例えばこんな長谷川千雨の生きる道 (紅シズク)
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プロローグ
01 プロローグ 前編 少女は異端となる


学びなさい

理を学びなさい

私の娘よ

生き抜く為に

 

求めなさい

力を求めなさい

私の娘よ

死なない為に

 

楽しみなさい

全てを楽しみなさい

私の娘よ

成し遂げる為に

 

おいでなさい

ここにおいでなさい

私の娘よ

運命の輪に乗っていつの日か

 

 

 

これは確か…

そう、あれは確か私が持つ一番古い記憶だ。

 

私は暗い場所にいた。

そして声を聞いた。

 

子宮の中の記憶なのかもしれない

夢なのかもしれない

テレビや読んでもらった本のセリフなのかもしれない

 

だが確かにそれは私に向かって言われた言葉だった。

少なくとも、私はその言葉が私に向けられていた、と感じていた。

 

 

私こと長谷川 千雨は両親共働きの家庭に生まれた。

 

好奇心の強い活発な子供だった私は、遊び回り、いろんな本をよんだ。

 

別に鍛えたとかそんな大層な事ではなくて、ただ遊びまわっていた。

別に勉強とかではなく物語や雑学、絵本に学習漫画、背伸びをしてむずかしめの本などもよんだ。

外で遊ぶのも本を読むのも好きな少し背伸びした子供だったというのは間違いない。

 

 

 

私立の麻帆良学園女子初等部へ入学した私は、友達100人とまではいかないがそれなりに周囲と交流を持った。

なぜ、友達になった、ではなく交流を持った、かというと『友好的な付き合いをする知人』という意味では友達と言えるけれども、

数か月前まで住んでいた所でよくつるんでいた『友達』と比べるとどこか…何かが違うような気がするのだ。

とにかく、クラスのほぼ全員とそれなりに関係を持っていたし、かといってとりたてて仲のいい人もいなかった。

 

 

そういった知人と探検の過程で学園のあちこちで見つけた事について話していたある日、不思議なことに気付いた。

街中でみた広域指導員の先生が武術系サークルの大学生のけんかを止める、といった「まるでアクション映画みたいな」場面や、暴走したロボットについての話はよくあるし、見たっていう子も何人もいる。

だが…私がたまに目撃する、映画やアニメみたいに『空を飛ぶように走ったり、空を飛ぶ』先生や先輩についてとか、『たまに夜に周辺部で見える光』とかについては誰もみた事がいないという。

それだけならともかく、「さすがにそれは見間違いじゃない?」とか「映画の撮影だったりするんじゃない?」とかいわれた。

広域指導員の先生とかを見ているとそれくらいできそうだよね、みたいな流れになるのがうちのクラスの連中のノリのはずなのに…

本当だと強弁してはみたものの、うそつき呼ばわりされかけただけだった。

なんとか夏休みの話に誘導して、あっさり流してくれたのは幸いだったが。

その時は私は少し悔しい、それ以上の感情を抱いてはいなかった。

 

 

夏休み、いつも以上に活動範囲を広げて私は学園都市を冒険した。

前から気になっていた図書館島に興味がわいたが、肝心の地下迷宮部分への入場は学園からの特別な許可が必要な上に、中学生以上が入れる図書館探検部の部員以外がその許可を得ることは難しいとのことだ。

とは言え、地上部分だけでも非常に多くの蔵書があり、きたかいは十分にあった。

 

 

ある日、私は探検の合間に学習図鑑を読んでいて、あるページに差し掛かった。

「植物のいろんな世界一」

そのページを読むうちにある事に気付いた。「世界一高い樹」としてのっている木が樹高『たった』115mほどの木で、「世界一であった樹」にしても、132m程度でしかない。

樹高270mを誇る世界樹の半分以下…なぜ…なぜだ…こんな巨木を学園外に隠せるわけがないし、かくす必要もない。

警備上の理由だとしても…よくドラマや漫画であるように学園が圧力をかけた?そんなわけがない。

それどころか一位と二位に倍以上の差って…あり得るのか?いや、それどころか世界樹の品種は何なんだ…

世界樹の傍の案内板を読んでみてもうまくはぐらかされて…ちがう、書き方の問題じゃない。

麻帆良学園にここに来てこの案内板を読んだ事があるはずだ。

そして普段の私なら当然気になるはずの事をそのまま受け入れていた。

 

何か変だ…

 

そんな疑問を持ったまま探索すればするほど、違和感が大きくなって行った。

この「都市」は麻帆良市にある麻帆良学園という一つの学校組織だから、大学エリアやその近くでロボットの駆動実験をやっていても、不思議ではない。

学生同士の喧嘩やもめごとを教師…広域指導員と言うらしい…が仲裁するのも当たり前だし、無茶苦茶デカイ図書館があっても規模から考えればありだろう。

そう自分を納得させていたが、何かが引っ掛かる…考えているうちに気付いた、気付いてしまった。

 

ロボットの駆動実験が行われているのはいい。技術レベルが「外部の」テレビで見ていたような技術レベルとは違うのだが、まあ置いておこう。

しかし…暴走事故がたびたび起こっていて、「奇跡的に」死人どころか重傷者すら出た事がないとは言え、対策が取られている様子がまったくと言っていいほどないのはなぜだ?

 

広域指導員という名の教員が学生のいざこざを収めるのはいい。大抵のいざこざはうまく仲裁している優秀な先生達だ。

だが…私達が見てきたなかでかなりの件数で「制圧」というかたちでの収拾が図られた事がある。

暴力による鎮圧…それを必要とあらば簡単に選択する事がまず異常だし、さらにプロ顔負けの連中もいるような大学サークルの連中を一人で制圧できる事の方がもっと異常だ。

 

…プロ顔負けだと?

 

そうだ、全体的に能力もおかしい。

下手な本職を上回る技術力を有したサークルとかもある、それも一つや二つではなく相当数、だ。

私が知らないだけかもしれないし、費用の問題なのかもしれないが、私が外で見聞きしていた技術レベルと比べてこの都市の技術レベルは異常に高いように思える。

 

 

やはりこの街はおかしい…何かが隠ぺいされている。内部に対しても、外部に対しても…しかもまるで魔法か集団催眠みたいな方法で…

…そんなマンガじゃあるまいし…と本来なら一笑の後に破棄すべき解答が得られてしまった。

 

だからどうした

 

確かにかくされた秘密とやらは気になる、だがそれを知ってどうなる?

そんな摩訶不思議な隠され方をしている秘密を知って…消されるかもしれない

命をかけてまで知る必要がある?いや、覚えておくだけでいいだろう。

むしろ忘れてしまった方がいいのかもしれない…

 

私はそう思って思考を打ち切る事にした。

 

 

 

 

それからが地獄だった。

 

気づいてしまってから、何もかもが歪んで見えるようになってしまった。皆が見えている世界がわからなくなった。

 

私の見えている物のうち、どこまでが気づいて良い事で、どこからが気づいちゃいけない事なのか?

 

わからない…とりあえずなにも考えずに歩いていると「入っちゃいけない」場所に入ってしまう事もありそうだ。

 

一度、気がつくと異様に人がいない状況に遭遇し、広域指導員の先生に迷子扱いされて連れ出された事があった。

 

…たぶん、あれは皆の常識を狂わせている力で人払いをしていたのだろう。

 

放課後の世界樹前広場が無人になって、解放されて戻ってみるといつも通りの賑わいを見せている、というのがありえる事なら別だが。

 

…同じ場所にいても、見ている景色が違うのだから常識や価値観がずれ始める。

 

皆といると常識の、見ている景色のすり合わせに疲れを感じるようにまでなってしまった。

 

ながされてしまえば…気づいた事を忘れてしまえば楽なんだろう…でもそれはできなかったのだ…

あるいは、気づいた事を周りに話してしまえば楽になるはず…私をうそつき扱いされて向こうが離れていくはずだ…

でも、私はうそつきになれず、異端のまま生き続け、周りとの関係を疎遠にするようになってしまった。

 

いつしか異端である事を忘れないように、私は度の入っていないメガネをかけるようになった。

私が見えているものは他の皆と違うのだ、という事を忘れないように世界と私を隔てるシンボルとして…

 

こうして…私がこの都市の異端として生きることを始めて…1年の月日がたった。

 

 

 



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02 プロローグ 後編 少女たちの信念

二度目の夏休み、私はこの都市を管理している何者かに接触しようとしている。

 

なんというか…危険なのはわかるが心の奥に刻まれたあの言葉が…あの最古の記憶が私を突き動かすのだ。

 

慎重に、しかし確実に管理者に近付いている。

そっち側っぽい人たちを尾行…なんてしない、したら速攻捕まる。

今年の麻帆良祭のときに空を駆けていた人を覚え、探索で街に出た時にそのうちの誰かを見つけたら不自然にならない程度に観察するという手法をとった。

対象が喫茶店にいたら、そしてその喫茶店が私が入れるような気軽なものなら席をとってこっそり話を聞いたりもする。

対象が騒ぎの鎮圧をしたのなら、去っていく方向に私が目的地としても不自然でない何かがあればそこに向かう過程で観察する、なにもなければあきらめる、といった具合で。

 

その結果、その人たちはやっぱりおかしい、と思える事を2つつかめた。

 

一つ目は、その人たちの会話は終わり方が変な事がある事。

普段はごく普通の事を話しているのに、怪しい人たち同士で話していると話をまとめずに…時間だからということわりさえもなく…唐突に話が終わる事がある。

 

二つ目は、マギステル・マギ…後で調べたら立派な魔法使いという意味のラテン語らしい…だとか侵入者を撃退だとか、裏の人間だとか、夜の警備だとかいう話をポロっとしていたりする事。

話の流れから判断すると物語の世界についての話ではないようなので、彼らが飛んでいたというのは単なる私の幻覚ではないと思っていいだろう。

 

 

そういう調査を初めてすぐの頃、怖くなって麻帆良学園以外の学校に転校させてもらう事を考えもしたが、すぐに私の知識欲や性格から言って、もっと酷い事になると判断した。

私はここにいるからこそ『気付いてはいけない秘密を知ってしまったかもしれない普通の、精々ちょっと変わった』子供でいられる。

この都市の外では…『異常な』子供と分類されてしまう可能性が高い、だからそれはだめだ、との判断に至った。

 

また、別方面でもアプローチを初めてみた。

世界樹ってすごく大きいよね、広域指導員の先生ってすごいよね、大学のロボットってすごいよね、みたいな会話をして同じ事に気づく人が出ないか探りを入れている。

…なんで最初からこういうアプローチしなかったんだと我ながら頭を抱えたが、きっとそれだけショックだったという事なのだろう。

 

あ、それと趣味でパソコンとインターネットを始めてみた。

はじめは私が常識だと思っている事が事実かどうかを確認したり、知識を集めたりとかに使っていたがそのうちパソコンやネットワーク自体にも興味を持つようになり、独学で勉強している。

それもあり、最近は読書の傾向がそういった方面の本の割合が増えてきた。

 

 

そんな生活を続けているうちに小2の冬休みとなり、一人ある意味仲間を見つけた、というか向こうがみつけてきたというか…

 

初等部レベルの算数理科の知識を大体身につけ、図書館島に入り浸るようになったのが冬休み少し前の事だ。

 

プログラムやインターネットに関する本を積み、中学の数学理科や高校の物理に属する本を読んでいると、唐突に声をかけられた。

 

「あの、はじめまして。私は葉加瀬 聡美って言います。えっと、御名前うかがってもいいですか?」

 

はじめ、なんだこいつは、と思った。私と同じ女子初等部の制服を着たメガネ(私のと違って度入り)で髪を三つ編みで左右に分けた少女がいた。

彼女の手には大学レベルと思しき学術書があった。彼女ほどではないが年齢からすると異常なレベルの本を読んでいる私に興味をもったのだろう

 

「私の名前は千雨、長谷川千雨。葉加瀬って呼んだらいい?」

 

「はい。長谷川さんはその本全部自分で読むんですか?」

 

葉加瀬は安心したように顔を緩めると私の選んだ本を指さす。私は苦笑して返した。

 

「うん、こっちも自分用の本。葉加瀬もそれ自分で読む本なの?それ」

 

「はい、ええ自分用の本ですよ。自立型ヒューマノイドを作るのが私の夢なんです」

 

間違いない、こいつは知識欲と学習レベルの異常性に関しては私と同類…しかも目的がはっきりしている分より高い異常性を示している。

 

どことなく親近感を抱いたためか、それ以降冬休みの間、私達はお互いの事を話した。

そしてわかった事は、葉加瀬はまだ気づいていない。

でもちょっと疑念を与えてやればあっという間に私と同じ結論にたどり着くかもしれない、

少なくともそれだけの頭脳は持っている、全てを話すとうそつき呼ばわりされるかもしれないがこの都市が変だってことはわかってくれると思った。

 

だが…私と同じ思いを葉加瀬にさせるかもしれない、むしろ科学万能思考のこいつが壊れないか、それが心配だ。

友達は、この気持ちを共有できる仲間は欲しい。でもこいつにそれを伝えると…まずい事になるかもしれない、彼女の精神面でも、行動面でも。

結局、葉加瀬にはこの都市のおかしなところについてしばらくは黙っておく事にした。

 

彼女は隣のクラスだったらしく、仲もよくなっていった。放課後に図書館島に一緒に行ったり、一緒に勉強したりする位に。

まあ、私のライフスタイル上それは毎日というわけではないが、特に仲のいい友達と周りから認識される位によく一緒にいる。

 

そんな事もあって麻帆良祭もかなりの時間を葉加瀬と回った。

魔法使い達の調査に関しては新しい顔を数人覚えた以外は成果を得られなかったが、楽しかった。

 

葉加瀬という比較対象ができたことで勉強の速度が加速し、一部の分野は葉加瀬に勝てないにしても匹敵するレベルには達していると思う。

コンピュータに関係ない分野はまあそれなりに、といったところだが。

 

 

 

3年の冬休みある日、私は耐えられなくなって…友達だって思える、そして友達だって言ってくれる葉加瀬と見ている世界が違う…そんな事実に耐えられなくなって…ある質問をしてみる事にした。というか、してしまった。

私の秘密を話すにあたって…科学に身を捧げたいと言って憚らない彼女には必ず聞いておかなければならないと思っていた質問を。

 

「ところで、もしも自分の目の前で魔法とか超能力を見せつけられたらどうする?それもトリックだと思えない方法で」

 

これは私が考える『本当の科学者』としてのあり方についての命題の一つでもある。

 

「魔法や超能力…ですか?そんなもの存在するわけがないじゃないですか」

 

「そうだね、だからこれはあくまでもしもの話」

 

予想通りの事を言う葉加瀬に、私は笑って答える。

 

「そうですね…」

 

葉加瀬は真剣な顔でしばらく沈黙し、一度空を仰いでから今度は真剣な、幼いながらも科学者の顔で答えてくれた。

 

「まずは、既存の科学分野での説明を試みます。またそれがトリックの類でない事や、再現性を証明させる為に違う条件での実験もします。

それでなお…それでもなお説明がつかない場合は…科学に新たな分野が加わる事になるでしょう。

それがいわゆる魔法や超能力であったとしても、再現性があるのであればそれは科学的検証が可能です。

むしろオカルトだと再現性のある事象を切り捨てる事の方が非科学的だと私は思います。それをするのであれば、もはや科学は科学ではなく、宗教と呼ぶべきですから。

ちなみに長谷川さんならばどう答えるんですか?」

 

私は歓喜した…それは期待した以上の答えだった…

 

「私か?葉加瀬ほど具体的ではないけど…

どう考えてもありえない事が確かに起こったとすれば、それは考え方が間違っている、考え方を改めよ。

より具体的には葉加瀬とおんなじような答えになるかな。

…話は変わるけど、世界樹の品種ってしっているか?」

 

「ほんとに急に変わりましたね。世界樹の品種…ですか?そういえば気にした事もなかったですね」

 

私の期待以上の答えを出してくれた葉加瀬なら…

 

「…あれ?今までなんで気にした事もなかったんでしょう?えっと…樹高250mにも達する…品種…えっと確か」

 

葉加瀬は近くの書棚から植物図鑑…私が気づいてしまったのと同じ図鑑…をとってきてめくる。

 

「ありました、この図鑑にいろんな植物の世界一が…え?…でも…なんで?こんな事って…」

 

葉加瀬は『こんな目立つ所に現存する巨木』のたった半分の樹高の木が世界一高い木と記載されている事実に軽く戸惑いを覚えているようだ。

 

「私もそれに気付いた時、びっくりした」

 

…私の身勝手で…孤独に耐えられなくてこんな事をしてほんとごめん…私は心の中でそうつぶやいた。

そして続ける、本来消えてしまう、いや消されてしまうであろう小さな綻びをもう戻れない大きな穴にするために。

 

「それに気づいたら…疑問を持ったら…いろんな気になる事が見えてきたんだ…」

 

私は話した。この都市の冷静に考えたらありえないいろいろな事を…むろん、麻帆良学園に属する大学の異常な技術力も含めて。

葉加瀬も興味を持ってくれたみたいでその話にちゃんと付き合ってくれた。

 

「…確かに…ここの大学の技術レベルは進んでいます…でも、最先端であり、かつ秘密保持がしっかりしている、で説明付きませんか?」

 

「最先端は良いにしよう、確かにそれで説明がつく…かは私にはわからない。外での最先端扱いとの技術レベルの差がほんの少しなのか大きいのかはわからないからな。

でも秘密保持でいえば路上で歩行試験してる…どころか麻帆良祭のパレードに出しているような機械の存在を秘匿する気がある、と本気で思うか?

再現できない、ならともかく存在すら知られていない、ってのは変だろう?」

 

「うむむ…確かに…」

 

こんな感じのやり取りを先ほどから何回か続けている。いくつかは私の話した事も葉加瀬に一応は納得できる答えをもらったし、逆に葉加瀬からそういえば…という事も聞いた。

 

「とにかく、この都市に『なにか』ある、という考えについてまでは納得してもらえたか?」

 

「個々の事象に関してはともかく、それを集めると何かあるかも、とは思いました」

 

私は小さく頷いて続けた。

 

「今までの話は皆が見えているもの、についての話だったけど、ここからはそうじゃないからそのつもりでお願い」

 

葉加瀬は首をかしげているが続けた。

 

「ここからが本題なんだ…私は空を飛ぶ人や、建物の屋上から屋上へ飛び移りながら自動車並みの速度で駆け抜ける人が見える。

夜に周辺部で発光が見えたりするし、神隠しみたいに人のいない状況に遭遇したうえ、広域指導員の先生に強引にそこから連れ出された事もある。

そして…そういった人たちを観察していると、連中が『夜の警備』とやらをしていて、侵入者を撃退してるらしき会話も聞いた事がある。

それに…連中はマギステル・マギとやらを目指しているらしい。」

 

「マギステル・マギ…ラテン語で立派な魔法使い…ですよね?いや、でもさすがにそれは…」

 

葉加瀬がさすがに信じられない、といった表情で私を見る。

 

「わたしも実際に魔法とやらを使っている場面を見た事あるわけじゃない…だけど、それなら説明がつく、この麻帆良学園には一定数の魔法使い達のコミュニティーがあり、

何者からか、この学園あるいはこの学園内の何かを守っている。世界樹は注目を集めたくないから隠されているか、連中にとっても重要な何かであり…発光特性から察するに後者かな…

この学園にはそういった秘密から目をそらすための魔法か何かがかかっている、ただし何らかの原因で効果に個体差がある…ってところだろうな。

もっとも、私が見聞きした事が全部間違いだって可能性だってある、それならそれが一番良い」

 

「…長谷川さんはそれを私に話してどうするつもり…いえ、なぜ私に話したんですか?」

 

葉加瀬が明らかに困惑した様子で私をみる。

いつの間にかたかぶっていたらしい感情が一気に冷めてゆく…

そしてなんとも言い難い嫌な気分になった。

…そして

 

「…耐えられなかったから…周りの皆と見ている世界が違う、っていう事実に…ごめん…自分勝手な理由でこんな事はなして…

話したら葉加瀬も危険な目にあうかもしれないのに…」

 

懺悔するようにそう言った。

 

かってに涙がこぼれてきた…ああ、私は大切な友達に何をしたんだ…

 

気づいてしまった事がばれたらどうなるかわからないって自分で思っていたはずなのに…そんな状況に葉加瀬を引きずり込むとか、私は…

 

力が抜けて…やってしまった事に気づいて…私はその場に崩れ落ちてしまった。

 

そして意識は内側に向き、全てが崩れていく感覚に襲われていた…

 

ああ…馬鹿だ私は…自分の手で全てを…壊してしまった…

 

信じてくれてもくれなくても…絶対に話すべきではなかったのに…

 

せめて魔法使い達については話すべきではなかったのに…

 

どれだけの時間が過ぎたのかわからない…

 

私は闇の中にいて…より深いところへ沈んでいった…

 

きっとこれが絶望って奴なんだろう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと気がつくと私は闇から引き上げられていた。

 

そして光の中に引き戻された。

 

目をあけると葉加瀬が本を読んでいるのを見上げていた。

 

…私は葉加瀬に膝枕をしてもらっていた。

 

「は?」

 

そんな声をあげてしまったのも不可抗力という奴だろう。

 

「あ、おはようございます千雨さん」

 

それに気付いたようで葉加瀬が本を閉じて見降ろしてくる。

 

「えっ…と?」

 

全く状況が読めない。

 

「どうしたんですか?千雨さん?」

 

「葉加瀬なんで名前?」

 

「え…まさか覚えてないんですか?」

 

覚えていない…なにを?

 

「あ」

 

思い出した。あの後何があったのかを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣き崩れた私は不意に何かに包まれた。

 

「大丈夫ですよ、長谷川さん」

 

それは葉加瀬だった。

 

「貴方はうそつきなんかじゃありません、貴方が見えるものが私にも見えるかはわかりません、でも貴方は嘘をつく人じゃないです。だから信じます。

 

長谷川さんの事だから、秘密を知ったら消される…とか思っていたりしませんか?

 

大丈夫ですよ、冷静に考えてください。

 

簡単に気付くような事からあっさりたどり着くような秘密を知られるたびに消していたら麻帆良学園は年中行方不明者ばっかりになっちゃいますよ。だから大丈夫です」

 

わたしを抱きしめて頭をなでながらそういってくれる葉加瀬に私は泣きながら言った。

 

「葉加瀬…私ひどい事したのに…一人で辛いからって葉加瀬も引きずり込もうとしたのに…許してくれるの?」

 

葉加瀬は笑って答えてくれた。

 

「なにをいっているんですか、ひどい事なんてされていませんよ、私は長谷川さんが探検で見聞きした学園の事を聞いただけです。なにもひどい事じゃありませんよ」

 

そのあと、もうしばらく葉加瀬に胸を借りて泣いていた。

 

「長谷川さん、実はですね…私は身をささげるどころか科学に魂を売り渡すつもりなんです、それも4年生に上がるのをきっかけに」

 

私はその言葉の意図が全く意味がわからなかった。

 

「私は、科学の発展のためなら多少の非人道的行為もやむなし、って思っています。そしてそう生きようと思っています。

 

…実は私が長谷川さんに近づいたのは、私の直感が貴方なら私が望むもの…研究のパートナーになってくれるって思ったからなんです。

思った通り、千雨さんはプログラムに関しては私以上の素質がありましたし、他の分野も期待以上でした。

 

でも…一緒に時間を過ごすうちにそんなのどうでもよくなりました。誘いはしますが無理に私と来て欲しい、とは言いません。長谷川さんには長谷川さんの信念があるはずですから。

そりゃあ、パートナーになってくれたら嬉しいな~って思っています。

もちろん貴方が私の夢の実現に役に立つって言うのもありますよ、でも長谷川さんだからって気持ちもあります。っていうか今はそっちがメインかもしれません」

 

私を抱きしめる強さが強くなる…

 

「一度話したと思いますが、私は特例措置を利用して年度が変わったらすぐにでも麻帆良大工学部のロボット研究会に所属できるようにするつもりです。

多分、研究会への所属は認められると思います、それだけのものを用意しました。そうしたら私は科学の使徒となります…

 

長谷川さんがこっちに来てくれるかどうか、ってのは関係なしに、私は長谷川さんと友達でいたいんです。

 

私が信じる道を行くように、貴方が信じる道を行った結果、道を違えても…万が一敵と味方に別れて争うような事になったとしても…それでもです」

 

葉加瀬は一度私を離して私の目を見て、そして言った。

 

「こんな私と、ずっと友達でいてくれますか?」

 

「うん…私こそ…ずっと友達でいてほしい…これからもよろしく…葉加瀬…えっと聡美って呼んでいい?」

 

「…ええいいですよ、千雨さん。これからもよろしくお願いしますね」

 

そして…泣くのに体力を消耗したらしい私は葉加瀬、いや聡美の膝を借りて夢の中、という寸法だ。

 

 

 

「思い出しましたか?千雨さん」

 

私は顔赤くしてゆっくり大きく一回うなずいた。

 

「それはよかったです、もし思い出せないとか言われたら…かなしいですから」

 

聡美はそういってほほ笑んだ。

 

そのあと、私達は互いの今まで話していなかったことについて話した…

私のメガネの意味とかも話したし、葉加瀬の…いや聡美の夢をもっと具体的に聞いた。魔法使い達についての情報をまとめてみたりもした。

 

さんざん紆余曲折したあげくに、

 

魔法使いについては気にはなるけど継続調査にとどめるか放置でいいんじゃない?

冷静になってみると私がうそつきじゃない証明と好奇心以外に追う理由なくない?いや、好奇心こそ私たちの行動原理だけどね。

 

という結論に至ったというなんともまあ笑うしかない話だ。

 

 

人工知能の作製とそれを十分な速度で動かせるヒューマンサイズのコンピュータの開発

 

聡美に口説かれてそれは私の目標となった。

 

話しているうちにいくつか構想が上がってきたので軽くそれを聡美に話してみた。

するとあろうことか、聡美は彼女が準備している論文の人工知能関連の部分についての章を分離させて私との共著にしようとか言い出した。

 

やってやろうじゃないか

聡美が認めてくれた私の実力を見せてやる

…それにしても…聡美って私以上に私の性格わかってないか?

 

私はその日の夜、一人ベッドでそう思った。

 

 



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茶々丸開発編
03 茶々丸開発編 第1話 不思議な出会いと研究生活


聡美に醜態をさらしてからおおよそ3か月が過ぎ、4月となった。

さすがに制御される方の勉強もしなきゃまずい、という事でいろいろ詰め込まれた3か月だった。

 

私達が4年生となる春休み、聡美は提出した論文によって特例認可に十分な能力を持つと認められて4月1日から麻帆良大学のロボット工学研究会にも所属する事となった。

 

私は論文での認定は無理だったが、昨日一昨日と試験を受けた。結果は始業式までお預けだがおそらく…いけただろう、そう信じるようにしている。

 

そんな4月頭の晴れた日、私は桜ケ丘をうろついていて、ふと見つけた脇道に入って川に架かった橋を見つけた。

 

少し休みたいと思った私は橋の脇の土手に寝転がった。

空を眺めながら今の状況を振り返ってみると…よくもまあ…こんな事になったと思う。

 

自分を異端だと認識し、世界から取り残されたような錯覚に襲われながらも、自分はおかしくないと信じ、それを証明するためにこの都市のおかしさをかぎまわっていた私がこの都市のおかしさに飲み込まれている…

 

1年半程前の私に聞かせたらどんな顔するだろう…ありえねぇ…って顔して、本当だと繰り返したらふざけるな、って言うとおもう。

もしも、私の好奇心が小さければ…もっと子供っぽかったら…あるいは聡美と出会っていなければ…私はきっと周りから取り残されて…

日常と常識をこよなく愛し、非常識を嫌う少女になっていただろう…いまでも日常と常識は好きだし、この都市の非常識は苦手なんだが…大分慣れてきた。

 

もっとも、どんな道に進んでいてもいつかコンピュータに出会い、プログラムの魅力に出会っていたような感覚はするんだが。

 

しかし…初等部の4年生以上で十分な能力さえあれば大学で最先端の研究に携われる…こんな特例を最下限で適用された生徒って聡美…うまくいけば私たち…以外にいるのだろうか?

そもそも私は特例を受けるに足るだけの十分な実力を示せただろうか…そして…研究室に所属できたとして、本当にやっていけるのだろうか…思考は次第にそういうふうに傾いて行った…

 

ゾクッ

 

突然、そんな擬音では不十分だがそれ以外にたとえようのない感覚が背筋に走った。

跳ね起きてあたりを見渡すと…真っ黒い何かが橋の上にいた…それは滑るように動きだし、川の反対側に向かっていった。

それは黒いフード付きのマントを纏った人型のナニカで、植物の蔓のようなもので鈍色の石をつりさげたネックレスがなぜか目を引いた。

 

ただ、ゆっくりと歩いているだけだというのに私は目が離せなかった。

 

まるで世界を従えているような印象を持つをソレを瞬きという行為を忘れて見つめていた…

 

突然それは歩みを止め…そしてゆっくりとこちらを向いた。

 

よくは見えなかったが…多分若い女性だった…全く見覚えがないはずなのにどこか懐かしい感覚におちいった時、私は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

気がつくと、私は土手に寝ころんでいて、夕日が地平線に沈みはじめていた。

 

夢だった…?それにしては妙にはっきりとしていたが…

 

どうにも引っかかるがどうしようもない、証拠のさがしようがないのだから。

一応確認してみたが足跡はうっすらとしたものが無数にあるだけで参考にはならなかったし。

急がないと暗くなるから、と私はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

始業式の日、学園長室に呼び出された私は学園長から特例が認可された事を告げられ、ロボット工学研究会への所属を許可された。

とはいっても、麻帆良祭までは研修を受けながら研究室の各設備の使い方などを教えてもらったりとか、研究会の研究に追いついたりだとか、そういう事を主にしていた。

聡美は麻帆良祭出展作品の調整などでさっそく活躍していたが…

 

 

 

今年も麻帆良祭の時期となった。

聡美とはロボット工学研究会とそれぞれのクラスの出し物の兼ね合いで二日目の数時間しか一緒に回れない予定となってしまったが仕方ない。

いくつか大学近くの出し物を回った後、遊覧飛行船に乗った。

 

「そういえば、こうやって遊ぶのって何ヶ月かぶりだっけ」

 

「そうですね~千雨さんはともかく私は殆ど研究室にこもりっきりですし」

 

「聡美も心配していたよりはずっと普通のままで私はうれしいけどな、研究以外にも付き合ってくれるし」

 

「もう~私を何だと思っているんですか…効率的な作業のためには適度な休憩やリフレッシュ、栄養補給は必要なんですよ?

まあ、個人個人に合った作業方法っていうのもありますから、千雨さんみたいなやる時は一気にっていうのも否定はしませんけど…

一時期やっていたような徹夜はちょっとおすすめできませんよー」

 

「いや…まあ…アイデアが浮かんだら形にしてみたくなってだな…」

 

「別にそれで良いと思いますよ、体調管理さえしっかりするならですけど。」

 

「うっ…気をつけます」

 

二人でジュースを飲みながらそんな話をして本当にのんびりとした時間を過ごした。

 

 

三日目は昼から、学祭前に目を付けておいた特別デザートメニューを食べに回った。

 

本当はその合間に周りや移動途中のイベントを楽しむ予定だったんだが、昼食をかねて最初に入った世界樹前広場のレストラン、次の龍宮神社南門近くの特設茶店、3件目のフィアテル・アム・ゼー広場近くの屋上喫茶店と、どこも居心地が良くてかなりの時間をそこですごしてしまった…

最初の目当ての学祭特別メニューではないものに目移りした、というのもあるんだろが…

 

 

次の日、私は熱を出して一日寝込んだ…何か壮大な夢を見た気になったが…どんな超展開の夢だったかは思い出せない。

あと、相当疲れが溜まっていたらしく、熱がひいた後は妙に体が軽かった。体調管理に気をつけなきゃいけないな…と思った。

 

 

もっとも、そんな考えは麻帆良祭の振替休日明け、私は教授からとんでもないものを見せられた事により消し飛ぶ事となったが。

見せられたものはMITの開発した人工知能システムの設計図…現在公開されている物など、ただのお遊びに過ぎない…そう言われても認めるしかないと思ってしまうほどに素晴らしい設計思想だった。

私が探した限りこんな人工頭脳は発表されていなかった…詳細を知りたい…ソースコードを読んでみたい…そう教授に懇願すると、とんでもない事を知らされた…このシステムの詳細はアメリカの機密指定を受けている…と

しかも、この理論を基にそのプロジェクトチームに属する天才日本人兄妹がこれを発展させて感情を有する人工頭脳の開発に成功したという噂まであるらしい。

そして教授は私に何か作ってごらん、そういってきた。アドバイスをもらってもいいし、協力を求めてもいい、だが自分で自分の作品を…自分の子供を生み出してごらん…そういったのだ、私に期待している、とも。

 

私はその日から日常を全てそれに奉げた…授業には出席して話も聞いているが頭の大部分は常に人工頭脳の事だけを考えていたし、探検の目的は閃きを求めてのものに変っていた。

 

私は人工知能システムの再設計に取り掛かった。再設計にあたり、私は自己進化機能と拡張性を重視して設計をした。

開発方法は、まず様々なプログラムを学習により改良してゆく事ができる機能を持ち、各プログラムの管制を行う基幹AIを作製、起動させる。

次に基幹AIに基本動作プログラムの改良を行わせ、基幹AI自体の性能を向上させ、その時点で自己進化機能を基幹AIに追加する。

こうしてできた骨組みに外装となるさまざまなオプションプログラムを接続し、オプションプログラムの改良と基幹AIの進化を同時に行う事とした。

設計と開発計画を教授に報告したら、凄くいい笑顔でやってごらん、って言われた。

ちなみに、教授は笑顔が素敵で優しいお爺さんだ、だからどうしたといわれても、何にもないが。

 

 

夏休み初めごろには学部生の先輩が何人か、私に協力してくれる事となった。

 

どーも人工知能で手いっぱいでコンピュータの開発にはほとんど手を出せていないんだが…私は聡美みたいな天才じゃないと割り切る事とした。

って事で私は人工知能関係と実際に搭載する所の設計までに止めてコンピュータ自体の性能向上にはかかわっていない。

聡美は駆動系、フレーム、コンピュータ、動力開発と、ロボット工学研究会のさまざまなチームに所属し、かつ活躍している。さらにジェット推進機構の小型化にまで参加しているし…

なんか、彼女を中心にいけるところまで行ってみる、を合言葉にしたヒューマノイドの開発計画が新たに動きだそうとしているし…っていうかまだ所属して一年もたってない小学生によくそんな大役任せるよな、うちの教授

 

…やっぱり聡美は天才だね…

 

…と、言った話を協力してくれている先輩にしたら、『貴方も十分天才です』って言われた。私は精々秀才だと思うんだけど…ちょっと嬉しかった。

 

あ、ちなみに聡美の開発計画を実行に移す段となったら人工知能を主に担当させてもらう事にはなっている…聡美がぶっ飛びすぎているだけで私も十分ぶっ飛んでいると、それを思い出したら自覚できた。

 

プロジェクトの…いや聡美の性格からいって将来的に戦闘技術やその他もろもろを組み込む事になるので、基礎くらいは知っていた方がよかろう、と柔術や戦術論の勉強も始めてみた。

片手間でやっても上達するものではないだろうが…継続は力なり、という言葉もあるし…

 

夏休み中に何とか基幹AIを起動可能な段階まで完成させる事ができ、聡美の組み上げた試作ボディに搭載して歩行の学習実験を行っている。

うまく働いているようで、わざと最適ではない数値を与えられた歩行プログラムの最適化は大抵はうまくいった。

余りに変な値から最適化させると立て膝や四つん這いでの移動を覚えてしまった事もあったし…まだまだ改良する必要があるだろうな…

 

 

 

秋ごろまでは、すでに完成した制御プログラムを利用した学習実験に費やした。

 

まあまあ満足できる段階まで達したので仕上がりの確認をかねて三次元認識システムによる視覚情報入力の一般化システム…

要は二つの眼球カメラからの情報で対象の三次元形状を測定し、その情報から対象が何なのかを認識するシステム…の調整をさせてみた所、一定の成功を収めた。

いや、まあ…似た形状、サイズのものと結構勘違いしてくれるんだが…色覚情報や他のセンサーと同時処理できるようにすればそこは大幅に改善できるだろう。

これを以て基幹AIは試作完成という事にして、調節や改良を続けながら片手間で始めていた新オプションの開発を本格的に始める事となった。

 

最初に取り掛かったのは人間言語による意思疎通を行えるオプション、つまり人間言語の機械語への翻訳機能をおこなえるようにする機能を目指す。

ゆくゆくは聴覚や視覚からの言語情報を処理する機能を開発し、会話をしたり、文章を読めるようにしたりしていく計画になっていたのだが…

英語(既存のプログラム言語との関係から英語から始めた。)の文法書を読みながらプログラムをいじっているときに気付いた。

 

そっか、せっかく学習機能持っているんだから自分で教科書読ませて自力で学習させればいいんだ。

 

それを皆に話したら

『ああ、その手がありましたね』

『いや、さすがにそれは…できるんですか?』

って言われた。前者は聡美とごく一部の先輩方、後者は他の多くの先輩方だ。

英語だけで終わらせるなら人海戦術でする方が楽なんだろうが…私はいやだぞ?言語パッチごとにそんな手を使うのは。

結局このオプションは基礎となる部分だけ作って視覚認識機能と連結した後、自力で学習させる事にした。

そして、英語の絵本位のものを読み聞かせのような事をしては正しく学習できるかをチェックして、うまくいってなければそれを修正して…の繰り返しだった。

 

そこから半年を費やした結果、たまにエラーや誤理解があるものの、言語オプションにつきっきりでいるほどではなくなったので次のオプションに取り掛かる事とした。

 

次は家事類に関するオプション、手始めに料理から入る事とした。

味付けに関しては味覚センサー未搭載のため、レシピ通りに作業をさせるという事に重点を置いた。将来的には自力で味見させて味の調節とかさせてみたいもんだが難しいだろうな。

初めこそ包丁がまな板に刺さったり、おにぎりが餅みたいになっていたり、中華鍋を持たせたら内容物が天井に届いたり…

その他はたから見ている分には楽しい事をやってくれたがすぐにそれなりに…少なくとも私よりは…上手くなってくれた。

 

その年の第74回麻帆良祭でチャーハンを作らせたら結構人気が出てくれて、なかなかの売り上げだった。

私は緊急対応ができるように休憩時間も工学部キャンパス内で過ごす羽目になったし、総点検とパーツの組み換えとパーツの特性把握実験を毎晩行ったのはしんどかったが…

交代でできればいいんだが、ロボ研から出展しているのはこれだけじゃなかったし…

 

あ、言い忘れていたが言語オプションの方は本さえめくれればもう自力学習に問題がないので英語圏の教科書を常時読ませたり聞かせたりしている。

…なんか見周りの警備員さんがそれを見て腰抜かしたらしいが…ま、機械むき出しの首が目玉動かしながら本読んでれば腰抜かすか。そこ以外電気切って帰ったし。

 

 

 

その後、約一年をかけて格闘戦オプションだとか、戦術オプション、火器管制オプションだとかそんな物騒なオプションを含む各種オプションを開発していた。

あ~実はロボット3原則のような安全装置を人工知能に搭載し忘れて…対人格闘実験前に気付いてよかったよ。

そうでなければ私がへたすりゃ死んでいたかもしれない、対戦相手って私の予定だったし

…自分のミスでなけりゃあ烈火のごとくぶち切れるんだが、自分のミスだし…

何より周りが笑って済ませているしなぁ…はぁ…久々に自分が異端だって事を思い出したよ。

…あ、そもそもここでこんな研究している小学生って時点で異常だったな…すっかり染まってるよなぁ…私

 

 

 

 

 

 




後書きという名の言い訳等など
どうも、こんにちは、シズクです。
今回はおもに茶々丸のベースとなるガイノイドの研究を推し進めているお話です。
あと専門知識や開発期間は正直言って適当ですのである程度はご勘弁のほどを。

次回チャオさんの登場予定です。




・特例について
考えとしては飛び級もどきです。
春夏冬の各長期休暇に審査が行われ、論文、大学院入試レベルの筆記試験と面接、その他の方法で自分の実力を示すと大学などで専門的な研究をさせてもらえるようになります。
ただし、多少は見逃してもらえますが本来の過程もちゃんとこなさないと…つまり本来の学校サボって研究室に入り浸りとかやると…許可を取り消されてしまいます。
だから、描写は殆どされていませんが二人はちゃんと初等部に通っています。
ちなみに初等部四年以上にしたのは…まったくもって意味がないです。
あんまり幼いうちから認めると他の方面での発達が云々という理由があるんでしょう、きっと(笑)





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04 茶々丸開発編 第2話 問題発生、いろんな意味で

わたしはいま、昨日から始まった6年生の夏休みを謳歌しようとしている…と言いたいんだが今ちょっと問題が起きている。

何が問題なのかというと、プロジェクトの方向性の問題で少々意見の対立が起きている。

 

今までは表だった対立がなかったんだが、私達のプロジェクトには大きく分類して二種類の派閥がある。

一つは『日常重視派』、もう一つは『戦闘重視派』だ。

まあ、別に前者が後者を理解しないわけでも、後者が前者をないがしろにするわけでもないし、それぞれの中でもいろいろと派閥があるんだが…

 

そして、なんでこんな事になっているのかというと…現在の技術では…麻帆良の技術をもってしても…想定よりも各種オプションを相当絞り込む必要がある、という事がはっきりとしたからだ。

その絞り込みで問題になる問題点を列挙すると

 

 

まず、必要動力の増加。

 

基礎設計の段階から電力で動く前提になっているため、バッテリー、内部発電、外部電源(発電機、外部バッテリー両面)のいずれかという事で話はまとまった。

 

そんでもって、いけるとこまでのコンセプトからして技術試験やデータ収集用の派生形はともかく、完成品が外部電源はいやだと言う意見多数により選択肢から外れた。

内部電源については…排熱機構の問題もあって…難しいだろうという事になった…内燃機関はロマンらしいが、特に原子炉や核融合炉とか。

 

というわけで、バッテリーで通常モードで最低12時間(最初は24時間だったが徐々に短くなってここで落ち着いた)の連続稼働を目標にする…という事になったのだが、

その為に積み込む大量のバッテリーが…各パーツの強化により急激に増加し、機体の搭載可能量を圧迫している。

搭載オプションによってはこれをさらに増加させる必要さえあるので問題が複雑化する。

 

 

 

次に人工知能とコンピュータの問題。

 

経験という名の大量のデータを蓄積したシステムは様々な方策を施してはいるが、大量の電力を食い、多くの記憶容量と演算部を必要とするため、これまた非常に搭載量を圧迫し、前述のバッテリー消費量も跳ね上がった。

そしてそれは各種オプションプログラムの採用量でその必要とされるスペックも変わってくる。しかも同一オプションにも経験の蓄積度や最適化の自由度、可能行動の範囲で多くのバージョンがあり、そこも争点となっている。

搭載パーツによってはその制御に複雑なプログラムを必要とする場合があり、その場合はさらなる増強も視野に入れねばならない。

 

 

そして通称ロマン機構と呼ばれオプションパーツ群の高性能化とそれに伴う各種負担の増加。

 

『日常重視派』は脈や人肌のぬくもり、心音などを再現する装置を搭載したがるし、普通の服装で露出する部分には機械らしさを残したくないという。

『日常重視派』のオプションパーツ自体は比較的負担は軽いもの多いんだが、オプションプログラムに日常生活系を高性能なプログラム(つまり処理量の多いものや機能の多いバージョン)を使いたいという。

感情は…再現できなかったというか…一応作ったものに私が満足できなかったから封印して、感情プログラムを搭載するなら種から成長させる方針をとる事とした…これがまた重い上に常駐型にしてあるから負担が大きいんだ。

…まあ、芽吹くのにどれだけかかるか、どころか芽吹いてくれるかさえわからない代物なんだがそれでも搭載を希望する。

 

 

『戦闘重視派』はアームにロケットパンチを使用したり、小型ジェット…小型化には成功した、恐ろしい事に…での飛行をさせたりしたいという。

『戦闘重視派』も日常を軽視するわけではないんだが…こう、ロマンを再現しようという連中が多くて…戦闘もこなしたいし、ロケットパンチやフライトシステムなんかもほしいとなる。

そうなるとまず、耐久性を数段高くしなければいけなくて、それに伴う自重の増加が駆動系の強化とそれに伴う電力消費量の上昇を招く。

さらにロケットパンチアームは腕の中に仕込めるものが減る一因になるし、小型ジェットでの飛行機能を搭載するなら…もう、泣くしかないレベルで他のいろんなものを犠牲にする事となる。

 

 

さらに言うなら、パーツの性能を多少妥協すれば軽量化や省エネ化も可能なんだが…それは『何をさせたいか』がより明確になってくれないと、性能の妥協をどこまでしていいのかわからないし、

『いけるとこまで行ってみる』

が合言葉のプロジェクトだったゆえにパーツ改良はそう言った面は抑制努力程度しかしていなかった。

 

 

皆、じゃあ各自勝手にやろうぜ!っていう気は欠片もないようなので…そこは嬉しい事なんだが。

複数のタイプをつくろうにも予算と設備の問題が立ちはだかって、そこまで沢山はつくれないし…

 

とりあえず、という事で各パーツともに性能を維持しつつ軽量、省エネ化を検討し始め、少しずつは妥協点を探りはじめてはいるんだが…

人によってそういう努力がどこまでみのるか見解が違うし、機能の幅を妥協するか、それぞれの機能のレベルを妥協するか…そういった方向も纏まっていない。

 

 

 

それにどっちの気持ちもよくわかる…っていうかやっぱり日常ではどこか人間くささのある万能ロボット、危機には戦闘もこなす安心の危機対応、が王道だと思う。

それが出来なくて今もめているんだからそんなこと言えなくて私は沈黙を貫き、主要プログラムの軽量化に取り組んでいるんだが…最初からそれなりに努力はしてあったから成果はあまり出ていない。

 

テンプレだろうが何だろうが私はそういうのが好きだ…ああ、そうだよ、すっかりオタクになっちまっているさ、悪いか!

 

初めは空想世界のロボットってどんなのがあるのかな、って感覚だったが完全にロボット関係ない話でも行けるようになっちまっているよ!

 

つい、可愛いなとか思ってアニメキャラの服装自分で作ってみたりもしちゃったさ、一度それをロボ研に着てきて…なんて事もあった…思い出したくねぇ。

 

ああいうのはそういう場所だけで良いよな…話がそれたな、戻そうか。

 

 

んでもって、聡美は沈黙を貫いている。

あいつならツルの一声で少なくとも方向性だけでもかたを付ける事もできるんだが…それをしたくないのか何なのか…というわけで

 

「聡美…ちょっといいか? 少し話があるんだけど」

 

直接本人と話をする事にした。すると聡美はプライベート用を兼ねているノートパソコンを前に何か悩んでいた。

 

「千雨さん?ちょうど私も相談があったんです。あ、千雨さんもパソコン持ってきてくださいね。」

 

「ああ、すぐとってくるから玄関ホールでまっていてくれ。」

 

パソコンを持って来いって事は何かアイデアでも思いついたんだろうか?そんな顔じゃあなかったような…まあ聞けばわかるか。

 

工学部の玄関ホールで合流した私達は暫く歩きまわって余り人気のないベンチに座った。

 

「さてと…どっちから話す?」

 

私はそう言って伊達メガネをはずして白衣のポケットにしまう。

 

「そうですね、千雨さんは…今のプロジェクトの状況について…ですか?」

 

「あたり、聡美が沈黙を貫いている理由が気になって…な」

 

「沈黙を貫いていた理由はですね…本当に今のまま完成させていいのかな? そう思っていたからなんです。

 

まずは妥協の産物だとしても一応の完成をさせて、つぎにつなげる…それでもいいのかもしれませんけど…

 

でも妥協する前に…一つだけ試してみたい動力があるんです」

 

「試してみたいって何を…?」

 

「…魔力です」

 

「…は?今、なんて言った?」

 

聡美の口からとんでもない言葉が聞こえた気がする。

 

「だから魔力です。世界樹の…あの異常に大きい樹の発光は何らかの方法で取り込んだ魔力を放出している現象である…

 

それゆえにここ麻帆良は魔力に満ちている…ゆえに彼らにとって麻帆良は重要な拠点となった…千雨さんが立てた仮説でしたよね」

 

「いや、だからってそんなわけのわからないものを試すって…そもそもどうやって…」

 

「ええ、本当なら私もそういう結論になって今日の検討会から積極的に動くつもりでしたよ。このメールがなければ…あ、お願いしますね」

 

そう行って聡美は私にケーブルの一端を差し出す。接続しろって事らしい。

 

「昨日の晩、私のパソコンに…それもプライベート用アドレスにこんなメールが届きました」

 

聡美から転送されたメールを(もちろん自前のセキリティーソフトでもチェックしてから)開けてみた。そのメールに書いてあった事を要約すると、

・差出人の名前は超 鈴音(チャオ リンシェン)という自称謎の中国人発明家

・ある目的のために聡美の力を借りて共同で研究を行いたい

・対価としては以下の3つ

・第1に聡美の行っている、あるいは行う研究に対するチャオ本人の協力

・第2にこの都市の秘密を教える

・第3にこの都市の秘密にかかわる新型機関の実用化に必要な協力者の紹介および仲介

・以上の条件に関し、手付として3の新型機関の設計図と2についての一部、他を添付する。

・この話に興味を持ったなら会って話がしたいので翌日中…つまり今日中に返信を求む。

・口の堅い人間にならこの件を相談してもいいが、外部に漏れたら互いにとって危険である。

 

続いて添付されていたファイルを確認すると

『麻帆良学園の秘密 お試し版』

『秘密の動力炉 試作設計図』

『他 現在進行中のプロジェクトに関する贈り物』

というタイトルで三つのファイルが入っていた。

 

…なんだこれは

思わず息をのんだ。

 

一つ目のファイルについては『魔法使い達』の事だと思われる何者かについて…その存在を物語る事象などについて…入手が容易なデータの組み合わせで丁寧に述べられていた。

そして…『最後に続きは正式版で、危険だからまだ直接調べたらだめネ』って書いてある。

 

二つ目のファイルはよくわからないが『何か』をためておく機構があり、その『何か』から電力を直接…間接なのかもしれないが…取り出す…いや、変換するような設計になっているように思えた。

 

三つ目のファイルは…うちのパーツの改良型と思われる設計図と新世代大容量記録媒体理論、そして現存する試作量子コンピュータの実用化計画…

そしてそれらを最大限利用した『新型機関』とそれを流用した推進機関への換装を前提としているであろう、『外部電源式』のガイノイド設計図…

 

もし、これをたった一人で用意したとするならば…聡美に勝るとも劣らない天才としか言いようがない。

時間をかければ…とも思ったが3つ目のファイルの量とベースになったであろうパーツの完成時期を考えると…まあ、無理だ。

 

 

「メール本文の方は自分で謎のって言っている時点で怪しいんですが…添付ファイルに関してはわたしのみるかぎりでは…動力炉とやら以外に関しては間違いなく…本物です。」

 

「ああ、私も同意見だな…しかもデータが盗まれてやがるな…」

 

クッ

 

部位によって改良型が添付されていたりされてなかったりするのはセキュリティーが関係しているのか…それとも簡単に改良できなかったからなのか…どちらにしても何処から盗まれたのかはっきりさせないといけない。

 

「このメールをどうするのかが…相談なんですが…探れますか?」

 

「ん~難しいだろうな…誰から抜いたかはわからないが…ネット経由だとすればそっちから簡単に探られるようなへまはしてないだろうし…

アドレスから探るとしても…今日中は厳しいだろうな」

 

「…なら直接会ってみる方で良いですね?」

 

変に公的機関に話を持っていくとドロンされてしまうんだろうなぁ…

黙殺すればどうなるか…すんなりあきらめるわけはないし…

期限までにプロジェクト参加者全員のコンピュータの侵入された痕跡を徹底的に調べるとか無理ゲーだ。

かといって、メールサーバーに侵入して…とかは時間的にちょっと厳しい。

 

「ああ…それしかないだろうな…悔しいけど」

 

「では、返信しますね」

 

私は無言で大きく一度だけうなずいた。

 

カチャカチャ カチッ

 

 

 

 

パタン

 

暫くして、送信が終了したのか聡美はパソコンを閉じた。

 

私もパソコンを閉じて立ちあがり、メガネをかける。

 

「さて…今はここまでですね―」

 

「そうだな…続きはまた…ってそういやなんて送ったんだ?」

 

「ふふ~気になりますー?」

 

「…言いたくないなら良い」

 

「あ~もう、ちょっとしたお茶目じゃないですか。単純に、『興味は持ちました。』って送りましたよ。」

 

「…えっと…いつ、どこで会おう、とかは入れなかったのか?」

 

まあ、確かにあれだけのものを用意したのだからさらなるアプローチがあるだろうけど…

 

「…まあそのうち向こうから接触してきますよ~きっと。それより、何か甘いもの食べてから戻りましょう、千雨さん」

 

それでいいのかなぁ…それだとむこうに交渉の主導権握られる気がするんだけど…

 

「ん…わかった。工学部のスターブックコーヒーでいいか?」

 

まあいいや、ケーキでも食べながらそこらへんを相談しておこうか。

 

「良いですねー」

 

そんな感じで私達は工学部前まで戻ってきたんだが…なんか、私達と同じくらいの年頃の少女が道の真ん中に立っていた。

なんか、中国人っぽい…まさかな…

 

「おや、急いできたがお邪魔だったかナ」

 

…チョットマテ

 

「私が超 鈴音ネ。はじめましてヨ、はかせさとみサン、はせがわちさめサン」

 

そんなすぐ来るとか…

 

「興味を持ってくれたみたいだったので来たヨ、お話の場所はまずはそこのコーヒーショップでヨロシカナ?」

 

聞いてないぞ…

 

 

 

 

 

 

 

 




プロジェクトに問題が発生したようです。その為に現在スケジュールが停滞しております。
実はこれ、千雨さんの基幹AIの最適化機能の応用でパーツのデータ取りが簡単になったため、大量のオプションパーツが誕生した事にも起因します。

あと千雨さんは立派なオタクになったようです。
ちうのホームページもあるんですが…内容はコンピュータについてのコラムと日記、そしてちょっぴりオタ成分で成り立ってるみたいです、今はまだ。


チャオさん登場
ここから研究は加速して行く予定です。


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05 茶々丸開発編 第3話 未知との遭遇?

あの後行われた話し合いで、聡美は超とすっかり意気投合し、研究協力にあっさり了承した。

私はというと、本気か冗談か微妙なラインのお誘いは受けたが聡美との共同研究で私にできる事があれば手伝うよ、とは答えておいた。

なんか、飛び込む気にならないんだ…協力はするし、してもらうけどさ。

 

一応、研究データの入手経路なども問い詰めてはみたが返事は

 

『どこにでもセキュリティーの甘い人はいるものヨ…ちょっとしたヤンチャという事で許してほしいネ。

誰だってヤンチャのひとつやふたつした事はあるものヨ。二人ともちょっとは心当たりあるはずネ』

 

だった。

…私達もいろいろとそういう面では問題ある事もやった事あるし…別にデータの盗用とか研究関係で不正をしたとかいう事ではなく…

私のホームページに来た懲りないバカとか、研究室に何度か不正アクセスしてきた奴を私単独もしくは聡美と協力して徹底的に制裁した事が…何度かあった気がする。

ただ…その時いろいろとまずい事もやったわけで…深く追求しあうのはお互いのためにならないだろう、うん。

 

って事で超は教授から外部の共同研究者扱いでプロジェクトの参加許可を取り付け、正式に開発に協力する事となった。

 

んで…あっという間に溶け込みやがった上に、聡美と協力して目標の取りまとめを裏でやってるみたいで…

 

本当に有能な事で…っていうかさ?

 

ロボット工学にこだわらなければ、今の聡美クラスの人材は大学教員を含めれば相当数いる…聡美が成長を続けるならあっという間に引き離すだろうが…現状は麻帆良内でのトップクラスに小6の生徒がいる、という事でしかなかった。

 

超は低く見積もってもそんな聡美に勝るとも劣らない能力を有している。しかも、機械工学のみならず生物工学や量子力学でもだ。

…そう、その方面でも学生の協力者こそ作っていないが、教授を口説いて非公式に、研究に参加してやがるんだわ、休みが終わったらしばらくは来れないとか言ってはいたけれども。

 

それだけにとどまらず東洋医学や料理に関する知識、腕前もプロ並みのようで、さらに麻帆良祭で屋台を出してみたいみたいな話もしてて…聞く限り経営学も修めてるような気がする。

私はさすがにそこまではよくわからんけどさ。

 

も一つおまけに…これは私の勘だが…武術も相当なレベルで修めてる様で…私の護身術に毛が生えた程度の柔術では手も足も出まい…何なんだよ、このチートは…

 

そんなチートに

 

『さすがちさめサン、私よりもずっと良いもの作るネ』

 

とか言われても素直に喜べない…聡美や超が人工知能開発だけに取り組めば私よりもいい物が作れるだろう。

聡美がいくつかの分野に分けて費やしている時間を人工知能分野だけに費やして初めて私は彼女に並べているのだから。

それでも一般的に見たら才能あるってのはわかってんだが…なぁ…

 

 

 

そうそう、条件の一つ、この都市の秘密についてはDVDに焼いた完全版をもらった。

怪しい施設や怪しい人、本物でありそうな都市伝説等々に関しての状況証拠が添えられた考察が追加されていた。

そこから導き出される仮説や社会構造…といったものが本体としてのっていた。

 

加えて、情報ソースは諸事情により秘密とされていたが、断片的ながら事実としての魔法使い達が記述されていた。

世界樹については、『正式名称は神木・蟠桃、魔力を秘めた木であり、発光現象は魔力の放出である』としてあった。

 

魔法使いたちのコミュニティーとしての情報もあり、ここ麻帆良が西洋魔術師…世界規模で一番大きな勢力ようだ…の日本における最大の拠点らしい。

それとは別に、土着系の団体、つまりは陰陽師のような連中などの団体も別に存在し、そいつらは京都を根城にしている、とのことだ。

後、未確認情報らしいが魔法使いの大半は地球上に複数存在する『転移ゲート』によって移動できる別世界に居住し、むこうの世界は複数の国に分かれていて、亜人も多数いるみたいだ、とあった。

 

…超がよこしてきた新型機関の設計図って、多分むこうのエンジンか何かの再設計…もしくはコピーなんだろうな…

重要区画に『超らしくない』設計の癖が少しみられたんだが、きっとそこは手をつけられなかった部分なんだろう、と勝手に解釈している。

 

 

他にもいろいろと魔法使い達について書いてあるんだが…詳細は現在調査中の文字が思いのほか多い…どうやって調べたんだよ、っていうかどうやって調べる気だよ…

 

 

 

 

そんなこんなで8月となり、私と聡美は最後の条件に当たる協力者との交渉に向かっている。

 

ちなみに超は現地集合というか…なんか、理由はよくわからないが先に行ってる。

 

「桜ケ丘4丁目29番地、『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』…ここで間違いないようですね――」

 

指定された住所はいつだったか不思議な夢(?)を見た場所のすぐ近くのログハウスだった。

 

「心の準備はオーケーですか、千雨さん?」

 

「ああ」

 

私は呼び鈴らしきベルに繋がった紐に手を伸ばす。

 

「私はまだなんでちょっと待ってください」

 

ズルッ

 

思わずこけそうになった。

 

「どうしたんだ?」

 

「だって、この扉をあけたら…異世界に飛び込む事になるんです…私だって不安になりますよ――昔、千雨さんが私にした質問…覚えてますか?」

 

少しだけ考えて答えを出す。

 

「『魔法や超能力を見せつけられたらどうするか?』の事か?」

 

多分これだって事は…何となくわかった。

 

「ええ、あの時私は『ありえない仮定』に対して答えを出しました。

 

でも…今から私は『目の前に現れた現実』に対して答えを出す事になります。

千雨さんと秘密を共有し始めたあの日から覚悟はしていました…魔法は『いつか』現実のものとして目の前に現れるって。

 

そして…『いつか』は『いま』になる…私はちゃんと答えを出せるのか…魔法というものが現実だったとしてそれ受け入れられるのか…ちょっぴり不安だったりします」

 

「今日の打ち合わせで超と話してる時は魔法関係の話でも興奮していたみたいけど…やっぱり実際あっち側の人間に会うとなると…って事か」

 

科学に魂を売ったと言い切る…そんな彼女にとってどれだけ不思議な人間であっても科学者である超はこちら側の人間

 

そして今から会う相手は…魔法使いであるマクダウェルさんはあちら側の人間…

 

それは…科学を手段と考える私にはわからない違いなんだろうなぁ…どっちも自分に持っていない知識を持ってるが警戒すべき人って認識だから。

 

「そうなんです――まあ、だからって逃げる気は欠片もないんですが」

 

そう言って聡美はいつもの顔に戻る。不安を話したらなんか落ちついたって事だろう。

 

「なら…いいな?」

 

「はい」

 

今度こそ、と私は鐘を鳴らす。

 

 

暫くしたのちに扉が開き、金髪の少女…見た目からして私達より1歳か2歳くらい年下なんだが多分コイツ…

いや、この人がマクダウェルさんなんだろう…超から事前に聞いてる特徴そのままだからな。

 

「始めまして、私は葉加瀬 聡美っていいます。こっちが」

 

そう言って聡美が私を手で指し示す。

 

「長谷川 千雨です、よろしくお願いします」

 

「私がエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ。さぁ入れ、貴様らの仲間が待っているぞ」

 

私達の名乗りを聞いたマクダウェルさんはそう言うと私達に家に入るように促す。

 

促されるままに扉をくぐった私達は極めてファンシーな人形だらけの部屋に入った。

 

その中心に置かれた長方形のテーブルに4つの椅子が長辺に1対3で並べられており、3の方の一番手前に超が座っていた。

 

「座れ」

 

マクダウェルさんは1の方の椅子にすわり、私達に着席をうながした。それに従い、私達は聡美を真ん中にする形に着席した。

 

彼女は私達の顔を一瞥すると愉快そうに言った。

 

「超 鈴音から大体の事情はきいている…まったく、命知らずな事だ。

 

真祖の吸血鬼にして、闇の福音と呼ばれる悪の魔法使いである私に、科学で駆動する自動人形の心臓を作りたいから手を貸してほしい…とはな」

 

そして一転真剣な表情になって続ける。

 

「さて、葉加瀬 聡美、長谷川 千雨、超 鈴音、実は私からお前たちに依頼したい事がある。

 

魔力供給をほとんど行わなくても『ミニステル・マギ(魔法使いの従者)』の役目を果たしうる人形を作ってくれ。

 

無論、自分の従者をつくらせるのだから製作にあたってはできうる限り協力しよう」

 

「えっと…それは私達の依頼に応えていただける、という事で良いんでしょうか?」

 

相当無理難題を吹っ掛けられる覚悟はしていたんだが…なんか、あっさりと協力してくれそうな状態に聡美が恐る恐る確認する。

 

「そう解釈してもかまわん。

 

私は少ない魔力で運用できる従者となる人形が欲しく、お前たちは自立型の人形を作るために魔力を動力にする機関を開発したい。

 

無論、魔法技術の提供だけで従者用の機械人形を作って引き渡せとは言わん、資金面でもある程度までなら協力できる。

 

また、この件についての開発許可もジジイ…学園長からもぎ取る事、またそちらの話したい事について最低一度は交渉の場をつくらせる事を約束しよう」

 

少しの沈黙ののち、聡美が答える。

 

「…わかりました。

 

我々はエヴァンジェリンさんに従者として運用できるガイノイド…機械人形を提供する。

 

エヴァンジェリンさんはその機械人形の開発に必要な魔法技術を我々に提供し、その他の面でも一定の協力を行う。

 

これを骨格として交渉を進めていくという事でみなさん良いですか?」

 

「私は構わんぞ、ただし条件次第では他の対価を上乗せする事もある、とは確認しておこう」

 

「私はそれに関して特に言うべき事はないネ、この交渉に限って言えば私は立会人に過ぎないヨ」

 

「千雨さんもそれで良いですか?」

 

今まで沈黙を保っていた…というか話を観察していた私に聡美が確認をとる。

 

「…交渉の方向自体に異存はない…です。でも、一つ確認させてもらいたい事があるんだ…ですが、良いですか、マクダウェルさん」

 

うむ…見た目が見た目なのもあるが…なんか敬語で話しにくい。

 

「何だ?それと無理に敬語を使う必要はないし、呼び名もエヴァンジェリンでいい」

 

「なら…エヴァンジェリン、あんたは何の目的で今の依頼を話した?」

 

「何だ、そんな事か、単純なことだ。

 

自炊が面倒臭くなってきた事と、ちょうど私の前衛たりえる機械人形が欲しかったからだ」

 

エヴァンジェリンの顔がつまらない事を聞くな、といった感じの顔になる。

 

「いや、そういう意味じゃなくてだな…

 

あんたは私達が交渉を持ちかけた事で圧倒的に有利な立場にいたはずだ。なのにあんたは依頼というかたちで対等に近い状態にまで自ら降りてきた。

 

交渉に乗ってやる、って言う態度を貫けば…あるいは恫喝なんかもすればもっと有利に話を進められるにもかかわらず、だ。

 

事前に聞いていた『闇の福音』のイメージほど悪人じゃないようだが…かといってお人よしでもなさそうな気がする…意図を知りたい」

 

私以外の3人が一瞬あぜんとなったが、直後エヴァンジェリンは笑い出した。

 

「くっくっ、全くひねた小娘だな。貴様の考えも理解はできるが、それは私のこの話に対する前提が間違っている。

 

己の使う武器を作る鍛冶屋には良い環境と十分な報酬を与えるべきだ…と言えばわざわざ交渉の主導権を手放した理由を理解できるか?」

 

それは私自身に少し興味を持ったような感じの声に聞こえた。

 

「ああ、つまりは『作らされた』人形や、『寄せ集めで作った』人形なんぞに興味はなく、『私達の作りうる最高の』人形が欲しい、という事か」

 

「うむ、正解だ。『魔法使いの従者』は魔法使いの剣であり、盾でもある。そんな大切なものを作らせる相手を必要以上に脅したり、理不尽に扱ったりはしないさ」

 

「わかった。変な事を聞いて悪かった、エヴァンジェリン」

 

そう行って私は軽く頭を下げる。

 

「これくらい気にするな…さて、詳しい交渉に移るとして…そうだな…場所を変えよう、ついて来い」

 

そう言ってエヴァンジェリンは席を立ち、私達を地下に連れて行った。

 

そして人形回廊と言いたいくらい多くの人形が置かれた倉庫を通り抜けて、塔のミニチュア模型が入った透明な球が安置された丸い部屋に通された。

 

「暴れるなよ、害はない」

 

パチン

 

エヴァンジェリンが指を鳴らすと同時にカチリという音が4つして景色が歪む…

 

気がつくとそこは…塔の上だった。

 

たぶんこれ…さっきのミニチュアの中にいるんだろうなぁ…私は驚愕しつつもそんな事を考えていた。

 

聡美も、超も絶句している様子だった。

 

「ようこそ、わが別荘へ…歓迎するぞ、小さな科学者諸君」

 

そう行ってエヴァンジェリンはにやりと笑った…その笑みはとても恐ろしく、そして美しかった。

 



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06 茶々丸開発編 第4話 契約書類と南国リゾート

「……以上の理由で、私は機械仕掛けの自動人形でも従者とする事ができる、と考えている」

 

「なるほど…人形に対してかりそめの命を与える契約と主従関係を結ぶ契約か…でも、それって本来二本の契約で縛ってる従者を一本でしか縛れなくなると思うんだが、問題ないのか?」

 

「いや、人形契約だけで十分だ、魂を込めた際の刷り込みは主従契約を結ぶまでのつなぎに過ぎん」

 

会議室のような部屋に通された私達はエヴァンジェリンとの交渉にあたって、まずは互いの認識のすり合わせを行う事にした。

 

本当なら今回の交渉でそこまでする時間はないのだが…幸いこの別荘、外の一時間が中の一日と同じらしいのでそういう余裕ができた。

 

今は、この別荘を管理している魔法人形に出会って浮かんだ疑問、従者にする際に魔法で自立思考能力を与えるのならばこちらの人工知能と反発しないか?……という問題について話している。

 

もし、反発するなら人工知能を除かなければいけないが、除いてしまえば本質的にエヴァンジェリンの魔法人形と同じ事になるし、私達の利益が大きく失われる(稼働データ的な意味で)。

 

それに対しての解答はこうだった。

 

普通、魔法人形を製作する時は必ずどこかの段階で『魂』を吹き込む儀式を行うのだが、この時、人形は創造者に対する忠誠を誓う。

 

さらに、完成した後にドール契約という主従関係を結ぶ契約を行い正式に忠誠を誓わせる。

 

こういった段階を踏むために、ドール契約のみを行えば追加で意志を与えずに主従契約を結べるとのことだ。

 

ちなみに、後者の忠誠は前者の忠誠に優越するが、後者だけが残るというものではないらしい。

 

たとえば魔法人形師Aが人形使いBに人形を売却し、Bがドール契約を行った場合、Bの命令に反しない、あるいはBに対して損害を与えない範囲に限り、Aの命令も聞く。

そして逆にBに命令されれば(売買契約などで規定されていない限り)人形はためらいなくAを殺すらしい。

 

それゆえに面倒事を防ぐために普通、一人前の人形使いは自分で人形を作るらしいが…今回は仕方ない、とエヴァンジェリンは言っていた。

 

「…あの、別に魂とやらを込めなくてもドール契約というものはできるんですか?」

 

「ああ、ドール契約は完全な非生命体とでも可能だ。魂を込める儀式はあくまで人形に自己判断能力を付与するためのもので…厳密には生命体の持つものと同じ魂を与えるわけではないからな」

 

その後、私や聡美が次の質問をしない事を確認して超が言う。

 

「エヴァンジェリンさん側の要求に関する質疑はこんなもので良いカナ?」

 

エヴァンジェリンは沈黙で、私と聡美は無言で頷いて肯定する。

 

「ならば、次は私達の要求に関する質疑に移るとするネ」

 

超はそう行って私達に提供した設計図と同じものをエヴァンジェリンに渡した。

 

「む…これは…って、ちょっと待て…これは精霊エンジン…ではないのか…しかし…」

 

エヴァンジェリンは図面を読みながら何かを考え込む。

 

「超らしくない所があると思ったら…やっぱり元になる魔法使いのエンジンがあったのか…」

 

「そうですね…超さんにしては洗練されてない所がありましたし…一部ブラックボックス的に流用してるんですね」

 

エヴァンジェリンの邪魔にならない程度に声を絞って私達はつぶやいた。

 

「むむ…やはりばれてたカ…そうヨ、ある伝手で知った精霊エンジンの設計図を基に再設計したものヨ。

 

もっとも、いくつかのエンジンや術式をつなぎ合わせて設計したせいでうまく動くかわからないし…そもそも手に入れたものが本物かすらわからなかったネ」

 

超はそう言って笑ってごまかそうとしている。

 

「…うむ、外部から魔力をここに取り込んで、電力として供給したいんだな。やりたい事は大体わかったが…」

 

唸っていたエヴァンジェリンが大体やりたい事を理解したらしく、口を開いて…

 

「だが、この図面通りに作っても動かんぞ?」

 

とんでもない事を云い放った。

 

「むむ…という事は…この設計図は役立たずという事カ?」

 

「あわてるな、修正は可能だが…そちらの本来の希望からは少し外れる事になるな」

 

そう言ってエヴァンジェリンは黒板に設計図の概略図を書き、魔力の流れを書き込んでゆく。

 

「この設計図では外部から魔力を取り込み、貯蔵する機構、魔力を電力に変換する機構、そして電力を使いやすいように整える機構の3つにわかれている…そうだな?」

 

超は黙ってうなずく。

 

「変換に関しては簡単なマジックアイテムの原理を応用すれば可能だという予想は正しいし、推力に最適化してある設計を電力変換に再設計するのはそれほど難しくない。

 

電力を整える事に関してはお前たちの方が詳しいだろうからあまり関与はできない。ただ、魔力を自動供給する術式は無謀としか言いようがないな。

 

より具体的には、この術式では動力炉内部の魔力濃度が反応最低濃度まで達しない…例外は麻帆良祭くらいだな、あれだけの魔力濃度ならいけるかもしれん」

 

「魔力を集める術式とかはないのカ?」

 

「無くはないが…可能なのは儀式魔法だけだな…少なくともこのように使う事は私の知る限り不可能だ。

 

儀式魔法で魔力溜りを発生させて、その魔力をとりこんで暫くの時間動かす事も不可能ではないが…まあ数百体単位にならない限りは儀式を行う術者が直接した方が早い。

 

つまり…こういう事だな」

 

そう言ってエヴァンジェリンは最初の矢印に添えられた『外部から(自動)』に斜線を入れてを『術者から(手動)』と書き換えた。

 

「別にこれは別に魔法使いがやる必要はない…まあ、魔法使いの方が効率は良いが…それは置いておこう。

 

たとえば機械式時計のゼンマイを巻いたり、手回し発電機のハンドルを回したりするような、意味のある行為に対して関連付けを行った儀式魔法を行う事でお前たちにもこの魔力供給は可能だ。」

 

そいうってエヴァンジェリンは術者に矢印を付けて一般人でも可と付け加えた。

 

「儀式魔法…ですか?」

 

「そう、儀式魔法だ。詳しくは省くが、儀式魔法はモノや行為自体を行う事がより重要になってくる…それこそ行為の意味さえ理解していれば魔法の才能がなくてもできる位にな。

 

詳しい事は契約が正式になった後に技術提供の一環に含める、理論を知らねば良いものはつくれないだろうからな」

 

「わかりました、とにかくこちらが意図している出力は得られるんですね?」

 

「うむ…だが、さすがにそう言うものを多数の一般人に作らせるわけにもいかん…お前たちは協力者として許可をとれるが…不特定多数の目にさらすようなまねは許可がおりんぞ」

 

「ん…ならば試作実験機として外部電源式で完成させたのちに私達の手で動力の換装を行いましょうか」

 

「ならば、その方向で行くとしよう…他にそちらの要求に関する確認があれば聞くが、何かあるか?」

 

「私は今のところないですね。」

 

「私もないな。」

 

「ならば条件の交渉に移るとするネ」

 

こうして実際の条件に関しての交渉が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半日(休憩時間込み、別荘内部の日の出ごろから初めてそろそろ日の入り)に及ぶ交渉の結果は以下の通り

 

① エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(以下 依頼者とする)は葉加瀬 聡美を筆頭とする三名、すなわち葉加瀬 聡美、長谷川 千雨、超 鈴音、の三名(以下 製作者)に対し、自立型のガイノイド(以下 人形)の作製を依頼する。

  ただし、人形の性能は以下の条件を満たす事とし、人形の所有権はドール契約を行った時点で依頼者に移る事とする。

  また、製作者が依頼者に敵対しない限り、所有権が移った後も人形は製作者に危害を加える事はしない。

 

  ・ごく日常的な程度の動作において最低36時間の継続稼働が可能であり、簡便な手段により動力の補充が可能である事。

   ただし、30分間の戦闘行為を行った場合でも、その前後を合わせて最低24時間の継続稼働が可能であること。

 

  ・最低限の家事能力を有する事。最低限の家事能力とは麻帆良学園の平均的女子中学生が有する程度の家事技能をさす。

 

  ・独力、白兵戦能力のみで2000年度の秋の大格闘大会優勝者クラスの格闘家を5分以上拘束可能であり、

   かつ依頼者の魔力が封印されている現状においてのドール契約による魔力供給下において、魔力または気の補助をうけない平均的な大学部所属の武芸者20名を格闘戦のみで5分以内に制圧可能である事。

 

  ・学生生活が可能である程度のコミュニケーション能力を有する事。

 

② 依頼者は必要に応じて製作者に対し、人形の修理、改良またはメンテナンスを要求する事ができ、製作者側は特別の事情(技術的理由を含む)がない限り応じなくてはならない。

  また製作者も依頼者に対し人形のメンテナンスを行う事を要求でき、それが前回の修理またはメンテナンスの完了から30日以上経過していた場合、依頼者側は特別の事情がない限り応じなくてはならない。

  製作者側は人形の修理及び改良についても申し入れられるが、依頼者側はそれを拒否する権利をもつ。

  製作者はこの修理、改良、またはメンテナンスの際に人形に蓄積されたデータを回収できる。ただし、依頼者のプライベートに関する事項を除く。

  

 

③ 人形の制作および②で規定された依頼者の権利の行使に際し、依頼者は製作者に対し技術面、知識面、及び資金面で十分な援助を行う。

  供与された技術及び知識は、事前の許可なく第三者に公表してはならない。  

 

④ この契約に関する学園を拠点とする魔法使い達(以下 学園)との交渉は依頼者が行い、許可の獲得は依頼者が責任を持つ。

 

⑤ 依頼者は、製作者の立場等に関する、製作者と学園の交渉を仲介し、その交渉の際に製作者の後見役を務める事。

 

⑥ 依頼者が④と⑤の条件を満たした後1年以内に①の条件を満たす人形の製作を完了できなかった場合、人形完成までの間製作者のうち誰か一人以上が人形の代わりに家事を行う事。

  この義務は依頼者が例外とした場合は発生せず、製作者が同意した方法により代替できる。

  また、メンテナンス及び修理が24時間を超える場合、それが依頼者の重大な過失または故意である場合を除き製作者は同様の義務を負う。

 

 

…まあこんなもんだろう。

 

「…さて、こんなところで良いカナ」

 

「ああ、私は構わん」

 

「私もOKです」

 

「私も…これでかまわねぇ」

 

この契約メンテナンスに応じる期限や家事代行の期限を書いてないんだが…学園側との交渉のためにわざとこうしてある。

変に期限を決めると期限切れを理由に私達の記憶を消そうとするかもしれないから、と私と超が工夫した点だ。

 

…って事で、さっきの契約に関する密約が別に存在して、その他の事について通し番号は連番だがこちらは別契約扱いとなっている。

 

⑦ 依頼者と製作者が行った人形に関する契約について、⑦以降の項目(以降 契約後半部)は①~⑥までの項目(以降 契約前半部)とは別の契約とする。

  前半部は依頼者と製作者が交わした人形の制作についての契約であり、後半部は前半部の取り扱いに関する契約である。

  また、契約後半部に関しては、全ての契約者はその内容を他の契約者全員の許可なしに第三者に漏らしてはならない。

 

⑧ 契約前半部によって発生する、製作者の義務及び人形の所有権を除いたすべての権利は依頼者が封印の影響下にある限り有効である。

  ただし、別荘内における一時的な封印の解除は除き、また②に関する契約者相方の権利及び義務は人形と依頼者がドール契約を遂行した日から2年間は継続される。

  また、依頼者は製作者から完成を通知された日の翌日から起算して2度目の満月までにドール契約を行う、これは人形が①に掲げた条件を満たしていない以外の理由によって拒否してはならない。

 

⑨ 製作者の②に関する義務は、製作者全員が義務の遂行が不可能な状態になり、回復が不可能な場合に終了する。

  依頼者は②の義務を理由に依頼者は製作者の許諾しない手段による寿命の延長行為を行ってはならない。

  これは製作者が依頼者に対して行うそれの要請を妨げないが、依頼者はそれに応じる義務を負わない。

  また、製作者が後継者を用意する、依頼者に必要な技術などを習得させる、その他依頼者が認めた手段によっても義務を終了させる事ができる。

 

 

⑦は、学園側が契約内容を確認させろと言ってきた時に、前半だけで

 

『これがガイノイド製作についての契約の全てだ。』

 

と、言うためである。後半部は『ガイノイド製作について契約』の取り扱いに関するものであるから嘘ではない。

ガイノイド製作に関する、と言わない所がみそになっている。

また、逆に学園側が他に契約や密約がないか、と言ってきた時は

 

『ガイノイド製作に関する契約以外は結んでいない』

 

と、言っても逃げる事ができる。

まあ、小手先だけの手だがないよりましだろう。

 

⑧はまあ…ずっと封印され続けてる気はないってことなんだろう。

 

⑨は私達が生きてる限り整備する分には異論はないが…ずっと整備しろ、と吸血鬼されちゃかなわん、という事で付け加えといた。

 それとは別に気に入ったから、と下僕にされる事はありえるが…ないと信じておく。

 

こんな内容を契約用紙に記載し、エヴァンジェリンと私達3人のサインをした。

 

契約前半部に使った契約用紙は契約を破ろうとしたら頭痛がしたり、凄い罪悪感がこみあげてきたり…といった、エヴァンジェリン曰く形だけのものだとか。

…正式な契約を破る事自体が魔法使いにとっては不名誉かつ不利益を被ることらしいが。精霊の信頼度的な意味で。

 

契約後半部は強制執行機能付きの上級品を使ったが、やはりこれでも当たり前のことらしい。

重要な商取引、軍への入隊誓約書など、日常的ではないがそれなりによく使われているとのことだ。

 

 

 

「さて、契約はなった。あとは時間まで別荘を楽しむといい、何かあればメイドに言ってくれ」

 

そう言ってエヴァンジェリンが指を鳴らすとすっと、メイド服を着た魔法人形が入ってくる。

 

「私はしばらく休む。夕食時にまた会おう、基礎的な魔法理論についての書物を用意しておく」

 

そう言ってエヴァンジェリンは退室していった。

 

「さてと…どうする?」

 

「んん…どうしましょうか」

 

「そうネ、せっかくの南国リゾートだが…水着なんて持ってきてないヨ」

 

「そうですね…」

 

「そうだな…水着があれば上層にあったプールでひと泳ぎしたい気分なんだが…ないもんはしゃあないな。

着替えもないし…さっきみたいになんか飲み物でも貰ってゆっくりしとくか?」

 

楽しめと言われても、水着なんて用意してないので水泳は却下、砂遊びって面子でもないし、着替えもないので運動系はやめといた方がよさそうだな。

 

「水着や着替えでしたらご用意できますし、海やプール以外に温泉もありますがいかがいたしましょう」

 

沈黙を保っていたメイド魔法人形が口を開く。

 

「着替えや水着があるなら貸して貰えるか?後サイズは大丈夫か?」

 

「はい、お客様用に余り種類はありませんがご用意しております。サイズは我々が調整いたします。」

 

無表情のまま、メイド人形が答える。

 

「なら、水着と着替え…あとで寝巻貸してくれ」

 

メイドはぺこりとお辞儀をして言った。

 

「かしこまりました、長谷川千雨様。葉加瀬聡美様、超鈴音様、お二人はいかがいたしますか?」

 

「むむ…ならば同じく水着と着替えと寝巻を借りたいネ」

 

「私もお願いします」

 

「かしこまりました。衣裳部屋にご案内いたしますので水着をお選びください」

 

再びペコリとお辞儀をして私達を先導してくれる。

 

 

 

いくつもの大きな衣装ダンスが並んだ部屋に通され、メイドがその中の1つのタンスを開いた。

 

「皆様方が着用できるサイズはこちらとなります」

 

そこにはずらっと並んだ子供サイズの水着があった。

 

「私は…これで良いか、着慣れてるしな」

 

「私もこれにします」

 

「む…なら私もこれネ」

 

「かしこまりました、少々お待ちください」

 

そう言ってメイドは私達の選んだ水着…スクール水着を持って奥の部屋に入って行った。

…泳ぐのに変な装飾ついてない方が好きなんだよ。それにスクール水着が一番着慣れてるし。

 

聡美も同じ理由でシンプルなのを好む、ただし課外で使ってる水着はいろいろと科学系の文字や絵が書いてあるが。

 

…超は私達が同じのを選んだから合わせたって感じだな。

 

 

んでもって、戻ってきたメイドが持っていたスクール水着にはそれぞれ

 

『超 鈴音』

 

『ハカセ』

 

『ちう』

 

と、書かれた大きめの白布が縫い付けてあった。

 

メイド曰く、

 

「油性マジックで記名した白布を縫い付けるのがスクール水着の正しい流儀だとされております。

 

我々もマスターやマスターのお客様のために日々情報収集を行っておりますのでそういった知識も完璧です」

 

との事だ。

 

「こんな知識どっから仕入れてくるんだよ…」

 

「マホネットと呼ばれる演算機ネットワークがございまして、我々も電子精霊を通して利用しております」

 

「…インターネットみたいなもんか…」

 

「ほう、電子精霊と演算機ネットワークか…それは興味深いネ、詳しい話とかも聞いてみたいものヨ」

 

「申し訳ありません、私にはそのような権限を与えられておりませんので、マスターにお聞きいただけますようお願いいたします」

 

「ならば仕方ないネ、またの機会にするとするヨ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

まあいいや、せっかくだし、三人で遊ぶとしようか。

 

 

 

 

 

 

さて、散々プールで騒いだ後に風呂入ったんだが…

バスローブを渡されて今は三人別々の部屋に通されている。

 

「これは?」

 

「はい、長谷川千雨様の着替えでございます」

 

いや、それはわかっているんだが…

 

「なぜドレス?」

 

なんで人形が着てそうな黒のパーティードレスなんだよ。

 

「マスターからの指示です。」

 

「…わかった。こう言うの着た事ないんだ、手伝ってくれ。」

 

主人からの命令ならメイドも逆らえないんだろう。

…まあ、突っ込み入れたかっただけで嫌じゃないってのもあるが。

 

 

 

どっかのお姫様…程ではないが貴族令嬢位の格好になり、風景が見渡せる部屋に連れていかれた。

 

ディナーの用意がされたその部屋には大人のエヴァンジェリン(極めて高度な幻術らしい)と超がドレス姿でいた。

 

幻術での成長は予想外だったが、エヴァンジェリンは当然として、超の黒いチャイナドレス姿も私よりずっと自然で綺麗だった。

 

「うむ、オーソドックスに来たか…なかなか似合っているな」

 

エヴァンジェリンがニヤニヤとした様子で言う。

 

「まった、この服はあんたの指示じゃなかったのか?」

 

「ああ、確かに私の指示だ。『客人の容姿を最も引き立てる盛装を着せろ』と命じた」

 

「…そうか、つまりメイドドール達は私には黒のこういう落ちついたドレスが似合う、と判断したって事か…」

 

いやまあ、確かにこういうのも好きだが…もう少し可愛い系も、柄でないのはわかってるが…好きなんだがな。

 

ん?って事はファッションセンスとかもあのメイド達は判断できるってことか?

