大幅に下げる効果があります。物理技に依存しているマリルリに取っては痛いでしょうね。更に流れはマツバさんの方へ(かたむ)きます。

 

「その特性ももらっておこうか。【スキルスワップ】」

マリちゃん(マリルリ)!」

 

 相手と特性を入れ替える【スキルスワップ】。マリルリは【ちからもち】、ヨマワルは【ふゆう】をそれぞれ交換することとなります。そうすることで、マリルリが地面から少し浮くようになりました。ヨマワルはあまり変わっていないように見えますが……

 これによって、マリルリは【ちからもち】を奪われた上に火傷状態となったことで、完全に攻撃の手段を(つぶ)されてしまいました。そこへ更に追い打ちを仕掛けます。

 マリルリが焦って攻撃体勢へ移ろうとしたタイミングで、あえて(・・・)遅れてヨマワルが動きます。

 

「【しっぺがえし】!」

「なっ!」

 

 相手よりも行動が遅い時に攻撃が成功すると威力が増加する【しっぺがえし】。しかも今のヨマワルは、マリルリから奪った【ちからもち】によって攻撃力が上がっていますので、物理技である【しっぺがえし】の威力は更に増えます。これによって、通常よりも手痛いダメージを食らうことで、マリルリは大きく後退してしまいました。

 しかも、【ふゆう】状態に慣れていないのでしょう、姿勢を立て直して受け身を取ろうとしても上手くいっていないようです。

 

「やるわね」

「どうも」

「でもね……」

「?」

「物理だけがマリちゃん(マリルリ)の攻撃じゃないのよ? 【ふるいたてる】!」

 

 火傷を負い、自身の特性である【ちからもち】すらも奪われた上にそれを利用して大ダメージを食らって意気消沈(いきしょうちん)するマリルリでしたが、カスミさんの指示でやる気を取り戻して相手を(にら)み付けながら身体を震わせて(かつ)を入れている様子です。

 

「【みずのはどう】!」

 

 特殊技!

 まさかの二刀(にとう)でしたか。

 水溜まりに水を1(てき)垂らした時に出来る、静かでそして幻想的に広がるその波紋(はもん)。それが幾重(いくえ)にも(かさ)なって、不規則な音のない水の音波が、ヨマワルを飲み込みます。

 

「ヨマワル!」

 

 そして、その特殊な音波に当てられたことで、ヨマワルの足取り(足ないですけど)はどこか覚束(おぼつか)ない感じです。どうやら、混乱状態に(おちい)ってしまったようです。

 

「まさかそのような手で突破してくるとはね」

「可愛いからって舐めないで頂戴(ちょうだい)?」

 

 それはどちらを指しているのでしょう? トレーナー? ポケモン? 私はどちらも可愛いと思いますよ。少々お転婆(てんば)が過ぎる所はアカネさんに似ていますが、彼女は恋する乙女です。仮に叶わないとしてもその純粋な想いは本物で、その経験が彼女を大きく大人の女性へと成長させる助けになるでしょう。大丈夫です。まだ若いんですから。あ、私もまだ高校生でしたね。

 

「とは言っても、マリちゃん(マリルリ)はちょっとこのままの続投は難しそうね」

「それはこちらも同じだよ。この混乱はかなり強力だね。上下左右が点でバラバラになっているのか、全然足取りが安定しない」

「ということは?」

「仕切り直しだな?」

 

 2人揃ってポケモンをボールに戻し、2つ目のボールを手にしました。

 

「頑張って、スタちゃん(スターミー)!」

「ムウマ! 今度はこちらから仕掛けるぞ。【10まんボルト】!」

「っ! スタちゃん(スターミー)!」

 

 今度はムウマの先制攻撃により、直撃を受けてしまったスターミーは体勢を崩しながらも距離を開けます。運良く麻痺(まひ)にはならなかった様子ですが、いきなりの大ダメージで既に追い込まれてしまったみたいです。

 

「これで決めるよ。【シャドーボール】!」

 

 霊的なエネルギーと言うのでしょうか、何やら黒い影のようなものを集めて相手へと発射する【シャドーボール】。水とエスパーの2つのタイプを持つスターミーにとっては、電気技もゴースト技も効果は抜群(ばつぐん)です。

 これで決まると、きっと誰もが思っていたことでしょう。ですが、私はカスミさんの(あせ)りながらもどこか余裕を感じさせる表情が引っ掛かってしまい、まだ何かあるとムウマの攻撃の行方を目で追います。

 

「何っ!」

 

 その声は、私達ジムリーダーの席からでしょうか、それとも観客か、あるいはステージ上のマツバさんのものでしょうか。いずれも会場全体が驚きによって一瞬静まり返ります。

 何と、ムウマの【シャドーボール】がスターミーを()り抜けたのです。

 

「【かげぶんしん】いや、分身なら複数の、少なくとももう1匹のスターミーがいるはず。では【みがわり】? 仮にそうだとしても、攻撃は擦り抜けずに【みがわり】の破壊が行われるはず。そもそもあのスターミーに【みがわり】を生み出せる程の体力は残されていない。いや、1つは作れるかもしれないが、それでもそんなに体力はないはずだ」

 

 イブキさんがブツブツと(つぶや)いていますが、これは相手を(あざむ)くのとは少し違う技ですね。

 

「ミカン、気付いてるんやろ?」

「何でそう思うんですか?」

「女の(かん)や」

「恐ろしいですね」

「で、答えは何や?」

「アカネさん、ジムリーダーなんですから、イブキさんみたいに自力で答えを見つけようとして下さい」

「ぐはっ」

 

 確かにアカネさんの言う通り、答えは分かりました。ですが、何でもホイホイと教えてしまっては身に付きません。私達ジムリーダーは、挑戦者がどのような戦法で来ようとも、それに対応しつつ正統な評価を下す必要があるのですから。

 今日この場は、他のジムリーダーの実力を間近で観察出来ると同時に、どのような戦い方をするのかなどを勉強する良い機会です。ジックリと見て聞いて話して、自身の(かて)としましょう。

 まぁ、残り1時間か2時間後か、それとももっと少ない時間かもしれませんが、ロケット団が押し寄せてパニックになってしまいますので、それ程のんびりとはしていられないんですけどね。

 

「そうか、【ほごしょく】か!」

 

 実際に対面し戦っているマツバさんは、流石に気付くのが早いですね。

 フィールドの環境によってタイプが変わる【ほごしょく】。現在この場所は室内です。【グラスフィールド】などでフィールド変化を行っていないので、ここでの【ほごしょく】は、ノーマルタイプへと変化します。

 電気タイプの技を等倍にし、ゴーストタイプの技を無効にするタイプです。これでムウマは手札の1つを封じられた形となります。

 

「やるねぇ」

「どういたしまして。それじゃあ、反撃よ! 【ハイドロポンプ】!」

 

 勢い良く発射された膨大(ぼうだい)な量の水。単純なだけに威力抜群の攻撃に、直撃こそありませんが、ムウマも避けきることが出来ずにダメージを負ってしまいます。

 

(かす)っただけでこの威力か」

「逆に決めたかったんだけど、そう上手くはいかないわね」

「そう簡単にはやられないよ? こっちもジョウトのジムリーダーとしての意地があるからね」

「それは私も同じよ? カントーのジムリーダーとして()じない活躍をしてみせるわ」

「はは、だが、それは難しいだろうな。【のろい】」

「なっ!」

 

 【のろい】。他のタイプなら”(のろ)い”と解釈(かいしゃく)してその場で腰を()えて素早さを落とすも、攻防両方への対応が出来るように構えることから攻撃力と防御力が上がる技です。ですが、ゴーストタイプのポケモンが使用するとその技は”(のろ)い”となり、自らを傷付ける代わりに対戦相手のポケモンの体力を徐々に(けず)っていき、最終的に戦闘不能へと持ち込む技。

 先程のツクシさんとナツメさんの試合では、眠るまでのタイムリミットが勝負の分かれ目となりましたが、今回はそのまま勝負が決まるカウントダウンです。

 ムウマがスターミーの猛攻(もうこう)を逃げ切れればムウマの勝ち。タイプ不一致の【ハイドロポンプ】が掠っただけでもあの威力です。他の技でも(とら)えられてしまえば大ダメージは必至。更に【のろい】によって自身の体力も削っているのです。ということで、力尽きるまでに相手に攻撃を当てることが出来ればスターミーの勝ちです。

 何故、どの試合もそんな緊迫感(きんぱくかん)(つつ)まれた息が詰まるような戦いばかりなのでしょうか。

 

「全力で相手の攻撃を(かわ)せ!」

スタちゃん(スターミー)追い掛けて!」

 

 攻撃手段がほとんど失われ、仮に【10まんボルト】を当てたとしても水タイプ相手でないことで耐えられてしまう可能性が高いです。もし攻撃態勢に入れば、その隙を突かれて攻撃されて終わってしまいますので、ムウマとしては逃げるしか手段がない状態です。

 一方でスターミーは、攻撃を当てなければ勝てない上に制限時間が刻々(こくこく)と迫っています。

 

「【こうそくスピン】!」

 

 するとここで、カスミさんのスターミーが激しく高速回転し、手裏剣のように相手へ向かいます。

 

「ノーマル技はこちらには……いや、避けろ!」

「そのまま【パワージェム】!」

 

 相手に接近したと同時に回転状態のまま、宝石のように輝く光の(かたまり)を放つ技【パワージェム】を周囲へとばらまき始めます。

 まるでシューティングゲームで見られる弾幕と呼ばれるような激しいラッシュ。光球の隙間と隙間を縫うように、しかし高速で逃げ回るムウマとそれを回転し追い掛けるスターミー。とても迫力があります。

 その弾幕は美しく、光球の1つ1つが様々な色に輝きながら進み、そしてステージから出る時にフッと消えます。その瞬間がまた綺麗で、ついつい見取れてしまいました。

 そして、この光の舞踏会(ぶとうかい)も終わりを(むか)えます。

 1つの【パワージェム】が直撃したことでバランスを崩したムウマ。そこに立て続けに弾幕の波にさらされたことで戦闘不能。ギリギリの所でスターミーの、カスミさんの勝ちとなりました。

 ちなみに、ポケスペ本編では【みちづれ】を使うことで引き分けに持ち込んでいましたが、この世界では互いに残り1体の場合、使用側が負けという判定となります。

 手持ち6匹の内で2匹を選出し、その中で1匹でも戦闘不能になった時点で試合終了ですので、その手段を()ることは出来なかったのかもしれないですね。




 本作の主人公はどこですか?
 本編の主人公もどこですか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話 vs オコリザル

 今回は短めです。

 ということで、第6試合。シジマvsタケシの試合をどうぞ。


≪それでは第6試合! ニビジムのタケシさん対、タンバジムのシジマさん! 試合、開始です!≫

「改めてニビジムのタケシだ。鉄にも負けない硬い岩が自慢だ」

「うむ! タンバジムのシジマだ。ならばその硬い岩をも我が拳は打ち(くだ)いてみせよう」

「「勝負!」」

 

 どちらも熱い男ですから、年齢差はありますが結構気が合いそうですね。

 

「行け! ズガイドス!」

「オコリザル!」

 

 タケシさんはズガイドスですか。ポケスペ本編では(ミカンちゃん)の(客観的に見て)欺瞞戦術(ぎまんせんじゅつ)(やぶ)れただけで相性さえ熟知していれば……多分それでも私が勝つでしょうがかなり苦戦すると思います。

 

「【からてチョップ】!」

「【アイアンヘッド】!」

 

 衝突(しょうとつ)の瞬間、ガンッ! と大きな音が会場に響きました。それと同時に会場全体の歓声が消え、静寂(せいじゃく)(つつ)まれます。

 急所に当たりやすい【からてチョップ】を硬質化(こうしつか)した頭蓋骨(ずがいこつ)で受け止めたズガイドス。それにしても、生き物から出て良い音じゃない気がします。ハガネール同士が激しくぶつかった時のような音でしたよ。あれ。

 

(きた)え上げられたこの攻撃を防ぐか」

「こちらも鍛えているんでね! 言っただろ? 硬いのが自慢だ! 押し返せ!」

「む! (こら)えろ!」

 

 オコリザルとズガイドス。どちらも平均の体長は1m程度で、体重も31kg前後とサイズはほぼ同じです。まぁジムリーダーのポケモンですので、戦法に合わせて身体作りをさせ、体重を増減させているでしょうが。

 恐らく、オコリザルは軽いフットワークを得る為に(しぼ)り、一方でズガイドスは防御を高めつつ重い頭を支える為に特に下半身の強化を行っているものと予想します。だからこそ、オコリザルの攻撃を受け止めつつも、足腰の踏ん張りのみで耐え、更に押し返すことが出来ているのだと思います。

 

「【みだれひっかき】!」

「まだ耐えろ! 【アイアンヘッド】!」

 

 効果が抜群な格闘技を食らっても一歩も引かないズガイドスを相手に、今度は手数で攻めるオコリザルに対し、タケシさんの方は慎重(しんちょう)に防御と時々反撃の指示を織り()ぜながら、攻勢に出る機会を(うかが)っている様子です。

 頭こそ硬いですが、それ以外の部位は普通にダメージをもらってしまう上に、相手の方が素早いので、一見互角に見えて結構ジリ貧の様子です。ですが、タケシさんもズガイドスも焦っている様子はなく、ただ虎視眈々(こしたんたん)(すき)(うかが)っているみたいです。

 

「っ! 【きあいだめ】!」

 

 4度目の衝突で、ついに【アイアンヘッド】によって(はじ)き飛ばされてしまったオコリザル。ダメージこそ大したものではないようですが、相手との距離が少し()いてしまいました。そこを見逃さずにタケシさんが指示を飛ばします。

 

「【しねんのずつき】!」

 

 突如(とつじょ)、地を蹴ったズガイドスが素早くオコリザルへと接近し、相手の構えを()り抜けるように(ふところ)へと飛び込んで、ぶたざるポケモンの象徴であり弱点でもある鼻を思いっ切り頭突きしました。

 

「オコリザル!」

 

 大きく飛ばされたオコリザルは、ステージから落ちるギリギリの所で止まりました。

 固唾(かたず)()んで一同が見守る中、何とか戦闘不能にならなかったようで、ゆっくりと立ち上がります。立ち上がったのですが、何だか様子がおかしいと言いますか……

 

「あ、もしかして、入っちゃった感じですか?」

「あー、そうやろうな」

「うむ」

 

 シジマさんのオコリザルの特性は【いかりのつぼ】です。

 瞬間、オコリザルは怒声というより咆哮(ほうこう)と呼べるような迫力ある声を発しました。

 【いかりのつぼ】は、急所攻撃を食らうと攻撃力が跳ね上がる。ゲームでは最大まで一気に上昇する特性です。

 そしてただの急所ではありません。ぶたざるポケモンとしての象徴である鼻を攻撃されたのです。その行為は容易(ようい)に”逆鱗(げきりん)”に()れるものです。

 

「【げきりん】!」

 

 そして、我武者羅(がむしゃら)に攻撃を行います。先程のようなシジマさんの指導によって身に付けた型に沿った動きではなく、本能に身を任せた、まさに野生の動きでズガイドスへ迫ります。

 

「【あばれる】!」

 

 そこで相手が取った手段が、同じように本能のまま暴れ(くる)う【あばれる】。

 互いに防御を捨てて、ひたすら(なぐ)()り頭突きをし尻尾を振るうもの。最早(もはや)トレーナーの指示はその耳に届かず、ただ目の前の相手を倒すだけ。それのみに集中してひたすら衝突を繰り返します。

 これは、ポケモンバトルというよりも、ただの生存競争にしか見えません。普通の一般トレーナーのポケモンであれば、この技を使った時点で完全にトレーナーの制御を離れて無差別に攻撃を始め、最悪トレーナーにも危害を加える恐れのある危険な技です。ですが、目の前で戦っているのはジムリーダーのポケモン。本能に身を任せているとはいえ、ギリギリの所で理性を保っていることで、見苦しい泥仕合(どろじあい)ではなく疑似的(ぎじてき)な【インファイト】の応酬(おうしゅう)となっています。

 というか、オコリザルは【インファイト】使えるのですから、それで良いのではないんですかね? あ、そういうツッコミは野暮(やぼ)ですかね?

 互いの攻撃が終わりを見せたのはほぼ同時でした。2匹ともすっかり疲れ切ってしまい、ほとんど動けない様子です。しかし、スタミナはまだほんの(わず)かとはいえ残されており、体力もゲームで言うならばレッドゾーンでしょうけども戦闘不能判定は出ていないですし、続行可能ということでしょうね。

 ただ、シジマさんもタケシさんもその状態での試合の続行は躊躇(ためら)われたのか、2人とも2匹をそれぞれのボールに収めます。

 

「これ程の猛攻を(しの)ぐ所かこちらも(あや)うくやられる所であった」

「それはこっちもだ」

「次はこうはいかんぞ?」

「それはこちらもだ。勝ってみせる!」

「ゴウカザル!」

「ルナトーン!」

 

 タケシさんが彼の代名詞であるイワークを出さなかったことに私は1人、こっそりと驚愕(きょうがく)します。

 そこはイワークじゃないんですか!

 そんな私の思いを余所(よそ)に試合は進みます。

 

「【ロックカット】!」

「【マッハパンチ】!」

 

 自身の身体の余分な部分を(けず)り取って素早さを上げる【ロックカット】。これによって素早さで勝るゴウカザルに追い(すが)ろうということですね。しかし、すかさず【マッハパンチ】を叩き込むことで体勢を崩させます。しかし、すぐに立て直し技を繰り出します。

 

「【コスモパワー】!」

 

 すると、ルナトーンの周囲にキラキラと輝く光の粒子のようなものが浮かび上がります。神秘的な輝きによって物理防御と特殊防御を上昇させる技。素早さに加えて防御面もカバーしてきましたね。

 

「このまま好きにはさせん! 【ニトロチャージ】で追い掛けて【アクロバット】!」

「【チャージビーム】で迎え撃て!」

 

 素早く逃げながら攻撃するルナトーンに対し、炎をまとって接近しつつも【チャージビーム】が直撃する寸前に【アクロバット】によって空中で身を(ひね)って避け、更に接近をします。

 

「まだだ!【チャージビーム】!」

「避けろ!」

 

 しかし、接近していたことが(あだ)となり、モロに直撃を食らってしまいました。

 通常の【アクロバット】の動きでしたらギリギリ(かわ)せたかもしれませんが、2発目の【チャージビーム】は明らかにビームの太さが太くなっていました。つまり……

 

「威力が上がっていますね」

 

 【チャージビーム】は使用すると高い確率で特殊攻撃力が上昇する技です。それによって、1発目よりも2発目の方が威力もビームの太さも大きくなっていたということです。

 ゴウカザルにサブウェポンで【だいもんじ】などを搭載(とうさい)しているのでしたら問題ないのですが、シジマさんのポケモンの特徴はやはり肉弾戦にあります。よって、ゴウカザルに【だいもんじ】を初めとした特殊技はないと思われます。

 相手は離れた位置から一方的に攻撃出来、こちらは接近しなければ攻撃が届かない。しかも相手は【ロックカット】で素早さを、【コスモパワー】で防御面をカバーしていますので接近も簡単なものではなく、また接近が出来たとしてもあの防御を抜くのは難しいものと思います。

 そんな移動要塞が出来つつある相手にも、シジマさんは一切表情を変えることなく指示を飛ばします。

 

「とにかく相手に近付け! そうでなければ勝てんぞ! 【ニトロチャージ】!」

「【サイコショック】!」

「【アクロバット】で避けろ!」

「まだまだぁ! 【チャージビーム】!」

「地面に向かって【マッハパンチ】!」

「着地した所を狙え! 【サイコショック】!」

「【ニトロチャージ】で踏み込め!」

 

 ルナトーンの激しい攻撃を()(くぐ)るゴウカザルですが、その動きは時間を()(ごと)洗練(せんれん)されたものへと変わりつつあります。その理由はやはり連続して使用された【ニトロチャージ】でしょう。

 炎をまとって突撃することで素早さを上げる技ですが、体温を上げて血流を速くすることで各部の筋肉への酸素供給量を増やし、素早さの上昇を実現しているものと思われます。

 そして、ついにルナトーンを(とら)えました。

 

「くっ、だが、この防御はそう易々(やすやす)とは抜かせない! その隙に【サイコショック】だ!」

随分(ずいぶん)と手こずったがこれで終わりだ。【おしおき】!」

 

 超至近距離で放たれた技を、その軽い身のこなしで躱して渾身(こんしん)の一撃を相手へと加えます。果たして、その技が当たったのは……

 

≪ルナトーン戦闘不能! 勝者、シジマさんです!≫

 

 目前に迫る【サイコショック】をギリギリの所で避けつつも更に接近し、その右腕を伸ばしてルナトーンを殴り付けたことで相手は一気に体力を削られ、戦闘不能となりました。

 相手の能力が上昇している程に技の威力が上がる【おしおき】ですが、最大威力を叩き込む為には相手の能力が出来るだけ多く上昇していることが求められます。それ(ゆえ)に、無理矢理ゴウカザルを接近させる必要があったのです。

 【ロックカット】や【コスモパワー】では足りない分の威力を【チャージビーム】によって(おぎな)わせるという、相手の戦力増強というシジマさん側からすると明らかに不利になることを狙うとは……私ではそんなリスクを負うことは出来ませんね。

 威力を最大にする必要があったのは【コスモパワー】によって上昇した防御補正はそのまま生きるからです。また、何度も派手に接近しようという動作をすることで、【コスモパワー】をさせる(ひま)を与えずに、ただひたすら迎撃をするよう仕向けたことも、試合を終えて改めて振り返って分かったことです。

 試合中はそんな所まで冷静に見ることは出来ませんでしたからね。

 相手の能力上昇によって最大威力となり、更に悪タイプの技である【おしおき】は岩に加えてエスパータイプであるルナトーンには効果抜群です。ですから、たった一撃とはいえ戦闘不能という結果になったということです。

 

「まだ向こうの体調は戻らないようですね。ということは、次はオレですかね?」

 

 そう言ってハヤトさんが立ち上がります。

 恐らくロケット団が来るまではカツラさんは戻ってこられないと思います。となりますと、このハヤトさんとエリカさんの試合が終わると、いよいよ私とグリーンさんの試合となりますね。

 今からドキドキしてきました。




 無駄技を上手く作品内で使って決めることが出来ると楽しいです。
 ゲームでは基本採用されませんからね。

 結果から見れば順当なのですが、その試合内容は結構激しいものです。
 もしかしたら一矢報(いっしむく)いた可能性もある試合をお届け出来ていたら良いなーと思っています。
 楽しいですけど、戦闘描写は書くの大変ですね。本当に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話 vs オオスバメ

 前回と打って変わって少々長めです。あくまで前回比です。

 ということで第7試合、エリカvsハヤトの試合です。どうぞ!


