例えばこんな長谷川千雨の生きる道 (紅シズク)
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プロローグ
01 プロローグ 前編 少女は異端となる


学びなさい

理を学びなさい

私の娘よ

生き抜く為に

 

求めなさい

力を求めなさい

私の娘よ

死なない為に

 

楽しみなさい

全てを楽しみなさい

私の娘よ

成し遂げる為に

 

おいでなさい

ここにおいでなさい

私の娘よ

運命の輪に乗っていつの日か

 

 

 

これは確か…

そう、あれは確か私が持つ一番古い記憶だ。

 

私は暗い場所にいた。

そして声を聞いた。

 

子宮の中の記憶なのかもしれない

夢なのかもしれない

テレビや読んでもらった本のセリフなのかもしれない

 

だが確かにそれは私に向かって言われた言葉だった。

少なくとも、私はその言葉が私に向けられていた、と感じていた。

 

 

私こと長谷川 千雨は両親共働きの家庭に生まれた。

 

好奇心の強い活発な子供だった私は、遊び回り、いろんな本をよんだ。

 

別に鍛えたとかそんな大層な事ではなくて、ただ遊びまわっていた。

別に勉強とかではなく物語や雑学、絵本に学習漫画、背伸びをしてむずかしめの本などもよんだ。

外で遊ぶのも本を読むのも好きな少し背伸びした子供だったというのは間違いない。

 

 

 

私立の麻帆良学園女子初等部へ入学した私は、友達100人とまではいかないがそれなりに周囲と交流を持った。

なぜ、友達になった、ではなく交流を持った、かというと『友好的な付き合いをする知人』という意味では友達と言えるけれども、

数か月前まで住んでいた所でよくつるんでいた『友達』と比べるとどこか…何かが違うような気がするのだ。

とにかく、クラスのほぼ全員とそれなりに関係を持っていたし、かといってとりたてて仲のいい人もいなかった。

 

 

そういった知人と探検の過程で学園のあちこちで見つけた事について話していたある日、不思議なことに気付いた。

街中でみた広域指導員の先生が武術系サークルの大学生のけんかを止める、といった「まるでアクション映画みたいな」場面や、暴走したロボットについての話はよくあるし、見たっていう子も何人もいる。

だが…私がたまに目撃する、映画やアニメみたいに『空を飛ぶように走ったり、空を飛ぶ』先生や先輩についてとか、『たまに夜に周辺部で見える光』とかについては誰もみた事がいないという。

それだけならともかく、「さすがにそれは見間違いじゃない?」とか「映画の撮影だったりするんじゃない?」とかいわれた。

広域指導員の先生とかを見ているとそれくらいできそうだよね、みたいな流れになるのがうちのクラスの連中のノリのはずなのに…

本当だと強弁してはみたものの、うそつき呼ばわりされかけただけだった。

なんとか夏休みの話に誘導して、あっさり流してくれたのは幸いだったが。

その時は私は少し悔しい、それ以上の感情を抱いてはいなかった。

 

 

夏休み、いつも以上に活動範囲を広げて私は学園都市を冒険した。

前から気になっていた図書館島に興味がわいたが、肝心の地下迷宮部分への入場は学園からの特別な許可が必要な上に、中学生以上が入れる図書館探検部の部員以外がその許可を得ることは難しいとのことだ。

とは言え、地上部分だけでも非常に多くの蔵書があり、きたかいは十分にあった。

 

 

ある日、私は探検の合間に学習図鑑を読んでいて、あるページに差し掛かった。

「植物のいろんな世界一」

そのページを読むうちにある事に気付いた。「世界一高い樹」としてのっている木が樹高『たった』115mほどの木で、「世界一であった樹」にしても、132m程度でしかない。

樹高270mを誇る世界樹の半分以下…なぜ…なぜだ…こんな巨木を学園外に隠せるわけがないし、かくす必要もない。

警備上の理由だとしても…よくドラマや漫画であるように学園が圧力をかけた?そんなわけがない。

それどころか一位と二位に倍以上の差って…あり得るのか?いや、それどころか世界樹の品種は何なんだ…

世界樹の傍の案内板を読んでみてもうまくはぐらかされて…ちがう、書き方の問題じゃない。

麻帆良学園にここに来てこの案内板を読んだ事があるはずだ。

そして普段の私なら当然気になるはずの事をそのまま受け入れていた。

 

何か変だ…

 

そんな疑問を持ったまま探索すればするほど、違和感が大きくなって行った。

この「都市」は麻帆良市にある麻帆良学園という一つの学校組織だから、大学エリアやその近くでロボットの駆動実験をやっていても、不思議ではない。

学生同士の喧嘩やもめごとを教師…広域指導員と言うらしい…が仲裁するのも当たり前だし、無茶苦茶デカイ図書館があっても規模から考えればありだろう。

そう自分を納得させていたが、何かが引っ掛かる…考えているうちに気付いた、気付いてしまった。

 

ロボットの駆動実験が行われているのはいい。技術レベルが「外部の」テレビで見ていたような技術レベルとは違うのだが、まあ置いておこう。

しかし…暴走事故がたびたび起こっていて、「奇跡的に」死人どころか重傷者すら出た事がないとは言え、対策が取られている様子がまったくと言っていいほどないのはなぜだ?

 

広域指導員という名の教員が学生のいざこざを収めるのはいい。大抵のいざこざはうまく仲裁している優秀な先生達だ。

だが…私達が見てきたなかでかなりの件数で「制圧」というかたちでの収拾が図られた事がある。

暴力による鎮圧…それを必要とあらば簡単に選択する事がまず異常だし、さらにプロ顔負けの連中もいるような大学サークルの連中を一人で制圧できる事の方がもっと異常だ。

 

…プロ顔負けだと?

 

そうだ、全体的に能力もおかしい。

下手な本職を上回る技術力を有したサークルとかもある、それも一つや二つではなく相当数、だ。

私が知らないだけかもしれないし、費用の問題なのかもしれないが、私が外で見聞きしていた技術レベルと比べてこの都市の技術レベルは異常に高いように思える。

 

 

やはりこの街はおかしい…何かが隠ぺいされている。内部に対しても、外部に対しても…しかもまるで魔法か集団催眠みたいな方法で…

…そんなマンガじゃあるまいし…と本来なら一笑の後に破棄すべき解答が得られてしまった。

 

だからどうした

 

確かにかくされた秘密とやらは気になる、だがそれを知ってどうなる?

そんな摩訶不思議な隠され方をしている秘密を知って…消されるかもしれない

命をかけてまで知る必要がある?いや、覚えておくだけでいいだろう。

むしろ忘れてしまった方がいいのかもしれない…

 

私はそう思って思考を打ち切る事にした。

 

 

 

 

それからが地獄だった。

 

気づいてしまってから、何もかもが歪んで見えるようになってしまった。皆が見えている世界がわからなくなった。

 

私の見えている物のうち、どこまでが気づいて良い事で、どこからが気づいちゃいけない事なのか?

 

わからない…とりあえずなにも考えずに歩いていると「入っちゃいけない」場所に入ってしまう事もありそうだ。

 

一度、気がつくと異様に人がいない状況に遭遇し、広域指導員の先生に迷子扱いされて連れ出された事があった。

 

…たぶん、あれは皆の常識を狂わせている力で人払いをしていたのだろう。

 

放課後の世界樹前広場が無人になって、解放されて戻ってみるといつも通りの賑わいを見せている、というのがありえる事なら別だが。

 

…同じ場所にいても、見ている景色が違うのだから常識や価値観がずれ始める。

 

皆といると常識の、見ている景色のすり合わせに疲れを感じるようにまでなってしまった。

 

ながされてしまえば…気づいた事を忘れてしまえば楽なんだろう…でもそれはできなかったのだ…

あるいは、気づいた事を周りに話してしまえば楽になるはず…私をうそつき扱いされて向こうが離れていくはずだ…

でも、私はうそつきになれず、異端のまま生き続け、周りとの関係を疎遠にするようになってしまった。

 

いつしか異端である事を忘れないように、私は度の入っていないメガネをかけるようになった。

私が見えているものは他の皆と違うのだ、という事を忘れないように世界と私を隔てるシンボルとして…

 

こうして…私がこの都市の異端として生きることを始めて…1年の月日がたった。

 

 

 



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02 プロローグ 後編 少女たちの信念

二度目の夏休み、私はこの都市を管理している何者かに接触しようとしている。

 

なんというか…危険なのはわかるが心の奥に刻まれたあの言葉が…あの最古の記憶が私を突き動かすのだ。

 

慎重に、しかし確実に管理者に近付いている。

そっち側っぽい人たちを尾行…なんてしない、したら速攻捕まる。

今年の麻帆良祭のときに空を駆けていた人を覚え、探索で街に出た時にそのうちの誰かを見つけたら不自然にならない程度に観察するという手法をとった。

対象が喫茶店にいたら、そしてその喫茶店が私が入れるような気軽なものなら席をとってこっそり話を聞いたりもする。

対象が騒ぎの鎮圧をしたのなら、去っていく方向に私が目的地としても不自然でない何かがあればそこに向かう過程で観察する、なにもなければあきらめる、といった具合で。

 

その結果、その人たちはやっぱりおかしい、と思える事を2つつかめた。

 

一つ目は、その人たちの会話は終わり方が変な事がある事。

普段はごく普通の事を話しているのに、怪しい人たち同士で話していると話をまとめずに…時間だからということわりさえもなく…唐突に話が終わる事がある。

 

二つ目は、マギステル・マギ…後で調べたら立派な魔法使いという意味のラテン語らしい…だとか侵入者を撃退だとか、裏の人間だとか、夜の警備だとかいう話をポロっとしていたりする事。

話の流れから判断すると物語の世界についての話ではないようなので、彼らが飛んでいたというのは単なる私の幻覚ではないと思っていいだろう。

 

 

そういう調査を初めてすぐの頃、怖くなって麻帆良学園以外の学校に転校させてもらう事を考えもしたが、すぐに私の知識欲や性格から言って、もっと酷い事になると判断した。

私はここにいるからこそ『気付いてはいけない秘密を知ってしまったかもしれない普通の、精々ちょっと変わった』子供でいられる。

この都市の外では…『異常な』子供と分類されてしまう可能性が高い、だからそれはだめだ、との判断に至った。

 

また、別方面でもアプローチを初めてみた。

世界樹ってすごく大きいよね、広域指導員の先生ってすごいよね、大学のロボットってすごいよね、みたいな会話をして同じ事に気づく人が出ないか探りを入れている。

…なんで最初からこういうアプローチしなかったんだと我ながら頭を抱えたが、きっとそれだけショックだったという事なのだろう。

 

あ、それと趣味でパソコンとインターネットを始めてみた。

はじめは私が常識だと思っている事が事実かどうかを確認したり、知識を集めたりとかに使っていたがそのうちパソコンやネットワーク自体にも興味を持つようになり、独学で勉強している。

それもあり、最近は読書の傾向がそういった方面の本の割合が増えてきた。

 

 

そんな生活を続けているうちに小2の冬休みとなり、一人ある意味仲間を見つけた、というか向こうがみつけてきたというか…

 

初等部レベルの算数理科の知識を大体身につけ、図書館島に入り浸るようになったのが冬休み少し前の事だ。

 

プログラムやインターネットに関する本を積み、中学の数学理科や高校の物理に属する本を読んでいると、唐突に声をかけられた。

 

「あの、はじめまして。私は葉加瀬 聡美って言います。えっと、御名前うかがってもいいですか?」

 

はじめ、なんだこいつは、と思った。私と同じ女子初等部の制服を着たメガネ(私のと違って度入り)で髪を三つ編みで左右に分けた少女がいた。

彼女の手には大学レベルと思しき学術書があった。彼女ほどではないが年齢からすると異常なレベルの本を読んでいる私に興味をもったのだろう

 

「私の名前は千雨、長谷川千雨。葉加瀬って呼んだらいい?」

 

「はい。長谷川さんはその本全部自分で読むんですか?」

 

葉加瀬は安心したように顔を緩めると私の選んだ本を指さす。私は苦笑して返した。

 

「うん、こっちも自分用の本。葉加瀬もそれ自分で読む本なの?それ」

 

「はい、ええ自分用の本ですよ。自立型ヒューマノイドを作るのが私の夢なんです」

 

間違いない、こいつは知識欲と学習レベルの異常性に関しては私と同類…しかも目的がはっきりしている分より高い異常性を示している。

 

どことなく親近感を抱いたためか、それ以降冬休みの間、私達はお互いの事を話した。

そしてわかった事は、葉加瀬はまだ気づいていない。

でもちょっと疑念を与えてやればあっという間に私と同じ結論にたどり着くかもしれない、

少なくともそれだけの頭脳は持っている、全てを話すとうそつき呼ばわりされるかもしれないがこの都市が変だってことはわかってくれると思った。

 

だが…私と同じ思いを葉加瀬にさせるかもしれない、むしろ科学万能思考のこいつが壊れないか、それが心配だ。

友達は、この気持ちを共有できる仲間は欲しい。でもこいつにそれを伝えると…まずい事になるかもしれない、彼女の精神面でも、行動面でも。

結局、葉加瀬にはこの都市のおかしなところについてしばらくは黙っておく事にした。

 

彼女は隣のクラスだったらしく、仲もよくなっていった。放課後に図書館島に一緒に行ったり、一緒に勉強したりする位に。

まあ、私のライフスタイル上それは毎日というわけではないが、特に仲のいい友達と周りから認識される位によく一緒にいる。

 

そんな事もあって麻帆良祭もかなりの時間を葉加瀬と回った。

魔法使い達の調査に関しては新しい顔を数人覚えた以外は成果を得られなかったが、楽しかった。

 

葉加瀬という比較対象ができたことで勉強の速度が加速し、一部の分野は葉加瀬に勝てないにしても匹敵するレベルには達していると思う。

コンピュータに関係ない分野はまあそれなりに、といったところだが。

 

 

 

3年の冬休みある日、私は耐えられなくなって…友達だって思える、そして友達だって言ってくれる葉加瀬と見ている世界が違う…そんな事実に耐えられなくなって…ある質問をしてみる事にした。というか、してしまった。

私の秘密を話すにあたって…科学に身を捧げたいと言って憚らない彼女には必ず聞いておかなければならないと思っていた質問を。

 

「ところで、もしも自分の目の前で魔法とか超能力を見せつけられたらどうする?それもトリックだと思えない方法で」

 

これは私が考える『本当の科学者』としてのあり方についての命題の一つでもある。

 

「魔法や超能力…ですか?そんなもの存在するわけがないじゃないですか」

 

「そうだね、だからこれはあくまでもしもの話」

 

予想通りの事を言う葉加瀬に、私は笑って答える。

 

「そうですね…」

 

葉加瀬は真剣な顔でしばらく沈黙し、一度空を仰いでから今度は真剣な、幼いながらも科学者の顔で答えてくれた。

 

「まずは、既存の科学分野での説明を試みます。またそれがトリックの類でない事や、再現性を証明させる為に違う条件での実験もします。

それでなお…それでもなお説明がつかない場合は…科学に新たな分野が加わる事になるでしょう。

それがいわゆる魔法や超能力であったとしても、再現性があるのであればそれは科学的検証が可能です。

むしろオカルトだと再現性のある事象を切り捨てる事の方が非科学的だと私は思います。それをするのであれば、もはや科学は科学ではなく、宗教と呼ぶべきですから。

ちなみに長谷川さんならばどう答えるんですか?」

 

私は歓喜した…それは期待した以上の答えだった…

 

「私か?葉加瀬ほど具体的ではないけど…

どう考えてもありえない事が確かに起こったとすれば、それは考え方が間違っている、考え方を改めよ。

より具体的には葉加瀬とおんなじような答えになるかな。

…話は変わるけど、世界樹の品種ってしっているか?」

 

「ほんとに急に変わりましたね。世界樹の品種…ですか?そういえば気にした事もなかったですね」

 

私の期待以上の答えを出してくれた葉加瀬なら…

 

「…あれ?今までなんで気にした事もなかったんでしょう?えっと…樹高250mにも達する…品種…えっと確か」

 

葉加瀬は近くの書棚から植物図鑑…私が気づいてしまったのと同じ図鑑…をとってきてめくる。

 

「ありました、この図鑑にいろんな植物の世界一が…え?…でも…なんで?こんな事って…」

 

葉加瀬は『こんな目立つ所に現存する巨木』のたった半分の樹高の木が世界一高い木と記載されている事実に軽く戸惑いを覚えているようだ。

 

「私もそれに気付いた時、びっくりした」

 

…私の身勝手で…孤独に耐えられなくてこんな事をしてほんとごめん…私は心の中でそうつぶやいた。

そして続ける、本来消えてしまう、いや消されてしまうであろう小さな綻びをもう戻れない大きな穴にするために。

 

「それに気づいたら…疑問を持ったら…いろんな気になる事が見えてきたんだ…」

 

私は話した。この都市の冷静に考えたらありえないいろいろな事を…むろん、麻帆良学園に属する大学の異常な技術力も含めて。

葉加瀬も興味を持ってくれたみたいでその話にちゃんと付き合ってくれた。

 

「…確かに…ここの大学の技術レベルは進んでいます…でも、最先端であり、かつ秘密保持がしっかりしている、で説明付きませんか?」

 

「最先端は良いにしよう、確かにそれで説明がつく…かは私にはわからない。外での最先端扱いとの技術レベルの差がほんの少しなのか大きいのかはわからないからな。

でも秘密保持でいえば路上で歩行試験してる…どころか麻帆良祭のパレードに出しているような機械の存在を秘匿する気がある、と本気で思うか?

再現できない、ならともかく存在すら知られていない、ってのは変だろう?」

 

「うむむ…確かに…」

 

こんな感じのやり取りを先ほどから何回か続けている。いくつかは私の話した事も葉加瀬に一応は納得できる答えをもらったし、逆に葉加瀬からそういえば…という事も聞いた。

 

「とにかく、この都市に『なにか』ある、という考えについてまでは納得してもらえたか?」

 

「個々の事象に関してはともかく、それを集めると何かあるかも、とは思いました」

 

私は小さく頷いて続けた。

 

「今までの話は皆が見えているもの、についての話だったけど、ここからはそうじゃないからそのつもりでお願い」

 

葉加瀬は首をかしげているが続けた。

 

「ここからが本題なんだ…私は空を飛ぶ人や、建物の屋上から屋上へ飛び移りながら自動車並みの速度で駆け抜ける人が見える。

夜に周辺部で発光が見えたりするし、神隠しみたいに人のいない状況に遭遇したうえ、広域指導員の先生に強引にそこから連れ出された事もある。

そして…そういった人たちを観察していると、連中が『夜の警備』とやらをしていて、侵入者を撃退してるらしき会話も聞いた事がある。

それに…連中はマギステル・マギとやらを目指しているらしい。」

 

「マギステル・マギ…ラテン語で立派な魔法使い…ですよね?いや、でもさすがにそれは…」

 

葉加瀬がさすがに信じられない、といった表情で私を見る。

 

「わたしも実際に魔法とやらを使っている場面を見た事あるわけじゃない…だけど、それなら説明がつく、この麻帆良学園には一定数の魔法使い達のコミュニティーがあり、

何者からか、この学園あるいはこの学園内の何かを守っている。世界樹は注目を集めたくないから隠されているか、連中にとっても重要な何かであり…発光特性から察するに後者かな…

この学園にはそういった秘密から目をそらすための魔法か何かがかかっている、ただし何らかの原因で効果に個体差がある…ってところだろうな。

もっとも、私が見聞きした事が全部間違いだって可能性だってある、それならそれが一番良い」

 

「…長谷川さんはそれを私に話してどうするつもり…いえ、なぜ私に話したんですか?」

 

葉加瀬が明らかに困惑した様子で私をみる。

いつの間にかたかぶっていたらしい感情が一気に冷めてゆく…

そしてなんとも言い難い嫌な気分になった。

…そして

 

「…耐えられなかったから…周りの皆と見ている世界が違う、っていう事実に…ごめん…自分勝手な理由でこんな事はなして…

話したら葉加瀬も危険な目にあうかもしれないのに…」

 

懺悔するようにそう言った。

 

かってに涙がこぼれてきた…ああ、私は大切な友達に何をしたんだ…

 

気づいてしまった事がばれたらどうなるかわからないって自分で思っていたはずなのに…そんな状況に葉加瀬を引きずり込むとか、私は…

 

力が抜けて…やってしまった事に気づいて…私はその場に崩れ落ちてしまった。

 

そして意識は内側に向き、全てが崩れていく感覚に襲われていた…

 

ああ…馬鹿だ私は…自分の手で全てを…壊してしまった…

 

信じてくれてもくれなくても…絶対に話すべきではなかったのに…

 

せめて魔法使い達については話すべきではなかったのに…

 

どれだけの時間が過ぎたのかわからない…

 

私は闇の中にいて…より深いところへ沈んでいった…

 

きっとこれが絶望って奴なんだろう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと気がつくと私は闇から引き上げられていた。

 

そして光の中に引き戻された。

 

目をあけると葉加瀬が本を読んでいるのを見上げていた。

 

…私は葉加瀬に膝枕をしてもらっていた。

 

「は?」

 

そんな声をあげてしまったのも不可抗力という奴だろう。

 

「あ、おはようございます千雨さん」

 

それに気付いたようで葉加瀬が本を閉じて見降ろしてくる。

 

「えっ…と?」

 

全く状況が読めない。

 

「どうしたんですか?千雨さん?」

 

「葉加瀬なんで名前?」

 

「え…まさか覚えてないんですか?」

 

覚えていない…なにを?

 

「あ」

 

思い出した。あの後何があったのかを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣き崩れた私は不意に何かに包まれた。

 

「大丈夫ですよ、長谷川さん」

 

それは葉加瀬だった。

 

「貴方はうそつきなんかじゃありません、貴方が見えるものが私にも見えるかはわかりません、でも貴方は嘘をつく人じゃないです。だから信じます。

 

長谷川さんの事だから、秘密を知ったら消される…とか思っていたりしませんか?

 

大丈夫ですよ、冷静に考えてください。

 

簡単に気付くような事からあっさりたどり着くような秘密を知られるたびに消していたら麻帆良学園は年中行方不明者ばっかりになっちゃいますよ。だから大丈夫です」

 

わたしを抱きしめて頭をなでながらそういってくれる葉加瀬に私は泣きながら言った。

 

「葉加瀬…私ひどい事したのに…一人で辛いからって葉加瀬も引きずり込もうとしたのに…許してくれるの?」

 

葉加瀬は笑って答えてくれた。

 

「なにをいっているんですか、ひどい事なんてされていませんよ、私は長谷川さんが探検で見聞きした学園の事を聞いただけです。なにもひどい事じゃありませんよ」

 

そのあと、もうしばらく葉加瀬に胸を借りて泣いていた。

 

「長谷川さん、実はですね…私は身をささげるどころか科学に魂を売り渡すつもりなんです、それも4年生に上がるのをきっかけに」

 

私はその言葉の意図が全く意味がわからなかった。

 

「私は、科学の発展のためなら多少の非人道的行為もやむなし、って思っています。そしてそう生きようと思っています。

 

…実は私が長谷川さんに近づいたのは、私の直感が貴方なら私が望むもの…研究のパートナーになってくれるって思ったからなんです。

思った通り、千雨さんはプログラムに関しては私以上の素質がありましたし、他の分野も期待以上でした。

 

でも…一緒に時間を過ごすうちにそんなのどうでもよくなりました。誘いはしますが無理に私と来て欲しい、とは言いません。長谷川さんには長谷川さんの信念があるはずですから。

そりゃあ、パートナーになってくれたら嬉しいな~って思っています。

もちろん貴方が私の夢の実現に役に立つって言うのもありますよ、でも長谷川さんだからって気持ちもあります。っていうか今はそっちがメインかもしれません」

 

私を抱きしめる強さが強くなる…

 

「一度話したと思いますが、私は特例措置を利用して年度が変わったらすぐにでも麻帆良大工学部のロボット研究会に所属できるようにするつもりです。

多分、研究会への所属は認められると思います、それだけのものを用意しました。そうしたら私は科学の使徒となります…

 

長谷川さんがこっちに来てくれるかどうか、ってのは関係なしに、私は長谷川さんと友達でいたいんです。

 

私が信じる道を行くように、貴方が信じる道を行った結果、道を違えても…万が一敵と味方に別れて争うような事になったとしても…それでもです」

 

葉加瀬は一度私を離して私の目を見て、そして言った。

 

「こんな私と、ずっと友達でいてくれますか?」

 

「うん…私こそ…ずっと友達でいてほしい…これからもよろしく…葉加瀬…えっと聡美って呼んでいい?」

 

「…ええいいですよ、千雨さん。これからもよろしくお願いしますね」

 

そして…泣くのに体力を消耗したらしい私は葉加瀬、いや聡美の膝を借りて夢の中、という寸法だ。

 

 

 

「思い出しましたか?千雨さん」

 

私は顔赤くしてゆっくり大きく一回うなずいた。

 

「それはよかったです、もし思い出せないとか言われたら…かなしいですから」

 

聡美はそういってほほ笑んだ。

 

そのあと、私達は互いの今まで話していなかったことについて話した…

私のメガネの意味とかも話したし、葉加瀬の…いや聡美の夢をもっと具体的に聞いた。魔法使い達についての情報をまとめてみたりもした。

 

さんざん紆余曲折したあげくに、

 

魔法使いについては気にはなるけど継続調査にとどめるか放置でいいんじゃない?

冷静になってみると私がうそつきじゃない証明と好奇心以外に追う理由なくない?いや、好奇心こそ私たちの行動原理だけどね。

 

という結論に至ったというなんともまあ笑うしかない話だ。

 

 

人工知能の作製とそれを十分な速度で動かせるヒューマンサイズのコンピュータの開発

 

聡美に口説かれてそれは私の目標となった。

 

話しているうちにいくつか構想が上がってきたので軽くそれを聡美に話してみた。

するとあろうことか、聡美は彼女が準備している論文の人工知能関連の部分についての章を分離させて私との共著にしようとか言い出した。

 

やってやろうじゃないか

聡美が認めてくれた私の実力を見せてやる

…それにしても…聡美って私以上に私の性格わかってないか?

 

私はその日の夜、一人ベッドでそう思った。

 

 



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茶々丸開発編
03 茶々丸開発編 第1話 不思議な出会いと研究生活


聡美に醜態をさらしてからおおよそ3か月が過ぎ、4月となった。

さすがに制御される方の勉強もしなきゃまずい、という事でいろいろ詰め込まれた3か月だった。

 

私達が4年生となる春休み、聡美は提出した論文によって特例認可に十分な能力を持つと認められて4月1日から麻帆良大学のロボット工学研究会にも所属する事となった。

 

私は論文での認定は無理だったが、昨日一昨日と試験を受けた。結果は始業式までお預けだがおそらく…いけただろう、そう信じるようにしている。

 

そんな4月頭の晴れた日、私は桜ケ丘をうろついていて、ふと見つけた脇道に入って川に架かった橋を見つけた。

 

少し休みたいと思った私は橋の脇の土手に寝転がった。

空を眺めながら今の状況を振り返ってみると…よくもまあ…こんな事になったと思う。

 

自分を異端だと認識し、世界から取り残されたような錯覚に襲われながらも、自分はおかしくないと信じ、それを証明するためにこの都市のおかしさをかぎまわっていた私がこの都市のおかしさに飲み込まれている…

 

1年半程前の私に聞かせたらどんな顔するだろう…ありえねぇ…って顔して、本当だと繰り返したらふざけるな、って言うとおもう。

もしも、私の好奇心が小さければ…もっと子供っぽかったら…あるいは聡美と出会っていなければ…私はきっと周りから取り残されて…

日常と常識をこよなく愛し、非常識を嫌う少女になっていただろう…いまでも日常と常識は好きだし、この都市の非常識は苦手なんだが…大分慣れてきた。

 

もっとも、どんな道に進んでいてもいつかコンピュータに出会い、プログラムの魅力に出会っていたような感覚はするんだが。

 

しかし…初等部の4年生以上で十分な能力さえあれば大学で最先端の研究に携われる…こんな特例を最下限で適用された生徒って聡美…うまくいけば私たち…以外にいるのだろうか?

そもそも私は特例を受けるに足るだけの十分な実力を示せただろうか…そして…研究室に所属できたとして、本当にやっていけるのだろうか…思考は次第にそういうふうに傾いて行った…

 

ゾクッ

 

突然、そんな擬音では不十分だがそれ以外にたとえようのない感覚が背筋に走った。

跳ね起きてあたりを見渡すと…真っ黒い何かが橋の上にいた…それは滑るように動きだし、川の反対側に向かっていった。

それは黒いフード付きのマントを纏った人型のナニカで、植物の蔓のようなもので鈍色の石をつりさげたネックレスがなぜか目を引いた。

 

ただ、ゆっくりと歩いているだけだというのに私は目が離せなかった。

 

まるで世界を従えているような印象を持つをソレを瞬きという行為を忘れて見つめていた…

 

突然それは歩みを止め…そしてゆっくりとこちらを向いた。

 

よくは見えなかったが…多分若い女性だった…全く見覚えがないはずなのにどこか懐かしい感覚におちいった時、私は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

気がつくと、私は土手に寝ころんでいて、夕日が地平線に沈みはじめていた。

 

夢だった…?それにしては妙にはっきりとしていたが…

 

どうにも引っかかるがどうしようもない、証拠のさがしようがないのだから。

一応確認してみたが足跡はうっすらとしたものが無数にあるだけで参考にはならなかったし。

急がないと暗くなるから、と私はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

始業式の日、学園長室に呼び出された私は学園長から特例が認可された事を告げられ、ロボット工学研究会への所属を許可された。

とはいっても、麻帆良祭までは研修を受けながら研究室の各設備の使い方などを教えてもらったりとか、研究会の研究に追いついたりだとか、そういう事を主にしていた。

聡美は麻帆良祭出展作品の調整などでさっそく活躍していたが…

 

 

 

今年も麻帆良祭の時期となった。

聡美とはロボット工学研究会とそれぞれのクラスの出し物の兼ね合いで二日目の数時間しか一緒に回れない予定となってしまったが仕方ない。

いくつか大学近くの出し物を回った後、遊覧飛行船に乗った。

 

「そういえば、こうやって遊ぶのって何ヶ月かぶりだっけ」

 

「そうですね~千雨さんはともかく私は殆ど研究室にこもりっきりですし」

 

「聡美も心配していたよりはずっと普通のままで私はうれしいけどな、研究以外にも付き合ってくれるし」

 

「もう~私を何だと思っているんですか…効率的な作業のためには適度な休憩やリフレッシュ、栄養補給は必要なんですよ?

まあ、個人個人に合った作業方法っていうのもありますから、千雨さんみたいなやる時は一気にっていうのも否定はしませんけど…

一時期やっていたような徹夜はちょっとおすすめできませんよー」

 

「いや…まあ…アイデアが浮かんだら形にしてみたくなってだな…」

 

「別にそれで良いと思いますよ、体調管理さえしっかりするならですけど。」

 

「うっ…気をつけます」

 

二人でジュースを飲みながらそんな話をして本当にのんびりとした時間を過ごした。

 

 

三日目は昼から、学祭前に目を付けておいた特別デザートメニューを食べに回った。

 

本当はその合間に周りや移動途中のイベントを楽しむ予定だったんだが、昼食をかねて最初に入った世界樹前広場のレストラン、次の龍宮神社南門近くの特設茶店、3件目のフィアテル・アム・ゼー広場近くの屋上喫茶店と、どこも居心地が良くてかなりの時間をそこですごしてしまった…

最初の目当ての学祭特別メニューではないものに目移りした、というのもあるんだろが…

 

 

次の日、私は熱を出して一日寝込んだ…何か壮大な夢を見た気になったが…どんな超展開の夢だったかは思い出せない。

あと、相当疲れが溜まっていたらしく、熱がひいた後は妙に体が軽かった。体調管理に気をつけなきゃいけないな…と思った。

 

 

もっとも、そんな考えは麻帆良祭の振替休日明け、私は教授からとんでもないものを見せられた事により消し飛ぶ事となったが。

見せられたものはMITの開発した人工知能システムの設計図…現在公開されている物など、ただのお遊びに過ぎない…そう言われても認めるしかないと思ってしまうほどに素晴らしい設計思想だった。

私が探した限りこんな人工頭脳は発表されていなかった…詳細を知りたい…ソースコードを読んでみたい…そう教授に懇願すると、とんでもない事を知らされた…このシステムの詳細はアメリカの機密指定を受けている…と

しかも、この理論を基にそのプロジェクトチームに属する天才日本人兄妹がこれを発展させて感情を有する人工頭脳の開発に成功したという噂まであるらしい。

そして教授は私に何か作ってごらん、そういってきた。アドバイスをもらってもいいし、協力を求めてもいい、だが自分で自分の作品を…自分の子供を生み出してごらん…そういったのだ、私に期待している、とも。

 

私はその日から日常を全てそれに奉げた…授業には出席して話も聞いているが頭の大部分は常に人工頭脳の事だけを考えていたし、探検の目的は閃きを求めてのものに変っていた。

 

私は人工知能システムの再設計に取り掛かった。再設計にあたり、私は自己進化機能と拡張性を重視して設計をした。

開発方法は、まず様々なプログラムを学習により改良してゆく事ができる機能を持ち、各プログラムの管制を行う基幹AIを作製、起動させる。

次に基幹AIに基本動作プログラムの改良を行わせ、基幹AI自体の性能を向上させ、その時点で自己進化機能を基幹AIに追加する。

こうしてできた骨組みに外装となるさまざまなオプションプログラムを接続し、オプションプログラムの改良と基幹AIの進化を同時に行う事とした。

設計と開発計画を教授に報告したら、凄くいい笑顔でやってごらん、って言われた。

ちなみに、教授は笑顔が素敵で優しいお爺さんだ、だからどうしたといわれても、何にもないが。

 

 

夏休み初めごろには学部生の先輩が何人か、私に協力してくれる事となった。

 

どーも人工知能で手いっぱいでコンピュータの開発にはほとんど手を出せていないんだが…私は聡美みたいな天才じゃないと割り切る事とした。

って事で私は人工知能関係と実際に搭載する所の設計までに止めてコンピュータ自体の性能向上にはかかわっていない。

聡美は駆動系、フレーム、コンピュータ、動力開発と、ロボット工学研究会のさまざまなチームに所属し、かつ活躍している。さらにジェット推進機構の小型化にまで参加しているし…

なんか、彼女を中心にいけるところまで行ってみる、を合言葉にしたヒューマノイドの開発計画が新たに動きだそうとしているし…っていうかまだ所属して一年もたってない小学生によくそんな大役任せるよな、うちの教授

 

…やっぱり聡美は天才だね…

 

…と、言った話を協力してくれている先輩にしたら、『貴方も十分天才です』って言われた。私は精々秀才だと思うんだけど…ちょっと嬉しかった。

 

あ、ちなみに聡美の開発計画を実行に移す段となったら人工知能を主に担当させてもらう事にはなっている…聡美がぶっ飛びすぎているだけで私も十分ぶっ飛んでいると、それを思い出したら自覚できた。

 

プロジェクトの…いや聡美の性格からいって将来的に戦闘技術やその他もろもろを組み込む事になるので、基礎くらいは知っていた方がよかろう、と柔術や戦術論の勉強も始めてみた。

片手間でやっても上達するものではないだろうが…継続は力なり、という言葉もあるし…

 

夏休み中に何とか基幹AIを起動可能な段階まで完成させる事ができ、聡美の組み上げた試作ボディに搭載して歩行の学習実験を行っている。

うまく働いているようで、わざと最適ではない数値を与えられた歩行プログラムの最適化は大抵はうまくいった。

余りに変な値から最適化させると立て膝や四つん這いでの移動を覚えてしまった事もあったし…まだまだ改良する必要があるだろうな…

 

 

 

秋ごろまでは、すでに完成した制御プログラムを利用した学習実験に費やした。

 

まあまあ満足できる段階まで達したので仕上がりの確認をかねて三次元認識システムによる視覚情報入力の一般化システム…

要は二つの眼球カメラからの情報で対象の三次元形状を測定し、その情報から対象が何なのかを認識するシステム…の調整をさせてみた所、一定の成功を収めた。

いや、まあ…似た形状、サイズのものと結構勘違いしてくれるんだが…色覚情報や他のセンサーと同時処理できるようにすればそこは大幅に改善できるだろう。

これを以て基幹AIは試作完成という事にして、調節や改良を続けながら片手間で始めていた新オプションの開発を本格的に始める事となった。

 

最初に取り掛かったのは人間言語による意思疎通を行えるオプション、つまり人間言語の機械語への翻訳機能をおこなえるようにする機能を目指す。

ゆくゆくは聴覚や視覚からの言語情報を処理する機能を開発し、会話をしたり、文章を読めるようにしたりしていく計画になっていたのだが…

英語(既存のプログラム言語との関係から英語から始めた。)の文法書を読みながらプログラムをいじっているときに気付いた。

 

そっか、せっかく学習機能持っているんだから自分で教科書読ませて自力で学習させればいいんだ。

 

それを皆に話したら

『ああ、その手がありましたね』

『いや、さすがにそれは…できるんですか?』

って言われた。前者は聡美とごく一部の先輩方、後者は他の多くの先輩方だ。

英語だけで終わらせるなら人海戦術でする方が楽なんだろうが…私はいやだぞ?言語パッチごとにそんな手を使うのは。

結局このオプションは基礎となる部分だけ作って視覚認識機能と連結した後、自力で学習させる事にした。

そして、英語の絵本位のものを読み聞かせのような事をしては正しく学習できるかをチェックして、うまくいってなければそれを修正して…の繰り返しだった。

 

そこから半年を費やした結果、たまにエラーや誤理解があるものの、言語オプションにつきっきりでいるほどではなくなったので次のオプションに取り掛かる事とした。

 

次は家事類に関するオプション、手始めに料理から入る事とした。

味付けに関しては味覚センサー未搭載のため、レシピ通りに作業をさせるという事に重点を置いた。将来的には自力で味見させて味の調節とかさせてみたいもんだが難しいだろうな。

初めこそ包丁がまな板に刺さったり、おにぎりが餅みたいになっていたり、中華鍋を持たせたら内容物が天井に届いたり…

その他はたから見ている分には楽しい事をやってくれたがすぐにそれなりに…少なくとも私よりは…上手くなってくれた。

 

その年の第74回麻帆良祭でチャーハンを作らせたら結構人気が出てくれて、なかなかの売り上げだった。

私は緊急対応ができるように休憩時間も工学部キャンパス内で過ごす羽目になったし、総点検とパーツの組み換えとパーツの特性把握実験を毎晩行ったのはしんどかったが…

交代でできればいいんだが、ロボ研から出展しているのはこれだけじゃなかったし…

 

あ、言い忘れていたが言語オプションの方は本さえめくれればもう自力学習に問題がないので英語圏の教科書を常時読ませたり聞かせたりしている。

…なんか見周りの警備員さんがそれを見て腰抜かしたらしいが…ま、機械むき出しの首が目玉動かしながら本読んでれば腰抜かすか。そこ以外電気切って帰ったし。

 

 

 

その後、約一年をかけて格闘戦オプションだとか、戦術オプション、火器管制オプションだとかそんな物騒なオプションを含む各種オプションを開発していた。

あ~実はロボット3原則のような安全装置を人工知能に搭載し忘れて…対人格闘実験前に気付いてよかったよ。

そうでなければ私がへたすりゃ死んでいたかもしれない、対戦相手って私の予定だったし

…自分のミスでなけりゃあ烈火のごとくぶち切れるんだが、自分のミスだし…

何より周りが笑って済ませているしなぁ…はぁ…久々に自分が異端だって事を思い出したよ。

…あ、そもそもここでこんな研究している小学生って時点で異常だったな…すっかり染まってるよなぁ…私

 

 

 

 

 

 




後書きという名の言い訳等など
どうも、こんにちは、シズクです。
今回はおもに茶々丸のベースとなるガイノイドの研究を推し進めているお話です。
あと専門知識や開発期間は正直言って適当ですのである程度はご勘弁のほどを。

次回チャオさんの登場予定です。




・特例について
考えとしては飛び級もどきです。
春夏冬の各長期休暇に審査が行われ、論文、大学院入試レベルの筆記試験と面接、その他の方法で自分の実力を示すと大学などで専門的な研究をさせてもらえるようになります。
ただし、多少は見逃してもらえますが本来の過程もちゃんとこなさないと…つまり本来の学校サボって研究室に入り浸りとかやると…許可を取り消されてしまいます。
だから、描写は殆どされていませんが二人はちゃんと初等部に通っています。
ちなみに初等部四年以上にしたのは…まったくもって意味がないです。
あんまり幼いうちから認めると他の方面での発達が云々という理由があるんでしょう、きっと(笑)





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04 茶々丸開発編 第2話 問題発生、いろんな意味で

わたしはいま、昨日から始まった6年生の夏休みを謳歌しようとしている…と言いたいんだが今ちょっと問題が起きている。

何が問題なのかというと、プロジェクトの方向性の問題で少々意見の対立が起きている。

 

今までは表だった対立がなかったんだが、私達のプロジェクトには大きく分類して二種類の派閥がある。

一つは『日常重視派』、もう一つは『戦闘重視派』だ。

まあ、別に前者が後者を理解しないわけでも、後者が前者をないがしろにするわけでもないし、それぞれの中でもいろいろと派閥があるんだが…

 

そして、なんでこんな事になっているのかというと…現在の技術では…麻帆良の技術をもってしても…想定よりも各種オプションを相当絞り込む必要がある、という事がはっきりとしたからだ。

その絞り込みで問題になる問題点を列挙すると

 

 

まず、必要動力の増加。

 

基礎設計の段階から電力で動く前提になっているため、バッテリー、内部発電、外部電源(発電機、外部バッテリー両面)のいずれかという事で話はまとまった。

 

そんでもって、いけるとこまでのコンセプトからして技術試験やデータ収集用の派生形はともかく、完成品が外部電源はいやだと言う意見多数により選択肢から外れた。

内部電源については…排熱機構の問題もあって…難しいだろうという事になった…内燃機関はロマンらしいが、特に原子炉や核融合炉とか。

 

というわけで、バッテリーで通常モードで最低12時間(最初は24時間だったが徐々に短くなってここで落ち着いた)の連続稼働を目標にする…という事になったのだが、

その為に積み込む大量のバッテリーが…各パーツの強化により急激に増加し、機体の搭載可能量を圧迫している。

搭載オプションによってはこれをさらに増加させる必要さえあるので問題が複雑化する。

 

 

 

次に人工知能とコンピュータの問題。

 

経験という名の大量のデータを蓄積したシステムは様々な方策を施してはいるが、大量の電力を食い、多くの記憶容量と演算部を必要とするため、これまた非常に搭載量を圧迫し、前述のバッテリー消費量も跳ね上がった。

そしてそれは各種オプションプログラムの採用量でその必要とされるスペックも変わってくる。しかも同一オプションにも経験の蓄積度や最適化の自由度、可能行動の範囲で多くのバージョンがあり、そこも争点となっている。

搭載パーツによってはその制御に複雑なプログラムを必要とする場合があり、その場合はさらなる増強も視野に入れねばならない。

 

 

そして通称ロマン機構と呼ばれオプションパーツ群の高性能化とそれに伴う各種負担の増加。

 

『日常重視派』は脈や人肌のぬくもり、心音などを再現する装置を搭載したがるし、普通の服装で露出する部分には機械らしさを残したくないという。

『日常重視派』のオプションパーツ自体は比較的負担は軽いもの多いんだが、オプションプログラムに日常生活系を高性能なプログラム(つまり処理量の多いものや機能の多いバージョン)を使いたいという。

感情は…再現できなかったというか…一応作ったものに私が満足できなかったから封印して、感情プログラムを搭載するなら種から成長させる方針をとる事とした…これがまた重い上に常駐型にしてあるから負担が大きいんだ。

…まあ、芽吹くのにどれだけかかるか、どころか芽吹いてくれるかさえわからない代物なんだがそれでも搭載を希望する。

 

 

『戦闘重視派』はアームにロケットパンチを使用したり、小型ジェット…小型化には成功した、恐ろしい事に…での飛行をさせたりしたいという。

『戦闘重視派』も日常を軽視するわけではないんだが…こう、ロマンを再現しようという連中が多くて…戦闘もこなしたいし、ロケットパンチやフライトシステムなんかもほしいとなる。

そうなるとまず、耐久性を数段高くしなければいけなくて、それに伴う自重の増加が駆動系の強化とそれに伴う電力消費量の上昇を招く。

さらにロケットパンチアームは腕の中に仕込めるものが減る一因になるし、小型ジェットでの飛行機能を搭載するなら…もう、泣くしかないレベルで他のいろんなものを犠牲にする事となる。

 

 

さらに言うなら、パーツの性能を多少妥協すれば軽量化や省エネ化も可能なんだが…それは『何をさせたいか』がより明確になってくれないと、性能の妥協をどこまでしていいのかわからないし、

『いけるとこまで行ってみる』

が合言葉のプロジェクトだったゆえにパーツ改良はそう言った面は抑制努力程度しかしていなかった。

 

 

皆、じゃあ各自勝手にやろうぜ!っていう気は欠片もないようなので…そこは嬉しい事なんだが。

複数のタイプをつくろうにも予算と設備の問題が立ちはだかって、そこまで沢山はつくれないし…

 

とりあえず、という事で各パーツともに性能を維持しつつ軽量、省エネ化を検討し始め、少しずつは妥協点を探りはじめてはいるんだが…

人によってそういう努力がどこまでみのるか見解が違うし、機能の幅を妥協するか、それぞれの機能のレベルを妥協するか…そういった方向も纏まっていない。

 

 

 

それにどっちの気持ちもよくわかる…っていうかやっぱり日常ではどこか人間くささのある万能ロボット、危機には戦闘もこなす安心の危機対応、が王道だと思う。

それが出来なくて今もめているんだからそんなこと言えなくて私は沈黙を貫き、主要プログラムの軽量化に取り組んでいるんだが…最初からそれなりに努力はしてあったから成果はあまり出ていない。

 

テンプレだろうが何だろうが私はそういうのが好きだ…ああ、そうだよ、すっかりオタクになっちまっているさ、悪いか!

 

初めは空想世界のロボットってどんなのがあるのかな、って感覚だったが完全にロボット関係ない話でも行けるようになっちまっているよ!

 

つい、可愛いなとか思ってアニメキャラの服装自分で作ってみたりもしちゃったさ、一度それをロボ研に着てきて…なんて事もあった…思い出したくねぇ。

 

ああいうのはそういう場所だけで良いよな…話がそれたな、戻そうか。

 

 

んでもって、聡美は沈黙を貫いている。

あいつならツルの一声で少なくとも方向性だけでもかたを付ける事もできるんだが…それをしたくないのか何なのか…というわけで

 

「聡美…ちょっといいか? 少し話があるんだけど」

 

直接本人と話をする事にした。すると聡美はプライベート用を兼ねているノートパソコンを前に何か悩んでいた。

 

「千雨さん?ちょうど私も相談があったんです。あ、千雨さんもパソコン持ってきてくださいね。」

 

「ああ、すぐとってくるから玄関ホールでまっていてくれ。」

 

パソコンを持って来いって事は何かアイデアでも思いついたんだろうか?そんな顔じゃあなかったような…まあ聞けばわかるか。

 

工学部の玄関ホールで合流した私達は暫く歩きまわって余り人気のないベンチに座った。

 

「さてと…どっちから話す?」

 

私はそう言って伊達メガネをはずして白衣のポケットにしまう。

 

「そうですね、千雨さんは…今のプロジェクトの状況について…ですか?」

 

「あたり、聡美が沈黙を貫いている理由が気になって…な」

 

「沈黙を貫いていた理由はですね…本当に今のまま完成させていいのかな? そう思っていたからなんです。

 

まずは妥協の産物だとしても一応の完成をさせて、つぎにつなげる…それでもいいのかもしれませんけど…

 

でも妥協する前に…一つだけ試してみたい動力があるんです」

 

「試してみたいって何を…?」

 

「…魔力です」

 

「…は?今、なんて言った?」

 

聡美の口からとんでもない言葉が聞こえた気がする。

 

「だから魔力です。世界樹の…あの異常に大きい樹の発光は何らかの方法で取り込んだ魔力を放出している現象である…

 

それゆえにここ麻帆良は魔力に満ちている…ゆえに彼らにとって麻帆良は重要な拠点となった…千雨さんが立てた仮説でしたよね」

 

「いや、だからってそんなわけのわからないものを試すって…そもそもどうやって…」

 

「ええ、本当なら私もそういう結論になって今日の検討会から積極的に動くつもりでしたよ。このメールがなければ…あ、お願いしますね」

 

そう行って聡美は私にケーブルの一端を差し出す。接続しろって事らしい。

 

「昨日の晩、私のパソコンに…それもプライベート用アドレスにこんなメールが届きました」

 

聡美から転送されたメールを(もちろん自前のセキリティーソフトでもチェックしてから)開けてみた。そのメールに書いてあった事を要約すると、

・差出人の名前は超 鈴音(チャオ リンシェン)という自称謎の中国人発明家

・ある目的のために聡美の力を借りて共同で研究を行いたい

・対価としては以下の3つ

・第1に聡美の行っている、あるいは行う研究に対するチャオ本人の協力

・第2にこの都市の秘密を教える

・第3にこの都市の秘密にかかわる新型機関の実用化に必要な協力者の紹介および仲介

・以上の条件に関し、手付として3の新型機関の設計図と2についての一部、他を添付する。

・この話に興味を持ったなら会って話がしたいので翌日中…つまり今日中に返信を求む。

・口の堅い人間にならこの件を相談してもいいが、外部に漏れたら互いにとって危険である。

 

続いて添付されていたファイルを確認すると

『麻帆良学園の秘密 お試し版』

『秘密の動力炉 試作設計図』

『他 現在進行中のプロジェクトに関する贈り物』

というタイトルで三つのファイルが入っていた。

 

…なんだこれは

思わず息をのんだ。

 

一つ目のファイルについては『魔法使い達』の事だと思われる何者かについて…その存在を物語る事象などについて…入手が容易なデータの組み合わせで丁寧に述べられていた。

そして…『最後に続きは正式版で、危険だからまだ直接調べたらだめネ』って書いてある。

 

二つ目のファイルはよくわからないが『何か』をためておく機構があり、その『何か』から電力を直接…間接なのかもしれないが…取り出す…いや、変換するような設計になっているように思えた。

 

三つ目のファイルは…うちのパーツの改良型と思われる設計図と新世代大容量記録媒体理論、そして現存する試作量子コンピュータの実用化計画…

そしてそれらを最大限利用した『新型機関』とそれを流用した推進機関への換装を前提としているであろう、『外部電源式』のガイノイド設計図…

 

もし、これをたった一人で用意したとするならば…聡美に勝るとも劣らない天才としか言いようがない。

時間をかければ…とも思ったが3つ目のファイルの量とベースになったであろうパーツの完成時期を考えると…まあ、無理だ。

 

 

「メール本文の方は自分で謎のって言っている時点で怪しいんですが…添付ファイルに関してはわたしのみるかぎりでは…動力炉とやら以外に関しては間違いなく…本物です。」

 

「ああ、私も同意見だな…しかもデータが盗まれてやがるな…」

 

クッ

 

部位によって改良型が添付されていたりされてなかったりするのはセキュリティーが関係しているのか…それとも簡単に改良できなかったからなのか…どちらにしても何処から盗まれたのかはっきりさせないといけない。

 

「このメールをどうするのかが…相談なんですが…探れますか?」

 

「ん~難しいだろうな…誰から抜いたかはわからないが…ネット経由だとすればそっちから簡単に探られるようなへまはしてないだろうし…

アドレスから探るとしても…今日中は厳しいだろうな」

 

「…なら直接会ってみる方で良いですね?」

 

変に公的機関に話を持っていくとドロンされてしまうんだろうなぁ…

黙殺すればどうなるか…すんなりあきらめるわけはないし…

期限までにプロジェクト参加者全員のコンピュータの侵入された痕跡を徹底的に調べるとか無理ゲーだ。

かといって、メールサーバーに侵入して…とかは時間的にちょっと厳しい。

 

「ああ…それしかないだろうな…悔しいけど」

 

「では、返信しますね」

 

私は無言で大きく一度だけうなずいた。

 

カチャカチャ カチッ

 

 

 

 

パタン

 

暫くして、送信が終了したのか聡美はパソコンを閉じた。

 

私もパソコンを閉じて立ちあがり、メガネをかける。

 

「さて…今はここまでですね―」

 

「そうだな…続きはまた…ってそういやなんて送ったんだ?」

 

「ふふ~気になりますー?」

 

「…言いたくないなら良い」

 

「あ~もう、ちょっとしたお茶目じゃないですか。単純に、『興味は持ちました。』って送りましたよ。」

 

「…えっと…いつ、どこで会おう、とかは入れなかったのか?」

 

まあ、確かにあれだけのものを用意したのだからさらなるアプローチがあるだろうけど…

 

「…まあそのうち向こうから接触してきますよ~きっと。それより、何か甘いもの食べてから戻りましょう、千雨さん」

 

それでいいのかなぁ…それだとむこうに交渉の主導権握られる気がするんだけど…

 

「ん…わかった。工学部のスターブックコーヒーでいいか?」

 

まあいいや、ケーキでも食べながらそこらへんを相談しておこうか。

 

「良いですねー」

 

そんな感じで私達は工学部前まで戻ってきたんだが…なんか、私達と同じくらいの年頃の少女が道の真ん中に立っていた。

なんか、中国人っぽい…まさかな…

 

「おや、急いできたがお邪魔だったかナ」

 

…チョットマテ

 

「私が超 鈴音ネ。はじめましてヨ、はかせさとみサン、はせがわちさめサン」

 

そんなすぐ来るとか…

 

「興味を持ってくれたみたいだったので来たヨ、お話の場所はまずはそこのコーヒーショップでヨロシカナ?」

 

聞いてないぞ…

 

 

 

 

 

 

 

 




プロジェクトに問題が発生したようです。その為に現在スケジュールが停滞しております。
実はこれ、千雨さんの基幹AIの最適化機能の応用でパーツのデータ取りが簡単になったため、大量のオプションパーツが誕生した事にも起因します。

あと千雨さんは立派なオタクになったようです。
ちうのホームページもあるんですが…内容はコンピュータについてのコラムと日記、そしてちょっぴりオタ成分で成り立ってるみたいです、今はまだ。


チャオさん登場
ここから研究は加速して行く予定です。


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05 茶々丸開発編 第3話 未知との遭遇?

あの後行われた話し合いで、聡美は超とすっかり意気投合し、研究協力にあっさり了承した。

私はというと、本気か冗談か微妙なラインのお誘いは受けたが聡美との共同研究で私にできる事があれば手伝うよ、とは答えておいた。

なんか、飛び込む気にならないんだ…協力はするし、してもらうけどさ。

 

一応、研究データの入手経路なども問い詰めてはみたが返事は

 

『どこにでもセキュリティーの甘い人はいるものヨ…ちょっとしたヤンチャという事で許してほしいネ。

誰だってヤンチャのひとつやふたつした事はあるものヨ。二人ともちょっとは心当たりあるはずネ』

 

だった。

…私達もいろいろとそういう面では問題ある事もやった事あるし…別にデータの盗用とか研究関係で不正をしたとかいう事ではなく…

私のホームページに来た懲りないバカとか、研究室に何度か不正アクセスしてきた奴を私単独もしくは聡美と協力して徹底的に制裁した事が…何度かあった気がする。

ただ…その時いろいろとまずい事もやったわけで…深く追求しあうのはお互いのためにならないだろう、うん。

 

って事で超は教授から外部の共同研究者扱いでプロジェクトの参加許可を取り付け、正式に開発に協力する事となった。

 

んで…あっという間に溶け込みやがった上に、聡美と協力して目標の取りまとめを裏でやってるみたいで…

 

本当に有能な事で…っていうかさ?

 

ロボット工学にこだわらなければ、今の聡美クラスの人材は大学教員を含めれば相当数いる…聡美が成長を続けるならあっという間に引き離すだろうが…現状は麻帆良内でのトップクラスに小6の生徒がいる、という事でしかなかった。

 

超は低く見積もってもそんな聡美に勝るとも劣らない能力を有している。しかも、機械工学のみならず生物工学や量子力学でもだ。

…そう、その方面でも学生の協力者こそ作っていないが、教授を口説いて非公式に、研究に参加してやがるんだわ、休みが終わったらしばらくは来れないとか言ってはいたけれども。

 

それだけにとどまらず東洋医学や料理に関する知識、腕前もプロ並みのようで、さらに麻帆良祭で屋台を出してみたいみたいな話もしてて…聞く限り経営学も修めてるような気がする。

私はさすがにそこまではよくわからんけどさ。

 

も一つおまけに…これは私の勘だが…武術も相当なレベルで修めてる様で…私の護身術に毛が生えた程度の柔術では手も足も出まい…何なんだよ、このチートは…

 

そんなチートに

 

『さすがちさめサン、私よりもずっと良いもの作るネ』

 

とか言われても素直に喜べない…聡美や超が人工知能開発だけに取り組めば私よりもいい物が作れるだろう。

聡美がいくつかの分野に分けて費やしている時間を人工知能分野だけに費やして初めて私は彼女に並べているのだから。

それでも一般的に見たら才能あるってのはわかってんだが…なぁ…

 

 

 

そうそう、条件の一つ、この都市の秘密についてはDVDに焼いた完全版をもらった。

怪しい施設や怪しい人、本物でありそうな都市伝説等々に関しての状況証拠が添えられた考察が追加されていた。

そこから導き出される仮説や社会構造…といったものが本体としてのっていた。

 

加えて、情報ソースは諸事情により秘密とされていたが、断片的ながら事実としての魔法使い達が記述されていた。

世界樹については、『正式名称は神木・蟠桃、魔力を秘めた木であり、発光現象は魔力の放出である』としてあった。

 

魔法使いたちのコミュニティーとしての情報もあり、ここ麻帆良が西洋魔術師…世界規模で一番大きな勢力ようだ…の日本における最大の拠点らしい。

それとは別に、土着系の団体、つまりは陰陽師のような連中などの団体も別に存在し、そいつらは京都を根城にしている、とのことだ。

後、未確認情報らしいが魔法使いの大半は地球上に複数存在する『転移ゲート』によって移動できる別世界に居住し、むこうの世界は複数の国に分かれていて、亜人も多数いるみたいだ、とあった。

 

…超がよこしてきた新型機関の設計図って、多分むこうのエンジンか何かの再設計…もしくはコピーなんだろうな…

重要区画に『超らしくない』設計の癖が少しみられたんだが、きっとそこは手をつけられなかった部分なんだろう、と勝手に解釈している。

 

 

他にもいろいろと魔法使い達について書いてあるんだが…詳細は現在調査中の文字が思いのほか多い…どうやって調べたんだよ、っていうかどうやって調べる気だよ…

 

 

 

 

そんなこんなで8月となり、私と聡美は最後の条件に当たる協力者との交渉に向かっている。

 

ちなみに超は現地集合というか…なんか、理由はよくわからないが先に行ってる。

 

「桜ケ丘4丁目29番地、『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』…ここで間違いないようですね――」

 

指定された住所はいつだったか不思議な夢(?)を見た場所のすぐ近くのログハウスだった。

 

「心の準備はオーケーですか、千雨さん?」

 

「ああ」

 

私は呼び鈴らしきベルに繋がった紐に手を伸ばす。

 

「私はまだなんでちょっと待ってください」

 

ズルッ

 

思わずこけそうになった。

 

「どうしたんだ?」

 

「だって、この扉をあけたら…異世界に飛び込む事になるんです…私だって不安になりますよ――昔、千雨さんが私にした質問…覚えてますか?」

 

少しだけ考えて答えを出す。

 

「『魔法や超能力を見せつけられたらどうするか?』の事か?」

 

多分これだって事は…何となくわかった。

 

「ええ、あの時私は『ありえない仮定』に対して答えを出しました。

 

でも…今から私は『目の前に現れた現実』に対して答えを出す事になります。

千雨さんと秘密を共有し始めたあの日から覚悟はしていました…魔法は『いつか』現実のものとして目の前に現れるって。

 

そして…『いつか』は『いま』になる…私はちゃんと答えを出せるのか…魔法というものが現実だったとしてそれ受け入れられるのか…ちょっぴり不安だったりします」

 

「今日の打ち合わせで超と話してる時は魔法関係の話でも興奮していたみたいけど…やっぱり実際あっち側の人間に会うとなると…って事か」

 

科学に魂を売ったと言い切る…そんな彼女にとってどれだけ不思議な人間であっても科学者である超はこちら側の人間

 

そして今から会う相手は…魔法使いであるマクダウェルさんはあちら側の人間…

 

それは…科学を手段と考える私にはわからない違いなんだろうなぁ…どっちも自分に持っていない知識を持ってるが警戒すべき人って認識だから。

 

「そうなんです――まあ、だからって逃げる気は欠片もないんですが」

 

そう言って聡美はいつもの顔に戻る。不安を話したらなんか落ちついたって事だろう。

 

「なら…いいな?」

 

「はい」

 

今度こそ、と私は鐘を鳴らす。

 

 

暫くしたのちに扉が開き、金髪の少女…見た目からして私達より1歳か2歳くらい年下なんだが多分コイツ…

いや、この人がマクダウェルさんなんだろう…超から事前に聞いてる特徴そのままだからな。

 

「始めまして、私は葉加瀬 聡美っていいます。こっちが」

 

そう言って聡美が私を手で指し示す。

 

「長谷川 千雨です、よろしくお願いします」

 

「私がエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ。さぁ入れ、貴様らの仲間が待っているぞ」

 

私達の名乗りを聞いたマクダウェルさんはそう言うと私達に家に入るように促す。

 

促されるままに扉をくぐった私達は極めてファンシーな人形だらけの部屋に入った。

 

その中心に置かれた長方形のテーブルに4つの椅子が長辺に1対3で並べられており、3の方の一番手前に超が座っていた。

 

「座れ」

 

マクダウェルさんは1の方の椅子にすわり、私達に着席をうながした。それに従い、私達は聡美を真ん中にする形に着席した。

 

彼女は私達の顔を一瞥すると愉快そうに言った。

 

「超 鈴音から大体の事情はきいている…まったく、命知らずな事だ。

 

真祖の吸血鬼にして、闇の福音と呼ばれる悪の魔法使いである私に、科学で駆動する自動人形の心臓を作りたいから手を貸してほしい…とはな」

 

そして一転真剣な表情になって続ける。

 

「さて、葉加瀬 聡美、長谷川 千雨、超 鈴音、実は私からお前たちに依頼したい事がある。

 

魔力供給をほとんど行わなくても『ミニステル・マギ(魔法使いの従者)』の役目を果たしうる人形を作ってくれ。

 

無論、自分の従者をつくらせるのだから製作にあたってはできうる限り協力しよう」

 

「えっと…それは私達の依頼に応えていただける、という事で良いんでしょうか?」

 

相当無理難題を吹っ掛けられる覚悟はしていたんだが…なんか、あっさりと協力してくれそうな状態に聡美が恐る恐る確認する。

 

「そう解釈してもかまわん。

 

私は少ない魔力で運用できる従者となる人形が欲しく、お前たちは自立型の人形を作るために魔力を動力にする機関を開発したい。

 

無論、魔法技術の提供だけで従者用の機械人形を作って引き渡せとは言わん、資金面でもある程度までなら協力できる。

 

また、この件についての開発許可もジジイ…学園長からもぎ取る事、またそちらの話したい事について最低一度は交渉の場をつくらせる事を約束しよう」

 

少しの沈黙ののち、聡美が答える。

 

「…わかりました。

 

我々はエヴァンジェリンさんに従者として運用できるガイノイド…機械人形を提供する。

 

エヴァンジェリンさんはその機械人形の開発に必要な魔法技術を我々に提供し、その他の面でも一定の協力を行う。

 

これを骨格として交渉を進めていくという事でみなさん良いですか?」

 

「私は構わんぞ、ただし条件次第では他の対価を上乗せする事もある、とは確認しておこう」

 

「私はそれに関して特に言うべき事はないネ、この交渉に限って言えば私は立会人に過ぎないヨ」

 

「千雨さんもそれで良いですか?」

 

今まで沈黙を保っていた…というか話を観察していた私に聡美が確認をとる。

 

「…交渉の方向自体に異存はない…です。でも、一つ確認させてもらいたい事があるんだ…ですが、良いですか、マクダウェルさん」

 

うむ…見た目が見た目なのもあるが…なんか敬語で話しにくい。

 

「何だ?それと無理に敬語を使う必要はないし、呼び名もエヴァンジェリンでいい」

 

「なら…エヴァンジェリン、あんたは何の目的で今の依頼を話した?」

 

「何だ、そんな事か、単純なことだ。

 

自炊が面倒臭くなってきた事と、ちょうど私の前衛たりえる機械人形が欲しかったからだ」

 

エヴァンジェリンの顔がつまらない事を聞くな、といった感じの顔になる。

 

「いや、そういう意味じゃなくてだな…

 

あんたは私達が交渉を持ちかけた事で圧倒的に有利な立場にいたはずだ。なのにあんたは依頼というかたちで対等に近い状態にまで自ら降りてきた。

 

交渉に乗ってやる、って言う態度を貫けば…あるいは恫喝なんかもすればもっと有利に話を進められるにもかかわらず、だ。

 

事前に聞いていた『闇の福音』のイメージほど悪人じゃないようだが…かといってお人よしでもなさそうな気がする…意図を知りたい」

 

私以外の3人が一瞬あぜんとなったが、直後エヴァンジェリンは笑い出した。

 

「くっくっ、全くひねた小娘だな。貴様の考えも理解はできるが、それは私のこの話に対する前提が間違っている。

 

己の使う武器を作る鍛冶屋には良い環境と十分な報酬を与えるべきだ…と言えばわざわざ交渉の主導権を手放した理由を理解できるか?」

 

それは私自身に少し興味を持ったような感じの声に聞こえた。

 

「ああ、つまりは『作らされた』人形や、『寄せ集めで作った』人形なんぞに興味はなく、『私達の作りうる最高の』人形が欲しい、という事か」

 

「うむ、正解だ。『魔法使いの従者』は魔法使いの剣であり、盾でもある。そんな大切なものを作らせる相手を必要以上に脅したり、理不尽に扱ったりはしないさ」

 

「わかった。変な事を聞いて悪かった、エヴァンジェリン」

 

そう行って私は軽く頭を下げる。

 

「これくらい気にするな…さて、詳しい交渉に移るとして…そうだな…場所を変えよう、ついて来い」

 

そう言ってエヴァンジェリンは席を立ち、私達を地下に連れて行った。

 

そして人形回廊と言いたいくらい多くの人形が置かれた倉庫を通り抜けて、塔のミニチュア模型が入った透明な球が安置された丸い部屋に通された。

 

「暴れるなよ、害はない」

 

パチン

 

エヴァンジェリンが指を鳴らすと同時にカチリという音が4つして景色が歪む…

 

気がつくとそこは…塔の上だった。

 

たぶんこれ…さっきのミニチュアの中にいるんだろうなぁ…私は驚愕しつつもそんな事を考えていた。

 

聡美も、超も絶句している様子だった。

 

「ようこそ、わが別荘へ…歓迎するぞ、小さな科学者諸君」

 

そう行ってエヴァンジェリンはにやりと笑った…その笑みはとても恐ろしく、そして美しかった。

 



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06 茶々丸開発編 第4話 契約書類と南国リゾート

「……以上の理由で、私は機械仕掛けの自動人形でも従者とする事ができる、と考えている」

 

「なるほど…人形に対してかりそめの命を与える契約と主従関係を結ぶ契約か…でも、それって本来二本の契約で縛ってる従者を一本でしか縛れなくなると思うんだが、問題ないのか?」

 

「いや、人形契約だけで十分だ、魂を込めた際の刷り込みは主従契約を結ぶまでのつなぎに過ぎん」

 

会議室のような部屋に通された私達はエヴァンジェリンとの交渉にあたって、まずは互いの認識のすり合わせを行う事にした。

 

本当なら今回の交渉でそこまでする時間はないのだが…幸いこの別荘、外の一時間が中の一日と同じらしいのでそういう余裕ができた。

 

今は、この別荘を管理している魔法人形に出会って浮かんだ疑問、従者にする際に魔法で自立思考能力を与えるのならばこちらの人工知能と反発しないか?……という問題について話している。

 

もし、反発するなら人工知能を除かなければいけないが、除いてしまえば本質的にエヴァンジェリンの魔法人形と同じ事になるし、私達の利益が大きく失われる(稼働データ的な意味で)。

 

それに対しての解答はこうだった。

 

普通、魔法人形を製作する時は必ずどこかの段階で『魂』を吹き込む儀式を行うのだが、この時、人形は創造者に対する忠誠を誓う。

 

さらに、完成した後にドール契約という主従関係を結ぶ契約を行い正式に忠誠を誓わせる。

 

こういった段階を踏むために、ドール契約のみを行えば追加で意志を与えずに主従契約を結べるとのことだ。

 

ちなみに、後者の忠誠は前者の忠誠に優越するが、後者だけが残るというものではないらしい。

 

たとえば魔法人形師Aが人形使いBに人形を売却し、Bがドール契約を行った場合、Bの命令に反しない、あるいはBに対して損害を与えない範囲に限り、Aの命令も聞く。

そして逆にBに命令されれば(売買契約などで規定されていない限り)人形はためらいなくAを殺すらしい。

 

それゆえに面倒事を防ぐために普通、一人前の人形使いは自分で人形を作るらしいが…今回は仕方ない、とエヴァンジェリンは言っていた。

 

「…あの、別に魂とやらを込めなくてもドール契約というものはできるんですか?」

 

「ああ、ドール契約は完全な非生命体とでも可能だ。魂を込める儀式はあくまで人形に自己判断能力を付与するためのもので…厳密には生命体の持つものと同じ魂を与えるわけではないからな」

 

その後、私や聡美が次の質問をしない事を確認して超が言う。

 

「エヴァンジェリンさん側の要求に関する質疑はこんなもので良いカナ?」

 

エヴァンジェリンは沈黙で、私と聡美は無言で頷いて肯定する。

 

「ならば、次は私達の要求に関する質疑に移るとするネ」

 

超はそう行って私達に提供した設計図と同じものをエヴァンジェリンに渡した。

 

「む…これは…って、ちょっと待て…これは精霊エンジン…ではないのか…しかし…」

 

エヴァンジェリンは図面を読みながら何かを考え込む。

 

「超らしくない所があると思ったら…やっぱり元になる魔法使いのエンジンがあったのか…」

 

「そうですね…超さんにしては洗練されてない所がありましたし…一部ブラックボックス的に流用してるんですね」

 

エヴァンジェリンの邪魔にならない程度に声を絞って私達はつぶやいた。

 

「むむ…やはりばれてたカ…そうヨ、ある伝手で知った精霊エンジンの設計図を基に再設計したものヨ。

 

もっとも、いくつかのエンジンや術式をつなぎ合わせて設計したせいでうまく動くかわからないし…そもそも手に入れたものが本物かすらわからなかったネ」

 

超はそう言って笑ってごまかそうとしている。

 

「…うむ、外部から魔力をここに取り込んで、電力として供給したいんだな。やりたい事は大体わかったが…」

 

唸っていたエヴァンジェリンが大体やりたい事を理解したらしく、口を開いて…

 

「だが、この図面通りに作っても動かんぞ?」

 

とんでもない事を云い放った。

 

「むむ…という事は…この設計図は役立たずという事カ?」

 

「あわてるな、修正は可能だが…そちらの本来の希望からは少し外れる事になるな」

 

そう言ってエヴァンジェリンは黒板に設計図の概略図を書き、魔力の流れを書き込んでゆく。

 

「この設計図では外部から魔力を取り込み、貯蔵する機構、魔力を電力に変換する機構、そして電力を使いやすいように整える機構の3つにわかれている…そうだな?」

 

超は黙ってうなずく。

 

「変換に関しては簡単なマジックアイテムの原理を応用すれば可能だという予想は正しいし、推力に最適化してある設計を電力変換に再設計するのはそれほど難しくない。

 

電力を整える事に関してはお前たちの方が詳しいだろうからあまり関与はできない。ただ、魔力を自動供給する術式は無謀としか言いようがないな。

 

より具体的には、この術式では動力炉内部の魔力濃度が反応最低濃度まで達しない…例外は麻帆良祭くらいだな、あれだけの魔力濃度ならいけるかもしれん」

 

「魔力を集める術式とかはないのカ?」

 

「無くはないが…可能なのは儀式魔法だけだな…少なくともこのように使う事は私の知る限り不可能だ。

 

儀式魔法で魔力溜りを発生させて、その魔力をとりこんで暫くの時間動かす事も不可能ではないが…まあ数百体単位にならない限りは儀式を行う術者が直接した方が早い。

 

つまり…こういう事だな」

 

そう言ってエヴァンジェリンは最初の矢印に添えられた『外部から(自動)』に斜線を入れてを『術者から(手動)』と書き換えた。

 

「別にこれは別に魔法使いがやる必要はない…まあ、魔法使いの方が効率は良いが…それは置いておこう。

 

たとえば機械式時計のゼンマイを巻いたり、手回し発電機のハンドルを回したりするような、意味のある行為に対して関連付けを行った儀式魔法を行う事でお前たちにもこの魔力供給は可能だ。」

 

そいうってエヴァンジェリンは術者に矢印を付けて一般人でも可と付け加えた。

 

「儀式魔法…ですか?」

 

「そう、儀式魔法だ。詳しくは省くが、儀式魔法はモノや行為自体を行う事がより重要になってくる…それこそ行為の意味さえ理解していれば魔法の才能がなくてもできる位にな。

 

詳しい事は契約が正式になった後に技術提供の一環に含める、理論を知らねば良いものはつくれないだろうからな」

 

「わかりました、とにかくこちらが意図している出力は得られるんですね?」

 

「うむ…だが、さすがにそう言うものを多数の一般人に作らせるわけにもいかん…お前たちは協力者として許可をとれるが…不特定多数の目にさらすようなまねは許可がおりんぞ」

 

「ん…ならば試作実験機として外部電源式で完成させたのちに私達の手で動力の換装を行いましょうか」

 

「ならば、その方向で行くとしよう…他にそちらの要求に関する確認があれば聞くが、何かあるか?」

 

「私は今のところないですね。」

 

「私もないな。」

 

「ならば条件の交渉に移るとするネ」

 

こうして実際の条件に関しての交渉が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半日(休憩時間込み、別荘内部の日の出ごろから初めてそろそろ日の入り)に及ぶ交渉の結果は以下の通り

 

① エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(以下 依頼者とする)は葉加瀬 聡美を筆頭とする三名、すなわち葉加瀬 聡美、長谷川 千雨、超 鈴音、の三名(以下 製作者)に対し、自立型のガイノイド(以下 人形)の作製を依頼する。

  ただし、人形の性能は以下の条件を満たす事とし、人形の所有権はドール契約を行った時点で依頼者に移る事とする。

  また、製作者が依頼者に敵対しない限り、所有権が移った後も人形は製作者に危害を加える事はしない。

 

  ・ごく日常的な程度の動作において最低36時間の継続稼働が可能であり、簡便な手段により動力の補充が可能である事。

   ただし、30分間の戦闘行為を行った場合でも、その前後を合わせて最低24時間の継続稼働が可能であること。

 

  ・最低限の家事能力を有する事。最低限の家事能力とは麻帆良学園の平均的女子中学生が有する程度の家事技能をさす。

 

  ・独力、白兵戦能力のみで2000年度の秋の大格闘大会優勝者クラスの格闘家を5分以上拘束可能であり、

   かつ依頼者の魔力が封印されている現状においてのドール契約による魔力供給下において、魔力または気の補助をうけない平均的な大学部所属の武芸者20名を格闘戦のみで5分以内に制圧可能である事。

 

  ・学生生活が可能である程度のコミュニケーション能力を有する事。

 

② 依頼者は必要に応じて製作者に対し、人形の修理、改良またはメンテナンスを要求する事ができ、製作者側は特別の事情(技術的理由を含む)がない限り応じなくてはならない。

  また製作者も依頼者に対し人形のメンテナンスを行う事を要求でき、それが前回の修理またはメンテナンスの完了から30日以上経過していた場合、依頼者側は特別の事情がない限り応じなくてはならない。

  製作者側は人形の修理及び改良についても申し入れられるが、依頼者側はそれを拒否する権利をもつ。

  製作者はこの修理、改良、またはメンテナンスの際に人形に蓄積されたデータを回収できる。ただし、依頼者のプライベートに関する事項を除く。

  

 

③ 人形の制作および②で規定された依頼者の権利の行使に際し、依頼者は製作者に対し技術面、知識面、及び資金面で十分な援助を行う。

  供与された技術及び知識は、事前の許可なく第三者に公表してはならない。  

 

④ この契約に関する学園を拠点とする魔法使い達(以下 学園)との交渉は依頼者が行い、許可の獲得は依頼者が責任を持つ。

 

⑤ 依頼者は、製作者の立場等に関する、製作者と学園の交渉を仲介し、その交渉の際に製作者の後見役を務める事。

 

⑥ 依頼者が④と⑤の条件を満たした後1年以内に①の条件を満たす人形の製作を完了できなかった場合、人形完成までの間製作者のうち誰か一人以上が人形の代わりに家事を行う事。

  この義務は依頼者が例外とした場合は発生せず、製作者が同意した方法により代替できる。

  また、メンテナンス及び修理が24時間を超える場合、それが依頼者の重大な過失または故意である場合を除き製作者は同様の義務を負う。

 

 

…まあこんなもんだろう。

 

「…さて、こんなところで良いカナ」

 

「ああ、私は構わん」

 

「私もOKです」

 

「私も…これでかまわねぇ」

 

この契約メンテナンスに応じる期限や家事代行の期限を書いてないんだが…学園側との交渉のためにわざとこうしてある。

変に期限を決めると期限切れを理由に私達の記憶を消そうとするかもしれないから、と私と超が工夫した点だ。

 

…って事で、さっきの契約に関する密約が別に存在して、その他の事について通し番号は連番だがこちらは別契約扱いとなっている。

 

⑦ 依頼者と製作者が行った人形に関する契約について、⑦以降の項目(以降 契約後半部)は①~⑥までの項目(以降 契約前半部)とは別の契約とする。

  前半部は依頼者と製作者が交わした人形の制作についての契約であり、後半部は前半部の取り扱いに関する契約である。

  また、契約後半部に関しては、全ての契約者はその内容を他の契約者全員の許可なしに第三者に漏らしてはならない。

 

⑧ 契約前半部によって発生する、製作者の義務及び人形の所有権を除いたすべての権利は依頼者が封印の影響下にある限り有効である。

  ただし、別荘内における一時的な封印の解除は除き、また②に関する契約者相方の権利及び義務は人形と依頼者がドール契約を遂行した日から2年間は継続される。

  また、依頼者は製作者から完成を通知された日の翌日から起算して2度目の満月までにドール契約を行う、これは人形が①に掲げた条件を満たしていない以外の理由によって拒否してはならない。

 

⑨ 製作者の②に関する義務は、製作者全員が義務の遂行が不可能な状態になり、回復が不可能な場合に終了する。

  依頼者は②の義務を理由に依頼者は製作者の許諾しない手段による寿命の延長行為を行ってはならない。

  これは製作者が依頼者に対して行うそれの要請を妨げないが、依頼者はそれに応じる義務を負わない。

  また、製作者が後継者を用意する、依頼者に必要な技術などを習得させる、その他依頼者が認めた手段によっても義務を終了させる事ができる。

 

 

⑦は、学園側が契約内容を確認させろと言ってきた時に、前半だけで

 

『これがガイノイド製作についての契約の全てだ。』

 

と、言うためである。後半部は『ガイノイド製作について契約』の取り扱いに関するものであるから嘘ではない。

ガイノイド製作に関する、と言わない所がみそになっている。

また、逆に学園側が他に契約や密約がないか、と言ってきた時は

 

『ガイノイド製作に関する契約以外は結んでいない』

 

と、言っても逃げる事ができる。

まあ、小手先だけの手だがないよりましだろう。

 

⑧はまあ…ずっと封印され続けてる気はないってことなんだろう。

 

⑨は私達が生きてる限り整備する分には異論はないが…ずっと整備しろ、と吸血鬼されちゃかなわん、という事で付け加えといた。

 それとは別に気に入ったから、と下僕にされる事はありえるが…ないと信じておく。

 

こんな内容を契約用紙に記載し、エヴァンジェリンと私達3人のサインをした。

 

契約前半部に使った契約用紙は契約を破ろうとしたら頭痛がしたり、凄い罪悪感がこみあげてきたり…といった、エヴァンジェリン曰く形だけのものだとか。

…正式な契約を破る事自体が魔法使いにとっては不名誉かつ不利益を被ることらしいが。精霊の信頼度的な意味で。

 

契約後半部は強制執行機能付きの上級品を使ったが、やはりこれでも当たり前のことらしい。

重要な商取引、軍への入隊誓約書など、日常的ではないがそれなりによく使われているとのことだ。

 

 

 

「さて、契約はなった。あとは時間まで別荘を楽しむといい、何かあればメイドに言ってくれ」

 

そう言ってエヴァンジェリンが指を鳴らすとすっと、メイド服を着た魔法人形が入ってくる。

 

「私はしばらく休む。夕食時にまた会おう、基礎的な魔法理論についての書物を用意しておく」

 

そう言ってエヴァンジェリンは退室していった。

 

「さてと…どうする?」

 

「んん…どうしましょうか」

 

「そうネ、せっかくの南国リゾートだが…水着なんて持ってきてないヨ」

 

「そうですね…」

 

「そうだな…水着があれば上層にあったプールでひと泳ぎしたい気分なんだが…ないもんはしゃあないな。

着替えもないし…さっきみたいになんか飲み物でも貰ってゆっくりしとくか?」

 

楽しめと言われても、水着なんて用意してないので水泳は却下、砂遊びって面子でもないし、着替えもないので運動系はやめといた方がよさそうだな。

 

「水着や着替えでしたらご用意できますし、海やプール以外に温泉もありますがいかがいたしましょう」

 

沈黙を保っていたメイド魔法人形が口を開く。

 

「着替えや水着があるなら貸して貰えるか?後サイズは大丈夫か?」

 

「はい、お客様用に余り種類はありませんがご用意しております。サイズは我々が調整いたします。」

 

無表情のまま、メイド人形が答える。

 

「なら、水着と着替え…あとで寝巻貸してくれ」

 

メイドはぺこりとお辞儀をして言った。

 

「かしこまりました、長谷川千雨様。葉加瀬聡美様、超鈴音様、お二人はいかがいたしますか?」

 

「むむ…ならば同じく水着と着替えと寝巻を借りたいネ」

 

「私もお願いします」

 

「かしこまりました。衣裳部屋にご案内いたしますので水着をお選びください」

 

再びペコリとお辞儀をして私達を先導してくれる。

 

 

 

いくつもの大きな衣装ダンスが並んだ部屋に通され、メイドがその中の1つのタンスを開いた。

 

「皆様方が着用できるサイズはこちらとなります」

 

そこにはずらっと並んだ子供サイズの水着があった。

 

「私は…これで良いか、着慣れてるしな」

 

「私もこれにします」

 

「む…なら私もこれネ」

 

「かしこまりました、少々お待ちください」

 

そう言ってメイドは私達の選んだ水着…スクール水着を持って奥の部屋に入って行った。

…泳ぐのに変な装飾ついてない方が好きなんだよ。それにスクール水着が一番着慣れてるし。

 

聡美も同じ理由でシンプルなのを好む、ただし課外で使ってる水着はいろいろと科学系の文字や絵が書いてあるが。

 

…超は私達が同じのを選んだから合わせたって感じだな。

 

 

んでもって、戻ってきたメイドが持っていたスクール水着にはそれぞれ

 

『超 鈴音』

 

『ハカセ』

 

『ちう』

 

と、書かれた大きめの白布が縫い付けてあった。

 

メイド曰く、

 

「油性マジックで記名した白布を縫い付けるのがスクール水着の正しい流儀だとされております。

 

我々もマスターやマスターのお客様のために日々情報収集を行っておりますのでそういった知識も完璧です」

 

との事だ。

 

「こんな知識どっから仕入れてくるんだよ…」

 

「マホネットと呼ばれる演算機ネットワークがございまして、我々も電子精霊を通して利用しております」

 

「…インターネットみたいなもんか…」

 

「ほう、電子精霊と演算機ネットワークか…それは興味深いネ、詳しい話とかも聞いてみたいものヨ」

 

「申し訳ありません、私にはそのような権限を与えられておりませんので、マスターにお聞きいただけますようお願いいたします」

 

「ならば仕方ないネ、またの機会にするとするヨ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

まあいいや、せっかくだし、三人で遊ぶとしようか。

 

 

 

 

 

 

さて、散々プールで騒いだ後に風呂入ったんだが…

バスローブを渡されて今は三人別々の部屋に通されている。

 

「これは?」

 

「はい、長谷川千雨様の着替えでございます」

 

いや、それはわかっているんだが…

 

「なぜドレス?」

 

なんで人形が着てそうな黒のパーティードレスなんだよ。

 

「マスターからの指示です。」

 

「…わかった。こう言うの着た事ないんだ、手伝ってくれ。」

 

主人からの命令ならメイドも逆らえないんだろう。

…まあ、突っ込み入れたかっただけで嫌じゃないってのもあるが。

 

 

 

どっかのお姫様…程ではないが貴族令嬢位の格好になり、風景が見渡せる部屋に連れていかれた。

 

ディナーの用意がされたその部屋には大人のエヴァンジェリン(極めて高度な幻術らしい)と超がドレス姿でいた。

 

幻術での成長は予想外だったが、エヴァンジェリンは当然として、超の黒いチャイナドレス姿も私よりずっと自然で綺麗だった。

 

「うむ、オーソドックスに来たか…なかなか似合っているな」

 

エヴァンジェリンがニヤニヤとした様子で言う。

 

「まった、この服はあんたの指示じゃなかったのか?」

 

「ああ、確かに私の指示だ。『客人の容姿を最も引き立てる盛装を着せろ』と命じた」

 

「…そうか、つまりメイドドール達は私には黒のこういう落ちついたドレスが似合う、と判断したって事か…」

 

いやまあ、確かにこういうのも好きだが…もう少し可愛い系も、柄でないのはわかってるが…好きなんだがな。

 

ん?って事はファッションセンスとかもあのメイド達は判断できるってことか?

 

「確かにちさめサンには黒が似合うヨ」

 

あ、3人共着ているドレス黒じゃないか…かぶるとかいうのは考えなかったのかよ…

 

「おまえもな、まるで悪の組織の女幹部ってとこだな」

 

「ハハ…それを言うならちさめサンは悪の大総統の娘といったところネ、それもヒロインではなく最終回間際でヒーローの前に立ちふさがるタイプヨ」

 

そう言ってお互いに笑い合う。もちろん少し乾いた感じも込めて。

 

いやまあ、まかり間違っても正義の味方なんかじゃないんだが…倫理規定は殆ど守ってるし、悪い事をしたいとかいうわけでもない…殆どがつく時点でダメなのか…

 

 

 

「葉加瀬聡美様がいらっしゃいます」

 

入口あたりに控えていたメイドがそう言った。

 

やってきた聡美は私とそっくりなデザインで色だけが純白のドレスを着ていた。

 

「おお、やっと黒以外か…しかし、全体のバランスも考えさせておけばよかったな…みな似たり寄ったりでつまらん」

 

確かにそうだが仕方ない、私らはまだまだ子供だ。あまり大人びたものにすると似合わない。

 

「むむ…皆さん真っ黒ですね―千雨さん、似合ってますよ」

 

しかし…なんか聡美がすごく可愛いんだが…いつもは制服か科学者Tシャツに白衣だからなぁ…そのギャップもあるんだろうか。

 

「千雨さん、どうしました?顔が赤いですよ?」

 

「あ、ああ。ごめん、聡美も似合ってると思う。しかし…デザイン殆ど一緒だな。」

 

「確かにそうネ、ハカセとちさめサンのデザインそっくりヨ。」

 

「ふふ、確かにペアルックみたいですね。」

 

ゲホッ

 

思わずせき込む。

 

そう言う言い方されるとなんか恥ずかしいからやめてくれ、せめてお揃いくらいで。

 

「何を漫才しているか、早く席に着け」

 

エヴァンジェリンが少しいらつき始めてるような声で言う。

 

「あ、すいません。」

 

聡美はそう言っておとなしく席に着いた。

 

「では、始めるとしよう。」

 

エヴァンジェリンが合図をするとメイド達が給仕を始める。

 

さすがというか、食前の飲料から食後の紅茶まで料理はどれもおいしかった。

 




今更ですがハカセと千雨の関係は親友です。恋愛的な感情にはならない…かどうかは微妙。
コノセツ程度には百合かも?(要するにいちゃつきはする。正式に恋人になる可能性は作中では低い・・・と思う。でも作者は百合好きなので警告タグは入れる。

ペアルックネタは誕生日プレゼントにコノカがアスナにペアルックシャツを買おうとしてたあたりからきています。


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07 茶々丸開発編 第5話 デスマーチな日々、目覚めよ茶々丸

エヴァンジェリンとの交渉から5日後、学園側との交渉に行ってきたんだが…学園側との交渉はあっさりと終わった。

 

開発許可があっさり下りたのは、エヴァンジェリンが学園の警備員をさせられているらしいので、仕事上必要だからだと言われれば凄く納得できる。

それどころか必要経費扱いで開発費の一部補助(対外的には学園の重点研究への認定)まで貰えた。

 

私達の立場についての交渉の詳しい事は私の勘違いがいろいろと明らかになって恥をさらしたので思い出したくない。

 

簡単に説明すると、ここら辺を管理している魔法使いたち(関東魔法協会という組織らしい)は自称正義の味方であった。

これはエヴァンジェリンからも聞いていたし信用してもいいだろう、あくまでお題目としてだが。

まかり間違ってもお人よしの互助組織なんてもんじゃないのは話しててよくわかった。

 

また、私が思っていた魔法を知ってしまった事がばれたら消されるかもしれないという危惧は、

完全に偶然であれば記憶を消される、自力でたどり着いたのであれば、魔法の秘匿のための規則に同意すれば記憶は消されない、程度だった。

ま、記憶も消されたくなかったんで完全に間違っていたわけじゃあないんだけどさ。

 

それと…超のレポートは知っちゃいけない事も交じってるみたいでさ…

たとえば、麻帆良の説明を受けた時に、魔法使いは社会の中に隠れ住んでるみたいなニュアンスの説明を受けたので、

 

「へ―…そうなんですか、てっきりエヴァンジェリンさんの別荘みたいな技術で魔法の国でも作ってたりして、とか思ってましたよ、ハッハッハ」

 

とか言ってカマかけてみたら学園長のじいさんこそ

 

「フォフォ…面白い発想じゃの、実に子供らしくて夢のある発想じゃの」

 

とか言って子供のトンデモ発想扱いで笑っていたが、同席してた中等部の教師の高畑って言う先生は冷や汗を流していた…ようにも見えた。

 

ま、魔法の秘匿に同意する事を条件に魔法関係の事を研究する権利もとったし、あんまり信用してないが盗聴等のプライベートに立ち入るような監視をしないという言質も取った。

繰り返しになるが一番欲しかった生命と記憶を消されたりしないという事も確約させたし(記憶に関してはたびたび規則違反すればその限りではないが)、成果は十分だ。

 

それと、学園から超に夏休み明けに麻帆良に転入してくるように要請があった。

条件は私達が受けている『特例』試験の優遇に関する密約と、入学金および中等部進学までの約半年間の授業料免除(名目上は優秀生向け奨学金、奨学金自体は私も聡美も貰ってる正式なもの。)

表面上はあくまで要請であり、研究を円滑に進めるための提案なんだが…

たぶん魔法の秘匿のためにできるだけ手元で監視したいっていう意図があるんだろう。

 

麻帆良の外で魔法の存在を主張した所で証拠になるような事実は無いんだろうけどな。

ネットで調べてみても麻帆良内部のサイト以外で世界樹についてのまともな情報は手に入らなかったし。

 

 

ガイノイドの開発は聡美が中心になって皆の意見をまとめ上げ、開発プランを練り上げた。

使用目的が目的でもあるので戦闘重視派を基本に開発を進める事とはなった…

とはいっても、構造上の弱点になるオプションパーツ群の不採用が決まっただけで、ガチガチの戦闘ロボットになったわけではない…制作が決定したのは戦うメイドロボだ。

超の理論による体積および重量当たりの記憶容量の爆発的増大と量子コンピュータの搭載を前提とする事により、多くのオプションプログラムが実装可能となった為、日常重視派も妥協した。

 

全身のパーツの最適化が一つの意志の元に繰り返されていく…それは新技術、量子コンピュータと新型大容量記憶媒体の開発完了(一応プランは完成してるし、早ければ秋にも開発は終わるだろう)と

そして聡美、超、私が行う秘密の動力炉開発の目処が立つまで続けられる事になっている。

動力炉に関しては特別に開示された極秘技術だからって言ったらみんな詳しい事情を話せない事に納得したので、それでいいのかという突っ込みを入れたかったが我慢した…

 

 

 

幸い、私がガイノイド開発でやるべき山場は殆ど終わっている。後は新技術の制御プログラムとかを作ればいいんだから楽なものだ…

 

…そう思っていた時期が私にもあった。

 

私は最初考えていたよりも多くのプログラムを組み直さないといけない事になった。

なぜか?

 

一つ目の理由は、現行の戦闘用人工知能は魔法なんかの存在を前提としていない事だ。

銃撃戦は想定してあるし、対物狙撃ライフルを運用するような事もできるようにはなっている。

当然それを100%生かすための高度な物理演算システムを使用した狙撃プログラムも。

でも、遮蔽物に隠れて行うような銃撃戦を元に戦闘を行わせると相手の詠唱の完成を待つようなものなので魔法使いの従者としては不適切だろう。

 …って事でエヴァンジェリンの希望も聞きつつそう言った戦術、索敵、戦力分析などのプログラムを組み上げて行っている。

場合によっては私自身が幻想空間内で従者のまねごとをさせられることすらある…おかげで『気』の存在を感じる程度まではできるようになっちまった。

まださすがに使えるレベルには達していないが、それを望んで効率的に鍛練を積めば数週間単位で習得可能だろう、ちょうど魔法使いたちの戦いも学びたかったし助かっている。

 

…一般の警察に頼る程度じゃどうしようもない連中がいるんだ、自衛手段くらい持ちたいだろ?

強くて信頼できる誰かがいるなら話は別だが…無防備でいる事は私の性分じゃない。

びっくり人間になりたくはないが、それ以上に無防備でいる事の方が不安で仕方ないんだよ。

 

って事で、私の日々の(小4の頃始めた柔術の)鍛練に瞑想が加わり、組み手の相手が欲しい、と超にたまに相手をしてもらうようになった。

正面切って聞いたらやっぱり中国拳法の使い手だった。本人いわく

『一応私も武術を嗜んでいるネ。ああ、別に隠してたわけではないヨ、聞かれなかったから言わなかっただけネ。』

らしい。

 

こほん…話がそれたな。

 

こっちの問題は基礎ができているし、比較論でいえばそんなに難しい話でもない、今までも何度かあった程度の事だ。

 

 

本当に問題なのはもうひとつの理由で、量子コンピュータを採用した事。

量子コンピュータはただ速いだけのコンピュータ…ではない。

重ね合わせたビット状態により、多くの情報を同時に処理し、その結果超高速演算を達成する。そう言うものだ。

簡単に言うと、赤くて丸いものを見た時、現行のコンピュータは

 

これはリンゴか?

NO

これはトマトか?

NO

これは赤いボールか?

NO

これはイチゴか?

NO

これはザクロか?

YES

これはザクロだ。

 

といった処理をする。

並列接続すれば並列処理もできるが原理的には同じだ。

所詮データベースを分割して順番に照合していくだけにすぎない。

 

一方量子コンピュータは

 

これは何か?

これはザクロだ。

 

という事ができる…本当は同時に列挙しているんだが、感覚的にはこんな感じ…らしい。

 

らしいというのは私が量子力学をよくわかっていないからだ。

 

確率解釈だとか量子ビットだとか、重ね合わせ状態…有名なシュレディンガーの猫の話…だとか…

今までの0か1かの世界とは全く違う。

 

さすがにそこまで良くわからないものをそのまま使うのはしゃくなので、量子コンピュータの開発の方には手を出せないにしても、理論だけはと言う事で量子力学関係を勉強し始めてみたんだが…眩暈が止まらん…

それこそ、魔法と同じくらいファンタジーってレベルで常識が書き換えられる世界だ。

 

まあ、それだけ違えば最適なプログラム様式も変わってくるのは当然で…私はその為にプログラム言語の開発からやる事になったわけだ。

全部組み直しとは言わないが、状況認識関係はほぼ根こそぎ全部。

 

当然、今までなかったこと…国家機密クラスまでは知らんが、私の知る限り量子計算機の実用化例は無く、当然それ用に最適化されたプログラム言語も存在しない…をするわけで、私は地獄を見ている。

 

おかげで夏休み後半はまともに休んでない。

やるべき事が殆ど終わってるとか言った馬鹿はどこの誰だ…少し前の私だけどさ。

 

 

 

しかもそんな生活の合間を縫って私達はエヴァンジェリンから土曜日の午後に体感時間で12時間程度の魔法理論講義を受けていた。

それは特別な巻物内部の幻想空間の中で行われ、休憩時間込みで現実時間にして1時間程度の事だ。

 

んで、動力炉の開発は超の設計図を元に試作用の人間大(人間型ロボットに搭載可能、ではなく人間大)の魔力発電機を作っている段階だ。

肝心なところは理論をエヴァンジェリンから習っている所なのであんまり進んでないんだが。

 

 

超の特例試験については余りにあっさり終わり、超はロボット工学研究会のほかにも、量子力学研究会、生物工学研究会に所属が許可された。

しかも、論文オンリーで、だ。他の分野は知らんがロボット工学研究会用の論文読ませてもらった限り学園との密約なんて無くてもこうなってたと断言できる。

 

そのあと、3日位転入の手続きのために麻帆良の外に出て行った。

後日、「ストーカーが何人かいたから巻いてやたヨ」とか言ってた、ストーカーってのは間違いなく学園の監視だろうな。

 

そう言えばあいつの地元ってどこなんだ?遠いところだと言ってはいた…後、冗談で火星だとか言っていたが本当の事はきいてないな…

 

 

 

こんな感じで私達は楽しい楽しい夏休みを過ごした。

 

 

 

夏休みも終わり、超が予定通り転入してきて研究はさらに進む。

 

新型記憶媒体、量子コンピュータ、素体の改良…そして魔力発電機

 

エヴァンジェリンの別荘で試作動力炉をテストしたら暴走してエヴァジェリンの手により破壊された事以外は特に問題はおこらず順調に進んだ。

 

9月末には新型記憶媒体が、12月中旬には搭載型の量子コンピュータが完成し…今更だが普通は有り得ない事だ…ついに開発計画は最後の段階に入った。

 

改良の続けられていたパーツが組み上げられ、調整が進んでゆき、人工知能がインストールされる。

 

私の考えていた学習式の感情再現プログラムは超のアドバイスで手を入れて、自分やマスター、そして友好的な人間にとって良い状況や事象を愉快、

逆に悪い状況を不愉快として数値化するプログラムを搭載した。これは一歳児程度の感情に相当するもので後々進化していってくれると嬉しい。

ま、感情と呼べる出来でもないんだがいずれは…という期待も込めてそうしておいた。

 

また、顔の造形はエヴァンジェリンが自ら買って出て、気がついたら人形師って事で顔を出すようになっていた。

 

そして年が変わり、記念すべき1月3日、ついに外部電源(電源ケーブル)による起動実験が行われる事になった。

 

 

 

工学部の特別起動実験室に私達ロボット工学研究会の面々は集合していた。

 

この部屋には強化ガラスで仕切られたゲストルームが付いていて、文字通りうちのプロジェクトだけじゃなくて、非人型ロボットの開発をやってる人たちも見に来ている。

なんかVIPシート(安全面で、戦車砲の直撃にも耐えられるらしい)にエヴァンジェリンと学園長もいる。

 

「起動実験開始予定時間5分前です。皆さん最終チェックお願いします」

 

聡美が時計を確認して行った。

 

「撮影班、準備ヨロシ」

 

「搭載コンピュータ、ウォームアップ完了。AIシステムスタンバイ」

 

「バッテリー残量99%、異常なし。電源コード接続も問題ありません、いつでもいけます」

 

「その他実験場設備、問題ありません」

 

次々と報告が上がってゆく。

ちなみにAIは私の担当で超は撮影班担当、聡美は統括だ。

 

「茶湯教授、起動実験準備完了しました」

 

「起動実験の実施を許可します。葉加瀬さん、始めて良いですよ」

 

監督責任者の老教授から許可が下りて実際の起動が始まる。

 

「それでは…始めましょう。外部電源通電開始、起動プロセス開始」

 

「外部電源通電します、接続よし」

 

「駆動系各部への通電確認」

 

「搭載コンピュータへの電力供給値、完全起動可能領域に到達します。」

 

「AIシステム起動してください」

 

「基幹AI起動…続いて基礎プログラム群起動します。」

 

ぴくっ

 

そんな動きを見せたかと思うと椅子に座らされていた試作実験機…茶々丸(命名エヴァンジェリン)が瞼を上げた。

 

「おはよう茶々丸、気分はどう?」

 

聡美はそう言って茶々丸に笑いかける。

 

「システムが正常な状態か、という意味であるならば気分は良好ですと判断いたします、葉加瀬さん」

 

そう言って茶々丸はすっと立ち上がってぺこりとお辞儀をする。

 

「うむ、よろしい。それでは歩行実験と走行実験に移ろうか。あそこの白い線まで移動してね」

 

そう言って聡美は地面にひかれた白線を指す。

 

「私からみて1時の方向、10メートルの地上にひかれた白線でよろしいですか?」

 

「うん、そこだよ」

 

ちなみに聡美がわざとあいまいに指示したのは言語での指令実験でもある。

 

茶々丸は初めの1歩こそ少しよろけていたが、すぐに電源ケーブル付きの機体バランスを理解して正常な歩行をとる。

 

ここら辺まで来ると観客たちもいろいろと凄いな、といった感想を漏らし始めてくる。

身内はいつも通りに動いてくれて安心、といった感じだろうか。

 

「配置につきました。ここから50mの走行を行えば宜しいでしょうか?」

 

「うん、でもコード類がついてるから絡まないように気をつけてね」

 

茶々丸は無言で頷き走行を始める。

 

タイムは6秒38、続いてハードル走、迷路の突破、懸垂、高跳び(補助なしと脚部ジェットの補助付きで1回ずつ)、幅跳び(同左)と肉体系のテストが進む。

記録はどれもプロアスリートクラスの出来だった。

 

そして次は家事系技能の試験に移り、掃除、洗濯なんかをこなし、ご飯と、豆腐とわかめの味噌汁、そして塩じゃけの和の朝ごはんセット、

トーストとサラダにハムエッグのついた洋風朝ごはんセットを作った。

これは学園長とエヴァンジェリンにふるまわれた。なかなかに好評だった。

 

「よし、これで今日の起動実験はおしまい。次に完全起動する時は動力も新型になって動きやすくなってるはずだから楽しみにね」

 

「はい、それではシステムのシャットダウン手続きに入ります。よろしいですか?」

 

「うん、お休み茶々丸」

 

「おやすみなさい、葉加瀬さん」

 

こうして茶々丸の起動実験は終わった。

 

 

 

実験終了の放送が入り、見学に来ていた人たちは帰り、私達は撤収作業に入っていった。

 

「うむ、素晴らしい出来だったぞ。やはり断片的に見聞きするのとは違うな。あれならば私の従者にふさわしい。今から茶々丸が私のものになる日が楽しみだ…」

 

顔見知りのためあっさりと入ってきたエヴァンジェリンが話しかけてくる。

茶々丸の里親になる事はすでに知られているのでこれ位は問題ない。

 

「それは良かったです。確認ですが白兵戦実験は動力炉搭載後で良いんですね?」

 

「うむ、最終段階に私自身が相手をして見極めよう。それにはコードや差し込み口があっては邪魔だし、危ないからな」

 

エヴァンジェリンは合気柔術の使い手でもあるらしく、一度興味本位で手合わせを頼んでみたら笑うしかない位ポンポン投げられた。

筋は一般人にしては悪くない、気分がよければたまに鍛練の相手位してやってもいいぞ、だそうだ。

 

投げられた程度で壊れるほどやわにはつくっていないが、確かにあんな感じで背中から叩きつけられたら電源プラグが体内にめり込んでいろいろと問題が起きそうだ。

 

「では、今日は帰るとしよう。休みが明けたら動力炉の改良で忙しくなるからな、ゆっくり休んでおくといい」

 

そう言ってエヴァンジェリンは帰って行った。

 

こんな感じで茶々丸の起動実験は終わりを告げた。

 

 

 




茶々丸さん公開実験の回でした。
実験中、千雨さんが殆ど喋ってないのは秘密です(笑)


対魔法戦の話について
原作ではそれなりに対魔法戦術が研究されているであろう未来から来た超の手でそこら辺は苦労しながらもうまくやって、そのあと別荘とかでエヴァが再教育をしたという感じで解釈してます。



超の転校について
どこかに中等部入学までの情報が調べられない、みたいな事を書いてあった気がするんで、中学からの入学にしようと思ったんですが…
茶々丸の完成が小6の1月、起動が同年4月ですから、茶々丸製作をしながらさすがにそれだけ潜伏はできないだろう、と言う事でこういう流れにしてみました。

まあ、ごらんのとおり1月3日に外部電源式での完成、って形なんですが。


千雨の戦闘能力について
『一般的な』レベルで話すならばそこそこ強いです。
原作でも素質はそこそこのあるように思えますし、現在の技量は同年代の格闘系サークル一般部員と同等位に考えてます。
つまりは、裏の人間にとっては誤差の範囲内ですね。勿論このままのペースで成長するならばクーどころか豪徳寺クラスに負けます。

後、『ちうのHP』ですが、コンピュータ系を中心とした科学系のコンテンツとブログ(まじめなのとオタク系)形式のコンテンツがメインでコスプレはブログ内でやってます。



茶湯(ちゃのゆ)教授について
千雨にMITの人工知能の設計図を見せた教授です。
一応、このプロジェクト(茶々丸開発計画)の監督責任者になっている魔法等、裏とは一切関係のない人です。
おもなお仕事は葉加瀬達が危険すぎる事をしないようにブレーキをかける事(笑)



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08 茶々丸開発編 第6話 茶々丸の完成と千雨の覚醒

茶々丸の起動実験の後、収集したデータの解析なんかを終えると、本体の改良の実作業は他の人たちに殆どゆだね、

私達三人は茶々丸に搭載する動力炉開発にかかりきりになっていった。

 

動力炉の重要パーツに魔法的に意味のある紋様を施したり、魔力補充儀式簡略化のために専用の魔力補充用ねじを開発したりなど、

魔法技術を多用する場所はエヴァンジェリンに指導して貰う事となった。

付け加えておけばエヴァンジェリンはなかなかに良い師匠を務めてくれた。

 

去年動力炉が暴走してからは特に大きな事故(測定機器が焼き切れたとか以外)は起こらず、試作の搭載用魔力動力炉が完成したのが1月末の事だった。

これは始めて私達3人だけの手で作った試作品で、小型化を進めると同時に茶々丸に搭載するために必要な各種装置も取り付けた。

 

 なんでこの試作品にエヴァンジェリンが関わっていないかというと、私達だけで作らないと製作契約上問題が…とかではない。

 

 もっと単純に、基幹パーツの製作を私達だけでできるようになったからというのと、エヴァンジェリンがコンピュータなんかのハイテク関連に凄く弱いからだ。

 

いや、冗談抜きで。

 

科学とか技術全般がダメ、というわけじゃないんだが、真空管含め電子計算機関係とか新素材なんかの俗に言うハイテクはよくわからん、との事だ。

錬金術的な知識から化学はそこそこいけるみたいだし、機械関係は産業革命くらいまでは理解しているらしいが…

 

 

さて、それはさておき、この分だと春休みに入る頃には茶々丸は完成するだろう。

 勿論、すでに私達、エヴァンジェリン双方から改良案が上がっているので、最初の契約の条件を満たす、という意味でだが。

 

具体的な改良案としては、

魔力補充の儀式については軍用の装甲なんかに防御魔法を施す技術の応用でかなりの簡素化ができそうだし、

聡美が魔力ジェットの設計図を引いてたり、超が魔法の科学的解析により、魔法・科学融合兵器の設計をしてたり。

私は魔法使いの電子戦ツールでもある電子精霊を付けてやりたいな~とも考えてたりする…勿論、自分でも使う気満々だ。

その為に『初めてのマホネット』『初等電子精霊行使術』とかいう本をエヴァンジェリンからもらった。

それを読んでみると、電子精霊の再現…というかコピーはどうやら私たちの技術で十分に実現可能であるという事がわかった。

だが、『初めてのマホネット』に

 

『限定的ながら旧世界(ムンドゥス・ウェトゥス)にいながらにして魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の最新情報に触れる事もできます!』

 

とか書いてあって…そういう情報って私達に一番知られたくないと思っている情報のはずなんだが…まあいいや。

 

相手がそう簡単に強硬手段に出ない確証があるならば、最初にお伺いを立てるよりも既成事実を作ってそれを禁止しようとした時に譲歩を引き出す方がいい。

…十中八九、具体的に禁止すると完全にやぶ蛇になると踏んで魔法世界についての情報収集の禁止とかマホネットへの接続の禁止とか言われなかったんだろうけど。

 

『私達は別に協定にも、規則にも、契約にもまだ何一つ違反しているわけではないヨ、堂々としていればいいネ。』

 

というのは超の言葉だが、私もその意見には全面的に賛同する…『まだ』という一言を除いて。

 

後は…そうそう、エヴァンジェリンが最近暇だとか言って稽古をつけてくれている。

今までの茶々丸開発のために従者としての基本知識を教え込む実践型講義ではなく、私を鍛えるための訓練という意味で。

 …何度か褒めちぎってできる事なら茶々丸の開発関係なしに指導してもらいたい、と言ったことが原因なんだろう。

今のところ私自身がびっくり人間になるつもりはないが、今教えてもらっているのは彼女の行使する合気鉄扇術…

これは常識を突き詰めたもの…達人と呼ばれる人物がさらに数十年にわたって鍛練を積んだ段階が彼女になる。

老いがない、という意味合いではエヴァンジェリンのいる域はびっくり人間だけに許されたレベルだが、それを学ぶ分には問題あるまい…と自分を納得させて鍛錬に励んでいた。

 

 

 

私があの悪夢に囚われたのはそんな生活を送る2月2日…私の誕生日の出来事だった。

 

その日は実験を軽めに切り上げ、試作動力炉の一通りの試験がすんだお祝いもかねて、エヴァンジェリンの別荘でささやかながらディナーをごちそうになり、そのまま彼女の別荘で眠りについた。

 

 

 

そして気付けば私は闇の中にいた。

 

どちらを向いても闇が広がるばかり…ほんのわずかな光もなく、ただ闇が広がっていた。

 

「(…夢?にしても珍しいな、こんな夢初めてみる)」

 

 始めは気楽に珍しい夢だなと思っていた。

 

 

 

「(…にしても…本気でなんにもねぇし…移動してみるか。)」

 

 だが何時まで経っても目が覚めず、ただ突っ立っていることに嫌気がさして来て、とりあえず歩き始めてみた。

 

 

 

体感時間で一時間くらい歩き続けた頃、違和感を覚えはじめた。

 

「(私ってこんなに体力あったっけ?いやまあ、夢なんだけどさ。)」

 

こんなに歩いているはずなのに殆んど疲れていない。

そこまではよかった…だが…何かを踏みしめる感覚がない。

 

それも夢だと割りきるより早くその場にしゃがんだ私は地面を触ろうとした。

 

しかし手は見事につき抜けた。

 

「(え…)」

 

歩いた気になっていた

 

でも私はその場を動いちゃいなかったんだ。

 

そして気付く

 

私の全ての感覚は自分自身以外のナニモノも知覚していなかった事に。

 

周りには何もない、纏っていたはずの衣服さえも。

 

光、音、空気、重力、あらゆる物を感じなかった。

そのくせ、自分自身の事は知覚していた。

体を動かせばちゃんと動いた感覚があった

肌を触れば触った事も触られた事もわかった。

鼓動もわかったし発汗すら理解した。

 

人並み以上に持ち合わせている筈の羞恥心が衣服をまとっていないという事実に刺激される事はなく、

ただ私しかいない、という事に愕然としていた。

 

これが孤独か

 

これが独りか

 

 厄介でめんどーな世界でも、ないとさみしいんだな…

 

それを理解し…

 

私は叫んだ。

 

いや、叫ぼうとした。

 

「・・・!」

 

誰もいないのか!

 

そう叫ぼうとした。

 

「…!!!!!!!」

 

声が出ない…当然だ、振動を伝える空気がないのだから。

 

 

所詮人間は群れなければ生きていけないんだ。

こんな孤独で平然と耐えられるわけがない。

 

恐怖を発散したかった。

 

だがなにもできない。

 

叫べない、それを伝える空気がないから。

 

走れない、踏みしめる大地がないから。

 

壊せない、壊すものがないから。

 

…いや、壊せるものなら…アルじゃないか…

 

気付けば私は自分で自分を傷つけていた。

 

衝動に身を任せ、かきむしり、爪を立て、髪を引きぬき、爪を食いちぎった。

 

手足問わず指の一本一本に歯形を付けて行った。

血の味がするくらい腕に噛みついた…

食いちぎらなかったのは生存本能的なものにすぎないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして…なんか怖いくらいに落ちついてきた。

 

多分一回りしたんだろう。

 

もしかしたら壊れきってそれすら分からないようになったとか、自分自身じゃなくなってるとかいう考えも浮かんだが、そう納得しておく方がいいだろう。

 

自分で付けた傷が痛んできた。

 

そして…なにも意識をそらすモノがないという事で意識が全身…おのれ自身の体だけに集まってゆく…

 

本気で痛い…これはきっと自我を保てなかった罰ゲームみたいなもんだと思うしかないだろうな…あちこちで血がにじんでるし。

 

 

 

そんな痛みにも慣れてきた時の事だった。

 

「(なんだ?この感覚)」

 

何かが…血とは違うナニカが私の全身を駆け巡っている…それを感じた。

 

何の役にも立たない眼を閉じて、耳も無視して、感覚を他に集中させる…

 

味覚…先ほどの血の味がまだ口の中に残っている…

嗅覚…わずかに鉄の匂いがする…

触覚…先ほどの所業を責めるようにいまだに痛みを伝えてくる…

何かが…伝えてくる…

 

全身を何かがめぐっている…そしてすぐに気付いた。

 

あ、これ気だ…

エヴァンジェリンからの指導の結果でおぼろげに感じられるようにはなっていたけど…気ってこんなにもはっきりと感じられるもんなんだな…

 

まるで他人事のような感覚で自分の体の事を評価する。

 

 そして教わったようにその流れが乱れている場所を意識し、その流れを整わせるイメージをしてみた。

 

…簡単にはいかない、簡単にいったら世の中は恐ろしく物騒な世界になる。

 

 

 

しばらくの後、ごくわずかの効率増加…でも確かにそれを感じる事ができた。

 

全身をめぐる生命力…全身の傷を治そうとしているのか、肌がピリピリする…

それがどことなく心地よくて…意識が遠のいていった…

 

 

次に気付けば私はあてがわれたいつもの客室で自分のベッドに横になっていた。

 

当然、全身に傷跡などなく、ちゃんと昨晩借りたネグリジェを着ていた。

 

夢…なんだろうな…当然のごとく。

 

時間はわからないが空も明るくなり始めている。

 

作り物の景色だ、そうはわかっていてもこう思わざるを得なかった。

 

きれいだ、と

 

いつぶりだろう、素直に景色に感動を覚えたのは。

 

たった一夜の夢が多分一時的にとはいえ私の価値観をこんなにも塗り替えるもんなんだな…

 

いや、麻帆良に来てひねくれる前に戻っただけかもしれない…どうせすぐに慣れて元通りだろうけど。

 

そんなすでに戻りつつある思考回路で窓から見える景色をながめていた…

 

暫くして身支度を整えると少し早いが週に最低三回はするようにしているトレーニングと型の反復を始める。

 

筋トレの途中でふと戯れに昨日の夢の感覚を思い出して体を流れる気のイメージを意識し、それを増やすイメージをとってみる。

 

すると力が湧いて来て体にかかる負荷がかなり減った…これならいつもの倍くらいいけそうだ。

 

 

 

…と、調子に乗っていつもの倍以上…たぶん3倍くらいやってたら凄く疲れた、スタミナな意味で。

 

メニューの後ろの方ではもう気づいていたんだけど、やると決めたから…と意地をはったらこうなった。

 

気を使えば筋力とかは強化してくれるが、生命力を使用した自己強化なんだから当然スタミナはもっていかれるよな。

 

全身どこも痛くないのに全身に疲労を貯めた私はクールダウンでさらに体力を持って行かれた後、疲労困憊の体でシャワーを浴びるとプールのビーチチェアーで横になった。

 

前、教本で読んだ正しい気の流れが疲労回復を早める的な記述を思い出して全身の気の流れを意識しながら目を閉じる。

 

何か、夢とは違って肌の外で別のものが渦巻き、体内の循環とは別に体外から入って全身から発散される循環も感じられる。

 

夢の感覚が本物だとすれば違う感覚は魔力だったりするんだろうなぁ…とか考えながら私の意識は遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日から、私の気を扱う技量はメキメキ上がった。

 

…数日おきにあの闇に放り込まれて、そのたびに気の使い方の修行で暇つぶしをしていればいやでも上がる。

 

いやね、二回目取り込まれたときは本気で発狂しそうになったさ、またかよって。

 

でも、結局はそれを受け入れるしか選択肢はない訳で…ただ何もせずに待っているのももったいなく、

 

だからと言ってできることと言ったら考え事と気の鍛錬やイメージトレーニングくらい…だからな、うん。

 

研究のアイデア出しにも限りがある。書籍を持ち込めるなら話は別だが…な。

 

こほん、とにかく『夢』で掴めたコツは本物だった。

 

『ほう、なかなかさまになっているじゃないか、何かコツでもつかんだようだな?』

 

と、言ってきたマスター(エヴァジェリン)に笑いながら夢の話をしたら苦笑いしてたが気にしなくて良いだろう。

 

『十分にびっくり人間じゃないか…この娘は…アレに耐えられる一般人なんぞ…』

 

とか言ってたのは空耳だということにしておく。

 

 

 

一身上の話は置いておくとして茶々丸の話をしようか。

 

プロトタイプボディを使用した実験を経て、昨日茶々丸の動力炉換装が終了した。

 

起動実験は難なく成功、今日はエヴァンジェリンに引き渡す前の白兵戦能力の評価を行うため、エヴァンジェリンを招待した。

 

「お待ちしておりました、マイマスター・エヴァンジェリン様、千雨さん」

 

 メイド服を着た茶々丸が、エヴァンジェリンと駅まで迎えに出ていた私を迎える。

 

エヴァンジェリンの呼び名は後々エヴァンジェリンの好みで学習させるために放置しておいた。

 

ちなみに、私たちの事は始め、それぞれマイクリエイター・千雨様、マイクリエイター・ハカセ様、マイクリエイター・超様と呼んだ。

 

今はそれぞれ、千雨さん、ハカセ、超さんと呼ばせている。

 

聡美が呼び捨てなのは、ハカセは苗字だが同時にあだ名なので、あだ名にさんをつけるのは変だ、という事らしい。

 

「私のことはマスターと呼べ、茶々丸」

 

「はい、マスター。本日は私の性能評価試験のためにわざわざご足労いただきありがとうございます」

 

そう言って茶々丸はぺこりとお辞儀をした。

 

「うむ、まあ御託は良い…行くぞ」

 

エヴァンジェリンは無詠唱で魔力供給をかけると茶々丸に飛び掛かった。

 

茶々丸は一瞬迎撃の体勢を取ったが、直後後ろに大きく回避した。

 

「む…なかなかの動きだが…続けて行くぞ!」

 

「ちょっ!まて!」

 

私の制止も聞かずエヴァンジェリンの猛攻が始まり、茶々丸はそれを防いだり、回避したりする。

 

しかし、一度も反撃のそぶりを見せない所か次第に回避や防御に迷いが見え始める。

 

条件設定上反撃ができず、それどころか自分がエヴァンジェリンに要らない子扱いされてるのではないか…と、でも考え出しているんだろう。

 

そう考えた私は茶々丸に叫ぶ。

 

「茶々丸!回避と防御を続けろ!エヴァンジェリンはお前を試しているんだ!」

 

私達とエヴァンジェリンの四人は当然攻撃禁止対象に設定されており、攻撃禁止対象の解除法は対象の同意か上位序列者の命令だ。

 

そしてその4人が最高序列にいる(命令への従属順はドール契約成立前なので聡美、私、超、エヴァンジェリンである)ためにエヴァンジェリンへ反撃はさせられない。

 

「なるほど…これはお前を試すテストだ、私を攻撃しても構わん、かかってこい、茶々丸!」

 

私の言葉で事情を察したらしいエヴァンジェリンがそういった。

 

「了解いたしました、マスター。失礼いたします」

 

途端、茶々丸の動きが鋭さを増す。

 

エヴァンジェリンの戦闘データも入れてあるため、積極的に攻撃には回らないが、リーチの差を生かして時折反撃をかけるようになってきた。

 

「ははは、なかなかやるじゃないか、千雨!お前もかかってこい、稽古をつけてやる!」

 

「了解、マスター」

 

白衣を脱ぎ捨てた私は迷わず気を練り、戦いに参加した。

 

強化ガラスの向こうの管制室で聡美と超は大わらわだ、この展開はある程度予測していたので記録の準備はしていただろうが。

 

「茶々丸、私が前にでる。戦術は対EVA-sp1だ」

 

「わかりました、千雨さん。」

 

防御力のある…というか衝撃に強い私が積極的に攻め、茶々丸が牽制する形でエヴァンジェリンの消耗を誘う。

 

 攻めすぎるとポンポン投げられる羽目になるが、ちゃんと気で防御し、受け身を取れば投げられても、追撃を受けない限り大した事はない。

 

微妙にパターンを変え、何度か攻防を繰り返したのち、私は数日前に習得できたばかりの気弾をエヴァンジェリン向けて飛ばす。

 

危なげもなく回避するエヴァンジェリンだが直後、茶々丸が初めて積極的に攻め、私もそれに続く。

 

「ふむ、悪くない…が、足りんな!」

 

エヴァンジェリンは茶々丸をきれいに投げ飛ばし、大きくその場を横に飛びのいた。

 

そして、私の目の前にはこっそり搭載されていた姿勢制御用ブースターで体勢を立て直した茶々丸が。

 

私の牽制射撃攻撃を合図に茶々丸、私の順でかかり、茶々丸が投げ飛ばされた直後、体勢を立て直した茶々丸と私で挟撃する、という作戦だったんだが…見事に破られた。

 

こんなこともあろうかと必死で考えた作戦だったんだがなぁ…

 

「はっはっは。合格だ、茶々丸。千雨もなかなかだったぞ」

 

マスターはご満悦のようだ。魔力もそろそろ残り少ないようなのでここで終わりだろう。

 

…なんて、考えるとマスターの事だ、やられる。

 

案の定、伸ばしてきた糸を懐から取り出した鉄扇で払う。

 

「よろしい、ここまで」

 

にやりと笑ったマスターが終了を宣言し、鉄扇を懐から取り出して広げ、あっぱれあっぱれといった感じでふる。

 

「マッタク、エヴァンジェリンさん、始めるなら始めるといってほしいヨ」

 

スピーカーで管制室から超が言う。

 

「ふん、これくらいこなしてもらわねば私の従者が務まるものか」

 

突然の奇襲に悪びれもなくエヴァンジェリンが言った。

 

ちなみに、呼び方だが稽古をつけてもらう時や何かを教わる時は私はエヴァンジェリンをマスターと呼ぶようにしている。

 

「少々想定外の事態ではありましたが、満足いただけたのであるなら幸いです。

ではマスターに対する攻撃禁止対象設定の特例解除を終了し、マスターを攻撃禁止対象に再設定いたします」

 

「それじゃあエヴァンジェリンさん、今のデータを取り終わったら茶々丸を連れて伺いますので、契約の準備をお願いします」

 

合格点をもらえたことにハカセが安心した様子でそういった。

 

「うむ、楽しみにしているぞ。千雨も忙しいだろうから見送りはいらん。茶々丸、食事は明日の朝から頼む」

 

「はい、マスター、了解いたしました。」

 

そういってエヴァンジェリンは去っていった。

 

「…結婚式前の父親の気持ちってこんなのなんかなぁ…」

 

「さぁ…でも会えなくなるわけじゃありませんから」

 

「それにワタシ達がそれを知ることは永遠にないヨ…なるとしても母親だからネ」

 

ふざけた様子で超が言い、みんなで一度笑ってから作業を始めた。

 

茶々丸が私達だけの娘である最後のメンテナンスをするとしようか。

 

嫁入り前の化粧…じゃないけど、きれいにしてやるからな。

 



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進路選択編
09 進路選択編 第1話 集められた少女たち


「あーいっそ脳に電極でも刺すか…」

 

「脳に電極刺しても情報を具体的に読み取るのは難しいヨ、さすがの私もそこまで脳医学に詳しい訳ではないネ」

 

「そうですね、それなら記憶を読み取る魔法や夢見の魔法の応用…あるいはファンタスマゴリア(幻影空間)のほうがいいでしょうね」

 

「んー夢見の魔法やファンタスマゴリア…そっちのアプローチのほうがいいか。それがだめなら、没入型バーチャルリアリティー技術とかだな…」

 

「脳に電極よりはマシかもしれないが…没入型VRだと技術的な難度は大して変わらないと思うヨ」

 

何の話をしているのかというと、茶々丸改造計画にあたっての意見交換で、今は電子精霊開発及びその運用コンソールの話をしていた。

 

茶々丸に組み込むのなら電子精霊群とは最悪機械語で話をさせてもいいし、何とでもなる。

 

だがそれはあくまで茶々丸に既存の電子精霊群を従属させる場合の話であり、開発段階や私達が扱おうとなると、どうしてもただのコンソールだとうまく操れない恐れが出てきた。

 

というか私が、開発にあたって新しい入力ツールがほしい、と言い出した。

 

といった流れで話は脱線を初めて今に至る。

 

最近、タイピング速度が化け物じみてきた自覚はあるが、それでも高々両手10本の指による入力スピード(と、過去の入力内容の確認)がプログラム開発の律速段階になるのだ。

 

そこをブレイクスルーできればもっといろんな事ができるし、電子精霊の使役にも有利だろう。

 

メイド(エヴァンジェリンの従者人形)たちに借りてマホネットで調べてみたところ、電子精霊を具現化できたり、対話できたりするアーティファクト(相性などの基準で、従者契約などに伴って貸与される場合のある魔法具)なんかもあるらしいが…英雄クラスの魔法使いの従者に給付されるレアアーティファクトの話だ。

 

そんな上等なもん、こっち(地球)では公式には、だれも持っていないし、米国および欧州の一部魔法協会に研究用の大規模な意識直接接続型のコンソールがある程度、

向こう(魔法世界)にしても、公式には艦載の大型コンソールがやっと軍の電子戦実験部隊へ配備されつつある程度のものだ。

 

んで、基本的な魔法使いたちの使役する電子精霊はデータの精霊化という手法で行われるのだが、その元のプログラム自体も相当に洗練されたものだ。

 

機械語どころか電子信号段階まで高度に序列化された電子精霊群を構築する…これを3人で、しかもほかの研究と合わせてやるとか無理すぎる。

 

これだけに半年かけていいなら手動で何とか入力コンソールの開発まで位はやって見せるが…学校サボって研究、それも裏の事だけをやってるわけにはいかない。

 

エヴァンジェリンに上等な(感覚的には市販で買える最上位の)電子精霊群の調達を頼めればそいつを元に電子精霊群にべつの電子精霊群の構築を命じる形でオリジナルの精霊群構築や、アップデートができる自信はあるんだが…

 

…たまに忘れそうになるがエヴァンジェリンは麻帆良で服役中の受刑者なのだ。そんな上等な電子精霊群を欲しいなんて言っても購入許可が下りないだろう。

 

特に麻帆良では電子精霊群を活用したセキュリティシステムが構築されているようなので…受刑者に牢屋のカギになるものを渡すバカはいない。

 

メイドたちが使っている電子精霊群(マホネット接続用)は…本気でネット専用で、いうなれば本当に最低限、ネットワーク接続機能とブラウザ、それにわずかな記憶容量のみ、表計算やワープロソフトすら入っていない…なんて代物だ。

 

かといって、私達名義で馬鹿正直に電子精霊群を買おうとすると現段階では妨害の危険がある。

 

裏ルートでも買えるらしいが…そっちに手を出すにはまだ早いし、エヴァンジェリンに頼める話ではなくなる…と、エヴァンジェリン本人からも釘を刺された。

 

メイドたちの使っている電子精霊を元に自作するとなると…理論構築まではできているので後は入力手段さえ整えば…という段階だ。

 

電子精霊は今のまま3人がかりで開発するほど優先順位の高いのものでもないので、私が片手間で何かいい方法がないか考える事になった。

 

魔法関係でないなら人海戦術でもするんだが、まあ言っても仕方がない。

 

 

 

 

 

 

さて、こんな感じで時間は進み、初等部の卒業式でどこかさみしげな雰囲気…なんてものはかけらもない。

 

つーか、麻帆良学園の初等部から中等部への内部進学率はほぼ100%であり、今年もほぼ全員が麻帆良学園内のどこかの中学校に進学するからな。

 

むしろ大抵の奴はでっかいクラス分けだと思ってる…そういう私も春休みの実験予定について考えてて上の空だ。

聡美や超と同じクラスになれたらいいな~とかは思うが、まあ期待しないほうがいいだろう。

…逆に監視のためにまとめられる可能性もあるか。

 

 …と、私ら生徒が緊張感ないのはいいが、学園長の話が毎年終業式で聞いてる話と大差ないってどうなんだよ…と思ったが、突っ込まない。突っ込んだら負けだ。

 

そんな感じでさほど緊張感のない卒業式が終わった後、クラス解散会をやって夕方に解散となった。

 

さて、時間をもう一度大きくすすめるまえに春休みの私達について話させてもらおうか。

 

茶々丸型の稼働データ収集や茶々丸入学の手回し及び書類作成に走り回り…

 

眼球搭載型レーザーの開発にいそしんだり、すでに聡美が完成させた魔力ジェットの試作品のデータ取りをしたりした。

 

そのほかには、いくつかの魔法に関する研究をしていた。

 

私達は研究の過程である疑問にたどり着いたのだ。

 

 

 

そもそも私たちの開発した魔力動力炉とは何なんだろう?

 

 

魔法使い達の魔法における『雷』と科学的な、あるいは天然の『電気』には違いがある事が魔法使いたちの研究でわかっている。

 

もっとも顕著なものは魔法障壁に対する挙動の違いであり、『雷』はおもに対魔法障壁で、『電気』はおもに対物理障壁で減衰する。

 

さらに『雷』は対物理障壁でも減衰が見られるが、『電気』は対魔法障壁では殆ど減衰しない。

 

この事は『雷』というのは『現象の形をとっている魔力』である、という理論で説明されている。

 

つまり、魔法とは厳密に元となる事象を再現しているのではなく、魔力がいろいろな形をとっているためだ、と。

 

ならば、魔力動力炉で生み出される電力は『電気』ではなく『雷』であるはずだ。

 

しかし、茶々丸の各種データは『電気』によるものと一切変化がない。

 

そういった過去の論文を元にいくつか実験を行ったがそんな中で気づいたことがある。

 

過去の文献ではすべて『直接』発生させた『雷』で実験を行っていたのだ。

 

ここで私達はある仮説を立てた。

 

前述の研究で『雷』は全て炸裂前もしくは炸裂時に障壁を通した事は問題ではないのか?

 

つまり魔法的な現象が『現象の形をとっている魔力』であるから、先に述べた挙動が観測されたのではなく、

 

『魔法は炸裂時まで現象の形をとっている魔力によって伝播する』から、先に述べた挙動が観測されたのではないか?

 

という事である。もっとも、それは仮説に過ぎず、何の証拠もない。

 

証拠がないなら実験してみればいいわけで、極めて単純な手法をとった。つまり

 

・純科学的な(普通にコンセントから引いてきた電気で発生させた)高圧電流の放電

 

・魔力動力炉を用いて発生させた高圧電流の放電

 

・さまざまな種類の雷魔法を電極に炸裂させて発生させた高圧電流(魔法的電流)の放電

 

・さまざまな種類の雷魔法そのもの

 

これらそれぞれの魔法障壁による減衰について確認すればいい。

 

…結果は驚くべき事に、魔法その物については著しい減衰が、

 

電極に炸裂させた後の魔法的電流では中程度の減衰が、

 

魔力動力炉から発生した電流は純科学電流に近いレベルの減衰が観測された。

 

しかも、魔法的電流の減衰は導線の長さと負の相関があった。(長ければ長いほど減衰率は小さくなった。)

 

この実験を追試してレポートとして学園側に提出すれば、貢献度という面で信頼を得るのに役立つので、

 

追試と炎(炸裂後の燃焼時間による性質の違いなど)についても実験と考察を加えて論文提出する事とした。

 

別に魔法社会の一員になりたいわけではないが、魔法使い達の最新の論文でも対価に読めたらいいなぁ…という思惑である。

 

聡美は『魔法の工学的応用』に興味があるらしいが、私はどちらかというと『魔法の理学的解釈』に興味がある。

 

エヴァも多くの高位魔法使いが持つ研究者気質が刺激された様で、本格的に研究に参加してくれた。

 

…って事で結局、4人の共著として J. Jap. Magi. Soc.(Journal of the Japanese Magical Society、日本魔法学会誌)に3月の最終週に寄稿した。

 

審査結果はまだ帰ってきていないが手直しやデータ補強の必要はあってもリジェクトはないだろう。

 

 

 

あとは…逆に科学的に生じさせた電気を魔力に変換、あるいは電力により魔法を発現する事に関する理論に関する勉強をした。

 

茶々丸に搭載しておけば緊急障壁位はれるだろう、と…その目的には使えない事がすぐに分かったけど。

 

これは原理的には古くからおこなわれてきた儀式魔法や補助魔法陣に関する考察で、ぶっちゃけ簡単にできる。

 

実用化に難あり、という点以外は。

 

極論、研究室にあるような導線で円を描いてそこに電流を流すだけで障壁はできる。重要なのは明確に外と内を区切ることだから。

 

ただ、蚊すら通過の際に障壁に気付かないこと請け合いだ。一般人が無自覚でやってる誤差の範囲内の対魔抵抗の方が幾分観測しやすいほどに微弱なのだ。

 

一応、銀やミスリルなんかでやれば、よほどおいしそうな血でない限り効果はある(つまり、逆にいえば通ろうと思えば蚊でも突破できる)し、大きなものにしたり、円だけでなく魔法陣を描けばもっと効果は上がる。

 

ただ…茶々丸クラスのサイズと電力で実用的なレベルとなると…無理。

 

その分のリソースで機動力あげたり、最初から対魔処置を施した装甲を付けたりするほうがいい。

 

もっとも、麻帆良くらいになると結界を補佐する為に使っているだろうと想像はつく。

なんせ、このような魔法陣型の結界はその径に比例して(正確には面積に比例し、周長に反比例して)効果が増大する。

つまり、麻帆良を円形に囲むように電線なり堀なりを構築すれば効果は十分にある。

 

さらにいうなら電力網の一部が複雑な文様を描いていたりするだろうし、

いくつもの施設をつなぐことでそれぞれに施した結界類を共鳴させることだってできる。

 

加えて、現代の地球においては、魔導兵団を編成して交代で結界維持にあたるよりも、

エネルギー的な効率が悪かろうと電力を大量に消費してしまった方が、総コストは安く上がる。

 

まあ、中途半端な知識による推測だからどこまであたっているかはわからないが、エヴァンジェリンの予想では、

結界の規模と駐在魔法使い数、その他の活動に従事している魔法使いの割合などから察するに、

 

世界樹の魔力を完全に意のままにできる新技術を開発していない限り

(現在は利用しているが、完全に制御できているわけではないそうだ。)

魔力だけで結界を維持しているという事は考えにくいそうだ。

 

こほん、とにかく、茶々丸には装甲を施すだけで緊急障壁などの搭載はまた別の研究成果(使い捨ての呪文を封じた巻物の応用とか)が出たら考える事とした。

 

 

 

そんなこんなで充実した研究生活を送りつつ時間は進み4月1日、入寮日だ。

 

「これから3年間よろしく」

 

「よろしくお願いします」

 

「…よろしく」

 

私は3人部屋で聡美とザジ・レイニーデイという留学生…?…と同じ部屋になった。

 

超も同じクラスで、古という中国人留学生と四葉五月という癒し系の3人部屋だ。

 

「さっそくなんだけどさ、他の部屋の友達とお昼食べに行く約束してるんだけど、一緒にいかないか?」

 

「…行って…いいの?」

 

「もちろんですよ、ザジさん」

 

「…なら…いく」

 

そしてクラスのほかのメンツだが、当然のようにエヴァと茶々丸もA組にいる。部屋は…自宅から通うらしい。

 

さらに、初等部の同期の女子で普通科に進学した有名所もA組に編成されている。

 

具体的には

 

 

 

初等部新聞部のエース 朝倉 和美

 

小1の頃から新聞部に所属していた彼女は次第に頭角を現してゆき、

 

すでに全学共同サークル報道部の主戦力の一人に数えられる記者だ。

 

 

 

初等部トトカルチョ対象No.1 神楽坂 明日菜 と 雪広 あやか

 

いつも喧嘩している、ケンカするほど仲が良い二人組。

 

雪広は雪広財閥当主の次女というお嬢様で、若干世間知らずな面もあるが善良な人間だ。

 

神楽坂は学園長の後見を受けている孤児だが天真爛漫、お転婆娘。

 

それぞれ違う方向性で男子からも人気があったようだが、気付いている様子はない。

 

 

 

学園長の孫 近衛 木乃香

 

その名の通り、学園長の孫で『遺伝の神秘』『学園長の遺伝子が働かなくてよかった、マジで』

 

などと言われてる天然タイプのお嬢様。

 

 

 

あと、この4人ほど有名ではないが情報通なら必ず知っているのが

 

 

 

幸運の申し子 椎名 桜子

 

恐ろしい直感と幸運を持っており、報道部が行った調査では能力の域に達するとか…

 

私が社会科学者ならば調査対象にしてみたいと思うくらい、幸運の申し子だ。

 

 

 

若き哲学者 綾瀬 夕映

 

先日亡くなられた故 綾瀬 泰造 元教授 (現名誉教授) の孫で、

 

綾瀬名誉教授が生きていた頃は研究室にも出入りし、才能の鱗片が見て取れた。

 

と、大学関連で知り合った哲学専攻の若手の教員は言っていた。

 

 

 

那波重工御令嬢 那波 千鶴

 

雪広財閥ほどではないがこちらもお嬢様。

 

むしろ雪広財閥と比べるから大したことなく思えてしまうが超大企業だ。

 

本人の性格はどちらかというと怒らせると怖いお姉さんキャラだろうか。

 

 

 

加えて魔法関係で、

 

大学部で魔法関係の窓口になっている明石教授の娘 明石 裕奈

 

って所か。そうそう、留学生のレイニーデイと古菲(クーフェイ)もA組に固められてるな。

 

 

クラス分け表だけじゃ何とも言えないけど、外部からも…集まって来ているような予感もする。

 

ピンポーン

 

玄関のチャイムがなる。

 

ザジがすっと玄関に向かって行って扉を開ける。そこにいたのは今、思い浮かべていた人物の一人、朝倉だった。

 

「こんにちは、えーっと、ザジ・レイニーデイさんだよね。同じクラスになった朝倉 和美、よろしくね。

 

 さっそくなんだけどさ、これから皆で一緒にお昼食べにいかない?」

 

「あー、悪い。超達と一緒に食べに行く約束しててさ…」

 

朝倉の誘いに私が割り込む形で断ろうとする。

 

「それなら問題ないヨ、千雨さん。

 

こっちの部屋のメンツが構わないならという条件で私達はすでに同意してるからネ」

 

ひょこっと朝倉の後ろから現れた超がそう言った。

 

「わたしは問題ありませんよ~」

 

聡美の言葉に合わせるようにレイニーデイもコクコクと頷く。

 

「…私も構わないけど、食事中のインタビューは節度をもってしろよ」

 

朝倉の意図くらいわかってる。留学生組の情報が欲しいんだろう。

 

「ああ、大丈夫。基本的に倫理規定はしっかり守るようにしてるから安心して。

 

この前だってちゃんとアポとってから時間守って取材したでしょ?

 

それに今日は親睦深めるのがメインだから。

 

するにしたって…次の『麻帆良の三賢者』の記事か留学生特集の予備取材くらいだよ」

 

一瞬見直そうとした私がばかだった。やっぱり取材かねてたか。

 

朝倉が言う『麻帆良の三賢者』とは超、聡美、私の三人の事だ。

 

ちなみに、個別には超が『天才の中の天才』『麻帆良大工学部の影の首席』

 

聡美が『マッドサイエンティスト』『ハカセ』『完璧超人、研究に関しては』

 

私が『機械語話者』『ロボ研の女帝』『ちう様』

 

…それぞれの呼び名の由来については詳しくは述べないが、よくもまあいろいろなあだ名がついてる。

 

「…まあいい、予定通り寮生食堂で良いんだよな?」

 

朝倉が取材をするのは私達が研究をするようにやめられない事なのだろう、

 

とあきらめて食事に向かうよう、促す事とした。

 

 

 




長らくご無沙汰しておりました。

えー一度エタっといてなんですが、本来、この話は、科学者としての視点を持ちつつも千雨さんが魔法使い社会にどっぷりと浸かっていくお話でもあるのです。

どれくらいどっぶりと使ってどう流れていくのかは…この章のテーマでもあるのでお楽しみに。


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10 進路選択編 第2話 少女は至るべき場所を知る

 

「私は武を極めるために日本に来たアル」

 

「へーヨーロッパとか、アメリカとかいろんな国がある中で日本を選んだ理由ってあったりする?」

 

「武の道を進む者としての…ヒラメキ…いや、直感が日本の麻帆良に来るべき、と言ってたアル」

 

食事も終わり、デザートを食べながらの雑談タイムに食事中の雑談で拾った情報から

 

古菲にターゲットを絞った朝倉が予想通りに取材をしていた。

 

「そういえば、超リンも千雨ちゃんも武道やってる…というか強かったよね。

 

たしか、千雨ちゃんが去年の大運動会では大格闘大会初等部の部優勝、

 

千雨ちゃん曰く、超リンはそれに匹敵するだけの技量…だったよね?」

 

そう言って朝倉は私と超を交互に見る。

 

…私か超とバトらせて記事にしたいんだけどなぁ~

 

って目をしている。

 

正直、気の使用無しの範囲ならば私の実力なんて雪広や神楽坂と同格程度なんだがなぁ…

 

去年優勝できたのは1つ上の格闘系部活の強力な面子が中等部以上の総合の部に上がった事、

 

神楽坂が陸上、雪広が馬術に参加していた事、それに加えクジ運がよかった事もある。

 

「ヤハリ、チャオも長谷川サンも武の道を歩む者か。

二人の…仕草を見ていると只者では無い事が明らかアル。

そして、二人とも尊敬するアル。私、武の道だけで手一杯で文の道は不十分。

二人は文の道が本筋だと言うが武の道も間違いなく一定以上の予測たつアル」

 

「あー(気を除いた素手格闘の)技量は超の方が上だぜ?」

 

これは純然たる事実だし、素手で気なしなら超の方が強い。

気による身体強化や武器(鉄扇と糸)使用ありの試合形式ならおそらく勝てる…と思う。

ま、超も隠し玉を持っているだろうからお互い本気でぶつかりあうとどうなるかは未知数だ。

 

私の方はエヴァの個人指導を受け続けた結果もあり、

気の出力を全開でやればエヴァンジェリンから魔力供給を受けたガチモードの茶々丸とタメをはれる程度には…戦える。

ああ、『一般人の限界』位はもう踏み越えたよ。

…ビックリ人間にならない縛りなんざ、瞬動を使える様になった時に捨てた。

 

もう、開き直ったって感じかな…聡美が研究一辺倒な分、魔法関連の実技も含め、私は実力をつけなければならない…

 

超は…アイツの隠し玉がいくつあるのか知らないが、心配はしていない。

 

と、言うか気付けばそもそも戦わずに済むように状況を整えているようなタイプだな。

 

「どちらにしても二人とも一戦願いたいアルね。

 

もし良かったら今からでも表の広場でどうアルか?」

 

「ウム、ぜひご教授願うヨ」

 

超はそう言って嬉しそうにうなずく。

 

「お、バトっちゃう?是非取材させて欲しいな」

 

朝倉が自分であおったくせに楽しそうに乗ってくる。

 

怪我…しないでくださいね

 

四葉は心配そうにそう言っていた。

 

「やるなら周りに迷惑かけるなよ。私は…」

 

「やらないんですか?」

 

やらない、そう言いかけた所で聡美が残念そうに言った。

 

「…やるよ」

 

…気が付いたらそう言っていた。

 

こういう顔されると弱い

 

 

 

 

 

 

 

「さて、私が先で良いかな」

 

早速広場に出た私達は場所をあけて貰って向かい合う。

 

周りでは喧嘩だとか決闘だとか何時ものように楽しそうに騒いでいる。

 

「うむ。こちらはいつでも良いアル」

 

そう言ってクーが構えた瞬間、気配が変わる。

 

僅かだが明らかに気を纏っている。

 

しかしそこから読み取れる錬度から察するに自然に身に付けたタイプだろう。

 

ならば一般人相手という事で…いやまあどっちにしろこんだけ人がいる前で本気は出せないが…

気の出力をクーと同程度の密度と出力に調整し、構えをとる。

 

「こっちもいいぜ。超、合図頼む」

 

場が一瞬静まり返る。

 

「では…はじめ!」

 

タン

 

そんな音が鳴りクーが距離を積めて来た。

 

一撃目をかわし、すれ違い様に手刀をおみまいするが簡単に防がれる。

 

さらに一撃が入るが外側に受け流す。

 

私がそうであるように、クーにも余力が見てとれる。

 

が、技量も素の身体能力もクーの方が上、まあ気による補正を含めた身体能力の本気は私の方が勝っているだろうな。

 

…つまり、この試合の条件だと私が圧倒的に不利って事だ。

 

「想像以上で嬉しいアル。もっと行くアルね!」

 

瞬間、クーが踏み込んできて猛攻を食らう。

 

なんとか受け流し続けるが、まともに反撃できない。

 

結局十数発目をその場で受け流しきれず、勢いを殺すために後ろに跳ぶはめになった。

 

「流石だな、あんだけ打ち込んできてるのにつけ入る隙がない」

 

「今ので有効打なしとは、長谷川さんはやはり強いアルね」

 

再び構えを取って向き合う。

 

「あいやー千雨サンあまり難易度上げないで欲しいヨ」

 

超が苦笑いしながらぼやくが当然無視だ。

 

タン

 

今度はこちらから距離を詰める。

 

ある時は防御させ、またある時はわざと反撃させて勢いを上手く流して詰め将棋の様に少しずつ体勢を崩していく。

 

「くっ」

 

狙いに気付いた様で、クーが声を漏らすがもう遅い。

 

顔面に放った掌打を避けきれず、クーが地面に転がる…筈だったんだが、

 

気付けば腕を捕まれてそこを支点に上手く潜り込まれそうになっていた。

 

急に動きがよくなった…まだ手加減されてたか

 

距離を取る…今の気の出力では距離がたりない。

 

つかまれた腕を跳ね上げ…はなされた。

 

回避…は間に合いそうにない

 

左手で迎撃…ここでフェイントだと!

 

腹部への一撃…防げない…

 

かはっ

 

自分の口からそんな音が漏れる…とっさに腹部に力を入れていなければ昼食を無駄にする所だった。

 

「そこまで!」

 

超の声が響く。

 

「大丈夫ですか千雨さん!」

 

聡美が心配そうに駆け寄ってくるのを制して少しよろめくふりをしながら姿勢を正す。

 

「流石だな、完敗だ。」

 

「イヤ…気付くのが一瞬遅ければ私の負けだったアル。ぜひまた相手をして欲しいアル」

 

「はっ、その寸前まで手加減しといてよくいうぜ…まあ、また機会があれば相手を頼む。私も精進を重ねておくよ」

 

 そういって差しだされた手を握り、握手する。

 

 冗談抜きで精進するべきだろうと思う。

 

研究や初等魔法の練習に時間とられて春休みでも普段と同程度しか組み手をしていなかったし。

 

ん?魔法を習ってどうするんだって?魔法も使えずに魔法の研究を出来るわけないだろう。

 

実証を全てエヴァに任せるのは(私達の血液的な意味で)避けるべきだ…アレ、案外癖になるからな。

 

とはいっても、戦闘に使えるレベルでの魔法習得は今の所、優先度は低い。

 

気で強化した肉体で接近戦を戦いつつ、茶々丸用の武装を流用した銃火器or類似の魔法具を用いて射撃戦にも対応、

 

といったスタイルを現状では思い描いている。護身術ならそれで十分だろう。

 

 もののついでと糸術やドール操作術も習っているが…まだまだといったところかな。

 

『求めなさい』

 

そんな思考に割り込むように懐かしい声が浮かぶ。

 

『力を求めなさい、私の娘よ』

 

何の為に…

 

『死なない為に』

 

魔法があったとしてもこんな平和な世界に生きている私が…死なない為に力を付ける必要なんて…

 

『運命は私達に優しくないから』

 

なんだと…そんな言葉、私は知らない…はず…?

 

 

 

不意に世界が光に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは今でも時折いざなわれる闇の世界…とは真逆の世界。

 

 ここは光で満ちあふれていた。

 

ここでは私は何かに密着するようにくるまれていた。

 

 ここは濃密なソレで満たされていた。

 

 これは私の体に取り込まれてはめぐり、再び世界へと還っていった。

 

 私にとって始まりとも呼ぶべき声が歌のように響く。

 

 

 

学びなさい

 

理を学びなさい、私の娘よ

 

生き抜く為に

 

それこそは魂に刻まれし定め

 

 

 

 学ぶ事が魂に刻まれた定め…確かにそうかもしれない。

 

 

 

求めなさい

 

力を求めなさい、私の娘よ

 

死なない為に

 

運命は私達に優しくないから

 

 

 

確かに運命は私を一度絶望へ叩き落とした。でも、私はすごく幸せだ。

 

 超と研究ができて、未知の知識…魔法に触れて、エヴァに手ほどきを受け…何より聡美がそばにいてくれて。

 

 

 

楽しみなさい

 

全てを楽しみなさい、私の娘よ

 

成し遂げる為に

 

必要ならば殺戮さえも

 

 

 

 楽しくなければ続かない、とは言うが…殺戮…?

 

 

 

おいでなさい

 

ここにおいでなさい、私の娘よ

 

運命の輪に乗っていつの日か

 

貴方の骸を苗床としたこの樹の元へ

 

 

 

 むくろを苗床…呼びかけられている『私』の骸は『樹』の苗床となった…。

 

つまり…『私』は死んでいる…そう理解した時、急に背筋がゾクっとした。

 

意識が光と同化して行く様な感覚に襲われる。

 

そして刹那か那由多かの区別かつかない時間の後、光が消えてゆく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・さ・、千・さん、千雨さん!」

 

気付けば私はもといた世界に帰還してた。

 

「もう、どうしたんですか?世界樹を見つめてかたまっちゃって…」

 

「先ほどの手合せでは頭部にはさほど衝撃はなかったと思うが…大丈夫アルか?」

 

「大丈夫だ、問題ない。ちょっとボーっとしてただけだ。次は超の番でいいんだよな?」

 

大丈夫だとアピールし、超とクーに声をかける。

 

しかし…今の白昼夢(?)は何だったのだろう…あの懐かしい言葉によく似た歌は

 

学ぶ事が『定め』

 

『運命』に抗う力を得よ

 

進むためにあらゆる事を『楽しめ』

 

そしていつか『この樹』へ至れ

 

それが歌の意味…まさか、あの『私』は世界樹の苗床になった、とでも言うのだろうか?

 

…ならば私は世界樹を訪れる事であの声の主に出会える?

 

「(次は私の番…なのだが、技量はともかく身体能力では千雨さんにはかなわないのでそのつもりで手加減を頼むよ。

 

それこそ、さきほどの最後の一撃を受けたら先ほど食べたチンジャオロースを全部吐いてしまうからね)」

 

「(はは、善処するよ。私が望むのはただ強者との戦いのみ…貴方達と闘える事がとても楽しい)」

 

そんな事を考えていると、次は私だと超は上着を脱いでクーに中国語で話しかけ、クーもそれに答える。

 

中国語は完全ではないが大体言っていることは理解できる。

 

今は思考を端に追いやって審判役を務める事にしよう。

 

「じゃあ、次は私が審判を務めようか。」

 

そういって私は二人の間に立つ。

 

「「いつでもいい(アル)ヨ」」

 

二人が構えを取ったのを確認する。

 

「では…始め!」

 

私の時と同じ様にクーが距離を詰め、一撃をはなつ。

 

しかし、超は絶妙なタイミングで軽く打撃を放ち、クーの一撃をそらす。

 

私がやったような反射神経と瞬発力を生かしたカウンターではなく、技量による対応。

 

「(やはり、反撃する余裕はなかった。初見だったなら防げたかどうかも怪しいな。)」

 

「(よく言う、あれだけ正確かつ最低限の打撃で防いでおいて。行くよ!)」

 

クーが連撃を仕掛け、超がそれを防ぐ。しかし、少し超が不利に見える。

 

そして都合30手目…クーの拳が超の腹部に、一瞬遅れて超の裏拳がクーの頭部に入る。

 

「そこまで!」

 

私は試合終了を宣言する。

 

超は腹部をおさえてその場に膝をつく…しかしクーはそのまま、動かない。

 

「…やはり効くネ、私の負けヨ」

 

「いや、違う」

 

え?という空気の中で私はふっと倒れたクーを支える。

 

「(うーん…フラフラする)」

 

クーは明らかに気絶まで行かないが戦闘不能になっている。

 

「と、言う事で、二人とも戦闘不能で引き分けだな。すまん、聡美、店から氷を少し貰ってきてくれ」

 

私がそう宣言すると観客達は一斉に歓声を上げた。

 

 

 




現在の純粋な素手の技量では、クー > 超 > 千雨、武器ありの技量は クー > 千雨 > 超 です。(ただし超は千雨に見せている範囲で)
これは千雨の接近戦闘のスタイルが合気鉄扇術と糸術を組み合わせた物であることにも起因します。
ここに超が千雨とクーの試合を観察していた事による情報補正が入るため、今回のような結果になったとお考えください。
まあ、知力補正や身体能力補正、武器戦闘の場合は相性や射程なんかもかかわってくるので、
野外の遭遇戦形式でガチ戦闘をさせた場合の結果は上記の通りではないです。

たとえば、今回千雨が纏っていた気の出力は本気から比べると微々たるもので、
気の練度は『現在』のクーの本気でも千雨の本気の半分以下です。
なので、有効打を入れた方が勝ちではなくてどっちかが倒れるまで、というルールならば、
気をフルに纏えば一撃で入るダメージの差や強化された身体能力の差でほぼ確実にクーに勝てます。
クーが気を理解し、数日修行すればその差はあっという間に詰められちゃいますがそれはそれです。


歌に関してはこのお話の一番初めに乗せた歌の正しいバージョンです。
この歌はある意味千雨さんの深層心理に刻まれた歌なので行動原理がより先鋭化していきます。


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11 進路選択編 第3話 還るべき場所で

「…何にも起きねぇなぁ…やっぱ、ただの白昼夢だったのか?」

 

あの試合の直後、私はあの歌を真に受けて、一人で世界樹の根元へと来ていた。

 

見上げるとやはりでかい。

 

「登ってみるか。」

 

特に登ってはいけないとかいう規則は無いので私は勘の命じるままに世界樹に登り始めた。

 

ゴツゴツした幹に手をかけてスイスイ登ってゆき、あっという間に枝葉の生い茂る高さにたどり着く。

 

葉の間から麻帆良の街が見える。

 

「相変わらず絶景だよなぁ……ん?」

 

気配がする…もっと上の方に誰かいる。

 

ふと見上げると人影が見えた…暗くてよく見えないが何者だろうか。

 

途中に難所があるので、一般人が普通に幹を伝ってあの高さまで上がるのは至難の業な筈だが…

 

と、考えていると…向こうもこちらに気付いたようだ。

 

トン、トンと枝から枝に飛び移って降りてくる…

 

「いやあ、すごい樹でござるな、ついつい、天辺まで登ってしまったでござるよ。」

 

私の目の前に降り立ちのんきな声でそういったのは、私が進学した本校女子中等学校の制服を着た少女だった。

 

さっきの動きからすると魔法生徒…だと思ったんだが何か変だ。

 

「そうですね。」

 

適当に相槌をうって様子を見てみる。

 

「いやあ拙者、田舎育ちでござるが地元の山にはこのような巨大な樹はなかったでござるよ。」

 

「そうなんですか?私は小学校から麻帆良なのでもう見慣れてしまいましたよ。」

 

…さっきの動きでわかっちゃいたが、立ち振る舞いに隙がない。

 

実力は…さきほど戦ったクー…の本気くらいには達している、それは確実だ…

 

その先どこまで行っているか、うまく読めない。

 

クーのような武芸者ではなく、マスターや高畑先生のように戦闘者として鍛えてきたのだと思う。

 

先ほどクーとやったような『公衆の面前での試合形式』なら十回やれば1回位は勝てるかもしれないが…

 

『実戦形式』なら勝ち目はなさそうだな。

 

「そういうものでござるか。そういえば自己紹介がまだでござったな。

 

拙者は長瀬 楓と申す。この春から麻帆良学園本校女子中等部に通う事になったでござるよ」

 

長瀬 楓…うん、クラス分け表の同じクラスに名前があった。

 

「私は長谷川 千雨です。私も今年から麻帆良学園本校女子中等部です。

 

それと…長瀬さん、A組ですよね。私もA組なのでよろしくお願いします」

 

クーとザジで想像は付いたけど、外からのびっくり人間もA組に集められてる可能性が高そうだな。

 

「おお、それは奇遇でござるな。これからよろしくお願いするでござる、長谷川殿」

 

そういって私達は握手を交わした。

 

「しかし、長瀬さんはなぜ麻帆良に?」

 

「山奥を出て世の中を知る為でござるよ、何分拙者田舎者ゆえに」

 

「麻帆良も結構閉じた非常識空間なんですけどね」

 

そういって私は自嘲気味に笑う…私もその非常識だ。

 

「そうでござるな。でも、良くも悪くも活気のある楽しい学園だと感じたでござるよ。

 

長谷川殿の立会も見せてもらったでござるよ。いや、三人とも達人レベルでびっくりしたでござる」

 

「見られてましたか。でも、長瀬さんも身のこなしから見て相当の腕前のようですね」

 

にっこりと笑っていう。

 

「いやはや…買いかぶりすぎでござる。拙者あのような無手格闘はそこまで得意ではないでござるゆえに。」

 

先ほどまでと変わらず、のんきそうな表情と声、しかし長瀬さんの言葉からは、

 

『無手格闘では負ける可能性があるがそうでなければ負けない』というニュアンスを読み取れる。

 

「…」

 

「…」

 

しばらく無言で見詰め合う。

 

緊張に耐えきれず、本能的に気を練り気持ちを張り詰めていく…と、同時に長瀬さんの顔から穏やかさが消えてゆく。

 

「…」

 

「…」

 

ひたり…汗が流れるのが分かった。

 

「…」

 

「…」

 

逃げ出したい、でも背中を見せたら確実に殺られる…後ろに跳びつつ初手をかわすか受け流して糸で妨害、瞬動で逃げ切りを狙う…がベターかな

 

そう覚悟を決めた直後、唐突に長瀬さんが笑い出す。

 

「いや、長谷川殿が臨戦態勢を取るものでつい…な?」

 

長瀬さんの雰囲気が元に戻った。

 

「すいません、師匠と対峙している時のような雰囲気だったので…その…つい本能的に」

 

「ふふ、敬語でなくて結構、お互い要修行でござるしな、拙者も長谷川殿に尾行がばれるとは想定外でござった」

 

そういってまた握手を交わした。

 

「私も呼び捨てでいい…千雨でもいいよ、尾行ってまさか長瀬は世界樹前広場からずっと尾行していたのか?」

 

「うむ、ちょうど昼食を食べていた時にあの立会があって、千雨殿に興味を持ったので追ってきてみたのでござる。」

 

「興味?」

 

「うむ、千雨殿は手加減していたでござろ?普通の武芸者であれだけ手加減するくらいなら最初から手合わせを断るでござろう。

 

ならば、千雨殿は『武芸者』として鍛錬を積んだわけではない…と」

 

「あ~手加減したのばれてたか。でも気の練り具合と量はクーに合わせて手加減したけど技量面では手加減しなかったぜ?

 

まあ、気による強化分の差で、本気ならとれた選択肢がとれなくなった場面があったのは事実だけどさ」

 

「しかし、なぜ手加減したのでござる?」

 

「それは…」

 

言葉に詰まる。この反応はおそらく魔法の事を知らない、という事なのであろう。

 

「悪い、長瀬はこの都市の事、どれだけ知ってるか聞いていいか?」

 

「ん~よくは知らぬでござるが…おばば様の旧友が学園の理事をやっている学園都市で…

 

『よそ様』の土地だから勝手をしてはいかん、ときつめに言われている事くらいでござるな」

 

「その『よそ様』については?」

 

「詳しくは聞いておらぬがこの都市の管理人のようなものだとか」

 

明らかに裏の人間とはいえ、魔法を知らないならば、答えはこうなる。

 

「…ならこうとしか言えない。人前で本気でやりすぎるとその『よそ様』に怒られるからだ。

 

ああ、私はその『よそ様』じゃない、そのうちの一部と知り合いではあるけどな」

 

「…ならば仕方ないでござるな。拙者も似たようなものでござる…

 

確かに千雨殿の本気なら…あんな天下の往来で堂々と見せていいレベルではござるまい」

 

うんうん、と納得してもらえたようだ。

 

ブーブー

 

携帯が鳴る

 

「失礼。」

 

長瀬に断りを入れて確認すると聡美からのメールだ。

 

内容は…夕食をかねてA組結成パーティーをする、呼びかけもしないといけないから帰ってきて手伝ってほしい、か。

 

「あ~友達から寮でA組の結成パーティーをするから手伝いに戻って来るように連絡が来ました。

 

長瀬さんもよければ参加しませんか?」

 

「うむ、了解した。寮に戻って同室の双子にも伝えるでござる。手伝いも何かあれば言ってほしいでござる。」

 

「じゃあ、寮に戻るか。…一応聞いとくけど修行のために屋根伝いで走っていくとか言わないよな?」

 

「さすがにしないでござるよ、そんな目立つことしたらいろいろと問題でござる」

 

そういって笑いあい、世界樹から降りる。

 

…私はロープというか束ねた糸を使って降りたぞ、長瀬みたいに枝から枝へ飛び降りるくらいできるけど。

 

しかし…私は何に呼ばれてここに来たんだろうな…世界樹には何もなかったし…いや待てよ?

 

確か麻帆良の地下は過去の遺跡とかで迷宮構造になっているはず…もしかしたらここの下に何かあるのか…

 

「どうしたでござるか?」

 

先に地上についていた長瀬がいった。

 

「いや、大したことじゃない、ただここの地下に何かあるのかもな、と思っただけだ。」

 

「ふむ?」

 

「確か、図書館島を始め、この街の地下には遺跡が埋まっているらしい。

 

だから、ここの地下にも何かあるかもな~って思っただけだよ、こんなにでかい樹の下だしな。

 

ま、管理人なら何か知ってるかもしれないが、そういう情報にアクセスする権限はないんで詳細は不明だし下手に調べられない」

 

「なるほど…まあ、とりあえずは帰るでござるか」

 

私達は寮に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…その晩、パーティーで集まった30人の面子を見て頭を抱えたのは言うまでもない。

 

事前に知っていた分を除いても麻帆良でも濃い方の人材が多い事多い事…それを口に出したら朝倉から

 

「千雨ちゃんも相当だけどね~」

 

って言われた。自覚はあるんだからほっといてほしい。

 

 

 

 

 

 




今回は楓さんとの会話回です。

ぶっちゃけ前話と合わせちゃってもいい内容でしたが一応別話という事で。

ちなみに、現状で千雨が楓と戦闘になったら90%千雨の負けです。

残り10%は千雨が逃げ切って引き分け、千雨さん一人では本気の楓には勝てないです。

分身とかで増えた瞬間詰みます。まあ瞬殺されるほど差があるわけではないのですが。

一般人の枠は超えていて、裏でどれくらい通用するかと言うと『学者の護身術なら十分』程度です。

当然これから成長したり、変な術式や戦法や道具を開発したりする・・・はずなのでお楽しみに。


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12 進路選択編 第4話 悪魔の囁き

失禁表現があります


寮で結成式(と、言う名のどんちゃん騒ぎ)をした次の日、

 

別荘内での訓練の後、結成式の場では言えなかった事をエヴァ…もといマスターに報告していた。

 

「…で、達人クラスとはいえ、曲がりなりにも一般人のクーフェイに負けた上、

 

格上だと認識した長瀬 楓と腹の探り合いをして、にらみ合いにびびってあわや戦闘になりかけた…と?」

 

不機嫌そうにマスターが言う。

 

「はい」

 

「弟子の恥は師たる私の恥だ、お仕置きの上、一から鍛えなおしてやる!と、言いたいところだが…

 

丁度良い機会だから私とお前の立場…いや関係を整理しておこうか」

 

そういってマスター・・・エヴァは神妙な顔をする。

 

「まず、第一の関係として、私とお前らはギブアンドテイクの『契約』関係だ。

 

知識に財貨を添え、私は茶々丸を得た。

 

また、第二の関係として私達は『相互に師弟』であると言えよう。

 

私は学問としての魔法の師であり、同時に科学の生徒である。

 

加えて私達は『共同研究者』でもあり、研究設備の融通なんかもしているな」

 

一呼吸置いてエヴァンジェリンが続ける

 

「さて、ならば私が貴様に稽古をつけているのはいかなる関係によるものだ?

 

はじめは茶々丸を得るための対価、従者としての戦い方の実習だった。

 

が、今は私の研鑽と茶々丸の調整のついでに…ああ、一応友好的な関係を結んでいる者への贈り物とも言えるか。

 

どちらにしても私の戯れと好意…義務や権利が生じるものではない。

 

まあ、乗り掛かった船だからな、よほど私を失望させることがなければ、ある程度のきりがつくまでは面倒を見てやろう。

 

『授業料』の味も気に入っているからな」

 

エヴァが私の首筋をみてニヤリとわらう。

 

「貴様の学者としての才能は認めよう、科学の事は専門外だが、私はお前を師と認める。

 

また、魔法の方に関しては既に一人前・・・かはともかく学者と呼ばれるに足ると言えようか。

 

発想力、論理的思考力、観察力…それぞれ単体は突出しているわけではないが、だがそれがかみ合ってうまく回っているな。

 

武の才能も天才と呼ぶには足りぬが、素晴らしい。あの程度の鍛錬で今のレベルに達する事ができるものは早々いまい。

 

気の才能…いや鍛錬の機会にも恵まれ、魔力の方も魔力量こそ純粋魔法使いを目指すならば不満が残るレベルだが、

回復速度は並み以上、得意属性はないが苦手属性も無し、術式構築のセンスも悪くない…

 

学徒の道をあきらめ、かつ茨の道を突き進めば『もしかすれば』完全な状態の私にすら届くやもしれん。

 

逆に、戦いの道を現在の力量の維持程度に抑え、その才能を学問に捧げるのであれば

 

科学、魔法、双方で歴史に名を刻む事ができる可能性がある…と、私は評価している。

 

が、貴様は当然、万能ではない。ましてや四方八方に手を伸ばして『本物』を相手にできるレベルの才能ではない」

 

すっとエヴァは目を細めて続ける

 

「そもそも力を求めるのは何故だ?

 

貴様の実力は既に『表』のヤクザ程度一蹴できるし、

 

『裏』でも平均的な魔法生徒や戦闘を専門としない魔法教師どもならばお前の頭があれば対抗出来るだろう。

 

貴様の生きがいは知の探求だったはず…で、貴様はどう『したい』んだ?

 

いや、どう『なりたい』んだと聞くべきだな、長谷川千雨?」

 

エヴァはギロリと私を睨みつける。

 

「私は…私は……」

 

そこからうまく言葉を紡げない。

 

「ふん、やはり答えられんか…その理由程度の事は自分でもわかっているだろうな?

 

本来なら貴様のような子供にそこまで求めるのは酷かも知れん…が私は許さん。

 

貴様らは私が才能を認め、対等の契約者とし、かつ私が師とも仰ぐ人間だ。

 

ハカセは既に科学に魂をささげたと公言しているし、超 鈴音も確固たる目的があってここ麻帆良にいる。

 

どちらも私に言わせれば『青二才』だが、現時点でアレならば上出来だ。

 

…それに対して千雨、いや長谷川千雨、貴様はどうだ?」

 

「…流されるままに目の前の選択肢から答えたい選択肢だけにこたえ、目の前にある欲しいものに手を伸ばしてきた…」

 

私は今まで流されて生きてきた。

 

目の前の選択肢だけを見て『マシ』だと思うモノを選択し、『欲しい』と思うモノに手を伸ばしてきた。

 

最終的に『どうなりたいか』なんて考えたことがなかった。

 

きっと今までのように聡美や超と研究して、エヴァと修行して、仲間たちと馬鹿やって…

 

そんな風にしか考えたことがなかった。

 

エヴァがふん、と鼻を鳴らしたかと思うと続ける。

 

「安心したぞ、貴様を買いかぶりすぎていたか…とな。

 

自覚があるのであれば一カ月時間をやる、5月の連休が始まる前に答えをだせ。

 

それまでは現状維持で稽古もつけてやる。」

 

私はエヴァの…いや、マスターの言葉にただうなずくしかなかった。

 

「さて、では今週分の『授業料』を徴収するとしようか、千雨?」

 

マスターが獲物を前にしたような瞳で私を見つめる。

 

「…痛くしないでくれよ…」

 

それに対してシャツの袖をまくりあげ、二の腕を露出させ、差し出す。

 

「…そうだ、仕置きと相談料も兼ねておこうか。」

 

そう言うが早いか糸が私を拘束した。

 

「なっ」

 

「何、腑抜けた答えを用意してきた場合の末路を垣間見せておいてやろうと思ってな。

 

千雨、座れ」

 

そう言ってエヴァは私を(動かないと糸が肉に食い込むようにして強制的に)ベッドに座らせ、私と目線を会わせる。

 

「エヴァ…?」

 

「『食事』には雰囲気も大切だ、と言うことだ。わかるな、千雨」

 

エヴァが『獲物』の反応を楽しもうとしている事を理解する。

 

「では…味あわせて貰おうか」

 

マスターの唇が私の首筋に触れ、血管を探る様に暖かいものが皮膚をなでる。

 

「んっ…」

 

暫くすると良い場所を見つけたのか、尖ったモノが触れた。

 

雰囲気にのまれ、恐怖から気で防御してしまう。

 

直後、エヴァの牙が私の皮膚を強く押すが、食い破るには至らない。

 

あ…やっちまった。

 

そう思っていると髪に何かが触れる。

 

それはエヴァの手で、『大丈夫だ、私に身を委ねろ』とでも言いたげに私を撫でる。

 

それに従って徐々に力を抜く、エヴァに…マスターに血を差し出す為に。

 

優しく触れた牙・・・鈍い痛みと流れ出る感覚と吸われる感覚を感じる。

 

少しするとマスターは首筋から口を外す。

 

やけに早い。何時もならもっと吸う筈だ。

 

もはや嗅ぎ慣れた鉄の匂いが鼻に届く。

 

エヴァは何時ものように流れ出る血液を舌でなめとり…治癒魔法をかけ…てくれない。

 

「ただ無味乾燥に飲むよりもはるかにこちらの方が『旨い』

 

さらに羞恥、恐怖、背徳…そう言った感情が与える味の違いを楽しめるのも良い」

 

マスターが私の瞳を見つめ、優しげに、かついじめっ子の様に微笑む。

 

「今日は楽しませて貰おう…」

 

それはまるで悪魔の囁きに聞こえた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまん、やり過ぎた」

 

気付くと私はベッドに寝ており、エヴァにそう謝罪されてた。

 

状況が飲み込めず、記憶をたどる…

 

そして私は布団を引っ付かんでそのまま丸くなる。

 

エヴァの顔を見れない。

 

きっと今の私は茹でダコ状態だ。

 

「あー取りあえず出てきて薬を飲め。

 

前倒しで下僕になりたくはないだろう?」

 

何があったか、の半分はその言葉で語られる。

 

興が乗ったマスターに魔力を注がれて私はいま半吸血鬼状態にある、

 

それがマスターの言う『やり過ぎた』事の全てだったら良かったんだがな…

 

そう思いながらマスターから吸血鬼化の中和薬を受け取り、飲み干す。

 

相変わらず酷い味だ。

 

「失礼します、千雨様の服のクリーニングが終了いたしました」

 

魔法人形のメイドが部屋に入って来た。

 

「おや、早いな」

 

「はい、血液と異なり尿は簡単に洗浄できますので」

 

…と、言うことだ。

 

失禁するまでエヴァに虐められたんだよ。

 

「…まあ、機嫌をなおせ。千雨も昨日はあれだけ喜んでいたじゃないか」

 

「そうだな、喜んでただろうよ、早々に眷族化されてたからな。

 

あんだけ愛すべきマスターが楽しそうなら大喜びして当然だ」

 

「そうか、それは何よりだ」

 

「皮肉だよ!ってお仕置きで私が喜んでいいのかよ!

 

うぅ…もう嫁に行けない」

 

「安心しろ、その場合は私が下僕として引き取ってやる」

 

「余計安心できねぇよ!それ!」

 

気付けばエヴァとそんな馬鹿な漫才を始めていた。

 

「こほん、まあ、とにかくあまり心配はしていないが…

 

万一、あまりにも腑抜けた答えを持って来た場合はあれよりも手酷く辱しめ、血袋として飽くまで飼い、最期は吸い尽くす。

 

胆に銘ぜよ、長谷川千雨」

 

私はただ蒼白な顔で頷いた。

 

「それと…貴様が欲しがっていた書を用意した」

 

服を持って来たのとは別のメイドが一冊の分厚く真新しい本を盆にのせて持ってくる。

 

『アルティメットスキル』

 

それがその本の題名だった。

 

そう、これは究極技法と呼ばれる咸卦法についての書だ

 

「私の蔵書を写本させた。

 

理論と応用、双方に役立つだろう、受けとれ」

 

思い付いたある研究テーマで咸卦法についての理論を調べたいとエヴァにお願いしていたのだ。

 

「あー代金はどうすれば?」

 

「吸いすぎた分だ、少し多いがとっておけ」

 

「…ならありがたく貰うよエヴァ、ありがとう」

 

「ふん…貴様の答え次第では本当に下僕にするからな」

 

その言葉は確かに本気なのだろうが、同時に照れ隠しである事も私は理解した。

 



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13 進路選択編 第5話 分岐する世界

「二人とも、すこし話したい事があるのだが…今晩の都合はよいカナ?」

 

ロボ研の月1の全体ミーティングが終わった後、超が私と聡美にそう声をかけた。

 

「「ん?なんだ(ですか)?」」

 

「すこし、あの条件の事で…ネ。」

 

「…ああ、超さんから初めて来たメールのアレですね。」

 

「あ~あの胡散臭いって思ったあのメールの件か…」

 

「ウム…千雨さんは契約対象ではない・・・できれば、の範囲で協力要請をさせてもらうネ」

 

実は昨日、エヴァから脅しをかけられていて今はそれどころじゃない、

 

とは言えず、話を聞いてみる事にする。

 

「ん…わかった、場所はどこにする?どうせ聞かれたくない話なんだろう?」

 

「私達の部屋でも使います?今日もザジさんはサーカスに泊まりですから」

 

「ならばそうさせてもらってよいカナ。」

 

「ん…今は6時だから…結果の解析は明日続きやるとして…片付けと次の条件設定に…6時30分にロビーでいいか?」

 

「そうですね、私もそれぐらいだと助かります。それから夕食済ませて…部屋で話しましょうか」

 

「いや、先にお風呂も済ませておいた方がいいナ、場合によったら長引いてそういう時間になる可能性もあるヨ」

 

「わかった、それじゃあロビーで」

 

そういって私達はそれぞれのデスクに戻っていった。

 

帰寮途中、最近気に入っている駅前の丼物とウドンソバのチェーン店で夕食を済ませ、

 

入浴等も済ませた私達は私と聡美(とザジ)の部屋にいた。

 

「聡美はいつものやつ(DHA入りのスポーツドリンク)でいいよな、超は何飲む?」

 

「あーなにか冷たいお茶の類がもらえるとうれしいネ」

 

「なら麦茶でいいかな。私は…これにするか」

 

台所から先にコップを6つとペットボトルの水を居間の机に出し、続いて各人の希望の飲み物を冷蔵庫から出す。

 

ちなみに私はオレンジジュースにした。

 

私と聡美が並んで座り、その向かいに超が座る。

 

各自手酌で自分の飲み物を注ぎ、まずは一口飲む。

 

「さて…何から話そうか…そうネ、まずは私の正体から話そうか。

 

私の目的、手伝ってほしい事、どちらを話すに当たっても必要不可欠な内容だから…ネ。

 

いろいろと突っ込みたくなると思うけど、まずは抑えて聞いてほしい」

 

一瞬考えた後、私たちは静かに頷いた。

 

「ありがとう…前に話した事があると思うけど…私の故郷は火星、生まれも育ちも火星の生粋の火星人だ」

 

思わず飛び出そうになった突っ込みの言葉を飲み込み、続きを待つ。

 

「私にとっては昔々、この時代においては未来・・・2008年、つまり今から7年後に太陽系開拓計画が開始された。」

 

超は語る、彼女の『歴史』を

 

軌道エレベータの建造

 

月面基地の設営

 

無人船団による火星のテラフォーミング

 

拠点となる地下都市の建設

 

その都市を拠点とした大規模緑化

 

開放型都市の建設と開拓…

 

そうして火星は人類の新たなゆりかごとなり…

 

人は子を産み、育て…そして死んでいった。

 

「私はそんな火星で、火星人として生まれた。

 

まあ、私についてはこんな所かな。

 

…ああ、千雨さんとハカセがそれぞれどういう立場で何をやって、そして誰とどう結ばれて~といった話は割愛させてもらうよ。

 

話の本質には関係ないし、言ってしまう事でバタフライ効果がそれこそ泣きたくなるくらい発生することは必至だからね」

 

私は苦笑いしながら小さく頷く。

 

正直、一緒に茶々丸を創ってこんな話をしている時点でバタフライ効果とか鼻で笑うくらいの影響を受けていると思うんだけどな。

 

口調が変わっているのは…まあこっちが素なのか真面目モードなんだろう。

 

「まあ、お前の辿った歴史は大体わかった。

 

どうせその後に利権…火星側の独立か、国家間の主導権を巡って、なんかあったか、これからありそうだけどな。

 

で、結局お前は何がしたい?お前は私達に何を求める?

 

超 鈴音」

 

エヴァが認めるほどの信念で…

 

世界を捨て、命をかけ、何を望むのだろうとそんな言葉を紡いでいた。

 

超を知りたい、純粋に好奇心で、あるいは好意(友人として)で、あるいは打算(エヴァへの答え探し)で…

 

「フフ…人類の夢の一つであるテラフォーミングに対しての感想がソレ…さすがは千雨さんと言うべきね。

 

その通り、『太陽系開拓計画』を冒涜的と考える集団、その中で特に狂信的な連中のテロリズムもあった。

 

そして相も変わらず…いや、むしろ投資が宇宙に向く事で大きくなる先進諸国と途上諸国の格差と確執、

 

続く紛争や民族、宗教、国家間対立…まあ、そのあたりは当然として、

 

開発計画の主導権争い、移民の人数割り当て問題などなど…人類の夢とて綺麗なだけのものではなかった。

 

当然、地球の大気圏外で起きた有名な武力衝突はいくつも存在する…

 

地球上でやっていた事を宇宙空間で拡大再生産しているにすぎない、と言う人もかなりいる。

 

まあ、『仮に』宇宙開発をせずに宇宙開発に回した生産力をそのまま地上での経済活動に割り当てていたら環境汚染や資源問題が大変なことになっていた、

 

と言うのが歴史家の大勢を占めているから必要な事ではあったとは考えられているのだけどね…

 

が、宇宙に向いた投資が発展途上国に向いていれば先進国と途上国の生活レベルの格差は多少なりとも是正されていたという予測も…こほん

 

まあ、そこら辺の事は置いておこう。

 

私がこの時代に来た理由と二人に求める事…だったネ」

 

超は麦茶を一口飲んで続ける。

 

「歴史の中で多くの悲劇が生まれた。

 

それらの多くはボタンのかけ違いだったり、歴史上の『小さな不幸』が原因だったり…

 

それは太古の昔からあり、貴方たちにとっての現代、私にとっての今、そしてきっと未来にもあり続ける『小さな悲劇』…

 

 

たとえば千雨さんも今でこそ救われているが、麻帆良の外にも中にも馴染めず、それを自覚して『ヒトリキリ』という檻にとらわれていた…

 

だが、そんなありふれた悲劇だからと言っていざ当事者になった時、それを受け入れられるとは限らない…それはわかってくれると思う。

 

そう、あんな『歴史』を私はそのまま受け入れるだなんて私にはできない。

 

だから私は歴史に起きた無数の『小さな悲劇』を減らしたい。

 

ある『歴史上の事件』がきっかけで私達の世界、私達の時代は余りにも多くの悲劇が溢れていた。

 

その『過去』を書き換えた未来を作りたい、そして『未来』で続く争いに抗うために何かを掴みたい。

 

それはただの逃避や自己満足だとしても、悲劇はボタンをかけなおし、『小さな不幸』をつぶしたとしても起こるとしても…

 

足掻かずにはいられない、あんな滑稽な悲劇以外のエピローグが存在する事を証明してみせる」

 

そういって私達を見つめる超の瞳は今まで見たことのないほどの熱意と光、そしてわずかな闇に彩られていた…きれいだ

 

「私は未来から来た。例え、私の企みが成功したところで人々は言うだろう。

 

歴史をもてあそんだ女、史上最悪の犯罪者、最大の禁忌を犯したもの…時間に取り返しのつかない傷を負わせたもの…」

 

だからこそ、無性に腹が立つ。

 

「で?それがどうした。くだらねぇな」

 

イラつきを含んだ声でそういい、私は立ち上がった。

 

「なっ、千雨さん?」

 

聡美が驚いたような声で私の名を呼ぶ。

 

「…しかたないネ、それも想像していた事ヨ…」

 

こう、今にも泣きだしそうなのに気丈にふるまっている様がありありと読み取れる。

 

そんな超を私は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

むにー

 

私はおもいっきり頬を引っ張った。

 

「ひ、ひひゃへひゃん?(ち、千雨サン?)」

 

「お前が語った歴史はわかった。『お前の生まれた歴史』ではそうなった、それは変えようがない事実だろうさ。

 

けどさ、それがどうしたって言ってんだよ。

 

タイムパラドクス?歴史改変?

 

これから『私達が刻む歴史』はそんな未来から来たお前の事を織り込み済みだ。

 

お前のいた未来が消えちまうのか、まったく別の世界になるのか…結局、お前のいた未来につながるのか…

 

そんなことは私にはわからん。

 

だが、足掻いて何が悪い?理不尽の中でもがいて何がいけない?

 

お前は、今ここにいる。ならばここで、この時代でやりたいようにやればいいだろ。

 

それが誰かにとって邪魔なら妨害されるなり、排除されるかもしれねぇ。

 

もしかしたらその誰かは私かもしれない。

 

でもそれはお前が未来から来たことが理由じゃない、単に異なった意志を持つ者同士の争いだ。

 

世界中のすべてがお前を否定したとしても、私はお前の意思を肯定する」

 

そういって私は混乱している超をそっと抱きしめる。

 

「だから、お前はこの時代で『未来』を塗り替えていいんだ、私が、聡美が、他の誰かがそうするように」

 

超は、超 鈴音は確かに、私の仲間で『今、ここ』にいる存在だ。

 

超は『天才という言葉では表現しきれないほどに天才』だし、『未来の知識を持っている』が、ただそれだけだ。

 

超は今、この瞬間、私の胸の中で泣いている一人の少女にすぎない。

 

そして周辺環境や情報の格差、才能及び能力の強弱、そんなものは常に存在する。

 

他人が知りえない多くの知識を、死力を尽くして磨き上げられた天性の才を、『ズルイ』、そう評価する奴もいるかも知れないがそんなものはただの遠吠えだ。

 

もちろん、その数が多くて、あるいは力が強くて潰されたら負け犬は超の方になっちまうが。

 

気付けば聡美もにこやかに微笑みながらこちらによってくる。

 

「ふふ、千雨さんらしい言いぐさですね。

 

タイムパラドックス…実に興味深い議題ではありますが、今は置いておきましょう。

 

超さん、あなたの事はよくわかりました。次はあなたが私達に望むことを教えてください」

 

聡美はそういって超の頭をなでた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、落ち着いた…本当にありがとう…ふふ…とてもとても幼い頃を思い出したよ…

 

さて、二人にやって欲しい事…だったね。

 

何よりもお願いしたい事は、今やっている研究を続ける事、それを基にある物の開発を手伝って欲しい、あと…」

 

超は水を一口飲み、続ける。

 

「…資金調達を手伝って欲しい」

 

思わず脱力する

 

「その…ね?幾つか状況に応じたプランは考えてあるんだけれど、何分先立つものが…

 

だから麻帆良祭への出店や各種賞金で資金を稼ぎたい」

 

超の方も申し訳ないと思っているのが読み取れる。

 

だからこそ、協力してやりたいと思える。

 

「…どれくらい、いるんだ?」

 

三人で自重せずに大会荒らしをやれば300…いや400万位はなんとかなる筈だ。

 

「今年の麻帆良祭で最低でも600万、出来れば1000万は稼ぎたい。

 

それを運転資金にできる商売をいくつか考えてある。

 

プランの選択にも関わってくるから資金は潤沢な方が良い」

 

その商売自体もプランの一部なんだろうな、きっと

 

「なるほど…私達が自重せずに大会荒らしをすれば数百万は稼げるとは思いますが…

 

後の商売を考えれば出店が主軸になりますね」

 

「内容次第だけど、出店で稼ぐなら私らだけで規模は足りるのか?」

 

「それもあてはある。

 

お料理研究会に接触して内諾は得てあるし、

 

クラスからも何人か誘う予定」

 

「って事は飲食店か。変わり種の料理でも集めるのか?」

 

「そのような奇策ではなく、中華を考えている。

 

場所と人材を予定通り確保出来たなら飲茶にするつもり」

 

「ん…わかった、そこらへんはまた今度つめるか。

 

で、プラン全体のタイムスケジュールは?」

 

「今年は研究と資金調達をメインに、来年からは研究の進捗と資金状態次第で行動を変更する予定。

 

あと…プラン次第だけど一番早く終わるプランで2005年の麻帆良祭までかかる…んだけど…」

 

超が少し不安そうに言う。

 

「わかった、協力するよ。

 

まあ最後まで、とは断言出来ないが、いきなり背中を刺す様な真似はしない」

 

「超さんの歩む道が私の道に反しない限り、協力します。

 

まあ、暫くは現状維持と資金稼ぎですし」

 

「ありがとう、感謝する」 

 

こうしてその夜の内緒話は終わりを告げた。

 

 

 

 

そして時間は進み、エヴァとの約束の日を迎える…

 

 

 

運命の場所はエヴァの別荘の一室、彼女のお気に入りの展望室

 

そこで本日のディナーテーブルに私は魔王様と向かい合って座っていた。

 

「さて、答えを聞かせてもらおうか。」

 

エヴァの側にだけ食器を配されているディナーテーブルに座らせた意味は察しが付く。

 

『お前は私の歓待を受けるに足るか?さもなくばわが夕餉となれ。』

 

と、言ったところだろう。

 

「ああ、覚悟は決まった。取り繕う気も、気に入られようとする気もない。

 

だが、私の本心だ。気に入らなかったら私を食卓に乗せればいいさ」

 

一応、聡美に手紙も預けてきたし、今あるアイデアの青写真も描きだしておいた。

 

協力を約束した超には悪いが私が意地を張る為の準備は万端だ。

 

「よろしい、ならば聞かせてもらおう」

 

「私は…私は学問と強さ、どちらもあきらめたくなかった。

 

でも、双方を極める自信や覚悟はなかった…で、堂々巡りだな。

 

そこで、なぜ私が学と力を求めるかに立ち返ってみた。

 

まず私が学を求めるのは半ば本能だ。

 

人間がホモ・サピエンスたる所以…という意味だけじゃなく、私の存在理由として、だ。

 

呼吸のように、少しの間だけ我慢する事は出来てもやめる事は絶対にできない。

 

ならば強さに妥協を求めるしか無いように思える。

 

というより、本来私にとって力は護身のためだったはずだ。

 

目的と手段を取り違えるべきではなく、従って妥協して武をあきらめても問題はない…

 

と、言うのが『冷静かつ客観的に考えた場合に導き出されるベターな選択』だな」

 

「ふむ…それもよかろう。

 

戦いの道をあきらめ、学徒として生きる…それが答えだな?」

 

エヴァがつまらなそうな顔でそういう。

 

当然だ、今言ったのがエヴァの想定していた(であろう)回答だろうから。

 

だが私はここでとまらない、ここからが本番だ。

 

「いや、今のは『客観的に』考えた場合の答えだ、って言ったろ?

 

エヴァの問は私が『どうなりたい』か、だった。

 

さて、今言った回答を得たうえで問い自体に疑問を投げかけてみた。

 

本当に武と学は両立できないのか?

 

いや、むしろ互いに補い合えるものなんじゃないのか?

 

そしてその答えは今、私の目の前にいる」

 

私はエヴァンジェリンを見つめながら続ける。

 

「貴方は自ら編み出した術式を練り上げ、最強と呼ばれるまでになった。

 

私は貴方に、エヴァンジェリン、貴方に憧れを抱いている。

 

平和な時代を生きる小娘のたわごとだとあなたは言うかもしれない。

 

さらに今のあなたはそのような技術を用いる必要もない事は知っている。

 

それでも『どうなりたいか』と問われたならば、私はこう答えよう。

 

『私は私になりたい』

 

私が私であるために、強さも賢さも、あきらめはしない。

 

強欲な私はその探求の中できっと多くの挫折をするだろう。

 

だからこそ、少しでも望む結果をつかめるように、強さもあきらめない。

 

マスター、これが答えです。

 

お願いできるのであればこれからもご指導をお願いします」

 

そういって私は頭を下げる。

 

「…それが千雨、おまえの答えか」

 

「はい」

 

「何を言ってるのかわかっているのか?」

 

とても冷たいマスターの声がする。

 

「はい、『現状維持』といっているに等しいですね。

 

ですが、知を得るために砂漠で火に焼かれながら砂にまみれ、崩れる砂山を往きます。

 

我を通すために、泥水をすすり、最期の一瞬まで足掻き続けます。

 

必要ならば、ほかに道がないならば、人である事すら捨てましょう、私が私でいる為に」

 

しばしの沈黙…そして大きなため息。

 

「…まさかここまで予想通りだとあきれるものがあるな」

 

はい?

 

「欲張りで頑固者のお前の事だから、どっちも切れないというのは想定していたさ。

 

まあ、そう言い切ったからには覚悟を見せてもらおうか」

 

にこやかにマスターが言う。

 

「なぁに、ほんの手始めに『7時間』ほどしごいてやるだけだ」

 

ああ、つまり体感時間で一週間って事ですね、わかります。

 

 





超さんの告白(秘密的な意味で)と進路決定回です。

千雨さんの思考は私なりのトレースですが、まあ目の前で仲間が泣きそうな顔してればこれくらい言うでしょう、なんだかんだで優しい人ですし。

それでも、私はお前の味方だ、とは言わずに対等に今を生きる・・・あがく権利がある、というのがちうかな~と(ネギ君との違いは歴史改編込みで受け入れているあたり

葉加瀬も協力するけど盲従はしないって言わせてみました。

千雨さんに対立しても友である事はやめない、って言ったくらいですから逆にこんな感じかと。

ちなみに、最後の場面のエヴァへの回答で世界線が分岐する…って設定です。

学問選んでアリアドネールートに入ったり、武を選んで中ボスルートにいったり…

本筋しか書きませんが、降ってきたら外伝も書いてみるかも知れません。

最も、エヴァちゃんとの問答、刹那さんとか辺りにやってるのの焼き直しでもあるんですがね。

『7時間』もとい、7日間の別荘でのしごきが進路選択の本番でもあるんですがまあ、色々苛められてそれに耐えて見せた、位の事です。


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14 進路選択編 第6話 答えが生み出すもの

さて、5月の連休も終わり、あっという間に中間テストの時期がやってきた。

 

まあ、英語と理数系は問題ない、本来どこまで習っているかを忘れず、ミスがなければ満点余裕だ。

 

(とっくに大学レベルまで終わっているし)

 

他も少し復習すれば8~9割は取れる…私達は。

 

「えーココの表現がよくわからないアル」

 

「ここはこういう解釈でよろしいのでしょうか?」

 

まあ、私達はともかく他はそうでもないわけだ。

 

クーは元々脳筋な上に日本語の習得自体が終わってないし、

 

茶々丸も人工頭脳ゆえの問題の理解と記述面の補強が必要だ、特に国語。

 

ここまではわかる。

 

茶々丸は私達の娘だし、クーも超をはじめ、多少なりとも中国語のわかる面子(私と聡美)がいると何かと便利だ。

 

うん、ここまではわかるんだ。

 

「うーわかんないよ…」

 

「千雨殿、回答を確認してほしいでゴザル」

 

「千雨ちゃん、ごめんここよくわからないんだけどさ…」

 

気付けば、教える面子が増えて、持ち回りで勉強会の教師役をする羽目になっていた。

 

まぁ、問題集から抜粋した問題を解かせる形式だからたいした手間ではないし、

 

一応、実験協力は対価として要求してあるが…(長瀬以外は)おもに体力(無自覚な気による身体強化に関する研究)測定を。

 

そんなこんなで中学初の中間テストは無事に終了した。

 

テストのでき?

 

うちのクラスは超、ハカセ、いいんちょが上位3位を独占、私が9位となった。

 

あと、宮崎が20位代だった筈で、他は掲示公開される50位までにはいない。

 

加えて那波、近衛、朝倉も100位基準点前後だったらしいが…他がよろしくなかったらしくブービー賞だ。

 

まあ、クラスの順位なんてどうでもいいが24クラスで、4人が上位十位に入っておいてこのありさまって…と思わんでもない。

 

 

 

そして中間テストが終われば麻帆良祭だ。

 

ロボ研ではパレードへの恐竜ロボットの出展とその展示、

 

さらに、この前超と相談したように資金調達のためにお料理研究会との共同で、

 

飲茶兼休憩所である超包子(クーが言い出した名称を超以外の主要メンバー全員一致で決定した)の運営、

 

保険で大会に出るための準備(一般人の前で戦えるレベルの確認や大会調査等)

 

そして、クラスの出し物。

 

恐ろしい事に、私達1-Aは超包子と協力でやる中華飯店になった。

 

意図していた事ではないが、五月の料理が食べたいと言い出した双子の発言から、

 

紆余曲折し、超が介入した結果気付けばこんな決定が下された。

 

大規模仕入れによる原価抑制、統一感を出しつつも異なるコンセプトの姉妹店…

 

 

 

一応、双方にメリットがあるwin-winの関係ではあるか。

 

私達に割り当てられた役割は

 

超は総指揮、聡美が設備主任、クーがウエイトレス兼用心棒、五月が総料理長だ。

 

私?クラスの方は仕込みがメインで当日は殆どシフトから外してもらったよ。

 

…超包子でこき使われることが確定していたからな!

 

まあ、そんな感じのハードスケジュールの合間に聡美と遊びに回れる時間は確保できそうでうれしい。

 

 

それはさておき、新規事業の宣伝はなんだって苦労がつきものだ。

 

そこで私たちがやったのはべたな手段ではあるがお試し価格での販売だ。

 

宣伝費と割り切って原価割れぎりぎりの値段で文化祭準備期間の夕方、

 

小腹がすく時間帯に協力してサークル単位でいるところに肉まんを売りに行く。

 

できれば雑談してクラスの中華飯店と超包子の宣伝をし、チラシを渡す。

 

味に自信があれば有効な手段だと私も思う。

 

手前味噌ながら、麻帆良内で売っている中華まんのランキングを作ったら上位五位くらいには入るであろう、

 

私も試作から(主に味見で)協力している超包子自慢の一品だ。

 

そこに、空腹という最高の調味料が加わってさらに高評価となるわけだ。

 

麻帆良祭当日もその肉まんはテイクアウトありで販売する予定である。

 

まあ、若干薄利多売ぎみではあるが、肉まんだけでも利益は出る計算になっている。

看板商品というやつである。

 

 

 

 

 

 

そして・・・私は、エヴァに示した答えと向き合う事になっていた。

 

「さて、正式な話し合いの場を設ける前に意思確認・・・というか進路相談をしようか。長谷川君」

 

「はい、高畑先生」

 

そう、高畑先生との進路相談である。

 

私はマスター、エヴァにより魔法を深く研究するために多くの資料にアクセスしたい・・・と申し出た結果でもある。

より端的に言えば、より深く魔法を研究するためにはあちら側に身を寄せる必要がある・・・それだけの事である。

 

「まずは現状の意思確認なんだけれども、もっと魔法について深く研究する為にこちら側・・・魔法使い側に所属したい、という進路相談でいいんだよね」

 

「そうです」

 

私はそう言ってうなずいた。

 

「僕自身は良くわからないけれども、確かに君たちの提出した論文の評判は良いし・・・まあ、エヴァもなんだかんだ言って、学園長の信用はあるから彼女の口添えがあれば、君を魔法使いとして迎え入れる事自体は問題ないとは思う。でも・・・」

 

そういって高畑先生は真剣な顔をして続けた

 

「本当に良いのかい?二人・・・葉加瀬君と超君を置いて、君だけこちら側に来ると言うのは」

 

「はい」

 

そうだ。私が、私だけがあちら側に身を投げる。私は、知りたいのだ。

例え、二人と道を違える事になろうとも。

 

そう、私たちは決めたのだ。

 

 

 

 

 

「本気か、千雨サン。というかエヴァンジェリン相手にそんな事をしたとか正気か貴女は」

 

若干の怒りをも含んだ困惑・・・を主とする複雑な感情を湛えた表情で超がそう言ったのはあの選択の夜から生きて帰った翌晩の事だった。

 

あの日、身辺整理を済ませて出立し、エヴァンジェリン邸から朝帰りをした私は、同じく研究室から朝帰りして開封された私からの手紙を抱きしめて泣きそうになっていた聡美に迎えられ、しこたま怒られた。うん、エヴァ相手にちょっと意地張ってくる、死んだらごめん。なんて内容の手紙を見つけたら私だってそうする。

 

それから昼前まで二人で散々思い出話を交えて話し合った結果、一つの事実の確認と、合意に至った。【聡美は『魔法の工学的応用』に、私は『魔法の理学的解釈』に興味がある】という事実と、だからこそ【聡美は科学側に、私は魔法側に身を寄せるべきである】という合意に。

 

「ああ、本気だ。正気かは・・・すまん、わからん」

 

「っ!ハカセもいいのか!千雨サンがあっちに行ってしまっても!」

ああ、流石は超、良くわかっている。私のこの決断を翻意させ得るのは唯一聡美だけである。

 

「・・・良くは無いですし、納得もしていません」

「なら!」

「ですが・・・ですが私には止められませんし、もう止めません・・・だって、理解してしまったから・・・それが私たちのあり方です、超さん」

 

聡美が食いしばるように、そう言葉を吐いた。

だからこそ、ずるいとわかってはいても、三人で話し合う前に二人だけでしっかりと話し合ったのだ、決意が揺るがぬように・・・ちゃんと話せば仕方の無い事だと理解はしてくれると信じていたから

 

「すまん、としか言えない。でも、私はもっと魔法を研究したいんだ・・・わかってくれ・・・それに、茶々丸のアップデートや妹たちの開発、ほかのロボ研の活動から引退するわけじゃないし、機密度の低い魔法の研究なんかは今までどおり一緒にできるんだから・・・な?」

 

というか、むしろ超がここまで反対するとは思わなかった・・・そうか、聡美の態度から予測していた最悪の予想、あたりかな。

 

「それが・・・それが私と・・・いや、私とハカセと敵対する道だとしても…か?」

 

縋り付く様に、そして搾り出すように、超はそう言った。

 

「ああ。と言うか、麻帆良の最高頭脳の名が泣くぞ、超。ソレ、魔法使い側に与えたらまずいパズルの一ピースだろうが。

 

私が所属を変えただけで敵になりうる事って一つしかないわけだし…まあ、ダチを売るほど私も薄情じゃねぇし、売らせるほど魔法使いたち…いや、学園長たちの一派は外道でもねぇだろうけどさ」

 

私が所属の違いで例え義務的にでも敵対せざるを得ない事…それは魔法の秘匿位である。

 

「それでも…それでも貴女には味方でいて欲しいという事ヨ、千雨さん…ハカセの為にも…せめて後、三年、待てないか?」

 

三年…つまり、この前の話の最短計画である2005年の麻帆良祭か

 

「無理。それができるなら小4からロボ研に所属したりしてねぇよ、私も聡美も。

 

もちろん、明らかな違反行為でなければ協力はするし、不自然な資金・物資の流れも見逃すし、茶々丸や妹達の強化も手伝う…それが何に流用されようとも、だ。

それに、能動的に二人の邪魔もしないし、極力中立を保てるようにも振る舞うし、無理矢理巻き込んでくれても…まあ、怒るかもしんねぇけど、恨みはしねぇよ、オコジョにされても…例え死んじまうはめになってもな」

 

そういってエヴァから分けてもらったギアスペーパーを取り出す

 

「これで私を縛れ。それで妥協してくれねぇか?超」

「…いらないヨ。そんなもので出来る限りの協力は惜しまないと言ってくれる友を縛らねば成功しない計画など失敗すればいい」

「待て。袂を分かとうっていう元仲間相手にそれは緩すぎるだろう。

時を超えてまでかなえたい願いがあるんだろうが、躊躇うな!超鈴音」

「違う、違うよ、千雨さん…計画が成功した後にこそ、貴女とハカセの力が必要なのだよ…最悪、代替の手段が無いわけではないが、しなければいけない綱渡りの難度が大きく変わる…だから、貴女との友情に賭ける…そして約束してほしい。計画が成功すればその時は私と共に来て欲しい」

「まったく…わかったよ、魔法の暴露…かな?その計画が成功したと私が確信した時は、お前と共に行く事を誓う、超。まあ、目的次第ではその後裏切らねぇとは言わないが…そうならないと思っているから誘っているんだろう?」

「ああ、本当ならば今すぐ全てを話して説得したい位だが…きっと聞いてくれないだろうからネ…ならばお互いの安全の為にもこれ以上は話すべきではないヨ…な、ハカセ」

「ええ…千雨さんなら、そこまで進んだ後であれば協力してくれると信じています。だから…一度、お別れですね、再び道が交わるまでは…たとえそれが平行な道だとしても」

 

そう、私達は決めたのだ…私は、超の計画の第一段階とやらと距離を取る、と

 

 

 

 

 

 

「…意志は固いようだね、わかった。ならば学園長との面会の場は用意しよう。求める立場はできるだけ自由に魔法の研究ができる立場…一応外様の魔法関係者扱いとかになるとは思うけれども希望はあるかな?」

 

「できれば…機密度の低いものに関しては聡美…いえ、葉加瀬さんや超さんと今迄みたいに研究ができればうれしいと言えばうれしいです」

「うーん…気持ちはわかるけれども、この前の論文も協力者扱いの派生って事で許された感じがあるものだし…でも相談はしておくよ」

 

そうした経緯での交渉の果てに、私は外様の(非関東魔法協会所属の)魔法関係者と言う立場を手に入れる事が出来た…後見というか後ろ盾がもろエヴァなんで、学園長や高畑先生以外からは警戒される事となったが。

 

 




今回はルート分岐の明示回です。

そして千雨さんは一応クラスに馴染んじゃっているので千雨ちゃんと呼ばれています。

勉強会に参加したのは自覚があって曲がりなりにも勉強する気のある面子です。

…よって夕映や刹那は来ていません。

千雨の料理の腕前は『一般人としては上手い、経験が少し足りないけどセンスは磨けばプロでやっていけるかも?』くらい。

クーが超包子の名称出したというのは完全捏造です。
そもそも『包子』は『具入りの中華まんじゅう』の事を指すので飲茶店の屋号としては不正確なので、この肉まん、スーパー肉まんだよね、位の気持ちで発した言葉が拾われた感じです、実は。

超一味だと思っていた?残念、袂を分かつのだ…というのは元々のプロット通り。
まあ袂を分かつと言うよりは当人のやりたい事をやる為に魔法使い側に接近するので計画中枢から外れる、と言うのが正しいですが。本気で魔法戦闘だとか研究だとかをするのに協力者扱いのままというのもあれなので。まあ外様扱いであんまり中枢には近づけないわけですが、魔法界で共有されるような知識には触れられるようになるわけですね…もろエヴァンジェリン子飼いなんで、一般魔法生徒・魔法先生からの警戒度はMaxですが。そういう意味で超・ハカセへの警戒は相対的に下がっています。

そして超は何割か打算でああしています。千雨さんをより強く縛れるのは契約などではなく、情であるという理解ですね。そういう打算の部分がなければ、友を信じたいと思いつつも最低限はギアスペーパーを使った事でしょう。
また、計画成就の後にこそ千雨さんとハカセが必要、とは単純に信頼できる仲間と言う意味と、電子戦・ネット世論操作の技量、技術開発面での能力等々です。何より、科学と魔法と双方に通じた人物が欲しいというのもありますね。
(ええ、必要ですとも、ネギ君が一度失敗した世界線の方の超さんにとっては)
千雨ちゃん、計画とやらの中枢が魔法の秘匿を打ち破る事、そしてハカセは魔法の工学的応用の成果共有の為に(茶々丸ちゃんの魔力動力炉技術のデットコピーだけで世界は大きく変わります)協力しているんだという理解です。たぶん、原作でもハカセはその辺りが友の為系以外では主な理由でしょうし。

えっ、千雨さん、ソッコー裏切っているやんって?
一応、超の告白からは一カ月たっていますし、本来の本年度計画分では協力継続していますし、そもそも、背中差すつもりはゼロなんで裏切りではないですよ? 割愛予定ですが、馬車馬の如く働きましたし、麻帆良祭でも。


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幕間
15 幕間 あるいは二度と戻れぬ幸せな二年間


・掛け替えのない時間

「うー千雨さぁん」

 

親友の珍しく…私が魔法側に行くと言った時よりはマシにせよ…辛そうな声

 

机に突っ伏した聡美がそんな声で私に呼びかけたのは麻帆良祭が終わり…超の計画を上回り、あくまで超包子の自由にできる事業資金を含めてではあるが、超は1000万を超える資金を手に入れた…少し経った頃の事だった。

 

「どうした、聡美」

 

とは言ったものの、大体の事情は察していた

 

「千雨さんに研究の相談ができないのがこんなに辛いとは思ってもいませんでしたぁ…」

 

最近、超と聡美は私に隠れて何か…おそらくは計画の中枢の実行に際して必要な技術開発…を始めているようなのだ。まあ、私にはいえないだろうな、そりゃあ。

 

「あーまあ確かに、詰まった時は私が聞き役で問題の整理とかするのが当たり前になっていたからなぁ…」

「と、言うわけで今晩は私達の研究に関してのお悩みに付き合っていただきます」

「…いいのか?私にそんな話をして」

 

あんまり暴露されるとお互いの安全のために散々、聡美と超を泣かせて袂を分かった…というと少し大げさだが、魔法使い側に接近するにあたって超の計画の主要部分に不参加として距離をとる事にした意味が無い。

 

「良いんですよ、超さんも私のコンディションが良くなるなら計画中枢に関わる研究の具体的な内容を暴露しなければ千雨さんになら話しても良いって言っていましたから…がんばってぼかします」

「なら、付き合おうかな、私も少し話したいアイデアがあったし」

 

ロボ研や本流はともかく…私が強さを求めてやっている研究については決して話せないけれどもな

 

そう言った本心を隠し、私と聡美は抽象的な方法で闊達な議論を楽しむのであった。

 

 

 

・一騎当千

「だぁーうざい!私に群がるな!クーと違って私は嬉しくないと何度言わせる!」

そう叫ぶ羽目になったのは、麻帆良大運動会、総合格闘の部で3位をとって数日後の話であった。一応、外様とはいえ魔法使いにジョブチェンジした事であるし、表の大会からは引退しようと考えていたのだが、気の出力調整と格闘技術のみの使用を条件に学園側からは出場を許可され…マスター、エヴァンジェリンからはむしろ出場を求められてしまったのである。

準決勝で負けてしまったが、それでも優勝者とまともにやりあえた二人の中学生…私とクーとその優勝者を倒して名を上げようと野良武道家たちがそれぞれに群がってきていたのである。

優勝者は強すぎて手も足も出ず、クーはどちらかと言うと剛、私は柔よりなのでその違いもあって私にまで群がってくる始末である…去年は流石に初等部優勝者に群がるほどアホは…少なかった…そう、いなかったわけではない。で、今年は見事に群がってきたわけである。嫌がっていれば大体、広域指導員の先生方に制圧されて数日でおわるのであるが…メンドイ事に違いはない。

 少し本気出すか…と、私は鉄扇を取り出し、比較的優しく投げ飛ばしたにもかかわらずまた向かってきた連中に痛い目を見せてやるのであった。

 

 

 

・研究発表

「説明をお願いできますか」

 

そう、声をかけられたのはイギリスのウェールズ、メルディアナ魔法学校での事だった。

私は今、今年の基礎魔法研究会の国際会議に参加するためにこの魔法学校を訪れており、先日速報誌に掲載した内容、『科学的データを併用した占い魔法の可能性:理論的考察と気象予測における応用例』でポスターセッションへの参加をしているのであった。

この学校は非魔法社会的には初等学校に相当し、英国魔法界の慣習では、卒業後に師の元で表向きの社会的地位を確立すると共に更なる研鑽を積む…というのが一般的なエリートコースらしい。

なお、この研究自体は聡美、超、エヴァとの4人での研究…とはいえ魔法的な部分は機密的な意味で私とエヴァの担当…なのだが、私以外は参加ができない為に、単独参加である。

 

「はい、それでは説明させていただきます」

 

私は解説を求めてきたのが10歳位の鼻眼鏡をかけた赤毛の少年と連れの少女、おそらくはここの生徒であろう幼い魔法使いにできるだけ噛み砕いた説明を始めた…それはすぐに間違いだと気づくのであるが。

 

 

 

「ご説明ありがとうございました。いくつか詳しく伺いたい点があるのですが…」

 

そう言って、少年はこの研究の本質…科学的データによる演算的予測の精度・確度の向上の為に確率論的部分、あるいはカオスと呼ばれる部分に占い魔法を用いる…を理解している事を示し、分かりやすさを優先して省略した部分の説明を求めてきた。

 

「失礼しました。よろしければ、改めて専門的な話を交えて再度説明させていただきます」

「お願いします」

 

説明を終えた後の彼…ネギ・スプリングフィールド君との議論は極めて有意義であり、お互いの連絡先を交換する事になった、とは言っておこう。

 

 

 

・生存の為の努力、あるいは狂気

「…正気か?貴様」

 

そう、マスター、エヴァに言われたのはある種のオリジナル…と言うと少しおこがましいが…技法を開発し、その試作が施された背中を見せた時の事であった。

 

「駄目…ですかね?」

「いや、駄目とかそうでは無くてだな…正気かと聞いたんだ、私は」

「あーちょっと自信は無いですが、たぶん正気です」

 

個人的には操糸術のちょっとした応用のつもりである、正気であるかは断言しかねるが。

 

「無茶苦茶痛くなかったか?」

「あーまあ一応、施術時には塗り薬の麻酔調達してやったので我慢できないほどでは…」

「全く…魔導糸での陣構築までは考えるやつは偶にいるが…何をどう考えたら皮下に埋め込むという発想になるんだ…それも実用化するとは」

 

そう、私は今、背中に魔力伝導に優れた糸を用いて皮下に魔法陣を入れ墨のように仕込んであり、これを用いて今の私がギリギリ実用に足る程度に使いこなせる攻撃魔法、白き雷を呪文名のみの短縮詠唱で行使して見せた。当然、これは普段の私ではできない事である。

 

「入れ墨だと社会性生活上、色々問題ありますし、糸なら除去と再施術もそう難しい事ではないので…多少痛いですが、麻酔を使えば言うほどではないですし」

 

痛くなかったといえば嘘になるが、手元が狂うほどは痛くなかった。まあ、発動時は結構熱いが。

 

「符術や触媒で良いだろうが」

「いや、符や触媒を持ち歩くのは荷物が増えますし…なんかつまらないし…何より高価なので…後は将来的には色々考えている事もあるので」

「はぁ…全く…まあ、発想は悪くないし、アリと言う事で良いんじゃないか?私の切り札みたいに魂に悪影響があるほどのものでもないしな…あいつ等には見せるなよ、コレ」

 

そう言って、マスターは私の背中をぺしっと叩いた。

 

 

 

・世界樹のヒカリ

「なー超〜」

「んーどうした、千雨サン」

 

こんな気の抜けた声で会話をしていたのは、二年の秋の大運動会…今年の武道大会はクーが準決勝で去年の優勝者を、決勝で私をそれぞれ破り、優勝した…が終わって暫くした頃、ロボ研で茶々丸のメンテナンスをしていた時であった。

 

「2つ報告…というか報告1つと助言が1つあるんだけどさ〜どっちから聞く?」

「…なんかいやな予感ガするけれど…報告から頼むヨ」

「おう…前に話した気象予測の研究あるじゃん、アレで知り合ったって言っていた少年覚えてるか?」

「あーなんか修行で日本にくる事になったとか言ってタ、ネギ少年カ」

「うん、そいつだけど、来るの麻帆良にだってさ」

「ほぅ…ならば千雨さんと共同研究ができるじゃないカ、私達とも仲良くできると嬉しいネ」

「いや…なんか少年、教師をする事になったらしくて時間は取れないかもしれないってさ」

「ほほう…相変わらず魔法使いたちは無茶をする…ローティーンの教師とは」

「…いや、確か、今、数えで9歳って言っていたからローティーンですらない…流石に年齢偽装位するだろうけどさ」

「はっはっは…もはやギャグね…それで助言とは?」

 

超が超包子の点心をつまみながらたずねる。

 

「あーうん、まだ確実じゃない…と言うかこれからの観測次第だが…世界樹の大発光…魔力放出現象、一年早まって来年になる可能性がある」

 

ブフォッ

 

あ、超が茶を噴出した。

 

「ち、千雨サン、それ、どういう事か!」

「いやな?ちぃとわけあって…というか出鱈目な仮定を打ち込んだ場合の未来予測の研究をかねて世界樹の発光周期について占ったんだけれどな…正しいデータで占った場合でも、来年の麻帆良祭で大発光する確率が30%位ある。だから、万一の場合はプランを繰り上げられる様にするか、代替プランを走らせられるようにしておくか、しておいたほうが良いぞ。たぶんお前が跳んで来た時になんかあったんだろうけどな」

 

正式には聞いていないが、大発光時に何かしでかす計画なのは予想がついているからな。

 

「…ウム…一応、もっと低い確率で起きうるとは考慮はしていた可能性の1つではあったが…そこまで高確率になっているか…いや、早めに情報を得られて助かる…二人のおかげで順調だから何とかなるネ…たぶん。良かったのカ?私にそんな事を話して」

「できる限りは協力するって言っただろ?それに、コレは私の研究を話せる範囲で話しただけさ、だろ?」

 

超の質問に私は飄々とした雰囲気でこう答えた

 

 

 

 

 

・うわさの真相

「で、最近の吸血鬼のうわさはマスターって事で良いんだよな?」

「何だ、藪から棒に…」

マスターとの手合わせの合間に、私はそう聞いた。

「んーたぶんマスターだとは思うけれども、一応、マスター以外の何かだったら幾つか呪紋を刻んでおかないといけないかなーと思っただけ」

「…私ならいらんのか?いい度胸だな」

「マスターが私の血を欲するなら態々襲う必要ねーだろ…」

「なるほど…まあ、私以外に吸血鬼はこの麻帆良におらんはずだ、とは言っておこうか」

「りょーかい。退治されない程度にな…多少授業料増やすくらいなら協力するからさ」

「ふんっ…まあ気持ちだけもらっておこう」

 

 

 

 




・あとがき
原作までの2年弱をかっ飛ばす為の短編集でした。原作編が進んでネタが増えれば加筆するかもです。
 思いついたからって皮下に糸を仕込んで魔法行使の補助にするかって?やっちゃうからこそのうちのチウちゃんですね。ふつーはしません、符術とか触媒とかで十分なので。ただし、千雨さんは発展的にやりたい事があったので試作して、実用化しました。
で、これはプロトタイプで原作開始頃にはもう少しえぐい事になっています、麻帆良祭編のラストの超さんほどじゃないですが


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ネギ着任編
16 ネギ着任編 第1話 ネギ・スプリングフィールド


年も冬休みも開け、ネギ少年から来月…2月某日に此方に着任するとの連絡をもらった頃、私は学園長からの呼び出しを食らう事となった。

 

立派な扉をノックし、名前を名乗る。

 

「失礼します、本校女子中等部2年A組 長谷川千雨です」

「ウム、入りなさい」

 

促されて入室すると、学園長先生と共に、担任の高畑先生、副担任の源先生がいた。

 

「忙しい所、呼び出して済まんの…早速なんじゃが、ネギ・スプリングフィールドと言う名に聞き覚えはあるかの」

 

学園長の問いに私は素直に答える。

 

「はい、メルディアナでの国際会議に出席した際に知り合ったしょ…いえ、元メルディアナ校の学生で、時々連絡を取っています。近々ここ、麻帆良に教員として赴任する予定と聞いていますが」

 

高畑先生が魔法関係者なのは知っているが、源先生は分からなかったので年齢を伏せるように言った

 

「ウム…そのネギ君何じゃが…ここが魔法使いの多く住む街である事を秘密にして欲しいのじゃ」

「…と言いますと?そもそも、私も外様ですのでどなたが魔法関係者かは詳しくは存じ上げませんし、正確な実情を把握しているわけではありませんが…」

 

公式に私が知っているのは、連絡役の高畑先生、予備連絡先の明石教授、他、2-Aの生徒たちに複数名のお仲間(外様の関係者数名とエヴァ)…である。おおよそ間違いないだろう、位の確信している相手は他にもいるが。

 

「文通で色々聞いておるとは思うが、ネギ君はこの街に修行に来る事になっておっての、ここが魔法使いの拠点と知ってしまっては自立心を養うのに不都合があるからの…

まあ、長谷川君とエヴァンジェリン…と、従者の茶々丸君、あと共同研究者の葉加瀬君に超君はネギ君が名前を知っておるし、それに高畑先生とワシが魔法関係者じゃと知っておるから、多少ならば問題ないがの…と言うのが一つ目じゃ、これは良いかの?」

 

「はい、分かりました。極力、麻帆良が魔法使いの拠点である事は話さないようにします。2-Aの他の生徒…龍宮真名や桜咲刹那に関しても話さないように、と言う事でよろしいでしょうか」

「うむ、本人たちから話さぬ限りは秘密にしておくれ」

「分かりました」

 

「次なんじゃが…当日まで秘密じゃぞ?」

「…はい?」

思わず首をかしげる

「実はの…ネギ君の赴任先、本校女子中等部の2年A組…長谷川君のクラスの担任として、なんじゃよ」

「えっ…」

 

思わず絶句する

 

「じゃから…その、フォローを頼みたいんじゃが、同時にあんまり甘やかしたり、暫くはおおっぴらに仲良くしたりせんで欲しいんじゃよ…」

「アッハイ…えっと…中身が9歳の青年のフォローをするんですか…?あっいえ、当然、高畑先生や源先生の補助とかそういう意味だとは思いますが…」

学術面での中身と魔法界での礼儀はともかく、ネギ君の一般社会の常識とか、私は知らんよ…?

「青年…?ああ、いや、特にエヴァンジェリンの使うような幻術は使わんから少年のままじゃよ。もちろん、高畑先生、源先生、他の関係者からもフォローはかげながら入れる。長谷川君は生徒の立場から無理のない範囲でフォローしてあげて欲しい」

「…アッハイ…一応、巻き添えオコジョは勘弁してくださいね…?」

 

いや、せめて年齢詐称位しようよ…と思うが下手にボロが出るよりは子供先生で押し通したほうがましなのか

 

「そんなに心配しなくても大丈夫じゃよ…たぶん。

と言うかオコジョ刑はよほどの大規模暴露か、故意ないし重過失や度重なる再犯でなければせんし…あ、コレもネギ君にはヒミツで頼む、魔法学校卒業生は割ときつめに脅されておるから緊張が緩むのもアレじゃし」

「分かりました…特に朝倉には気をつけますが、報道部関係は特に警戒をお願いします」

「うむ。ワシからの話は以上じゃ。高畑君、源先生は何かあるかの?」

「いえ、特には」

「僕からもありません」

「それでは、長谷川君からは何かあるかの?」

「あー実は…ネギ君…いえ、ネギ先生と暇ができれば共同研究なんかをする約束をしているんですが…そのあたりはどうしましょう」

「ふむ…まあ、年度が変わって暫く経つまでは忙しいじゃろうが…暫くは機密度の低いもの…超君たちとの研究を許している辺りまでにしてくれるかの、アレくらいの基礎分野であればネギ君に魔法部分を担当してもらっても良いが、あまり危険なのは避けておくれ」

「分かりました、そのようにします」

まー流石に半分外法なモノの開発に協力させるつもりはないし、問題ない。

「他にはないかの…では気をつけてな」

 

学園長にそういわれ、私は礼をして退室した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学園長、本当に良かったんですか、彼女、エヴァンジェリン一派ともいえるほどですよ」

千雨が退出し、距離をとったのを確認して隣室で様子をうかがっていた複数の魔法先生たちが学園長室に入室する。

「仕方ないじゃろう、単なる顔見知りならともかく、文通までして互いの所属を確認しておるんじゃから不干渉にさせるわけにもいかんし…きっちりと身分を得て関わっておる上にエヴァンジェリンのお気に入りでもあるから下手に手は出せんしの…事前に協議した通り、何かしらの策謀の駒にされる前に此方から楔を打っておくにとどめるのが一番じゃ」

「それに、彼女自身はああ見えて情に厚いタイプですからああ言っておけば、元々交流のあるネギ君を助けてくれるでしょうし」

担任であり、魔法先生としては彼女を一番良く知っている高畑がそうフォローを入れた。

 

「…まあ、譲れない条件に、友人である要注意生徒の超鈴音一派への内偵は決してしない、と言うくらいに友人を大事にしているのは分かりますが…同時にだからこそエヴァンジェリンへの情がネギ君への情を上回った場合…その、もしもがあれば危険ではないですか?」

「まあ、ネギ君に年齢詐称させないのはエヴァンジェリンへの備えもあるからの。あやつは女子供には甘いし…まあ共同研究なりで交流を持たせればむしろネギ君の安全にも繋がろうて…別に無策で放置するわけではないし…の」

 

千雨の知らない所で魔法先生たちの会議は続く…

 

 

 

そうして、時はさらに進み、2月某日…2年A組の教室はざわめきに包まれていた。

 

 

 

「あーついに今日か…」

ネギ少年…もとい先生の着任日がついに来てしまった。知り合いの誼で無理のない範囲でフォローするのはいいが…私はネギ先生の普段を知らないので非常に不安なのだ。

 

「ん?千雨ちゃん、なんかいい情報持っている感じ?」

「おい、朝倉、何で私がうなだれているとそういう事になるんだ」

「いやぁ…タイミング的に、アスナと木乃香が迎えに言ったって言う新任の先生についてかなーって」

「あー」

そう言って私は時計を見る…もういいか。少しだけなら

「実は、ちょっとわけあって先に知っちゃったんだが…二つある」

「ほほぅ?」

「が、まあ…1つは分かっていると思うが、新しい先生、って言うのは二人が迎えに言った新任の先生って話だな、ちなみにうちの担任扱いらしいぞ」

「ほうほう…まあ、新任の先生と玉突きで別の先生が来る可能性もゼロじゃないからネタ的には悪い話じゃないねぇ…それで、もう1つは?」

朝倉が興味津々と言った様子でペンとメモを手に迫ってくる。

 

ガラリ

 

と、扉が開いて、アスナと近衛が入ってくる

 

「まったくあのガキゃぁ」

「まあまあ」

 

こんな会話をしながら…うん、ネギ先生、あの場での紳士的な学者の顔はどこに行ったのかな?と言うか、一体何をしでかしたのかな?