 

「確かにちさめサンには黒が似合うヨ」

 

あ、3人共着ているドレス黒じゃないか…かぶるとかいうのは考えなかったのかよ…

 

「おまえもな、まるで悪の組織の女幹部ってとこだな」

 

「ハハ…それを言うならちさめサンは悪の大総統の娘といったところネ、それもヒロインではなく最終回間際でヒーローの前に立ちふさがるタイプヨ」

 

そう言ってお互いに笑い合う。もちろん少し乾いた感じも込めて。

 

いやまあ、まかり間違っても正義の味方なんかじゃないんだが…倫理規定は殆ど守ってるし、悪い事をしたいとかいうわけでもない…殆どがつく時点でダメなのか…

 

 

 

「葉加瀬聡美様がいらっしゃいます」

 

入口あたりに控えていたメイドがそう言った。

 

やってきた聡美は私とそっくりなデザインで色だけが純白のドレスを着ていた。

 

「おお、やっと黒以外か…しかし、全体のバランスも考えさせておけばよかったな…みな似たり寄ったりでつまらん」

 

確かにそうだが仕方ない、私らはまだまだ子供だ。あまり大人びたものにすると似合わない。

 

「むむ…皆さん真っ黒ですね―千雨さん、似合ってますよ」

 

しかし…なんか聡美がすごく可愛いんだが…いつもは制服か科学者Tシャツに白衣だからなぁ…そのギャップもあるんだろうか。

 

「千雨さん、どうしました?顔が赤いですよ?」

 

「あ、ああ。ごめん、聡美も似合ってると思う。しかし…デザイン殆ど一緒だな。」

 

「確かにそうネ、ハカセとちさめサンのデザインそっくりヨ。」

 

「ふふ、確かにペアルックみたいですね。」

 

ゲホッ

 

思わずせき込む。

 

そう言う言い方されるとなんか恥ずかしいからやめてくれ、せめてお揃いくらいで。

 

「何を漫才しているか、早く席に着け」

 

エヴァンジェリンが少しいらつき始めてるような声で言う。

 

「あ、すいません。」

 

聡美はそう言っておとなしく席に着いた。

 

「では、始めるとしよう。」

 

エヴァンジェリンが合図をするとメイド達が給仕を始める。

 

さすがというか、食前の飲料から食後の紅茶まで料理はどれもおいしかった。

 




今更ですがハカセと千雨の関係は親友です。恋愛的な感情にはならない…かどうかは微妙。
コノセツ程度には百合かも?(要するにいちゃつきはする。正式に恋人になる可能性は作中では低い・・・と思う。でも作者は百合好きなので警告タグは入れる。

ペアルックネタは誕生日プレゼントにコノカがアスナにペアルックシャツを買おうとしてたあたりからきています。


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07 茶々丸開発編 第5話 デスマーチな日々、目覚めよ茶々丸

エヴァンジェリンとの交渉から5日後、学園側との交渉に行ってきたんだが…学園側との交渉はあっさりと終わった。

 

開発許可があっさり下りたのは、エヴァンジェリンが学園の警備員をさせられているらしいので、仕事上必要だからだと言われれば凄く納得できる。

それどころか必要経費扱いで開発費の一部補助(対外的には学園の重点研究への認定)まで貰えた。

 

私達の立場についての交渉の詳しい事は私の勘違いがいろいろと明らかになって恥をさらしたので思い出したくない。

 

簡単に説明すると、ここら辺を管理している魔法使いたち(関東魔法協会という組織らしい)は自称正義の味方であった。

これはエヴァンジェリンからも聞いていたし信用してもいいだろう、あくまでお題目としてだが。

まかり間違ってもお人よしの互助組織なんてもんじゃないのは話しててよくわかった。

 

また、私が思っていた魔法を知ってしまった事がばれたら消されるかもしれないという危惧は、

完全に偶然であれば記憶を消される、自力でたどり着いたのであれば、魔法の秘匿のための規則に同意すれば記憶は消されない、程度だった。

ま、記憶も消されたくなかったんで完全に間違っていたわけじゃあないんだけどさ。

 

それと…超のレポートは知っちゃいけない事も交じってるみたいでさ…

たとえば、麻帆良の説明を受けた時に、魔法使いは社会の中に隠れ住んでるみたいなニュアンスの説明を受けたので、

 

「へ―…そうなんですか、てっきりエヴァンジェリンさんの別荘みたいな技術で魔法の国でも作ってたりして、とか思ってましたよ、ハッハッハ」

 

とか言ってカマかけてみたら学園長のじいさんこそ

 

「フォフォ…面白い発想じゃの、実に子供らしくて夢のある発想じゃの」

 

とか言って子供のトンデモ発想扱いで笑っていたが、同席してた中等部の教師の高畑って言う先生は冷や汗を流していた…ようにも見えた。

 

ま、魔法の秘匿に同意する事を条件に魔法関係の事を研究する権利もとったし、あんまり信用してないが盗聴等のプライベートに立ち入るような監視をしないという言質も取った。

繰り返しになるが一番欲しかった生命と記憶を消されたりしないという事も確約させたし(記憶に関してはたびたび規則違反すればその限りではないが)、成果は十分だ。

 

それと、学園から超に夏休み明けに麻帆良に転入してくるように要請があった。

条件は私達が受けている『特例』試験の優遇に関する密約と、入学金および中等部進学までの約半年間の授業料免除(名目上は優秀生向け奨学金、奨学金自体は私も聡美も貰ってる正式なもの。)

表面上はあくまで要請であり、研究を円滑に進めるための提案なんだが…

たぶん魔法の秘匿のためにできるだけ手元で監視したいっていう意図があるんだろう。

 

麻帆良の外で魔法の存在を主張した所で証拠になるような事実は無いんだろうけどな。

ネットで調べてみても麻帆良内部のサイト以外で世界樹についてのまともな情報は手に入らなかったし。

 

 

ガイノイドの開発は聡美が中心になって皆の意見をまとめ上げ、開発プランを練り上げた。

使用目的が目的でもあるので戦闘重視派を基本に開発を進める事とはなった…

とはいっても、構造上の弱点になるオプションパーツ群の不採用が決まっただけで、ガチガチの戦闘ロボットになったわけではない…制作が決定したのは戦うメイドロボだ。

超の理論による体積および重量当たりの記憶容量の爆発的増大と量子コンピュータの搭載を前提とする事により、多くのオプションプログラムが実装可能となった為、日常重視派も妥協した。

 

全身のパーツの最適化が一つの意志の元に繰り返されていく…それは新技術、量子コンピュータと新型大容量記憶媒体の開発完了(一応プランは完成してるし、早ければ秋にも開発は終わるだろう)と

そして聡美、超、私が行う秘密の動力炉開発の目処が立つまで続けられる事になっている。

動力炉に関しては特別に開示された極秘技術だからって言ったらみんな詳しい事情を話せない事に納得したので、それでいいのかという突っ込みを入れたかったが我慢した…

 

 

 

幸い、私がガイノイド開発でやるべき山場は殆ど終わっている。後は新技術の制御プログラムとかを作ればいいんだから楽なものだ…

 

…そう思っていた時期が私にもあった。

 

私は最初考えていたよりも多くのプログラムを組み直さないといけない事になった。

なぜか?

 

一つ目の理由は、現行の戦闘用人工知能は魔法なんかの存在を前提としていない事だ。

銃撃戦は想定してあるし、対物狙撃ライフルを運用するような事もできるようにはなっている。

当然それを100%生かすための高度な物理演算システムを使用した狙撃プログラムも。

でも、遮蔽物に隠れて行うような銃撃戦を元に戦闘を行わせると相手の詠唱の完成を待つようなものなので魔法使いの従者としては不適切だろう。

 …って事でエヴァンジェリンの希望も聞きつつそう言った戦術、索敵、戦力分析などのプログラムを組み上げて行っている。

場合によっては私自身が幻想空間内で従者のまねごとをさせられることすらある…おかげで『気』の存在を感じる程度まではできるようになっちまった。

まださすがに使えるレベルには達していないが、それを望んで効率的に鍛練を積めば数週間単位で習得可能だろう、ちょうど魔法使いたちの戦いも学びたかったし助かっている。

 

…一般の警察に頼る程度じゃどうしようもない連中がいるんだ、自衛手段くらい持ちたいだろ?

強くて信頼できる誰かがいるなら話は別だが…無防備でいる事は私の性分じゃない。

びっくり人間になりたくはないが、それ以上に無防備でいる事の方が不安で仕方ないんだよ。

 

って事で、私の日々の(小4の頃始めた柔術の)鍛練に瞑想が加わり、組み手の相手が欲しい、と超にたまに相手をしてもらうようになった。

正面切って聞いたらやっぱり中国拳法の使い手だった。本人いわく

『一応私も武術を嗜んでいるネ。ああ、別に隠してたわけではないヨ、聞かれなかったから言わなかっただけネ。』

らしい。

 

こほん…話がそれたな。

 

こっちの問題は基礎ができているし、比較論でいえばそんなに難しい話でもない、今までも何度かあった程度の事だ。

 

 

本当に問題なのはもうひとつの理由で、量子コンピュータを採用した事。

量子コンピュータはただ速いだけのコンピュータ…ではない。

重ね合わせたビット状態により、多くの情報を同時に処理し、その結果超高速演算を達成する。そう言うものだ。

簡単に言うと、赤くて丸いものを見た時、現行のコンピュータは

 

これはリンゴか?

NO

これはトマトか?

NO

これは赤いボールか?

NO

これはイチゴか?

NO

これはザクロか?

YES

これはザクロだ。

 

といった処理をする。

並列接続すれば並列処理もできるが原理的には同じだ。

所詮データベースを分割して順番に照合していくだけにすぎない。

 

一方量子コンピュータは

 

これは何か?

これはザクロだ。

 

という事ができる…本当は同時に列挙しているんだが、感覚的にはこんな感じ…らしい。

 

らしいというのは私が量子力学をよくわかっていないからだ。

 

確率解釈だとか量子ビットだとか、重ね合わせ状態…有名なシュレディンガーの猫の話…だとか…

今までの0か1かの世界とは全く違う。

 

さすがにそこまで良くわからないものをそのまま使うのはしゃくなので、量子コンピュータの開発の方には手を出せないにしても、理論だけはと言う事で量子力学関係を勉強し始めてみたんだが…眩暈が止まらん…

それこそ、魔法と同じくらいファンタジーってレベルで常識が書き換えられる世界だ。

 

まあ、それだけ違えば最適なプログラム様式も変わってくるのは当然で…私はその為にプログラム言語の開発からやる事になったわけだ。

全部組み直しとは言わないが、状況認識関係はほぼ根こそぎ全部。

 

当然、今までなかったこと…国家機密クラスまでは知らんが、私の知る限り量子計算機の実用化例は無く、当然それ用に最適化されたプログラム言語も存在しない…をするわけで、私は地獄を見ている。

 

おかげで夏休み後半はまともに休んでない。

やるべき事が殆ど終わってるとか言った馬鹿はどこの誰だ…少し前の私だけどさ。

 

 

 

しかもそんな生活の合間を縫って私達はエヴァンジェリンから土曜日の午後に体感時間で12時間程度の魔法理論講義を受けていた。

それは特別な巻物内部の幻想空間の中で行われ、休憩時間込みで現実時間にして1時間程度の事だ。

 

んで、動力炉の開発は超の設計図を元に試作用の人間大(人間型ロボットに搭載可能、ではなく人間大)の魔力発電機を作っている段階だ。

肝心なところは理論をエヴァンジェリンから習っている所なのであんまり進んでないんだが。

 

 

超の特例試験については余りにあっさり終わり、超はロボット工学研究会のほかにも、量子力学研究会、生物工学研究会に所属が許可された。

しかも、論文オンリーで、だ。他の分野は知らんがロボット工学研究会用の論文読ませてもらった限り学園との密約なんて無くてもこうなってたと断言できる。

 

そのあと、3日位転入の手続きのために麻帆良の外に出て行った。

後日、「ストーカーが何人かいたから巻いてやたヨ」とか言ってた、ストーカーってのは間違いなく学園の監視だろうな。

 

そう言えばあいつの地元ってどこなんだ?遠いところだと言ってはいた…後、冗談で火星だとか言っていたが本当の事はきいてないな…

 

 

 

こんな感じで私達は楽しい楽しい夏休みを過ごした。

 

 

 

夏休みも終わり、超が予定通り転入してきて研究はさらに進む。

 

新型記憶媒体、量子コンピュータ、素体の改良…そして魔力発電機

 

エヴァンジェリンの別荘で試作動力炉をテストしたら暴走してエヴァジェリンの手により破壊された事以外は特に問題はおこらず順調に進んだ。

 

9月末には新型記憶媒体が、12月中旬には搭載型の量子コンピュータが完成し…今更だが普通は有り得ない事だ…ついに開発計画は最後の段階に入った。

 

改良の続けられていたパーツが組み上げられ、調整が進んでゆき、人工知能がインストールされる。

 

私の考えていた学習式の感情再現プログラムは超のアドバイスで手を入れて、自分やマスター、そして友好的な人間にとって良い状況や事象を愉快、

逆に悪い状況を不愉快として数値化するプログラムを搭載した。これは一歳児程度の感情に相当するもので後々進化していってくれると嬉しい。

ま、感情と呼べる出来でもないんだがいずれは…という期待も込めてそうしておいた。

 

また、顔の造形はエヴァンジェリンが自ら買って出て、気がついたら人形師って事で顔を出すようになっていた。

 

そして年が変わり、記念すべき1月3日、ついに外部電源(電源ケーブル)による起動実験が行われる事になった。

 

 

 

工学部の特別起動実験室に私達ロボット工学研究会の面々は集合していた。

 

この部屋には強化ガラスで仕切られたゲストルームが付いていて、文字通りうちのプロジェクトだけじゃなくて、非人型ロボットの開発をやってる人たちも見に来ている。

なんかVIPシート(安全面で、戦車砲の直撃にも耐えられるらしい)にエヴァンジェリンと学園長もいる。

 

「起動実験開始予定時間5分前です。皆さん最終チェックお願いします」

 

聡美が時計を確認して行った。

 

「撮影班、準備ヨロシ」

 

「搭載コンピュータ、ウォームアップ完了。AIシステムスタンバイ」

 

「バッテリー残量99%、異常なし。電源コード接続も問題ありません、いつでもいけます」

 

「その他実験場設備、問題ありません」

 

次々と報告が上がってゆく。

ちなみにAIは私の担当で超は撮影班担当、聡美は統括だ。

 

「茶湯教授、起動実験準備完了しました」

 

「起動実験の実施を許可します。葉加瀬さん、始めて良いですよ」

 

監督責任者の老教授から許可が下りて実際の起動が始まる。

 

「それでは…始めましょう。外部電源通電開始、起動プロセス開始」

 

「外部電源通電します、接続よし」

 

「駆動系各部への通電確認」

 

「搭載コンピュータへの電力供給値、完全起動可能領域に到達します。」

 

「AIシステム起動してください」

 

「基幹AI起動…続いて基礎プログラム群起動します。」

 

ぴくっ

 

そんな動きを見せたかと思うと椅子に座らされていた試作実験機…茶々丸(命名エヴァンジェリン)が瞼を上げた。

 

「おはよう茶々丸、気分はどう?」

 

聡美はそう言って茶々丸に笑いかける。

 

「システムが正常な状態か、という意味であるならば気分は良好ですと判断いたします、葉加瀬さん」

 

そう言って茶々丸はすっと立ち上がってぺこりとお辞儀をする。

 

「うむ、よろしい。それでは歩行実験と走行実験に移ろうか。あそこの白い線まで移動してね」

 

そう言って聡美は地面にひかれた白線を指す。

 

「私からみて1時の方向、10メートルの地上にひかれた白線でよろしいですか?」

 

「うん、そこだよ」

 

ちなみに聡美がわざとあいまいに指示したのは言語での指令実験でもある。

 

茶々丸は初めの1歩こそ少しよろけていたが、すぐに電源ケーブル付きの機体バランスを理解して正常な歩行をとる。

 

ここら辺まで来ると観客たちもいろいろと凄いな、といった感想を漏らし始めてくる。

身内はいつも通りに動いてくれて安心、といった感じだろうか。

 

「配置につきました。ここから50mの走行を行えば宜しいでしょうか?」

 

「うん、でもコード類がついてるから絡まないように気をつけてね」

 

茶々丸は無言で頷き走行を始める。

 

タイムは6秒38、続いてハードル走、迷路の突破、懸垂、高跳び(補助なしと脚部ジェットの補助付きで1回ずつ)、幅跳び(同左)と肉体系のテストが進む。

記録はどれもプロアスリートクラスの出来だった。

 

そして次は家事系技能の試験に移り、掃除、洗濯なんかをこなし、ご飯と、豆腐とわかめの味噌汁、そして塩じゃけの和の朝ごはんセット、

トーストとサラダにハムエッグのついた洋風朝ごはんセットを作った。

これは学園長とエヴァンジェリンにふるまわれた。なかなかに好評だった。

 

「よし、これで今日の起動実験はおしまい。次に完全起動する時は動力も新型になって動きやすくなってるはずだから楽しみにね」

 

「はい、それではシステムのシャットダウン手続きに入ります。よろしいですか?」

 

「うん、お休み茶々丸」

 

「おやすみなさい、葉加瀬さん」

 

こうして茶々丸の起動実験は終わった。

 

 

 

実験終了の放送が入り、見学に来ていた人たちは帰り、私達は撤収作業に入っていった。

 

「うむ、素晴らしい出来だったぞ。やはり断片的に見聞きするのとは違うな。あれならば私の従者にふさわしい。今から茶々丸が私のものになる日が楽しみだ…」

 

顔見知りのためあっさりと入ってきたエヴァンジェリンが話しかけてくる。

茶々丸の里親になる事はすでに知られているのでこれ位は問題ない。

 

「それは良かったです。確認ですが白兵戦実験は動力炉搭載後で良いんですね?」

 

「うむ、最終段階に私自身が相手をして見極めよう。それにはコードや差し込み口があっては邪魔だし、危ないからな」

 

エヴァンジェリンは合気柔術の使い手でもあるらしく、一度興味本位で手合わせを頼んでみたら笑うしかない位ポンポン投げられた。

筋は一般人にしては悪くない、気分がよければたまに鍛練の相手位してやってもいいぞ、だそうだ。

 

投げられた程度で壊れるほどやわにはつくっていないが、確かにあんな感じで背中から叩きつけられたら電源プラグが体内にめり込んでいろいろと問題が起きそうだ。

 

「では、今日は帰るとしよう。休みが明けたら動力炉の改良で忙しくなるからな、ゆっくり休んでおくといい」

 

そう言ってエヴァンジェリンは帰って行った。

 

こんな感じで茶々丸の起動実験は終わりを告げた。

 

 

 




茶々丸さん公開実験の回でした。
実験中、千雨さんが殆ど喋ってないのは秘密です(笑)


対魔法戦の話について
原作ではそれなりに対魔法戦術が研究されているであろう未来から来た超の手でそこら辺は苦労しながらもうまくやって、そのあと別荘とかでエヴァが再教育をしたという感じで解釈してます。



超の転校について
どこかに中等部入学までの情報が調べられない、みたいな事を書いてあった気がするんで、中学からの入学にしようと思ったんですが…
茶々丸の完成が小6の1月、起動が同年4月ですから、茶々丸製作をしながらさすがにそれだけ潜伏はできないだろう、と言う事でこういう流れにしてみました。

まあ、ごらんのとおり1月3日に外部電源式での完成、って形なんですが。


千雨の戦闘能力について
『一般的な』レベルで話すならばそこそこ強いです。
原作でも素質はそこそこのあるように思えますし、現在の技量は同年代の格闘系サークル一般部員と同等位に考えてます。
つまりは、裏の人間にとっては誤差の範囲内ですね。勿論このままのペースで成長するならばクーどころか豪徳寺クラスに負けます。

後、『ちうのHP』ですが、コンピュータ系を中心とした科学系のコンテンツとブログ(まじめなのとオタク系)形式のコンテンツがメインでコスプレはブログ内でやってます。



茶湯(ちゃのゆ)教授について
千雨にMITの人工知能の設計図を見せた教授です。
一応、このプロジェクト(茶々丸開発計画)の監督責任者になっている魔法等、裏とは一切関係のない人です。
おもなお仕事は葉加瀬達が危険すぎる事をしないようにブレーキをかける事(笑)



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08 茶々丸開発編 第6話 茶々丸の完成と千雨の覚醒

茶々丸の起動実験の後、収集したデータの解析なんかを終えると、本体の改良の実作業は他の人たちに殆どゆだね、

私達三人は茶々丸に搭載する動力炉開発にかかりきりになっていった。

 

動力炉の重要パーツに魔法的に意味のある紋様を施したり、魔力補充儀式簡略化のために専用の魔力補充用ねじを開発したりなど、

魔法技術を多用する場所はエヴァンジェリンに指導して貰う事となった。

付け加えておけばエヴァンジェリンはなかなかに良い師匠を務めてくれた。

 

去年動力炉が暴走してからは特に大きな事故(測定機器が焼き切れたとか以外)は起こらず、試作の搭載用魔力動力炉が完成したのが1月末の事だった。

これは始めて私達3人だけの手で作った試作品で、小型化を進めると同時に茶々丸に搭載するために必要な各種装置も取り付けた。

 

 なんでこの試作品にエヴァンジェリンが関わっていないかというと、私達だけで作らないと製作契約上問題が…とかではない。

 

 もっと単純に、基幹パーツの製作を私達だけでできるようになったからというのと、エヴァンジェリンがコンピュータなんかのハイテク関連に凄く弱いからだ。

 

いや、冗談抜きで。

 

科学とか技術全般がダメ、というわけじゃないんだが、真空管含め電子計算機関係とか新素材なんかの俗に言うハイテクはよくわからん、との事だ。

錬金術的な知識から化学はそこそこいけるみたいだし、機械関係は産業革命くらいまでは理解しているらしいが…

 

 

さて、それはさておき、この分だと春休みに入る頃には茶々丸は完成するだろう。

 勿論、すでに私達、エヴァンジェリン双方から改良案が上がっているので、最初の契約の条件を満たす、という意味でだが。

 

具体的な改良案としては、

魔力補充の儀式については軍用の装甲なんかに防御魔法を施す技術の応用でかなりの簡素化ができそうだし、

聡美が魔力ジェットの設計図を引いてたり、超が魔法の科学的解析により、魔法・科学融合兵器の設計をしてたり。

私は魔法使いの電子戦ツールでもある電子精霊を付けてやりたいな~とも考えてたりする…勿論、自分でも使う気満々だ。

その為に『初めてのマホネット』『初等電子精霊行使術』とかいう本をエヴァンジェリンからもらった。

それを読んでみると、電子精霊の再現…というかコピーはどうやら私たちの技術で十分に実現可能であるという事がわかった。

だが、『初めてのマホネット』に

 

『限定的ながら旧世界(ムンドゥス・ウェトゥス)にいながらにして魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の最新情報に触れる事もできます!』

 

とか書いてあって…そういう情報って私達に一番知られたくないと思っている情報のはずなんだが…まあいいや。

 

相手がそう簡単に強硬手段に出ない確証があるならば、最初にお伺いを立てるよりも既成事実を作ってそれを禁止しようとした時に譲歩を引き出す方がいい。

…十中八九、具体的に禁止すると完全にやぶ蛇になると踏んで魔法世界についての情報収集の禁止とかマホネットへの接続の禁止とか言われなかったんだろうけど。

 

『私達は別に協定にも、規則にも、契約にもまだ何一つ違反しているわけではないヨ、堂々としていればいいネ。』

 

というのは超の言葉だが、私もその意見には全面的に賛同する…『まだ』という一言を除いて。

 

後は…そうそう、エヴァンジェリンが最近暇だとか言って稽古をつけてくれている。

今までの茶々丸開発のために従者としての基本知識を教え込む実践型講義ではなく、私を鍛えるための訓練という意味で。

 …何度か褒めちぎってできる事なら茶々丸の開発関係なしに指導してもらいたい、と言ったことが原因なんだろう。

今のところ私自身がびっくり人間になるつもりはないが、今教えてもらっているのは彼女の行使する合気鉄扇術…

これは常識を突き詰めたもの…達人と呼ばれる人物がさらに数十年にわたって鍛練を積んだ段階が彼女になる。

老いがない、という意味合いではエヴァンジェリンのいる域はびっくり人間だけに許されたレベルだが、それを学ぶ分には問題あるまい…と自分を納得させて鍛錬に励んでいた。

 

 

 

私があの悪夢に囚われたのはそんな生活を送る2月2日…私の誕生日の出来事だった。

 

その日は実験を軽めに切り上げ、試作動力炉の一通りの試験がすんだお祝いもかねて、エヴァンジェリンの別荘でささやかながらディナーをごちそうになり、そのまま彼女の別荘で眠りについた。

 

 

 

そして気付けば私は闇の中にいた。

 

どちらを向いても闇が広がるばかり…ほんのわずかな光もなく、ただ闇が広がっていた。

 

「(…夢?にしても珍しいな、こんな夢初めてみる)」

 

 始めは気楽に珍しい夢だなと思っていた。

 

 

 

「(…にしても…本気でなんにもねぇし…移動してみるか。)」

 

 だが何時まで経っても目が覚めず、ただ突っ立っていることに嫌気がさして来て、とりあえず歩き始めてみた。

 

 

 

体感時間で一時間くらい歩き続けた頃、違和感を覚えはじめた。

 

「(私ってこんなに体力あったっけ?いやまあ、夢なんだけどさ。)」

 

こんなに歩いているはずなのに殆んど疲れていない。

そこまではよかった…だが…何かを踏みしめる感覚がない。

 

それも夢だと割りきるより早くその場にしゃがんだ私は地面を触ろうとした。

 

しかし手は見事につき抜けた。

 

「(え…)」

 

歩いた気になっていた

 

でも私はその場を動いちゃいなかったんだ。

 

そして気付く

 

私の全ての感覚は自分自身以外のナニモノも知覚していなかった事に。

 

周りには何もない、纏っていたはずの衣服さえも。

 

光、音、空気、重力、あらゆる物を感じなかった。

そのくせ、自分自身の事は知覚していた。

体を動かせばちゃんと動いた感覚があった

肌を触れば触った事も触られた事もわかった。

鼓動もわかったし発汗すら理解した。

 

人並み以上に持ち合わせている筈の羞恥心が衣服をまとっていないという事実に刺激される事はなく、

ただ私しかいない、という事に愕然としていた。

 

これが孤独か

 

これが独りか

 

 厄介でめんどーな世界でも、ないとさみしいんだな…

 

それを理解し…

 

私は叫んだ。

 

いや、叫ぼうとした。

 

「・・・!」

 

誰もいないのか!

 

そう叫ぼうとした。

 

「…!!!!!!!」

 

声が出ない…当然だ、振動を伝える空気がないのだから。

 

 

所詮人間は群れなければ生きていけないんだ。

こんな孤独で平然と耐えられるわけがない。

 

恐怖を発散したかった。

 

だがなにもできない。

 

叫べない、それを伝える空気がないから。

 

走れない、踏みしめる大地がないから。

 

壊せない、壊すものがないから。

 

…いや、壊せるものなら…アルじゃないか…

 

気付けば私は自分で自分を傷つけていた。

 

衝動に身を任せ、かきむしり、爪を立て、髪を引きぬき、爪を食いちぎった。

 

手足問わず指の一本一本に歯形を付けて行った。

血の味がするくらい腕に噛みついた…

食いちぎらなかったのは生存本能的なものにすぎないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして…なんか怖いくらいに落ちついてきた。

 

多分一回りしたんだろう。

 

もしかしたら壊れきってそれすら分からないようになったとか、自分自身じゃなくなってるとかいう考えも浮かんだが、そう納得しておく方がいいだろう。

 

自分で付けた傷が痛んできた。

 

そして…なにも意識をそらすモノがないという事で意識が全身…おのれ自身の体だけに集まってゆく…

 

本気で痛い…これはきっと自我を保てなかった罰ゲームみたいなもんだと思うしかないだろうな…あちこちで血がにじんでるし。

 

 

 

そんな痛みにも慣れてきた時の事だった。

 

「(なんだ?この感覚)」

 

何かが…血とは違うナニカが私の全身を駆け巡っている…それを感じた。

 

何の役にも立たない眼を閉じて、耳も無視して、感覚を他に集中させる…

 

味覚…先ほどの血の味がまだ口の中に残っている…

嗅覚…わずかに鉄の匂いがする…

触覚…先ほどの所業を責めるようにいまだに痛みを伝えてくる…

何かが…伝えてくる…

 

全身を何かがめぐっている…そしてすぐに気付いた。

 

あ、これ気だ…

エヴァンジェリンからの指導の結果でおぼろげに感じられるようにはなっていたけど…気ってこんなにもはっきりと感じられるもんなんだな…

 

まるで他人事のような感覚で自分の体の事を評価する。

 

 そして教わったようにその流れが乱れている場所を意識し、その流れを整わせるイメージをしてみた。

 

…簡単にはいかない、簡単にいったら世の中は恐ろしく物騒な世界になる。

 

 

 

しばらくの後、ごくわずかの効率増加…でも確かにそれを感じる事ができた。

 

全身をめぐる生命力…全身の傷を治そうとしているのか、肌がピリピリする…

それがどことなく心地よくて…意識が遠のいていった…

 

 

次に気付けば私はあてがわれたいつもの客室で自分のベッドに横になっていた。

 

当然、全身に傷跡などなく、ちゃんと昨晩借りたネグリジェを着ていた。

 

夢…なんだろうな…当然のごとく。

 

時間はわからないが空も明るくなり始めている。

 

作り物の景色だ、そうはわかっていてもこう思わざるを得なかった。

 

きれいだ、と

 

いつぶりだろう、素直に景色に感動を覚えたのは。

 

たった一夜の夢が多分一時的にとはいえ私の価値観をこんなにも塗り替えるもんなんだな…

 

いや、麻帆良に来てひねくれる前に戻っただけかもしれない…どうせすぐに慣れて元通りだろうけど。

 

そんなすでに戻りつつある思考回路で窓から見える景色をながめていた…

 

暫くして身支度を整えると少し早いが週に最低三回はするようにしているトレーニングと型の反復を始める。

 

筋トレの途中でふと戯れに昨日の夢の感覚を思い出して体を流れる気のイメージを意識し、それを増やすイメージをとってみる。

 

すると力が湧いて来て体にかかる負荷がかなり減った…これならいつもの倍くらいいけそうだ。

 

 

 

…と、調子に乗っていつもの倍以上…たぶん3倍くらいやってたら凄く疲れた、スタミナな意味で。

 

メニューの後ろの方ではもう気づいていたんだけど、やると決めたから…と意地をはったらこうなった。

 

気を使えば筋力とかは強化してくれるが、生命力を使用した自己強化なんだから当然スタミナはもっていかれるよな。

 

全身どこも痛くないのに全身に疲労を貯めた私はクールダウンでさらに体力を持って行かれた後、疲労困憊の体でシャワーを浴びるとプールのビーチチェアーで横になった。

 

前、教本で読んだ正しい気の流れが疲労回復を早める的な記述を思い出して全身の気の流れを意識しながら目を閉じる。

 

何か、夢とは違って肌の外で別のものが渦巻き、体内の循環とは別に体外から入って全身から発散される循環も感じられる。

 

夢の感覚が本物だとすれば違う感覚は魔力だったりするんだろうなぁ…とか考えながら私の意識は遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日から、私の気を扱う技量はメキメキ上がった。

 

…数日おきにあの闇に放り込まれて、そのたびに気の使い方の修行で暇つぶしをしていればいやでも上がる。

 

いやね、二回目取り込まれたときは本気で発狂しそうになったさ、またかよって。

 

でも、結局はそれを受け入れるしか選択肢はない訳で…ただ何もせずに待っているのももったいなく、

 

だからと言ってできることと言ったら考え事と気の鍛錬やイメージトレーニングくらい…だからな、うん。

 

研究のアイデア出しにも限りがある。書籍を持ち込めるなら話は別だが…な。

 

こほん、とにかく『夢』で掴めたコツは本物だった。

 

『ほう、なかなかさまになっているじゃないか、何かコツでもつかんだようだな?』

 

と、言ってきたマスター(エヴァジェリン)に笑いながら夢の話をしたら苦笑いしてたが気にしなくて良いだろう。

 

『十分にびっくり人間じゃないか…この娘は…アレに耐えられる一般人なんぞ…』

 

とか言ってたのは空耳だということにしておく。

 

 

 

一身上の話は置いておくとして茶々丸の話をしようか。

 

プロトタイプボディを使用した実験を経て、昨日茶々丸の動力炉換装が終了した。

 

起動実験は難なく成功、今日はエヴァンジェリンに引き渡す前の白兵戦能力の評価を行うため、エヴァンジェリンを招待した。

 

「お待ちしておりました、マイマスター・エヴァンジェリン様、千雨さん」

 

 メイド服を着た茶々丸が、エヴァンジェリンと駅まで迎えに出ていた私を迎える。

 

エヴァンジェリンの呼び名は後々エヴァンジェリンの好みで学習させるために放置しておいた。

 

ちなみに、私たちの事は始め、それぞれマイクリエイター・千雨様、マイクリエイター・ハカセ様、マイクリエイター・超様と呼んだ。

 

今はそれぞれ、千雨さん、ハカセ、超さんと呼ばせている。

 

聡美が呼び捨てなのは、ハカセは苗字だが同時にあだ名なので、あだ名にさんをつけるのは変だ、という事らしい。

 

「私のことはマスターと呼べ、茶々丸」

 

「はい、マスター。本日は私の性能評価試験のためにわざわざご足労いただきありがとうございます」

 

そう言って茶々丸はぺこりとお辞儀をした。

 

「うむ、まあ御託は良い…行くぞ」

 

エヴァンジェリンは無詠唱で魔力供給をかけると茶々丸に飛び掛かった。

 

茶々丸は一瞬迎撃の体勢を取ったが、直後後ろに大きく回避した。

 

「む…なかなかの動きだが…続けて行くぞ!」

 

「ちょっ!まて!」

 

私の制止も聞かずエヴァンジェリンの猛攻が始まり、茶々丸はそれを防いだり、回避したりする。

 

しかし、一度も反撃のそぶりを見せない所か次第に回避や防御に迷いが見え始める。

 

条件設定上反撃ができず、それどころか自分がエヴァンジェリンに要らない子扱いされてるのではないか…と、でも考え出しているんだろう。

 

そう考えた私は茶々丸に叫ぶ。

 

「茶々丸!回避と防御を続けろ!エヴァンジェリンはお前を試しているんだ!」

 

私達とエヴァンジェリンの四人は当然攻撃禁止対象に設定されており、攻撃禁止対象の解除法は対象の同意か上位序列者の命令だ。

 

そしてその4人が最高序列にいる(命令への従属順はドール契約成立前なので聡美、私、超、エヴァンジェリンである)ためにエヴァンジェリンへ反撃はさせられない。

 

「なるほど…これはお前を試すテストだ、私を攻撃しても構わん、かかってこい、茶々丸!」

 

私の言葉で事情を察したらしいエヴァンジェリンがそういった。

 

「了解いたしました、マスター。失礼いたします」

 

途端、茶々丸の動きが鋭さを増す。

 

エヴァンジェリンの戦闘データも入れてあるため、積極的に攻撃には回らないが、リーチの差を生かして時折反撃をかけるようになってきた。

 

「ははは、なかなかやるじゃないか、千雨!お前もかかってこい、稽古をつけてやる!」

 

「了解、マスター」

 

白衣を脱ぎ捨てた私は迷わず気を練り、戦いに参加した。

 

強化ガラスの向こうの管制室で聡美と超は大わらわだ、この展開はある程度予測していたので記録の準備はしていただろうが。

 

「茶々丸、私が前にでる。戦術は対EVA-sp1だ」

 

「わかりました、千雨さん。」

 

防御力のある…というか衝撃に強い私が積極的に攻め、茶々丸が牽制する形でエヴァンジェリンの消耗を誘う。

 

 攻めすぎるとポンポン投げられる羽目になるが、ちゃんと気で防御し、受け身を取れば投げられても、追撃を受けない限り大した事はない。

 

微妙にパターンを変え、何度か攻防を繰り返したのち、私は数日前に習得できたばかりの気弾をエヴァンジェリン向けて飛ばす。

 

危なげもなく回避するエヴァンジェリンだが直後、茶々丸が初めて積極的に攻め、私もそれに続く。

 

「ふむ、悪くない…が、足りんな!」

 

エヴァンジェリンは茶々丸をきれいに投げ飛ばし、大きくその場を横に飛びのいた。

 

そして、私の目の前にはこっそり搭載されていた姿勢制御用ブースターで体勢を立て直した茶々丸が。

 

私の牽制射撃攻撃を合図に茶々丸、私の順でかかり、茶々丸が投げ飛ばされた直後、体勢を立て直した茶々丸と私で挟撃する、という作戦だったんだが…見事に破られた。

 

こんなこともあろうかと必死で考えた作戦だったんだがなぁ…

 

「はっはっは。合格だ、茶々丸。千雨もなかなかだったぞ」

 

マスターはご満悦のようだ。魔力もそろそろ残り少ないようなのでここで終わりだろう。

 

…なんて、考えるとマスターの事だ、やられる。

 

案の定、伸ばしてきた糸を懐から取り出した鉄扇で払う。

 

「よろしい、ここまで」

 

にやりと笑ったマスターが終了を宣言し、鉄扇を懐から取り出して広げ、あっぱれあっぱれといった感じでふる。

 

「マッタク、エヴァンジェリンさん、始めるなら始めるといってほしいヨ」

 

スピーカーで管制室から超が言う。

 

「ふん、これくらいこなしてもらわねば私の従者が務まるものか」

 

突然の奇襲に悪びれもなくエヴァンジェリンが言った。

 

ちなみに、呼び方だが稽古をつけてもらう時や何かを教わる時は私はエヴァンジェリンをマスターと呼ぶようにしている。

 

「少々想定外の事態ではありましたが、満足いただけたのであるなら幸いです。

ではマスターに対する攻撃禁止対象設定の特例解除を終了し、マスターを攻撃禁止対象に再設定いたします」

 

「それじゃあエヴァンジェリンさん、今のデータを取り終わったら茶々丸を連れて伺いますので、契約の準備をお願いします」

 

合格点をもらえたことにハカセが安心した様子でそういった。

 

「うむ、楽しみにしているぞ。千雨も忙しいだろうから見送りはいらん。茶々丸、食事は明日の朝から頼む」

 

「はい、マスター、了解いたしました。」

 

そういってエヴァンジェリンは去っていった。

 

「…結婚式前の父親の気持ちってこんなのなんかなぁ…」

 

「さぁ…でも会えなくなるわけじゃありませんから」

 

「それにワタシ達がそれを知ることは永遠にないヨ…なるとしても母親だからネ」

 

ふざけた様子で超が言い、みんなで一度笑ってから作業を始めた。

 

茶々丸が私達だけの娘である最後のメンテナンスをするとしようか。

 

嫁入り前の化粧…じゃないけど、きれいにしてやるからな。

 



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進路選択編
09 進路選択編 第1話 集められた少女たち


「あーいっそ脳に電極でも刺すか…」

 

「脳に電極刺しても情報を具体的に読み取るのは難しいヨ、さすがの私もそこまで脳医学に詳しい訳ではないネ」

 

「そうですね、それなら記憶を読み取る魔法や夢見の魔法の応用…あるいはファンタスマゴリア(幻影空間)のほうがいいでしょうね」

 

「んー夢見の魔法やファンタスマゴリア…そっちのアプローチのほうがいいか。それがだめなら、没入型バーチャルリアリティー技術とかだな…」

 

「脳に電極よりはマシかもしれないが…没入型VRだと技術的な難度は大して変わらないと思うヨ」

 

何の話をしているのかというと、茶々丸改造計画にあたっての意見交換で、今は電子精霊開発及びその運用コンソールの話をしていた。

 

茶々丸に組み込むのなら電子精霊群とは最悪機械語で話をさせてもいいし、何とでもなる。

 

だがそれはあくまで茶々丸に既存の電子精霊群を従属させる場合の話であり、開発段階や私達が扱おうとなると、どうしてもただのコンソールだとうまく操れない恐れが出てきた。

 

というか私が、開発にあたって新しい入力ツールがほしい、と言い出した。

 

といった流れで話は脱線を初めて今に至る。

 

最近、タイピング速度が化け物じみてきた自覚はあるが、それでも高々両手10本の指による入力スピード(と、過去の入力内容の確認)がプログラム開発の律速段階になるのだ。

 

そこをブレイクスルーできればもっといろんな事ができるし、電子精霊の使役にも有利だろう。

 

メイド(エヴァンジェリンの従者人形)たちに借りてマホネットで調べてみたところ、電子精霊を具現化できたり、対話できたりするアーティファクト(相性などの基準で、従者契約などに伴って貸与される場合のある魔法具)なんかもあるらしいが…英雄クラスの魔法使いの従者に給付されるレアアーティファクトの話だ。

 

そんな上等なもん、こっち(地球)では公式には、だれも持っていないし、米国および欧州の一部魔法協会に研究用の大規模な意識直接接続型のコンソールがある程度、

向こう(魔法世界)にしても、公式には艦載の大型コンソールがやっと軍の電子戦実験部隊へ配備されつつある程度のものだ。

 

んで、基本的な魔法使いたちの使役する電子精霊はデータの精霊化という手法で行われるのだが、その元のプログラム自体も相当に洗練されたものだ。

 

機械語どころか電子信号段階まで高度に序列化された電子精霊群を構築する…これを3人で、しかもほかの研究と合わせてやるとか無理すぎる。

 

これだけに半年かけていいなら手動で何とか入力コンソールの開発まで位はやって見せるが…学校サボって研究、それも裏の事だけをやってるわけにはいかない。

 

エヴァンジェリンに上等な(感覚的には市販で買える最上位の)電子精霊群の調達を頼めればそいつを元に電子精霊群にべつの電子精霊群の構築を命じる形でオリジナルの精霊群構築や、アップデートができる自信はあるんだが…

 

…たまに忘れそうになるがエヴァンジェリンは麻帆良で服役中の受刑者なのだ。そんな上等な電子精霊群を欲しいなんて言っても購入許可が下りないだろう。

 

特に麻帆良では電子精霊群を活用したセキュリティシステムが構築されているようなので…受刑者に牢屋のカギになるものを渡すバカはいない。

 

メイドたちが使っている電子精霊群(マホネット接続用)は…本気でネット専用で、いうなれば本当に最低限、ネットワーク接続機能とブラウザ、それにわずかな記憶容量のみ、表計算やワープロソフトすら入っていない…なんて代物だ。

 

かといって、私達名義で馬鹿正直に電子精霊群を買おうとすると現段階では妨害の危険がある。

 

裏ルートでも買えるらしいが…そっちに手を出すにはまだ早いし、エヴァンジェリンに頼める話ではなくなる…と、エヴァンジェリン本人からも釘を刺された。

 

メイドたちの使っている電子精霊を元に自作するとなると…理論構築まではできているので後は入力手段さえ整えば…という段階だ。

 

電子精霊は今のまま3人がかりで開発するほど優先順位の高いのものでもないので、私が片手間で何かいい方法がないか考える事になった。

 

魔法関係でないなら人海戦術でもするんだが、まあ言っても仕方がない。

 

 

 

 

 

 

さて、こんな感じで時間は進み、初等部の卒業式でどこかさみしげな雰囲気…なんてものはかけらもない。

 

つーか、麻帆良学園の初等部から中等部への内部進学率はほぼ100%であり、今年もほぼ全員が麻帆良学園内のどこかの中学校に進学するからな。

 

むしろ大抵の奴はでっかいクラス分けだと思ってる…そういう私も春休みの実験予定について考えてて上の空だ。

聡美や超と同じクラスになれたらいいな~とかは思うが、まあ期待しないほうがいいだろう。

…逆に監視のためにまとめられる可能性もあるか。

 

 …と、私ら生徒が緊張感ないのはいいが、学園長の話が毎年終業式で聞いてる話と大差ないってどうなんだよ…と思ったが、突っ込まない。突っ込んだら負けだ。

 

そんな感じでさほど緊張感のない卒業式が終わった後、クラス解散会をやって夕方に解散となった。

 

さて、時間をもう一度大きくすすめるまえに春休みの私達について話させてもらおうか。

 

茶々丸型の稼働データ収集や茶々丸入学の手回し及び書類作成に走り回り…

 

眼球搭載型レーザーの開発にいそしんだり、すでに聡美が完成させた魔力ジェットの試作品のデータ取りをしたりした。

 

そのほかには、いくつかの魔法に関する研究をしていた。

 

私達は研究の過程である疑問にたどり着いたのだ。

 

 

 

そもそも私たちの開発した魔力動力炉とは何なんだろう?

 

 

魔法使い達の魔法における『雷』と科学的な、あるいは天然の『電気』には違いがある事が魔法使いたちの研究でわかっている。

 

もっとも顕著なものは魔法障壁に対する挙動の違いであり、『雷』はおもに対魔法障壁で、『電気』はおもに対物理障壁で減衰する。

 

さらに『雷』は対物理障壁でも減衰が見られるが、『電気』は対魔法障壁では殆ど減衰しない。

 

この事は『雷』というのは『現象の形をとっている魔力』である、という理論で説明されている。

 

つまり、魔法とは厳密に元となる事象を再現しているのではなく、魔力がいろいろな形をとっているためだ、と。

 

ならば、魔力動力炉で生み出される電力は『電気』ではなく『雷』であるはずだ。

 

しかし、茶々丸の各種データは『電気』によるものと一切変化がない。

 

そういった過去の論文を元にいくつか実験を行ったがそんな中で気づいたことがある。

 

過去の文献ではすべて『直接』発生させた『雷』で実験を行っていたのだ。

 

ここで私達はある仮説を立てた。

 

前述の研究で『雷』は全て炸裂前もしくは炸裂時に障壁を通した事は問題ではないのか?

 

つまり魔法的な現象が『現象の形をとっている魔力』であるから、先に述べた挙動が観測されたのではなく、

 

『魔法は炸裂時まで現象の形をとっている魔力によって伝播する』から、先に述べた挙動が観測されたのではないか?

 

という事である。もっとも、それは仮説に過ぎず、何の証拠もない。

 

証拠がないなら実験してみればいいわけで、極めて単純な手法をとった。つまり

 

・純科学的な(普通にコンセントから引いてきた電気で発生させた)高圧電流の放電

 

・魔力動力炉を用いて発生させた高圧電流の放電

 

・さまざまな種類の雷魔法を電極に炸裂させて発生させた高圧電流(魔法的電流)の放電

 

・さまざまな種類の雷魔法そのもの

 

これらそれぞれの魔法障壁による減衰について確認すればいい。

 

…結果は驚くべき事に、魔法その物については著しい減衰が、

 

電極に炸裂させた後の魔法的電流では中程度の減衰が、

 

魔力動力炉から発生した電流は純科学電流に近いレベルの減衰が観測された。

 

しかも、魔法的電流の減衰は導線の長さと負の相関があった。(長ければ長いほど減衰率は小さくなった。)

 

この実験を追試してレポートとして学園側に提出すれば、貢献度という面で信頼を得るのに役立つので、

 

追試と炎(炸裂後の燃焼時間による性質の違いなど)についても実験と考察を加えて論文提出する事とした。

 

別に魔法社会の一員になりたいわけではないが、魔法使い達の最新の論文でも対価に読めたらいいなぁ…という思惑である。

 

聡美は『魔法の工学的応用』に興味があるらしいが、私はどちらかというと『魔法の理学的解釈』に興味がある。

 

エヴァも多くの高位魔法使いが持つ研究者気質が刺激された様で、本格的に研究に参加してくれた。

 

…って事で結局、4人の共著として J. Jap. Magi. Soc.(Journal of the Japanese Magical Society、日本魔法学会誌)に3月の最終週に寄稿した。

 

審査結果はまだ帰ってきていないが手直しやデータ補強の必要はあってもリジェクトはないだろう。

 

 

 

あとは…逆に科学的に生じさせた電気を魔力に変換、あるいは電力により魔法を発現する事に関する理論に関する勉強をした。

 

茶々丸に搭載しておけば緊急障壁位はれるだろう、と…その目的には使えない事がすぐに分かったけど。

 

これは原理的には古くからおこなわれてきた儀式魔法や補助魔法陣に関する考察で、ぶっちゃけ簡単にできる。

 

実用化に難あり、という点以外は。

 

極論、研究室にあるような導線で円を描いてそこに電流を流すだけで障壁はできる。重要なのは明確に外と内を区切ることだから。

 

ただ、蚊すら通過の際に障壁に気付かないこと請け合いだ。一般人が無自覚でやってる誤差の範囲内の対魔抵抗の方が幾分観測しやすいほどに微弱なのだ。

 

一応、銀やミスリルなんかでやれば、よほどおいしそうな血でない限り効果はある(つまり、逆にいえば通ろうと思えば蚊でも突破できる)し、大きなものにしたり、円だけでなく魔法陣を描けばもっと効果は上がる。

 

ただ…茶々丸クラスのサイズと電力で実用的なレベルとなると…無理。

 

その分のリソースで機動力あげたり、最初から対魔処置を施した装甲を付けたりするほうがいい。

 

もっとも、麻帆良くらいになると結界を補佐する為に使っているだろうと想像はつく。

なんせ、このような魔法陣型の結界はその径に比例して(正確には面積に比例し、周長に反比例して)効果が増大する。

つまり、麻帆良を円形に囲むように電線なり堀なりを構築すれば効果は十分にある。

 

さらにいうなら電力網の一部が複雑な文様を描いていたりするだろうし、

いくつもの施設をつなぐことでそれぞれに施した結界類を共鳴させることだってできる。

 

加えて、現代の地球においては、魔導兵団を編成して交代で結界維持にあたるよりも、

エネルギー的な効率が悪かろうと電力を大量に消費してしまった方が、総コストは安く上がる。

 

まあ、中途半端な知識による推測だからどこまであたっているかはわからないが、エヴァンジェリンの予想では、

結界の規模と駐在魔法使い数、その他の活動に従事している魔法使いの割合などから察するに、

 

世界樹の魔力を完全に意のままにできる新技術を開発していない限り

(現在は利用しているが、完全に制御できているわけではないそうだ。)

魔力だけで結界を維持しているという事は考えにくいそうだ。

 

こほん、とにかく、茶々丸には装甲を施すだけで緊急障壁などの搭載はまた別の研究成果(使い捨ての呪文を封じた巻物の応用とか)が出たら考える事とした。

 

 

 

そんなこんなで充実した研究生活を送りつつ時間は進み4月1日、入寮日だ。

 

「これから3年間よろしく」

 

「よろしくお願いします」

 

「…よろしく」

 

私は3人部屋で聡美とザジ・レイニーデイという留学生…?…と同じ部屋になった。

 

超も同じクラスで、古という中国人留学生と四葉五月という癒し系の3人部屋だ。

 

「さっそくなんだけどさ、他の部屋の友達とお昼食べに行く約束してるんだけど、一緒にいかないか?」

 

「…行って…いいの?」

 

「もちろんですよ、ザジさん」

 

「…なら…いく」

 

そしてクラスのほかのメンツだが、当然のようにエヴァと茶々丸もA組にいる。部屋は…自宅から通うらしい。

 

さらに、初等部の同期の女子で普通科に進学した有名所もA組に編成されている。

 

具体的には

 

 

 

初等部新聞部のエース 朝倉 和美

 

小1の頃から新聞部に所属していた彼女は次第に頭角を現してゆき、

 

すでに全学共同サークル報道部の主戦力の一人に数えられる記者だ。

 

 

 

初等部トトカルト対象No.1 神楽坂 明日菜 と 雪広 あやか

 

いつも喧嘩している、ケンカするほど仲が良い二人組。

 

雪広は雪広財閥当主の次女というお嬢様で、若干世間知らずな面もあるが善良な人間だ。

 

神楽坂は学園長の後見を受けている孤児だが天真爛漫、お転婆娘。

 

それぞれ違う方向性で男子からも人気があったようだが、気付いている様子はない。

 

 

 

学園長の孫 近衛 木乃香

 

その名の通り、学園町の孫で『遺伝の神秘』『学園長の遺伝子が働かなくてよかった、マジで』

 

などと言われてる天然タイプのお嬢様。

 

 

 

あと、この4人ほど有名ではないが情報通なら必ず知っているのが

 

 

 

幸運の申し子 椎名 桜子

 

恐ろしい直感と幸運を持っており、報道部が行った調査では能力の域に達するとか…

 

私が社会科学者ならば調査対象にしてみたいと思うくらい、幸運の申し子だ。

 

 

 

若き哲学者 綾瀬 夕映

 

先日亡くなられた故 綾瀬 泰造 元教授 (現名誉教授) の孫で、

 

綾瀬名誉教授が生きていた頃は研究室にも出入りし、才能の鱗片が見て取れた。

 

と、大学関連で知り合った哲学専攻の若手の教員は言っていた。

 

 

 

那波重工御令嬢 那波 千鶴

 

雪広財閥ほどではないがこちらもお嬢様。

 

むしろ雪広財閥と比べるから大したことなく思えてしまうが超大企業だ。

 

本人の性格はどちらかというと怒らせると怖いお姉さんキャラだろうか。

 

 

 

加えて魔法関係で、

 

大学部で魔法関係の窓口になっている明石教授の娘 明石 裕奈

 

って所か。そうそう、留学生のレイニーデイと古菲(クーフェイ)もA組に固められてるな。

 

 

クラス分け表だけじゃ何とも言えないけど、外部からも…集まって来ているような予感もする。

 

ピンポーン

 

玄関のチャイムがなる。

 

ザジがすっと玄関に向かって行って扉を開ける。そこにいたのは今、思い浮かべていた人物の一人、朝倉だった。

 

「こんにちは、えーっと、ザジ・レイニーデイさんだよね。同じクラスになった朝倉 和美、よろしくね。

 

 さっそくなんだけどさ、これから皆で一緒にお昼食べにいかない?」

 

「あー、悪い。超達と一緒に食べに行く約束しててさ…」

 

朝倉の誘いに私が割り込む形で断ろうとする。

 

「それなら問題ないヨ、千雨さん。

 

こっちの部屋のメンツが構わないならという条件で私達はすでに同意してるからネ」

 

ひょこっと朝倉の後ろから現れた超がそう言った。

 

「わたしは問題ありませんよ~」

 

聡美の言葉に合わせるようにレイニーデイもコクコクと頷く。

 

「…私も構わないけど、食事中のインタビューは節度をもってしろよ」

 

朝倉の意図くらいわかってる。留学生組の情報が欲しいんだろう。

 

「ああ、大丈夫。基本的に倫理規定はしっかり守るようにしてるから安心して。

 

この前だってちゃんとアポとってから時間守って取材したでしょ?

 

それに今日は親睦深めるのがメインだから。

 

するにしたって…次の『麻帆良の三賢者』の記事か留学生特集の予備取材くらいだよ」

 

一瞬見直そうとした私がばかだった。やっぱり取材かねてたか。

 

朝倉が言う『麻帆良の三賢者』とは超、聡美、私の三人の事だ。

 

ちなみに、個別には超が『天才の中の天才』『麻帆良大工学部の影の首席』

 

聡美が『マッドサイエンティスト』『ハカセ』『完璧超人、研究に関しては』

 

私が『機械語話者』『ロボ研の女帝』『ちう様』

 

…それぞれの呼び名の由来については詳しくは述べないが、よくもまあいろいろなあだ名がついてる。

 

「…まあいい、予定通り寮生食堂で良いんだよな?」

 

朝倉が取材をするのは私達が研究をするようにやめられない事なのだろう、

 

とあきらめて食事に向かうよう、促す事とした。

 

 

 




長らくご無沙汰しておりました。

えー一度エタっといてなんですが、本来、この話は、科学者としての視点を持ちつつも千雨さんが魔法使い社会にどっぷりと浸かっていくお話でもあるのです。

どれくらいどっぶりと使ってどう流れていくのかは…この章のテーマでもあるのでお楽しみに。


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10 進路選択編 第2話 少女は至るべき場所を知る

 

「私は武を極めるために日本に来たアル」

 

「へーヨーロッパとか、アメリカとかいろんな国がある中で日本を選んだ理由ってあったりする?」

 

「武の道を進む者としての…ヒラメキ…いや、直感が日本の麻帆良に来るべき、と言ってたアル」

 

食事も終わり、デザートを食べながらの雑談タイムに食事中の雑談で拾った情報から

 

古菲にターゲットを絞った朝倉が予想通りに取材をしていた。

 

「そういえば、超リンも千雨ちゃんも武道やってる…というか強かったよね。

 

たしか、千雨ちゃんが去年の大運動会では大格闘大会初等部の部優勝、

 

千雨ちゃん曰く、超リンはそれに匹敵するだけの技量…だったよね?」

 

そう言って朝倉は私と超を交互に見る。

 

…私か超とバトらせて記事にしたいんだけどなぁ~

 

って目をしている。

 

正直、気の使用無しの範囲ならば私の実力なんて雪広や神楽坂と同格程度なんだがなぁ…

 

去年優勝できたのは1つ上の格闘系部活の強力な面子が中等部以上の総合の部に上がった事、

 

神楽坂が陸上、雪広が馬術に参加していた事、それに加えクジ運がよかった事もある。

 

「ヤハリ、チャオも長谷川サンも武の道を歩む者か。

二人の…仕草を見ていると只者では無い事が明らかアル。

そして、二人とも尊敬するアル。私、武の道だけで手一杯で文の道は不十分。

二人は文の道が本筋だと言うが武の道も間違いなく一定以上の予測たつアル」

 

「あー(気を除いた素手格闘の)技量は超の方が上だぜ?」

 

これは純然たる事実だし、素手で気なしなら超の方が強い。

気による身体強化や武器(鉄扇と糸)使用ありの試合形式ならおそらく勝てる…と思う。

ま、超も隠し玉を持っているだろうからお互い本気でぶつかりあうとどうなるかは未知数だ。

 

私の方はエヴァの個人指導を受け続けた結果もあり、

気の出力を全開でやればエヴァンジェリンから魔力供給を受けたガチモードの茶々丸とタメをはれる程度には…戦える。

ああ、『一般人の限界』位はもう踏み越えたよ。

…ビックリ人間にならない縛りなんざ、瞬動を使える様になった時に捨てた。

 

もう、開き直ったって感じかな…聡美が研究一辺倒な分、魔法関連の実技も含め、私は実力をつけなければならない…

 

超は…アイツの隠し玉がいくつあるのか知らないが、心配はしていない。

 

と、言うか気付けばそもそも戦わずに済むように状況を整えているようなタイプだな。

 

「どちらにしても二人とも一戦願いたいアルね。

 

もし良かったら今からでも表の広場でどうアルか?」

 

「ウム、ぜひご教授願うヨ」

 

超はそう言って嬉しそうにうなずく。

 

「お、バトっちゃう?是非取材させて欲しいな」

 

朝倉が自分であおったくせに楽しそうに乗ってくる。

 

怪我…しないでくださいね

 

四葉は心配そうにそう言っていた。

 

「やるなら周りに迷惑かけるなよ。私は…」

 

「やらないんですか?」

 

やらない、そう言いかけた所で聡美が残念そうに言った。

 

「…やるよ」

 

…気が付いたらそう言っていた。

 

こういう顔されると弱い

 

 

 

 

 

 

 

「さて、私が先で良いかな」

 

早速広場に出た私達は場所をあけて貰って向かい合う。

 

周りでは喧嘩だとか決闘だとか何時ものように楽しそうに騒いでいる。

 

「うむ。こちらはいつでも良いアル」

 

そう言ってクーが構えた瞬間、気配が変わる。

 

僅かだが明らかに気を纏っている。

 

しかしそこから読み取れる錬度から察するに自然に身に付けたタイプだろう。

 

ならば一般人相手という事で…いやまあどっちにしろこんだけ人がいる前で本気は出せないが…

気の出力をクーと同程度の密度と出力に調整し、構えをとる。

 

「こっちもいいぜ。超、合図頼む」

 

場が一瞬静まり返る。

 

「では…はじめ!」

 

タン

 

そんな音が鳴りクーが距離を積めて来た。

 

一撃目をかわし、すれ違い様に手刀をおみまいするが簡単に防がれる。

 

さらに一撃が入るが外側に受け流す。

 

私がそうであるように、クーにも余力が見てとれる。

 

が、技量も素の身体能力もクーの方が上、まあ気による補正を含めた身体能力の本気は私の方が勝っているだろうな。

 

…つまり、この試合の条件だと私が圧倒的に不利って事だ。

 

「想像以上で嬉しいアル。もっと行くアルね!」

 

瞬間、クーが踏み込んできて猛攻を食らう。

 

なんとか受け流し続けるが、まともに反撃できない。

 

結局十数発目をその場で受け流しきれず、勢いを殺すために後ろに跳ぶはめになった。

 

「流石だな、あんだけ打ち込んできてるのにつけ入る隙がない」

 

「今ので有効打なしとは、長谷川さんはやはり強いアルね」

 

再び構えを取って向き合う。

 

「あいやー千雨サンあまり難易度上げないで欲しいヨ」

 

超が苦笑いしながらぼやくが当然無視だ。

 

タン

 

今度はこちらから距離を詰める。

 

ある時は防御させ、またある時はわざと反撃させて勢いを上手く流して詰め将棋の様に少しずつ体勢を崩していく。

 

「くっ」

 

狙いに気付いた様で、クーが声を漏らすがもう遅い。

 

顔面に放った掌打を避けきれず、クーが地面に転がる…筈だったんだが、

 

気付けば腕を捕まれてそこを支点に上手く潜り込まれそうになっていた。

 

急に動きがよくなった…まだ手加減されてたか

 

距離を取る…今の気の出力では距離がたりない。

 

つかまれた腕を跳ね上げ…はなされた。

 

回避…は間に合いそうにない

 

左手で迎撃…ここでフェイントだと!

 

腹部への一撃…防げない…

 

かはっ

 

自分の口からそんな音が漏れる…とっさに腹部に力を入れていなければ昼食を無駄にする所だった。

 

「そこまで!」

 

超の声が響く。

 

「大丈夫ですか千雨さん!」

 

聡美が心配そうに駆け寄ってくるのを制して少しよろめくふりをしながら姿勢を正す。

 

「流石だな、完敗だ。」

 

「イヤ…気付くのが一瞬遅ければ私の負けだったアル。ぜひまた相手をして欲しいアル」

 

「はっ、その寸前まで手加減しといてよくいうぜ…まあ、また機会があれば相手を頼む。私も精進を重ねておくよ」

 

 そういって差しだされた手を握り、握手する。

 

 冗談抜きで精進するべきだろうと思う。

 

研究や初等魔法の練習に時間とられて春休みでも普段と同程度しか組み手をしていなかったし。

 

ん?魔法を習ってどうするんだって?魔法も使えずに魔法の研究を出来るわけないだろう。

 

実証を全てエヴァに任せるのは(私達の血液的な意味で)避けるべきだ…アレ、案外癖になるからな。

 

とはいっても、戦闘に使えるレベルでの魔法習得は今の所、優先度は低い。

 

気で強化した肉体で接近戦を戦いつつ、茶々丸用の武装を流用した銃火器or類似の魔法具を用いて射撃戦にも対応、

 

といったスタイルを現状では思い描いている。護身術ならそれで十分だろう。

 

 もののついでと糸術やドール操作術も習っているが…まだまだといったところかな。

 

『求めなさい』

 

そんな思考に割り込むように懐かしい声が浮かぶ。

 

『力を求めなさい、私の娘よ』

 

何の為に…

 

『死なない為に』

 

魔法があったとしてもこんな平和な世界に生きている私が…死なない為に力を付ける必要なんて…

 

『運命は私達に優しくないから』

 

なんだと…そんな言葉、私は知らない…はず…?

 

 

 

不意に世界が光に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは今でも時折いざなわれる闇の世界…とは真逆の世界。

 

 ここは光で満ちあふれていた。

 

ここでは私は何かに密着するようにくるまれていた。

 

 ここは濃密なソレで満たされていた。

 

 これは私の体に取り込まれてはめぐり、再び世界へと還っていった。

 

 私にとって始まりとも呼ぶべき声が歌のように響く。

 

 

 

学びなさい

 

理を学びなさい、私の娘よ

 

生き抜く為に

 

それこそは魂に刻まれし定め

 

 

 

 学ぶ事が魂に刻まれた定め…確かにそうかもしれない。

 

 

 

求めなさい

 

力を求めなさい、私の娘よ

 

死なない為に

 

運命は私達に優しくないから

 

 

 

確かに運命は私を一度絶望へ叩き落とした。でも、私はすごく幸せだ。

 

 超と研究ができて、未知の知識…魔法に触れて、エヴァに手ほどきを受け…何より聡美がそばにいてくれて。

 

 

 

楽しみなさい

 

全てを楽しみなさい、私の娘よ

 

成し遂げる為に

 

必要ならば殺戮さえも

 

 

 

 楽しくなければ続かない、とは言うが…殺戮…?

 

 

 

おいでなさい

 

ここにおいでなさい、私の娘よ

 

運命の輪に乗っていつの日か

 

貴方の骸を苗床としたこの樹の元へ

 

 

 

 むくろを苗床…呼びかけられている『私』の骸は『樹』の苗床となった…。

 

つまり…『私』は死んでいる…そう理解した時、急に背筋がゾクっとした。

 

意識が光と同化して行く様な感覚に襲われる。

 

そして刹那か那由多かの区別かつかない時間の後、光が消えてゆく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・さ・、千・さん、千雨さん!」

 

気付けば私はもといた世界に帰還してた。

 

「もう、どうしたんですか?世界樹を見つめてかたまっちゃって…」

 

「先ほどの手合せでは頭部にはさほど衝撃はなかったと思うが…大丈夫アルか?」

 

「大丈夫だ、問題ない。ちょっとボーっとしてただけだ。次は超の番でいいんだよな?」

 

大丈夫だとアピールし、超とクーに声をかける。

 

しかし…今の白昼夢(?)は何だったのだろう…あの懐かしい言葉によく似た歌は

 

学ぶ事が『定め』

 

『運命』に抗う力を得よ

 

進むためにあらゆる事を『楽しめ』

 

そしていつか『この樹』へ至れ

 

それが歌の意味…まさか、あの『私』は世界樹の苗床になった、とでも言うのだろうか?

 

…ならば私は世界樹を訪れる事であの声の主に出会える?

 

「(次は私の番…なのだが、技量はともかく身体能力では千雨さんにはかなわないのでそのつもりで手加減を頼むよ。

 

それこそ、さきほどの最後の一撃を受けたら先ほど食べたチンジャオロースを全部吐いてしまうからね)」

 

「(はは、善処するよ。私が望むのはただ強者との戦いのみ…貴方達と闘える事がとても楽しい)」

 

そんな事を考えていると、次は私だと超は上着を脱いでクーに中国語で話しかけ、クーもそれに答える。

 

中国語は完全ではないが大体言っていることは理解できる。

 

今は思考を端に追いやって審判役を務める事にしよう。

 

「じゃあ、次は私が審判を務めようか。」

 

そういって私は二人の間に立つ。

 

「「いつでもいい(アル)ヨ」」

 

二人が構えを取ったのを確認する。

 

「では…始め!」

 

私の時と同じ様にクーが距離を詰め、一撃をはなつ。

 

しかし、超は絶妙なタイミングで軽く打撃を放ち、クーの一撃をそらす。

 

私がやったような反射神経と瞬発力を生かしたカウンターではなく、技量による対応。

 

「(やはり、反撃する余裕はなかった。初見だったなら防げたかどうかも怪しいな。)」

 

「(よく言う、あれだけ正確かつ最低限の打撃で防いでおいて。行くよ!)」

 

クーが連撃を仕掛け、超がそれを防ぐ。しかし、少し超が不利に見える。

 

そして都合30手目…クーの拳が超の腹部に、一瞬遅れて超の裏拳がクーの頭部に入る。

 

「そこまで!」

 

私は試合終了を宣言する。

 

超は腹部をおさえてその場に膝をつく…しかしクーはそのまま、動かない。

 

「…やはり効くネ、私の負けヨ」

 

「いや、違う」

 

え?という空気の中で私はふっと倒れたクーを支える。

 

「(うーん…フラフラする)」

 

クーは明らかに気絶まで行かないが戦闘不能になっている。

 

「と、言う事で、二人とも戦闘不能で引き分けだな。すまん、聡美、店から氷を少し貰ってきてくれ」

 

私がそう宣言すると観客達は一斉に歓声を上げた。

 

 

 




現在の純粋な素手の技量では、クー > 超 > 千雨、武器ありの技量は クー > 千雨 > 超 です。(ただし超は千雨に見せている範囲で)
これは千雨の接近戦闘のスタイルが合気鉄扇術と糸術を組み合わせた物であることにも起因します。
ここに超が千雨とクーの試合を観察していた事による情報補正が入るため、今回のような結果になったとお考えください。
まあ、知力補正や身体能力補正、武器戦闘の場合は相性や射程なんかもかかわってくるので、
野外の遭遇戦形式でガチ戦闘をさせた場合の結果は上記の通りではないです。

たとえば、今回千雨が纏っていた気の出力は本気から比べると微々たるもので、
気の練度は『現在』のクーの本気でも千雨の本気の半分以下です。
なので、有効打を入れた方が勝ちではなくてどっちかが倒れるまで、というルールならば、
気をフルに纏えば一撃で入るダメージの差や強化された身体能力の差でほぼ確実にクーに勝てます。
クーが気を理解し、数日修行すればその差はあっという間に詰められちゃいますがそれはそれです。


歌に関してはこのお話の一番初めに乗せた歌の正しいバージョンです。
この歌はある意味千雨さんの深層心理に刻まれた歌なので行動原理がより先鋭化していきます。


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11 進路選択編 第3話 還るべき場所で

「…何にも起きねぇなぁ…やっぱ、ただの白昼夢だったのか?」

 

あの試合の直後、私はあの歌を真に受けて、一人で世界樹の根元へと来ていた。

 

見上げるとやはりでかい。

 

「登ってみるか。」

 

特に登ってはいけないとかいう規則は無いので私は勘の命じるままに世界樹に登り始めた。

 

ゴツゴツした幹に手をかけてスイスイ登ってゆき、あっという間に枝葉の生い茂る高さにたどり着く。

 

葉の間から麻帆良の街が見える。

 

「相変わらず絶景だよなぁ……ん?」

 

気配がする…もっと上の方に誰かいる。

 

ふと見上げると人影が見えた…暗くてよく見えないが何者だろうか。

 

途中に難所があるので、一般人が普通に幹を伝ってあの高さまで上がるのは至難の業な筈だが…

 

と、考えていると…向こうもこちらに気付いたようだ。

 

トン、トンと枝から枝に飛び移って降りてくる…

 

「いやあ、すごい樹でござるな、ついつい、天辺まで登ってしまったでござるよ。」

 

私の目の前に降り立ちのんきな声でそういったのは、私が進学した本校女子中等学校の制服を着た少女だった。

 

さっきの動きからすると魔法生徒…だと思ったんだが何か変だ。

 

「そうですね。」

 

適当に相槌をうって様子を見てみる。

 

「いやあ拙者、田舎育ちでござるが地元の山にはこのような巨大な樹はなかったでござるよ。」

 

「そうなんですか?私は小学校から麻帆良なのでもう見慣れてしまいましたよ。」

 

…さっきの動きでわかっちゃいたが、立ち振る舞いに隙がない。

 

実力は…さきほど戦ったクー…の本気くらいには達している、それは確実だ…

 

その先どこまで行っているか、うまく読めない。

 

クーのような武芸者ではなく、マスターや高畑先生のように戦闘者として鍛えてきたのだと思う。

 

先ほどクーとやったような『公衆の面前での試合形式』なら十回やれば1回位は勝てるかもしれないが…

 

『実戦形式』なら勝ち目はなさそうだな。

 

「そういうものでござるか。そういえば自己紹介がまだでござったな。

 

拙者は長瀬 楓と申す。この春から麻帆良学園本校女子中等部に通う事になったでござるよ」

 

長瀬 楓…うん、クラス分け表の同じクラスに名前があった。

 

「私は長谷川 千雨です。私も今年から麻帆良学園本校女子中等部です。

 

それと…長瀬さん、A組ですよね。私もA組なのでよろしくお願いします」

 

クーとザジで想像は付いたけど、外からのびっくり人間もA組に集められてる可能性が高そうだな。

 

「おお、それは奇遇でござるな。これからよろしくお願いするでござる、長谷川殿」

 

そういって私達は握手を交わした。

 

「しかし、長瀬さんはなぜ麻帆良に?」

 

「山奥を出て世の中を知る為でござるよ、何分拙者田舎者ゆえに」

 

「麻帆良も結構閉じた非常識空間なんですけどね」

 

そういって私は自嘲気味に笑う…私もその非常識だ。

 

「そうでござるな。でも、良くも悪くも活気のある楽しい学園だと感じたでござるよ。

 

長谷川殿の立会も見せてもらったでござるよ。いや、三人とも達人レベルでびっくりしたでござる」

 

「見られてましたか。でも、長瀬さんも身のこなしから見て相当の腕前のようですね」

 

にっこりと笑っていう。

 

「いやはや…買いかぶりすぎでござる。拙者あのような無手格闘はそこまで得意ではないでござるゆえに。」

 

先ほどまでと変わらず、のんきそうな表情と声、しかし長瀬さんの言葉からは、

 

『無手格闘では負ける可能性があるがそうでなければ負けない』というニュアンスを読み取れる。

 

「…」

 

「…」

 

しばらく無言で見詰め合う。

 

緊張に耐えきれず、本能的に気を練り気持ちを張り詰めていく…と、同時に長瀬さんの顔から穏やかさが消えてゆく。

 

「…」

 

「…」

 

ひたり…汗が流れるのが分かった。

 

「…」

 

「…」

 

逃げ出したい、でも背中を見せたら確実に殺られる…後ろに跳びつつ初手をかわすか受け流して糸で妨害、瞬動で逃げ切りを狙う…がベターかな

 

そう覚悟を決めた直後、唐突に長瀬さんが笑い出す。

 

「いや、長谷川殿が臨戦態勢を取るものでつい…な?」

 

長瀬さんの雰囲気が元に戻った。

 

「すいません、師匠と対峙している時のような雰囲気だったので…その…つい本能的に」

 

「ふふ、敬語でなくて結構、お互い要修行でござるしな、拙者も長谷川殿に尾行がばれるとは想定外でござった」

 

そういってまた握手を交わした。

 

「私も呼び捨てでいい…千雨でもいいよ、尾行ってまさか長瀬は世界樹前広場からずっと尾行していたのか?」

 

「うむ、ちょうど昼食を食べていた時にあの立会があって、千雨殿に興味を持ったので追ってきてみたのでござる。」

 

「興味?」

 

「うむ、千雨殿は手加減していたでござろ?普通の武芸者であれだけ手加減するくらいなら最初から手合わせを断るでござろう。

 

ならば、千雨殿は『武芸者』として鍛錬を積んだわけではない…と」

 

「あ~手加減したのばれてたか。でも気の練り具合と量はクーに合わせて手加減したけど技量面では手加減しなかったぜ?

 

まあ、気による強化分の差で、本気ならとれた選択肢がとれなくなった場面があったのは事実だけどさ」

 

「しかし、なぜ手加減したのでござる?」

 

「それは…」

 

言葉に詰まる。この反応はおそらく魔法の事を知らない、という事なのであろう。

 

「悪い、長瀬はこの都市の事、どれだけ知ってるか聞いていいか?」

 

「ん~よくは知らぬでござるが…おばば様の旧友が学園の理事をやっている学園都市で…

 

『よそ様』の土地だから勝手をしてはいかん、ときつめに言われている事くらいでござるな」

 

「その『よそ様』については?」

 

「詳しくは聞いておらぬがこの都市の管理人のようなものだとか」

 

明らかに裏の人間とはいえ、魔法を知らないならば、答えはこうなる。

 

「…ならこうとしか言えない。人前で本気でやりすぎるとその『よそ様』に怒られるからだ。

 

ああ、私はその『よそ様』じゃない、そのうちの一部と知り合いではあるけどな」

 

「…ならば仕方ないでござるな。拙者も似たようなものでござる…

 

確かに千雨殿の本気なら…あんな天下の往来で堂々と見せていいレベルではござるまい」

 

うんうん、と納得してもらえたようだ。

 

ブーブー

 

携帯が鳴る

 

「失礼。」

 

長瀬に断りを入れて確認すると聡美からのメールだ。

 

内容は…夕食をかねてA組結成パーティーをする、呼びかけもしないといけないから帰ってきて手伝ってほしい、か。

 

「あ~友達から寮でA組の結成パーティーをするから手伝いに戻って来るように連絡が来ました。

 

長瀬さんもよければ参加しませんか?」

 

「うむ、了解した。寮に戻って同室の双子にも伝えるでござる。手伝いも何かあれば言ってほしいでござる。」

 

「じゃあ、寮に戻るか。…一応聞いとくけど修行のために屋根伝いで走っていくとか言わないよな?」

 

「さすがにしないでござるよ、そんな目立つことしたらいろいろと問題でござる」

 

そういって笑いあい、世界樹から降りる。

 

…私はロープというか束ねた糸を使って降りたぞ、長瀬みたいに枝から枝へ飛び降りるくらいできるけど。

 

しかし…私は何に呼ばれてここに来たんだろうな…世界樹には何もなかったし…いや待てよ?