 気合い十分なハヤトさんに対し、ゆったりとした動作でステージに上がるエリカさんは流石(さすが)の余裕の表情です。

 この世界での私の憧れであるだけに、いつかあれくらい優雅(ゆうが)な女性になりたいものだと思います。まぁ、その為にはワンピースにスパッツにスニーカーというアンバランス過ぎる格好を見直さなければなりませんが……だって、激しく動いて下着見られたら恥ずかしいですから。仕方ないのです。

 

≪さぁいよいよ第7試合となります! カツラさんの体調の方は(いま)だに回復せずとのことですので、繰り上げて試合を行っております! それでは、両者前へ≫

 

 ステージに上がった2人の様子は対照的です。どう違うのかはあえて言う必要はないと思いますが、ハヤトさん、緊張するのは良いと思いますがそれではエリカさんには勝てませんよ?

 

≪それでは! タマムシジムのエリカさん対、キキョウジムのハヤトさん! 試合、開始です!≫

「行け! エアームド!」

「……舞いなさい。ロズレイド」

 

 いきなりエアームドで勝負に出ましたか。鋼タイプと飛行タイプを持つエアームドは、草タイプにとってやりづらい相手だと思います。しかも鋼ですから毒も()きません。弱点が炎技と電気技に限られ、その2つともロズレイドは覚えません。

【めざめるパワー】は現在この世界でも研究が進められており、条件は不明ながらもある程度そのポケモンの前世に関わりがあるのではという仮説が主流です。まぁ個体値がない世界ですからね。ゲームなら個体値を見ればすぐにタイプが分かりますが、生き物に個体値がないように、同じこの世界に息づく生物であるポケモンにもそのような数字はありません。

 

「何かをされる前に少しでも優勢に立つ! 【シザークロス】!」

「ロズレイド」

 

 本来の【シザークロス】はカマやツメをハサミのようにクロスして攻撃するもので、鳥ポケモンであれば足のツメで攻撃します。ですが、エアームドは硬質化した羽を持ち、それそのものが盾であり武器です。

 素早く接近し、()れ違う瞬間に羽を交差することで、()ちバサミのように葉を切り落とそうとします。しかしそれを難なくヒラリと(かわ)したロズレイドは、姿勢を(くず)すことなくその場に立っています。

 

「ならば、【みだれづき】!」

 

 1発の大きいダメージではなく、素早く細かく攻撃を加えることで回避も反撃もさせずに一方的な展開へと持って行こうとしているのでしょう。ですが、それもロズレイドは、まるでお城の舞踏会(ぶとうかい)(おど)るような優雅で無駄のない動きで()け続けます。

 

「くっ何故当たらない!」

「力が入りすぎているのですよ」

「何?」

「余計な力を抜いて、自然と一体化し、空気の流れを読み、そして、ふと気付けば葉が舞うような。そんなさりげない所作(しょさ)を身に付けると、広く様々なものが見えてきますよ?」

 

 圧倒的強者感ですね。

 本当にこの人ラスボスじゃないですかね?

 とりあえず、私がエリカさんとの試合でなくて助かりました。以前戦った時は、エリカさんがジムリーダーで私が駆け出しの一般トレーナーの時でしたので、相当手加減をして頂いてジムバッジと連絡先を取得することが出来ましたが、本気の彼女の実力は、一体どれ程なのか私でも分かりません。流石にレッドさんやグリーンさん、ヤナギさんには(おと)るとは思いますが、それでも十分な強者だと思います。

 おかしいですね。ポケスペ本編ではもう少し弱いと言ったら失礼ですが、街を守りながらとはいえ、トレーナーのいないパルシェン、シェルダー軍団に劣勢(れっせい)でした。それがこの世界で実際に会って戦ってみると、どのジムリーダーもほんとすごく強い人ばかりです。主人公達の活躍を良く見せる為にあえて弱体化させていたということでしょうか? 分かりません。

 

「確かに経験でも精神面でもあなたの方が上だろう。だが、それで相性の差をひっくり返すのにも限界がある。それに機動力ではこちらが勝っている。油断せずに、しっかりと相手を見て戦えば、負ける道理はない! 【はがねのつばさ】!」

 

 実際にハヤトさんを見ると、相手を(あなど)っていることもないですし、かといって強い相手だからと萎縮(いしゅく)していることもなく、ただ相手と自身の実力差を(かんが)みて、的確な立ち回りをしようと指示を出しています。攻撃が命中しないことに、若干(じゃっかん)(あせ)りの色がありますが、かといって相手からの決定打がないこともあるからか、思考を乱すまでの動揺(どうよう)はないみたいです。

 それに、ロズレイドの特性は【どくのトゲ】だと思われますが、鋼タイプであるエアームドは毒にはなりませんので、毒に(おか)される心配もなく接近戦を仕掛けることが出来ているみたいです。

 一応、【しぜんかいふく】の可能性も考慮(こうりょ)に入れる必要がありますし、原作(ゲーム)でのオンライン対戦ではそちらの方が主流だったと思いますが、以前エリカさんは「美しい花には毒があるものですよ」と言っていたので【どくのトゲ】だと判断しました。

 ちなみにその時は、トゲではないんですか? とは聞くことは出来ず「そうなんですね」と相槌(あいづち)を打ってしまいましたが、ツッコんで欲しかったのでしょうか。(いま)だに謎です。

 

「そうですね。それでは今度はこちらから参ります。今回の戦いを今後の(かて)と出来るよう、頑張って下さいね。【タネマシンガン】」

 

 連続して発射される無数の種の弾丸。1粒1粒の威力は小さいですが、それが連続でしかも高速で撃ち出されていますので、全てを食らってしまうとかなりのダメージになってしまいます。ですが、流石は大空を制する鳥ポケモンの使い手です。エアームドの死角をトレーナー自身が(おぎな)う形で、的確に指示を飛ばして飛行ルートをコントロールしています。

 

「流石に量が多い!」

 

 しかし、全てを避けることは(かな)わず、数発をその身で受けてしまいました。ただ衝撃こそあれど、物理耐久の高いポケモンです。しかも【はがねのつばさ】によって更に硬くなった羽へのダメージはほとんどないようで、戦闘への支障はないみたいです。

 と、思った瞬間。

 

「っ! エアームド!」

 

 当たった()の内のいくつかが突然発芽(はつが)し、そのまま(つる)を伸ばしてエアームドに絡み付きます。

 

「【やどりぎのタネ】が弾丸の中に混ぜられていたのか!」

「ご明察(めいさつ)。木を隠すなら森の中。タネを隠すならタネの中ですよ」

 

 ゲームでは毎ターン少しずつ体力が吸われていく技ですが、この世界ではそれに加えて蔓が身体中に巻き付いていることで、機動力も低下してしまっています。

 

「ようやく捕まえましたわ。【にほんばれ】」

 

 途端(とたん)に会場内が一気に明るくなりました。光源を探って見上げると、小さな太陽が顕在(けんざい)し、煌々(こうこう)としています。

 【にほんばれ】は、室内や洞窟(どうくつ)などの閉鎖(へいさ)された空間もしくは夜などの空に太陽がない場合、(せま)い範囲ですが小さな疑似(ぎじ)太陽を生み出してしばらくの間、辺りを照らすことが出来ます。

 また、朝方や夕方であろうとも太陽がまた空にある時間帯であれば、陽光を強くし、同じく一定の範囲を照らす効果があります。

 その照らしている時間や光量はポケモンの力量に左右されますが、快晴の昼時であれば、低い練度(れんど)であっても十分な効果が見込めます。

 つまり……エリカさん、(まぶ)しいです。これしばらく消えない(・・・・)奴ですね。分かります。

 

目眩(めくら)ましか! いや、違うならば何を!」

 

 本来の【にほんばれ】よりも強い光を放っていますので、まるで【フラッシュ】を食らったかのような感覚になりますが、狙いは違いますね。ロズレイドには鋼、飛行タイプであるエアームドに対抗する手段がないと言いましたが、天候を操作することで1つ実現する技があります。

 

「【ウェザーボール】」

「しまった! エアームド!」

 

 天候によって技のタイプが変わる【ウェザーボール】ですが、フィールドの状態が、日差しが強い時にはそのタイプは炎へと変化します。つまり、鋼タイプには効果は抜群(ばつぐん)です。おまけに(ゆる)いとはいえ【やどりぎのタネ】による拘束(こうそく)を受けている状態では、咄嗟(とっさ)に避けることが出来なかったようで、大ダメージを食らって落下してしまいました。

 

「くっ、戻れ!」

 

 体力は大きく削られたものの何とか耐えたエアームドを戻して、ハヤトさんはもう1匹のポケモンを繰り出しました。

 

「オオスバメ!」

 

 ツバメポケモンのオオスバメですか「【でんこうせっか】!」って速いです! 出してからの動き出しの速さ。流石です。

 場に出てすぐに相手へ突撃しますが、この動きは……?

 

「っ! ロズレイド戻って下さい!」

 

 エリカさんがボールを出してロズレイドを戻そうとします。そこでようやく私はハヤトさんの意図とそれを読んだエリカさんの行動を理解します。しかし、それが分かったからこそ、エリカさんは肝心(かんじん)なことを見落としていたことにも気付きます。

 

「エリカさん、咄嗟のことで焦りましたね」

「え? 何が……」

 

 アカネさんが疑問の声を上げようとしましたが、その答えはすぐ目の前で起こりました。

 

「【おいうち】!」

「しまった!」

 

 ロズレイドがボールに戻る瞬間を狙い、【でんこうせっか】で一気に距離を詰めて確実に【おいうち】を掛ける。これによって大ダメージを与えますが、これで戦闘不能にはならないでしょう。それよりも狙いは別にあります。

 

「さぁ、オオスバメ! 【こんじょう】だ!」

 

 ロズレイドの【どくのトゲ】に接触することで(みずか)ら毒状態となり、オオスバメの特性である【こんじょう】を発動させるとは……それを狙ったハヤトさんもですけれど、相手が【でんこうせっか】を使用した段階で狙いを読み切ったエリカさんもヤバいのではないですか? 【おいうち】までは読めていなかったようですが、もしあの時気付けていなければ【でんこうせっか】での接触で毒状態になる予定だったのかもしれません。

 何はともあれ、オオスバメは【こんじょう】を発動したことで攻撃力が大幅に上昇します。元々鳥ポケモンの中でも非常に高い機動力を持っていますから、かなり有利になったのではないでしょうか。

 

「油断はしていませんでしたが、完全に(きょ)を突かれました。では、次はより一層気を引き締めて参りましょう。舞いなさいキレイハナ」

「こちらも気を抜かずに全力で行く。【からげんき】!」

 

 いきなり勝負に出ましたね。状態異常の時に使うと威力が上昇する【からげんき】。ノーマルタイプの技で【こんじょう】発動しているオオスバメとは相性抜群の大火力が見込める技です。しかも既に毒状態ですから、ここから痺れさせたり眠らせたりしての行動を制限する技が効きませんので、相手の変化技をにそういった技があれば自動で封じることとなり、かなりのアドバンテージを持つことになります。

 しかし、オオスバメの攻撃は空振りとなってしまいます。そうでしたね。現在の天候は”晴れ”です。つまり特性【ようりょくそ】が発動して素早さが急上昇している状態です。

 

「くっやはり一筋縄では行かないか。だが、次は外さない! 【つばめがえし】!」

 

 素早い斬り込みで必中の技です。威力こそ控え目ですが、タイプ一致で【こんじょう】を発動している上に、草タイプには効果は抜群。十分なダメージが見込めます。

 

「キレイハナ!」

 

 ギリギリの所で直撃を躱したことで、1発で戦闘不能という事態は避けられてしまいましたが、ここからどう立て直すつもりなのでしょうか。タイプ的にも火力、素早さでも圧倒しているハヤトさん側が有利な立場なのは揺るぎませんが、まだ相手は何もしていません。何か仕掛ける手段があるのだと思います。

 

「仕留め(そこ)なったか。もう1度【つばめがえし】!」

 

 次の攻撃も当たってしまいますが、それでも戦闘不能にはなっていません。

 ……?

 おかしいです。2回の攻撃で既にキレイハナの体力は底を付いているはずです。にも関わらず、相変わらずのボロボロの状態のままではあるものの、ステージの上に立ち続けています。いや、攻撃が当たるほんの少し前、身体の(つや)が戻っているように感じました。

 

「? 何故倒れない? これならどうだ【つばめがえし】!」

 

 3度目の正直。そう誰もが思いましたが、それでもキレイハナの姿はそこにあります。確かに攻撃が当たる瞬間にヒラリと身を(ひね)ることで直撃しないようにはしていますが、それでも(かす)るだけでも少なくないダメージを負う攻撃です。それが3度も受けて立っているというのは異常です。

 もしかして【こうごうせい】でしょうか? 晴れ状態でしたら回復量が上昇しますので、直撃を避け続けているならばギリギリの所で回復が追い付き耐えることが出来ているということで説明は可能ですが……何か見落としている気がします。

 

「どういうことだ? オオスバメ……っ!」

 

 ここでハヤトさんが何かに気付いた様子です。オオスバメに何か異変でもあったのでしょうか?

 

「なるほど。そういうことか……オオスバメの攻撃力が下げられている。それで攻撃が当たる直前に回復……【ちからをすいとる】か」

「気付かれちゃいましたか」

「流石に3度ともなればな。2度目で違和感(いわかん)はあったが、今ので確信した。明らかに攻撃に力が入っていない。スタミナを(うば)っていたな?」

「正解です。ついでにその分も回復させて頂きました」

 

 草タイプのポケモンは回復手段が豊富です。多くは【こうごうせい】や相手の体力を奪いつつ回復する【ギガドレイン】、もしくは【やどりぎのタネ】が有名です。【ちからをすいとる】は使用可能なポケモンが数少ない為にこの世界での浸透率(しんとうりつ)は低いですので、私も完全に失念していました。逆にハヤトさんはよく気付きましたね。勉強熱心なのですね。

 ハヤトさんの動揺を見て、今度はエリカさんが仕掛けます。

 

「そして今度はこちらの演目にも注目して頂きますわ。【フラフラダンス】」

「なっ! オオスバメ! 直視するな!」

 

 指示が遅れてしまったことでオオスバメはキレイハナの【フラフラダンス】に釘付けとなってしまい、目が離せないようです。フラフラと規則性のない動きに(まど)わされてしまい、混乱してしまう技。しかもエリカさんのキレイハナの優雅で綺麗なダンスというよりも舞い、ですね。その美しさに見取れてしまい、余計に効果が上昇しているようです。

 

「では、第2幕です。幻想()へお連れ致しますわ」

 

 瞬間、周囲に様々な種類の花びらが舞い始めました。いえ、舞いなんて生易(なまやさ)しいものではありません。この花びらを乗せている風は、最早暴風! これは【はなふぶき】!

 

「花は美しいものですが、ただ(きら)びやかなだけではいけません。葉があってこその花ですわ。そこでお1つ。添えさせて頂きますわ」

 

 すると、花の暴風の中にいつの間にか葉が混じっています。

 

「さぁ舞い踊れ! 【リーフストーム】!」

 

 キレイハナは優雅に舞を続け、その周囲を花びらと葉が荒れ狂う風に乗せて円舞曲(ワルツ)を踊り、そしてそれらをステージ上の太陽がスポットライトのように照らし出します。まるでそれは1つのショーそのもので、その美しいながらも荒々しい光景に誰もが息を()んで見守っていました。

 そして次第(しだい)に風が収まり、ステージ上には花や葉が散乱している中、エリカさんとキレイハナが同時にしっかりとした姿勢でお辞儀をします。

 

「ご観覧、ありがとうございました」

「なっ……オオスバメ!」

 

 ハヤトさんのオオスバメは【フラフラダンス】によって混乱状態に(おちい)って判断力が(いちじる)しく低下していたことに加え、事前の【ちからをすいとる】によるスタミナの消費、そしてトドメに【はなふぶき】と【リーフストーム】の合わせ技に()(すべ)なく全身に花びらや葉がまとわりついて飛行が出来ず落下。そこに無情にも更なる美しい暴風が襲い掛かったことで体力が削られ、戦闘不能となってしまったようです。

 

≪オ、オオスバメ、戦闘不能! 勝者、エリカさん! いやーそれにしてもすごかったです。私、思わず見取れてしまいました! こんな優雅で美しい試合が見られるなんて思っても見ませんでした!≫

 

 クルミさんの実況で我に返った観客達が、一斉に歓声を上げます。

 それを背に、肩を落としてステージから降りてくるハヤトさんを(はげ)まします。

 

「残念やったな。まぁでも、これも経験や! まだまだ上があるっちゅーことは、自分はまだ伸びるってことや! 頑張り?」

「そうですよ。まだこれからですから。自分の戦い方を見つけましょう」

「うむ! もし迷ったのならウチの道場へ来ると良い! お前の父親とは旧友だ。稽古(けいこ)くらいは付けてやる」

「はい! ありがとうございます!」

 

 さて……

 

「お、いよいよやな?」

「ミカンさん、応援しています!」

「ボクも応援してるよ」

「オレもだ」

「オレの自慢の弟子(でし)だ! 強いぞ! どっちが勝つか楽しみだ!」

「まぁ無様な試合だけは見せてくれるなよ?」

「私も、見守らせて頂きますよ」

 

 私は静かに席を立ち、ステージを見つめます。

 

≪大変申し訳ありませんが、カツラさんの体調が戻られないということで、先に主将戦から始めさせて頂きたいと思います! 両者、ステージへお上がり下さい!≫

 

 私は軽く息を吸って、声を掛け下さった仲間の皆様に笑顔で(こた)えます。

 

「行ってきます」




 【おいうち】は物理接触技なので、【どくのトゲ】などの接触によって状態異常が発生する特性が発動すると思いますが、実際にはどうなるのかは知りません。まぁ仮にしないにしても、本作ではするということでご了承下さい。

 ということで、エリカさんvsハヤトでした(何故かエリカさんはさん付けしてしまう)。
 私の中のエリカさんはこんな感じです。強すぎですかね?
 エリカさんは強くて美しい。まさに高嶺(たかね)の花。そんなイメージで書きました。
 書いてから気付きましたが、キレイハナには技名で指示を出していませんでした。まぁ、以心伝心(いしんでんしん)がしっかりと出来ているということにしておきましょう。

 さて、次回はいよいよ対抗戦(エキシビションマッチ)の最終試合。ミカンちゃんvsグリーンです。
 どのような試合になるのか、楽しみにお待ち下さい。
 出来る限り頑張って、読んでいる方々が楽しめるような試合展開に出来るよう努力はしますが、実現するかは未定です(保険)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話 vs ドサイドン

 ようやく対抗戦(エキシビションマッチ)最終戦です(カツラさんの出番はなく、ポケスペ本編通りに進めております)。
 1試合で1話使っていますので、対抗戦だけで7話も稼ぎました。長かったですね。もう戦闘描写いらないですよね?w
 ポケスペ本編ではグリーンがシルバーと遭遇し、その後にエンテイに出会いますが、一応本作でもそのイベントをこなしております。
 ただシジマとの試合はありませんでしたが、シジマ(師匠)の試合を観戦するということで、本編通りのタイミングでグリーンの姉、ナナミさんに連れ戻されます。


≪さぁいよいよ始まります、カントー地方対ジョウト地方のジムリーダー対抗戦! 主将戦です! ポケモン協会や各ジムリーダー達の推薦(すいせん)によって選ばれた、まさに実力者の中の実力者!≫

 

 実況のクルミさん、(あお)りますね……私は緊張が半端(はんぱ)ないんですけど。相手のグリーンさんは慣れているというよりも緊張とは無縁のようで、すごく落ち着いていますね。

 

≪それでは皆様ステージへご注目! トキワジムのグリーンさん対、アサギジムのミカンさん! 主将戦……開始です!≫

 

 すると、私もグリーンさんもモンスターボールを6個投げて、6匹の手持ちを(さら)します。

 

≪おおっと! これは! 両者ともいきなり手の内を見せに来ました! この中から2匹のポケモンが選ばれて戦うことになりますが、さて、最初に何を出してくるのか!≫

 

 私の方は技構成を一部変更していますが、いつものメンバーですね。

 レーちゃん(レアコイル)ルーちゃん(ハガネール)ムーちゃん(エアームド)クーちゃん(クチート)ラーちゃん(ココドラ)クラウン(エンペルト)です。

 そして、相手は……ギャラドス、ピジョット、ウィンディ、フーディン、ナッシー、ドサイドンですか。

 

「前回のポケモンリーグの時とは、随分(ずいぶん)とメンバーが違うみたいですね」

「あぁ、ジムリーダー就任後に、修練(しゅうれん)として1から育て直した」

「なるほど。では、お願いしますね。ジムリーダーの先輩として恥じないような戦いをしたいと思います」

「ふん、実力の高さは聞いている。こちらも油断なぞしないし遠慮(えんりょ)もしない」

「分かりました。クーちゃん(クチート)

「ドサイドン!」

 

 それぞれ1匹だけ残して残りのメンバーをボールに収めます。私は、クーちゃん(クチート)を可愛がり応援する仕草(・・)をする為にしゃがみ込みます。

 

「ちっ、【いかく】か」

「はい」

 

 クチートと言えば大きなアゴを相手に向けることによる【いかく】です。そしてその間は相手に背を向けた体勢という面白い特徴のポケモンです。

 

クーちゃん(クチート)今日も可愛いですね。終わったらお菓子買ってありますから、頑張りましょうね?」

 

 (あざむ)きポケモンであるので、私のこれが演技であることは理解しているはずです。実際に、目をキラキラとさせながらも、一瞬も相手から意識を逸らすことをしないという器用なことをしています。あ、お菓子は本当ですよ?

