遊戯王5D's Next Wind! (suryu-)
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DUEL1.始まりのBAD地区で

 皆様。初めましての方は初めまして。そうでない方はお久しぶりです。どうも、suryu-です。

 この作品は身内数人で作ったものを、私が編集して投稿しております。そのため各話で個性が違ったりしますが、合作なのでそこも楽しんでくださればと思います。

 それでは、デュエル開始!


 ネオ童実野シティ。それは嘗て二つに分かれていた街。シグナーとダークシグナーが戦い、街は再び一つとなる。

 そして、そこから日は過ぎ、とある時。未来の使者と、シグナーは、お互いの運命をかけて戦った。

 その伝説は、今も朽ちる事なく語り継がれている。その伝説のうちの一人。不動遊星に憧れた少年。風鳴遊斗が今、再び起こる戦いに身を委ねる!

 

__ライディングデュエル。アクセラレーション!__

 

「デュエル!」

 

 

 

■【風鳴遊斗】■

 

 

 

”……きなさい。起きなさい。遊斗!”

 

「……ん、んん」

 

 声が聞こえる。僕は今何をしてたんだっけ? そういえばデュエルアカデミアで授業を受けていたような。

 そこで聞こえてきた声に、ゆっくりと起き上がる。この声はおそらく。

 

『もう、授業中に寝ちゃダメじゃない!』

 

 民族風の衣装を着た、翼の生えた半透明の少女が、自分の目の前に浮かんでいる。彼女は精霊のドゥクス。と言っても、見えるのは僕と、僕の友人くらいだ。

 

「ありがとう。つい、ね」

 

 小声でお礼を言うと『もう、仕方ないわね』とドゥクスは溜息を吐いた。

 まぁ、いつもこういう風に助けてもらっているんだけども。

 

「風鳴遊斗君。ここの答えは?」

 

 と、その時だ。教師のハイトマンから、黒板の問題に答えろと言われた。

 問題の内容は、フィールド魔法のコストを払った時に、サイクロンを発動した時、効果は使えるのか。と言うものだ。

 

『一応竜の渓谷を使う遊斗なら分かるでしょ? まぁ答えるとしたなら使えない。が正しいわね』

 

 ドゥクスの問いかけに頷くと、僕はさらに詳しく答えるために、一瞬の間を置いたあと、記憶を頼りに、ハイトマンからの質問に答えることにした。

 

「通常魔法などの場合なら、サイクロンをチェーンされても使えますが、フィールド魔法は勿論。永続魔法などの場合は使えません」

 

「ちっ。ちゃんと聞いていましたか」

 

 このハイトマンという教師は、とても奇抜なピンクのスーツを着た教師で、アカデミアの初等科の頃に格下げされた人だ。

 まぁ、それでも教師としての腕は悪くないのか、一応古代の機械というカテゴリーの、デッキを持っている。

 

「古代の機械、か。……別に対処法はいくらでもあるんだよなぁ」

 

 むしろ手札が揃えば、僕だってワンキルとか出来るし、とても強い訳じゃないと思う。

 それに、僕の同級生にも破れるやつはいる。今日は居ないけど、潮浜いるかという、僕の友人の一人だ。

 いるかは基本天才と呼ばれる部類で、僕はたまに勝てるか否か。濡れ羽色の長髪で、先を蒼く染めた美人で、和服が似合うと思う。

 勿論それは胸がないからとかそんな理由じゃない。……ホントだよ?

 

「そういえば、潮浜いるかさんですが、今日居ない理由は、家出をした。と御家族から聞きました。行方を知っている人は、直ちに報告する事!」

 

「……ゑ?」

 

 丁度いるかの事を考えていた所で、そんな爆弾発言に驚く事になる。

 いや、確かに何時もなら僕の元へ来ているであろういるかが来ていない時点で、何かに巻き込まれたことでもあるのかは疑ったが、多分何か考えがあると信じる。

 

「それじゃあ授業はここまでですよ。皆さん。ちゃんと復習するように!」

 

 授業がこうして終わると共に、僕はいるかのことを探そうと決めた。

 そんな折、いるかから一件のメールが入っていることを確認する。内容を読んでいると、僕は少し頭を抱えたくなってしまう。

 

「旧BAD地区に居るから、私に会いたければここに来て。って……」

 

 

 

 

■【三人称】■

 

 

 

 ネオ童実野シティを語る上では長い歴史があるのだが、この近年で言うとゼロ・リバースという現象により街が二つに別れていた。

 

 シティとよばれる富裕層とサテライトと呼ばれる貧困層の二つの街の間は差別もあり、一人の男がそれを変えるまでにシティがサテライトを虐げていた。

 

 しかし、ある時に橋がかけられて、二つの街は融和を果たした。それでも未だに残る貧困地区が、旧BAD地区なのだ。

 

「ここがbad地区……」

 

『やっぱり荒れてるわね。サテライトが色濃く残るって事かしら』

 

 と。ここで少し遊斗の見た目について触れよう。少しばかり前髪が奇抜な、黒髪の青年で、デュエルアカデミアの制服を着ている。

 そんな遊斗とドゥクスは会話を続けるのだが、いるかは見当たらない。そんな時だ。

 

「視線を感じる……」

 

『そうね、誰か見ているわ。確実に』

 

 Dホイールに乗ってヘルメットをしていようと、視線自体に気づくのはこの世界の人には容易いのだが、数が問題だった。

 複数人。複数人が遊斗の事を見ている。遊斗がそう気づけば、自分は何か面倒ごとに巻き込まれる訳か。と呟いた。

 

「おう兄ちゃん止まりなよ」

 

「良いDホイール持ってんじゃねーか」

 

「金もありそうだな。渡してもらおうじゃねーか」

 

「……はぁ。面倒な事に」

 

『如何にもな柄の悪さね』

 

 ドゥクスもやれやれ。と言った表情で現れたゴロツキを眺める。

 もちろん、遊斗はタダでやられる気もないために、デッキケースに手をかける。その時だ。

 

「おいおい、お前さんら。俺の目の前で何をやらかそうとしてるんだ?」

 

「っ、宍戸のおやっさん!?」

 

 燕尾服を着た一人の中年男性が、遊斗とドゥクスの目の前に現れた。

 その時、宍戸に付きまくっている精霊やらなんやらを目にしてしまう。

 

「な、なんだこの人……」

 

 そんなつぶやきも気にせず、宍戸はゴロツキ目掛けて拳を突きつける。それを見るとゴロツキは怯えていた。

 

「お前さんら。前に潰した時に、懲りてなかったのかね? それだけじゃねぇ。そんな勝手、俺が許すとでも?」

 

「う、俺らはなぁ宍戸のおやっさん……」

 

「み、道案内を」

 

「戯け。ふざけた事を言うってことはぶっ飛ばされてーのか?」

 

 宍戸と呼ばれた中年男性は、見事にゴロツキを圧倒している。

 そして、ゴロツキ達も後ずさりしながら、逃げる様相が見え始めた。

 

「ちっ、宍戸のおやっさんじゃ適わねぇ! 逃げるぞ!」

 

「ちょっ、待てよ!」

 

「くそぉ!」

 

 走り去るゴロツキを眺めた後に、遊斗は自分も行くか。と、再びDホイールに跨った時、宍戸が前に立ちはだかる。

 

「待ちな。この街に何をしに来たか、問わせてもらおうか」

 

「……なんだって?」

 

『気をつけて、遊斗。この人、強いわ!』

 

 ドゥクスからの警告というのは、とても珍しいと遊斗は思う。

 それ程に強力な人と戦えるというのなら。遊斗はデッキケースからデッキを取り出した。

 