 

確か麻帆良の地下は過去の遺跡とかで迷宮構造になっているはず…もしかしたらここの下に何かあるのか…

 

「どうしたでござるか?」

 

先に地上についていた長瀬がいった。

 

「いや、大したことじゃない、ただここの地下に何かあるのかもな、と思っただけだ。」

 

「ふむ?」

 

「確か、図書館島を始め、この街の地下には遺跡が埋まっているらしい。

 

だから、ここの地下にも何かあるかもな~って思っただけだよ、こんなにでかい樹の下だしな。

 

ま、管理人なら何か知ってるかもしれないが、そういう情報にアクセスする権限はないんで詳細は不明だし下手に調べられない」

 

「なるほど…まあ、とりあえずは帰るでござるか」

 

私達は寮に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…その晩、パーティーで集まった30人の面子を見て頭を抱えたのは言うまでもない。

 

事前に知っていた分を除いても麻帆良でも濃い方の人材が多い事多い事…それを口に出したら朝倉から

 

「千雨ちゃんも相当だけどね~」

 

って言われた。自覚はあるんだからほっといてほしい。

 

 

 

 

 

 




今回は楓さんとの会話回です。

ぶっちゃけ前話と合わせちゃってもいい内容でしたが一応別話という事で。

ちなみに、現状で千雨が楓と戦闘になったら90%千雨の負けです。

残り10%は千雨が逃げ切って引き分け、千雨さん一人では本気の楓には勝てないです。

分身とかで増えた瞬間詰みます。まあ瞬殺されるほど差があるわけではないのですが。

一般人の枠は超えていて、裏でどれくらい通用するかと言うと『学者の護身術なら十分』程度です。

当然これから成長したり、変な術式や戦法や道具を開発したりする・・・はずなのでお楽しみに。


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12 進路選択編 第4話 悪魔の囁き

失禁表現があります


寮で結成式(と、言う名のどんちゃん騒ぎ)をした次の日、

 

別荘内での訓練の後、結成式の場では言えなかった事をエヴァ…もといマスターに報告していた。

 

「…で、達人クラスとはいえ、曲がりなりにも一般人のクーフェイに負けた上、

 

格上だと認識した長瀬 楓と腹の探り合いをして、にらみ合いにびびってあわや戦闘になりかけた…と?」

 

不機嫌そうにマスターが言う。

 

「はい」

 

「弟子の恥は師たる私の恥だ、お仕置きの上、一から鍛えなおしてやる!と、言いたいところだが…

 

丁度良い機会だから私とお前の立場…いや関係を整理しておこうか」

 

そういってマスター・・・エヴァは神妙な顔をする。

 

「まず、第一の関係として、私とお前らはギブアンドテイクの『契約』関係だ。

 

知識に財貨を添え、私は茶々丸を得た。

 

また、第二の関係として私達は『相互に師弟』であると言えよう。

 

私は学問としての魔法の師であり、同時に科学の生徒である。

 

加えて私達は『共同研究者』でもあり、研究設備の融通なんかもしているな」

 

一呼吸置いてエヴァンジェリンが続ける

 

「さて、ならば私が貴様に稽古をつけているのはいかなる関係によるものだ?

 

はじめは茶々丸を得るための対価、従者としての戦い方の実習だった。

 

が、今は私の研鑽と茶々丸の調整のついでに…ああ、一応友好的な関係を結んでいる者への贈り物とも言えるか。

 

どちらにしても私の戯れと好意…義務や権利が生じるものではない。

 

まあ、乗り掛かった船だからな、よほど私を失望させることがなければ、ある程度のきりがつくまでは面倒を見てやろう。

 

『授業料』の味も気に入っているからな」

 

エヴァが私の首筋をみてニヤリとわらう。

 

「貴様の学者としての才能は認めよう、科学の事は専門外だが、私はお前を師と認める。

 

また、魔法の方に関しては既に一人前・・・かはともかく学者と呼ばれるに足ると言えようか。

 

発想力、論理的思考力、観察力…それぞれ単体は突出しているわけではないが、だがそれがかみ合ってうまく回っているな。

 

武の才能も天才と呼ぶには足りぬが、素晴らしい。あの程度の鍛錬で今のレベルに達する事ができるものは早々いまい。

 

気の才能…いや鍛錬の機会にも恵まれ、魔力の方も魔力量こそ純粋魔法使いを目指すならば不満が残るレベルだが、

回復速度は並み以上、得意属性はないが苦手属性も無し、術式構築のセンスも悪くない…

 

学徒の道をあきらめ、かつ茨の道を突き進めば『もしかすれば』完全な状態の私にすら届くやもしれん。

 

逆に、戦いの道を現在の力量の維持程度に抑え、その才能を学問に捧げるのであれば

 

科学、魔法、双方で歴史に名を刻む事ができる可能性がある…と、私は評価している。

 

が、貴様は当然、万能ではない。ましてや四方八方に手を伸ばして『本物』を相手にできるレベルの才能ではない」

 

すっとエヴァは目を細めて続ける

 

「そもそも力を求めるのは何故だ?

 

貴様の実力は既に『表』のヤクザ程度一蹴できるし、

 

『裏』でも平均的な魔法生徒や戦闘を専門としない魔法教師どもならばお前の頭があれば対抗出来るだろう。

 

貴様の生きがいは知の探求だったはず…で、貴様はどう『したい』んだ?

 

いや、どう『なりたい』んだと聞くべきだな、長谷川千雨?」

 

エヴァはギロリと私を睨みつける。

 

「私は…私は……」

 

そこからうまく言葉を紡げない。

 

「ふん、やはり答えられんか…その理由程度の事は自分でもわかっているだろうな?

 

本来なら貴様のような子供にそこまで求めるのは酷かも知れん…が私は許さん。

 

貴様らは私が才能を認め、対等の契約者とし、かつ私が師とも仰ぐ人間だ。

 

ハカセは既に科学に魂をささげたと公言しているし、超 鈴音も確固たる目的があってここ麻帆良にいる。

 

どちらも私に言わせれば『青二才』だが、現時点でアレならば上出来だ。

 

…それに対して千雨、いや長谷川千雨、貴様はどうだ?」

 

「…流されるままに目の前の選択肢から答えたい選択肢だけにこたえ、目の前にある欲しいものに手を伸ばしてきた…」

 

私は今まで流されて生きてきた。

 

目の前の選択肢だけを見て『マシ』だと思うモノを選択し、『欲しい』と思うモノに手を伸ばしてきた。

 

最終的に『どうなりたいか』なんて考えたことがなかった。

 

きっと今までのように聡美や超と研究して、エヴァと修行して、仲間たちと馬鹿やって…

 

そんな風にしか考えたことがなかった。

 

エヴァがふん、と鼻を鳴らしたかと思うと続ける。

 

「安心したぞ、貴様を買いかぶりすぎていたか…とな。

 

自覚があるのであれば一カ月時間をやる、5月の連休が始まる前に答えをだせ。

 

それまでは現状維持で稽古もつけてやる。」

 

私はエヴァの…いや、マスターの言葉にただうなずくしかなかった。

 

「さて、では今週分の『授業料』を徴収するとしようか、千雨?」

 

マスターが獲物を前にしたような瞳で私を見つめる。

 

「…痛くしないでくれよ…」

 

それに対してシャツの袖をまくりあげ、二の腕を露出させ、差し出す。

 

「…そうだ、仕置きと相談料も兼ねておこうか。」

 

そう言うが早いか糸が私を拘束した。

 

「なっ」

 

「何、腑抜けた答えを用意してきた場合の末路を垣間見せておいてやろうと思ってな。

 

千雨、座れ」

 

そう言ってエヴァは私を(動かないと糸が肉に食い込むようにして強制的に)ベッドに座らせ、私と目線を会わせる。

 

「エヴァ…?」

 

「『食事』には雰囲気も大切だ、と言うことだ。わかるな、千雨」

 

エヴァが『獲物』の反応を楽しもうとしている事を理解する。

 

「では…味あわせて貰おうか」

 

マスターの唇が私の首筋に触れ、血管を探る様に暖かいものが皮膚をなでる。

 

「んっ…」

 

暫くすると良い場所を見つけたのか、尖ったモノが触れた。

 

雰囲気にのまれ、恐怖から気で防御してしまう。

 

直後、エヴァの牙が私の皮膚を強く押すが、食い破るには至らない。

 

あ…やっちまった。

 

そう思っていると髪に何かが触れる。

 

それはエヴァの手で、『大丈夫だ、私に身を委ねろ』とでも言いたげに私を撫でる。

 

それに従って徐々に力を抜く、エヴァに…マスターに血を差し出す為に。

 

優しく触れた牙・・・鈍い痛みと流れ出る感覚と吸われる感覚を感じる。

 

少しするとマスターは首筋から口を外す。

 

やけに早い。何時もならもっと吸う筈だ。

 

もはや嗅ぎ慣れた鉄の匂いが鼻に届く。

 

エヴァは何時ものように流れ出る血液を舌でなめとり…治癒魔法をかけ…てくれない。

 

「ただ無味乾燥に飲むよりもはるかにこちらの方が『旨い』

 

さらに羞恥、恐怖、背徳…そう言った感情が与える味の違いを楽しめるのも良い」

 

マスターが私の瞳を見つめ、優しげに、かついじめっ子の様に微笑む。

 

「今日は楽しませて貰おう…」

 

それはまるで悪魔の囁きに聞こえた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまん、やり過ぎた」

 

気付くと私はベッドに寝ており、エヴァにそう謝罪されてた。

 

状況が飲み込めず、記憶をたどる…

 

そして私は布団を引っ付かんでそのまま丸くなる。

 

エヴァの顔を見れない。

 

きっと今の私は茹でダコ状態だ。

 

「あー取りあえず出てきて薬を飲め。

 

前倒しで下僕になりたくはないだろう?」

 

何があったか、の半分はその言葉で語られる。

 

興が乗ったマスターに魔力を注がれて私はいま半吸血鬼状態にある、

 

それがマスターの言う『やり過ぎた』事の全てだったら良かったんだがな…

 

そう思いながらマスターから吸血鬼化の中和薬を受け取り、飲み干す。

 

相変わらず酷い味だ。

 

「失礼します、千雨様の服のクリーニングが終了いたしました」

 

魔法人形のメイドが部屋に入って来た。

 

「おや、早いな」

 

「はい、血液と異なり尿は簡単に洗浄できますので」

 

…と、言うことだ。

 

失禁するまでエヴァに虐められたんだよ。

 

「…まあ、機嫌をなおせ。千雨も昨日はあれだけ喜んでいたじゃないか」

 

「そうだな、喜んでただろうよ、早々に眷族化されてたからな。

 

あんだけ愛すべきマスターが楽しそうなら大喜びして当然だ」

 

「そうか、それは何よりだ」

 

「皮肉だよ!ってお仕置きで私が喜んでいいのかよ!

 

うぅ…もう嫁に行けない」

 

「安心しろ、その場合は私が下僕として引き取ってやる」

 

「余計安心できないねぇよ!それ!」

 

気付けばエヴァとそんな馬鹿な漫才を始めていた。

 

「こほん、まあ、とにかくあまり心配はしていないが…

 

万一、あまりにも腑抜けた答えを持って来た場合はあれよりも手酷く辱しめ、血袋として飽くまで飼い、最期は吸い尽くす。

 

胆に銘ぜよ、長谷川千雨」

 

私はただ蒼白な顔で頷いた。

 

「それと…貴様が欲しがっていた書を用意した」

 

服を持って来たのとは別のメイドが一冊の分厚く真新しい本を盆にのせて持ってくる。

 

『アルティメットスキル』

 

それがその本の題名だった。

 

そう、これは究極技法と呼ばれる咸卦法についての書だ

 

「私の蔵書を写本させた。

 

理論と応用、双方に役立つだろう、受けとれ」

 

思い付いたある研究テーマで咸卦法についての理論を調べたいとエヴァにお願いしていたのだ。

 

「あー代金はどうすれば?」

 

「吸いすぎた分だ、少し多いがとっておけ」

 

「…ならありがたく貰うよエヴァ、ありがとう」

 

「ふん…貴様の答え次第では本当に下僕にするからな」

 

その言葉は確かに本気なのだろうが、同時に照れ隠しである事も私は理解した。

 



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13 進路選択編 第5話 分岐する世界

「二人とも、すこし話したい事があるのだが…今晩の都合はよいカナ?」

 

ロボ研の月1の全体ミーティングが終わった後、超が私と聡美にそう声をかけた。

 

「「ん?なんだ(ですか)?」」

 

「すこし、あの条件の事で…ネ。」

 

「…ああ、超さんから初めて来たメールのアレですね。」

 

「あ~あの胡散臭いって思ったあのメールの件か…」

 

「ウム…千雨さんは契約対象ではない・・・できれば、の範囲で協力要請をさせてもらうネ」

 

実は昨日、エヴァから脅しをかけられていて今はそれどころじゃない、

 

とは言えず、話を聞いてみる事にする。

 

「ん…わかった、場所はどこにする?どうせ聞かれたくない話なんだろう?」

 

「私達の部屋でも使います?今日もザジさんはサーカスに泊まりですから」

 

「ならばそうさせてもらってよいカナ。」

 

「ん…今は6時だから…結果の解析は明日続きやるとして…片付けと次の条件設定に…6時30分にロビーでいいか?」

 

「そうですね、私もそれぐらいだと助かります。それから夕食済ませて…部屋で話しましょうか」

 

「いや、先にお風呂も済ませておいた方がいいナ、場合によったら長引いてそういう時間になる可能性もあるヨ」

 

「わかった、それじゃあロビーで」

 

そういって私達はそれぞれのデスクに戻っていった。

 

帰寮途中、最近気に入っている駅前の丼物とウドンソバのチェーン店で夕食を済ませ、

 

入浴等も済ませた私達は私と聡美(とザジ)の部屋にいた。

 

「聡美はいつものやつ(DHA入りのスポーツドリンク)でいいよな、超は何飲む?」

 

「あーなにか冷たいお茶の類がもらえるとうれしいネ」

 

「なら麦茶でいいかな。私は…これにするか」

 

台所から先にコップを6つとペットボトルの水を居間の机に出し、続いて各人の希望の飲み物を冷蔵庫から出す。

 

ちなみに私はオレンジジュースにした。

 

私と聡美が並んで座り、その向かいに超が座る。

 

各自手酌で自分の飲み物を注ぎ、まずは一口飲む。

 

「さて…何から話そうか…そうネ、まずは私の正体から話そうか。

 

私の目的、手伝ってほしい事、どちらを話すに当たっても必要不可欠な内容だから…ネ。

 

いろいろと突っ込みたくなると思うけど、まずは抑えて聞いてほしい」

 

一瞬考えた後、私たちは静かに頷いた。

 

「ありがとう…前に話した事があると思うけど…私の故郷は火星、生まれも育ちも火星の生粋の火星人だ」

 

思わず飛び出そうになった突っ込みの言葉を飲み込み、続きを待つ。

 

「私にとっては昔々、この時代においては未来・・・2008年、つまり今から7年後に太陽系開拓計画が開始された。」

 

超は語る、彼女の『歴史』を

 

軌道エレベータの建造

 

月面基地の設営

 

無人船団による火星のテラフォーミング

 

拠点となる地下都市の建設

 

その都市を拠点とした大規模緑化

 

開放型都市の建設と開拓…

 

そうして火星は人類の新たなゆりかごとなり…

 

人は子を産み、育て…そして死んでいった。

 

「私はそんな火星で、火星人として生まれた。

 

まあ、私についてはこんな所かな。

 

…ああ、千雨さんとハカセがそれぞれどういう立場で何をやって、そして誰とどう結ばれて~といった話は割愛させてもらうよ。

 

話の本質には関係ないし、言ってしまう事でバタフライ効果がそれこそ泣きたくなるくらい発生することは必至だからね」

 

私は苦笑いしながら小さく頷く。

 

正直、一緒に茶々丸を創ってこんな話をしている時点でバタフライ効果とか鼻で笑うくらいの影響を受けていると思うんだけどな。

 

口調が変わっているのは…まあこっちが素なのか真面目モードなんだろう。

 

「まあ、お前の辿った歴史は大体わかった。

 

どうせその後に利権…火星側の独立か、国家間の主導権を巡って、なんかあったか、これからありそうだけどな。

 

で、結局お前は何がしたい?お前は私達に何を求める?

 

超 鈴音」

 

エヴァが認めるほどの信念で…

 

世界を捨て、命をかけ、何を望むのだろうとそんな言葉を紡いでいた。

 

超を知りたい、純粋に好奇心で、あるいは好意(友人として)で、あるいは打算(エヴァへの答え探し)で…

 

「フフ…人類の夢の一つであるテラフォーミングに対しての感想がソレ…さすがは千雨さんと言うべきね。

 

その通り、『太陽系開拓計画』を冒涜的と考える集団、その中で特に狂信的な連中のテロリズムもあった。

 

そして相も変わらず…いや、むしろ投資が宇宙に向く事で大きくなる先進諸国と途上諸国の格差と確執、

 

続く紛争や民族、宗教、国家間対立…まあ、そのあたりは当然として、

 

開発計画の主導権争い、移民の人数割り当て問題などなど…人類の夢とて綺麗なだけのものではなかった。

 

当然、地球の大気圏外で起きた有名な武力衝突はいくつも存在する…

 

地球上でやっていた事を宇宙空間で拡大再生産しているにすぎない、と言う人もかなりいる。

 

まあ、『仮に』宇宙開発をせずに宇宙開発に回した生産力をそのまま地上での経済活動に割り当てていたら環境汚染や資源問題が大変なことになっていた、

 

と言うのが歴史家の大勢を占めているから必要な事ではあったとは考えられているのだけどね…

 

が、宇宙に向いた投資が発展途上国に向いていれば先進国と途上国の生活レベルの格差は多少なりとも是正されていたという予測も…こほん

 

まあ、そこら辺の事は置いておこう。

 

私がこの時代に来た理由と二人に求める事…だったネ」

 

超は麦茶を一口飲んで続ける。

 

「歴史の中で多くの悲劇が生まれた。

 

それらの多くはボタンのかけ違いだったり、歴史上の『小さな不幸』が原因だったり…

 

それは太古の昔からあり、貴方たちにとっての現代、私にとっての今、そしてきっと未来にもあり続ける『小さな悲劇』…

 

 

たとえば千雨さんも今でこそ救われているが、麻帆良の外にも中にも馴染めず、それを自覚して『ヒトリキリ』という檻にとらわれていた…

 

だが、そんなありふれた悲劇だからと言っていざ当事者になった時、それを受け入れられるとは限らない…それはわかってくれると思う。

 

そう、あんな『歴史』を私はそのまま受け入れるだなんて私にはできない。

 

だから私は歴史に起きた無数の『小さな悲劇』を減らしたい。

 

ある『歴史上の事件』がきっかけで私達の世界、私達の時代は余りにも多くの悲劇が溢れていた。

 

その『過去』を書き換えた未来を作りたい、そして『未来』で続く争いに抗うために何かを掴みたい。

 

それはただの逃避や自己満足だとしても、悲劇はボタンをかけなおし、『小さな不幸』をつぶしたとしても起こるとしても…

 

足掻かずにはいられない、あんな滑稽な悲劇以外のエピローグが存在する事を証明してみせる」

 

そういって私達を見つめる超の瞳は今まで見たことのないほどの熱意と光、そしてわずかな闇に彩られていた…きれいだ

 

「私は未来から来た。例え、私の企みが成功したところで人々は言うだろう。

 

歴史をもてあそんだ女、史上最悪の犯罪者、最大の禁忌を犯したもの…時間に取り返しのつかない傷を負わせたもの…」

 

だからこそ、無性に腹が立つ。

 

「で?それがどうした。くだらねぇな」

 

イラつきを含んだ声でそういい、私は立ち上がった。

 

「なっ、千雨さん?」

 

聡美が驚いたような声で私の名を呼ぶ。

 

「…しかたないネ、それも想像していた事ヨ…」

 

こう、今にも泣きだしそうなのに気丈にふるまっている様がありありと読み取れる。

 

そんな超を私は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

むにー

 

私はおもいっきり頬を引っ張った。

 

「ひ、ひひゃへひゃん?(ち、千雨サン?)」

 

「お前が語った歴史はわかった。『お前の生まれた歴史』ではそうなった、それは変えようがない事実だろうさ。

 

けどさ、それがどうしたって言ってんだよ。

 

タイムパラドクス?歴史改変?

 

これから『私達が刻む歴史』はそんな未来から来たお前の事を織り込み済みだ。

 

お前のいた未来が消えちまうのか、まったく別の世界になるのか…結局、お前のいた未来につながるのか…

 

そんなことは私にはわからん。

 

だが、足掻いて何が悪い?理不尽の中でもがいて何がいけない?

 

お前は、今ここにいる。ならばここで、この時代でやりたいようにやればいいだろ。

 

それが誰かにとって邪魔なら妨害されるなり、排除されるかもしれねぇ。

 

もしかしたらその誰かは私かもしれない。

 

でもそれはお前が未来から来たことが理由じゃない、単に異なった意志を持つ者同士の争いだ。

 

世界中のすべてがお前を否定したとしても、私はお前の意思を肯定する」

 

そういって私は混乱している超をそっと抱きしめる。

 

「だから、お前はこの時代で『未来』を塗り替えていいんだ、私が、聡美が、他の誰かがそうするように」

 

超は、超 鈴音は確かに、私の仲間で『今、ここ』にいる存在だ。

 

超は『天才という言葉では表現しきれないほどに天才』だし、『未来の知識を持っている』が、ただそれだけだ。

 

超は今、この瞬間、私の胸の中で泣いている一人の少女にすぎない。

 

そして周辺環境や情報の格差、才能及び能力の強弱、そんなものは常に存在する。

 

他人が知りえない多くの知識を、死力を尽くして磨き上げられた天性の才を、『ズルイ』、そう評価する奴もいるかも知れないがそんなものはただの遠吠えだ。

 

もちろん、その数が多くて、あるいは力が強くて潰されたら負け犬は超の方になっちまうが。

 

気付けば聡美もにこやかに微笑みながらこちらによってくる。

 

「ふふ、千雨さんらしい言いぐさですね。

 

タイムパラドックス…実に興味深い議題ではありますが、今は置いておきましょう。

 

超さん、あなたの事はよくわかりました。次はあなたが私達に望むことを教えてください」

 

聡美はそういって超の頭をなでた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、落ち着いた…本当にありがとう…ふふ…とてもとても幼い頃を思い出したよ…

 

さて、二人にやって欲しい事…だったね。

 

何よりもお願いしたい事は、今やっている研究を続ける事、それを基にある物の開発を手伝って欲しい、あと…」

 

超は水を一口飲み、続ける。

 

「…資金調達を手伝って欲しい」

 

思わず脱力する

 

「その…ね?幾つか状況に応じたプランは考えてあるんだけれど、何分先立つものが…

 

だから麻帆良祭への出店や各種賞金で資金を稼ぎたい」

 

超の方も申し訳ないと思っているのが読み取れる。

 

だからこそ、協力してやりたいと思える。

 

「…どれくらい、いるんだ?」

 

三人で自重せずに大会荒らしをやれば300…いや400万位はなんとかなる筈だ。

 

「今年の麻帆良祭で最低でも600万、出来れば1000万は稼ぎたい。

 

それを運転資金にできる商売をいくつか考えてある。

 

プランの選択にも関わってくるから資金は潤沢な方が良い」

 

その商売自体もプランの一部なんだろうな、きっと

 

「なるほど…私達が自重せずに大会荒らしをすれば数百万は稼げるとは思いますが…

 

後の商売を考えれば出店が主軸になりますね」

 

「内容次第だけど、出店で稼ぐなら私らだけで規模は足りるのか?」

 

「それもあてはある。

 

お料理研究会に接触して内諾は得てあるし、

 

クラスからも何人か誘う予定」

 

「って事は飲食店か。変わり種の料理でも集めるのか?」

 

「そのような奇策ではなく、中華を考えている。

 

場所と人材を予定通り確保出来たなら飲茶にするつもり」

 

「ん…わかった、そこらへんはまた今度つめるか。

 

で、プラン全体のタイムスケジュールは?」

 

「今年は研究と資金調達をメインに、来年からは研究の進捗と資金状態次第で行動を変更する予定。

 

あと…プラン次第だけど一番早く終わるプランで2005年の麻帆良祭までかかる…んだけど…」

 

超が少し不安そうに言う。

 

「わかった、協力するよ。

 

まあ最後まで、とは断言出来ないが、いきなり背中を刺す様な真似はしない」

 

「超さんの歩む道が私の道に反しない限り、協力します。

 

まあ、暫くは現状維持と資金稼ぎですし」

 

「ありがとう、感謝する」 

 

こうしてその夜の内緒話は終わりを告げた。

 

 

 

 

そして時間は進み、エヴァとの約束の日を迎える…

 

 

 

運命の場所はエヴァの別荘の一室、彼女のお気に入りの展望室

 

そこで本日のディナーテーブルに私は魔王様と向かい合って座っていた。

 

「さて、答えを聞かせてもらおうか。」

 

エヴァの側にだけ食器を配されているディナーテーブルに座らせた意味は察しが付く。

 

『お前は私の歓待を受けるに足るか?さもなくばわが夕餉となれ。』

 

と、言ったところだろう。

 

「ああ、覚悟は決まった。取り繕う気も、気に入られようとする気もない。

 

だが、私の本心だ。気に入らなかったら私を食卓に乗せればいいさ」

 

一応、聡美に手紙も預けてきたし、今あるアイデアの青写真も描きだしておいた。

 

協力を約束した超には悪いが私が意地を張る為の準備は万端だ。

 

「よろしい、ならば聞かせてもらおう」

 

「私は…私は学問と強さ、どちらもあきらめたくなかった。

 

でも、双方を極める自信や覚悟はなかった…で、堂々巡りだな。

 

そこで、なぜ私が学と力を求めるかに立ち返ってみた。

 

まず私が学を求めるのは半ば本能だ。

 

人間がホモ・サピエンスたる所以…という意味だけじゃなく、私の存在理由として、だ。

 

呼吸のように、少しの間だけ我慢する事は出来てもやめる事は絶対にできない。

 

ならば強さに妥協を求めるしか無いように思える。

 

というより、本来私にとって力は護身のためだったはずだ。

 

目的と手段を取り違えるべきではなく、従って妥協して武をあきらめても問題はない…

 

と、言うのが『冷静かつ客観的に考えた場合に導き出されるベターな選択』だな」

 

「ふむ…それもよかろう。

 

戦いの道をあきらめ、学徒として生きる…それが答えだな?」

 

エヴァがつまらなそうな顔でそういう。

 

当然だ、今言ったのがエヴァの想定していた(であろう)回答だろうから。

 

だが私はここでとまらない、ここからが本番だ。

 

「いや、今のは『客観的に』考えた場合の答えだ、って言ったろ?

 

エヴァの問は私が『どうなりたい』か、だった。

 

さて、今言った回答を得たうえで問い自体に疑問を投げかけてみた。

 

本当に武と学は両立できないのか?

 

いや、むしろ互いに補い合えるものなんじゃないのか?

 

そしてその答えは今、私の目の前にいる」

 

私はエヴァンジェリンを見つめながら続ける。

 

「貴方は自ら編み出した術式を練り上げ、最強と呼ばれるまでになった。

 

私は貴方に、エヴァンジェリン、貴方に憧れを抱いている。

 

平和な時代を生きる小娘のたわごとだとあなたは言うかもしれない。

 

さらに今のあなたはそのような技術を用いる必要もない事は知っている。

 

それでも『どうなりたいか』と問われたならば、私はこう答えよう。

 

『私は私になりたい』

 

私が私であるために、強さも賢さも、あきらめはしない。

 

強欲な私はその探求の中できっと多くの挫折をするだろう。

 

だからこそ、少しでも望む結果をつかめるように、強さもあきらめない。

 

マスター、これが答えです。

 

お願いできるのであればこれからもご指導をお願いします」

 

そういって私は頭を下げる。

 

「…それが千雨、おまえの答えか」

 

「はい」

 

「何を言ってるのかわかっているのか?」

 

とても冷たいマスターの声がする。

 

「はい、『現状維持』といっているに等しいですね。

 

ですが、知を得るために砂漠で火に焼かれながら砂にまみれ、崩れる砂山を往きます。

 

我を通すために、泥水をすすり、最期の一瞬まで足掻き続けます。

 

必要ならば、ほかに道がないならば、人である事すら捨てましょう、私が私でいる為に」

 

しばしの沈黙…そして大きなため息。

 

「…まさかここまで予想通りだとあきれるものがあるな」

 

はい?

 

「欲張りで頑固者のお前の事だから、どっちも切れないというのは想定していたさ。

 

まあ、そう言い切ったからには覚悟を見せてもらおうか」

 

にこやかにマスターが言う。

 

「なぁに、ほんの手始めに『7時間』ほどしごいてやるだけだ」

 

ああ、つまり体感時間で一週間って事ですね、わかります。

 

 





超さんの告白(秘密的な意味で)と進路決定回です。

千雨さんの思考は私なりのトレースですが、まあ目の前で仲間が泣きそうな顔してればこれくらい言うでしょう、なんだかんだで優しい人ですし。

それでも、私はお前の味方だ、とは言わずに対等に今を生きる・・・あがく権利がある、というのがちうかな~と(ネギ君との違いは歴史改編込みで受け入れているあたり

葉加瀬も協力するけど盲従はしないって言わせてみました。

千雨さんに対立しても友である事はやめない、って言ったくらいですから逆にこんな感じかと。

ちなみに、最後の場面のエヴァへの回答で世界線が分岐する…って設定です。

学問選んでアリアドネールートに入ったり、武を選んで中ボスルートにいったり…

本筋しか書きませんが、降ってきたら外伝も書いてみるかも知れません。

最も、エヴァちゃんとの問答、刹那さんとか辺りにやってるのの焼き直しでもあるんですがね。

『7時間』もとい、7日間の別荘でのしごきが進路選択の本番でもあるんですがまあ、色々苛められてそれに耐えて見せた、位の事です。


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14 進路選択編 第6話 答えが生み出すもの

さて、5月の連休も終わり、あっという間に中間テストの時期がやってきた。

 

まあ、英語と理数系は問題ない、本来どこまで習っているかを忘れず、ミスがなければ満点余裕だ。

 

(とっくに大学レベルまで終わっているし)

 

他も少し復習すれば8~9割は取れる…私達は。

 

「えーココの表現がよくわからないアル」

 

「ここはこういう解釈でよろしいのでしょうか?」

 

まあ、私達はともかく他はそうでもないわけだ。

 

クーは元々脳筋な上に日本語の習得自体が終わってないし、

 

茶々丸も人工頭脳ゆえの問題の理解と記述面の補強が必要だ、特に国語。

 

ここまではわかる。

 

茶々丸は私達の娘だし、クーも超をはじめ、多少なりとも中国語のわかる面子(私と聡美)がいると何かと便利だ。

 

うん、ここまではわかるんだ。

 

「うーわかんないよ…」

 

「千雨殿、回答を確認してほしいでゴザル」

 

「千雨ちゃん、ごめんここよくわからないんだけどさ…」

 

気付けば、教える面子が増えて、持ち回りで勉強会の教師役をする羽目になっていた。

 

まぁ、問題集から抜粋した問題を解かせる形式だからたいした手間ではないし、

 

一応、実験協力は対価として要求してあるが…(長瀬以外は)おもに体力(無自覚な気による身体強化に関する研究)測定を。

 

そんなこんなで中学初の中間テストは無事に終了した。

 

テストのでき?

 

うちのクラスは超、ハカセ、いいんちょが上位3位を独占、私が9位となった。

 

あと、宮崎が20位代だった筈で、他は掲示公開される50位までにはいない。

 

加えて那波、近衛、朝倉も100位基準点前後だったらしいが…他がよろしくなかったらしくブービー賞だ。

 

まあ、クラスの順位なんてどうでもいいが24クラスで、4人が上位十位に入っておいてこのありさまって…と思わんでもない。

 

 

 

そして中間テストが終われば麻帆良祭だ。

 

ロボ研ではパレードへの恐竜ロボットの出展とその展示、

 

さらに、この前超と相談したように資金調達のためにお料理研究会との共同で、

 

飲茶兼休憩所である超包子(クーが言い出した名称を超以外の主要メンバー全員一致で決定した)の運営、

 

保険で大会に出るための準備(一般人の前で戦えるレベルの確認や大会調査等)

 

そして、クラスの出し物。

 

恐ろしい事に、私達1-Aは超包子と協力でやる中華飯店になった。

 

意図していた事ではないが、五月の料理が食べたいと言い出した双子の発言から、

 

紆余曲折し、超が介入した結果気付けばこんな決定が下された。

 

大規模仕入れによる原価抑制、統一感を出しつつも異なるコンセプトの姉妹店…

 

 

 

一応、双方にメリットがあるwin-winの関係ではあるか。

 

私達に割り当てられた役割は

 

超は総指揮、聡美が設備主任、クーがウエイトレス兼用心棒、五月が総料理長だ。

 

私?クラスの方は仕込みがメインで当日は殆どシフトから外してもらったよ。

 

…超包子でこき使われることが確定していたからな!

 

まあ、そんな感じのハードスケジュールの合間に聡美と遊びに回れる時間は確保できそうでうれしい。

 

 

それはさておき、新規事業の宣伝はなんだって苦労がつきものだ。

 

そこで私たちがやったのはべたな手段ではあるがお試し価格での販売だ。

 

宣伝費と割り切って原価割れぎりぎりの値段で文化祭準備期間の夕方、

 

小腹がすく時間帯に協力してサークル単位でいるところに肉まんを売りに行く。

 

できれば雑談してクラスの中華飯店と超包子の宣伝をし、チラシを渡す。

 

味に自信があれば有効な手段だと私も思う。

 

手前味噌ながら、麻帆良内で売っている中華まんのランキングを作ったら上位五位くらいには入るであろう、

 

私も試作から(主に味見で)協力している超包子自慢の一品だ。

 

そこに、空腹という最高の調味料が加わってさらに高評価となるわけだ。

 

麻帆良祭当日もその肉まんはテイクアウトありで販売する予定である。

 

まあ、若干薄利多売ぎみではあるが、肉まんだけでも利益は出る計算になっている。

看板商品というやつである。

 

 

 

 

 

 

そして・・・私は、エヴァに示した答えと向き合う事になっていた。

 

「さて、正式な話し合いの場を設ける前に意思確認・・・というか進路相談をしようか。長谷川君」

 

「はい、高畑先生」

 

そう、高畑先生との進路相談である。

 

私はマスター、エヴァにより魔法を深く研究するために多くの資料にアクセスしたい・・・と申し出た結果でもある。

より端的に言えば、より深く魔法を研究するためにはあちら側に身を寄せる必要がある・・・それだけの事である。

 

「まずは現状の意思確認なんだけれども、もっと魔法について深く研究する為にこちら側・・・魔法使い側に所属したい、という進路相談でいいんだよね」

 

「そうです」

 

私はそう言ってうなずいた。

 

「僕自身は良くわからないけれども、確かに君たちの提出した論文の評判は良いし・・・まあ、エヴァもなんだかんだ言って、学園長の信用はあるから彼女の口添えがあれば、君を魔法使いとして迎え入れる事自体は問題ないとは思う。でも・・・」

 

そういって高畑先生は真剣な顔をして続けた

 

「本当に良いのかい?二人・・・葉加瀬君と超君を置いて、君だけこちら側に来ると言うのは」

 

「はい」

 

そうだ。私が、私だけがあちら側に身を投げる。私は、知りたいのだ。

例え、二人と道を違える事になろうとも。

 

そう、私たちは決めたのだ。

 

 

 

 

 

「本気か、千雨サン。というかエヴァンジェリン相手にそんな事をしたとか正気か貴女は」

 

若干の怒りをも含んだ困惑・・・を主とする複雑な感情を湛えた表情で超がそう言ったのはあの選択の夜から生きて帰った翌晩の事だった。

 

あの日、身辺整理を済ませて出立し、エヴァンジェリン邸から朝帰りをした私は、同じく研究室から朝帰りして開封された私からの手紙を抱きしめて泣きそうになっていた聡美に迎えられ、しこたま怒られた。うん、エヴァ相手にちょっと意地張ってくる、死んだらごめん。なんて内容の手紙を見つけたら私だってそうする。

 

それから昼前まで二人で散々思い出話を交えて話し合った結果、一つの事実の確認と、合意に至った。【聡美は『魔法の工学的応用』に、私は『魔法の理学的解釈』に興味がある】という事実と、だからこそ【聡美は科学側に、私は魔法側に身を寄せるべきである】という合意に。

 

「ああ、本気だ。正気かは・・・すまん、わからん」

 

「っ!ハカセもいいのか!千雨サンがあっちに行ってしまっても!」

ああ、流石は超、良くわかっている。私のこの決断を翻意させ得るのは唯一聡美だけである。

 

「・・・良くは無いですし、納得もしていません」

「なら!」

「ですが・・・ですが私には止められませんし、もう止めません・・・だって、理解してしまったから・・・それが私たちのあり方です、超さん」

 

聡美が食いしばるように、そう言葉を吐いた。

だからこそ、ずるいとわかってはいても、三人で話し合う前に二人だけでしっかりと話し合ったのだ、決意が揺るがぬように・・・ちゃんと話せば仕方の無い事だと理解はしてくれると信じていたから

 

「すまん、としか言えない。でも、私はもっと魔法を研究したいんだ・・・わかってくれ・・・それに、茶々丸のアップデートや妹たちの開発、ほかのロボ研の活動から引退するわけじゃないし、機密度の低い魔法の研究なんかは今までどおり一緒にできるんだから・・・な?」

 

というか、むしろ超がここまで反対するとは思わなかった・・・そうか、聡美の態度から予測していた最悪の予想、あたりかな。

 

「それが・・・それが私と・・・いや、私とハカセと敵対する道だとしても…か?」

 

縋り付く様に、そして搾り出すように、超はそう言った。

 

「ああ。と言うか、麻帆良の最高頭脳の名が泣くぞ、超。ソレ、魔法使い側に与えたらまずいパズルの一ピースだろうが。

 

私が所属を変えただけで敵になりうる事って一つしかないわけだし…まあ、ダチを売るほど私も薄情じゃねぇし、売らせるほど魔法使いたち…いや、学園長たちの一派は外道でもねぇだろうけどさ」

 

私が所属の違いで例え義務的にでも敵対せざるを得ない事…それは魔法の秘匿位である。

 

「それでも…それでも貴女には味方でいて欲しいという事ヨ、千雨さん…ハカセの為にも…せめて後、三年、待てないか?」

 

三年…つまり、この前の話の最短計画である2005年の麻帆良祭か

 

「無理。それができるなら小4からロボ研に所属したりしてねぇよ、私も聡美も。

 

もちろん、明らかな違反行為でなければ協力はするし、不自然な資金・物資の流れも見逃すし、茶々丸や妹達の強化も手伝う…それが何に流用されようとも、だ。

それに、能動的に二人の邪魔もしないし、極力中立を保てるようにも振る舞うし、無理矢理巻き込んでくれても…まあ、怒るかもしんねぇけど、恨みはしねぇよ、オコジョにされても…例え死んじまうはめになってもな」

 

そういってエヴァから分けてもらったギアスペーパーを取り出す

 

「これで私を縛れ。それで妥協してくれねぇか?超」

「…いらないヨ。そんなもので出来る限りの協力は惜しまないと言ってくれる友を縛らねば成功しない計画など失敗すればいい」

「待て。袂を分かとうっていう元仲間相手にそれは緩すぎるだろう。

時を超えてまでかなえたい願いがあるんだろうが、躊躇うな!超鈴音」

「違う、違うよ、千雨さん…計画が成功した後にこそ、貴女とハカセの力が必要なのだよ…最悪、代替の手段が無いわけではないが、しなければいけない綱渡りの難度が大きく変わる…だから、貴女との友情に賭ける…そして約束してほしい。計画が成功すればその時は私と共に来て欲しい」

「まったく…わかったよ、魔法の暴露…かな?その計画が成功したと私が確信した時は、お前と共に行く事を誓う、超。まあ、目的次第ではその後裏切らねぇとは言わないが…そうならないと思っているから誘っているんだろう?」

「ああ、本当ならば今すぐ全てを話して説得したい位だが…きっと聞いてくれないだろうからネ…ならばお互いの安全の為にもこれ以上は話すべきではないヨ…な、ハカセ」

「ええ…千雨さんなら、そこまで進んだ後であれば協力してくれると信じています。だから…一度、お別れですね、再び道が交わるまでは…たとえそれが平行な道だとしても」

 

そう、私達は決めたのだ…私は、超の計画の第一段階とやらと距離を取る、と

 

 

 

 

 

 

「…意志は固いようだね、わかった。ならば学園長との面会の場は用意しよう。求める立場はできるだけ自由に魔法の研究ができる立場…一応外様の魔法関係者扱いとかになるとは思うけれども希望はあるかな?」

 

「できれば…機密度の低いものに関しては聡美…いえ、葉加瀬さんや超さんと今迄みたいに研究ができればうれしいと言えばうれしいです」

「うーん…気持ちはわかるけれども、この前の論文も協力者扱いの派生って事で許された感じがあるものだし…でも相談はしておくよ」

 

そうした経緯での交渉の果てに、私は外様の(非関東魔法協会所属の)魔法関係者と言う立場を手に入れる事が出来た…後見というか後ろ盾がもろエヴァなんで、学園長や高畑先生以外からは警戒される事となったが。

 

 




今回はルート分岐の明示回です。

そして千雨さんは一応クラスに馴染んじゃっているので千雨ちゃんと呼ばれています。

勉強会に参加したのは自覚があって曲がりなりにも勉強する気のある面子です。

…よって夕映や刹那は来ていません。

千雨の料理の腕前は『一般人としては上手い、経験が少し足りないけどセンスは磨けばプロでやっていけるかも?』くらい。

クーが超包子の名称出したというのは完全捏造です。
そもそも『包子』は『具入りの中華まんじゅう』の事を指すので飲茶店の屋号としては不正確なので、この肉まん、スーパー肉まんだよね、位の気持ちで発した言葉が拾われた感じです、実は。

超一味だと思っていた?残念、袂を分かつのだ…というのは元々のプロット通り。
まあ袂を分かつと言うよりは当人のやりたい事をやる為に魔法使い側に接近するので計画中枢から外れる、と言うのが正しいですが。本気で魔法戦闘だとか研究だとかをするのに協力者扱いのままというのもあれなので。まあ外様扱いであんまり中枢には近づけないわけですが、魔法界で共有されるような知識には触れられるようになるわけですね…もろエヴァンジェリン子飼いなんで、一般魔法生徒・魔法先生からの警戒度はMaxですが。そういう意味で超・ハカセへの警戒は相対的に下がっています。

そして超は何割か打算でああしています。千雨さんをより強く縛れるのは契約などではなく、情であるという理解ですね。そういう打算の部分がなければ、友を信じたいと思いつつも最低限はギアスペーパーを使った事でしょう。
また、計画成就の後にこそ千雨さんとハカセが必要、とは単純に信頼できる仲間と言う意味と、電子戦・ネット世論操作の技量、技術開発面での能力等々です。何より、科学と魔法と双方に通じた人物が欲しいというのもありますね。
(ええ、必要ですとも、ネギ君が一度失敗した世界線の方の超さんにとっては)
千雨ちゃん、計画とやらの中枢が魔法の秘匿を打ち破る事、そしてハカセは魔法の工学的応用の成果共有の為に(茶々丸ちゃんの魔力動力炉技術のデットコピーだけで世界は大きく変わります)協力しているんだという理解です。たぶん、原作でもハカセはその辺りが友の為系以外では主な理由でしょうし。

えっ、千雨さん、ソッコー裏切っているやんって?
一応、超の告白からは一カ月たっていますし、本来の本年度計画分では協力継続していますし、そもそも、背中差すつもりはゼロなんで裏切りではないですよ? 割愛予定ですが、馬車馬の如く働きましたし、麻帆良祭でも。


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幕間
15 幕間 あるいは二度と戻れぬ幸せな二年間


・掛け替えのない時間

「うー千雨さぁん」

 

親友の珍しく…私が魔法側に行くと言った時よりはマシにせよ…辛そうな声

 

机に突っ伏した聡美がそんな声で私に呼びかけたのは麻帆良祭が終わり…超の計画を上回り、あくまで超包子の自由にできる事業資金を含めてではあるが、超は1000万を超える資金を手に入れた…少し経った頃の事だった。

 

「どうした、聡美」

 

とは言ったものの、大体の事情は察していた

 

「千雨さんに研究の相談ができないのがこんなに辛いとは思ってもいませんでしたぁ…」

 

最近、超と聡美は私に隠れて何か…おそらくは計画の中枢の実行に際して必要な技術開発…を始めているようなのだ。まあ、私にはいえないだろうな、そりゃあ。

 

「あーまあ確かに、詰まった時は私が聞き役で問題の整理とかするのが当たり前になっていたからなぁ…」

「と、言うわけで今晩は私達の研究に関してのお悩みに付き合っていただきます」

「…いいのか?私にそんな話をして」

 

あんまり暴露されるとお互いの安全のために散々、聡美と超を泣かせて袂を分かった…というと少し大げさだが、魔法使い側に接近するにあたって超の計画の主要部分に不参加として距離をとる事にした意味が無い。

 

「良いんですよ、超さんも私のコンディションが良くなるなら計画中枢に関わる研究の具体的な内容を暴露しなければ千雨さんになら話しても良いって言っていましたから…がんばってぼかします」

「なら、付き合おうかな、私も少し話したいアイデアがあったし」

 

ロボ研や本流はともかく…私が強さを求めてやっている研究については決して話せないけれどもな

 

そう言った本心を隠し、私と聡美は抽象的な方法で闊達な議論を楽しむのであった。

 

 

 

・一騎当千

「だぁーうざい!私に群がるな!クーと違って私は嬉しくないと何度言わせる!」

そう叫ぶ羽目になったのは、麻帆良大運動会、総合格闘の部で3位をとって数日後の話であった。一応、外様とはいえ魔法使いにジョブチェンジした事であるし、表の大会からは引退しようと考えていたのだが、気の出力調整と格闘技術のみの使用を条件に学園側からは出場を許可され…マスター、エヴァンジェリンからはむしろ出場を求められてしまったのである。

準決勝で負けてしまったが、それでも優勝者とまともにやりあえた二人の中学生…私とクーとその優勝者を倒して名を上げようと野良武道家たちがそれぞれに群がってきていたのである。

優勝者は強すぎて手も足も出ず、クーはどちらかと言うと剛、私は柔よりなのでその違いもあって私にまで群がってくる始末である…去年は流石に初等部優勝者に群がるほどアホは…少なかった…そう、いなかったわけではない。で、今年は見事に群がってきたわけである。嫌がっていれば大体、広域指導員の先生方に制圧されて数日でおわるのであるが…メンドイ事に違いはない。

 少し本気出すか…と、私は鉄扇を取り出し、比較的優しく投げ飛ばしたにもかかわらずまた向かってきた連中に痛い目を見せてやるのであった。

 

 

 

・研究発表

「説明をお願いできますか」

 

そう、声をかけられたのはイギリスのウェールズ、メルディアナ魔法学校での事だった。

私は今、今年の基礎魔法研究会の国際会議に参加するためにこの魔法学校を訪れており、先日速報誌に掲載した内容、『科学的データを併用した占い魔法の可能性:理論的考察と気象予測における応用例』でポスターセッションへの参加をしているのであった。

この学校は非魔法社会的には初等学校に相当し、英国魔法界の慣習では、卒業後に師の元で表向きの社会的地位を確立すると共に更なる研鑽を積む…というのが一般的なエリートコースらしい。

なお、この研究自体は聡美、超、エヴァとの4人での研究…とはいえ魔法的な部分は機密的な意味で私とエヴァの担当…なのだが、私以外は参加ができない為に、単独参加である。

 

「はい、それでは説明させていただきます」

 

私は解説を求めてきたのが10歳位の鼻眼鏡をかけた赤毛の少年と連れの少女、おそらくはここの生徒であろう幼い魔法使いにできるだけ噛み砕いた説明を始めた…それはすぐに間違いだと気づくのであるが。

 

 

 

「ご説明ありがとうございました。いくつか詳しく伺いたい点があるのですが…」

 

そう言って、少年はこの研究の本質…科学的データによる演算的予測の精度・確度の向上の為に確率論的部分、あるいはカオスと呼ばれる部分に占い魔法を用いる…を理解している事を示し、分かりやすさを優先して省略した部分の説明を求めてきた。

 

「失礼しました。よろしければ、改めて専門的な話を交えて再度説明させていただきます」

「お願いします」

 

説明を終えた後の彼…ネギ・スプリングフィールド君との議論は極めて有意義であり、お互いの連絡先を交換する事になった、とは言っておこう。

 

 

 

・生存の為の努力、あるいは狂気

「…正気か?貴様」

 

そう、マスター、エヴァに言われたのはある種のオリジナル…と言うと少しおこがましいが…技法を開発し、その試作が施された背中を見せた時の事であった。

 

「駄目…ですかね?」

「いや、駄目とかそうでは無くてだな…正気かと聞いたんだ、私は」

「あーちょっと自信は無いですが、たぶん正気です」

 

個人的には操糸術のちょっとした応用のつもりである、正気であるかは断言しかねるが。

 

「無茶苦茶痛くなかったか?」

「あーまあ一応、施術時には塗り薬の麻酔調達してやったので我慢できないほどでは…」

「全く…魔導糸での陣構築までは考えるやつは偶にいるが…何をどう考えたら皮下に埋め込むという発想になるんだ…それも実用化するとは」

 

そう、私は今、背中に魔力伝導に優れた糸を用いて皮下に魔法陣を入れ墨のように仕込んであり、これを用いて今の私がギリギリ実用に足る程度に使いこなせる攻撃魔法、白き雷を呪文名のみの短縮詠唱で行使して見せた。当然、これは普段の私ではできない事である。

 

「入れ墨だと社会性生活上、色々問題ありますし、糸なら除去と再施術もそう難しい事ではないので…多少痛いですが、麻酔を使えば言うほどではないですし」

 

痛くなかったといえば嘘になるが、手元が狂うほどは痛くなかった。まあ、発動時は結構熱いが。

 

「符術や触媒で良いだろうが」

「いや、符や触媒を持ち歩くのは荷物が増えますし…なんかつまらないし…何より高価なので…後は将来的には色々考えている事もあるので」

「はぁ…全く…まあ、発想は悪くないし、アリと言う事で良いんじゃないか?私の切り札みたいに魂に悪影響があるほどのものでもないしな…あいつ等には見せるなよ、コレ」

 

そう言って、マスターは私の背中をぺしっと叩いた。

 

 

 

・世界樹のヒカリ

「なー超〜」

「んーどうした、千雨サン」

 

こんな気の抜けた声で会話をしていたのは、二年の秋の大運動会…今年の武道大会はクーが準決勝で去年の優勝者を、決勝で私をそれぞれ破り、優勝した…が終わって暫くした頃、ロボ研で茶々丸のメンテナンスをしていた時であった。

 

「2つ報告…というか報告1つと助言が1つあるんだけどさ〜どっちから聞く?」

「…なんかいやな予感ガするけれど…報告から頼むヨ」

「おう…前に話した気象予測の研究あるじゃん、アレで知り合ったって言っていた少年覚えてるか?」

「あーなんか修行で日本にくる事になったとか言ってタ、ネギ少年カ」

「うん、そいつだけど、来るの麻帆良にだってさ」

「ほぅ…ならば千雨さんと共同研究ができるじゃないカ、私達とも仲良くできると嬉しいネ」

「いや…なんか少年、教師をする事になったらしくて時間は取れないかもしれないってさ」

「ほほう…相変わらず魔法使いたちは無茶をする…ローティーンの教師とは」

「…いや、確か、今、数えで9歳って言っていたからローティーンですらない…流石に年齢偽装位するだろうけどさ」

「はっはっは…もはやギャグね…それで助言とは?」

 

超が超包子の点心をつまみながらたずねる。

 

「あーうん、まだ確実じゃない…と言うかこれからの観測次第だが…世界樹の大発光…魔力放出現象、一年早まって来年になる可能性がある」

 

ブフォッ

 

あ、超が茶を噴出した。

 

「ち、千雨サン、それ、どういう事か!」

「いやな?ちぃとわけあって…というか出鱈目な仮定を打ち込んだ場合の未来予測の研究をかねて世界樹の発光周期について占ったんだけれどな…正しいデータで占った場合でも、来年の麻帆良祭で大発光する確率が30%位ある。だから、万一の場合はプランを繰り上げられる様にするか、代替プランを走らせられるようにしておくか、しておいたほうが良いぞ。たぶんお前が跳んで来た時になんかあったんだろうけどな」

 

正式には聞いていないが、大発光時に何かしでかす計画なのは予想がついているからな。

 

「…ウム…一応、もっと低い確率で起きうるとは考慮はしていた可能性の1つではあったが…そこまで高確率になっているか…いや、早めに情報を得られて助かる…二人のおかげで順調だから何とかなるネ…たぶん。良かったのカ?私にそんな事を話して」

「できる限りは協力するって言っただろ?それに、コレは私の研究を話せる範囲で話しただけさ、だろ?」

 

超の質問に私は飄々とした雰囲気でこう答えた

 

 

 

 

 

・うわさの真相

「で、最近の吸血鬼のうわさはマスターって事で良いんだよな?」

「何だ、藪から棒に…」

マスターとの手合わせの合間に、私はそう聞いた。

「んーたぶんマスターだとは思うけれども、一応、マスター以外の何かだったら幾つか呪紋を刻んでおかないといけないかなーと思っただけ」

「…私ならいらんのか?いい度胸だな」

「マスターが私の血を欲するなら態々襲う必要ねーだろ…」

「なるほど…まあ、私以外に吸血鬼はこの麻帆良におらんはずだ、とは言っておこうか」

「りょーかい。退治されない程度にな…多少授業料増やすくらいなら協力するからさ」

「ふんっ…まあ気持ちだけもらっておこう」

 

 

 

 




・あとがき
原作までの2年弱をかっ飛ばす為の短編集でした。原作編が進んでネタが増えれば加筆するかもです。
 思いついたからって皮下に糸を仕込んで魔法行使の補助にするかって?やっちゃうからこそのうちのチウちゃんですね。ふつーはしません、符術とか触媒とかで十分なので。ただし、千雨さんは発展的にやりたい事があったので試作して、実用化しました。
で、これはプロトタイプで原作開始頃にはもう少しえぐい事になっています、麻帆良祭編のラストの超さんほどじゃないですが


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ネギ着任編
16 ネギ着任編 第1話 ネギ・スプリングフィールド


年も冬休みも開け、ネギ少年から来月…2月某日に此方に着任するとの連絡をもらった頃、私は学園長からの呼び出しを食らう事となった。

 

立派な扉をノックし、名前を名乗る。

 

「失礼します、本校女子中等部2年A組 長谷川千雨です」

「ウム、入りなさい」

 

促されて入室すると、学園長先生と共に、担任の高畑先生、副担任の源先生がいた。

 

「忙しい所、呼び出して済まんの…早速なんじゃが、ネギ・スプリングフィールドと言う名に聞き覚えはあるかの」

 

学園長の問いに私は素直に答える。

 

「はい、メルディアナでの国際会議に出席した際に知り合ったしょ…いえ、元メルディアナ校の学生で、時々連絡を取っています。近々ここ、麻帆良に教員として赴任する予定と聞いていますが」

 

高畑先生が魔法関係者なのは知っているが、源先生は分からなかったので年齢を伏せるように言った

 

「ウム…そのネギ君何じゃが…ここが魔法使いの多く住む街である事を秘密にして欲しいのじゃ」

「…と言いますと?そもそも、私も外様ですのでどなたが魔法関係者かは詳しくは存じ上げませんし、正確な実情を把握しているわけではありませんが…」

 

公式に私が知っているのは、連絡役の高畑先生、予備連絡先の明石教授、他、2-Aの生徒たちに複数名のお仲間(外様の関係者数名とエヴァ)…である。おおよそ間違いないだろう、位の確信している相手は他にもいるが。

 

「文通で色々聞いておるとは思うが、ネギ君はこの街に修行に来る事になっておっての、ここが魔法使いの拠点と知ってしまっては自立心を養うのに不都合があるからの…

まあ、長谷川君とエヴァンジェリン…と、従者の茶々丸君、あと共同研究者の葉加瀬君に超君はネギ君が名前を知っておるし、それに高畑先生とワシが魔法関係者じゃと知っておるから、多少ならば問題ないがの…と言うのが一つ目じゃ、これは良いかの?」

 

「はい、分かりました。極力、麻帆良が魔法使いの拠点である事は話さないようにします。2-Aの他の生徒…龍宮真名や桜咲刹那に関しても話さないように、と言う事でよろしいでしょうか」

「うむ、本人たちから話さぬ限りは秘密にしておくれ」

「分かりました」

 

「次なんじゃが…当日まで秘密じゃぞ?」

「…はい?」

思わず首をかしげる

「実はの…ネギ君の赴任先、本校女子中等部の2年A組…長谷川君のクラスの担任として、なんじゃよ」

「えっ…」

 

思わず絶句する

 

「じゃから…その、フォローを頼みたいんじゃが、同時にあんまり甘やかしたり、暫くはおおっぴらに仲良くしたりせんで欲しいんじゃよ…」

「アッハイ…えっと…中身が9歳の青年のフォローをするんですか…?あっいえ、当然、高畑先生や源先生の補助とかそういう意味だとは思いますが…」

学術面での中身と魔法界での礼儀はともかく、ネギ君の一般社会の常識とか、私は知らんよ…?

「青年…?ああ、いや、特にエヴァンジェリンの使うような幻術は使わんから少年のままじゃよ。もちろん、高畑先生、源先生、他の関係者からもフォローはかげながら入れる。長谷川君は生徒の立場から無理のない範囲でフォローしてあげて欲しい」

「…アッハイ…一応、巻き添えオコジョは勘弁してくださいね…?」

 

いや、せめて年齢詐称位しようよ…と思うが下手にボロが出るよりは子供先生で押し通したほうがましなのか

 

「そんなに心配しなくても大丈夫じゃよ…たぶん。

と言うかオコジョ刑はよほどの大規模暴露か、故意ないし重過失や度重なる再犯でなければせんし…あ、コレもネギ君にはヒミツで頼む、魔法学校卒業生は割ときつめに脅されておるから緊張が緩むのもアレじゃし」

「分かりました…特に朝倉には気をつけますが、報道部関係は特に警戒をお願いします」

「うむ。ワシからの話は以上じゃ。高畑君、源先生は何かあるかの?」

「いえ、特には」

「僕からもありません」

「それでは、長谷川君からは何かあるかの?」

「あー実は…ネギ君…いえ、ネギ先生と暇ができれば共同研究なんかをする約束をしているんですが…そのあたりはどうしましょう」

「ふむ…まあ、年度が変わって暫く経つまでは忙しいじゃろうが…暫くは機密度の低いもの…超君たちとの研究を許している辺りまでにしてくれるかの、アレくらいの基礎分野であればネギ君に魔法部分を担当してもらっても良いが、あまり危険なのは避けておくれ」

「分かりました、そのようにします」

まー流石に半分外法なモノの開発に協力させるつもりはないし、問題ない。

「他にはないかの…では気をつけてな」

 

学園長にそういわれ、私は礼をして退室した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学園長、本当に良かったんですか、彼女、エヴァンジェリン一派ともいえるほどですよ」

千雨が退出し、距離をとったのを確認して隣室で様子をうかがっていた複数の魔法先生たちが学園長室に入室する。

「仕方ないじゃろう、単なる顔見知りならともかく、文通までして互いの所属を確認しておるんじゃから不干渉にさせるわけにもいかんし…きっちりと身分を得て関わっておる上にエヴァンジェリンのお気に入りでもあるから下手に手は出せんしの…事前に協議した通り、何かしらの策謀の駒にされる前に此方から楔を打っておくにとどめるのが一番じゃ」

「それに、彼女自身はああ見えて情に厚いタイプですからああ言っておけば、元々交流のあるネギ君を助けてくれるでしょうし」

担任であり、魔法先生としては彼女を一番良く知っている高畑がそうフォローを入れた。

 

「…まあ、譲れない条件に、友人である要注意生徒の超鈴音一派への内偵は決してしない、と言うくらいに友人を大事にしているのは分かりますが…同時にだからこそエヴァンジェリンへの情がネギ君への情を上回った場合…その、もしもがあれば危険ではないですか?」

「まあ、ネギ君に年齢詐称させないのはエヴァンジェリンへの備えもあるからの。あやつは女子供には甘いし…まあ共同研究なりで交流を持たせればむしろネギ君の安全にも繋がろうて…別に無策で放置するわけではないし…の」

 

千雨の知らない所で魔法先生たちの会議は続く…

 

 

 

そうして、時はさらに進み、2月某日…2年A組の教室はざわめきに包まれていた。

 

 

 

「あーついに今日か…」

ネギ少年…もとい先生の着任日がついに来てしまった。知り合いの誼で無理のない範囲でフォローするのはいいが…私はネギ先生の普段を知らないので非常に不安なのだ。

 

「ん?千雨ちゃん、なんかいい情報持っている感じ?」

「おい、朝倉、何で私がうなだれているとそういう事になるんだ」

「いやぁ…タイミング的に、アスナと木乃香が迎えに言ったって言う新任の先生についてかなーって」

「あー」

そう言って私は時計を見る…もういいか。少しだけなら

「実は、ちょっとわけあって先に知っちゃったんだが…二つある」

「ほほぅ?」

「が、まあ…1つは分かっていると思うが、新しい先生、って言うのは二人が迎えに言った新任の先生って話だな、ちなみにうちの担任扱いらしいぞ」

「ほうほう…まあ、新任の先生と玉突きで別の先生が来る可能性もゼロじゃないからネタ的には悪い話じゃないねぇ…それで、もう1つは?」

朝倉が興味津々と言った様子でペンとメモを手に迫ってくる。

 

ガラリ

 

と、扉が開いて、アスナと近衛が入ってくる

 

「まったくあのガキゃぁ」

「まあまあ」

 

こんな会話をしながら…うん、ネギ先生、あの場での紳士的な学者の顔はどこに行ったのかな?と言うか、一体何をしでかしたのかな?

 

「…うん、急ぐならあの二人に聞くのが確実だけれども…子供なんだわ、その先生」

「…飛び級したって事?」

「詳しくは(どういう設定になっているのか)知らないけれど…10歳くらいだな、その先生」

「マジで?まじもんの子供先生なの?」

 

コンコン

 

と、ノックが聞こえる

「マジだよ。ほら、すぐ分かる、席着け」

「あ、うん」

 

朝倉を席に戻し、着席したと同時に扉が開き、ネギ先生が入ってきて…黒板消しが頭に落ちて行った…が、魔法障壁らしきモノで受け止めてしまった

 

「(オイィィィィィィネギ少ねぇぇん)」

 

心の中で、私は思わず叫んでした…まあ、粉が炸裂していたので認識阻害結界が余裕でごまかしてくれる範囲ではあるが疑いを持っていたらアウトなレベルではある…魔法関係者、ほとんど唖然としているじゃないか…

 

「…まずくないですか」

隣の席のユエが呟いた。

「…何がだ…?」

ユエは関係者ではないはず…だけれども?

「鳴滝姉妹と春日さん、連続トラップしかけていましたよね?…その、子供先生相手に」

あっ

気づいて止めるよりも先にネギ先生は一歩を踏み出し…連続トラップに最後までかかって行った。

 

ひとしきり笑われた後、子供だと気付いて謝られ、源先生がネギ少年こそが新任の先生である事を宣言した…そして自己紹介の挨拶でまたやらかしやがった

 

此奴、英語じゃなくて魔法と言いかけた…魔法の修行と言いかけたのかどうかはともかく、わきが甘すぎるだろうに…いや、魔法使いコミュニティーで生きてきた少年ならばこんなもんなのか…?

 

そして…クラスの連中にもみくちゃにされてからアスナに胸ぐらをつかまれて黒板消しの件を問い詰められていた…

 

アウトだよ、おい、赴任初日にほぼ魔法バレてんじゃねーか。私、フォローも何もする暇なく、ネギ少年、魔法バレしてんじゃねーかよ…これ下手にフォローしようとした瞬間、道連れオコジョルートじゃねーか?

 

その後、委員長のフォロー…というかアスナとの喧嘩がはじまって…何とか授業が始まったと思ったらアスナのアホが消しゴムを弾にしてネギ先生にぶつけ初めて…委員長がネギ先生にある事の後にない事を吹き込み初めて筆箱を投げつけたらまた喧嘩になって…授業は無残な終わり方を迎えた

 

ネギ先生の歓迎会の相談をしつつ…高畑先生には報告しておいた方が良いと休み時間に高畑先生に状況を報告した。

 

「ネギ君…初日から…」

「あの…すいません、何もフォローできずに…何かお手伝いする事があればしますよ…アスナの呼び出しとか」

 

暗に、記憶処理や暗示強化なんかをするならば呼び出しは手伝うとは言っておく

 

「いや、まあアスナ君は最悪バレても大丈夫な相手だから今はまだいいよ…僕も気を付けてはおくけれども、長谷川君も無理のない範囲で良いからフォローや報告よろしくね」

「はい」

 

神妙な顔で私は頷き、教室に戻るのであった。




ネギ君が色々やらかした事を察して頭の痛い千雨さん会。ネギ君の方は、千雨さんがクラスを伝えずにロボ研としての所属室を訪ねて欲しいと伝えてある為と、眼鏡付きかつ学会時とは異なる髪型・制服でまだ気づいておりません。もう少し年上と勘違いしているのもありますが。


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17 ネギ着任編 第2話 再会

授業が全て終わり、ネギ先生を呼びに、そして(準備が済むまで)足止めしに行く係に立候補した私は、職員室を訪ねたが、先生は不在だった。

一度教室に戻り、その旨を伝えた後に、ネギ先生を探しに出た。

幸い、噂になっているネギ先生を追跡するのは極めて容易で、最寄りの礼拝堂近くの大階段下にネギ先生…とアスナ、そして大階段を下っているのどかを見つけた。

 

あ、なんかヤな予感がする

 

そう思った直後、のどかが足をまずい方向に捻って階段から落ちた。

助けに飛び出そうとした矢先、ネギ先生はあろう事か極めて目立つ大杖…まぎれて生きるんだからもっと目立たない発動体を持とうぜ…を構えてのどかに浮遊術らしきものを行使してからダイビングキャッチした…アカン、バレた…

 

そう思いながら様子をうかがっていると、アスナが杖ごとネギ先生を拉致った。

…うん、のどかにばれないようにその場で問い詰めなかったのはファインプレイだな…よし、とりあえずのどかのフォローをしようか

 

とすっ

 

大階段を飛び降り、のどか近くに着地する

「大丈夫か?のどか」

「あ…うん、千雨さん。ネギ先生に助けてもらったから」

そういって少し頬を染めた…うん、魔法バレ方面は大丈夫そうだな

「足は…痛むか?」

少し足を確認する振りをして一応治癒魔法をかけながら尋ねた。

「えっと…大丈夫…痛くないです」

「そうか、なら本を集めるのと運ぶのを手伝うよ」

「あっ…でも…」

「総合図書委員の雑用だろ?これ。私の借りた本もあるし、今度はネギ先生が助けてくれるとも限らねぇし…何より、私の役目、アスナがネギ先生拉致っちまったから役目も無くなったしな」

そういって気を引きながら…林の浅い所で問答をしているらしき気配を感じる…もっと奥行けよ、アホ

とは思いつつも、とりあえずはのどかと共に本の運搬を済ませるのであった。ネギ先生はアスナが足止めしているという連絡を入れた後に。

 

 

 

「…アスナさん、携帯教室に忘れて行っていますね」

アスナとネギ先生の戻りが遅いとアスナの携帯に連絡を取ろうとすると、アスナのカバンからコールが響く。

「もう一度探しに行ってくるわ」

と、下足ホールに降りた辺りでネギとアスナを見つけたので踵を返し、教室に戻った…誤魔化せている気がしないのでまだ巻き込まれたくない

「今さっき、下足ホールに戻ってきた二人が見えた。そろそろ来るぞ」

教室に戻ってそう報告すると、みんなが配置につく…私は聡美の隣に確保してもらっていた席に着いた…クーと超は騒ぐ方だからと席はいらんらしい

「まったく…ネギ少年が天才なのは確実ではあるが…非常識に過ぎるよ…全く」

「どうかしたんですか?」

「んーあとで話すよ…少し長くなるし」

聡美と話をしているとアスナの叫びと共に扉が開き、直後クラッカーが連弾で炸裂した。

で、アスナが歓迎会の事をすっかり忘れていたとかほざき始めた

「…さすがはアスナと言うべきか…」

「…歓迎会を忘れているとは…さすがアスナさん…荷物を置きっぱなしとはいえよく戻ってきましたね…」

二人して呆れるのであった。

 

 

 

「千雨さーん…ネギ先生の高畑先生へのアレって…」

「いうな…聡美…色んな意味でこう…なんと言うか…非常識だろ?

そもそも関係者相手にあんなあからさまな事して…天才と紙一重な方向も併せ持っているのか?ネギ先生…」

「うーん…そういう事じゃないですかねぇ…」

聡美と二人で高畑先生とずっこけるアスナの間を往復しているネギ先生…一応周囲にはサービスで認識阻害をかけておいた…を観察しているとついにアスナが教室の外に飛び出し、ネギ先生もそれを追い始めた。

「わり、ちょっと高畑先生と話して来る」

「いってらっしゃい、千雨さん」

 

かんっ

 

と靴を鳴らす動作で認識阻害の範囲を直すと高畑先生に声をかけた。

 

「…先生」

「…うん、完全にアスナ君にはバレてるし、こう、もうちょっと節度を持って欲しいよ…ネギ君…うん、僕の方からも注意しておくから…長谷川君はさっきみたいなフォロー、お願いしても…大丈夫?」

「はい…気づいた範囲でならば」

 

そんな会話をしているうちに、ネギ先生とアスナの追跡者たちが教室を後にし始めた。

 

「一応、見てきます」

「うん、お願い」

 

その追跡者…委員長と朝倉が筆頭…に交じってアスナたちを探しに行くと階段で向かい合って楽し気にじゃれているのが発見され、朝倉を筆頭に複数名が写真を撮影し始めた。

 

そして委員長がアスナに詰め寄って行った。

うん、大丈夫そうだな、と思ったらパニックに陥ったネギ先生が杖を振りかざして記憶を喪えと叫び始めた…魔法の行使すらできとらんのだけれども…アレで殴る気だろうか?と思ったらアスナが全員ノーパンにする気かとか叫んだので少しだけ状況が見えてきた。

もしかして、ネギ少年、パニックになって記憶消去ではなくて武装解除魔法でも使ってアスナを脱がせたのか…?そりゃあバレるに決まっているだろう

私はあきれながらその騒ぎから一度身を引いた

 

その日の夜は聡美相手にいかにネギ先生がやらかしているかの愚痴を長々とする羽目になった。

 

 

 

翌日、また一限目は英語でネギ先生の授業…だったのだが、授業そのものは悪くはない…というかまあ大差の付きようがない無難な授業ではあったのだが、その途中、先生がくしゃみをしたところ、アスナが脱げて下着姿になった。そして、アスナが殺意だけで人が殺せれば、と言わんばかりの勢いでネギ先生を見つめていた。

いや、世界樹の魔力のせいでこの辺りは魔力が濃いからかもしれねぇけどさ(魔力容量の大きい魔法使いが急激に魔力量が増えたりすると相性の良い系統…たぶんネギ先生の場合は風…の魔法がちょっとした事で暴発する事はあるらしいとか何かで読んだ)、魔力制御がガバガバじゃねぇか、暴発で武装解除とか…と言うかそれで疑いを持って、黒板消しで疑いを深めて昨日ののどかので確信したパターンか…あー関わりたくねぇ…でも、まあ文通友達でもあるし…多少のフォローはしてやるか…とはいえ、直接できる事もないし、高畑先生か学園長にでも相談させるか…とか考えながら放課後にネギ先生を探していると、

 

「こ、これがあれば惚れ薬みたいなのを作れるかも!!」

 

とか叫んでいるネギ先生に遭遇した…おい、惚れ薬って一応、違法薬物だろうが(成人向けの合意の元使用される媚薬やそーいう目的の短期の品は製造販売が許可制で、手に入れるすべはなくはないとか聞いたが、明らかにそういう用途ではなかろうし)…うん、お説教

 

パン

 

手を打って認識阻害を張り(ちなみに動作は気分でやっているだけで、実際はただの無詠唱基礎魔法である)、ネギ先生に英語で声をかける

 

『なぁーにをしているのかなぁ?ネギ先生?』

『え、えっと、25番の長谷川千雨さん?な、なにか』

 

なんと、あろう事か、私を認識できていない様である…髪型…はともかく、眼鏡を外すか。

 

『これでわかるかな、ネギ少年?』

『えっ、千雨さん?同姓同名の別人じゃなくて?』

 

髪型と眼鏡だけで同姓同名の別人だと思っていたらしい。

 

『そうだよ、メルディアナでの国際会議で出会って、君と文通していた長谷川千雨だよ、ネギ少年』

『うわぁ、お久しぶりです。でも、それなら昨日の内に声をかけてくれてもよかったのに』

ネギ少年が、喜びと若干の不満を浮かべてそう言った。

『…アスナに明らかに魔法バレしていたからな、アスナと一緒にいるときは声をかけたくなかった』

『そ、そんな事は…いえ、その…バレちゃいました』

ネギ少年がズーンといった表情でうなだれる

『はぁ…まあ、アスナには最悪バレても許容できるとか高畑先生は言っていたから即オコジョ送還はないだろうけれど…気をつけろよ?』

『そ、そうなんですか?』

ネギ少年は希望を取り戻した様子でそう言った

『ああ。と言うか、少年、実技も得意だったはずだろうになんで記憶消し損ねて…下着消す羽目になったんだ?』

『それが…よくわからないんですよ…なぜか記憶を消す魔法は正しく発動したはずなのにアスナさんのパンツを消してしまって』

『無意識にレジストでもされてそうなったのか?』

『と、考えるのが一番合理的ではありますけれども…それでもなぜそうなるかはよくわかりません』

『…まあいいか。でも魔法バレ自体は明らかに修業的にはマイナスではあるからどうするかはお前自身で決断するんだぞ、高畑先生なり学園長に報告するか、隠蔽しようとあがいてみるかは』

実際は、もう高畑先生は気づいているけどな

『はい…そうですね、タカミチに相談してみます』

ネギ少年は少ししゅんとした表情でそう言った…よしよし、いい子だ。

『うん、それが良いと思う…まあ惚れ薬云々は…アスナのご機嫌取りかなんかだったんだろうけれども不問にしとこうか、違法だけど』

『えっ、そうなんですか?』

『例外的な場合を除けば、そうだって聞いたぞ?』

『里のお姉さんたちは割とそういう話していましたけれども…』

『…規則の運用上、効能が低い物は見逃される…とかじゃないか?それ』

『ダメなやつじゃないですか、それ』

『うん、本来は駄目なやつだな』

 

うんうん、と二人で頷き合う。

 

『と、それだけじゃなくてだな…ネギ、今日の授業の時、くしゃみで魔法を暴発させてアスナを武装解除…だよな?アレ…していたよな?