 

「……」

 

 警戒(けいかい)しているのか、今のやり取りを(あき)れて見ているのか、速攻では来ませんね。私の今の姿勢では、グリーンさんの姿を確認することが出来ません。ドサイドンとクーちゃん(クチート)によって私の姿がほとんど見えないようにしています。

 チラリと彼女の影から相手のドサイドンの様子を(うかが)うと、アゴをチラチラと見つつ目を逸らしたりしています。

 ふむ……

 (まばた)きの頻度(ひんど)間隔(かんかく)、目を逸らすタイミング、向き、時間。なるほど、ジムリーダー就任からの短い期間で育てたにしては、かなりの練度(れんど)ですね。ですが、穴はあります。そこですね。

 グリーンさんの立ち位置は、ドサイドンの真後ろということではありません。体長は2mを優に超え、胴回りもガッシリとした身体付きのドサイドンの真後ろに立っていたのでは、相手のポケモンの様子が分かりません。ですので、右後ろから、私から見て左側に位置しています。

 私からはグリーンさんの様子は分かりません。ですが、クーちゃん(クチート)がチラチラとアゴを前にしたまま後ろを振り返って、ドサイドンの様子を見る振りをしてグリーンさんを盗み見してくれています。それをアイコンタクトで伝えてもらいながら、タイミングを(はか)ります。

 私がドサイドン(ポケモン)を観察し、彼女がグリーン(トレーナー)さんを見るという不思議な状態ですね。

 

≪さぁ試合開始して10秒以上経過しましたが、お互いに動きがありません! これは両者とも警戒しているのでしょうか! しかし、ミカンさんの方は思いっ切りクチートを可愛がっていますね。その様子も可愛いと思います!≫

 

 実況は聞き流すとして、その数秒の間に情報は得ました。行きますよ?

 グリーンさんの瞬きとドサイドンがこちらから見て左へ目を逸らしたタイミングで、スッと音もなくクーちゃん(クチート)が右へ回り込むように動き出します。

 

「っ! 消えたっ? っく、左だ!」

 

 瞬きはほんの一瞬です。それなのに、その瞬間に相手のポケモンの姿がなく、しゃがんだ私だけがいる状況に、すぐに反応して指示を出します。

 

「【アームハンマー】!」

 

 そしてそれに反応して太い両腕を振り下ろし、接近していたクーちゃん(クチート)を叩き潰そうとします。そこまでの流れの中で、グリーンさんはクーちゃん(クチート)の位置を目視していませんが、トレーナーとしての経験か、勘か。いずれにせよ、感覚によって正確な指示を出しましたね。

 ガキンッ!

 これまたシジマさんとタケシさんの時のような、硬いものと硬いものが激しく衝突(しょうとつ)した音が響きます。ドサイドンの腕と彼女のアゴがぶつかったのです。しかし、上手(うま)いこと技を流したことで、音の割にはこちら側にダメージはあまりありません。HPで言えば3分の1程(けず)られた程度でしょうか。

 そして、一瞬離れた時に、すぐさまクーちゃん(クチート)がアゴを大きく開けて襲い掛かります。それを目視で確認したグリーンさんが「受け止めろ!」と叫びます。

 

「くっ、攻撃していない(・・・・・・・)のに【ふいうち】だと?」

「いいえ? 普通の移動ですよ? ただ、ちょっとした”()”を利用させて頂きましたが」

「……そういうことか」

 

 理解するの早過ぎじゃないですかね?

 

「だが、ここからどうする?」

「どうするとは?」

「自慢のアゴを封じられて、本体の攻撃も届かない状態だ。そこからどう仕掛けるつもりだ?」

「うーん、そうですねー」

 

 と、すっとぼけながら立ち上がり、目を上に向けます。

 

「まだ、暑いくらいに輝いていますね」

「何? っ! ドサイドン! すぐに投げ飛ばせ!」

「遅いですよ」

 

 投げ飛ばす前に咄嗟(とっさ)に手を離してしまったドサイドンの両手は、火傷(やけど)していました。

 

「【ほのおのキバ】……」

「エリカさんには感謝です。おかげで火力を(おぎな)うことが出来ました」

 

 そうです。何と(いま)だにステージの上ではエリカさんのロズレイドが使用した【にほんばれ】によって生み出された疑似(ぎじ)太陽が輝いていたのです。ポケモンの技量によって光量や時間が左右されるとは言いますが、それでも長すぎです。”あついいわ”でも持たせているんじゃないんですかねと思う程の長さと暑さです。肌が汗ばみワンピースの下の肌着やスパッツが皮膚(ひふ)に貼り付きます。

 そして、アゴを両手で(つか)み、噛み付かれないようにしていた所にキバに炎をまとわせたということです。熱したフライパンに触れるようなものです。いえ、それ以上に炎そのものですから、更に熱いはずです。岩タイプであっても、流石(さすが)(こら)えられなかったようで手を離してしまいました。しかしこちらも追撃をせずに距離を開けます。

 

「【メガホーン】!」

 

 【いかく】と火傷によって持ち前のパワーが十全に生かせない状態とはいえ、それでもやはり並み居るパワーファイターです。大きなツノを振り回して攻撃してきます。

 動揺(どうよう)を見せずにすぐに対応する辺り、本当に優秀なトレーナーさんで、それに(こた)えるドサイドンもよく育てられています。

 ただ、先程のやり取りの後に追撃させずに距離を取るようアイコンタクトで伝えてありましたので、ツノが届かない範囲にまで離脱することに成功しています。

 私が右腕を前へ突き出すと、クーちゃん(クチート)はその場で頭の大アゴを開き、相手へ向けます。そこに集束される光。それは本来ならもう少しチャージする必要があるもの。ですが、この天候がそのチャージ時間をなしにしてくれます。

 

「ドサイドン!」

 

 集められた光は相手へ向けて、太い線となって襲い掛かります。

 

「【ソーラービーム】です……が、ギリギリ耐えられてしまったようですね」

 

 弱点技のダメージを軽減する【ハードロック】の特性のおかげで、何とか踏みとどまってこちらを(にら)み付けています。

 

「マジで四天王レベルの実力だな。実際に戦ったことがあるからよく分かる。トレーナーの指示がないのに的確な攻撃を仕掛けてくる。まるであの時のようだ」

「よく分かりませんが、ありがとうございます?」

 

 あの時とは、きっと、スオウ島での四天王のキクコさんとの戦いでしょう。音に反応して攻撃をするよう指示を受けたゲンガーを相手に、当時のセキチクジムのジムリーダーでありロケット団の幹部であり忍者であり現セキチクジム、ジムリーダーのアンズさんの父親であるキョウさんと共闘して倒したのでしたね。って、長すぎです。キョウさん。しかし、キョウもアンズも同じ”杏”の読み方ですね。では、奥さんはアプリコット……じゃなくてカラモモですかね?

 

「戻れ」

 

 と、グリーンさんはドサイドンを戻しました。不利と判断したのかもしれませんが、単純に流れを変える意味でもこの交換は当然だと思います。今流れは私に来ています。ですが、それはあくまで奇襲の勢いに乗っただけで、相手の意表を突くものばかりだったからです。

 グリーンさんは、ポケモンバトルを論理的に組み立てて実行するのが上手いと聞きます。ですから常に冷静なのでしょうけども、そこをまず崩すことで相手をペースに乗せずに、一方的にこちらの流れへ飲み込む方向で試合を進めました。

 ですが、これで同じような奇襲はもう出来ません。次は正攻法、つまり力押しで行くか、または別の(から)め手で翻弄(ほんろう)しなければ勝てません。

 

「ウィンディ」

 

 うーん。正攻法は難しいかもしれませんね。

 クーちゃん(クチート)が炎技、草技を使ったのでその対策でしょうね。そして、クーちゃん(クチート)(おび)えが見られませんので、恐らく特性は【もらいび】。後出しですので【いかく】もゲーム(原作)のように全く意味がない訳ではないですが、それでも効果はかなり薄くなっています。

 【ふいうち】を最初に疑ったように警戒はしているでしょう。ということは、当然【しんそく】、ありますよね? 【メロメロ】で動きを縛っても決定打がありません。

 うん。無理ですね。おまけに日差しが強いので炎技の威力が上がってしまいます。いつまであるんですかね? あの太陽。

 

「私も交換します。クーちゃん(クチート)お疲れ様でした。お願いしますね。ラーちゃん(ココドラ)

「エンペルトではないのだな」

「そうですね」

 

 絶対に対策しているでしょ。炎技が封じられてもウィンディでクラウン(エンペルト)を突破する手段……【ワイルドボルト】か【インファイト】でしょうね。相性は悪いですが、私のラーちゃん(ココドラ)の硬さでしたらウィンディの【インファイト】にも対抗出来ます。

 

「【しんそく】からの【フレアドライブ】!」

「速い!」

 

 ですが、こちらから向かっても相手の素早さに置いて行かれてしまいます。ならば、向こうから来るのを待つのが最も確実です。ダメージ覚悟ですけども、私のラーちゃん(ココドラ)ならば問題ありません。(きた)えていますから!

 一気に距離を詰め、その勢いのまま炎をまとった身体が彼にぶつかります。体長2m近くで体重150kg以上の身体がものすごい速さで突進してくるのですから、例え私のラーちゃん(ココドラ)が通常種よりも鍛えて重くしてあったとしても、40cm弱で70kgしかありませんので、普通ならば()ね飛ばされてしまいます。

 実際に、一度身体が浮きかけますが、すぐに踏ん張って踏み留まります。そして、次の瞬間、激しい爆発と共にウィンディが吹き飛ばされます。

 

「【メタルバースト】か!」

「ギリギリ間に合いましたけどね」

 

 ダメージを受けた時に身体を(おお)う金属部の表面を切り離して、戦車の爆発反応装甲のように爆発させて自身のダメージを軽減しつつ、相手に大ダメージを与える技です。ゲーム(原作)と大きく仕様が異なる技ですので当初は戸惑(とまど)ったのですが、結構使い勝手が良いのでこれはこれで良いかなと思います。特殊技に対しては、距離に応じて効果が落ちるという欠点がありますが、まぁそれはそれです。

 しかし、物理技に対してほぼダメージなく大ダメージを返せるとはいえ、ノーリスクという訳ではありません。自身の身体の表面を削って爆発させていますので、使える回数が非常に少なく、また使う(たび)に威力が落ちます。

 とりあえず、爆発によって距離が出来ましたので、この(すき)に行動しましょう。

 

「【ロックカット】です」

 

 足りない速さをこれで補います。それでも相手の方が素早く回り込んできます。

 

「【しんそく】!」

「【メタル……】避けて下さい!」

 

 しかし、先程の【メタルバースト】が頭を()ぎったのでしょう。一瞬だけですが足の出が遅かったです。秒数にするとほんの0.2秒程度ですが、その遅れは回避行動へ入るには容易な時間となります。

 

「ちっ、厄介だな」

 

 ちらつかせるだけで、本能的に(すく)んでしまった。正しいことです。過去の出来事を経て、自己を防衛する大事な反応です。それを克服し、トレーナーを完全に信じて飛び込めるようになるには、やはり練度の他に信頼関係を構築する時間が足りないようですね。

 

「そこだ! 【フレアドライブ】!」

「後ろへ! 危なかったです」

 

 今のはシビアでした。それでも、最初の攻撃と比べると踏み込みのタイミングがどうしてもほんの瞬き1回にも満たない時間ですが、遅れてしまっています。限りなく誤差に近いズレですが、そのおかげで今の攻撃を避けることが出来ました。そうでなければ側面から当てられてしまい、大きくダメージを負ってしまっていたでしょう。

 やはり、この天候は不利ですね。最初のドサイドンとの戦いでは良い方向へ作用したというか、利用出来ましたが、今は完全に困ったことになっています。

 

「逃がすな! 【ワイルドボルト】!」

「前転!」

 

 これもきわどいです。それでも、やはりズレがあります。技の指示を受けてから行動に移すまでの速さは一級品です。ですが、そこから1歩踏み込む時に【メタルバースト】のことが脳裏に浮かぶのか、躊躇(ちゅうちょ)する、相手の技への恐怖の感情が若干感じ取れます。

 厳しい修行の中でそういった場面はいくつもあって、それを乗り越えてきたのでしょうが、完全に克服するには、まだ少しだけ経験値が足りなかったみたいですね。

 本当ならもう少し観察して、確実に勝てる道筋を立てたい所でしたが、このまま時間を掛けてしまうとその経験値をこの戦いの中で埋められてしまう可能性があります。そうなると、先程まで避けられていた攻撃も当たるようになってしまいます。

 さて……もう1度、こちらに流れを引き寄せられますかね?

 

「このままの天気はちょっと良くないので、変えましょうか。ついでにちょっと姿を隠しますね。【すなあらし】」

 

 とりあえず、環境を変えます。

 すると、天井近くでずっと輝いていた疑似太陽は消え、今度はラーちゃん(ココドラ)を中心に砂が風に乗って舞い始め、激しい砂嵐となります。

 別に【すながくれ】の特性がある訳ではないですが、この砂と風の暴力を前に、相手の姿を捕捉(ほそく)することは難しいと思います。

 

「くっどこだ!」

「ただでさえも小さいココドラですのに、私のラーちゃん(ココドラ)は更に小さいので見つけにくいでしょうね」

 

 ただし、エリカさんのロズレイドの【にほんばれ】と違い、彼の【すなあらし】は練度を上げていませんので、すぐに消えると思います。あくまで一時的な目眩(めくら)ましです。ですので、しっかりと目を凝らせば見つけられてしまう程度のものです。ですが、その見つかるまでのほんの少しの時間を使って、こちらは準備を整えます。

 

「確かにあなたはすごいです。ジムリーダー就任からのこの短い期間の間でこれ程にまで育て上げるというのは、並外れた育成術です」

「見つけた! そこだ! 【ワイルドボルト】!」

 

 砂が舞う中でキラリと光る金属光沢を見つけられてしまいました。しかし、そこは蟻地獄(ありじごく)への入り口ですよ?

 

「ですが、今回は私の勝ちです。【もろはのずつき】」

 

 突如、砂の中から飛び出して来たラーちゃん(ココドラ)に、ウィンディは一瞬驚いた表情を見せるも勢い変わらず、全身に雷をまとって突撃してきます。その踏み込みは、これまでの0.2秒のズレのない、迷いのない1歩です。まさか、こうも早く順応、成長するとは……流石主人公の1人です!

 しかしこちらも負けていません。【ロックカット】で素早さを上げた今のラーちゃん(ココドラ)は、まるで砲弾です。

 相手と正面衝突。頭と頭でぶつかりそして……すぐに両者とも(はじ)き飛ばされ、大きく後退し倒れてしまいました。質量では相手が勝り、硬さではこちらが上です。その結果は……

 

≪ココドラが立ち上がりました! ウィンディは……立ち上がれません! 勝者、ミカンさんです!≫

 

 途端に、ワッと歓声が上がります。

 そして【すなあらし】も弱まり、すぐに消えてしまいます。

 

「ありがとうございました」

「……」

 

 相手は無言。うぅ……気まずいです。

 

「確かに強かった。だが、何が足りなかったと思う?」

「へ? え? あ、えぇと……」

 

 思わぬ質問に、テンパってしまいましたが、私の中で既に答えは出来ていますので息を整えて口にします。

 

「時間ですね」

「時間?」

「はい。ジムリーダー就任後に1から育て直した割には、確かにすごい練度と信頼感でした。ですが、こちらは2年間ずっと苦楽を共にして1日も休まず鍛錬を続けてきたのですよ? 当然、練度と信頼感では負けません」

「なるほど」

「それと」

「まだあるのか」

「実戦経験ですね」

「それは……」

「えぇ、鍛錬を繰り返す上で、当然ですがそこはちゃんとしているはずです。ですが、足りないのです。そのポケモンとの実戦を通したコミュニケーション、意思疎通(いしそつう)が。それを邪魔したのが、時間の短さですね」

「……」

「ですので、今回は私が勝ちましたが、同じメンバーでジックリと時間を掛けて育てられれば、軽く私を超えると思いますよ」

 

 主人公補正で、彼等のポケモンは急激な成長を()げます。特にマサラのトレーナーですからね。次に戦う時には勝てないかもしれません。今回は、グリーンさんとポケモンとの間の微妙な、本当に気付きにくい小さな針の穴のようなズレを突いて戦っただけですので、そこを埋められてしまったら、もしかしたら手も足も出ないかもしれません。

 それに、今回は私が勝ちましたが、最後の最後で、克服しましたからね。恐怖の1歩を……もし、決断がもう少し遅れていたら、負けていたのは私の方だったかもしれません。

 

「ふぅ」

 

 私は、無事に勝てたことに安堵(あんど)しつつ、ステージを降ります。さて、ここからが本番です。私は、私の信じるやり方で、この戦いを止めて見せます。




 以上をもちまして、対抗戦(エキシビションマッチ)終了です。
 皆様が納得のいく試合結果でしたでしょうか?
 今回はミカンちゃんを勝たせる為に、何とか絞り出した結果です。いやほんと強いです。

 以下雑感というか余談です。

 ポケスペ本編に()いて、後にシルバーとの交流の中でサイドンをドサイドンにしたエピソードがあるらしいですが、今回は既に進化させていることにします。
 本編のままのメンバーでも良かったですし、また第4世代に合わせたメンバーにしても良かったのですが、やはりグリーンには元は変えて欲しくありませんでしたので、サイドンだけ変更となっています。

 最初の駆け引きだけでどれだけ文章使ってんねん! って感じですねw

 アンズもアプリコットもカラモモも全部同じ杏です。

 4倍弱点とかあまり考えないで下さい。
 というかポケスペ本編のグリーンは、サイドン1匹で相性の悪いシジマの3匹の格闘タイプと戦って勝ちましたが、それはグリーンがすごいと捉えれば良いんですかね?

 所で、ココドラって【メタルクロー】や【アイアンテール】を覚えますが、実際のココドラを見たらどうやって技を当てるのかすごく疑問ですね。
 おまけにその小ささで当てて、果たして望んだダメージを与えることが出来るのかも不思議です。
 【アイアンテール】って……あれほぼヒップアタックですよね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話 vs ホウオウ

 多分遅くなりました(すっとぼけ)。
 展開に悩みましたが、こうなりました。
 ほのぼの試合編は終了し、今回からいよいよクライマックスへ向けて動き始めます。それでは、どうぞ。

追記:誤字報告ありがとうございます。


 それは突然起こりました。

 

≪この会場にロケット団残党が侵入したッス! オレの活躍で最悪の事態は回避したッスが、コントロールルームのプログラムが工作されてて、リニアの安全装置が働かねぇ! 事故が起こるかもしれねぇから! 全員早く逃げてくれ! 以上!≫

 

 試合後の互いに健闘を(たた)える空気を一変させる放送が、会場全体に(とどろ)きます。オーロラビジョンに大きく映っているのは、ゴールドさんですね。帽子にゴーグルに、ツンツンな髪の毛に同じくツンツンな目付きの少年。

 

「ロケット団だって!」

「そんなどこに!」

「観客の安全が第一だ。避難させよう!」

「今の少年の悪戯(いたずら)だとしたらどうする!」

「馬鹿野郎! こんな所でこんなくだらない悪戯するかよ普通!」

「逃げるったってどこに!」

「落ち着いて下さーい! 現在、状況を確認中ですので!」

「そんな悠長(ゆうちょう)なことを言っている場合か!」

「お母さん!」

「迷子がいる! 大丈夫か! おい、この子の母親はどこだ!」

「一体どれだけのロケット団が……!」

「誤報に決まっているだろ!」

「しかし!」

 

 観客スタッフ、そして私達ジムリーダーが混乱し怒号が飛び交う中、私は、ジッと巨大モニターを見つめ続けます。

 

「ミカン! 何をボーッとしてんねん! どうすんねん!」

「いえ、あれを……」

 

 私が指差した方向へアカネさんが、そしてそれに釣られて他のジムリーダーが、続いてスタッフ、観客が再びオーロラビジョンへ目を向けました。そこには、再建したばかりのスズの塔の上空でデリバードに乗ってホウオウと戦う、仮面の人(マスク・オブ・アイス)の姿が映し出されていました。

 すると、今の今まで騒然としていた会場内がピタリと声が()み、一時的な静寂(せいじゃく)が辺りを(つつ)みます。

 しかし、それもすぐに混乱の波へと飲み込まれ、新たな騒ぎの原因となって波及(はきゅう)していきます。

 その状態に追い打ちを掛けるように、ステージが真ん中で2つに割れて広がり、リニアのレールが露出していきます。直後、リニアが減速しながら会場へと突入してきます。

 

≪皆さん落ち着いて下さい! システムの手違いの可能性があります! 現在確認を……≫

「そんなこと言っている場合か! ゴールド君の言った通りならば、あの中に!」

 

 真っ先にハヤトさんが飛び出し、ワンテンポ遅れてツクシさんも後を追います。

リニアは何事もないように私達の目の前で停止し、ドアが開かれました。

 そこには、黒ずくめで胸に”R”の文字。顔の半分が仮面で(おお)われた集団が大勢立っていました。

 

「あれはっ」

「ロケット団残党員!」

 

 反対側のドアも開かれたのでしょうか。こちらからではリニアが壁となって向こうの様子が分かりませんが、タケシさん、カスミさん、エリカさんといった正義のジムリーダーならば、見過ごすことはしないでしょう。ほぼ同時に対処をするはずです。

 すると、ロケット団残党は、一斉にけむり玉を投げ付けました。リニア周辺を超え、ステージ全体、そしてステージ下のジムリーダー席にまで煙が充満し、周りの様子が分かりづらくなっています。

 ヤナギさんがこの騒ぎと煙に(まぎ)れて準備をしていると考え、私も私の成すべきことをする為に、煙に隠れるようにして行動を開始します。

この日の為に、ムーちゃん(エアームド)にはとある技を入念に練習させました。期間は短かったですが、他の技と組み合わせることで、満足のいく効果が得られるようになりました。脳天気な子ですのでその気にさせるのに一苦労でしたが、重要性を事細かく説明し、時々居眠りするのを起こして説教して、どうにかギリギリの期間で実戦レベルにまで習熟(しゅうじゅく)させることが出来ました。

 と、リニアが動き出したようです。ジムリーダー達を隔離(かくり)して会場から引き離す。そして、最悪殺害まで目論(もくろ)む……卑劣(ひれつ)ですね。何より許せないのは、仮にコマだったとしても仲間であるはずのロケット団も巻き込もうということ。絶対に逮捕しなければなりません! 警察官ではありませんが、一応ジムリーダーにも治安維持の為の簡易的(かんいてき)な権限が与えられていますので、それを行使してことに当たるつもりです。

 

「見つけました」

 

 誰にも気付かれないように気を付けていますが、つい(つぶや)きが()れてしまいました。私は逃げ遅れている観客の中で、1人の男性を発見します。

 

ムーちゃん(エアームド)、お願い」

 

 ボソボソと指示を出して、煙の中でボールから出します。すると、コクリと(うなず)いて煙の中へ飛び込んでいきました。

 さて、私もジムリーダーとしての責務を果たすことにしましょう。いつまでも子供達に任せてばかりでは申し訳ありません。

 そう決意をしている間にも、事態は進んでいきます。

 

『計画通り……いや、計画以上かな。今ここで最後の邪魔者を始末出来るのだからな! そして紹介しよう! 新たな我が(しもべ)達だ!』

 

 ステージ上の煙が晴れて、そこに(たたず)むのはマスクとマントを身に着けた1人の人間。そしてその両脇を固める、2匹の伝説のポケモン。

 

『いと高き空、虹色の翼(ホウオウ)! いと深き海、銀色の翼(ルギア)! 行け! 我が(しもべ)達よ!』

 

 会場全体に動揺が走りますが、私は空気を読まずにゆっくりとステージへと上がります。

 

「では、私がお相手しましょう」

『む? 貴様は……』

「お久し振りですね。仮面さん」

 

 私の登場に、仮面の人の動きが止まります。

 

『てっきり、あのリニアに他のジムリーダーと一緒に隔離されたと思っていたのだが?』

「ふふふ、私どんくさいので、乗り遅れちゃいました」

『……』

 

 相手のイライラがすごく伝わってきます。まぁ1度だけでなく2度もこうして邪魔をしてくる訳ですし、おまけに今の言葉は明らかに(あお)っているようにしか見えませんよね。

 そこに、マンタインを(あやつ)ったゴールドさんと、ネイティに頭を(つか)まられて空を飛ぶ少女がやってきました。それ、首つらくないんですかね?