 

「…うん、急ぐならあの二人に聞くのが確実だけれども…子供なんだわ、その先生」

「…飛び級したって事?」

「詳しくは(どういう設定になっているのか)知らないけれど…10歳くらいだな、その先生」

「マジで?まじもんの子供先生なの?」

 

コンコン

 

と、ノックが聞こえる

「マジだよ。ほら、すぐ分かる、席着け」

「あ、うん」

 

朝倉を席に戻し、着席したと同時に扉が開き、ネギ先生が入ってきて…黒板消しが頭に落ちて行った…が、魔法障壁らしきモノで受け止めてしまった

 

「(オイィィィィィィネギ少ねぇぇん)」

 

心の中で、私は思わず叫んでした…まあ、粉が炸裂していたので認識阻害結界が余裕でごまかしてくれる範囲ではあるが疑いを持っていたらアウトなレベルではある…魔法関係者、ほとんど唖然としているじゃないか…

 

「…まずくないですか」

隣の席のユエが呟いた。

「…何がだ…?」

ユエは関係者ではないはず…だけれども?

「鳴滝姉妹と春日さん、連続トラップしかけていましたよね?…その、子供先生相手に」

あっ

気づいて止めるよりも先にネギ先生は一歩を踏み出し…連続トラップに最後までかかって行った。

 

ひとしきり笑われた後、子供だと気付いて謝られ、源先生がネギ少年こそが新任の先生である事を宣言した…そして自己紹介の挨拶でまたやらかしやがった

 

此奴、英語じゃなくて魔法と言いかけた…魔法の修行と言いかけたのかどうかはともかく、わきが甘すぎるだろうに…いや、魔法使いコミュニティーで生きてきた少年ならばこんなもんなのか…?

 

そして…クラスの連中にもみくちゃにされてからアスナに胸ぐらをつかまれて黒板消しの件を問い詰められていた…

 

アウトだよ、おい、赴任初日にほぼ魔法バレてんじゃねーか。私、フォローも何もする暇なく、ネギ少年、魔法バレしてんじゃねーかよ…これ下手にフォローしようとした瞬間、道連れオコジョルートじゃねーか?

 

その後、委員長のフォロー…というかアスナとの喧嘩がはじまって…何とか授業が始まったと思ったらアスナのアホが消しゴムを弾にしてネギ先生にぶつけ初めて…委員長がネギ先生にある事の後にない事を吹き込み初めて筆箱を投げつけたらまた喧嘩になって…授業は無残な終わり方を迎えた

 

ネギ先生の歓迎会の相談をしつつ…高畑先生には報告しておいた方が良いと休み時間に高畑先生に状況を報告した。

 

「ネギ君…初日から…」

「あの…すいません、何もフォローできずに…何かお手伝いする事があればしますよ…アスナの呼び出しとか」

 

暗に、記憶処理や暗示強化なんかをするならば呼び出しは手伝うとは言っておく

 

「いや、まあアスナ君は最悪バレても大丈夫な相手だから今はまだいいよ…僕も気を付けてはおくけれども、長谷川君も無理のない範囲で良いからフォローや報告よろしくね」

「はい」

 

神妙な顔で私は頷き、教室に戻るのであった。




ネギ君が色々やらかした事を察して頭の痛い千雨さん会。ネギ君の方は、千雨さんがクラスを伝えずにロボ研としての所属室を訪ねて欲しいと伝えてある為と、眼鏡付きかつ学会時とは異なる髪型・制服でまだ気づいておりません。もう少し年上と勘違いしているのもありますが。


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17 ネギ着任編 第2話 再会

授業が全て終わり、ネギ先生を呼びに、そして(準備が済むまで)足止めしに行く係に立候補した私は、職員室を訪ねたが、先生は不在だった。

一度教室に戻り、その旨を伝えた後に、ネギ先生を探しに出た。

幸い、噂になっているネギ先生を追跡するのは極めて容易で、最寄りの礼拝堂近くの大階段下にネギ先生…とアスナ、そして大階段を下っているのどかを見つけた。

 

あ、なんかヤな予感がする

 

そう思った直後、のどかが足をまずい方向に捻って階段から落ちた。

助けに飛び出そうとした矢先、ネギ先生はあろう事か極めて目立つ大杖…まぎれて生きるんだからもっと目立たない発動体を持とうぜ…を構えてのどかに浮遊術らしきものを行使してからダイビングキャッチした…アカン、バレた…

 

そう思いながら様子をうかがっていると、アスナが杖ごとネギ先生を拉致った。

…うん、のどかにばれないようにその場で問い詰めなかったのはファインプレイだな…よし、とりあえずのどかのフォローをしようか

 

とすっ

 

大階段を飛び降り、のどか近くに着地する

「大丈夫か?のどか」

「あ…うん、千雨さん。ネギ先生に助けてもらったから」

そういって少し頬を染めた…うん、魔法バレ方面は大丈夫そうだな

「足は…痛むか?」

少し足を確認する振りをして一応治癒魔法をかけながら尋ねた。

「えっと…大丈夫…痛くないです」

「そうか、なら本を集めるのと運ぶのを手伝うよ」

「あっ…でも…」

「総合図書委員の雑用だろ?これ。私の借りた本もあるし、今度はネギ先生が助けてくれるとも限らねぇし…何より、私の役目、アスナがネギ先生拉致っちまったから役目も無くなったしな」

そういって気を引きながら…林の浅い所で問答をしているらしき気配を感じる…もっと奥行けよ、アホ

とは思いつつも、とりあえずはのどかと共に本の運搬を済ませるのであった。ネギ先生はアスナが足止めしているという連絡を入れた後に。

 

 

 

「…アスナさん、携帯教室に忘れて行っていますね」

アスナとネギ先生の戻りが遅いとアスナの携帯に連絡を取ろうとすると、アスナのカバンからコールが響く。

「もう一度探しに行ってくるわ」

と、下足ホールに降りた辺りでネギとアスナを見つけたので踵を返し、教室に戻った…誤魔化せている気がしないのでまだ巻き込まれたくない

「今さっき、下足ホールに戻ってきた二人が見えた。そろそろ来るぞ」

教室に戻ってそう報告すると、みんなが配置につく…私は聡美の隣に確保してもらっていた席に着いた…クーと超は騒ぐ方だからと席はいらんらしい

「まったく…ネギ少年が天才なのは確実ではあるが…非常識に過ぎるよ…全く」

「どうかしたんですか?」

「んーあとで話すよ…少し長くなるし」

聡美と話をしているとアスナの叫びと共に扉が開き、直後クラッカーが連弾で炸裂した。

で、アスナが歓迎会の事をすっかり忘れていたとかほざき始めた

「…さすがはアスナと言うべきか…」

「…歓迎会を忘れているとは…さすがアスナさん…荷物を置きっぱなしとはいえよく戻ってきましたね…」

二人して呆れるのであった。

 

 

 

「千雨さーん…ネギ先生の高畑先生へのアレって…」

「いうな…聡美…色んな意味でこう…なんと言うか…非常識だろ?

そもそも関係者相手にあんなあからさまな事して…天才と紙一重な方向も併せ持っているのか?ネギ先生…」

「うーん…そういう事じゃないですかねぇ…」

聡美と二人で高畑先生とずっこけるアスナの間を往復しているネギ先生…一応周囲にはサービスで認識阻害をかけておいた…を観察しているとついにアスナが教室の外に飛び出し、ネギ先生もそれを追い始めた。

「わり、ちょっと高畑先生と話して来る」

「いってらっしゃい、千雨さん」

 

かんっ

 

と靴を鳴らす動作で認識阻害の範囲を直すと高畑先生に声をかけた。

 

「…先生」

「…うん、完全にアスナ君にはバレてるし、こう、もうちょっと節度を持って欲しいよ…ネギ君…うん、僕の方からも注意しておくから…長谷川君はさっきみたいなフォロー、お願いしても…大丈夫?」

「はい…気づいた範囲でならば」

 

そんな会話をしているうちに、ネギ先生とアスナの追跡者たちが教室を後にし始めた。

 

「一応、見てきます」

「うん、お願い」

 

その追跡者…委員長と朝倉が筆頭…に交じってアスナたちを探しに行くと階段で向かい合って楽し気にじゃれているのが発見され、朝倉を筆頭に複数名が写真を撮影し始めた。

 

そして委員長がアスナに詰め寄って行った。

うん、大丈夫そうだな、と思ったらパニックに陥ったネギ先生が杖を振りかざして記憶を喪えと叫び始めた…魔法の行使すらできとらんのだけれども…アレで殴る気だろうか?と思ったらアスナが全員ノーパンにする気かとか叫んだので少しだけ状況が見えてきた。

もしかして、ネギ少年、パニックになって記憶消去ではなくて武装解除魔法でも使ってアスナを脱がせたのか…?そりゃあバレるに決まっているだろう

私はあきれながらその騒ぎから一度身を引いた

 

その日の夜は聡美相手にいかにネギ先生がやらかしているかの愚痴を長々とする羽目になった。

 

 

 

翌日、また一限目は英語でネギ先生の授業…だったのだが、授業そのものは悪くはない…というかまあ大差の付きようがない無難な授業ではあったのだが、その途中、先生がくしゃみをしたところ、アスナが脱げて下着姿になった。そして、アスナが殺意だけで人が殺せれば、と言わんばかりの勢いでネギ先生を見つめていた。

いや、世界樹の魔力のせいでこの辺りは魔力が濃いからかもしれねぇけどさ(魔力容量の大きい魔法使いが急激に魔力量が増えたりすると相性の良い系統…たぶんネギ先生の場合は風…の魔法がちょっとした事で暴発する事はあるらしいとか何かで読んだ)、魔力制御がガバガバじゃねぇか、暴発で武装解除とか…と言うかそれで疑いを持って、黒板消しで疑いを深めて昨日ののどかので確信したパターンか…あー関わりたくねぇ…でも、まあ文通友達でもあるし…多少のフォローはしてやるか…とはいえ、直接できる事もないし、高畑先生か学園長にでも相談させるか…とか考えながら放課後にネギ先生を探していると、

 

「こ、これがあれば惚れ薬みたいなのを作れるかも!!」

 

とか叫んでいるネギ先生に遭遇した…おい、惚れ薬って一応、違法薬物だろうが(成人向けの合意の元使用される媚薬やそーいう目的の短期の品は製造販売が許可制で、手に入れるすべはなくはないとか聞いたが、明らかにそういう用途ではなかろうし)…うん、お説教

 

パン

 

手を打って認識阻害を張り(ちなみに動作は気分でやっているだけで、実際はただの無詠唱基礎魔法である)、ネギ先生に英語で声をかける

 

『なぁーにをしているのかなぁ?ネギ先生?』

『え、えっと、25番の長谷川千雨さん?な、なにか』

 

なんと、あろう事か、私を認識できていない様である…髪型…はともかく、眼鏡を外すか。

 

『これでわかるかな、ネギ少年?』

『えっ、千雨さん?同姓同名の別人じゃなくて?』

 

髪型と眼鏡だけで同姓同名の別人だと思っていたらしい。

 

『そうだよ、メルディアナでの国際会議で出会って、君と文通していた長谷川千雨だよ、ネギ少年』

『うわぁ、お久しぶりです。でも、それなら昨日の内に声をかけてくれてもよかったのに』

ネギ少年が、喜びと若干の不満を浮かべてそう言った。

『…アスナに明らかに魔法バレしていたからな、アスナと一緒にいるときは声をかけたくなかった』

『そ、そんな事は…いえ、その…バレちゃいました』

ネギ少年がズーンといった表情でうなだれる

『はぁ…まあ、アスナには最悪バレても許容できるとか高畑先生は言っていたから即オコジョ送還はないだろうけれど…気をつけろよ?』

『そ、そうなんですか?』

ネギ少年は希望を取り戻した様子でそう言った

『ああ。と言うか、少年、実技も得意だったはずだろうになんで記憶消し損ねて…下着消す羽目になったんだ?』

『それが…よくわからないんですよ…なぜか記憶を消す魔法は正しく発動したはずなのにアスナさんのパンツを消してしまって』

『無意識にレジストでもされてそうなったのか?』

『と、考えるのが一番合理的ではありますけれども…それでもなぜそうなるかはよくわかりません』

『…まあいいか。でも魔法バレ自体は明らかに修業的にはマイナスではあるからどうするかはお前自身で決断するんだぞ、高畑先生なり学園長に報告するか、隠蔽しようとあがいてみるかは』

実際は、もう高畑先生は気づいているけどな

『はい…そうですね、タカミチに相談してみます』

ネギ少年は少ししゅんとした表情でそう言った…よしよし、いい子だ。

『うん、それが良いと思う…まあ惚れ薬云々は…アスナのご機嫌取りかなんかだったんだろうけれども不問にしとこうか、違法だけど』

『えっ、そうなんですか?』

『例外的な場合を除けば、そうだって聞いたぞ?』

『里のお姉さんたちは割とそういう話していましたけれども…』

『…規則の運用上、効能が低い物は見逃される…とかじゃないか?それ』

『ダメなやつじゃないですか、それ』

『うん、本来は駄目なやつだな』

 

うんうん、と二人で頷き合う。

 

『と、それだけじゃなくてだな…ネギ、今日の授業の時、くしゃみで魔法を暴発させてアスナを武装解除…だよな?アレ…していたよな?

そう言った暴発を防ぐ魔法具と…持っていないなら、人助けをする時に使える発動媒体を借りに行こう』

『えっと…魔法具と発動媒体…杖ですか?』

『発動媒体の方は、昨日、のどかを助けた事自体は良い事だと思うけれども、基礎魔法をこんな大杖で魔法を行使したら目立って仕方ないからな…袖口や服の陰で隠せる小さな杖とか指輪や腕輪みたいなのがあれば、便利だなと思ったんだけど』

『ああ、なるほど…それでアスナさんにもバレちゃいましたし…』

あくまで止めだけどな…とは言わずに心に止めて続ける

『後、ネギのくしゃみでの暴発は…まあ、魔力容量のでかい場合に偶にある症状らしいから対策用の何かがあれば、と思っただけで詳しくはわからない』

『あ…えっと…メルディアナでも、これは匙を投げられているんですが…一応、聞いてみましょうか…』

『…せめて、何か軽減策とかはないのか?』

『一応、魔力を消費すれば頻度と威力は下がるんですが…辺りかまわず魔力消費の大きい魔法を撃ちまくるわけにもいきませんし…』

『あーなら、そう言う射撃場を借りるとか何とかする相談になるかなぁ…ほら、行くぞ』

『あ、ハイ、千雨さん』

 

私とネギ少年は、そのまま、英語で麻帆良の事について雑談を続けながら高畑先生の元へと向かった。

 

結局、その日は高畑先生と少しお話をして、アスナの事は厳重注意という事と、射撃場か何かは高畑先生も考えてくれる…ぶっちゃけ、エヴァの別荘借りると言う手もあるのだが…という事で終わりとなり、ネギ少年…もとい先生をアスナと木乃香の部屋に送り届ける…前にロボ研としての研究室部屋に招待する事になった、なぜか。

 

 

 




千雨ちゃん、ネギ君の所業をフォローするの巻。
あんまり遅くならないうちに再開・合流をさせる為にちょうど良い介入点がここでしたので…ま、結局ドタバタはするんですがね。


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18 ネギ着任編 第3話 大浴場騒動

「聡美、いまいけるか?」

「はいはい~なんですか?千雨さん」

「ネギ先生連れてきた」

「あ〜いらっしゃいませ、ネギ先生」

「お邪魔します、ハカセさん」

丁度手が空いていたのか、呼びかけに応じて聡美が奥から顔を出してきた。

「おや、ネギ坊主か。いらっしゃい、奥には色々危ない物もあるから入るのダメね」

「はい、わかりました。超さん、お邪魔します」

「ええっと、長谷川さんが千雨さんって事はお二人も千雨さんの共同研究者のサトミ・ハカセさんとリンシェン・チャオさんって事で良いんですよね…?」

「ああ、この二人と、もう一人…うちのクラスのエヴァンジェリンが共同研究者だ…まあ、エヴァンジェリンは気難しいから無理に絡むなよ」

まあ、大丈夫だとは思うが釘をさしておく…これ又聞いていないが、エヴァがネギを見る目が少し気にはなっているので…

「はい。葉加瀬さん、超さん、千雨さんからお二人の事を聞いて、是非お話してみたいと思っていました。お二人はどういった研究をなさっているんですか?」

その後、ネギ先生…いや、ネギ少年との楽しい楽しい研究談義(魔法込み、科学分野中心、聡美の表向きの魔法の工学的応用メイン…ネギには二人はあくまで関係者扱いではないとの釘は刺したがたぶん、覚えていない)が続くのであった

 

 

 

結局、7時少し前にアスナ達にネギを引き渡した私達は、寮生食堂で感想戦をしていた。

「で、どうだった?ネギ少年と話してみた感想は」

「んー科学分野での知識は足りませんが…研究者としては間違いなく天才ですね〜ネギ先生」

「ウム、と言うか、どっぷり魔法社会で生きてきて私達の論文の価値を正確に理解できているだけでも頭の柔軟性は見るべきものがあると違うカ?」

「だろ?…まあ、ちょっと社会常識とかは要勉強って感じだけれども…」

「ハッハッハ…その辺りは外様どころか関係者扱いではない私達にはフォロー範囲外ネ…愚痴は聞くが」

「はい、千雨さん貯めこむと爆発が酷いタイプなんですから貯めこんじゃだめですよ? 愚痴なら聞いてあげますから」

「ハッハッハ…まあ…うん、本人にぶつけたから今日は大丈夫だよ…さすがに違法薬物生成する宣言はぶん殴りたかったけれども、本人、違法だってわかってなかったし…」

「うむ、それは酷い」

「ですね~」

認識阻害を張っているとはいえ、割とギリギリの愚痴を二人にぶちまける私であった。

 

 

 

「サテ、せっかく寮に戻ってきた事だし、大浴場でも堪能するカ」

「いいですね~行きましょうか」

「そうしようか」

食事と愚痴も終わり、一度部屋に帰って大浴場へと向かうのであった。

 

 

 

「お、エヴァも風呂か」

珍しく…(とはいっても月に指折り数える程度は利用している)エヴァが大浴場の更衣室にいた。

「ああ、千雨にハカセ、超か…珍しく早いな」

「アア、ちょっとネギ坊主と研究談義をしていたら研究のキリが悪くてネ」

「なので、早めに切り上げてこっちで夕食とお風呂なんです」

「…それと、ネギ先生が共著論文の件でぜひお話してみたい、との事なんで…もしかしたらそっちにも飛び火するかもしれない」

「…わかった、覚悟はしておこう」

そんな話をしながら脱衣を済ませて浴室に入ると時間のわりに混んでいて…そしてその殆どが2-Aの生徒だった。

 

…そして、なぜかネギ先生争奪スタイル比べとかがはじまっていた…相変わらずうちのクラスのノリは解せん…

 

「あーそういやさ、千雨ちゃん、今日、やけにネギ先生と親しげにお話していたって証言があるんだけどさ…内容は流暢な英語過ぎてよく解らなかったらしいけれど」

そのノリを無視して風呂を堪能していると朝倉がそんな話を振ってきた

「あ~風呂は良いよなぁ…」

「はい…疲れが抜けだして、代わりにアイデアの元が体に染み渡るようです」

「ちょっと、無視しないでよ千雨ちゃん!」

「悪い悪い…まあ風呂を堪能したいのも本当だけどさ」

そういって手をひらひらと降って誤魔化す。

「ま、ちょっと世間話をしていたら先生がロボ研での私らの研究に興味を持ってさ、研究室に招待して4人で少しティータイムを楽しんだだけだって…断じて、あっちのバカ騒ぎに参加する様な理由や内容じゃあないよ」

一応、これが先生と打ち合わせてあるカバーストーリーであるし、嘘でもない。

まあ、超はクーと合流した為か、楽しげにバカ騒ぎの方に加わっているが。

「で、あんたらの話についていけずにネギ先生が煙を上げた、と」

朝倉が茶化すようにそう言った

「いいえ?知識不足はどうしようもないですが、その辺りを説明してあげれば概略くらいは理解していましたよ、ネギ先生」

「えっ…うそでしょ?精神攻撃ともいわれる麻帆良三賢者の研究談義についてきたの?」

一度、ガチで三人だけでのディスカッションの取材テープが録音され、ロボ研のエース級の人間でもリアルタイムではついてこられないような代物が仕上がった事は、まああるが、それだけをもってそういわれると遺憾ではある。

「…あれは、好きに話せって言われたからそうしただけで…相手の理解度に合わせた話し方もできるからな?私達も」

隣でうんうんと聡美も頷いている。

 

ビターン

 

そんな音がしてそちらを向くと、腰にタオルを巻いたネギが水着姿のアスナに押し倒されている姿があった…オイ

一応、木乃香からネギとアスナが先に入って先に上がったらしいという話は聞いていたが、曲がりなりにも男…いや、まだ9才なのは知っているが…が女湯に入んなよ、英国紳士

「はぁ…まだ9才とは言え、ネギ先生を女湯に入れんなよ、馬鹿アスナめ…しかもちゃっかり自分だけ水着きやがって」

私はそう悪態をついて湯船に深く体を沈めた…一応、学者としては概ね対等な関係を結んでいるつもりの相手に裸を見られるのは勘弁願いたい。

「アレ?ネギ君って10才じゃなかったっけ?」

「数え年で、らしいぞ…いや待てよ?数えで10才って満年齢で8才じゃなかったっけ」

「えっと…誕生日がまだならそうですね」

「…ネギ先生って牡牛座らしいから誕生日はまだだよね…えっ…8歳なの?ネギ先生」

「まて、たしか1993年生まれって言っていた筈だから…単に周年と数え年を間違えているだけじゃないか?」

「あーうん…って事は、ネギ先生、どっちにせよ、まだティーンエイジャーですらないわけか…」

朝倉を交えて三人でそんな話をしていると、ネギがパニックを起こした様子で杖をひっつかんだのが目に留まった

 

オイ、魔法の行使は慎重にしろって言っただろうが、あのアホが

 

仕方なく、私は弱い気弾を、指をはじく動作でネギに放った

すると、ネギはパニックか何かは収まったようで、とんでもない事を言い出した。

 

「ボク、アスナさんと一緒の部屋がいいです!」

 

いや、私は被害対象外なのでどうでもいいが。

ネギ先生の燃料投下により、これまた盛り上がった祭りではあったが、結局は学園長の指示が優先という事で現状維持…ネギは当座、アスナと木乃香の部屋に住むという事が確定した

 

 



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19 ネギ着任編 第4話 師弟の会話と避球狂騒

「で、どうなんだ、実際のところ、ぼーやは」

大浴場での騒ぎの翌夕、私はマスターの家で茶々丸の淹れた茶を楽しみながらそう問われた。

「どう…ねぇ…みての通り、魔法の秘匿に関する脇がガバガバの、魔力たっぷりで、一般常識に欠けた頭は良い天才少年って感じ?」

「つまり…小利口なガキか?」

私はただ、事実を告げる。

「アレを小利口と呼ぶのはどうかと思うけれども…共同研究者としては頼りにできそうだけれども、先生と言うか隣人としては…その、将来に期待、かな。ネギ少年って英雄の息子なんだろ?魔法使い社会とこっちとの常識の違いもあるんだろうけれども、ちと甘やかされているか…社会経験が伴っていないのか…かな。

むしろ、アスナがなんだかんだで絆されているのがびっくりだよ」

そういってやれやれ、と言ったジェスチャーをして見せる。

「ふむ…やりにくそうだな」

「…やっぱり先生が危険を冒してまで力を蓄えていた獲物なのか?」

「まあ、今の予定だと輸血の用意しておいて瀕死レベルまで吸ってみる位ではあるが…な。邪魔をするか?」

「いや…まあ、助けを求められたら護衛…と言うかミニステル・マギの真似事(茶々丸の相手)くらいはしてやるつもりではあるけど…多分、次の満月位に奇襲かけるくらいじゃないと、本格的に狙う前に魔法研究談義をしたいって懐に飛び込んでくるぞ?ネギ少年」

「あ…そういえばそんな話もあったな…そうなると…それを喰うのはさすがに…美学に反するな…だがさすがにまだ坊やの周りは…」

悩み始めるマスター…エヴァであった。悪党には悪党なりの美学があるのは理解するが、難儀な物である。私も美学と言うか自分に課しているルールはある程度あるが。

「くしゃみでの暴発は魔力消費で軽減できるそうだから、射撃場か何かで魔法を連発する事になるだろうし…そこにお邪魔して無駄打ちする位なら分けてくれって言えば案外吸わせてくれるかもしれんぞ」

「…いや、献血程度の量じゃ足らんからな?純粋に美味か否かという意味では豊潤な魔力が旨そうではあるが…うむ…とりあえず、距離はとろうか。不用意にぼーやに絡まれない程度に」

「ま、高畑先生からマスターを紹介されて弟弟子になるとかいうオチもアリっちゃありだがな」

「…無しだよ、少なくとも私自身が認めない限りは弟子になどせんぞ」

「ま、冗談さ…とりあえず今日はお暇するよ」

「ああ、また明日な」

 

こうして私はエヴァンジェリン邸を辞した

 

 

 

数日後、昼休み明けの体育の授業…なぜか、中等部の屋上コートを高等部の連中が占拠して、自習のレクと私達の体育を天秤にかけさせやがった…普通なら体育の先生が追い払ってお終いの筈であったのだが、あろう事か体育の先生が急用とかで代わりにネギ先生が授業を見に来てスポーツ対決で確執に決着をつけようと言い出した。

まあ、サボれると思って、(魔法の秘匿が関係ないからと)シレっと放置して壁際に退避した。

「よかったのか、止めなくて」

真名がそう声をかけてくる

「明らかに向うの分が悪いし、時間ぎりぎりに高畑先生召喚すれば授業もサボれて丁度いいだろう」

「いや、まあ、授業をサボれるというのはともかく…人数が足らんからこの面子だと最初に引っ張って行かれるのはお前だろう?千雨」

「む?」

同じく壁際に退避しているのがエヴァと茶々丸、ザジ、チア部三人組、私、カエデ、真名、刹那…確かに私だな…

「「「千雨さーん」」」

「あー」

「ほら、ハカセ達が呼んでいるぞ」

「…せめてこんなあほな人数トラップだけでも回避させておけばよかった」

ため息をついて、私はコートの中に入っていくのであった。

 

 

 

試合開始の合図とともにネギ先生の頭にボールが直撃するも、アスナがノーバウンドでキャッチし、一人アウトにしたが、相手ボールとなった。

「ほーら、ただでさえ狭いんだから散れ」

「「「えっ?」」」

と、言っている間に山なりの弾道で投げられたボールが3人をアウトにして相手コートへ帰って行った。

 

「はっ、しまった、ドッジボールで数が多いのは全く有利じゃない…」

やっと、アスナが気付いた様である。そしたさらに委員長とアスナが喧嘩を始める。

そのすきに、後ろ向きに逃げていた1人仕留められてしまった。

「千雨ちゃんも、気づいていたなら教えてよ!」

こっちに飛び火して来た

「見学のつもりだったから放置していたんだよ、ほら、次弾来るぞ!せめてボールを見て避けるつもりでいくぞ!その方が痛くねぇ!」

とはいえ、それだけでボールを避けたり取ったりできるわけもなくのどかが餌食に…なる前にアスナが庇って捕球した。さすがではある。

しかし、相手も素人ではないようで…というかドッヂボール部の強豪らしく、アスナの力任せの投球を捕球し返して見せ、返す刀で委員長をアウトにした。

 

 

 

「あー純粋に強いなぁ…」

「ですねぇ…」

そのまま、相手は攻撃の手を緩めず、私も聡美の顔に直撃コースターだった強めの球をとっさに弾いてしまい、その次に聡美も割と穏当な当たり方だが当てられてしまって外野にいた。

 

「千雨さん」

「ん?なんだ、聡美」

「庇ってくれてありがとうございます、さすがにあのボールは怖くて…次の緩いのにわざと当たっちゃいました」

「ん、まあ仕方ねぇよ、聡美は私達みたいに戦闘技術持っているわけじゃねぇし…ピンチの時は私か超が守るさ、きっとな」

「私が、とは言ってくれないんですか?」

「…今は平行路、だろう?」

「もう…まあ、お二人が争う可能性も…ありますからね…」

 

そんな掛け合いをしていると、いつの間にかアスナが当てられており…バレーボールのスパイク様の攻撃を、太陽を背にして打ったようだ…ネギ先生が魔法を使おうとしていた。

 

…いや、待て、あのアホ…と思ったがアスナが止めた。意図的な二度あてとかダメな事ではあるが魔法でお仕置きはないだろうよ…いや、魔法学校とかだとそういう喧嘩していたのかも…

 

…とか思っていたらのどかの5秒ルールの指摘からいつの間にかギャグシーンがはじまっていた。

 

 

「あ、勝ちましたね」

「ああ、勝ったな」

時間である。

 

こうして、私達は高等部の連中に、勝利した…

なんか、最後にロスタイムとか言って一幕あった気がしなくもないが、私は何も見ていない…事にしておく。

 

 

 

 

 



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20 ネギ着任編 第5話 期末テストと春休み

「みんな大変だよ!ネギ先生とバカレンジャーが行方不明に!」

テスト開始前最後の授業日、土日の前に2-Aが期末テストで最下位を脱出しないとネギ先生がクビに…という話題で教室がもちきりになっていた時、そんな叫びと共にハルナとのどかが教室に飛び込んできた。

「ハルカ、のどか、いったい何があったんだ?」

 

 

 

話を聞いてみると、図書館島に眠ると言われる頭の良くなる魔法の本とやらを探しにバカレンジャーと木乃香、ネギが図書館島にもぐったらしいのだが、目的地に到達、最後の試練…ツイスターゲームらしい…を受けていた所、轟音が響き音信不通になってしまった、との事だ

「…うちのクラスの最下位脱出は放課後にもう一度協議しよう。一応、一年の中間テストだけではブービー取った事も有るから…あいつ等が帰還してくれれば土日に勉強させて…まあ、何とかなるかもしれない。ネギ先生たちは…昼休みまでに帰還しない様ならば何か考えよう…これでどうだ、委員長」

「え、ええ。バカレンジャーの皆さんを土日勉強漬けにして、普段まじめにやっていない組の皆さんもまじめに勉強していただければなんとかなりますものね…ええ、皆さん、まずは各自の勉学に励みましょう…土日にはわたくしも講師を務めますので勉強会も開く方向で…」

 

という事でその朝は話が付いた。

 

 

 

二限目前の休み時間、私は刹那を呼び出した。

「なんだ、千雨」

「あーその態度で想像はつくけれども木乃香が行方不明なのにお前が落ち着いているって事は、今回のは何かしらの学園側の仕込みって事でいいんだよな?」

「ああ、その事か。詳細は私も聞いていないが、直接学園長先生からうかがっているから間違いない、お嬢様たちは無事だ。それと、もし千雨がそれを私に聞くようならば源先生経由で学園長に連絡を取るように、との事だ」

「了解、ありがとう」

「ああ、問題ない」

 

 

 

そして、源先生に学園長先生へのアポを取ると、昼休みに呼び出される事となった。

「2年A組、長谷川千雨です」

「うむ、入りなさい」

入室すると今日は源先生だけが学園長の脇に控えていた…高畑先生出張だしなぁ…

「早速じゃが、ネギ君も行方不明の2-A生徒も無事じゃ」

「詳しくは…うかがえないですよね?」

木乃香の護衛役であるはずの刹那が聞いて無いらしい事から、無理だとは思いつつ一応聞く。

「うむ。長谷川君にたいして…と言うか一部魔法先生を除き、この件の詳細は秘匿事項じゃ、すまんが、地上に残っている皆に勉強を教えてやって欲しい、としか言えんの」

「わかりました、図書館島での捜索もNG…と言うか無駄という事ですね。では真面目にテスト勉強をしながらネギ先生たちの帰還を祈っておきます」

「うむ、できるだけテストには間に合うようには手配する。おっと、これは秘密じゃぞ」

学園長が悪戯っぽく笑う。

「心得ています、一般生徒には学園長が捜索を手配してくれているから私たちは先生たちの無事を信じて勉強を頑張る様に、と伝えます」

「よろしく頼むよ、長谷川君」

「はい、それでは失礼します」

 

そうして、私はクラスの世論を誘導すると共に、土日を潰して勉強会の手伝いをして過ごすのであった。

 

 

 

 

 

そして日曜日夕方、各自最後は公式や暗記物を復習してしっかり休息を取るようにと解散させた頃の事だった。

「千雨サン、クーから連絡が入ったね、無事帰還したそうヨ。図書館島の地下で一応勉強もしていたが、できれば仕上げを手伝って欲しいとの事ネ」

「今から?」

「今からネ」

「まあいいけれど…とりあえず、飯まだなら飯食わせて風呂ぶち込んで、遅くとも12時には寝かすぞ、初日は英語や数学あるのにあいつらが徹夜とかした日にゃどうしようもならん…応用全部捨てさせるレベルでパーな状態ならどうしようもないけどな」

「アーやりそうですね、一夜漬けと称した徹夜…最低限の基礎ができているなら寝た方がまだ良いんですが」

と、言うわけで、私達麻帆良の三賢者は、焦る図書館遭難組を落ち着けて消化の良い食事をさせ(脳にカロリーは必要だ)、風呂にぶち込んで(ここ数日風呂に入ってないはずだし、水浴びしかしてないと言っていたのですっきりさせるために)、初日の科目の基礎だけ数時間面倒を見て、無理矢理に寝かせる事となった。

 

そして翌日も…一応悪くない手ごたえだったとか…同様にテスト二日目に備えて徹底的に基礎だけを再確認させた…図書館島で缶詰めになっていた間に大分基礎は出来ていた。

 

そして、結果発表日、なんと驚くべきことに、私達2年A組は学年トップに躍り出たのであった。

こうして無事に正式に教師となったネギ先生は、3学期の終了式で正式に紹介されたのである。

 

 

 

 

 

そして春休み…ついに恐れていた日が来てしまった。

ネギから正式にエヴァの紹介を頼まれてしまったのである…

「と、いう事で連れてきてもいいかな?」

「いや、待て。この前、坊やを私とあまりかかわらせない方向で、となっただろうが」

「それが…直接押し掛けたい位だけれども、それは礼に反するからって言われてな…クラス名簿で住所は把握しているはずだし、ほっとくと休み中に押しかけてくるぞ?」

「それは…困る」

「なら、私もいる時に会談した方がマシじゃないか?」

「それも…そうか、まあ基礎魔法について軽く雑談する位だしな」

「よし、ならば明日でいいか?」

「まあ仕方あるまい。茶々丸、わかっていると思うが、一応来客だ、もてなしてやれ」

「はい、マスター」

と、言うわけで、ネギ先生のエヴァンジェリン邸訪問が決まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだあれは」

それが、和やかに終わったはずのネギ少年との魔法談義後のマスターの感想だった。

「だから、あれが天才少年、ネギ・スプリングフィールドさ」

「くっくっく…何がマギステル・マギ(実働戦力)候補生だ…どこかの魔法研究室にでも放り込んだ方がそんな下らんものになるよりも何千倍もの人間を救うだろうに、あの坊やは…魔法学校の教員どもはそろいもそろって目が曇っているのか?」

「あるいは、ナギ・スプリングフィールドの息子にしか見えていないか、だなぁ…何より、持ち前の才能と魔力で、恐らくどんな生徒よりも優秀なマギステル・マギ候補生にも見えるだろうし…望んでいるのか望まされているのか…あるいは心の棘か…そう言った何かで、マギステル・マギを神格化しているかのような嫌いがあってなぁ…もったいない…ま、そっちの経験を積んでからって言うのも十二分にありだろうけどな」

「坊や自身も父の影を追っている、と言うのもあるんだろうがな…」

二人してしみじみと頷き合う

 

「で、お前の望みはあの原石を打ち砕いてしまうな、かな?千雨」

「ま、理不尽に抗う為に力を求めるって言うのもアリだと思うし…色々かな?

少なくとも、あんたが先生相手に【事故】を起こす確率が下がるならばそれでいいよ」

「ふん、才能が有ろうと坊やは坊やだ…【事故】には気を付けるさ」

こうして、まあ、ネギ少年の命の危機を減ずる為を兼ねた、ネギ先生ではない天才少年ネギ・スプリングフィールドの紹介は成功裏に終わったのであった。

 

 

 

 

 

 

「さてと」

あんまり人の事だけをやっていてもいられない

部屋に戻った私は、自慢の3画面PC…麻帆良内の研究用最先端には劣るが、外の世界では一般向けハイエンドモデルをはるかに凌駕するモノ…を元に工学部の伝手で手に入れたパーツを用いてチューンナップし、魔法使い側技術も含めて色々いじくった…の前に座り、これまた自作の専用ゴーグルをつける。

そして精神取り込み型幻想空間の技術を応用したシステムを起動した…本当はクッソ高いプレジデントチェアなんて買わずにベッドで、でも構わんのだけれども、気分である。作業用と休息用の場所は分離したい。

「おかえりなさいませ、ちうさま」

私と聡美…と帰ってこないザジの自室を模した…と言うか自動的に更新させるようにしてある…加速空間で私に仕える電子精霊たちが私を迎えた。

「ただいま。お前ら、特に問題はないか」

「はい、【ちうの部屋】はブログやチャットに荒らしもわいていませんし、相談コーナーも特段緊急の必要な内容はございません。まほネット側の方からも同様です」

「現実のお部屋のセキリティーも特に問題ないです」

「ちうさまが特段興味を引きそうな新着のニュースや論文なども発見しておりません。関連度検索結果はリスト化してございますので必要でしたらご覧ください」

「呪紋の検算は全て予定通り終了しています」

「ちうさま…の件ですが…」

口々に、しかし秩序だって順番に電子精霊たちが報告をする…特段問題はないか。

「よし、いつも通り、【ちうの部屋】片付けて、その後、呪紋回路のテストから行くぞ」

「はい、ちうさま」

 

【ちうの部屋】…まあ可愛らしい名前ではあるが、内容は自作PC含めたガッチガチのコンピュータ系と時事ネタが7割、オタクネタとコスプレ系3割である。加えて、まほネットからのみアクセスできるページでは電子精霊系のサイト、裏の時事ブログもやっている。

超特急で仕上げた内容を担当電子精霊が妥当な速度で現実側のPC、サーバーに転送し、アップデートしてくれる。

「ちうさま、こことここ、誤字でいいですよね」

…誤字確認とかもしてくれるのでとても助かる。

「どれ…ああ、修正頼む」

 

こうして趣味…ブログ順位争い…の方の手札を整え、呪紋の検算の内容を見る。

 

「あー…確かに出力を理論値まで改善できるけど、やっぱり補助陣の魔力と相反して来るか…」

「ちうさまが施術時並みの痛みに耐えながら魔法戦闘できるのでしたら使えますが…」

「…まあ、最悪の時はこれ使うしかないだろうけど…一応この設計も保存しておいて、通常のベースは現行のままで」

「はい、では次の詠唱補佐の呪紋ですが…」

 

埋め込んでいるモノの開発は割とこういう地道な設計と検算である…現実でトライアンドエラーするのは、程度にもよるが大規模な改修だと一日仕事な上に死にそうになることも有るので。

 

 

 

「超様の資金と物資の流れ、超包子の事業に関してですが…」

「…うむ…まあ、そんなもんだよな、多重プロテクトかけて極秘サーバーに」

「はい、心得ています」

 

 

 

「世界樹発光の監視と大規模発光に関しての未来予測は…」

「あーついに今年の大発光確率、8割行っちまったか…」

「はい、と言うか観測データの精度の問題ですので、ほぼ確実とみてよいかと」

「覚悟は決めたつもりでも、一年の猶予(モラトリアム)がなくなっているんだって突き付けられると辛いもんがあるわなぁ…」

「ちうさま…」

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…一度、飯食って風呂入ってくる。戻ってきたら魔法戦闘のシミュレートするから用意しておいてくれ」

「お疲れ様です、ちうさま」

私は、幻想空間から実空間に帰還し、バイザーを外した。

 

 




図書館島編はバッサリカット。千雨さんの介入余地ほぼゼロですし。ただし、過去にお勉強見ていた伝手から教師役をする事に。おかげで無理な徹夜もせず、ネギ君の眠気取り?の魔法も行使されたという事実はありません。テスト日程に関しては、まあフツーは分けてやるもんですし、描写的に一日集中くさいですが、まあ月曜日『から』と言うセリフもあるので二日間と設定しました。
そして、マスターに研究者の卵として認められるネギ君。いや、まだまだその才能を使うための経験が足りてないんですが、魔法理論の方はぴか一と言う設定をそのままスライドして…ぶっ飛ばしたです(参考資料ないので)ただしナギさんのお話はなし。

・自慢の3画面PC
現在、画面は飾りですがダイブ先はそのPCを核にした幻想空間なんでただの飾りではないです。まあ、電子精霊とか、色々も研究ツールとして欲しかったのでこっち来た感もあるので、きっちり手に入れております。
呪紋は…幕間でエヴァに見せていた糸での補助魔法陣の発展で、現段階では全身に施術済みですがまだまだ改良中です。
現在の千雨さんは強さ評価では外法無しだと250~300程度、アリアリなら…まあ、秘密。代わりに機動力は優れ目に設定してありますので生存力は強いです…年単位でエヴァちんにしごかれてますんで…

後、シレっとちうの部屋やってるちうたんでした。


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桜通りの吸血鬼編
21 桜通りの吸血鬼編 第1話 パートナー


「ネギ君はパートナーを探しに日本に来たらしい」

 

こんなうわさが寮内を駆け巡ったのは、春休み最後の朝、朝の幻想空間へのダイブと鍛錬を済ませて朝風呂を堪能している時の事だった。

大方、ミニステル・マギの事だろうが、パートナーとだけ聞かれて認識阻害が働かずに噂が広まったという所か。

 

「ネギ先生の事を早めに知っていた千雨ちゃん、この件についてもなんか知っている?」

近くにいた朝倉が私に聞いてくる。

「なになに?千雨ちゃん、ネギ先生と前から知り合いだったの?」

「…まあ、趣味の研究関係でイギリスのセミナーに行った時に、偶然会場の学生だったネギ先生と知り合って研究関係の事で連絡先を交換していて、日本に来る事になったと聞いていただけだ。

パートナー云々に関しては…あっちの文化的に、恋人でなくとも、大学出るような人間がパーティーに一緒に出てくれるような異性の知人がいないってのは恰好が悪いとかそういうんじゃないのか?」

一応、ネギ先生はオックスフォード出だという事になっていた筈なのでこれで話は通じるはずである、勝手に解釈されて。

私の解説が火に油…と言うか信憑性を与える事となって、さらに酷い事になりそうでもあるが。

まあ、今日は少しゆっくりしようと思っていたし、バカ騒ぎを観戦するのも悪くはないか、と思った私はネギ先生に迫りに行く集団に加わる事にしたのであった。

 

…そもそも、本来の、戦闘のパートナーと言う意味でのミニステル・マギ的なパートナーとなるとアスナ一択ではあるがな。

私やエヴァは魔法使いなんで…と言うか寧ろ襲う側とその弟子なので論外、聡美や超は…積極的に二人が望まない限りはさせねぇし。

 

で、結局ネギは迫られた挙句に角で身を隠した直後に空に逃げた。

うむ、これは許容範囲である。初手から飛んで逃げていたらアウトであるが。

 

 

 

「…完全に見失いましたわね」

「んーそうだな」

委員長の執念が一番ネギを見つけやすい(ネタの中心になる)かと思って委員長と行動を共にしている私だった。

「千雨さん!ネギ先生の行きそうな場所に何か心当たりはありませんの?」

委員長が割ときつめの剣幕で聞いてくる

「特にないけど…先生は有名だから目立つし、麻帆良内で逃げるなら人気の少ない場所…休み中の校舎とかに隠れるかな?それ以外だとあては全くねぇ…と言うか絞りようがない」

「校舎ですのね!では教室に向かいましょう!」

「あー他よりマシな、ってだけだからな、あんまり期待するなよ?」

駆け出した委員長には、すでに私の言葉は届いていない様だった。

 

 

 

…で、結局、ネギは2-Aの教室に木乃香といるところを無事…?に発見されたのであった。そして、2-Aの面子も集まってきてグダグダのお祭り騒ぎと相成った。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、千雨さんはパートナーとか欲しくないんですか?」

で、聡美がそんな事を言い出したのはその日の晩の事だった。

「…どうした、藪から棒に…と言うか、聡美の事はパートナー(相棒)だと今でも思っているけど…」

「そうではなくて、ミニステル・マギ的な意味で、ですよ。欲しかったり、なりたかったり…今日だって、珍しくネギ先生の事、追いかけていたって言うじゃないですか」

何か、むくれた様子で聡美が言う。

「いや…アレはたまにはバカ騒ぎを観察して遊ぼうと思っただけだぞ」

「本当ですかぁ…?エヴァンジェリンさんもそろそろ動き出しそうでしたし、それ関係でもなく?」

「ぶっ…どこで聞いた、ソレ」

「…いえ、単にこの前のメンテナンスの時に念入りに頼むと珍しくおっしゃっていたってだけなんですが…マジですか?」

どうやらカマをかけられたらしい。

「…いつかはわからんけど、ネギ先生を狙っているらしいのは事実だな…たぶん、登校地獄の呪いの件だろう」

「と、なるとやっぱり千雨さんの貞操が危ないじゃないですか」

聡美がむむっという表情になる。

「貞操って…いや、まあ助けを求められたら茶々丸の相手位はしようかと思っていたけど…マスターもそれくらいは許容範囲だろうから何かされる事もないと思うぞ?」

「エヴァンジェリンさんじゃなくてネギ先生の方です。仮だとしても主従契約とか…キスとか…

千雨さん、なんだかんだで信念にかかわらない所では押しに弱いですし…ネギ先生に懇願されたら、しちゃいませんか?仮契約とその主流手段であるキス。

生活距離と親密度的にはアスナさんのが本命ではあるかもしれませんが、千雨さんも対抗位には親しいですし、格闘的な意味での強さは広く知られているんですから…ね?」

少しおいてから私は答える。

「大丈夫…じゃないかな、多分」

「自信はない、と」

「…まあ…」

なんだかんだで、頭のでき以外はガキだし…ネギ少年。

 

「と、言うわけでしましょう、仮契約、私と」

「マテマテ、どうしてそうなる」

「どうしてって…止める手段を思いつかなかったので、初めて位確保しておこうかな…っていうちょっとした嫉妬ですよ?」

「…色々まずいだろう、ソレ…超の計画的に…私がいつでも聡美を呼び出せるようになるし、状況から察して、魔法的ブレイクスルーが無ければ科学であれ魔法であれ、お前が詠唱かオペレート担当だろうに…」

「それ、問題ですか?千雨さんはしないでしょう?」

「好き好んではしないけど、脅されたり拷問されたりしてって可能性が無いわけでは…」

「秘密にしておけばOKです。お互い秘密のお守りみたいにして、本当にどうしようもなくなった時だけ使えば」

あ、これは引かんやつだ…と確信する。

「はぁ…というか良いのか?初めてが私で」

「はい、恋愛とかよくわかりませんが…千雨さんなら嫌じゃないですし、千雨さんの初めてが誰かに持っていかれると思うとなんか釈然としなかったので…と言うか、千雨さんこそいいんですか?迫っておいて今更ですが」

「…まあ、私もだいたい聡美と一緒の気持ちだよ、この気持ちが親友としての気持ちか否かは知らんが…嫌ではないし…仕方ないとはいえ、ちょっとだけ超にも嫉妬しているし」

「あはは…別に、もう魔法使い側を裏切ってこっちについてくれてもいいんですよ?そしたらもっと一緒に居られますし」

「…いや、やめた方が良い…私、エヴァンジェリンと関係が深いから警戒されているし…」

「仕方ないですねぇ…じゃあ、仮契約だけ、お願いします」

「わかった、ちょっと魔法陣確認して準備するから待ってくれ」

こうして、私は聡美と仮契約を結ぶ事となったのであった。

 

なお、聡美の契約アイテムは、非生物の透視ができる非破壊検査用メガネらしい。まあ、当座は封印される事となるわけではあるが。

 

 

 

 

 




一応、コノセツくらいには百合ですし、同時に恋愛とかまだよくわからない学者二人です、この子達。どちらに転ぶかは決めていませんが…まあ、万一、麻帆良祭前に(準備期間のあるうちに)千雨さんがネギ君に転んだらハカセの私怨で麻帆良祭がルナティックモードになる可能性はあります(

なんかキャラが動いた(仮契約自体は既定だったが、このタイミングかは決めてなかったけれども、ネタ的にはここが美味しいと判断したので消さず
そして、魔法使いとしては並な千雨さんだとアーティファクトも言うほどレアな物は出なかったり。


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22 桜通りの吸血鬼編 第2話 事件の始まり

新学期初日、身体測定をしていると桜通りの吸血鬼の噂の話になった。

丁度、昨日今日が満月の頃であるし、欠席しているまき絵が吸血鬼に襲われたんじゃないかと言う方向になり…エヴァの方を見るとニヤリと笑った…チュパカブラの話になっていた。

 

そして、その後、まき絵が大変だと叫びながら戻ってきた亜子に皆は扉や窓を開けた…ネギ先生、外にいるのに…。

 

なんやかんやあった後、身体測定を済ませ、ネギ先生とクラスの一部はまき絵の様子を見に保健室に向かっていった。

「行かなくていいんですか?」

「…大体わかっているし…請われん限り手は出さないつもりだからな…

まあ、私の事は学者だとしかまだ知らんはずだし、大丈夫だろう…めんどいし」

「だといいんですけどね~」

と、思っていた。その時は。

 

 

 

『千雨さん、この街に魔法使いの知り合いはいらっしゃいませんか?』

こう、ネギに尋ねられるまでは。

『…まき絵の件か?』

英語で話しかけられたときは、魔法使い同士、学徒同士という事で私からは敬語はなしという事になっている。

『ええ…まき絵さんから魔法の力を感じまして…もしかしたら、魔法使いの仕業なのかも、と』

『あーそういう事か』

 

マスターめ、大方半吸血鬼化でもしてあるんだろう。

 

『悪いけれども、私はこの街では来訪者扱いでな…あまり知らんし、知っていても教えちゃならない事になっているんだ。高畑先生か学園長にでも聞いてくれ』

『タカミチは明日まで出張ですし、学園長先生はお忙しいみたいで…』

ネギがしゅんとする

『と言うか私は疑わないのか?』

 

割と疑問ではある、信頼されているんではあろうが。

 

『だって、千雨さんはしないでしょう?あんな事』

『…いや?魔法を見られたら眠らせて記憶を消すくらいならするぞ?クラスメイトでも…まあ、まき絵は私じゃないが』

『あ…そういう可能性もあるのか…でもそれだとなかなか目覚めないのもおかしいし…あ、ありがとうございます。とりあえず張り込みでもしてみます』

『あ、うん…気をつけてな』

ソッコー罠にかかっとるじゃないか、ネギ坊主め…一応、様子だけ見ておいた方が良いかな…?

 

 

 

といった事のあったその夜。日課を早めに済ませ仮眠を取った私は、桜通りを観察できる地点に待機していた…毛布と共に。

「なんかあったら起こしてくれ」

電子精霊群を一セット監視役に連れてきた私は、壁にもたれかかって休んでいようと思っていた…が。

「ちうさま、もう起きました」

「なにっ」

 

桜通りを見ると、ネギの魔法の射手を触媒による魔法ではじき返す人影…エヴァがいた。

 

「あ、ネギ少年、困惑している」

「そりゃあ、知り合いでもありますしね…ちうさまを挟んだ」

あっ…その観点はすっぽり抜け落ちていた…今日、決着がつかないとまずいかな。

 

会話は聞こえないが、様子をうかがっているとエヴァが何かの魔法…恐らく氷系の武装解除を使い、獲物だったのどかが脱げた。そして、アスナと木乃香が現れた。

 

「…まったく…明日また、一悶着あるかもなぁ…」

逃走したエヴァとそれを追跡するネギ先生たち…魔法戦をやらかしている…を追跡しながら、私はそうつぶやいた。

 

 

 

「おっと…」

遊んでいたマスターが武装解除を直撃された。まあ、アレくらいレジストしている様ではある…ネギ先生の魔法で服が蝙蝠になって散って行ってたまるか。

…と言うか、アスナ、きっちり追跡してきているし、茶々丸が屋上にいるな…よし。

 

シュッル タッ タッ トン

 

と言う訳で私は虚空瞬動擬き(糸術で足場を作って補佐している)で同じ建物の茶々丸たちとは反対側の屋根に上った。

 

「茶々丸さんがあなたのパートナー!?」

 

ネギ先生の叫び声が聞こえる。様子をうかがうと、ミニステル・マギの存在意義を説明している様ではある。もう少し近づこうとしたが…アスナが階段を駆け上っている気配がある…目の前の扉から飛び出してくるはずだ。

 

と言う訳で距離を取って身を隠すと、ちょうどアスナが飛び出してきて、茶々丸たちに飛び蹴りをかましていた…いや、ここ、8階…まあ、だが、なんだかんだでアスナの介入でエヴァたちは逃亡していった…あっ、これ茶番か制限付きの闘争じゃねぇか(エヴァが今、扱える程度の魔力で扱える糸術でも、茶々丸がいれば余裕である)。

 

とりあえず、とネギとアスナが屋上から降りていくのを確認した私は、エヴァンジェリン邸を訪ねるのであった。

 

 

 

「で、なんだったんだ、あの茶番は」

席について、茶を出された私は開口一番そう聞いた。

「ん?やはりあの視線は貴様か…一応、まじめにやったぞ?魔法使いとして、はな」

「…つまり、糸術だとか鉄扇術だとかの今の主力スキル使ってねーじゃねーか」

「あほか、そんなもん使えば坊やなんぞ瞬殺してしまうだろうに」

「…つまり、アレか?学園長あたりから、ネギに魔法使いとしての戦いを見せてやってくれ、とか言われたのを拡大解釈して今回の凶行に及んでいるわけか?」

「ふん、それは貴様には知る必要のない事…ではあるが、まあそんなところだ」

酷いネタバレである。

「なら、まき絵のもわざとだな?」

「もちろん。次までに気付かねば、坊やに対する伏兵として使うのさ…ばらすなよ?」

「わかっているよ…じゃあ帰るわ」

「待て…せっかく来た事であるし、少し献血していけ」

「はぁ…わかったよ…」

まあ、満月の夜中に吸血鬼の真祖を訪ねた代償なら安いものではある。

 

 

 

もっと怖いマスターを知っている身としては、昨日のエヴァは完全にお遊び…あのレベルなら、私でも…それこそ切り札まで持ち出せば茶々丸を入れて1対2でも…勝てるが、さすがにネギ先生には恐怖であったらしく、登校拒否に陥ってアスナに担がれて登校していた。

『千雨さぁぁん助けてください』

「わっ、こら、ネギ先生、ストップ」

その場面を廊下で目撃した私に英語で…魔法の事を話す時は認識阻害して英語で、という約束にしてある…助けを求めてきたネギ先生…いや、少年を制止する。

「あ…すいません…また後でお願いします」

そして、教室に入ったネギはエヴァの不在にほっとし、茶々丸に恐怖していた…。

 

 

 

気の抜けた授業をしていた先生は概ね鬱状態と言わざるを得ない状態であった。

「パートナーを選ぶとして10歳の年下の男の子なんて嫌ですよねー…」

…だからなのか、唐突にこんなことを言い出したのは。魔法の秘匿、何処に行った。いや、この前の騒動もあって、恋愛的な意味でとらえられてはいたが。そして、その話を何人かに振り始めて…授業の終鐘をきいて死にそうな顔をして出て行った。

しかも、ネギを追いかけたアスナがパートナーを見つけられなくて困っており、見つけられないとヤバい事になる、発言を残して。

 

当然のように、教室は狂騒に包まれるのであった。

 





桜通りの吸血鬼編、本格始動でございます。まあ、学祭とかの色々考えると明らかにエヴァさん手加減している事になるので、本作では詳細ぼかして学園長からの指示を過大解釈したお遊び(賞品:ネギ・スプリングフィールドの血)という事にしてあります。
後、シレっと千雨ちゃん虚空瞬動擬きを使っていますが、本物の虚空瞬動はたまに成功するレベルの練習中です。最も、糸術と組み合わせて立体機動とかしてくるので糸自体を見切れない限りはすでに機動力だけなら割と厄介だったりします。今なら龍宮隊長相手でも目がある…かも?(あくまでTRPGでのクリティカルのみとか言う意味合いで、ですが。)
まあ進路選択編の頃は絶対無理、だったので大分マシではあります。


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23 桜通りの吸血鬼編 第3話 アルベール・カモミール

放課後まで特に呼び出される事もなかった私は、先生を元気づける会をするからと誘われて水着着用で大浴場に集合となった…うん、嫌な予感しかしないが、今のネギ少年にはこれ位の方が効くだろう。私は壁の花やっていればいいんだし。

 

で、順当に始まった会は委員長の抜け駆けパートナー立候補からどう言う訳かネギ少年丸洗い大会へと変貌した。

 

「まったく…」

飽きれながら観察していると聡美もそばにやってきた。

「参加しないんですかー、千雨さん?」

「するわけないだろう…もうちょい大人しいのならともかくああいうのはちょっと…みているのは少し楽しいけどな」

「ですよねー私も見ているだけが楽しいですよ〜発明持ち込みOKなら飛び込んでいましたが」

「…まあ、そうだよな…」

 

きゃー

 

「…何かが集団に飛び込んだな、とばっちりをくらう前に離れよう」

「?はい」

白い何かが皆の肌を撫でるように飛び回り…まき絵に捕まった

 

それはどうも、白いネズミらしく、なぜか近くの連中の水着を脱がせ始めた

 

「…とりあえず、下がっていろ、こっちに来たら捕まえる」

「はい…お願いします」

 

と、身構えはしたが結局、白いそれはアスナに桶で打たれて…それでもボタンを引きちぎるまで脱がせていたが…退散していった

 

「なんだったんだ、アレ」

「さぁ…?」

 

その後、ネギ先生のペットのオコジョ…と言うかたぶん妖精の類いだろう…だという事が発覚した。

 

 

 

その翌々日…どうも、オコジョに何か吹き込まれたのか、私の方を頼りにも詰問しにも来なかったのでネギは放置している…の朝、階段から魔力光が迸り…さすがに認識阻害と簡易な人払いはしてあった…様子を見てみるとらそのオコジョとネギ、アスナの二人と一匹が放課後にエヴァと茶々丸を尾行しようという相談をしていた。…まあ、各個撃破は王道ではあるが…さすがに娘を不意打ちする気なら黙ってはいられんのだけれどもなぁ…?という事で私もネギたちを尾行する事とした。

 

 

 

放課後、茶道部の茶室近くで出待ちをしているネギたちを見つけると、近くの樹上から観察を始めた。

茶道部の活動を終えて出てきたエヴァは、茶々丸にそばを離れるなと命じたが、高畑先生がエヴァを一人だけ呼び出した。…仕込みか、仕込みだな、あの爺…。となると私も見られているだろうなぁ…これ…と思いつつ、エヴァと視線があって、茶々丸を頼むと目で言われた。そもそも最初から離脱という選択肢はないのだが。

 

その後、風船を取ってやったり、歩道橋を上る老婆や、川に流された子猫を助けたりしているのを観察しながら…実際に見るのは初めてだが、そりゃあ泥もつまるわ…最終的にネコに餌やりをしている場面に遭遇した。…が、これは駄目だ、人目がない。穏便に止めるならここで私が通りかかるべきだが、最悪ネギ先生が私を引き入れようとしてアスナに私の存在がばれるか…。

 

と思考をしていると、ネギたちは覚悟を決めた様子で茶々丸の前に立った。…いつでも飛び出せるようにはしておいて、少し様子を見てみようか。

 

戦闘が始まる。

まず、ネギによる契約執行…を受けたアスナが突撃…力任せの喧嘩殺法なアスナに負けるほど茶々丸は弱くはない…のだがそこにネギの魔弾の射手が入る…っておい、属性光か、しかも連弾で11…ったく、装甲には対魔導処理を施してあるとはいえ、ネギの膨大な魔力で放たれたそれは、魔力供給無しに受ければ当たり所がよくて中破、悪いと記憶・感情周りの機能まで吹っ飛ぶ可能性さえある。

 

容赦が無いな、と瞬動術を踏み切った瞬間、ネギの叫びが聞こえた

 

「やっぱりダメーッ 戻れ!!」

 

あっ…余計な事をしたっぽいと思った時にはもう遅かった。

私は、茶々丸を抱きかかえる格好で、ネギたちの前に姿を現してしまっていた。

 

 

 

「行け、茶々丸、後は任せろ」

魔法の連弾をネギが戻した事、そして私の登場に唖然としているネギたちを放置して、茶々丸を下した私はそう言った。

「千雨さん…はい」

そういってジェット飛行で去って行った茶々丸を見送ると、私はネギに歩み寄った。

 

『まったく…人の娘を壊しかけた挙句に、何やっているんだ、ネギ少年…』

「ち、近づくな」

「千雨ちゃん…?」

「安心しろ、私も関係者だよ。まずはネギの治療をしないとな」

白い小動物を無視してアスナにそういってから、私は治癒魔法を唱える。

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 汝が為にユピテル王の恩寵あれ “治癒”」

 

すると、ネギの傷が少しだけマシになる

『千雨さん…ありがとうございます』

『礼を言うのはまだ早いぞ?了見次第では私があんたをボコらにゃならんからな』

『何っやっぱてめぇは敵なのか』

『黙れ、毛皮にするぞ、エロオコジョ』

ネギの頭をなでながらオコジョをにらむ。

『俺っちにはアルベール・カモミールって名前があるんでい』

「ちょ、ちょっと日本語で話してよ!」

「それもそうか…アスナにはわからんな」

「姐さん…」

「どうせ勉強苦手よ!って、そんな事より、千雨ちゃん、魔法使いだったの?」

「ああ、魔法研究が主だが、魔法自体も使えるぞ」

「あっ、ネギの言っていた学者の知り合いって千雨ちゃんの事!?」

「はい…千雨さんの事です」

「…兄貴が文通していたって言っていた学者さんですかい?」

どーやら私の存在だけ話して正体は秘密にしてくれていたらしい

「で、どうしてその学者の姉さんがエヴァジェリンの従者のロボをかばったんですかい?

それとも、兄貴は庇ってやしたが、やっぱりあんたもグルなんで?」

「そりゃあ簡単な事さ…あいつ…茶々丸は私達の娘だからな」

「「「娘…?」」」

訳が分からないという顔の二人と一匹である。

 

「まあ、わからんだろうな。簡単に言うと、茶々丸は私と聡美…ハカセと超の三人が中心になって開発した人型ロボットでね…私達にとっては娘みたいなものなんだよ…。

だから存在理由…エヴァ…ンジェリンの従者として戦いの中で潰えるならばともかく、魔力供給も貰っていない状態で日常の中で打ち壊そうというなら邪魔の一つや二つするさ…

まあ、不意打ちも戦の作法と言っちまえばそれまでだし、究極的には娘で友人なアイツを壊されたくないってだけだ…だから寸前まで見守っていただろ」

「ち、ちょっと待って千雨ちゃん達、頭いいのは知っていたけど、茶々丸さんの生みの親なの?」

「ああ、少なくとも人工頭脳の開発は私が主任をやっていたし、全体の開発主任は聡美だし、超がブレイクスルーをいくつもしなければ茶々丸があそこまで高性能にはならなかったよ。…加えて言うならあいつの動力である魔力炉の技術監修はエヴァンジェリンな」

そういって一度ため息をつく

「そして、こう、茶々丸は思っていたよりもずっと優しく育っちまったようだけれどもな…家事なんかも面倒見るようにはしてあるが、基本は戦闘用だぞ、あいつ。

なのに私達の中の誰よりも優しい奴になっちまって…人助けをしているのは知っていたけど、初めて見たよ」

少しだけ、戦闘用の従者人形に心(の種)を持たせたことを後悔し始めてさえいる。今更消す気はないが。

「待った、姉さん何処から見ていたんですかい」

「どこからって…茶室前で出待ちしている所からだぞ? いや、契約の魔力光を見て、相談しているのを見つけた所と言うべきかな…まったく、神聖な学び舎で教師と生徒がキスするとはな」

「み、みてたのっ!?ノーカン、ノーカンだしおでこだから!」

「…でこちゅーかよ…いや、あの魔力光、仮契約だろ?仮契約で一番簡便かつ安価な方法が魔法陣上でキスする事だってのは無茶苦茶有名な話だぞ?」

「あーなるほどな…」

「つまり、千雨さんの共同研究者の皆さんは茶々丸さんの縁で結ばれたんですね」

「そうともいうな、と言うか元々は魔力炉から生ずる電の解析が始まりだしな、あの面子での共同研究」

「なるほど」

「…兄貴?いったい何の話を?」

「千雨さんと知り合った切欠が、魔法理論の研究会での発表なんだけれど、それって共同研究だったんだよ、茶々丸さんのお母さんであるハカセさんと超さん、それにエヴァンジェリンさん…この前、昼間だけれど、エヴァンジェリンさんの家で研究の話をしてきたから同一人物で間違いないよ」

「…マジですかい…と言うか、エヴァンジェリンの野郎、顔見知りを…」

「あーそれは私が悪い。

ほっとくとネギが突撃してきそうな勢いだったから会ってやれって私が説得したんだ。

本当は嫌がっていたんだぞ、最初は。すぐに盛り上がっていたけどな…」

「魔法オタクってやつですかい…兄貴と一緒で」

「オタクかは知らんが、ただ使うだけじゃなくて理論の造詣とかもきっちりしているタイプだぞ、私もマスター…エヴァも」

しまった、口を滑らせた。

「「「マスター?」」」

「あーさっき言った理由で魔法にかかわり始めたんで、私の魔法の師匠はエヴァなんだわ。

…この件も、この前の戦闘を目撃するまでは何を企んでいるかは知らなかったけど、手伝わんでいいから邪魔はするなって言われている。

今日までは懇願されたら茶々丸の相手位してもいいかと思っていたけれども、アスナがいるみたいだし…」

「それは冷たいんじゃないですかい、学者の姉さん…」

ダメ元と言う感じで小動物…カモが言ってくる

「いやぁ…私、本気のマスターの足元にも及ばないし…茶々丸の事で気乗りもしないし…下手に私が参加すると茶々丸が対人リミッター外すからアスナが危険だし…メッセンジャーとかならやってもいいけど」

嘘ではない。単に本気の基準が別荘での吸血後なだけで。加えて言うなら、下手に茶々丸のリミッターを外させた方が色々危ないし

「ですが」

「カモ君。茶々丸さんを襲ったのは僕たちなんだから…」

「マスターはよっぽどの理由が無ければ女子供は極力殺さないから、事故か、よっぽどの理由が無ければ命まではとられないと思う。相談には乗るし、メッセンジャーもする。でも直接戦力として参加するのは勘弁してくれ…すまん」

ネタを知っていると茶番ではあるが、一応できるだけ真摯に謝っておく。

「はい、ありがとうございます、千雨さん」

ネギのその笑顔に、少し心が痛んだ。

 




え、この女、傷む心なんてあるのかって?ありますよ、そりゃ。
自分のそれ含めて蔑ろにしたり、自分の意思を突き通す為に利用したりする事がたまにあるだけで


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24 桜通りの吸血鬼編 第4話 大停電の夜とその結末

私は幻想空間で呪紋の設計をいじりながら考え事をしていた。

 

さて、今回のエヴァとネギの件はどうするべきか、と。

 

ネギの知らない色んな事を勘案すると、私がネギ側に付いた所で、マスターと茶々丸が行使する力の制限を緩めて事故の危険が増える事になりかねない。

かと言って、エヴァ側での参戦は無意味かつあり得ない…。

 

では、無関係を貫くのかと言うと…見届け位はしておきたくはある…が、恐らくネギが弄られる展開になる可能性が高いので…衝動的にやらかさないかが心配だったりもする。

 

…そして、だ。そう推理すべき断片知識はエヴァから与えられていたので自明だと思っていたのだが…この前、やっとエヴァは登校地獄の呪い以外にも自身を縛っているものがあると気付いた様なのだ(ネギを交えた時ではない)。ディスカッションの時の反応が本物であれば。

 いや、茶々丸の動力炉開発の頃に麻帆良に巨大な電気的な力を用いた結界が張られていると言っていたので、てっきりそういう事だと私の方が思い込んでいたのだが、脅威の力を阻害する結界も張られているものだと私は考えていた。

しかし、エヴァは警備結界と思い込んでおり…詳しく調べてみると、電力をかなり使用して魔に属する存在を阻害する結界が張られているらしい事が先日、判明したらしい(茶々丸がエヴァの命令でやったので、私には伝聞情報である)のである。

 当然、予備システムの類いもあるらしいが…予備システムだけなら茶々丸が停止させられる範囲…らしい。私としては、そーいうシステムは正・副・予備と三系統は用意する事が多いので釣りじゃないかと怪しんでいるが、多分その辺りも学園長の掌の上っぽいので黙っておく事にする。そして、エヴァ達がそれを喜んでいるという事は、次の満月ではなく、三日後の大停電に動く予定…と言う事か。

 

 と、諸々の情報・状況を整理して、どうすれば後悔しないか、と考えているのである。

 

 

 

…と言うのが土曜日の朝の事で、今は日曜日の昼過ぎ、関東魔法協会の野外射撃場の一つとして用いられているという施設に、私は呼び出されていた。

そこには、私と同じ本校女子中等部の制服に身を包んだ二年生の少女と、元々関係者と目星をつけていた葛葉先生が待っていた。

「本日は、よろしくお願いいたします。葛葉先生と…佐倉さんですよね、初めまして」

「佐倉 愛依と申します。はじめまして、本日はよろしくお願いします、長谷川先輩」

「よろしくお願いします、長谷川さん」

 

どうしてこうなったかと言うと…それは土曜日の昼過ぎ、刹那経由で学園長からの呼び出しがかかったからである。

 

 

 

「さて、今日来てもらったのは他でもない。そろそろ長谷川君にも関東魔法協会員との交流を深めてもらってもよいかと思っての」

「交流…ですか?」

突拍子のない言葉に思わずオウム返ししてしまう。

「そうじゃ。外様の関係者にはあまり内情は見せんのじゃが、ある程度長期に滞在しておる関係者…特に学生の関係者には簡単な仕事などを通して交流を深め、信頼醸成に努めてもらっておるんじゃよ。

まあ、たまに、エヴァンジェリンとしてもらっているバイトみたいなのを違う組み合わせでやってもらうと思えばよいかの」

…確かに見回りや雑用をめんどくさそうなマスターとする事はたまにあったが…このタイミングは…。

「そういう事でしたら、断る理由はありませんが…いつ頃、どなたと何をすればよいのでしょうか」

「大停電の日の夜に、電気と科学を用いたシステムが手薄になるのでの、念のため、見回りを頼みたいんじゃ。組む相手はこちらの葛葉君ともう一人、佐倉君と言う魔法生徒が付く予定じゃな」

学園長がそういうと、そばに控えていた葛葉先生がお辞儀をした。私もそれにこたえてお辞儀をする。

「…なにか大事な用事があれば断ってくれても構わんが、何かあるかの?」

あーあ、完全にバレテーラと言う奴であるな、これ。

「いえ、問題ありません」

「うむ、では当日前に一度顔合わせを葛葉君と調整しておくれ」

と、言った具合の事があって、こうなっているわけである。

 

 

 

「では、早速ですが、長谷川さんの実力を見させていただきます」

「はい」

「とはいっても、最低限の動きが分かれば大丈夫ですので…軽く魔法などでの攻撃を的あてで行った後、私と模擬戦をしましょう。当然、手加減はしますので。佐倉さんは見学していてください」

「「はい」」

私と佐倉は同時にそう答えたのであった。

 

「では、早速…」

 

と、言いつつ、何を使うか考える…まじめにやるべきと考えつつも、何処まで本気を出すべきかと考え、魔法の射手を連弾と短縮詠唱でそれぞれ、加えて白き雷程度でいいかと考える。

「いきます」

と、宣言して連続で魔法を放つ。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 雷の精霊23柱 集い来たりて敵を撃て 魔法の射手・散弾・雷の23矢」

まずは、足を止める麻痺効果の付いた雷の矢を少し広めに散弾で

「ノイマン・バベッジ・チューリング 魔法の射手・収束・光の3矢」

続けて破壊力に優れた光の矢、短縮詠唱で足を止めた敵に速攻をかけ

「ノイマン・バベッジ・チューリング 闇夜切り裂く一条の光 わが手に宿りて敵を喰らえ 白き雷」

そこそこな威力の白き雷…ずる無しだと雷の斧は発動の速さと言う利点が消え、戦闘では使えないので…を一応、止めで撃っておく。

まあ、当然、ただの的は木っ端みじんである。

「なるほど…なかなかですね、佐倉さん、何か感想は」

「はい、対戦士魔法戦闘の基本形の一つ、足止め、追撃、止めの三連打に忠実で、威力・速度共に十分かと思います」

「ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げる。まあ、この年にしては、と枕詞が付くのは重々承知の上ではある。

 

「では、続いて模擬戦と行きましょうか」

「はい、では…」

私は袖口から鉄扇を抜き、それを構え、気を練った。

 

 

 

 

 

 

私の長谷川先輩への印象は、頭の良い人、でした。だって、麻帆良の三賢者なんて呼ばれる天才女子中学生3人組の一角ですし、あまりそれ以上は知りませんでしたから、実は外様の魔法関係者だと言われても、実感なんてありませんでしたし。

的あて後の魔法使いとしての印象は…なかなかやる人、でした。と、同時に、的あてであれば、自分も同じ事をするのはさほど難しくない、と思える程度でしたから…。

そして、模擬戦が始まってからは…すごい人、に変わりました。いえ、とっても強いと言う訳ではないのですが、先生方と比べるに値する程度には強いと思いますし、魔法だけじゃなくて気も使えるとかもありますが、何より、すごくすばしっこいんです、長谷川先輩。

ある程度手加減されているようですが、始まってから一度も直撃を貰っていませんし、窮地からの脱出が上手いですし、何より虚空瞬動(後で、ちょっとズルをしている、と聞きましたが)まで使いこなす、機動力だけなら一流を名乗って差し支えない戦闘者でした。

…反面、攻撃は上手いとはいえ、火力不足で攻め手にかけると言った感じでしょうか…いえ、実戦形式が苦手な私よりは攻め手だけでも十分上手なんですけれども…。

「これ位にしておきましょうか、長谷川さん」

「はい、葛葉先生」

あ、模擬戦が終わったようです。

「佐倉さん、何か感想はありますか?」

「はい、長谷川さん、とてもすごかったです。機動力に関していえば、私が見た事のある範囲ですが、機動戦闘が得意な先生方の中でも最上位に比肩していると思います。ですが…攻撃は威力・手数不足で少し決め手に欠ける…と言った感じでしょうか、少しアンバランスな感じでした」

「そうですね、私も同様の感想です、よければ理由をうかがっても?」

「あ~元々、私は護身・逃走術の系統から魔法戦闘に入っていますので、どうしても避ける事を重視してしまって…そのまま鍛えていたらこの通りです。位置取り次第ではもう少しやれるかと思っていましたが、手加減して頂いていても、さすが魔法先生と言った所でしょうか」

そういって、長谷川さんはにこりと笑いました。

 

 

 

 

 

 

「疲れた…と言うか、なんで神鳴流剣士ってあんな目がいいわけ?」

「ちうさま、神鳴流は見切りの流派でもあるので…」

「わかっているよ、飛来する弾丸見切れる連中が、油断してなきゃ糸を見られないわけがないだろうからなぁ…やっぱり、本物の虚空瞬動と縮地使えるようにならないと厳しいなぁ…」

色んな意味で誰にも話せない愚痴を電子精霊相手にぶちまける私だった。

と言うか、縮地と呼べるレベルの瞬動を決めたと思った時でさえ、きっちり追跡して来るとか、さすが魔法先生は化け物である。

 

 

 

そうして、大停電の夜…私達の見回りは、外出禁止を破る生徒の姿さえ見つからず、軽い雑談による交流だけを成果として終了し、その間にエヴァとネギとの決闘は全てが終わっていたのであった。

 

 

 

「と、言う訳で、ネギ先生の御父上が生存されている事を知ってマスターはご機嫌です」

「なるほど…それと、すまなかったな、見届けに行くつもりだったんだが」

「ふんっ、お前が来ると話が余計ややこしくなっていたわ…と言うかお前の話からすると、全てはジジイの掌の上という事ではないかっ」

「まあ、何処までかはともかく、大停電の間私を拘束しておきたくてああなったのは確実だろうな…あれが偶然なら、それはそれで天運と言う奴かね」

「…まあ良い、ナギのやつの情報も入り、空手形だが坊やが呪いを解いてくれるという約束も得たし…結果オーライという事にしておこう」

うんうん、と頷き紅茶を口にするエヴァに倣い、私もそうする事とした…結果オーライと考える、という点を含めて。

 




ちうたんはすばしっこい。糸術による足場を見切れなければ虚空瞬動使えるのとほぼ同じ、年単位でエヴァ一味にポッコにされているのは伊達じゃないです。まあ、回避をメインで磨きすぎたおかげで、アンバランスに育ちましたが。もっとも、色々と『ズル』と言う名の半外法でドーピングしていれば攻め手ももうちょいマシにはなります。

ま、学園長が盤上に不確定要素が乗るのを嫌って締め出された感じっすね、今回は。
模擬戦を愛依視点にしたのは、本人視点だと非常に駆け引きが書きにくかったので…ちなみに、ちうたんの悪癖で、カエデとやった時みたいに、相手に合わせてついついギアを上げちゃう癖があり、外法無しの全力は出していました。


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修学旅行編
25 修学旅行編 第1話 修学旅行 ≦1日目、夕刻


 

修学旅行前の土日、私はマスターの別荘に『5時間』ほど、缶詰になっていた。

普段は水曜日と土曜又は日曜日で連休などに+αする別荘使用のスケジュールがこの前の一件で崩れていた分と、修学旅行で使えない分の調整と、いつぞや楓相手にやらかした『手加減されている状態でも変にギアを上げていって本気を出して、相手にも出させてしまう(本気に到達しているとは言っていない)』、と言う悪癖が再発したので、お仕置きを兼ねていつも以上にハードな鍛錬である。

「相変わらずすばしっこさだけ上達しおってからに!もっと強力な魔法も使え!」

「無茶言うな!これ以上ギア上げたら、マスターへの献血分と合わせて失神する!」

「だから、失神するまでやれと言っているんだよ!ちゃんと増血剤投与してファンタスマゴリアに放り込んでしごいてやるから安心しろ!」

「ただでさえ加速空間なのにさらに体感時間加速させる巻物の使用前提にされても困る、マスター!」

「失血死したいならそう言え!私が納得するまで続けるからな!」

こんな感じで、言い合いをしながら(ただの売り言葉に買い言葉であるが)空中機動戦闘+無詠唱魔法の打ち合いとか言う苦行である、今やっているのは。

というか、冗談抜きで血が足らん…もういっそ白き雷二連でもやればマスターも満足するだろうか…。

 

 

 

 

 

超包子に呼び出された私は、仕事をしながら愚痴を言っていた。

「これ、私が手伝う必要あるのか…?荷物持ちとかはともかくさ…」

「ほら、千雨サン、無駄口叩いてないで肉まん包むヨ…お料理研究会は通常営業分で手一杯ネ、それを考えたら皮と餡を用意してもらただけでも感謝するヨ」

「はいはい」

と、修学旅行中の販売分の肉まんを包むヘルプに入る事になっていたりもした…販売と運搬はたまにヘルプに入っていたが、包むのは最近してなかったなぁ…とか感慨にふけりながら私は肉まんを包んでいく。聡美は自動化しようとするし、クーは割とすぐ飽きるし、なので私と超と五月の三人で…。

「で、そう言えば、班行動って大阪観光に行くんだっけか」

「すいません、私の我儘を聞いていただいて…」

「気にするな、五月。私も是非、肉まん界における関西の雄と、そしてそれと源流を同じくする中華飯店を訪ねてみたかったネ。クーもノリノリだったし、あくまでお昼とおやつだけの事ヨ」

「そうだな、聡美や私は特に希望もなかったし、五月のスキルアップにつながれば私らも恩恵受けられる。それにザジも楽しみそうだったし」

「超さん…千雨さん…」

と言う訳で、私達第二班は修学旅行で難波近くの大阪観光をする予定となっていたりする。京都奈良の筈が大丈夫なのか、とも思ったが、第4班はUSJまで行く計画を出してOKを貰っていたので、特に問題は無いらしい。

 

 

 

そうして迎えた修学旅行初日、朝ご飯としての肉まん販売員のヘルプ(麻帆良駅から売っていたので京都以外を含めた他のクラス相手にも)を済ませた私は、超包子関係の仕事は荷物持ち以外からは解放され、聡美と並んで新幹線の発車を待っていた。

「楽しみですね、関西観光」

「そうだな、関西の食にも興味はあるし…マスターのしごきはきつかったけど」

「あーエヴァンジェリンさん、修学旅行と言うか校外学習は参加できませんからねぇ…八つ当たりでもされました?」

「私怨が混じってないとは思…いたい。一応名目はいつぞや楓相手にやらかした事だし」

「長瀬さんと言うと…格上相手に対応を誤ったとかいうあれですか?」

「まあ、そんな感じだな…おかげで血が足らんよ…」

と、つい不用意な言葉も漏らしてしまう。まあ献血の方は聡美も知る所なのではあるが

「ならば、ハイ、肉まんです、私のおやつ分ですが、一緒に食べちゃいましょう」

「ああ、ありがとうな…おっ、発車する様だな」

こうして、4泊5日の修学旅行は始まったのであった

 

 

 

「…良いのかコレは…秘匿的な意味で」

唐突に車内にあふれ出したカエルを一匹拘束して呟く。

あまり触りたくないので糸で後ろ脚を縛って、であるが

「これ、魔法ですか?」

「たぶん、符術か召喚獣だなあ…潰せばわかるんだが…」

「えー万一本物ならグロくないですか…」

「…エチケット袋の中でやろうか」

で、エチケット袋の中でカエルを切り裂いてみると、消え去った…召喚獣だったらしい。

「関西と関東では組織が違うはずだから、何かの嫌がらせか…威力偵察か」

「嫌がらせはともかく、威力偵察ですか?」

聡美が首をかしげる。

「嫌がらせ、悪戯で済む程度の攻撃を仕掛けてこっち…と言うか関東側の対応力を探っている…とかな」

「へー成程…となると本命は?」

「対応次第では来るだろうなぁ…まあ、外様の私にゃ、火の粉がかからない限りはあんま関係ないけれども」

「確かにそうですが…これが起きているのがうちのクラスだけだと、狙いってうちのクラスって事になりません?」

「あ…その可能性は…高い」

陽動というのも無くはないが、まあ威力偵察説ならばその通りである。

「千雨も捕まえるの手伝うアルよ!」

クーから呼ばれる

「はいはい…じゃあちょっと行ってくる」

「頑張ってくださいね~」

聡美にそう言われながら、ビニール袋を手袋代わりにしてカエルの回収に参加する私であった…召喚獣でも、カエルを素手は、できれば避けたい

 

 

 

「終わったか?」

「そのようアルね…」

と言っていると、ツバメの様な何かがネギ先生が懐から出した封書を奪って飛び去って行った。

 

…あれが狙いか。

 

一瞬、私も追いかけていこうかと思ったが、ネギ先生に預けられる程度の何かであれば、奪われた所で、(私に火の粉が降りかかってくるような)大事はないかとこちらの対応を優先する事とした。

「クー、カエルは私が処分する」

「千雨、お願いできるアルか」

そうしてクーからカエルを受け取った私は、先生が出て行ったのと逆の扉からデッキに出ると、低級な召喚獣を送り返す魔法を唱えた…よし、無事に送り返せたようである。

一匹一匹潰すのは面倒であるし…

カエルを捕まえていた袋と手袋にしていた袋を合わせて捨てて車両に戻ると、不満そうな刹那が、そして何かを悩んでいる様子のネギ先生がちょうど戻ってくる所だった。

 

 

 

それから特に何事もなく、最初の目的地である清水寺に到着した私達は、記念撮影を行った後、夕映の清水寺解説を聞いていた。しかし、内容が地主神社と音羽の滝になると、恋愛・縁結びと言う単語に反応した連中が騒がしくなり、駆け出した先発組を追いかけるようにクラス全体も移動する事となった。

「やれやれ…そんなに良いもんかね、恋愛」

「一般には、私達位の年頃だと興味津々らしいですからね〜」

その最後尾を、私は聡美とのんびりついていく。

「ま、心を許せるパートナーっていう意味なら、私は聡美がいるからそれで十分だけどな」

「私も、好きにさせてくれて、研究に理解がある人ってのは必須だと思うので、私も千雨さんで十分ですね…もっとも、今は互いに色々秘密や話せない事は抱えていますが」

「アーうん…まあ…な」

そんな話をしながら石段を登りきると、ちょうどのどかが恋占いの石にタッチを成功させている所だった…が、手前で委員長とまき絵が落とし穴から救出されている所だった。

「また、ですか?」

「たぶん、また、だなぁ…」

色々と前途多難である。

 

気を取り直して音羽の滝、当然のようにクラスの半数近くが縁結びの滝に群がっては何杯も飲んでいた。

「…一種類、一杯が正式な作法じゃなかったか?しかも作法を外すと効果が弱まるとか何とか…」

「まあ、気分の問題ですしいいんじゃないですか。私達も、健康の水、いただきましょうか」

「ん?学業じゃなくていいのか?」

「いやだなぁ…学業は自分で何とでもできますし、縁結びは、既に良縁に恵まれていますが…健康だけは自力ではどうしようもないですし」

「聡美は研究でよく夜更かししたり、睡眠時間確保のために研究室で寝たりとかしたりしているしな」

「千雨さんもエヴァンジェリンさんの下で無茶していますしね」

くすくすと笑いながら、私達は健康祈願の水を、一杯ずつ飲むのであった。

 

「…なんか、みんな酔いつぶれてないか」

「…そうですね…縁結びの滝の水から希釈したエタノールの匂いもします」

様子のおかしい連中からとったひしゃくの水をかぎながら聡美が言う

「健康の滝は普通だったって事は…」

「なっ…滝の上にお酒が!いったい誰が…!?」

ネギ先生の声が上から聞こえる。

「…って事だな、まあ今回のは魔法関係ないから悪戯って事で処理すりゃいいだろう」

…と、思っていたのだが、ネギ先生、特に報告もせずにそのまま隠蔽する事を選んだようである。

となると、相手がこっちの魔法組織であるという認識で、手段の如何に問わず、魔法の隠蔽という事で話を大きくしたくない、と言う訳かな…?

どちらにせよ、すでに私達にも火の粉が及びかかっているわけではある。

「ちょっとネギ少年、問い詰めてくる」

「よろしくお願いします〜。でも無理はしないでくださいね、私も千雨さん達との修学旅行楽しみにしていたんですから…離脱されると困ります」

「おう、わかっている。極力はネギ先生に任せる方向で行くよ、私も旅行は楽しみたいし」

 

 

 

「あっ、アスナ、ネギ先生何処にいるか知らねぇか?今日の事、問い詰めにゃならん」

「あ、千雨ちゃんも?浴場前にいるらしいから一緒に行きましょ」

遭遇したアスナと共に浴場前に向かうと、カモと何かを話しているネギ先生を見つけた。

「ちょっと、ネギ」

「あ、アスナさん、千雨さん」

「とりあえず、酔っている皆は部屋で休んでいるって言ってごまかせたけど…いったい何があったって言うのよ」

「新幹線でも、なんか封書を鳥の形をした何かにすられていましたよね」

「じ、実はその…」

「言っちまえよ、兄貴!」

先生が言いよどむのをカモが煽る

「実は、関西の魔法団体に僕たちが狙われている様で…」

「えーっ私達3-Aが変な関西の魔法団体に狙われている!?」

「はい、関西呪術協会っていう…」

いや、ヘンな魔法団体って言うが、関西呪術協会の方がこの国では土着の古い組織だぞ、関東魔法協会よりも…と言うか、西洋魔法の普及に伴って広い意味合いでは呪術などを含む今の名称に改名しただけで、元々は関東も呪術協会だったはずである、確か。まあ、話の本質には関係ないし、私達が巻き添えだとしても、狙われているのは事実であるし。

 

「で、カエルも、落とし穴も、酒樽もそいつらの嫌がらせらしい、と」

「どうりで…変だと思ったのよ。また魔法の厄介事か」

そういってアスナがため息をつく

「すいません、アスナさん」

「ふふっ…どーせまた助けて欲しいって言うんでしょ? いいよ、ちょっとだけなら力貸してあげるから」

「まあ、私も今回はしがらみもねぇし、降りかかる火の粉を払う分くらいは手伝うよ」

「あ…アスナさん、千雨さん」

ネギ先生が感動している

「そうだ、姐さん、学者の姉さん、クラスの桜咲刹那ってやつが敵のスパイらしいんだよ!何か知らねーか」

「えっ、刹那のやつが?」

公私共に、木乃香を守る事一筋のやつだと思うんだが…

「え~~っ!? スパイって…桜咲さんが?そんな突然

そ、そうね…このかの昔の幼馴染だって聞いた事あるけれど…ん〜〜そういえばあの二人がしゃべっているところ見た事ないな…」

と言ったアスナのセリフから、カモとネギは刹那が関西の刺客だという結論に至ろうとする。

「あ~マテマテ、私からは詳しくは話せんが、刹那は木乃香の護衛だと本人からは聞いている。

一応、木乃香に危害が及ばない範囲なら、何かしらの命令が下りてきているならば敵対する可能性は否定できんが…少なくとも木乃香の側に居られなくなるような事をするやつじゃないぞ」

木乃香も刹那も関西呪術協会の大物の娘とその親から派遣された護衛としか知らんが、木乃香が学園長の孫でもあるって事は、親関東派のはずだし。

「でも、学者の姉さん、それは本人の自己申告なんだろう?」

「だが、学園長が木乃香の周りをウロチョロするのを認めている、と言うのも事実だな」

と言う話をしていると、源先生がネギ先生に風呂を済ませる様にと言いに来て、話の続きは夜の自由時間に、という事で一度解散となった。

 

 

 

自由時間、木乃香と引きはがせる雰囲気ではなかったネギとアスナに就寝時間後にロビーで、と伝えて一度部屋に戻って待ち合わせに来てみると、刹那が入口に符を張ろうとしているのに出くわした。

「よ、刹那。直接動く事にしたのか」

私は近くのソファーに腰かけながらそう言った。

「千雨か。まだ小手調べと言った雰囲気だがこのかお嬢様に被害が及びそうになったのでな」

「そうか。それはそうと、ここでネギ先生達と待ち合わせをしていてな、会いたくなければ少し離れていて欲しい」

「いや、むしろそれは好都合だ」

と、言った所でネギ先生とアスナ(とカモ)が登場した

「な、なにをやっているんですか?桜咲さん」

「これは式神返しの結界です…」

「へぇーところで、千雨さんとここで待ち合わせをしていたんですが…」

「ここだよ、ネギ先生」

丁度、柱の陰になっていて見えなかったらしいので、顔を出してそう言った私だった。

 

 

 

 




行動の描写が無い2班の皆さんの自由行動は五月さんの希望で東の肉まん王者をおやつに、それと源流を同じくする中華飯店でお昼を、と言うプランになりました。ぶっちゃけ蓬莱ですね。
つまり、ちうたん、夕方まで、また舞台の外だよ、やったね!(待ちなさい 
いや、晩はちゃんと参戦しますが、多分

なお、割と本気で自分とハカセに火の粉が降ってこなければどうでも良いと千雨さんは思っています。さすがに頼られたり、誘拐とかシャレにならない状況を見つけたりしたら手助けしますがよくわからない封書を狙っていて嫌がらせしかけられているという認識なので、まだ。

班分けについて
千雨さんとザジさんが美空と楓と入れ替わっただけです。
たぶん、原作の班分けでは千雨も美空も楓もザジも仲良しグループが集まった後に割り振られた組ですし(酷い
なので、同室の千雨さんとハカセにザジさんが割り振られて、6班の楓が委員長に引き取られて、という班構成です。
いや、シネマ村が過剰戦力になりますが、まあ、楓さんは百鬼夜行相手に遊んでいるという
事になるんじゃないかな(


追記
感想ありがとうございます。

それと、誤字報告もありがたいのですが、ページ上部の誤字報告機能からお願いします。
ちなみにぽーやはうちのPCが濁点と半濁点を入れ替える変換をかます事があって、それが原因ですね。


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26 修学旅行編 第2話 修学旅行 1日目 晩

「…えっと、桜咲さんもその…日本の魔法を使えるんですか?」

刹那が私の隣に、ネギとアスナが斜めの前のソファーに座った後に、最初に口を開いたのはネギ先生だった。

「ええ、剣術の補助程度ですが…えっと、神楽坂さんには話しても大丈夫なんですね?」

「はい、大丈夫です」

「あはは、もう思いっきり巻き込まれちゃっているからね」

 

「では…早速ですが、敵の嫌がらせがかなりエスカレートしてきたのは理解されているかと思います。そして、先ほどは本腰を入れた行動ではないにせよ、木乃香お嬢様を誘拐しようとする動きにまで至っています。よって、それなりの対策を講じなければならないかと…」

「げっ、先生の持っている手紙だけじゃなくてそこまでかよ」

私は新情報に思わず口を開いた。

「ええ…最初は親書が主目的だったのでしょう…ネギ先生は優秀な西洋魔導師と聞いていましたのでうまく対処してくれると思ったのですが…意外と対応がふがいなかったので敵も調子に乗ったようです」

「あうっ…ス、スミマセンまだ未熟なもので」

「じゃあ、やっぱりあんたは味方…!」

おいエロガモ、さっきは私の刹那に関する証言でも意見かえなかったくせに。まあいいけど

「ええ、そう言ったでしょう」

そう言った刹那に、カモが敵と疑った事を謝罪し、ネギ先生の求めに応じて刹那は今回の敵について説明する。呪符使いと式神について。

「付け加えておくと、一般に符術は用意が必要な代わりに威力と発動速度では西洋魔術に勝る傾向がある…んだよな?」

「はい、まあ術者の力量次第ではありますが」

 

続けて、刹那は刹那自身も属する京都神鳴流についても説明した。

「じゃ、じゃあ神鳴流って言うのはやっぱり敵じゃないですか」

「いや、どうしてそうなる。あくまでも敵は関西呪術協会の一部なんだろう?

ならば流派自体が敵になる事はねぇ…それとも、神鳴流も反西洋魔法派が主流なのか?」

ネギの早合点に釘をさし、刹那に尋ねた

「いえ、確かに、流派総出で襲撃をかけてくると言った事はないでしょうが…神鳴流等を含めた広い意味での関西呪術協会全体の空気としては敵対が主流とまではいかなくとも、長年の確執がありますので…少なくとも、西を抜けて東についた私が公然と裏切り者呼ばわりされる程度には…」

刹那が寂しそうな、しかしこれでいいんだ、と言う顔をする

「でも、私の望みは木乃香お嬢様をお守りする事で、その為ならば仕方のない事です。

私は…お嬢様を守れれば満足なんです」

私ならば仲良くもしたいし、守る為にそばにいる事を選ぶとは思うが、それは刹那の決断次第である。

「刹那さん…」

「……よーし、わかったよ、桜咲さん。

あんたが木乃香の事嫌ってなくてよかった、それが分かれば十分、

友達の友達は友達だからね、私も協力するわよ」

「か。神楽坂さん…」

「よし、じゃあ決まりですね。

3-A防衛隊(ガーディアンエンジェルス)結成ですよ!」

「えー!?何その名前…」

「せめてガーディアンズにしねぇか?」

私とアスナが名前にケチをつける。ネギ的には守護天使的なノリで言っているんだろうが、恥ずかしい。

とはいえ、四人で手を重ね、上にカモが乗る。

「えー…まあ、名前はともかく、関西呪術協会からクラスのみんなを守りましょう!」

「おう」

 

「今夜、また敵が来るかもしれません、早速、僕、外に見回りに行ってきます」

ネギはそう言って走って行ってしまった。

「さて、見回りは私もするが、木乃香の警護は二人に頼む。

うちの部屋の連中の事もあるし、先に3時間休憩貰って良いか?

その後、ネギ先生と交代しながら朝まで見回りするから」

「ええ、ではそのように…神楽坂さん、私は一通りホテル内を確認した後、消灯まで見回りをしますので先に木乃香お嬢様についていていただけますか」

「わかったわ、じゃあそういうことで行きましょう」

という事になり、私は一度部屋に戻る事となった。

 

 

 

「「で、結局どうなったカ」んですか」

部屋に戻ると聡美と超が待ち構えていた。

「…とりあえず、嫌がらせの下手人はこっちの魔法団体の一派らしい。

一応交代で朝まで警戒態勢をとる事になって最初に休憩貰ってきた。

まあ、うちの班は巻き添え以外で被害は出そうにはない、とだけ言っておくが…それ以上はコレだ」

そう言って私は唇に立てた人差し指をあてた。

「むむ…私達はぐっすり眠って問題なさそうなのは有難いガ…」

「千雨さん、朝まで警戒って…無理しちゃ駄目だって言いましたよね?」

「いや、私、コレでも気も魔力も使えて眠らずに三日間以上余裕で活動できるからな?」

マスターの下での実体験である。まあ、小休止は挟んでいたし、全力で活動すればその限りでもないが。

「むー…これ以上言っても千雨さんの休息を削るだけなので引きますが…本当に無理はしないでくださいね?」

「ああ、余裕もって仮眠時間も貰っているし、明日以降も移動時間に体を休めていれば大丈夫だよ」

 

と、言っていると私の携帯が震えた…アスナからだ

「すまん、出る。あーもしもし、どうしたアスナ」

『千雨ちゃん、大変なの、木乃香がおサルにさらわれて…今、追いかけているんだけど駅の方にこられる?』

「分かった、すぐ行く…悪い、早速しかけて来たみたいだ、ちょっと出てくる」

「万一、此方が本命でそっちが陽動だったら電話入れるネ」

「もう…分かりました、気をつけて…無事に帰ってきてくださいね」

「おう、じゃあ行って来る」

そう二人に返し、私は窓から文字通り、空へと躍り出るのであった。

 

 

 

「あれか」

そのまま、駅の方に駆けると木乃香を抱えた猿の着ぐるみと、それを追うネギ達が見えた。

合流しようとしていると、猿とネギ達の間に目掛けて放たれた短刀のようなモノを捉えた。

「ちっ」

強く地を蹴り、軌道を修正した私は鉄扇でその短刀を全てはじく。

「「「千雨!」さん!?」ちゃん!?」

突然現れた私と金属音に足を止めかけるネギ一行。

「こっちは私が引き受ける、いけっ!」

しかし、それでは木乃香がさらわれてしまうと追跡続行を促す。

「すまん、恩に着る。行きますよ、ネギ先生!」

刹那が追跡速度を戻し、ためらいつつも、ネギとアスナもそれに続く。

それを狙うようにまた短刀が飛来するが、此方も跳躍し、同様に防いだ

 

「なかなかやるやんか、姉ちゃん」

射線から推定した敵の方から突然に…恐らく瞬動で現れたのは、犬耳を生やした学ラン姿の少年だった。

「さっきのはお前か、犬耳の少年。犬猿の仲というけど、サルに犬が協力するのか」

「まあ、別に俺も姉ちゃんも犬でもサルでもあらへんしな…引いてくれるんやったら痛い目みいひんで済むで」

「はっはっは…今引いたら、向こうに合流するだろうが…瞬動を使えるならまだ間に合う」

丁度、先生達が猿の飛び込んだ列車に乗れたのが見えた。

「せやな、でもそれは姉ちゃんも一緒やろ?

やから…女を殴るんは趣味やないけど少し付き合うてもらうで」

「はっ、殴れるもんなら殴って見やがれ」

こうして私と犬耳少年の戦いが始まった。

 

 

 

「なかなかやるな」

少年の猛攻を凌ぎながら私は言った…直情的な攻めに見えて案外隙のない攻撃である。

「ほざけ!涼しい顔して全部受け流しとる癖に何言うとんねん…ギア上げてくで!」

「勘弁してくれ、疲れる」

とは言え、そろそろ仕込みは良いか。

宣言通り気の密度を上げて攻撃の手を強める少年に、私は少しバックステップを多めに受けに回る。

 

そして…私は少しバランスを崩した。

「貰うた!」

できた隙目掛けて攻撃をかけてくる少年。

 

魔法の射手 戒めの風矢

 

…に、わずか3本であるが無詠唱で発動した魔法の矢が襲いかかる。

 

「なっ」

「ノイマン・バベッジ・チューリング 魔法の射手 闇の7矢」

 

跳躍して距離をとりながら追撃に放った魔法の射手は…護符で戒めの風矢を防いでいたらしい少年を捉えきる事はできず、一本が掠めただけだった。

 

「へぇ…それが護符か。少し想定外だ…知っていれば雷にしたんだがな」

興味深げに呟いた私に少年が返す。

「姉ちゃん西洋魔術師かいな!っちゅうか杖もってへんやん!」

「そういえば言ってなかったな、ちなみに発動媒体は秘密だが身に着けているアクセサリーのどれかだとだけ言っておこうか。

だが、まあ神鳴流剣士だって陰陽術を使えるんだ、それくらい想定しておくべきじゃねぇか?」

と、挑発してみるが、まあ意図的に接近戦闘者だと思わせての奇襲的無詠唱魔法という、割と有効な手を用いたのは私である。

 

「へっ、それもそうやな、せやったらこっちも、もうちょい本気だすわ!」

「それは面倒くさい…というか、本隊は十分離れたし、もう良いんじゃないか?お互い」

「そういうわけにも行かへんわ、姉ちゃんみたいなすばしっこいの放置したら追いついてまうやろ」

「ならばもう少し相手をするか…」

「ほな、いくでっ」

 

少年の影が蠢き、犬の姿をした使い魔が現れる。

「なるほど、召喚術師でもあるわけか」

「おう、狗神使いや」

私は、ぺしぺしと鉄扇で犬たちをいなしながら下がりつつ、詠唱に入る。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 雷の精霊23柱 集い来たりて敵を射て」

そして、発動の瞬間、後ろに跳ぶ。

「魔法の射手・散弾・雷の23矢」

少年を中心軸に放射状に放たれた魔法の矢が近くの犬を消し去り、離れた犬にも手傷を負わせる。

 

しかし、発動の瞬間少年が掻き消えた…ミスったか。

「もろうた」

着地までの瞬間を狙い、大きく回り込んだ少年がそう呟く。

しかし、私は空を蹴ってさらに大きく跳躍し、着地する…。

まだ糸なしだと成功率6割と言った所だが、糸を編む間もなかったので挑戦した結果、成功して良かった。

「おしい」

回り込めないように犬の分布ではなく少年を中心の散弾にしたんだが…うまくいくかもわからない虚空瞬動を使わせられてしまった。

 

「なっ…姉ちゃん、虚空瞬動まで使えるんかいな」

「まあ、まだまだ拙いけれどな」

と、さも予定通りと言った顔で、しかし内心冷や汗を流しながら少年と対峙しながら言う。

正直、ちょっとアレな技術なしの底は見せてしまった。

まあ、必要とあらば使うが、痛いし、体にも負担なので、少年がこの範囲で対処できる範囲だとよいのだが。

 

「はぁ~西洋魔術師の癖に武術で達人クラスって何やねん…

っちゅうか、ソレできるんやったら、俺の事無視して向こうの追跡できたんちゃうん?」

あきれたように少年が言う。

「一般生徒を狙うとは思わないが、ホテルの傍に敵を放置してソレはちょっとな…万一があると困るんでな」

「そんなことするかいな」

「まあ、一応という奴だよ…だから引いてくれるなら今夜は追わないでホテルで大人しく事の顛末を見届けるけど、どうだ?」

正直、私個人としては木乃香より聡美である。まあ、この少年が現れていなければホテルが襲撃されるとか考えずに追いかけていただろうが。

「っちゅうてもなぁ…おっ…丁度撤収の合図が来たから今日は帰るわ」

「おう、じゃあな…まあ結果の如何によらず、また会うだろうが」

木乃香がさらわれたなら奪還作戦で、刹那達が奪還に成功していれば次の襲撃で会う事になるはずである…が、まあ木乃香を守り切って修学旅行を終えられればこちらの勝ちなので逃がしても良いだろう、このまま戦闘を続けるのは私にとっても大きなリスクであるし。

「せやな…ま、それじゃあまた」

そう言って少年は帰っていった。

 

少年を見送った私はホテルに戻り、周囲に糸術で鳴子のように働く結界(物理)を構築してホテルの屋上で先生達の帰りを待つのであった。

 

 

 

「お帰り、刹那。木乃香は先生と一緒か?」

「ただいま、千雨。お嬢様は先生に任せて戻ってきた…ああ…明日はお嬢様達と班行動だ…どんな顔をして会えばいいんだ…」

刹那が困った顔で言う

「いや、嬉しいんだろ?ならニコニコしてればいいじゃないか」

「いや、だが私は本来お嬢様の護衛という立場さえおこがましい身分なんだぞ」

「前も言ったが、関東に鞍替えしているんだから関西での地位とか気にせんでいいだろう、

魔法の秘匿的な意味で傍にいられないと言っていたのは理解するが…まあもうばれただろうし」

こいつ、木乃香に本気で問い詰められたらどの程度抵抗できるかはともかく、魔法の事をゲロるのは確実である。

「というかだな、少なくとも護衛の件は親公認というか、親からの依頼なんだろう?

関西の某大物だって言う木乃香の親の」

「まあ…そうなんだが、だからといって身分も弁えずに御学友として親しく振る舞っても良い訳では…」

 

「はぁ…まあ、この話は置いておいて…情報交換だ、どんな敵だった?

こっちは犬耳の狗神使いの少年だった、腕は…私と近いくらいだな。

お互い底は見せてないが、あちらが完全に遊んでいたのでなければ私もお前も負ける事はないと思う。私が勝てるかは別として」

何度か話して既に結論が出ない(刹那の決断でしか結論の出しようがない)事が分かっている話題を打ち切り、実務の話題に入る。

「ふむ…犬耳の狗神使いと言う事は狗族の血を引いている可能性が高いか…獣化は使ったか?」

「いや…と言う事はまだ強化の余地はあったって事か?」

「血の濃さにもよるが、犬耳だったのならば程度はともかく獣化は使えるだろう」

「ん~単純に身体能力の強化だけなら…たぶん対応できるな」

女を殴るのは趣味ではない、と言うのが思いのほか本気で、すごく手加減していたとかならともかく。

 

「此方は猿の着ぐるみの女がやはり呪符使い、特段特徴はないが技量は…並よりは上だな。

そして…敵にも神鳴流剣士がついていた。大小二本の小太刀による二刀流で対人戦を得意としているようだ…技量は同格か少し下、得物の相性で不利、といった所か」

「うげっ…刹那と同格程度で対人特化の神鳴流剣士とか、最悪じゃねぇか…」

「まあ、お前なら一方的にやられる事はないだろう。今日見た程度から多少伸びた所でお前なら捌き切れるし、お前には虚空瞬動モドキと魔法があるだろう」

「…糸術の足場を見切ってくる近接戦闘の達人という時点で相性悪いんだよ」

ふてくされながら言う。私の機動力は不可視…とまではいえないが見えにくい空中の足場を糸術で自在に展開できる事が大きなアドバンテージである。

「あ~確かに、一本一本はともかく足場にできるほど纏まった地点は見切れるだろうなぁ…ある程度以上の神鳴流剣士なら」

もう少し虚空瞬動が使い物になればそれもフェイントにできるのだが、今はまだ見切られると機動が読まれるだけである。

 

「で、どうする?私はさほど疲れていないから、後で3時間ほど仮眠をもらえるならばこのまま見張りを続けられるが」

まあ、全く疲れていないといえば嘘になるが。

「すまんが、先に休ませてもらいたい」

「おう、わかった。お休み、刹那」

「お休み、千雨」

こうして、刹那を見送った私だったが、暫くしてから戻ってきた結局ネギ先生達も後片付けなどで疲れており、結局、私が仮眠を取れたのは空が白み始めた頃の事だった。

 




小太郎君が前倒しで登場しました。小太郎君が手札として使えるなら月詠さんが到着駅にいたように、逃走支援に配置しておくべきなんすよね。フェイトの見張りとか子供は夜は寝とけと千草さんが寝かせたとか、思いの外、手ごわかったので呼び寄せられたとかいろいろ説もありますが(
ちなみに、小太郎君を千雨さんが引き受けると言って刹那はとっとと行って、ネギ君とアスナさんが躊躇ったのは、千雨さんが割と戦えるのを知っていたか否かの差です(実はネギ君の前で戦った事ないどころか、戦えるとも言った事なかったはずです、千雨さん(厳密には茶々丸の相手位、とは言っていますが)まあ、せっちゃんはお嬢様優先思考も無いとは言い切れませんが
なお、投擲武器を弾いた辺りで女なんで殴りたくないけどそんな事言っていられる相手ではないとみなされています、千雨さん。


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27 修学旅行編 第3話 修学旅行 2日目

「千雨さん、そろそろ準備しないと朝ご飯に遅れますよ」

聡美に起こされ、目を覚ます。時計を確認するとギリギリ3時間は睡眠をとれたようではある。

「わかった、すぐ身支度する」

私は、急いで制服に着替え、最低限の身支度で朝食会場に向かうのであった。

 

 

 

朝食を済ませ、ロビーに出ると、ちょうどネギ先生の争奪戦をしていた。

「別に、班別で動けってだけなんだから複数班で先生を囲めばいいのにな」

「あ〜そう言う手もありますねぇ…でも意見調整が大変なのでは?」

「…それもそうか」

なお、うちの班の行動の基本は現地の美味しい店を探して食べる、であり、観光はその合間に行う事としてある。よって今日のメインは三輪素麺と柿の葉寿司であり、大仏はおまけである。

そして、ネギ先生争奪戦はのどかの5班が勝利した。

まあ、そりゃあ、そうなるわな…木乃香の守りを固めにゃならんのだし。

というか、本来は巡回しながら生徒達を監督するはずだが…まあいいか。

 

しかし、毎日宿をかえるのが大変だとは言え、よくもまあ、嵐山のホテルから奈良に観光に行く計画を立てたものである。…まあ、バスの移動なので、その間ぐっすり眠らせてもらえてこっちとしては助かるが。

 奈良では特に敵の襲撃などはなく、とても楽しい時間が過ごせたし、昼食に選んだ店は大当たりだったと言っておこう。

 

 

 

そして、事件は夕方、ホテルで起こった。

夜に備えて部屋で体を休めながらのんびりパソコンをいじっていると、ネギの大泣き声が聞こえ、同時に魔力の発動を感じ取った…ヤバい。

「む…ネギ坊主の泣き声カ、今の」

「たぶんそうですね…」

「うん、ちょっと様子を見てくるわ…これ案件だ」

と、コンコンと発動体であると聡美と超は知っている腕輪を叩いて言った。

 

 

 

泣き声の方向からどうも露天風呂から聞こえてきたらしく、そちらに向かうと同じ目的であろうアスナや委員長と遭遇した。

「あ、千雨ちゃんもさっきの泣き声を調べに?」

「ああ…たぶんあれ、ネギ先生だよな」

「たぶん…」

ひそひそとアスナと合意を取る。そして、露天風呂を調べると…そこには裸のネギと朝倉がいた…。

 

あ、ヤバくね?と言うか、オコジョルート入ってないかい、ネギ先生…?

 

それが、まず何より最初に私の脳裏によぎった言葉だった。

とはいえ、周囲はそれよりもネギと朝倉が裸で向かい合っていた事の方が重要で、その隙に刹那を呼びに行くのであった。

 

 

 

混乱もおさまり、ネギに服を着せて、まずは状況確認をしてみると、案の定、朝倉に魔法バレしたらしい、よりによって、パパラッチ娘の朝倉に、である。

「もーダメね。アンタ、世界中に正体ばれてオコジョにされて強制送還だわ」

そんなアスナのセリフも、まあ仕方のない事である、魔法バレ対策機関の存在を知らなければ。

「まあ、ぶっちゃけ、世界にばらす前に魔法使いの組織が介入して情報操作と記憶処理に入るだろうが…まあ、ネギ先生の運命は…うん、朝倉の影響力考えるとオコジョルートだわな」

聞いた限り、重過失付きの大規模漏洩であるのでどう考えてもアウトである。

「そんなぁ…一緒に朝倉さんを説得してくださいよ、アスナさん、千雨さん、刹那さん」

ネギが泣き顔で懇願して来る。

「…正直、説得してみてもいいが、記憶消して証拠も破棄するのが一番ではあるがな、ネギ先生の保身的には」

というか、それが正しい魔法の機密保持の筈であるが。

といった話をしていると、カモを肩に乗せた朝倉がやってきて、ネギの秘密を守る為のエージェントとして働くとのたまった…朝倉が?と言うか、ネガなり元データなり破棄させないと写真だけ渡されても何の意味もないんだが…。

 

一度解散した後、私は朝倉(と、カモ)を問い詰める事にした。

「オイ、朝倉…カモと一体どんな取引しやがった」

「いやだなぁ…千雨ちゃん…ちょっとした対価はもらうけれども、秘密はちゃんと守るよ?」

朝倉がうさん臭い笑顔でそう言った。

「と言うか、麻帆良の三賢者とまで呼ばれる天才女子中学生科学者の一角が魔法使いだったなんて…お釈迦様でも気がつくまい…ってやつ?」

おい、態度で関係者だと気付くのは良いが…

「オイ、エロガモ、てめぇ私の事までばらしやがったな?」

朝倉からカモをひったくってギュっとする。

「が、学者の姉さん、だ、駄目…それ駄目だ、あんこ出ちまう」

「学者?そういえば、カモ君、さっきも千雨ちゃんの事、学者の姉さんって言っていたよね」

朝倉が疑問符を出す

「ったく…魔法も単なる不思議な力ってわけじゃなくて学問として系統立てられていてね…私は、魔法に関しても研究者なんだよ…それで学者の姉さんってわけだ。ちなみに、賢者(マギ)と魔法使い(メイジ)は同一の語源…と言うかラテン語じゃあどっちもマギだったりするから、朝倉の言うほど変な事でもなかったりするぞ、実は」

そういって大きくため息をつく。

「ま、ネギ先生が朝倉を信じるって言うなら特に私からはなにもしねぇが…ネギ先生の信頼を裏切ってみろ、そん時は…わかってんな?」

少しだけ殺気を出して朝倉を威嚇しておく。まあどちらかと言うと、カモに一蓮托生にされてしまったからここまで怒っているのではあるが。

「大丈夫、10歳の少年をガチ泣きさせてまでスクープしたいとは思わないし」

朝倉は、恐怖をギリギリ読み取れる程度まで取り繕いながら、気丈にそう答えた。

 

 

 

朝倉を脅してから速攻部屋に戻った私は、とっとと布団に入り見回りのシフトに備えて睡眠をとろうとしたが、騒ぎまくるクラスメイトの騒音で体を休めるのが精いっぱいであった。そこに、鬼の新田のお説教が入ったらしく、一度は静かになった…。

のだが、朝倉の悪ふざけ、ネギ先生のくちびる争奪戦とやらに各班二人の参加を要請された…らしい(私は周りが静かになって寝入った所をクーに起こされた)。

仕方なく、私達はそのメンバー決めを行う事にした。

「で、2班からは誰が出る?」

「私、出たいアル」

「私はパスで」

「私も遠慮したいです」

フルフル(首を横に振っている)

クーがいち早く参加を宣言、聡美と五月、ザジは不参加…と。

一応、移動時間に仮眠を取ったので今晩は不眠に近くても大丈夫ではあるか、正直、私は見張りのシフトが来る前に少し寝たい。

不眠で活動できるというのと、睡眠欲が沸かないのは別問題なのである…今も寝ようとしていたのであるし。

 

「「私もパスで」ネ」

 

超と私が同時に宣言する…。

「いやぁ…私もできればこういうイベントは見学したいのダガ…千雨サン?」

「…すまんが、明日もあるし、少しは寝ておきたい」

「む?明日は大阪で食事だから多少寝不足でも問題ないと違うアルよ?」

「アーそれは…」

「なら、千雨、ウルティマホラ優勝・準優勝ペアで行くアル」

クーに突っ込みを貰い、畳み掛けられる…。

しまった、超との会話のつもりで、魔法と直接関連ないからミスったか…というか思ったより頭の回りが悪くなっているのか…眠気とる魔法使っておけばよかった。

「むっ…千雨さんが出るくらいならば私が出ますよ?」

「いや、ハカセ、委員長とかえでサンのペアとか出てくるだろうにそれは危険ヨ」

「でも千雨さんの睡眠時間が…」

「二人とも何の話アル?」

事情を知る聡美と超の会話にクーが疑問を挟む。

「…わかったネ、私が出よう…ただしクーのサポートだけヨ。ネギ坊主の唇に興味はないから、クーが離脱したら私は棄権するからナ」

「ありがとう、すまんが頼む」

という事になり、私はとっとと布団に入った。

 

そして、日が替わる頃に起きてアスナと刹那と警戒を交代したのだが、その日は特に襲撃などはなく、無事に過ごす事が出来た…が…。

 

 

さて、翌日の食事中に聞いた話ではあるが、くちびる争奪戦とやらの大まかな経過は以下の通り。

 

まず参加者は1班が鳴滝姉妹、我らが2班がクーと超、3班が委員長と楓、4班が裕奈とまき絵、そして5班が夕映とのどか。

まず、3班と4班の遭遇戦が勃発、3班が有利に戦闘を進めていたが、そこに我らが2班…というかクーが乱入し乱戦に突入。しばらく後、超による(中国語での)新田接近警告により、クーが裕奈を撃破して逃走、警告を理解できた委員長も楓と共に逃走した。

そして場に残されて裕奈と、彼女を介抱しようとしたまき絵が合わせて新田に捕獲され、4班が全滅した。

一方、1班は屋根裏を、5班は屋外、軒下を迂回して先生の部屋に接近するもバッティング、夕映が殿となり、のどかを部屋に突入させた。直後、2班、3班が到着し、乱戦の様相を呈するも、ネギ先生の逃亡により、5班の王手は解消されて振出しに戻った。

 各班散会してネギ先生を捜索し…各班の前にネギ先生が出現し…キスを求めた。1班が喧嘩している(史伽の方にキスを求めたので、姉妹喧嘩勃発)間に、2班のクーが照れている間に、3班のまき絵が失格しているけどいいのかなぁ…とか宣って相談している間に、4班の委員長が身支度と記録装置をセットしている間に…夕映がそのネギ先生が偽物と気付き、後頭部を本で強打して偽物を消し去った…身代わりの符術だろうな…

 すると、ネギ先生たちはロビーに集結し、状況は混乱。超のサポートの下、いち早くそのうち一体にキスをしたクーだが、偽物のネギ先生は爆発、クーは失神…という事で超が部屋に回収してきて2班はリタイア。同時に、爆発を聞きつけた新田を偽物のネギ先生達がノックアウト、後には引けない戦いとなった。(2班はちゃっかりリタイアして安全地帯に退避しているが)

 まず、残り3体のうち、1体を鳴滝姉妹が捕獲し、両頬にそれぞれキスをし、ハズレ、爆発し、1班全滅。次に委員長が1体を捕獲し、唇にキス、ハズレ、爆発。そして残るは3班楓と5班の夕映とのどか。のどかの前に現れたラスト1体がのどかにキスをしようとしたところで、夕映が後頭部を強打、のどかと引き離した直後に爆発した。

 そして、そこに見回りから戻ったネギ先生が登場。のどかと何かを話したのち、夕映に足を引っかけられたのどかが事故チュー、くちびる争奪戦の勝者となった…。

と言った所で終われば、一応めでたしめでたしであるのだが、参加者並びに主催者一同は撤退に成功した2班を除いて新田に捕獲され、朝までロビーで正座させられる事となったのであった(一応、空が白み始めた頃には解放され、3時間程度は寝られたらしい)。

 

 

 

と言う訳で、ネギ先生がロビーで正座させられていたせいでシフトがうまく回らず、睡眠時間はさほど長く取れなかった…朝倉め。

 

 

 




ネギ君のくちびる争奪戦の参加者は超さんルートと千雨ちゃんルートで悩んでいましたが、ハカセの千雨ちゃんの睡眠時間を確保したいという願いで超さんが出る事になりました。うちのコンセプト、休息はしっかりとろう、なので(魔法で眠気をごまかせるのと体に負担がかからないのは別問題。まあ最低限の睡眠というモノのラインは確かに短くなるのだけれども。
 ちなみに、電子精霊はノーパソで一部だけ連れてきているので監視は手伝わせております。ただ、最悪見逃してもいい、目立つ事象を監視させた桜通りの時とは違うので、本人も起きてしっかり警戒していなくてはならんので寝ていられるわけではございません。(と言うか、瀬流彦先生の存在しったら無駄な努力だったと逆切れかますやつです。

・朝倉の千雨さん紹介
25番 長谷川千雨
天才その3
文武両道の体現者
昨年ウルティマホラ準優勝
なんだかんだで面倒見もよい

と、言った所でカモ君が魔法使いだと口を滑らせちまったわけですね、学者の姉さん、魔法使いなのに格闘もできるのかよ、って。


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28 修学旅行編 第4話 修学旅行 3日目

微妙にグロいと言うか流血…?アリです


三日目の朝食後、私とアスナは朝倉とカモ、ついでにネギを問い詰めていた。

「で、私は仮眠とっていたからまだ詳細は聞いてないが、魔法の秘匿と仮契約をなんだと思っているんだ、朝倉、カモ」

「そうよ、こんなに一杯カード作っちゃって、いったいどう責任とるつもりなのよ、ネギ」

「えうっ!?僕ですか!?」

「まあまあ、姐さん、学者の姉さん」

「そーだよ、アスナ、千雨ちゃん、もうかったって事でいいじゃん」

「朝倉とエロガモは黙ってて!」

「はい…」

「エロガモっ!?」

「…と言うか、この件が原因でクラスの連中に魔法バレしたら、確実にネギ巻き込んで、朝倉もオコジョルートだからな?」

「うげっ」

思い至っていなかったらしく、朝倉が悲鳴を上げる。

「本屋ちゃんは一般人なんだから、厄介事には巻き込んじゃだめだからね。

イベントの景品らしいからカードのコピー渡したのは仕方ないけど、マスターカードは使用禁止よ」

「魔法使いという事もバラさない方が良いでしょうね」

「そうですね、のどかさんにはすべて秘密にしておきます」

「…個人的にはコピーカード自体も渡したくないんだがなぁ…渡したの、正式な意味での複製カードだろ?」

「ああ…惜しいなぁ…あのカード強力そうなんだが」

カモが寝言をのたまう。やっぱこいつ、ネギをオコジョにしたいんじゃなかろうか、と邪推さえ湧いてくる。

「まあいいや、姐さんにもカードの複製を渡しておくぜ」

カモがそういって、複製カードの説明を始めた…。

「というか、アスナのアーティファクト、ハリセンなんだな…絵は刀剣なのに」

「うん…なぜかね。でもあんまり物騒じゃないからいいじゃない」

「アスナのそういう所を汲んでいるのかねぇ…あんまりそういう例は聞いた事が無いが…てか、そもそも研究の進んでない分野でもあるが」

「でも、破魔の剣としての対魔法・対召喚獣送還能力はハリセンでも健在だぜ、障壁破りとか」

「うっへ…陰陽術師泣くだろ…それ」

「まあ、当てられなきゃ意味ないんだけれどね」

「それもそうだな…さて、今日の自由行動だけれど、私の班、大阪観光なんだが…大丈夫か?」

「ええ、お嬢様の護衛はお任せください」

「はい、日の高いうちにアスナさんと親書を届けてしまう予定です、千雨さんは観光を楽しんできてください」

「それじゃあ頼む…どうしようもない事になりそうなら、メールか電話してくれ。移動に一時間ほどかかるが、急いで戻るから」

「うん、わかった。ネギの事は任せておいて」

こうして、私は大阪観光を楽しめる事となった。

 

 

 

「美味しいですね…濃厚な餡に、それを受け止められるほど皮もしっかりしていて…」

「むむ…さすがは肉まん界の西の王者ネ」

「美味しいアル」

「(コクコク)」

「人肌程度まで温くなったのも別の味わいがあっていいらしいぞ」

「へぇ~楽しみですねぇ…」

と言う訳で、私達2班は大阪に移動し、まずは肉まんを購入して食べていた。

五月もそうしているように、しっかりとした皮と濃厚な餡の組み合わせは極めて美味で、独特の強い匂いが嗅いだだけでお腹がすくと言われるのもよくわかった。

まあ、癖のある匂いではあるし、苦手な人は苦手なんだろうが。

 

 

 

美味しい昼食を堪能しているとアスナからメールが入った。

急いで確認すると目的地寸前で敵からの妨害にあったが、無事に脱出できた事…それとのどかに魔法がばれた事が書いてあった。

そしてどうやら、妨害してきた相手は一昨日の犬耳の少年らしい。

「千雨さん…向こうで何かありました?」

「ああ、だが、もう解決したらしいから急いで戻る必要はないそうだ」

心配そうに聞いてくる聡美に、私はそう返し、アスナからのメールに了解と返事をしておいた。

…犬耳の少年が『一昨日の姉ちゃんは楽しめたのに、何や男の癖に情けない』とか言っていたらしいが、気にしないでおく。

それがどうもネギの闘争心に火をつけたらしい事も。

 

 

 

京都への帰還途中、またもやアスナと刹那からメールがあった。

今度は割と深刻な事態ではあるが…同時に解決もしているようであった。

内容を統合すると、次のようになる。

 

 白昼堂々、木乃香に攻撃を仕掛けてきた敵に対して刹那は木乃香を連れてシネマ村に逃亡。

しかし、敵は突発劇に見せかけて木乃香の誘拐を強行し、結果刹那が肩を貫かれる大怪我を負い、屋根から落下した。

それを木乃香が追いかけて飛び降り、光と共に着地、しかも刹那の怪我が治っていた。

 この事態を受けて、刹那はアスナたちと合流、本山へ逃げ込む事にした…が。

なんと、刹那の荷物に放り込まれていたGPS付き携帯により朝倉ならびに他の5班メンバーが追跡に成功してしまった。

やむを得ずそのまま本山に逃げ込み、親書の手交と庇護下に入る事に成功したらしい。

しかも、そこは木乃香の実家だったと言うオチまでついていたらしい…。

 

ってつまり、木乃香の奴、関西の大物は大物でも、長の娘かよ…そりゃあ血統的にも人質的にも狙われるわけである…。

 加えて刹那からのメールには、もうクラスが狙われる事はないだろうが念のために警戒を頼む、と書いてあった。

「はぁ…それでそうなるわけか…まあ、今夜はちゃんと眠れそうだな」

「問題は解決したんですか?」

「ああ、そう言って良いだろう。狙われる要因が全てこっちの組織の庇護下に入ったから私達はもう安心だろうってさ」

「それはよかったネ…千雨サンが無茶するとハカセの機嫌が悪くなるヨ」

「ちょっと、超さん」

「ダガ、事実だろう?」

「むぅ…事実ではありますが」

「…すまん」

割と本気で、私は二人に謝った。

もっとも、次に同じような事があったとしても無茶の範囲(無理ではない範囲)で、同じような事をするだろうけれども。

 

 

 

そして…肩の荷が降りてホテルの温泉を堪能し、ロビーで聡美とクーとで寛いでいると、近くにいた楓の携帯に着信が入った。

…なんだろう、そこはかとなくいやな予感がする。

あー聞こえてくる会話はどう解釈しても夕映からの救援要請で…夕映は今、ネギ先生と本山にいるはずなのだ。

「あー真名、クー、それと千雨…ちょっと話が有るでござる」

そう言って、楓がちょいちょいと私とクーを招く。

「千雨さん…」

「…うん、すまない、聡美。問題は解決してなかったっぽい…」

「おろ。千雨とハカセは事情をつかんでいるでござるか?」

「うーん…とりあえず、場所を移すか」

そう言って、私は場所を移す事を提案した。

 

 

 

「あーとりあえず、楓から説明を頼めるか?」

私達…私、聡美、楓、クー、真名の5名…は人気のない場所に移動し、楓に説明を求める。

「ウム…先ほどリーダー…夕映殿から救援要請があったのでござる。

リーダー達はどうやら木乃香殿の実家に泊まっていたらしいのだが、突然現れた少年に共に泊まっていた皆が石とされ、

何とか逃されたリーダーが救援を要請してきた…という事しかわからんでござる」

「やばいな…詳しい経緯は向かいながら説明するが…端的かつ私達的には、木乃香がさらわれて、さらにやばい事になりそう、位の理解でいい」

「まあ、大体状況は察した。依頼料は刹那なり木乃香の親なりから頂けそうであるし…私は参加で」

「よくわからないアルが、強い敵と戦えそうなら私も参加するアル」

楓と私の説明に、真名とクーが参戦を表明する。

「私も乗りかかった船なんでな…当然参戦だ。悪い、ちょっと出てくる、聡美」

「全く…状況が大変そうなんで、無茶まではしても良いですが…無理しちゃ駄目ですよ?千雨さん。

超さんと一緒に、何とか千雨さんと皆さんが抜け出した事がばれないように工作しておきますから」

聡美がため息をついて、そう言った。

「うん…善処はする」

とは言え、範囲石化魔法を使える相手がいる時点で交戦すれば無茶をする事は確定、無理も…たぶんする事になるだろう。

 

 

 

身支度を手早く整えた私達4人は電車で本山に向かっていた。その中で現在判明している敵情を説明する。

「ふむ…呪符使い、二刀流神鳴流剣士、狼男の狗神使いに、石化魔法を使った魔法使いの少年…か」

「ああ、それに加えて既に木乃香がさらわれていたら多分だが式や妖怪の類が大量召喚されると思う。

加えて、こっちの組織の総本部を襲撃したって事は、木乃香の魔力か血統で使える切り札的な何かを掌握しようとしていると推測できる」

「それは厄介でござるな」

「まあ、技量不明の魔法使いの少年以外はこの面子と刹那なら…一方的に負ける事はねぇと思う…クーは妖怪の相手な」

流石に、クーは技量はともかく気の出力的に他の面子の相手は無理である。

 

「さて…ちょっと私は無茶の準備をするから…少し集中するぞ…見苦しいだろうが気にするな」

そう言って私は無茶の用意をするため、皮下に埋め込んだ魔導糸を操作する。

 

ぐっあっ

 

痛みを必死にかみ殺しながら、無茶をする為に体中に仕込んである、とある呪紋回路をアクティブにしていく…

「ちょ、千雨!?皮膚の下で何か蠢いてるアルよ!」

「いつ見てもグロいな、それ」

「…痛そうでござるな」

とまあ、そんな感想通りの感覚に耐えながら切断してあった回路を繋ぐ…。

コレでいつでも無茶ができるようになったわけだ…コレをやっている事自体が無茶でもあるともいえるが…。

 

 

 

最初の目的地、関西呪術協会の総本山に到着した私達は石化した屋敷の人々と、少し遠くに渦巻く竜巻を見つけた。

「アレだな。楓、悪いが斥候を頼めるか?私達は警戒しながらあの竜巻に向かう」

真名が楓にそう言った。

「あい、わかったでござる」

楓の姿が掻き消えた。

「さて、千雨は木々の上のほうを移動して、ナビゲートを頼めるか?」

「ああ」

「では、行こう」

「応」

 

少し森の中を走っていると大きな音と共に竜巻が消え去ったのが確認できた。

「竜巻が消えて、雷の暴風らしき魔法の発動が確認できた、恐らく包囲の一点突破を試みている。

加えて、誰かが雷の暴風の射線方向に離脱、軌道から見て杖による飛行術、恐らくネギ先生だ」

「ならば、我々はその集団を相手にする公算が高いかな」

 

さらに少し行くと楓が戻ってきた。

「竜巻のあった地点で刹那とアスナ殿が化生の群れを足止め、ネギ坊主は奥の湖に向かったでござる」

「了解、私、クー、千雨は刹那達と合流し、状況を確認して妖怪たちの相手、楓は先生の支援と余力があれば綾瀬の捜索・回収を頼む」

「了解でござる」

「状況次第だが、まず私の狙撃で指揮官級を削る、千雨は一撃目の発砲にあわせて詠唱を開始してでかいのをぶち込め、【無茶】をしろ、それで後が楽になる」

「あいよ…しゃあねぇな…その後は自由でいいか?」

「ああ、わかっているとは思うが互いに射線には気をつけよう」

「私はどうするアル?」

「クーは…まあ、まずは私の傍にいてくれ」

 

 

 

真名の狙撃を合図に左右から十字砲火をかける事にした私達は別々の地点に移動した。

「さて…アスナがピンチか、となると初撃はあそこか」

中空糸で雷魔法と風魔法を増幅・補助する魔法陣を左右の手の甲にそれぞれ刻んだ私は、それぞれの一端を血管に突き刺す。

すると毛細管現象と血圧により、あっという間に血による魔法陣…呪血紋が出来上がり、反対側の端から血が滲み始める。

 

パスッ

 

それとほぼ同時にそんな音と共にアスナを捉えていた烏族の眉間が打ち抜かれ、次々に狙撃が行われる

「始まった…ノイマン・バベッジ・チューリング 来たれ雷精 風の精 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐 雷の暴風」

味方(アスナと刹那)を射線から外す為、中央から外れたそれは、しかし10を超える敵を屠る事に成功したようだ。

…丁度、真名の登場と口上にかぶったので第二の奇襲となったのもある。

 

ドクン

 

魔法陣が鼓動して、魔力を失い、汚染された血を排出し、新たな血が補充される…

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 来れ 虚空の雷 薙ぎ払え」

 

それを感じながら私は次の詠唱に入りつつ敵集団に向けて跳躍した

 

「雷の斧」

 

発動した魔法は少し大きめの、小隊長クラスに思える鬼に直撃した。

 

「どこがもう大丈夫、だアスナ。ばっちり厄介ごとになっているじゃないか」

「千雨ちゃん!?あんた、そんな強そうな魔法使えたの!?」

のん気にもアスナがそんな事を聞いてくる。

「おう、ちょっとばかし無茶が必要だけれどもな」

そういいながら、私は流血量を減らすため、風魔法側の血管にさしていた糸を抜く。

 

「ふん、西洋魔術師が敵前に飛び込んできてからに」

 

そう言って烏族の戦士が一人切りかかってくる。

その斬撃を鉄扇で受け流した私は、そのままその戦士を投げ飛ばし、気…と魔力を先ほど繋ぎなおした呪紋回路…咸卦法を基にした類似の効果を持つ…に供給し、頭をふみ砕いた。

「残念、こっちも使えるんでね…さあ、向こうに帰りたい奴からかかって来い、来なけりゃまた魔法で薙ぎ払ってやる」

私は不敵に笑い、そう啖呵を切った…。

とは言え、この咸卦の呪法の呪紋回路を発動させていると魔法を使うたびに皮下の補助魔法陣(血液使用の呪血紋とは別の呪紋)がピリピリ痛むので、あまり大きな魔法は使いたくないのだが。

 

 

 

「えらいすばしっこいのう、嬢ちゃん」

鬼の指揮官らしき大きな個体が私に言う。

「どうも、ソレが自慢でね…雑兵どもならもうちょい、いけるぜ?」

 

魔法の射手 光の3矢

 

鬼の雑兵や戦士に半包囲されながら、隙を見つけては魔法の矢を無詠唱で打ち込む単純作業を私はこなしていた…神経は磨り減るが、幸い、まだ無傷である。

「はっはっは…ならば追加や、行け、お前ら」

その号令に合わせて私を囲むように鬼が追加される…狙い通りである。

一斉攻撃で宙に逃れざるを得なくなった私に槍の追撃、ソレを私はさらに糸の足場で跳躍してかわす。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 雷の精霊47柱 集い来りて敵を射て 魔法の射手 連弾 雷の47矢」

上空から私を囲んでいた雑兵たちに雷の矢が降り注ぎ、その過半を送還した。

「おっと」

さらに、宙を蹴り、大鬼から距離をとる…しっかり落下点を狙って構えていたので…失敗すれば…まあ咸卦の呪法の出力なら受け切れただろう、という感じである。

「ほう…武術もいける西洋魔術師がこんなに厄介やとはおもうとらんかったわ…ならワシも楽しめそうやな!」

指揮官らしく、ドンと構えてくれればいいのに、その鬼は間合いを一気に詰めてその手に持った金棒を振り下ろしてくるのであった。

「勘弁してくれ」

そういいながら、私は鉄扇で金棒の軌道を払うようにして僅かにずらし、直撃を避けながら大鬼の懐にもぐりこみ、左膝に掌打を浴びせてすれ違う。

「うぉつとおぉぉぉぉ」

ほんの少しだけバランスを崩した鬼は私の糸で引っ張られてさらにバランスを崩し、前のめりにたたらをふむ。

 

魔法の射手 収束・光の3矢

 

大鬼に向き直った私は、詠唱魔法を叩き込む隙は無いと無詠唱魔法を肩にあて、深追いはせずにカバーに入った雑兵の残党を牽制する。

「何や、嬢ちゃん、まだ隠し玉もってたんかいな…右肩に力が入らん」

大鬼がのっそりと立ち上がる

「はっはっは…取って置きのタイミングで大物喰いするつもりだったんだがなぁ…」

本当は転ばせて雷の斧を叩き込む予定であった。

「まあ、流石にあっさりやられてまうと親分格としての面子が立たんもんでな…それにせっかく久しぶりに呼ばれたんや、しっかり楽しませてや」

大鬼はそう言って、楽しそうに笑った。

 

 

 

 大鬼たちと戯れつつ、雑兵たちを削り、ダメージを蓄積させていると、湖から立ち上る光が強くなり、頭の前後に顔があり、腕が4本生えた巨大な鬼が現れた。

「チッ…あれが敵の切り札かっ」

「ネギのやつ、間に合わなかったの!?」

「わかりません、でも助けに行かなければ」

確かに、状況は酷く悪化した。最悪撤退するにせよ、少なくともネギの回収を試みるべきか。

「大鬼のおっさん、わりいな、すこし席外すわ」

「おい、まちやっ…ぐっ」

大鬼は、まだまだ戦えるものの、機敏に戦場を駆ける事ができるほどの余力は残っていない様であった。

 

「刹那、アスナ、道を開く」

瞬動術で刹那とアスナの側に跳躍した私はそう言って詠唱を開始した。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 闇夜切り裂く一条の光 わが手に宿りて敵を喰らえ 白き雷」

私が開いたのは細い道にすぎなかったが、刹那であれば、多少消耗するにせよ、十分にアスナと共に通れる道ではあった。

 

ドドンッ

 

「行けっ、刹那!あの可愛らしい先生を助けに!」

その道を真名の援護射撃が確かな道とした。

「しかし…」

私達を案じてか、一瞬ためらう刹那であった

「ここは私達に任せるアルよ!」

「大丈夫だ、仕事料ははずんでもらうがな!」

「迅速に全滅させろとでも言われなければ何とでもなる、行けっ」

「…すまない!行きましょう明日菜さん!」

刹那とアスナは身を翻し、再び閉じようとしている道を強引に突破し、湖の方へと向かった。

「センパイ~逃げるんどすかぁ~~」

それを二刀流神鳴流剣士が追撃しようとする。

 

ドドンッ ガィンガキン

 

「あや…あーん邪魔しはってー神鳴流に飛び道具は効きまへんえー」

「知っているよ…」

そういって銃を構える真名

「千雨!チェンジだ、こいつを押さえておいてくれ、お前が一番相性がマシだ!」

「って おい!」

既に刹那たちが置いていった鬼の一部と戦闘に入っていた私は思わず叫んだ

「倒せとは言わん、他が片付くまで相手をしていてくれればそれでいい!」

そう叫ぶ真名の援護射撃が私の周りの鬼の足を止める…早く来いと言わんばかりに…

招かれるままに跳躍し、真名と並んで二刀流の神鳴流剣士と対峙する。

「およ、そっちの鉄扇使い…と言うか西洋魔術師のお姉さんがお相手ですかーまあ、ウチとしては楽しめそうですし、構いまへんよ~?」

「いや、西洋魔術師の嬢ちゃんはワシが先約やろ?」

いつの間にか、先ほどの大鬼もやってきていた。

「あや、千雨、大人気アルね」

クーは私が少しだけ相手をしていた鬼達が刹那たちを追撃しないように相手をしつつのんきにいう

「悪いが、私も手一杯なんでな、頑張れ、お前なら何とかなる」

真名も大物の烏族やらと乱戦をしながら叫ぶ

「ええい、わかったよ、両方纏めて相手してやる、かかってこいや!」

私は、咸卦の呪法の出力を実用限界まで上げながらやけくそ気味にそう叫んだ。

「「なら…いくで、嬢ちゃん」いきますえ、お姉さん」

そうして、私は出来れば一人ずつかかってきて欲しい相手を二人同時に相手取る事になったのであった。

 

 

 

「ぐっ、ちょっ死ぬって、コレ!」

「それだけ喋れはるならまだまだいけますえ」

「そうそう、ちゅうかワシと手下ども同時に相手しとったやんか、嬢ちゃん」

神鳴流剣士と大鬼の二人の相手を始めて1分ほど、にわかとは言え二人の連携攻撃を必死に捌いてはいるものの、既に服には複数の傷が見られる。咸卦の呪法の防御を突破されるような攻撃を喰らい、傷を負うのも時間の問題と言った所であろうか。そうなれば戦況は次第に悪化していく…となれば呼吸を乱して賭けに出るべきであるか。

 

ぱしっ きぃん

 

今まで受け流してばかりいた神鳴流剣士の大刀での斬撃を鉄扇で受け、小刀の突きを発動体でもあるバンクルで流し…二の腕に浅い切り傷を貰ったが…腕を取って投げる。

 

「ありゃあ」

「おっ」

 

とはいえ、状況は1対2、当然のようにすぐ復帰して来るであろう彼女の隙を大鬼がフォローする様に殴りかかってくる…よし、乗ってきたと瞬動術による跳躍により、大鬼で剣士と互いが見えない位置取りとし、大鬼に向く。今だ。

 

魔法の射手 散弾・雷の7矢。

 

跳躍直後から溜め始めておいた無詠唱で放たれた雷の7矢はとっさに防御した大鬼に一本…こちらはたいして効いていない…と、大鬼の影から飛び出してきて、状況判断が一瞬おくれた剣士にあたった。

 

魔法の射手 光の3矢。

 

「くっ…やりはりますなぁ!」

追撃でさらに3矢、これは直撃の一矢が見事に切り払われ、他二本が服を焦がすように飛んで行った

 

「せやけど、甘いわ!」

その隙に接近した大鬼の横なぎ、しかし予測通りのそれを少し踏み込み、鉄扇で強打した

 

「むぉっ」

 

結果、回転力を支えきれず、大鬼の金棒は遠くに吹っ飛んでいった…

 

「そいやぁ」

 

そして案の定、切りかかってきた剣士の一撃は大鬼の脇を跳躍して回避した。

 

「さぁて…仕切り直しと行こうか」

と、まだまだ余裕があるかのように振る舞う私。正直、冷や汗ものであるし、本来、断罪の剣擬きで腕ごと切り落とす算段だったのだがタイミングを少しミスして強打、得物のみとなった…あの腕、まだ使えるよなぁ…

「いやはや、得物を失ってもうたか…まあ、まだ右肩痛むし、左の手首もジンジンするけどぶん殴るくらいは出来るかいの」

楽しそうに笑う大鬼

「おねぇさん、やっぱ面白い人やわぁ」

これまた楽しそうに笑う神鳴流剣士…これだから戦闘狂共は…

内心、あきれつつ、戦いを再開する私達であった。

 

 

 

今度は何とか拮抗状態と呼べる状態を創り出していると、湖に突然、巨大な魔力の気配が現れる…それはよく知ったマスター、エヴァの物であった。

「おやまあ、これまたごっつい気配のモンが来おったな」

大鬼がそういうと、直後、湖の巨躯の鬼を包むように結界が発動した…あ、これ茶々丸の武装に入れた覚えがあるな、と思い、戦い自体がもう終わるものとして大きく距離を取った。

大鬼と剣士も様子を見る事にしたらしく、対峙しながら湖の方の結果を待つ事とした。

 

…そして、巨躯の鬼は、マスターの【おわるせかい】によって砕け散ったのであった。

 

「ふむ…どうやら勝負あったみたいやな」

私と対峙していた大鬼が言う。

「あんたらの勝ちや、どないする?ねぇちゃん達」

真名と対峙していた烏族が続けた。

「できれば私は終わりにしたいな…正直、疲れた」

と、私。

「私達は助っ人なんでな。そっちが退くなら戦いを続ける理由はない…弾代もタダじゃないしな」

と、真名。

「も~終わりアルかー暴れ足りないアルね」

と、麻帆良の戦闘狂、クー

「…お前はどうなんだ?神鳴流剣士」

クーを無視して真名が言った。

「そうですねーお給料分は働きましたし、センパイと戦えへんかったのは残念ですけど…鉄扇使いのお姉さん…千雨はんでしたか?との戦いもまあまあ楽しめましたし、ウチも帰りますぅ〜。

刹那センパイによろしゅうお伝えくださいな」

そう言って神鳴流剣士は去って行った。

「ほななー嬢ちゃん達」

「なかなか楽しめたぞ、拳銃使い!」

「さっきの坊ちゃん嬢ちゃん達にもよろしゅうなー」

「久しぶりに愉快やったわ。今度会った時は酒でも飲もう」

それに合わせて召喚された鬼たち口々に別れの言葉を帰って行った。

「ふ…私達、まだ未成年なんだがな」

「結構いい人たちだたアルね」

「私は疲れた…と言うか死ぬかと思ったぞ」

私達も口々にそう言って笑い合う

「さて、マスターが来ているのに放置したら後が怖い…私はちょっと湖の方に行ってくるが、二人はどうする?」

「私も行くアルよ」

「私もだ」

「じゃあ行くか」

そういって私達は湖に向かった。

 

 

 

湖の祭壇?が見える位置まで来ると、どうも様子がおかしかった。ネギらしき人影が茶々丸に介抱され、みんながそれを囲んでいる

「どうした!」

駆けてそばに寄った私は、開口一番そう聞いた

「千雨ちゃん!ネギが大変なの!」

「…部分石化…か」

「ええ…危険な状態です」

そう言って茶々丸がネギの状態を皆に説明する。ネギの魔法抵抗力が高すぎる為に石化の進行が遅く、首が石化した時点で呼吸ができなくなり、窒息死する、と。

「…ど、どうにかならないの、エヴァちゃん!!千雨ちゃん!!」

アスナが懇願するように叫ぶ。

「わっ…わわ私は治癒系の魔法は苦手なんだよ…不死身だから」

「…私も、傷の治療と毒や病気の自然治癒力強化位しか使えない…刹那、そう言う符ってないのか?仮にもここは西の総本山なんだろ!?」

「いえ…私はわかりませんし…あったとしても、すぐに取り出せる場所にあったのであれば長がそのようにネギ先生に言った事でしょう…」

「そんな…」

「昼に着くっていう応援部隊なら治せるかもしれねぇが…間に合わねぇっ」

「マスターのゲート…はマスター以外の生命体の移動はできないし…

畜生、せめて石化魔法を使えれば重ねがけして窒息だけでも防げたのに」

もう打つ手がない…そんな空気になったとき、刹那に促され、木乃香が言った

「あんな…アスナ…ウチ…ネギ君にチューしてもええ?」

こんな時に何を言い出すのかと思ったが、話を聞いてみると仮契約によって木乃香がシネマ村で刹那に対して見せたという治癒力を引き出す事ができれば…という事らしい…確かに、賭けてみる価値はあるな

そう思って見守っていると、ネギと木乃香の仮契約と共に、まばゆい光が広がり…なんと、ネギの石化どころか、私達の負った傷まで治ってしまったのである。

さらに、西の本山戻ると、先ほどの光は本山全体にまで届いていたらしく、石化していた人たちもみんな元通りとなっていたのであった。

 

 




偶に、ですが千雨さんは人手ないし西洋魔術師が欲しい時は刹那さんや真名さんに呼ばれてお仕事しています。
が、この女、魔力量が超一流を目指すには心もとない(無理とまではいわない)ので砲台じゃなくて戦車なのか自走砲なのかよくわからない存在として動きます。
そして、描写してないですが、雷属性の魔法を使うたびに血が少しずつドピュドピュ流出しています…グロイネ!(千雨曰く、半分外法、エヴァ曰く、血が体内に戻すのを躊躇われるほど汚染される呪法のどこに外法でない余地があるのかわからん
なお、その出血が1対2始まった時点での千雨ちゃん唯一の負傷です。
 最後の1対2は、大鬼がすでに大分ダメージ溜まっているし、即興連携なので何とかなる…と良いな、くらい。少なくとも一蹴はされないと踏んで、真名は千雨に任せました。

・ピリピリ痛む
軽くやけどした皮膚を強く押された感じ。色々無茶な事をやっているので。
現在、出力は理論値の6~7割程度で、単純合算よりは高出力ではありますが改良中。体への負担ましましかつ魔法を使うと麻酔無しだと常人ならば失神しても不思議ではないくらいの痛みを受ける代わりに理論値通りの出力が出る設計は完成している。
なお、この咸卦の呪法はあくまで肉体強化・物理魔法防御に限った擬似的な再現というか、咸卦法を参考にした別の術式で、対毒・対寒などの追加効果は得られません。
また、千雨さんが咸卦の呪法を常時待機させない理由は自動で咸卦法モドキをサポートするという性質の呪紋回路なので、通常の気の単独運用時には邪魔になるから。


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29 修学旅行編 第5話 修学旅行 4日目

西の総本山で少し仮眠をとり、旅館に帰還して暴走していたネギたちの身代わり式の後始末を手伝った私は朝食までもう一度仮眠をとり、朝食の後に聡美と朝風呂を楽しんできた。

 

「もう一度聞くヨ、昨晩はどこで何をしていたネ? さ、吐くヨロシ」

…部屋に戻ると超がクーに歯型の付いた肉まんを突き付けながらそう問うていた。

「むぐんっ。それは言えないアルネ」

どうやら歯形の主はクーの様で、なぜか肉まんを食べさせるという方法で尋問をしている様だ

「というか、千雨、帰ってきたアルね、千雨に聞くアルよ」

「ふふ…千雨サンの口が堅いのは承知の上ヨ…クーに聞いた方が効率的ネ、ほらっ」

と、超がクーに突き付けていた肉まんを口に押し込んだ。

 

そんな光景を尻目に、ザジはおいしそうに見えなくもない、何時もの無表情で肉まんを頬張っていた。

 

「あ、おかえりなさい、千雨さん、ハカセさん。お二人も肉まん食べますか?」

そして、五月は蒸籠を抱えてザジと超・クーペアの間におり、私達にも肉まんをくれた。

 

肉まんを受け取った私達は、広縁で向き合って座った。

「今度こそ、本当に事件解決なんですね、千雨さん」

「…少なくとも、私達にとっては、な…」

関西呪術協会の応援部隊先発隊は既に到着したと聞くし、実行犯も直接の首謀者は捕縛済み、事件の裏側の政治的案件に首を突っ込む気がなければおしまいといって問題がないはずである。

「よかったです…千雨さんが怪我しなくて」

「あーうん…」

実はかすり傷は負ったんだけれどもう治った、というべきか否か。心配をかけるし言わない方が良いか。

「別に、私、強さとか戦いとかにはこれっぽっちも興味はないんですけれど…

千雨さんが無茶をしたって聞くと、ちょっとだけ悔しくなります…貴女と肩を並べて戦えない自分が」

「聡美…」

「でも、やっぱり、私は戦えないですし…だから…待つしかできないんですけれども…」

「うん…ごめんな、心配かけて。でも、同じ様な事があればきっと同じように無茶をするんだと思う」

「ええ、千雨さんはそういう人なのもわかっていますし…だから、無茶はしてもいいですけれど、ちゃんと無事に帰ってきてくださいね、私もそれだけは譲れませんよ?」

しんみりとそういう会話をしながらやんわりと微笑みあう…。

 

…肉まんを口に捩じ込み合っている超とクーを横目に見ながら。

 

 

 

「お、良いね、いただき」

「千雨!京都観光に行くぞ!」

そんな状況をぶち壊しにしたのは部屋の扉を開けて乱入してきた朝倉のカメラのフラッシュとマスター…エヴァの一喝だった。

「えっ…エヴァ、こっちの長との待ち合わせは…」

と言いかけて気づく。私は班で相談していた予定を優先し、合流できるようなら合流する、と言った様に、時間的余裕はあるのだ…そうか、時間まで、観光をする気か。

「…いや、今日も班で食事に出かける予定だし、人数を増やせる店でもないんで、すいませんが…」

「お前は私の弟子だろう、キャンセルして供回り位しても罰は当たらん」

申し訳なさそうに私が言っても、聞きやしない…というか断ると暫く根に持つやつだ。

「あー」

私も料亭の昼食は楽しみにしていたのだが…マスターの機嫌を損ねる事による今後の不利益を概算する…。

うん、仕方ない…料亭のほうも人数を減らす分には申し訳ないが対応してくれるだろう…予約しているコースの代金分、キャンセル料払う事になると思うが。

「わ」

「まってください、エヴァンジェリンさん」

わかった、そう言おうとした時、聡美が割って入った。

「む、何だ、ハカセ」

「千雨さんを連れて行くなら…私も連れて行ってください」

どうしてそうなる…かは薄々想像がつくが。

「うむ、かまわんぞ。よし決まりだ、千雨とハカセは借りていくぞ!次はぼーやたちだ」

そう言ってエヴァは5班の部屋に向かっていった…。

「あーすまん。なんか、そういう事になったらしい…悪いが4人で楽しんできてくれ」

「ウム…エヴァンジェリンの傍若無人は今に始まった事ではないネ…

まあ、はしゃぐエヴァンジェリンのお守はネギ坊主に任せて観光を楽しんでくるとよいヨ、二人とも」

と、言う事で私と聡美は修学旅行4日目…実質最終日をエヴァ達と過ごす事が決定したのであった。

 

 

「マスター、満足いきましたか?」

「うむ、いった」

「楽しかったですね、千雨さん」

「ああ、一回目は妨害とかいろいろあったし、今回は純粋に楽しめたよ」

5班+朝倉、エヴァ、茶々丸、それに私達で清水寺を筆頭に再度京都観光をした私達は西の長との待ち合わせ場所に向かっていた。

 

「やあ、皆さん、休めましたか」

「どうもー長さん!」

西の長と合流した私達は、ネギの父親の別荘だという場所に案内されながら今回の事件の顛末を説明された。そして到着した別荘とやらは天文台に似た外観の建物だった。

中に入ると、そこは、とても心地の良い空間だった。

そして、さも当然の如く、図書館探検部4人組は吹き抜けに設置された巨大本棚に手を伸ばした…と言うか、私も英雄の別荘の蔵書とか、速攻漁りたい。

という事で、私も図書館探検部に加わって本をあさる事にした。

 

 

 

「なあ、長さん、この本って全部ネギ先生の所有物…って事でいいんですよね?」

「ええ、ネギ君が相続したとみなして問題ない筈です」

「なら先生…ちょっとここの本、借りて帰ってもいいかな…ちょっと研究で読みたかったけどマスターの書庫や図書館島の私が入れてもらえる場所に蔵書が無い本を何冊か見つけたんだよ…ドマイナーだったり、完全版が出る時に肝心の記述が削られているのに絶版になったりしていてさ」

そういって、脇に抱えた『閉鎖系箱庭世界の循環』『究極技法と類似する世界の諸技法考察』『人造異界を活用した資源問題解決法試論』の3冊の本をネギ先生に指す。

…本当はもっと探せば読みたい本がありそうだが、すぐ調べられる場所にあったのはこれで全部である…はずした本に読みたい本がないというと嘘になるが。

「千雨さん…まあ、魔法研究は稀少本にあたる必要も多々あるとは聞いてはますけれども…」

聡美がそんな言葉を漏らす。確かに工学研究はマイナーな内容や、逆に金字塔的な内容に関して古い論文にあたる位であるし。

「えっと…お貸しするのはかまいませんけど…荷物に入ります?ソレ」

「でしたら、ネギ君の持って帰りたい本と合わせて麻帆良にお送りしましょうか?」

「いいんですか?長さん」

「はい、それくらいでしたら…まあ宅配便で、とは行きませんので梱包を合わせて一週間弱は見て頂かないといけませんが」

「わぁ…ありがとうございます。それなら僕も」

そういいながらネギ先生も嬉々として本棚から本を抜き取り始めた。

 

「あ、それはそうと長さん…あの…父さんの事、聞いてもいいですか?」

「…ふむ、そうですね…」

「私達は外した方が良さそうですね」

そう言って私は聡美と下に降りようとする。

「いえ、ネギ君さえよければ…」

「千雨さんもよろしければ…ハカセさんもご興味があれば」

しかし、遠慮はしなくてよいと引き止められた。

「では、せっかくですし…かまいませんよね、千雨さん」

まあ、珍しく聡美も興味を持っているようなので聞いていくか。

「では…遠慮せずに」

「ええ…このか、刹那君、こっちへ…明日菜君も。あなた達にも色々話しておいたほうがよいでしょう」

こうして私達は、ネギ先生の父親…サウザンド・マスターと呼ばれた英雄、ナギ・スプリングフィールドの話を聞くのであった。

 

 

 

「楽しめたかナ?二人とも」

班部屋に戻った私達を超が迎えた。

「ああ、清水寺とか二度目の場所も心配事無しで行けばまた楽しめるもんだな」

「ええ…ちょっといけない話も聞けちゃいましたし」

厳密には、ハカセは協力者扱いであって関係者ではないのでナギ・スプリングフィールド周りの話はグレーゾーンである。

「まあ、楽しめたならなによりヨ…こっちもなかなか美味だったネ」

そう言って、超は笑った。

「…超は楽しめたか?修学旅行」

「…ああ、いい思い出になったヨ」

「超さん…」

モラトリアムはあと僅かである…。

 

 

 




ハカセだって一緒にいられると思っていたのに連れて行かれるとなるとこれくらいはします。
そして、流れでハカセが話を聞いてしまった件…まあ仮に弟子入り編の別荘での話を聞いたところで躊躇わずマホラ祭編やらかしますが、この女も。チャチャゼロの言う所の悪人でもあるんで、ソレはソレ、これはこれの精神で(千雨と同じで傷ついたり罪悪感を覚えたりする心が無いとは言っていない

なお、記念写真のシーンは千雨とハカセは長と一緒に上の階にいました。

後、最後のシーンですが、魔法界の慣例として傭兵的な文化の問題から、首謀者格以外は色々な事に対して大分罪が軽いという設定だったりします。なので逆に首謀者の超は計画が成功しても失敗しても学園には残れないというのが共通認識だったりします。
 まあ、普通に考えて、ハカセや茶々丸も共同正犯、千雨さんも現時点でも従犯になる位は協力しているんですが、原作準拠なんで(流石に本人達も無処罰とは考えていないですし、しばらく雲隠れはしますが
…学園長が全部なかった事にする、と言うのは別の話


で、そろそろ先行して書いているストックで投稿できる分(巻き戻して訂正入れる可能性の低い分)が残り少なくなってきたので更新速度は落ちます。と言うか、麻帆良祭準備編あたりの途中から、実質本編でもある麻帆良祭編書き上げるまで暫く投稿が止まるかも…
…後、試合・手合わせを除けば、麻帆良祭終了まで、ガチ戦闘って発生しない可能性すら湧いてきたんですが…まあいいか(


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ねぎ弟子入り編
30 ねぎ弟子入り編 第1話 虚空瞬動術


 

修学旅行から帰った私は、その翌日の日曜日、一人(厳密には人形たちがいるが)、マスターの別荘内にいた。

 

シュッ 

 

魔法の射手 光の3矢

 

シュッ タッ

 

「うん…単発ならもう実戦で使えるし、連続使用も機動に専念すれば問題ないな」

目的は実戦の中でコツを掴んだ虚空瞬動をしっかりと自分の物にする為というのがまず1つ。

これで、糸術による足場を用いた瞬動による超高速・中距離跳躍と虚空瞬動による高速短距離跳躍を組み合わせて三次元機動の幅が広がるはずである。

 

「へぶっ」

次に、実験…元々虚空瞬動術をある程度収めたら、と考えていた事ではあるが、足以外での虚空瞬動的なもの…。

地面に転がされた時に色々な立ち上がり方があったり、転がったりして回避できるとかそういう事を虚空瞬動の応用で空中機動にも取り入れられないかと考えていたのだが…。

「これは流石に大分練習しないと使い物にはならないか」

何回かやってみた所、宙を肘で撃つように回転する事自体は割と何とかなりそうではあるが、

軽い体勢調節以上を望むならば回転モーメントの加減とかが難しく、思い描く通りの機動をするのには大分練習が必要そうだ。

 

 

 

「さて…」

一通りの基礎練習・反復練習・実験・読書等を終えた私は風呂を借りていつも宿泊に使っている部屋にやってきた。

そして、三つ目…咸卦の呪法の元ネタ…咸卦法の理解を深める修練である。

 

座禅を組み、精神を集中した私は両手にそれぞれ少しずつ気と魔力とを練り…合成した。

あっさりとやってのけられる気と魔力の合一ではあるが、之は初歩も初歩…気と魔力をどちらも相応に扱えるものがまじめに取り組めば多少の才能で到達できる…問題はここからである。

合成した咸卦の気を両の手に纏い、その感覚を確かめていく…。

 

ばしゅっ

 

途端、精神の集中が途切れ、気と魔力の合一が解けて散る…コレである。

瞑想状態やそれに類する状態では一定程度の熟練度さえあればさほど難しくないコレも、全身に纏って動きながら…どころか戦闘をしながら維持し続けるとなると非常に難しいのである。

しかも、気と魔力の合一は出力を増すにつれ指数関数的に難度が上昇していく為、単体の気や魔力を最大出力で纏った時を上回らねば意味が無いというオチまでつく。

しかし、十分な錬度に達すれば強大な身体能力強化や防御力、諸々のおまけまで付き、一部では一時的な存在の昇位とまで呼ばれる究極技法…それが咸卦法である。

 

何度もこれを繰り返し、少しずつ咸卦法への理解を深めていく…ネギの父親の別荘から借りた本の1つも、この為である…。

 

 

 

「…何やっているんだ?」

睡眠と食事、そして朝の鍛錬相当を終えた私が別荘の外に出ると、なにやら騒がしく、マスターの寝所でもあるロフトで取っ組み合いをするエヴァとアスナがいた。

「千雨さん!?どうして此方に」

「どうしてって…弟子の私がマスターの家に修練に来て可笑しいか?というか先生達こそどうして…」

「ええっと…エヴァンジェリンさんに弟子入りに来たんですが…なんかこうなってしまって…」

「えっ…本気で…?マスター、無茶苦茶スパルタだぞ?」

「はい、覚悟の上です」

ネギは、力強く、そう言った。

 

「仕方ない、今度の土曜日もう一度ここに来い、弟子にとるかどうかテストしてやる。それでいいだろう?」

少しして、アスナとの喧嘩を終えたマスターがネギにそう言った。

「え…あ、ありがとうございます!」

 

 

 

「…で、どうするんだ?マスター」

先生たちが帰った後、囲炉裏を囲みながら私は聞いた。

「まあ、私の扱きに耐えるだけの根性と覚悟があるかと最低限の才能があるかのテストでも何か考えるさ…

何も思いつかなければ貴様と戦わせても良いしな」

「…先生の戦っている所、桜通りの一件でしか知らんけど、聞いた限り、負ける気はしないぞ?」

流石に、エヴァに暫く師事した後は兎も角、今の時点で一対一でネギ先生に負けるほど私は弱くない。

「アホか、貴様のような奴を相手にどういった戦いをするかが主眼であって勝てと言うほど鬼畜ではないわ、一定時間耐えろとかならともかくな!」

あーまあそれなら妥当か。

「なら、ネギ先生を弟子にする気が無いわけじゃないんだな…面倒くさいというかと思ったんだが」

「面倒くさくはある、だがアレの京都での戦いを見る限り、戦いの方面でも中々の原石に見えた…ソレを磨いてみたくないといえば嘘になる。

…それに、詠春から本人が望むなら木乃香に色々教えてやって欲しいとも頼まれているしな…面倒を見るのが二人に増えようが三人に増えようが大差ない…

【弟子】でなく、戦いを教えて欲しい、ならば気が向いたら面倒見てやると即答するつもりだった位だ」

「あーなるほど」

たしかに、マスターはその辺りを区別するタイプだったな。

 

「それはそうと、京都の戦い、どうだった?死線というにはちょっと温いが中々苦戦していたようじゃないか、え?」

「…流石にあのクラスと1対2はキツイって、マスター…乱戦なら兎も角」

「まあ、慎重なお前にしては珍しく傷を負う覚悟で向かって行ったのは褒めてやろう、だが、もっと上手くやれた筈だ、お前ならば。

ああ言う賭けは手の内がはっきりとせん同格以上と戦う時は欠かせん物だ、いつも言っているようにな」

「はい、実感しました」

「うむ、さてそれではもう少しゆっくりして行け…自主練の成果、見せてもらうぞ、千雨」

「はい、マスター」

そうして、私は本日二回目の別荘と相成った。

 

 

 

「ほう、中々やるではないか」

マスターは私を制圧しながらそう言った。一応、1対3の耐久最長記録を大幅更新したのでその賞賛なんだろうが。

「いやはや、ついにこの域に達したか。もはやお前を討伐しようとすれば一流と呼ばれる連中を複数駆り出す必要があるぞ。まあ超一流と呼ばれる本物相手は微妙であるし、一流連中に勝てるかは別だが…

これで、先ほどの機動をしながら上位古代語呪文を放てるようになれば…できればあの勿体無い術式に頼らずに…最低限、中ボスを名乗っても恥ずかしくはないんがだなぁ…そっちはどうなんだ?千雨」

私から離れて服を叩きながらマスターが言った

「ええっと…何も補助無しなら駆け足しながら、通常の呪紋の補助だけなら瞬動無し程度の速度の回避運動を取りながら…血呪紋なら平面機動は何とか」

「ウム、もう少しだな、ならば少し練習しようか、手加減はしてやる、撃って来い!茶々丸、呪文の間隙を射撃で補助しろ」

そう言って、マスターは浮き上がった。

「はい、マスター」

茶々丸もアサルトライフルを構える

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 闇の精霊17柱 集い来りて敵を射て」

マスターの始動キーを聞いて私は空に舞う

「魔法の射手 連弾 闇の17矢!」

そして、マスターの魔法の矢と茶々丸の対空射撃を避けながら呪文詠唱をする練習を始めるのであった。

 

 

 

翌月曜日、ネギが授業後、告白名所である世界樹広場前の大階段にクーを呼び出した。

当然、クラスは大騒ぎであるが、私にはそれよりも大切なものがあった。

「大阪観光の成果、新作です、試してみてください」

「オオッ、待っていたネ」

「ふふ、五月の新作、オーナー特権で先に試したが良い出来だったヨ」

「わぁ〜超さんずるいです〜」

「うん…旨い」

「よろしければアスナさん達もどうぞ」

「わぁ〜良いの?さんきゅ!」

それは、五月の新作の肉まんである。

 

 

 

そして、放課後、超包子の商品としての観点から見た五月の新作というテーマで討議をしていた私達…超、五月、私、聡美…はクラスメールで流れたボーリングのお誘いにまとめて乗り、ワイワイとボーリングを楽しんでいた…私達は。

 なんか、よくわからんが、委員長とまき絵がクーに勝負を挑み、ついでにのどかが巻き込まれて、クーがパーフェクトを決めて圧勝していた…その前のラウンドでもパーフェクト決めていたので、24連続ストライクだな。

「で、結局、いったい何なんだ?」

「さぁ…?委員長さんの暴走具合から察するに、ネギ先生関連ですかね?」

「あー面子的にネギ先生ラブ勢だなぁ…クー以外…呼び出しの場で何かあったのか」

「そうですねぇ…」

と話していると、ネギ先生がさも告白かのような雰囲気でクーに中国拳法を教えて欲しいと請うた。

「…ネギ先生、エヴァンジェリンさんに師事したいって申し入れているって千雨さん、言っていませんでしたっけ?」

「アーうん…これ、マスターが知ったらへそ曲げる奴だってすぐわかりそうな…って、あぁそうか、ネギ先生、マスターが合気鉄扇術の達人だって知らない」

私の戦いの師匠だと言った覚えはあるが、合気鉄扇術もマスター直伝だとは言ってない気がする…と言うか、先生に合気鉄扇術自体も直接見せた事がない…と、なると魔法使いとしての総合戦闘技術をマスターから、格闘術をクーから学ぶ気だとしてもおかしくはないか。

「えぇ…それまずくないですか?」

「割とまずいなぁ…とりあえず弟子入りのテスト終わるまでは秘密で」

昨日話した時点では割と機嫌がよかったので無様な真似を見せなければ弟子入りが通ると思っていたが、これがバレると五分五分って所かなぁ…

 

 

 

と、思っていたのだが、木曜日放課後、別荘を使いに(修学旅行での一戦の反省点を潰せるまで、水曜と週末1回ずつの週二回から火曜日と木曜日と週末との週三回に増やしてもらっている)マスターの小屋を訪れると、やけに機嫌が悪いマスターに絡まれた。

「まったくぼーやとあの女ときたらぁっ」

話をよく聞いてみると、今朝、仕事帰りに世界樹前広場で中国拳法の自主練をしているネギ先生に遭遇し、ちょうど居合わせたまき絵の言動に激高し、弟子入りの条件を茶々丸に一撃入れる事、と言い渡したらしい。

「ちょっと待った、マスター、茶々丸の格闘プログラムは今でもアップデートしているんだ、そんなのネギが初見で一撃を与える確率とか1%もないぞ」

むしろ、成功されたら私と超の恥である。

「あの無礼なぼーや相手だ、まだ可能性があるだけ甘いと思うぞ、千雨」

マスターがむすっとした声で言う

「あーうん…とりあえず、一つだけ誤解を解いておくと、ネギ先生、マスターが合気鉄扇術の達人だって多分知らない。少なくとも、私はそうだって教えてない」

「はぁ?…あ、それもそうか…ぼーやの相手をする時は封印していたし、京都では使う余地が無かったからな」

マスターはそれから少し考えてからこう続けた。

「よし、ならば千雨、お前を仮想敵として派遣してやろう、それなら多少はましになるだろうさ」

「わかった、じゃあ今日のが終わったら行ってくる」

「ン…?ああ、そうだった、それで来たんだったな、ではいくか」

そんなやり取りをして、私とマスター、茶々丸とチャチャゼロ(最近茶々丸の頭によく乗っている茶々丸たち姉妹の長女…らしい)は別荘に降りて行った。

 




実質千雨さんの修行回。虚空瞬動を一応習得しました。そしてまたアホな事を考えて、マスターを呆れさせる準備をしているのと、咸卦法の独自解釈…と言うか自分を無にしながら戦えって無茶言うな、と言う感想を私が抱いてから咸卦法は魔力と気の合一もハードルが高い(本来相反する気と魔力の双方を相応に使いこなせる+ある程度の才能と修練が必要)がその先はさらに長い、という事にしてあります。
 そして、カンフーの練習を目撃した時のエヴァの態度も、後々明かされる合気鉄扇術の達人という設定を加味すれば、格闘含めて面倒見る気だったのにカンフー学び始めやがって…と言う理解になりまして…うん、割と激おこです、そして本作の茶々丸さんは格闘プログラムが原作より高性能なもの積んでますんで誤解がとけて慈悲が入りました(コンマ数パーセントの勝率が原作と同等の数パーセントに上がる程度とはいえ)
 

感想でございました理想郷への投稿ですが、投稿する事自体は問題ないのですが、誤字などのバージョン管理が大変なので、完結ないし麻帆良祭編終了後に考えさせて頂くという事で、ご了承ください。(後、宣言すれば済む話ですがあちらで投稿していた頃は百合無しで行くと言っていたのもありまして


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31 ネギ弟子入り編 第2話 弟子入り試験

 

「おっ、いたいた、おーい、クー、ネギ先生~!」

夕刻、世界樹近くの広場で組み手をしているクーとネギを見つけて声をかける。

「千雨さん、こんにちは」

「お、千雨、どうしたアルか?」

「それがな、マスター…エヴァから慈悲が入った。仮想敵として私を使っても構わん、との事だ」

「…どういう事アル?」

首をかしげるクーに事情を説明する…ネギのヤラカシと茶々丸の実力について。

 

「あーネギ坊主、ちゃんとエヴァにゃんに謝っておくアルよ?…私もネギ坊主を手放す気はないアルが。しかし、茶々丸、そんなに強いアルか…」

「あぅ…スイマセン」

「私に謝ったってしゃあないだろう、それにむしろ私はボーリング場で事情察せられたのにすぐ言わなかったんだし…

まあ、今はそれは置いておいて、茶々丸は機械の体のスピードとパワーに、私と超が色々と教え込んだ分があるから…なんだかんだで合気術と中国拳法には相応の理解があると思ってくれていい、アイツが使うのはソレそのものではないが…

と言う訳で、茶々丸の再現とまではいかないが、ある程度は模倣できる私が派遣されたわけだな。慣れ過ぎてもアレだが、何度か相手をすれば完全な初見よりはましだろう、どう使うかは師のクーに任せるが」

「ウーム…とりあえず、一度、私と手合わせを頼む、ネギ坊主は見学しているアルよ、見て学ぶも立派な修行ネ」

「ああ、わかった」

「わかりました」

そして、何戦か、クーと手合わせをするのであった。

 

 

 

「ふむ…大体わかった…千雨、再現度はどれくらいアルか?」

「スピード、パワー、技量レベルは9割方、戦術思考は…7割くらいか、それとジェットによる推進力を利用した動きは再現できない分スピードとパワーを強化したつもりだ」

「ならば…正直かなり無理ゲーと言う奴ではないアルか?千雨…いくらネギ坊主に天賦の才があろうと…」

「うん、だから慈悲としての私なんだよ」

「うむ…まあ、やれるだけやってみるカ…ネギ坊主」

「はいっ」

パチリ

『あーネギ…テストで使う予定の自己供給付の身体能力と制限時間、まだ申告してないなら、隙を見て…明日の朝練の時にでもクーに見せとけ、それでクーも対策を練りやすい』

『え…はっ、ハイ』

「それじゃあ、私は見学しているから」

そういって、私は二人の側を離れた。

 

 

 

金曜日の朝練、放課後練と土曜日の朝から夕方までの鍛錬とを見学し、クーの指示でスピードとパワーを加減して…恐らく魔力供給の分の身体能力変化分だろう…少しだけネギの相手をしているとネギの技量が笑うしかないほど伸びている事、カウンターに賭けている事はよくわかった…が、超のせいで茶々丸も割と中国拳法には詳しいのでどこまで通じるかは…微妙と判定し、そう対応した。

結果、仕上げとして行った数回の手合わせでの数十回のトライ(手合わせの数ではなく、決めるつもりで放たれたと思われる攻撃回数)で有効打と呼べるだけの一撃を入れたのはたった1回の事だった…が、それでも、賭けと呼ぶに値するだけの所までネギが成長したのは本当に反則級の才能の賜物であろう。こう、クーがサマになるのに1カ月かかる技を3時間でモノにしたと言うのが何よりの表現であろうか…そして、ついに運命の時は訪れた…。

 

 

 

ネギに付き添い、世界樹前広場にやってきた私達、そしてネギがマスターに宣言する。

「エヴァンジェリンさーん! ネギ・スプリングフィールド、弟子入りテストを受けに来ました!」

「よく来たな、ぼーや、では早速始めようか。

お前のカンフーモドキで茶々丸に一撃でも入れられれば合格、手も足も出ずに貴様がくたばればそれまでだ、わかったか」

答えて、マスターが宣言した。

「…その条件でいいんですね?」

ネギ先生が少しだけ笑う。

ああ、コレ、文字通りくたばるまで粘る気だな…まあ、初手で能力を示せればマスターが最初に言っていた、修行に耐えるだけの根性と覚悟は示せるだろうし、悪くはないか…まあマスターからセカンドチャンスを示す事はないだろうが、粘ればいけそうな気がする。

「ん?ああ、いいぞ。…それよりも! そのギャラリーは何とかならなかったのか!わらわらと!」

まあ、師匠であるクー、アスナと木乃香に刹那まで、大負けに負けて一緒に頑張ったまき絵まではともかくとして、やじ馬が追加されているからなぁ…。

「すいません…ついて来ちゃいまして…」

ネギが申し訳なさそうに答えた。

 

ネギと茶々丸が対峙し、ギャラリーも観戦位置に移動する。

「さて、私はここまでだ。あるべき場所で試合を見させてもらうぞ、ネギ」

そう言って私はネギに背を向けてマスターの元へ歩を進める。

「はい、ありがとうございました、千雨さん」

「え、千雨ちゃんそっち側!?」

ネギ先生の言葉に続いてギャラリーが言う

「おう、諸事情でサポートに入っていたけど、私はこっち側さ…ただいま、マスター、茶々丸」

「ああ、おかえり。どうだった、ぼーやは」

「ええ、素晴らしい原石でしたよ…詳しくはご覧になるのが一番でしょうが…勝算と呼べるだけのモノは得ています…高くはないですが。後は時の運…とわずかな勇気、ってやつですかね」

「ほう…だ、そうだ、茶々丸。先ほど言ったように、手加減無用だ、いいな」

「はい、マスター」

こちらがそうしているように、あちらも応援と会話を交わし、ネギは歩み出て礼をした。

「茶々丸さん、お願いします!」

「お相手させていただきます」

茶々丸が答えるように歩み出て、礼をする。

 

「では、始めるがいい!」

 

マスターの宣言直後に踏み切った茶々丸の一撃で始まる戦い…。

ネギはそれを凌ぎつつ仮契約での魔力供給を流用した我流の術式で自己魔力供給を行い、

パワーとスピードを底上げして茶々丸と拮抗する…。

 

…茶々丸にはもう少し待ちの戦いも教えてあるのだが…これは手加減するなという命令によるものか…あるいは手加減は出来ぬにせよ、ネギの勝算がカウンターにあるであろう事まで計算しての茶々丸なりの優しさか…。

 

茶々丸の、人間にはできない動き…ストレートの後の逆の腕でのジェット推力による再ストレート…をしのぎ、最初のトライをかける先生、しかし茶々丸はそれを防ぐ。

 

あちら側のギャラリーがわく…。

 

そして再びの拮抗状態…から、蹴りを受け、後退させられてよろめく先生…。

追撃に入る茶々丸…と、それを迎え撃つネギ。

 

私の模倣した茶々丸に唯一有効打を入れたパターン、追撃の誘いからのカウンターであり、茶々丸の腕を取り、ひじによるカウンターを放つネギ…ではあるが…。

 

そこは場所が悪い…平地戦ばかりで、ソレを見せそこなった私のせいでもあるが…。

 

直後、茶々丸は街灯の台座を蹴って宙を舞い、掴まれた腕を支点に技後硬直しているネギにケリを放ち…クリーンヒットした。

 

「…チッ…千雨」

興味深げに見ていたマスターが不満げに舌打ちをして、私に呼び掛ける。

「経験不足…ですね。地形把握を十全にできるだけの経験を積むには時間が足りなかったので」

あと30センチ…いや、10センチでも街灯の台座から離れていれば…あるいは角度が付いていれば…そう言った位置取りで蹴り飛ばされていれば…今のでネギ先生は勝っていた筈である。

「しかし、それがぼーやの限界だ」

「クケケ…ゴキゲンナナメダナ御主人」

「残念だったな、ぼーや。だが、それが貴様の器だ、顔を洗って出直して来い!」

「「ネギ!」君!」

無慈悲にマスターはそう宣言し、アスナとまき絵がネギに駆け寄る…が。

 

「へ…へへ…まだです…まだ僕、くたばっていませんよ、エヴァンジェリンさん」

そういってネギは立ち上がり、構えを取る。

「ヒット直前ニ障壁ニ魔力ヲ集中シテタゼ アノガキ」

「ぬっ…何を言っている?勝負はもう着いたぞ、ガキは帰って寝ろ」

「いや、それは違います、マスター」

「…でも、条件は、僕がくたばるまで、でしたよね。それに確か、時間制限もなかったと思いますけど?」

私が小さく呟いたのに重なる様にネギが不敵に笑い、そう言った。

「な…何っ、貴様…」

マスターもやっと気づいた様である…ネギの頑固さに。

「へへ…その通りです。一撃当てるまで、何時間でも粘らせてもらいます…茶々丸さん、続きを!」

さて、こうなると、茶々丸が理解こそあれ、柔術を使用しないのは福音でさえある…打撃戦ならそうは言えても、制圧されてはその負けん気も悲しい遠吠えである。

 

再開した試合、しかしそれは先ほどまでとは異なり、一方的な展開だった…。

 

一方的にやられ続けるネギ…茶々丸も対人リミッターを嵌めなおしたようでさえある。

しかし、それでもネギの拳は…届かない。と言うか、付け焼刃のカンフーで、満身創痍の、魔力もほぼ防御に回した状態で届かれてたまるか。

 

 

 

一時間以上、その試合…蹂躙…いや、意地を張るネギへの茶々丸の対応は続いた。

「根性アルナーアイツ」

「だけど、茶々丸には届かないし…そんな頑張りが通じる相手でもない」

…少なくとも、茶々丸の心を揺さぶり、戦闘用プログラムが一時でも停止しない限りは…。

冷めた目でそれを見続けていた私は、チャチャゼロの言葉にそう返した。

「お、おいぼーや、もういいだろ。いくら防御に魔力を集中しても限界がある。お前のやる気はわかったから…な?」

しかし、マスターは違うようで、筋とプライドが許す範囲で面倒を見てやってもいいと思っている顔である、これは…まあやる気と根性は現在進行形で示しているわけで、わからんでもないが。

「も、もうみてらんない、止めてくる!」

そうアスナが宣言し、仮契約カードを取り出した。

…それもあり…かな?マスター的には。

ネギとアスナの間に消しきれない溝が生まれそうではあるが

「ダメーアスナ!止めちゃダメーッ」

しかし、意外な事に、まき絵がアスナを止めに入る。

始まる問答、止めるべきか止めないべきか。バッサリと要約すれば、

アスナの主張は、あれは子供のワガママ、意地っ張りだから止めなくてはいけない。

まき絵の主張は、全てをかけると覚悟を決めた決意を邪魔してはいけない、ネギは覚悟を決めた大人だ、と。

まあ、私としては、心折れ、諦めと妥協を覚えると言うのも大人だと思うし、ネギのアレは修学旅行での事件が呼び起こしてしまったネギの源泉…妄執の類いにも思える、それが悪いとは言わんが。

「なんだあれは…あれが若さか…青い」

マスターが少し照れた様子で彼女らを…まき絵を見る…そして茶々丸も。

「あ…オイ、茶々丸!」

「えっ」

ネギの、ひょろひょろパンチではあるが、確かに茶々丸の顔面に一撃が入った。

ああ、おめでとう、ネギ…お前の努力は報われた…共に頑張った仲間の言葉は茶々丸に届いたぞ。

私は、内心でネギをそう祝福した。

 

 

 

「うむ…千雨、茶々丸があんな事をできるのであれば教えて欲しかったアル」

「いやぁ…?機会があれば見せていたぞ、単に平地戦しかしなかったからその機会が無かっただけで」

気絶したネギの応急手当が済んだ後、クーがしてきた抗議に私は飄々と答える。

「むむ…まー確かに、実際の舞台で模擬戦までする時間が無かった、と言うのが問題アルか」

うんうん、と頷くクー。

「ま、緒戦はネギはよくやった…と言うか位置取りがドンピシャで最悪でさえなければアレで決まっていたからなぁ…あとの泥仕合は…まあ」

「途中から茶々丸、聞き分けのない子供をあしらうような態度だったアル…まじめに相手はしていたが」

しみじみ、と頷き合う私達であった。

 

 

 

そして、日の出頃、ようやくネギが目を覚まし、マスターはネギに合格を告げて場を立ち去った…私もそれに追随する。

「理屈っぽい、か。私もクーに拳法習いに行った方が良いか?マスター」

私は笑いながらマスターに言った。

「ぬかせ…クーからぼーやを取り上げるのも悪いと思っただけだよ、ぼーやの才能があったにせよ、たった数日で茶々丸に届きかけたと言うのも事実だしな…それにぼーやの目指す方向を考えればあちらの方が良いだろうさ」

マスターがふんっと鼻を鳴らす。

「まあ、これでお前もめでたく姉弟子という事であるし…ぼーやの修行、お前も手伝うんだぞ、千雨」

「はいはい…で、ネギのケガは後で治しに行ってやればいいんですかね?マスター」

「ふん…暫くは自分のやらかした無茶の痛みを噛み締めさせておけ…少なくともお前が寮に戻るまではな…その後はお前の好きにしろ」

「了解、マスター」

 

 

 

休息と朝食の後、別荘に入って鍛錬を済ませた私は、ネギの事で少し話をしてマスターの家を辞した、茶々丸を連れて。

「さ、行くか、茶々丸」

「はい…千雨さん…その、試合とは言え、先生に怪我をさせたのは私ですのに、私がお見舞いに行ってもいいのでしょうか」

「ン?そんな事を気にしていたのか?…かまわんのじゃないか?ネギたちはお人よしだし…私としては、お前が絶対服従の命令下でやった事は命令者の責任だと思っているし」

「命令者の責任…」

「そうさ、お前はエヴァの命でネギをボコボコにしたんだ、その時のお前の拳はエヴァの拳さ…それに、途中で対人リミッター嵌めなおしただろ、お前。まあ、そう言う所を気にするように育ったお前の事も私は好きだがな」

「千雨さん…いえ、お母様…」

唐突に茶々丸がそんな事を言い出した

「なんだその呼び方…」

「いえ、ネギ先生に私の母と名乗ったと伺いまして…母親らしい事をおっしゃったのでそう呼んでみようかと」

「…そう呼びたきゃ偶にはかまわんが…事情を知らん連中の前では絶対に呼ぶなよ」

「はい、千雨お母様」

どうやら、その呼び名を気に入ったらしい。

 

 

 

「あれー茶々丸さん、千雨ちゃん、どないしたん?」

私達がアスナたちの部屋を訪ねると木乃香が応対をしてくれた。

「ネギ先生の見舞いに来たんだが、いるか?というか上がってもいいか?」

「ネギ君?うん、いるえ、どうぞ」

 

「あっ、ど、ど、どうも、茶々丸さん、千雨さん」

部屋に上げてもらった私達を迎えたのはどもるネギ先生だった。

「…あ。あの、ネギ先生…お傷の方は大丈夫ですか?」

「はい、見た目よりは全然大したことなかったです」

「そうですか、それはよかった…」

茶々丸が明らかに安心したようなそぶりを見せる。

「それで…これ、私からのお見舞いです…美味しいお茶ですので是非…」

「あ…これはどうも、ご丁寧に」

「それと…あの…今回は、いくら試合とはいえ…ネギ先生に…私…その…酷い事をしてしまって…ごめんなさい」

割と、茶々丸は気にしていたらしい。

「あっいえ、アレは僕の方からお願いした試合ですし、お気になさらず」

「しかし…」

「ほら、茶々丸、ネギ先生も気にしなくていいって言っているだから、この話はこれでおしまい、な?

さ、傷見せてみろ、ネギ、完治できるかはともかく、治癒位かけてやるから」

「あ、はい、千雨さん、ありがとうございます」

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 汝が為にユピテル王の恩寵あれ “治癒”

…うん、顔の内出血は痕が消えるにゃ少しかかりそうだが、傷自体は大体治せたな…ほれ、もう服着ていいぞ」

ネギをパンツのみまで脱がせて全身の傷を調べ、治癒をかけた私はその結果を観察し、そう言った。

「後は、マスターから預かっているこの傷薬でも塗っとけば痕も残らずきれいに治る…ほらよ…明日の朝にゃ治るだろう、風呂の後と…必要なら朝の洗顔後にも塗ればいい」

マスターから預かっていた軟膏をネギの頬に塗りつけながらいう。

「はい、ありがとうございます、千雨さん」

「ネギ先生、千雨さん、お茶が入りました」

「ありがとうございます」

「ん、さんきゅ」

ネギを治療している間に、台所を借りてお茶を入れていた茶々丸から湯飲みを受け取る。

 

お茶を啜りながら少しばかり雑談に興じているとまき絵と亜子が駆け込んで来た…どうやら、まき絵は選抜試験に通ったらしい…騒がしくなりそうだし、良い時間でもあるか。

「さて、私は良い時間だしお暇するよ、茶々丸はせっかくだし、ゆっくりしていけばいい」

そういって、私は自室に戻り、外食の約束をしていた昼食の相談をするのであった。

 

 

 

 




うちのエヴァちゃん的には、緒戦の時点で今回ダメでも、茶々丸に勝てるようになったら来い、と言うセカンドチャンスとかはありえたりします、まあほぼとは言え原作沿いなのでその分岐自体発生しませんでしたが。


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32 ネギ弟子入り編 第3話 修行初日

 

 

翌日放課後、仮契約相手4人と師匠のクー、それに新たに魔法バレした夕映…京都のだけではバレていなかった事になっていたらしい…を連れてネギは結界によって即席の魔法射撃場と化したマスター宅の隣の丘にやってきた。

「よし、では今日は昼間に言ったように、魔法の全力行使を見せてもらう。まず、パートナー四人に契約執行180秒、次に対物・魔法障壁全方位全力展開、さらに対魔・魔法障壁全方位全力展開を実施、そのまま3分維持した後に私の指定した本数ずつ魔法の矢を放て…質問は」

ネギの修練初日のスケジュールとして、エヴァは魔法の全力行使を命じた。

「いえ、ありません」

「よし、では配置に付け…それと、刹那、気は抑えておけ。千雨の様に特殊な技法を使うなり、相応の修練を積むなりしていなければ魔力と気は相反する」

アーまあ…そうではある。と言うか、気を滾らせた状態での魔法行使も実は難易度が上がったりする。

「はい、エヴァンジェリンさん」

「よし、では始めろ」

「はい、いきます!」

そして、ネギはエヴァの掛け声に合わせて順に契約執行、対物・対魔障壁を展開し、維持に入った…うーん…魔力が膨大だって言うのは羨ましい…。

 

「障壁維持、後30秒」

時間読みをさせられている私が言う。

「よし、カウントダウン終了と同時に、まずは魔法の矢199本、北の空へ、結界がはってあるから遠慮せずにやれ!」

これだけ魔力消費した後に3桁の魔法の矢…魔力が豊富でも非効率な使い方していたらそろそろヤバいか。

「うぐっ…ハ、ハイ!」

「残り15秒…10・9・8・7・6・5・4・3」

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 光の精霊199柱 集い来りて敵を射て」

私のカウントに時間を合わせるようにネギが詠唱を始めた。

「2・1・0」

「魔法の射手 光の199矢」

0カウント同時に放たれるネギの魔法の矢が空に炸裂し、花火のようになる。

実際、ネギのパートナーや見学者たちはそういう感想を抱いているようである。

「あうぅ…」

ドテーン

しかし、ネギはそこで限界だったようでばたりと気絶してしまった…ネギの魔力量を考えると色々言いたい事はある、私が今のをできるかは別問題として…うん、私は相応に修練をしてはいるが砲台型魔法使いとしては一流も(よほどの外法に身を染めない限りは)無理との烙印を押されているんだよ、マスターから。

 

「この程度で気絶とは話にもならんわ!いくら奴譲りの強大な魔力量があっても、使いこなせねば宝の持ち腐れに過ぎんわ!」

と、エヴァの叱責…話にならんレベルかはともかくとして、もったいなくはあるな。

「よーよーエヴァンジェリンさんよぉ、そりゃあ言いすぎだろ、兄貴は10歳だぜ。

今の魔力消費量、修学旅行の戦い以上じゃねーか、気絶して当然だぜ。

並の術者だったらこれでも十分…」

と、命知らずなカモの抗議が入る…が

「黙れ、下等生物が。並の術者程度で満足できるか…煮て食うぞ?元々貴様、不法侵入者だしな」

とのエヴァの威圧にしっぽをまいて逃げて行った。

「私を師と呼び、教えを乞う以上、生半可な修行で済むと思うな」

うん、知っている、身をもって知っている。

「いいか、ぼーや。今後私の前でどんな口答えも泣き言も許さん。少しでも弱音を吐けば貴様の生き血、最後の一滴まで飲み干してやる。心しておけよ」

その、エヴァの威圧と恫喝に対し、

「はい!よろしくお願いします、エヴァンジェリンさん」

ネギは元気よく答えた…エヴァ、少したじろいでいる。

「わ、私の事はマスターと呼べ」

「は、はい、マスター!あのっ、所で…ドラゴンを倒せるようになるにはどれくらい修行すれば良いですか?」

…ドラゴン退治…?21世紀の日本で…?いやまあ、世界樹地下を目指す為に図書館島地下から学園地下遺跡にコッソリ侵入してみた時にそれらしき姿は確認したが…退治するのか?アレ

案の定、ネギはエヴァに殴り飛ばされていた。

「ね、ドラゴンって何の話?」

「えと、それは…ですね。信じてもらえるかわかりませんが、昨日…」

と、夕映の話を(こっそり)聞くと、実はネギは長から学園地下の地図を貰っており、そこに記された手掛かりとやらに向かってみると、ドラゴンに遭遇し、茶々丸の支援を得て何とか撤退した、との事だ…話を聞いたアスナは不機嫌そうである。まあ、保護者を自認しているのに自分を頼らずそんな事していたと知ればそうなるか。

「まあいい、今日はここまでだ、メンドイからな、解散!」

おや、ネギの今後の育成方針の相談と、木乃香に魔法の事を教えると言っていたが、良いのだろうか。

 

「エヴァ、ちょっと」

「ん?どうした、千雨」

「この後、ネギの育成方針の相談と、木乃香に魔法を教えてやる話をするって言っていたけど解散させて良かったのか?」

「あ…そう言うのは早く言えっ…ぼーやと木乃香は…まだいるが…なんだあれは」

周囲を見渡したエヴァがネギとアスナが喧嘩をしているのを見つけた。

「ケンカの様で」

そばに控えていた茶々丸が言う。

「なんか、アスナをほっぽって図書館島地下に潜ってドラゴンに遭遇したんだとか言っていたぜ」

「…なんだかよくわからんが、いい気味だ、私はあいつらに辛酸をなめさせられたからな」

「マスター、大人げありませんね」

茶々丸が突っ込む…まったくである。

 

結局、喧嘩はアスナがアーティファクトのハリセンでネギを張り倒した所で終わりを告げた。

「まったく、何バカやっているんだ、ガキどもが。

ぼーやと近衛木乃香、お前達には話がある。帰りはウチに寄っていけ」

走り去っていったアスナを追いかけようとしたネギにエヴァが言った。

 

 

 

「人の話を聞け、貴様らーッ」

エヴァがそうブチ切れたのは中二階のテーブルと黒板でネギと木乃香を主な生徒とした魔力の効率的運用について授業している時だった…と言うか、一方的に話している時だった…ネギがアスナと喧嘩をした事を落ち込んでのの字を書いて、それを木乃香が慰めているにもかかわらず話を始めるからである…と言うか、別にこれ私いるんだろうか?

「ええい、うじうじしていると縊るぞ、ガキが」

「うう…でも、アスナさんが…」

「フン…貴様等の仲たがいは私にはいい気味だよ。お前と明日菜のコンビには辛酸をなめさせられているからな、もっとやれ」

「あうう」

ここぞとばかりにエヴァはネギをイジメる。

「木乃香、おまえには詠春から伝言がある」

授業は諦めたようで本題に入るようだ。

「父さまから?」

「魔法を学びたいならばエヴァンジェリン…私を頼れとさ。

まあ、真実を知った以上、本人が望むなら、魔法について色々教えてやって欲しいとの事だ。

確かに、お前のその力があればマギステル・マギを目指す事も可能だろう」

ほう…まあ確かに、あの治癒力は魅力的だし…多くの人を救う癒し手になれるだろうな、そりゃあ。

「マギ…それってネギ君の目指しとる…?」

「ああ、お前のその力は世のために役に立つかもしれんな、覚えておくといい」

「うーん…」

木乃香が割と真剣に悩み始めた。

 

「次はぼーやだ」

「これからの修行の方向性を決める為、お前には自分の戦いのスタイルを選択してもらう」

そういってエヴァはネギの戦い方から検討していた二つのスタイル、魔法使いと魔法剣士を提示し、その説明をした…私は、従者無しが前提かつ魔力量の問題で魔法剣士一択だったがな。その説明の途上、ネギの問いにエヴァが答えた事によると、ネギの父親は従者を必要としないほど強力な魔法剣士だったとの事だ。それにネギはやっぱり、と言う顔をした。

「ま、ゆっくりと考えるがいい、どうせ暫くは基礎練習がメインだ…木乃香、お前にはもう少し詳しい話がある、下に来い」

「あ、うん。了解や、エヴァちゃん」

「ぼーや、何かあればまず千雨に言え、それでもお前の姉弟子だ」

と、エヴァ…いや、マスターが言った。

「了解、任せとけ…と言い難いが最善は尽くす。

とはいえ、必要な事はマスターが説明しちまったから、何か質問があれば言ってくれ。

最低でも一月…はともかく、半月位は悩める時間はあるさ」

「はい、ありがとうございます、千雨さん」

 

カンフーの練習をしながら考えているらしいネギを横目に、私は少し考え事を始めた…具体的には、私自身の修行について、である。最近の修行により、めでたくエヴァのいう所の中ボスクラスにはなれたのではあるが、この先どう伸びるべきか…と超のXデー以降に向けて力をつけるのであれば、今が最後のチャンスでもあるからだ。魔法使い側に入ってから知った…そして超には聡美経由でリークしている…魔法情報の隠蔽組織やらなんやら。当然それを突破する前提で超は何らかの計画を立てているんだろうが…行く末はどうなるのだろうか…に、かかわらず、最低限聡美だけは守れる力(コネ込み)がいるのだ、私には…まあ失敗時には最悪の場合は、エヴァやネギ等のコネと仮契約の事実で人格と記憶だけでも守る(オコジョ化はともかく…)というプランをセーフティーネットとして色々考えてはいるのだが…問題は成功した時である。

 一応、超側の庇護と私の戦力があれば大体は何とかなるだろうし、魔法使いたちもそれどころではないほどの混乱が予期されるのではあるが、最悪の最悪…聡美の死…を考えてしまうと一欠片でも多く、力を求めるべきなのではないかと思うのである。であるならば、週三回、一日1時間などと言っておらず、自由時間は全て修行に費やしてしまっても良いのではないか?とさえ…まあ、それは極論にせよ、あと二か月弱、修行時間は増やす事自体は…ネギの修行にかこつけて…アリだと思ってはいる…その考えと、残り少ない…超がいる平和な日々とを天秤にかけて…考え込んでいた….。

 

 

 

「千雨さん、どうしました、そんな怖い顔をして」

その思索と決断から私を引き戻したのは当の本人…と言う訳ではないが、聡美の声とぬくもりだった。

「わっ…いきなりどうした…抱き付いたりして」

「いきなりじゃないですよ、私が来た事に気付かないだけならともかく、名前を呼んでも反応が無かったので」

椅子に座った私に後ろから抱くようにしたまま、聡美が続けた。

「あ…うん…ごめん…ちょっと考え事を」

「考え事…ですか?助けになれるようならばお手伝いしますよー」

「…うん…あとで少し頼む」

そういって、私は首に回された聡美の腕に己の手を重ねた。

「…仲がよろしいんですね」

刹那が言った。

「ああ、うん…小二の冬休みからずっと一緒だしな」

「ええ、それに私の為に一杯勉強して、ロボ研に来てくれましたしね、千雨さん」

「だけ、じゃないからな?まあ、お前がいなけりゃ、勉強頑張って小4からロボ研所属とかはやってなかっただろうけど…ま、掛け替えのない相棒、ってやつかな」

「はい、とっても大切な、パートナーですよー」

私の言葉に、聡美が答えた。

 

「所で…ネギ先生はどうしたんですかー?」

聡美が部屋の隅で頭を抱えているネギをさして言った。

「ああ、そういや、アスナとなんか喧嘩していたな」

ネギから話を聞いていると、聡美が分析してみようと言って、茶々丸から音声データを取り出して、プリントアウトしてみる事となった。そして、議論を静観しているとなぜか、アスナの無毛を揶揄った事が原因という事になってしまった…。

「…いや、ネギの保護者のアスナの事だ、大方、ネギが勝手に危ない事した事にへそ曲げてる所に、仮契約して戦場を共にした仲にも拘わらず、元々関係ないとか、無関係とか言われてブチ切れてんじゃねぇのかコレ…むしろこれからも関わる気で剣術まで刹那に習っているのにさ」

「なるほどなぁ…」

「マ、アレダナ、トリアエズ謝ッチマエヨ。メンドクセーカラヨ、謝ッタモン勝チダゼ、ソレカヤッチマエ」

相変わらず物騒なチャチャゼロである…まあ、とにかく謝罪の気持ちを示す事自体は間違っていないが。

「確かに、まずは直接会って謝るのが良いと思います。アスナさんならちゃんと聞いてくれますよ」

「原因がわからなければ、本人に尋ねるのが一番の解決策です」

…いや、めんどくさい相手の場合そうでもないぞ?茶々丸…まあアスナは激高しながらも教えてくれると思うが。

「そ…そうですね、まずは僕から謝らなきゃダメですね、悪口言った事も」

そうして、ネギはアスナに謝りに、小屋の外へと出て行った。

「さて、千雨さん、大分遅くなっていますが、まだやる事ってあります?」

「いや、今日はもう済ませている…ネギが戻ってきたら、エヴァにあいさつして帰ろうか」

「はい、千雨さん」

と、言っていると外からアスナの悲鳴が聞こえてきた。

「…着替え中に召喚でもしちまったかな?」

事実はもっとひどく、シャワー中に呼び出された挙句に、高畑先生まで居合わせたとかいう事態だった。

が、まあ私達にできる事もないので、服を借りたアスナが逃げるように帰った後、私達もエヴァの小屋を辞すのであった。

 

 

 

「なあ、超、聡美の護りってどうなっているんだ?」

私がそう聞いたのは、超を誘って三人で夕食を取った後、私達の部屋での事だった。

なお、聡美には頼んで席を外して…と言うか超たちの部屋に行ってもらっている。

「む?護身具の類いは渡しているし…計画中、特に身をさらさざるを得ない最終段階では…まあ千雨さんの想像通りの役割を頼む事になるだろうし…命がけで守るつもりだガ…?」

「そこは信用しているが…その後、の事さね」

私の言葉に、なるほど、と言った顔で超は答えた。

「ああ…麻帆良内外に逃亡が必要な場合に備え、安全な隠れ家を複数確保はしているし、貴女が守りについてくれれば完璧…とまではいわないが、十二分に安全は確保できる筈ネ…多少不便をかけるとは思うが」

「なら…私の力があればあるほど、聡美の安全は確保できるという事か?」

「…いや、まあそうではあるが…突発的な事故を除けば、私はともかくハカセと貴女を積極的に探す動機も余力も魔法使いたちには無かろうし…ハカセに心配かけてまで貪欲に力を貪る必要はないヨ?」

「っ…バレていたか?」

「まあ、最近…修学旅行後から悩んでいる事くらいは…そして今の会話ネ、大体わかるヨ…」

超が呆れた顔で続ける

「千雨サン、貴女、いろんな意味で頭もよく回るし、実際相当強くなっているのは感じられるが…ハカセの事となると少しだけポンコツになる所あるから、気を付けるヨ?」

その言葉に私は何も返せなかった

 

 

 

「ただいまー」

部屋に戻った超が要件の終了を告げ、聡美が部屋に戻ってきた。

「さて…ちょうどいいですし、私達もお話、済ませちゃいます?夕方、エヴァさんの家で悩んでいたやつ」

ソファーの隣に座って、聡美がそう言った。

「あー大体は超との話で解決しちまったんだよ…」

「えー私に相談してくれるって言っていたのに超さんと…ですか?」

聡美が拗ねるように言った。

「えーっと…正直に言うと、そろそろ麻帆良祭だし…修行の時間、長くした方が良いかなって思っててさ…それで超に少し計画の第一段階後に関して…な」

嘘ではない範囲でそう取り繕う

「…それだけですか?それだけで千雨さんってあんな怖い顔しましたっけ?」

「…そんなに怖い顔だったか?」

「はい、今まで、見た事が無い位には…私には話せない事ですか?」

…これは話さない方が心配をかける奴か

「…こう…な?そっちに合流する事になって、逃亡生活ってなったら、エヴァの修行とかもできなくなる可能性もでかいし…いざって時に力不足ってなったらそれこそ後悔してもしきれないし…」

「えっと…こう言っちゃなんですが、千雨さんの武力は計画の計算には入っていませんよ?超さんが入れる気でも入れさせませんし…」

言い難そうに、聡美が言う。

「でも…聡美を…お前を守る為に、必要だよな?いくら超が潜伏先を用意してくれていても、万一はあり得るし…計画の首謀者一味って事で狙ってくる奴は絶対にいる、少なくとも、初期の混乱期には…な。だから、後悔したくなくて…」

「あ〜それで、私を守れなかった時の事を想像してあんな怖い顔してくれていたんですか?」

「…うん」

「アーもう…千雨さん…心配性ですねぇ…相変わらず…そういう所も大好きですが」

「でも…過激派や執念深い奴って絶対いるし…原則、魔法使いたちってお人よしではあるけれど事が事だし…」

そういう私に、聡美が手を重ねる。

「大丈夫ですよ…その時は…一緒に死にましょう」

「っ!?」

聡美の爆弾発言が飛び出す。

「だって、その方がマシでしょう?千雨さん、自分だけ生き残ってしまうとかの方を心配するタイプですし…こう、科学の事を考えたら貴女だけでも生きて研究を〜って言う方が正しいんでしょうが、逆のパターン…私をかばって貴女が死んで、私だけ生き残ったとかだと、私だって死にたくなりますし…殺しにかかってくる様なのに超さんの情報操作を破られ、それが千雨さんが私を連れて逃げられないほど強大な敵だった…なんて奇跡的最悪をひいちゃったなら精々最期まで足掻いて一緒に死にましょう…ね?」

一緒に死のう、なんて朗らかにいう聡美に私は力が抜けた

「ああ、うん…確かにそういう事態、奇跡的最悪だな…そん時は…精々足掻いて一緒に逝こうか…でも、修行時間は増やすよ…無理じゃない程度に」

「はい、死なずに済むならその方が良いですもんね。でも無理は厳禁ですからね」

その後、私達は手を重ねたまま、語り合い、どちらからともなく寝落ちてしまい、そのまま朝まで眠ったのであった…

 

 




・当の本人…と言う訳ではない
当の本人は千雨さん自身ですからね、と一応、補足。
なお、本作でハカセが来た理由はたまには千雨さんの修行風景の見学をしたいと思ったからだったり。その説明も刹那達にはしていますが、千雨さん聞いて無かったので

後、聡美さんはある種、科学の狂徒です、教徒ではなく。なのでその為に(科学に魔力を扱う一分野を加える為に)命を奉げても構わないとさえ実は思っていたりします…が、千雨さんに呪いをかけられないほどには、優しく、千雨さんの事も大好きです。(え?好意の種類?一緒に死ねるくらい大親友なパートナーなのは間違いないですが、恋愛的な愛かは本人達がまだ理解できないので不明っす(それで押し通す予定
 まあ、ハカセが言いたかったのは、そんな奇跡的に最悪の状況の事を心配しても仕方が無いから万が一そうなったら精々足掻いてそれでもだめならそれを受け入れよう、って事と程々に修業時間増やして千雨さんが安心できるならばそれでいいんじゃないですか?って事なんで…(狂愛っぽく書いておいて解説して日和っておく

なお、ネギ君、(少しズレた)アスナの激怒理由がわかっても口をきいてもらえないので結果は同じです。自話の裏で夕映とのどかに訂正されて原作通りですね。(ネタバレ


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33 ねぎ弟子入り編 第4話 南国リゾート…?

「…マスター、暫く、毎日別荘を使用させてほしいんだけど」

翌日の朝、私は教室でマスターにそう声をかけた。

「ん?ぼーやの相手以外にもか?」

ネギの指導方針では、私も別荘にもぐる日は指導を手伝う事となってはいる。

「…ネギの相手であまり捗らなかったら頼むかもしれません」

「構わんぞ、追加使用分は相手をしてやらんと思うが、それで良ければな」

「いいのか?マスター、理由も聞かずに」

通るとは思っていたが、理由も聞かれないとは少し想定外である。

「構わん…と言うか、どーせ何かまた悪い想定に捕らわれているんだろう?