そう言った暴発を防ぐ魔法具と…持っていないなら、人助けをする時に使える発動媒体を借りに行こう』

『えっと…魔法具と発動媒体…杖ですか?』

『発動媒体の方は、昨日、のどかを助けた事自体は良い事だと思うけれども、基礎魔法をこんな大杖で魔法を行使したら目立って仕方ないからな…袖口や服の陰で隠せる小さな杖とか指輪や腕輪みたいなのがあれば、便利だなと思ったんだけど』

『ああ、なるほど…それでアスナさんにもバレちゃいましたし…』

あくまで止めだけどな…とは言わずに心に止めて続ける

『後、ネギのくしゃみでの暴発は…まあ、魔力容量のでかい場合に偶にある症状らしいから対策用の何かがあれば、と思っただけで詳しくはわからない』

『あ…えっと…メルディアナでも、これは匙を投げられているんですが…一応、聞いてみましょうか…』

『…せめて、何か軽減策とかはないのか?』

『一応、魔力を消費すれば頻度と威力は下がるんですが…辺りかまわず魔力消費の大きい魔法を撃ちまくるわけにもいきませんし…』

『あーなら、そう言う射撃場を借りるとか何とかする相談になるかなぁ…ほら、行くぞ』

『あ、ハイ、千雨さん』

 

私とネギ少年は、そのまま、英語で麻帆良の事について雑談を続けながら高畑先生の元へと向かった。

 

結局、その日は高畑先生と少しお話をして、アスナの事は厳重注意という事と、射撃場か何かは高畑先生も考えてくれる…ぶっちゃけ、エヴァの別荘借りると言う手もあるのだが…という事で終わりとなり、ネギ少年…もとい先生をアスナと木乃香の部屋に送り届ける…前にロボ研としての研究室部屋に招待する事になった、なぜか。

 

 

 




千雨ちゃん、ネギ君の所業をフォローするの巻。
あんまり遅くならないうちに再開・合流をさせる為にちょうど良い介入点がここでしたので…ま、結局ドタバタはするんですがね。


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18 ネギ着任編 第3話 大浴場騒動

「聡美、いまいけるか?」

「はいはい~なんですか?千雨さん」

「ネギ先生連れてきた」

「あ〜いらっしゃいませ、ネギ先生」

「お邪魔します、ハカセさん」

丁度手が空いていたのか、呼びかけに応じて聡美が奥から顔を出してきた。

「おや、ネギ坊主か。いらっしゃい、奥には色々危ない物もあるから入るのダメね」

「はい、わかりました。超さん、お邪魔します」

「ええっと、長谷川さんが千雨さんって事はお二人も千雨さんの共同研究者のサトミ・ハカセさんとリンシェン・チャオさんって事で良いんですよね…?」

「ああ、この二人と、もう一人…うちのクラスのエヴァンジェリンが共同研究者だ…まあ、エヴァンジェリンは気難しいから無理に絡むなよ」

まあ、大丈夫だとは思うが釘をさしておく…これ又聞いていないが、エヴァがネギを見る目が少し気にはなっているので…

「はい。葉加瀬さん、超さん、千雨さんからお二人の事を聞いて、是非お話してみたいと思っていました。お二人はどういった研究をなさっているんですか?」

その後、ネギ先生…いや、ネギ少年との楽しい楽しい研究談義(魔法込み、科学分野中心、聡美の表向きの魔法の工学的応用メイン…ネギには二人はあくまで関係者扱いではないとの釘は刺したがたぶん、覚えていない)が続くのであった

 

 

 

結局、7時少し前にアスナ達にネギを引き渡した私達は、寮生食堂で感想戦をしていた。

「で、どうだった?ネギ少年と話してみた感想は」

「んー科学分野での知識は足りませんが…研究者としては間違いなく天才ですね〜ネギ先生」

「ウム、と言うか、どっぷり魔法社会で生きてきて私達の論文の価値を正確に理解できているだけでも頭の柔軟性は見るべきものがあると違うカ?」

「だろ?…まあ、ちょっと社会常識とかは要勉強って感じだけれども…」

「ハッハッハ…その辺りは外様どころか関係者扱いではない私達にはフォロー範囲外ネ…愚痴は聞くが」

「はい、千雨さん貯めこむと爆発が酷いタイプなんですから貯めこんじゃだめですよ? 愚痴なら聞いてあげますから」

「ハッハッハ…まあ…うん、本人にぶつけたから今日は大丈夫だよ…さすがに違法薬物生成する宣言はぶん殴りたかったけれども、本人、違法だってわかってなかったし…」

「うむ、それは酷い」

「ですね~」

認識阻害を張っているとはいえ、割とギリギリの愚痴を二人にぶちまける私であった。

 

 

 

「サテ、せっかく寮に戻ってきた事だし、大浴場でも堪能するカ」

「いいですね~行きましょうか」

「そうしようか」

食事と愚痴も終わり、一度部屋に帰って大浴場へと向かうのであった。

 

 

 

「お、エヴァも風呂か」

珍しく…(とはいっても月に指折り数える程度は利用している)エヴァが大浴場の更衣室にいた。

「ああ、千雨にハカセ、超か…珍しく早いな」

「アア、ちょっとネギ坊主と研究談義をしていたら研究のキリが悪くてネ」

「なので、早めに切り上げてこっちで夕食とお風呂なんです」

「…それと、ネギ先生が共著論文の件でぜひお話してみたい、との事なんで…もしかしたらそっちにも飛び火するかもしれない」

「…わかった、覚悟はしておこう」

そんな話をしながら脱衣を済ませて浴室に入ると時間のわりに混んでいて…そしてその殆どが2-Aの生徒だった。

 

…そして、なぜかネギ先生争奪スタイル比べとかがはじまっていた…相変わらずうちのクラスのノリは解せん…

 

「あーそういやさ、千雨ちゃん、今日、やけにネギ先生と親しげにお話していたって証言があるんだけどさ…内容は流暢な英語過ぎてよく解らなかったらしいけれど」

そのノリを無視して風呂を堪能していると朝倉がそんな話を振ってきた

「あ~風呂は良いよなぁ…」

「はい…疲れが抜けだして、代わりにアイデアの元が体に染み渡るようです」

「ちょっと、無視しないでよ千雨ちゃん!」

「悪い悪い…まあ風呂を堪能したいのも本当だけどさ」

そういって手をひらひらと降って誤魔化す。

「ま、ちょっと世間話をしていたら先生がロボ研での私らの研究に興味を持ってさ、研究室に招待して4人で少しティータイムを楽しんだだけだって…断じて、あっちのバカ騒ぎに参加する様な理由や内容じゃあないよ」

一応、これが先生と打ち合わせてあるカバーストーリーであるし、嘘でもない。

まあ、超はクーと合流した為か、楽しげにバカ騒ぎの方に加わっているが。

「で、あんたらの話についていけずにネギ先生が煙を上げた、と」

朝倉が茶化すようにそう言った

「いいえ?知識不足はどうしようもないですが、その辺りを説明してあげれば概略くらいは理解していましたよ、ネギ先生」

「えっ…うそでしょ?精神攻撃ともいわれる麻帆良三賢者の研究談義についてきたの?」

一度、ガチで三人だけでのディスカッションの取材テープが録音され、ロボ研のエース級の人間でもリアルタイムではついてこられないような代物が仕上がった事は、まああるが、それだけをもってそういわれると遺憾ではある。

「…あれは、好きに話せって言われたからそうしただけで…相手の理解度に合わせた話し方もできるからな?私達も」

隣でうんうんと聡美も頷いている。

 

ビターン

 

そんな音がしてそちらを向くと、腰にタオルを巻いたネギが水着姿のアスナに押し倒されている姿があった…オイ

一応、木乃香からネギとアスナが先に入って先に上がったらしいという話は聞いていたが、曲がりなりにも男…いや、まだ9才なのは知っているが…が女湯に入んなよ、英国紳士

「はぁ…まだ9才とは言え、ネギ先生を女湯に入れんなよ、馬鹿アスナめ…しかもちゃっかり自分だけ水着きやがって」

私はそう悪態をついて湯船に深く体を沈めた…一応、学者としては概ね対等な関係を結んでいるつもりの相手に裸を見られるのは勘弁願いたい。

「アレ?ネギ君って10才じゃなかったっけ?」

「数え年で、らしいぞ…いや待てよ?数えで10才って満年齢で8才じゃなかったっけ」

「えっと…誕生日がまだならそうですね」

「…ネギ先生って牡牛座らしいから誕生日はまだだよね…えっ…8歳なの?ネギ先生」

「まて、たしか1993年生まれって言っていた筈だから…単に周年と数え年を間違えているだけじゃないか?」

「あーうん…って事は、ネギ先生、どっちにせよ、まだティーンエイジャーですらないわけか…」

朝倉を交えて三人でそんな話をしていると、ネギがパニックを起こした様子で杖をひっつかんだのが目に留まった

 

オイ、魔法の行使は慎重にしろって言っただろうが、あのアホが

 

仕方なく、私は弱い気弾を、指をはじく動作でネギに放った

すると、ネギはパニックか何かは収まったようで、とんでもない事を言い出した。

 

「ボク、アスナさんと一緒の部屋がいいです!」

 

いや、私は被害対象外なのでどうでもいいが。

ネギ先生の燃料投下により、これまた盛り上がった祭りではあったが、結局は学園長の指示が優先という事で現状維持…ネギは当座、アスナと木乃香の部屋に住むという事が確定した

 

 



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19 ネギ着任編 第4話 師弟の会話と避球狂騒

「で、どうなんだ、実際のところ、ぼーやは」

大浴場での騒ぎの翌夕、私はマスターの家で茶々丸の淹れた茶を楽しみながらそう問われた。

「どう…ねぇ…みての通り、魔法の秘匿に関する脇がガバガバの、魔力たっぷりで、一般常識に欠けた頭は良い天才少年って感じ?」

「つまり…小利口なガキか?」

私はただ、事実を告げる。

「アレを小利口と呼ぶのはどうかと思うけれども…共同研究者としては頼りにできそうだけれども、先生と言うか隣人としては…その、将来に期待、かな。ネギ少年って英雄の息子なんだろ?魔法使い社会とこっちとの常識の違いもあるんだろうけれども、ちと甘やかされているか…社会経験が伴っていないのか…かな。

むしろ、アスナがなんだかんだで絆されているのがびっくりだよ」

そういってやれやれ、と言ったジェスチャーをして見せる。

「ふむ…やりにくそうだな」

「…やっぱり先生が危険を冒してまで力を蓄えていた獲物なのか?」

「まあ、今の予定だと輸血の用意しておいて瀕死レベルまで吸ってみる位ではあるが…な。邪魔をするか?」

「いや…まあ、助けを求められたら護衛…と言うかミニステル・マギの真似事(茶々丸の相手)くらいはしてやるつもりではあるけど…多分、次の満月位に奇襲かけるくらいじゃないと、本格的に狙う前に魔法研究談義をしたいって懐に飛び込んでくるぞ?ネギ少年」

「あ…そういえばそんな話もあったな…そうなると…それを喰うのはさすがに…美学に反するな…だがさすがにまだ坊やの周りは…」

悩み始めるマスター…エヴァであった。悪党には悪党なりの美学があるのは理解するが、難儀な物である。私も美学と言うか自分に課しているルールはある程度あるが。

「くしゃみでの暴発は魔力消費で軽減できるそうだから、射撃場か何かで魔法を連発する事になるだろうし…そこにお邪魔して無駄打ちする位なら分けてくれって言えば案外吸わせてくれるかもしれんぞ」

「…いや、献血程度の量じゃ足らんからな?純粋に美味か否かという意味では豊潤な魔力が旨そうではあるが…うむ…とりあえず、距離はとろうか。不用意にぼーやに絡まれない程度に」

「ま、高畑先生からマスターを紹介されて弟弟子になるとかいうオチもアリっちゃありだがな」

「…無しだよ、少なくとも私自身が認めない限りは弟子になどせんぞ」

「ま、冗談さ…とりあえず今日はお暇するよ」

「ああ、また明日な」

 

こうして私はエヴァンジェリン邸を辞した

 

 

 

数日後、昼休み明けの体育の授業…なぜか、中等部の屋上コートを高等部の連中が占拠して、自習のレクと私達の体育を天秤にかけさせやがった…普通なら体育の先生が追い払ってお終いの筈であったのだが、あろう事か体育の先生が急用とかで代わりにネギ先生が授業を見に来てスポーツ対決で確執に決着をつけようと言い出した。

まあ、サボれると思って、(魔法の秘匿が関係ないからと)シレっと放置して壁際に退避した。

「よかったのか、止めなくて」

真名がそう声をかけてくる

「明らかに向うの分が悪いし、時間ぎりぎりに高畑先生召喚すれば授業もサボれて丁度いいだろう」

「いや、まあ、授業をサボれるというのはともかく…人数が足らんからこの面子だと最初に引っ張って行かれるのはお前だろう?千雨」

「む?」

同じく壁際に退避しているのがエヴァと茶々丸、ザジ、チア部三人組、私、カエデ、真名、刹那…確かに私だな…

「「「千雨さーん」」」

「あー」

「ほら、ハカセ達が呼んでいるぞ」

「…せめてこんなあほな人数トラップだけでも回避させておけばよかった」

ため息をついて、私はコートの中に入っていくのであった。

 

 

 

試合開始の合図とともにネギ先生の頭にボールが直撃するも、アスナがノーバウンドでキャッチし、一人アウトにしたが、相手ボールとなった。

「ほーら、ただでさえ狭いんだから散れ」

「「「えっ?」」」

と、言っている間に山なりの弾道で投げられたボールが3人をアウトにして相手コートへ帰って行った。

 

「はっ、しまった、ドッジボールで数が多いのは全く有利じゃない…」

やっと、アスナが気付いた様である。そしたさらに委員長とアスナが喧嘩を始める。

そのすきに、後ろ向きに逃げていた1人仕留められてしまった。

「千雨ちゃんも、気づいていたなら教えてよ!」

こっちに飛び火して来た

「見学のつもりだったから放置していたんだよ、ほら、次弾来るぞ!せめてボールを見て避けるつもりでいくぞ!その方が痛くねぇ!」

とはいえ、それだけでボールを避けたり取ったりできるわけもなくのどかが餌食に…なる前にアスナが庇って捕球した。さすがではある。

しかし、相手も素人ではないようで…というかドッヂボール部の強豪らしく、アスナの力任せの投球を捕球し返して見せ、返す刀で委員長をアウトにした。

 

 

 

「あー純粋に強いなぁ…」

「ですねぇ…」

そのまま、相手は攻撃の手を緩めず、私も聡美の顔に直撃コースターだった強めの球をとっさに弾いてしまい、その次に聡美も割と穏当な当たり方だが当てられてしまって外野にいた。

 

「千雨さん」

「ん?なんだ、聡美」

「庇ってくれてありがとうございます、さすがにあのボールは怖くて…次の緩いのにわざと当たっちゃいました」

「ん、まあ仕方ねぇよ、聡美は私達みたいに戦闘技術持っているわけじゃねぇし…ピンチの時は私か超が守るさ、きっとな」

「私が、とは言ってくれないんですか?」

「…今は平行路、だろう?」

「もう…まあ、お二人が争う可能性も…ありますからね…」

 

そんな掛け合いをしていると、いつの間にかアスナが当てられており…バレーボールのスパイク様の攻撃を、太陽を背にして打ったようだ…ネギ先生が魔法を使おうとしていた。

 

…いや、待て、あのアホ…と思ったがアスナが止めた。意図的な二度あてとかダメな事ではあるが魔法でお仕置きはないだろうよ…いや、魔法学校とかだとそういう喧嘩していたのかも…

 

…とか思っていたらのどかの5秒ルールの指摘からいつの間にかギャグシーンがはじまっていた。

 

 

「あ、勝ちましたね」

「ああ、勝ったな」

時間である。

 

こうして、私達は高等部の連中に、勝利した…

なんか、最後にロスタイムとか言って一幕あった気がしなくもないが、私は何も見ていない…事にしておく。

 

 

 

 

 



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20 ネギ着任編 第5話 期末テストと春休み

「みんな大変だよ!ネギ先生とバカレンジャーが行方不明に!」

テスト開始前最後の授業日、土日の前に2-Aが期末テストで最下位を脱出しないとネギ先生がクビに…という話題で教室がもちきりになっていた時、そんな叫びと共にハルナとのどかが教室に飛び込んできた。

「ハルカ、のどか、いったい何があったんだ?」

 

 

 

話を聞いてみると、図書館島に眠ると言われる頭の良くなる魔法の本とやらを探しにバカレンジャーと木乃香、ネギが図書館島にもぐったらしいのだが、目的地に到達、最後の試練…ツイスターゲームらしい…を受けていた所、轟音が響き音信不通になってしまった、との事だ

「…うちのクラスの最下位脱出は放課後にもう一度協議しよう。一応、一年の中間テストだけではブービー取った事も有るから…あいつ等が帰還してくれれば土日に勉強させて…まあ、何とかなるかもしれない。ネギ先生たちは…昼休みまでに帰還しない様ならば何か考えよう…これでどうだ、委員長」

「え、ええ。バカレンジャーの皆さんを土日勉強漬けにして、普段まじめにやっていない組の皆さんもまじめに勉強していただければなんとかなりますものね…ええ、皆さん、まずは各自の勉学に励みましょう…土日にはわたくしも講師を務めますので勉強会も開く方向で…」

 

という事でその朝は話が付いた。

 

 

 

二限目前の休み時間、私は刹那を呼び出した。

「なんだ、千雨」

「あーその態度で想像はつくけれども木乃香が行方不明なのにお前が落ち着いているって事は、今回のは何かしらの学園側の仕込みって事でいいんだよな?」

「ああ、その事か。詳細は私も聞いていないが、直接学園長先生からうかがっているから間違いない、お嬢様たちは無事だ。それと、もし千雨がそれを私に聞くようならば源先生経由で学園長に連絡を取るように、との事だ」

「了解、ありがとう」

「ああ、問題ない」

 

 

 

そして、源先生に学園長先生へのアポを取ると、昼休みに呼び出される事となった。

「2年A組、長谷川千雨です」

「うむ、入りなさい」

入室すると今日は源先生だけが学園長の脇に控えていた…高畑先生出張だしなぁ…

「早速じゃが、ネギ君も行方不明の2-A生徒も無事じゃ」

「詳しくは…うかがえないですよね?」

木乃香の護衛役であるはずの刹那が聞いて無いらしい事から、無理だとは思いつつ一応聞く。

「うむ。長谷川君にたいして…と言うか一部魔法先生を除き、この件の詳細は秘匿事項じゃ、すまんが、地上に残っている皆に勉強を教えてやって欲しい、としか言えんの」

「わかりました、図書館島での捜索もNG…と言うか無駄という事ですね。では真面目にテスト勉強をしながらネギ先生たちの帰還を祈っておきます」

「うむ、できるだけテストには間に合うようには手配する。おっと、これは秘密じゃぞ」

学園長が悪戯っぽく笑う。

「心得ています、一般生徒には学園長が捜索を手配してくれているから私たちは先生たちの無事を信じて勉強を頑張る様に、と伝えます」

「よろしく頼むよ、長谷川君」

「はい、それでは失礼します」

 

そうして、私はクラスの世論を誘導すると共に、土日を潰して勉強会の手伝いをして過ごすのであった。

 

 

 

 

 

そして日曜日夕方、各自最後は公式や暗記物を復習してしっかり休息を取るようにと解散させた頃の事だった。

「千雨サン、クーから連絡が入ったね、無事帰還したそうヨ。図書館島の地下で一応勉強もしていたが、できれば仕上げを手伝って欲しいとの事ネ」

「今から?」

「今からネ」

「まあいいけれど…とりあえず、飯まだなら飯食わせて風呂ぶち込んで、遅くとも12時には寝かすぞ、初日は英語や数学あるのにあいつらが徹夜とかした日にゃどうしようもならん…応用全部捨てさせるレベルでパーな状態ならどうしようもないけどな」

「アーやりそうですね、一夜漬けと称した徹夜…最低限の基礎ができているなら寝た方がまだ良いんですが」

と、言うわけで、私達麻帆良の三賢者は、焦る図書館遭難組を落ち着けて消化の良い食事をさせ(脳にカロリーは必要だ)、風呂にぶち込んで(ここ数日風呂に入ってないはずだし、水浴びしかしてないと言っていたのですっきりさせるために)、初日の科目の基礎だけ数時間面倒を見て、無理矢理に寝かせる事となった。

 

そして翌日も…一応悪くない手ごたえだったとか…同様にテスト二日目に備えて徹底的に基礎だけを再確認させた…図書館島で缶詰めになっていた間に大分基礎は出来ていた。

 

そして、結果発表日、なんと驚くべきことに、私達2年A組は学年トップに躍り出たのであった。

こうして無事に正式に教師となったネギ先生は、3学期の終了式で正式に紹介されたのである。

 

 

 

 

 

そして春休み…ついに恐れていた日が来てしまった。

ネギから正式にエヴァの紹介を頼まれてしまったのである…

「と、いう事で連れてきてもいいかな?」

「いや、待て。この前、坊やを私とあまりかかわらせない方向で、となっただろうが」

「それが…直接押し掛けたい位だけれども、それは礼に反するからって言われてな…クラス名簿で住所は把握しているはずだし、ほっとくと休み中に押しかけてくるぞ?」

「それは…困る」

「なら、私もいる時に会談した方がマシじゃないか?」

「それも…そうか、まあ基礎魔法について軽く雑談する位だしな」

「よし、ならば明日でいいか?」

「まあ仕方あるまい。茶々丸、わかっていると思うが、一応来客だ、もてなしてやれ」

「はい、マスター」

と、言うわけで、ネギ先生のエヴァンジェリン邸訪問が決まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだあれは」

それが、和やかに終わったはずのネギ少年との魔法談義後のマスターの感想だった。

「だから、あれが天才少年、ネギ・スプリングフィールドさ」

「くっくっく…何がマギステル・マギ(実働戦力)候補生だ…どこかの魔法研究室にでも放り込んだ方がそんな下らんものになるよりも何千倍もの人間を救うだろうに、あの坊やは…魔法学校の教員どもはそろいもそろって目が曇っているのか?」

「あるいは、ナギ・スプリングフィールドの息子にしか見えていないか、だなぁ…何より、持ち前の才能と魔力で、恐らくどんな生徒よりも優秀なマギステル・マギ候補生にも見えるだろうし…望んでいるのか望まされているのか…あるいは心の棘か…そう言った何かで、マギステル・マギを神格化しているかのような嫌いがあってなぁ…もったいない…ま、そっちの経験を積んでからって言うのも十二分にありだろうけどな」

「坊や自身も父の影を追っている、と言うのもあるんだろうがな…」

二人してしみじみと頷き合う

 

「で、お前の望みはあの原石を打ち砕いてしまうな、かな?千雨」

「ま、理不尽に抗う為に力を求めるって言うのもアリだと思うし…色々かな?

少なくとも、あんたが先生相手に【事故】を起こす確率が下がるならばそれでいいよ」

「ふん、才能が有ろうと坊やは坊やだ…【事故】には気を付けるさ」

こうして、まあ、ネギ少年の命の危機を減ずる為を兼ねた、ネギ先生ではない天才少年ネギ・スプリングフィールドの紹介は成功裏に終わったのであった。

 

 

 

 

 

 

「さてと」

あんまり人の事だけをやっていてもいられない

部屋に戻った私は、自慢の3画面PC…麻帆良内の研究用最先端には劣るが、外の世界では一般向けハイエンドモデルをはるかに凌駕するモノ…を元に工学部の伝手で手に入れたパーツを用いてチューンナップし、魔法使い側技術も含めて色々いじくった…の前に座り、これまた自作の専用ゴーグルをつける。

そして精神取り込み型幻想空間の技術を応用したシステムを起動した…本当はクッソ高いプレジデントチェアなんて買わずにベッドで、でも構わんのだけれども、気分である。作業用と休息用の場所は分離したい。

「おかえりなさいませ、ちうさま」

私と聡美…と帰ってこないザジの自室を模した…と言うか自動的に更新させるようにしてある…加速空間で私に仕える電子精霊たちが私を迎えた。

「ただいま。お前ら、特に問題はないか」

「はい、【ちうの部屋】はブログやチャットに荒らしもわいていませんし、相談コーナーも特段緊急の必要な内容はございません。まほネット側の方からも同様です」

「現実のお部屋のセキリティーも特に問題ないです」

「ちうさまが特段興味を引きそうな新着のニュースや論文なども発見しておりません。関連度検索結果はリスト化してございますので必要でしたらご覧ください」

「呪紋の検算は全て予定通り終了しています」

「ちうさま…の件ですが…」

口々に、しかし秩序だって順番に電子精霊たちが報告をする…特段問題はないか。

「よし、いつも通り、【ちうの部屋】片付けて、その後、呪紋回路のテストから行くぞ」

「はい、ちうさま」

 

【ちうの部屋】…まあ可愛らしい名前ではあるが、内容は自作PC含めたガッチガチのコンピュータ系と時事ネタが7割、オタクネタとコスプレ系3割である。加えて、まほネットからのみアクセスできるページでは電子精霊系のサイト、裏の時事ブログもやっている。

超特急で仕上げた内容を担当電子精霊が妥当な速度で現実側のPC、サーバーに転送し、アップデートしてくれる。

「ちうさま、こことここ、誤字でいいですよね」

…誤字確認とかもしてくれるのでとても助かる。

「どれ…ああ、修正頼む」

 

こうして趣味…ブログ順位争い…の方の手札を整え、呪紋の検算の内容を見る。

 

「あー…確かに出力を理論値まで改善できるけど、やっぱり補助陣の魔力と相反して来るか…」

「ちうさまが施術時並みの痛みに耐えながら魔法戦闘できるのでしたら使えますが…」

「…まあ、最悪の時はこれ使うしかないだろうけど…一応この設計も保存しておいて、通常のベースは現行のままで」

「はい、では次の詠唱補佐の呪紋ですが…」

 

埋め込んでいるモノの開発は割とこういう地道な設計と検算である…現実でトライアンドエラーするのは、程度にもよるが大規模な改修だと一日仕事な上に死にそうになることも有るので。

 

 

 

「超様の資金と物資の流れ、超包子の事業に関してですが…」

「…うむ…まあ、そんなもんだよな、多重プロテクトかけて極秘サーバーに」

「はい、心得ています」

 

 

 

「世界樹発光の監視と大規模発光に関しての未来予測は…」

「あーついに今年の大発光確率、8割行っちまったか…」

「はい、と言うか観測データの精度の問題ですので、ほぼ確実とみてよいかと」

「覚悟は決めたつもりでも、一年の猶予(モラトリアム)がなくなっているんだって突き付けられると辛いもんがあるわなぁ…」

「ちうさま…」

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…一度、飯食って風呂入ってくる。戻ってきたら魔法戦闘のシミュレートするから用意しておいてくれ」

「お疲れ様です、ちうさま」

私は、幻想空間から実空間に帰還し、バイザーを外した。

 

 




図書館島編はバッサリカット。千雨さんの介入余地ほぼゼロですし。ただし、過去にお勉強見ていた伝手から教師役をする事に。おかげで無理な徹夜もせず、ネギ君の眠気取り?の魔法も行使されたという事実はありません。テスト日程に関しては、まあフツーは分けてやるもんですし、描写的に一日集中くさいですが、まあ月曜日『から』と言うセリフもあるので二日間と設定しました。
そして、マスターに研究者の卵として認められるネギ君。いや、まだまだその才能を使うための経験が足りてないんですが、魔法理論の方はぴか一と言う設定をそのままスライドして…ぶっ飛ばしたです(参考資料ないので)ただしナギさんのお話はなし。

・自慢の3画面PC
現在、画面は飾りですがダイブ先はそのPCを核にした幻想空間なんでただの飾りではないです。まあ、電子精霊とか、色々も研究ツールとして欲しかったのでこっち来た感もあるので、きっちり手に入れております。
呪紋は…幕間でエヴァに見せていた糸での補助魔法陣の発展で、現段階では全身に施術済みですがまだまだ改良中です。
現在の千雨さんは強さ評価では外法無しだと250~300程度、アリアリなら…まあ、秘密。代わりに機動力は優れ目に設定してありますので生存力は強いです…年単位でエヴァちんにしごかれてますんで…

後、シレっとちうの部屋やってるちうたんでした。


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桜通りの吸血鬼編
21 桜通りの吸血鬼編 第1話 パートナー


「ネギ君はパートナーを探しに日本に来たらしい」

 

こんなうわさが寮内を駆け巡ったのは、春休み最後の朝、朝の幻想空間へのダイブと鍛錬を済ませて朝風呂を堪能している時の事だった。

大方、ミニステル・マギの事だろうが、パートナーとだけ聞かれて認識阻害が働かずに噂が広まったという所か。

 

「ネギ先生の事を早めに知っていた千雨ちゃん、この件についてもなんか知っている?」

近くにいた朝倉が私に聞いてくる。

「なになに?千雨ちゃん、ネギ先生と前から知り合いだったの?」

「…まあ、趣味の研究関係でイギリスのセミナーに行った時に、偶然会場の学生だったネギ先生と知り合って研究関係の事で連絡先を交換していて、日本に来る事になったと聞いていただけだ。

パートナー云々に関しては…あっちの文化的に、恋人でなくとも、大学出るような人間がパーティーに一緒に出てくれるような異性の知人がいないってのは恰好が悪いとかそういうんじゃないのか?」

一応、ネギ先生はオックスフォード出だという事になっていた筈なのでこれで話は通じるはずである、勝手に解釈されて。

私の解説が火に油…と言うか信憑性を与える事となって、さらに酷い事になりそうでもあるが。

まあ、今日は少しゆっくりしようと思っていたし、バカ騒ぎを観戦するのも悪くはないか、と思った私はネギ先生に迫りに行く集団に加わる事にしたのであった。

 

…そもそも、本来の、戦闘のパートナーと言う意味でのミニステル・マギ的なパートナーとなるとアスナ一択ではあるがな。

私やエヴァは魔法使いなんで…と言うか寧ろ襲う側とその弟子なので論外、聡美や超は…積極的に二人が望まない限りはさせねぇし。

 

で、結局ネギは迫られた挙句に角で身を隠した直後に空に逃げた。

うむ、これは許容範囲である。初手から飛んで逃げていたらアウトであるが。

 

 

 

「…完全に見失いましたわね」

「んーそうだな」

委員長の執念が一番ネギを見つけやすい(ネタの中心になる)かと思って委員長と行動を共にしている私だった。

「千雨さん!ネギ先生の行きそうな場所に何か心当たりはありませんの?」

委員長が割ときつめの剣幕で聞いてくる

「特にないけど…先生は有名だから目立つし、麻帆良内で逃げるなら人気の少ない場所…休み中の校舎とかに隠れるかな?それ以外だとあては全くねぇ…と言うか絞りようがない」

「校舎ですのね!では教室に向かいましょう!」

「あー他よりマシな、ってだけだからな、あんまり期待するなよ?」

駆け出した委員長には、すでに私の言葉は届いていない様だった。

 

 

 

…で、結局、ネギは2-Aの教室に木乃香といるところを無事…?に発見されたのであった。そして、2-Aの面子も集まってきてグダグダのお祭り騒ぎと相成った。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、千雨さんはパートナーとか欲しくないんですか?」

で、聡美がそんな事を言い出したのはその日の晩の事だった。

「…どうした、藪から棒に…と言うか、聡美の事はパートナー(相棒)だと今でも思っているけど…」

「そうではなくて、ミニステル・マギ的な意味で、ですよ。欲しかったり、なりたかったり…今日だって、珍しくネギ先生の事、追いかけていたって言うじゃないですか」

何か、むくれた様子で聡美が言う。

「いや…アレはたまにはバカ騒ぎを観察して遊ぼうと思っただけだぞ」

「本当ですかぁ…?エヴァンジェリンさんもそろそろ動き出しそうでしたし、それ関係でもなく?」

「ぶっ…どこで聞いた、ソレ」

「…いえ、単にこの前のメンテナンスの時に念入りに頼むと珍しくおっしゃっていたってだけなんですが…マジですか?」

どうやらカマをかけられたらしい。

「…いつかはわからんけど、ネギ先生を狙っているらしいのは事実だな…たぶん、登校地獄の呪いの件だろう」

「と、なるとやっぱり千雨さんの貞操が危ないじゃないですか」

聡美がむむっという表情になる。

「貞操って…いや、まあ助けを求められたら茶々丸の相手位はしようかと思っていたけど…マスターもそれくらいは許容範囲だろうから何かされる事もないと思うぞ?」

「エヴァンジェリンさんじゃなくてネギ先生の方です。仮だとしても主従契約とか…キスとか…

千雨さん、なんだかんだで信念にかかわらない所では押しに弱いですし…ネギ先生に懇願されたら、しちゃいませんか?仮契約とその主流手段であるキス。

生活距離と親密度的にはアスナさんのが本命ではあるかもしれませんが、千雨さんも対抗位には親しいですし、格闘的な意味での強さは広く知られているんですから…ね?」

少しおいてから私は答える。

「大丈夫…じゃないかな、多分」

「自信はない、と」

「…まあ…」

なんだかんだで、頭のでき以外はガキだし…ネギ少年。

 

「と、言うわけでしましょう、仮契約、私と」

「マテマテ、どうしてそうなる」

「どうしてって…止める手段を思いつかなかったので、初めて位確保しておこうかな…っていうちょっとした嫉妬ですよ?」

「…色々まずいだろう、ソレ…超の計画的に…私がいつでも聡美を呼び出せるようになるし、状況から察して、魔法的ブレイクスルーが無ければ科学であれ魔法であれ、お前が詠唱かオペレート担当だろうに…」

「それ、問題ですか?千雨さんはしないでしょう?」

「好き好んではしないけど、脅されたり拷問されたりしてって可能性が無いわけでは…」

「秘密にしておけばOKです。お互い秘密のお守りみたいにして、本当にどうしようもなくなった時だけ使えば」

あ、これは引かんやつだ…と確信する。

「はぁ…というか良いのか?初めてが私で」

「はい、恋愛とかよくわかりませんが…千雨さんなら嫌じゃないですし、千雨さんの初めてが誰かに持っていかれると思うとなんか釈然としなかったので…と言うか、千雨さんこそいいんですか?迫っておいて今更ですが」

「…まあ、私もだいたい聡美と一緒の気持ちだよ、この気持ちが親友としての気持ちか否かは知らんが…嫌ではないし…仕方ないとはいえ、ちょっとだけ超にも嫉妬しているし」

「あはは…別に、もう魔法使い側を裏切ってこっちについてくれてもいいんですよ?そしたらもっと一緒に居られますし」

「…いや、やめた方が良い…私、エヴァンジェリンと関係が深いから警戒されているし…」

「仕方ないですねぇ…じゃあ、仮契約だけ、お願いします」

「わかった、ちょっと魔法陣確認して準備するから待ってくれ」

こうして、私は聡美と仮契約を結ぶ事となったのであった。

 

なお、聡美の契約アイテムは、非生物の透視ができる非破壊検査用メガネらしい。まあ、当座は封印される事となるわけではあるが。

 

 

 

 

 




一応、コノセツくらいには百合ですし、同時に恋愛とかまだよくわからない学者二人です、この子達。どちらに転ぶかは決めていませんが…まあ、万一、麻帆良祭前に(準備期間のあるうちに)千雨さんがネギ君に転んだらハカセの私怨で麻帆良祭がルナティックモードになる可能性はあります(

なんかキャラが動いた(仮契約自体は既定だったが、このタイミングかは決めてなかったけれども、ネタ的にはここが美味しいと判断したので消さず
そして、魔法使いとしては並な千雨さんだとアーティファクトも言うほどレアな物は出なかったり。


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22 桜通りの吸血鬼編 第2話 事件の始まり

新学期初日、身体測定をしていると桜通りの吸血鬼の噂の話になった。

丁度、昨日今日が満月の頃であるし、欠席しているまき絵が吸血鬼に襲われたんじゃないかと言う方向になり…エヴァの方を見るとニヤリと笑った…チュパカブラの話になっていた。

 

そして、その後、まき絵が大変だと叫びながら戻ってきた亜子に皆は扉や窓を開けた…ネギ先生、外にいるのに…。

 

なんやかんやあった後、身体測定を済ませ、ネギ先生とクラスの一部はまき絵の様子を見に保健室に向かっていった。

「行かなくていいんですか?」

「…大体わかっているし…請われん限り手は出さないつもりだからな…

まあ、私の事は学者だとしかまだ知らんはずだし、大丈夫だろう…めんどいし」

「だといいんですけどね~」

と、思っていた。その時は。

 

 

 

『千雨さん、この街に魔法使いの知り合いはいらっしゃいませんか?』

こう、ネギに尋ねられるまでは。

『…まき絵の件か?』

英語で話しかけられたときは、魔法使い同士、学徒同士という事で私からは敬語はなしという事になっている。

『ええ…まき絵さんから魔法の力を感じまして…もしかしたら、魔法使いの仕業なのかも、と』

『あーそういう事か』

 

マスターめ、大方半吸血鬼化でもしてあるんだろう。

 

『悪いけれども、私はこの街では来訪者扱いでな…あまり知らんし、知っていても教えちゃならない事になっているんだ。高畑先生か学園長にでも聞いてくれ』

『タカミチは明日まで出張ですし、学園長先生はお忙しいみたいで…』

ネギがしゅんとする

『と言うか私は疑わないのか?』

 

割と疑問ではある、信頼されているんではあろうが。

 

『だって、千雨さんはしないでしょう?あんな事』

『…いや?魔法を見られたら眠らせて記憶を消すくらいならするぞ?クラスメイトでも…まあ、まき絵は私じゃないが』

『あ…そういう可能性もあるのか…でもそれだとなかなか目覚めないのもおかしいし…あ、ありがとうございます。とりあえず張り込みでもしてみます』

『あ、うん…気をつけてな』

ソッコー罠にかかっとるじゃないか、ネギ坊主め…一応、様子だけ見ておいた方が良いかな…?

 

 

 

といった事のあったその夜。日課を早めに済ませ仮眠を取った私は、桜通りを観察できる地点に待機していた…毛布と共に。

「なんかあったら起こしてくれ」

電子精霊群を一セット監視役に連れてきた私は、壁にもたれかかって休んでいようと思っていた…が。

「ちうさま、もう起きました」

「なにっ」

 

桜通りを見ると、ネギの魔法の射手を触媒による魔法ではじき返す人影…エヴァがいた。

 

「あ、ネギ少年、困惑している」

「そりゃあ、知り合いでもありますしね…ちうさまを挟んだ」

あっ…その観点はすっぽり抜け落ちていた…今日、決着がつかないとまずいかな。

 

会話は聞こえないが、様子をうかがっているとエヴァが何かの魔法…恐らく氷系の武装解除を使い、獲物だったのどかが脱げた。そして、アスナと木乃香が現れた。

 

「…まったく…明日また、一悶着あるかもなぁ…」

逃走したエヴァとそれを追跡するネギ先生たち…魔法戦をやらかしている…を追跡しながら、私はそうつぶやいた。

 

 

 

「おっと…」

遊んでいたマスターが武装解除を直撃された。まあ、アレくらいレジストしている様ではある…ネギ先生の魔法で服が蝙蝠になって散って行ってたまるか。

…と言うか、アスナ、きっちり追跡してきているし、茶々丸が屋上にいるな…よし。

 

シュッル タッ タッ トン

 

と言う訳で私は虚空瞬動擬き(糸術で足場を作って補佐している)で同じ建物の茶々丸たちとは反対側の屋根に上った。

 

「茶々丸さんがあなたのパートナー!?」

 

ネギ先生の叫び声が聞こえる。様子をうかがうと、ミニステル・マギの存在意義を説明している様ではある。もう少し近づこうとしたが…アスナが階段を駆け上っている気配がある…目の前の扉から飛び出してくるはずだ。

 

と言う訳で距離を取って身を隠すと、ちょうどアスナが飛び出してきて、茶々丸たちに飛び蹴りをかましていた…いや、ここ、8階…まあ、だが、なんだかんだでアスナの介入でエヴァたちは逃亡していった…あっ、これ茶番か制限付きの闘争じゃねぇか(エヴァが今、扱える程度の魔力で扱える糸術でも、茶々丸がいれば余裕である)。

 

とりあえず、とネギとアスナが屋上から降りていくのを確認した私は、エヴァンジェリン邸を訪ねるのであった。

 

 

 

「で、なんだったんだ、あの茶番は」

席について、茶を出された私は開口一番そう聞いた。

「ん?やはりあの視線は貴様か…一応、まじめにやったぞ?魔法使いとして、はな」

「…つまり、糸術だとか鉄扇術だとかの今の主力スキル使ってねーじゃねーか」

「あほか、そんなもん使えば坊やなんぞ瞬殺してしまうだろうに」

「…つまり、アレか?学園長あたりから、ネギに魔法使いとしての戦いを見せてやってくれ、とか言われたのを過大解釈して今回の凶行に及んでいるわけか?」

「ふん、それは貴様には知る必要のない事…ではあるが、まあそんなところだ」

酷いネタバレである。

「なら、まき絵のもわざとだな?」

「もちろん。次までに気付かねば、坊やに対する伏兵として使うのさ…ばらすなよ?」

「わかっているよ…じゃあ帰るわ」

「待て…せっかく来た事であるし、少し献血していけ」

「はぁ…わかったよ…」

まあ、満月の夜中に吸血鬼の真祖を訪ねた代償なら安いものではある。

 

 

 

もっと怖いマスターを知っている身としては、昨日のエヴァは完全にお遊び…あのレベルなら、私でも…それこそ切り札まで持ち出せば茶々丸を入れて1対2でも…勝てるが、さすがにネギ先生には恐怖であったらしく、登校拒否に陥ってアスナに担がれて登校していた。

『千雨さぁぁん助けてください』

「わっ、こら、ネギ先生、ストップ」

その場面を廊下で目撃した私に英語で…魔法の事を話す時は認識阻害して英語で、という約束にしてある…助けを求めてきたネギ先生…いや、少年を制止する。

「あ…すいません…また後でお願いします」

そして、教室に入ったネギはエヴァの不在にほっとし、茶々丸に恐怖していた…。

 

 

 

気の抜けた授業をしていた先生は概ね鬱状態と言わざるを得ない状態であった。

「パートナーを選ぶとして10歳の年下の男の子なんて嫌ですよねー…」

…だからなのか、唐突にこんなことを言い出したのは。魔法の秘匿、何処に行った。いや、この前の騒動もあって、恋愛的な意味でとらえられてはいたが。そして、その話を何人かに振り始めて…授業の終鐘をきいて死にそうな顔をして出て行った。

しかも、ネギを追いかけたアスナがパートナーを見つけられなくて困っており、見つけられないとヤバい事になる、発言を残して。

 

当然のように、教室は狂騒に包まれるのであった。

 





桜通りの吸血鬼編、本格始動でございます。まあ、学祭とかの色々考えると明らかにエヴァさん手加減している事になるので、本作では詳細ぼかして学園長からの指示を過大解釈したお遊び(賞品:ネギ・スプリングフィールドの血)という事にしてあります。
後、シレっと千雨ちゃん虚空瞬動擬きを使っていますが、本物の虚空瞬動はたまに成功するレベルの練習中です。最も、糸術と組み合わせて立体機動とかしてくるので糸自体を見切れない限りはすでに機動力だけなら割と厄介だったりします。今なら龍宮隊長相手でも目がある…かも?(あくまでTRPGでのクリティカルのみとか言う意味合いで、ですが。)
まあ進路選択編の頃は絶対無理、だったので大分マシではあります。


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23 桜通りの吸血鬼編 第3話 アルベール・カモミール

放課後まで特に呼び出される事もなかった私は、先生を元気づける会をするからと誘われて水着着用で大浴場に集合となった…うん、嫌な予感しかしないが、今のネギ少年にはこれ位の方が効くだろう。私は壁の花やっていればいいんだし。

 

で、順当に始まった会は委員長の抜け駆けパートナー立候補からどう言う訳かネギ少年丸洗い大会へと変貌した。

 

「まったく…」

飽きれながら観察していると聡美もそばにやってきた。

「参加しないんですかー、千雨さん?」

「するわけないだろう…もうちょい大人しいのならともかくああいうのはちょっと…みているのは少し楽しいけどな」

「ですよねー私も見ているだけが楽しいですよ〜発明持ち込みOKなら飛び込んでいましたが」

「…まあ、そうだよな…」

 

きゃー

 

「…何かが集団に飛び込んだな、とばっちりをくらう前に離れよう」

「?はい」

白い何かが皆の肌を撫でるように飛び回り…まき絵に捕まった

 

それはどうも、白いネズミらしく、なぜか近くの連中の水着を脱がせ始めた

 

「…とりあえず、下がっていろ、こっちに来たら捕まえる」

「はい…お願いします」

 

と、身構えはしたが結局、白いそれはアスナに桶で打たれて…それでもボタンを引きちぎるまで脱がせていたが…退散していった

 

「なんだったんだ、アレ」

「さぁ…?」

 

その後、ネギ先生のペットのオコジョ…と言うかたぶん妖精の類いだろう…だという事が発覚した。

 

 

 

その翌々日…どうも、オコジョに何か吹き込まれたのか、私の方を頼りにも詰問しにも来なかったのでネギは放置している…の朝、階段から魔力光が迸り…さすがに認識阻害と簡易な人払いはしてあった…様子を見てみるとらそのオコジョとネギ、アスナの二人と一匹が放課後にエヴァと茶々丸を尾行しようという相談をしていた。…まあ、各個撃破は王道ではあるが…さすがに娘を不意打ちする気なら黙ってはいられんのだけれどもなぁ…?という事で私もネギたちを尾行する事とした。

 

 

 

放課後、茶道部の茶室近くで出待ちをしているネギたちを見つけると、近くの樹上から観察を始めた。

茶道部の活動を終えて出てきたエヴァは、茶々丸にそばを離れるなと命じたが、高畑先生がエヴァを一人だけ呼び出した。…仕込みか、仕込みだな、あの爺…。となると私も見られているだろうなぁ…これ…と思いつつ、エヴァと視線があって、茶々丸を頼むと目で言われた。そもそも最初から離脱という選択肢はないのだが。

 

その後、風船を取ってやったり、歩道橋を上る老婆や、川に流された子猫を助けたりしているのを観察しながら…実際に見るのは初めてだが、そりゃあ泥もつまるわ…最終的にネコに餌やりをしている場面に遭遇した。…が、これは駄目だ、人目がない。穏便に止めるならここで私が通りかかるべきだが、最悪ネギ先生が私を引き入れようとしてアスナに私の存在がばれるか…。

 

と思考をしていると、ネギたちは覚悟を決めた様子で茶々丸の前に立った。…いつでも飛び出せるようにはしておいて、少し様子を見てみようか。

 

戦闘が始まる。

まず、ネギによる契約執行…を受けたアスナが突撃…力任せの喧嘩殺法なアスナに負けるほど茶々丸は弱くはない…のだがそこにネギの魔弾の射手が入る…っておい、属性光か、しかも連弾で11…ったく、装甲には対魔導処理を施してあるとはいえ、ネギの膨大な魔力で放たれたそれは、魔力供給無しに受ければ当たり所がよくて中破、悪いと記憶・感情周りの機能まで吹っ飛ぶ可能性さえある。

 

容赦が無いな、と瞬動術を踏み切った瞬間、ネギの叫びが聞こえた

 

「やっぱりダメーッ 戻れ!!」

 

あっ…余計な事をしたっぽいと思った時にはもう遅かった。

私は、茶々丸を抱きかかえる格好で、ネギたちの前に姿を現してしまっていた。

 

 

 

「行け、茶々丸、後は任せろ」

魔法の連弾をネギが戻した事、そして私の登場に唖然としているネギたちを放置して、茶々丸を下した私はそう言った。

「千雨さん…はい」

そういってジェット飛行で去って行った茶々丸を見送ると、私はネギに歩み寄った。

 

『まったく…人の娘を壊しかけた挙句に、何やっているんだ、ネギ少年…』

「ち、近づくな」

「千雨ちゃん…?」

「安心しろ、私も関係者だよ。まずはネギの治療をしないとな」

白い小動物を無視してアスナにそういってから、私は治癒魔法を唱える。

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 汝が為にユピテル王の恩寵あれ “治癒”」

 

すると、ネギの傷が少しだけマシになる

『千雨さん…ありがとうございます』

『礼を言うのはまだ早いぞ?了見次第では私があんたをボコらにゃならんからな』

『何っやっぱてめぇは敵なのか』

『黙れ、毛皮にするぞ、エロオコジョ』

ネギの頭をなでながらオコジョをにらむ。

『俺っちにはアルベール・カモミールって名前があるんでい』

「ちょ、ちょっと日本語で話してよ!」

「それもそうか…アスナにはわからんな」

「姐さん…」

「どうせ勉強苦手よ!って、そんな事より、千雨ちゃん、魔法使いだったの?」

「ああ、魔法研究が主だが、魔法自体も使えるぞ」

「あっ、ネギの言っていた学者の知り合いって千雨ちゃんの事!?」

「はい…千雨さんの事です」

「…兄貴が文通していたって言っていた学者さんですかい?」

どーやら私の存在だけ話して正体は秘密にしてくれていたらしい

「で、どうしてその学者の姉さんがエヴァジェリンの従者のロボをかばったんですかい?

それとも、兄貴は庇ってやしたが、やっぱりあんたもグルなんで?」

「そりゃあ簡単な事さ…あいつ…茶々丸は私達の娘だからな」

「「「娘…?」」」

訳が分からないという顔の二人と一匹である。

 

「まあ、わからんだろうな。簡単に言うと、茶々丸は私と聡美…ハカセと超の三人が中心になって開発した人型ロボットでね…私達にとっては娘みたいなものなんだよ…。

だから存在理由…エヴァ…ンジェリンの従者として戦いの中で潰えるならばともかく、魔力供給も貰っていない状態で日常の中で打ち壊そうというなら邪魔の一つや二つするさ…

まあ、不意打ちも戦の作法と言っちまえばそれまでだし、究極的には娘で友人なアイツを壊されたくないってだけだ…だから寸前まで見守っていただろ」

「ち、ちょっと待って千雨ちゃん達、頭いいのは知っていたけど、茶々丸さんの生みの親なの?」

「ああ、少なくとも人工頭脳の開発は私が主任をやっていたし、全体の開発主任は聡美だし、超がブレイクスルーをいくつもしなければ茶々丸があそこまで高性能にはならなかったよ。…加えて言うならあいつの動力である魔力炉の技術監修はエヴァンジェリンな」

そういって一度ため息をつく

「そして、こう、茶々丸は思っていたよりもずっと優しく育っちまったようだけれどもな…家事なんかも面倒見るようにはしてあるが、基本は戦闘用だぞ、あいつ。

なのに私達の中の誰よりも優しい奴になっちまって…人助けをしているのは知っていたけど、初めて見たよ」

少しだけ、戦闘用の従者人形に心(の種)を持たせたことを後悔し始めてさえいる。今更消す気はないが。

「待った、姉さん何処から見ていたんですかい」

「どこからって…茶室前で出待ちしている所からだぞ? いや、契約の魔力光を見て、相談しているのを見つけた所と言うべきかな…まったく、神聖な学び舎で教師と生徒がキスするとはな」

「み、みてたのっ!?ノーカン、ノーカンだしおでこだから!」

「…でこちゅーかよ…いや、あの魔力光、仮契約だろ?仮契約で一番簡便かつ安価な方法が魔法陣上でキスする事だってのは無茶苦茶有名な話だぞ?」

「あーなるほどな…」

「つまり、千雨さんの共同研究者の皆さんは茶々丸さんの縁で結ばれたんですね」

「そうともいうな、と言うか元々は魔力炉から生ずる電の解析が始まりだしな、あの面子での共同研究」

「なるほど」

「…兄貴?いったい何の話を?」

「千雨さんと知り合った切欠が、魔法理論の研究会での発表なんだけれど、それって共同研究だったんだよ、茶々丸さんのお母さんであるハカセさんと超さん、それにエヴァンジェリンさん…この前、昼間だけれど、エヴァンジェリンさんの家で研究の話をしてきたから同一人物で間違いないよ」

「…マジですかい…と言うか、エヴァンジェリンの野郎、顔見知りを…」

「あーそれは私が悪い。

ほっとくとネギが突撃してきそうな勢いだったから会ってやれって私が説得したんだ。

本当は嫌がっていたんだぞ、最初は。すぐに盛り上がっていたけどな…」

「魔法オタクってやつですかい…兄貴と一緒で」

「オタクかは知らんが、ただ使うだけじゃなくて理論の造詣とかもきっちりしているタイプだぞ、私もマスター…エヴァも」

しまった、口を滑らせた。

「「「マスター?」」」

「あーさっき言った理由で魔法にかかわり始めたんで、私の魔法の師匠はエヴァなんだわ。

…この件も、この前の戦闘を目撃するまでは何を企んでいるかは知らなかったけど、手伝わんでいいから邪魔はするなって言われている。

今日までは懇願されたら茶々丸の相手位してもいいかと思っていたけれども、アスナがいるみたいだし…」

「それは冷たいんじゃないですかい、学者の姉さん…」

ダメ元と言う感じで小動物…カモが言ってくる

「いやぁ…私、本気のマスターの足元にも及ばないし…茶々丸の事で気乗りもしないし…下手に私が参加すると茶々丸が対人リミッター外すからアスナが危険だし…メッセンジャーとかならやってもいいけど」

嘘ではない。単に本気の基準が別荘での吸血後なだけで。加えて言うなら、下手に茶々丸のリミッターを外させた方が色々危ないし

「ですが」

「カモ君。茶々丸さんを襲ったのは僕たちなんだから…」

「マスターはよっぽどの理由が無ければ女子供は極力殺さないから、事故か、よっぽどの理由が無ければ命まではとられないと思う。相談には乗るし、メッセンジャーもする。でも直接戦力として参加するのは勘弁してくれ…すまん」

ネタを知っていると茶番ではあるが、一応できるだけ真摯に謝っておく。

「はい、ありがとうございます、千雨さん」

ネギのその笑顔に、少し心が痛んだ。

 




え、この女、傷む心なんてあるのかって?ありますよ、そりゃ。
自分のそれ含めて蔑ろにしたり、自分の意思を突き通す為に利用したりする事がたまにあるだけで


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24 桜通りの吸血鬼編 第4話 大停電の夜とその結末

私は幻想空間で呪紋の設計をいじりながら考え事をしていた。

 

さて、今回のエヴァとネギの件はどうするべきか、と。

 

ネギの知らない色んな事を勘案すると、私がネギ側に付いた所で、マスターと茶々丸が行使する力の制限を緩めて事故の危険が増える事になりかねない。

かと言って、エヴァ側での参戦は無意味かつあり得ない…。

 

では、無関係を貫くのかと言うと…見届け位はしておきたくはある…が、恐らくネギが弄られる展開になる可能性が高いので…衝動的にやらかさないかが心配だったりもする。

 

…そして、だ。そう推理すべき断片知識はエヴァから与えられていたので自明だと思っていたのだが…この前、やっとエヴァは登校地獄の呪い以外にも自身を縛っているものがあると気付いた様なのだ(ネギを交えた時ではない)。ディスカッションの時の反応が本物であれば。

 いや、茶々丸の動力炉開発の頃に麻帆良に巨大な電気的な力を用いた結界が張られていると言っていたので、てっきりそういう事だと私の方が思い込んでいたのだが、脅威の力を阻害する結界も張られているものだと私は考えていた。

しかし、エヴァは警備結界と思い込んでおり…詳しく調べてみると、電力をかなり使用して魔に属する存在を阻害する結界が張られているらしい事が先日、判明したらしい(茶々丸がエヴァの命令でやったので、私には伝聞情報である)のである。

 当然、予備システムの類いもあるらしいが…予備システムだけなら茶々丸が停止させられる範囲…らしい。私としては、そーいうシステムは正・副・予備と三系統は用意する事が多いので釣りじゃないかと怪しんでいるが、多分その辺りも学園長の掌の上っぽいので黙っておく事にする。そして、エヴァ達がそれを喜んでいるという事は、次の満月ではなく、三日後の大停電に動く予定…と言う事か。

 

 と、諸々の情報・状況を整理して、どうすれば後悔しないか、と考えているのである。

 

 

 

…と言うのが土曜日の朝の事で、今は日曜日の昼過ぎ、関東魔法協会の野外射撃場の一つとして用いられているという施設に、私は呼び出されていた。

そこには、私と同じ本校女子中等部の制服に身を包んだ二年生の少女と、元々関係者と目星をつけていた葛葉先生が待っていた。

「本日は、よろしくお願いいたします。葛葉先生と…佐倉さんですよね、初めまして」

「佐倉 愛依と申します。はじめまして、本日はよろしくお願いします、長谷川先輩」

「よろしくお願いします、長谷川さん」

 

どうしてこうなったかと言うと…それは土曜日の昼過ぎ、刹那経由で学園長からの呼び出しがかかったからである。

 

 

 

「さて、今日来てもらったのは他でもない。そろそろ長谷川君にも関東魔法協会員との交流を深めてもらってもよいかと思っての」

「交流…ですか?」

突拍子のない言葉に思わずオウム返ししてしまう。

「そうじゃ。外様の関係者にはあまり内情は見せんのじゃが、ある程度長期に滞在しておる関係者…特に学生の関係者には簡単な仕事などを通して交流を深め、信頼醸成に努めてもらっておるんじゃよ。

まあ、たまに、エヴァンジェリンとしてもらっているバイトみたいなのを違う組み合わせでやってもらうと思えばよいかの」

…確かに見回りや雑用をめんどくさそうなマスターとする事はたまにあったが…このタイミングは…。

「そういう事でしたら、断る理由はありませんが…いつ頃、どなたと何をすればよいのでしょうか」

「大停電の日の夜に、電気と科学を用いたシステムが手薄になるのでの、念のため、見回りを頼みたいんじゃ。組む相手はこちらの葛葉君ともう一人、佐倉君と言う魔法生徒が付く予定じゃな」

学園長がそういうと、そばに控えていた葛葉先生がお辞儀をした。私もそれにこたえてお辞儀をする。

「…なにか大事な用事があれば断ってくれても構わんが、何かあるかの?」

あーあ、完全にバレテーラと言う奴であるな、これ。

「いえ、問題ありません」

「うむ、では当日前に一度顔合わせを葛葉君と調整しておくれ」

と、言った具合の事があって、こうなっているわけである。

 

 

 

「では、早速ですが、長谷川さんの実力を見させていただきます」

「はい」

「とはいっても、最低限の動きが分かれば大丈夫ですので…軽く魔法などでの攻撃を的あてで行った後、私と模擬戦をしましょう。当然、手加減はしますので。佐倉さんは見学していてください」

「「はい」」

私と佐倉は同時にそう答えたのであった。

 

「では、早速…」

 

と、言いつつ、何を使うか考える…まじめにやるべきと考えつつも、何処まで本気を出すべきかと考え、魔法の射手を連弾と短縮詠唱でそれぞれ、加えて白き雷程度でいいかと考える。

「いきます」

と、宣言して連続で魔法を放つ。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 雷の精霊23柱 集い来たりて敵を撃て 魔法の射手・散弾・雷の23矢」

まずは、足を止める麻痺効果の付いた雷の矢を少し広めに散弾で

「ノイマン・バベッジ・チューリング 魔法の射手・収束・光の3矢」

続けて破壊力に優れた光の矢、短縮詠唱で足を止めた敵に速攻をかけ

「ノイマン・バベッジ・チューリング 闇夜切り裂く一条の光 わが手に宿りて敵を喰らえ 白き雷」

そこそこな威力の白き雷…ずる無しだと雷の斧は発動の速さと言う利点が消え、戦闘では使えないので…を一応、止めで撃っておく。

まあ、当然、ただの的は木っ端みじんである。

「なるほど…なかなかですね、佐倉さん、何か感想は」

「はい、対戦士魔法戦闘の基本形の一つ、足止め、追撃、止めの三連打に忠実で、威力・速度共に十分かと思います」

「ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げる。まあ、この年にしては、と枕詞が付くのは重々承知の上ではある。

 

「では、続いて模擬戦と行きましょうか」

「はい、では…」

私は袖口から鉄扇を抜き、それを構え、気を練った。

 

 

 

 

 

 

私の長谷川先輩への印象は、頭の良い人、でした。だって、麻帆良の三賢者なんて呼ばれる天才女子中学生3人組の一角ですし、あまりそれ以上は知りませんでしたから、実は外様の魔法関係者だと言われても、実感なんてありませんでしたし。

的あて後の魔法使いとしての印象は…なかなかやる人、でした。と、同時に、的あてであれば、自分も同じ事をするのはさほど難しくない、と思える程度でしたから…。

そして、模擬戦が始まってからは…すごい人、に変わりました。いえ、とっても強いと言う訳ではないのですが、先生方と比べるに値する程度には強いと思いますし、魔法だけじゃなくて気も使えるとかもありますが、何より、すごくすばしっこいんです、長谷川先輩。

ある程度手加減されているようですが、始まってから一度も直撃を貰っていませんし、窮地からの脱出が上手いですし、何より虚空瞬動(後で、ちょっとズルをしている、と聞きましたが)まで使いこなす、機動力だけなら一流を名乗って差し支えない戦闘者でした。

…反面、攻撃は上手いとはいえ、火力不足で攻め手にかけると言った感じでしょうか…いえ、実戦形式が苦手な私よりは攻め手だけでも十分上手なんですけれども…。

「これ位にしておきましょうか、長谷川さん」

「はい、葛葉先生」

あ、模擬戦が終わったようです。

「佐倉さん、何か感想はありますか?」

「はい、長谷川さん、とてもすごかったです。機動力に関していえば、私が見た事のある範囲ですが、機動戦闘が得意な先生方の中でも最上位に比肩していると思います。ですが…攻撃は威力・手数不足で少し決め手に欠ける…と言った感じでしょうか、少しアンバランスな感じでした」

「そうですね、私も同様の感想です、よければ理由をうかがっても?」

「あ~元々、私は護身・逃走術の系統から魔法戦闘に入っていますので、どうしても避ける事を重視してしまって…そのまま鍛えていたらこの通りです。位置取り次第ではもう少しやれるかと思っていましたが、手加減して頂いていても、さすが魔法先生と言った所でしょうか」

そういって、長谷川さんはにこりと笑いました。

 

 

 

 

 

 

「疲れた…と言うか、なんで神鳴流剣士ってあんな目がいいわけ?」

「ちうさま、神鳴流は見切りの流派でもあるので…」

「わかっているよ、飛来する弾丸見切れる連中が、油断してなきゃ糸を見られないわけがないだろうからなぁ…やっぱり、本物の虚空瞬動と縮地使えるようにならないと厳しいなぁ…」

色んな意味で誰にも話せない愚痴を電子精霊相手にぶちまける私だった。

と言うか、縮地と呼べるレベルの瞬動を決めたと思った時でさえ、きっちり追跡して来るとか、さすが魔法先生は化け物である。

 

 

 

そうして、大停電の夜…私達の見回りは、外出禁止を破る生徒の姿さえ見つからず、軽い雑談による交流だけを成果として終了し、その間にエヴァとネギとの決闘は全てが終わっていたのであった。

 

 

 

「と、言う訳で、ネギ先生の御父上が生存されている事を知ってマスターはご機嫌です」

「なるほど…それと、すまなかったな、見届けに行くつもりだったんだが」

「ふんっ、お前が来ると話が余計ややこしくなっていたわ…と言うかお前の話からすると、全てはジジイの掌の上という事ではないかっ」

「まあ、何処までかはともかく、大停電の間私を拘束しておきたくてああなったのは確実だろうな…あれが偶然なら、それはそれで天運と言う奴かね」

「…まあ良い、ナギのやつの情報も入り、空手形だが坊やが呪いを解いてくれるという約束も得たし…結果オーライという事にしておこう」

うんうん、と頷き紅茶を口にするエヴァに倣い、私もそうする事とした…結果オーライと考える、という点を含めて。

 




ちうたんはすばしっこい。糸術による足場を見切れなければ虚空瞬動使えるのとほぼ同じ、年単位でエヴァ一味にポッコにされているのは伊達じゃないです。まあ、回避をメインで磨きすぎたおかげで、アンバランスに育ちましたが。もっとも、色々と『ズル』と言う名の半外法でドーピングしていれば攻め手ももうちょいマシにはなります。

ま、学園長が盤上に不確定要素が乗るのを嫌って締め出された感じっすね、今回は。
模擬戦を愛依視点にしたのは、本人視点だと非常に駆け引きが書きにくかったので…ちなみに、ちうたんの悪癖で、カエデとやった時みたいに、相手に合わせてついついギアを上げちゃう癖があり、外法無しの全力は出していました。


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修学旅行編
25 修学旅行編 第1話 修学旅行 ≦1日目、夕刻


 

修学旅行前の土日、私はマスターの別荘に『5時間』ほど、缶詰になっていた。

普段は水曜日と土曜又は日曜日で連休などに+αする別荘使用のスケジュールがこの前の一件で崩れていた分と、修学旅行で使えない分の調整と、いつぞや楓相手にやらかした『手加減されている状態でも変にギアを上げていって本気を出して、相手にも出させてしまう(本気に到達しているとは言っていない)』、と言う悪癖が再発したので、お仕置きを兼ねていつも以上にハードな鍛錬である。

「相変わらずすばしっこさだけ上達しおってからに!もっと強力な魔法も使え!」

「無茶言うな!これ以上ギア上げたら、マスターへの献血分と合わせて失神する!」

「だから、失神するまでやれと言っているんだよ!ちゃんと増血剤投与してファンタスマゴリアに放り込んでしごいてやるから安心しろ!」

「ただでさえ加速空間なのにさらに体感時間加速させる巻物の使用前提にされても困る、マスター!」

「失血死したいならそう言え!私が納得するまで続けるからな!」

こんな感じで、言い合いをしながら(ただの売り言葉に買い言葉であるが)空中機動戦闘+無詠唱魔法の打ち合いとか言う苦行である、今やっているのは。

というか、冗談抜きで血が足らん…もういっそ白き雷二連でもやればマスターも満足するだろうか…。

 

 

 

 

 

超包子に呼び出された私は、仕事をしながら愚痴を言っていた。

「これ、私が手伝う必要あるのか…?荷物持ちとかはともかくさ…」

「ほら、千雨サン、無駄口叩いてないで肉まん包むヨ…お料理研究会は通常営業分で手一杯ネ、それを考えたら皮と餡を用意してもらただけでも感謝するヨ」

「はいはい」

と、修学旅行中の販売分の肉まんを包むヘルプに入る事になっていたりもした…販売と運搬はたまにヘルプに入っていたが、包むのは最近してなかったなぁ…とか感慨にふけりながら私は肉まんを包んでいく。聡美は自動化しようとするし、クーは割とすぐ飽きるし、なので私と超と五月の三人で…。

「で、そう言えば、班行動って大阪観光に行くんだっけか」

「すいません、私の我儘を聞いていただいて…」

「気にするな、五月。私も是非、肉まん界における関西の雄と、そしてそれと源流を同じくする中華飯店を訪ねてみたかったネ。クーもノリノリだったし、あくまでお昼とおやつだけの事ヨ」

「そうだな、聡美や私は特に希望もなかったし、五月のスキルアップにつながれば私らも恩恵受けられる。それにザジも楽しみそうだったし」

「超さん…千雨さん…」

と言う訳で、私達第二班は修学旅行で難波近くの大阪観光をする予定となっていたりする。京都奈良の筈が大丈夫なのか、とも思ったが、第4班はUSJまで行く計画を出してOKを貰っていたので、特に問題は無いらしい。

 

 

 

そうして迎えた修学旅行初日、朝ご飯としての肉まん販売員のヘルプ(麻帆良駅から売っていたので京都以外を含めた他のクラス相手にも)を済ませた私は、超包子関係の仕事は荷物持ち以外からは解放され、聡美と並んで新幹線の発車を待っていた。

「楽しみですね、関西観光」

「そうだな、関西の食にも興味はあるし…マスターのしごきはきつかったけど」

「あーエヴァンジェリンさん、修学旅行と言うか校外学習は参加できませんからねぇ…八つ当たりでもされました?」

「私怨が混じってないとは思…いたい。一応名目はいつぞや楓相手にやらかした事だし」

「長瀬さんと言うと…格上相手に対応を誤ったとかいうあれですか?」

「まあ、そんな感じだな…おかげで血が足らんよ…」

と、つい不用意な言葉も漏らしてしまう。まあ献血の方は聡美も知る所なのではあるが

「ならば、ハイ、肉まんです、私のおやつ分ですが、一緒に食べちゃいましょう」

「ああ、ありがとうな…おっ、発車する様だな」

こうして、4泊5日の修学旅行は始まったのであった

 

 

 

「…良いのかコレは…秘匿的な意味で」

唐突に車内にあふれ出したカエルを一匹拘束して呟く。

あまり触りたくないので糸で後ろ脚を縛って、であるが

「これ、魔法ですか?」

「たぶん、符術か召喚獣だなあ…潰せばわかるんだが…」

「えー万一本物ならグロくないですか…」

「…エチケット袋の中でやろうか」

で、エチケット袋の中でカエルを切り裂いてみると、消え去った…召喚獣だったらしい。

「関西と関東では組織が違うはずだから、何かの嫌がらせか…威力偵察か」

「嫌がらせはともかく、威力偵察ですか?」

聡美が首をかしげる。

「嫌がらせ、悪戯で済む程度の攻撃を仕掛けてこっち…と言うか関東側の対応力を探っている…とかな」

「へー成程…となると本命は?」

「対応次第では来るだろうなぁ…まあ、外様の私にゃ、火の粉がかからない限りはあんま関係ないけれども」

「確かにそうですが…これが起きているのがうちのクラスだけだと、狙いってうちのクラスって事になりません?」

「あ…その可能性は…高い」

陽動というのも無くはないが、まあ威力偵察説ならばその通りである。

「千雨も捕まえるの手伝うアルよ!」

クーから呼ばれる

「はいはい…じゃあちょっと行ってくる」

「頑張ってくださいね~」

聡美にそう言われながら、ビニール袋を手袋代わりにしてカエルの回収に参加する私であった…召喚獣でも、カエルを素手は、できれば避けたい

 

 

 

「終わったか?」

「そのようアルね…」

と言っていると、ツバメの様な何かがネギ先生が懐から出した封書を奪って飛び去って行った。

 

…あれが狙いか。

 

一瞬、私も追いかけていこうかと思ったが、ネギ先生に預けられる程度の何かであれば、奪われた所で、(私に火の粉が降りかかってくるような)大事はないかとこちらの対応を優先する事とした。

「クー、カエルは私が処分する」

「千雨、お願いできるアルか」

そうしてクーからカエルを受け取った私は、先生が出て行ったのと逆の扉からデッキに出ると、低級な召喚獣を送り返す魔法を唱えた…よし、無事に送り返せたようである。

一匹一匹潰すのは面倒であるし…

カエルを捕まえていた袋と手袋にしていた袋を合わせて捨てて車両に戻ると、不満そうな刹那が、そして何かを悩んでいる様子のネギ先生がちょうど戻ってくる所だった。

 

 

 

それから特に何事もなく、最初の目的地である清水寺に到着した私達は、記念撮影を行った後、夕映の清水寺解説を聞いていた。しかし、内容が地主神社と音羽の滝になると、恋愛・縁結びと言う単語に反応した連中が騒がしくなり、駆け出した先発組を追いかけるようにクラス全体も移動する事となった。

「やれやれ…そんなに良いもんかね、恋愛」

「一般には、私達位の年頃だと興味津々らしいですからね〜」

その最後尾を、私は聡美とのんびりついていく。

「ま、心を許せるパートナーっていう意味なら、私は聡美がいるからそれで十分だけどな」

「私も、好きにさせてくれて、研究に理解がある人ってのは必須だと思うので、私も千雨さんで十分ですね…もっとも、今は互いに色々秘密や話せない事は抱えていますが」

「アーうん…まあ…な」

そんな話をしながら石段を登りきると、ちょうどのどかが恋占いの石にタッチを成功させている所だった…が、手前で委員長とまき絵が落とし穴から救出されている所だった。

「また、ですか?」

「たぶん、また、だなぁ…」

色々と前途多難である。

 

気を取り直して音羽の滝、当然のようにクラスの半数近くが縁結びの滝に群がっては何杯も飲んでいた。

「…一種類、一杯が正式な作法じゃなかったか?しかも作法を外すと効果が弱まるとか何とか…」

「まあ、気分の問題ですしいいんじゃないですか。私達も、健康の水、いただきましょうか」

「ん?学業じゃなくていいのか?」

「いやだなぁ…学業は自分で何とでもできますし、縁結びは、既に良縁に恵まれていますが…健康だけは自力ではどうしようもないですし」

「聡美は研究でよく夜更かししたり、睡眠時間確保のために研究室で寝たりとかしたりしているしな」

「千雨さんもエヴァンジェリンさんの下で無茶していますしね」

くすくすと笑いながら、私達は健康祈願の水を、一杯ずつ飲むのであった。

 

「…なんか、みんな酔いつぶれてないか」

「…そうですね…縁結びの滝の水から希釈したエタノールの匂いもします」

様子のおかしい連中からとったひしゃくの水をかぎながら聡美が言う

「健康の滝は普通だったって事は…」

「なっ…滝の上にお酒が!いったい誰が…!?」

ネギ先生の声が上から聞こえる。

「…って事だな、まあ今回のは魔法関係ないから悪戯って事で処理すりゃいいだろう」

…と、思っていたのだが、ネギ先生、特に報告もせずにそのまま隠蔽する事を選んだようである。

となると、相手がこっちの魔法組織であるという認識で、手段の如何に問わず、魔法の隠蔽という事で話を大きくしたくない、と言う訳かな…?

どちらにせよ、すでに私達にも火の粉が及びかかっているわけではある。

「ちょっとネギ少年、問い詰めてくる」

「よろしくお願いします〜。でも無理はしないでくださいね、私も千雨さん達との修学旅行楽しみにしていたんですから…離脱されると困ります」

「おう、わかっている。極力はネギ先生に任せる方向で行くよ、私も旅行は楽しみたいし」

 

 

 

「あっ、アスナ、ネギ先生何処にいるか知らねぇか?今日の事、問い詰めにゃならん」

「あ、千雨ちゃんも?浴場前にいるらしいから一緒に行きましょ」

遭遇したアスナと共に浴場前に向かうと、カモと何かを話しているネギ先生を見つけた。

「ちょっと、ネギ」

「あ、アスナさん、千雨さん」

「とりあえず、酔っている皆は部屋で休んでいるって言ってごまかせたけど…いったい何があったって言うのよ」

「新幹線でも、なんか封書を鳥の形をした何かにすられていましたよね」

「じ、実はその…」

「言っちまえよ、兄貴!」

先生が言いよどむのをカモが煽る

「実は、関西の魔法団体に僕たちが狙われている様で…」

「えーっ私達3-Aが変な関西の魔法団体に狙われている!?」

「はい、関西呪術協会っていう…」

いや、ヘンな魔法団体って言うが、関西呪術協会の方がこの国では土着の古い組織だぞ、関東魔法協会よりも…と言うか、西洋魔法の普及に伴って広い意味合いでは呪術などを含む今の名称に改名しただけで、元々は関東も呪術協会だったはずである、確か。まあ、話の本質には関係ないし、私達が巻き添えだとしても、狙われているのは事実であるし。

 

「で、カエルも、落とし穴も、酒樽もそいつらの嫌がらせらしい、と」

「どうりで…変だと思ったのよ。また魔法の厄介事か」

そういってアスナがため息をつく

「すいません、アスナさん」

「ふふっ…どーせまた助けて欲しいって言うんでしょ? いいよ、ちょっとだけなら力貸してあげるから」

「まあ、私も今回はしがらみもねぇし、降りかかる火の粉を払う分くらいは手伝うよ」

「あ…アスナさん、千雨さん」

ネギ先生が感動している

「そうだ、姐さん、学者の姉さん、クラスの桜咲刹那ってやつが敵のスパイらしいんだよ!何か知らねーか」

「えっ、刹那のやつが?」

公私共に、木乃香を守る事一筋のやつだと思うんだが…

「え~~っ!? スパイって…桜咲さんが?そんな突然

そ、そうね…このかの昔の幼馴染だって聞いた事あるけれど…ん〜〜そういえばあの二人がしゃべっているところ見た事ないな…」

と言ったアスナのセリフから、カモとネギは刹那が関西の刺客だという結論に至ろうとする。

「あ~マテマテ、私からは詳しくは話せんが、刹那は木乃香の護衛だと本人からは聞いている。

一応、木乃香に危害が及ばない範囲なら、何かしらの命令が下りてきているならば敵対する可能性は否定できんが…少なくとも木乃香の側に居られなくなるような事をするやつじゃないぞ」

木乃香も刹那も関西呪術協会の大物の娘とその親から派遣された護衛としか知らんが、木乃香が学園長の孫でもあるって事は、親関東派のはずだし。

「でも、学者の姉さん、それは本人の自己申告なんだろう?」

「だが、学園長が木乃香の周りをウロチョロするのを認めている、と言うのも事実だな」

と言う話をしていると、源先生がネギ先生に風呂を済ませる様にと言いに来て、話の続きは夜の自由時間に、という事で一度解散となった。

 

 

 

自由時間、木乃香と引きはがせる雰囲気ではなかったネギとアスナに就寝時間後にロビーで、と伝えて一度部屋に戻って待ち合わせに来てみると、刹那が入口に符を張ろうとしているのに出くわした。

「よ、刹那。直接動く事にしたのか」

私は近くのソファーに腰かけながらそう言った。

「千雨か。まだ小手調べと言った雰囲気だがこのかお嬢様に被害が及びそうになったのでな」

「そうか。それはそうと、ここでネギ先生達と待ち合わせをしていてな、会いたくなければ少し離れていて欲しい」

「いや、むしろそれは好都合だ」

と、言った所でネギ先生とアスナ(とカモ)が登場した

「な、なにをやっているんですか?桜咲さん」

「これは式神返しの結界です…」

「へぇーところで、千雨さんとここで待ち合わせをしていたんですが…」

「ここだよ、ネギ先生」

丁度、柱の陰になっていて見えなかったらしいので、顔を出してそう言った私だった。

 

 

 

 




行動の描写が無い2班の皆さんの自由行動は五月さんの希望で東の肉まん王者をおやつに、それと源流を同じくする中華飯店でお昼を、と言うプランになりました。ぶっちゃけ蓬莱ですね。
つまり、ちうたん、夕方まで、また舞台の外だよ、やったね!(待ちなさい 
いや、晩はちゃんと参戦しますが、多分

なお、割と本気で自分とハカセに火の粉が降ってこなければどうでも良いと千雨さんは思っています。さすがに頼られたり、誘拐とかシャレにならない状況を見つけたりしたら手助けしますがよくわからない封書を狙っていて嫌がらせしかけられているという認識なので、まだ。

班分けについて
千雨さんとザジさんが美空と楓と入れ替わっただけです。
たぶん、原作の班分けでは千雨も美空も楓もザジも仲良しグループが集まった後に割り振られた組ですし(酷い
なので、同室の千雨さんとハカセにザジさんが割り振られて、6班の楓が委員長に引き取られて、という班構成です。
いや、シネマ村が過剰戦力になりますが、まあ、楓さんは百鬼夜行相手に遊んでいるという
事になるんじゃないかな(


追記
感想ありがとうございます。

それと、誤字報告もありがたいのですが、ページ上部の誤字報告機能からお願いします。
ちなみにぽーやはうちのPCが濁点と半濁点を入れ替える変換をかます事があって、それが原因ですね。


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26 修学旅行編 第2話 修学旅行 1日目 晩

「…えっと、桜咲さんもその…日本の魔法を使えるんですか?」

刹那が私の隣に、ネギとアスナが斜めの前のソファーに座った後に、最初に口を開いたのはネギ先生だった。

「ええ、剣術の補助程度ですが…えっと、神楽坂さんには話しても大丈夫なんですね?」

「はい、大丈夫です」

「あはは、もう思いっきり巻き込まれちゃっているからね」

 

「では…早速ですが、敵の嫌がらせがかなりエスカレートしてきたのは理解されているかと思います。そして、先ほどは本腰を入れた行動ではないにせよ、木乃香お嬢様を誘拐しようとする動きにまで至っています。よって、それなりの対策を講じなければならないかと…」

「げっ、先生の持っている手紙だけじゃなくてそこまでかよ」

私は新情報に思わず口を開いた。

「ええ…最初は親書が主目的だったのでしょう…ネギ先生は優秀な西洋魔導師と聞いていましたのでうまく対処してくれると思ったのですが…意外と対応がふがいなかったので敵も調子に乗ったようです」

「あうっ…ス、スミマセンまだ未熟なもので」

「じゃあ、やっぱりあんたは味方…!」

おいエロガモ、さっきは私の刹那に関する証言でも意見かえなかったくせに。まあいいけど

「ええ、そう言ったでしょう」

そう言った刹那に、カモが敵と疑った事を謝罪し、ネギ先生の求めに応じて刹那は今回の敵について説明する。呪符使いと式神について。

「付け加えておくと、一般に符術は用意が必要な代わりに威力と発動速度では西洋魔術に勝る傾向がある…んだよな?」

「はい、まあ術者の力量次第ではありますが」

 

続けて、刹那は刹那自身も属する京都神鳴流についても説明した。

「じゃ、じゃあ神鳴流って言うのはやっぱり敵じゃないですか」

「いや、どうしてそうなる。あくまでも敵は関西呪術協会の一部なんだろう?

ならば流派自体が敵になる事はねぇ…それとも、神鳴流も反西洋魔法派が主流なのか?」

ネギの早合点に釘をさし、刹那に尋ねた

「いえ、確かに、流派総出で襲撃をかけてくると言った事はないでしょうが…神鳴流等を含めた広い意味での関西呪術協会全体の空気としては敵対が主流とまではいかなくとも、長年の確執がありますので…少なくとも、西を抜けて東についた私が公然と裏切り者呼ばわりされる程度には…」

刹那が寂しそうな、しかしこれでいいんだ、と言う顔をする

「でも、私の望みは木乃香お嬢様をお守りする事で、その為ならば仕方のない事です。

私は…お嬢様を守れれば満足なんです」

私ならば仲良くもしたいし、守る為にそばにいる事を選ぶとは思うが、それは刹那の決断次第である。

「刹那さん…」

「……よーし、わかったよ、桜咲さん。

あんたが木乃香の事嫌ってなくてよかった、それが分かれば十分、

友達の友達は友達だからね、私も協力するわよ」

「か。神楽坂さん…」

「よし、じゃあ決まりですね。

3-A防衛隊(ガーディアンエンジェルス)結成ですよ!」

「えー!?何その名前…」

「せめてガーディアンズにしねぇか?」

私とアスナが名前にケチをつける。ネギ的には守護天使的なノリで言っているんだろうが、恥ずかしい。

とはいえ、四人で手を重ね、上にカモが乗る。

「えー…まあ、名前はともかく、関西呪術協会からクラスのみんなを守りましょう!」

「おう」

 

「今夜、また敵が来るかもしれません、早速、僕、外に見回りに行ってきます」

ネギはそう言って走って行ってしまった。

「さて、見回りは私もするが、木乃香の警護は二人に頼む。

うちの部屋の連中の事もあるし、先に3時間休憩貰って良いか?

その後、ネギ先生と交代しながら朝まで見回りするから」

「ええ、ではそのように…神楽坂さん、私は一通りホテル内を確認した後、消灯まで見回りをしますので先に木乃香お嬢様についていていただけますか」

「わかったわ、じゃあそういうことで行きましょう」

という事になり、私は一度部屋に戻る事となった。

 

 

 

「「で、結局どうなったカ」んですか」

部屋に戻ると聡美と超が待ち構えていた。

「…とりあえず、嫌がらせの下手人はこっちの魔法団体の一派らしい。

一応交代で朝まで警戒態勢をとる事になって最初に休憩貰ってきた。

まあ、うちの班は巻き添え以外で被害は出そうにはない、とだけ言っておくが…それ以上はコレだ」

そう言って私は唇に立てた人差し指をあてた。

「むむ…私達はぐっすり眠って問題なさそうなのは有難いガ…」

「千雨さん、朝まで警戒って…無理しちゃ駄目だって言いましたよね?」

「いや、私、コレでも気も魔力も使えて眠らずに三日間以上余裕で活動できるからな?」

マスターの下での実体験である。まあ、小休止は挟んでいたし、全力で活動すればその限りでもないが。

「むー…これ以上言っても千雨さんの休息を削るだけなので引きますが…本当に無理はしないでくださいね?」

「ああ、余裕もって仮眠時間も貰っているし、明日以降も移動時間に体を休めていれば大丈夫だよ」

 

と、言っていると私の携帯が震えた…アスナからだ

「すまん、出る。あーもしもし、どうしたアスナ」

『千雨ちゃん、大変なの、木乃香がおサルにさらわれて…今、追いかけているんだけど駅の方にこられる?』

「分かった、すぐ行く…悪い、早速しかけて来たみたいだ、ちょっと出てくる」

「万一、此方が本命でそっちが陽動だったら電話入れるネ」

「もう…分かりました、気をつけて…無事に帰ってきてくださいね」

「おう、じゃあ行って来る」

そう二人に返し、私は窓から文字通り、空へと躍り出るのであった。

 

 

 

「あれか」

そのまま、駅の方に駆けると木乃香を抱えた猿の着ぐるみと、それを追うネギ達が見えた。

合流しようとしていると、猿とネギ達の間に目掛けて放たれた短刀のようなモノを捉えた。

「ちっ」

強く地を蹴り、軌道を修正した私は鉄扇でその短刀を全てはじく。

「「「千雨!」さん!?」ちゃん!?」

突然現れた私と金属音に足を止めかけるネギ一行。

「こっちは私が引き受ける、いけっ!」

しかし、それでは木乃香がさらわれてしまうと追跡続行を促す。

「すまん、恩に着る。行きますよ、ネギ先生!」

刹那が追跡速度を戻し、ためらいつつも、ネギとアスナもそれに続く。

それを狙うようにまた短刀が飛来するが、此方も跳躍し、同様に防いだ

 

「なかなかやるやんか、姉ちゃん」

射線から推定した敵の方から突然に…恐らく瞬動で現れたのは、犬耳を生やした学ラン姿の少年だった。

「さっきのはお前か、犬耳の少年。犬猿の仲というけど、サルに犬が協力するのか」

「まあ、別に俺も姉ちゃんも犬でもサルでもあらへんしな…引いてくれるんやったら痛い目みいひんで済むで」

「はっはっは…今引いたら、向こうに合流するだろうが…瞬動を使えるならまだ間に合う」

丁度、先生達が猿の飛び込んだ列車に乗れたのが見えた。

「せやな、でもそれは姉ちゃんも一緒やろ?

やから…女を殴るんは趣味やないけど少し付き合うてもらうで」

「はっ、殴れるもんなら殴って見やがれ」

こうして私と犬耳少年の戦いが始まった。

 

 

 

「なかなかやるな」

少年の猛攻を凌ぎながら私は言った…直情的な攻めに見えて案外隙のない攻撃である。

「ほざけ!涼しい顔して全部受け流しとる癖に何言うとんねん…ギア上げてくで!」

「勘弁してくれ、疲れる」

とは言え、そろそろ仕込みは良いか。

宣言通り気の密度を上げて攻撃の手を強める少年に、私は少しバックステップを多めに受けに回る。

 

そして…私は少しバランスを崩した。

「貰うた!」

できた隙目掛けて攻撃をかけてくる少年。

 

魔法の射手 戒めの風矢

 

…に、わずか3本であるが無詠唱で発動した魔法の矢が襲いかかる。

 

「なっ」

「ノイマン・バベッジ・チューリング 魔法の射手 闇の7矢」

 

跳躍して距離をとりながら追撃に放った魔法の射手は…護符で戒めの風矢を防いでいたらしい少年を捉えきる事はできず、一本が掠めただけだった。

 

「へぇ…それが護符か。少し想定外だ…知っていれば雷にしたんだがな」

興味深げに呟いた私に少年が返す。

「姉ちゃん西洋魔術師かいな!っちゅうか杖もってへんやん!」

「そういえば言ってなかったな、ちなみに発動媒体は秘密だが身に着けているアクセサリーのどれかだとだけ言っておこうか。

だが、まあ神鳴流剣士だって陰陽術を使えるんだ、それくらい想定しておくべきじゃねぇか?」

と、挑発してみるが、まあ意図的に接近戦闘者だと思わせての奇襲的無詠唱魔法という、割と有効な手を用いたのは私である。

 

「へっ、それもそうやな、せやったらこっちも、もうちょい本気だすわ!」

「それは面倒くさい…というか、本隊は十分離れたし、もう良いんじゃないか?お互い」

「そういうわけにも行かへんわ、姉ちゃんみたいなすばしっこいの放置したら追いついてまうやろ」

「ならばもう少し相手をするか…」

「ほな、いくでっ」

 

少年の影が蠢き、犬の姿をした使い魔が現れる。

「なるほど、召還術師でもあるわけか」

「おう、狗神使いや」

私は、ぺしぺしと鉄扇で犬たちをいなしながら下がりつつ、詠唱に入る。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 雷の精霊23柱 集い来たりて敵を射て」

そして、発動の瞬間、後ろに跳ぶ。

「魔法の射手・散弾・雷の23矢」

少年を中心軸に放射状に放たれた魔法の矢が近くの犬を消し去り、離れた犬にも手傷を負わせる。

 

しかし、発動の瞬間少年が掻き消えた…ミスったか。

「もろうた」

着地までの瞬間を狙い、大きく回り込んだ少年がそう呟く。

しかし、私は空を蹴ってさらに大きく跳躍し、着地する…。

まだ糸なしだと成功率6割と言った所だが、糸を編む間もなかったので挑戦した結果、成功して良かった。

「おしい」

回り込めないように犬の分布ではなく少年を中心の散弾にしたんだが…うまくいくかもわからない虚空瞬動を使わせられてしまった。

 

「なっ…姉ちゃん、虚空瞬動まで使えるんかいな」

「まあ、まだまだ拙いけれどな」

と、さも予定通りと言った顔で、しかし内心冷や汗を流しながら少年と対峙しながら言う。

正直、ちょっとアレな技術なしの底は見せてしまった。

まあ、必要とあらば使うが、痛いし、体にも負担なので、少年がこの範囲で対処できる範囲だとよいのだが。

 

「はぁ~西洋魔術師の癖に武術で達人クラスって何やねん…

っちゅうか、ソレできるんやったら、俺の事無視して向こうの追跡できたんちゃうん?」

あきれたように少年が言う。

「一般生徒を狙うとは思わないが、ホテルの傍に敵を放置してソレはちょっとな…万一があると困るんでな」

「そんなことするかいな」

「まあ、一応という奴だよ…だから引いてくれるなら今夜は追わないでホテルで大人しく事の顛末を見届けるけど、どうだ?」

正直、私個人としては木乃香より聡美である。まあ、この少年が現れていなければホテルが襲撃されるとか考えずに追いかけていただろうが。

「っちゅうてもなぁ…おっ…丁度撤収の合図が来たから今日は帰るわ」

「おう、じゃあな…まあ結果の如何によらず、また会うだろうが」

木乃香がさらわれたなら奪還作戦で、刹那達が奪還に成功していれば次の襲撃で会う事になるはずである…が、まあ木乃香を守り切って修学旅行を終えられればこちらの勝ちなので逃がしても良いだろう、このまま戦闘を続けるのは私にとっても大きなリスクであるし。

「せやな…ま、それじゃあまた」

そう言って少年は帰っていった。

 

少年を見送った私はホテルに戻り、周囲に糸術で鳴子のように働く結界(物理)を構築してホテルの屋上で先生達の帰りを待つのであった。

 

 

 

「お帰り、刹那。木乃香は先生と一緒か?」

「ただいま、千雨。お嬢様は先生に任せて戻ってきた…ああ…明日はお嬢様達と班行動だ…どんな顔をして会えばいいんだ…」

刹那が困った顔で言う

「いや、嬉しいんだろ?ならニコニコしてればいいじゃないか」

「いや、だが私は本来お嬢様の護衛という立場さえおこがましい身分なんだぞ」

「前も言ったが、関東に鞍替えしているんだから関西での地位とか気にせんでいいだろう、

魔法の秘匿的な意味で傍にいられないと言っていたのは理解するが…まあもうばれただろうし」

こいつ、木乃香に本気で問い詰められたらどの程度抵抗できるかはともかく、魔法の事をゲロるのは確実である。

「というかだな、少なくとも護衛の件は親公認というか、親からの依頼なんだろう?