 

「おい、ミカン!」

「あら、ゴールドさん、お元気そうで何よりです。そちらの方は初めましてですね」

「へ? あ、は、はい! クリスと言います。よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします。ご存知だと思いますが、ミカンです」

「は、はい……」

「だあああ! 今はそんな場合じゃねぇだろ! 前見ろ前! 敵のボスがいるんだぞ! 何呑気(のんき)(しゃべ)ってんだ!」

「それもそうですね。では手短にお伝えします。お2人には逃げ遅れた観客の避難誘導を行って頂きたいです。その間、この場は私が抑えます」

「1人でやるってのか!」

「危険です!」

 

 2人には反対されましたが、私は笑顔で後ろを振り返ります。すると、ムーちゃん(エアームド)が何かを足のツメで掴んだまま飛んできました。

 

「大丈夫ですよ。何て言ったって、仮面さんは……」

 

 そして、ポトリと私の手の上に落ちたそれは、何かの古い巻物のようでした。

 

「これが欲しいのですよね?」

『貴様……何故それを……!』

「あなたにはあなたなりの情報網があるのでしょうけども、私にもそれなりの情報が入ってくるんですよ?」

 

 完全に前世知識ですが、どうせ言っても信じないでしょうし、ハッタリに使えますのでこのまま嘘を突き通します。

 ポケスペ知識で、この会場の避難者の中に仮面の人が求める特殊なモンスターボールの設計図を記した秘伝書を所有している人、モンスターボール職人のガンテツさんがお孫さんと一緒にいることは知っています。そして、彼はその秘伝書を常に肌身離さず持ち歩いていることから狙われてしまいました。

 そこを私が前もってムーちゃん(エアームド)に、【どろぼう】によって盗ってきてもらおうということにしました。いきなり「貸して下さい」と言っても首を縦に振る訳ないのですから、そうなると話し合う暇なんてありませんので仕方ありません。それに、散々練習させましたし【フェイント】と【かげぶんしん】を織り交ぜて音も気配もなく行うように指示しましたので、多分盗られたことも気付いていないと思います。

 大丈夫です。ちゃんと後で返しますよ。

 

『どこまで行っても邪魔をするかぁぁあああ! ホウオウ! ルギア! 奴らを始末しろ!』

「だから私1人でやるって言っているじゃないですか。ほら、2人は早く行って下さい」

「は、はい!」

「オレは!」

「駄目です」

「ミカン!」

 

 私はゴールドさんに取り合わず、残り5匹のポケモンを全て場に出します。

 

「クリスさん、彼をお願いします」

「はい! ほら! ゴールド行くよ!」

「あ、こら離せ!」

 

 2人が遠ざかっていくのを感じつつもジッと前を見据(みす)えます。

 

「さぁ、簡単には通しませんし、これも渡しませんよ?」

『小娘ぇ……()めた真似(まね)を!』

 

 その言葉を合図に、ホウオウとルギア、それぞれが攻撃を仕掛けてきます。ホウオウは【せいなるほのお】、ルギアは【エアロブラスト】ですね。それらを同時に同位置から発射することで、より大きくなった炎が私へ向けて襲い掛かります。

 しかしそれは、1本の巨大な水流とぶつかったことで防がれます。巨大な炎と水がぶつかったことで、一気に熱せられた大量の水が蒸気となって一時的に視界が悪くなりました。

 

『何っ! そうか、そのエンペルトか! だが、たかが1匹で、伝説のポケモン2匹相手にどうやって!』

「気付きませんか?」

『何だと? これは……雨? まさか!』

「【あまごい】です」

 

 炎タイプの技の威力を大きく低下させつつ、水タイプの技の威力を上昇させる天候変化技です。これによってホウオウとルギアのコンビネーション攻撃を弱め、クラウン(エンペルト)の【ハイドロポンプ】で相殺(そうさい)したという訳です。

 

小癪(こしゃく)な!』

 

 ここで2匹を倒すことが出来れば一番良いのですが、そう甘くはないですよね。ですが、出来る限りダメージを与えて弱らせ、次にバトンタッチするトレーナーさん達の負担を軽くしようと思います。それに、付け入る隙はあります。相手は、私がこの秘伝書を持っている為に、本気で仕掛けられない様子です。

 邪魔者である私を殺したいでしょうが、その攻撃の余波で肝心の秘伝書まで焼失(消失)させてしまったら元も子もありません。これこそが、目の前の人物が10年掛けて築き上げてきた計画の重要な鍵なのですから。

 だからなのでしょう。相手の攻撃は私を狙いつつも、結構到達点は雑だったりしますので、対処が楽です。

 

レーちゃん(レアコイル)、【かみなり】!」

『しまった!』

 

 そして、その隙間を見逃す程私は甘くありません。雨を降らせている雨雲が突然雷雲へと姿を変え、そこから放たれた稲妻(いなづま)は迷うことなくルギアを撃ち抜きました。

 雨状態での【かみなり】は必中技です。そして相手はルギアもホウオウも飛行タイプ。効果は抜群ですので、直撃させれば大ダメージは(まぬ)れません。しかし相手は逃げようと思っても私がこの巻物を持つ限り引くことは出来ないでしょう。

 

『周りのポケモンを片付けろ!』

 

 そうなると、私を守るポケモン達を集中して狙うようになりますね。

 私個人としては、この秘伝書さえ燃やしてしまえば戦略的勝利になると思っています。ただ、他人(ひと)のものを、しかも代々伝わる大切な秘伝書を勝手に盗んだ挙げ句に燃やしましたとか……ガンテツさんに申し訳なさ過ぎて出来ません。ことは終われば、ちゃんとお返しします。

 まぁ、その時に拳骨(げんこつ)をもらうかもしれませんが、その時は甘んじて受けましょう。この鋼よりも硬い自慢のおでこに勝てる拳なら、お相手します。

 

ルーちゃん(ハガネール)は最終防衛線です。絶対に後ろに通さないで下さい」

 

 そこを突破されてしまえば他の観客を人質に取られるなどの危険がありますから、割と重要任務です。

 次に、上空を飛び回るムーちゃん(エアームド)に指示を出します。

 

ムーちゃん(エアームド)は遊撃を。ルーちゃん(ハガネール)と連携して、突破を阻止して下さい」

 

 そして次に目を向けるのは、やんちゃコンビです。

 

クーちゃん(クチート)ラーちゃん(ココドラ)は身体を休めつつ、ルーちゃん(ハガネール)の援護。それとラーちゃん(ココドラ)は、瓦礫(がれき)を食べて良し!」

 

 ココドラは、鋼の身体を作る為に山から鉄鉱石を掘り出して食べますが、時折人の生活圏に現れては橋やレール、車などを食べてしまう特徴があります。そして現在、周囲はホウオウとルギアが暴れたことでセキエイ高原のポケモンリーグ会場の中は半壊状態。あちこちに瓦礫が散乱し、その大半は鉄筋コンクリートです。

 先程のポケモンバトルで傷付いた分を、瓦礫を食べることで回復してもらおうということです。

 最後、残った2匹を私の前に置いて指示をします。

 

レーちゃん(レアコイル)クラウン(エンペルト)で前衛を行います!」

『さっさと倒せ! 小娘から巻物を奪うのだ!』

 

 グリーンさんとの試合では、ある種の賭けに近い縛りプレイをしていました。相手はホウオウとルギアで乗り込んでくることを知っていましたから、それに対抗出来る手段としてレーちゃん(レアコイル)クラウン(エンペルト)の体力を削られる訳にはいきませんし、技構成もそれに合わせて変更し訓練しましたので、下手に出して対策を取られる可能性は排除したかったです。

 同じような理由でムーちゃん(エアームド)も選べません。こちらもコッソリ盗み出す怪盗のような役割を持たせていますので、その技を見られないようにしなくてはいけません。

 その為、実質3匹の中から選んで戦う必要があり、結構苦慮(くりょ)しました。グリーンさんが確実に鋼タイプの弱点を突けるようなポケモンを出してくれて助かりました。タイプ統一パーティにとって、その弱点を突ける高火力なポケモンを想定した訓練は常に行っています。分かりやすい弱点をぶら下げているのです。そこをカバーしなければアッサリと落ちてしまいますので、対策を()るのは当然です。

 まぁ、この展開を知っていて、試合に勝とうと意気込んでいた訳ですから。私って結構欲張りなんですね。分かっていましたが。実際に今も、ヤナギさんを救いつつ悪事を()めることを考えています。

 

クラウン(エンペルト)、【アクアジェット】で避けて! レーちゃん(レアコイル)はホウオウへ【トライアタック】!」

『そう何度もやらせるか! ホウオウ! 【しんぴのまもり】! ルギア! 【じこさいせい】!』

「あらら……」

 

 【かみなり】による麻痺(まひ)も狙っていたのですが、防がれてしまいましたね。おまけにせっかく大ダメージを与えたルギアも【じこさいせい】で回復ですか。

 相手はポケモンをゲットしてから日が浅く、また(ろく)に訓練していない状態ですので、ハッキリ言って連携はかなり雑です。狙いと技を決定しているだけで、その他の指示もかなり大雑把(おおざっぱ)です。ですが、流石(さすが)に伝説のポケモンです。持ち前のポテンシャルだけで何年も毎日欠かさず訓練してきた私のポケモンと互角に立ち回っています。これはトレーナーの技量もあるでしょうね。いくらゲットしたポケモンだからと言っても、トレーナーにそのポケモンを扱うだけの力量がなければ言うことを聞きません。

 ですが、これだけは言えることがあります。相手は全く本気を出していません。

 不用意に自身の手持ちを出して正体がバレたくないのか、他のポケモンを使用する様子がありません。あくまで、ホウオウとルギア、そして本人が乗っているデリバードのみです。

 

「そこまで欲しいのですか? 時を()え、時を(あやつ)り、時を捕らえるボールが」

『貴様! 知って……!』

「知っているに決まっているじゃないですか。あなたの狙いがこれだと分かった段階で、この中身に興味を示さないはずがありません」

『ならば(なお)のこと、それを渡せ!』

「出来ません。材料は(そろ)ったのです。となりますと後は設計図だけ。その最後のパズルのピースがこれなのでしたら、それで全てが終わってしまいます」

『終わらせるのだ! 全てを!』

「させません!」

 

 私達がこうして論戦している間も周りでは戦いが繰り広げられ、互いに指示を出さずにそれぞれ思うがままに攻撃し、防ぎ、(かわ)し、そして反撃しています。ですが、私に攻撃が向かないように、そしてその私を守るように戦っているおかげで、私も、そして仮面の人も台風の目の中にいる状態で会話を行っています。

 そこへ、乱入する姿があります。

 

「ミカン!」

「ミカンさん!」

「ゴールドさん、クリスさん! 避難者は!」

「全員誘導終わりました! 皆さん無事です!」

「とーなるとだ! 残るはコイツだけ! さっさとやっちまうぞ!」

 

 私1人で互角だったのです。そこにゴールドさんとクリスさんが加わることで、数的にも戦力的にもこちらが数段有利です。それを(さと)ったのでしょう。仮面の人の様子が変わります。

 

『ガキ共が……どれだけ抵抗しようとも、どれだけ食い下がられようとも、どれだけしつこかろうが構わん! どうでも良い! 我が計画が中断されることは決してない! 10年掛かりで進めてきたのだ! ここで手を止めるものか!』

「仮面の形が変わった!」

「それに身体も大きく! 一体どういうことなの!」

「何をするつもりです?」

『正直驚いている。この私を相手に1度ならず2度も戦い、そしてこうして立っていることに! だが、絶対に計画は止めない! 止まらない! 排除が出来ないならば奪うまで』

 

 どうするのでしょうか?

 私のポケモンは優秀です。この少なくともこの前衛が突破出来なければ、私の所まで辿り着くことは出来ません。

 そう分かっていましたが、相手のプレッシャーに緊張し、手に持つ秘伝書をギュッと握りしめました。しかし、次の瞬間。

 

「あれ?」

「ミカンさん?」

「どうした?」

「秘伝書が……ない」

「秘伝書?」

「何ですかそれ?」

「特殊なモンスターボールを作る設計図。この人の狙いはそれでした。それが……」

『それは、こういう形をしているかな?』

 

 ハッとして声のした方を見ます。すると、目の前にいる仮面の人の手にはいつの間にかムチュールがいて、その子が(かか)えているのは(まぎ)れもなく、あの秘伝書でした。

 

「【トリック】……」

 

 それにいち早く気付いた私は、悔しさで(くちびる)を噛み締めました。




 今回でポケスペ本編13巻終了です。次回から14巻に入ります。
 当初は、本編通りにゴールドとクリスにマスク・オブ・アイスと戦ってもらって、ミカンちゃんには避難誘導をさせようと書いていましたが、危険なことを子供達に任せるだなんて、こんなの私の書くミカンちゃんじゃないと思い、書き直しました。
 本当は、奪われた原因は次回に持ち越そうとも思いましたが、絶対に読者にはバレると思っていっそのことそこまで書いちゃいました。
 一応、ルギアでも使えますけど、信頼関係も意思疎通(いしそつう)も出来ていない大雑把(おおざっぱ)力業(ちからわざ)しかない伝説のポケモンに使わせるよりも、自身本来のポケモンで行った方が成功率があるからとムチュールを出しました。
 以上、補足説明でした(だからそれを本編で出せと)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話 vs ルギア

 ミカンちゃんを強化したら無双すると思いきや、何故か周りも敵も強くなったから結局イーブンになり、そのままほぼ原作通りに進む結果になるという。不思議ですね。
 今回、ちょっと色々とアレがアレですが、ミカンちゃんですので許して下さい。あ、中身違うんでした。まぁ、ミカンちゃんであることに変わりはありませんので、ご容赦を。


「おい、ミカン。一体何なんだ? 何があった? 何でお前が持ってたもんをアイツが持ってんだ?」

「【トリック】よ。ゴールド」

「あん?」

 

 私の代わりにクリスさんが答えてくれますが、ゴールドさんはピンと来ていない様子です。

 

「相手と自分の持っている道具を入れ替える技です。それで奪われました」

『ククク、自分が使えるなら相手も使えると想定しておくべきだったな』

「そうですね。それに関しては完全に私の油断です」

 

 しかし、【どろぼう】のような直接相手から奪う技ならばともかく、【トリック】のように離れた位置で道具の交換を行うには、【どろぼう】以上の練度が必要です。しかも、常に動き続けている特定の相手の、しかも目的のものだけをピンポイントで狙っての精密さ。

 悔しいですが、今はそんな暇はありません。次にどうするかを考えなくてはなりません。

 もう1度【どろぼう】で奪う? いいえ。ホウオウ、ルギアに加えてデリバードにムチュールまでいる中でムーちゃん(エアームド)を飛び込ませても返り討ちに()うだけです。

 

「だがよ。いくら設計図があったって、その特殊な、モンスターボールか? 作るには材料がねぇだろ? それはどうすんだよ」

「ありますよ。材料なら……」

「何だと?」

『やはり……いや、ここまで来たら知っていて当然か。先もそのようなことを言っていたしな』

 

 仮面の人(マスク・オブ・アイス)が腕を上げ、指差した先にいるのは私のポケモンと戦い、暴れ続けるホウオウとルギアの姿があります。

 

『用意してあるさ。ボール作りに必要なキャプチャーネットの材料、それは……あそこだ!』

 

 するとデリバードが飛び出して、ホウオウとルギアの間を縫うように飛び、そして再び主人の下へ帰ってきた時には、クチバシに2枚の異なる輝きを放つ羽が(くわ)えられていました。

 

「それは! ”にじいろのはね”と”ぎんいろのはね”!」

「何だか分かんねぇが! ソイツの手に渡ったら駄目なんだろ? バクたろう(バクフーン)!」

『無駄だ! 【ねんりき】!』

 

 果敢(かかん)にも飛び掛かったバクフーンを、無情(むじょう)にもムチュールの【ねんりき】によって地面へと貼り付けにされてしまいました。

 

バクたろう(バクフーン)!」

「何て威力なの!」

『貴様らもだ!』

「なっ!」

「くっ!」

「そんな!」

 

 私達もバクフーン同様に、【ねんりき】によって無理矢理地面に()いつくばらされる姿勢をとらされてしまいました。

 

『【くさむすび】!』

 

 そこへ更に、地面から草が生えたと思えば、(ひと)りでに紐状(ひもじょう)となって私達へと巻き付き、そのまま地面へと()い付けられます。

 

「くそぉ!」

「腕が!」

レーちゃん(レアコイル)! うっ!」

『貴様には散々邪魔されたな。どうだ草の味は?』

 

 私はポケモンに指示が出せないよう、【くさむすび】によって猿轡(さるぐつわ)されてしまいました。

 

『おっと、これも忘れていたな』

 

 私が疑問を持つ前に、今度は目にも草が巻き付きます。

 

『貴様は目線でも指示が出せるらしいな? 素晴らしい。流石(さすが)最強のジムリーダーだな』

「ミカン!」

「ミカンさん!」

 

 くっ、ムチュール1匹に3人が全滅だなんて……それに何て威力ですか! それに私は口も目も(ふさ)がれてしまい、指示も出せないですし、視覚以外でしか周囲の情報を得る手段がありません。

 

『さて、これで誰にも邪魔されずにボールが作れる。ククク、長かった。あぁ長かった……これらを(つむ)いで捕獲網(ネット)とする。そう、これが、これこそが、フフフ……時間(とき)狭間(はざま)に入り込む、唯一無二(ゆいいつむに)の方法!』

「そんな……」

『ついに、この手に……フフフ、フハハハハハハ!』

「ふざけんな!」

 

 ゴールドさんとクリスさんは、口も目も塞がれていないようですね。良かったです。しかし、仮面の人の言葉でゴールドさんがキレてしまいました。

 

「だったら何か? コイツらは、ホウオウもルギアも、その為に、その為だけ(・・)に捕まえたってのか! なぁ! ふざけんなよテメェ! 全部! 全部全部全部道具かよ! 材料かよ! ポケモンリーグだって、修業(しゅぎょう)させたシルバー達だって、ロケット団達だって……テメェの、テメェにとっては、本当にただの道具だったのかよ!」

「ゴールド……」

『……』

「違うよな? それでも、これだけは違うよな? 例え、他のもんが道具だったとして、ポケモンだけは違うよな? テメェも、1度でもポケモンと触れ合って、過ごして、楽しいことも嬉しいこともいっぱいあっただろ? そんなら言えねぇよな? 言えねぇはずだよな! ポケモンが”ただの道具”だなんて、口が()けても絶対に言えねぇはずだよな!」

「ゴールド! ()めて! それ以上無理矢理動くと、身体が!」

「テメェにとってポケモンって何だ! 答えろ! テメェの口で、その言葉で、ハッキリ声に出して答えやがれぇぇええええ!」

 

 知っています。この次に出てくる言葉を、私は知っています。漫画で読んでいますから。でも、ここは漫画の中の世界ではなく、本当に息をして心臓の鼓動(こどう)があって、血が(めぐ)る、本当に生きたポケモンのいる世界です。

 数字の羅列(られつ)でもデータの(かたまり)でもない。本当にそこにいて、考えて、ご飯を食べて、一緒に遊んで、時々喧嘩(けんか)して、疲れたら一緒に眠る。そんな、こんな世界で生きてきて、決してポケモンが道具だなんて……私は! 絶対に言えません!