お前がそういう目をして修行を増やしたいという時はいつもそうだ…いちいち聞いていられるか…違うか?」

「あ…はい…その通りです」

「ふんっ…まあ、うじうじ悩むよりはそうやって修行に打ち込んで誤魔化せばいいさ…だが、未来の時間を前借りしている、という事だけは忘れるなよ」

「はい、心得ています」

実際、この体が追加で過ごした時は、半年は優に超えており…一年には届いていない位…の筈である。

「ならば好きにしろ、今回は期限も上限定めてやらん、納得するまで己の責任で好きにしろ」

こうして、私の追加修業が決まったのであった。

 

 

 

「さて、今日からぼーやの本格的な修行に入るわけではあるが…まずは場所を移すぞ」

「ハ、ハイ…」

アスナとの仲たがいが原因か、昨日の覇気はどこへやら、と言った状態のネギである。

そんなネギをマスターが先導して人形回廊を進み、私と茶々丸(と、頭上のチャチャゼロ)がそれに付き従う。

「開けろ、千雨」

たどり着いた扉の前で、マスターが私に命じた。

「はい」

閉じられた扉を、ゆっくりと開く…

「これは…ダイオラマ魔法球!?」

お、良い反応である…ほんの数回とはいえ、練習させられたかいがあるというモノである。

「ご名答、これは私が作ったダイオラマ魔法球で、別荘と呼んでいる。そこそこな高級品でな、現実時間の一時間がこの中では一日になる代物さ。

教職などの合間にちまちまと修行していても話にならんからな、都合のつく日はこれから当分の間、毎日この別荘を利用して修行をつけてやる。さ、中に入るぞ」

そういってマスターは術式を起動させ、私達5人は別荘の中へと入った。

 

「うわぁ…すごいですね、さすがはマスターです」

「そうだろうとも、知っての通り、ダイオラマ魔法球はそこらの魔法具職人には作れぬ逸品であるからな」

感動するネギに、マスターはご機嫌である。そういう意味では分かりやすいからな、マスター…よほどの地雷を踏んだ後でもなければ褒めとけば機嫌がよくなるし。

「さてぼーや、早速修業を始めようか、という所だが、まあ体感時間的にはもう夕刻ではある、よって夕食の用意をさせているので、それを食べながらしばらくの予定を話そうか」

そうして、私達は今日の修行のスケジュールを説明するのであった。

 

 

 

「では、始めろ」

まずは、邪流(身体強化を気でしている)とはいえ一定の域に達した魔法拳士と戦ってみろ、という事で私が相手をする事になった…要するに、私はネギをボコれ、という事だそうだ。

「行くぞ、ネギ」

「はい、千雨さん」

と、ネギが答えるが早いか、瞬動術でネギの懐に潜り込み、掬い上げるように掌打を放つ。

まー半分不意打ちであるし、さすがに反応できなかったネギは吹っ飛ぶわけで。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 闇夜切り裂く一条の光 我が手に宿りて敵を喰らえ 白き雷」

で、追撃…まあ一応、障壁の追加展開で軽減くらいは出来たようではあるが…。

落下した所に喉元に鉄扇での突きを寸止めで入れ、そのまま突きつける。

「うむ、そこまで…ぼーや、これが魔法拳士だ、若干格闘寄りではあるがな」

「ほら、立てるか、ネギ」

鉄扇を外し、ネギに立つように促す。

「あっ…はい。千雨さんの最初の、瞬間移動みたいなのは…?」

「ん?ぼーやは瞬動術を見るのは初めてだったか?…まあ、魔法拳士を選ぶのであればいつかは学ぶ必要があるが…まだぼーやには早い。千雨、瞬動無しでもう一戦してやれ」

「了解」

という事で、もう一戦…と言うか、何戦も何戦も試合をする事になった。ただ、さすがと言うかなんというか、同じ手を使って見せると、何かしらの対応をして来るのには、感心した。

ま、流石に負けるどころかまともに反撃を喰らうという事もなかったが、マスターが瞬動を解禁するのも割とすぐではないかと、私は思った。

 

 

 

その後、軽く体力・魔力トレーニングをした後、献血を済ませ(ネギの分は別荘から出る前に吸うそうだ)、その日はネギは就寝となった…私は咸卦法の瞑想やマスターとのネギについての相談をしてから寝た。

翌日、私が起きると、既にネギは塔の外周階段ランニングを済ませて中国拳法の自主トレを始めていた。

「あ、おはようございます、千雨さん」

「おはよう、ネギ」

私も、ストレッチなどを済ませると体術の自主トレをして、最後は異流派間にはなるが組手を行い、朝食時間となった。

具沢山のスープとパンに卵が付いた朝食(いつもの別荘の朝食でもある)を済ませた私達は、マスターと合流して魔力・体力トレーニングを再ウォーミングアップ代わりに行い、基礎トレーニングに入った。俗にいう魔力の効率的運用だとか、詠唱・発動速度向上だとか、私の場合は加えて無詠唱魔法の訓練だとか、糸術やら人形術やら体術やらの訓練である。私はほぼ自主練状態ではあったが。

そうして朝食よりは豪華になった昼食を取り、午後の実戦形式の稽古となった…大体は、また私がネギをボコって、ネギがダウンしている間にマスターに弄られて…ネギが回復したら、またボコって…時々もらえる休みの間はマスターがネギをボコって…と言う流れである。

 

「うっへぇ…千雨姉さん、つええんだなぁ…昨日に続いて兄貴が手も足も出ねぇなんて…」

「ん?手も足も出るし、私が障壁張る場面も増えていい試合になる場合も出てきたじゃないか。まあ、こっちは瞬動無し縛りでやっているんだからそれ位してほしくはあるが…相変わらず伸び率がえげつねぇなぁ…ネギのやつ…」

カモとそんな会話をしたのは午後の初休憩の際であったか…ネギはマスターにもまれている。

「と言うか、アスナとの件、仲直りできてないのか?今朝の自主練なんかは微妙に身が入ってなかったっぽいし」

まあ、マスターの目が光っている間は時々叱責される程度で済んではいる様だが。

「あー姐さん、兄貴と口もきいてくれなくて…」

「続行中、と…今は何とか修行漬けでそれ所じゃないって感じではあるが…」

「ああ…エヴァンジェリンも千雨姉さんも容赦ねぇし…」

いや、これでも容赦しているのではあるが…あまり手を抜くと私が怒られるのでネギを圧倒はしているだけで。

 

 

 

「そうか、やはりぼーやは神楽坂明日菜と仲直りしていないのか」

ネギからマスターが血を吸って、増血剤を飲ませて帰した後、私とマスターはそんな話をしていた。

「マスターの目が届く範囲では身が入らないって事はないようだが…帰りも割とどうしようって顔していたよ」

「ふむ…まあ、修行をまじめにやっている分には放っておいてよかろう、めんどいし、仲裁してやる義理もないしな」

「そういうと思ったよ」

「で、どうだ?瞬動無しとはいえ初日からまともに一撃を喰らった姉弟子よ」

「…瞬動を前提に流れを組み立てていて、寸前に思い出して一瞬硬直して喰いました、面目ありません」

「だろうな、アレは。しかし、結局負けたとはいえ、それでもお前に一撃を入れるのは今週中に達成できれば悪くないと思っていたが、まさか初日とはな」

楽しそうにエヴァが笑う

「ま、今日はいきなりの事であるし勘弁してやるが、お前も同じ間違いを繰り返すなよ、千雨」

「はい」

こんな感じでネギの指導検討をしてから、私はもう一度、一人で別荘にもぐって自主練と研究をしてから帰途に就いた。

 

 

 

「南の島?」

「はい…委員長さんに誘われて断り切れず…一応保留という事にはなっているんですが、どうしましょう」

そんな話をネギからされたのは、金曜日、クーや刹那達との合同朝練の会場での事だった。

「どうしましょうって…せっかくだし行きたければ行って来ればいいじゃねぇか」

「え…でも、明日の修行が…」

「別に、都合がつかなきゃ一日二日休んだって問題ねぇよ…私もそうしているし。まあ、別の日に倍って事になるかもしれんが…それに」

ちらりと私はアスナの方を見る…

「それに?」

「アスナとの喧嘩が長引いてまいっているでしょう?少しくらいリフレッシュしてきても、ばちは当たらないですよ、先生」

そういって、私は笑った。

 

結果…マスターの了承は取れたものの、朝倉とハルナに情報が漏れてクラスの半数以上が参加する事となったのであるが…その流れでアスナも参加となり、向こうで仲直りできたそうなのでネギ的には結果オーライだろう

 

 

 

「で、いかなくてよかったんですか、南の島…私達に遠慮せずに行ってきてもよかったんですよ?」

まあ、聡美と超とがロボ研関係の仕事と恐らくは裏でやっている諸々で忙しくて行けなかったわけで…。

「…私もこっちの仕事片付けないといけないし…」

私もそういう事で欠席とした…半分嘘であるが。片付けるべき仕事はあるにはあったが、その殆どは自室で、ダイブした加速空間で済ませているので現地では現物の調整位である…それも一仕事ではあるが、納期を考えれば調整がつかないほどではない。

「ふふ〜そういう事にしておきましょうか、千雨さん」

そういって、聡美は嬉しそうに笑った。

 

 

 




発育おかしい組、と言うか年齢詐称疑惑組に紛れてこそいますが、千雨さんも一年弱分ほど余計に年取っていて、その分成長していたりします。安定期でも、週2回+αで、時々いろいろな理由で期間限定で利用時間を増やしていた感じなので。
 現在は、ネギ君の相手で足らんと思った日はもう一日、そうでなければそのまま帰宅みたいな使い方しています。え?南の島に行かなかった土日?もちろん、行っていますよ、別荘。
 魔法射撃戦でもやれば、既にネギ君そこそこやるけれども、格闘戦+魔法になるとスピードファイターかつ格闘術の技量差で千雨さんに一触鎧袖にされる感じ。


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34 ネギ弟子入り編 第5話 騒がしい別荘

 

「なぁ、マスター、ここ数日、ネギの奴やつれていってないか?」

私がそう言ったのは、ネギが南の島から帰ってきて数日後の指導後検討での事だった。

「…ウム、疲労と貧血が溜まっているんだろうなぁ…まあ、慣れの問題だろうが明日の別荘に入ってすぐの実践稽古は少し軽めにして精の付くもの喰わせて長めに寝かせるとしようか」

多少の疲労は気にしない筈ではあるが、少しやり過ぎたかとお優しい事を言うマスターである。

「それがいいだろうな…そのままだとアスナ辺りが心配して怒鳴り込んできそうであるし」

「ふん…ぼーやの希望でやっている事だ、とやかく言われる筋合いはない。

ま、茶々丸、そういう事だ、精のつくもの…レバーステーキか何かを追加で明日の別荘での夕食に出してやれるように手配しておけ」

「はい、了解しました。マスター」

と、言った事を話したのが昨日の事。

 

 

 

明らかに消耗しており、クラスの連中からも心配されていたネギであるが、私は特別メニューとは別に、丁度食料の補充をするからと茶々丸と共に商店街で各種食料を買いそろえていた。

「手伝っていただいてすいません、千雨さん」

「いいって、ネギが参加する前は元々食料の半分以上は私が消費していたんだし、荷物持ち位な。それに、特別メニュー、私の分もあるんだろう?」

「はい、千雨さんとネギ先生のマスターへの血液供給を考えてその方が良かろうと姉たちと相談しまして…今まで千雨さんはどうなさっていたので?」

「ん?別荘外での食事とサプリメント、あとネギにも飲ませている増血剤と…あとは慣れ?」

「なるほど…先生も木乃香さんにお願いしてそういう料理を作ってもらえるようにして頂かないといけないわけですね」

成程、と茶々丸が頷く。

「まあ、別荘の中でもう一食、軽食とかを食わせて返すって言う手もあるけどな、レバーペーストとか、今日みたいなレバーステーキとかブラッドソーセージとか…」

「その辺りはマスターや先生にご相談いたしましょう」

「そうだな」

そんな感じで買い物を済ませて私達はマスターの家にやってきた。

「ん…降ってきたな」

「そうですね、マスター、傘を持っておられないはずなのですが」

「朝見た時、先生は持っていた様子だったし、大丈夫だろう」

そんな話をしつつ、大量の食料を別荘に持ち込むものと外の食料とに仕分けていた。

 

「帰ったぞ。茶々丸、千雨、もう戻っているか?」

「お邪魔します」

マスターとネギが帰ってきた。

「はい、マスター、こちらにおります」

「食料の仕分けも終わっているからすぐには入れるよ」

「あ、僕もお持ちします」

断るのもネギの気持ち的に悪いかと思って、軽めの物を一袋、預けた。

「よし、ではいくぞ」

私達は別荘へと向かっていった。

 

 

 

早速、いつものように試合をして…今日は私・ネギVS茶々丸・チャチャゼロ・マスター…まあ、単騎でならともかく、私もネギの従者役となるとあまり長持ちはせず、ボコボコにされる事を繰り返した…。

「少し早いが今日はここまでにする。今日は、ぼーやから血を貰おうか」

回復させてから授業料を徴収すると吸い過ぎそうなので、先に吸う事にするという事らしい。

 

…が。

「ああ…やはりぼーやのは濃いな…しかし…まだ足りんな」

「えぇっ」

「…ふふふ…いいだろ?もう少し」

「も、もう限界ですよっ」

「少し休めば回復する、若いんだからな」

結局、こうなった。私の時も最初期は自制が下手だったんだから、私のよりも魔力的な意味で美味であろうネギの血を自制しきれるわけがなかった。

「マスター、ネギがやつれてきているから加減するんじゃなかったのか?」

「硬い事を言うな、千雨、ちゃんと加減はしてやるさ…だが、まだ足りん…それだけさ。ほら、出せ」

マスターがネギに腕を出すように迫る…まあ腕なだけいいんじゃないかな?私は首からだし、押し倒されるように飲まれる事とも割とあるし。

「あっ、ダメです」

「ほら、良いから早く出せ」

「だ、ダメです…もう無理ですよ、エヴァンジェリンさん…」

「フフ…私の事はマスターと呼べと言っているだろう」

「千雨さぁん、助けてください」

「…すまん、無理だ。まあ、茶々丸たちが精のつくものを用意してくれているから、諦めろ」

今、止めたら、私が吸われる…と言うのは構わんが、ネギの代わりなら割と量を吸われるだろうし、別荘からの出る前の実践稽古後にネギがまた吸われて本末転倒な未来しか見えない。

…それに、呼びに来たらしき気配もするし、早く済ませんと料理が冷める。

 

「コ、ココココラーッ!あんた達、子供相手に何やってんのよーっ」

と、茶々丸かと思った気配はどうやらアスナ達だったらしく、そんな叫びと共に飛び出してきたアスナに続いて続々と魔法バレ組が顔を出す。

「ん?…なんだ、お前たち」

「何って、何やってんのよーっ」

「何って…授業料として血を吸っていただけだよ、魔力を補充せんと稽古もつけられん…千雨からも貰っているぞ?」

「どーせそんな事だと思ったわよ!!」

「ん〜?なんだと思っていたんだ?」

「うっさいわね!」

アスナの反応からして、エロいことだと思っていたらしい…いや、ネギが精通してれば(しているか知らんが)そう言うのもあるらしいがマスターの種族的には血の方が効率良い…筈である。

 

 

 

誤解?が解けた所で、エヴァがみんなにこの別荘とネギの事情を説明し…案の定、宴会がはじまった。

「千雨さん、ネギ先生、予定していた特別料理です、召し上がってください」

「ん、さんきゅ、茶々丸」

「ありがとうございます、茶々丸さん」

茶々丸が出してくれたのは先ほど仕入れてきたレバーをソテーしたものだった。

「あ~千雨とネギ坊主だけずるいアルね」

それにクーが羨ましそうにする。

「…別に、少しくらい分けてもいいけど…コレ、マスターからの吸血分を補う為の料理だからな?味見以上に箸付けるなら、マスターに吸血されてもらうぞ?」

「ん?私は構わんぞ、魔力補給になるかは別にして、若い女の血は旨いからな」

と、エヴァがニヤニヤ笑う

「う~ならば一切れだけもらうアルよ」

脅してみたが、食うらしい。

「はい、どうぞ、クー老師」

と、ネギが皿を差し出そうとするが、私が止めた。

「まて、私の皿から持ってけ、ネギが貧血気味だからってわざわざ用意したんだ、お前は全部自分で食え」

「でも千雨さんだって毎日…」

「いいんだよ、私は慣れているから…と言うか、今までは自分で外で食っていたからな」

「えっと…千雨の皿からもらえばいいアルね?」

「じゃあ私も貰おっと」

「じゃあうちもーおいひい〜せっちゃんもたべぇ〜」

「しかし…いいのか?千雨」

「…もういいよ、食え食え、一切れだけな」

「では…」

と、次々と箸が伸びてきて、半分以上食われてしまった…肉気自体は他にもあるしまあいいが。

「ネギ君、これからは貧血に効く食事にせなあかんかな〜」

まあ、事情がバレた以上はそうしてもらうべきではある。

 

「…と言う訳なのですが」

「…何?魔法を?私に教えろと?」

と、言った事をやっていると、エヴァに夕映とのどかが魔法を教えて欲しいと乞うていた。

当然、エヴァが自分でする必要もない面倒事を自分でするわけもなくネギに投げられ、さらに他の連中も群がって来て火よ灯れの練習会が始まった。

 

「ほら、まじめにやっている組は数をこなすより一回一回しっかりとイメージを固めてやれ、適当なイメージで10回やるよりしっかりと魔力を取り込んで集中するイメージして一回やった方が良いぞ、素振りと同じだ。後、火よ灯れ(アールデスカット)の意味をちゃんと意識するようにな!」

「「「はいっ」」」

何度も何度も短いスパンで杖を振る組を見て思わずアドバイスをしてしまった。

 

「せっちゃんはやらへんの?」

「私はできますから…ラン」

刹那が陰陽術での火よ灯れに相当するらしい術で指先に火をともした。

「キャーッ、スゴーイ、せっちゃん」

「まあ、それ、陰陽術だけどな…」

「…結果は同じだ」

 

 

 

こうして散々騒いだ後に、屋上に臨時の客室を設営し、皆はそこで寝る事になった…が。

「…ネギめ、体調戻させるためにマスターの稽古を軽めにして特別料理を用意したっていうのに…つうか安眠妨害だって」

まどろみながら型稽古をしているらしい気配を追っていた私は、呪文発動の音と気配で完全に覚醒し、思わずそんな悪態をついていた…周りも何人か起こされたみたいであるし…軽く注意しておこうかと思って行ってみると、既にアスナがネギを締め上げていた。

「…まあ、アスナが注意したならもう良いか」

「千雨も来たか」

「あ、マスター…まあ流石に雷の斧を使われたら起きますって…型稽古までなら見逃すにせよ」

「うむ、だが面白そうな話をしているぞ…ふむ、宮崎のどかも起きて来たか、丁度良い」

そう言うとエヴァは言葉巧みにのどかから「いどのえにっき」を借り受けてしまった。

「よし、千雨も来い、ぼーやの共有している記憶を見るぞ」

「む、ネギ坊主の記憶アルか?」

「それは面白そうだね、みんなを起こしてくる」

と、クーと朝倉がそれを聞きつけて皆を起こしに行った…こうして、私達もネギの6年前の記憶とやらを盗み見る事になったのであった…良いのかなぁ…。

 

 

 

端的に表現するならば4歳のネギは親にかまって欲しくて悪戯という名の自傷をする問題児で…さらに問題だったのはその親が既に死亡していて構い様も無く…最終的には冬の湖に入水する等という事までやらかした事だった。一応、その一件の後は大人しくなったようではあるが、それでも自分がピンチになれば助けに来てくれると無邪気に信じていたようだ。

 そして…運命の日、釣りをしていて従姉の帰省日を思い出し、村に駆け戻ったネギが見た物は…燃え盛る村と石化した村人達だった…火の中で己がピンチになればと願ったからだと自責するネギに悪魔たちが襲い掛かり…そこに突如現れたサウザンド・マスター…ナギ・スプリングフィールドらしき人物がネギを庇い、あっという間に悪魔の群れを殲滅した…しかし、その様子に恐怖したネギはその場から逃げ出してしまった。不幸な事に、逃げた先には別の悪魔がいて…ネギを庇って交流のあった爺さんとネギの従姉が石化光線を食らってしまった。それでも爺さんは魔道具らしき物を用いて完全に石化する前に悪魔とその従魔らしき何かを封印する事に成功し…ネギの目の前で完全に石となった。

追いついたサウザンド・マスターに導かれ、足のみが石化した従姉と村の外に避難したネギであるが、しかし、ネギは従姉を守るためにサウザンド・マスターに杖を構え…その姿に彼はその子が息子のネギであると気づいたようである。そして彼はネギに杖を形見として渡し、空に消えていった…。

その後、ネギ達は三日後に救出され、従姉と幼馴染が通っていたらしいウェールズの山奥の学校がある魔法使いの街に移り住み、そこから5年間は魔法学校で勉強漬け…それは悪夢からの逃避、脅威からの防衛、父への憧憬、理解しているであろう石化した人々の救済…あるいは復讐のための牙…いずれであるかは判断がつかないが…恐らく全てであろうか…とにかく、そうして【天才少年、ネギ・スプリングフィールド】は芽吹いたわけである。そして、ネギはアスナに言った…あの雪の夜の悪夢はピンチになれば父が助けに来てくれると思った自分に対する天罰なのではないかと思ってしまう、と。

 

「え…なっ!? 何言っているのよ、そんな事ある訳ないじゃん!」

その発言はアスナには捨て置けなかったようで、そんな事はない、ネギのせいなんかじゃない、きっと父とも生きてまた会える、と言って聞かせ、協力もする、と申し出た。

 そこで、私達が覗いていた事がバレ、皆も協力するからとネギがもみくちゃにされていた…というか、エヴァまで軽く泣いていた。そして、なぜか、ネギの父が見つかる事を祈った乾杯がなされ、宴会が再開されたのであった…。

 私は…創作ではよくある話であるし、現実でも悪魔を武装勢力に置き換えれば掃いて捨てるほどありふれた悲劇でもある…という事自体は知っている、がそれでもそれは悲劇であろうし、同情するし、友人でもあるネギの為に無茶位してやっても良いとは思うが…泣けなかった…私が協力している超の計画は、きっとネギの前途を一度断ち切り、その夢と目標…マギステル・マギになる事、父と再会する事…を阻む障害でしかないと理解しているから…そして私はそれに私欲で協力している…こちらに落とせれば気も楽にはなるが生真面目なお前はきっと私たちの敵になる…その日まで、精々仲良くできるといいな、ネギ…超の計画が潰えた時は…まあ厚顔無恥ながらもネギがそれを許してくれるならば…私も協力してやろうか…マスター謹製の【ジュース】を煽りながら、私はそんな事を考え、騒ぐ皆を眺めていた。

 

 




まあ、概ね原作沿い(
そしてうちの千雨さんはこういう思考に行き着いたりしました。それでも、知ってしまったからにはマスター謹製の【ジュース】を煽りたくはなるのです。


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35 ネギ弟子入り編 第6話 ヘルマン卿

結局、その日は夜更かしと翌日の遊びに付き合って朝錬+α程度しか鍛錬ができなかった事もあり、もう一日別荘を使用する事にして、まずは皆を帰す事とした。

「「「お邪魔しましたーっ」」」

本当にな、とは少し思っても言わぬが花である。

「おう、気をつけてな」

「あれ?千雨ちゃんはまだ帰らないの?」

「ああ、まだ用事があるからな…皆は先に帰れ」

そう言ってしっしっと言ったしぐさで早く帰れと促す。

「つめたいなーもう…そうそう、エヴァちゃん、テスト勉強の時間足りなくなったらまた別荘使わせてよ」

「別に構わんが…女にはすすめんぞ、歳取るからな…まあ使いまくっている女もいるが」

と、マスターが私を見る。

「うっ!!そうか」

「気にしないアルよ」

「いいじゃない、2、3日くらい歳取っても」

「…若いから言えるセリフだな、それ」

「まあ、多用しなきゃいうほど問題は無いけど…将来後悔しても知らんぞ、ってこったな」

…多用している私が言うのもなんであるが。

 

「やれやれ…やっとうるさいのが行ったか」

「楽しそうでしたが?マスター」

「煩わしさと楽しさも両立する物さ、茶々丸」

「煩いわ!……ん…?」

エヴァが何かを感じ取った様子で言った。

「どうかしましたか…?」

「いや…気のせいだろう…」

 

「それはそうと千雨、ぼーやの過去を見て何か思う事でもあったか?昨晩はやけに黄昏ていたが」

小屋に戻り、お茶をご馳走になっているとエヴァが面白いおもちゃでも見つけた様に言った

「…そりゃあな、自分達が踏みにじる予定の奴…ネギに深く刺さった棘を見ちまったら私でもあれくらいなるさ…」

「そういえば、お前達は何かたくらんでいるんだったな…正確には超の企みに協力しているんだったか?」

「ああ…私も、魔法使い側に入った義理はあるから計画の核心部にはノータッチだが大体の目的は知って協力しているよ」

紅茶に砂糖とミルクを何時もより多めにいれ、かき混ぜながら言う。

「で、それがぼーやにとって不利益になるわけか」

「正確には麻帆良で大それた事をやらかされた責任をとらされる可能性が高い、だな。そうなりゃ色々キャリアの障害になるさね、父親探しの邪魔にもな」

「…それを理解して、アレを見てもなお、お前は協力を続けるわけか?」

ニヤニヤとエヴァが聞いてくる。

「もちろん、私はエヴァの…マスターの弟子たる中ボスだからな…それくらいの悪事は平気でするよ」

そう答えて私は紅茶を一口飲んだ…甘くて旨い

「はっ…お人よしの小娘の癖して…だが、それでこそ我が弟子、とは褒めてやろうか」

「まあ、計画の核心を知らんから成功率も判断できんけどな…そこは超と聡美を信じるよ…ご馳走様。別荘に行ってくる」

「ああ、精々励め」

そして、私は別荘に再び入り、僅かに産まれた迷いを振り払うように、鍛錬に打ち込んだ…。

迷う事は無い、天秤はあの日から動いてなどいないのだから…少なくとも、今はまだ。

 

 

 

「ただいま」

「お帰りなさい、お母様」

「…お母様?…まあ確かにお前らは茶々丸の親か」

「唐突にそのネタはやめろ、茶々丸」

「駄目…でしたか?」

というコントをしていると豪雨の中、扉を叩く音が聞こえた。

「あいているぞ」

「失礼するでござる、エヴァンジェリン殿、おお、千雨はこっちだったか」

「慌ててどうした、楓」

「寮に侵入者があり、千鶴殿と他7名…恐らくアスナ殿、このか殿、夕映殿、のどか殿、朝倉殿、それにクー、刹那が浚われたでござる」

「なにっ…先ほどの気配は気のせいではなかったのか」

「で、賊と浚われた連中は?」

「世界樹前ステージにて待つとネギ坊主とコタローに告げて去っていったでござる」

「…私達も行くか?エヴァ」

「ウム…だが、私が良いと言うまで手を出すな…ぼーやの修行の成果を見るのに丁度良いやもしれんからな」

「…ああ、わかった」

「了解しました、マスター」

「あいわかった…では、先に向かっている、どうしようもない様であれば先に介入するでござるよ」

そう言って去って行った楓を、私達も追うのであった。

 

 

 

「…丁度だな」

私とエヴァと茶々丸が先行していた楓に合流して少しするとネギと小太郎が、ネギの魔法の射手と共に突っ込んできた。

「…今の、何かおかしくなかったか?」

「確かに…障壁で弾いたという感じではなかったな」

ネギ達は賊と何かを話すと…喧嘩を始めた。

「はぁっ?」

「…何をしているのでござろうか」

「…どちらが戦うかで揉めている様だな」

そうしていると、争っている二人にスライムらしき軟体生物が3体、襲いかかった。

「ああ…アホどもが」

私は、思わず頭を抱えた。

 

その後は共同戦線を張る事にしたらしい二人はなにやら小さな瓶を用いたが、それはかき消され…アスナが苦しんでいた。

「あの瓶…ネギの記憶に出てきた奴だな…それに、今のアスナの様子…アスナのアーティファクトの魔法無効化能力か?」

「ふむ…何らかの方法でその力を賊は利用しているようだな」

エヴァが涼しい顔で言う。

「…一応、介入の準備はするぞ、エヴァ」

「ああ、好きにしろ、だがマテはちゃんと聞くんだぞ、千雨」

そう言われながらも私は咸卦の呪法と呪血紋の用意をするのであった…声を抑えて

 

賊も多少本気を出したようで、拳からビームのような、魔法の射手のような攻撃を繰り出して来て、ネギ達は魔法戦でそれに応じたが…

当然それはアスナの力でかき消された。

「ほう…魔法無効化能力は神楽坂明日菜本人の能力なのか…魔法無効化能力らしいぞ、アレ」

種族的問題で会話を聞き取れているらしいエヴァが言う。

「…レアスキルってレベルじゃねーぞ、それ」

「ようわからんが、ネギ坊主の魔法は賊に通じん、と言う事でござるな?」

「その理解でよろしいかと、長瀬さん」

 

戦いは接近戦に移行したが、2対1でも戦況は圧倒的不利、ついに小太郎が大きく吹き飛ばされてしまった。

そうして…ネギと賊が長い話をして、賊が帽子を取った。

「アレは…ネギの記憶に出てきた、爺さんを石化した悪魔か?」

「…の、様だな、会話の内容的にも」

「何の話でござるかー」

「気になるなら今度、掻い摘んで話してやるから…」

そう言って、ネギの記憶を覗いていない楓を黙らせる私だった。

 

そしてネギが暴走をはじめ…文字通り魔力のオーバードライブだ…直情的に賊を攻撃し続ける…ああ、ありゃいかんな。

「エヴァ」

「ウム、致命打を貰いそうなら許す」

あんな動き、格上相手には隙をさらしているだけである。案の定、迎え撃たれて大ピンチ…であるが。

「マテ、千雨」

「ああ、わかっている」

「ナイスタイミングでござるな、コタロー」

小太郎がすんでの所でネギを掻っ攫い、賊の射線から外したのである。

そして、まあ、ネギは怒られているようである。

 

仕切り直し、しかし圧倒的不利に変わりはないが…。

と思った時、刹那と那波以外が捕らえられていた水牢が光って破け、捕らえられていた連中が人質を救出し、魔法無効化能力を利用する媒体らしきアスナのネックレスを外し、スライムを先ほどの瓶に封印した。

「おっ…形勢逆転…とまでは行かないがコレで魔法が通じるようになったのかね」

「恐らくな」

魔法が通じる様になった為か、ネギと小太郎は前衛後衛に分かれて戦いはじめた。

そして、小太郎の分身…と恐らく影分身を用いた攻撃で、アッパーが決まる…と、そこにネギが魔法の射手を乗せて肘撃ちをかまし、雷の斧を決めた…。

「いや、あの魔法の射手から雷の斧に繋げるコンボ、従者無しの時に使うもんであって、前衛がいるなら素直に単発で叩き込めばいいんだが…というか、呪血紋アリの私のより強力だな、アレ」

魔力をたっぷり込めたらしいネギの止めの一撃は、雨雲に大穴を空けていた。

「ふふ、いいじゃないか、即席コンビゆえの安全策ともいえるしな。どちらにせよ、ぼーや達の勝ちだ…。

まあ、ぼーやの潜在力を見られたのは思わぬ収穫だった。そういう意味ではあのヘルマンやらには礼を言わねばな」

「ニンニン…では無事に終わった様でござるし、拙者はお先に失礼するでござる」

そう言って、楓は先に帰っていった。

 

「じゃあ、エヴァ、私も帰るわ」

念のため、ヘルマンというらしい悪魔が消え去るのを確認し、咸卦の呪法と呪血紋を解いて、私は言った。

「ああ、また明日な…くっくっ…さてぼーやをどう育てたものやらな」

そんな独り言をもらすエヴァ…マスターを尻目に、私も帰宅したのであった。

 

 

 

ヘルマンとか言う悪魔との戦闘の翌日、ネギは魔法剣士…いや、魔法拳士を進路として選択した。その日の別荘での夜、私とマスターはネギの指導について相談をしていた。

「と、なると暫くは短縮詠唱と無詠唱呪文の練習か?」

魔法拳士となると無詠唱呪文を主体に、決め手に詠唱呪文を使う形式が基本となる…事が多い。

「うむ、それと魔力の効率的運用と…実践稽古だな…さて、ぼーやはどんな戦い方を編み出すだろうな」

…マスターは基本を教えた後は自分で戦い方を編み出せ派だからな、欲しい技術を言えばある程度は教えてくれるが…糸術とか、あまり力を入れていないのもあり、まだ形になっていないが人形術とか…瞬動術はある程度した後に教えてもらったが。

 

そして翌日から、ネギの修行は体力・魔力トレーニングと短縮詠唱・無詠唱呪文の訓練が主となり、実戦形式の稽古も減った…まあ、魔法拳士としての基礎スキルも身についていないのに稽古したって仕方が無いからな。

 

そうして、麻帆良祭まで残り一カ月を切り…中間テストも終わり…私は一応の形になった新技をマスターに見せていた。

「…気持ち悪いわ、その動き!」

「ひでぇ!」

何とか形にした虚空瞬動改…掌や肘で宙を押してより精密な三次元機動を可能にしたのに

「いや、すごいのはわかるし、足以外で宙を弾く事の利点もわかるがな…?見ていてなんか気持ち悪い…特にお前の言う、直線機動であるはずの瞬動を素早く優しく空を押して曲げるとか」

「主軸の推力を減ぜずに、別方向に等加速度運動しているだけなんだけれどな」

「…理屈はわかるが…で、それ、何か名前はつけたのか?」

「虚空舞踏か歪曲瞬動か…」

「後者はなしだな、名前で中身がバレる…その二択なら虚空舞踏にしておけ、その奥義が曲がる瞬動だな」

こうして、私の新技の名前は虚空舞踏になった…まあ実戦で積極的に使いたいと思えるほどの練度にはなっていないのではあるが。

 




ネタな虚空舞踏ですが…使うことあるかなぁ…(白目


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麻帆良祭準備編
36 麻帆良祭準備編 第1話 超包子にて


そして6月…学園祭の準備期間間際となり…私は超と二人で密会をしていた。

「じゃあ、確認だが、私は超が買収・統合した格闘技大会の司会、朝倉が落ちたら選手としての出場…それに人手が足りない時の超包子への応援だけでいいんだな?」

「ああ…基本的にはそれでいい、何か緊急で手伝ってもらう必要があれば連絡するヨ…大会の方は…まあ、朝倉は多分落ちるし、何も知らない体で好きにしてくれればいいネ、賞金を狙ってもらっても、遊んでもらっても…まあ、ルール上、千雨さんはあまり有利ではないガ」

「…あの舞台、狭いからなぁ…」

「それと…計画の第一弾が成功すれば私達に合流してくれるという約束は、変わらないという事で良いカナ?」

「ああ…と言うか、悪いな…この期に及んで魔法使い側へ義理立てして…」

一応、現時点で完全に魔法使い側を裏切るのはさすがに矜持が許さんのである…私がリークした諸々、目的を理解しつつ行った助力の数々を挙げて十分裏切っているだろと突っ込まれればそれまでであるが。

「ふふ…仕方がないネ、魔法使い側に対して身を寄せた以上は守りたい矜持だというならば…楽しみにしている、貴女と共に行く道を」

「ああ、ただ私欲で協力している私が欲しいと言うのであれば喜んで」

「…私欲か?魔法の科学的研究の為に広くその存在を知られて欲しいと願うのは」

超が笑う。

「私欲さ、どう取り繕おうが、私自身が一番よく知っている…いろんなものを踏みにじってでも、自分の望む世界を作りたいと願う悪党だ…ってな」

「あはは…それ、私にもばっちり刺さるんだがネ?」

「最初から自覚しているだろう?じゃなきゃ私は…たぶん聡美も…お前についていきやしてねぇよ」

「アハハハハハ」

「クッハハハハ」

私達は、こらえきれなくなって笑いだした。

「まあ、これ位にしとこうか、明日も早いし…もう部屋に戻るよ」

「そうした方が良いネ、数日したら屋台も始めなければ、だからネ」

そうして、私は超との密会場所を辞した。

 

 

 

「五月、食材の在庫確認、終わったぞ」

「電車の設備の最終チェックも完了しましたー」

「机と椅子の配置も完了アル」

「看板や旗の展開も終了しました」

「ありがとうございます、こっちの仕込みも終わりました…明日から、いよいよマホラ祭準備期間ですね」

「ああ、今年も皆の協力で無事に用意が整った、感謝するネ」

私達は明日から始まる屋台営業の準備をしていた。

日常的に開いている店舗はお料理研究会のメンバーを中心に回してくれているし、休日や平日夕方の営業もヘルプに入ってくれるのではあるが、平日の朝営業は私達の仕事である。

「では、今年も皆さんに美味しい点心を届けるために、がんばりましょう!」

「「「「「おー」」」」」

五月の掛け声に答えて声を上げ…その日は解散となった…準備終わったし。

 

 

 

「はい、3番テーブル、7番テーブルあがったぞ、こっちが3番、こっちが7番」

「了解しました」

翌朝、私は調理員として働いていた。

「千雨、4番テーブル、蝦餃子4個、焼売4個、小籠包8個追加アル」

蒸し器から注文の物を取り、積み上げて返す。

「了解、4番テーブル、あがったぞ」

「サンキューアル」

「聡美、小籠包の追加頼む」

「はいはいー了解しましたー」

そんな感じで忙しく働いて登校に間に合うように店じまいをして登校するのであった。

 

 

 

「私が賛成したのはメイドカフェであって、コスプレキャバクラじゃねぇ…」

「そーですねー…ネギ先生が遊ばれているのを見ている分には面白いですけれども出し物としてはちょっと…」

「ウム…しかし、クーはノリノリで会計役やっているネ」

委員長の財力で設備を含めて準備の過半が終わり、かつそこそこ稼げるであろう英国風メイドカフェを私達3-Aは計画していたのであるが…。

こう、何時もの悪乗り癖が発揮されて、ネギ相手にキャバクラ営業を始め、さらにメイド以外のコスプレも追加された…メイドカフェどこ行った。

なお、私達はなぜか超包子の仕事着姿である、まあ言われて着替えた私達も私達か。

あきれながら様子を見ていると、さらに如何わしい格好…刹那に至ってはスクール水着に猫耳に尻尾である。

流石にやりすぎたかとハルナが薄味でよいという主張を始めた…いや、それはいいが、正統派メイドに戻ろうぜ?そこは。

「はぁ…ってやべっ」

「お前ら朝っぱらから何をやっとるかーッ」

そんな混沌の最中、一時限目の担当である新田先生が現れ、当然お説教タイムに突入し、罰としてメイドカフェの禁止を言いつけられたのであった。

 

夕方のHRでも代わりの出し物は決まらず、翌日に持ち越しとなった。

…準備に手を抜けて集客にも優れる良い案だとおもってメイドカフェに賛成したのに…そうなると何するかね?

 

 

 

「お、いらっしゃい、ネギ先生、刹那、アスナ、このか、そこのテーブルで頼む」

翌朝、ホールのヘルプに出ているとネギ達がやってきた。

「6番テーブル、ご新規さん4名、ネギたちだ」

「お、ネギ坊主もきてくれたか、それはうれしいネ」

「あの、超さん、少しホールに出てきます…ネギ先生、最近元気がないようなのでスープをサービスしようかと」

五月がスタミナスープを一人前、用意しながらそう言った。

「お、それは良い考えネ」

「ん、わかった。私は厨房に戻るからゆっくり話して来るといい」

「ありがとうございます、超さん、千雨さん…じゃあ、行ってきます」

私は五月を見送り、私は厨房に戻った。

 

 

 

その朝、メイドカフェに代わる出し物を討議しようとしていたのだが、椎名の【ドキッ!女だらけの水着大会カフェ】なる提案からまたもやクラスは暴走を始めた…。

いや、ただの水着カフェなら(新田先生の審査を通るなら)やりたいかは別としてアリとは思うが、何だそれは…厨房と客席の間にプールでも作ってカフェするのか?

それから、悪乗りが始まって【女だらけの泥んこレスリング大会カフェ】だとか【ネコミミラゾクバー】だとか…。

具体的にどういうものを想定しているかは不明にせよ、名前からしてやばそうな物ばかり…。

「いや、お前ら、昨日の件で新田に目をつけられているんだからもっと穏当なもんにしないと…」

と、言う私の突っ込みにかぶさるように、那波から止めの一撃が入った。

「もう、素直に【ノーパン喫茶】でいいんじゃないかしら」

そこからはもうどうしようもなく、わけがわからずに思考停止していたらしいネギが暴走を始めたクラスを制止しようとしたが…。

それができるわけもなく…なぜか、ネギが脱がされる流れになった。

「今日も正座、お説教コースだなぁ…」

「ですねー」

私と聡美は諦めモードで新田先生が怒鳴り込んでくるまで、傍から観戦するのであった。

 

夕方のHR、改めて出し物を相談した所、案として大正カフェ、演劇、お化け屋敷、占いの館、中華飯店、水着相撲、ネコミミラゾクバーが挙げられ…多数決の結果、前者5つが6票ずつで拮抗となり…またもや決定は延期となった。ちなみに、私は大正風の衣装(メイド服含む)による喫茶店に手を挙げた。

 

 

 

「あれ、茶々丸、どうかしたのか?」

その日の夕方、別荘を自主練で使用し、外に出ると茶々丸が出待ちをしていた。

「はい、マスターは超包子で飲むとおっしゃられて、先に出立されました。私は千雨さんを連れて後から合流するように、との事です」

「あー夕食か…まあ中座を許してもらえれば、そうだな、たまには賄いや試食じゃなくて純粋に客として五月の料理を食べるのもいいな」

「ではまいりましょう、お母様」

「…気に入っているんだな、その呼び名」

「はい、とても」

そういって茶々丸はぺこりとお辞儀をした。

 

「あら、千雨ちゃん、今日はお客さん?」

「はい、同級生に夕食に誘われまして…」

エヴァと合流した後、注文に呼んだお料理研究会からの助っ人(バイト)の大学部の人に問われて答えた。

「そっか、千雨ちゃん、うちの首脳陣以外に一緒に数人で食事するような友達いたんだ…お姉さん、なんか安心しちゃった」

その人は注文を取るとそう言って去って行った。

「千雨…お前、友達いないと思われていたのか…」

エヴァが憐れむような眼で私を見る。

「少ない、な。お料理研究会とかロボ研だと割と人間関係の距離を遠目にとっているからな」

「その方がらしい気はするがな、お前にとっては」

「…否定はしねぇよ、うちのクラスだってグイグイ距離を縮めてくる連中ぞろいで…まあ聡美が一緒だったからこそ、だろうしな、そこそこ馴染めているの」

「千雨さん、お料理とお飲み物をお持ちしました」

「茶々丸、ありがとうな」

「いえ…マスターも何かご注文されますか?」

「うむ、では飲み物のお代りと…適当に蒸籠2、3枚ほど見繕ってくれ」

「了解いたしました、では」

 

茶々丸が去って行ってすぐ、ネギの叫び声が聞こえてきた。

「違うんです~~僕、強くなんてなってないんですーーっ」

「おや、珍しいな、ネギがあんなにわかりやすく弱音吐くなんて」

「ん?なんか甘酒飲んだらしいぞ?」

「…うちの甘酒、酒粕溶いて甘みをつけた品だからなぁ…酔っているのか」

「だな」

「僕っ…ただ逃げていただけなんですっ……うぇっ…僕は…僕はダメ先生で…ダメ魔法使いですぅ~~~~っ」

 

ぶふっ

 

飲んでいた烏龍茶を思わず吹く。

「さすがにそれはまず…いが高畑先生が付いているなら大丈夫か」

「うむ、タカミチに任せておけ…しかし、ぼーやがそんな事で悩んでいたとはな」

「ああ…まじめなネギらしいっちゃらしいか…」

「だが、どんな過程で手に入れたのであれ、力は力だ…残酷なまでにな」

「私とか力不足への不安感からの逃避が一番修練捗るしな」

自虐しながら点心を口にする。

「クック…貴様は怖がりだからな…」

エヴァも茶々丸の持ってきた飲み物を受け取りながらそう答えた。

 

「さて、私はそろそろ中座させてもらうぞ、エヴァ…茶々丸、私の分の会計頼む」

「はい、千雨さん」

と、茶々丸に飲食代を支払って席を立つ。

「おやすみ、エヴァ」

「ああ…お休み、千雨」

「おやすみなさい、千雨さん」

そうして、私は部屋に戻り、風呂に入って床に…はつかずに長々とPCにダイブしていた。

…いや、最悪帰ってこられない場合もあるので、キリの良い所まで進めておきたい研究とかいろいろあるんだよ…あと、接収される可能性を考慮して外には漏らせないデータを消す用意とか色々と。

 

 

 

翌朝、ネギ先生は話し合いと準備をするという事で休日登校となった場で選考と抽選の結果として、お化け屋敷をクラスの出し物とする事を宣言した。それに対してクラスの反応は…おおむね好意的ではあったが、またネギが脱がされる展開になりそうになり…まあ何とか防げた事しておこう、若干危なかったが。

その日は、具体的なアイデア出しとその整理、大まかな仮の役割分担をして夕方には解散という事になった。なお、私は衣装班とメカ班に兼任で割り振られた。

 

 

 




今回はダイジェスト風になってしまった感が…まあ、色々と交錯しながら進んでいるので、元々…


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37 麻帆良祭準備編 第2話 幽霊騒動

翌日、またもや休日召集された私達である…まあ、メイドカフェが中止になって色々進行が一度白紙に戻っているので仕方なくはあるのではあるが…。

「…あっちの進行、大丈夫なのか?」

と、超たちの事が心配になってくる。

「あー大体は準備完了しているので大丈夫ですよー?」

「そうネ、ギリギリまで準備できないこと以外はもうばっちりネ」

「それならいいけど…無理はすんなよ?」

「千雨さんがそれを言いますかー?」

私の心配にジト目で聡美が言う。

「エヴァンジェリンの別荘を多用しているのはハカセからも聞いているヨ?千雨サン」

「アハハ…まあ、一つの区切りだし…色々とな…無理はしてないぞ?」

そういって、私は笑ってごまかす事にした、無茶しているのはバレバレであるが。

 

 

 

その日は午後、早い時間に退出し、別荘を数時間利用した後に、ロボ研の手伝いを10時過ぎまでやっていた…その帰り道。

「なあ、聡美…次の日曜日、暇…と言うか、時間取れるか?」

「取れますけれど…どうしました?」

「いや…今年は学園祭一緒に回る時間取れないだろ?だからせめて龍宮神社の縁日でも一緒に行かないかな…って」

「行きます。なんならウチみたいな学園祭準備期間からやっている出店めぐりとか、特別メニューめぐりとかもしたいです」

「あ、うん…じゃあ、来週の日曜日は時間の許す限り、二人で遊ぼうか、聡美」

「はい、千雨さん…楽しみにしていますね」

聡美はとてもうれしそうに、そう言った。

 

 

 

翌朝、3-Aの教室に幽霊が出たという壁新聞の記事が掲載された。その記事によると、昨晩残っていた面子の前に幽霊が現れたという内容であった。

「千雨さん、これって?」

「あーマジもんの可能性はある…一応、幽霊とか悪霊は魔法学的には既知存在ではあるな…なぜそうなるのかの確定はされてないけれども」

「そういわれると非科学的なって否定できないじゃないですかぁー」

「なんかごめんな…」

「うぅ…超さんと発明したこんな事も有ろうかとシリーズの除霊ガンでも持ってこないといけませんねー」

そんな会話をしているとハルナが声をかけてきた。

「おっ、ハカセ、ちょうどいい発明品があるみたいじゃん…その除霊ガンとやら、今晩までに何丁か用意できない?」

「ええっと…超さんとも相談しないといけないですが…転用していなければ3丁はあったはずです、予備部品を組み上げればもう2丁は作れるかと思いますよー」

「了解、じゃあよろしく」

そういってハルナは去って行った

「…効果あるのか?それ」

「さあ…龍宮神社の市販の魔除け系のお札を何枚も貼ったレーザー発振ユニットを用いて非致死性レーザービームを撃つだけの物ですから…まあ気休め程度にはなるかと?」

「…市販のお札にどれだけ効果があるかわからんが、お札自体よりも効果は低そうだな」

「ジョークグッズのつもりで作りましたからね、除霊ガン」

まあ、ジョークグッズでも何でも原理的にないよりはマシという事で特に口を挟まなかった結果、聡美は超と5丁の除霊ガンを夕方までに用意し、用事があるからと、とっとと帰ってしまった。

 

一応、魔法関係であるからして見届ける事にした私は、ワイワイ騒ぐクラスの連中に交じって居残りする事にした…一度別荘利用などで中座はしたが…。

 

ネギたちと話していると、朝倉の提案でのどかの「いどのえにっき」で幽霊…相坂さよの思考を読んでみる事になった…その結果。

 

おどろおどろしい自画像に、死者の側にのどかを招き入れて友達になりたいと取れる文章が浮かび上がった。

 

「悪霊です、やっぱりこの人悪霊ですぅーっ!」

当然、のどかはこんな絶叫を上げ…直後、ポルターガイストが発生し、クラスは混乱状態に陥った。

「うわぁ…寂しいんだろうがこれはダメだな…」

思わず、私はそう呟く。

すると今度は『ごかいデス』と言う血文字が浮き上がり、裕奈が取りつかれた様子で『ごかいデス』とうわ言を呟き続ける状態となった。

状況から、五回殺すと言う意味と捉えられ…たぶん誤解です、だったんだろうが…裕奈は除霊ガンの集中砲火を浴びせられ、正気には戻ったようであるがふらふらと倒れてしまった。

 

「メチャクチャです」

「大丈夫だ、こんな事もあろうかと、プロを呼んどいた」

もはや誰も気にしないと、カモが堂々としゃべり始める

「プロ?」

「オイ、まさか」

「先生!先生―ッ」

カモの呼び声に伴って現れたのは…と言うか、クラスの連中の中から歩み出てきたのは…。

「うむ、仕事料ははずんでもらうぞ」

案の定、真名と刹那であった…確かに真名の魔眼と刹那の神鳴流でよく除霊とかをしているのは知っているけどさぁ…と言うか、たまに手伝うし…。

「そこだっ」

教えてもらった霊視のコツを試して様子をうかがっていると、言われてみれば確かに何かいる、とわかるカゲに真名が攻撃を仕掛けた…隠密性どれだけ高いんだよ…相坂とやら。

影は教室を飛び出していき、刹那と真名もそれを追う。そして半ば興味本位ではあるが、見届ける為に私もその後に続いた。

「目標の姿が殆ど見えないぞ!」

「私達が今まで気づかなかったんだ、恐ろしく隠密性の高い霊体だよ…だが、わが魔眼からは逃れられん」

真名の射撃、しかし相坂らしき影はそれを回避し、さらに逃走を続ける。

「刹那、そこだ」

「わかっている、悪霊退散!奥義…斬魔剣!」

なんと、恐るべき事に刹那の斬撃まで回避し、逃亡を続ける相坂…。

「千雨!お前も手伝え!」

「はいはい、及ばずながら…」

そして私も加わり、魔法の射手…一応、校舎の被害を考えて戒めの風矢にしておいた…を五月雨式に放ちながら三人で追跡をする…が、驚くべき事に、相坂は三人の攻撃をかわし続けた…が、それに伴ってどんどん影が濃く、人の姿になって行き、声…悲鳴も聞こえるようになる。

「よく私達からここまで逃げた、褒めてやろう…だがこれで終わりだ、成仏しな」

何とか行き止まりに相坂を追い詰めた私達…真名が代表して相坂に獲物を突き付けた。

「まっ…待ってくださーいっ!」

そこにネギと朝倉が現れ、真名に相坂の命乞い?を始めた…いや、そもそもコレ、カモの依頼の筈なんだが…。

 

「…友達が欲しかっただけなんだよね、さよちゃん」

「え…」

そして、ネギ先生と朝倉が、自分でよければ友達になろう、と手を相坂に差し伸べた…。

「…あ…」

すると、相坂の姿がすぅっと消えていき…。

 

「消えた…」

「ネギーッ、どうなったの?」

と、そこにアスナが追い付いてくる。

「アスナさん…無事…成仏したようです」

「そう…よかったね…」

と、ネギたちはハッピーエンドモードに入った…。

 

「いや…まだいるけど…」

真名がそういってぺこぺこ謝っている雰囲気の元くらいの濃さまでに薄なった影を差すが、ネギたちは聞いていない様だ…。

「…いっそ、ネギ先生たちの認識通り、成仏させとくか…?…って冗談だよ、相坂、怖がらなくていいって…きっちり理性があってまだ行きたくないなら私は手を出さねぇよ」

私がそう口にしたところ、影は震え始めたが冗談だという言葉でほっとした様子だった。

「ま、そう言う事になったらしいから、私達は手を出さんよ…また依頼でもない限りはな」

真名がそういって、相坂の影に向かってニコリと笑った。

 



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38 麻帆良祭準備編 第3話 茶々丸と恋?

「ほら、起きろ、聡美」

私は、聡美が工学部で借りている研究室の仮眠スペースで眠る聡美を起こしていた。

「ふぇ…?千雨さん…?どうしましたぁー?」

「どうしたじゃねぇよ…遅刻するぞ?」

「んー…まだ6時半じゃないですかぁ…もう少し寝ましょうよぉ…」

聡美は時計を見てまだ早いとごねる。

「いや、そんなこったろうと思って来たんだけど、7時から屋台の仕事だろう」

「んーあ…そうでしたぁ…ふぁー」

仕方がないと言わんばかりにむくりと聡美は起き上がり大欠伸をする。

「ほら、自動目玉焼き機つけて目覚ましの処理しておくから身支度して」

「ふぁい」

 

「んーそれじゃあ行きましょうかーあ~朝ごはんを買いに購買寄って行きましょうねー」

何とか身支度を整えさせた聡美が言った。

「ん…じゃあ行くか」

聡美が脱ぎ散らかした服を洗濯籠に放り込んで私はそう、返事をした。

 

 

 

「ハカセ、千雨サン、ニーツァオ、ギリギリアルネ、急いで着替えるヨロシ」

超に促されて、休憩室兼更衣室にしてある車両に移動し、衣装に着替える。

 

「あれ?…あーダメだよ茶々丸ーッ」

着替えている間に来店したらしいネギたちの相手をしている茶々丸に聡美が駆け寄っていく…

「ダメだよ、髪上げたりなんかしちゃーそれは放熱用なんだからー」

「あ…ハカセ、千雨さん…おはようございます」

「なんでこんなことしたの?オーバーヒートしちゃうよ?」

「それは…」

「まあまあ…この気温なら運転強度にもよるけど暫くは大丈夫だし…熱溜まってきたら自分で判断して解いていたよな?茶々丸。

でも、こういう事したいなら私達に相談してからにして欲しかったよ」

そういって、私も仲裁しつつ茶々丸を叱る。

「まーまーハカセちゃん、千雨ちゃん、そんなに怒らんといたってーなぁ」

「茶々丸さんだってオシャレくらいしたいよねー」

このかと明日菜が暢気にいう。

「千雨さん、オシャレって…そんなオプション入れていましたっけ…?」

「んー直接は入れてないけれど…一応、感情の種が育っているみたいだし、相応の理由があれば自発的にするんじゃないかな?

エヴァが着飾らせたりするからオシャレ系の行為も奉仕の一環として認識している筈だし…それが、命懸けに近い行為じゃなければ祝福してやれたんだがなぁ…」

「んー」

私達がそんな会話をしている脇で茶々丸とネギたちの会話は続いていた。

「オシャレですか。カワイイと思います、茶々丸さん」

「え…そ、そうですか。そそ、それはどうもありがとうございます。で、では仕事に戻らせていただきます」

そういって茶々丸が仕事に戻ろうとした時。

 

グキッ ステーン

 

そんな擬音で表現する様に、盛大に茶々丸がすっころんだ。

「…千雨さん…茶々丸が平地ですっ転ぶなんて…」

「…オートバランスシステムか基本動作系統の不具合でなければ…それらを阻害する勢いで何か高負荷のオプションが走っているとしか思えんなぁ…」

 

「茶々丸、何処か調子でも悪いの?」

「いえ、特にシステムに異常はありません」

「ん~~~茶々丸ー久々にあなたをバラして点検整備したいから放課後、研究室寄ってくれないかな?」

「ハ…了解しました」

「千雨さんもお手伝いお願いしますねー」

「はいよ。それと…悪いが何か高負荷のオプションが走っているようにも見えるから、一度髪は解くぞ?

警告域まで内部温度が上がらなくても昇温で処理系の制限が働くようにしてあるんだから」

「…はい…了解しました…」

茶々丸がしかたない、といった様子で了承して見せる…コレ、私らとエヴァ以外だと拒絶していたかもなぁ…。

 

茶々丸を更衣室に連れ込み、髪を解く…かなり熱を持っていたので、気を手にまとわせて。

「ほら…うん、かなり温かいな…聡美、扇風機の風当ててやってくれ」

「はいー」

茶々丸の髪を手櫛でふさぁっと風を通すようにといてやり、放熱を促進する。

「ん、多分これで大丈夫…今度、放熱の邪魔しない髪飾りとかアクセサリーとか買いに行こうな、茶々丸」

「はい…お母様」

茶々丸が少しうれしそうな感じで言う。

「あー千雨さん、茶々丸にそんな呼び方教えて…」

「…茶々丸が自分で呼び出したんだよ…」

「…私はそう呼んでくれないの?茶々丸」

聡美がねだるように茶々丸に言った。

「えっ…あの…ハカセは、ハカセですので…その…」

しかし、茶々丸はしっくりこないと言いたげにそう返すのであった。

「ンーまぁ仕方ないか…うん。そう呼びたくなったら私もお母さん呼びして良いからね?」

何処か不満げながらも、聡美はそう言って引き下がった。

「ハカセー千雨ー茶々丸ー早く仕事に戻るアルね、手が足りないアル」

クーがひょこっと顔を出してそう催促する。

「おっと…仕事、戻らないとな」

「はい、そうですね」

「すいません、お手数をおかけして…」

「いいって、お前は私達の娘なんだからさ、な、聡美」

「そうだよーこれ位、大丈夫だよー」

「…はい、ありがとうございます」

そうして、私達は仕事に戻るのであった。

 

 

 

「行こうか、茶々丸」

「はい、千雨さん」

放課後、私と茶々丸は連れ立って聡美の元へ向かう事とした…聡美は実験の都合とかで正課扱いの準備時間を早退して先に工学部にいる。

「茶々丸さーん、千雨ちゃーん、私達もついて行って良い?」

後ろからアスナが声をかけてきて、このか、刹那、ネギもよってくる。

「あ、ハイ。私は構いません」

「んーたぶん大丈夫だろ、整備内容次第では退出願う事もあるけれど、放課後で出来る整備なら」

私も、そう言ってネギたちの同行を認めるのであった。

 

 

 

「ハカセと超は麻帆良大学工学部に研究室を借りています、私はここで生まれました」

工学部等前に到着し、茶々丸がネギたちにそう説明する。

「ん?千雨ちゃんは借りてないの?」

「ああ、私は共同居室に広めのスペースを一つ貰っているだけだな」

「…千雨さんはプログラムや人工知能が専門で、ハカセや超をはじめとしたロボ研所属の方々との共同研究が殆どなので…科学分野は」

ちなみに、魔法分野でも単著論文とかを出している。

「へぇ…まあ、いきましょうか」

 

「ハカセ、失礼します」

茶々丸が聡美の個人研究室の扉をノックし、扉を開く。

「あーもうそんな時間ですかー千雨さん、茶々丸」

クルっと増腕付き解析装置を背負った聡美が振り返る。

「ひいいっ!?マッドサイエンティストが出たぁーっ」

「バラされるぅーっ」

「…マッドサイエンティストの城を訪ねておいて酷い言い草だな、お前ら…」

「あれーネギ先生に皆さんどうしたんですかー?」

暢気に聡美が尋ねるが、背後で実験中の装置がそろそろヤバい雰囲気である。

「聡美!試料!」

「はにゃ?」

しかし、私の呼びかけは間に合わず装置にかけられていた試料片らしきものは爆発してしまった。

 

 

 

聡美の個人研究室を軽く片付けた後、共同実験室に私達は移動した。

「さて、それじゃあ早速点検させてもらうよー千雨さん、助手お願いしますね」

そういって聡美は自分は椅子に座り、茶々丸も椅子に座るように促す。

「ハイ」

「了解」

私は、聡美の後ろにひかえる様に立って記録の用意をした。

「はーい、じゃあ上を脱ぎ脱ぎしましょーかー」

「えっ…」

「こ、ここで脱ぐんですか」

「うん」

茶々丸はちらりとネギたち一行の方を見る…。

「ほら、早く」

「ハ、ハイ」

このやり取りを見てカルテ…と言う名の点検記録に、記録をつけていく。

『脱衣に対し、羞恥心の様な反応を示す。この際、第三者の観察を再確認した事から、第三者の存在に起因するものと推定する』

 

「わーホンマにロボットなんや、茶々丸さん」

このかがそんな感想を漏らす。

「茶々丸、ケーブルを」

私は茶々丸にデータ転送用のケーブルを渡した。

「はい…」

茶々丸はそれを腕に隠してある接続コネクタに突き刺した。

 

「よぉ、ハカセさんよぉ、千雨姉さんから聞いたんだが、あんたらが茶々丸の開発者なんだって?」

私と聡美が手分けして診断データを確認しているとカモがそんな事を聞いてきた。

「ハイー厳密には、私達が開発の中核になってのチームでの仕事でしたけれどもーそう言っても概ね間違いではないかとー。特に人工知能の中枢はMITの理論を基に千雨さんがほぼ一人で作り上げたんですよー」

聡美が自慢する様に私の功績を誇る…少し恥ずかしい。

「動力部分にこそ魔法の力を使っていますけれどもー動力炉自体は魔法と科学のハイブリット品に換装してありますがこれも私と千雨さんと超さんがエヴァさんと共同開発した品ですしーエヴァさんの他の人形と違って、茶々丸は駆動系・フレーム・量子コンピュータ・人工知能と、全てウチの作った科学の産物なんですー」

 

「うーん…簡易データではどこも異常はないなぁ…モーター以外」

あくまで主要データだけではあるが、自己診断結果、各種数値共に正常値であった…ただ一点、モーターの回転数以外は。

「んーそうですねー他にはどこも異常はないのにモーターの回転数が上がっていますね。茶々丸、何か状況報告はある?」

「それが…その、奇妙な感覚が…どう言語化すればいいのでしょうか…おそらく、ハ…ハズカシイと言うのが…その、妥当かと」

「ええっ!?ハズカシイ!?人工知能が恥ずかしいってどーゆこと!?」

「あーやっぱり羞恥心か」

私は聡美とは対照的な反応を示しつつ、記録を続ける。

『現状を言語化させたところ、ハズカシイとの証言を得る』

「とりあえず、恥ずかしいなら上着着ていいぞ、良いよな?」

聡美に確認する。

「え、あっ、はい。茶々丸、服着てもいいよ」

「ありがとうございます…では」

茶々丸はそそくさと脱いだトップスを着なおしていく。

 

「んー回転数、少し落ち着いたな…羞恥心様の反応って事で良いと思うが、どうだろう、聡美」

「そうですね…それで、問題はないかと…って、千雨さん、なんでそんなに落ち着いているんですか!」

「え…だって、人の生活様式を学習する機能は走っているはずだし、それが感情の種と合わされば他者の面前での脱衣に対して羞恥心くらい再現するだろう…まあ、モーターの回転数が上がるのは…こう、模倣し過ぎな感はあるけどさ」

そう返しながら、記録に反応が羞恥心様であると聡美との合意が取れた旨を記入した。

「あーそうでしたっけ…えぇっと、茶々丸、他には何かある?」

「ええっと…胸の主機関部辺りがドキドキして顔が熱いような…」

「ほんとだ、あつい!千雨さんの言うように羞恥心を学習しているとして…これはいったい何の反応なのか…あるいは別の何かの異常が原因なのか」

「んーそれだけ影響出ているなら、多分これが今朝すっ転んだりしていた原因だよなぁ…」

 

二人で首をかしげながら考えているとこのかが口を開いた。

「ハカセちゃん、千雨ちゃん、ちょっとええかな?胸がドキドキって…それって恋とちゃうんかなー」

「えっ…ええーっ、恋!?」

「そんなハズは…」

「それはあり得ないですよーっ」

「恋愛話ばっかりしているうちのクラスの連中に感化された…?でもなぁ…恋はなぁ…」

当人、茶々丸と聡美はこのかの言葉を否定し、私も懐疑的である旨を述べる。

「あり得ないです!?仮に、恋愛の概念を学習する事は可能だとしても、茶々丸自身が恋をするなんて…エヴァさんの他の人形みたく、魂を吹き込む魔法を使ったわけじゃないんですよ!?ああ、魂を吹き込むだなんて、魔法的にも未解明分野だとしてもなんて非科学的な言い回し…」

まあ、霊魂や疑似霊魂は色々と実験には問題があるし、魔法使いたちもつかえればそれで良い派が圧倒的多数を占めるので魔法でも理論的解明はあまりなされてはいないが。

「それにしても恋とは…むむ…」

聡美がぶつぶつと考えを口にしながら思考を進めていく…付き合ってもいいが、今はネギ達もいるし、やめておこうか…。

「わああ…」

ネギがドン引きと言った雰囲気で聡美を見る…同類のくせに。

「ホンモノさんだぁ…千雨ちゃん…なんとかできないの?」

アスナが私に尋ねる…が、無理である。

「この状態になった聡美は、簡単には止められないよ。内容をちゃんと理解して討議を仕掛ければ火に油は注げるが…みたいか?私達が恐らくアスナには理解できない内容をこの早口で討議しているの」

「…遠慮しとく」

 

「でも、ロボットが恋をしたなんてロマンチックでえーと思うけどなー」

少しした後、このかのこの言葉で聡美は帰ってきた。

「…うん、そうですね、恋かもしれないです…では、只今より実験を開始します、整備は中止です」

…と思ったらもっと深い暴走モードに入っただけだった。

「…まあ、その辺りが不具合の原因っぽいし、良いんじゃないか?」

「ええ、千雨さんならそう言ってくれると思っていました…引き続き、助手役、お願いします」

「了解…あんまり茶々丸の嫌がる事するなよ?」

「ええ、善処はします」

大丈夫かなーと思いつつも、多分私も乗ってしまうのであるが…たぶん。

 

 

 

「あ、あの…これは一体どういった…」

聡美とこのかに茶々丸のコーディネートを任せ、館内放送でガイノイドの自意識に関するちょっとした実験をするから暇な方は集まって欲しいという内容を流して作り上げた状況に茶々丸は困惑を示す。

「普段しないオシャレでハズカシイ状況を創り出し、先ほどのモーターの回転数の上昇を再現する実験です。

さあ、茶々丸、もっとカワイイポーズで工学部男性の視線を釘づけにしてみてーっ」

聡美が叫ぶ。

「あの…でも…」

茶々丸が群集の方をちらちらと見ながら恥ずかしそうにする…この反応はいけるか? 羞恥心の種類が変わっているから再現できるとも限らないと危惧していたが…衆人環視の元で脱がせるわけにゃいかんし。

「おおっ、やはりわずかに上昇していますーっ、脈アリ!」

「いえっ、あのっ…」

「ではお色直しです!」

そういって聡美は茶々丸を着替えに連れていく。

 

「お次はコレですーっ」

先ほどの黒の長袖ワンピース+ニーソックスから白のノースリーブ+ミニスカート+ニーソックスに靴も可愛くした茶々丸が連れてこられた。

「あっ…あの、私はロボットですからこのような服は似合わないかと…関節部分も目立ちますし…」

…一般論としてはそうかもしれんが、ここはロボ萌えどもが集う麻帆良工学部であり、かつ、茶々丸のファッションショーをやっていると聞いてその派閥が集まってきている為、群衆たちの反応もよい。

「そんな事ないえ、茶々丸さん」

「ええ、カワイイですよ」

ネギもこっちの萌えに理解があるらしく、少し顔を赤らめてそう言った。

「う…うう……?」

茶々丸は困惑した様子で少しよろけるような反応を見せた…ウム、感情系が動作不良の原因っぽいのはこれで確定であるが…どうしようかねぇ…。

「おー!?素晴らしい上昇値です!グングンと!これは有効な実験数値です、間違いないかも!?」

「キャー」

聡美のしている遠隔モニター結果にこのかが黄色い悲鳴を上げる…が、これ羞恥心実験であって、恋心実験じゃないからな?

「だなぁ…間違いなく羞恥は学習しているし…人らしからぬ部分はあまり人に見せるものではないとも認識しているみたいだな、茶々丸」

「あっ…ああ……」

茶々丸が困惑した様子でうろたえている。

「すまんな、茶々丸…こう、さすがに露出系に走り出したら無理やりにでも止めるから…な?」

聡美の強制停止は私も恥ずかしいのであまりやりたくはないのである、特にこの環境では。

「はい…でも…あぁ…」

 

「…でも、ホンマに恋やったらだれか相手がおるはずやなあ、茶々丸さん…誰やろー」

「むむ、確かにそうですね、近衛さん!私としたことが、そのアプローチが可能でした!茶々丸の記憶ドライブを検索してみます!」

「えーそんなことできるん?」

「ちょっ!?」

「さ、さすがにそれはプライバシーの侵害じゃないの!?」

「た、確かにやり過ぎや」

茶々丸を慰めている隙に聡美がとんでもない事を始めやがった。

「科学の進歩のためには少々の非人道的行為もむしろやむなしです!

むむむ、何度も何度も再生している映像群がお気に入りにフォルダ分けされています!」

「あっ、まて、せめてこんな衆人環視の前でするのは止めろ!」

どー考えてもモニターを覗き込む奴らを後ろに抱えてそれは止めてやれと、止めに入るが少し遅かったようで…

「これですーっ!」

駆け寄った私の目の前でお気に入りフォルダが開かれ…る寸前に、ロケットパンチでこのか、アスナ、刹那が吹き飛ばされた。

そして、聡美のPCに表示されていたのは…ネギの画像とわずかな猫であった。

「あっ…」

とっさに、立ち位置を変えてネギに画面が見えないように隠す。

「すごいよ、茶々丸、これはホンモノかも。でも驚いたな、あなたの好きな人物がまさか…モゴモゴ」

「さすがにそれはダメだ、聡美、な、茶々ま…る?」

流石にそれは、と聡美の口を塞いで茶々丸の方を向くとレンズ洗浄液らしき液体が茶々丸の眼から涙の様にこぼれ出ていた。

「あっ…ネ、ネギ先生…こ、これは違うんです…ちがっ…ハカセのバカーッ!」

と、ロケットパンチが飛んでくる。受け止めてもいいが、ここは殴られとけと聡美から一度離れた。

 

「もぎゃん!?」

 

そんな声を上げてふっ飛ばされた聡美が地面に叩きつけられる前に抱っこする形で受け止め、聡美のPC画面が見られないように閉じる。

「まったく…やり過ぎだって…」

この言葉は聡美に向けたつもりだったのだが、茶々丸がガクガクと震えだす。

「チが…違うンデす…チガチガガガガガガガガ」

あ…恋心を暴かれた羞恥でいっぱいいっぱいの所に聡美を攻撃して(禁則事項を破って)しまって、それを咎められたと思って思考回路に負荷がかかりすぎたかな…?

 

ピーッ

 

そんな音と共に茶々丸の緊急排熱機構が作動して蒸気を吹き出す。

「ええーっ!?」

「ぼっ…暴走です…思考回路に負荷がかかり過ぎたか」

「なっ…」

「まあ、あの状況でとっさに禁則事項破りまでしちまったらなぁ…なんでそんな事したのかの自己解析ルーチンが加わって暴走するわ、そりゃあ」

と、冷静に言ってのけた所で茶々丸の暴走が治まるわけではない。

「ち、ち、違うんで、デ、ですーっ」

「茶々丸さーん!?」

暴走を始めた茶々丸は、私達を取り囲んでいた群集の一部を吹き飛ばしながら逃走し、工学部棟内へと逃げ込んだ。

 

棟内にアラートが鳴り響く…

 

「追うぞ! 聡美、整備モードでの非常停止信号って右胸から変わってなかったよな?」

聡美を下ろしながら、確認をする。

「ええ、モニターの為、整備モードは解除していないのでそれで止まる筈です」

「ん、行ってくる!」

「はい!私達も追いかけます!」

私はそうして先行して茶々丸を瞬動無しの割と全力で追跡し始めた。

 

「はぁ…落ち着いたか?茶々丸」

捕獲部隊の全滅などの惨事はあったが、人目がなくなってからは瞬動の連発であっさりと停止信号を発信でき、その場に崩れ落ちた茶々丸を受け止めながらいう。

「あの…はい…申し訳ございません、お母様」

茶々丸が恥ずかしそうに顔を両手で覆ってそう言った。

 

 

 

「はぁ…茶々丸が恋ねぇ…」

茶々丸の冷却と簡易整備を済ませ、先にネギたちと返したのちに、並びに工学部等への損害への手続き(保険で降りる)、関係各所への謝罪などの後処理を済ませた私達は、並んで寮への道を歩いていた。

「初恋、娘に先を越されちゃいましたねー」

「そうだな…きっとこれは恋じゃないしなぁ…」

そういって聡美の手を握る。

「そうですねー千雨さんの体温…ドキドキはしませんからね、むしろ落ち着きますよー」

「うん、だよなぁ…」

「それと千雨さーん…茶々丸にロケットパンチされた時、庇ってくれませんでしたよね?…まあ、私が悪いのもわかりますけどぉ」

「うん、アレは…まあ、因果応報、ってやつかなと思って…でもちゃんと受け止めただろ?」

「ええ、そこは感謝していますよ?お姫様抱っこは少し恥ずかしかったですが」

「まあ吹っ飛ばされた体勢のまま受け止めるとなるとそうなってな…まあそれも報いだとおもっとけ」

「報い…になるんですかね?アレは」

…さすがに今日は別荘の使用はなしにして、聡美と寮に帰る事にした。

 

 




ネギ君のパイタッチは無しになりました、娘の胸触った責任とか言い出す千雨さんが浮かんできたんですが、そんな事言うより先に自分でやるだろーなーと。

おまけ
千雨さんによるハカセの強制停止法:強制的に(顔を両手で固定して)目を合わせて諭し続ける。
ハカセによる千雨さんの強制停止法:いつぞや、エヴァ宅でやったように、ギュってする(意識が埋没している場合)。


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39 麻帆良祭準備編 第4話 絆の証

 

「んーこんなもんでいいかな」

「ええ、そうですね…気分はどう?茶々丸」

「はい、多少の重量増加は感じられますが、機動性には概ね影響がない範囲と考えられます」

「よし、計算通りだな」

聡美がやらかした翌日、頭上に放熱板を取り付けるという力業で髪型を自由にできるとかいう小改装を半ば(改修までの仮措置としては)本気でやらかして総突っ込みを貰っていた。

そのさらに翌日、私達は時間を取って茶々丸の予備冷却システム強化の改修作業を行っていた。これで、日常生活強度なら半日くらいは持つはずだ。

「ありがとうございます、ハカセ、千雨お母様」

「むーやっぱり私はハカセなんだ?」

「その…スイマセン、ハカセと言う呼び名に私の創造主と言うニュアンスを込めてしまっているので…」

茶々丸が申し訳なさそうに言った。

 

 

 

金曜…麻帆良祭前の授業最終日、私達は昼休み返上で学祭の準備をしていた。

「やっと全コースの仕様が確定しましたねー」

「ああ…ある程度進められる所は進めていたけど、無茶苦茶進行押しているよなぁ…」

「仕方ないネ、元々は喫茶店のつもりでイージー進行計画をしていて部活とかでも分担多めに受けてしまった連中も多かったヨ」

と、言う訳で、意見集約の為の苦肉の策もかねて、短めにならざるを得ない準備期間で複数コースを制作するという暴挙が採用され、その細かな仕様もやっとさっき決まったのである…もう1週間切っているんだが

「と言う訳で、メカ班は仕様の設計への落とし込みをして、今日の放課後と明日で試作一号機を仕上げてしまいましょー」

「む、ハカセ、納期は週明けヨ?それだと少し進行がハードになるが…日曜日は使わないのカ?」

「あ、日曜日は千雨さんと朝からデートですので、強制招集以外はオフですー」

「ナニ…ついに、付き合う事になったのカ?…ええと、おめでとう?」

聡美の誤解を招く表現に超が誤解を重ねて爆弾を投下する。

「あ、馬鹿、こんなところでそんな会話したら…」

「何々〜誰が誰とお付き合い始めたって?」

ハルナや朝倉みたいな…噂好きが寄ってくるに決まっている…で、ハルナが釣れた。

「ちげーよ、私と聡美が明後日遊びに行く約束しているのを聡美がデートって表現して、超が勘違いしただけだって」

「ほほぅ…二人って初等部低学年からずっと一緒の幼馴染だし、割とそういう噂もあるんだけど?」

ハルナが煽る

「やかましい、何でもかんでも恋愛に結び付けて解釈すんじゃねぇ」

「割とそういう雰囲気ある仲の良さにも見えるけど…違うんだ?」

玩具を弄る様にハルナがニヤニヤ笑う。

「しつこい、幼馴染で、親友で、パートナーではあるけど…これは恋じゃねぇよ」

「そうですよー千雨さんと居てもドキドキしませんし、むしろ落ち着きますよー?」

「あーえーっと…つまり…愛の段階に達しているって事?」

ハルナがむしろたじろいでそう言った。

「…友愛や信愛の類いならな…と言うか、私達がそう解釈されるならアスナと委員長だってケンカップルだし、他にも百合妄想の対象、山ほどいるじゃねぇかよ」

「えー妄想は妄想だし、クラスメイトでそう言うのするの、なんか気が引けるし…私の専門薔薇だし?」

「なら、なんで私達はありなんだよ」

「…だって、二人は時々、恋人つなぎとかしているの見かけるよね?」

「…恋人つなぎ?」

そんなものした覚えはないのだが…

「ええっと…指絡めてつなぐ手のつなぎ方?」

「…えっ…あれ、恋人つなぎって言うのか?」

…うん、してた、と言うか今でもしている。

「えっと…はぐれない様にしっかり手を繋いでいた頃からの癖だけど…これの事だよな?」

聡美の手を取って手を繋いで見せる。

「昔からこうつないでいましたよね、手」

「あ、うん…その…ご馳走様?」

ハルナがその反応は想定外と言う感じで答えた。

「諦めるネ、ハルナ…冗談抜きにこの二人、自覚はないし、自覚させるのは無理ゲーアルよ」

超がなぜか諦めたようにそう言って、この話は終わりとなった。

 

 

 

「これで完成ですねー」

土曜日の夕方、クラスの連中から依頼されたメカ類の開発が完了し、聡美が言った。

「うん、そうだな。私も衣類の方は月曜までのノルマは終わっているし…明日は夕方までゆっくりできるな」

「そうですねーまあ、できれば丸一日とも思いますけど…仕方がないですね…」

「まあ、それはさておいて、納入に行くヨ、大道具班が設営始めている筈だからネ」

と言う訳で私達はメカ類を教室に運び、流れで少し設営を手伝う事となった。

 

 

 

翌朝、ネギやクー達との合同朝錬から戻ると、珍しく聡美が早起きをして身支度を始めていた。

「おはようございます、千雨さん」

「おはよう、聡美、早いな」

「はい、折角なので朝ごはんも外でどうかなと思いまして」

「ん、わかった、私もシャワー浴びて着替える、もし希望とかあれば調べといてくれると助かる」

「はい、わかりました。身支度終わったら調べますね」

まだ、着替え途中の聡美は、そう返すのであった。

 

で、結局、私達は元々ランチにどうだろうと話していた北欧風カフェ、イグドラシルでフィンランドの朝食をやっているのを見つけ、そこで朝食をとりながら具体的な今日の計画を練ることにしたのであった。

そして、出てきたものはミートボールのクリーム煮をメインにライスプディングのパイ、マッシュポテト、サラダ、それにライ麦パンが添えられた、たっぷりとした朝食だった。

「…思ったよりボリュームあるけど、大丈夫か?」

体を動かす分、私のほうが食べる量は多い。

「んー多分、いけますけど…後で食べ歩きもしたいのでライ麦パン1枚とパイを半分取って頂けるとうれしいです」

「ん、わかった」

私は了承の意を示し、手をつける前に指定された物を自分の皿に移す。

「じゃあ、いただきます」

「いただきます」

私達は質・量共にヘビーな朝食に挑むのであった。

 

「あーやっぱりおなか一杯ですねー」

「そうだな、クリーム煮って言うのを少し甘く見ていたよ」

「でも美味しくて、綺麗に頂いてしまいましたし、私も千雨さんも」

食後のコーヒーを頂きながら会話を交わす。

「と、なると、やっぱり少し混むかも知れませんが、縁日より先に散策にしましょうー」

「そうだな、縁日の屋台で何か食べるのは暫く時間欲しいし」

「もういっそお昼は縁日で軽めに済ませちゃいましょうか?そうしたらの準備の時間前に軽めのディナーチックなモノも頂けるでしょうしー」

「あーそれはちょっと考えている事があるというか、準備している事があるから…集合時間の二時間弱ほど前から私に任せてくれると嬉しい、軽めなら学祭メニューめぐりもできる…と思う」

「え…そうなんですか?でしたら、千雨さんの計画で行きましょう」

「うん、まあ…精一杯、用意してあるから…喜んでくれると嬉しい」

「ふふ…楽しみにしていますよー」

そう言って笑った聡美の胸元で雫型のネックレスが揺れた。

 

 

 

「ん?アレって柿崎達か?」

「みたいですねー折角だし聞いていきましょうか?」

手を繋いで散策をしていると、世界樹前ステージで演奏をしているうちのクラスのチア3人組+亜子が演奏をしているのを見つけた。折角だからと私達は演奏を聴いていく事にした。

 

「中々上手いじゃないか」

通しの練習らしき演奏が終わった所で4人に声をかけた。

「あっ、千雨ちゃんにハカセ、聴いてくれていたんだ」

「ええ、上手でしたよー」

「まあ、まだ完璧ではないけど、大分形になってきたよね…二人もよかったら当日、聞きに来てよ」

「あーすいませんー私、マホラ祭中はお仕事が忙しくてー…ちょっと厳しいですねー」

「そうなんだ…それで二人は代わりに今日デートしているわけか」

「…まあ、二人で遊びに出ているって意味では広い意味ではデートではあるけどさ」

「えーお揃いのネックレスをして、そんなに仲良さそうに手を繋いでいるのに?」

「…一昨日ハルナにもいったけど、私達は昔からこうなんだって」

「んーまあ良いけど…それじゃあ、そろそろ再開するから…また夕方、クラスでね」

そう言って演奏を再開した4人に手を振って、私達はその場を離れた。

 

 

 

「あれー千雨ちゃん、ハカセちゃん、デート?」

散策を続け、そこそこお腹も空いてきた頃、龍宮神社の縁日を訪れ、まずはと参拝を済ませた時、このかに声をかけられた。

「このかと刹那…とカモか…なんか皆に言われるけど二人で遊びに出て来ただけだからな?」

「そうなん?二人は仲ようて羨ましいなぁと思っとったんやけど」

「仲はいいですけど、刹那さんには先日申し上げたように、恋人というのは違いますよー?」

聡美も恋人関係である事を否定する。

「そうなんかーじゃあ、せっちゃん、私らも手ぇ繋ご?」

そう言って、このかは刹那の手をとり、指を絡めた。

「ぇっ…このちゃん…」

刹那はとても嬉しそうで、恥ずかしそうである。

「…なるほど、このちゃんか…お嬢様じゃないんだな」

それが素か、という顔で刹那を見つめる。

「くっ…」

「…せっちゃん…嫌やった?」

「そ、そんなわけあらへん、むしろ嬉し…いです」

素らしき京言葉でこのかの悲しそうな言葉を否定する刹那…うん、コレの方が私達よりも遥かにラブ臭と言う奴ではなかろうか。

 

「そや、折角やし皆で屋台、回らへん?」

「私はかまわないけど…」

「私もかまいませんよ?」

「じゃあ決まりやな」

と、言う事で4人+一匹で縁日を回る事になった。

「ダブルデートって奴だな」

…カモの戯言は放置しておく、刹那が既に握っていたので。

 

 

 

「ほな、また後でクラスでなー」

「おう、また後でな」

「はい、また後でー」

「また後で、会いましょう」

一通り、縁日を堪能した私達は最外周の鳥居前でこのかと刹那と別れた。

「まだ、もう少し時間あるし、また散策しよっか」

「はい、行きましょうか」

 

 

 

「あ、聡美、この花のペンダント、どうだ?」

「この紫に着色してあるのですか?…綺麗ですね…丁度、同じのが二つありますし、コレにしましょうか」

私達はアクセサリーの露店が出ているエリアを訪れ、何か揃いの丈夫なアクセサリーを買おうと言う事になった…いま付けているのは小学生の頃から使っているもので、成長に伴いチェーンこそ交換しているもののずっと大切にしている品なのではあるが、雫型とは言えガラス製のため普段使いには少し怖く、普段は二人ともしまいこんでいる。

「すいません、この花のペンダント二つとも頂けますか?」

「このスミレだね、チェーンはステンレスのままでいい?それとも追加料金だけど銀に交換する?」

「えっと、普段使いするつもりなんで丈夫な方を…」

「ならステンレスだね、お会計は…はい、一つこちらになります。」

と、店主が電卓で値段を示す。値札はついていたが、まあ4桁後半である。

「はい、お釣りお願いしますー」

「ちょうどだと思います、確認をお願いします」

それぞれ、代金を支払い、ペンダントを受け取る。

「はい、千雨さん、プレゼントです」

聡美が今買ったばかりのペンダントを差し出してくる。

「はは…またか?コレの時みたいに」

そういって、私は自分のガラスのペンダントを触る

「はい、ダメですか?」

「いいや…ほら、後ろ向け…こっちに付け替えるから」

「お願いしますねー」

私は、聡美からガラスのペンダントを外し、今、私が買った銀のスミレのペンダントをつけてやり、外したネックレスを手渡す。

「うん、似合っているよ」

「ありがとうございます…私も千雨さんの、交換しますね」

「じゃあ、頼む」

そう言って、私は聡美に背を向ける。すると聡美は私がしたように、私のガラスのペンダントを外し、今、聡美が贈ったペンダントに付け替えた。そして外してもらったネックレスを受け取る。

「はい…千雨さんもお似合いです…おそろいですね」

「ああ、おそろいだな」

「まいどあり」

店主の明るい声に見送られて、私達は店を後にした。

 

 

 

その後、軽く学祭限定メニューめぐりをして私達は桜ケ丘を訪ねていた。

「この道は…エヴァさんのお家ですか?」

「ここまでくれば流石にわかるよな…うん、エヴァの家に向かっている」

「なるほど…という事は…」

と、さすがに聡美もどういうプランを立てているかは感づいている様ではある。

 

エヴァ宅の呼び鈴を鳴らすとすぐに茶々丸が現れた。

「いらっしゃいませ、ハカセ、千雨さん。お待ちしておりました」

まずは茶々丸に連れられて家主にあいさつである。

「こんにちは、エヴァ」

「お邪魔します、エヴァさん」

「ああ、いらっしゃい、ハカセ、千雨。手配は済んでいるそうだ、まあ、たまにはのんびりして来ると良いさ…」

「うん、ありがとう、エヴァ」

「こちらです」

茶々丸に促されて、地下室へと向かう。

 

「それでは、ハカセ、千雨お母様…ごゆるりと…」

茶々丸はそう言って別荘が安置されている部屋の扉を開いた。

「ありがとう、茶々丸」

茶々丸に礼を言って、私達は別荘に潜った。

 

「ふふーやっぱりエヴァさんの別荘ですねー確かにこれならゆっくりできますし…ディナーも取れますね」

「そういう事、丸一日遊べないならと思ってさ…エヴァに頼んで娯楽用に借りて、茶々丸に頼んで夕食とか色々と手配してもらったんだ」

「ありがとうございます、素敵なロスタイムって奴ですかね?」

「ロスタイムかはともかく…二人で遊んで…ゆっくりしよう…来週は忙しくなるんだしな」

「ええ…ありがとうございます…千雨さん…いつもと逆ですねー」

「ああ、今回、無茶するのは聡美と超だからな…頑張れ、でも無理するなよ」

「ふふ、それも、いつも私が千雨さんに言っている事ですねー」

聡美はクスクスと笑って腕を絡めてきた。

「じゃあ、いきましょうか」

「ああ」

私達は、やっと転移陣から塔へと歩き始めた。

 

 

 

まだ時間があるからとプールで水遊びをして、風呂にも入って、お揃いで色違いのドレス…いつかのように、私が黒で、聡美が白…に着替え、エヴァご自慢の食堂から夜景を楽しみながらディナー…食材費を納めて豪勢にしてもらった…を済ませた私達は、グラスでノンアルコールシードルを飲みながら会話を楽しんでいた。

「とっても素敵な一日でした、千雨さん」

「ありがとう、そう言ってもらえると、エヴァから別荘を借りたかいもあるよ」

「ええ、景色も料理もとてもよかったです…料理はともかく、夜景は千雨さんには見慣れた景色かもしれませんけど」

「いや…全然違うよ…こうしてみる夜景と修行の合間に眺める空とはな…」

「もう…綺麗な夜景ですね、ってやつですか?」

聡美が頬を赤らめていった…ノンアルコールの筈なんだけど、雰囲気で酔ったかな?

「ん?どういう事だ?」

「あー違うならいいです…ふぁあ」

「朝も早かったし…そろそろ寝るか?」

「そうですね…明日も夕方近くまでゆっくりできますし…もう寝ましょうか」

「では、ナイトドレスをご用意してありますので、いらしてください、千雨様は私がご案内します」

「聡美様は私がお世話をさせていただきます」

「じゃあまた後で」

「はい、また後で」

人形達に案内され、歯磨きなどの寝る前のケアをしてナイトドレスに着替えた私は何時もとは違う寝室に案内された。

 

「あ、千雨さんもちょうどですね」

そして、今夜の寝室前でばったりと聡美と合流した。

「あれ…千雨さん…これって」

部屋に入ると、そこはツインではなくダブルでセッティングされた寝室であった。

「…って、同室に、とは言ったけどダブルベットで、とは言わなかったと思うんだけど?」

「はい、ですがツインとも伺っておりませんでしたので…」

「妹の茶々丸からお二人は彼女のお母様二人と伺いましたので、このように」

「それでは、ごゆるりとお休みくださいませ」

「朝は、枕元のベルを鳴らして頂けましたらご奉仕に参ります」

そう言って人形たちは一礼をして、去って行った。

 

「…どうしよっか」

困り果てて私が言う。

「二人で一緒に寝ればいいんじゃないですか?」

しかし、いつもの調子で聡美がそういう。

「それは…」

「…不味いですか?一夜の勢いで妊娠してしまう訳でもないですよー」

…そんな爆弾発言まで、さらりと変わらず吐かれるとちょっと困る。

「っておい…」

「…事実ですよ?私は女で…貴女も女ですから…ね?千雨さん。まあとにかく、突っ立ってないでいらしてくださいー」

聡美がベッドに腰掛けて隣をトントンと叩く

「ああ…うん…」

そして、促されるまま、私はそこに座った。

「少なくとも、私は仮契約の時みたいに、千雨さんなら嫌ではないですよ、キスも、その先も…貴女が望むならば…あ、でも優しくはしてくださいね?」

「はぁ…」

私は大きくため息をつく。

「…聡美が望むならば、私も応じる事自体はきっとできるし、受け入れる事も嫌ではない…けど…私は今のままでも十分だとも思っている…だから、私からは望まない…少なくとも、今はまだ…」

「ええ、それは私も同じです…が、まあ万一、俗にいう間違いが起きても双方、異存はないわけですよね?なら別にいいじゃないですか、添い寝くらいしても…千雨さんの体温、落ち着くのも事実ですし…よく眠れそうです」

「…ああ、うん…そうなるわけか…」

よーするに、万一間違い起こしてヤっちゃっても異存が無いなら添い寝位いいじゃん、という事である。

「じゃあ、寝ようか、一緒に」

「はい、寝ましょう、一緒に」

二人でベッドに身を横たえ、布団の中で手を握る

「おやすみなさい、千雨さん」

「おやすみ、聡美」

そして私達は…即行、眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

一夜明け…薄明るい中、私は聡美を抱くようにまどろんでいた。

「ん…」

その体温が心地よくて、ぎゅっと抱きしめた私は再び眠りにつくのであった…

 

 

 

何度か眠りとまどろみを往復し、外の光が窓から差し込むような時間になってきた。

「ん…ふぁあ」

何時もならば、朝寝坊の時間ではあるが折角なのでのんびりとさせてもらう。

私に抱きつき、胸に顔を埋めるように眠る聡美を体の下に回っている左手で抱き寄せ、右手で髪に手櫛を入れる。

こういうのも悪くないと思う私が確かに存在しているのを自覚する…が、関係を変える事を望むかと言えば…それは望んでいないのも我ながら面倒な物である…思春期の恋に恋するような衝動、聡美を欲しいと思う気持ち、あるいは欲望が満たされない飢餓感、聡美から求められたと言う理由…そう言ったものがあればまた違うのかもしれないが…そう言った思索に耽りながら、私は再び目を瞑り聡美の髪の手触りを楽しむのであった…

 

 

 

「んー…千雨さん…」

聡美が身じろいで私の名を呼ぶ。

「おはよう、聡美」

「ふぁい…おはようございます…楽しいですか?」

「うん…楽しい」

「ならいいですよーえへへー」

そう言って聡美は私に抱きつく力を強くした。

 

 

 

「名残惜しいですが、そろそろ起きましょうかー」

「そうだな…ん…」

互いに強く抱き合い、そして体を離す。

「んー改めて、おはよう聡美」

起き上がって伸びをする。

「おはようございます、千雨さん。よく眠れました…またしましょうね、添い寝」

聡美も起き上がり、言った。

「…まあ、偶に、な。毎日だと…毎日寝坊しそうだ」

「ふふーそれはそれでしっかり睡眠が取れていいんじゃないですかー」

からかうように聡美が言う。

「…それはそれで魅力的だが…体が鈍っても困るし、朝も色々やることもあるし…」

「それもそうですねー人形さん、呼びますよー」

「ああ、頼む」

 

聡美が枕元のハンドベルを鳴らすとすぐに人形達が現れた。

「昨夜はお楽しみ…というご様子ではないようですね」

「ご朝食にいたしますか?ご入浴なさいますか?それともまずは軽く運動なさいますか?」

「あー折角だし朝風呂貰おうかな…その後朝食で…いいかな?」

「はい、それで行きましょう」

「かしこまりました。では、参りましょう」

私達は人形達に先導され、朝風呂を貰うこととした。

 

 

 

「あー楽しかったですー」

のんびりと風呂と朝食を楽しんだ後、エヴァの蔵書(の内、許可が出ている棚)から魔法理論の本などを二人で読んで遅めの昼食として軽食を食べ…転移陣に向かって歩きながらながら聡美が言った。

「うん…私も楽しかったよ、二人で過ごせて」

「はいーでも、もう時間ですからねー」

「ああ、帰ったらクラスの仕事だな」

「ええ…ね、千雨さん?」

そう言って聡美は隠し持っていたらしき仮契約カードを唇に当てた。

「うん…」

私はそう答えて、聡美の望みを叶えた。

 

こうして、私達の麻帆良祭前、最後の休暇は終わりを告げた。




初恋より先に側に居るのが当然になった二人…でも、本人たちが頑なに主張しているように、自覚としては恋心ではありません、ハイ、はたから見て付き合ってなかったの?とかやっと付き合うんだとか言われようとも、です。恋とはドキドキするもの、系の本人たちの固定観念からは外れた関係なので…仮契約の時はさすがにドキドキしていましたけど。相手がそう望むなら関係をそういう方向に進めてもいいけれど、自分から進める気はないともいうめんどくささ。そして同衾してもエッチな雰囲気になるより先に安心感で安眠する二人というオチ。
 京言葉は割りとイメージで。カモ君の言う所のダブルデートはナチュラルに距離の近い千雨・聡美ペアに当てられて距離感が縮まるコノカにどぎまぎするせっちゃんを楽しむ会。(カット


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40 麻帆良祭準備編 第5話 警告

週が明け、授業のない完全な麻帆良祭準備期間に突入すると、いよいよ設営は本格的に始まった。

「千雨さーんルームランナー設置完了したので、動作チェック手伝ってくださいー」

「おーう、今行く」

私も、ロボ研の手伝い以外は概ね、朝から晩まで衣装作りと、教室の設営の手伝いと設置された仕掛けメカのチェックに明け暮れていた…二人きりの楽しさとはまた違うが、こういうのも悪くはない…

 

 

 

そして、麻帆良祭二日前の別荘での事。

「ふはは…モテる男は大変だな、ネギ」

「笑い事じゃないですよ…こんなの体が二つなきゃと無理ですよぉ…」

「そうだなー特に勉強会やツアー系は時間が決まっているし時間もかかるし…タイムテーブルは書いたのか?」

「いえ…これからです…」

「うん…まあ、デート系は最悪他の展示とか見て回るのに繰り入れちまえ…どうしようも無ければな…ごめんなさいするよかマシだろ」

「うーそうなんですけれど…」

大量の予定を詰め込む羽目になったネギはとても大変そうである。

…格闘大会、実はM&Aされていて、大規模かつ割と長時間の大規模イベントと化していると知ったら発狂するんじゃなかろうか、ネギは。

「ま、体力的に無茶する羽目になるだろうから、最悪、ここで休めよ?倒れたら元も子もないんだからな」

まー私も無茶をさせる側に一枚かんでいるんだが。

「そうそう、まほら武道会、私も出るからな」

「えぇーっ千雨さんもですか…どうしよう…別荘の外だとマスターよりも勝てる気が…」

「はっはっは…まあ、精々悩め…一応はルールのある試合だ、やりようはあるさ…瞬動くらいは多分は使うがな」

「魔法無しだと、僕が勝てる余地無くないですか?それ」

「んーまあ、最近は反応も良くなって来たし、いけるんじゃないか?それに練習しているんだろう?瞬動術」

「あ…はい…我流ですが…」

ネギがばつが悪そうにする。

「マスターから私はまだ教えんなって命令がでているけど、技を盗む分には問題ねーよ…ちょっと見せてみろ」

「はい」

ネギに披露させたそれは…まあ基本は間違っていないが瞬動術と呼ぶのは憚られる代物だった。

「…思いっきりがたりねぇなぁ…」

「でも、これ以上速くすると上手く着地できなくて…」

「その緩急こそが瞬動術の肝なんだよ、下の砂浜でも使って何度も吹き飛びながら練習すれば多少マシになるだろうさ…それで、ある程度できるようになったらクーにアドバイスでも貰え」

「クー老師にですか?」

ネギが首をかしげる。

「ああ、そうすると…コレが…コレになる」

そう言って、入りと抜きが露骨な瞬動と、歩法を意識した縮地を見せてやる…機動力メインで鍛えているので楓のような本物に比べるとまだまだではあるが。

「…中国拳法にもこういう技術があったはずだからな」

「はい!」

ネギが元気よく返事をする。

「ほう…楽しそうな話をしているじゃないか、千雨、ぼーや」

話し声と物音でバレたか、マスターが現れる。

「げっ、マスター」

「あ、あの…これは…」

「私は、まだぼーやへの瞬動術の教授を許した覚えは無いがな?千雨」

「あーネギの我流での練習成果を見て、ちょっと手本を見せただけですよ…?」

内心冷や汗をかきつつ答える。

「ふむ…まあそれなら構わんか…ではぼーや、学園祭明けの修行から組み手での使用を解禁するから自主練習しておくように…それまでは、千雨は手本を見せるのも禁止だ」

そう言って、マスターは笑いながら去って行った…

「…なんかすまん…まあ、がんばれ」

「いいえ…気になさらないでください…でも、またやる事が増えちゃいました…」

ネギがちょっとしょんぼりした様子で言った。

 

 

 

翌日、ある意味予想通りではあるが進行が遅れているため、本来禁止の泊り込みをして徹夜での作業となった…まあ、そういう事をしているのはうちだけではないのだが。なお、聡美は徹夜は無理と宣言して不参加である。私は…まあ、途中で別荘に逃げる以外はぶっ続けで作業をするつもり…だったのだが。

「龍宮さん、長瀬さん、長谷川さん、いる?」

昼前位にしずな先生に呼ばれ、学園長室に呼び出される事となった。

 

「…と、いうわけで、三人には告白阻止の仕事を頼みたいんじゃよ、どうしても学園の魔法先生と魔法生徒だけでは手が足らんでの」

学園側は大発光が一年繰り上がったのに数日前に気づいたのか、情報封鎖をしていたのか、麻帆良祭前日になって告白阻止作戦を周知し始めているようである。

「はい、報酬がいただけるのであればその分の仕事は致しましょう」

「了解でござる」

「私も、かまいませんが…クラスのシフトと…一日目の夜、ならびに二日目の午前ははずせない用事がありますので…」

「それで問題ないよ、長谷川君。君達には此方のシフトの穴を埋める予備人員の負担軽減を頼みたくての…一日目と二日目はこのシフトの範囲で入れるだけ入ってくれると助かる、三日目は可能な限り、該当地域でのパトロールを頼みたい」

「わかりました、では」

と、私達は相談と調整をして無理の無い範囲で告白阻止の仕事を入れていった。

 

「うむ、助かるよ。もし、急用などができた場合は明石君に連絡しておくれ、彼がこの件のシフト管理をしておるからの」

「「「了解しました」」でござる」

「うむ、では解散…と言いたいが、長谷川君は残っておくれ」

といわれ、私だけ残された。

 

「さて、長谷川君…非常に言いにくいんじゃがの…超君がまたやらかした…人払いの結界を抜いて会合を覗き見た現行犯じゃ」

「…はい」

いよいよ計画実行って言う段階で何やっているんだ、あいつは。

「ネギ君のとりなしで今回は処罰なしとなったが、長谷川君も知っての通り、人払いされた会合の場を覗き見る行為は魔法使いであっても処罰の対象になる行為じゃ…ワシは君らの研究を高くかっとるし、野外の簡易結界でやるような会合でそこまで目くじらを立てるつもりは無いが…規則は規則じゃ、あまり何度も警告済みの違反行為を繰り返されると庇えん、というのはわかってくれると思う」

「はい」

「長谷川君も、共同研究者を失いたくはないじゃろう…君からも超君に注意しておいてくれるかの」

「わかりました」

「うむ、では行ってよろしい」

そういわれ、私は解放された。

 

 

 

「って事なんだが、何処から何処までが計算ずくなのかな?超」

ネギから事情を聞き出した私は、超を掃除された会合場所の1つに呼び出してこう問い詰めていた。

「ナンノコトカナ、千雨サン」

「この時期に覗く価値が低いとわかっている会合を態々覗いてドジ踏んだ事、ネギに助けを求める展開、礼に渡した怪しげな懐中時計様のアレ…全部に決まってんだろ!」

「ハハハ…まあノーコメント、と言う事にしておいて欲しいネ、千雨サン」

「ったく…お前の事だから切り札の二、三枚伏せてあったからこそあんなまねしたんだろうが…巻き込んでいいとは言ったが怒らんわけじゃない、とも言ったの忘れてないだろうな」

「もちろん…そういう意味では武道会後はたっぷり怒られる覚悟は決めているヨ、全部終わった後にネ」

そう言って、超はにやりと笑う。

「はぁ…そっちは納得ずみだし取るべくして取っているリスクだって解っているから構わんよ…精々、友達思いの魔法使いとして弁明するさ」

「うむ、それは助かるネ」

「で、朝倉は落ちたのか?」

「いや、まだ悩んでいる様ネ…だが、まあ九分九厘落ちるだろう…駄目な時は頼むヨ」

「わかっている、アイツほどじゃないが最低限はこなして見せるよ…弁明がメンドイから朝倉に代わってほしいけどな」

「だろうネ…ではそろそろ」

「ああ、また明日な」

そうして私はクラスの準備に戻り、超は計画の詰めの作業に戻っていった…んだと思う。

 

 

その後、二日目の徹夜作業により、何とかクラスのお化け屋敷は完成し…運命の麻帆良祭が始まった。

 



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麻帆良祭編
41 麻帆良祭編 第1話 疑念と予選会


お化け屋敷の最初のシフトに入っていた私が担当である日本の怪談コースで仕事をしていると、隣の学校の怪談コースが騒がしくなった…どうやらネギが来たらしい…一番怖い話を選びやがってどうしたんだろう…と思っていたら、どうやら他のコースの案内役が委員長とまき絵の番だったらしく、本能的に危険を避けたと言う事である…が、ズボンを脱がされていた。

 

時々休憩を挟み、着物姿で客引きにも回りつつ1時間ほど仕事をしていると、ネギがコタローと手伝いにやってきた。

「はい、衣装…ネギ先生、スケジュールキツイんだろ?無理に手伝わなくても回るからな?こう…先生も見回りあるんだろう?」

一応作ってあったネギ用の衣装を二着、ネギとコタロー用に取り出して渡す際に私はそう言った。

「あ…えっと…それは何とかなる目処が立ちましたので…」

「…超から貰ったって言ってたアレでか?」

「えっと…はい…」

と、なるとあの懐中時計の様な物は想定していた超の切り札、タイムマシンの予備機か何かか。

「…無理はするなよ?」

心の中で何度目かは知らんが、と付け加えておく。

 

少年ドラキュラと化したネギと犬と化したコタローを送り出して会計役のシフトに入っていると、ネギ達が大量の客を連れて戻ってきた。

「なるほど、こいつは使える…子供のかわいさは女性から老人まで幅広くアピールするしね」

「まあ、中身はゴシックルート以外、ガチのお化け屋敷だがな」

「まあいいじゃん、ゴシックルートはファンシーで可愛い恐怖がコンセプトなんだし」

と話をしていると柿崎がネギに次の衣装を渡していたが…まて、アレって…。

 

「キャアアアア!?何ですかコレー柿崎さん!」

と、着替えておいて可愛い悲鳴を上げるミニの狐娘のネギがいた。なお、日本の怪談ルート用に作りはしたが、ハート度3相当であると判定されて没になった代物である。

「うん、アリではあるが…ちとマニアックな…いや…少年だとバレなければ…?」

思わずそんな寸評をした私であった。

大爆笑するコタローに、柿崎にネギのアピール層を狭めていると抗議する裕奈、そこに委員長がネギに仮装させてまで手伝わせるとは何事だと怒鳴り込んできて…鼻血の海に沈んだ。

「…ネギ先生ラブ勢でショタコンな委員長にゃ強すぎたか…」

「ちょ、千雨ちゃん、冷静に分析してないで手当てしなきゃ!」

「そうだな…とりあえず、ネギ先生、それは危険すぎるのでドラキュラに戻ってきてください」

「は、はい!」

とりあえず、原因を遠ざける事にした私だった。

 

 

 

客引きを兼ねて学園祭を周りに出たネギ達を見送り少しすると、昼までの今日の私のシフトが終わった。

「じゃあお疲れさん、もし暇になったら手伝いに来る」

「はーい、お疲れ様、千雨ちゃん」

と、着物姿のままで退出した私は、パトロールを兼ねて魔力溜りになっているカフェに入り、糸術でカトラリーを落としたり、グラスを倒したりという迷惑行為による告白阻止を行いつつ、のんびりと昼食を楽しんだ。そして、そのまま魔力溜りを巡る様にパトロールのシフトに入り、糸術で本人を転ばせたり、物をぶつけたり、直接人ごみでぶつかったかのように装ったりして告白阻止をしながら学園祭を回るのであった…バイト代、受け取れるかは兎も角、まだ真面目に仕事をしないと不都合があるので…。

 

 

 

シフトが終わった私は一度寮の自室に戻り、接収に備えて事が始まる前に消すべきデータが全て消されている事(バックアップは暗号化してエヴァに預けてある)を確認し、呪紋回路の最終案を確定させた私は、PCの加速空間で少し考え事をしていた…超の奴、ネギにタイムマシンを渡した様であるが、いったい何を考えているのだろうか…と。

確かにネギは本物の英雄…の卵ではあると思うし、味方に引き込めればその価値は計り知れない。しかし、だからこそ、そして性格的に敵対する事くらい超にはわかるはずである…と考えた時、二つの考えが私の脳裏によぎった。

1つは、単純に罠である事…私がタイムマシンを用いた策を仕込むのであれば計画の中枢、恐らく3日目の夕刻から深夜にかけてにネギが何もできないように仕掛けをする。通常であれば狙った時間にそれ…強制時間跳躍をするのは難しいかもしれないが…エヴァの別荘のような時空間を弄った代物からの出入りに介入したり、特定の日時…例えば学園祭三日目からの跳躍を狂わせたりする事はタイムマシンの作成に比べ、さして難しくはないだろう。

そしてもうひとつの可能性…それは…超のある種の裏切りである…いや、聡美が手伝っている以上、完全な裏切りではないにせよ、私が想定している全ては茶番…とまでは言わないがネギの成長と超の計画成功との両天秤にかけられている可能性すら想定できる…そうでなければ、タイムマシンの戦闘への応用などというすぐに思いつく切り札に対抗できる代物をネギに渡す意味がわからない…単純にネギを甘く見ている?魔法理論の天才だと口酸っぱく言ってあるネギを、あの超が?…超の最終的な望みが必ずしも自身でなす必要はなく、史実で一歩及ばなかった英雄によって達成されても一向に構わないのであれば、そして聡美を納得させるだけの理由があれば…?

 

ピピピピッ

「ちう様、お時間です」

仕掛けてあったタイマーが鳴り、電子精霊がそれを告げる。

「…いかんな、想定が飛躍しすぎていた…うん、ありがとう」

私は加速空間から実空間に帰還し、龍宮神社へと向かった。

 

 

 

「お、朝倉は超についたか…まあ予想通りだな」

龍宮神社の舞台近くに設営された拠点に潜り込み、開口一番、私はそう言った。

「っ!千雨ちゃん!?どうしてここに!?」

「あはは…驚いてるな…まあ、端的に言うと私がお前の予備の司会だったからだよ」

「えっ…なにそれ、千雨ちゃん、こっちなの?魔法使いなのに!?」

朝倉が驚きを隠さずそう言った。

「ハハ…厳密には今はまだ好意的中立だが…千雨サンの中の一線を越えない範囲で、協力してもらったヨ、色々と…ネ」

「そうですよーむしろ私達がそろっているのに千雨さんが無関係なわけ無いじゃないですかー」

「と、言う訳だ、朝倉。お前がこっちについてくれたおかげで色々と弁明がめんどくさいこの武道会の司会役から解放されたってわけさ」

「あーうん…と言うか、それってヤバくないの?」

「ああ、誓約破ってたら無茶苦茶ヤバイぞ。私は魔法の秘匿を誓約して魔法使いのお仲間に入れてもらったわけだしな。だから、私は超が何を企んでいるのかは聞いてはいない。そんで、今回も友人から賞金のでかい格闘大会への出場のお誘いと司会が見つからなかった場合の予備としか聞かされてないしな。ま、限りなく黒に近い灰色って奴さ」

「うっわぁ…千雨ちゃん…その発言の時点で真っ黒じゃん」

朝倉があきれた様子でいった。

「だが、朝倉、お前もヤバイ橋、渡ってんじゃねぇか。とっ捕まったらネギの件を含めて記憶消去くらいありえるぞ?」

「あはは…まあねー。でも、この橋は渡る価値があるって私のジャーナリスト魂が囁いてさ」

朝倉はそう言って、にやりと笑った

 

 

 

「所で千雨さんー」

「ん?何だ、聡美」

「その着物、とっても素敵ですけどーその格好で出場されるんですか?」

「ああ、鉄扇術と糸術は使う予定だし、その方が映えるかな、と思ってさ。クラスの衣装だけど予備も作ってあるし…ちょっと発動媒体のバンクルが不似合いだけどな」

「なるほど、ちょっと楽しみですーでも、無理はしちゃ嫌ですよ?」

「大丈夫、無理はしないよ、お遊びのつもりだからな」

「そうですか…でも、優勝して欲しくもあるんですよねー」

「まあ、手も抜くつもりはないよ…ネギとコタロー位なら勝てるだろうし…いや、ネギはここ一番に強いから油断すると微妙か、マスターも身体能力は兎も角、技量は敵わんし…やっぱりちょっと無茶はするかもな…」

早めに来たのは朝倉が落ちてなかった場合に備えてもあるが、聡美と会いたかったのも多分にあるのである。

 

「超りん、本当にあの二人、付き合ってないの?なんかお揃いのネックレスまで増えているんだけど…しかも、アレ、スミレだよね?」

「…本人達は頑なにそう言っているから付き合ってない、そういう事でいいんじゃないカ?最近また一層仲良くなっている気はするガ、自己申告を大事にするネ」

「うーん…まあ別に記事のネタにゃしないから構わないんだけど…」

とか言う会話も聞こえるが気にしない。私達は恋人同士ではないのである、添い寝とかしたけど。

 

「千雨サン、そろそろ開場ヨ」

「はいよ、それじゃあいってくる、聡美、超、朝倉」

「はい、千雨さん、がんばってくださいねー」

私は一度、門前の人ごみに紛れ、予選会場に開門と共に入場した。

 

「あはは…麻帆良学園の最強を見たい、と来たか」

超の開会宣言を人混みの中で聞いていたが、学園最強を見たいと言うのは確かにそれっぽい理由ではあるが、絶対コレ、魔法バレの実例収集が主目的だろう。その証拠に、超はこう宣言した。

「飛び道具及び刃物の使用禁止!…そして呪文詠唱の禁止!この二点さえ守ればいかなる技を使用してもOKネ!」

「クック…超の奴め…」

「ほんと無茶するアルネ、超の奴」

瞬動も多用せんようにと思っていたのに。そう、苦笑しているとクーが声をかけてきた。

「クー、楓、真名…と鳴滝姉妹か。お前らも出るのか?それなら割のいい遊びじゃなくなっちまうな」

「はは…まあ楽はさせんよ…っと、ネギ先生もいるじゃないか」

「コタローもいるな。せっかくであるし、合流するでござるか」

こうして、私を含め、ネギとコタローと合流する事になった。

 

合流した私達にネギは恐慌状態になり、無理、勝てない、状態に陥った…まあ、確かに負けてやるつもりはないが試合であれば絶望的な程でも無いのに戦う前からそれはちょっと良くないぞ。

「千雨姉ちゃん、あん時の決着付けたるからな!俺は負けへんぞ!」

まあ、コタローは自信満々ではあるが

「ははは、まあ戦う事になったら、お互い魔法バレしない程度に手合わせといこうか、コタロー…負けてやる気はないがな…ネギも、真剣勝負だが命の遣り取りじゃないんだし、修行の場だと思って頑張れ」

と、私は建前を押し出してそう言った。

「千雨さん…はい!」

「ははは…まあそういう発想で挑む事自体は問題ないが…約束は覚えているだろうな?貴様が私に負ければ最終日は丸一日私に付き合って…」

「ハ、ハイ、それはもちろん」

と、そこにエヴァが合流し、エヴァを舐めた内緒話をしたらしいコタローに恫喝もしていた。

 

「しかし…そうなると予選会での潰し合いになるかもな…はは、半ば遊びだと思って着物で来たんだがミスったかな?」

「はは…そうだな、まあ私もこの巫女服のまま出るつもりだから、いい勝負じゃないか?」

「ぬかせ、お前の相手をするならお遊びでも【無茶】しなきゃ勝てる気がせんよ」

「私は逆にお前を飛び道具無しで仕留めきる自信が無いがな、無茶無しの本気でも」

そういって、私と真名は牽制しあう。

 

「やあ、楽しそうだね。ネギ君達が出るなら僕も出てみようかなー」

混沌とした状況をさらに混沌とさせる高畑先生が現れた。

そして、なぜかアスナも出場を宣言し、ネギは出場辞退しようかなどと泣き言を言い出した。

 

「ああ、ひとつ言い忘れているコトがあったネ」

挨拶も終わりに近づいた超の言葉が会場に響く。

「この大会が形骸化する前、実質上最後の大会となった25年前の優勝者は…学園にフラリと現れた異国の子供、『ナギ・スプリングフィールド』と名乗る当時10歳の少年だった…この名前に聞き覚えのあるものは…頑張るとイイネ」

超のその言葉と、それを肯定する高畑先生の態度に、ネギは急にやる気を出した…うむ、良い事である、おそらく、この大会自体が罠であるようにも思うが…。

そして、超の挨拶が終わり、朝倉が予選会の開始を宣言する。

…さっき浮かんだ疑念、割とマジかもしれんなぁ…と思いつつ、私は超の背中を見つめていた。

 

 

1組20名で行われるバトルロイヤルで、本選出場は各組2名…知人達のくじは見事にばらけて、各組2名以下…と言うかA組だった私とB組だったネギ以外、ちょうど2人ずつである。

「さーて…強そうなのは…ってオイ、【田中さん】かよ」

なんか、同じリングに私も開発に携わったロボット兵器、T-ANK-α3がいた…いいのか、オイ…そして他は…今のところ、ウルティマホラ本選出場ギリギリクラスが精々か。

 

「さて、さっそく定員が揃った組が現れました…D組、試合開始です」

D組、クーと真名のいる組の試合開始を朝倉が告げる。

まあ、試合は予想通り、クーが無双して真名と二人、本選出場を決めた。

どういう経緯か知らんが、防具と木刀を装備した剣道部部長…まあ気が練れる程度には手練れっぽい…が一蹴されていた、まあ語るべきことはそれ位だ。

 

第二試合はネギのB組、次いで第三試合の楓とコタローのE組がはじまる。ネギは体格の良い選手をふっ飛ばし、E組で楓は影分身で暴れていた…オイ、魔法の秘匿どこ行った。そして、なぜかコタローが分身数を競い始めて試合そっちのけで何やっているんだと朝倉から突っ込まれていた。

 

C組の刹那とアスナ、F組のエヴァ、高畑先生と順当に戦いが進んでいく…。

 

「さて、A組、定員に達しました、間もなく第6試合、開始です!」

っと、私の番か。

「着物に扇子…?場違いな」

「まて、アイツ、去年のウルティマホラ準優勝の長谷川千雨だ」

「げ…文武両道の体現者、ロボ研の女帝かよ…」

まあ、格闘関係者なら私の事くらい知っていてもおかしくないか。

「へぇ…面倒だし、纏めてかかってきてもいいんだぜ?」

眼鏡をくいっと上げ、挑発する様にニヤリと笑う。

「では、A組、試合を始めてください!」

そして、試合の結果は…

「おおっと、A組、昨年ウルティマホラ準優勝、長谷川千雨選手、漆黒の着物で扇を振るい、十数人を相手取って大立ち回り!」

「長谷川選手、無双!まさに無双です!あっという間に18名のライバルたちを下し、本戦進出を決めました!」

…と、まあ朝倉にこんな司会をされる程度には特筆する事もなく、挑発に乗って纏めてかかってきた連中相手に無双ゲーをして、全員投げ飛ばすか、カウンターを決めるか、鉄扇で引っぱたくかして全滅させ…私と、私に向かってこなかった【田中さん】が本選出場を決めた。

 

 

 

「皆様、お疲れ様です。本選出場者16名が決定しました。本選は明朝8時より、龍宮神社特別会場にて!

では、大会委員会の厳正な抽選の結果決定したトーナメント表を発表しましょう、こちらです!」

そういって発表されたトーナメント表、私の一回戦の相手は…佐倉愛依…ってエヴァとネギの戦いの時にパトロールで一緒したあいつか? そしてその次は…げっ…真名とクーのうち勝った方…だから多分真名で…もし勝てれば…楓かな…?中村選手かクウネル選手が思いの外、強ければ話は別であるが…

 




超さんの態度と行動に千雨さん、疑念を抱きつつありますが…物語の山場というモノが存在するかなぁ…今作…と言う感じになりつつあったり…
そして予選は実質カット、無双ゲーでしかないので…と言う扱いでポチ選手は一蹴されております。で、アルと競り合って本気出されてボッコにされて一回戦敗退と言うのも考えましたが、かっこいいところ少しは見せてもらおう+アル相手に咸卦の呪法無しだとどうしようもない判定が出たのとこうなりました。コタ君、ごめんね。



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42 麻帆良祭編 第2話 しばしの休息…?

「よう、ネギ、コタローこんな所で何やっているんだ…ってタイムマシンか、これからまだやってない予定をこなすわけだな」

カンパイもせずに一日目の打ち上げを抜け出したネギとコタローに声をかけ、そして事情を察する。

「ち、千雨さん、どうしてそれを!?」

「どうしてってさっき確認しただろう…ってもしかしたらお前らにとってはこれから、なのか?クラスのお化け屋敷の応援に来てくれたの」

私にとっては過去の出来事だが、ネギたちにとっては未来の出来事だ…ってやつだな。

「あーえっと…多分そうです…千雨さんも行きますか?忙しくて行けないってブログでおっしゃっていたイベントとかもあるでしょう?」

「いや、いいよ。準備もしてないし見学だけの為に時間逆行ってのも…って、まて、どうしてその事…と言うか私のブログを知っている?

別に隠してないが、公言している訳でもないし、お前にゃ教えた覚えはねぇぞ、第一お前、パソコン関係は苦手だろう」

別に見られて困るような内容でもないが、知っている面子には口止めしてある筈でもある。

「えっと…カモ君がマホネットでネットサーフィンって言うのをしている時に見つけてきて、これ千雨さんのHPじゃないかって…

それで、僕も毎日とは言いませんけど時々確認するようにしています、パソコンの方はよくわかりませんが、時事問題への勉強になりますし」

「ああ…カモ、てめぇか…」

ネギの方にいるカモをにらみつける

「おう、俺っちは技術系の方も楽しく読ませてもらっているぜ、千雨姉さん。それにまじめだがウィットに富んだ文章自体のレベルもさる事ながら、流行の話題だけじゃなくて話題性は低くても抑えておくべき渋い所も抑えているし、一度取り上げた問題のその後のフォロー精神も気に入っているぜ…あと、オタ系コンテンツもな」

「…一応聞いておくが、吹聴してないよな?私のHPの事」

カモのべた褒めに少し顔を赤くしつつ、問うた。

「はい、カモ君があまり広めるのは良くないって」

「おう、千雨姉さんはネットとリアルはある程度距離を置きたがるタイプかと思ってな」

「ならいいか…うん、まあこれからも秘密にしといてくれ、HPに来る事自体は構わないから」

 

「話、終わったか?」

暇そうにしていたコタローが話の終わりを感じ取り、ネギに声をかける

「うん、お待たせ、コタロー君。それじゃあ、いってきます、千雨さん」

「おう、いってらっしゃい、また後で…無理すんなよ」

「はい、いってきます!」

そういって、ネギはタイムマシンを操作し、その姿は掻き消えた…が

 

「あ、僕たち行きましたね、ただいま、千雨さん」

と、直後、薄々それっぽいなーと思っていたこちらの様子をうかがっていた気配が物陰から現れて私に言った。

「…と、私主観だとこうなるわけか…楽しかったか?学園祭」

「はい、とっても」

「ミニスカ風狐娘もか?」

「ぶふっ」

「ち、千雨さん!」

私のからかいにコタローが噴出し、ネギが顔を赤らめる

「俺っち的には兄貴が姉貴ならアリだが、無しだぜ、アレは…」

カモも、あまり趣味ではなかったらしく、そうつぶやくのであった…可愛かったがなぁ?

「それと、千雨姉さん、打ち上げの後、エヴァの別荘で休憩を取りたいんだが、貸してもらえると思うか?」

「特に機嫌が悪い時でなければ問題ないと思うぞ?私だって茶々丸に一言断って別荘に入るとかざらだしな…心配ならちょっと先に電話しとこうか」

と、エヴァに電話をし、事情を説明して許可を取る…試合に向けてコンディションを整える為、とだけ伝えて。まあエヴァはどうせ打ち上げに呼ばれて断り切れんかったんだろう、行って来いとだけ言って電話を切られたが。

 

「よっしゃ、それやったら思いっきり打ち上げ楽しめるで!」

「おーっ!」

と、いう事で、私達も打ち上げに戻る事となった。

 

 

 

「はは…さすがに疲れた」

聡美と超がいない分、クーと騒ぎの渦に飲まれ、まあ気使い・魔法使いとしての頑強さで誤魔化せる範囲ではあるが、少し疲れた…と言うか、中夜祭に強制連行からの4時までルートは想定外である。

「うーん…私も少し眠いアル…真名と戦うというのにエヴァにゃんの別荘と言うアテが無ければ愚の骨頂ネ」

「はい、老師…こっそり抜けようとしても察知して捕まえられちゃいましたし…」

という事で、私達一行はエヴァ宅を目指していた。

 

「お待ちしておりました、皆様」

マスターを起こしちゃ悪いと思い、メールで連絡を取っておいた茶々丸が私達を迎えてくれた。

「じゃあ…悪いが、頼む…」

「はい、ご案内いたします」

と、茶々丸に先導されて私達は別荘へと潜り、用意して貰っていたベッドで泥のように眠るのであった…

 

 

 

別荘内に日が登り始めた頃に目を覚ました私は、一風呂浴びた後、塔の屋上で自主練をしにやってきた。

其処には既に、ネギ、クー、刹那、アスナ、コタローが同様の目的で揃っていた。

「おや、私が最後か」

「せやな、千雨姉ちゃん…ってこれから汗かくのに風呂入ってたんかいな」

師弟関係上、余っていたらしいコタローが私に声をかけてくる。

「ああ、それで少し出遅れたみたいだな」

「…で、まさか今日もその着物で出るんか?」

「折角のダチが開いた祭だしな…多少は華になってやろうかなと思ってな…まあ中にゃ戦闘服着込んでるから、最悪脱いでやるがね」

「はぁ…華なぁ…武道大会なんやし、ガチでやる事が一番の華なんちゃうんか?」

コタローが呆れたように言う。

「まあ、私ら武闘家にとっては、な。だが大半の観客には見映えがいい方が受けるんだよ、私の得物はコレだし…私のガチだと、普段の制服だし」

そう言って愛用の鉄扇を取り出す。ま、着物もエヴァや茶々丸からお茶の席に御呼ばれした事からノリである程度戦闘練習してあり、慣れているので相応に動ける、と言うのは前提にあるが。

「そういうもんかね…まあええわ、ネギがフェイ部長にとられて余っとったし、相手してくれや」

「ああ、構わんぞ」

そうして、私はコタローと着物での動きを再確認しながら軽く組み手をして汗を流す事となった。

 

 

 

朝食を済ませた後、私を除いた全員が砂浜に降りていき、遊び始めた。私も用事が済んでその元気があれば、合流する事にはしているが。

「まったく…元気な事で…」

そう言いながら、私はコレ用に用意してもらっている寝台に全裸でうつぶせる。

「では、千雨様、始めさせていただきます」

そう言って、従者人形は私の背中にうっすらと麻酔薬入り軟膏を塗っていく。

逃亡生活に備えて色々と準備はしてきた呪紋回路ではあるが、今日はそのちょっとした総仕上げである。

 

「そろそろいいか…」

麻酔薬が馴染んできた頃、眼前と天井の二枚の鏡を通して背中を見る。施術してある糸の回路から、最終的に使用する事にした設計から不要となる経路、紋様を全て解く。そして、一つ、また一つとうなじから臀部まで糸の紋を埋め込み、必要に応じてそれらを繋いでいく…。

そしてそれが終われば体の前面、四肢と同様の施術を行ってゆき…私と言う作品は完成した…まあ、面積的な過半は咸卦の呪法ではあるのだが。

私の現在の咸卦法に対する理解からすれば一応の完成を見たと言っても良い咸卦の呪法の呪紋回路は、戦闘中でも若干の隙にはなるものの、簡便にオンオフができるように設計され、体への負荷をある程度まで抑えつつ、出力もかなり上がっている。これ以上の物を設計しろと言うのであれば、何か…心身や魂への負荷をはじめとしたトレードオフ、ないしはより深い咸卦法への理解、あるいは組み合わせるべき別の技術などを必要とする事であろう。

そして、他のスペースには私の多用する雷属性の魔法や、緊急時の障壁行使を補助する呪紋などを埋め込んであり、特に両腕にはそれぞれ特定の呪文特化で行使をサポートする呪紋を埋め込んだ…現在は、右腕に偽・断罪の剣(威力を抑えて消耗を軽減したモノ、それでもすさまじい威力を誇る)、左腕に白き雷をセットしてある。

 と、まあこう言った技法を発表する気はないが、同時に一代で途絶えさせてしまうのももったいないので、時々成果を纏めてエヴァに預かってもらっている。今回の計画にあたっても、咸卦の呪法・受血紋を含めた一応の成果を纏めた本、『糸の呪紋・2003年版』をエヴァに預けてある…まあ、効果を最大限に引き出すには個々人の魔力の質・体質に合わせた設計が必要なので活用するには使用者自身の研究が必須とはなっているが、学者として、一応の義務は果たしたつもりである。

 

「ああ…疲れた…」

私はそう呟いて、その場で眠りに落ちた…これ、割と体力使うのである、施術する方もされる方も…。

 

 

 

仮眠から目覚めると、私は施術でかいた嫌な汗を流す為にシャワーを浴び、施術と寝落ちで食べそびれて居たらしい昼食を食べ、砂浜へと降りて行った…

 

砂浜に着くと、そこではネギがクーとコタローにアドバイスをもらいながら瞬動術の練習をしており、刹那、アスナ、このかは水遊び、チャチャゼロとカモはネギたちを肴に一杯やっている様であった。

「よう、やっているな」

と、私はカモたちに声をかけた。

「オ、オキタカ」

「千雨姉さんは兄貴の方に加わらないんで?」

「私はマスターから、ネギに瞬動術を指導するなって命令が出ていてな…てか、お前も知っているだろう」

「アーそういえば…」

カモはすっかり忘れていた様子である。

 

 

 

夕刻、各々自己責任で仮眠を取り、外での朝食を兼ねた軽食を食べ、私達は別荘の外に出た。ネギたちは開門時間まで少し時間もあるからと一度寮に戻るとの事だったが、私は直接龍宮神社に向かった。

 

「やあ、おはよう、聡美、超」

「おはようございます、千雨さん」

「ニーツァオ、千雨サン…開場はまだアルよ?」

超が悪戯っぽく笑う。

「ははは…硬い事言うなよ…と言うかそこは選手の立ち入りはご遠慮願うネ、じゃねぇのか?」

「まあ、ジョークだからネ。で、どうした千雨サン」

「いやぁ…?特に理由はないぞ?しいて言うなら順調そうだなって話とか?ネットでの情報拡散」

「あはは…見つかっていたか」

「数日前、うちの電子精霊が交流チャットに紛れ込んだボットを見つけたって報告してきてな…調べてみたらまあ何とも…って状況だったんでね。ま、お前の書くプログラムは特徴的だからな、ちょっと末端指揮プログラムらしき奴とっ捕まえて解析したら一発さ」

「あははーそのクラスのプログラムを押さえて解析できるのはさすが千雨さんですねー」

聡美がどこか乾いた笑いで、そう言った。

 



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43 麻帆良祭編 第3話 まほら武道会1 鉄扇遊戯と咸卦法

「じゃあ、そろそろ移動するわ」

「はーい、お気をつけてー。贔屓はできませんけど応援していますからねー」

主に聡美と世間話をしながら管制室で時間を潰していた私は、開場から暫くして、そう言葉を交わして控室に移動した。

 

「おはようございます、佐倉さんとグッドマン先輩…ですよね?」

私は控室にいたクー、真名、楓に一言挨拶をして、奥の方にいた黒ずくめの二人組に声をかけた。

「は、長谷川先輩…」

「あら、長谷川さん…初めまして、愛依と知り合いでしたか」

「ええ、一度、パトロールでご一緒させていただいた事がありまして」

「そうなんです、お姉さま…でも…正直長谷川先輩、かなりお強くて…自信ないんですが…」

「あーそれは…くじ運が悪かったかしらね…でも、せっかくですし胸を借りるつもりで行ってらっしゃいな、ネギ先生へのお仕置きは私ができるでしょうし…万一、ネギ先生が高畑先生に勝てるようでしたらね…しかし、長谷川さんはどうしてこのような怪しげな格闘大会に?」

怪しげな格闘大会、と来たか…うん、大当たりなのではあるがどこからバレたかな?

「この大会にM&Aされた小さめの格闘大会に出る予定だったんですが、単純に賞金アップに喜びながら特に深く考えずに参加を決めただけですね、まあ強敵も多々いる様ですので優勝は中々に難しそうですが。そういうお二人は?」

「ええ、実はですね…昨晩、ネギ先生は世界樹の力の件で失敗をなさって…まあ、何とか収まりはしたのですが…反省しますと言ったわずか数十分後に賞金1000万などと言う怪しげなこの大会に軽率にも出場し、あまつさえへらへらと予選まで突破されて…これはお仕置きしなければわかって頂けないと受付ぎりぎりで飛び入り参加した次第です」

…その怪しげな大会に自分達も出場しているのは良いのだろうか?この二人。

「ええっと…ネギ先生もこの大会が小規模な段階から出場を決めていた組でして…しかもいくつか勝負の約束もあったようですし…」

と、一応ネギを擁護しておく。

「あら…そうでしたか…しかし、大会が怪しげなものとなった時点で参加を取りやめないと言うのはやはり…ええ、お仕置き継続です!」

と、グッドマン先輩は宣言した。

「アーはい…それでは、私も友人たちがおりますのでまた…」

「はい、長谷川さんもお互い健闘を」

「長谷川先輩…よろしくお願いします」

そうして私はクーたちの元に移動した。

 

「あの怪しげな二人組、千雨の知り合いアルか?」

「んー片方が一度仕事で一緒になった知人でな…」

「ほう…となると交流任務かな」

「そう、それそれ」

「しかし…お前、結局、着物で出場するのか」

「の、方が映えは良いかなと、結局これか制服の二択だし?」

と言うような話をしていると、ネギたちがそろりと扉を開けて入ってきた。

「おはよう、ネギ君」

「タカミチ…」

高畑先生とネギが見つめ合う…後ろでペコリと明日菜が顔を赤らめて挨拶をしている。

「昨日とは顔つきが違うね、うれしいよ。今日ようやく、君があれからどれだけ成長したかをみられるんだね」

「…タカミチ、僕、今日は頑張るよ。父さんに負けない為に…だからタカミチ、手加減はしないでね」

そう、ネギは宣言するのであった。

 

その後、声量を落としてネギたちは会話を続ける。

「いやぁ…高畑先生の本気って、ネギの奴、一撃じゃないかなぁ…成長を見たいって事は大丈夫だとは思うけど」

「あはは…でもまあ、あの気概は大切ヨ」

「で、あるな」

「ふふ、楽しみだよ、ネギ先生の試合」

 

「おはようございます、選手の皆さん!ようこそお集まり頂きました!」

階上から朝倉が超と現れた。

「30分後より第一試合を始めさせていただきますが…ここでルールを説明しておきましょう」

そう言って朝倉がルール説明を始めた…内容は、まあ事前に聞いていた通りなので聞き流しておく。

 

「ハイ、質問です!」

中村選手が手を上げた。

「呪文とかよくわからないんですが、技名は叫んでいいんでしょうか!」

「技名はOKネ」

「よかった!」

という遣り取り。これに関連して、実は先程、呪文名は良いのかと問うたが、それは短縮詠唱だろう?とNG宣告を貰っていたりする。

 

「ご来場の皆様、お待たせ致しました!只今より、まほら武道会、第一試合に入らせていただきます!」

第一試合は私と佐倉である。

「さて、まずは本大会の優勝候補の一角と呼んで差し支えないでしょう、前年度『ウルティマホラ』準優勝、文武両道の体現者、長谷川千雨選手!本日は漆黒の着物姿で登場です!」

そう紹介されながら、私は開始線から観客達に手を振り、歓声に答える。

「それに対するは中二の少女、佐倉愛依選手!しかしその実力は予選会で証明されております!長谷川選手相手にどう戦うか、非常に楽しみです!」

「あう…よろしくお願いします、長谷川先輩」

佐倉はそんな声を上げながらローブを脱ぐ…もうちょっと闘志を滾らせてくれんとやりにくいんだが…。

それに対して、選手控え席でグッドマン先輩もローブを脱ぎ、ネギたちに何かを…恐らくさっき言っていた内容を話し始めた。

 

「それでは、第一試合…Fight!」

と、朝倉の試合開始宣言と同時に縮地を決めて佐倉の喉元に鉄扇を突き付ける。

「っ!」

『おおっと、長谷川選手、瞬間移動!佐倉選手に鉄扇を突き付けた!』

「と、このまま決めちまってもいいんだが、それじゃあ私も観客も面白くないし、あんたや弟弟子たちの勉強にもなんねぇんでな…ちょっと舐めプをさせてもらう」

そう言って、私は再び縮地で開始線に戻る。

「どういう…つもりですか?」

「いやね、弟弟子に普段やっているのと同じ条件…瞬動術無しでなら戦う自信あるか?あるならば…その条件で…ヤろうじゃないか?」

『長谷川選手、再び瞬間移動で離脱…これは挑発をしているのか!』

「くっ…後悔しても知りませんよ!」

そう言って、佐倉は仮契約カードを取り出して、箒型のアーティファクトを出現させた…やっと闘志に火が付いた様である。

「あはは…それでもかまわんさ、一応カッコつけは終わっているしな」

真面目に鉄扇を構えて佐倉の出方を待つ。

「…行きます!」

そう叫ぶと共に、魔法の射手を三矢、無詠唱で飛ばしてくる。

「なるほどっと」

まあ、それ位は問題なく往なせるわけで、余裕をもって全て水面に着弾する様に弾いてやる。

『おおっと、何処からともなく箒を取り出した佐倉選手、遠当て三連、しかし長谷川選手それを優雅に往なして見せた!』

「っ!」

そんな表情で今の間に溜めていたらしい魔法の射手を今度は7矢放ってくる。

『おっと、佐倉選手、今度は遠当て7連射!長谷川選手、これはいけるか?』

「まあ、こんなものか」

と、私は鉄扇でその弾幕と呼ぶにも烏滸がましいものを切り開き、佐倉に再び接近する。そんな私を佐倉は箒を槍の様に構えて牽制…いや違うか。既に来ているべき次弾が来ない事でそれに気づき、私は横に飛ぶ、と、同時に箒の柄の先から戒めの矢らしきものが飛び出してきた…並の前衛ならドンピシャのタイミングではあったし、戒めの矢という選択も素晴らしい…と内心褒めながら距離を詰めて足を刈り、倒れた佐倉の眉間に鉄扇を突き付けた。

「なかなかやるねぇ…と言うかその箒が発動媒体でもある事にすぐ気付くべきだったかな?」

くつくつと笑いながら佐倉を褒める。

「とっておきの一撃だったのに…」

「あはは…最初の発動速度の割に次弾を出すのが遅すぎたからな…タイミングが合っていたらそこそこやる連中でも喰らうかもしれないが…後は短槍術か棒術でも磨いてみたらどうかな?それで打ち合っている最中ならきっと決まるさ」

今のは奇襲的にやる以外なら突きの時に疑似的に得物を伸ばすかのような使い方をすべきである。

「まだやるか?」

「…詠唱無しで切れる手は全て切りました…ギブアップです…それと一応棒術は捕縛術ですが習っています…」

『佐倉選手ギブアップ!遠当ての使い手、佐倉選手を長谷川選手が見事に下しました!』

私はその宣言を聞き、鉄扇をしまうと観客達の歓声に応え、手を振るのであった。

 

 

 

第二試合はクー対真名、表の達人としては最強クラス、最近は気の存在を自覚する修行を積んでいるクーと、互いに把握している範疇でもうちのクラスで頭一つ抜けている真名…とはいえ銃使いであり、その代替に何を用いてくるか…ゆったりとした服装から暗器系の何かを仕込んでやがるだろうとは想像していたが、その答えは500円玉を用いた羅漢銭だった。

 試合開始と共に、クーの額に一撃、クーが派手に吹っ飛んだ…アー確かにクーの気の密度では後ろに飛んで衝撃を逃すしかないわなぁ…と、盛り上がる会場をよそに観察していたら、9カウントまで死んだふりをしていたクーが起き上がる。試合再開、そして羅漢銭の連打…。

「はは…気の強化が入っているとはいえ、下手な銃弾よりか威力あるだろう、アレ…なにが私を仕留めきる自信が無い、だ」

笑いながら観戦していると朝倉が真名の小遣いを心配し始める…そうか、ある程度はあとで回収できるにせよ、20連発で一万円か…。

 連弾の合間、しかしクーの身体能力では詰め切れない僅かな隙を瞬動術の様な歩法でクーは詰め、真名に接敵する…が

「あー」

それでも結局、羅漢銭を打ち上げてアゴに一撃、吹き飛ばされ、連打を喰らってしまった。

「…まあ、妥当な結末か」

「…であるな、クーが相性の良い武器を持ち込んでいるか、気を使いこなせるまでに至っていれば別であっただろうが…」

もう終わったつもりで楓とそう話し、真名が止めを刺そうとしたとき…

「くーふぇさん、しっかりーっ!」

ネギの叫びに伴い、クーは尻尾の様な飾り布だと思っていたそれを握って立ち上がり、真名の羅漢銭を弾いて見せ、そして真名をその長い布で捕まえた。

「…あれ、飾りじゃなくて鞭の類いかよ…」

「布槍術…であるな…クー、恐らく度忘れしておったでござるな」

「…馬鹿だな」

「クーは拙者と同じく、バカレンジャーの一員でござる」

なら仕方ない、と試合の様子をうかがう。当然というか、気をほぼ纏わせていない布にさほど強度があるわけもなく、真名の羅漢銭で拘束を解かれた。

しかし、今度はクーは巧みに布の槍を操って真名に拮抗していく…消耗する前に思い出せ、馬鹿!と心の中で突っ込みを入れていると、クーは左腕に強めの一撃を貰うのと引き換えに、真名の左手を捕り、引っ張る勢いでクロスカウンターに持ち込んだ。

「おっ…これは」

そして…クーは羅漢銭の至近射を喰らって膝をつき…直後、真名の服の背が吹き飛び、真名は倒れた…クーの勝利である…クロスカウンター直前にもらった一撃で左腕は折れていた様であるが。

 

 

 

真名の羅漢銭で穴だらけになった舞台の板の張替えが終わり、第三試合は楓と中村選手。まあ妥当に楓が勝ったが、中村選手、気弾の練りは一人前だった…楓の言うように、格闘技術を磨けばより高みを目指せるだろう。

 

 

第四試合、コタロー対クウネル・サンダース…結論から言うと、コタローはコテンパンに負けた…初手の瞬動を見切られ、その後も良い様にあしらわれる…その後の狗神を用いた戦闘は、なかなかいい攻撃が決まったかと思ったが…透過されているとしか思えない程、効いていない様子で…。

「千雨…あれは」

「…非実体のように見えるが格闘戦もしているし…訳が分からない」

「ふむ…実体化可能な幻影、と言うべきであるか…やり合ってみるのが一番ではあるが…」

「…そうなりそうだな」

と、獣化しそうになったコタローをクウネル選手が重力魔法らしきもので押しつぶして、勝利した。

 

 

 

第五試合、田中対グッドマン先輩は…うん、試合自体は…こう、まあ、グッドマン先輩が勝った…。田中のロケットパンチに拘束されて出力的に脱げビームでしかないレーザーに焼かれた後の乙女の一撃で、であるが…。それよりも、私にとって重要なのは聡美がシレっと解説席に現れて、田中の解説をしていた事である…終わったら迷彩でもかけたのか、すっと姿を消していたが。

 

 

 

そして第6試合…ネギ対高畑先生である。

「負けて元々だ、命懸けの決闘ってわけじゃないんだし、精々足掻いて見せるんだな。

顎をうち抜かれて一発KOぞろいだった予選会みたいな無様な真似にならなきゃお前の成長にも役立つだろうさ…全力は出し切れ、最後まで闘志を失うな…コタローみたいにな」

「ハ、ハイ、千雨さん」

「ふふ、ぼーや…私に負けたら最終日、丸一日デートという事は…私にあたる前に負けても同じくデートだという事を忘れるなよ、わかっているな?」

と、ネギを激励していると重役出勤してきたマスターが現れた。

「実力の差は歴然だが…とにかくぶつかってこい。千雨も言っていたように、どうせ試合だ、負けても死ぬわけじゃない…いいな?」

「はい、マスター」

「試合では、流れをつかむ事が重要です、実力差があっても最初の一撃を当てれば流れをつかめますよ」

「落ち着いて、相手を見るアル、そして…勝って来るつもりでやるアル、ネギ坊主」

「あ…ありがとうございます、刹那さん、クー老師」

と、ここで舞台の修理完了が告げられる

「行って来い、兄貴!」

「うん!」

「あ、ネギ、待って…あの…その…が…頑張って」

「ハイ!」

と、ネギは舞台に向かっていった。

 

そして、試合開始…ネギは魔力供給をし、恐らくは障壁を貼って…顎を守る様に瞬動で接敵…今朝の時点で成功率一割程度だった瞬動を見事にキメて…そこからさらに瞬動を成功させた。さらに、技後硬直の隙をつき、完全に格闘戦に入り、ついには魔法の矢の乗った一撃を喰らわせる事に成功した。

「そうだ、実力差のある相手に距離をおいても追い込まれ、じり貧になるだけだ、勝つつもりならばそれで正解だぞ、ぼーや。

恐れていては何もできん…あらゆる局面において重要となるのは、不安定な勝算に賭け、不確定な未来へと自らを投げ込める自己への信頼・一足の内面的跳躍…つまり【わずかな勇気】だ…なあ、千雨」

「…はい。ただ、まあ私は成功率1割の技を二連で決めるよりもマシな賭けができるように準備をしたいとは思いますが」

「ははは…まあ、貴様の臆病さによる躍進はそれだからな…しなければならん賭けが見えた時、修行を積み、自己への信頼を獲得しようとする…そういう卑屈なお前も嫌いではないぞ?恐れて足を竦め、ただ破滅に向かうタイプでもないしな」

と、マスターと話をしながら観戦していると、ネギはついに高畑先生に魔法の射手 収束 雷の矢を3本乗せた崩拳…雷華崩拳を喰らわせる事に成功し、高畑先生は吹っ飛んでいった。

「試合形式次第では、一本、ではあるが…」

「まあ、タカミチの事だ、無傷ではないにせよ、大してダメージはないだろうな」

「ケケ…デモ、アノガキノ全力ノ一撃ナンジャネーノカ、アレ」

チャチャゼロがそう言った時、高畑先生が水煙の中から現れる…まあ、ノーダメージではないにせよ、たいして効いていない様である。

「そうなるな…ここからどうするか」

「ふふ…精々足掻いて見せるといい、ぼーや」

場外で格闘戦を始めるネギと高畑先生…しかし、ネギはリング内に蹴り入れられて、不可視の拳圧による攻撃に滅多打ちにされる。

「あー私なら、アレは障壁張りながらランダム回避する位でしか対応できんなぁ…」

「まあ、そうだな…アレはよほど目が良くなければ頑強な障壁で防ぐか狙いを定めさせないか、そもそも打つ余裕を与えんのが対抗策だ」

そして、ネギは瞬動で距離を詰めようとする…が、高畑先生に足を引っかけられて転んだ。

「まあ、そうなるな」

そして、距離を取ろうとするが、今度は高畑先生の瞬動で距離を詰められ一撃を貰った。

 

「む…やはり、アレを出す気か」

ネギと高畑先生がしばし話し込んだ後、マスターがそう呟いた。

すると高畑先生は左腕に魔力、右腕に気を纏い…という所で私も理解する。

「見ておけ、千雨。あれが貴様の目指した頂の一つだ」

もはやマスターの言葉すら聞き流し、私は食い入るように高畑先生を見つめる。

高畑先生が両手に纏った力を合わせ合成した瞬間、凄まじい風圧が周囲を襲った。

「ああ…すげぇ…ははっ…あれが本物の咸卦法…究極技法と呼ばれるわけだ…」

研究しているからこそわかる、高畑先生が事も無げにやってのけた業に驚嘆の意を示す。

そして、その咸卦の気を纏って振り下ろされ拳圧の一撃はまるで大砲の着弾の様に舞台を抉った。

そこからはさらに一方的な展開となり…しばらくは回避を続けていたネギではあるが、ついに追い込まれ、風花・風障壁で一撃をしのぐも、足を止めた所で連撃を喰らって、ついに舞台に沈む事となった…

その姿は虫の息と朝倉が表現したくらい酷いもので、ルールを無視して朝倉が高畑先生の勝利を宣言してしまう程であった。しかし、声援と…恐らく高畑先生の言った何事かに答えるように、ネギは立ち上がり、闘志を見せた。

「…まだ立てる…立てはするが…どうする?ネギ…何か思いついたようだが」

「…ふむ…そのようだな…ちなみに、お前がぼーやならどうする、千雨」

「ン?ネギの立場と手札なら?…なんとか5矢以上、できれば今の最大らしい9矢での華崩拳のどれかか収束・魔法の射手を決めるしかないから…究極的には特攻だなぁ…遅延呪文を使えるなら二連撃でそれ決めると確実ではあるが…」

「…問題は、それをいかにして当てるかだな、どうする…ぼーや」

そんな話をしているとやはりネギは9矢の魔法の射手を発動させた…が、高畑先生の膝蹴りでキャンセルされ、水底に沈んだ。そして水底から現れたネギは改めて魔法の射手を発動しており、高畑先生に最後の勝負を挑み…高畑先生はそれを受け入れた。

「あ…これ計算に入ってなかった…行けるかも」

「…そりゃあ、ぼーやが何か思いつきましたと言わんばかりに勝負を投げかければ嬉々として受け入れるな、タカミチは」

そして…ネギは瞬動術で高畑先生に特攻をかまし、高畑先生の一撃を恐らく風花・風障壁で受け止め、体当たりと共に収束魔法の射手を喰らわせる事に成功した。煙が晴れると…魔法の射手9矢を纏ったネギが高畑先生の背を取って立っていた。そして…光属性の9矢を纏った止めの崩拳…桜華崩拳を決めた、決めやがった。

「なるほど…さっきの一度目の失敗はわざと…このためか」

「くっく…大当たりだな、千雨、遅延魔法を使いこなしおったぞ、あのぼーやめ」

マスターがうれしそうに笑う。

「が…あの出力の咸卦法の防御、抜ききれたかね?」

「まあそこは…微妙だな…まあタカミチの性格上、負けを認めるとは思うが」

そして、試合結果は…マスターの言ったとおり、高畑先生が負けを認めて10カウントが成立、ネギの勝利となった。

 

 

 




 完全に遊ばれる佐倉さんと遊んでいる千雨さん…魔力による身体強化込みで凡百の格闘家ならフツーに箒一本で勝ててしまう程度の棒術は修めている+魔法の射手の無詠唱でそこそこやれるからこその自身だったという事にしてあります、佐倉愛依ちゃん。彼女の歳なら十分どころか無茶苦茶強く、戦闘を生業としていない並の成人魔法使いよりは強いという設定。で、本当は楓が戦うより先に千雨ちゃんがアルにぶっ飛ばされる予定だったんですが、その様にすると、愛依ちゃん達が正体ばらした時にクーのお見舞いでネギがいないというギャグが発生したので…まあ、それはそれで別の問題も発生するんですが…どうしようという事で千雨ちゃんが楽しい事(楓が負けた後なので全力を出さざるを得ない)をする羽目になる方にしました。
 コタ君は、気絶から回復した直後にネギが勝った旨のアナウンスを聞いて逃げだした感じで原作沿い(


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44 麻帆良祭編 第4話 まほら武道会2 クウネル・サンダース

「少し、ぼーやに釘をさしてくる」

そう言ってマスターが選手席を立って救護室に向かった後、私は売店で少し飲食をして、トイレなどを済ませて選手席で舞台修復の様子を眺めながら今までの試合を思い出して考え事をしていた。

割と面倒な施術ではあるし、一発で数十mLの血液を消費するが…片腕にみっちりと施術すれば呪血紋で雷の斧クラスの魔法を無詠唱で撃てるのである。そして、それくらい威力が無いとクウネルとやらに透過される気がするのだ…正直、後々の弁明を考えたら派手な真似はしない方が良いかとか考えていたのではあるが…もう、高畑先生のやらかしを考えるとすごい今更感しかない。

しかし、同時に試合でそこまでする必要はあるのだろうかと言うのが悩み所で…。一応魔法使いタイプの様ではあるので偽・断罪の剣でヤる気で戦うという手もあるんだけど…?とりあえず、白き雷の底上げ用の呪血紋と偽・断罪の剣を正規版並みにまで威力を上げる呪血紋位は施術して試合に出るべきだろーかねぇ…。

 

 

 

と、考え事をしていると、あっという間に時間が過ぎ、第7試合、刹那とアスナである…が、その姿はメイド服だった…と言うか、それ位ハンデにならんのはわかるが、刹那の厚底サンダルは傍目には酷いハンデでもある。

『今大会の華、神楽坂選手に桜咲選手です!』

「ちょっと待った朝倉―ッ!」

と、様子をうかがっていると、どうやら公的な推し要素のない二人に対して、超からの指示であんな恰好をさせたらしい。そして、エヴァ曰く、アスナは本気で刹那に挑むつもりらしい…

「いや、ネギとペアでも届かんだろう、刹那には」

「確かにアスナでは無理アルなー」

「んー確かに厳しいでござるな、修行も頑張っているようでござるが…」

と、私、クー、楓の意見も一致する。

「フフ…そうとも限りませんよ」

そう言って現れたクウネル選手がアスナの頭を乱暴に撫でた。

「ちょちょちょっと、イキナリ何するんですかー!?」

「なっ…き…貴様はまさか…?」

エヴァがクウネル選手の正体に心当たりのありそうな反応をする。

それを意に介さず、クウネル選手は、かつての…麻帆良学園に転入してきた頃の人形のような、それでいて生意気なガキだったと聞くアスナを知っているような、そして高畑先生に預けられる前の保護者らしきガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグと言う名前を口にして、さらに続けた。その内容は…アスナが高畑先生と同じ事…つまり咸卦法が使える、しかも無意識下で、というモノであった。

「…確かに咸卦法はアスナみたいなタイプ向きではあるが…しかし、そんな容易くできるわけが…」

「ええ、確かに普通であればお嬢さんのおっしゃる通り…しかし、アスナさんにはできるのです」

「ど、どーゆー事ですか!?てゆーか、あなたいったい…!?」

「オ、オイ貴様!」

エヴァが怒り気味で口を挟んでくる。

「なぜ、貴様が今ここにいる!?私も奴も、お前の事も散々探していたのだぞ!?」

エヴァのその言葉にクウネル選手はクスっと笑ったような雰囲気を見せ、すっと姿をかき消した…縮地や転移の雰囲気じゃねぇし…やっぱ、こいつ、実体じゃねぇ、無理ゲーじゃねぇか。

「消えた!何者アルか、今の人!?」

「ぐ…バカな、今の今まで気づけんとは…しかしなぜ…?」

「エヴァ殿、今の御仁は…?」

「…奴はぼーやの父親の友人の一人だ、名をアル…」

と、エヴァがその名を口にしかけた時、クウネル選手が再び出現する…っていつぞやエヴァが酔った時に話してくれたサウザンドマスターの一行で、エヴァの古い知人だというアルビレオ・イマかよ、この人。

「【クウネル・サンダース】で結構ですよ、トーナメント表どおりクウネルとお呼びください」

そして、アルビレオ…いや、クウネルは今までどこで油を売っていたのか、なぜアスナの事を知っているのかと問い詰めるエヴァに、知らなかったならば暫くは秘密だとうさん臭い笑顔で答えた…チャチャゼロが言っていた、天敵という表現、本気だったのか…そして、クウネルはこう宣った。

「アスナさん、今あなたは力が欲しいのでしょう?ネギ君を守る為に。私が少しだけ力をお貸ししましょう、もう二度とあなたの前で誰かが死ぬことのないように」

 

その後、朝倉にせかされて刹那と明日菜は舞台に上がり第七試合がはじまった。

そしてその攻防は…確かに普段のアスナとは比べ物にならないだけの身体能力によって、一方的とは呼び難い…いや一応は拮抗していると呼べる状態であった。

「なぜだ!?なぜ神楽坂明日菜ごときにこれほどの身体能力が!?ただの体力バカでは説明がつかん」

「素直ニ驚キダナ」

「ああ」

「カモも知らねぇって事は…本当に咸卦法を…?」

「フフフ、その通り。あれはアスナさんが元から持っている力ですよ」

クウネルが再び出現し、そう言った。

「ぬぐっ貴様…出たり消えたり…はっ、そうか貴様、さっきあの女に何かしたな!?」

「まさか♪私は少しきっかけを与えただけですよ」

きっかけ…?咸卦法を使えるように…?つまり気の使い方を教えた…だけでは不可能であるし…忘れていた何かを思い出させた?いや、しかし…それはつまりアスナが幼少期より咸卦法を、つまりは気を使えたという事を意味するのであって…。

「どうです、エヴァンジェリン…古き友よ、一つ賭けをしませんか?」

そう言ってクウネルはエヴァに賭けを持ちかけた。クウネルの掛け金はアスナの情報で、アスナの勝ちに賭ける。そしてエヴァは当然刹那の勝ちに賭け…掛け金は次の試合にスク水で出場する事だった…ふざけているのかこいつ…いや、エヴァをからかって遊んでいるのか…?

「ネギ、ちゃんと見てなさいよ!」

アスナが唐突に選手席に向かって叫ぶ…が、ネギはいない。

「アスナさーん、こっちでーす、ちゃんと見ていますよー」

と、解説席隣からネギが答える。

「なんでそんなトコに居るのよ。と、とにかくしっかり見てなさいよ、私がちゃんとパートナーとしてあんたを守ってやれるって所を見せてやるわ!」

あ…馬鹿アスナめ。

「おおーっとこれは大胆、試合中に愛の告白かー!?」

そりゃあ、朝倉は事情を知りつつも拾うに決まっているのである。

「ちがーうっ」

と、そこでアスナは力が抜けたような様子になり…そして、左手に魔力を、右手に気を纏わせ…合成してみせた。

「バ…バカな…【気と魔力の合一】はタカミチも私の別荘で数年かけて修得したんだぞ!?千雨の様な紛い物にしてもそう簡単にいくものでは…」

「おや、そちらのお嬢さん、咸卦法をお使いになれるので?」

エヴァの言葉に私に話が飛んできた。

「厳密にはソレそのものではないですけれども…あなたにせよ楓にせよ、準決勝では出さざるを得ないでしょうから…楽しみにしておいてください」

「ふふ、では楽しみにしていますね…楽しみがまた一つ増えました」

「それよりも!なぜあの女が究極技法とも呼ばれる咸卦法を使える!?」

「ふふふ、なぜでしょうか」

「貴様っ!」

と言った間にも試合は進んでいるが、刹那は手を抜いてはいないが本気も出し切っておらず、ある種アスナの稽古の様な様相にさえ見えてきた。

「ええい、刹那!神楽坂明日菜程度に何を手間取っている!5秒で倒せ!いや、殺れ!」

「オチツケ御主人」

と、まあエヴァは気が気でない様ではあるが。

そこにクウネルはさらに掛け金の上乗せを持ちかける…掛け金はサウザンドマスターの情報に対して…猫耳と眼鏡とセーラー服の上半分だった…完全に遊ばれているな、エヴァ…。

そこから次第にアスナの動きにキレが増していき、練習で見る技量では考えられない動きを発揮し、一度は刹那に背に土をつけて見せ、その後も刹那を次第に押し始めた。

しかし、それはクウネルが念話で助言をしていたらしく、エヴァが駄々っ子の様に暴れるわ、刹那が負けたら辱めを与えるとか脅すわ…非常に面白い事態になった。

そして決着は…あっけない物だった。奥義を解禁した刹那の動きに、アスナのアーティファクトが仮契約カード通りの刀剣に変化、刹那のモップを真っ二つに切断し…止めの袈裟斬りを投げ飛ばされた後、刀剣の使用でアスナが反則負けとなった。

「勝ったかー」

それに対して、エヴァは、心底安心したような声でそう言った。

 

「ふ…ふふははははははは!どうだ、見たか!賭けだろうが何だろうが、私に勝とうなどとゆーのが愚かなのだ!」

との、エヴァの言葉に対して

「ええ、私も久しぶりにあなたの慌てふためく姿を堪能できて満足です」

とのクウネルの完全に遊んでいました宣言が出た。その後、ネタ晴らし…賭けなど無くても情報は渡すとまで宣い…賭けの成果…でもないが、詳しい情報は学園祭後に、と言う話になった…が、端的に、とサウザンドマスターはこの世界のどこかで生きてはいる、という事を保証し、しかし、エヴァが求めたナギ・スプリングフィールドに再会できる事はないかもしれない…と言った内容をエヴァに話した。そして…大会中は、クウネルの事とサウザンドマスターの事はネギには内緒だと口止めをした。

 

 

 

第八試合、エヴァ対山下選手…は一撃で終了した。当然、エヴァの勝ちである。

そして20分の休憩が宣言され、私は中央スクリーンで始まった試合のダイジェスト映像を尻目に、トイレなどの諸々を済ませるのと、呪血紋の施術並びに咸卦の呪法の活性化の為に選手席を一度離れる事にした。

 

『ちうさまー動画流出しちゃってますけれどいいんですかー』

諸々を終えて控室でノートPCから異常がないかの報告を求めた時、こんなチャットがポップアップして来た。

『どうした』

と、事情を聴くと、この大会の動画が恐らく大会側から流出しているらしきことを報告された…まあ当然放置である。

『何もせんでいい。あと、今の会話ログ、消去しておけ』

『了解しましたー』

という事にして私は選手席に戻る事にした。

 

 

 

第九試合は私対クー…であるが、クーの負傷により、不戦勝となった。

第十試合は楓対クウネル…試合開始と共にクウネルの重力魔法が炸裂、しかし楓は影分身を残し離脱していた様で、4体の楓が十字を描くようにクウネルの障壁を破壊して掌打を与える…がノーダメージ、影分身を生かした格闘戦で一撃を与えたように見えたがやはりすり抜ける…次、私がアレの相手するんだが…無理ゲーじゃねぇか。しかし、直後、気弾の攻撃で楓がクウネルを舞台に叩きつける…魔力や気が相応にあれば一応攻撃は効く…のか?

そこから観客席上などを舞台とした格闘戦、そしてクウネルが浮遊術で距離を取り、5つの黒球を成して楓を押しつぶそうとした…が、楓は辛うじて虚空瞬動で離脱した。すると、クウネルは仮契約カードを取り出し、本がクウネルを取り囲む様なアーティファクトを出現させる。楓がそれを止めんと影分身を出現させて攻撃を仕掛けるが、それより早く、クウネルは己を取り囲む本の中から一冊をつかみ、栞を挟んで引き抜いた。そこに楓の気弾が殺到するが…楓は一蹴され、本体の首を掴まれ、舞台に叩きつけられたようである…

「今のは…そうか、そうだった…奴のアーティファクトの効果…そういう事か」

エヴァが訳知り顔で口走る。

「千雨、お前の事だから、観客相手に優勢と思い込ませて、メール投票での逃げ切りとか考えているだろう?」

「…ああ、そのつもりだったけど…」

というか、楓の試合を見るまでそれが唯一の勝算だったし。

「それは却下だ、負けても構わんから奴とはガチでやれ、師匠命令だ」

「…それは…ネギと今の…クウネルのネギの親父らしき姿を戦わせる為か?あとその余禄狙いと」

「…大体はそういう事だ、まあ姉弟子が奇跡を起こすか、弟弟子が不甲斐なければそうはならんだろうが…な」

「はぁ…了解、マスター、せいぜいクウネルの胸を借りてくるよ…まあ、一応勝つ気ではやるがな…」

私はそう言って、ため息をついた…痛い思いはできるだけ避けたかったんだがなぁ…

土煙が晴れた後、楓がギブアップをしたのはそれとほぼ同時の事だった。

 

 

 

 




敗退前にアーティファクトを見て色々悟ったエヴァちん。まあ、そうなるよね、と色々とバタフライエフェクトが…


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45 麻帆良祭編 第5話 まほら武道会3 刹那の選択と千雨の奮闘

第十一試合、ネギ対グッドマン先輩、グッドマン先輩はネギの緩んだ勤務態度に愛の鞭を与えるつもりでの全力モードで挑んだ。確かに、打撃自動防御と影の手による攻撃は格闘家には無類の強さを誇るのだろうが…悲しきかな、ネギは魔法拳士であり…打撃を捨てたゼロ距離の魔法の射手でノックアウト…で、服まで丸っと使い魔だったらしいグッドマン先輩は脱げた、全裸まで…ネギからローブを受け取ったグッドマン先輩は、控室に籠ってしまった。

「コラーネギッ!あんた何やってんのよ、また脱がしちゃってーっ!」

「はわ、いえっ、脱げたのは僕のせいじゃ…」

「言い訳しないっ、大体女の人相手に本気出して、英国紳士はどこ行ったのよっ!」

「別に弄ったりオーバーキルかましたりしたわけじゃねーし良いじゃねえか、アスナ」

「むっ、千雨ちゃん!」

「そうだ、千雨の言う通り。それが私の教えだ、口出しするな、神楽坂明日菜。自ら戦う意思をもって戦いの場に立った以上、女も子供も男もない、それは等しく戦士だ。戦いの手を緩める理由は存在しない…それはお前も例外ではないぞ、神楽坂明日菜…こちらの世界に首を突っ込み続けるつもりならなおさらな」

「う…エヴァちゃん…そんな事言って…」

「しかし、確かにその通りですね」

「あ、刹那さんまで…」

「とにかく、女の子には優しくしなきゃダメッ!そこん所はコタロー君を見習いなさいっ」

まー日常の理論ではそうなんだが…

「は、はい」

「コラ、ソコのバカ、話を聞いていたのか。人の弟子に勝手なコトを吹き込むな」

まーそれでネギが重傷でも負ったらどんな顔するんだろうね、アスナの奴は。

 

 

 

第十二試合、エヴァ対刹那、緒戦はエヴァが合気鉄扇術と糸術とで押していたが何やら交わしていた会話内容にアスナがブチ切れて、恐らく外野がうるさいからと幻想空間に戦場を移した。ネギたちが覗き見に行くというので、私もネギの肩に手を乗せ、ご一緒させてもらう事にした。

 

 幻想空間の舞台はエヴァの別荘で、刹那は翼を出して必死そうに勝っていた…

「うっへ…マスター、全開モードじゃねーか…」

「ケケ…御主人タノシソーダナ」

「つーか、何だよこりゃ、まるで戦だよ」

そんな話をしながら戦いを続ける…マスターが遊んでいるにせよ、戦いが続いている…二人に私達は接近していった。

 

「刹那さん!」

「刹那さーん!」

「ネギ先生!アスナさん!?」

「やれやれ、ここまで追って来たか、手を出すなよ、ガキども!尋常の勝負だ!

今の一撃、よくぞ耐えたな、だが次は耐えられまい。これが最後だ、刹那!」

とのマスターの宣言、しかし刹那は見事に巨大な雷鳴剣でマスターを迎撃して見せた。

そして…刹那は私達…いや、ネギ達の方を見て、宣言した。

「…エヴァンジェリンさん、剣も…幸福も…どちらも選んではいけないでしょうか?」

あーいつぞや、マスターにやられた二択を迫られていたのか、刹那の奴…内容は私のより重いが。

「何?…どちらも…?」

「はい、私…剣も…幸福も…どちらもあきらめません!」

「フ…剣と…幸福…どちらもか」

「…はい、どちらも」

 

「ホザけ、ガキが!甘ったれの貴様にそれができるのか!」

 

マスターの一喝…私の時は最後通告のような殺気…とその後の地獄の扱き、だったかな?これに刹那は…

「…はい」

耐えた。耐えきって見せた。

「…ふっ…はっはっはっはっは…精神は肉体に影響を受ける…ガキの姿のまま不死となった私は他の化け物どもよりも若いつもりなんだがな…お前たちといると、本当に年を実感するよ」

そう言ってマスターはちらりと私の方を見た。

「…私の言霊にも動ぜん所を見れば口先だけではないようだな…そういえば、何で峰打ちなんだ、貴様」

「えっ…いえ、その、ルールですから…」

「フフ…それは面白いな…よかろう、お前の意志の力の程を見せてみろ」

それに刹那は一度瞳を閉じ、そして再び開いて答えた。

「はい」

そして…マスターの断罪の剣と刹那の奥義が激突した。

 

直後、私達は実空間に回帰、マスターの幻術が敗れたようだ。そして、刹那の一閃が決まり、マスターは吹っ飛ばされ、マスターは幻術を打ち破った事を褒め称えギブアップを宣言した。

で、刹那はマスターの言う所の非常にポジティブな勘違い…自分を導いてくれたという認識を示し、マスターに感謝の意まで示し始めた…いや、まあその結末もアリとは思っていただろうが、マスターのいう通り、何方かを捨てさせる事になるという見解の元やったんだと思うぞ?

そしてアスナが刹那の羽の意味も知っている事をマスターに伝え、ネギが追認した…そういえばしたな、修学旅行の後にそんな話。それにマスターは大笑いして…あばらが数本やられたらしいと言い出した…うん、今のその体だとヤバかろうに。

 

10分の休憩時間の間に、エヴァの診断と応急手当は終わり、ひびが入っているが折れてはいない様である、との事だった。

「マスター、ケガは大丈夫ですか?」

「心配いらん、放っておけ。世界樹の魔力が学園にあふれるからな、明日には完治する…グっ…あたたた」

「マスター!」

「自業自得よ」

「フン…」

「エヴァンジェリンさん、よろしいですか?」

と、やり取りをしていると、刹那が口を開き、舞台上ないし私達が追う前の幻想空間でしていたらしい会話の追及を始めた。曰く、生まれつき不幸を背負った刹那には共感を覚えると言った、つまりエヴァも不幸を背負っていたという事ではないのか、自らの境遇と刹那の境遇を重ねて、あんな形で助言をしたのではないか、と。アスナがそれに乗り、刹那に酷い事を言った(らしい)事は許していない、と言うがマスターはそれに対して自身は悪い魔法使いだ、許さんでいいと言うが…アスナとネギが過去話に興味を示し、刹那まで私が勝ったのだから昔話位…と言う流れになった。

「わかった、わかった、良いだろう…ただし、簡単にだぞ…ただし、ぼーやはダメだ」

と、ネギとカモは追い出されてしまった。

「さて、それじゃあ私も行くよ、次は試合だしな」

「えっ、千雨ちゃんは聞いて行かないの?」

「ん?エヴァが真祖になった経緯と略歴だろ?それは知っているし…私がいるといらん口を挟みそうだしな」

「ああ、貴様には晩酌の相手をさせた時に話してやった事があったな、色々と…まあ、長話をするつもりはないし、観戦にはいってやれると思うが、先に言っておこう、最善を尽くせ」

「はいよ、マスター…奇跡が起きて勝っちまったらごめんな?」

そう言って、私は臨時救護室を後にした。

 

 

 

第十三試合、私対クウネル…まあさっきはマスターにああ言ったが、楓との戦いを見るに、メール投票作戦で勝率3割と言った所だったのであるが…あのアーティファクトなしの場合で…うん、完全無理ゲー、しかし真面目にやれとの師匠命令も出ているので、まあ真面目にやろう。

『さあ、常識を超えた白熱の試合が繰り広げられております今大会!いよいよ準決勝を迎えます!長谷川千雨選手対クウネル・サンダース選手ー!』

朝倉のアナウンスの下、私とクウネルは開始線に向かい、歩いてゆく。

『古菲選手の棄権によって上がってきました長谷川選手、その実力は無手にてウルティマホラ準優勝という実績が示しております。しかも本日は本来の得物である鉄扇を携えての出場です!

対するは底知れぬ強さを見せつけるクウネル選手! 分身の使い手、長瀬選手を不思議な力で下してのベスト4進出、顔が見えないフードが未だ不気味だ!さあどんな試合になるのか!?』

「おや…着物のままでよかったのですか?」

「ええ…これより動きやすいとなると制服しか無くて…華が無いでしょう?」

「いえ、その着物も素敵ですが、やはり女子中学生は制服と言うのが王道では?」

「あはは…まあ、あなたならそう言いますか…勝てる気はしないですが…精々、奇跡を目指して足掻かせてもらいます!」

「はい、楽しみにしています」

『それでは…準決勝第13試合…』

と、咸卦の呪法に気と魔力を流し始める。

『Fight!』

「ほう…それが?」

「ええ…似て非なる物ですが…咸卦の呪法と呼ばせてもらっています」

「なるほど…では…行きますよっ」

重力魔法の発動寸前、縮地でクウネルを左に見る様に跳躍し、あいさつ代わりにと魔法の射手位の気弾を飛ばし、瞬動で離脱する。直後、私のいた位置を二発目の重力魔法が襲い、気弾はあっさりと弾かれる。さらに跳躍し、近接戦を挑んでみる。

「ふむ、気配の薄さはともかく、すばしっこいですね」

「ええ、それだけが取り柄でね!」

多少喰らいついては見せるが、やはり有効打が透過されると競り負けてしまうと、距離を取る。

「フフ…紛い物とは言いますが、アスナさんの物よりは遥かに高出力じゃないですか」

「あはは…素人…と言うか幼少期ぶりに思い出したっぽいアスナに負けるほどではないですよ…これでもマスターの別荘も併用して2年以上修行と開発をしてきている技法ですので」

「おや…貴女もエヴァンジェリンの弟子でしたか…」

「ええ…ネギの姉弟子にあたります」

と、会話をしながら糸術で操った両手の呪血紋の末端をそれぞれ血管に突き刺す

「しかし、なぜアスナさんが思い出した、と?」

「簡単な事ですよ、咸卦法はそんなに簡単な技法ではない、と身をもって知っているだけの事…です!」

と、咸卦の呪法に流す気と魔力の密度を上げ、咸卦の気を気弾の様に左手で練りながら瞬動で突貫する。

「おおっと…っ」

ある意味、意図的に暴走させた咸卦の気であるその気弾は放った瞬間目くらましの様に弾ける。私は虚空瞬動で軌道を変更し、クウネルを左手に見るようにして通り抜ける。

 

白き雷

 

ドクンと陣が鼓動し、血を空中にまき散らしながら左手は威力の上がった白き雷を放つ。

さらにそこから虚空舞踏で向きを変えながら虚空瞬動…クウネルの後ろをとる。

 

偽・断罪の剣・エンハンスド

 

右手の紋が鼓動し、真っ赤な断罪の剣が鉄扇から伸びて形成される…一閃…手ごたえは…ない

 

「なるほど、やりますね…その呪紋もなかなかに興味深い…外法の類いの様ですが」

煙の中から現れたクウネルは、やはり無傷で飄々としていた…

『おおっと、長谷川選手、手から雷を放ったぁぁぁそして鉄扇に纏うようにエネルギーソードか、これは!判定員の判定は…セーフ、刃物ではありません!』

「ふふっ…術式補助の魔法陣に、術者の血って割とよくある組み合わせでしょう?」

そう言いながら断罪の剣は解除しておく…ゆっくりとではあるが鼓動を続けるので、コレ。

「…そう言われると普通に思えますが、鼓動して次の血を自動供給するとなれば話は別ですよ?血もかなり魔素汚染されるようですし」

「あはは…で、どうでした?」

「ええ、ヒヤリとはしましたよ?直前まで魔法を一切使わなかったという点も含めて…エヴァンジェリンの弟子という事で糸術で何かをしていると気付かなければ、届いていたかもしれませんねぇ…まあ、予備も用意してありますが」

と、暗にこの分身を消されても問題ないと宣うクウネルであった。

「…残機有りですか」

「フフ…ではこちらから行きますよ!」

その言葉に、私は空に舞い、ランダム機動に入る。直後、私のいた場所が押しつぶされ、続いて機動の余地を潰すように小さめとはいえ、重力魔法の黒球が次々に出現しては降ってくる。

「ぐっ…」

 

収束・魔法の射手 光の7矢

 

虚空瞬動による機動を続けながら無詠唱の魔法の射手を溜めて放つが…展開された魔法障壁があっさりとそれを弾く…やっぱり不意を突くか至近でないと魔法の射手如きでは障壁すら無理か。

 

「おや、持ちますね、反撃の余地すらあるとは」

「そろそろ…きついんですけど…ねっ!」

 

拡散・白き雷

 

偽・断罪の剣・エンハンスド

 

白き雷を放って黒球に干渉し、できた回廊を断罪の剣を盾に一気に跳躍し…舞台上に着地した。

 

「ふむ…やはり、貴方もこれを使わねばなりませんかね」

そう言いながら空に舞うクウネルは仮契約カードを取り出した。

「…最初からそうしないという事は、やはり時間制限か何かが?」

「それは、ご想像にお任せします」

と、信用ならない笑顔でにこりと笑ってクウネルはアーティファクトを展開し…先ほどと同様に一冊の本を掴んで栞を挟み、引き抜いた…ならば逃げ切るまでと再び空に舞い、回避運動に入る私…だったが巧みな機動と無数の魔法の射手による射撃との組み合わせに追い詰められ…何十回目かの跳躍の直後、白き雷らしき…しかし白き雷らしからぬ強力な魔法の直撃を喰らって私の意識は僅かな間、途絶えた。

 

「がぁ」

私は蹴り降ろされた衝撃で意識を取り戻し、とっさに咸卦の気を最大出力で纏い、肘や背で空を弾いて落下速度を殺す…がそれでもなお強烈な衝撃で舞台に叩きつけられ…そこに、雷の斧らしき魔法が緊急展開した障壁を貫いて直撃…私は意識を完全に飛ばした。

 




幻想空間はチャチャゼロがついて行けた辺りから行けっだろうと千雨ちゃんもご一緒しました。
 まあ、さすがにクウネル相手に粘るのはともかく、ナギさん相手は無理って事で…生きているんですかね?これ(生きています


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46 麻帆良祭編 第6話 まほら武道会終幕…そして逃走劇へ

…私が意識を取り戻したのは臨時救護室のベッドの上だった。

「あ…よかった…千雨さん」

私の側には聡美がいて、手を握ってくれていたようだ。

「聡美…えっと…ごめん、心配かけた」

「無理はしちゃダメって言いましたよねー」

「えっと…無理はしてないぞ?…無茶はいっぱいしたけど」

「むー、アレくらい千雨さん的には無茶で済むんでしょうけどーまあ、千雨さんの出場を押していた私の責任が無いとも言いませんしー複雑ですけれど、そっちはまあいいですーそれよりも何ですかぁ?この血の魔法陣」

と、いつの間にか血管からは外されているが、まだ中に血の残っている呪血紋をべしべしされる。

「あっ…これは…その…」

すっかり忘れていたが、呪血紋も咸卦の呪法も、と言うか糸の魔法陣埋め込んでいる事自体、聡美には秘密にしてあったんだ…

「もーうっかりさんですねぇ、千雨さん。こう…心配ですけれどーうぬぼれでなければ私を守りたくて開発した無茶、の一つなんでしょう?」

「うん…私の手が届く範囲を守りたくて作った…そして、その一番は聡美だよ」

「ですからあんまり怒れないなーって…エヴァさんから外法としか呼べない術式と聞いても」

「…個人的には、エヴァに吸血されている事に比べたら安全かつ合理的に設計したつもりなんだけどな…」

「…時間もないですしーその辺りの追及は全部終わってからにしますーと言う訳で…私はそろそろドロンしないといけませんので…失礼します」

 

そう言って、聡美は私のおでこにキスをした。

 

「ではまたー」

「うん、気をつけてな」

 

そう言って、私は聡美を見送った。

 

 

 

入れ替わりに入ってきた救護スタッフの人に状況を聞くと、気を失った私は気絶を確認されて私の負けが確定、救護室に運ばれた私は数十分ほど寝ていた様で…まもなく、決勝戦が始まるらしい。そして、私自身、怪我は…小さい傷や電撃の火傷はあるにせよ、大した怪我はしていないとの事だ…まあ、紛い物でも咸卦の気は伊達じゃない、という事だろうか。

いつでも出ていいが休みたければ休んでいても良いと言って救護スタッフの人が退出した後、ボロボロの着物を脱いで自身に治癒をかけて細かな傷と火傷を治療し、制服に着替えた。そして、簡易防音を突き抜けて聞こえてくる歓声が、決勝戦の開始を知らせてくる。

「っと、急がないと」

そう呟き、私は舞台へと急いだ。

 

 

 

そして舞台に着いた私が目撃したのは…サウザンドマスターらしき男にデコピンでふっ飛ばされるネギだった。

「…あれが…ネギの親父?」

「そうだ、あれがネギの父、ナギ・スプリングフィールド…の完全な再現だ、一度きりの…な」

「それがあのアーティファクトの能力…か?」

「そういう事だな…」

エヴァはそう言いながら、ものすごくソワソワしている。

「…で、試合が終わったらエヴァもお零れに与る、と」

「まあ…そういう事だ」

ふんっと鼻を鳴らすエヴァ…ネギはほっぺをムニムニと引き延ばされて可愛がられている。そして、ネギは頭を撫でられ、ナギが縮地で距離を取って構えを取り、続いてネギも構えをとった。そして戦い…と言うよりは稽古がはじまった…それでも、まあ並の使い手では一蹴されてしまうであろう位ではあるし、麻帆良湖に巨大な水柱が立つような一撃も放たれていたが…そして…10カウントと同時にナギはネギに手を差し伸べて、ネギを立ち上がらせた。

 

「…もうよかろう」

試合終了後も少しの間、親子の会話を黙って聞いていたらしいエヴァだが、そう呟いて立ち上がり、舞台に向かって歩み始める。

「ナギ!」

エヴァがそう叫ぶと、ナギも手を上げて反応を示した。そして少しの間会話を交わし…ナギはエヴァの頭を優しくなでた。そしてナギが光に包まれる…時間だろう。そして、ナギの姿が消え、クウネルに戻ると、エヴァは回し蹴りをかました…あばら、大丈夫だろうか。

そして涙を流すネギ…まあ…私にはかける言葉が無いし…その権利もない…と言うか、アスナのバカはどこに言った、こういう時に黙って抱きしめてやるか何かするのがてめぇの仕事だろうに…などと考えていると超が朝倉の隣に現れており、朝倉が授与式を始めると宣言した。

 

 

 

一応、3位タイである私も壇上に登り、超の言葉を聞く。超は個々の試合を上げて褒め称え、優勝者の技量は世界最強と言っても過言ではなく、大会主催者として非常に満足している旨を述べた…そしてこう締めくくった。

「尚、あまりに高レベルな…或いは非現実的な試合内容のため、大会側のやらせではないかとする向きもあるようだが…真偽の判断は皆様に任せるネ。選手及び観客の皆様、ありがとう!またの機会に会おう!」

そう、それでいい…真実であると主張するよりも、その様に仄めかす方が興味を引き…受け入れやすくもある。

 

そうしてクウネルに賞金授与のセレモニーが行われ…ている最中にマスコミたちが殺到してきた…せめて、授与式おわるまで待て、アホども。しかし、クウネルは賞金のシンボル板と共に消え去り、マスコミの矛先がネギに向く。それを朝倉が庇った隙にネギは逃亡した。

「刹那、私達も姿を消すぞ」

「そうだな…ではまた」

そう言い合って、次に矛先が向きかねない私達もその場を離脱した。

 

 

 

私は眼鏡を外して髪型を変えるという雑な変装をして適当な喫茶店に入り、この後、夕方のクラスの仕事まで暇なのでその間どうするかを考えていた。その結果、茶々丸がそろそろ当番の時間であるはずである茶道部の野点にでも参加して、その後は別荘に行って今日の反省点の検討などをすると決めた。そして喫茶店の支払いを済ませ、私は茶道部の野点会場である日本庭園に向かった。

 

 

 

「茶々丸ーいるかー」

顔見知りの茶道部員に茶々丸の居場所を聞いて、ここにいると言われた庵をノックし、扉を開けた。

「あ、千雨さん」

「おっと、ネギも来ていたのか」

扉を開けると、そこにはちょうど着付けを終えたらしいネギがいた。

「千雨さんも野点に参加しに?」

「ああ…すまんが着物貸してくれるか?茶々丸」

「はい、もちろんです、千雨さん」

という事で、私は茶々丸に貸してもらった着物に着替えた。

 

外に出ると、委員長をはじめとした3-Aの面子が10名ほど待っていた。

この面子で野点となると静粛に進むのだろうか…と心配していたが、ちゃんと静かに進んだ…柿崎が逆・光源氏計画とか言い出すまでは。

そこからは桜子を筆頭に、こぞってネギにお茶を飲ませ始めるわ、委員長がお茶をこぼして期せずして色仕掛けちっくになったのを真似していとして借り物の衣装にお茶をこぼしては色仕掛けをしかけ始めた。

「いー加減にしやがれ、てめーらーっ、それ借りもんの衣装だって忘れてねぇだろうな!」

「あ…そうだった」

「ごめん、茶々丸さん」

「あ…いえ…洗いやすい素材でできていますので…その、何とかなりますので」

と、とりあえずは暴走の雰囲気は収まりを見せた。

「それはそうと、ネギ君、これから大変かもよーあんなにすごい試合だったんだもん、取材とか沢山きちゃうかも」

「うんうん、おまけに天才子供先生だもんねー話題性たっぷり、ファンクラブとかできちゃったりして」

「マスコミ来たら逃げた方がいいよ」

「うん、学祭中に捕まったら何もできなくなっちゃうかも」

「ええっ、それはこまります」

「まーいざとなったら千雨ちゃんを盾にして逃げちゃえ」

「おい、マテコラ桜子」

流石に聞き捨てならんと突っ込みを入れる。

「そんな事よりも、大事なのは…お父様の事です、ネギ先生」

そう切り出し、委員長がネギの父親捜しへの助力を申し出て、他の連中もそれに続いた…ああ、そう言えば喫茶店で武道大会の記事を流し読みした時にそこらへんの記述もあったな…超の奴がその辺りバラしたんだろう。

 

「あっ、いたぞ!」「ネギ選手―ッ」「あ、長谷川選手もいるぞ!」

「げっ、マスコミ」

「マジで来た!?」

「逃げろ、ネギ君、ここは私達が食い止める」

「ハ、ハイ」

「ほら、千雨ちゃんも逃げて逃げて」

「ん、それじゃあお言葉に甘えて」

「ネギ先生、千雨さん、こっちです」

と、私とネギはクラスメイト達の尽力と茶々丸の導きにより、マスコミの追跡を振り切る事に成功した。

 

 

 

和装を解いた私達は暫しの間、一緒に学園祭を見て回る事にした。

「で、どうだったネギ、過去の記録とはいえ、親父に稽古つけてもらってさ」

「…はい、すごく嬉しかったですし…だからこそ、僕には父さんを追う事しか無いって思いこんでしまいました…さっきの皆さんやアスナさん達…もちろん千雨さんや茶々丸さん、マスターも含めて…僕の事を真剣に考えてくれる人がいるのに僕、また自分の事しか考えていなくて…」

いや、まあ、気にはかけてはいるつもりだが、さっきの委員長やアスナと同列扱いされると…こう、心が痛む。

「…僕にはみんながいるし、先生の仕事だってある。先生の仕事もしっかりやって、マギステル・マギになる!そう決めていたんでした、強くなるだけじゃなく…」

そして、ネギは顔を上げて宣言した。

「そうして…その上でやっぱり…僕はあなたの跡を追わせてもらいます、父さん」

 

そして、ネギが手洗いから帰ってくるのを、私と茶々丸はカフェで待っていた。

「さて、この後どうするかだが…せっかくだし、約束していた髪飾りでも見に行くか?バザーの方に行って」

「はい、千雨さんとネギ先生がよろしければ…ええと、それと…その、千雨さんのされているペンダントですが…ハカセもされていましたよね?」

「ああ、この前、二人で別荘を借りた日にお揃いで買った、なかなか綺麗だろう?」

「ええ…素敵で…お二人にはお似合いだとは思います…紫のスミレ」

「ありがとう、茶々丸…そうだ、せっかくだし、お前も髪飾り以外にも何かアクセサリーでも買ったらどうだ?ネギとお揃いで」

と、いらぬおせっかいと言うか、親心を出してしまう。

「ね、ネギ先生とですか!?」

「ああ、今日の記念にって言えば乗ってくれるんじゃないかね、ネギの奴も」

「僕がどうかしましたか?」

ひょこりと戻ってきたネギが顔を出す。

「あーいや、バザーにでも行って、茶々丸の髪飾りでも買おうかって話をしていてな。それで、他のアクセサリーも見るなら今日の記念にお揃いの何かを買ってもいいかなって話をしていたんだ」

「なるほど、気に入ったものがあれば良いかもしれませんね、記念の品を買うと言うのも。あ…そういえばいいんちょさん達、大丈夫かな?僕たちを逃がしてくれて…」

「まあ、大丈夫だろう、マスコミたちもあいつ等にかかわっているより、私達を追うだろうし」

「そうですね、じゃあ行きましょう、バザーですよね」

「ああ、そうだけど…適当に気持ちを整理する時間はとれよ?マスターの別荘やタイムマシンでも使って…なんなら私達は【次】でもいいぞ?」

「あ…ありがとうございます、千雨さん。でも、大丈夫ですよ、みんなのおかげでちょっと…吹っ切れましたから」

「吹っ切れたって…親父さんの事か?」

「はい」

そんなわけあるか、と思った私はネギに拳骨をかます。そして、混乱するネギに言った。

「やかましい、んな簡単に吹っ切れる分けねぇだろ、特に、お前が親父さん関係の事で。ただでさえ、吹っ切れた、悟ったなんてのは大抵が勘違いだ、人間そんなに簡単に変われるもんじゃねぇ。しかも…お前にとって親父さんの事は人生の最大の目標…の一つだ、少なくともな、違うか?…そーいうデカイ悩みなら吹っ切るな、胸に抱えて進め…以上だ」

ネギが衝撃を受けたような顔をしている…いや、研究だってそうだぞ?曖昧な事柄を曖昧なまま受け入れ、かつそれを思索対象にし続けるという態度は。

「…なんだ、茶々丸」

「い、いえ、何でもありません」

「ま、そういう事だから…ちゃんと自分と向き合う時間はとる様に」

「は、はい、ちうさん」

ちう呼びかよ、と突っ込みを入れようとした時にマスコミ達が追い付いてきた。

「ネギ選手発見―ッ!」

「げっ…出入口あそこだけだってのに…」

そしてあれよあれよという間にマスコミに取り囲まれてしまった。

 

「ネギ先生、行きますよ!」

マスコミの怒涛の質問で答える暇もなく煽られているが、すぐに餌食になると、私はネギの手を掴み、バルコニーの際に連れてくる。

「いくぞ」

と、二人に声をかけて手すりを飛び越え、ネギと茶々丸がそれに続く…この喫茶店が先払いの店でよかった。

 

その後も、サインを求める一般人、弟子入り志願して来る格闘家、そしてマスコミ達から逃げ回り続けた。

「はぁ…思っていたより話題になっているな」

「はううう…学園中、どこにもいる場所が無いですよー」

「と、とりあえず、アレに乗って休むか」

観覧車を指して私はそう言った。

「な、なるほど、あそこまではマスコミさん達も追ってこられませんね」

と、ネギも同意をした。

 

「ふーこれでようやく一息つけたな」

「ええ」

「あの、さっきの千雨さんの言葉の意味なんですが…」

「ん?」

「いえ、さっき【デカイ悩みなら吹っ切るな】って」

「あ、ああ。別に大したことじゃねぇよ…ネギにとって大きな問題なら慌てて答えを出す必要はない…ってだけの事だよ…一応の、仮の答えでもあるいは答えを出さなくても前には進める、そうして進みながら考え続けるといいさ」

「なるほど…そうですね。そっか…さすがちうさんです…」

と、ネギが急にふらふらとし始めた。

「一息ついて魔力の使い過ぎの症状が出てきたか…少し休め、ネギ」

「そうですね、大会で限界近くまで魔力を使ったのです、少し休まれた方が良いかと」

「ハ、ハイ」

私と茶々丸の勧めにそう答えたネギは電池が切れたように茶々丸の膝に倒れこみ、眠り始めた。

「随分あっさりぶっ倒れたな…まあ無理もないか」

「ええそうですね…今日は先生、とっても頑張りましたから…少し寝かせてあげましょう」

「ああ…」

 

「お母様は…中立でしたよね、今回の計画」

「ああ、そうだな…そういうお前は…電子戦担当で参加って所か?」

「はい…その通りです」

そう答えて、茶々丸はネギの頭を優しくなでた。

「…私が言うのもなんだが…それでいいのか?それはネギと対立する道になるぞ」

「…いいのです…ハカセと超が望み…貴女も陰ながら協力する計画…そして私自身もコレが世界の為になると計算します…それに、ハカセも超も命令してくださいましたから」

「…そっか…なら…私から言う事はないよ、茶々丸」

そして、私は茶々丸に微笑んだ。

 

「ん…?げっ、しくじった、下見ろ下!」

「んー…?どうされました…」

私の上げた声にネギが眼を擦りながら起きてくる。

「マスコミの山だぞ、バレてたんだ…こりゃ降りたらもみくちゃで今日一日丸つぶれかもなー」

「わわ?」

「考えてみると観覧車は袋のネズミでしたね」

「ち、千雨さんが乗ろうって言ったんですよ、どうするんですかーっ」

「…私一人なら縮地で逃げるがネギ連れてとなると…」

「わ、私が蹴散らしましょうか?ビームで」

「やめろ!くっ…エヴァみたいな幻術が使えたら…」

「ぼ、僕も幻術はまだ使えませんよぉ…あ…そうだ、年齢詐称飴」

そう言ってネギは赤い飴と青い飴の入った瓶を取り出した。

「この飴の赤い方を食べれば、マスターの幻術みたいに大人に、青い方を食べれば子供になれます!」

「よし、それで行こう!ネギは赤、私は青だな」

と、私達は飴を食べる。するとネギは青年くらいまで成長し、私は初等部低学年くらいに縮んだ…が

「って、これ服どうなってんだ!」

ネギは服ごと適切に変化したにもかかわらず、私の服はそのままで酷い事になった。

「あ…変身の時に服装をイメージしないと服はそのままで…」

「先に言えーっ!」

「とりあえず赤い飴で中和しましょう!」

と、赤い飴を受け取って私は元の姿に戻り、服を直した。そしてまた失敗すれば目も当てられんと、眼鏡をはずして両側に垂らした前髪ごと髪をポニーテールに結いなおした。

「マスコミの狙い、メインはネギだ。私はこれで誤魔化す」

と、おまけに認識阻害をかける…まあ、私を長谷川千雨だと思ってみればバレる代物ではあるが。

 

「あれ、皆さんどうかしましたか?」

ネギは群がるマスコミ相手にこうとぼけてみせる。そしてそのままマスコミの間をすり抜けた直後…

「次のにもいないぞ!」

「いや、まて、今の男、ネギ選手に似てないか?親族…いや兄弟じゃ…」

「と言うか、連れの一人、眼鏡外して雰囲気違ったけど長谷川さんじゃ…?」

「逃げましょう!」

「あ、逃げたぞ!追え!」

そこから、また私達の逃走劇は始まった。

 

 

 




安全かつ合理的な設計:血を失う事にはなれているので、多少血を失っても問題ないから汚染された血は戻さずに捨てちゃおう、捨てるなら徹底的に搾り取って汚染させちゃえ

年齢詐称飴と服の問題ってなんかよーわからんのですが、コタ君が人前で飲もうとしているあたり、服装は意識していれば自動適応という事で


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47 麻帆良祭編 第7話 ヘアピンと傷痕

「何とか振り切れたようだな」

「ええ、上手く行きました」

「しかし、千雨さんのそれで割と誤魔化せるものですね」

「ああ、割とな…認識阻害使っているのもあるが…で、大丈夫そうか?ネギ」

「え?あ、ハイ。ちょっと寝られましたから大丈夫です」

「バカ、体じゃねぇよ、自分自身と向き合う時間の方…親父さんの事の方だよ」

「ハ、ハイ大丈夫です、今度はホントに。千雨さんの助言も為になったし、何とか…ダメそうならばマスターの別荘とこれの力を借りる事になると思いますが」

今度はしっかりとした顔でそう言って、タイムマシンをちらりと見せた。

「…そうか、ならいい」

と、私はネギの自己判断を信じる事にした。

「でも、千雨さん、いろいろとありがとうございます」

「何?」

「いえ、僕のこと、色々と心配していただいて…ちうさんの言葉はとっても為になります」

「…一応聞いておくが、どうしてちう呼びなんだ?」

「えっと…なんか、いつもの千雨さんもかっこいいですけれども、さっきみたいな千雨さんは…なんか、ちうさんって感じがします」

ネギが純真な笑顔でそう言った…青年姿でそれは止めてくれ。

「はぁ…まあ良いか…他人の前ではあまりそう呼ぶなよ?」

「はい、わかりました」

「ん?おおっと」

と、とっさに私がその場を飛びのくとコタローがネギの背中にぶつかってきて、二人そろって倒れてしまった。

「ててて…悪い、ちょっと急いでて…ん?」

「え…あ?

「ネギ!?」

「コタローくん!?」

「…あ」

「…う」

と、沈黙が場を覆う。相手が悪かったとはいえ、一回戦負けしたのがきまりが悪いのだろうか、コタローは。それとも、決勝で会おうと言っていた大言壮語を守れなかった事だろうか?「わ…悪かったな、約束…守れんで」

「え…ううん」

「次は…次は…負けへん。次こそは…勝負や」

「うん!コタロー君!」

そう言って、ネギはうれしそうに笑った。

「へへ」

「んだよっ」

「ううん、一緒に修行、がんばろーね」

「アホ!一緒になんかするか!つかその大人顔で笑うな、気持ちワルイッ」

と、コタローがネギをポカポカ殴る。

「あはは、痛いって」

「ははは、よく言ったコタロー、次があれば私が壁だな、今回ほど理不尽じゃねーから頑張れ」

「…なんや姉ちゃん…って千雨姉ちゃんやんか!」

「ははは、今気づいたか…どうだった、私の試合は」

「ふん…健闘しとったとは思うけど…千雨姉ちゃんかて、クウネルの奴に負けたやんか」

「ああ、そうだな、だからこそ、私はまだ頑張れば手が届くと思えるだろう?」

そう言って私はニヤリと笑って見せた。

 

「おっ、いたぞ、村上選手だ!」

「げ、マズイ、逃げなっ」

「わわ!?マスコミ」

「とにかく逃げましょう!」

と、四人で再び逃走を始める。

「なんでコタロー君までマスコミに?」

「アホッ、お前らが逃げるからこっちまで回って来よるんやろ!」

「うっへ…コタローまで追われているって事は私も探されているな…この程度の変装じゃ足らん」

 

 

 

「ん、これでいいだろう」

と、言う訳で私達は年齢詐称飴の力を借り、さらに衣装を変える為に貸衣装屋に来ていた。

「なんで俺がチンピラみたいな恰好…」

「似合っているけど?コタロー君」

「確かに、マフィアの御曹司とボディガードの三下って感じに見えるな」

「うるさい、千雨姉ちゃんこそ、なんやその恰好は?」

「ん?昔していたオシャレのイメージでコーディネートしてみたんだが似合ってないか?」

と、白のワンピースにリボン付きの帽子、脱いだ服などを詰めたランドセル姿でくるりと回る。こうなると若干シルバーのネックレスが不釣り合いなのだがまあよかろう。

「…ちゃうわ…ノリノリ過ぎやからや」

「あの…どうでしょうか?」

と、工学部まで瞬動連打でひとっ走りして取ってきた悪魔の角風耳飾りに換装して幻術でロリモードになった茶々丸が着替えを終えて現れた。背中に翼もつけてロリ悪魔メイドにコーディネートしてみた…変装だけなら着ぐるみと言うのもアリではあったのだがまあ排熱とか色々と問題あるし。

「カワイイです、茶々丸さん、とっても」

「そ、そうですか?…ありがとうございます」

「じゃあ、予定通りバザーを見に行きましょう、千雨さん、茶々丸さん…コタロー君もそれでいい?」

「ああ、かまへんで」

と、こうしてやっとの事で私達はバザーに向かえる事となった。

 

 

 

「あ…コレ…」

バザーで露店を回っていると茶々丸が一本のヘアピンに目を止める。

「ん?気に入ったものでもあったか?茶々丸」

「あ…えっと…はい、このヘアピンが…綺麗だと…」

茶々丸が示したのは、ガラスの四葉のクローバーの飾りがついたヘアピンだった。

「これですか?茶々丸さん…よろしければ日頃の感謝の気持ちとして贈らせてください」

「えっ…よろしいのですか?」

「はい、いつも色々とお世話になっているお礼に…千雨さんもよろしければどうですか?」

と、ネギは話を私にも振ってくる。

「私はいらん、むしろエヴァになんか買ってやれ、日頃の感謝ならな」

と、私はネギの好意を無碍にする言葉で返す…。

「あーなら…すいません、これと…これをいただけますか?」

と、ネギは茶々丸の選んだヘアピンとライラックの飾りがついたバレッタを購入した。

「はい、茶々丸さん、どうぞ…いつもありがとうございます」

「あ、ありがとうございます、大切にさせていただきます…」

と、茶々丸は送られたヘアピンを早速つけてみる。

「ネギ先生…その…似合いますか?」

「はい、とっても素敵ですよ、茶々丸さん」

 

…と言うやり取りをしている二人と少し離れて眺めながら、

「…子供姿相手やっちゅうても、なんか女に現を抜かしとるみたいで気に入らんなぁ…」

「…まあ、良いじゃねぇか、あれ位…ただ、ネギの奴は将来、とんでもない女泣かせになりそうだな…」

と言う会話を私はコタローとしていた。

 

「ありがとうございます、お付き合い頂いて」

その後も何店舗か冷やかして回り、少し食べ物を摘まんで、バザーを通り抜けた。

「いえ、楽しんでいただけたようで何よりです」

「さて、私としてはもう満足なんだが…二人はその姿で柿崎たちのライブに行く約束をしているんだったよな?この周回で行くならば次の周回の逆行までご一緒させてもらってもいいか?」

と、たっぷり別荘を使う為にそう言う…このままだともうすぐパトロールのシフトからのそのままクラスの当番になりそうだったので。

「ええ、ではそうしましょうか、千雨さん…まだ時間も早いですし、一度、亜子さん達にご挨拶に伺いましょうか」

 

 

 

と、いう事でライブ会場…ここも要注意スポットだったな、確か…に私達はやってきた。

「あれ?あれはまき絵さん達。ちょっと亜子さん達の居場所を聞いてきます」

と、ネギがネギの従兄のナギとして聞き出した控室に私達は向かった。

 

「いいか、ネギ。わかっていると思うが、外見相応に振る舞えよ?あんまりガキっぽい事しないようにな」

「ハイ!紳士的に、という事なら任せてください」

と、先ほどまで若干無自覚に子供っぽい姿を見せていたネギに不安を覚えるが…まあ信じよう。

「失礼します、こちらに和泉亜子さんがいると伺ったのですが…」

と、ネギがノックの後にそう言って控室の扉を開けた。

 

しかし、そこには上半身裸の亜子がいて…

「キャアアアーッ!」

と、悲鳴を上げられた。まあ当然であるし…加えて亜子の場合は…

「ど、どうしましょう。い、いきなり着替えを覗いてしまって…」

「いやーそれも不味いがこの場合はそれよりも…」

と、言おうとした所で釘宮がかけてきた。

「どうしたの!?」

私達を見て、はっとした釘宮は控室に駆け込む。

「亜子!」

と、控室の中をのぞいた釘宮は振り返り、ネギとコタローにビンタをした。

…が、ネギはそれを甘んじて受け入れたがコタローはとっさに防いでしまい、グーで殴られていた。

「…ってーな…」

「るさいっ!何やってるの、あんた達!」

「ス、スイマセン、僕の不注意で…」

「何が不注意よ、馬鹿じゃない!?いい、あんた達、亜子はねぇ、亜子は…ッ」

と、荒ぶる釘宮を、服を着て出てきた亜子が止めに入る。

「釘宮やめてっ、ちやうねん、この人らなんも悪ないねん!」

「亜子!?」

「うちがカギ閉めてへんかったんがアカンねん!」

…いやぁ?入室許可貰う前に扉開けたネギの重過失だと思うぞ?と言う内心は飲み込んでおく。

「ナ…ナギさん、スイマセン、せっかく来ていただいたのにこんな…」

「あ…亜子…」

「い、いやっ、あの亜子さん、僕、ただ…」

「あのっ…そのっ…私…スイマセンッ」

と、叫んで亜子は逃げ出してしまう。

「亜子さん!」

「なんやあいつ…訳わからんわ…」

と、コタローが空気を読まん事を言い出す。

「…ッ…馬鹿ッ!亜子!」

釘宮がコタローにネクタイを投げつけ、亜子を追いかけていった。

「なんなんや、あの女も…あー…ったく…女は意味わからんからメンドイわー」

「バーカ、ガキめ。傷だよ、傷」

私の言葉にネギははっとした様であるがコタローは訳が分からんと言葉を返してくる。

「傷?傷って今の背中のか?あんなん別に大したことないやん、俺の周りじゃなんも珍しいことあらへんし、20年前の戦で…」

「アホ!お前や私みたいなのと一緒にすんな!あいつはごくフツーの女子中学生だぞ」

私を含めた覚悟の決まった武闘派連中はともかく、フツーはもっと細かな傷痕でも気にするのである。

「そういえば、亜子さんの傷の事は何も知りませんでした」

「私も詳しくは知らん…が、亜子も最初の頃はすごく気にしてコソコソ隅で着替えたりしてたよ…でも、うちのクラスはああだろう?私も知らない間にみんなの前では自然に着替えるようになっていたよ…うちのクラスは変人ぞろいの麻帆良の中でも変人を煮詰めたようなクラスだが…そーゆー所は他にはない評価すべき点だな…さ、私達も亜子を追いましょう」

「あ…はい!」

 

釘宮を追い、先行したネギは何とか追いつく事はできたが亜子は見失ってしまったようである。話し声は聞き取れないが何かを話しているのは見て取れる。

私達も一度合流しようとネギたちに近づいていくが…あれ?ネギが二人いる?それももう一人は亜子といて…うわぁータイムパラドクス―

「亜子!…!?…え!?」

「あ!?」

向こう…たぶん次のネギがしまったという顔をする。

「ちょっと待ったあーっ」

と、コタローと茶々丸、一拍遅れて私が降ってくる。

「おーい、ネギ」

と、こちらのコタローが釘宮といるネギに声をかけて…場には二組のロリボディの私と茶々丸、青年姿のネギとコタローが揃った…あーあ。

「え…えええええ!?な、ちょ、ちょちょちょ、な」

あ、釘宮が壊れた。事情をおおむね理解している私でもフリーズ状態なので当然ではあるが。

「何よこれ…あ!?」

「失礼します」

場を動かしたのは釘宮の混乱と、亜子と逃避行を始めた次のネギではあるが…それは悪手である…大混乱がはじまった…。

「待ちなさいよーっナギさん…いや、偽ナギさん!?亜子をどこ連れてくつもりー!?」

 

「オイ、なんやねん、またタイムマシン使たんか!?」

「うるせっ、話ややこしくなる、黙れ、前の俺!」

と、殴り合いながらネギたちを追うコタロー達

 

「ねえ君、未来のボクでしょ、何があったの!?待ってよ!?」

「わーバカバカ、ついてこないでよ、前の僕!後でちゃんと説明するからあっち行って―ッ」

と、事情を暴露しながら追いかけ合うネギたち…。

 

「で、お前は次の私だな?何がどうした」

「これからあんたらが亜子を見つけて逆行するんだ、がんばれ、私」

と、並走しながら事情説明を受ける私…とそれについてくる茶々丸たち…である。

 

釘宮を撒いて次のネギ達はライブ会場へと入って行った。今回の私達は事情を説明するからと隠れて待っていた。まもなくライブがはじまるという頃…。

「お待たせしました、僕達」

と、次のネギがやってきて事情を説明する…とはいっても、亜子が今いる大まかな場所と、亜子を眠らせて夢落ちだった事にして時間までデートで潰していたという事情を聴いただけだが。

「詳しくはお話するよりも、亜子さんに自分自身で向き合ってください」

「はい、わかりました…それじゃあ、行ってきます、次の僕」

「はい、亜子さんをよろしくお願いします、前の僕」

と、いう事で私達は次のネギに教わった辺りで倒れている亜子を見つけ、自然に目覚めるのを待った後、芝居がかった仕草でネギがあなたに魔法をかけて差し上げますと言って文字通り眠りの魔法をかけた。

「ではいきましょう、千雨さん、茶々丸さん、コタロー君」

亜子をお姫様抱っこしたネギがそう宣言する…呼び出しブッチしちまったけど次の次でいいかな?私は心の中でそう呟いて過去へと跳躍した。

 

 

 

過去…午後一時に戻り、私達は世界樹前広場で亜子を椅子に座らせた。そしてネギが声をかけて起こすと亜子は全てを夢だと思い込んでくれたようである。そして、ネギがおはようと声をかけて席に着き、亜子をデートに誘いだした。

その後、着替えて待ち合わせたネギと亜子は麻帆良遊園地を訪れ、乗馬体験やカフェを楽しみ…ベストカップルコンテストというイベントに捕まった。

「あーあ」

「ええんか?アレ」

「ほっとけ、祭りだからな」

「あの手の強制勧誘は学祭名物で…」

 

で、なんだかんだで準優勝を掻っ攫い、上位三位までに送られるペアブレスレットを貰っていた。

その後、リハーサルに行こうとする亜子を大丈夫と誤魔化して廃校舎でネギは亜子の演奏を聴く事になった…そして…。

 

「わ…私、あの、あ…あなたの事が…す…すっ…」

なんと、亜子が告白体勢に入りやがった。いや、一目惚れに近い雰囲気なのは理解していたが、そこから迅速に告白に至るとは思っていなかった。デートも普通に遊んでいただけに見えたし…ベストカップルコンテストであてられたか?

「何なんや、あの女さっきからすっすすっす言ーて?」

「バカッ、告白だよ、告白!」

と、私が言うと茶々丸とコタローがはっとする…やはり、ネギは女泣かせという事で確定でいいかな…。

 

「するめいかはお好きですか?」

と、結局、亜子はヘタレてこう言った。それにネギは日本の食べ物ではヤキトリのねぎまが好きだと言って、亜子にスルメイカが好きなのかと聞き返した。

「今のが告白か?」

「違うわボケ!」

「ネギまがお好き…」

と、茶々丸は食べ物の好みを知れてうれしいという様子である。学祭後に修行の機会がまだあるようならば焼き鳥でも食事に出てくるだろうか。

そして、ネギは亜子にベースの演奏をねだり、亜子はちゃんとベースを弾ききった。

 

「すごいじゃないですか!これならライブも絶対大丈夫ですよ」

廃校舎から移動しながらネギはそう言った…私達はネギに付けてある通信用の術式でその会話を聞いていた。

「い、いえっ、本番も同じようにできるかどうか…」

と、ネギの方を向いた亜子にネギが笑いかけると亜子が顔を赤くする…完全にほの字だな、亜子の奴。

「あ、あのー、ナギさん、お仕事は…」

「お仕事?」

「あ、すみません、もしかして学生ですか?大人びて見えるので…」

まあ、社会人だが、仕様上、15, 6歳くらいの筈である、あれで。

「え、あーはい!イギリスの学校で…」

そして、将来はNGOに参加して世界中の困っている人を助ける仕事に就きたい、と続けた。そして、今更亜子がナギの年齢を聞き、ネギは16歳と回答した。それからネギはネギの親父に憧れて、その人みたいになりたいと続けた。

 

「ナギさん、うち…やっぱり脇役やと思います」

ネギから受け取ったアイスを食べていた亜子は、少し考えてそう、言葉を紡いだ。

曰く、ネギの親父が行方不明だと知って、心配すると同時に羨ましいと酷い事を思ってしまった、と。行方不明の父を探してあんなに努力して、強くてかっこよくて…まるで物語の主人公みたいだと思ってしまったのだ、と。物語の主人公が持つマイナスな部分…それが力になって主人公を主人公たらしめる…でもそれは本人には辛い事で…ネギにとっては現実で…そう考える事自体が酷いとは思うけれども…それでも…自分には夢や目標も勇気もなくて…なにより自分の抱えるマイナスはただマイナスなだけで何の力も与えてくれないのに、と。

…そうだな、私のマイナス…知るべきではない事を知ってしまう事、そして異端なまでの知識欲は私に色々な物を与えてくれたが…亜子の傷は…ただのマイナスと言われればその通りである。

そして笑ってごまかすように亜子が続ける。

「と、とにかく、ほんと、ウチ、ダメなんですよー脇役なんです、とりえもないし、フツーやし。ううっ、やっぱライブ心配になってきたなー」

そういう亜子にネギは拳骨を落とした。

「ナ、ナナナギさん?」

「そんな事言っちゃダメです!」

「ネギ君ならこういうでしょうね、僕のクラスにダメな人なんていません、って。たとえ亜子さんが自分を脇役だと感じていても…それでもやっぱりあなたは主役なんだと思います。だって、亜子さんの物語の主人公は…亜子さんしかいないじゃないですか」

 

「おーおー、わかったような事言うなぁ…10歳のガキのくせして」

「明日菜さんによるとわかったような事を言うのは最初からだったようですが…」

「ですが…?」

「いえ…あ!?」

と、茶々丸が私達のいる橋門から下を指さす

「アレは…過去のネギ先生です!」

「何ィ!?しもた!これはあの時のアレかいな!?この後、もう一組の俺達も現れてメタメタに…止めな!」

「ハ、ハイ」

「あ、バカ」

と、コタローと茶々丸が私の静止を聞かずに飛び降り…私もやむをえずそれに続く。

そして…大混乱がはじまった…

 

「オイ、なんやねん、またタイムマシン使たんか!?」

「うるせっ、話ややこしくなる、黙れ、前の俺!」

と、殴り合いながらネギたちを追うコタロー達

 

「ねえ君、未来のボクでしょ、何があったの!?待ってよ!?」

「わーバカバカ、ついてこないでよ、前の僕!後でちゃんと説明するからあっち行って―ッ」

と、事情を暴露しながら追いかけ合うネギたち…

 

「で、お前は次の私だな?何がどうした」

「これからあんたらが亜子を見つけて逆行するんだ、がんばれ、私」

と、並走しながら事情説明をする私…とそれについてくる茶々丸たち…である。

 

役割を入れ替えて同じ事をやり、控室に入り込んだ私達は無事に諸々をごまかし、亜子たち【でこぴんロケット】の出番となった。そしてそのトークにて…

「あ、あの、その私…え、えーっと…今日は、今日…と、とてもお世話になった人に伝えたい事があり…あります」

うげ…ここ、告白阻止地域なんだがとネギたちの隣から少し離れて糸でマイクでも取り落とさせようかと構える…が真名らしき気配が私がいる、邪魔をするなと言わんばかりに現れたので糸を回収し、成り行きを見守る事にした。

「あ、あの、私っ…そのっ…私…す、好…すっ…すごく楽しかったでーす、メールアドレス教えてくださーいっ!」

と、また亜子はヘタれ、撃たれる事はなかったし、柿崎、釘宮、桜子はずっこけた。

「へ…僕ですか?」

とネギは呆けた後、叫んで返した。

「はーい、良いですよー後で送っておきまーす!」

そして会場は笑いに包まれた…そりゃあそうである…が、舞台で亜子が麻痺弾で打たれるよりはましなオチではあるか。

 

 

 

「なかなかおもろかったなーライブゆーんも」

「うん!亜子さんも上手くできていたしね!」

「皆さん、お疲れ様です」

「それじゃあ、解散と行こうか…ネギ、私も逆行頼むぞ」

「はい、それじゃあ、参りましょう、千雨さん!茶々丸さん、コタロー君、行ってきます!」

「マスコミにお気をつけて…」

「先生っつうのも大変やなぁ…ま、がんばってこいや」

 

そうして、私とネギは、三度目の今日の午後一時頃に跳躍したのであった。

 

 

 



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48 麻帆良祭編 第8話 尋問とお別れ会

「さて…私は別荘で少し武道大会の反省点を検討して来る、その後はパトロールを済ませてクラスの当番だな」

「はい、僕は図書館島のツアーに行ってきます」

「ん、とりあえず顔を隠せるパーカーでもかぶってれば大分違うだろうからそんなノリでコーディネートしてみな」

「あ、ありがとうございます、千雨さん…それでは」

「ああ」

と、私は三度目の麻帆良祭二日目午後一時にネギと別れ、エヴァ宅に向かった。

 

 

 

「お邪魔します」

「む、千雨か、アル相手に中々の奮戦だったぞ、よくやったな」

「ケケケ…ナカナカタノシイショーダッタゼ」

「…負けたのはいいのかよ」

「ハッハッハ…アル相手にあれだけ奮闘し、ナギの幻影相手にあれだけ持たせられたならば上出来さ…今はまだ、な。それに反省会をするんだろ?」

「ああ…数時間、借りていいかな?」

「構わんぞ、まあ精々励む事だ…お前も私の弟子なのだからな、いずれ私達の領域に来る事を期待しているぞ…ま、お前の場合は相応の対価が必要だろうがな」

と、暗にナニカを対価に捧げねばエヴァ達の領域には達せられないと言われる…例えば魂への負荷とか…人ならざるモノへの変異とか。

「…そうだな…検討だけはしているよ、そーいうのも」

「くっくっく…まあ、そうしてでも力が必要だと思えばそうすればいい、千雨…きっとハカセはそれでも受け入れてくれるさ」

「…はい、マスター」

そう返して、私は別荘に潜った。

 

もっと速く、もっと鋭く、もっと静かに…クウネルの化けたナギ・スプリングフィールドを仮想敵に、私は機動力を鍛えなおす事にただひたすら時間をつぎ込み、その合間の休息を咸卦法の理解に充てた…まほら武道会で見えたさらなる理想を目指して。

 

「ただいま」

「おかえり、千雨すぐ出るのか?」

「ああ、ちょっと仕事…とお呼び出しがな」

「超の巻き添えか?」

「まーそんなもんだな…それじゃあ」

「お邪魔します、別荘をお借りしに来ました…あ、千雨さん」

と、エヴァ宅を辞そうとすると丁度ネギがやってきた。

「む、ぼーや、どうした」

「あ、すいません、マスター、別荘をちょっと貸していただいても良いですか?少し瞑想がしたくて…」

ネギはどうやらこの集会で色々と溢れそうになったのか、自分に向き合いに来たようである。

「ん、構わんぞ、そこの姉弟子も一時頃からずっと潜っていたしな」

「え、千雨さん、あれからずっと!?」

「折角最高峰クラスの機動を垣間見られたんでな、ちょっと自主練を」

「うわぁ…頑張りますね…僕も、少し瞬動のおさらい、しておこうかな」

「おう、励め励め、ガキども。鍛錬に励むのは良い事だぞ?」

そう言ってマスターは楽しそうに笑った。

 

 

 

で…エヴァ宅を辞した私は少しだけパトロールに入った後、前々回に届いていたメールに従って、呼び出されていた学園長室に向かい、そして重要参考人として尋問を受ける事となった。

 

「もう一度聞く、超鈴音は一体何を企んでいる?」

「お答えできません、お答えできる事は全てお話しました」

「超鈴音は今どこにいる?心当たりは?」

「恐らく、学園内のどこかに潜伏しているのかと。現在地の心当たりは超包子や他の所属の関連施設でなければわかりません」

このやり取り、何度目だろうか。

 

既に状況証拠からばれているであろう事…陽動でなければ魔法バレ系の何かを狙っている事、何かやらかすとして、数的主力はロボットになるであろう事、そのロボット達が恐らくはロボ研で私も手がけた子達の量産型であろう事、それに、私が予め武道大会への出場を依頼されていた事…位は認めたのであるが。と言うか、私から確定情報として絞れるのはそこまでだぞ?

 

「もうよい、ガンドルフィーニ君…大方ギアスペーパーか何かでも使ったんじゃろうて…どのタイミングかは知らんが」

「超も私が一応魔法使い側なのは承知の上ですので、漏れた秘密が拡散しないように、普通はそれくらいするかと私も思います、学園長先生」

実際は使っていないが、普通はそうするだろうし、私もそう提案した。

「重ねて聞くが、長谷川君は超君から計画への協力を頼まれておらんし、協力する気もないんじゃな?」

「はい、麻帆良祭期間中は、試合への出場と超包子の助っ人だけですし、魔法バレに関して協力するつもりはありません」

コレも本当である、後の事は兎も角。魔法バレへの協力にも麻帆良祭期間中がかかっているのがみそだったりするが。

「うむ、嘘は言っておらんな…長谷川君、超君の計画に関して、どう思うかの?」

「魔法バレですか?…学究の徒としては、学問…少なくとも科学は集合知ですのでその発展に資するという意味で歓迎しますが、魔法の秘匿を誓って皆さんに魔法使いとして迎えて頂いた身としては、自身の矜持に誓って、超の魔法バレ計画への参加はいたしかねます」

「…なるほど…協力ありがとう、よくわかったよ、長谷川君。麻帆良祭を楽しんでおいで」

「いえ、お役に立てなかった様で申し訳ございません、それでは失礼いたします」

そう言って、私は学園長室を辞した。

後ろで重要参考人の私をそう簡単に返して良いのか、と言う魔法先生の叫びを聞きながら。

 

既に日は傾き、空は赤く染まっていた。

「さーて…ってそろそろ当番の時間じゃねぇか」

私はその足でクラスに向かった。

 

 

 

「ハ?超のお別れ会?」

クラスの仕事…と言ってもザジが連れてきた助っ人で割と楽な仕事ではあったが…を終え、二日目のクラスの中夜祭パーティーの準備を手伝っていると、委員長がやって来て、超が退学届けを出したから超のお別れパーティーをすると言い出した。

「…千雨さんも何も聞いていないんですの?」

「…ああ、思い当たるふしが無いとは言わんけど…流石に退学届を出すような話だとは聞いていない」

正直、何考えてんだ超の奴、という状態であるし、どのみち麻帆良には居られなくなるからとのケジメと受け取れなくもないではあるが…。

「とにかく!中夜祭パーティーは超さんとのお別れパーティーとします、これは委員長としての命令です!」

そう、命じた委員長に従い、私はパーティーの準備を手伝う事にした。

 

聡美にメールでこの件の事を問い合わせた所、計画失敗時に生存していれば未来に帰って本来の戦いに戻るし、成功すれば学生生活を望める状態ではなくなる、という事で、ケジメとしてしたためたそうだ。…本来、学祭後に渡すように頼んでクーに託したらしいのだが。

 

「ん?超を迎えに行く係?」

「ああ、若干手荒な真似をする事になるやもしれん…すまんがお前にも手伝って欲しい、千雨」

と、刹那が楓と共にやって来て私に言った。

「サプライズパーティーになる様に、超殿には内緒で…との事でござるからな」

「…事情話さずにやるなら私は不参加で…予備としてコッソリついて行く位は良いけどさ」

「む…それは…」

「それで構わぬ、千雨殿…超の企みの件もあり話が変な方に拗れる可能性も相応にあるからな」

「りょーかい、それじゃそれで…私が出るのはネタばらしして連れていく位拗れた時だけって事で良いな?」

…その企み、バリバリ私も参画しているので色々とややこしい事になるのである、私が超と戦うと…下手するとその場で超が何口走るかわかったもんじゃないという。

 

 

 

丁度準備が終わった頃、カモが応援を呼びに来て、私は姿を隠した。そして楓と刹那がカモからのネギへの応援要請に答える形で超とネギの下に向かい、私はそれを尾行する形で同行する事とした。

 

打ち合わせ通り、刹那の持つ通信符で会話を聞きながら追跡を続けると、どうやらネギは超に一対一での話し合いを求めたらしい…まあタイムマシンの戦闘応用等の切り札が超側になければ妥当な判断ではあるのだが…うん。

そして、私達が超たちを捉える位置まで来ると、戦闘痕と座り込むネギ、それに迫る超が見えた。

「やべぇ」

「待てぇっ」

との、カモの声に応えるように刹那は静止の叫びをあげながら超に攻撃を仕掛け、楓と共に割って入った。

「ネギ先生の信頼を裏切れば私の剣が黙っていないと言ったハズだ、超鈴音」

「あ…!刹那さん!楓さん!」

「やあ、せつなサン、かえでサン」

刹那の怒りなどどこ吹く風と超が言う。

「どういうつもりだ、超鈴音。ネギ先生にヒドイことはしないんじゃなかったのか?」

「…ヒドイことではないヨ、せつなサン。これは両者合意の上での試合ネ」

「ふざけるなっ!」

…いや、事実だと思うぞ?おそらく超がなし崩し的にそう持ち込んだんだろうけれど…と、私は少し離れた場所に待機しつつ内心思った。

「だからこうなるっつったろ兄貴」

「か、カモ君が二人を…?ダ、ダメだよ一対一の話し合いだったのに…」

「バカッお人好しにもほどがあるぜ」

まあ、護衛くらい伏せておいて欲しくはあるだろうな、カモの立場としては。

「怪しげな計画を進めて、何を企むかは知らぬが、ネギ先生の友人として、貴様のクラスメイトとして、阻止させてもらうぞ!」

「刹那、あの自信、何かあるでござるよ」

楓が刹那に警告する。

「ああ」

「刹那さん、あのっ…」

「わかっています、先生。ケガなどはさせません」

「いえっその…」

この期に及んでネギは一対一といった条件を自分達から破る事を気にしているように見える。

「気にするでないヨ、ネギ坊主…さて、どうするかナ、せつなサン?」

との超の言葉に刹那は素晴らしい入りの瞬動で超の腕をキメて制圧して見せた。

「生半な腕では我等から逃れる事、叶わぬぞ。つまらぬ企みはあきらめるがいい、超鈴音」

「さすが、せつなサンネ。この時代の使い手は最新式の軍用強化服を生身で軽く凌駕する」

「何?」

「いやーホントに驚き…ネ」

と、超が掻き消えて刹那の背後に出現し、電撃を纏った一撃を刹那にお見舞いした…やっぱり実用化していたか、タイムマシンの戦闘への応用。

その後も超を捕らえ、楓も参戦しての同時攻撃まで仕掛けたが、超は同様の跳躍で逃れて見せた…と言うか、タイムマシンを持っているネギの前でそんなもん何度も見せてんじゃねぇよ、超…ネギの持っているタイムマシンも反応しているだろうに…と言う思考がやっぱり、ネギを勝たせるルートと言うのも超の計画には織り込み済みか…?という疑念へとつながり、私の中で膨れ上がってくる。

「フフフ…遊びはそろそろ終わりネ。ちょうどいい、懸念材料だた君達二人にもしばらく眠ていてもらおうカ」

と、超が宣言する。

「うむ!これは敵わぬでござるな!退くでござるよ」

「ネギ先生!」

「え、あっ」

と、ネギを含めた3人と一匹は撤退戦に入った。

「すまん、ネギ先生の方を優先し過ぎた…出番だ、千雨」

「いや?大丈夫だろ?それに、せっかくのサプライズパーティーだしな」

楓が先導する大体の逃走方向から楓の意図を察して私は通信符に答える。

「なにっ」

「その通りでござる、第三廃校舎に向かうでござるよ」

「何!?いいのか、超を捕らえてからでは…」

「捕らえられぬ故、致し方なし。大丈夫でござるよ」

 

「か…楓さん!こんなところに逃げてどうするんです!?あの超さんには僕らじゃ…」

「まあまあネギ坊主」

と、慌てるネギを楓がなだめる。

「ここが決戦の場ということでヨロシイカ?多勢に無勢では私も大変ネ、こちらも応援を呼ばせてもらおう」

…と、会談の場に伏せていた護衛…茶々丸と真名が出現する…ちなみに追跡劇の途中で互いの存在は認知している…と言うか二人にはサプライズパーティーのメール、行っている筈なので、もはや壮大な茶番と化している。少なくとも私の眼には。

「やあ、ネギ先生」

「龍宮隊長!?茶々丸さん!?な、なんで!?」

「楓、刹那…お前たちとは一度戦ってみたかったよ」

ネギの言葉に茶々丸は沈黙を返し、真名はある種の黙殺を返した。

「ま…待ってください、ダメですッ変ですよ。クラスメイト同士で戦うなんていけませんっダメですよ!」

と、ネギが寝ぼけた事を言い始める。

「さっきの勝負は僕の負けでいいです!ぼ…僕、超さんの仲間になりますからっ…だから…だからもうこんな事はやめてください!」

「フフ…人がいいね、ネギ坊主。だが…やめることはできない」

と、超は返す。おや、受け入れて刹那と楓が受け入れるなら、くらいは言うかと思ったが、そう返すか。

「ちゃ…超さんっ」

「ネギ坊主、案ずるでない。まだこちらには奥の手があるでござる」

と、楓が紐を引き…超とのお別れパーティーの用意を隠していた衝立を倒した。

 

「「「「「ようこそ、超りんお別れ会へ!」」」」」

 

と、クラッカーが鳴らされ、超もあっという間にクラスメイト達に囲まれていく…そして私も、シレっと会場に紛れ込むのであった。

 

「ふふー超さんのお迎えお疲れ様でしたー」

と、しれっと紛れ込んでいる…いや別段おかしくはないのだが…聡美が私に声をかけてくる。

「…いいのかよ、こんな所に出てきても」

「大丈夫ですよー?私はまだ超さんの協力者と目されているだけですし―」

「…ア?」

「アレー気付いてなかったんですかー?今の所、対魔法先生達の矢面には超さんが立ってくれているのでー、私はまだ重要参考人程度の扱いですよ?」

「…あっ…そういやさっきの尋問でも聡美の事はロボ関係以外では聞かれなかったな…」

「尋問ですかー?」

少し心配そうな声色で聡美が言った。

「ああ、さっきちょっと武道大会の件で色々と…まあ学園側の連中が無茶苦茶目立つ真似してくれたおかげで私はその件は無罪放免だけどな」

「それはよかったですー」

「…で…ちょっと聞きたい事がある」

「なんですかー?」

と、聡美を連れて二人、会場から少し離れた。

 

 

 



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49 麻帆良祭編 第9話 作戦会議と甘い毒…そして

お別れ会の終盤、皆が寝落ちし始めそうだと布団が用意され始めた頃合いで、私達は中座しマスターの別荘に来ていた…私もさすがに眠い。

「…千雨さんおやすみなさい」

「ああ、お休み」

と、せっかくなので少し狭いが私の部屋でまた添い寝をする事となった。

 

 

 

「あれー千雨ちゃん、ハカセちゃんも来てたん?」

「はいー少し外ではしゃぎすぎちゃいまして休憩にー」

「…ところで、アスナはどうしたんだ?コレ」

と、鬱状態でうだっているように見えるアスナを指さす。そして聞いた事情によれば、学祭二日目に高畑先生と学祭デートをしたは良いが、最後に告白をして振られてしまい、ここに逃げ込み、多少落ち付いてこの状態だという…で、別荘内生活2日目らしい。

「まー大変だったな…エヴァが許す限りのんびりしてるといいさ」

「うん…そうする…はぁ…」

「じゃあ、アスナ、ウチらは遊んでいるからよかったらおいでな?」

とこのかを交えて3人で少し水遊びをしたが、結局アスナは精神的に参っているのか、参加する事はなかった。

 

昼食後、外に出ればまだ日の出前という事で、昼寝をする事にした私達は再び私の部屋にいた。

「では…おやすみなさい、千雨さん」

「ああ、お休み、聡美」

と、聡美に腕枕をするように抱き寄せて私達は眠りに落ちた…。

 

 

 

「送っていただき、ありがとうございましたー」

「いや、私から誘ったんだしな、これ位は大丈夫」

と、私は一度別荘の外に出て、聡美を指定された場所まで運んだ。

「おや、千雨サン…中座して何処に言っていたのかと思えば二人で抜け出していたのか…」

と、超がやってきた。

「ん、お前がここにいるって事はパーティーは終わりか?」

「ああ、少し前に皆寝落ちして自然とお開きネ…ネギ坊主とせつなサン、かえでサンが皆を室内に移している頃だと思うヨ」

「なるほど…じゃあ私も手伝いに行ってくる…じゃあな、場所がバレた頃合いにでも見届けにはいくよ」

「ウム…と言うか、もしかして最終詠唱地点、伝えたのか?ハカセ」

「いいえ?さすがにそれは秘密にしていますよ?」

「資金の流れを追えば見当はつくさ…な?」

私はそう言って、空を見上げた。

 

 

 

「おう、やっているな」

パーティー会場跡地にやってきた私は、大まかな片付けと3-Aの室内への移送をしているネギ達に出会った。

「あ、千雨さん…おかえりなさい?」

「ああ、ただいま…もう、八割方終わっているようだな?」

「ええ、何とか…夕映さん達は片付けが終わったら起こしてマスターの別荘に行こうかと」

「ん、わかった…じゃあ…ってハルナ、起きてるじゃねぇか…どうする?」

暗に魔法で眠らせろとネギにそう聞く。

「あ…その…ハルナさんにもバレちゃいまして…魔法…すいません」

「オイオイ…まあ、魔法の秘匿自体には同意したんだな?ハルナも」

「あ、はい…それは大丈夫です…仮契約もしちゃいましたけど…夕映さんとも」

「うわぁ…」

私は思わず、そんな声を上げるのだった。

 

 

 

片付けを終えた私達は、マスターの家にやってきた。マスターも別荘に潜っているらしく、その姿はなかった。しかし。私は勝手知ったるわが師の家…と皆を先導して別荘の部屋までやってきた。

「ってか、千雨ちゃん、隠れオタクの科学者キャラでしょ、魔法使いってどういう事よ!?」

「まあ、そういう事としか言いようがないなぁ…魔法学者でもあるがね…さあ、行くぞ」

そして、転移を起動させ、別荘に潜るとフリーズしている初めての面子…楓とハルナに向かってこう述べた。

「ようこそ、わが師の別荘へ」

「ななななな…なんじゃこりゃああ〜〜〜!?スゴイッ広いッこれどこの魔空空間よ!?不思議時空!?」

「スゴイでござるなー」

「暑いッ、夏じゃんか、ここ」

まあ、主に驚いているのはハルナであるが。

「下は海ですし、屋上にはプール、塔内にはスパもあるですよ」

「ええーっ!?プールにスパもあんのっ!?いたれり尽くせりじゃんっ、そりゃもー泳ぐしかっ」

と、夕映から設備を聞いてさらにハルナはテンションを上げていた。

 

「そういえばアスナさんも別荘に来ているんでしたっけ…大丈夫かな」

「んーさっき…こっちで1日前位に出た時はまだ沈んでいたけれど…大分元気にはなっているんじゃないかな?」

「あれ、千雨さん、ハカセさんと中座して別荘に来ていたんですか?」

「ああ、聡美、ああ見て徹夜とか苦手だからな…少し休ませに連れてきた」

「へぇ…意外です…」

まあ、テンションがおかしくなり、理知的ではあるが理性的ではなくなるという方向での苦手なので、実は意外ではなかったりするが…黙っておこう。

「何やってんの、千雨ちゃん、千雨ちゃんも水着に着替えて着替えてーッ」

と、強引に誘いに来たハルナに乗せられた事でもあるし。

 

「「いぇーいッ」アル」

と、ハルナは私と夕映を、クーはのどかを無理やりプールに飛び込ませやがった。いや、抵抗はしてないけどさ。

「離せ、腐れ女子が、溺れるわッ」

「いやーアハハ、学園祭中にこんなリゾート気分が味わえるなんて思わなかったねー」

「元気ですね、ハルナ。ほとんど寝ていないですのに」

「…半分は寝ていないからこその暴走だろ、コレ」

「ナハハハ」

 

と、騒いでいるとアスナが駆け寄ってくる

「ちょっと、ちょっとー」

「アスナさん!」

「なんでパルまでここに来てんのよ!?」

「じ、実は魔法の件、バレちゃいまして…」

と、ネギが申し訳なさそうにいう。

「なっ…ヤバいじゃんかッ!あんた、オコジョの話はどーなったのよッ!?もうオコジョよ、あんた!もうほとんど70%位オコジョよー!」

「ひいいースイマセンーッ」

「スイマセンじゃなくて、あんたの問題でしょーッ」

まあ、私の問題でもあったのだが、ここまで来たら開き直りが肝心である…と言うかもう知らん。

「ま、まあパルはいつかバレるとは思っていたけれど…ちゃんと口止めはできているんでしょうね!?」

「ハ、ハイ、それはもちろん…」

と、言う話をしている所にハルナが茶々を入れる。

「やほーアスナ、フラれたんだってー?」

「放っといて、パルッ」

「あ…アスナさんの方は…その、大丈夫ですか?」

「アスナさん…」

と、ネギも刹那も心配そうに聞く…まあ大丈夫ではなかったようであるが、さっきは。

「え、いやーうん…まあね」

「ハ、この女、ヒトの別荘でリゾートを堪能しつつ四日間も食っちゃ寝、惰眠を貪っていたんだぞ?これでも足りんと言うなら私が永遠の眠りにつかせてやろう」

と、エヴァとこのかが登場する。

「悪かったわよ!もう立ち直りましたー」

「あ、マスター、このかさん」

「それで、あんた達は何しにここに来たのよ?寝に来たの?」

「え…ハ、ハイ。それは、あの…超さんのことで一度作戦会議をと思って…」

ん?それだと、私居ちゃまずくないか?とは思ったが、別荘の談話コーナーの一つに移動して私も話を聞く事となった。

 

「ええッ!?し…子孫!?かか、火星人!?え~と?この子は?からかってるのかしら~?」

と、アスナがネギのほっぺをムニムニする。ネギの子孫と言うのは初めて聞いたな…ソレ。

というか、盛大にネタバレしてる様だが突拍子もなさ過ぎて信じられていないようだ。

「からはってまふぇんゆ~(からかってませんよ~)」

「馬鹿げて聞こえますが、全て先程、本人が言った事です」

と、ネギが反論し、刹那がフォローする。

「ちょ、ちょっと待つヨ。お話多くてわからなくなったネ、整理してもらえるアルカ?」

「んーそうねよくわかんないわね」

と、いったん整理に入る。

「えと…超さんは百年以上先の未来から来た火星人で…」

「しかも何とネギ君の子孫!?」

「目的はタイムマシンによる歴史の改変。そのために魔法をバラそうとしてて」

「学園祭3日目にそれを行動に移す…でござるか」

「え~と?この子は?からかってるのかしら~?」

「からはってまふぇんてぶぁ~(からかってませんてば~)」

と、アスナがネギのほっぺをムニムニする…そのやり取り、さっきもやったな。

「ま、普通は信じがたい世迷い事に聞こえるわな、事実か否かにかかわらず」

と、私も一般論を述べておく、私は事実として既に受け入れてはいるが。

「確かに酔っ払いの戯言以下という感じですが…」

「やはり、全て嘘と考えた方が良いでしょうか」

「そーねーパルのいつもの謎の怪情報とどっこいどっこいよね」

「何々ー!?私のこと呼んだかな!?」

と、ハルナが登場する。

「聞いたよ聞いたよネギ君!いいねー火星人!未来人に歴史改変!リアルにこんなトンデモ話が聞けるとは!お姉さん創作意欲湧いちゃうなー」

と、ハイテンションで語った後、ハルナはさらに続けた。

「麻帆良の最強頭脳、学園No.1の超天才…しかしてその正体は!我々の歴史を改竄せんとする未来からの謎の侵略者! つまり、時間犯罪者、タイムパトロールはどこ!?ああっ、私達のクラスメイトがそんな悪の黒幕だったなんてなんとゆー悲劇…こりゃもー倒すしかないね!」

「倒すアルカ!?」

「クラスメートやのに!?」

「そこが燃えるじゃん!」

「まー燃えるかはともかく、魔法バレを阻止したければ倒すっきゃねーわな…ふぁぁ」

と、私は欠伸をする。

「そう!超りんの野望を止められるのはもう私達しか…もがっ」

と、ついに語り続けるハルナの口はアスナに塞がれてしまった。

「はいはい、あんたが喋るとややこしくなるからストップ」

「…でも、さっきの超さんはまるっきりの嘘を言っている様には…僕には見えなかったんです。それに全部嘘だったとしても…この…超さんからお借りしたタイムマシンは本物です」

「そうだな…と言うかさ、そこ、たいして重要じゃねーだろ」

「へ?どういう事、千雨ちゃん」

「いや、超が何者であれ、大事なのはあいつが魔法バレを目的として何かやらかすつもりと自供していて、実際にそう行動しているように見えるって点で、未来人だろうが火星人だろうが、ネギの子孫だろーが、取るべき行動になんか関係あるのか?」

「うっわー千雨ちゃんドライやなぁ…」

と、このかに突っ込みを貰う。

「とにかくー慎重に考えた方がよさそうですね…ネギ先生のおっしゃる通りタイムマシンは本物で…超さんは魔法バレに向けて着々と行動をとっています」

「あ…じゃー私、飲み物用意してきます」

「あ、うちも手伝うえ、のどか」

「このか、私にはワインを頼む」

「エヴァちゃん、昼からお酒アカーン」

と、少し飲み物を飲みながらあ~でもないこ~でもないとネギ達が話し合うのを私は眺めていた。

 

そして、話が一巡りした頃、夕映とハルナのアーティファクト披露という事になった。

「じゃあいくよ、ゆえ!」

「ハ、ハイ」

「「アデアット」」

「おおっスゴイ、カワイイじゃん」

「おほほ、いーね、いーねー」

と、カモはエロ親父の様にいう…まあ水着に衣装であるからなぁ…。

「ってあんた達、いつ仮契約したのよーっ!?」

「さっきおいしく頂いちゃいました」

と、サムズアップを決めるハルナ。

「スイマセン、スイマセンッ」

そしてペコペコと謝る夕映…別に浮気がバレたとかの類いじゃねーんだから謝る必要はないと思うんだが。

「ま、二人のアーティファクトの能力については後で確認するとして、戦力が増えるのはありがてぇぜ」

「もーバッチシ任しといて」

「し、しかし…先ほどの話が全て本当だとして、それでも疑問点が2つあります。一つは、魔法をバラす事がなぜ歴史の改変という話につながるのか…もう一つは、そもそも、なぜ超さんはわざわざ百年も先の未来から来てまでそんな事をしようとしているのか」

いや…後者はともかく、前者はそんだけデカイ爆弾ぶち込んで歴史が壊れないわけねぇだろう、としか言いようがないんだが…どう改変されるかは別にして。

「え、ええそうです…それに…僕…超さんがやろうとしている事が本当に悪い事なのかどうか…」

ほう…?思ったよりも揺れているかな?これは。…となると後で毒でも流し込むか…?