「友人を守る為。ですよ。宍戸さん」

 

「……ほう、良い決闘者の面構えだ。俺としてもそうでなきゃやりがいが無い」

 

「ライディングデュエル。ですよね。……良い勝負にしましょう」

 

「はっ、言いやがる。こい、Dホイール!」

 

 ここで、宍戸が片手を上げるとDホイールが宍戸の元へと走ってくる。

 オート運転の応用か。と思いながらも遊斗はDホイールのアクセルをふかす。

 

「ライディングデュエル。アクセラレーション!」

 

 

__DUEL!__

 

 

「「ライディングデュエル アクセラレーション!!!」」

 

「僕のターン!」

 

「おっと小僧、分かっているだろうなぁ。これは新スピードデュエル、先行はドローできない」

 

「忠告ありがとうございます。一応これでも学生なので、さっきの授業で新ルールは勉強したばっかりなんですよ」

 

「ならば復習テストといこうじゃねぇか。1つでもミスしたらコースアウトに叩き込んで補習行きだ!」

 

「ミスしなきゃラフプレーしないなんて、見かけより優しい人なんだね。お手柔らかに」

 

 

 

●Turn1 SpC1-1

 

 

 

「メインフェイズ1、僕はモンスターをセットし、更にカードを1枚セット。ターンエンド!」

 

 デュエルが始まった。僕はこの時点で、得体の知れない緊張感を覚えていた。この人は、何かが違う。

 

●Turn2 SpC2-2

 

「ワシのターン!ワシは手札から《SP - エンジェル・バトン》を発動!」

 

《SP - エンジェル・バトン》通常魔法

自分のスピードカウンターが2つ以上存在する場合に発動する事ができる。自分のデッキからカードを2枚ドローし、その後手札を1枚墓地へ送る。

 

「デッキから2枚ドローし、1枚を墓地へ捨てる」 

 

 スピードスペル。スピードワールド発動下でのみ発動できる特殊な魔法カード……上手く使って……って、。いきなりはじめたから忘れてたけど、僕のデッキ、全然ライディング用じゃない。このミスは痛い! たしかライディングデュエルは、普通の魔法は使えない。少しプレイングを考えなきゃ……

 

「......ボケっとしおって、何もないなら続けさせてもらおうか。ワシは《スパイダー・スパイダー》を召喚!」

 

《スパイダー・スパイダー》効果モンスター星4/地属性/昆虫族/攻1500/守1000

このカードが戦闘によって相手フィールド上に守備表示で存在するモンスターを破壊した場合、自分の墓地に存在するレベル4以下の昆虫族モンスター1体を選択して特殊召喚する事ができる。

 

「バトルフェイズだ。喰っちまえ、《スパイダースパイダー》!」

 

ダメージ計算

 

スパイダースパイダー 攻1500 vs 《ドラグニティ ファランクス》 守1100

 

《ドラグニティ-ファランクス》チューナー・効果モンスター星2/風属性/ドラゴン族/攻 500/守1100

(1):1ターンに1度、このカードが装備カード扱いとして装備されている場合に発動できる。装備されているこのカードを特殊召喚する。

 

「【ドラグニティ】!!しかも初っ端からキーカードを引いてやがったか。モブキャラみてーな見た目してなかなか『持ってる』じゃねぇか。だが......ダメージ計算後のタイミングで、《スパイダースパイダー》の誘発効果を発動する!墓地の《電動刃虫》を対象として......攻撃表示で特殊召喚!!復活しろ、《電動刃虫》!」

 

《電動刃虫》効果モンスター星4/地属性/昆虫族/攻2400/守 0

このカードが戦闘を行った場合、ダメージステップ終了時に相手プレイヤーはカード1枚をドローする。

 

「レベル4で攻撃力2400……なかなか見ないな」

 

「バトルフェイズ中に特殊召喚したモンスターには攻撃が許されている。こいつの追撃は痛ぇぞ!」

 

ダメージ計算

 

電動刃虫 攻2400 → 遊LP5600

 

「っあ! やばっ……っと、なかなかだな」

 

 危なかった。かなり吹っ飛ばされたけど……オートパイロットもあてにならない。やっぱり実践は違うってところだよね。

 

『大丈夫?』

 

「平気、なんとか。……やばいけどね」

 

「なんとか復帰しおったか。これで決まるかとも思ったが......」

 

「しぶとさに関しては、あるつもりだからね。そうだね、虫なみには……!」

 

「それじゃあ虫けらに褒美をくれてやろう。ダメージステップ終了時に電動刃虫の強制誘発効果が発動する、1枚ドローしな」

 

「貰えるものなら貰っておくよ。ドロー!!」

 

「メインフェイズ2に入る。ワシは伏せカードを1枚セットして、ターン終了」

 

「その前にエンドフェイズのタイミングで永続罠を発動するよ。《リビングデッドの呼び声》! 戻ってこい、ファランクス!」

 

《リビングデッドの呼び声》

永続罠(1):自分の墓地のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。

 

”なるほど、スタンディングデュエルならエンドフェイズの永続罠発動は手札の速攻魔法の餌食になる恐れがある。しかしこれはライディングデュエル。普通の奴ならスピードスペル以外の魔法なんていれてねぇッて道理だ。『普通の奴』ならな......”

 

 あの決闘者。何か考えている、おそらくデッキについてばれたかもしれない。恐ろしく推察力が高い……!

 

 

 

●Turn3 SpC3-3

 

 

 

「いくよ、僕のターン!《ドラグニティ-ミリトゥム》を召喚!」

 

《ドラグニティ-ミリトゥム》効果モンスター星4/風属性/鳥獣族/攻1700/守1200

1ターンに1度、自分の魔法&罠カードゾーンの「ドラグニティ」と名のついたカード1枚を選択して発動できる。 選択したカードを特殊召喚する。

 

「レベル2のチューナーモンスター《ドラグニティ-ファランクス》に、レベル4《ドラグニティ-ミリトゥム》をチューニング! 召喚条件は、ドラゴン族チューナーとチューナー以外の鳥獣族モンスター1体以上 霞の谷の伝説よ、今こそ飛翔せよ!レベル6!《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》!」

 

 眩い光の中から姿を現した朱色の龍は、蛇のような痩身に二対の翼を携え、深い緑色の双眼と胸の宝玉を煌めかせている。

 

 その背には、龍と同じ色の甲冑に身を包んだ鳥人の竜騎士が、大物の投槍(ヴァジュランダ)を握りしめ、宍戸の前方を立ち塞ぐかのように見下ろしていた。

 

 

《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》シンクロ・効果モンスター星6/風属性/ドラゴン族/攻1900/守1200

ドラゴン族チューナー+チューナー以外の鳥獣族モンスター1体以上

(1):このカードがS召喚に成功した時、自分の墓地のレベル3以下のドラゴン族の「ドラグニティ」モンスター1体を対象として発動できる。そのドラゴン族モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

(2):1ターンに1度、このカードに装備された装備カード1枚を墓地へ送って発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時まで倍になる。

 

「まだまだ行くよ!《ヴァジュランダ》の誘発効果発動!墓地の《ファランクス》を対象に、自身に装備する効果。そして《ファランクス》の効果を発動し、特殊召喚する!」

 

”まぁ、ここまでは予想通りだが... 問題は【ドラグニティ】が得意とする連続シンクロの『トリ』、レベル8に何がおいでなするかな”

 

 あの人、また何か考えている。きっと僕のデッキについて考察は終わっている。そして、この先に出すシンクロモンスターのことかな。なら! 