関西の某大物だって言う木乃香の親の」

「まあ…そうなんだが、だからといって身分も弁えずに御学友として親しく振る舞っても良い訳では…」

 

「はぁ…まあ、この話は置いておいて…情報交換だ、どんな敵だった?

こっちは犬耳の狗神使いの少年だった、腕は…私と近いくらいだな。

お互い底は見せてないが、あちらが完全に遊んでいたのでなければ私もお前も負ける事はないと思う。私が勝てるかは別として」

何度か話して既に結論が出ない(刹那の決断でしか結論の出しようがない)事が分かっている話題を打ち切り、実務の話題に入る。

「ふむ…犬耳の狗神使いと言う事は狗族の血を引いている可能性が高いか…獣化は使ったか?」

「いや…と言う事はまだ強化の余地はあったって事か?」

「血の濃さにもよるが、犬耳だったのならば程度はともかく獣化は使えるだろう」

「ん~単純に身体能力の強化だけなら…たぶん対応できるな」

女を殴るのは趣味ではない、と言うのが思いのほか本気で、すごく手加減していたとかならともかく。

 

「此方は猿の着ぐるみの女がやはり呪符使い、特段特徴はないが技量は…並よりは上だな。

そして…敵にも神鳴流剣士がついていた。大小二本の小太刀による二刀流で対人戦を得意としているようだ…技量は同格か少し下、得物の相性で不利、といった所か」

「うげっ…刹那と同格程度で対人特化の神鳴流剣士とか、最悪じゃねぇか…」

「まあ、お前なら一方的にやられる事はないだろう。今日見た程度から多少伸びた所でお前なら捌き切れるし、お前には虚空瞬動モドキと魔法があるだろう」

「…糸術の足場を見切ってくる近接戦闘の達人という時点で相性悪いんだよ」

ふてくされながら言う。私の機動力は不可視…とまではいえないが見えにくい空中の足場を糸術で自在に展開できる事が大きなアドバンテージである。

「あ~確かに、一本一本はともかく足場にできるほど纏まった地点は見切れるだろうなぁ…ある程度以上の神鳴流剣士なら」

もう少し虚空瞬動が使い物になればそれもフェイントにできるのだが、今はまだ見切られると機動が読まれるだけである。

 

「で、どうする?私はさほど疲れていないから、後で3時間ほど仮眠をもらえるならばこのまま見張りを続けられるが」

まあ、全く疲れていないといえば嘘になるが。

「すまんが、先に休ませてもらいたい」

「おう、わかった。お休み、刹那」

「お休み、千雨」

こうして、刹那を見送った私だったが、暫くしてから戻ってきた結局ネギ先生達も後片付けなどで疲れており、結局、私が仮眠を取れたのは空が白み始めた頃の事だった。

 




小太郎君が前倒しで登場しました。小太郎君が手札として使えるなら月詠さんが到着駅にいたように、逃走支援に配置しておくべきなんすよね。フェイトの見張りとか子供は夜は寝とけと千草さんが寝かせたとか、思いの外、手ごわかったので呼び寄せられたとかいろいろ説もありますが(
ちなみに、小太郎君を千雨さんが引き受けると言って刹那はとっとと行って、ネギ君とアスナさんが躊躇ったのは、千雨さんが割と戦えるのを知っていたか否かの差です(実はネギ君の前で戦った事ないどころか、戦えるとも言った事なかったはずです、千雨さん(厳密には茶々丸の相手位、とは言っていますが)まあ、せっちゃんはお嬢様優先思考も無いとは言い切れませんが
なお、投擲武器を弾いた辺りで女なんで殴りたくないけどそんな事言っていられる相手ではないとみなされています、千雨さん。


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27 修学旅行編 第3話 修学旅行 2日目

「千雨さん、そろそろ準備しないと朝ご飯に遅れますよ」

聡美に起こされ、目を覚ます。時計を確認するとギリギリ3時間は睡眠をとれたようではある。

「わかった、すぐ身支度する」

私は、急いで制服に着替え、最低限の身支度で朝食会場に向かうのであった。

 

 

 

朝食を済ませ、ロビーに出ると、ちょうどネギ先生の争奪戦をしていた。

「別に、班別で動けってだけなんだから複数班で先生を囲めばいいのにな」

「あ〜そう言う手もありますねぇ…でも意見調整が大変なのでは?」

「…それもそうか」

なお、うちの班の行動の基本は現地の美味しい店を探して食べる、であり、観光はその合間に行う事としてある。よって今日のメインは三輪素麺と柿の葉寿司であり、大仏はおまけである。

そして、ネギ先生争奪戦はのどかの5班が勝利した。

まあ、そりゃあ、そうなるわな…木乃香の守りを固めにゃならんのだし。

というか、本来は巡回しながら生徒達を監督するはずだが…まあいいか。

 

しかし、毎日宿をかえるのが大変だとは言え、よくもまあ、嵐山のホテルから奈良に観光に行く計画を立てたものである。…まあ、バスの移動なので、その間ぐっすり眠らせてもらえてこっちとしては助かるが。

 奈良では特に敵の襲撃などはなく、とても楽しい時間が過ごせたし、昼食に選んだ店は大当たりだったと言っておこう。

 

 

 

そして、事件は夕方、ホテルで起こった。

夜に備えて部屋で体を休めながらのんびりパソコンをいじっていると、ネギの大泣き声が聞こえ、同時に魔力の発動を感じ取った…ヤバい。

「む…ネギ坊主の泣き声カ、今の」

「たぶんそうですね…」

「うん、ちょっと様子を見てくるわ…これ案件だ」

と、コンコンと発動体であると聡美と超は知っている腕輪を叩いて言った。

 

 

 

泣き声の方向からどうも露天風呂から聞こえてきたらしく、そちらに向かうと同じ目的であろうアスナや委員長と遭遇した。

「あ、千雨ちゃんもさっきの泣き声を調べに?」

「ああ…たぶんあれ、ネギ先生だよな」

「たぶん…」

ひそひそとアスナと合意を取る。そして、露天風呂を調べると…そこには裸のネギと朝倉がいた…。

 

あ、ヤバくね?と言うか、オコジョルート入ってないかい、ネギ先生…?

 

それが、まず何より最初に私の脳裏によぎった言葉だった。

とはいえ、周囲はそれよりもネギと朝倉が裸で向かい合っていた事の方が重要で、その隙に刹那を呼びに行くのであった。

 

 

 

混乱もおさまり、ネギに服を着せて、まずは状況確認をしてみると、案の定、朝倉に魔法バレしたらしい、よりによって、パパラッチ娘の朝倉に、である。

「もーダメね。アンタ、世界中に正体ばれてオコジョにされて強制送還だわ」

そんなアスナのセリフも、まあ仕方のない事である、魔法バレ対策機関の存在を知らなければ。

「まあ、ぶっちゃけ、世界にばらす前に魔法使いの組織が介入して情報操作と記憶処理に入るだろうが…まあ、ネギ先生の運命は…うん、朝倉の影響力考えるとオコジョルートだわな」

聞いた限り、重過失付きの大規模漏洩であるのでどう考えてもアウトである。

「そんなぁ…一緒に朝倉さんを説得してくださいよ、アスナさん、千雨さん、刹那さん」

ネギが泣き顔で懇願して来る。

「…正直、説得してみてもいいが、記憶消して証拠も破棄するのが一番ではあるがな、ネギ先生の保身的には」

というか、それが正しい魔法の機密保持の筈であるが。

といった話をしていると、カモを肩に乗せた朝倉がやってきて、ネギの秘密を守る為のエージェントとして働くとのたまった…朝倉が?と言うか、ネガなり元データなり破棄させないと写真だけ渡されても何の意味もないんだが…。

 

一度解散した後、私は朝倉(と、カモ)を問い詰める事にした。

「オイ、朝倉…カモと一体どんな取引しやがった」

「いやだなぁ…千雨ちゃん…ちょっとした対価はもらうけれども、秘密はちゃんと守るよ?」

朝倉がうさん臭い笑顔でそう言った。

「と言うか、麻帆良の三賢者とまで呼ばれる天才女子中学生科学者の一角が魔法使いだったなんて…お釈迦様でも気がつくまい…ってやつ?」

おい、態度で関係者だと気付くのは良いが…

「オイ、エロガモ、てめぇ私の事までばらしやがったな?」

朝倉からカモをひったくってギュっとする。

「が、学者の姉さん、だ、駄目…それ駄目だ、あんこ出ちまう」

「学者?そういえば、カモ君、さっきも千雨ちゃんの事、学者の姉さんって言っていたよね」

朝倉が疑問符を出す

「ったく…魔法も単なる不思議な力ってわけじゃなくて学問として系統立てられていてね…私は、魔法に関しても研究者なんだよ…それで学者の姉さんってわけだ。ちなみに、賢者(マギ)と魔法使い(メイジ)は同一の語源…と言うかラテン語じゃあどっちもマギだったりするから、朝倉の言うほど変な事でもなかったりするぞ、実は」

そういって大きくため息をつく。

「ま、ネギ先生が朝倉を信じるって言うなら特に私からはなにもしねぇが…ネギ先生の信頼を裏切ってみろ、そん時は…わかってんな?」

少しだけ殺気を出して朝倉を威嚇しておく。まあどちらかと言うと、カモに一蓮托生にされてしまったからここまで怒っているのではあるが。

「大丈夫、10歳の少年をガチ泣きさせてまでスクープしたいとは思わないし」

朝倉は、恐怖をギリギリ読み取れる程度まで取り繕いながら、気丈にそう答えた。

 

 

 

朝倉を脅してから速攻部屋に戻った私は、とっとと布団に入り見回りのシフトに備えて睡眠をとろうとしたが、騒ぎまくるクラスメイトの騒音で体を休めるのが精いっぱいであった。そこに、鬼の新田のお説教が入ったらしく、一度は静かになった…。

のだが、朝倉の悪ふざけ、ネギ先生のくちびる争奪戦とやらに各班二人の参加を要請された…らしい(私は周りが静かになって寝入った所をクーに起こされた)。

仕方なく、私達はそのメンバー決めを行う事にした。

「で、2班からは誰が出る?」

「私、出たいアル」

「私はパスで」

「私も遠慮したいです」

フルフル(首を横に振っている)

クーがいち早く参加を宣言、聡美と五月、ザジは不参加…と。

一応、移動時間に仮眠を取ったので今晩は不眠に近くても大丈夫ではあるか、正直、私は見張りのシフトが来る前に少し寝たい。

不眠で活動できるというのと、睡眠欲が沸かないのは別問題なのである…今も寝ようとしていたのであるし。

 

「「私もパスで」ネ」

 

超と私が同時に宣言する…。

「いやぁ…私もできればこういうイベントは見学したいのダガ…千雨サン?」

「…すまんが、明日もあるし、少しは寝ておきたい」

「む?明日は大阪で食事だから多少寝不足でも問題ないと違うアルよ?」

「アーそれは…」

「なら、千雨、ウルティマホラ優勝・準優勝ペアで行くアル」

クーに突っ込みを貰い、畳み掛けられる…。

しまった、超との会話のつもりで、魔法と直接関連ないからミスったか…というか思ったより頭の周りが悪くなっているのか…眠気とる魔法使っておけばよかった。

「むっ…千雨さんが出るくらいならば私が出ますよ?」

「いや、ハカセ、委員長とかえでサンのペアとか出てくるだろうにそれは危険ヨ」

「でも千雨さんの睡眠時間が…」

「二人とも何の話アル?」

事情を知る聡美と超の会話にクーが疑問を挟む。

「…わかったネ、私が出よう…ただしクーのサポートだけヨ。ネギ坊主の唇に興味はないから、クーが離脱したら私は棄権するからナ」

「ありがとう、すまんが頼む」

という事になり、私はとっとと布団に入った。

 

そして、日が替わる頃に起きてアスナと刹那と警戒を交代したのだが、その日は特に襲撃などはなく、無事に過ごす事が出来た…が…。

 

 

さて、翌日の食事中に聞いた話ではあるが、くちびる争奪戦とやらの大まかな経過は以下の通り。

 

まず参加者は1班が鳴滝姉妹、我らが2班がクーと超、3班が委員長と楓、4班が裕奈とまき絵、そして5班が夕映とのどか。

まず、3班と4班の遭遇戦が勃発、3班が有利に戦闘を進めていたが、そこに我らが2班…というかクーが乱入し乱戦に突入。しばらく後、超による(中国語での)新田接近警告により、クーが裕奈を撃破して逃走、警告を理解できた委員長も楓と共に逃走した。

そして場に残されて裕奈と、彼女を介抱しようとしたまき絵が合わせて新田に捕獲され、4班が全滅した。

一方、1班は屋根裏を、5班は屋外、軒下を迂回して先生の部屋に接近するもバッティング、夕映が殿となり、のどかを部屋に突入させた。直後、2班、3班が到着し、乱戦の様相を呈するも、ネギ先生の逃亡により、5班の王手は解消されて振出しに戻った。

 各班散会してネギ先生を捜索し…各班の前にネギ先生が出現し…キスを求めた。1班が喧嘩している(史伽の方にキスを求めたので、姉妹喧嘩勃発)間に、2班のクーが照れている間に、3班のまき絵が失格しているけどいいのかなぁ…とか宣って相談している間に、4班の委員長が身支度と記録装置をセットしている間に…夕映がそのネギ先生が偽物と気付き、後頭部を本で強打して偽物を消し去った…身代わりの符術だろうな…

 すると、ネギ先生たちはロビーに集結し、状況は混乱。超のサポートの下、いち早くそのうち一体にキスをしたクーだが、偽物のネギ先生は爆発、クーは失神…という事で超が部屋に回収してきて2班はリタイア。同時に、爆発を聞きつけた新田を偽物のネギ先生達がノックアウト、後には引けない戦いとなった。(2班はちゃっかりリタイアして安全地帯に退避しているが)

 まず、残り3体のうち、1体を鳴滝姉妹が捕獲し、両頬にそれぞれキスをし、ハズレ、爆発し、1班全滅。次に委員長が1体を捕獲し、唇にキス、ハズレ、爆発。そして残るは3班楓と5班の夕映とのどか。のどかの前に現れたラスト1体がのどかにキスをしようとしたところで、夕映が後頭部を強打、のどかと引き離した直後に爆発した。

 そして、そこに見回りから戻ったネギ先生が登場。のどかと何かを話したのち、夕映に足を引っかけられたのどかが事故チュー、くちびる争奪戦の勝者となった…。

と言った所で終われば、一応めでたしめでたしであるのだが、参加者並びに主催者一同は撤退に成功した2班を除いて新田に捕獲され、朝までロビーで正座させられる事となったのであった(一応、空が白み始めた頃には解放され、3時間程度は寝られたらしい)。

 

 

 

と言う訳で、ネギ先生がロビーで正座させられていたせいでシフトがうまく回らず、睡眠時間はさほど長く取れなかった…朝倉め。

 

 

 




ネギ君のくちびる争奪戦の参加者は超さんルートと千雨ちゃんルートで悩んでいましたが、ハカセの千雨ちゃんの睡眠時間を確保したいという願いで超さんが出る事になりました。うちのコンセプト、休息はしっかりとろう、なので(魔法で眠気をごまかせるのと体に負担がかからないのは別問題。まあ最低限の睡眠というモノのラインは確かに短くなるのだけれども。
 ちなみに、電子精霊はノーパソで一部だけ連れてきているので監視は手伝わせております。ただ、最悪見逃してもいい、目立つ事象を監視させた桜通りの時とは違うので、本人も起きてしっかり警戒していなくてはならんので寝ていられるわけではございません。(と言うか、瀬流彦先生の存在しったら無駄な努力だったと逆切れかますやつです。

・朝倉の千雨さん紹介
25番 長谷川千雨
天才その3
文武両道の体現者
昨年ウルティマホラ準優勝
なんだかんだで面倒見もよい

と、言った所でカモ君が魔法使いだと口を滑らせちまったわけですね、学者の姉さん、魔法使いなのに格闘もできるのかよ、って。


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28 修学旅行編 第4話 修学旅行 3日目

微妙にグロいと言うか流血…?アリです


三日目の朝食後、私とアスナは朝倉とカモ、ついでにネギを問い詰めていた。

「で、私は仮眠とっていたからまだ詳細は聞いてないが、魔法の秘匿と仮契約をなんだと思っているんだ、朝倉、カモ」

「そうよ、こんなに一杯カード作っちゃって、いったいどう責任とるつもりなのよ、ネギ」

「えうっ!?僕ですか!?」

「まあまあ、姐さん、学者の姉さん」

「そーだよ、アスナ、千雨ちゃん、もうかったって事でいいじゃん」

「朝倉とエロガモは黙ってて!」

「はい…」

「エロガモっ!?」

「…と言うか、この件が原因でクラスの連中に魔法バレしたら、確実にネギ巻き込んで、朝倉もオコジョルートだからな?」

「うげっ」

思い至っていなかったらしく、朝倉が悲鳴を上げる。

「本屋ちゃんは一般人なんだから、厄介事には巻き込んじゃだめだからね。

イベントの景品らしいからカードのコピー渡したのは仕方ないけど、マスターカードは使用禁止よ」

「魔法使いという事もバラさない方が良いでしょうね」

「そうですね、のどかさんにはすべて秘密にしておきます」

「…個人的にはコピーカード自体も渡したくないんだがなぁ…渡したの、正式な意味での複製カードだろ?」

「ああ…惜しいなぁ…あのカード強力そうなんだが」

カモが寝言をのたまう。やっぱこいつ、ネギをオコジョにしたいんじゃなかろうか、と邪推さえ湧いてくる。

「まあいいや、姐さんにもカードの複製を渡しておくぜ」

カモがそういって、複製カードの説明を始めた…。

「というか、アスナのアーティファクト、ハリセンなんだな…絵は刀剣なのに」

「うん…なぜかね。でもあんまり物騒じゃないからいいじゃない」

「アスナのそういう所を汲んでいるのかねぇ…あんまりそういう例は聞いた事が無いが…てか、そもそも研究の進んでない分野でもあるが」

「でも、破魔の剣としての対魔法・対召喚獣送還能力はハリセンでも健在だぜ、障壁破りとか」

「うっへ…陰陽術師泣くだろ…それ」

「まあ、当てられなきゃ意味ないんだけれどね」

「それもそうだな…さて、今日の自由行動だけれど、私の班、大阪観光なんだが…大丈夫か?」

「ええ、お嬢様の護衛はお任せください」

「はい、日の高いうちにアスナさんと親書を届けてしまう予定です、千雨さんは観光を楽しんできてください」

「それじゃあ頼む…どうしようもない事になりそうなら、メールか電話してくれ。移動に一時間ほどかかるが、急いで戻るから」

「うん、わかった。ネギの事は任せておいて」

こうして、私は大阪観光を楽しめる事となった。

 

 

 

「美味しいですね…濃厚な餡に、それを受け止められるほど皮もしっかりしていて…」

「むむ…さすがは肉まん界の西の王者ネ」

「美味しいアル」

「(コクコク)」

「人肌程度まで温くなったのも別の味わいがあっていいらしいぞ」

「へぇ~楽しみですねぇ…」

と言う訳で、私達2班は大阪に移動し、まずは肉まんを購入して食べていた。

五月もそうしているように、しっかりとした皮と濃厚な餡の組み合わせは極めて美味で、独特の強い匂いが嗅いだだけでお腹がすくと言われるのもよくわかった。

まあ、癖のある匂いではあるし、苦手な人は苦手なんだろうが。

 

 

 

美味しい昼食を堪能しているとアスナからメールが入った。

急いで確認すると目的地寸前で敵からの妨害にあったが、無事に脱出できた事…それとのどかに魔法がばれた事が書いてあった。

そしてどうやら、妨害してきた相手は一昨日の犬耳の少年らしい。

「千雨さん…向こうで何かありました?」

「ああ、だが、もう解決したらしいから急いで戻る必要はないそうだ」

心配そうに聞いてくる聡美に、私はそう返し、アスナからのメールに了解と返事をしておいた。

…犬耳の少年が『一昨日の姉ちゃんは楽しめたのに、何や男の癖に情けない』とか言っていたらしいが、気にしないでおく。

それがどうもネギの闘争心に火をつけたらしい事も。

 

 

 

京都への帰還途中、またもやアスナと刹那からメールがあった。

今度は割と深刻な事態ではあるが…同時に解決もしているようであった。

内容を統合すると、次のようになる。

 

 白昼堂々、木乃香に攻撃を仕掛けてきた敵に対して刹那は木乃香を連れてシネマ村に逃亡。

しかし、敵は突発劇に見せかけて木乃香の誘拐を強行し、結果刹那が肩を貫かれる大怪我を負い、屋根から落下した。

それを木乃香が追いかけて飛び降り、光と共に着地、しかも刹那の怪我が治っていた。

 この事態を受けて、刹那はアスナたちと合流、本山へ逃げ込む事にした…が。

なんと、刹那の荷物に放り込まれていたGPS付き携帯により朝倉ならびに他の5班メンバーが追跡に成功してしまった。

やむを得ずそのまま本山に逃げ込み、親書の手交と庇護下に入る事に成功したらしい。

しかも、そこは木乃香の実家だったと言うオチまでついていたらしい…。

 

ってつまり、木乃香の奴、関西の大物は大物でも、長の娘かよ…そりゃあ血統的にも人質的にも狙われるわけである…。

 加えて刹那からのメールには、もうクラスが狙われる事はないだろうが念のために警戒を頼む、と書いてあった。

「はぁ…それでそうなるわけか…まあ、今夜はちゃんと眠れそうだな」

「問題は解決したんですか?」

「ああ、そう言って良いだろう。狙われる要因が全てこっちの組織の庇護下に入ったから私達はもう安心だろうってさ」

「それはよかったネ…千雨サンが無茶するとハカセの機嫌が悪くなるヨ」

「ちょっと、超さん」

「ダガ、事実だろう?」

「むぅ…事実ではありますが」

「…すまん」

割と本気で、私は二人に謝った。

もっとも、次に同じような事があったとしても無茶の範囲(無理ではない範囲)で、同じような事をするだろうけれども。

 

 

 

そして…肩の荷が降りてホテルの温泉を堪能し、ロビーで聡美とクーとで寛いでいると、近くにいた楓の携帯に着信が入った。

…なんだろう、そこはかとなくいやな予感がする。

あー聞こえてくる会話はどう解釈しても夕映からの救援要請で…夕映は今、ネギ先生と本山にいるはずなのだ。

「あー真名、クー、それと千雨…ちょっと話が有るでござる」

そう言って、楓がちょいちょいと私とクーを招く。

「千雨さん…」

「…うん、すまない、聡美。問題は解決してなかったっぽい…」

「おろ。千雨とハカセは事情をつかんでいるでござるか?」

「うーん…とりあえず、場所を移すか」

そう言って、私は場所を移す事を提案した。

 

 

 

「あーとりあえず、楓から説明を頼むか?」

私達…私、聡美、楓、クー、真名の5名…は人気のない場所に移動し、楓に説明を求める。

「ウム…先ほどリーダー…夕映殿から救援要請があったのでござる。

リーダー達はどうやら木乃香殿の実家に泊まっていたらしいのだが、突然現れた少年に共に泊まっていた皆が石とされ、

何とか逃されたリーダーが救援を要請してきた…という事しかわからんでござる」

「やばいな…詳しい経緯は向かいながら説明するが…端的かつ私達的には、木乃香がさらわれて、さらにやばい事になりそう、位の理解でいい」

「まあ、大体状況は察した。依頼料は刹那なり木乃香の親なりから頂けそうであるし…私は参加で」

「よくわからないアルが、強い敵と戦えそうなら私も参加するアル」

楓と私の説明に、真名とクーが参戦を表明する。

「私も乗りかかった船なんでな…当然参戦だ。悪い、ちょっと出てくる、聡美」

「全く…状況が大変そうなんで、無茶まではしても良いですが…無理しちゃ駄目ですよ?千雨さん。

超さんと一緒に、何とか千雨さんと皆さんが抜け出した事がばれないように工作しておきますから」

聡美がため息をついて、そう言った。

「うん…善処はする」

とは言え、範囲石化魔法を使える相手がいる時点で交戦すれば無茶をする事は確定、無理も…たぶんする事になるだろう。

 

 

 

身支度を手早く整えた私達4人は電車で本山に向かっていた。その中で現在判明している敵情を説明する。

「ふむ…呪符使い、二刀流神鳴流剣士、狼男の狗神使いに、石化魔法を使った魔法使いの少年…か」

「ああ、それに加えて既に木乃香がさらわれていたら多分だが式や妖怪の類が大量召喚されると思う。

加えて、こっちの組織の総本部を襲撃したって事は、木乃香の魔力か血統で使える切り札的な何かを掌握しようとしていると推測できる」

「それは厄介でござるな」

「まあ、技量不明の魔法使いの少年以外はこの面子と刹那なら…一方的に負ける事はねぇと思う…クーは妖怪の相手な」

流石に、クーは技量はともかく気の出力的に他の面子の相手は無理である。

 

「さて…ちょっと私は無茶の準備をするから…少し集中するぞ…見苦しいだろうが気にするな」

そう言って私は無茶の用意をするため、皮下に埋め込んだ魔導糸を操作する。

 

ぐっあっ

 

痛みを必死にかみ殺しながら、無茶をする為に体中に仕込んである、とある呪紋回路をアクティブにしていく…

「ちょ、千雨!?皮膚の下で何か蠢いてるアルよ!」

「いつ見てもグロいな、それ」

「…痛そうでござるな」

とまあ、そんな感想通りの感覚に耐えながら切断してあった回路を繋ぐ…。

コレでいつでも無茶ができるようになったわけだ…コレをやっている事自体が無茶でもあるともいえるが…。

 

 

 

最初の目的地、関西呪術協会の総本山に到着した私達は石化した屋敷の人々と、少し遠くに渦巻く竜巻を見つけた。

「アレだな。楓、悪いが斥候を頼めるか?私達は警戒しながらあの竜巻に向かう」

真名が楓にそう言った。

「あい、わかったでござる」

楓の姿が掻き消えた。

「さて、千雨は木々の上のほうを移動して、ナビゲートを頼めるか?」

「ああ」

「では、行こう」

「応」

 

少し森の中を走っていると大きな音と共に竜巻が消え去ったのが確認できた。

「竜巻が消えて、雷の暴風らしき魔法の発動が確認できた、恐らく包囲の一点突破を試みている。

加えて、誰かが雷の暴風の射線方向に離脱、軌道から見て杖による飛行術、恐らくネギ先生だ」

「ならば、我々はその集団を相手にする公算が高いかな」

 

さらに少し行くと楓が戻ってきた。

「竜巻のあった地点で刹那とアスナ殿が化生の群れを足止め、ネギ坊主は奥の湖に向かったでござる」

「了解、私、クー、千雨は刹那達と合流し、状況を確認して妖怪たちの相手、楓は先生の支援と余力があれば綾瀬の捜索・回収を頼む」

「了解でござる」

「状況次第だが、まず私の狙撃で指揮官級を削る、千雨は一撃目の発砲にあわせて詠唱を開始してでかいのをぶち込め、【無茶】をしろ、それで後が楽になる」

「あいよ…しゃあねぇな…その後は自由でいいか?」

「ああ、わかっているとは思うが互いに射線には気をつけよう」

「私はどうするアル?」

「クーは…まあ、まずは私の傍にいてくれ」

 

 

 

真名の狙撃を合図に左右から十字砲火をかける事にした私達は別々の地点に移動した。

「さて…アスナがピンチか、となると初撃はあそこか」

中空糸で雷魔法と風魔法を増幅・補助する魔法陣を左右の手の甲にそれぞれ刻んだ私は、それぞれの一端を血管に突き刺す。

すると毛細管現象と血圧により、あっという間に血による魔法陣…呪血紋が出来上がり、反対側の端から血が滲み始める。

 

パスッ

 

それとほぼ同時にそんな音と共にアスナを捉えていた烏族の眉間が打ち抜かれ、次々に狙撃が行われる

「始まった…ノイマン・バベッジ・チューリング 来たれ雷精 風の精 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐 雷の暴風」

味方(アスナと刹那)を射線から外す為、中央から外れたそれは、しかし10を超える敵を屠る事に成功したようだ。

…丁度、真名の登場と口上にかぶったので第二の奇襲となったのもある。

 

ドクン

 

魔法陣が鼓動して、魔力を失い、汚染された血を排出し、新たな血が補充される…

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 来れ 虚空の雷 薙ぎ払え」

 

それを感じながら私は次の詠唱に入りつつ敵集団に向けて跳躍した

 

「雷の斧」

 

発動した魔法は少し大きめの、小隊長クラスに思える鬼に直撃した。

 

「どこがもう大丈夫、だアスナ。ばっちり厄介ごとになっているじゃないか」

「千雨ちゃん!?あんた、そんな強そうな魔法使えたの!?」

のん気にもアスナがそんな事を聞いてくる。

「おう、ちょっとばかし無茶が必要だけれどもな」

そういいながら、私は流血量を減らすため、風魔法側の血管にさしていた糸を抜く。

 

「ふん、西洋魔術師が敵前に飛び込んできてからに」

 

そう言って烏族の戦士が一人切りかかってくる。

その斬撃を鉄扇で受け流した私は、そのままその戦士を投げ飛ばし、気…と魔力を先ほど繋ぎなおした呪紋回路…咸卦法を基にした類似の効果を持つ…に供給し、頭をふみ砕いた。

「残念、こっちも使えるんでね…さあ、向こうに帰りたい奴からかかって来い、来なけりゃまた魔法で薙ぎ払ってやる」

私は不敵に笑い、そう啖呵を切った…。

とは言え、この咸卦の呪法の呪紋回路を発動させていると魔法を使うたびに皮下の補助魔法陣(血液使用の呪血紋とは別の呪紋)がピリピリ痛むので、あまり大きな魔法は使いたくないのだが。

 

 

 

「えらいすばしっこいのう、嬢ちゃん」

鬼の指揮官らしき大きな個体が私に言う。

「どうも、ソレが自慢でね…雑兵どもならもうちょい、いけるぜ?」

 

魔法の射手 光の3矢

 

鬼の雑兵や戦士に半包囲されながら、隙を見つけては魔法の矢を無詠唱で打ち込む単純作業を私はこなしていた…神経は磨り減るが、幸い、まだ無傷である。

「はっはっは…ならば追加や、行け、お前ら」

その号令に合わせて私を囲むように鬼が追加される…狙い通りである。

一斉攻撃で宙に逃れざるを得なくなった私に槍の追撃、ソレを私はさらに糸の足場で跳躍してかわす。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 雷の精霊47柱 集い来りて敵を射て 魔法の射手 連弾 雷の47矢」

上空から私を囲んでいた雑兵たちに雷の矢が降り注ぎ、その過半を送還した。

「おっと」

さらに、宙を蹴り、大鬼から距離をとる…しっかり落下点を狙って構えていたので…失敗すれば…まあ咸卦の呪法の出力なら受け切れただろう、という感じである。

「ほう…武術もいける西洋魔術師がこんなに厄介やとはおもうとらんかったわ…ならワシも楽しめそうやな!」

指揮官らしく、ドンと構えてくれればいいのに、その鬼は間合いを一気に詰めてその手に待った金棒を振り下ろしてくるのであった。

「勘弁してくれ」

そういいながら、私は鉄扇で金棒の軌道を払うようにして僅かにずらし、直撃を避けながら大鬼の懐にもぐりこみ、左膝に掌打を浴びせてすれ違う。

「うぉつとおぉぉぉぉ」

ほんの少しだけバランスを崩した鬼は私の糸で引っ張られてさらにバランスを崩し、前のめりにたたらをふむ。

 

魔法の射手 収束・光の3矢

 

大鬼に向き直った私は、詠唱魔法を叩き込む隙は無いと無詠唱魔法を肩にあて、深追いはせずにカバーに入った雑兵の残党を牽制する。

「何や、嬢ちゃん、まだ隠し玉もってたんかいな…右肩に力が入らん」

大鬼がのっそりと立ち上がる

「はっはっは…取って置きのタイミングで大物喰いするつもりだったんだがなぁ…」

本当は転ばせて雷の斧を叩き込む予定であった。

「まあ、流石にあっさりやられてまうと親分格としての面子が立たんもんでな…それにせっかく久しぶりに呼ばれたんや、しっかり楽しませてや」

大鬼はそう言って、楽しそうに笑った。

 

 

 

 大鬼たちと戯れつつ、雑兵たちを削り、ダメージを蓄積させていると、湖から立ち上る光が強くなり、頭の前後に顔があり、腕が4本生えた巨大な鬼が現れた。

「チッ…あれが敵の切り札かっ」

「ネギのやつ、間に合わなかったの!?」

「わかりません、でも助けに行かなければ」

確かに、状況は酷く悪化した。最悪撤退するにせよ、少なくともネギの回収を試みるべきか。

「大鬼のおっさん、わりいな、すこし席外すわ」

「おい、まちやっ…ぐっ」

大鬼は、まだまだ戦えるものの、機敏に戦場を駆ける事ができるほどの余力は残っていない様であった。

 

「刹那、アスナ、道を開く」

瞬動術で刹那とアスナの側に跳躍した私はそう言って詠唱を開始した。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 闇夜切り裂く一条の光 わが手に宿りて敵を喰らえ 白き雷」

私が開いたのは細い道にすぎなかったが、刹那であれば、多少消耗するにせよ、十分にアスナと共に通れる道ではあった。

 

ドドンッ

 

「行けっ、刹那!あの可愛らしい先生を助けに!」

その道を真名の援護射撃が確かな道とした。

「しかし…」

私達を案じてか、一瞬ためらう刹那であった

「ここは私達に任せるアルよ!」

「大丈夫だ、仕事料ははずんでもらうがな!」

「迅速に全滅させろとでも言われなければ何とでもなる、行けっ」

「…すまない!行きましょう明日菜さん!」

刹那とアスナは身を翻し、再び閉じようとしている道を強引に突破し、湖の方へと向かった。

「センパイ~逃げるんどすかぁ~~」

それを二刀流神鳴流剣士が追撃しようとする。

 

ドドンッ ガィンガキン

 

「あや…あーん邪魔しはってー神鳴流に飛び道具は効きまへんえー」

「知っているよ…」

そういって銃を構える真名

「千雨!チェンジだ、こいつを押さえておいてくれ、お前が一番相性がマシだ!」

「って おい!」

既に刹那たちが置いていった鬼の一部と戦闘に入っていた私は思わず叫んだ

「倒せとは言わん、他が片付くまで相手をしていてくれればそれでいい!」

そう叫ぶ真名の援護射撃が私の周りの鬼の足を止める…早く来いと言わんばかりに…

招かれるままに跳躍し、真名と並んで二刀流の神鳴流剣士と対峙する。

「およ、そっちの鉄扇使い…と言うか西洋魔術師のお姉さんがお相手ですかーまあ、ウチとしては楽しめそうですし、構いまへんよ~?」

「いや、西洋魔術師の嬢ちゃんはワシが先約やろ?」

いつの間にか、先ほどの大鬼もやってきていた。

「あや、千雨、大人気アルね」

クーは私が少しだけ相手をしていた鬼達が刹那たちを追撃しないように相手をしつつのんきにいう

「悪いが、私も手一杯なんでな、頑張れ、お前なら何とかなる」

真名も大物の烏族やらと乱戦をしながら叫ぶ

「ええい、わかったよ、両方纏めて相手してやる、かかってこいや!」

私は、咸卦の呪法の出力を実用限界まで上げながらやけくそ気味にそう叫んだ。

「「なら…いくで、嬢ちゃん」いきますえ、お姉さん」

そうして、私は出来れば一人ずつかかってきて欲しい相手を二人同時に相手取る事になったのであった。

 

 

 

「ぐっ、ちょっ死ぬって、コレ!」

「それだけ喋れはるならまだまだいけますえ」

「そうそう、ちゅうかワシと手下ども同時に相手しとったやんか、嬢ちゃん」

神鳴流剣士と大鬼の二人の相手を始めて1分ほど、にわかとは言え二人の連携攻撃を必死に捌いてはいるものの、既に服には複数の傷が見られる。咸卦の呪法の防御を突破されるような攻撃を喰らい、傷を負うのも時間の問題と言った所であろうか。そうなれば戦況は次第に悪化していく…となれば呼吸を乱して賭けに出るべきであるか。

 

ぱしっ きぃん

 

今まで受け流してばかりいた神鳴流剣士の大刀での斬撃を鉄扇で受け、小刀の突きを発動体でもあるバンクルで流し…二の腕に浅い切り傷を貰ったが…腕を取って投げる。

 

「ありゃあ」

「おっ」

 

とはいえ、状況は1対2、当然のようにすぐ復帰して来るであろう彼女の隙を大鬼がフォローする様に殴りかかってくる…よし、乗ってきたと瞬動術による跳躍により、大鬼で剣士と互いが見えない位置取りとし、大鬼に向く。今だ。

 

魔法の射手 散弾・雷の7矢。

 

跳躍直後から溜め始めておいた無詠唱で放たれた雷の7矢はとっさに防御した大鬼に一本…こちらはたいして効いていない…と、大鬼の影から飛び出してきて、状況判断が一瞬おくれた剣士にあたった。

 

魔法の射手 光の3矢。

 

「くっ…やりはりますなぁ!」

追撃でさらに3矢、これは直撃の一矢が見事に切り払われ、他二本が服を焦がすように飛んで行った

 

「せやけど、甘いわ!」

その隙に接近した大鬼の横なぎ、しかし予測通りのそれを少し踏み込み、鉄扇で強打した

 

「むぉっ」

 

結果、回転力を支えきれず、大鬼の金棒は遠くに吹っ飛んでいった…

 

「そいやぁ」

 

そして案の定、切りかかってきた剣士の一撃は大鬼の脇を跳躍して回避した。

 

「さぁて…仕切り直しと行こうか」

と、まだまだ余裕があるかのように振る舞う私。正直、冷や汗ものであるし、本来、断罪の剣擬きで腕ごと切り落とす算段だったのだがタイミングを少しミスして強打、得物のみとなった…あの腕、まだ使えるよなぁ…

「いやはや、得物を失ってもうたか…まあ、まだ右肩痛むし、左の手首もジンジンするけどぶん殴るくらいは出来るかいの」

楽しそうに笑う大鬼

「おねぇさん、やっぱ面白い人やわぁ」

これまた楽しそうに笑う神鳴流剣士…これだから戦闘狂共は…

内心、あきれつつ、戦いを再開する私達であった。

 

 

 

今度は何とか拮抗状態と呼べる状態を創り出していると、湖に突然、巨大な魔力の気配が現れる…それはよく知ったマスター、エヴァの物であった。

「おやまあ、これまたごっつい気配のモンが来おったな」

大鬼がそういうと、直後、湖の巨躯の鬼を包むように結界が発動した…あ、これ茶々丸の武装に入れた覚えがあるな、と思い、戦い自体がもう終わるものとして大きく距離を取った。

大鬼と剣士も様子を見る事にしたらしく、対峙しながら湖の方の結果を待つ事とした。

 

…そして、巨躯の鬼は、マスターの【おわるせかい】によって砕け散ったのであった。

 

「ふむ…どうやら勝負あったみたいやな」

私と対峙していた大鬼が言う。

「あんたらの勝ちや、どないする?ねぇちゃん達」

真名と対峙していた烏族が続けた。

「できれば私は終わりにしたいな…正直、疲れた」

と、私。

「私達は助っ人なんでな。そっちが退くなら戦いを続ける理由はない…弾代もタダじゃないしな」

と、真名。

「も~終わりアルか―暴れ足りないアルね」

と、麻帆良の戦闘狂、クー

「…お前はどうなんだ?神鳴流剣士」

クーを無視して真名が言った。

「そうですねーお給料分は働きましたし、センパイと戦えへんかったのは残念ですけど…鉄扇使いのお姉さん…千雨はんでしたか?との戦いもまあまあ楽しめましたし、ウチも帰りますぅ〜。

刹那センパイによろしゅうお伝えくださいな」

そう言って神鳴流剣士は去って行った。

「ほななー嬢ちゃん達」

「なかなか楽しめたぞ、拳銃使い!」

「さっきの坊ちゃん嬢ちゃん達にもよろしゅうなー」

「久しぶりに愉快やったわ。今度会った時は酒でも飲もう」

それに合わせて召喚された鬼たち口々に別れの言葉を帰って行った。

「ふ…私達、まだ未成年なんだがな」

「結構いい人たちだたアルね」

「私は疲れた…と言うか死ぬかと思ったぞ」

私達も口々にそう言って笑い合う

「さて、マスターが来ているのに放置したら後が怖い…私はちょっと湖の方に行ってくるが、二人はどうする?」

「私も行くアルよ」

「私もだ」

「じゃあ行くか」

そういって私達は湖に向かった。

 

 

 

湖の祭壇?が見える位置まで来ると、どうも様子がおかしかった。ネギらしき人影が茶々丸に介抱され、みんながそれを囲んでいる

「どうした!」

駆けてそばに寄った私は、開口一番そう聞いた

「千雨ちゃん!ネギが大変なの!」

「…部分石化…か」

「ええ…危険な状態です」

そう言って茶々丸がネギの状態を皆に説明する。ネギの魔法抵抗力が高すぎる為に石化の進行が遅く、首が石化した時点で呼吸ができなくなり、窒息死する、と。

「…ど、どうにかならないの、エヴァちゃん!!千雨ちゃん!!」

アスナが懇願するように叫ぶ。

「わっ…わわ私は治癒系の魔法は苦手なんだよ…不死身だから」

「…私も、傷の治療と毒や病気の自然治癒力強化位しか使えない…刹那、そう言う符ってないのか?仮にもここは西の総本山なんだろ!?」

「いえ…私はわかりませんし…あったとしても、すぐに取り出せる場所にあったのであれば長がそのようにネギ先生に言った事でしょう…」

「そんな…」

「昼に着くっていう応援部隊なら治せるかもしれねぇが…間に合わねぇっ」

「マスターのゲート…はマスター以外の生命体の移動はできないし…

畜生、せめて石化魔法を使えれば重ねがけして窒息だけでも防げたのに」

もう打つ手がない…そんな空気になったとき、刹那に促され、木乃香が言った

「あんな…アスナ…ウチ…ネギ君にチューしてもええ?」

こんな時に何を言い出すのかと思ったが、話を聞いてみると仮契約によって木乃香がシネマ村で刹那に対して見せたという治癒力を引き出す事ができれば…という事らしい…確かに、賭けてみる価値はあるな

そう思って見守っていると、ネギと木乃香の仮契約と共に、まばゆい光が広がり…なんと、ネギの石化どころか、私達の負った傷まで治ってしまったのである。

さらに、西の本山戻ると、先ほどの光は本山全体にまで届いていたらしく、石化していた人たちもみんな元通りとなっていたのであった。

 

 




偶に、ですが千雨さんは人手ないし西洋魔術師が欲しい時は刹那さんや真名さんに呼ばれてお仕事しています。
が、この女、魔力量が超一流を目指すには心もとない(無理とまではいわない)ので砲台じゃなくて戦車なのか自走砲なのかよくわからない存在として動きます。
そして、描写してないですが、雷属性の魔法を使うたびに血が少しずつドピュドピュ流出しています…グロイネ!(千雨曰く、半分外法、エヴァ曰く、血が体内に戻すのを躊躇われるほど汚染される呪法のどこに外法でない余地があるのかわからん
なお、その出血が1対2始まった時点での千雨ちゃん唯一の負傷です。
 最後の1対2は、大鬼がすでに大分ダメージ溜まっているし、即興連携なので何とかなる…と良いな、くらい。少なくとも一蹴はされないと踏んで、真名は千雨に任せました。

・ピリピリ痛む
軽くやけどした皮膚を強く押された感じ。色々無茶な事をやっているので。
現在、出力は理論値の6~7割程度で、単純合算よりは高出力ではありますが改良中。体への負担ましましかつ魔法を使うと麻酔無しだと常人ならば失神しても不思議ではないくらいの痛みを受ける代わりに理論値通りの出力が出る設計は完成している。
なお、この咸卦の呪法はあくまで肉体強化・物理魔法防御に限った擬似的な再現というか、咸卦法を参考にした別の術式で、対毒・対寒などの追加効果は得られません。
また、千雨さんが咸卦の呪法を常時待機させない理由は自動で咸卦法モドキをサポートするという性質の呪紋回路なので、通常の気の単独運用時には邪魔になるから。


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29 修学旅行編 第5話 修学旅行 4日目

西の総本山で少し仮眠をとり、旅館に帰還して暴走していたネギたちの身代わり式の後始末を手伝った私は朝食までもう一度仮眠をとり、朝食の後に聡美と朝風呂を楽しんできた。

 

「もう一度聞くヨ、昨晩はどこで何をしていたネ? さ、吐くヨロシ」

…部屋に戻ると超がクーに歯型の付いた肉まんを突き付けながらそう問うていた。

「むぐんっ。それは言えないアルネ」

どうやら歯形の主はクーの様で、なぜか肉まんを食べさせるという方法で尋問をしている様だ

「というか、千雨、帰ってきたアルね、千雨に聞くアルよ」

「ふふ…千雨サンの口が堅いのは承知の上ヨ…クーに聞いた方が効率的ネ、ほらっ」

と、超がクーに突き付けていた肉まんを口に押し込んだ。

 

そんな光景を尻目に、ザジはおいしそうに見えなくもない、何時もの無表情で肉まんを頬張っていた。

 

「あ、おかえりなさい、千雨さん、ハカセさん。お二人も肉まん食べますか?」

そして、五月は蒸籠を抱えてザジと超・クーペアの間におり、私達にも肉まんをくれた。

 

肉まんを受け取った私達は、広縁で向き合って座った。

「今度こそ、本当に事件解決なんですね、千雨さん」

「…少なくとも、私達にとっては、な…」

関西呪術協会の応援部隊先発隊は既に到着したと聞くし、実行犯も直接の首謀者は捕縛済み、事件の裏側の政治的案件に首を突っ込む気がなければおしまいといって問題がないはずである。

「よかったです…千雨さんが怪我しなくて」

「あーうん…」

実はかすり傷は負ったんだけれどもう治った、というべきか否か。心配をかけるし言わない方が良いか。

「別に、私、強さとか戦いとかにはこれっぽっちも興味はないんですけれど…

千雨さんが無茶をしたって聞くと、ちょっとだけ悔しくなります…貴女と肩を並べて戦えない自分が」

「聡美…」

「でも、やっぱり、私は戦えないですし…だから…待つしかできないんですけれども…」

「うん…ごめんな、心配かけて。でも、同じ様な事があればきっと同じように無茶をするんだと思う」

「ええ、千雨さんはそういう人なのもわかっていますし…だから、無茶はしてもいいですけれど、ちゃんと無事に帰ってきてくださいね、私もそれだけは譲れませんよ?」

しんみりとそういう会話をしながらやんわりと微笑みあう…。

 

…肉まんを口に捩じ込み合っている超とクーを横目に見ながら。

 

 

 

「お、良いね、いただき」

「千雨!京都観光に行くぞ!」

そんな状況をぶち壊しにしたのは部屋の扉を開けて乱入してきた朝倉のカメラのフラッシュとマスター…エヴァの一喝だった。

「えっ…エヴァ、こっちの長との待ち合わせは…」

と言いかけて気づく。私は班で相談していた予定を優先し、合流できるようなら合流する、と言った様に、時間的余裕はあるのだ…そうか、時間まで、観光をする気か。

「…いや、今日も班で食事に出かける予定だし、人数を増やせる店でもないんで、すいませんが…」

「お前は私の弟子だろう、キャンセルして供回り位しても罰は当たらん」

申し訳なさそうに私が言っても、聞きやしない…というか断ると暫く根に持つやつだ。

「あー」

私も料亭の昼食は楽しみにしていたのだが…マスターの機嫌を損ねる事による今後の不利益を概算する…。

うん、仕方ない…料亭のほうも人数を減らす分には申し訳ないが対応してくれるだろう…予約しているコースの代金分、キャンセル料払う事になると思うが。

「わ」

「まってください、エヴァンジェリンさん」

わかった、そう言おうとした時、聡美が割って入った。

「む、何だ、ハカセ」

「千雨さんを連れて行くなら…私も連れて行ってください」

どうしてそうなる…かは薄々想像がつくが。

「うむ、かまわんぞ。よし決まりだ、千雨とハカセは借りていくぞ!次はぼーやたちだ」

そう言ってエヴァは5班の部屋に向かっていった…。

「あーすまん。なんか、そういう事になったらしい…悪いが4人で楽しんできてくれ」

「ウム…エヴァンジェリンの傍若無人は今に始まった事ではないネ…

まあ、はしゃぐエヴァンジェリンのお守はネギ坊主に任せて観光を楽しんでくるとよいヨ、二人とも」

と、言う事で私と聡美は修学旅行4日目…実質最終日をエヴァ達と過ごす事が決定したのであった。

 

 

「マスター、満足いきましたか?」

「うむ、いった」

「楽しかったですね、千雨さん」

「ああ、一回目は妨害とかいろいろあったし、今回は純粋に楽しめたよ」

5班+朝倉、エヴァ、茶々丸、それに私達で清水寺を筆頭に再度京都観光をした私達は西の長との待ち合わせ場所に向かっていた。

 

「やあ、皆さん、休めましたか」

「どうもー長さん!」

西の長と合流した私達は、ネギの父親の別荘だという場所に案内されながら今回の事件の顛末を説明された。そして到着した別荘とやらは天文台に似た外観の建物だった。

中に入ると、そこは、とても心地の良い空間だった。

そして、さも当然の如く、図書館探検部4人組は吹き抜けに設置された巨大本棚に手を伸ばした…と言うか、私も英雄の別荘の蔵書とか、速攻漁りたい。

という事で、私も図書館探検部に加わって本をあさる事にした。

 

 

 

「なあ、長さん、この本って全部ネギ先生の所有物…って事でいいんですよね?」

「ええ、ネギ君が相続したとみなして問題ない筈です」

「なら先生…ちょっとここの本、借りて帰ってもいいかな…ちょっと研究で読みたかったけどマスターの書庫や図書館島の私が入れてもらえる場所に蔵書が無い本を何冊か見つけたんだよ…ドマイナーだったり、完全版が出る時に肝心の記述が削られているのに絶版になったりしていてさ」

そういって、脇に抱えた『閉鎖系箱庭世界の循環』『究極技法と類似する世界の諸技法考察』『人造異界を活用した資源問題解決法試論』の3冊の本をネギ先生に指す。

…本当はもっと探せば読みたい本がありそうだが、すぐ調べられる場所にあったのはこれで全部である…はずした本に読みたい本がないというと嘘になるが。

「千雨さん…まあ、魔法研究は稀少本にあたる必要も多々あるとは聞いてはますけれども…」

聡美がそんな言葉を漏らす。確かに工学研究はマイナーな内容や、逆に金字塔的な内容に関して古い論文にあたる位であるし。

「えっと…お貸しするのはかまいませんけど…荷物に入ります?ソレ」

「でしたら、ネギ君の持って帰りたい本と合わせて麻帆良にお送りしましょうか?」

「いいんですか?長さん」

「はい、それくらいでしたら…まあ宅配便で、とは行きませんので梱包を合わせて一週間弱は見て頂かないといけませんが」

「わぁ…ありがとうございます。それなら僕も」

そういいながらネギ先生も嬉々として本棚から本を抜き取り始めた。

 

「あ、それはそうと長さん…あの…父さんの事、聞いてもいいですか?」

「…ふむ、そうですね…」

「私達は外した方が良さそうですね」

そう言って私は聡美と下に降りようとする。

「いえ、ネギ君さえよければ…」

「千雨さんもよろしければ…ハカセさんもご興味があれば」

しかし、遠慮はしなくてよいと引き止められた。

「では、せっかくですし…かまいませんよね、千雨さん」

まあ、珍しく聡美も興味を持っているようなので聞いていくか。

「では…遠慮せずに」

「ええ…このか、刹那君、こっちへ…明日菜君も。あなた達にも色々話しておいたほうがよいでしょう」

こうして私達は、ネギ先生の父親…サウザンド・マスターと呼ばれた英雄、ナギ・スプリングフィールドの話を聞くのであった。

 

 

 

「楽しめたかナ?二人とも」

班部屋に戻った私達を超が迎えた。

「ああ、清水寺とか二度目の場所も心配事無しで行けばまた楽しめるもんだな」

「ええ…ちょっといけない話も聞けちゃいましたし」

厳密には、ハカセは協力者扱いであって関係者ではないのでナギ・スプリングフィールド周りの話はグレーゾーンである。

「まあ、楽しめたなら名によりヨ…こっちもなかなか美味だったネ」

そう言って、超は笑った。

「…超は楽しめたか?修学旅行」

「…ああ、いい思い出になったヨ」

「超さん…」

モラトリアムはあと僅かである…。

 

 

 




ハカセだって一緒にいられると思っていたのに連れて行かれるとなるとこれくらいはします。
そして、流れでハカセが話を聞いてしまった件…まあ仮に弟子入り編の別荘での話を聞いたところで躊躇わずマホラ祭編やらかしますが、この女も。チャチャゼロの言う所の悪人でもあるんで、ソレはソレ、これはこれの精神で(千雨と同じで傷ついたり罪悪感を覚えたりする心が無いとは言っていない

なお、記念写真のシーンは千雨とハカセは長と一緒に上の階にいました。

後、最後のシーンですが、魔法界の慣例として傭兵的な文化の問題から、首謀者格以外は色々な事に対して大分罪が軽いという設定だったりします。なので逆に首謀者の超は計画が成功しても失敗しても学園には残れないというのが共通認識だったりします。
 まあ、普通に考えて、ハカセや茶々丸も共同正犯、千雨さんも現時点でも従犯になる位は協力しているんですが、原作準拠なんで(流石に本人達も無処罰とは考えていないですし、しばらく雲隠れはしますが
…学園長が全部なかった事にする、と言うのは別の話


で、そろそろ先行して書いているストックで投稿できる分(巻き戻して訂正入れる可能性の低い分)が残り少なくなってきたので更新速度は落ちます。と言うか、麻帆良祭準備編あたりの途中から、実質本編でもある麻帆良祭編書き上げるまで暫く投稿が止まるかも…
…後、試合・手合わせを除けば、麻帆良祭終了まで、ガチ戦闘って発生しない可能性すら湧いてきたんですが…まあいいか(


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ねぎ弟子入り編
30 ねぎ弟子入り編 第1話 虚空瞬動術


 

修学旅行から帰った私は、その翌日の日曜日、一人(厳密には人形たちがいるが)、マスターの別荘内にいた。

 

シュッ 

 

魔法の射手 光の3矢

 

シュッ タッ

 

「うん…単発ならもう実戦で使えるし、連続使用も機動に専念すれば問題ないな」

目的は実戦の中でコツを掴んだ虚空瞬動をしっかりと自分の物にする為というのがまず1つ。

これで、糸術による足場を用いた瞬動による超高速・中距離跳躍と虚空瞬動による高速短距離跳躍を組み合わせて三次元機動の幅が広がるはずである。

 

「へぶっ」

次に、実験…元々虚空瞬動術をある程度収めたら、と考えていた事ではあるが、足以外での虚空瞬動的なもの…。

地面に転がされた時に色々な立ち上がり方があったり、転がったりして回避できるとかそういう事を虚空瞬動の応用で空中機動にも取り入れられないかと考えていたのだが…。

「これは流石に大分練習しないと使い物にはならないか」

何回かやってみた所、宙を肘で撃つように回転する事自体は割と何とかなりそうではあるが、

軽い体勢調節以上を望むならば回転モーメントの加減とかが難しく、思い描く通りの機動をするのには大分練習が必要そうだ。

 

 

 

「さて…」

一通りの基礎練習・反復練習・実験・読書等を終えた私は風呂を借りていつも宿泊に使っている部屋にやってきた。

そして、三つ目…咸卦の呪法の元ネタ…咸卦法の理解を深める修練である。

 

座禅を組み、精神を集中した私は両手にそれぞれ少しずつ気と魔力とを練り…合成した。

あっさりとやってのけられる気と魔力の合一ではあるが、之は初歩も初歩…気と魔力をどちらも相応に扱えるものがまじめに取り組めば多少の才能で到達できる…問題はここからである。

合成した咸卦の気を両の手に纏い、その感覚を確かめていく…。

 

ばしゅっ

 

途端、精神の集中が途切れ、気と魔力の合一が解けて散る…コレである。

瞑想状態やそれに類する状態では一定程度の熟練度さえあればさほど難しくないコレも、全身に纏って動きながら…どころか戦闘をしながら維持し続けるとなると非常に難しいのである。

しかも、気と魔力の合一は出力を増すにつれ指数関数的に難度が上昇していく為、単体の気や魔力を最大出力で纏った時を上回らねば意味が無いというオチまでつく。

しかし、十分な錬度に達すれば強大な身体能力強化や防御力、諸々のおまけまで付き、一部では一時的な存在の昇位とまで呼ばれる究極技法…それが咸卦法である。

 

何度もこれを繰り返し、少しずつ咸卦法への理解を深めていく…ネギの父親の別荘から借りた本の1つも、この為である…。

 

 

 

「…何やっているんだ?」

睡眠と食事、そして朝の鍛錬相当を終えた私が別荘の外に出ると、なにやら騒がしく、マスターの寝所でもあるロフトで取っ組み合いをするエヴァとアスナがいた。

「千雨さん!?どうして此方に」

「どうしてって…弟子の私がマスターの家に修練に来て可笑しいか?というか先生達こそどうして…」

「ええっと…エヴァンジェリンさんに弟子入りに来たんですが…なんかこうなってしまって…」

「えっ…本気で…?マスター、無茶苦茶スパルタだぞ?」

「はい、覚悟の上です」

ネギは、力強く、そう言った。

 

「仕方ない、今度の土曜日もう一度ここに来い、弟子にとるかどうかテストしてやる。それでいいだろう?」

少しして、アスナとの喧嘩を終えたマスターがネギにそう言った。

「え…あ、ありがとうございます!」

 

 

 

「…で、どうするんだ?マスター」

先生たちが帰った後、囲炉裏を囲みながら私は聞いた。

「まあ、私の扱きに耐えるだけの根性と覚悟があるかと最低限の才能があるかのテストでも何か考えるさ…

何も思いつかなければ貴様と戦わせても良いしな」

「…先生の戦っている所、桜通りの一件でしか知らんけど、聞いた限り、負ける気はしないぞ?」

流石に、エヴァに暫く師事した後は兎も角、今の時点で一対一でネギ先生に負けるほど私は弱くない。

「アホか、貴様のような奴を相手にどういった戦いをするかが主眼であって勝てと言うほど鬼畜ではないわ、一定時間耐えろとかならともかくな!」

あーまあそれなら妥当か。

「なら、ネギ先生を弟子にする気が無いわけじゃないんだな…面倒くさいというかと思ったんだが」

「面倒くさくはある、だがアレの京都での戦いを見る限り、戦いの方面でも中々の原石に見えた…ソレを磨いてみたくないといえば嘘になる。

…それに、詠春から本人が望むなら木乃香に色々教えてやって欲しいとも頼まれているしな…面倒を見るのが二人に増えようが三人に増えようが大差ない…

【弟子】でなく、戦いを教えて欲しい、ならば気が向いたら面倒見てやると即答するつもりだった位だ」

「あーなるほど」

たしかに、マスターはその辺りを区別するタイプだったな。

 

「それはそうと、京都の戦い、どうだった?死線というにはちょっと温いが中々苦戦していたようじゃないか、え?」

「…流石にあのクラスと1対2はキツイって、マスター…乱戦なら兎も角」

「まあ、慎重なお前にしては珍しく傷を負う覚悟で向かって行ったのは褒めてやろう、だが、もっと上手くやれた筈だ、お前ならば。

ああ言う賭けは手の内がはっきりとせん同格以上と戦う時は欠かせん物だ、いつも言っているようにな」

「はい、実感しました」

「うむ、さてそれではもう少しゆっくりして行け…自主練の成果、見せてもらうぞ、千雨」

「はい、マスター」

そうして、私は本日二回目の別荘と相成った。

 

 

 

「ほう、中々やるではないか」

マスターは私を制圧しながらそう言った。一応、1対3の耐久最長記録を大幅更新したのでその賞賛なんだろうが。

「いやはや、ついにこの域に達したか。もはやお前を討伐しようとすれば一流と呼ばれる連中を複数駆り出す必要があるぞ。まあ超一流と呼ばれる本物相手は微妙であるし、一流連中に勝てるかは別だが…

これで、先ほどの機動をしながら上位古代語呪文を放てるようになれば…できればあの勿体無い術式に頼らずに…最低限、中ボスを名乗っても恥ずかしくはないんがだなぁ…そっちはどうなんだ?千雨」

私から離れて服を叩きながらマスターが言った

「ええっと…何も補助無しなら駆け足しながら、通常の呪紋の補助だけなら瞬動無し程度の速度の回避運動を取りながら…血呪紋なら平面機動は何とか」

「ウム、もう少しだな、ならば少し練習しようか、手加減はしてやる、撃って来い!茶々丸、呪文の間隙を射撃で補助しろ」

そう言って、マスターは浮き上がった。

「はい、マスター」

茶々丸もアサルトライフルを構える

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 闇の精霊17柱 集い来りて敵を射て」

マスターの始動キーを聞いて私は空に舞う

「魔法の射手 連弾 闇の17矢!」

そして、マスターの魔法の矢と茶々丸の対空射撃を避けながら呪文詠唱をする練習を始めるのであった。

 

 

 

翌月曜日、ネギが授業後、告白名所である世界樹広場前の大階段にクーを呼び出した。

当然、クラスは大騒ぎであるが、私にはそれよりも大切なものがあった。

「大阪観光の成果、新作です、試してみてください」

「オオッ、待っていたネ」

「ふふ、五月の新作、オーナー特権で先に試したが良い出来だったヨ」

「わぁ〜超さんずるいです〜」

「うん…旨い」

「よろしければアスナさん達もどうぞ」

「わぁ〜良いの?さんきゅ!」

それは、五月の新作の肉まんである。

 

 

 

そして、放課後、超包子の商品としての観点から見た五月の新作というテーマで討議をしていた私達…超、五月、私、聡美…はクラスメールで流れたボーリングのお誘いにまとめて乗り、ワイワイとボーリングを楽しんでいた…私達は。

 なんか、よくわからんが、委員長とまき絵がクーに勝負を挑み、ついでにのどかが巻き込まれて、クーがパーフェクトを決めて圧勝していた…その前のラウンドでもパーフェクト決めていたので、24連続ストライクだな。

「で、結局、いったい何なんだ?」

「さぁ…?委員長さんの暴走具合から察するに、ネギ先生関連ですかね?」

「あー面子的にネギ先生ラブ勢だなぁ…クー以外…呼び出しの場で何かあったのか」

「そうですねぇ…」

と話していると、ネギ先生がさも告白かのような雰囲気でクーに中国拳法を教えて欲しいと請うた。

「…ネギ先生、エヴァンジェリンさんに師事したいって申し入れているって千雨さん、言っていませんでしたっけ?」

「アーうん…これ、マスターが知ったらへそ曲げる奴だってすぐわかりそうな…って、あぁそうか、ネギ先生、マスターが合気鉄扇術の達人だって知らない」

私の戦いの師匠だと言った覚えはあるが、合気鉄扇術もマスター直伝だとは言ってない気がする…と言うか、先生に合気鉄扇術自体も直接見せた事がない…と、なると魔法使いとしての総合戦闘技術をマスターから、格闘術をクーから学ぶ気だとしてもおかしくはないか。

「えぇ…それまずくないですか?」

「割とまずいなぁ…とりあえず弟子入りのテスト終わるまでは秘密で」

昨日話した時点では割と機嫌がよかったので無様な真似を見せなければ弟子入りが通ると思っていたが、これがバレると五分五分って所かなぁ…

 

 

 

と、思っていたのだが、木曜日放課後、別荘を使いに(修学旅行での一戦の反省点を潰せるまで、水曜と週末1回ずつの週二回から火曜日と木曜日と週末との週三回に増やしてもらっている)マスターの小屋を訪れると、やけに機嫌が悪いマスターに絡まれた。

「まったくぼーやとあの女ときたらぁっ」

話をよく聞いてみると、今朝、仕事帰りに世界樹前広場で中国拳法の自主練をしているネギ先生に遭遇し、ちょうど居合わせたまき絵の言動に激高し、弟子入りの条件を茶々丸に一撃入れる事、と言い渡したらしい。

「ちょっと待った、マスター、茶々丸の格闘プログラムは今でもアップデートしているんだ、そんなのネギが初見で一撃を与える確率とか1%もないぞ」

むしろ、成功されたら私と超の恥である。

「あの無礼なぼーや相手だ、まだ可能性があるだけ甘いと思うぞ、千雨」

マスターがむすっとした声で言う

「あーうん…とりあえず、一つだけ誤解を解いておくと、ネギ先生、マスターが合気鉄扇術の達人だって多分知らない。少なくとも、私はそうだって教えてない」

「はぁ?…あ、それもそうか…ぼーやの相手をする時は封印していたし、京都では使う余地が無かったからな」

マスターはそれから少し考えてからこう続けた。

「よし、ならば千雨、お前を仮想敵として派遣してやろう、それなら多少はましになるだろうさ」

「わかった、じゃあ今日のが終わったら行ってくる」

「ン…?ああ、そうだった、それで来たんだったな、ではいくか」

そんなやり取りをして、私とマスター、茶々丸とチャチャゼロ(最近茶々丸の頭によく乗っている茶々丸たち姉妹の長女…らしい)は別荘に降りて行った。

 




実質千雨さんの修行回。虚空瞬動を一応習得しました。そしてまたアホな事を考えて、マスターを呆れさせる準備をしているのと、咸卦法の独自解釈…と言うか自分を無にしながら戦えって無茶言うな、と言う感想を私が抱いてから咸卦法は魔力と気の合一もハードルが高い(本来相反する気と魔力の双方を相応に使いこなせる+ある程度の才能と修練が必要)がその先はさらに長い、という事にしてあります。
 そして、カンフーの練習を目撃した時のエヴァの態度も、後々明かされる合気鉄扇術の達人という設定を加味すれば、格闘含めて面倒見る気だったのにカンフー学び始めやがって…と言う理解になりまして…うん、割と激おこです、そして本作の茶々丸さんは格闘プログラムが原作より高性能なもの積んでますんで誤解がとけて慈悲が入りました(コンマ数パーセントの勝率が原作と同等の数パーセントに上がる程度とはいえ)
 

感想でございました理想郷への投稿ですが、投稿する事自体は問題ないのですが、誤字などのバージョン管理が大変なので、完結ないし麻帆良祭編終了後に考えさせて頂くという事で、ご了承ください。(後、宣言すれば済む話ですがあちらで投稿していた頃は百合無しで行くと言っていたのもありまして


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31 ネギ弟子入り編 第2話 弟子入り試験

 

「おっ、いたいた、おーい、クー、ネギ先生~!」

夕刻、世界樹近くの広場で組み手をしているクーとネギを見つけて声をかける。

「千雨さん、こんにちは」

「お、千雨、どうしたアルか?」

「それがな、マスター…エヴァから慈悲が入った。仮想敵として私を使っても構わん、との事だ」

「…どういう事アル?」

首をかしげるクーに事情を説明する…ネギのヤラカシと茶々丸の実力について。

 

「あーネギ坊主、ちゃんとエヴァにゃんに謝っておくアルよ?…私もネギ坊主を手放す気はないアルが。しかし、茶々丸、そんなに強いアルか…」

「あぅ…スイマセン」

「私に謝ったってしゃあないだろう、それにむしろ私はボーリング場で事情察せられたのにすぐ言わなかったんだし…

まあ、今はそれは置いておいて、茶々丸は機械の体のスピードとパワーに、私と超が色々と教え込んだ分があるから…なんだかんだで合気術と中国拳法には相応の理解があると思ってくれていい、アイツが使うのはソレそのものではないが…

と言う訳で、茶々丸の再現とまではいかないが、ある程度は模倣できる私が派遣されたわけだな。慣れ過ぎてもアレだが、何度か相手をすれば完全な初見よりはましだろう、どう使うかは師のクーに任せるが」

「ウーム…とりあえず、一度、私と手合わせを頼む、ネギ坊主は見学しているアルよ、見て学ぶも立派な修行ネ」

「ああ、わかった」

「わかりました」

そして、何戦か、クーと手合わせをするのであった。

 

 

 

「ふむ…大体わかった…千雨、再現度はどれくらいアルか?」

「スピード、パワー、技量レベルは9割方、戦術思考は…7割くらいか、それとジェットによる推進力を利用した動きは再現できない分スピードとパワーを強化したつもりだ」

「ならば…正直かなり無理ゲーと言う奴ではないアルか?千雨…いくらネギ坊主に天賦の才があろうと…」

「うん、だから慈悲としての私なんだよ」

「うむ…まあ、やれるだけやってみるカ…ネギ坊主」

「はいっ」

パチリ

『あーネギ…テストで使う予定の自己供給付の身体能力と制限時間、まだ申告してないなら、隙を見て…明日の朝練の時にでもクーに見せとけ、それでクーも対策を練りやすい』

『え…はっ、ハイ』

「それじゃあ、私は見学しているから」

そういって、私は二人の側を離れた。

 

 

 

金曜日の朝練、放課後練と土曜日の朝から夕方までの鍛錬とを見学し、クーの指示でスピードとパワーを加減して…恐らく魔力供給の分の身体能力変化分だろう…少しだけネギの相手をしているとネギの技量が笑うしかないほど伸びている事、カウンターに賭けている事はよくわかった…が、超のせいで茶々丸も割と中国拳法には詳しいのでどこまで通じるかは…微妙と判定し、そう対応した。

結果、仕上げとして行った数回の手合わせでの数十回のトライ(手合わせの数ではなく、決めるつもりで放たれたと思われる攻撃回数)で有効打と呼べるだけの一撃を入れたのはたった1回の事だった…が、それでも、賭けと呼ぶに値するだけの所までネギが成長したのは本当に反則級の才能の賜物であろう。こう、クーがサマになるのに1カ月かかる技を3時間でモノにしたと言うのが何よりの表現であろうか…そして、ついに運命の時は訪れた…。

 

 

 

ネギに付き添い、世界樹前広場にやってきた私達、そしてネギがマスターに宣言する。

「エヴァンジェリンさーん! ネギ・スプリングフィールド、弟子入りテストを受けに来ました!」

「よく来たな、ぼーや、では早速始めようか。

お前のカンフーモドキで茶々丸に一撃でも入れられれば合格、手も足も出ずに貴様がくたばればそれまでだ、わかったか」

答えて、マスターが宣言した。

「…その条件でいいんですね?」

ネギ先生が少しだけ笑う。

ああ、コレ、文字通りくたばるまで粘る気だな…まあ、初手で能力を示せればマスターが最初に言っていた、修行に耐えるだけの根性と覚悟は示せるだろうし、悪くはないか…まあマスターからセカンドチャンスを示す事はないだろうが、粘ればいけそうな気がする。

「ん?ああ、いいぞ。…それよりも! そのギャラリーは何とかならなかったのか!わらわらと!」

まあ、師匠であるクー、アスナと木乃香に刹那まで、大負けに負けて一緒に頑張ったまき絵まではともかくとして、やじ馬が追加されているからなぁ…。

「すいません…ついて来ちゃいまして…」

ネギが申し訳なさそうに答えた。

 

ネギと茶々丸が対峙し、ギャラリーも観戦位置に移動する。

「さて、私はここまでだ。あるべき場所で試合を見させてもらうぞ、ネギ」

そう言って私はネギに背を向けてマスターの元へ歩を進める。

「はい、ありがとうございました、千雨さん」

「え、千雨ちゃんそっち側!?」

ネギ先生の言葉に続いてギャラリーが言う

「おう、諸事情でサポートに入っていたけど、私はこっち側さ…ただいま、マスター、茶々丸」

「ああ、おかえり。どうだった、ぼーやは」

「ええ、素晴らしい原石でしたよ…詳しくはご覧になるのが一番でしょうが…勝算と呼べるだけのモノは得ています…高くはないですが。後は時の運…とわずかな勇気、ってやつですかね」

「ほう…だ、そうだ、茶々丸。先ほど言ったように、手加減無用だ、いいな」

「はい、マスター」

こちらがそうしているように、あちらも応援と会話を交わし、ネギは歩み出て礼をした。

「茶々丸さん、お願いします!」

「お相手させていただきます」

茶々丸が答えるように歩み出て、礼をする。

 

「では、始めるがいい!」

 

マスターの宣言直後に踏み切った茶々丸の一撃で始まる戦い…。

ネギはそれを凌ぎつつ仮契約での魔力供給を流用した我流の術式で自己魔力供給を行い、

パワーとスピードを底上げして茶々丸と拮抗する…。

 

…茶々丸にはもう少し待ちの戦いも教えてあるのだが…これは手加減するなという命令によるものか…あるいは手加減は出来ぬにせよ、ネギの勝算がカウンターにあるであろう事まで計算しての茶々丸なりの優しさか…。

 

茶々丸の、人間にはできない動き…ストレートの後の逆の腕でのジェット推力による再ストレート…をしのぎ、最初のトライをかける先生、しかし茶々丸はそれを防ぐ。

 

あちら側のギャラリーがわく…。

 

そして再びの拮抗状態…から、蹴りを受け、後退させられてよろめく先生…。

追撃に入る茶々丸…と、それを迎え撃つネギ。

 

私の模倣した茶々丸に唯一有効打を入れたパターン、追撃の誘いからのカウンターであり、茶々丸の腕を取り、ひじによるカウンターを放つネギ…ではあるが…。

 

そこは場所が悪い…平地戦ばかりで、ソレを見せそこなった私のせいでもあるが…。

 

直後、茶々丸は街灯の台座を蹴って宙を舞い、掴まれた腕を支点に技後硬直しているネギにケリを放ち…クリーンヒットした。

 

「…チッ…千雨」

興味深げに見ていたマスターが不満げに舌打ちをして、私に呼び掛ける。

「経験不足…ですね。地形把握を十全にできるだけの経験を積むには時間が足りなかったので」

あと30センチ…いや、10センチでも街灯の台座から離れていれば…あるいは角度が付いていれば…そう言った位置取りで蹴り飛ばされていれば…今のでネギ先生は勝っていた筈である。

「しかし、それがぼーやの限界だ」

「クケケ…ゴキゲンナナメダナ御主人」

「残念だったな、ぼーや。だが、それが貴様の器だ、顔を洗って出直して来い!」

「「ネギ!」君!」

無慈悲にマスターはそう宣言し、アスナとまき絵がネギに駆け寄る…が。

 

「へ…へへ…まだです…まだ僕、くたばっていませんよ、エヴァンジェリンさん」

そういってネギは立ち上がり、構えを取る。

「ヒット直前ニ障壁ニ魔力ヲ集中シテタゼ アノガキ」

「ぬっ…何を言っている?勝負はもう着いたぞ、ガキは帰って寝ろ」

「いや、それは違います、マスター」

「…でも、条件は、僕がくたばるまで、でしたよね。それに確か、時間制限もなかったと思いますけど?」

私が小さく呟いたのに重なる様にネギが不敵に笑い、そう言った。

「な…何っ、貴様…」

マスターもやっと気づいた様である…ネギの頑固さに。

「へへ…その通りです。一撃当てるまで、何時間でも粘らせてもらいます…茶々丸さん、続きを!」

さて、こうなると、茶々丸が理解こそあれ、柔術を使用しないのは福音でさえある…打撃戦ならそうは言えても、制圧されてはその負けん気も悲しい遠吠えである。

 

再開した試合、しかしそれは先ほどまでとは異なり、一方的な展開だった…。

 

一方的にやられ続けるネギ…茶々丸も対人リミッターを嵌めなおしたようでさえある。

しかし、それでもネギの拳は…届かない。と言うか、付け焼刃のカンフーで、満身創痍の、魔力もほぼ防御に回した状態で届かれてたまるか。

 

 

 

一時間以上、その試合…蹂躙…いや、意地を張るネギへの茶々丸の対応は続いた。

「根性アルナーアイツ」

「だけど、茶々丸には届かないし…そんな頑張りが通じる相手でもない」

…少なくとも、茶々丸の心を揺さぶり、戦闘用プログラムが一時でも停止しない限りは…。

醒めた目でそれを見続けていた私は、チャチャゼロの言葉にそう返した。

「お、おいぼーや、もういいだろ。いくら防御に魔力を集中しても限界がある。お前のやる気はわかったから…な?」

しかし、マスターは違うようで、筋とプライドが許す範囲で面倒を見てやってもいいと思っている顔である、これは…まあやる気と根性は現在進行形で示しているわけで、わからんでもないが。

「も、もうみてらんない、止めてくる!」

そうアスナが宣言し、仮契約カードを取り出した。

…それもあり…かな?マスター的には。

ネギとアスナの間に消しきれない溝が生まれそうではあるが

「ダメーアスナ!止めちゃダメーッ」

しかし、意外な事に、まき絵がアスナを止めに入る。

始まる問答、止めるべきか止めないべきか。バッサリと要約すれば、

アスナの主張は、あれは子供のワガママ、意地っ張りだから止めなくてはいけない。

まき絵の主張は、全てをかけると覚悟を決めた決意を邪魔してはいけない、ネギは覚悟を決めた大人だ、と。

まあ、私としては、心折れ、諦めと妥協を覚えると言うのも大人だと思うし、ネギのアレは修学旅行での事件が呼び起こしてしまったネギの源泉…妄執の類いにも思える、それが悪いとは言わんが。

「なんだあれは…あれが若さか…青い」

マスターが少し照れた様子で彼女らを…まき絵を見る…そして茶々丸も。

「あ…オイ、茶々丸!」

「えっ」

ネギの、ひょろひょろパンチではあるが、確かに茶々丸の顔面に一撃が入った。

ああ、おめでとう、ネギ…お前の努力は報われた…共に頑張った仲間の言葉は茶々丸に届いたぞ。

私は、内心でネギをそう祝福した。

 

 

 

「うむ…千雨、茶々丸があんな事をできるのであれば教えて欲しかったアル」

「いやぁ…?機会があれば見せていたぞ、単に平地戦しかしなかったからその機会が無かっただけで」

気絶したネギの応急手当が済んだ後、クーがしてきた抗議に私は飄々と答える。

「むむ…まー確かに、実際の舞台で模擬戦までする時間が無かった、と言うのが問題アルか」

うんうん、と頷くクー。

「ま、緒戦はネギはよくやった…と言うか位置取りがドンピシャで最悪でさえなければアレで決まっていたからなぁ…あとの泥仕合は…まあ」

「途中から茶々丸、聞き分けのない子供をあしらうような態度だったアル…まじめに相手はしていたが」

しみじみ、と頷き合う私達であった。

 

 

 

そして、日の出頃、ようやくネギが目を覚まし、マスターはネギに合格を告げて場を立ち去った…私もそれに追随する。

「理屈っぽい、か。私もクーに拳法習いに行った方が良いか?マスター」

私は笑いながらマスターに言った。

「ぬかせ…クーからぼーやを取り上げるのも悪いと思っただけだよ、ぼーやの才能があったにせよ、たった数日で茶々丸に届きかけたと言うのも事実だしな…それにぼーやの目指す方向を考えればあちらの方が良いだろうさ」

マスターがふんっと鼻を鳴らす。

「まあ、これでお前もめでたく姉弟子という事であるし…ぼーやの修行、お前も手伝うんだぞ、千雨」

「はいはい…で、ネギのケガは後で治しに行ってやればいいんですかね?マスター」

「ふん…暫くは自分のやらかした無茶の痛みを噛み締めさせておけ…少なくともお前が寮に戻るまではな…その後はお前の好きにしろ」

「了解、マスター」

 

 

 

休息と朝食の後、別荘に入って鍛錬を済ませた私は、ネギの事で少し話をしてマスターの家を辞した、茶々丸を連れて。

「さ、行くか、茶々丸」

「はい…千雨さん…その、試合とは言え、先生に怪我をさせたのは私ですのに、私がお見舞いに行ってもいいのでしょうか」

「ン?そんな事を気にしていたのか?…かまわんのじゃないか?ネギたちはお人よしだし…私としては、お前が絶対服従の命令下でやった事は命令者の責任だと思っているし」

「命令者の責任…」

「そうさ、お前はエヴァの命でネギをボコボコにしたんだ、その時のお前の拳はエヴァの拳さ…それに、途中で対人リミッター嵌めなおしただろ、お前。まあ、そう言う所を気にするように育ったお前の事も私は好きだがな」

「千雨さん…いえ、お母様…」

唐突に茶々丸がそんな事を言い出した

「なんだその呼び方…」

「いえ、ネギ先生に私の母と名乗ったと伺いまして…母親らしい事をおっしゃったのでそう呼んでみようかと」

「…そう呼びたきゃ偶にはかまわんが…事情を知らん連中の前では絶対に呼ぶなよ」

「はい、千雨お母様」

どうやら、その呼び名を気に入ったらしい。

 

 

 

「あれー茶々丸さん、千雨ちゃん、どないしたん?」

私達がアスナたちの部屋を訪ねると木乃香が応対をしてくれた。

「ネギ先生の見舞いに来たんだが、いるか?というか上がってもいいか?」

「ネギ君?うん、いるえ、どうぞ」

 

「あっ、ど、ど、どうも、茶々丸さん、千雨さん」

部屋に上げてもらった私達を迎えたのはどもるネギ先生だった。

「…あ。あの、ネギ先生…お傷の方は大丈夫ですか?」

「はい、見た目よりは全然大したことなかったです」

「そうですか、それはよかった…」

茶々丸が明らかに安心したようなそぶりを見せる。

「それで…これ、私からのお見舞いです…美味しいお茶ですので是非…」

「あ…これはどうも、ご丁寧に」

「それと…あの…今回は、いくら試合とはいえ…ネギ先生に…私…その…酷い事をしてしまって…ごめんなさい」

割と、茶々丸は気にしていたらしい。

「あっいえ、アレは僕の方からお願いした試合ですし、お気になさらず」

「しかし…」

「ほら、茶々丸、ネギ先生も気にしなくていいって言っているだから、この話はこれでおしまい、な?