「何言ってんのよ、超さんは高畑先生を拉致監禁してたのよ?悪い事してるって言うのはもう確定済みでしょ!」

「そ、それはそうなんですが」

ま、ネギが言いたいのは方法論じゃなくて目的論の話だろうな…ふむ…ならば…。

「ああ、それに話が嘘だろうが本当だろうが、超の奴が3日目に何かやらかすつもりなのは間違いねぇんだぜ」

「とにかく!超さんの目的が何だろうと、これ以上高畑先生やネギに何かするんなら私がこの剣で止めてやるわ!」

と、アスナがハリセンを構える。

「へー、ネギに、ねー」

「な、何!?何かオカシイ!?」

「剣って姐さん、いつものハリセンじゃねーか…自在に出せるようになった訳じゃあ」

「あ、あれ?調子いいと出るのにな…」

「まあ、いくら考えても答えは出ねぇ。とにかく超がどう出てきても対応できるように準備をしておこうって話だろ?ありがたい事にみんなも協力してくれるっつーことだしよ」

「で、でも、やっぱりみんなを危険な目には…」

「大丈夫やて、ネギ君」

と、このかが怪我は即死でなければ自分が治すと宣言し、刹那はこのかを守ると宣言する。

さらに、カモの指摘するロボ軍団と真名という戦力に対しては、楓が助太刀を宣言し、クーも超が悪事を働いているなら友として止めると参戦を宣言した。そしてカモは前衛が厚くなった分後衛の薄さを指摘する…それに対応するために夕映とハルナにアーティファクトの仕様確認を頼んだ。

「そうだ、超はネット関係でも何かやらかしてるらしいんだよな、そっちの方は…そうだ!正面戦力が大きく削れちまうが千雨姉さん、頼めねぇか?何なら仮契約も…」

「いやしねぇし…って言うかまだ気づいてないのか?」

「ん?」

「…茶々丸が出てきた時点で気付いていると思っていたんだが…私は今回は不参加だ」

との私の言葉に場が凍る。

「ど、どういうことだい、千雨姉さん?」

とのカモの問いに説明をしてやる。

「はぁ…超が茶々丸を戦力としてあてにする為には三人、説得しなきゃなんねぇ人間がいる。…一人はエヴァ…まあ言うまでもなく主人だからな。もう一人は聡美…ハカセだな、あいつが製作者としての命令権最上位だ。…そしてその製作者命令権…超は3位なんだよ。言っている意味、分かるな?」

「ま、まさか…千雨さん…」

と、ネギが言う。

「そうさ、私だよ…私を少なくとも中立に立たせん事には茶々丸に対しての命令権を奪われる恐れがある…まあ、エヴァや聡美から命令権移譲させるって言う手もあるが…」

「エヴァンジェリンは面白がって傍観を決め込むだろうし…」

「…超りんと千雨ちゃんが敵対するなら…ハカセは千雨ちゃんにつくか…」

と、カモとハルナが言う。

「ああ、つまり、私は中立…それもさっき言ったロボ軍団の開発だとか超包子の運営だとか諸々の研究とかをそうと知って手伝う程度には好意的中立だよ…まあ超の三日目の行動にはノータッチだがな」

「ち、千雨ちゃん…どうして」

と、アスナが怒り交じりに問うてくる。

「ん?ダチに数多の【小さな悲劇】を減らしたいと協力を頼まれた…歴史を改変してでも…な。最初の理由はそれだけさ…そしてそのダチの計画から離れた理由も簡単…私は魔法を研究する為に魔法使いになりたかった…そのために魔法の秘匿を誓って…そのうえで魔法バレに直接協力する事を私の矜持が許さなかった…そんな卑怯者だよ、私はな」

私は、そう自嘲して笑みを浮かべる。

「だから私は今回、中立さ…邪魔もしねーしスパイもしねーよ…見届けにはいくつもりだがな…通報したけりゃ通報しろ、拷問にかけてでも情報を抜きたければかかって来い、逃げも隠れも抵抗もするが恨みはしねーよ」

私はそう言って背を向けてその場を離れた…一応警戒はしていたのだが、誰も私に襲い掛かって来る事はなかった。

 

 

 

流石にその後、一緒に過ごす事も憚られ部屋でのんびりと咸卦法の修練をしていると来客があった。

「…いらっしゃい、ネギ、楓、アスナ、夕映…それにカモもか」

「お話を…したいのですが」

と、ネギが言う。

「…内容次第だ…まあ近くの談話室へ移動しようか…暴れるにしても自室を壊したくねーしな」

と、私は近くの談話コーナーに移動を促し、ネギたちもそれに従ってくれた。

「で、何だ、話って言うのは」

「あなたが…千雨さんが超さんに協力する理由を聞きたくて…」

「ア?言っただろう?ダチの…超の頼みだって」

「いえ、そうではなくて…協力を続ける理由です…そんな理由で悪い事をする方ではないはずです、あなたは」

「…悪い事、とは?」

「千雨ちゃん!」

と、激昂するアスナをネギが静止し、言った。

「ちうさんが魔法バレに協力する事…その手段が強硬的な手段だと知ってなお止めない理由、です」

「んー二つか…まあ前者…魔法バレに協力する理由は簡単さね、私にとって、それは歴史改変なんかの手段ではなく、それ自体が目的だから、だな」

「!?」

ネギたち一行が目を見開く。

「聡美や超が公言しているように、私達は科学に魂を売り渡したマッドサイエンティストさね…魔法の暴露は科学の発展の為になり、この科学文明社会は大きく変わる…まさにパラダイムシフトさ…夕映は魔法バレの意味を割と軽視してたようだがな。だから科学の信奉者である私達…少なくとも私と聡美にとっては魔法バレ自体は悪でも何でもねーんだよ、大前提として。私は魔法使いでもあるし、魔法をバラさないと約束した身だから、それを破るのは矜持が許さないんで直接参加はしないってだけで…」

そして、自分達で用意した紅茶を一口すすり、続ける…毒を注ぎ込む。

「それぞれ別々に発展している学問が出会い相補的に躍進していく様、見たくないか?例えば、夕映、お前は魔法世界の哲学に触れたくないか?触れた後にその融合を夢想しないと確信できるか?ネギ、世界中の科学者達に魔法…いや魔力の存在を知らしめる事で科学と魔法、それぞれにどれだけの躍進が望めると思う?間違いなくパラダイムシフトが起きる。それでどれだけの人が救われるだろうな…そして魔法側の病、異常状態の治療技術だってあるいは…」

「千雨姉さん!」

カモがそれ以上聞かせては不味いと叫んだがもう遅い、ネギと夕映の心に種は撒かれた。

「あはは…まあ、今のは小娘の描く夢物語さね…さてもう一つ…それを強行的な手段…それこそ武力によってでも実現させたい理由…だな?」

との問いにネギがこくりと頷く。

「その理由は単純…私が救い難い悪党だからだよ、ネギ…他人に迷惑を振りまいてでもそうしたい、だからそうする…そこにそれ以上の理由はねぇよ…まあネギ、お前を踏みにじるのは少し心が痛むが…な」

「ネギに何をする気!」

と、アスナがハリセン…いや剣を私に向ける

「あーいや、直接はなんもしねぇよ…でも、ネギは麻帆良の魔法先生だろ?麻帆良で世界に向けて魔法バレなんて事をされるとネギだって責任を取らされる可能性は十二分にある…それは仮に無罪放免となったとしても、ネギのマギステル・マギになるという夢にも、親父さん探しにもマイナスになる事自体は間違いない…し、ネギは一度、超への処罰免除を嘆願している…違うか?」

「…はい、恐らくはそうなります」

ネギが神妙な顔で肯定した。

「聞きたい事はそれだけか?他にねぇなら私なんかの相手をするより超対策でも考えていろ…あいつがお別れ会前に見せたアレのネタ、ネギはわかっているんだろう?」

「…はい、本当なら千雨さんにも手伝ってもらうつもりだったんですが…」

と、ネギがしょんぼりした顔で言ったのに対して、

「まーその発想は悪くない。私もアレ系統の魔法は色々と研究しているからなー」

と、私はけらけらと笑う。

「アレ?」

剣を引いたアスナは首をかしげてそう聞いた。

「あーその辺りは後でお話します、アスナさん…夕映さんは…」

「あ、はい…二点、お聞きしたい事があるです」

私の吐いた甘い毒に侵され、それでもなお夕映は私に何か問いたい事があるらしい。

「ん?なんだ、夕映」

「まず一点目…超さんの出自が事実として、目的は地球ないし人類の滅亡を回避する為か否か、という事です」

「それは大切な問いだな、夕映…が、すまない、その詳細な答えを私は持たない。だが、おそらくは否だ…単に、アイツの生きる時代に溢れる数多の悲劇…そのきっかけとなったある歴史上の事件で発生した『小さな不幸』を打ち消したい…超はそう言っていた。よって人類滅亡って程ではないだろうさ、まあ冷戦みたいに世界は明日滅びても不思議ではない、って状態でない事は保証できんが」

まあ、夕映が欲しかった答えではないものを与えておく…まあ事実ではあるがな。

「っ…では…もう一つ…千雨さん…あなたはなぜ歴史の改変を是とするです?」

「それは、こう答えるしかねーな。なぜ否とせねばならん、だ」

「それはっ!」

「他の誰も持っていない不思議な力で自分の変えたい方に世界を変える…魔法使いたちがやっている事じゃねーか。それを、時間の逆行ではやっちゃいかんとする理由がどこにある?超のアレだって、科学と魔法の産物だ…科学技術と魔法で世界に溢れる不幸を一つでも多く潰したいと願う事と何の違いがあるんだ?と言った所で納得はしねーだろうな」

「…はい、できません、今の時間は今を生きる人々の物です」

「超だって、この時代にやってきてこの時代を生きている一人の人間だ。よその国、よその大陸、よその世界からノコノコやって行っておせっかい焼くのと何が違う」

そして、夕映が何か返す前に続けて言う。

「まー超はそーいう反発を招いて邪魔される覚悟はしているよ…そして私とお前もきっと平行線だ…お前と哲学・倫理の討論をするのも楽しそうだが…やりたいか?」

「…非常に興味深くはあり、自身の見識を深める役には立つと思うですが…今はそれをする時間が惜しいです…あなたの注いだ毒も、今の提案も…私個人のわがままを刺激はしますが…無意味です」

「ふっ…人間、そういうもんの積み重ねで歴史を作ってきたんだぜ?夕映」

「しかし、理性的、合理的に判断する事を選ばねばなりません」

「そうだな、しかしそれで目指すものを選ぶ為には感情は不可欠だろう?」

「ですが」

「ゆえっち、千雨姉さんに乗せられているぜ」

と、夕映で遊んでいるとカモに止められてしまった。

「はっ…しまったです…千雨さん、ご回答ありがとうございます」

「おう…で、楓とアスナはいいのか?」

「あー私は難しい事はわかんないし、ネギの保護者としてきただけ」

「拙者も、護衛役として同行しただけでござるからな」

「ん、そうかい…そうそう、カモは何かあるか?」

「…超の計画について…は聞けねぇだろう?」

「そうだな、それは憶測含めてノーコメントを貫くぞ、それこそ私を無力化して拷問するなり、いどのえにっきを使うなりしろ」

「なら、オレっちからはねぇ」

「ん…それじゃあ私は部屋に戻る…またなんかあれば訪ねてくるといい」

そう言って、私は席を立った。

 

 

 

結局、その夜も翌日も、ネギたちは私を訪ねてくることはなく、一日分の利用でネギたちは別荘を出て行った。

「フフ…よかったのか?共に行かなくても」

奉仕人形にネギたちが出立したら教えてくれと頼んであったのであるが、その人形と共にマスターが来た。

「行けるわけないでしょう?あんな啖呵切っておいて」

「そこさ…獅子身中の虫をやる事だってできただろうに、このお人よしめが」

マスターがクツクツと笑う。

「…それができるなら、私は今、聡美と超と共にいますよ、マスター」

「そうだな、難儀な物だ…平気でああいう真似はできる癖に裏切りだけはしたくないというワガママ娘め…まあそう言った所も嫌いではないがな…悪にも悪の矜持というモノがあるべきさ」

「はい、マスター」

「まあ、ぼーやも貴様も今宵が運命の日…だな?」

「ええ、まあ…ネギの奴は超の罠にかかって酷い目にあっているか、不戦敗が確定した頃だと思いますが」

「ハッハッハ…まあそう言うのも戦いの一部さ…それを乗り切ってこそだよ…貴様は超にオールインしたんだったな」

「…まあ、そのつもりです。直接動くつもりは今のところはありませんよ」

「それはそれ…後悔はせんようにな」

マスターはそう言って去って行った…。

 

 

そして、私は一日を別荘で過ごし、外へと出た…運命の日を迎える為に。

 

別荘から出た私がまずした事は、ネギの携帯に電話をする事だった…そして結果は電源が入っていないか、電波の届かない場所にいる…確定ではないが、ネギが超の罠にかけられた可能性が高いとみなしてよいだろう。

「さて…とりあえずはクラスの当番に行くか」

今日は、朝から昼までクラスの当番で、その後はパトロールの予定なのである。

 

 

 

 



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第一計画編
50 第1計画編 第1話 運命の夜


ネギ達を見かけない、ネギについて行った面子が当番やパトロールに来ない、という話に心当たりを聞かれる度に知らないと誤魔化しつつ、時刻は夕刻となり、私は寮の部屋に戻ってきていた。部屋を見回すと当座の生活に必要な荷物を纏めてあったスーツケースがなくなっている。

「さて…聡美はもう発ったか…」

と、私も魔法を駆使して荷造りの仕上げ…主にPC周りの梱包…を済ませ、食卓でサブのノートPCを開いて物思いにふける…ネギ達はいつ頃に飛ばされたのか、超の計画は問題なく進行しているだろうか、マスターも中立とは言っていたがどのように過ごす気だろうか、いくつか考えている咸卦の呪法の発展方向をどれに主軸を置いて研究すべきか、どういった隠れ家だろうか…等々と。

 

日も沈みはじめた頃、私の様な外様扱いを含めた魔法関係者に一斉送信されるメーリスで麻帆良湖湖岸からロボ軍団が出現したというメールが入る…始まったか。私も荷物を持つと窓から外に飛び出し、寮の屋上から戦況を観察し始めた。

 

暫くすると、私の携帯に明石教授からの電話がかかった…状況からしてこの状況を解決する為の召喚だろうと無視をして寮の屋上を離れ、混迷極まるエリアへと突入した。

 

 

 

映画の撮影か何かだと認識しているらしい群集に紛れて私はロボたちにある程度近づき、その上空を舞う一機に糸術で接触し…電子精霊を流し込んでジャックし、その個体を物陰に降ろした。

「手はず通りに」

「はい、ちう様」

その個体…をジャックした電子精霊にそう命じると、指揮系統を遡って移動用に飛行型を数機借りる旨を超たちというか恐らくは茶々丸に一方的に通告させて、他にも数機をジャックさせて私のもとに降ろした。私は飛行用の箒を一応取り出して抱きかかえると茶々丸型の空戦機体に抱えられ、また田中飛行型の一機に生活用品を詰めたトランクを持たせて空に舞った。

 

 

 

「やあ、エヴァ」

空中からチャチャゼロと地上を眺め、一人酒に興じていたエヴァを見つけて声をかけた。

「千雨か、どうしたそんな恰好で」

と、茶々丸型に抱っこされた状態を指して言われた。

「この状況なら、途中まではこっちの方が目立たないかなと思ってね…よっ」

と、箒での飛行に切り替えてふわりとエヴァの隣に浮く。

「ん、お前ら、茶々丸型と荷物持ちを残して解放していいぞ」

と、電子精霊たちに護衛を兼ねて随伴させていた田中飛行型の解放を命じた。

すると、田中飛行型は元々いた魔力溜まりに戻って行った。

「お前も文字通り高みの見物か」

「ああ、地上にいると学園側に見つかってメンドクサイ事になりそうだし…ここまで上がっておけば起きるかもしれないクライマックスを見届けるのも楽だしな」

と、肩掛けカバンからペットボトルを取り出して一口飲む。

「なるほど…奴らは上か」

そう言ってエヴァは上空の飛行船をちらりと見る。

「ああ、さすがに途中でばれるだろうし…高畑先生と学園長が上がればロボ軍団で構成できる程度の迎撃網は突破されるだろうからな」

「ふむ…まあジジイは上がってこんだろう、来るとすればタカミチさ」

「高畑先生なぁ…タイムマシンのほかにもう一枚切り札がいるが…超はどうするかね」

「おや、アレの事は聞いていなかったのか」

と、エヴァは地上を指さす。望遠の術式を用いてその先を見ると弾丸を断ち切って、それに込められていた強制転移魔法らしきものに飲み込まれる葛葉先生の姿があった。

「アレは…強制転移魔法…?でもあんなもので…あ…時間跳躍か…あいつ、死傷者ゼロで作戦完遂させる気か」

と、超のした事に思い至る。確かに、儀式完了まで無力化すればよいのであれば、全てが終わった後まで時間跳躍させればいいのである。

「おそらくは、な」

と、エヴァはちびりと酒を飲んだ。

 

「ん…高畑先生、上がってきたな」

エヴァと思い出話をしながら戦況…とはいっても、あとから現れた機械で制御された鬼神らしき大型個体がロボ達の露払いした魔力溜まりを占拠しただけだが…を見守っていると、地上から高速で飛び上がってきた人影が聡美たちが乗っているであろう上空の飛行船に向かっていく。

「行くのだな」

「ああ…世話になった…いつ戻れるか…そもそも戻れるかもわからんけど…今までありがとう、マスター」

「ふん…どーせすぐに戻ってこられるとは思うが…一応言っておこう…達者でな、わが弟子よ」

「ケケ…カエッテコイヨ、オマエトボウズガソロッテイナクナルト御主人ガヒマニナルカラナ」

「はい…行ってきます」

と、私は箒をしまい、自身の浮遊術と虚空瞬動で空に舞い、高畑先生を追った。

 

 

 

「長谷川君…君もかい?」

と、一通り超と口上の述べ合いを終えたらしい高畑先生が、飛行船上、超と聡美の間、高畑先生に相対する様に着地した私に問うた。

「…ある意味はい、ある意味いいえです、高畑先生。私は見届け…と流れ弾が聡美に行かないように来ました。そういう意味ではお邪魔はしますが…聡美に手荒な真似をしなければ手出しはしません」

「あはは…できれば生徒にそんな事をしたくないけれど…超君と戦いながら隙を見て、という事をしようとすると邪魔はされるんだね」

「はい、そう言った状況で可能な手荒な手段で止めるとおっしゃるならば」

「そうか…ならばまずは君だね、超君…その後に、できるだけ紳士的に葉加瀬君を止めろ、と」

「そうなるネ、高畑先生…まあ私が負けて、その後にハカセの下にたどり着ければ降伏する手筈になっているから頑張って欲しいネ」

と、私の前に立つ超は、恐らくにやりと笑った。

 

 

 

「やっぱすげーな…高畑先生」

背中で聡美の詠唱を聞きながら超と高畑先生から聡美への射線を遮るように、燃費のいい障壁を展開しつつ小刻みに移動を続けながら私はそう呟いた。

超の切り札…時間跳躍弾とタイムマシン…カシオペアの戦闘への応用をもってしても、超は若干劣勢気味の拮抗状態を維持するので精一杯の様子である…これが圧倒的戦闘経験という奴だろう。

 

そしてその拮抗の終幕は突然だった。高畑先生の一撃が超の戦闘服の背中に取り付けられたカシオペアを破壊…切り札を破壊された超は拮抗状態を維持できなくなり、あっという間に追い詰められてしまった。

「さすが高畑先生ネ…これが戦闘経験の違い…いや踏んできた場数の違いカ」

「ああ…そうだね、超君…残念だがここまでだ」

「そのようネ…だが最後に聞いておこう…この世界の不正と歪みと不均衡を正すには私のようなやり方しかなく…コレが一番マシな方法だと貴方のような仕事をしている人間にはわかるハズネ…それでも…私を止めるカ?私の手を取る気は…一欠片も無いカ?高畑先生」

「っ!!」

超の言葉によって生じた高畑先生のほんの一瞬の、並の方法では突く事はかなわぬ隙…それを縫うように飛来した弾丸が高畑先生を捕らえ、黒球が先生を飲み込んだ…真名か。

「…真名がやってくれたカ…負けたかと思ったヨ」

「おめでとう…と言うには少し早いかね、超」

「うむ…だが…まもなくヨ…千雨サン」

 

そして数分後、強制認識魔法は発動し、上空へと打ち上げられた…

 

「これで…第一計画の山場は完了ですねー」

詠唱を終えた聡美がその場に座り込んでいった。

「お疲れさま、聡美…頑張ったな」

と、私は聡美の後ろに座り、包み込むように抱きしめる。

「はい…高畑先生にカシオペアを破壊された時はもう駄目かと思いましたけど…千雨さんがいてくれて…最後まで諦めずに頑張れました」

「高畑先生相手にあれだけ持たせられたのも千雨さんがハカセを護ってくれていたからネ…あと少し、高畑先生の精神を削れていなければ…結果は違っていたかもしれないネ…さあ、時間ヨ…我が悲願が遂に叶うネ」

 

と、超が世界樹の魔力を吸い上げて同期していた世界12か所の聖地と共鳴を始めるのを見て言った。

 

「はい…でも、本番はここからですよー」

「フフ…そうネ…この計画を始めた責任はとらねばならんネ…二人とも、これからもよろしく頼むヨ」

「ああ…私でよければ存分に使ってくれ」

そう言って、私は聡美の肩越しに超に微笑んだ。

 



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51 第1計画編 第2話 遅れて来た英雄の卵

「ん…千雨さん…」

麻帆良祭最終日から早一週間…隠れ家のベッドで私の名を呼び微睡む、最早添い寝が日常と化した聡美の頭を撫でながら、私はここ一週間の事を思い出していた。

 あの運命の夜、魔法先生たちの主力が帰還して私達の追跡を始める前に麻帆良内の隠れ家に潜伏し、そこで計画の全容を聞いた。曰く、あの大魔法は世界規模の強制認識魔法で、魔法をはじめとした超常に対する受容性を高める効果があり…ネットにばらまいてある魔法に関する知識に触れた際にそれを信じやすくする効果がある。これらの組み合わせによって、情報を拡散していき…そう言った情報を信じた人からの二次的な拡散によって次第にネットを使わない層へも魔法の拡散を行う…と言う計画らしい。それにより、やっと憶測が正解としてつながった。

翌23日の夕方には速報性重視のブログにおいて魔法が取り上げ始められ、24日には主要なブログサイトで魔法やまほら武道大会での動画が取り上げられ始めた。そして…25日朝、朝倉が23日から麻帆良武道大会、学祭最終日と連載していた記事で情報暴露を始め、さらに魔法・情報の震源地である麻帆良においては一般マスコミが魔法に飛びつくレベルに到達した。この段階に達すると超と私達を追っていた魔法先生達もそれ所ではなくなり、追跡の手も大幅に緩み始め、私達もシレっと高畑先生と明石教授宛に混乱を助長しないために暫く身を隠します宣言のメールをしておいた。そこからは楽なもので、各国への情報浸透を確認しつつ、体が鈍らない様にだけ気を付けてのんびりと過ごす日々だった…呪血紋等に関する聡美からの詰問とか色々とあるにはあったが。そして、6月30日…今日は超から教えられているネギの帰還日予定日である。

 

ピピピピッピピピピッ

 

「んーもう時間ですかぁ…」

目覚まし時計の電子音が鳴り、聡美が起きたのを確認して目覚まし時計を止める。

「おはよう」

「おはようございますー」

と、あいさつを交わし、強く抱き合った後にシャワーを浴びて、朝食となった。

「それでー千雨さんは結局、ネギ先生たちに会いに行くんですかー?」

聡美がトーストを齧りながら私に問う。

「ああ…それ位は…な」

「わかりましたーとても危険ではありますが…お気をつけて…ちゃんと帰って来てくださいね?」

「ああ、大丈夫…なんとしても帰って来るよ…どんな無茶…いや、無理をしてでも、な」

「…そーいった状況に陥る前に撤退して頂けると私としては安心なんですがー」

「善処はする、気づいたらそういう事になっていたら…うん、ごめん」

「もぉ…最悪、外のセーフハウスにでも逃げて下さいね?そこから召喚して頂ければ」

「…イヤ、外のセーフハウスに二人とも行かれるとネット上で不測の事態が発生した時の対応に手が足らんからハカセを召喚せずにホトボリ冷まして帰って来て欲しいネ?というか、あの夜の翌日、実は仮契約していたとか聞いて私、卒倒しそうだったからネ?」

と、超が口を挟んでくる。

「えーダメですかぁー?」

「この一週間、散々イチャコラしていたんだから、万一の時は秘匿通信で数日位は我慢するネ、ハカセ、千雨サン…というか、そもそも無茶するでないネ」

「あ…ハイ」

と、私は二重の意味で答えたのだった。

 

「じゃあ、行ってきます」

「ああ、気を付けてナ…頼んだヨ」

「行ってらっしゃい、千雨さん」

と、私は聡美と抱擁を交わし、隠れ家を出た。

 

 

 

ネギに渡されたタイムマシン…カシオペア一号機から発せられる信号を頼りにネギを探していると、カシオペアを引き摺るカモがいた。

「…何やってんだ、カモ…ネギは?」

ひょいっとカシオペアごとカモを確保する。

「げ、千雨姉さん…なにしに来やがった!」

「いや…超の罠に嵌って今日帰ってくるはずのネギを探しに出ていたんだが…もしかして、もう学園側に確保されたのか?ネギの奴」

「うっ…その通りだぜ畜生め…なんとかみんなと合流しようとしたがこんな所で千雨姉さんに捕まるとは…」

カモが悔しそうに言う。

「んーエヴァの家で良いのか?合流場所。連れて行ってやるよ」

「へっ?」

と、カモをカシオペアごとポケットに捩じ込み、私はエヴァの家へと向かった。

 

 

 

「よぉ…そのメッセージ、見たようだな」

と、エヴァの家の地下、別荘の安置室に着くと、ダイオラマ球にエヴァの許可を取って貼ったメッセージ…エヴァにもう帰って来たのかと大笑いされて無茶苦茶恥ずかしかった…の再生を終えたらしい一行がいた。

「ち、千雨ちゃん!?こ、これってどういう事!?なんか難しい単語ばっかでよくわかんなかったわよ!?」

とのアスナの言葉に私は状況にもかかわらずズッコケた。

「ええいっ、要するにお前らは超の計略に嵌って決戦の日を迎えられず、超の作戦は大成功したんだよ!半年もすれば、地球上の全ての人間が魔法の存在を自明…当然の事として受け入れている事だろうよ!」

「何それ!無茶苦茶ヤバいじゃん!?」

と、アスナとバカみたいないやり取りをしているとカモが目を覚ました。

「うーん…あっ、姐さん!大変だ、兄貴が!」

と、カモはアスナを見て叫んだ。

 

「ネ…ネギがオコジョにされる…!?」

時間が惜しいからと私も含めて行われた事情説明を要約するとそういう事らしい。

「ああ、今回の責任を取ってな、今は地下に閉じ込められている」

「な、なんでよ!?今回の事、ネギが悪いわけじゃないでしょ!?」

「いや、先週…お前らにとっては昨日…説明しただろ、魔法先生として、一度は超を庇った身として、超の計画が成功するとネギは責任とらされるって」

「あ…」

「まあ、そういうこった…これだけの事件だしな。兄貴はまだ10歳だしな…オコジョの刑は数カ月で済むかもしれねぇが…本国に強制送還されるのは間違いねぇだろう…下手するともう…二度と会えねぇかも」

と、カモがみんなを脅す。

「に、二度と…そんな…ネギ先生」

「助けに行くアルヨ、わが弟子ヨ!」

「ま、まってくださいクーさん。魔法先生と対立する気ですか!?」

「は、話し合いはできないのですか?」

「どうかな…頭の硬い連中だしな。それに、あいつらはあいつらで責任を負う事になる筈なんだ…追い詰められてるんだよ…」

「そんなの知らないわよ!うだうだゆーなら私がブッ飛ばしてやるわ」

うむ、危惧していた私らをとっ捕まえて減刑嘆願という方向にはいかなそうであるが…学園側と衝突されて時間を浪費されても困るのである。

「お前、それはさすがに無理ゲーだぞ…オイ、カモ、お前が態々証拠物件持って来たって事は使うつもりなんだろ?ソレ」

と、カモの持つ物を思い出させてやる。

「…そのつもりだったんだが…使えねぇんだろ?コレ…」

「ああ、地上では、な…ホレ」

と、世界樹をこよなく愛する会のホームページのとあるページを印刷したものを取り出して見せる。

「超がお前らを今日に飛ばしたのは、それがギリギリだったからさ。跳躍先にもある程度の世界樹の魔力かそれに類するモノが必要なんだよ、それ」

と、ネタバレをしてやる。

「つまり世界樹の近く…ないし地下の根っこの辺りならまだ使えるだろうな、急げばな」

「何っ…って千雨姉さん、どうしてそれを…」

「んー?聞きたいか?聞かねぇ方が良いと思うがね…というか、夕映は気づいているだろう?」

「…はい…つまりその試みは失敗するか…あるいは…」

夕映が言い淀むのに対して、私はそれを肯定する。

「まあ、そういうこった…ま、それと私らをとっ捕まえての減刑嘆願…なんて方向に走られても困るんでな」

いや、割とマジで。すでに超の切り札は機能していないので、現在は私が最大戦力である、物量を別にすれば。

「よくわかんないけど、とにかくネギを助けに行って、世界樹の根っこにたどり着けばいいのね!?」

「…はい、それが最善の手段と考えるです…千雨さんと行動を共にしても問題はない…かと」

夕映がギリっと唇を噛み締めて言った。

「おう、千雨姉さんが協力してくれる理由がよくわかんねぇが、それなら急いで行動に移そうか」

「…少し遅かったようでござるよ…魔法先生のお出ましの様でござる」

と、楓が言った。

「な…なぜです?」

「うむ…ここはエヴァ殿の邸宅でござる。超殿の仲間と疑われたか、ネギ坊主の仲間だからか…あるいは千雨がつけられたか…」

「はは…まあ私が姿を見せて逃亡すれば追ってくる可能性は高いな、囮くらいはやってやるさ」

「…どちらにせよ、ネギ坊主を救出するならば戦いは避けられぬでござるな」

一同の間に緊張が走る

 

「神楽坂明日菜以下8名…そこにいるのはわかっています。おとなしく出てきて私達に同行してください!危害を加えるつもりも、あなた方の不利益になるような事をするつもりもありません。ただ、今回の事件の重要な参考人として事情を聞かせて欲しいだけです…5分だけ待ちます」

と、葛葉先生が口上を述べた。

「さて、楓の気配を拾えてないか何かで人数誤認してる様だが…どうするんだ?さっき言ったように囮くらいはしてやるぜ?足止めは断るが」

「…そうだな…素直に従ったとして、どれだけの間拘束されるかわかったもんじゃねぇ…千雨姉さんの持ってきた道も閉じちまうぜ…千雨姉さん、エヴァは今どこに?」

「ん?ふつーに学校だぜ?登校地獄の呪いもあるし」

「あ…それがあったな…よし…それじゃあこういう作戦で行くぜ」

と、カモが作戦…私を囮として放った後に葛葉先生ともう一人が引っ掛からない様ならば刹那と楓が二人を足止め、刹那の人型とハルナの簡易ゴーレムをここに置いて他の面子は逃走…を説明した。

「よっしゃ、任せて、カモ君!」

と、ハルナがすさまじい勢いで簡易ゴーレムを作成し始めた…。

 

「じゃあ、私がまず正面玄関から小川方向に逃走、すぐに刹那と楓が顔を出す…で良いな?」

「ああ、頼んだ、千雨姉さん」

「了解…まあ、合流できそうならばまた顔出すさ…それじゃあ、達者でな」

と、カモやアスナ達に一応、別れを告げる。

「では…行くでござるよ、刹那、千雨」

と、楓と刹那と共に、一階に降り、私は手筈通りに正面玄関から飛び出した。

 

「長谷川千雨!?」

葛葉先生が私を見て叫んだ。

「ええ、その通りです、葛葉先生、それでは失礼」

と、手はず通りの方向に跳躍する。

「あ、待ちなさい!」

「葛葉、今は捨て置け!」

と、葛葉先生のペアの魔法先生が葛葉先生を止めたのが聞こえたが、構わず瞬動を重ねて使用し、その場を離れた。

 

 

 

 

その後、欺瞞を含めて逃走を続けた後に地下に潜った私は、遺跡側から魔法使いたちの施設地下へ侵入していた。

「さて…そろそろいい頃合いだな」

私はカシオペアからの信号が強くなっているのを確認し、そう呟いて、中から扉を叩く音が聞こえ続ける収容室の扉を少し開き、地下遺跡への出口でネギを待つ。

 

「よお、ネギ」

「ち、千雨さん!」

「積もる話をしている暇はねぇ…用件だけ言うぞ。もし、私を信じるのであれば、これを【向こうの私】に渡せ、そうすればお前の力になってくれる…筈だ」

と、私は簡単に暗号化された手紙の入った封筒をネギに渡す。

「これは…?」

「手紙さ、私から私に宛てた…な。ほら、お仲間たちが迎えに来ている…行け」

と、トンネルの出口を指す。

「ええ、行きましょう、千雨さんも!」

「えっ、おい、ちょっと」

と、私の手を取り駆け出すネギに引っ張られて私も共に駆けて行くはめになった。

 

 

 

感動の再会の後、カモがネギに事情を説明してなぜか私も共に世界樹深部を目指していた…こっそり追跡して見届けるはずだったんだが、どうしてこうなった。

「見てください!世界樹の根がぼんやりと!」

「おおっ」

「よし、世界樹の魔力だ!兄貴!カシオペアを!」

「うん!」

と、ネギがカシオペアを取り出し、動作を確認する。

「動いている!使えるよ!」

「よっしゃああ、これで最終日に戻れるぜ!」

「やったぁ」

「何とか大ピンチ脱出ね!」

「後はあの二人を待つだけだぜ、兄貴、刹那姉さんに連絡を!」

「うん!」

「…?カモ君、オカシイよ、時計が動いてない!」

「ち、ちょっと見て!世界樹の光が…消えてく…」

「ここの魔力も消え始めているんだ…最深部に向かえ!」

と、そんな時、デカい足音が聞こえ…西洋竜の姿が見えた。

「っ…こんな時に…私が足止めする!早く行け!」

「でも、千雨さんが戻れなく!」

「バカ野郎!向こうの私は向こうにいるんだって!とっとと行け!」

と、ネギを叱り飛ばして竜が横道にいる間に足を止めると私は竜にむかっていった。

 

とはいえ、竜を如何にかする事は条件が合えばともかく、今の条件だといろいろ厳しいのでネギ達が跳躍するまで足止めして離脱が勝利条件であろうと判定する。

「とりあえず…ノイマン・バベッジ・チューリング 来たれ虚空の雷薙ぎ払え 雷の斧」

と、まずは開幕ぶっぱ、と雷の斧を竜の顔面にかます。

「グルォ!」

流石に怒った様で、口からボフボフと煙を吐いてブレスの構えをとる。

まあ、まともに付き合う必要はないのでT字路を脇にどいてまずは直撃を避ける

「ノイマン・バベッジ・チューリング 吹け一陣の風… 風花 風塵乱舞」

と、詠唱のタイミングを揃え、タイミングを合わせて詠唱を完成させ、余波を完全に防いだ。

後ろを見るとネギ達は無事に召喚できたらしい刹那と共に出口らしい光に飛び込んでいた。

「ん、もう一撃くらいで良いか」

後ろに飛んで、T字路から距離を取る。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 影の地 統ぶる者スカサハの 我が手に授けん 三十の棘もつ愛しき槍を」

「グルァァ」

と、狙い通り竜が顔を出して吠え掛かってくる。

「雷の投擲」

で、雷の投擲を開いた口にぶちかまして私は逃げた、全力で。

 

光に飛び込むと、そこには何かの遺跡があり、中央に集められた世界樹の魔力の下、ネギ達は円陣を組んでいた。

「千雨さん!無事でしたか!」

「何発かぶちかましたがすぐに来るぞ!早く跳べ!」

と、叫んでネギと言葉を交わす。

「まだ楓さんが!」

「ぐっ…ならもう少し足止めが必要か…」

「いや!今、着いたでござる!」

と、楓がちょうど到着し、円陣に加わった。

「よし、私も離脱する、竜が追い付いてくる前に、早く!」

「…ハイ!千雨さん、またあちらで!」

と、ネギは答えた後に円陣内で少し会話を交わした後に、カシオペアを起動させた。

 

魔力が渦巻き、ネギは消えた…この世界線から。

 

「…じゃあな、ネギ…」

私はそう呟き、世界樹の魔力に触れた。

 

 

 

「…行くか」

そして、かねてからの疑問を解く事も出来た私は、その場を去り、超と聡美の待つ隠れ家へと帰還したのであった。

 



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52 第1計画編 エンディング 少女の描いた夢とその結末

「なあ、聡美…超の計画ってネギを勝たせるルートだったりはしないよな?」

それは、超のお別れ会の夜に私が聡美に問うた言葉だった。

「あーその疑念に行きついちゃいましたか…千雨さん」

と、聡美は答えた。

「そりゃあなぁ…タイムマシンをネギに渡した件と言い色々と…タイムマシンの戦闘への応用を見ると尚更な」

「ええっと、実は半分当たりですー第一計画は千雨さんの察しているだろう内容だと聞いていますがー懸念材料のネギ先生たちをその世界線から排除する為に…第二計画が存在しますーその計画の世界線では…恐らくガチバトルになるだろうと…」

と、私の問いに聡美がネタバレをかます。

「あーなるほど…二つの世界線に分岐させて…タイムマシンに仕掛けた罠にかかればすべてが終わった時間に飛ばされて…そこから世界樹深部を目指して成功すれば…って事か」

と、タイムマシンが恐らく持つ特性を前提に組み上げた推理の一つを提示してみた。

「はいー第二計画の世界線に分岐する私達にとっては裏切りですが…第一計画の確実性を増す為と…第二計画は最悪負けてもいいのでー」

「…オイ?」

と、聡美の言葉に私はそんな反応を示した。

「いやー第二計画って、第一計画の亜種であると同時にある種のネギ先生育成計画でしてー」

と、聡美が全てをぶっちゃけた。

 

第一計画の世界線…つまりは私の生きる世界線ではネギ達の不在が確定した。ご丁寧に超は世界線がきちんと確定する様にネギ達が一週間分、一気に跳躍するように仕込んであったとも待機期間の間に聞いていた。

 

 

 

そして…世界を管理して見せると言った超の計画は、ある意味成功し、ある意味失敗した。

混乱は最小限に収まり、マギステル・マギ達、善意の魔法使いの活動も活発化し、また魔法の軍事・テロへの転用も私が危惧した程のものではなかった。

2003年の8月下旬に発生した同時多発ゲートテロにより本国との関係が途絶…その後の麻帆良事件と呼ばれる一件の後、生き残りのために各国魔法協会が国連や現地政府に協力をはじめる事となる。特に、魔女の国イギリスと関西呪術協会を抱える日本、そして人種の坩堝アメリカは元々比較的政府と魔法組織との距離が近く、力を伸ばした。言うまでもなくそれらの国々はアメリカという超大国とその同盟国であり…その結果、陰りが見られていたパクス・アメリカーナの再来となった。

 

 

 

あの日、ネギが消え去った後の魔力に触れた私はある存在と邂逅し、私の魂に刻まれた言葉のルーツを知った…それは彼女の娘だった魂に刻まれた葬送の言葉であり…輪廻の果てに無数に散ったその魂の一片を宿す存在の一人が私で、何重もの奇跡の果てにその力を目覚めさせた…が、数多に千切れた魂の欠片ではさほど大きな力は無く、世界樹の魔力と相性が良くなり、色々と才能に恵まれる代わりに闇の悪夢に捕らわれると言うだけの物らしい、少なくともいらん事をしなければ。と言う訳で、気が向けばまた会いにおいで、と誘われ、後にも麻帆良地下の彼女の下を時々訪ねる事となるが…それは私にとって一人の友人が増えただけの事であった。

 

 

そして…

「母様ー」

「ああ、走ってはいけません」

火星開拓の前線基地への出張から地球に帰った私は娘と茶々丸(が、地球に持つ体の一つ)に迎えられた。

「ただいま、美雨…いい子にしていたか?」

と、美雨を抱き上げる。

「うん!茶々丸お姉ちゃんやママのお手伝いもちゃんとしていたよ!」

「ええ、いつも通り、いい子にされていましたよ」

と、茶々丸が美雨の言葉を肯定する。と、少し遅れて二人の女性がやってくる。

「おかえりなさい、千雨さん」

一人は聡美…

「おかえり、千雨サン、五月がご馳走を用意して待っているヨ」

もう一人は超である。

「ただいま、聡美、超」

「あ、ママ、鈴音さん」

「もー美雨、ママと千雨さんの事待ってよーねって言ったでしょ?」

と、聡美が到着ロビーのギリギリまで駆けて来ていた事から想定していた通りの事態を言う。

「美雨が元気良いのはいつもの事ネ…千雨さんに似て…容姿はハカセそっくりだが、中身は千雨さんの幼い頃とそっくりネ?」

と、超がため息をつく…そう、この美雨は超の専門の一つである生物工学の技術による人工授精で私が産んだ正真正銘、聡美との実子である…一応、技術自体は一般公開されており、費用面で十分に広まっているとは言い難いが、不妊治療の一種だと思えば男女間の顕微授精より高額ではあるものの、中流家庭でも覚悟を決めれば手の届くくらいの額である。

 

 

 

私と聡美は色々あって、正式に恋人同士となり、麻帆良学園にも復学というか飛び級して後に博士号も取得した。その後、超の計画の一環で火星開拓関係の事にも尽力し…20代の内に麻帆良大学の理学部と工学部にそれぞれ教授として迎えられ、魔導科学と呼ばれる新分野の始祖として讃えられるほどの名声を得ている…研究は概ね好きにできているし、家庭も円満である。同居している超はアメリカという超大国の一極支配に近い体制に苦虫を噛みつぶした様な顔を時々する事はあるものの、致命的な事態のコントロールという方向では概ね上手く行ったこの世界での人生と研究、多角化している超包子の経営を楽しんではいるようで、概ね幸せそうである。そして、半同居状態である五月は超包子のレストラン部門担当の役員兼総料理長を任されており、いくつもの店舗をうまく切り盛りしているし、料理の腕・厨房の差配能力共に当代一と謳われている。

 

「千雨さん」

美雨を茶々丸に預けて聡美に近づくと聡美に抱き付かれた。

「どうした?聡美」

「えへへ…おかえりなさい…愛しています、千雨さん」

「ああ、ただいま…私も愛しているよ、聡美」

そう答え、私はそっと聡美を抱きしめた。

 

 




これにて、第一計画世界線はエンディング。少なくともこの世界線では千雨さんはハカセと結ばれて婦妻しております。そして、超一味…超と五月さんと茶々丸の一人(複数ボディー持ち)と同居していて美雨ちゃんはみんなに愛されて育てられております。
UQホルダー編の色々は作者がフォローできていないのもあり、始まりの魔法使いとかはアスナの消滅とかと共に色々なかった事になっていて、魔法世界は完全なる世界計画で住民ごと消滅…という事になっています、少なくとも公式には。次回は第二計画編という名のネギま本編ルートに戻っての連載…になるといいな(続きをうまくかけずに第一部完のノリでここで終わる可能性が無いとは言っていない、一応執筆はしているけれど


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第二計画編
53 第2計画編 第1話 自分からの手紙


長らくお待たせいたしました。ある程度めどが立ちましたので投稿再開します。スピードは前より大分落ちるかも。


「やほーっいいんちょいるアルかー?」

私がクラスの当番で開店準備をしていると、クーがそんな掛け声と共に入ってきた。無事に戻ってこられたらしい…という事は第二計画世界線に私は分岐したという事になる…のだろう。そして後から入ってきたアスナが委員長と喧嘩を始めて、その上で学園祭最後の合同イベントをかくれんぼ大会から対ロボ軍団迎撃サバゲ―に変更する様に申し出てきた…当然大ゲンカである…ふむ…ネギの反撃の一手だろうが…誰の入れ知恵だろうか?

「あー…実はいいんちょ、これはネギ坊主からのたっての頼みなのアルが…」

と、クーが囁いた瞬間、委員長は落ちた…ウム、そりゃあそうなるか。

 

「あ、そうそう、千雨…ちょっと来て欲しいアル」

と、私はクーに呼ばれた。

「あれっ千雨ちゃんいたのっ!?」

「いや、アスナ…いるはずだから呼んでくるように言われていたアルネ?いるに決まっているネ…まあ気配は消していたようだが本気で隠れてはいなかったアルよ」

「ま、そういう事だな…おかえり、クー、アスナ」

と、私はクーに促されるままについて行く。

「応、ただいまアル…ってアレ?」

「ちょ、千雨ちゃん、なんで私達が一週間後から戻って来たって…」

「ネギの携帯にかけて私が別荘出てすぐの時間にお前らがいなかったのは確認済みだ…し、超の奴がそーいう罠をタイムマシンにかけているとは最初から予測していたし、その予測が正しい事も確認しているよ…まあいつから戻ってきたのかは今知ったけど」

「ちょ、だったら教えてくれてもいいじゃん!」

「私は中立だって言っただろうが…そーいう搦手も戦いの内さ…で、何処に向かっているんだ?」

「ん…図書室よ…ネギがあんたに渡す物があるから連れてきて欲しいって」

「私に渡したいもの…?」

このタイミングで何事だろうか…未来で私が妨害をしたので、敵と確定されてタコられるとかのがありそうなのだが。

 

「よう、おかえり、ネギ…えらく派手な事を企んでいるみてーじゃねーか」

ソファーで横になるネギをからかうように声をかける。

「あ…千雨さん…よかった…本当にこっちにいてくださいました…」

と、ネギはのっそりと起き上がって安心したようにそう言った。

「そりゃあいるさ、向こうの私を置いてきたのでも気にしていたのか?」

まあ、連れて来られても困るのだが、この私も向こうの私も。

「はい…さすがちうさん…お見通しですね…」

「ははは…なんでも、ではねぇさ…現に誰の入れ知恵か知らねぇが、無自覚一般人を動員するなんて大それた作戦を実行するとは思ってもみなかったしな…誰の立案だ?」

「えっと…僕…です。超さんなら僕たちが最終日に戻ってくる可能性は当然考えていると思うべきです…だとしたら超さんが驚くくらいの作戦じゃなければ勝てないと…思ったんです」

「ああ…なるほど…な。その発想は間違っちゃいねぇな」

現に、ネギが罠にかかった後に戻って来る事までが超の計画であると私は聡美から聞いている。

「えっと、それで本題ですが…向こうの貴女からです…できれば、僕たちの手伝いをして頂けませんか?」

そう言って、ネギは私に一通の封書を手渡してきた。その場で開封して中身を読む…簡単にではあるが暗号化された未来の…いや別の世界線の私からの手紙…その内容を要約すると、第一計画は今のところ順調で、事前に聞いていた通り、最後の仕上げにネギをこちらに送る。その時に、こっちの私を信じるなら渡してほしい、とこの手紙を預ける事にする、向こうの私が言えた義理ではないが、信頼に応えてやってはくれないか?という事だった。

「…で?私に何をしろって?」

ここで正面戦力として動員する気ならさすがに帰る…が

「千雨さん…僕が超さんを止めます…だからそれまでの間、インターネットで超さん達がしている活動を阻止して頂けませんか?それと、終わった後の後始末と…できれば迎撃作戦の広報を」

「…わかった、インターネットでの超たちの情報拡散活動の遅延とお前が勝った場合の後始末、それと一般人を動員したあの迎撃作戦の広報だな?」

と、意図的に少し言い回しを変えて協力を呑む。

「おっと、超たちが学園結界を解除する為に学園側に仕掛けるであろうクラッキングの阻止も頼むぜ、姉さん」

カモがこう口を挟んできた。そこには触れないように言い回しを変えたのに…

「…それはちっときついな。正面切って超たち…恐らく茶々丸とやり合うのは電脳戦でも断る。学園側の支援というのも…指揮所に入れれば防衛の手伝い位はしてやってもいいが…少なくともこの件に関して、私は学園から信用されてない。外部からだと超の隠し玉を得た茶々丸相手だと…装備が足らん、フル装備でギリギリって所だが、私の電子戦装備は逃亡用に一部解体してある」

「そこで仮契約さ、千雨姉さん」

「ちょっと、カモ君」

「オイ、カモ」

カモの言葉にネギと私が突っ込む。

「でもよ、そうでもしねえと装備が足りねぇんだろ?千雨姉さん…初めてでもねぇみたいだし…なにより、パートナー庇う為にも戦果はあった方が良いだろう?」

と、カモが言う…最後だけは私だけに聞こえるようにわざわざ私の肩に飛び乗って。

「っ…カモ、てめぇ!」

どうやって知った、と激高してカモをひっつかんで叫びかけて気付く…このエロオコジョ、絆契約を得意とする妖精だったな、と。そりゃあ私と聡美が一緒にいるところで何度も会っていれば隠しきれるわけはなかった。一応、聡美は協力者枠なので魔法界の慣例的に重い罪にはならんはずだが事が事である…庇う算段はしていなくはないのであるが…確実を期すために私はカモの囁きに乗る事にした…主作戦の妨害にならない程度の戦果でアリバイを作っておくという方向で。

「カモ君!千雨さんに何言ったの!」

「何でもねぇよ…ネギ…する…仮契約するし…学園側に支援もする…だから…聡美たちの減刑への協力を約束してくれ」

私は懇願する様な演技でネギに言った…カモを掴んだまま…

「えっ…はい…僕の生徒ですし、当然、酷い処分は避けられるように尽力しますよ」

と、ネギは戸惑いながらも答えた…よし、言質は取れた。

「よし…やれ、カモ」

「あいよ!」

カモを放し、仮契約の魔法陣を書かせる。

「えっちょ、千雨さん!?んっ…」

…という事で私はネギと仮契約を結んだ。

 

「アデアット」

カモに複製カードを作ってもらった私は、再び眠りについたネギを起こさないよう、少し離れた場所でアーティファクトを具現化させてみた。…力の王笏という名のそれは、その名にふさわし…くない魔女っ子の玩具の様な見た目であった。

「はい、千雨さん、簡易取扱説明書です。この通りにすれば正式な取扱説明書を開けるはずです」

「夕映…その…ありがとう…別荘では少しからかい過ぎた」

「…いえ…向こうの貴女に注がれた毒に比べれば…」

「…そんなに酷い事言ったのか?向こうの私…」

「いえ…ただ…超さんの罠と麻帆良祭内での跳躍の違いを突き付けられただけです…カモさんを含め、皆さんは気づいていなかったようですが」

「ん…?向こうの千雨姉さんが協力してくれた理由か?ゆえっち」

と、カモが言う。

「ああ…同じ世界線の中にいるか…分岐した別の未来から帰って来たか、か?」

「…はい」

「なっ…それって…時間差や事情はともかく、超のやっている事と完全に…この事は兄貴…いや皆には」

「…黙っておくべきです…少なくとも、自力でその事にたどり着くまでは」

「どうするか、私は口を挟まんし、私からは言わねぇが…ここぞという時に超に囁かれても知らんぞ?」

と、私は夕映から受け取った説明書を読みながら言った。

 

 

 

「とりあえず表向きの広報は一通りおわったぞ」

作戦の確定を受けて麻帆良祭最終イベントの告知という体で色々とネットで宣伝をした私はそう宣言した。

「ありがとうございます…千雨さん。でも…本当にこれでよかったんでしょうか…一般人を巻き込んで…これでは超さんと同じです。力に対して力で対抗するなんて…それに僕…超さんが本当に間違っているのか、まだ…」

再び目覚めたネギがそんな泣き言をいう…まったくマスターの弟子らしからぬ奴である…まあそういう所も嫌いではない…が。

「…私にそれを問うな、別荘で言ったように手段が悪だと呼ばれる自覚はあるが間違っていると思っちゃいねぇから協力していたんだからな。それに、デカイ悩みは吹っ切るなって言いはしたけどな、お前はリーダーだ、少なくとも仲間の前では腹括ってドーンと構えているのも仕事の一つだぞ、ネギ」

「…でもせめてもう一度話し合いを…」

「…それを望むならば、あいつの送別会の時にでもその席を設ける約束を結んでおくべきだったな…もう遅い」

「あうう」

「力には力を!超達も魔法使い側も、もうそういう段階に入っちまっている。まずは超の計画を実力で止めん事にはお前の…いや学園の魔法使い達の負けだよ」

「…そうですね、確かに主義主張の相容れぬ者が力を行使してきた時、既にそこに話し合いの場などなく…力に対するには力の行使か、力を後ろ盾とした交渉が基本です」

と、ハルナの手伝いをしていた夕映がやってきて私の言葉を補足した。

「でも、悩む事が悪いとは思わないです。自分が正しいと思ってしまえばそこですべての回路は閉じてしまうのですから…少なくとも、あなたは間違っていないと思うですよ、ネギ先生」

そう、夕映はネギに言った。

 

 

 

「よし…全て終わりだ」

力の王笏に付随していた電子精霊アップデート(昇位)キットの精査並びにうちの電子精霊たちへの適応と、超の情報拡散プログラムへの活動遅延と世論誘導を兼ねた新イベント関連の噂拡散を終えた私はそう宣言した。なお、さっそく電子精霊たちには、この建物の通常ネットワーク(学園長室とかは物理的に別系統にされている様である)を掌握・拠点化する準備をさせている。

「よっしゃー」

「お疲れ様ですー」

ハルナとのどかがそうねぎらってくれる。

「浮かれるのはまだはえーぞ、ハルナ」

「本番はこれからでござる」

「ええ…」

「うぅ~ん」

ハルナを窘めているとネギがうめき声をあげた。

「やっと寝られたかと思えばうなされているな…」

「だ、大丈夫なんですか」

「…まあ一応、魔力回復的にはそう心配することはない…が心配すべきはネギのメンタルだな。

何が正しいとか、間違っているとか…ネギにゃまだ重すぎる荷物だよ」

「確かにネー私にもそんなんわかんないのに」

「本当だよ…かといって開き直れる奴でもねーからなぁ…」

「ええ…それが先生の美徳でもありますが」

「そうだな…わりぃが私はその辺りは今回ノータッチだ、ネギが望むなら感想戦くらいは付き合ってやってもいいけどな…超にここ一番って時に傷口抉られたくなけりゃ、さっきの件と合わせてお前が手当てするしかねぇぞ、夕映」

「…はい、わかっています」

夕映は少し震えた声でそう返した。

 



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54 第2計画編 第2話 夕映との問答

「はぁーいよいよ作戦開始だねー」

「ネギ君、起こさなくていいかなー」

17時45分、ネギたちが別の未来で仕入れてきた超の作戦開始時間…19時頃まであと1時間強ある。

「焦るな、まだ想定時刻まで1時間以上ある。ギリギリまで寝かせといてやれ」

そう、気をはやらせるハルナとのどかに言った…とはいえ超はこちらの作戦を掴んでいるに決まっているから侵攻開始時刻の前倒しを行う可能性は十二分にあり得る。

「あの…千雨さん」

「何だ?」

「超さんと…ネギ先生の事なのですが…少し話し相手をお願いしてもよろしいでしょうか」

覚悟の決まった声色で夕映はそう言った。

「…また毒を埋めるかもしれない、とわかっての事ならば受けよう」

それに対して、そう、私は答えた

「覚悟の上です…ではまず前提条件の確認から…」

そう言って語りだした夕映は、超がしようとしている事が単純なテロなどではなくある種の革命である事、その革命によって世界中で苦しんでいる人が救われる…かもしれない事、そして革命の帰結として不幸な未来を回避しようとしているらしい事、を指摘した。

「これらの事…つまり超さんが本当は正しいのではとの思いがネギ先生を悩ませていると思うのです」

「…まあ、多分そうだな」

「そして、論理的には超さんに協力せねばならない事態というのが一つだけ存在します…それは地球ないし人類の存亡がかかっている、という場合です。そして、それ以外の理由で歴史の改変を認めることはできないと思うのです。しかし、これは千雨さんが一応は否定なさいましたね?」

「ああ、そして昨日のアレは私の毒入りだ。超自体は冷戦云々を匂わせる様な言動は一切していない」

「そうですか…ならばなぜ今なのでしょう。例えば前世紀のような…二つの世界大戦を含む戦争であまたの人々が死んでいった時代ではなく…超さんの頭脳とタイムマシンがあればそれらの歴史も改変できるはずです」

「いやぁ…それはどうかな?技術レベルが違いすぎるとあいつの持つ未来知識をもってしてもそれを生かしきれないし、情報統制も比較的容易な時代だ…麻帆良の技術レベルが最低限のレベルに到達し、かつインターネットの普及という情報革命を考えればあいつがこの時代を選んだことに一定の合理性もある」

と、夕映の言葉を遮り、この時代を選んだ妥当性を論ずる。

「あ…技術レベルの視点は抜けていたです…」

「まあ、そこは論旨のメインじゃねーだろ、それで?」

と、私は夕映に続きを話すように促す。

「あ、はい。重要なのはそれらすべてをなかった事にするのが正しいか…と言えば答えは否と考えます…そして…その…過ぎ去った過去を受け入れて人はその上に立って歩みゆくしかない…と言いたくなるのですが、一週間後の確定した結果から戻ってきてしまった私達には…どれだけ言葉を弄しても、それは私たちにも突き付けられる諸刃の剣なのです」

そう、夕映は苦しそうに言葉を絞り出す。

「…そうだな、何なら、あいつが未来人暴露したのもネギやお前たちを同じ立場に立たせるためという節もあるな」

「その通りです…超さんが未来人である事を暴露する論理的理由が存在しないこともまた問題なので…それを狙ったとしか考えようがないのです…まるで否定して欲しいかのように」

「まー私と聡美が協力を頼まれた時も自嘲気味に自分は悪でも構わないと宣言するような真似していたな…時間逆行自体はあいつもそれだけで反対される理由になるとは自覚あったみたいで…まあ私達は肯定したけど」

「「「「はっ?」」」」

私たちの討議を黙って聞いていたハルナ、のどか、そして楓もそんな声を上げる。

「…もしかして、このメンタル攻撃の元ネタって超さん自身の経験…です?」

「可能性はゼロじゃねーな、その辺りは昨日言った通り、私は是とする、が答えだけど、ネギにゃそのままじゃ受け入れ難いだろうな…というか、その点への回答と、さっきの超が正しいかもしれないという揺れへの回答がネギに必要な言葉じゃねーかな」

「確かにそうだとは思います、そこまではわかるのですが…自分を納得させられる答えが見つからないのです…そんな私がいくらネギ先生に言葉をかけたところで…千雨さん、あなたなら…」

夕映が迷子のような声で言った。

「だから私はノータッチだっての…まあしいて言えばあれだ…マスター…エヴァの言い回しだが、泥にまみれても尚前へと進む者であれ…だな」

私も甘いな…直接ネギと対話をするのであれば別の言い回しで違ったニュアンスの事を言うだろうが。

「…考え抜いた今であればその意味を理解はするです…多分ですが」

「えっと…ようするに?」

ハルナが首をかしげる。

「いろいろなニュアンスを含むですがこの場合は…汚れてしまった事…つまり歴史改変という泥を纏った事を受け入れて、それでもなすべきことをなせ…あるいは泥に塗れる事…つまり間違う事を恐れずに信じる方へ行け…あるいは…と言った所でしょうか…本当はこういう言葉はそのまま受け入れるのが一番なのですが」

夕映のその言葉に、私はにこりと笑った。おおむね正解という意思を込めて。

 

ちうさま、麻帆良湖岸にロボ軍団が出現しました。

 

そう、電子精霊が唐突に告げる。時刻は18時少し前、おおむね一時間の繰り上げである。

「超が進軍を始めた…ネギは超との最終決戦ギリギリまで寝かせといてやりたいが…夕映、どうしたい?」

たぶん、であるが今回の場合、ネギに必要なのは単純に言葉をかけると言うよりはしっかりと自分なりの答えを出すための話し相手である。そう考えたらもう起こして話を始めるべきかもしれない…正直、毒を埋める以前にネギが納得できる答え、というモノは私は持っていないのである。まー毒ではないがネギの自己犠牲とか過去の経験を考えたら『世界のための人柱』になる事を受け入れかねない辺りはあえて指摘していない、くらいか。

「…もう少し、寝ていていただきましょう…私も少しネギ先生と向き合う前に時間が必要です…」

「ン、分かった…なら私はそろそろ離脱して電子戦を始めるけど大丈夫か?夕映」

「…はい、ありがとうございました。まだ答えは出ませんが…ネギ先生と向き合う事はできそうです」

「そうか、それはよかった。それじゃあ楓、後は頼んだぞ」

「うむ。任された」

こうして、私はソファーに横たわり意識の比重を電脳世界に移した。

 

「「「「お待ちしておりました、ちうさま」」」」

アップデートされた電子精霊たちが私を迎える。

「ああ、では…始めようか」

と、こっそりと掌握していた図書システムを足掛かりに状況把握を始める。

 

「…これ、もうチェックメイトだよな」

状況把握を終えると、すでに茶々丸の手勢らしきプログラム群があちこちに潜伏しており、防衛指揮所の監視をごまかしながら警備システムのサブシステムを掌握完了した様子で、まさに最終攻撃を開始する所であった。

「まーアリバイって意味じゃ全部終わってから手伝った方がいいなコレ…って事で…」

ネットワーク側の観測を続けつつ、防衛指揮所の監視システムを盗聴し、最高の観戦場所を確保して私は状況を…娘の晴れ舞台を見守ることにした。

 

観戦準備を整えた直後、防衛指揮所に警告が走る。さすがにここまで侵入すればばれるか、というラインではあるが、慎重に進めればやり様のあるラインでもある。まー時間を優先したのだろう。

そして潜伏していたプログラム群が一斉に牙をむき、それを足掛かりに茶々丸が電撃戦と呼んでも差し支えない速攻をかける…まー実空間からのオペレートでは並の電子精霊使いでは対応は無理だろう。茶々丸のアクションに反応する形式では到底対応は間に合わない。いっそ、指揮所を物理的にネットワークから切断し、電子精霊群を一斉解凍、そして反撃に転じるくらいの事をすればワンチャンあるが…防衛システム中枢の防衛を優先したくなるのは理解するが、そんな数テンポ遅れで後手後手の対応をしていると防衛指揮所の電子戦能力まで壊滅…させられた。

「えーどーすんだよこれ…文字通りこっちで指揮所完全制圧して電子戦能力回復させて権限委譲するくらいしか思いつかんぞ?」

が、それやったら色々と目を付けられそうでメンドイし、先ほどの腕を見ていると勝率コンマである。

「それかちうさまが全部やるかですねー」

「…できん事はないけどさぁ…茶々丸と正面対決ってのもなぁ…ん、そろそろ茶々丸が防衛システム掌握するぞ、存在がばれる。一応交戦用意だ」

「「「「了解です」」」」

電子精霊群たちを偵察に出している間に、すでに防御態勢の構築は済んでいる。手元に残していた電子精霊たちを予備兵力を除いてこの簡易陣地に配置につかせる。

 

「アクセスあり、茶々丸さまです」

陣地の外周にそのアクセスを誘導し、こちらからも手勢を出して間接的に通信をつなぐ。

「だれかと思えばお母さまでしたか」

「ああ、茶々丸。少しアリバイ作りにな」

「アリバイ…お母さまが学園側について交戦した、というアリバイですか?」

「本当は学園側に肩入れしてやるだけのつもりだったんだが…思いのほかへぼかった…防衛システムはともかく、それを使う方の腕が」

「電子精霊使いの魔法先生である弐集院先生が指揮に出ておられるようで…こう、思った以上にあっさりと」

「…成程…戦力配置の致命的ミスってやつか…となると、一戦ヤルか?茶々丸」

「…さすがに防衛システムを掌握した状態で装備不十分のお母さまに負けるとは思いませんが…」

茶々丸が申し訳なさそうにいう。

「あ、それは大丈夫だ、ネギと仮契約してアーティファクト貰ったから」

「なるほど…でしたら御指南いただきましょうか」

「おう、超からもらった奥の手、楽しみにしているぞ」

「ええ、では…まいります」

こうして、予定外に茶々丸との電子戦が始まったのであった。

 

 

 

 



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55 第2計画編 第3話 決戦の地へ

「…お母さま、あなたは化け物ですか?」

「ん?まあ並の連中よりは使えるとは思うけどそこまでかね?」

とりあえず、と部屋で留守番している連中を除いた手持ちの電子精霊7群の内、3群を割いて茶々丸と踊りながら予備1群を手元に拘置、残り3群で図書システム経由で学園内の各学校の授業用PCを一斉占拠、割り出した茶々丸側の中継ポイントに一斉にDDoS攻撃を敢行、茶々丸が対応に回った隙をついてとりあえず、と学園側の指揮所と茶々丸側を隔離し、復旧阻止を止めさせた辺りでそんなことを言われた。

「ええ、先ほどのDDoS攻撃まで優勢と思っておりましたが、すでに通信妨害の余裕もなくなっていますよ…お母さま、そのアーティファクトを持って電賊になれば無敵じゃないですか?」

「ははは、まーリソースの問題さね、今のは。まぁ攻城戦で圧倒できるほどの差はないだろうし…せいぜい頑張れ」

と、攻め手を強めていく。

 

 

 

イベントの状況を確認しながら茶々丸と遊んでいるとついに超の居場所が発見され、ネギの出陣という段階に達した…唯一魔力だまりに到達していない鬼神もネギが中破くらいまで追い込んで。

「っと…そろそろあっちに行かねーとな…」

聡美の身の安全にゃ代えられんのである、例え超もネギも聡美に危害を加える気がなかろうが、流れ弾で何かないとも限らないし…何かあったら、私は私を許せない。

「って事でこの辺りにしようか、茶々丸」

学園結界の復旧システムを掌握し、茶々丸の反撃をしのぎながら復旧を進めていた(超とネギとの決着がつくまで復旧させる気はないが)中々の佳境ではあった。

「むぅ…あれだけ有利な状況からでしたのに…」

茶々丸のアバターが現れる。

「ちうさま、学園結界再起動プロセス進度85%ですが…どうしましょう」

「再起動寸前まで進めとけ、超が負けたら再起動で、ネギが負けたら撤収しろ…でいいな?茶々丸」

「はい、かまいません。では私はこちらから見届けさせていただきます…本当はもう少し遊んでいただきたかったのですが」

「わるいね…私のお姫様を守りに行かにゃならんのでな」

と、いう事で私は意識の比重を再び現実に戻した。

 

 

 

図書室近くの中庭まで来ていた体に意識を戻すと、私は空を駆ける。瞬動で、虚空瞬動ではるか上空へ…スタミナも大分削れるだろうがまあ戦うわけではないのでかまわないだろう。

「っと…あれはネギか」

ロボ軍団に迎撃されていたネギが後続の支援を受けてさらに上昇するのが見えた…間に合ったか。私は戦闘空域を迂回し、飛行船に降り立った。

 

「ネギ先生!」

「超さん…葉加瀬さん…!」

「っと…間に合ったみたいだな」

「千雨さん!」

「千雨さん!?どうしてここに!」

聡美が喜びの、ネギが驚愕の声を上げる。

「んーお前と超とのバトルに聡美が巻き込まれないように肉壁になりに来たんだよ、まあ気を付けてはくれると思うけどな、一応、だ」

そう言って私は聡美の隣に立ち、息を整える。

「さて、私はおまけだ、邪魔して悪かったな」

「そうネ…っほん、さてよくここまでたどり着いたネ、ネギ坊主。

そして…これで君と私は同じ舞台に立った。

さあ…それで、どうする、ネギ坊主?」

超の言葉にネギも杖から飛行船へと降り立ち、口を開いた。

「今度こそ…あなたを止めます、超さん!」

「…よかろう。では、私も私の思いを通すため、持てる力を揮うとするネ」

ネギの言葉に超はそう応えた、そして…

「行くヨ」

戦いは始まった。

 

 

 

「おっと」

カシオペア使い同士の戦いというチートバトルを聡美の隣で眺めていると真上での電撃衝突なんて事をしやがったので、余波を防ぐために障壁を張る。

「計算以上です…!」

「だな、私もどれだけ凌げるやら…」

まー一応の対応手段がないわけではないが、逃げに走っても対応困難なチート技能である事は疑いようもないし、恐らくは攻め手に回った瞬間に鎧袖一触にされるであろう。

というか、私がいない所でこそこそやっていた研究の一部はこれだな。

「フフ…ネギ坊主、まさかこれ程とは…この短期間でカシオペアをここまで使いこなすとは…さすがは私のご先祖サマネ…あ、千雨サン、まさか協力してないだろうナ?」

超がジト目で私を見る。

「してねーよ…まあ協力を頼むつもりだった、らしいが…な?ネギ」

「ええ…カシオペアの戦闘への利用に際して未来予報の魔法にも詳しい千雨さんの協力を得たかったのですが…」

そう言ってネギは自身のカシオペア一号機を取り出して見せた。

「!!それは…精霊ですか?まさか、それで事象予測と精密操作を…?」

聡美がそう問うた。

「その通りです、魔法使いならば誰もが最初に習う最も基本的な魔法、『小物を動かす魔法』と『占いの魔法』…それを司る精霊です」

「成程…貴方だからこそ、そんな基本的な魔法でも…成し遂げてしまえた…と」

「ええ、ご存じの通り、こういった基本魔法や魔法理論は得意中の得意なので…戦闘魔法や戦闘技術よりも、遥かに。さすがに実験には相応の時間が必要でしたが、何とか間に合わせました…伊達にメルディアナ魔法学校をここ10年で一番の成績で卒業していませんよ」

「むむーさすが天才少年、ネギ先生…と言った所でしょうか…そして自らの自慢とは珍しい!」

「そうだな…でも…」

やけに饒舌に過ぎる…超も訝しんでいる。

「さあ、超さん、これであなたの戦力的優位はなくなりました。大人しく降参し、計画を中止してください!」

あー成程…そこまで甘ちゃんだとは思いたくないので…そういう事か…超もニヤリと笑う。

「大丈夫ヨ、ハカセ。最終詠唱に入ってクレ」

「でも…」

「大丈夫ネ…ハカセを頼むよ、千雨サン」

「ああ…言われなくとも」

「超さん!?」

ネギが焦ったような声色で叫んだ。そして、さらに饒舌になるネギに、超はらしくないと告げ…ネギのカシオペアが後、良くても数回で壊れてしまうだろうことを看破した。

「…一撃あれば充分です」

「…待て、ネギ坊主。その一撃の前に、今一度問おう」

構えをとるネギに対して超がそう言って制止する。

「事ここに至って、頭のいい君にはもうわかっているハズネ、私の計画が意味するものを」

一瞬、ネギが身じろぎした…超が続ける

「ネギ坊主、私の同志にならないカ?悪を行い、世界に対し僅かながらの正義を成そう」

超とネギが見つめ合う…そして聡美の詠唱を聞き流しつつ、それを見守る。

一瞬の逡巡…

「隙アリ」

案の定、超はそれを突いた…が、ネギもカシオペアを用いてそれに応じ、見事、超のカシオペアを破壊せしめた。

「う…ぐっ」

「超さん…僕はあなたを否定できません…ですが、あなたの仲間にもなりません!」

「フ…君はそういうとわかっていたヨ」

ネギの宣言に、超はそう答えた…と、同時にネギのカシオペアも限界を迎えた。

 

と、いうあたりで軍事研の機体が上がってきたらしく、近くでホバリングを始める。

「…お帰り頂くか?」

「イヤ…せっかくの祭りの佳境ヨ…地上の皆の為にもご観戦いただく…ネッ!」

超が強制跳躍弾をネギに放ち、戦闘が再開する…

「超さん、やめてください!勝負はつきました」

「いや、まだネ、ネギ坊主…まだ終わらぬヨ!」

まったく…諦めの悪さはさすがネギの子孫か?と心の中で独り言ちた。まあ、私が超の立場でも諦めなどしないが。

…超の、浮遊レーザー砲台を犠牲にした跳躍弾の弾幕…しかし、ネギはそれを危なげではあるが回避して見せた。

「確かにその銃弾は脅威です…ですが…もう簡単には喰らいません!」

…一撃必殺の弾丸は未だ有効…超にとって、最悪相打ちでも良く、この状況下であればあと数分、時間を稼げば聡美の最終詠唱は完了し、それは超の勝ちでもある…はずだ。その点では、超をできるだけ傷つけたくないと未だ考えている節の有ることも考慮すれば戦術的に不利なのはネギの側である…まあ超をボコる気になればあっという間に天秤は傾くが。

「絶対的有利を保証したカシオペアが使えなくなった以上…魔法を使えないあなたは僕に勝てませんよ!さあ、超さん!」

「魔法ネ…さあ…それはどうカ?」

ネギの降伏勧告に超は吐き捨てるように答えた。

「コードXXXXXX呪紋回路開放封印解除」

そして聞き捨てならない事を呟いたのち…

「ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル」

呪文の詠唱を始めたのであった。

「契約に従い我に従え炎の覇王 来れ浄化の炎 燃え盛る大剣」

「呪文!?まさか…!?」

「私が魔法を使えるとオカシイカ?私はネギ坊主とサウザンドマスターの子孫ヨ?」

へぇ…と思わず思考する…超はそういうが、実態は恐らく違う…超の体に見える魔力の流れ…あれは多分、魂に負荷をかけて魔力を絞り出す呪紋である…私が次の切り札の一つとして研究している設計を煮詰めていくと…ああなると私は確信する…あれを見せられればそれはそれで派生も浮かばなくは無いのであるが。

「ほとばしれソドムを焼し 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に 燃える天空」

超の呪文が完成し、障壁を張ったネギに直撃する…これで五分といった所か…見せてくれ、超…きっと私が原型を残したソレの威力を

 

「…素晴らしい、今のを持ちこたえたか、ネギ坊主」

息を乱しながら、超が言う。

「ハハ…ここまでくればもはや策などない。後は互いの思いをかけた力と力のぶつかり合いがあるのみネ」

覚悟を決めた顔で超が再び詠唱に入る…やはり心身…そして魂への負荷はすさまじそうだ。

「ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル 火精召喚 槍の火蜥蜴29柱」

「ま、待ってください!」

「問答無用ネ」

「くっ…ラス・テル・マ・スキル・マギステル 風精召喚 戦の乙女17柱」

超とネギの精霊召喚が激突する…技量・練度はさすがにネギのが上か

「超さんッそんな力を使っちゃダメです!それは千雨さんの呪血紋何て比べ物にならないくらいの外法でしょう!?呪文を唱えるだけで凄まじい痛みがあなたを襲っているハズですよ!?なんで…ッ」

「ほお…そんなことまでわかるのか、そう言えば千雨サンで呪紋自体は見慣れていたナ…だが…」

「かッ…ゲほッ」

超の一撃がネギの腹に入る…油断しすぎだ、アホめ

「今さら手を緩めてどうする?死ぬゾ。それに…意見を違えた君と話すことはもう何もない。

私はこのためだけにこの時代へやて来た。2年の歳月と全ての労力をこれに注いだのダ

この計画は今の私の全てだ、ネギ坊主!言葉などでは止まらぬヨ!」

なんだかんだと言葉を交わしつつ、今度は魔法の射手が激突…機動魔法戦に移行した…一応余波は大したことないが油断せずに流れ弾から聡美の盾を務めねぇとな…

聡美の方を見ると詠唱を続けながらも不安そうに超とネギを目で追っていた。

「大丈夫だ…きっと…な」

私の言葉に聡美はこくりとうなずき、詠唱を進めていく…

 

「やっと本気カ…そうだ、それでいい」

覚悟を決めたらしきネギに対し、超がそう言って、こう続けた。

「この計画を止めたくば、私を力で倒せ、完膚なきまでに。サウザンドマスターの息子ダロ」

ネギが応える。

「…一つだけ…教えてください。このためだけにこの時代へ来たと言いました、これがすべてだと。

では、くーふぇさんや葉加瀬さんに千雨さん、そしてクラスのみんなと過ごしたこの2年間は…超さんにとって何だったんですか?」

「クラスの…みんな」

超の表情がその瞬間、革命家から一人の少女のものになる。

「…そうネ、それが私の唯一の計算違い…驚いたことにこの2年間は…とても楽しい2年間だたヨ…

大発光の1年前倒しの可能性を聞かされた時、これが罰かと思ってしまう程に…

だが…元々、その幸せは私にとてはいつかは覚めねばならぬモノ…儚い夢…ネ」

超は自分に言い聞かせるようにそう言って瞼を閉じ…開いた時には元の革命家の顔に戻っていた…第一計画…それはあるいは夢を見続ける為の箱舟だったのかもしれない…

「おしゃべりは終わりネ」

瞬間…にらみ合い、二人は互いに詠唱を始める

「ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル 契約に従い我に従え炎の覇王」

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 来れ雷精 風の精」

「来れ浄化の炎 燃え盛る大剣 ほとばしれソドムを焼し」

「雷を纏いて吹きすさべ 南洋の嵐」

「火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に」 

「雷の暴風」

「燃える天空」

僅かに早く完成したネギの魔法、そして迎撃には間に合った超の魔法…それは二人の間よりも超寄りで激突し、互いに魔力を注ぎ込んで押し合う…

「…引き分け…いや、超の勝ちかな…?」

もうすぐ終わるであろう聡美の詠唱に耳を傾け、そうつぶやいた。

 

パキイィン

 

そんな音が聞こえた気がする…そして突如、超の魔法が止まった。

ネギの魔法に弾き飛ばされ、墜ちていく超…それをネギが手を掴んで阻止する…

「甘ちゃんめ…なんのために戦ったんだか…超の事は私に任せて上がってくれば…勝ちだったのに」

飛び降りようと寄った飛行船のふちで私は呟く…ちょうど背中では聡美が詠唱を…終えた。

 

ちうさま、どうしましょう。今ならまだ止められますが

 

随伴していた電子精霊が電脳側に残してある私の意識にそう問う…ああ、まだこれがあったな…

「…ネギが上がってきたら学園結界を再起動しろ、上がってこられなければ勝ち…そうでなければ…」

ネギの様子をうかがう…超を抱きかかえ何とか上昇してきたネギと目が合う。

「千雨さ…ゴぷッ」

だが、あと少し、という所でネギは血を吐き、体勢を崩す…ああ、魔力の限界か…

「くっ…わあぁぁ…ぁ」

そして、最後の力を振り絞ろうとしたネギは、しかしそれはかなわずぶつりと糸が切れたように墜ちていく…

というわけにはいかず、私は二人を回収した。

「お疲れ様…ネギ、若干甘いがお前の勝ちだよ…って事でいいな?」

そう、私は超と聡美に問うた。

「ええ…少しもったいないですが…」

聡美が柔らかい笑みでほほ笑む。

「アア…私を無視していれば…自力で上がれたハズネ…」

超も、倒れたままネギを見て微笑みながらそう答えた。

「と、いう事だ、やってくれ」

 

かしこまりました

 

直後、学園結界が再起動し…強制認識魔法は…私たちの2年間は…その力を急速に失っていき…はじけ飛んだ…

 

「おーい!」

アスナの声が聞こえる。

「あ、皆さん」

振り返ると、そこには飛行路面電車に乗ってここまで上がってきたアスナたちの姿があった…五月か…この改造は手伝った記憶がある。

「さ、ネギ君、超りん、治療の時間やえ」

このかがアスナに抱えられてこちらに飛び移ってくる…そしてあっという間に二人の傷を治してしまった。

「さ、帰ろう?みんな待っているよ」

アスナがそう言って私たちに手を差し出した。

「…ああ…行こう、聡美、超」

「ええ…夢から覚めたら…日常に帰らないといけません…たっぷり叱られるでしょうが」

そう、聡美が返す。

「ああ…生きながらえてしまったからには…帰らねばならないネ」

超も、そう言ってにこりと笑った。

 

こうして超の…いや私たちの夢は終わりを告げた

 



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56 第2計画編 第4話 決着の後…

「全て…終わたな、ネギ坊主」

「超さん」

イベントが成功裏に終わり騒いでいるみんなを尻目に、超とネギが対面していた。

石柱の上に立っていた超のそば、別の石柱にネギが上がる。

私と聡美はその石柱の影にいた。

「超さん…行ってしまうんですか?」

「ああ、私の全てだた計画は消えた…もうココに用はない」

「…一つだけ聞きたいことが…超さんの全身に施された呪紋処理の事です。

あれは…超さんが自分でやったものじゃないですね?」

ネギの問いを超は無言で肯定する。

「…やっぱり…あれは…正気の人がやったものとは思えません!

あれは千雨さんでさえ躊躇う類の…術者の肉体と魂を喰らってそれを代償に力を得る狂気の技です!

いったい誰があなたに…何のために!?」

…やかましい、というか私でも躊躇うってなんだよ、その言い回しは…第一、そういう類の研究もしているし…自慢にゃならんが。

「…超さん、あなたの過去に何があったんですか?その『何か』があなたにこんな計画を実行させた理由なんですか?」

「フフ…未来のコトは話せないネ」

「超さんッ」

「ネギ坊主」

ネギをたしなめる様に超が言う。

「誰かの過去を知ることで誰かのコトを理解できるなどとは思わぬコトダ。

私を知りたければ歴史の教科書を開くか今夜のニュースでも聞け。

今現在も世界に溢れるありふれた悲劇と何ら変わらぬつまらぬ過去ネ」

「…超さん…」

「お前たちが勝た、その事実で十分のハズヨ。

言たハズネ、君と話すコトはもう何もないト。

では、これでサヨナラネ」

行くのか…超…さらば…だ

「…駄目です、超さん」

と、おもったらどうやらネギが跳躍を止めたらしい…そして、五月とクーと…茶々丸が近くにやってきた。

「ムム…今の瞬動はスバラシイネ、縮地レベル!」

「もーっ、ごまかさないでくださいっ」

 

そんな会話を聞きながら、互いに頷き、胸の中の聡美にいう。

「行けるか?」

「はい…今度こそ、本当にお別れ…ですね」

聡美はそう言ってうなずいた。

 

ザッ

 

五月をクーが、聡美を私が抱え、別々の石柱上に上がる。

「「超…」さん…」

「みんな…」

超が私たちに気づいたように言う。

「超さん…全てだなんて…嘘ですよ。儚い夢だなんて、そんなハズありません。

…超さん、僕と一緒に『マギステル・マギ』を目指しませんか?同じこの時代を生きる人間として。

この時代を生きる人間として一緒に未来を変えていくのなら…僕が誰にも文句は言わせません」

気づけば、朝倉を含めたネギの仲間たちも近くへやってきており、私たちを見守っている…

「そうネ…そんな未来も悪くないかもしれぬナ」

穏やかな表情でそういう超の様子にもう一度…もう一度止めてしまいたくなる…が、もう私は語るまい、と聡美の手を握った。すると聡美も手を握り返してくれた。

「そ…それじゃあ、超さん!ここに残って…みんなと一緒に卒業を…!」

「いや、帰るネ」

その言葉に、アスナたちがずっこける…私たち超一味はやれやれという感じであるが。

「超…」

「超さん、どうして…!?」

ネギが戸惑う様子で問う…が、超はからかうように応じた。

「ハハハ、それよりいいのカ?この私にそんな愛の告白のようなコトを言て?」

「え…あいの?」

わかっていない様子のネギに超が説明をする。

「共に『マギステル・マギ』を目指そうというのは魔法使いの世界では生涯を添い遂げようと言うに等しいネ」

「えっ」

超はネギの両ほほに手を添えてつづけた。

「仮にも血の繋がた私にプロポーズはまずいのではないカ?ネギ坊主」

「いえッ」

いえッ、じゃねぇよ、それでも構わないと取れるだろうが。

「コラーッちょっと超ッ、あんた―ッ!」

「黙って聞いていれば何言ってんの、アンタ」

アスナとハルナが流石に突っ込みを入れてくる。

「アハハハ、怒るな、冗談ネ」

「超さん!冗談じゃないです、僕は本気で…」

「尚悪い、バカ坊主」

ゴッ

「あぷ」

言いすがるネギに超のこぶしが決まる。

「今のは聞かなかたことにしてやるネ、そんなセリフはお前の大事な人の為にとっておけ」

「超さん、なんでそんなに頑固に…」

「クドい。やれやれ…この件についても力でやり合わねば結論は出ぬか?所詮、血塗られた道ネ…」

そして超は悪い笑みを浮かべてつづけた。

「よかろう…私も最後の切り札を出そう、この超鈴音最強最大の一撃ネ。

先程の戦いでこれを使えば私が確実に勝てただろうがあまりに危険過ぎてあえて封印していたほどヨ」

「くっ…超鈴音!まだやる気か!?」

超の言葉にネギたちは刹那を筆頭に臨戦態勢になる。

「ちゃ、ちゃ、超さんっ!?」

「これを使えば君たちの仲間割れは必至、未来の力を集結した究極の心理攻撃兵器…」

超とネギのやり取りを眺めつつ、聡美に問う。

「そんなのあったのか?」

「多分なかったと思うんですが―」

「それが―これネ」

そして超が取り出したのは、超家家系図と書かれた一冊の本だった…場が困惑で凍る…

「ちゃおけ…かけいず?」

ネギが首をかしげる。

「私がネギ坊主の子孫とゆーことは、当然ネギ坊主はだれかと結婚して子を生したとゆーことネ。

という事はこの家系図には当然、その誰かの名前も…」

…ああ、そういう事か…私にゃ関係ないが…多分。私は末代になる予定だしな、今の所は…できればそうなりたい、あるいは科学か魔法かでそうならない事を望めるならば望んでもよいが。

 

「ネギ先生の結婚相手がなんですの!?」

場の硬直は委員長とまき絵がやってきたことで解けた。

「とにかくマズイッ、ネギ君、それを守って!」

朝倉の檄が飛ぶ…が時はすでに遅くハルナが家系図を強奪し…その後およそ一分足らずで乱闘に突入した事によりネギパーティーはその組織的戦闘力を失った。

「ああああ」

「アハハハ、計算以上ネ」

ガクガク震えるネギに対して、超はそう笑った。

「では…私はそろそろ行くとするネ」

「超さん…どうしても…なんですか?」

「いや…楽しい別れになたヨ、礼を言う、ネギ坊主。私には上々ネ」

ニコっと超は明るく笑う。

「でも…本当にこれでいいんですか!?超さん、あなたは何一つ…」

ネギの言葉を遮って超が言う。

「いや…案ずるな、ネギ坊主。私の望みはすでに達せられた」

あはは…それにはいくつの意味が含まれているんだろうな…超。

「え…そ、それはどういう…」

「わが計画は消えた、だが私はまだ生きている。

ならば私は私の戦いの場へと戻ろう…ネギ坊主、君はここで戦い抜いていけ」

大規模跳躍用と思しき魔法陣が展開され、超が宙に浮く…いよいよだ

「超さん…」

「五月、超包子を頼む、全て任せたネ」

五月が頷き、任せて、と答えた。

「ハカセ、未来技術についての対処は打ち合わせどおりに…あとこの間の実験途中のデータだが…」

「全てわかっていますよ、超さん」

聡美も大丈夫、と胸に手を当てて答えた。

「千雨サン、協力ありがとう、本当に助かった…心の底から感謝しよう…ハカセと仲良くナ」

「ああ…」

私も微笑み、聡美を抱き寄せて短く答える

「…茶々丸、お前はもう自立した個体だ、好きなように生きるがいい」

「…了解しました。ありがとう、超鈴音」

超はニヤリとエヴァと学園長の方を向いて笑った。

「クー!いつかまた、手合わせするネ!」

「…ッ、うむ!必ず!」

最後に、クーが答えた。

「…超さんッ」

あまたの光がうねり、超に向って収束していく…

「さらばだ、ネギ坊主、また会おう!」

「ハ、ハイッ、いつかまた…」

そして、超は光の中へと消えていった。

 

 

 

「…帰るんだな」

時間は戻ってネギがやってくる前の事…

「アア…生き恥を晒してしまったが…理想は潰えた…ならば私は退場せねばならぬ」

「…それは私たちの為か?」

私たちの罪をも背負って消える気か?と問う。

「…イヤ…私の為ヨ…理想の為という理由がなければ…私は私に許せないだろう…この楽園で、あなた達と生きていく事を…だから、私は帰る、私自身の戦いの場へ…ネ」

「…難儀な奴だな…ネギのこった、一緒にこの時代で世界を良い方向に変えて行こう、くらい言うぞ?あいつは…」

「ハハハ…あの時…あの日に…貴女からそう言われていたなら…あり得たかもしれないネ…しかし、もはやサイは投げられ…その目は定まってしまった…もはやその道を選ぶ事は私の矜持が許さぬネ」

超が遠い目でいう。

「はぁ…ならば止めまい…達者でな…最後に、胸くらい貸してやってもいいぞ?」

「ええ、あの日みたいに…」

泣いてもいいんだぞ?と私と聡美は暗にいう。

「ふはは…それは魅力的な提案だけど…帰りたくなくなってしまう…二人ともっと一緒にいたいと願ってしまう…だから…やめておこう、そして…私の大切な人達…言うまでもないと思うが…二人には幸せになって欲しいと願っているよ」

「ああ…この手を放すつもりはねーよ」

「ええ…私も、千雨さんと共に生きて…逝くつもりです」

私と聡美は握っていた手をさらに強く握った。

「それならばよい…少し…風にあたってくる」

超は、そうして石柱の上に飛んだ。

「千雨さん…」

「ああ…」

私は、私の胸に飛び込んで声を殺して泣く聡美を抱きしめた。

 

 

 



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夏休み迄編
57 夏休み迄編 第1話 裁きと招待


「さて、長谷川君、葉加瀬君…君達に来てもらったのは他でもない…超君の件じゃな」

恐らく、刑罰を言い渡されるのだろう、と呼び出された学園祭最終日翌日の学園長室、そこには高畑先生、源先生、明石教授がいた…私は聡美をかばうように立つ。

「はい…何なりと…とは申し上げかねますが、罪に対する罰は受ける所存です」

そう言って、私は学園長たちに首を垂れた。気配で、聡美もそのようにしたのであろう事は読み取れた。

「…それなんじゃがな…ある種、最も辛い刑じゃ…処分は…無罪放免…いや最初から何もなかった、事になった」

無罪放免という言葉に力が抜け、直後、はっとする

「…それは…昨夜には何も起こらなかった事になった…という事でしょうか」

「うむ…じゃから、超君と共に歩んだ葉加瀬君も、色々と便宜を図った長谷川君も…処罰に値する事は何もなかった…という事になる」

学園長がひげを撫でつけながら言った。

「っ…あなた達は…超の…私達の2年間を無かった事にするというのですか!」

「その通り…それがワシらが下したもっとも良い後処理の方法であり…それが君たちへの処罰じゃ…別名目での処罰もなしじゃ」

ああ、叫んでしまいたい、終身オコジョ刑でも受けてやる、何なら死刑だっていい…でもそれだけはやめてくれ…あの革命家の、私たちの親友の全てを無かった事にするのだけは…と…きっと、独りだったなら…守るべき人がいなければ、私は本当にそう叫んでいただろう。

「…その場合、我々の身分は…」

「何も変わらぬ…いや、葉加瀬君が長谷川君と仮契約した事により、関係者枠扱いとする

…特になければ以上じゃ、二人とも、下がりなさい…ゆっくり休むのじゃよ」

そして、私と聡美は高畑先生に寮の部屋まで送られて…二人で泣いた…力尽きるまで泣き続けた…

 

 

 

「ずるいですね…大人って…あれだけのことをしたのに全部無かった事にして…」

「そうだな…いっそオコジョ刑にでもしてくれた方が…いや、それだと聡美といられなくなるかな」

「別に…そうとも限りませんよ…貴女といられるなら二人でオコジョでも構いませんよ?私は」

「…ああ、それならアリかな」

「…私も関係者扱いになった事ですし、一緒にマギステル・マギでも目指しましょうか…そして自伝で暴露するんです、昨夜の事を」

「ああ…それはいいな…権力自体に興味はねぇけど…聡美となら…それもいいな…」

日も傾きかけた大浴場…それを二人だけで使うという贅沢を堪能しながらそんな会話を交わしていた。

「明日は…ふて寝でもします?茶々丸の強化もしてあげたいですが…明日一日くらいは…貴女とふて寝というのも魅力的です…千雨さん」

「そうだな…と言いたい所なんだが、実はエヴァの古い友人のクウネルこと、アルビレオ・イマ氏から招待を受けていてな…一緒に行かないか?」

「えっと…クウネル選手ことアルビレオ・イマさんですか?いいんですか?私が一緒でも」

「パートナーの方もよろしければ、って言われているから大丈夫だよ」

「でしたら…喜んで…でも、今晩は一緒に寝ましょうね」

そう言って、聡美は私の腕に抱きついてきた。

 

 

 

翌朝、私にしては朝寝坊をした後に朝食と朝風呂を済ませ、諸々のデータ回収を行った。

「便利ですね―そのアーティファクト…千雨さんがネギ先生と仮契約…キスしちゃったのは不満ですけれども」

「ごめん…聡美をかばう為の材料づくりに電子戦能力が欲しくて…つい口車と脅迫に乗った」

「脅迫ですか?」

聡美が眉を顰める。

「あーうん、カモの野郎にパートナー庇う為にも戦果がいるだろ?って」

「成程…うーネギ先生との仮契約を見越して千雨さんの唇と仮契約の初めてを貰っておいたのはファインプレーでしたが、そういう弊害が…」

ムムムっという顔になる聡美に対し

「ま、アレはファインプレーだったな…おかげで一段親密になれたし…な」

と、聡美の額にキスをする。

「もーそこは唇でしょう?千雨さん」

「ハイハイ…あんまりすると歯止めが利かなくなる気がしてな」

と、唇を合わせるだけのキスをした。

「歯止めが聞かないって…舌でも入れます?」

「…したいか?ディープキス」

「興味はあります、好奇心的な意味でも」

「…次にロマンチックなキスをする機会があれば試そうか」

「はい…お待ちしています…私から行っちゃうかもですけれど」

まあ、こんな感じで午前中の作業は終わった。

 

 

 

今日の午後のお茶に、というアバウトなお誘いを受けてとりあえずと13時につくようにと、昼は軽食で済ませて図書館島深部を私と聡美は歩いていた。

「ここ…だな」

指定された場所に着くとそこには門があり、門番らしき竜がいたが、招待状を見せるとどこかへ飛び去ってしまった。

「わぁ…すごいです…日が差し込んでいるみたいですね」

「ああ…綺麗だな」

と、二人で身を寄せ合って少しばかり風景に見入っていた。

 

「おい、そこの二人、人んちの前でいちゃつくな」

と、同じく招待されていたらしいエヴァが後ろから声をかけてくる。

「「あ…」」

「まったく…その様子だと大丈夫そうだな?」

「ええ、昨日は少し泣きましたが」

「少し…ですか」

私の物言いに聡美が笑った。

「…まあ、ジジイも酷な事をするものだ…が、歴史は勝者の作るもの…仕方ない事でもあるが…な」

「はい…わかっています…」

「うむ…ならばよい…行くぞ」

エヴァを先頭に、私たちは門をくぐった。

 

そこは光あふれる空間で、いかにも魔法使いの住処、といった感じの建物が建っていた。

そのままエヴァを先頭に歩を進め、建物に入るとそこは書架であった。

「この構造なら…こっちだな」

と、なれた様子でスタスタと歩を進めるエヴァに私たちは黙ってついていった。

 

「ようこそ、私のお茶会へ…お待ちしていましたよ」

「ふん、きてやったぞ、アル」

「お招きありがとうございます、イマさん。こちらは私のパートナーの聡美です」

「葉加瀬聡美と申します。武道会では優勝おめでとうございます」

「初めまして、葉加瀬さん。歓迎いたしますよ…それはそうと…皆さん、私の事はぜひクウネル・サンダースとお呼びください」

「あ、はい。サンダースさん」

思わず、私はそう答えた。

 

「さて、実は千雨さんを訪ねて先客がおりまして…千雨さんが早く来てくれて丁度良かったです」

「先客…私たちの知り合いですか?」

首をかしげて私は問うた。

「いえ…エヴァの知人ではありますが…おそらくお二人とは初対面でしょう…私の母にあたります」

「なぬ、あいつが来ているのか…何年か前にあったが珍しい」

「エヴァの古い友人のサンダースさんの母にあたる方…ですか」

どー考えても恐ろしい存在だろう。

「ええ…まあ年だけはいってますが、恐ろしい人ではありませんよ…さあ、こちらに」

サンダース氏に促されて階段を上るとそこでは一人の女性が紅茶をたしなんでいた。

「テンブリス、数年ぶりだな」

「あら、エヴァちゃん…お久しぶりね」

テンブリス…おそらくラテン語で暗いと呼ばれたその人?は黒いフード付きのマントを椅子に掛け、また黒いローブを身にまとった若い女性で、植物の蔓のようなもので鈍色の石をつりさげたネックレスをしていた…

「初めまして、長谷川さんと…そちらは?」

テンブリスさんは聡美を見て問うた。

「母様、こちらは葉加瀬聡美さん、長谷川さんのパートナーです」

そして、サンダース氏は聡美や私が答えるより先に、聡美を紹介した。

「成程…私も名乗らないとね…色々と名前はありますが、テンブリスとお呼びください。

ここ麻帆良の神木・蟠桃を含め、いくつかの聖地の精霊を兼任させていただいています」

…案の定、大物だった件

「それで、テンブリスさんは私に御用という事でしたが…」

「ええ…貴女は恐らく私の娘の転生体で…といってもあまたに千切れた魂のほんの一欠片ではありますが…珍しく覚醒し、それでいて正気を保っておられるようですのでぜひお会いしてみたいなと思いまして、アル…今はクーネルでしたか?…にわがままを言ってお茶会に参加させていただいたんですよ」

と、テンブリスさんはほわほわととんでもない事を暴露してくれた。

 

その後に聞いた話をまとめると、私の最古の記憶である詩は彼女の娘だった魂に刻まれた葬送の言葉であり、私は輪廻の果てに無数に散ったその魂の一片を宿す存在で、奇跡的にその力を目覚めさせた事、数多に千切れた魂の欠片ではさほど大きな力は無く、世界樹の魔力と相性が良くなり、色々と才能に恵まれる代わりに闇の悪夢に囚われると言うだけの物らしいが、闇の悪夢を認識したまま正気を保つというのは珍しく…魔法界に関係しているというのも相まって会いに来たらしい。それと、人でなくなる可能性は…それを望んだ時に多少やりやすい、くらいはあるらしい…真面目にそっちの研究しようかなーと食指は動いたりした、少しだけ。

 

「闇の悪夢ですかー千雨さん?歌は聞いていましたがその話は聞いてないですよー?」

「アーうん…心配かけるかなと思ったのとエヴァが気にしなくても大丈夫って言っていたし」

「まあ、割と考え事をしたり、気の修行をするのには便利らしいですし、完全な闇への精神耐性があれば怖がる必要はありませんからね…想い合う人と同じ寝床で寝ている時には二人で飲み込まれる事も時々ありますので日常的に同衾をするようになったらお気をつけてくださいねー」

テンブリスは、相変わらずほわほわとした感じでそうのたまった。

「成程…千雨さんと加速空間で思う存分いちゃつきたい時はリアルで添い寝すればよいと…」

「あーそーいう使い方考えるか…私は完全に思考と気の運用訓練に使っているからなぁ…」

「…お前ら、いい加減に付き合え…」

「「これが恋かはよくわからないので」」

「またそれか…」

悪いが、またこれである…まー付き合っている、でもいいんだけれども…麻帆良内でも、同性愛への偏見は多分にあるのだ…ならば交際という関係をどちらかが望むまでは、否定させてもらうに限る。

 

 

 

しばしば歓談とお茶を楽しんでいるとテンブリスが唐突に口を開いた。

「次のお客さんが来たようだし、私はそろそろお暇するわねーごちそうさま、クウネル」

「はい、お粗末様でした、母様…それではまた」

「ええ、エヴァちゃんも、千雨ちゃんも、聡美ちゃんもまたねー」

「ああ、またな」

「ええ、またお会いしましょう」

「お話色々と興味深かったです」

そして、テンブリスが掻き消えるとほぼ同時に外側の門が開き、少しの後にネギと刹那、アスナにコノカが階段を下ってきた。

 

ネギ達が席について少し、エヴァ…マスターが口を開いた。

「それでぼーや、今回の事件はどうだった?何か得るところはあったか」

「…自分がどんな場所に…どんなモノの上に立っているかを知りました。

いえ…超さんに言われる前から僕は知っていたはずでした。

マスターの言う通りです、キレイなままではいられない。

いや、そもそも最初から僕たちはキレイなどであるハズがない…」

ネギの言葉を聞いていたマスターは満足げに微笑んだ。

「…フッ…超鈴音は上出来だったな、お前のような真っ直ぐで才能ある、前途有望だが世界を知らぬガキには、それを思い知らせるのが最も難しい」

まー第二計画がネギ先生育成計画を兼ねる、と聞かされている以上、それも目的だったんだろうしな。失敗に備えたサブプランという奴である。そして、マスターが生きる事と悪を成す事は同義であり、悪こそ世の真理であると説く…まー我を通す事、を悪とすればそりゃそうさね。

そしてマスターが演説を続けようとした所、クウネルが口をはさみ始め、ネギが結局は自分の立つ場所を理解した上で、それでもマギステル・マギを目指すといった辺りまではまともな会話だったのだが、その後はマスター…エヴァがクウネルに遊ばれる展開へと堕した。

 

その後、仮契約カードの状態から、ネギの父であるナギ・スプリングフィールドの生存をクウネルが保証し、そしてネギにウェールズへと戻って魔法世界、ムンドゥス・マギクスを訪ねることを提案した…そしてネギは魔力を漏らして風を暴走させ、まるでちょっと出かけてきますといわんばかりに飛び出そうとした所をエヴァの糸術でこけさせられて止められた。

そして、せめてとネギはクウネルにナギ・スプリングフィールドの話を請うたが、ほかの魔法ばれ組が到着し、またの機会という事になった…その後は、夕方まで賑やかなお茶会が続いたといっておく。

 

 




警告にあるオリキャラ登場の回。ある種のデウス・エクス・マキナではありますが原則登場は致しません。実は過去に一度だけ登場していたりしますが。クウネルさんはフツーに原作通りの古本ですがその著者というか作成者がオリキャラです。(uqホルダーでその辺り設定出ていたらごめんなさい)


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58 夏休み迄編 第2話 懺悔と外法

「ええい、鬱陶しいわ!」

ある意味慣れた光景ではあるが、ウルティマホラの後の如く、群がってくる武道家達を一蹴しながら私達は登校していた。

「千雨さん、人気者ですねー」

「まーな。最終日イベントのおかげである程度緩和しているんだろうけど、あれだけやりゃあな」

「そーですねーネギ先生や刹那さんもですかねー」

「どうかなぁ…私は何時ものって感じもあるからなぁ…」

私は少し遠い目をしながらそう答えた。最終日イベントと世論誘導がなければどうなっていたことやら。

 

「では出席…あ…」

「そっかー…超りんもういっちゃったかー」

いつもと殆ど変わらない教室、しかし、そこに超はもういないという事にクラスの空気がしんみりとなる。

「そんな…このお休みで?超さん…仰って頂ければ空港までみんなで見送りに行きましたのに…」

委員長が残念そうに言う…いや、お前、超が発った時、ふっつーにそばで乱闘していただろうが…いや、あの光で超が未来へ跳んだとは認識していないのか。

「いや…あいつそーゆーのは苦手アルしね。大丈夫ヨ、お別れ会も喜んでたし…みんなによろしくと言てたアル」

「そうだな…私たちは見送らせてもらったけど…最後まで笑っていたぞ」

「ええ、きっと向こうでも、超さんは元気でやっていますよー」

「確かに、しんみりするのはウチらしくないねー」

と、ゆうな

「うん、超りんもそれは望まないだろう」

と、朝倉

「てことは…」

と、ハルナが続いて…

「今日もプァーっと超りんの門出を祝う会を開催だーッ!」

と、なった。いや、まあアイツを慕ってくれるのはうれしいが…まあ、うん。学祭気分は抜こうな。

「ハハ…ん?」

と、ネギがクラス名簿に何かを見つけたらしく…おそらく超が何か書き込みでもしたんだろう…決意を新たに、という感じで空を眺めた。

 

そして、朝のHRがうやむやになった頃…

「ふう」

「ん?亜子、なんか悩み事?」

「え?いやーそゆー訳ちゃうんけど」

「あれだったら、うちの教会に懺悔でもしに来るといーよ、うちの神父さん、評判良いから。

クリスチャンがどーとかあんま気にしないし」

とかいう会話を亜子と美空がしていた。懺悔…か…しに行ってみてもいいかもな…そう、思った。

 

 

 

放課後、マスターの別荘を利用した後、美空の所属する教会の礼拝堂内の懺悔室を私は尋ねていた。

「あの、よろしいでしょうか」

「ええ、どうぞ」

「えっと…ちょっとした理由で公式にはお付き合いしていないんですが…私には想い合う、生涯を添い遂げようと約束したパートナー…大切な人がいます。それなのに…理由があったとはいえ、別の人と私からキスをしてしまいました…」

「フムフム…貴女はそれを悩んでおられるのですね」

「ええ…その事はある事情で隠せる事ではなかったので、パートナーにも話してしまって…本人は嫉妬するなーくらいの感じだったんですが…内心では酷く傷ついているのではないかと」

「成程…その通りかもしれませんし…本当に少し嫉妬しているだけかもしれませんね、それは…他人の心の中を覗く事ができない以上、知りえないことです。ならばパートナーの方と真摯に向き合い、愛を育んでいくしかないのではないでしょうか」

「そう…ですね…ええ、その通りです…あいつと…どのような関係に収束するにせよ…真摯に向き合っていくしか…ないですよね」

「その通りです。ところで、パートナーの方とは公式にお付き合いされていないとの事でしたが何か理由が?」

「あーはい。ちょっと言いにくいのですが…必ずしも祝福される関係ではありませんので…ああ、不貞とかではないですが…表向きどのような関係になるにせよ…結婚の秘跡を望むのは…難しいでしょう」

「成程…もしかして、そのパートナーというのは女性…同性の方ですかな」

「っ!」

「大丈夫ですよ、貴女方の間の愛情を否定など致しません」

「ありがとうございます…えっと…そういう理由と…私たちがお互いに交際という形式を重視していないのと、恋心というのがよく解らないというのもあって、公式にはお付き合いしていない事にしています」

「ふむふむ…そう言った事を気にする人がいるのもまた事実ではありますな」

「ええ…ですから…恐ろしいのです、たとえ友人たちが祝福してくれたとしても…世間の目が…私たちのような関係を嫌う人々からの言葉が…その、私たちは少し有名ですので」

「ええ…しかし、親しい人々の理解と二人の間の深い愛情があれば…きっと乗り越えていく事ができる事でしょう」

「…はい、そうですね…私かパートナーが交際という形を望む日が来れば…その時は恐れずに踏み出したいと思います」

「それがいいでしょう、お二人の前途が明るいものでありますように」

「ありがとうございます…それでは、失礼します」

そう、お礼を言って私は礼拝堂を辞した。

 

 

 

翌日、ノドカも昨日懺悔室を利用したらしく、そこから評判が広がって、クラスの皆が懺悔室を使ってみようか、というような空気になっていた…混む前に利用できてよかった…かな。

 

 

 

その日の放課後、私はマスターの書庫で改めて魂に関する書物を漁っていた…呪血紋のさらに先、新たな切り札を得るために…それが正真正銘の外法だとしても…大切な人を守る為の手札は多いに越した事がないのだから…ぶっちゃけ、超の呪紋を参考に、元々考えていたそういう系統の呪紋の設計を引き直すためである。

「んー安全係数はこれくらいで…出力的にはこうなって…んー魂に負荷かけるなら闇の魔法の資料もほしいけど…」

が、闇の魔法の詳しい資料は絶対無茶するだろう、とマスターから閲覧禁止を命じられているので伝聞と晩酌の席での断片情報を元に呪文を取り込み身に纏う技法を自力開発というタスクである。

「真っ当な呪紋が一定の完成を見ちまったからなぁ…ここからの改造はやっぱり何かブレイクスルーがないとなぁ…」

正直、マイナーチェンジや実践のフィードバックはともかく、大規模改修の案がない…という事でこの研究生活である…魂を対価にする方向での呪紋や闇の魔法の再現の理論研究、咸卦法の理解促進、人ならざる者と化す外法…は少しだけ、一時的に存在を変異させる程度のモノを理論構築。あるいは皮膚に二次元的に描画されているに過ぎない呪文を体中に三次元的に描画する研究…の前段階としての積層記述の研究に、もっと単純に描画精度を上げる為の糸術の鍛錬…と手広くやりすぎている感はある。

「喪ってから嘆くよりは…それに備えたい…たとえ外法と呼ばれても…」

まあ、地力を上げるのが一番効率良いとはわかっているので鍛錬自体は欠かしていないが。研究している諸々は地力の底上げである。

 

「千雨、ここにいたか。少し手伝え」

そろそろ魔力と体力も回復したし、鍛錬に戻ろうかと本を片付けた頃、エヴァがやってきてそう言った。

「ん、いいけど何を?」

「お前たちの修行のために別のダイオラマ球を展開しようと思ってな…せっかくだから準備を手伝え」

そう言って、マスターは背を向けて歩き出す。

「了解、マスター…それでよかったらなんですけど、闇の魔法の資料も見せてくれません?アレの理論があれば色々と研究が進むと思うんですよ」

私はマスターについて歩きながらそうねだる。

「駄目だといったろう…アレはヒューマンが用いるには副作用が強すぎる…闇への適正はともかく、お前の魔力量だと十中八九死ぬぞ」

「なら、それ自体は使わないという条件でも駄目ですか?ギアスペーパー書いてもいいので」

「フム…いったいどうした?やけにしつこいじゃないか」

マスターが足を止め、振り返る。

「学園祭で超に施されていた呪紋を見て…魂に負荷をかける方向の呪紋の設計をやり直しているんですが、闇の魔法も参考にしようかと…」

「はぁ…いずれは私たちの領域に、とは言ったがそこまで生き急がんでもいいだろうに…まだ地力が伸び悩むという段階でもないのだし、そこまで外法ではない…と言いたくはないが、負荷という意味では真っ当な方向での研究もしているんだろう?」

「それでも…できる事をしないで後悔はしたくないので」

「はぁ…わかったよ」

と、マスターがため息をつき、諦めたように言う。

「何かの折に、褒美として基礎理論くらいは見せてやろう。だから外法は…あー使っても構わんが、後遺症が残らない範囲にしろ」

「はい!」

私は喜びをこめて、短く返事をした。

 

 

 

「千雨さーん」

「んーどうした?」

それはその数日後、部屋でまったりと過ごしつつ、力の王笏を用いてのながら仕事をしている時の事だった。

「私もエヴァさんの別荘を使いたいです、って言ったらどう思います?」

「え…いや、使いたいなら使えばいいと思うし、交渉の口添えもするけど…何のために」

珍しく聡美の意図を酌めず、少し困惑しながら私は答える。

「いえ、私も戦い方…とまでは言いませんが鍛えようかな、と思いまして―」

「えっ…?えっと…その…聡美が?」

言っちゃ何であるが、すでに聡美は戦闘方面では才能無し、との烙印を押されている。

「ええ…せめて走って逃げられる体力と…魔法の射手と簡単な障壁位使えるようになれば、千雨さんの無茶も緩やかになるかなーと思いまして」

くるりと体を翻し、少し抗議するような瞳で私を見上げる聡美…

「えっ…あっ…その…エヴァから何か聞いた?」

「正確にはエヴァさんから聞いた茶々丸から、ですねーまた何か外法の開発始めたんですよねー?あの血の魔法陣よりも負担のかかるのを」

「あ…うん…その…はい…」

言い訳をしようかとも思うが、聡美に見つめられて言葉を失っていく。

「それだけ喪いたくないって想って頂けるのはうれしいんですが…それで千雨さんが早死にしちゃったら意味がないんですからね?」

「はい…」

「ですから…千雨さんみたいに強くなれなくても、貴女と肩を並べて戦えなくても…私も貴女を喪いたくないから…頑張りたいんです…貴女の負担が少しでも減るように」

そう言ってほほ笑む聡美がいとおしくて、私は聡美を強く抱きしめて、言葉を返した。

「うん…ありがとう…明日、エヴァに話そうか」

「ええ、お願いしますね、千雨さん」

そういう聡美も私の背中に手をまわし…しばらく私たちは互いの体温を感じていた…

 

「なぁ…聡美…ずっと…一緒だよな?私達」

「ええ…私は貴女と一生…望めるならば来世以降も…添い遂げるつもりですよ、千雨さん…互いの信念がそれを許さない事態にならない限りは」

聡美はそう悪戯っぽく言う。

「そう…だな…やっと同じ道に合流できたけど…その可能性があったな」

「もー私や超さんを泣かせて道を違えておいてそれですかぁー」

と、聡美が私の背中をつねった。

「…ごめんな…でも、きっと次もそうする…だけど、聡美の事は離さない…絶対に」

「クスッ、欲張りですね、千雨さん…でも、うれしいです」

「ああ…もう決めたから…これが恋でなかったとしても…離れない」

「ええ…千雨さん…共に生きると誓いましょう…まだこの感情の正しい呼び名が分からなくとも…」

そして…私たちは思いのほか早く、大人のキスをする機会に恵まれた…すごかった、とだけ言っておこう。

 

 

 




懺悔のシーンは意図的に地の文無しです、千雨さん、猫被って会話しているので。
ん?千雨さん、順調に外法使いの道を歩んでるって?大丈夫、副作用も計算してるから(
それと、葉加瀬が修行…と言っても戦闘技術はコノカ程度…を始めるフラグが発ちました。
なーんか、千雨と葉加瀬の関係がサクサク進むんだけれども…チカタナイヨネ


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59 夏休み迄編 第3話 一学期の終わり

「何?ハカセも修行をしたい?…正気か?」

翌日の放課後、別荘を使いたいといった聡美に対してのエヴァの反応がこれだった。

「正気ですよー…でも、正しくは体力作りがメインで、魔法の射手と魔法障壁は出来たら上出来、みたいな感じですねー」

「ああ、それならまあ…だが、急にどうした」

納得したような様子で、しかし何事だとエヴァが問う。

「いえ、私の為に千雨さんが無茶をするならば、私自身が自衛手段を身に着ければ無茶も減ってくれるかなーと…」

「くっくっく…なるほどな…愛されているじゃないか、なぁ千雨」

「…ああ…ありがたい事だよ…だから余計に私も守りたくなるんだ…無茶をしてでも」

「む…からかいがいのない反応だな…というか、認めるのか」

と、エヴァが問う。

「あーうん…この感情の名前が解らないだけで、大切に想いあっているのは事実だし…」

「ええ、超さんの計画関連で意図的に距離をとっていたのはもう終わりですし」

「…お前ら、アレで距離をとっていたのか?」

エヴァがあきれた様子でいう…まあ、微妙に心理的な障壁があるにはあったのは事実である。

「とにかく…そういう事で別荘を使わせてもらうぞ」

「ああ、好きにするといい…指導は綾瀬夕映や宮崎のどかの様に原則無しの気が向いたら、でいいな。

後…城の方にも自室をやるという話だったがハカセも使うなら…同じ部屋でいいか…設置と片付けが終わったら広めの部屋を手配してやろう」

「ええ、それで大丈夫ですー」

と、いう事で、今後は聡美も共にダイオラマ球を使用することになった…

その後の別荘使用では、ランニング…をメインにできるほど体力がないのはわかっていたので、砂浜でのウォーキングをメインで、少しランニング、という形式の体力作りと、昔習得した基礎魔法の復習という事にして、私はそれに付き合いながらトレーニング中は近くで瞬動の入りと抜きの訓練、休み時間は聡美をかばう事を前提にした仮想敵との戦闘自主練をした。

 

 

 

「えーと、一学期も残す所あと少し、期末テストまであと一週間…そこで簡単な小テストをやってもらったわけですが…この小テストと中間テストの結果を合わせて考えるとー…僕たち3-Aはこのままいけば、英語では『学年最下位返り咲き確実』、総合でもその可能性が濃厚、という事がわかりましたー!」

どっ あはははは

と、ネギの悪いお知らせにクラスが笑いの方向に沸く。

「笑い事ではありませーんッ! せっかく2年生学年末でトップでしたのに中間ではもう転落の一途ですのよ!?」

と、委員長がみなを叱責する。

「ま、いいじゃん、学園祭の催し物、麻帆良中第2位獲れたし」

と、朝倉。

「いやいや、私たちはよーやったよ」

「全ての力を出し切りましたのぉ〜…あとは余生じゃ」

そしてそれに賛同するクラスメイト達であった。まあ、私はクラス順位なんて興味はないし、求められたならともかく、そうでもないのに勉強会など開く気はない。

「今からあきらめないでくださいーっ」

しかし、委員長は違う様である。

「でもやっぱ、超りんの抜けた穴は大きいよー」

「常時全教科オール満点の超天才だったもんねー麻帆良の最強頭脳…大学の人まであわせても一番頭良かったんじゃないかなー、ハカセと千雨ちゃんでも総合では届かないって言うし…あと対抗できそうなのはネギ君くらいか」

まあ、あいつがクラス平均を押し上げていたのは事実であるし、私たちも専門以外ではかなわなかったし。

「超さんが抜けたから最下位だなんて情けないと思いませんの!?そんな言い訳、超さんが聞いたらがっかりしますわ!」

いや、多分、ワタシがいても元は最下位だったがナと答えてクラスが爆笑するだけだと思う。

「う~ん確かに私たちのこんな体たらくを見て超りんも草葉の陰で泣いているかもね~」

いや、死んでないからな?多分。

「まあまあいいんちょさん」

と、ネギが委員長をいさめる…ふりをする。

「学年最下位になっても何かマズイことがある訳ではないですし、あの学園祭に比べれば勉強はつまらないですからねー…無理もありません」

ネギの言葉にクラスからわかってるーという感じの声が上がる。

「まあ…でも、ネギ先生…」

「でも、学校の勉強はつまらないかもしれませんが、やっておいて損とゆーことは決してありません。皆さんが将来何かをやろうとする時、それはきっと皆さんの力になると思いますよ。一度自分の力で手に入れた知識や技は決して自分を裏切りません。それは一見無駄に思える学校の勉強でも同じ事なんです」

ネギの正論にクラスが沸く…先生らしくなったじゃん、というからかい交じりに

「うーん、しっかしネギ君、実際先生らしい貫禄出てきたよねー色々あったせいか」

朝倉がみんなを代表するように言った。

「え…そ、そうですか?」

「うんうん、来たばっかの時は大丈夫かなーって思ったけどねー」

「この半年で心なしか顔立ちも凛々しくなったよーな」

といった様子でネギを持ち上げるような言葉が次々と飛び出す。

「もーみんな何ですか、おだてても何も出ませんよーと…それはそれとして、バカレンジャーの皆さんは放課後居残ってもらいます」

「げ、何でよ」

「このままだと赤点で夏休みは補習漬けですよ?」

と、アスナの抗議に無慈悲なネギの宣告が下された。

「ヴ…わかったわよ」

「いよーしっ、ほいにゃらぱ期末がんばっちゃおかーッ」

「うひひひ、カッコイイネギ君のお言葉に免じてねー」

と、なんだかんだで今回のテストは頑張る方向にクラスの空気が流れていった…し、実際、私と聡美に勉強会の講師役の依頼が来たので講師役をする事になったのである。

 

 

 

「ほらほら、こっちだ、ネギ」

魔法の射手 光の七矢

と、嫌がらせのような、しかし避けるか障壁は必要な一手を打ち、私はさらに跳躍する。

「くっ…」

ネギは足を止めずに回避し、私の動きを目で追おうとするが…見失ったようである…ならば

「はい、残念」

「あいたっ」

と、ネギの後頭部を鉄扇で叩いてやった…まあ瞬動を無制限に解禁されれば実力差は今はまだこんなもんである、呪血紋以外は咸卦の呪法も含めて全力を出し、虚空舞踏も使ったし。

「フム…千雨はまあそんなものだな…ぼーやは…千雨を見失う事自体は仕方がないが、その場にとどまるな、いい的だ」

なんだかんだで学祭後初のネギとの稽古で以前の宣言通り瞬動を解禁された私は実践稽古でネギを機動力で翻弄して見せた…瞬動の連続使用は得意である。

「うむ、ネギ坊主、最後のは少しマズイネ」

「左様、ネギ坊主も瞬動術は使えるのでござるから、一度その場を大きく離脱して索敵するべきでござったな…千雨を捉えられたかは別問題として」

「よく解らなかったですけど千雨さん、かっこよかったです」

クー、楓、聡美がいう。

「さて、千雨、交代だ。次は私が相手をしてやろう」

と、マスターに促されて私はギャラリーに紛れ、代わりに茶々丸とチャチャゼロが進み出てマスターに付き従う。

「構えろ、ぼーや…手加減はしてやる、耐えて見せろ」

と、マスターのネギへの稽古が始まった。

 

「全く…何度言えばわかる!?足を止めるな!防御後に次の攻撃に対処できなければ意味はない。機動を続ける意思があろうが足を止める状況に追い込まれた時点で負けと思え!」

ボロボロになったネギが叱られている。

「…だが、ようやく1分もつようになったか…千雨相手に腑抜けた負け方をした時はどうしたものかと思ったが、今のは悪くなかった、やはり百日の修行より一度の実戦だ」

と、珍しくネギをほめるマスター…城の事と言い、次のステップに進むつもりかな?

「よし…明日からは多少の応用に入ってやろう」

「えっ…ええっ!?ホ、ホントですか!?」

「フン、のぼせるなよ、ようやく扉の前に立ったというだけのことだ。明日から地獄の深さは倍になると思え」

と喜ぶネギにマスターが脅しをかける…まあそういう事だな、修行のステップが進むというのは。

「ハひ…」

「まあ、それでも第一段階は突破だ、新しい修行相手を用意してやる…入れ!」

マスターの合図に、待機していたコタローが瞬動で物陰から現れた。

「え…」

「よッ」

「コタロー君!?」

「なんでコタロー君がここに!?」

「へ、お前だけ一日が二日あるなんてズルイやろ?」

と、いうわけで、ネギと実力の近い修行相手を欲したマスターとコタローの利害が一致したのである。ちなみに、楓と私がマスターとコタローの仲介をした。

「最近もっと時間増えているけどなー」

と、カモが言う。学祭に備えて、という事もあり私も付き合って多用していたのではあるが。

「その犬、お前にはうってつけの相手だろう。ウォームアップだ、手合わせしてみろ、負けるだろーがな」

「名前よんでやー」

犬扱いにコタローが苦情を入れる…が無視された。

「…はい!」

「オイ、えーんか?一通り修行してヘロヘロやろ?休んでもえーで」

「大丈夫、心配ありがと」

そして、ネギとコタローが戦い始めた。

「さて…あいつらの次は一戦やるか、楓」

「うむ…受けて立とう、千雨」

「アーずるいアル、ワタシも戦いたいネ」

「皆さん元気ですねー」

と、言った感じで別荘での修行のメンツが増える事になったのであった。楓とクーは毎日ではないが。

 

 

 

「ふむ…茶々丸の強化プランですがー機動力重視の案がよさそうですねー」

「そうだな…やっぱり、機動力は大事だし…エヴァの好みにもあっている…理論上、瞬動術を使える域に至っているのもいいな…」

私たちは学園祭での戦闘データを元に聡美が引いた設計プランをシミュレーションし、その結果を二人で検討していた。

「ただ、コンパクト化と髪型は茶々丸やエヴァと相談した方がいいかもな」

「えーそうですかー?コンパクトな方がいいと思いますけど」

「んー確かに、機能美的にもいいとは思うんだけど…家事とかの面で今のサイズに合わせてある可能性もあるし…あとは好みとか」

「あー…でしたら要相談ですねーその場合、武装を増やせますが…んー重量が減らない分、出力も上げたいですねー」

と、聡美が今のボディサイズでの新設計を引き始めた。

私はそんな聡美をほほえましく見守るのであった。

 

 

 

「っと…これはなかなか…」

「ケッケッケ…ニゲロニゲロ」

マスターが設置した新しい別荘…レーベンスシュルト城と付属の4球…砂漠、雪山+極地(空気は薄くないが凄く寒い)、高地(氷雪はほとんどないが空気が薄い)、熱帯雨林…を用いて私たちの修行は次の段階に入っていた…テスト期間中にもかかわらず。私達やネギはともかく、コタローはいいのだろうか…夕映達も別荘使用を止めてテスト勉強をしているのに。

マスターから与えられた個人メニューは、ネギとコタローはセットで気と魔力の効率的運用の為に雪山に放り込まれて生存訓練で、私は機動の洗練の為に障害物の多い熱帯雨林(高度制限アリ)と空気の薄い高地でチャチャゼロ相手の耐久鬼ごっこだった…なお、聡美は茶々丸と城本体で体力トレーニングである、さすがに。

まー障害物も多く、チャチャゼロの投擲の盾となるモノも多いのだが、いかんせんサイズ差でとれるルートがチャチャゼロに圧倒的に有利な事もあり、なかなかにいい修行となっている…高山の方も与圧術式が禁止なので無駄な機動をしているとすぐに息が上がるという意味でいい修行になるし…内容は小休止ごとに入れ替えである。

 

 

 

「ネギ、ちょっといいか」

期末テストの二日目、修行の合間に私は聡美と共にネギに声をかけた。

「ああ、ちょうどよかった、千雨さん、ハカセさん、僕もお話があったんです」

と、ネギが応じた。

「ん?私たちに話って…まさかウェールズ…いや、魔法世界行きの事か?」

「え、そうですけど…どうしてわかったんですか?」

私の言葉にネギが首をかしげる。

「イヤ…単に私達の用事もそれだってだけでな…行くんだろ?ネギ、この夏休みに」

「はい、いっぱい悩みましたが…やっぱり父さんを追う事を諦められないんです」

「一応聞いておくが…危険なのはわかっているな?」

「父さんが行方不明になった事には何か理由があるはずです…安全だと考えるのは楽観的に過ぎます」

真剣な目でネギが言う。

「学園でうちのクラスの連中と楽しくバカやっているだけじゃ…駄目なんだな?」

「はい…父さんを諦めれば…僕は僕でなくなってしまう…そんな気がするんです」

ネギの答えに私は聡美と顔を見合わせ…ため息をついた。

「千雨さんのおっしゃっていた通りですねー」

「だろう?行かずに居られないならば、行くしかねーよな、その衝動はよく解る、私もそうして魔法使い側に飛び込んだんだからな」

「でしたねー昨日のことのように覚えていますよー」

「あ、あの、千雨さん?ハカセさん?」

私たちの会話にネギは困惑した様子である。

「悪い悪い、っと私たちの本題だがな、お前さえよければ私達も連れて行ってほしいんだよ、魔法世界行き」

「えっ?いきなりどうなさったんですか?」

「イヤな、悪魔の事件の時から決めていたんだ、超の件が終わって、それでも手を取り合える関係ならお前の親父さん探しに協力するって…な」

「私は魔法世界への興味が主ですが…できる限りの協力はしますよーネギ先生は友人でもあるつもりですので―頭脳労働ならばお手伝いできると思いますよー」

「あ…千雨さん、ハカセさん、ありがとうございます!とっても力強いです!」

そう言ってネギは私たちに頭を下げた。

 

 

 

それはそうと期末テストの結果だが…連日開かれた勉強会…私たちは講師役を務めた…そのかいあって、私たち3-Aは期末テストで2位を取ることができたのであった。

この結果、終業式後に開かれた一学期の打ち上げカラオケ大会は大いに盛り上がることになった。

こうして、夏休みが始まった…そしてこの夏休みは、私たちの人生を大きく変える事となるのである。

 



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夏休み編
60 夏休み編 第1話 新部活設立と部長就任試験?


 

「アスナさん、こんなところに呼んで何の用事ですか?」

「何なの、アスナ」

「面子からして魔法関係だとは思うが、いったいどうしたんだよ」

と、夏休みの初日から私たち…ネギパーティー+私と聡美…はアスナに呼び出されていた。

「勧誘よ、かんゆー」

「か…かんゆー…?何のですかー?」

「はい、コレ」

戸惑う私たちに、アスナは一枚の紙を代表としてネギに手渡した。

「え…新クラブ設立申請書…?」

「うん」

「で、でも、突然何のクラブです?それに新しいクラブには5人の部員が必要で…」

と、ネギが疑問を返すが、アスナはそれをぶった切って一見関係ない話を始めた。

「あんたさー、『魔法の国』に行ったら帰ってこられないかもって言ってたわよね」

「え?は、はい」

「またその話か、姐さん。まあ鎖国しているみてーな場所だからなー、別世界だしよ。直接の危険がなかったとしても鎖国時の日本や冷戦当時の東側諸国に潜り込むくらいの覚悟は必要だぜ?」

オイ、それはなかなかの危険だな、カモよ。まあ、魔法使いが、と但し書きをつけるのであれば話は別だが。

「だから帰ってこれないかも?」

「まあ…」

「ダメよ、帰ってくるつもりじゃ」

「はう」

アスナの言葉と気迫にネギがたじろぐ。

「絶対帰ってこなきゃダメ!帰ってくるって約束しなさい!それがみんなの担任としてのあんたの責任よ。

…でも、その責任をあんた一人に押し付けるほど私も鬼じゃないわ。

あんた、お父さんを見つけるまでは止まれないのよね、だったら私も本腰入れて協力してガンガン積極的にお父さん捜しして早いとこ見つけちゃおーってわけ」

…なるほど、そのための新クラブ創立…か…と思っているとアスナが続ける

「いいんちょにも協力を頼んだわ」

「え」

「つまり…つまりこのクラブは『ネギのお父さんを探し出してしかもちゃんとこの学園に帰ってくる』そのためのクラブよ、名前募集中!当然あんたが顧問ね!文句ある?」

「へ…」

思いもよらないアスナの宣言とアイデアにネギは呆けたような顔をしていた…

「はっはっは…こいつは傑作だぜ、アスナ…いいじゃねぇか、私は乗るぞ、そのクラブ」

「そうですねー拠点を確保するという意味でも―そう言った表向きの枠を整えるというのは良い案かとー私もさんせーですー」

「あ、千雨ちゃん、ハカセちゃんずるいーうちも参加やー」

「素晴らしいアイデアかと、私もぜひ」

「もちろん私たちも参加だよ、ね」

「「はい」」

「うむ、ならば拙者も」

「よくわからないアルが、私も参加するネ」

と、次々とみんなは参加の意を示していった。

「よし、部員はそろったわね、じゃあ顧問よろしくね、ネギ」

「え…えっ…えぇぇー!」

と、正気に戻ったネギの叫び声が響くのであった。

 

「さて、それはさておき、だ。私たちはそろそろエヴァの別荘に行くけど、ネギたちはどうする?」

「あ、そうです、そろそろコタロー君との待ち合わせの時間…」

さんざんクラブの名称決めが迷走し、ネギま部(仮)とかいう名前でとりあえず落ち着いた頃、私はネギに問い、ネギがコタローとの待ち合わせを思い出した。

「あ、そうそう、それそれ。エヴァちゃんに別荘を部室として使わせてもらえるようにお願いしないと」

「ん?まあ、ネギの親父さんの情報と引き換えなら交渉は通ると思うが…修行用にか?」

「アーそれもなくはないけれど…宿題終わらせるために便利じゃん?」

と、アスナがそんなことを言い始める。

「まあいいけど…じゃあ、このままみんなでエヴァんち行くでいいかな?」

と、いう事で私たちは連れ立ってマクダウェル邸を訪ねるのであった。

 

「えー留守!?」

「はい、アスナさん…大変申し訳ございませんが、マスターは現在、日本庭園へお散歩に出かけております」

と、出迎えてくれた茶々丸が申し訳なさそうにいった。

「しゃあない、じゃあ行ってみるよ、茶々丸さん。ネギたちは先に入っていて」

「わかりました、じゃあマスターから出入り自由の許可をもらっている皆さんは先に中に入って宿題なり、各自の修行なりを始めておきましょうか」

と、言うネギの案でアスナ、ハルナ、楓、クー(二人は毎回許可をもらって入っている)がエヴァとの交渉に赴く事となった。

 

「ん、それじゃあいこか、待ちくたびれたで、ネギ」

交渉役4人を見送り、ネギを待っていたコタローが口を開いた。

「うん、おまたせ、コタロー君…行きましょう、皆さん」

そして、ネギが皆に別荘に潜ろうと促す…

「私も施錠をしてすぐに追いかけます」

「あれ?そう言えばハカセちゃんも修行してるん?」

「はいー今はまだ体力作りと基礎魔法の復習の段階ですが―千雨さんが私を守ってくれる時の負担が少しでも減るように頑張ってますー」

「そうなんかーせっちゃん、私も治癒魔法だけやのうて、そういう方向でも修行した方がええん?」

「お嬢様がなさりたいように…どちらにしても、私の全てをかけてお守りいたします」

こんな感じでわいわいと会話を交わしながら別荘へと向かうのであった。

 

「さて…夕映達は魔法理論の勉強と基礎魔法…今はセー・インウェルタント(転倒呪文)の練習だっけか?」

「ええ、そうです」

「なら、実践は私と同じ段階ですねー私が頂いた初等教本通りの順序でしたら、ですけれども―」

「なら…聡美、夕映、木乃香、ノドカは勉強と実践、ネギ、刹那、コタロー、私は実践形式での稽古でいいかな」

「ええ、それでいいと思います」

私の提案はネギに肯定され、ほかの皆も頷く事で同意を示す。

「ほな、始めよか、ネギ!」

と、コタローがネギを引っ張っていく。

「まったく…それじゃあまた後でな、聡美」

「はい、千雨さんも頑張って」

「せっちゃんもまた後でなー」

「はい、お嬢様も頑張ってください」

と、それぞれに分かれていった。

 

「さて、ネギとコタローはもう始めているし…まずはウォームアップで軽くやろうか、刹那」

軽くストレッチを済ませ、私の偽・断罪の剣くらいの長さであつらえた木剣を手に取り、刹那に言う。

「ああ」

と、刹那は短く返事をして、私と向き合う…という事で私は刹那と稽古を始めた。

 

「ん…もうちょいギア上げるか…」

「ん、了解だ」

と、体が温まってきた所で刹那に宣言し、互いに少しずつ本気度を上げていく。

「なかなか剣の腕も上達してきているじゃないか、千雨」

「元々鉄扇を小刀の様に振るうのは慣れているからな…コツをつかめばある程度まではな」

そんな軽口をたたき合いながら交えて打ちあいを続けていく…が

 

「あっ…」

「はぁぁっ」

打ちあいの最中、私の木剣が弾き飛ばされた

「ほう…今のを防ぐか…」

刹那の止め、喉元を狙った一撃…寸止めはしてくれただろうが…はかろうじて抜いた鉄扇で防ぎ、突かれた勢いを生かして後ろに跳躍する。

「どうする?」

「続けよう」

と、私は鉄扇でこの稽古を続ける旨を宣言した。

「わかった…いくぞっ」

先ほどまでと打って変わって防戦に回る展開…しかし、まあ鉄扇術とはそーいうもんである、隙があれば柔術・合気術的な意味を含めて反撃はするが。

「っと…やはりお前はその方が手ごわいな」

「ったり前だ、こっちが本来の獲物だからな」

漠然と見れば防戦一方、しかし、見る者が見れば木剣を使っていた時よりはまだ拮抗に近い戦い…時折糸術を防御や妨害に混ぜて反撃に転じようとする…そして難なく対応される…事さえある。

しかし、近接格闘技術では圧倒的に刹那の方が有利であるのは変わりなく…

「ちっ、私の負けだ」

と、この形式の稽古では禁止にしている瞬動以外での回避ができない状況に追い込まれ、瞬動で離脱をしてしまう。

「ふぅ…なかなかいい汗をかけたよ、千雨」

「それはどーも…私もいい勉強になったよ」

と、途中で弾き飛ばされた木剣を回収する。

「しかし、なかなかの上達ぶりだ…魔法アリなら咸卦の呪法無しでも近距離で負けるかもしれんな」

「ぬかせ、そん時はお前もアーティファクトと符術解禁してくるし、かといって虚空瞬動アリにしたら翼がある分、お前有利だろ」

「まあそれはそうだが…その条件ならば、どちらが得意の距離に引きずり込み、それを維持できるか、だろうな…魔法に匕首・十六串呂と陰陽術、瞬動完全解禁に翼での飛行がついても虚空瞬動自体はお前のが上手だしな…それぞれお前に分があるさ」

と、なんだか慰められるような言葉をかけられた。

 

「お、ちょうど終わりか、千雨姉ちゃん、刹那姉ちゃん」

「お、そっちもきりが付いたか、こっちも一戦終わった所やで」

「はい、よろしければお相手お願いします」

と、ネギ達が相手を入れ替えての手合わせを提案してくる。

「あーすいません、私は一度お嬢様たちの様子を見てこようと思いますので…」

しかし、刹那がそう言って断りを入れてしまった。

「ん…なら高山にでも行って魔法アリでやろうか。二人がかりでいいぞ?」

と、軽く挑発するようにニヤリと笑う。実際は、その条件だと二人が正しく連携を取れる限りにおいては私がかなり不利である、大体は連携を寸断して私の勝ちであるが。

「くっ…今日こそ勝ったるで、千雨姉ちゃん!」

「うん!がんばろーね、コタロー君」

と、言った感じで私たちは別荘内で日が傾く頃まで時々休憩をはさみつつ、再び合流した刹那…治癒術の練習台を求めてついてきた木乃香付き…と共に実戦形式の稽古に勤しむのであった。

 

 

 

聡美たちと合流して風呂と夕食とを済ませ、暫しの歓談を楽しんだ後、私たちはそれぞれに割り当てられている部屋へ解散という事になった。

「ふー今日は楽しかったですねー」

ダブルベッド…何も言わなかったら従者人形たちが勝手に気を利かせたらしく、こうなった…に腰かけて聡美が言う。

「ああ…私は殆ど実践稽古ばっかりだったけれど…いい修練ではあったな、聡美はどうだった?」

「はいー勉強中に興味を持った事を綾瀬さんのアーティファクトで調べたりわき道にそれたりもしましたけれど―それを基に練習法の改良をしたりで、途中離脱した近衛さん以外は一応は使えるようになりましたー転倒呪文」

「それは頑張ったな。転倒呪文の習得が終わったら、そこからは大体十日から二週間で魔法の射手と武装解除呪文くらいは訓練を始められる筈だぞ」

私もベッドに腰かけ、聡美の頭をなでながら言った。

「ムム…割とかかりますねーというか、訓練を始めるまでに、ですか…」

「まー理論と実践込々で、根を詰めなければ平均してそれくらいって話だからな、理論は頭の出来で、実践は素質やコツをつかめるか次第で大きく左右されるぞ」

「となると―理論はともかく実践では躓きそうですねー私は…所で千雨さんはどれくらいで終わったんですかー?」

「あー私は茶々丸開発中にした勉強で理論は終えていて、実践だけスパルタ方式で…計30時間位だったかな?魔法の射手を使えるようになるまでで。それと茶々丸に使ってる魔法理論・魔法系処理の勉強と大分重複する…というか復習みたいなもんだな、理論は」

「へぇ…じゃあ、綾瀬さん達が理論の勉強をしている間に実践をがんばれば先にできるようになるかもですね!」

聡美はやる気満々といった様子でそう言った。

「さ、寝ようか…明日は朝練に少し付き合ってもらうぞ…今日は体力づくり殆どしてないんだろ?」

「うっ…まあそれはそうですけれども…」

と、言いながら眼鏡をはずしてベットに並んで横になる。

「お休み、聡美」

「はい、おやすみなさい、千雨さん」

私たちは手を握りながらそう言って…数分後、そのまま眠りに落ちていった…まあ、寝ている間に体勢は色々と変わっていくのではあるが。

 

 

 

翌朝、聡美を連れて…まあ、ストレッチくらいはつき合わせて後はウォーキングしながら見学してもらったけど…の朝練の場で今日の予定を話し合った所、今日はそろそろアスナ達が戻ってきてもおかしく無い為、城で出来る軽めの手合わせと初心者組の指導、使用時間が過ぎたら一度外に出てアスナ達を待つ、という事になった。その方針は朝食の場で綾瀬達にも伝えられ、特に反対は出なかった…宿題を片付けようという声もあるにはあったが、明日以降、という事になった。

 

「…というわけで、基礎中の基礎というべき魔法は転倒呪文で最後となる…はずだ、抜けがなければな。ここから魔法の射手や武装解除呪文の練習を始めるまでに大体7日から2週間の勉強と訓練が必要になると言われているんだが…これは、各々の得意属性を知り、最も得意な属性の精霊との親和性をそう言った呪文の使用が可能になるまで高める為の勉強と訓練期間の目安という事になる…まーそこらへんは各自の才能次第って言う所もあるんで割と左右される」

なんで私が同級生相手に講義しているんだよ、という思いを隠しつつ、そんな感じで講義を進める…まあ理由は単純で、ネギがコタローに攫われたから、なんだけど。

「で、まず最初に各属性精霊について学ぶ為の勉強、次に属性精霊との相性を確かめる為の実技、そして相性の良かった属性精霊について学びながら親和性を高めるための訓練…という流れになるな。そのための教本は今、マスターの書庫から抜粋して写本してもらっているから、明日には揃うだろう…夕映はアーティファクトで自力閲覧できるだろうが、一応用意して貰っているぞ…という事で今は代表的な属性精霊とその魔法の射手の特徴をまとめたペーパーを配布して、その解説をする」

と、これまた従者人形達に頼んで急いで用意してもらったペーパーを配布する。

「ペーパーはいきわたったな?」

と、言った所でショートカット用転移魔法陣のあたりから声が聞こえてくる。

「おっと…丁度アスナ達も来たようなので、今日はここまでにしようか…」

と、宣言した途端、木乃香が転移魔法陣の方を向いて叫んだ。

「アスナ―ハルナ―」

「…ペーパーは各自読んでおくといい、詳しい内容は明日用意されるであろう初等教本にも載っているが、説明が欲しければ私かネギにでも聞いてくれ」

と、私は宣言して使用していたホワイトボードを片付けてもらうよう、従者人形に頼んだ。

「講義、お疲れ様です、千雨さん」

「まー殆ど今までの復習とこれからの修行内容説明しかしてねーけどな…さ、私たちも合流しようか」

と、言って片づけの手配を待っていてくれていた聡美の手をとった。

 

「さーて、じゃ、まあ、名誉顧問も決まって部室も確保できたことだし…『ナギさん発見』へ向けて本格的に動き始めるとしますか!」

みんなに合流すると、ちょうどハルナがそんなことを言っているタイミングだった。

「ど、どうもっ」

ネギが恐縮した様子でぺこりと頭を下げる。

「よーし、それじゃあ…頑張るぞーッ!」

「「「「「「「「「「「「オオーッ」」」」」」」」」」」」

と、巨大な掛け声が別荘内に響き渡った。

その後、ハルナを筆頭に夕映、木乃香、ノドカが風呂に入りに離脱し、ほかの面子は各自修行という事になった。

聡美(当然見学)も含め、城で剣の稽古をするといった刹那とアスナを除いたみんなで高山に向かう事になったのであった。

そして各自ウォームアップを済ませた後、楓がクーに気について教えるのをみんなで見学…というか、私を含めた気使い組がみんなでクーに気を教える事になった…まー無自覚でというか所々自覚的に気を使えていたのもあって、あっという間に気の基礎は習得してしまった。

そうこうしていると、茶々丸が私たちを呼びにやってきた。

「皆さん、すいません、マスターが展望舞台に集まるように、との事です」

 

エヴァの呼び出しに応じてみんなで展望舞台に行ってみると、エヴァはネギとアスナがこれから舞台で戦うから他の面子は周りで観戦しているように、と言った。

「あ、あのー…これはいったい…」

説明を求めるネギに対し、エヴァはそれを黙殺して宣言した。

「ルールはぼーやの弟子入りテストの時と同じ!貴様がぼーやに一撃でも有効打を入れられれば合格だ!ただし、制限時間は15分間!」

「いいの?そんな簡単な条件で…私だってネギに一撃入れるくらい楽勝なんだから」

いや?なにがなんだかよくわからんが…最近のネギの格闘技術を鑑みるに中々のムリゲーだぞ?という言葉を飲み込んで様子を見守る。

「ええっと…結局何がどうしたんですかー」

「ええい、これはネギま部(仮)とやらの部長にこの女がなるか否かの就任テストだ!」

と、ネギの説明を求める言葉にエヴァがいらだった様子で答えた。

「ぼ…僕、部長はアスナさんでいいと思いますけどー…」

と、ネギがもじもじしながら言った…が。

「黙れ、ガキが!いいな!?本気でいけ、少しでも手を抜けばすぐにわかるぞ!?」

「ハ、ハイッ」

と、ネギはエヴァに叱責され、構えた。

「では…」

と、エヴァが手を上げて開始の宣言をしようと構える…と、アスナは慣れた手つきで…本当にむかつくほど慣れた手つきで咸卦法を発動させ、咸卦の気を纏うとハリセンを具現化させた。

「始めるがいい!」

成程、見た感じ、なかなかの密度であり…素の身体能力も加味すれば十分にネギに対抗…いや、優越できるであろう…身体スペックだけは。

しかし、悲しいかな、瞬動位使えて当然の域にいるネギをアスナの目は捉える事はかなわず…また格闘技術面でもいっそ笑えるほどの上達を見せているネギは…アスナの手を取り、ハリセンを取り落とさせた上で肘打ちの寸止めを決めていた。

「コラ、ぼーや、なぜ止める!降り抜け!」

「で、でも」

「お前の時、茶々丸が手加減したか!?木乃香もいる!やれ!」

と、エヴァの無慈悲な宣言が下され、フルボッコタイムが始まった…準備期間があればそれなりに付け焼刃…目を高速戦闘に慣れさせて、クーと模擬戦を重ねさせるくらいか…はできたのであるが…無駄に自信持ちやがって、アスナの奴め。

で、そのアスナは次の一撃で吹き飛ばされ、舞台で跳ねた後に展望台の柵にたたきつけられて止まった。

「アスナさん…マスター、もう…!」

「その女から『まいった』というまでは続けろ、貴様から止めるのはその女への侮辱だと思え」

「ま…まだよ…ネギ…まだ…全然いけるわ」

咸卦の気の密度を保てているうちは…まあ大丈夫だろう…が…それはネギに一撃を入れられることを意味しない…

「…茶々丸の記録で、ネギ先生の時のダイジェストはみましたがー実際に見ると…」

「つらいか?」

「少し…ですが…目はそらしません…これが…私が望んで踏み入れる世界なんですから…」

そう宣言する聡美の、少し震える手を私は握った。そしてアスナはネギに一方的にやられ続け…15分が経過した。

 

「うう~ん…」

と、そこにはぼろ雑巾のようなアスナが転がっていた…咸卦の気の分を計算に入れても、まだ意識を保っているという点では大したものである。

「アスナさん…」

全力で気絶を狙って戦い続けていたらしきネギが息を荒げてその名を呼ぶ…

「ふん…その程度で誰かを守ろうなどとは片腹痛い。足手まといだ、やはりお前は口先だけだな、神楽坂明日菜」

そう、エヴァは挑発するように宣言した。

「いっ言ったわね、口先だけじゃないわよ!」

「…ふん、そうかな?貴様はたまに偉そうなことをほざくが結局は、何の裏付けもない、ただの経験の浅い中学生の戯言にすぎん。ぼーや程度に手も足も出ないようでは部長どころかとんだ足手まといになる事くらいわかるだろう」

と、まあはたから見ていると突っ込みどころ満載のエヴァの挑発である。

「う…確かに実力不足は認めるけど…でも、こいつだって一日を二日にして修行してるんだからちょっとくらい差があったって当然でしょ?」

「ほほう、ではぼーやと同じ修行をすれば追いつけると?」

「え…と…当然よッ!すぐに追いついて見せるわッ」

あっれぇ…なんか妹弟子ができる流れになっているんですけど…それかアスナの事を思って心を折ってしまおうかと考えているか。

「それは頼もしい、ではわが修行を受けると?やめておくなら今のうちだぞ、後で泣きを見ても知らんからな」

「う…もちろん!やるわよ!やってやるわ!」

「フム…よろしい、だが私にも慈悲はある…まずはその体を癒せ…明日の朝から最初の修行を始める事にしよう!ハッハッハハハハ」

と、マスターはやけに楽しそうに笑いながら去っていった…

 

その後は、まず明日菜が木乃香の治癒術の練習台になった後、高速戦闘に目を慣らす為と称して私と刹那のギアを上げた木剣での手合わせを見学させ、ほかの連中の修行なども見学させていた…そしてその夜…

 

「で、どー言うつもりなんだ、マスター」

「うむ、来たか…どうもこうも見ての通り…あの女は私に弟子入りを志願し、私は明日、その覚悟を問う為の修行…と称した弟子入り試験を課すだけだ」

マスターの私室を訪ねると大人姿のマスターがワインをたしなんでおり、私の問いにそう答えた。

「…心を折るつもりじゃあないんだな?」

「折れるならばそれまで…修行は無し…せいぜい普通の中学生らしく夏休みを過ごせばいいさ」

「…わかった、ならば妹弟子ができる覚悟と…アスナ無しでネギの面倒を見る覚悟、両方決めとけばいいわけだな」

私は降参だという格好をしてマスターに同意を求める…

「うむ、よくわかっているじゃないか…ま、私は賭けるならば折れる方に賭けるがな…」

「なら、私はアスナが妹弟子になる方に賭けようか」

従者人形が注いでくれたぶどうジュースを一口含む…相変わらずうまい。

「ほう…あの女の事を買っているじゃないか、千雨…何を賭ける?」

面白そうにマスターが笑う。

「あー賭け金がないな…私が贈れる様な酒じゃ足らんだろう?イギリスや魔法世界の土産としても」

「いや、言うほど悪くはないぞ…よし、前に言っていたマギア・エレベアの基礎理論を賭けるか。神楽坂明日菜が修行をやり切れればお前にやろう、折れれば酒は貰うし、理論は当分諦めろ」

「…いいのか?それだとオッズがかなり私に有利だと思うけど」

「なに…そのオッズ差が神楽坂明日菜に対しての私の評価という事さ…それと、久しぶりに晩酌に付き合え、千雨…ハカセには少し悪いがな」

「…帰してくれるなら」

少し考えて、私はそう答えた。

「クックック…さすがに朝帰りはさせんよ」

そう言ってマスターはワインをあおった。

 

 



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61 夏休み編 第2話 雪山の試練

「さて、神楽坂明日菜、最初の修行だが…一週間の雪山耐久訓練だ!」

翌日、朝食を済ませた後にマスターがみんなを集めてそう宣言した。

…いやマテマテマテ、それ、ネギとコタローが死にそうになっていたやつじゃねーか。そりゃあ分の良い賭けを持ちかけてくる訳だわ…一応、咸卦法を使いこなせれば目があるという意味では無理ではないが無茶ではある…賭けに負けても実質、英国と魔法世界の土産に酒を買って帰る事が確定するだけではあるからかまわんけど。

「失礼します、アスナさん」

「行くぞ、ぼーや、犬」

そして、アスナは茶々丸に羽交い絞めにされて連れ去られ、ネギとコタローもマスターと共に消えた。

「えぇ…どーすんのさ、これ…」

「ええっと…何がどうなったん?千雨ちゃん」

「えーっとだな…」

と、取り残された面子に、現在明日菜が置かれているであろう状況を説明する…この城と連結されている雪山の修行場に放り込まれてそこで生き延びろ、という試練が課されているであろう事を。

「一応、ネギとコタローも魔力や気の効率的運用の訓練で同じ事をしたし、あいつらがサポートというか指導しつつ、咸卦法の練度を上げていって…って事になるんじゃないかな…甘やかしすぎてマスターがキレなければ」

昨日の晩酌途中に出た話題であいつらに指導させる、とは言っていたのでそうなるだろう…マスターがブチ切れるところまで。ネギもコタローも、一応一般人で女という属性のアスナを甘やかさない未来が見えない。

「それやったら、安心…なんかな?」

「まあ、アスナの事はマスター達に任せて、私たちはそれぞれの修行をしようぜ?一度出るにしてもまだ数時間あるし」

そう言って、私はみんなにそれぞれの修行に移るように促した。

 

「で、聡美はどうするんだ?」

体力トレーニングを兼ねた早足での散歩に付き合いながら私は聡美に問うた。

「私は一度茶々丸のニューボディの組み立て関係で一度外に出ますーアスナさんの修行が終わるまでには戻ってくるようにしますが―千雨さんも行きますかー?」

「んー私はアスナの修行が終わるまでの最長七日間、別荘にこもっているよ…せっかく鍛錬相手が揃っていることだし」

「そーですかーでしたら…できるだけ早く私も戻ってきますねー」

そんな会話を交わしながら展望デッキに戻ってくると、みんなが集まって何かをしていた。

「ん~~むむ…プラクテ~ビギ・ナル~セー・インウェルタント!」

「おおッ」

「スゴイッホントに倒れたー」

「やたーっこれでウチもエスパーや」

「素晴らしいです、お嬢様!」

どうやら、転倒呪文の練習?のようだ。

「でも、思いっきり息吹くと倒れたりして」

と、ハルナがふざけ始めた。

「ああんっ、ズルしたらアカン―ッ」

「しかし、いつの間にここまで…」

「アスナもがんばってるし、うちらもがんばらなな」

と、まじめな会話をしている後ろではクーとハルナが息で転倒呪文の真似をする遊びをしていたりしていた。

 

「皆さん、盛り上がってますねー」

「あ、ネギ君、コタ君」

と、やっているとネギたちがやってくる…速攻指導役クビになったな、こりゃあ。

「おう、ネギ…アスナの指導役はクビになったか」

「はい…『お前たちはコーチ失格だ』と追い出されちゃいまして…

アスナさん、心配だなー…僕たち二人でも死にそうだった修行なのに…大丈夫かなー」

「いや~俺も仕事で結構修羅場は潜ってきたけど、ホンマに死ぬ思たんはアレが初めてや」

「大丈夫です、ネギ先生、マスターは厳しくはあっても根はお優しい方ですから…」

「そ、そうですよね」

「イヤ…まあ、わかるけど…心を折って諦めさせるという方向に働く事も間々あるぞ?マスターの優しさって」

「アーそれは…わかる気が」

「ところで、ネギ、コタロー、お前ら何やってクビになったんだよ、指導役」

「それが…」

 

と、ネギたちがやらかした甘やかしを聞く…まあひどい甘やかしである、雪山を使う意味がない。

「…せめて風呂と魚は無しだな…少し休憩させた後に自分で魚を捕らせるくらいはしねぇと…」

そんな話をしている後ろではハルナがアーティファクトで具現化させた魔人をクーに一撃でやられて…

「目指すは世界最強アル!」

「おーッ!」

とかやっていた。

 

ハルナ達が落ち着いた所で転倒呪文の練習の成果発表の続きを、ネギの前でやっていた。

鉛筆二本と、マジックと消しゴムを立てて転倒呪文を行使したのだが、聡美とノドカは勢いが少し足らない感があるが、それら全てをパタリと倒して見せた。

「プラクテ・ビギ・ナル…セーインウェルタント」

そして最後の夕映の番…その転倒呪文は勢い良く、立てた文房具たちを弾き飛ばした。

「キャースゴイよ、ゆえ―っ」

「ノドカやハカセちゃんよりも飛んだーッ」

「スゴイじゃないですか、夕映さん。いつの間にここまで仕上げたんですか?」

皆の称賛の声に夕映は恥ずかしそうに言った。

「その…アーティファクトを使って手に入れられる情報から私なりにより効率的な修練法を計算しまして…ハカセさんとの魔法理論のディスカッションも役に立ちましたし…昨日、千雨さんのおっしゃっていた属性精霊についての勉強も始めています」

「へースゴイ。なんか昔の僕みたいなことしてますねーさすが、夕映さん」

「い、いえそんな」

「…何であれで学校の成績悪いん?あのチビ」

コタローが逆にあきれた様子で言った。

「なぁ?」

「…あいつは興味の持てない事の為に発揮されねーんだよ…あの知力が…」

と、私も少しあきれた感じで言う…まあ気持ちはわからんでもないがな。

「いえ、ホントにここまでが一番大変なんです。ここまでくれば後はカンタンですよ!もう千雨さんから聞いているようですが、魔法の矢と武装解除まで単位にして78時間程度で…」

「な…ななじゅうはちじかん…自動車より大変ですね…七日から二週間とは伺っていましたが…いえ、がんばるです!」

「う、うん」

「私も頑張らないといけませんねー」

聡美も夕映たちに合わせていった。

「その意気ですッ!僕もまだ未熟ですが、魔法の射手とかなら僕が個人的に教えて差し上げられますから」

「えっ」

「なっ」

…との、ネギの言葉に夕映とノドカが反応する。まあアイツら、ネギラブ勢だし個人的に授業というあたりに反応したのだろう。

「えーと、ちょっといいですか?夕映さんはどんな修練法を…うわー懐かしいな」

案の定、夕映もノドカも少し顔を赤くしている…ように見える。

「じゃあ、私は千雨さんに教えてもらいましょうかねー」

「ああ、いいよ…まずはその前段階だけど」

と、聡美と魔法の射手などを教える約束をする。

「がんばります!」

唐突にノドカが叫んだ。

「え?ええー」

「ウチもがんばらな~」

「そうですね―頑張りますよー」

それにつられて夕映と木乃香、そして聡美も再びやる気を表明をした。

「みんなやる気あるな~こりゃうかうかしてられへんわ」

「うん、がんばらなきゃね!」

「そうだな…私もお前らの壁として少しでも長く君臨してやらにゃな」

と、私たちもやる気を表明する。

「とか言いつつ、汗かいちゃったわね。みんな―お風呂で一休みしない~?」

「あ、お風呂ええな~」

「うむ」

「うんうん」

「いくです」

「そろそろ服も戻さないといけませんし丁度いいかもですねー」

と、ハルナの風呂行こう宣言とみんなのそれへの賛意が続いた。

「アラ?…アハハ、やっぱみんな女やな~…ん?どうした?」

「うん…大丈夫かな―明日菜さん…」

ネギが心配そうにそう言った。

「あー私は…その前に軽く手合わせしたいんだけど…風呂入りたいかと言われるとまだビミョイ」

「ならば拙者と一戦してからお風呂にするでござるよ」

私は楓と軽く一戦した後に風呂に合流し、風呂から上がってしばらく宿題に取り組んだ後、聡美と木乃香は一度別荘の外に出る事となった。

 

その後は、実践訓練や基礎訓練などの気や魔力を使う訓練と魔法理論や宿題の消化という頭を使う事柄を交互にやりながら別荘での三日目…アスナの修行初日は過ぎていった。

 

「エヴァ、アスナはまだ生きているか?」

夕食後の歓談後、私は寝る前に雪山の修行場を訪ねた。

「千雨か…丁度、元気よく雪洞を掘っている所さ…まあ、何とかなるだろうさ…気力が持てばな」

「へぇ…って事は咸卦法の効率的運用のコツはつかんだわけか…微妙に妬ましいな」

そう言って、私は笑いながら雪洞から吐き出される雪を眺めていた。

 

 

 

アスナの修行二日目、寮に戻っていた木乃香も合流し、何度かアスナの様子を窺いに行きつつも、昨日と同じルーティンで過ごした。

 

 

 

アスナの修行三日目、木乃香に治癒のコツを教えたり、夕映たちから属性精霊に関する相談を受けたりという事もこなしつつ、同様に…ただ、ネギはアスナが心配で今一修行に身が入っていないようにも見えたが。

 

 

 

アスナの修行四日目…昼食前に様子を見に来てマスターと合流した私の前で、アスナが倒れた…マスターいわく、空腹だろう、とのことではあるが…咸卦法の練度向上という意味では驚異的域に達しているといってよいだろう。

「考えてみるといい…ただの中学生の貴様がそこまでする義理があるのか、あのぼーやに?こんなバカげた修行に何かお前にとっての意味が?」

そうマスターがつぶやく…

「か…考えてみたら…ここまでやんなきゃいけない理由…あったっけ?」

そして、偶然にもそれにこたえるように発せられた明日菜のつぶやきを聴覚強化の術式が拾う。

「こんな死ぬ思いまでして…ネギの為に…ただの中学生が…楽しい夏休みなのに…ハ…ハハッ。

私…こんな中途半端な気持ちだったなんて…ダメじゃん…やっぱり私…」

「そうだ…だから鐘を鳴らすがいい」

と、マスターはニヤリと笑った…そしてアスナがギブアップの合図の為の鐘を掴んだ。

「なんて…あきらめる訳ないでしょっ」

…あれ?もしかして、アスナの聴覚だと…マスターと会話成立していたのか?コレ。

「あきらめないっ

あきらめない

あきらめない

あきらめない

あきらめないっっっ!」

何かのスイッチが入ったらしきアスナはそう叫ぶと鐘を思いっきり放り投げた…まあこの時鐘が鳴ったがセーフでいいだろう。

「あきらめないわよーッバカエヴァち〜んっ」

そして、アスナはどこか…確か川の方向だったか?あっちは…に走り去っていった。

「…はっ?」

「…ぷっ…はっはっは…覚悟完了ってところだな、アスナの奴め…そろそろ茶々丸たちに頼んでおくよ、アスナの修行完遂パーティーの準備」

そう言って、私は呆けるマスターを放置してアスナを追い…元気よく魚を確保している姿を確認して城に戻る事とした。

 

 

 

アスナの修行五日目、アスナの修行が軌道に乗ったのを再確認した私の報告に、ネギたちは安心した様子でこれまたルーティンの修行を続ける…ただ、やっと連携が板についてきたネギ・コタローペアに負ける日がついにやってきた。

「よっしゃ、ついに千雨姉ちゃんに勝てたで!」

「…二人がかりだけどね、コタロー君」

「いやぁ?逃亡を封じているとはいえ…咸卦の呪法ありの私を捉え切るのは大したものだぜ、二人がかりでもな、ネギ、コタロー…それぞれの力量も上がったし…連携も身についてきたじゃねぇか…特にコタロー」

まあ、コタローの経歴的に後衛を守るという戦い方をあまりしてこなかった…陰陽師は式神をガードにつけている…というのもあって仕方のなかった面もあるのだが。とはいえ、実は三日目あたりからいつ負けるか冷や冷やしながら戦っていたのでついに来たか、という感じではあるが。

「うむ、千雨もギリギリの戦いを重ねる事で伸びてはいたが、ついに負けたな…ならば拙者が千雨側についてやるでござるか?」

「いや…それも楽しそうだが…まだまだ同じ形式の修行相手を務められないほどではねーよ…さ、もう一戦やるぞ、ネギ、コタロー」

その後、互いに熱くなって、その日のその後の二人相手の戦績は5戦中3勝1敗1引き分け(夕食の時間になった)であった。

 

 

 

アスナの修行六日目、持ち込んだ分の宿題もほぼ終わり、刹那・楓相手の空中戦・機動戦やクーとの組手を主軸に置いて修行に精を出していると聡美が夕方頃に戻ってきた。

「お帰り、聡美」

主観五日ぶりの聡美との再会に私は思わず聡美を抱きしめた。

「ただいまです、千雨さん…修行の途中でしたか?」

「あー今日は終わりにして風呂入ろうって話していた所なんだけど…臭うか?」

「あーまあ」

「ごめん…風呂入ってくる」

と、聡美を放そうとする…が

「私は好きですよ?千雨さんの汗の匂い…」

と、抱きしめられてしまった。

「それと、来て早速ですが、私も行きます、お風呂」

…という事で、みんなでお風呂に入って夕食となった…聡美に茶々丸のニューボディの進捗状況を聞いた所、数日もすれば新ボディに換装が可能だろう、との事だった。

 

 

 

そしてアスナの修行七日目…今日の夕方で六泊七日の雪山修業が終わるという日…本格的な修行は午前中で切り上げる事となり、私は午後は魔法理論の研究をした後、展望デッキで久しぶりにネギと無手での組手をしていた。

「もう完全に追い抜かれたな、無手格闘戦の技量」

「いえ…身体強化の度合いを手加減してもらっていますし、まだまだ…」

「だーかーらーそれは身体スペックだろう?技量そのものはもうお前が上だよ…そうそう引き離されてやるつもりもねーけどな…さ、次は得物アリだ」

と、私は鉄扇を構える。

「はい、お願いします」

それに対してネギは帯刀し、杖を槍の様に構えた…

「かかってこい!ネギ」

「はいっ」

そして今度は得物アリでの手合わせをした…こっちはまだ私の方が上と言えるだろう。

 

「あの、ネギ先生、今よろしいでしょうか」

そう夕映が声をかけてきたのは、何戦か獲物アリでネギに勝ち、その後、無手のネギと鉄扇アリの私で何戦か手合わせをしていた切れ目の事だった。

「ん、じゃあこれくらいにしておこうか…アスナの修行完遂パーティーまでには風呂入っておくんだぞ、ネギ、シャワーだけじゃなくてな」

そう言って私はネギを夕映に譲った。

「はい、何でしょうか、夕映さん」

「あの、ネギ先生…属性精霊についての勉強と実践が終わりましたので…授業をお願いしたいのです」

「ええっ!?もう78時間分の勉強を終えたんですか!?」

と、ネギが驚いたように言う…夕映とノドカの本来の頭の出来を考えれば無理ではないが…宿題ちゃんとやっているんだろうな?お前ら、という言葉は飲み込んで様子を見守る。

「ハ、ハイッですッ」

「わ、私も実践…属性精霊との親和性はあともう少しですが、勉強の方は何とか」

夕映とノドカが言う…

「さすがお二人です、では次からはさっそく僕がお教えしますので!」

「「ハイ!」」

と、ネギの言葉に夕映たちは元気よく返事をした。

 

 

 

「やっほーげんきでやってるー?新クラブって奴の様子を見に来たよ~」

ひと風呂浴びて汗を流してのんびりしていると、肉の買い出しに出ていた茶々丸を伴って朝倉…と相坂がやってきた。

「ご依頼のバーベキュー用のお肉各種も買ってきたよん、肉だけでよかったの?」

「ええ、他は用意が…お疲れ様です、朝倉さん」

と、刹那が朝倉を出迎え、従者人形が肉を引き取って茶々丸と共に厨房に向かっていった。

「うはぁー話には聞いていたけどこりゃ凄い、ここでバーベキューは気持ちよさそうだねー」

朝倉は展望テラスの先端まで進んで景色を眺めつつ、そう言った。

 

 

 

「さーて、みんな飲み物は持ったわねーそれじゃあ…」

「「「「「「「「「「「「カンパーイ」」」」」」」」」」」」

「って、アスナの奴まだ帰ってきてないのに初めていいのかよ」

思わず乾杯に応じてしまったが、と思わず突っ込みを入れる。

「硬い事言いっこなしよ、千雨ちゃん」

と、乾杯の音頭を取ったハルナがいう。

「確かに、終了予定時刻に合わせての準備をしていましたので…少し遅れていますね…心配です、私、迎えに行ってきます」

「確かに心配です、刹那さん!僕も行きます」

「お、俺も行くで、ネギ。姉ちゃん心配やわ」

と、ネギ、コタロー、刹那が駆け出していく。

「まて、私も行く!あれでも妹弟子になるんだからな!…って事で悪い、聡美、ちょっと行ってくる」

「はい、行ってらっしゃい、千雨さん。お気をつけて」

と、聡美に見送られて、私もアスナを迎えに行くためにネギたちを追った。

 

雪山に到着後、アスナを捜索したが見つからず、後は山頂位だろう、と山頂に向かうと丁度、マスターがアスナに仮契約カードを投げて返している所だった。するとアスナはハリセンではなく剣を具現化させるとグルグルと回し、地面に突き立てた。

「7日間!持ちこたえたわよ!文句ある!?」

それに対し、マスターは反応を示さない。

「何とか言ったらどうなのよーッ!大変だったのよー!?」

ギャースカ騒ぐアスナに、マスターが静かに問う。

「なぜ…なぜあきらめなかった?お前にここまでする理由はなかったハズだ」

「…そんなの知らないわよ」

「あのぼーやのためか?」

「違…ッ」

違う…そう言いかけてアスナは言葉を止めた。

「…ま、そうよ」

「ハッ」

マスターがその回答に下らないと鼻で笑う。

「でも…それだけじゃないわ」

そう言ってアスナはマスターに近づき、その頭を撫でた。

「あんたみたいなバカや、あいつらと友達でいるために、絶対ココであきらめたらダメだって思っちゃったのよ。

私はエヴァちゃんのこと…キライじゃないけど?」

「…あ?ええい離せ、うっとおしいっ」

「ギャー」

と、マスターはアスナをぶん投げた…まあ余裕そうだから大丈夫だろうけれど。

「修行明けの死にかけに何すんのよー!?」

「うるさい、アホがッ」

「アスナさん…」

元気な様子のアスナにネギがほっとした様子で名前を呼ぶ。

「心配して損したわ、なかなか骨あるやんけ、姉ちゃん」

と、コタロー、刹那は無言で笑みを浮かべている。

「クックック…頼もしい妹弟子だ事…とでもいうべきかな、私は」

と、私は独り言ちた。

「フン…せっかく逃げ道を用意してやったというのに…」

マスターがつぶやく…まあそういうマスターなりの優しさだろうな、態々七日間も付きっ切りで様子見をしていたからには。

「フ…アハハハハハハハッ…よかろう」

と、マスターが高笑いをしてローブを脱ぎ捨てた。

「ならば我が弟子としてぼーや共々、私が直々に鍛え上げてやろう!

我が配下に連なる化け物にふさわしい立派な戦士…悪の中ボスにな!」

「えっ…ちょ、待ってよそんなの聞いてないわよ!?弟子ってー!?」

アスナが叫ぶ…いや、ネギと同じ修行って言っていただろうに。

「もう遅い、中途半端は認めん!やるならとことんまでだ!」

「だ、だって悪の中ボスとかそんなカッコ悪いのいやんーっ」

「問答無用!尚、修行中、貴様の服は常に黒!ゴスロリ服とする!」

と、マスターが謎のこだわりを発揮し始める…私はそー言うの無かったがな。

「やめて―ヒラヒラ服似合わないからそれだけはーッ」

「うるさい、師匠命令だ」

「いやーっ!?…ってアレみんな?」

と、アスナがやっとこちらに気づいた。

「アスナさーん!」

「お疲れ様です、アスナさーん」

「って事は明日から姉ちゃん修行仲間かーそらええわ」

「ハハハ…まあ姉弟子としてしっかり面倒みてやるからな、アスナ。

それはそうとみんながお前を待って…られずにパーティー始めてるから急いで戻るぞ、肉食いたきゃな」

「お肉!?食べる!急ごう、ネギ、みんな!」

と、私の言葉にアスナは駆け出すように転移ポイントへ向かって下山を始めた。

 

 

 

「さて、それはそうと千雨…お前、今日は泊っていけ」

そんな事を言われたのはバーベキューパーティーの後、約束通りマギア・エレベアの基礎理論を貰い、もう一日別荘を用いてアスナの初日の修行やら…貰った理論は当然読んだ…を済ませた後に現実空間に戻り、マクダウェル邸を辞そうとした時の事だった。

「え?」

「いやな、別にお前はせんでも良いかと思っていたんだがな、弟弟子と妹弟子がやった事をお前だけしていないというのも決まりが悪い…喜べ、お前も雪山耐久訓練だ!

それもあいつらの倍、2週間分させてやろう…今から始めればちょうど明日の朝には終わるからな、ちょうどいい」

「ハ?えっちょっと待った、マスター、二週間も一人で雪山とか暇すぎて死んじまう」

「千雨さーん…問題はそこなんですかー?」

と、思わずマスターの精神的奇襲に明後日の抗議をしてしまう。

「はっはっは…暇で仕方ないようならば自主練でもするか、昨日渡してやった褒美からのアイデア出しでもしているといい!」

そうして、私は現実時間で翌日の朝まで、雪山に放り込まれる事となったのであった…まあ割と食生活と精神的な意味でひどい目にあったが、一応生きては帰れた、とは言っておく…というか、生活拠点の雪洞を数日かけて整備した後は魔力と気の余力に気を付けていれば咸卦法の瞑想、呪紋の設計、その他余計な修行で暇をつぶす余裕さえあった。

 

 




アスナの七日間の修行の間の別荘での出来事(ダイジェスト)とオチの回でした。なんだかんだで魔力と気の効率的運用には力を入れていますので千雨さんにとっては環境よりも退屈の方が雪山試練の敵だったりします、そっちの修行としても無駄ではありませんが。


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62 夏休み編 第3話 英国文化研究倶楽部と夏休み前半のエトセトラ

アスナの弟子入りの日から後…私たちネギま部(仮)は割と高密度なスケジュールを送っていた、物理的に。

朝7時にマクダウェル邸に集合し、そこから3時間程度の別荘タイムを過ごし、午後も用事がなければ各々自主練等…さらに数時間分の別荘を使用という、一日が一週間から10日ほどになる計算である。とはいえ、私は聡美と共に茶々丸のニューボディの仕上げを行っていたので、さほど高密度での使用ではなかったが。今日までは。

 

「どう、茶々丸、ニューボディは」

「はい、問題ありません…今までの体との感覚の違いも…誤差の範囲内かと」

「ふふん…学園祭の全ての戦闘データを元に、今の私たちに可能な極限まで性能をUPさせたからねー『瞬動術』も理論上可能なハズだから早速エヴァさんの別荘でテストだよ」

「はい…ところで、あの小さなボディは…?」

と、茶々丸は円柱に浮かぶ予備ボディを指していった。

「…あれか…あれは…まあ…聡美がコンパクトさを追求した…ロリボディだ」

「ネギ君ともお似合いだと思うけど、どうかな、コレ?」

そしてコンパクトさを追い求めた機能美という意味で、聡美のお気に入りボディでもある。

「…いえ、今のままがいいです…できれば予備の体も今まで通りのサイズと髪型でお願いします…」

「まあ、茶々丸がそういうんならいいけどさーオネショタって言うんでしたっけ?千雨さん」

「えふっ」

その聡美のセリフに、私はむせた。

 

その後、マスターの別荘で3日分、茶々丸のテストや自主練、研究などをしていると、ネギたちの指導に潜っていたエヴァに呼び出された。

「来たか、千雨、ハカセ…頼みたい事がある」

と、言いだしたエヴァの話を要約すると、ネギま部(仮)という名称があまりにもあんまりなので部の名称を白き翼(ALA ALBA)としたい事、その為に部員の証に何か…バッジでも作ろうかと思うが、単にそれだけでは面白くないので、何か良いアイデアはないか、という事だった。

「とりあえずーそういう事でしたら発信機機能は必須ですよねー」

「まあ、特定の術式か何かで相互にそれを探知しあえる…とかが鉄板ではあるかな」

と、聡美の言葉に同意する。

「フム…では、それで制作を頼めるか?」

「はい、任せてください、エヴァさん!デザインは…何か案がありますか?」

「こんな感じで頼む」

と、エヴァが示した図案は極々シンプルな白い羽の意匠にALA ALBAと文字が入ったものだった。

「じゃあ、仕様設計しねぇとな」

「そーですね、楽しみですね、千雨さんとの合作ー」

と、言った感じで、茶々丸の完成後もこういう仕事が降ってきた…が別荘内でほぼ済ませられる仕事である為、私と聡美の別荘使用密度も、おおむね一日が一週間、程度まで増えるのであった。

 

 

 

「千雨さーん…ダブルベッド、買いません?」

聡美がそんな事を言い出したのはその日の晩の事だった。

「ぶっ…どうした、いきなり」

「いやー体感時間的に、最近殆どエヴァさんのお城で寝泊まりしているじゃないですか、私たち」

「あーまあ、あっちのベッドに慣れちまうと…まあ確かに二段ベッドは狭いっちゃ狭いけど」

と、一応言っている意味は理解する。

「千雨さんとくっつけるのはまあ利点と言っちゃ利点なんですが―広い方が寝やすくていいなーと」

「気持ちはよくわかるけど…無理だろ、寮にダブルベッド持ち込みとか」

「無理ですかねー」

と、残念そうにする聡美である。

「まあ…こっちで寝るときは精々くっついて寝ようぜ、聡美」

「仕方ありませんね…千雨さん」

と、言うわけで寝る前のおしゃべりはこれくらいにして私たちは眠りにつくのであった。

 

 

 

そして、ネギま部(仮)が発足して一週間…この部活は公称 英国文化研究倶楽部として認可された。

「よし、整列だ、点呼右から」

「イチ!」

「ニ!」

「サン!」

「よん―」

「5!」

「ろぉく!」

「なな!」

「は、は、はちー」

「きゅッ!」

「じゅー」

「11!」

「じゅうにー」

「13!」

と、整列点呼を行った…写真係の朝倉と相坂並びに名誉顧問のエヴァ以外。

「よし!これでお前らネギま部(仮)は学園に正式に認可された!

麻帆良学園の正式倶楽部として認可があるということは今後の情報収集、国内・海外活動に於いて多大なアドバンテージを得ることとなるだろう。

これで満足か、ガキども!?満足なら返事をせんかぁ!?」

「「「「「「「「「「「「「ハイッ!」」」」」」」」」」」」」

「いやーみんないいねいいね、カッコイイよん」

と、朝倉が言いながら写真を撮る。

「でも、そこの四人、服フツーってかいつものじゃん、ノリ悪いなあー、お仲間ならもっとこう…ファンタジーっぽく」

と、朝倉が私、聡美、ネギ、コタローに言う。

「何ィ!?学ランは俺の戦闘服やでー!?」

「いえ…これは顧問としての…」

と、コタローとネギが弁明をする。

「ったく…これくらいしかねーけどコレでいいか?」

と、私は仮契約カードの機能で超包子の制服姿に変身する。

「そうですねーそれなら―」

そして、聡美も続く…まあ、Tシャツ短パンに白衣よりはいいだろう。

「そっそ、イイ感じだよーしっかし、なかなか壮観って感じのメンバーだねー

実際、ただの人間になら絶対負けないくらい強いじゃん?

つーか、超りんの時から千雨ちゃんまで加わっているし」

「いやーまだまだよ、私のアーティファクトも極めれば極めるほど奥が深いし。

まあ、アスナは闇の魔王の個人指導でメキメキ実力上げてるけど」

確かに、アスナも恐ろしい勢いで実力はつけている。指導検討でのマスターはさもありなんという感じなので、クウネルから得た筈のアスナの情報に何かがあるんだろうが。

「いやー私もまだまだだって」

「むむ、謙虚!その意気やよし!たゆまぬ自己研鑽ねッ!

いよぉーし、修行上等ーッまだまだLvUpするよーッ!」

「「「「「「「「オオーッ」」」」」」」」

全く…お気楽な奴らである…まあ、みんな伸び盛りであり、目に見えて実力がついていくというのが楽しいのはよくわかるが。

「やれやれ、ガキどもが大はしゃぎだな」

「なんにしても、皆さんが前向きに努力しているのはうれしいです、先生として」

そんな皆を眺めながら顧問のネギと名誉顧問のエヴァが会話を交わす。

「出発はいつだ?」

「8月12日の予定です」

「あと2週間と少しか…無理をすればさらにあと4、5か月分の修行は可能だな」

「えっ…ま、まだそんなに?」

「クックック…何なら『合宿』でもするか?毎晩すれば理論上はそれだけで半年分はいけるぜ、ネギ」

「そ、それはさすがに、ちょっと…仕上げに一晩くらいはアリかもしれませんが…」

と、私の半ば冗談をネギが本気にしたような回答をする。

「ふっ…確かに地獄の合宿というのも楽しそうではあるな…だがどうせ、首都を訪れるだけなんだろう?」

「ハイ、今回は首都メガロメセンブリアで情報集めと…遠出をしても付近の観光地巡りくらいで…次回以降の為の基礎情報集めが主目的です。

僕もまさかこの休みで父さんの行方が判明するとは思ってません」

「だろうな。ま…あっちも文明国だ、治安もいい。首都を離れねばそうそう危険はなかろう、奴らの修行も無駄骨だろうな」

「まあ、必要になってから付け焼刃で用意するよりかはいいんじゃねえか」

「クックック…まあそれはそうだな…だが、今回に限っては転ばぬ先の杖というにも大げさすぎる…なればこそ、貴様もそうして落ち着いていられるのだろうがな、ぼーや」

「は…はあ…まあ…」

「ま…確かに出入国は大変だが何かに深入りでもしない限り、実際の危険はねーかもだな」

「そうだな、カモ…そのうち深入りするときは来るだろうが…多分それは今回じゃねぇだろうし…まあ戦闘者組で守り切れる程度の警告くらい覚悟しておけば十分だろう」

「フ…まあ、ひとまず観光気分で魔法の国を楽しんでくるがいいさ…そうそう、土産は地酒で良いぞ」

「「マスター…」」

と、私とネギは呆れたように言った。

 

「よぉーしっみんな―イギリスへ行きたいか―!?」

「「「「「「「オーッ」」」」」」」

「何が何でも行きたいかーッ!?」

「「「「「「「オオーッ」」」」」」」

「修行終わらせてウェールズへGOーっ!」

「「「「「「「「GOーッ!」」」」」」」」

と、ハルナが音頭を取った楽しげなコールが終わった。

「ん…?」

今、誰かいた気が…

「フ…千雨、依頼していたバッジはもうできているのか?」

「ああ…今、城の工房で仕上げ塗りの乾燥している所だから、実質もう完成しているよ」

「ならば…丁度今日は夏祭りの日だったな…この後すぐに引き渡せるな?」

そう言ってマスターが悪い笑みを浮かべる。

「…大丈夫です」

私はそう答えるしかなかった。

 

 

 

マスターにバッジを引き渡し…私と聡美も部員の証として1つずつ返された…

「そうそう、このバッジは部員の証という事にする…よって、ウェールズ行きまでに紛失した場合、強制退部という事にする」

という言葉と共に。

「…エヴァ、また何か企んでいるな?」

「お前ならば大丈夫さ、千雨…ハカセは…千雨に守ってもらえ…それと今日の夏祭りの縁日は強制参加な」

「えっ…は、はいエヴァさん」

「あーなんとなくわかった…うちのクラスの連中をネギとのイギリス旅行とか何とか言って釣ってバッジ争奪させる気だろう」

「クックック…どうだかな…そうそう、他の連中にはまだ秘密だからな」

そう言って、エヴァは去っていった…

「えっと…どうしましょうか」

「…とりあえず、別荘でたら浴衣の用意しようか」

「はい、浴衣で千雨さんとデートですね」

「ああ…まあ真名辺りが出張ってこなければ大丈夫だろうし、楽しもうな」

という事で、その後、数時間分、別荘を利用し、寮に戻って浴衣の用意をする私達だった。

 

 

 

「わぁー学祭前の縁日も楽しかったですけれども、やっぱり夏祭りは規模が違いますねー」

「そうだな…その分、人でも多いし、バッジ狙ってくる連中もいるんだから、はぐれるなよ?」

と、会場に入る前からはしゃぐ聡美の手を握った。

「はい、千雨さん…私も気を付けますけれども、しっかり守ってくださいね」

聡美は嬉しそうに、そう言って手を握り返した。

 

暫く屋台を回っていると、お面をつけた集団が私たちの前に立ちふさがった。

「よぉ…そこの嬢ちゃん達、いいバッジもってんじゃねぇか」

「大人しく俺たちに渡しな…さもねぇと…」

「…どうなるってんだ?麻帆良大学部の格闘部諸君…今日は手加減してやんねぇぞ…?」

と、脅しに対して脅しで返す。

「くっ…ダメで元々!ものども、かかれぇ!」

「聡美、下がっていろ」

「ハイ!千雨さん!」

と、一斉に飛び掛かってくる連中を糸と鉄扇を駆使し、聡美には指一本触れさせまいと割と遠慮せずに蹂躙してやる。そして…

「よっしゃ!」

「よっしゃ、じゃねーよ、タコ」

と、観衆に紛れて聡美に接近した奴…ただのお面をつけた観客と見分けられなかったので泳がせていた…を糸で転がしてから背中を踏みつけ、わき腹を蹴り飛ばして蹂躙した連中の山に混ぜた。

「まったく…どーせ、うちのクラスの誰かの差し金だろうが…」

と、視線をたどって見つけた下手人らしき連中を睨みつけていった。

「片付けはしろよ?柿崎、釘宮、桜子」

「「「は、はいぃ」」」

と、チア部三人組はびしりと敬礼で答えた。

「さ、行こうか、聡美」

そう言って私は聡美に手を差し出した。

「はい、千雨さん」

それに対して聡美は私の腕をとり…私はニコリと笑って応じると二人で拝殿の方へと歩き出した。

 

「あ、千雨さん、ハカセさん」

「あ、ネギ先生、皆さん」

と、そこにはネギと茶々丸がおり、すぐそばの屋台でコタローと那波と村上がアメリカンドックを買っていた。

「ほら、お前の分やで、ネギ…って千雨姉ちゃんにハカセ姉ちゃんやんか、二人も食うか?」

と、コタローがネギの分のアメリカンドックを渡し、私たちにそう問うた。

「そーですね、せっかくですし」

「食べようか」

と、いう事で私たちも同じ屋台でアメリカンドックを買う事とした。

ネギたちとアメリカンドッグを食べていると、すぐにアスナ達、他の白き翼の面子も委員長を筆頭にほかのクラスの連中と共にやってきた。

その後はバッジを狙われることもなく、夏祭りを楽しむことができた。

 

 

 

「さーて…どうしたものかな…」

と、城に与えられた書斎で独り呟く。聡美が関係者扱いとなった今では魔法関係の研究を手伝ってもらったり、エヴァも交えてディスカッションしたりもするのではあるが…それはあくまで公開前提の趣味の研究の話…戦闘技法の開発などは…聡美にはあまり話していない。そして今の検討内容は闇の魔法、マギア・エレベアの理論を何とどう組み合わせるか…であり…ある程度解毒した後でないと話せるわけがない。

マギア・エレベア…極限まで単純化したその理論は、『精霊魔法の行使時に力を借りる精霊の魔力、それを込々で身体強化に使えたら強いし、属性付与もできて便利だね!』である。まあ、マスターにそのまま言えば舐めているのかと怒られるレベルに単純化した場合、であるが。しかし、この理論…私がやっていた積層記述以外の他の研究と相性が良すぎるのである。

第一に魂を対価にする方向での改修…これはもろにマギア・エレベアの劣化・汎用版を呪紋で開発する方向が一番わかりやすく、現在の開発案の中で穏当かつ効率的である…簡単だとは言えないが、それでも他の二案よりはまだましである。

次に咸卦の呪法の改良…これは奇跡的な事に、かっちりと組み合うのである…要するにオド(気)とマナ(魔力)と精霊の三位一体による身体強化技法…理論上は行けちゃうのである、しかも魂への負担は他の二案よりもはるかに軽い…と試算は出ている、実質マギア・エレベアの呪紋を開発する必要があるという開発難易度はともかく。

そして、最後に人ならざる存在と化す外法…これは今まで構築してきた理論が元々疑似精霊化という代物であり…まさに精霊を取り込むという闇の魔法の理論はピッタリとあてはまる最後の一ピースだったりした…これまた、三位一体の身体強化の亜種的な代物であり、開発難易度は高いが。

そう、どれも魅力的すぎて雪山耐久訓練中に狂喜乱舞しながら原案を何枚も力の王笏内に書き散らしまくってその整理と検討がやっと終わった所である。

「やっぱり、試験的なマギア・エレベアモドキの呪紋を開発してから、咸卦の呪法と組み合わせて一つの呪紋にして…一時的な変異を前提に精霊化を目指して開発を進めるのが妥当か?想定記述量からすると結局、積層・立体記述含めて全部やる事になるけど」

元々咸卦法自体が仙人的な意味合いでの超人化の技術でもあり…そう言った方面をオミットして戦闘に特化させているとはいえ、咸卦の呪法にまったくその名残がないわけではないし…まあ行けるとは思う、どれだけ時間とリソースがかかるかは別にして。それに師の後を追い、並び、超えてみたいという武芸者としても、魔導師としても真っ当な感情も持ってはいる…ならばやってみよう…かつて誓ったように、そうする道がそれしかないのであれば…人である事さえやめて見せようじゃあないか…

 

それに邁進するのを止める楔はただ一つ…聡美と共に生き、逝きたいという願いである…

 




千雨ちゃんにとって、ハカセの存在は無茶をする理由であり、できれば人(同じモノ)でありたいという楔だったり。


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63 夏休み編 第4話 姉弟子の本気

夏祭りの翌日、朝練(白き翼全体)での別荘使用の指導検討の際、マスターにあるおねだりをすることにした。

「マスター、久しぶりに稽古つけてくれません?」

「どうした、藪から棒に…ここ暫く、私無しであいつらと割と有益な鍛錬を積んでいるじゃないか」

実はここ暫く、特に夏休みに入ってからマスターはアスナとネギの相手がメインで、私は相手をしてもらっていない。逆に、アスナやネギの指導に入る事はよくあるが。

「確かに刹那や楓とは実力も近くていい経験ができますし、クーとの白兵戦は勉強になりますし、ネギやコタローともペアなら私が不利で良い感じなんですが…こう、稽古って感じで…マスター相手みたいな生存本能が刺激される感じの試練って感じがしないんですよ…」

「成程…久しぶりに地獄を見たい、そういう事だな?」

マスターがクツクツと笑う。

「…とまでは言いませんが、一戦で全力を出し切らないといけないような明らかな格上との戦闘経験が暫くつめてないなぁ…と…普段は呪血紋も無しでしていますし…」

「…まて、ぼーやと犬のペアに最近負けるようになった、とは聞いていたが呪血紋無しで、か?」

「はい、というより原則、呪血紋は無しで鍛錬しています、あれ使うと何戦もできませんので」

と、言うより、勝つ場合はともかく、負ける場合は失血が許容範囲ギリギリになるので、というべきか。

「…よし、わかった…その代わり、明朝の稽古でぼーや、犬、神楽坂明日菜の三人を纏めて相手しろ、呪血紋ありの本気で、な。それで勝てれば午後の途中…二日目の夕方にでも相手をしてやろう」

「えっ…アスナありですか?呪血紋ありの利点をほとんど殺されるんじゃ…」

「だからこそさ、地獄を見たいのであればそれくらいの試練は越えて見せろ、千雨、姉弟子の矜持を見せてやれ」

そう言って、マスターは笑って見せた。

 

 

 

「えっ…俺とネギとアスナ姉ちゃんで千雨姉ちゃんの相手?」

「コタロー君もいるなら私たちが有利すぎない?」

「確かに、僕とコタロー君だけでしたら千雨さんが有利だとは思いますが…アスナさんの能力で呪血紋の利点…魔法の強化はほぼ無効化されてしまうのでは」

翌朝、マスターが朝食の席で私との試合を告げた時のネギたちの反応がこれである…

「はっはっは…舐められているじゃないか、千雨…姉弟子の威厳がないな、お前」

「まー、私が不利なのは事実だが…ガチモードで行くから大怪我しても恨むなよ?」

流石に心配されてしまうとこれくらいは言い返さないとやっていられない。

「と、言うわけで戦う面子と見学者は朝食後に舞台に集合しろ、木乃香は治癒術師として強制参加だ」

そうマスターが宣言し、私たちの試合が決まった。

 

 

 

さて、朝食後…当然のように全員集合した前で、私はネギたちと向かい合っていた。

「千雨さん…頑張ってくださいね…でも無理はなさらず」

「ああ…ありがとう、聡美…でも無茶はしないと話にならないんでそこは許してくれ」

「はい…それは…まあ仕方がないので…後でゆっくり休みましょう」

と、言って聡美は巻き込まれないように距離をとった…刹那がついでにでも守ってくれるという意味で最も安全であろう、木乃香の隣に。

「さて…準備はいいな?それでは…はじめろ!」

 

拡散・白き雷

 

と、マスターが宣言すると同時にネギたちに向けて牽制兼めくらましの白き雷を拡散で放ち、空に舞う。空中戦にしてしまえば、アスナは無視はできないにせよ、それでもネギの直衛とみなしてよく、攻撃役としてはほぼ無力化できる…まあ跳躍で斬りかかってくることもあるにはあるが。

「ちょっ!」

「うわっ」

アスナがハリセンで魔法をかき消しはするが、それは一部にとどまる。

「くっ、ぼさっとすんな!ネギ!」

側面からネギに断罪の剣を振りかぶって接近する私を迎撃しながらコタローが叫ぶ。

「ノイマン・バベッジ・チューリング」

「っ!狗神!」

「魔法の射手 連弾 雷の47矢」

迎撃された私がコタローと魔法の射手と狗神をぶつけ合い、切り結ぶのがいつも通りの展開ではある…今日はこちらの魔法の射手の数は呪血紋の補助で何時もの倍くらいに増やしているが。こいつらがいつもとの違いを理解する前に速攻をかけて一人は落とさなければ、勝ち目は薄い…特にアスナとコタローが共にネギの直衛につかれると突破は困難で…実質にらみ合いとはいえ、主導権はあちらに移る。

 

白き雷

 

「げっ…ぎゃぁ」

と、撃ち勝った魔法の射手がコタローを襲い、その対応で手いっぱいの所へ放たれた白き雷が直撃し、コタローが悲鳴を上げる…パターン化した初手のやり取りでいつか、これをやりたかったのだ、実は。

小太郎の稼いだ時間で詠唱されたネギの戦乙女たち…これもいつものパターンの一つ…に向けてというか舞台に向けてコタローを蹴り飛ばす…止めとコタローが墜ちて行かないようにする為に。ヤっちゃっていい相手なら断罪の剣で両断する所だが。

さらに跳躍し…追尾してくる戦乙女を断罪の剣で切断、その隙に詠唱されたネギの魔法の射手も虚空瞬動で大回避して開始位置に戻り、戦闘不能とみなされて回収されているコタローを確認して言った。

「さて、まずは一人…止めて見せろ!アスナ!」

「くっ…地上戦なら!」

アスナが叫び、向かってくる…が、断罪の剣をハリセンとぶつかり合う寸前に消した。

「へっ?」

と、肩すかしを喰らわせたアスナのハリセンを鉄扇で流し、その勢いのまま投げ飛ばす…そも、いかに断罪の剣とはいえ、アスナのハリセンと打ちあえば熱したナイフでバターを切るがごとくなのだ、流すならともかく正面から鍔迫り合いなどするわけがない。

そしてリカバリーを試みたアスナを糸術で妨害し地面に転がすと、止めの代わりに顔のすぐ脇を踏み抜き、ネギの方を向く。

「魔法の射手 散弾 光の101矢!」

「甘いっ」

丁度詠唱が終わった魔法の射手の弾幕を再展開した断罪の剣で切り裂いて肉薄する…が、ネギが笑った…何か仕込んでやがる。

「ちっ」

 

白き雷

 

とっさに放ったそれはネギの解放した遅延呪文による白き雷とぶつかり合ってはじけた。

弾幕を切り払っての突貫を見越しての遅延呪文…とっさに何も考えずに回避すれば弾幕にからめとられるという寸法である。

「今のは中々いい手だったぞ、ネギ…だが笑っちゃダメだ」

そうでなければ、対応は数瞬遅れ、隙ができていただろうし、そこを上手く突かれていれば決められていた可能性もあった。

「あ…それでバレちゃいましたか…千雨さんの機動力に呪血紋による無詠唱魔法…想定以上の脅威です」

「だろう?私の弱点、火力の弱さも補えるし」

互いに断罪の剣で切り結びながら会話を交わす…私のは呪血紋で強化しているとはいえ偽だし、ネギのは未完成だが。

「さて…」

と、ネギと距離を取り、言う。

「チャンバラで押し切ってもいいんだが…まあいつものだ、行くぞ、ネギ」

と、私は得意の詰めパターンである空中機動に入った…コタローもいると対応されるのではあるが。

 

空を舞う私の詠唱魔法とその合間を埋める無詠唱魔法の射手をネギが舞台上で何とか回避・迎撃し、時々放たれるネギの魔法を私が悠々と回避ないし切り払うというのを何度か繰り返し…詰みの時が来た。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 来れ 虚空の雷 薙ぎ払え」

「くっ…」

詰将棋状態に抵抗していたネギが、それに失敗したことを受け入れるが如く、足を止めて障壁を展開する。

「雷の斧」

そして、呪血紋で強化された雷の斧が障壁を突破し、ネギは倒れ…

「ようし、そこまで!千雨の勝ちだ!」

そうマスターが宣言した。

 

「いやー血の魔法陣有りの千雨姉ちゃんがあそこまでやとは思っとらんかったわ」

ネギが木乃香に治療されている間に、先に治療を受けて復帰したコタローが感心した様子で言った。

「ネギにも言ったが、火力不足がおおむね解消されるからな」

「私への止め、一瞬本当に殺られるかと思っちゃったわよ」

「…さすがに試合では殺らねーよ…実戦でも出来る限りは…」

と、前半の発言で実戦なら殺すのかとアスナに引かれたので後半を足してフォローする…一応修学旅行の時にカラス天狗の頭を踏み抜いた事があるはずなんだがな?アスナの目の前で。

「しかし、やはり虚空瞬動かそれに類する練度の飛行術がなければあの千雨に対抗するのは難しいな」

と、刹那…刹那は翼での飛行と虚空瞬動術の両方使えるが。

「そーだな…ネギも虚空瞬動無しの割には粘れているが…虚空瞬動を覚えたらあんな一方的な詰将棋みたいな展開からは脱せられると思うぞ」

「そうでござるな…それに拙者も血の魔法陣有りの千雨と手合わせ願いたいでござるな」

「あーなら…今日の午後の四日目か合宿明けの朝練のどこかで…流石に今すぐは失血量が嵩むし…午後の二日目にマスターに稽古つけてもらえる事になっている…というか、今の試合に勝ったご褒美にそうなったから、どうせなら楓とも万全の状態でやりたいし」

「では、合宿後に頼むでござるよ…しかしご褒美でござるか」

「げ、千雨ちゃん、もしかしてエヴァちゃんに稽古つけて貰う為に今の試合をしたの?わざわざ?」

と、信じられないという様子のアスナ。

「やっぱり、実力の近い連中との鍛錬もいいけれど、圧倒的格上との戦闘経験もほしいんでな?」

「うっへ…よくわかんないや、そういう気持ち…」

と、言う会話をみんなとしていると試合終了と同時にどこかへ消えていた聡美が走って戻ってきた。

「はぁはぁ…はい、千雨さん、飲んでください」

と、聡美が差し出したのは自室に置いてあった鉄のサプリメントと造血ポーションだった。

「うん、ありがとう、聡美」

そう答えて、私は差し出されたそれを飲んだ。

 

 

 

「さて、始めるとしようか、千雨」

約束通り、午後錬の二日目、私とマスターは向き合っていた。舞台は城に被害が行くからと高山、万一に備えて普段はあまり午後錬に参加しない木乃香も参加としたらギャラリーもほぼ全員集まった。

「はい…では…行きます!」

と、偽・断罪の剣・エンハンスドを展開して私は縮地でマスターに切りかかり、稽古が始まった。

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 来れ氷精 爆ぜよ風精」

殺到する魔法の射手、マスターの詠唱は…氷瀑か…まだまだ踊れると断罪の剣で魔法の射手を切り払い、肉薄しようとした…その時

 

ふらり

 

一瞬意識が飛びかけ、足が止まる…

 

「弾けよ凍れる息吹 氷瀑」

 

あっ…ヤバい…

 

そう思った瞬間、対応し損ねた魔法の射手が私の魔法障壁を削り、そこに氷瀑が直撃した。

「がぁ」

「ち、千雨さん!?千雨さん!千雨さん!」

地面に叩きつけられ…薄れゆく意識の中、聡美が私を呼ぶ声がする…

「近衛木乃香、早く治してやれ、放っておけば死ぬぞ」

「う、うん!アデアット!」

意識が飛ぶ寸前、そんな会話を聞いた気がした…

 

 

 

「さて…お前の望みのご褒美だったが…どうだった?」

「ええ、楽しかった…とは言えませんが、いい経験になりました…結末は…その…スイマセン」

「呪血紋の使い過ぎで貧血を起こして私の魔法をまともに喰らうとは…な、念のため近衛木乃香を呼んでいなければどうなっていた事やら」

午後の別荘二日目の夜、お呼び出しを喰らった私はマスターからそんな説教を受けていた。

「まあ、あのレベルで私に対抗し、掠り傷とはいえ傷を負わせたのは称賛に値するが…リソース管理に失敗したのは大幅減点で赤点だな…お前、呪血紋無しでも耐久戦ならあの倍の時間は耐えられるだろうに…」

マスターとの約束通り実行された稽古…私は呪血紋も用いて、限定的とはいえ、マスターに拮抗する事に成功していたのだが、長期戦と呼べる程度には長引いた間に行使した無詠唱魔法の射手を含めて数十回の詠唱補助と、接近戦並びに牽制呪文の切り払いに用いていた偽・断罪の剣・エンハンスドの維持、加えて掠り傷とはいえ出血を伴う幾つかの傷によって、累積失血量が想定以上の量に到達し、貧血でめまいを起こして思考と機動が一瞬止まった。そこにマスターの牽制攻撃が直撃、そのまま墜落し、危うく死ぬ所だったし、聡美も大分泣かせたらしい。

「はい…面目有りません」

完全に私が悪い状況かつ興が乗っていた所をそんな理由で自爆した私に機嫌の悪いマスター相手に、私は謝り続けるしかできないのであった…なお、部屋に帰ったら今度は聡美からお説教である、多分。

 

 

 

「お帰りなさい、千雨さん」

マスターの長いお説教が終わり、解放されて部屋に戻ると聡美が寝間着姿で待っていた。

「ただいま、聡美…ごめんな、心配かけて」

私はそんな聡美の隣に座って、そう言った。

「…はい、すっごく心配しました…でも…それはもういいです…エヴァさんからもお説教受けてきたみたいですし」

聡美は立ち上がり、私を抱きしめた。

「よかった…本当に…貴女が…千雨さんが…生きていて…」

暖かいものがぽたぽたと私の頭上に降り注ぐ…

「ごめんな…辛い思いさせて…」

暫く、私たちはそのままの体勢で抱き合っていた…




尚、心の底から反省していると同時に、その内容が無理はしないじゃなくて次はもっと上手くやって聡美を泣かせないようにする、だったりする。


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64 夏休み編 第5話 白き翼の夏合宿とアンナ・ココロウァ

私が死にかけたマスターの稽古の翌日、私たち白き翼のメンバーは夏合宿として海に二泊三日の旅行に来ていた…というか、本来、稽古が休みになるので休養の前に無茶をするつもりで無理して死にかけた、が正解か。

「皆さーん、はやくはやくーッ、ホラホラ見えますよーッ」

「あははは、大はしゃぎねーネギ、それが目的だからいいんだけど」

「連れて来た甲斐あったってもんじゃない?あの遊ぶのが苦手なネギ君がさ」

はしゃぐネギを見て、アスナとハルナがいう。

「ウフフ…それは私も同じだけどね…ようやくエヴァちんのあの地獄の修行から解放されて…

ネギやコタ君はいいんだろうけどあんな地獄、たまの息抜きでもないと死んじゃうわよ…ってか昨日、千雨ちゃん本当に死にかけちゃったし…

この二泊三日の合宿がウェールズ行き前の最後のオアシスになるかもしんないんだし…

待ちなさいよネギーッ私も遊びまくるわよーッ

ざまぁみなさいよ、エヴァちゃんーッ」

アスナはそんなことを言うと、高笑いをしながらネギを追いかけていった。

「たまっとるなーアスナ…そんなにキツイんかなー」

「まあ、かなり…」

「ま、本来普通の女子中学生が受ける様な修行じゃねーからな…キツさの一端は私にもあるけど」

本来、マスター一人ではできないことも、指導役の姉弟子がいれば…まあできるのである。

 

「夏!それはつまり…」

「海やーッ!」

と、旅館に荷物を置いた私たちは早速、水着に着替えてビーチに繰り出してきていた。なお、私も聡美も文字入りのスクール水着である。

「ネギ坊主は日本の海に来るのは初めてでござったな」

「はいっ、スゴイ人ですねー」

「さあネギ、今日は約束どおり思う存分遊んでもらうわよッ!とことん遊びなさい、死ぬ気で遊びなさいッッ!」

「死ぬ気で!?」

と、困惑するネギに、アスナが今回の合宿はネギが遊ぶ事が目的なのだから修行も禁止であると言い渡した。しかし、ネギはどうやってとことん遊ぶかで悩み始める。

「あんた、その生真面目から直した方がよさそうね…ま、いっか、とりあえず遊ぼ!」

「ハ、ハイッ、アスナさん」

「ホーホッホッホ」

といった会話を見守っていると聞き覚えのある笑い声が聞こえてきた。

「ホホホホ、日本の海は賑やかですわねぇ、たまにはこういう場所も悪くはありませんわ」

と、我らが委員長、雪広あやかがいた。

「って、なんでいんちょがいるのよ!?これは一応、ネギま部(仮)の合宿なのよっ」

…まあ、それはそうだが、白き翼という名称に、英国文化研究倶楽部という公称もあるのにその名を使うか…案外気に入っているのか?

「あら、ネギま部って何のコトですの?私はただ偶然ここに遊びに来ただけですわ、奇遇ですわね、アスナさん」

「むむむ…っ」

と、白々しい事を言う…まあ、多分情報漏洩源は少し離れた場所で那波と村上に捕獲されているコタローだろうがな。

「私達もいるよーッ」

と、現れたのは鳴滝姉妹に、まき絵、裕奈、亜子にアキラだった。

「何であんた達までいんのよー!?」

「偶然だってば、ぐーぜんー」

と、こいつらまで白々しい事を言い始めた。

そしてこいつらもバッジを狙っているらしく、アスナに一斉に襲い掛かろうとした…が、委員長はそれを制止し、バッジ奪取も事情の詮索も禁じた…まではよかったのだが。

「うう~ん、でもアスナさん…」

「ん?」

「私、この夏はイギリス旅行に行きたくなってきましたわ、個人的に。

今日のように偶然あちらでお会いすることもあるかもしれませんわね」

とか言い出して、何だかんだで自家用機で白き翼以外のメンツもイギリスに連れて行くという事になってしまった。

流石に、危険な場所…魔法世界へついてこない事が条件ではあるが。

「じゃ、決まりでいいかにゃ?」

「夏休みはみんなでイギリスにゴーッ」

「「「「「オオーッ」」」」」

と、いう事で無事?に話が付き、みんなで楽しく遊び始めるのであった。

 

 

 

そして夕刻…そろそろ宿に戻ろうかという時間…明らかに攻撃魔法が使われた気配がした。

「楓!刹那!」

「ああ、私も感じた」

「うむ、拙者が様子を見てくるでござる、応援が必要なら気弾を打ち上げる!二人は皆を」

と、いう役割分担で楓が現場に向かった。

「なにかあったんですかー?」

と、聡美。

「ああ、誰かが攻撃魔法を使った気配がした…今、楓が偵察に出ている」

「何々、ヤバい事態?」

とハルナが寄ってくる…

「状況がわからん…とりあえず、みんなを宿に戻るといって集めた方がいいかもしれない」

「私も賛成だ、それで行こう…お嬢様はこちらに」

「りょーかい、じゃあそうしよう」

「わかりましたー」

という事でみんなをビーチから引き上げさせ始めた…が。

 

「先ほどのはどうやらネギ坊主の知人のアーニャという子供がやらかしたことのようでござる、ネギ坊主を早くイギリスに連れ戻したいようではござったが…まあ心配は無用で御座ろう」

という事らしかった。

「まあ、時間的にはちょうどいいし…このまま旅館に引き上げようか」

と、いう事になり、私たちは旅館に引き上げ、ひとまずは軽く潮を流して夕食という事になった。

 

 

 

そして夕食の時間、みんなで宴会場に向かおうとしたのだが…

「ネギはイギリスから来た幼馴染の女の子と部屋で食べる事になったから」

と、アスナが宣言した。

「「「「「ええ~~っ!?ネギ先生の幼馴染の女の子ー!?」」」」」

「どういうことですの!?」

「いや、単に早く里帰りしろって連れに来ただけみたいだけど」

「同い年!?」

「確か1歳年上のハズ…」

「かわいい子なの?び、美人?」

と、一部の面子がネギ(とアスナと刹那と木乃香)の部屋を覗きに殺到した。

「はぁ…まったく…先に行ってもしゃあないし…待とうか」

「そうですねー」

と、興味がないわけではないが覗き迄するほどではない面子は廊下でその様子を眺めていた…

 

 

 

その一件が終わり、夕食を済ませた私と聡美はのんびり温泉…という事にした。

「クーはいかないのか?」

「私は海から上がった時ので十分アル」

「じゃあ行きましょうかー千雨さんー」

 

体を流して二人で露天風呂に行くとそこには夕映とノドカのほかに赤毛の少女がいた。

「よお夕映…ん?そいつがネギの幼馴染のアーニャとやらか?」

「え、ええ…そうよ、私がアンナ・ココロウァよ」

「なるほど、なるほど…つまり夕方の下手人か…もう怒られているとは思うが、魔法の秘匿、なんだと思ってんだ、お嬢ちゃん」

と、少し凄みを聞かせて私は言った。

「えっ…あっ…その…」

と、言ったあたりで扉の前に気配がする。

「千雨さーん、明石さんと佐々木さんが来ましたよー」

「ん、サンキュー、聡美…一般人が来るから深くは言わねぇけど…オコジョが嫌なら気を付けような?」

「はい…ごめんなさい…」

と、アーニャは素直に謝った…まあ本当は野良の私に謝られても本当は意味がないのだが。

 

 

 

「千雨、朝練するアルヨ」

「んー…クー、修行無しなんじゃなかったか?」

まどろみながらクーの誘いに返事をする…まあ別に私は構わんし、そのつもりで着替えの枚数は用意してあるのだが。

「それはネギ坊主だけの話ネ、私たちは関係ないヨ…ところでハカセがいないアル?」

「ここにいますよー」

と、クーの疑問に私の布団の中から聡美が返事をする…

「アイヤ…そこにいたアルか…とりあえず、コタローと楓にも声をかけてくるから身支度するヨ」

そう言ってクーは隣のコタローと楓と朝倉(+相坂)の部屋に突撃していった。

「…もう少しゆっくりしたかったけど、起きようか」

「はい…私もですかー?」

「んー体力づくり的には海で遊んでいれば十分だし…どっちでもいいぞ」

最近、修行前の図書館島探検部組(ほぼ、スペックは体育会系相当である)程度までは体力がついてきた聡美にそういう。

「わかりましたーじゃあ見学していますねー皆さんの分のお風呂セットと着替えも預かりますよー?」

と、いう事で朝練をして、その後、朝風呂に入る事となったのであった。

…朝練中にネギが降って来たとかは特に気にしないでおく。

 

 

 

その日も楽しく遊び…昼過ぎ頃からはアーニャも合流してきた…一般客からは見えない入り江で水蜘蛛?(水の上に立つ忍術)を虚空舞踏の応用の力技で再現してそれは違うとか言われたりして、最終的にはそれらしきことはできるようになったりした晩…私たちは白き翼のみならず他の面子も含めて大部屋で雑魚寝という事になった、なぜか。

「別にいいけど…私らの分の部屋はあるんじゃねぇのかな…元々予約してあったんだし」

「まぁいいじゃありませんか、千雨さん、これはこれで楽しそうですし…枕投げとか」

「いや、それやると他のお客に迷惑じゃ…」

とかいう話をしていると、木乃香が爆弾を投下し始めた。

「ところでなーネギ君の隣に寝る人、気をつけてなー

ネギ君、お姉ちゃんのぬくもりがないと寝られへん時があってなー

たまに隣の人に寝ぼけて抱き着いてくるから」

そしてまあ、こんな燃料投下にネギラブ勢が反応しないわけがなく、大騒ぎとなった…

私たちはそれを端っこの二人用布団を確保してそのうえで笑って見ていたが。

 

その夜…あほどもが大騒ぎするので目が覚めて、念の為、聡美をかばうように抱きしめていると、背中に何かがぶつかった。そのままの体勢で首だけ回して確認するとそれはネギだった。

「んーお姉ちゃ…」

と、私の背中に抱き着いてくる。

「…まあいいか」

と、私はネギを放置し…あほどもは相打ちで静かになった様なので…再び眠りに落ちた…

 

 

 

そして、明朝…またもやクーに誘われて朝練をする事になったのだが、その時発見した昨晩のバカ騒ぎの跡は放置して、朝練を済ませ、ゆっくりと朝風呂を楽しんだ。

そしてその日も昼過ぎまで楽しく遊び、私たちは麻帆良へと帰還した。

 

 

 

合宿の終わった次の日の朝練にネギはアーニャを連れてやって来た。

「ちょ、ちょっとネギ、何なのよ、ここは!」

「何って…ダイオラマ球だよ?アーニャ」

「ふっふっふ…初々しい反応ねぇ…私達にもそういう時期があったあった…」

と懐かしむようにハルナ入って、そして続ける。

「さーて、楽しい楽しい夏合宿も終わった事だしー今日も修行、がんばるぞー」

「「「「「「「「「「「「オー」」」」」」」」」」」」

と、いつもの通りにハルナの掛け声を合図に、朝練が始まった。

「さて、楓、さっそく一戦頼むアル」

「あい、分かった」

「なら俺は千雨姉ちゃんとや」

「了解、コタロー」

と、次々とまずは肩慣らしとそれぞれの相手を見繕っていく。

「ちょ、ちょっと、何なのよ、一体!?」

とアーニャが困惑を隠しきれずに叫んだ。

「何って…朝練?」

「アニキ…そうじゃなくて、具体的に何するが、だろ?」

「あ、そっか…えっと…魔法戦闘の修行なんだけど、まずは軽く肩慣らしからで…見た方が早いかな?」

「そうですね、でしたら下で空中戦でもしましょうか、ネギ先生」

「でしたら、私たちは観戦という事で」

「うん、行こう、アーニャちゃん」

「わ、え、ちょっとのどか!?」

と、騒がしい感じでネギ、刹那、アスナ、アーニャに図書館組は水面近くの展望塔に転移していった。

「聡美も行くか?」

「そーですねーアーニャさんに見せるつもりならば千雨さんとコタロー君の肩慣らしを見ているよりは楽しそうですしー」

「わかった、また後で」

「はいーではまた後でー」

と、聡美もそれに続いた。

 

「さて…まずは軽く組手と行こうか」

展望舞台はクーと楓に取られてしまったので、屋上へ上がってコタローと向き合う。

「おう、瞬動、魔法、忍術無しでええな?」

「ん、そんなところだろう」

「では…」「じゃあ」

そして呼吸を合わせ…

「いくぞ」「いくで」

朝練を始める私達であった。

 

 

 

ドゴォォン

体が温まって来たので、瞬動有り(虚空瞬動無し)にルール変更して少し、そんな破壊音が聞こえて地面というか塔が揺れる。

「ん、なんやろ」

「ちょっと様子見に行こうか」

という事になり、二人して展望舞台辺りに飛び降りてみると、頭をケガした楓が木乃香の治療を受けていた。

「なーにやってんだよ、楓」

「およ、邪魔をしてしまったようでござるな、千雨、コタロー」

「い、今、何処から!?えっ、ふ、降って来た!?」

と、ネギと刹那の一戦が終わったようで戻って来たらしいアーニャが私達を指さして何かわめいている…ちょっと驚かせちまったかな?

「ねーみんな見て見てーっ、見て見てー刹那さん、私飛んでる、飛んでるよーホラホラ」

とハルナの作品らしき翼をつけて宙を舞うアスナがいた。

「おおっ、スゴイです、アスナさん」

「フフフ…自信作よ」

「ところで、ねぇパルーこれどうやって操縦すんのー?あと時間って大丈夫なの?」

「あっ…やっべ…」

「「え…」」

 

ポンッ

 

「へ…」

次の瞬間、そんな音と共に翼は消え去り、アスナは水面に向かって落下していった。

「いやぁあああああああっ」

「アスナー!?」

「アスナさーんっ」

アーニャが叫び、ネギがとっさに飛び降りる。

「何やってんのよ、人殺しーっ!?」

「いやーまあ、アスナなら大丈夫だし。改良の余地ありかー」

「だからって友人をあんな目にあわせて平然としてんなよ」

と、私は手加減の上、ハルナを叩いた。

 

なお、アスナはハマノツルギを城の壁に突き立て、それを足場にして落下を止め、杖飛行のネギに回収された。

「なな…な…何でみんなこんなにスゴイのよ!?アスナはバカだけどっ。

超人集団じゃないッ、一般人じゃなかったの!?」

「それは…皆、明確な目標を持ち、良き師の元で研鑽を積んでいるからではないかと…」

「師って誰よ?」

アーニャが聞いてはいけない質問をしてしまう。いや、別に知られて困るこっちゃないのだが。

「この城の主…エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル」

そして、夕映は答えた、敬愛なるわが師の名前を。

「エ…エヴァ、エヴァンジェリン…?」

「ええ」

「そ、それって、あ…あの『不死の魔法使い』の…」

「ええ、『人形使い』『悪しき音信』『闇の福音』『禍音の使徒』…のエヴァさんです、ご存じで?」

魔法使い社会育ちのアーニャがご存じでないわけがなかろう、夕映よ。

「御存知も何も、伝説の大悪党じゃないっ!ネギのお父さんがよーやくやっつけたっていう究極の闇の大魔法使いよっ!?」

「…のようですね」

と、暢気にいう夕映にアーニャはしびれを切らしたのかヒソヒソと何かを夕映に吹き込み始めた…が…ニヤニヤと笑う大人モードのエヴァが近づいてきていた。

「ほう?私が何をするって?アンナ・ココロウァ」

と言ってポンポンと頭をなでながら言うエヴァにアーニャは…

「いやあぁああっ食べられるうぅぅぅッ」

と、叫びながら逃げ去っていった。

「何をやってらっしゃるんですか」

「あのガキはぼーやの幼なじみだろ?ちょっと脅しておこうと思ってな」

「何でー」

「いじめっ子ねー…」

「…大人げない」

アーニャを追いかけていく夕映とノドカを見送りながら、私たちはエヴァの行為をそう酷評するのであった。

 

 

 

「と、言うわけで私も明日から一緒に修行することにしたから、よろしくね!」

…何がどうなったのかはわからないが、なぜかそういう事になったらしく、アーニャは夕食の席でそう宣言した。一応、とエヴァの方を向くと、今更一人増えた所で変わる物か、と言う顔をして鼻を鳴らしているのでまあ良いのだろう。

 

 

 

「ちょっとネギ、アンタ一日で何日分の修行してんのよ!?」

アーニャがそう叫んだのは夕食後の歓談時の事だった。

「この朝練で三日分集中的に修行して、そこから午後にまた数時間って一週間分じゃないのよ!?」

「そうだね、用事のない日はそんな感じかなー。今日は海で遊んだ分のリハビリもあるから午後は少し長めにしようかなって思っているけれど」

「ストイックすぎんのよ!せっかくの長期休暇なんでしょ!もう少し遊びなさいよ!?」

「えー普通に息抜きにチェスとかカードとかボードゲームとかしているよ?」

…確かに丁度、ネギはアスナ達とポーカーをしている。私は聡美とチェスである。

「そーいうんじゃなくて!」

とアーニャは叫ぶ…なお、アーニャは図書館組+刹那とボードゲーム中だったりする。

「まあまあ、アーニャちゃん…昨日までみたいに遊びに行ったりもしているよ?」

「せやなーネギ君誘って遊びに行こ?アーニャちゃん」

「あ…そうよね…その手があるわよね…ありがとう、ノドカ、コノカ」

と、いう事になり、その場は収まった。とはいえ、キッチリとその日のネギの鍛錬に、午後錬も含めて付き合う事になったのであるが。

 




おまけ
白き翼の部屋割り
ネギ アスナ 刹那 木乃香
夕映 ノドカ ハルナ (アーニャ)
千雨 葉加瀬 クー
コタロー 楓 朝倉+相坂(仮の依り代)


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65 夏休み編 第6話 闇の呪紋と無茶の代償

朝練二日目、私は楓と約束通り、呪血紋ありでの手合わせをするべく向き合っていた。なお、今日もまた木乃香は強制参加である。そうでなくても治癒魔法の実験台にと参加していただろうが。

「ねえ、ネギ、きっと勉強になるって言っていたけど何が始まるのよ」

「何って…千雨さんと楓さんの戦い?千雨さんは従者無しの魔法拳士型だし、アーニャにも勉強になると思うよ」

そんな会話を交わすネギとアーニャを尻目に私は咸卦の呪法を発動させる。

「じゃあ、始めるか、楓…死ぬなよ?」

「うむ…死にたくないので…制限なしの本気で行くでござるよ、千雨!」

そう、互いに宣言し、跳躍、空中でぶつかる…と同時に断罪の剣を展開、楓を切り裂く。

「ひっ、人殺しッ!?」

アーニャが叫ぶが無視である…こんなわかりやすい影分身に引っかかってたまるか。

そのまま前方への脱出、先ほどの影分身をまともに相手にしていれば私を交点に捉えたであろう5方向からのクナイを避ける。

そのまま反転し、楓とその分身に牽制の魔法の矢を放ち、楓の(多分)影分身のうち一体と切り結ぶ。

「いやあ、いつも以上に容赦がないでござるな」

「そっちこそ…なかなか殺意が高いぞ」

と会話を交わすが、他の分身と本体に半包囲されるのを避ける為に即離脱する。

 

魔法の射手 散弾 雷の17矢

 

行きがけの駄賃とばかりに魔法の射手で牽制を放ち、乱れた連携を突くように機動戦に入った。

 

「「「うむ、確かにその魔法陣は厄介でござるな」」」

「お前の影分身こそ…削っても削っても復帰してきやがって!」

最初に楓がデコイにしたような薄いのならば兎も角、真面目に練られた影分身は本当に厄介である。識別は困難で、楓本体ほどではないにせよ、油断はできない気力を誇る…それこそ牽制程度の密度で魔法の矢をばらまく程度では区別がつかないほどには。おかげで消耗を強いられているのだが、倒しても本体の気力と引き換えにすぐに補充されてしまうと血が足らん…いつもは影分身の補充に制限を入れているのだが、今日は制限なしである。

「いやいや…補充もなかなか大変なのでござるよ?」

「うむ、いつもより強力な魔法で影分身の消耗速度も速い」

「しかも、何だかんだでキッチリ対応されておるしな」

尚、この会話は三体の楓と順に切り結びながら、他の楓からのクナイ・手裏剣での牽制に対応しつつ交わされている。

「ええい…」

「むっ、逃げるか」

と、一時離脱する私に追撃をかけてくる楓たち…

「ノイマン・バベッジ・チューリング 雷精召喚 戦の乙女 29柱」

そこに中位雷精霊による戦乙女をぶつけ、足を止めさせる。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 来たれ雷精 風の精 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐」

「む、いかん」

とっさにペアで片方を足場にもう片方を射線から離脱させようと図る二組の楓…

「雷の暴風」

まずは、と射線に捉えた楓たちを戦乙女ごと一掃する。そしてそのまま、近い方の楓に向かって跳躍、切り結ぶ。

「いやはや、血の魔法陣アリならばそのクラスの魔法も割と手軽に使える事、忘れておったでござるよ」

「ノイマン・バベッジ・チューリング 氷瀑」

「むっ」

私は話しかけてきた楓を相手にせず、短縮詠唱で生き残った戦乙女に囲まれていたもう一体の楓に氷瀑をかました。

「さ、また増えられる前に…勝負をっ!」

首筋に来るチリっとした予感を信じ、その場を大きく離脱すると同時に、寸前まで切り結んでいた楓が爆ぜる。

「ちっ…符術かよっと」

一度地面に降り立った私はそう言いながら断罪の剣を展開、横なぎにする。

「いやはや…今のをしのぐとは思っていなかったでござるよ、千雨」

それを軽やかによけながら服に霜の着いた楓がほざく…

「お前こそ…あっちが本体だったか」

「うむ…符術を習っておらねば先ほどので決まりでござったな」

どうやら、氷瀑を符術による防御で防ぎ、ここに立っているらしい。先ほどの分身の自爆も符術だろう。

「まったく…もう形になっていたとはな」

「ぶっつけ本番でござったが…まあ拙者の切り札という奴であるな」

クナイと鉄扇で切り結びながら会話を交わす…もう少し行けるが、また増えられれば血はそろそろ危険域に入る。

「で…増えねぇのかよ」

「いやあ…拙者もそろそろ限界が近くてな?気の無駄遣いはできんのでござる…千雨の出血量もそろそろきつかろう?」

「…まあな…終わりにするか?」

マスターとの試合を観戦されていたのだ、失血量の限界はある程度予想されているだろう。

「まさか…せっかく楽しくなってきたのにやめるなど…」

「「とんでもござらん」ねぇわな」

 

魔法の射手 散弾 戒めの7矢

 

後方からの微弱な気配…いつの間にか入れ替わっていた楓の本体のセリフにかぶせるように言うと共に、魔法の射手を後手で後方に放ち、その場を離脱する。

 

「限界が近いんじゃねーのかよ」

「「いやいや、限界が近いだけでまだもう少しはいけるでござるよ?」」

二人の楓がひょうひょうと宣言する。

「そうかい…なら精々踊ろうぜ!」

「「応!」」

そして私たちは再び空を舞うのであった…

 

が、楽しいダンスにも終わりの時はやってくる。

「私の勝ち…だな」

「うむ…拙者の負けでござる」

始めこそ拮抗していた戦いではあったが、もう数回呪血紋ありで魔法を使う事と引き換えに影分身を始末する事に成功、その後は何度も切り結び…最終的には寸前まで断罪の剣を展開していた私の鉄扇が楓の胸を突き、私の勝ちが決まった。結果論ではあるが、自爆をさせた分身をそのまま戦力として運用していれば競り負けたのは私だったかもしれない、という程度にはぎりぎりの戦いであった。

「お疲れ様でした、千雨さん。はい、コレ」

「ありがとう聡美、頂くよ」

観戦場所に戻ると、今日は前もって持って来てあったらしい造血ポーションを聡美から受け取り、その場で飲んだ。

 

 

 

「ちょ、ネギ、私が千雨の相手とか無理よッ!」

「大丈夫だって、アーニャ、千雨さんはちゃんと手加減してくれるから」

「嘘よ!あんたさっきボコボコにされていたじゃない!」

アーニャとネギがそんな会話をしているのは午後錬の途中、ついでにアーニャの相手をしてやれ、とマスターに言われたからであった。

「安心しろ、ネギのは限界を分かった上でそこを引き出すようにやっているから。アーニャはまずは実力を測るところからだな」

「それなら…って、私もそのうちボコボコにされちゃうわけ!?」

「…アンナ・ココロウァ、いいからとっとと千雨と戦え!」

と、言うわけで小手調べに戦ったアーニャの実力は、弟子入り当時のネギ位であれば圧倒できたであろう程度にはあった…まあ、伸びしろに期待、という奴である。

 

 

 

そしてその日、私用も兼ねて長い夜を聡美と別荘で過ごした後…翌日の朝練前に私は一応形になったマギア・エレベアを元に開発した呪紋をマスターに披露していた。

「よし…では始めろ、千雨」

「はい、ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 高殿の王 我に力を 雷の招来」 

この為だけに開発…というか抽出・再構成した専用呪文を詠唱し、魔力塊を作り出す。

「魔力掌握 精霊の歌・雷奏」

そして、それを両掌で挟む様に潰し、両腕に糸で刻んだ特殊な呪紋…闇の呪紋(シグヌム・エレベア)の試作…によって両腕を主とする全身に纏った。技としての名称は、一応コレは戦いの歌の類という事にして命名した。

「…千雨、攻撃魔法ではなく専用の上位精霊召喚魔法を使用している点を以てそれはマギア・エレベアではない、と主張するつもりか?」

「ええ…まずは副作用の主要因を除いてみました…加えてマギア・エレベアほど深く霊体に取り込んでいないという点でも異なっています、その分弱体化もしてしまいましたが。あくまで応用に向けての試作です」

バチバチと両腕から稲妻を迸らせながら言う。

「…攻撃魔法でもできるだろう?ソレ」

「あーえっと…できます、試したのは魔法の射手だけですが、理論上はもっと強力な呪文でも…」

「で、その場合の負荷…というか霊体への侵食は?そんな小手先の改造で完全に別物になるとは思えんのだが?」

マスターがジト目で私を見る。

「…はい、恐らくですが、白き雷や赤き焔位ならさほど問題はないですが、雷の暴風や闇の吹雪クラスの呪文では霊体の方にもかなりの侵食が始まるかと…強化効率・魔素汚染、共にマギア・エレベアそのものよりは低減されるでしょうが」

マスターには隠せないと正直に答えていく。

「馬鹿者、それではその呪紋、結局マギア・エレベアそのものだろうが!?」

「あ、実際の運用では咸卦の呪法に練り合わせて魔素侵食への対抗手段にする予定です」

「なるほど…って、咸卦法と闇の魔法の併用なんて、何を考えている!?」

「ダメ…ですか?魔素侵食に対抗でき、かつ理論上は精霊と融合とも呼べる域に至れる、最も効率的な方法かと思うのですが」

精霊の魔力と気を己の魔力が仲立ちとなり混合され、存在と混ぜ合わせる…咸卦法の亜流進化技法、疑似的な精霊化…素晴らしいと思うのだが。

「疑似的に己を精霊と化すソレこそがマギア・エレベアの奥義だ!