 

「いくよ、連続シンクロ召喚! レベル2のチューナーモンスター《ドラグニティ-ファランクス》に、レベル6《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》をチューニング! 召喚条件は、チューナー+チューナー以外のSモンスター1体以上、神聖なる光蓄えし翼煌めかせ、その輝きで敵を撃て!シンクロ召喚! いでよ!レベル8! 《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》!」

 

 

《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》シンクロ・効果モンスター星8/風属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

チューナー+チューナー以外のSモンスター1体以上

(1):1ターンに1度、このカード以外のモンスターの効果が発動した時に発動できる。その発動を無効にし破壊する。この効果でモンスターを破壊した場合、このカードの攻撃力はターン終了時まで、この効果で破壊したモンスターの元々の攻撃力分アップする。

(2):このカードがレベル5以上の相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に発動する。このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップする。

 

「……ここで何を選ぶかは重要だ。だから……よし! ここはダメージ優先する。バトルフェイズ! クリスタルウィングで、スパイダースパイダーに攻撃だ!」

 

ダメージ計算

 

《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》攻3000 vs 《スパイダースパイダー》攻1500 宍戸LP6500

 

 あの人、かなり慣れている様子でクリスタルウィングの攻撃を凌ぎきった……Dホイールの立て直しがうまい。……まるで予定調和と言われてるみたいだ。

 

「今まで全てわかっていたみたいだ……リアクションもないなんて」

 

「さあな、まあただ言えることはこれくらいは定石って所さ」

 

 ......魔法が使えないとなると、ブラフでセットしたほうが良さそうだな。プレイングに無駄がないように、考えよう。本命の罠がばれないようにして......

 

「メインフェイズ2、僕はカードを2枚セットして、ターンエンド!」

 

 

 

●Turn4 SpC4-4

 

 

 

「ワシのターン、ドロー。ワシはモンスターを1体セットし、更に電動刃虫を守備表示!カードを1枚セットしてターン終了だ」

 

 

 

●Turn5 SpC5-5

 

 

 

「僕のターンだ。手札から霞の谷のファルコンを召喚!!」

 

 

《霞の谷のファルコン》効果モンスター星4/風属性/鳥獣族/攻2000/守1200

このカードは、このカード以外の自分フィールド上のカード1枚を手札に戻さなければ攻撃宣言できない。

 

「更に墓地のミリトゥムを除外し、風の精霊ガルーダを特殊召喚」

 

 

《風の精霊 ガルーダ》効果モンスター星4/風属性/鳥獣族/攻1600/守1200

このカードは通常召喚できない。自分の墓地に存在する風属性モンスター1体をゲームから除外した場合に特殊召喚する事ができる。相手のエンドフェイズ時、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、表示形式を変更する事ができる。

 

「モンスター3体。防戦一方にさせてはいる。怖いところはあるけど、ここは臆さず攻める!」

 

「ほう?」 

 

「バトルフェイズだ。ガルーダで電動刃虫に攻撃!」

 

ダメージ計算

 

1600vs0で破壊

 

「……効果によって一枚ドロー」

 

 引いたのは……テラフォーミング。これは使えない。まだ何か、この状態で使えるものが引けたら良かったけど…… 

 

「続けて、ファルコンでセットモンスターに攻撃。攻撃宣言時にリビングデッドの呼び声を手札に戻す」

 

 ダメージ計算、宍戸の伏せモンスター......赤い果実のような頭部と腹部を持った蜻蛉が姿を見せる。

 

「《ナチュル・ドラゴンフライ》!」

 

 透き通るような翅をホバリングさせ、ドラゴンフライはファルコンの攻撃に対し防御姿勢をとった。

 

ダメージ計算2000vs400 破壊はされない

 

「破壊されない?」

 

「残念だったなぁ!こいつの効果は!」

 

 

 

《ナチュル・ドラゴンフライ》効果モンスター星4/地属性/昆虫族/攻1200/守 400

このカードは攻撃力2000以上のモンスターとの戦闘では破壊されない。このカードの攻撃力は自分の墓地の「ナチュル」と名のついたモンスターの数×200ポイントアップする。

 

「どうしてクリスタルウィングの効果発動タイミングがなかったんだ。発動を無効にするからダメージステップでも発動できるはずなのに……いや、これは」

 

「ナチュルドラゴンフライの効果は永続効果、発動を伴わない効果を、どうやって発動無効しろってんだ。ま、気づいただけ及第点だ」

 

 油断はしてないかと言われれば、これはしているうちに入る。クリスタルウィングさえいれば、モンスター効果の障害は突破してるものと……

 

「たしかにクリスタルウィングは強力な効果を持っている。しかし、そいつを使う奴がこんなへっぽこじゃなぁお前の相手は、このちっぽけな蜻蛉で十分ってこったぜ」 

 

「……」

 

「こいつも伊達に『ドラゴン』の名を冠してねぇんだ。『ドラゴンフライがドラゴンに勝てない道理はねぇ』だろう?」 

 

「でもそれは『負けない』ってだけで『勝った』とは言わない。なにか手がある」

 

「そう、『こいつを倒せなかった以上、お前のモンスターは負ける』のさ」

 

 まずい。状況は依然として有利なはずなのに……この人の罠にハマる。計算通りにいかないと必要以上に焦ってしまう。それは決闘者なら誰しもある。流れを掴まれるんじゃない……あの人の思うつぼだ。冷静になれ、

 

「……僕はカードを一枚セットし」

 

「おいおい、まだてめえのバトルフェイズは終了しちゃいないぜ?」 

 

 宣言を忘れていた……! ここでラフプレー!? っ、危な……!? っと、なんとか耐えた。まさか体当たりまでしてくるなんて、ね……まさか手動なのか?

 

「くっ......改めてメインフェイズ2……カードを1枚セットし、ターン終了」

 

 

 

●Turn6 SpC6-6

 

 

 

「俺のターン。ドロー! へッ! やっぱりな。お前はこのドラゴンフライに負ける運命にあったようだ」

 

「……何を引いたんだ、あなたは」 

 

「今見せてやるよ青二才! これが俺の逆転の一手、魔法カード《同胞の絆》を発動!」

 

「なっ、そのカードは!」

 

 

《同胞の絆》通常魔法

このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。

(1):2000LPを払い、自分フィールドのレベル4以下のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターと同じ種族・属性・レベルでカード名が異なるモンスター2体をデッキから特殊召喚する(同名カードは1枚まで)。このカードの発動後、ターン終了時まで自分はモンスターを特殊召喚できない。

 

「でも、そのカードは……魔法カード!」

 

「それがどうしたってんだ?ライディングデュエルの基本が分からないなら教えてやろう、スピードスペル以外の魔法カードは『効果処理後のタイミングでチェーンブロックを作らず2000ポイントのペナルティを課せられる』!」

 

「......なっ」

 

「どこにも『スピードスペル以外の魔法を使っちゃいけない』なんてことは書いてねぇんだぜ?」

 

 そうだ、今日の授業でもハイトマンがちらっと言ってた……あいにくほぼ寝てたから忘れてたけど。発動と同時に大きなペナルティを負うが、『発動できないわけじゃない』って。

 

「だからって......同胞の絆はスタンディングデュエルにおいても大きなコストを必要とするカード……ライディングデュエルでは固定値にして4000のライフポイントが必要になる。今の環境じゃライフ4000が簡単に消し飛ぶ、それでルール改正があったのに、なのにそんなハイリスクをおかしてまで……この人は……!」

 