さ、傷見せてみろ、ネギ、完治できるかはともかく、治癒位かけてやるから」

「あ、はい、千雨さん、ありがとうございます」

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 汝が為にユピテル王の恩寵あれ “治癒”

…うん、顔の内出血は痕が消えるにゃ少しかかりそうだが、傷自体は大体治せたな…ほれ、もう服着ていいぞ」

ネギをパンツのみまで脱がせて全身の傷を調べ、治癒をかけた私はその結果を観察し、そう言った。

「後は、マスターから預かっているこの傷薬でも塗っとけば痕も残らずきれいに治る…ほらよ…明日の朝にゃ治るだろう、風呂の後と…必要なら朝の洗顔後にも塗ればいい」

マスターから預かっていた軟膏をネギの頬に塗りつけながらいう。

「はい、ありがとうございます、千雨さん」

「ネギ先生、千雨さん、お茶が入りました」

「ありがとうございます」

「ん、さんきゅ」

ネギを治療している間に、台所を借りてお茶を入れていた茶々丸から湯飲みを受け取る。

 

お茶を啜りながら少しばかり雑談に興じているとまき絵と亜子が駆け込んで来た…どうやら、まき絵は選抜試験に通ったらしい…騒がしくなりそうだし、良い時間でもあるか。

「さて、私は良い時間だしお暇するよ、茶々丸はせっかくだし、ゆっくりしていけばいい」

そういって、私は自室に戻り、外食の約束をしていた昼食の相談をするのであった。

 

 

 

 




うちのエヴァちゃん的には、緒戦の時点で今回ダメでも、茶々丸に勝てるようになったら来い、と言うセカンドチャンスとかはありえたりします、まあほぼとは言え原作沿いなのでその分岐自体発生しませんでしたが。


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32 ネギ弟子入り編 第3話 修行初日

 

 

翌日放課後、仮契約相手4人と師匠のクー、それに新たに魔法バレした夕映…京都のだけではバレていなかった事になっていたらしい…を連れてネギは結界によって即席の魔法射撃場と化したマスター宅の隣の丘にやってきた。

「よし、では今日は昼間に言ったように、魔法の全力行使を見せてもらう。まず、パートナー四人に契約執行180秒、次に対物・魔法障壁全方位全力展開、さらに対魔・魔法障壁全方位全力展開を実施、そのまま3分維持した後に私の指定した本数ずつ魔法の矢を放て…質問は」

ネギの修練初日のスケジュールとして、エヴァは魔法の全力行使を命じた。

「いえ、ありません」

「よし、では配置に付け…それと、刹那、気は抑えておけ。千雨の様に特殊な技法を使うなり、相応の修練を積むなりしていなければ魔力と気は相反する」

アーまあ…そうではある。と言うか、気を滾らせた状態での魔法行使も実は難易度が上がったりする。

「はい、エヴァンジェリンさん」

「よし、では始めろ」

「はい、いきます!」

そして、ネギはエヴァの掛け声に合わせて順に契約執行、対物・対魔障壁を展開し、維持に入った…うーん…魔力が膨大だって言うのは羨ましい…。

 

「障壁維持、後30秒」

時間読みをさせられている私が言う。

「よし、カウントダウン終了と同時に、まずは魔法の矢199本、北の空へ、結界がはってあるから遠慮せずにやれ!」

これだけ魔力消費した後に3桁の魔法の矢…魔力が豊富でも非効率な使い方していたらそろそろヤバいか。

「うぐっ…ハ、ハイ!」

「残り15秒…10・9・8・7・6・5・4・3」

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 光の精霊199柱 集い来りて敵を射て」

私のカウントに時間を合わせるようにネギが詠唱を始めた。

「2・1・0」

「魔法の射手 光の199矢」

0カウント同時に放たれるネギの魔法の矢が空に炸裂し、花火のようになる。

実際、ネギのパートナーや見学者たちはそういう感想を抱いているようである。

「あうぅ…」

ドテーン

しかし、ネギはそこで限界だったようでばたりと気絶してしまった…ネギの魔力量を考えると色々言いたい事はある、私が今のをできるかは別問題として…うん、私は相応に修練をしてはいるが砲台型魔法使いとしては一流も(よほどの外法に身を染めない限りは)無理との烙印を押されているんだよ、マスターから。

 

「この程度で気絶とは話にもならんわ!いくら奴譲りの強大な魔力量があっても、使いこなせねば宝の持ち腐れに過ぎんわ!」

と、エヴァの叱責…話にならんレベルかはともかくとして、もったいなくはあるな。

「よーよーエヴァンジェリンさんよぉ、そりゃあ言いすぎだろ、兄貴は10歳だぜ。

今の魔力消費量、修学旅行の戦い以上じゃねーか、気絶して当然だぜ。

並の術者だったらこれでも十分…」

と、命知らずなカモの抗議が入る…が

「黙れ、下等生物が。並の術者程度で満足できるか…煮て食うぞ?元々貴様、不法侵入者だしな」

とのエヴァの威圧にしっぽをまいて逃げて行った。

「私を師と呼び、教えを乞う以上、生半可な修行で済むと思うな」

うん、知っている、身をもって知っている。

「いいか、ぼーや。今後私の前でどんな口答えも泣き言も許さん。少しでも弱音を吐けば貴様の生き血、最後の一滴まで飲み干してやる。心しておけよ」

その、エヴァの威圧と恫喝に対し、

「はい!よろしくお願いします、エヴァンジェリンさん」

ネギは元気よく答えた…エヴァ、少したじろいでいる。

「わ、私の事はマスターと呼べ」

「は、はい、マスター!あのっ、所で…ドラゴンを倒せるようになるにはどれくらい修行すれば良いですか?」

…ドラゴン退治…?21世紀の日本で…?いやまあ、世界樹地下を目指す為に図書館島地下から学園地下遺跡にコッソリ侵入してみた時にそれらしき姿は確認したが…退治するのか?アレ

案の定、ネギはエヴァに殴り飛ばされていた。

「ね、ドラゴンって何の話?」

「えと、それは…ですね。信じてもらえるかわかりませんが、昨日…」

と、夕映の話を(こっそり)聞くと、実はネギは長から学園地下の地図を貰っており、そこに記された手掛かりとやらに向かってみると、ドラゴンに遭遇し、茶々丸の支援を得て何とか撤退した、との事だ…話を聞いたアスナは不機嫌そうである。まあ、保護者を自認しているのに自分を頼らずそんな事していたと知ればそうなるか。

「まあいい、今日はここまでだ、メンドイからな、解散!」

おや、ネギの今後の育成方針の相談と、木乃香に魔法の事を教えると言っていたが、良いのだろうか。

 

「エヴァ、ちょっと」

「ん?どうした、千雨」

「この後、ネギの育成方針の相談と、木乃香に魔法を教えてやる話をするって言っていたけど解散させて良かったのか?」

「あ…そう言うのは早く言えっ…ぼーやと木乃香は…まだいるが…なんだあれは」

周囲を見渡したエヴァがネギとアスナが喧嘩をしているのを見つけた。

「ケンカの様で」

そばに控えていた茶々丸が言う。

「なんか、アスナをほっぽって図書館島地下に潜ってドラゴンに遭遇したんだとか言っていたぜ」

「…なんだかよくわからんが、いい気味だ、私はあいつらに辛酸をなめさせられたからな」

「マスター、大人げありませんね」

茶々丸が突っ込む…まったくである。

 

結局、喧嘩はアスナがアーティファクトのハリセンでネギを張り倒した所で終わりを告げた。

「まったく、何バカやっているんだ、ガキどもが。

ぼーやと近衛木乃香、お前達には話がある。帰りはウチに寄っていけ」

走り去っていったアスナを追いかけようとしたネギにエヴァが言った。

 

 

 

「人の話を聞け、貴様らーッ」

エヴァがそうブチ切れたのは中二階のテーブルと黒板でネギと木乃香を主な生徒とした魔力の効率的運用について授業している時だった…と言うか、一方的に話している時だった…ネギがアスナと喧嘩をした事を落ち込んでのの字を書いて、それを木乃香が慰めているにもかかわらず話を始めるからである…と言うか、別にこれ私いるんだろうか?

「ええい、うじうじしていると縊るぞ、ガキが」

「うう…でも、アスナさんが…」

「フン…貴様等の仲たがいは私にはいい気味だよ。お前と明日菜のコンビには辛酸をなめさせられているからな、もっとやれ」

「あうう」

ここぞとばかりにエヴァはネギをイジメる。

「木乃香、おまえには詠春から伝言がある」

授業は諦めたようで本題に入るようだ。

「父さまから?」

「魔法を学びたいならばエヴァンジェリン…私を頼れとさ。

まあ、真実を知った以上、本人が望むなら、魔法について色々教えてやって欲しいとの事だ。

確かに、お前のその力があればマギステル・マギを目指す事も可能だろう」

ほう…まあ確かに、あの治癒力は魅力的だし…多くの人を救う癒し手になれるだろうな、そりゃあ。

「マギ…それってネギ君の目指しとる…?」

「ああ、お前のその力は世のために役に立つかもしれんな、覚えておくといい」

「うーん…」

木乃香が割と真剣に悩み始めた。

 

「次はぼーやだ」

「これからの修行の方向性を決める為、お前には自分の戦いのスタイルを選択してもらう」

そういってエヴァはネギの戦い方から検討していた二つのスタイル、魔法使いと魔法剣士を提示し、その説明をした…私は、従者無しが前提かつ魔力量の問題で魔法剣士一択だったがな。その説明の途上、ネギの問いにエヴァが答えた事によると、ネギの父親は従者を必要としないほど強力な魔法剣士だったとの事だ。それにネギはやっぱり、と言う顔をした。

「ま、ゆっくりと考えるがいい、どうせ暫くは基礎練習がメインだ…木乃香、お前にはもう少し詳しい話がある、下に来い」

「あ、うん。了解や、エヴァちゃん」

「ぼーや、何かあればまず千雨に言え、それでもお前の姉弟子だ」

と、エヴァ…いや、マスターが言った。

「了解、任せとけ…と言い難いが最善は尽くす。

とはいえ、必要な事はマスターが説明しちまったから、何か質問があれば言ってくれ。

最低でも一月…はともかく、半月位は悩める時間はあるさ」

「はい、ありがとうございます、千雨さん」

 

カンフーの練習をしながら考えているらしいネギを横目に、私は少し考え事を始めた…具体的には、私自身の修行について、である。最近の修行により、めでたくエヴァのいう所の中ボスクラスにはなれたのではあるが、この先どう伸びるべきか…と超のXデー以降に向けて力をつけるのであれば、今が最後のチャンスでもあるからだ。魔法使い側に入ってから知った…そして超には聡美経由でリークしている…魔法情報の隠蔽組織やらなんやら。当然それを突破する前提で超は何らかの計画を立てているんだろうが…行く末はどうなるのだろうか…に、かかわらず、最低限聡美だけは守れる力(コネ込み)がいるのだ、私には…まあ失敗時には最悪の場合は、エヴァやネギ等のコネと仮契約の事実で人格と記憶だけでも守る(オコジョ化はともかく…)というプランをセーフティーネットとして色々考えてはいるのだが…問題は成功した時である。

 一応、超側の庇護と私の戦力があれば大体は何とかなるだろうし、魔法使いたちもそれどころではないほどの混乱が予期されるのではあるが、最悪の最悪…聡美の死…を考えてしまうと一欠片でも多く、力を求めるべきなのではないかと思うのである。であるならば、週三回、一日1時間などと言っておらず、自由時間は全て修行に費やしてしまっても良いのではないか?とさえ…まあ、それは極論にせよ、あと二か月弱、修行時間は増やす事自体は…ネギの修行にかこつけて…アリだと思ってはいる…その考えと、残り少ない…超がいる平和な日々とを天秤にかけて…考え込んでいた….。

 

 

 

「千雨さん、どうしました、そんな怖い顔をして」

その思索と決断から私を引き戻したのは当の本人…と言う訳ではないが、聡美の声とぬくもりだった。

「わっ…いきなりどうした…抱き付いたりして」

「いきなりじゃないですよ、私が来た事に気付かないだけならともかく、名前を呼んでも反応が無かったので」

椅子に座った私を後ろから抱くようにしたまま、聡美が続けた。

「あ…うん…ごめん…ちょっと考え事を」

「考え事…ですか?助けになれるようならばお手伝いしますよー」

「…うん…あとで少し頼む」

そういって、私は首に回された聡美の腕に己の手を重ねた。

「…仲がよろしいんですね」

刹那が言った。

「ああ、うん…小二の冬休みからずっと一緒だしな」

「ええ、それに私の為に一杯勉強して、ロボ研に来てくれましたしね、千雨さん」

「だけ、じゃないからな?まあ、お前がいなけりゃ、勉強頑張って小4からロボ研所属とかはやってなかっただろうけど…ま、掛け替えのない相棒、ってやつかな」

「はい、とっても大切な、パートナーですよー」

私の言葉に、聡美が答えた。

 

「所で…ネギ先生はどうしたんですかー?」

聡美が部屋の隅で頭を抱えているネギをさして言った。

「ああ、そういや、アスナとなんか喧嘩していたな」

ネギから話を聞いていると、聡美が分析してみようと言って、茶々丸から音声データを取り出して、プリントアウトしてみる事となった。そして、議論を静観しているとなぜか、アスナの無毛を揶揄った事が原因という事になってしまった…。

「…いや、ネギの保護者のアスナの事だ、大方、ネギが勝手に危ない事した事にへそ曲げてる所に、仮契約して戦場を共にした仲にも拘わらず、元々関係ないとか、無関係とか言われてブチ切れてんじゃねぇのかコレ…むしろこれからも関わる気で剣術まで刹那に習っているのにさ」

「なるほどなぁ…」

「マ、アレダナ、トリアエズ謝ッチマエヨ。メンドクセーカラヨ、謝ッタモン勝チダゼ、ソレカヤッチマエ」

相変わらず物騒なチャチャゼロである…まあ、とにかく謝罪の気持ちを示す事自体は間違っていないが。

「確かに、まずは直接会って謝るのが良いと思います。アスナさんならちゃんと聞いてくれますよ」

「原因がわからなければ、本人に尋ねるのが一番の解決策です」

…いや、めんどくさい相手の場合そうでもないぞ?茶々丸…まあアスナは激高しながらも教えてくれると思うが。

「そ…そうですね、まずは僕から謝らなきゃダメですね、悪口言った事も」

そうして、ネギはアスナに謝りに、小屋の外へと出て行った。

「さて、千雨さん、大分遅くなっていますが、まだやる事ってあります?」

「いや、今日はもう済ませている…ネギが戻ってきたら、エヴァにあいさつして帰ろうか」

「はい、千雨さん」

と、言っていると外からアスナの悲鳴が聞こえてきた。

「…着替え中に召喚でもしちまったかな?」

事実はもっとひどく、シャワー中に呼び出された挙句に、高畑先生まで居合わせたとかいう事態だった。

が、まあ私達にできる事もないので、服を借りたアスナが逃げるように帰った後、私達もエヴァの小屋を辞すのであった。

 

 

 

「なあ、超、聡美の護りってどうなっているんだ?」

私がそう聞いたのは、超を誘って三人で夕食を取った後、私達の部屋での事だった。

なお、聡美には頼んで席を外して…と言うか超たちの部屋に行ってもらっている。

「む?護身具の類いは渡しているし…計画中、特に身をさらさざるを得ない最終段階では…まあ千雨さんの想像通りの役割を頼む事になるだろうし…命がけで守るつもりだガ…?」

「そこは信用しているが…その後、の事さね」

私の言葉に、なるほど、と言った顔で超は答えた。

「ああ…麻帆良内外に逃亡が必要な場合に備え、安全な隠れ家を複数確保はしているし、貴女が守りについてくれれば完璧…とまではいわないが、十二分に安全は確保できる筈ネ…多少不便をかけるとは思うが」

「なら…私の力があればあるほど、聡美の安全は確保できるという事か?」

「…いや、まあそうではあるが…突発的な事故を除けば、私はともかくハカセと貴女を積極的に探す動機も余力も魔法使いたちには無かろうし…ハカセに心配かけてまで貪欲に力を貪る必要はないヨ?」

「っ…バレていたか?」

「まあ、最近…修学旅行後から悩んでいる事くらいは…そして今の会話ネ、大体わかるヨ…」

超が呆れた顔で続ける

「千雨サン、貴女、いろんな意味で頭もよく回るし、実際相当強くなっているのは感じられるが…ハカセの事となると少しだけポンコツになる所あるから、気を付けるヨ?」

その言葉に私は何も返せなかった

 

 

 

「ただいまー」

部屋に戻った超が要件の終了を告げ、聡美が部屋に戻ってきた。

「さて…ちょうどいいですし、私達もお話、済ませちゃいます?夕方、エヴァさんの家で悩んでいたやつ」

ソファーの隣に座って、聡美がそう言った。

「あー大体は超との話で解決しちまったんだよ…」

「えー私に相談してくれるって言っていたのに超さんと…ですか?」

聡美が拗ねるように言った。

「えーっと…正直に言うと、そろそろ麻帆良祭だし…修行の時間、長くした方が良いかなって思っててさ…それで超に少し計画の第一段階後に関して…な」

嘘ではない範囲でそう取り繕う

「…それだけですか?それだけで千雨さんってあんな怖い顔しましたっけ?」

「…そんなに怖い顔だったか?」

「はい、今まで、見た事が無い位には…私には話せない事ですか?」

…これは話さない方が心配をかける奴か

「…こう…な?そっちに合流する事になって、逃亡生活ってなったら、エヴァの修行とかもできなくなる可能性もでかいし…いざって時に力不足ってなったらそれこそ後悔してもしきれないし…」

「えっと…こう言っちゃなんですが、千雨さんの武力は計画の計算には入っていませんよ?超さんが入れる気でも入れさせませんし…」

言い難そうに、聡美が言う。

「でも…聡美を…お前を守る為に、必要だよな?いくら超が潜伏先を用意してくれていても、万一はあり得るし…計画の首謀者一味って事で狙ってくる奴は絶対にいる、少なくとも、初期の混乱期には…な。だから、後悔したくなくて…」

「あ〜それで、私を守れなかった時の事を想像してあんな怖い顔してくれていたんですか?」

「…うん」

「アーもう…千雨さん…心配性ですねぇ…相変わらず…そういう所も大好きですが」

「でも…過激派や執念深い奴って絶対いるし…原則、魔法使いたちってお人よしではあるけれど事が事だし…」

そういう私に、聡美が手を重ねる。

「大丈夫ですよ…その時は…一緒に死にましょう」

「っ!?」

聡美の爆弾発言が飛び出す。

「だって、その方がマシでしょう?千雨さん、自分だけ生き残ってしまうとかの方を心配するタイプですし…こう、科学の事を考えたら貴女だけでも生きて研究を〜って言う方が正しいんでしょうが、逆のパターン…私をかばって貴女が死んで、私だけ生き残ったとかだと、私だって死にたくなりますし…殺しにかかってくる様なのに超さんの情報操作を破られ、それが千雨さんが私を連れて逃げられないほど強大な敵だった…なんて奇跡的最悪をひいちゃったなら精々最期まで足掻いて一緒に死にましょう…ね?」

一緒に死のう、なんて朗らかにいう聡美に私は力が抜けた

「ああ、うん…確かにそういう事態、奇跡的最悪だな…そん時は…精々足掻いて一緒に逝こうか…でも、修行時間は増やすよ…無理じゃない程度に」

「はい、死なずに済むならその方が良いですもんね。でも無理は厳禁ですからね」

その後、私達は手を重ねたまま、語り合い、どちらからともなく寝落ちてしまい、そのまま朝まで眠ったのであった…

 

 




・当の本人…と言う訳ではない
当の本人は千雨さん自身ですからね、と一応、補足。
なお、本作でハカセが来た理由はたまには千雨さんの修行風景の見学をしたいと思ったからだったり。その説明も刹那達にはしていますが、千雨さん聞いて無かったので

後、聡美さんはある種、科学の狂徒です、教徒ではなく。なのでその為に(科学に魔力を扱う一分野を加える為に)命を奉げても構わないとさえ実は思っていたりします…が、千雨さんに呪いをかけられないほどには、優しく、千雨さんの事も大好きです。(え?好意の種類?一緒に死ねるくらい大親友なパートナーなのは間違いないですが、恋愛的な愛かは本人達がまだ理解できないので不明っす(それで押し通す予定
 まあ、ハカセが言いたかったのは、そんな奇跡的に最悪の状況の事を心配しても仕方が無いから万が一そうなったら精々足掻いてそれでもだめならそれを受け入れよう、って事と程々に修業時間増やして千雨さんが安心できるならばそれでいいんじゃないですか?って事なんで…(狂愛っぽく書いておいて解説して日和っておく

なお、ネギ君、(少しズレた)アスナの激怒理由がわかっても口をきいてもらえないので結果は同じです。自話の裏で夕映とのどかに訂正されて原作通りですね。(ネタバレ


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33 ねぎ弟子入り編 第4話 南国リゾート…?

「…マスター、暫く、毎日別荘を使用させてほしいんだけど」

翌日の朝、私は教室でマスターにそう声をかけた。

「ん?ぼーやの相手以外にもか?」

ネギの指導方針では、私も別荘にもぐる日は指導を手伝う事となってはいる。

「…ネギの相手であまり捗らなかったら頼むかもしれません」

「構わんぞ、追加使用分は相手をしてやらんと思うが、それで良ければな」

「いいのか?マスター、理由も聞かずに」

通るとは思っていたが、理由も聞かれないとは少し想定外である。

「構わん…と言うか、どーせ何かまた悪い想定に捕らわれているんだろう?

お前がそういう目をして修行を増やしたいという時はいつもそうだ…いちいち聞いていられるか…違うか?」

「あ…はい…その通りです」

「ふんっ…まあ、うじうじ悩むよりはそうやって修行に打ち込んで誤魔化せばいいさ…だが、未来の時間を前借りしている、という事だけは忘れるなよ」

「はい、心得ています」

実際、この体が追加で過ごした時は、半年は優に超えており…一年には届いていない位…の筈である。

「ならば好きにしろ、今回は期限も上限定めてやらん、納得するまで己の責任で好きにしろ」

こうして、私の追加修業が決まったのであった。

 

 

 

「さて、今日からぼーやの本格的な修行に入るわけではあるが…まずは場所を移すぞ」

「ハ、ハイ…」

アスナとの仲たがいが原因か、昨日の覇気はどこへやら、と言った状態のネギである。

そんなネギをマスターが先導して人形回廊を進み、私と茶々丸(と、頭上のチャチャゼロ)がそれに付き従う。

「開けろ、千雨」

たどり着いた扉の前で、マスターが私に命じた。

「はい」

閉じられた扉を、ゆっくりと開く…

「これは…ダイオラマ魔法球!?」

お、良い反応である…ほんの数回とはいえ、練習させられたかいがあるというモノである。

「ご名答、これは私が作ったダイオラマ魔法球で、別荘と呼んでいる。そこそこな高級品でな、現実時間の一時間がこの中では一日になる代物さ。

教職などの合間にちまちまと修行していても話にならんからな、都合のつく日はこれから当分の間、毎日この別荘を利用して修行をつけてやる。さ、中に入るぞ」

そういってマスターは術式を起動させ、私達5人は別荘の中へと入った。

 

「うわぁ…すごいですね、さすがはマスターです」

「そうだろうとも、知っての通り、ダイオラマ魔法球はそこらの魔法具職人には作れぬ逸品であるからな」

感動するネギに、マスターはご機嫌である。そういう意味では分かりやすいからな、マスター…よほどの地雷を踏んだ後でもなければ褒めとけば機嫌がよくなるし。

「さて、ぼーや早速修業を始めようか、という所だが、まあ体感時間的にはもう夕刻ではある、よって夕食の用意をさせているので、それを食べながらしばらくの予定を話そうか」

そうして、私達は今日の修行のスケジュールを説明するのであった。

 

 

 

「では、始めろ」

まずは、邪流(身体強化を気でしている)とはいえ一定の域に達した魔法拳士と戦ってみろ、という事で私が相手をする事になった…要するに、私はネギをボコれ、という事だそうだ。

「行くぞ、ネギ」

「はい、千雨さん」

と、ネギが答えるが早いか、瞬動術でネギの懐に潜り込み、掬い上げるように掌打を放つ。

まー半分不意打ちであるし、さすがに反応できなかったネギは吹っ飛ぶわけで。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 闇夜切り裂く一条の光 我が手に宿りて敵を喰らえ 白き雷」

で、追撃…まあ一応、障壁の追加展開で軽減くらいは出来たようではあるが…。

落下した所に喉元に鉄扇での突きを寸止めで入れ、そのまま突きつける。

「うむ、そこまで…ぼーや、これが魔法拳士だ、若干格闘寄りではあるがな」

「ほら、立てるか、ネギ」

鉄扇を外し、ネギに立つように促す。

「あっ…はい。千雨さんの最初の、瞬間移動みたいなのは…?」

「ん?ぼーやは瞬動術を見るのは初めてだったか?…まあ、魔法拳士を選ぶのであればいつかは学ぶ必要があるが…まだぼーやには早い。千雨、瞬動無しでもう一戦してやれ」

「了解」

という事で、もう一戦…と言うか、何戦も何戦も試合をする事になった。ただ、さすがと言うかなんというか、同じ手を使って見せると、何かしらの対応をして来るのには、感心した。

ま、流石に負けるどころかまともに反撃を喰らうという事もなかったが、マスターが瞬動を解禁するのも割とすぐではないかと、私は思った。

 

 

 

その後、軽く体力・魔力トレーニングをした後、献血を済ませ(ネギの分は別荘から出る前に吸うそうだ)、その日はネギは就寝となった…私は咸卦法の瞑想やマスターとのネギについての相談をしてから寝た。

翌日、私が起きると、既にネギは塔の外周階段ランニングを済ませて中国拳法の自主トレを始めていた。

「あ、おはようございます、千雨さん」

「おはよう、ネギ」

私も、ストレッチなどを済ませると体術の自主トレをして、最後は異流派間にはなるが組手を行い、朝食時間となった。

具沢山のスープとパンに卵が付いた朝食(いつもの別荘の朝食でもある)を済ませた私達は、マスターと合流して魔力・体力トレーニングを再ウォーミングアップ代わりに行い、基礎トレーニングに入った。俗にいう魔力の効率的運用だとか、詠唱・発動速度向上だとか、私の場合は加えて無詠唱魔法の訓練だとか、糸術やら人形術やら体術やらの訓練である。私はほぼ自主練状態ではあったが。

そうして朝食よりは豪華になった昼食を取り、午後の実戦形式の稽古となった…大体は、また私がネギをボコって、ネギがダウンしている間にマスターに弄られて…ネギが回復したら、またボコって…時々もらえる休みの間はマスターがネギをボコって…と言う流れである。

 

「うっへぇ…千雨姉さん、つええんだなぁ…昨日に続いて兄貴が手も足も出ねぇなんて…」

「ん?手も足も出るし、私が障壁張る場面も増えていい試合になる場合も出てきたじゃないか。まあ、こっちは瞬動無し縛りでやっているんだからそれ位してほしくはあるが…相変わらず伸び率がえげつねぇなぁ…ネギのやつ…」

カモとそんな会話をしたのは午後の初休憩の際であったか…ネギはマスターにもまれている。

「と言うか、アスナとの件、仲直りできてないのか?今朝の自主練なんかは微妙に身が入ってなかったっぽいし」

まあ、マスターの目が光っている間は時々叱責される程度で済んではいる様だが。

「あー姐さん、兄貴と口もきいてくれなくて…」

「続行中、と…今は何とか修行漬けでそれ所じゃないって感じではあるが…」

「ああ…エヴァンジェリンも千雨姉さんも容赦ねぇし…」

いや、これでも容赦しているのではあるが…あまり手を抜くと私が怒られるのでネギを圧倒はしているだけで。

 

 

 

「そうか、やはりぼーやは神楽坂明日菜と仲直りしていないのか」

ネギからマスターが血を吸って、増血剤を飲ませて帰した後、私とマスターはそんな話をしていた。

「マスターの目が届く範囲では身が入らないって事はないようだが…帰りも割とどうしようって顔していたよ」

「ふむ…まあ、修行をまじめにやっている分には放っておいてよかろう、めんどいし、仲裁してやる義理もないしな」

「そういうと思ったよ」

「で、どうだ?瞬動無しとはいえ初日からまともに一撃を喰らった姉弟子よ」

「…瞬動を前提に流れを組み立てていて、寸前に思い出して一瞬硬直して喰いました、面目ありません」

「だろうな、アレは。しかし、結局負けたとはいえ、それでもお前に一撃を入れるのは今週中に達成できれば悪くないと思っていたが、まさか初日とはな」

楽しそうにエヴァが笑う

「ま、今日はいきなりの事であるし勘弁してやるが、お前も同じ間違いを繰り返すなよ、千雨」

「はい」

こんな感じでネギの指導検討をしてから、私はもう一度、一人で別荘にもぐって自主練と研究をしてから帰途に就いた。

 

 

 

「南の島?」

「はい…委員長さんに誘われて断り切れず…一応保留という事にはなっているんですが、どうしましょう」

そんな話をネギからされたのは、金曜日、クーや刹那達との合同朝練の会場での事だった。

「どうしましょうって…せっかくだし行きたければ行って来ればいいじゃねぇか」

「え…でも、明日の修行が…」

「別に、都合がつかなきゃ一日二日休んだって問題ねぇよ…私もそうしているし。まあ、別の日に倍って事になるかもしれんが…それに」

ちらりと私はアスナの方を見る…

「それに?」

「アスナとの喧嘩が長引いてまいっているでしょう?少しくらいリフレッシュしてきても、ばちは当たらないですよ、先生」

そういって、私は笑った。

 

結果…マスターの了承は取れたものの、朝倉とハルナに情報が漏れてクラスの半数以上が参加する事となったのであるが…その流れでアスナも参加となり、向こうで仲直りできたそうなのでネギ的には結果オーライだろう

 

 

 

「で、いかなくてよかったんですか、南の島…私達に遠慮せずに行ってきてもよかったんですよ?」

まあ、聡美と超とがロボ研関係の仕事と恐らくは裏でやっている諸々で忙しくて行けなかったわけで…。

「…私もこっちの仕事片付けないといけないし…」

私もそういう事で欠席とした…半分嘘であるが。片付けるべき仕事はあるにはあったが、その殆どは自室で、ダイブした加速空間で済ませているので現地では現物の調整位である…それも一仕事ではあるが、納期を考えれば調整がつかないほどではない。

「ふふ〜そういう事にしておきましょうか、千雨さん」

そういって、聡美は嬉しそうに笑った。

 

 

 




発育おかしい組、と言うか年齢詐称疑惑組に紛れてこそいますが、千雨さんも一年弱分ほど余計に年取っていて、その分成長していたりします。安定期でも、週2回+αで、時々いろいろな理由で期間限定で利用時間を増やしていた感じなので。
 現在は、ネギ君の相手で足らんと思った日はもう一日、そうでなければそのまま帰宅みたいな使い方しています。え?南の島に行かなかった土日?もちろん、行っていますよ、別荘。
 魔法射撃戦でもやれば、既にネギ君そこそこやるけれども、格闘戦+魔法になるとスピードファイターかつ格闘術の技量差で千雨さんに一触鎧袖にされる感じ。


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34 ネギ弟子入り編 第5話 騒がしい別荘

 

「なぁ、マスター、ここ数日、ネギの奴やつれていってないか?」

私がそう言ったのは、ネギが南の島から帰ってきて数日後の指導後検討の事だった。

「…ウム、疲労と貧血が溜まっているんだろうなぁ…まあ、慣れの問題だろうが明日の別荘に入ってすぐの実践稽古は少し軽めにして精の付くもの喰わせて長めに寝かせるとしようか」

多少の疲労は気にしない筈ではあるが、少しやり過ぎたかとお優しい事を言うマスターである。

「それがいいだろうな…そのままだとアスナ辺りが心配して怒鳴り込んできそうであるし」

「ふん…ぼーやの希望でやっている事だ、とやかく言われる筋合いはない。

ま、茶々丸、そういう事だ、精のつくもの…レバーステーキか何かを追加で明日の別荘での夕食に出してやれるように手配しておけ」

「はい、了解しました。マスター」

と、言った事を話したのが昨日の事。

 

 

 

明らかに消耗しており、クラスの連中からも心配されていたネギであるが、私は特別メニューとは別に、丁度食料の補充をするからと茶々丸と共に商店街で各種食料を買いそろえていた。

「手伝っていただいてすいません、千雨さん」

「いいって、ネギが参加する前は元々食料の半分以上は私が消費していたんだし、荷物持ち位な。それに、特別メニュー、私の分もあるんだろう?」

「はい、千雨さんとネギ先生のマスターへの血液供給を考えてその方が良かろうと姉たちと相談しまして…今まで千雨さんはどうなさっていたので?」

「ん?別荘外での食事とサプリメント、あとネギにも飲ませている増血剤と…あとは慣れ?」

「なるほど…先生も木乃香さんにお願いしてそういう料理を作ってもらえるようにして頂かないといけないわけですね」

成程、と茶々丸が頷く。

「まあ、別荘の中でもう一食、軽食とかを食わせて返すって言う手もあるけどな、レバーペーストとか、今日みたいなレバーステーキとかブラッドソーセージとか…」

「その辺りはマスターや先生にご相談いたしましょう」

「そうだな」

そんな感じで買い物を済ませて私達はマスターの家にやってきた。

「ん…降ってきたな」

「そうですね、マスター、傘を持っておられないはずなのですが」

「朝見た時、先生は持っていた様子だったし、大丈夫だろう」

そんな話をしつつ、大量の食料を別荘に持ち込むものと外の食料とに仕分けていた。

 

「帰ったぞ。茶々丸、千雨、もう戻っているか?」

「お邪魔します」

マスターとネギが帰ってきた。

「はい、マスター、こちらにおります」

「食料の仕分けも終わっているからすぐには入れるよ」

「あ、僕もお持ちします」

断るのもネギの気持ち的に悪いかと思って、軽めの物を一袋、預けた。

「よし、ではいくぞ」

私達は別荘へと向かっていった。

 

 

 

早速、いつものように試合をして…今日は私・ネギVS茶々丸・チャチャゼロ・マスター…まあ、単騎でならともかく、私もネギの従者役となるとあまり長持ちはせず、ボコボコにされる事を繰り返した…。

「少し早いが今日はここまでにする。今日は、ぼーやから血を貰おうか」

回復させてから授業料を徴収すると吸い過ぎそうなので、先に吸う事にするという事らしい。

 

…が。

「ああ…やはりぼーやのは濃いな…しかし…まだ足りんな」

「えぇっ」

「…ふふふ…いいだろ?もう少し」

「も、もう限界ですよっ」

「少し休めば回復する、若いんだからな」

結局、こうなった。私の時も最初期は自制が下手だったんだから、私のよりも魔力的な意味で美味であろうネギの血を自制しきれるわけがなかった。

「マスター、ネギがやつれてきているから加減するんじゃなかったのか?」

「硬い事を言うな、千雨、ちゃんと加減はしてやるさ…だが、まだ足りん…それだけさ。ほら、出せ」

マスターがネギに腕を出すように迫る…まあ腕なだけいいんじゃないかな?私は首からだし、押し倒されるように飲まれる事とも割とあるし。

「あっ、ダメです」

「ほら、良いから早く出せ」

「だ、ダメです…もう無理ですよ、エヴァンジェリンさん…」

「フフ…私の事はマスターと呼べと言っているだろう」

「千雨さぁん、助けてください」

「…すまん、無理だ。まあ、茶々丸たちが精のつくものを用意してくれているから、諦めろ」

今、止めたら、私が吸われる…と言うのは構わんが、ネギの代わりなら割と量を吸われるだろうし、別荘からの出る前の実践稽古後にネギがまた吸われて本末転倒な未来しか見えない。

…それに、呼びに来たらしき気配もするし、早く済ませんと料理が冷める。

 

「コ、ココココラーッ!あんた達、子供相手に何やってんのよーっ」

と、茶々丸かと思った気配はどうやらアスナ達だったらしく、そんな叫びと共に飛び出してきたアスナに続いて続々と魔法バレ組が顔を出す。

「ん?…なんだ、お前たち」

「何って、何やってんのよーっ」

「何って…授業料として血を吸っていただけだよ、魔力を補充せんと稽古もつけられん…千雨からも貰っているぞ?」

「どーせそんな事だと思ったわよ!!」

「ん〜?なんだと思っていたんだ?」

「うっさいわね!」

アスナの反応からして、エロいことだと思っていたらしい…いや、ネギが精通してれば(しているか知らんが)そう言うのもあるらしいがマスターの種族的には血の方が効率良い…筈である。

 

 

 

誤解?が解けた所で、エヴァがみんなにこの別荘とネギの事情を説明し…案の定、宴会がはじまった。

「千雨さん、ネギ先生、予定していた特別料理です、召し上がってください」

「ん、さんきゅ、茶々丸」

「ありがとうございます、茶々丸さん」

茶々丸が出してくれたのは先ほど仕入れてきたレバーをソテーしたものだった。

「あ~千雨とネギ坊主だけずるいアルね」

それにクーが羨ましそうにする。

「…別に、少しくらい分けてもいいけど…コレ、マスターからの吸血分を補う為の料理だからな?味見以上に箸付けるなら、マスターに吸血されてもらうぞ?」

「ん?私は構わんぞ、魔力補給になるかは別にして、若い女の血は旨いからな」

と、エヴァがニヤニヤ笑う

「う~ならば一切れだけもらうアルよ」

脅してみたが、食うらしい。

「はい、どうぞ、クー老師」

と、ネギが皿を差し出そうとするが、私が止めた。

「まて、私の皿から持ってけ、ネギが貧血気味だからってわざわざ用意したんだ、お前は全部自分で食え」

「でも千雨さんだって毎日…」

「いいんだよ、私は慣れているから…と言うか、今までは自分で外で食っていたからな」

「えっと…千雨の皿からもらえばいいアルね?」

「じゃあ私も貰おっと」

「じゃあうちもーおいひい〜せっちゃんもたべぇ〜」

「しかし…いいのか?千雨」

「…もういいよ、食え食え、一切れだけな」

「では…」

と、次々と箸が伸びてきて、半分以上食われてしまった…肉気自体は他にもあるしまあいいが。

「ネギ君、これからは貧血に効く食事にせなあかんかな〜」

まあ、事情がバレた以上はそうしてもらうべきではある。

 

「…と言う訳なのですが」

「…何?魔法を?私に教えろと?」

と、言った事をやっていると、エヴァに夕映とのどかが魔法を教えて欲しいと乞うていた。

当然、エヴァが自分でする必要もない面倒事を自分でするわけもなくネギに投げられ、さらに他の連中も群がって来て火よ灯れの練習会が始まった。

 

「ほら、まじめにやっている組は数をこなすより一回一回しっかりとイメージを固めてやれ、適当なイメージで10回やるよりしっかりと魔力を取り込んで集中するイメージして一回やった方が良いぞ、素振りと同じだ。後、火よ灯れ(アールデスカット)の意味をちゃんと意識するようにな!」

「「「はいっ」」」

何度も何度も短いスパンで杖を振る組を見て思わずアドバイスをしてしまった。

 

「せっちゃんはやらへんの?」

「私はできますから…ラン」

刹那が陰陽術での火よ灯れに相当するらしい術で指先に火をともした。

「キャーッ、スゴーイ、せっちゃん」

「まあ、それ、陰陽術だけどな…」

「…結果は同じだ」

 

 

 

こうして散々騒いだ後に、屋上に臨時の客室を設営し、皆はそこで寝る事になった…が。

「…ネギめ、体調戻させるためにマスターの稽古を軽めにして特別料理を用意したっていうのに…つうか安眠妨害だって」

まどろみながら型稽古をしているらしい気配を追っていた私は、呪文発動の音と気配で完全に覚醒し、思わずそんな悪態をついていた…周りも何人か起こされたみたいであるし…軽く注意しておこうかと思って行ってみると、既にアスナがネギを締め上げていた。

「…まあ、アスナが注意したならもう良いか」

「千雨も来たか」

「あ、マスター…まあ流石に雷の斧を使われたら起きますって…型稽古までなら見逃すにせよ」

「うむ、だが面白そうな話をしているぞ…ふむ、宮崎のどかも起きて来たか、丁度良い」

そう言うとエヴァは言葉巧みにのどかから「いどのえにっき」を借り受けてしまった。

「よし、千雨も来い、ぼーやの共有している記憶を見るぞ」

「む、ネギ坊主の記憶アルか?」

「それは面白そうだね、みんなを起こしてくる」

と、クーと朝倉がそれを聞きつけて皆を起こしに行った…こうして、私達もネギの6年前の記憶とやらを盗み見る事になったのであった…良いのかなぁ…。

 

 

 

端的に表現するならば4歳のネギは親にかまって欲しくて悪戯という名の自傷をする問題児で…さらに問題だったのはその親が既に死亡していて構い様も無く…最終的には冬の湖に入水する等という事までやらかした事だった。一応、その一件の後は大人しくなったようではあるが、それでも自分がピンチになれば助けに来てくれると無邪気に信じていたようだ。

 そして…運命の日、釣りをしていて従姉の帰省日を思い出し、村に駆け戻ったネギが見た物は…燃え盛る村と石化した村人達だった…火の中で己がピンチになればと願ったからだと自責するネギに悪魔たちが襲い掛かり…そこに突如現れたサウザンド・マスター…ナギ・スプリングフィールドらしき人物がネギを庇い、あっという間に悪魔の群れを殲滅した…しかし、その様子に恐怖したネギはその場から逃げ出してしまった。不幸な事に、逃げた先には別の悪魔がいて…ネギを庇って交流のあった爺さんとネギの従姉が石化光線を食らってしまった。それでも爺さんは魔道具らしき物を用いて完全に石化する前に悪魔とその従魔らしき何かを封印する事に成功し…ネギの目の前で完全に石となった。

追いついたサウザンド・マスターに導かれ、足のみが石化した従姉と村の外に避難したネギであるが、しかし、ネギは従姉を守るためにサウザンド・マスターに杖を構え…その姿に彼はその子が息子のネギであると気づいたようである。そして彼はネギに杖を形見として渡し、空に消えていった…。

その後、ネギ達は三日後に救出され、従姉と幼馴染が通っていたらしいウェールズの山奥の学校がある魔法使いの街に移り住み、そこから5年間は魔法学校で勉強漬け…それは悪夢からの逃避、脅威からの防衛、父への憧憬、理解しているであろう石化した人々の救済…あるいは復讐のための牙…いずれであるかは判断がつかないが…恐らく全てであろうか…とにかく、そうして【天才少年、ネギ・スプリングフィールド】は芽吹いたわけである。そして、ネギはアスナに言った…あの雪の夜の悪夢はピンチになれば父が助けに来てくれると思った自分に対する天罰なのではないかと思ってしまう、と。

 

「え…なっ!? 何言っているのよ、そんな事ある訳ないじゃん!」

その発言はアスナには捨て置けなかったようで、そんな事はない、ネギのせいなんかじゃない、きっと父とも生きてまた会える、と言って聞かせ、協力もする、と申し出た。

 そこで、私達が覗いていた事がバレ、皆も協力するからとネギがもみくちゃにされていた…というか、エヴァまで軽く泣いていた。そして、なぜか、ネギの父が見つかる事を祈った乾杯がなされ、宴会が再開されたのであった…。

 私は…創作ではよくある話であるし、現実でも悪魔を武装勢力に置き換えれば掃いて捨てるほどありふれた悲劇でもある…という事自体は知っている、がそれでもそれは悲劇であろうし、同情するし、友人でもあるネギの為に無茶位してやっても良いとは思うが…泣けなかった…私が協力している超の計画は、きっとネギの前途を一度断ち切り、その夢と目標…マギステル・マギになる事、父と再会する事…を阻む障害でしかないと理解しているから…そして私はそれに私欲で協力している…こちらに落とせれば気も楽にはなるが生真面目なお前はきっと私たちの敵になる…その日まで、精々仲良くできるといいな、ネギ…超の計画が潰えた時は…まあ厚顔無恥ながらもネギがそれを許してくれるならば…私も協力してやろうか…マスター謹製の【ジュース】を煽りながら、私はそんな事を考え、騒ぐ皆を眺めていた。

 

 




まあ、概ね原作沿い(
そしてうちの千雨さんはこういう思考に行き着いたりしました。それでも、知ってしまったからにはマスター謹製の【ジュース】を煽りたくはなるのです。


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35 ネギ弟子入り編 第6話 ヘルマン卿

結局、その日は夜更かしと翌日の遊びに付き合って朝錬+α程度しか鍛錬ができなかった事もあり、もう一日別荘を使用する事にして、まずは皆を帰す事とした。

「「「お邪魔しましたーっ」」」

本当にな、とは少し思っても言わぬが花である。

「おう、気をつけてな」

「あれ?千雨ちゃんはまだ帰らないの?」

「ああ、まだ用事があるからな…皆は先に帰れ」

そう言ってしっしっと言ったしぐさで早く帰れと促す。

「つめたいなーもう…そうそう、エヴァちゃん、テスト勉強の時間足りなくなったらまた別荘使わせてよ」

「別に構わんが…女にはすすめんぞ、歳取るからな…まあ使いまくっている女もいるが」

と、マスターが私を見る。

「うっ!!そうか」

「気にしないアルよ」

「いいじゃない、2、3日くらい歳取っても」

「…若いから言えるセリフだな、それ」

「まあ、多用しなきゃいうほど問題は無いけど…将来後悔しても知らんぞ、ってこったな」

…多用している私が言うのもなんであるが。

 

「やれやれ…やっとうるさいのが行ったか」

「楽しそうでしたが?マスター」

「煩わしさと楽しさも両立する物さ、茶々丸」

「煩いわ!……ん…?」

エヴァが何かを感じ取った様子で言った。

「どうかしましたか…?」

「いや…気のせいだろう…」

 

「それはそうと千雨、ぼーやの過去を見て何か思う事でもあったか?昨晩はやけに黄昏ていたが」

小屋に戻り、お茶をご馳走になっているとエヴァが面白いおもちゃでも見つけた様に言った

「…そりゃあな、自分達が踏みにじる予定の奴…ネギに深く刺さった棘を見ちまったら私でもあれくらいなるさ…」

「そういえば、お前達は何かたくらんでいるんだったな…正確には超の企みに協力しているんだったか?」

「ああ…私も、魔法使い側に入った義理はあるから計画の核心部にはノータッチだが大体の目的は知って協力しているよ」

紅茶に砂糖とミルクを何時もより多めにいれ、かき混ぜながら言う。

「で、それがぼーやにとって不利益になるわけか」

「正確には麻帆良で大それた事をやらかされた責任をとらされる可能性が高い、だな。そうなりゃ色々キャリアの障害になるさね、父親探しの邪魔にもな」

「…それを理解して、アレを見てもなお、お前は協力を続けるわけか?」

ニヤニヤとエヴァが聞いてくる。

「もちろん、私はエヴァの…マスターの弟子たる中ボスだからな…それくらいの悪事は平気でするよ」

そう答えて私は紅茶を一口飲んだ…甘くて旨い

「はっ…お人よしの小娘の癖して…だが、それでこそ我が弟子、とは褒めてやろうか」

「まあ、計画の核心を知らんから成功率も判断できんけどな…そこは超と聡美を信じるよ…ご馳走様。別荘に行ってくる」

「ああ、精々励め」

そして、私は別荘に再び入り、僅かに産まれた迷いを振り払うように、鍛錬に打ち込んだ…。

迷う事は無い、天秤はあの日から動いてなどいないのだから…少なくとも、今はまだ。

 

 

 

「ただいま」

「お帰りなさい、お母様」

「…お母様?…まあ確かにお前らは茶々丸の親か」

「唐突にそのネタはやめろ、茶々丸」

「駄目…でしたか?」

というコントをしていると豪雨の中、扉を叩く音が聞こえた。

「あいているぞ」

「失礼するでござる、エヴァンジェリン殿、おお、千雨はこっちだったか」

「慌ててどうした、楓」

「寮に侵入者があり、千鶴殿と他7名…恐らくアスナ殿、このか殿、夕映殿、のどか殿、朝倉殿、それにクー、刹那が浚われたでござる」

「なにっ…先ほどの気配は気のせいではなかったのか」

「で、賊と浚われた連中は?」

「世界樹前ステージにて待つとネギ坊主とコタローに告げて去っていったでござる」

「…私達も行くか?エヴァ」

「ウム…だが、私が良いと言うまで手を出すな…ぼーやの修行の成果を見るのに丁度良いやもしれんからな」

「…ああ、わかった」

「了解しました、マスター」

「あいわかった…では、先に向かっている、どうしようもない様であれば先に介入するでござるよ」

そう言って去って行った楓を、私達も追うのであった。

 

 

 

「…丁度だな」

私とエヴァと茶々丸が先行していた楓に合流して少しするとネギと小太郎が、ネギの魔法の射手と共に突っ込んできた。

「…今の、何かおかしくなかったか?」

「確かに…障壁で弾いたという感じではなかったな」

ネギ達は賊と何かを話すと…喧嘩を始めた。

「はぁっ?」

「…何をしているのでござろうか」

「…どちらが戦うかで揉めている様だな」

そうしていると、争っている二人にスライムらしき軟体生物が3体、襲いかかった。

「ああ…アホどもが」

私は、思わず頭を抱えた。

 

その後は共同戦線を張る事にしたらしい二人はなにやら小さな瓶を用いたが、それはかき消され…アスナが苦しんでいた。

「あの瓶…ネギの記憶に出てきた奴だな…それに、今のアスナの様子…アスナのアーティファクトの魔法無効化能力か?」

「ふむ…何らかの方法でその力を賊は利用しているようだな」

エヴァが涼しい顔で言う。

「…一応、介入の準備はするぞ、エヴァ」

「ああ、好きにしろ、だがマテはちゃんと聞くんだぞ、千雨」

そう言われながらも私は咸卦の呪法と呪血紋の用意をするのであった…声を抑えて

 

賊も多少本気を出したようで、拳からビームのような、魔法の射手のような攻撃を繰り出して来て、ネギ達は魔法戦でそれに応じたが…

当然それはアスナの力でかき消された。

「ほう…魔法無効化能力は神楽坂明日菜本人の能力なのか…魔法無効化能力らしいぞ、アレ」

種族的問題で会話を聞き取れているらしいエヴァが言う。

「…レアスキルってレベルじゃねーぞ、それ」

「ようわからんが、ネギ坊主の魔法は賊に通じん、と言う事でござるな?」

「その理解でよろしいかと、長瀬さん」

 

戦いは接近戦に移行したが、2対1でも戦況は圧倒的不利、ついに小太郎が大きく吹き飛ばされてしまった。

そうして…ネギと賊が長い話をして、賊が帽子を取った。

「アレは…ネギの記憶に出てきた、爺さんを石化した悪魔か?」

「…の、様だな、会話の内容的にも」

「何の話でござるかー」

「気になるなら今度、掻い摘んで話してやるから…」

そう言って、ネギの記憶を覗いていない楓を黙らせる私だった。

 

そしてネギが暴走をはじめ…文字通り魔力のオーバードライブだ…直情的に賊を攻撃し続ける…ああ、ありゃいかんな。

「エヴァ」

「ウム、致命打を貰いそうなら許す」

あんな動き、格上相手には隙をさらしているだけである。案の定、迎え撃たれて大ピンチ…であるが。

「マテ、千雨」

「ああ、わかっている」

「ナイスタイミングでござるな、コタロー」

小太郎がすんでの所でネギを掻っ攫い、賊の射線から外したのである。

そして、まあ、ネギは怒られているようである。

 

仕切り直し、しかし圧倒的不利に変わりはないが…。

と思った時、刹那と那波以外が捕らえられていた水牢が光って破け、捕らえられていた連中が人質を救出し、魔法無効化能力を利用する媒体らしきアスナのネックレスを外し、スライムを先ほどの瓶に封印した。

「おっ…形勢逆転…とまでは行かないがコレで魔法が通じるようになったのかね」

「恐らくな」

魔法が通じる様になった為か、ネギと小太郎は前衛後衛に分かれて戦いはじめた。

そして、小太郎の分身…と恐らく影分身を用いた攻撃で、アッパーが決まる…と、そこにネギが魔法の射手を乗せて肘撃ちをかまし、雷の斧を決めた…。

「いや、あの魔法の射手から雷の斧に繋げるコンボ、従者無しの時に使うもんであって、前衛がいるなら素直に単発で叩き込めばいいんだが…というか、呪血紋アリの私のより強力だな、アレ」

魔力をたっぷり込めたらしいネギの止めの一撃は、雨雲に大穴を空けていた。

「ふふ、いいじゃないか、即席コンビゆえの安全策ともいえるしな。どちらにせよ、ぼーや達の勝ちだ…。

まあ、ぼーやの潜在力を見られたのは思わぬ収穫だった。そういう意味ではあのヘルマンやらには礼を言わねばな」

「ニンニン…では無事に終わった様でござるし、拙者はお先に失礼するでござる」

そう言って、楓は先に帰っていった。

 

「じゃあ、エヴァ、私も帰るわ」

念のため、ヘルマンというらしい悪魔が消え去るのを確認し、咸卦の呪法と呪血紋を解いて、私は言った。

「ああ、また明日な…くっくっ…さてぼーやをどう育てたものやらな」

そんな独り言をもらすエヴァ…マスターを尻目に、私も帰宅したのであった。

 

 

 

ヘルマンとか言う悪魔との戦闘の翌日、ネギは魔法剣士…いや、魔法拳士を進路として選択した。その日の別荘での夜、私とマスターはネギの指導について相談をしていた。

「と、なると暫くは短縮詠唱と無詠唱呪文の練習か?」

魔法拳士となると無詠唱呪文を主体に、決め手に詠唱呪文を使う形式が基本となる…事が多い。

「うむ、それと魔力の効率的運用と…実践稽古だな…さて、ぼーやはどんな戦い方を編み出すだろうな」

…マスターは基本を教えた後は自分で戦い方を編み出せ派だからな、欲しい技術を言えばある程度は教えてくれるが…糸術とか、あまり力を入れていないのもあり、まだ形になっていないが人形術とか…瞬動術はある程度した後に教えてもらったが。

 

そして翌日から、ネギの修行は体力・魔力トレーニングと短縮詠唱・無詠唱呪文の訓練が主となり、実戦形式の稽古も減った…まあ、魔法拳士としての基礎スキルも身についていないのに稽古したって仕方が無いからな。

 

そうして、麻帆良祭まで残り一カ月を切り…中間テストも終わり…私は一応の形になった新技をマスターに見せていた。

「…気持ち悪いわ、その動き!」

「ひでぇ!」

何とか形にした虚空瞬動改…掌や肘で宙を押してより精密な三次元機動を可能にしたのに

「いや、すごいのはわかるし、足以外で宙を弾く事の利点もわかるがな…?見ていてなんか気持ち悪い…特にお前の言う、直線機動であるはずの瞬動を素早く優しく空を押して曲げるとか」

「主軸の推力を減ぜずに、別方向に等加速度運動しているだけなんだけれどな」

「…理屈はわかるが…で、それ、何か名前はつけたのか?」

「虚空舞踏か歪曲瞬動か…」

「後者はなしだな、名前で中身がバレる…その二択なら虚空舞踏にしておけ、その奥義が曲がる瞬動だな」

こうして、私の新技の名前は虚空舞踏になった…まあ実戦で積極的に使いたいと思えるほどの練度にはなっていないのではあるが。

 




ネタな虚空舞踏ですが…使うことあるかなぁ…(白目


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麻帆良祭準備編
36 麻帆良祭準備編 第1話 超包子にて


そして6月…学園祭の準備期間間際となり…私は超と二人で密会をしていた。

「じゃあ、確認だが、私は超が買収・統合した格闘技大会の司会、朝倉が落ちたら選手としての出場…それに人手が足りない時の超包子への応援だけでいいんだな?」

「ああ…基本的にはそれでいい、何か緊急で手伝ってもらう必要があれば連絡するヨ…大会の方は…まあ、朝倉は多分落ちるし、何も知らない体で好きにしてくれればいいネ、賞金を狙ってもらっても、遊んでもらっても…まあ、ルール上、千雨さんはあまり有利ではないガ」

「…あの舞台、狭いからなぁ…」

「それと…計画の第一弾が成功すれば私達に合流してくれるという約束は、変わらないという事で良いカナ?」

「ああ…と言うか、悪いな…この期に及んで魔法使い側へ義理立てして…」

一応、現時点で完全に魔法使い側を裏切るのはさすがに矜持が許さんのである…私がリークした諸々、目的を理解しつつ行った助力の数々を挙げて十分裏切っているだろと突っ込まれればそれまでであるが。

「ふふ…仕方がないネ、魔法使い側に対して身を寄せた以上は守りたい矜持だというならば…楽しみにしている、貴女と共に行く道を」

「ああ、ただ私欲で協力している私が欲しいと言うのであれば喜んで」

「…私欲か?魔法の科学的研究の為に広くその存在を知られて欲しいと願うのは」

超が笑う。

「私欲さ、どう取り繕おうが、私自身が一番よく知っている…いろんなものを踏みにじってでも、自分の望む世界を作りたいと願う悪党だ…ってな」

「あはは…それ、私にもばっちり刺さるんだがネ?」

「最初から自覚しているだろう?じゃなきゃ私は…たぶん聡美も…お前についていきやしてねぇよ」

「アハハハハハ」

「クッハハハハ」

私達は、こらえきれなくなって笑いだした。

「まあ、これ位にしとこうか、明日も早いし…もう部屋に戻るよ」

「そうした方が良いネ、数日したら屋台も始めなければ、だからネ」

そうして、私は超との密会場所を辞した。

 

 

 

「五月、食材の在庫確認、終わったぞ」

「電車の設備の最終チェックも完了しましたー」

「机と椅子の配置も完了アル」

「看板や旗の展開も終了しました」

「ありがとうございます、こっちの仕込みも終わりました…明日から、いよいよマホラ祭準備期間ですね」

「ああ、今年も皆の協力で無事に用意が整った、感謝するネ」

私達は明日から始まる屋台営業の準備をしていた。

日常的に開いている店舗はお料理研究会のメンバーを中心に回してくれているし、休日や平日夕方の営業もヘルプに入ってくれるのではあるが、平日の朝営業は私達の仕事である。

「では、今年も皆さんに美味しい点心を届けるために、がんばりましょう!」

「「「「「おー」」」」」

五月の掛け声に答えて声を上げ…その日は解散となった…準備終わったし。

 

 

 

「はい、3番テーブル、7番テーブルあがったぞ、こっちが3番、こっちが7番」

「了解しました」

翌朝、私は調理員として働いていた。

「千雨、4番テーブル、蝦餃子4個、焼売4個、小籠包8個追加アル」

蒸し器から注文の物を取り、積み上げて返す。

「了解、4番テーブル、あがったぞ」

「サンキューアル」

「聡美、小籠包の追加頼む」

「はいはいー了解しましたー」

そんな感じで忙しく働いて登校に間に合うように店じまいをして登校するのであった。

 

 

 

「私が賛成したのはメイドカフェであって、コスプレキャバクラじゃねぇ…」

「そーですねー…ネギ先生が遊ばれているのを見ている分には面白いですけれども出し物としてはちょっと…」

「ウム…しかし、クーはノリノリで会計役やっているネ」

委員長の財力で設備を含めて準備の過半が終わり、かつそこそこ稼げるであろう英国風メイドカフェを私達3-Aは計画していたのであるが…。

こう、何時もの悪乗り癖が発揮されて、ネギ相手にキャバクラ営業を始め、さらにメイド以外のコスプレも追加された…メイドカフェどこ行った。

なお、私達はなぜか超包子の仕事着姿である、まあ言われて着替えた私達も私達か。

あきれながら様子を見ていると、さらに如何わしい格好…刹那に至ってはスクール水着に猫耳に尻尾である。

流石にやりすぎたかとハルナが薄味でよいという主張を始めた…いや、それはいいが、正統派メイドに戻ろうぜ?そこは。

「はぁ…ってやべっ」

「お前ら朝っぱらから何をやっとるかーッ」

そんな混沌の最中、一時限目の担当である新田先生が現れ、当然お説教タイムに突入し、罰としてメイドカフェの禁止を言いつけられたのであった。

 

夕方のHRでも代わりの出し物は決まらず、翌日に持ち越しとなった。

…準備に手を抜けて集客にも優れる良い案だとおもってメイドカフェに賛成したのに…そうなると何するかね?

 

 

 

「お、いらっしゃい、ネギ先生、刹那、アスナ、このか、そこのテーブルで頼む」

翌朝、ホールのヘルプに出ているとネギ達がやってきた。

「6番テーブル、ご新規さん4名、ネギたちだ」

「お、ネギ坊主もきてくれたか、それはうれしいネ」

「あの、超さん、少しホールに出てきます…ネギ先生、最近元気がないようなのでスープをサービスしようかと」

五月がスタミナスープを一人前、用意しながらそう言った。

「お、それは良い考えネ」

「ん、わかった。私は厨房に戻るからゆっくり話して来るといい」

「ありがとうございます、超さん、千雨さん…じゃあ、行ってきます」

私は五月を見送り、私は厨房に戻った。

 

 

 

その朝、メイドカフェに代わる出し物を討議しようとしていたのだが、椎名の【ドキッ!女だらけの水着大会カフェ】なる提案からまたもやクラスは暴走を始めた…。

いや、ただの水着カフェなら(新田先生の審査を通るなら)やりたいかは別としてアリとは思うが、何だそれは…厨房と客席の間にプールでも作ってカフェするのか?

それから、悪乗りが始まって【女だらけの泥んこレスリング大会カフェ】だとか【ネコミミラゾクバー】だとか…。

具体的にどういうものを想定しているかは不明にせよ、名前からしてやばそうな物ばかり…。

「いや、お前ら、昨日の件で新田に目をつけられているんだからもっと穏当なもんにしないと…」

と、言う私の突っ込みにかぶさるように、那波から止めの一撃が入った。

「もう、素直に【ノーパン喫茶】でいいんじゃないかしら」

そこからはもうどうしようもなく、わけがわからずに思考停止していたらしいネギが暴走を始めたクラスを制止しようとしたが…。

それができるわけもなく…なぜか、ネギが脱がされる流れになった。

「今日も正座、お説教コースだなぁ…」

「ですねー」

私と聡美は諦めモードで新田先生が怒鳴り込んでくるまで、傍から観戦するのであった。

 

夕方のHR、改めて出し物を相談した所、案として大正カフェ、演劇、お化け屋敷、占いの館、中華飯店、水着相撲、ネコミミラゾクバーが挙げられ…多数決の結果、前者5つが6票ずつで拮抗となり…またもや決定は延期となった。ちなみに、私は大正風の衣装(メイド服含む)による喫茶店に手を挙げた。

 

 

 

「あれ、茶々丸、どうかしたのか?」

その日の夕方、別荘を自主練で使用し、外に出ると茶々丸が出待ちをしていた。

「はい、マスターは超包子で飲むとおっしゃられて、先に出立されました。私は千雨さんを連れて後から合流するように、との事です」

「あー夕食か…まあ中座を許してもらえれば、そうだな、たまには賄いや試食じゃなくて純粋に客として五月の料理を食べるのもいいな」

「ではまいりましょう、お母様」

「…気に入っているんだな、その呼び名」

「はい、とても」

そういって茶々丸はぺこりとお辞儀をした。

 

「あら、千雨ちゃん、今日はお客さん?」

「はい、同級生に夕食に誘われまして…」

エヴァと合流した後、注文に呼んだお料理研究会からの助っ人(バイト)の大学部の人に問われて答えた。

「そっか、千雨ちゃん、うちの首脳陣以外に一緒に数人で食事するような友達いたんだ…お姉さん、なんか安心しちゃった」

その人は注文を取るとそう言って去って行った。

「千雨…お前、友達いないと思われていたのか…」

エヴァが憐れむような眼で私を見る。

「少ない、な。お料理研究会とかロボ研だと割と人間関係の距離を遠目にとっているからな」

「その方がらしい気はするがな、お前にとっては」

「…否定はしねぇよ、うちのクラスだってグイグイ距離を縮めてくる連中ぞろいで…まあ聡美が一緒だったからこそ、だろうしな、そこそこ馴染めているの」

「千雨さん、お料理とお飲み物をお持ちしました」

「茶々丸、ありがとうな」

「いえ…マスターも何かご注文されますか?」

「うむ、では飲み物のお代りと…適当に蒸籠2、3枚ほど見繕ってくれ」

「了解いたしました、では」

 

茶々丸が去って行ってすぐ、ネギの叫び声が聞こえてきた。

「違うんです~~僕、強くなんてなってないんですーーっ」

「おや、珍しいな、ネギがあんなにわかりやすく弱音吐くなんて」

「ん?なんか甘酒飲んだらしいぞ?」

「…うちの甘酒、酒粕溶いて甘みをつけた品だからなぁ…酔っているのか」

「だな」

「僕っ…ただ逃げていただけなんですっ……うぇっ…僕は…僕はダメ先生で…ダメ魔法使いですぅ~~~~っ」

 

ぶふっ

 

飲んでいた烏龍茶を思わず吹く。

「さすがにそれはまず…いが高畑先生が付いているなら大丈夫か」

「うむ、タカミチに任せておけ…しかし、ぼーやがそんな事で悩んでいたとはな」

「ああ…まじめなネギらしいっちゃらしいか…」

「だが、どんな過程で手に入れたのであれ、力は力だ…残酷なまでにな」

「私とか力不足への不安感からの逃避が一番修練捗るしな」

自虐しながら点心を口にする。

「クック…貴様は怖がりだからな…」

エヴァも茶々丸の持ってきた飲み物を受け取りながらそう答えた。

 

「さて、私はそろそろ中座させてもらうぞ、エヴァ…茶々丸、私の分の会計頼む」

「はい、千雨さん」

と、茶々丸に飲食代を支払って席を立つ。

「おやすみ、エヴァ」

「ああ…お休み、千雨」

「おやすみなさい、千雨さん」

そうして、私は部屋に戻り、風呂に入って床に…はつかずに長々とPCにダイブしていた。

…いや、最悪返ってこられない場合もあるので、キリの良い所まで進めておきたい研究とかいろいろあるんだよ…あと、接収される可能性を考慮して外には漏らせないデータを消す用意とか色々と。

 

 

 

翌朝、ネギ先生は話し合いと準備をするという事で休日登校となった場で選考と抽選の結果として、お化け屋敷をクラスの出し物とする事を宣言した。それに対してクラスの反応は…おおむね好意的ではあったが、またネギが脱がされる展開になりそうになり…まあ何とか防げた事しておこう、若干危なかったが。

その日は、具体的なアイデア出しとその整理、大まかな仮の役割分担をして夕方には解散という事になった。なお、私は衣装班とメカ班に兼任で割り振られた。

 

 

 




今回はダイジェスト風になってしまった感が…まあ、色々と交錯しながら進んでいるので、元々…


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37 麻帆良祭準備編 第2話 幽霊騒動

翌日、またもや休日召集された私達である…まあ、メイドカフェが中止になって色々進行が一度白紙に戻っているので仕方なくはあるのではあるが…。

「…あっちの進行、大丈夫なのか?」

と、超たちの事が心配になってくる。

「あー大体は準備完了しているので大丈夫ですよー?」

「そうネ、ギリギリまで準備できないこと以外はもうばっちりネ」

「それならいいけど…無理はすんなよ?」

「千雨さんがそれを言いますかー?」

私の心配にジト目で聡美が言う。

「エヴァンジェリンの別荘を多用しているのはハカセからも聞いているヨ?千雨サン」

「アハハ…まあ、一つの区切りだし…色々とな…無理はしてないぞ?」

そういって、私は笑ってごまかす事にした、無茶しているのはバレバレであるが。

 

 

 

その日は午後、早い時間に退出し、別荘を数時間利用した後に、ロボ研の手伝いを10時過ぎまでやっていた…その帰り道。

「なあ、聡美…次の日曜日、暇…と言うか、時間取れるか?」

「取れますけれど…どうしました?」

「いや…今年は学園祭一緒に回る時間取れないだろ?だからせめて龍宮神社の縁日でも一緒に行かないかな…って」

「行きます。なんならウチみたいな学園祭準備期間からやっている出店めぐりとか、特別メニューめぐりとかもしたいです」

「あ、うん…じゃあ、来週の日曜日は時間の許す限り、二人で遊ぼうか、聡美」

「はい、千雨さん…楽しみにしていますね」

聡美はとてもうれしそうに、そう言った。

 

 

 

翌朝、3-Aの教室に幽霊が出たという壁新聞の記事が掲載された。その記事によると、昨晩残っていた面子の前に幽霊が現れたという内容であった。

「千雨さん、これって?」

「あーマジもんの可能性はある…一応、幽霊とか悪霊は魔法学的には既知存在ではあるな…なぜそうなるのかの確定はされてないけれども」

「そういわれると非科学的なって否定できないじゃないですかぁー」

「なんかごめんな…」

「うぅ…超さんと発明したこんな事も有ろうかとシリーズの除霊ガンでも持ってこないといけませんねー」

そんな会話をしているとハルナが声をかけてきた。

「おっ、ハカセ、ちょうどいい発明品があるみたいじゃん…その除霊ガンとやら、今晩までに何丁か用意できない?」

「ええっと…超さんとも相談しないといけないですが…転用していなければ3丁はあったはずです、予備部品を組み上げればもう2丁は作れるかと思いますよー」

「了解、じゃあよろしく」

そういってハルナは去って行った

「…効果あるのか?それ」

「さあ…龍宮神社の市販の魔除け系のお札を何枚も貼ったレーザー発振ユニットを用いて非致死性レーザービームを撃つだけの物ですから…まあ気休め程度にはなるかと?」

「…市販のお札にどれだけ効果があるかわからんが、お札自体よりも効果は低そうだな」

「ジョークグッズのつもりで作りましたからね、除霊ガン」

まあ、ジョークグッズでも何でも原理的にないよりはマシという事で特に口を挟まなかった結果、聡美は超と5丁の除霊ガンを夕方までに用意し、用事があるからと、とっとと帰ってしまった。

 

一応、魔法関係であるからして見届ける事にした私は、ワイワイ騒ぐクラスの連中に交じって居残りする事にした…一度別荘利用などで中座はしたが…。

 

ネギたちと話していると、朝倉の提案でのどかの「いどのえにっき」で幽霊…相坂さよの思考を読んでみる事になった…その結果。

 

おどろおどろしい自画像に、死者の側にのどかを招き入れて友達になりたいと取れる文章が浮かび上がった。

 

「悪霊です、やっぱりこの人悪霊ですぅーっ!」

当然、のどかはこんな絶叫を上げ…直後、ポルターガイストが発生し、クラスは混乱状態に陥った。

「うわぁ…寂しいんだろうがこれはダメだな…」

思わず、私はそう呟く。

すると今度は『ごかいデス』と言う血文字が浮き上がり、裕奈が取りつかれた様子で『ごかいデス』とうわ言を呟き続ける状態となった。

状況から、五回殺すと言う意味と捉えられ…たぶん誤解です、だったんだろうが…裕奈は除霊ガンの集中砲火を浴びせられ、正気には戻ったようであるがふらふらと倒れてしまった。

 

「メチャクチャです」

「大丈夫だ、こんな事もあろうかと、プロを呼んどいた」

もはや誰も気にしないと、カモが堂々としゃべり始める

「プロ?」

「オイ、まさか」

「先生!先生―ッ」

カモの呼び声に伴って現れたのは…と言うか、クラスの連中の中から歩み出てきたのは…。

「うむ、仕事料ははずんでもらうぞ」

案の定、真名と刹那であった…確かに真名の魔眼と刹那の神鳴流でよく除霊とかをしているのは知っているけどさぁ…と言うか、たまに手伝うし…。

「そこだっ」

教えてもらった霊視のコツを試して様子をうかがっていると、言われてみれば確かに何かいる、とわかるカゲに真名が攻撃を仕掛けた…隠密性どれだけ高いんだよ…相坂とやら。

影は教室を飛び出していき、刹那と真名もそれを追う。そして半ば興味本位ではあるが、見届ける為に私もその後に続いた。

「目標の姿が殆ど見えないぞ!」

「私達が今まで気づかなかったんだ、恐ろしく隠密性の高い霊体だよ…だが、わが魔眼からは逃れられん」

真名の射撃、しかし相坂らしき影はそれを回避し、さらに逃走を続ける。

「刹那、そこだ」

「わかっている、悪霊退散!奥義…斬魔剣!」

なんと、恐るべき事に刹那の斬撃まで回避し、逃亡を続ける相坂…。

「千雨!お前も手伝え!」

「はいはい、及ばずながら…」

そして私も加わり、魔法の射手…一応、校舎の被害を考えて戒めの風矢にしておいた…を五月雨式に放ちながら三人で追跡をする…が、驚くべき事に、相坂は三人の攻撃をかわし続けた…が、それに伴ってどんどん影が濃く、人の姿になって行き、声…悲鳴も聞こえるようになる。

「よく私達からここまで逃げた、褒めてやろう…だがこれで終わりだ、成仏しな」

何とか行き止まりに相坂を追い詰めた私達…真名が代表して相坂に獲物を突き付けた。

「まっ…待ってくださーいっ!」

そこにネギと朝倉が現れ、真名に相坂の命乞い?を始めた…いや、そもそもコレ、カモの依頼の筈なんだが…。

 

「…友達が欲しかっただけなんだよね、さよちゃん」

「え…」

そして、ネギ先生と朝倉が、自分でよければ友達になろう、と手を相坂に差し伸べた…。

「…あ…」

すると、相坂の姿がすぅっと消えていき…。

 

「消えた…」

「ネギーッ、どうなったの?」

と、そこにアスナが追い付いてくる。

「アスナさん…無事…成仏したようです」

「そう…よかったね…」

と、ネギたちはハッピーエンドモードに入った…。

 

「いや…まだいるけど…」

真名がそういってぺこぺこ謝っている雰囲気の元くらいの濃さまでに薄なった影を差すが、ネギたちは聞いていない様だ…。

「…いっそ、ネギ先生たちの認識通り、成仏させとくか…?…って冗談だよ、相坂、怖がらなくていいって…きっちり理性があってまだ行きたくないなら私は手を出さねぇよ」

私がそう口にしたところ、影は震え始めたが冗談だという言葉でほっとした様子だった。

「ま、そう言う事になったらしいから、私達は手を出さんよ…また依頼でもない限りはな」

真名がそういって、相坂の影に向かってニコリと笑った。

 



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38 麻帆良祭準備編 第3話 茶々丸と恋?

「ほら、起きろ、聡美」

私は、聡美が工学部で借りている研究室の仮眠スペースで眠る聡美を起こしていた。

「ふぇ…?千雨さん…?どうしましたぁー?」

「どうしたじゃねぇよ…遅刻するぞ?」

「んー…まだ6時半じゃないですかぁ…もう少し寝ましょうよぉ…」

聡美は時計を見てまだ早いとごねる。

「いや、そんなこったろうと思って来たんだけど、7時から屋台の仕事だろう」

「んーあ…そうでしたぁ…ふぁー」

仕方がないと言わんばかりにむくりと聡美は起き上がり大欠伸をする。

「ほら、自動目玉焼き機つけて目覚ましの処理しておくから身支度して」

「ふぁい」

 

「んーそれじゃあ行きましょうかーあ~朝ごはんを買いに購買寄って行きましょうねー」

何とか身支度を整えさせた聡美が言った。

「ん…じゃあ行くか」

聡美が脱ぎ散らかした服を洗濯籠に放り込んで私はそう、返事をした。

 

 

 

「ハカセ、千雨サン、ニーツァオ、ギリギリアルネ、急いで着替えるヨロシ」

超に促されて、休憩室兼更衣室にしてある車両に移動し、衣装に着替える。

 

「あれ?…あーダメだよ茶々丸―ッ」

着替えている間に来店したらしいネギたちの相手をしている茶々丸に聡美が駆け寄っていく…

「ダメだよ、髪上げたりなんかしちゃーそれは放熱用なんだからー」

「あ…ハカセ、千雨さん…おはようございます」

「なんでこんなことしたの?オーバーヒートしちゃうよ?」

「それは…」

「まあまあ…この気温なら運転強度にもよるけど暫くは大丈夫だし…熱溜まってきたら自分で判断して解いていたよな?茶々丸。

でも、こういう事したいなら私達に相談してからにして欲しかったよ」

そういって、私も仲裁しつつ茶々丸を叱る。

「まーまーハカセちゃん、千雨ちゃん、そんなに怒らんといたってーなぁ」

「茶々丸さんだってオシャレくらいしたいよねー」

このかと明日菜が暢気にいう。

「千雨さん、オシャレって…そんなオプション入れていましたっけ…?」

「んー直接は入れてないけれど…一応、感情の種が育っているみたいだし、相応の理由があれば自発的にするんじゃないかな?

エヴァが着飾らせたりするからオシャレ系の行為も奉仕の一環として認識している筈だし…それが、命懸けに近い行為じゃなければ祝福してやれたんだがなぁ…」

「んー」

私達がそんな会話をしている脇で茶々丸とネギたちの会話は続いていた。

「オシャレですか。カワイイと思います、茶々丸さん」

「え…そ、そうですか。そそ、それはどうもありがとうございます。で、では仕事に戻らせていただきます」

そういって茶々丸が仕事に戻ろうとした時。

 

グキッ ステーン

 

そんな擬音で表現する様に、盛大に茶々丸がすっころんだ。

「…千雨さん…茶々丸が平地ですっ転ぶなんて…」

「…オートバランスシステムか基本動作系統の不具合でなければ…それらを阻害する勢いで何か高負荷のオプションが走っているとしか思えんなぁ…」

 

「茶々丸、何処か調子でも悪いの?」

「いえ、特にシステムに異常はありません」

「ん~~~茶々丸―久々にあなたをバラして点検整備したいから放課後、研究室寄ってくれないかな?」

「ハ…了解しました」

「千雨さんもお手伝いお願いしますねー」

「はいよ。それと…悪いが何か高負荷のオプションが走っているようにも見えるから、一度髪は解くぞ?