 だからこそ、次の瞬間にその仮面の奥から紡ぎ出される言葉を知っていますが、聞きたくありません! 仮にその言葉の奥にある1つの想いがあったとしても、その言葉だけはとても許されることではありません!

 今すぐに耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいですが、今の私は口と目だけでなく、両腕両脚も(しば)られている状態ですので、それも出来ません。

 その言葉が出るまでにどれだけ掛かったでしょうか。1分ですか? 2分ですか? それともまだほんの数秒ですか?

 もしかしたら、私が関わったことで違う言葉が出ることをどこか期待していました。

 

『道具だ』

 

 しかし、私は、最も聞きたくない言葉を聞いてしまいました。

 

「っざけんなぁぁあああああああああ!」

 

 ゴールドさんと気持ちは同じです。私も思いっ切り叫びたいです! 暴れたいです!

 あのデリバードは! ムチュールは! あの目は、主人のことを絶対に信頼する目です! どんなに悪事に荷担していると知っていようとも、それで主人が幸せになるならと信じる目です! 長年付き添ってきたパートナーが向ける目です! それを、その奥に深い”愛”があると知っていたとしても、その言葉を自身のポケモンに向けること自体が許されざることです!

 

「ゴールド! それ以上は駄目!」

「クソがぁ! オレは! 絶対に負けない! 諦めてたまるかよぉぉおお!」

『うるさいガキだ』

「ぐあっ!」

「ゴールド! そんな! 【ねんりき】で!」

 

 ムチュールの【ねんりき】によって、ゴールドさんが何かされたようです。私もいつまでもこうしていられません。子供が頑張っているのです。大人の私が頑張らなければ、いつ頑張るというのです!

 それにしても、痛いです。こんなのをゴールドさんは自力で抜け出そうとしていたのですか。何とも心の強い少年です。

 それから何度か私も抵抗してみますが、やはり身体が動きません。

 ジムリーダーなのに、皆を守らなければいけない立場なのに、悔しいです。

 

「ミカンさん! 大丈夫ですか! な、泣いて、いますよ?」

「……?」

 

 私、泣いているんですか?

 クリスさんの声がする方へ顔を向けますが、当然今も目は見えません。ですが、それだけで私が聞きたいことを察したのか、すぐに言葉が続きます。

 

「すごく、悲しそうな顔をされています」

 

 そうですか。いえ、ここで泣いていても解決しません。何とかしてこれを抜け出さなければなりません。

 もう一度力を込めると、今度は特に抵抗もなく拘束から脱することが出来ました。口と目を(おお)う草も外して一呼吸します。

 

「【ねんりき】と【くさむすび】の拘束が(ゆる)んでいます。これは……?」

 

 私は戦闘の余波で崩れ、空が見える状態のリーグ会場の天井を見上げます。するとそこには、空高く(たたず)む影がありました。

 なるほど、距離が空いたことで【ねんりき】の範囲外となって、拘束が弱まったのですね。

 

「クリスさん、大丈夫ですか?」

「え? あ、はい。あ、ゴールド!」

「見た所、気を失っているだけですね。良かったです」

「ですが、ここからどうやって止めましょう?」

 

 ゴールドさんの容態を確認した後、クリスさんの質問に答えずに周りを見渡します。あの仮面の人が動けなくなった私達を野放しにするはずがありません。なのに、何故こうして無事なのか。その答えは、すぐに分かりました。

 ルギアとホウオウは確かに指示通りに暴れて、こちらに危害を加えようとしています。しかし、私が動けない間も必死に私達を守ろうと動いてくれていたのか、私のポケモン達は傷付きながらもしっかりと私達の周りを固めて、手出しさせなように踏ん張っていました。

 

「皆、ありがとうございます」

 

 先程とは違い、嬉しさで涙が出そうになりますが今度はちゃんと(こら)えます。

 

「クリスさん、正直私達だけでは厳しいです。ですが、まだ道は残されています。本来ならこれは警察や、私達ジムリーダーがすべきことで、あなた達のような一般の、それも子供に助力を求めることはいけないことだと思います。ですが、今は少しでも戦える力と、戦える意思が欲しいです。協力して頂けますか?」

勿論(もちろん)です!」

「ありがとうございます。作戦ですが……」

 

ゴールドさんは気絶してしまっているので動けませんが、まだ私とクリスさんがいます。何とかしないとと思い、次の作戦を告げようとしたその時、私達とは違う、荒々しい声が響きました。

 

「オイオイオイオイ、こりゃ一体どーなってんだ? オレ達がLinear(リニア)で旅している間に会場が廃墟(はいきょ)になってんぞ?」

 

 その声の主は、破壊された屋根の上にいました。

 

「あれは……」

 

 クリスさんが見取れていますが、私も同じです。私としては、間に合ってくれたという安堵(あんど)の気持ちが多分に()めていますが。

 

『何者だ!』

 

 突然の登場に仮面の人が注意を向けると、そこにはスイクン、ライコウ、エンテイに付き添う、3人のトレーナーの姿がありました。

 

「スイクン! ライコウ! エンテイ! “焼けた塔”から(よみが)った3匹が、今! あなたの計画を止めに来たわ!」

 

 カスミさん、マチスさん、カツラさん。無事にそれぞれ出会うことが出来ていたみたいですね。良かったです。

 3人はそれぞれパートナーとなったポケモンに(また)がり空を駆け、仮面の人へ攻撃を仕掛けます。

 

『スイクン、ライコウ、エンテイ……そのまま塔の片隅(かたすみ)で眠っていれば良かったものを! 来い! ホウオウ! ルギア! 小娘共はもういい! こっちに来てコイツらを片付けろ!』

 

 すると私達を攻撃しようと私のポケモンと戦っていた伝説の2匹は、その指示に従って空へと舞い上がりました。

 

「今は、見守りましょう。下手(へた)に動けば足手まといになるか、被害が大きくなるだけです」

「分かりました……」

 

 今、この状況で何も出来ないことが悔しいのでしょう。特に正義感の強いクリスさんですから、この理不尽(りふじん)を受け入れることは出来ないはず。ましてや、自分が力になれるなら、全力で戦うつもりでいる、強い子供です。それでも、私の言葉を受け止めて、この場に(とど)まってくれる冷静さも忘れていません。

 

「クリスさんは強いですね」

「え?」

「ここで、感情に任せず我慢(がまん)してくれました。とても大事なことです」

「そんな、私、何も……」

「自信を持って下さい。言いましたでしょう? 大事なことです。大切なことです。きっとそれは、あなたを更に強くしてくれます。ですが、今、この場は私達大人がやらなければいけないことです。それを、見守っていて下さい」

「はい……」

 

 納得は出来ないでしょうが、理解は出来ているはずです。聡明(そうめい)な人ですからね。仮に子供ならではの感情の爆発で飛び込もうとしても、大人である私が()めますけどね。

 

「まだまだぁ!」

 

 会場の上では、スイクン、ライコウ、エンテイの3匹と、ホウオウ、ルギアの2匹とが互角の戦いを繰り広げています。

 

『それが全力か! それで全てか! ならば拍子抜(ひょうしぬ)けだ! これならば、先程まで戦っていたアサギのジムリーダーの方が強かったぞ!』

「何ですって!」

『フハハハハ! 確かに力はある! だが、所詮(しょせん)付け焼き刃だ! その程度では私には勝てんぞ!』

 

 そう言って仮面の人は飛び出して、スイクンの上に乗るカスミさんを()らえてしまいました。

 

「この! スイクン! 【ハイドロポンプ】!」

『迎え撃て!』

「あなたは、9年前もホウオウを手に入れていた! それは、そのボールの材料としてだけでなく、ホウオウの見定める目によって各街から”能力の高い子供”を見繕(みつくろ)って連れ去る為に! 連れ去った理由は、“時間の支配”をする目的を達成すべく、その調査や研究をその連れ去った子供達にさせる為!」

 

 仮面の人に捕らえられ、リーグ会場の屋根へ押し付けられながらも、カスミさんはスイクンから得た話を聞かせます。それは、取り調べか、確認か。それとも私のように”道具”でないと否定して欲しいが為か。

 

「でも、スイクン達はあなたの計画が、塔主(あるじ)(した)うホウオウを使っての悪事を働くことが許せなかった!」

『フフフ……そうだ! その3匹はホウオウの力によって誕生した! 命を得た! 生き長らえた! 言わば”ホウオウ親衛隊”! ククク、だから許せなかったのだろう! そして、無謀(むぼう)にも戦いを挑んできた!』

「その戦いによって、スイクン達はホウオウをあなたの手から解放させることに成功した! でも、その代わりとして、あなたに焼けた塔へと封印されてしまった!」

 

 きっと、ホウオウを手にしたトレーナーが心優しい人であれば、スイクン達も戦おうとはしなかったでしょう。しかし、その人の心は(ゆが)んでいた。いえ、過去のあの時(・・・)に壊れて、(くだ)け散ってしまっていました。

 伝説であろうとも、力があろうとも、1つの目的を果たす為の”道具”としか見ませんでした。

 それが許せなかったから、戦い、そして強大な悪の力によって(やぶ)れてしまったのですね。

 

『ならば、今回も結果も同じことだと分かるだろう? かつて私に(かな)わなかったもの達だ! あれよりも更に力を付けた私に勝てるはずがない!』

 

 その言葉通り、ホウオウはスイクンを吹き飛ばしました。

 

「クリスさん、申し訳ありませんが、先に行って援護しに行ってもらえませんか?」

「ミカンさん?」

「私が、ゴールドさんの様子を()ます。先程の戦いで、私のポケモン達も傷付いています。回復して、また参戦する為に、今は休息が必要です」

「分かりました! ゴールドを、お願いします! ネイぴょん(ネイティ)!」

 

 クリスさんが飛び立ったのを見送ります。その先には、スイクンによる水晶の結界、水晶壁(すいしょうへき)によって仮面の人が(はさ)まれて、身動きが取れないようになっていました。

 それを見ながら、(かたわ)らで横になっている少年に声を掛けます。

 

「ゴールドさん、起きていますよね?」

「……あぁ」

「身体は大丈夫ですか?」

「こんなん、(かす)り傷だ」

「良かったです。では、準備をしましょうか」

「準備?」

「はい。私達も戦いの場へ行きましょう」

「……もう終わったんじゃねぇか?」

「何度もあの仮面の人と戦ったあなたなら、分かりますよね? ここで終わると思いますか?」

「コレっぽっちも思わねぇな」

「そういうことです」

「んでも、行くってどこに?」

 

 話をしながらも、私はポケモン達を回復させるなどの準備をしています。しかし、それはまるで、こことは別の場所へ行くように彼の目には映っているかもしれません。実際にそうなのですが、今は説明するよりも行動です。ですから、振り返って笑顔でこう答えます。

 

「"決戦の地”へ」

 

 それから間もなく、仮面の人は上半身だけ切り離して脱出。そのままホウオウとルギアを連れ立って、会場を後にしました。

 私とゴールドさんは、コッソリと会場を抜け出して、追跡(ついせき)を開始しました。

 主人公とはいえ、子供の力を借りなければ勝てないだなんて、私弱いですね……

 そんな思いを胸に、私は、前を向き続けます。




 ということで、ミカンちゃんの【ねんりき】【くさむすび】拘束です。これ、ワンピースの下にスパッツ履いていなかったら、大変なことになっていましたね。良かったですね。アンバランスな服装で。

 ものすごく今更で、今回までに言及があってもなくてもとりあえず注意があります。
 ポケスペ本編の流れに基本的に沿って物語が進んでいますが、台詞は全てを写さすに部分部分で変更してありますので、もしかしたら違和感があるかもしれません。
 ただ、色々と引っ掛かってもいけませんので、元とは違った言葉が並びますことをご了承下さい(遅すぎ)。

 カスミ達の会話が聞こえるのは、よくある漫画的聴覚ということでご容赦を。

 ミナキさんの登場を待たずに移動をしましたので、出番はありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話 vs タマザラシ

 当初は5,000文字程度の気軽に読める短い小説で書いていたはずでした。
 それが何故か7,000文字を越えてしまい、自身で驚いています。
 読者の皆様の中に、文量がある方が良いという人がいらっしゃったら申し訳ないですが、私はコンパクトな小説が書きたいですw

 ということで、セキエイ高原を出た所からの2人です。どうぞ。


 現在私は、ゴールドさんが(あやつ)るバクフーンの背に乗せてもらいながら移動をしています。

 

「クソッ、見失った! どっち行きゃ良いんだ!」

「大丈夫です。一旦ここで休憩(きゅうけい)しましょう」

「良いのか?」

「はい。場所は把握(はあく)しています」

 

 セキエイ高原のポケモンリーグ会場から走り続けて、バクフーンも疲れているでしょうから、ここでワンクッション置きましょう。それに、見失ったのなら丁度良いです。今度は私のムーちゃん(エアームド)に乗り換えて、一気に距離を詰めます。

 

「アイツ、一体どこへ行くつもりだ?」

「これを見て下さい」

「あ?」

 

 私はポケギアの画面を彼へ見せます。

 

「これは?」

「あの秘伝書には発信器(GPS)を取り付けてあります。これが現在の仮面さん(マスク・オブ・アイス)の現在地です。そして、その行き先が……」

「”ウバメの森”?」

「聞き覚えありますか?」

「あぁ、アイツと最初に会ったのもソコだった」

「そうですか。あそこには何かあるんですね」

「多分だけどな」

 

 あそこには(ほこら)があり、決まった日時に光ると言われています。その時のみ、とあるポケモンをゲット出来るとされています。もしくは、そのポケモンがどこか先(・・・・)()て、一緒にいるべきパートナーと判断した時はその限りではないかもしれません。

 

「では、行きましょうか。次は私のエアームドで行きます。空を飛んだ方が速いですからね」

「分かった。ありがとよバクたろう(バクフーン)

 

 交代で私がムーちゃん(エアームド)を出し、ゴールドさんがバクフーンをボールに入れました。

 私が首の付け根に跨がり、その後ろにゴールドさんが乗ります。

 

「速度を出しますので振り落とされないよう、私の腰に手を回して下さい」

「おう、分かった」

 

 しっかりゴールドさんが私の背中に密着して、自身の両手を(つか)んだのを確認した私は、ムーちゃんに方角を指示して空へ上がります。

 それにしても彼、女性の身体に触れることを躊躇(ちゅうちょ)しませんでしたね。まだ彼が子供だからなのか、緊急事態だからなのか。それとも、この若さで女好きであるからなのか……そして、これは1番想像したくないことですが、私が女として見られていないか……です。

 いやいやいやいや。これでも私、花の女子高生、JKですよ? 一般トレーナーで登場したらミニスカートって呼ばれる部類ですよ? 通信教育でかつ制服のない高校ですので、ミニスカートって言えないですが……

 ですが、確かにミカンちゃん(本人)には申し訳ないですが、スレンダーな身体付きは全く不満ないですし、むしろ綺麗なラインを維持出来ていることに私自身満足はしていますが、もう少し、ほんの少しだけでも、その、胸があったらな……と、アカネさんやイブキさんを見て思う時があります。特にアカネさんは小柄なのに大きくて、それで可愛くて愛嬌(あいきょう)があって……(うらや)ましいです。

 って、そんなこと考えている場合じゃないです! 今も仮面さんと戦う為に移動しているんですから、集中しなければなりません。

 ポケギアで対象の位置を確認しながら、更に速度を上げます。

 

「うお、はえぇ!」

「振り落とされないよう気を付けて下さい! それと、もう後数分で到着します! 心構えしておいて下さい!」

 

 風圧で声が聞き取りづらくなることを考慮(こうりょ)して、後ろへ向けて叫びます。すると、目が合ったゴールドさんは余裕そうな表情を見せて一言「もう出来てる!」と返しました。

 

「分かりました! 場所はウバメの森! ……いえ、その手前です!」

「手前っ?」

目的地(祠の前)でボールを作ると妨害されると踏んでいるのでしょう! 先に(キー)となるボールを作ってから乗り込むつもりだと思います!」

「だったら!」

「はい! それを()めます!」

 

 そしてしばらく飛ぶと……見つけました! ポケスペ本編通りに、ホウオウとルギアはウバメの森の防衛戦に回ったようですね。今は仮面さん1人。まぁその1人がとてつもなく高い壁なのですが……弱気になってはいけません。やってみせます!

 

「降下!」

 

 少し離れた位置へ降り立ち、それぞれ手持ちのポケモンを出して走り出します。

 場所はウバメの森が見渡せる少し高台になっている草原。多少岩肌が剥き出しになっていて荒れているように見えますが、すぐ近くに川が流れていますから、その周辺は草木で(いろど)られています。ここが今から戦いの地になるのですね……

 相手は、まだこちらには気付いていない様子です。というか、自身の世界に没入(ぼつにゅう)しているのか、ゴールを目前に気分が高揚(こうよう)しているのでしょう。大きな独り言が聞こえます。

 

『月の満ち欠けの周期に呼応(こおう)して、”祠”に光が帰ってくる。それは今日の夕刻……やれやれ、間に合った!』

「デッケー独り言(つぶや)いてんトコわりぃが、そうはいくかよ! 夢見んのは勝手だが、寝言は寝て言うもんだぜ!」

『貴様らは!』

「私達が先に間に合いましたね」

 

 こちらへ振り返り、一瞬の動揺(どうよう)を見せます。しかし、やはり何度も戦い、相手の(くせ)を知り、その上で勝ってきたからか、すぐに余裕な気配を感じます。

 それにしても、その姿はとても人間のものとは思えません。黒いマントで多くを隠されていますが、風でなびいてチラチラ見えるそれは、腰から下がなく、右腕がなく、そしてお腹に大きな穴が()いているようにも見えます。

 漫画で見た時より、実際に見るとやはりあれが人間の身体でないと知っていても気持ち悪いですね。

 

『タフな奴らだ』

 

 溜め息を()くように、いえ、実際に息を()き出しているのでしょう。呆れた様子を見せます。

 

『そこのガキは、かつてこのウバメの森で(やぶ)れ、いかりの湖でも敗れ、そしてセキエイ高原でも敗れた。そして小娘。貴様もエンジュでは世話になったな。そして、同じくセキエイでそこのガキと一緒に敗北した……』

 

 そこで一呼吸置いて、また話始めます。

 

『それでも(なお)、戦いを挑むか。その諦めのなさだけは評価する。小娘は、アサギのミカンだったな? で、ガキ。この偉業(いぎょう)(たた)えて、お前の名前を聞いてやる』

「だったら、耳の穴かっぽじって、よーく聞きやがれ! オレはワカバタウンのゴールド様だぜ!」

「あなたの悪行も、ここまでです!」

「その身体でどうして動けるのかは知らねぇし、どうでも良いが!」

「というか気持ち悪いです!」

「テメェを!」

「あなたを!」

「「ここで()める(ます)!」」

 

 ゴールドさんはまず2匹を選んで前に出します。まだ、ゴールドさんの実力では、多数戦は2匹までが限界のはずです。同時に複数のポケモンへ注意を向けつつ、的確に指示を出さなければなりません。そうなると、手数で負けてしまうかもしれませんが、そこを私がカバーします。

 

「気合いで行くぞ! エーたろう!(エイパム)、【こうそくいどう】! ウーたろう(ウソッキー)は後ろに続け!」

「援護します! ムーちゃん(エアームド)、【かげぶんしん】!」

『邪魔を! するな!』

 

 すると、ない右腕を(かか)げたと思えば、徐々に腕が構築(こうちく)されていき、それを振り回すことでエイパムを遠ざけます。大きく飛ばされましたが、無事にウソッキーがキャッチしたことで事なきを得ました。

 

「千切れた右腕が生えただと!」

「違います! よく見て下さい!」

「あれは……!」

 

 完成された右腕を見ると、文字通り透き通って反対側の景色が見える、ほぼ透明な腕となっていました。

 

「氷の身体か!」

『そうだ! 空気中から水分を取り出して凝固(ぎょうこ)させる! それによって、この私の身体は、何度でも修復出来るし、形を変えることも大きくすることも出来る!』

「その割には、お腹は空いたままなのですね」

『減らず口を!』

 

 怒りに任せてこちらへ腕を伸ばしてきます。

 

「ミカン!」

「大丈夫です!」

 

 来ると分かっているなら、この距離なら避けられます。

 

ムーちゃん(エアームド)、【フェイント】! クラウン(エンペルト)、【アクアジェット】!」

『デリバード、【こおりのいぶき】!』

 

 良し。デリバードの注意がこちらに逸れました!