「まぁ、ワシも旧ライディングデュエルでは《レインボーライフ》なんか使ってたがな。《スピードワールド2》まではペナルティはダメージだったからよぉ。ルール変更で踏み倒しが出来なくなっちまったが、しかしな……お上に潰されて、社会に弾かれて、やりてぇことも出来なくて何がデュエルだ。このデッキに眠る奴らを存分に活かしてやるには、このカードが必要なのよ。そのためならコスト8000でも安いくれぇだ」

 

「この人は、普通じゃない……だから、強い……!」

 

「教えといてやろう、デュエルはな、頭おかしいやつのほうが強いんだぜ?」

 

「なっ……」

 

『この人、おかしいように見えて……とんでもない不屈の心をもっているわ!』

 

「おしゃべりは終わりだ。デュエルを続行する! 発動のコストとして2000ポイントのライフを払い! 更に! ショバ代として2000ポイントをこのフィールドに捧げるぅ!」

 

 

宍LP6500→2500

 

 

「対象としたナチュルドラゴンフライは地属性・昆虫族・レベル4! 来い、《トリオンの蠱惑魔》!《アトラの蠱惑魔》!」

 

《トリオンの蠱惑魔》効果モンスター星4/地属性/昆虫族/攻1600/守1200

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。デッキから「ホール」通常罠カードまたは「落とし穴」通常罠カード1枚を手札に加える。

(2):このカードが特殊召喚に成功した場合、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動する。その相手のカードを破壊する。

(3):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、「ホール」通常罠及び「落とし穴」通常罠カードの効果を受けない。

 

《アトラの蠱惑魔》効果モンスター星4/地属性/昆虫族/攻1800/守1000

このカードは「ホール」または「落とし穴」と名のついた通常罠カードの効果を受けない。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分は手札から「ホール」または「落とし穴」と名のついた通常罠カードを発動できる。また、このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分がコントロールする通常罠カードの発動と効果は無効化されない。

 

 蟲惑魔……聞いた事ないテーマだけど、こんなものはあったのか? 見た目とかは可愛いけど、僕としてはなんだろう……とてもやばいものに見える。

 

「特殊召喚時にトリオンの効果発動!対象は、さっきのターン伏せたカード。そいつはリビングデッドの呼び声だろう?」

 

「……」

 

 見透かされている。落ち着け、これがほぼオープンなのはファルコンの再利用で見せているのは、確かな事だ。僕もわかってる事だから、ね。

 

「この瞬間、トリオンの効果にチェーンしてクリスタルウィングの効果を発動!」

 

「ならばそれにチェーンだ! 罠カード《大落とし穴》を手札から発動!」

 

《大落とし穴》通常罠

同時に2体以上のモンスターが特殊召喚に成功した時に発動できる。フィールド上のモンスターを全て破壊する。

 

「手札から罠……」

 

「アトラの蟲惑魔の効果で、ワシは手札から「落とし穴」罠を発動できる!」

 

「でも、それならクリスタルウィングの効果は通る、リビングデッドが守られればクリスタルウィングは復活できる!」

 

「そいつぁどうかな?チェーンがないならやらせてもらうぜ。《ブレイクスルースキル》を発動!」

 

《ブレイクスルー・スキル》通常罠

(1):相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。

(2):自分ターンに墓地のこのカードを除外し、相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。その相手の効果モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「罠なら想定内だ。チェーンして《竜の転生》発動!」

 

《竜の転生》通常罠

(1):自分フィールドのドラゴン族モンスター1体を対象として発動できる。その自分のドラゴン族モンスターを除外し、自分の手札・墓地からドラゴン族モンスター1体を選んで特殊召喚する。

 

「言っただろう?ドラゴンフライを倒せなかった時点で、お前は負けている! カウンター罠《エクストリオの牙》!」

 

《エクストリオの牙》カウンター罠

自分フィールド上に「ナチュル」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合に発動する事ができる。相手が発動した魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。その後、自分の手札を1枚墓地へ送る。

 

 カウンター罠……ナチュルの力を持った、スペルスピード3。チェーンはできない。

 

「その伏せカードは思った通りブラフ、これ以上のチェーンはねぇようだなぁ!?」

 

チェーン

 

1:トリオン→2:クリスタル→3:大落とし穴→4:ブレイクスルースキル→5:竜の転生→6:エクストリオの牙

 

逆順処理

 

6:エクストリオの牙で竜の転生が無効化、宍戸は手札を1枚捨てる→4:ブレイクスル―スキルでクリスタルが無効化→3:大落とし穴でトリオンとアトラ以外破壊→1:トリオンでリビングデッド破壊

 

 残った伏せは使えない魔法カード、手札には装備用のモンスターと、これも使えない普通の魔法が一つ、この手札では何も出来ない……

 

「同胞の絆を発動したターンは攻撃できない......が、形勢は逆転したなぁ?カードを1枚セットしてターン終了だ」

 

 

 

●Turn7 SpC7-7

 

 

 

「僕のターン、ドロー」

 

 ……引いたのはおろかな埋葬。打つ手がない。

 

「ターンエンド」

 

 

 

●Turn8 SpC8-8

 

 

 

「俺のターン、ドロー! バトルだ、トリオンとアトラで直接攻撃!」

 

ダメージ計算 1600+1800 

 

遊LP5600→2200

 

「更に、モンスターをセット」

 

”こいつは人喰い虫、お前が何を召喚しようが次のターンで破壊だ”

 

 あの人、自信のある顔だ。……おそらく封じるカードを引いている。

 

 

《人喰い虫》効果モンスター星2/地属性/昆虫族/攻 450/守 600

リバース:フィールド上のモンスター1体を選択して破壊する。

 

 

 

●Turn9 SpC9-9

 

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

『はぁ、仕方ないわね。私の出番よ』

 

 絵柄が違う。どういう理由で刷られたかは分からないけど、女性になっているドゥクスを僕は引いた。

 

「……土壇場だね」 

 

『ごめんなさいね、来るのが遅れて。まあ、すぐ終わると思ってたんだけどね』

 

「僕はドゥクス召喚、召喚成功時の誘発効果を発動し、ファランクスを装備する!」

 

 

《ドラグニティ-ドゥクス》効果モンスター星4/風属性/鳥獣族/攻1500/守1000

(1):このカードが召喚に成功した時、自分の墓地のレベル3以下のドラゴン族の「ドラグニティ」モンスター1体を対象として発動できる。そのドラゴン族モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

(2):このカードの攻撃力は、自分フィールドの「ドラグニティ」カードの数×200アップする。

 

「ならば、ここでDNA改造手術発動、宣言するのは昆虫族だ」

 

《DNA改造手術》永続罠

種族を1つ宣言して発動する。このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターは宣言した種族になる。

 

「ドラグニティのシンクロ条件はドラゴン族と鳥獣族。ヴァジュランダもゲイボルグも出させねぇぜ、さあどうする」

 

「くっ、読んでたね」

 

『……用意周到ね』

 

 いや……ここでシンクロ出来るモンスターが、僕のエクストラデッキには1体だけ存在する。しかし、それを出したところで、伏せモンスター……。あれはきっと妨害系だ。攻撃しなかったことを見るとアタッカーではなく、ステータスは低め……奴の昆虫族デッキからして、あれは人食い虫のようなリバース効果モンスターと考えるべき。つまり、このターンで決めなければ、負ける……!

 

 そういえば……僕の伏せていたカードは!