基礎理論から別アプローチとはいえ、自力でそこにたどり着きおって!まったく…」

と、マスターがため息をつく。

「こうなっては仕方がない。だが、命の危険かそれに類する状況以外、精霊の歌とやらとその複合技以外使うな、いいな?」

「はい、もとよりそのつもりです…魔力効率はそれが一番いいので」

なお、魔力効率の話であって、いざという時は呪血紋付きの雷の暴風位は纏うつもりである。

 

 

 

「さてさて千雨さん、私の秘密の御開帳ですー」

マントを羽織った聡美が書斎に入ってきて、そんな事を言い出したのはマスターにシグヌム・エレベアの試作を披露した日の(別荘内での)晩、朝練寸前の事だった。

「…どうした、聡美、いきなり…もしかして、工房に篭って作っていたヤッか?」

「あーバレてましたー?そうですよー貴女が無茶を形にしている間に作り上げた私の作品です、千雨さん」

そう言いながら聡美がマントを脱ぎ捨てた。

「…超の強化服…?」

「を、現用技術で複製して、貴女の皮膚に埋め込まれた呪紋を元に考案した刺繍を施して強化した戦闘服です」

聡美がどや顔をする。

「これで単純な身体スペック自体はかなり向上しますし、今晩の個人指導で魔法の射手、武装解除、魔法障壁も覚えました…私も参加しますよ、夕映さん達図書館組やアーニャさん達レベルの本格的な修行に」

「ちょっ」

「待ちません」

ちょっと待て、そう言いかけた私を聡美が遮る。

「千雨さんが無茶をやめないならば私も無茶をして、少しでも強くなるって決めたんです。貴女がエヴァさんに殺されかけた時に」

「あ…ハイ…でも…無理は…しないでくれよ?」

「もちろんです、でもいっぱい無茶をして一歩でも貴女に近付いて見せます…届かなくとも…」

「わかった…頑張れよ、聡美」

そう言って、私は聡美を抱きしめる。

「…ちょっとだけ、聡美が感じていた不安が解る気がする」

「ふふーそれはよかったです…という事で、その魔法を取り込む呪紋の研究で無茶をすれば私も無茶をしますので、そのつもりで…次は千雨さんに呪紋の施術をおねだりしましょうかねー」

「…わかった、聡美の体質に合わせた呪紋の検討しておく」

「そっちじゃないですよーっ!千雨さんのバカー!」

と、聡美がぽかぽかと私の胸をたたき、その後、二人で笑い合う。

「…まあ、そっちでも良いですけれどね?でも…人じゃなくなるなら…私も連れて行ってくださいよ?」

「…誓っただろ?離しはしない、って」

「ならば…いいですよ、好きな所まで突き進んでください…頑張って少しでもついていきますので」

「ああ…」

そうして、私たちは強く抱き合った後、キスを交わした。

 




未来のルートの示唆を少しばかり…また分岐しそうでもありますが


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66 夏休み編 第7話 修行の日々と夏休み中盤のエトセトラ

「あーネギ先生ー皆さんーいらしたんですかー」

「なぁにパンピー連れてきてるんだ、ぼけぇぇぇぇ」

私がハルナにそう叫んだのは朝練を休んでオタクの祭典に聡美とペアでコスプレ参加した日の事だった。

「いやー、あの修行の鬼の千雨ちゃんが朝練休んでまで参加するお祭りに興味があるって言うからさ、つい」

などと被告・ハルナはのたまった。

 

やむを得ず、コスプレエリアを撤収し、引率で薄い本エリアに向かったのだが…

「えへへーこのお祭りってパロディーの本がたくさんあるんでしょ?あっ」

そう言ってネギが手を伸ばしたのはR18マークの付いた薄い本だった。

「本物より絵がキレイだよ、コレ」

「おっ?ほんまや、スゲーな」

「バッ…みっ見るなっ見ちゃダメだあああっ」

そう言ってネギとコタローから本を取り上げてブースに返す…私も年齢制限外だっての。

「ここはガキはダメだ、あっちに行け!というか私もダメだからな、この辺り!」

「そう言えばそーですねー全年齢行きましょうかー」

と、ネギとコタローを引率し、全年齢エリアに向かった…が…途中で発見した、はぐれていたアスナ達はネギたちと同じくR18のBL本を食い入るように見つめていた…

「止めろ、バカハルナ!」

と、叫びつつ、私はその本を没収した。

「いやーいいじゃん、千雨ちゃん、これくらいさー」

本当に、どうしようもないハルナだった。

「一般人に我々の趣味を理解してもらうのは難しいね、ねぇ、千雨ちゃん」

「なら連れてくんじゃねぇよ!つか、私は腐じゃねぇ!」

とはいえ、アスナ・木乃香・刹那は割とアリの反応だったが。

 

 

 

「千雨ちゃーん、さよちゃんの人形、もうちょっと何とかなんないー?」

「何とかっつったって…私やマスターの技術だとその人形が限度だって言ったろ?」

限度、とはいえ疑似的に夏合宿に相坂を参加させる程度の事は出来るのではあるが。

「いやー、やっぱりさよちゃんと魔法世界にも行きたくてさぁ…やっぱし恐山いかないと無理?」

「無理っつうか前提条件、だな。学園長経由でアポとって技術交渉して…それでいい依り代が手に入ればなんとか…って感じだな」

「そっか、じゃあ行ってくるよ、恐山…となると早速学園長に面会しなきゃね」

「おう、気をつけてな」

なお、そばでは相坂が感動していたりした。

 

 

 

「はぁ…はぁ…引き分け…ですか…」

「ムム…ハカセさんもなかなかやるようになりましたね」

あの夜の宣言通り、軽めとはいえ戦闘訓練に参加するようになった聡美であるが、多少とはいえ早く修行をはじめ、運動神経もなんだかんだで優れている夕映たちに負け続けていたのだが、今日初めて引き分けをもぎ取る事に成功した…不満そうではあるが。

「毎晩、ハカセさん、千雨さんと夜の個人レッスンをしているんでしたっけ」

観戦していたノドカが言う。

「そうですよーここ数日、特訓…だけじゃありませんけどー一週間分強ほど追加で別荘を利用させていただいていますーでもまだまだ追いつけませんねー」

素質の差というモノは残酷である。

「…やっぱり、呪紋の施術お願いしましょうー千雨さんもそろそろ更新するんでしょうー?」

そろそろ試作の三位一体の闇呪紋(シグヌム・エレベア・トリニタス。表向きの名称は咸卦の呪法・トリニタス)を刻もうとしているんでしょうー?と言いたげな聡美の瞳…本格的に修行をすると言い出した夜から、闇の呪紋の研究は筒抜けどころか共同研究対象にしているのでバレバレである。まあ、聡美用の呪紋も力の王笏に二人でダイブして引いているので今更…というかついに来たか、という感じではあるが…

「…麻酔しても、大分痛いぞ?」

「はいー覚悟の上ですーよろしくお願いしますねー」

こうして聡美に呪紋を刻むことが確定した。

「ところで、今日の午後はネギ先生を誘ってアーニャさんと市民プールに行こうという予定になっているのですが、千雨さん達も行きませんか?」

「アーいや、泳ぐなら別荘塔のが空いていて好きなんで、私はいい」

「私も同じくですー」

「わかりました」

夕映も一応誘っただけらしく、しつこくは誘ってこずにすんなりと引き下がった。

 

 

 

その(別荘内での)夜、私達は夕食後の娯楽時間を少し早めに切り上げて自室のベッドに横たわっていた…とはいえ、眠っているわけではない。

「戦いの歌の発動条件、これでいいのか?念じるだけでもできるぞ?」

「前にも言いましたがーそれだと自力での無詠唱呪文の練習に差支えがありますのでー外せるものはいずれ外してその分、強化に使いたいですしー」

私たちは力の王笏の電脳空間内で呪文の設計を詰めていた。

「わかった、じゃあ手を合わせて念じるで行くぞ」

「はいーお願いしますー」

と、仮想コンソールを叩いて設計を確定させていく…

「さて、聡美の設計は一度こんなもんで計算かけるとして…」

「問題は千雨さんの方ですねー最初期設計ですし、もう少し安全重視で行きません?」

「そのつもりなんだけどなぁ…この設計案でも…ギリギリを攻めると…こんな感じになる」

と、安全マージンが低すぎて絶対に怒られると却下した(火急で力が必要なら使う気はあった)設計を表示する、闇の呪紋関係の所を色違いにして。

「ええっと…ここがこうなっていて…これがこうで…」

聡美が設計図を検討していく…そして真顔で言った。

「千雨さん?この設計、安全マージンって言葉が存在していませんよね?」

「うん、だから却下して安全マージン入れて設計し直したのが現行案の原型」

「…まあ基準がコレならまだ理解はできますが…せめて多重装填はデュオ(二重)までにしません?初手からカルテット(四重)はやりすぎでは…」

「手足別と左右別は早めに試験しておきたくてなぁ…ダメ?」

「でしたら、ここをこうして…トリオ(三重)でどうでしょうか」

聡美はそう言って、左右の腕と両足で分けた三重装填の設計案を提示する。

「わかった、ならこれで…こうして…と…よし」

そして、私はシレっとその設計変更で空いた部分に別の障壁強化系の経路を足して計算にかけた。

「では、続いて予備案の設計検討にしましょうかー」

「ああ」

私たちの夜はまだまだ続く…

 

 

 

「さて、お願いしますね、千雨さん」

何度か設計のブラッシュアップを終え、聡美が私の前に全裸で横たわっていた…まあ臀部を含めた全身施術なので当然ではあるのだが。

「ああ、始めるぞ」

そう言って、私は聡美の全身に麻酔入りの軟膏を塗りこんでいった…

 

「どうだ?」

暫くして、聡美の二の腕をつねる。

「痛くないですー」

「ん、効いてきたようだな…それじゃあ始めるぞ」

「はい…お願いします…んっ」

丁寧に、迅速に、まずは聡美の背面に魔力供給の効率を上げる為の経路と魔法陣を書き込んでいく…私だと咸卦の呪法用の呪紋を刻んでいるモノに相当する。そして、次に早々変更する事は無いであろう緊急障壁展開用の巨大な陣、続いて魔法の射手や通常の障壁強化用の基本的なモノをうなじから臀部までに刻んでいった。

「さ、背中は終わったぞ」

「あぅ…千雨さんはいつもこんなのを…?」

「イヤ…初期施術と大規模改修…というか整理以外は一部しか書き換えないからそこまでではないぞ…少し休むか?」

「いえ…大丈夫です…次は前面、お願いします」

そう言って、聡美は一度起き上がり、仰向けに横たわった。

「えへへ…ちょっと恥ずかしいですね…鏡もありますし」

尚、この施術は別荘塔の設備を参考に天蓋の内側に鏡と光源が設置されたベッドで行われている…というか、書斎の奥の小部屋にあつらえた私の自己施術用のベッドである。

「…うん」

まあ、そんなことを言いながらもやる事(呪紋の施術)はするのであるが。

内容は背面と同じく、まずは背中からつなぐように魔力経路を書き込み、さらに腹部に戦いの歌の呪紋を刻む。これが全身の経路をめぐって後で両掌に施す呪文が接した時に発動する仕組みにしてある。続いて同様に隙間を埋めるように他の呪紋を防御重視で刻む。

「次は腕だ。両掌を天井に向けるように突き出して」

「はい」

腕には魔力経路のほかに、ある程度の頻度で書き換える前提の特定の魔法の補助などに用いる呪紋…今回は能動式の対魔法障壁…を刻み、掌には腹部の紋とリンクした紋を刻み、手の甲には聡美が比較的相性がましだった風属性を補助する紋を刻んだ。

「最後は脚だな…起き上がってベッドサイドに座って台にカカトをのせてくれ」

「はい…」

「大丈夫か?少し休むか?」

「いえ…もう少しですし…頑張ります」

「…わかった」

と、聡美は疲れた様子ではあるが、本人の言葉を信じて施術を続ける…

脚には魔力経路のほかに、それによる強化を効率的な脚力強化に転嫁する紋を刻みこんでいく…

「よし、終わりだ…頑張ったな、聡美」

「ぁ…はい…頑張りました…えへへ」

頭をなでる私に、朦朧とした様子で答えた。

「横になっていろ」

そう言って、聡美を一度抱えると、ベッドに横たえ、用意してあった濡れタオルと水桶で汗と軟膏を拭いてゆく…聡美の全身に施された糸の呪紋…それを改めて認識すると、説明のしがたい感情が沸き上がってきた…しいて言えば、聡美を私の作品として仕上げた達成感に、二人で仮契約をした日の高揚感を足せば近しいものにはなるだろうか。

「気持ち良いです…」

その得も言えぬ感情に浸っていると、聡美のそうつぶやく声に現実に引き戻された。

「それはよかった…部屋に運ぶから中和剤を飲んだら一度寝よう」

「千雨さんも…一緒ですよ?」

「ああ、もちろん」

と、ショーツだけ履かせて毛布を掛けた聡美を私はお姫様抱っこで書斎から室内扉を通って寝室まで運び、おねだりされて口移しで麻酔の中和剤を飲ませると、二人で昼寝をするのであった…

 

 

 

「さて、今日は千雨さんの施術ですよー」

(別荘内での)昨日は昼寝から起きて聡美の慣らし運転程度の運動をして、風呂に入って早めに寝た。そして今日は私の呪紋の大規模改修である。

「イヤ…別に聡美は自分の修行をしていてもいいんだけど」

「えー見届けと麻酔の塗布役位させてくださいよーそれとも私がいると問題が?」

没にした筈の無茶な設計するつもりじゃないですよね?と暗に聡美が言う。

「…見つめられるとちょっと恥ずかしい…特に前面の施術」

「あ…それは…私も隅々までみられたんですし…おあいこって事で」

そう、聡美が頬を赤らめていった。

「…じゃあ、頼む」

「はい…行きますよ」

そうして、昨日私がしたように指先を除く全身に麻酔薬入りの軟膏を塗布されていった…

 

「ん…そろそろいいな」

「わかりましたーではお邪魔しないように静かに見ていますねー」

少しおしゃべりをしながら麻酔薬が効くのを待っていたが、そろそろいい感じである。

まずは背中の大物、心臓の真裏に刻まれた咸卦の呪法の核の一つから…最近の修行、特に雪山での瞑想の成果と記述密度の向上で小さくできる様になってきたソレを一度解いていつもより深くに刻み込む…これは積層させた方が良いとの計算結果を信じての事である。

続いて、その上に闇の呪紋(シグヌム・エレベア)の核となる魔法陣を記述していく…これで同時発動時…三位一体の闇呪紋としての使用時に単に相反しないだけではなく相乗効果を得られるようになる…筈だ。これをすでに全身に配置されている以前増強済みの回路に接続する。

さらに、その周囲に補助呪紋を主呪紋を取り囲むように縫い込んで、回路の四肢との接続点に中継用の紋を刻み、その施術の為に再配置せざるを得なかった通常の呪紋たちを再配置する…というか、積層の実験を兼ねて腰には深めに雷属性を補助する呪文を大きめに、高密度に仕込んだ。これで他に刻む予定の紋と合わせて呪血紋無しで雷の暴風を、出血多めの呪血紋があれば千の雷迄行使できるようになる筈ではある…後者に関しては魔法の習得が終わっていないので理論上、という意味ではあるが。

「千雨さん、お水飲みますか?」

背面の施術を終え、ため息とともに脱力した私に聡美が言う。

「ありがとう、貰うよ」

と、コップを受け取り、その中身を飲むと今度は仰向けに横たわり、施術を続ける。

今度は胎…おおむね子宮の上に、背面の心臓の上にしたモノに類する予備の咸卦の呪法と闇の呪紋の核を刻む…万一、背中の心臓付近に被弾した時に闇の呪紋が暴走しないようにするための予備兼オーバードライブ用の副系統である。

そして、腹部の緊急障壁展開呪紋を筆頭に、空きスペースに綿密な計算に基づいた呪紋を所狭しと、場所によって多層構造で刻む…ちなみに、体の呪文は当分更新しないつもりで施術している、学園祭から実時間で一か月強での大幅組み換えは完全に想定外である…というかここ最近の主観時間がおかしい。もっとも、四肢の呪紋は三位一体の闇呪紋(咸卦の呪法と闇の呪紋)関係以外は割と目的に応じて刻みかえる予定だし、三位一体の闇呪紋も出発前にフィードバックを入れるつもりではあるが…

と、いう事で、体の施術を終え、私は左手を突き出すように伸ばし、肘に中継点を、手首から先に(呪血紋用のスペースを残して)魔力掌握の補助呪紋を三次元的に記述し、腕全体に元と同じ白き雷を特に強く補助するように調整された雷属性全般を補助する紋を以前より高密度で刻み、右腕も同じようにして偽・断罪の剣関係の、以前より維持魔力を軽減させる方向に性能を上げた紋を刻んだ。

「ふぅ…」

「はい、千雨さん、お代わりです」

そこまでの施術を終え、起き上がったタイミングに合わせて聡美が水のお代わりをくれる。

「さんきゅ…あとは脚だな」

「はい…慣れてらっしゃるとは言え、あれだけの密度と面積を自己施術して…まだ余裕があるなんて」

「んー言うほど余裕はないぞ?全身の回路の刻み直しもやっていたら四肢は一度休憩入れていたよ」

「そう言うもんですか…」

「そう言うもんさ…さ、続きだ」

そう言って、私は足への施術を始める…とは言え、内容は腕とほぼ同じ…膝に中継用の呪紋、足に予備の魔力取り込み用魔法陣、他のスペースに時と場合によって刻みかえる魔法陣…今日は単純に風属性と雷属性の補助を目的に施術を行った。

「おしまい…っと」

「お疲れ様です、千雨さん」

と、ベッドに倒れこんだ私の汗と軟膏を聡美がふき取ってくれる…心地いい…

「ああ、これは確かに気持ちいいな…」

「でしょう?」

聡美がにこりと笑いながら作業を続行してくれる中…私の意識は沈み込んでいった…

 

 

 

「…聡美…服は?」

気づけば、私は一糸まとわぬままで聡美と施術用ベッドで抱き合って眠っていた。

「脱ぎましたーシーツ自体、大分汗で汚れていましたのでー」

ずっと起きて私の髪に手櫛を通していたらしい聡美がそんな事をいう。

「…戦いの歌を使えば運べたよな?私が昨日したみたいに」

「…あっ…そう言えば…」

昨日、初めて手に入れた力を使うという発想はなかったらしい。

 




千雨さんが契約執行をしないのはハカセが本末転倒だと断った感じです。いちゃつき行為としては裏でやっている可能性は否定いたしませんが。
ちなみに、前話のエヴァへの精霊の歌の披露(アーニャの初別荘翌日、8月2日?朝)から、実時間で一週間ほど、千雨と聡美の主観時間で3か月弱(皆で修行+毎晩1週間強の別荘使用に一部お休み)ほど経過しています、夜間は少しの自主練とハカセの指導と呪紋の研究(+趣味の魔法研究)ですがついに無茶が結実したので出力的には千雨は一気に強くなります。
ちなみに、ハカセが受けた施術は千雨の研究結果をフィードバックされているとはいえ、攻撃主体で施術すれば魔法学校卒業生クラス(戦闘訓練を受けた魔法使い)を出力的には高位の魔法使いに近づけるモノ(勝てるとは言っていない)です、ガッチガチに強化してもピーキーで使いこなせないので。
尚、千雨さんへの施術は素では強めの高位魔法拳士(Aクラス下位)である千雨さんをAAクラス下位まで引き上げるもの…今話実装された三位一体の闇呪紋を含めれば、本物あるいは化け物と呼ばれるランクに至らしめる代物です。なんだかんだで、もはや千雨さんは戦場に恐怖を振りまく側ですね、ガチモンの化け物相手には逃げるだけですが(そして、逃げられる公算があるという意味で千雨さんも化け物)
つーか、糸の呪紋は素人に施術しても意味はないけれども、一定以上の術者に施術したらその強さを倍加させうる、汎用性を高められれば魔法世界の軍事革命にさえなりうる代物だったり…


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67 夏休み編 第8話 三位一体の闇呪紋

「ふぅ…今日一日で呪紋が体になじんできた気がしますー」

私の施術の翌日、刻んだ呪紋の慣らし運転を行っていた…のが終わり、夕食前のお風呂である。

「そうだな、総合スペック的にはアーニャにも抵抗できる位には強くなれている筈だよ」

「…総合スペック的には…で、かつ対抗じゃなくてー抵抗ですよねー?」

「…うん…まあ夕映やノドカには勝てるんじゃないかな?元々の目的である遁走という意味では多分、アーニャからは逃げ切れる」

「はい、精進しますー千雨さんの方も、問題なさそうでしたねー三位一体の闇呪紋(シグヌム・エレベア・トリニタス)も特に問題なく…精霊の歌・三重奏も成功して機動試験も大丈夫そうでしたしー」

「そうだなぁ…実際の実践戦闘訓練は独奏から試すつもりだけれども…行けそうだな、明日の朝練から」

「皆さんびっくりするでしょうねー」

ふふふ、と聡美が笑う。

「まあなぁ…泊まり込んで何かやっているのはバレているだろうけど…魔法世界行に間に合ってよかったよ、トリニタスの試作一号」

「そうですねー改修前の闇の呪紋(シグヌム・エレベア)では咸卦の呪法との相性的に今一でしたからねー二人で無茶したかいがありましたね」

「まったく…間に合わないなら泊り込めばいいじゃないですか、って言いだした時は本当に驚いたんだからな」

そう言って、聡美を後ろから抱きしめる。

「えへへ…楽しかったですよー二人きりの生活…それも千雨さんの個人指導と共同研究付きで」

「まーな…想定からすると戦力的に石橋を叩いて渡るなんてもんじゃないけれども…それでも、安心ではあるよ」

私は、そう言って笑った。

 

 

 

「さて、がんばった聡美にプレゼントがある…というか、約束のアクセサリー型の発動媒体だな」

そう言って私は一組のバンクルを聡美に手渡した。

「わぁ…これ、千雨さんとおそろいですか?」

「うん、同じデザインにした、サイズは違うけれども」

「はい、ありがとうございます…あれ?ダミーの方に…T to S…えへへ…」

まあ、ちょっとしたメッセージを刻んでみた…喜んでもらったようで何よりだ。

 

 

 

その後、数日の戦闘訓練・使用実感の呪紋設計へのフィードバック(出発前の最終朝練初日に刻みなおす予定)などをして夜を過ごし…一度別荘の外に出た。

「おはようございます、ハカセ、千雨お母様…昨夜もお楽しみでしたか?」

「千雨さんとの二人きりのお泊りは楽しいよー茶々丸」

マスターに紅茶の給仕をしていた茶々丸のからかいないしボケに聡美が直球を返す。

「…まったく…で、どうだった?昨夜、施術するといっていたが?」

「はい、一応の形にはなって、自主練での試験では問題ありませんでした、咸卦の呪法・トリニタス…いえ、三位一体の闇呪紋(シグヌム・エレベア・トリニタス)」

そう言ってマスターに報告をする。

「フム…ならばよい…若干ぼーやの旅には過剰戦力な気もするが…な…」

そう言って、マスターは紅茶をすすった。

「そうですね…でも、足りないよりはいいかと」

「ふん、やかましい。自覚がないようだから一応言っておくが、今のお前、本気を出せば魔法種の下級竜位瞬殺できるからな?…いや、断罪の剣アリならば刻み変え前から行けた…か?」

そう言って、マスターはよくわからない悩みを始めた。

 

 

 

「さーて、それじゃあ、今日も朝練頑張るぞー!」

「「「「「「「「「「「「「オー」」」」」」」」」」」」」

と、いつもの通りにハルナの掛け声を合図に、朝練が始まった。

「ふふふ、夕映さん、ノドカさん、私は昨日までの私とは違うんです…是非戦いましょう!」

「どうしたんですかーハカセさん」

「アーそう言えば、昨日の朝練で、千雨さんに呪紋を刻んで貰うっておっしゃっていましたね…では、その成果も気になる事ですし、やりましょうか」

と、聡美の夕映たちとの試合が決まる。

「千雨さん、ハカセさんに糸の魔法陣刻んだんですか?アレって施術される方も結構きつい上に個人用に調整しないといけないっておっしゃっていましたよね」

「ああ、だからここ暫く毎晩別荘に泊まり込んで施術が意味のあるレベルまでの特訓と体質把握と再設計を二人でやっていたんだよ…きついのはまあ…本人の強い望みだし」

「なるほど…」

といった会話をネギとしていると、聡美と夕映との試合が始まりそうになる。

「では…はじめっ!」

「プラ・クテ・ビギナル 雷の精霊5柱 集い来りて」

夕映が様子を見るようにまずはと昨日までの聡美でも収束させなければ障壁で防ぎきれる程度の魔法の射手を警戒しながら詠唱する。

 

戦いの歌

 

一方、聡美は昨晩さんざん練習した両手を合わせての戦いの歌の無詠唱発動を行う。

「敵を射て 魔法の射手 雷の5矢」

詠唱完了し、放たれる夕映の魔法…それを聡美は戦いの歌で強化された身体能力で、真横に跳んで避けて見せた。

「戦いの歌の無詠唱…というか手を合わせての発動…あれも呪紋ですか?」

「ああ、完全無詠唱もできたけれど…いずれは自力でやりたいからって、練習用にああいう形式にした」

「なるほど…呪文での補助が入って強化もいい感じのようですね…ちゃんと慣らし運転も済んでいるようですし」

私とネギが観戦しながらそんな会話をしていると、聡美が詠唱を始めた。

「ガリレオ・ニュートン・アルベルト 雷の精霊11柱 集い来りて 敵を射て」

「プラ・クテ・ビギナル 雷の精霊11柱 集い来りて 敵を射て」

同種・同属性・同数の魔法の射手か…ならば、聡美の有利か。

ちなみに、始動キーは呪紋に刻む必要があったので、考案・設定するように言ってあったものである。

「「魔法の射手 雷の11矢」」

ぶつかり合った22本の魔法の矢は互いの照準を逸れたものの、呪紋の強化分と始動キー補正で何本かは撃ち勝ち、夕映の周りに飛来する。

「わっ 風盾」

まー夕映もまだまだ戦闘素人でとっさに無意味な魔法障壁を張ってしまう…

「ガリレオ・ニュートン・アルベルト 風の精霊7人 縛鎖となりて敵を捕まえろ 魔法の射手 戒めの風矢」

と、その盾型障壁を強化された身体能力で走って回り込んだ聡美が、走りながら詠唱した戒めの風矢が夕映を襲った。

「くっ…」

とっさに体を倒して風矢を避けようとするが、一本が夕映にあたり、腕を縛って受け身が取れない状態のまま倒れていく…のを、そのまま駆け寄っていた聡美が受け止めた。

「夕映さんーお怪我はありませんかー?」

と、のんびりという…しっかりと片手は夕映の喉に添えられているが

「あ、ハカセさんの勝ちですー!」

「あ…負けました…です」

「やりました、千雨さん!私、初めて勝ちましたよッ!」

「おめでとう、聡美!」

…とは答えるが

「ええっと…千雨さん、つかぬことを伺いますが…ハカセさんにしたのって…全身施術ですよね?」

…ネギの小声での質問が如実に聡美の強さを物語っていた…確かに強くはなっているが…あの程度なのか、と。

「…一応、障壁と逃げ足重視で施術した…緊急展開用の障壁は一般的な威力の白き雷くらいは完全に防げる様にはなっている…」

正直、新人魔法使いに使えるレベルで、かつ聡美の才能を前提とすると…うん、残酷なまでの才能の差を何とか無茶で誤魔化してスペックで圧倒して勝った、という感じではある。聡美本人にも、設計段階から施術する呪紋は戦えるようにすると言うよりは逃げられるようにするのが主目的である、と散々言って聞かせてあるし、才能方面に関しても自覚はあるようなので、ここでは言わないでおくが。

 

 

 

「なーネギー千雨姉ちゃん、ハカセ姉ちゃん達の事はええから、俺らもやろうや」

と、その後もノドカや夕映と数戦するのを見守っていると、コタローが言った…ちなみに、聡美は案の定、その数戦で一度だけとはいえ、夕映相手に緊急防御用の障壁…それを展開した時点で模擬戦では負けだと思え、と言ってある…を展開して負けを宣言していた。

「んーわかった…私も呪紋を新しい設計にしたし…肩慣らしだ、二人がかりでかかって来い」

「お、言うたな?新設計でどれだけ、強うなったか知らへんけど、負けへんからな!」

「もう…コタロー君…という事ですいません、次、舞台を譲って頂いても大丈夫ですか?」

とネギが夕映たちに言う。

「あ、はい…私は構わないです」

「私も構いませんよー」

と、言うわけで舞台を譲ってもらって、ネギ・コタローペアとの模擬戦をすることになった。

 

「では…開始です!」

と、夕映の合図で私は大きく後ろに跳ぶ。

「おろ?」

いつも通り、接近戦が始まるのかと思ったコタローは少し怪訝な様子になる。

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 高殿の王 我に力を 雷の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷奏 三位一体の闇呪紋 発動

 

と、雷の魔力球を生成しそれを掌握、全身に取り込んだ。

「なんやそれ!?」

「まあ…新技だよ!」

と、全身に纏った雷に明らかに様子が違うとコタローが警戒する。

「魔法の射手 連弾・光の199矢!」

一方、ネギの初手での選択は魔法の射手の弾幕だったらしくそれが雨霰と私に殺到してくる…まあコタローが迎撃に出ていないので間違ってはいない。

「まあ、今までの呪血紋無しなら…ありだけどな」

と、私は雷を纏う断罪の剣を展開し、空を駆けて弾幕の薄い場所を切り開き、ネギたちに肉薄していく。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 拡散・白き雷」

「ぐっ、狗神っ」

 

魔法の射手 雷の9矢

 

まあ、白き雷は対応されたがそれも想定内、とコタローに追撃の魔法の射手をぶつけ、残った狗神も始末してコタローの爪と切り結ぶ…が

「ぐっ…重い…し、やっぱり雷は飾り違うか」

「もちろん…むしろ気力を増やすだけで対応されたのが驚きだ」

「まあ、血の魔法陣付きの断罪の剣並ってだけや…振るう千雨姉ちゃんのパワーが段違いやけど」

「そう、だなっ、ほらっ」

 

魔法の射手 雷の5矢

 

「ちぃっ…しゃあない、怪我しなや、千雨ねぇちゃん!」

とコタローが一度下がり、獣化する…何気に、稽古で獣化を見せるのは珍しい。一方ネギは…

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 風精召喚 戦の乙女17柱」

チッ…今の間にどれだけ遅延呪文仕込みやがったかわかりやしねぇ…ならば、と私は三位一体の闇呪紋の調子もいいので、次を試すために再び下がることにした。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 来たれ雷精 風の精 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐」

そして、戦乙女たちを誘うように機動し、ほぼ全ての戦乙女とネギとコタローとを射線に捉える位置を占位した。

「雷の暴風」

その魔法は、ネギやコタローこそ避けられるが、まあ余裕で戦乙女たちをかき消し…

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 嵐の女王 我に力を 風の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷と風の二重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填

 

「さあ、これはいけるかな?コタロー!」

 

そう叫びながら、私は糸の足場を編み、獣化したコタローに向かって縮地をかました。

 

「ちょっまっ!?」

コタローらしくなく、私の跳躍攻撃をコタローは回避した。続けて断罪の剣を振るうと観念したようでコタローは爪を合わせてきた。

「獣化して気力最大でこれかいっ…」

と、爪はボロボロであるし、風属性の吹き飛ばしに堪えられず、つばぜり合いできたとはいいがたい。

「ぐ…まだ未完成やけど…しゃあない!狗神っ」

と、コタローは狗神を召喚し腕に纏わせてきた。

 

魔法の射手 雷の5矢

 

「あっ」

「ぎゃっ」

しかし、とっさに狗神召喚に対応するために放った魔法の射手がコタローに直撃、まあ獣化状態ならばその程度で倒れる事はないが、できたスキを見逃してやるのもあれなので、そのまま心臓を一突き…する形で断罪の剣を消し、鉄扇で胸を突いた。

だが、二重装填をした三位一体の闇呪紋の身体強化はなかなかのもので、そのままコタローは数メートル吹っ飛んだ。

「さあネギ…行くぞ?」

「お…お手柔らかに」

「するわけねーだろうが!?」

と、腑抜けた事を言い出したネギに断罪の剣を再展開して切りかかる…

「っ…」

それをネギも断罪の剣で防ぐが、威力の差で砕け散る。二の太刀で止めと行こうとした時、ネギが私に左手を向けた。これはマズイと咄嗟に身を躱すと、私の真横を白き雷が通り過ぎていき…断罪の剣にネギが拳を向ける…華崩拳か…と思った瞬間、ネギの拳とそれに練りこまれた数多の光の矢が断罪の剣を砕いた…が

「ああ、それは悪手だ…」

と、足払いをかけるとネギはすっころんだ…防衛本能とはいえ、そんな無理な体勢で華崩拳なんて放てば隙でしかない。正解は、華崩拳に全てを賭けて逆転狙いで前方への脱出…つまりは私本体を狙う、である。まあその場合はその場合で私が離脱しての仕切り直しだっただろうが。

「さて…まだあるかな?ネギ」

そう言いながら私はネギの背中、心臓の真上に鉄扇を突き付け…その感触の違和感からその場を大きく飛びのき、空に舞う。直後、ネギの形をしていたモノが爆ぜて雷をまき散らした。

「チッ…三重遅延魔法でおまけに最後は自爆デコイか」

元々の立ち位置の死角を取れるあたりを一瞥すると、ネギが杖の飛行術で浮かんでおり、魔法の射手が飛んできた…本来あれで背後を取るつもりだったのだろう。照準中央を避け、魔法の矢を切り払いながらネギに接近する…ネギも空中戦のつもりのようだ。

「面白れぇ…私と踊ろうってか!」

とはいえ、ネギが虚空瞬動を使えるようになり、私の圧倒的優位が多少優位程度に変わっていた空中戦による力関係は、三位一体の闇呪紋による推力増強によるアドバンテージにより覆しがたいもの…前ほど圧倒的とまでは言わないが…に戻っており、魔法の射手の応酬と時々断罪の剣での衝突に白き雷も添えて、という空中戦は…

「がはっ」

「良く粘ったな、ネギ」

ネギを舞台に叩きつけることで終わりを見せた。

 

 

 

「なんなんや、アレ!」

「なんですか、アレ!」

治療を終えると、早速ネギとコタローが三位一体の闇呪紋について問い詰めてきた。

「何って…咸卦の呪法に戦いの歌系統の精霊呪文を乗せた新技?」

「成程…それは強そうやな…実際とんでもない出力やったし」

「って、そんなの咸卦の呪法と相反するに決まっているじゃないですか!?というか戦いの歌系統の精霊呪文って何ですかそれ、聞いたこと無いですよ!?」

私の嘘ではない説明に納得するコタローに納得できないというネギ。

「まーフツーにやったらそうだな…先に精霊魔法での戦いの歌を試作して…それを咸卦の呪法と合わせるために、ここ暫く夜も城に泊まり込んで聡美と共同で研究を重ねて…ついに形に出来たのが昨晩の事だ」

「そーですよ、私たち、がんばったんですからね、ネギ先生?」

と、聡美も会話に参加してくる。

「ハカセさんの特訓だけじゃなかったんですね…さすが千雨さん…背中が見えたと思ったら突き放されてしまいました…でも、必ず追いついて見せます!」

ネギが少ししょぼんとするが、がんばるぞ、とやる気を見せた。

 

 

 

「アイヤー私も中々強くなったと思うけど、自信無くすアルよ?」

「フム…確かにその新技の威力はすさまじいな」

「ああ、何なら私たち3人でも相手できるんじゃないか?千雨」

砂漠で修業をしていた刹那達三人に合流し、三位一体の闇呪紋の披露をした感想がそれだった。

「…勘弁してくれ…確かに咸卦の呪法・トリニタスで纏う咸卦の気の総出力は大幅に上がるけど、基本的な技量はそのままなんだって…ほかの改修で火力不足も多少改善されているけどさ」

「ふむ、ならばやるでござる、なあ、刹那」

「ああ、実際やってみるのが一番よくわかる」

「飛ばれるとほぼ無力アルが、微力ながら頑張るアル」

そうして三人と戦う事になり…粘りはしたが、最終的には楓の影分身での物量に支援された刹那にちょっとした戦術ミスを突かれて地上に追い込まれ、クーを含めた3人の連携攻撃に討ち取られる事となった。

 



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68 夏休み編 第9話 ウェールズ、そして魔法世界へ

8月12日早朝、茶々丸の予備ボディーでエヴァの世話をするコピー、茶々丸ダッシュをあつらえるなどの雑事も済ませ、私たちは城で修業の最後の仕上げを済ませ…結局、仕上げという事で夜合宿をし…荷造りを行っていた。別荘内での明朝、別荘利用を終了し、空港に向けて出発の予定である。

 

「さて、これでいいな」

「はいー私も終わりましたー」

と、荷造りを終えてリュックサックを閉じた…現地での移動を考えると、キャリーケースよりこっちの方が良いそうだ。それに、容量拡張の魔法付きで見た目に反して普通のキャリーケースよりも荷物は入る。

 

コンコンコン

と、そのタイミングで扉がノックされた。

「どうぞ」

「千雨さん、ハカセさん、準備状況はどうですか?」

「大丈夫ですーちょうど終わりましたよー」

「ああ、後はゆっくり休んで、明日飛行機に乗るだけだ、ネギ…いよいよだな」

「はい、いよいよです」

と、ネギが答える。

「さて…やる気満々、意気揚々って感じの所に悪いが、釘を刺しておかねーといけねぇ」

「はい、ちうさん」

「ん?なんだ、千雨姉さん」

私の雰囲気から察して、ネギがちう呼びで答える。

「わかっているとは思うが…明日からのイギリス、魔法世界旅行…リーダーで責任者はお前だ、ネギ…お前には学園に皆を連れて帰ってくる責任がある…わかっているな」

「はい」

「まー学園長も協力してくれているし、本当の意味での危険はないだろうけど…それでも、親父さんの情報とみんなの安全が天秤にかかった時…後者を選ぶ覚悟はしておけ、いいな?」

「はい…わかっている…つもりです」

とのネギの正直な回答に私は笑い出す。

「クックック…つもりじゃねぇよ、って怒ってもいいが正直でよろしい、というべきかな、一人でも行くつもりだったお前にワラワラと着いていく事にした私達としては、な」

「あ、えっと…ちうさん?」

「まーそれが幸か不幸かはともかく、そんな選択の機会自体が千載一遇だ…だが、運や巡り会わせってのは予想できるもんじゃねぇんだ…その時には備えておけよ?お前の場合、どちらを選ぶにしても、絶対後悔しそうだからな」

「あ…ハイ!」

ネギは先ほどより元気よく、そう答えた。

 

「お、ここにおったか、ネギ」

と、コタローがノックもなしに部屋に入ってくる…まあネギが扉を開けっぱなしにしていたのもあるから構わんが…

「怖い方の師匠がおよびやでー。最後の仕上げに稽古つけてくれるそーや」

そして、コタローはそう言った。

 

 

 

そうして行われたネギの仕上げ稽古、結果はまあ惨敗と言っていいだろうが、ネギがエヴァに城壁に叩きつけられたタイミングでアスナが跳躍、ハリセンでの一閃によりエヴァに掠り傷を負わせ…氷に閉じ込められていた。まーアスナの事だ、ほっといてもすぐに復帰してくるだろう。

「フン…まあよかろう。合格点をやろう、ぼーや、貴様のパーティーにな」

「マスター…」

「千雨はもとより、茶々丸とそこの犬も行くんだろ」

私はもとよりってなんだよ…行くとは宣言していたけどさ。

「ハイ」

「おう、当然!てか名前で呼んでやー」

「ならばやはり問題はないな、まあ力と経験にばらつきはあるが…これだけの人材は本国正規騎士団にもあまりいまい。

そこいらの盗賊団やら魔獣の群れ程度に後れを取る事ない…そうだな…本物とでもやり合わぬ限り、今の貴様らに危険はなかろう。

フン…残念だな、確かにこれではつまらぬただの観光旅行だ」

「何も無いならそれに越したことはないですよ」

と、ネギが言う。違う、エヴァは多少のトラブルならば問題なく対処できる、と言っているんであって、トラブルがないとは言っていない。

「それに…」

と、エヴァが私を見てつづけた。

「本物連中相手でも下位程度であれば千雨が対処できる領域だ…いざとなれば頼ってもよい…が、千雨、あまりぼーやを甘やかすなよ?」

「はい、心得ています」

「マスター!?千雨さん!?」

マスターの言葉と私の返事にネギが抗議するように叫んだ。

 

「ん?なんだ、ぼーや、また何か悩んでいるのか」

と、黄昏ていたネギにエヴァが言う。

「ええっ!?なぜそれを」

いや、みりゃわかる…がタイミング的に、さっきの選択の話か…?

「やれやれ、奴とは正反対だな。奴はくだらぬことでウジウジと悩んだりなどしなかったぞ」

と、お説教タイムが始まった…が、

「…だが…まあ、貴様は奴ではない…か。ま…またせいぜいうじうじ悩んで足掻いてくるがいいさ。貴様の足掻く様は嫌いではない」

と、エヴァは優し気に微笑んで説教を打ち切ったのであった。

「マ…マスター…」

 

パッキャァァァン

 

唐突にそんな音を立ててアスナを閉じ込めていた氷柩が砕け散った、さすがアスナである。

「はぁはぁ…死ぬかと思ったわ」

「おお、生きていたか。フツーなら10年は氷漬けの筈だが、さすがだな、アスナ」

「何ですってーッ」

と、講義するアスナの頭をマスターは撫でる。

「ハッハッハ、稽古とはいえよく私の顔に傷をつけた、褒めてやるぞ神楽坂明日菜。

…さて、そこでその兄弟子の先ほどの体たらくは何だったのかな?」

と、マスターのお説教タイム第二弾が始まるのであった…

 

 

 

早めに夕食を済ませ、夕食後の歓談もほぼ無しで部屋に戻った私たちは早めに床に就いていた。

「このベッドともしばらくお別れですねー」

「そうだな…8月に入ってからでも、体感時間にして数か月、ほぼこのベッドで寝ていたからなぁ…」

「寮で寝たの、片手で足りますからねー」

それもこれも、三位一体の闇呪紋の開発と、聡美の特訓によるものである。

「で、千雨さんー私、多少は強くなれましたー?」

と、聡美が答えにくい質問をしてくる。

「…一般人の自衛手段としては十分、と言うのが正直な所かな…」

「そうですよねー千雨さんの糸呪紋有りでようやく夕映さんやノドカさんに対抗できている感じですからねー」

呪紋の扱いにも慣れ…まあ多少は強くなったと言えなくはないが、夕映たちに比べればさほど、でもある。それでも、向こうのそこいらのチンピラよりは強いと言っていいだろうが…辺境のチンピラだと怪しい程度でもある。

「結構頑張ったつもりでしたが…こんな事ならば、合気術だけでもずっとしておけばよかったですねー」

「そう…だな」

正直、そっちの才能もあるとはいいがたいが、まあ継続は力なりとも言うし…もう少しはマシだっただろう。聡美は才能の殆どが頭脳に割り振られているのである。

「まーそんな事を言っていても仕方ありませんし…寝ましょうか」

「ああ…お休み、聡美」

「おやすみなさい、千雨さん」

そして、ウェールズ行き前、日本での最後の夜は更けていった…

 

 

 

翌朝、別荘から出た私たちは、エヴァに生活面での注意事項があるからという茶々丸を置いて先発し、超包子(五月に日程を話したらぜひ、と開けてくれた)で中華粥の朝食をとっていた。

「おいしいです、五月さん」

「お口にあってよかったです、ネギ先生…イギリスと魔法の国の旅行…お気をつけて」

「はい、ありがとうございます」

といった感じのネギと五月は別にして、他の連中はいつも通り大騒ぎだったが…早朝なんだからもう少し大人しくしろよな。

 

 

 

「ああ~~ん、なんやドキドキしてきたなー初めての海外旅行やー落ちたりせーへんやろなー?」

「オイ、縁起でもないことを言うのはやめろ」

「鉄の塊が空を飛ぶとゆーのがどーも信じられぬでござる」

「どこの原始人よ、あんたたち!田舎モンッ」

と、魔法使いアーニャが一般人に文明の利器のすばらしさ?を解くという不思議な光景を尻目に、アスナがチケットを配っていた。

「みんな、コレ、チケットねー後でバイトとかして半額払ってもらうからねー忘れちゃダメよ?」

なお、支払わなくてよい半額は、学園から支給された部費である。

その後もなんだかんだとワイワイ騒いでいると、ついに搭乗の時間がやってきた。

「よーしっ、それじゃあウェールズへ…」

「「「「「「「「「「「「GOーッ!」」」」」」」」」」」」

「馬鹿、ここはもう麻帆良じゃねぇんだからそんなに騒ぐなって」

尚、私の突込みは、無視された。

 

 

 

その後、飛行機は無事にロンドン・ヒースロー国際空港(イングランド)に到着し、ロンドン観光をしつつ、案内人であるメルディアナのマクギネスさんとの合流時間を待っていた…のだが。

「本当に来たよ、委員長たち…」

「やっぱりですねーネギ先生たちが捕捉されていたのは予想外でしたがー」

タワー・ブリッジでの自由行動時、再集合してみるとネギが委員長につかまっており、他の連中も続々と集結中だという事だった…まあ、同じく合流していたマクギネスさんいわく、許可はとってあるから問題ない、との事だったが。

 

 

 

そして、電車を乗り継いで到着したウェールズ、ペンブルック州の山間の町…メルディアナ

「わー」

「ここがネギ君の故郷!」

「来てよかったですわ…」

と皆、思い思いの反応をする…

「変わってねぇなぁ…とは言え、1年半も経ってねぇのにそうそう変わらないか」

「千雨さんがネギ先生と知り合いになった時ですねー」

「とはいえ…風景は季節で全く違うけどな」

前に来たのは2年生に上がる春休みである。そこでネギと知り合い、文通を始めたのだ。

 

「…で、どう、ネギ?久しぶりの故郷の感想は」

「その…ここを出たのはついこないだのハズなのに…もうずっと昔の事みたいでなんだか実感が…」

野暮な突込みをすると、半年ほどしかたっていないが、マスターの別荘利用を含めると1年超えている可能性が高い、ネギの利用履歴から計算したわけではないが。それに、高密度な体験をいくつもしているのであるし、仕方なかろう。

「…まあ色々あったしねーホンットいろいろ」

アスナが応える。

「にしても、何よあんた大人ぶっちゃって…もっと子供らしく…」

「ネギー」

そう、アスナが言った所で、ネギを呼ぶ声がした。

「ネギーッ」

それはネギの従姉のネカネ・スプリングフィールドだった。

「え…」

「ネギ」

「お姉ちゃん!」

と、ネギも鞄を投げ捨ててネカネに飛びつくように抱き合うと、ネギはネカネさんをグルグルと振り回し始めた。

 

 

 

そして、ネカネさんからの歓迎を受け、メルディアナ校内部も一部案内してもらったその夜…私達はアーニャに連れられて夜のメルディアナを歩いていた。

「アーニャちゃん、何処に行くの?」

「私たちの…私やネギの村人たちが眠っている場所よ」

「それは…いいの?」

永久石化とはいえ、あまりに高度で治癒の見込みがないソレの結果であれば…石像保管庫とでもいうべきだろうが、ある種の墓所に等しいのではなかろうか。

「いいのよ、みんなはネギに協力してくれているんだし…その権利はあるわ」

そんな会話をしながらたどり着いだ階段…それを一段一段静かにおりていくと、階下から会話が聞こえてくる。

「ネギよ…今日お前にここを見せたのはこの場所を超え、さらに先に進めるようにと願ってだ。

決してお前の小さな背に新たな荷を負わせようなどとは…」

「わかっています…一人で背負うなんて無理だし、意味がないって、それがわかるくらいには成長を…」

…してるか?多少マシにはなっているのかもしれないが。

「なーにが成長よ!?バッカじゃないの、なーんにも変わっていないクセに!」

「アーニャ!?」

「アーニャ…」

「これ、アーニャ、ここに人を連れてくるなど…」

「なーに言ってんのよ、おじーちゃん。この人達はネギに協力してくれるのよ。

私にだって、この人達にだってここを見る権利はあるわよっ」

そう言って中に踏み込んでいくアーニャ…彼女は空元気のような憎まれ口を叩きながら…彼女の母の石像の埃を拭くのであった…

この夜、この場所で私は改めて誓った。聡美をこのような結末に至らしめない…私もそうならない…そして、できる事ならば仲間たちもそうならないように守るのだ、と…

 

 

 

翌朝、マクギネスさんに引率され、私たちは朝もやの中、ストーンヘンジ様の施設に到着した。そしてのんびりと朝食を済ませ…武器類…携帯杖一本を除く…を預けるといよいよ時間がやってきた。正直な事を話すと、呪紋は埋め込んだままであるし、扇として使える鉄扇は持っていて良い事になったので、まあガバではある、解け、預けろ、と言われても困るのだが。

「いよいよですねー」

「ああ、いよいよだ…楽しみだよ、メガロ・メセンブリア」

などと聡美と会話をしているとネギと刹那の様子がおかしい。

「どうした、ネギ、刹那」

「いえ…ネギ先生が圧迫感のようなモノを感じると…私は何も感じないのだが…」

「…一応、監視の視線に近い感覚は感じるけれど…警備兵じゃねぇか?それとも、もっと危険な感じか?」

「はっきりとは…」

「マクギネスさん、この場に何か危険の可能性は…それと警備の方はいますか」

「危険?…まさか。野ざらしだけど、ここはその辺の空港より警備もチェックも厳重よ。

乗客に紛れて私服の警備兵もいるし…ここに入り込める曲者がいたとしたら…それは世界最強クラスの魔法使いか、あるいは人間じゃないわね」

そう、マクギネスさんは言い切った。

「向こうに行くのは初めてだし、緊張していたのかもしれません…多分気のせいですね」

「え…ええ」

と、ネギと刹那が言いよどむ…が、警戒はした方がいいかな?なんだかんだで、こいつは持っている。

「イヤ…念のため警戒を…それで何か予兆があれば非戦闘員組の保護に入れ…気のせいで済めばいいが、その逆は危険だ…施設の警備兵に怒られない程度に警戒はしておこう」

「え…あ、はい。お願いします。」

「では、私は楓に…」

 

カラーン カラーン カラーン

「時間です」

そう、マクギネスさんが宣言し、一同が賑やかになった…

 

カラーン カラー…ン

鐘の音のような音が鳴りやむと地面が光り始める。

「聡美、ネギが何かを感知したかもしれない…気のせいだといいんだが、念のためゲートポートを出るまで私のそばを離れないでくれ」

「?はい、わかりましたー」

よくわかっていない雰囲気の聡美を抱き寄せるようにしていると…巨大な光が私達を魔法世界へと運んだ。

 

 

 

 



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69 夏休み編 第10話 ゲートポートにて

「あれ?もう着いたんですか?」

と、ハルナ…まあ理屈は何時もエヴァの城で使っているのと同じだからな。

「ええ、到着よ」

「早ッ」

「ココどこなん?」

「ゲートポート…空港みたいな場所よ」

「いやーいいね、転送は!飛行機とは大違い」

「ホント楽だねー現実世界でも実用化しないかな」

「あそこを上がれば入国手続き前に街を眺められるわよ」

「おおっ」

「ホンマ!?」

「行ってきまーす」

「お先ー」

と、一同が騒ぎ始める。

「あの…千雨さん…私達も行きません?」

「あ、ああ…」

と、聡美に促されてテラスへと向かう…その前にネギと目を合わせて、頷き合って。

 

「おおーっ」

「わひゃー」

「おおお」

「すっ…ごーい!」

「うわぁ…」

「くうぅ~~~っいい!いいね!!さすがファンタジー!いやー来て良かった、コレが見たかったんだよねー」

「マンハッタンというより香港ですね」

「へぇ…やっぱりどこも同じだなぁ…リアルの匂いがプンプンするよ」

「何言ってんのよ、千雨ちゃん、アレ見てよアレッ!」

私の感想にハルナは興奮しながらクジラ型飛行船を指さす。

「クジラが空飛んでるじゃんか!他にもいろいろ」

「ありゃあ、現実世界で言う所のトラックの類だな…取り立てて騒ぐほどのもんじゃあないぜ」

まあ、技術的な意味では興味深いが。

「もー何でそんなに冷めてるかなーこのシニカル娘はっ、夢がないよ、若人のくせに!」

「ふん…まあこれでもエヴァの弟子を長年やっているんでね…こーいう性格なんだよ」

「あれー?千雨さん、エヴァさんに弟子入りする前後でそんなに性格変わっていましたっけー?」

と、聡美から突っ込みが来る…元々だったかもしれないけど、今はいいっこなしだろうに。

「アーうん…まあそれは置いておいて…知っていたつもりだったけれど、あの街並みを見てはっきりと分かった…こっちの世界には魔法はあるが、向こうと同じで夢やメルヘンはねーよ…希望は知らねーがな」

「…メルヘンがあっても困りますよ?魔法って言ったってただの技術ですし…地球と同じく、人の営みが紡がれているだけでしょう?そうでなければ世界大戦の英雄なんて生まれませんよー」

「うわーこの子らは本当に…」

そう、ハルナが呆れたように言った。

 

 

 

少ししていやな気配を明確に感じる。

「むっ…ネギが当たりかっ」

「へ?どうしました?」

「何かあった。ネギたちに合流する…みんなは少し離れてついてきてくれ」

と私は聡美たちが小走りで着いてこられる程度の速度で先行し、ゲートポートに戻ると雷撃が場を覆っていた。

「げっ…なんだアイツら…ネギが被弾…仮契約カードも杖もなくて治療ができない…そんなところか…」

「ち、千雨さん一体…」

「しっ…聡美たちは少し下がって隠れていてくれ…」

と、着いてきた聡美たちを少し下がらせる。

「千雨さんは…」

「戦うしかねーよ…だから隠れていてくれ」

「はい…ご武運を」

と、言った所で楓、刹那、コタローが敵に飛び掛かる…一番不利なのは…刹那か

 

魔法の射手 雷の3矢 固定 魔力掌握 精霊の歌・雷の射手の旋律・三重奏 三位一体の闇呪紋 発動

 

と、状況が状況かつ、携帯杖のスペックを鑑み、魔法の射手・雷の矢を装填する…正直、魔法の射手3本で下級精霊3柱より、上位精霊1柱を召喚する雷奏のソロの方が威力はあるのだが贅沢は言っていられない。

 

偽・断罪の剣・エンハンスド

 

跳躍し、呪血紋による断罪の剣…紋に専用の発動媒体系の機能も埋め込んでいるので使える…に微弱な雷を纏わせて刹那をすでに下した白髪の少年に切りかかる…が

「まだいたか」

反応され、手を翳されると切り結ぶ以前に、膨大な魔法障壁に切りつけたような手ごたえを感じ、離脱する。と、石の槍が私のいた場所を貫いた。

「へぇ?思ったよりやるじゃないか」

「あー鉄扇使いのお姉さん、お久しゅう」

と、コタローを片付けたファンシーな格好の剣士が切りかかってくる。

「月詠…」

「と、いう事は君が長谷川千雨かな?」

「そーいうてめぇはフェイト・アーウェルンクスか?」

「よそ見はアカンえ、お姉さん」

そう言うと月詠の剣技が鋭さを増す。

「彼女の相手は任せたよ、月詠さん」

と、フェイトは私を無視してネギたちと会話を始めた…私も真面目に月詠の相手をするのであればそれに関わっているどころではなく、せめて巻き込まないようにと少し離れた場所で月詠と戦い始めた。

 

「…あれからどんだけ強くなったんだよ、てめぇは」

近接戦闘技術も身体スペックも割と頑張って向上させたつもりだが、月詠の剣技はそれを上回る勢いで明らかに鋭くなっていた。

「またまたーお姉さんこそ、強うなってて嬉しいわー」

暢気に会話などしているが、ただ逃げ惑うだけならともかく、抑えていられるのはこの月詠だけで手いっぱいである…し、多分こいつまだまだ遊んでいる…絶体絶命である。様子を見ているほかの奴が参戦してこなくともこのままでは月詠が飽きたら殺られる。

 

魔法の射手 雷の3矢

 

「あはは、可愛らしい魔法や事…まともな発動媒体あらしまへんの?」

月詠が小刀で魔法の矢を切り払い、煽るように言う。

「そーだよ…私の発動媒体は封印箱の中だよ、わりーな」

「アハハ、西洋魔法使いやのにうちとこれだけやり合えるお姉さんの全力…是非味おうてみたいなぁ…」

月詠が頬を赤らめてそう言う…

「まったく…戦闘狂が」

「お姉さんこそ…剣合わしとればわかりますえ、貪欲なまでの力への渇望が!」

「てめーらみたいな危険人物が闊歩しているこの世界、力を求めて何が悪いっ」

「別に悪うあらしまへんけど…うちみたいなんに狙われとう無かったら力をつけるよりも縮こまってガタガタ震えてはる方が安心どすえ?」

そんな軽口を叩きながら互いに時間を稼ぎ合う…状況の好転を祈る私に、私を抑えて楽しく死合えればそれでいい月詠の思惑が重なって…せめてバングルかその代わりになるような呪紋の再施術時間がなければ月詠に勝つのは無理である。

 

バキンッ

 

そんな音が響き、直後、仮契約カードや発動媒体がまき散らされる…

「おろ…お姫様の力で封印箱が…」

「よし…すぐ戻るからちと外すぞ」

「お仕事ですし、逃がしまへんえ」

と、月詠の明らかに手を抜いた攻撃をかいくぐりながら自身と聡美のバングルを回収、糸でかっさらった木乃香とアスナ以外の仮契約カードを持ち主に投擲していく…

「もうよろしおすか?」

「応、ありがとうな…それじゃあ…ヤろうか」

バングルをはめ、私は言った。

「あぁぁ…楽しみやわぁ」

「ノイマン・バベッジ・チューリング 拡散・白き雷」

「あはは、魔法アリになってお姉さんえろうキラキラしはって、楽しゅうてしゃあないわー」

楽しそうに斬りかかってくる月詠を、後退しつつ、断罪の剣でいなしながら準備を整える。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 高殿の王 我に力を 雷の招来」

 

魔力開放 終演 精霊の歌・雷の射手の旋律 三重奏

魔力掌握 精霊の歌・雷奏 三位一体の闇呪紋 発動

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 嵐の女王 我に力を 風の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷と風の二重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填

 

「うふふ、ほんに美味しそうやなぁ…お姉さん…行きますえ」

「こっちこそっ」

流石に三重奏まで待ってくれる雰囲気ではなかったので、二重奏で切り結ぶ…殺意を込めて。

「あぁん、お姉さん、それや、この瞬間がたまらへんのや…うち、軽うイッてまいそうや」

そんなふざけた事を言いながらではあるが、月詠の剣技はさらに鋭さを増していく…こいつの底はどこにあるんだよ。

「そうかい!ならば逝ね!」

「アハハ、お姉さんこそー綺麗な血花を見せて欲しいわー」

いつぞやの様に、障壁と三位一体の闇呪紋の気によって防げているが、掠り傷のなりそこないを互いに浴びせながら切り結ぶ。剣技の不利を底上げした身体スペックと無詠唱・魔法の射手を始めとした魔法で補い、何とか拮抗させている…が、いやそうじゃない、と断罪の剣を解く。

「おろ?どないしはりましたん?まさか降参…な訳あらしまへんなぁ?」

「いやーフェイトとやらに切りかかってからついつい勢いで断罪の剣で戦っていたが…お前の相手はこっちのほうがよさそうなんでな…」

と、鉄扇を構える…月詠相手ならば断罪の剣よりも鉄扇がいい。

「あぁ…そらそうやわーお姉さん鉄扇使いやもんなー」

それじゃあ仕切り直し…となる寸前、こんな声が聞こえてきた。

「月詠さん、撤収」

「えーいよいよこれからやのに殺生なぁ~」

と、月詠が切なそうに声を上げる。

「えーじゃない、帰るよ」

「う~わかりましたー雇い主さんの指示やし従いますーという事でお姉さん、名残惜しいけどまたこんど殺り合うてなー」

と、月詠は敵パーティーに合流していった…すごく残念そうな雰囲気で。という事で、私も展望台への階段に向かう通路に隠れていた聡美たちに合流した…

 

「冥府の石柱」

直後、フェイトの召喚した石柱が場に降り注ぐ…

「げっ…こっちは範囲から外れているけど…」

「皆さんがやばいですねー…どうしましょう」

「私達では手が出せません…」

「私のアーティファクトでもきついかなぁ…」

とかやっていると、ゲートの要石が砕け散り、私たちの足元に魔法陣が浮かび上がる。

咄嗟に、聡美を抱き寄せて私は叫んだ。

「はぐれないように、互いに掴まれ!強制転移魔法だ!」

それが間に合ったかどうか…それを知るのは大分先の事になる。

 

 

 

そして直後…私たちは密林の中に立っていた。

「千雨さん…」

「聡美…」

とりあえず、聡美と逸れるという大惨事だけは避けられた様子である。

「これからどうしましょうか…」

「とりあえず…バッジの機能で位置検索しようか」

「アーそれがありましたねー」

という事でバッジ探知を行ってみたのだが…

「北西に1つ、南東に2つ、それぞれおおよそ100km…にさらに遠方に幾つかの反応、ですかー」

「ああ、とりあえず北西の一つと合流して南東の2つと合流、5人で次の反応を追おうかと思う」

「ムム…確かにそれがよさそうですね…ですが…多少体力がついたとはいえ、100kmはきついです」

「そうだな…お姫様抱っこで運ぶって言うのは…?」

「その…体力が切れたらお願いします」

「うん、それじゃあ、行こうか…夜になったら力の王笏使って電子精霊に星で現在地を照合させよう」

「はい」

そういう事で、私たちの行動方針は決まった。

 



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辺境編
70 辺境編 第1話 ケルベラス大樹林とヘカテスの街


「千雨さん…そろそろお願いします」

「ああ」

そう言うと、私はバッジの反応を探知する。

「…うん、ほとんど動いていない、多分、星で位置確認をしてから動くつもりだろう…あと半分って所だ、北西の反応と合流して今晩は休憩…南東の反応に向けて再移動だな」

と、方針を確認すると、聡美を荷物ごと抱っこして私は駆けた…聡美が戦いの歌を使用して移動し、魔力が減ってきたら私が抱えて大移動、魔力が回復してくれば…というペースで移動している。とはいえ、この密林の事だ、日暮れまでに北西の反応と合流できるかは微妙だったりする。

 

 

 

「おろ?なんか反応が急に近付いてきていたと思ったら千雨姉ちゃん達か」

「コタロー、お前か」

「コタロー君でしたかー」

夕暮れ、かろうじて私達はバッジの反応と合流することに成功し、それはコタローだった。

「何だ…お前だったら後回しでも良かったな」

「なんでやねん」

とコタローがべしっと突っ込みを入れてくる。

「いや、バッジの探知術式起動できるの、私、茶々丸、ネギ、コタロー、刹那だけだから、南東の反応に向かった方が良かったかなと?」

「アーそう言うことか…ならええわ…で、今日はとりあえず俺の用意した夜営場所で休むんでええか?三人分は使える寝床確保してあるで」

「助かりますー」

という事でコタローの用意した寝床…洞窟に落ち葉を敷いただけだがただの地面よりははるかに良い…に向かった。

「とりあえず晩飯やな…喰えそうな木の実と小動物の肉は確保してあるけどそれでええな?」

「そうだな、一応私たち二人分の荷物に非常用のカロリーブロックと飴は用意してあるけど…とっておこう」

「…はい、千雨さんの判断でしたら…」

まあ、せっかく食料を用意できたならそっちから消費する方がいいに決まっているのだ…メンタル面はともかく。

 

「で、明日はどうする?」

食事と水の補給を済ませ、魔法世界の星図・地図と照らし合わせて大まかな現位置…ケルベラス大樹林の東端…が判明したので焚火を囲んで明日の相談をしていた。

「んーコタローに私たち二人分のリュックを任せられるならずっと聡美を背負って移動はできる」

「そうやな…移動の方法はそれが一番合理的やろうな、ハカセ姉ちゃんもそれでええか?」

「はい、お二人が大丈夫なのでしたら…でも、私もある程度は歩けますよ?」

「あー今は移動速度を重視したい…合流してからは歩いて貰うかもしれないけれど、明日は私に背負われていて欲しい」

「…はい、ではお願いいたします」

「んで、や、南東との合流は向こうが動かへんか、ヘカテスに向かう前提やったら、夜営準備込みで明後日の昼頃合流になるんちゃうかな」

「そうだな、逆に向こうにバッジの探知ができる奴がいてこちらとの合流を試みる様なら…ネギか刹那か茶々丸が向こういるんだから…多分、明日の夕方ごろに合流になるだろう」

「そんなもんやな…どっちゃにせよ、南東の二つのバッジの反応に向けて昼頃まで進んで、昼休憩の時に詳細詰めよか」

という事になり、その日は私とコタローが交代で火の番兼警戒と仮眠とをしながら夜を明かした。

 

 

 

「…動きとしては私たちの方に向かっている、みたいだな?」

昼の大休止時、バッジの反応をたどって私はそう言った。

「そうやな、朝の探知方向にまっすぐ向かって方位変わらず…やな、反応も二つとも離れとらんし…問題はなさそうや」

「そうなると、どなたでしょうかー片方が茶々丸、ネギ先生、刹那さんだとすれば…」

「楓姉ちゃんや、フェイ部長とはちゃうな、多分アスナ姉ちゃんでもない」

「まあわかるのはそれくらい…だな、後、探知可能組のペアにしては遅すぎるし、な」

 

「さて…そろそろ行こか」

昨晩確保してあったあまりおいしくない果実と飴玉の昼食を済ませ、疲れも取れた頃、コタローが言った。

「はい、すいませんが、午後もお願いしますね」

 

 

 

「おかしい、動きが無さすぎる…」

「そうやな、昼の大休止からほとんど反応が動いとらん」

私とコタローがそんな会話をしたのは日が傾きかけた頃の事だった。

「どうする?夜営準備をするか?強行軍で向こうに合流するか?」

「ビミョイな…状況がわからへん…身一つやったら強行軍やけど…ハカセ姉ちゃんがおる、夜営準備は欠かされへん」

「ああ、私も同意見だ」

「わ、私は大丈夫です」

「イヤ…一応安全を確認した洞窟か何かがあらへんと守る方が心配やねん…よし、中間案にしよか」

「と、言うと私かコタローがバッジの反応に急進、もう片方が聡美と夜営準備…か?」

「そういうこっちゃ、まあ千雨姉ちゃんがハカセ姉ちゃんのそば離れたくないんはわかっとるから、俺が行ってくるわ…万一応援が必要なら引き返してくるし、必要なさそうやったらそのまま向こうと合流して、明日、向こうで再合流ってのはどうや」

「そうだな…バッジの反応で状況が読めるのは助かる」

「それじゃあ行ってくる」

「頼んだ、コタロー」

そう言って、私たちはコタローを見送った。

 

 

 

「あの…千雨さん…私…重荷になっていませんか?」

「んー?羽のように軽いよ、と言う所かな?ここは」

と、火を囲んで深刻そうな顔をする聡美に私はそんな冗談で答えた…実際、咸卦の呪法で強化された肉体には聡美の体重位、大した負荷ではない。

「そうではなくて…やっぱり私は足手まといなんだな…と…千雨さんとコタロー君の選択肢を狭めてしまって…」

「なあ、聡美、ちょっと来てくれるか?」

「…はい…へっ?」

と聡美を膝に乗せた。そして聡美を軽々と持ち上げて見せる。

「今までさんざん聡美を泣かせて手に入れた力なんだよ、これは…だから…せめて今度は守らせてくれないかな?聡美と…その笑顔をさ」

「あ…うぅ…その…よろしくお願いします…と言ってもいいんですか?」

「ああ、むしろ言って欲しい、私を頼って欲しい…というか、聡美とあんな経緯ではぐれていたら、きっと私、発狂しそうになっているからさ…一緒にここに飛ばされてよかったよ」

「私も…です…きっと心細くてどうしていいか、わからなかったと思います…」

「だから…ずっとそばにいてほしい…こっちでも、さ」

「はい…よろしくお願いします…ずっと一緒です」

そう言って抱き着いてくる聡美の頭を暫く撫で続けた。

 

 

 

「さて、行こうか」

「はい…今日は初日の移動方法でいいんですよね?」

「ああ、コタローも向こうにいるままだし…この移動方法でも昼前には合流できるだろうからな」

何より、リュックサック二つ分の荷物を持つのが物理的に大変なのである…抱っこ続きだと聡美にも負担が大きいし。

といった具合で夜明けと共に野営場所を出発したのだが…大体10時頃…小高い場所から位置確認をしていると、コタローたちの推定位置から凄まじい魔法戦闘の光景が見えてきた。

「あ、あそこってコタロー君たちのいる場所では!?」

「の…はずだ…で、あの魔力は…多分ネギのだ」

長距離探知ではあるが…すごく、コタローの気力とネギの魔力とそっくりである。

「えぇ…いったい何が…」

「状況がわからん…少し急ごう…ここからずっと抱っこで行くぞ」

「はい…急ぐんですもんね」

という事で、私達は3つのバッジの反応に向かって急進することになった。

 

 

 

現場に到着するとコタローとネギ、そして茶々丸がいて談笑をしていた。

「…で、何があったのか説明してくれるかな?」

尚、特に敵らしきものが去っていない事、敵の残骸らしきモノがない事は確認済みである。

「アーえーっと…ネギ、お前の事や、お前、説明せぇよ」

「あ…えっと…コタロー君が見立ててくれたんだし、コタロー君が…」

となぜか説明をしたがらないネギとコタローに私はしびれを切らして…というか迅速な状況確認のために茶々丸に問う事にした。

「…茶々丸、何があった、昨日の昼頃の移動を停止したあたりから説明してくれ」

「あ、はい、説明いたします」

茶々丸の説明によると、ネギと茶々丸はネギが体調不良を抱えた状態で昨日昼前に現地点に到着、そして虎竜(仮称)に遭遇して戦闘、ネギは体調を悪化させて倒れた。そこで茶々丸が何とか虎竜を撃退して、ネギが起きた後に茶々丸に魔力補給…が終わった頃、日暮れすぐにコタローが到着した。その時点では、ネギの体調は一時的に回復していた。(結果論だが、魔力補給をしたからだろう)

 翌日、私達を待つために体術の朝練を実施…後、遅めの朝食時にネギが倒れ…どんどんネギの体調が悪化していく。少しした後、コタローが突然ネギを挑発し始め、戦闘に突入…理由はネギの体調不良の理由がコタローの見立てでは余剰魔力の暴走だったから…で、見立ては正しく、ネギは体調を回復させて談笑をしていた…という事らしい。

「…わかった、で、コタロー、単純に魔法を空に放たせなかった理由は?」

「…せっかくの手合わせの機会やし、熱に浮かされてウジウジしとったネギにむかついたからや」

「で、ネギもそんな理由で戦闘になって心配かけたのが恥ずかしかった、と」

「はい…スイマセン」

「はぁ…いや、謝らなくていい、理由が理由だ…怒りはしねぇさ…ネギも病み上がりらしいし、ここはキャンプ地によさそうだ…今日はここでゆっくり休もう」

「あ、でも、東のバッジの反応の人と合流しないと」

と、ネギが言う。

「悪いけれど、私は今から強行軍しても距離を稼げねーよ…それより、今日は休息と食料確保に充てて、明日からの行軍効率を上げた方がいいんじゃないかと私は思う」

「そうやな…昨日、千雨姉ちゃん寝ずの番してたんやろ?今日はゆっくり寝ても罰は当たらへんで」

「そうですね、食料を確保しておけば明日以降の行軍に充てられる時間が増やせるかと思います」

「私は皆さんの判断に従いますー」

「わかりました、でしたら食べられそうなモノを集めてきますね、千雨さんは仮眠をとっておいてください」

と、ネギが森に入っていこうとする。

「アホ、お前も休息組や…病み上がりなんやからな…」

コタローが呆れたようにそう言った。

 

 

 

湖畔で休息をとった日から数えて四日後の昼前、約3日と数時間で私たちは目的地へと到着した。

「やっと着いたな、ヘカテス」

「ええ…バッジの主も昨晩の内に街に到着したようですね」

「さ、それよか何か食べようや」

「そうだな…そこらの屋台で何か食うか…って金は?連合のドラクマ貨って通じるのか?」

「大丈夫です、この辺りは連合共通貨も帝国共通貨も通用するはずですので」

という事で事前に両替していたメガロ・メセンブリア発行のドラグマ貨を使って私たちは早めの昼食を頂くことにした。

 

『お昼のニュースです』

屋台で買った丸パンをかじりながらどうやってメガロ・メセンブリアに連絡を取るかというような話をしていると、街頭テレビのようなものからニュースが流れ始めた。

『6日前、世界各所で同時多発的に起こったゲートポート魔力暴走事件の続報ですが、各ゲートポートでは依然魔力の流出が続き、復旧の目処は立たず、旅行者の足にも影響が出ています。

また、依然犯行声明もなく、背景が全て謎に包まれたままのこの事件ですが、メセンブリア当局より今日新たな映像が公開され…』

と、ニュースキャスターが原稿を読み上げている…そんなに大規模なテロだったのか…フェイトの一味のやった事は…と思っていると

『実行犯の一人ともみられるこの外見上10歳程度の少年に見える人間に懸賞金付きの国際指名手配がなされました』

そう言って画面に表示されたのは…ネギの顔写真と30万ドラクマという賞金であった。ネギの方をちら見すると、コタローがフォローに入っていた…私もフードを深くかぶりなおす。

「こ…これって」

「聡美、茶々丸、顔を隠せ…」

この展開から行って、賞金首がネギ一人な訳はない。

「コタロー、こういう展開はお前のが慣れているだろう、どうする?一度街を出るか?」

「いや…この雑多感から言ってすぐに街を出る必要はないやろ…早めに変装はせんとマズイやろうけどな」

「なら…バッジの主と合流して一度町を出るか裏路地に隠れて全員変装。指名手配の範囲を確認する…でどうだ」

「それでええと思うわ、千雨姉ちゃん」

「…茶々丸、バッジの反応は?」

呪文の詠唱がいらない分、茶々丸が一番バッジの捜索役に向いている。

「探しています…発見…む…これは…かなり近いです」

「本当ですか」

「距離わずかに50メートル、この路地の突き当り、あの酒場と思われる建物の前」

「ハイッ」

と、ネギが駆け出す…が見知った姿は誰も見られない。

「おい…まさか…」

「ええ…」

「そんな…」

ネギが見つけたのは、地面に落ちた、白き翼のバッジだった。

 

 

 

「はぁーあまりよくねぇ展開だな…」

「便利バッジも落としたら意味ないわなー」

「捕り物があった様子がないのが唯一の良いニュースですねー」

「んで、探すまでもなく飛び込んできた情報によると…だ、ネギほどの額じゃないが他の皆にも賞金がかかっている。賞金首だぜ?全員足してもマスターの賞金額にゃ到底及ばねぇにせよ、だ…裕奈やまき絵達にかかってないのは不幸中の幸いだけどな」

そう言って私はバラまかれていた賞金首のチラシをひらひらとする。

なお、戦闘員組は私を含めて一律3万ドラクマ、非戦闘員組は聡美を含めて1万5千ドラクマだった。

「みんなまで…みんな…僕がもっと…」

「…ネギ、コラ、ネギ!」

ネガティブモードに突入しかけたネギをコタローが叱責する…アスナの代わりもできるな、こりゃ…ブレーキ役は別に必要にせよ。

「え…」

「せっかくできのええ脳みそがまぁた同じトコ周り始めとるやん…

こないだの話忘れたんか!?お前に足りひんもん」

詳しくは聞いていないが、湖畔でネギの魔力抜きをした時の話だろうか。

「でも、こんな大変な状況なんだよ、みんなが…」

「せやから言うて悩んで状況改善するかいな、ダァホッ

あいつらなら大丈夫や、この程度の状況切り抜けられる、そう信じたれや」

「で、でもそんな…何の根拠もなく信じろなんて…ッ、どんな目に遭っているかもわからないのに」

「根拠もなしに信じられるんが仲間言うんちゃうんかい、知らんけど」

せっかくのコタローのカッコイイセリフ、知らんけど、で台無しである。

「せっかくの頭、もうちょい生産的に使うてんか?」

青臭いやり取り…少しだけエヴァの気持ちがわかったような気がする

「フン…それじゃあ一度状況の確認と行こうか」

マスターのように鼻を鳴らし、私はそう始めた。

「何の因果かハメられて私たちは賞金首のお尋ね者だ―

こっちから捕まりにいってメガロ・メセンブリアまで連行してもらった上で身の潔白を訴えるって手もあるが…

これは賢明じゃないだろうな」

「せやな、既にハメられとる以上…潔白を証明できる保証はあらへんな…」

「というか潔白を証明も何もー証言以外に何の証拠もありませんしー」

「…というわけで捕まったらそれでオシマイって事もあり得るな、少なくとも夏休み中には帰れんわ」

「同じ理由で、治安組織や連合の出先機関に助けを求めるのもなし…って事は結局…

私達は自力で仲間を捜し出し…自力でマクギネスさんかだれか信頼できる人間の許までたどり着くか…自力で現実世界…こっちで言う所の旧世界まで戻るしかなさそうだ…

これがまあ、基本方針…まあ、麻帆良やメルディアナとの連絡が回復して学園長が助けてくれるっていうのも祈る位はしてもいいが行動指針じゃねぇな…って事で、どうだ?」

「まあ、俺らが取れる行動ちゅう意味では当面その辺りやな」

コタローが私のまとめを肯定した。

「じゃあまずは手近なコレ…このバッジについてだが、

このバッジの持ち主、つまり私たちの仲間の一人がまだこの街にいる可能性は高いと思う」

「なんでや?」

「この街は見たところ5キロ四方くらいだろ、十分カードの通信圏内なのにいまだ応答がない、つまりパートナーの6名じゃない。

また、バッジの追跡からこのバッジの主がこの街に到着したのは昨晩だ…楓やクーにしては足が遅すぎる…

って事で、このバッジの持ち主は恐らく朝倉だという事になるわけだが…」

「確かに朝倉さんなら危険な街の外へ戻るとは考えにくいですね」

「まあ、なんにしろ、まずはこの誰かと合流したい所だが…さてどうするか…私達も相手もお尋ね者…大っぴらにゃ探せねぇのが問題だ」

「動きづらいな…」

「まあ、私はエヴァ直伝の変装魔法があるにはあるが…」

「そうですね…それで変装して賞金稼ぎの振りをして聞き込みをしましょう…僕も薬の方は持って来ていますし、製法も習っていますので補充もできます」

ネギの一声でそういう事になった。

 

 

 

「こんな感じで良いか」

と、私は眼鏡を外し、髪を下ろして狼の耳と尻尾を生やした+10歳程度の成人に化けてみた。

「千雨さん、大人方向なんですねー」

「幼女3人は多いかと思ってな…それに戦う事を考えたら幼女より成人の方がいい」

「なるほど…私も狼耳ですしー娘ってところですかねー」

「…それやると最悪、コタローが父親役なんだけどな…?」

「ムム…それは困りますねー」

「オイ、俺はまだそんな年ちゃうぞ」

意図せず漫才をしているとコタローが言う。

「じゃあ、千雨さんが上のお姉さんでコタロー君がその下のお兄さん、私が一番下の妹って事で」

「…まあ一応必要やったらそう言う設定にしとこか」

何かそういう事になったらしい。

「じゃあ、行きましょうか」

そうして、私たちは酒場に繰り出していった。

 

 

 

ネギを先頭に酒場に入った私たち達は周囲に警戒されながらカウンターに座った。

「ミ、ミルクティー」

と、ネギ

「コブ茶」

これはコタロー…舐められると言っていただろうに…まあ酒飲むわけにはいかないのはわかるが

「宇治茶」

そして、茶々丸が堂々とそれに続いた。周囲が笑いに包まれる。

「…私はコンクラーベを、この子には」

「シンデレラをお願いしますー」

と、私たちはカクテルを頼む…まあ、ロボ研関係のお付き合いで覚えたノンアルコールの奴だが。

そして、それに対して笑ったのはノンアルコール・カクテルだと理解している奴、遅れて笑ったのは教えてもらった奴だろう、どうでもいいが。

「あの…ちうさん…飲酒は…」

「いえ、問題ありません…どちらもノンアルコールです」

ネギの懸念に茶々丸が代わりに応えた。

 

「失礼ですが…」

と、オーダーが揃い一口飲んだ頃合いにネギがバーテンダーに言った。

「この写真の中で見かけたやつはいませんか?昨晩向かいの通りとかで」

と、ネギはクラス名簿を提示した。

「なんだいコリャ、ああ、さっき発表のあった賞金首だね?」

「見ませんでしたか?特に右のアサクラという人は…?」

「ハハハ、バカだね、こんな賞金首、心当たりがあったら私が捕まえに行っているよ」

「そ…そうですよね」

まあ、当然っちゃ当然な会話を聞きながらカクテルを飲む…まあいい腕だ。

「おいしいですねー」

聡美も同様の感想らしい。

 

…という事をやっているとネギに近づく気配があった…ケンカを売りに来たかな?

「よう、兄ちゃん」

「え」

「その面が気に食わねぇ、一発殴らせな」

…その禿のマッチョが口にした言葉は予想以上だった。

「ええーッ!?そ、そんな突然ー!?」

「ずいぶんな無法地帯やな」

と、コタローが笑う。

「はっはっは…いきなり殴りかかってないだけマナーはあるんじゃねぇか?」

と、私も笑う…

「聡美、茶々丸、来るぞ」

「「はい」」

「問答無用!」

と言った所で禿マッチョがネギに殴りかかり、ネギが避けたのでカウンターが粉砕される…私たちは飲み物を手にもって観戦である。

「理由もなく殴られませんよ」

「ハッ、昔てめぇみたいなツラのバカにコテンパンにのされたことがあってよ、以来赤毛の優男見ると条件反射でなぁ」

「えっ」

「父さん!?父さんのコトですか!?」

オイ、バカ、と突っ込みを心の中でだけ入れる。口に出すと余計厄介だ。

「あぁん?あいつにんなデケェガキがいたなんて話は聞かねぇぞ」

「へー」

「やっぱり有名なんですねー先生のお父さんー」

「ぬっこの…ちょこまかと…」

とかやっている間にも戦い…というか禿マッチョのジャブをネギがいなす展開は続く。

「やるねぇ、あのガキ」

「ああ、しかし相手が悪かったな、バルガスはあの図体で高位の魔法使いだ」

と、ギャラリーの会話…なるほど、あの禿マッチョ…バルガスとやらがネギの修行にちょうどいい相手…位だといいんだがな?

…まあ、あの拳捌きから逆算すれば並の魔法騎士位には強いだろうが、期待は薄い。

「いいだろう、俺に本気を出させたな!」

と、バルガスは戦いの歌の上級、恐らく戦いの旋律クラスを無詠唱発動させた。

「さらに修行を重ねた俺は、見事な瞬動術の使い手でもある!その滑らかさはもはや縮地レベル!」

その実演に私はバルガスの評価を一段上げる…が、実演する辺りが個人的にはマイナスだったりする。

「さらに…」

と、魔法の射手を溜め無しで5本、それも土属性の応用、砂で展開して見せた。

「おおっ無詠唱5本!魅せるねぇっ」

「バルガス、腕を上げたな」

「全方位から狙い打てる砂矢5本に瞬動術!あのガキ終わったな!」

沸くギャラリーに反して、だからなぜ実演するんだ、という突込みを内心入れる…まあ舐めプとギャラリー受けだろうが。

「へー」

「大丈夫なんですかーアレー」

「…事前実演無しなら通った可能性はある…が、アレが全力なら問題ないなぁ…」

私たちは小声で会話を交わしながら観戦を続ける。

「ハハハ、悪ぃな兄ちゃん!一発喰らってもらうぜ!」

と、バルガスがネギに殴りかかった直後…

 

ズンッ

 

と音を立ててネギのカウンターがバルガスの腹に決まり、バルガスが床に倒れ伏した。

「あ…ス…スミマセンッ…強かったので加減ができず…」

と、ネギが申し訳なさそうに言った…

「…それは二重に悪手だ」

まず、あれだけの本気で殴りかかってきた相手にその腑抜けた心持…まあ殺せとは言わんけど、謝るな、と言うのが一つ。もう一つは…

「てめぇっよくもアニキをっ」

「やっちまえーッ」

そんな弱者に対するような態度をとると周りも引くに引けなくなる…次はお前らか?位威圧しろ…

と、私は呆れかえりながらバーテンに言った。

「バーテンさん、シャーリーテンプルを」

「あー私も同じのお願いしますー」

「はいよ」

そして楽しそうにケンカに混ざっていったコタローとネギとがバルガスの舎弟たちをのしていくのを肴にお代わりを飲むのであった。

 




状況から考えて、現地通貨を1週間観光で滞在する分は持っていないと変ですし、朝倉の格好やいきなり街で買い食いしている辺りからして先立つものは持っていたという事で。まあ、現地両替のつもりでポンド・円ないし貴金属の可能性もありますが(



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71 辺境編 第2話 拳闘士への道

「すみません、お店を…」

「いつものコトだ、あいつらに弁償させるからOKさ。

しかし君達若いのに強いねえ、おじさんも昔を思い出しちゃったよ」

「え、あ、あのそれって…父さ…」

と、ネギは父親の事しか頭に内容ではあるが、当然バーテンの言葉は違った。

「君達、拳闘士でもやってみちゃどうだい」

「拳闘士?」

「ああ、君達くらい強けりゃガッポリ儲けられるだろうよ」

まあ、資金があって困ることはないが…今欲しいのはそれではない。

「金なんかどうでもええ、欲しいのは情報や、何か思い出さへんか?」

と、コタロー…一応のロールとしては賞金稼ぎのフリしているんじゃなかったかな?私達は。

「ああ、うん、思い出したよ。賞金首じゃないけど、このコがね、水を貰いに来たから気前よく…」

「ホントですか!?」

「誰や!?」

と、食いつくネギたち…しかしバーテンが指した写真は予想外のモノだった…

「このコだよ、そばかすが可愛いコだった、間違いない」

「へ…」

それは村上のモノで…密航者としてもゲートポートで確保されていなかったはずなのだが…どこで紛れ込んだんだ、あいつ。

「ああ…確かに前の通りで男たちとモメてたかなあ…他にも女の子がいたか…その後、馬車に乗り込んで…奴隷商人にでも捕まったんじゃなきゃいいんだが…」

「「「「「ええ~っ!?」」」」」

私たちは、思わずそんな声を上げるのだった。

 

 

 

その後、店の片づけを手伝った後、夕方まで時間をかけて情報収集をし、酒場で夕食をとりながら情報を統合・解析した結果、村上を含む数名の少女が奴隷商らしき一団に連れ去られた、行先は南の港街グラニクス。ただ、そのうち一人が病気のようでもあったという情報もついてきた。

「さて…どうする?」

と、コタロー

「行くしかないでしょう!」

と、ネギ

「だな、でかい街ならバッジの持ち主もそっちに行っている可能性はあるし…

何より私たちの仲間が奴隷商なんて奴らに捕まっているてんなら…悩んでいる暇はないだろ?」

「ハイッ」

「はぁ~~しっかし、夏美姉ちゃんまで巻き込まれとるとは…ま、嘆いてても始まらんな、行くで!」

と、会計を済ませて席を立つ。

「もう発つのかい、店の修理手伝ってくれてありがとな」

「何の、マスター、飯、旨かったで、サンキューな」

「グラニクスはここよりデカくて治安も悪い、気をつけてな」

そして、私たちは店を出て…グラニクス行きの夜行船に乗り込んだ。

 

 

 

翌日、グラニクスに到着した私たちは情報収集の結果、明朝に移民管理局を訪ねるべきであるという結論に至った…あまりよくない結末ではあるが、ここグラニクスでは奴隷の需要が十分にあり、グラニクスで働く正規奴隷として登録されているのであればそこに行けばわかる筈だという事が判明したからである。あるいは、単にここの住民として登録されている可能性も含めて。

「なんだかんだでやっとまともな寝床が使えますねー」

「そうだな…村上達には悪いが今晩はゆっくり休もう…夜通し調査というのもきついからな」

移民管理局を訪ねるべきだという事がわかったのが夕方、その時点で窓口は閉まっているという事がわかった為、まずは宿をとる事になった私達であった。

尚、部屋わけはフツーにネギとコタロー、私と聡美と茶々丸、である。

「あの…私もベッドを使って本当によろしいのですか?」

「ああ、椅子でも大丈夫なのはわかっているけど、気分があるだろ?おいで」

「うんうん、川の字になって寝よ、茶々丸」

「あ…はい、ハカセ、お母様」

そして、その晩はなぜか私を真ん中にした川の字で寝る事になった…私は娘の茶々丸を真ん中に、と言ったのだが…

 

 

 

そして翌朝、朝一番に移民管理局を訪ね、問い合わせ…村上、大河内、亜子、まき絵、裕奈に関して…を入れ、出た結果は…

「ムラカミナツミ、オオコウチアキラ、イズミアコの登録はありました。そしてその三人はすでに正式な奴隷です」

という回答だった。その回答に当然コタローはブチ切れるが、3人は3日前からドルネゴスとやらの債務奴隷…それも3人で100万ドラクマという大金で…となっているという詳細を告げられただけであった。そして話が殴り込みという方向になりかけた時…

「フフ…殴りこむねぇ、それはあまり賢明じゃないんじゃないかな、コタ君」

私が止めるより早く、コタローたちを制止する声があった

「誰や?」

「流しのお姉さんのお話、ちょっと聞いてった方がいいと思うな~」

そこにいたのは、バッジの主であろうと推測されていた朝倉だった。

「あ…」

「よっ」

「ん、和美姉ちゃんか、話は向かいながらでもええか!?」

「うん、徒歩でよければ、ね」

 

 

 

移動中に朝倉と共有した情報は私たちがヘカテスで得た情報の補強と…三人を奴隷にした人物、ドルネゴスについて…単純にいうとドルネゴスは幾つかの闘技場を経営したりしている有力者であり、違法に奴隷を奪うなんてすれば色々とマズイことになる…という事だった。

「…となると…今日は面会を求めるくらいで…対策は後々、って所か?」

「そうだねぇ…少なくとも拙速な強奪はマズイ」

「チッ…とにかく、夏美姉ちゃん達の無事を確認しに行く、ってのはええんやな!?」

「それは大丈夫…だから行くのは止めなかったのさ」

という事でドルネゴスの経営する闘技場の一つ、村上達が働いているという場所に到着した。そこで面会を求めると…奴隷長だという熊獣人が現れた。

「何だい、あんたたちは」

「僕たちは村上夏美、大河内アキラ、和泉亜子の知り合いで…偶然彼女たちの現状を知って訪ねて来たんですが…面会できないでしょうか」

「ああ、あの子たちの…まあいいだろう、ついておいで」

と、割とあっさりと面会は認められて、今、開店準備をしているというテラス席に案内される…途中

 

ガシャーン

 

「「今のは!?」」

と、ネギとコタローが駆け出していく…

「すいません…落ち着きがなくて…」

「いいんだよ、知り合いが急に奴隷になっただなんて知ったら心配するのは仕方ないさ、私達も急ぐよ」

熊獣人も割と軽やかに走り出し、私たちもそれに続いた。

 

「何やってんだい、この穀潰しがーッ」

と、チーフはブチ切れモードのネギと対峙していた男をタコ殴りにし始めた。内容から察するに、その男はボスの所有物である奴隷にちょっかいをかける常習犯で、村上達に(経緯はともかく)ちょっかいをかけた事で折檻を受けている様子である。

そんなこんなをしているとフラッと亜子が倒れた。

 

 

 

ネギが亜子を現在の部屋…あまり良いとは言えないが、思ったよりはまともな部屋だった…に運ぶと私たち…というか朝倉が大河内と村上に現状の裏取りを済ませ、茶々丸と朝倉がテラスで情報交換をしている間、私たちは部屋の前で待機していた。

「ったく、なんで見ただけで見破れんねん」

「え~わっかるよー髪型も性格もまんまだもん、演技力ゼロ」

「完璧な変装の筈なんやけどやばいな~」

「まあ、文字通り寝食を共にする知り合いならわかる、って事だろうな」

「そうですねー私達と違ってコタロー君は年齢だけでー種族を変えていませんしー」

「ああ、そっか、そのペンダントで種族と年齢を変えているって事は、二人は長谷川さんとハカセさんなの?全然わかんなかったよ」

一応、特徴というか一時期クラスの連中が騒いでいた揃いのペンダントがなければ私たちの正体はバレていなかったらしい。

「…まあ、それやったらええかな…て、それはそうと、なんでついて来てんねん、来んな言うてたのに

おかげで借金やら奴隷やら、訳わからん面倒に巻き込まれて…自業自得やで?」

と、コタローが辛辣な事を言う。

「ご…ごめん、でも…コタロー君、何も話してくれないし、気になったんだもん…」

「?なんで夏美姉ちゃんが俺のコト気にすんねん」

「だ…だって…危険があるとか言ってたし…」

まー要するに、コタローに対する庇護心的な感覚で心配していたわけか…多分だが。

「は?」

「…!いいんちょとちづ姉と私はコタロ君の保護者なんだから心配すんの当たり前でしょー

もーそ、その変装やめてよ、調子狂っちゃうじゃんっ!」

庇護心…だよな?それとも弟的な庇護心が成長したコタローの姿を見て…的な?

「この変装といたらマズイ言うてるやろ」

「うるさーい、背が高くなる変装なんて非常識だよ!結構かっこいいのもスッゴクむかつく!」

「はぁ!?」

…もう痴話喧嘩でいいか、これは…とか思っていると大河内がネギに質問を始めた。

「あ…あの、ナ…ナギさん、少し…質問していいですか?」

「え」

「これは…現実なんですね?この魔法があって、人間じゃない人たちがいる世界…」

「ハイ…スミマセン、こんな大変な事になってしまって…」

「い…いえ、それはいいんです、助けに来てくれたし…ただ…それより…」

と、ちらりと大河内は私達とコタローを見る。

あ、そうか、コタローの正体がばれて、私と聡美の正体もバレたという事は…芋づる式にネギの事もバレる訳で…

「ナギさんはさっき『僕の生徒に』って言いましたよね、それでアレは魔法で変装した小太郎君、そしてあのお姉さんとお嬢ちゃんが長谷川とハカセ…

と、いうことは…あ…あなたは…君は…きっ君は…ネッ」

そこまで言って、大河内はついに崩れ落ちた…

「ま、待って…色々ありすぎて…で、でもそんな…そしたら…」

「大河内、今はソレは忘れろっ!今日はそれ以上考えるな、な?あとで話すから」

正直、ネギがナギである事がバレると亜子の恋心的な問題でマズイと言うのをすっかり忘れていた。

「だ、大丈夫ですか!?」

「てめぇは黙っとけ!」

と、いう事にして大河内も亜子と並べて寝かせて村上に二人の世話を任せることにした、亜子に『ナギ』の正体をばらすな、と厳命した上で。

 

 

 

「問題は山積みだな」

テラス席で朝倉と茶々丸に合流した私は思わずそう言った。

「そうですねー特にアレはまずいですねー」

「あの…さっきのは」

と、ネギが言う。

「…この問題は難しすぎるから私達に任せてお前は忘れろ。ただ、亜子に正体はバラすなよ」

「ハ…ハア…」

よくわかっていないようだが…正直亜子の体調も考えるとこれは爆弾であり…解除方法は、正直ないに等しく、いかに被害を少なく爆発させるか、という問題でさえある…言い換えれば蓋をしておくしかない、ともいう。

「さて…まとめてくれ」

と、私もある種問題を投げ捨てて、朝倉にバッジを投げ渡すと共に状況の取りまとめを頼んだ。

「サンキュ、いやー悪いね、私としたことが聞き込みの時にバッジ落しちゃったみたいで」

「で?」

「うん、結論から言うとやっぱり…あの三人を力ずくで救出するってのは今はまだ無理だね」

と、切り出した朝倉が語った事は概ね私たちの掴んでいた内容を詳しくしたもので、亜子が風土病で相当ヤバい状態だったのをここのボス、ドルネゴスが与えた薬で何とかなった。しかし、その薬、イクシールの正規代金(本物であれば)として100万ドラクマの借金を三人は背負い、債務奴隷となった…というわけだ。で、経緯はどうあれ、正規の契約である以上、奴隷の首輪をはずす方法は身分の買戻し以外に不可能であり、無理に外そうとすれば、首輪が爆発するとの事だ。

「しかし、それはもしやアスナさんの能力で…」

と、茶々丸が言う。

「確かにね…けどさっきも言ったように、3人を奴隷にしたここのボスはいくつかの闘技場を経営したりしている有力者の一人でね。

そこから違法に無理矢理3人を奪うとなるとその後がマズイ、色々と敵に回すことになる。

まだみんなと合流できていないウチに下手な行動は控えた方がいいっしょ?」

「…と、なると強奪するとしても最終段階、帰還手段を含めて3人の身柄以外の全てが整った段階で、って事だな」

「そーなるね、その場合でもネギ君の父親探しが終わっていなければ、次を考えた場合よくない手段ではある。

まあ一番文句ないのは100万ドラクマ払って三人を買い戻すことだけどね」

「そんな金、どこにあんねん、10年遊んで暮らせる額らしいで?」

まあ、逆にいえば、その程度の難易度ではあるが…賞金首状態では色々と方法に制約もある。

「…いや、コタロー君、無いこともなさそうだよ」

そう言ってネギは拳闘大会のポスターを指した。

「…朝倉、これに関しての情報は何かあるか?」

「そうだねぇ…まだ調査中なんだけれども…約1か月強後にオスティアって言う場所で開かれる世界規模の決勝大会…らしい、詳しくはまだわからないけれど…終戦記念の大会でナギ・スプリングフィールド杯って言うらしいよ?」

「えっ…」

思いがけない大会名にネギが声を上げる。

「全世界大会か…とりあえず、拳闘士自体も儲かるらしいし…目指してみる事自体は問題ねーと思うぞ、他の皆とそこで合流してここに戻ってきて金策するっていう手もあるしな」

「どー言うこっちゃ、千雨姉ちゃん」

と、コタローが言う。

「…逆に聞くがな?拳闘大会に出てくるって言う範囲内でも世界中の猛者相手に優勝する自信あるのか?私のガチモードでさえ、この世界の本物連中にとっちゃ下位程度にすぎねぇのに?」

「あ…そうでした…賞金を稼げて修行と皆さん…特にまき絵さんとゆーなさんと合流する旗印にもなっていい案だと思ったんですけど…」

と、ネギが落ち込む。

「早合点するな、私は反対したわけじゃねぇ…優勝は難しくとも、金策にはなるし、合流の旗印や機会にもなる良い案だ、って言ったんだよ…やってみようぜ、拳闘士」

変装を幼女化でなく大人方向にしたかいがあったというモノである。

 

 

 

熊のチーフ…クママというらしい…にお願いして拳闘士になりたい旨をドルネゴス氏に伝えてみた所、まずはネギたちの入団テストが行われる事になった、と言うのが先ほどの事。そして勝てと言われた相手がヘカテスの酒場でネギがのした禿マッチョ、バルガスで…当然まあ圧勝だったわけだ…が。

「さて、次は私だ、誰と戦えばいいんだ?」

と、言って私はクママさんや聡美たちと観戦していた場所から飛び降りた。

「は?」

「へっ?」

そんな声を上げたのは先ほど折檻を受けていたチンピラ…トサカとクママさんだった。

「…えっ?」

その反応に私もそんな返事を返さざるを得なくなった。

「あ、あんたも入団テスト受けるつもりだったのかい!?いやーごめんよ、てっきりその二人だけかと」

「え…姉ちゃんも受けるってそりゃあ…」

クママさんとトサカが困惑する。

「…その姉ちゃん、俺らよりも強いで」

ぼそっとコタローがつぶやいた。

「あ…えっと…ちょっと待っていろ」

と、色々予想外だったらしく、トサカがどこかへ行った…おそらく座長のドルネゴス氏に相談しに行っているのだろう。

「いやー私も昔は拳闘士やっていたんだからちゃんと確認するべきだったね、ごめんよ」

観客席からクママさんが言う。

「いえいえ、ちゃんと3人と言わなかった我々にも問題がありましたので」

確か、クママさんにネギが言ったのは、『僕たち、拳闘士になりたいんですが、どうすればいいでしょうか』だった筈である。

 

「よ、よし…姉ちゃんも同じ条件で良いそうだ…しかし、こいつらより強いってんならアニキに勝って貰うからな!?」

と、治療を終えたバルガスと共に戻ってきたトサカがやけっぱちの様子で言った。バルガスはすごく嫌そうな顔をしているが。

「えーっと…バルガスさん?」

「入団希望者のテストも仕事なんでな…」

と、哀愁漂う様子…まあ、手加減するか、真面目にやるか悩む…

向かい合い、互いに構えをとる…

「じゃあ、始めろ!」

流石に実力を示す場で舐めプはまずかろうと気だけではなくて咸卦の呪法までは発動させ、様子を見る…と、バルガスも戦いの旋律を発動させた後、様子を見ているようである。

 

魔法の射手 雷の3矢

 

ならば、始めるかと無詠唱で雷の矢を放つとバルガスが瞬動でその場を離脱、反撃に酒場で見せた砂の5矢を待機させた状態で殴りかかってくる。

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 雷精召喚」

 

魔法の射手 雷の7矢

 

と、跳んで後ろに下がるデコイを編み、直後に魔法の射手を行使、私本体は瞬動で大迂回をしてバルガスの後ろに回る。

そして、バルガスが砂の矢を雷の矢にぶつけ、砕けた砂利とバスガル自身のこぶしが私のデコイを貫くと同時に、トン、と鉄扇を心臓の真裏に当てた。

「これでいいかい?」

「あんたの…勝ちだ」

私の問いに、バルガスは冷や汗をたらしながら、そう答えた。

と、いう事で私たちは、無事に金策方法と宿とを手に入れたのだった。

 

 

 




逆にいえば、その程度の難易度ではあるが:遊んで暮らせる、を豪遊して暮らせる、ではなく働かずにそこそこの生活水準で暮らせると解釈すれば、100万ドラクマを10年分の若干浪費癖のある独身者の生活費とみてざっと3000万、一人当たり1000万とすれば簡単では決してないけれども、絶望的でもない…かな?確かに泊まり込みのきつめの仕事を共同生活で5,6年すれば返済できてもおかしくはない、くらいという解釈。
また、子供二人の1か月のクルーズの船賃が5万ドラクマなのでこの仮定だと150万円位、中古の長距離大型トラック?(パル様号)が450万、早々変でも無いかな?と思ったけれども、1ドラクマ30円換算なのでナギまんが1つ1アス?で約2円になってしまう…のでナギまんは無視(食料品が安い世界観にしても5,6年働くを普通の労働に限定するといろいろと問題もあるので


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72 辺境編 第3話 デビュー戦

私たちが無事拳闘士団に入団した翌日…私は控室でネギとコタローのデビュー戦を見守っていた。

そして、油断からかコタローは相手に拘束され、敵に雷の暴風クラスの大魔法である春の嵐を放つ事も許してしまったとは言え、まあ全体的には危なげもなく勝ったと言っていいだろう…が、問題は勝利者インタビューで発生した。

『僕の名前は――ナギ・スプリングフィールドです』

ネギの奴は、打ち合わせに反してその名を名乗った…赤毛のスプリングフィールド…それだけで話題性は十分だというのに…そして戦争の英雄、というその名がどれだけの厄介事を招きうるのか、こいつはわかっているのだろうか?

『僕は彼とは何の関係もありませんが――この最強の男の名に恥じぬ戦いをして見せましょう。

強敵を待ちます!ガンガンかかって来てください!』

…そう締めくくったネギのボケはきっと十分には理解していないのだろう…あとでしめにゃならんな。

 

そして、私の出番がやってきた。

「さ、さて次はあんたの出番だ…精々この盛り上がりに水を差さねえようにやれ!」

「ああ…」

と、私は控室から階段をのぼり、闘技場に姿を見せた。

私の格好は髪をポニーテールに纏め、機動重視の軽装鎧(機能的には、まあ実質飾り)に両刃の片手剣、俗にいうショートソード(エヴァの固有スキルではないにせよ、闇系統の魔法使いが使う印象の断罪の剣を大っぴらに使うのもアレだし、明らかな手加減しないと殺っちゃうので)と言ういでたちで完全に剣士である。まあ、剣技の修行を兼ねた縛りプレイという事で、普段は気のみで身体強化し、魔法は魔法の射手のみ、必要に応じて咸卦の呪法はあり、という事に(ヤバい相手にあたらない限りは)しているので間違ってはいないが。

そして、別にタッグマッチへの単騎出場でも構わないとは言ったのではあるが、実績もない新人の事、当然シングルマッチを斡旋された。

司会内容を聞き流していると、相手は(持ち上げ込みだろうが)期待のルーキーと言われる程度には前シーズン活躍した半新人拳闘士らしく、出で立ちは恐らく私と違って対魔法処理も行われていそうな実用品の重装鎧にバスターソード…まあ見目的には軽戦士と重戦士で悪くないマッチングである。

「それでは…開始!」

「ノイマン・バベッジ・チューリング 光の精霊23柱」

試合開始の合図と共に切りかかってくる相手の力を受け流すようにショートソードで軽くいなしつつ、後退しながらご挨拶に魔法の射手を唱え始める。

「集い来りて 敵を射て」

すると、相手も魔法を唱え始める…これは対魔法障壁か

「魔法の射手 光の23矢」

私の詠唱が終わる寸前、相手は後ろに飛びのき、左手を翳す…そして私の魔法の射手を魔法障壁で防ぎ…切れず、最後の数発が貫通、しかし重装鎧の装甲で防ぎ切った様子である…バルガスさんの拳闘士としての評価を考えればこんなものか。魔法の射手を倍にして飽和攻撃でも構わないが、それだとつまらない。

「おおっと、西方の魔法の射手が至近距離で炸裂!しかし東方グラウィス選手、障壁と装甲で難なく防いだ!」

今度は私が攻め手だと跳躍し、勢いのまま切りかかる…が、まあ曲がりなりにも期待のルーキーとやらならこの程度であれば防げるであろうと予想していた通り、ギリギリではあるが反応された…剣での一撃には。

 

魔法の射手 収束・雷の5矢

 

剣戟と同時に無詠唱で放った魔法の射手は鎧の胸部装甲に直撃し、相手はふらつく。殺すつもりはないので装甲を少し貫通する程度のダメージと雷撃でのスタンで十分である。

ふらつく相手に足払いをかけて転ばせ、腕を蹴ってバスターソードを手放させてから、鎧と兜の間に剣先をわずかに差し入れて魔法の射手、今度は光の矢を展開して相手に問うた。

「まだやる?」

「い、いや…降参する」

私はその宣言を聞くと、魔法の射手を霧散させ、剣を鞘に納めた。

「またも番狂わせ!西方の勝利!今期のグラニキス・フォルテースの新人は粒ぞろいのようデス!」

そして、司会の宣言と共に歓声が会場を覆った。

 

「さーて、さっそく勝利者インタビューと参りましょう!

前シーズンにデビューしたルーキーの中では頭一つ抜けていたグラウィス選手!

そんな彼を下しての見事なデビュー戦でした、おめでとうデス!新人さん、お名前は?」

「ちう…ただのちう」

と、司会のお姉さんに私は短く答える…ちなみに、どーでもいいが初勝利を挙げた際の勝利者インタビューを受けるまで名前を呼んでもらえないらしい、少なくともこの辺りの拳闘士は。

「チウ選手ですね!先ほどの試合は剣捌き、魔法の射手の練度共に素晴らしいものでした、よろしければ今後の意気込みについて聞かせていただけるデスか?」

と、マイクを向けられる…うむ…無口系で行くつもりだったんだが…どうしようか…よし。

「…本気で戦える相手を待っている」

私はそう短く挑発すると、とっとと控室に向かって歩き出す…ネギの時ほどではないが観衆たちは大いに沸いた。

 

「トサカさん、後で小闘技場か広めの訓練場を使わせて貰えませんか?模擬戦をしたいので」

控室に戻り、開口一番私はそう言った。

「お、おう…ちゃんと片付けするならいいけどよ…ナギたちと自主練か?まあアニキとの手合わせと比べたら本気出してないのはわかるけどよ」

と、トサカが聞いてくる。

「まあ、そんなところです」

実際は、自主練を兼ねてネギのバカをしめる為だが。

「ん、分かった。なら調整しておく」

「と、言うわけでナギ、コジロー、後で稽古をつけてやる…わかったな?」

「おう、サンキュ、ちう姉ちゃん」

「あ、はい、ありがとうございます、ちうさん」

という事で、ネギをしめる用意は整った。

 

 

 

「さて…ナギ…私はお前を良き友人だと思っている…が、今は姉弟子としてコレで説教をさせてもらう」

本日の興行終了後、自主練という事で借りた訓練場に現れたネギにショートソードで切りかかった、咸卦の呪法アリで。

「わっ、ちょっ、何するんですか、ちうさん!」

とネギ…まあ流石に奇襲でもご挨拶のつもりの一撃を喰らうわけはなく、ひらりと避けた…今日の相手だと奇襲でなくとも首はともかく腕くらいは飛んでもおかしくない一撃ではあるが。

「そりゃあ、こっちのセリフだ!てめえ、打ち合わせでは偽名使うっつうてただろうが!

それがナギ・スプリングフィールドを名乗るったぁどういう事だ!わかってんのか!?」

「わ、わかっていますよ!ちゃんとリスクも考えて…」

と、ネギが言い訳をする…が、私はまた切りかかる。

「わかっちゃいねぇ!だからいきなり切りかかられたくらいで『何するんですか』なんてマヌケな言葉が飛び出すんだよ!」

「えっ…」

「お前、赤毛の優男ってだけでここの訓練士に因縁つけられたの、忘れたわけじゃねぇだろうな!?

たとえ本名でも、お前みたいなそっくりさんがナギ・スプリングフィールドを名乗るって事はそーいう連中を呼び集めるって事なんだよ!」

「そ、それとこれと一体何の関係が」

「そんな連中の誰も彼もが闘技場に行列を作るほどお行儀いいわけねーだろってんだよ!いきなりでもちゃんと決闘を仕掛けてくれる位…ましな方だっ」

そして、訳も分からず防戦一方だったネギの腕を私は剣の腹で思いっきりひっぱたく。

「ほら…これで腕一本だ…戦争の英雄にそっくりなスプリングフィールドってだけ話題性十二分だってのに、相談もなくレイズしやがって…周囲の人間を人質に脅迫なんて手だって考えられるんだぞ!?」

と、腕を抑えているネギに言った。

「あ…え…そんな事…」

「ないと言い切れるか?」

「いえ…言い切れません…僕が…僕だけがリスクを背負えばいいと思っていました…ごめんなさい」

ネギが素直に謝罪する。まあ、そう言った事を警戒していれば大方の場合は大丈夫だろうし、人質云々は極論でもあるし、そー言う卑怯な手段は一応庇護者でもある座長含め、色々と…特に八百長要求なんてした場合は気質的に拳闘士界全体を敵に回すので抑止力がないわけではないが。

「ん、わかればいい…対策はあとで考えようか…が、まだ終わりじゃねえぞ?」

「お、おう…ちう姉ちゃん、まだあんのかいな」

と、大人しく見ていたコタローがついに口を挟んでくる。

「ふん…当然…稽古をつけてやるって言っただろ?こい、ネギ…てめえに降りかかる火の粉位払える所を見せて見ろ!」

「ハ、ハイ!」

「ただし、今日は五体満足を保障してやらん、そのつもりでやるぞ…そしたらあんな啖呵を切った翌日に訓練中のケガで欠場する大マヌケの誕生だ、狙われなくて済むぞ、良かったな」

と、ここぞとばかりにネギを挑発しておく…まあ勝手にナギを名乗ったのは聡美と茶々丸の身の安全的な意味で割と私の地雷なのでこれくらい勘弁してほしい。

「…コジローは悪いが審判だ、勝負がつかなくとも、やり過ぎそうになったら、止めていいぞ」

「お、おう…」

「来いよ、ネギ…私を殺してしまっても構わねぇ…そう言うつもりでかかってこい」

そして稽古という名の決闘が始まった。

 

 

 

ネギとの割と長時間にわたる決闘…途中、私の剣が砕けると言ったハプニングもあったが、得物を鉄扇に切り替えて続行した…は私の勝ちという事になった。ちなみに決まり手は割とヤる気のあった疑惑がある桜華崩拳をギリギリ…かすって顔に軽いケガをした…で流してネギをぶん投げ、肩を踏み砕く寸前にコタローのストップが入った、である。なお互いに出血を伴う傷はいくつもある、互いに。

「さて…コジローもやるか?…なんてな」

と、冷めきれていない頭で言うが、今戦えばスタミナ切れで負けそうなくらいには消耗していると自覚する程度には冷静でもある。

「…せやなぁ、ヤりたい…て言いたいところやけど、ちう姉ちゃん大分疲れとるやろ?明日以降にしようや、俺も思いっきりやれるほうがええし。

…片付け前に治療室でも行ってき…素人の手当てやと痕が残るで」

「…悪いな…ナギは?」

「少し…休んでから追いかけます…先に行ってください」

と、ネギは地面に座り込んで肩で息をしている。

「わかった…先に行く」

そう言って、私は治療室に向かう事にした。

 

「おっかねぇ女だ…弟弟子とあんな死闘を演じておいて涼しい顔をしてやがる」

通路に入って直ぐ、トサカがそう声をかけてくる。

「フン…マスター…師匠に比べれば私なんて優しい女ですよ」

そう言いながらトサカの前を通り抜けるが彼は私に並んで歩き始めた。

「…あんたよりおっかない師匠ってどんなだよ」

との反応に、ネギとの決闘に熱された私の頭はちょっとした悪戯を思いつく。

「…エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル…」

「はぁ!?」

「…くらいおっかないですよ、あの人は」

まあ、くらいも何も、本人なのだが。

「はっ…ハッハッハ…そいつはおっかねぇな…まあ、才能に恵まれてかつそんなのに扱かれてこそ、か…」

と、トサカはどこか遠い目をする。

「…で、トサカ…さん…どこから?」

「…アンタがナギに切りかかる所からだよ…てめぇらの自主練とやらが気になったからな」

最初からかよ、と内心突っ込む。

「へぇ…ならばやっぱり私は優しい女でしょう?可愛い弟弟子にキッチリ忠告をしてやって実際の決闘の片鱗を体験させてやったんだから…マスターなら意味深に笑うだけ笑ってぶっつけ本番ですよ」

「クックック…そいつは違いねぇな…確かにアンタはお師匠さんよか優しい女だ…どっちもおっかねぇ事にゃ変わりがねぇけどな…

で、一応聞いておくが、あんたもナギも、明日の試合にゃ支障はねぇんだろうな?」

と、トサカが出歯亀をしていたチンピラの顔から拳闘士の統括役の顔になる。

「大丈夫ですよ、私もナギも、これくらいで翌日に響くような軟な鍛え方はしていませんから」

「へっ…そうかい、ならいい、傷治したらとっとと片付け済ませて風呂入って寝ろよ」

そう言ってトサカは治療室の前を通り過ぎてどこかへと去っていった。

 

 

 

治療と片づけを済ませ、与えられた部屋に戻ると聡美と茶々丸がカードをしていた。

「ただいま、聡美、茶々丸」

「お帰りなさいませ、千雨さん」

「お帰りなさい、千雨さん…えっと…服に結構な血がついていますけど…

来ないで欲しいっておっしゃっていた稽古で、何をなさっていたんですか?」

聡美があまり聞かれたくないことを聞いてくる…まあ覚悟の上ではあるが。

「ちょっとネギと割とガチ目な稽古を…な、拳闘士式で」

「拳闘士式…まさか命がけで、とか言いませんよね?」

誤魔化したつもりだったがド直球の質問を返された。

「…私は腕の一本位は飛ばしてもいいと思ってやっていたし、ネギは…内心はわからないけれど殺しても構わない位のつもりでやれとは言ったな」

実際、バルガスさんくらいの腕前なら死んでいた可能性がある一撃は何度もあった。

「…やっぱり…もう無茶はしないでとは言いませんから、せめて私に見せられる程度の無茶にしていただけませんか?というか、死闘自体はそーいう空気にのまれないように一度見ておきたかったんですけれど」

…なんか聡美の怒り方が予想とは別方向になってしまっている。

「…うん、ごめん…今度コタローとヤる予定にはなっているけど…見に来るか?」

「はい、行きます」

「ぜひ私も」

即答だった。

 

 

 

そして風呂を済ませた後…部屋にて。

「では、行ってきます」

「うん、行ってらっしゃい」

「おう、何ならそのまま泊まってきてもいいぞ」

…ネギによる茶々丸の魔力補給タイムである。

「えっ…そんな事…」

「ネギはたまに人肌のぬくもりがないと眠れなくなるらしいからな」

「わ、私ロボですよ!?お母さま」

「大丈夫だよー我々の英知を結集したボディーには人肌の温もりも完備しているからー」

と、ハカセも乗る…まあ難もあるがネギはむしろ優良物件である、ぜひこのチャンスに茶々丸をネギと接近させてやりたい…朝倉と検討中のプランでは茶々丸にはこの街を離れてやってもらう事があるし、その前に。

「もう…ハカセまで…お二人がいちゃつくお邪魔になるのでしたらそう言って頂ければ…」

茶々丸が少しすねたように言う…そういう事ではない。

「「茶々丸の前で出来ないような事するつもりはないから、それはない」」

「あ…はい…ネギ先生が抱き枕として私を望んで頂けるならば…向こうに泊めていただきます」

私と聡美のシンクロに茶々丸はそう答え…その晩、茶々丸はネギの部屋から帰ってこなかった。

 

 

 

 




ちなみに、千雨さんがトサカに敬語というか丁寧語を基本的に使うのは統括役という役割に対する敬意から。なので地の文では呼び捨てだったりします。
あと、咸卦の呪法あり、呪血紋無しでの全力だと学園祭直後はネギ君を一方的にボコれていたのが、天井が低く、面積も狭くて機動が窮屈だったという不利もありますが現在は死闘の末に勝利くらいまで差が縮まっています。まあネギ君はスタミナ切れに近く、千雨さんはコタロー君と連戦すれば多分負けるにせよ、まだまだ戦える程度にはスタミナのこっていますが(思いっきり跳び回れないのもあって

茶々丸の前で出来ないような事:二人の経験済みの事としては、大人のキスくらい。茶々丸相手ならば普通のキスとか呪紋の施術とか下着姿で抱き合って寝るとか位は見られても平気なので(茶々丸の方が平気とは言っていない


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73 辺境編 第4話 新人拳闘士として

「ちうちゃーん、ネギ君と仮契約したいんだけど、魔法陣おねがいできる?」

朝倉がネギを連れて唐突に私達の部屋を訪ねて来たのはデビュー戦の数日後の夜の事だった。

「…仮契約屋行けよ」

と、私はすげなく返す…が

「最初はそう思ったんだけどさー調べて見たら案外高くてね…活動資金の為にも少しでも節約できる所は節約したいじゃん?」

と、正論を返される。

「わかったよ…ちょっと待っていろ…聡美、私の荷物から魔法陣用のチョーク出してくれ」

「はい、わかりました」

と部屋の中央にスペースを作り、仮契約の魔法陣を床に書き込んで行く。

「…さすがですね、ちうさん…仮契約の魔法陣も用意できるとは…」

「まーカモほどスムーズにかけねぇけどな…ってネギ、てめぇが教えたんじゃねぇのかよ、私が用意できるだろうって」

ネギの感心した様子に私はそう問うた。

「私が前にカモ君から聞いていたんだ、千雨ちゃんとハカセの仮契約は自分が仲介したんじゃない、って。その時に魔法陣の専門家でもある千雨ちゃんが陣の用意したんだろうってカモ君が言っていたよ」

と、ネギへの問いを朝倉が答えた。

「成程…ええっと…よし、あっているな…ネギがここ、朝倉はここだ」

魔法陣を再確認し、二人が立つべき場所を示す。

「ほら、さっさと済ませろ」

「あ…はい」

「サンキュ…それともう一つお願いなんだけれど…記念写真撮ってくれない?」

「記念写真ですかー?」

「そうそう、仮契約とファーストキスの…ね」

「わかりましたー」

「ありがとーはい、それじゃあお願い」

聡美が了承し朝倉から(こっちの世界の)カメラを受け取った。

 

「じゃ、これからもお願いね、ネギ君」

と、朝倉からネギにキスをして仮契約が成立した。

それを見届けた私は複製カードを作成し、キスの感想をネギに語って遊ぶ朝倉とネギを纏めて部屋から追い出した。

 

 

 

さて、それはさておき、私がネギをしめた翌日から一週間、ネギは一日に2戦と言う拳闘界の常識からするとかなり無茶苦茶なスケジュールで試合を入れ続けて12連勝を上げていた…まあこれは予定通りであるし、実力差を考えると無茶でもなんでもない…し、何なら別荘ではもっと激しい立ち合いを一日で二桁に届くほどこなす日も珍しくはなかった。ちなみにコタローとの決闘は聡美や茶々丸、なぜかクママさんや村上達…亜子は血がダメなので来なかったが…そしてバルガスさんとトサカたちも観客にしてなかなか盛り上がった。結果はいささか危ない場面もあったが私の勝ちである。やはり訓練場は狭いし、機動が窮屈ではあるが。

そう言う私も、ネギ…もとい『ナギ・スプリングフィールド』の話題を邪魔しないように、それでも稼げるように多め…二日に一試合強程度のペースで試合を入れながら情報収集に励んでいた。

1試合目は私の表向きの戦闘スタイルと似た感じのベテラン軽魔法戦士…剣技自体は悪くなかったが気・魔法の練度共にイマイチ、剣技の練習相手としては楽しませてもらった。決着は観客の盛り上がり具合が決着を望んでいるという感じの所で気の密度を増して剣を弾き飛ばして降参させた。

2試合目は大ナイフの二刀流で瞬動の使い手…と紹介されたが、勢いはともかくキレは縮地と呼びようのないもので、剣技もイマイチ…多少素早くはあったが、私の相手をできるほどのモノではなく魔法無し、剣技のみで圧倒して勝利した。

3試合目はデビュー戦の相手と似たスタイルで重装鎧に片手剣と盾の重戦士…まあデビュー戦の相手よりは強かったが剣戟を交わしながら放った50本弱の魔法の射手を、魔法障壁を纏わせた盾で防ごうとして防ぎきれずに怯んだ所を蹴り倒し、デビュー戦と似たような降伏勧告をして勝った。

そして4試合目が…これから行われるタッグ部門の半ルーキーペアである、もちろん私はソロだが。

 

「さーて、次の試合に参りましょう!第5試合、西方はデビュー戦より4連勝の快進撃、『グラニキス・フォルテース』の期待の新人自由拳闘士、チウ!対する東方はヘカテスのルーキー自由拳闘士…ヤング・フォリウムとテルム・インセプタ!」

司会の紹介に場が騒めく…が

「本試合はチウ選手の希望によりマッチングされましたソロ対ペアの変則マッチとなります!」

と、続く司会の言葉にそれも歓声へと変わった。

「さっそく参りましょう…それでは…開始!」

と、同時に私は敵前衛に切りかかる…手ごたえ的にはイマイチ…鎧袖一触にしてもいいのだが、それは興行的に楽しくないためこちらがかなり優勢程度に見える程に手を抜き、切り結びつつ魔法詠唱をする。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 光の精霊47柱 集い来りて 敵を射て」

相手の剣士は青い顔をして、だが離脱もできずに必死の抵抗を見せている…が、私の狙いは君ではない。

「魔法の射手 光の47矢」

前衛と私が離れないためどう魔法を放てばよいか戸惑いながら詠唱を続けていた魔法使いに向けて、魔法の射手を放った。魔法使いは大慌てで詠唱…紅き焔を完成させ、魔法の射手にぶつけてくる…まあ、当然中央突破で赤き焔が私たちに向かってくる…と、同時に赤き焔がぶつからなかった魔法の射手が魔法使いに殺到してゆく…私は剣士を放置し、その場を離脱した…その結果は酷いものだった。

赤き焔は剣士に命中、戦闘不能。魔法使いも追加の魔法障壁が間に合わず、破壊属性の魔法の矢の(ルーキーにとっては)洪水が常時展開の障壁を貫き、戦闘不能になっていた…というか割と二人とも重傷っぽい。

「おおっと、東方ペア、ダウン!カウントを取ります1, 2, 3」

とカウントが進むが相手が立ち上がる事はなかった…私は剣を鞘におさめ、もう終わった、という顔でそのカウントを聞いていた。実際はきちんと警戒していたが。

「さて、勝利者インタビューデス!孤高の女戦士チウ選手、単身で同じくルーキーのペアを鎧袖一触にしてしまいましたが、試合の感想があればお願いします!」

それに私はため息をついて首を横に振る事で答えた…というかペアであったにせよ、あるいはだからこそ、今までの試合相手の中で一番弱かった。

 

 

 

そしてその夜、ソロでの試合に勝利したネギは勝利者インタビューを受けていた…そして全国生中継であるとの司会の言葉に、打ち合わせをしていた仲間たち…特にまき絵や裕奈に向けたメッセージを発した。

「以上、注目のルーキー、ナギ・スプリングフィールドでしたーっ」

と、司会が締め、ネギが退場した。

 

そして、朝倉とコタローが退場してきたネギを、盗聴防止の結界を張った私たちの待つ場所に誘導してきた。

「これで作戦の第2段階はクリアやな」

「今のメッセージ…まき絵さんやほかの皆さんに届くでしょうか」

「ネギ君のお父さんのネームバリューのおかげでメディアの露出は高いはずだよ。

あとは…みんなを信じて幸運を祈るしかないね、彼女かもって匂わせたのは話題性的にグゥだったよ」

と、朝倉がネギをほめた。

「じゃ、ここでちっとおさらいしとくか、朝倉」

「うむ…私達、情報担当女性班がこの1週間に集めた情報を統合すると…

やっぱ、あの事件で魔法世界全11か所のゲートポートはすべて壊されたみたいだね。

現実世界との橋はすべて閉ざされた…復旧には早くても2,3年はかかる、と」

「最悪の状況って奴ですねーしかし――」

「うん、廃都オスティア…二十数年前に戦争が起こるまでは風光明媚な古都だったらしいけど、今はほとんど廃墟で観光スポットになっている…その無人の街に今は使われていない『ゲート』がある。

ここは奴らフェイト一味に襲われてないし、『ゲート』も休止しているだけで生きている」

「ただ、公開情報の解析やこの辺りの連合・帝国両側の辺境軍が持っている情報を軽くさらった程度ではオスティアのゲートについて詳細な情報は見つからなかった。

要するに、ゲートの正確な位置は不明…これは割と機密度の高い情報っぽくて…実際に到達せにゃならん事も考えればある程度絞り込んだ上で現地調査が一番いいと思う。

他にもいろいろと入手しなきゃなんねぇ情報や、クリアしなきゃなんねぇ課題もある事はあるが、これが現状、唯一の道ってわけだ。

それに壊されたゲートの復旧を数年待つにせよ、恐らく今までより厳しくなるであろう警備を掻い潜って転移する必要がある訳だしな」

と、私はネットワーク情報の解析や近くの辺境軍の通信網・データベースに侵入して調べた結果を報告した。

「フム…つまり俺らが現実世界に帰るにはその都に行かなアカン、いやその廃都に行くしかないちゅー事やな」

コタローがそう言って結論だけを抽出して再度まとめた。

「ハイ、しかし我々にとっては大変幸運な事に、1か月後…その街で拳闘大会の世界決勝が開催されます。

終戦20年を記念するお祭りでかなりの盛り上がりが予想されますが、重要なのは…」

「そう、この全国決勝の賞金こそが100万ドラクマ!

おまけに荒っぽいお祭りだから私たちお尋ね者が落ち合うにも、もってこいって訳」

「つまりー…1)借金返済、2)みんなと合流、3)おウチに帰る、この3点がこのお祭りですべて解決できちゃうかも…ってコトですねー」

と、相坂。いるのはわかっていたが、会話に参加するとは思っていなかったので少しびっくりした。

「全て解決…か、えーな!ここまでやられっぱなしやったけど、風がこっち向いてきたみたいやんか」

「まー優勝賞金での借金返済はできれば…ってレベルだが、ここ暫くの試合をしてみた感じだと合流の為の最低条件、大会出場自体は油断しなければいける。

優勝も他地域のスター選手の情報からすれば簡単ではないにせよ、絶望的って程ではないな、今のところは。

ああ、ちなみに原則、ネギとコタローが担当ってのは変えねぇからな」

私の個人的な判定では、甘やかしに入るので。まあどちらかが再起不能にでもなれば別だが。

「なるほど…千雨ちゃんがそう言うなら心強いね…って事だけどネギ君とコタロー君の自信は?」

「大会出場については大丈夫、自信があります。優勝に関しても…最善を尽くします」

「おう、任せとき!あと10勝もすれば参加資格は十分やし、実戦と千雨姉ちゃんの扱きで俺らの実力もまだまだ上がっとるからな、優勝して見せる!」

「皆さんの捜索プラン、世界一周計画もそろそろ形になってきましたしーその為の資金もあと少しで貯まりますー」

と、聡美がバッジ反応の探索プランが順調である旨を報告する。

「うん、私のアーティファクトもいいのが出たし、任せておいてよ」

それに朝倉が付け加える…と言うか頓挫しかけた世界一周探索プランが復活したのは朝倉のアーティファクトが優秀だったからである。

「それでは…」

と、ネギが場をしめるように言う。

「1か月後のオスティアに向けて!ネギま部ーファイッ」

「「「「「「オオッ」」」」」」

 

 

 

その夜、風呂場にて。

「チウちゃん、今日は圧勝だったね、おめでとう」

「あ、クママさん、こんばんは」

聡美と遅め…営業は終了して闘技場従業員の利用時間…の風呂に入っているとクママさんからそう声をかけられた。ちなみに、拳闘士は一般客向けの利用時間でも好きに入れる。

「いやーやっぱり強いね、ちうちゃんは…前にコジロー君との訓練を見せてもらった限り、世界クラスの実力じゃないかい。

いったいどんな鍛錬を積んできたらそんなに強くなれるんだい?」

「そうですね、トサカさんにも言いましたけれど、『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』並におっかない師匠に限界まで…いえ、その先まで扱かれ続けて生き延びたから…ですかね…それについていける素質と運はあったんでしょうが」

と、寄ってきた聡美の頭をなでながら答える。正直、死の淵まで追い込まれたのは片手では足りない、まあマスターはそのラインを見極めてやっているのだが…私のミスによる事故を除けば。

「フフ…それはおっかないお師匠様の元で頑張ったんだね…ナギ君やコジロー君も同じお師匠様の元で?」

「ええ、ナギはそうです。コジローはナギの修行相手をすることを条件にマスターが修行場の使用を許可した、みたいな関係で正式な弟子ではないですが」

言葉を選び、問題のない範囲で答える。

「なるほどねぇ…いいお師匠様なんだね」

「…はい、尊敬しています」

「それは良い事だね…ところで、ずっと聞こうと思っていたんだけれど…闘技場でのキャラ作りって何か意味があるのかい?

アンタ、美人なんだし笑顔も見せたらもっと人気も出てファイトマネーも上がるだろうに」

「あー、一応あれも私なりの営業ですね。ナギみたいにマイクパフォーマンスをこなす自信がなかったので…実力とああいうキャラでファンが付けばいいなと。

あと、割と全力で仕留めていくナギ達とは違って、ある程度手加減して興行も盛り上がるようには気を使っているつもりです」

本当は自信がないというかメンドクサイが正解だが。

「なるほどね、確かに私もインタビューは苦手だったよ、でも手加減する余裕があるのはうらやましいね」

そう言って、クママさんは豪快に笑った。

 

 



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74 辺境編 第5話 街中の決闘

さらに翌日、試合開始後もネギとコタローとが話し続けて襲い掛かってきた相手を瞬殺したネギの第14試合があった日の午後…私は聡美や茶々丸と買い物をしに街に出ていた…のだが

 

ズズン

 

チリっとした感覚を感じて辺りを見回した直後、近くの建物の一部がそんな音を立ててずれ落ちた。そして人影…背格好からして恐らくネギ…を追うように影操術らしき刃が塔を切り刻んだ。

「…お前の呼びかけに応じ参上した、ナギ・スプリングフィールド

私はボスポラスのカゲタロウ、貴様に尋常の勝負を申し込む」

そう、建物破壊の下手人らしき仮面の男が宣言した…観衆の声を聴いている限り、決闘では衛兵は来ないらしい、少なくとも『この程度』の被害では。

「待ってください、ここでは街に被害が…!」

ほーら見て見ろ、私の言ったとおりだろ?と内心思うが今それを言っても始まらない。

「グダグダ言ってんじゃねぇ!」

「え…」

「ここの奴らはこの程度の騒ぎにゃ慣れっこだよ。

それより見たトコ、そのおっさん、本気だ。てめぇも前だけ見てねぇと死ぬぜ?」

そう、色黒のおっさんがネギに言った。

「…しばらくは静観するが、いざとなれば止めに入る。その時は…茶々丸、聡美を頼めるか?」

「ハイ、もちろんです」

「千雨さん、お気をつけて」

と、聡美と茶々丸と話している目の前でネギが影の刃に貫かれた…ように一瞬見えた。

実際はキッチリと捌いているようだ。直後、ネギを囲むように影が踊り、また建物の上部を細切れにする…ネギはそこから離脱するが影の刃はネギを追い、ネギの急所を貫く…がネギがボケていなければあれはデコイだろう。

案の定、死んだかと思われたネギは爆ぜ、カゲタロウの背後に本物が現れ華崩拳を放とうとし、カゲタロウの影の刃に牽制されて魔法の射手を霧散させる…肝を冷やしたんだろうが離脱が遅い。

「三撃以上もつ人間は久しぶりだ、良い。そうでなくては」

とカゲタロウがネギを切り裂こうと刃を動かし、すんでの所でネギが縮地で離脱する。

「だ…大丈夫なんですか?アレ」

と、聡美が心配そうに言う。

「…あまり大丈夫じゃねーな…見た感じ、カゲタロウとやら、まだ本気を出し切ってない…加えてナギは街への被害を気にして放出系魔法の使用を避けているように見える」

何時もの手合わせからすれば、既に牽制の魔法の射手位放っていてもおかしくはない。殺気に畏縮している説もあるが。

「あ…マズイ」

直後、虚空瞬動の隙間に差し込まれるように影の刃がネギの展開した指向性障壁を貫いてネギの肩を切り裂いた…まあ、よく防げた、と言うべきか。

「…すまない、聡美、茶々丸、闘技場に戻ってヒーラーの手配を頼む…基本的に待機で良いが派遣が必要そうなら魔法を空に打ち上げる」

「わかりました、茶々丸、行くよ」

「ハイ!」

と、聡美は手を打ち合わせて魔力を纏い、茶々丸と駆けだした。

それを見送っていると強大な魔力を感じる…ネギが暴走モードに入ったか…?

と一瞬思うがその直後に見せたネギの動きは暴走状態のソレではなかった。むしろ普段よりも動きがいい…何か掴んだ…かな?

そう思っているとネギは襲い来る影の刃の合間を踊るようにすり抜け、さらにはそれを足場にしてカゲタロウに肉薄を試みる。そろそろ終着か…と私は跳躍してネギとカゲタロウを見下ろせる建物の屋上に立つ。

ネギを数多の影の槍を繰り出して迎撃するカゲタロウだが、ネギはそれを遅延魔法として行使した断罪の剣で切り開き、虚空瞬動にてさらに跳躍、肉薄した。まず、ネギの右手の華崩拳…カゲタロウの影で編まれているのであろうマントでの防御を貫いて顔に良いのが入るが決まり手には届かず、影の刃がネギの腕を切断すると共に腹にも突きが入る。で、ネギは想像通り三つ目のディレイスペル…左手の華崩拳が発動するがカゲタロウも腕に刃を纏わせて迎撃…クロスカウンターで双方に致命傷の可能性大…場合によっては即死…止め時だな

 

魔法の射手 雷の3矢

 

と私は魔法の射手を二人の間にぶっ放して割って入…ろうとしたのだが…

「クック…なかなかイイ見世物だったが、この勝負、俺にあずからせろや…で!今の魔法の矢、誰だ!びっくりしたじゃねぇか!」

と、さっきネギに話しかけていた色黒のおっさんが割って入り決闘を止め、私の魔法の射手に文句を言った…まあ顔に直撃していたし…むしろびっくりしただけなのか…確かに恐ろしく練られた気を感じはするが。

「悪いね…私はちう…故あって決闘を止めさせて貰う…つもりだった、貴方が止めてしまったけれど」

「な…!?貴様…!紅き翼(アラルブラ)の!?千の刃のラカン…!」

その色黒男に応じて私は三人の立つ小さな屋上に降り立ち、ネギの右腕を拾い、魔法で組織を保護し、ネギの切断された腕と腹の傷にも同様の処置を施した。カゲタロウはそんな私に構わず、色黒男に反応した。

「馬鹿な…紅き翼は…詠春とタカミチ以外のメンバーは行方知れずの筈…!」

「アラるぶら~?なんじゃそりゃ、知らねぇな。俺がそのアラ何とかの面子ならどうだってんだ?」

「フ…ならば私は誰とも知れぬソコの若造などと戦う必要もない、願ってもないことだ!」

と、カゲタロウの放った影の刃をラカンと呼ばれたおっさんは指二本で受け止める。

「ぬぉぉっ!」

と、カゲタロウはネギと戦っていた時とは比べ物にならない数の影の刃を展開し、おっさんに襲い掛かる…が、おっさんもアーティファクトらしきものを展開し、似たような分裂する刃でそれを迎撃した。

「ぐっ…理不尽なっ…それがいかなる武具にも変幻自在・無敵無類の宝具と名高き…」

「おうよ、今日は見料特別サービスだが…アーティファクト『千の顔を持つ英雄』だ!」

…いや、それってアーティファクトもすごいがそれ以上にこのおっさんの武技が理不尽なんじゃなかろうか?今の攻撃どころかネギと戦っていた本数でも使い慣れない類似武器で迎撃しろと言うのはきつい、断罪の剣で切り払うのなら兎も角。

で、おっさんはカゲタロウを囲むように剣を投擲して足を止めると巨大な剣を降らす様に投擲した…個人的に何が恐ろしいって、この二人よりもこれだけやっても観衆がワイワイと楽しげに騒いでいる所である。

「ぐ…まだだ、まだこの程度では!」

「やめとけよ、俺が本気なら今ので芥子粒だぜ?さらに言うと俺は素手のが強え」

「く…先の戦での貴様らへの雪辱を果たせるならばこの命賭けても惜しくはなし!」

「…ああ、なんだてめぇも俺らにボコられたクチか。

いいぜ、俺と戦いたいなら俺の弟子のこいつに勝ってからにしてもらおうか。場所は闘技場、正式な拳闘試合でな」

…などとおっさんが言い出す…いや、ネギはあんたの弟子じゃねーだろ?とジト目を向ける…と言うかいい加減に、逃げんじゃねーよと言いたげな気配を器用に(多分)私だけにぶつけるのやめてくれないだろうか。そろそろネギをヒーラーの元に連れて行きたいのだが。

「弟子…だと…?」

「ああ、まだ修行途中だ。こいつぁこんななりしちゃいるが…まだ10歳でな」

「何?」

「ああ…そうだろ?お嬢ちゃん」

と私に話を振る…私はやむを得ず黙って首を縦に振った。

「マジで?」

と、カゲタロウがネギの本当の年齢に本気で驚いた反応を示す。

「見所あんだろ?ま、しばらく待っとけや」

「ラカンさん…」

既に目の焦点が若干怪しいネギがおっさんの名前を呼ぶ。

「…力が欲しいんだろ、ぼーず。そのケガ治したら俺んトコ来いよ、望みのモノを手に入れられるかもだぜ?」

「力…」

そう呟くとネギはもはや限界らしくドサリと崩れ落ちた。

「おい、大丈夫か、そこの弟子とやらは?」

「ったく…片腕くれぇでなさけねぇな」

「…多分、腹の傷…もう行っていい?話があるならナギを闘技場のヒーラーに引き渡してから聞く」

「おう、わかった。引き留めて悪かったな、嬢ちゃん…そこの酒場で飲みながら待ってるから来てくれや、さっきの魔法の矢の詫びに一杯くらい奢ってもらうぞ」

と、ラカンのおっさんは私にまとわりつかせていた気配を止めた。

「…わかった、できるだけ早く行く…おごりは常識的な額なら、一杯くらいはかまわない」

と、私はネギとその腕とを抱えると瞬動連打で闘技場へと向かった。

 

 

 

闘技場近辺に着くと決闘現場に一番近い関係者用ゲート前にストレッチャーが用意される所だった…私はそこにネギと共に降り立つ。

「チ、チウさん!」

ヒーラーの一人がわたしの名を呼ぶ。

「ナギを頼む」

と、私はネギをストレッチャーに寝かせる事で答えた。

「…これはひどいですね…腹の傷が致命傷の様です。急いで治療をしなければ…手当室へ」

そう言ってヒーラー二人でストレッチャーを押す。

「手伝います」

と、私もネギを運ぶのを手伝おうとストレッチャーに手を添えた。

「チウ!後で事情説明してもらうぞ。先生、ナギの野郎の容体は?」

そう言って駆けつけてきたトサカもストレッチャーを運ぶのを手伝い始めた。

「搬送も早かったですし、治療できない傷ではありません。腕も切断面が綺麗ですし問題なく繋げるかと…但し、腹の傷が深いので目覚めるまで数日かかるかと」

「…なら当座の試合さえ代役を立てれば調整効くか…チウ、コジローと組んで今晩と明日の午前、1試合ずつ出られるか?元々の明日午後の予定も含めてナギみたいな試合密度になるが」

「ソロでもペアでも、3試合とも出られる…と思いますが、今晩に関してはナギの決闘を仲裁してくれたおっさんに呼び出されているので、それが長引かなければ」

「決闘の仲裁をしたおっさん?アンタが止めたんじゃねぇのか?お前らんとこのガキ共がそう言っていたぞ?」

怪訝な顔でトサカが問うてくる。

「…の、つもりだったんですが割って入られて…本人は名乗りませんでしたが決闘相手は紅き翼のラカンと呼んでいました…し、聞き及んでいる特徴も一致していました」

「何…あの人が!?なら仕方ねぇ…ナギを治療室にぶち込んだらすぐに行って来い、間に合わなけりゃ俺かアニキが代役に立つかコジローに変則マッチをさせる」

「はい」

と言っていると、治療室が見えてきた。

「トサカさん、ちうさん」

亜子が私たちの名前を呼んで駆け寄ってくる。

「あ?なんだてめぇら。今から治療だよ、邪魔だ、あっち行きやがれ」

「ナギさんが決闘で大怪我したって…ナギさんは、ナギさんは大丈夫なんですか!?」

「ああ、心配すんな、治るよ。腕が肘からちょん切れちゃいるがな。切った奴の腕が良かったから問題なくくっつくぜ」

「「腕ぇ!?」」

「はうっ…」

村上と大河内はそう叫び、亜子は気を失った。

 

 

 

ナギを治療室に運び、トサカに簡単な経緯…私の把握している限りで、弟子入り云々のくだりを省いて、だが…の説明を終えた頃、聡美と茶々丸がやって来た。

「ちs…ちうさん、ナギさんは?」

「大丈夫…重傷だが二人のおかげで迅速に手当てに入れたから無事に治るだろうって…数日は寝込む可能性が高いらしいが」

「そうですかー姉弟弟子って似るんですかねー…ナギさん、無茶しちゃって…ちうさんみたい」

そう言って聡美が深いため息をついた。

「まーそう言いなや。ちう姉ちゃんはともかく、ナギは男や。男やったらこの程度の無茶は全然ありやろ、死なんかったらOKや」

「まあそうだな、後遺症が残らなきゃ無茶の範囲で良いだろう」

「ちうさんまで…貴女、また死にかけるつもりじゃないですよね!?」

そう、聡美に言われると心が痛い。

「お、なんだよコジロー、初めて意見があったな。意外に骨があんじゃねぇか、俺ぁ見直したぜ?

ほら、チウ、あのジャック・ラカンに呼ばれているんだろう?いつまでも油売ってないでとっとと行って来いよ」

「ちうさん?」

と、聡美がジト目で問うてくる。

「あーちょっと決闘を止めてくれた人とお話に…できるだけすぐに戻る…ナギの代役で試合もあるし」

「…わかりました…お気をつけて」

不満そうにそう言う聡美に見送られて、私は闘技場を後にした。まー、本来メガロ・メセンブリアで会う予定だったネギの親父さんの友人であるし、そう酷い事にはならんだろう。

 

 

 

「おう、来たか嬢ちゃん」

「む、来たか」

私が指定された酒場に行ってみると、ラカンのおっさんとカゲタロウが同じテーブルで酒を飲んでいた。

「いらっしゃいませ、ご注文は」

「コンクラーベを」

「はい、コンクラーベ1杯ですね」

無言でその卓に座り、注文を取りに来た店員に注文をする。

「それで…話とは?」

「話…?いや別に?俺に魔法の矢をぶつけた詫びに一杯奢って貰おうってだけだぜ?」

「…ラカン殿」

カゲタロウが呆れたように言う。

「…ならばその分のドラクマ貨を置いて帰らせて貰う、ナギの代役で試合に出て欲しいとも言われているし」

…そう言って、このクラスの酒場の平均的な一杯分の料金とコンクラーベの分を足して少し色を付けた金額を机に置き、立ち上がる。

「まあ待てよ、嬢ちゃん…せっかくだし、一杯分のお話もしていこうぜ?」

「…最初からそう言えばいいのに…」

ラカンの言葉に私は再び席に着く…

「おや、いいのかチウ殿、怪我をさせた私が言うのもなんだが、ナギ・スプリングフィールドの代役があるのでは」

と、カゲタロウ。

「構わない…少しくらいなら…それに、二人の関係に興味がないと言えばうそになる」

まあ、一杯くらいならば構わないだろう、時間的には。

「関係…なぁ?」

「酒を酌み交わしてみれば案外馬が合う…と言う感じではあるな?」

「おうよ、そんな感じだな…ぼーずには秘密だぜ?」

なんとなくウソではないが本当でもないだろう、それ。と言う返事をされた。

「お待たせいたしました、コンクラーベです」

「姉ちゃん、お代わり頼む、次もロックで、支払いはこの嬢ちゃんに」

「…構わないけれども常識的な額という条件…店員さん、お代は?」

と問うて言われた金額は割と良い値段ではあるが理不尽な、という額ではなかったのでその注文を通した…まあさっき出したドラクマ貨では支払いが足りない。

「はぁ…これで魔法の矢の分はチャラ…で、ナギに秘密と言うのも了解した」

そう言って私もコンクラーベを口に運ぶ。

「ところでチウ殿、決闘に介入してきた故とは?ただナギ・スプリングフィールドと拳闘士団の同期と言うだけではあるまい?」

と、カゲタロウが蒸留酒らしきグラスを片手に問うてくる。

「…ナギは私の弟弟子」

「何っチウ殿もラカン殿の弟子なのか!?」

「違う…ナギは他に私の師匠と私の友人の格闘家とに師事している」

まあ、あの煽りを受ければネギの奴はラカンのおっさんに弟子入りしたがるだろうしこの答えで良いだろう。

「へぇ…なるほどな…いい師匠なんだな、そいつは…嬢ちゃんも年の割にはイイ気の練りをしているぜ」

と、おっさんが言った。

「ラカン殿?確かにチウ殿の実力は中々のモノだと思うが年齢と種族を考えれば、むしろ魔法の練度を褒めるべきではなかろうか。第一、チウ殿は嬢ちゃんという年でもあるまい」

まー確かに多くの獣人は性格と素質的に魔法より気に重きを置くタイプが多いっちゃ多いらしい…私も拳闘士を始めてから知ったが。

「いや?嬢ちゃんは15歳くらいの人間だぜ。だろ?」

隠している事をあっさり暴露してくれるおっさんである。

「なぬ!?チウ殿もか!」

と、カゲタロウに驚かれ…やむを得ず、私は頷いてこう答えた。

「…ナギの事を知っていれば私もわかる…か。その通り、私の本当の種族はヒューマン、年も正解」

そう言い切って私はコンクラーベを飲み干し、私の分の会計を机に乗せる。

「続きはまた今度…ナギと貴方を訪ねた時にでも」

「おう、了解、待ってるぜ…ほら、俺の住居の探し方だ」

そう言ってラカンのおっさんが私にメモを渡してきた。

 



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75 辺境編 第6話 ネギの寝る間に

「さーて、続きましては第8試合、東方ナギ・スプリングフィールドとコジロー・オオガミペア…の予定でしたが、掲示でもお知らせしております通り、ナギ選手は街頭決闘による負傷のため、欠場となります。よって、代闘士としてチウ選手の出場です!」

と、私とコタローが紹介される…長居しなかったのもあって、試合には余裕ではないにせよ、間に合った。ちなみに場の反応は割と悪くない。

「対する西方は…帝国辺境から来たベテラン自由拳闘士、ダニエルとメアリーペアです!」

と、司会が相手を紹介する…ヘラス族のおっさんと成人しているが見た目は若い女だ。装備は二人とも軽戦士型に見える…が、女の方は短剣も携えている。加えてヘラス族は長命種なので見た目よりも熟練であろう。

「私は女の方を…場合によっては連携を」

「応、俺はおっさんの方やな」

とコタローと一応担当を分けておく。

「それでは早速参りましょう…開始!」

気の練りは多め、今まで闘技場で見せた瞬間最大出力程度(気だけでもまだ全力ではない)でヘラス族の女性に斬りかかる。コタローも同じく男のほうに殴りかかっていった。

ランキング中位程度の連中であればコレで決まってしまう一撃に彼女は片手剣で事も無げに対応し、魔法の射手を無詠唱で5本、放ってくる…属性は…炎か。

 

魔法の射手 雷の7矢

 

少し下がって魔法の矢を切り払うと同時にこちらもお返しと魔法の矢を放つ…と相手も同じ様に魔法の矢を切り払って見せた。

「ナギ・スプリングフィールドとやらと戦いに来て獣人の相手かと思えばどうして…なかなかやるの」

「さすがはナギの相手…少しは本気を出せそう」

と、気の密度を上昇させ、縮地にて切りかかる。

「ほう…なかなか鋭い!」

と相手は短剣で私の一撃を受け止め、私は長剣の追撃を避ける為に後退し、狙ってなされたらしいコジローの相手が放った魔法の射手を避ける為に縮地を行う。

「ちう姉ちゃん!」

警告にしては遅い。まあ、縮地でギリギリに離脱したので分身が魔法の矢に呑まれたようにも見えるのだろうが。

「たわいなし!」

と、おっさんがコタローと切り結びながらどや顔で言った。

「うつけめ!油断しおって!」

そう言って私の相手の女が縮地、おっさんに切りかかった私の刃を割り込む様に受け止める。

「なぬ」

「ノイマン・バベッジ・チューリング 魔法の射手 雷の29矢」

と、同時に割と本気の魔法の射手を短縮詠唱でぶちかます…女は避けたが男は私の出現自体に虚を突かれたのか回避ないし防御が遅れ、数本命中した。

「ぐっ」

「へっ」

「へぶっ」

と、コタローはその隙を見逃すほど優しくはなく、おっさんをふっ飛ばした。

「むう…1:2になってしもうたか…だが諦めはせぬぞ」

「コジロー…この人は私の獲物」

「えー…ってまあええか、元々は俺がおっさんにそっちの戦いに水差させてもうたんが原因やしな」

と、コタローはおっさんを担いで端っこの方に運ぶと柱の上に立って観戦モードに移った。

「…良いのか?わらわは強いぞ?」

「大丈夫…私もまだ本気は出してない…これに対応できたら…もっと先を…私の本気の鱗片を見せてあげる」

気の密度を大幅に…気のみの最大レベルまで上げてみせる。

「はっはっは…ソレのまだまだ先があると申すか…化け物め…ならば…参るぞ!」

と、二刀を生かした剣技で切りかかってくる…ふむ、なかなか糧になる…と喜んでいる自分を自覚する…これでは月詠やクーなんかの戦闘狂と変わらないな。

「悪くない」

「くっ…このっ…」

正直、期待以上である。剣技の技量レベルは十分に高く手数で彼女が有利、身体強化レベルも現在の私に食らいつける程度には高い。

「魔法は?」

 

魔法の射手 光の7矢

 

と、剣戟を交わしながら魔法の射手を7本展開する。

「無茶を…いうな!」

残念ながら、このレベルで切り結びながらの魔法は無理らしい…剣士型が基本か。

「…なら…これを凌げたら合格」

と、私は魔法の射手を浴びせた。

「ぐっ…」

彼女は何とか私との剣戟から離脱し、魔法の矢を切り払うと共に

 

パキィィン

 

私の追撃の突きを長剣と短剣をクロスさせて受け止めた…代わりに彼女の剣は二本とも砕け散り、本人も数メートル吹っ飛んだが。

「あぁぁぁぁぁ!」

それでも彼女は立ち上がり、戦いの歌系統の魔力密度をさらに上げて…かなり無理をしているようだが…懐から装飾の施された懐剣…おそらく貴族階級が持つ自決用を兼ねた最後の武器…を抜き放って向かってくる…文字通り最後の抵抗である。ならば…と約束通り本気の鱗片を出す事にした私は剣を鞘に収めた。

そして、咸卦の呪法を発動させて鉄扇を抜き放ち…それでも私に襲い掛かり続けてくる彼女を数手いなした後、彼女を…メアリーを投げた。

「ぁがっ」

「楽しかった、メアリー…覚えた」

そう言って私は地面に叩きつけられて気絶したメアリーの胸元に彼女が取り落とした懐剣を乗せた。

「ダニエル・メアリーペア、気絶!カウントを取ります!」

と、司会がカウントを読み上げるのを、いつもとは異なりメアリーを見ながら待ち…私達の勝ちが確定した。

 

「それでは、さっそく勝利者インタビューデス!

まずはコジロー選手から!途中から余裕の観戦でしたが、対戦相手についてコメントを!」

「んー今まで戦ってきた中ではなかなか強かったと思うで、ヘラス族のおっちゃんって事で最初は少し様子見の感もあったけど。

途中から観戦に回ったんは、まあ単にちう姉ちゃんの獲物を盗るつもりがなかったってだけや」

と、割と無難な回答を返す。

「成程デス、確かに瞬殺ではありませんでしたね。ではチウ選手、初めてのタッグマッチでしたがご感想は?」

「特に…でもメアリーとは戦えてよかった」

そう、私は今まであえて呼んでこなかった対戦相手の名前を口にする。

「おや、チウ選手がお相手の名前を呼ぶとは珍しいデスね、楽しめたデスか?」

「少しは…彼女は私の本気の鱗片を見せるに値した」

「確かに!お二人の剣技のぶつかり合いは観客の皆さんも大盛り上がりでした!しかし、最後に剣をおさめて短い棒状の武器を抜いた事には何か理由が?」

さて…どう答えたべきか…と少し悩むが予定していた回答の一つを改変して述べる。

「アレが私の本来の得物…彼女に敬意を払った…私に剣を収めさせる人を待っている…メアリーの様に」

そう述べて、話は終わりだと闘技場を退場した…そして、その日から私の二つ名に『剣を収めてからが本気の女剣士(自称)』と言うのが加わる事になった。

 

 

 

風呂に入り、ネギの代わりに茶々丸への魔力補給も行い、長い一日を終わりにしてベッドの上に座って聡美を抱きしめていた。

「千雨さん、今日はお疲れ様でしたー」

「そうだな…本当に疲れたよ…色々あったし…おかげで夜の試合、少し悪役っぽかったし」

「あのキャラ演じている千雨さんならーどう足掻いてもアアなる気がしますよー?」

「…そうかもしれないな」

「それにしても…ネギ先生は大丈夫でしょうか?包帯替えの時に見た限り、かなりの重症でしたが」

と、茶々丸が言う。

「ヒーラーの先生が言うには治療はうまくいったらしいし、ネギの治癒力を考えれば二日くらいで目覚めるとは思う」

「そんなに目を覚まさないのですか」

「ああ、だが昏睡と言うよりは傷の治療を早める為に強制的に眠らせている…らしい」

戦闘時用の昏倒回復魔法は一応私も使えるが、そう言うのは使えないのかとヒーラーさんに聞いたら、ゆっくり休める状況なんだから休ませてあげてください、と怒られた。目が覚めないと命かそれ以上の何かがマズイ的な状況でもない限りはヒーラーとしては使いたくない魔法らしい。

「なるほどー絶対安静と言う奴ですねー」

「そういう事でしたら…」

と言う茶々丸はそれでも心配そうな顔をしていた…茶々丸よ…その不合理が感情だよ、と思いながら私は娘を見つめていた。

 

 

 

翌朝、朝練の後に三人でネギの包帯を替えと清拭をすると朝風呂に入り、その後はコタローとタッグで試合…だったが、今日の相手は語るような事もなく済んだ。そして昼の包帯替えと清拭を済ませて午後の自由時間に買い出しに出かけ、試合時間まで部屋でのんびりと過ごし…私の午後の試合時間が来た。

 

 

 

「さーて、続きまして第7試合…の前に本日は特別演目がございます!演目は…魔獣狩りデス!」

司会がそう宣言すると闘技場が沸く…正直な所、私はあまり乗り気ではないのだが。

「本日の狩人はグラニキス・フォルテースの女剣士、チウ!」

と私が闘技場に進み出ると共に紹介される。

「対する魔獣は…ケルベラス大樹林に生息する亜竜種、虎竜です!」

と、司会が宣言すると共に檻に入れられ、眠らされた魔獣が運び込まれ、逃亡防止の足環をつけられると魔法で眠らされていた魔獣が目を覚まして暴れ始めた。

「それでは…チウ選手、準備はよろしいですね?…それでは、はじめて参りましょう!魔獣狩りの…始まりデス!」

と、私が頷くのを確認すると司会が開始を宣言し、檻が解体されて虎竜が空を舞う。

正直、この程度、本気なら断罪の剣で障壁ごと首を落としてお終いではあるのだが、断罪の剣を封じて虚空瞬動を解禁していないちうとしてはどう戦うか…と言うとまあこういうのはセオリーがある。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 光の精霊47柱 集い来りて 敵を射て 魔法の射手 収束・光の47矢」

虎竜が雷を放つのを避けながら私はちうとして見せた事のある全力の魔法の射手を収束で翼を狙って放った。ソレは虎竜の纏う魔法障壁に大幅に減衰されたが、それでも過半が魔法障壁を突破し、虎竜の片翼をズタボロにする…この闘技場と足環の鎖が許す行動範囲は虎竜にとってすこぶる狭いのである…本来の私にとってもそうであるように。

「グルァァァ」

そんな悲鳴を上げながら虎竜が地上付近に降りた。そして私は気の出力を最大まで上げ…

 

ザシュッ ドサリ

 

縮地にて跳躍した私は虎竜の首を切り落とした…両角を切断して気絶させて勝利すれば生かしてやることもできるが、結局は殺処分されてしまうので、興行の為とはいえ嬲るよりはとの慈悲でもある。

「一撃!一撃です!チウ選手、虎竜の首を一撃で落としました!」

私の一撃の後、静まり返っていた闘技場が爆発するように沸いた。

 

 

 

その後、私はインタビューをほぼ無視に近い対応で済ませ、控室で残りの試合を見る事もなく、部屋に戻った。

「千雨さん…」

衣装の鎧部分のみを外した頃、少し息を切らし気味で戻ってきた聡美が心配そうに私の名を呼ぶ…

「聡美…」

私は聡美を抱きしめる…ケルベラス大樹林で私達を狙ったならば、脅威となったならば躊躇う事はなかっただろう。あるいは、大樹林で弱肉強食の理の元に狩るのであれば…まあそれもアリだ。

だが奴は殺される為だけに闘技場に連れて来られ…望まずにこの場に立って死んだのだ。どれだけ経験を重ねても命を奪う事は慣れないし…望んで戦いの場に立ったのでも、それを呼び込むだけの事をやったのでもなければ、尚更に…辛い。

「千雨さん…お辛い…ですか?辛いなら…泣いてもいいんですよ?」

「イヤ…そこまでではない…けど少し聡美を感じていたい」

まー別に泣く程のこっちゃないのだが、さすがに直接手を下したとなると少し甘えたくなる程度には心に来る…猛獣狩りは本来危険なので手当て的な意味でファイトマネーは割増しであり、バッジ反応の捜索計画の緊急時用高速艇チャーター代的な意味で必要だったので提示されて断る選択肢はなかったのだが。

「なら衣装を脱いで…もっと薄着でも…裸でも良いですよ?」

「ん…とりあえず普段着に着替える…と言うか風呂行こうか…そのあとで少し甘えさせてほしい」

「はい、千雨さん」

 

と、いう事で私達は大浴場で入浴を済ませて部屋に戻ると部屋着に着替えてベッドに座り聡美を抱えるように抱きしめていた。

「…なーんかこのサイズ感、アリではあるんだけれども、しっくりこないんだよなぁ…」

「そりゃあ…本来の姿でも身長差ありますけれども20センチ無いですからね?身長差」

「それもそうか…」

と納得する…が

チュッ

「おかげで、こういう体勢でもないと私からキスできませんし」

と聡美がくるりと体を回してキスをしてくる。

「にゃっ…聡美…そんな体で…」

「むぅ…ならば元の体で大人のキスでもします?

わかっていらっしゃると思っていたんですが、この姿でも諸々の感覚・感性まであの頃に戻ったわけではない…もう何も知らない子供には戻れないんですよ?」

そう、10歳の頃の聡美がしなかった表情で私に微笑む…というか幼女姿でそれは…背徳感に背筋がゾクリとする。

「こっちに来る前は体感時間で数日に一回はしてくれていたのに…もう二週間もお預けでしたよ?」

「あーうん…そういや…そうだな…おでこ以外」

よくよく思い出してみると、こちら…魔法世界に来てから一度もキスをしていなかったはずだ…闘技場に住むようになってからはおでこにはちょくちょくしていたはずだが。

「そーですよー…部屋の外では大人の拳闘士ちうとその妹のハカセで良いですから…部屋の中ではちゃんとパートナーとして扱ってほしいんです」

「わかった…私も我慢とかしないぞ?」

「はい…んっ」

私は、聡美と大人のキスをした…割と長めに…こっちも、聡美が幼女姿という事で我慢していたのであるのにそんなことを言われたらこうなる。

 

 

 

翌日は猛獣狩りの後という事で試合は入っておらず、ネギの介護以外は概ね闘技場の資料室から本を借りてきて部屋で過ごしていた。

「んーこの資料がガチなら恐ろしいなぁ…ジャック・ラカン」

「ネギ先生の決闘を止めたっていう、ネギ先生のお父さんのご友人…でしたか?」

ネギが目を覚ませば尋ねる事になるだろうと彼について予習を…と思ったのだが、まー無茶苦茶…才能と運命と20年の歳月とが作り上げた化け物…戦争の英雄である。その後の20年でさらに鍛錬を積んでいるとすればどこまで練り上げられている事やら…と言うか、少年拳闘士時代から20年の経験を経てなお青年、さらに20年を経てまだまだ現役と言う長命種め。

「うん…そんでもって、ネギが起きたら多分師事しに行くことになると思われる」

「…で、それに千雨さんもついていくんですよね。私もついていって大丈夫ですか?」

「…のつもりだし、大丈夫…だと思う」

一応、トサカにもネギのリハビリに付き合うつもりだと伝えてあるし、ラカン自身も…まあ聡美を近づけたくない類の人間には見えなかった。

「さーて…調べ物はこれくらいにして…潜ろうか」

「はい」

私たちは力の王笏にダイブして呪紋の開発にいそしみ始めた。

 

そしてこの夜…ネギは目を覚ました。

 

 

 




メアリーは帝国に属する小国の王族ないしそれに類する貴族でダニエルは護衛(本人よりも強いとは言っていない)的な設定だが詳しくは決めていない、そして相手が悪いだけで二人ともかなり強い。なお、『チウ』の無口キャラと舐めプ段階解除が合わさり悪役に見える。


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76 辺境編 第7話 バッジ捜索隊出発!

「気分はどうだ、自業自得で死にかけた気分はよ」

ネギが目を覚ました翌朝、朝日の中で黄昏ていたネギに言った。

ネギが目覚めたのは昨晩の内に村上から知らされていたのだが、亜子とよろしくやっていると聞いて邪魔するのもアレかと…それが爆弾をデカくするにせよ…思って夜の訪問を避けた。既に寝間着に着替えていたので面倒くさかったというのもあるが。

「千雨さん…」

「なーんてな」

と、私はネギに向けていた厳しい顔を崩す…その辺りのお説教はやらかした…ナギ・スプリングフィールドを名乗った当日に済ませてある。

「…で、どうだった?ガチで命を賭けた決闘の感想は…何か掴めたか?」

「ハイ…何と言ったらいいのか難しいんですが…何かを掴んだ気はします」

「ならばいい…ただ、アレは命がけの決闘だったんだ、街中とは言え魔法の射手や白き雷位は使ってもよかったんだぞ、なんだかんだで遠慮したな?」

「あ…その…それは…ハイ…その通りです」

と、ネギは御免なさいと頭を下げた。

「千雨さん、茶々丸さん、ハカセさん…ご心配をおかけしました、僕の看護もしてくださったそうで」

「いえ、そんな…ネギ先生…」

「フン…姉弟子として、面倒みてやっただけだよ…茶々丸一人に任せるのもアレだしな」

「私は千雨さんと茶々丸のお手伝いをしていただけですけれどねー」

という話をしているとコタローが駆け寄ってきた。

「おぉーい、ニュースやニュース!ビッグニュースや!俺たちの仲間から連絡あったで!念報やけどな」

「え!?本当!?」

「生放送から4日で収穫があるとはな、誰だ!?」

「多分…刹那姉ちゃん達や!」

そう言ってコタローが見せてきた念報には、アスナと刹那がコノカを探していて、オスティアで合流しようと読める内容が記されていた。

 

 

 

「では早速参りましょー開始!」

と本日の午前の試合が始まる…相手は鳥人の戦士(刹那の様に両手と別に翼が生えるタイプ)なんだが…こんな狭い闘技場で?と思いつつ、宙に舞い上がった相手に私は気を練り、剣を構える。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 魔法の射手 拡散・雷の23矢」

まずは小手調べと拡散の魔法の矢で対空射撃を行う…まあすり抜けるでも切り払うでも、急降下でもご自由に、と言う感じではあるが。

で、相手の対応は急降下、射界の下端を掠めるように私に向かってくる。

 

魔法の射手 光の5矢

 

と、魔法の矢で迎撃…を、横ロールで回避して接敵…

 

キィン

 

音を立てて一撃だけ切り結ぶと相手は一撃離脱で再び空に退避した。

…なるほど…そーいう戦術か…虚空瞬動アリならよゆーではあるが…まあそれを出すまでもない。

相手が再び急降下してくる…こちらも同じように無詠唱魔法の射手で同じように迎撃し、縮地で剣撃を離脱。

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 魔法の射手 拡散・雷の29矢」

 

私の影を相手が切り裂く隙にさらに縮地、後方を取り、進路を阻む様に魔法の射手の傘で覆った。相手は急制動、魔法の矢を回避して私を背に地に足をつける…私はその背中を切り裂いた…まーさほど深く斬ってないし、死にはしないだろう、すぐに治療を受けられるし。

そして、まだやる気であればと魔法の射手を無詠唱で7本、構えた…が、相手はどさりと倒れてカウントが成立、私の勝ちとなった。

 

 

 

「さて、いよいよ明日から茶々丸にはバッジ反応の捜索に出て貰う…今夜はネギとゆっくりして来い」

私と聡美で手持ちの機材で出来る限りのメンテナンスを終え、私は言った。

「はい…あの…お母さま、ハカセ…明日からはネギ先生の事…よろしくお願い致します」

「…添い寝以外は、な?」

まあ、元の姿なら許容してやらんでもないが、オトナモードとはごめんこうむる。

「…はい…それでも、十分です」

「さ、茶々丸、行っておいで」

「ハイ!」

と、今夜は早めに茶々丸をネギの元に送り出した。

 

 

 

「ほほぉーコレが探索ルートか、ホンマに世界一周やなぁ」

「ヘラス帝国南部…帝都付近を除く人口密集地は大方カバーしています、これでだめならその後さらにしらみ潰しで」

まー今回のクルーズ船を運航していのが連合側の会社なので仕方がない事ではあるが、ヘラス帝国は拳闘が連合よりも盛んなので『ナギ・スプリングフィールド』の話題が広がりやすく、自力でオスティアに集まってくれる可能性は高い。

「この旅費にお三方が稼いだ活動資金の大半、5万ドラクマが必要でしたが」

まーその他雑費を出してもまだ1万程度は残っているが、それはいざという時の高速艇の運賃に充てる予定の予備費である。

「ま、世界一周の旅費じゃしゃーないな」

「これなら全員見つけられそうだね…」

「でもさー、空の上から位置を確認するだけじゃ意味なくない?朝倉」

と、村上が疑問を述べる…まあ本来それで保留行きになりそうだった計画だしな、コレ。

「フフフ、そこで御登場となるのが本作戦の目玉…これさ」

「おおっ」

と仮契約カードを取り出す…と言うかコタローも驚いているが聞いてなかったのか。

「ふふふ…ちうっちに電脳関係のいーのが出てたから、私も取材情報収集関連のいいのが出るんじゃないかと思ってたんだ~」

と、朝倉が自身のアーティファクトの説明を始める。

「私、朝倉和美のアーティファクトは『渡鴉の人見』!その名の通りのスパイアイテム!

最大6体のスパイゴーレムを超々遠距離まで遠隔操作可能!

戦闘能力なし、ステルス性に不安あり、手順を踏まねば私有地等のプライベートエリア内には入れないとか制約は結構多いけど、そこはわが友さよっちのカバーによって最強無敵のパパラッチアイテムに!

ま、要するに発見した仲間にこのスパイゴーレムを向かわせれば状況は一目瞭然って訳だね」

「へーそういや、いつの間にヤッたんや?と言うか、カモの奴もおらんのにどないしたん?」

と、コタローがそんな疑問をぶつけてくる。

「ヤッたって何を?」

それに大河内が何の事だとの疑問をぶつけてくる。

「あん?そらお前、仮契約カードを持っとるって事はこのボケネギと和美姉ちゃんがキスしたっちゅー事や」

「ええーっ!?キス!?」

「ふふー別に仮契約はカモ君がいなくてもできるのさ、コタ君。仮契約屋ってのもあるし…魔法陣の専門家である、ちうっちに頼めば魔法陣用のチョーク代だけ!

って事でこれが私の…ファーストキス記念写真さー」

と、朝倉が私たちの部屋で仮契約した時の記念写真を現像したものを取り出した。

「ネ、ネギ君大人版だと結構シャレにならないね~」

「こ、これを亜子に見せる訳には…も、燃やさなきゃ」

「そうですねー撮影した私が言うのもなんですけれど和泉さんには見せられませんねー」

「ん~ふふふ、ネギ君赤くなって震えてて初々しかったな~いい経験させて貰っちゃったい」

と朝倉が、幼女がしてはいけない顔をしてそう言った。

「朝倉さんっ」

「…朝倉、てめぇ、今、幼女顔なの忘れんなよ?」

「と言いつつ、ネギ先生の仮契約者はすでに8人目ですが…」

「は…8人…」

と、大河内…つまりネギが8名とキスをしたという事実に思い至っているのだろう。

「不潔だっ、ネギ先生ッ」

「ち、違うんです、アキラさん!どれも緊急事態で理由があったりとかでっ…」

と、大河内が逃げ出し、ネギが追う。

「へっ、くだんね」

とそのドタバタをコタローが笑う…が、このドタバタに発展したのはコタローの不用意な質問と解説だと思うのだが。

「キスかーネギ君もう8人としてるなんて大人…」

と村上がつぶやき、コタローの方を向いてハッとした顔をする。

「何や?」

「なっ…何だよ」

…まあ、カモと合流する前に仮契約するなら仲介はしてやるぞ?村上、コタロー?

 

 

 

「ほいじゃ、行ってくるよ!」

「行って参ります」

と、茶々丸と朝倉が乗船予定のクルーズ船を背に言った。

「お願いします!朝倉さん」

「みんなの捜索頼んだで!」

「気を付けてねー茶々丸ー」

「あんた達こそ、借金返済計画がんばってね」

「ああ、でもあんたらや見つけた仲間に危険がせまったらすぐ連絡やで?

俺達がすぐに高速艇で駆けつける。3日から最大5日なら何とかこの街を離れられるからな…どーしようものうなったらちう姉ちゃんの投入やけどな」

まあ、諸々の相談の結果、役割分担はそう言う事になった、私を初手に投げ込む方がネギ達の大会出場権的には合理的なのだが。

「わかってるって」

「ネギ先生…朝倉さんの身は私が守ります、御安心を、ネギ先生」

「…茶々丸さんも気を付けてくださいね、ホントに…」

とネギが少し寂しそうに言った…うむ、いい兆候かな。

「…ハイ」

と、茶々丸の反応は、うれしそうな意外そうな反応だった。

 

「あの、千雨さん…ハカセ…先生のコト…」

「ああ、わかってる」

「ちゃんと見張っといてあげるから、がんばってね、茶々丸」

「ハイ…それでは、行ってまいります…」

と、言った会話を最後に、茶々丸と朝倉はクルーズ船である飛行魚に乗り込んでいった。

 

 

 

「行ったな」

「一日でも早く全員の居場所が判明するといいんだがな」

と、展望台で茶々丸たちの乗った飛行魚を見送って言った…そして

「あのっ…千雨さん、ハカセさん、コタロー君!」

「ああ」

「はい」

「わかっとるわ、その何とかゆーおっさんに稽古つけて貰いに行くんやろ?構へんで、行ってこいや。出場権は任せとけ」

と言うか、トサカには私の随伴含めて試合のマッチングはすでに根回し済みである。

「コ、コタロー君…ごめんあの…僕、ごめ ぽ!?」

謝り倒すネギをコタローがぶんなぐって変な声が出る。

「男が一度決めたコトグダグダ言うなや、ボケネギッ!」

「で、でもっみんなの救出には直接関係ないし…っ」

「アホォッやりたいなら、やったらええねん、修行でも何でも。

親父の仲間なんやろ?そのおっさん。どうせなら最強無敵の力でも手に入れてこいや」

「コタロー君…」

「気にすんなや、俺は実践の方がレベルアップ早いねん。もたもた修行して俺に追い抜かされんよーにせぇよ」

そして拳を合わせて衝撃波をまき散らして二人は言った。

「がんばるよっ!」

「お互いにな!」

「衝撃は出すな、周りに迷惑だ…それと私も行くからな」

と、私が宣言する。

「と、いう事で私も行きますよー」

「ち、ちうさん!?ハカセさん!?」

「おう、ボケネギの事、頼むでちう姉ちゃん、ハカセ姉ちゃん」

「いやでも、ちうさんは試合が…」

「お前が寝込んでいるうちにトサカに根回しは終わってるよ、おまえの分含めてな…まあ向こうに長居するなら時々戻らにゃならんが」

一応、五日先までは試合は無しにしてもらっているし、ネギも2週間程度のリハビリと療養と言う話を通してある。とゆーか、この根回しのせいで高速艇での初期投入が私でなくコタローとなっている…うん、ぶっちゃけネギも余程やばそうでなければお留守番だ。

「ちうさん…あ、ありがとうございます!」

そう言ってネギは私に頭を下げた。

 

 

 

「あーアレを見てくださいー」

その後、軽く旅装を整え、ラカンのおっさんから貰ったメモを頼りに砂漠を歩いていると、塔を中央に備えたオアシスを発見した。ちなみに街が見えなくなった辺りで周囲を確認した後に岩陰で変装は解いた。

「多分あれだな…行こう」

「ええ、行きましょう」

 

「わあ…」

近寄ってみるとそこは確かにオアシスで、微妙に生活感があった…割と新しい家具とかが使用感たっぷりに置かれている。

「何かの遺跡みたいですねー」

「…多分あっちだな」

と人の気配を感じた方向を私は指し示した。

 

「ラカンさーん、ラカンさーん」

ネギがそんな大声を張り上げながら歩いていると砂浜に到達し、波打ち際で構えをとって立っているラカンのおっさんを発見した。

「うむ…あの日も少しだけ見たが…やはり強いのはかなり強いな…指導者としては知らんが」

全身から沸き立つ気を見て私はそう言った。

「なにをしているんでしょう。修行かな…」

そして…

「覇王!炎…熱…轟竜 咆哮 爆烈閃光 魔神斬空 羅漢拳」

…奇妙なポーズをとりながら衝撃波を放った…いや、もしかしたら、百歩…いや千歩譲ってあのポーズが動きによる詠唱であるとしても、アレは、無い。

まあ、ラカンのおっさんも、とりあえずやってみたがなんか違う、と言う感じで再び構え…

「う~~ん…葱拳」

と、先ほどよりは威力控えめの衝撃波を出す…溜めの問題もあるが、マジで動きによる詠唱だったのか?アレ。なお、ちらりと聡美とネギとを見ると唖然と言った様子でその光景を眺めていた。

「ぐうっ…駄目だ、やっぱ語呂が悪いっ、キメポーズ取ってる暇もねぇし…

ダメだダメだ、こんなネーミングじゃ、とても俺印の必殺技は名乗れねぇぜっっ!」

そう言って湖?に向かって衝撃波を連発する。そして黒板の前でうろうろしながらいろいろな事を呟いていると、はっとした様子で言った。

「全身から何か出る…?それだよッ エターナル ネギッ…フィーバー!」

そしてまあ、まだ実戦で使えなくもない短さのキメポーズと共に全身から光線を放出し、岩山を消し飛ばした…とっさにその衝撃波から聡美をかばうように抱きとめる。

「あっ…千雨さん…」

と、聡美が抱き着いてくる…そーいや、元の姿同士で抱き合うのも、ケルベラス大樹林以来か…と、私も不必要に聡美を強く抱きしめた。

「お…おぉぉ…テキトーに全身から光線を出してみたが…まさかこれ程の威力とは…完成だ!奴の息子、ネギの新・必殺技がな!」

と、ラカンのおっさんは宣言する…いや、今のは無理だろ、ネギには…

「ネギ…ラカンのおっさんの強さはよくわかったが、アレはあんま師匠に向いてる様にゃ見えねぇ…親父さんの情報だけ聞いたらとっとと帰…ネギ?」

と、ネギを見ると目を光らせてラカンのおっさんを見ていた。

「オイッ!?」

「千雨さん、覚えていますか?僕が強くなるためにはアホっぽさが足りないって話…」

…確かに、アスナみたいな、話に聞くナギ・スプリングフィールドみたいな感じも必要かとは言う話があった気はするが…

「今、僕が師事するとしたらこの人しかいない気がします!」

「ちょ…待て、バカ早まるなっ…イヤ…いいのか?そう言う思い切りの良さも…」

「千雨さん!そうじゃないでしょう!?」

とか意図せず漫才をしてしまった隙にネギはラカンのおっさんの前に飛び出した。

「ラカンさん」

「おおっ、来たかぼーず!はっは、正体はホント、ガキだなーで、その二人、片方はちう嬢ちゃんだとしてもう一人は誰だ?

ま、丁度いい所に来たぜ!お前用の必殺技が完成した所だ!今なら特別に3割引きで売ってやるぜ!?」

「いえ…その技はちょっと…多分ラカンさんにしか出せないし…」

いや?威力はともかく気弾を出す要領で全身から光線の様に気を放って再収束させる事自体は私にもできる…と思うぞ?練習すれば。

「えー何だよー金ないのかー?ローンで良いぞ。傑作なんだけどなぁ」

「い、いえ、それよりも…僕に…戦い方を教えてください!時間はないですが…強くなりたいんです!」

「…フ」

と、おっさんが笑う。

「いいぜ。けど…俺の修行はキツイかもだぜ」

「構いません!どんな修行にも耐えて見せます!」

「…フフ、ハッハッハ、素直だな、オイ。奴とは正反対か、タカミチの言ったとおりだぜ」

そう言っておっさんはわしゃわしゃとネギの頭を撫でた。

「こうしてみると、ネギ先生も年相応の少年ですねー」

「まーなぁ…」

「で、雰囲気と髪色からしてそっちの栗毛がちう嬢ちゃんだろ?いいのか?あんたのお師匠的には」

「ああ、今更構わんだろう…私がネギを扱き倒すよかマシな師匠っぷりを期待してるぜ?」

「おっ…演技してるとは思っていたが、そーいうのが素か。それとあの晩の試合も見せてもらったが、中々どうして…変装の年恰好からしてもイイ気の練りだったぜ…最後のアレ別にしてもな」

「そりゃあどうも…アンタみたいなのにそう言われると少しは自信が持てるよ」

と、少し皮肉交じりに返す。

「クックック…まあそれはさておいて、よーし、ぼーず姉弟子の姉ちゃんから許可も取れたことだし早速行くか!2週間であの影使いに勝てるよーにしてやるぜ」

「あ、あのーそれもいいんですが…」

「何だ?」

「もっと強くなることはできるでしょうか…?」

「ワッハッハ…そりゃ欲張ったな、いーぜいーぜ気に入ったぜ、ぼーず…男はそれくらいじゃねぇとな」

そう言って、ラカンのおっさんは豪快に笑った。

 



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77 辺境編 第8話 ラカンへの弟子入り

「そう!それがこの俺!ジャック・ラカンだ!」

と、ラカンのおっさんは紅き翼の主要メンバーと共に軽い…調べたおっさんの戦果と経歴を考えれば本当に軽い自己紹介を済ませて締めくくりにそう言った。

「「おお~っ」」

「…はあ」

ネギと聡美はノリノリで拍手をするが、私はついそんな反応を示してしまう。

「何だー嬢ちゃんは興味なさそうだな?」

「いえ…そこいらの資料室の蔵書で手に入る程度の情報は調べさせていただいたので…」

本当は色々と潜っても調べたが、まあ言わんでいいだろう。

「ぼ、僕、興味ありまーす!」

とネギが立ち上がり挙手をする。

「ホントに父さんの永遠のライバルだったんですか?も、もっと詳しい話を…」

「ダメだ。俺の昔話はタダじゃ聞かせられねぇぜ。そうだな、10分で100万はもらわねぇと」

「ええー!?100万!?」

…村上達の身請け金と同じ額である。

「ううっ…タカミチもクウネルさんもこっちに来れば父さんの話を聞けるって言ってたのに…」

「まー時間もありますしー徐々に聞き出していけばいいのではー?」

「そーだな、エヴァの同類なら晩酌の相手していると昔話は聞けるかな…エヴァの場合は断片的に、だが」

割と昔話は地雷らしいので、私が知っているマスターの過去はさほど地雷でない部分と時々零す情報とを再統合した結果であるが。

「それより、ラカンのおっさん。私達がこっちに来た日に会う予定だっただろ?よくこっちに戻ってきていたな」

「ああ、それなぁ、実は…すっぽかした」

「ええーっ!?」

「いや、ホラ、メガロメセンブリアとか遠いし、だりーじゃん、名前もなげーし。

タカミチからの連絡でナギの息子が来るっつーからこりゃ行かなきゃなぁとは思っていたんだがよ、10年も隠居してっと人里に出るのが億劫でよー

と、思ったらお前の方から近くまでやってきやがった、いや、人間万事塞翁が馬!何がどう転ぶかわかんねーな、オイ」

…まあ結果オーライであった事は認めるが、言っていることはサイテーである。

 

「よおしっ、修行の前にお前の力を見せてもらう。全力で俺の腹を撃って来い!」

「ハ、ハイッ、で、でも…」

「いいから撃て!情けないパンチなら修行は無しだぞ」

「ハ…ハイッ」

とネギが戦いの歌を最大出力で行使した…が

「違う!」

「えっ」

「闘技場で使っていた技、アレが一応お前の必殺技だろ?アレの最大出力で撃って来い」

「で、でも…」

と、ネギが流石に躊躇う…

「…確かにアンタならネギの華崩拳…それも桜華崩拳の全力でも死なねーとは思うけど…」さすがに無傷って訳には…そう言いかけてかぶせるようにラカンのおっさんが言った。

「フフン…わかってるじゃねぇか、嬢ちゃん…

いいか、ぼーず、まあ俺がお前の親父より強いとは言わねぇが、少なくとも同レベルにいたことは確かだ。

で…お前の憧れの親父ってのはヒヨッコがちょっと思いついた程度の中途半端なオリジナル技でくたばる様な奴だと思うか?

最強の魔法使いってのはそんなもんか、どうだ、ぼーず、試してみろよ」

あ…ネギの奴、こんな煽り受けたらガチでやるわ…

「聡美、私の陰にいてくれ…割ときつい衝撃が来る」

「あ、はい…」

と、聡美が位置取りを少し調整し、私の陰に隠れるようにした。

「あああっ」

そう叫びながらネギが魔法の射手・光の矢を展開していく…確か、109本だったかな?出発前に試したって言っていた華崩拳の最大装填数は。

そんな無茶苦茶な威力の華崩拳がラカンのおっさんの腹に決まった…

「風よ」

とりあえず、私は降ってくる水しぶきを、風を起こして吹き飛ばし、視界が晴れるのを待った…

「千雨さーん…本当に大丈夫なんですかぁ?コレー」

「多分生きてはいる…が、無ダメージかっつうと…怪しいな…」

直撃寸前で気の出力上げていたのは確認したので、まあ内臓損傷はないだろう。

「ラ…ラカンさん…」

とネギも心配そうにつぶやく…と、霧が晴れ、無傷に見えるラカンのおっさんの姿が浮かび上がってきた。

「む、無傷!?スゴイ」

 

げぼあっ

 

と、ネギが言うが早いか、ラカンのおっさんが赤い液体…多分葡萄酒…を吐き出した。まあ、あれだけの腹パンだ、胃の内容物位逆流もするだろう。

「ラカンさーん!?」

が、まあ一瞬、血にも見えなくないのでネギは大混乱である。

「痛ぇなコンチクショー」

しかも、おっさんはアッパーでネギを吹っ飛ばした。

「チッ」

と、私は舌打ちをして恐らく気絶しているネギを空中で回収するのであった。

 

 

 

ネギを介抱し、飲み物と茶菓子の甘めのパンを出されて話をしていたのだが、話がネギ…と私の師匠になった時

「何ぃ!?あのエヴァンジェリンが師匠だって!?で、チサメ嬢ちゃんもあいつの弟子!?そりゃあ傑作だ!あいつがなぁ…道理で妙な鍛えられ方をしてると思ったぜ」

「み、妙な?」

あー確かにエヴァ…マスターの育成方針はあまり普通ではない…基礎力を重点的に鍛えて、応用というか具体的な戦い方は本当にちょっとしたヒントや切っ掛けを与えるのみ、原則、自力で組み立てろ、である…私が機動戦重視を志向し、虚空瞬動を生かした戦い方を選び、磨き上げてきたように…まあ外法使いチックに育ったのはどうしてこうなったと愚痴っていたが。

言い換えれば、守・破・離の段階を踏ませずに最初から自分なりの流派を編ませるドSである…いや、変な方向に行きそうになればちゃんと矯正はしてくれるので我流と言うわけではないが。

「いや、大体わかった、合格だぜ!」

「ハイッ」

「で…だが何で強くなりたいんだ、ぼーず?」

「それは…強くなれば皆を守れるからです。最強の力があればだれも傷つかずに済む…と」

誰も傷つかずに済む…ね。それは現状を見ているのか、そんな未来を望んでいるのか、あるいは過去に追われているのか…すべてを内包する便利な言葉である。

「…ほうほう、で?」

「それと…父さんのように強くなりたいとずっと前から思っていて…」

「…ふむ…で?」

「…で?」

ネギがついに聞き返す。

「誰か倒したい相手でもいるんじゃねぇのか?」

「…それは…」

「図星か?それだよ、目標はそう言う明快なやつがいい。誰だ?そいつは」

「…フェイト・アーウェルンクスと言う謎の少年です、ゲートポートを襲った…」

「アーウェルンクス…そりゃまた懐かしい名前だな…」

「知っているんですか!?」

「まぁ…な」

「な、なぜ!?あいつはいったい何者なんです!?」

そうネギが食らいつく…正直一番濃厚なのは前大戦の黒幕だったという完全なる世界関連だろうか。まあラカンのおっさんの経歴的には伝記に乗っているだけでも候補は他に色々あるが。

「聞きたかったら100万」

そう言ってラカンのおっさんはネギの追及を拒絶した。

「えー!?」

「だがまあ、ぼーずの相手が俺の想像通りなら…厄介だな、どれ表にしてやろう」

そう言っておっさんは黒板を縦に立てた。

「表ですかー?」

「おう、強さ表って奴だな…魔法も気も使えない旧世界の一般人を基準としてみるとだな…」

と、黒板に旧世界の一般人を1とした強さ表とやらを書き込んでいった。

ネギが500でカゲタロウが700、非魔法種の竜種が650、平均的魔法騎士が300位らしい。ちなみに参考のイージス艦は1500、戦車は200だそうだ…怪しいことこの上ない、特にカゲタロウの実力。確かにネギの相手をしていた時の手加減具合で評価すればそんなもんだろうけれど。

「こんなモンか。ま、あくまで目安だ、大体の物理的力量差だと思え。

戦闘ってのは相性他様々な条件で勝敗は変わるからこんな表に意味はねーんだがな。

お前だってやりようによっちゃイージス艦くらい沈められるだろ?」

「無理だと思いますが――…」

…いや、イージス艦つうか現実世界の兵器群は魔法の存在が前提になってないから、認識阻害して接近して断罪の剣か雷の暴風クラスの魔法で十分行ける…と思う。

「まあ、勝負は相性、時の運とは言え力量差が大きくなれば勝ちは薄くなるが道理、お前の相手、謎の少年の力量は――この辺りだ」

と、おっさんが3000強くらいにバツ印をつけた。

「そんな…これほどの差があるんじゃいくら修行しても…」

「まあ、マトモにやってたんじゃ無理だな」

「く…」

「早合点するな、マトモじゃ無理だがマトモじゃない道ならないでもない」

…マテ、ネギに何をさせるつもりだ、このおっさんは。

「ホ、ホントですか!?」

「エヴァンジェリンの元で修業したと言ったな、どれくらいになる?」

「え…と3か月くらい…」

「違う、別荘使ったろ、どれくらいだ」

「そ…それだともうかなりに…8…9か月分くらいかな?」

夏休み迄の二か月間が平均して一日1時間+αとして2か月強、夏休みの約1か月が平均して一日6日分として別荘の使用時間で、そんなもんだな。

「…お前は親父には似てねぇな、どっちかっつーとあのエヴァンジェリン側…正反対だ。

いいか?この技は何百年か前、まだ弱っちかったアイツが編み出した禁呪だ。もしかすると…お前になら使えるかもしれん」

オイ、ちょっと待て。そう言いたいがここでその話題が出てくるという、あまりの衝撃にその言葉さえ出ない。

「マスターの編み出した禁呪…」

「ああ、闇の魔法(マギア・エレベア)だ」

と、案の定ソレかと言う名前をおっさんは述べて、ネギにその来歴の説明をした。

「な、なんかスゴそうですね」

「興味出て来たか?お前にならできるかもだぜ」

「なるほど…でも『闇』…マギア・エレベアですかー」

「お前向きだろ?」

「え?」

「確かに…まあ魔力的にも適性的にもネギは向いてるっちゃ向いてると思うが…」

正直、非常に止めたい、同時にアレの秘奥に至れれば恐ろしい力を得られることを理解もするが。

「いやぁ…確かにネギ先生には適性あると思いますが…アレは危険すぎますよ?」

と、聡美も私に追随する。

「ええー!?千雨さんにハカセさんまでぇ!?なんで僕が闇なんですかー!?と言うかマギア・エレベアの事、ご存じなんですか!?」

「…性格的に?あと多分体質的にも向いているとは思うぞ、マギア・エレベア…お勧めはしねぇが。まあなんで知っているかっていうと…エヴァから教わったからだよ、基礎理論だけだけどな」

厳密には理論だけもらった、であるがまあ似たようなものである。

「ハッハッハ、姉弟子のお墨付きって訳だ。何だぼーず、闇じゃ不満か?エヴァンジェリンに修行をつけてもらっといて。

ま、やるかどうかはお前の自由だが、さわりぐらい聞いても損はあるまい、いいか?

闇の力の源泉は負の感情だ、負とは否定…恐れ…恨み…怒り…憎悪…つまり、『ヤなカンジ』だ!まとめると!」

とかとんでもない事を言い始める。

「いや、マテマテマテマテ、その理解でマギア・エレベアに触れんのは致命的だ!」

確かに、一般的な闇とはソレだが、マギア・エレベアのいう所の闇はソレではないのである。

「え、そうなのか!?」

と、なぜかおっさんが驚く。

「なんであんたが驚いてんだよ!」

「いや、ホラ、俺、あんま『闇』関係詳しくねぇじゃん。じゃあ、チサメ嬢ちゃん講師役頼むわ!」

と、ラカンのおっさんは豪快に笑ってドカリと座り、酒を飲み始めた。

「って、ちょっとまてぇぇぇ私にゃマギア・エレベアの教授なんてできねぇぞ!」

私は思わず叫んでしまった。

「いや、それは大丈夫、ちゃんとアテはある、任せろ」

と、おっさんがサムズアップする。

「…本当に大丈夫なんだろうな?」

「おう、昔、エヴァから賭けで巻き上げたスクロールがあるから安心しろ」

「ちょっ…ラカンさん!?マスター!?なんてものを賭けてるんですかー!?」

と、ネギまで絶叫を始めた。

 

 

 

「ところで千雨さんはさっきの強さ表だとどの辺りになるんですか?」

マスターのスクロールと聞いてズバリ答えをネギに与えるのは逆に危険かもしれんと聡美と二人で講義内容を考える時間を貰っていると、おしゃべりの流れでネギがおっさんにそんな事を聞いた。

「んー?チサメ嬢ちゃん?そーだなー…500以上だとは思うがよーわからん、俺、嬢ちゃんの本気見た事ねーし」

「…それもそうですね…逆に500以上と言うのは?」

「おめーがカゲタロウと戦った晩の試合でメアリーとかいう姉ちゃん相手に見せた本気の鱗片とやら、だな。

お前の本気と渡り合えるくらいにはつえーだろ?咸卦法みたいな、よーわからんアレを使ったチサメ嬢ちゃん」

とかおっさんが言う。

「体術とかならともかく、1対1の実践稽古で僕が勝った事、無いですよ?咸卦の呪法と虚空瞬動アリの千雨さん相手だと…ちなみに、身体能力も僕の戦いの歌全力と千雨さんの咸卦の呪法全力だと千雨さんのが上です…千雨さんの身体強化はその先がありますし」

「うへ…って事は闘技場だと舐めプに舐めプ重ねてるのかよ…」

おっさんが呆れたように言う。

「身体強化は原則気のみで武器はショートソードで魔法は魔法の射手だけ…で剣技の修行してるようなもんだな、闘技場での試合は…まあ相応に強いのとあたったら解禁もするけどさ」

と、講義内容検討のメモ書きをしながら私は言った。

「剣技って断罪の剣の為か?いや、まあ確かにアレ闘技場で使ったら悪役になりそうだけどよ…ってそーいや、剣を収めてからが本気って言ってたな、そうか、嬢ちゃんの本気は合気鉄扇術か」

と、なぜか話の流れが私の本気になってきている。

「しかし…その先って言うのは?咸卦法の先って言うのは聞いた事ねぇーぞ」

「ええっと…僕も詳しくは聞いてないんですが、咸卦の呪法に戦いの歌系統の精霊呪文を乗せている技?らしいです」

「戦いの歌系統の精霊呪文…?まさかそれは…」

と、おっさんが私の方を見る。

「…ネギ、あんまり私の秘密を喋るな…ほら、講義を始めるぞ」

と、いまさら言うが、まあ今まさにソレを教えようとしていたおっさんの事だ、わかっただろう。

そして、その後に行った講義では、この魔法が『闇の魔法(マギア・テンブリスないしマギア・スコターディ)』ではなく『エレボスの魔法』である事に留意しろと口を酸っぱくして教えながら、深き闇を扱うものは闇と一体にならねばならないが呑み込まれてはならない、その為に自己との対話が重要である…と言った内容を教えた。

 




考えてみると自己との対話と言う意味では自分の見つめたくない過去との強制対話であるヤな顔パンチ1000本も結果論的にはありっちゃアリなんですが、そこに至る前に千雨さんが止めない展開が浮かばなかったのでこのままで(


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78 辺境編 第9話 闇か光か…選択の時

翌朝…私は久しぶりの幼女姿ではない聡美との共寝から少し遅めに目覚め、二人で昨晩入り損ねた風呂…と言うか、風呂がない…の代わりに水浴びに来ていた。

「ん…?」

「誰かいますねーネギ先生でしょうかー?」

「…あの風呂嫌いが自分から水浴びになんざ来るとは思えんが…」

…となると…答えは一人である。

「ん?誰かいるのか?ってこの気配はチサメ嬢ちゃんたちか。丁度よかったぜ、あのぼーずの事、聞きたかったんだけどよー?」

その気配…ラカンのおっさんがひょっこりと岩陰から顔を出した。

「ば、ちょっ!覗くな!聡美の裸を見ていいのは私だけだ!」

聡美をかばうように立つ…まあ同性と時々ネギとコタローには風呂場で見られてはいるが

「…千雨さんも…見ていいのは私だけです」

と、すぐに聡美に岩陰に引きずり込まれた。

 

 

 

「なるほど…タカミチからちょっと聞いてはいたが…あの事件でお仲間がこの魔法世界に散り散りになって行方知れずか…そらまた大変だな、ハッハッハ」

水浴場での遭遇の後、求められるままに現状を話したところ、おっさんはそんな反応を示した…完全に他人事である…まあ他人事なんだが。

「で…ネギの奴はその全責任が自分にあると思っている節がある」

「ん?何で?」

当然の疑問である。

「そもそも自分が親父を探しに行くとか言い出したのが原因だって事だろーな…」

「実際は一人でも来るつもりだったネギ先生に私達がゾロゾロついてきたって方が正確なんですけどねー」

「ははーん、そらまた」

「だろ?で、そんなある面から見ると傲慢ですらあるレベルに自罰的なネギなんだが…

強くなりたいって言うのも色々と闇…過去からの逃避に復讐、現状への自罰…それこそ昨日おっさんが言った方面での昏い感情の集合体に見える。

つーか、明るい動機なんて親父さんへの憧憬くらいじゃねぇかな?ま、それが悪いとは言わねぇけど」

そも、私自身、無力への不安感に突き動かされている時に一番鍛錬が捗るタイプの人間だし。

「よく見てんな、あんた」

「ハッ…姉弟子って立場であいつと付き合ってりゃ、そりゃな…ま、他の奴らも似たよーな事言うと思うぜ?」

まあ、ネギに恋している連中は知らんが、楓とかアスナとかは言い回しはともかく似た事を言うだろう。

「ま、追加の動機が何であれ強くなりたいって気持ち自体は純粋にあるんじゃねーか、男の子なんだしな。

でもまあ、嬢ちゃんの言いたい事はわかるぜ、あのぼーずは…メンドクセーな、かなり。ま、その分、教え甲斐があるってもんさ」

「…まあ、そんなんだから…平気で自分の命をチップにするぞ?あいつは…どーせ、そーいう代物だろ?エヴァのスクロールって」

「ハッハッハ…わかってんじゃねぇか嬢ちゃん…伊達にエヴァの弟子はしてねぇってか?」

「へ?千雨さん?ラカンさん?マギア・エレベアその物が危険なのは知っていますがースクロールもですか?」

とかいう話をしているとネギがやってきた。

「ラカンさん!」

「よぉ、何だ?ぼーず」

「あのっ…昨晩色々考えて…お願いがあって来ました!その…元々僕の得意は風と雷…それに光ですし、闇属性はやっぱり似合わない…っていうか気が進まないんです」

…マテ、ネギよ、いったいテメェは昨日の私の講義で何を聞いていた?と言うか『エレボス』を単純な暗黒神としてしか理解していない?つまり根本的な勘違いをしてやがる?

「けど、手っ取り早くアーウェルンクスを倒す力を得るにはこの道しかねーぜ?いったろ?マトモじゃない方法だって」

「ベ…別の方法は無いんでしょうか、その…力だけを追い求めていっても本当に強くはなれないんじゃないかと…」

「だが、お前にはやはり闇は向いているぜ?こないだの戦いを見ていてもわかる、自分でも自覚はあるだろう?」

「そ、そうかもしれませんが…できればそういう自分を変えたいんです…その…僕…僕…できれば…

父さんやラカンさんのように、バカっぽくなりたいんです!」

「「「無理。」だろ」だと思いますよー?」

即答×3である。

「お前、正反対だし。てゆーかバカだとぅーッ!?こんガキャァァァ」

「うひぇえ!?いえ、あのっ、そーゆ意味ではなくて、その、ポジティブで強靭と言うか、そのっ、本物の強さとかいう意味でっ…」

「ほお…強さ…ね。なるほど『バカっぽさ』と『本物の強さ』か、わからんでもない…が」

「ハ、ハイッ」

「忘れろーッ」

そう言っておっさんはネギをぶん殴った。

「忘れたか?

忘れとけ。

『本当に強く』とか『本物の強さ』とかなそーゆーのは全部ただの言葉遊びだ。

お前みたいな小利口なバカが行き詰った時によくはまる罠だぜ?」

まあ、同時にコタローみたいな猪突猛進型が偶には向き合ってみるべき言葉でもある…私は概ね、物理的強さ以外の強さも兼ね備えろ、との意味と解釈しているが。

「はうぅ…また小利口って言われた…」

「大体お前、『バカっぽく』なんて性格とか生き方の話だろーが、性格や生き方が修行でホイホイ変わると思うか?」

「う…でも…それでも僕…父さんのような人に…」

「…フン…お前、よっぽど親父のコトが好きなんだな…キメェ」

全否定である。それにネギはしゅんとした様子でうつむいてしまった。

「つーかよ、ぼーず、お前…今のお前の師匠、エヴァンジェリンのコトは好きじゃねぇのか?」

「え…」

「まあ、選ぶのはお前だ、ぼーず。いや、まともな道もいいと思うぜ?当面の力不足は仲間の力を借りて乗り切るって手もあるしな。つまり…今のお前には二つの道がある。

一つは正道、じっくり歩む光への道、つまりマトモな方法…みんなでワイワイ協力プレイ

一つは邪道、力を求める闇への道、つまりマトモじゃない方法…一人でプレイひきこも…一匹狼のあなた向け

さっき無理とは言ったが…まあ確かに5年10年の歳月をかければお前でもまともな道を進んで俺達レベルに追いつけるかもしれん。

それに、エヴァの禁呪はリスクもデカいしなぁ」

「リスク?そう言えばハカセさんが危険だって…」

「端的に言うと――適性がないと死んじゃいますねー千雨さんでも闇への適性はともかく本格的に使うには魔力総量が心許無いのでーマギア・エレベアその物の使用はエヴァさんから原則禁じられていますしー」

と、聡美がぶっちゃける。

「おう、そう言うこったな。死ぬのは適性がない場合だが、そうじゃなくても術者に結構負担が行くんだわ、故に禁呪って訳だ…実演してみせるか?」

「実演って…できるんですか!?」

「実際見てみない事には選びようがないだろうしな、チサメ嬢ちゃんが使えねぇなら仕方ねぇだろ。

適性のない人間がどれほどのダメージを喰らうか見せてやろう」

「え…それってラカンさんが危ないんじゃ…」

「まあ、俺なら大丈夫じゃね?」

と、おっさんが水面に立つ。

「いや、待った…一応紛い物なら使えるし…無理におっさんが実演するこったねぇぞ?」

「んーでもどーせなら本物見た方が参考になるじゃん?って事で…」

おっさん構えをとり、雰囲気が変わる。

「プラ・クテ・ビギナル 来れ 深淵の闇 燃え盛る大剣 闇と影と憎悪と破壊 復讐の大焔! 我を焼け 彼を焼け そはただ焼き尽くす者 奈落の業火」

…待て、よりによってそのレベルの魔法を選ぶか、と言う強力な魔法をプラ・クテ・ビギナルで詠唱したことにまずビビる…実演ってそんな強力な魔法でなくてもよかろうに。

 

術式固定

 

と、放出されるはずの魔力の塊を魔力球にしていくおっさん…そして

 

掌握

 

握りつぶし、取り込んだ。

 

魔力充填・『術式兵装』

 

…エヴァが一度だけ酒の勢いで実演を見せてくれただけなのでかなり久しぶりに見るな…コレは。

「ぐ…やっぱキツイな。つか俺様は元々つえーからこんなコトする必要ねーんだが…

い…いいか?コレはこの技の一端にすぎん、本来この技の核心は…ぐっ…」

流石のおっさんでも無理が過ぎるのか、闇の魔法が暴走状態に入りそうになっている…

「ラ…ラカンさん!」

「イ、イカン…やっぱ、いかに無敵の俺様でも無茶だったみたい…だぜ。さすがはエヴァの闇の魔法…こりゃ失敗だった…たっ…たっ…たわらばっ」

そんな声を上げて、おっさんは自爆した…

「ラカンさーん!?」

私は聡美を連れて水柱から離れ、水しぶきを回避した。

 

 

 

水しぶきが収まった後、水に浮かぶおっさんを回収し、治癒呪文を含め、できる限りの治療をした。

「いやーハッハッハッ、まさかエヴァの闇の魔法がここまでヤバイモンだとは思わなかったぜ、俺じゃなかったら死んでたな、アリャ。闇はやめとけ、死ぬわ、マジで」

「はぁ…」

「さんざんお勧めしといて結論それかよ…」

「あの、ところで千雨さん…千雨さんの咸卦の呪法・トリニタスって…」

まあ、現物を見て気づかないほどネギはアホではない。

「…そーだよ、闇の魔法を弱体化と引き換えに色々と副作用を弱めて咸卦の呪法と煉り合せたものだ。ちなみに正式名称はシグヌム・エレベア・トリニタスな」

「なるほど…エレボスの魔法を基にしたエレボスの印…闇の呪紋と言うわけですか」

と、ネギが納得した様子で言った。

「それと…ネギ、エレボスを単なる暗黒神…闇の魔法の闇を単なる属性の話と解釈しているようだが、それは違う。現に…」

 

魔法の射手 光の一矢 固定 魔力掌握 精霊の歌・光の射手の旋律・独奏 三位一体の闇呪紋 発動

 

「こんな具合に本来反対属性の光属性の魔法も取り込める」

正直相性は悪いが。闇と同じくらい…実は闇属性の取り込みはあまり相性が良くない、光が闇を照らしてしまうように、闇は闇に溶けてしまうので。

「え…そうなんですか?」

「ああ…答えはエヴァの性格からして教えん方がいいと思うから言わんが…な」

「ほう…それがチサメ嬢ちゃんの『先』か…咸卦法と闇の魔法の融合とか頭おかしーんじゃねぇの?」

「…一応、両方紛い物なんで言うほどではねぇ…はず」

正直、両方ガチモノだとマジで存在の昇位くらい成し遂げられそうだという計算結果もあったりする、尤も闇の魔法に呑まれて生きのびたら似たようなものではあるが。

「で…だ…いよいよ選択の時間…の、前に私から一つ天秤にモノを乗せてやろう…

光の道を選び、かつネギが望むならば…呪紋を刻んでやろう…勿論、闇呪紋は無しだ」

「え、でもアレは千雨さんの秘技じゃあ…」

「呪紋?確かに無意味じゃねぇがさほど効果があるもんでもねぇだろ?」

私の言葉にネギとおっさんが反対の反応をする。

「あーまあ、技量向上に伴っての更新前提だから管理がメンドイし、そうそう刻んでやらんが…逆にそれだけで秘技って程ではねーぞ?

で、おっさんの質問への答えだが、糸術で全身に刺繍みたいにビッチリと書き込めば…割と効果はあるぜ?」

「糸で刺繍みたいに濃密に呪紋刻むって…どー聞いても外法だろ、それ…やっぱチサメ嬢ちゃん、頭おかしいって」

「ちなみにー千雨さんの奥義の一つに中空糸で呪紋を刻んでー血の魔法陣を構築して魔法の行使のたびに血を使い捨てにするーって言うのがあったりしますー」

聡美がラカンのおっさんに賛同するかのようにそんな事を言った。

「いや、やっぱ外法だろ、それ!ぜってぇー光の道じゃねぇって」

「…個人的にゃ、呪血紋は貧血以外に副作用ねーから半分だけ外法って事にしてある…と、まあ、それはいいとして、コレは命をチップに闇の魔法を求めそうな弟弟子への買収提示さ…

まあ、ネギ用に再設計する所からだし、慣らし期間と試作からの刻み直し何回かで一応の完成にゃ1か月くらいかかるとは思うが…

地力の向上を別にしても昨日の強さ表で+200くらいは行けるとは思うぞ」

ネギの反則的な呑み込みの良さを計算に入れて、だが。

「ほう…目標にゃ届かねぇが副作用ほぼ無しにしちゃぁ悪くねぇな、そりゃあ…」

と、ラカンのおっさんが感嘆を漏らした。

 

 

 

間もなく昼食と言う時間、朝食を済ませてからずっと体術の自主練をしながら考えを纏めていたらしいネギが戻ってきた。

「よぉ、ぼーず、どぉだ?決めたか?」

ラカンのおっさんがそう、ネギに問いかける。

「ハイ!」

「そうか…ほら、これがエヴァから賭けで巻き上げたマギア・エレベアのスクロールだ…光の道を行くなら開けるな、闇の道を選ぶなら開けろ」

おっさんがネギにスクロールを投げて渡し、そう言った。

「ど、どうも…それより、ラカンさんは身体の方は大丈夫ですか?」

「ハッハッハ、無敵の俺様がこの程度のケガでどーにかなると…おもぷ?」

と、おっさんの額から血が噴き出した。

「ラカンさーん!?」

「ええい ノイマン・バベッジ・チューリング 汝が為にユピテル王の恩寵あれ 治癒」

とりあえず、どこまでギャグかわからんと治癒をかける私だった。

 

「で?光と闇、どっちだ?」

「ハイ…」

と答え、ネギが受け取ったスクロールをおっさんに渡す様に腕を伸ばす。

「…千雨さん、すみません、やっぱり…この選択って無茶かもしれませんね」

「…フン…言ってるだろ?ソレは命がけの選択だって…私の見立てじゃ、無理ではねえが無茶以外のなにものでもねぇよ。

ネギ、まだ悩んでいるならやめておけ…ソレはそーいうもんだ…」

一片の迷い…きっとそれが致命的になるだろうから…だが、それでも決断をするのであれば

「けどな…それでも全てを賭けてでも、その道を選ぶと言うならば…

それは、お前自身が選ぶ道だ!

…お前が、お前自身で踏み出す一歩だ!

無茶だとか関係ねぇ、胸張っていいんだぜ?

私が…ちゃんと見届けてやるからさ」

私は、その小さな背中を押そう…たとえネギが深淵の闇の底から戻らぬとしても。

「…ありがとうございます」

そして、ネギはスクロールの封を解き放った。

「ラカンさん、僕は…闇を選びます!」

「ほ…ほっほーこりゃ意外だぜ。けど、ぼーず、親父を目指すってのはいーのか?」

「僕は父さんじゃありません、格好だけマネしても父さんにはなれない。

僕に闇の素養があるのなら…それを突き詰める事でしか父さんにはたどり着けないと思うんです。

それに僕…マスターのコトも大好きですから」

と、ネギが凛とした表情で言い切った…んースクロールは精神取り込み型幻想空間かと思ったが…違うか?

「プ、ワハハハハハ、そりゃいいぜ、愛の告白だな、ぼーず」

「え!?いえ、そーゆー意味じゃ…?」

「フフ…しかし、闇を甘く見てねーだろうな、ぼーず。そのスクロールは一度開けちまった以上…きついぜ?」

「…それもわかっています、このスクロールが普通じゃないコト…覚悟の上です、乗り切って見せますよ」

「フン」

とかいう会話をしているとネギの持つスクロールに描かれた魔法陣が輝きだす。

「言ッタナ、餓鬼ガ」

「え」

「え!?」

そこに現れたのはエヴァの…マスターの姿だった…全裸の。人造霊付きスクロールか…思った以上にガチで作ってあるな…

「闇ガソレホド容易イものデハナイことヲ思イ知ルガイイ」

「マスター?」

現れたエヴァのコピーはネギの反応にお構いなしに、ネギの頭をひっつかんだ。

「あああああぁっ!?」

「行って来い、ネギ…帰って来いよ」

黒い雷がほとばしり、悲鳴を上げるネギに私はそんな見送りの言葉を送る。

「打チ勝ッテミセロ、耐エラレナケレバ貴様ハおわりダ」

「あー巻物自体も危ないってこーゆー事ですかー」

「ああ、そーゆー事だ、ハカセ嬢ちゃん、言っただろ?キツイって」

「うわあぁあぁ」

ある種、暢気にそんな会話を交わしているとネギがそんな悲鳴を断末魔の如く上げてパタリと倒れ、エヴァのコピーも消え去っていた。

「さて…後はネギの看護しながら待つしかねぇ…って事でいいんだよな?おっさん」

「おっ、おう…思ったより落ち着いてるな、チサメ嬢ちゃん」

「こう言うの想定していたからこそ光の道に餌まいてネギに選ばせようとしたんだし?」

あれだけ警告した上で自分の意志で命をチップに賭けをする事を選んだならば私の反応はこんなもんである、ネギの心配もしてはいるが。

 

 

 

 



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79 辺境編 第10話 闇の試練とその結末

「さて…まずはこんなものか…」

倒れたネギをラカンのおっさんに用意してもらった布団に運んで寝かせ、服を脱がせて濡れタオルを頭にのせる等の対処をしていった。

「本当に落ち着いてますねー千雨さん…」

聡美が若干引き気味で予備のシーツやタオルを運んできた。

「しかし…巻物内での修行かと思っていたが…むしろ中から人造霊が出てきて対象者に飛び込むとは…な」

「それでー大樹林で私たちと合流前に罹っていたっていうー魔力暴走?みたいな症状が出ているんですか?」

「多分、そうだな…ネギが試練を乗り越えるか…失敗するまで対処療法をしながら見守るしかねぇ」

「…そーいえば、失敗すると、どーなるんですか?」

聡美が少し心配そうに、でもどちらかとういう興味本位みたいなニュアンスで聞いてくる。

「んー最悪死ぬんじゃねぇかな、肉体的・精神的どちらかはともかく…なあ、おっさん?」

「…おう、まあ肉体的に死ぬことはないと思っていいが…二度と目を覚まさねぇか、少なくとも魔法を使えねぇ体になっちまうだろうな」

「それは…確かに危険ですねーお二人の仰っていた意味が解りましたー」

アスナ辺りがいたらまとめてぶん殴られそうな会話を交わす私達だった。

 

 

 

聡美と協力しながら、長丁場になると交代で仮眠をとりつつ、ネギの介護をして…日が沈んでしばらくした頃。

「かはっ」

突然、ネギが勢いよく吐血した。

「げっ…ネギ…なんで…」

「き、危険なのは精神的な意味だけではなかったんですか?」

「そのはず…そうか!同調が強すぎるのか…まずいぞ…これは」

「んーどうした?」

と、おっさんがやってきて騒いでいた私達に問いかけた。

「ね、ネギ先生が血を…」

「ん?血を吐いたのか…そりゃよっぽど同調がいいんだな…やっぱこのぼーず、闇に向いてるな」

おっさんは暢気な反応を示した。そんな間にも、ネギの傷はどんどん増えていき、深い傷からは血飛沫が飛ぶ。

「おっさん、コレ治癒かけていいのか!?下手すると肉体的にも死んじまうぞ!」

「…とりあえず、治癒をかけてやれ、傷自体は単なるケガと同じはずだ」

「ノイマン・バベッジ・チューリング 汝が為にユピテル王の恩寵あれ 治癒

ノイマン・バベッジ・チューリング 汝が為にユピテル王の恩寵あれ 治癒

ノイマン・バベッジ・チューリング 汝が為にユピテル王の恩寵あれ 治癒」

その回答を聞いて、私はすぐに治癒を唱えた、全ての傷を治すまで何度も連続で。

プシュッ

「チッ…ノイマン・バベッジ・チューリング 汝が為にユピテル王の恩寵あれ 治癒」

一息ついたのもほんの一瞬、またすぐに大きな傷が現れ、治癒を唱える展開になる。

「こ、この勢いで負傷を続けたら千雨さんの魔力が…そしたらネギ先生も…」

確かに、あまり得意でない治癒系魔法をこの規模・この勢いで唱え続けていたら夜明けどころか深夜を待たずして魔力はすっからかんだろう。

「確かに、こりゃマズイな…ふむ…ここはとっときのアレを…」

と、おっさんは何かの葉っぱを取り出した。

「なんだそれ、薬草か!?」

「アルテシミアの葉だ、魔力がやばくなってきたらこれをすり潰して傷に塗ってやれ、何とかなるはずだぜ、肉体的には」

「わかりました!ソレは私が担当します、きつくなってきたら言ってくださいね、千雨さん」

そう言って聡美がアルテシミアの葉と乳鉢と乳棒とを受け取った。

「しっかし、急に慌てだしたな、チサメ嬢ちゃん」

「…一応、ネギの精神力や性格その他諸々から考えて分はそう悪くない賭けだと読んでいたんだよ、闇の道もな…

だが精神の限界より先に肉体的に死んじまったらそれどころじゃねぇだろ!?」

「まーそりゃそうだな」

「おっさんこそ、やけに落ち着いているじゃねーか…友人の息子なんだろう?」

ネギの次なる負傷が現れないことを怪訝に思いつつ、ネギの体に飛び散った血と汗を拭きながら言う。

「死んだらそこまでの奴だったってことさ、ぼーずもその辺の覚悟はしてたハズだぜ…だろ?」

「チッ…そりゃあそうだろうけどな…」

「ラカンさんもそっちの人ですかーエヴァさんと言い、千雨さんと言い、ネギ先生と言い…本当にあっさりと命を賭ける事を許容しちゃうんですねー」

と聡美が呆れたようにいった。

「おう、ハカセ嬢ちゃんは違うのか?」

「そーですねーネギ先生の頭脳は貴重ですし――できれば生きていて頂きたいですねー後、そーゆーのを別にしても――友人を喪うというのは…悲しいですよー?多分ですがー」

「ハハハ…確かにな」

ラカンのおっさんは、陽気に笑ったが、その笑いにはどこか影があるように思えた。

 

 

 

「千雨さーん、そろそろ交代の時間ですよー仮眠をとってくださいー」

「ん…ああ、もうそんな時間か…そろそろ次の負傷だ…治療したら交代しよう」

その後も交代しつつネギの看護と治療をしていると気付く事があった。ネギの負傷は一定の法則のようなものがある。

まず、前回の負傷から大体数十分程度の時間が空きその後小さな負傷が現れてくる事が多く、その後にその回の大きな負傷が現れる…まるで戦闘で傷つき、最後に止めを刺されているように。

…そして、その間隔が広がってきているように思うのだ…少しずつではあるが。

「…おっさん、エヴァのコピーがネギの中で何をしているかわかるか?」

「ん?疑似的な幻想空間の中で、数倍の体感時間の間、戦い続けている筈だぜ?」

事も無げにおっさんが答える。

「…じゃあ、やっぱりこの傷、エヴァのコピーにやられた傷か…で、その間隔が広がっているのは…もつようになっている、なんて楽観を持つべきじゃねぇな」

「ああ、立ち上がるまでの時間が伸びている、と読むべきだな、そりゃあ…」

「ヤバいかもなぁ…あいつ、割と戦いとなると熱くなるタイプだし」

エヴァのコピーを敵とみなし、真向勝負しようとし続ける限りは、恐らくネギは目覚めない。

 

 

 

「千雨さーん、本当にネギ先生は大丈夫なんですかー?」

「…そろそろ危険域に突っ込む」

心配そうな聡美に私がそう言ったのは、ネギが試練を始めて二度目の夕暮れの事だった。

「そーだな、確かに…肉体的にはともかく、精神的には限界でもおかしくねぇ、と言うかここまで持っている時点で大した意志力だ…どーする?」

「…どーするもこーするも、看護と治療を続けながら祈るしかねーだろ!?夢見の魔法なんて使った日にゃ間違いなく呑まれるだろうが!?」

「そうでもねーぜ?」

と言いながらおっさんが懐から短剣を取り出した。

「これでエヴァの巻物を刺せば試練をキャンセルできるぜ、そうすりゃ闇の魔法は二度と使えなくなるがぼーずの命は助かる…嬢ちゃん達の判断で使いな」

「くっ…ここに来てそれかよ…その場合でも魔法使いとしての能力に後遺症は出るだろーが」

腹を括ってネギを看取る覚悟さえしていた所にコレはきつい…甘い毒のたぐいである。

「その可能性は低くはねーな…ま、ほぼ後遺症無しからリハビリでおおむね回復できる程度の後遺症に収まるか否かが五分五分って所じゃね?」

「…了解。私の読みだと明日の夜明け頃が限界だと思うが、おっさんの読みは?」

「大体嬢ちゃんと同じだな…まあ限界の限界が、だがな…今この瞬間に限界が来ても何ら不思議はねぇ」

「…了解だ」

「ほかに聞きたいことはねーな?ほら、アルテシミアの葉の補充だ」

と、おっさんはそう言って去っていく…短剣とアルテシミアの葉を残して…

 

 

 

「ちっ…薄明が始まったな」

「ええ…明けてきました…千雨さん…どうするんですかー?」

「…くそっ…看取る覚悟はしていたがこんな決断をする覚悟はしてなかった…」

本気で想定外である…敵を殺す覚悟、自分が死ぬ覚悟、聡美と死ぬ覚悟、そして仲間を看取る覚悟は決めたコトはあるが…この決断はそのどれとも違う。

「どうしよう…聡美…決められない…決められないんだ…」

涙目になりながら、私は言う。

「ええ…私も…ずっと…ずっと考えていますが…どちらも選べません…」

聡美も、疲れた様子でそう答えた。

「だけど…もう考えていられない…決めないといけないのに…決めないと…全て終わってしまうかもしれないのに…」

おっさんに短剣を渡されてから、私はずっと考え続けていた…どうしよう、と無様に、まるで年相応の無力な少女の様に。しかし時間は無常に過ぎ…私の読んだ限界点が近づいている…決めないといけない、最期まで待つか、命だけは引き戻すかを…

「決断できずにリミットを迎えるくらいなら…コレ…に託すというのも…アリですよ?」

そう言って、聡美は一枚のドラクマ貨を取り出した。

「弾いたコインに運命を託す…か」

「もう、私は…私が選ぶなら…これしかできません…」

私は一度短剣を置いてそのドラクマ貨を受け取った、聡美の震える手から。

「大丈夫…コレは私が決める…使うかも含めて…」

そう、この道はネギの選んだ道…その結末を見届ける…つもりだった。しかし、いよいよヤバいという領域に達した時におっさんから渡された蜘蛛の糸…あるいは私への甘い毒薬…いっそそんな選択肢なんてくれなければよかったのに、と私は内心でおっさんを呪う…

「私は…エヴァの弟子で、ネギの姉弟子だ…その私は…武人としての私は見届けようと言っている…でも…ネギの友人としての私は…学問の使徒としての私は…友人を、ネギの頭脳を喪いたくないと囁く…そうしてここまで来てしまった…どっちの私の意思を通すか…」

かつて私は、どちらも選ぶ事を選んだ…そうして今ここにいる…どうする?どうする?どうする?