 

「今だ!」

『何っ! いつの間に!』

 

 私が(すき)を作った間にゴールドさんの指示で、ウソッキーが仮面さんの後ろへ回り込んで拘束します。

 

「にっしっし、ウーたろう(ウソッキー)の素早さに驚いてんのか?」

『まさか!』

「そうだぜ! 仲間とタッチすることで、その仲間の技の効果を引き継ぐ【バトンタッチ】だ! 【こうそくいどう】で上がったエーたろう(エイパム)の素早さを、ウーたろう(ウソッキー)が引き継いだんだ!」

小癪(こしゃく)な! ムチュール、【ねんりき】!』

「そう何度もやらせるかよ! ニョたろう(ニョロトノ)! 【うずしお】!」

ラーちゃん(ココドラ)レーちゃん(レアコイル)で援護して下さい!」

『ならば! うぉぉおおおお!』

 

 仮面さんが後手に回り始めますが、まだ諦めていないのか、今度は下半身に空気中の水分を集めて凍らせ、脚を作っていきます。しかし、そこもゴールドさんの作戦内です。私は相手のデリバードとムチュールを(おさ)えながら、そちらの様子を(うかが)います。

 

「そう来るだろうと思ったぜ! マンたろう(マンタイン)! キマたろう(キマワリ)!」

『む! あれは、巨大な太陽! いや、違う!』

「オレだって、他人(ひと)の試合見て勉強するんだぜ! 【にほんばれ】! バクたろう(バクフーン)! 【オーバーヒート】!」

 

 すると【にほんばれ】によって更に上昇した炎の温度が、仮面さんの身体が出来上がるよりも先に溶かしていきます。

 

『なぁああ! 追い付かない! 我が身体を! 氷を補強するよりも速く! 身体が溶ける!』

「どうだぁ! ミカンがデリバードを翻弄(ほんろう)している間に、ウーたろう(ウソッキー)エーたろう(エイパム)から引き継いだ素早さでテメェを捕まえ! ニョたろう(ニョロトノ)とミカンが連携(れんけい)してムチュールを抑え! マンたろう(マンタイン)に乗ったキマたろう(キマワリ)が【にほんばれ】で照らして、それを受けてバクたろう(バクフーン)が強化された炎技でテメェを溶かす!」

 

 そして、ゴールドさんが常に持ち歩いていているビリヤードで使われる棒状の道具、キューを突き出します。

 

「これが、オレの、オレ達の! 全員攻撃だ! 1人1人、1匹1匹が大事な仲間で、相棒達だ! ポケモンを道具呼ばわりするテメェには、わかんねぇだろうがよ! さぁ、正体を(あらわ)しやがれ!」

 

 すると、ずっと顔を隠してきた仮面さんの仮面が破壊され、その素顔が(さら)されました。

 それを見て私は、知っていたとはいえ呆然(ぼうぜん)としてしまいました。

 

「やっぱり……」

「て、テメェは!」

 

 私の呟きが相手にも届いていたのか、その人物は私へ視線を投げます。

 

「ほぅ、気付いていたのか。流石(さすが)だな」

 

 仮面が破壊されたことで、ボイスチェンジャーも壊れてしまったのでしょう。歳を取った男性の声で返されます。

 

「そうであって欲しくないと、ずっと思っていました」

「だが、現実だ」

「テメェは! チョウジのジムリーダー……ヤナギ!」

 

 そう。ポケスペ本編にて、ロケット団残党を指揮していた首領(トップ)マスク・オブ・アイス(仮面さん)の正体は、小柄な高齢の男性……やはりヤナギさんでした。

 氷で出来た身体に自身の車椅子をはめ込み、そこに座っています。(ひざ)の上に()せているウリムーが、氷の身体の操作をしていたようですね。

 

「そうだ。改めて、初めましてかな?」

「ふざけんじゃネェ! それと動くなよ?」

 

 彼は油断せずに、正体を現したヤナギさんの眼前へキューを突き付けます。

 

「なるほどな……手足が伸び縮みして、身体付きが変わる。身体に穴が空いていても動き続けるカラクリ。そういうことだったのか……時間を支配して何をしようとしてんのかは知らねぇし興味もねぇが、どうせ碌でもねぇことに決まっている! だから好きにはさせねぇぜ、覚悟しやがれ!」

 

 ですが、ゴールドさんはヤナギさんへ注意を向け過ぎました。常に突破口を探っているヤナギさんが、氷を操って左腕を地面へと突き刺したと思ったら……

 

「ゴールドさん!」

「何!」

 

 川を移動していた2匹のピカチュウと、その内の1匹が抱えていたタマゴを、突如(とつじょ)地面から飛び出した腕が()らえてしまいました。

 知っていましたが、私はデリバードとムチュールの対処で手が回らず、そちらまで防ぐことが出来ませんでした。

 

「ヤロゥ! 関係ないポケモンにまで!」

卑怯(ひきょう)な!」

「フフフ、キューを捨てろ!」

 

 その要求に、逡巡(しゅんじゅん)する様子がみられましたが、私が「ゴールドさん」と声を掛けると「クソッ」と悪態を()いて投げ捨てました。

 

「それで良い!」

 

 そう言ってヤナギさんはピカチュウを離し、今度はゴールドさんへ腕を伸ばしました。

 

クーちゃん(クチート)!」

 

 クーちゃん(クチート)の名を呼び、それだけで察した彼女は走り出し、ゴールドさんへ氷の腕が届く前にツノが変形した巨大なアゴを振り回して(はじ)き返します。

 

「むぅ!」

「ゴールドさんは、その2匹とタマゴを守って下さい!」

「お、おぅ! 分かったぜ!」

「まだ邪魔をするか。仕方ない。ならば、こうだ!」

 

 するとヤナギさんは2つのモンスターボールを投げました。まだ手持ちがいるのですか。

 出て来たポケモンは、それぞれタマザラシと、そしてユキカブリでした。

 その瞬間、上空の天候がいきなり崩れ、急激に気温が低下します。そして、氷の(つぶ)が次々と落ちてきました。

 

「寒っ! 何だ突然!」

「ユキカブリの特性【ゆきふらし】です! 天候を(あられ)状態にします!」

 

 そして、あのタマザラシは恐らくですが【アイスボディ】ですね。霰の時にその氷を取り込むことで少しずつ体力を回復していくこの天候では厄介な特性です。

 ですが、天候を書き換えてしまえば意味がありません!

 

クラウン(エンペルト)、【あまごい】!」

 

 しかし、霰を降らす黒い雲が雨雲へと変わることはなく、そのまま冷やされた水滴(すいてき)だったもの(・・・・・)が地面へと叩き付けられます。

 

「そんな! いいえ、まだです! ラーちゃん(ココドラ)、【すなあらし】!」

「こっちもだ! キマたろう(キマワリ)! もっかい【にほんばれ】だ!」

 

 しかし、風が吹いて砂が舞えどもすぐに消え、キマワリの輝きと熱もすぐに暗雲に飲み込まれてしまいました。

 

「書き換えられない!」

「何だコレは!」

「ククク、天候操作の時間や強さ、そして、優先度はそのポケモンの練度に帰結(きけつ)する。キマワリは技そのものもあるが、そもそも全体的に能力が低い。エンペルトも付け焼き刃だな。ココドラは少し頑張ったようだが、元々あまり使わないのだろう。大した脅威(きょうい)ではない!」

「そんな……」

「終わりだ! タマザラシ、【ふぶき】!」

「「っ!」」

 

 霰の中での【ふぶき】は必中技です! しかも敵全体へダメージを与えると同時に相手を凍らせることが出来ます!

 あのヤナギさんのポケモンです。その威力は察するに余りあります。万事休(ばんじきゅう)す……そう思った時に。

 

マンたろう(マンタイン)! 【ワイドガード】!」

「ゴールドさん!」

 

 全体攻撃を1度だけ無効化する【ワイドガード】! しかし、練度の差で完全に防ぐことは(かな)いませんでしたが、それでも大幅にその威力を軽減してくれました。

 

「オレだって、ミカンに助けられてばかりじゃねぇ! オレにだって出来ることはある!」

「悪あがきだ! ムチュール、【うたう】! ユキカブリ、【くさぶえ】」

キマたろう(キマワリ)! 【さわぐ】!」

 

 相手を眠らせて戦力を()ぎ落とす【うたう】と【くさぶえ】を【さわぐ】によって対抗します。

 

コイツ(キマたろう)の練度は確かに低いかもしんねぇ。だがよ! このオレ様と一緒にずっと旅してきたんだ! 騒がしく! 騒ぎ立てることに関しては一級品だぜ!」

 

 その言葉通り、今度は完全に相殺(そうさい)しました。

 

「ちっ、デリバード、【オーロラベール】!」

 

 また厄介な技を使ってきましたね。【オーロラベール】、天候が霰の時にのみ使える技で、その代わりに味方を薄い虹色の光の(まく)(おお)うことで、物理技と特殊技の両面の被ダメージを大幅に軽減するものです。

 防御を固めたということは、次は攻撃。それもかなりの威力のある技で難攻不落(なんこうふらく)にするつもりですね。

 

「タマザラシ、【ぜったいれいど】! 【じわれ】!」

「っ! ルーちゃん(ハガネール)!」

 

 それはマズいです! 急いでルーちゃん(ハガネール)を突っ込ませます。

 

「【アイアンテール】!」

「何っ!」

 

 触れるもの全てを凍らせ眠らせる空気を放つ【ぜったいれいど】と、地を割り地に足を付けるもの全てを引きずり込む【じわれ】。しかし、私のルーちゃん(ハガネール)の特性は【がんじょう】です。一撃必殺の技の一切を受け付けません!

 質量と硬さ、そして速さを持つ彼の突撃は、それらの障害をものともせず、そのまま2つの攻撃を突き破ってヤナギさんの眼前へと(せま)ります。

 

「タマザラシ、【なきごえ】! ユキカブリ、【ウッドハンマー】!」

 

 ですが、相手もすぐに立て直してきました。

 相手を一瞬だけ(ひる)ませることで、攻撃のタイミングをずらす【なきごえ】によってルーちゃん(ハガネール)の勢いに隙間を作ることで、そこにユキカブリが両腕を振り上げて叩き付けました。

 確かに威力はあります。しかし完全に軌道(きどう)を逸らすことは出来ず、逆にユキカブリを弾き飛ばしました。それでも、ヤナギさんの氷の身体へと向けられていた鋼の尻尾をギリギリの所で防がれてしまいました。

 

「今のは危なかったな。ものすごい威力だ。まるで【オーロラベール】が意味を成していない。やはり、私の1番の障害は貴様のようだな。ボール作成に集中出来ない」

「させないようにしていますからね」

 

 戦闘不能には出来ませんでしたが、何とかユキカブリを【アイアンテール】で大きくダメージを与えて、戦列から外すことに成功しました。

 また、戦っているのは私だけではありません。ゴールドさんもタマゴを守りながら偶々巻き込まれた2匹のピカチュウと連携して、ムチュールと戦っています。2匹の内、1匹はレッドさんの、もう1匹もイエローさんのピカチュウですから、そのポテンシャルの高さで指示されずとも(みずか)ら判断し、ゴールドさんの穴をカバーしています。

 

「生意気な……だが、終わりだ。ボールは今、完成した!」

「くっ!」

 

 相手がボール作りに集中出来ないように、常にこちらに注意を向けさせることで妨害してきましたが、それでも、戦闘をこなしつつ完成まで()ぎ着けてしまったようです。

 すると、ボールの完成と同時にヤナギさんの頭上の空間に(ひず)みが出来、それは(ひび)となって広がり、そして最終的に大きな穴となりました。

 

「フハハハハ! 成功だ! 私は! 私はこれから別の時間で生きる! さらばだ!」

 

 そう言い残した彼は、膝に置いたウリムーを除いた他のポケモン達を置いて、時空(とき)狭間(はざま)へと吸い込まれるように消えていきました。

 私とゴールドさんは、その様子をただ呆然と(なが)めているしかありませんでした。




 エンディングはある程度決まっていますので、それに向かわせる為に、ほぼ原作に近い流れで進行しています。
 ミカンちゃんという存在によって原作ブレイクが起こりうるので、それに合わせて敵を更に強化することで対応。もうどうするのですかコレ。
 ヤナギは3匹でミカンちゃんの6匹のポケモンと戦っていますよ。まぁゴールドは、6匹+αで1匹と戦っていますが……

 あくまでミカンちゃんの視点で物語が進行していますので、その他の場面はありません。ですので他者がどのような状態なのかは分かりません。
 一人称視点で物語を書く場合は、あくまでその物語の主人公のみの視点で書くのがポリシーです。
 多数の視点を取り入れるなら、三人称がありますからね。

 そういえば、ポケモントレーナーの手持ちは6匹が原則ですが、それに則るならばポケスペ本編のヤナギの手持ちは……ウリムー、デリバード、ホウオウ、ルギア、ゴース、ラプラスの6匹ということになるんですかね? ちょっとバランス悪すぎませんかね?
 本作は、ホウオウ、ルギア、ゴースは別枠で、それとは別で6匹編成組みましたので、数が合わないのは仕様です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話 vs ウリムー

 空間の表現の仕方が難しいです。
 ということで、本編をどうぞ。


「アイツ……自分のポケモンを……」

「ゴールドさん、今はそっとしておきましょう」

 

 ヤナギさんが”時空(とき)狭間(はざま)”に消えたことを見届けてから、彼のポケモン達は私達との戦いをやめて、静かに(たたず)んでいます。先程までの敵意が嘘のようです。

 気付けば(あられ)()み、雲の切れ目から日差しが差し込みます。その光によって戦いの場であった草原が照らされ、あちこち地面が割れ、吹き飛び、荒れ地となっていることから先程までの戦いの激しさを(うかが)い知ることが出来ます。

 

大分(だいぶ)日が(かたむ)きましたね。どうしますか?」

「……どうするとは?」

「まだ扉は開かれています。今なら、まだ間に合いますよ?」

「……まだ、やるのか?」

「はい」

「あんな強いのにか?」

「はい」

「もう、この時間にいないのにか?」

「はい」

「勝てなかったのにか?」

「まだ負けていません」

「オレは……弱い……全力で戦って、全力で守って、それでも1匹抑えるだけで精一杯だった。ミカンが助けてくれなかったら、オレは……」

「大丈夫です。私がいます。それに……」

 

 私は言葉を句切り、ゴールドさんの後ろを見ます。そこには、まだ目が諦めていない、彼を主人として(した)うポケモン達の姿がありました。

 私の視線に気付いたのか、彼も後ろを見て驚いた様子です。

 

「お前ら……だけど、勝てるのか? あんな強い奴に?」

「強いからと悪を許すことはありません。あくまで私のジムリーダーとしての矜持(きょうじ)ですので、強制することはありません。ただ、あなたはそれで良いのですか?」

「オレだって許せねぇ。仲間を、ポケモンを、道具と言い切りやがったアイツをぶっ倒したい。だけど、オレにはその力がねぇ」

 

 ゴールドさんはすっかり心が折れてしまっているようです。何度も何度もぶつかっては立ち上がり、そして諦めずに突き進んできた彼ですが、ここに来て、ヤナギさんが野望を達成してしまったことを受けて、いつもの覇気(はき)がなくなってしまっています。

 そこへ、私の背後から声を掛けられました。

 

「ゴールドじゃないか! それと、あなたは?」

「アサギジムでジムリーダーを(つと)めています。ミカンと申します」

「おお、あなたが」

 

 話し掛けてきたのは、2人の高齢の男女と、その内の女性をおんぶしている中年の男性でした。格好からして、釣りなどを行うような()で立ちです。

 

「ワシらは、”育て屋”を(いとな)んでいる夫婦じゃ。そちらにいる少年と面識があってな。それに、今少年の(そば)にいるピカチュウは、ワシらと一緒にいたトレーナーのポケモンじゃ。家にいた所、突然ロケット団の残党と言われる連中に襲われてな、何とか逃げてきた所じゃ。じゃが、その際に、このピカチュウ達や、そのトレーナーのイエローともはぐれてしまってな。途方(とほう)に暮れていた所だよ」

 

 杖を突き、眼鏡を掛けた高齢の男性が事情を説明してくれます。立派な白い(ひげ)とは対照的に頭はすごく(まぶ)しい。と、この非常事態ですが、不謹慎(ふきんしん)にも思ってしまいました。

 

「事情は分かりました。よくご無事で」

「ハッハッハ、まだ若いもんには負けんよ。それと、少しゴールド、良いかな?」

「え、オレ?」

「うん。ほれ、ばあさん、アレを」

「おぉ、そうじゃった。ほれ。これを」

「手紙?」

 

 高齢の女性が取り出したのは手紙のようです。

 

「オーキドからの預かり物じゃ。お前と会う時があれば、渡して欲しいと以前預かっていたものじゃ」

「一体何が……」

 

 確か、オーキド博士とこの2人の老人は昔馴染みでしたね。そこにガンテツさん、キクコさんも。そして……

 そう思いを()せていると、手紙を読んでいたゴールドさんの手が震えています。

 

「ゴールドさん?」

「オレには、トレーナーとしての能力がねぇってのか? 他の図鑑の持ち主達と、肩を並べることが出来るような、そんな能力がオレにはねぇってのか!」

 

 手紙の内容は、恐らく戦いのアドバイスではなく、図鑑を(たく)したトレーナー達の特徴を(しる)したものだったはずです。それを何故、ゴールドさんにのみ渡そうと決めたのかは分かりません。

 少ない時間ですが、彼と接する内に気付いたことと言えば、彼のトレーナーとしての能力は並です。生まれながらにして、多くのポケモンと過ごしてきたことから、ポケモンと仲良くなることに関しては高い能力を持っていると思いますが、それでも一般トレーナーの域を出ないと思います。

 主人公ならではの、トラブル体質と言いますか、悪運の強さなどはありますが、一度(ひとたび)ポケモンバトルを行えば、真っ直ぐ過ぎる性格と合わさって、単純な戦法が多いように感じます。

 ただ1つ。彼が他と違うと思うことは、彼は人並み外れた強い心を持っていることです。そして、その熱い心で救われたポケモンもいます。そんな燃えるような心を持つゴールドさんですが、先程の戦いで、その心に宿(やど)る火は小さく消え入りそうです。ですが、何か1つ。たった1つでも切っ掛けがあれば、それが燃料となって、再び彼の心を炎で熱くするはずです。

 

「大丈夫です」

「え?」

「ちゃんと届いていますよ」

 

 私の言葉に、視線が1つの所へ集中します。それに気付いたゴールドさんも、ずっと手の中にあったタマゴへと目を向けると、それまでただの真っ白なタマゴだったそれに、黒いギザギザの模様が浮かび上がって、(ふる)えだしていました。

 そう、あの時のゴールドさんの思いは、ちゃんと届いていたのです。

 

「お、おい! これ、封筒の中にオーキド博士からの手紙が残っていた! 『ワシが見出(みいだ)した図鑑所有者達の6つの能力、戦う者、育てる者、()やす者、捕まえる者、()える者、()える者、そして、それらに()ぐ7番目の能力。それこそが、(かえ)す者じゃ』!」

 

 その瞬間、タマゴが割れ、中から2匹のピカチュウの子供、ピチューが誕生しました。

 彼の熱い心はタマゴを(あたた)め、新たな命を目覚めさせたのです。

 

「う、生まれたじゃと……まだ予定日よりかなり早いはずじゃが」

「ゴールド、お前いつからこのタマゴを?」

「いや……ついさっき、()いていたのは一瞬だったぜ。ただ、夢中で、守らなきゃって……」

「そうか。だけど、お前が手にしたことでタマゴは孵った。それは間違いないようだぜ?」

 

 生まれたばかりのピチューは、親(ゆず)りの電撃を両(ほほ)頬袋(ほおぶくろ)から出しながら、気合いの入った目でゴールドさんを見つめます。その目は、まるで、絶対に諦めないという、ゴールドさんの目、そのものです。

 するとピチューはゴールドさんの頭に乗り、自身とゴールドさんを電撃で包んで浮かべます。

 

「オイオイオイ、何だ! どうする気だ! もしかして、アイツを、ヤナギを追うってのか!」

 

 それに答えるように、電撃が更に強くなります。

 

「では、私も行きましょうか。レーちゃん(レアコイル)、お願いします」

 

 連れて行くのは、私が最初に仲間としたレーちゃん(レアコイル)だけです。

 これから飛び込む空間の中で、もし(やぶ)れてしまったから帰ってくることが出来ません。それに彼等を巻き込む訳にはいきません。

 本当なら私1人で行きたいですが、私だけが飛び込んだだけでは何も出来ないでしょう。ならば、1番付き合いの長く、私の考えていることを1番理解してくれているレーちゃん(レアコイル)しかいません。

 それらを全て分かっているのでしょう。レーちゃん(レアコイル)は、私を見て「しょうがないな」とでも言うように寄り添ってくれます。私はレーちゃん(レアコイル)磁石(じしゃく)に掴まって、時空への扉を見つめます。

 

「よっしゃ! 行くぜぇぇええええ!」

「彼に続いて下さい!」

 

 ゴールドさんが扉へと飛び込んだのに遅れて、私も扉を(くぐ)りました。

 

「ここは……」

「何だこりゃ……」

 

 この空間が”時間の狭間”……? 何でしょうこの感覚。不思議な感じです。

 心地よさ、気持ち悪さ、清々(すがすが)しさ、息苦しさ。様々な感覚が通り過ぎていきます。時間の流れが不規則なのでしょうか?

 これに一番近い感覚ですと……【トリックルーム】が該当(がいとう)しますかね? あれは時間の流れが一定ですので、今のような変な感じはしないのですが、似ていると言えば似ていると思います。

 しかし、今感じているこの状態は何か変です。

 私自身は良い悪い全ての感覚を引っくるめて不快感しかないのですが、一方でそれとは別に、この空間に何も感じていない私がいます。

 まるで、船に乗り続けて船酔いにならなくなったような……以前にも体験して慣れてしまったような感覚です。

 1人の私に2つの違う感じ方……まさか、本来のミカンちゃん()と転生した(ミカンちゃん)の2つの意識が混じっている?