 

「いや、ある! 一か八か、これに賭けるしかない! 星空を焦がす聖槍よ!! 魂を放ち世界を醒ませ!! レベル6 スターダスト・アサルト・ウォリアー!」

 

《スターダスト・アサルト・ウォリアー》シンクロ・効果モンスター星6/風属性/戦士族/攻2100/守1200

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上。「スターダスト・アサルト・ウォリアー」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがS召喚に成功した時、自分フィールドに他のモンスターが存在しない場合に自分の墓地の「ジャンク」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

(2):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 

「そして、僕はセットされていた竜操術を発動!」

 

『……それは。そういう事ね』

 

LP2200→200 魔法ペナルティ

 

《竜操術》永続魔法

「ドラグニティ」と名のついたモンスターを装備した、自分フィールド上に存在するモンスターの攻撃力は500ポイントアップする。また、1ターンに1度、手札から「ドラグニティ」と名のついたドラゴン族モンスター1体を装備カード扱いとして自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体に装備する事ができる。

 

「その効果を発動し、手札のブランディストックを装備する!これでアサルト・ウォリアーの攻撃力は2600だ」

 

「バトル!トリオンに攻撃!」 

 

”だがトリオンを破壊してもダメージは1000ポイント”

 

宍LP2500→1500

 

”俺のライフは削り切れない。奴に手札はないから次のターンで人食い虫を反転召喚し、直接攻撃を決めれば終わりだ”

 

「……って、考えてるんだろうね。僕のバトルフェイズはまだ終了していないよ! 

 

「馬鹿な、手札もないのにどうやって。墓地にも発動できるカードはないはずだ!」

 

「発動じゃない、永続効果だよ! ブランディストックを装備したモンスターは、1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる!」

 

《ドラグニティ-ブランディストック》チューナー(効果モンスター)星1/風属性/ドラゴン族/攻 600/守 400

このカードが装備カード扱いとして装備されている場合装備モンスターは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

「そして、スターダストアサルトウォリアーは守備表示のモンスターを攻撃した場合も、戦闘ダメージを与えられる!」

 

「決まれぇぇぇぇ!!!!流星環穿(シューティングドライバー)!!!」

 

「……ふ、マイナーだから忘れてたが。やるな、小僧」

 

‭‭2600-600‬‬ ダメージ2000 宍戸残りライフ1500→0 



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DUEL1.5.独白

 ひっそり投稿しましょうか。どうも、suryu-と申します。

 今回は話と話の間なのて、かなり短くなっています。1.5ってやつですね。このあとどんな話になるか、まだまだ分からないと思いますが、この話を見ておくと少し予想がつくかも?

 そんな訳ですから、閲覧なさって下さると幸いです!


 End Phase

 

「ほう、少年のほうが勝ちましたか。これは予想外の結果になりましたね。案外、あの宍戸という男も大したことはないのかもしれません。どうも私は石橋を叩いて壊す性分が抜けない、買被りがすぎていましたか」

 

 フードを深く被った男は、何やら通常だと見えない存在と話しているのか、それとも通話しているのか。なんにせよ何かの映像を見ながら話していた。

 

「……などと気を抜いていられないのが困まったものです。彼が今回使ったカードから察するに、恐らくは今までに使用したどのデッキとも異なるものでしょう。将棋で言うところの飛車角金銀落ちどころではない、桂香に歩も半分ばかりいなくなったハンディキャップマッチ。加減に加減を重ねた二軍のベンチウォーマーといったレベル。相手が人畜無害と見るや、随分と舐めた真似をしてくれるものです。なんとかして彼の本気を観察させてもらわねば……」

 

 その画像に映るのは宍戸と遊斗。二人の事をよく観察しているのか、彼は苦笑いをしながらも映像を繰り返し見ている。映像が自分の目的に事足りたのか、それは言うなれば否だ。

 

「しかし、今回はこちらが手をかけたわけではありませんからね。少しでも情報を得られただけ僥倖と思いましょう。彼の、『《スピード・ワールド》下で通常の魔法を使う』というスタイル……どうやら新ルール以前からもやっていたようですけれども。そういった発想が出来るということはやはり、あの線(・・・)が濃厚ということでしょうか」

 

 指を空中で踊らせる。その指の先にあるのは、彼の考えるいくつかの可能性。その可能性が当たっていると思うのは彼なりの勘なのか、果たしてそれはどういう根拠なのかは、誰も理解できないだろう。

 

「何よりの大きな収穫は、彼が一見不愛想で保守的に見えて、その実は新しく仲間を囲うような性格だったという事実でしょう。よもやあれだけ手加減してやった相手を、戦力に加えようなどとは考えていないでしょうけれど。武骨そうな顔をしておきながら、弱者を前にすると骨抜きにされる甘さがある。その手緩さの隙をつけば、あるいはこちらも骨を折らずに済むかもしれません。あの少年にも利用価値がないか考えておきましょう」

 

 くつくつと男は笑う。”計画”に遊斗の価値は確実にあるのではないか。ということはしっかり理解出来た。あとはそれをどう利用するか、考えるだけ。それともまだ付随価値を見定めるか? いや、まだ過程段階だ。と次々に思考を重ねていく。

 

「おや、私が彼と同類だと言うんですか?悪い冗談は辞めてください。過去も現在も、私が仲間なんてものの意識を持ったことはありませんよ。もちろんこれからも未来永劫ね。もっとも、この世界にどれだけの未来が残っているかは甚だ疑問ですが」

 

 男は何を知っているのか、未来すら残っているか分からない。という意味の単語を残している。これから自分の起こす事がどういう意味を齎すのか、彼は知っている。まあ、それだけではないのかもしれないが。

 

「それにしても、私自身の次に私を理解しているのは、あなただと思っていましたけれどね」

 

 見えない存在に語り掛けるその姿は、正しく道化師。その見えない存在もそれが分かっているから、彼の言葉に対してなにか思うことがあるのかそれとも。

 

「あちらに居た頃から、私のことは心情に入り込んでまで知っているはずでしょう。いえ、本心ではないのは分かっていますよ。ただ、あなたも随分と人間臭くなったものだと思いましてね。まさか人間に同情して我々の契約を破棄するような真似はしないで下さいよ?」

 

 ”契約”……それがどういう意味を持つかは、男も存在も理解している。だからこそ、この先どうなっていくかを考えるのは、存在も男も同じ。ある意味で似ていて、ある意味で……

 

「……普通こういうことはそちら側が確認するものなのでしょうけれど、どうにもアベコベですね……別にそれが悪いと言うわけではないんですがね……まぁ、貴方には最後まで私に協力して頂きますよ。我が悪魔よ」

 

 そのまま男は静かにその場を去る。あとに残るものは何も無いし、そもそも何も無かったのかもしれない。そう、誰も彼の意図を知らない。知る由もない。

 

 ただ、分かっていることは一つ。既に賽は投げられた__!

 

Turn End. Next Players Turn↧



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DUEL2.黒いカードなどの噂・前編

 皆様どうもこんばんは。suryu-です。今回もなんとか編集を終えて、出すことが出来ました。

 こうして編集もしてるのですが、最近は体調を崩す事も増えました。やっぱり季節の変わり目はきついですね。皆様もお気をつけて。

 では、今回も閲覧なさって下さると幸いです!