そう、頭の中の天秤を傾ける何かを探し続ける…私は、ネギの背中を押した…それが深淵への身投げと知って。そして今更、ネギをそこから引き上げるか否かを悩んでいる…どうしようもないクズである…そんな思索に、もはや自己の中で天秤を動かすモノはないとネギを見つめる…

 私のせいで…ネギは私の眼前に横たわっている…だけではないにせよ、少なくない部分は私のせいだ…

私のせいで、ネギはマギア・エレベアの侵食と一生付き合っていくか、魔法行使の才能を損なう事が確定した…すでにネギの一生を台無しにした…そんな選択をさせておいて私は無様に悩み続ける…10歳の子供の人生を狂わせておいて…

いや、ネギは既に己の足で歩む戦士で、現に自分自身で選んだ一歩を踏み出した結果が眼前のネギだ…一歩を踏み出したものが無傷でいられるわけがない…選択を尊重する事こそがネギへの敬意だろう…

しかし…ここでネギを終わらせてしまったとして…クラスの仲間たちや従姉、幼なじみになんて言えばいい…いや、私は…悪党だ…

「…決めた」

そして私は覚悟を決めた…ネギにこの選択をさせた責任をとる事を…私は短剣を手に取った。

 

ドスッ

 

そんな音を立ててナイフが突き刺さる…硬い床に。そして、私はネギの手を取る。

「どんな結末になったとしても、私はそれを受け入れる…みんなからの責めも負う…お前が無力になったとしても…守ってやる…だから…駄目でもいいから…目を覚ましてくれ…」

そして…ジワリと瞳から涙が溢れてくる…

「千雨さん…駄目ですよ…それはあなた一人の罪ではないんですから…」

聡美がネギと握った手を両手で包み込むように握った…

 

ツーポロリ

 

こぼれた涙がシーツを濡らす…

 

 

 

そして…日が昇ってもネギは目を覚まさなかった。

 

 

 

「おう、どうだ、ぼーずは」

完全に夜が明けた頃、おっさんがやってくる。

「…駄目だった…目が覚めない」

「最後の負傷から…負傷間隔の倍も経っているのに傷一つ増えません…」

終わった…終わったのだ…ネギの試練は…おそらくは最悪の結果で

「そう…か」

ラカンのおっさんが寂しそうにつぶやいた。

「…コタローに事情を説明してくる…聡美はここで待っていてくれ」

自分でも驚くほど冷めた声で私はそう言った。

「ハイ…お待ちしています」

聡美も同じくらい冷めた声でそう返す…ショックだったんだな…私達。

「オイオイ…せめて水浴びして朝飯食ってその後に仮眠してからでも罰は当たらんぞ?嬢ちゃん達、ぼーずが試練を始めてからろくに体も洗ってねーし昨晩は徹夜したんだろう?」

「いりません…今は何かしてないと気が狂いそうで…だから…行かせてください」

「あ、あの…ちょっと待ってください」

「だから…って…え?」

聞こえる筈のない声…それが聞こえた。

「あの…スイマセン…マスターから状況は聞いています…寝坊して…その…ごめんなさい」

振り返ると…ネギがベッド上で起き上がっていた。

「あ…ネギ…先生…よかったです…目覚められたんですねー」

「おっ、ぼーず、その様子だと試練は突破できたようだな」

「ハイ…なんとか…」

「っ…馬鹿野郎っ!こう言うのはギリギリで目覚めるのがお約束で…どうしてこれだけ遅れるんだよ!」

「へ?ギリギリ?」

…そうか、そもそも夜明けが限界と言うのは私とおっさんの読みでしかないな。

「…いや…気にするな」

「あ、それと千雨さん、ハカセさん、試練の間ずっと看護と同調による傷の治療をしてくださっていたそうで、ありがとうございます」

「はいー頑張りましたよーでもネギ先生が帰って来てくださって嬉しいですー」

「おう…って自覚あったのか?」

フツーこういう場合は自覚がないものなのだが。

「あ、いえ、自覚はなかったんですが、試練が終わった後にマスターから教えてもらいました。お二人が二日二晩の間、交代でずっと傷の治療と看護をしてくださった、って」

「ああ、なるほど、エヴァのコピーは外の状況も理解していたって事か…」

「そのようです」

「ま、その辺りはどーでもいいさ、よくやったぜ、ぼーず!これでようやくスタートラインには立てたな!」

と、おっさんが割り込んでくる。

「両腕に魔力を集中してみな」

「あ、はい、闇き夜の型ですね」

ネギがそう言って両手に魔力を集中させる。

「その辺りもちゃんとエヴァのコピーから聞いているようだな。それがマギア・エレベアを会得した証にして基本形だ。

…お前がお前自身で手に入れたお前だけの力だ、誇りに思いな。けど気ぃ抜くなよ、お前はようやく自分の得物を手に入れたにすぎん。修行はここからが本番だぜ」

「…ハ、ハイ!」

「よぉしっ、じゃあ早速いくぜ!みせてもらおうか」

「ハ、ハイ!」

と、おっさんがネギを連れてさっそく修行を始めようとする。

「オイ、待て。せめて水浴びして血を流して飯くらい食ってからにしろ」

「千雨さーん、そこは数時間くらい仮眠とってもらいませんかー?」

「アーそれもそうか…じゃあ水浴びして飯食ってからにすっか、ぼーず」

「はい…わかりました」

やる気満々と言った様子のネギは少ししょぼんとした様子になった。

「あ…それと…千雨さん、ハカセさん…ありがとうございます…ホントに」

「…おう、貸し一つって事にしといてやる…その力で、私に追いついて…いや、追い抜いて見せろよ?私も簡単にゃぬかせてやらねーが…フェイトとやらに勝つんだろ?」

「ハイ!」

ネギは嬉しそうに返事をした。

 

 




タイミングよく目覚めた…まではともかくすぐに状況把握して短剣を受け止められたあたりから、原作ではエヴァのコピーに止めて来いと蹴りだされていたのかなーという事で止めない決断をした場合は幻想空間でレクチャーとかいろいろ受けてこのタイミングという事で。

実は最近の色々で筆が進んでいないのでストックが無くなっています。
週一ペースはできる限り維持したいのですが、無理に書いてもいい事はないと思うのでまたしばらくの間は不定期更新という事に致します。
忙しいわけではないのでとっかかりができれば一気に書き進めたりもあり得ますのであくまで不定期という事で。


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80 辺境編 第11話 修行の合間に

ネギがマギア・エレベアを会得して以降、私達も弟子…と言うほどではないがラカンのおっさんから指導を受けたり、自主練をしたり、ネギの対戦相手をしたり、意外な事に割と豊富なおっさんの蔵書を読ませてもらったりしていた。

「ネギ先生―ラカンさーん、買い出しの追加は大丈夫ですかー?」

「おう、昨晩に渡したリストから追加はねーよ」

「僕も大丈夫です。千雨さん、ハカセさん、お気をつけて」

「ん、了解。それじゃあ、行ってくる」

ラカンのおっさんにネギが弟子入りして5日目の昼過ぎ、明日に試合を控えた私は聡美と共に一度グラニクスに戻る事になった。そのついでに、買い出しをしてきてくれ、という事である。

 

 

 

「ちう姉ちゃん、ハカセ姉ちゃん、お帰り」

グラニクスに戻った私たちはまず闘技場に戻り、状況を確認する為にコタローを訪ねた。

「ただいまーコジローお兄ちゃん」

今は妹な設定だろう、と聡美がお兄ちゃんを強調して言う。

「ただいま、コジロー、何かあったか?」

「おう、ええ知らせがいっぱいや。まず、朝倉姉ちゃん達がフェイ部長を発見、無事を確認できとるで。

それに、アスナ姉ちゃんと刹那姉ちゃんが木乃香姉ちゃんと楓ねぇちゃんと合流できたって念報送ってきたわ。

ほんで、まき絵さんと裕奈さんが長距離トラックの運ちゃん経由で伝言してきて無事とオスティアでの合流を伝えてきるな。

あと、ノドカ姉ちゃんからも念報で連絡あったで、冒険者やっとるらしいわ」

と、私たちが不在の間の報告をコタローから受ける。

「フム…まき絵達と連絡が取れたのは何よりだな。そうなると…行方不明は夕映とアーニャとハルナ…にカモか」

「そーなるな…まあ、どこでも何とでもして生きてけそうな連中ばっかやな。で、ナギやちう姉ちゃんはどーやったんや?」

そうコタローが私たちの方の報告を求める。

「んー一言で言うと、ナギがエヴァの固有スキルを継承した…まあ、リスクのある技だが出力…身体スペックは確実に上がったし、技量の方もラカンのおっさんに師事してそれなりに上がっている。私も修行のご相伴にあずかっているのとナギの相手で少しずつは強くなれている…かな?」

正直、ラカンのおっさんはバグだし、ネギには猛追されてそろそろガチモード同士で初敗北を期しそうなのでよくわからない。

「おお、そらよかった…んかな?リスクの程度次第やけど、ちう姉ちゃん達がおちついとるっちゅう事は無茶の範囲なんやろ?」

「んー…ギリギリ…な?」

「正直に申しますと―アレは危険なんですけれどねー特にナギさんは相性が良すぎる様なので―」

聡美が嫌そうな声色でそう言った。

「ん?相性がええんならええ事ちゃうんか?」

「…あいつの新技、闇系統の技なんだが…相性が良すぎてうまく加減しないと呑まれかねないんだよ」

「アーそう言う…あいつ、なんやかんやで暗いしな…」

コタローは納得した様子でそう言った。

 

 

 

「トサカさん、戻りました」

「おう、お帰り、チウ」

コタローとの情報・意見交換を終えた私はトサカの元に闘技場に戻った旨の報告と試合の日程を聞きに来ていた。

「で、試合の予定だが明日の午前と夜の部で1試合ずつ、明後日の午前の部に1試合、全部ソロの対人戦だ。高密度の試合日程だが、その代わりにお前の要望通り明後日からまた5日間の休みを入れられたぜ…出たければ今晩の興行にも出てもいいがどうする?」

そう言うトサカの提案に少し考えて返事をする。

「いえ…少しナギ達から頼まれた買い出しがありますので今晩はやめておきます」

正直、ナギ・スプリングフィールド杯での賞金を当てにするのであれば無理に試合をする必要はないし…聡美とゆっくりデートもしたいし。

「そうか、なら今晩のコジローのペアはまた俺か…はぁ…メンドイと言うか心臓に悪いんだよなぁ…あいつにマッチングされる相手とするの」

と、だるそうに言う…こう見えて、トサカもバルガスさんには少し劣るが割と高評価を受けている実力ある拳闘士である。一般的な基準に照らせばだが。

「ええっと…出ろとおっしゃるのであれば出ますが…?」

「イヤ…お前だってナギの療養先…と言うかリハビリ兼ねた修行先からの移動で疲れてるだろ?まあ苦労させられる分、金にゃなるしな」

そう言ってトサカはニヤリと笑った。

 

 

 

その後、聡美と二人で大浴場にて砂塵を落とし、デートがてら買い出しの一部を済ませ、闘技場に戻って夕食をとっていた。

「あ、次はコジローさんとトサカさんの試合ですねー」

偶にはいいだろう、という事で軽く変装…元の髪型にしてサングラスをかけて従業員用の賄い食堂ではなく、客向けのレストラン…ぶっちゃけ村上達の職場での夕食である。

「ほう…相手は…魔族との変則マッチか」

試合が始まると相手は翼を広げて飛び上がり、足につけた鉄輪につながった鎖を振り回して地上のコタローたちを攻撃し始める。トサカが逃げ惑っているようにも見えるが、まあコタローなら余裕だろう、あいつも虚空瞬動位使えるし。

そう思ってみていると、コタローが半空中戦を仕掛けつつ、トサカが鎖を逆用して嫌がらせをするような展開となり、割と盛り上がるくらいの間試合は続いたが、結局はコタローが翼をへし折って地上に落とし、トサカと二人がかりで殴り勝った。

「へぇ…トサカさんって、結構強いんですねー」

「…なんだかんだであの人もベテラン拳闘士だからな…」

と言うか、バスガルさんやトサカは別に弱くない、どころかそこら辺の魔法騎士団員と単騎ならば比べられるくらい強い(魔法騎士団団員の本領は集団戦である)といえよう、ラカンのおっさんの強さ表では300強くらいか。ただ単に私やネギたち、あるいはそれとマッチングされるようになってきたランキング上位連中がそれを上回る化け物ってだけで

 

 

 

夜、ラカンのおっさんの所ではほぼいちゃつけなかった…同じベッドで寝てはいたが…事もあり、キスを含めて聡美といちゃついて過ごした翌日の試合…相手は四つ足四つ手の蜘蛛系魔族であった。装備は軽装鎧で長剣二本と短剣二本である。

「それでは、次の試合に参りましょう。第10試合、東方は地元グラニクスの自由拳闘士、女剣士チウ!今季デビューの彼女は未だ負けなし!番狂わせを重ねております!本日も見事な勝利を見せてくれるのでしょうか!

対する西方は、放浪の自由拳闘士、蜘蛛魔族のセミス・アラネア!なんと言っても四本の腕から繰り出される自在の剣技!それを支える抜群の安定感を誇る四つ足はしかし、縮地級の瞬動の使い手であるともされています!

さて、女剣士同士のこの試合、いったいどんな展開が待っているのでしょうか!それでは…開始!」

舐めてはかかれぬと気の出力最大で対峙する…と相手の姿が掻き消える…が動きは十分に追える。

 

キィン キィン キィン

 

縮地と呼べる練度のそれで接近してきた相手の4つ手での連撃を少し後ろに下がりながらさばいていく。

 

魔法の射手 雷の7矢

 

私からの反撃に、相手の魔族は追撃の手を少し緩めて切り払う。その隙にこちらから剣戟での追撃をするが、うまくいなされ、先ほどと同じ展開に戻ってしまう…と、私は縮地で一度大きく離脱した。

「フム…私にも本気を見せてくれる気になったかな?」

蜘蛛魔族…セミスがいう。

「お望みとあらば…でも得物はこのままで…」

安定した体幹と言うのは、合気鉄扇術的に非常にやりにくい…まあ断罪の剣を含めた魔法を解禁するなら話は別だが。とにかく、咸卦の呪法を発動させて身体強化を行う。

「では…行く!」

と、縮地二連で側面から切りかかる。

 

キィン キィン カキィーン

 

「成程、良いな」

流石4つ足の安定性と言うか、すぐに腰をひねって正面から対応される。速度とパワーを上げた状態でならまともに打ちあえる…うむ、ちょうどいいな、これ。

「私も、本気を見せよう」

と、セミスが掻き消え、私は即座にその場を引く、と同時に元の位置の側面に現れるセミス、直ちに反転して私も側面攻撃をし返すが数合合わせただけで再び掻き消える…なるほど、機動戦闘が十八番、というわけか。

「速い速い速い!目にもとまらぬ攻防!あまりの速さ、鋭さに多数の残像が闘技場に乱舞しております!」

「ふふ、貴女もか」

「そう言う貴女こそ」

互いの残像を切り裂きながらそんな言葉を交わす。

「魔法の矢は?」

「無駄玉」

「違いない」

私たちは互いに笑いながら剣戟を続けた。

 

 

 

パキーン

そんな音が闘技場に鳴り響く…セミスの長剣の一本が折れた音だ。

「おっと…割といい品だったのだがな…数打ちに見えたが頑丈な剣だな、それは」

「…気で得物を強化している」

「なるほど…神鳴流の流れを汲む者か」

まあ、大本は刹那から習った技術なので神鳴流の系譜で間違いはないが。

「では…続きと行こうか」

 

そして戦いを続けてセミスのもう一本の長剣も砕けて少し…私の剣にも限界が来た。まあ、気で強化しようが所詮は数打ちの消耗品である。

「フフ…本来の獲物とやら、みせてもらおうか、チウ殿」

そう、魔力を纏った拳と短剣二本とで私の長剣に割と深いひびを入れて見せたセミスが言う。

「…いいだろう」

そう言って私は剣を鞘に納めて鉄扇を構える。

「では…参るぞ」

そうしてセミスとの戦いは次の段階に入った。

 

「むっ…まるで霞に切りかかる様な厄介さであるな、ソレは」

何だかんだで剣技としては柔に属するとはいえ、剣技ではあったのが完全な柔に変わった感想がそれであるらしい。

セミスは長剣を失って、また私の鉄扇術に絡めとられるように深入りしている。これならば魔法の矢も使える…がそれで高速機動戦に戻れば千日手である…まあそれでも負ける気はしないが…という事で私はチャンスを待つことにした。

 

何度目かの跳躍を挟んだ後、セミスの短剣での連撃を鉄扇によりするりとくぐり、懐に潜り込む。

「なっ」

 

魔法の射手 雷の7矢

 

「ぐっ」

流石にゼロ距離から放たれた魔法の矢に対応はできず、セミスが大きな隙を見せる…と言うか、恐ろしきは魔族の頑丈さである。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 魔法の射手 収束・雷の29矢」

そして、私は魔族の頑丈さを信じて追撃を行った。

…結果、セミスは気絶し、カウント成立により、私の勝ちとなった。

 

 

 

「ちうさーん、なんか、マッチングの相手だんだん強くなっていません?」

「そりゃあなぁ…いい試合になりそうな相手をマッチングするとはいえ、ある程度ランキング参照して相手を決める…し、今回は集まってきた放浪拳闘士含めて対戦希望の中から強そうな相手をマッチングしたってトサカも言っていたし…」

試合の汗を流した後、聡美と買い物デート(買い出し)に出た途中に入った食堂でそんな会話をしていた。

「…試合を見ていると貴女がどんどん戦闘狂になっていっている様な気がしますー」

「…否定はしにくい」

正直、闘技場での戦いは楽しいか楽しくないかと言われると、正直楽しい。

「もーあんまり戦闘狂になられても困るんですよー?」

「そう言う私は嫌いか?」

と、少し意地悪な質問をしてしまう。

「むぅ…好きですけれども…私を見てくれなくなるような気がして…」

確かに、聡美を中心とした日常を守る為だった強さへの追求が、戦いと強さその物を求めるようになるのではないかと不安なのだろう。

「大丈夫…強さを求めるのは守る為だから…強くなる事自体も楽しくはあるけれども…そこは間違えない」

そう言って私は不安そうな聡美の頭をなでる事しかできなかった。

 

 

 

そして夜の試合…想定外の人物がそこにいた

「なぜ貴方が」

「うむ、ナギ・スプリングフィールドとの決闘はラカン殿に預けたが、貴殿との試合を預けた気はないのでな…端的にいうと戦ってみたくなったのだよ、ナギ・スプリングフィールドの姉弟子だという貴殿とな」

「…相手はするけど…あなたの方が上手」

少なくとも、剣闘士としての私よりは…ネギとの決闘時くらいまで抑えてくれれば虚空瞬動の解禁で勝つ自信はあるが、ラカンのおっさんとやっていた時の鱗片…と言うか多数の影の刃から逆算すれば、ラカンのおっさんの強さ表で1500位は確実に行くだろう、この人。となると闇呪紋か呪血紋…できればその双方を出さないときつい。

「なに、本当の意味では本気までは出さぬ…よっ」

同時に影の刃が数本襲い掛かってくるのを切り払う…割と本気出さないと死ぬな、コレ。

と、いう事で迷わず咸卦の呪法を発動し、同時に虚空瞬動の使用も解禁すると決めた。

そして切り払った刃と追加の影の刃が私を包囲しようとするのを縮地で回避する。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 魔法の射手 光の29矢」

「ふむ」

と、カゲタロウは私の魔法の射手を影で編んだ布を起点にした対魔法障壁を展開して防いだ。

さらに魔法の射手を撃った地点を影の刃が貫き、直後、カゲタロウの背後から切りつけた剣での一撃と影の刃とがぶつかる。

「良い、そうでなくては…帰還を遅らせた甲斐があるというモノだ」

カゲタロウはそんな事を言いながら、私の残像を影の刃で串刺しにする。

「それは…どうもっ」

と、約十本の影の刃に追い回されながら返事をする…もう少し良い攻勢移転の機会まで取っておきたかったが仕方がないと宙に舞い、縮地で即座にその場を跳び去った。直後に残像がめった刺しにされる。

「むっ」

 

魔法の射手 雷の11矢

 

側面からネギの華崩拳の様に、剣での突きに乗せるように物理と魔法の同時攻撃をかます…が

「それはもう見た」

と、対物理・対魔法両用らしき影布の防御を展開し絡めとるように突きを受け止めた。

これはいかんと剣を手放して鉄扇を抜き、襲い来る影刃をぬるりとそらして離脱する。

「…そう…ならば…これも見た事あったはず」

と、偽・断罪の剣を展開する…これも解禁である。さすがに呪血紋はなしという事で無印モードではあるが…と言うかタダでさえ評判の悪い断罪の剣の血赤モードとか風評がシャレにならん。

そして、迫りくる影の刃を切り落とす…単に軌道を逸らすのみではなく、これができるのが何よりの利点である。

「ほう…チウ殿も使えたか」

「当然」

「ならばまだいけるか」

そう言いってカゲタロウはさらにお代わりと数十本の影の刃で私を追い回してくる…上に、一本一本の動きが精細さを増し、また、虚空瞬動での接敵対策らしく自身の周りにも数本を待機させているのが見て取れる。

 

「おおっと、カゲタロウ選手の影の刃が闘技場を覆いつくさんばかり!まるで影刃の結界!しかしチウ選手はその結界の中を虚空瞬動で軽やかに舞い続ける!」

 

まさに実況の言う通りである…多重の意味で空が狭すぎる。断罪の剣で影刃を切り払えるとはいえ、それは先端が無力化されるだけで、切断箇所よりカゲタロウ側は伸び続けて私を追い回すのだ。

「フハハハ、良い、実に良い!チウ殿!回避技能主体でこれだけ持ちこたえられるのは初めてだ!」

楽しそうに笑うカゲタロウに私は答えてやる余裕もなく、空を舞う…正直、咸卦の呪法の防御力を突破されていないだけで何度も掠ってはいる…が、何とか仕込みは終わった。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 来たれ雷精 風の精 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐」

なおも襲い来る影刃を切り開きながら舞い、呪文を謳う…

「何っ、その機動を続けながらそのような魔法を!?いかん…これはっ」

と、現位置を離脱しようとするカゲタロウだが脚に何十本もの糸が絡みつき移動を阻害する…踊りながらこれを仕込んでいたのだ。一本一本の強度は影刃で一掃されてしまう程度のモノだがその数瞬の間、離脱を阻止できればそれでよい

「雷の暴風」

「…やむを得ぬ!」

とカゲタロウは影布を多層展開して対魔法障壁とした…それを私の雷の暴風が貫いていく…が、最後の1枚がギリギリ突破できずに魔法が終わる。

「ぐぬっ…」

「おおっと、チウ選手が大魔法を行使する驚きの展開!対するカゲタロウ選手、直撃するも障壁でギリギリ耐えたぁぁぁぁ!」

「ノイマン・バベッジ・チューリング 来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧」

 

魔法の射手 雷の11矢

 

と、そこに雷の斧を上空からぶつけ、障壁を突破しきると共に突破した雷がカゲタロウを襲う…さらに地上に降りると無詠唱の魔法の矢で止めを放った…のだが

 

ドスドスッ

 

チリっとした感覚を信じて断罪の剣で切りかかる…腕くらい落しておこうかと思った…のをやめ、その場を離脱すると元の進路上に上空から影の刃が複数、降って来た。

「いやはや…なかなか本気で危ない所であった…予備の影布に精霊囮まで使う羽目になるとは…想像以上であった、チウ殿…私の負けだ」

「おおっと、カゲタロウ選手ここでギブアップ!チウ選手の勝利デス!」

カゲタロウの言葉に司会が私の勝利を宣言する。

「…どういうつもり?」

戦闘態勢を解かずに私は問う。

「なに、私も自身に制限を課して戦っていたのだよ、普段の貴殿と同じく、な。そして先ほどの雷の暴風を防ぐのにその制限を超えて本気を出してしまった。よって私の負けだ」

「私と命のやり取りをするつもりはない、と?」

勝ちを譲られた…と言う怒気交じりの演技で、しかし内心では私も同じ状況ならば負けを宣言した可能性が高いと思いつつ、そう言った。

「そうは言わぬ…が、今はナギ・スプリングフィールドとの勝負を預けている身、すまぬが新たに死闘を抱えるのは遠慮したい…貴殿もこの場でその先を見せる気はなかろう?」

「…わかった」

そう答えて、私は戦闘態勢を…断罪の剣を解除した。

 

「さーて、それでは勝利者インタビューのお時間デス!チウ選手、本日の試合では色々と新技や魔法を披露されましたが、それほどの強敵でしたか?」

まー露骨な奴でも虚空瞬動に、断罪の剣に、魔法の射手以外の放出系魔法に…一つだけでも今まで舐めプしていたのがバレて、下手すれば炎上する事態である…加えて、わかりにくいが糸術もである。

「…見ての通り…本気を出さなければ私は死んでいた…それでもカゲタロウの本当の本気には多分届かない」

「ホウホウ…確かにカゲタロウ選手、余裕を残してのギブアップだったように思います。ちなみにチウ選手もまだまだ本気には先があったりするデスか?」

「…剣闘士のちうとしての本気は今日、全て見せた」

正直、呪血紋と闇呪紋は闘技場で使う気はないし、使えばカゲタロウの様に降参を宣言してもよいくらいである。

「ナルホド…これ以上の先は剣闘士としては見せる気はない、と?」

その問いに、私は無言でこくりと頷いて何時もの様に退場を始めた。

 




何だかんだ言いつつ、千雨さんが誇る一番の火力は断罪の剣を含む魔法、そして千雨さん基準でその魔法を『使える』とはある程度魔法に意識を裂きつつも三次元機動が継続できる程度の練度を指す(全身に施された糸呪紋の補助前提ですが、割と高等技能。まあ、ネギ君も賞金稼ぎ相手にやっていますが。

執筆の停滞に加え、VSラカン戦でのカゲタロウ周りとの整合性の為、投稿遅れました。おおむね調整終わりましたので、少しずつ投稿しつつ追いつかれないようにちまちま書いていこうと思います。


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81 辺境編 第12話 浴場での女子会

「おや、チウちゃん、今、お風呂かい?」

「ええ、試合後に少し外出してきましたので」

浴場で遭遇したクママさんにそう声をかけられ、返事をしながらそちらを向くと村上達三人もそこにいた。

「ちうさん、試合お疲れ様でした、どちらもすごかったです」

「ありがとう、アキラ。まあ昼の相手はともかく、夜の相手…カゲタロウは勝ちを譲られたとしか言い様がないけれどね」

亜子がいるので千雨とは別のちうの砕けた口調を作って答える。

「確かに、コジロー君も今日の試合はどちらも凄かったけれども、カゲタロウさん?はまだまだ底があるし、ちうさんも剣闘士としては封じているスキルもあるし、本当の本気同士だと結果はわからないって言っていました」

夏美が私の言葉をコタローの発言を引用して肯定する。

「そうだね…ナギとやった時よりは本気を出していたけれど、逃げ切るならともかく正面切った戦闘で打ち勝つのは難しいと思うよ」

ま、どうしても、となれば一度離脱して接触を断って後に奇襲かける位はするが。

「ナギ…さんと?」

そう、亜子が問うてくる。

「ん?ナギの街頭決闘の相手だよ、カゲタロウって」

「「うぇえっ!?」」

「…って事は、ナギさんが二日も寝込んでいたケガって…」

「そう、あのカゲタロウとの街頭決闘の結果だよ、右腕切断も肩の傷や腹の致命傷もね」

「うっひゃ〜じゃ、悪人じゃん、超悪人じゃん…確かに悪人っぽいカッコだったけど、あの人…」

そう言いながら夏美がガタガタ震え始める。

「まー拳闘士相手に奇襲で街頭決闘仕掛けるっていう意味ではマナーはよろしくないけれども…」

「決闘の結果だって言うならば悪人って程ではないよ、現に闘技場の試合に出られていただろう?夏美。

まあ、座長としてはチウちゃんに勝って貰って意趣返ししたかったって言うのもあるだろうけれどもね…結果は勝ち逃げされたようなもんだけど…勝ちは勝ちさ」

そう、私の言葉に続けてクママさんが言った。

 

「ところで…ちうさんって…ナギさんとつきおうてるんですか?」

暫く、カゲタロウや拳闘の話が続いた後、唐突に亜子が問うてきた。

「…ない、付き合ってない…どうしてそう思ったのかな?」

いっそ肯定してしまった方が爆弾解除にはいいかもしれんとさえ思えたが、そばにいる聡美にそんな答えを聞かせられるわけもなく…以前に、そんなウソをつく事を私自身が認められるわけもなく、そう即答した。

「だって…ちうさん美人ですし、二人の間にはなんか言い様のない信頼関係というか…そう言うんが感じられて…それにナギさんが寝込んでいる間、献身的に看護もしてはったし、今回の療養にも付き合ってはるし…」

亜子がモジモジとした様子でそんな感じの事を言う。

「原則的には、姉弟子としての責任と言うか、習慣かなぁ…治癒術師見習いの友人が修行に参加するようになるまで、アイツのケガの治療は私の仕事だったし…何より妹分の茶々がアイツになついているからね…私はその手伝いだよ」

「ああ…お友達の付き添いでクルーズに出かけたっていう緑髪の女の子が…」

「そうそう、それと療養に関しては半分修行みたいなものだからね、着いていかないわけにはいかないから」

「成程…そうなんや」

亜子が少しほっとした様子で言った…少しジャブくらいは入れておいた方がいいかな?コレは。

「ただ…修行はもちろん、幾つか達成しなきゃならない目標もあるから恋どころじゃないって感じもあるし…それ以前にアイツは女をドキドキさせるような言動を素でするくせに恋愛事をよくわかってない節さえある…辛いよ?あいつに恋するのは」

「そ…それは…でも…それでも…ウチは」

と、亜子が少し辛そうに呟く。

「そ、それよりちうさんは好きな人とかいるんですか?コジローさんとか」

…アキラよ、お前、話題を逸らすためとはいえ、私の正体知っているお前がそれは無かろうよ…聡美と村上の視線が痛いじゃないか?

「それもない…あれでも一応弟だし」

そう言ってむくれた様子ですり寄ってきたアキラを睨む聡美の頭をなでる。

「そ、そうだよ。それにちうさんには想いあう人がいるんだよねっ!」

夏美、マテ、それを口走るな。

「そ、それを言うなら夏美とコジローだって…いい雰囲気じゃないか」

と、とっさに私までそーいう事を口走ってしまう。

「なっ…」

「ほほう…チウちゃんにいい人がいるのかい?それに夏美とコジロー君も…?どれお姉さんに聞かせてごらん?」

そうクママさんが食い付いてきて浴場での女子会は混乱を極めるのであった…

 

その後、私は差し支えない範囲で聡美について惚気る羽目に陥ったと言っておこう…事情を知らない亜子とクママさんには当の本人を腕に抱いて惚気ているという事実を悟られる事はなく、ロリコンの近親相姦のレッテル(聡美は妹という事になっている)を貼られる事は避けられた…その代わり、共寝はした事あるのにキスまでしかしていない、設定上の年齢の割にプラトニックな関係と思われたみたいではあるが。

 

 

 

「うー千雨さんーお風呂であんな体勢でたっぷり惚気られると…クラクラしちゃいます」

何とか女子会を終わらせて部屋に戻ると早速聡美が飛びついてきた…と言うかベッドに押し倒された。

「ごめんな、でも逃げられる雰囲気じゃなかったし…嫌だったか?」

私の上にちょこんと座る聡美に、私はそう問うた。

「イヤではなかったですが…ずっとそばにいてくれる貴女が大好きです」

チュッ

そう言って、聡美は私の唇にキスをする。

「あなたと一緒に研究していると、とっても幸せです」

チュッ

離れたかと思うと、またそんな事を言ってキスをしてくれる…

「聡美?」

「えへへ…私も千雨さんにたっぷり惚気て…態度でも示さないとなーって…後、恥ずかしかったのでそのお返しもですよ」

そうしてその後しばらく、私は聡美にたっぷりと惚気返しとキスをされる事になるのであった。シンプルに愛しています、との言葉で締めくくられた後の大人のキスは、私からのお返しにつながり、何度も何度も、攻守を入れ替えて…いや、攻守など判別がつかなくなるほどに続いた…聡美が幼女姿とはいえ、よく『更に先』に進まなかったものである。

 

「うう…唇が痛いです…」

「そりゃあなぁ…ほら…リップクリーム塗ってやるから」

そして、その後、そのまま共寝してこうなった。

 

 

 

「さーてそれでは次の試合に参りましょう! 第10試合、東方は地元グラニクスの自由拳闘士、女剣士チウ!今季デビューの彼女は未だ負けなし!番狂わせを重ねております!昨夜、大魔法を行使して見せた彼女! 本日はどのような戦いを見せてくれるのでしょうか!

対する西方は、放浪の自由拳闘士、竜人族のフェルム・スクアーマ!その巨体と剛力から繰り出される一撃はまさに必殺と呼べるでしょう!

さて、この試合、いったいどんな展開が待っているのでしょうか!それでは…開始!」

そしてその日の午前の試合、相手は全身鱗の竜人の剣士であった。

「ぬんっ」

開始と共に放たれる大剣での一撃…よく練られた気と種族由来の強靭な筋肉による剛力で繰り出されるそれはとてもとても、重く速かった…が、流せぬほどではない。それた剣撃は盛大に砂埃を巻き上げた。お返しにと私が放った剣撃はあっさりと相手に届くが…

 

キィーン

 

まるで分厚い鋼鉄板を叩いたような手ごたえと共にはじき返された。

「うむ…剣技は見事…しかしその程度の一撃では我が竜鱗を貫くには足りぬわ!」

とのセリフと共に大剣が私の残影を切り裂いた…わざと切らせやがったな、このおっさんは。

その後も何合か剣戟を交わすが真面目に打ち合うと剣への負担が割とシャレにならない…が、交換したとはいえどうせ支給品の安物のままなのでコイツも壊れるまで使わせて貰おう。

そうしてしばらくの間、剣技の修行という事で無詠唱の魔法の射手を混ぜながら…雷属性は切り払ったが、光属性は鱗ではじきやがった…剣戟を続けていった。

「フム…本気とやらは…出さなくてもいいのか?」

「…修行」

強い相手にすぐ本気を出していれば修行にならないと言わんばかりに短くそう答えた。

「フハハハ、コレを修行と言うか…ならば出さざるを得なくするまでよ!」

と、フェルムの纏う気が出力を増す…それに合わせて私も気力を最大まで上げて剣舞を舞い続けた…

 

「…見事である」

続く剣戟の最中、フェルムが言う…全身で数か所、ほぼ同じ個所ばかり切りつけている箇所があるのに気づかれたか。

「このままでは鱗を割られてしまうでな…本気を出そう」

そう言うとフェルムは大剣を収め、鞘ごと地面に放り投げて構えをとる…このおっさんも素手のが強い勢かよ。まあ、本気と言うだけはあって、気を纏わせた拳は素早く、重く、確かにより厄介ではあった…し、唐突に火球を吐いてきやがるようになってその対応もあって一段と強くなり、おおよその位置はともかく、特定の鱗を狙えるほどの余裕はなくなった。

 

キィーン

 

「…お見事」

そしてついに、剣に限界がきた…今日は真っ二つである。

「うむ…で、見せてくれるのであろうな?貴殿の本気とやら」

「…どこまで出すかは貴方次第」

そう答えて、私は鉄扇を抜き、構えをとった。そして…

「ぬぉっ」

繰り出される拳をいなし、崩して、フェルムの巨体をぶん投げた。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 魔法の射手 雷の23矢」

「ぐっ…がぁぁぁ」

ひっくり返りながらもフェルムは火球を吐いて魔法の射手の一部を相殺し、その火球は私…の残影に向けて飛ぶ。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 白き雷」

縮地にて回り込んだ私は、器用に姿勢制御をして着地したフェルムの背を、白き雷を纏わせた鉄扇で突いた…まあ、カゲタロウの時もやったがネギの華崩拳のパクリである。

「ぐぁぁぁぁぁ」

そんな悲鳴を上げてフェルムは地に伏した。

 

 

 

「それじゃあ行ってくる」

買い出しの荷物を背負って言う…試合後にまたしばらくは入れないからと風呂は堪能したが。

「おう、きぃつけてな、ちう姉ちゃん、ハカセね…ハカセ」

「気を付けてね、二人とも…ネ…ナギさんによろしく」

「うん、気を付けて…それと昨日はごめんね?」

「ん?昨日?なんかあったんか?」

夏美の謝罪にコタローが反応する。

「気にすんな、コジロー…まあ、アレは事故って事で…忘れよう…な?」

コジロー相手としてではあるが、夏美もコタローへの思いの丈を吐かされていた事であるし。

 




なお、夏美とアキラは自業自得とはいえ、恥ずかしそうなそぶりを隠そうとしている彼女を腕に抱いた千雨さんに惚気られ続けるという罰ゲーム、ついでに夏美さんはコタロー君とのことを突っつかれていました。おかげで完全に自覚させられてしまった模様。


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82 辺境編 第13話 出場権の行方

「ホントですか!?まき絵さんたちも無事だったんですか!?ほかの皆も…!?

良かった…ホントに…良かったです…」

コタローから聞いた皆の安否情報を告げた結果、ネギはそんな事を言って泣きながら喜びを示した。

「おー」

「まあ落ち着け、ネギ。それで、残りは夕映、ハルナ、アーニャ、それにカモ…まーどこでもなんとか生き延びてそうな連中ばっかりだな」

「そうですねー過信はできませんがー自力でオスティアにて合流できそうな方々ばかりですねー」

と、聡美が私の楽観論に乗る…実際は連絡がない事を鑑みれば、世界一周組の探査に引っかからない場合、その三人と一匹が全員無事かつ自力でオスティアにて合流可能な可能性は、面子を考慮しても五分五分かと言うのが私と聡美の共通見解ではあるが…まあウソではない。単に8割の確率で無事にオスティアまでやってこられる3人と一匹が全員無事にやってくる確率が5割を切るというだけで。

「そう…ですね」

「ふ…嬢ちゃんたちが言うなら間違いねぇ!よかったな、ぼーず。

よし、じゃあ修行の続き行くぞぉ!」

バムッとおっさんがネギの背を強くたたいた。

「ええーッもう少し詳しい話を…」

「いや、まあ…無事と決まったわけではねぇんだが…」

ネギのメンタル的に楽観論で行くとは示し合わせているが、そこまで楽観視されても困る。

「大丈夫、大丈夫、その四人は無事だぜ!仲間を信じようっ」

「いや…まあ…そう…だな?」

「千雨さんまでー皆さんの情報、もう少し詳しくー」

「私もそれほど詳しい情報があるわけじゃねーけど…次の休憩にな?つうことで、食料しまったら水浴び場を借りるぞ、おっさん」

「おう、頼んだぜ、嬢ちゃんたち!よっしゃ、嬢ちゃんたちが戻ってくるまでぶっ続けで行くぜ、ネギ!」

と言う感じで、私たちはラカンのおっさんの隠遁地に戻ってきた。

 

 

 

「で、おっさん…カゲタロウの奴が拳闘試合を仕掛けて来たんだがどー言う事だ?」

その夜、私はそうおっさんを問い詰めていた。

「んー?カゲちゃんがか?」

色々バレているだろうと、私相手にはもはや親しさを隠そうともしない。

「そうだよ、ボスポラスのカゲタロウが、だよ」

「そーいう事もあるさね、あいつだって放浪拳闘士なんだしな」

「…あくまでそーいうスタンスか…で、当然っちゃあ当然だが強さ評価700なんてもんじゃなかったぞ…私が見たレベルで2000越え…本当の実力は3000超えても不思議じゃねぇ」

「まーそりゃあそうだ、700はぼーず相手に手加減していた時のだからな」

おっさんはそう笑いながら杯を傾ける。

「で、勝ったのか?」

「勝たせてもらった…だな…」

と、簡単に試合の終着を説明する。

「ふはは、マジでギリギリでの離脱じゃねぇか、カゲちゃんの奴…嬢ちゃんがそこそこつえーにしても遊びすぎだろ」

…やっぱりそこまで笑われる程度の力の差か

「いや、悪い悪い、だが、嬢ちゃんが闇呪紋や呪血紋なんかのオリジナル技法を使うならともかく、隠したままならそんなもんだ…オリジナル技法無しの嬢ちゃんが1500位として、カゲちゃんの本気は3000超えるからな」

言い換えれば、全部出せばチャンスはあるか、と言った所か。

「はぁ…で、本気でカゲタロウに勝てるようになるのか?ネギ先生」

と、私はため息をつき、その後、悪戯っぽく言う…確か、そんな事を言っていたはずである。

「あー…まあ術式兵装使いこなせればワンチャンある…よな?」

「くっくっ…私に聞くなよ、おっさん。

おっさんが言ったんだぜ?カゲタロウに二週間で勝てようにしてやる、って」

「いやぁ…ぶっちゃけカゲちゃんがチサメ嬢ちゃんにケンカ売ったのは想定外でなぁ…どこまで強くなるかなぁぼーず…中々楽しみではあるんだが」

そう、おっさんは杯をあおった。

 

 

 

「よし、始め」

ラカンのおっさんの合図に従って私はネギに魔法の射手付きの体術で襲い掛かる。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 来たれ雷精 風の精 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐 雷の暴風 固定 掌握 魔力充填 術式兵装 疾風迅雷」

…それを掻い潜りながら術式兵装をする、と言うのがこの修行の前半である。いまの手加減具合で9割方上手くいくようにはなってきた…と言うか私の特技でもある機動詠唱の技術習得でもあるのだが、コレ。

「よーし、じゃあこのまま模擬戦行ってみっか」

と、おっさんの気まぐれでここから体術のみの模擬戦に突入する。大体5回に1回程度ではあるが、連続の事もあれば10回連続無しのこともある。

咸卦の呪法をフルにして鉄扇を抜き、掻き消えたネギの動きを追う…大体の勝率は3割と言った所だが…

 

ドンッ

 

今回はネギの猛攻をしのいで投げ、私の勝ち。逆にスペックで押し切られると私の負けである。なお、機動戦に入るパターンもあるのだが、長引くし、疲れるので大体は私がネギを待ち受ける形式でやっている…まあ機動戦にするとスペック差が如実に出るが逆に技量差が大きいのでこっちも勝率3割くらいである。ただし、機動戦を選んだと気づかずにネギが私の残影を本気でぶん殴ったりしたら話は別だが。

「おーし…丁度10本模擬戦やったし少し休憩入れようか」

と、ラカンのおっさんが声をかける。

「はい、飲み物です。千雨さん、ネギ先生」

聡美がスポーツドリンクのような飲み物を私たちに差し出してくれる。

「ありがとう、聡美」

「ありがとうございます、ハカセさん」

 

「いやーぼーずに修行つけるにも助手役がいるとやっぱ楽だわ。

ま、それはさておき…ぼーずの技量も大分上がって来たし…もうちょいチサメ嬢ちゃんの前段でのギア上げるか」

と、少し休憩した頃にラカンのおっさんが言う。まーその代わり、私もおっさんに修行をつけて貰っているのだが。

「は、はい!」

「ん、了解」

という事で、ネギの修行が再開した。

 

 

 

そして数日後…ついにネギがグラニクスに帰還する日になり…帰ってきた。

「おっし、それじゃあ今後の修行は手はず通りに…な」

まあ、要するにおっさんを闘技場に侵入させる手はずの話である…トサカにだけは訓練用に場所を借りる話と共に師匠がラカンのおっさんである事を伏せて根回し済みであるが。

「はい、ラカンさん」

「うっしゃ、って事でひとまず解散!」

という事で、ネギはナギ・スプリングフィールドとして拳闘界に復帰し、ラカンのおっさんとの修行を継続することになる…

 

次の夜、当然の様に復帰初試合シングルマッチとタッグマッチとを勝利したネギには亜子たちによる完全回復祝いの特別料理がふるまわれる事となり、私達もその相伴にあずかる事となった。

 

そして、半月ほど私たちは拳闘士として活躍を重ね、グラニクスの夏季大会、ミネルウァ杯は終わりを告げるのであった。

 

 

 

「チウ、お前、ナギ・スプリングフィールド杯に出ろ」

夏季興行も終わり、オスティアへの移動準備が始まる頃(うちのボスのドルネゴス氏は思っていた以上に大物で、オスティアの大会にも一枚噛んでいて、運営要員を出す必要がある)にトサカに呼び出されて開口一番、そう言われた。

「…うちの推薦枠はナギ達という事で話が付いたはずでは?」

と言うか、ドルネゴス氏の面前で私が辞退してそう決まったはずだが。

「それがな…お前達が集まってきた有力な放浪拳闘士ボコりまくっただろ?それで追加の推薦枠が来ちまったんだよ…ナギ達はきちっと出場させる、その上でお前も出ろ、いいな?」

「…ナギとコジローが出場できるのであれば」

本当は大会中はフリーハンドの身で居たいのだが…ここで推薦を蹴るのは色々とまずそうだという事で了承する事にした。

 

 

 

「ええっ、ちうさんも大会に出場することになったんですか!?」

と、ネギが驚きと困惑の声を上げる。

「そー言うこった…本来私は予備戦力の予定だったのはわかってるが自由度が下がっちまった…断ると拳闘士を続ける場合に後が怖い感じだったんでな…わりぃ」

「いえ…優勝賞金が得られなかった場合はグラニクスで拳闘士を続ける予定でしたから…仕方ないかと」

「せやな、まあ賞金得られる確率が上がると思えばええんや。で、ちう姉ちゃんの相方はどないするんや、バルガスさんか?」

と、ネギとコタローがフォローしてくれる。

「いや、単騎で出るよ?んで、お前らが負けたらどっちかをペアに登録する」

「は?アリなんか?ソレ」

「規定上、アリの筈だな。トサカに確認してもらっているが多分通る。それと…極力私とお前らは戦わないようにされるらしいから生き残れたならぶつかるのは決勝だな…二人がかりで私が勝てるとは思えねぇが本気では行く、万一私が単騎で優勝したら賞金はネギに貸しだからな、無利子、出世払いでいいぞ」

「あ…ハイ…頑張ります」

私の言葉に、ネギは微妙な表情でそう答えた。まー流石に『剣闘士チウ』が『ナギ・スプリングフィールド』に勝つことはねーだろうが。

 

 

 

「それでは本船はオスティアに向けて出発する!」

諸々のオスティア行きの用意を済ませ、中型の貨客飛行船を丸々一隻借り切り、その船上でドルネゴス氏がそこそこの長さの演説の後にそう宣言した。実はグラニクスからは既にドルネゴス氏の手配した数隻の飛行船が出航しており、この便では生鮮食品と応援の接客要員、そして拳闘士が移動することになっている。

「ついに出港か…じゃあ、そろそろ私達も計画を詰めにゃならんな」

「…とは言っても決められる事は大体決まっていますけどねー」

「そうですね…しいて言えば、朝倉さんと茶々丸さんをゲート探索班に入れるか、皆さんの合流の為のピックアップ班に割り振るかくらいですね」

「何や、ノドカ姉ちゃんを探索班に入れるのは無しかいな」

「そーだな、罠探知って意味ではありではある…が、本人の志願を前提に探索班が護衛しきれると判断した場合に限るべきだな」

そんな感じで私たちはオスティアでの行動計画を策定するのであった。

 

「で、結局千の雷は間に合ったのかよ」

船内で出来る程度には、と組み手をしながらネギに問う。

「いえ…一応習得はできたんですが実戦レベルにはもう少し…グラニクスでの修行ペースで基礎以外の時間を一週間分丸々つぎ込んで、と言った所でしょうか」

「なら私と似たようなもんか…っと」

私も射撃場では行使できる位には習得できている。

「あー千雨さんの『使える』の定義だとまだまだかかります…まだ補助陣アリで、ですね」

「じゃあ、私の方が少しだけ進んでいるか…後で理論の討議するか」

「よろしければお願いします」

…遅々として、ではあるが多少の修行も重ねながら私たちは旅程を消化していった。

 

 

 

そして…9月27日夕刻、私たちはオスティアへ到着した。

 



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拳闘大会編
83 拳闘大会編 第1話 前日祭


オスティアに到着した27日は会場への移動、部屋割りなどを済ませてそのまま就寝の時間となった。28日はリゾートホテルに宿をとっていたラカンのおっさんと合流し、旅程の間の成果を岩礁地帯に出かけて試し打ちしたり、会場設営を多少手伝ったりという事をして過ごし…晩はドルネゴス氏に呼ばれ、ネギ達と共に拳闘界の有力者に挨拶を済ませた。そして29日、前夜祭…というか二日間もある前日祭が始まった。

 

 

 

「も…もう駄目だよ、村上!長谷川!ハカセ!これ以上、亜子の姿を見てられないよっ!」

朝から聡美とデートに出かけ、闘技場に戻って少しした昼下がり、アキラがそんな事を言い出した。

「まあまあアキラ…」

「落ち着け、アキラ」

「そーですよー今更どーこーできる話でもないですしー」

「落ち着いてなんかいられないよ、あんな純粋に想ってるのに…その相手は本当は存在しない幻だなんて…っ!」

そう叫びながらアキラは部屋の中をどたばた歩き回る。

「アキラがこんなに取り乱すなんて相当だねぇ」

「はっ…ゴ、ゴメン他にも色々大変な時にこんなことで…」

「いや、アキラ、気にすんな。これだって重大な問題だかんな。

しかし、この亜子ナギ問題の一番の解決方法はさっさと亜子に告らせちまって振られる事だ、それを止めたのはお前だぜ」

私も時々は釘を刺してはきたが…まあぶっちゃけそういう事にするのが一番ではある。

「う…うん。でも…今の亜子にそんな酷な事…無理だよ…男子に振られるのトラウマだし…」

「確かに…この過酷な環境で病気して以来体調も良くない亜子がここまで持ってるのは奴が心の支えになってる所もあるだろうしな…しかしよ、このハナシにハッピーエンドはないぜ?」

「そーですね、いくつか想定できる帰結の内でも…ハッピーエンドと呼びうるのは稀有な仮定を重ねたものですー」

ちなみに、それは亜子に何食わぬ顔でナギの正体ばれをしてその上で亜子がネギ先生争奪戦に加わる系である。

「そ、それはわかってるんだけど…」

「まあ…後腐れない案ならもう一つ無いでもないが…」

「ええっ!?」

「そっ、それは…?」

「…もしかして…アレですか?」

と、聡美は私にジト目を向けてくる。

「それはだな…ナギという存在を殺せばいいんだよ…例えば…決勝戦での傷が元で死んで、ナギの遺言とコジローの意思でお前らは奴隷身分から解放される…いい話ではあるな、傍から見ている分には…奴が生きていると色々と面倒な事もあるし」

「ええ~!?」

「死!!??」

「あーやっぱり…」

「まー想い人の死を乗り越えられるかは亜子次第だが…ちなみに物語的には想いを通じさせた後にってお涙頂戴プランもあるが、それは非道が過ぎるな」

私達は感動話を作りたい訳ではなく、いかに亜子ナギ問題を軟着陸させるか、を検討しているのである。まあ、ナギの存在を消すだけなら悲愛案よりかはまし、と擦り込むための極論でもあるが。

「う、うぅん…確かにそれよりはましかもしれないけど…トラウマがより深くなるんじゃ…」

「た、立ち直れなかった場合は…?」

「…信じるしかないな…亜子の事を」

結局、亜子ナギ問題は先送りになったのであった…のだが…

 

 

 

「ちっちうさあぁーんっ たったたた大変ですっ、ああ、あの、亜子さんが僕のことを、いえ、僕じゃなくて、この変身後のナギの事なんですが、そのつまり、亜子さんが僕のことを好…」

その夜、そんな事を叫びながらネギが私たちの部屋に乱入してきた…ので、蹴り飛ばしてやった。

「落ち着け、ボケガキ」

「きゃぶ!?」

「それと、テメェの部屋じゃねーんだからノックしろ、ボケ…で何だって?」

そして一応は落ち着いたネギから事情を聴くのであった。

 

「…そうか、聞いちまったか、亜子の気持ちを…『ナギ』じゃなくて『ネギ』が聞いたんだな?」

「それはホットな案件ですが、不幸中の幸いでしたねー」

「あ、あの、これはつまり、その…亜子さんが僕の変装姿であるこの『ナギ』の事を好きだという事で…?」

「「そうだ」です」

私と聡美がハモって答える。

「し、知ってたんですか」

「学園祭の時から割とあからさまに色々あっただろーに…お前が気づいてないのが不思議だよ」

私は呆れた様子で言った。

「まあ、その辺りはネギ先生の年齢を考えれば仕方がない面もありますが…」

「「女泣かせなこった」ですねー」

聡美も若干のフォローの後、私とハモるように落とした。

「あ…あう…そ、それで僕は一体どうすれば」

「全て忘れろ、今はな」

「ええーっ!?!で、でも、亜子さんの気持ちの事とか…っ」

「ばーか…お前が応えられる…ナギが本当に存在していたなら…私らもここまで困っちゃいねーんだよ…違うか?」

「加えてー10歳のネギ先生に14歳の女の子の恋心がわかりますかー?気付く事も出来ないソレに、ですよー」

聡美が若干不機嫌な様子で、それでいて諭すように優しく、私に続いた。

「……!」

「まあ、全て忘れろ、と言うのは少し違うか…亜子の気持ちを考えるのは良い、だがお前からは何もするな。そして…もし亜子が告白でもしてきた時には…お前らしく、お前の言葉でフッてやれ」

「フ…フルって…」

「それが一番だぞ?フられても亜子ならちゃんと立ち直るだろうさ…」

「まー私としてはーネギ先生が本気で亜子さんの気持ちに応えたい…心の底から好きって言うなら止めはしませんがーそうじゃないでしょう?」

「…その選択をするならば、私もネギとして、正体をばらした上なら止めはせんよ…何重もの意味でそれは茨の道だがな…ただし…」

と、私は足を組みなおし、睨みつけるように言った。

「誰もがそれをアリと考える訳じゃねぇ…現にアキラからは正体バレ…『ナギ』が『ネギ』だと知ってしまう事だけは本当に辛いだろうという言葉を貰っている」

「アキラさんが…」

「さて、ネギ『先生』、あんたの現在の最優先目標は?」

と、少しずるいワードでネギに畳み掛ける…

「仲間全員で無事現実世界に帰還する事です」

「そのとおりだ…この問題もまた胸に抱えておけ、お前にゃ何もできん」

「千雨さん…」

「甘えるな、助言は終わりだ」

そう言って私は話を打ち切った。

 

 

 

そして翌朝…ラカンのおっさんとネギの指導の調整をしていると…

「どうした、チサメ嬢ちゃん、ハカセ嬢ちゃんと喧嘩でもしたのか?」

「イヤ…してねぇけど…どうしたんだよ、おっさん」

「色恋で悩んでいる匂いがプンプンしているからな、今のチサメ嬢ちゃん…って事は坊主に何かあったか」

「あ…いや…その」

「おっ…図星か?どうした?何があった?おじさんに聞かせて見ろよ」

…せまり方はキモいがまあこれでもネギの師匠だ知っておいてもよかろう…と思ったのが間違いだった。

 

「よぉ、ぼーず告られたんだって!?モテる男はつれぇな、オイ、ワッハッハッハ」

と、おっさんは事情を聴くなりネギの下に向かうと、そう言って見せやがった。

「ラ…ラカンさん!?」

「写真も見せてもらったぜ、アコちゃんねぇ…可愛いじゃねぇか」

「ち、千雨さん、喋っちゃったんですか?」

「…すまん…このおっさんそっちの方も鋭くてな…その…問い詰められて、お前の師匠の一人だしと思ってつい…色恋は私も専門じゃねぇし」

顔を真っ赤にするネギに申し訳ないとそんな弁明をしていると

「おお~~っ!?なんだこりゃ、8人もいるじゃねぇか。なんで言わなかった、このエロガキ」

と、おっさんはネギから仮契約カードをスリ取っていた。

「ああっ?僕のパクティオーカード…いつの間に」

「可愛い子ばっかじゃねぇかよ、オイ。やるねぇ~お、この二人は昨日の子か。正反対の石頭かと思いきやさすが奴の息子だぜ。で、オイ、どの子が本命なんだよ?」

「何の話ですかっ」

気づけばおっさんはそんな話を始めていた…まあある意味この対応のがネギにはあっているかもしれねぇ…ってあの中に、私のカードもあるじゃねぇか!?

「これか!?この子か!?それともこいつか!?おおっ!?この子かぁー顔赤くなったぞぉ?」

「なっ、ちちちちがいますよ、僕そんなっ」

と、のどかのカードを掲げてそんなやり取りをしている…と

「ってオイ…コレチサメ嬢ちゃんじゃねぇか…えっ…どういうことだよ、オイ」

「やかましい、諸事情あって聡美を助ける為に仮契約したんだよッ」

といらん事をぬかすおっさんに私は回し蹴りをかまし、その隙にネギはパクティオーカードを回収していた。

 

「さて…『暗き夜の型』いってみろ、明日からいよいよ祭りだ、見といてやるぜ」

散々騒いで、やっと修業が始まる…とはいえ、場所柄大した事はできないが。

「ハイ」

そう答えてネギは暗き夜の型を取る…出力はともかく、安定性に欠けるな…やっぱり呑まれる心配がぬぐえないと評価せざるを得ない…まあすぐにどうこうなると言うほど不安定でもないが。

「ダメだダメだ!!てんでなっちゃいねーぞ、やはり一か月じゃあさすがの天才少年でも無理だったか。不安定すぎるぜ、実戦じゃまだ使えねーな」

とのおっさんの言葉にネギの纏う闇が乱れる…そー言う所だな、主に足りてないのは。

「おおっと、心を乱すんじゃねぇぜ。くっくっく、…しかしまあ、問題山積みで大変だな、ぼーず、告白のコトやら、借金のコトやら、皆の安全のコトやら、謎の敵のコトやら…『お姫様』のコトやら」

と、おっさんはいつの間にかまたスっていたアスナとの仮契約カードを掲げた。

「お姫様…と言うのはアスナさんの事ですか?」

「あの薬は俺様の指示どおり飲ませたんだろ?なら安心だ、この問題は解決だぜ」

「ラカンさん!そういうコトじゃなくて…」

「今のお前の目標は全員の無事帰還だろ?だったらこれ以上は知らなくていい」

おうおう…煽るねぇ…大方情報をちらつかせつつネギを揺さぶって安定性を見ているんだろうが。

「誤魔化さないでください!!アスナさんが…父さんやこの世界とどんな関係があるって言うんですか!?」

関係…関係ねぇ…?どんな秘密が眠っていてもおかしくはねぇと思うぞ?アスナには。

「今まで本当に気づかなかったのか?あの子の特異さに…魔法無効化という超希少特殊能力…両親の不在…近衛家・タカミチとの幼少からの付き合い・保護…お利口なお前さんが少しも不思議に思わなかったと?」

「ラカンさん!」

と、ネギはついに怒気交じりに叫び、型が完全に乱れた。

「ネギ先生ーッ!!ネギ先生ッ」

その時、相坂がそう叫びながら依り代の人形で飛び込んできた。

「さよさんっ!?」

「ハイッさよですぅ〜っ本屋さんが大変なんです、仲間皆の動きをアーティファクトで追ってた朝倉さんから緊急連絡で…!」

「えっ」

まずい事になった…かな?

「本屋さんが仲間とココに向かっていたんですが、西50キロの地点で強力な賞金稼ぎ集団に襲われて!!」

「助けに行かなきゃ」

と、相坂の言葉にネギがはやる。

「距離的に杖か箒が欲しい所だな」

行くしかないのであるが、ネギや私でも虚空瞬動でそれだけ跳び続けるのは骨である…相当に消耗するほどに。

「そうか…僕の杖もあの時以来行方不明で…」

「が…行くしかねぇか…走れねぇ距離でもない」

と、覚悟を決めた時…

「足ならあるよーっ!!!」

と、空から声が降って来た。

「ヤッホーネギくぅーん」

見上げるとそこには茶々丸、朝倉、クー、ハルナがいた…無事だったのか、ハルナめ

「ハルナさん!!」

「オイオイ、どうしたんだよその舟は!?」

「中古品、買っちゃった。金魚型ーカワイイしょ。いやあーこっち来てからこの溢れる才能で一儲けしちゃってね」

と、言うハルナの肩からひょっこりとカモも顔を出す。

「ネギ坊主!」

「古老師!!」

「これをっ」

と、クーが包みを解いて投げてよこした…それはネギの杖で、杖の上にカモでシュタッと飛び移ってくる。

「僕の杖!!」

「おうよ」

「カモ君!!」

「俺っちが探し当てといてやったんだぜ、感謝しろよ兄貴」

と、カモがどや顔をする。

「先行ってて!!ネギ君」

「私達も後から追います!!」

と、朝倉と茶々丸。

「ハイ!!」

「オイ、ぼーず!…使うのか?」

「ハイ!」

そう答えるネギにローブを渡してやる…

「使い過ぎに気をつけろよ、今のお前じゃ…呑みこまれるぞ」

「…大丈夫です」

まあ、確かに、まだ決着がついていない程度の賞金稼ぎであれば大丈夫だろう…が

「敵は賞金稼ぎを専門とする強力なプロフェッショナル集団の様です、事態は急を要します…お気をつけて」

「わかりました!」

「ネギ!」

「いってきます!!千雨さん」

張り切りすぎるなよ、そう言おうとしたのを遮ってネギは飛び出して行ってしまった。

「ったく…」

「私達も行くよ!乗って!千雨ちゃん!」

と、朝倉が手を伸ばす。

「私はいらねーだろ、待っているから行ってこい」

「え、でも」

「ネギだけで十分だ…どーしようもなくなったら呼べ、跳んでいくから」

「…りょーかい、その判断、信じるよ」

と、ハルナの舟はネギを追って西へ飛んでいった。

 

 

 

「で、おっさん…ネギの闇の魔法、どれくらい持つと思う?」

修行の合間に食べようと持ってきていた饅頭をパクつきながら私は問う。

「…アクシデントが無けりゃあ拳闘大会位はよゆーだろうがな、どっちの意味でも」

と、おっさんもキセルを吹かしながら答える。

「…フェイト・アーウェルンクス達の相手となるときついか…いろんな意味で」

「そうだな…坊主は相性が良すぎるからな…そしてアーウェルンクスが俺の思っている通りの相手だとすればまだ届かねぇな…無論嬢ちゃんも…だが戦う必要もあるまい?」

と、おっさんは先ほどネギをあおっていた時と同じ笑顔で答えた。

「イヤ…ゲート周辺であいつらは何かやらかす可能性がある」

「根拠はあるのか」

「…私達の概算が正しければ世界中のゲートポートを一つないし少数残して破壊した場合、適切に手を加えれば魔力の対流により、巨大な魔力だまりが残ったゲート近くで一時的に発生するはずだ…例のテロがそれを狙ってのモノだとすれば…」

「…ゲートを狙うぼーずや嬢ちゃんたちとかち合う…と…証拠はあるか?」

「一応、ハッキングした連合の気象観測データの魔力対流は異常値…という名の私の概算の範囲で動いているな…ただ、その先と魔力だまりの発生時期は…微妙だ…オスティアの魔力乱流を計算・観測しきれていない」

「了解…一応俺も探ってはみる…坊主にはこの事は?」

「もちろん伝えてあるが…懸案事項の一つ程度として、だな…なんか心当たりはあるか?」

「ん?100万」

「りょーかい、話す気ねぇと」

「ってこった、まあ場合によっちゃ気が向けば見送りくらい行ってやるよ」

そしておっさんは再びパイプを吹かし始めた。

 

 

 

「ネギッ」

パルの舟が帰って来たかと思うと、アスナがネギに呼び掛ける。

「え」

「へ?じゃないわよ!さっきのアレ、ちゃんと説明してもらうわよ!」

と、まくし立て始めたアスナの言葉を聞いていると、どうやらネギのマギア・エレベアを見てその見た目の悪さに説明を求めているらしい。

「ええっと…あれは闇の魔法って言う技で…」

「や…闇の魔法ですってー!?なによ、そのいかにも悪い魔法使いが使いそうなのは!?」

まあ、間違っちゃいないな、元々はマスター…エヴァの固有技能だし。

「は、はい、それは…その…」

「おうよ、『マギア・エレベア』な。俺が教えた」

口ごもるネギとは対照的に、ラカンのおっさんが自慢げにそうのたまう。

「ってああーっ、またアンタね、ヘンタイっ、ネギに何教えてんのよ!ああ、もーっちょっと私が目を離すとすぐこれなんだからっ」

と、アスナがわめき始める…私も教えた面子に入っているんだが…な?

「ダメよダメダメ、絶対ダメーッ、使用禁止!封印よ、封印!」

「ええっ」

「あんな体に悪そうなものもう使っちゃだめーっ」

「そ、そんなーアスナさ…」

…体に悪いのは否定しないが、全否定は無かろうに…まあ人間として天寿を全うしたければ封印すべきではあるが。

「あーコラ、待て待てアスナ、少し落ち着け」

「千雨ちゃん…」

「それは、そいつ自身が選んだ事だ、お前達…いや、私も含めて仲間全員を守る為にな。

そいつなりに、死ぬほど悩んで出した結論だよ。そーやってお前に怒られんだろーってのも考えた上でな。

だからな、そう頭ごなしに否定しないでそこんとこも汲んでやってくんねーか」

「う…そーゆーつもりで言ったんじゃ…で、でも…さー闇の魔法なんて言ったらやっぱりその…副作用とかあるでしょ?」

「それは…」

勿論ある、そう言おうとしたときにネギが割り込む。

「大丈夫です。マギア・エレベアはその昔、マスターが編み出してマスター自身が使っていた技法です」

「へ…あー…エヴァちゃん…」

「マスターが何百年も使ってた技だから安全は保証済みです。で、ですからこの技に危険は…?」

そして大ウソもいい所を並べ立てるネギ…にアスナが歩み寄り…

 

もぎゅっ

 

ネギの口に指を突っ込んで横に引っ張った。

「嘘つき…危険なんでしょ、ホントは…お子ちゃまが嘘ついてもすぐわかるんだから…でしょう?千雨ちゃん」

「ああ、マスターのスキルだってのは本当だがそれ以外は大ウソもいい所だな…危険だと習得前に私も警告したくらいだ」

との私の言葉にアスナは深くため息をついた。

「あああの、アスナさん、それはその…」

「…いいわよ」

「え?」

「忘れてた、あんたがどんだけ無茶してもついてくって決めたんだった」

「え…」

「ただし!あんたがみんなを守りたいように、私達もあんたを守りたいのよ。

アンタが私達を守るように、アンタがピンチになったら私達だって地獄の底までアンタを助けに行く!いいわね!?覚悟しなさいよ!」

そう、アスナはネギに宣言した。

「ハ…ハイッ!」

「言うねーアスナーッ」

「さっすが部長!」

「ウチらもがんばるえー」

その宣言に、みんなは大いに沸くのであった。

そしてこの日はしばらくはしゃいだ後に軽く打ち合わせを済ませて解散ということになった。

 



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84 拳闘大会編 第2話 襲撃と映画と

先週投稿したつもりで投稿し忘れていたようなので今週2話目デス(


「話題のナギ・コジローコンビ、優勝候補の一角に圧勝ーッ!実力を疑問視する批評家の意見をはねのけたカタチだ、これは本物かー!?」

翌日…オスティア終戦祭一日目、ネギとコタローは優勝候補の一角であった竜人コンピを倒して予選トーナメント第一戦に勝利した。ちなみに私の予選1戦目は午後1時からであり、予選は16グループでトーナメント2戦の64ペアが競い合う。その後、中日を1日挟んで一日一試合で計四試合の決勝トーナメントを行うことになっている。この拳闘界の常識としては割とハードなスケジュールもペース配分という意味で見どころとなっているらしい。

 

 

 

「…対するは南方、グラニクスのチウー!地元グラニクスにおいて数多の放浪拳闘士を薙ぎ倒し、未だ無敗!それは対ペア戦においても変わらずです!ベテランペアを相手にどんな戦いを見せてくれるのでしょうかっ!それでは参りましょう!…開始!」

相手は帝国出身のヘラス族の男性ペア、オーソドックスな剣士と魔法使いで前後衛タイプの様に見える。

流石に舐めプも軽めでよかろうと最初から咸卦の呪法をある程度の密度で纏って抜刀、跳躍する。

 

キィーン

 

と、迎撃される。まあ、これくらいは止めて貰わないと面白くない。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 雷の精霊89柱 集い来りて 敵を射て」

ニヤリと笑い、切り結びながら割と多めの魔法の射手を詠唱し…

「魔法の射手 雷の89矢」

少し下がって、剣士と魔法使いをまとめて射線に捉えて散弾気味に放つ。

それに対して剣士は切り払いながら後退し、魔法使いの近くまで下がるとその陰に入った。

「赤き焔」

そしてご挨拶とばかりに赤き焔が私の元位置に向けて放たれるが…んなもん、魔法の射手放った直後に離脱しているに決まっている…大体底は見えて来たか。

つーか、ペア戦と言われても前衛二人ならともかく、完全前後衛だと前衛が私を拘束しきれない限りにおいて後衛とかただの遊兵である…警戒は必要だし、そうとも限らない練度の場合もあるのだが…少し遊ぶか。

「こっち」

そのまま後衛狙いをやってもよかったのだが、姿を現して左手で来いよと言わんばかりにクイクイと挑発する。

「「ぐっ…」」

しかし彼らは挑発に乗らず、後衛が詠唱を始める…火精召喚か…まあアリというか正解だ、使い捨てに出来る前衛を出すのは。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 闇夜切り裂く一条の光 わが手に宿りて敵を喰らえ拡散・白き雷」

と、術者の周囲に出現した火蜥蜴たちの出鼻をくじくように雷撃をかます。

そしてそれを生き延びた火蜥蜴が向かってくるのを切り裂きながら肉薄していく…と、火蜥蜴のお代わりが登場し、割と身軽に魔法使いが後退していく…大体狙いはわかった。

「おおっと、チウ選手、火蜥蜴に囲まれてしまったぞ、どうする!?」

わざと離脱せずに火蜥蜴を切り捨てていると敵魔法使いの呪文が完成したようだ。

「燃える天空!」

「おおっと大魔法!燃える天空だぁぁぁぁチウ選手、もろに食らったかぁぁぁぁ!」

と、盛り上がっているところ悪いが、フツーに縮地で離脱して柱の上に立っている。剣士も戦闘加入して、もう一回くらい大量にお代わりしてもう少し私の動きを封じた後にやるべきである、最初に切りかかった時に素早いのは見せているんだから…そうされれば機動戦闘に移っていたが。

やったか、という表情の相手ペアであるが観客からは丸見えなのでその雰囲気で私の位置に気付いた。

「馬鹿な!タイミングは完璧だったはず!」

「くそっ、今のから逃れるとは!」

「残念…終わりにしようか」

と、二人の言葉に応えて縮地で魔法使いの背後に回り込む。

 

魔法の射手 雷の11矢

 

そして魔法の矢を纏わせた剣の腹で胴を薙ぎ払うように強打した。

「ぎゃはっ」

そんな悲鳴を上げながら倒れてゆく相手の魔法使いを蹴り飛ばし、剣士と向き合い…切り結ぶ。

「くっ…遊んでやがったのかよ!」

明らかに最初と比べて精彩を増した剣技に相手の剣士はそう叫ぶ。

「…まだいける?」

おしゃべりする余裕があるならまだまだいけるよね?という顔でそう問い、剣戟を浴びせ…

「…お終い」

そして首筋に剣を当て、私はそう宣言した。

「ま…参った…」

「チウ選手勝利!チウ選手、ソロでタッグマッチを制しました!」

そして私の勝利が確定した。

 

 

 

「招集?」

「はい、さっきコジローさんが連絡をしてきて…フェイト・アーウェルンクスと交戦したとか…」

控室に戻ると、聡美が心配そうにそう言った。

「げ…マジか…被害は?」

「ハイ…被害は聞いていないので恐らく全員健在です、ただ状況報告と今後の相談をしたいので…金魚に合流してほしい、との事です」

「わかった、すぐ用意する」

と、私は手早くシャワーと着替えを済ませて聡美とハルナの舟に向かった。

 

 

 

ハルナの舟に合流し、事情を聴くと、1時頃にフェイトがネギに接触、そして近くにいた刹那とアスナが合流…と、同時に木乃香とカモがコタローをはじめ、私をのぞく全員に通報すると同時にラカンのおっさんに救援を要請…したがラカンのおっさんごと敵2名に結界に閉じ込められてしばらく足止めを喰らい…ハルナとノドカにも敵が襲い掛かり…月詠まで現れて…と割と酷い戦況であったが各員の奮戦で何とか全員無事に終われた模様である。

「フム…そうなると拙者たちが下におりていた事、千雨が試合だった事…その辺りも含めてこのタイミングで事を起こした可能性さえありそうであるな」

「そうだな…お前らはともかく、私の行動は公開情報だし…月詠の証言から監視はつけられているようだからな」

楓とそんな会話をしていると船内放送で近くの岩に接舷する旨の放送があった。

 

「えーと、言う訳で僕達『白き翼』は本日午後1時を以て世界滅亡をたくらむ謎の組織、『完全なる世界』残党と戦う事になってしまいました!」

そしてネギが詳しい事情をみんなに説明し、そう宣言した。それに対する皆の反応は…

「「「「「イエーイッ!」」」」

歓声と拍手であった。どうしてそうなる。

「拍手する所じゃありませーんっ」

「えーいーじゃん」

と、ハルナが明るく答える…お前、治療済みとはいえ負傷したんだろうに…

「僕、皆さんに謝らなきゃいけません。相談もせずに皆さんを危険な状況に追い込んでしまって…その、ゴ…ゴメ…ゴ…ゴメスッ」

謝ろうとするネギをハルナがゴーレムでぶん殴った。まあ仕方ないか。

「全くもーネギ君は。その話は決着ついてるでしょ。2か月前のゲートポート事件以来、奴らと戦う覚悟はきっちり醸成してきているわよ」

と、ハルナがいう…戦闘組を除けば一番覚悟決まってるのはこいつじゃねーかな…という気がしてくる。

「それに、話聞いてると交渉蹴ったのは主にそこの天然バカだし」

「いやーまああの時は…ねぇ、アレしかないっぽかったってゆーか」

「でも、『仲間全員を無事に返してやる』と言われてたのに…」

「あーそれはないない、ないわ。そこは安心しとけ」

落ち込むネギに言葉をかける。

「テロリストの要求鵜呑みにするってのはありえないよ」

「それと…これです。フェイトが落としていったモノを回収しました」

と、刹那がその魔法具…鵬法璽を示し、フェイトの目的がネギを無力無防備にすることにあったのだろうと説明する。

「じゃーやっぱ最善の選択だったってコトじゃん!」

「アスナに感謝しないとダメアルね!」

「アスナエライッ」

「え、えーそうかな、いやーそれほどでもー」

「あすなさん、てんしゃいっ!」

「よっ、アスナねーちゃんっ」

「えー」

アスナに称賛の嵐が浴びせられる…まあ、割とそーいうとこあるからな、アスナは。

「よぉーし、いいか皆聞いてくれ、ちゅうもーく」

唐突にカモがネギの肩に乗り、いう。

「ま、戦うにせよ、家に帰るにせよ、情報が必要だ、ここらでひとつ情報のまとめをやっとこう。考えてみれば京都の初接触以来、俺っち達はあのフェイトって小生意気なガキにゃやられっぱなしだ。奴らが何者なのか、その目的もわかってなかった。ところが今回の件でこの状況に進展があった…嬢ちゃん」

カモに促されてノドカが一歩前に出る。

「今回…この『鬼神の童謡』の力を使ってフェイト・アーウェルンクスさんの真の名を暴くことに成功しました」

「ほ、本当ですか、のどかさん」

「そんな危ない橋もわたったのか…よくやったな、のどか」

「真の名って何のコト?」

「本名の事ですよー」

のどかの業績に場が沸く。

「は、はいー彼の本当の名は…テルティウム」

「テルティウム…ラテン語で『3番目』という意味ですね」

「3番目!?それって人間の名前なん?」

「いやまあ、日本にも一さんや三郎さんはいらっしゃいますし…」

「3とゆーことは1や2もいるアルか!?4とか5とか…あ、あんなのが4人も5人もいたら大変なコトになるアル」

「そら確かにメンドーや」

…少なくとも、そんなにはいないと思いたい、と言うかいればもっと強硬な手もとれたわけで…

「ラカンさんは何かご存知なんじゃ…」

「フ…それよりもっと面白い話があんじゃねーのか、嬢ちゃん」

「は、はい。えーと実はー私のアーティファクト『いどのえにっき』でフェイトさん本人から彼らの目的もわずかですが聞き出すことが出来ました」

と、のどかは石化した彼女のアーティファクトを取り出した。

「えええっ」

「ちょ、マジなの、のどか!?」

「おま…スゲーな!!」

「活躍しすぎじゃない、宮崎ッ」

「死亡フラグアルか本屋!?」

場が沸き、口々にノドカをほめたたえる…若干酷いのもあるが。

「石化されてしまったので途中までですが…みんなに見てもらいたくて…これです」

と、のどかは石化してしまったアーティファクトを見せてくれた…その内容からは、やはりゲートポートで何か企んでいるらしい内容が読み取れた。

「おぉー」

「かなりラブリーなのが緊迫感を大幅に削いでいるが…」

「そ、それは私の仕様でー…」

「やっぱり奴らもゲートポートを狙っているのか」

私の言葉を皮切りにみんなも口々に情報に対する感想などを述べて行く。そして次ページが浮いており、何とか剥がせそうである事に気づき、コタローがナイフで剥がそうとした…が。

「隙間があるならパリッとめくっちゃえばいいじゃない、まどろっこしーわね」

と、手荒にページをめくり、ページをバラバラにしてしまった…当然非難轟々である。そして、ジグソーパズルをして何とか張り合わせたそれも、何か見せたくない内容が書かれていたらしく、ネギが文字通り握りつぶしてしまった。当然非難轟々第二弾であった…が。

「うーっし、お前らここまで来ちまったら仕方ねぇな。俺様も少しネタバレしてやろう」

と、ラカンのおっさんが言い出した。私たちはパルの金魚に乗り、その船上でラカンのおっさんの記憶を元にした映画を見る事になった。おっさん曰く

「ま、あんまり気は進まねーがマジでお前達がやり合うってんならやつらの正体くらい話しておいてやらねーとな」

ということらしい。

 

映画は若き日のおっさんが本物のナギ・スプリングフィールドとその仲間たちへの刺客として雇われたシーンから始まり、鍋をしていたナギ達を襲撃したシーンへと続いた。

「と、まあその後もなんだかんだ色々あってーなんか知らんが俺も奴らの仲間になってた。で、まあその後も何やかやすげー色々あって戦争も終わり、今に至る…と。んーおしまい」

「ええーっ!?」

「終わりかよッ」

「端折りすぎだおっさん!」

「出会い部分だけじゃん」

と、私含めて突込みが飛び交い、照れるからと過去話はやっぱやめようというおっさんに抗議が殺到した。

「ラカンさん…本当に父さんのライバルだったんですね」

「でもウチの父様はダメダメやったな~」

と木乃香。確かに色仕掛けに困惑して動きを止めた所をぶん殴られて負けていたな。

「ヘンタイよりはいいんじゃない?私は好感度上がったけど…」

「ああ、剣技についちゃ奴が最強だぜ?まあエロに弱いのと詰めが甘いのと生真面目って辺りがどっかの誰かさんに似て弱点ではあるがな」

「う」

と、おっさんの言葉に刹那が呻いた。そしておっさんの話が再開する。

 

戦争が始まったのはナギが13歳の頃、力があればその年でも戦いに出る事は変ではない…というか少年兵的な意味での問題はないらしい。戦争の発端は辺境での些細ないさかいではあったが、帝国はオスティアの奪還を目的に侵攻を始めた。緒戦の戦況は帝国有利、オスティア攻略こそ二度の失敗を見せたが大規模転移魔法の実戦投入によってグレート=ブリッジと呼ばれる連合の大要塞が陥落…と言った所で何かしらの理由で辺境戦線に追いやられていた紅き翼の面々が前線に復帰し大活躍を見せ、ナギはネームドとなった。特にグレート=ブリッジ奪還作戦という戦局の転換点における活躍は歴史に残るものとなったらしい。そしてその頃、紅き翼の面々は大戦争にまるで誰かが世界を滅ぼそうとしているようだと疑問を抱き、ついには『完全なる世界』という秘密結社の存在に気付いた。

さらに、メガロメセンブリア首都にて紅き翼は戦争終結を目的とするウェスペルタティア王国の王女アリカ・アナルキア・エンテオフュシア姫と出会う。その時点で『完全なる世界』は『戦争があると儲かる』奴らの作った帝国・連合はてはウェスペルタティア王国にまで根を張る組織だと思われていた。

休暇中、紅き翼の頭脳チームは調査を開始、一方おっさんとナギとアリカ姫は休暇を堪能…そして捜査線上に当時の執政官が浮上すると共に、ナギとアリカ姫に対する襲撃が発生したが、その襲撃犯を追跡することで拠点を発見、そこで執政官がテロに関与している証拠を確保した。

そして、ハルナの金魚と同型の舟で帝国の第三皇女と接触しに行くアリカ姫を見送り、弾劾の為に協力者である元老院議員を訪ねた…が完全なる世界の幹部たちが成り代わっており、暗殺と反逆の汚名を着せられて紅き翼は逃亡生活に…そして辺境を転戦しながら同じく罠にはめられて捕まったアリカ姫が囚われている夜の迷宮に向かった…という所でトイレ休憩が入った。

アリカ姫と彼女と一緒に捕まっていたテオドラ第三皇女を救出、オリンポス山の隠れ家へ…そしてそこでアリカ姫は紅き翼の面々と共に世界を救う為、世界と戦う決意を決める。そして反撃開始…とはいえ本当の意味で世界全てが敵というわけではなく、どうするか…という点は省かれた。簡単にいうと、頭脳労働担当が敵味方を識別し、仲間を増やして肉体労働担当が敵をぶっ飛ばしたらしい。で、当初組織そのものと思っていた戦争で私腹を肥やす連中を倒して外堀を埋めていくがそー言うのは完全なる世界の中でもザコであり、真の敵はすかしたキザ野郎共…フェイトと同等の存在達であった。

そして、6か月にわたる死闘の果てについに完全なる世界の本拠地が割れた…ウェスペルタティア王国王都、オスティアの空中宮殿最奥部『墓守り人の宮殿』であった…オスティアの上層部が最も黒い、とはよく言ったものである。

そして決戦の時…世界の鍵たる『黄昏の姫巫女』を手中に収め『世界を無に帰す儀式』を始めた完全なる世界に対して殴り込みをかけた…シレっと重要ワードである。その結果…完全なる世界の幹部連中は全滅した…が造物主ないし始まりの魔法使いと呼ばれる真の黒幕が登場、ラカンのおっさんでさえ今までで唯一『勝てねぇ』と思った相手である。その実力は登場の一撃で紅き翼が壊滅するほどであった。クーネルが魔力を振り絞ってナギを治療し、ナギは師匠であるゼクトと共に宮殿の奥へ消えたそいつを追った…そして勝った、ラカンのおっさんが勝てないと思った、クーネルが世界のだれにも倒せないと判断した始まりの魔法使いに。

だが、始まりの魔法使いは儀式を完成させており、世界を終わらせる光球…クーネル曰く世界の始まりと終わりの魔法…が広がっていく…ってオイオイ、とんでもねー厄介事じゃねぇか…と周りを見るが皆は映画の佳境に単に食い入っていた…気づいてないならいいか…と映画に戻ると現在魔法世界が存続していることからわかるように、何とかなった…その時到着したアリカ姫率いるメガロメセンブリア国際戦略艦隊とテオドラ皇女率いる帝国軍北方艦隊と露払いをしていた混成艦隊とが協力して大規模術式を行使することによって。こうしてナギは魔法世界に知らぬ者なき英雄となり、世界は平和になった?との事である。

映画は以上、みんなは口々に感想を述べ、アリカ姫とナギが出来ていたのかとかいう質問まで飛び出した…あっちこっちに仕込まれた核地雷ネタに気付いている様子はない…ネギさえも冷や汗ではなく涙を流していた。

「どーしたんですかー?」

深刻な顔をしている私の様子に聡美が声をかけてくる。

「…クーネルの言った事、そしてそれに関するおっさんの記憶が正しければ…世界は魔法で始まった…つまり…この世界は…人造異界だ」

「…魔法世界が人造異界だと…?でもそれが何か?」

「…後で話すよ…スゲー厄介事だからな」

「?はい、わかりました」

私達はきゃいきゃいと騒ぐ皆から外れてそんな会話を交わしていた。

 




厄ネタに気付いた千雨さん。ビミョーにこうなる伏線は撒いていたんですが気づいてた人いるかなー(



A:修学旅行編の時に選んだ蔵書から推察される趣味の研究の方向性。千雨ちゃん実はダイオラマ球系の人造異界理論研究も趣味でしています。


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85 拳闘大会編 第3話 大珍事

その夜、ネギが楓と仮契約をし、就寝となった。厄ネタに関しては明晩、ネギと相談してから皆に話すかは決めるという事にして聡美には闘技場に戻ってから、という事にした。そして夜が明けて…

「――ぼーず、てめぇは確かに強くなった、この短期間で驚くほどにな。まあ、俺という師匠がいればこそだが…成長の速度で言えばナギを超えたかもしれん」

「ほ…本当ですか!?」

「それでもあのフェイトにはてんで敵わないだろうがな」

「ですよねー」

嬉しそうだったネギがズーンと落ち込む。

「ま、仕方ねぇアレは奴らの中でも最強の部類だ、ナギが苦戦したくらいだからな、映画見たろ?」

「…映画…あの映画…色々と聞きたい事はあるんですが…」

「あん?もう無料昔話サービスタイムは終了だぞ?」

「わかっています…あの映画が本当だとするなら『黄昏の姫御子』…アスナさんは未だにこの世界にとって重要なキーであるハズです」

…魔法無力化能力から薄々気づいていたがやっぱり黄昏の姫御子ってアスナの事かよ…と内心突っ込みを入れる。

「ふむ?」

「と、いう事はフェイトが今何を企んでいるにせよ…アスナさんが危険です!アスナさんのことをまず考えなくては…」

「あの騒ぎの後だ、警備も最大レベルまで強化されている…奴らも昨日の今日で手は出してこねぇだろ。新オスティア市街にいる限り、お嬢ちゃんは安全さ。それでも心配なら俺がさらに特注の護衛をつけといてやる、任せとけ。

それより今は目の前の拳闘大会に集中すべきだ、大会に優勝してアコちゃん達を解放してやるんだろ?」

「う…」

「戦場では常に目前の状況に集中せよ…大会優勝もできねぇようじゃフェイトにゃ到底かなわねぇぞ?」

「…ッ…わかりました!お任せします!」

「よぉし!!!それでこそ我が弟子!

もっとも、今のお前なら拳闘大会優勝は楽勝だろうがな」

と、おっさんが私に合図をする…合図をしたら黒板を押して持って来てくれ、と言われてずっと甲板の端っこで二人の話を聞いていたのだ、私は。

「えーっ!?そうなんですか?」

ネギが驚く…が、正直カゲタロウのガチモードと私のガチモードくらいだろうな、ネギとコタローペアにとって脅威となるのは。それもどちらもソロであるのでペアでなら何とかなる…はずである。

「よぉし、久々に俺式強さ表で解説してやろう…ご苦労、千雨君」

「パシリに使いやがって…まったく」

と、一応軽く苦情だけ入れておく。

「懐かしいですね」

「まず、以前はあの影使い以下だったお前だが…俺という理想的師匠の下で修業した結果、既に基礎力は奴と同等か上回るレベルだ」

「ええっ?」

と、私からすると明らかな嘘…そう言えば私とやり合った件もネギにゃ直接は伝えてねーな…をのたまいながらおっさんは700強のあたりにネギの顔を描く。

「さらに『暗き夜の型』つまり闇モード起動で出力はなんと50%アップ」

「おお!」

と、1100にまたネギのキマった顔を書く。

「そして『闇の魔法・術式兵装』の発動によってさらに倍!!」

「えぇえーっ!?」

と、さらに2200にもネギの顔を描いた。

「ス…スゴイ…僕…こんなに強く…ほぼ4倍…」

と、ネギは感慨深くしている…が、実際はカゲタロウのガチモードにも届いていない。

「ちなみにフェイトの以前の予測はココ、さらに約1.5倍だ」

「ですよねー!」

「まあ、その辺の力量差は各能力を突出して上昇させる術式兵装を効率的に運用する事によって埋められるんじゃないかと期待していたわけだが…モノホンの奴は俺の見た所、予測のさらに数倍する可能性もある」

「う…」

「だが、拳闘大会は楽勝だ…そこのチサメ嬢ちゃんがガチモードでかかってこねぇ限りはな」

と、ラカンのおっさんが私に話を振る。

「…安心しろ、私は剣闘士チウとして闇呪紋と呪血紋は無しでやるからな…負けてもらっちゃ困る」

「って事はやっぱ楽勝だな。あの影使いも大戦期の猛者だ、何か隠し玉を持ってるかも知らねぇがフェイト以上という事はありえねぇ。とっとと優勝して賞金かっさらってこい、コレは師匠命令だ。まあ、よっぽどの『珍事』でもない限り、お前が負ける事はねぇよ、フェイトの事はその後だ、いいな?」

「ハイッラカンさん」

と、ネギはいい返事をして頭を下げたが…その後おっさんが浮かべた笑みは珍事を仕込んでいるに違いない笑顔であった。

 

「ところでよ…おっさんはこの強さ評価でいくつなんだよ」

と、私は黒板の片づけを頼まれた際に興味本位でおっさんに問うてみた。

「んーそーだな…大体…」

おっさんはそう言いながら自分の似顔絵を描き、その隣に1万2千と書き込んだ。

「1万2千って所だな」

「ほう…1万がおっさん達のレベル…エヴァのいう所の超一流って所か…?」

「そうだな、俺やナギ、お前らの師匠のエヴァ…そしてフェイトの強さがそんなもんだな」

「数倍って言ってたな…そりゃあそんなもんか…」

「おうよ、まあ10年くらい頑張れば、ぼーずや嬢ちゃんならたどり着けるかもしんねえな」

そう言って、おっさんは豪快に笑った。

 

 

 

そして新オスティア市街地に戻った私たちは門限破りをした闘技場に顔を出して…特に怒られる事もなく済んだが…みんなと合流し朝風呂に向かった。多少ファン達に囲まれるシーンもあったがプライベートだからと短く宣言して引いてもらう事に成功し、みんなのいるであろう奥まった場所に向かった。

「おお、やってるな、みんな」

「どうもですー」

「ヤッホー千雨ちゃん、ハカセ。お風呂位、狼姉妹モード解いたら?」

とハルナがいう。

「最近お風呂はこの姿で千雨さんに抱かれて入るのに慣れちゃいましてー」

と聡美がいつものように私に抱きしめられるように占位した。

「うわー相変わらずだねー中身を考慮しなければ年の近い親子か年の離れた姉妹かのほほえましい入浴シーンなんだけどさー」

「それを言うなら朝倉と相坂だって…ホラ」

と、朝倉の胸に挟まれている相坂人形を指さす。

「あーあっちは…あくまで依り代じゃん?」

「つまり本体だな」

「そりゃそうだけどー」

みたいなバカ話やお互いのゲートポート以降の話をしながら私たちは温泉を堪能するのであった…なんか胸をもむ女の子の痴漢が出たとか言う話は私と聡美は巻き込まれていないので割愛する。

 

 

 

楓の新アーティファクトにより護衛が楽になった事も踏まえ、楓、刹那、クーに茶々丸、朝倉+相坂、そして志願したハルナを探索組として送り出した後、私たちは闘技場の自室に戻った…私の試合は午後であるのでまだ試合準備も必要ないため、聡美と厄ネタトークである。

「それで千雨さんー魔法世界が火星の人造異界だと何が問題なんですかー?」

「…人造異界って天然異界と比べて安定性に乏しい傾向があってな…まあ自然に異界が発生するほどの好条件と、条件を整えてやって無理やり作った異界との違いだな。つまり…この魔法世界はいつか崩壊する可能性が高い…火星の裏界である事も考慮すれば…な。いつ、というのは計算する要素が足らな過ぎて何とも言えないが長くとも創生から現実時間で数千年程度のスパンだな」

「…ちょっと待ってください、それとんでもない厄ネタじゃないですか!?」

珍しく聡美が焦った様子で叫ぶ。

「そーだよ…まあゲートが地球から魔力を吸い上げる役目でも担っていれば多少は長持ちするが…高々12個のゲート程度では永続は無理だな」

「でも、この事を魔法世界の上層部は…?」

「多分知っているな…何かしらの対策をとっているのかもしれねぇが…」

「対策…というと?」

「人造異界の脆弱性は主に魔力不足からくる崩壊だが…どーしても火星の裏界ってのがネックでなぁ…SFみたいに現実の火星をテラフォーミングでも出来りゃ別なんだ…が…ってするじゃねぇか、テラフォーミング」

「あ…超さんの未来情報…」

想いもよらないところで超につながった。

「もしかして…その宇宙開発計画に魔法使いたちが一枚噛んでた…とか?」

「あり得ない話ではないですねー」

「なら…言うほど厄ネタじゃねーか…コレは」

「そーですねー数年以内に世界が崩壊するとか言うのなら別にして」

「…その場合は外部から持ち込んだ生命と物資…まあ最低限、移民した人間の純血の子孫は吐き出されるから間に合ったんだろ、きっと」

と、いう事になり厄ネタ度が大幅に下がったという判断を下す私達であった…そして結論を下す、ネギに相談するのは拳闘大会終了後でいいだろう、と。

 

 

 

「ナギ・コジローコンビ、圧勝ーッ!!決勝トーナメント出場を決定しました!!」

午前の試合でネギたちは蜘蛛魔族のコンビを、ネギがほぼ一人で下して決勝トーナメント出場を決めた。まあ当然かという感じで観戦していた私達だが、直後の試合でネギと因縁があり、現状私たちの脅威となりうるカゲタロウの試合がある事もあり、すぐにそちらに移動した…ちなみにソロで予選トーナメント出場は私とカゲタロウだけである。

「さあ、ここまでタッグ戦を一人で勝ち進み話題を作ってきたカゲタロウ選手!予選決勝においてついに新たにパートナーをエントリー!そのパートナーとは…驚くなかれ、公式の場に姿を現すのは10年ぶりとなります!彼こそは伝説の傭兵剣士!!自由を掴んだ最強の奴隷拳闘士!!」

選手紹介が始まってなんだか雲行きが怪しくなってきた…

「大戦期平和の立役者…紅き翼、千の刃のジャック・ラカーンッ!!!」

ちょっと待ておっさん…それは無かろうよ!?

「あーこれって凄くまずいのでは…?」

と、聡美が言う。

「…割とまずいなぁ…」

まさかここまでやらかすとは思わなかった。

「このサプライズには対戦相手も驚きを隠せません」

「ちょっと待て主催者、聞いてないぞっ!」

「あわわ、コレはえぇと…サ、サインもらわなきゃ!」

うん、大混乱の模様である。

「開始!」

そして無慈悲に告げられる開始の合図…におっさんは宙に舞うと右ストレートの気撃を放ち…一発で試合を決めた。

「安心しな、寸止めだ…命まではとらねぇよ」

闘技場に拳の形が刻まれるほどの一撃で、対戦相手は瀕死の様相なのだが…寸止め?まあ生きている辺り手加減はしたんだろうけれども…

「ラカン圧勝ーッ伝説の英雄の復活に場内割れんばかりの大歓声ー!」

 

 

 

「あのおっさん、やらかしやがった!」

「どういうわけか聞きに行くで!」

と、ネギ達と合流し、ラカンのおっさんの部屋に駆けていく…

「どういうことですか、ラカンさんっ!?」

ネギが叫びながら部屋に飛び込むと、そこには酒を酌み交わすおっさんとカゲタロウがいた。

「ん?何の話だ?」

「な…なんでカゲタロウさんが…?」

いや、そりゃあいるだろうよ…タッグマッチのパートナーだし、飲み友達っぽいし…

「ああ!カゲなあ、実はお前が腕飛ばされて寝込んでいる間、飲んでたら意外に気があってよぉ!」

「いやはや、話してみるとこれがなかなか気さくな御仁でな」

と、茶番が始まる。

「ええーっ、それも聞いてませんよ?じゃなくてッ」

と、ネギがダンッと机を叩いた。

「何でラカンさんが大会に出ているんですか、今日の朝、楽勝だとか優勝してこいとか言っておいて…」

「俺が出ないとは言ってないじゃん」

と、ぬけぬけと言い放つ…大珍事を引き起こしておいてこの反応である。

「ちょっとーラカンさんが参戦なんて珍事も珍事、大珍事じゃないですかッウルトライレギュラーですッ絶対勝てる訳がないですよッ」

「オイオイ、あきらめ早いな、やる前からよぉ…失望するぜぇ我が弟子よ」

「…そ、そうか、アレやな!?師匠から弟子への最終試験とかそーゆー…」

「そ、そうか!いわゆる免許皆伝試験的な…」

「いや、まあそれはあるだろうけれども…問題そこじゃねぇだろ…このおっさんが試験だから勝敗にかかわらず賞金はくれるみたいな事するわけねーし」

「おう、もちろん!俺が勝ったら当然賞金は俺のモンだな」

デスヨネーという奴である。

「ええーっじゃあ亜子さん達は…」

「お前の仲間の能力なら別の方法でも結構稼げるんじゃねぇの?あのハルナって姉ちゃんとか…そもそも俺に師事する前は長期戦の計画もしていたんだろう?」

「ちょっ…」

それはそうだが、現在は優勝賞金前提で行動しているのである、帰宅プランとか諸々。

「それが嫌なら俺に勝ちゃいいだろうが、勝ちゃ」

「ムチャクチャだ!」

「まあ、落ち着いて考えてみろやぼーず、テメェ…あのフェイトと決着をつけたかったんじゃねぇのか?俺様とナギは永遠のライバル、負けはしたもののフェイトとナギは同格…て、ことはんん?どーゆーことだぁ?」

と、おっさんがネギをあおり始める。

「俺に絶対勝てないとか言ってるような奴がフェイトをどうこうできるのか?ましてやナギに追いつくことが出来るのか?」

「で…でも、フェイトとラカンさんは違います!ラカンさんはなんかもっと別次元の強さって感じじゃないですか!父さんだって…」

「何が別次元だ、何も違わねぇよ。やれやれ何も見えてねぇな、我が弟子は…ボーズてめぇ『本当の強さ』が欲しかったんだろ…フェイト…エヴァ…それにナギ…俺がその舞台への扉だ、ぼーず」

「で、でも、ラカンさんっ…そうは言っても…」

「御託はいらねぇ、戦ろうぜ、ネギ」

そう言って、おっさんは獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

 

「予選Jブロック決勝、北方はニャンドマのねこみとねこゆきコンビ!南方はグラニクスのチウーッ!猫獣人の魔法剣士であるねこみ・ねこゆきコンビに対するは狼獣人の魔法剣士であるチウ選手という獣人同士のカードとなっております!」

紹介に従って闘技場に進み出て観客たちの声援を聞く…キャラ的にファンサービスは無しである。

「チウ選手は本大会における現在、唯一のソロ選手!ここで勝てばソロでの決勝トーナメント進出という快挙となりますが、対するねこみ・ねこゆきペアもそれぞれが凄腕の魔法剣士!どういった試合になりますでしょうか!」

司会娘の口上を聞きながら私たちは剣を抜き、構える。

「それでは参りましょう…開始!」

 

キィーン カーン キィーン

 

私達は闘技場の中央で交錯した。事前偵察と軽く剣を合わせた感じからすると、剣士としての技量は同等、身体能力は咸卦の呪法無しの私よりは上、魔法は事前情報の範囲では紅き焔クラスまで使えるが剣技と合わせては魔法の射手が精々…と言った感じでおっさんの強さ評価だと600から800程度…が二人、コンビネーションは良し…である。当然咸卦の呪法はアリにしているので単体の能力ではこちらが優位である。さて、ここで選択肢

1)とっとと剣を収めて鉄扇術で戦う

2)魔法の優位を生かして吹き飛ばす

3)剣技と魔法の射手クラスの魔法で遊ぶ…もとい修行相手にする

まあ、真面目にやるなら1+2、鉄扇術で相手をしながら魔法でぶっ飛ばすのが正解であるが…私は3を選んだ。

 

「チウ選手、ねこゆき・ねこみペアを相手に一歩も引かず!剣技と魔法の射手がぶつかり合う!」

「くっ…私たちが遊ばれるとはっ」

魔法の射手と剣技の応酬で場を沸かせているとねこみの方がそんな事を言い出した。

「遊ばれ…?まさか手加減されているのか…このっ」

ねこゆきの剣筋に怒りがにじみ出てくる…がそれは悪手だ。

「みたいなら少しだけ見せてあげる」

と、挑発しながら若干単純化した攻めをいなす。

「ノイマン・バベッジ・チューリング」

「ねこゆき、落ち着きなさい!」

それをフォローしながらそんな声をかけるねこみであるが、遅い。

「拡散・白き雷」

と、私は白き雷を拡散で放った。ねこみは横に大きく跳び、範囲外に逃れたがねこゆきは離脱しきれずに障壁を展開、足を止めた…その隙を見逃してはやらない。

 

魔法の射手 雷の11矢

 

無詠唱で魔法の射手を剣に纏わせるとそのまま突進、ねこゆきの胸を(一応心臓は外して)突く…それをねこゆきは剣の腹で防ぐが…

 

パキャーン バチッ

 

刺突を止めた代償にねこゆきの剣は砕け散り、炸裂した魔法の射手がねこゆきを襲う…のを最後まで見届けずに即座に離脱、その残影をねこみが切り裂いた。

「おおっと、チウ選手の一撃がねこゆき選手の剣を砕いた!雷撃を喰らったねこゆき選手は無事か!?」

「ねこゆき!まだ戦える!?」

感電しながらもまだ健在に見えるねこゆきを私から庇いながらねこみが問うた。

「ああ…魔法だけなら何とか」

「上等!援護頼んだ!」

と、ねこみが私に切りかかってくる…と、同時にねこゆきから割と多めの魔法の射手の詠唱が聞こえる…私はニヤリと笑ってねこみと切り結びながら詠唱する…

「ノイマン・バベッジ・チューリング 雷の精霊89柱 集い来りて 敵を射て 魔法の射手 雷の89矢」

みこみの剣戟をさばきながら放たれたそれは、ねこゆきの魔法の射手を圧倒するとねこゆきに殺到する。

「ぎゃぁぁぁぁ」

「おおっと、ねこゆき選手にチウ選手の魔法の射手が殺到!これは無事か!」

「ねこゆき!」

「人の心配をする余裕…あるんだ」

と、つぶやきながら私はねこみの足を払った。

「あっ…」

倒れたねこみの喉元に剣を突き付け、こう宣言した。

「チェックメイト」

「…参った…降参するわ」

「ねこみ選手降参!ねこゆき選手…ダウンです!カウントを取ります!1、2、3」

と、司会のカウントを聞きながら剣を収め、腕を組んでねこゆきを睨みつけていると…

「11、12」

「うう…」

と、うめき声をあげながらねこゆきは立ち上がった…

「おおっと、ねこゆき選手、立った!試合続行です…?」

と、司会娘が宣言すると同時に私は剣に手をかける。

「どうなって…」

「降参なさい、ねこゆき…私はもうギブアップしたわよ」

と、立ち上がって砂を払いながらねこみが言う。

「へ?」

「まだ…やる?」

そう言いながら私は若干殺気を飛ばしてみた。

「あ…いや…参った」

やっと状況が飲み込めたらしいねこゆきはそう言って降参を宣言した。

「チウ選手勝利!なんとソロでの決勝トーナメント進出決定!本ナギ・スプリングフィールド杯においては5年ぶりの快挙となります!!」

そう、司会娘が私の勝利を宣言した。

 



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86 拳闘大会編 第4話 贅沢な修行環境

夕刻、全ての予選決勝が終わり、本戦のトーナメント表が発表された…それは勝ち進めば準決勝で私が、決勝でネギたちがラカンのおっさんとぶつかるというモノであった。

 

「ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだぁっ」

そう叫びながらカモが白き翼緊急参謀会議と書かれた段ボールをズダァンと叩いた。

「まあ、無理だなぁ…ラカンのおっさんめ…余計なことしやがって…あのおっさんは私が対処できるレベルじゃねぇからなぁ…」

「そーですねー行動計画が無茶苦茶ですよー」

それにこたえるように私と聡美がそう続いた。

「おっさんが参加しなけりゃ優勝くらい楽勝だったんだろ?」

「う、うん…そうらしいけど…」

カモの言葉にネギが躊躇いながらそう答えた。

「ただでさえ、フェイトだ、悪の組織だなんだで大変だっつーのに問題増やしやがって…」

「は〜〜っこりゃ夏美姉ちゃんも救うの無理やな」

そう、コタローがため息をつく

「一瞬であきらめてんじゃねぇぞ」

「しかし、何考えとるんかな、あのおっさん」

「んー単純にネギ先生と戦ってみたくなった…とかですかねー?」

「多分そーいうレベルの深く考えてねぇ理由だろうなぁ…脳筋だし、あのおっさん…だが、これで現行計画が全ておじゃんになったぞ」

こうなると、亜子たちに付き添う残留班を定めて他を返すか、全員で金策するか…何とかおっさんに勝つか、である。

「やはり優勝賞金は無理ですよね」

「厳しいな…最低でも私のガチモードを圧倒できるレベルは必要だ…エヴァを殺しきるよりはまだ望みがあるにせよ…それクラスのバケモンだぞ、あのおっさん」

「ラカンさんは戦闘はほぼ素人の私から見ても常識外れの反則的強さですからねー」

「そうだな…実はあの後、オスティアの図書館に行ってラカンの事を調べてきた、何か弱点か攻略法がないかと思ってな…さすが戦争の英雄だけあって資料にゃ事欠かなかったぜ」

「…で、なんかあったのかよ」

正直、私の調べた限りは慢心とも呼べる自信を突いて本気を出す前にぶっ殺すくらいしか思いつかんぞ…目的が金じゃなければ買収という手もあるが。

「あー…あんまりいい話じゃねぇ、心して聞けよ」

と、カモが調査結果を述べていく…曰く、先の大戦における艦艇撃沈数137、鬼神兵9体との素手ゴロ、マスターと同格の帝都守護聖獣古龍・龍樹と引き分けた…と言う噂。

「ありえへんわ!あの怪獣、全長100mはあるんやで?」

「あんな大怪獣とどうやって引き分けるのさ」

「知らんよ、まあこれは大げさな噂話かもしれねぇが…」

「でも、エヴァさんと同格なら行けそうかもですねー」

「…本当かはともかく、行けそうではあるな」

「え…?」

私と聡美の肯定にネギが戸惑ったような声を上げる。

「カモと木乃香から聞いてるだろ?フェイトの部下との一戦…そこでおっさんは理論上、術者の殺害以外に脱出不可能な閉塞空間を気合一発…に見える何かしらの方法で抜け出しやがった。もはや、そーいう存在自体が理不尽のレベルだぜ、あのおっさんの力量は」

「その話は何か仕掛けがあるとしか思えないんですが…」

「そーだな…私もそう思いたい…がそうなるとあのおっさん、割とクレバーって言う属性迄ついちまうんだよなぁ…自称だがあの強さ表で1万2千らしいし」

「「「いっっ…いちまんにせん〜ッ!!?」」」

「うわーネギ先生の5、6倍ですかー」

場が完全に沈黙に包まれる。

 

「ここ、こうなったら師弟のよしみで手加減してもら…いや!袖の下で八百長だ!!それしかねぇっ!!」

「…その金があればそもそもあのおっさんに勝つ必要はねーな」

ついにそんな話まで出始めた頃、ネギが口を開いた。

「…みんなちょっと来てくれる?見せたいものがあるんだ」

「「「「ん?」」」」

 

 

 

ネギに先導されてやってきたのは岩礁地帯…という事はアレか?

「何を見せるって?街から離れたこんな岩礁地帯でよ」

「結構大規模だからね…オスティア周辺には軍隊とかいるし…僕の新呪文だよ」

「新呪文?あの雷の槍か?」

「ううん…今の僕が出せる最強の呪文だよ」

…やはり千の雷か

「…演示だけなら私がやってもいいぞ?ネギ」

「いいえ、僕が言い出したんですし、僕がやりますよ」

そう言いながらネギは歯で指から血を出すと準備を始める。

「最強呪文って…雷の暴風以上のモノを覚えたのか?兄貴」

「まだ未完成だけどね…ラカンさんと完成させる予定だったんだ」

「あーやっとわかりましたー千雨さんとネギ先生がラカンさんの所でぶっ放していたアレですかー」

と、言った所で足元に補助魔法陣が展開される…まあ今はまだコレが無いと難しい段階にある…私は無しというか呪紋の補助で行けるが。

「あの大きな岩、どれくらいの大きさだと思う?」

「距離があるし、比較物がないからわかりにくいが上下100メートルってとこか?相当デカイぜ」

「あれを破壊してみるよ」

「マジか!?」

「いくよ!」

そう言ってネギが詠唱を始める。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 契約により我に従え 高殿の王 来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆」

と言った所でネギがいくつかの補助陣を操り、雷を充填して行く…

「百重千重と重なりて 走れよ稲妻 千の雷」

目標の大岩に雷が殺到し、とんでもない音が鳴り響く…寸前、無詠唱障壁を展開し、聡美を庇った。

「み…耳が…」

「相変わらず凄い魔法ですねー」

「おぉ…これが…千の雷か。実物は映画で見るのとは大違いやな」

「うおっ溶けてる…」

と、カモがドロドロに溶けた大岩の破壊面に驚愕する。

「凄まじい火力やな『砲台』としての魔法使いの面目躍如ってトコか」

「まだ未完成だから前準備も長いし、威力もまだまだだけどね」

「そーだな…グラニクスのおっさんの家で試した時は砂がガラス化するだけだからわかりにくかったが…それでもスゲーな、千の雷」

「何ィッ!!?まだこれより威力が上がるのかよ、兄貴。い…いけるじゃねぇか!!」

いや、行けない。行けるのであれば私はそう言った。しかし、カモは私の気も知らずに続ける。

「これをぶち当てれば如何に無敵のラカン様だろうとコテンパンに…ッッ!!」

「けどなー大人しぃに喰らってくれる思うか?こんな長い呪文。それに映画でやけど正面から喰らって気合でしのいどったやろ。一撃当てたくらいじゃ死なへんで、あのおっさん」

「るせーな」

「事実や」

「まあ命中させるのは遅延呪文で何とかなるにせよ、単純に当てるだけでは無理だろーな…って事はそーいう事だな…千の雷をどうする気か言ってみな、ネギ」

「はい、『マギア・エレベア・術式兵装』…本来『千の雷』は対軍勢用の広範囲呪文で使用される魔力は直線的に放出される『雷の暴風』の10倍以上…コレを自身に装填すればあるいは…」

「な、なるほど!それなら行けるぜ!投入される魔力が10倍なら出力も5〜6倍UP固ぇんじゃないか?」

「そ、そうかな?そうだよね、カモ君!」

「まあ、確かに対フェイト用にとおっさん自身が考えてた解決法やしなぁ」

「んー出力6倍としても強さ表では精々7000位なのではー?」

「そーだな…もう一段…いや数段何かがいる」

と、聡美が疑問を口にする…私も同意である。

「その通り。それだけでは無理だな…フフ…『こんなことでは勝てない』と自分の顔にも書いてあるぞ。自分が信じ切れていない事を仲間に賛同してもらって安心を得ようなどとは…」

「あ…あなたは!?」

ペタりペタりと歩み寄ってくるその人は…エヴァ(の、恐らくコピーの人造霊)だった。

「図星か?ぼーや。クククク、いいぞいいぞ、そう言う卑屈な行動も嫌いではない…もっとも、相手があのラカンならば仕方ない。あのアホはもはや存在そのものが反則のようなものだからな」

「マ…マスター!?」

「エヴァンジェリンッ…さん!どうしてココに!?」

「あんなアホ相手にする方が愚かだ。今回ばかりはあきらめたらどうだ?私も軽蔑はせんぞ」

というマスターの言葉にネギはそれでも負けたくない、と言うような顔を見せ、それに対してエヴァはほほ笑んだ。

「…せっかくの忠告、悪いけどエヴァンジェリンさん」

「うん…この勝負…逃げる訳にはいきません」

「ほう…?」

エヴァの問うようなソレにコタローが応える。

「ラカンさんは『戦ろう』言うた、小細工も含みも無しで正面から。これはつまり、ネギのコトを一人の男として認めた言うコトや、ガキ扱いせんとな」

「だが、万に一つにも勝てんぞ。あのアホは何も考えていないんだよ、無意味な勝負だ」

「ハ、ハイ…でも…父さんの親友が一人の男としてみてくれたんです、僕のコト…ソレを逃げ出すなんてあり得ないです。戦りますよ、男と…男の勝負ですから」

「…フ、そうか」

と、エヴァはうれしそうに笑った。

「て、ゆーか何であんたがここにおるん!?ハダカやし!」

「んん?口の悪い犬だな、死ぬか?」

「いや、コタロー君、コレは本物のマスターじゃなくて…」

と言っていると、新たな気配が近づいてきた。

「主らの修行を手伝いに来たのじゃ」

「何者!?」

ネギたちが振り返る。

「主がネギか、メンコイの」

そこには、ヘラス族の女性とアスナ、コノカ、ノドカ、まき絵、裕奈が居た。

「ネギッく~ん」

「まき絵さん!ゆーなさ…」

とまで言った所でネギはまき絵に抱きしめられた。

「ネギ君ッ」

「わぷ」

「ホントによく元気で…まき絵さん!」

「心配かけてごめんね、ネギ君、怒ってない?」

「何で怒るんですか?僕が謝らなきゃ…でも無事でよかった」

いや、そこは先生として勝手にゲート迄ついてきたことを怒るというか叱ろうよ、ネギ先生や。

「しっかしさっきの雷、すごかったね、ネギ君!大丈夫だった?まさかアレも魔法なんてことは…」

「『千の雷』。電撃系では最大規模の大呪文じゃな。サウザンドマスター――すなわちそなたの父君が得意とした古代語呪文じゃった」

裕奈の言葉をヘラス族の女性が否定する。

「エロイ姉ちゃん登場!?」

「ん…アンタどこかで…」

「あ…あなたは…?」

その女性に私たちは思い思いの反応を示した。それにさらに割り込むように裕奈とまき絵が口を挟む。

「え…ネ、ネ、ネ、ネ、ネギ君ッ、ち、ち、ち、父君って…」

「ハイ?」

「やっぱそーゆーコトなの!?」

「何がです」

と、ネギが首をかしげる。

「千の呪文の男だよッ!サウザンドマスターッ!!!ホントにあの超有名人の息子だったんだね?」

「ふ、二人とも父さんのこと知っているんですね」

「そりゃもーお店で散々聞かされたもん」

「この世界でナギのこと知らない人いないっしょ、常識的に考えて!」

「すっかりこっちの世界の人になってますね…」

「でもネギ君があの超英雄ナギの子供だったなんてねー」

「道理で天才少年の子供先生とかやってるわけだよね、超納得した」

イヤ…ナギは聞く限り脳筋タイプだからそうとも言えんと思うんだが…

「そうだ、ネギ君、杖でとんでみてー」

「ハ、ハァ」

とネギは困惑しながらも飛んでみせる。

「うおおおっ飛んでる飛んでる超魔法使いじゃん、こっちの世界だと普通だけど」

「それよりこのマブイ姉ちゃん誰なんでぃ?」

と、カモがヘラス族の女性の紹介を求める。

「カモ君喋ってるーッ!?」

「おおっ、そうそう!なんと、このお方は…!ヘラス帝国第三皇女、テオドラ様だよ!」

「テオで良いぞ」

「ヘラスというとあの超大国ヘラスの!?」

「あー雰囲気が違うのでわかりませんでしたがー式典に出ていらしたヘラス帝国代表のー」

「ああ!ラカンさんの映画に出てたじゃじゃ馬姫の」

「こらまた見事に育ったモンで」

コタローとカモが不敬な発言をかます。

「じゃじゃ…あの筋肉ダルマめ、どういう説明したのじゃ」

が、テオはあまり気にしていない様子でネギに向き直る。

「少年よ、妾はナギやアリカとは友人じゃった。じゃが妾はアリカ達には何もしてやれなんだな…許せ」

「え…な…何の話ですか?」

「ウヌ?な…ッ?もしや何も聞かされておらなんだか?いや!なんでもないッ忘れるのじゃ」

どうやらよくわからない発言はテオのポカらしい。

「ま、待ってください、今の話は…」

と、ネギが食い下がったのに被せる様に笑い声が聞こえて来る。

「ワーハッハッハッハ!!いよおッお前がネギかぁーっ!?確かにガキだなこりゃ…とうっ!!」

そしておっさんが(こっちで言う所の)単車から飛び降りてきた。

「今度はなんやー?」

「なんか暑苦しいおっさんだな…」

「変な髪型!しかもあの単車高そう!」

「おうおうおう、俺様はケチな政治屋やってるリカードってもんよ、ハッハァ」

「リカードさん…政治屋…雰囲気違いますが式典でテオさんと握手なさっていた連合代表のー?」

と、聡美がその正体らしきものを口にする…確かに雰囲気違いすぎるが、同一人物っぽくはある。

「フフ、その男の暑苦しさは昔からね…」

「おう?」

「さらに誰!?」

「セラスよ、よろしく」

「…となりますとーアリアドネーの総長さんですかぁー?」

聡美がさらにその正体を指摘する。

「そうよ、この男はメガロメセンブリア元老院議員で」

「こいつは、アリアドネー騎士団の総長だぜ」

「ええーっ!?メガロメセンブリア元老院議員にアリアドネー騎士団総長!?ななな、なんでそんな魔法世界の主要各国代表が一同にぃ!?」

「初めまして、ネギ君。貴方のお父さん達にはかつてとてもお世話になったのよ」

「ヌァッハッハ、ナギのアホもラカンのバカも腐れ縁の飲み仲間よ」

「は…はぁ」

ネギが戸惑うような反応を見せる…そりゃあそうか。

「フン…雑魚どもが雁首そろえて」

それにエヴァはそんな反応を見せる。

「…で、どうなんだ、ぼーず?」

と、リカードがネギの肩に手を置いて問う。

「本気で挑むつもりか?あの生けるバグキャラ、ジャック・ラカンによ。勝ち目は百パーないぜ?」

「…ハ、ハイ!」

「ワッハッハいい返事だ、気に入ったぜぼーず、さすがはあの馬鹿の息子だ、よーしよし。

俺達が修行を見てやる、ラカンの野郎がナギ以外の奴に負ける姿ってのも見てみてぇしな。

光栄に思えよぉ、魔法世界でも5本の指に入る教官の下で稽古つけてもらえるんだぞぉ」

「ふん、雑魚がよく言うわ、ラカンにも勝てぬ腕で」

「な…ちょ、エヴァ、ニセモンのくせになんだその口の利き方」

「事実だろ、お前など実力的には上位百位に入れればいい方じゃないか」

いや、それは十分にすごいし、教官としての実力とは話が違うぞ…?人類限定だとしても。

「おまっ」

…と、そんな口喧嘩を尻目に私達も別の事を話していた。

「オイオイ、いいのかよ、コレ。あいつらかなりVIPじゃねぇの、世界的に」

「まぁ、本人たちがいいならいいんじゃないですかー」

「それよりも、千雨姉ちゃん…あのおっちゃん相当デキるで、わかるやろ?」

「…見りゃわかるよ…総合はわからんが体術は鉄扇術でも負けるかな」

そんな会話をしていると口喧嘩の方もキリがついたようである。

「ええいっ、まあいい。そこの犬コロ、お前が相方だな?」

「え?ああ」

「貴様は俺が重点的に見てやろう!」

「え…いや、俺は我流で…」

そんなコタローを気にも留めず、リカードが続ける。

「体術のことなら俺に任せとけ、これでも近衛軍団では白兵戦の鬼教官と言われてたんだぜ」

さらにセラスとテオが続く。

「私は戦闘魔法が専門の教師よ、『千の雷』の仕上げなら任せておきなさい」

「妾は教えるのは得意ではないが、まあ色々サポートはしてやるぞ?」

それに対してエヴァが言った。

「ぼーやの師は一人で充分だ、こいつらの言うことなど聞く必要はないぞ、雑魚だからな」

「何だテメェ、勝負すっか、コラ」

「別にいいが死んでも知らんぞ」

「おやめなさい」

「よいしょっと、じゃあ早速」

またリカードとエヴァが喧嘩を始めた…のを尻目にテオがダイオラマ魔法球を取り出した。

「そ…それは…」

「ご明察、ラカンとの決勝戦まであと3日、さすがに3日ではどうしようもない。このダイオラマ魔法球の中で修業をすれば3日間を30日間に伸ばすことが可能じゃ」

…エヴァの別荘ほどではないが中々の逸品であるな。

「それが一番嬉しいわ」

「フム…なら、私もご一緒していいかな?テオさん」

「む?チウ殿はネギに教える側だと思っておったが…?」

と、テオが私に問う。

「マスターがいる時点で私はお役御免だからな…ならば私も本気で挑んでみたくなった…ラカンのおっさんに…な」

「うむ、それは良い意気じゃな…が妾達は…」

「ああ、ネギを優先してくれ…私は場所を借りられるだけでも十分だ」

と、ふとネギを見ると行けるかもしれない、という表情が読み取れた…いい事である、絶望に打ちひしがれるよりは。

「何を浮かれている、相変わらずラカンは無敵自体は少しも改善していないのだぞ?」

「うぎゅ」

「時間があろうが、師が増えようが貴様自身が乗り越えられねば全ては無駄だ、戦うのは貴様自身なのだからな…千雨もわかっているな?」

「ハ、ハイ、それはもちろん!」

「ええ」

「へ!」

「よぉし…じゃあ打倒ラカンを目指してー…修行開始だ!!!」

「ハイッ!!!」

「おうっ!!!」

「やるか!!」

こうして、贅沢な修行環境が整えられて、ネギ達…とおまけで私の修行が始まった。

 



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87 拳闘大会編 第5話 中日の修行

と、おおむね日が変わる頃にダイオラマ球に入った私たちは、そのまま修行に入った。闘技場に連絡を入れてもらっているので、今日は丸一日修行にあてられる計算である。

「よーし、まずは俺が相手だ坊主ども。チウはセラスと打ち合わせでもしておいてくれ」

「ん、了解」

「わかったわ」

と、私は把握している限りでのネギの千の雷の習得状況を説明し、ついでに自分の千の雷の仕上げに必要なアドバイスをもらった…その間、ネギ達はリカードに扱かれており…術式兵装や獣化無しとはいえ、体術ではネギとコタロー二人がかりでも圧倒されている様子であった…

 

「ほう、中々…流石は我が弟子…ぼーやの姉弟子と言った所か!?」

私の体術の相手をしてくれているマスターが言う…

「それはどうも…これでもあなたの本体に年単位で扱かれていますから…ねっ!」

「うむ…だがまだ甘いっ」

そう言われて、私は思いっきりマスターに投げられた。

 

「1498!1499!1500! よし、終いじゃ!」

大岩を用意され、それを背に乗せたまま三人並んで腕立て伏せ1500回という筋トレが終わる。

「ふぅ…もうちょっと強化緩めのが良かったかな」

と、私は大岩を降ろしてそう呟く…正直、初回だからと咸卦の呪法の出力を割と強めに強化してみたが、もう少し強化弱めの方が負荷としては良い感じである。

「お疲れ様です、千雨さん」

と、元の姿に戻った聡美が飲み物を渡してくれる。ちなみに私の姿も体術以外は元の姿でやる事にした…リカードのおっさん達は私も年齢詐称組と知って驚いていたが。

「ありがとう、聡美」

「いーえー…はい、ネギ先生とコタロー君にもありますよー」

そう言いながら聡美はネギ達にも飲み物を配りに行った。

 

「どうした、ネギ!コタロー!この程度か!まだ二重奏だぞ!」

「ぐっ…相変わらずの出力やな!千雨姉ちゃん!」

「でも、千雨さんに勝てずにラカンさんに敵うわけがない!行くよ、コタロー君!」

と、私はネギ達の実践稽古相手に駆り出されていた…正直、術式兵装や獣化アリアリだと三重奏行きたい所であるが、自分の修行も兼ねてこれで行けと教官陣からのお達しである。

 

「じゃあ、ネギ、頼むぞ」

「ハイッ!」

私は砂浜でナギモードのネギと向き合って立っていた…そして組手が始まる…と同時に私は詠唱を開始する。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により我に従え契約により我に従え 高殿の王」

ネギの手加減した攻撃をさばきながら詠唱を続ける…

「来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆 百重千重と重なりて 走れよ稲妻 千の雷」

と、完成した呪文が海の上空に炸裂し、海水を蒸発させて半球を作った。

「うわーさすがの威力ですねー千雨さん」

「だがまだまだ魔力の効率化や…機動詠唱の技量が足らんなぁ…ん…魔力的にはあと2本くらい行けそうか…手伝ってもらうぞ」

「はい!」

…そうして、ネギを相手に組手をしながらもう2発、千の雷を撃って夕食の時間となった。

 

「千雨さーん」

夕食後、咸卦法の瞑想をしていると聡美が声をかけてきた。

「んー?どうした、聡美」

「千雨さん、本気でラカンさんと戦うつもりなんですかー?」

「ああ、もちろん…勝てるとは思えないが…それでも一太刀位は浴びせてやりたいな…カゲタロウもいるし」

ショージキ、カゲタロウの本気とガチモードでやり合って勝率5割くらいな気しかしないのである、今のペースで強化していって。

「そうですか…本気ならば仕方がないですねー私もできる限りはお手伝いしますが―お気をつけて」

「おう…ありがとうな…寝る前に呪紋の再設計もするから手伝ってほしい」

「…はい、お手伝いしますよ…テオさんに鏡の間の用意をお願いしておきますねー」

そう言って聡美はテントを一度出て行った…

 

「何ですか、この設計図!?セプテット(七重奏)って正気の沙汰じゃないですよ!?今の倍以上じゃないですか―!クインテット(五重奏)じゃ足りないんですか!?」

力の王笏の電脳空間の中、私は聡美にそう叱られていた。

「…正直、本気でやるなら足りない…あのおっさんをスペック差で押し切る事を考えたらデクテット(十重奏)位欲しいんだけれども、技術的にオクテット(八重奏)以上はまだ無理…と言うか危険すぎるだろ?だから…」

「もう…どうしても、というならば…貴女の体です…従います、従いますが…安全マージンはできる限りとって頂きますよ?」

そう、聡美があきらめたように私の主張を認めてくれた…こんな感じで体感時間1日目の修行は終わっていった。

 

 

 

修行二日目、朝のランニング…岩を背負って島の外周10週とかなかなかキマッた内容…をこなして一通り筋トレを済ませると朝食の時間であり、そう言った方面はノドカやまき絵達も支援してくれている。

朝食後はネギ達はリカードと、私はエヴァと…から初めて相手を入れ替えたり、乱取りを交えたりで体術の実践稽古を昼食迄ぶっ続けで行った。

昼食後は少し休憩を挟んだ後に、ネギはセラスの授業…シレっと木乃香も生徒になっていた…を受け、その間は私とコタローで体術の稽古をこなし、その後にまた筋トレ…で夕方頃から私とネギ達とで実践稽古、そして夕食の時間である。

夜は各自別メニュー、コタローはリカードのおっさんとまた体術、ネギはエヴァとマギア・エレベアの鍛錬、私は仮想敵との機動戦をしながらのイメージで千の雷をぶっ放した後に咸卦法の瞑想、そして寝る前に聡美と設計である。

 

 

 

修行三日目…と言っても内容はほぼ二日目から変わらず。ただし、私の実践稽古は三重奏に格上げとなった。

 

 

 

修行四日目も内容はほぼかわらず、しかしネギが千の雷の実践に入ったようで、セラスの授業の際に何度もぶっ放していた。

 

 

 

修業五日目は特に何事もなく過ぎていった。

 

 

 

修行六日目、ネギが千の雷の術式兵装に成功し、夕方の実践稽古の内容が私対ネギに変わった、コタローはリカードのおっさんと、である。千の雷そのものが未完成である事による出力不足と、それでも雷の暴風とは比べ物にならない出力にネギが慣れていない事もあり、今日はギリギリ負けずに済んだが、危うい場面が何度もあった…多分明日か明後日には敗北を喫する事だろう。

 

 

 

修行七日目…その夕方の実践稽古での事…

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 高殿の王 我に力を 雷の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷奏 三位一体の闇呪紋 発動

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 契約により我に従え 高殿の王」

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 高殿の王 我に力を 雷の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷の二重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填

 

「来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆 百重千重と重なりて 走れよ稲妻 千の雷」

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 嵐の女王 我に力を 風の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷と風の三重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填

 

互いに術式兵装と三位一体の闇呪文を最大で装填し、向き合う。

「では…お願いします、千雨さん!」

「おう…今日こそ、私に…勝って見せろ!」

そして、私たちは激突する…が…元々私のガチモードはこの修行開始前で3000弱程度、千の雷の出力不足を割り引いても単純出力では5000を優に超えるネギの相手としては力不足であり…あくまで昨日負けなかったのはネギがその出力を十分に発揮できるだけの慣らし運転ができていなかったからであるにすぎない…結果…

 

「ハハハ…ついに負けたな…ネギ…よくやった」

「ハイ…千雨さん」

暫しの激戦の後に私は砂浜に叩きつけられていた。

「だが、そのスペックをまだ生かしきれてねぇ…もう一本だ」

「ハイッ!」

こうして、私が動けなくなるまで、実践稽古は続いた…

 

「はぁ…やっと終わりましたか…千雨さん」

聡美が飲み物とタオルを持って近づいてくる。

「あぁ…疲れたよ…ネギの奴、私じゃいよいよ稽古相手に力不足だな…」

「それよりも!貴女が何度も何度もやられるのを見ているのってとっても心配だったんですからね!」

「…すまん、でもネギのガチモードの相手として一番いいのが私なんだよ…マスターも再生時間的な意味で無理はさせられねぇしな」

「そう言った事情は分かりますが…いえ、まあ言っても仕方がありませんね…サ、ご飯の前に水浴びに行きましょう、千雨さん」

と、聡美が微妙そうな顔を消して笑顔でそう言った。

 

 

 

修行八日目の夕食後の事。

「あの…千雨さん、少し良いでしょうか」

と、ネギがそう声をかけてきた。

「どうした、ネギ」

「マギア・エレベアの事で少し相談したい事がありまして…」

「ん?それならマスターにすればいいんじゃねぇのか?」

「いえ、そのマスターから実際に似た事をやっている千雨さんに聞いてみろと言われまして…」

というネギに応じて話を聞いてみると、どうやらネギは千の雷の術式兵装…『雷天大壮』を私がやっているように2重装填する事でスペックだけでもラカンのおっさんに追いつこうとしている様だ。マスターからは理論上は行ける筈だと言われて昨晩からそう言った鍛錬をしているのだが、イマイチコツがつかめないので多重装填をしている私に相談を、ということらしい。

「…私の場合は、最初から闇呪紋がそーいう設計になっているから、と言うのがある種の答えだな…もしかして、ネギ、今は術式兵装状態で追加装填しようとしてねぇか?」

「え?あ、はい、千雨さんの技法を参考に…」

「んーできればその通りなんだが…私が検討した限りでは、呪紋による安定化を伴わないマギア・エレベアでは同時装填の方が簡単だぞ」

「と言いますと…遅延呪文で?」

「ああ、そう言うことだ…データも見せてやろうか…アデアット」

と、私は力の王笏に保存された、闇呪紋初期設計時の検討データをネギに提示するのであった。

 

 

 

修業九日目…は特に何事もなく、過ぎていった…しいて言えば、今日はネギに一勝しかできなかった、くらいか…悔しい。

 

 

 

修業十日目、ついに互いにガチモードだと私ではネギの修行にならないとなり、ネギが術式兵装を雷の暴風…『疾風迅雷』に抑えてスペックで勝る状態の私の相手をし、仕上げにマスターが一戦だけ相手をするということになった。

 



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88 拳闘大会編 第6話 決勝トーナメント1回戦

日が変わってさらに4日間修行を重ねた私たちは少し休息をとってダイオラマ球を後にした…今日は決勝トーナメント1回戦である。

計8試合行われる今日の試合は、9時から1時間毎の予定で最終試合が16時スタートの予定である…で、15時から試合のネギ達はエヴァやノドカたちとダイオラマ球に残り、12時から試合の私はさすがに仕事があるらしいVIP達と共にオスティアへと戻ってきた。

「いやぁ…大した伸びだなぁ、ネギの奴」

「本当に…ある程度習熟していたとはいえ、まさかもう千の雷をあそこまでモノにするとは思ってもみなかったわ」

「ほんにのう…流石はナギの息子、と言った所じゃな」

師匠連がネギの成長を褒めたたえる。

「いやぁ…マジでいい線行くかもしれねぇぜ?ラカンの奴相手に十分試合にゃなる所までは行けるだろう」

「そうね…このまま伸びれば届くかはともかく同じ舞台には立てる事でしょう…マギア・エレベアでも何かやっているらしいし」

「フム…あの筋肉ダルマめに一泡吹かせてやれるかの」

…しかしその口ぶりはラカンに勝てる所まで行けるとは思っていないように見える…当然か。

 

 

 

「決勝トーナメント第1回戦第4試合、北方ナイト-2003、フリーダム-00ペア!対するは南方、チウーッ!」

大闘技場に押し掛けた観客たちの歓声を浴びながら入場する…5年ぶりのソロ決勝トーナメント出場と言う事もあって私もなかなかの人気だそうだ。司会娘の紹介を聞き流して対戦相手を観察していると…重装騎士と魔法使いのペアのようであるが種族は全身鎧とローブで不明…事前情報でも同じく…まあどうでもいいか。

「それでは参りましょう!」

と、司会娘…私は剣に手をかけ、対戦相手も構えをとる。

「開始!」

闘技場の中央でぶつかる私とナイト…大剣と大盾に重装鎧といういで立ちの割には素早い反応ではある。その激突の間にフリーダムが唱え始めた呪文は風精霊使役…まあネギもよく使っていた戦乙女の召喚である。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 闇の精霊73柱 集い来りて 敵を射て 魔法の射手 闇の73矢」

と、ナイトと数合、剣を合わせた私は彼(?)をすり抜けて魔法の射手を発動、出現したばかりの戦乙女たちとフリーダムに闇の矢を殺到させた。さらに跳躍し、生き残った戦乙女たちを切り裂きながらフリーダムに肉薄…一撃を加えた…が、かろうじてではあるが魔法使いにしては十分な杖術で凌いで見せた…

 

魔法の射手 雷の13矢

 

と言った所で、ご挨拶だけ残して追撃せずにその場を離脱、直後追いついてきたナイトが私の残影をシールドバッシュでかき消した。

 

「おおっと、チウ選手後衛狙い!しかしフリーダム―00選手、辛くも凌いだ!!おおっと!?」

 

魔法の射手 雷の13矢

 

何時ものネギのパクリの突きをナイトの背中から放つ…も、ナイトは前方へ離脱、魔法の矢のみが障壁で軽減された上で命中した。

「ぐっ…」

うめき声を上げながらもナイトはぐるりと体勢を整え、私の追撃を盾で防ぐ…追撃…と行きたいがフリーダムが詠唱する白き雷が間もなく完成するか…ならばとショルダータックルでナイトを一瞬怯ませて、ナイトを盾に距離をとる…が

「ノイマン・バベッジ…チッ」

始めた詠唱を中断してさらに跳躍する…と、フリーダムは大きく跳躍して射線からナイトを外して白き雷を放ってきた…なかなかの練度だな…連携も悪くはない…ネギ達には劣るが…となるとこれが一番であるな。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 来たれ雷精 風の精」

と、詠唱を始めながら空に舞う…その隙にナイトは感電の後遺症を治療し、フリーダムについた…が、それは残念ながら悪手である。

「雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐 雷の暴風」

と、斜め上から打ち下ろしたソレがナイトとフリーダムを呑む…

「おおっと、チウ選手の大魔法!雷の暴風がナイト-2003選手とフリーダム-00選手を飲み込んだぁぁぁ!!」

これで決まってくれ…るほど甘くはないか。

雷の暴風が晴れるとナイトの大盾と二人分の障壁で雷の暴風を防ぎ切ったようである…が、フリーダムが離脱ではなく足を止めたのが運の尽き。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧」

虚空瞬動で後方上空まで突っ切ると雷の斧をフリーダムにめがけてぶっ放した。

「うぎゃぁぁぁぁ」

「フリーダム!くっ」

着地し、ナイトに切りかかりながら詠唱を始める。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 闇夜切り裂く一条の光」

ナイトは私の攻めを盾で防ぎ、大剣で反撃もしてくるが私の詠唱を止めるには至らない…

「わが手に宿りて敵を喰らえ 白き雷」

そして完成した白き雷を纏った斬撃はナイトの大盾に炸裂した。

「ぐむぅ…」

流石は決勝トーナメントの出場選手の装備だけあって、それだけでは倒しきれなかったようではあり、盾を手放して剣を構えて何とか立っていた。

「まだやる?」

と、私は大盾を遠くに蹴り飛ばし、剣を弾くとそう問うた。

「いや…我々の負けだ…チウ殿」

「ナイト-2003選手ギブアップ!フリーダム-00選手はダウンですので20カウント成立でチウ選手の勝利となります!1,2,3」

…と読み上げられるカウントが過ぎてゆき…

「19,20! チウ選手勝利!ソロ選手の決勝トーナメント勝ち上がりは本大会始まって以来の快挙デス!」

場内が大歓声に包まれる…のを聞きながら私は剣を収めて退場し…ようとして、勝利者インタビューに捕まった。

 

 

 

「よう来たの、チウ…案内してやってくれ」

ダイオラマ球内に施術用の鏡の間を用意するのは難しいという事で、リゾートホテルエリアの一室に設備を用意してもらった私と付き添いの聡美はテオの侍従に案内されて施術部屋に通された。

「どうぞ、こちらの部屋をお使いください」

「はい、ありがとうございます」

と、私は持ってきた荷物を降ろし、色々と施術の準備をする…変装を解くのも含めて。

「さて、千雨さん…麻酔のお時間ですよー」

タオルで体を拭いた後に聡美が麻酔入り軟膏を塗ってくれた…

 

「そろそろ良いかな」

少しおしゃべりをしながら時間をつぶして、麻酔が効いた事を確認して施術を始める。

まずは背中の闇呪紋を解いた後、主呪紋の再記述を行い、再設計に合わせて補助呪紋の書き換えを行っていった。続いて、前回積層記述の実験として刻んだ腰の呪紋の性能を上げる方向で再記述する…割とピーキーな性能に仕上がっていく…そして小休止…聡美に汲んで貰った水を飲み干して一息ついた。

続いて前面の施術…以前は予備の副系統として刻んだ子宮上の闇呪紋の核を今度は同時使用前提としたモノに刻み変えて行く…一応、片方の核が残っていれば酷い暴走はしないはずであるので予備でもあるが。そして、さらに腹部の緊急展開障壁はコンパクトにして残しはするものの、子宮の方の闇呪紋の核に対する補助呪紋にスペースを譲る…そうして乳房の中にも立体的に呪紋を刻んだ…そのうち、内臓にまで呪文を刻み始めそうで少し自分が怖くなってくる…と言った話は置いておこうか。

で、四肢の施術…脚は特に再施術の必要はないが腕は魔力掌握の補助を最低限にする代わりに『属性の招来』系の魔法を補助する魔法陣を刻んでゆく…ここまでしてもセプテットではおっさんに届く気がしないがやれるだけの事をやっておくしかないのである…

「よし…完成だ」

「…大分カリカリのチューンになっちゃいましたよね…」

「仕方ないよ…あのおっさんに対抗しようとしたら…本来これでも足りねぇくらいだから」

「これ以上はダメですよ?危険すぎますからね?」

聡美が不安そうに私に言う。

「大丈夫だよ…本命はネギだ…悔しいがな…それでも、試合になる位までは届かせたいんだ…姉弟子の意地ってもんを見せてやる、それだけだよ」

「…心配しかないんですが…千雨さんが意地を張るって」

「なはははは…うん、生きて…五体満足で帰ってくる…だから安心…はできなくても、見守ってほしい」

「わかっていますよ、千雨さん」

そう言って、聡美は私にキスをした。

 

 

 

夜…用事を済ませた私たちは再びダイオラマ球に集合した…正直、拘束される事のない私達とネギ達が一番乗りである…ちなみに前回、私達はネギの杖に乗せてもらっていたが、今回は私が箒を用意して、それで飛んできた。

「じゃあ、先に入っておくか」

「はい、そうしましょう、千雨さん」

「ええ」

「おっしゃ」

「は、はいー」

ちなみに、補助員としてノドカも同伴である。

 

「さて…まずは…私は闇呪紋の更新を確認するか」

食料を整理した後に私は砂浜に立っていた…

「千雨姉ちゃんもパワーアップかぁ…」

「いろいろと無茶重ねていますけれどもねー意地はっちゃって…もう」

「千雨さん、がんばってください」

「は、はいー応援していますー」

…で、せっかくだからとネギ達も見学である。

「…さて、行くぞ ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 高殿の王 我に力を 雷の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷奏 三位一体の闇呪紋 発動

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 高殿の王 我に力を 雷の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷の二重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 高殿の王 我に力を 雷の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷の三重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填

 

さて…ここからである…

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 嵐の女王 我に力を 風の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷と風の四重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填

 

成功…よし、次

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 嵐の女王 我に力を 風の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷と風の五重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填

 

ああ…無茶をしている自覚がアリアリと感じられる…本当ならばコレで少し慣らすべきなのだろうが…時間がない。

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 闇の女王 我に力を 闇の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷と風と闇の六重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填

 

少しきついが…成功…次

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 闇の女王 我に力を 闇の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷と風と闇の七重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填

 

「くっ…これで完成…だ」

「ち、千雨さん…?」

「うっへぇ…明らかにヤバい奴やんか…コレ」

「想定よりもえげつないですねぇ…大丈夫ですか、千雨さん?」

「ネ、ネギ先生…大丈夫なんですかー?コレ」

割と酷い感想に腕を見ると黒い雷が風をはらんでバチバチと渦巻いていた…水面で見る限り、精霊化の度合いも酷い…確かに見た目はネギの『雷天大壮』よりもいかついな。

「とりあえず…少し動いてみる」

と、私は空に舞い上がった。

 

「うひゃぁ…えげつない出力やなぁ…アレ…ネギの『雷天大壮』とどっちが出力有るやろか」

「実質、一時的な精霊化の領域ですからねーアレ」

「だ、大丈夫なんですか!?」

「理論上は大丈夫ですよー千雨さんは咸卦の呪法で魂の保護をしていますのでー暴走しない限りはー」

私が空を舞って慣らし運転をしている間、そんな感じの会話をしていたらしい。

 

 




どーも原作読む限りは中日二日で二日間で3試合こなしているとしか読めないのですが間隔を揃えた方がらしいという事で中日一日で一日一試合と言う事にしました。


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89 拳闘大会編 第7話 決勝トーナメント2回戦

一人での慣らし運転を終えた後、7重奏のまま『雷天大壮』のネギと実践稽古をしてみると、想定通りネギよりも出力が上がっていたようではあるが、やはりというかセプテットの出力に慣れきれずに敗北を喫した。

「チッ…やっぱり扱いにくいな…もう少し慣熟訓練が必要か」

「そうですね、千雨さんらしくないミスも多々ありましたし…」

と、ネギも私の見解に同意を示した。

「でも、さすがです、千雨さん…僕の『雷天大壮』を超えるまで強化ができるなんて」

「そりゃどーも…でもこれだけじゃあラカンのおっさんを相手にするにゃまだ足らんのだよなぁ…」

「デスヨネー…二重装填の練習もしているんですが、それでも何かが足りない気がして…考えているんですが、上手く纏まらないんですよ…」

そう言ってネギが頭をかいた。

「それこそ、お前が捻り出すべき一手だな…そう言う意味じゃあ私も最低でも何かもう一枚切り札がいるんだが…用意しきれるかどうか…今のままだと雷の暴風なり千の雷なりをゼロ距離でぶち当てるのを狙うしかねーんだよなぁ…」

「僕もです…何とか技量差を補うための方法が…って、千雨さん、そう言えばシグヌム・エレベア・トリニタスで半ば精霊化していますけどそれって大丈夫なんですか?」

「ん?まあやっている事はマギア・エレベアと同じだからな…大丈夫ではないが…後遺症はほとんど残らないはずだぞ…咸卦の呪法の保護強度を大きく上回る侵食を受けなければ…な」

「原理的には同じ…なら…マギア・エレベアでも同じ事が…精霊化が出来る…?」

「…できるな…と言うかマスターはそれこそが秘奥だって言っていた」

と、マスターのガチモード、千の雷と同格の氷系魔法『千年氷華』を取り込んだ姿を思い出す…アレは氷の最上位精霊か何かとしか表現できないモノである。

「…なら!教えてください、千雨さん、どうやればいいんでしょうか!?」

「イヤ…悪いがやり方は知らん…マギア・エレベアの秘奥らしいからな…だがエヴァが知っていると言う事はコピーのエヴァも知っているはずだ」

「わかりました…じゃあ後でマスターに聞いてみます…もしかしたらラカンさんをスペックで上回れるかもしれません」

そう言って、ネギは瞳を輝かせた。

 

 

 

翌朝、日課の筋トレを済ませて朝食をとっていると教官連が到着した。

「おうおう、やってるな、ぼーずども!今は朝飯中か!」

そう、リカードのおっさんが声をかけてくる。

「ハイッ」

ネギが応える。

「どうじゃ、チサメ、呪紋とやらの調子は」

「おかげさまでいい感じです…ラカンのおっさんに届くにはまだ手が必要ですが背中は見えました」

と、私もテオに応えた。

 

白兵戦訓練・実践戦闘訓練・各自の特殊技能訓練(私は咸卦法の瞑想と糸術、ネギはマギア・エレベア、コタローは獣化関連)を中心とした修行に打ち込みながら過ごしているとあっという間に時間は過ぎ、決勝トーナメント第二回戦の時間となった…一応言っておくが、7重奏の私と『雷天大壮』のネギとの実践稽古の戦績は私の方が圧倒的優勢、後半形になり始めた『千の雷』二重装填状態のネギとの戦績は、ネギの習熟未了もあり、私の有利である。

 

 

 

「決勝トーナメント第2回戦第2試合、北方シカオ・パレード、フミカ・グルーヴペア!対するは南方、チウーッ!」

本日のメインイベント4試合は午後13時から1時間半間隔で4試合、19時開始まで続く日程で、合間に拳闘試合を含めた余興が入る事になっており、選手紹介を兼ねた地元での活躍をまとめたPVが流されていただけの昨日とは違う感覚となっている。そして、いつもの司会娘の現在進行形でなされている煽り文句を信じるならば、ソロでの決勝トーナメント勝ち上がりという快挙に注目と人気が集まっているものの、賭けのオッズでは私が不利とみられているらしい…まあそりゃあそうか…と思うと同時に小遣い程度とは言えドラクマ貨を自分にかけておいてよかったと思う。(拳闘士ならびにその関係者は自陣の勝利にのみかけられる)

そして対戦相手は意味オーソドックスな北の民(人間)寄りの混血な魔法拳士の男女二人組であるが、シカオの方が魔法より、フミカの方が前衛よりであるとの前情報がある。

「それでは参りましょう! 開始!」

と、司会娘の合図に合わせて相手方二人が同時に詠唱を始めたのは精霊使役呪文…シカオは後衛で多めの風属性、フミカは前衛で少し少なめの水属性…私のような相手にどう戦うか、の回答の一つではあるな…数で囲んで(恐らく)大魔法で一掃する、と言うのは…負けていった選手たちの経験を生かしている。まーそれに付き合ってやってもいい修行にゃなるのだが舐めプしていられない程度には強敵であるとの認識から真面目に戦う事にする。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 雷の精霊89柱 集い来りて 敵を射て 魔法の射手 雷の89矢」

着想は良いのだが、こちとら魔法剣士であると誇示するように私はフミカに抜剣して肉薄し、呪文の完成を妨害すると同時にシカオに召喚され、戦乙女の形を成しつつある風精達を術者ごと薙ぎ払った…フミカはもっと前に出て私の妨害に徹した方が正解というわけである。それならば距離の関係もあり、散開を始めていたであろう戦乙女たちを一掃はできなかっただろうから。

「くっ…小手先の策は通じない…と…シカオ!」

そこからはある種、双方前衛をこなせるペアの場合の何時ものパターン…1:2の近接戦闘である。そしてそれは後衛が魔法を撃っても回避されるという事への対処でもある訳で…実は実力が伴う限りにおいては近接戦闘でタコられる方が変に前後衛ペアを相手にするよりも大変ではある。とは言え、互いに魔法拳士型であり、魔法と剣と拳の応酬と言う事になる。

 

単体では私のが優位ではあるがそれに対抗できる程度には強い…強さ評価で1000くらいか…二人組が連携してくるので不利、しかし空中機動の練度では私がかなり有利…正直、ここ暫くの特訓が無ければこの時点で押し負けていた可能性もある強敵であると評価する。

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 光の精霊101柱 集い来りて 敵を射て 魔法の射手 光の101矢」

互いの詠唱した魔法が激突し、気で強化された剣と拳がぶつかり合う。

「はぁっ」

「ぐっ」

剣のリーチで二人をいなしながら防戦、空中機動で壁際に追いつめられるのを防ぎつつ、魔法戦は若干有利と言った所か…あいにくと、互いに掠りヒット程度しかなく無傷である、私は。

「らちが開かないわ!」

「かといって拙攻はまずいぞ」

「でも、チウが暢気に地上戦に付き合ってくれているうちに決めないと」

強化された聴覚に二人のそんな会話が聞こえてくる。

確かに、私が空中機動魔法戦に移行した場合、優劣という意味では私が圧倒的優位にはなる…こいつらも虚空瞬動位であれば使える様ではあるが、それを繋いで空で舞える練度には達していないのは既に把握している。

「相談は終わった?」

 

魔法の射手 拡散 雷の23矢

 

そう挑発するように告げ、私は二人を跳び超える様に魔法の射手を降らして後ろに回った。

それに対応できない相手ではないのだが、その空中機動に危機感をあおられたらしく、拙速気味の乱打戦に持ち込んできた

私はそれを防戦一方で受けながら機会を待つ…そして

「貰ったぁ!」

と、シカオの援護の下に繰り出されたフミカの強い気を纏った右ストレート…を受け流し、バランスを崩させると、足払いをかました。直後、救援に向かってきたシカオに剣を突き付け怯ませると、後ろに跳ぶ。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧」

「させるかぁ!」

と、フミカに対する止めの呪文をシカオは射線に入って障壁で受け止めた。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 来たれ雷精 風の精」

しかしそれはフミカをかばうように同一射線上で足を止めたという事にほかならず、その隙を見逃してやる私ではない。

「雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐 雷の暴風」

そうして雷の暴風は二人を呑み込み…魔法が終わった後には気絶した二人が転がっていた。

 

「チウ選手、勝利!大快挙です!」

20カウントの後、司会娘が宣言する…それに合わせて私はやっと剣を収めて退場するように歩みだす。

「おめでとーございます、チウ選手!いつも言っていますが、勝利者インタビュー終わるまで帰らないでくださいな」

「大丈夫、止められたら止まるから…」

「あはははは…まあ良いデス。さて、チウ選手、本日も見事な勝利を飾り、準決勝へ進出が確定しました。次はいよいよあの伝説の傭兵、ジャック・ラカン氏との対戦ですが、勝算のほどは?」

「…言うまでもない」

「おっと、コレは次も勝つ、ジャック・ラカンでも関係ない…そう言う強気の発言デスか!?」

と、司会娘は私の言葉をそう解釈して煽る。

「逆…あんな化け物に勝てる自信も算段もない…それどころかペアのカゲタロウだけでも、勝てるかどうかわからない」

「おやおや、無敗の剣士チウ選手にしては弱気の発言…しかし英雄相手では仕方がナイノかもシレマセン」

司会娘の言葉にコクリとうなずいて言葉を紡ぐ。

「それでも…私はあきらめるつもりはない…刃通らぬという伝説の英雄に刃を突き立てて見せる」

何時ものように、平坦な口調で、私はそう宣言した…会場は大いに沸いたと言っておく。

 

「おう、テメェには珍しく、ふかしたじゃねぇか、チウ」

控室に戻る通路に待ち構えていたトサカが言った。

「トサカさん…まああの場で敗北宣言するわけにもいきませんし…やるからには勝つつもりでヤルのは事実です…たとえ届かなくとも」

「それもそうか」

「では失礼します」

と、着替えと入浴に向かおうとした私をトサカが呼び止める。

「あー待った」

「…何か?」

振り向いたトサカの顔は何かを悩むような表情で…

「いや、やっぱりいい」

そう、私に告げた。

「?よくわかりませんが…それでは今度こそ失礼します」

と、私はその場を去っていった。

 

 

 

「ぐっ…コレがテメェの切り札って訳か、ネギ」

「はい、『雷天大壮』にアレンジを加えて使えるようにしました…名づけるならば『雷速瞬動』と言った所でしょうか」

ネギがやっと切り札が出来たと試運転がてら見せて…と言うか喰らわせてくれた技…それは一時的に精霊化の度合いを進行させ、術者自身を雷と化して移動・攻撃する色々と危険な技だった。

「すげぇじゃねぇか、兄貴!これなら打倒ラカンも夢じゃねぇ!」

「これならさすがにあのおっさんでも知覚でけへんやろうな!」

「…なるほど、いい技だ…テメェが闇の魔法に呑まれるリスクさえ無視すりゃあな」

「いえ、これ単品では言うほどのリスクはありません、あくまで瞬間的な雷化ですから」

「…って事は思考速度はそのまま、連続使用も不可…って事か?そんなもん、少し頭冷やして先行放電や空間の電位差に気付かれれば対応されるぞ?闇呪紋発動状態なら私でも対応できる」

もっとも、それは上位風精霊を取り込んでいる状態で、雷化したネギの移動先…空間の電位差を把握できるからこそではあるが。

「はい、ですが上位風精霊の形質を取り込んでいる状態の千雨さんと違って、ラカンさんでも初見でそこを看破できるかどうかと言えば難しいかと思います…し、二重装填であれば常時雷化も可能…になる予定です」

「…あーお前なら間に合わせられるか…心理的奇襲って意味では私は副作用としての精霊化はともかく戦闘技法に精霊化を生かす予定はねぇから大丈夫…かな…」

と、頭を掻きながら肯定する…がそうなると別の問題が出てくる。

「で、そーなると継続的な精霊化って事になるから闇の魔法に呑まれるリスクが跳ね上がるよな?」

「…計算では、10日程度の鍛錬と常時雷化で本格的に数回戦闘するくらいであれば問題は殆どない…筈です」

そう言ってネギが顔を逸らす。

「…ネギ、お前さ、まだ10歳で人生まだまだなげぇってわかってるよな?

テメェの人生、打倒ラカンのおっさんと麻帆良への帰還でゲームクリアーって訳じゃあねぇんだぞ」

「無事に麻帆良まで帰れればマギア・エレベアは封印する予定ですし…一応、呑まれた場合、どうなるかの計算もしています」

「…そこまで覚悟の上か」

「はい」

そんな会話を頭に?を浮かべたギャラリーたち…聡美以外は闇の魔法の本質を知らない…に囲まれながらかわすのであった。

 

 

 

ダイオラマ球内の次の日の実践稽古にて。格上の相手を想定してとの戦闘訓練兼雷速瞬動の慣熟訓練に七重奏の私とネギの雷天大壮での戦闘中…

「アデアット!」

…と、ネギがアーティファクトを使い始めた。

「ちょっと待て、いつの間に、誰と仮契約したんだ、ネギ」

「え、はい、昨日の夕方、テオ様と…」

「いいのかよ!?」

「はい…大会期間中という条件付きですが…」

そう、ネギが私の問いに答える。

「…で、どー言うシロモンなんだ?戦闘に使えるのは確実としてさ」

「ええっと…自身の従者のアーティファクトを自在に使いこなせる能力のようです、今のはアスナさんのハマノツルギを借りようかと思いまして…」

「…って事はおっさんの千の顔を持つ英雄と気弾攻撃は実質無効化できるし、カゲタロウも圧倒できるか」

「そうなります…十分に切り札の一枚といえるシロモノかと…」

「うむ…そうだな…ネギ、お前の剣捌きを見せて見ろ」

「はいっ」

そして…まあ私は単発の雷速瞬動自体には対応できても、常時雷化には対応しきれず、かつ攻め手のほぼ全てをハマノツルギに遮られて惨敗を期すのであった。

 



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90 拳闘大会編 第8話 決勝トーナメント準決勝

「さーて、いよいよ始まります、ナギ・スプリングフィールド杯準決勝第1試合、北方は伝説の英雄ジャック・ラカン、カゲタロウペア!圧倒的実力で対戦相手を薙ぎ払い、決勝トーナメントを進んできております大戦の英雄たち!対するは南方、チウ!今年グラニクスに現れた期待の新星にして、ペア戦である本大会をソロで勝ち進みデビューより無敗を誇る孤高の魔法剣士デス!」

司会娘の選手紹介を聞きながら私たちは闘技場を進み、互いに向かい合う。

「ラカン殿、この一戦、まずは私に戦わせてくれないだろうか」

「んー別に構わねぇがどうした、カゲちゃん」

すると、ラカンのおっさんとカゲタロウがそんな会話を始めた。

「以前、チウ殿と戦った際、ナギとの試合を貴殿に預けているからと互いに底を見せずに終わった…そのナギとの試合をラカン殿に譲るのだから…」

「チウ嬢ちゃんとの試合は譲れってか?あの時点でさえカゲちゃんでも負けうる相手だぜ?本気の嬢ちゃんは」

「かまわぬ…むしろそれで命散っても本望」

「…勝手に私が死力を尽くして死闘を戦うと決めつけないで」

おっさん達の会話に思わず私は突込みを入れる。

「でも、諦めねぇんだろ?このオレに剣を突き立てて見せるんだろ?なら嬢ちゃんは本気を出すしかねぇし、カゲちゃんも本気を出すというからにはそう簡単には諦めねぇ…違うか?」

「ウム、私も本気のチウ殿と死合ってみたい」

「…ソロ二連戦になるならばむしろ好都合ではある」

「ってこたぁ決まりだな…俺様はしばらく高みの見物と行くぜ」

「さーて、話もついたようですし、まいりましょう、準決勝第1試合…開始!」

と、私たちの会話を見守っていた司会娘が試合開始を告げたと同時に、ラカンのおっさんは壁際まで下がり、観戦を決め込んだ。

対する私とカゲタロウは私が空を舞い、カゲタロウが足場を固めて影刃で追い回すといういつぞやの焼き直し…から始まると思っていたのだが…

 

「あの時の続きと行こう!みせてもらうぞ、剣闘士としての縛りを超えたチウ殿を!」

と叫ぶと共にカゲタロウは断罪の剣を展開した私に挑みかかるように接近してくると両腕に巻き付けている二本の影刃をメインに、それをサポートするようにさらに数本の刃を伸ばして白兵戦を挑んできた。

「…見せてあげる、私の本気を」

そうカゲタロウに応えた私は影の刃による攻撃…おそらくは様子見程度…を躱し、いなし、切断しながら呪文を唱える。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 高殿の王 我に力を 雷の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷奏 三位一体の闇呪紋 発動

 

「むっ、それはっ!」

「私はナギの姉弟子…同系統の技を使えないとでも思った?」

カゲタロウの反応にそう返すと私はさらに装填を続ける。

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 高殿の王 我に力を 雷の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷の二重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填

 

「なにっ、二重行使!?まさか…本気を見たいとは言ったがこれ以上は黙って見過ごす訳にもいかぬな!」

と、カゲタロウはまだ私が装填を続けると予感したらしく、これ以上の装填を阻止しようと猛攻を仕掛けてくるが、私を捉えるには至らない…

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 高殿の王 我に力を 雷の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷の三重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填

 

「くっ…やはり拙速な攻撃では捉えられぬか」

そんなカゲタロウの焦りを尻目に風属性の装填に移る。

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 嵐の女王 我に力を 風の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷と風の四重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 嵐の女王 我に力を 風の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷と風の五重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 闇の女王 我に力を 闇の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷と風と闇の六重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 闇の女王 我に力を 闇の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷と風と闇の七重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填

 

そして、カゲタロウの猛攻もむなしく、逃げと装填に徹した私は準備を完了させた。

「これが…今の私の全力モード…」

「フム…確かにラカン殿に刃を突き立ててみせると豪語するだけの事はある…何という圧力…それでよくもまあ、本気で戦えば私が勝つと言ってくれたものだ…まるで人の形をした嵐だ」

カゲタロウは攻撃の手を止めて私に語り掛けてくる…その声色には呆れのような感情が混ざっていた。

「あの時はまだ三重が限度だったから…色々無茶してできるようにした…」

「若者の成長は目覚ましい、とでも言った所か。肌で感じるぞ、チウ殿の今の強さを…しかし、私とて大戦を生き抜いてきた誇りがある!そう簡単にやれるとは思わぬ事だ!」

 

と、カゲタロウが叫ぶと千に届かんかという無数の影刃がカゲタロウの周りから沸き上がりが私を半包囲するように殺到した。それに私はただ断罪の剣を振るい、前進することで答えた。

「ならばっ」

直後、太く編まれた槍のような影刃が複数本、細い影刃の嵐の中から突き出される。そのうち一本を切り払い、できた通路に身を委ね…ようとした直前、私は大きく身を引く…とさらに十数本の太い影槍が通り抜けようとした通路に殺到した。

私は強化された身体能力にモノを言わせて瞬動連打で影刃の嵐を迂回する事に決め、さらに後退すると天井間際まで飛び上がる。カゲタロウは影刃を手元に戻すと、私の動きに対応して槍衾の様にその半数を空中の私に突撃させるとともに、残りを手元に待機させているようだった。

私は真下に跳ぶと地面を蹴って肉薄を試みる…が、まあそれくらい予想の範囲と待機させていた影刃で、太い槍を交えて対応される…ならばと先に空中を通り抜けていった槍衾たちの根本を強引に潜り抜けるべく、再び宙に舞い…反転した槍衾の追撃を逃れてカゲタロウを飛び越えて反対側に着地する。すると、カゲタロウは影刃たちを引き戻す様に私に殺到させながら影刃に埋もれる様に跳び、私から距離を取ろうとする。

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 収束・白き雷」

 

短縮詠唱で白き雷を放つが、影布…恐らくは魔法障壁に阻まれた…うん、大体はわかった。

カゲタロウの基本戦術は面制圧攻撃による牽制で、機動が制限された際に余剰のある際にのみ反撃を企図した太い槍を飛ばしてきているのだろう…と言うか、私は態々避けているが通常の影刃ではめった刺しにする勢いでなければ私に通るかどうか怪しいとも理解している様子である…剣が刺さらないと言われるラカンのおっさんと喧嘩するつもりでスペック練って来ているとは知っているのだから当然か。

ならば私の答えは「機動力でかき回す」だ、と再び私は空に舞う。すると再びカゲタロウは槍衾を形成して向ける。それを掠めるように機動してカゲタロウから見て反対側の空に占位すると、また残りの影刃で槍衾を形成して私に飛ばしてくると同時に、最初の槍衾を形成していた影刃たちを反転させて私の次の動きに備えている。私が地上に跳ぶと待機していた影刃が殺到してくるが、カゲタロウ周辺でなく空中から打ち下ろされるそれはカゲタロウ周辺の防御がどうしても甘くなっており、私は断罪の剣で影刃を掻い潜り、そこに飛び込んだ。

 対するカゲタロウは手元に残していたらしい余力、数十の影刃で迎撃、それも断罪の剣で薙ぎ払い、跳躍して距離を取ろうとするカゲタロウに追いすがる…距離を取られれば反転した第二波の影刃たちが殺到してくる…と同時に詠唱を始める。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 来たれ雷精 風の精」

影布の障壁と、断罪の剣と同形に強固に編まれた影の剣とで私の猛攻をしのぐカゲタロウ…しかし数多の影刃のコントロールは手放しておらず、私達を取り囲むように渦巻いている…きっと距離を取られれば私に殺到してくる事だろう…

「雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐」

が、完成していく私の呪文、そして極近距離に纏いながら切りかかり続ける私に対して、カゲタロウが焦りの色が見せ始めた。

「…やむを得ぬ!」

「雷の暴風」

そして、私の雷の暴風がほぼゼロ距離で放たれると、カゲタロウは影布を密着させるように纏って障壁による防御を試み、同時に私達を取り囲んでいた影刃を自身ごとめった刺しにするがごとく私に殺到させた…本人は雷の暴風をもろに食らって吹っ飛ばされて影刃の攻撃範囲からは離脱している…で、私の対応はシンプル。雷の暴風が終わると同時に雷の暴風があけた穴に飛び込んだ。若干被弾と言うか障壁を貫通してきて割といっぱい掠って、直撃コースもあったが断罪の剣で切り払って直撃は避けた…総合すると現在の身体強化を抜いて致命的ダメージが入るほどではなかった…貫通力強化がなされているだけあって、完全には無傷とはいかなかったが。

 

「ほう…今のをほぼ無傷でしのぐか」

観戦していたラカンのおっさんが声をかけてくる。

「あなたとやり合うつもりで用意してきたから…コレくらいはできないと遊べもしない」

と言いつつ、吹っ飛ばされたはずのカゲタロウを探す…と、雷の暴風の射線上にカゲタロウが転がっていた。気づけば嵐のごとき影刃たちも消え去っている。

「カゲタロウ選手ダウン!カウントを取ります!」

と、司会娘がカウントを始める…止めではないが、詰ませておこうか。

「11、12、13、おおっと!?」

「うぅむ…」

途中でカゲタロウは気絶から復帰し、起き上がった。

「フム…互いに生き延びたようではあるな」

「続き…やる?」

「いや、やめておこう…コレがわからぬほどに耄碌はしておらんよ…イエスと言った瞬間に縛り上げられて首が飛ぶか心の臓を一突きか」

そう言いながら、カゲタロウは身体に緩く巻き付けられている糸をつまんだ。

「…肺かな?殺すつもりはないけれど、諦めないなら戦闘不能になってもらわないといけないから」

「フハハハハ…と言う事で死合と言っておいてなんだが、私は降参だ。すまぬがラカン殿、後は頼んだ」

「「ん、了解」」

測らずとも私とラカンのおっさんの声が重なる…私は降参を受け入れて糸を解くという意で、おっさんは私の相手を任されたという意味で…そしてカゲタロウが今度は壁際に、ラカンのおっさんが私と正対するように、立つ。

「さて、よく俺の前に立ったと言うべきかな?嬢ちゃん…いや、チウ」

「用意はしてきた…僅かとはいえ、勝機に賭けさせてもらう」

「ほう?なら楽しみにさせてもらおう…ま、楽しく遊ぼうぜ!」

と、おっさんが気弾をご挨拶とばかりに放つと『千の顔を持つ英雄』を発動し、大剣を構えた。対する私は偽・断罪の剣を正規版の血赤モード…に加えて三位一体の闇呪紋を流し込む現時点での最強設定に変更して気弾を切り裂きながら切りかかる。

 

キーン

 

そんな音を立てておっさんの大剣が真っ二つになった。

「オイオイ、なんつー威力だよ…俺様の伝説のアーティファクトを真っ二つとは…」

「あなたの肉体を傷つけうる可能性がある武装として用意した…行くよ!」

まー可能性がある、であって確実に届く確証があるわけではないが。

「うぉっとっ、あぶねっ」

とか言いながらおっさんは私の攻撃…私の剣技の粋を凝らした猛攻を新たに出現させた小剣二本で巧みにさばいていた。

「チウ選手、凄まじい攻撃!なんとラカン選手が防戦一方だぁぁぁぁ」

と、司会娘は言うが、反撃できないんじゃなくて反撃していないの間違いである。相応に育ったとはいえ、仮にも傭兵剣士と呼ばれる男相手に剣技で勝負を挑むのは分が悪すぎたか…いや、まだである。

「確かにその剣はテメェの師匠の本気並…いやそれ以上の威力を秘めていやがるが…当たらなければどうって事はねぇ」

そんな言葉と共におっさんが反撃に転じる。私は断罪の剣で何とかそれを受け止めながら、たまらずと言った体で距離をとる。

「逃がしやしねぇぜっ」

と、おっさんは気弾で追撃、私が空に舞って回避するとさらに自身で剣による追撃をかけてきた…よし、食らいついた。と、私はさらに跳び、私たちは空中で剣戟と射撃…おっさんは気弾と投擲、私は直撃して耐えるという手が使えない魔法の射手の戒め矢…を高速空中機動しながら交わすのであった。

 

「で、いつまでやるんだ?この追いかけっこ」

数分間そんな戦いをしていると不意にラカンのおっさんが足を止めて問うてきた…なお、結果は互いにスタミナ以外、損耗無しである。(おっさんの剣はたくさん真っ二つにしたがすぐに交換されるので損耗に入れていない)

「…一応は得意分野だから届くかもと思ったけれど…無理か」

「おう、嬢ちゃんの技量と強化済みスペックはすげぇが俺様に届く程じゃあねぇな…諦めるか?」

「諦めない」

「ん、だがその剣以外に手がないなら、飽きて来たんで割と本気で行くぜ?」

そう言ったおっさんの攻め手は精細を増す。私は鉄扇を抜き、断罪の剣との二刀流でしのぎに回る…が、次第に追い詰められてゆく…もう少しで詰まされる…粘りたかったが切り時か

「ノイマン・バベッジ・チューリング」

「おっ、やっと魔法を使ってくるか」

と、舐めた様子でおっさんが笑いながら切りかかってくるのに対して私は苦虫をかみつぶした顔で答えながら呪文を完成させる…

「雷の暴風」

「うぼぁ」

…とある仕掛けと呪血紋による短縮詠唱という無茶で発動された雷の暴風は、思いがけぬタイミングで放たれた大魔法でさすがに呼吸を乱されたらしいおっさんに直撃し、おっさんは吹っ飛んでいった。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により我に従え高殿の王 契約により我に従え 高殿の王」

吹っ飛んで地面に叩きつけられるであろうおっさんに追撃するように私は追いすがりつつ、呪文を練っていく…

「来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆 百重千重と重なりて 走れよ稲妻」

そして、私は体勢を崩しているおっさんに向けて呪文を完成させた…殺す…いや、死体さえ残さぬつもりで。

「収束して顕現せよ 千の雷」

「やっべ」

指向性を強めた千の雷の発動寸前、おっさんの気が高まるのを感じた…防御されたか。

巻き添えを避ける為に一度空に離脱し、呪文の終了と同時に土煙の中に見える人影と気を頼りに倒れたおっさんに止めを刺しに跳ぶ。

「止めっ!」

と、胸を狙って突き刺した断罪の剣は深々と突き刺さった…かに思えた。

「あぶねぇあぶねぇ…久しぶりに死ぬかと思ったぜ」

必殺の一撃はおっさんに刺さる寸前で白刃取りの要領で防がれていた。

「ぐっ!」

「はぁっ!」

断罪の刃を伸ばしてぶっ刺してやろうとしたと同時におっさんからの干渉で断罪の刃が砕け散った。

「チッ」

「ほっ」

断罪の剣を再展開する刹那、おっさんは身を転がし、器用に立ち上がり、距離をとった。

「クッハッハ…俺様をよくぞここまで追い詰めた。褒美だ、俺様の本気を見せてやろう」

そう言いながらおっさんは構えをとった…と同時におっさんの気が膨れ上がる…

直後、反射的に構えた鉄扇で威力の過半を逃したものの、おっさんの右ストレートが私を空に舞いあげる。そのまま勢いに任せて跳び、空中ランダム機動で回避に入りながらおっさんの爆ぜる気弾での追撃を避ける。

「ふははははは、こんな楽しいケンカは久しぶりだぜ!チウ!」

「ノイマン・バベッジ・チューリング 雷の暴風」

そんなおっさんの笑い声に、私は無言で魔法をぶっ放して答えた。

「はぁっ!ラカンインパクトッ!」

…と、おっさんは右ストレートに気をのせて一応大魔法に属する雷の暴風を打ち消してみせる…短縮詠唱で威力が落ちる分、仕掛けで強化してあるはずなんだが…

 

「無茶苦茶な…っ!」

それから戦闘は続き、おっさんの猛攻を私が必死で耐え忍んでいる状況である…試合でなければとっくに逃げているし、もう投了してやろうかという考えさえ浮かぶ…と同時に沸いた頭がもう一枚の切り札の存在を告げる。

「…イヤ…まだ…精霊よ!」

私がそう唱え始めると体と世界の境界がゆがむ…

「我をk「ダメェェェェェ」」

観客席から聞こえる悲鳴のような静止…聡美である…ああ、バレてたか、この切り札の存在。

そして闘争酔いから醒めた私はその『最後の切り札』の使用を止め、地面に降り立った。

「おう?なんかするんじゃねーのか?」

おっさんが手を止めて問うてくる。

「少し闘争に酔いすぎていた…アレは命かソレ以上のモノを懸けた時以外は使わない」

「ほう…見てみてー気もするが、そう言う事なら仕方ねぇな、じゃあ手詰まりで投了か?別に構わねぇぞ、坊主との前哨戦にしては十二分に楽しませてもらったからな」

おっさんが言葉とは逆に、どこか残念そうに言った。

「…そう、私は前座…勝てれば何よりだけれども、ナギが勝てばいい…少しでもあなたの動きを、手の内を弟弟子に見せる為に、魔力とスタミナが尽き果てるまで付き合ってもらう」

「ふはははは、そー来るか…どーせ隙を見せれば喉笛引きちぎるつもりでの威力偵察だろう?いいぜ、来いよチウ、相手してやるよ!」

そうして、私は本気のおっさんの戦いというルナティックモードを継続する事となった。

 

 

 

「ふんっ」

殺到させた無数の糸をおっさんは気合一発で引きちぎってみせる。

 

 

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 来たれ雷精 風の精 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐 上位雷精霊放出 雷の暴風+」

「はぁぁっラカン・インパクトおぉぉぉ」

完全詠唱に取り込んであった上位雷精霊をのせた雷の暴風は、やっぱり力比べと言わんばかりにおっさんの右ストレートに相殺された。

 

 

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により我に従え高殿の王 契約により我に従え 高殿の王 来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆 百重千重と重なりて 走れよ稲妻 千の雷」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷と風と闇の六重奏+雷宮の調べ 三位一体の闇呪紋 増強装填

 

六重奏に弱体化した身体強化で何とかおっさんの攻撃をしのぎつつ、千の雷を装填した…興の乗ったおっさんの相手は命がけ…暴走に比べれば安いものだと禁忌を犯す…

 

 

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング」

おっさんの左拳が頬を掠る。

「契約により我に従え高殿の王 来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆」

右拳を鉄扇で受け流し、流しきれぬ威力を逃すように空に跳び、距離をとる。

「百重千重と重なりて 走れよ稲妻」

「ラカン…」

空中で体勢を整え…瞬間、私の左腕に呪血紋が浮かび…丁度仕掛け…闘技場の天井吹き抜けに張り、ちまちまと加筆を続けていた巨大糸魔法陣の真下に入る。

「収束して顕現せよ 千の雷」

「インパクトォォォォ」

収束してさらに仕掛け…天井の魔法陣と呪血紋とで強化された千の雷が、命の危険を感じざるを得ないほど強烈な気の奔流と衝突する…そして…それらは対消滅した。

「そこっ」

「ちぃ」

その衝撃と土煙に紛れ、断罪の剣で切りかかるも、まあ当然の様に位置が露見して長剣を投げつけられて、白兵戦へともつれ込む…

 

 

 

そして…

「どうした、チウ、しばらく魔法も使ってねぇし、断罪の剣まで仕舞っちまってよ、限界か?」

「ぐっ…まだまだぁぁぁ」

とは言ったものの、魔力は三位一体の闇呪紋を維持するので精一杯、出血量もそろそろマズイ、スタミナは意地で持たせている…と言った具合である…おっさんも既に本気ではない…からこそ、最後の勝機がそこに見えた…気がした。

「解放 千の雷」

「なっ」

遅延呪文が如く、私は取り込んでいた千の雷をおっさんに向けて放出し、腕を一振りして断罪の剣を全力で再展開すると、土煙の中に立つおっさんに向けて突き刺した…が

 

パキーン

 

おっさんの右ストレートと正面からぶつかり、断罪の剣は砕け散る。

「っ!」

「痛って…少し切れたか」

と、おっさんが拳を見る…とわずかに赤い筋が拳についていた…気を集中させているとはいえ、それが私の最後っ屁の成果であった…その事実に私の闘争心は遂に折れた。

「…まいった…降参する」

その場に崩れ落ちて私はそう宣言した。

「おう、楽しかったぜ、チウ」

会場がおっさんの勝利を祝して沸く…こうして、私は剣闘士人生初の敗北を喫した。

 

 

 




チウたん敗北…まあちかたないよね。断罪の剣は白刃取りなり回避なりされていなければ刺さっていたし、実際刺さり所次第では勝っていたし、本気モードになるまでおっさんが素手のがつええしなかったのはガチモードくらいの出力でないと拳で受けると切れる可能性が高かったから。ガチモードになった後もいい試合になったのは生存に振られた千雨さんの技量と、ラカンのおっさんが楽しいケンカを無理に終わらせるべく速攻をかけなかった為。断罪の剣で刺し違えられる危険を冒せばラカンはもっと早く試合を終わらせる事は可能だった。
最後の切り札は…まあそのうち使われるかもしれないし、使われないかもしれないけれど、要するに、三位一体の闇呪紋のオーバードライブ(対価は闇魔法以上の魂への負荷)で、まあ制御できるのであれば、攻防速全スペックでラカンを上回れたであろう代物。完全に制御できるならば。それに比べれば専用呪文六つ+最高位攻撃呪文の装填くらい安いもの…と言うくらい危険な代物デス。


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91 拳闘大会編 第9話 決勝前夜

「お疲れさん、悪くねぇ試合だったぜ、チウ」

そう言って控室に戻る途中の通路でトサカが私を出迎えた。

「ありがとう、トサカさん…でも勝てなかった」

思わず私はそう答えていた。

「オイオイ、お前マジで勝つつもりだったのかよ、あの伝説に」

「…はい、不十分でも準備はしました。勝機は薄くともゼロじゃなかった…現に大魔法をあびせることまではできた…でも最大の切り札は、私の刃は伝説に…あのラカンという化け物に届かなかった…悔しい…です」

「確かにラカンは化け物だろうがよ、その化け物に僅かでも血を流させたテメェは何なんだ?」

あきれ果てた声でトサカが言う。

「…化け物とでも呼びたければ好きにしてください、自覚はあります」

「はぁ…小娘のくせにホントおっかねぇ女だよ、お前は…チウ…いや、チサメ・ハセガワ」

瞬間、私は目を見開く。

「…いつから?」

「一週間ほど前かな、ナギ…いやネギの野郎が物陰で変身しているのを目撃してな…それで色々嗅ぎまわった成果だよ」

そう言ってトサカは悪い笑みを浮かべる。

「で、その過程で浮かんできたテメェに似たネギと連名の賞金首のヒューマンの名前でカマかけてたった今確定したって訳さ」

「…要求は?」

ミスった…ヤる…か?

「…ナギの奴隷化…のつもりで脅迫もしている…が、アコだっけか、あの女奴隷のせいでしらけちまった。だから特にねぇよ…単に答え合わせがしたかっただけさ」

「そうか…まあドルネゴス氏の手前、稼ぎ頭をメセンブリアに売るなんてできねぇとは思ったけどな」

「だから脅迫してナギの奴隷化だよ…まーそれがわかるような奴なら金で始末つけるだろうけどな」

クツクツとトサカが笑う。

「まーネギの奴なら私ら人質にされたら奴隷化位呑むわな…」

「おっ、わかってるじゃねぇか。昨日の奴の反応もソレだったぜ…アコの奴に邪魔されちまったけどな」

「あーって事はまさか亜子の奴、ナギの正体知っちまったのか?」

「ああ、そんな感じだったな」

「…そうか…アキラあたりにフォロー入れさせるしかねーなぁ…」

こーなったら私に打てる手はもうない。

「多分、もう入ってるぜ?今朝、世迷い事をぬかしに来た時、アキラとかいう女奴隷も一緒だったからな」

「…世迷い事?」

「ああ、自分をナギの身代わりにしてくれ、何でもするから、だとさ」

「それは…アンタだからまだアリだが自殺と同義だなぁ…」

「フンっ、アコと言いテメェと言い俺の何を知っているって言うんだよ」

と、トサカが鼻を鳴らした。

「悪ぶってる割にゃ、案外真人間…って程じゃあねぇがクズにはなり切れない男…かな」

「ぐっ…そこはもうちょい褒める所だろうがよ」

「真人間が脅迫なんてするかよ」

「ええい、もういい!で、本題は、だ。テメェ、なんで拳闘士なんてやってる」

「…今更ソレか?金欲しさだよ、知っているだろ」

そう言って私はおちゃらけてみせる。

「ああ、オトモダチを解放する為のな…だがその為に命がけの戦いに赴く柄じゃねぇだろう、テメェ…特に今日の試合は命がけの死闘だっただろうに」

「んー正直、そこを突かれると痛いな…まー幸い、大抵の拳闘士より強い自信はあったし…ラカンのおっさんとの試合も実践稽古だと思えば、しくじれば死ぬかもしれない程度のリスクは何時もの事だからな」

実際問題、命の危機度で言えばマスター相手の実践稽古と何ら変わりはなかったと思う。

「あーお前の師匠、そーいう奴だったっけ…闇の福音並におっかねぇとか」

「ああ、と言うか正体ばれたからついでにばらすけど、私らの師匠、闇の福音本人な」

「ぶっ」

流石のトサカも予想外だったらしく、私の言葉に噴出した。

「才能と運と師匠とに恵まれて血反吐吐いて頑張った結果が私であり、ネギって訳さ」

「フン…だがその化け物の片割れも伝説の化け物にゃ届かなかった、と…で、ナギの奴の勝算はどーなんだよ」

「…昨日時点での勝算は私と大差ない、決め手に欠けるけど勝算ゼロと言うほどではねぇ」

…と、思いたい。

「オイオイ…駄目じゃねぇのか、それ」

「幸い、ダイオラマ球をとある貴人から借りているから一週間分程度は時間がある…その間に切り札が用意できるか否か…って所だな」

「一週間って…無理じゃねぇのか?」

「ネギはそれを可能にする天才だよ…この世界が物語なら主人公の筆頭候補さ…いろんな意味でな」

いい意味も悪い意味も運命さえも含めて。

「はぁ…俺からすりゃあテメェもナギも大差ねぇんだがな…ま、いいや。もういいぜ、しっかり休めよ」

そう言って、トサカは去っていった。

 

 

 

「千雨さーん?何やろうとしたんですかぁー?というか、何やっているんですか!」

「ハイ…ごめんなさい」

疲労困憊の体を引きずって風呂で汗を流した後、私は聡美からお説教を受けていた。

「まったく…ラカンさんに勝つべき理由もありますし、無茶をするのは仕方ないですがー無理の更にその先までやっちゃって良いって事ではないんですよーアレで自爆してたら泣いちゃいますよ?

しかもそれで代わりにしたのがエヴァンジェリンさんから禁じられている高位攻撃魔法の取り込みとか何を考えているんですかぁ?なんです?後追い自殺がご希望ならこの場で心中します?私はかまいませんよ?」

そう言いながら聡美には珍しく、据わった眼で見つめてくる。

「やめてくれ…私が悪かった…だから…」

「本当に…最後の最期に使う為だろうって見逃した機能を闘争に酔って使おうとするなんて…本当に…本当に仕方がない人です…せめてしっかり休んで頂きますよ…頑張ったご褒美だとかではなくて治療ですからね」

そう言って、聡美は衣服を解いて行く…

「イヤ…あの…ナギの試合…」

「あんな結果のわかりきっている試合より、治療が優先です…ほら、千雨さんも」

正直、回復まで時間がかかるにせよ、魂の疲弊レベルの侵食で済んでいる筈なのでそこまでしてもらう必要はない…のだが

「う、うん…」

私は目の前の据え膳に飛びつく事にして、私も衣服を解いていき…素肌を合わせての共寝を楽しむことにしたのであった。

 

 

 

「千雨さん、ハカセさん、協力してほしい事があります」

その夜、ダイオラマ球に向かう途中で私たちはネギにそう言われた。

「どうした、ネギ、なんか思いついたか」

「おかげさまで…何とかラカンさんに勝てるかもしれない道筋がつきました。その為にお二人に協力をお願いしたくて」

「その言い方からすると雷天大壮の二重装填の仕上げ…だけじゃないんだな?」

私の問いにネギはうなづく。

「はい、千雨さんの試合で確信しました。アレだけでは試合にはなっても決定打が足りないと…強化・収束済みの千の雷を浴びてピンピンしている人相手に速度重視の術式兵装だけでは火力が足りません」

「だな…私はそれを見越して火力重視で挑んで…ぼろ負けしたけど」

「禁呪まで使いましたねー」

「ハイ…それで新呪文を開発して対抗しようと思うんですが、その開発プランが二つありまして…」

そう言ってネギは比較的容易な…それでも、納期一週間とか言われたら普通は発狂する…千の雷を雷の投擲と融合させて投擲、千の雷を体内から炸裂させる魔法の青写真と、開発が極めて困難な敵弾吸収の魔法の概念を説明した。

「成程―それらの開発支援を私達に依頼したいというわけですねー」

「はい、優秀な魔法学者でもあるお二人にご協力いただければ…と」

「フム…戦闘魔法は専門外だけれども、やってみようか」

そうして、私たちの共同研究が決まった。

 

 

 

「時間が足りんっ」

ダイオラマ球外で空が白み始めたであろう頃、融合魔法と雷天大壮の二重装填状態での連続雷化までは完成した。しかし、敵弾吸収は骨格まではできているモノの完成させられる気がしない。

「そうですね…お二人のおかげで融合魔法…巨神ごろしは完成しましたが…」

「そーなると―エヴァンジェリンさんの巻物でも使いますかぁー?」

「…そうだな、あれの中なら主観時間はさらに加速できる」

「しかし、アレは一人しか入れないのでは…」

と、ネギが聡美の提案の問題点を指摘する。

「だが、今の体制で開発を続けても10倍加速じゃ間にあわない、あの巻物は確か最大72倍は行けると聞いているから…あれの中でネギ、お前が一人で開発するんだ」

「え…でも」

「一緒に仕事して分かった。開発力はお前が頭抜けて高い、力の王笏での支援含めても、だ」

「そうですねー単純計算、開発時間7倍で開発力が6掛け位だとしても―4倍以上の時間ができる計算になりますー」

「と、言う事だ…テメェの試合だ、仕上げはテメェががんばってみろ」

「…わかりました、やってみます」

そう言って、ネギは覚悟を決めた顔で頷いた。

 



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92 拳闘大会編 第10話 決勝

「それでは決勝戦…開始!」

若干のトラブル…遅刻ギリギリまで切り札が完成しなかった…が発生し、危うく変装しておっさんと再戦する可能性も出たが、若干予定から遅れたものの無事に決勝戦が始まった。

ネギはアーティファクトを展開し、千の雷…おそらく術式兵装用…を詠唱開始。一方ラカンチームはカゲタロウが影の刃でネギの詠唱を妨害、に対してコタローが防御に入って追撃の太い槍状に編んだ影での攻撃も右手一つではじいて見せた。その間にラカンのおっさんはアーティファクトの斧槍に気を装填…高速投擲されたそれは闘技場の床を貫いて大爆発を起こした…昨日使われていたら防御は不可能だっただろう、強化状態ならよゆーで避けられるとはいえ。しかし、ネギはアーティファクトでハマノツルギを召喚、その攻撃を防いで見せた…つーか、ネギが防いだ上でその余波だけであの爆発ってもろに炸裂していたらヤバかったんじゃなかろうか。現にテオ様が全世界中継にもかかわらず素の口調でおっさんに怒りをぶつけていたし。

そして土煙の中から現れたネギの反撃、千の雷は遅延呪文に入れたらしく、素の時状態でハマノツルギを持って突撃、おっさんの大剣投擲を切り払いつつ肉薄、おっさんの剣を熱したナイフでバターを切るが如く真っ二つにした。その後、なぜかハマノツルギを仕舞うと刹那の『ヒ首・十六串呂』を召喚し、おっさんを包囲するというデモンストレーション…?を始めた。まー当然ただの誘導小刀であるのでおっさんに口でキャッチされていたが。そうしてネギはラカンのおっさんから女の子の力を借りまくりとの煽りを流して気弾と『千の顔を持つ英雄』の無力化を宣言…素手による白兵戦を提案し、おっさんは素手のが強いぜ、と応じた。

続いてネギは遅延呪文から千の雷を解放し、術式兵装として取り込み、コタローとカゲタロウが激しめにやり合っているのを尻目におっさんとにらみ合う…まずは単装填で行くらしい…刹那、ネギの拳がおっさんの顔にめり込むのを皮切りに雷速瞬動によるヒットアンドウェイでおっさんをフルボッコにし始めた…とりあえずは初手で対応される事態にはならなかったようで何よりである。短い会話の後に空に打ち上げられ、打ち下ろされるおっさん…に、千の雷の解放攻撃で追撃、それだけでは届かない事を私が実証しているので連続でゼロ距離から雷の暴風をかました…と同時にそれに気を取られたカゲタロウを獣化したコタローが撃破した。

そして司会娘による解説が挟まった後にカウントが始まる…

「これで…終わり?千雨さんがあれだけやって届かなかったのに?」

「…まあ大呪文の二連撃、それも二発目はゼロ距離からのほぼ不意打ちとなれば決まってもおかしくはないが…おっさんだからなぁ…」

「と言う事は?」

「…多分これからが本番」

と、解説とは真逆の会話をしているとカウントが19に到達し…おっさんが何事もなかったかのように立ち上がった。

「くくくく、フフフフ、フフフフフ、ハハハハハ、ハハハハハハ」

「ど、どうしたんでしょうかラカン選手、あ…頭でもぶつけてしまったんでしょうかぁ?」

歓喜とも取れる嗤い声を上げるおっさんに司会娘がそんな事を言う。

「ハハハ、アハハハ、フゥフフハ、ヌフウフハ、ウハハハハ、ワーハッハッハッハッハハ、はははハはははハはははハはははハはは」

そして、ひとしきり笑ったおっさんは、昨日私に見せた自称本気とやらと同等かつ異質な気合…本気の種類が違うな、アリャ…を纏うと構えをとった。

 ネギが再び千の雷を纏うと同時におっさんの右ストレートが炸裂、同時にカゲタロウも復活し、コタローを貫いた。雷速瞬動でネギは離脱、おっさんと距離をとるがおっさんは追撃する…ああ、完全に見切られたなあれは…少なくとも先行放電か電位差を認識して瞬動を始めていないと間に合ってないタイミングである。そしてついにネギは追い詰められ…接触状態から気を伴う物理攻撃を喰らって吹っ飛んだ。

ラカンのおっさんが解説を始める…曰く雷速と言っても瞬間的な事であり、思考加速を伴わないそれは技のつなぎ目や出がかりをつぶせば対応できる事、曰く何らかの探知手段…おっさんの場合は空気のカンジ…で電位差を読めば経路予測は可能だし、先行放電迄伴っているのでおっさんクラスからすればテレフォンパンチも同然である事…まあ私がやった対応手段そのものではあるが出し惜しみが災いしたか…?と思っているうちに吹っ飛ばされたネギがおっさんがいつぞや開発していた『エターナル・ネギフィーバー』に焼かれ…かけてハマノツルギで防いだが、右ストレートで打ち下ろされ…地に伏した。

「ありゃあ…ネギせんせーやられちゃいましたね」

「…うん、色々用意した本当の切り札使う余地あるかなぁ…アレ」

と、聡美と話しながら観戦している間にもカウントが進む。途中、立ち上がりかけるも吐血して立ち上がれない…そんなネギにおっさんが声をかける。試合を終えて手当てしないと手遅れになるぞ、俺の拳を喰らって動けてるってだけでも免許皆伝もの、ここでやめにしよう…と。100%のネギと戦ってみたかったのだ、と。結果は期待以上で、特に雷速瞬動は良かった、世界でも初見対応可能なのは十人くらいしかいない…と、全国中継で破ったから八十人くらいに増えたかもと付け加えて。

「ウハハハハ、落ち込むんじゃねぇぞ、この俺様に本気を出させたんだ。そんな奴はこの世に5人いるかどうかだ、昨日のチウ嬢ちゃんを合わせてもな。いやいや、ホントに驚いたぜ、まさかここまでやるとは思わなかった!さすがあのバカの息子だよ、胸張っていいぜ、ぼーず!」

そう、無自覚にネギの闘争心を折るような、言葉を重ねていく…ここまでならばここで試合は終わっていたかもしれない…が。

「ああ、そうそう、俺に勝てたわけじゃねぇし『一人前の男』ってのはなしだかんな。お前の母親の昔話はまた大きくなってからって事で♪」

恐らく、その言葉がネギの闘争心に火をつけた…手を叩きながらお開きにしよう、早く手当てを受けないと死ぬぞというラカンに向かってネギは怒りを向けた。

「ふざけないでください!」

そしてネギは闇の魔法を活性化させながら立った…立ってしまった。

「あちゃぁ…闇の魔法の侵食がやばいなぁ…アレ」

思わず、私は独り言ちた。そしてその直後、ネギに続くようにコタローも立ち上がり、試合継続の意思を示した…満身創痍で、血塗れの姿で。

 

「捨て駒役スマナイ!!」

「へっ 裏稼業でな!昔からこーゆー脇役仕事は…慣れっこやで!」

ネギとコタローはそんな会話を交わしてコタローがラカンのおっさんとカゲタロウに吶喊する。

「むう…よかろう!ではこちらも全力でもってお相手致す」

と、応じるようにカゲタロウは私との戦いで面制圧をした時の様に数多の影刃を召喚・構築し、対応する。

「千の影精で編まれた千の槍!避けられぬぞ、コジロー殿!」

対するコタローは…なんとハマノツルギを咥えた完全獣化状態…狗音影装だったか…で影刃を無効化していた。さらに吶喊するコタロー…カゲタロウは影布による障壁で防ごうとする…が、この場合、それは悪手だ。案の定、ハマノツルギで影布障壁を突破したコタローはカゲタロウを壁に縫い付けてしまった。

「へ…残念やったな、カゲちゃん。この剣は魔法使い…特に俺達みたいな精霊使いには天敵やねん」

「やるじゃねぇかコジロー…けど詠唱中のぼーずが無防備だなッ」

と、おっさんがネギにかかっていく…のをコタローは黒球を吐いて爆ぜさせ足止め、さらにタックルから肉弾戦に持ち込んでいった。が、一見善戦して見えたのもつかの間、あっという間に逆転され右ストレートを喰らってしまった。一応コタローはそれに耐えたが、その後千の顔を持つ英雄を召喚したおっさんに10秒ほどで剣でめった刺しにされてしまった…が、どうやらネギが要求した時間稼ぎにはぎりぎり耐えきったようである…その証拠に、ネギは千の雷の二重装填…『雷天大壮2(仮)』を終え、狗音影装の解けたコタローとバトンタッチした。

「さて…切り札はすべて準備できたようではあるな」

「そうですね、敵弾吸収陣含めて準備万端のようですね」

恐らくは協力した私達にだけわかる切り札群の用意が完了していた様子はばっちりとらえている…後はそれがうまく決まるか、である。ネギが動く…攉打頂肘から始まり、常時雷化によって食らいつき、インファイトに持ち込んだ…並の魔法使いなら一撃で倒れる雷打撃を幾百に及ばんだけ打ち込んでいく…がラカンのおっさんは倒れない。まー想定通りではある。

「へへっ、罠にハマりましたね?ラカンさん」

と、ネギが言うとラカンのおっさんはコタローの影沼に足を取られていた。ネギは距離を取り、これぞ最後の切り札でございと言わんばかりに千の雷と雷の投擲を融合させて巨神ころしを形成、力比べに持ち込むかのような構えを見せた。案の定ラカンのおっさんは喜んでそれに乗ってきた…それこそが本当の罠であるとも知らずに。

闘技場に渦巻く魔力と気…そしておっさんは最大出力と思われる気を乗せた右ストレート…ラカンインパクトを放った…ネギの思惑通りに。ネギに迫る巨大な気弾…それにネギが手を翳すと巨大な魔法陣が出現し、受け止めて…吸収して見せた。巨神ころしを遅延呪文に入れ、おっさんに殴りかかるネギ…ラカンパワーとでも呼ぶべきソレをのせた拳は遂にラカンのおっさんの防御を破り、血を吐かせた。そして、ここが唯一の好機とネギの全力攻撃が始まった。ラカンパワーによる拳でおっさんを殴り倒した次は二重装填された千の雷の解放による雷撃突進…これにより障壁際に追いつめた。続いて千に届かんばかりの魔法の射手による雷華崩拳、そして単なる見せ札ではなく対ラカン火力の切り札の一つでもある巨神殺し…コレがおっさんを貫通、そして解放された千の雷が内部からおっさんを焼く…この連撃についに闘技場障壁は耐えきれず、砕け散ってしまった。

 土煙が晴れるとそこには巨神殺しの軸である雷の投擲に貫かれたおっさんがぐったりとしていた。その様子に司会娘はネギ達の…ナギチームの勝利を宣言…し、会場もその雰囲気に包まれた…のだが…おっさんは突然復活するとネギをぶん殴り、敵の生死を確認せずに気を抜くという致命的ミスを叱責し、同時にネギに惜しみない称賛を贈った…大量吐血しながら。

「うわぁ…やっぱただのバグキャラじゃねぇか、あのおっさん」

「そーですね…巨神ころしは直撃すれば理論上大公位の悪魔でも送還するんですけどねー」

そりゃあ、体内から千の雷を喰らえばどうしようもない…私だって死ぬか瀕死になる、闇呪紋装填前提で。そんなラカンのおっさんはネギにお前は一人前だと太鼓判を押すともっとやろうぜ、と問いかける。そして、ネギはそれに応じて雷の暴風…最後の保険らしい…を術式兵装として装填して満身創痍なハズのおっさんと殴り合いを始めた。笑いながら殴り合いを続けるネギとおっさんに会場からは温かい拍手が送られ、そんな中続いた殴り合いは…引き分けという形で決着を迎えた。

「やれやれ、ですねー」

「そうだなぁ…計画はプランBか…まあ半額稼げたなら良しとしようか…」

そして、その結末は計画が最短ルートを通れない事を意味していた…一部メンバーは引き続き魔法世界に残留…性格的に全員残留してグラニクスで金策という流れになるだろうか。

 

 

 



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93 拳闘大会編 第11話 戦い終わって

お久しぶりです、まあ色々ありまして投稿せずに書き溜めだけしていました。
36巻末ぐらいまで書き溜まったので1日1話で暫く毎日投稿します。


「ネ…ナギさーん、お疲れ様です、ナギさん!」

「スゴかったよ、ネ…ナギさん!」

試合を終え、関係者(私と聡美と奴隷3人組とカモとクママチーフとバルガスさん…に少し離れてトサカ)でネギ達の控室を訪ねていた。

「わ、ハダカ」

「キャ」

「あ、ス、スミマセンッ」

何か、『いつもの』の逆であるな、コレ。

「本当にスゴイ試合だったよ、心動かされた。拳闘も魔法も詳しいことはわからないけど、君が本当にすごいというのはわかる…」

「ハ、ハァ」

アキラとネギがそんなやり取りをしている脇では、夏美がコタローに声をかけていた。

「よ、よう無事かよコタ…ジロー君」

「何やねん、村上さん」

「が…がんばったんじゃん?ま…別にかっこいいとかは一切思わなかったけど?脇役は脇役なりに仕事したってゆーか?お疲れ様みたいな?」

「はぁ?」

まーコタローに夏美のツンデレが通じる訳もなくそんな反応を返すコタローだった。

「ちょっとアンタ最近オカシイで、口調も変やし、頭打ったか?」

「うっうるしゃいなッ」

「「「「アハハハ」」」」

まあ、傍から見ていると痴話げんかにしか見えないそれは盛大に笑われていたが。

 

「しっかしよくやったよ!いや、アンタならやると思っていた!今日はパーッと興行成功打ち上げパーティーだね!チウちゃんも主役の一人だから逃げるんじゃないよ!」

と、クママさんとバルガスさんがバンバンとネギの肩を叩き、クママさんは私を抱き寄せる。

「結果的には引き分けと負けだったけどね、なぁにあの伝説の英雄が相手だ、いつぞやチウちゃんとの実践稽古を見た時から思っていたけどただもんじゃなかったね、あんた達、本当に大したモンだよ」

クママさんのその言葉に、ネギは亜子と顔を合わせて口を開いた。

「あ…その…亜子さんごめんなさい、勝つっていう約束守れなくて」

「な…何言うとるん、ナギさん。ナギさんはうちらの為にあんながんばってくれて…うち、それだけで…本当に十分や」

「亜子さん…で、でも引き分けですから賞金も半分の50万しかもらえなかったし、皆を解放するにはもっと…」

「なーに、また稼げばいーよ!パルにも相談してさー」

「そーですねーまあその場合、今回のオスティア滞在時にー帰還というルートはつぶれてしまいますがー」

確かに、50万元手にアイツの漫画をこちらの世界に持ち込めば大儲けできそうではあるが…その場合、今回のオスティア行で一座を離脱、現実世界への帰還という話はなくなるのである。まあ、最悪来年に同じ事をすればいいという案もなくはないが…

 

「うぃース」

金策の話をしているとそんな声と共にラカンのおっさんが現れた。

「いよぉ♪」

「ギャアアァ出たぁあッ人間核兵器」

「何やそれ」

と、夏美がよくわからないネーミングの呼び名と共にコタローの陰に隠れる。

「ほほぅ?」

その様子に気付いたおっさんはおふざけを始めた。

「ホレホレ人間核兵器だぞーッ」

「いやぁぁあッオカされるぅう〜」

そんな感じでおっさんが夏美を追い回し始めた。

「やめんか、おっさん」

暫く観戦していたが、かわいそうなのと話が進まないのもあって私は回し蹴りをかましてラカンのおっさんを止めた。

「で、何の用です、ラカンさん」

「ホレ」

「え?」

ネギの問いにおっさんは巨大な革袋を放り投げてよこした。

「これは…」

「賞金の残りだ、やるよ」

「ええぇーっ何で!?」

「金にがめついおっさんが!?」

「医務室に連れて行かないと――」

「ったく、言ったろ一人前と認めるって」

私達の反応におっさんは苦笑いをしてそう答えた。

「最後の殴り合いは紅き翼の一員としての意地と俺の趣味によるいわばオマケ、師匠としての俺としちゃああの敵弾吸収陣を喰らった時点でお前の勝ちは認めてんだよ。本当に見事だったぜ、俺から教えるコトぁもうねぇな、弟子卒業だ」

「ラカンさん…」

「お前がこの試合に投入した新呪文の数々…『雷速瞬動』『常時雷化』『融合呪文』に『敵弾吸収陣』、どれをとっても一流魔法大学の教授が腰を抜かすような一級品だぜ。しかも、よもやその一級品の切り札をさらなる奥の手の誘い技に使うとはな、なんつー贅沢。さすがの俺様も気持ちよくハメられちまったぜ。リカードに言わせりゃ軍ですらアレ全部を開発するには数年かかるそうだぞ」

おっさんがそんな賞賛を送っているとエヴァのコピーが現れる。

「――フ、私も驚いたぞ、ぼーや」

「あ」

「私の巻物の中で新呪文の開発をするとは聞いていたが、まさか敵弾吸収陣をあんな短時間で実用化するとは思ってもみなかったぞ、途中までサポートを受けていたとはいえ…な」

そう言ってエヴァのコピーはちらりと私を見た。

「そこの姉弟子が言っていたぞ、貴様はマギステル・マギにするよりも魔法研究室にでも放り込む方が良いとな。まさに『天才少年魔法使い』…闘技場ではなく机の上…新たな魔法理論と魔法技術の開発の場こそが貴様の独壇場というわけだな…見事な解答だったよ、ぼーや…それに比べて姉弟子は…いや、まあ良いか、ラカン相手にしてはよくやった」

「い、いえ、そんなマスター、僕の独創は『雷速瞬動』くらいで、後は千雨さんやハカセさんの力を借りてマスターの理論を後追いしたに過ぎず…」

と、ネギは謙遜するが、珍しくべた褒めである。

「スゲー兄貴、兄貴とおっさんにホメられまくってるぜ」

「まーついに超一流に仲間入りだからなぁ…完全に追い抜かれたよ」

「…でもマスター、ラカンさん。今回この方向性に気付けたのは僕の力じゃないんですよ」

「ほぉ?」

「僕がこの答えに気づけたのは――あそこの亜子さんと、扉の影のトサカさんのおかげです」

おっ?トサカの奴、何かやったのか?

「誰かのようになるんじゃなくて、もしかしたらスゴくはないかも知れない自分のままで…それでも主役は自分だろって。きっと僕一人で悩んでたら答えを見失って負けていたと思います。亜子さん、トサカさん、ありがとうございます。それに千雨さんとハカセさんも研究へのご協力本当に感謝しています」

「ナ…ナギさん、そんな…」

「ケッ」

「おう」

「お気になさらずー」

ネギの謝辞に各々が返事をした。

「まあ、ただ、そのー…正直この方向性はどうかと思っているんですけどね、主役っぽくないし…」

「あー確かになぁ!」

「あー」

「そうかもねぇ」

「インテリメガネは脇役だよね」

「うんうん」

「まー王道少年漫画って感じではないよな、いい悪いとは別にして」

「そうですかー?私はかっこいいと思いますよー?」

「開発力と開発速度が武器ってなぁ?どう考えてもハカセポジションやで!」

「ガハハハハ、確かに主人公っぽくはねぇわな!最終回3話前に敵を食い止めて死ぬキャラだわ」

「ラカンさん、ひどいです!」

と、ネギの自嘲にみんなが乗って場は大いに沸いた。

 

「フム…私としてはもう暫く君たちに拳闘士を続けて欲しかったのだが…目的が達成されたのであれば仕方がないな」

ドルネゴス氏に亜子たち三人の解放の申し入れと拳闘士としての活動を休止する事を伝えた返事がそれであった。

「ハイ…短い間でしたが、本当にありがとうございました」

「拳闘団に入れてもろうたおかげでえろう助かった、サンキューな」

「短い間でしたが、本当にありがとうございました」

それぞれそう言って私たちは頭を下げた。

「うむ…元気でな、ナギ、コジロー、チウ…ああ、三人娘も含めて祭りの間は宿舎も使い続けて構わないぞ…特になければ下がりなさい」

こうしてドルネゴス氏との会談は終わった。

 

花火を背にした闘技場、皆と合流し、テオの仲介で亜子たち三名の奴隷解放の手続きが取られ、そして…

「それでは興行の成功を祝して…」

「「「「「「カンパーイ」」」」」」

優勝記念パーティーが開かれた。

 

「アレ?マスター、おっさん、ネギの奴見なかったか?」

厄ネタ…魔法世界のちょっとした秘密とその終わりについて情報共有の為のアポを取りにネギと接触しようとしたのだが、ネギがいたはずのバルコニーにはマスターのコピーとラカンのおっさんだけがいた。

「ん?ぼーずなら医務室だぞ、どうかしたのか?」

「ああ、おっさんの映画に埋められていた厄ネタの共有をちょっとな」

「厄ネタ?ドレだ?」

と、おっさんが聞いてくる。私は周りを確認し、他に人がいない事を確認していった。

「あーおっさんは多分わかっていると思うし、マスターは興味ないと思うけど…ココが火星の異界で…始まりの魔法使いの手で始まった、って話?」

「ああ、ソレか。どこまで読めた?」

「…逆に聞くけど何処までおっさんは知っているんだ?」

「んー秘密、でも答え合わせ位はしてやるぜ?」

と、おっさんはひょうひょうと答えた。

「…正直、確定事項と仮説としての理解は混在しているな…まーこの世界の中枢が火星のテラフォーミング企んでいるんだろうなってのは」

「…オイ、待て、何がどうしてそーなるんだ」

「ん?違うのか?超の未来情報でもそうなっているし、魔法世界の崩壊を止めるにはソレが一番単純明快だろ?」

と、言いった所で私は両肩をおっさんにむずんと掴まれた。

「チョーっとおっさんとお話ししようか?嬢ちゃん…もしかしたら本当に世界の運命が変わるかもしれん」

「は?ちょ?まさか…」

ドデカ核地雷を踏んだやもしれん…と思いつつ、おっさんの答えを待つ。

「そうだ、残念ながら俺たち魔法世界人達は異界崩壊を止める手を持っていなかった…今、この瞬間までは、な…ほかにこの話を知っているのは?ハカセ嬢ちゃんは知っているな?他は?」

「い、いや…誰にも話してないけど…」

「うっし、なら…俺の頭じゃあ詳しい事を理解できねぇ…そこで天才少年魔法使いの出番だ…と言う事で…」

「まて…大事な話なのは分かるが、それは戦士の休息を妨げてまで直ちにする必要があるのか?」

「あーいや…急ぎはするが別に今日中に、という話じゃねぇな」

「ならば明日でも良かろう…千雨、そう言う事だ、今は宴を楽しんでおけ…今夜位ぼーやもゆっくり寝かせてやるんだ」

「あ…ハイ」

と、言う事で微厄ネタだったはずの核地雷ネタは明日に持ち越される事となった。

 

 



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世界の秘密編
94 世界の秘密編 第1話 クルト・ゲーデル


宴の後、闘技場で夜を明かした私達はハルナの金魚に集結しつつあった。

「遅いですねー茶々丸たちー」

「そうだな…予定では昨夜のうちに引き上げている筈なんだが…」

誘導を兼ねて桟橋の根本で斥候部隊を待っている私達だった。すでに、斥候部隊以外は集結している。

「あ…アレですかね?」

「ん…だな」

と、そう時間が経過する前に斥候部隊らしき一団…と言うかミニ茶々丸と小夜がいるから確定…が近づいてくる。

「お帰り茶々丸、皆さんもお帰りなさい」

「ただいま戻りました、ハカセ、千雨さん」

「うん、今戻ったよー舟の場所は変わってないね?」

「おう、特にトラブルはねーよ。お前らが最後だ」

そんな会話を交わしながら皆で舟に近づいていく。

 

「おーい、ネギ、奴ら戻って来たぜ」

舟の間際、私が少し先行してネギ達に斥候部隊の帰還を知らせた。

「え!?」

「ホンマか」

「せっちゃん!」

「皆さん、お疲れ様です」

「よっ」

駆けだした木乃香とネギを追って甲板に戻るとそこには刹那以外フードを外した面々がいた。

「コラ、舟に入るまでローブ被っとけ…一応賞金首なんだからな」

「まーまーいいじゃん、他の舟からも大分離れているんだし…さ、それじゃあさっそく報告会議に移ろうか」

 

そして斥候部隊の面々はローブを脱ぎ、私たちは船内に入って報告を聞くことにした。

「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!

これが我等『白き翼』斥候部隊の探索結果だよ!」

そう言ってハルナは書き込みがなされた自作の地図を広げ、報告を始めた。

内容を要約すると、ゲートポートの位置確認は完了、加えて夕映とアーニャらしきバッジ二つの反応を確認…と同地点にフェイトの部下を確認したらしい。おそらく、人質として捕縛されていると考えられる…と。

その報告を受けてネギは、『全員の無事帰還』が目的である事を再確認し、『今日明日にでも世界を滅ぼす』のでもない限り、戦闘を極力避けて隠密潜入作戦での二人の奪還とその後のゲートから麻帆良への帰還を宣言、30時間後の作戦開始までの休養を指示した。

 

「で、ネギ…フェイトたちが『今日明日にでも世界を滅ぼす』という可能性は割とあると思っているんだがなぁ?私は」

舟の奥、私はネギとそんな話をしていた。

「…そうですね、千雨さんのおっしゃっていた魔力だまりの形成時期にもよりますが、それによって世界を終わらせる気である可能性は十二分に考えられます…正直、戦闘・参謀組の皆さんには今晩それを明かしてしまおうかとも考えています」

「ん…計算に入っているなら構わねぇよ…それと今朝も言ったが今日の夕方、ラカンのおっさんとちょっとしたミーティングするからな、覚悟しておけよ?」

「ええっと、それは構わないんですが、議題は何ですか?」

「今ここではちょっとした厄ネタ…だったはずの核地雷かもしれない世界の秘密…とまでしか言えねぇなぁ…そこらで聞き耳立てている連中もいるし…ああ、希望者は参加OKっておっさんからは許可貰っているから参加していいぞ」

と、聞き耳を立てているに決まっている連中…朝倉やハルナ…に言った。

 

 

 

「ゆ…え…?ゆえ…」

闘技場への帰路、私たちは制服らしき姿の夕映…と思われる人物に遭遇した。

「ゆえーゆえっ!無事だったんだね…!」

「あっ、バカッ」

と、止める間もなくノドカは夕映らしき人物に飛び掛かり、ぎゅっと抱きしめてしまった。斥候部隊の報告を考えれば、こんなところにいる筈がない…他人の空似の筈なのだ…が

「心配したよ…無事で本当に良かった…!」

「…のど…か?」

…その人物は…ノドカの名を呼んで返した。どー言う事だ…バッジだけ誰かの分が拾われていた…?それか…まさか…誰かがニセモノ…?と、若干の理論と発想の飛躍を伴った思考にたどり着いた時、アスナも声を上げた。

「ゆ、夕映ちゃんどーしたのよ、一体!?下の廃都に捕まってると思ってたわよ」

「え…あの…」

「夕映、今までどうしてたの?あれー?その制服は何ー…?」

「あ…あの、あなたはどなたですか?」

「!?ゆえ…?」

やはり他人の空似…いや、そうなるとノドカの名を呼んだことと整合が…

「何なんですか、あなたは。白昼堂々見ず知らずの他人にいきなり抱きつくなんてヘンタイですかっ」

「あ、あの…いえー…」

「…連れがすまない、他人の空似だったようだ…行こう」

「あ…ハイ…でも…」

と、私はフォローに入るが…少し遅かったようである。

「おーい、何やってるの委員長…ってアレ?」

「お嬢様ッ」

「ちょ…委員長、そいつら指名手配犯!」

「えっ…何ですって!?」

「しまった!こっちから話しかけたから認識阻害メガネの効果が薄まっちゃった!?」

ヤバい…具体的には私、今も大人モードであるのに指名手配犯を連れと言ってしまった。

「ど…どこかで見たコトがあると思ったら、ゲートポート同時爆破テロ事件の指名手配犯!逮捕します!」

と、装剣した夕映?の連れはノドカを捕縛結界弾で捕まえてしまった。

「本部、本部、こちら休憩中のセブンシープ分隊、手配犯発見!映像を送ります、至急応援を…!?そんな、結界弾を素手で!?」

応援を呼ばれてしまったが、その隙にノドカをネギが解放…私も戦闘加入してもいいが…ここは逃げるか?

「ま、待ってください、アリアドネー騎士団の方ですよね、僕たちは争うつもりは…」

「犯罪者が何をヌケヌケと問答無用ですッ!!コレット、ビー!いきなさい」

と、後から来た二人がネギに襲い掛かる…流石騎士団員という手腕ではあるが…ネギに投げられて…

「ちょ、ネギ、乱暴は…」

くるりと着地した…と言うかさせられた。

「お、落ち着いてください、ひとまず話を…」

とのネギの言葉に二人はプライドをいたく傷つけられている模様である。

「何をしているんです、装剣なさい、二人とも。最大出力で仕留めますよ」

「りょ、了解!」

と二人も装剣し、ネギに魔力を向ける…となるとネギのとる行動は…

「ひゃっ」

と、私は聡美を抱き、咄嗟に距離をとる…そして案の定ネギは武装解除を行使して闇の魔法の効果で暴走させた。

「こ…こんのバカネギは!あんたは脱がせないと気が済まないのー!?」

「わーん、スイマセン、力の加減がうまくできないみたいでー」

 

…と言う事で一応場を収めた後、ネギたちはカフェで話をすることになり…私達は近くでそれを観察することにした。

「「「ええーっ!?記憶喪失!?」」」

「「成程…そー言う事か」ですか」

と言う事で、夕映?は記憶喪失らしい。

「で…でも何でそんなことに…」

「それはその…」

「ぶっちゃけ私のせいなんだけどー…」

と、コレットという騎士団員…候補生らしいが口を開いた。

 

「そうですか、忘却魔法暴発の事故で…」

「ですがー時間的にはゲートポートの事件と一致しますしー」

「間違いなさそうね!」

「じゃぁ、やっぱり…本物の夕映なんだね…無事でよかったよーゆえー…みんなで日本に帰ろう、日本に帰れば記憶もきっと戻るよ。覚えてない?宮崎のどかだよ、図書館探検部で一緒に…」

ノドカが夕映?の手を取ってまくし立てる。

「お待ちなさい!」

と、委員長と呼ばれた人物…セブンシープだったか…がその手を払った。

「勝手に話を進めないで頂けます?まだそちらのユエさんと同一人物と決まったわけではないでしょう。このユエさんは我がアリアドネー騎士団オスティア警備兵として任務中の身です!

さらに言えば、ユエさんは類稀なる向上心と成長速度で戦乙女騎士団士官候補生として将来を嘱望された人材です…何しろ、素人同然からわずかな期間でこの私を打ち負かすほどに成長した人物ですからね」

「い…委員長」

「そのように、国家にとって優秀な人材をどこの馬の骨ともわからぬ輩にホイホイと渡せるわけがないでしょう、ましてや!

そのユエさんがあなた方の様な犯罪者の仲間であるなど信じられません」

「そ、それは誤解で…」

と、ネギはえん罪であると主張しようとするが…

「問答無用!指名手配犯と話す口など持ちません!さ、いきますよ、ユエさん、皆さん」

とセブンシープは夕映?の手を取り、席を立ってしまった。

「ち、ちょっと待ってください、せめて本人かどうかの確認を…」

ネギが追いすがる。

「どうやってです?状況証拠と似ているだけでは証拠になりませんよ」

「し…証拠…そうだ!これです!」

とネギは仮契約カードを取り出した。

「夕映さんは僕の仮契約者の一人です。貴方が僕達の夕映さんなら僕がこのカードで念話を使えば声が届くはずです。ほんの1分で済みます、お願いします」

「…仕方ありません、1分ですよ」

「ありがとうございます!」

そうして、夕映?は再び席に着いた。

「で、ではいきますよ」

「は、はい」

と、ネギが念話を始めた。

「い、いえ特に大した苦労などは」

夕映がネギの念話に応える様に返事をする…決まりかな?