警告域まで内部温度が上がらなくても昇温で処理系の制限が働くようにしてあるんだから」

「…はい…了解しました…」

茶々丸がしかたない、といった様子で了承して見せる…コレ、私らとエヴァ以外だと拒絶していたかもなぁ…。

 

茶々丸を更衣室に連れ込み、髪を解く…かなり熱を持っていたので、気を手にまとわせて。

「ほら…うん、かなり温かいな…聡美、扇風機の風当ててやってくれ」

「はいー」

茶々丸の髪を手櫛でふさぁっと風を通すようにといてやり、放熱を促進する。

「ん、多分これで大丈夫…今度、放熱の邪魔しない髪飾りとかアクセサリーとか買いに行こうな、茶々丸」

「はい…お母様」

茶々丸が少しうれしそうな感じで言う。

「あー千雨さん、茶々丸にそんな呼び方教えて…」

「…茶々丸が自分で呼び出したんだよ…」

「…私はそう呼んでくれないの?茶々丸」

聡美がねだるように茶々丸に言った。

「えっ…あの…ハカセは、ハカセですので…その…」

しかし、茶々丸はしっくりこないと言いたげにそう返すのであった。

「ン―まぁ仕方ないか…うん。そう呼びたくなったら私もお母さん呼びして良いからね?」

何処か不満げながらも、聡美はそう言って引き下がった。

「ハカセ―千雨―茶々丸―早く仕事に戻るアルね、手が足りないアル」

クーがひょこっと顔を出してそう催促する。

「おっと…仕事、戻らないとな」

「はい、そうですね」

「すいません、お手数をおかけして…」

「いいって、お前は私達の娘なんだからさ、な、聡美」

「そうだよーこれ位、大丈夫だよー」

「…はい、ありがとうございます」

そうして、私達は仕事に戻るのであった。

 

 

 

「行こうか、茶々丸」

「はい、千雨さん」

放課後、私と茶々丸は連れ立って聡美の元へ向かう事とした…聡美は実験の都合とかで正課扱いの準備時間を早退して先に工学部にいる。

「茶々丸さーん、千雨ちゃーん、私達もついて行って良い?」

後ろからアスナが声をかけてきて、このか、刹那、ネギもよってくる。

「あ、ハイ。私は構いません」

「んーたぶん大丈夫だろ、整備内容次第では退出願う事もあるけれど、放課後で出来る整備なら」

私も、そう言ってネギたちの同行を認めるのであった。

 

 

 

「ハカセと超は麻帆良大学工学部に研究室を借りています、私はここで生まれました」

工学部等前に到着し、茶々丸がネギたちにそう説明する。

「ん?千雨ちゃんは借りてないの?」

「ああ、私は共同居室に広めのスペースを一つ貰っているだけだな」

「…千雨さんはプログラムや人工知能が専門で、ハカセや超をはじめとしたロボ研所属の方々との共同研究が殆どなので…科学分野は」

ちなみに、魔法分野でも単著論文とかを出している。

「へぇ…まあ、いきましょうか」

 

「ハカセ、失礼します」

茶々丸が聡美の個人研究室の扉をノックし、扉を開く。

「あーもうそんな時間ですかー千雨さん、茶々丸」

クルっと増腕付き解析装置を背負った聡美が振り返る。

「ひいいっ!?マッドサイエンティストが出たぁーっ」

「バラされるぅーっ」

「…マッドサイエンティストの城を訪ねておいて酷い言い草だな、お前ら…」

「あれーネギ先生に皆さんどうしたんですかー?」

暢気に聡美が尋ねるが、背後で実験中の装置がそろそろヤバい雰囲気である。

「聡美!試料!」

「はにゃ?」

しかし、私の呼びかけは間に合わず装置にかけられていた試料片らしきものは爆発してしまった。

 

 

 

聡美の個人研究室を軽く片付けた後、共同実験室に私達は移動した。

「さて、それじゃあ早速点検させてもらうよー千雨さん、助手お願いしますね」

そういって聡美は自分は椅子に座り、茶々丸も椅子に座るように促す。

「ハイ」

「了解」

私は、聡美の後ろにひかえる様に立って記録の用意をした。

「はーい、じゃあ上を脱ぎ脱ぎしましょーかー」

「えっ…」

「こ、ここで脱ぐんですか」

「うん」

茶々丸はちらりとネギたち一行の方を見る…。

「ほら、早く」

「ハ、ハイ」

このやり取りを見てカルテ…と言う名の点検記録に、記録をつけていく。

『脱衣に対し、羞恥心の様な反応を示す。この際、第三者の観察を再確認した事から、第三者の存在に起因するものと推定する』

 

「わ―ホンマにロボットなんや、茶々丸さん」

このかがそんな感想を漏らす。

「茶々丸、ケーブルを」

私は茶々丸にデータ転送用のケーブルを渡した。

「はい…」

茶々丸はそれを腕に隠してある接続コネクタに突き刺した。

 

「よぉ、ハカセさんよぉ、千雨姉さんから聞いたんだが、あんたらが茶々丸の開発者なんだって?」

私と聡美が手分けして診断データを確認しているとカモがそんな事を聞いてきた。

「ハイ―厳密には、私達が開発の中核になってのチームでの仕事でしたけれどもーそう言っても概ね間違いではないかと―。特に人工知能の中枢はMITの理論を基に千雨さんがほぼ一人で作り上げたんですよー」

聡美が自慢する様に私の功績を誇る…少し恥ずかしい。

「動力部分にこそ魔法の力を使っていますけれども―動力炉自体は魔法と科学のハイブリット品に換装してありますがこれも私と千雨さんと超さんがエヴァさんと共同開発した品ですし―エヴァさんの他の人形と違って、茶々丸は駆動系・フレーム・量子コンピュータ・人工知能と、全てウチの作った科学の産物なんですー」

 

「うーん…簡易データではどこも異常はないなぁ…モーター以外」

あくまで主要データだけではあるが、自己診断結果、各種数値共に正常値であった…ただ一点、モーターの回転数以外は。

「んーそうですねー他にはどこも異常はないのにモーターの回転数が上がっていますね。茶々丸、何か状況報告はある?」

「それが…その、奇妙な感覚が…どう言語化すればいいのでしょうか…おそらく、ハ…ハズカシイと言うのが…その、妥当かと」

「ええっ!?ハズカシイ!?人工知能が恥ずかしいってどーゆこと!?」

「あーやっぱり羞恥心か」

私は聡美とは対照的な反応を示しつつ、記録を続ける。

『現状を言語化させたところ、ハズカシイとの証言を得る』

「とりあえず、恥ずかしいなら上着着ていいぞ、良いよな?」

聡美に確認する。

「え、あっ、はい。茶々丸、服着てもいいよ」

「ありがとうございます…では」

茶々丸はそそくさと脱いだトップスを着なおしていく。

 

「んー回転数、少し落ち着いたな…羞恥心様の反応って事で良いと思うが、どうだろう、聡美」

「そうですね…それで、問題はないかと…って、千雨さん、なんでそんなに落ち着いているんですか!」

「え…だって、人の生活様式を学習する機能は走っているはずだし、それが感情の種と合わされば他者の面前での脱衣に対して羞恥心くらい再現するだろう…まあ、モーターの回転数が上がるのは…こう、模倣し過ぎな感はあるけどさ」

そう返しながら、記録に反応が羞恥心様であると聡美との合意が取れた旨を記入した。

「あーそうでしたっけ…えぇっと、茶々丸、他には何かある?」

「ええっと…胸の主機関部辺りがドキドキして顔が熱いような…」

「ほんとだ、あつい!千雨さんの言うように羞恥心を学習しているとして…これはいったい何の反応なのか…あるいは別の何かの異常が原因なのか」

「んーそれだけ影響出ているなら、多分これが今朝すっ転んだりしていた原因だよなぁ…」

 

二人で首をかしげながら考えているとこのかが口を開いた。

「ハカセちゃん、千雨ちゃん、ちょっとええかな?胸がドキドキって…それって恋とちゃうんかなー」

「えっ…ええーっ、恋!?」

「そんなハズは…」

「それはあり得ないですよーっ」

「恋愛話ばっかりしているうちのクラスの連中に感化された…?でもなぁ…恋はなぁ…」

当人、茶々丸と聡美はこのかの言葉を否定し、私も懐疑的である旨を述べる。

「あり得ないです!?仮に、恋愛の概念を学習する事は可能だとしても、茶々丸自身が恋をするなんて…エヴァさんの他の人形みたく、魂を吹き込む魔法を使ったわけじゃないんですよ!?ああ、魂を吹き込むだなんて、魔法的にも未解明分野だとしてもなんて非科学的な言い回し…」

まあ、霊魂や疑似霊魂は色々と実験には問題があるし、魔法使いたちもつかえればそれで良い派が圧倒的多数を占めるので魔法でも理論的解明はあまりなされてはいないが。

「それにしても恋とは…むむ…」

聡美がぶつぶつと考えを口にしながら思考を進めていく…付き合ってもいいが、今はネギ達もいるし、やめておこうか…。

「わああ…」

ネギがドン引きと言った雰囲気で聡美を見る…同類のくせに。

「ホンモノさんだぁ…千雨ちゃん…なんとかできないの?」

アスナが私に尋ねる…が、無理である。

「この状態になった聡美は、簡単には止められないよ。内容をちゃんと理解して討議を仕掛ければ火に油は注げるが…みたいか?私達が恐らくアスナには理解できない内容をこの早口で討議しているの」

「…遠慮しとく」

 

「でも、ロボットが恋をしたなんてロマンチックでえーと思うけどなー」

少しした後、このかのこの言葉で聡美は帰ってきた。

「…うん、そうですね、恋かもしれないです…では、只今より実験を開始します、整備は中止です」

…と思ったらもっと深い暴走モードに入っただけだった。

「…まあ、その辺りが不具合の原因っぽいし、良いんじゃないか?」

「ええ、千雨さんならそう言ってくれると思っていました…引き続き、助手役、お願いします」

「了解…あんまり茶々丸の嫌がる事するなよ?」

「ええ、善処はします」

大丈夫かなーと思いつつも、多分私も乗ってしまうのであるが…たぶん。

 

 

 

「あ、あの…これは一体どういった…」

聡美とこのかに茶々丸のコーディネートを任せ、館内放送でガイノイドの自意識に関するちょっとした実験をするから暇な方は集まって欲しいという内容を流して作り上げた状況に茶々丸は困惑を示す。

「普段しないオシャレでハズカシイ状況を創り出し、先ほどのモーターの回転数の上昇を再現する実験です。

さあ、茶々丸、もっとカワイイポーズで工学部男性の視線を釘づけにしてみてーっ」

聡美が叫ぶ。

「あの…でも…」

茶々丸が群集の方をちらちらと見ながら恥ずかしそうにする…この反応はいけるか? 羞恥心の種類が変わっているから再現できるとも限らないと危惧していたが…衆人環視の元で脱がせるわけにゃいかんし。

「おおっ、やはりわずかに上昇していますーっ、脈アリ!」

「いえっ、あのっ…」

「ではお色直しです!」

そういって聡美は茶々丸を着替えに連れていく。

 

「お次はコレですーっ」

先ほどの黒の長袖ワンピース+ニーソックスから白のノースリーブ+ミニスカート+ニーソックスに靴も可愛くした茶々丸が連れてこられた。

「あっ…あの、私はロボットですからこのような服は似合わないかと…関節部分も目立ちますし…」

…一般論としてはそうかもしれんが、ここはロボ萌えどもが集う麻帆良工学部であり、かつ、茶々丸のファッションショーをやっていると聞いてその派閥が集まってきている為、群衆たちの反応もよい。

「そんな事ないえ、茶々丸さん」

「ええ、カワイイですよ」

ネギもこっちの萌えに理解があるらしく、少し顔を赤らめてそう言った。

「う…うう……?」

茶々丸は困惑した様子で少しよろけるような反応を見せた…ウム、感情系が動作不良の原因っぽいのはこれで確定であるが…どうしようかねぇ…。

「おー!?素晴らしい上昇値です!グングンと!これは有効な実験数値です、間違いないかも!?」

「キャー」

聡美のしている遠隔モニター結果にこのかが黄色い悲鳴を上げる…が、これ羞恥心実験であって、恋心実験じゃないからな?

「だなぁ…間違いなく羞恥は学習しているし…人らしからぬ部分はあまり人に見せるものではないとも認識しているみたいだな、茶々丸」

「あっ…ああ……」

茶々丸が困惑した様子でうろたえている。

「すまんな、茶々丸…こう、さすがに露出系に走り出したら無理やりにでも止めるから…な?」

聡美の強制停止は私も恥ずかしいのであまりやりたくはないのである、特にこの環境では。

「はい…でも…あぁ…」

 

「…でも、ホンマに恋やったらだれか相手がおるはずやなあ、茶々丸さん…誰やろー」

「むむ、確かにそうですね、近衛さん!私としたことが、そのアプローチが可能でした!茶々丸の記憶ドライブを検索してみます!」

「えーそんなことできるん?」

「ちょっ!?」

「さ、さすがにそれはプライバシーの侵害じゃないの!?」

「た、確かにやり過ぎや」

茶々丸を慰めている隙に聡美がとんでもない事を始めやがった。

「科学の進歩のためには少々の非人道的行為もむしろやむなしです!

むむむ、何度も何度も再生している映像群がお気に入りにフォルダ分けされています!」

「あっ、まて、せめてこんな衆人環視の前でするのは止めろ!」

どー考えてもモニターを覗き込む奴らを後ろに抱えてそれは止めてやれと、止めに入るが少し遅かったようで…

「これですーっ!」

駆け寄った私の目の前でお気に入りフォルダが開かれ…る寸前に、ロケットパンチでこのか、アスナ、刹那が吹き飛ばされた。

そして、聡美のPCに表示されていたのは…ネギの画像とわずかな猫であった。

「あっ…」

とっさに、立ち位置を変えてネギに画面が見えないように隠す。

「すごいよ、茶々丸、これはホンモノかも。でも驚いたな、あなたの好きな人物がまさか…モゴモゴ」

「さすがにそれはダメだ、聡美、な、茶々ま…る?」

流石にそれは、と聡美の口を塞いで茶々丸の方を向くとレンズ洗浄液らしき液体が茶々丸の眼から涙の様にこぼれ出ていた。

「あっ…ネ、ネギ先生…こ、これは違うんです…ちがっ…ハカセのバカ―ッ!」

と、ロケットパンチが飛んでくる。受け止めてもいいが、ここは殴られとけと聡美から一度離れた。

 

「もぎゃん!?」

 

そんな声を上げてふっ飛ばされた聡美が地面に叩きつけられる前に抱っこする形で受け止め、聡美のPC画面が見られないように閉じる。

「まったく…やり過ぎたって…」

この言葉は聡美に向けたつもりだったのだが、茶々丸がガクガクと震えだす。

「チが…違うンデす…チガチガガガガガガガガ」

あ…恋心を暴かれた羞恥でいっぱいいっぱいの所に聡美を攻撃して(禁則事項を破って)しまって、それを咎められたと思って思考回路に負荷がかかりすぎたかな…?

 

ピーッ

 

そんな音と共に茶々丸の緊急排熱機構が作動して蒸気を吹き出す。

「ええーっ!?」

「ぼっ…暴走です…思考回路に負荷がかかり過ぎたか」

「なっ…」

「まあ、あの状況でとっさに禁則事項破りまでしちまったらなぁ…なんでそんな事したのかの自己解析ルーチンが加わって暴走するわ、そりゃあ」

と、冷静に言ってのけた所で茶々丸の暴走が治まるわけではない。

「ち、ち、違うんで、デ、ですーっ」

「茶々丸さーん!?」

暴走を始めた茶々丸は、私達を取り囲んでいた群集の一部を吹き飛ばしながら逃走し、工学部棟内へと逃げ込んだ。

 

棟内にアラートが鳴り響く…

 

「追うぞ! 聡美、整備モードでの非常停止信号って右胸から変わってなかったよな?」

聡美を下ろしながら、確認をする。

「ええ、モニターの為、整備モードは解除していないのでそれで止まる筈です」

「ん、行ってくる!」

「はい!私達も追いかけます!」

私はそうして先行して茶々丸を瞬動無しの割と全力で追跡し始めた。

 

「はぁ…落ち着いたか?茶々丸」

捕獲部隊の全滅などの惨事はあったが、人目がなくなってからは瞬動の連発であっさりと停止信号を発信でき、その場に崩れ落ちた茶々丸を受け止めながらいう。

「あの…はい…申し訳ございません、お母様」

茶々丸が恥ずかしそうに顔を両手で覆ってそう言った。

 

 

 

「はぁ…茶々丸が恋ねぇ…」

茶々丸の冷却と簡易整備を済ませ、先にネギたちと返したのちに、並びに工学部等への損害への手続き(保険で降りる)、関係各所への謝罪などの後処理を済ませた私達は、並んで寮への道を歩いていた。

「初恋、娘に先を越されちゃいましたねー」

「そうだな…きっとこれは恋じゃないしなぁ…」

そういって聡美の手を握る。

「そうですねー千雨さんの体温…ドキドキはしませんからね、むしろ落ち着きますよー」

「うん、だよなぁ…」

「それと千雨さーん…茶々丸にロケットパンチされた時、庇ってくれませんでしたよね?…まあ、私が悪いのもわかりますけどぉ」

「うん、アレは…まあ、因果応報、ってやつかなと思って…でもちゃんと受け止めただろ?」

「ええ、そこは感謝していますよ?お姫様抱っこは少し恥ずかしかったですが」

「まあ吹っ飛ばされた体勢のまま受け止めるとなるとそうなってな…まあそれも報いだとおもっとけ」

「報い…になるんですかね?アレは」

…さすがに今日は別荘の使用はなしにして、聡美と寮に帰る事にした。

 

 




ネギ君のパイタッチは無しになりました、娘の胸触った責任とか言い出す千雨さんが浮かんできたんですが、そんな事言うより先に自分でやるだろーなーと。

おまけ
千雨さんによるハカセの強制停止法:強制的に(顔を両手で固定して)目を合わせて諭し続ける。
ハカセによる千雨さんの強制停止法:いつぞや、エヴァ宅でやったように、ギュってする(意識が埋没している場合)。


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39 麻帆良祭準備編 第4話 絆の証

 

「んーこんなもんでいいかな」

「ええ、そうですね…気分はどう?茶々丸」

「はい、多少の重量増加は感じられますが、機動性には概ね影響がない範囲と考えられます」

「よし、計算通りだな」

聡美がやらかした翌日、頭上に放熱板を取り付けるという力業で髪型を自由にできるとかいう小改装を半ば(改修までの仮措置としては)本気でやらかして総突っ込みを貰っていた。

そのさらに翌日、私達は時間を取って茶々丸の予備冷却システム強化の改修作業を行っていた。これで、日常生活強度なら半日くらいは持つはずだ。

「ありがとうございます、ハカセ、千雨お母様」

「むーやっぱり私はハカセなんだ?」

「その…スイマセン、ハカセと言う呼び名に私の創造主と言うニュアンスを込めてしまっているので…」

茶々丸が申し訳なさそうに言った。

 

 

 

金曜…麻帆良祭前の授業最終日、私達は昼休み返上で学祭の準備をしていた。

「やっと全コースの仕様が確定しましたねー」

「ああ…ある程度進められる所は進めていたけど、無茶苦茶進行押しているよなぁ…」

「仕方ないネ、元々は喫茶店のつもりでイージー進行計画をしていて部活とかでも分担多めに受けてしまった連中も多かったヨ」

と、言う訳で、意見集約の為の苦肉の策もかねて、短めにならざるを得ない準備期間で複数コースを制作するという暴挙が採用され、その細かな仕様もやっとさっき決まったのである…もう1週間切っているんだが

「と言う訳で、メカ班は仕様の設計への落とし込みをして、今日の放課後と明日で試作一号機を仕上げてしまいましょー」

「む、ハカセ、納期は週明けヨ?それだと少し進行がハードになるが…日曜日は使わないのカ?」

「あ、日曜日は千雨さんと朝からデートですので、強制招集以外はオフですー」

「ナニ…ついに、付き合う事になったのカ?…ええと、おめでとう?」

聡美の誤解を招く表現に超が誤解を重ねて爆弾を投下する。

「あ、馬鹿、こんなところでそんな会話したら…」

「何々〜誰が誰とお付き合い始めたって?」

ハルナや朝倉みたいな…噂好きが寄ってくるに決まっている…で、ハルナが釣れた。

「ちげーよ、私と聡美が明後日遊びに行く約束しているのを聡美がデートって表現して、超が勘違いしただけだって」

「ほほぅ…二人って初等部低学年からずっと一緒の幼馴染だし、割とそういう噂もあるんだけど?」

ハルナが煽る

「やかましい、何でもかんでも恋愛に結び付けて解釈すんじゃねぇ」

「割とそういう雰囲気ある仲の良さにも見えるけど…違うんだ?」

玩具を弄る様にハルナがニヤニヤ笑う。

「しつこい、幼馴染で、親友で、パートナーではあるけど…これは恋じゃねぇよ」

「そうですよー千雨さんと居てもドキドキしませんし、むしろ落ち着きますよー?」

「あーえーっと…つまり…愛の段階に達しているって事?」

ハルナがむしろたじろいでそう言った。

「…友愛や信愛の類いならな…と言うか、私達がそう解釈されるならアスナと委員長だってケンカップルだし、他にも百合妄想の対象、山ほどいるじゃねぇかよ」

「えー妄想は妄想だし、クラスメイトでそう言うのするの、なんか気が引けるし…私の専門薔薇だし?」

「なら、なんで私達はありなんだよ」

「…だって、二人は時々、恋人つなぎとかしているの見かけるよね?」

「…恋人つなぎ?」

そんなものした覚えはないのだが…

「ええっと…指絡めてつなぐ手のつなぎ方?」

「…えっ…あれ、恋人つなぎって言うのか?」

…うん、してた、と言うか今でもしている。

「えっと…はぐれない様にしっかり手を繋いでいた頃からの癖だけど…これの事だよな?」

聡美の手を取って手を繋いで見せる。

「昔からこうつないでいましたよね、手」

「あ、うん…その…ご馳走様?」

ハルナがその反応は想定外と言う感じで答えた。

「諦めるネ、ハルナ…冗談抜きにこの二人、自覚はないし、自覚させるのは無理ゲーアルよ」

超がなぜか諦めたようにそう言って、この話は終わりとなった。

 

 

 

「これで完成ですねー」

土曜日の夕方、クラスの連中から依頼されたメカ類の開発が完了し、聡美が言った。

「うん、そうだな。私も衣類の方は月曜までのノルマは終わっているし…明日は夕方までゆっくりできるな」

「そうですねーまあ、できれば丸一日とも思いますけど…仕方がないですね…」

「まあ、それはさておいて、納入に行くヨ、大道具班が設営始めている筈だからネ」

と言う訳で私達はメカ類を教室に運び、流れで少し設営を手伝う事となった。

 

 

 

翌朝、ネギやクー達との合同朝錬から戻ると、珍しく聡美が早起きをして身支度を始めていた。

「おはようございます、千雨さん」

「おはよう、聡美、早いな」

「はい、折角なので朝ごはんも外でどうかなと思いまして」

「ん、わかった、私もシャワー浴びて着替える、もし希望とかあれば調べといてくれると助かる」

「はい、わかりました。身支度終わったら調べ始めますね」

まだ、着替え途中の聡美は、そう返すのであった。

 

で、結局、私達は元々ランチにどうだろうと話していた北欧風カフェ、イグドラシルでフィンランドの朝食をやっているのを見つけ、そこで朝食をとりながら具体的な今日の計画を練ることにしたのであった。

そして、出てきたものはミートボールのクリーム煮をメインにライスプディングのパイ、マッシュポテト、サラダ、それにライ麦パンが添えられた、たっぷりとした朝食だった。

「…思ったよりボリュームあるけど、大丈夫か?」

体を動かす分、私のほうが食べる量は多い。

「んー多分、いけますけど…後で食べ歩きもしたいのでライ麦パン1枚とパイを半分取って頂けるとうれしいです」

「ん、わかった」

私は了承の意を示し、手をつける前に指定された物を自分の皿に移す。

「じゃあ、いただきます」

「いただきます」

私達は質・量共にヘビーな朝食に挑むのであった。

 

「あーやっぱりおなか一杯ですねー」

「そうだな、クリーム煮って言うのを少し甘く見ていたよ」

「でも美味しくて、綺麗に頂いてしまいましたし、私も千雨さんも」

食後のコーヒーを頂きながら会話を交わす。

「と、なると、やっぱり少し混むかも知れませんが、縁日より先に散策にしましょうー」

「そうだな、縁日の屋台で何か食べるのは暫く時間欲しいし」

「もういっそお昼は縁日で軽めに済ませちゃいましょうか?そうしたらの準備の時間前に軽めのディナーチックなモノも頂けるでしょうしー」

「あーそれはちょっと考えている事があるというか、準備している事があるから…集合時間の二時間弱ほど前から私に任せてくれると嬉しい、軽めなら学祭メニューめぐりもできる…と思う」

「え…そうなんですか?でしたら、千雨さんの計画で行きましょう」

「うん、まあ…精一杯、用意してあるから…喜んでくれると嬉しい」

「ふふ…楽しみにしていますよー」

そう言って笑った聡美の胸元で雫型のネックレスが揺れた。

 

 

 

「ん?アレって柿崎達か?」

「みたいですねー折角だし聞いていきましょうか?」

手を繋いで散策をしていると、世界樹前ステージで演奏をしているうちのクラスのチア3人組+亜子が演奏をしているのを見つけた。折角だからと私達は演奏を聴いていく事にした。

 

「中々上手いじゃないか」

通しの練習らしき演奏が終わった所で4人に声をかけた。

「あっ、千雨ちゃんにハカセ、聞いてくれていたんだ」

「ええ、上手でしたよー」

「まあ、まだ完璧ではないけど、大分形になってきたよね…二人もよかったら当日、聞きに来てよ」

「あーすいませんー私、マホラ祭中はお仕事が忙しくてー…ちょっと厳しいですねー」

「そうなんだ…それで二人は代わりに今日デートしているわけか」

「…まあ、二人で遊びに出ているって意味では広い意味ではデートではあるけどさ」

「えーお揃いのネックレスをして、そんなに仲良さそうに手を繋いでいるのに?」

「…一昨日ハルナにもいったけど、私達は昔からこうなんだって」

「んーまあ良いけど…それじゃあ、そろそろ再開するから…また夕方、クラスでね」

そう言って演奏を再開した4人に手を振って、私達はその場を離れた。

 

 

 

「あれー千雨ちゃん、ハカセちゃん、デート?」

散策を続け、そこそこお腹も空いてきた頃、龍宮神社の縁日を訪れ、まずはと参拝を済ませた時、このかに声をかけられた。

「このかと刹那…とカモか…なんか皆に言われるけど二人で遊びに出て来ただけだからな?」

「そうなん?二人は仲ようて羨ましいなぁと思っとったんやけど」

「仲はいいですけど、刹那さんには先日申し上げたように、恋人というのは違いますよー?」

聡美も恋人関係である事を否定する。

「そうなんかーじゃあ、せっちゃん、私らも手ぇ繋ご?」

そう言って、このかは刹那の手をとり、指を絡めた。

「ぇっ…このちゃん…」

刹那はとても嬉しそうで、恥ずかしそうである。

「…なるほど、このちゃんか…お嬢様じゃないんだな」

それが素か、という顔で刹那を見つめる。

「くっ…」

「…せっちゃん…嫌やった?」

「そ、そんなわけあらへん、むしろ嬉し…いです」

素らしき京言葉でこのかの悲しそうな言葉を否定する刹那…うん、コレの方が私達よりも遥かにラブ臭と言う奴ではなかろうか。

 

「そや、折角やし皆で屋台、回らへん?」

「私はかまわないけど…」

「私もかまいませんよ?」

「じゃあ決まりやな」

と、言う事で4人+一匹で縁日を回る事になった。

「ダブルデートって奴だな」

…カモの戯言は放置しておく、刹那が既に握っていたので。

 

 

 

「ほな、また後でクラスでなー」

「おう、また後でな」

「はい、また後でー」

「また後で、会いましょう」

一通り、縁日を堪能した私達は最外周の鳥居前でこのかと刹那と別れた。

「まだ、もう少し時間あるし、また散策しよっか」

「はい、行きましょうか」

 

 

 

「あ、聡美、この花のペンダント、どうだ?」

「この紫に着色してあるのですか?…綺麗ですね…丁度、同じのが二つありますし、コレにしましょうか」

私達はアクセサリーの露店が出ているエリアを訪れ、何か揃いの丈夫なアクセサリーを買おうと言う事になった…いま付けているのは小学生の頃から使っているもので、成長に伴いチェーンこそ交換しているもののずっと大切にしている品なのではあるが、雫型とは言えガラス製のため普段使いには少し怖く、普段は二人ともしまいこんでいる。

「すいません、この花のペンダント二つとも頂けますか?」

「このスミレだね、チェーンはステンレスのままでいい?それとも追加料金だけど銀に交換する?」

「えっと、普段使いするつもりなんで丈夫な方を…」

「ならステンレスだね、お会計は…はい、一つこちらになります。」

と、店主が電卓で値段を示す。値札はついていたが、まあ4桁後半である。

「はい、お釣りお願いしますー」

「ちょうどだと思います、確認をお願いします」

それぞれ、代金を支払い、ペンダントを受け取る。

「はい、千雨さん、プレゼントです」

聡美が今買ったばかりのペンダントを差し出してくる。

「はは…またか?コレの時みたいに」

そういって、私は自分のガラスのペンダントを触る

「はい、ダメですか?」

「いいや…ほら、後ろ向け…こっちに付け替えるから」

「お願いしますねー」

私は、聡美からガラスのペンダントを外し、今、私が買った銀のスミレのペンダントをつけてやり、外したネックレスを手渡す。

「うん、似合っているよ」

「ありがとうございます…私も千雨さんの、交換しますね」

「じゃあ、頼む」

そう言って、私は聡美に背を向ける。すると聡美は私がしたように、私のガラスのペンダントを外し、今、聡美が贈ったペンダントに付け替えた。そして外してもらったネックレスを受け取る。

「はい…千雨さんもお似合いです…おそろいですね」

「ああ、おそろいだな」

「まいどあり」

店主の明るい声に見送られて、私達は店を後にした。

 

 

 

その後、軽く学祭限定メニューめぐりをして私達は桜ケ丘を訪ねていた。

「この道は…エヴァさんのお家ですか?」

「ここまでくれば流石にわかるよな…うん、エヴァの家に向かっている」

「なるほど…という事は…」

と、さすがに聡美もどういうプランを立てているかは感づいている様ではある。

 

エヴァ宅の呼び鈴を鳴らすとすぐに茶々丸が現れた。

「いらっしゃいませ、ハカセ、千雨さん。お待ちしておりました」

まずは茶々丸に連れられて家主にあいさつである。

「こんにちは、エヴァ」

「お邪魔します、エヴァさん」

「ああ、いらっしゃい、ハカセ、千雨。手配は済んでいるそうだ、まあ、たまにはのんびりして来ると良いさ…」

「うん、ありがとう、エヴァ」

「こちらです」

茶々丸に促されて、地下室へと向かう。

 

「それでは、ハカセ、千雨お母様…ごゆるりと…」

茶々丸はそう言って別荘が安置されている部屋の扉を開いた。

「ありがとう、茶々丸」

茶々丸に礼を言って、私達は別荘に潜った。

 

「ふふーやっぱりエヴァさんの別荘ですねー確かにこれならゆっくりできますし…ディナーも取れますね」

「そういう事、丸一日遊べないならと思ってさ…エヴァに頼んで娯楽用に借りて、茶々丸に頼んで夕食とか色々と手配してもらったんだ」

「ありがとうございます、素敵なロスタイムって奴ですかね?」

「ロスタイムかはともかく…二人で遊んで…ゆっくりしよう…来週は忙しくなるんだしな」

「ええ…ありがとうございます…千雨さん…いつもと逆ですねー」

「ああ、今回、無茶するのは聡美と超だからな…頑張れ、でも無理するなよ」

「ふふ、それも、いつも私が千雨さんに言っている事ですねー」

聡美はクスクスと笑って腕を絡めてきた。

「じゃあ、いきましょうか」

「ああ」

私達は、やっと転移陣から塔へと歩き始めた。

 

 

 

まだ時間があるからとプールで水遊びをして、風呂にも入って、お揃いで色違いのドレス…いつかのように、私が黒で、聡美が白…に着替え、エヴァご自慢の食堂から夜景を楽しみながらディナー…食材費を納めて豪勢にしてもらった…を済ませた私達は、グラスでノンアルコールシードルを飲みながら会話を楽しんでいた。

「とっても素敵な一日でした、千雨さん」

「ありがとう、そう言ってもらえると、エヴァから別荘を借りたかいもあるよ」

「ええ、景色も料理もとてもよかったです…料理はともかく、夜景は千雨さんには見慣れた景色かもしれませんけど」

「いや…全然違うよ…こうしてみる夜景と修行の合間に眺める空とはな…」

「もう…綺麗な夜景ですね、ってやつですか?」

聡美が頬を赤らめていった…ノンアルコールの筈なんだけど、雰囲気で酔ったかな?

「ん?どういう事だ?」

「あー違うならいいです…ふぁあ」

「朝も早かったし…そろそろ寝るか?」

「そうですね…明日も夕方近くまでゆっくりできますし…もう寝ましょうか」

「では、ナイトドレスをご用意してありますので、いらしてください、千雨様は私がご案内します」

「聡美様は私がお世話をさせていただきます」

「じゃあまた後で」

「はい、また後で」

人形達に案内され、歯磨きなどの寝る前のケアをしてナイトドレスに着替えた私は何時もとは違う寝室に案内された。

 

「あ、千雨さんもちょうどですね」

そして、今夜の寝室前でばったりと聡美と合流した。

「あれ…千雨さん…これって」

部屋に入ると、そこはツインではなくダブルでセッティングされた寝室であった。

「…って、同室に、とは言ったけどダブルベットで、とは言わなかったと思うんだけど?」

「はい、ですがツインとも伺っておりませんでしたので…」

「妹の茶々丸からお二人は彼女のお母様二人と伺いましたので、このように」

「それでは、ごゆるりとお休みくださいませ」

「朝は、枕元のベルを鳴らして頂けましたらご奉仕に参ります」

そう言って人形たちは一礼をして、去って行った。

 

「…どうしよっか」

困り果てて私が言う。

「二人で一緒に寝ればいいんじゃないですか?」

しかし、いつもの調子で聡美がそういう。

「それは…」

「…不味いですか?一夜の勢いで妊娠してしまう訳でもないですよー」

…そんな爆弾発言まで、さらりと変わらず吐かれるとちょっと困る。

「っておい…」

「…事実ですよ?私は女で…貴女も女ですから…ね?千雨さん。まあとにかく、突っ立ってないでいらしてくださいー」

聡美がベッドに腰掛けて隣をトントンと叩く

「ああ…うん…」

そして、促されるまま、私はそこに座った。

「少なくとも、私は仮契約の時みたいに、千雨さんなら嫌ではないですよ、キスも、その先も…貴女が望むならば…あ、でも優しくはしてくださいね?」

「はぁ…」

私は大きくため息をつく。

「…聡美が望むならば、私も応じる事自体はきっとできるし、受け入れる事も嫌ではない…けど…私は今のままでも十分だとも思っている…だから、私からは望まない…少なくとも、今はまだ…」

「ええ、それは私も同じです…が、まあ万一、俗にいう間違いが起きても双方、異存はないわけですよね?なら別にいいじゃないですか、添い寝くらいしても…千雨さんの体温、落ち着くのも事実ですし…よく眠れそうです」

「…ああ、うん…そうなるわけか…」

よーするに、万一間違い起こしてヤっちゃっても異存が無いなら添い寝位いいじゃん、という事である。

「じゃあ、寝ようか、一緒に」

「はい、寝ましょう、一緒に」

二人でベッドに身を横たえ、布団の中で手を握る

「おやすみなさい、千雨さん」

「おやすみ、聡美」

そして私達は…速攻、眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

一夜明け…薄明るい中、私は聡美を抱くようにまどろんでいた。

「ん…」

その体温が心地よくて、ぎゅっと抱きしめた私は再び眠りにつくのであった…

 

 

 

何度か眠りとまどろみを往復し、外の光が窓から差し込むような時間になってきた。

「ん…ふぁあ」

何時もならば、朝寝坊の時間ではあるが折角であるのでのんびりとさせてもらう。

私に抱きつき、胸に顔を埋めるように眠る聡美を体の下に回っている左手で抱き寄せ、右手で髪に手櫛を入れる。

こういうのも悪くないと思う私が確かに存在しているのを自覚する…が、関係を変える事を望むかと言えば…それは望んでいないのも我ながら面倒な物である…思春期の恋に恋するような衝動、聡美を欲しいと思う気持ち、あるいは欲望が満たされない飢餓感、聡美から求められたと言う理由…そう言ったものがあればまた違うのかもしれないが…そう言った思索に耽りながら、私は再び目を瞑り聡美の髪の手触りを楽しむのであった…

 

 

 

「んー…千雨さん…」

聡美が身じろいで私の名を呼ぶ。

「おはよう、聡美」

「ふぁい…おはようございます…楽しいですか?」

「うん…楽しい」

「ならいいですよーえへへー」

そう言って聡美は私に抱きつく力を強くした。

 

 

 

「名残惜しいですが、そろそろ起きましょうかー」

「そうだな…ん…」

互いに強く抱き合い、そして体を離す。

「んー改めて、おはよう聡美」

起き上がって伸びをする。

「おはようございます、千雨さん。よく眠れました…またしましょうね、添い寝」

聡美も起き上がり、言った。

「…まあ、偶に、な。毎日だと…毎日寝坊しそうだ」

「ふふーそれはそれでしっかり睡眠が取れていいんじゃないですかー」

からかうように聡美が言う。

「…それはそれで魅力的だが…体が鈍っても困るし、朝も色々やることもあるし…」

「それもそうですねー人形さん、呼びますよー」

「ああ、頼む」

 

聡美が枕元のハンドベルを鳴らすとすぐに人形達が現れた。

「昨夜はお楽しみ…というご様子ではないようですね」

「ご朝食にいたしますか?ご入浴なさいますか?それともまずは軽く運動なさいますか?」

「あー折角だし朝風呂貰おうかな…その後朝食で…いいかな?」

「はい、それで行きましょう」

「かしこまりました。では、参りましょう」

私達は人形達に先導され、朝風呂を貰うこととした。

 

 

 

「あー楽しかったですー」

のんびりと風呂と朝食を楽しんだ後、エヴァの蔵書(の内、許可が出ている棚)から魔法理論の本などを二人で読んで遅めの昼食として軽食を食べ…転移陣に向かって歩きながらながら聡美が言った。

「うん…私も楽しかったよ、二人で過ごせて」

「はいーでも、もう時間ですからねー」

「ああ、帰ったらクラスの仕事だな」

「ええ…ね、千雨さん?」

そう言って聡美は隠し持っていたらしき仮契約カードを唇に当てた。

「うん…」

私はそう答えて、聡美の望みを叶えた。

 

こうして、私達の麻帆良祭前、最後の休暇は終わりを告げた。




初恋より先に側に居るのが当然になった二人…でも、本人たちが頑なに主張しているように、自覚としては恋心ではありません、ハイ、はたから見て付き合ってなかったの?とかやっと付き合うんだとか言われようとも、です。恋とはドキドキするもの、系の本人たちの固定観念からは外れた関係なので…仮契約の時はさすがにドキドキしていましたけど。相手がそう望むなら関係をそういう方向に進めてもいいけれど、自分から進める気はないともいうめんどくささ。そして同衾してもエッチな雰囲気になるより先に安心感で安眠する二人というオチ。
 京言葉は割りとイメージで。カモ君の言う所のダブルデートはナチュラルに距離の近い千雨・聡美ペアに当てられて距離感が縮まるコノカにどぎまぎするせっちゃんを楽しむ会。(カット


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40 麻帆良祭準備編 第5話 警告

週が明け、授業のない完全な麻帆良祭準備期間に突入すると、いよいよ設営は本格的に始まった。

「千雨さんールームランナー設置完了したので、動作チェック手伝ってくださいー」

「おーう、今行く」

私も、ロボ研の手伝い以外は概ね、朝から晩まで衣装作りと、教室の設営の手伝いと設置された仕掛けメカのチェックに明け暮れていた…二人きりの楽しさとはまた違うが、こういうのも悪くはない…

 

 

 

そして、麻帆良祭二日前の別荘での事。

「ふはは…モテる男は大変だな、ネギ」

「笑い事じゃないですよ…こんなの体が二つなきゃと無理ですよぉ…」

「そうだなー特に勉強会やツアー系は時間が決まっているし時間もかかるし…タイムテーブルは書いたのか?」

「いえ…これからです…」

「うん…まあ、デート系は最悪他の展示とか見て回るのに繰り入れちまえ…どうしようも無ければな…ごめんなさいするよかマシだろ」

「うーそうなんですけれど…」

大量の予定を詰め込む羽目になったネギはとても大変そうである。

…格闘大会、実はM&Aされていて、大規模かつ割と長時間の大規模イベントと化していると知ったら発狂するんじゃなかろうか、ネギは。

「ま、体力的に無茶する羽目になるだろうから、最悪、ここで休めよ?倒れたら元も子もないんだからな」

まー私も無茶をさせる側に一枚かんでいるんだが。

「そうそう、まほら武道会、私も出るからな」

「えぇーっ千雨さんもですか…どうしよう…別荘の外だとマスターよりも勝てる気が…」

「はっはっは…まあ、精々悩め…一応はルールのある試合だ、やりようはあるさ…瞬動くらいは多分は使うがな」

「魔法無しだと、僕が勝てる余地無くないですか?それ」

「んーまあ、最近は反応も良くなって来たし、いけるんじゃないか?それに練習しているんだろう?瞬動術」

「あ…はい…我流ですが…」

ネギがばつが悪そうにする。

「マスターから私はまだ教えんなって命令がでているけど、技を盗む分には問題ねーよ…ちょっと見せてみろ」

「はい」

ネギに披露させたそれは…まあ基本は間違っていないが瞬動術と呼ぶのは憚られる代物だった。

「…思いっきりがたりねぇなぁ…」

「でも、これ以上速くすると上手く着地できなくて…」

「その緩急こそが瞬動術の肝なんだよ、下の砂浜でも使って何度も吹き飛びながら練習すれば多少マシになるだろうさ…それで、ある程度できるようになったらクーにアドバイスでも貰え」

「クー老師にですか?」

ネギが首をかしげる。

「ああ、そうすると…コレが…コレになる」

そう言って、入りと抜きが露骨な瞬動と、歩法を意識した縮地を見せてやる…機動力メインで鍛えているので楓のような本物に比べるとまだまだではあるが。

「…中国拳法にもこういう技術があったはずだからな」

「はい!」

ネギが元気よく返事をする。

「ほう…楽しそうな話をしているじゃないか、千雨、ぼーや」

話し声と物音でバレたか、マスターが現れる。

「げっ、マスター」

「あ、あの…これは…」

「私は、まだぼーやへの瞬動術の教授を許した覚えは無いがな?千雨」

「あーネギの我流での練習成果を見て、ちょっと手本を見せただけですよ…?」

内心冷や汗をかきつつ答える。

「ふむ…まあそれなら構わんか…ではぼーや、学園祭明けの修行から組み手での使用を解禁するから自主練習しておくように…それまでは、千雨は手本を見せるのも禁止だ」

そう言って、マスターは笑いながら去って行った…

「…なんかすまん…まあ、がんばれ」

「いいえ…気になさらないでください…でも、またやる事が増えちゃいました…」

ネギがちょっとしょんぼりした様子で言った。

 

 

 

翌日、ある意味予想通りではあるが進行が遅れているため、本来禁止の泊り込みをして徹夜での作業となった…まあ、そういう事をしているのはうちだけではないのだが。なお、聡美は徹夜は無理と宣言して不参加である。私は…まあ、途中で別荘に逃げる以外はぶっ続けで作業をするつもり…だったのだが。

「龍宮さん、長瀬さん、長谷川さん、いる?」

昼前位にしずな先生に呼ばれ、学園長室に呼び出される事となった。

 

「…と、いうわけで、三人には告白阻止の仕事を頼みたいんじゃよ、どうしても学園の魔法先生と魔法生徒だけでは手が足らんでの」

学園側は大発光が一年繰り上がったのに数日前に気づいたのか、情報封鎖をしていたのか、麻帆良祭前日になって告白阻止作戦を周知し始めているようである。

「はい、報酬がいただけるのであればその分の仕事は致しましょう」

「了解でござる」

「私も、かまいませんが…クラスのシフトと…一日目の夜、ならびに二日目の午前ははずせない用事がありますので…」

「それで問題ないよ、長谷川君。君達には此方のシフトの穴を埋める予備人員の負担軽減を頼みたくての…一日目と二日目はこのシフトの範囲で入れるだけ入ってくれると助かる、三日目は可能な限り、該当地域でのパトロールを頼みたい」

「わかりました、では」

と、私達は相談と調整をして無理の無い範囲で告白阻止の仕事を入れていった。

 

「うむ、助かるよ。もし、急用などができた場合は明石君に連絡しておくれ、彼がこの件のシフト管理をしておるからの」

「「「了解しました」」でござる」

「うむ、では解散…と言いたいが、長谷川君は残っておくれ」

といわれ、私だけ残された。

 

「さて、長谷川君…非常に言いにくいんじゃがの…超君がまたやらかした…人払いの結界を抜いて会合を覗き見た現行犯じゃ」

「…はい」

いよいよ計画実行って言う段階で何やっているんだ、あいつは。

「ネギ君のとりなしで今回は処罰なしとなったが、長谷川君も知っての通り、人払いされた会合の場を覗き見る行為は魔法使いであっても処罰の対象になる行為じゃ…ワシは君らの研究を高くかっとるし、野外の簡易結界でやるような会合でそこまで目くじらを立てるつもりは無いが…規則は規則じゃ、あまり何度も警告済みの違反行為を繰り返されると庇えん、というのはわかってくれると思う」

「はい」

「長谷川君も、共同研究者を失いたくはないじゃろう…君からも超君に注意しておいてくれるかの」

「わかりました」

「うむ、では行ってよろしい」

そういわれ、私は解放された。

 

 

 

「って事なんだが、何処から何処までが計算ずくなのかな?超」

ネギから事情を聞き出した私は、超を掃除された会合場所の1つに呼び出してこう問い詰めていた。

「ナンノコトカナ、千雨サン」

「この時期に覗く価値が低いとわかっている会合を態々覗いてドジ踏んだ事、ネギに助けを求める展開、礼に渡した怪しげな懐中時計様のアレ…全部に決まってんだろ!」

「ハハハ…まあノーコメント、と言う事にしておいて欲しいネ、千雨サン」

「ったく…お前の事だから切り札の二、三枚伏せてあったからこそあんなまねしたんだろうが…巻き込んでいいとは言ったが怒らんわけじゃない、とも言ったの忘れてないだろうな」

「もちろん…そういう意味では武道会後はたっぷり怒られる覚悟は決めているヨ、全部終わった後にネ」

そう言って、超はにやりと笑う。

「はぁ…そっちは納得ずみだし取るべくして取っているリスクだって解っているから構わんよ…精々、友達思いの魔法使いとして弁明するさ」

「うむ、それは助かるネ」

「で、朝倉は落ちたのか?」

「いや、まだ悩んでいる様ネ…だが、まあ九分九厘落ちるだろう…駄目な時は頼むヨ」

「わかっている、アイツほどじゃないが最低限はこなして見せるよ…弁明がメンドイから朝倉に代わってほしいけどな」

「だろうネ…ではそろそろ」

「ああ、また明日な」

そうして私はクラスの準備に戻り、超は計画の詰めの作業に戻っていった…んだと思う。

 

 

その後、二日目の徹夜作業により、何とかクラスのお化け屋敷は完成し…運命の麻帆良祭が始まった。

 



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麻帆良祭編
41 麻帆良祭編 第1話 疑念と予選会


お化け屋敷の最初のシフトに入っていた私が担当である日本の怪談コースで仕事をしていると、隣の学校の怪談コースが騒がしくなった…どうやらネギが来たらしい…一番怖い話を選びやがってどうしたんだろう…と思っていたら、どうやら他のコースの案内役が委員長とまき絵の番だったらしく、本能的に危険を避けたと言う事である…が、ズボンを脱がされていた。

 

時々休憩を挟み、着物姿で客引きにも回りつつ1時間ほど仕事をしていると、ネギがコタローと手伝いにやってきた。

「はい、衣装…ネギ先生、スケジュールキツイんだろ?無理に手伝わなくても回るからな?こう…先生も見回りあるんだろう?」

一応作ってあったネギ用の衣装を二着、ネギとコタロー用に取り出して渡す際に私はそう言った。

「あ…えっと…それは何とかなる目処が立ちましたので…」

「…超から貰ったって言ってたアレでか?」

「えっと…はい…」

と、なるとあの懐中時計様の物は想定していた超の切り札、タイムマシンの予備機か何かか。

「…無理はするなよ?」

心の中で何度目かは知らんが、と付け加えておく。

 

少年ドラキュラと化したネギと犬と化したコタローを送り出して会計役のシフトに入っていると、ネギ達が大量の客を連れて戻ってきた。

「なるほど、こいつは使える…子供のかわいさは女性から老人まで幅広くアピールするしね」

「まあ、中身はゴシックルート以外、ガチのお化け屋敷だがな」

「まあいいじゃん、ゴシックルートはファンシーで可愛い恐怖がコンセプトなんだし」

と話をしていると柿崎がネギに次の衣装を渡していたが…まて、アレって…。

 

「キャアアアア!?何ですかコレー柿崎さん!」

と、着替えておいて可愛い悲鳴を上げるミニの狐娘のネギがいた。なお、日本の怪談ルート用に作りはしたが、ハート度3相当であると判定されて没になった代物である。

「うん、アリではあるが…ちとマニアックな…いや…少年だとバレなければ…?」

思わずそんな寸評をした私であった。

大爆笑するコタローに、柿崎にネギのアピール層を狭めていると抗議する裕奈、そこに委員長がネギに仮装させてまで手伝わせるとは何事だと怒鳴り込んできて…鼻血の海に沈んだ。

「…ネギ先生ラブ勢でショタコンな委員長にゃ強すぎたか…」

「ちょ、千雨ちゃん、冷静に分析してないで手当てしなきゃ!」

「そうだな…とりあえず、ネギ先生、それは危険すぎるのでドラキュラに戻ってきてください」

「は、はい!」

とりあえず、原因を遠ざける事にした私だった。

 

 

 

客引きを兼ねて学園祭を周りに出たネギ達を見送り少しすると、昼までの今日の私のシフトが終わった。

「じゃあお疲れさん、もし暇になったら手伝いに来る」

「はーい、お疲れ様、千雨ちゃん」

と、着物姿のままで退出した私は、パトロールを兼ねて魔力溜りになっているカフェに入り、糸術でカトラリーを落としたり、グラスを倒したりという迷惑行為による告白阻止を行いつつ、のんびりと昼食を楽しんだ。そして、そのまま魔力溜りを巡る様にパトロールのシフトに入り、糸術で本人を転ばせたり、物をぶつけたり、直接人ごみでぶつかったかのように装ったりして告白阻止をしながら学園祭を回るのであった…バイト代、受け取れるかは兎も角、まだ真面目に仕事をしないと不都合があるので…。

 

 

 

シフトが終わった私は一度寮の自室に戻り、接収に備えて事が始まる前に消すべきデータが全て消されている事(バックアップは暗号化してエヴァに預けてある)を確認し、呪紋回路の最終案を確定させた私は、PCの加速空間で少し考え事をしていた…超の奴、ネギにタイムマシンを渡した様であるが、いったい何を考えているのだろうか…と。

確かにネギは本物の英雄…の卵ではあると思うし、味方に引き込めればその価値は計り知れない。しかし、だからこそ、そして性格的に敵対する事くらい超にはわかるはずである…と考えた時、二つの考えが私の脳裏によぎった。

1つは、単純に罠である事…私がタイムマシンを用いた策を仕込むのであれば計画の中枢、恐らく3日目の夕刻から深夜にかけてにネギが何もできないように仕掛けをする。通常であれば狙った時間にそれ…強制時間跳躍をするのは難しいかもしれないが…エヴァの別荘のような時空間を弄った代物からの出入りに介入したり、特定の日時…例えば学園祭三日目からの跳躍を狂わせたりする事はタイムマシンの作成に比べ、さして難しくはないだろう。

そしてもうひとつの可能性…それは…超のある種の裏切りである…いや、聡美が手伝っている以上、完全な裏切りではないにせよ、私が想定している全ては茶番…とまでは言わないがネギの成長と超の計画成功との両天秤にかけられている可能性すら想定できる…そうでなければ、タイムマシンの戦闘への応用などというすぐに思いつく切り札に対抗できる代物をネギに渡す意味がわからない…単純にネギを甘く見ている?魔法理論の天才だと口酸っぱく言ってあるネギを、あの超が?…超の最終的な望みが必ずしも自身でなす必要はなく、史実で一歩及ばなかった英雄によって達成されても一向に構わないのであれば、そして聡美を納得させるだけの理由があれば…?

 

ピピピピッ

「ちう様、お時間です」

仕掛けてあったタイマーが鳴り、電子精霊がそれを告げる。

「…いかんな、想定が飛躍しすぎていた…うん、ありがとう」

私は加速空間から実空間に帰還し、龍宮神社へと向かった。

 

 

 

「お、朝倉は超についたか…まあ予想通りだな」

龍宮神社の舞台近くに設営された拠点に潜り込み、開口一番、私はそう言った。

「っ!千雨ちゃん!?どうしてここに!?」

「あはは…驚いてるな…まあ、端的に言うと私がお前の予備の司会だったからだよ」

「えっ…なにそれ、千雨ちゃん、こっちなの?魔法使いなのに!?」

朝倉が驚きを隠さずそう言った。

「ハハ…厳密には今はまだ好意的中立だが…千雨サンの中の一線を越えない範囲で、協力してもらったヨ、色々と…ネ」

「そうですよーむしろ私達がそろっているのに千雨さんが無関係なわけ無いじゃないですかー」

「と、言う訳だ、朝倉。お前がこっちについてくれたおかげで色々と弁明がめんどくさいこの武道会の司会役から解放されたってわけさ」

「あーうん…と言うか、それってヤバくないの?」

「ああ、誓約破ってたら無茶苦茶ヤバイぞ。私は魔法の秘匿を誓約して魔法使いのお仲間に入れてもらったわけだしな。だから、私は超が何を企んでいるのかは聞いてはいない。そんで、今回も友人から賞金のでかい格闘大会への出場のお誘いと司会が見つからなかった場合の予備としか聞かされてないしな。ま、限りなく黒に近い灰色って奴さ」

「うっわぁ…千雨ちゃん…その発言の時点で真っ黒じゃん」

朝倉があきれた様子でいった。

「だが、朝倉、お前もヤバイ橋、渡ってんじゃねぇか。とっ捕まったらネギの件を含めて記憶消去くらいありえるぞ?」

「あはは…まあねー。でも、この橋は渡る価値があるって私のジャーナリスト魂が囁いてさ」

朝倉はそう言って、にやりと笑った

 

 

 

「所で千雨さんー」

「ん?何だ、聡美」

「その着物、とっても素敵ですけどーその格好で出場されるんですか?」

「ああ、鉄扇術と糸術は使う予定だし、その方が映えるかな、と思ってさ。クラスの衣装だけど予備も作ってあるし…ちょっと発動媒体のバンクルが不似合いだけどな」

「なるほど、ちょっと楽しみですーでも、無理はしちゃ嫌ですよ?」

「大丈夫、無理はしないよ、お遊びのつもりだからな」

「そうですか…でも、優勝して欲しくもあるんですよねー」

「まあ、手も抜くつもりはないよ…ネギとコタロー位なら勝てるだろうし…いや、ネギはここ一番に強いから油断すると微妙か、マスターも身体能力は兎も角、技量は敵わんし…やっぱりちょっと無茶はするかもな…」

早めに来たのは朝倉が落ちてなかった場合に備えてもあるが、聡美と会いたかったのも多分にあるのである。

 

「超りん、本当にあの二人、付き合ってないの?なんかお揃いのネックレスまで増えているんだけど…しかも、アレ、スミレだよね?」

「…本人達は頑なにそう言っているから付き合ってない、そういう事でいいんじゃないカ?最近また一層仲良くなっている気はするガ、自己申告を大事にするネ」

「うーん…まあ別に記事のネタにゃしないから構わないんだけど…」

とか言う会話も聞こえるが気にしない。私達は恋人同士ではないのである、添い寝とかしたけど。

 

「千雨サン、そろそろ開場ヨ」

「はいよ、それじゃあいってくる、聡美、超、朝倉」

「はい、千雨さん、がんばってくださいねー」

私は一度、門前の人ごみに紛れ、予選会場に開門と共に入場した。

 

「あはは…麻帆良学園の最強を見たい、と来たか」

超の開会宣言を人混みの中で聞いていたが、学園最強を見たいと言うのは確かにそれっぽい理由ではあるが、絶対コレ、魔法バレの実例収集が主目的だろう。その証拠に、超はこう宣言した。

「飛び道具及び刃物の使用禁止!…そして呪文詠唱の禁止!この二点さえ守ればいかなる技を使用してもOKネ!」

「クック…超の奴め…」

「ほんと無茶するアルネ、超の奴」

瞬動も多用せんようにと思っていたのに。そう、苦笑しているとクーが声をかけてきた。

「クー、楓、真名…と鳴滝姉妹か。お前らも出るのか?それなら割のいい遊びじゃなくなっちまうな」

「はは…まあ楽はさせんよ…っと、ネギ先生もいるじゃないか」

「コタローもいるな。せっかくであるし、合流するでござるか」

こうして、私を含め、ネギとコタローと合流する事になった。

 

合流した私達にネギは恐慌状態になり、無理、勝てない、状態に陥った…まあ、確かに負けてやるつもりはないが試合であれば絶望的な程でも無いのに戦う前からそれはちょっと良くないぞ。

「千雨姉ちゃん、あん時の決着付けたるからな!俺は負けへんぞ!」

まあ、コタローは自信満々ではあるが

「ははは、まあ戦う事になったら、お互い魔法バレしない程度に手合わせといこうか、コタロー…負けてやる気はないがな…ネギも、真剣勝負だが命の遣り取りじゃないんだし、修行の場だと思って頑張れ」

と、私は建前を押し出してそう言った。

「千雨さん…はい!」

「ははは…まあそういう発想で挑む事自体は問題ないが…約束は覚えているだろうな?貴様が私に負ければ最終日は丸一日私に付き合って…」

「ハ、ハイ、それはもちろん」

と、そこにエヴァが合流し、エヴァを舐めた内緒話をしたらしいコタローに恫喝もしていた。

 

「しかし…そうなると予選会での潰し合いになるかもな…はは、半ば遊びだと思って着物で来たんだがミスったかな?」

「はは…そうだな、まあ私もこの巫女服のまま出るつもりだから、いい勝負じゃないか?」

「ぬかせ、お前の相手をするならお遊びでも【無茶】しなきゃ勝てる気がせんよ」

「私は逆にお前を飛び道具無しで仕留めきる自信が無いがな、無茶無しの本気でも」

そういって、私と真名は牽制しあう。

 

「やあ、楽しそうだね。ネギ君達が出るなら僕も出てみようかなー」

混沌とした状況をさらに混沌とさせる高畑先生が現れた。

そして、なぜかアスナも出場を宣言し、ネギは出場辞退しようかなどと泣き言を言い出した。

 

「ああ、ひとつ言い忘れているコトがあったネ」

挨拶も終わりに近づいた超の言葉が会場に響く。

「この大会が形骸化する前、実質上最後の大会となった25年前の優勝者は…学園にフラリと現れた異国の子供、『ナギ・スプリングフィールド』と名乗る当時10歳の少年だった…この名前に聞き覚えのあるものは…頑張るとイイネ」

超のその言葉と、それを肯定する高畑先生の態度に、ネギは急にやる気を出した…うむ、良い事である、おそらく、この大会自体が罠であるようにも思うが…。

そして、超の挨拶が終わり、朝倉が予選会の開始を宣言する。

…さっき浮かんだ疑念、割とマジかもしれんなぁ…と思いつつ、私は超の背中を見つめていた。

 

 

1組20名で行われるバトルロイヤルで、本選出場は各組2名…知人達のくじは見事にばらけて、各組2名以下…と言うかA組だった私とB組だったネギ以外、ちょうど2人ずつである。

「さーて…強そうなのは…ってオイ、【田中さん】かよ」

なんか、同じリングに私も開発に携わったロボット兵器、T-ANK-α3がいた…いいのか、オイ…そして他は…今のところ、ウルティマホラ本選出場ギリギリクラスが精々か。

 

「さて、さっそく定員が揃った組が現れました…D組、試合開始です」

D組、クーと真名のいる組の試合開始を朝倉が告げる。

まあ、試合は予想通り、クーが無双して真名と二人、本選出場を決めた。

どういう経緯か知らんが、防具と木刀を装備した剣道部部長…まあ気が練れる程度には手練れっぽい…が一蹴されていた、まあ語るべきことはそれ位だ。

 

第二試合はネギのB組、次いで第三試合の楓とコタローのE組がはじまる。ネギは体格の良い選手をふっ飛ばし、E組で楓は影分身で暴れていた…オイ、魔法の秘匿どこ行った。そして、なぜかコタローが分身数を競い始めて試合そっちのけで何やっているんだと朝倉から突っ込まれていた。

 

C組の刹那とアスナ、F組のエヴァ、高畑先生と順当に戦いが進んでいく…。

 

「さて、A組、定員に達しました、間もなく第6試合、開始です!」

っと、私の番か。

「着物に扇子…?場違いな」

「まて、アイツ、去年のウルティマホラ準優勝の長谷川千雨だ」

「げ…文武両道の体現者、ロボ研の女帝かよ…」

まあ、格闘関係者なら私の事くらい知っていてもおかしくないか。

「へぇ…面倒だし、纏めてかかってきてもいいんだぜ?」

眼鏡をくいっと上げ、挑発する様にニヤリと笑う。

「では、A組、試合を始めてください!」

そして、試合の結果は…

「おおっと、A組、昨年ウルティマホラ準優勝、長谷川千雨選手、漆黒の着物で扇を振るい、十数人を相手取って大立ち回り!」

「長谷川選手、無双!まさに無双です!あっという間に18名のライバルたちを下し、本戦進出を決めました!」

…と、まあ朝倉にこんな司会をされる程度には特筆する事もなく、挑発に乗って纏めてかかってきた連中相手に無双ゲーをして全員、投げ飛ばすか、カウンターを決めるか、鉄扇で引っぱたくかして全滅させ…私と、私に向かってこなかった【田中さん】が本選出場を決めた。

 

 

 

「皆様、お疲れ様です。本選出場者16名が決定しました。本選は明朝8時より、龍宮神社特別会場にて!

では、大会委員会の厳正な抽選の結果決定したトーナメント表を発表しましょう、こちらです!」

そういって発表されたトーナメント表、私の一回戦の相手は…佐倉愛依…ってエヴァとネギの戦いの時にパトロールで一緒したあいつか? そしてその次は…げっ…真名とクーのうち勝った方…だから多分真名で…もし勝てれば…楓かな…?中村選手かクウネル選手が思いの外、強ければ話は別であるが…

 




超さんの態度と行動に千雨さん、疑念を抱きつつありますが…物語の山場というモノが存在するかなぁ…今作…と言う感じになりつつあったり…
そして予選は実質カット、無双ゲーでしかないので…と言う扱いでポチ選手は一蹴されております。で、アルと競り合って本気出されてボッコにされて一回戦敗退と言うのも考えましたが、かっこいいところ少しは見せてもらおう+アル相手に咸卦の呪法無しだとどうしようもない判定が出たのとこうなりました。コタ君、ごめんね。



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42 麻帆良祭編 第2話 しばしの休息…?

「よう、ネギ、コタローこんな所で何やっているんだ…ってタイムマシンか、これからまだやってない予定をこなすわけだな」

カンパイもせずに一日目の打ち上げを抜け出したネギとコタローに声をかけ、そして事情を察する。

「ち、千雨さん、どうしてそれを!?」

「どうしてってさっき確認しただろう…ってもしかしたらお前らにとってはこれから、なのか?クラスのお化け屋敷の応援に来てくれたの」

私にとっては過去の出来事だが、ネギたちにとっては未来の出来事だ…ってやつだな。

「あーえっと…多分そうです…千雨さんも行きますか?忙しくて行けないってブログでおっしゃっていたイベントとかもあるでしょう?」

「いや、いいよ。準備もしてないし見学だけの為に時間逆行ってのも…って、まて、どうしてその事…と言うか私のブログを知っている?

別に隠してないが、公言している訳でもないし、お前にゃ教えた覚えはねぇぞ、第一お前、パソコン関係は苦手だろう」

別に見られて困るような内容でもないが、知っている面子には口止めしてある筈でもある。

「えっと…カモ君がマホネットでネットサーフィンって言うのをしている時に見つけてきて、これ千雨さんのHPじゃないかって…

それで、僕も毎日とは言いませんけど時々確認するようにしています、パソコンの方はよくわかりませんが、時事問題への勉強になりますし」

「ああ…カモ、てめぇか…」

ネギの方にいるカモをにらみつける

「おう、俺っちは技術系の方も楽しく読ませてもらっているぜ、千雨姉さん。それにまじめだがウィットに富んだ文章自体のレベルもさる事ながら、流行の話題だけじゃなくて話題性は低くても抑えておくべき渋い所も抑えているし、一度取り上げた問題のその後のフォロー精神も気に入っているぜ…あと、オタ系コンテンツもな」

「…一応聞いておくが、吹聴してないよな?私のHPの事」

カモのべた褒めに少し顔を赤くしつつ、問うた。

「はい、カモ君があまり広めるのは良くないって」

「おう、千雨姉さんはネットとリアルはある程度距離を置きたがるタイプかと思ってな」

「ならいいか…うん、まあこれからも秘密にしといてくれ、HPに来る事自体は構わないから」

 

「話、終わったか?」

暇そうにしていたコタローが話の終わりを感じ取り、ネギに声をかける

「うん、お待たせ、コタロー君。それじゃあ、いってきます、千雨さん」

「おう、いってらっしゃい、また後で…無理すんなよ」

「はい、いってきます!」

そういって、ネギはタイムマシンを操作し、その姿は掻き消えた…が

 

「あ、僕たち行きましたね、ただいま、千雨さん」

と、直後、薄々それっぽいなーと思っていたこちらの様子をうかがっていた気配が物陰から現れて私に言った。

「…と、私主観だとこうなるわけか…楽しかったか?学園祭」

「はい、とっても」

「ミニスカ風狐娘もか?」

「ぶふっ」

「ち、千雨さん!」

私のからかいにコタローが噴出し、ネギが顔を赤らめる

「俺っち的には兄貴が姉貴ならアリだが、無しだぜ、アレは…」

カモも、あまり趣味ではなかったらしく、そうつぶやくのであった…可愛かったがなぁ?

「それと、千雨姉さん、打ち上げの後、エヴァの別荘で休憩を取りたいんだが、貸してもらえると思うか?」

「特に機嫌が悪い時でなければ問題ないと思うぞ?私だって茶々丸に一言断って別荘に入るとかざらだしな…心配ならちょっと先に電話しとこうか」

と、エヴァに電話をし、事情を説明して許可を取る…試合に向けてコンディションを整える為、とだけ伝えて。まあエヴァはどうせ打ち上げに呼ばれて断り切れんかったんだろう、行って来いとだけ言って電話を切られたが。

 

「よっしゃ、それやったら思いっきり打ち上げ楽しめるで!」

「おーっ!」

と、いう事で、私達も打ち上げに戻る事となった。

 

 

 

「はは…さすがに疲れた」

聡美と超がいない分、クーと騒ぎの渦に飲まれ、まあ気使い・魔法使いとしての頑強さで誤魔化せる範囲ではあるが、少し疲れた…と言うか、中夜祭に強制連行からの4時までルートは想定外である。

「うーん…私も少し眠いアル…真名と戦うというのにエヴァにゃんの別荘と言うアテが無ければ愚の骨頂ネ」

「はい、老師…こっそり抜けようとしても察知して捕まえられちゃいましたし…」

という事で、私達一行はエヴァ宅を目指していた。

 

「お待ちしておりました、皆様」

マスターを起こしちゃ悪いと思い、メールで連絡を取っておいた茶々丸が私達を迎えてくれた。

「じゃあ…悪いが、頼む…」

「はい、ご案内いたします」

と、茶々丸に先導されて私達は別荘へと潜り、用意して貰っていたベッドで泥のように眠るのであった…

 

 

 

別荘内に日が登り始めた頃に目を覚ました私は、一風呂浴びた後、塔の屋上で自主練をしにやってきた。

其処には既に、ネギ、クー、刹那、アスナ、コタローが同様の目的で揃っていた。

「おや、私が最後か」

「せやな、千雨姉ちゃん…ってこれから汗かくのに風呂入ってたんかいな」

師弟関係上、余っていたらしいコタローが私に声をかけてくる。

「ああ、それで少し出遅れたみたいだな」

「…で、まさか今日もその着物で出るんか?」

「折角のダチが開いた祭だしな…多少は華になってやろうかなと思ってな…まあ中にゃ戦闘服着込んでるから、最悪脱いでやるがね」

「はぁ…華なぁ…武道大会なんやし、ガチでやる事が一番の華なんちゃうんか?」

コタローが呆れたように言う。

「まあ、私ら武闘家にとっては、な。だが大半の観客には見映えがいい方が受けるんだよ、私の得物はコレだし…私のガチだと、普段の制服だし」

そう言って愛用の鉄扇を取り出す。ま、着物もエヴァや茶々丸からお茶の席に御呼ばれした事からノリである程度戦闘練習してあり、慣れているので相応に動ける、と言うのは前提にあるが。

「そういうもんかね…まあええわ、ネギがフェイ部長にとられて余っとったし、相手してくれや」

「ああ、構わんぞ」

そうして、私はコタローと着物での動きを再確認しながら軽く組み手をして汗を流す事となった。

 

 

 

朝食を済ませた後、私を除いた全員が砂浜に降りていき、遊び始めた。私も用事が済んでその元気があれば、合流する事にはしているが。

「まったく…元気な事で…」

そう言いながら、私はコレ用に用意してもらっている寝台に全裸でうつぶせる。

「では、千雨様、始めさせていただきます」

そう言って、従者人形は私の背中にうっすらと麻酔薬入り軟膏を塗っていく。

逃亡生活に備えて色々と準備はしてきた呪紋回路ではあるが、今日はそのちょっとした総仕上げである。

 

「そろそろいいか…」

麻酔薬が馴染んできた頃、眼前と天井の二枚の鏡を通して背中を見る。施術してある糸の回路から、最終的に使用する事にした設計から不要となる経路、紋様を全て解く。そして、一つ、また一つとうなじから臀部まで糸の紋を埋め込み、必要に応じてそれらを繋いでいく…。

そしてそれが終われば体の前面、四肢と同様の施術を行ってゆき…私と言う作品は完成した…まあ、面積的な過半は咸卦の呪法ではあるのだが。

私の現在の咸卦法に対する理解からすれば一応の完成を見たと言っても良い咸卦の呪法の呪紋回路は、戦闘中でも若干の隙にはなるものの、簡便にオンオフができるように設計され、体への負荷をある程度まで抑えつつ、出力もかなり上がっている。これ以上の物を設計しろと言うのであれば、何か…心身や魂への負荷をはじめとしたトレードオフ、ないしはより深い咸卦法への理解、あるいは組み合わせるべき別の技術などを必要とする事であろう。

そして、他のスペースには私の多用する雷属性の魔法や、緊急時の障壁行使を補助する呪紋などを埋め込んであり、特に両腕にはそれぞれ特定の呪文特化で行使をサポートする呪紋を埋め込んだ…現在は、右腕に偽・断罪の剣(威力を抑えて消耗を軽減したモノ、それでもすさまじい威力を誇る)、左腕に白き雷をセットしてある。

 と、まあこう言った技法を発表する気はないが、同時に一代で途絶えさせてしまうのももったいないので、時々成果を纏めてエヴァに預かってもらっている。今回の計画にあたっても、咸卦の呪法・受血紋を含めた一応の成果を本に纏めた本、『糸の呪紋・2003年版』をエヴァに預けてある…まあ、効果を最大限に引き出すには個々人の魔力の質・体質に合わせた設計が必要なので活用するには使用者自身の研究が必須とはなっているが、学者として、一応の義務は果たしたつもりである。

 

「ああ…疲れた…」

私はそう呟いて、その場で眠りに落ちた…これ、割と体力使うのである、施術する方もされる方も…。

 

 

 

仮眠から目覚めると、私は施術でかいた嫌な汗を流す為にシャワーを浴び、施術と寝落ちで食べそびれて居たらしい昼食を食べ、砂浜へと降りて行った…

 

砂浜に着くと、そこではネギがクーとコタローにアドバイスをもらいながら瞬動術の練習をしており、刹那、アスナ、このかは水遊び、チャチャゼロとカモはネギたちを肴に一杯やっている様であった。

「よう、やっているな」

と、私はカモたちに声をかけた。

「オ、オキタカ」

「千雨姉さんは兄貴の方に加わらないんで?」

「私はマスターから、ネギに瞬動術を指導するなって命令が出ていてな…てか、お前も知っているだろう」

「アーそういえば…」

カモはすっかり忘れていた様子である。

 

 

 

夕刻、各々自己責任で仮眠を取り、外での朝食を兼ねた軽食を食べ、私達は別荘の外に出た。ネギたちは開門時間まで少し時間もあるからと一度寮に戻るとの事だったが、私は直接龍宮神社に向かった。

 

「やあ、おはよう、聡美、超」

「おはようございます、千雨さん」

「ニーツァオ、千雨サン…開場はまだアルよ?」

超が悪戯っぽく笑う。

「ははは…硬い事言うなよ…と言うかそこは選手の立ち入りはご遠慮願うネ、じゃねぇのか?」

「まあ、ジョークだからネ。で、どうした千雨サン」

「いやぁ…?特に理由はないぞ?しいて言うなら順調そうだなって話とか?ネットでの情報拡散」

「あはは…見つかっていたか」

「数日前、うちの電子精霊が交流チャットに紛れ込んだボットを見つけたって報告してきてな…調べてみたらまあ何とも…って状況だったんでね。ま、お前の書くプログラムは特徴的だからな、ちょっと末端指揮プログラムらしき奴とっ捕まえて解析したら一発さ」

「あははーそのクラスのプログラムを押さえて解析できるのはさすが千雨さんですねー」

聡美がどこか乾いた笑いで、そう言った。

 



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43 麻帆良祭編 第3話 まほら武道会1 鉄扇遊戯と咸卦法

「じゃあ、そろそろ移動するわ」

「はーい、お気をつけてー。贔屓はできませんけど応援していますからねー」

主に聡美と世間話をしながら管制室で時間を潰していた私は、開場から暫くして、そう言葉を交わして控室に移動した。

 

「おはようございます、佐倉さんとグッドマン先輩…ですよね?」

私は控室にいたクー、真名、楓に一言挨拶をして、奥の方にいた黒ずくめの二人組に声をかけた。

「は、長谷川先輩…」

「あら、長谷川さん…初めまして、愛依と知り合いでしたか」

「ええ、一度、パトロールでご一緒させていただいた事がありまして」

「そうなんです、お姉さま…でも…正直長谷川先輩、かなりお強くて…自信ないんですが…」

「あーそれは…くじ運が悪かったかしらね…でも、せっかくですし胸を借りるつもりで行ってらっしゃいな、ネギ先生へのお仕置きは私ができるでしょうし…万一、ネギ先生が高畑先生に勝てるようでしたらね…しかし、長谷川さんはどうしてこのような怪しげな格闘大会に?」

怪しげな格闘大会、と来たか…うん、大当たりなのではあるがどこからバレたかな?