 夜の旧BAD地区は、未だ再開発の手が及んでいない真の暗闇だ。Dホイールのヘッドライトが照らすのは、前方を行く宍戸の後ろ姿のみ。「暗夜行路」という言葉はこういう時に使うんだったか、少し違う気もするが。

 そんな由無し事を考えていると、数十メートル先に小さなネオンサインを見つけた。どうやら、ツーリングの終着駅が見えてきたようだ。宍戸さんのDホイールがゆっくりと減速した。

 たどり着いた先は小洒落た店だった。旧BADエリアの一角にある店は、一つだけさながら異世界にあるかのようであったが、看板に書かれている手書き感満載の「遊戯王」という文字が全てを台無しにしていた。

 

「何が悲しくて野郎をお持ち帰りしなきゃならんのかねぇ……」

 

 よく使い込まれたサイフォン、暗い光沢を讃えるカウンター、多種多様に並べられているボトル。こんな立地でなければきっと評判になっていただろう。

 

「さて、少年よ。要件を聞かせてもらおうか?」

 

「要件は……僕の友達が居なくなったから探している。ただそれだけだよ」

 

「それじゃあ答えになってねぇのよ。肝心要はWhatじゃあなく、Whyの部分だ。数週間前からネオダイダロスブリッジに検問が張られて、常にセキュリティが目を光らせてやがる。そんな状況で、なぜシティの学生がサテライトで行方不明になったと確信してるのか?なぜお前は検問を掻い潜ってまでこっち側に来たのか?それを聞かせてもらおうじゃねぇの」

 

 彼は考える、メリットは三つ。

一つ、この地域を熟知していること。

二つ、治安の悪い旧BADエリアで高級品を扱いながらも維持するだけの権力、ないしは人脈があること。

三つ、純粋に人手が増えること。

 

 不安点としては三つ。

一つ、自分に接してきた目的が不明であること。旧BADエリアの住人がまさかただの親切で声をかけてくるはずがない。

二つ、明らかに自分より格上であること。無茶な見返りを要求されても突っぱねることは不可能だ。

三つ、この老人に取り付いてる数えるのも馬鹿らしくなる程の精霊、怨霊の数々。常人が耐えられるものではないはずだ。

 

心の中でこの老人を味方につけるメリットとデメリットを天秤にくべ、判断を下した。

 

「......僕の友達は、どうやらサテライトに出没している謎のカードについて調べてたらしい。黒いカードや半分魔法のようなモンスターが使われてるって都市伝説は、情報屋のあなたなら当然知っていますよね?」

 

 宍戸は応えない。黙ったまま眉一つ動かさず、此方をじっと見据えている。

 

「贔屓目に見てるわけじゃなく、いるかは相当な天才なんだ。決闘の腕はもちろん、技術や知識、咄嗟の判断力も優れている。自分に自信があって、それでもって好奇心旺盛で。あいつなら、検問なんて問題は楽々クリアしてサテライトに侵入してるはずなんだ。もしも危険に巻き込まれたとしたら、都市伝説級の謎の力が関わってるとしか思えない。だから僕がこうやって探しに来たんてです。何かある前に、助けるために」

 

 これで良いはずだ。嘘は吐いていないし、宍戸が都市伝説について何か知ってるなら聞き出せるだろう。かといって、まだ信用できる訳じゃあない。精霊のことやいるかの情報は出来るだけ隠しつつ、どうにか情報を貰えたら……

 

 

 

■宍戸side■

 

 

 

 ……黒いカードに、半分が魔法のカードねぇ……確かに知っているとも、使い方から効果、なんなら実物だって持っている。

 だがそれらはまだ構想すらできていないはずだ。思いの他面倒な事態になったことについ舌打ちしそうになる。

 それにこいつ、嘘はついてないが全部話してもいねぇな。まぁ出会った場面や俺の住んでる場所を考えりゃ仕方ないか……

 他人の俺が見てもわかるくらい頭に血を登らせているし、黙っていても勝手に突っ走るなこれは。なら、俺がやるべきことは……

 

「フゥ。まぁとりあえずはよしとするか。おまえの知りたいことは大体心当たりはあるし、情報も出せる。だが、こちらも仕事だ、ただってわけにはいかない。そこで一つ取引と行こうか?

ちょうど最近人手がたりねぇんだ、お前、ここでバイトする気はないか?」

 

 鏡を見たわけではないので確証は持てないが、この時の自分は大分悪どい顔をしていたと思う。

 

『遊斗、コレは不味いわ。絶対にブラックバイトってやつよ。契約書にサインしたが最後、最低時給で30連勤の上に賃金未払いのまま首にされるに決まっているわ!』

 

 あいつは何かの横槍に半分同意しながらも、儂の提案の裏を読み取ろうと必死に頭を動かしているのが分かる。一介の労基法違反の雇用主であるだけ、なんて事があり得るだろうか。何か裏があるはずだ。なんて思ってるかもな。

 

 数秒が経過した。しかし、睨み合いはカランカランというベルの音によって中断される。

 

「お〜い宍戸の旦那ぁ。今日は店開けるの随分と遅かったじゃないかぁ。何してたんだい?」

 

「おぉ〜?誰だこのにーちゃんは、見ない顔だなぁ。この店にはちと早いんじゃないかぁ?宍戸さんの隠し子とかかぁ?」

 

「んなわけあるかよ。こいつはバイトで雇った学生だ。どうしてもうちで働きたいってんでな」

 

「なっ、ちょっと待ってよ!」

 

 冗談ではない、こんなもの白紙の手形にサインしたようなものだ、のんとしてでも取り消さなければ。とか思ってるかもな。ま、続けさせてもらうが。

 

「待たんよ。まっ、そっちは小遣い稼げて情報をもらえる、こっちは足りない人手を確保できる。お互い損はない話だろ?しばらくの間仲良くしようぜバイト君♪ほら、客が来てるんだモタモタしてねぇで働け」

 

 ”やられた、完全に既成事実を作られた。このまま逃げ出せば確実にこの場所へは戻ってこれないな。現状では唯一のいるかに繋がる手がかりだ、不意にすることはできない。取り敢えず今は言われた通りに働くしかないか……”

 

 とか考えてるのかもな。ま、労働力が貰えるんだから良いんだけどな。

 

 結局閉店まで働かせた。旧BADエリアにあるのになんでこんな繁盛してるだこの店は……と自分でもたまに思う。

 

 

 

■■■

 

 

 

「女三人寄れば姦しい」とは言ったものだが、中年の男性労働者でひしめく店内はそれどころの騒ぎではない。「最近はようやくBAD地区にもまともな酒が入ってくるようになった」だの、「うちの工場は機材が時代遅れだ」だの、酔っ払い達の会話はこんなオーセンティックバーではなく大衆居酒屋でして貰いたいものだ。

 

そんな喧騒の中、軋む扉の音とともに浅黒い肌をした初老の女性が入店した。

 

「相変わらずこの店はうるさいねぇ。うちの子供たちよりしつけのなってない奴らばっかりじゃないか」

 

 店を見渡すなり、彼女は呆れるように、しかし快活そうに笑った。

 

「そりゃねぇぜマーサぁ」

 

「珍しいじゃねぇかマーサ!今日はお守りはどうしたい?」

 

「この頃は上の子たちがチビの面倒見てくれてるんだよ。良い子たちに育ってくれた。お蔭であたしはこうして羽伸ばしにこれるってもんだよ」

 

 マーサと呼ばれたその女性は、コートを脱いで丁寧にハンガーにかけると、カウンターの席に座った。先ほどの会話と、臙脂色の修道服を纏っているところからして、どうやら教会で孤児院を営む人らしい。

 

「久々だな、マーサ。昔みたいにショットでかけつけ1杯いくかい?」

 

「悪いけど夕飯は食べてきたんでね、今日は軽くにしとくよ。ブラックローズをシロップ抜きで貰えるかい」

 

 どうやら宍戸さんとも旧知の仲らしい。こんな胡散臭い人と教会のシスター、何やら似合わない組み合わせだ。

 