 

ボンッ

 

唐突に夕映がゆでだこ状態になる。

「ちょっとユエーうわ真っ赤じゃん、熱がーっ!?」

「あなた何を?さっさては病魔の呪いを!?」

「おのれテロリスト」

「何もしてませんよ!」

何もしてなくても、何を言ったんだよ、ネギめ…

「だ、大丈夫ですか?夕映さん…あ、あの…夕映さん?」

と、ネギが夕映の頬に手を当てて言う…と、またもや夕映はゆでだこになる…夕映もネギラブ勢だったな、そーいや。

「キャー!?ユエがゆでダコにー!?」

「ユエさんしっかりー!?」

「離れて君っ、君が近づくと症状が悪化するー」

「どんな魔法を使ったんですか、あなたは!?」

…しいて言うなら恋の魔法かな。

「だ、大丈夫ですか?何か思い出しましたか?」

「い、いえ何も…スッスミマセンです…し、しかし…と言う事はつまり…私はこの世界の人間ではなく…」

「はい、現実世界…旧世界は日本、麻帆良学園から来ました」

「…そしてあなたはかの大英雄、サウザンドマスター、ナギの息子…ネギ・スプリングフィールドなのですね」

おや…記憶喪失の割にそこまでわかるか…いや、アーティファクトで調べたんだろう、きっと。

「な…えええー!?なんですってぇーっ!?ナギ様のむすっもごむぐっ」

と、セブンシープは叫び声をあげてコレットに口をふさがれた。

「ほ…本当なのですか」

「はあ…一応…」

そう、ネギは答えるしかなく、そう答えるとセブンシープは顔色を変えた…ミーハーという奴だろうか。

 

「…おや、これはこれは誰かと思えばアリアドネーの名門、セブンシープ家のお嬢様ではありませんか」

…唐突に乱入者が現れる、それはオスティア総督のクルト・ゲーデルと付き人、それにメガロ・メセンブリアの装甲兵だった。

「おや…?それにそちらの少年は…?どこかで見たような覚えがありますが…」

「ゲーデル総督…記念祭期間中、オスティア市内での公権力の武装は我々アリアドネー騎士団にしか許されていないと記憶していますが」

「いやなに…私は幼少より虚弱体質でしてねぇ…恥ずかしながら何人かの部下を連れなければ外出もままならないという有り様で…ごくごく私的なボディーガードのようなものです、お気になさらないでください」

嘘をつけ、嘘を…アンタ相応に強い剣士だろうに…と身のこなしから判断する。

「総督…わ」

「ビー、その子を」

ネギがセブンシープにフードをかぶせられ、奥に下げられる。

「それで?その虚弱体質の総督様が何の用です?」

「いや、なに、どうも理解しがたいのですが…女の子の集団が全裸でアーケードで暴れているという通報が総督府に入りましてね…私の街の風紀が乱れるのを放ってはおけず、慌てて現場に赴いてみたのですが…この全裸の痴女集団、もしやあなた方ではありませんよね」

と、ばっちり顔が映った写真を提示してきた。

「違います!!」

いや、写真まで取られているんだからそれはむしろ悪手では…

「それはよかった、天下の戦乙女騎士団員が白昼堂々路上ストリップ!などとニュースになったらオスティアは一大事です、では調査のためこれは焼き増しして部下に配布を」

「ちょっとーッ!?」

「と、まあ冗談はさておき…」

と、まあ遊ばれてしまうわけで。

「先ほども言いましたが、そこの少年…どこかで見覚えがあるのですよねぇ…さて…どこで見たのか…いや、まてよ…確か重犯罪賞金首の国際手配書で…?いやいや違いますね…

ああ!そうか、思い出しました!なんと君は世界を救ったかの大英雄の御子息ではございませんか!

いや、この地ではこう言い換えた方が良いでしょうか…かつて自らの国と民を滅ぼした魔女、災厄の女王…アリカ・アナルキア・エンテオフュシアの遺児…と!」

…あーやっぱり。私はそんな感情でその男…ゲーデル総督の言葉を聞いていた。とーぜん、公式発表でアリカ女王があの後どうなったか位は調べているし…まあ、最もその結末と矛盾するのだが、この総督の発言は。

「これは意外ですね…ネギ君、これほどの衝撃の事実を告げられてたじろぎもしないとは」

「…推測はしていました、だから…驚きません」

「ほお…10歳の少年が叫びだすでもなく、泣き喚くでもなく、冷静ですね。これは君に対する評価を少々改めねばいけないようだ」

「ですが、あなたは一体何者です?僕の…母を侮辱しようということならただ冷静ではいられませんよ」

「い…いけません、ネギく…さんっ」

そう、ネギは宣言し、魔力での威嚇を行う。それに伴って私も臨戦態勢に移行しようとした。

「待ちなさい!!そこまでよ、ゲーデル総督、今あなたにその子を逮捕する権利はないわ」

「セラス総長!」

と、そこにセラス総長が現れた。

「これはこれはセラス総長、逮捕などとは心外ですね。私はただ総督として市民との会話を楽しんでいただけですよ?

もっとも…尤も貴女の言うようにこの少年が逮捕せねばならないような危険人物ならば私も気をつけねばなりませんねぇ…何しろ、かのJ・ラカンを倒した偽ナギ本人だ。

虚弱体質の私など、睨まれただけで吹き飛んでしまいますよ」

それに対して恐らくセラス総長はネギに対して念話を飛ばし、何かしらを警告した…らしい。

「おやおや、人聞きの悪いことを言う…いや思う。一体何を根拠に?いやいやよかった口に出していたらこれ…問題になってましたね」

そして、ゲーデル総督にその念話は盗聴されてしまったようである。と言うか今更だが、野次馬も排除していないのに街中で衝撃事実連発しまくって良いのか?

「――セラス総長、脇役は舞台袖でおとなしくしていてもらえませんか。」

「なっ…」

「さて、ネギ君、試合は見せてもらった。いやはや、驚いたよ、驚愕したよ、驚嘆したよ、見事なものだ君の才能は千の賛辞に値する。

紳士的な試合の中でとはいえ、あのJ・ラカンと引き分けたのです。君の力は本物だ、全く以って空前絶後だ、前代未聞だ、信じられませんーさてしかし…

その力を手に入れた君は一体ナニをすると言うのです?平和な国の学園に戻って平穏に暮らす?いやいやそれはつまらないでしょう。

ネギ君、その力があれば君は世界を救える」

世界を救う…ときやがったか…まさかたぁ思うが私と同じネタじゃねぇよな?

「な…何の話を…」

「それともその力であのアーウェルンクスを殴って満足としますか?いやいや小さすぎる、君はそんな小さい男ではないはずだ。

力を持つものは世界を救うべきなのです。

君の父君は戦の後の10年間、身を粉にして尽力しましたがまだまだ世界に理不尽は満ち満ちている…

――君もそう思うはず。あの村の人々のような犠牲を二度と出さないためにも。

君の上には父から繋がる歴史があり、父に迫る力を君は得た。

世界を救うべきだ、そうは思いませんか。

大英雄の息子であり、自らも拳闘士として名を馳せ、世界最古の王国の血を引く最後の末裔の一人ですらある。

汚名を着せられた王女の息子とはいえ、ウェスペルタティアの血統…この世界の始祖の末裔、その血はこの世界の正当な所有者の証だ、これらが何を意味するかわかりますか――?

君には大変な価値がある。君には世界を支配できる力があるのですよ。いかがです?私と手を組みませんか、世界の半分を差し上げましょう」

「…な…なんなんです、何の話をしているんですか…何者なんです、あなたは」

ある種意味不明…と言うか意図不明の総督の大演説が終わり、ネギが激高する…

「おお…ダメですか、世界を支配するとはつまり世界を救うことでもあるのですが…子供にはムズかしかったですかねぇ」

直後、ネギの魔力奔流の余波で小石が総督の頬を傷つけた。

「おやおや、これは。これで正当防衛が成立しました、私が実力を行使しても問題ないですね」

「貴様…」

「丁重におもてなしなさい」

総督のボディーガードたる装甲兵たちが動き出す…が、ネギはそれを雷天大壮で一蹴する。

「くっ…仕方ありません!あの少年を捕らえなさい!総督を守るのです」

そう、セラス総長が命ずる…立場上、かつネギを確保されない為にはそうせざるを得ないのはわかるが色々と無茶だろうに。

「いえ、それには及びません」

そう、ゲーデル総督が口にした直後、彼は側近から受け取った太刀を抜き、ネギの腕と足を飛ばした…と言うか乱した、が正しいか…そしてそれは明らかに神鳴流の太刀筋であった。

「ほぉ、物理攻撃はまるで効きませんか、本当に雷の上位精霊ですね。こんな化け物相手に素手で殴り合いとは…さすがはJ・ラカンと言った所ですか、でしたら…魔を調伏する我が剣技、受けてみなさい」

と、放たれた斬撃はネギの肩を大きく切り裂いた…障壁貫通…いつぞや刹那が言っていた二の太刀かっ

「神鳴流は人を護り、魔を狩る、退魔の剣…斬るモノの選択など造作もありません」

「チッ」

「ネッ…」

「ネギ様!?」

私、アスナ、夕映、セブンシープがゲーデル総督に向かっていく…が、突撃途中で総督の斬撃を咄嗟に後方に跳んだ私以外はモロに食らってしまい…

「奥義・斬魔剣 弐の太刀…使い方次第ではこのような事も…おや…今のを避けますか」

と、私以外は真っ裸に剥かれてしまった…照準定められたらアウトだな…あの剣技…

 

魔法の射手 戒めの風矢

 

街中である事を考慮して戒めの風矢を打ち込み、さらに跳躍する。

「くっ…知るかぁッこのヘンタイメガネ!」

と、同時に剥かれてもひるまずにアスナが吶喊した。

「これはこれは随分とお転婆なお姫様ですね、少々調教が必要でしょうかっと」

ゲーデル総督は軽くステップで私の戒め矢を避けると斬空閃をアスナに放つ…それは悪手だ…とおもった直後、それはアスナに直撃した…どー言うことだ!?

「おや?っと…」

総督もアスナの能力を知っているのか、不思議そうにしながら私の剣戟を受け止める。

「アスナさんっ」

「アスナさん!!」

「アスナさん!?」

「直撃とは…意外ですね…っと…大方弾かれるか消されると思いましたが…まあ死ぬような傷でもなし、よしとしましょう…ねぇ?」

と、ゲーデル総督は剣戟を交わしながら言うと私にそう、問いかけてくる。

「さて、お嬢さんとの剣での語らいも楽しいのですが…それでは私には届きませんよ…闇の魔法擬きでのドーピングがあればわかりませんが…実力差はわかったでしょう、大人しくしていてください」

「千雨さんっ!」

そうして、私も剣ごと吹き飛ばされて壁に打ち付けられた。

「フ…いい目です、しかし――」

と、私たちの戦力を無力化したゲーデル総督はネギを制圧するような体勢になり、言葉を紡ぐ。

「――君はその力で本当は誰を殴るべきかわかっているのですか?本当の敵が誰なのかを?教えて差し上げましょうか、君にとっての真の敵を」

「僕にとっての…真の敵…?」

「ピンポーン、ここで問題です、君にとっての真の敵とは以下のどれでしょう

A 世界滅亡を企む謎の秘密組織

B 君の父を奪った誰か

C 君の村を焼き、君の人生を根本から変えてしまった何者か

Aは現在、Bは未来、Cは過去…本当のところ、君はAに興味などなく、Bしか見ていない――と見えて本当の本当のところ、君の原動力はCだ。Cに囚われ、Cにのみ突き動かされて君は未来へと進む――」

そんな総督の過大解釈されたネギ解析を私は起き上がり、聡美と共に聞いていた。

「フフ…そのために『闇の魔法』などを習得したのでしょう?なぁに、恥じることはありません、『復讐』は正当な権利です。私はそんな君のような魂のあり方を大変愛おしく思う者の一人ですがねぇ…」

「何をっ…僕の村のコトを何か知っているんですか!?」

「フフ…賢明な君にならばわかるハズ…事件の真犯人は常に…その事件が起こる事で最も利益を得るはずだった誰か…

おっと、ヒントはここまでです。もし君が全てを知りたいと思うなら、私と手を組みなさい、君の願いを叶えて差し上げましょう。

もし…断るのでしたら…仕方ありませんね…君のような危険な存在はここで消えてもらう…と言うのも世の為やも知れません」

と、ゲーデル総督はネギの首筋に刃を当てる…

「「ネギ先生!」」

ノドカと聡美が叫ぶ…ダメ元で行くしかないか…そう覚悟を決めた直後、ネギが弾けた。

「むう…ほぉ…」

と、弾かれたゲーデル総督が驚嘆の声を示す…そこには『雷天大壮2』…改め『雷天双壮』を纏ったネギがいた。

「お断りします!アスナさんをあのような目に合わせる人と手を組むなどあり得ません!」

「ふむ…これはまた…こうなると先ほどのような不意打ちも効きませんし…さてどうするか…」

が、剣技の相性から行って、あまり有利とはいいがたい…しかもネギは負傷している。

「フ…」

ゲーデル総督が笑った、その時何か…煙幕弾が飛来した。

「これは…煙幕…魔法感知妨害、追跡探知妨害…高度なモノですね」

「こっちだ、ナギ!チウ!ぼさっとしてんじゃねぇ!」

トサカの仕業か。

「先生!撤退を」

「刹那さん」

刹那も飛来し、アスナの回収に入る。

「よし、私達も引くぞ、聡美」

「はい!」

と、ネギが念話で撤退を促されているらしいのを尻目に私は離脱を開始した。

 

 

 

 

 

 

 



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95 世界の秘密編 第2話 安宿にて

「すまない、助かった、トサカさん」

私達はトサカの馴染みらしい安宿に匿われた。

「いや、良いって事よ…っていうか、ナギを脅すのに使った動画のバックアップを官憲にパクられた…それでお前らが捕まったら目覚めがわりぃじゃねぇか」

「…そう言う事にしておくよ、ありがとう」

「けっ…」

そんな会話をしているとネギのいる部屋から木乃香達が出てきた…治療は終わったらしい。外の様子を見回ってくれていたクレイグさんと合流した私たちはネギのいる部屋を訪ねることにした。

 

「よぉ、ぼーず、周囲を見て来たぜ、しばらくこの安宿は安全だ」

「クレイグさん、トサカさん、千雨さん、ハカセさん」

「かー、てめぇの正体ホントにガキなのな、知ってても信じられねぇぜ…チウもなんだろう?」

「ああ…ついでに言うと聡美もだよ…ほら」

と、魔法での変装を聡美の分も合わせて解いてみせる。

「アーそりゃあそうか…くっ…なんか負けた気分だぜ…」

 

「ネギ先生ー大変です!」

そんな会話をしていると、ノドカが駆け込んできた。

「どうしましたか?」

「ネギ先生の上着の中からこんなものが…」

そう言ってノドカは一通の招待状を差し出した。

「何ぃ今夜の…舞踏会への招待状?オイッ総督からだぜ」

「いつの間にこんなものを…」

「調べましたが、今夜、総督府で舞踏会が開かれるそうです」

「くぁ~二人も斬っといてぬけぬけとまあ」

「どういうつもりだよ?賞金首に招待状ってのぁ」

「あの場での勧誘失敗時の保険のつもりだったんだろーけどなぁ…」

まあ、糸が切れないように制圧して長話していた時にでも入れたんだろうな。

「どうする、ぼーず、中を見てみるか」

「招待状自体に罠はないですー」

「お、さすが嬢ちゃん」

「ネギ先生、あの総督ですが只者ではありません…魔法障壁を斬撃がすり抜けたとおっしゃいましたね」

「え…ええ」

「あの男の使った技は神鳴流…私と同じ流派です」

「え…」

やはりそうか。

「しかも先生を斬った技は神鳴流の中でも宗家にしか伝承を許されぬ…」

「ど、どういうことですか?神鳴流は日本の京都の流派じゃ…」

バンッ

「うぃーす」

ドアが勢いよく開け放たれて乱入してくるものがいた。

「あ…あんたは!?」

「ハッハハ、よぉぼーず、詠春の弟子に敗れたって?」

「ラカンさん!」

「おっさん!」

…ラカンのおっさんだったが。

「せ…千の刃のジャック・ラカン、ホ…ホンモノかよ」

「こっ、こここ、これはラカ、ラカンさん。こんな安宿にわざわざおいでをっスンマセン」

と、いつもと調子が変わったトサカはおっさんに椅子をすすめ、クレイグさんと二人そろってサインを貰っていた。

 

「…そうですかートサカさんが僕たちを見かけて皆に連絡を…やっぱりいい人ですね…トサカさん、ありがとうございます」

皆から事情を聴いたネギがそう、トサカに感謝を述べた。

「ラカンはん呼んだんはカモ君やけど」

「バ…ちげーよ。実はホラ…お前を脅すのに使ったあの動画、あのバックアップをよ、官憲にパクられちまったらしくてな、保険に手下に持たせてたんだが…さっきのは多分俺のせいだ、そんなんでてめーらが捕まったら目覚めがわりぃだろが」

「え…あー」

「安心しな、トサカ、てめぇのせいじゃねぇ。多分総督の奴ぁ前から偽ナギの正体は知ってたさ」

「どういうことですか?――そう言えば先ほど総督は詠春様の弟子と…」

「それより、お前の服にねじ込まれてたっつー総督からの招待状ってのを開けてみちゃどうだ」

刹那の問いをぶった切り、ラカンのおっさんはそう促した。それに従い、ネギは招待状を再生する。

内容は…やはり交渉決裂の際の保険としてねじ込んだものらしく、ネギが総督と会う為にと舞踏会に私たち含めて招待する問う内容から始まり、私達への国際指名手配の恩赦…そして廃都に降りるにあたっての護衛としての艦隊提供…とソレが提案を蹴った場合の追っ手となるという脅し…その上で『ネギの父と母、そして世界の謎』どんな問いにも答えると誘った…ついでにナギの姿で来てほしいと付け加えて。

 

「オイオイオイこんなん罠に決まってんじゃねぇか!?」

「艦隊って…ヒデェ脅しだな」

「確かにこれは危険ですね…」

「確かに艦隊となると勝てるか否かは別にして、かなりの脅威だな…」

私を含め、皆が口々に言う。

「明日にはゲートポートです、先生、ここは無視するのが最善手かと……先生?」

それらをまとめるように刹那がネギに言う…が

「…いえ、決めました僕が一人で会いに行ってきます、皆さんは先に下に降りてください」

と、ネギは作戦の繰り上げと単独での総督府行きを提示した。

「えええ~ッ!?一人でぇ!!?」

「だダだダメです、ネギ先生ーッ」

「アカンてネギ君」

「無謀だぜ、ぼーず!」

「そうだぜ、奴の狙いは兄貴なんだぜ?」

「ずるいですよーネギ先生ー」

「ああ、一人では行かせねぇぞ」

口々にネギに反対意見が上がる…まあ、私たちは連れて行け、という意図なのだが。

「これは僕だけの問題ですから、みんなを巻き込むわけには…それに…もう決めたことです。僕が一人で行けば皆の時間稼ぎにもなりまぽおぅ!?」

…とのネギの寝言にアスナの鉄拳が炸裂する。

「こんの、バカネギ。一人で!ですって!?何回同じコト言わせれば…ったくもー今の私達があんたを一人で行かせるとかある訳ないでしょ、あんたが行くなら当然私も行くわよ!!」

「で…でも…」

「…面白くなって来たじゃねぇか。俺もついて行ってやるぜ、タダ飯食えるしな、それならお嬢ちゃん達も安心だろ」

「ラカンさん!」

「決まりね!言ったでしょ、地獄の底まで助けに行くって!」

「アスナ…さん…」

ということで話はすませ、全員の招集とドレスの受け渡しの手配をすることになった。

 

総督の剣技…神鳴流の斬魔剣 弐の太刀に関する一幕…ラカンのおっさんが再現し、ネギが危うく死ぬ所だった…が済んだ頃、ドレスと皆が到着し、ドレス争奪戦が始まった…私はチウ用にとドレスが添えてあったので不参加、聡美も子供モード用があったのでソレにするという事で不参加である。

 

「ど、どーもみなさん」

ネギ達がナギ・コジロー姿で燕尾服を着て登場する。

「おおーっと!?ナギコジコンビじゃんかーッ!?」

「うひょひょーッ有名人降臨じゃん、また見れるとは思わなかったよー」

「ん~なかなかいいねぇ、お二人さん」

「私、ファンだったんだよねーサイン頂戴、サイン」

「コジロー君もカッコイイよぉ」

「とてもコタロー君とは思えないよ、ホント」

「んーそーなん?」

と、ナギコジがうちの面子にもまれる…思わぬコタロー人気に夏美は不満そうであるが。

「行かなくていいのか?コタローは私のですって」

「にゃっ…言えにゃいよ!そんな事っ!」

「でも、お好きなんでしょうー?コジローさんもといコタロー君のことー」

「…うぅ…多分…そうだけど…でもさー」

いつぞやの浴場での女子会の成果であるが、まあ実ってはいない様子である。

 

「で、でも全員で行く…なんて参りましたね。僕は刹那さんや楓さんに千雨さんのような何か起きても大丈夫な人達だけで行くつもりだったんですが…」

と、ネギがこの期に及んで寝言を言う…と言うか、逃げられると思ってか。

「あんたらだけでそんな楽しいトコ行かせる訳があるかああぁッ!!!このバカチンがあああッ!!!」

案の定、ハルナが吼える。

「ええーっ?」

「うんうん、こんなカワイイドレスだって着れるしぃ~」

「豪華ディナー食べ放題だろうしね~」

「それに、総督主催の舞踏会なら各国上流階級そろい踏み、パーティ会場は人脈の宝庫よ!

いずれこの魔法界を席巻する大文…いや、大漫豪!!!パル・サオトメ様の飛躍の足掛かりとするのよぉ〜!!!」

「そんなコト考えてたんだー…」

「ハルナならでけそーなきするけどー」

…ハルナの野望が今、明らかになった。

「まあまあ、あのラカンさんがついて来てくれるんだし、総督さんも昔のお父さんの仲間だったんでしょ?大丈夫っしょ」

朝倉が楽観論を述べてネギを説得しようとする。

「しかし…」

「それに…コレこそがこの旅の本来の目的のハズじゃん、ネギ君?その総督って人…ネギ君のお父さんやお母さんの話だけじゃなく、この世界の秘密まで教えてくれるって話なんだよね?この真実の報道者、朝倉和美を置いてこうなんて甘い考えよ。

それに私も独自に調べたけどどうもにおうんだよねぇ…巨悪のにおいって奴さ」

「そうだな、ネギ…ここまで来たら最後まで付き合わせてもらうぜ?」

「…ハイ、千雨さん」

と、ここまで真面目な話が続いた…が

「そうねぇ、それに…祭りの夜の宮殿での舞踏会かぁ、花火に照らされた二人きりのテラス…星空の下の花咲き乱れる中庭…これ以上ロマンチックなシチュは…二度とないかもねぇ~」

とのハルナの煽りにドレス争奪戦は激化の一途を見せるのであった…

「…千雨さーん、やっぱり私も大人モードで行ってもいいですかぁ?」

「ん…わかった、じゃあ変身させるな」

聡美は大人狼獣人モードに変身すると、ドレス争奪戦に参戦しに行った。

 

 

 

「で、どーするよ、おっさん、予定の厄ネタミーティング」

「そーだなぁ…まあ最悪道中にしようや」

急いで闘技場に挨拶に行った後、着替えたラカンのおっさんとそんな話をしていると…

「火星!!!そして魔法世界!!!つまり!!我々が魔法世界と思い込んでいた場所は実は火星だったんだよ!!」

「「「なっ…何だってぇーっ!?」」」

そんなやり取りが聞こえてきた。

「…おっと?これは気づいたかな?」

「…ネギは気づくだろうさ、そこまでつながりゃあな」

騒いでいる連中を突っ切って世界地図前のネギに近づいていく。

「造られた世界…」

強化された聴覚でそうネギが青い顔をして呟いたのを捕らえる、そして思考の海を泳ぐ私たちのような様子で重要ワードを呟いていく…ビンゴである。

「先生?」

「ネギ君、何ブツブツ言い始めたん?あぶないえ?」

「あ…スミマセン、考えごとを…刹那さん、火星と聞いて何か思い出しませんか?」

「え…ええ…超鈴音…ですね」

「あー」

「し、しかし先生、コレが一体どういう意味を持つのか私には…」

「僕にもまだわかりません…ですがどうやらこの世界の全ての事は繋がっている…父さんの達のことも、超さんのことも…あと一つ…そうあと一つ重要なピースが揃えば全てがハッキリする…そんな気がするんです」

そう言ってネギが振り返る。

「ああ、丁度よかった、千雨さん!スイマセンがミーティングはキャンセルさせてください、大事な話があります!」

「いや、その必要はねぇ…ソレこそが議題だからな…メンバー集めろ、始めるぞ、ミーティング」

「へ?…あっ!」

「ほら議題はちょっとした厄ネタ…だったはずの核地雷かもしれない世界の秘密…だったろ?」

そう言って、私はにっこりと笑った。

 

 

 

 

 



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96 世界の秘密編 第3話 厄ネタミーティング

 

「さて…まずは前提の共有だ」

聡美、茶々丸、ネギ、ハルナ、朝倉、ノドカ、そしてラカンのおっさんを前にして私は言った。

「この世界は何者か…おそらくは始まりの魔法使いによって火星の裏界として作られた人造異界で…いつかは崩壊する…コレが前提だ…あっているな?おっさん」

「ああ」

おっさんが私の言葉を短く肯定した。

「マジ…なんだね?」

「うっひゃぁー確かにこりゃぁ厄ネタだねぇ…」

「た、大変ですー」

「やはり…」

私の言葉に皆が反応を返す。

「で…コレがちょっとした厄ネタにすぎない筈だったのは…『なぜ火星の裏界たる魔法世界は崩壊するのか』という点にある…ネギ、なぜそうなる?」

「厳密には色々な理由がありますが…尤も顕著かつ現実的スパンで問題となるのは魔力問題です。表世界からの魔力供給が期待できない火星ではおそらく現実世界での二、三千年程度が世界の寿命という事になります」

「ちょ、ちょっと待った、それだと魔法世界ってもう崩壊していないとおかしくなくない!?一応歴史的には5千年程度は有史として確認されているんだよ!?」

「そ、そうですよ、遺跡でも3000年よりも古い年代のモノは多数あります」

ネギの回答に朝倉とノドカが反論を返す。

「それは…おそらくだがダイオラマ球と同じ原理さ…現実世界とゲートによって定期的に連結されていない限り、時間差が生ずると考えればそこは解決できる…ゲートによって頻繁に接続されてこなかった時代の歴史が加速された歴史だとすれば一応矛盾はねぇ…拳闘士の言い回しに『ローマの昔』って言葉があるんだがこの世界の始まった頃、って意味らしいからこの推論も荒唐無稽って程ではねぇ」

「それで…どうしてちょっとした厄ネタでしかないはず、って事になるわけ?千雨ちゃん」

脱線しかけた議論をハルナが元に戻してくれた。

「超によれば、火星は将来的にテラフォーミングされるらしいんだよな…そーなるとどうなる?」

「あ…そうか…火星が生命溢れる星となったのであれば…程度によりますが魔法世界は安定するはずです」

「一応、宇宙工学の倫理としては無茶苦茶にもほどがあるんですがー仕方ないですよねー」

「…まあ微生物汚染どころか地球産の生態系持ち込むって言っているんだからそれはな…」

…生命の起源とかの研究的にはアレではあるが、世界一つの運命がかかっているので何とかするしかない話ではある。

「なるほど…ネギの目から見てもテラフォーミング計画は適正って事だな?」

静観していたおっさんがネギに問う。

「はい、時間が問題ではありますが…世界崩壊を防ぐにはそれがもっとも単純かつ確実な解法かと」

「…と言うおっさんの言葉でわかるように実はこの厄ネタ、上層部には知られてはいたが対応策は得られていなかった…んだな?」

「おう、俺様の知る限り、この世界の上層部は世界脱出計画的な方面で秘密裏に検討を進めている筈だぜ」

「…南の民っつうかヘラス帝国も?」

「おう」

と、おっさんは答える…そうなると

「って事は、南の民も少なくとも支配階級…ヘラス族は移民組か…てっきり被創造組かとおもったんだが」

「被創造組?」

ハルナが問う。

「そうそう、世界と共に造られた生命…ある種の幻想って奴さね…」

「…人類を創造するというのはいささか信じがたいですが…確かにそう言う研究もありますね…ですが理論上は脱出可能ですよね?」

「だが…被創造組だと支配階級だけ脱出するにしても非現実的な規模の話になってくるぞ?」

そのネギと私の会話は核地雷原でのタップダンスだと、おっさんのその言葉まで気づかなかった。

「…だから移民計画実験体なんてモノを作って一部だけでも逃がそうってしていた訳さ」

「…は?って事は…南の民って…」

「おう、魔法世界と同じモノらしいぜ、俺達は…あ、ちなみに北の民も過半つうか大半は混血だぞ」

そう、おっさんは核地雷級の…正真正銘核地雷級のネタをぶつけてきた。

「マテや…おっさん!涼しい顔で何を言ってんだ!つまり、魔法世界人の殆どは…」

「殆どがー幻の存在ーという事ですかぁ?」

「えっ…どういうこと…?」

「ま、幻って…」

「…マジ?」

面々が…一部はがくがくと震えながら…言った。

「それが…世界の秘密?父さんと母さんが挑んだって言う…」

「ああ…だが、その戦いもチサメ嬢ちゃんのおかげで道筋ができた…世界崩壊という前提を阻止できるならば…何とかなるんじゃね?」

「…一応言っとくが、私は救世主的なのに祭り上げられるのはごめんだからな?」

「あーまあ俺様の人脈的にゃ…セラス辺りに押し付けとけばいいんじゃね?」

「えー千雨ちゃん、せっかくの功績なんでしょ?」

ハルナが暢気に言う。

「どー考えても政治的にメンドクサイ事に巻き込まれる未来しか見えねーよ…私は自由な研究者でいたいんだ」

「偶然切っ掛けになったくらいならともかくーズバリ答えを提示しちゃったとかーいろいろめんどくさそうですよねー」

と、聡美。

「英雄っていう意味では千雨ちゃん色々と力不足だからね」

と、朝倉…どー言う意味だ。

「ええっと…とにかく…世界崩壊と言うのは回避できる…んですよね?」

と、ノドカ。

「ええ、恐らくは…時間だけが問題ですが…計算してみないとわかりませんが、現実世界の地球側からだけでなく魔法世界側からも協力すれば十数年から数十年のスパンで緑化は可能だと思います」

「そうだな…魔法と科学の融合での技術レベルの飛躍を計算に入れても地球側からだけのテラフォーミングには世論工作込々で余裕を見るなら半世紀は欲しい所だからな…そんなもんだろう」

「ゲームとかみたいにー文明のリソースを結集してーとかだともう少し短縮出来ると思うんですけどねー」

「よし、わかった。時間がない所、悪いがネギ、チウ、それとハカセ嬢ちゃん、向こうに帰る前に概論だけでも論文にまとめてくれや、俺がそれをセラスに押し付ける…その代わりにゲート行きは俺も同行してやるぜ」

「ハイ」「おう」「了解ですー」

こうしておっさんのゲートへの同行が決まった。

 

 

 

その後、三人で話し合って纏めた最低限の概略を書きなぐった概論…それでも然るべき人物に渡れば意図は伝わるようにまとめてある…をおっさんに手付(もう少しマトモに纏めたのをゲート行きの船内で書き上げる予定である)として預けると、私達は舞踏会に向かう時間になった。

「うひゃあ~なんかセレブって感じだねぇ」

「おーう、早く来いや」

たじろぐ皆をおっさんが早く来いと促す。

「あ、髪下ろしたんですね、アスナさん。いいですね、似合ってますよ」

「な…何よ」

「うん、似合うとるえ、ホンマにお姫様みたいやなぁ」

「も、もうこのかまで…アンタのほうが似合ってんじゃんーって?何着てるんですか、刹那さんー!?」

「へ?」

と、唐突かつ今更の突込みをアスナが刹那に入れる。

「せっかくの舞踏会なのにボディガードみたいなスーツ」

「なー」

「実際、私はお嬢様のボディガードですし、何かあったとき動きやすい恰好が…と言うかそれを言うなら千雨もズボンですし…」

「いいんだよ、私のは…先方から指定されてるやつだし、拳闘士チウとして来ているんだからな…それに軍人用とはいえ、お前の程、武骨じゃねーし」

と、私用にと指定された本来、女性軍人用らしい礼装を見せつける。

「ちなみにそのスーツにOK出してたのコイツやで、確かに動きやすいですねーとか言って」

と、コタローがネギを売る…自分もうんうんと頷いていたのを棚に上げて。そこからぎゃあぎゃあとじゃれ合いが始まる…が。

 

「さて…ネギ、最後通牒のお時間だ」

「へ?どうされました?千雨さん」

突然の私の問いかけにネギがそんなとぼけた返事をする。

「思うんだけどよ…舞踏会に行く必要ってあるんだろうか」

「な、何をいまさら?」

「いやさ…さっきの厄ネタミーティングでてめぇの両親が戦い挑んだ秘密…らしきものは知れたし、その答えもおっさんに託して陰ながら世界を救う手筈も整えた…それ以上何を望むんだって言う事だよ」

「そ、それは」

「さっきから考えていたんだが…ゲーデル総督は何かしらの目的があって、その手段としてテメェを政治の世界に引きずり込んで駒にする事が目的に思えて仕方がない…そこにのこのこ乗り込むだけの理由…あるか?今から踵返しておっさんの護衛付きでゲート直行で麻帆良へ…で良いんじゃね?と思えてきた」

「そ、それは…そうですが…」

でも、行きたい、少しでも多く両親のことを知りたい…そうネギの顔に書いてあった。

「で…どうする?ネギ先生」

そう、魔法の言葉で畳み掛ける…それを振り切ってまで行きたいと言うのであれば全力で応援はしてやるが…

「そう…ですね…確かにその通りです、千雨さん…その案で行きましょう」

周囲に落胆の雰囲気が広がる…まあお楽しみが取り上げられたのだから仕方がないか。

「…と言うべきなんでしょうけれど…スイマセン、行かせてください。総督が紅き翼の一員だったというのであれば…そしてその志を継いでいるのであれば…会談の肝は『厄ネタ』である筈です」

「そうだな」

「で、あるならば…同志は一人でも多い方が良いはずです…と言うのはダメでしょうか」

「…ダメだな、テメェ自身を納得させられていない理論で他人を納得させられると思うなよ?」

そう言って私はネギを睨みつける。

「ちょ、ちょっと、千雨ちゃん、ネギ君もみんなも頑張ったんだし、ちょっと位ご褒美と言うかお楽しみがあってもいいんじゃない?」

ハルナが会話に割り込んできて助け船を出す…と言うか自分の欲望が主のような気もするが。それに対して私はただ、だんまりを決め込んでネギを見つめる。

「…千雨さん。ごめんなさい、せっかくの助言ですが今回は無視させてください。いかせてください、僕は父と母の生き様を知りたいんです、お願いします」

そう言ってネギは私に頭を下げた。そして私の答えは…

「うん、了解」

「「「「「へ?」」」」」

短く答えるとネギたちはそんな声を上げた。

「元々この旅の目的はソレだし、ネギも頑張ったんだからご褒美の一つもねぇとな、ハルナの言うとおりに」

「ちょ、じゃあ何で舞踏会行くのやめようとか言いだしたのよ、千雨ちゃん」

そうハルナが詰め寄ってくる。

「んー?さっきの厄ネタミーティングで前提が変わっていることの確認をしただけだ。私はネギの決定に従うつもりだったぞ…ネギ、お前は多少はわがままを覚えるべきだ…それに私達は地獄の底まで付き合うんだろう?なあ、アスナ」

そう言って私はネギの頭をなでながらアスナに話を振った。

「あ…う、うん、そうよね!ネギだってがんばったんだから!」

そう言ってアスナはうんうんと頷いた。

「フフ…ハハハハハハ」

と、ラカンのおっさんの笑い声が聞こえると共に殺気を飛ばされる。

私は咄嗟にその場を飛びのく事で、ネギはのけぞる事でおっさんのキックを避けた。続いて

おっさんはネギに追撃のパンチをかますがネギはそれをうまく流してしのいだ…結果、おっさんの気弾が射線上の建物に着弾した。

「うむ」

「うむ、じゃないですよッ!?なにやってるんですかぁあッ!?」

「フ…術式装填なしで俺の蹴りと拳を避けたじゃねぇか、自分ですげぇと思わねぇか?」

「あ…」

今の不意打ちはネギの力試しという事だったらしい。

「ハハッ、いい感じに成長してんな、どんだけ相性いいんだ、テメェは。引き出す力も加速度的に大きくなってるだろうが負担も大きいだろ」

と、おっさんはネギのマギア・エレベアの紋様を見ていった。

「だがまあ、大丈夫だ。あと3回程度の本格戦闘は問題ないだろ、帰ったらエヴァに診てもらえよ」

「は、はい」

「うむ…マジで俺が教える事はもうねぇな免許皆伝だ!ラカン3級をやろう」

「いりません」

というとおっさんはどこかから賞状を取り出してネギに授与しようとするがネギに拒絶された。

「まあ、なんだ、なんにせよお前はもう――力を手にした一人前の男だ。男だったら女を守れ、そして世界を救え」

「――!」

「自分の為じゃなくな、それが男の力の使い道…ってもんだぜ、コレ豆知識な」

「よく言うぜ、金の亡者のおっさんがよ」

気づけば私はそんな言葉を吐いていた。

「ハハハハハハハ…さすが千雨ちゃん、毒舌」

と、おっさんは笑ってごまかした…刹那、一瞬だけ真面目な表情を見せたような気がした。

「つー訳で俺、トイレ」

「え…ラカンさん」

「あーそうそう、お前の母親な、アリカで間違いねぇから」

「えっ…」

「ほんでありゃいい女だった、俺もちょい惚れてたぜ」

「ちょ…」

と、爆弾発言をして立ち去ろうとした。

「え゛…」

「いい女で、見事な女だった、誇っていいぜ?お前の親父が惚れるのも納得よ」

「ラ、ラカンさん、そんな大事な話はもっとちゃんと…そんなテキトーな顔でテキトーに」

「あー後で後で、てゆーか今から会う総督の方が詳しいだろうしよ、つか俺の話はこのくらいでいーんじゃね?昔話うぜーだりー」

「えーっ、約束したのに」

「ああ、お前ら先行ってていいぜ、何しろ小じゃなく大。俺のは長ぇぞ?」

その発言に皆からとっとと行けと言うような趣旨の発言が飛び交い、おっさんはトイレに向かっていった。

「もー…」

「オモロイおじさんやなあ」

「ホラホラ、アホなおじさんは放っといていきましょ、後で話してくれるらしいし、ゆえちゃんとの待ち合わせもあるし」

アスナにそう促されて、私達は花火が夜空を照らす中、舞踏会会場へ向かうのだった。

 



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97 世界の秘密編 第4話 舞踏会にて

 

「チウさん、準決勝進出おめでとうございます。あのラカンにあそこまで迫れるとは。いい試合でしたよ」

舞踏会でそう声をかけて来たのは大会前に挨拶した拳闘界の有力者で、ドルネゴス氏の様に複数の闘技場と拳闘団を運営しているというヒューマンの女性だった。

「ありがとうございます…結局負けでしたが」

「なぁに、相手は伝説とまで謳われる拳闘士です、負けても恥ではありませんよ。本気のラカンとまともに戦えた事自体が本来は大快挙なのですから」

「そう言って頂けると嬉しいです」

といった具合で私のファンのらしき男女に囲まれつつ会話を重ねていると、聡美の話題となった。

「ところで、そちらの女性は?」

「私の、その…パートナーです」

そう言って、私は聡美を抱き寄せた…その様子にファンたちがどよめく…のと一部が黄色い悲鳴を上げる。

「ほう…」

と、彼女は聡美を品定めするように見る…私は無意識に聡美を庇っていた。

「…あまり戦いが得意という感じではありませんし…お二人は良い仲なのですね」

そう言って彼女は微笑んだ。

「ええ、私の大切な人です」

「ちうさん…」

私の宣言に、観衆は再びどよめき…黄色い悲鳴が増えた感じがする…聡美は恥ずかしそうに私の腕をぎゅっと握った…きっと熱愛発覚とか書かれるんだろうが別に構わないだろう。

 

そうこうしているとそろそろ最初の曲が始まる雰囲気である。

「聡美…踊ろう」

「ハイ…よろこんで、ちうさん」

私は聡美の手を取ってダンススペースに進み出る…と、遠くの方でも私に意識を向けてざわつく感じがある…まあ女性二人連れは多少見受けられるが、ダンスを踊ろうとしているのは私達だけである様子だし、仕方がないか。

曲が始まり、二人で…私が男性側で…付け焼刃のステップを踏む。

「おっと」

「ふふ…案外楽しいものですね…こう言うのも」

そんな会話を交わしながら踊っているとネギとコタローが若い女性を引き連れて歩いているのが目に入った。

「さすがだな、あの二人の人気は」

「そうですねー」

そうこうしているうちにネギはアスナを、コタローは夏美を誘ってダンススペースに進み出てきて踊り始めた。

 

 

 

何曲か踊った後、食事を皿に盛って二人でバルコニーに出た。

「おいしいですー」

「そうだな、こういう場での食事ってあまりいいイメージが無いんだけどな」

そんな会話をしながら食事をしていると茶々丸とさよがやってきた。

「あ…ハカセ、お母さま、丁度よい所に…少しお話よろしいでしょうか」

「うん?かまわないぞ?」

「うん、いいよー」

「ありがとうございます…その…単刀直入に伺いますが、私に魂はあるのでしょうか?」

意を決した様子で茶々丸は私達にそう問うた。

「んー俗にいう生命体に宿る魂の事ならば、無いんじゃないかなー」

「そうだな」

そう、私達は答えた。

「そ、そんな…」

その回答に茶々丸はショックを受けた様子を見せる。

「茶々丸は生命…漫画的な言い回しになるけど炭素生命体ではないからねーしいて言うならー珪素生命体…でしたっけ?」

「そうだなぁ…ドール契約による仮の魂という意味ではともかく、な。まあ、自我という意味では哲学的課題になるが、十分に存在していると言えると私は思っているぞ」

一応、フォローという意味を込めてそう付け加えておく。

「そうですねー千雨さんが茶々丸に適用した開発手法は自我の発生原理を高度に模倣しているのでー」

「な、なるほど…」

茶々丸は少し落ち着いた様子で答える。

「いきなりどうした…って今のタイミングなら仮契約の事かな?」

「あ、そう言う事かーそれなら…仮契約自体『は』できる可能性が高いんじゃないかなー?」

「アーそうだなぁ…被創造系の魔法世界人が仮契約出来ていて…アーティファクトカードが伝説とされているという事は多分…な」

「そ、それはどういう…」

「んー単純に魂の強度の話なんだが…ホムンクルスなんかの人造生命は魂の強度が弱い傾向があってな…それでも通常のドールに与えられる魂…ドール魂とでもするが…よりは強いんだけどな…一応かりそめの生命でしかない魔法世界人が仮契約出来ているという事は…多少魂の強度が弱くても仮契約自体はできるという事だ」

「それでー魂って言うのは自我強度の事でもあるんだよーだから、自我と呼べるモノを持つ茶々丸は魂の強度が通常のドール魂よりも強いはずなんだよねー仮契約に必要な強度まで成長しているかは別にして」

そんな感じの解説から始まって、専門的な話が続く。

 

「ええっと…つまり?」

解説を終えた後、茶々丸はキョトンとした顔で問うてきた。それに対して私達は一度顔を見合わせ、こう答えた。

「「仮契約できるかは、やってみないとわからない」」

その答えに、茶々丸はずっこけた。そうこうしていると会場が何やら騒がしくなる…耳を立てるとどうやら拳闘士ナギが余興をするとか聞こえてくる。

「余興…ですか?」

「何だろうな」

騒ぎの中心に向かっていくと、ネギとクーが向かい合って座っていた。

「何かありましたか」

「少しネ…ナギと勝負をする事になったアル、丁度いい茶々丸、審判を頼むアル」

「ハイ、わかりました」

「…まさかこんな所で試合?」

ちうモードでジト目を向けて問うてみた。

「さすがに無いアルよ、舞踏会で殴り合いを始める訳にもいかないアルし、腕相撲ネ」

そう言ってクーはネギと腕を組んだ。

「では。Ready…GO!」

開始の合図と共に衝撃波が周囲を襲う…茶々丸はシレっと後退して回避していた。

「き…決まった!?」

「ナギが負けるなんてそんな…」

「いや、待て見ろッまだだ」

その言葉の通り、ネギは負けかけていたが、ギリギリ持っていた…ネギめ、慢心してフルパワーで行かなかったか。周囲でクーへの噂が飛び交う…どうやら、クーもクーなりに大冒険をしてマフィア的な組織をぶっ潰していたらしい。

…そして勝負の結果だが、ネギがマギア・エレベアの出力を紋様が見えるくらいまで引き上げるとクーは流石に力及ばず、じわりじわりと押し負けて…ネギが勝った。

「勝負アリ!!」

周囲からクーの健闘を称える拍手が起きる。

「見事でした、古老師」

「いやいや、見事はそっちね、さすがアルヨ、負けを認めないわけにはいかないネ…ということはつまり…つまり…」

と、クーは顔を赤くする…まさか、コレ仮契約したければ私に勝てとかクーが言い出したというオチか?

「ど、どうかしましたか?」

「いや、そのなぬなななな何でもないアルヨ」

そう叫んでクーは駆け出していった。

「古老師!」

そう、クーの名を呼ぶが追いかけないネギに問う。

「…仮契約の可否でもかけていたのか?ナギ」

「ちうさん…ハイ、その通りです」

「…追いかけて…クーの気持ちも考える様に」

それだけ言って、私達はその場を離れることにしたが、まあそれだけでゴシップ好きから逃れられるわけもなく、

「…彼女は私の友でナギの体術の師」

「ほう…という事はナギ選手よりも技量は…?」

「…純粋な体術の技量ならばクーの方がまだ上…かな」

こんな感じで情報を抜かれていたりする…と言うかうざいので無難な情報をまいているというか…。

 

 

 

ゴシップ好き達に私たちのことを含めて、無難な情報という餌を与え、踏み込んだことにはノーコメントを貫いて何とか散らせた後、私と聡美はバルコニーにいた。

「…と言う感じで補強していけばいいかなと思います」

「そうだなーそんな感じで行けばわかりやすいし、時間短縮方法も考案しやすいだろう」

…二人きりで花火に照らされて寄り添う二人の会話はロマンチックなモノではなく、火星緑化計画の論文についてであった。

「さて…そろそろ戻りましょうかーもう少しで総督の遅刻時間の一時間になります」

「そうだな、戻るか…聡美」

「ハイハイ、何ですかー?千雨さん」

「愛しているよ」

「…ハイ、私も愛しています」

そして一度だけキスを交わし、並んで舞踏会上に戻っていった。

 

 

 

「ナギ様、チウ様、クルト・ゲーデル総督が特別室でお待ちです。同行者は合計3名までを許可されています」

会場に戻ってネギ達と合流して、少し仕込みをしていると従者の少年からそう声をかけられる。

「わかりました」

「よーし、来たわね、行くわよ!」

「アスナさんはダメです」

「な、なんでよ!?」

乗り込む気満々だったらしいアスナの同行をネギが拒絶する。

「アスナさんは大事な体ですから」

「へ?」

「刹那さん、護衛よろしくお願いします」

「ハイ」

「同行者3名までと言うのはなぜですか?」

「慣習です」

「もし従わなければ?」

「お会いになりません」

「ちうさんは同行者の数に含まれますか?」

「いいえ、ナギ様とチウ様を除いて3名です」

従者の少年とそんなやり取りをし、ネギは少し考えた後に口を開いた。

「ではまず、のどかさん」

「ひゃ?ハイッ」

「2人目は朝倉さん」

「サンキュ、ネギ君」

「3人目はハカセさん」

「はーい」

3人目に呼ばれた聡美はいつもの調子でそう返す。

「朝倉さんは情報の分析のサポートをお願いします」

「OK、それと録画と中継ね、可能ならだけど」

「ノドカさん、打ち合わせ通りによろしくお願いします、危険な場所に巻き込んでしまってスミマセン」

「いえっ、そんな…私がおやきゅっお役に立てるなら!」

「ありがとう、のどかさん。それと…ハカセさん。計画の詳細を説明できる人員の全員投入は正直悩みましたが…総力で当たるべきと判断しました。ハカセさんは千雨さんと共に計画のプレゼンに協力してください」

「はい」

「おう」

「さ、こっちは私たちに任せて後顧の憂いなく行ってきな」

「おうよ、アニキ、いざとなったら楓姉さんのマントで総員トンズラだぜ」

「最後に千雨さん…」

「ん?なんだ?」

「戦力として、計画のキーパーソンとして…何より…そう、パートナーとして頼りにしています、今回もよろしくお願いします」

「了解…ただな?その言い方は控えろよ?いつか女に刺されるぜ」

私の言葉に周囲が笑いに包まれる。

「コタロー君、古老師…いざという時は」

「おうっ」

「任せるアル」

最後にコタローとクーにも皆の事を頼んで準備は終わり…と言った所である。

「では、いってきます!」

そうして、私達5人+相坂はみんなに見送られて総督室に向かって歩き出した。

 

 

 

「こちらです」

そうして、従者の少年に導かれて私達は回廊を進み…扉の前にやってきた。

「楽しいお仲間達ですね」

「え…?」

「いえ…あの村の悲劇から出発したあなたがあのような友人たちを手にしている事を少し羨ましく思いまして…今も世界に悲劇は満ち溢れていますからね…旧世界、新世界を問わず」

そうして…扉は開かれた。

 



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98 世界の秘密編 第5話 総督室にて

…そこは悲劇の地だった…建物は焼かれ、人々は石となり…まさにいつか記憶で見たネギの村の終わりの風景だった。

「ようこそ、私の特別室へ、ネギ・スプリングフィールド君」

「ここは…!!」

「ネギ先生の…故郷の村…6年前の…!!」

「慌てる事はありませんよ、お嬢様方…これはすべて映像です」

「くっ…なんつう趣向だ」

「うわぁー初手からかましてきましたねー」

交渉と言うか総督を火星緑化計画に巻き込むつもりが初手からかまされた。

「あんたが総督ね、随分と趣味のいいおもてなしじゃない」

「どうやって…?どこからこんな映像を?」

「どこからだと思います?」

ニィィと総督の顔が邪悪にゆがむ。

「いやなに、主題をハッキリさせておこうかと思いましてね。君は答えを知りにここへ来た、しかし…本当に知りたいのは何の答えです?

――A『魔法世界の秘密』?それともB『悪の秘密組織の目的』?それともC『母の生き様』?いやいやそれともD『父の行方』?」

そしてペラペラとしゃべりだす…A以外のそれは確かに未知で、聞く価値のある情報ではある…が

「そっ…」

「いいえ、違いますね!?君が本当の本当に知りたい答えとはこんなものではない!!君が知らなければならないのは君にとっての『真の敵』!!」

マズイ…完全に総督のペースである…これでは計画のプレゼンどころの話ではない。

「6年前!!雪の日!!この日この時!!君の人生を根本から変えてしまったこの出来事!!君の村を焼き払ったのはいったい誰なのか!!それだけが君が唯一求める答えのハズだ!!

確かに君の父を求める気持ち――未来を目指す目的意識は本物でしょう。しかし、『闇の魔法』を会得した君は既に知っているハズですね?きみの本質は――そう、『真の敵』への復讐だ」

「オイッ聞くなっ戯言だ!!ネギっ!」

「先生ーっ千雨さんの言う通りですー」

しかし、私とノドカの言葉を無視して総督は続ける…全てではないにせよ、真実を突いている面もあるからうっとおしい。

「君はこの飢えが満たされぬ限り、友人たちとの休日すら満足に楽しめない、伽藍堂の人間です」

「知って…いるんですね?」

コラいかん…と同時に暫く手が出せないと割り切って私は意識の一部を電脳に飛ばして総督室のハッキングを始めることにした…

「君は誰が犯人だと思いますか?君の事です、様々な可能性を考えたコトでしょう、この夜からくる日も来る日も一人孤独に復讐の刃を研ぎながら…」

「そんなッ、ネギ先生はそんなコト…」

「A『フェイト・アーウェルンクス』B『魔族』C『始まりの魔法使い』なるほど、どれも君の『真の敵』にふさわしい。彼らが仇なら君の物語も随分シンプルなモノになったコトでしょうが…しかし…現実と言うのは往々にしてもう少し複雑で…いささかみすぼらしいモノです。真実をお話ししましょう、幼い君をこんな目に合わせた真犯人は――我々です、我々、すなわち――メガロメセンブリア元老院」

「そんな!?だって…メガロメセンブリアって――…」

「あーそう言う系ですかー」

聡美が若干の侮蔑込みでそう呟くのを意識する…

「我々が全ての黒幕です」

そう、総督が繰り返す…

「尤も…頭のイイ君のコトです、当然この程度の可能性は考慮に――」

あっ、ネギが総督をぶん殴った。そう認識した私はハッキングの手を一度止めて意識を現実に集中させる。

「先生ッ」

「アーアー、怒りで我を忘れてやがる」

「完全に暴走状態ですねー」

「無理もないよッ6年前の事件はネギ君のトラウマなんだよ、その犯人を告げられて冷静でいられるはずがない、でもっ…」

と、いっている間に周囲の映像も佳境に入ってきたようで…無数の魔族たちが現れる。

「これは――6年前の?」

「ネギ君の村の光景だよ!多分映像…!」

「こっちは無視していい…ネギが総督を殺す前に止めにゃならん!」

双方の技量から推し量るに多少ボコボコにした程度でくたばる総督ではないと思うのだが…

「ネ、ネギ先生をモニターしているいどのえにきっきが…憎しみの文字で埋められて真っ黒に…!こんな…!?そんな…ッ…マギア・エレベアの侵食…!?このままじゃ先生が…っ!?」

「うぅ…ああああッ」

ネギはそんな叫び声をあげて魔法の射手をぶっ放す。

「ぐっ…まさかこれ程とは…予想以上ですよ、ネギ君」

対して総督は部屋に備え付けの障壁を展開して耐える…そうしていると黒い霧がネギを覆い始める…いよいよヤバいな

「ち、ちょっとアレ!ネギ君が…」

「黒い霧が先生を覆って…!?」

「…素晴らしい…なるほどこれがかの闇の福音の…クク、ネギ君、私はますます君が欲しくなりましたよ」

「な…によ、アレ…」

「せん…せ…」

「あーマギア・エレベアの侵食ですねー終末期の魔物化ですー」

「チッ…こうなったら力ずくで拘束するしかねぇかっ」

「いいでしょう!!その復讐は君の正当な権利だ!!その憎しみ、私がこの身に浴びましょう!!!」

「ダメ、先生ッダメですッ全てのページが真っ黒に…ダメ…ダメェッ先生ーッ!!」

ネギを拘束する為に糸を飛ばす…が、ちょうど立体映像の方でネギの親父がネギを助けるシーンがネギと総督の間に映し出され、ネギの動きが止まる。

「ネギ先生ッ!!!」

「ネギ君!!」

「ダメですよー」

その隙にノドカと朝倉がネギの両腕を掴んで拘束する…聡美まで飛び出して腰に抱き着いた事に唖然として私は一瞬怯んだ。

「騙されちゃダメ、コレは罠だよッ!」

「ネギ先生、負けないでくださいーッ」

「ほら、千雨さん、今ですよー」

と、やっていると拡張された知覚というか、途中で止めていたハッキングの方から総督室のログとして転移と立体映像の投影が送られてくる…あの総督め、立体映像の自分を殺させるつもりだったのか…?

「先生はこんなコトの為にここに来たんですか、こんなの違うッこんなの夕映や…みんなや、わ…私が大好きな先生じゃないですーっ!!だから先生…ッ」

「う…ぐ…の…ど…かさん?」

僅かにネギの意識が戻る。

「ん、戻ったようだな」

カツカツと歩み寄り、ネギの正面に立ってネギの顔を覗き込んだ私はそう言うとビンタをかました。

「ふんっ、獣に説教しても何の意味もねぇからな…未熟者めっ」

「千雨さん…」

「そりゃあ私達にはこの日にお前が味わった辛さはわかんねぇし、お前がこの日からどんだけの孤独と懊悩の夜を送ったかも知らねぇ!!けどよッ、こうじゃねぇだろ!?この日テメェに芽生えたのは復讐とかそんな下らねぇモンだけだったのか!?そんなはずねぇんだ!!」

と、いった所で立体映像の物語の終盤…ナギさんがネギと対面するシーンに入る。

『…そうか、お前が…ネギか…お姉ちゃんを守っているつもりか?』

ネギの侵食がとけて、ヒト型に戻っていく…

『大きくなったな…お、そうだお前に…この杖をやろう、俺の形見だ』

『…お、お父さん…?』

『悪ぃな、お前には何もしてやれなくて』

『…お父さん?お父さん』

『こんなこと言えた義理じゃねぇが…元気に育て…幸せにな!』

『お父さ…お父…さん…ふ…ぐっ…お父さあーん!!!』

「この日、あんたに芽生えたのは…」

「う…ぐっ…」

と、ネギが苦しみ始める…仕方がない、あれだけの侵食である。

「先生!?」

「ネギ君!?」

「ち、千雨さん、治療を!」

「わかっている!」

私はネギの手を取り、自身が耐えられる範囲で魔素汚染を引き受けていく…これで『急性中毒は』楽になる筈だ。

「スイマセン…千雨さん…皆さんもご迷惑を…」

パチ…パチ…パチ…パチ…

そんな拍手と共に総督が現れる。

「フフフ…お見事です、お嬢様方…さすがはネギ君のパートナーたちですね。

マギア・エレベアで不安定になっているネギ君なら容易く堕ちると思ったのですが…まさか主に何の力も持たないお嬢さんたちに止められるとは…ねぇ?」

そう言って総督は私に視線を向ける。

「残念です、どうせならこの私を『殺す』ところまで行ってくれれば大変都合が良かったのですがねー」

イラッときた私は腹いせにハッキングを進め、小夜の霊波と干渉している臭い幾つかの障壁を解除した。監視は既に警備室にダミーデータを送ってあるのでokである。

「…ちょっと総督さん、言ってるコト、やってるコトが回りくどくてよくわかんないやね。結局何が目的なの、アンタ」

朝倉が若干切れ気味に問う。

「フフ…目的ですか…それは当然ネギ君を我々の仲間に引き入れる事ですよ…では――…」

と、総督が指を鳴らす…既に総督室の電子システムは掌握しているのだが、通しでよいだろう…と部屋の立体映像を切り替える。

「旧世界出身のお嬢様方にもわかりやすく説明して差し上げましょう、御覧なさい、コレが魔法世界、かつて地上を追われた者たちの楽園…となる筈だった惑星です」

「これはー?」

「幻想空間を利用した映写装置です、非常に高価な魔法具ですが」

いつの間にか現れた少年従者がのどかの問いに答える。

「フフ…ネギ君はマギア・エレベアの影響で非常に不安定になっていました。一歩こちら側へ踏み出させてしまえば引き入れるのも簡単かと思ったのですがね、奇策は奇策…正攻法に切り替えましょう」

「そんなコトの為にこんな茶番を…?」

「目的のためには手段は選びません」

再びの場面切り替え…コレも通しである。

「では、最大限ぶっちゃけて簡潔に解説致しましょう…純血の魔法使い市民5000万人と魔法世界最大の軍事力を要する超巨大魔法都市国家、メガロメセンブリア――その最高機関である『メガロメセンブリア元老院』これは我々の『敵』です。滅んだとされる『始まりの魔法使い』、これも我々人間の『敵』、その遺志を継ぐ『フェイト・アーウェルンクス』等も同様、今最も危険な『敵』でしょう。亜人たちの帝国『ヘラス』…残念ながら彼らも障害の一つでしかありません…如何です?シンプルでしょう、つまり――これら全てそのことごとくを打ち倒す!!ネギ君、君にはその為に力を貸してほしいのです」

「「「「ハァ!!?」」」」

世界征服電波でも受信しているのかこの総督は…と思ってはみた…が次の言葉で状況が理解できた。

「そして――この滅びゆく世界からすべての人間…6700万人の全同胞を救い出す…それが我々の目的です」

「「「「「アー」」」」」

それで合点がいった私達はお互いに顔を見合わせる。

「な、何ですか、その反応は」

「大体状況は理解しましたー」

「ですが…メガロメセンブリア元老院も敵なんですか?さっきは我々って言っていたのに――…」

「あんた、関与していないんだね?ネギ君の事件に」

「…私はその罪から逃げるつもりはありませんがね、ネギ君も殴る相手がいなくなると困るでしょう。事が全て終わった後には思う存分私を殴り殺してかまいませんよ」

「てめぇ…」

『復讐』を蒸し返すかと私は怒りをぶつける。

「「千雨さん」」

が、聡美と、まさかののどかに止められた。

「『クルト・ゲーデル総督、今この場で言った言葉に嘘・偽りはありませんね?』」

ノドカが問う。

「ほう…」

「のどかさん…」

「すべて真実です、そしてこの人は先生の村の事件にも関与していません」

「フ…」

「…クルト…さん」

 

ズズン

 

と、言った所でそんな音が場を覆う…クルト・ゲーデル総督の用意した立体映像の開演である。

それはナギ・スプリングフィールドが始まりの魔法使いを殴り飛ばすシーンから始まった。

「父さん!?これは…!」

「まあ、私が言葉でいくら言っても簡単に頭を縦には振れないでしょう、そこで…こんなものを用意しました、私の理解する君の…『父と母の物語』です」

そうして始まった物語の第一幕はナギと始まりの魔法使いの問答であった。始まりの魔法使い曰く『私を倒して英雄となれ、羊達(民衆?)の慰めにもなる、しかし全てを満たす解はない、いずれはナギを含めたすべてのモノに絶望が訪れる』と。ナギ曰く『うるせぇ、明日世界が滅ぶとも諦めないのが人間である』と。そして始まりの魔法使いは『私の語る永遠こそが全ての魂を救いえる唯一の次善解だと知るだろう』と告げ、滅んでいった…

第二幕、戦争の終わり…アリカ女王とナギのイチャラブシーン?から始まり、二つの怪しげなシーンを挟んでアリカ女王とナギの別れ…そして酒場での終戦祝い…特に気になったのは2600年の絶望というあたりか…そうなってくると世界の寿命がそろそろやばいと見える。

第三幕…オスティア崩落…世界を救った代償に自らの国を滅ぼしたと嘯くアリカ女王…歴史に刻まれたとおり、全人口の3%という奇跡的少数の犠牲と共にオスティアは滅び…民は難民となって災害復興支援名目で王国はメガロメセンブリアに実効支配される事となった。

第四幕…囚われのアリカ女王…メガロメセンブリア一部勢力の陰謀によりアリカ女王は議会の最中に囚われ、投獄され…2年後の処刑が決まる…難民対策のための手、世界を救うために打った手により多くの非難を浴びていたアリカを助ける者は…もはやおらず…ナギ達は流浪の魔法使いとして生きていた。

第五幕…刑場…まあ俗にいう『ざまぁ』であり、処刑場から助け出されたアリカ女王とナギが結婚を約束するシーン…ということでいいだろう。

そしてエピローグ…アリカの名誉もメガロメセンブリア元老院の虚偽と不正も正されることはなかったと怒る若き日の総督に、後のことは僕らでやろうという高畑先生…と言った感じであった。

「父さん…母…さん」

「よよよ、良かったですぅーッ一時はどうなる事かと…!アリカさまも無事助かって、二人は結ばれてハッピーエンドでホホホントに良かったですー」

「まあ、無事じゃなかったらネギの奴、生まれてないしな」

「そうですねー」

「ちゃんと撮れましたかー?」

「ばっちり、コレはみんなにも見せないとね」

「フ…フフいやぁ~…何度見てもこの件はいいですねぇ」

と、総督迄泣いていた。

「ああ、ご心配なく、この映画はほぼ事実ですよ。ナギとアリカ様お二人のみの場面も本人たちへの綿密な取材のもと造りましたから」

「…クルトさん、あなたはアリカ様を好きだったんですね?」

「は?」

「…あ、やっぱり」

「余計なお世話です」

「まさか、ソレがあんたの行動の理由ってんじゃないだろうな?」

「ハハハハハ、さすがはお嬢さん達、良い着眼点ですが…本題からずれますので無視させていただきます」

そう言って、総督は笑ってごまかした。

「さて…如何でしたか、ネギ君。メガロメセンブリア元老院の悪逆非道、君の父と母がいかに世界のために尽力したか、おわかり頂けたでしょうか?」

「で、結局何が言いたいのさ、アンタ」

「いえ、何…父と母を追うネギ君には全てを話し、事情を十分に理解して頂いた上でその意志を継いでもらいたいだけですよ」

…と、なると妥協点は火星緑化計画へのネギの参画あたりになるだろうか…まあ別に構わんか本人にその気はあるだろうし…私らが卒業するまで位は猶予を貰ってもいいかと思うが…ね。

「さあ、ネギ君、我々とともに闘いましょう。父と母の意志を継ぎ世界を救う、これこそが君の今回の旅の結論のハズですよ」

その言葉にネギは短く思索に入った…ように見える。そんなネギに提督は畳み掛けるように言葉をつづけた。

「何を迷うのです?君の敵がメガロメセンブリア元老院であることは明白でしょう…彼らはオスティアの地と『黄昏の姫御子』の力を手に入れる為にアリカ様を陥れたのです。

それに失敗すると次はアリカ様の遺児である君を狙った…この意味はわかりますね?そう…君は彼らと闘うことで母の名誉を守り、君自身の復讐を果たすこともできるのです!!

そして君は未来をつくることもできる。追うべき理想、継ぐべき志、君も父と母の道を行く為に…答えは一つです、私と共に戦いましょう!世界の為に!!

答えを。

迷う理由は何一つないと思いますがね」

そんな提督の長演説の間、私はプレゼン用の簡単な資料を電脳側で作成していた。

「フム…では3分間差し上げましょう…その間、じっくり考えてみてください」

そう言って提督は少し下がって口を閉じた。

ショージキ、火星緑化計画を遂行するにあたって政治力は必要なのでこの船に乗ってしまうのもアリではあるのだ、ネギがネギ先生でいられるかどうかというあたりを度外視すれば…まー政治的に大変な目にゃあうだろうけれども。

そう考えながら私は引き続き、プレゼン資料を作っていた。

 

 

 

「時間です、答えを聞きましょう、私の仲間になるか否か」

「せんせー…」

「ネギ君…」

「んー…どーなりますかねー」

「さぁ…?ネギにとっちゃ一長一短だからなぁ…茨の道だが」

そんな言葉を交わしながら見守っていると、ネギが口を開いた。

「………わかりました、仲間になりましょう」

「ほう」

「ネギく…」

「へえ…」

「その代わり、僕の仲間には手を出さないと約束してください、それに僕たちの指名手配の解除も…そして何より…貴方の真の目的を果たす手段に僕らのプランを採用していただきます」

そう、ネギは言った。

 



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99 世界の秘密編 第6話 プレゼンテーション

「いきなり何を言うのです!?」

総督の答えは困惑交じりのそんな言葉だった。

「ですから、あなたの本当の目的ですよ…確か『世界を救う』と言いましたね」

そう、そしてその言葉は厳密には噓になる…だって、総督は『魔法世界』を救うプランを持っていないのだから…

「…なるほど、その件ですか…ですが、それを君のプランで…とは?どういう意味ですか?」

「そのままの意味ですよ、総督」

「いえ、その目的を君は知らない筈だ」

「…前提の共有をしましょう…貴方達が、そして僕たちのプランが解決すべき問題…それはこの『魔法世界』すなわち…『火星に築かれた人造異界』の『崩壊の危機』…で間違いありませんね?」

そのネギの言葉に合わせて私は砕け散る火星のイメージ図を投影する。

「…なっ!?な…なぜ君が…そのことを…っ…この件についてはほとんど誰も…まさか、アルビレオ・イマが…!?」

「いえ、違います、僕独自の情報源…それに推論です」

…まあラカンのおっさんによる答え合わせ付ではあるが。

「む…う…」

戸惑う提督に、ネギはさらに畳み掛ける

「提督のお話はたっぷり聞かせていただきましたので次は僕たちの話を聞いて頂きますよ…千雨さん」

崩壊する火星の投影で私がすでにこの部屋を掌握していることに気付いたネギがそう声をかけてきた。

「はいよ」

「なっ…まさかこの部屋のセキリティーを…」

そう言うと私は魔法世界と火星の立体映像を投影する…当然総督は驚いている。

「さて、まずは前提の確認からいきましょう…魔法世界崩壊…その原因は魔法力の枯渇にあります。そしてあなた方のプランはその崩壊から救い出せる人々…僕たちは仮に移民組と呼んでいますが…その移民組の純血の子孫のみを救い出すという計画で…その数6700万人と言う事になります…そうですね」

ネギの言葉に合わせて私は追加で地球を投影し、魔法世界から地球へと矢印を伸ばして6700万人と表示させた。

「…その通りです、その言い草からすると残りの人々を救えぬ理由もわかっているのですね?」

「ええ、被創造組…世界と共に造られた人々の血を引いている人類は特別な処理を行った場合以外は魔法世界と同じ存在…すなわち魔法世界崩壊と共に消えてしまう」

「その通り、ですから、魔法世界から救える全ての人類を救おうというのが我々のプランです…それよりも君のプランは優れているとでも言うのですか!」

そう、ある種妥協的でかつ夢想的な計画…救える人は一人残らず救って見せるという計画、それが総督たちのプランである。

「ええ、文字通り『世界を救え』ば残りの人たちも消えずに済む…違いますか?」

「何をっ…いや…まさか…まさか君は魔法世界の崩壊自体を止めようとでも言うのですか!?」

「ええ、その通りです…規模は大きいですが案外単純な計画ですよ…こうすればいいんです」

と、ネギは指を鳴らす…と共に火星の表面がどんどんと緑化されていき…地球のような星と化した。

「火星の緑化…?いえ、テラフォーミング…それが一体…あぁっ…魔法力の供給ですか!」

「ええ、その通り…単純かつあまりにも壮大なので限られたお偉方だけで議論していては気づかなかったのかもしれませんが…人造異界の研究者に問えば一発で出てくるはずです、どうすれば人造異界を長持ちさせることが出来るか、と」

「…いえ、我々の研究者も魔法力の供給までは考えました…しかし、その為には地球の魔力を搾り尽くす位の事が必要だと言う事で断念していました…言われてみれば単純かつ合理的です…火星を地球のような生命溢れる星にすればよい、とは…しかし可能なのですか?制限時間は有限かつ不明瞭ですよ?」

「かなりの難事業になるとは思われますが…時間としては余裕を見て、五年から十年程度で延命程度の緑化が、半世紀あれば火星を魔法世界を永続的に支えられるだけの生命溢れる星に出来る計算ではあります」

「わかりました、詳しい話を聞きましょうか…賭けるに値する内容であればネギ君、我々の計画に君のプランを採用しましょう」

「…いいえ、総督…前提が違います、僕が提督の計画に参加するのではなく、提督が僕の計画に参加するんです…僕にはもう仲間がいます…そして復讐を目的とはしていませんので…貴方の仲間にはなりません」

ネギは、そう言い切った。

「なにをっ!?どういうことですかっ」

「世界を救う…その志を共にする僕達と貴方達はきっと手を取り合えます…しかし、メガロメセンブリア元老院に復讐をするつもりは…ありません」

「大事の前の小事…だからアリカ様達の名誉も何もかもを諦めろ…そう言いたいのですか?」

「いいえ、そこまでは言いません…しかし、母の名誉回復は後回しでもきっと僕の両親は許してくれるはずです」

「…少し…考えさせてください…システムも掌握されてしまったようですし、構わないでしょう?」

「ええ、いくらでも…と言いたいところですがとりあえず3分間待ちます、と言う事で」

「いいでしょう」

そして、総督は駆け寄ってきた少年従者…迷彩がかかっていたが私が解いた…と何事かを話し合い始めた。

 

「一応形勢逆転…です?」

と、ノドカ

「イヤ…なんだかんだでネギ君が世界救済計画に関与する方向には話が行っちゃったから…まずくない?」

と、朝倉が続く。

「…ですけど、見捨てる訳にはいかないじゃないですか…魔法世界」

そう、ネギが言い訳をする。

「はぁ…まったく…私達と日常に戻るって話はどこへ行った?」

「まー新たな日常と言い切ってしまえばーそれはそれでー」

と、私と聡美がツッコミとフォローを入れる…そして…3分が経過したその時、外部から緊急通信が入った。

 

『総督!緊急事態です!』

『何事ですか』

と、私は合成した総督の画像と声で応答した。

『テロです!大規模召喚が行われ、艦隊が攻撃を受けると共に舞踏会会場にも大量の召喚獣が!』

『っ…』

流石に私がどうこうできる問題ではないので急いで総督に通信を繋ぐ。

「非常事態だ、召喚テロで艦隊と舞踏会会場が攻撃を受けているらしい」

「何ですって!?」

『総督…総督!?』

「警備兵で直ちに対応を、招待客を避難させるのです!すぐに指揮所に向かいます」

『了解しましたっ』

「というわけです、ネギ君、話はまた後でいたしましょう…できれば舞踏会会場の応援をお願いします…お嬢さん、幻想空間の解除を」

「はいはい」

と、いう訳で提督とのお話はそこで一度終わりとなった。

 

 



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100 世界の秘密編 第7話 消えゆく人よ

「先行します、千雨さんは皆さんを」

そう言ってネギが舞踏会会場に駆けていったのを見送り、私たちはそれに続いて舞踏会会場に向かって駆けていた。

そこにパルからの通信が途切れ途切れ入り、どうやらプランB発動したらしいことが分かった。

「プランBだとさ、第二合流地点に目標変更だ」

 

ズンッ

 

その時、ひときわ大きな揺れが起きたかと思うと空中回廊がちょうど私達のいた場所で寸断されてしまう…私は咄嗟に聡美を抱えて退避するので精一杯だった。

「げ」

「朝倉さん、手をッ!」

その背中では朝倉とノドカが崩壊する空中回廊に放り出されているのにも気づかずに。

 

「げ、まずいっ…」

聡美を降ろし、後ろを振り返った時には何もなく、見下ろせばノドカと朝倉がギリギリもう崩れ落ちた一方の通路の端にしがみついている所であった。

「今助け…」

と、飛び出そうとした時、すっと現れた男…クレイグさんがのどかの手を取り、通路に引き上げた。

 

「どーなりましたぁー?」

と、聡美が暢気に聞いてくる…まあ私の表情で助かったとは思っているのだろうが。

「ああ、何とか助かったようだな…おーい、大丈夫かー」

そう私は叫んで下の面々に問うた。

「おーい、なんとかなーチウ嬢ちゃん!今、ノドカ嬢ちゃんから話は聞いたぜーッここは任せろ、二人は俺達が合流地点まで届けてやる!!」

「了解ー!頼んだぞーこっちは舞踏会会場を経由して残った面々と向かう!」

「応!話がはえーな!それじゃあまた後でな!」

そう言ってノドカたちは去っていった。

「合流しなくてよかったんですかー?」

「状況が混乱しているからな…どっちが正解ともわかんねえけど私は会場を見ておきたいと思ったんだ」

「わかりましたー次の攻撃が来る前にとっとと向かいましょうかー」

「ああ…と言うわけでお姫様抱っこな」

「ふぇ…はい…その方が速いですもんね」

と言う事で私と聡美もその場を立ち去った。

 

「ネギ!」

舞踏会会場手前の広場、ネギがうずくまっているのを発見した…

「ど、どうされたんですかー」

私は聡美を降ろし、ネギに近づく…どうやら闇の魔法の暴走のようである…

「ちっ…さっき闇にのまれたからか侵食ペースがやばいな…聡美、手を握ってやってくれ」

「あ、はい」

「私は…もう少し行けるか」

そう呟くと先ほどよりは少ないものの、魔素汚染を吸ってネギの応急手当てをする。

「グッ…あ…千雨さん…ハカセさん…ありがとうございます」

「何があった?」

「急ごうと思って闇の魔法を発動させたんですが、上手く制御できずに…この有様です」

「それは…かなりまずいですねー」

「戦闘中にならなかっただけましと思っとけ…プランBらしいからな…私たちはネギを拾って第二集合地点へ行こうか、丁度直通シャフトが近くにあったはずだ」

 

そんな話をしているととてつもない音が鳴り響き空間が割れるとそこからラカンのおっさんが現れた。

「ラカンさん!?」

「よぉ…ぼーずじゃねぇか、最後に会えて…良かったぜ…」

何だ…何かがおかしい…このおっさん…本当にここにいるのか?というくらい存在感がない。

そして、再び空間が割れる音がすると、大人モードのフェイト・アーウェルンクスが姿を現した。

「…ッ!?フェイト!!!」

「ネギ・スプリングフィールド…ここに空間を開いたのは…貴方の意思か、ジャック・ラカン」

それに応えるようにおっさんは無数の武具を出現させるとそれをフェイトにぶつけた…が、それらは熱源でバターが解けるように消え去ってしまう…巨大な剣、斬艦剣をぶつけても結果は同じであった。

「無意味だよ、ジャック・ラカン。全てを分かっていてなぜ向かってくる?」

「よ」

そしてフェイトが眼を見開くと原子分解魔法のような効果がおっさんの右腕…は既になく、動甲冑で補っている様だ…を破壊した。

「どうした?効かねぇぞ」

「……!やれやれ…頭を狙ったんだけどね。ここまで持つだなんて…あなたには本当に感服するよ。

今のあなたと僕には圧倒的な力の差がある…象と蟻…いや、それこそ字義通りに神と人ほどの力の差が…それを十分に理解もしている…」

神と人…字義どおりに?どー言うことだ…

「なぜだ?」

「あぁん?」

「ラカンさんッ!!」

「来るな!」

助太刀に入ろうとしたネギにおっさんが叫んだ。

「へっ、若造…フラフラじゃねぇかそこでおとなしく最後まで見とけ」

そう言うとおっさんは右腕を厳つい動甲冑で補った。

「あなたに似合わぬ無様な武器だ。なぜだ…?なぜあなたはそんな顔で戦える?全てが無意味だと知らされながら。

いや、あなたは既に知っていた…10年前、いや20年前のあの日からメガロメセンブリア上層部がひた隠しにするこの世界の秘密に。

この世界の無慈悲な真実に。

絶望に沈み、神を呪うもおかしくはない真実だ。事実これまでに僕が見てきた者は皆そうだった。

なぜだ?

真実を知り尚20年…なぜあなたはこの意味なき世界をそんな顔で飄々と歩み続けられる?」

真実…世界が、そして魔法世界人の殆どが幻という事か…?

「ほ…何だてめぇ、んなこともわかってなかったのか。てっきりわかってやってんのかと…

真実?

意味?

そんな言葉、俺の生にゃあ何の関係もねぇのさ」

そう言い切り、おっさんはニヤリと笑った。

「……ッ、ならばその真実に焼かれて消え去るがいい、幻よ!!」

そう宣言し、フェイトは尖った石柱の雨をラカンのおっさんにぶつけた。

「ちぃっ」

私とネギは聡美をかばうように障壁を展開し、攻撃の余波を防ぐ…

「ラカンさんッ!」

直後、ラカンのおっさんはフェイトの背後に現れ、乱打、原子分解…恐らく魔法世界人特効…と凄まじい応酬を見せ、厳つい右腕の鉄甲でフェイトを地面に縫い付けた。

「…コレも無意味だよ、ジャック・ラカン。結果はもう決まっている」

「けど、楽しかったろ?もうちっと楽しめや、フェイト」

直後、厳つい鉄甲のギミックが発動し、地面が砕けた。

「ラカンさんッ!!」

砂塵の中から現れたおっさんにネギが駆け寄る…が指先からサラサラと崩れていくのが見えた…ああ…

「…なるほど、限界って訳か…確かにもう結果は決まってやがったな」

「ラ…」

「ぼーず、まあ…なんだ、おっさん世代の矜持として拭き残しはさっぱり拭ってやりたかったが、どうも全部押しつけることになっちまいそうだ」

「ラ…カン…さん…?」

ネギが何を言っているのだと言わんばかりにおっさんの名を呼ぶ。

「悪ぃ…まあ、てめぇにならやれるさ…」

そう言い残し、おっさんはきれいさっぱりと消え去ってしまった…なんだよ、おっさん…あんたチート無限のバグキャラじゃねーのかよ…消えてんじゃねーよ…バーカ

「ラ…ラカンさんッ!!!」

ネギの叫びが木霊した。

 

「最後まで…わからない男だった…」

すっと何事もなかったかのように無傷のフェイトが現れる。

「えっ…無傷…ですか」

「フェイトッ…アーウェルンクスッッ!」

そんな叫びと共にネギは魔物化する。

「あ、バカ!やめろ!」

そんな私の声など届かず、ネギはフェイトに突っ込んでいった。

「やるのかい?いいだろう、やろうネギ君」

…暴走していては勝てるもんも勝てんが、助太刀するしかあるまいと私は覚悟を決めた…直後

 

まあ、落ち着け

 

と、虚空から拳とおっさんの声が出現し、ネギをぶん殴った。

「えっ…今のは…ラ…」

「…心底あきれた男だ…愉快だよ、今日はやめておこう、ネギ君」

そう言うとフェイトは転移で消え去っていった。

 

やめとけやめとけ、勝てねぇよ

 

「ラカンさん!?ラカンさんなんですか!?」

すると、おっさんがチリが集まるように形成される。

「あ…」

「お…おっさん!」

「!?ラ…カンさん…」

 

よ♪

 

「ラ…ラカン…さ…ん…」

 

これか?気合だ。すべては気合で何とかなる。

見てのとおり、奴らは世界の秘密につながる力を得たみてぇだ。

意味はわかるな?俺じゃ、今の奴らにてんで敵わねぇって訳だ

奴らを止められるのはお前達だけだ!!

まあ、ガキのてめぇに世界を背負えとまで言わねぇ、アスナを頼む

奴らが造物主の力を得ている以上、ホンモノのアスナは向こうの手にあると考えるべきだ…

 

「え…」

造物主の力…ホンモノのアスナ…なんとなく色々とつながってくる言葉である。

「ラカンさん、今なんて!?」

 

おーう嬢ちゃん!

チサメ嬢ちゃん!

 

「な、なんだ、私かよ?」

 

今の暴走でわかるとおり、コイツはまだまだだ。バカやらねぇように見ててやってくれねぇか

嬢ちゃんが一番コイツを見てる、頼むぜ

 

「ああ、一応姉弟子だし…マギア・エレベアの事もある程度はわかっているからな…任せとけ…アスナがいりゃあ押し付けてもいいんだが…ね」

 

おう、ぼーずと違って話が早えな。

そう、今お前たちの傍らにいるアスナは恐らく偽者…替え玉の幻だ…

 

「えっ!?」

 

いや…偽者とは言えねぇか、俺や…この世界のように…

 

「あ…ラ…カン…さん…」

おっさんの姿は再びチリの様に散り始めていた…

「じゃあな、おっさん…できる限りのことはするよ…いい人生だったか?」

 

おっ、それを聞くか…まあ色々あったが…楽しかったぜ、久しぶりに楽しいケンカもできたしな。

へっ…じゃあな、ぼーず。闇に食われるなよ

後ろじゃねぇ、前を見て歩け、

前を見て歩き続けるヤツに世界は微笑む

 

「ラカ…ン…さん…」

「嘘…ですよね…貴方がやられて消えるなんて…」

「どうしょうもねえさ…世界の管理者の力を使われたんだ…いくらおっさんでも…な」

「そんな…」

自身も涙を抑えながら、泣きそうな顔をする聡美を私はそっと抱きしめた。

「…ッ、ラカンさぁーんっ」

…ネギの慟哭を聞きながら…

 

 

 

「立ち止まってても仕方ない…行くぜ…ネギ」

私はおっさんの塵を手にうなだれるネギにそう声をかけた。

「ネギ先生ーッこっちですー総督さんとの話も大事だけれども、まずは一度離脱しましょうとの事ですー」

「あれーさよさんー合流地点の皆さんはー?」

「なんだか先に別の舟で先に脱出したそうですー」

「ぐ…ッ」

金魚の甲板で手を振るサヨと聡美がそんな会話をしていると急にネギが苦しみ始めた。

「だ、大丈夫ですかーぁ!?」

「どうみてもだいじょばない、マギア・エレベアの副作用だな」

「そんな、千雨さん、冷静に言ってないで何とか治療を…」

とは言っても、私も大分吸っているので対処療法にも限度がある。

 

ドサッ

 

そうこうしているとついにネギは意識を失い、倒れてしまった。

「ネギッ」

「「ネギ先生!」」

「どうしたっ」

「ネギ坊主!」

「ネギ!?」

と、そこへ舞踏会会場から撤収してきたアスナ…の偽者…やクー、真名などが合流してきた。

「チッ…とりあえず、一度離脱、別便の連中と合流して検討会議だ」

そう、その場は纏め、私たちは金魚で舞踏会会場を後にした。

 

 



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101 世界の秘密編 第8話 偽アスナ

 

「…知り合いの被害状況が色々と深刻なのはわかった…で、ノドカ、その情報は確かなんだな?」

「はい、敵の大幹部、デュナミスさんの読心をした結果ですので間違いないかと」

「…わかった、じゃあそのグレートグランドマスターキー奪取とアーニャらしき反応の救出を仮目標として廃都方面に向かい、ネギが起きたら改めて正式な方針会議をするという方向でどうだろうか」

「問題ないかと」

「了解っ」

「異議なしっ」

というわけですでに廃都方面に向けて脱出していた別艇と合流し、私たちは白き翼の情報組+αで情報共有と仮方針会議を開き、今、終決した。

 

「お待たせ、聡美、状況は?」

「こっちも終わりましたよー概論としてはこんなもので十分かなーと」

そう言って聡美はデータファイルを提示してくる…内容は本来ラカンのおっさんに預ける筈だった火星緑化計画の概論である。

「…うん、私もこれで十分だと思う。ネギのチェックを入れたらアリアドネーと駐留艦隊のそれぞれに割り込み通信入れてセラス総長とクルト総督に渡そう」

「はいー」

というわけでネギが起きるのを待つだけとなったのでネギの様子を見に行くことにした。

 

「千雨」

「ああ、真名…まさかお前がこっちに来ていたとはな」

「ふふ…驚いただろう。しかし私も驚いたよ…強くなったな、千雨…いや、ちう選手」

「からかうなよ…まあ、色々とがんばったからな…」

「ああ、そして少年は遂に姉弟子を超えたようだな」

「…色々と代償に、な…あいつはもはや人外まであと一歩って所だ…字義どおりに、な」

そう言いながら狭い船内を進んでいく。

「ネギ?」

コンコンとノックをして、まだ起きていないだろうと返事を待たずに寝室の扉を開けた。

「え…龍宮さん!?」

「や」

しかし、意外な事にネギは既に覚醒していて真名の存在に驚きを示した。

「ネギ、覚えているな?突然倒れた事…マギア・エレベアの侵食だな?」

「そ、それは…あっ」

私の言葉を否定できずにたじろぐネギの手を真名が取る。

「ふむ…重度の急性魔素中毒の症状に似ているな…なるほど、闇の魔法か…」

「ああ、対処療法も概ねそれと同じだ…が私じゃあ急性症状の緩和しかできねぇ」

「なるほど…早急に処置を施さなければ命に関わるぞ、ネギ先生」

真剣な目で真名がネギの顔を覗き込む。

「……わかっています、龍宮さん…でも」

「真名、その事だが、テオ…皇女から借りたダイオラマ球がまだ手元にあるんだ。あと、マスターのコピー付きのマギア・エレベアのスクロールも。こいつらを使って何とかできないかと思っている。真名にも力を貸してほしい」

「千雨さん…」

「なるほど、ダイオラマ球に闇の魔法の巻物か。確かに手があるとすればソレだろうな」

「そ、それより状況はどうなっています?」

はっと、ネギはそう問いかけてきた。

「安心しろ、クラスメイトは全員無事だ」

「総督との再会談とも迷ったが当初計画通り廃都オスティアへ向かってるとこだ。飛行魚は2隻に増えちゃいるが」

「2隻?」

「ああ、私達の合流が間に合わなくてヤバかった所をたまたま居合わせたトラックの運転手が助けてくれたそうだ、なんでも裕奈たちがこっちで世話になった一般人らしいが…」

「なるほど…」

「しかし、この魔法世界の人々がかなりやられている、君たちの関係者も何人か…」

「あのトサカが亜子を庇ってやられたそうだ」

「トサッ…!?そんな!?どうして…」

「だがいい報せもある、驚くなよあのノドカが決死で得た情報だそうだ、消えた人間を復活させられるかもしれない、あのラカンのおっさんもな」

「うむ…という事で方針策定会議を開く…行こう、ネギ先生」

「待った、真名…ネギ、これを」

そう言って私は魔法糸で梵字と魔法陣の刺繍を施した黒長手袋を取り出した。

「これは…?」

「無いよりマシ、程度ではあるがマギア・エレベアの侵食を止められるはずだ、一応つけておけ」

「あ、ありがとうございます、千雨さん」

そう言って、ネギは笑った。

 

 

 

「で?行くの?行っちゃうの!?よっしゃー」

再びの情報共有と方針策定会議…今度は全員公開で…を済ませ、裕奈がノリノリで言い出す。

「いえいえ、まだです、早いです。とりあえず夜明けまでは待ちます…僕はこれから治療と救出作戦検討の為にダイオラマ球に入ります、皆さんもできたら順番にダイオラマ球で休みを取ってください」

「治療?」

「あ、いえ、その…まあ…ハルナさん、やはり廃都まではまだかかりますよね」

誤魔化すようにネギが問う。

「かかるどころじゃない、簡単には進めそうもないよ、ネギ君ちょっと甲板に上がってくれる?」

 

「コ…コレは…」

ハルナに促されて甲板に上がった私たちはゲートポート周辺に魔力だまりが形成されているのを確認した…ヤベェ

「私達が向かっているゲートポートの方角に強い魔力が集まって光っているみたいね。

魔力が枯渇しているハズの地域なのに浮遊岩が多くてオカシイと思っていたのよ、この数時間でこうなったぽいわ」

「…連中のテロ計画はやっぱりコレの為か」

「…ですね…20年前の再現…でしょうか」

「オロ…予想済みだったわけ…!?とにかくヤツラが何かおっ始めたって事よね

フフフフフフフッいいわね、いいわね、面白くなって来たじゃないッ。

ちょうど状況が一段落したことだしパル様が纏め絵を作成しといたわ!みんな状況整理しといてね!」

そう言ってハルナは各員がデフォルメされた状況整理図を広げた。

 

 

 

「アスナさんと二人っきりで話したいことがあるんです」

少し用事があるから、とノドカをこちらに移乗させて真名も呼んで共にネギを探しているとネギが偽アスナを誘っている場面に出くわした。

「げっ…先走りやがった」

本当は、尋問のプロでもある真名にも状況を説明して偽アスナを呼び出してノドカのサポートの下、ネギ立ち合いで尋問をする予定だったのだが…

「どーしますー?」

「…ある意味好機だ、二人にこっそり続くぞ…真名、ノドカ、状況説明は中でする」

という事でネギと偽アスナがダイオラマ球に入って少しした後、私たちはそれに続いた。

 

「うーむ…状況証拠は黒なんだが、こうしてみてもホンモノのアスナにしか見えねえな」

状況を説明し、アスナがネギを風呂に入れている場面を観察しながら私は言った。

「私が護衛についた時にはすでに偽者だったという事か?とても信じられんな…もし事実ならどれほど高度な術を用いたのか」

「それを確かめるのは甘ちゃんのネギには力不足かもしれないな」

「その時はすまないが任せたぞ」

「ひゃ」

「でーこれ私いりますー?」

と、聡美が私に問うてきた。

「あ…ごめん、一緒にいたからつい巻き込んじまった」

「もー仕方がありませんねーこうなったら微力ながら協力いたしますよー記録係とかー」

と言った会話をしていると、ネギのマギア・エレベアが暴走を始めた。

「あーこれもう駄目なんじゃないですかぁー?」

「そ、そんなっ」

「オイ!?千雨、あの黒手袋の効果は!?」

「新たな侵食を抑えてアレ、ってこったよ…いよいよ末期だな…とっとと尋問を終わらせて治療に移らにゃならん」

と言っているとネギが偽アスナの胸に顔をうずめるように倒れた。

「いかんっ…!?」

と言って真名が飛び出し、私たちもそれに続いた。

「おおーっと、そこまでだ、神楽坂!!」

「代われぃ兄貴っ!」

オイ、カモ、ひねるぞ?

「離れろ、アスナ、今、いろんな意味でお前がヤバイ!」

「あ、あのアスナさん、エ…エッチなのはいけっいけにゃな…」

「キゃアアアッ何々ーッ!?っていや違うのよこれは誤解でッ…」

と、コントをやってしまったが…

「アスナさんを拘束しなくていいんですかぁー?」

との聡美の一言に我に返った私たちは偽アスナを拘束し、ネギに服を着せて尋問に取り掛かるのであった。

 

 

 

「『鬼神の童謡』が無反応とはな…」

「本物の神楽坂だったとしても無効化されるだろうがな」

「だから何回言わせるのよっ、私がスパイなわけないでしょ!?私は正真正銘神楽坂明日菜よッ!!」

と、まあ予想はしていたが、手短な尋問では想定通りの展開となった…魔法無力化能力がないという状況証拠からは黒なのだが。

「仕方ない、私が『尋問』しよう、いくつかやり方を知っている」

「いや、姉さんソレ、絶対尋問じゃないだろ」

「掲載できないようなアレなナニはもうちょい待ってくれ、真名」

実際、私は悪い警官役として真名を頼ったつもりなのでそれは最終手段にしたい。

「じゃ、ノドカ頼む、まず『アスナ』でいってくれ」

「は…はいー」

「すみません、アスナさん、本物だったらとても失礼な質問ですがー…」

「本屋ちゃん…」

「神楽坂明日菜さん、あなたは本物ですか?あなたはいったいどこの誰ですか?」

そして…対策がしてあるとは思ったが、やはり、通った。

「あーアスナで通っちまったか」

「や、やはりご本人なのではー…」

「いや、嬢ちゃんの『いどのえにっき』は例えば多重人格の別人格を名指ししても捕らえられる…らしい。この辺、固有名や魂の話になってきて複雑なんだが…」

「何…?では少なくともこの『神楽坂明日菜』は自分を『神楽坂明日菜』だと認識しているということか」

「そーだな…ノドカのいるうちに送り込むならばその辺りの対策はしているとは思っていたが…そうなると自己催眠系の術式が怪しいっちゃ怪しいな」

「なるほどー」

と言いながら聡美は記録をつけている。

「だから、ホンモノだって言ってるでしょーッ」

「龍宮さん、何をしているんですか!鎖に繋ぐなんて!ホンモノのアスナさんかもしれないんですよ」

そう、覚醒したネギが現れて言った。

「ネ…ネギ…」

「ふむ…君らしい…が。この場面ではその甘さは許されない。

もし彼女が本当にスパイだったなら仲間全員が危険にさらされる。

リーダーならば疑いがある限り、最悪のケースを想定するんだ」

「で…でも、そのアスナさんの人格は本物だと今…」

まー提督の気斬を無効化できなかった点や、舞踏会会場で役立たずだったという証言から見て偽者だろうけれどな…それか『黄昏の姫御子』とグレートグランドマスターキーが同義で、魔法無力化能力の源であるそれを抜かれたとか…な。

「…たとえ本物でもキーワードで覚醒する『自覚なき暗殺者』などにマインドコントロールされている可能性もある。

人格移植された自動人形の可能性も否定できない。油断は禁物だ、甘すぎるぞ…先生」

「で…でも、龍宮さん」

「…どうもこのままではらちが明かないな、宮崎のアーティファクトでも打開できないならば、これでいくしかないようだ」

そう言って真名は銃を取り出す。

「真名!?」

「「龍宮さん!?」」

「ちょ」

「人に化けた魔物の正体を暴く退魔弾だ、偽者ならばこの直撃でわかる。

安心しろ、先生、本物の神楽坂明日菜ならば魔法無力化能力によってこの弾を弾く」

「た…龍宮さん、それはいけません!」

「待て、真名!その神楽坂明日菜に魔法無力化能力が無いのは実証済みだろうが!魔法無力化能力を喪った本物って可能性だって残っているんだぞ!?」

「ふん、千雨も存外甘いな、弾が当たっても死にはしない、近衛にでも治してもらえ」

チッ…真名がここまで強硬に暴走するとは読んでなかった…

「でも、龍宮さんッ」

「悪いがダメだ。君達ができないことを私が請け負ってやろう」

そう言って、真名は引き金を引き、その弾は左鎖骨に命中した…割って入ったネギの。

「ネ…」

「何を…先生…」

「ダメです、龍宮さん」

私は黙って天を仰ぐ…そうだな、ネギならそうするわな、という思いを込めて。

「バカな…どきなさい、ネギ先生!」

「なぜだ、ネギ君!?」

「なぜでもです!!」

「皆の安全確保は最優先課題だ!!ここまでの逸脱はいくら君でも看過できないぞ!?」

「それでも、アスナさんは撃たせません」

「まるで子供のダダだ!」

と、ネギと真名は口論をしながら互いの腕を弾き合う応酬を繰り広げる。

「どくんだ!」

そしてついに真名のビンタがネギに入る

「!!龍宮さんッダメ…ネギッ」

が、すぐにネギが真名の腕を取った。

「たとえこの人がアスナさんじゃなかったとしても、僕にとって大切な人には違いありません」

「ネ…ギ…」

「しかし…ネギ先生」

と、真名が食い下がる。

「…こうすれば誰も傷つけずに真実を明らかにできます、カモ君」

「ふむ」

「失礼します、アスナさん」

「へ?」

と、ネギが枷を破壊した所で私も気づいた、ああその手があったか、と。

そして、ネギは偽アスナにキスを…仮契約を仕掛け…そしてカードは出現した…ルーナという別名義で。

「…やはりか」

「あ…あなたは…?」

「…ネギ…さん」

「な…何者だてめぇっ!?」

「『完全なる世界』の構成員だな?本物の神楽坂はどこにいる?吐け、女」

と、真名は銃を突き付けて問う…が、ルーナはプイっと顔をそむけた。

「貴様…」

「待ってください」

手荒い手段に出そうな真名をネギが諫める。

「ルーナさん、ですね?

危害を加えるつもりはありません、何かを強制するつもりもありません。ただ…本物のアスナさんの居場所を…教えて頂けませんか?」

「…あ…う…!」

…ここでノドカの投入かと思ったが、反応を見るにこの方が良さそうである。

「…あ、アスナ姫は私達が捕らえ、あなたの仲間の一人とともに。恐らく今は墓守り人の宮殿にいますわ」

「マ、マジかよ…」

「墓守り人の宮殿…」

「アスナ…姫?」

「…ああ」

 

 

 

「…と言うわけです」

面子を入れ替えて…ノドカを外して刹那と楓を加えて…完全なる世界の目的をルーナに問うた私たちは薄々感づいていたその目的を知った。

魔法世界がいずれ崩壊する事…魔法世界人の殆どが幻想である事…そして魔法世界人全ての魂を『完全なる世界』と呼ばれる幻想世界に移住させる計画…それこそが『完全なる世界』という組織の目的であった。

「…なるほど」

「確かにーある種の次善解ですねーラカンさんの映画の通りですー」

「し、しかし、ネギ先生の計画では…」

「う、うむ…その点もクリアーできる筈…でござるな?ルーナ殿?」

アスナとしてプレゼンの一部を見ていたルーナに楓が問うた。

「…ええ、もしおっしゃる通りに本当に魔法世界崩壊自体を阻止できるのであれば…」

「けどアンタ、そんなペラペラ喋っていいのかよ」

「私は…時間をかせぐのが役目でしたからもう…」

「使い捨て…というわけかよくある話だな」

…という言葉に端を発し、真名とルーナの言い争いが始まり…ネギがその場を収め、真名にルーナの見張りを頼んだ。

「千雨さん、ハカセさん、カモ君、楓さん、刹那さん、ちょっといいですか?」

「あ…待…」

と、ルーナがネギの服の端を掴んだ。

「…話しにくいことをいろいろ答えてくれてありがとうございます、後でもう少し詳しい話をお聞きして構いませんか、ルーナさん」

「は…はい、喜んで。あ…あの…後で…とはいつ…?」

喜んで…?

「いつ?ええ、すぐまた戻りますよ」

「は…はい、お待ちしていますわ…」

「あーあ」

お…オイオイ…まさかのネギラブ勢追加である。

 

 



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102 世界の秘密編 第9話 ネギの治療…?

 

「――どう思われましたか?」

「完全なる世界計画…か?まあ、いろんな意味で独善的というか父権的というか…地球との往来を断って人造異界の階位を下げて幻想に取り込むまでならともかく、楽園への移住ってのが気にくわなかったな、私は」

「まー私は魔法世界の再構築自体は次善解として悪くはないと思いましたよー楽園計画とでも呼ぶべきものが付随している点の是非については置いておくとしてー」

と、私と聡美…まー持てるものだからこそ言える感想なんだろうが。

「拙者にはよくわからんでござるが…ネギ坊主の計画とやらをゲーデル殿があれだけ切実な顔で聞いていたわけでござる」

「俺っちとしては…まあ気持ちはわかるがさせる訳にゃ行かねーって所だな…兄貴達の計画とやらが実現可能ってんならなおさらだ」

「私はネギ先生を信じますが…計画を崇高と呼ぶルーナの気持ちも少しわかるような気もします。

ですが…本物のアスナさんが敵の手に…くっ」

「ほかの奴らに何処まで伝えるかは検討中だ、朝倉には伝えている、しばらくは黙っててくれ」

「…完全なる世界計画なんて実行させちゃいけない…そうですよね、皆さん」

そう、ネギはどこか自分に言い聞かせるようにつぶやいていた。

「さ、ネギ。今はお前の体をどうにかするのが先だ」

「…ハイ」

「闇の魔法の巻物です」

「わりぃな、刹那」

「確かにエヴァンジェリンさんならばネギ先生の闇の魔法による副作用を何とかできるかもしれません」

との刹那の物言いに副作用…副作用なぁ…?という言葉が浮かんだが飲み込んでおく。

「…では開けますよ」

「ハイ」

と、スクロールを開く…と真っ裸でクッションに横たわり、ポテチを摘まみながらレトロゲーをプレイするマスターのコピーが出現した。

「おわあっ!?何だ貴様ら」

愕然として固まっていた私たちはしばらくした後にエヴァがそんな反応をしたことで元に戻った。

「エヴァさん…」

「マスター…?」

「エヴァこそ何やってんだーッ、てゆーか中で暮らしてんのか!?全裸でポテチくってレトロゲーとか本物のマスターでもしな…いやする…か?」

「千雨さーんそこじゃないですー」

「で、何の用だ、ラカンには勝ったんだろう、この巻物は用済みのハズだが?」

「それがマスター…」

と、ネギが状況を説明した。

「そうか…ラカンが逝ったか…」

「まあ、予想通りあんま動揺はしない…と」

「ふん…死など見飽きている」

「それより、貴様のマギア・エレベアの暴走についてだったな」

「ハ…ハイ」

「マギア・エレベアは元々私固有の魔法技だ、ただの人間が使う事は想定していない。

闇の眷属でもない貴様が使い続ければ闇と魔に侵食されることは予測できていた。

ただ…フフ…ここまで相性が良いとは思わなかったがな…このまま暴走を繰り返せば貴様は…

――恐らく精神も肉体も魔に支配されて人外の化け物となる、二度と人間には戻れないだろう…私のようにな」

デスヨネー…知っていた。驚愕する面々を尻目に私と聡美は当然のことだという顔でそれを聞いていた。

「まあ、その過程で耐えきれねば死ぬかもしれんがな。しかしこれは言ってみれば生物種としてより上位の存在への転生だ…悪いことでもないかもしれんぞ。

むしろ父の偉業を継ごうと決めた貴様ならそう言った存在になった方が有利ではないかな?…くっくっく」

そんなエヴァの言葉にネギは割と真剣に悩んでみせる。

「コラコラ、真剣に悩むなよ…選択肢はねーに等しいけどな」

そう後半は肩のカモと隣の聡美に聞こえるくらいの声でつぶやいた。

「ま、そうなった直後はケモノ同然…ハッキリ言っていい鴨だ。デメリットは大、今は処置しておくのが得策だろうな」

ほーら、暴走させないんじゃなくて暴走させてソレを御する方向で話が進んでいる。

「…マスターッ!お願いします!」

「フ…よかろう。だが、私にとっても初めての事例だ。極めて危険、成功するかどうかもわからぬ、それでもか?」

「ハ…ハイ」

「それと…私の再生はこれが最後となる」

唐突にエヴァが衝撃の事実を告げる。

「え…」

「これが私の最後の授業という訳だ…わかったか!?わかったら心してかかれ!!」

「ハイ!!」

「いい返事だ」

…とマスターはネギを地面に縫い付けると魔法陣を出現させ…意図的な暴走を誘発させる。

「な…何を」

「わざと闇の暴走を起こさせるのだ、貴様らも手伝え」

「マ…マス」

「闇の力とは畢竟、己自身の負の側面、切り離せぬ半身だ。ぽーやの問題はそちら側に力の源泉、自我の根源がある事…受け入れるだけでは足りぬ、飼い慣らす方法を見つけろ。

それが何かは私も知らぬ、誰も助けられぬ!貴様自身が見つけるのだ!!力に飲まれるも支配するも全ては貴様次第!!!」

案の定、マスターの無茶振りである。

「拙者たちは何を?」

「抑えるのを手伝え」

「抑える?」

「そうだ、魔物の扱いは本業だろう?

ただ、気を引き締めろよ、こいつはそこらの中ボスクラスの魔物より余程厄介だからな」

「りょーかい」

と、言われ私はシグヌム・エレベアを装填しようとした…のだが

「ああ、千雨、貴様はシグヌム・エレベアなしで参戦だ、後、三人ではあまりに容易いだろう、いいというまで貴様は待機だ」

「…わかったよ」

そう答えて咸卦の呪法のみを発動させて待機状態に入った。

 

「オイオイ、押されてんじゃねーか」

暴れるネギを抑える刹那と楓を眺めながら私は呟く。

「あれほどの魔物を殺さずに抑え込むのは簡単な仕事じゃないさ…あの二人の修行にもなって一石二鳥だ」

「しかしーわざと暴走させるなんてー随分無茶ですねー」

「マギア・エレベアは千雨の様に再構築してなお人間が手を出すには危険な代物だ、ハカセも十分に理解しているだろうに…安全な対処などありはしない」

「まー実際問題、それしかねーのは理解するけど…本人に丸投げしてるだけじゃねぇか…答えがあるかどうかもわかんねぇんだし」

「だよなー」

私の言葉に聡美の肩に移ったカモが応えた。

そして戦況は刹那と楓が本気になった事で動いた…悪い方に。

刹那の建御雷召喚と楓の16分身に応えるようにネギは雷天大壮状態になってしまった。

そして目ざとく楓の本体を見つけるとゼロ距離で桜華崩拳をぶっ放して楓を吹き飛ばした。

「楓!」

「済まぬ」

「ケモノ同然どころか暴走後もくればあでござるよ」

「いかにも先生らしいな」

恐らく、それでも平常状態より知能は下がっているのだが。

「邪法に手を出したとはいえ…」

「うむ…」

「で、介入せんと二人がヤバイぞ?」

「まあ、待て、私の出番だ」

と、エヴァが言うとネギが巨神殺しを形成し、二人の背後に転移した。

「くくく…たるんでるぞ、貴様ら」

断罪の剣で介入したマスターはそう言い放った。

「フ…光を求めるならば自分の手で掴まなければな。そうでなくては意味がない、なあ、ぼーや?

千雨!いいぞ、参戦しろ!」

「了解っ!」

そう答えて私は空に舞い、戒めの風矢を連弾で放ってネギの注意を引く。

「こっちだ、ネギ!二人はフォロー頼む!」

案の定挑発に乗った、スペックで圧倒するネギである…こっちはシグヌム・エレベア無し、ネギはマギア・エレベア暴走状態+雷天大壮である…が、まあ知能が下がっているのであればやり様はある。いつもより短絡的な戦術思考を先読みして糸と風矢で牽制と妨害を繰り返しながら的を絞らせないようにランダム機動で回避し、時々肉薄してくるのを鉄扇術で捌く。

「すごい…闇呪紋無しであのネギ先生を一人で抑えている…」

と、刹那…感心していないで手伝ってほしいのだが…

「うむ…だが的を散らさせなければ千雨にもすぐ限界が来る…行くでござる、刹那」

と、刹那と楓が参戦してくれて一気に楽になった…かというとそうでもなく、一番脅威度が低いと思われて軽視されがちな私にも注意をひくために時々積極的に攻める必要があって面倒ではある。

 

「あ、やべっ」

と、三人でかき回すように、的を絞らせないように暫くやっていたら少しばかりやり過ぎてネギを断罪の剣でぶん殴ってしまった。

まーこの状態の偽・断罪の剣程度で抜ける魔法障壁+マギア・エレベアの防御ではないのであるが…囲う様に撹乱していたのに地面に叩きつけては台無しである。

「げっ亜子達っ!?」

そしてよりにもよって、その落下地点にはダイオラマ球に入ってきた運動部四人組がいた。

そして運悪く、私は上方機動に入っており、回避機動はともかく下方移動には数舜の間が必要とされ…二人は私のミスのフォローに入ってくれた機動が災いして同じくである。

そして…ネギにより大地が吹っ飛んだ…亜子たちの周りを避けて…

「おっ…?今のは」

「先生が意識を取り戻した…?」

「怪我の功名という奴でござるか?」

といい合いながら亜子たちを一応は救出せんとマズイだろうと下方に跳ぶ…寸前、エヴァが介入してネギを氷漬けにした。

「今日はここまでだ。くく…早く答えを見つけねば戻れなくなるぞ、ぼーや」

「和泉さん!」

「大丈夫か!」

「う、うん、うちらは大丈夫やけど…ネギ君が」

と、亜子はカチカチに凍ったネギを指した。

「アーうん…今のネギはこれくらいで死ぬ生き物ではないから大丈夫…」

「はぁはぁ…何があったんですか!?」

と、そこへ身体強化で全力疾走したらしい聡美が合流し…

「兄貴ー!」

カモが叫んだ。

 

 

 

「や…闇の魔法…」

「それのせいでネギ君、こんなことに…」

ネギの暴走が止まった頃合いを見計らってネギを氷から救出してベッドに寝かせる迄の間、運動部四人組にもネギの事情を説明して帰ってきた言葉がそれである。

「そうだ。だがぼーやの力の源でもある…怖じ気づいたか?ぼーやのこの姿を見て」

そういうネギの肌は真っ黒で爪は発達し、服の上にも浮かぶ紋様…と完全に悪魔かなんかである。

「…ッ」

亜子はおびえてアキラの陰に隠れている。

「だからってなにも氷漬けにすることないじゃん!!」

「あそこでああしなければ貴様らが死んでいたぞ」

「そっそれはそうかもだけど…」

「あ、いやそれは…」

と、フォローを入れようとした時、まき絵が口を開いた。

「違うよ…ネギ君は…ネギ君はさっき自分で止めたもん。大丈夫…大丈夫だよ、ネギ君は」

「まき絵…」

と、まき絵がネギの手に両手を重ねるとネギの手が元に戻る…アー最も原始的な魔法…強い想いって奴かな?あとで引き受けられるだけ汚染を受け入れて聡美と共寝…という手も考えていたがもっと単純に解消できるなら任せるか。

「え…アレ…治った…?」

「…フ、いいだろう、貴様らが看てやれ。明日は朝4時半からまた同じメニューだぞ」

「…もう…まき絵は強いなあ」

「亜子…」

そして亜子がまき絵に手を重ねたのを皮切りに裕奈やアキラも『手当て』に参戦するのであった…

「ふ…」

私は今回敵役なので不参加と、思いつつ感傷に浸っていると…

「いいよっしゃあぁっ!!よくわからんがなんかいい雰囲気になったところでぇ…お待ちかね!仮契約ターイムッッ!!」

と、カモが飛び出し、私はずっこけた。

「「「「へ」」」」

「どうする、4人一気にイっちまうか」

「えぇーっ!?」

「それは…ちょっと…」

「ふむぅん?どうしたいお嬢さん、二人っきりでやりたいってかOKOK話は聞いているぜ、ぐぇっへっへっへ。

いいっていいって皆まで言うな、おじさんに任しておけばロマンチックな思い出を演出してやるぜぇ?」

と、亜子にカモが絡み始めた。

「ちっ違…」

「なぁにが違うもんかい、ホレホレこの薬を飲ませれば兄貴は大人バージョンに…」

「そっ…そんな」

「やめぃ」

「まろんぼ」

と、私は鉄扇でカモをぶん殴っておいた。

「と、とにかく今はネギ君の身体を治すことが先決だよ。寝ているところに無理やりキ…仮契約するなんて良くないと思うし」

「まーそーだねー寝込みはイカンよねー寝てるトコにやるのはヒキョーだし、つまらんないし」

「交代で朝まで看病しよっか♪」

「応、すまんが頼むぞ…私は敵役だから休憩取りたいし…」

「私はどうしましょーかー?」

と、ひょっこりと今まで黙っていた聡美が口を開く。

「ハカセも看病、参加するー?」

「せっかくですしー私も参加致しましょうかー修行自体はお手伝いできなさそうですしー」

という事で聡美はネギの看病ローテーションに組み込まれる事となった。

 

 

 

「…で、明日に備えて早く寝たいんだけれども、何の用だ、エヴァ」

と、私はコテージの与えられた部屋でエヴァの訪問を受けていた。

「なあに、すぐに眠れるさ…体はな」

エヴァはそういうと私の頭を掴んで…私の中に飛び込み…私は気を失った。

 

「…何のつもりだ、エヴァ…いや、マスター!?」

と、私はネギがマギア・エレベアを習得したであろう幻想空間に取り込まれていた。

「いやな、貴様も私の弟子だったなと思ってな…稽古をつけてやろう」

「まさか、マギア・エレベアを習得しろとか言わんだろうな!?」

「いやいや、どちらにせよ、夜明け頃には解放してやるよ…手を伸ばせばそれも可能…いや、紛い物とは言えすでにそれを使いこなしている貴様には容易だろうが…な」

いや、それって状況に関わらず朝までみっちり扱くという宣言では…

「本当は欲しいんだろう?マギア・エレベア…本物の咸卦法と合わせて…高みに至りたいんだろう?貴様の技法はそーいうものだ」

「ぐっ…」

まあ、確かに欲しい…と夢想した事はある、しかしそれは禁断の果実であり…破滅の序章でしかない。

「行くぞ…シグヌム・エレベアはもちろん、望むならばマギア・エレベアの使用も自由、血液も死亡毎に全快させてやろう、さあ、抗って見せろ!」

「畜生め!」

私はそう吐き捨てながらも、内心はマスターとの命がけの死闘を連戦できる事に歓喜を覚えていた。

 

 

 

 



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103 世界の秘密編 第10話 闇の誘惑

 

「なかなか楽しかったぞ、明晩も楽しませてくれ…4時半から敵役も頑張るんだぞ」

と、マスターは夜明け寸前に私から出るとそう宣って部屋から出て行った…

「んー?アレー今エヴァさんがー?」

私に添い寝していたらしい聡美がそう寝ぼけた様子で言う。

「ああ、うん…ネギのマギア・エレベア習得時と同じ原理で修業つけられていた…強制的に」

「えっ…ち、千雨さんお怪我は!?」

「けがは…うん、私、ネギほど闇との相性が高くないみたいで精神ダメージだけだったよ」致命傷を喰らった何か所かは痛むけど、傷にはなってないし。

「…それなら良く…はないんですが…って習得は?」

「してないよ」

正直、誘惑するように術式兵装や奥義で色々と見せられて…最終的には『氷の女王』の物量戦とかで磨り潰されたけれども。明晩も誘惑に耐えられるかわからないけれども。

「そうですか…」

そう言って聡美は私にギューッと抱きついてきた。

「エヴァさんの扱き、きつくないですか?大丈夫ですか?一緒に抗議くらいできますからね…?」

そういう聡美を同じく抱きしめて私は答えた。

「大丈夫だよ、聡美…ありがとう…愛しているよ」

そして、4時半修行開始に間に合うギリギリまで仮眠をとるのであった。

 

 

 

「来たか…では配分は昨日と同じで、3人がかりでぼーやを抑えろ」

時間ギリギリに到着した私を一瞥してマスターがそう宣言した。

「はい」

「了解」

「承知した」

「皆さん、よろしくお願いします」

「フム…では…行くぞっ」

と、マスターがネギを暴走させにかかる。

「ぐっ…あぁぁぁぁ」

「くっ…ネギ先生」

「ネギ坊主…」

心配そうに刹那と楓がつぶやいた。

「そうらっ!」

そう言ってマスターはネギを海に向かってぶん投げ、私たちはネギを包囲、暴れだしたネギをあまり痛めつけないように気を使いながら抑えるという修業に取り組むのであった。

 

「刹那!行ったぞ!」

「ぐっ…やはり速いっ」

と、私が引き付けていたネギのターゲットが刹那の支援で刹那に移って刹那メイン、私と楓が支援に切り替わる。

私は戒めの風矢と糸、楓は一撃離脱と大手裏剣でネギと近接戦闘をこなす刹那の支援に回る。

「くっ…はっ!」

「むう…やはり刹那が一番持たんようでござるな」

「私とお前はネギと同じで機動力極振りだからな…腕の一本位斬り飛ばしていいならともかく、深手を負わせずに耐えるには刹那は不利だ」

牽制を続けながら私と楓はそんな会話をしていた。

「ふむ…そうでござるな…よし、刹那!代わるでござるよ!」

と、楓は分身をしてネギに肉薄していった。

 

 

 

「よし、午前はこの程度にしておこうか」

ネギの答え探しと、私達の修業はネギの暴走が時間経過で収まった際の小休止を除いて、ぶっ続けで昼前まで続いた。

「お疲れ様ですー」

と、途中から修行を見学していた聡美がドリンクを差し入れてくれる…亜子たちは…と言うと

「うぐっ…」

「「ネ、ネギ君っ」」

ネギの方に群がって『手当て』を施していた。

「ネギ先生の治療が終わったらご飯にしますよー」

聡美はこの調子で私達の相手をしてくれていたが。

 

 

 

「刹那と長瀬楓は離脱か…つまらんな…しかし代わりに近衛木乃香が参加…と…ならば千雨、フルスペックでやって良いぞ、但し事前装填は無し、傷つけても構わんが殺すなよ」

昼食後の修行…楓と刹那は外に出る前に小休止を取っている…に私とネギ、そして木乃香が並んでいるのを見てマスターが言った。

「了解しました、マスター…じゃあやるか、ネギ」

「ハイ…お願いします、千雨さん、マスター」

「では…いくぞっ」

と、マスターがネギを暴走させる…

「グッ…あっあぁぁぁぁ」

「ネギ君…」

木乃香が心配そうにつぶやいた。

「いくぞっ、それっ」

そう言って、マスターは何時ものようにネギを投げ飛ばした。

「こっちだ、こいっ」

そんなネギに私は戒めの風矢をしこたまぶち込むと、空に舞った。

「アデアット ロード・セプテット」

そして、アデアットをして力の王笏に組み込んだプログラムの支援を得て、電子精霊を7重装填する。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 高殿の王 我に力を 雷の招来」

 

魔力掌握 精霊の歌・6匹の電子妖精舞踏+雷奏 三位一体の闇呪紋 増強装填

 

…そして素早く装填の1つを雷の招来に切り替える…魔法の射手7重装填よりマシとは言え、電子精霊を装填した場合のスペック強化度合いは中位精霊クラスなのである…電子精霊の格自体は高いので思考加速のオマケくらいはついているのだが。

「ぐあああああ!」

と、そこでネギが束縛を解放してこちらに向かってくる…のをいなしながらシグヌム・エレベアの組換えを続けるのであった。

 

「ちぃっ…反応できるとはいえ、厄介なっ」

予定の完全体…思考加速の為に電子精霊1を残して雷、風、闇の上位精霊を各2…に変貌した私は雷天大壮を纏ったネギの相手を続けていた。そして反応できるとは言え、一対一でやっている時の雷速瞬動は非常に面倒である…余裕があれば鉄扇術でぶん投げてやってはいるのだが…

「そして…命知らずに攻め立ててくる奴を殺さずに抑えるのは…スペック上回っていても面倒…だなっ」

試合であれば、とっくに私の勝ちで決着をつけられているのであるが、喉元に断罪の刃を突き付けて止まる状態ではないのでやり過ぎないように、かつ動きをある程度止められる程度にネギをボコるという精神の削れる作業を続けるのであった。

 

「…試合でも見てたけれど、アレ、どっちが化け物かわからへんよね…千雨ちゃん」

「そんな事ありませんよーと言いたいところですが、まあ…ほぼ精霊化しているので…千雨さん」

「あの状態のネギ先生をスペックで上回ると言う意味では十二分に化け物でござるが…な」

「邪法に準ずるものとはいえ、本当に強くなったものだな…千雨も」

小休止から戻った刹那と楓を交え、見学組はそんな会話をしていた、と後で聡美に聞いた。

 

「マスター!そろそろきつくなって来たんですけど!」

数時間戦いを続けて精神の睡眠不足と午前の分の疲労で疲労困憊になりつつある私はマスターに向けてそう叫んだ。

「ハハハ、まだまだいけるだろう、千雨。なあに、本当にヤバくなったら介入してやるから安心して続けろ!」

「はーもう、了解っ!」

 

そしてさらに数十分後…

「ぐふっ…」

立て続けに幾つかのミスをした私はネギの桜華崩拳をもろに食らって吹き飛ばされ、追撃の雷の投擲で串刺しにされていた…これ、介入してくれないと止めで死ぬか死にかけるやつなんだが。

「まあ、良く持った…交代だ、千雨…回収してやれ、刹那」

という訳で止めの巨神殺しの投擲に断罪の剣で介入したマスターに助けられて私は刹那に回収され、木乃香に治療された。

 

「ハハハ、どうしたぼーや、まだ何の手がかりもつかめぬのか、あと二日しかないのだぞ」

そして、エヴァはネギをいたぶる様に…というか実際いたぶった。そしてついにネギを氷で串刺しにして見せた。

「止めてぇエヴァにゃん、何もここまでせんでも――」

「そうだよエヴァちんッ!これじゃあ逆に悪化させてるみたいじゃん」

いや、みたいも何もやっているのは悪化させてソレを御せと言う修業である。

「フン、知ったことか、己の闇を飼いならすことができなければどちらにしろ死ぬ。

そうなればこの小僧も貴様らが思うほどには大した男じゃなかったというオチになる」

マスターのその物言いに運動部四人組は反発を覚えているようだった。

「ネギ君、ネギ君」

「あ…がは」

と、その隣では木乃香がネギを介抱していた。

「よし、今日の修行はここまでとしよう」

そう、マスターが宣言し、ネギの手当てが始まった。

 

 

 

その後、夕食まで聡美と仮眠を取った私は、夕食後、聡美とともにネギと火星緑化計画について打ち合わせをして、通信が回復次第、念のためセラス総長に託しておく事になった。

そして…

「やあ千雨、今晩も来たぞ」

と、寝室をエヴァが訪ねてくる。

「エヴァさーん…あんまり千雨さんに無茶させないでほしいんですが」

そう、聡美がジト目でエヴァを見つめる。

「なあに、疎かにしていた姉弟子の方もきっちり指導してやろうという師匠心だ。それに昼間楽をさせてもらった分、報いてやらんとな」

「そー言う事じゃなくって…しっかり休ませてあげてください、って事です」

「ん?夕方、寝ていただろう?アレで足らんか?」

そう、エヴァが言う…

「…足らん事はないけれども…明日も途中で疲労困憊になってミスしそうなんだが」

「安心しろ、その時は助けてやる…始めるぞ」

そう言って、マスターは私の顔をひっつかんだ。

「うぐっ…ぐぁぁぁっ」

「まったく…エヴァさん…千雨さんに無理はさせないでくださいね?」

そして今日もマスターとの死闘を精神世界で繰り広げる事となったのである。

 

「なあ…マスターッ…どうして…ここまで…するんだっ」

殺し合いをしながらマスターと言葉をかわす。

「んー?まあ、私も存在意義というモノがあってな…一度開かれれば、適性のあるものにマギア・エレベアを教えるようにできているんだよッ」

「言うほど…適性があるとも…思えんけどねっ」

「ふん、ぼーやが適性がありすぎるだけで貴様も十分適正はあるさ…お優しい本体がどういうかは知らんがね」

「そうかいっ…それでも私は…ッ」

破滅の切符に手を出すつもりはない、とマスターを睨みつける。

「ほら、いい加減に正直になれ、千雨」

「グッ…意地でも我慢してやるよ!」

気づけば思わずそう口走っていた。

「ほう…ついに認めたではないか、本当は欲しいんだ…と」

「…そうさ、欲しいさ、本当はマギア・エレベアが!」

欲しくて欲しくて欲しくて欲しくてたまらない…本当は今この攻撃でもなんでも呑みこんでマギア・エレベアを習得したくてたまらないのだ。そうして、人ならざる者に至ってみたい…私はそんな願望を抱えている…しかし

「だが人間として生きて死ぬにはシグヌム・エレベアでも十二分に手に余るんだよ!」

「そんなものに拘るたまか?貴様」

「ッ…聡美のいない世界なんて永く生きて何になる!」

「フハハハハ、そこでそー惚気るか、千雨…そんなもの、共に超えればよかろうに…ほら、チェックメイトだ」

と、こんな感じのやり取りをしつつ、私は胸を一突きにされ、この晩、何度目かの死を迎えた。

 

 

 

修行三日目…朝から私一人でネギの相手をして、疲労困憊、また夕方に仮眠を取って…夕食後の時間を聡美と過ごしていた。

「千雨さんー」

聡美が私の名を呼ぶ。

「んーどうした?」

「私の不老化ーと言うかー延命手段に関して何ですけれどもー」

「えっ?」

「…えっ?」

そう言って見つめ合う。

「いや、確かにそーいう話もしていたけれども藪から棒にどうしたんだ?」

「だってー千雨さん、マギア・エレベア習得してー至るんでしょう?」

「え…あ、いや、マスターとの鍛錬はマギア・エレベア目的じゃあないぞ?」

何か勘違いがあるようで、聡美にそう述べた。

「えー千載一遇のチャンスですよねー?」

「確かに勧誘はされているけどさ…習得する気は」

「欲しいんでしょう?」

私の言葉を遮って聡美が言う。

「うぐ…でも…聡美をおいては」

「だからー私も一緒に行くっていう事でー不老化はともかく延命手段くらいはーと」

「…悪いな」

「いーえー千雨さんの足かせにはなりたくないのでーという訳で出来る限り一緒にいられるように私の延命手段をーと…一番わかりやすいのはーエヴァンジェリンさんの眷族化でしょうかー?」

そう、一番わかりやすくかつエヴァの説得のみで実行可能なお手軽な方法を聡美が述べる。

「そうだな、ディライトウォーカーになるまで色々と不便だろうし、エヴァの無茶振りに強制的につき合わせられるというデメリットはあるな…あとエヴァがそれを是としてくれるかどうかというのもあるけど」

そう問題点を指摘する…一応エヴァにも話をしたことはあるが、本気でそれを望む時に改めて、とはぐらかされている。

「それとー純潔を守っておいた方が良いのかなーって感じですかねー?」

「その辺りもあるな…私らの場合の純潔ってどこまでなのかって話もあるけどな」

「次はー理論上可能だと推定されている電子精霊化…と言うか電脳化からのロボボディですかねー」

「まあ、倫理的問題全部取っ払っても技術的問題は山積みだけどな…ボディは茶々丸のを元に開発すれば資金があればいけるとしても」

あくまでも、理論上可能、である。

「ですがー人として逝く寸前まで生きた後にー人ならざるものとして十全に生きられるという利点はありますー言い換えれば決断までの時間はありますー」

「それはある意味利点ではあるな…あと、至った私を解析して同じようなモノになるという手はあるな…まあ、不老化と言う意味では寿命や可能かと言うのも含めて何もかもが完全に未知数だけれども」

「そうですねーマギア・エレベアも咸卦法も私には習得が難しいですから厳しそうですけれどもー一番魅力的ではあるんですけれどもねー」

と、言った具合でほかにも不老化や長命化の手段を色々と相談するのであった…まあ私が至れるかと言うのがそもそもの問題ではあるのだが。

 

そしてその晩…

「ふはは、どういった心変わりだ?千雨」

マスターとの戦いが始まった直後、マスターの魔法を取り込み、マギア・エレベアを習得した私にマスターはそう述べる。

「…惚れた女と一緒に人間やめようって決めたんでな」

「フフ…それは良い…本体がどう言うかは知らんがな…では修業を始めるぞ!」

そして軽く使い方のレクチャーをした後に死闘形式で修業を重ね、夜明け前に解放された。とはいえ、まだ戦闘ではシグヌム・エレベアの方が強いのではあるが。

 

さすがに突入前は休んでおけと言われ、たっぷりと言うほどではないが6時間ほど睡眠をとった。

「んーよく寝た」

「おはようございます、千雨さん」

「うん、おはよう、もう昼だけれどもな」

「そろそろネギ先生の修行も終わるころです…行ってみます?」

「ああ、行こうか」

という事で私たちはネギの修行の結果を確認に向かった。

 

「あー派手にやっているな」

外に出るとネギとマスターの戦いが岩山を砕いているところであった。

そしてネギはマスターに吶喊し…数手のやり合い…だんだんネギの動きがさえてくる…コレは…やったか?

そうしていると、二人は遂に断罪の剣でぶつかり合い…海を爆発させた。

「大丈夫ですかねー」

「…多分」

それで決着したらしく、マスターが腹を貫かれていた…ネギは左手を犠牲にマスターの断罪の剣を止めていた。

「本体に数倍劣る複製とはいえ…この私に一撃するとはがふっ…」

「マ…マスター!!」

「だが、暴走を制御できたとはいえわずか一瞬、まだ未完成…不完全だ。

いつまた闇が貴様を喰らいつくそうとするかわからぬぞ」

「わかっています、どうも…これを抑えるのは僕一人じゃ無理っぽい…だから僕は前だけ見ていようかなと」

「何?」

「闇に取り込まれそうになっちゃったらそれはその時、後は皆にお願いしようかと思って。白き翼の皆ならきっと何とかしてくれます」

丸投げされた課題をまさかの丸投げしやがった、こいつは…

「フッ…アハハハハハハ!!ぼーやにしては言うではないか」

「それに…マギア・エレベアに取り込まれても、死ぬか魔物になるだけでしょ?僕の相性からいって死ぬ確率は低いです、計算しました。

それに…魔物になっても、それってマスターと同じになるってだけじゃないですか、だったらいーかなって」

と言ってネギは笑った…人がさんざん悩んでいる問題にそー答えるか、ネギめ…

「僕、マスターのことは大好きですから」

「ぬ」

そして付け加えられたネギの言葉にエヴァが頬を赤らめる…おや?

「んー……」

「アレ?マスター、どうかしましたか?」

「そーゆー台詞は…400年早いわ、ガキがーッ」

と、エヴァはネギに断罪の剣で襲い掛かった。

「キャー!?」

「今の台詞を我が本体に言うのを禁ずる!!さもなくば死!!」

「わひーん」

…完全にコントである。

「ふん、よかろう授業は合格ということにしてやろう。最後に一つ聞こう、貴様が得た答えは何だ?」

「僕は…僕はフェイトと友達になりたいんです」

そう、ネギは言った。

「フフ…ハハハハハハ…まさかの答えだな…よかろう、それが貴様の答えならばな…では…さらばだ」

そう言い残し、エヴァは光の粒になって消えていった。

「あ…マスター…」

そう、寂しそうにネギは呟いた。

 



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決戦編
104 決戦編 第1話 突入


「ネギ君!お疲れっ!」

「ハルナさん」

その後、諸々…ルーナのアスナへの再変身とか色々と…を済ませてダイオラマ球を出た私たちをハルナが迎えた。

「ちょうどよかった、新オスティアからネギ君宛に念話通信が入っているのよ」

「新オスティアから念話通信ですって?」

「うん、いいから早く早く」

そうせかされて皆でブリッジに向かう。

「アスナもみなかったけど、ずっとネギ君の付き添い?」

「え?うん、ま、まあね」

「こちらです」

と、茶々丸がブリッジの扉を開けた。

「や…ネギ君大丈…かい。周囲の魔素が不安定で…信状態が悪…調整中だ」

「タカミチ!こっちに来ているとは聞いていたけれども、無事でよかった…アレ?その後ろの人…クルトさん!無事だったんですね、良かった」

「ええ、無事ですよ…さて…そこにいるなら君達も気づいているでしょう。完全なる世界残党が廃都最奥部で何かを始めたようです。

観測される魔力の総量から推定されるのは…あの20年前の再現です。

先ほどまでの君と私の話は十年百年単位の危機の話でしたがこれは数時間から数十時間での目前の危機…

この事態に対し、現在帝国・連合・アリアドネーの全ての勢力が手を結び、混成艦隊を編成してそちらに向かっています…ありたいていに言ってこれは世界の危機です。

世界の危機…ですが君も知っての通り、ごく一部をのぞいて我々の戦力は彼らに全く歯が立ちません。

先行している君たちは我々の貴重な戦力です、言っている意味はおわかりですね?

力を貸して頂きたい、ネギ君…このとおりです」

とういってゲーデル総督は頭を下げた。

「ネギ君、騙されるなよ、こいつが殊勝な態度に出る時は裏で何かを企んでいる時だ」

と、高畑先生がひょいっと出てきて口を挟んだ。

「黙れ、タカミチ、こんな緊急事態に裏をかく意味があるか」

「わかりました、でもちょっと待ってください。僕たちはそもそも夏季旅行中の学生の集団でこの世界の人間でもないんです。

説明も同意もなく危険に巻き込むことはできません、みんなの意見を聞く時間を頂いていいでしょうか」

と、ここでネギがその建前を出すか…という建前を出してきた…まあ説明と同意はとってやりたいが…な

「…いいでしょう」

そして、ネギは停泊中の金魚とフライマンタの甲板上にみんなを集めて事情を説明した。

「――という訳で、以上のように知らない間に何だか大変なことになってたみたいです!

ですが!あくまで僕たちの目的はアーニャの救出、そして『造物主の掟・最後の鍵』の奪取…『最後の鍵』を手に入れられれば、結局敵の野望を阻止することになりますし、何よりも消されてしまった人たちを取り戻すことが出来ます」

「ええんちゃうか?恩人助けてついでに世界まで救えるゆーんならもうけもんや」

と、コタローが言った。

「くうううぅう!けど、いよいよ来たね、来ちゃったね『世界の危機!』」

「盛り上がってきたよー!なんかシャレになってない気もするけどー」

「で、でも何で『今』なんだろ、私達タイミング悪いよねーそーとー」

「それは…」

…まだ話すのはまずい…か。

「ま、まあ悪の組織にもいろいろ事情があんだろ!それより本題だ、茶々丸頼む!」

「はい」

と、茶々丸が空中スクリーンに映像を投射する。

「では、お願いします、朝倉さん、ハルナさん」

「オッケー、この5時間の全力の観測の成果を見てよ」

そう言って、ハルナと朝倉は現在の状況図を示して説明をする。

魔力の奔流の影響で墜落していた島があらかた浮き上がっている事、アーニャのバッジの反応が墓守の宮殿から出ている事…そして超強力なバリヤーが中心部全体を覆っている事…ってオイ。

その後、偽アスナもといルーナの情報で中心部最上部の魔力柱では魔力が台風の目の様にないでいる為に障壁がないので入れる、そして墓守の宮殿には下部から侵入すべきという事が判明した…まあ電波だとか妖精さんだとかいろいろ言われていたが。

更にそれをネギが1、バリヤーを突破、2、警備の薄い下から突入、3、アーニャを救出、4、『最後の鍵』奪取とまとめた。

そして編成…色々と検討した結果、4つの班に分かれる事になった。1、フライマンタで比較的安全な空域で待機する、2、金魚で突入並びに脱出経路を確保する為に宮殿近辺で滞空する、3、アーニャを救出する為の隠密行動突入部隊、4、『最後の鍵』奪取を目的とする突入班主力…私は4班、聡美は1班に割り振られていた。まあ妥当である。

そして最後にネギは30分後の作戦開始を告げた。

「さて、それでは皆さん…よろしくお願いしま」

と、気の抜けた挨拶で締めようとしたネギにハルナが口を挟む。

「コラーッだめだめリーダー!もっと気合入る奴お願いよ!敬語も禁止!」

「はい…で、ではあまり得意じゃないですけど…えと…

白き翼の諸君!!最後の戦いだ!!いくぞ!!」

「「「「「おおッ!!」」」」」

その後、総督に協力する旨を伝えて作戦共有をしている…と殺気を感じ、ネギが飛び出していった…

「スイマセン、一度退出します…おそらく敵襲です」

「わかりました、ご武運を…」

そう会話を交わし、私も甲板に向かって駆けて行った。

甲板に出るとネギがちょうど敵…月詠を大岩に叩きつけているところであった。

「ネギ坊主!!」

「何事アル!?」

「な…月詠!?」

そしてぞろぞろとクー、刹那、楓が現れる。

「大丈夫ですか、ノドカさん、コレットさん」

「ハ、ハイッ」

「ハイッ」

「月詠さん、あなたは僕には勝てないと思います。お金で雇われた傭兵なら…ここで降伏していただければ助けます」

そうネギが月詠に告げると…月詠は恍惚とした表情を浮かべた…そしてぶんぶんと首を振り、口を開く。

「フフ…ネギ君はウチがお金目的でやっとるとお思いで?ウフフフ…子供ですなあ。

――この世界に意味はなく、我が求むるはただ血と戦のみ

…この世にはそーゆー人間もおることを知っときなはれ、まあその意味ではフェイトはんもカワええもんや…伝言があります。

『待っている』と。全く、エラいモテようで妬けますわあ」

と、言って月詠はグランドマスターキーらしきものを召喚した。

「まあ、それも辿りつけたらの話や、フェイトはんを失望させへんといてな」

そして、月詠は巨大な魔法陣…召喚陣らしきものを出現させた。

「ハルナさん、ジョニーさん!発進してください、今すぐに!」

とは言え、停泊中の飛行魚がすぐに出発できるわけでもない。とりあえず私は戦闘態勢に入り…闇呪紋の装填を始めるのであった。

そうしている間にも召喚魔が次々と出現してくる…そして5重装填まで完了した時、ネギが敵先頭を撃破して叫ぶ。

「僕が数を減らして止めます!墓守り人の宮殿へ向かってください!早く!!」

「ネ…ネギ!一人で大丈夫なの!?」

「…はい、大丈夫です、必ず追いついてあなたを助けだします」

「なっ…みゅ…」

という会話を尻目に装填を続け、フル装填した時、金魚とフライマンタが発進した。

ハルナとジョニーさんは岩石地帯を巧みに、上昇しながら突っ走る…が、ネギの取りこぼしを全て振り切ることもできず、魔法の射手のガトリングと真名の射撃で迎撃するが手が足りない。

そしてついに1匹が金魚に取り付こうとした…のをクーが飛び蹴りで撃破した。そしてアーティファクトの如意棒を召喚し、まとめて撃破する。

「やるな、クー」

そしてコタロー、楓、まさかの裕奈…アーティファクトが魔法銃だったらしい…が参戦し、割と余裕をもって迎撃態勢が構築された。私は今の所、予備戦力である。

そうこうしているとアリアドネー組が直掩に上がり、刹那はネギの援護に引き返した。

「サーて、私もそろそろ参戦しねぇとな…」

と、いう事で私は空に舞い、虚空瞬動と断罪の剣で敵を屠るのであった。

そうしているうちに雲海を突破し金魚とフライマンタは混成艦隊の脇に出た。

そして、その前方に展開している無数の召喚魔の群れに向けて、艦首主砲が一斉発射された…混成艦隊に露払いさせたのかよ。

「先行して進路上の鍵持ちをできる限り狩る!」

そう叫んで私は舟の前に出て断罪の剣で砲撃に耐えた個体を屠りながら一足先に召喚魔の群れを突き抜けた。

「げっ…」

そこには魔力の嵐の目を守るように4体の巨大竜型の召喚魔が配置されていた。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により我に従え契約により我に従え 高殿の王」

まずは一匹を千の雷を詠唱しながら断罪の剣で屠る…

「来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆 百重千重と重なりて 走れよ稲妻 収束して顕現せよ 千の雷」

そして二体目を千の雷で吹き飛ばした直後、舟が追い付いてきた…早すぎるっ

更に悪いことに舟の守り手の面々は群れ自体を抜けた事で一瞬気が緩んでしまったか注意の方向が違っていた為に舟に接近を許してしまった。

「マズイッ!」

と、思った瞬間、金魚に攻撃が命中、さらに魔法障壁の展開が間に合ったものの、ブレスを吐かれた。

そして…私が駆けつけるよりも早くネギと刹那が帰還し、あっという間に二体の竜を屠ってしまった。

「ふう…ギリギリセーフって奴かな」

そう言いながら、私はネギ達に続くように金魚の甲板に降り立った。

「さあ、いきましょう、お願いします、ジョニーさん、ハルナさん」

ネギが操縦室に念話を入れるとついに私たちは魔力の目に向かって突入を始めた…

「くっ…ミルクの様に濃厚な魔力…それがこんなに集まってるなんて」

そしてすぐに魔力の目を抜けた私たちは、一路墓守り人の宮殿に向かう…そして散々上部は危険だというルーナ情報があったにも拘らず、私たちは上部から墓守り人の宮殿に接近してしまった。

「ちいっ」

「くっ…」

「これはっ」

私、ネギ、刹那は口々に叫び、迎撃兵器らしきもの…尖った石柱から舟を防御する。

が、防ぎ続けられるものでもなく…すぐに舟は急速降下で離脱…宮殿下部の予定していた辺りに突っ込んだ、二隻とも。

「ネギは金魚を!」

「はいっ!」

 

風花 風障壁

 

と、私とネギはそれぞれ障壁を張り、フライマンタと金魚を停止させた。

「皆さん、大丈夫ですか、ケガは!?」

「あたた何とかー」

「だ…大丈夫です」

「お…OK!」

「平気だよー」

「無事ですよー」

「みんな無事みたいだね」

と、口々に生存報告というか無事の報告が上がってくる…一応全員無事のようである。

そして、二隻の艇長は修理が必要な旨を主張し、ネギはそれを承認、護衛を残して進むと宣言した。

「のどかさん、アスナさん、下へ…」

「しっ…ネギ坊主、アレを!」

そう楓が示す先には何者かの人影があった。

「止まれ!!」

そう真名が銃を構えて警告する。

「龍宮さん!!」

「どうした、出遭うのは敵以外ないぞ」

「い、いえ…」

「こんにちは…ネギ先生」

「あ…あなたは…」

しかし、真名の言葉に反してそこにいたのはザジ…の様であった。

 



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105 決戦編 第2話 リア充二人

「バ…バカな、ザジ…ザジ・レイニーデイだと…?」

「ザジ…さん?」

そんな真名とネギの言葉にザジらしき人物はニッと笑って答えた。

「ちっ」

「龍宮さん!」

「彼女がここにいるはずはない、罠だっ!」

「しかしッ」

「悪いが議論の余地はない!!」

真名はそう叫ぶと銃を三連射し、放たれた弾丸は目を見開いたザジらしき人物の目前でぴたりと止まった。

「楓!刹那!」

「うむっ」

一応、ルームメイトである私に気を使ったのか、密集しすぎるからか、真名は楓と刹那にのみ声をかけ、真名はザジらしき人物の腕を極め、後頭部に銃を突きつけた。

「動くな」

そして同時に刹那と楓がそれぞれの得物をザジらしき人物の首に突き付ける。

「答えてもらおう、こんな場所で私達のクラスメイトを騙る貴様は何者だ?」

真名の問いにザジらしき人物はクスッと笑うと真名とその銃、そして刹那と楓を同時に吹き飛ばした。

「くっ…」

「ちっ」

「…動くなポョ…君達を傷つけるつもりはないポョ」

「え…」

「…私は君を止めに来たんだ…ポヨ、君は間違ってるポョ、今や君は危険な存在ポヨ」

そう言い放つとザジらしき敵は魔力をたぎらせ、威圧をしてきた。

「…君の進む道はフェイトの進む道よりも多くの血を流す…っポイョ…これだけ言えば君にならわかる…と思うポョ…最後の選択肢をあげるポョ」

ザジらしき人物がそういうと、周囲の景色が麻帆良学園へと塗り替えられていく…

「え…」

「これは…」

「君がここで手を引けば君達はこのままここへ返してあげるよ」

「なっ…なんと…」

「そ…そんな…」

「こ…ここは…」

「麻帆良学園…」

「あ…ありぇねぇ…」

個人の魔力で麻帆良と墓守り人の宮殿を繋ぐとか…それは不可能だ。

「そう…これで君達が抱えている問題の半分以上は解決できたよね?」

「ふん…言ってくれるぜ、ポヨはどうしたんだよ、ポヨは」

あくまでも半分以上、であってアーニャもアスナも助けていないし、魔法世界を丸々見捨てろと同義である…と私はそんな挑発をする。

「…できたザジ」

「ザジかよっポヨよりは関連性はあるがっ」

「できたポニョ」

「いや、それは色々やべぇから。本人だとしたら意外にお茶目だな」

…漫才と化してしまったが。

「ちっ」

と、真名が羅漢銭で拘束を脱出した。

「騙されるな、先生!アレがザジであるハズがない!!現在世界間の移動は不可能だ!これは罠だ!!」

「確かに全ゲートが破壊された今、両世界は隔絶されているはずです!ザジさんがここにいるのは筋が通りません。この状況も!気を付けてください、ネギ先生!」

「で、でもちょっと話を聞いてみるべきじゃない!?ザジさんなのよ、このままだと何が何だかわかんないわよ!」

「もう一度聞くポヨ、君の進む道はフェイトの進む道より多くの血を流す…それでも進む…ポヨ?

…君が進む道はきっとあの『超 鈴音』が止めようとした未来に繋がっているんだポヨ」

「え…」

…状況から察するに、きっとそうなんだろうな…ネギがその一件で精神的に成長しているという点を除けば。

「…それは知っています、きっとそうなんだろうって」

「ほう…」

「それでも…僕は前に進むつもりです、父の跡を継いで」

「…そうポヨか、仕方ないポヨ」

ザジらしき人物はそういうとアーティファクトカードを構えた。

「ネギ先生!」

真名がそう叫ぶと共に、世界が光に包まれた…のだが

「何とも…ない?」

そう呟いた直後、いくつものドサッという人が倒れる音が聞こえた。

「ッ!!」

「おっと…君が残るのは若干計算外ポョ…闇の魔術をあれだけ深く理解し、使いこなす君が…ポヨ」

「何を…した…」

「私のアーティファクトの効果ポヨ…これが『完全なる世界』…ポヨ」

そして合点が行く、なぜ私が無事で、ネギ達が昏倒しているのか…

「その顔は知っているポヨね?満たされぬ想いが多ければ多いほど、心の穴が大きければ大きい者ほどその甘美な夢…『完全なる世界』からは逃れられぬポヨ」

「これが…こんなものが『完全なる世界』…だと?」

こんなちゃちいモノが?と私は虚勢を張る。

「無論、本物の術式ではないポヨが。本物は肉体ごと異界に取り込み、永遠を与える」

「あ、千雨ちゃん!皆が!っ、ネギ君迄っ」

…とそこへまき絵が現れた。

「――ちなみに、この術はその特性上、リア充には効きにくいポヨ」

「…デスヨネー」

薄々感づいていた理由をぶっちゃけられるとちょっと恥ずかしい。

「千雨ちゃん、りあじゅーって何?り…りある十代…?」

「…違う、『現実生活』が『充実』してる人間を指すスラングだよ。典型的には恋人、家族、友人関係に恵まれネット以外の日々の生活が豊かな者等を言うが定義はあいまいだ。

でも、うちの面子、ネギとか刹那とか真名とかコタローとか除けば割と耐性ある気がするんだが…?」

「…いや?無事なのは君たち二人だけポヨ?」

「聡美も…?」

聡美の過去に後悔…特にトラウマ級のは超の計画関係くらいしかない筈で…一緒に乗り越えられていたと思っていたのだが…第一計画成功の世界線にでも行っているのだろうか?

「そうポヨ…愛されているポヨね、君と一緒に無茶ができるだけの才能があって、幼少から修行を共にしていたら、という世界みたいポヨ…闇の福音のガチ修行で現実よりも幸福度が下がっているようにも思えるポヨが…それでもそっちの方が良いらしいポヨ」

「ああ…うん……まあ、それなら仕方がないか…な…?」

それは…ある意味仕方がない、いろんな意味で。

「…あと同性愛への寛容さと…ポョ…君もその辺り引っかかると思っていた…ポヨが」

そして何事かをザジらしき人物が呟いた…が聞き取れなかった。

「…で、私はどうすりゃいいんだ?敵みたいだからバトルって事でいいのか?」

「そうポヨね、力づくで突き落とす…という手もあるポヨ。君達にはそれで堕ちてもらうポヨ…君はその頭脳と言い、実力と言いネギ先生を代替しうる危険度な存在ポヨ!」

「へっ…そうかい!アデアットして下がっていろ!まき絵!」

「う、うん!ア、アデアット」

という事で戦闘態勢を整えた、その瞬間…倒れていたはずのネギがザジらしき人物の隣に出現した…ネギの意志力は知っているが、まさかこれだけ迅速に脱出してくるとは思わなかった。

「お待たせしました」

「あ…」

「お早いお帰りで…」

「ポヨ」

「バカな…」

「はじめまして…ザジさんのお姉さん」

ネギの邪魔をしないように黙ってみていると、ネギとザジらしき人物…もといザジの姉は互いに断罪の剣と剣化した爪を突き付け合う…と、ネギから雷がほとばしり、麻帆良学園の景色を吹き飛ばした。

「そうか…我が妹の手引きポヨね?ネギ先生」

成程…それならネギが一番に脱出した理由は理解できる。

「ええ、ザジさんのおかげです。それに僕は…フェイト・アーウェルンクス…どうしてもあいつに会いに行かなきゃいけないんです」

「やれやれポヨポヨ、では…力ずくで止めるしかないポヨね」

「…なぜ僕を止めるんです?」

「この世界はいずれ滅びるポヨ、知ってのとおり。その崩壊に巻き込まれて魔法世界12億の民の多くは死に絶え、何とか生き残り不毛の荒野に取り残された者達も生存をかけて地球人類との100年を超える争いに叩き込まれるポヨ悲惨ポヨよ?

これら全ての悲劇を回避するためにはフェイトたちの計画どおりこの世界の全てを『完全なる世界』に封ずる他はないポヨ。

私は魔法世界人でも旧世界人でもないポヨが、力ある者の責務としてこれら未曽有の危機を見過ごすことはできないポヨ。

世界を救った英雄の息子がこんな無謀な行動に出る事が無いよう祈って監視していたが、残念ポヨヨ」

「……なぜ…なぜ未来がその一つしかないと決め込んでいるんですか?」

そう、ネギは問う…それでいい、私たちは答えを得ているのだから。

「…何の話ポヨ…?」

「魔法世界が崩壊するという話です」

「…それこそが避けえない唯一の未来ポヨ。私の研究機関による試算では最短で9年6カ月の後に崩壊が始まるポヨ」

ああ…それは

「「良かった」」

ギリギリ間に合う範疇である、計画を全力疾走した場合ではあるが。

「時間だけが問題だったんです、9年6カ月もあるなら充分だ」

「な…に?」

そしてネギが叫ぶ。

「フェイト・アーウェルンクス!!見ているんだろう!?聞け!!!

君の望み通り僕は君と戦ってやる!!だが聞け!!!いいか?フェイト、全ての元凶は不可避とされる『魔法世界の崩壊』という未来だ。僕達にはそれを止める手立てがある。

そこでおとなしく待っていろフェイト、僕が力づくでも君にわからせてやる!!」

と、その時、遠くからよくも戯言を、と言わんばかりの気配が飛んできた…おそらくフェイト・アーウェルンクスのモノだろう。

「僕が冗談でこんなことを言うと思うのか?いや!君がそう簡単に信じないだろうことはわかっているさ。

だから僕がこの手で信じさせてやる!そこでおとなしく待っていろ!!」

「そうだな!少なくとも、理論上は私らで検討してみた限りは完璧だったぞ!」

と、私も付け加える形でそう叫んだ。

「あ、千雨さん、修行の合間に実証実験もしちゃいましたよ、予備的なモノですが」

「ちょっ、いつの間に!?」

「それは修行の合間にちょちょっと…セラスさんに送ったデータにも添えておきました」

「…それはもはやルーナを使者に立ててフェイトたちにデータ送った方が話が早いんじゃ…」

「それは…まあどうせ戦いはするので後でも良いかなーって…互いに別解である事には違いありませんし」

「…テメェがそれでいいならいいけどさ…」

そう、私はため息をついた…瞬間

「危ない、ネギ君ッ」

虚空から現れた腕がネギを襲った。

「プランだと…?さすがに信じられぬ…ポヨ」

「魔族!!」

…ザジの姉が魔族としての正体を現した。完全にデザイン的にはラスボスである。

「魔族って…時々見かけるあの?お店に来たのはいい人ばかりだったけど――…」

「その中でもかなりエラい人ポヨ、ラスボスくらいにはエラいポヨ。それで少年、本気…ポヨかね」

「はい」

「たかだか10年しか生きていない子供の思いつきを信じる訳にはいかないポヨ」

「あ、ネタ元はこちらの千雨さんです」

「わ、バカ、バラすな!」

と、ネギが私の話をしやがった。

「…15年しか生きていない少女でも大して変わらんポヨ!」

「わかってます…でもこれが僕達の答えです、もし僕達の考えが上手くいけば、全ての問題は解決します!」

「いや、違う。問題は解決しない、やはり君の道に血は流れるポヨ、やはり…力ずくでも止めるしかないポヨ」

そう言ってザジの姉は魔力砲撃をかましてきた。

「千雨さん!」

「わかっている!」

後方の舟とまき絵を守る為に私とネギは一歩前に出て障壁を張る…が

「え…」

「何…」

「皆さん!!!」

私達に達する前にクー、刹那、楓、真名が復活、さらに前方で防いでくれていた。

「ポヨ、先生の脱出でタガが緩んだポヨか」

「遅れてスマヌ、ネギ坊主」

「なるほど…聞いてはいたが『完全なる世界』…恐ろしい術だな、幸せという麻薬はいかなる脅迫にも拷問にも勝る」

「死んだジジババと里でのんびり過ごしてしまったでござるよ、良い夢でござった」

「何を顔を赤くして震えている?」

「何でもないッ」

「ないアルっ」

「みな目覚めてしまったポヨか、だが計画を止めさせる訳にはいかぬポヨ。

まとめて送るポヨ、次こそは二度とは戻れぬ真の『完全なる世界』へ」

そうザジの姉が言うと、魔力が迸り、彼女が強敵である事をありありと示す。

「ポヨ・レイニーデイさんは僕が引き受けます!!みんなはその隙に上層部へ救出に向かってください!!」

「いや、ネギ先生、君はリーダーだ、最大の戦力でもある。ここは私に任せて君が皆を率いて上へ向かうんだ」

「龍宮!」

「ダメです、隊長ッ、ポヨさんの力は未知数です!フェイト達以上の強敵の可能性もある!やはり僕がここを…」

「だからこそ、君は力を温存しておかなくてはな、私を信じろ、少年」

そう言って真名がリモコンのスイッチを押すとジャンプ地雷が複数起動した。

「ポヨ?」

そして…その地雷が炸裂するとザジの姉は押しつぶされるようにその場に拘束された。

「超鈴音特製重力地雷、一瞬だが50倍の重力がかかる」

そう言うと真名はザジの姉の周囲の床を破壊し、階下へ落した。

「ひゃああ」

「じゃあな、先生、しっかりやりな」

「龍宮さんッ」

「大丈夫さ、お代はもう貰ってある」

「いえっ…じゃなくて…」

「君こそお姫様と幼なじみをちゃんと助けてライバルときっちりカタをつけてくるんだな」

「龍宮さんッ」

そう言い残し、真名は階下へと…深い穴へと飛び降りていった。

「真名ならばきっと大丈夫でござるよ」

「でも、あの相手に一人で」

「足止めに徹すればどんな相手にも遅れはとりません、私が保証します」

「ああ、私も今でさえ逃げ切れるか怪しいくらいだからな」

「私を信じろ、少年」

と、真名の声も穴の底の方から聞こえてくる。

「…わかりました、みんなを起こして…いきましょう!」

 




千雨ちゃんを第一計画世界線に堕としてもよかったんですが、まあこの方が話を書きやすかったので(ネギ君のキーワード以外での脱出描写がないので書きにくかった。



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106 決戦編 第3話 限界

 

「…という訳で多少変更はありましたが概ね計画どおりです」

皆を起こしたネギがそう宣言する。

「第1班はパル様号及びフライマンタの修理を進めつつ脱出路の確保を担当。

第2班は人質、アーニャの救出。

第3班は『造物主の掟』の奪取、敵主力との正面戦闘を想定します」

大きな違いと言えば…

「フライマンタも一緒に突入してしまった事でどの班が安全かとは言えなくなりました。もし…僕を信じてもらえるなら…」

「…うん!ネギ君たちと一緒に行くよ」

運動部四人組が、楓の天狗の隠れ蓑の中とはいえ、同行する事になったくらいか。聡美は修理班である。

「…わかりました」

「楓さん」

「うむ」

そしてその後、ネギはハルナと何事か念話を交わし…おそらくアスナの事…出発という事になった。

「それじゃあ行ってくる、聡美」

「はい、千雨さん…ご武運を…」

「じゃあ」

「おうっ」

「行こう!!」

そうして、私たちは進撃を開始した。

 

「おそらく、この先に縦坑が…」

「敵や!召喚魔!」

回廊を進撃し、第2班との分離地点である縦坑の手前、ついに私達は接敵した。

「『造物主の掟』持ちです」

「大丈夫!蹴散らします!」

と、ネギは魔法の射手を詠唱し、放つ…が、

「なんと!?ネギ坊主の魔法に耐え…お」

敵はその攻撃に耐え、そしてネギによる近接戦で撃破された。

「まだ来るアルよ!」

「うひゃーまた団体さんやで」

「後ろのことを考えてなるべく数を減らしながら進みます!『造物主の掟』持ちは遠距離攻撃が効きにくい、接近戦を心がけてください」

確かに、舟のことを考えれば可能な限り削っておくべきである…とは言ったものの

「術式装填 魔杖雷鉾槍化」

「なるべく数を減らす…との事ですが」

「全部お前が食っとるやんけ」

「もうなんか人間台風みたいアルネ」

「そーだなぁ…」

と、ネギが杖に付与呪文を施し、一掃してしまった。

 

そして縦坑に入り、第2班と分離した後、私たちは階段を無視して上へ上へと向かっていた。遭遇する敵兵力も、ネギがほぼ仕留め、取りこぼしを私、クー、刹那、楓で手分けして殲滅しながら進撃し…

「螺旋階段の頂上に到達しました」

遂に螺旋階段の頂上に到達した。

「敵の召喚魔はもう見えませんね」

「栞殿、よろしいか?」

楓の呼びかけに応じてルーナ改め、栞(ルーナが本名らしいが、仲間内でも栞で通していたらしい)が化けたアスナが隠れ蓑から現れた。

「ネギさん!アスナさん、しばらく失礼します」

「栞さん…」

「ネギさん…大丈夫ですか」

「え…?」

「ずっとその姿で戦いっぱなしではないですか。その…デュナミス様の強さは尋常ではありません、魔力の残量などは…」

「大丈夫です、修行のおかげで今の僕の雷天大壮の魔力運用効率はかなり上がってますし、『完全なる世界』の中で丸一日休ませてもらいましたし、魔力はほぼ満タン状態ですよ」

…それだけ、ではないがな…と私はネギを見つめる。

「そ…そうなんですか…?」

「…それだけではないでござるな?」

「うむ…私も魔法はまだ素人アルが、なんとゆーかあれだけの敵を相手にして魔力が減るどころかむしろ増しているように見えるアル」

「闇の魔法による、魔力容量の増大…ですね?より馴染んできている…もちろん、それに伴い『侵食』も」

「ああ、恐らくは…」

分水嶺は越えてしまっている、私はそう言いかけて、言いよどんだ。

「…はい、どうやら…そう…みたいですね」

「そ…そんな、大丈夫なのですか?」

「大丈夫です、大丈夫じゃないかもしれませんが、大丈夫じゃなくなっても皆がいてくれればきっと大丈夫って…信じてます。だから…大丈夫です。

それに、なんだろうとパワーアップは今、ありがたいです」

…最後までもてば…な…正直、私の眼には侵食の最終段階にしか見えない。

「フ…そうでござるな」

「勝手でスミマセン」

「ま…いーんじゃねーか?覚悟決まってんのなら」

「いきましょう、栞さん、世界を救いに。いきましょう、アスナさん、あなたを助けに」

そう、ネギがおしゃべりタイムをしめた。

「栞さん」

「はい…アレが墓所への扉です、墓所を通り抜けて上層部へ上がれば…」

「待て!何か…いるでござる!」

「待ち伏せ…罠か?」

「いや…強大な気と魔力を隠そうともせず、これは恐らく尋常の勝負を…」

「…いきましょう!」

そう、ネギが宣言し、私たちは墓所への扉をくぐった。

 

「ようこそ、白き翼の諸君、次代の子等よ」

そこにはデュナミスとフェイトガールズ3名、それに月詠が待ち受けていた。

ネギがデュナミスに向かって飛び掛かった…瞬間、デュナミスの魔法障壁に阻まれたが障壁破壊効果を練りこんだ掌打で魔法障壁を突破、直後、『造物主の掟』によるカゲタロウの操影術のような影刃にネギは貫かれながら吹き飛んだ。

「見事だ少年、英雄の息子よ、存分に戦おうぞ」

「ネギ坊主!」

そうクーが叫ぶ…が、ネギは雷化して脱出、致命傷は避けたようである。

「おおっ」

「やはり一筋縄ではいきません」

「だが、世界の運命を懸けた戦いに傍観者を気取る者がいるのは面白くはないな、どれ…」

と、デュナミスが言うとデュナミスの『鍵』が発光…楓の隠れ蓑に干渉された。

「げ、マズイぞ」

と、言うと同時に聡美を連れてきていなくて本当によかった、と思う私だった。

そしてドサドサと楓の隠れ蓑から次々に中の面子が落ちてきた。

「いかん!」

「あたた…」

「これは…」

「くっ…非戦闘員連中が無理やり外に押し出されたっ!」

「つ…つまり?」

「つまり、ラスボス戦で育ててなかった遊び人と商人もバトルに強制参加ってゆーイベント!?」

「そらマズイ!」

「ネギくぅんっ!」

「落ち着いて!楓さん!!皆さんを安全な場所へお願いします」

「うむ」

「皆さん、もう一度マントの中へ…」

直後、敵のデュナミスと猫耳以外が非戦闘員に接敵する。

「貴様らのような役立たず、私の能力で一瞬で灰にしてくれる」

「一緒に楽しみまひょ、まずは…」

とツインテールの少女と月詠が口を開いた…と、そこで私はデュナミスに断罪の剣を展開し斬りかかった…

全員の意識が非戦闘員組近辺に向いている刹那に何かされれば致命打になりうると考えて。

「ほう…貴様も中々やるな…小娘…この状況で私を止めておこうとはなかなか」

「そうかい…これでも白き翼の参謀の一員でもあるらしいんで…ねッ」

「ハハハ、それはよいな…しかしなかなかいい技術だ…その剣は」

「フン…あんたら対策に障壁破壊・貫通系はモリモリにしてあるのさ」

そんなやり取りをしていると後方の状況も整理がついたようで…刹那は月詠と共に離れて戦い始めているが…私も一度距離を取った。

「ふむ…ならば一度少年に挨拶をしようか」

と、デュナミスはどぶんと影に沈む。

「ネギ!行ったぞっ!」

「あっ」

「くっ」

「デュナ…何だったアルか」

「デュナミスだ…ふんッ」

で、斬りかかろうとした私は突然デュナミスが脱いだ…というか衣服を霧散させた事に戸惑い、手を止める…それは私だけでなく、皆も同様だった…刹那と月詠以外。

「なるほど、英雄の息子よ、父と違って君には世界についての代案があるようだ。

それは良い、だが…私の見たところ、やはり我々には歩み寄りの余地はないようだ」

「しかし、デュナミスさん!僕達の計算では魔法世界の崩壊を防ぐ手立てが…」

「いや、少年よ、その問題は本質的ではない、そして私にも悪の秘密組織幹部としての矜持がある。自らを貫きたくば拳で語れ」

そう言って手を打つとデュナミスが影精らしきものに包まれて行き…形成された剛腕によってネギがぶん殴られる。

「いかんっ」

そしてデュナミスは装備を完成させ、4腕の戦闘態勢になった…そして跳躍して壁に叩きつけられたネギに追撃をかける。

それに楓は割って入って攻撃を防ぐ。

「楓さん!!」

「ここは拙者が!!ネギ坊主は先に行くでござる!!」

「そう簡単にいくかな?このデュナミス、大幹部戦闘形態、とくと味わってもらおう」

そして、フェイトガールズ3名も復活し、クーが三人娘を同時に引き受けて戦い始める…どっちに加勢するべきかと一瞬考え、楓に加勢する事にする。

「楓!加勢する!」

「いや!千雨はネギ坊主と共に!」

「が、そう簡単にいかせてはくれんようだぞっ」

「はぁッ」

と、殴りかかってくるデュナミスの拳をこそぎ落とすがシュルシュルと即座に回復されてしまう。

「むう…やはりその剣は厄介だ…」

と、デュナミスは影刃を飛ばしてくる。

「ぬかせ、ダメージになっとらんくせに…楓こそ、ここは任せてネギと行ってくれてもいいんだぜ?」

それを切り払いつつ、私は叫ぶ。

「そうもいかんでござる…では暫し助力を頼む」

「了解っ」

という事で私は暫し楓と共闘することになった…

 

「むう…!なかなかやるではないか、次代の子等よ」

「それはどうも…っと」

楓と2人でデュナミスの呼吸をかき乱しながら隙を探る…そして、何度目かの激突の際、私はデュナミスの剛拳を断罪の剣ではなく、鉄扇で受けた。

「なぬうううっ」

まー当然、狙いは合気柔術なわけで…不完全ながらデュナミスをぶん投げる事に成功する。

「今でござる!」

「ぐっ…」

と、そこへ楓がいつもの巨大十字手裏剣をデュナミスの腹に刺し、クナイで増腕を両方とも切断、さらに爆符付きの鎖と8つの十字手裏剣でデュナミスを固定する。

「爆符!」

「特別製でござる」

「来れ深淵の闇 燃え盛る大剣 闇と影と憎悪と破壊 復讐の大焔 我を焼け彼を焼け 其はただ焼き尽くす者 奈落の業火」

そして、そこへネギの奈落の業火が直撃、と同時に楓の爆符が爆ぜ、相乗効果でえげつないことになる。

「よしっ、ネギ坊主!千雨!行くでござる!!」

「…了解っ」

「楓さん!」

「フェイトのもとへ、そして最後の鍵を」

「楓さん、デュナミスさんの曼荼羅障壁は…」

「大丈夫、拙者にもやりようはあるでござるよ!」

「気を付けて!」

そして、ネギと私はデュナミスとの戦闘から離脱し、非戦闘組のもとへ向かう。

「ネギ君」

「はいっ」

「杖よ。のどかさん、乗ってください!アスナさんは行けますか!?」

「ゆーな!私抜けても大丈夫!?」

「行きなっ!!」

そうしてネギの杖にノドカと栞が乗った。

「ホール上部の縦坑からが近道だって!」

「了解!」

「ネギ君」

「ネギ君ッ」

木乃香と亜子とアキラがよって来る。

「がんばりや、ネギ君!」

「はいッ」

「先に跳ぶぞ!」

そうして私は縦坑に侵入し…ようとした瞬間、目の前の空間に亀裂が走る。

「チッ…あっ」

咄嗟に虚空瞬動で避けた私であったが、その狙いは後続のネギ達で…ノドカと栞を乗せているネギは雷化回避するわけにもいかず、もろに食らって…ドシャッという音を立てて墜落した。

「そんな技が…不覚っ」

「…ぬうん、悪の秘密組織の大幹部を甘く見てもらっては困る、簡単にはいかせぬよ」

「ネギ君」

「ネギッ」

「先生ッ」

「ネギ君」

そばに寄った私達が見たネギはかなりの重傷で…

「ネギ!」

「ヒドイ…ッ」

「ウチが今…」

「っ…待て!ネギから離れろ!魔物化だっ」

「ネギッダメよ!」

「チッ…持たなかったか」

私は思わずそう呟いていた。

「ぬうっ…」

そしてネギは完全に魔物と化した…そしてこれはネギの人としての時間の終わりである。

「きゃあー」

「…こ、これは…」

そして、ネギはデュナミスに吶喊し、怪獣大決戦が始まった…

拳と拳のぶつかり合い、デュナミスの振り降ろしを受け止めるネギ…腕をさらに増やしたデュナミスの連撃とそれを相殺するネギ…そしてデュナミスの腹にネギの一撃が入る。

「ぐうッ、ぬぅあぁあッ」

吹き飛ばされるデュナミスは増やした拳をネギに殺到させるが、ネギは前へと増腕を切り裂きながら進み…デュナミスを真っ二つに切り裂いた。

「ぐぅおおおっ」

「デュナミス様ッ!」

「そんなっ」

…しかし、それでもデュナミスはまだ活動を続けており、ネギの身体にはヒビが入りつつある…アレは…?

「ネギ君ッ」

「身体にっヒビが…ッ」

「まさか…脱皮…?」

そう言っているとデュナミスは先ほどネギを貫いた拳を虚空に出現させる攻撃でネギを攻める…それに対してネギは攻撃を掻い潜り、デュナミスの顔面に一撃入れると黒い雷で巨神殺しを形成し、デュナミスに放ち、デュナミスを内部から焼き尽くす。そして上半身のみのまま、しかし影装が解けて落下していくデュナミスであった。

「ぬ…う、なるほど…ウェスペルタティア最後の末裔の血…英雄たる父譲りの魔力…君自身の才能…さらに我が主の御業に連なるその魔法技…これだけ揃えられてはただの人形たる私に勝ち目など無いな。

だが…我々の勝ちだ、やるがいい君はここで闇に落ちる」

「ダメだッ!!デュナミス様はやらせはしない、やるなら私をやってからにしろ!!」

ツインテール…焔とやらが飛びおり、デュナミスを庇う…

「熱いっ、止めるな小娘、それで我々の勝ちだ、計画はなる」

「しかしっ」

止めるべきか、と私は糸を飛ばす。

「熱いぞ…やるのだ少年!」

そして糸の到達より早く腕を振りかぶるネギ…の前に栞がデュナミス達を庇うように飛び出して…血飛沫が舞った。

 



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107 決戦編 第4話 インターバル

「よくやった、栞、我らの勝ちだ…彼は堕ちる」

「グッ…アアアアッ」

そのデュナミスの言葉通りにネギは黒い紋様を浮かべながら暴れ、デュナミスに止めを刺そうとする。

「そうはさせんッネギ坊主!」

そのタイミングになってようやく楓と私の糸が到達し、影縫いと糸と楓の物理拘束がネギを止める。

「グウウウッ」

「どどど、コレどーゆーこと?アスナが知らん女の人になってネギ君に刺されて―」

「わからないけど、このままじゃ…ネギ君はきっとニセエヴァさんが言ってたように化け物になって…」

「まだや!」

木乃香が飛び出していく…私も糸を維持しながらネギのもとへと向かった。

そしてクー、のどか、まき絵が到着し、ネギの拘束に加わった。

「ガアアッ」

「先生ッ」

「グウウッ」

「ネギ君」

「くっ」

「痛っ熱痛いっ?」

「く…うううう」

そうして現場に到着して状況を理解した私はネギにビンタをかました。

「落ち着け、バカ者」

「ぐ…うう」

ネギが涙を流しながら呻き、暴れて私の二の腕と顔を薄っすらと切り裂く…シグヌム・エレベアの防御を突き抜けるとは…まあ今はそれどころではない。

「千雨ちゃんっ」

「よく見ろ、あわて者。あいつはまだ大丈夫だ」

そう言ってネギの髪を掴んで栞の方を直視させる。

「かすり…傷です、ネギさんは…直前で手をそらして…」

「ア…グウ…あ…」

「ネギく…あっ」

ネギはピシリビシリと体にヒビを走らせながら、倒れこんでしまった。

「先生っ」

「ネギ君」

 

その後、木乃香がネギの治療を試みたが、効果はなかった…それはそうである。

「アカン…ウチの外傷完全治癒も異常状態快癒も発動せぇへん。それやのに体温はめっちゃ低うて呼吸も鼓動も弱い。意識も戻らへんしまるで仮死状態や、手足のひび割れみたいなのも治らへんし」

「おそらく、闇に飲まれる寸前に意識が踏みとどまり危うい均衡を保っているのだと思います、動かしてはいけませんわ」

「しかし…ここに来てネギ坊主がこんなことになるとは…」

「まあ、兆候は出ていたがな…今のネギは羽化を待つ蛹みたいな状態ともいえる」

「いつも見たく、私達が手を握ってあげたらどうかな?ね?」

「まー多分それが効果的な手ではあるとは思うが…それでもいつネギが活動可能になるかはまったく不明…手当てをする前提で、いくらネギでも今日中に目覚めたら奇跡、数日から数週間くらいなら上出来、数か月はかかる可能性が高いし…場合によっては…」

目覚めない可能性さえある、と言葉を濁す。

その時、ドドォ…ンと遠い戦闘音が聞こえる。

「この音は?」

「刹那がまだ戦ってるアル、あの危ないメガネ女と」

「助けにいかなくていいの?」

「…うん!あっちは大丈夫や、せっちゃんが自分一人に任せて言うてた」

若干心配ではあるが、刹那であれば…大丈夫であろう。

「…栞、貴様なぜその少年を、千の呪文の男の息子を助けたのだ」

焔がそういうと、猫娘と竜娘もやってくる。

「むむっまだやるかッ」

「カグラザカアスナの替え玉役とガキどものスパイが貴様の役目のはず!なぜだ!?」

「今から話しますわ、焔…いいですか?私達の目的は何です?『世界のリライト』…でしたわね?

この20年来、フェイト様達がこの計画を急いだのは『魔法世界の崩壊』が目前に迫っていたからです。

でも…この『魔法世界の崩壊』を止める手立てがあるとすればどうです?」

「それはもう聞いた、信じられるか!!子供の口から出まかせだ!!」

「そーダ」

「そうニャ」

…私も参画している計画をそこまで言われると口もはさみたくなるが…黙っておくか。

「でも…もし本当だったとしたらどうです?ネギさんはフェイト様もお認めになる稀有な人ですよ」

「むぐっ」

「それは…」

「お願い、焔、少しだけ考えてみて、もし本当ならって」

「本当ならどうだというのだ!!たとえそれが本当で魔法世界の崩壊が回避されたとしても、この世界は今のまま、何一つ改善されないではないかッ!!私達のような戦災孤児も減りはしない!!」

アーうん、楽園計画的な方面ではアレではあるな。

「まあ…それはその通りなのですが、それはそれ、これはこれごっちゃにしては話がこんがらかってしまいますわ」

「何っ!!」

「私はネギさんと一晩、話し合う時間を頂きました…計画についても私のわかる範疇では矛盾も無いようでしたし…」

「なっ…ひ…一晩?」

「いつの間に?」

「ネギ君よく身体もつなー」

「焔…私は…ネギさんを信じてみるつもりです」

「栞…貴様ッ裏切るつもりか!?」

栞の言葉に焔が激高する。

「待て焔」

それを止めたのはデュナミスであった。

「戦う必要はない、我々の勝ちだ。堕としきれなかったのは残念だがいずれにせよ彼はもう使い物にならない、君達は我々に対する切り札を失った。

一方黄昏の姫御子と造物主の掟・最後の鍵は宮殿最奥部にてテルティウムに守られ最後の儀式は既に発動し、後1時間43分で我らの計画はなる。

アーウェルンクスシリーズには…その少年でなければ対抗しえないであろう…そこの我が主の御業に連なる技法を使う小娘でさえ…な」

そう言ってデュナミスは私を見る。

「フフハハハ、諸君らは失敗した!!私一人と千の呪文の男の息子と引き換えなら安いものだ!!フフフハハハ今回こそは我々の勝ちだ!!ぶぎゅるっ」

…高笑いするデュナミスをクーが棍で突いた。

「上だけのくせにエラそう言うナアル」

「デュナミス様に何をするか貴様―ッ」

と、一瞬コントとなったのであるが…

「1時間40分…」

「フェイト…」

と、すぐにお通夜のような空気になる。

「それでも…」

「それでも!」

「それでも…だな」

「うむ、行こう、あきらめる訳にはいかぬでござる!!」

「うむ!!」

「「「「「おうっ!!」」」」」

 

「…で、楓、ネギに治療を施す前に確認するが、私も戦力としてあてにされている、という認識でいいんだよな?」

「む?どうした千雨…ネギ坊主を除けばおぬしが我ら白き翼の最大戦力でござろうに」

「いやな?色々鑑みるに、ネギの魔素汚染の引き受けをするとガチバトルと言うか、限界突破で強化をする際に私自身がやばいんでね」

「なるほど、攻撃呪文の装填でござるな…その…ネギ坊主の魔素汚染、拙者たちでは引き受けられんのでござるか?」

「無理だ、私のシグヌム・エレベアでネギのマギア・エレベアに干渉してやっている治療法だからな」

「…で、あれば千雨は万全の態勢で戦えるようにしておいて欲しいでござる」

「わかった、じゃあその方向で出来る限りの治療はしてみるよ」

と言う事で私はネギに触れ、いくつかの術式を用いてネギに干渉、しないよりまし程度の治療を始めた。

「さて…後はお主達の処分でござるが…」

「やるか!?」

「うむ。先程のクーとの戦いで力量はわかった。デュナミス殿がリタイアした以上お主達は敵ではない。

時間もない、やるとなったら全力で潰させていただくでござる」

「なっ…」

「そのうえで、デュナミス殿には最上級の魔物相当の封印を受けて頂こう」

「ふっ…もう手は出さぬよ、不戦を強制契約してもいい、観劇させてくれないか?諸君らの足掻くさまを」

「…わかった、しかし…鵬法璽はこちらの用意したモノを使わせて頂く」

「慎重だな、くくく…よかろう」

という訳で、デュナミスへの鵬法璽での強制契約が終わった頃、私の施せる手もネギに全て施し終わった。

「おおーいっ無事かーッ」

「みなしゃーん」

「大変だーッ」

と、そこへ朝倉のゴーレムに乗ったカモと小夜がやってくる。

「カモ君!」

「さよさん!どうしたんですかー」

「こっちは一大事だ、作戦の変更が必要だぜ!そっちはどうだ?勝ったのか?

うおっピンピンしてんじゃねぇか、フェイトの取り巻きハーレムのお嬢ちゃん達」

「はぅあ」

「何だと?」

「って兄貴ぃいいいいぃ~~~ッ!?」

「ネギしぇんしぇい~!?」

…と、らちが明かないのでカモたちに状況を説明するのであった。

 

「ぬうぅぅっ最悪の展開だッ!!ここにきて兄貴がこんなことになるとはッ!!あのフェイトと唯一兄貴だけが互角に戦り合えたかもしれねぇってのに…!!」

「アスナは確かにフェイトに連れ去られたんだな?」

「は、はい、フェイトしゃんが指をかき鳴らすと消え失せて…どこに連れてかれたかはわからないそうで…」

「ぬう…だが確かにめげちゃいられねぇ、俺達だけで何とか…作戦だ、作戦を立てる必要がある、まずはポジティブに現状把握を…

そこのおっさん、デュミナスっつったか!?話に聞けば…あんた20年前の戦いからの唯一の生き残りでこの『完全なる世界』残党の頭脳…かつ計画立案者!

つまり、実質現トップってわけだな!?」

「まあ、概ね間違いではなかろう」

「曲がりなりにもそのアンタを行動不能たらしめたのはデカイ!!残る強敵はフェイトのみって訳だ!!」

「待ってください」

「む?」

「まだ私達の仲間の調が儀式のオペレータとしてお側にいるはずです」

「それだけか?残りの仲間は」

「えっ…その…あと一人…『墓所の主』と呼ばれる人物がいます」

「な…何者だそいつは?」

「わ…私も詳しくは…小柄で少女のようでもあり、老婆のようでもある不思議な人ですが…」

「まだそんな奴が…」

「いや、それでも数は少ないぜ、わずかに3人じゃねぇか」

カモのポジティブに、という言葉に乗ってそんなことを言う…ただ、まあ戦力的にはアレであるが。

「少数精鋭って訳だな、事実この人数で大計画を成功させつつあるしな」

「のどか、頼む」

と、私はのどかにデュナミスの読心を頼む。

「はっはい。デ、デュナミスさん、アスナさんと最後の鍵の在り処…その周囲の状況はどうなっていますか?」

「ふっ、君か、ミヤザキノドカ…やはりあの時消しておくべきだった。

だがその本で覗かれるのは不愉快だ、私から話してやる」

「えっ…」

「私を倒したサービスだ」

と、デュナミスは状況を説明した…それによると、アスナと最後の鍵はこの墓守り人の宮殿の上層祭壇にいるらしい。

「姐さんと最後の鍵…200mは離れてるみてぇだな」

「ってずいぶん親切じゃねぇか、おっさん」

罠を疑いたくなるほどに。

「今回ばかりは我々の勝ちだ諸君らがどうするかに興味があるだけさ」

「けっ、よしみんな集まってくれ!」

と、カモが呼び掛け、朝倉のゴーレムで別動隊も繋いで作戦会議が始まった。

前提として、ネギ無しではフェイトに勝てる可能性は限りなく低い、しかし戦う必要はなくアスナと最後の鍵さえ奪取できれば良い。そこで夏美のアーティファクトを活用する作戦が立案された。そしてそれを骨格に別動隊からも意見が出され…作戦計画が策定された。

概略は次の通り…夕映の観測の下、夏美のアーティファクトによってまずは限界まで近づく。そして茶々丸の砲撃による牽制、私がフェイトに襲い掛かり、その隙に楓がアスナを、まき絵がリボンで最後の鍵を奪取、のどかが最後の鍵を用いたリロケートで離脱、と言う寸法である。

「…さて、行くでござるか」

そう、楓が宣言した。

 



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108 決戦編 第5話 足止め

闇呪紋の装填を、電子精霊を千の雷に差し替えて限界突破状態になった私は、楓の天狗の隠れ蓑で運ばれていた。

「よし、今だ」

と、天狗の隠れ蓑から出て、みんなと共に夏美に連なる列に加わった。

「…よし、そろったな、絶対手ぇ離すなや、いよいよ大詰めや。

ええな?ネギのヤローがダメな以上、俺達だけで何とかするしかない、ここまで来たからには覚悟決めてもらうで。

まだ1時間もある、焦らんでええゆっくり歩いて近づけるトコまで近づいて夏美姉ちゃんのステルスに限界が来た段階で最終作戦発動や。

…やれやれ、ま、無理ないな…気休めになるかわからんけど、奴らが俺らを殺すのは一応禁止されとるんやし、万一やられてもあのお気楽な夢の世界が待っとるだけや」

と、コタローが緊張をほぐす為にそんなことを言い出す。

「え」

「今、それでもいいかもって思ったでしょ」

「思ってないですッ!!!全然いくないですッ」

「そういう朝倉はどーゆー夢だったのぉッ?」

「ん~?私?私は…んふふ、ヒ・ミ・ツ♪」

「えー何ソレーっ!?」

「何、朝倉男?男なの?」

「そーゆーアンタはどーせお父さんでしょ」

「ユエさんの夢はどういう…?」

「ビーさんこそどういう夢を?」

そしてそれに乗って色恋話が始まる…ある意味、肝が太いな、オイ。

「何や何や~?お前らみんな色恋ネタかいなこれやから女は―」

「そ、そーゆーコタロー君はどーゆー夢だったんだよ?」

「俺か?俺はネギとか千雨姉ちゃんとかつえぇ奴らと修行三昧やな、正直今と変わらん。

ハイハイ、アホやっとらんと行くでぇ!時間ないっちゅーの」

「わかってるよ!」

「しっかりしてや、夏美姉ちゃんがポロっとそれ落としたら終わりやねんで」

「うるさいなあ」

「ほぐれたようでござるな」

「やるねー」

…とかやっていると接近する気配を感じる。

「っ!何か来る!」

飛来したそれはフェイトであった。

「…ッあ」

「離すな!!!」

「ひッ」

「皆も手ぇ離すな!!!」

そして、フェイトはカツカツと足音を立てて近づいてくる…

「あ…ッ、ひ…」

「跳べッ右やッ」

と、コタローの指示に従って右に跳躍すると直後、通路が細切れに刻まれた。

「きゃああ」

「わああっ」

「ひ…ふ…」

「…フム?」

「あ…」

フェイトが視線をそらした瞬間、緊張の糸が切れたのか、夏美が崩れ落ちる。

その時、夏美の帽子がふわりと浮き、夏美から離れ…気づかれかけたが、それを意地でコタローが口でキャッチした。

「ふぇ」

「…気のせいか、いや彼ならもはや隠れて近づくなどと言う真似はすまい」

フェイトはそう呟くと跳躍して再び定位置へと戻っていった。

「た、助かった…?」

「拙者が来たときのかすかな気配を気取られたようでござるな…」

「あっ…私…?」

「平気か?夏美姉ちゃん、よぉアーティファクトを離さんかったな!エライで!見直した!」

と、コタローが声をかけ、暫しやり取りをするが夏美は再起不可能のようである…無理もない。

「…わかった、大丈夫や!別の作戦を考える、夏美姉ちゃんはよぉやった!」

「さあ…っとなるとどうする?」

「少し遠いがここから攻めるでござる…いけるか?千雨」

「ああ…任せろ…とは言い難いが、おさえてみせるさ、フェイトの奴を」

正直、私がフェイトを制圧できている限り、他の面子は安全と言えるのである…まあそれが難しいから奪取組の直衛を連れてきているのだが。

「せやな、結局危険度は同じや」

「まき絵殿、ここから届くでござるか?」

「えっ。う、うーん」

「コタロー君!!」

「うぉっと、ビックリしたあ」

「だ…大丈夫って大丈夫じゃないよね、私…私がっ…私がここでがんばんなきゃ…ダ…ダメだよね」

と、夏美が泣きながら言う。

「…ま、正直、せやな。成功率は落ちるやろ…でもそこまではたのめん、気にすんな」

「…う、うん…わかった…やるよ」

「お、おい、大丈夫かいな」

夏美は立ち上がって言った。

「大丈夫だって…せっかくもらった主役だもん」

「ほ…上等!」

という訳で私たちは作戦計画通り、祭壇へと接近していった…そして祭壇手前、最後の階段の手前…

「…ここが限界です」

「…よし、作戦開始や」

そして、茶々丸に連絡を入れ、作戦開始と相成った。

 

「どうだい?」

「は…世界再編魔法発動まで30分を切りました…すべて順調ですフェイト様」

「下からの連絡は?」

「ありません」

「そう……」

「フェイト様?」

「…このまま…」

「ハ…?」

「このまま終わってしまうのなら少し…つまらないね」

「フェイト様…」

フェイトと調とやらの会話…そしてピピっという音が鳴る…始まった。

「何らかの巨大な力場が収束中!障壁を侵食!魔法…ではない…?魔力溜まりの遥か上空!上から来ます!」

そして、空飛び猫からの砲撃がフェイトを襲った。

「今や!」

とのコタローの叫びにしたがって、私は闇呪紋と障壁破壊・貫通の術式を流し込んだ断罪の剣でフェイトの胴を分かたんと振り切る。

「ぐっ…キミ…達風情にッ…!」

フェイトは奇襲にも拘らず後ろに飛んで致命傷は避け、同時に先の尖った石柱を無数に召喚する。

「させねぇ!」

 

拡散 白き雷

 

と、私は呪血紋により無詠唱で強化発動させた白き雷にて可能な限り石柱を破壊し、残りの処理は直衛に任せて前に出る。

「…想像以上にやるじゃねぇか!フェイト!!」

「ハセガワチサメ…君が…来るとはね…」

フェイトはそう答えながら私の剣戟を巧みに避けつつ後退していく。

「へっ…顔に書いてあるぜ、来たのがネギじゃなくて残念…ってな」

「その通り…君達風情に我々の計画が妨害されるなどあってはならないことだよ」

瞬間、フェイトから尖った石柱が沸き立ち、私…の残影を貫いた。

「それは悪いな、フェイト…悪いついでにもう少し私と踊ってくれッ!」

「冗談…ではないッ」

そう言いながらもフェイトは私を倒すのが状況改善の近道と判断したらしく、無数の黒い刃を召喚して襲ってくる。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 来たれ雷精 風の精」

それを私は呪文詠唱しながらしのぎ、切り裂き、切り開いてフェイトの岩石の大剣と鍔迫り合いをする。

「雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐 雷の暴風」

そして発動した雷の暴風はフェイトに直撃したが…

「ちっ…想定以上に障壁の再展開も早いっ」

初手の奇襲で粗方破壊した筈の曼荼羅障壁は既に再展開され始めていた様子で、それによって大幅に軽減された私の魔法は大したダメージにはなっていないようだ。

「ならば…攻め続ける!」

「いい加減に…してくれないかな」

「やなこった!」

と、ちらりと一瞬、意識の一部を周囲に向けた…状況は完了しているはずなのに…なぜ跳ばない?まさか…私とフェイトの機動戦闘をのどかが捕捉しきれていない…?

「私はいい!行けっ!」

「で、でもー」

と、のどか…やはり私が問題だったようである。

「あとから合流するさ!逃げ足にゃ自信がある!」

そう叫んで私はフェイトとの戦闘に全神経を再び集中させた。

「これで終わりだよ」

刹那、フェイトは再び無数の尖った石柱を召喚し、それを私一人に殺到させた。

「でもねーと思うけどな 解放 千の雷」

それを私は取り込んでいた千の雷を解放して吹き飛ばす事で対応した…まあ、ある意味追い込まれたが。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により我に従え高殿の王 来れ巨神を滅ぼす」

「そうかい、じゃあおかわりだよ」

そう言ってフェイトは苛立ち気味に…皆が離脱したのだろう、アスナと最後の鍵と共に…三度、無数の尖った石柱を…先ほどより広範囲に分散するように召喚する。

「燃ゆる立つ雷霆 百重千重と重なりて 走れよ稲妻 千の雷」

 

魔力掌握 精霊の歌・雷と風と闇の六重奏+雷宮の調べ 三位一体の闇呪紋 増強装填

 

それが完了すると同時にこちらの再装填も完了し…後方に全力で跳んだ。

 

拡散 白き雷

 

そして焦点を外したことで密度が低下した、それでも致命となる無数の石柱を白き雷と断罪の剣でなんとかしのぎ切った。

「…で、置いて行かれたみたいだけれど君はどうするんだい?逃がしはしないよ?」

「そうさね…簡単に逃げられるとは思っちゃいない…けどなっ」

と、剣戟を再開する…が、ふとフェイトの左の瞳が色を変える…マズイッ

「石化の…邪眼か」

そして咄嗟に照射された光線を回避し、わずかに掠った髪の一部が一時、石化し、すぐに元に戻る…レジストできたようだがマトモに食らうとやばいな。

「出し惜しみは無しだ!」

そう、フェイトは怒り交りに叫んだ。

「それは光栄だな!」

時々虚空舞踏も混ぜながら目からビームを回避し続けながら詠唱を始めた。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 影の地 統ぶる者スカサハの 我が手に授けん 三十の棘もつ愛しき槍を 雷の投擲 解放 千の雷 術式統合 雷神槍 巨神ころし」

詠唱完了直前、ひそかに張り巡らせた糸でフェイトを拘束する。

「っ!それはネギ君の、なぜ君がッ」

「一応、私は共同開発者なんでね…喰らいなっ」

と、私はフェイトに向けて巨神ころしを投擲し、それが曼荼羅障壁を貫通し、受け止められた事を確認した直後…

「千雷招来」

千の雷を炸裂させて…逃げた、それはもう一目散に…こうして私は離脱に成功した。

 

 

 

 




リロケートもそうだとは限りませんが、少なくともリライトは対象を指定してからでも(ラカンなら)避けられるようなので今回こー言う事にしました…そうしないとクウィントゥムとの接敵で千雨が足止めして楓の天狗の隠れ蓑で離脱という手がとれてしまいまして…アスナの奪還には成功しちゃうんですよね…と言うかそれを書きかけて続けられなくなってしまいまして…物語的にその面子が生存と言うか健在なのは問題ないけどアスナ奪還はちと拙いのです…コタローが足止め役出来るというのは別問題、最後の鍵再奪取のために楓と共に挑んでダウン的な流れで勘弁してください。


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109 決戦編 第6話 世界を賭けた戦い

フェイトから逃亡した私は下方に跳び、宮殿下部の金魚とマンタの場所へと急行していた…時、さらに下方の遺跡群から飛び出してきた金魚の側面が爆発する。

「何ッ」

そちらに意識を向けるとフェイトによく似た何者かが金魚に止めを刺そうとしているのが眼に入った。

その何者かは炎帝を召喚し…さらに加速した私は断罪の剣を構え…雷光が走った…ネギである。ここまで早い復活はまさかの展開ではあるが、敵に新しい駒が出てきた現状、戦力的にも非常に助かる。

「僕の仲間に手出しはさせない」

そうネギが啖呵を切る。

「よく乗り越えた!ネギッ」

私もそう叫びながら火属性のフェイトモドキに切りかかった。

「ちっ」

フェイトモドキはそう舌打ちしながら私の攻撃を避ける。

「ネギ…千の呪文の男の息子と…今のは精霊人か?まあいい、一人ずつ逝け」

と、炎帝がネギに一撃を入れ、ネギはそれを受け止める。

「きゃあああッ」

「先生…ッ!」

「奴の息子なら殺害規制も解除でいいだろう、次はお前だ、精霊人!…なにっ」

炎帝のはなった攻撃の煙が晴れるとそこには無傷のネギがいた。

ネギが金魚の甲板を見る…つられて私もそうすると下半身と右手を失った茶々丸とそれに寄り添う聡美がいた。

「先生…千雨さん…」

そう呟く茶々丸にニコリと返すと私たちはフェイトモドキを睨みつけた。

「何…だ、こいつら…?」

私はネギと一瞬視線を交わし、フェイトモドキに切りかかる。私の剣とフェイトコピーの拳がぶつかる。そしてその傍らではネギが雷の投擲と雷の暴風を融合させた魔法を生成し、炎帝に投擲し、炎帝がえぐり取られて姿を消す。

「チッ貴様っ」

「おっと、私から気をそらすなよ、三下」

「誰が三下かっ!」

と、まともに喰らえば私の防御でもただでは済まなさそうな拳で乱打を繰り出してくるが、まあ本物のフェイトと比べればまあ拙い攻撃であり、掠りもせずに凌げるレベルではある。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 来たれ雷精 風の精 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐 雷の暴風」

機動詠唱した雷の暴風をフェイトモドキに喰らわせ、吹き飛ばす。それに追撃するようにネギが巨神ころしを投擲して腹に直撃、フェイトモドキに炸裂した。

「ガアアアアアアッ」

そして、そんな叫び声を上げながら真っ二つになったフェイトモドキは地上に落下していった。

「よく闇から帰ってきたな、ネギ」

「はい、おかげさまで…人間はやめちゃいましたけれども」

「まーそれは仕方がない…とりあえず金魚に降りようか」

「はい」

と、私たちは金魚の甲板に降り立つ。

「千雨さん…ネギ先生…」

「ネギ先生…千雨さん…」

聡美と茶々丸がそんな風に私達の名を呼ぶ。

「ただいま、聡美…それと茶々丸、無事…ではないみたいだけれど具合はどうだ?」

「はい、なんとか…主機、記憶チップ、量子コンピュータの三大重要機関は無事ですし、循環系も漏洩部は全て封鎖済みです」

「それはよかった…と言いたくないほどの損傷具合ではあるけれどな」

「そうだよー特に胸に食らった一撃は3センチずれていただけで主機関損傷だったんだよ」

「ハイ…ですが敵の奇襲を受けた際に咄嗟に体が動いてしまい…」

そう茶々丸がしゅんとした様子で言う。

「怒ってはないさ、茶々丸…でも自分のことも大切にな?お前が死んだら私たち…いや、皆が悲しむ」

「ハイ…ですが、この機体が壊れても記憶メモリが無事なら私は死んだ事にはなりません、それに…ネギ先生やみんなのお役に立てるなら…」

「ふうむ…そっか…茶々丸はそう考える訳か…確かにそういう考えもあるけれど…やっぱり不正解」

と、聡美が茶々丸にデコピンをする。

「記憶だけじゃ魂は維持されないかも知んないでしょ…全く、その意味では貴重なサンプルなんだからちゃんと自覚を…せっかくネギ先生とした仮契約が無効になる可能性だってあるんだし…ね?」

まあそれは、復活した茶々丸が元の茶々丸ではない事の証明でもあるので試したくもないが。

「とにかく、皆さん無事でよかったです。祭壇まで行きましょう」

「了解、ネギ君。千雨ちゃん、茶々丸さんをコパイシートに運んでくれる?」

「わかった、行くぞ、茶々丸」

そう答えて私は茶々丸を抱えてコックピットに運ぶのであった。

 

「千雨さん、スイマセンがフェイトとの決戦は僕に任せていただけませんか?」

コックピットのコパイシートに茶々丸を配し終わった時、ネギが言った。

「助太刀無用…って訳だな?さっきの火のフェイトモドキより本物のフェイトはずっと強いぞ?お前ひとりでは恐らく互角…私とお前の二人がかりならば十中八九勝てるぞ」

「わかっています…ですが、そうしたいし、そうするべきだと思うんです」

「フフ…まあ、お前はフェイトと友達になりたいんだったな…」

そう言って私はため息をついて続ける。

「わかった、一応フェイトはお前に任せる…だが、万一お前が負けるか時間切れが近くなった場合は介入するからな?」

「はい、それでかまいません…ハルナさん、お願いします」

「りょーかい、ネギ君。それじゃあ上部の祭壇に向けて出発進行!」

という訳で私たちは宮殿上層部の祭壇に向かった。

 

「先生ッ」

「待ちくたびれたよ、ネギ・スプリングフィールド」

祭壇に到達した私たち…否、ネギに対してフェイトが声をかける。

「ネギ君、大丈夫?大丈夫なのね!?」

「はい!全て僕に任せてください。ただし、戦いになった場合、余波がどれほどになるか予測がつきません。備えてください」

「…お前が負けるか、5分前になったら介入する、それまでに決着をつけろ」

「はい!行ってきます!」

そう答えてネギはフェイトに歩み寄っていった。

「ネ…」

「先生ッ…」

そしてネギはフェイトの眼前で雷化を解いた。

「先生!」

「なんてことを!術式兵装…雷化の変身を解くなんて!」

「ネッネギ君!?それはマズイよ、いくら交渉するつもりだって武装解除は…!」

「大丈夫だよ、アレでも…まあ武装解除する意味はねーけど」

「そーですねー先生、もう人間やめちゃっていますからー」

そんな会話をしていると祭壇の反対側にクーたちが転移してくる。

「できれば話し合いで決めたい」

「…本気で言っているとは思わないね」

そうネギとフェイトは言葉を交わすとにらみ合い…唐突にフェイトの拳がネギの顔面に振るわれる。

「いっ…いやぁッ!!!」

「さっきの言葉、信じていいんだよね!?千雨ちゃん!」

そうして、土煙が晴れるとそこには健在なネギの姿が現れる。

「そういうことか」

事情を把握したらしいフェイトに対してネギはニッと笑うと脇腹に拳を叩きこみ、吹っ飛ばした。

「フ…フフ…京都で僕は君に今はまだ無理だと言ったよね…遂にここまで来たか」

「オスティアで君は僕に何も知らないただの子供だと言ったね、全てを知り、僕自身の答えを携えて来たぞ」

「その答えは受け入れられない」

「ああ…だから拳でわからせてやるって言ってんだ、フェイト」

「フ…」

「先生…!」

「ネギ君!」

「千雨さん、ハカセ…結局ネギ先生はどうなっているのですか?」

戸惑い交じりのブリッジの空気に茶々丸が私たちに問う。

「端的にいえばーマギア・エレベアを完全に己に取り込んだー的なやつですねー」

「まあ、わかりやすく言えば、それだな…マギア・エレベアと一体化したというのがより正確だが」

「ス…スゴイ…」

「ネギ先生…なんていう子なの…」

「ナギ様の息子が世界の運命を懸けて…こんな場面に居合わせるなんて信じられない…」

「でもそれって…」

ハルナは私達が言葉を濁した部分を察したように言葉を紡いだ。

 

「ハセガワチサメはいいのか?ネギ君、彼女は僕らの戦いに十分介入しうる戦力だ…僕でも一蹴するのは難しいだろう」

「千雨さんには待機してもらっている…余程、長引かなければ僕らの戦いが決着するまでは静観してくれる…はずだ」

「なるほど…大した自信だね、ネギ君…じゃあやろうか、ネギ君」

フェイトがそう言ってネギとフェイトが激突する…最初は格闘戦から始まり、それはネギの有利で決着した。フェイトは吹き飛ばされ、1001本にも及ぶ魔法の射手でネギが追撃を入れ、さらには恐らくは同規模の魔法の射手を装填した桜華崩拳を放つ。が、フェイトは石化の邪眼でそれを迎撃、ネギはレジストしたものの、攻守が転換する。そして石化の邪眼を避け続けて距離を取ったネギにフェイトは石化の息吹を放つ。

「いけない!石化の雲!」

「石化の…!?あんなおっきいの見たことないよ」

対するネギは石化の雲を避けながら雷の暴風を詠唱、雷の暴風が雲を吹き飛ばすと共にフェイトに向かっていった。

「出たぁ雷の暴風」

「や、やったのですか?」

「いや、まだだ」

フェイトがネギの背後に現れる。

「千刃黒曜剣」

フェイトの召還した数多の刃がネギを切り刻まんとするが、ネギはそれを巧みにいなす…が、その隙にフェイトは無数の石杭を召喚していた。

「万象貫く黒杭の円環 ジャック・ラカンは凌いだよ、君はどうだいネギく…」

フェイトが言い終わる前、石杭が殺到するよりも早く、ネギは雷天大壮状態となって杭の間をすり抜けてフェイトをぶん殴った…うん、すり抜けられるなら私だって動き出す前に対処する。

「フ…ククク…ハハハハハ」

ネギの雷撃連打を受けて吹き飛ばされたフェイトが笑い、雷化したネギにカウンターをかました。

「くっ」

「ネギ君、その技への対策は君の師匠が全国ネットで公開済みだろう、ダメだよネギ君、この戦いで出し惜しみは無しだ」

「え…これで満足か、フェイト」

若干戸惑ったネギは雷天双壮状態となり、問う。

「ああ、大いにね。かのJ・ラカンすら対応できなかった君の独自魔法…見事だよ僕からも称賛を送ろう」

「――いつも無表情な君が今日はよく笑うじゃないか」

「楽しいからだよ、ネギ君。僕にとってはこの戦いこそが…唯一の望みだった」

「唯一の望み…だって?」

そう言葉を交わしながら断罪の剣と石剣で剣戟が始まる…

「唯一だって…?君の僕への評価がそれほど高かったとは意外だね」

「フッ…さあ見せてもらおうか、君の全てを」

そう言って剣戟が続く…後ろで脇でアスナ争奪戦が始まっているが約束もあるし、グッドマン先輩達も飛び出して行って戦力も十分だし、何より介入してフェイトがなりふり構わなくなっても困るので放っておくことにした…ら、戦力比からの予想に反して調とやらはアスナを儀式の定位置に戻す事に成功した。

「調さんの粘り勝ちだね、君の仲間も頑張ったようだけれど。調さんに感謝すべきだよ、ネギ君。姫御子が祭壇にいないまま儀式が不完全に発動すれば6700万人の『人間』は弾き出されて火星の荒野に投げ出されるところだった…最悪の事態だよ、君達のせいでね」

「儀式自体を止めて見せる、そう言ったろう、フェイト」

「ならば」

と、フェイトはネギの断罪の剣を握り、干渉して砕いて見せた。

「僕を殺して儀式を止める他はないね」

そう言って振るわれたフェイトの石剣をネギは拳で迎撃して折って見せた。

「殺すなんてしない、フェイト、僕は…」

そんな甘いことを言うネギにフェイトの拳が決まる…まあそんな甘い理想を掲げるからこそ、私は世界の命運をネギ一人に預けたのだが。

「甘いよネギ君、甘すぎる。その甘さで…世界を背負うつもりかい?」

そうといながら放たれた蹴りでネギは吹き飛ばされるがすぐに体勢を持ち直して拳と共に答えた。

「ああ、そうだ」

そこから激しい乱打戦が始まった。

「見事だ、本当に見事だよネギ君…今の一撃はJ・ラカンに匹敵する」

「君こそ、フェイト、あのラカンさんが反応しきれなかった僕の…雷速近接格闘に対応できるなんて信じられないよ」

「フフ…くくく…ハハハハハハハハハハ」

フェイトは笑いながら地を裂く爆流を発動させる。

「何がおかしい!?フェイト!」

「ハ、君こそ今笑みがもれていたよ、ネギ君、楽しそうな笑みだ」

「えっ…ウソ―ー」

残念ながら、本当である。

「ようやく分かったよ、ネギ君、これが…これこそが!!」

と、クロスカウンター…そしてフェイトの蹴りがネギを吹き飛ばす。

「―ー楽しむってことなんだろう。J・ラカンが言っていた、もっと楽しめと。君は今、僕の力を超えつつある、それはそうだろう、なぜならそれは闇の力!!君の得た力はまさしく我が主と同じもの。だが…分かっているのかい?その代償の大きさを」

「ああ、分かっているさ、その覚悟だ、どんな力だろうと使い尽くして君を止める、君を殺しもしない」

と言っているとネギとフェイトの意識が上方に逸れた。

「…ほお、これは…!」

つられて私達も上空に意識を向ける…すると

「そんな…アレは…!」

「地形一致、間違いありません…」

「あー…膨大な魔力によってゲート経由で繋がったのか…」

「麻帆良学園…?」

まさしく、麻帆良学園だった。そして突如として突風が吹き始める。

「皆…ッ」

皆を案じてそう叫んだネギがフェイトに吹き飛ばされる。

「ゲート向こうと繋がったのは確かに想定外だ、だがそれも今はいい。両世界の運命はいずれこの戦いで決まる、今はこの場が、この戦いが全てだ!!」

フェイトがそんな感じのキマった台詞を叫んでいる頃、こっちはこっちで大変なことになっていた。

「くうう、ネギ君にフェイト君、容赦ないわねぇっ!茶々丸さんどうなってる!?」

「いけません、精霊炉不調、操舵不能」

「この程度の竜巻で!?」

「ただの竜巻ではありません、魔力乱流です」

「あくまでも魔力濃度差に伴う突風だ、時期におさまる…それまで耐えられねぇか?って、左舷!」

と、飛んできた浮遊岩が金魚の左舷にぶつかる。

「魔力乱流ゆえ、浮遊石も大小問わず飛んできます」

「早く言いなさいよッ死ぬわよッ…ってギャアアァ吸い込まれるーッ」

「先ほど千雨さんがおっしゃったように、恐らくは両世界の魔力濃度の差から生まれる現象ですねーこれ」

「ちなみに、このままいくと異界境界越境の瞬間に我々が船ごと圧潰する危険が76.2%…千雨さんが障壁に魔力を注いで頂ければ多少はマシになりますが、5割は切りません」

「冷静に分析してんじゃないわよーッ」

尚、今から皆を連れて飛び降りるというのは一瞬脳裏をよぎったがもっと危険なのでなしである…一人なら何とかならんでもないが、ともかく、聡美や茶々丸、ハルナを置いて逃げる気しない。

「ハルナーッ」

「ダメッ逆推進全開でも効かないわ!アンカー発射!!1番から3番」

そうしてアンカーが発射され、祭壇に食い込む…がすぐに床ごと砕けてしまった。

「「げ」」

「「あ…」」

「ギャアアアッ」

「どうしましょう、千雨さん」

「…ハルナと茶々丸に任せて後は祈るしかできん」

珍しく少し慌てた様子の聡美にそう答えて抱きとめる。

「よ~し来た来たぁ、まさにグレートパル様号最大のピンチ、これぞまさにクライマックスシーンね」

「え…エンジン圧力ダウン、噴射停止」

「流れに任せて下降(?)する、千雨ちゃんは境界突破に備えて緊急障壁に魔力を込めて」

「了解」

「艇長!!両側から巨岩接近!!」

「ぎぇぇ~!?くっ」

と、ハルナはアーティファクトの『落書帝国』で巨石に対応した…が

「さすがパル艇長…はっ、前方にさらなる巨岩」

「間に合わないわ、使用できる全砲門ひらけ、全弾発射!!降魔魚雷1番2番発射!」

「弾着確認!精霊砲スタンバイ!」

「主砲発射ッ!!」

「発射!」

前方の巨岩が砕け散る。

「突破!異界境界接近!」

「うげげ、でもこいつは…!ま…まずい、ものすごい圧力…!!障壁全力展開!このままじゃ船体が…うぅおおおっ」

…と言っている間に私たちは無事?に麻帆良上空に到着した。

「精霊炉ダウン!?これは…」

「ッ!そうだった、魔法世界用に調整された精霊炉はこっちじゃ使えん!」

「何ですって!?ええい、翼操作で何とか着陸するわ!つかまって!」

「千雨さん…」

どんどん高度を下げる金魚の中、聡美を強く抱きしめる…こうなったらとっとと脱出と言う手も使えるのではあるがそれは無粋と言う物であろう、これくらいならコックピットの保護機能的に死にはせんだろうし。

そうして…まあ何とか無事?に胴体着陸に成功し、私たちは一足先に麻帆良学園に帰還した。

「いてて…皆、何とか無事みたいね」

「おう」

「はいー」

「なんとか」

皆の無事を確認するとハルナは外に出るべくハッチを開こうとする…が。

「くおっ何だコレ扉が歪んで…ふんっ」

と、歪んで開かない扉を落書王国で吹き飛ばしやがった。

「さーて…私達も行きましょうか…茶々丸を治してあげないと」

「そうだな、行こう…私が茶々丸を運ぶ、聡美は戦いの歌を発動してついて来てくれ」

「ハイ」

「よろしくお願いします、お母様、ハカセ」

そうして、なんかわちゃわちゃしていたハルナと一部クラスメイトを無視して私達は研究室に急いだ。

 

「そー言えば、戦い放って来ちゃいましたが、千雨さん、どうされるんですかー?」

茶々丸の修理…と言うかボディの換装作業を始めて、少し落ち着いた頃に聡美が問うてきた。

「うん、戻るよ…見届けにゃならん、私にもその責任がある」

シレっと片手間で展開した観測装置から送られてくる情報は戦いの中断を示していたが、きっとそれは最後の決着までの間であろうと私は感じていた。

「では…あとは任せてください…ご武運を」

「うん…本格的に戦う事はないだろうけれども…行ってくる」

そうして研究室を飛び出した直後、急速に魔力の高まりを感じる。

「ぐっ…始めやがったか…千の雷と引き裂く大地…それに…何だコレは」

二つの極大魔法のみならず、それに何らかの干渉を私は感じた。

 

巨大な爆発を見届けた後、とりあえず私は観戦していたらしいマスター達に合流することにした。

「おや、千雨か…戻っていたのか?戦いを放棄して?と言うかその姿…どれだけの深度で魔法を取り込んでいるんだ」

「はい、少し事情とトラブルが重なって金魚に乗って…ちなみに魔法の取り込みは深度自体は変えてませんが多重で…専用魔法6つと千の雷ですね」

「そう言えば飛来物に懐かしい金魚型の飛空艇がありましたね…あれですか…と言うかなんという無茶を」

「フム…それはさておき、一応決着はついたようじゃな…アレは和解…かの?」

「あーなんか、ネギの奴、フェイトと友達になりたいとか言い出しまして…」

「それでですか…」

若干、あきれた雰囲気が場を覆う…が、黒い光線がネギとフェイトを貫いた。

「なぬっ!」

「いけません!アレは!」

沸き立つ溶岩の中から何者かが現れ、さらにデュナミス、加えて複数の造物主の使徒が現れる…

「始まりの魔法使いか!」

「そのようですね…まずいですな」

何とかしてあっちに戻らにゃならん…自前の転移魔法と言う手を考えていたが間に合うか…?

「オイ、千雨、貴様は儀式を何とか止めろ、始まりの魔法使い達は私がジジイどもと何とかする」

「了解です…ちなみに運んでくれたりは…」

「するわけないだろう、自力で跳べ」

「はーい」

「わしらも向かうぞ、婿殿はわしが運ぼう」

「お願いします」

という訳で私達はそれぞれ転移魔法を編み始めた。

 



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110 決戦編 第7話 決着

「わりぃ、今戻った」

万象貫く黒杭の円環に今まさに襲われそうになっていた皆を学園長と西の長と共に救い、私はそう言った。

「お…お父様!!おじいちゃん!!千雨ちゃん!!」

「遅れてすまない、このか…皆、無事で何より!」

「いやはや…まさかこんな大事に巻き込まれとるとは…じゃが…がんばったようじゃな!」

「貴様らは…いや何でもいい!ニィ、少し持たせろ、私は祭壇に結界を施す」

「させるかッ」

「させないッ」

私が初代フェイトに切りかかるのをニィと呼ばれた少女が止める。

さらに学園長と西の長との加勢が入り、割と難なくニィとやらを倒す事には成功したのだが、その間に初代フェイトは目的を達し…始まりの魔法使い達に合流してしまった。

「むう…やられたの…わしらは連中の主力と決戦に行く、儀式の阻止を頼めるかの?長谷川君」

「はい、何とかして見せます、学園長先生」

「うむ、では行くぞ、婿殿」

「はい」

そうして私は二人を見送り、儀式の処理に取り掛かろうとした…のだが。

「おーずいぶん懐かしい奴らがそろったな」

「あ…あ…あんた…なん…で」

そこにはラカンのおっさんがいた。

「さっきのフェイトとネギの戦いにもあんたを見たような気がした!アレも…!?」

「アレは多分坊主の中の理想像さ、俺様とは違う」

「で、でもあんたは確かにフェイトにやられて消えて…」

完全なる世界に消えた…はず

「気合で戻った」

「マジで!?自力で死者蘇生並みの奇跡だぞ!?」

「ま、半分はな、残り半分は姫さんの力…お前達が死ぬ気で時間稼ぎしてくれたおかげだぜ。

呼びかけてくれ、姫さんをこっちに連れ戻せるのはお前達でしかあり得ねぇんだ」

「呼びかけるって…確かにその手も考えたがそれは!」

割と運頼みなのでやめておこうとしたプランなのであるが…

「フフ…まあ俺様…いや、姫さんを信じろ!とぉうっ」

「あっ!ちょ…しゃあない!やるぞ!」

と呼び止める間もなく行ってしまったのでおっさん…いやアスナを信じる事にしてそのプランを主軸に据えて手を練り直していく。

「栞、こっちへ!グッドマン先輩は余波から皆を守ってくれ!」

そう叫ぶと私は栞とやり取りをしつつ状況と術式を把握していく…

「くっ…あの初代フェイトの仕業か…アスナの解放は外側からはどーにもならん…術式の方も調とやらが健在なら何とか間に合ったろうが…完全掌握には時間がかかるな…何とか遅延はできん事もないけれども…間に合わん、掌握・反転前に時間切れだ…結局おっさんの言う通りアスナを呼び戻すしかねぇ」

そして、その為にこの場で打てる手は二つ…一つは皆でアスナに呼び掛ける事、もう一つは私がアスナを直接叩き起こす事…どちらにせよ、私のアーティファクト、力の王笏と『最後の鍵』を接続し、そこから皆の意志をアスナに伝えるかこの場に満ちる魔力に物を言わせて無理矢理電子精霊のようなものになり果てた私が直接アスナにダイブして叩き起こすか…である。

「千雨ちゃん!時間が!」

「わかってる!…確かにネックは時間だな…よし」

私は意を決して、前者の皆でやる方を作戦案として採用した…電子精霊のような存在から元に戻れない、と言うのもあるが、何より儀式の遅延と自己の変貌の術式編みを同時に行う必要があり、少しでも手間取ればそこでアウト、と言う事もある。であるならば絆の力を信じてみた方がまだアリかと思えたのだ…面子的にちと弱いが。

「聞いてくれ、みんな!!アスナを助け出すのが変わらずゴールだ!けどその為には皆の力が必要だ!!今からみんなで『神楽坂明日菜』に呼び掛ける!いいな?私達の声がアイツに届けば…あのバカならきっと答えてくれるハズだ!!」

「黄昏の姫御子は今、完全に儀式に埋没、同調しています。唯一の望みは姫御子の表層人格である明日菜さん…フェイト様の言うとおり、姫御子の100年の記憶に比べれば明日菜さんの数年の人生など仮初めにすぎないのでしょうが…」

「ひゃく…って」

少し引いた様子の美空を見て皆を鼓舞する意味も込め、短くぶち上げる。

「100年とか知るか!!それが事実だろうが何だろうが私達にとっちゃあいつは3-Aのクラスメイト神楽坂明日菜だ!!だろ!?

ちょいアホでガサツでいっつも委員長と喧嘩してウザいしハタ迷惑だが自分を曲げねぇとこと底抜けに前向きなとこは割と評価できる…大切なクラスメイトだ!

アイツをきっちり現実に呼び戻して私達も麻帆良に帰る!もちろんネギも連れて皆全員完全無事にだ!いいな?皆の力を貸してくれ!!」

「「「「「うんっ」」」」」

「「「「「はいっ」」」」」

演説の後、皆で手をつなぎ、力の王笏と最後の鍵を経由してアスナの表層意識に接続する。

「私のアーティファクトを『最後の鍵』に接続してある、みんな手を繋いで…あいつに呼びかけてくれ!」

「へへまさか千雨の姐さんがこの手の作戦の音頭を取るたぁな」

「はっ…私だってできる事ならあっちで戦ってた方が気が楽さね!だがやるしかねぇならやる、それだけだ!じゃあみんな頼む!」

と、言って並行して続けていた儀式遅延の為の妨害を止めて意識を集中する…このプランの難点は私経由で皆の意志を届ける為にアスナに呼びかける以外、私が何もできなくなる事である。

皆の思いが流れ込み、私を通り抜けて力の王笏、最後の鍵、アスナへと流れていく。

「どうだ?」

「ダメだ、反応薄い!表層人格覚醒率35%!足りねぇ!」

「それだけどさーぶっちゃけこの面子、弱くない?アスナの友達的に!そこんとこどう?」

考えたくなかったところを美空が突いてくる。

「うぐっ…そっそれは…」

「確かにこの中でアスナの姐さんとがっつり仲いいのはこのか姉さんくらいではあるが…あと強いて言えば、姉弟子で修行で扱き倒してた千雨の姐さんくらい…」

アスナはさっきの戦いで二人を守り、ネギにも力を貸していたように思えた…神楽坂明日菜はあそこにいる筈なのだ、ダメか?ダメなのか?アスナ…私達だけじゃダメなのか…!?