 

「ここまで追ってくるとは、本当にしつこい奴らだ」

 

 そんな違和感について考えていると、突然何もない空間からヤナギさんが現れました。

 

「テメェ! どっから!」

「ここは時間も空間も(ねじ)れていて、全てが縦横無尽(じゅうおうむじん)に流れている。だから、近いようで遠く、遠いようで近い。例えこの空間の中で数十キロ離れていたとしても、そこへ行くことを強く思えば、一瞬で道が繋がる。だが、1度この流れからこぼれ落ちたが最後。もう2度と()い上がることは許されず、空間の圧力に挟まれて、死ぬ。それから守ってくれるのが、この2枚の羽だ」

「ベラベラとありがとよ! つまり、テメェの近くにいりゃ、問題ねぇってこったろ! ピチュー! 突撃だ!」

「ふん、諦めの悪い奴だ!」

レーちゃん(レアコイル)、ゴールドさんを援護(えんご)して下さい」

 

 それから空間内を飛び回って、いくつもの軌跡(きせき)(きざ)まれて、消えていきます。

 

「うぉぉおおおお【ボルテッカー】!」

「ふん、【こなゆき】!」

「くそぉ!」

「そこです! 【ちょうおんぱ】!」

「甘いわ!」

 

 中々内側へと飛び込ませませんね。私は何故かまだ余裕がありますが、羽で守られていないゴールドさんはどこか苦しさを(にじ)ませています。それでも、その目には力があり、絶対にヤナギさんを倒すという意思を感じます。

 根本的に、この空間の中で距離というのは意味を成しません。物理的な距離があったとしても、そこへ到達するまでの時間が(ゆが)んでいますので、先程のヤナギさんの言葉を借りるなら、10m進むのに100分掛かることもあれば、100kmを進むのに1分も掛からない場合もあります。

 あくまで例えですので、実際にどのような作用がこの中で起こっているのかは、私では知ることが出来ませんが、体感で、1つの動作が若干ラグというか長く感じることもあれば、判断が遅れて直撃されると思った攻撃が余裕を持って(かわ)せたりと、不思議な感覚がずっとしています。

 しかし、それは私だけでなく相手も同じです。

 

「【げんしのちから】!」

「なっしまっ!」

「ゴールドさん!」

「大丈夫だ! まだまだぁぁああああ!」

レーちゃん(レアコイル)、彼のピチューに電気を! ゴールドさん受け取って下さい!」

「ミカン! おっしゃ行くぞ! 【じゅうでん】!」

 

 気合い、やる気十分なピチューです。しかもレッドさんのピカ(ピカチュウ)とイエローさんのチュチュ(ピカチュウ)の2匹を親に持ち、しかもその2匹ともトキワの森というポケスペに()いては特別な森出身、最強の遺伝子を持つ子だと思います。

 しかし、どれ程才能があろうとも、まだあの子は生まれたばかり、電気の制御が上手くいかずに、せっかく溜めた電気も漏れ出してしまうことがあって、十分な威力が出ていない時があります。そこをレーちゃん(レアコイル)が外部バッテリーとなって電気を供給。そして【じゅうでん】によって、一時的に電気の保有可能量を上昇させることで、次の技を安定させます。

 

「くらえぇぇええええ! 【10まんボルト】ぉぉおおおおお!」

「ぐあああああああああ!」

 

 その激しい電撃、まるで稲光(いなびかり)を至近距離で見た時のようなとてつもない光が一瞬、この歪んだ空間を支配します。

 それを直視してしまったヤナギさんは、キョロキョロと辺りを探るような仕草をします。

 

「視力が……よくも! 容赦(ようしゃ)せんぞ!」

「おっしゃ! 攻撃が通った!」

「気を抜いてはいけません!」

「見えなくとも、分かるぞ! そこだ! 【フリーズドライ】!」

「何っ! うわっ!」

「ゴールドさん!」

 

 一瞬の気の緩みもありましたが、何よりもすぐさま対応してきたことに気付くのが遅れてしまい、ゴールドさんも攻撃を食らってしまいました。そして彼の周りに冷気が霧状となって姿を隠してしまったことで、中の様子が分かりません。

 

「大丈夫ですか!」

「おう! 大丈夫だ! だけど、何だ身体が上手いこと動かねぇ!」

 

 霧が晴れた時に見た彼の姿は、一枚のガラスの中に投影されたような二次元の人物となっていました。

 

「フハハハハ! どうだ! かつてスイクン達を封印した時と同じ手法だ! この空間の中で私の氷の壁に挟まれるとこうなる! 完全なる冷凍保存だ! この空間の苦しみからは解放されるが、動くこともままならないだろう! そして、次は貴様だ! ミカン!」

「くっ!」

 

 更に相手の攻撃は激しさを増しますが、(まばゆ)い光によって一時的に視力がなくなってしまったヤナギさんの攻撃は直線的です。他の感覚に頼っている割りには正確にこちらの位置を掴んで仕掛けてきますが、この程度なら私でも対処が出来ます。

 

「ちぃ! (らち)が明かない! このまま時間を浪費してしまっては、また機会を失う! また後で決着を付けてやる!」

「あ、待ちなさい!」

 

 しかし、私の制止の声も意味はなく、彼は再び空間の歪みの中へと姿を消してしまいました。恐らくこの空間から出て、ウバメの森の(ほこら)へと向かったのでしょう。虹色の羽と銀色の羽の2枚の羽を持たない私では、この空間を出入りすることが出来ませんので、ただ無為(むい)(ただよ)うしかありません。

 

「ゴールドさん、大丈夫ですか?」

「あぁ! だが、どうにも出られねぇ! そっちから何とかならねぇか?」

「そうですね……」

 

 氷の壁をコンコンと叩いてみますが、これは物理的に破壊することは難しそうです。それに仮に破壊出来たとして、中にいる彼が無事に脱出出来るという保証もありません。

 

「やはり、あの羽がないとなんとも出来ないみたいですね」

「やっぱそうか……」

 

 それから私達はお互いにどうすることも出来ず、ただこの何もない空間をフワフワとしています。ただ、私の中では次の戦いについて考えていました。彼は「後で決着を付ける」と言いました。つまり、セレビィを捕獲して時を手に入れてから再び戦うということです。

 ヤナギさんにとって、私の存在は余程邪魔なのでしょうね。

 エンジュ、セキエイ、ウバメ近郊、そしてこの空間で4回戦い、いずれも私の負けでした。ですが、5度目があるというのであれば、今度こそ彼を倒しそして、生きて帰ってきたいと思います!




 以前どこかで書いたと思いますが、本作のミカンちゃんはポケスペのHGSS編を知りませんので、この戦いの後、ヤナギは時間の狭間に落ちて死ぬと思い込んでいます。
 ですので、絶対に救い出し、そして罪を償わせることを信念に行動しています。
 中途半端に知識のある主人公です。

 これでポケスペ本編14巻終了です。
 ゴールドの登場シーンが少ないこともあって、ゴールドと一緒に行動させるとあっという間に終わりましたね。
 次回か次々回でエンディング予定です。
 長々と続けるつもりはありませんので、無事に完結まで行けましたらそこでスッパリ終わります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話 vs セレビィ

 いつも通りのご都合主義と、難解文章です。
 疲れた脳みそを回転させても空回りするばかりで、全然噛み合いません。
 そして本シリーズで最長……まぁそれでも1万文字にはいかないんですけどねw
 ということで、第25話。どうぞ。

 追記:誤字報告ありがとうございます。


「なぁ、ミカン」

「はい?」

「ミカンは、ここにいて、苦しくはないのか?」

「私ですか……? うーん、そうですね。特にそういうことはありません」

「オレは結構ヤバかったんだが……何でだ? もしかして、ミカンも虹色の羽と銀色の羽を持ってるとか?」

「いえ、それはないと思います」

「だよなぁ……」

 

 この”時間(とき)狭間(はざま)”でヤナギさんと戦い、そしてゴールドさんがヤナギさんの作り出した氷壁に挟まれてしまって身動きが出来ない状態となってしまいました。その後、ヤナギさんはセレビィを捕まえるべく狭間の外へと出て行ってしまったので、私達は放置されたまま何もすることが出来ず、呑気(のんき)に雑談をしています。

 この空間の出入りは、ホウオウの羽である虹色の羽と、ルギアの羽である銀色の羽の2枚を所持していなければ出入りは出来ず、また空間内で無事でいられないというものです。何故か私は無事ですが。

 割と切羽詰(せっぱつ)まった状況であるはずなのに、何故こうも落ち着いているかと言うと、ヤナギさんは去り(ぎわ)に「後で決着を付ける」と言い残していきました。ということは、また戻ってくるということです。

 勝つにしろ、負けるにしろ、いずれにしてもまだもう1回チャンスがあることを考えれば、まだ気が楽です。それに、1人ならともかく、こうして話し相手がいますからね。まぁその話し相手のゴールドさんは、絵画の中に閉じ込められているような平面になっていますが。またピチューも同じ氷壁の中にいるらしいです。

 

「あれ?」

 

 ふと気付くとゴールドさんの姿がありません。

 

「どこに……?」

 

 辺りを見渡そうと、レーちゃん(レアコイル)と一緒にキョロキョロとしていると、どこからか声が聞こえます。

 

『くっそあんにゃろぉぉぉおお!』

『ゴールド! 一体何があったの!』

『おぅ! クリスにシルバーじゃねぇか! それにその他にも大勢と……何で凍ってんだって、さっきのヤナギのじじいか! ちくしょうめ!』

『話は後だ! 掴まれ! ……っ!』

『気を付けろシルバー! こん中は色んな時間が不規則に流れているねじ曲がった空間だ! 何の用意もなく入ったら、たちまちオダブツだぜ!』

 

 これは、ゴールドさんと(ほこら)の外にいるトレーナーさん達の会話? それがどうしてここまで聞こえるのでしょうか?

 

「待たせたな。ミカン」

「ヤナギさん……」

「今度こそ決着を付けよう」

「……分かりました。レーちゃん(レアコイル)

「ウリムー」

 

 そして、合図はなく互いに攻撃を始めました。

 ゴールドさん達の会話は、ヤナギさんには聞こえていないのか、特に気にする様子もなく戦っていますが、私は頭の中に響いてくる声に気を取られてしまい、思うように攻撃出来ず、防戦一方となっています。それでも長年ずっと一緒に付き添ってきたレーちゃん(レアコイル)が、自分で判断して的確に行動してくれているおかげで、攻められているとはいえ膠着(こうちゃく)状態を作り出すことが出来ています。

 

『あのボールの中には2枚の羽が仕込まれていて、ヤツはその羽に守られているからこの空間の中にいても無事なんだ! 今はミカンがヤナギと戦って時間を(かせ)いでくれているから何とかなっているが……』

『何ですって! ミカンさんもその中にいるの!』

『何だよクリス! 突然叫びやがって! おういるぞ!』

『あの時、セキエイから姿を消していたのは、2人で仮面の人(ヤナギ)を追っていたからなのね!』

『そうだ! だけど、2枚の羽がないことにはどうしようもなくてな。オレがここから出る為にも羽が必要みたいで……って、あ? あああああああああああああああ!』

『ど、どうしたのゴールド!』

『オイオイオイオイ! お前ら何ボーッとしてやがる! そこの麦わら帽子被った少年(・・)! ソイツの帽子に刺さっているのは、まさしく虹色の羽と銀色の羽じゃねぇか!』

『えぇ!』

 

 ここでイエローさんが、少年じゃなくて少女であることが知られたんでしたね。仕掛け人のブルーさんは当然として、グリーンさんも確か知っているんでしたね。

 無事にゴールドさんが助かる算段が出来たようで、私は一安心し、脳内に響く会話を無視してヤナギさんとの戦闘に集中します。

 

「【ラスターカノン】!」

「【フリーズドライ】!」

 

 2つの攻撃がぶつかり、爆発します。

 私達の戦いはこれまでと同じ、時間の狭間の(ねじ)れた空間で行われていますが、先程と違うのは、目の前の彼がセレビィをゲットしたからかそれぞれの時間に干渉し、これまでの歴史が様々な映像となって流れていきます。

 私はチラリと視線をやり、その映像の中に今は覚えていない私の前世についての映像がないか探しましたが、どうやらないようです。流れるのは、()がこの世界に誕生してからの歴史。それが、不規則に出ては消えていきます。

 するとそこに、また別の映像が割り込んできます。

 これは、ゴールドさん、シルバーさん、クリスさんそれぞれの歴史? ということは……

 

「これが時間の狭間! オレ達の過去か!」

「オレらだけじゃねぇみてぇだぜ? シルバー。中にはミカンのやヤナギのまで混ざってる!」

「あの人達の過去の映像!」

 

 自身の話していない過去を、他者に見られるのは恥ずかしいですね。

 まだ姿は見えませんが、この声の感じからすると、3人とも祠に飛び込んだみたいですね。

 

「まだ向かってくるか。しつこい奴らだ」

「それが子供というものですよ? (あきら)めが悪くて、頑固(がんこ)で、自分を曲げず、他人とぶつかって喧嘩(けんか)して、そして仲良くなる。あなたも、そんな過去があったんじゃないんですか?」

「ふん、全て捨てたよ」

「あなたが捨てたとしても、相手が捨てているかどうかは分かりませんよ?」

「何?」

「あの子達は、オーキド博士から図鑑を(たく)されたトレーナーですよ? 博士の意思を継いだ今の時代のポケモントレーナーです。そして、ゴールドさんは育て屋夫婦やガンテツさんとも関わりがあります」

「貴様、何故それを? 映像を見る限り、貴様が私やロケット団を探っていた様子はみられないし、時間を支配することを調べていた様子もない。どういうことだ?」

「秘密です」

 

 乙女には秘密が沢山(たくさん)あるんですよ?

 ヤナギさんとオーキド博士、育て屋の夫婦にガンテツさん、そして、今は行方不明の元四天王のキクコさん。彼等は昔友人としてつるんで夢を語り合っていたことを、()は知っています。

 

「ふざけるな! 【こなゆき】!」

「避けて下さい!」

「くっ、何故、羽もないのに無事なのだ!」

「さぁ? 分かりません! ですが、今はそんなことどうでも良いじゃないですか!」

「見つけたぞ! ヤナギ!」

小僧(ゴールド)!」

 

 駆け付けたゴールドさんはライコウに、シルバーさんはエンテイ。そしてクリスさんはスイクンにそれぞれ(また)がっています。

 その時、1つの映像が私達の目の前で流れます。

 

「あれは!」

「若い頃のヤナギ老人!」

「2匹のラプラスが……!」

 

 氷原で修業をしていたヤナギさんの手持ちの2匹のラプラスが、突然崩れた地面と氷塊(ひょうかい)に巻き込まれて見えなくなってしまった映像です。この後の2匹の様子は分かりませんが、恐らく死亡してしまったか、もしくは行方不明扱いとなるでしょう。

 命あるものですから、いずれ、私も私のポケモン達と別れる時が来るのでしょうが、それは私が先になるか、ポケモン達が先になるか……いいえ、今、この瞬間(とき)を乗り越えなければ、未来へは行けません!

 

「そんな……」

「おい、アレ!」

 

 若い頃のヤナギさんが(かか)えていたタマゴから、1匹の小さなラプラスが生まれました。親を探し、キョロキョロと辺りを見渡すその小さな身体を、ただ彼は抱き締めることしか出来ていませんでした。

 

「ヤナギ、てめぇ……!」

「ふん。紹介しよう。ヒョウガ(ラプラス)だ。今の2匹のラプラスの子供だよ。このヒョウガ(ラプラス)の為に過去へ戻る! あの時に失った2匹を救うのだ!」

 

 あの時に生まれたラプラスに”氷河”と名付けることで、(いまし)めとしたのですね。

 何とも業が深いことです。

 私はまだ理解出来なくもないです。まぁ、戻りたい過去の為に犯罪を(おか)すような真似(まね)はしませんが。

 

「それだけの為に……たったそれだけ(・・・・・・・)の為に! これまでの悪事は全て!」

 

 しかし、子供達には、まだ失った経験がありません。経験がなければ実感出来ず、本当に意味で理解することも出来ません。

 

「たった、それだけのこと? お前達には理解出来ないだろう! それだけのことであろう!」

「っ! ゴールドさん!」

 

 ヤナギさんが氷の身体を操って伸ばし、ゴールドさんの持っていた2枚の羽を叩き落としてしまいました。

 

「だが、私にとっては生きていく全てだったのだ!」

 

 この捻れた空間の中で無事でいられるのは、虹色の羽と銀色の羽の2枚によって守られているからです。それが手元から離れると……ゴールドさん達が危険です!

 

「おっと行かせんよ、ミカン! 貴様が何故自由に動けるのかは分からんが、邪魔はしないでいてもらおう!」

「くっ!」

 

 ゴールドさんに気を取られた(すき)を突かれて、私はヤナギさんの氷の腕によって(とら)われてしまいました。

 2枚の羽の加護がなくなったことで3人の子供達が苦しみ始め、それに動揺(どうよう)した3匹のポケモンも動きに精彩(せいさい)さを()くようになります。

 

「1つ、お前達には嘘を()いた。私にとって、ポケモンとは”道具”だと言ったな? あれは正確ではなかったな。そう、正しく……正しくは。そう、正しくは、 “私の愛すべき存在(ポケモン)”! 愛して愛し抜く! “道具”とは、その愛を(つらぬ)く為に利用するその他一切のもの!」

「そんなもの……愛ではありません!」

「減らず口を! 他の3人はともかく、貴様はこの時間(とき)のうねりに押し潰されることもないだろう。だから、今ここで始末する!」

「なっ……ぐっ……!」

 

 私を掴む氷の手に力が加わり、(にぎ)(つぶ)そうとしてきます。身体の中の空気が押し出され、呼吸が出来ません。ですが、意識が途切れ途切れになる中、私は必死に目を開いてレーちゃん(レアコイル)へ視線を送ります。動揺してワタワタしていましたが、私と目が合うと気合いの入った目をして、パーツ1つ1つにまでバラバラに分離し、それぞれが私を掴む氷の腕に殺到します。

 

「何をするつもりか知らんが、この氷の身体は何度壊されてもすぐに直せる。それに、下手なことをすると主人まで傷付けるぞ!」

 

 ですが、私はその言葉を無視して小さく(うなず)きました。

 次の瞬間、氷の腕が粉々に(くだ)け散りました。

 

「何!」

「ヒュー……ヒュー……ハァ、くっ、ハァ……ハァ、ぐっ、残念、でした、ね!」

「何をした!」

「答える、ハァ、ハァ、ひつよ……必要は、ハァ、ありません。レーちゃん(レアコイル)!」

 

 私の呼び声にすぐに元のレアコイルの姿に戻ったレーちゃん(レアコイル)の磁石の1つを掴み、再び腕が構築(こうちく)される前に、急いでこの場から離れます。

 私がレーちゃん(レアコイル)に指示したのは【ちょうおんぱ】です。音とは空気の振動です。その振動を直接氷に撃ち込むことで、分子同士の繋がりを緩くし、破壊しました。ある一定の硬さの範囲を(しぼ)っての振動ですので、密着していた私には影響はありません。

 離脱したその先。目指すはゴールドさんが手放してしまった2枚の羽!

 それを空いた左手で掴むと、急いで彼等の元へ向かいます。

 

「くそ、そういえば、お前には謝らねぇとな……あん時、オレのリュックを盗んだ犯人だと思い込んで……だが、それが全ての始まりだったんだ。悪かったな……いや、ゴメンよ」

「何を……?」

「いや、今言っておかねぇと、くっ、もう言えねぇ……かも、しんねぇからよ!」

「何故、ここまで……オレの為……か?」

「馬鹿言っちゃ、いけねぇよ……”何の為に戦うのか”……そんなん、誰かの為とか、何かの為とか、やっぱ……オレには似合わねぇよ……オレは、オレの為に戦う……オレだけの戦いだ! くっ……だがよ……こんなオレの自分勝手な行動で、誰かの為になって、救われるってんなら……悪くねぇって思ってよ……それに、まだ」

「まだ、諦めちゃ駄目ですよ?」

「ミカン!」

 

 良かったです。間に合いました。

 何か良い感じにバッドエンド入りそうな雰囲気(ふんいき)を出していましたが、そうはいきませんよ? 子供を犠牲にして築かれた未来なんて、(ろく)なものではないのですから。

 私が到着したことで、彼等も苦しみから解放されて大きく呼吸しています。

 

「はい、落とし物ですよ」

 

 そう言ってゴールドさんに2枚の羽を握らせます。

 

「ありがとよミカン。シルバー、クリス、おめぇらと出会って、色んなトコ行って、色んなヤツに会って、いっぱい戦って面白かった。あぁ、すっげぇ面白かったぜ! これを持って先に戻っていてくれ。オレはまだこの先にちょーっと用事があるんでな! ミカン、コイツらに付いててやってくれ!」

「お、おい! ゴールド!」

「ゴールド!」

「ゴールドさん……」

「ありがとよ!」

 

 そう言って彼は、ヤナギさんの所まで向かいました。仕方ないですね。

 

「私も行きます。私はゴールドさんだけでなく、ヤナギさんも助けたいと思っています」

「え? ミカンさん? でも、羽がないと……」

「大丈夫です。すぐに終わらせてきますから。ゴールドさんもきっと、そのつもりですよ? だから、彼が帰ってくるのを待っていて下さい」

「おい! お前!」

「では、行ってきます!」

 

 2人の引き留めるような声を振り払って、再びレーちゃん(レアコイル)と一緒にゴールドさんのいる場所まで向かいます。

 

「ヤナギ!」

「ちっ、セレビィ! 急げ! 私をあの時へ! あの時間へ! あの時代へ連れて行け!」

「ヤナギさん!」

「ミカン! 何でお前!」

ゴールドさん(子供)だけで危ない目に()わせる訳にはいきません!」

「わぁったよ! じゃあ一緒にやるぞ!」

「元よりそのつもりです!」

「貴様ら! 何度も何度も邪魔しおって!」

「テメェみてぇな悪党に、良いように使われてちゃ可哀想だ! だからさっさとソイツ(セレビィ)を解放しやがれ!」

「何とでも言え! 私のあの時の気持ち、お前らなぞに分かられてたまるか!」

 

 声を荒げながら、ヤナギさんが氷の腕を振るいます。

 

ヒョウガ(ラプラス)のタマゴを(かえ)した時の私の気持ちが! 両親を亡くし、たった1匹生まれてきたこの子(ヒョウガ)をこの手に()いた時の気持ちが!」

「オレは分かるぜ! オレも”孵す者”だ!」

 

 この孵す者というのは、ただの役割ではありません。恐らくオーキド博士は、図鑑を正式に託した時には(すで)に何かを感じていたのかもしれません。それがトゲピーの誕生を見て、確信に変わったのでしょう。

 生まれたばかりの低いレベルにも関わらず、ワタルから借りたバンギラスを相討ちに持ち込む程の爆発的な力を発揮したその彼の能力(ちから)を。

 生まれてきたポケモンの潜在能力を最大限まで引き出し、トレーナー(ゴールドさん)の感情、意志をも受け継いだ、そして彼に似た一直線なポケモンが誕生します。それは彼のみに許された、(主人公)の能力です。

 

「行くぜ! 気合い十分! 【100まんボルト】ぉぉぉおおおおお!」

「ぐあああ!」

 

 いやそれ、スオウ島での決戦で、そのピチューの親であるピカチュウの技ですよね。私のレーちゃん(レアコイル)にライコウからも電気をもらっていますので、貯蓄量(ちょちくりょう)膨大(ぼうだい)なはずですから、それだけの威力が出ても不思議ではないと思いますが。