 ゴールドラムを30ml、作り置きのアイスコーヒーを適量注ぎ、しばらくシェイカーを振った後、予めロックの氷を入れたタンブラーグラスに慣れた手つきで注ぐ。

注いだことで弾ける氷の音に耳を傾けながらも、徐々に黒く染まっていくグラスは形も相まって黒瑪瑙のようにも見えてくる。嗅ぎ慣れたコーヒーの独特な香りに混じり、仄かに漂うラムの香りは酒を飲んだことのない自分にとっても魅力的なものに写った。

 

「遊斗、俺は下に行って今日の分の仕込みを取ってくる。上は一旦任せるわ、客が来たら適当にあしらっとけ」

 

 そう言い残し、宍戸は店の奥に消えっていった。

 

「あの、マーサさん、でしたか?宍戸さんってどんな人か聞かせてもらっても良いですか?」

 

 知らない人と二人きりという状況に堪え兼ね、気づいたらシスターの女性に話しかけていた。

 

「妙なことを聞く子だねぇ。あんた、宍戸ちゃんの仲間だからここで働いてるんじゃないのかい?何か訳ありか知らないけど、誰かのことを知りたいと思うんなら、直接その人と向き合うことだよ」

 

 流石は聖職者だ、なにやら諭されてしまった。

 

「確かに......その通りですね。失礼しました。まだ今日がはじめてなものですから」

 

「まぁ、若いうちは色々とあるだろうさ。頑張るんだよ!」

 

 体良くはぐらかされたような気もする。しかし、彼女の言葉にはえもいえぬ説得力があり、これ以上の質問はし難かった。

 だが、一つだけ手に入った情報がある。マーサの言い振りからして、宍戸は見ず知らずの者は雇ったりせず、仲間として認めた者しか側に置かない人間のようだ。半ば無理やりとはいえ、ここで働くことになったということは……

 

「まぁ、気に入られたってことで良いのかな……」

 

 合点はいかないが、取り敢えずは宍戸という男を信じてみることにしようか。

 

「ところであんた、見ない顔だけど、シティから来たのかい?」

 

「えぇ、まぁ、一応」

 

 この返答は歯切れが悪い。最近まではもっと田舎のほうに住んでいたのだから。

 

「そういえば僕は、行方不明になった人を探してるんですが……」

 

 僕がそうマーサと呼ばれる人に声をかけようとした時だった。

 

「お、なんだ? デッキ持ってるこたぁ、お前も決闘者か?ちょっとデッキ見せてみろよ」

 

「あ、あのちょっと」

 

 そう言うが早い。あっという間にカウンター横に置いてあったデッキケースが酔っぱらいの一人の手元へと吸い込まれてしまう。 

 

「ほうほうこいつぁ……ドラグニティか」

 

「普通そうな顔に似合わず良いカードを持ってるねぇ!」

 

 手慣れた、しかし丁寧な手つきで酔っぱらいはカードを一枚一枚確認していく。普通そうな顔は余計だ。

 

「あ、あのー……そろそろ返していただけると」

 

 自分のデッキを見ず知らずの他人に見られることに馴れてないからか恥ずかしさが込み上げてきた。

 これ以上はとてもでは無いが耐えられない。そう思いデッキを取り替えそうと手を伸ばそうとしたその時、酔っぱらいの手が止まった。

 

「ん?」

 

 突然動きが止まったのでこちらも急に不安になる。

 

「ど……どうかしました?」

 

「兄ちゃん、まだこんなん使ってんのか?」

 

 そう言いながら酔っぱらいがデッキの中から引き抜いたのはスピードワールド。

 

「な、何かおかしいですかね?」

 

 僕がそう聞き返すと、酔っぱらい達は「チッ、チッ、チッ……」と人差し指を立て、揃ったように顔の前で左右に降る。

 

「兄ちゃん。こんなのは俺達の中ではもう過去のものよ。」

 

「そうそうサテライトのデュエルは常に新しくなってんだ。」

 

「俺たちがサテライト流の、新ルールを教えてやるぜ!」

 

 そのまま僕は、何故か新ルールについて教授される事になった。酔っ払い達は僕の手をとって、絡み酒のように話しだす。迷惑ではあるが、サテライトの流儀も知るためだし郷に従っておく事にした。

 

「まずな、ライフ8000。先行ドローなし。EXモンスターゾーンってのがあるのは知ってるな?」

 

「はい、授業で習ったので」

 

「そこにスピードカウンターを取り除いて、メインモンスターゾーンをEXモンスターゾーンにできるんだ」

 

「へぇ……」

 

 前回宍戸さんとデュエルした時は、どっちも使わなかったルールだから僕は忘れかけていた。これは、多分大事なルールだと思うから覚えておこうと頭に入れた。酒場の飲んだくれたちはさらに絡んでくる。もう、どうにでもなれ。

 

「さらにな、サテライトの追加ルールだ。魔法カードを使っても2000ライフのペナルティはない。かわりにスピードカウンターをひとつ消費するんだ」

 

「そうなんですか!?」

 

「おうよ。これでライディングデュエルも、深みが増すんだぜ?」

 

 そこまで教えた飲んだくれは、なぜか酒を飲ませようとしてくることから、遊斗は丁重にお断りした。それにしてもこの飲んだくれたちは、やけに絡み酒が強い傾向にある。サテライト流って、ほとんどこんな感じなのか? と思うくらいだ。

 

「あんた達、そこら辺にしてやりなよ」

 

「なんだよマーサぁ。いい所なんだぜー?」

 

「絡み酒が過ぎるんだよ。ったくこいつらは」

 

 マーサさんはやれやれ。なんて言いながら僕の隣に座る。ブラックローズを片手に苦笑いする彼女は、シスターというよりやんちゃしてた人を纏める姉御肌みたいな気がした。

 

「にしても聞いてくれよ」

 

「は、はい、なんですか?」

 

 そんなマーサさんが、僕に向き直って僕に困ったような顔をしている。相当悩んでいる事なのか、僕に愚痴を言って答えを聞きたいのかもしれない。なにか情報かと、頭に入れることにした。

 

「なんの噂か知らないけれど、最近うちの子供たちが黒いカードやら下半分が魔法の色をしたカードが欲しいって騒ぐのさ。そんなものは無いって言ってるんだけどねぇ」

 

「それって……」

 

 思い出した。いるかも調べていた例のものだ。僕も宍戸さんに対して、その話をしていたから覚えている。ここでもその話を聞くとは思わなかった。

 

「それにしても嬉しいねぇ。ここ最近はあんたみたいにサテライトに若い新顔が入ってきてくれてさ。今まではサテライトからシティに移り住む子はいても、その逆はほとんどなかったからねぇ」

 

 中身が半分になったグラスを揺らしながら、マーサは上機嫌そうに言った。残念ながら、僕は別に定住するつもりなわけじゃないんだけれど......。ん?まてよ?

 

「若い新顔が入って来てるって、最近僕と同い年くらいの女の子見ませんでしたか?!黒い長髪で、前髪に少し青いメッシュが入ってるような……」

 

マーサは首を傾げる。

 

「あんたの女の子の好みは随分と細かいんだねぇ。そんなにヘアスタイルに拘ってないで、もっと中身を見るんだよ!性格を!」

 

 違う、そうじゃない!

 

「僕の幼馴染なんです。身長は僕より少し低くて、メガネを掛けてて......」

 

「青いDホイールに乗っていて、一人称が『ボク』の、少し変わった子でしょうか?」

 

 いつの間にかマーサの隣に座っていた男が、話に割り込んできた。……ちょっと待て、いまなんて言った?