「千雨ちゃん安心しぃ、大丈夫や。アスナは必ず戻ってくるて、ウチにはわかるんや」

「けっけど…」

私の肩で弱音を吐くカモ…私も同じ気持ちになりかける。

「遅れてゴメン、千雨ちゃん!アスナを連れ戻すんだね!任せて」

「微力ながらお手伝いを」

そこには楓、ユエ、朝倉、まき絵がいた。

「お前ら!」

「無事だったか!!」

「皆がんばったようだな」

「お…マ…真名!刹那!」

と、刹那と真名までやってくる…刹那の参戦は大きいな。

「せっちゃん!!!」

「おおおおお刹那姉さん、アスナの姐さんの大・親・友のあんたがいれば百人力だぜっ!」

「だッ?だだだ…ししし親友なんてそんな」

「これであの委員長でもいてくれりゃ完璧なんだけどな」

「そりゃさすがに虫が良すぎるってもんじゃねぇか?」

そう、カモと軽口を飛ばす余裕さえ出てきた。

「いえ」

「へ?」

そこに思いがけない気配が現れる…ポヨ…いや、ザジである。

「どうも…」

「ザジか…?」

「お連れしました」

というと空中に魔法陣が現れ、そこから委員長たちが降ってくる。

「ここは…?」

「あたー」

「ほえぇ?」

「って何コレーっ!?」

「かいじゅー!?」

…うるさいのと一緒に。

「これは…」

「ちょ…ザジお前ッ…?こんなトコにあいつらまで連れてくるとかマズイだろっ」

「私が守ります、皆の力が必要でしょう?」

「ぬぐっ」

そう言われるとどうもこうもない。

「ネギ先生!?ちちち千雨さんっ!ネギ先生はどこにどうしてネギ先生ッ、ネギ先生はネギ先生ッ」

「落ち着けいいんちょーっ、落ち着け、いいんちょ、先生は無事…まあ無事とは言い難いかもしれん…が」

「いいがたい!?」

「まあ…多分大丈夫だ、アレでくたばる程やわな鍛え方はしていない」

「た…ぶ…ん…」

「そんな事よりアスナだ、いいんちょ!」

「アスナさんが!?アスナさんがどうしたっていうんですの」

「ぐ…あー…っ説明メンドくせーっ」

と、思わずぼやく。

「大丈夫、ザックリ解説しといたからアスナを助けなきゃいけないのは皆承知してるよん」

「ハルナ!」

「…アスナさんに呼びかけるんですね?」

「さつき!」

「私達も戻りましたよー」

「聡美!茶々丸!」

…正直二人には万一に備えて麻帆良にいて欲しかったのだが言っても仕方あるまい。二人も白き翼の面子と言う意味ではアスナとの縁もある。

「オイオイ、クラスの奴ら全員集まっちまうんじゃねぇか」

「…ああ」

まー刹那と委員長の参戦だけでも勝算は十分なのでとっとと試したいのだが。

「よし…行くぞっ」

再び手を繋ぎ、想いをアスナに送る…皆の…強い想いが私を駆け抜けてアスナへと送られてゆくそして…

「来たっ180%!!!行けるぞ!みんな続けて呼びかけてくれ!」

あっちの決戦もエヴァの呪文で終わり、これでアスナが目覚めればハッピーエンドである…という所で始まりの魔法使いが現れる。

「見事な呪文だ、我が娘よ」

そこへ殺到する学園長たち…しかしそれは一蹴されてネギが捕まった。

「ぼーや!!」

エヴァの叫び…

「ネギッ!!」

それに呼応するように目覚めたアスナが目覚めて始まりの魔法使いの腕をぶった切る。

「ア…アスナさんッ」

「うんっ」

「アスナ!」

「アスナッ」

「アスナさん」

「アスナ~」

「アスナさん…」

「姐さん…!」

と、皆が口々にアスナの名を呼ぶ。

「…へっ」

「良かったですねー」

「アスナさん!」

「ネギ!」

やっている下でアスナとネギも感動の再会である。

で、ネギを抱きしめてそれからわちゃわちゃやり始めた。

「神楽坂明日菜、イチャイチャもいいが後ろヤバイからな」

と、エヴァの言葉にネギとアスナが振り返るとそこには始まりの魔法使いがやば気な魔法陣を展開していた。案の定、そこからは暗黒ビーム的な攻撃が繰り出され、それをアスナが受け止め、かき消す。

「おほほ、アレを止めたぜ」

「ふん、当然だ」

「ネギッ終わらせるわよ」

「…はい!!!」

と、ネギとアスナは初めての共同作業…ケーキ入刀かと言わんばかりの体勢で始まりの魔法使いをぶった切った。

そして…一瞬だが始まりの魔法使いの顔…ナギ・スプリングフィールドの顔が見える。

「…ネギ、俺を殺しに来い、それですべてが終わる…待ってるぜ」

「父…」

ネギの呼びかけむなしく、始まりの魔法使いは花弁となって消えていった。

余韻に浸る間もなくネギは己の顔をパンパンと叩くと口を開く。

「アスナさん、それよりも今はやることが!!」

「大丈夫、止めてあるから。あとはもとに戻すだけ」

そう、アスナが答えた。

「え…」

「まずは今回のコトで消されちゃった人を向こうから取り戻さないとね。えーと、計12万8607人…うん、大丈夫。

えぐられちゃった地表や建造物は戻せないけど…それは仕方ないよね」

「アスナさん、ぜ、全部把握しているんですか?」

「うん、まー何て言っても…私は正真正銘、魔法の国の伝説のお姫様なんだからね」

それから…アスナの頑張りで失われた人々と動植物達が復活し…各地で感動の再会が行われ…一度オスティアへと戻った私たちは夜通し戦勝記念のドンチャン騒ぎを繰り広げるのであった。

 

 

 

 

 



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モラトリアム編
111 モラトリアム編 第1話 冷たい方程式と日常への回帰


だいぶ遅くなりましたが、ちまちまと進めてまいります。


「フム…規模が大きくはありますが、正攻法と言うべき解法ですな」

どんちゃん騒ぎの翌日、連合、帝国、魔族、アリアドネーの代表と学者を交えて行った火星緑化計画のプレゼンテーションに対し、連合の学者が計画をそう評した。

なお、資料作成は手伝ったが、プレゼン自体はネギに押しつけた。と言うか計画書に署名した責任と言う事で私と聡美も参加したが、本当はこういう場はぶっちゃけごめんこうむりたい。

「では、ネギ君達のプランに問題はないと?」

「ええ、昨日の時点で貰っていた計画書をアリアドネーで検討したのだけれども、一晩でわかる限りでも問題はなかったわ、地球の技術的、政治的面ではもう少し検討が必要だけれども」

ゲーデル総督の問いにセラス総長が答えた。

「まずは魔法世界からの小規模な緑化事業で下準備と延命を兼ねた第一計画を行い、その間に地球からの大規模緑化計画の為に宇宙開発を進める…面白い計画ですな」

続いて帝国の学者からも計画に好意的な意見が出て、ディスカッションが始まった。

 

「ふむふむ…計画自体には問題はなさそうポヨね…それ自体はいいことポヨ…が、少し…いや、かなり残念なお知らせもあるポヨ」

ある程度議論も煮詰まりブラッシュアップも進んできた頃、そう言ってザジの姉が魔族の学者に発言を促させる。

「…我々は火星裏界の崩壊は地球の標準時間で最短9年6カ月後から始まると計算していました、それがこの計画の前提にあるという事は皆様ご存じの通りでしょう…ですが、その前提が崩れています…詳細時期は各地でデータ測定が必要ですが今回の一件で火星裏界の寿命は半分程度まで縮んでいる可能性が高いと言わざるを得ません」

その発言に場が騒然とする。現状の寿命が5年では延命しても本格的な火星緑化に間に合わない可能性が高くなってくる。

「そんな…バカな」

誰となくそんな言葉が紡がれる…やっとの事で見つかった希望が途絶えるのだ…それに、私も聡美もネギもアスナさえ言葉がない。

「一応、この計算には抜けている延命要素がございまして…それを足せばある程度の安全マージンを確保した上で間に合う可能性は高いと概算はしております」

「それは…?」

少しほっとした空気の中、クーネルがそう問う。

「黄昏の姫御子です、我々の計算は黄昏の姫御子が火星裏界の礎から失われていた状況を前提としておりました」

「待った、それって…つまり…アスナに生贄になれと!?」

私はそう、絞り出すように叫んでいた。

「生贄と言う言葉が正確かはともかくとして、そういう事になります…ナギ・スプリングフィールド一派により黄昏の姫御子が礎から抜かれた際のデータと先ほどの議論を踏まえますと、星の並びが良い日が半年ほど後にありますのでその日から100年ほど…その後は黄昏の姫御子が再び礎から抜けても問題はないかと」

その後、魔族の学者から詳しい説明があり、その後の重い空気の中で行われたディスカッションによっても魔族の学者が最初に提示した結論は覆らなかった。

「…うん…私、やるよ、ネギ」

ずっと黙って話を聞いていたアスナが口を開いた。

「そ、そんな…アスナさん、あきらめないでください、まだきっと何か…何か手がある筈です」

ネギが狼狽する様子を面々は痛々しい空気で見守っていた…政治家連中も必要であればそうするにせよ、少女を好んで犠牲にしたい訳ではないのである。

「私がやらなきゃ、この世界が全部ダメになっちゃうんでしょ?それに死ぬわけじゃないし、100年後に迎えにきてね、ね?ネギ?」

「ハイ…アスナさん」

そう答えたネギはアスナに抱かれて泣き出してしまった…表層人格にすぎないアスナがもつのかとか色々とすでに議論の俎上に乗った事柄について言いたいことはあるが、そんな事を云う野暮な連中はこの場には居なかった。

 

 

 

『ん?』

その夜、明日のネギのお披露目セレモニーを見学する為にもう一泊と泊めて貰った総督府の客室で私と聡美は久しぶりに闇の悪夢に囚われていた。

『どうしましたか?』

と、私のつぶやきに聡美が応える。ちなみに意思疎通は念話の要領でしている。

『向こうの方から魔力を感じた気がして…ここは何もない空間のハズなのに』

『それは不思議ですねー』

『ああ、ただ不思議…なだけならいいんだけれども、マギア・エレベアの与えてくれる魔力そのものでさ』

『…ヤバくないですか?ソレ』

『ああ、無茶苦茶ヤバいというか不穏と言うか…マギア・エレベアを習得したのが原因だとは思うんだけれども』

『でしょうねぇ…もしかして、この空間って千雨さんの存在そのもの…とか?』

『テンブリスから詳しく聞いてないけれども、そうかもしれないな…で、ネギは扉を開いても耐えられたからアアなった…と』

『…千雨さんは扉を開くつもりですか?咸卦法とのミックスで不老不死と言うか存在階位の昇位を成すっておっしゃっていましたが』

少し不安そうな雰囲気が聡美から伝わってくる。

『んーなんというか、私がやろうとしているのは多分だけれども扉の向こう側の住人になる…的な解法だよ?うん、多分だけれども』

『そうなんですか?私は永続的な疑似精霊化と解釈していたのでうまくこの空間とイメージが合わないんですけれども』

『私も直感的理解に過ぎないんだけれどもな?咸卦法自体がある種の仙術でオド(気)とマナ(魔力)による陰陽融合強化術式なわけだ…で、それを紛い物にして精霊を足したのが私のシグヌム・エレベア・トリニタスだ。で、私は本物の咸卦法とマギア・エレベア…精霊化の秘術を練って一つにしようとしている』

『それはわかります』

『で、ここからが問題なんだが…精霊ってなんだろうな?』

『アーなんとなくわかりました、あの扉の向こう側が世界で、精霊は個…この空間のような密室ではなく世界の側に属する存在…だと?』

『なろうとしている最上位精霊に関して言えば、厳密には世界に共通する個…一面分くらい壁のない家とか東屋とかみたいなの存在…かなぁ』

『なるほど…そうなると常に扉が開いているとでも評するべきネギ先生の場合は?』

『…精霊と呼びたければ呼べなくもないかなと思うぞ?』

『…つまり、千雨さんがやろうとしている方法はマギア・エレベアの果ての方がまだ穏当…ってことですよね、ソレ』

『…そうともいう』

それに対し、聡美は非常に呆れたような思念を飛ばしてくるのであった。

 

 

 

翌日、ネギのお披露目セレモニーを見学した私たち一同はその足でゲートに向かい、麻帆良に転移、そして始業式に出席し、寮へと帰った。

「お帰りなさい、ちう様」

PCにダイブすると留守を任せていた電子精霊たちが私を迎える。

「ただいま、今朝は詳しい話が聞けなかったが、留守の間、問題はなかったか?」

「はい、更新休止のお知らせを出してありましたちうの部屋のアクセス数の大幅低下がおきていますのと、論文が大分溜まっておりますがそれくらいですね」

「わかった、ありがとう。力の王笏と同期して研究データの取り込みと論文の送付を頼む」

「はい、了解いたしました」

私はその作業を待つ間、部屋と表・裏双方のホームページの監視ログとを自身でも確認する…ざっと見た限りでは問題はないようである。

「ちう様、作業完了いたしました」

「ありがとう、じゃあ力の王笏の方に移動するよ」

「はい、行ってらっしゃいませ…ハカセ様がお待ちです」

そうして、私は力の王笏の電脳空間に移動した。

 

「あ、千雨さん、お待ちしていましたよ」

そう、ラフな部屋着姿で聡美が私を迎えてくれる…片手に論文のデータをもって。

「半月程度とは言えー情報チェックをできないでいるとー色々と論文も溜まりますねー」

そういう聡美の座る二人用のソファーの脇のサイドテーブルには論文のデータを疑似的に紙に印刷したモノが山と積まれていた。

「お待たせ、聡美。私も大分溜まっていたよ」

私はその隣、自分用の論文の山がある側に座り、肩を寄せ合って論文を読み始めた。

その後、お互いに興味を持ちそうな論文について話したりしながら論文の山を読み崩して過ごすのであった。

 

 

 

翌日の放課後、エヴァに呼び出された私は総督から巻き上げた魔法世界の高級酒を土産にマクダウェル邸を訪れ、魔法世界での出来事をエヴァに話していた。もっとも、すでに茶々丸からも聞いているとの事なので掻い摘んでと言う感じであったが。

「何、貴様もマギア・エレベアを習得したのか!?」

話がネギの治療?の段に入るとまあ当然そんな反応をされた。

「あ、ああ…スクロールのマスターのコピーに押し売りされたのを買った感じで」

「…まあ、アレならばそうするか…それがコピーの存在理由だからな…まあその話はあとでするとして、それからどうなった」

「それから…」

と一通りの話をし終えたのであった。

「フム、やはり二人で体験したことも異なるし、同じ場面でも茶々丸から聞くのとでは印象が違う面も多々あるな、楽しかったぞ」

「それは光栄だよ、エヴァ」

「うむ…それで、だ。お前はいいとしてハカセはどうする気だ」

「私はいいとしてってどー言う事だよ」

「はっ…貴様は放っておいても人間やめて私達の…化け物の世界にやってくるだろう…貴様にとってマギア・エレベアの習得は最後の一ピースだ…それを得ればあとは早いか遅いかにすぎん、が、ハカセはそうではない、貴様と同じ道を行くにはその才能に乏しく、無茶をしかねん」

「…幾つかプランは作っている、追々研究を進めて聡美も人間をやめて一緒に生きてくれる事にはなったよ」

「ふん、しっかり話し合っているならば構わんがな…ああいうタイプは思いつめると、とんでもない事をするぞ」

「…覚悟はしておく、二人でマスターに土下座する覚悟も…な」

「はっ…まさかの私だよりか?」

と、エヴァは失望したと言いたげに笑う。

「あらゆるプランが破綻した場合の最後の手段は…な」

そう、私も自嘲するように笑って答えるのであった。

 

「さて、それじゃあ数時間、城に潜ってから帰るわ」

「ああ、精々励むと言い…弟弟子に負けたままというのは貴様でも悔しいようだからな」

私はそのマスターの言葉を黙殺して背を向け、地下に降りて行き、城へと入っていった。

「そうだよ…悔しいよ…置いていきやがって、ネギの奴…必ず追いついて…いや追い越して見せる」

そう、呟きながら。

 

 




ネギ君曰く、本来、9年6カ月で時間は足りる筈なのです。そしてネギ君の雰囲気として明日菜を礎にする前提の計画ではなかったはずなのです。と言う事はネギ君の計算違いで時間が足らなかったのか、何かの理由で制限時間が短くなった為にテコ入れが必要となったか…でしょうね。それでそんな感じでこんな感じになりました。
 闇の悪夢での会話の件は、まーUQホルダーでの『金星の黒』の扉かそれに代替するモノですね、詳しくは決めていませんが。


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112 モラトリアム編 第2話 新たな日常

レーベンスシュルト城で修業と研究とをしつつ数日過ごした私はダイオラマ球を出てエヴァンジェリン邸に戻っていた。修行は魔力容量拡張と咸卦法をメインに、研究は自身と言う検体を利用してマギア・エレベアについてと火星緑化計画についてをメインと言う感じで。

「あ、千雨さん。千雨さんもいらしていたんですか?」

エヴァと話をしていたネギが私に声をかけてくる。

「ああ、マスターに呼び出されて土産話を…それとダイオラマ球で修業と研究だな」

「なるほど、さすがは千雨さんですね」

「ネギもマスターに土産話か?」

「それもありますが、火星緑化計画についても少々…」

と、ネギが言う。

「ふん、科学用語が大量に出てきた辺りから聞き流していたがな。ぼーや自身には興味はあるが、それ以上の事は知らんよ、私は」

「もーマスター…まあ、構いませんけれども」

「で、いいんちょに雪広コンツェルンとの繋ぎをしてもらうって言っていた件は?」

「はい、それが…委員長さんと仮契約してしまって…」

「あーやっぱそうなったのか」

「ええ…ぜひ巻き込んでくれとおっしゃられまして…その後は千雨さん達の予想通りに」

「おう、すごかったんだぜ、兄貴とあやかお嬢ちゃんの仮契約」

そう言ってチャチャゼロと飲んでいたカモが仮契約の様子を説明してくれた。

「うわぁ…それは予想外っつうか…仮契約が逆流しかけるって…」

その内容は…まあ酷かった。主にいいんちょの愛の力が。

「でも、悪いな…政治・経済的な折衝を丸投げしちまって」

「いえ、こちらこそ皆さんの先生としての役割を放り投げているうえに、千雨さんとハカセさんには軌道エレベーター計画を含めた地球側からの緑化計画…後期計画の草案作りをお願いする事になってしまっていますし」

「まあ、魔法世界側からの緑化…前期計画のたたき台はほぼお前が考えたんだし、気にすんな。もっとも、私らも宇宙開発は専門じゃねぇから計画が本格始動したら総点検前提のたたき台にすぎねぇけどな」

そう言って笑う…機密でなければコネ総動員して麻帆良の英知を集結させるんだが。

「それでも、です。おかげで僕も大分楽になっています」

「…楽になってなお、殺人的なスケジュールになりそうだったがな、総督と話した感じでは」

「はい…プロジェクトとして動き出すまでは特にそうですね…完全な世界計画解決の熱狂が冷めないうちに魔法世界をまとめてしまうべきだという総督の意見に乗ったものですからね」

「…アスナを犠牲にする羽目になった事、気に病むなよ?それで無理してお前まで潰れたら元も子もねぇんだからな?プロジェクトの顔役だけはお前じゃないと多分ダメだからな」

「ええ、総督にも言われました…それで大分過密なスケジュールになっちゃいましたが…大丈夫ですよ、僕はもう…マスターと同じ、不死の存在ですから」

そう、ネギは自嘲気味に笑った。

 

 

 

「そんなことがあったんですかー」

その夜、私は聡美とお互いに今日の出来事を情報交換していた。

「で、ですねーこっちは、茶々丸の装甲用の魔法技術を流用した複合素材のデータ集めて来たんですがー多分、俗にいう軌道エレベーターじゃなくてー冗談抜きに宇宙までそびえたつ塔を立てられます」

「は?どういう意味だ?」

「いえ、文字通りの意味ですー地盤などの諸問題はありますがー魔法的処理を施した複合素材を用いればー静止衛星から垂らす方式でなく、理論上は文字通り宇宙まで届く塔を建てられますーまあ、高さ100km超えと言う意味ですので外気圏まで行けるかという意味では怪しいですがー」

「マジかー」

「マジですーもちろん、従来の軌道エレベーターの建材としての要件もよゆーでクリアーしていますねー」

「そうなると、下部は従来型建造物にして対流圏・成層圏は気象条件に耐える、そこから先は静止衛星軌道から垂らした軌道エレベーターに乗り換えて宇宙へ…みたいな事も?」

「できますねー専門ではないのでたぶんですがーたたき台として大風呂敷広げてみる分には構わないかとー」

「じゃあ、予定通りの赤道メガフロート案を組み上げたらそっちも考えてみようか」

「はいー」

と、いう事で私たちは素人なりに組んでみた設計・配置図をシミュレーションにかけては手直しし、何とか笑いものにならない程度のたたき台に仕上げていくのであった。

 

 

 

「フム…これからどうなるかはともかく、初動としては順調なようだね」

現実世界側でネギとフェイト、おまけにコタローに私と聡美で情報交換を進めていた。

「そうだね、フェイト…千雨さん、ハカセさん、引き続き計画案の策定お願いしますね」

「折衝関係は手伝わんからな、まあそれくらいは任せておけ」

「俺も付き添い位しかできへんけどなー荒事やったら手伝えんねんけど」

「そうだね、まあ君は聞き手役くらいこなしてくれれば十分だよ、コタロー」

若干皮肉に聞こえるような調子でフェイトが言った。

「それはそうと、ネギ君。僕は役割的に手が空くからね…君が落ち着くまで教師役を務めようと思うんだがどうだろうか」

「それは…助かるけれども、大丈夫?できるの?」

「必要知識はインストールできるからね、問題なくこなせるよ。それに知識や技能のインストールだけでは足りない部分というモノの理解にも役立ちそうだ」

「げ、てめえがネギの代理で担任やるのかよ…」

思わずそう言っていた。

「不満かい?ハセガワチサメ」

「担任不在よりはマシ…かもしれねぇけどさ、直接戦った面子は一部とはいえ、世界を懸けて戦った相手が担任ってのは割り切れないものがあるかもだぜ?」

「私は構いませんがー気にする方もいるでしょうねー」

「とにかく、僕には決められないから学園長に相談してみようか」

と言う事で、フェイトの学園赴任フラグが立ったのだった。

 

 

 

雪広コンツェルンと気づけば巻き込むことになっていた那波重工とに提供する装甲板の試料を作成し、色々な計画・仕様をネギ達と相談し、また修業と研究をしながら過ごして、そんな新たな日常になじんできた頃…遂にその日がやってきた。

「ん…来たな」

大人と子供の背丈の足音が1つずつ、教室のドアの前で止まる。それは多分源先生とフェイトのモノである。そして扉が開き、フェイトの姿が見えると白き翼の面々が次々とアデアットし、得物をフェイトに向けた。いちおー和解というかネギの仲間になったって忘れてねぇか?

「ホラホラ皆さん、席について!何を突然コスプレ大会など開いてるんですか。紹介しますよ、こちらはフェイト・アーウェルンクスさん!海外などにも出張する機会が増えてご多忙のネギ先生の代わりとして臨時にあなた達のクラスを受け持つことになった子供先生です!」

「え…」

「よろしく」

「えぇ~~~っ!?」

一応、秘密にしておいた事もあり、夏休みに魔法世界を訪れた面々から驚きの声が上がるのであった。

そこからは、まあ我らが3-Aと言うか、事情を知らない連中とあまり気にしない面子がいつものノリでフェイトを質問攻めにしたり、フェイトがそれに淡々と答えていたりといつもの風景が広がっていた。そして肝心の授業と担任の仕事だが…まあ淡々としていた…が。

「そうそう、次回から皆の理解度をはかるために小テストを実施する事にしているからそのつもりで…出来が悪ければ放課後に補習だからね」

そう告げて教室を去っていった直後、教室は抗議の声が溢れていた…私にはどーでもいいことだが。

 

 

 

「え?提供した試料に問題があった?」

その日の放課後、聡美の研究室でフェイトと情報交換をしているとそんな感じの事を言われた。

「ああ、物性自体は素晴らしいとの事だが…強度があり過ぎて施工が困難らしい…何とかならないかい?」

「んー我々の技術力でも加工に多少は手間取るレベルの逸品ですからねー大規模建造物の構造材に使用するには頑張り過ぎましたかー」

「そのようだね、加えて…魔法処理も必要量の調達には簡素化が必要じゃないかなと僕は思っている」

「えーそんなに難しい処理をしたつもりはないんだけれどもなぁ…まあ大規模化には多少改良と言うか研究が必要にせよ、一般魔法使いでもできるだろ?」

フェイトの言葉に私は反論を述べる。

「…一般魔法使いのレベルが魔法学校卒業生になっていないかい?魔法学校を全課程修了で卒業となると、実は結構なエリートだからね?」

「そーいうものなんですかー?」

「そういうモノなんだ、という訳でそっちの研究も頼みたい」

「…了解、やってみるよ…理想はあっちに技術移転して向こうで量産化してもらう事なんだけどなぁ…」

「魔法技術の流出についてはまだ指針がまとまっていないからね…大変だろうけれども頑張ってほしい」

「また別荘に泊まり込みですねー千雨さん」

そう、聡美がどこか嬉しそうに言った。

「そうだなぁ…修行も趣味の研究もしたいのに時間が足らねぇ…」

「まあ、あんまり無理はしないように…プロジェクトの中枢がネギ君だとしたら技術開発の要は君たち二人なんだからね…君達がつぶれたらネギ君の負担が倍になるだけでは済まない」

そう、私たちはフェイトに釘を刺されるのであった。

 

「…で、この徳用魔力缶とやらはなんだい?」

構造材についての話も終わりスティック飲料(フェイトは案の定コーヒー、私達は今日は紅茶)を飲みながら話をしていると茶々丸への魔力供給用の試作品を目ざとく見つけてフェイトが問うた。

「それは高濃度の魔力を封じ込めたボンベですねー封入後の魔力濃度維持に苦労していましてー今ですと規定濃度充填して使用に足る濃度を維持できるのが1週間と言った所ですねー」

「なるほど…君達の娘だというあのロボット…絡繰茶々丸用と言った所か…コレも魔法と科学の融合の産物かい?」

「そうですねーどちらかと言うと科学メインのアプローチで作成した品ですねー符術やポーションを解析して理論的応用はしていますが技術的には新規開発ですよー」

「よければ技術資料をみせてもらっても?」

「かまいませんよー」

そう言って聡美は戸棚からファイルを取り出し、フェイトに渡した。

「なるほど…コレは凄いね、科学の力というモノは…いや、この場合は君達がすごいのかな」

「科学は集合知だからな…私達が最後の仕上げをしたにせよ、先人たちの積み重ねがあってこそさ」

「それは学問全般に言える事だね…魔法は属人的な所も大きいけれども…所でここなんだけれど…」

そうして、魔力缶について、話が始まるのであった。

 

「なかなか有意義な時間だった、楽しかったよ」

暫くの会話の後、そう告げてフェイトは研究室から去っていった。

「…フェイトさんって意外と気さくな方ですよねー」

「まーアレでもフェイトガールズには単なる命の恩人云々以上に慕われていたみたいだし…わりとネギと似た所はあるよな、研究について話している時は特に」

「ええー頭もよいですしー魔力缶の改良も進みそうですー」

そう話ながら、私はフェイトを新たな日常の一部として受け入れている事に気づくのであった。

 



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113 モラトリアム編 第3話 刹那の苦悩とアスナの代償

「ねーちうちゃーん取材させてよー」

最近、私は朝倉にまとわりつかれる事が増えていた。

「何度ねだられても取材拒否だ、あとちう呼びヤメイ…つうか大体は知っているだろうに」

「えー火星の緑化をして魔法世界の崩壊を阻止するってのはわかっているけど、具体的に何やっているのかは教えてもらってないじゃん」

「…で、白き翼の情報班たる朝倉はどう読んでいるんだ?ある程度読める事もあるだろう?」

そう、朝倉を煽ると少し考えるようなしぐさを見せてからこう答えた。

「んー多分だけれども、ネギ君とゲーデル総督が渉外担当、千雨ちゃんとハカセが技術担当で組織作りの段階って所じゃないかな、委員長と那波の動きから考えると雪広コンツェルンと那波重工は巻き込んでいるとは読んでいるよ」

「十分わかってんじゃねーか」

大方理解している朝倉の読みに私はそう答えた。

「えーこんなん、白き翼の面々ならすぐにわかる事じゃん、私が欲しいのはネギ君やアスナに千雨ちゃんが秘密にしている計画の実際についてのネタなんだってば―私達、仲間じゃん?千雨ちゃん」

「確かに白き翼の仲間だが、仲間にも秘密にしなきゃならん事はあるんだよ…ぶっちゃけ、お前なら守秘義務契約結んで記録係みたいな事を任せてもいいんだが…」

「え!マジ!?」

私の妥協案に嬉しそうに朝倉が答える…決めるのはネギだが。

「…まあ、ネギ達がOK出したらな」

「伝記形式でもアリっちゃアリだね、よーし、ネギ君におねだりしちゃおっと。そしたら千雨ちゃんも取材受けてくれるよね」

「時々ならな…」

「了解っ、それじゃあネギ君を説得してまた取材に来るね」

朝倉はそういうとやっと私から離れていった。

「お疲れ様ですーところであんな安請け合いしてよかったんですかぁー?」

と、そばにいた聡美が声をかけてくる。

「ああ…まあ実質ネギに丸投げしただけだし、守秘義務契約があれば話しても大丈夫なやつだからな…いつか火星緑化計画…ブルーマーズ計画が歴史になった時の為に記録係が欲しいのは事実だし」

「それもそうですねー」

そんなことを話しながら私達はマクダウェル邸、レーベンスシュルト城にある私の魔法使いとしてのアトリエに向かっていった…構造材の魔法処理について研究するために。

 

 

 

「…で、朝倉がネギについているのは私があおったっつうか丸投げした結果だとして、茶々丸はどうしたんだ?」

数日後、ネギ達との構造材についての会合に現れた茶々丸と朝倉にそんな言葉をかけた。

「いえ…千雨さん、不眠不休で働けるロボの身体を活かして、秘書役としてネギ先生のお手伝いをさせて頂こうと…ダメでしょうか?」

そう、不安そうに茶々丸が問うてきた。

「いや、お前がそうしたいならそうするといいよ、な?聡美」

「はいー茶々丸がそう望むのであれば構わないと思いますよー」

「あ…ありがとうございます!」

茶々丸はそう、私達に感謝の言葉を述べるのであった。

 

「わぁーこんな短期間で物性の改良と魔法処理の簡素化を完成されるなんてさすがは千雨さんとハカセさんですね」

新しい構造材用の試料とその技術資料を確認したネギはそう言って私達を褒めた。

「まあ、改良って言ったって実質はダウングレードだからな…魔法処理の簡素化と相まって割と簡単だったよ」

「ええ、アップグレードと簡素化の両立でしたら大分時間を頂くところでしたがー難易度としてはそう高いものではなかったですー」

実際問題、魔法処理の簡素化に伴う物性の低下を調整したくらいでそう難しい仕事でもなかった。

「あまり謙遜が過ぎると嫌味だよ、長谷川千雨、葉加瀬聡美。一般的な魔法研究チームなら最低限の形にするのにも3か月はかかっただろう、それをダイオラマ球を併用したとはいえ二人で一週間もかからずにこのレベルに仕上げてくれた二人には感謝しかないよ、誇るといい」

そう、フェイトも私達の成果を褒めてくれた。

 

構造材の話が終わった所で、ネギがラカンのおっさんから預かってきた私へのお土産…メガロ饅頭(塩味)を開けて茶菓子にしつつ計画の草案を確認していた。

「今の所、こんな所だね」

「ああ、フェイト…千雨さんとハカセさんもありがとうございました、まだまだやるべきことはありますが火急の仕事は終わりという事で大丈夫そうですね」

「ああ…これだけ計画が固まっていれば総理大臣との会談はなんとかこなせるだろう」

「後は技術移転の準備に長期開発計画の消化と何か技術的問題が起きた時の対処ですねー」

「いやーしかし委員長のアーティファクトは凄いねぇ…一国の宰相とノーアポで面会できるとか」

朝倉がどこか呆れるようにそう言った。まあ私も同感ではあるが。

 

 

 

それから数日、総理大臣との会談も無事に終わった後、比較的のんびりとした日々を私たちは過ごしていた…そんなある日の事。

「あー?将来のこと?いきなりどうしたんだ、刹那…木乃香と喧嘩でもしたか?」

突然、将来について相談があると言ってきた刹那に私はそう答えていた。

「あ、いやそうではなくて…千雨やハカセは将来のことをどう考えているのかな、と…参考にしたくて」

「なるほど…まあ、私たちは決まってるわな」

「ええ」

そう、私と聡美は顔を見合わせて答える。

「「科学に身を捧げる」」

「ア…うん」

少し引き気味に刹那が応えた。

「まー人外としての生をどーするかはともかく、人としての生を謳歌している間は科学者として、魔法学者として研究の道に一生を捧げるつもりだよ。人として誤魔化せる寿命の先は…そん時考えるが研究の道を離れることはないと思う」

「そーですねーできれば人外としての生も科学のために尽くしたいのですがーそれを人類が良しとしてくれるかは別問題ですからねー」

「とはいっても、中学生でここまでキマってるのは例外だと思っていいし、まずは勉強だろ?刹那の場合」

「ええー知識はあって困る物ではないですしー木乃香さんが医療系のマギステル・マギを目指されるのであればそれを補佐する為の知識や技能を得るのも必要かとー」

「補佐…ですか?」

聡美の言葉に疑問符を浮かべる刹那であった。

「木乃香は魔法医になりたいんだろう?だったらお前は看護師の真似事ができれば便利だろう、ってこった」

「ほかにもー清潔な真水を用意したり、ベッドやシーツを消毒したり、麻酔を施す陰陽術や技術なんかもあれば便利そうですねー」

「ま、具体的にどんな技術が必要かは木乃香と話し合うんだな…あいつのやりたい事に合わせる必要があるからな」

「な、なるほど…だが、それは流れに身を任せているだけではないのだろうか」

「欲しい未来が流れの先にあるならそれに乗るのも立派な選択だぜ?刹那」

「はいー特に刹那さんは木乃香さんのパートナーでありたいというのが第一でしょう?」

「…それも、そうだな…千雨、ハカセ、参考になった、ありがとう」

そう言っても刹那は去っていった。

 

その後、レーベンスシュルト城で聡美と共に修行とマギア・エレベアの研究に励んでいるとエヴァがネギ、アスナ、刹那を連れてやってきた。

「千雨、励んでいる様だな、結構結構。ぼーやに稽古をつける、お前らも見学していろ」

そう宣言すると城の外郭に移動してネギとエヴァが湖面上で立ち会う。

「では、久しぶりに手合わせといくか」

「はいっ」

「ククク…あのラカンと互角に渡り合い、始まりの魔法使いの使徒どもをねじふせたというその力、見せてもらおう」

「はーい、二人準備オッケー?いっくよーせーの」

「…嬉しいぞぼーや、手加減なく力を出せるというのはな」

そう、うれしそうに嗤うマスター…

「え…ちょ、アスナさんちょっと待っ…」

そして開始を待ってくれと言うネギ…装填先にした方が良いがそれはまあ甘えと言う奴である。

「スタート!」

無慈悲に下される開始の合図、そしてネギはきれいに吹っ飛んでいった。

「先ッ…し…死んッ?」

「ネギーッ!?」

このありさまである。

「あーエヴァさん相手だと事前装填してないと間に合いませんかー」

「だなぁ…」

そうこう言っていると瓦礫に埋もれたネギが瓦礫を吹き飛ばして復活してくる。

「やれやれ、その程度か?正直、期待ハズレだぞ…ぼーや?」

エヴァの失望した、と言わんばかりの言葉にネギが応える。

「僕の力は付け焼き刃なんです!わかるでしょう!全開のマスターに準備なしじゃ付き合えませんよ!段取りってもんがあるんですっ!!」

そういうとネギは千の雷を解放し、装填して雷天大壮状態となってエヴァと向き合う。

「出た!先生の闇の魔法!」

「ふん…ぼーや、くだらぬものに手を染めたものだ。若い頃の日記を勝手に覗かれたようなむずがゆさだよ」

と、エヴァが応えた時、二つの気配が現れる…気配を消して近づいてきていたようである。

「う~ん、スゴイねーネギ君は。まさかエヴァ君の闇の魔法をものにするとは」

「長!」

一人は西の長

「キティも内心では思いもよらぬ後継者を得て小躍りするほどうれしいといったところでしょう、認めないでしょうけど」

「ヘンタイ!」

もう一人はクウネル…そして気になって周囲を探るともう一つ悪戯っぽく隠れている気配とまた別に2つの気配があった。

雷速瞬動でエヴァに迫るネギ、しかし先行雷を受けてエヴァはひじを置き、カウンターの構えを取り、対応する。

「フ…礼だ、見せてやろう」

そういうとエヴァは千年氷華らしき魔法を解放、掌握しようとする。それに対してネギはそうはさせまいとぶつかっていった…が、エヴァは掌握を成功して術式兵装・氷の女王を身に纏った。

「おお…あれはまさかエヴァさんの…」

「うむ…ババアの本家、闇の魔法だな。こりゃいいモン見れたぜ、来た甲斐あったな」

そう言ったのは隠れていた気配…ジャック・ラカンである。

「「えっ…ラッ」」

まさかのおっさんの登場に刹那とアスナの二人は驚きの声を上げた。

「よう、おっさん、ようこそ麻帆良へ」

「おう」

「ラララ、ラカンさん!?千雨もそんな冷静に…と言うか何で麻帆良にいらっしゃるんですか!?」

「いやあ、ちょっと観光っつーかなんつーかな」

「じゃなくて純粋魔法世界人はこちらに来れないハズでは…!」

「ああ、この身体な、作りモンだ」

「つ…作り物?」

「ここにもココネってのがいんだろ?それより見ろ、闇の魔法同士ってのはなかなか見れねぇぞ」

おっさんがそう促すとネギが二重装填によって雷天双壮状態になっているのが見えた。

「これが…」

「はい!先生の最強モードですね」

「…うむ」

「こ…こっちは何か立っているだけで周りが凍ってってるみたいだけど」

うむ、エヴァのは領域支配型とでもいうべきタイプであるのでそりゃあそうなる。

「わが技法を使いこなしているようだな、千雨が継ぐかもしれぬとは思っていたが、まさかぼーやが、とはな」

まー私も継いだっちゃあ継いだのではあるが主力にはまだできていない…と言うか人間でいる間は主力にする気はない。

そうしていると、ついにエヴァとネギとが激突する…ぱっと見よく分からないがよく見ているとエヴァの領域支配による魔法連打をネギが何とか雷速加速で対応していると言った所だろうか。

「おほほ、すげぇすげぇ、何やってんだかぱっと見わかんねぇくらいだな。おう、どうだ、てめぇら、後輩の出来はよ?」

そう、ラカンのおっさんは近づいてきていた残り二つの気配…高畑先生とゲーデル総督に声をかけた。

「あ」

「いやあ、いずれ抜かれるとは思っていたけどこれほど気持ちよく抜かれちゃうとはね」

「何を言っている、タカミチ。まだまだ付け焼き刃とは彼の言うとおり。この程度で満足してもらっては困るよ」

「た…高畑先生…」

「ゲーデル総督まで…仕事はいいので?」

「今日は同窓会ができるな」

「まあ、今のネギ君を最強クラスたらしめている特性はあの技ではありません」

「そうですねぇ我々でも今の彼を倒しきれるかどうか」

「え…」

総督とクウネルの会話に刹那が驚きの声を上げる…ああ、ちゃんと知らなかったっけか、刹那は。

と、思っていると、エヴァの爪がネギの脇腹を切り裂いた。

「あ…」

刹那がそんな声を上げるが、その傷はあっという間に塞がっていってしまった。

「傷がみるみる修復していく…!では、やはりネギ先生は…」

「気づいていたかい、刹那君」

「でっ、ではやはり…!しっ、しかしそんな…今のネギ先生は……エヴァンジェリンさんと同じ…?」

「そう…あの戦いで一度死んだネギ君はマギア・エレベアに生かされ、かのエヴァンジェリンと同じバケモノとして生まれ変わったのです」

まあ、死んでいたか、と言うと少し微妙な所であるがあんまり大事な所ではないので口は挟まない。

「うっ嘘です、そんな馬鹿なこと…!」

「いいえ、確かですその特性…吸血鬼の不老不死。もっとも、不死はキティほど完全ではないし、不老であるかもまだ何年か見ないと確定できませんが」

「し、しかしあまりに話が突飛すぎます。過去に多くの術者が目指して届かなかった不老不死なのに」

まー私も目指しているし…勝算は十二分にあるのだが。と言うか、マギア・エレベアの特性上、呑まれて生き延びれば必然的にそうなる。

「いえ、これは必然なのです。キティのマギア・エレベアは不死である彼女自身の肉体と魂から編み出された技法です。そして彼女を不死とする実験を行ったのが…かの『始まりの魔法使い』。さらに魔法世界の創造主である『始まりの魔法使い』の娘と伝えられているのがオスティア王国の開祖アマテル…ネギ君はその末裔です。おそらく…ネギ君がオスティアの末裔でなければ彼はあそこで死んでいたでしょう。これはネギ君のみに開かれていた道だったのです…まあ、そこのお嬢さんは特殊体質に別のアプローチを合わせて道をこじ開けるつもりのようですが」

そう言ってクウネルが私を見る。

「ま、千雨嬢ちゃんの事は置いといて、坊主の方は世界の危機と引き換えだ、死ぬよりゃよかったんじゃねぇか」

「で…では…それがネギ先生の代償…!」

「代償?いいえ、とんでもない。ギフトですよ」

そうゲーデル総督が刹那の呟きに応えて続ける。

「不老不死!!これが男として生きるのにアドバンテージでなくてなんだと言うのです!過去どれほどの王が!指導者が求めたことか!暗殺不可!後継者問題なし!これはデカイ!反対派の封殺にコレ以上の好条件はありません。ネギ君が始めようとしているのは100年の大事業です!ならばその100年!絶対の王として見事に計画完遂までの面倒を見てもらいましょう!!」

「お・前・は、もっと言い方があるだろう、昔からお前は…」

「本当ッの事だろうがッ取り繕ってどうするっ」

と、高畑先生と喧嘩を始めてしまったが。とはいえ、不死の王とそれに付き従う三人の不死者(私、聡美、フェイト)という構図が将来のブルーマーズ計画に見えるのだが大丈夫なんだろうか。

「まあ、確かに良かったのかも、あのバカにはピッタリよ」

「アスナさん」

「今までいつ怪我するか、死なないかって心配だったけど殺しても死なないってんだから」

「ご存じだったのですか?アスナさん」

「大怪我が治ったトコ見ちゃったからね、あとで本人に聞いたわ。大丈夫、人間じゃないって言っても、それを言ったらエヴァちゃんやザジさんや茶々丸さんだって同じだし、そんなにヒドイことじゃないよ、大丈夫……ただ結局、私…あいつがあっち側に行っちゃうのを止められなかった。それだけが…ちょっと悔しい。……あいつさ、よく魔法薬で大人の姿になってたけど、あいつがホントにエヴァちゃんと同じになったんなら、もう普通に成長してあの姿になる事はないんだね」

そうこうしていると、エヴァの物量により徐々にずれていた均衡が完全に崩れてネギが氷壁に縫い付けられてしまった。

「さすがに敵わねぇか?」

そんなおっさんの言葉に対し、手すりにアスナが飛び乗った。

「!アスナさん?」

「いってくる!刹那さん、千雨ちゃん、ハカセちゃん」

「ハッハイ」

「んー?なんだ」

「はいはいー?」

「ネギのこと頼んだよ、それでもやっぱり心配だから」

「えっ…」

「おう」

「できる限りはー」

「ま…アイツ人間じゃなくなってもついてきてくれる子は多そうだけどねっ」

そう言ってアスナは展望台から飛び降りた。

「く…」

「ふふ…見事だった、私は満足だぞ、ぼーや。だが、まあ、それもここまで…終わりだ!」

そんな言葉と共に放たれたエヴァの止めの一撃…そこにアスナが割って入り、打ち消す。

「っほう…」

「アスナさん…」

「アスナさん」

「えっへへ、一人なら無理でも私達二人ならなんかいけそうって気がしない?最後にちょっと試してみたくってね。OK?エヴァちゃん」

そう言ってアスナは不敵に笑った。

「フン…よかろう、神楽坂明日菜。相手をしてやる、手向けだ」

エヴァはそう答えると魔力を解放し、周囲を凍てつかせてしまった。

「気を付けてください!」

「な…何とかなるかもってのは気のせいだったかなーって」

「フ…氷圏内は全て私の支配域だ」

そう言ってエヴァが手を動かすとネギとアスナの足元から氷柱が沸き、二人を襲う。

「ちょ、ちょ…」

そう言うアスナの背後をエヴァがとるが、ネギが割って入り反撃…するもエヴァはネギをアスナごと凍てつく氷柩に閉じ込める。

「フ…ぬ?」

しかし、まあそれはアスナの能力もあり、あっという間に脱出されてしまう。

「ちっ」

エヴァは距離を取ると氷の槍を無数に召喚して二人に投擲するが、アスナがそれを打ち消して、ネギがエヴァに接近戦を挑む。

「ぬうっ」

「ほほう、これは…」

「なかなかハマってんな。ババアの術式兵装は氷結呪圏内なら上級以下の氷属性魔法を無詠唱無制限にブッ放し放題つー無敵寸前の反則技だ。現にぼーずはさっきその物量に押し切られそうになってたが嬢ちゃんの剣がそれを全部なしにしている」

「結果、二人の肉弾戦ですがネギ君の雷速加速が経験差を埋めているというところですね」

「あ…あの…」

先ほどから深刻な顔をしていた刹那がおずおずと口を開いた。

「なんです?」

「ネ…ネギ先生の代償がアレなら…その…アスナさんの代償と言うのは…?」

「それは…」

私が口を開こうとするのをクウネルが制し、私に任せておきなさい、と言わんばかりに私に微笑み、刹那に答えた。

「知ってもどうにもならない話というのもあります。あなたは何故それを知りたいのです、桜崎刹那」

「そ…それは…アスナさんは私の友人…いえ、アスナさんは私のしっ…親友です、どんな話だろうと知っておきたい、聞かせてください」

「……わかりました、お話ししましょう」

そう、クウネルは微笑んで答えた。

「親友であるあなたにはつらい話です、覚悟は?」

「ハ…ハイ」

戦う三人を一瞥してクウネルが口を開く。

「次の春にあなた達は中学を卒業して高校生になるんでしたね?」

「え…ええ」

「残念ながら…彼女はあなた達と共に卒業式を迎えることはできません。それどころか…あなたはもう二度と『神楽坂明日菜』とはお会いになれないでしょう」

「え…」

背後でエヴァが最上級魔法凍る世界…だと思う、さすがに終わる世界ではないだろう…を詠唱し、それをネギが吸収する間、刹那はたっぷりと硬直していた…無理もない。

「い…今、何て…」

「神楽坂明日菜こと黄昏の姫御子、アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアは…魔法世界救済計画の礎…言葉どおりの『礎』として墓守り人の宮殿にて100年の眠りにつくことになります。『神楽坂明日菜』はアスナ姫の代理人格です。彼女の自我は…100年の年月に耐えられず摩耗消滅してしまうでしょう」

「そんな…」

固まる刹那…そしてそんな背後でぶつかり合うエヴァとネギとアスナ…

「あっちは決着…かね」

ネギの突撃を迎撃するエヴァを眺めつつそう呟く…が。

「ふぇ…ふぁ…ハックシュン」

…ネギがくしゃみをして武装解除魔法が暴発、全てを霧散させた。衣服込みで…台無しである。

 

 

 

「いててて…ん?ぶッ」

「おや」

「…!」

愉快な体勢…あえて詳細描写は避ける…になっている三人、そしてお約束が始まった。

「なんでそこでクシャミが出るのよー!?」

「いや、そのっマスターの呪文装填したらなんか超寒くてーっ」

「ん?」

そんなドタバタ劇に乱入するモノがいた…刹那である。

「え…え…」

そして困惑するアスナに歩み寄るとビンタをかました。

「あ…せ…刹那さん?」

「何で…何で…何で言ってくれなかったんですか…」

そう、涙と共に刹那が告げた。

「何で…黙ってたんです!?私達…友達じゃなかったんですか!?アスナさんが消えてしまうなんてそんなの…ヒドすぎます!」

「ごめん…ごめんね、刹那さん。でも大丈夫、大丈夫だから」

「何がっ何が大丈夫なんですかっクウネルさんだってどうしようもないとっ…!

……に、にげ…逃げましょう」

「え…」

「逃げるんです!!お嬢様とネギ先生と4人で!誰も敵いません!私が全て切り伏せます!!私が守りますから!!だからッ…アスナさん…」

「刹那さん…ありがとう…でもダメだよ。全部思い出したんだ、私のためにナギさんや…たくさんの人たちがしてくれたこと。だから私、行かなきゃ…あの人達のために」

「だからってアスナさんには関係ない話じゃないですか!アスナさん一人が犠牲になるなんて。ナギさんの願いだってアスナ姫に幸せになってもらいたいってことだったハズです!」

「ちょ、ちょっと待って刹那さん、勘違いしないで!」

「え…」

「大丈夫、私、消える気なんかないから!また刹那さんにも絶対会える!私を信じて!」

出た。アスナの無根拠な自信である。まあ、本当にやり遂げそうと思わせる謎の力はあるのだが。

「な…ま…また…あなたはそんなメチャクチャ…根拠なんてないんでしょう!」

「いや…まーそれはー」

「100年ですよ!?たとえ生きてても私もお嬢様もすごいお婆ちゃんで…」

 

「いやー青春ですねぇ…お二人はまざらなくていいんですか?」

刹那とアスナの会話を見守っているとクウネルが私達に声をかけてきた。

「イヤ…私はアスナを見捨てる側だ…到底まじれねぇよ」

聡美も私の言葉を無言で首肯する。

「そうですか?あの議論の場での言動から、何としても救いたいという情熱は感じられましたが」

「…情熱だけで救えればどれだけ良い事か…結局、私は魔法世界と引き換えにアスナを見捨てたんだ…違うか?」

「…そうですね、ですがその罪はむしろ私達大人の罪です、ね?」

と、クウネルに視線を向けられたゲーデル総督が気まずそうにする。

「いや、私の罪だ。私が魔法世界の維持方法なんて思いついたからだ」

「ですが、そうでなければ魔法世界は完全なる世界として魔法世界は封じられていたかもしれないのですよ?」

「だからといって…その為に仲間の一人が…アスナが犠牲になった事に変わりはない…違うか?」

「千雨さん…」

「…まあ、貴女がそうしたいというのであればそういう事にしましょう…あなたにはその権利がある…ですが背負ったものに押しつぶされては元も子もありませんよ」

「わかっているさ…」

そうして下の会話に意識を戻すとちょうど私達の名前が出る所だった。

 

「それに100年後に目を覚ましてもさ、きっとネギだっているし、エヴァちゃんもいるんでしょ?場合によっては千雨ちゃんとハカセも!」

「アスナ…さん…」

「……フン…会いになど行ってはやらんぞ、千雨たちは知らんがな」

「なッ…何でそんな風に笑っているんですか、おっオカシイですよ、アスナさん…ッ」

「刹那さん…あーあー…こんなに泣くなんて刹那さんらしくない…でも…私のことであの刹那さんがこんなに泣いてくれるなんて…嬉しいよ」

そう言ってアスナは泣く刹那を抱きしめた。

「なかなか良い友人を持ったようですね、我らが姫は」

そう微笑むゲーデル総督とは対照的に高畑先生は難しい顔をして沈黙を保っていた。

「あ…当たり前じゃないですかっバカですかあなたはっ」

「へへ…このかに自慢できちゃうね」

「バカッ、バカバカ…ッ」

「へへへ…」

そして刹那とアスナは抱き締め合うのであった…と、ここで終われば単純に感動話で終われたのであるが…

「って、ちょっと刹那さん?あのーそろそろ服着たいんだけど」

と、落ちがついた。

「…マスターとアスナ、ついでにネギの着替え用意してくれ」

私はそう、従者人形に頼むのであった。

 



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114 モラトリアム編 第4話 命がけの余興

「そうそう、千雨、ついでだ、お前にも稽古をつけてやろう…せっかくギャラリーもそろっている事だしな」

従者人形に持って来させた着替えを着たマスターはそう口を開いた。

「おっ、チサメ嬢ちゃんもやるのか?これはいい肴ができるぜ」

そうおっさんが楽しそうに茶々を入れる…いつの間にかその手に持った杯に従者人形に酒を注がれながら。

「いや、まあそれは嬉しいけれども、大丈夫か?マスター。負傷はともかく魔力は割と消耗しているんじゃ…」

「フン、あの程度の消耗、貴様の相手をできなくなるほどではない!さあ、準備をしろ!」

 

…と言う事で私とマスターは身支度を整えてネギの時と同じように湖面上で正対した。

「それではーお二人とも準備はよろしいですかー」

聡美がメガホンを使ってこちらに呼びかけてくる。

「私は良いぞー」

アデアットした力の王笏を構えた私はそう答えた。

「私もだ…いいのか?事前装填しておかなくて…と言うか力の王笏って貴様、ふざけているのか?術式兵装を使うかはともかく、私はソコソコ本気でやる。木乃香もおらんし、死んでも知らんぞ?」

ジト目でマスターがそう言った。

「アーうん、ふざけてはいないです、一応実戦形式のほうが良いかなと思って。でもそういうならばお言葉に甘えます…一応、ふざけていない事の証明に…ロード・セプテット アベアット」

私はそう答えると電子精霊達を装填した後に力の王笏を仕舞い、マスターに勧められた通りに上位精霊を招来して電子精霊1、雷2、闇2、風2で事前装填をした。

「…旅行前よりまがまがしくなりおって…ぼーやの単装填よりは単純出力有るだろう、ソレ」

「ええ、一応ラカンのおっさんとやり合える程度にはドーピングできていますよ、結局は負けましたが」

そしてまだ設計図を引けていないが、マギア・エレベアの研究成果をシグヌム・エレベアにフィードバックすればもっとすごくなる…予定だ。

「ウム…そうだったな、ではみせてもらおうか、お前の魔法世界旅行の成果を!」

「ではーお二人とも準備はよろしいようですのでー行きますよーはじめっ」

聡美の合図の直後、マスターの爪が私の首を襲い、それを鉄扇で受けて勢いのまま吹き飛ぶ。

「初手で首狙い…しかも咸卦の呪法までの強化だと首とびかねなかったですよ!?」

「フフ…これでこそ、貴様の大好きな命がけの試練…だろう!」

「ハハ…違い…ないっ!」

そんなやり取りをしながら、次々と繰り出される致命の攻撃をさばき、舞う。

そうこうしていると体が温まって来て糸で仕掛けを施し始める余裕も出てくる。

「ほう…糸の魔法陣…実用化したのか」

「ええ…割と…便利ですよッ!」

糸術の師たるマスターにはさすがにばれる様ではあるが、特に干渉してくる様子もないので続行である。

次第にやり取りに中級以下の魔法が混じるようになり、魔法の射手が飛び交い、マスターの氷瀑と私の白き雷が互いを狙い、断罪の剣同士で鍔迫り合う。

…ちなみに、上級以上の魔法を使わないのは弾幕状にしないと無駄弾になるのがわかりきっているからである。まあ、マスターに術式兵装・氷の女王を使われれば私も迎撃に上級魔法を使わざるを得なくなるのだが、呪血紋の補助を使ってでも。

 

「これは中々見物ですね」

「おう、中々だろう?チサメ嬢ちゃんは。逃げに徹されれば俺達でも捕捉しきれるかどうか、って所だぜ」

「さすがですね、千雨さんは…僕の雷天双壮でも雷速瞬動の特殊効果が無ければ負けてしまうかもですね…僕も頑張らないと」

「術式兵装だっけ?アレ無しとはいえほぼ本気のエヴァちゃんとタメ張れちゃうんだ…」

「ええ…半年前はまだ私の方が強いくらいだったのに闇の呪法を身に着けて一気に強くなって…私も精進せねば」

「いやー長谷川君にも抜かれちゃっているねーアレは…」

「…咸卦法と闇の魔法の混合物らしいですね、アレ…よくもまあ、あの若さで」

「ムフーすごいでしょう、千雨さんはー今研究中の成果が出ればもっと強くなりますよーちょっと負荷が心配ですが」

観客席ではそんな会話が繰り広げられていたとか。

 

「あははははは、楽しいぞ、千雨!その年でよくぞここまで練り上げた!貴様は既に中ボスどころか物語一つのラスボスにふさわしい!」

「それは、何より、ですよ!マスター!さしずめ、貴女は裏ボス…ですかっ」

「フフ、千雨、貴様も楽しいか、笑みが浮かんでいるぞ?」

魔法を打ち合い、断罪の剣をぶつけ合い、軽口をたたき合う…ああ楽しい、楽しくてしかたがない…一応は本気のマスター相手に…エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル相手に踊れているっ!

そんなやり取りを重ねつつ踊っていると糸術の魔法陣が仕上がった。

「なかなかの記述スピードだな、千雨…私もギアを上げねばワンキルくらい喰らいそうだ」

そう言って跳び回るスピードを上げたマスターを追い込む様に魔法の射手の雨に加え、白き雷、さらに雷の投擲を混ぜて連打、エヴァの進路をふさいで…次第に追い込んでいく…とはいえ、まだエヴァは余裕がある様子である…ので、強引な手で弾幕を突破される前に切り札をさらす事にする。

「いけっ」

私の号令と同時に魔法陣の真下に雷属性の魔力塊が出現し、ネギ達の試合を含めてこの場に散々まき散らされた魔力の残滓を吸収して膨れ上がり、無数の雷の槍が召喚され、弾幕で進路を制限されているエヴァに殺到した。

更に止めと断罪の剣で追撃に入る…が断罪の剣での追撃はエヴァの断罪の剣で受け止められ、エヴァは吹き飛んでいく。

「雷属性の詠唱補助と消費魔力低減以外にもこんなものを仕込んであったか…なかなかやるではないか…想像以上だ、称賛に値する!貴様にもコレを使ってやろう!」

…エヴァはそう叫ぶと腹に刺さっていた雷の槍を引っこ抜き、千年氷河を解放して取り込み、氷の女王モードと化した。その隙に、私も一応は悪あがきだと電子精霊の取り込みを解除して千の雷を取り込んだ…勝ちを狙うだけなら雷の投擲でめった刺しを狙うべきなのだが、まあ私だって楽しみたいのである。

「えーエヴァさん、今の傷って結構深くなかったですかー?まだやるんです?」

…聡美からそんなツッコミが入る…というか、さらっと回復したが今の傷はエヴァが高位の吸血鬼でなければ訓練という意味では終わりの傷である。

「…まあいいじゃないか、ハカセ、ほら千雨もやる気だしな?な!」

そして、エヴァの言い訳はこう…拙いものであった。

「そうだな、中々いいのが入っていたな。あのタイミングで追撃喰らってたら割とヤバかったんじゃね?」

そう言って、おっさんが笑いながら盃を煽る…が折角、興も乗ってきたので中止というのもつまらない。

「私からも頼むよ、聡美。さっきネギだってキレイに吹っ飛ばされてから正式に試合開始だったしな?」

「むぅ…千雨さんの大怪我フラグのよーな気がするんですがぁーまあ千雨さんがそうおっしゃるならばー試合続行という事でー千雨さんはまだ不死者ではない事に双方留意してくださいねー?」

「おう!」

「うむ!」

という事で試合続行である。魔法陣の補助を受けた私と氷圏支配の効果を得たエヴァの弾幕を張り合いながらの機動戦…今度は上級魔法も交えて色々と酷い光景である。

ただ、スペック差で誤魔化していた技術と経験の差を、エヴァも闇の魔法を使用することでむしろひっくり返されると防戦一方ではあるが、まあこーいう戦いというか試練にはなれている…というか、夏休み前のいつものエヴァの指導である。違うのは、エヴァが私を殺す気はないとはいえ、ほぼ本気であるという事である。

雨の如く降り注ぐ魔法の射手や氷槍、空間制圧の氷瀑、直撃したら一発で大怪我間違いなしの闇の吹雪の複数行使…まあ、勝機は見えないにせよ、そんな弾幕を掻い潜りながら、こちらもお返しと魔法の射手と白き雷の連打に時折、雷の暴風も織り交ぜエヴァに決定打を打たれないように牽制をし、時折軌道が交錯して断罪の剣をぶつけ合う。

 

「…闇の呪紋の強化無しとはいえ、あの時、よく一蹴できましたね…私」

「千雨さんの本領は生存性と機動力なので…僕を助けようと無理に攻勢に回ったのもあると思いますよ?」

「いやーやっぱチサメ嬢ちゃん、つええわ。やっぱ防戦というか逃亡に回られたら俺達でも厳しいぜ、アレは」

「そうですねぇ…学園祭の時と比べて本当に強くなっていますねぇ…分身ではもう勝てませんよ、アレは」

「まあ、その分、耐久力は紙装甲とは言いませんが、あのレベルにしては特に優れているわけではないのでーあの弾幕にからめとられたら追加障壁かー緊急障壁を張らなければ大怪我確定なのでー見ていて非常に心配ですー」

「えっ、千雨ちゃんそんな危ない橋を渡っているの?」

「はいー闇の吹雪一発程度でしたら障壁と合わせてよゆーで耐えられるとは思いますがーあの状況で足を止めたらエヴァさんが複数発の闇の吹雪を指向させるのは間違いないかとー」

「…エヴァンジェリンさんならやりかねない…というか絶対しますね」

まあ、そんな感想が出る様な綱渡りである、実際の所。

 

「フフ、いいぞ、千雨。さらに上手く避けるようになった…が、それでは勝てんぞ。結末が決まっている試合をこのままお前がミスをするまで続けてもよいが…まあ私はいじめっ子なのでな、こうしよう」

エヴァはそういうと私が維持している魔法陣に対して弾幕の一部を飛ばし、また糸で干渉を始めた。

「…まあそうできるし、そうするよなぁ…マスターなら」

結果、魔法陣がほぼ意味をなさないモノへとなり果てる…まあ、再構築の妨害に弾幕の一部が飛んで行っている分、無意味ではないのではあるが…こちらの反撃が弱まることを計算に入れればマイナスである。

「うむ、で、どうする、千雨?まだまだ足掻いて見せろよ?」

こうなると闇呪紋のオーバードライブしか手は思いつかないのだけれども…

「ダメですよー千雨さん」

と、その思考を読み切った聡美から待ったが入る。

「む、まだ手があるなら出し尽くせ、千雨」

「イヤ…さすがにシグヌム・エレベアのオーバードライブは試合でやる事ではないでしょう?」

制御しきれている間は、エヴァに優勢を保てる可能性があるにせよ、基本、時限爆弾化である。

「はぁ!?そんなもん仕込んでいるのか、お前…それはさすがに許してやろうか…ではじわじわと追いつめてやるとしよう、精々長持ちしてくれよ?」

 

…そうしてじわじわと追いつめられていった私は呪血紋も交えて抵抗こそして見せるものの…

「そろそろ詰みだな?千雨?」

「その…よう…ですねっ!」

決定打になりかけた集中砲火を、回避ルートをふさぐ魔法の射手の弾幕を切り裂き、障壁も使って何とか最小限の被害でやり過ごす、が。

「捉えたっ!」

そのわずかに機動が単調にならざるを得なかった隙に今度は闇の吹雪の集中砲火である…いよいよダメだな、これは。

「千の雷!」

かなり悪手ではあるが、他に手もないので取り込んでいた千の雷を放出して闇の吹雪を相殺し終わりになるのだけは防いだ…とはいえ。

「これで終わりだ!」

とのエヴァの掛け声とともに発射される氷槍の雨…ダメだこれは。

「くっ!」

足を止め、追加展開した魔法障壁で攻撃を軽減する…が、障壁を突破してきた槍が私を襲う。

「緊急障壁!」

身体に仕込んだ緊急障壁迄展開、腹の魔法陣が体内の魔力を吸い上げ、強靭な障壁を張り、辛うじて氷の槍を防ぎ切った…が。

「…参りました」

「うむ」

その間にエヴァは回り込み、私の首筋に断罪の剣を突き付けていた。

「アーやっぱりエヴァには敵わないか」

「フン、当たり前だ。まだまだ負けてはやらん」

ネギとアスナの時の顛末とは異なり、威厳たっぷりにエヴァがそう宣言した。

 

「千雨さーん、ご無事で何よりですー」

そう言ってタオルを差し出してくれる聡美からタオルを受け取りながら私は答える。

「うん、まあ最後のは緊急障壁迄使う羽目になったけれども何とか無傷で終わらせられたよ」

「いやーぼーず達のと合わせて中々いいもん見せてもらったぜ」

そしていつの間にかリザーブされた軽食を摘まみながら軽く宴会を始めているおっさん達に迎えられた。

「いつの間に…完全に見世物じゃねーか」

「マッチング時には、ジャック・ラカンVSチウ並みの大勝負ですからねーいやあ、実に見ものでしたとも」

「ええ、キティも精進しなければ弟子たちに追い抜かれてしまいかねませんね」

「フンっ…まだまだ抜かれんよ! ぼーやにも、千雨にも、な!」

クーネルの言葉にエヴァはそう答えて従者人形から受け取った杯をあおった。

そして、ダイオラマ球の性質からくる当然の帰結としてこの面々は泊っていく事になるわけで…まあちょっとした宴が開かれる事になった。最初は若干不満そうではあったエヴァではあるが、総督の高級酒や西の長のケーキなどの手土産のおかげか、最終的にはまあ良いかという顔に変わっていた。

 



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115 モラトリアム編 第5話 体育祭

そうこうして月は変わり、体育祭まであと二日となった日…夕映がついにネギに告白したらしい。そうして…情報から遅れること暫く、当の本人が戻ってきた…のは良いのだが。

「そのパク何とかカード持ってる人!挙手!!そして提出!」

「「「「ええーっ」」」」

…気がつけばネギが女の敵だとかいう話になって…同意はするが…なぜかこう言う話になった。

「これは体育祭を前にクラスの結束がかかった大問題よ!!正直に出しなさい!!」

という柿崎の言葉に皆は次々と仮契約カードを取り出して掲げた…あ、那波の奴、隠してやがる。ちらりと視線を向けるが、恐ろしい威圧感を感じてと口をつぐむことにした。

「17人?」

「いや、アスナと委員長もだからさらに+2人」

「じゅ…19人…クラスのほぼ3分の2…」

「ちなみにこっちの3人とハカセはネギ先生とじゃないから、そこよろしく」

「いやまって、ハカセはって事は千雨ちゃんはネギ君とキスしたの!?」

「うっせー、色々あったんだよ」

「んーまあ、そこは今はいいわ!と言うか私達、クラスの波に乗り遅れてる?」

柿崎はそういうと廊下に飛び出して行き、釘宮と桜子もそれに続いた。

「うおおおおっ、待ってて、ネギ君!今すぐお姉さんが奪ってあげるわ」

「はーい、ストップ、ストップ!ただキスしても出ないからねー」

…そして、駆け出していったのを朝倉に止められていた。その後、ネギの糾弾大会が始まり、体育祭最終日のイベントへの干渉というか、まあ…バカ騒ぎの開催が決まったのであった。

 

 

 

そうして、魔法世界でのプロ資格など知るか(参加資格にはプロ資格保持者の出場禁止規定がないので)という事で出場したウルティマホラで準優勝(優勝はクー)をもぎ取った学園祭最終日…遂に全体イベントが始まった。

「みんな本気だなー」

「ポイント100倍ですからねー」

「それもあるけど、ネギ君の為にもいっちょがんばらないとね」

「…ちょっとやり過ぎな気もしますけどねー」

と、私は超の残していった立体映像投影技術で司会の朝倉とその背後霊のさよを投影する聡美のそばにいた。

「ま、二人はネギ君に迫る役は無理だからサポートよろしくね」

「おう、まあ任せとけ。やり過ぎと判断したら止めに回るけどな」

「ネギ先生争奪は本気の方々にお任せしましょー」

なんてことを言いながら狙撃班に合流する朝倉を見送って観戦していると、予定通りゆーなの魔法禁止弾がネギに直撃した。

「おー命中しましたねー」

「臨戦態勢なら対応できるかもしれねーけど日常モードなら無理だよ、アレは」

「という事は…あ、コタロー君と高畑先生と明石教授がネギ先生に接近していますー」

「まあ、その辺りは楓たちに任せて、私たちは冷やかしといざという時のストッパーだな」

「ですねーあ、位置的に柿崎さん達がネギ先生確保できそうですねー」

そう、聡美がモニターを見ながら言う。

「ってことはチア部三人組がパクティオーか…」

と、思ったのではあるが、いつまでたってもパクティオーの光が発生しない…カモが事情を知ってあの辺りに…正確にはネギの近くに…待機しているはずなんだがな?

「あ、クーさんと遭遇しました」

「げ…最悪復活できるとはいえ、スプラッタルートもあり得るか、こりゃ」

「それは…クーさんのトラウマ的に回避したいですねークーさん通信機持っていましたっけ?」

「…持つわけないだろ、あいつが」

「ですよねー」

なんてやっていると、クーがネギに告白をかまし、そして全力でぶん殴ろうとした所を投げられた。

「セーフですー」

「だな…そろそろ私も行ってくるわ」

「はーい、お気をつけてー」

聡美に見送られて、私も冷やかし半分、真面目さ半分でネギの元に向かった。

 

私がネギの元にたどり着くと、丁度ネギの魔力が回復した所であった。

「よう、ネギ」

「ち、千雨さん!?」

「ビビんなって、ちょっと冷やかしに来ただけだって…ま、楽しんでいるか?」

そう言って私はネギに笑いかける。

「え…えっと、ハイ…楽しいです」

「それは良かった…ダチとバカやったり、好きなコ誰とか、告白するかどうかが一大事だったり…そーゆーどうでもいいことが大切な、麻帆良の日常…コレが私達が帰る場所で、守るべき場所さ…わかるな?」

「はい…」

「お前は…私達は…それを忘れちゃなんねぇ、忘れたらきっと奴らと同じになっちまう…」

ネギに、そして自分に言い聞かせるように、私はそう言葉を紡ぐ。

「千雨さん…」

「祭に水差してわりぃな、だけどこの役割を務められるアスナまでこっちに来ちまったことだし…一度言っておかなくちゃなんねぇと思ってな…じゃ、後は思いっきり楽しめ!3-Aの連中は手ごわいぞ」

「はいっ」

そう告げ、アスナと茶々丸が様子を窺っていることを確認して私はその場を立ち去った。

 

「でーどうしますーコレー」

「うーん…どうしようか、コレ」

聡美の元に戻った私は朝倉からの情報でネギに本命がいるらしいという事を知った。まーネギとアスナなら返り討ちに出来るだろうと思っていた…のだが、まさかのザジ参戦である、それも本気モードで。

そうして、悩んでいると気づけば明日菜が討ち取られてしまった。そしてそれでできたスキを突かれてネギが異常状態になり、立ち直る前に現れた那波のアーティファクトの毒牙にかかり、ネギは那波の従属下に入った。

「これはやり過ぎ…ではー?」

「そうだな、間に合うかわからんが止めてくる」

「わたしも、念のため秘密兵器を用意しておきますねー」

「うん?何のことかはわからんけど、そんなのがあるならば頼んだ」

「はいー頼まれましたー朝倉さんが生中継も始めましたしー急いでくださいー」

 

「そういう事でーッ」

「逃げたーッ」

という事で、皆のもとに再び向かった私が見たのは雷の煙幕とそこから飛び出る、ネギを担いだユエとノドカだった。

「内紛…か?」

「あ、千雨ちゃん!手伝って!」

「ヤダよ、つうか、従属化はやり過ぎだ、お前ら」

ネギたちを追うハルナ達に私は言う。

「む…千雨ちゃんのジャッジはそう来たか…でもまだあきらめる訳にはいかないっ!」

「まー簀巻きにして問い詰めるまでは許すからがんばれ、那波とノドカのアーティファクトは禁止な、つー事でがんばれ」

「くっ…自分はハカセとラブラブだからってこの子はっ…」

私はハルナに警告を発して、ハルナの捨て台詞は無視し、観戦モードに戻った。

 

その後、アキラがネギと仮契約した光でネギが発見されたが、すんでの所でアキラのアーティファクトで離脱、その後ネギ達は短距離転移を繰り返して逃走していった。

それに対してハルナ達は…えぐい手を使用した…茶々丸による逃亡先候補の水面をピックアップに、桜子の直感により待ち伏せ場所を選定…までは良いのだが、エヴァを召喚しやがった。

そうして寮の大浴場に網が張られ、その直後にネギ達は網にかかった。

「…止めるべきだろうか、コレは…いやまあいいか、ザジは通したし、エヴァも通しで」

と言っていると夕映とノドカも参戦し、抵抗を見せた…が、あっという間に追い詰められてしまった。そして、わずかに交わされた舌戦もエヴァの魔法で終わる…かに思えた。

「あ…そっか、五月か…エヴァに口で勝つには五月がいたな」

エヴァの氷瀑を翼で受け止めるザジと、五月と五月を運んできたクーという光景が目の前に広がっていた。

『千雨さーん、私もそちらに向かっていますので、お迎えお願いしますーというか今、更衣室で着替え中ですー』

と、同時にそんな通信が入った、ので五月とエヴァとの舌戦を聞きながら更衣室へと向かった。

「どーもですー」

「お、アスナと刹那と木乃香も…ってことはネギ側か?」

「はいー秘密兵器の準備が整いましたのでーアスナさんにここまで連れてきていただきましたー」

「という事らしいからハカセの運搬よろしくね、千雨ちゃん」

「ああ、任された」

という訳で、私はハカセを抱いて浴室へ戻り、五月がエヴァに舌戦で勝った?後にハルナがネギと女の子の真剣勝負だと宣っているところに登場する事になった。

「ハーイ、待った待ったーッ」

「ギャアア」

そんな掛け声とともにアスナがアーティファクトを床めがけて投擲し、ハルナ達が悲鳴を上げ、一度飛び上がった私たちは皆の前に飛び降りるように登場した。

「アスナと…ハカセに千雨ちゃん!?」

「こんなこともあろうかと!ネギ君の本命を知るべきではない決定的材料を用意しておいたよ!」

そう言って(学会以外では)珍しくスイッチオンな聡美は超家家系図と書かれた本を見せつけた。

「そっ…それはあの超 鈴音の禁断の秘密兵器家系図!?」

「燃えたはずじゃ?」

「バックアップは基本よ!そう!これにはネギ君が将来誰と結婚するかが記されているはずだよね!これを見ればわざわざネギ君に聞く必要もない!さあ、とくと御覧じろ!」

と、たぶん私だけにわかる程度に悪戯っぽく笑いながら家系図をめくり、開いて面々に見せつけた…あ、コレ、偽物か。

「は…」

「白紙…?」

「そうです!夏休みのネギ先生とあなた方の行動により、未来が変わったのです!この世界線において、今後何が起こるかは誰にもわかりません」

だが、そうだとしても、超が持ち込んだ『超の世界線の出来事を記した家系図』はその影響を受ける事はない筈…やっぱり偽物だな。

「未来は白紙、つまりみんなにチャンスはあるってこと…だってさ」

そう、アスナがまとめた…アーうん、コレはネギラブ勢は裏切るか。

「スマヌ、パル殿、裏切り御免」

「な」

「ああー楓姉ズルイ」

「僕達も裏切るー」

「み…みんなにチャンスがあるって言うなら」

「無理矢理今好きな人を聞き出すんは逆効果って気するなあ」

「ぬ」

「ああーッちょっとあんた達ーっ!?」

意外にも楓が先陣を切り、次々と裏切りが発生する。

「ごめん、パル、ゆーな!私達、やっぱ、ネギ君につくよ!」

「てことで反撃ーッ」

「ギャーッ」

「なんでこーなるのー!?」

「ハーレムエンド反対ーッ」

個人的に、ネギが管理しきれる範囲であればハーレムアリだと思うがね、英雄色を好むともいうし…危ういコイツを支える女は多い方がいい…私は聡美がいるからその役割は断るが。

「やれやれ」

「んーでもネギ君、ホンマは誰のことが好きやったの?」

「このか!?それ聞いちゃったら意味ないでしょー!?」

「アカンかなー第三者的立場のお姉さんとしてネギ君の本命のチェックを…」

「ダメッ」

こうして、体育祭最終イベントを乗っ取ったバカ騒ぎは終わりを告げたのであった。

 

 

 

その夜…後夜祭の花火を背に夕映がネギにバカ騒ぎの謝罪とか、ネギが想いを抱えて100年の旅路へと赴くのであろう事…そしてプロジェクトへの参加表明をしていた…が。

委員長をはじめ、茶々丸を含めた他のネギラブ勢が乱入…ネギの取り合いが始まった。

「フフ…救世主も大変だな…しかしあの調子だと本命以外に押し切られてしまうんじゃないか?」

「これニセモノなんですけどね~」

「あ、やっぱ?」

「あの子はそういう強引な姐さん女房の方が合いそうだけど」

「ふん…」

「これでいいのかしら」

「ええんちゃう?」

「うわー…」

「…でも、確かによかったかも、これなら私がいなくても大丈夫だね」

「アスナ…」

「アスナさん…」

「ん?」

そう言っていると、ネギが意味ありげな優しい笑顔をこちら…観戦している面々に向けた。

「わわ?」

「今の何々?ネギ君なんやろ?あの優しい笑顔、あの状態でアスナ見てあの笑顔って。やっぱ本命はアスナちゃうんかな~」

「ふぇ?な!?何言ってるのよッ今のは私見てたんじゃないわよッ!!わわ、私目がいいから視線見えたけど、今アイツが見ていたのもっと左!こっちのだれか!こっちの誰かが本命じゃないの!?エヴァちゃんか、龍宮さんか、千雨ちゃんか、ハカセか!」

「あん?」

と、エヴァ。

「いや、それはないだろ」

と、真名。

「てことは~アレ?」

「千雨さんは渡しませんよー」

「聡美は渡さんぞ」

声を揃えて私達はそう反応した。

「あー言えない、ってそういう方向の可能性もあるなー横恋慕かぁ…確かにネギ君、よくお茶しながら話していたよね…二人と。最近はフェイト先生とコタロー君も交えてみたいだけれど」

と、美空が言う。

「あーまあ、研究仲間という方面が主だが、色々と話は合うな…聡美は渡さんけど」

「ネギ先生が志を違えない限り、共に行く事は決めていますがー千雨さんは渡せませんねー」

「だよねぇーこれはもしかしてもしかすっと色々面倒な地雷だったりするねーネギ君の本命」

「そうか?私としてはむしろその方が面白いがな?ククク…ぼーやの本命が千雨かハカセだった日には…いや二人ともいう線も…」

等とエヴァが言い出したが、とりあえず黙殺しておくことにする。その背後では、カモにネギの本命を聞き出そうとして刹那が本命だったらどうするんだとアスナに言われる木乃香がいたりする。

 

 

 

 




本作のネギ君の本命?本作は『概ね』原作沿いですとだけ。


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116 モラトリアム編 第6話 あっという間の5カ月間

5カ月間…100年の眠りにつく仲間と過ごす時間…私達が己に許したモラトリアムとしての5カ月はとても長いようでいてあっという間の事で…そして本当に色々な事があった…その一部を振り返りたい。

 

 

 

・クリスマス事件の裏側で

 クリスマス事件…まあ要するに鳴滝姉妹が小動物に化けてお忍びで麻帆良を訪れていたヘラス帝国に属する自治国の王子様を拾い、それがネギ争奪戦と相まっていろいろと酷い事になったというお話なのだが…その裏側というか片隅で私たちはいつも通りの日常を過ごしていた…訳ではなく、イブはクラスのクリスマスパーティーに参加し…ネギラブ勢の争奪戦が主なイベントだったりする。いつものように…そしてクリスマス当日は昼間は二人でデートをして、夕刻からは麻帆良大学部共同主催の舞踏会に参加していた。

「いやーハカセに千雨さん、本当にお二人とも中学生だとは思えませんよ…綺麗ですね」

そう、ロボ研所属の大学院生が私達のドレス姿を褒めてくれた。

「ありがとう、でもあんまり褒めていると彼女さんに怒られますよ」

「アハハ、それもそうですね、ではお二人とも、良いパーティーを…応援していますよ」

そして、そう言葉をかけて去っていった…実は、クラスとロボ研のメンバーには私達の交際を正式に伝えている。そして、秘密にしているわけではないが、公言もしていないその事実をこの場で二人で踊る事で公式に示そうという事にしたのである…ちなみにこの麻帆良クリスマス舞踏会で1曲目を踊ったペアは自動的に報道部主催の翌年のベストカップル賞にエントリーされるというはた迷惑な習慣の為、1曲目はカップル限定というのが暗黙のルールである、2曲目からはフツーに友人同士でも踊ったりするのではあるが。

ノンアルコールのカクテルと料理を楽しみながら大学・大学院の学生や教職員の知人・友人達と談笑をしていると、ついに第一曲が始まる合図が出た。

「さあ、行きましょうかー千雨さん」

「うん、行こうか、聡美」

私達がダンスホールに進み出ると場が少しざわつく…まーカップルでも割とラブラブな連中と言うか、皆に交際の事実を知らしめたい連中なんかだけが踊るので会場の広さの割に人数が少なく、目立つのである。

「アレは麻帆良の三賢者の二人では…?」

「誰か、ルール教えてあげて!」

「いや、あの二人、一昨年から出席しているしルールは知っている筈…?」

「ああ、そーいう噂もあったし…遂にという奴では」

「…だとしても女同士の交際はともかくこの場で踊るというのはちょっと…」

などという声が上がる。概ね、戸惑いの声であるが一部、肯定と否定の声も上がっている様だ。

「大丈夫ですよ、千雨さん」

「あ…うん、震えていたか?」

「ええ…少しだけ…千雨さん(魔力や気による強化で)耳がいいですから余計な事が聞こえるかもしれませんが…今は私だけを見てください」

「ああ、悪かった…踊ろう、聡美」

「はい、千雨さん」

そうして曲は始まり、私たちはこの日に向けて、忙しい割には時間を割いて練習した成果を会場中に見せつけるのであった。

 

「いやー素晴らしいダンスでしたよ、葉加瀬さん、長谷川さん」

ダンスが終わり、主に好奇の視線に晒されていた私達にそうドレス姿の報道部員…時々研究関係の特集で取材を申し込んでくる大学部の知人…が声をかけてくる。

「「ありがとうございます」ー」

「お二人のクラスメイトの朝倉から今日のパーティーでちょっとしたネタがあると匂わされてはいましたが…ファーストダンスを踊られたという事は遂に…ですか?」

「ハイ…私達、正式にお付き合いする事となりました」

「それはおめでとうございます!ぜひ取材をさせて頂けませんか?」

「プライベートな事なので…簡単で良ければ」

「ええ、もちろんお話頂ける範囲でかまいませんとも、ではこちらに」

そう言って報道部が確保してある控室の一つに私たちは通され、取材を受ける事になった…なお、コレは朝倉経由で仕込んだ仕込みである。

そして翌日、比較的好意的な記事が校内新聞のゴシップ欄に掲載され…私達の交際が公の事実となると共に学園内の同性カップル達に勇気を与えたとか何とか。

 

 

 

 

・二月二日に

二月二日、それは私の誕生日である…実際はダイオラマ球の使用や魔法世界旅行などで体感歴は狂いまくりなのであるがまあ、一応法的には誕生日である。フツーにクラスの連中にも祝われたが、ダイオラマ球内で聡美と二人きりで過ごした追加の一日に焦点を当てる。

…とはいえ『いつもの私達』で、温泉施設や従者人形のエステなどを堪能し、聡美が茶々丸や従者人形達に頼んで手配してくれたいつもとは比べ物にならないディナーを食べたものの主に研究三昧な一日であった…夜を除けば。

「では、よろしくお願いしますー」

「うん…よろしく…聡美」

私達はそう言葉を交わして一糸まとわぬ姿…比喩表現である、実際は糸の呪紋で二人ともびっしりと糸を纏っている…で体を重ねた…物理的に。

ベッドの下と私達の身体には本契約用の魔法陣が描かれており、体の魔法陣同士を重ねたのである。

本契約にはいくつかの方法があるのではあるが、聡美と協議を行った結果、まあ古式ゆかしい方法で行う事になった…一応魔法契約なので純潔の定義的には大丈夫らしいので…

「あっ…千雨さん…」

「うん…聡美…」

時々ただのキスでは足りない時にする魔力供給付きのキスの何倍もの快楽が私達の間に訪れる…その快楽に溺れながら、私たちは夜明けまで過ごし…私たちは正式な魔法使いのパートナーとなった。なお、ごくフツーにネギと私の仮契約は継続中であるし、力の王笏も便利であるから(もっと簡単でエロくない方法で)いつか本契約するかもという話になって聡美の希望に基づいてやらかした案件である。

 

 

 

・バレンタインの一時

バレンタイン…まあそんなイベントにネギラブ勢がおとなしくしているわけもなく、非常に愉快な事になった…が焦点はそこではなく、私達の行動に当てる。

私達は毎年、クラスでの交換用にはチョコチップ入りカップケーキを、大学の研究室には関係する各研究室に共同で1ホールずつデコレーションなしのチョコレートケーキを作って差し入れている。そして今年はブルーマーズ計画の情報交換会にもチョコレートケーキを差し入れた…そのお茶会での事。

「いやー相変わらずモテモテやなぁ、ネギは」

「そうだね、まああのバカ騒ぎもネギ君の息抜きにもなっているようだし、まあいいよ、そちらにうつつを抜かさなければね」

「もー二人だって結構貰っていたじゃない、チョコレート」

情報交換が始まる前の冒頭、男性陣がそんな会話を交わしていた。

「皆さま、もうチョコは十分とおっしゃるかもしれませんが、本日の1杯目はホットチョコレート、私からのバレンタインです…ネギ先生には二つ目になりますが」

と、茶々丸が全員にホットチョコレートを差し出した。

「ありがとうございます、茶々丸さん」

「サンキューな、茶々丸姉ちゃん」

「ありがとう…貰っておくよ」

そして、談笑をしながらホットチョコレートを飲み終わった頃、茶々丸が二杯目を手配すると同時に私達が差し入れたケーキを持ってやってきた。

「私と聡美から共同でチョコレートケーキな、まあ割と甘いがこれから頭を使う事だしかまわんだろう」

「どうぞー研究室に配ったのと違ってデコレーションもしたんですよー」

「ありがとうございます、千雨さん、ハカセさん」

「サンキューな、千雨姉ちゃん、ハカセ姉ちゃん」

「ありがとう…長谷川千雨、葉加瀬聡美…二杯目は珈琲…だね?」

「はい、いつも通り紅茶と緑茶と珈琲をご用意しました」

そんな感じで私達のバレンタインは平和に過ぎていった…この後、聡美と二人で学食のバレンタインデービュッフェに行くのであるがそれはそれ…特に何もなかったとは言っておく。

 

 

 

・進化する闇呪紋

「…完成しちゃいましたね」

「うん…また心配かけてすまんな…」

「いえ、もう慣れました…これくらいであれば」

夏休み以降、ブルーマーズ計画や趣味の研究と合わせて行っていた闇の魔法系列の研究の結果…私達は遂にシグヌム・エレベアの大規模アップデートに成功した…とは言っても出力面での限界が飛躍的に上がったわけではなく、(現在の技能レベルと研究レベルでは)3重奏を上限とし、それでいて従来のシグヌム・エレベア9重奏と同程度の出力を出せるように改造したのである。

ぶっちゃけ、実戦では9重奏とかやってられん…という本音がある。なお、マギア・エレベアの習得を前提とした従来とは別物の魔法陣…マギア・エレベアの模倣からマギア・エレベアの制御補助にフェイズは移行しているが言ってはいけない、一応、特殊効果をほぼオミットする代わりに侵食強度を大幅に低減はしている。言い換えれば、千の雷クラスの魔法を3つ装填すれば単純出力ではネギの雷天大壮比300%、雷天双壮比150%である、普段使いでは属性の招来を使うのでそこまでではないし、雷速瞬動だとか魔法無制限行使だとかの類は使えないが。

今後は、この方向で技能レベル・研究レベルを進めて4重奏以降も行える方向に研究を進めると共に本来の咸卦法の習熟(一応、補助なしでも最低限の戦闘出力は出せるようになった、練度的には高畑先生にもアスナにも届かないが)と存在の昇位方面の用意面でも研究を進めていきたく思っている。

ちなみに、聡美の訓練も順調に進んでおり、無詠唱での戦いの歌行使はできるようになっていて、魔法陣の組換えも行っている…まあ、戦闘組と呼ぶのは無理ではあるが多少の自衛と逃避はこなせるくらいまでは育っており、多少は安心できる…が、私は心配性であるので…まあ相変わらずである。

 

 

 

・ハカセ

「ひとまずはお疲れ様…本当にコレでよかったのかい?今ならまだ取り下げられるよ?」

麻帆良大学工学部…麻帆良大学院工学研究科の教員連中を相手に行った発表の後、茶湯教授が私達に問うた。

「いえ、既にお話したとおり、どうしても必要なモノですから」

「そうです、この年で麻帆良外の他分野の研究者達と仕事をするには必要なけじめですよ」

「難儀だねぇ…君達も…ある程度事情は教えてもらったけれどもその年で火星開拓の為の機関の創設メンバーになる必要があるとは…ね」

そう言って茶湯教授は遠い目をして、続けた。

「工学研究科教授会の資格認定さえ通れば君達がこの6年間で出した成果は十二分に博士号に値する…それは僕が保証しよう、論文博士とはいえ、中学生に博士号を出すなんてこの麻帆良においてさえ前代未聞だし…君達にはゆっくり学生生活を楽しんでほしかったけど」

「…高校には進学しますよ?」

「詳しくは聞いていないけれど、学生生活をのんびり楽しむなんて生活をする気はないんだろう?そうでなければ…それこそ裏方仕事ならば学位なんてなくても十分参画できる筈だ…違うかい?」

「それは…」

「でも、いつかそうすると決めていた事です。それが少しだけ早まっただけの事ですから」

言いよどんだ私に聡美がきっぱりと答えてくれた。

「決意は固いみたいだね…じゃあ、ココからは一応書類上は指導教官役をしてきたことになっている僕からの反対という札は切らないでおくとしよう…教授会に行ってくるね」

そう言って教授は私達に微笑みかけ、その場を去っていった。

そうして…私たちは中学生にして博士号を取得…モラトリアムの終わりに備えるのであった。

 

 

 

…アスナとの思い出はさほど多くない。アスナがそれを…特別な日々ではなくいつも通りの日々を望んだからである。また、私に限ってはアスナは修行も別荘を使うほど厳しいものはしないようになっていた為もある…そんなまま、一部の事情を知るもの以外には別れも告げぬまま、別れの時はやってきた。

 

「もう…よいかな?アスナ」

私達を含めた他の皆との別れの挨拶を済ませ、最後に魔法陣の上で刹那と木乃香と抱き合っていたアスナにテオドラが問う。そんな様子を私と聡美はエヴァや茶々丸と並んで眺めていた。

「いい…?」

「…はい」

「うん…」

「でも…また、また会えるんやろ?」

「まあ…無理だろうな、何しろ目覚めるのは100年後だ」

「じ、じゃあエヴァちゃんはおるんやよね、それに100年後なら…みんなギリギリ会えるかもしれへんよね」

そう、木乃香がすがるように口にする…もう何度も話した、わかり切った結論を。

「忘れるな、この神楽坂明日菜は黄昏の姫御子の代理人格だ、目覚めたら別人だ」

厳密には、アスナの人格が時の摩耗に耐えられなければ、ではあるが耐えられる可能性はとても低い…

「…そういうことだ、まあ…貴様が100年生きられれば同じ顔の誰かには会えるだろうがな」

「姐さん…」

「さあ、時間じゃ」

「…大丈夫だよ、このか。また会える、きっとね」

アスナはいつもの笑顔で無根拠な自信たっぷりにそう言った。

「アスナ…」

「ほ…本当…ですのアスナさん、アスナさん!」

「へへっ」

「アスナさん!」

「アスナ…」

去っていくアスナを思わず刹那と木乃香が追ってしまう。

「ネギ!待っているわよ!マギステル・マギになったアンタが訪ねて来るのを!うん、あんたとみんなならきっと大丈夫!バイバイ、またね!」

「アスナ…アスナぁ…ッ」

そうして、アスナは光の中に消えていった。

 

 

 



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117 エンディング ご都合主義の未来

「うわあぁああぁぁあぁあアスナぁアスナあぁ」

「ぐ…う…うっ…くふっ…」

アスナが光の中に消えていった…その直後

 

パシィッ

 

そんな音がした…超のタイムマシンの発動音である。

「あ、あれーここって…出発してすぐじゃ…」

「「「「「へ…」」」」」

「たっ…ただいまー」

…そこにはアスナと超とエヴァがもう一人と…多分大人になった私と聡美とがいた。

「「な!?」」

「え…ア、アスナさん?でででも今その…ちっ超さんに、エヴァさんが二人…それと大人な千雨さんとハカセさん…?」

「ア……ス…ナ?」

そうして、私たちは帰還したアスナに駆け寄っていった…

 

「ハハハハッ、こんなこともあろうかと私、タイムマシンに加え、次元跳躍並行世界往還装置『渡界機』を開発してたネ」

「どこまで天才なんだよ」

「いや、実際はかなり開発大変だたがネ、エヴァちんやハカセに千雨さんの協力もあたヨ」

私らもかよ。いやまあ、生きていれば手伝うだろうけど。というか手伝ったから来たんだろうけれども。

「つまりはこういうことアルネ」

と、超が図解で説明した事には、超による改変前の世界線から、改変後の世界線の100年後…あとで聞いた話にはアスナが寝坊して130年後らしいが…に渡界機で移動し、そこからタイムマシンで目覚めたアスナを連れてこの時間にやってきて…世界線が分岐したらしい。

「な、なるほど」

「で、でも超さん…と100年後のエヴァちゃん、千雨ちゃん、ハカセ、なんでここまでしてくれたの…?」

「ふん…約束を守れなかった男からの頼みでな」

「うむ、次元を超えてエヴァにゃん達から協力依頼されたヨ」

「まー私はお前を100年の眠りにつかせた側だからな…ご褒美だ」

「そーいう事ですねーそれに『こー言う世界』も興味があったのでー」

…こーいう世界?と浮かんだ疑問を深く考える間もなくエヴァが続ける。

「…大体、貴様にあんなシリアスな役は似合わん。貴様のようなアホはくだらん友人どもと益体もない日常を過ごし取るに足らん人生を生きた後、畳の上とかで平凡に死ぬがいいのさ」

「う…」

「あ、あのでも…超さん、100年後のエヴァさん、千雨さん、ハカセさん…あなた達はどうされるんです?僕達とは違う時間軸のあなた達は…」

「私は私の世界に帰るネ、この世界を見れたことで満足したヨ、まあせっかくだし卒業式までは付き合うがネ」

「私はこれでもいろいろと忙しい身でな…まあ詳細は秘密だが、フツーに未来に戻って生きていくさ」

「私達も同じく…だな、グラニクスへの出張の予定もあるし…」

後でアスナに聞いた事には万博への出張ということだろうか。

「ええー不死者であるのは一部にはバレているんですけれどもねー幸い、科学者としては受け入れて頂いていますー」

「そうなのか…いや、まあ元気そうでよかったよ、未来の私達」

「そうですねー人類社会の中で研究者を続けられているのは幸いですー」

「まあ、その辺りは貴様ら自身の功績が大きいな…ぽっと出の馬の骨が不死者だとバレたら狩られるだけだろう」

そう、未来のエヴァが言った。

「それより、ネギ坊主は自分の心配をするべきネ」

「うむ。これからの貴様の100年は相当キツいぞ、まあしっかりやれ」

「とはいっても、茶々丸も私達もできる限りは支えてやるだろう…が、全ての鍵は、お前だ、ネギ」

「そうでしたねー懐かしい日々ですー」

「フン…まあ用事は済んだ、帰るぞ」

「はいよ」

「はーい」

「送るヨ」

そう言って未来の私達が去っていこうとする。

「ま、待ってエヴァちゃん、千雨ちゃん、ハカセ!あっちのネ…アイツは何であんなことになっちゃってたの?エヴァちゃんとおんなじ身体になってたんならあんなことにはならないハズでしょ?もしかして…未来で何か悪いことが…?」

おろ…その言い方からすると…ネギは未来では死んでいるのかな…?まあ、始まりの魔法使いとの戦いなど、色々と危機はある。

「フ…安心しろ、あっちのアイツは満足して逝った、お前の事は悔いていたがな。こっちのソイツがどうなるかは貴様次第だ」

「大丈夫ですよーこれほどの奇跡が起きたんですから、未来は明るいはずですよー私達と同じだけ頑張れればーですが」

「そうだな、もしアスナがいれば…私達にとってはそう言うifの物語だからな、この世界線は」

そう、未来の私達が応じる。

「そうだぼーや、未来を一つ。貴様は100年後の世界では皆からマギステル・マギと呼ばれていたぞ」

「へっ」

「それもメガロ政府が出している『マギステル・マギ』資格などという小賢しいものではなく…古くからの、人々の口の端から自然とそう呼び習わされることとなる、真の意味でのマギステル・マギとしてだ」

「え…ホ、ホントですか!?とっと…父さんと同じ…?」

「うむ、ネギ坊主」

「だけど…まあそうなるかはお前次第だ、ネギ」

「だが、まあそれもこの時間軸では危ういかも知れんなぁ、貴様のその有り様では」

「へ…」

そう言って未来のエヴァはアスナの服の裾を掴むネギを見る。

「あっ、いえ、ここれはッ」

「エヘヘ」

「なぁ超、千雨、ハカセ、アスナを戻したのは失敗だったかもしれんなぁ」

「確かに、アスナを失った事で芽生えた自立心が彼の成功の要因かもしれないヨ」

「まあ、その場合は…私がやってくれる…かな?」

「いえーアスナさんが戻ったことで罪悪感が薄まって千雨さんも頑張りが低くなる可能性もー」

「えっ、こっちに飛び火すんの!?」

そう、今の私が答える…確かに、アスナを眠らせた罪悪感が薄まったのは事実だが。

「ううむ、この世界の行く末が不安ネ」

「あっちのぼーやはすごかったがなぁ」

「そうだな、私もそれは保証する、こっちのネギがどうなるかは別だけども」

「私達も頑張りましたけどー中核はネギ先生でしたからねー」

「だっ大丈夫です!しっかりやります!」

「私だって!悪いことなんか起こさせないわよ!」

「その意気だ、どう呼ばれるかはこれからの貴様達次第、これより先の未来は白紙、貴様達のつくる未来だ、進めガキども、明日へと」

そう言って未来の私たちは帰っていった。

 

 

 

それから…色々な事があった。卒業式後の告白大会に、卒業旅行を兼ねたインド旅行で国際会議に出席…帰国後、後に国際太陽系開発機構へと発展的解消する火星開拓準備機構の立ち上げ宣言…その後の高校生活と機関所属の研究者としての二足の草鞋で過ごした3年間、そして大学は博士号で飛び級したことにして、国際太陽系開発機構に専念、様々な技術革新を巻き起こし、名前をさらに高めると共にブルー・マーズ計画の為に尽くした。

 

そうしてネギ16歳の夏休み…始まりの魔法使い…ヨルダとの決戦…厳しい戦いではあったが、なんとか勝利を収めた。概略としては、先行していた私達の目の前で小惑星アガルタに寄生したヨルダが覚醒、聡美を含めて随伴していた非戦闘組の護衛にコタローを残して私、ネギ、フェイトが吶喊した。

その後、デュナミス渾身の召還魔軍と遭遇、私とフェイトがそれを受け持ち…3時間が経過した。その頃には召喚魔もだいぶん削れており、残りをフェイトに任せて私も突入…したところで艦隊を相手していた取り巻きの一部が登場、交戦に入った。1対1ではもはや私の方が圧倒的に強いのであるが、消耗した状態で1対多となると一蹴とはいかずに時間をかせがれた…そうしているうちに、デュナミスがネギとヨルダの戦いに介入…均衡が崩され…かけた時にこちらの増援が到着し…その後は大決戦が行われ、私とネギの二人がかりでヨルダをボコってついにはアスナの支援が通って依り代たるナギ・スプリングフィールドを殺害…現れたヨルダ本体を暦のアーティファクトで停止させ、ネギとアスナが止めを刺した。そうして…魔法理論的にはありえない奇跡は起きた。

ナギ・スプリングフィールドの生存である…昏睡状態とはいえ、彼は生存しており、2年後に目を覚ました。そうして、物語はハッピーエンド…とは終わりはしない。むしろ魔法世界救済の物語の確たる宇宙開発はこれからであるし、順調に進んでいる前期計画も目は離せない。事細かに全てを語るわけにもいかないので抜粋して話を進める。

 

・ネギ争奪戦

ネギ争奪戦を制したのは茶々丸であった。他の皆も頑張りはしたのであるが、最終的には馬車馬の如く働くネギと共に過ごせる時間の長さで差し勝ったというべきだろうか。一応茶々丸からまた聞きした話では、あの体育祭の日時点での本命は別人だということで…懐かしい思い出として知りたいような、知りたくないような…である。

そして、茶々丸の願いで私と聡美の遺伝子マップを利用して疑似的に茶々丸の遺伝子マップを作成し、ネギの遺伝子マップと掛け合わせてクローニング技術の応用で一子を設けた。

この、私達から見ると孫娘にあたる子以外に私たちは子を作らなかった…少なくとも現在までは…事もあって、すこぶる可愛がったのは別の話。

 

・同性愛の生殖技術の話

少し私達も関係してくるというか、孫娘の件で少し触れたが、クローニング技術の応用と人工子宮の開発で同性同士でも子供を望む事は容易く…はないが、不可能ではなくなった。刹那と木乃香も結婚後、その技術を利用して子供を設けた。

 

・超包子

高校卒業後、フランス・中国・トルコに留学に出た五月の手で麻帆良に世界三大料理店チェーンとして再誕した超包子、その初期費用には私達も多分に出資した…というか、元々の超包子を一度整理した時に私達の持ち分として返って来ていた分を戻した。そして、発展した超包子は私達に多額の利益を与えてくれた…が、まあ特許とかで十二分に稼いでいる私達は配当をそのまま再投資した…結果、100年後、惑星間外食チェーン…恒星間探査船にも出店しているのでコレで呼び名が正しいのかは知らん…として君臨している超包子の大株主として名を連ねている…尤も、度重なる資本増強で最初の持ち分程大きいわけではないが。

 

・UQホルダー

不死者や人外達の互助会…そんな組織をネギは立ち上げた。エヴァは当然として、人ならざるものと化した私や茶々丸、割と後年になってその存在を人外化した聡美も後には所属する事になり…まあ、気づけばそーいう存在と定命の人々との摩擦軽減目的で国連とも連携する事となりと…色々とこちらの仕事も忙しい。

 

・研究者として

端的にいうと大成功であるし、寿命からいって私たち3人は21世紀以降の研究史にちょくちょく顔を出す事になるのは確定と言われている。まあ、私達が100人、いや1000人分の仕事ができても世界の科学者の総数は(特に魔法の普及も伴って教育レベルが上がってからは)そんなもの圧倒する人数がいるので一応はうまくいっている…今の所。ハンデというか席巻してしまわないように多少の取り決めとかもあるのではあるが。

なお、現在では麻帆良の3賢者の呼び名はネギ、聡美、私に与えられている。

それと、22世紀に入ってしばらくした頃の国際会議で人名に由来する法則名はできる限り使用しない旨が決議された。理由?ハカセ・サトミの第何法則だとか、ハセガワ・チサメの第何法則だとかネギ・スプリングフィールドの第何法則だとかは可愛い方で、ハカセ・ハセガワの第何法則とハセガワ・ハカセの第何法則とがそれぞれ別の法則を指す言葉として乱立した挙句の果てである。

 

・火星独立戦争

フェイトガールズたちの意志、ネギの正義感、私達の道徳心等いろいろありアリで戦争・紛争の抑止や貧困の解消などに努めてはいたがそれでも避けられない、解消しきれないことはある。その一つが火星独立戦争である。一応、太陽系開発機構の構成員としての権力で火星側の自治権の尊重を訴えるなど、抑える方向に動きはしたが、それでも行き違いと過激派のテロなどが引き金となって戦争は起こってしまった。とはいえ、その規模は火星全土に波及するモノではなく、最終的には魔法世界各国や恒星間探査船団自治政府などを含めて加盟する星間連合組織成立のきっかけとなった事もあり、災い転じて、という言葉を使いたくはないが、適用しても良いのではないか、という結果にはなった。

 

・こうして歴史は繰り返す…のか?

少し時間は遡る…21世紀後半のある日…多くの中等部3-Aのクラスメイト達は老婆となっていたが、それでも全員がこの場に集まった…超を含めて。

「いよいよですのね」

委員長が呟く…私達、いや人類の尽力の結果、火星緑化計画は予定を大幅に前倒して完遂が宣言された…そして、アスナが目覚める時も前倒しになったのである。

 

パシッ

 

空が光り、若き日のアスナが降りてきて無意識のまま着地して崩れ落ちる…のをネギが受け止めた。

「ん…う…ネギ?」

「はい、アスナさん」

「ネギ…ネギッ」

そう言ってお姫様抱っこされたままのアスナがネギを呼び泣き出す…が

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おかえり、アスナ」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

取り囲むように私を含めて皆が言った…当然、老婆のアスナも。

「へ…?もしかして…皆?3-Aの?」

「そーだよ、アスナ…眠りにつくのを私達に秘密にして…悪い子だねぇー」

代表するようにハルナがにこやかにいう。そして皆次々に若き日のアスナに言葉をかけていき…

「おかえりなさい、私」

最後にアスナがアスナに声をかけた…

「えっ…おばあちゃん、もしかして…私?」

「そーよ、色々あってね…詳しくは後で話してあげるから…まずはお疲れ様パーティーね」

そう言って老婆のアスナは若き日のアスナに悪戯っぽく笑った。

 

そして年甲斐もなく…昔に比べればおとなしくなったが…どんちゃん騒ぎを繰り広げた後、アスナに一部ネタバレをする場が設けられた。

「えーっ超のタイムマシンで!?」

「そうよ、おかげで眠りについてすぐの時代に戻って…色々大変だったけれども楽しい時間を過ごすことが出来たわ…」

「そうネ、次元を超えて千雨さんからその話を聞いた時はびっくりしたネ」

 

そうしてごく軽く現状を説明した後…私は口を開いた。

「さて、アスナ…お前には2つの選択肢がある」

「選択肢…?」

「そう、選択肢だ。一つはこの時代に残って生きていく」

「その場合は良ければ私の家族になって欲しいかな、無理強いはしないけれど」

そう言って老婆のアスナが子供のアスナに笑いかける。

「えーズルいですよ、アスナさん、ぜひ僕達の養子に…とまあその辺りもゆっくり考えていくとして、ひとまずはゆっくり体を癒して頂いて…その後はどう生きたいか仰って頂ければ精一杯サポートしますよ」

と、ネギ。

「と、まあある種の予定通りだな、多くのクラスメイト達を見送る事にはなるだろうが孫とお婆ちゃんみたいな歳関係だがみんな受け入れてくれるだろう…

そしてもう一つは…超のタイムマシンで過去へと戻る事だ」

「大変ですがやりがいはありますよー」

「うむ。ああ、別にタイムパラドクスとかは気にしなくていいネ、アスナさんがどうしたいかだけで選んでくれてかまわない」

「と、いうことです。もっとも今すぐに決める必要はなくて暫くはゆっくりして頂いて…」

と言いかけたネギの言葉をぶった切って若き日のアスナが言う。

「大丈夫、決めた、私、過去に戻る!」

「えっ…アスナさん、そんなにすぐ決めなくても…」

「今にも私がいるんでしょ?それなら、私は過去に戻って皆と同じ時間を生きて行きたいな」

「うん…そうだよね、私ならそう言うよね」

と、老婆のアスナが苦笑いをする。

「さすがアスナさん、ご自身の事を一番よくわかっていらっしゃいましたね…出発はいつにしますか?」

と、ネギ…多分こうなるだろうとは元々老婆のアスナが言っていた通りである。

「すぐにでも!」

「…わかりました、では超さん、お願いできますか?」

「ウム…では皆にお別れと…同行者はどうする?」

「アスナさんがよければ僕と…」

「あたしかな?かまわないかな、アスナ」

そう、ネギと老婆のアスナが言った。

「うん、大丈夫」

子供のアスナがそう答え…

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「いってらっしゃい、アスナ」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

「いってきます!みんな!」

 

そう、クラスの皆に送り出され、アスナは過去へと旅立っていった…こうして、歴史は繰り返す…のだと嬉しい。

この世界は十二分にハッピーエンドと呼べる世界なのだから…

 

 



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118 モラトリアム編 第7話 モラトリアムの終わり

アスナが100年の眠りについた日の午後…私は3-Aの面子…全員魔法バレしているので実質関係者である…を集めて上映会を行った…アスナが残した…というか、私がアスナに残させたビデオレターの。せめて、仲間には自分で別れを告げろ、別れを告げなくてもいいが事情を説明する役を自分でやれ、と言って。

皆の反応は…それはもう酷いものではあった。アスナと恐らくもう会えないのだとわかり、ほぼ全員が泣き出して…どうして言ってくれなかったのだと悲嘆にくれた。

「せめてみんなとはいつも通りの日常を過ごしたかったから、だとよ、言わなかった理由はな」

「千雨ちゃん…知っていたの?」

「…詳しくは言えんが、アスナが100年の眠りについた責任の一端は私にある…アスナが言っていた世界一つを…魔法世界を救うための計画、発案者は私ってことになっている、極秘だけれどな」

「…本当…なのね?」

美砂が、私を睨みつけながら言った。

「ああ」

 

パシィン

 

直後、私は思いっきりひっぱたかれた。

「っ…あんたの…あんたのせいでっ…」

「ち、違うんです柿崎さん!千雨の、先生たちの計画ではアスナさんが犠牲になる筈ではなかったんです!ただ、時間が足りなくて、どうしようもなくて…それでアスナさんがっ…」

罵倒されかけた私を刹那が庇う…が、庇い方が下手である。

「ッ!桜咲っあんたコイツを庇うわけ!?」

「…柿崎さん、落ち着いて…詳しい事情は私も聞いています。千雨さんの露悪的な言い方がよろしくないですが、千雨さん自身は悪くありません」

「っ!委員長まで!あんた達アスナの親友でしょ!なのに…もう知らないッ」

そう言って美砂が教室を飛び出して行き…円と桜子が後を追った…その後、委員長が残った皆に説明を行い、それで私達に責を負わせるのは酷であるとの総意は頂戴し、美砂達も後に同意見となり、謝罪まで貰ってしまったのだが…やはり、わずかな亀裂はクラスに生じてしまった…ように私は感じる…私のミスである。

そうして迎えたアスナ不在の卒業式…その打ち上げは3-Aらしいバカ騒ぎではあったもののどこか影を纏ったものであった。そして、卒業時に告白の答えをと言っていた夕映とノドカはネギに本契約を乞うて…本格的に計画参入を決めたのであった。

 

春休み…予定通り委員長のインドの別荘に招待されたクラス一同…そんな中、ネギと私とハカセと茶々丸と朝倉、それに委員長は宇宙開発に関する国際会議の会場にやってきていた。そして、色々とコネ…主にメガロメセンブリア経由での各国魔法協会の…を駆使した結果、そこには日本の総理大臣などの首脳…多くの国は科学技術担当閣僚や担当省庁のお偉いさんが代理出席…が来賓として招かれて参加する割と例年にない大規模な会議となっていた。

そしてその場である全体講演が予定されており…私たちはそれに参加する事になっていた。

「それでは、次の講演に移りたいと思います、次の講演は連続講演となっており、総合演題は『火星テラフォーミング計画試案』、前半は『軌道エレベータ建造計画試案と実現にあたっての技術的諸問題の検討』講演者はDr.サトミ・ハカセ、後半は『火星開発計画シミュレーション』講演者はDr.チサメ・ハセガワ、よろしくお願いいたします」

座長に呼ばれ、私達は演台へと進み出る…こればかりは完全に魔法使いで学位も科学界での実績もないネギにゃ任せられない…そう言う私達も、この5カ月で共に関係する学術論文をばらまいたとはいえ、本来格が足りていないのではあるが…まあ、ネギよりかはましである。

…場内、主にアジア系の参加者の顔がこわばる…そりゃそうだ、他人種からは童顔の若者にも見えるかもしれないが、アジア人から見ればどーみてもティーンエイジャーの私達である。

「それでは慣例に従いまして簡単ですが演者のご略歴を紹介させて頂きます。葉加瀬博士は初等学校4年次より現所属の麻帆良大学工学部のロボット工学研究室に飛び級で所属し人型ロボットの開発に尽力されました。そしてその派生から材料工学・ジェット推進などの関連技術を手広く研究、各分野で目覚ましい成果を上げておられます。そして今月中等学校卒業と同時に博士号を取得しております」

その紹介に場がざわつくる…そりゃあそうだ、こんな場で、それもそーいう企画ではなくガチで中学生に講演させるとか正気の沙汰ではないからだ、本来は。

「続きまして、長谷川博士のご紹介もさせて頂きます。長谷川博士も初等学校4年次より現所属の麻帆良大学工学部のロボット工学研究室に飛び級で所属し人型ロボットの開発に尽力、主に人工知能を担当されました。そしてその派生からシミュレーション担当で多くの共同研究をこなすと共に自身でも数々のコンピュータ・シミュレーション分野での論文を出されております。そして同様に今月中等学校卒業と同時に博士号を取得しております」

…そして、場は完全に凍った。何のつもりだ、と。いつからこの権威ある国際会議は中学生に大それたタイトルで講演をさせるようになったのだ、と…誰かが口を開くより早く、聡美が綺麗なクイーンイングリッシュで口を開いた。

「ご過分なご紹介、ありがとうございます。ご紹介にあずかりました葉加瀬です。本日は連続講演『火星テラフォーミング計画試案』の前半といたしまして、『軌道エレベータ建造計画試案と実現にあたっての諸問題検討』というタイトルで講演をさせて頂きます」

その堂々とした口調に会場の空気は一変し、とりあえずは話を聞いてみよう、という空気になった…コレでもロボット工学関係の国際学会で似た経験は済ませているので無問題…とまではいかないが慣れてはいる。

 

そして約2時間後…質疑応答込みで1時間ずつの講演である…には会場内に私達をティーンエイジャーと侮るものは誰もいなくなっていた。同時に、私の講演の最後に付け加えた『knowledge of magi(マギの知識)』の活用の示唆は各国のお偉方をざわつかせた。と、同時に雪広コンツェルン・那波重工の内諾を宣言し、この講演は夢想などではなく私達は本気であると言う事をその場の皆に示した…予定では、日本帰還後、雪広コンツェルンと那波重工が共同で火星開発計画の為の組織…火星開拓準備機構の立ち上げを記者会見でぶち上げる事になっている。

その後の質疑応答…技術面や国際法上の諸問題を問われたが、それは想定質問の範囲であり、私達の覚悟を示すものになった。ただ…火星の原生物調査関係では非常に答えに窮し、開発の本格化の前に出来る限りの調査をする、と答えるしかなかったのではあるが…

 

 

 

「お疲れ様でした、千雨さん、ハカセさん。見事な講演でしたよ」

「いやーぶち上げたねぇ…予定通りだけれどもさ。私もこのあと少し加筆して麻帆良に記事送らないとね」

「さすがですわ、ハカセさん、千雨さん…それでこそ私のプロジェクトの要たる研究者にふさわしいですわよ」

と、講演後の休憩時間に口々にネギ達が誉め言葉を送ってくれる。

「まー予定通りとはいえやっちゃいましたねーコレで私達も世界が注目する科学者…モラトリアムもお終いですかー」

「そうだな…アスナが眠りについたんだ、アスナの分も私達は頑張らにゃならん」

「お二人とも…本当にスイマセン、矢面に立たせるような事をして…本当なら僕が矢面に立てればよかったのですが…」

「しゃーねーだろ?私達がこうすることで地球側の計画の立ち上がりは確実に早くなるんだから」

「そーですねー、弁舌と頭の出来という意味ではネギ先生でも良かったのですがー表の博士号が最低条件ですからねーこの学会の講演者資格ーもっとも、あなたと共に行くと決めていますし、これくらいはー」

なお、実際に講演をするには各国の宇宙開発機関(NASAとかJAXAとか)の推薦がいる。この推薦は日本の総理大臣に面会に行った時にネギが取った。

「…本当にごめんなさい、あなた達の青春を頂く事になってしまい…」

「気にすんな、ブルーマーズ計画の計画書に署名した身だ…身を粉にする覚悟はしたよ」

「それにー元々私達は科学の使徒ですからーこれくらいは屁でもありませんよー」

謝罪するネギに私と聡美はそう答えて微笑む。

「さ、いつまでも身内でくっちゃぺってないで社交の時間だ、周りに集まっている連中の相手をするぞ?」

その後、周囲に集まってきていた学者や政府高官の応対をすると共に、バンケットやエクスカーションにも出席して私達は社交に努めた。

そして、学会が終わり、クラスの連中とのインド卒業旅行に合流、日本へと帰還し…私達の中学生活は終わりを告げた。

 



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人生編
119 人生編 第1話 チサメandハカセのアトリエ


進学は規模の大きなクラス替えというのが麻帆良の常識…であるハズなのだが、麻帆良学園本校女子高等部に進学した私達元3-Aの面々の殆ど…親の意向とやらで悲しそうに聖ウルスラに進学した美空と秘書業に専念する事になった茶々丸以外…は一つのクラスに纏められていた。

考えてみればそりゃあそうである、元々問題児をまとめて収容していたに近いのに、そこに魔法バレという要素が加わったのだから…という訳で、私たちは改めて本校女子高等部1-Aとして編成された、当然担任は魔法先生である。エヴァは…ネギと私と聡美とで呪いを再解析してみた結果、麻帆良学園内のどの学校に通うかは後から追加されていた為か比較的簡単に…といってもダイオラマ球内部で1週間かかったが…書き換えられる事が判明したので一緒に進学という事になった。

尚、寮の部屋も多少シャッフルされたものの、学園長に火星開発の研究を進めるにあたって有用だからとしておいたおねだりが通って聡美と2人部屋である。え?恋人宣言しているけれどいいの?マジで?とは思ったが学園側がいいって言っているんだから良い事にしておく。

そうして始まった高校生活…も1カ月過ぎたゴールデンウイークのある日の事、スポンサー殿…委員長に聡美と二人で自宅に呼び出され、お茶をごちそうになっていた。

「さて…そろそろ本題に入りますわね、千雨さん、ハカセさん」

そう言って委員長が指を鳴らすと使用人が書類を持って現れる。

「これは…私達の先月の提出した研究成果だな?」

そこには私達が4月の内に投稿した論文と出願した特許と火星開拓準備機構へ提出した秘密研究の成果がまとめられていた。

「そのようですねー」

「ええ、そして…こちらが魔法世界に提出された貴女方の研究成果になります」

そういうと、今度は魔法世界側で発表した研究成果や特許に類するものが出てきた。

「あ、うん…ってなんでそれを委員長が!?」

「我が雪広コンツェルンの調査力を舐めないで頂きたいですわ…まあ火星開拓に協力するということで新たに拡張された情報網ではありますけれども…コレを見て何か思う事はありません?」

「イヤ…別に?」

「特には…?」

「いや、おかしいでしょう、この量!?貴女方がいくら天才でも時間的に不可能な量の成果ですわよ!?授業に出席されていることは承知していますし、残りの時間を考えたら超一流の研究者の基準でも、いつ寝ていますの?と聞くレベルですらない位に!」

そう言って委員長は机をバンッと叩いた。

「あーそーいう事ですかぁー」

「ダイオラマ球使っているからなぁ…」

「ダイオラマ球…ですの?」

そう言って委員長は首を傾げた。

「外の1時間がその中では1日になる魔法のアイテムだよ、端的にいえば竜宮城みたいなやつ」

「…なるほど、で、それをあなた方はどの程度お使いに?」

「んー用途で分けずに平均して4日分くらいかな、私は」

「私は千雨さんよりは多少短いですがー先月に限って言えば平均3日分を切る事はないかとー」

「まあ、この前のウェールズ行き前は平均6-7日分くらい使っていたからそれに比べれば少ないな」

「…一応聞いておきますが、週に、ですの?」

「…いや、日に」

雰囲気的に怒られるんだろうなーという予感をしつつ私はそう答えた。

「日に、ってそんなのあっという間にお婆ちゃんじゃないですか、使い過ぎですわ!」

「でも、私達のアトリエ…魔法使いとしての研究室、その中の城に間借りしているし…」

「そのアトリエとやらはダイオラマ球とやらの中でないといけませんの!?」

「イヤ…別にMustではないかな…」

「では、私が代わりの建物を用意して差し上げますし、機材なんかも無利子で資金をお貸しします、ですからダイオラマ球とやらの乱用はおやめになってください!」

「いや、なんで委員長がそんなこと決める権利が!?」

「アスナさんを理由に貴女達が無茶をしているからです!」

「それは…」

急に出てきたアスナの名に私は答えに窮する…なぜなら比較的過密なスケジュールの理由という意味では図星ではあるからである、無茶という自覚はないが。研究や修行自体は楽しいし。

「貴女方がアスナさんの事に責任を感じている事はわかっています、ですが私の調べた限りでは貴女方はむしろアスナさんを守ろうとしていらしたのでは?それとも、アスナさんがあなた方の事を責めた事が?」

「…ねぇよ…でも…私の責任だ、私の思いつきが切っ掛けでアスナを100年の眠りにつかせちまったんだ」

「では、千雨さん、あなたは魔法世界が完全なる世界に沈めばよかった、とそうおっしゃるので?」

「いや、そういう事じゃない。そういう事じゃない、違うんだ、委員長」

「何が違うとおっしゃるんですの、千雨さんのおっしゃっているのはそういう事にしか聞こえませんわ!」

「それでも!私は!アスナを、アスナを犠牲になんてしたくなかった!」

「あくまでもアスナさんの事はご自身に責任がある…と?」

「…全て、ではなくとも一部は、確実に…」

「でしたら、その責任を果たせばいいじゃありませんの」

「だからこうして!」

「未来を、命を削るような真似をして贖罪している、と?」

「え…あ…」

そうして気づく、傍から見ると、どう見えているのか、ということに…実際は不老不死化のあて…というか賭けるに値するだけの可能性があるので気軽に寿命を削っているだけなのだが。

「そんな事をしても、アスナさんは喜びません…むしろ100年後に再会する事をこそ願っている筈ですわ」

かといって、委員長に自分が人外化しようとしている事を白状するわけにもいかず…

「…分かったよ、乱用は控える。でも、一部の修行や実験は外でするわけにはいかないから多少は使う」

「どの程度ですの?」

「…外にアトリエを用意して貰えるならば平常時で週に2-3日程度…かな、後予算は計算してみないとわからないけれども、建物の魔法的改修費込みで9桁行くと思う」

「それでも…いえ、魔法使いは長生きするのでしたね…わかりました、ではそのように致しましょう。資金は死ぬまでに返して頂ければ結構ですので」

「いや待て、高い機材も買えるようにと吹っ掛けたけど億だぞ、億。それを気軽に…」

「貴女達にはそれだけの資金を投資するに値するだけの才能があると思っているからこそですわ」

そう言って、委員長は微笑んだ。

こうして、私は委員長のお節介でダイオラマ球の使用を制限する約束を結ばされてしまうと共に、高校生にして億単位の借金を背負う事まで決定するのであった…いやまあ、こちら側の条件がべらぼうにいいのはわかっているけれども。

 

「良かったんですかぁー?千雨さん」

委員長宅からの帰り道、聡美がそう問うて来た。

「んー?ダイオラマ球の方か?まあ、マギア・エレベアの研究と中でしかできない修行に絞ればなんとかなるだろ…アスナを理由に命を削っている様に見えるとまで言われたら無視はできねぇよ」

「それはそうですけれども…諸々の計画に影響出ません?」

「出なくはないけれども…精神取り込み型幻想空間スクロールで裏の研究の研究時間は確保するよ、表の諸々は…まあ要点だけ抑えて後は世界中から招聘されるであろう人材に期待…って所じゃないかな」

「アーやっぱりそういう抜け道考えてる…」

「…?寿命削らなきゃいいんだろ?」

「まーいいですけれどね…私は。委員長さんにバレないようにしてくださいよー?」

そんな会話をしながら私達は麻帆良へと帰還していった。

 

そして後日、学園側というか関東魔法協会の許可を取り、麻帆良内部に許される範囲で要塞化した拠点…卒業後に二人で住む事も考慮してある…を整備する事になった…委員長から借りた金で。

尚、委員長の言葉に甘えて、土地建物、当面の施設維持費込々で総額9桁の金額を費やして割と良い機材をそろえたのでネギが自身の研究用にと入り浸る事となり、委員長が悔しそうにしていた…まあ、後にネギも同じ条件で委員長から融資を受けて自身のアトリエ第一号…京都のナギから相続した奴は除く…を開設するのではあるが。

 

 

 

そんなこんなで麻帆良祭…私的な研究費に費やす為に大会荒らしと洒落込む…どころか、私達は賞金を支払う側になっていた…超が統合したまほら武道大会のせいである。とは言っても支払うのは、私たちが経営する超包子という組織であるし、五月が超から管理を引き継いでいるので私達はお手伝い…監査だとか幹部会だとかだが…なお、少しずつ飲食関連以外の部分は独立させていったりしているがまだまだ未整理である。

本年も無差別級の大会として開催されたまほら武道大会…今年は超のやったような電子的措置は行わずに単に規則としての撮影禁止とした上で意識誘導の結界を張って対処する事とし、『魔法関係者は』無詠唱で行える身体強化系のみ可とした。一部、一般生徒の気弾は野放しとする事になったが…まあ藪蛇という言葉もあるので放置である。

総合すると、『武器有りでのウルティマホラ』みたいなものだと思えばよい。つまり、私であれば、ルール上は咸卦の呪法状態までアリで鉄扇ないし木剣装備で出場となる…なお、クーは全力で戦えて、かつ事前にアデアットしておけば神珍鉄自在棍もアリである。そして本大会にはコタローと、コタローに誘われたネギとフェイトも出場し、それなりに盛り上がった…結果?当然のようにクーの優勝である。

 

 

 

「ここが千雨ちゃんとハカセの愛の巣ね!」

夏休み…完成した私達のアトリエのお披露目会をする事になり、アトリエを訪れたハルナの最初の台詞がこれである。

「マテや、ハルナ」

「え?違った?」

「ここはアトリエだよ、私達の魔法学者としての研究所!」

「それはわかっているって。でも高校卒業したら二人でここで暮らすんでしょ?」

「火星開拓準備機構のお仕事次第ですがー一応はその予定ですねー」

「ほら、やっぱり!」

そう、ハルナはドヤ顔で行った。

 

「わぁ…すごい書斎ですね…」

「こちらも書斎の様ですよ?」

ノドカと夕映が一階の向かい合わせの扉…書斎への扉を開いて言う。

「ああ、それはこっちが私の書斎で…」

「こっちが私の書斎ですよー今はまだ本棚がほとんど空からですけれどもー」

「成程、確かにお二人の場合はそれぞれに必要ですね」

 

「ここは応接室…いえ会議室でしょうか、小さな給湯室付きのようですが」

茶々丸が言った。

「ああ、主にいつもの面子で会議とか打ち合わせをする用にな、一応応接室でもある」

「おや、僕たち用かい?」

と、フェイト。

「ええーメンバーが増えても良い様に少し広めにしてありますがー」

普段は無用の長物となりかねないが、まあせっかくなので作っておいた…プロジェクターを大画面テレビの代わりとかいう使い方もできるが。

 

「2階は生活スペースだな、家具はまだ何も入れてないけれど」

「おーさすがに広いねぇ…ってアレ?この間取り…個室が3つ?」

「ええ、千雨さんの部屋とハカセさんの部屋と寝室だそうですわよ」

「…やっぱ愛の巣じゃん」

「うっせー」

「ちなみにー寝室は千雨さん設計の強力な魔法的守護が施してあって簡単なシェルターにもなるんですよー」

 

「では、いよいよ本命の研究設備ですわよ」

なぜか、委員長の先導で地下室への階段を下りていくと左右に2つずつ計4つの小部屋があった。

「おろ?この部屋と向かいの部屋は空?」

「流石に欲しい機器全部買ったら桁一つ繰り上がるからな、もっと稼げるようになるか研究費獲得して装置を追加する予定だ」

「こっちには不思議な機械があります」

「あっ、これって!」

とネギが興奮した様子でその部屋を覗き込む。そりゃあ割と高価な魔素関係の測定機器だからな。

「魔法世界の大学でも大抵はいくつかの研究室で共同所有するような機器だからな、ネギが興奮するのも無理はない」

「…これ、1台で億行くんじゃなかったかい?」

「そうだね、フェイト、維持費も年間百万位はかかる筈…でもすごい!メルディアナにも数台しかなかったのに!」

なお、恐らくその理由は価格の割に必要頻度が低いからである…エヴァが持っていたのもかなり原始的なもっと手間のかかるタイプであるし…ちなみに、麻帆良にはエヴァ所有の城に固定されてあるものを除けばこの系統の測定装置は一台しかなく、利用状態も飽和気味らしかったので買った。学園長に交渉して依頼分析を引き受ける代わりに維持費に充足する予定の報酬を貰う話も進んでいる。

もう一部屋で数百万から数千万円する機器をいくつか並べてある光景でひと騒ぎした後、研究室本体の部屋に移った。

「さあ、いよいよ大本命ですわ…千雨さんかハカセさん、よろしくお願いします」

そう、委員長に言われて魔力パターン認証の扉の鍵を開いて皆を中に入れる。

「うわぁ…メルディアナの各研究室よりもすごい設備ですよ、コレ」

「よくわからないのですが、それほどですか?」

一部の驚く組と大半の首をかしげる組に分かれ、後者の代表として刹那が問うた。

「君にはわからないかもしれないけれど、確かにこれはすごい…各機材は手堅いレベルに抑えてあるけれども大抵の魔法分野の研究はこの研究室で出来そうに思えるね…それに科学系統の機器もまじっている様だ…」

「それは私のですねー科学寄りの研究は大学でさせて頂いていますがー魔法よりの科学まじりの研究はお城のアトリエでしていましたのでー」

「まあ、大魔法使いたるエヴァの城に間借りしてたアトリエの代替だからな…がんばった、というか委員長の財力に甘えて大金借りて整備した」

「私もよくはわかりませんが、明石教授に機器のリストを見て頂いた所、特別な機器を要する一部分野を除けば大体の研究はこの部屋で出来るそうですわよ」

「そうですね、分析機器と言い、この部屋と言い、時々お借りしたいくらいですよ」

「んー?別に構わんぞ?入り浸るなら維持費と消耗品費の分担してもらうけど」

「本当ですか!是非!」

私の言葉にネギはそう言って瞳を輝かせるのであった。

 




莫大な借金を背負った千雨さん達。もっとも、特許とかで返済するあてはないわけではないというか計画が本格始動すればあっという間に返せるし、委員長側も私的なお願いと称して割のいい研究やらなんやらの仕事を割り振って無理せずに借金返済してもらうつもりだった。


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120 人生編 第2話 国際太陽系開発機構設立

季節は移ろい時は過ぎ…と言うにはあまり時間は経過していない、高校二年の夏休み。私達は数多の研究業績を打ち立て、その成果をもっていよいよ軌道エレベータ開発計画は実施段階に入り、火星開拓準備機構は新たに立ち上げられる国際太陽系開発機構の一部として発展的解消する事になった。国際太陽系開発機構の事務局長にはネギが就任し、フェイトは顧問となり、コタローは警備部門の部門長、私は麻帆良に設けられた機構の研究所の一つを預かる所長兼主幹研究員などという立場を貰った。最初は機構全体の研究部門の統括をさせられそうになったのであるが、実働がいいと高校生という立場を盾に断った…のに、結局は管理職である。

なお、聡美は私の下で主席研究員という立場をしている…正直羨ましいが、高校卒業後の人事予定を考えるとそうでもない。高校生じゃなくなったらいいんだね、というフェイトの言により、高校を卒業したら私が機構の研究局局長、聡美が麻帆良研究所所長へと繰り上がる予定(公表済み)だからである…この人事に支障がない様にと現在はネギが研究局局長代理を併任していてかなり忙しそうである。

 

「以上、短いですが私の挨拶とさせてもらいます。若輩者ではありますが皆様の期待に応えられるように全力を尽くすと共に、研究部門の皆さまの機構と科学への貢献に期待します」

そーいう立場上機構の立ち上げ式典の場で演説をする羽目になり、ネギに続いて短く演説を行い、私はそういう言葉で演説を締めた。そして、こーいう立場にティーンエイジャーがいることにも慣れ始めた面々からの拍手を受ける。まあ、実態としてはネギよりかはましなのだが、ネギはこちら側の世界では大人モードで通しているので青年という感じである為、私よりはマシとみられている。

「長谷川博士、ありがとうございました。それでは次に…」

と式典は続いていく…

 

「あー疲れた」

「お疲れ様です、千雨さん」

式典、それに続く理事国の首脳を交えての晩餐会などを済ませて帰って来たホテルの部屋で聡美に迎えられる。聡美は式典には主要構成員として会場側に列席はしていたが参加しているだけのモブ役だったし、晩餐会は構成員向けの立食パーティーの方だったのであまり疲れは見えない。

「しかし…遂に始まりましたねー火星開拓準備機構改め国際太陽系開発機構」

「そうだなぁ…あの夏休み前はこんな地位に就くハメになるなんて考えもしていなかったよ」

「そうですねー本来、経歴的には足りていませんがー諸々の事情を考えると仕方ないですよねー」

諸々の事情…ブルーマーズ計画の実質発案者枠という奴である。

「ま、ネギが事務局長はやってくれているから本当の意味での矢面には立たなくて済むけどな…まったく…超のせいだぞ」

「フフ…そうですねー超さんの未来情報が鍵でしたねー案外、超さん千雨さんを巻き込むために未来から来たのではー?」

「発案者じゃなくてもネギからスカウトはされていただろうし、ネギがいつかは思いついていたはずさ、超の事がなくたってな」

「でもーそういう経緯でしたら一研究員以上…受けたとしても主任研究員か主席研究員クラスまででしょう?」

「…そうだな、多分そうなっていたと思う…はぁ…超にはめられたのか?私は」

「そうだと面白いですねー」

とは言え、そこまで細かい情報が残っているとも思えないし、魔法世界が解決策を持っておらずに困っていた事を知らずにラカンのおっさん相手に地雷ふみ抜いたのは私の責任である。

「さて、千雨さんは明日も記者会見場にいないといけないんですから早く休みましょう」

「…そーだな」

そうして、私達は正装を脱ぎ、身支度を整えて就寝するのであった。

 

疲れた、本当に疲れる記者会見だった…真面目な技術的質問であればいくらでも答えるのであるが、

「長谷川博士の年齢が若すぎるという意見も」

「高校生という立場での要職就任に対して疑問も」

「スプリングフィールド事務局長や雪広あやか嬢とのコネ人事であるという見方が」

…などという類の質問が混じってきたせいである。無論、想定はしていたし、内心一部同意するし、この短期間で上げた業績を盾に乗り切りはしたが、そーいう質問をしつこくされると私としては非常にイライラする…それを隠す術くらいは事前に訓練してありはするが。

「その、千雨さん…マスコミの変な質問はお気になさらず」

「…わかっている…わかっているんだけれども…」

記者会見を終えて緊張を解いた私の様子にネギが気付いてそう声をかけてきた程度には腹を立てていたようである。

 

 

 

「で、あるからして…」

夏休みも明け、高等部の授業中…私は半覚醒状態で力の王笏にダイブし、所長業としての書類決済を行っていた…よろしくはないが、まあ内職という奴である。

「…長谷川君、この文を訳しなさい」

「はい」

そう答えて私は黒板に書かれた英文を日本語に訳して読み上げた。

「よろしい、では…」

この先生、唐突にあててくるので気が抜けない…まあ、意識の半分で授業もきちんと聞いているので急にあてられても問題はないのではあるが…主観としては2画面PCの片方で授業を聞きつつノートを取りながらもう片方の画面で書類仕事をしている感じである。

 

「千雨ちゃーん、ハカセーこの前の取材の記事なんだけれどこんな感じで仕上がったよ」

昼休み、聡美と昼食をとっていると朝倉が記事の下刷りを持ってやってきた。

「どれどれ…世界に羽ばたく若き麻帆良の賢者達…まあムズ痒いタイトルだな」

「超りんがいた頃は三賢者が定番の呼び名だったんだしこれくらいは、ね?」

「ん…まあいいさ」

と、記事を読み進めていく…そこには夏休みの終わり頃、所長業も何となく慣れてきた頃に私、聡美、ネギの三人で受けたインタビュー記事が書かれていた。

「うん、問題ないと思うぞ」

「そーですねー特に問題ないかとー」

「ん、了解、じゃあ茶々丸に送ってネギ君に確認取って貰ったら掲載できるね」

そう言って朝倉はノートPCを取り出してカタカタとメールを打ち始めた。

「そーいや千雨ちゃん、最近サブノートを弄ってないけれども、どうしたの?」

「いちおー所長業で機密度高い情報も扱うようになったから力の王笏使っているんだよ」

「へー…もしかして今も?」

「おう、メール対応と重要度の低い書類の決裁だけれども今もやっているぞ、電子精霊たちを秘書にして…表向きというか電話対応とか用に茶々丸ダッシュ型を一人秘書に置いているけれどもな…ってそれは知っていたか」

「私もその手…半覚醒状態でのダイブが使えれば仕事効率はいいんですけれどもねー」

「まあ、聡美が所長就任するまでには所長室にも時間加速機能付幻想空間ダイブ型PC用意しとくからそれで我慢してくれ」

現在も自室には力の王笏なしでも加速空間で事務仕事や論文読みができるようにそー言うPCを据え付けているが、私と聡美の分、それぞれを。

「うわぁ…ワーカーホリック…に見えるけれども、自分の研究時間の確保の為だよね?ソレ」

「「もちろん」です」

当然である。なお、機構の科学者に魔法バレした後に同様の動機から加速空間へのダイブ機能付きのPCが流行り、勤務時間の評定に私達幹部や総務部門の人々が頭を抱える羽目になるのは後の話…あ?私?いいんだよ、役員クラスの管理職だから。

 

魔力の存在の公表…少なくとも、科学界・産業界に対してこれを行う事は決定事項となっていた。なぜならば、私達が作った構造材、魔法的処理または科学的に再現した代替処理…どー考えても魔法使いの数が足りないと言う事になったので頑張った…なしには作れないからである…魔力の存在を前提としなければ無駄にしか思えないというか意図不明の工程を強制して世界中で構造材を量産しなければならない。

しかしそれは魔法その物の公開を意味しないし、現状では意見が一致していないので魔法自体の早期公開は難しいというべきだろう…それはまだいい、私達の科学・魔法統合の基礎研究は魔力の存在さえ認めてしまえば頒布出来るように既に抜粋・編集済みであるからである、車輪の再発明に近しい無駄な研究がなされる可能性があるにせよ。

だが、私の描いた非公開のタイムスケジュールはもっとディープな研究…科学と魔法の融合が10年内に広く実施され始める事を前提としてひかれている。まあ別に魔力の存在を広く認めるだけでも火星緑化は間に合うっちゃあ間に合うのであるがイージーモードにする手があるのにわざわざハードモード…とは言わないがノーマルモードでやる意味が感じられないし、アスナの覚醒時期にもかかわってくる。加えて、軌道エレベータ・宇宙開発に関する研究を主として進めざるを得ない私達が研究しきれない民生分野の研究を推し進める事の利益は莫大である…と言うのが私と聡美の意見であり、ネギは私達の意見に概ね賛同、フェイトはそう言った利益は認めるが各種混乱を危惧して中立、コタローは難しい事はよーわからんが世の中便利になるなら嬉しいわーと一応賛成である。

魔法世界としてはマギステル・マギ勢は大っぴらに魔法を使えるようになればできることが広がるという意見が大勢、一部治安の不安定化を危惧する意見がある程度である。各国魔法協会はというと国ごとの事情もあってバラバラである…が、日本を含めた先進国の魔法協会はおおむね魔法公開に好意的な国が多い。が、本国、メガロメセンブリアでは意見が真っ二つ…両国ともに魔法公開派と秘匿派が1/3ずつに中立派が1/3くらいらしい。その内訳はまあ各派多様性にあふれていて、ぐっちゃぐちゃで酷い事になっている…とネギから聞いた。また、ヘラス帝国は反対派、アリアドネーは賛成派である。

一方、現実世界側の各国政府や財閥は諸々の思惑から魔力の存在肯定だけ行い、十分に期間を置いてから魔法を公開してはという意見が過半を占めており…一般公開はもう少し秘密裏に研究を進めて体制側の優位を確保してからの方が良い、というのが本音ではないかと思われる。

こういった意見を総合し、出た結論は魔法公開については引き続き慎重に検討を進めつつ、魔力の存在を肯定し、広く研究を進めると言った具合になった。

 

ので、言質だけ取った後、さっそく私達は各国魔法協会、各国首脳部、協力関係にある財閥に原本である科学的魔法解析概論を一方的に配布しチウの部屋のマホネット側で公開、マナの科学と題した抜粋版とそれを基にした計45コマ分の講義・実験動画…ネギと共謀してダイオラマ球を乱用して事前に準備しておいた…を半ば独断専行気味に一般公開した。秘匿技術の公開と称してなされたソレは当然ひどく物議をかもしたし、一部ではジョーク動画だと思われもしたが次第に科学界・産業界には浸透していった。しれっと魔力貯蔵(魔力缶の技術)と構造材製造方法を含めた幾つかの国際特許を出願してあるのは、まあ単なる魔法の解析ではなく、独自技術だし許してほしい、借金を返さにゃならん事だし。

 




しっかりと基幹技術を抑えている千雨さんとハカセ。真っ当な利益とるだけで借金返済どころか億万長者…で済むのかな?ってレベルです、軌道エレベータ建造分はパテント代とる気はないので技術転用分だけですのでそこまでですが、それでも大儲け確実です。利益は独自研究の研究費と投資(国際太陽系開発機構への参画企業群の株と超包子)に当てられます。
尚、位打ち気味にお偉方になる事になった千雨さん達ですが、割とすんなり順応したりします。
そして、『魔法自体は秘匿しつつも、各種魔法解析由来の技術を実施するために必要な措置をとってよい』と言質を取った千雨さん達は派手な手段に出ました。各国はもっと穏当に時間をかけて広めていくと思っていたらしい。


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121 人生編 第3話 それぞれの道へ

若干査問的なものはあったが時はさらに流れ、高校卒業を間近に控えたある日、PC内部の幻想空間内で私とネギは二人きりでいた。

「アー嫌だ、研究局局長とかやりたくねー」

「千雨さん、今更そんなことおっしゃらずに…僕と千雨さんのスケジュール的に今日中に引継ぎ済ませないと余計にめんどうくさいですよ」

と、まあ、こーいうシュチュエーションである。

「ったく…一年以上前から決められていた事とはいえ、フェイトの奴め…私をこんな目に遭わせやがって」

「本来、千雨さんとハカセさんには実働部隊で研究に専念して頂きたかったんですが、魔法について熟知している科学系人材が不足しているので…スイマセン」

「わかっているよ、だが、この加速幻想空間とエヴァから借りているダイオラマ球が無かったらスト起こしている所だ」

加速空間のおかげで、事務仕事にかかる時間を圧縮して表向きの研究もできるし、またダイオラマ球のおかげで空いた時間で修行やマギア・エレベア関連の研究ができる…委員長との約束で乱用こそしていないがダイオラマ球で過ごす時間は私の癒しの時間である。

尚、城にあった私達のアトリエは別荘塔に移され、その別荘塔のダイオラマ球を私達はエヴァから借りている。

「しっかし…苦労はしているけれども割と順調と言っていいのかね、計画の方は」

「そうですね、火星の環境調査チームも順調ですし、前期計画の準備も万端…軌道エレベータ計画も順調と言っていいでしょう…問題は始まりの魔法使いの件ですが」

「それがあるなぁ…始まりの魔法使いの存在は討伐迄隠したい所だよなぁ…宇宙艦隊建造とかの理由付けは別途考えなきゃならんけれども」

「やはり千雨さんは始まりの魔法使いの本拠地を小惑星帯と読みますか?」

「ああ、対抗候補としてはな、本命は火星かその衛星だろうけれど…万一、宇宙艦隊が必要となった時にいきなり湧いてはこねぇから早めに用意しておきたいって言うのが正直な所だな」

「一応、連合と帝国双方で応急的な宇宙艦隊は数年内に編成完了予定ですが…本格的な宇宙艦隊建造まではもうしばらく時間が必要かと」

「わかっているよ…さ、現実逃避の世間話はこれくらいにして引き継ぎの続きやるぞ」

「はい、千雨さん」

こうして、私は嫌々ながらも局長職への引継ぎ作業を進めるのであった…普段の勤務地は機構の主要研究所である麻帆良研究所内であるのが救いではある。

 

 

 

「…こんなもんだな」

「了解ですー」

別の日、今度は所長職に関する引継ぎを聡美に行っていた。

「いよいよ私が所長ですかーまあ仕方がない事とはいえ自身の研究の時間が削られるのは困りますよねー」

「そうだな、まあ新型というかアップデートで幻想空間の加速限界上げといたからそれで勘弁してくれ」

「現状、千雨さんの特注品で最大3倍でしたよねー?」

「ああ、3.5倍に伸ばせたよ、まだまだ完全魔法技術の精神取り込み型スクロールの方が加速倍率は高いけれどもあっちは書類処理には向かないからな」

「記憶しか持ち込み・持ち出しできませんからねー思索や理論研究には便利なんですけれどもー」

とは言っても、毎晩のように魔法の理論研究用に使用しているが、精神取り込み型スクロール。

「それよりもー千雨さんは研究時間確保できそうなんですかー?」

「正直、自分で手を動かす時間は加速空間使ってできるシミュレーション・人工知能関係以外は難しいだろうな…特に会議が多い時期は。ダイオラマ球とスクロール使う時間は捻出できるにせよ、予定通りせっかく編成した自分の研究チームも独立させる事になるし…まあ、その代わりに機構の全研究を閲覧・助言できるから精々助言をできる所はどんどんしていくさ」

「でしたらー私のチームと共同で研究しますかぁー?」

「いや、あんまり特定のチームと親しくすると統治上問題があるし止めておくよ…聡美のチームは成果的に大分優遇する事になるだろうから余計にな…人工知能関係で確実に共同研究はするんだからそんな顔するなって」

少しむくれた顔をする聡美に思わずそう付け加えていた。

「うーせっかく同じ職場で働けるのにーあんまり一緒に研究できないなんて拷問ですよー」

「個人的な研究は一緒にするんだから、仕事は別々に成果を上げようぜ、な?」

「はーい…」

そう答える聡美は一応納得はしている様であるがやはり残念そうである。

 

 

 

「と、いう感じでお願いしますね、皆さん、それぞれの道があるでしょうし、飲食部門の実務の方はお料理研究会の方々にお任せしてありますので」

「おう、了解」

「任されましたー」

「了解アル」

と、今度はフランスと中国とトルコに1年ずつ留学する五月から私、聡美、クーへの引継ぎである。

「とはいってもー私達は主に定例幹部会と時々利用しての味確認くらいしかできませんがーみんなで学園祭に屋台を出していたころが懐かしいですー」

「そうだな…まあ、監査関係は任せとけ、後…まほら武道会の運営関係」

「私も精一杯頑張るアル」

飲食関係事業以外殆どの事業を独立させた超包子ではあるが、色々と検討した結果、まほら武道会運営事業は残す事にしたのである。

「結局、この面子で大学進学するのはクーさんだけという事になりましたねー」

「だな、無茶苦茶意外な結末ではあるが」

「そうですね、私は元々高校を卒業したら料理修行に留学する事は決めていましたが」

「でも、ハカセと千雨は実質飛び級?したようなものじゃないアル?」

「まーなー学位という意味では博士号取っているからな…就職先では酷い出世させられているけど」

「出世するのは良い事ではないアルか?」

「世の中、適度というものがありましてねー」

などと、引継ぎ完了後、五月の作ってくれた料理を堪能しつつ歓談するのであった。

 

 

 

「それでは、3-Aの解散パーティーの開会を宣言いたしますわ!」

各々の日程の都合で卒業旅行不参加の面子も割といる為に解散パーティーを実施する事になった。ネギ、茶々丸、美空も呼んで。

「ふふ…コレで6年間のA組ともお別れですね」

卒業旅行不参加の筆頭、アリアドネー留学を決めた夕映が賑やかな皆を眺めて言う。

「そうだね、ユエ…寂しくなるよ」

そう答えるのは意外な事に麻帆良大学工学部への進学を決めたノドカであった…将来は国際太陽系開発機構で技術開発をしたいらしい。その夢がかなった暁には間接的に私の部下になる事だろう。

「ええ、私も寂しいです…ですが魔法について深く学ぶ事も大切ですから」

「がんばろうね、ユエちゃん」

そう口を挟んだのは同じく魔法世界への留学を決めた亜子であった。

「ええ、亜子さん…アリアドネーでもよろしくです」

この二人は、ゲートの都合上、卒業式の日には麻帆良を発つ予定である。

 

「お招きいただき、ありがとうございます、委員長さん」

「いいえ、こちらこそお忙しい中、御出席いただいてありがとうございます、ネギ先生」

「ネギ先生の息抜きにもなると考えて日程調整させて頂きました」

「いやーほんとありがとうね、委員長、ウルスラの連中お堅いのなんの…本当息が詰まるよ」

という会話をしているネギ、あやか、茶々丸に美空である。

 

「いやーついにこの面々ともお別れかぁ…まあ本来は3年前に解散していたはずだからそう思えばいい時間だったね」

「せやなーホンマに楽しかったわーなー?せっちゃん」

「ええ、楽しい時間でしたね、このちゃん」

ハルナと木乃香と刹那…なお、木乃香は医学部に、刹那は看護学部にそれぞれ合格している。

将来はメガロメセンブリア発行資格の方であるが、マギステル・マギ資格を取得して活動予定との事である。

 

「色々とありましたが、このクラスで良かったですねー千雨さん」

「ああ…本当にそうだな」

本当に…本当にこのクラスで良かったと私は思っている。このクラスであったからこそ、今の私はいると言っても過言ではなかろう。

 

 

 

「アーいよいよ私、所長になっちゃうんですねー」

「…言うな、私も明日から局長だとか考えたくない」

がんばって時間を捻出した卒業旅行からも帰り、アトリエ2階に引っ越した私達は同棲生活を始めていた…まあ寮で6年間同室ではあり続けていたのだが。

「研究チームを率いての研究とはまた違ったお仕事ですし…正直不安です」

「そうだな、管理業務とか色々入ってくるからな…私もできる限りはサポートするよ」

「千雨さんだって局長職、大変そうですけど大丈夫なんですかー?」

「…正直、胃は痛いが、何とかして見せるさ」

そう言って、私は聡美を抱き寄せる。

「さ、もう寝よう」

「ハイ…おやすみなさい、千雨さん」

「おやすみ、聡美」

そうして、私達は明日からの更なる重責に不安を覚えながらも眠りにつくのであった。

 



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122 人生編 第4話 政治的闘争と闇の魔法

マナの科学事件と世の中に呼び習わされる魔力の存在肯定とその性質についての情報拡散以降、動画で講師役を務めた私達(私、聡美、ネギ)はマナ科学と呼ばれ始めている学問の第一人者という事になっている。科学と魔法というそれぞれの土台こそあれど、橋をかけたのは私と聡美でネギは天才的理解力によってそれを吸収しきった一番弟子であるから事実ではある。のだが、マナの発見自体は常に断言しているように私達自身の功績ではないのに一部で私達の功績にしようとする動き…一応マナ自体を長年存在が秘匿されていた特殊な力と定義して紹介している…もウザいし、遠慮なくフルパワーで研究できるようにとっとと魔法を解禁したいのであるが政治的な理由がそれを許さない…後の事をガン無視すれば魔力の存在が十分に浸透しきった時点でインターネットで超のやったのと同じ手を打てなくもないのだが、まあやめておく。

という事で、私は実質各国の秘密会議の場として活用されている3か月に一度の理事会の場で機構の理事国の代表と共に魔法公開に向けて政治闘争を繰り広げていた。

「長谷川博士の言い分はもっともだと我が国は考える。即時とは言わないが、習得法はともかく早期に魔法の存在自体は公表すべきではないだろうか」

と、日本代表。私や聡美という天才、雪広コンツェルン、那波重工と言うプロジェクト参画財閥、それに関西呪術協会や関東魔法協会と言う有力な魔法組織を抱える日本としては魔法の早期公開が国益に資すと考えており、国家の中では魔法公開派の最先鋒である。

「我が国としても、制限なしに魔法技術を科学的に研究する事は人類の発展に資すると考えている」

そう続いたのは英国代表…彼らもネギという天才やネギの出身国という事で多めに勧誘された企業群、それに英国連邦各地に点在する魔法校の存在から日本と同程度に積極的である。それにもう少し消極的な感じではあるがアメリカ、ドイツ、アリアドネーなどが続く。

「我々としては、そう言った利点は認めるものの、治安維持上の必要から一般公開前に軍事力・警察力などの対応力育成の為に時間を頂きたいと考えている」

これはロシア、これに中国や新興国や途上国の代表が賛成する…まあいい分としてはもっともであるし、コレも公開自体にはむしろ賛成…国によって異なるが10-30年程度の猶予期間を設けて公開という意見である。では私は誰相手に政治闘争をしているのかというと、残り2名である。

「我々としては火星緑化が安定的に実現される事自体は歓迎したいが、古い盟約やら今までの政治的経緯などを考えると魔法の一般存在公開は慎重にして頂きたい」

とは、メガロメセンブリアの代表…まーメガロメセンブリアは頭の中が鎖国的な思想であるし、本国の政治バランスがぐちゃぐちゃになっていることは聞いている…むしろメガロメセンブリア国内の公開派への援護射撃としてこの議題である。

「魔力の公開で火星緑化は十分に達成できると思われる。魔法の存在や我々の存在を一般に公開する事は不要ではないだろうか」

で、コレはヘラス帝国代表…まーほぼ唯一の完全反対派である…ネギ情報ではヒューマンと亜人の勢力比が完全に圧倒される形になるから公式に2つの世界を繋ぎたくない、というのが主な反対理由の様である。

「皆様の意見はわかりました。そこで提案…と言いますがまずは現状の追認なのですが、よろしいでしょうか」

そう発言したのは議長を務めているネギ。

「まずはマナ科学について、長谷川博士と葉加瀬博士がお送りした『科学的魔法解析概論』を基に各国や魔法協会、各財閥が非公開で研究開発を行う権利の確認をしたいと思いますが反対の方はおられますか?」

場内の皆が沈黙で答える。

「反対なしと認めます。では各国が魔法協会と共同して、あるいは独力で魔法使い並びに魔法学者の増強・育成を行う権利に関してはどうでしょうか?」

これには魔法協会を持たない国家から配慮を求める声が上がった。

「では、国家間でそう言った人材育成の支援…留学や教育支援を認めるという条件を付ければどうでしょうか、無論独自に魔法使いを顧問等として雇う事も認めます。当然秘密裏に、という事になりますが」

今度は反対の声が上がらない。

「反対なしと認めます。では、我々…国際太陽系開発機構に同様の権利…所属研究者を魔法学者として教育し、『科学的魔法解析概論』を基にして研究を行う事、機構所属者に魔法教育等を含めた教育を施し、警備部門を含めた機構全体を魔法対応型に再編成する事に反対の方は?無論、守秘義務は付与します」

こういうやり方をされれば、反対するのは難しく…まあ議場は沈黙で答えた。

「反対なしと認めます。これでよろしいでしょうか、長谷川博士」

そう、ネギが私に話を振る。

「…あと2点、いや3点提案があります。第一に魔法公開については各国に持ち帰って頂き、一般公開の可能性がある物として対応を行う事…つまり仮に一般公開が決定された際には猶予期間決定には本日から一定の準備・検討を行っていたものと認識して行って頂きたい」

「フム…長谷川博士の提案はもっともかと思われますが、各国事情があるかと思いますので次回以降の定例理事会で継続審議という事でよろしいでしょうか」

「お待ちいただきたい、帝国代表としては魔法の一般公開を前提とした議論には慎重になるべきと申し上げたい」

と、ヘラス帝国代表が反対意見を出す。

「慎重論はあれど魔法の一般公開自体は常に提案され続けている事です。長谷川博士の提案は各国にはそう言った議論がある事を念頭に行動して欲しいというものにすぎないと考えますが」

そう援護射撃を飛ばしてくれたのは日本代表である。

「…では、『各国は魔法公開に関する議論が存在する事を常に念頭に置いて行動するべきである』旨を理事会として勧告していただく事は可能でしょうか」

それに乗って若干妥協的な文面を提案する。

「どうでしょうか…特にご意見は…無いようですので決議に移ります…賛成多数と認めます」

決議結果はヘラス帝国が棄権した以外は賛成であった。

「ありがとうございます、では二点目ですが…学会のような物を創設できないでしょうか」

「学会…ですか?」

「ええ、機構の研究成果は参加国全てに公開される事にはなっていますが、逆に各財閥や各国の研究成果を機構や他国に発表する場がないので、現在、魔法協会間で行われている学会や学会誌の様にそう言った場を整えたいのです。無論、発表は任意で行う事とします」

「フム…同盟国間での技術協力や共同研究は当然皆様行っているかとは思いますが…どうでしょうか、私としては重複研究を避け、研究効率を上げる為にも好ましい事かと思いますが。御意見を募ります」

「提案自体は好ましいと考える、だが学会運営を行えるだけの人材が不足しているのではないだろうか」

そんな意見が出て、その後も同様の意見が相次いだ。

「ならば僕が理事長をやろう。ただし、長谷川博士にも理事としてご参加いただくことが条件だ」

顧問席からフェイトがそう発言した。

「…あくまで準備委員会の委員兼理事選挙候補者としてであれば参加に同意します、理事は会員の互選によるべきものと考えますので」

私は、背に腹は代えられないとまた一層と忙しくなる道を選んだ。

「では、そのように…議長、どうだろう」

「ええ、ではその方向で。以上の通り、事務局として学会立ち上げの準備委員会の人事案を作成し、次回理事会の議案としたく思いますが反対の方はおられますか…反対なしと認めます」

「では最後に…特許制度についてご検討をお願いしたい。特許の性質上、本来は広く公開されるモノではありますが公開先を魔法公開の範囲と連動させた特許制度を創設できないモノでしょうか」

「…長谷川博士、それは君の個人的利益追求の為の提案ではないのかね?魔力公開の際に基幹技術を広く抑えたのは聞いているよ」

と、某国代表が言う。

「いいえ、先の学会整備と合わせまして研究内容公開のインセンティブ確保の為です、私自身が個人的研究を出願しないとは申しませんが」

「…であれば、一定期間…数年程度、長谷川博士、葉加瀬博士、スプリングフィールド事務局長、アーウェルンクス顧問の4名の該当制度への出願を禁ずる方向で規制をかけることを提案したい」

「付帯決議としてその様にされたいのであれば、私に関しては同意します」

「僕もそれで構わないよ」

「フム…私は構いませんが…問題は葉加瀬博士ですね。では本件も重要事項という事で各国にお持ち帰りいただき、次回の議題としましょうか。その際、付帯決議に関する議論も行う事にしましょう。葉加瀬博士の意志に関してはそれまでに事務局で確認しておきます…よろしいですね?反対なしと認めます」

「ありがとうございます、私からの提案は以上になります」

「では、次に…」

まだまだ理事会は続く…が、私が積極的に発言するパートはお終いである。

 

 

 

「…遂にここまで来ましたねー」

「ついに来たなぁ…」

力の王笏の中、私達はそう言葉を交わす。ついに、シグヌム・エレベア・トリニタスが進化する時がやってきた…3,4年位前にも大規模改修をやったが今回は完全進化である。

咸卦法を完全に習得し、研鑽を積み続けた私は咸卦法とマギア・エレベアの合成に取り組み、補助呪紋の設計に成功、咸卦法とマギア・エレベアを足せるようになったのだ。

コレで私も不老不死かと言うと、そうとも言えるし、そうとも言えない。効果期間中は一時的な不老不死状態になれるが、初期の再生力は精々ディライトウォーカー…上位吸血鬼クラス、真祖クラスには届かない。完全に馴染んだらネギよりも高位の存在になれるが、素の状態で。そこから咸卦法とマギア・エレベアの強化が同時に乗ってくる。

「あとは実際に刻んで使って馴染ませていくだけですかー」

「そうだな…マギア・エレベア・トリニタスが完全に心身と魂魄になじんだら…めでたく本物の不老不死の化け物だな」

「…で、馴染むというのはネギ先生が『呑まれた』状態を指すわけですね」

「ああ、使えば使うほど馴染んでいくしネギの治療…と称したアレの様に暴走させて早める事もできるな」

「でー大体どれくらいかかるんです?馴染みきるまで」

「出力によるけれども、時々侵食具合に合わせて呪紋を調整しつつ累積使用時間で20-30年位かな…暴走とかしなかったら。もっと短くもできるけれど、これくらい時間をかけた方が確実だな」

尚、補助呪紋にはあらかじめこれだけ時間をかけて馴染ませる為の侵食遅延が組み込まれている。

「使い続けても早くて30代後半ですかー」

「うん、だから一日一時間はダイオラマ球に潜ってマギア・エレベア・トリニタス状態で過ごす」

「あーずるいですー私も研究時間欲しいのにー本契約で老いにくくなっていますしー私もご一緒しますー」

「毎日はさすがに止めておいた方が良いと思うぞ?聡美の方の不老不死化研究、まだ理論段階なんだし…さすがに本契約でも私の魔力程度では老化速度半減までは効果ないぞ」

正直、自身の不老不死化研究が実質終わりを告げた今となっては私がダイオラマ球に潜ってする事は主に修行と聡美の為の不老不死化研究であるので当人がいるのは悪い事ではないのだが…毎日は心配である。

「…でしたら週3時間分…現行プラス1時間で」

「…それくらいならまあ…」

「ではそのようにー早速明日刻み変えですね」

そうして翌日、私はマギア・エレベア・トリニタスの紋を体に刻み、不老不死の扉に手をかけた。

 




 本作では千雨さんというチート人材が魔法公開に向けてその政治力を全力ブッパしてきます。まあ、各国思惑があって表立っては反対しないモノの特に西側諸国は公開を遅らせたい…できるだけ体制側だけの技術としておきたいと思っているし、千雨さんの政治力はさほど大きくないのですが。それよりもネギ君が機構の研究へ関与する必要性が低くなり(しないとは言ってない)、政治力を十全に振るえることが利点。ヘラス帝国?テオ様が帝国内で暗躍中の為、それが進めば反対度合いがトーンダウンしてきます。
 なお、千雨さんの思惑としては、知識人階級に対して魔法知識を広めることで科学界・産業界に対して魔法の秘匿を有名無実化することが今回の狙いでその第一歩として機構の科学者に魔法バレをする正当性が欲しかった。そしてネギ君の発言もほぼ千雨さんと打ち合わせ済みでどーせお前らやっているだろうという体を取りつつ各国に研究開発競争と人材育成競争を煽る為のものでもある。
 闇の魔法の方は、現時点ですでにエヴァンジェリン越えの化け物爆誕ルート(なお、経験と才能の差で確実に勝てるとは言えない模様。委員長との約束?『寿命を削らなくなったからOK』という千雨さん理論。一日一時間ではなく、一日一時間『は』である事に留意。


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123 人生編 第5話 魔法拡散計画2007

局長就任早々の理事会で機構内の科学者相手に『科学的魔法解析概論』と魔法の存在を拡散して良いと許可を取った後、私、聡美、ネギ、茶々丸、コタロー、フェイトは組織再編と魔法教育についての相談をしていた。

「とりあえず、研究者連中相手に『科学的魔法解析概論』を配布するのは確定として、後はどうする?」

「警備部としては、俺達レベルとまでは無理にせよ魔法騎士団員クラスには育てたいなぁ」

「それは厳しいだろうね、魔法戦闘にソコソコ才能がある人物を選抜して編成しているからこそ、魔法騎士団は魔法騎士団としての強さを誇るのだから…魔法科学融合武装で武装させれば話は別だが機構の研究開発力をそちらに回す余力も武装生産の予算も今は手が回らないよ…でも、ハカセ君の強化服だったか、アレを安価に量産できるなら生存性と身体能力補助の面で悪くはないと思う」

「あーアレは超さんの未来技術の流用が入っていますので直接量産は勘弁いただきたいですねー今度、宇宙服やパワードスーツの研究をしているグループに助言しておきますのでその技術を基に警備部員用の制服を開発しましょう」

「ふむ…ではその方向で開発してみようか」

「せやったら俺らや魔法協会からの出向人員が動きやすいように再配置して、銃を装備できる国に配属されている連中に対障壁弾の配布、あと選抜人員に魔法戦闘の訓練…位やな、当分は…よっしゃ、早速、魔力や気の才能あるやつ探さなあかんな…予算がつくんならいずれ宇宙艦隊とかも作りたいけどな」

そう、コタローが嬉しそうに言う。

「いずれはコルベットやフリゲートクラス中心とした警備艦隊は自前で持ちたいけれど大分先の話だな」

「話がそれましたがー魔法教育と言ってもー正規教育で一人前の魔法使いになるのに7年かかるんですよねー?私は変則的な習得をしていますけれどもー」

「アレは一般教育込みだし、研究者としては『科学的魔法解析概論』に加えて各自関連分野の魔法理論を習得してもらった方が良くないか?魔法学者になって欲しいんであって、魔法使いになってもらう必要はないんだし」

「それもそうですね、でしたら魔法概論的なテキストを作成して魔法の研究分野を紹介、その後各々の研究に役立ちそうな分野を勉強して頂くと言う事で…一時的に研究速度は落ちますが最終的にはその方が良いはずです」

「じゃあ、その辺りは僕が担当しよう…どうせ学会関係でそう言ったテキストは作った方が便利だからね。機構外にもテキストを販売して学会の資金にしたい所だね」

と、早速理事長に就任予定の学会の利益を考えるフェイトである。

「各分野の初学者向けのテキストも魔法協会に連絡して入手・翻訳したいね、茶々丸さん、手配をお願いできますか?」

「了解しました、近衛学園長に依頼を出しておきますね」

「それと、軽くネギに演説頼めないかな、魔法の存在を機構内に知らしめる意味でも」

「まあ事務局長としてやるべき事ではありますけれども…千雨さんとコタロー君も自分の部署宛てのメッセージは出してくださいよ?」

「わかっているって」

「了解や」

といった方針になり、詳細を詰めつつ、最終的には何時もの情報交換会になった。

 

 

 

「諸君、本日は皆に重大な発表がある。この発表は理事会の決定に基づくもので諸君らが所属時にサインした秘密保持契約の対象となる事を再確認しておく」

その日、機構内ネットワークのみで閲覧できる事務局長講話としてネギの短い演説が公開され、私は各研究所を繋げた集会でそれを視聴していた。

「機構に所属する者であれば皆知っているだろうが、1年半前に公開された『マナの科学』という文書がある。実はこれはある文書から抜粋したもので、底本となった文書のタイトルは『科学的魔法解析概論』という…つまり、魔法と呼ばれる技術を科学的に解析した結果を記したものだ。言い換えればこの世の中には魔法が存在する…それを見せよう」

そう言って画面の中のネギは無詠唱で火よ灯れを行使し、指先に火を灯した。

「この魔法は最初等魔法であり、手品ではないかと疑う者もいるかもしれないが事実、魔法である。最上級攻撃魔法の中には地形を変化させるほど強力な物も存在するが、この場で見せるには強力すぎる故に割愛する。話を戻そう…我々国際太陽系開発機構は宇宙開発の為に組織されたが、その手段として魔法技術を活用する事を前提とされていた。今日までその事は秘されていたが、理事会は遂に諸君らに対し魔法の存在を公開することに同意した。よってここに私、ネギ・スプリングフィールドは諸君らに魔法の存在を知らしめると共に、魔法技術を活用して諸君らがより一層、人類の為に貢献してくれることを期待するものである」

ネギがそう述べると動画は終了した。

「さて諸君、本日の集会の目的は今し方視聴してもらった事務局長の講話の通りである。しかしながら実際に研究開発にあたる研究局所属の諸君らにはもう少し詳しい話をする必要があるだろう。まず私についてだが…まあ、事務局長と同じで魔法使いである…このように」

そう言って私は雷の招来を無詠唱で行使、雷属性の魔力球を作り出してみせる。

「そして、安心してほしい、同時に科学者であり、魔法学者でもある…魔法と言ってもきちんと体系づけられた技術なのだ。科学者だった私はそれを研究する為に魔法使いとなり、そして葉加瀬博士と共に魔法を科学的に研究した結果、得られた成果が『科学的魔法解析概論』であり、その抜粋『マナの科学』である。諸君らの多くは既に『マナの科学』を読んでいるものと信ずるが、その完全版である『科学的魔法解析概論』を改めて読んでほしい。そしてアーウェルンクス顧問が作成した魔法分野を網羅した解説本を諸君らに配布予定である。それに基づいて申請を出してくれれば各分野の初等教本を支給するし、不足であれば専門書の購入も許可する…大いに学び、議論し、各々の研究に役立てて欲しい。私からは以上だ」

そう、私は短く演説を締めた。

 

 

 

機構内への魔法公開から1週間、研究者連中からの反響は中々いいものであった…が、その大半は思い思いの初等教本と共に電子精霊の支給…マホネットへのアクセス権を求めてきた。考えてみればそうである、電子精霊があれば各国魔法協会が発行している学会誌も読めるし…何より魔法使い達の生の声が聴ける。

「…って事なんだけれども…どうしようか」

「あー機構内の掲示板やチャットで出回っていましたねー電子精霊便利だって情報…アーウェルンクス顧問からの情報として」

「…何かまずかったかい?」

「まあ、想定外ってだけだな…全研究者ではないがそれに近い規模の予算がかかるけど、大丈夫か?ネギ」

「それは予算的にちょっと難しい額になりますよ…茶々丸さん」

「はい、かなり予算オーバーになるかと思われます」

「なら、とりあえず研究グループ毎に1群ずつ配布してその後は各研究室の予算で購入させるか」

「それが妥当な所かとーそれとー『初めてのマホネット』と『初等電子精霊行使術』の最新版も各グループ1冊ずつ支給しましょうかー」

「それくらいであれば今回の魔法教育用臨時予算で何とかなるかと…電子精霊の質は最低限のモノになりますが」

「…まあ、各自PCは支給されているはずだし、カギになる電子精霊だけいれば行けるだろ…念のためマホネット使用前にセキリティーとかマナーとかの講習をするか」

という事で電子精霊の配布が決定されたのであった。後日、研究予算や場合によってはポケットマネーでの加速機能付きダイブ型PC…市販の最新ハイエンドモデルで2.5倍加速、私が一部パテントを握っている…の購入申請が殺到し、これまた会議を開く事になるのであるがそれはまた別の話…と言うか加速機能付きダイブ型PCの話は他部署にも広まり、加速空間で仕事をしても勤務時間は実時間換算でするという総務部門の決定が出ても根強く導入要請が来るのであった。

 

 

 

「中々ご活躍の様ですわね」

アポを取ってではあるが、私達のアトリエ兼自宅を訪ねてきた委員長がそう口を開いた。

「ああ、おかげさまで…今日は何の用だ、委員長」

「あら、気まぐれに友人宅を訪ねただけ…ではいけませんか?」

「別にそれでもかまわんが…それなら情報交換会の時を狙って訪ねてくるだろう?ネギにも会えるし」

「公私ともにネギ先生とはお会いできていますし、必要であればこのような訪問も致します」

「という事は何か目的がおありなのですねー」

「…その通りです。単刀直入に伺います、前回の機構の理事会の件ですが…魔法開発競争はともかく、魔法軍拡競争を煽って何がしたいのです?」

「別に煽ってはいないさ、単に各国がやっているであろう行為を機構もする権利を確認したかっただけさ」

そう私は嘯いた。

「嘘ですわね、ネギ先生やコタローから貴女達が公然の秘密だった各国の技術開発と人材育成を追認し、機構の警備部門を魔法対応型に再編する事に拘ったと聞いておりますわ」

「おや、ネギ達がゲロったのか…まあ口止めしてないからまあいいけれど…そうさ、私は結果的に魔法軍拡も煽るだろうとわかって前回の理事会での仕込みをした」

「なぜですの!?おかげで各国軍部は軍内部での魔力検査や魔法戦用特殊部隊編成準備などの動きを加速させていますわよ!その為にちょっと調査力のある組織であれば何かあると気づく程度には秘匿に鈍感になっています!」

「それが目的さ、委員長…と言うか中3の学園祭の一件、委員長は掴んでないのか?」

「中学3年の学園祭と言いますと…超さんが転校していった時のですわね、何かあるので?」

「…その学園祭で超と聡美と私は全世界への魔法バレを画策したのさ、ネギ達に阻止されたけれどな。今はソレを合法闘争でやっている」

「つまりー各国が他国に負けない為に人材を確保するという行為で魔法について知る人口を増やしーそのスカウトの過程が大胆になる事で調査力のある組織に対してなし崩し的に魔法の存在を察知させる事が今回の目的ですねー」

「何と…なんと大それたことを…」

「雪広コンツェルンだってマナ科学の範疇でしか製品化・特許化できないとはいえ魔法の解析には力を入れているはずだ…違うか?私達がそうなるように社会を煽ってきた…構造材とかの特許申請だってマナ科学、ひいては魔法科学融合技術は宝の山だと知らしめることが主目的でパテント料はおまけだよ」

「…そのオマケで億単位の資金を集めているようですが…まあいいでしょう…ネギ先生はこの事はご存じで?」

「正式には知らせていない。いざという時に責任がネギにも及ぶとまずいからな」

「ですがー私達が魔法の一般公開…科学と魔法の融合を悲願としていることはご存知ですしー恐らく黙認してくださっているのかとー」

「わかりました、ネギ先生には確認を取らせて頂きますが、私もあなた方の意図を黙認しましょう…どのみち、こちら側の各国政府も時期はともかく魔法公開自体に反対ではないようですし」

委員長はそう言って深くため息をつき…その後は思い出や未来について語り合う楽しいお茶会となった。

 




トップダウン型魔法技術拡散を狙っている千雨さん達。
というかマナの科学事件で十分にuqホルダーで語られる原作後の歴史とは乖離している気がする今日この頃。


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124 人生編 第6話 学会設立準備と魔法使い茶々丸計画

さて、少し時間は進んで学会についてだが…表で結成される予定の国際マナ科学学会の秘密部会扱いで結成される事となった。様々な理由はあるが、主な理由は理事会メンバーの大半が表裏で一致する公算が高いからと私の暗躍の成果である。相変わらずヘラス帝国はいずれ統合される前提にしか見えないこの措置に難色を示したが多勢に無勢で最終的には決議に応じていた。

 

「では、定刻となりましたのでマナ科学学会の設立準備委員会を始めたいと思います」

機構の麻帆良研究所の会議室にてフェイトがそう言って委員会開会を宣言した。

この場には、まあ案の定というかフェイトのほかにネギ、茶々丸、聡美、私がいて、その他に各国の政治的バランスを考慮して選ばれた11名の科学者たちが集結していた。この15名の研究者たち…茶々丸は書記である…が国際マナ科学学会の設立委員会メンバーである…秘密部会について議論する必要上、委員は科学者かつ魔法バレしていないといけないのだが、各国に提出させた条件に合致する委員候補者リストから読み取るに、既に国立研究機関、場合によっては国立大学の研究者たちにも魔法バレを実施し始めている様であり、私としては非常に良い傾向であると言える。

「まずは発起人を代表して長谷川博士に挨拶をお願いします」

「あー長谷川千雨です。『マナの科学』並びに『科学的魔法解析概論』の著者です。その縁から今回は本委員会の発起人に名を連ねる事となりました。国際太陽系開発機構の職務との兼ね合いで委員長はアーウェルンクス氏にお願いしましたが、アーウェルンクス氏もマナ科学の専門家と呼べるだけの知識があります事は私が保証いたします。そしてマナ科学は新分野であり、従来の科学とは一線を画した対象を扱う学問ではあるものの、現状は従来の各科学分野において研究発表がなされております。本会はこういった現状を踏まえ、マナ科学について統一的に発表を行い、また研究者同士の交流を行う為の場を提供するという極めて意義深いものになるのではないかと私は考えております。本委員会にご参集頂いた諸賢のお力をお借りして本会をより良い形で設立できる事を心より願っております、以上簡単ではありますが、私の挨拶とさせていただきます」

「では、続いて皆さんに簡単に自己紹介をお願いしたいと思います、まず私から…フェイト・アーウェルンクスです、国際太陽系開発機構の顧問を務めています。マナ科学以外の専門は魔法全般ではありますが、科学側も興味深く勉強させて頂いています。長谷川博士と葉加瀬博士の『科学的魔法解析概論』により、両分野が橋渡しされた事は非常にうれしく思っています。以上です。では着席順に時計回りにいきましょうか、スプリングフィールド氏、お願いします」

「はい、ネギ・スプリングフィールドです、国際太陽系開発機構で事務局長をさせて頂いております。マナ科学以外の専門は魔法全般ではありますが、科学分野も大変興味深く勉強させて頂いている所です。『マナの科学』の講義動画も担当させて頂きましてマナ科学者としては長谷川博士、葉加瀬博士の一番弟子にあたるのではないかと自負しております。以上です」

その様に科学者たちの自己紹介が続き…ぐるっと回って聡美の番になった。

「葉加瀬聡美です、現在は国際太陽系開発機構麻帆良研究所の所長を務めさせていただいています。本来の専門はロボット工学とジェット推進ですが魔法側を含めた関連分野でも長谷川博士と共同研究をさせて頂いております。若輩者ではありますが、皆様よろしくお願いいたします、以上です」

「改めまして、長谷川千雨です。現在は国際太陽系開発機構の研究局局長を務めさせていただいています。本来の専門はロボット工学に人工知能やコンピュータ関連、シミュレーション関係となります。魔法側を含めた関連分野でも葉加瀬博士と共同研究をさせて頂いております。若輩者ではありますが、皆様よろしくお願いいたします、以上です」

そして私が締めて自己紹介まで終わりとなった。

「皆様、自己紹介ありがとうございました。では議論に移りたいと思います。まず、会則に関しまして事前配布の草案を基に議論を行っていきたいと思います」

そうして、本格的に委員会が始まるのであった。

 

「以上で表の学会に関する議題は終了となります…続いて秘密部会に関する議論に移りたいと思います」

そうして始まった議論であるが、大体の結論をまとめると以下の通り。会員資格はマホネット経由、各国魔法協会経由、あるいは各国政府経由で部会参加登録を行った者とした。これであれば確実に魔法バレしている人物のみが部会参加者となる。学会誌はマホネット上で有償公開の上、紙媒体での販売も部会員に対してのみ行う事とする。そして学会開催は表の学会に合わせて実施し、特別参加者証を所持する者だけが入れる人払い結界内部で行う事となった。

概ね良好に終わった委員会の会合ではあったが、唯一、初代理事は委員会メンバーがそのまま就任する事になったのはあまりうれしくない事態である。

 

 

 

「さーて久しぶりのバトル用ニューボディーだよ、茶々丸」

「あの、ニューボディーは良いのですが、これはどう言った仕様なのでしょう、ハカセ」

「ふふー全般的にアップデートされているけれどねぇ…一番の目玉は茶々丸が魔法を使える様になる事だよ!」

聡美の研究チームの研究成果をフィードバックし、さらには私達の秘匿技術をも盛り込んだ新ボディーである。

「えっ…マジですか?ハカセさん、千雨さん」

「おう、マジだぞネギ。とは言っても現状は魔法障壁と兵装用の収納魔法だけだけれどもな」

「原理はどうなっているんですか?」

「原理的には私の糸の魔法陣技術の発展形だな。茶々丸の体内に専用の魔力タンクを設けてあって、その周りに精密積層記述した魔法陣が茶々丸の意志に連動して魔法を発動する…まー結果だけ見れば携帯式の魔導具を腹に仕込んだのと同じだけれどな」

「ええと、それは茶々丸さんの体内に仕込まれたその機構が茶々丸さんの意志に応じて起動する、という事ですか?」

「おっ、流石だな、ネギ。そー言うタイプならもっと前から作れたんだが内蔵する意味はねぇ…今回のはあくまでも、茶々丸の意志と直接連動だ」

「違いがよくわからないのですが…そこがそんなに重要なのですか?私という機械的仕掛けで魔導具の起動ボタンを押しているのとは何が違うのでしょうか」

茶々丸が首をかしげながら問うてくる。

「すごく違いますよ、茶々丸さん!こう言っては何ですが、分類上茶々丸さんは無生物です。無生物がその自意識で魔法を選択・行使するというのはとてもすごい技術なんです!いうなれば、科学的な魔法の再現ですよ!その技術、魂を持つ茶々丸さんだけでなく妹さん…量産型のダッシュさん達や極論すればただのコンピュータプログラムでも実施可能ですよね!?」

「ああ、電子精霊や遠隔操作のコンピュータプログラムでも同様の事ができる事は確認済みだ。ちなみに現在はコンピュータで例えると機械式計算機の段階で、いずれは汎用電子式計算機に相当する汎用積層魔法陣で任意の魔法を使える様にする段階まで行きたいな」

「すごい夢ですね、千雨さん!僕もぜひお手伝いさせてください!」

「おう、そう言うと思っていた。まー実現…特に量産化にはマナ科学の発達が必要だろうが基礎研究はしておいて損はないだろう」

「ふふー久しぶりにネギ先生と共同研究ですねー楽しみですー」

「あの…秘書の私と致しましてはあまりネギ先生に無理をさせないでいただきたいのですが…」

「激務の合間を縫って重要論文を量産している事務局長殿がどうしたって?」

「あ、はい、今と変わりませんでしたね…むしろダイオラマ球を使って頂けるなら時間的にはゆとりができるとも言えますでしょうか」

「そうだね、茶々丸…さ、話がそれたけれどもボディー換装行っちゃうよー千雨さん、お願いします」

という事で、茶々丸のボディー換装作業に取り掛かるのであった。

 




後半の茶々丸の新機能はそれ自体では大した事がないけれども、将来魔法アプリの開発につながる超重要な技術革新という感じですね。なお、全体的に機能向上が図られるとともに装甲板強度とか防御力上昇にも手がかけられていたりする。


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125 人生編 第7話 同窓会と進路相談

新成人(厳密には未成年)の飲酒を示唆するシーンがあります。




「おう、来たな、貴様ら。先に始めているぞ」

成人式を終え、留学組含めた全員が集結する事になった3-A同窓会の場に一同がぞろぞろ到着すると、ワインを片手に着物を着た大人姿のエヴァがそう言って出迎えた。

「すいません、皆さん。皆さんが到着するまで待つように言ったのですが聞いていただけなくて…」

そう、茶々丸がぺこりとお辞儀をする。

「もーマスター…成人式さぼってフライングなんてお行儀悪いですよ」

ネギがあきれた様子でエヴァをたしなめる。

「ウルサイ!私達は成人式に招待されとらんのだ、これくらいいいだろ!」

「あーエヴァ達はそうだな…戸籍いじってないし」

「…学園長殿にお願いすればそれくらい手配していただけましたよ?」

と、ザジ。

「なっ…ジジイに頼むという手があったか…くっ…」

「ですが、エヴァンジェリンさん、大学入学早々から自分は成人していると大っぴらにお酒飲んでいたじゃありませんか。それで今更成人式出席は通らないかと」

悔しがるエヴァに委員長がそう突っ込みを入れた。

「…それもそうだな、委員長…まあいい、過ぎた事だ」

などという漫談をやっている間に皆、思い思いの飲み物を手に取っていた。

「では、同窓会を始めましょう。乾杯の前にネギ先生からひと言お願いいたしますわ」

「え、僕からですか…えっと…形式ばった挨拶は成人式で十分でしょうから手短に行きましょう。皆さんの成人を祝して!」

「「「「「「「「「「かんぱーい」」」」」」」」」」

そうして、アルコールありの同窓会という恐ろしいパーティーが始まるのであった…私はまだ飲めないが、法的には。

 

「え?進路相談?」

会場の端っこのソファーでカクテル(私はノンアルコール)を聡美と飲んでいると、夕映とノドカが私達のもとにやってきた。

「ハイです…その、魔法を学んでいるのは良いのですが、よく考えるとあちらの学歴と職歴はこちらでは通用しないのではないかと心配になりまして…その、ISSDAですでにご活躍されているお二人に相談を…」

「はいー私もISSDAに就職したいのですがーどこまで進学しておいた方がいいのかなーと」

「…ネギに聞けよ。私は研究局局長だし、あいつは事務局長…何よりお前らのマスターだろ」

「そうしたいのは山々なのですが…あのありさまで」

そう言って夕映が指さす先にはネギラブ勢にもみくちゃにされるネギの姿が見えた。

「はぁ…お前ら本契約交わしたパートナーなんだからきちんとコミュニケーションとれよ?ま、理由は分かった…夕映の方から詳しく聞こうか…まあ座れよ」

そう言って向かい合わせに座っていた私たちは隣同士に座り、夕映とノドカに席を勧める。

「ハイ、ありがとうございます」

「どうもありがとうございますー」

「それで?」

「ハイです、先ほども申し上げたように、向こうの学歴と職歴がこちらで通じるかですね…ええっと、まずは私の現状からですね。私はアリアドネーの騎士団員士官養成課程を修了した所です。これから2年の義務兵役を始める予定でその前の長期休暇中なのです。基本的にこの経歴で得られる推薦状は各国で通用するのですが…こちらでは通用しないですよね?」

「…正直、微妙。本来は通用しないがISSDAに入りたいだけならばアリアドネーは理事国だし、魔法人材ではあるから機構の関連企業なら裏で何とでもしてやれる学歴ではある…その経歴で2年後即入所希望だと多分警備部の教官職とか割と上級職につけるぞ」

「警備部の教官ですか…ダメとは言いませんが研究開発系を志望する場合は…」

「研究開発志望でなぜ士官養成課程入った!?」

と、私は真顔で突っ込みを入れた。

「中学3年の夏休みにあちらに行った時の学籍が生きていたからです。私は休学して日本に留学していた扱いになっていたのですよ…途中転学もできはしたのですが違約金がなかなかの額になりまして…」

「あーそれで途中離隊とか諸々ごまかしていたわけか…まあ、仕方がないな…で、そうなると私がその状態から思いつく機構での研究開発系職種への進路は大まかに分けて3つある…大前提だがアリアドネーでは『マナの科学』…というか『科学的魔法解析概論』は解禁されているな?」

「はい、私も大変興味深く読ませていただきました」

「よし、どの進路でもマナ科学は必須だからしっかり勉強してほしい。それで3つのうち1つは軍事技術関係の研究者に進む道…2年間、あるいはそれ以上の兵役での経験を生かして研究をしたいって事にすれば才覚次第で十分にやれると思う…当然兵役の合間を縫ってこっちの科学についての勉強もしてもらう必要はあるし、最初は研究協力者的な立場からスタートだが」

まー研究協力者をやりながら勉強を積めば何とかなるのではないかな?くらいである。

「それは…難しいですね、努力はしますが士官たるもの常に学び続けるべしという思想があります…そちらの勉強と合わせて、という事になりますので」

「それは時間加速型幻想空間ダイブ型PCか何か使って頑張れ…で、2つ目だが魔法技術研究者の道だ。義務兵役後、向こうでさらに何年か勉強して魔法の専門家として帰ってくるルート、何ならアリアドネーで学位を取ってアリアドネーからの出向って形でもいいな」

ある意味、大本命である。

「なるほど…それは魅力的ですが、こちらへの帰還が遅れる…と」

「そうだな、それはデメリットかもしれないな…で、最後は麻帆良が関東魔法協会支配下であることを利用する手だな」

「と言いますと?」

「大学院からこっちの学位を取って実力で機構に入る。まあ元士官って事で軍事系の知識も期待されるだろうがそれは諦めろ」

これは正直、アリアドネー留学の経歴があまり生きてこないのでお勧めはしたくない。

「あーその手がありましたね…」

「そして、個人的にはアリアドネーで高級士官教育受けてもらって警備部に将来設立する予定になっている警備艦隊を預けられる人材候補になって欲しいというのが正直な所ではある…どうだ、参考になったか?」

そして最後に本音を付け加える…機構の軍事力は信頼できる人物に預けたいし、コタローは現時点ではそっちの訓練は受けていない。

「はい、ありがとうございました参考になるです」

「で、次はノドカだな…進路相談と言うと大学院に行くかどうかって事か?」

「はいー大学進学前は学部卒でISSDAに、と思っていたのですが研究開発職を志望するのであれば最低修士、できれば博士をとっておいた方が良いのではないかという事でー」

「うん、そうだな。学士だとよほど才覚を示さない限りは理系出身の一般職員という感覚が強いかな…確かにできれば博士号を取っておいてほしいがノドカも魔法人材だから修士号があればそこを推してチャレンジさせてやる位はできる…が、研究ガチで続けたいなら博士号は欲しい、その上で専門の延長でいいからマナ科学系の論文も出しておいてくれると推薦しやすいな」

「やはりそうなりますかー」

「ああ、研究職志望ならば何よりも勉強だな、それでやっとスタートラインに立てる」

「ですねー先輩方もおっしゃっていましたがー先人の知恵を吸収しきってやっとスタートライン、未踏の地に踏み出してやっと研究者としての第一歩…でしたっけ」

「誰の言葉か知らんが、まあそんな感じだな…ノドカは魔法人材である長所を生かして魔法も勉強できるからそこはライバルたちに差をつけられる所だな」

「はいーありがとうございます」

「あー夕映ー久しぶりやなー」

進路相談が一応終わりを告げた時、ほろ酔いの木乃香が刹那を連れてやってきた。

「お、木乃香か、夕映に会うのは久しぶりだな」

「そやーノドカや千雨ちゃん達にはしゅぎょーでよう会ってるけどなぁーアリアドネーにおる夕映とは会われへんかったもん」

そう言いながら木乃香は夕映に抱き着いた。

「このちゃん、浮気はあかんよー」

同じくほろ酔い気味な刹那が木乃香に更に抱き着く…というか、木乃香も刹那も誕生日まだだろうに飲みやがったな…

「お、重いです…」

と、てんやわんやである。

 

「本当に、申し訳ないっ」

飲酒量は少なかったのか、早期に酔いが醒めた刹那が私達に土下座をしていた。

「ごめんなー夕映も重かったやろー」

同じく酔いが醒めた木乃香も隣に正座して夕映に謝っていた。

「まったく…マギステル・マギ試験受ける奴が未成年飲酒とかシャレならんのじゃないのか?」

「面目有りません、会場に出されていたドリンクを無作為に取ったのですがアルコールだったようで…」

「いえ…確かメガロメセンブリア…と言うか向こうのヒューマンは概ね18歳から飲酒OKなので問題はないかと」

「そーいう問題じゃねーよ、夕映…まあ大学生は未成年でもこっそり飲んでいるもんらしいけどな」

「そーいう問題でもないと思いますよーまあ、事実そうらしいですがー」

 

という感じで、6人で暫く雑談をしているとネギがそろそろ解放されそうな雰囲気になってきた。

「ほら、夕映、ノドカ、いくぞネギが空きそうだ」

「「はっ、はい」」

「ほな、私らも行くなーまたー」

という具合で解散し、私、聡美、夕映、ノドカの4人でネギ達の席にやってきた。

「よう、相変わらずだな、色男」

「あ、千雨さんにハカセさん、夕映さんにノドカさんも」

「おう、ちょっと話があるんで座らせてもらうぞ…あと、フェイト、ちょっと来い」

「僕もかい?千雨君」

近くの席でコタローとおまけの夏美と共にネギを肴に(ノンアルコールで)飲んでいたフェイトを呼び寄せる。

「まあ、座れ…話はお前らのパートナーの事だ…お前らパートナーとちゃんとコミュニケーション取っているのか?」

「ええっと…それはその…皆さんとできる限りはやり取りをするようにしていますが…特にユエさんとノドカさんとは、あまり時間がとれているとはいいがたいですね」

「パートナーというとアリアドネーにいる栞君たちの事かい?手紙のやり取りはしているけれども、忙しくて久しく直接会いには行けてないね」

「一応、自覚はあるようだな…まあそれならいいんだが多分足りてねぇぞ、しっかりと話し合え」

「はい…」

「…と言うと?」

そう、ネギとフェイトからは正反対な反応が返ってくる。ネギはまあ良いとして…だ

「ルーナ…栞とは時々手紙のやり取りをしていてな、あいつらは自分たちがお前にとって不要なのではないかと不安に思っているみたいだぞ、フェイト?ちゃんと必要だって言ってやっているか?」

「そんな事はない…そんな事はないが彼女たちは既に十二分に尽くしてくれた…僕は彼女たちに自分の為に生きて欲しいと思っているんだ」

「それでも、あいつらはお前と共に生きたい、力になりたいと願っているんじゃないか?その辺りきっちり話し合え、直接対面して、だぞ」

「…わかった、すぐにとは言えないが予定を調整して近いうちにそうできるようにしよう」

そう、フェイトは答えた。

 

 

 



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126 人生編 第8話 一心同体による一蓮托生について

 

2009年2月2日…私はダイオラマ球内の別荘塔中央のベッドで目を覚ました。腕の中には当然のように聡美…いつもと違うのは互いに全裸であると言う事…まあいわゆる事後である。

恒例となった記念日のダイオラマ球デート、ディナー後に初めてアルコール有りのシードルを嗜んでいるといきなり『今晩、しましょう。いいですね?』といわれ、思わず『うん』と答えたら傍に控えていた従者人形(エヴァから別荘ごと借りている個体。管理・整備は私がしている)に引っ立てられ、いつものとは異なる寝間着…ナイトドレスに着替えさせられ、ベッドに連れて来られて…おそろいのナイトドレスを着た聡美に迎えられた。

暫く会話を交わした後に私は聡美に押し倒され…まあ、気持ち良かったし、最終的には聡美にも気持ち良くなってもらえた…と思う。

 

で、聡美と微睡みながら寝坊を楽しんだ後に入浴と朝昼兼用の食事を済ませた後、図書室にて。

「という訳でー新しい不老不死の研究プランですーこちらをご覧ください」

「うん…えっと…『一心同体による一蓮托生化』…どれどれ」

聡美から渡された紙束を捲っていく…

「端的にいうと私の不老不死との連結…って感じかな?」

「そうですね、簡単に言うとそんな感じになります」

具体的には私の内的空間…『闇の悪夢』で訪れる場所…に聡美の内的空間を接続する事で間接的にマギア・エレベアの恩恵による不老不死を聡美にも与えるという方法の計画書であった。

「んー確かに闇の悪夢に訪れている時に適切な術式を使えば内的空間の接続自体は可能だとは思うけど…これ、私の眷族化しているようなものじゃないか?」

「そーですよー昨晩、純潔を散らしてエヴァさん…と言うか吸血鬼の正当な形での眷族になれなくなりましたのでーそれにエヴァさんに眷族にして貰うよりは目的的には正当かなーと」

「目的…確かに文字通り『私と共に生きる』…と言うか私に生殺与奪件を握られつつ生きる事になるけどさ」

別にマギア・エレベアの恩恵を切られても不老不死でなくなるだけだが、ラインに過剰にマギア・エレベアの力を流せば呑まれて死にかねない、特に聡美レベルの適性では。

「貴女と生きる為の不老不死ですからねーその辺りは別にデメリットではないかなーと」

「対等な関係でいたいと思う観点からはデメリットだけれどもな、ソレ」

「千雨さんに生殺与奪件握られたくらいで対等じゃなくなるとでもー?というかその気があればー現時点で瞬殺ですよねー文字通りに」

…そう言われるとアレである。確かに、私と聡美の力量差はそれくらいある。

「あと、昨晩の体験的に、できれば生身のままで不老不死になれたらなーというのもありまして…できれば従来の電子精霊化…人造精霊化による不老不死よりはこっちがいいです、私としては」

「昨晩のって…」

「まあ、ロボの身体での行為が嫌という訳ではないのですがーできれば生身の温もりを千雨さんと交換したいじゃないですか」

「…わかった、でも精霊化の研究も大分進んでいるし計画放棄はしないぞ?」

「はいーもちろんですーどのプランを使うにせよ、選択肢を増やしておくのは良い事ですからー」

「…所でこの主従契約を起点としたラインの強化って…」

「最初くらい、単に好きだからって理由でしたいじゃないですかーと言う方向の検討ですねーお察しの通りにー」

「…そうか」

それは、魔法理論的にも正当な言い分ではあるのであった、雰囲気もへったくれもないが。

 

それはそうとして、今年の誕生日プレゼントはダイオラマ球の外で貰った。

「じゃじゃーん、プレゼントは改良YESNOマシーンですー」

「…YESNOマシーン?」

「はい!私のお手製の発明です!」

そう聡美が差し出してきた機械は真ん中にハートがついた、ボタンが左右に3つずつと真ん中にボタンが一つ付いた機械であった。よく見ると、左右のボタンには『したい』『してもいい』『したくない』と書かれていた。

「もしかして、コレ、YESNO枕的なやつ?」

「はい、二人がしたいを押すか、片方がしたい、もう片方がしてもいいを押した場合は真ん中のボタンを押すとハートが光ります。それ以外の場合は光りません」

「なるほど…どっちでもいい、っていう選択が増えてどっちでも良い同士だとしない事になるのか」

「はい、してもいいはあくまでもしたいならしてもいいよ、という消極的な感じの場合に押してください」

「フム…確かにこれからはこの機会のお世話になる事もあるかもな」

「えーかもじゃなくて使いましょうよーせっかく作ったんですしー」

「アーうん、こういうのに頼らずに機微を感じ取れるようになるまでは頼りにしようか…所でこれ売れそうだな」

「はい、実用新案の用意はしてあるのでおもちゃメーカーに売り込もうかなと」

尚、後の話になるが割と売れる事になり、ロイヤリティーは聡美のお小遣いになった。

 

そして、肝心のYESNOマシーンの使い心地ではあるが…アトリエの寝室に置いて使っていたのだが…一か月経過しても全くハートが光る事はなかった。

「光りませんねー」

「そりゃあなあ…ダイオラマ球を外で寝る前に使っているし…」

「それは盲点でしたねー別荘塔用にもう一つ作りましょうかー」

「それはそれで…いるか?」

「…確かに、あっちで寝る時は大体していますしねぇ…」

初めてを済ませてから暫く…火曜日と木曜日と土曜日の外で寝る前に別荘塔に入ってするというリズムがすっかり出来上がっていた。

「…ちなみに私としては翌朝に何かある日以外は『してもいい』を押しているんだけれどもな?」

「…奇遇ですねー私もですー」

「…そーいう事か」

「みたいですねー」

大体そーいう事らしい。

 




これくらいの描写でもR指定いるかな…?
尚、千雨さんも葉加瀬もリバ。ここ重要。(作者の性癖
後、戦闘には糸術しか使わないので忘れがちというか描写はほぼしてこなかったですが、千雨さんは一応、人形術(ドールマスター)のスキルも修めています。

おまけ 平時の千雨さんの平日の一日
6時起床
6時15分 ダイオラマ球へ入る。ダイオラマ球内ではマギア・エレベア・トリニタス状態で修業と研究とをこなす。
7時15分 ダイオラマ球から出る。
7時30分 ハカセと朝食
8時00分 ハカセと仲良く出勤。
8時30分 始業時刻 特製ダイブ型PCの加速空間で主に書類仕事をこなす。
12時00分 昼休み 研究所内の食堂でハカセと昼食
13時00分 午後の仕事開始 局長としての仕事を片付けたら自分の研究の時間
17時30分 終業時刻(定時)
18時30分 平均退勤時刻 ハカセの研究スケジュールにもよる。
18時45分 夕食 大体は外食するか中食。
20時00分 帰宅、自由時間 チウの部屋の管理、趣味の論文読み、純魔法研究、個人的な執筆活動など。気分によっては追いダイオラマ球をする日もアリ。
22時30分 火曜日と木曜日と土曜日はハカセとダイオラマ球内へ。やはり修行と研究にいそしむ。
23時30分 入浴(ダイオラマ球に入る日はダイオラマ球内で済ませる)
24時00分 就寝

休日はハカセとデートしたり、みんなで修業したり、色々楽しく過ごしています。


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127 人生編 第9話 五月の帰還と麻帆良の拡大

文章量少なめにつき、本日二話目です。ストック量も難アリですが。


2010年5月、フランス、中国、トルコの3か国への留学を終えて五月がついに麻帆良に帰ってきて一か月…新築された超包子本店で超包子幹部会メンバーとお料理研究会幹部クラスとで4夜連続の夕食会を催す事になった。先の3夜の料理担当は五月で、一夜ごとにフレンチ、中華、トルコ料理のコース料理で五月の腕のお披露目会であり、4夜目が五月監修、担当お料理研究会の超包子チームで開く五月のお疲れ様会である。

「三日間、お疲れ様でした、五月さん」

「ホント、御馳走さま、五月ちゃん」

特別ゲストのネギと取材を申し込んできたのでついでに招いた和美が4夜目にやって来て五月に挨拶をする。

「お楽しみ頂けたのであれば何よりです。ぜひ今晩もお楽しみください」

「はい、超包子は今でも利用させて頂いていますし、修行してきた五月さんの監修でどんな味になるのか楽しみです」

「そうだね、各国料理コンクールで優勝をかっさらってきた五月ちゃんの腕はみせてもらったし、今晩は管理方面の腕前、見せてもらうかんね」

「はい、楽しみにしていてください。超包子を守ってくださっていた皆さんの腕に私のレシピを合わせた味、中々のモノですよ」

そう言って五月は自信満々の顔をした。

 

「うん、十分旨いな」

正直、五月直々の味には少し劣るが、最近食べていた超包子の味とも少し違った中華という感じである。

「そうですねーですが五月さんの味というよりはここ3年間の超包子の味って感じがしますね」

「ええ、五月さん自身の味とは少し違いますがとっても美味しいです」

「うむむ…コレは中々美味アルネ」

「皆さん、呑みこみが良くって、少し指導しただけでコツを掴んで一気に伸びてくれました」

「いいねぇ…超包子の今までの料理とは少し違う感じがするけれどもこっち方面での展開も考えていたりする?五月ちゃん」

「そうですね、この超包子本店は今までの飲茶系統メインとは異なる中華料理店という形で経営していく予定です。それが軌道に乗ったらフランス料理、トルコ料理も経営、監修していきたいですね」

「成程…それは楽しみだね」

と言った感じの幹部+ゲスト席である。

 

「いやー四夜連続ごちそうさま、おまけにインタビュー迄させてもらえちゃって…ほんと言う事無いよ」

「までって、インタビュー…取材が本筋だろうに、和美は」

「それもそうだね、千雨ちゃん」

「お忙しい中、四夜もお付き合い頂き、ありがとうございましたネギ先生」

「いえ、こちらこそ楽しい夜をありがとうございました、五月さん」

楽しい時間も終わり、ゲストのお見送りの時間である。

「それではネギ先生ーまた機構でお会いしましょう」

「うむ、ネギ坊主お互い精進は欠かさぬように」

「はい、ハカセさん、クー老師、それではまた」

そう言ってネギと和美は去っていった。

 

「という訳で、五月の帰還パーティーは終わって超包子本店の運営メンバーの腕も確かめられたな…合格で良いと思う」

「そうですねー場合によってはー所長としての接待にも使用させて頂く事もあるかもですねー」

「うむ…お値段的に日常使いは難しいアルが祝い事の際はぜひ食べたいアルね」

「では、予定通りのスケジュールで超包子本店始動という事でよろしいですね」

「「「異議なし」」アル」

五月の言葉に私達、超包子幹部会はそう答えた。

「お料理研究会とも協力してフレンチやトルコ料理の方面も力を入れて行かないといけませんねー」

「そうだな…先日公開されたから言うけど、第二期軌道エレベータ計画での麻帆良湖への基部建設が決まって、麻帆良も拡大していくだろうから急ぎたいな」

「そうですね、この本店は運よく公表前の契約となりましたけれども、地価なども上がっているようですし…労働者の方々向けに従来店舗の拡充を先にした方が良いかもしれませんね」

「そうだなぁ…インサイダー情報になるから黙っていたけれども商機は確実にあるからな」

「町中華系の早い安い旨いタイプの店舗をいくつか展開してもいいかもしれませんねー」

「おっ、それは嬉しいアルね」

「そうですね、麻帆良湖周辺に店舗を借りられるようならば、営業する準備をしてみましょう」

「どうせやるなら派手にやろう、聡美とも相談したんだが、超包子のプール資金とは別に1億位までなら出資できそうだから必要ならば言ってくれ、場合によったらそれ以上捻り出せる」

「ありがとうございます。人手という意味でもお料理研究会との相談も必要ですが、それだけ資金があれば色々と計画をつくれそうですのでまた幹部会で相談させてください」

という事でその日の幹部会は終了という事になり、解散となった。

その後、何度か会議を重ねた結果、将来を考えて2か所で店舗を買い取り、また別の2か所で店舗を借りて町中華を新たに開店する事となり、後々まで繁盛するチェーン店、超包子のきっかけとなるのであった。

 

 

 

「いやーやっぱり高いですねー店舗家賃も店舗自体の買収もー」

「そりゃあそうだろう、麻帆良湖への軌道エレベータ建築誘致に成功してこの辺りの地価は爆上がりだからな」

「新時代の象徴、宇宙への階段ですからねー暫く民間開放はされないにしてもそれを期待して値上がりしますかぁー」

今や麻帆良は学園都市であるだけでなく、宇宙への出入り口として将来の発展が約束された都市である。というか、学園都市の研究都市としての側面が軌道エレベータの麻帆良誘致に役立ったという面はあるのであるが。

「正直、特許収入の運用を麻帆良の土地、宇宙開発関連企業の株、超包子への出資のどれでするか悩ましいレベルではあるな。研究費は別にして」

「億単位でがっぽがっぼですからねー特許収入…茶々丸用の装甲板や魔力缶がこんな儲けになるとは思いもよりませんでしたねー」

加えて、国際機関の局長職の私と所長職の聡美のお給料が入る。

「軌道エレベータの構造材にマナ科学の基幹技術だからなぁ…良心的なパテント料でも恐ろしい事になるのは当然か」

尚、時々新技術の特許を出しているので、今ほどの額にならずとも、特許料収入が途切れるのは当分ないだろう。

「で、麻帆良市も開発が進んでいくわけですが…自宅の評価額もえげつない事になりそうですねー結局、貸地でなく買い取りで建てましたしーかなり敷地も広いです」

「そうだな…都市計画次第ではアトリエ引き払う話にもなりかねないし、その時は大分色付くだろうなぁ…」

私達のアトリエは現在の麻帆良市郊外の住宅地にあるのでこれから拡大していく麻帆良市を高密度化する再開発には巻き込まれる位置にある。

「まー職場が宇宙に移転する可能性も考えたら色々と備えておくべきでしょうねぇ…」

「あー事務局の軌道上移転計画かぁ…10年後くらいの予定とは言え研究局の全面移転は勘弁してほしいなぁ…と、言うのはいつも言っているな」

「そうですねぇ…低重力環境の利点もありますが、色々と危険もありますからねぇ…精々研究所一つ置く位が妥当だとは思いますよ?開拓が進んだ火星に移転とかならともかく」

「ただ、事務局が軌道上に移転するならば私のオフィスは軌道上に移すべきという話も分からなくはないからなぁ…」

「それは…そうですねぇ…その場合、私も軌道上に上がるか別居ですかー?別居はちょっと…」

「…まあ、長距離転移ゲートでも使うか、最悪の場合は退職するか…一人分の収入で十分食っていけるんだし、自前の研究費もあるし」

軌道エレベータでの昇降だと毎日通勤と言う事が難しいくらい時間がかかるので。

「そのカード強力ですよねぇ…まあ、色々なモノと引き換えですが」

そう言って聡美はくすくすと笑った。

 



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128 人生編 第10話 コタローの結婚と皆の進路

「それではー夏美ちゃんとコタロー君の結婚を祝してー」

「「「「「「「「「「カンパーイ」」」」」」」」」」

2011年春、年始から長期休暇を取って魔法世界に武者修行に行っていたコタローと、卒業旅行と称して魔法世界に行き、それを連れ帰ってきた夏美はあれよあれよという間にこういう事になっていた。

「ハハハ、おめでとうコタロー、夏美。いやー付き合っていたのは知っていたけどまさか武者修行から連れ戻されて即結婚とは中々面白い事になったな」

「言わんといてや、千雨姉ちゃん…まあ、ふらふらと修行の旅に出る事もあっても、帰ってくる場所は夏美の隣やからな、これで良かったんや」

「もーコタ君…また修行の旅に出るつもり?あんまり帰ってこないとまた連れ戻しに行くからね?」

「おうおう、おあついねーお二人さん…もう一枚行っとこうか、笑ってー」

そう、和美が写真を撮影した。

「まあ、半年間の長期休暇の予定だし、残り二カ月は二人でゆっくり新婚旅行でも…という訳にゃいかんか、夏美は麻帆良でOLだし」

「そうですねー休暇は残っていますが職場復帰しますかー?」

「ああ、そうやな…夏美の仕事が始まったら俺も職場復帰する事にするわ」

「それは助かるよ、コタロー君。ネギ君も君の代理で忙しそうだったからね」

「そんな事言わない、フェイト。忙しいのは確かだけれどちゃんと準備して行ってくれていたからそこまでではなかったよ、コタロー君」

まあ、コタローが長期休暇という事になるとその上司が代理という事になるのである、当然警備部門の副長も頑張ってはくれていたが。

 

 

 

さて、コタロー達の結婚であるが、同時に大学進学組の卒業の時期でもある。ので、各自の進路を昔の出席番号にちなんで簡単に紹介しよう。

 

1番:相坂 さよ 超が残していった…と言うかネギに与えて一度壊れたタイムマシン(カシオペア)を修理、改造して大戦中の麻帆良学園に行ったり来たり、紆余曲折の後、麻帆良学園地縛霊から解放された。その後も成仏せず、和美の守護霊(背後霊?)の座に収まった。

 

2番:明石 裕奈  母の遺志を継いで、メガロメセンブリアのエージェントとなる予定。 キツイ仕事らしいが、持ち前の明るさで飄々と任務をこなす事だろう。

 

3番:朝倉 和美  既に国際太陽系開発機構の機構史編纂室室長という立場で私達の活動の記録係を行っている。が、室長のくせして非常勤職であり、ジャーナリストとしての活動も継続予定。

 

4番:綾瀬 夕映  現在、アリアドネー騎士団にて勤務中。ネギといろいろ話し合った結果、とりあえずあと2年は兵役を継続しつつアリアドネーで修士号相当の学位を取得する予定。博士号をこちらでとるか、あちらでとるかは検討中らしいが、アリアドネーの性質上、軍務と勉強を並列させてもらえるというのは良い事である。将来はどういう形になるかはともかく、国際太陽系開発機構に所属を希望。

 

5番:和泉 亜子  魔法による治癒で背中の傷を消せた事をきっかけに、高校卒業後魔法世界へ留学。一級治癒術師の技能を得て帰国。春からは最近設立された軌道エレベータ公社の治癒師として活動予定。密かに木乃香を師と仰ぎ研鑽を積んでいるらしい。

 

6番:大河内 アキラ  国際太陽系開発機構の下に新設された軌道エレベータ公社にエレベータキャビンアテンダント候補として入社予定。宇宙飛行士並みの厳しい訓練をパスできれば、記念すべき史上初のエレベータキャビンアテンダントの第一期生として活動する事となる。

 

7番:柿崎 美砂  同じくエレベータ公社に入社。ステーションホテル部門に所属予定である。

 

8番:神楽坂 明日菜  魔法世界の礎として封印中

 

9番:春日 美空  なんやかんやあったが協会所属の魔法使いとして活動中。本人は好き勝手というか自由にするつもりだったらしいがマスターであるココネの希望に流されたらしい。

 

10番:絡繰 茶々丸  ネギの秘書として活躍中。茶々丸型のロボットは過酷な環境下での太陽系開発の要となる予定、というかその任を担う聡美はそのつもりで研究を進めているし、補助ロボットとして茶々丸ダッシュ型は既に先行量産化されている。

 

11番:釘宮 円  手堅く国家公務員という事で税関職員になった。聞いた話では、麻帆良にも税関が開設されることになるだろう、という事で選んだ職らしい。

 

12番:古 菲  麻帆良学園の街に小さいながらも道場を開く予定。年々規模を増す麻帆良の格闘大会を総ナメにしつつも、その態度は常に謙虚。長瀬楓とは永遠の武者修行仲間。毎年正月にネギに挑む勝負は恒例行事になりつつある。超包子の幹部会の仕事は主に味見役。

 

13番:近衛 木乃香  マギステル・マギとして、私達の計画だけでは掬いきれない少数の人々・無辜の民のため日々戦い続ける為に勉強中。マギステル・マギ資格は既に取得したので表向きの医師免許を取得したら世界に向けて旅立つ予定。月詠が刹那のストーカーと化しているのでその迎撃でドタバタな日々とならないか、危惧している。フェイトの協力も取り付け、ネギの故郷の人々の石化を治す為の研究も行っている。

 

14番:早乙女 ハルナ  現在売り出し中の作家である。主に魔法世界側でかなり売れっ子となりつつあり、卒業後は執筆に専念する予定らしい。

 

15番:桜咲 刹那  マギステル・マギである木乃香の忠実なる従者。看護師資格も取得しており、木乃香が医師免許を取得するまでの間、麻帆良大学病院で勤務予定。剣の修行も欠かしていない。なお、月詠からストーカーを受けており、マスターである木乃香と仲良く迎撃中。

 

16番:佐々木 まき絵  教員免許を取得、麻帆良中学の体育教師になる予定。いまだにネギラブ勢であり、他のネギラブ勢と共にネギに猛烈アタック中。

 

17番:椎名 桜子  持ち前の勘の冴えを生かした職業をと、証券会社に就職予定。本気を出したら色々とヤバイ事になりそうな気がする。

 

18番:龍宮 真名  仕事人。という冗談は置いておいて、大学卒業後、傭兵として紛争地域を転々とする予定…だそうだ。太陽系開発機構の警備部門教官職でスカウトしたが断られてしまった。

 

19番:超 鈴音  詳細不明。おそらく未来の己の戦場で戦い続けている事だろう。

 

20番:長瀬 楓  高校卒業後、放浪人生修行人生。マナと同じく機構の警備部門にスカウトしたが必要な時は力を貸すが、と断られてしまった。

 

21番:那波 千鶴  那波重工の代表代理として雪広あやか等と行動をともにし、ブルーマーズ計画推進の大きな力となってくれている。計画が軌道に乗った段階で、かねてからの自らの夢であった保育士の道に進むつもりだと聞いている。

 

22番:鳴滝 風香 クリスマス事件で出会った魔法世界の王子様と高校卒業後に結婚、娘が生まれたらしい。

 

23番:鳴滝 史伽 クリスマス事件で出会った魔法世界の王子様と高校卒業後に結婚、娘が生まれたらしい。

 

24番:葉加瀬 聡美 私の彼女。国際太陽系開発機構の麻帆良研究所所長。茶々丸型を中心とした開拓用ロボットの研究に明け暮れている…だけではなく、魔法研究、マナ科学研究を趣味でこなしており、その特許収入は莫大な額に上る。国際マナ科学学会理事。

 

25番:長谷川 千雨  私。国際太陽系開発機構の研究局局長。茶々丸型の人工知能に関する共同研究を行いつつも基本的には別研究。最近は占いの魔法を応用した高精度シミュレーションを手掛けている。趣味で魔法研究、マナ科学研究にも取り組み、その特許収入は莫大な額に上る。国際マナ科学学会理事。

 

26番:エヴァンジェリン  登校地獄の呪いは継続中だが、キャンパスライフを満喫している。とりあえず、院に進み博士号を取ったら別の学部・学科に再入学するつもりらしい。

 

27番:宮崎 のどか  麻帆良大学工学部所属で、このまま博士迄進学の予定。国際太陽系開発機構の研究職を志望しており、こちらとしても堂々と採用できるだけの成果を引っ提げて門をたたいてくれることを期待している。

 

28番:村上 夏美  冒頭の通り、コタローと結婚した。本人は麻帆良にオフィスを持つ一般企業のOLとして就職した。セキリティーなどを考え、転職を進めるかは…まあ状況次第。

 

29番:雪広 あやか  雪広コンツェルン代表として、ブルーマーズ計画推進に尽力。国際太陽系開発機構の設立にも大きな尽力をしてくれた。常にネギの傍らにあり、大きな支えとなってくれている。ネギの斜め後ろにいれるだけで幸せなのだとか。

 

30番:四葉 五月  フランス・中国・トルコに留学後、麻帆良に戻り、超包子を切り盛り。 麻帆良の街の飛躍的な発展とともに経営も順調に拡大中。超包子の株式会社化も検討中。

 

31番:ザジ・レイニーデイ  彼女は魔族の監視者であるらしい。私達の情報交換会に時々ふらっと現れては無茶振りをしたり、単にお茶を飲んで帰ったりという事をしている。

 

 

 

「ところで、千雨姉ちゃんとハカセ姉ちゃんはええ加減結婚せえへんのか?」

「…できねーよ、女同士だし…できるようになればするが」

「そうですねー結婚ないしパートナーシップの為に移住する事は考えていませんしー日本でも早く結婚できるようになるといいですねー」

割と、魔法使い側では同性愛というか同性婚も子供は(富裕層なら)魔法で何とかなるので緩いというか認められている国も多いが。

「ああ、その事なら日本政府から君達を日本に留めておく方策を相談された際に婚姻関係になりたがっている事を伝えてあるから動きがあるんじゃないかな」

「フェイト…テメェはまた勝手に…」

「何かまずかったかい?」

「…いや、いい」

コイツの場合、完全に善意でやっているから始末が悪いのである。

 



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129 人生編 第11話 禁忌のプランとまほら武道会

ストック尽きたのと、UQホルダー最終巻待ちの為、3月下旬から4月上旬ごろ?までお休みいたします。


さて、時間は飛ぶが一度止まって2013年4月、夕映は予定通り、多大な努力の結果ではあるが輝かしい軍歴…戦乙女騎士団小隊長経験者…と修士号相当学位を引っ提げて麻帆良に帰還した…本人の才能とネギとのコネを惜しんだアリアドネー上層部の思惑から軍籍を残したままで。そして夕映は麻帆良大学大学院工学研究科博士課程に入学した。先端マナ科学研究室と銘打った魔法バレずみのメンバーで構成されている研究室に魔法研究の専門家として所属、先に所属していたノドカと協同もしつつ研究に励んでいる。

 そんな夕映をメンバーに加えての情報交換会で私は長年…アスナが封印された9年前から温めてきたある提案をする事にした…場合によれば私は誰かと道を違えるかもしれないと思いつつも。

「さて…今日は始まりの魔法使い関係で提案があるんだが…ネギ、お前は世界の為に思い出をどこまで踏みにじられる?」

基本的な情報交換を終えた所で私はそんな不穏な事を言い出した。

「千雨…さん?」

ネギが困惑した様子で聞き返してくる所に私は二つの計画書の束を卓上に放った。

「黄昏の姫御子クローン計画に…次代黄昏の御子計画…かい?」

フェイトが計画書のタイトルを読み上げる。

「ああ、まあどっちの計画書の序論にも書いてあるんたが…黄昏の姫御子…アスナが私達の手から失われている現在、その組織的活動の妨害程度はできているが、始まりの魔法使い本体…ヨルダを発見しても完全な討伐は不可能…再封印か誰かが取り込まれる前提での一時討伐しかできない…そうだな?」

「ええ…その通りです。ですから宇宙艦隊の建造と共に封印艦の量産をメガロ・メセンブリアと帝国にお願いしている状況になります」

「だが、私はどうにもこうにも嫌な予感がして仕方がないんだ…共鳴りにせよ、マギア・エレベア実験にせよ…時間をかければ魔力を増大させたり、莫大な魔力をため込んだりする事は容易だ」

「あー言われてみれば」

「といいますと?」

場の反応が二つに分かれた。後者の為に私は説明を行う…コレも計画書に書いてあるのだが。

「マギア・エレベアの本質は私達の研究成果から内的世界に開いた門経由で太陽系の惑星の魔力を吸い上げて運用するスキルだってわかっている。また、共鳴りは全人類との強制共鳴能力でもある…個々人のソレは弱くとも莫大な人数との感情の共鳴は簡単に…魔法世界を創造したほどの天才ならば簡単に…魔力増幅装置としての転用を行えるだろう」

「成程です…確かにそうですね、莫大な魔力供給源があれば魔力貯蔵を考えるだろうというのも自然な発想です…そうなれば封印の難易度も指数関数的に増大する」

そう、夕映が私の言いたかった事をまとめてくれた。

「そこで…念のためこちらも新たに黄昏の姫御子を用意しておきたい…その為のプランだ…人工生殖技術も大分発達してきたしな」

「…タイトルから大分不穏な感じがするのですが、具体的には?」

「具体的には、計画書読んでもらうのが一番なんだが…まあどちらも魔法無効化能力…火星の白を持つ子を誕生させるプランだな…クローン計画はアスナのクローンを作成することで、再誕計画はネギの子の量産…エンテオフュシア王家の血から次代の黄昏の御子の誕生を願って」

「それは…許されるのでしょうか…いえ、それ以前に可能なのでしょうか」

そう、ノドカが言った。少なくともこの時点で誰一人激昂しないのは何よりである…委員長を含めて。

「最新の人工生殖技術は万能細胞技術の応用で非生殖細胞からの精子・卵子作成まで可能にしているし、クローンの方も理論上は人でも可能だ…まあ実施例は動物実験だけれどもな。

倫理面に関しては…正直微妙だ、特にクローン計画は…だから一応言い訳の立つ再誕計画なんてもんを用意した…再誕計画は万一漏洩した場合、外的にはネギがひそかに囲っていたハーレムに子供を産ませたことになる」

「ちょっと、千雨さん!?」

ネギが叫ぶように抗議してくる。

「一応、アスナの血液サンプルと遺伝情報、魔素マッピングは本人の同意を得て取ってある…合間を取ってアスナとネギの子を作るって言うのも理論上可能ではある、実施難易度の問題で時期がずれ込む事にはなるだろうが」

「その…計画についてアスナさんは何と?」

そう、委員長が問う。

「どうしようもなくなったらそういう事するのも仕方がないけれど、ちゃんと一人の人間として愛してあげてね、だそうだ」

「それは…アスナさんらしいですわね」

「で、どうする?あくまでも封印できなかった場合の保険として黄昏の御子を用意する場合や完全討伐を目指す場合のプランだから無理に実施する必要はないが…技術的・環境的に用意はしておきたい」

「実施については…スイマセン、暫く考えさせてください。仮に実施する場合は…雪広コンツェルンにお願いできる話ではないですし、かといって僕達のアトリエで出来る話でもないですし…何かしらの用意は必要ですね」

「ならば、僕の方で会社を興そうか。墓所の主…アマテル殿から必要なら協力すると言われているし、彼女の出資で会社を興して…計画実施の際は実行を担当する」

「了解、フェイト。必要なら私達も出資するから言ってくれ」

そうして、この話は一度お終い…必要に応じてだれか…主にネギが発議する事になった。

 

 

 

さて、それはさておき、年々規模を増していたまほら武道会だが、ついにウルティマホラと統合される事になった…クーが大学を卒業してウルティマホラの出場資格を喪い、クーが出場するまほら武道会の方が麻帆良最強決めるにふさわしい、という風潮が出てきて一時期の春の麻帆良武道会、秋のウルティマホラという二枚看板が現状に合わなくなってきたからである。まあ、秋の学内格闘大会は格闘大会で継続するが、ウルティマホラという看板は降ろすという訳である。その代わり、まほら武道会自体が年2回開催となり、参加制限一切なしの麻帆良祭大会とウルティマホラの看板を掲げた麻帆良市在住(学生含む)を参加資格とする秋大会になったのだが。

そして、その両大会をクーが蹂躙する…ネギと私は出場しないので特に…という構図が繰り広げられるわけだ。が、その状況に危機感を抱いた私達運営委員会は遂に無詠唱魔法の使用を解禁し、かつダブルス部門を創設することを決定した…まあ色々あって魔法バレは例年の記録防止措置と引き換えにOKとなっている。で、春の大会だけでは物足りなくなった魔法世界の猛者や格闘家達が秋大会の出場権を目当てに麻帆良に移住してくるという結果迄招いているし、バトルマニアの間の噂で観客もさらに増えて行っている。

…と言った経緯を受け、麻帆良スタジアムを使用しての大会が毎年二回開かれ、興行収入も中々のモノとなっており…クーのダブルス部門への出場が期待されてきた…クーはふさわしいパートナーが見つからないとシングル部門に出場してきていたからだ。そうして2015年秋大会…遂に夕映をパートナーにクーはダブルス部門への出場を果たし…優勝した。

「優勝おめでとう、クー、夕映。実にいい戦いだった…久しぶりに本気でお前とやりたくなったよ」

「イヤーそれは何よりネ…よければこのあとエキシビションと洒落込むアルカ?」

「くーふぇさん…いくら何でも運営委員長の千雨さんにそれは…」

「かまわないぞ、大会の進行も大分まいていたし…何よりここ数年公式の場でやってないからな、たまにはいいだろう…二対一でやるか?」

「えー一対一でやりたいアル」

「あー私は遠慮しておきます」

「ならクーと私でやろうか」

 

という訳で、私は急遽表彰台等が片付けられたスタジアムで私はクーと向かい合った。

「さーて、突如始まりましたエキシビション戦、クーフェイ選手と長谷川千雨運営委員長の戦いです。ご存知の方もおられるかとは思いますが、長谷川委員長は中学生時代ウルティマホラで何度も準優勝を果たしており、また現在も公式戦こそ未出場ですが激務の合間を縫って鍛錬を積んでいるという噂です」

そんな司会の台詞を聞き流しながらクーと向かい合う。

「さて、どこまで使うかね…咸卦まで?それとも術式装填までいっとくか?」

「ハッハッハ…本気で、と言ったはずネ…全力装填してかかってくるアル」

「了解した。後悔すんなよ?まあ、今は何も用意してないから詠唱禁止のルール上、属性の招来になるのは勘弁してくれ」

そう答えて私は咸卦の気を身に纏い、雷の招来と風の将来、そして闇の招来を無詠唱行使、魔力球を取り込んだ。

「では…」

「いくアル」

私のバカげたパワーとクーのよく練られた気がぶつかり合い、スタジアムに衝撃波が走る。

「あいやー相変わらず、とんでもないパワーネ、千雨…押し負けてしまったヨ」

「やかましい、コレに気だけで追随してくるお前も頭おかしいからな?ラカンのおっさんか、お前は」

「武人として、ジャック・ラカンは一つの目標ネ。そう例えられるのは嬉しい…よッ」

鉄扇を抜いて再び激突…今度は純粋なスペック勝負にはならず、技量重視の攻防となり、クーに押される場面も出る…まあスペック差で無理に盛り返せる範疇ではあるのだが。

「フフ…ネギ坊主と戦っている様で実に楽しいアル」

「フンッ…スペック上のアイツの優位は雷速瞬動くらい…単純スペックでは今の私の方が強いさ」

尤も、ネギは既にマギア・エレベア完全体と化している事も踏まえた魔力量勝負も含め、再生力等々諸々を勘案すると勝ちきれる、とまでは断言しかねるが。というか多分お互いの再生力を上回るダメージを与えられずに千日手となるが。

「…アレ、本当に厄介アルよねぇ…」

「毎年、正月の対戦では対応しているじゃねえか」

「対応できるのと厄介じゃないのは別問題アル」

何ておしゃべりを交わしながらも戦いは続いている…悔しいが相変わらずクーの純粋格闘技量は私やネギを圧倒する…そろそろエヴァに届いているんじゃないかなとも思うのである…まあそれくらいでないといくらよく練られた気を持つとはいえ、私たちスペックお化けの化け物相手に戦えないわけではあるが。

「さーて…そろそろ体もあったまってきたし、機動打撃戦に移らせてもらう、がんばって着いてこいよ」

そう言うと私は間合いを取り、宙に舞った。

「あーやっぱそうなるアルね」

そうぼやくクーに向けて私はヒットアンドアウェイ戦法で戦いを挑むのであった。

とは言え、時々魔法も投げつけてはいるがクーを倒すには至らない…まあ、ネギの雷速瞬動を生かした乱打戦にもついてこられるのであるから当然である。

「くっ…捉えられんアル」

「それ目的の機動打撃戦だからな」

主目的はクーの反撃を封じる事…ネギの雷天大壮と違ってカウンターに弱いという特性は存在しない、スペック差からそれに賭けるしかないという点は変わっていないにせよ…であるから別に構わないのである。

「別に千日手になる事自体は構わんが、いい加減に捉えんと千雨の糸術魔法陣が完成してしまうアル」

「そうだな、現在進行度9割って所だ」

「あー拙いアルネ。所で今日は何アル?魔法補助?槍の弾雨?雷撃の嵐?それとも自動追尾連弾アル?」

「んー完成してのお楽しみだな…ちなみにお披露目してないだけで他のバリエーションもあるぞ」

「増えているアルか!?まあ良い、耐えて見せるアル!」

といった具合で時間は進み…私の糸魔法陣が完成した。スタジアム解放部付近に展開した魔法陣の直下に雷の魔力球が出現し、そこから一本の雷槍が出現する。

「自動照準砲台の雷槍アルか…千雨本人からの射撃と違って偏差射撃してこないだけまだマシアルね」

「そうだな、あんまり空間魔力濃度が無かったもんでな…まあこれで勘弁してくれや…そらっ、いけっ」

雷槍がクーのいた位置に突き刺さる。このタイプの発射タイミングは私がコントロールしている。

「くっ…足を止めればやられる…しかし運動戦に付き合うのも不利アル…気弾で魔法陣を破壊…する隙を千雨がくれる訳なかったアルネ」

「そうだな。まあ、がんばって足掻いてくれ。その方が興行的にも盛り上がる」

クーとの運動戦…スペックと技量の対戦となるが足を止めれば狙撃されるというプレッシャーがクーのメンタルを削り取っていく。

 

「あっ」

長い攻防の果て…それは一瞬の事であった。私が放った無詠唱白き雷…開始から意図的に使用してこなかった私からの魔法攻撃はクーに対して精神的奇襲となって直撃し、足を止めた所に雷槍が突き刺さる…だけで止めとなるとは最近のクーの気の練度的にあり得ないのでさらにクーをぶん投げ、断罪の剣を喉元に突き付ける。

「チェックメイト」

「あー負けたアル…と言うか、千雨の常套手段とは言え、この奇襲はズルくないアル?」

「ずるくはないな、今大会のルールで認められた範囲の魔法行使だし…対応されたら以降、魔法マシマシで組み立てていくだけだ」

私はクーのボヤキにそう答えながら手を差し伸べ、クーを起こすのであった。

その後、この優勝者とのエキシビションマッチが恒例と化していくのは後の話である。

 



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