 いずれにせよ、その攻撃は確かにヤナギさんに届きました。

 ゴールドさんがいつも持ち歩いているビリヤードのキューを氷の身体に突き刺すことで、避雷針の役割を持たせ、そこに集中して電撃が撃ち込まれて氷が崩壊していきます。

 そこへ、更なる熱量が殺到します。

 様々な攻撃エネルギー。ライコウに、エンテイに、スイクン。そして、祠の外にいる多くのトレーナー達のポケモンによる想いの力。

 そしてそれは、ヤナギさんの手に持つ時を捕らえるボールを砕くことに成功し、中からセレビィが飛び出して来ました。

 

「そんなっ!」

「そのボールの中の羽に守られていなきゃ、この空間では無事ではいられねぇはずだぜ……そして、オレも……ぐっ……」

「ゴールドさん……あ、あれは……?」

 

 私は気を失った彼を()きかかえます。その時、ヤナギさんの(もと)から飛び立つ影が目に入りました。

 

ヒョウガ(ラプラス)……」

 

 その子の行方(ゆくえ)を目で追うと、パタパタとヒレを羽ばたかせて1つの映像へと飛び込みます。それによって、時間を越えることに成功し、まだ生きていた頃の両親と出会うことが出来ていました。

 その時、この時間の狭間の中で、1つの曲が流れます。

 それは私も聴いたことのある有名な曲。昔1人の友人の為に作られ、そして贈られた1曲。今はクルミさんがカバーしていることで、多くのトレーナーが1度は耳にしたことがある曲。”ラプラスに乗った少年”です。

 大切なポケモンを失ったヤナギさんを元気付けようと、友人であるオーキド博士、キクコさん、ガンテツさん、育て屋の夫婦がそれぞれ作詞作曲歌を担当して作り上げた曲。当時は受け入れられなかったそれは、それでも確かに彼の心に届いていたのです。忘れることもなく、心の奥底にそっとしまい込んでいたそれを、セレビィが過去の彼の心から引っ張り上げて、聴かせてくれています。

 こんな優しい歌に、想いに(つつ)まれていたことを、今初めて知ったのか。ヤナギさんの表情は、驚きつつも穏やかで、その目には涙が浮かんでいました。

 

「暖かいな……私の心は知らずに凍り付き、そのまま明けない冬を過ごしていたのか。それが今、こうして春の暖かさに触れて、ようやく溶けていくようだ」

「ヤナギさん……」

(うらや)ましいな。若いお前達が……これからも沢山の時間がある。ポケモンと共に過ごす多くの時間が……ミカン、ゴールドを頼んだよ」

「いいえ。私は、あなたも助けに来たのです」

「何?」

「このままでは、時間の狭間に飲み込まれて死んでしまいます。例え犯罪者であっても、それは許容出来ません。ジムリーダーとして、悪者を取り締まるのは当然ですが、かと言って死ぬのを許している訳ではありません。ちゃんとあなたには、正式に罪を(つぐな)って頂きます」

「フフフ、どこまでも真っ直ぐだな」

「諦めが悪いのが取り柄です」

「ほぅ、初めて知ったな」

「えぇ、初めて言いました。さぁ、手を……」

「すまないな……」

 

 私は、右にゴールドさん、左手にヤナギさんを掴み。レーちゃん(レアコイル)の電磁フィールドに乗って移動します。その時、既にヤナギさんから解放されてどこかへ飛び立っていたはずのセレビィが、私の目の前に現れます。

 

「どうかしたんですか?」

 

 目の前のその子は、何も答えずにジッと私を見つめます。そして、目が合った瞬間に、私の脳内にいくつもの映像が流れ込んできます。

 この目に映る光景は何なのでしょうか……? これは、ジョウト地方? でも、この景色を私は知りません……そして、このポケモンって……一体どういうことですか?

 何故”アルセウス”、”パルキア”、”ディアルガ”が……?

 断片的過ぎて分かりませんが……あれ? この人は、ゴールドさん? 随分(ずいぶん)と成長しているようですが……って、もしかして、これって未来の話ですか?

 

「もしこれがそうなのだとしたら、あなた(セレビィ)は何故これを私に見せるのですか?」

 

 しかし、問い掛けに答える様子はなく、ただひたすら未来に起こると思われる映像が途切れ途切れに、壊れたビデオテープを無理矢理再生するように流れていきます。まだ、未確定な未来。でも、起こる可能性が高いということでしょうか?

 そしてそれを私に見せる理由。もしかして、私が鍵になるのですか? この……転生者な私が……?

 確かに、私は本来ならこの世界にとって異物です。ミカンちゃんの身体を借りているとはいえ、中身はこの世界の人物ではありません。

 世界を飛び越えてきた。それだけでなく、一部とはいえ原作を知っている。つまり未来を知っていることになります。

 未来の出来事を知っているということは、どういった形であれ、時間も飛び越えてきたことになるのでしょうか?

 時間を越えた存在。なるほど、世界と時間を超えてきたミカンちゃんの中身()だから、この空間に適用出来ているということですかね。

 転生者である私の存在そのものが、将来、何らかの事件での切り札になると、セレビィは言いたいのかもしれません。違うかもしれませんが、何の意味もなく未来を見せようとはしないはず。

 

「まだまだ、私は強くならなければいけませんね」

 

 事件も解決したのですから、これからのんびりジムリーダーとして過ごして、通信教育の高校の卒業過程をパスしてタマムシ大学を受験、合格し、進学する夢があったのですが……まだまだ休めそうにありませんね。

 ただ、今だけは、ゆっくりと休ませて頂きます。

 気付けばセレビィは私の下から消えていました。私は気を失っている2人を離さないよう気を付けて、無事にウバメの森へと帰還することが出来たのでした。




 次回最終回です。
 色々とゴチャゴチャしていて読みづらく、分かりづらく、強引な話となっていますが、ポケスペ本編とほぼ同じ話にミカンちゃんを加えてヤナギを救って、そしてHGSS編ではヤナギのポジションにミカンちゃんを置くと考えれば分かりやすいかと思います(雑)。
 まぁHGSS編書きませんが。
 概ね皆様の予想通りの展開になったのではないかと思います。原作改変が小さなものですので、そこさえ抑えておけば大体そのままです。


 ポケスペを読み返してみて、ゴールドが強力な電撃で一時的にヤナギの視力を奪ったというのがほんの1コマだけ描写されていましたが、これによってゴールドは助かったと言えると思いました。
 イエローの麦わら帽子に2枚の羽が刺さっていることを知っていて刺客を差し向けたのだと思いますが、目が見えていたらトレーナー達を氷で捕縛した後に羽を回収もしくは破壊してしまった可能性がありますよね。
 このことから、地味にゴールドは自分で自分を助けたと思いました。
 仲間から名前で呼ばれていたので気付いていた可能性もありますが、目が見えていないのでどれがイエローなのか判断が出来ないもしくは、イエローの名前を知らなかったとも考えられると思います。
 何せ、決戦の直前の襲撃ですからね。本当にギリギリまで隠し通せていたから、容姿は知っていても、カントー在住ということもあって名前まで情報を得ることが出来なかったと想像することが出来ます。
 あくまで私の勝手な妄想ですので。真面目に取り合わないことを推奨します。まぁそういう考え方もあるかなって程度でお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終話 ミカン

 最終話です。
 エピローグ、後日談みたいなものです。


 アサギシティのとある大型施設。この中で、今日も激しいポケモンバトルが繰り広げられていました。

 

「ラッタ、スタミナ切れ(・・・・・・)により戦闘不能。勝者、ジムリーダー、ミカン」

 

 フィールドの中央で審判(しんぱん)を行っていた女性トレーナーさんが、その姿に似合わない真剣な眼差(まなざ)しで公正にジャッジを(くだ)します。

 

「ありがとうございました」

「うぅ、ありがとうございました!」

 

 私と相対(あいたい)する少年トレーナーは、負けてしまった事実に目に涙を浮かべそうになるのと、グッと歯を食いしばって耐えています。

 

「成長しましたね。よく頑張りました」

「っ! は、はい!」

「ポケモンとの絆も大切にされていますし、技の選択も良かったです。後は、持久力と瞬発力をもう少し上げれば、この次はもっと良い結果を残せると思います。前回の挑戦から、ここまで成長を()げたあなたに、このスチールバッジを進呈(しんてい)します」

「え、でも……」

「確かにあなたは負けてしまいましたが、それは私のポケモンが日頃から体力作りを行っていて、スタミナがあったからです。同じ条件なら負けていたのは私かもしれません。それに、勝ち負けではなく、ちゃんとしたトレーナーとポケモンの関係、そして上を目指すに見合った実力を立派に示すことが出来ることがバッジを渡す条件です。ここは胸を張って受け取って下さい」

「はい! ありがとうございます!」

 

 以前対戦した時には駆け出しの新米トレーナーでしたが、これで立派なポケモントレーナーですね。本当なら30分の枠を取っていますので、余った時間で論評(ろんぴょう)、もしくは感想戦に移る所なのですが、上手い具合に戦いを進められ、ほとんど時間いっぱいの戦いとなってしまいました。

 あのコラッタが、ラッタへと進化して技も弱点を突いてきたり、(すき)を作ったり、逆に誘いをしてきたりと、面白い試合でした。最初の挑戦で敗北してから、アドバイス通りずっと訓練していたのでしょう。進化しただけではあれだけのスタミナを得ることは出来ません。

 指導者として、先人として嬉しいものです。

 少年が頭を下げてジムから出て行くのを見送り、私は一息()きます。

 

「お疲れ様でした」

「お疲れ様です。レミさん」

「飲み物をどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

 このアサギジムのジムトレーナーであり、バリバリの女子高生ギャルトレーナーのレミさんからスポーツ飲料を受け取って、(のど)(うるお)します。

 

「ふぅ……」

 

 あのジョウト地方全体を巻き込んだ、ロケット団残党事件が解決してから1ヶ月が経ちました。あの後、”時間(とき)狭間(はざま)”から脱出した私達は、同じジムリーダーのグリーンさんと一緒にヤナギさんを確保。警察まで連行しました。

 シルバーさんにも窃盗(せっとう)などの容疑が掛けられていましたが、不問となりました。その背景として、別に指名手配のモンタージュが似ていないとかではなく、あくまで被害者であるウツギ博士が被害届を取り下げ、またオーキド博士とポケモン協会からの力添えもあったというだけです。

 それって、圧力とか忖度(そんたく)では……? 大人の世界は分かりません。あ、このポケモンの世界では私の年齢でも十分大人なんでしたね。でも気にしません。気にしませんから。

 まだヤナギさんの裁判が残っていますし他にも色々と細かいことがありますが、事件に関わった人達の事情聴取や逮捕(たいほ)起訴(きそ)をもって、(おおむ)ね事件の解決となりました。

 

「ミカンさん、また強くなったんじゃないんですか?」

「そうだと良いですね。まだまだ目指す先がありますので、それに近付くことが出来ているならそれに越したことはありません」

「ひぇ……それ以上強くなってどうするんですかぁ……?」

 

 呆れた様子の彼女に、笑みを浮かべつつ曖昧(あいまい)に答えます。

 セレビィが見せてくれた未来の映像。それが本当に起こる出来事なのかは私には分かりません。私の中の知識では、ヤナギさんを倒した所で物語が終わっていますから。それに、未来と言っても何年後なのかも分かりません。でしたら、出来うる限りの準備をしておくに越したことはありません。伝説のポケモンと戦うのです。準備のし過ぎということはないはずです。

 

「それを言うなら、レミさんも随分(ずいぶん)と強くなったじゃないですか。今でしたらチョウジジムのジムリーダーの席が空白なんですから、ジムリーダー試験受けるんでしたら推薦状(すいせんじょう)書きますよ?」

 

 ヤナギさんが逮捕、起訴されたことで、チョウジジムはジムリーダー不在ということになっています。ジムリーダーは、ポケモントレーナーの道標となるだけでなく、治安維持にも一役買っています。ですので、いつまでも不在というのはあまりよろしくありません。ロケット団の残党も、全員を捕まえた訳ではないのですから、そういった残党の残党が潜伏先としてジムリーダーのいない街を選ぶことは不思議ではありません。

 まぁそれを言えば、普通にタマムシシティのゲームコーナーの地下にいましたが。それに、ジムリーダー自体がロケット団幹部という所もあります。というか現役なんですかね? まぁロケット団のボスであるサカキさんも行方不明ですし、再起を狙っているのであれば、再び動き出す可能性もありますね。その時は全力でお相手しますが。

 

「えぇえ! いえいえいえ、そんな私では、まだ、そんな、ジムリーダーだなんて!」

「でもこの間、本気のシジマさんとの試合で勝利したじゃないですか」

「あれは、あの人が1匹しかポケモン使わないのに対して、こちらは3匹まで使って良いという変則ルールだったからですよ!」

「それでも勝ちは勝ちです。それに、シジマさんも実力者が増えて嬉しそうでしたよ?」

「うー……どちらにしても、まだ私は無理です!」

「そうですか。それは残念です」

「私はともかく、ミカンさんはどうなんですか? 四天王のお誘いがあったと聞きましたが?」

「え、何で知っているんですか? 内密だって言われていたんですけど」

「断ったからじゃないんですか? というか何で断ったんですか? 四天王ですよ? 四天王!」

「えー……まぁ、その、まだジムリーダー就任してから1年半も経っていませんのに、そんないきなり四天王だなんて無理ですよ」

 

 そう、現在四天王は4枠全て空席という前代未聞(ぜんだいみもん)の状態です。それが1年以上も放置されているので、何かしら手を打ちたいというのがポケモン協会の意向のようです。そこで、力のあるポケモントレーナー、特にジムリーダーや、ポケモンリーグでの優秀な成績を収めたことのあるトレーナーを優先してスカウトをしているみたいです。

 ただ、ジムリーダーの選別の方の優先度が高いからか、遅々(ちち)として進んでいない様子です。まぁ四天王、いてもいなくても正直どちらでも良いと思います。バッジを集めたら、その個数によってポケモンリーグ予選のシードもしくは免除の権利が得られるというだけですので。

 一応、リーグ優勝を果たしたトレーナーにのみ四天王への挑戦権が得られ、そして倒すことが出来ればその席を奪うことが出来るという仕組みです。そして4人全員を倒すことが出来た時に、晴れてチャンピオンという1番上の席へ座る権利が与えられるということです。

 ただ、ワタルさんが四天王に入ってからは誰も勝てなくなってしまったので、実質ワタルさんが四天王兼チャンピオンの役割を果たしていたのですが……行方不明なら仕方ないですね。四天王もないですし、今後どうなるかは協会次第(しだい)ですが、私はやりませんよ? 四天王。そんな堅苦しい席は、私には似合いません。

 

「確かに若いですし、任期もまだ短いですけど、十分実力は見せ付けているじゃないですか。対抗戦(エキシビションマッチ)でも、前回リーグ準優勝のジムリーダーさんを負かしたんですから」

 

 あの試合は、グリーンさんのジムリーダー就任から育て直したという、短い期間での育成から来る練度の差での勝利でしたので、同じ条件でしたら私が勝てていたかはすごく怪しい所です。

 

「え、えーと、この話はお(しま)いです。この時間予約はありませんので、少し早いですけどお昼ご飯食べに行きましょう!」

「あ、逃げた。じゃなかった。私も行きますから、待って下さいよー」

 

 別に四天王に入るのが嫌という訳ではないですが、私には夢があって目標があります。まだ高校1年生ですので進路について今すぐ考えなければいけないということもないですが、せっかくのジムリーダーになれたのです。まだまだ勉強したいことは沢山ありますし、様々なトレーナーとも関わりたいと思っています。四天王になってしまったら、強い人としか戦う機会がなくなりますからね。私、別に最強を目指しているとかではありませんので。

 所で、四天王の収入ってどうなっているんですかね? ただその席に座っているだけでポケモン協会から支払われるのでしょうか? ジムリーダーみたいに運営費などとして毎月支給されるのでしょうか?

 ちなみに、ジムに所属するジムトレーナーの給料は一応ポケモン協会から出ていることになっていますが、毎月支払われる運営費の中に含まれていて、それをジムリーダーが給料として出すこととなっています。当然ながらジムトレーナーの人数に応じて支給額が増えますが、上限はありますので、あまり多くのジムトレーナーを(やと)うと大変です。ジムトレーナーの人数については上限ありませんからね。

 

「お腹()きましたね」

「私はそこまでです。軽くなら食べられますが。というかミカンさんさっき隠れておやつ食べていましたが、もう空腹なんですか?」

「え、何で知っているんですか?」

「バレバレです」

 

 食事量の割に、間食をほとんどしない私ですが、時々シジマさんからお菓子が(おく)られてくることがあります。それをありがたく頂くのですが、そのお菓子にはカラクリがあります。シジマさんが隠していたお菓子が奥様に見つかって取り上げられ、しかし捨てるのも勿体(もったい)ないと、わざわざ飛行タイプのポケモンによる空輸によって私の元まで届けられるということです。

 言い訳をしつつ2人並んでアサギ食堂まで向かっていると、見慣れた男性を見つけました。

 

「あ、センリ(・・・)さん、こんにちは」

「ん? あぁ、ミカンか。こんにちは」

 

 そう、ホウエン地方のトウカシティでジムリーダーをしているあのセンリさんです。ただ、今の時点での彼はジムリーダー資格こそ持っていますが、まだどこのジムにも所属していません。本当なら空席となったチョウジジムのジムリーダーへ、真っ先に声を掛けられるべき人物なのですが、とある事情から単身でホウエン地方に向かうことになっています。

 あれは確か5年前ですか。私がまだ駆け出しの一般トレーナーの頃ですのでよく分かりませんが、ポケモン協会の特別研究所に関わる何らかの出来事に関わっていると、ジムリーダー就任後に噂で聞いたことがあります。

 

「どうかされたんですか?」

「いや、何。しばらくこの景色を見ることが出来なくなるんだなと思ってな」

「ということは、ジムが決まったんですか?」

「あぁ、そうだ」

「ちなみに場所は?」

「ホウエン地方のトウカジムだ。前任者が引退したことで空席となったことで、そこに所属することとなった」

「そうですか。センリさんとの鍛錬(たんれん)はとても有意義でしたので、(さみ)しいです」

「ウチの馬鹿息子にも聞かせてやりたいよ。オレの指導を(こば)んでコンテストばかり……」

「どのような道でも、(つらぬ)き通せば立派ですよ?」

 

 一応擁護(ようご)しておきますが、目の前の目付きの(するど)い男性は軽く鼻を鳴らすだけです。

 

「フンッ、アイツにそれだけの覚悟があれば良いんだがな。それに、アイツには強くなってもらわなければ、オレではアイツを守って上げることが出来ないかもしれないからな」

「それを彼に言って上げれば良いじゃないですか」

「言っても聞く訳ないさ。まだまだ()(まま)な子供だ」

「子供だと(あなど)ってはいけませんよ? 子供というのは本当に短い期間にあっという間に成長するんですから。技術も心も」

「あぁ、(きも)(めい)じておく」

「ご家族はこちらに残るのですか?」

「いや、まだ荷物がまとまっていなくてな。家内と息子は、3日後に引っ越す予定だ」

「そうですか。風邪など引かないようお身体には気を付けて下さいね」

「それに関しては全く(もっ)て問題ない」

「それもそうですね。それでは、私はこれで」

「あぁ、気を(つか)ってもらってすまないな」

「いえ、ルビー(・・・)さんと奥様によろしくお伝え下さい。時間が合えば私も見送りに行きますが。3日後はジムリーダーの会合がありますので、少々難しいかもしれません」

「そこまで気を回さなくても良い。だが、ありがとう」

 

 だからそれをちゃんと家族に伝えて上げて下さいとは口にしませんでした。

 私達は別れを告げて、再び移動します。今後、ホウエン地方で起こる出来事については言わないことにしました。言った所で信じてもらえないでしょうし、私がヤナギさんを助けてしまったことで、直接的でなくとも何らかの影響を及ぼす可能性があります。

 それに、セレビィは既にあの人(・・・)と一緒にいるのでしょう。何となくですが、時間の狭間を経験した身だからか、雰囲気(ふんいき)を感じる時があります。私以上に未来を見通せる者が身近にいるのです。どう未来が転ぶか分かりませんが、それをきっと修正して、救ってくれるのだと信じています。

 

「あ、レミさん! 見て下さい! 40分で完食したら無料ですよ!」

「いや、この量は絶対無理ですって。食べるなら1人で食べて下さい」

「分かりました。私、頑張ります!」

 

 事件が一応の解決を(むか)え、平和が訪れます。しかし、何年後かに再びこの地が戦いに巻き込まれることを私はセレビィから教えられました。その時までに、どれだけ時間が残されているか分かりませんが、未来を(たく)された以上は全力で(のぞ)むつもりです。

 

「デカッ! 生で見ると本当にデカッ!」

「これは食べ応えがありそうですね!」

 

 ただ今だけは、この平和な時間(とき)謳歌(おうか)し、お腹いっぱいご飯を食べたいと思います。

 

 

 

 

Fin(未完)




 最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
 これにて本シリーズは完結とさせて頂きます。続きはございません。
 2ヶ月ちょっとの短い期間でしたが、(つたな)い文章にお付き合い下さり、本当に感謝感謝です。
 元のポケスペ本編が良いだけに、中々物語を大きく変えるというのは私の技量では無理でした。
 まぁ、このミカンちゃんでは、ほんの少しだけ未来を変えることが出来る程度の力しかなかったということでご容赦下さい。
 オリジナル作品のスランプで、息抜きとして始めた本シリーズですが、多くの応援によってここまで続いてしまいました(本当は最初の4話まで投稿してそのまま逃げる予定でした)。
 終わり方に納得出来ない人もいるかもしれませんが、私の技量ではこれが限界です。申し訳ないです!
 長々と失礼しました。これにて終わりです。ここまで読んで下さった皆様、お疲れ様でした。


 ここから若干補足。
 というかHGSS版もですけどORAS版も関わってくるとか、色々話がややこしいですね。
 あ、このミカンちゃんはHGSS版を知らないということは当然ORAS版も知りませんので、レックウザを逃がした真犯人も知らないことになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。