 

「っ!? 知ってるんですか? いるかのことを!!?」

 

 思わずカウンターから身を乗り出して男に問いかける。

 

「いるかという名前、たしかそんな風に名乗っていたような気もしますねぇ...... 知りたいですか?」

 

 黒いフードの奥で、不気味なほど爽やかな笑顔を見せながら、男は答える。

 

「何処で見たんですか? 教えてください!」

 

「教えておやりよ、シキ。なんだか大切な子みたいじゃないか」

 

 マーサは彼の知り合いらしく、赤ら顔で隣の男ーシキに促す。

 シキはフードを脱いでゆっくりと肘をカウンターにつけて手を組むと、おもむろに口を開いた。

 

 

 

■■■

 

 

 

「……の付近で見かけましたよ、ですが今は夜ですし、いろいろと危険です。行くなら明日の朝にした方がいいですよ」

 

「そんなこと言ってられません。僕、探してきます!」

 

「あ、ちょっと!君!」

 

 制止も聞かずに店を飛び出した遊斗を眺めながらシキは呟く。

 

「……なんだか余計な事言っちゃいましたかねぇ?」

 

 そう気まずそうに黒いフードをかぶり直し、頬を人差し指で軽く掻くシキにマーサは落ち着いた様子で答える。

 

「お節介なあんたの悪い癖かも知れないねぇ、後先考えずに情報を教えてあげるところは」

 

 そう言われると心当たりがあるのか「うぐっ」と詰まったような反応がシキから返ってくる。

 

「い、いやぁ……あの少年、結構追い込んでたみたいだったので安心できるかと思いまして……つい」

 

「……まぁ、そこがあんたの良いところなんだろうけどね」

 

「恐縮です……さて、宍戸さんにどう報告しましょうか。どう転んでも私がぶっ飛ばされそうな未来しか見えませんよ」

 

「……その時は私が少しくらいは擁護してあげるさ」

 

 マーサの言葉を聞き、「少しだけですか」と苦笑いをしながらカウンターに備え付けのメニューを眺めつつ、これから自分に襲ってくるであろう理不尽を想像しながらシキは大きくため息をついた。

 

 

 

■■■

 

 

 

 Dホイールに内蔵されたナビゲーションシステムを起動させ、バーを後にしたのが20分ほど前のことだ。オートパイロットで最高速で駆け抜けているのだが、目的地まではまだ着かない。

 

「サテライトって、意外と広いんだな......」

 

 BAD地区は、この街のほんの一部でしかなかったことが分かる。再開発された道路は明るい高層ビルに挟まれ、シティと同じように絶えず脈動を続けている。

 

『さっきの男が言っていた、M地区に入ったようね』

 

 静かにDホイールに併走していたドゥクスが口を開いた。

 

「あぁ。僕は近くを注視してるから、ドゥクスは高度を上げて探してみてくれ」

 

『了解。みんな行くわよ』

 

 司令官の一喝に、デッキからドラグニティの精霊達が飛びだしてくる。

 

『円形に陣をとっているかを探してちょうだい。見つけたら合図を!』

 

 ドラゴンに乗った鳥人達が、Dホイールの左右前後に飛び立つ。ビルやネオンの隙間を縫うように、鎧をきらめかせて翔ぶ彼らの姿は、とても美しく見える。ソリッドヴィジョンではない、本物の姿を見られるのは、僕が『力』を持っていて良かったと思える数少ないことの一つだ。

 ドゥクスも相棒のドラゴンを連れ、サテライトの風に乗って舞い上がった。俺の頭上、他のドラグニティと比べても空に近い場所。ビルよりも上へ、しかしオゾンよりは下で。

 ドラグニティたちの姿に見とれた、その一瞬。一瞬の油断が、僕の反応を遅らせた。

瞬きの刹那に、視界が青紫色の光に染め上げられる。

 

『《スピード・ニューワールド》が強制発動されました。デュエルモードセット』

 

「なんだって、馬鹿な!!」

 

 強制発動……セキュリティか?スピード違反とか、そんな目をつけられることはしてない……。いや、それより一体何処からフィールドを発動させたんだ?

後方を確認しても、それらしいDホイールは見当たらない。

 

『Lane Selection……使用可能な最適レーンをサーチ…… デュエルレーン、セントラルに申請……Error!! 申請できません……ルート上の他車両に注意してデュエルして下さい』

 

 やっぱりおかしい。レーンセレクトが申請できないなんて……。

 

「セキュリティじゃないのは確かだ…… とすると、誰かが僕のDホイールシステムにクラッキングした線が濃い…… まさか、いるかの失踪に関係ある奴の仕業か?!」

 

 

 

■■■

 

 

 

「セキュリティに見つかると少々やりにくくなりますからねぇ。セントラルへの通信は遮断させて貰いましたよ。まぁ、私がしたのではありませんが……。私はただ、『彼』に『お願い』しただけ。Dホイールのシステムを破壊(クラック)してくれと。そして…………

 

 宍戸の目の前であの少年を葬ってくれ、と。

 

「ククク、まぁ運が悪かったと思って諦めて下さい。宍戸の信頼を得るに足る存在だったご自分の運命を。人生なんて訳もわからず生まれて訳もわからず死んでいくものなんですよ。貴方もその例に漏れず、分からないまま混乱の中で眠って下さい。この世界にはない『黒いカード』を何も理解出来ないままね……。

 

 

 

■■■

 

 

 

 オートパイロットを支配された愛機の上で、僕は何も出来ないまま運ばれるしかなかった。

 メインストリートを曲がり華々しい街の裏側に出てしばらく行くと、そこはやはりサテライトの未開発な面を思わせる悪路だった。

 反吐の出るような悪臭のするドブ川に沿った道をただ進む。

 

「……いや、川じゃあないのか」

 

 堀をよく覗き込むと、そこに張り巡らされているのは剥き出しの錆びた太いパイプだった。

 なるほど。サテライトは昔、ゴミ処理施設の工場で溢れていたと言う。当時のサテライト住民は、シティから地下通路を通って運ばれてくるジャンクの山に囲まれ、それの処理を毎日毎日繰り返す生活だった。これはその時の工場内で、排水やら化学物質の通り路なんかの為に使われた物だったのだろう。この辺りは、そういった負の遺産を埋めた上に建てられているらしい。

 ……と、パイプの隙間から何か光るものが見えた。反響する音がドップラー効果を伴い近づいてくる。

 この駆動音は……Dホイールに内蔵されたエネルギー機構『フォーチュン』のものだ!ということは……!!

 

「っ!!そうか、下だ!!さっきの繁華街も、地下には廃工場の設備が通っていたんだ!今は使われていない地下のルートから、僕を捕縛したのか!!」

 

「ご名答」

 

 地下深くから斜めに伸びるパイプを登り、いつの間にかその男は僕の視界にはっきり映る場所まで来ていた。

サイドカーを装備したDホイール。ゴーグルをつけているので顔はよく見えないが、30代くらいの男だ。

 そして…………見える。奴の背後にいる機械の兵隊が。奴の従えるモンスターの精霊が!!!

 

「誰なんだ!一体!いるかのことを知ってる奴なのか?!」

 

「…………お前は何も知らなくて良い……お前はただ、役割を果たしてくれれば、それで良い…………」

 

 男はそう言い、淡々とDホイールのパネルを操作した。

 

「っ!!」

 

途端に僕のDホイールが傾く。鉄管の川に向けて、車体が落ちていく。

 

「ダメだ!制御できない!」

 

 パイプに接着する瞬間の衝撃に備えてハンドルにしがみつく。ガウィインという鈍い音と、飛び散る火花。着地は何とかなったようだが、敵の目的は僕をクラッシュさせることではなさそうだ。こうして僕を同じステージに立たせること……

 時速100kmを超える風の中、逃げることは出来ない…………やるしかない。

 

__決闘疾走!!!

 



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