「この大会にM&Aされた小さめの格闘大会に出る予定だったんですが、単純に賞金アップに喜びながら特に深く考えずに参加を決めただけですね、まあ強敵も多々いる様ですので優勝は中々に難しそうですが。そういうお二人は?」

「ええ、実はですね…昨晩、ネギ先生は世界樹の力の件で失敗をなさって…まあ、何とか収まりはしたのですが…反省しますと言ったわずか数十分後に賞金1000万などと言う怪しげなこの大会に軽率にも出場し、あまつさえへらへらと予選まで突破されて…これはお仕置きしなければわかって頂けないと受付ぎりぎりで飛び入り参加した次第です」

…その怪しげな大会に自分達も出場しているのは良いのだろうか?この二人。

「ええっと…ネギ先生もこの大会が小規模な段階から出場を決めていた組でして…しかもいくつか勝負の約束もあったようですし…」

と、一応ネギを擁護しておく。

「あら…そうでしたか…しかし、大会が怪しげなものとなった時点で参加を取りやめないと言うのはやはり…ええ、お仕置き継続です!」

と、グッドマン先輩は宣言した。

「アーはい…それでは、私も友人たちがおりますのでまた…」

「はい、長谷川さんもお互い健闘を」

「長谷川先輩…よろしくお願いします」

そうして私はクーたちの元に移動した。

 

「あの怪しげな二人組、千雨の知り合いアルか?」

「んー片方が一度仕事で一緒になった知人でな…」

「ほう…となると交流任務かな」

「そう、それそれ」

「しかし…お前、結局、着物で出場するのか」

「の、方が映えは良いかなと、結局これか制服の二択だし?」

と言うような話をしていると、ネギたちがそろりと扉を開けて入ってきた。

「おはよう、ネギ君」

「タカミチ…」

高畑先生とネギが見つめ合う…後ろでペコリと明日菜が顔を赤らめて挨拶をしている。

「昨日とは顔つきが違うね、うれしいよ。今日ようやく、君があれからどれだけ成長したかをみられるんだね」

「…タカミチ、僕、今日は頑張るよ。父さんに負けない為に…だからタカミチ、手加減はしないでね」

そう、ネギは宣言するのであった。

 

その後、声量を落としてネギたちは会話を続ける。

「いやぁ…高畑先生の本気って、ネギの奴、一撃じゃないかなぁ…成長を見たいって事は大丈夫だとは思うけど」

「あはは…でもまあ、あの気概は大切ヨ」

「で、あるな」

「ふふ、楽しみだよ、ネギ先生の試合」

 

「おはようございます、選手の皆さん!ようこそお集まり頂きました!」

階上から朝倉が超と現れた。

「30分後より第一試合を始めさせていただきますが…ここでルールを説明しておきましょう」

そう言って朝倉がルール説明を始めた…内容は、まあ事前に聞いていた通りなので聞き流しておく。

 

「ハイ、質問です!」

中村選手が手を上げた。

「呪文とかよくわからないんですが、技名は叫んでいいんでしょうか!」

「技名はOKネ」

「よかった!」

という遣り取り。これに関連して、実は先程、呪文名は良いのかと問うたが、それは短縮詠唱だろう?とNG宣告を貰っていたりする。

 

「ご来場の皆様、お待たせ致しました!只今より、まほら武道会、第一試合に入らせていただきます!」

第一試合は私と佐倉である。

「さて、まずは本大会の優勝候補の一角と呼んで差し支えないでしょう、前年度『ウルティマホラ』準優勝、文武両道の体現者、長谷川千雨選手!本日は漆黒の着物姿で登場です!」

そう紹介されながら、私は開始線から観客達に手を振り、歓声に答える。

「それに対するは中二の少女、佐倉愛依選手!しかしその実力は予選会で証明されております!長谷川選手相手にどう戦うか、非常に楽しみです!」

「あう…よろしくお願いします、長谷川先輩」

佐倉はそんな声を上げながらローブを脱ぐ…もうちょっと闘志を滾らせてくれんとやりにくいんだが…。

それに対して、選手控え席でグッドマン先輩もローブを脱ぎ、ネギたちに何かを…恐らくさっき言っていた内容を話し始めた。

 

「それでは、第一試合…Fight!」

と、朝倉の試合開始宣言と同時に縮地を決めて佐倉の喉元に鉄扇を突き付ける。

「っ!」

『おおっと、長谷川選手、瞬間移動!佐倉選手に鉄扇を突き付けた!』

「と、このまま決めちまってもいいんだが、それじゃあ私も観客も面白くないし、あんたや弟弟子たちの勉強にもなんねぇんでな…ちょっと舐めプをさせてもらう」

そう言って、私は再び縮地で開始線に戻る。

「どういう…つもりですか?」

「いやね、弟弟子に普段やっているのと同じ条件…瞬動術無しでなら戦う自信あるか?あるならば…その条件で…ヤろうじゃないか?」

『長谷川選手、再び瞬間移動で離脱…これは挑発をしているのか!』

「くっ…後悔しても知りませんよ!」

そう言って、佐倉は仮契約カードを取り出して、箒型のアーティファクトを出現させた…やっと闘志に火が付いた様である。

「あはは…それでもかまわんさ、一応カッコつけは終わっているしな」

真面目に鉄扇を構えて佐倉の出方を待つ。

「…行きます!」

そう叫ぶと共に、魔法の射手を三矢、無詠唱で飛ばしてくる。

「なるほどっと」

まあ、それ位は問題なく往なせるわけで、余裕をもって全て水面に着弾する様に弾いてやる。

『おおっと、何処からともなく箒を取り出した佐倉選手、遠当て三連、しかし長谷川選手それを優雅に往なして見せた!』

「っ!」

そんな表情で今の間に溜めていたらしい魔法の射手を今度は7矢放ってくる。

『おっと、佐倉選手、今度は遠当て7連射!長谷川選手、これはいけるか?』

「まあ、こんなものか」

と、私は鉄扇でその弾幕と呼ぶにも烏滸がましいものを切り開き、佐倉に再び接近する。そんな私を佐倉は箒を槍の様に構えて牽制…いや違うか。既に来ているべき次弾が来ない事でそれに気づき、私は横に飛ぶ、と、同時に箒の柄の先から戒めの矢らしきものが飛び出してきた…並の前衛ならドンピシャのタイミングではあったし、戒めの矢という選択も素晴らしい…と内心褒めながら距離を詰めて足を刈り、倒れた佐倉の眉間に鉄扇を突き付けた。

「なかなかやるねぇ…と言うかその箒が発動媒体でもある事にすぐ気付くべきだったかな?」

くつくつと笑いながら佐倉を褒める。

「とっておきの一撃だったのに…」

「あはは…最初の発動速度の割に次弾を出すのが遅すぎたからな…タイミングが合っていたらそこそこやる連中でも喰らうかもしれないが…後は短槍術か棒術でも磨いてみたらどうかな?それで打ち合っている最中ならきっと決まるさ」

今のは奇襲的にやる以外なら突きの時に疑似的に得物を伸ばすかのような使い方をすべきである。

「まだやるか?」

「…詠唱無しで切れる手は全て切りました…ギブアップです…それと一応棒術は捕縛術ですが習っています…」

『佐倉選手ギブアップ!遠当ての使い手、佐倉選手を長谷川選手が見事に下しました!』

私はその宣言を聞き、鉄扇をしまうと観客達の歓声に応え、手を振るのであった。

 

 

 

第二試合はクー対真名、表の達人としては最強クラス、最近は気の存在を自覚する修行を積んでいるクーと、互いに把握している範疇でもうちのクラスで頭一つ抜けている真名…とはいえ銃使いであり、その代替に何を用いてくるか…ゆったりとした服装から暗器系の何かを仕込んでやがるだろうとは想像していたが、その答えは500円玉を用いた羅漢銭だった。

 試合開始と共に、クーの額に一撃、クーが派手に吹っ飛んだ…アー確かにクーの気の密度では後ろに飛んで衝撃を逃すしかないわなぁ…と、盛り上がる会場をよそに観察していたら、9カウントまで死んだふりをしていたクーが起き上がる。試合再開、そして羅漢銭の連打…。

「はは…気の強化が入っているとはいえ、下手な銃弾よりか威力あるだろう、アレ…なにが私を仕留めきる自信が無い、だ」

笑いながら観戦していると朝倉が真名の小遣いを心配し始める…そうか、ある程度はあとで回収できるにせよ、20連発で一万円か…。

 連弾の合間、しかしクーの身体能力では詰め切れない僅かな隙を瞬動術の様な歩法でクーは詰め、真名に接敵する…が

「あー」

それでも結局、羅漢銭を打ち上げてアゴに一撃、吹き飛ばされ、連打を喰らってしまった。

「…まあ、妥当な結末か」

「…であるな、クーが相性の良い武器を持ち込んでいるか、気を使いこなせるまでに至っていれば別であっただろうが…」

もう終わったつもりで楓とそう話し、真名が止めを刺そうとしたとき…

「くーふぇさん、しっかりーっ!」

ネギの叫びに伴い、クーは尻尾の様な飾り布だと思っていたそれを握って立ち上がり、真名の羅漢銭を弾いて見せ、そして真名をその長い布で捕まえた。

「…あれ、飾りじゃなくて鞭の類いかよ…」

「布槍術…であるな…クー、恐らく度忘れしておったでござるな」

「…馬鹿だな」

「クーは拙者と同じく、バカレンジャーの一員でござる」

なら仕方ない、と試合の様子をうかがう。当然というか、気をほぼ纏わせていない布にさほど強度があるわけもなく、真名の羅漢銭で拘束を解かれた。

しかし、今度はクーは巧みに布の槍を操って真名に拮抗していく…消耗する前に思い出せ、馬鹿!と心の中で突っ込みを入れていると、クーは左腕に強めの一撃を貰うのと引き換えに、真名の左手を捕り、引っ張る勢いでクロスカウンターに持ち込んだ。

「おっ…これは」

そして…クーは羅漢銭の至近射を喰らって膝をつき…直後、真名の服の背が吹き飛び、真名は倒れた…クーの勝利である…クロスカウンター直前にもらった一撃で左腕は折れていた様であるが。

 

 

 

真名の羅漢銭で穴だらけになった舞台の板の張替えが終わり、第三試合は楓と中村選手。まあ妥当に楓が勝ったが、中村選手、気弾の練りは一人前だった…楓の言うように、格闘技術を磨けばより高みを目指せるだろう。

 

 

第四試合、コタロー対クウネル・サンダース…結論から言うと、コタローはコテンパンに負けた…初手の瞬動を見切られ、その後も良い様にあしらわれる…その後の狗神を用いた戦闘は、なかなかいい攻撃が決まったかと思ったが…透過されているとしか思えない程、効いていない様子で…。

「千雨…あれは」

「…非実体のように見えるが格闘戦もしているし…訳が分からない」

「ふむ…実体化可能な幻影、と言うべきであるか…やり合ってみるのが一番ではあるが…」

「…そうなりそうだな」

と、獣化しそうになったコタローをクウネル選手が重力魔法らしきもので押しつぶして、勝利した。

 

 

 

第五試合、田中対グッドマン先輩は…うん、試合自体は…こう、まあ、グッドマン先輩が勝った…。田中のロケットパンチに拘束されて出力的に脱げビームでしかないレーザーに焼かれた後の乙女の一撃で、であるが…。それよりも、私にとって重要なのは聡美がシレっと解説席に現れて、田中の解説をしていた事である…終わったら迷彩でもかけたのか、すっと姿を消していたが。

 

 

 

そして第6試合…ネギ対高畑先生である。

「負けて元々だ、命懸けの決闘ってわけじゃないんだし、精々足掻いて見せるんだな。

顎をうち抜かれて一発KOぞろいだった予選会みたいな無様な真似にならなきゃお前の成長にも役立つだろうさ…全力は出し切れ、最後まで闘志を失うな…コタローみたいにな」

「ハ、ハイ、千雨さん」

「ふふ、ぼーや…私に負けたら最終日、丸一日デートという事は…私にあたる前に負けても同じくデートだという事を忘れるなよ、わかっているな?」

と、ネギを激励していると重役出勤してきたマスターが現れた。

「実力の差は歴然だが…とにかくぶつかってこい。千雨も言っていたように、どうせ試合だ、負けても死ぬわけじゃない…いいな?」

「はい、マスター」

「試合では、流れをつかむ事が重要です、実力差があっても最初の一撃を当てれば流れをつかめますよ」

「落ち着いて、相手を見るアル、そして…勝って来るつもりでやるアル、ネギ坊主」

「あ…ありがとうございます、刹那さん、クー老師」

と、ここで舞台の修理完了が告げられる

「行って来い、兄貴!」

「うん!」

「あ、ネギ、待って…あの…その…が…頑張って」

「ハイ!」

と、ネギは舞台に向かっていった。

 

そして、試合開始…ネギは魔力供給をし、恐らくは障壁を貼って…顎を守る様に瞬動で接敵…今朝の時点で成功率一割程度だった瞬動を見事にキメて…そこからさらに瞬動を成功させた。さらに、技後硬直の隙をつき、完全に格闘戦に入り、ついには魔法の矢の乗った一撃を喰らわせる事に成功した。

「そうだ、実力差のある相手に距離をおいても追い込まれ、じり貧になるだけだ、勝つつもりならばそれで正解だぞ、ぼーや。

恐れていては何もできん…あらゆる局面において重要となるのは、不安定な勝算に賭け、不確定な未来へと自らを投げ込める自己への信頼・一足の内面的跳躍…つまり【わずかな勇気】だ…なあ、千雨」

「…はい。ただ、まあ私は成功率1割の技を二連で決めるよりもマシな賭けができるように準備をしたいとは思いますが」

「ははは…まあ、貴様の臆病さによる躍進はそれだからな…しなければならん賭けが見えた時、修行を積み、自己への信頼を獲得しようとする…そういう卑屈なお前も嫌いではないぞ?恐れて足を竦め、ただ破滅に向かうタイプでもないしな」

と、マスターと話をしながら観戦していると、ネギはついに高畑先生に魔法の射手 収束 雷の矢を3本乗せた崩拳…雷華崩拳を喰らわせる事に成功し、高畑先生は吹っ飛んでいった。

「試合形式次第では、一本、ではあるが…」

「まあ、タカミチの事だ、無傷ではないにせよ、大してダメージはないだろうな」

「ケケ…デモ、アノガキノ全力ノ一撃ナンジャネーノカ、アレ」

チャチャゼロがそう言った時、高畑先生が水煙の中から現れる…まあ、ノーダメージではないにせよ、たいして効いていない様である。

「そうなるな…ここからどうするか」

「ふふ…精々足掻いて見せるといい、ぼーや」

場外で格闘戦を始めるネギと高畑先生…しかし、ネギはリング内に蹴り入れられて、不可視の拳圧による攻撃に滅多打ちにされる。

「あー私なら、アレは障壁張りながらランダム回避する位でしか対応できんなぁ…」

「まあ、そうだな…アレはよほど目が良くなければ頑強な障壁で防ぐか狙いを定めさせないか、そもそも打つ余裕を与えんのが対抗策だ」

そして、ネギは瞬動で距離を詰めようとする…が、高畑先生に足を引っかけられて転んだ。

「まあ、そうなるな」

そして、距離を取ろうとするが、今度は高畑先生の瞬動で距離を詰められ一撃を貰った。

 

「む…やはり、アレを出す気か」

ネギと高畑先生がしばし話し込んだ後、マスターがそう呟いた。

すると高畑先生は左腕に魔力、右腕に気を纏い…という所で私も理解する。

「見ておけ、千雨。あれが貴様の目指した頂の一つだ」

もはやマスターの言葉すら聞き流し、私は食い入るように高畑先生を見つめる。

高畑先生が両手に纏った力を合わせ合成した瞬間、凄まじい風圧が周囲を襲った。

「ああ…すげぇ…ははっ…あれが本物の咸卦法…究極技法と呼ばれるわけだ…」

研究しているからこそわかる、高畑先生が事も無げにやってのけた業に驚嘆の意を示す。

そして、その咸卦の気を纏って振り下ろされ拳圧の一撃はまるで大砲の着弾の様に舞台を抉った。

そこからはさらに一方的な展開となり…しばらくは回避を続けていたネギではあるが、ついに追い込まれ、風花・風障壁で一撃をしのぐも、足を止めた所で連撃を喰らって、ついに舞台に沈む事となった…

その姿は虫の息と朝倉が表現したくらい酷いもので、ルールを無視して朝倉が高畑先生の勝利を宣言してしまう程であった。しかし、声援と…恐らく高畑先生の言った何事かに答えるように、ネギは立ち上がり、闘志を見せた。

「…まだ立てる…立てはするが…どうする?ネギ…何か思いついたようだが」

「…ふむ…そのようだな…ちなみに、お前がぼーやならどうする、千雨」

「ン?ネギの立場と手札なら?…なんとか5矢以上、できれば今の最大らしい9矢での華崩拳のどれかか収束・魔法の射手を決めるしかないから…究極的には特攻だなぁ…遅延呪文を使えるなら二連撃でそれ決めると確実ではあるが…」

「…問題は、それをいかにして当てるかだな、どうする…ぼーや」

そんな話をしているとやはりネギは9矢の魔法の射手を発動させた…が、高畑先生の膝蹴りでキャンセルされ、水底に沈んだ。そして水底から現れたネギは改めて魔法の射手を発動しており、高畑先生に最後の勝負を挑み…高畑先生はそれを受け入れた。

「あ…これ計算に入ってなかった…行けるかも」

「…そりゃあ、ぼーやが何か思いつきましたと言わんばかりに勝負を投げかければ嬉々として受け入れるな、タカミチは」

そして…ネギは瞬動術で高畑先生に特攻をかまし、高畑先生の一撃を恐らく風花・風障壁で受け止め、体当たりと共に収束魔法の射手を喰らわせる事に成功した。煙が晴れると…魔法の射手9矢を纏ったネギが高畑先生の背を取って立っていた。そして…光属性の9矢を纏った止めの崩拳…桜華崩拳を決めた、決めやがった。

「なるほど…さっきの一度目の失敗はわざと…このためか」

「くっく…大当たりだな、千雨、遅延魔法を使いこなしおったぞ、あのぼーやめ」

マスターがうれしそうに笑う。

「が…あの出力の咸卦法の防御、抜ききれたかね?」

「まあそこは…微妙だな…まあタカミチの性格上、負けを認めるとは思うが」

そして、試合結果は…マスターの言ったとおり、高畑先生が負けを認めて10カウントが成立、ネギの勝利となった。

 

 

 




 完全に遊ばれる佐倉さんと遊んでいる千雨さん…魔力による身体強化込みで凡百の格闘家ならフツーに箒一本で勝ててしまう程度の棒術は修めている+魔法の射手の無詠唱でそこそこやれるからこその自身だったという事にしてあります、佐倉愛依ちゃん。彼女の歳なら十分どころか無茶苦茶強く、戦闘を生業としていない並の成人魔法使いよりは強いという設定。で、本当は楓が戦うより先に千雨ちゃんがアルにぶっ飛ばされる予定だったんですが、その様にすると、愛依ちゃん達が正体ばらした時にクーのお見舞いでネギがいないというギャグが発生したので…まあ、それはそれで別の問題も発生するんですが…どうしようという事で千雨ちゃんが楽しい事(楓が負けた後なので全力を出さざるを得ない)をする羽目になる方にしました。
 コタ君は、気絶から回復した直後にネギが勝った旨のアナウンスを聞いて逃げだした感じで原作沿い(


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44 麻帆良祭編 第4話 まほら武道会2 クウネル・サンダース

「少し、ぼーやに釘をさしてくる」

そう言ってマスターが選手席を立って救護室に向かった後、私は売店で少し飲食をして、トイレなどを済ませて選手席で舞台修復の様子を眺めながら今までの試合を思い出して考え事をしていた。

割と面倒な施術ではあるし、一発で数十mLの血液を消費するが…片腕にみっちりと施術すれば呪血紋で雷の斧クラスの魔法を無詠唱で撃てるのである。そして、それくらい威力が無いとクウネルとやらに透過される気がするのだ…正直、後々の弁明を考えたら派手な真似はしない方が良いかとか考えていたのではあるが…もう、高畑先生のやらかしを考えるとすごい今更感しかない。

しかし、同時に試合でそこまでする必要はあるのだろうかと言うのが悩み所で…。一応魔法使いタイプの様ではあるので偽・断罪の剣でヤる気で戦うという手もあるんだけど…?とりあえず、白き雷の底上げ用の呪血紋と偽・断罪の剣を正規版並みにまで威力を上げる呪血紋位は施術して試合に出るべきだろーかねぇ…。

 

 

 

と、考え事をしていると、あっという間に時間が過ぎ、第7試合、刹那とアスナである…が、その姿はメイド服だった…と言うか、それ位ハンデにならんのはわかるが、刹那の厚底サンダルは傍目には酷いハンデでもある。

『今大会の華、神楽坂選手に桜咲選手です!』

「ちょっと待った朝倉―ッ!」

と、様子をうかがっていると、どうやら公的な推し要素のない二人に対して、超からの指示であんな恰好をさせたらしい。そして、エヴァ曰く、アスナは本気で刹那に挑むつもりらしい…

「いや、ネギとペアでも届かんだろう、刹那には」

「確かにアスナでは無理アルなー」

「んー確かに厳しいでござるな、修行も頑張っているようでござるが…」

と、私、クー、楓の意見も一致する。

「フフ…そうとも限りませんよ」

そう言って現れたクウネル選手がアスナの頭を乱暴に撫でた。

「ちょちょちょっと、イキナリ何するんですかー!?」

「なっ…き…貴様はまさか…?」

エヴァがクウネル選手の正体に心当たりのありそうな反応をする。

それを意に介さず、クウネル選手は、かつての…麻帆良学園に転入してきた頃の人形のような、それでいて生意気なガキだったと聞くアスナを知っているような、そして高畑先生に預けられる前の保護者らしきガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグと言う名前を口にして、さらに続けた。その内容は…アスナが高畑先生と同じ事…つまり咸卦法が使える、しかも無意識下で、というモノであった。

「…確かに咸卦法はアスナみたいなタイプ向きではあるが…しかし、そんな容易くできるわけが…」

「ええ、確かに普通であればお嬢さんのおっしゃる通り…しかし、アスナさんにはできるのです」

「ど、どーゆー事ですか!?てゆーか、あなたいったい…!?」

「オ、オイ貴様!」

エヴァが怒り気味で口を挟んでくる。

「なぜ、貴様が今ここにいる!?私も奴も、お前の事も散々探していたのだぞ!?」

エヴァのその言葉にクウネル選手はクスっと笑ったような雰囲気を見せ、すっと姿をかき消した…縮地や転移の雰囲気じゃねぇし…やっぱ、こいつ、実体じゃねぇ、無理ゲーじゃねぇか。

「消えた!何者アルか、今の人!?」

「ぐ…バカな、今の今まで気づけんとは…しかしなぜ…?」

「エヴァ殿、今の御仁は…?」

「…奴はぼーやの父親の友人の一人だ、名をアル…」

と、エヴァがその名を口にしかけた時、クウネル選手が再び出現する…っていつぞやエヴァが酔った時に話してくれたサウザンドマスターの一行で、エヴァの古い知人だというアルビレオ・イマかよ、この人。

「【クウネル・サンダース】で結構ですよ、トーナメント表どおりクウネルとお呼びください」

そして、アルビレオ…いや、クウネルは今までどこで油を売っていたのか、なぜアスナの事を知っているのかと問い詰めるエヴァに、知らなかったならば暫くは秘密だとうさん臭い笑顔で答えた…チャチャゼロが言っていた、天敵という表現、本気だったのか…そして、クウネルはこう宣った。

「アスナさん、今あなたは力が欲しいのでしょう?ネギ君を守る為に。私が少しだけ力をお貸ししましょう、もう二度とあなたの前で誰かが死ぬことのないように」

 

その後、朝倉にせかされて刹那と明日菜は舞台に上がり第七試合がはじまった。

そしてその攻防は…確かに普段のアスナとは比べ物にならないだけの身体能力によって、一方的とは呼び難い…いや一応は拮抗していると呼べる状態であった。

「なぜだ!?なぜ神楽坂明日菜ごときにこれほどの身体能力が!?ただの体力バカでは説明がつかん」

「素直ニ驚キダナ」

「ああ」

「カモも知らねぇって事は…本当に咸卦法を…?」

「フフフ、その通り。あれはアスナさんが元から持っている力ですよ」

クウネルが再び出現し、そう言った。

「ぬぐっ貴様…出たり消えたり…はっ、そうか貴様、さっきあの女に何かしたな!?」

「まさか♪私は少しきっかけを与えただけですよ」

きっかけ…?咸卦法を使えるように…?つまり気の使い方を教えた…だけでは不可能であるし…忘れていた何かを思い出させた?いや、しかし…それはつまりアスナが幼少期より咸卦法を、つまりは気を使えたという事を意味するのであって…。

「どうです、エヴァンジェリン…古き友よ、一つ賭けをしませんか?」

そう言ってクウネルはエヴァに賭けを持ちかけた。クウネルの掛け金はアスナの情報で、アスナの勝ちに賭ける。そしてエヴァは当然刹那の勝ちに賭け…掛け金は次の試合にスク水で出場する事だった…ふざけているのかこいつ…いや、エヴァをからかって遊んでいるのか…?

「ネギ、ちゃんと見てなさいよ!」

アスナが唐突に選手席に向かって叫ぶ…が、ネギはいない。

「アスナさーん、こっちでーす、ちゃんと見ていますよー」

と、解説席隣からネギが答える。

「なんでそんなトコに居るのよ。と、とにかくしっかり見てなさいよ、私がちゃんとパートナーとしてあんたを守ってやれるって所を見せてやるわ!」

あ…馬鹿アスナめ。

「おおーっとこれは大胆、試合中に愛の告白かー!?」

そりゃあ、朝倉は事情を知りつつも拾うに決まっているのである。

「ちがーうっ」

と、そこでアスナは力が抜けたような様子になり…そして、左手に魔力を、右手に気を纏わせ…合成してみせた。

「バ…バカな…【気と魔力の合一】はタカミチも私の別荘で数年かけて修得したんだぞ!?千雨の様な紛い物にしてもそう簡単にいくものでは…」

「おや、そちらのお嬢さん、咸卦法をお使いになれるので?」

エヴァの言葉に私に話が飛んできた。

「厳密にはソレそのものではないですけれども…あなたにせよ楓にせよ、準決勝では出さざるを得ないでしょうから…楽しみにしておいてください」

「ふふ、では楽しみにしていますね…楽しみがまた一つ増えました」

「それよりも!なぜあの女が究極技法とも呼ばれる咸卦法を使える!?」

「ふふふ、なぜでしょうか」

「貴様っ!」

と言った間にも試合は進んでいるが、刹那は手を抜いてはいないが本気も出し切っておらず、ある種アスナの稽古の様な様相にさえ見えてきた。

「ええい、刹那!神楽坂明日菜程度に何を手間取っている!5秒で倒せ!いや、殺れ!」

「オチツケ御主人」

と、まあエヴァは気が気でない様ではあるが。

そこにクウネルはさらに掛け金の上乗せを持ちかける…掛け金はサウザンドマスターの情報に対して…猫耳と眼鏡とセーラー服の上半分だった…完全に遊ばれているな、エヴァ…。

そこから次第にアスナの動きにキレが増していき、練習で見る技量では考えられない動きを発揮し、一度は刹那に背に土をつけて見せ、その後も刹那を次第に押し始めた。

しかし、それはクウネルが念話で助言をしていたらしく、エヴァが駄々っ子の様に暴れるわ、刹那が負けたら辱めを与えるとか脅すわ…非常に面白い事態になった。

そして決着は…あっけない物だった。奥義を解禁した刹那の動きに、アスナのアーティファクトが仮契約カード通りの刀剣に変化、刹那のモップを真っ二つに切断し…止めの袈裟斬りを投げ飛ばされた後、刀剣の仕様でアスナが反則負けとなった。

「勝ったかー」

それに対して、エヴァは、心底安心したような声でそう言った。

 

「ふ…ふふははははははは!どうだ、見たか!賭けだろうが何だろうが、私に勝とうなどとゆーのが愚かなのだ!」

との、エヴァの言葉に対して

「ええ、私も久しぶりにあなたの慌てふためく姿を堪能できて満足です」

とのクウネルの完全に遊んでいました宣言が出た。その後、ネタ晴らし…賭けなど無くても情報は渡すとまで宣い…賭けの成果…でもないが、詳しい情報は学園祭後に、と言う話になった…が、端的に、とサウザンドマスターはこの世界のどこかで生きてはいる、という事を保証し、しかし、エヴァが求めたナギ・スプリングフィールドに再会できる事はないかもしれない…と言った内容をエヴァに話した。そして…大会中は、クウネルの事とサウザンドマスターの事はネギには内緒だと口止めをした。

 

 

 

第八試合、エヴァ対山下選手…は一撃で終了した。当然、エヴァの勝ちである。

そして20分の休憩が宣言され、私は中央スクリーンで始まった試合のダイジェスト映像を尻目に、トイレなどの諸々を済ませるのと、呪血紋の施術並びに咸卦の呪法の活性化の為に選手席を一度離れる事にした。

 

『ちうさまー動画流出しちゃってますけれどいいんですかー』

諸々を終えて控室でノートPCから異常がないかの報告を求めた時、こんなチャットがポップアップして来た。

『どうした』

と、事情を聴くと、この大会の動画が恐らく大会側から流出しているらしきことを報告された…まあ当然放置である。

『何もせんでいい。あと、今の会話ログ、消去しておけ』

『了解しましたー』

という事にして私は選手席に戻る事にした。

 

 

 

第九試合は私対クー…であるが、クーの負傷により、不戦勝となった。

第十試合は楓対クウネル…試合開始と共にクウネルの重力魔法が炸裂、しかし楓は影分身を残し離脱していた様で、4体の楓が十字を描くようにクウネルの障壁を破壊して掌打を与える…がノーダメージ、影分身を生かした格闘戦で一撃を与えたように見えたがやはりすり抜ける…次、私がアレの相手するんだが…無理ゲーじゃねぇか。しかし、直後、気弾の攻撃で楓がクウネルを舞台に叩きつける…魔力や気が相応にあれば一応攻撃は効く…のか?

そこから観客席上などを舞台とした格闘戦、そしてクウネルが浮遊術で距離を取り、5つの黒球を成して楓を押しつぶそうとした…が、楓は辛うじて虚空瞬動で離脱した。すると、クウネルは仮契約カードを取り出し、本がクウネルを取り囲む様なアーティファクトを出現させる。楓がそれを止めんと影分身を出現させて攻撃を仕掛けるが、それより早く、クウネルは己を取り囲む本の中から一冊をつかみ、栞を挟んで引き抜いた。そこに楓の気弾が殺到するが…楓は一蹴され、本体の首を掴まれ、舞台に叩きつけられたようである…

「今のは…そうか、そうだった…奴のアーティファクトの効果…そういう事か」

エヴァが訳知り顔で口走る。

「千雨、お前の事だから、観客相手に優勢と思い込ませて、メール投票での逃げ切りとか考えているだろう?」

「…ああ、そのつもりだったけど…」

というか、楓の試合を見るまでそれが唯一の勝算だったし。

「それは却下だ、負けても構わんから奴とはガチでやれ、師匠命令だ」

「…それは…ネギと今の…クウネルのネギの親父らしき姿を戦わせる為か?あとその余禄狙いと」

「…大体はそういう事だ、まあ姉弟子が奇跡を起こすか、弟弟子が不甲斐なければそうはならんだろうが…な」

「はぁ…了解、マスター、せいぜいクウネルの胸を借りてくるよ…まあ、一応勝つ気ではやるがな…」

私はそう言って、ため息をついた…痛い思いはできるだけ避けたかったんだがなぁ…

土煙が晴れた後、楓がギブアップをしたのはそれとほぼ同時の事だった。

 

 

 

 




敗退前にアーティファクトを見て色々悟ったエヴァちん。まあ、そうなるよね、と色々とバタフライエフェクトが…


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45 麻帆良祭編 第5話 まほら武道会3 刹那の選択と千雨の奮闘

第十一試合、ネギ対グッドマン先輩、グッドマン先輩はネギの緩んだ勤務態度に愛の鞭を与えるつもりでの全力モードで挑んだ。確かに、打撃自動防御と影の手による攻撃は格闘家には無類の強さを誇るのだろうが…悲しきかな、ネギは魔法拳士であり…打撃を捨てたゼロ距離の魔法の射手でノックアウト…で、服まで丸っと使い魔だったらしいグッドマン先輩は脱げた、全裸まで…ネギからローブを受け取ったグッドマン先輩は、控室に籠ってしまった。

「コラーネギッ!あんた何やってんのよ、また脱がしちゃってーっ!」

「はわ、いえっ、脱げたのは僕のせいじゃ…」

「言い訳しないっ、大体女の人相手に本気出して、英国紳士はどこ行ったのよっ!」

「別に弄ったりオーバーキルかましたりしたわけじゃねーし良いじゃねえか、アスナ」

「むっ、千雨ちゃん!」

「そうだ、千雨の言う通り。それが私の教えだ、口出しするな、神楽坂明日菜。自ら戦う意思をもって戦いの場に立った以上、女も子供も男もない、それは等しく戦士だ。戦いの手を緩める理由は存在しない…それはお前も例外ではないぞ、神楽坂明日菜…こちらの世界に首を突っ込み続けるつもりならなおさらな」

「う…エヴァちゃん…そんな事言って…」

「しかし、確かにその通りですね」

「あ、刹那さんまで…」

「とにかく、女の子には優しくしなきゃダメッ!そこん所はコタロー君を見習いなさいっ」

まー日常の理論ではそうなんだが…

「は、はい」

「コラ、ソコのバカ、話を聞いていたのか。人の弟子に勝手なコトを吹き込むな」

まーそれでネギが重傷でも負ったらどんな顔するんだろうね、アスナの奴は。

 

 

 

第十二試合、エヴァ対刹那、緒戦はエヴァが合気鉄扇術と糸術とで押していたが何やら交わしていた会話内容にアスナがブチ切れて、恐らく外野がうるさいからと幻想空間に戦場を移した。ネギたちが覗き見に行くというので、私もネギの肩に手を乗せ、ご一緒させてもらう事にした。

 

 幻想空間の舞台はエヴァの別荘で、刹那は翼を出して必死そうに勝っていた…

「うっへ…マスター、全開モードじゃねーか…」

「ケケ…御主人タノシソーダナ」

「つーか、何だよこりゃ、まるで戦だよ」

そんな話をしながら戦いを続ける…マスターが遊んでいるにせよ、戦いが続いている…二人に私達は接近していった。

 

「刹那さん!」

「刹那さーん!」

「ネギ先生!アスナさん!?」

「やれやれ、ここまで追って来たか、手を出すなよ、ガキども!尋常の勝負だ!

今の一撃、よくぞ耐えたな、だが次は耐えられまい。これが最後だ、刹那!」

とのマスターの宣言、しかし刹那は見事に巨大な雷鳴剣でマスターを迎撃して見せた。

そして…刹那は私達…いや、ネギ達の方を見て、宣言した。

「…エヴァンジェリンさん、剣も…幸福も…どちらも選んではいけないでしょうか?」

あーいつぞや、マスターにやられた二択を迫られていたのか、刹那の奴…内容は私のより重いが。

「何?…どちらも…?」

「はい、私…剣も…幸福も…どちらもあきらめません!」

「フ…剣と…幸福…どちらもか」

「…はい、どちらも」

 

「ホザけ、ガキが!甘ったれの貴様にそれができるのか!」

 

マスターの一喝…私の時は最後通告のような殺気…とその後の地獄の扱き、だったかな?これに刹那は…

「…はい」

耐えた。耐えきって見せた。

「…ふっ…はっはっはっはっは…精神は肉体に影響を受ける…ガキの姿のまま不死となった私は他の化け物どもよりも若いつもりなんだがな…お前たちといると、本当に年を実感するよ」

そう言ってマスターはちらりと私の方を見た。

「…私の言霊にも動ぜん所を見れば口先だけではないようだな…そういえば、何で峰打ちなんだ、貴様」

「えっ…いえ、その、ルールですから…」

「フフ…それは面白いな…よかろう、お前の意志の力の程を見せてみろ」

それに刹那は一度瞳を閉じ、そして再び開いて答えた。

「はい」

そして…マスターの断罪の剣と刹那の奥義が激突した。

 

直後、私達は実空間に回帰、マスターの幻術が敗れたようだ。そして、刹那の一閃が決まり、マスターは吹っ飛ばされ、マスターは幻術を打ち破った事を褒め称えギブアップを宣言した。

で、刹那はマスターの言う所の非常にポジティブな勘違い…自分を導いてくれたという認識を示し、マスターに感謝の意まで示し始めた…いや、まあその結末もアリとは思っていただろうが、マスターのいう通り、何方かを捨てさせる事になるという見解の元やったんだと思うぞ?

そしてアスナが刹那の羽の意味も知っている事をマスターに伝え、ネギが追認した…そういえばしたな、修学旅行の後にそんな話。それにマスターは大笑いして…あばらが数本やられたらしいと言い出した…うん、今のその体だとヤバかろうに。

 

10分の休憩時間の間に、エヴァの診断と応急手当は終わり、ひびが入っているが折れてはいない様である、との事だった。

「マスター、ケガは大丈夫ですか?」

「心配いらん、放っておけ。世界樹の魔力が学園にあふれるからな、明日には完治する…グっ…あたたた」

「マスター!」

「自業自得よ」

「フン…」

「エヴァンジェリンさん、よろしいですか?」

と、やり取りをしていると、刹那が口を開き、舞台上ないし私達が追う前の幻想空間でしていたらしい会話の追及を始めた。曰く、生まれつき不幸を背負った刹那には共感を覚えると言った、つまりエヴァも不幸を背負っていたという事ではないのか、自らの境遇と刹那の境遇を重ねて、あんな形で助言をしたのではないか、と。アスナがそれに乗り、刹那に酷い事を言った(らしい)事は許していない、と言うがマスターはそれに対して自身は悪い魔法使いだ、許さんでいいと言うが…アスナとネギが過去話に興味を示し、刹那まで私が勝ったのだから昔話位…と言う流れになった。

「わかった、わかった、良いだろう…ただし、簡単にだぞ…ただし、ぼーやはダメだ」

と、ネギとカモは追い出されてしまった。

「さて、それじゃあ私も行くよ、次は試合だしな」

「えっ、千雨ちゃんは聞いて行かないの?」

「ん?エヴァが真祖になった経緯と略歴だろ?それは知っているし…私がいるといらん口を挟みそうだしな」

「ああ、貴様には晩酌の相手をさせた時に話してやった事があったな、色々と…まあ、長話をするつもりはないし、観戦にはいってやれると思うが、先に言っておこう、最善を尽くせ」

「はいよ、マスター…奇跡が起きて勝っちまったらごめんな?」

そう言って、私は臨時救護室を後にした。

 

 

 

第十三試合、私対クウネル…まあさっきはマスターにああ言ったが、楓との戦いを見るに、メール投票作戦で勝率3割と言った所だったのであるが…あのアーティファクトなしの場合で…うん、完全無理ゲー、しかし真面目にやれとの師匠命令も出ているので、まあ真面目にやろう。

『さあ、常識を超えた白熱の試合が繰り広げられております今大会!いよいよ準決勝を迎えます!長谷川千雨選手対クウネル・サンダース選手ー!』

朝倉のアナウンスの下、私とクウネルは開始線に向かい、歩いてゆく。

『古菲選手の棄権によって上がってきました長谷川選手、その実力は無手にてウルティマホラ準優勝という実績が示しております。しかも本日は本来の得物である鉄扇を携えての出場です!

対するは底知れぬ強さを見せつけるクウネル選手! 分身の使い手、長瀬選手を不思議な力で下してのベスト4進出、顔が見えないフードが未だ不気味だ!さあどんな試合になるのか!?』

「おや…着物のままでよかったのですか?」

「ええ…これより動きやすいとなると制服しか無くて…華が無いでしょう?」

「いえ、その着物も素敵ですが、やはり女子中学生は制服と言うのが王道では?」

「あはは…まあ、あなたならそう言いますか…勝てる気はしないですが…精々、奇跡を目指して足掻かせてもらいます!」

「はい、楽しみにしています」

『それでは…準決勝第13試合…』

と、咸卦の呪法に気と魔力を流し始める。

『Fight!』

「ほう…それが?」

「ええ…似て非なる物ですが…咸卦の呪法と呼ばせてもらっています」

「なるほど…では…行きますよっ」

重力魔法の発動寸前、縮地でクウネルを左に見る様に跳躍し、あいさつ代わりにと魔法の射手位の気弾を飛ばし、瞬動で離脱する。直後、私のいた位置を二発目の重力魔法が襲い、気弾はあっさりと弾かれる。さらに跳躍し、近接戦を挑んでみる。

「ふむ、気配の薄さはともかく、すばしっこいですね」

「ええ、それだけが取り柄でね!」

多少喰らいついては見せるが、やはり有効打が透過されると競り負けてしまうと、距離を取る。

「フフ…紛い物とは言いますが、アスナさんの物よりは遥かに高出力じゃないですか」

「あはは…素人…と言うか幼少期ぶりに思い出したっぽいアスナに負けるほどではないですよ…これでもマスターの別荘も併用して2年以上修行と開発をしてきている技法ですので」

「おや…貴女もエヴァンジェリンの弟子でしたか…」

「ええ…ネギの姉弟子にあたります」

と、会話をしながら糸術で操った両手の呪血紋の末端をそれぞれ血管に突き刺す

「しかし、なぜアスナさんが思い出した、と?」

「簡単な事ですよ、咸卦法はそんなに簡単な技法ではない、と身をもって知っているだけの事…です!」

と、咸卦の呪法に流す気と魔力の密度を上げ、咸卦の気を気弾の様に左手で練りながら瞬動で突貫する。

「おおっと…っ」

ある意味、意図的に暴走させた咸卦の気であるその気弾は放った瞬間目くらましの様に弾ける。私は虚空瞬動で軌道を変更し、クウネルを左手に見るようにして通り抜ける。

 

白き雷

 

ドクンと陣が鼓動し、血を空中にまき散らしながら左手は威力の上がった白き雷を放つ。

さらにそこから虚空舞踏で向きを変えながら虚空瞬動…クウネルの後ろをとる。

 

偽・断罪の剣・エンハンスド

 

右手の紋が鼓動し、真っ赤な断罪の剣が鉄扇から伸びて形成される…一閃…手ごたえは…ない

 

「なるほど、やりますね…その呪紋もなかなかに興味深い…外法の類いの様ですが」

煙の中から現れたクウネルは、やはり無傷で飄々としていた…

『おおっと、長谷川選手、手から雷を放ったぁぁぁそして鉄扇に纏うようにエネルギーソードか、これは!判定員の判定は…セーフ、刃物ではありません!』

「ふふっ…術式補助の魔法陣に、術者の血って割とよくある組み合わせでしょう?」

そう言いながら断罪の剣は解除しておく…ゆっくりとではあるが鼓動を続けるので、コレ。

「…そう言われると普通に思えますが、鼓動して次の血を自動供給するとなれば話は別ですよ?血もかなり魔素汚染されるようですし」

「あはは…で、どうでした?」

「ええ、ヒヤリとはしましたよ?直前まで魔法を一切使わなかったという点も含めて…エヴァンジェリンの弟子という事で糸術で何かをしていると気付かなければ、届いていたかもしれませんねぇ…まあ、予備も用意してありますが」

と、暗にこの分身を消されても問題ないと宣うクウネルであった。

「…残機有りですか」

「フフ…ではこちらから行きますよ!」

その言葉に、私は空に舞い、ランダム機動に入る。直後、私のいた場所が押しつぶされ、続いて機動の余地を潰すように小さめとはいえ、重力魔法の黒球が次々に出現しては降ってくる。

「ぐっ…」

 

収束・魔法の射手 光の7矢

 

虚空瞬動による機動を続けながら無詠唱の魔法の射手を溜めて放つが…展開された魔法障壁があっさりとそれを弾く…やっぱり不意を突くか至近でないと魔法の射手如きでは障壁すら無理か。

 

「おや、持ちますね、反撃の余地すらあるとは」

「そろそろ…きついんですけど…ねっ!」

 

拡散・白き雷

 

偽・断罪の剣・エンハンスド

 

白き雷を放って黒球に干渉し、できた回廊を断罪の剣を盾に一気に跳躍し…舞台上に着地した。

 

「ふむ…やはり、貴方もこれを使わねばなりませんかね」

そう言いながら空に舞うクウネルは仮契約カードを取り出した。

「…最初からそうしないという事は、やはり時間制限か何かが?」

「それは、ご想像にお任せします」

と、信用ならない笑顔でにこりと笑ってクウネルはアーティファクトを展開し…先ほどと同様に一冊の本を掴んで栞を挟み、引き抜いた…ならば逃げ切るまでと再び空に舞い、回避運動に入る私…だったが巧みな機動と無数の魔法の射手による射撃との組み合わせに追い詰められ…何十回目かの跳躍の直後、白き雷らしき…しかし白き雷らしからぬ強力な魔法の直撃を喰らって私の意識は僅かな間、途絶えた。

 

「がぁ」

私は蹴り降ろされた衝撃で意識を取り戻し、とっさに咸卦の気を最大出力で纏い、肘や背で空を弾いて落下速度を殺す…がそれでもなお強烈な衝撃で舞台に叩きつけられ…そこに、雷の斧らしき魔法が緊急展開した障壁を貫いて直撃…私は意識を完全に飛ばした。

 




幻想空間はチャチャゼロがついて行けた辺りから行けっだろうと千雨ちゃんもご一緒しました。
 まあ、さすがにクウネル相手に粘るのはともかく、ナギさん相手は無理って事で…生きているんですかね?これ(生きています


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46 麻帆良祭編 第6話 まほら武道会終幕…そして逃走劇へ

…私が意識を取り戻したのは臨時救護室のベッドの上だった。

「あ…よかった…千雨さん」

私の側には聡美がいて、手を握ってくれていたようだ。

「聡美…えっと…ごめん、心配かけた」

「無理はしちゃダメって言いましたよねー」

「えっと…無理はしてないぞ?…無茶はいっぱいしたけど」

「むー、アレくらい千雨さん的には無茶で済むんでしょうけどーまあ、千雨さんの出場を押していた私の責任が無いとも言いませんしー複雑ですけれど、そっちはまあいいですーそれよりも何ですかぁ?この血の魔法陣」

と、いつの間にか血管からは外されているが、まだ中に血の残っている呪血紋をべしべしされる。

「あっ…これは…その…」

すっかり忘れていたが、呪血紋も咸卦の呪法も、と言うか糸の魔法陣埋め込んでいる事自体、聡美には秘密にしてあったんだ…

「もーうっかりさんですねぇ、千雨さん。こう…心配ですけれどーうぬぼれでなければ私を守りたくて開発した無茶、の一つなんでしょう?」

「うん…私の手が届く範囲を守りたくて作った…そして、その一番は聡美だよ」

「ですからあんまり怒れないなーって…エヴァさんから外法としか呼べない術式と聞いても」

「…個人的には、エヴァに吸血されている事に比べたら安全かつ合理的に設計したつもりなんだけどな…」

「…時間もないですしーその辺りの追及は全部終わってからにしますーと言う訳で…私はそろそろドロンしないといけませんので…失礼します」

 

そう言って、聡美は私のおでこにキスをした。

 

「ではまたー」

「うん、気をつけてな」

 

そう言って、私は聡美を見送った。

 

 

 

入れ替わりに入ってきた救護スタッフの人に状況を聞くと、気を失った私は気絶を確認されて私の負けが確定、救護室に運ばれた私は数十分ほど寝ていた様で…まもなく、決勝戦が始まるらしい。そして、私自身、怪我は…小さい傷や電撃の火傷はあるにせよ、大した怪我はしていないとの事だ…まあ、紛い物でも咸卦の気は伊達じゃない、という事だろうか。

いつでも出ていいが休みたければ休んでいても良いと言って救護スタッフの人が退出した後、ボロボロの着物を脱いで自身に治癒をかけて細かな傷と火傷を治療し、制服に着替えた。そして、簡易防音を突き抜けて聞こえてくる歓声が、決勝戦の開始を知らせてくる。

「っと、急がないと」

そう呟き、私は舞台へと急いだ。

 

 

 

そして舞台に着いた私が目撃したのは…サウザンドマスターらしき男にデコピンでふっ飛ばされるネギだった。

「…あれが…ネギの親父?」

「そうだ、あれがネギの父、ナギ・スプリングフィールド…の完全な再現だ、一度きりの…な」

「それがあのアーティファクトの能力…か?」

「そういう事だな…」

エヴァはそう言いながら、ものすごくソワソワしている。

「…で、試合が終わったらエヴァもお零れに与る、と」

「まあ…そういう事だ」

ふんっと鼻を鳴らすエヴァ…ネギはほっぺをムニムニと引き延ばされて可愛がられている。そして、ネギは頭を撫でられ、ナギが縮地で距離を取って構えを取り、続いてネギも構えをとった。そして戦い…と言うよりは稽古がはじまった…それでも、まあ並の使い手では一蹴されてしまうであろう位ではあるし、麻帆良湖に巨大な水柱が立つような一撃も放たれていたが…そして…10カウントと同時にナギはネギに手を差し伸べて、ネギを立ち上がらせた。

 

「…もうよかろう」

試合終了後も少しの間、親子の会話を黙って聞いていたらしいエヴァだが、そう呟いて立ち上がり、舞台に向かって歩み始める。

「ナギ!」

エヴァがそう叫ぶと、ナギも手を上げて反応を示した。そして少しの間会話を交わし…ナギはエヴァの頭を優しくなでた。そしてナギが光に包まれる…時間だろう。そして、ナギの姿が消え、クウネルに戻ると、エヴァは回し蹴りをかました…あばら、大丈夫だろうか。

そして涙を流すネギ…まあ…私にはかける言葉が無いし…その権利もない…と言うか、アスナのバカはどこに言った、こういう時に黙って抱きしめてやるか何かするのがてめぇの仕事だろうに…などと考えていると超が朝倉の隣に現れており、朝倉が授与式を始めると宣言した。

 

 

 

一応、3位タイである私も壇上に登り、超の言葉を聞く。超は個々の試合を上げて褒め称え、優勝者の技量は世界最強と言っても過言ではなく、大会主催者として非常に満足している旨を述べた…そしてこう締めくくった。

「尚、あまりに高レベルな…或いは非現実的な試合内容のため、大会側のやらせではないかとする向きもあるようだが…真偽の判断は皆様に任せるネ。選手及び観客の皆様、ありがとう!またの機会に会おう!」

そう、それでいい…真実であると主張するよりも、その様に仄めかす方が興味を引き…受け入れやすくもある。

 

そうしてクウネルに賞金授与のセレモニーが行われ…ている最中にマスコミたちが殺到してきた…せめて、授与式おわるまで待て、アホども。しかし、クウネルは賞金のシンボル板と共に消え去り、マスコミの矛先がネギに向く。それを朝倉が庇った隙にネギは逃亡した。

「刹那、私達も姿を消すぞ」

「そうだな…ではまた」

そう言い合って、次に矛先が向きかねない私達もその場を離脱した。

 

 

 

私は眼鏡を外して髪型を変えるという雑な変装をして適当な喫茶店に入り、この後、夕方のクラスの仕事まで暇なのでその間どうするかを考えていた。その結果、茶々丸がそろそろ当番の時間であるはずである茶道部の野点にでも参加して、その後は別荘に行って今日の反省点の検討などをすると決めた。そして喫茶店の支払いを済ませ、私は茶道部の野点会場である日本庭園に向かった。

 

 

 

「茶々丸ーいるかー」

顔見知りの茶道部員に茶々丸の居場所を聞いて、ここにいると言われた庵をノックし、扉を開けた。

「あ、千雨さん」

「おっと、ネギも来ていたのか」

扉を開けると、そこにはちょうど着付けを終えたらしいネギがいた。

「千雨さんも野点に参加しに?」

「ああ…すまんが着物貸してくれるか?茶々丸」

「はい、もちろんです、千雨さん」

という事で、私は茶々丸に貸してもらった着物に着替えた。

 

外に出ると、委員長をはじめとした3-Aの面子が10名ほど待っていた。

この面子で野点となると静粛に進むのだろうか…と心配していたが、ちゃんと静かに進んだ…柿崎が逆・光源氏計画とか言い出すまでは。

そこからは桜子を筆頭に、こぞってネギにお茶を飲ませ始めるわ、委員長がお茶をこぼして期せずして色仕掛けちっくになったのを真似していとして借り物の衣装にお茶をこぼしては色仕掛けをしかけ始めた。

「いー加減にしやがれ、てめーらーっ、それ借りもんの衣装だって忘れてねぇだろうな!」

「あ…そうだった」

「ごめん、茶々丸さん」

「あ…いえ…洗いやすい素材でできていますので…その、何とかなりますので」

と、とりあえずは暴走の雰囲気は収まりを見せた。

「それはそうと、ネギ君、これから大変かもよーあんなにすごい試合だったんだもん、取材とか沢山きちゃうかも」

「うんうん、おまけに天才子供先生だもんねー話題性たっぷり、ファンクラブとかできちゃったりして」

「マスコミ来たら逃げた方がいいよ」

「うん、学祭中に捕まったら何もできなくなっちゃうかも」

「ええっ、それはこまります」

「まーいざとなったら千雨ちゃんを盾にして逃げちゃえ」

「おい、マテコラ桜子」

流石に聞き捨てならんと突っ込みを入れる。

「そんな事よりも、大事なのは…お父様の事です、ネギ先生」

そう切り出し、委員長がネギの父親捜しへの助力を申し出て、他の連中もそれに続いた…ああ、そう言えば喫茶店で武道大会の記事を流し読みした時にそこらへんの記述もあったな…超の奴がその辺りバラしたんだろう。

 

「あっ、いたぞ!」「ネギ選手―ッ」「あ、長谷川選手もいるぞ!」

「げっ、マスコミ」

「マジで来た!?」

「逃げろ、ネギ君、ここは私達が食い止める」

「ハ、ハイ」

「ほら、千雨ちゃんも逃げて逃げて」

「ん、それじゃあお言葉に甘えて」

「ネギ先生、千雨さん、こっちです」

と、私とネギはクラスメイト達の尽力と茶々丸の導きにより、マスコミの追跡を振り切る事に成功した。

 

 

 

和装を解いた私達は暫しの間、一緒に学園祭を見て回る事にした。

「で、どうだったネギ、過去の記録とはいえ、親父に稽古つけてもらってさ」

「…はい、すごく嬉しかったですし…だからこそ、僕には父さんを追う事しか無いって思いこんでしまいました…さっきの皆さんやアスナさん達…もちろん千雨さんや茶々丸さん、マスターも含めて…僕の事を真剣に考えてくれる人がいるのに僕、また自分の事しか考えていなくて…」

いや、まあ、気にはかけてはいるつもりだが、さっきの委員長やアスナと同列扱いされると…こう、心が痛む。

「…僕にはみんながいるし、先生の仕事だってある。先生の仕事もしっかりやって、マギステル・マギになる!そう決めていたんでした、強くなるだけじゃなく…」

そして、ネギは顔を上げて宣言した。

「そうして…その上でやっぱり…僕はあなたの跡を追わせてもらいます、父さん」

 

そして、ネギが手洗いから帰ってくるのを、私と茶々丸はカフェで待っていた。

「さて、この後どうするかだが…せっかくだし、約束していた髪飾りでも見に行くか?バザーの方に行って」

「はい、千雨さんとネギ先生がよろしければ…ええと、それと…その、千雨さんのされているペンダントですが…ハカセもされていましたよね?」

「ああ、この前、二人で別荘を借りた日にお揃いで買った、なかなか綺麗だろう?」

「ええ…素敵で…お二人にはお似合いだとは思います…紫のスミレ」

「ありがとう、茶々丸…そうだ、せっかくだし、お前も髪飾り以外にも何かアクセサリーでも買ったらどうだ?ネギとお揃いで」

と、いらぬおせっかいと言うか、親心を出してしまう。

「ね、ネギ先生とですか!?」

「ああ、今日の記念にって言えば乗ってくれるんじゃないかね、ネギの奴も」

「僕がどうかしましたか?」

ひょこりと戻ってきたネギが顔を出す。

「あーいや、バザーにでも行って、茶々丸の髪飾りでも買おうかって話をしていてな。それで、他のアクセサリーも見るなら今日の記念にお揃いの何かを買ってもいいかなって話をしていたんだ」

「なるほど、気に入ったものがあれば良いかもしれませんね、記念の品を買うと言うのも。あ…そういえばいいんちょさん達、大丈夫かな?僕たちを逃がしてくれて…」

「まあ、大丈夫だろう、マスコミたちもあいつ等にかかわっているより、私達を追うだろうし」

「そうですね、じゃあ行きましょう、バザーですよね」

「ああ、そうだけど…適当に気持ちを整理する時間はとれよ?マスターの別荘やタイムマシンでも使って…なんなら私達は【次】でもいいぞ?」

「あ…ありがとうございます、千雨さん。でも、大丈夫ですよ、みんなのおかげでちょっと…吹っ切れましたから」

「吹っ切れたって…親父さんの事か?」

「はい」

そんなわけあるか、と思った私はネギに拳骨をかます。そして、混乱するネギに言った。

「やかましい、んな簡単に吹っ切れる分けねぇだろ、特に、お前が親父さん関係の事で。ただでさえ、吹っ切れた、悟ったなんてのは大抵が勘違いだ、人間そんなに簡単に変われるもんじゃねぇ。しかも…お前にとって親父さんの事は人生の最大の目標…の一つだ、少なくともな、違うか?…そーいうデカイ悩みなら吹っ切るな、胸に抱えて進め…以上だ」

ネギが衝撃を受けたような顔をしている…いや、研究だってそうだぞ?曖昧な事柄を曖昧なまま受け入れ、かつそれを思索対象にし続けるという態度は。

「…なんだ、茶々丸」

「い、いえ、何でもありません」

「ま、そういう事だから…ちゃんと自分と向き合う時間はとる様に」

「は、はい、ちうさん」

ちう呼びかよ、と突っ込みを入れようとした時にマスコミ達が追い付いてきた。

「ネギ選手発見―ッ!」

「げっ…出入口あそこだけだってのに…」

そしてあれよあれよという間にマスコミに取り囲まれてしまった。

 

「ネギ先生、行きますよ!」

マスコミの怒涛の質問で答える暇もなく煽られているが、すぐに餌食になると、私はネギの手を掴み、バルコニーの際に連れてくる。

「いくぞ」

と、二人に声をかけて手すりを飛び越え、ネギと茶々丸がそれに続く…この喫茶店が先払いの店でよかった。

 

その後も、サインを求める一般人、弟子入り志願して来る格闘家、そしてマスコミ達から逃げ回り続けた。

「はぁ…思っていたより話題になっているな」

「はううう…学園中、どこにもいる場所が無いですよー」

「と、とりあえず、アレに乗って休むか」

観覧車を指して私はそう言った。

「な、なるほど、あそこまではマスコミさん達も追ってこられませんね」

と、ネギも同意をした。

 

「ふーこれでようやく一息つけたな」

「ええ」

「あの、さっきの千雨さんの言葉の意味なんですが…」

「ん?」

「いえ、さっき【デカイ悩みなら吹っ切るな】って」

「あ、ああ。別に大したことじゃねぇよ…ネギにとって大きな問題なら慌てて答えを出す必要はない…ってだけの事だよ…一応の、仮の答えでもあるいは答えを出さなくても前には進める、そうして進みながら考え続けるといいさ」

「なるほど…そうですね。そっか…さすがちうさんです…」

と、ネギが急にふらふらとし始めた。

「一息ついて魔力の使い過ぎの症状が出てきたか…少し休め、ネギ」

「そうですね、大会で限界近くまで魔力を使ったのです、少し休まれた方が良いかと」

「ハ、ハイ」

私と茶々丸の勧めにそう答えたネギは電池が切れたように茶々丸の膝に倒れこみ、眠り始めた。

「随分あっさりぶっ倒れたな…まあ無理もないか」

「ええそうですね…今日は先生、とっても頑張りましたから…少し寝かせてあげましょう」

「ああ…」

 

「お母様は…中立でしたよね、今回の計画」

「ああ、そうだな…そういうお前は…電子戦担当で参加って所か?」

「はい…その通りです」

そう答えて、茶々丸はネギの頭を優しくなでた。

「…私が言うのもなんだが…それでいいのか?それはネギと対立する道になるぞ」

「…いいのです…ハカセと超が望み…貴女も陰ながら協力する計画…そして私自身もコレが世界の為になると計算します…それに、ハカセも超も命令してくださいましたから」

「…そっか…なら…私から言う事はないよ、茶々丸」

そして、私は茶々丸に微笑んだ。

 

「ん…?げっ、しくじった、下見ろ下!」

「んー…?どうされました…」

私の上げた声にネギが眼を擦りながら起きてくる。

「マスコミの山だぞ、バレてたんだ…こりゃ降りたらもみくちゃで今日一日丸つぶれかもなー」

「わわ?」

「考えてみると観覧車は袋のネズミでしたね」

「ち、千雨さんが乗ろうって言ったんですよ、どうするんですかーっ」

「…私一人なら縮地で逃げるがネギ連れてとなると…」

「わ、私が蹴散らしましょうか?ビームで」

「やめろ!くっ…エヴァみたいな幻術が使えたら…」

「ぼ、僕も幻術はまだ使えませんよぉ…あ…そうだ、年齢詐称飴」

そう言ってネギは赤い飴と青い飴の入った瓶を取り出した。

「この飴の赤い方を食べれば、マスターの幻術みたいに大人に、青い方を食べれば子供になれます!」

「よし、それで行こう!ネギは赤、私は青だな」

と、私達は飴を食べる。するとネギは青年くらいまで成長し、私は初等部低学年くらいに縮んだ…が

「って、これ服どうなってんだ!」

ネギは服ごと適切に変化したにもかかわらず、私の服はそのままで酷い事になった。

「あ…変身の時に服装をイメージしないと服はそのままで…」

「先に言えーっ!」

「とりあえず赤い飴で中和しましょう!」

と、赤い飴を受け取って私は元の姿に戻り、服を直した。そしてまた失敗すれば目も当てられんと、眼鏡をはずして両側に垂らした前髪ごと髪をポニーテールに結いなおした。

「マスコミの狙い、メインはネギだ。私はこれで誤魔化す」

と、おまけに認識阻害をかける…まあ、私を長谷川千雨だと思ってみればバレる代物ではあるが。

 

「あれ、皆さんどうかしましたか?」

ネギは群がるマスコミ相手にこうとぼけてみせる。そしてそのままマスコミの間をすり抜けた直後…

「次のにもいないぞ!」

「いや、まて、今の男、ネギ選手に似てないか?親族…いや兄弟じゃ…」

「と言うか、連れの一人、眼鏡外して雰囲気違ったけど長谷川さんじゃ…?」

「逃げましょう!」

「あ、逃げたぞ!追え!」

そこから、また私達の逃走劇は始まった。

 

 

 




安全かつ合理的な設計:血を失う事にはなれているので、多少血を失っても問題ないから汚染された血は戻さずに捨てちゃおう、捨てるなら徹底的に搾り取って汚染させちゃえ

年齢詐称飴と服の問題ってなんかよーわからんのですが、コタ君が人前で飲もうとしているあたり、服装は意識していれば自動適応という事で


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47 麻帆良祭編 第7話 ヘアピンと傷痕

「何とか振り切れたようだな」

「ええ、上手く行きました」

「しかし、千雨さんのそれで割と誤魔化せるものですね」

「ああ、割とな…認識阻害使っているのもあるが…で、大丈夫そうか?ネギ」

「え?あ、ハイ。ちょっと寝られましたから大丈夫です」

「バカ、体じゃねぇよ、自分自身と向き合う時間の方…親父さんの事の方だよ」

「ハ、ハイ大丈夫です、今度はホントに。千雨さんの助言も為になったし、何とか…ダメそうならばマスターの別荘とこれの力を借りる事になると思いますが」

今度はしっかりとした顔でそう言って、タイムマシンをちらりと見せた。

「…そうか、ならいい」

と、私はネギの自己判断を信じる事にした。

「でも、千雨さん、いろいろとありがとうございます」

「何?」

「いえ、僕のこと、色々と心配していただいて…ちうさんの言葉はとっても為になります」

「…一応聞いておくが、どうしてちう呼びなんだ?」

「えっと…なんか、いつもの千雨さんもかっこいいですけれども、さっきみたいな千雨さんは…なんか、ちうさんって感じがします」

ネギが純真な笑顔でそう言った…青年姿でそれは止めてくれ。

「はぁ…まあ良いか…他人の前ではあまりそう呼ぶなよ?」

「はい、わかりました」

「ん?おおっと」

と、とっさに私がその場を飛びのくとコタローがネギの背中にぶつかってきて、二人そろって倒れてしまった。

「ててて…悪い、ちょっと急いでて…ん?」

「え…あ?

「ネギ!?」

「コタローくん!?」

「…あ」

「…う」

と、沈黙が場を覆う。相手が悪かったとはいえ、一回戦負けしたのがきまりが悪いのだろうか、コタローは。それとも、決勝で会おうと言っていた大言壮語を守れなかった事だろうか?「わ…悪かったな、約束…守れんで」

「え…ううん」

「次は…次は…負けへん。次こそは…勝負や」

「うん!コタロー君!」

そう言って、ネギはうれしそうに笑った。

「へへ」

「んだよっ」

「ううん、一緒に修行、がんばろーね」

「アホ!一緒になんかするか!つかその大人顔で笑うな、気持ちワルイッ」

と、コタローがネギをポカポカ殴る。

「あはは、痛いって」

「ははは、よく言ったコタロー、次があれば私が壁だな、今回ほど理不尽じゃねーから頑張れ」

「…なんや姉ちゃん…って千雨姉ちゃんやんか!」

「ははは、今気づいたか…どうだった、私の試合は」

「ふん…健闘しとったとは思うけど…千雨姉ちゃんかて、クウネルの奴に負けたやんか」

「ああ、そうだな、だからこそ、私はまだ頑張れば手が届くと思えるだろう?」

そう言って私はニヤリと笑って見せた。

 

「おっ、いたぞ、村上選手だ!」

「げ、マズイ、逃げなっ」

「わわ!?マスコミ」

「とにかく逃げましょう!」

と、四人で再び逃走を始める。

「なんでコタロー君までマスコミに?」

「アホッ、お前らが逃げるからこっちまで回って来よるんやろ!」

「うっへ…コタローまで追われているって事は私も探されているな…この程度の変装じゃ足らん」

 

 

 

「ん、これでいいだろう」

と、言う訳で私達は年齢詐称飴の力を借り、さらに衣装を変える為に貸衣装屋に来ていた。

「なんで俺がチンピラみたいな恰好…」

「似合っているけど?コタロー君」

「確かに、マフィアの御曹司とボディガードの三下って感じに見えるな」

「うるさい、千雨姉ちゃんこそ、なんやその恰好は?」

「ん?昔していたオシャレのイメージでコーディネートしてみたんだが似合ってないか?」

と、白のワンピースにリボン付きの帽子、脱いだ服などを詰めたランドセル姿でくるりと回る。こうなると若干シルバーのネックレスが不釣り合いなのだがまあよかろう。

「…ちゃうわ…ノリノリ過ぎやからや」

「あの…どうでしょうか?」

と、工学部まで瞬動連打でひとっ走りして取ってきた悪魔の角風耳飾りに換装して幻術でロリモードになった茶々丸が着替えを終えて現れた。背中に翼もつけてロリ悪魔メイドにコーディネートしてみた…変装だけなら着ぐるみと言うのもアリではあったのだがまあ排熱とか色々と問題あるし。

「カワイイです、茶々丸さん、とっても」

「そ、そうですか?…ありがとうございます」

「じゃあ、予定通りバザーを見に行きましょう、千雨さん、茶々丸さん…コタロー君もそれでいい?」

「ああ、かまへんで」

と、こうしてやっとの事で私達はバザーに向かえる事となった。

 

 

 

「あ…コレ…」

バザーで露店を回っていると茶々丸が一本のヘアピンに目を止める。

「ん?気に入ったものでもあったか?茶々丸」

「あ…えっと…はい、このヘアピンが…綺麗だと…」

茶々丸が示したのは、ガラスの四葉のクローバーの飾りがついたヘアピンだった。

「これですか?茶々丸さん…よろしければ日頃の感謝の気持ちとして贈らせてください」

「えっ…よろしいのですか?」

「はい、いつも色々とお世話になっているお礼に…千雨さんもよろしければどうですか?」

と、ネギは話を私にも振ってくる。

「私はいらん、むしろエヴァになんか買ってやれ、日頃の感謝ならな」

と、私はネギの好意を無碍にする言葉で返す…。

「あーなら…すいません、これと…これをいただけますか?」

と、ネギは茶々丸の選んだヘアピンとライラックの飾りがついたバレッタを購入した。

「はい、茶々丸さん、どうぞ…いつもありがとうございます」

「あ、ありがとうございます、大切にさせていただきます…」

と、茶々丸は送られたヘアピンを早速つけてみる。

「ネギ先生…その…似合いますか?」

「はい、とっても素敵ですよ、茶々丸さん」

 

…と言うやり取りをしている二人と少し離れて眺めながら、

「…子供姿相手やっちゅうても、なんか女に現を抜かしとるみたいで気に入らんなぁ…」

「…まあ、良いじゃねぇか、あれ位…ただ、ネギの奴は将来、とんでもない女泣かせになりそうだな…」

と言う会話を私はコタローとしていた。

 

「ありがとうございます、お付き合い頂いて」

その後も何店舗か冷やかして回り、少し食べ物を摘まんで、バザーを通り抜けた。

「いえ、楽しんでいただけたようで何よりです」

「さて、私としてはもう満足なんだが…二人はその姿で柿崎たちのライブに行く約束をしているんだったよな?この周回で行くならば次の周回の逆行までご一緒させてもらってもいいか?」

と、たっぷり別荘を使う為にそう言う…このままだともうすぐパトロールのシフトからのそのままクラスの当番になりそうだったので。

「ええ、ではそうしましょうか、千雨さん…まだ時間も早いですし、一度、亜子さん達にご挨拶に伺いましょうか」

 

 

 

と、いう事でライブ会場…ここも要注意スポットだったな、確か…に私達はやってきた。

「あれ?あれはまき絵さん達。ちょっと亜子さん達の居場所を聞いてきます」

と、ネギがネギの従兄のナギとして聞き出した控室に私達は向かった。

 

「いいか、ネギ。わかっていると思うが、外見相応に振る舞えよ?あんまりガキっぽい事しないようにな」

「ハイ!紳士的に、という事なら任せてください」

と、先ほどまで若干無自覚に子供っぽい姿を見せていたネギに不安を覚えるが…まあ信じよう。

「失礼します、こちらに泉亜子さんがいると伺ったのですが…」

と、ネギがノックの後にそう言って控室の扉を開けた。

 

しかし、そこには上半身裸の亜子がいて…

「キャアアアーッ!」

と、悲鳴を上げられた。まあ当然であるし…加えて亜子の場合は…

「ど、どうしましょう。い、いきなり着替えを覗いてしまって…」

「いやーそれも不味いがこの場合はそれよりも…」

と、言おうとした所で釘宮がかけてきた。

「どうしたの!?」

私達を見て、はっとした釘宮は控室に駆け込む。

「亜子!」

と、控室の中をのぞいた釘宮は振り返り、ネギとコタローにビンタをした。

…が、ネギはそれを甘んじて受け入れたがコタローはとっさに防いでしまい、グーで殴られていた。

「…ってーな…」

「るさいっ!何やってるの、あんた達!」

「ス、スイマセン、僕の不注意で…」

「何が不注意よ、馬鹿じゃない!?いい、あんた達、亜子はねぇ、亜子は…ッ」

と、荒ぶる釘宮を、服を着て出てきた亜子が止めに入る。

「釘宮やめてっ、ちやうねん、この人らなんも悪ないねん!」

「亜子!?」

「うちがカギ閉めてへんかったんがアカンねん!」

…いやぁ?入室許可貰う前に扉開けたネギの重過失だと思うぞ?と言う内心は飲み込んでおく。

「ナ…ナギさん、スイマセン、せっかく来ていただいたのにこんな…」

「あ…亜子…」

「い、いやっ、あの亜子さん、僕、ただ…」

「あのっ…そのっ…私…スイマセンッ」

と、叫んで亜子は逃げ出してしまう。

「亜子さん!」

「なんやあいつ…訳わからんわ…」

と、コタローが空気を読まん事を言い出す。

「…ッ…馬鹿ッ!亜子!」

釘宮がコタローにネクタイを投げつけ、亜子を追いかけていった。

「なんなんや、あの女も…あー…ったく…女は意味わからんからメンドイわー」

「バーカ、ガキめ。傷だよ、傷」

私の言葉にネギははっとした様であるがコタローは訳が分からんと言葉を返してくる。

「傷?傷って今の背中のか?あんなん別に大したことないやん、俺の周りじゃなんも珍しいことあらへんし、20年前の戦で…」

「アホ!お前や私みたいなのと一緒にすんな!あいつはごくフツーの女子中学生だぞ」

私を含めた覚悟の決まった武闘派連中はともかく、フツーはもっと細かな傷痕でも気にするのである。

「そういえば、亜子さんの傷の事は何も知りませんでした」

「私も詳しくは知らん…が、亜子も最初の頃はすごく気にしてコソコソ隅で着替えたりしてたよ…でも、うちのクラスはああだろう?私も知らない間にみんなの前では自然に着替えるようになっていたよ…うちのクラスは変人ぞろいの麻帆良の中でも変人を煮詰めたようなクラスだが…そーゆー所は他にはない評価すべき点だな…さ、私達も亜子を追いましょう」

「あ…はい!」

 

釘宮を追い、先行したネギは何とか追いつく事はできたが亜子は見失ってしまったようである。話し声は聞き取れないが何かを話しているのは見て取れる。

私達も一度合流しようとネギたちに近づいていくが…あれ?ネギが二人いる?それももう一人は亜子といて…うわぁータイムパラドクス―

「亜子!…!?…え!?」

「あ!?」

向こう…たぶん次のネギがしまったという顔をする。

「ちょっと待ったあーっ」

と、コタローと茶々丸、一拍遅れて私が降ってくる。

「おーい、ネギ」

と、こちらのコタローが釘宮といるネギに声をかけて…場には二組のロリボディの私と茶々丸、青年姿のネギとコタローが揃った…あーあ。

「え…えええええ!?な、ちょ、ちょちょちょ、な」

あ、釘宮が壊れた。事情をおおむね理解している私でもフリーズ状態なので当然ではあるが。

「何よこれ…あ!?」

「失礼します」

場を動かしたのは釘宮の混乱と、亜子と逃避行を始めた次のネギではあるが…それは悪手である…大混乱がはじまった…。

「待ちなさいよーっナギさん…いや、偽ナギさん!?亜子をどこ連れてくつもりー!?」

 

「オイ、なんやねん、またタイムマシン使たんか!?」

「うるせっ、話ややこしくなる、黙れ、前の俺!」

と、殴り合いながらネギたちを追うコタロー達

 

「ねえ君、未来のボクでしょ、何があったの!?待ってよ!?」

「わーバカバカ、ついてこないでよ、前の僕!後でちゃんと説明するからあっち行って―ッ」

と、事情を暴露しながら追いかけ合うネギたち…。

 

「で、お前は次の私だな?何がどうした」

「これからあんたらが亜子を見つけて逆行するんだ、がんばれ、私」

と、並走しながら事情説明を受ける私…とそれについてくる茶々丸たち…である。

 

釘宮を撒いて次のネギ達はライブ会場へと入って行った。今回の私達は事情を説明するからと隠れて待っていた。まもなくライブがはじまるという頃…。

「お待たせしました、僕達」

と、次のネギがやってき手事情を説明する…とはいっても、亜子が今いる大まかな場所と、亜子を眠らせて夢落ちだった事にして時間までデートで潰していたという事情を聴いただけだが。

「詳しくはお話するよりも、亜子さんに自分自身で向き合ってください」

「はい、わかりました…それじゃあ、行ってきます、次の僕」

「はい、亜子さんをよろしくお願いします、前の僕」

と、いう事で私達は次のネギに教わった辺りで倒れている亜子を見つけ、自然に目覚めるのを待った後、芝居がかった仕草でネギがあなたに魔法をかけて差し上げますと言って文字通り眠りの魔法をかけた。

「ではいきましょう、千雨さん、茶々丸さん、コタロー君」

亜子をお姫様抱っこしたネギがそう宣言する…呼び出しブッチしちまったけど次の次でいいかな?私は心の中でそう呟いて過去へと跳躍した。

 

 

 

過去…午後一時に戻り、私達は世界樹前広場で亜子を椅子に座らせた。そしてネギが声をかけて起こすと亜子は全てを夢だと思い込んでくれたようである。そして、ネギがおはようと声をかけて席に着き、亜子をデートに誘いだした。

その後、着替えて待ち合わせたネギと亜子は麻帆良遊園地を訪れ、乗馬体験やカフェを楽しみ…ベストカップルコンテストというイベントに捕まった。

「あーあ」

「ええんか?アレ」

「ほっとけ、祭りだからな」

「あの手の強制勧誘は学祭名物で…」

 

で、なんだかんだで準優勝を掻っ攫い、上位三位までに送られるペアブレスレットを貰っていた。

その後、リハーサルに行こうとする亜子を大丈夫と誤魔化して廃校舎でネギは亜子の演奏を聴く事になった…そして…。

 

「わ…私、あの、あ…あなたの事が…す…すっ…」

なんと、亜子が告白体勢に入りやがった。いや、一目惚れに近い雰囲気なのは理解していたが、そこから迅速に告白に至るとは思っていなかった。デートも普通に遊んでいただけに見えたし…ベストカップルコンテストであてられたか?

「何なんや、あの女さっきからすっすすっす言ーて?」

「バカッ、告白だよ、告白!」

と、私が言うと茶々丸とコタローがはっとする…やはり、ネギは女泣かせという事で確定でいいかな…。

 

「するめいかはお好きですか?」

と、結局、亜子はヘタレてこう言った。それにネギは日本の食べ物ではヤキトリのねぎまが好きだと言って、亜子にスルメイカが好きなのかと聞き返した。

「今のが告白か?」

「違うわボケ!」

「ネギまがお好き…」

と、茶々丸は食べ物の好みを知れてうれしいという様子である。学祭後に修行の機会がまだあるようならば焼き鳥でも食事に出てくるだろうか。

そして、ネギは亜子にベースの演奏をねだり、亜子はちゃんとベースを弾ききった。

 

「すごいじゃないですか!これならライブも絶対大丈夫ですよ」

廃校舎から移動しながらネギはそう言った…私達はネギに付けてある通信用の術式でその会話を聞いていた。

「い、いえっ、本番も同じようにできるかどうか…」

と、ネギの方を向いた亜子にネギが笑いかけると亜子が顔を赤くする…完全にほの字だな、亜子の奴。

「あ、あのー、ナギさん、お仕事は…」

「お仕事?」

「あ、すみません、もしかして学生ですか?大人びて見えるので…」

まあ、社会人だが、仕様上、15, 6歳くらいの筈である、あれで。

「え、あーはい!イギリスの学校で…」

そして、将来はNGOに参加して世界中の困っている人を助ける仕事に就きたい、と続けた。そして、今更亜子がナギの年齢を聞き、ネギは16歳と回答した。それからネギはネギの親父に憧れて、その人みたいになりたいと続けた。

 

「ナギさん、うち…やっぱり脇役やと思います」

ネギから受け取ったアイスを食べていた亜子は、少し考えてそう、言葉を紡いだ。

曰く、ネギの親父が行方不明だと知って、心配すると同時に羨ましいと酷い事を思ってしまった、と。行方不明の父を探してあんなに努力して、強くてかっこよくて…まるで物語の主人公みたいだと思ってしまったのだ、と。物語の主人公が持つマイナスな部分…それが力になって主人公を主人公たらしめる…でもそれは本人には辛い事で…ネギにとっては現実で…そう考える事自体が酷いとは思うけれども…それでも…自分には夢や目標も勇気もなくて…なにより自分の抱えるマイナスはただマイナスなだけで何の力も与えてくれないのに、と。

…そうだな、私のマイナス…知るべきではない事を知ってしまう事、そして異端なまでの知識欲は私に色々な物を与えてくれたが…亜子の傷は…ただのマイナスと言われればその通りである。

そして笑ってごまかすように亜子が続ける。

「と、とにかく、ほんと、ウチ、ダメなんですよー脇役なんです、とりえもないし、フツーやし。ううっ、やっぱライブ心配になってきたなー」

そういう亜子にネギは拳骨を落とした。

「ナ、ナナナギさん?」

「そんな事言っちゃダメです!」

「ネギ君ならこういうでしょうね、僕のクラスにダメな人なんていません、って。たとえ亜子さんが自分を脇役だと感じていても…それでもやっぱりあなたは主役なんだと思います。だって、亜子さんの物語の主人公は…亜子さんしかいないじゃないですか」

 

「おーおー、わかったような事言うなぁ…10歳のガキのくせして」

「明日菜さんによるとわかったような事を言うのは最初からだったようですが…」

「ですが…?」

「いえ…あ!?」

と、茶々丸が私達のいる橋門から下を指さす

「アレは…過去のネギ先生です!」

「何ィ!?しもた!これはあの時のアレかいな!?この後、もう一組の俺達も現れてメタメタに…止めな!」

「ハ、ハイ」

「あ、バカ」

と、コタローと茶々丸が私の静止を聞かずに飛び降り…私もやむをえずそれに続く。

そして…大混乱がはじまった…

 

「オイ、なんやねん、またタイムマシン使たんか!?」

「うるせっ、話ややこしくなる、黙れ、前の俺!」

と、殴り合いながらネギたちを追うコタロー達

 

「ねえ君、未来のボクでしょ、何があったの!?待ってよ!?」

「わーバカバカ、ついてこないでよ、前の僕!後でちゃんと説明するからあっち行って―ッ」

と、事情を暴露しながら追いかけ合うネギたち…

 

「で、お前は次の私だな?何がどうした」

「これからあんたらが亜子を見つけて逆行するんだ、がんばれ、私」

と、並走しながら事情説明をする私…とそれについてくる茶々丸たち…である。

 

役割を入れ替えて同じ事をやり、控室に入り込んだ私達は無事に諸々をごまかし、亜子たち【でこぴんロケット】の出番となった。そしてそのトークにて…

「あ、あの、その私…え、えーっと…今日は、今日…と、とてもお世話になった人に伝えたい事があり…あります」

うげ…ここ、告白阻止地域なんだがとネギたちの隣から少し離れて糸でマイクでも取り落とさせようかと構える…が真名らしき気配が私がいる、邪魔をするなと言わんばかりに現れたので糸を回収し、成り行きを見守る事にした。

「あ、あの、私っ…そのっ…私…す、好…すっ…すごく楽しかったでーす、メールアドレス教えてくださーいっ!」

と、また亜子はヘタれ、撃たれる事はなかったし、柿崎、釘宮、桜子はずっこけた。

「へ…僕ですか?」

とネギは呆けた後、叫んで返した。

「はーい、良いですよー後で送っておきまーす!」

そして会場は笑いに包まれた…そりゃあそうである…が、舞台で亜子が麻痺弾で打たれるよりはましなオチではあるか。

 

 

 

「なかなかおもろかったなーライブゆーんも」

「うん!亜子さんも上手くできていたしね!」

「皆さん、お疲れ様です」

「それじゃあ、解散と行こうか…ネギ、私も逆行頼むぞ」

「はい、それじゃあ、参りましょう、千雨さん!茶々丸さん、コタロー君、行ってきます!」

「マスコミにお気をつけて…」

「先生っつうのも大変やなぁ…ま、がんばってこいや」

 

そうして、私とネギは、三度目の今日の午後一時頃に跳躍したのであった。

 

 

 



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48 麻帆良祭編 第8話 尋問とお別れ会

「さて…私は別荘で少し武道大会の反省点を検討して来る、その後はパトロールを済ませてクラスの当番だな」

「はい、僕は図書館島のツアーに行ってきます」

「ん、とりあえず顔を隠せるパーカーでもかぶってれば大分違うだろうからそんなノリでコーディネートしてみな」

「あ、ありがとうございます、千雨さん…それでは」

「ああ」

と、私は三度目の麻帆良祭二日目午後一時にネギと別れ、エヴァ宅に向かった。

 

 

 

「お邪魔します」

「む、千雨か、アル相手に中々の奮戦だったぞ、よくやったな」

「ケケケ…ナカナカタノシイショーダッタゼ」

「…負けたのはいいのかよ」

「ハッハッハ…アル相手にあれだけ奮闘し、ナギの幻影相手にあれだけ持たせられたならば上出来さ…今はまだ、な。それに反省会をするんだろ?」

「ああ…数時間、借りていいかな?」

「構わんぞ、まあ精々励む事だ…お前も私の弟子なのだからな、いずれ私達の領域に来る事を期待しているぞ…ま、お前の場合は相応の対価が必要だろうがな」

と、暗にナニカを対価に捧げねばエヴァ達の領域には達せられないと言われる…例えば魂への負荷とか…人ならざるモノへの変異とか。

「…そうだな…検討だけはしているよ、そーいうのも」

「くっくっく…まあ、そうしてでも力が必要だと思えばそうすればいい、千雨…きっとハカセはそれでも受け入れてくれるさ」

「…はい、マスター」

そう返して、私は別荘に潜った。

 

もっと速く、もっと鋭く、もっと静かに…クウネルの化けたナギ・スプリングフィールドを仮想敵に、私は機動力を鍛えなおす事にただひたすら時間をつぎ込み、その合間の休息を咸卦法の理解に充てた…まほら武道会で見えたさらなる理想を目指して。

 

「ただいま」

「おかえり、千雨すぐ出るのか?」

「ああ、ちょっと仕事…とお呼び出しがな」

「超の巻き添えか?」

「まーそんなもんだな…それじゃあ」

「お邪魔します、別荘をお借りしに来ました…あ、千雨さん」

と、エヴァ宅を辞そうとすると丁度ネギがやってきた。

「む、ぼーや、どうした」

「あ、すいません、マスター、別荘をちょっと貸していただいても良いですか?少し瞑想がしたくて…」

ネギはどうやらこの集会で色々と溢れそうになったのか、自分に向き合いに来たようである。

「ん、構わんぞ、そこの姉弟子も一時頃からずっと潜っていたしな」

「え、千雨さん、あれからずっと!?」

「折角最高峰クラスの機動を垣間見られたんでな、ちょっと自主練を」

「うわぁ…頑張りますね…僕も、少し瞬動のおさらい、しておこうかな」

「おう、励め励め、ガキども。鍛錬に励むのは良い事だぞ?」

そう言ってマスターは楽しそうに笑った。

 

 

 

で…エヴァ宅を辞した私は少しだけパトロールに入った後、前々回に届いていたメールに従って、呼び出されていた学園長室に向かい、そして重要参考人として尋問を受ける事となった。

 

「もう一度聞く、超鈴音は一体何を企んでいる?」

「お答えできません、お答えできる事は全てお話しました」

「超鈴音は今どこにいる?心当たりは?」

「恐らく、学園内のどこかに潜伏しているのかと。現在地の心当たりは超包子や他の所属の関連施設でなければわかりません」

このやり取り、何度目だろうか。

 

既に状況証拠からばれているであろう事…陽動でなければ魔法バレ系の何かを狙っている事、何かやらかすとして、数的主力はロボットになるであろう事、そのロボット達が恐らくはロボ研で私も手がけた子達の量産型であろう事、それに、私が予め武道大会への出場を依頼されていた事…位は認めたのであるが。と言うか、私から確定情報として絞れるのはそこまでだぞ?

 

「もうよい、ガンドルフィーニ君…大方ギアスペーパーか何かでも使ったんじゃろうて…どのタイミングかは知らんが」

「超も私が一応魔法使い側なのは承知の上ですので、漏れた秘密が拡散しないように、普通はそれくらいするかと私も思います、学園長先生」

実際は使っていないが、普通はそうするだろうし、私もそう提案した。

「重ねて聞くが、長谷川君は超君から計画への協力を頼まれておらんし、協力する気もないんじゃな?」

「はい、麻帆良祭期間中は、試合への出場と超包子の助っ人だけですし、魔法バレに関して協力するつもりはありません」

コレも本当である、後の事は兎も角。魔法バレへの協力にも麻帆良祭期間中がかかっているのがみそだったりするが。

「うむ、嘘は言っておらんな…長谷川君、超君の計画に関して、どう思うかの?」

「魔法バレですか?…学究の徒としては、学問…少なくとも科学は集合知ですのでその発展に資するという意味で歓迎しますが、魔法の秘匿を誓って皆さんに魔法使いとして迎えて頂いた身としては、自身の矜持に誓って、超の魔法バレ計画への参加はいたしかねます」

「…なるほど…協力ありがとう、よくわかったよ、長谷川君。麻帆良祭を楽しんでおいで」

「いえ、お役に立てなかった様で申し訳ございません、それでは失礼いたします」

そう言って、私は学園長室を辞した。

後ろで重要参考人の私をそう簡単に返して良いのか、と言う魔法先生の叫びを聞きながら。

 

既に日は傾き、空は赤く染まっていた。

「さーて…ってそろそろ当番の時間じゃねぇか」

私はその足でクラスに向かった。

 

 

 

「ハ?超のお別れ会?」

クラスの仕事…と言ってもザジが連れてきた助っ人で割と楽な仕事ではあったが…を終え、二日目のクラスの中夜祭パーティーの準備を手伝っていると、委員長がやって来て、超が退学届けを出したから超のお別れパーティーをすると言い出した。

「…千雨さんも何も聞いていないんですの?」

「…ああ、思い当たるふしが無いとは言わんけど…流石に退学届を出すような話だとは聞いていない」

正直、何考えてんだ超の奴、という状態であるし、どのみち麻帆良には居られなくなるからとのケジメと受け取れなくもないではあるが…。

「とにかく!中夜祭パーティーは超さんとのお別れパーティーとします、これは委員長としての命令です!」

そう、命じた委員長に従い、私はパーティーの準備を手伝う事にした。

 

聡美にメールでこの件の事を問い合わせた所、計画失敗時に生存していれば未来に帰って本来の戦いに戻るし、成功すれば学生生活を望める状態ではなくなる、という事で、ケジメとしてしたためたそうだ。…本来、学祭後に渡すように頼んでクーに託したらしいのだが。

 

「ん?超を迎えに行く係?」

「ああ、若干手荒な真似をする事になるやもしれん…すまんがお前にも手伝って欲しい、千雨」

と、刹那が楓と共にやって来て私に言った。

「サプライズパーティーになる様に、超殿には内緒で…との事でござるからな」

「…事情話さずにやるなら私は不参加で…予備としてコッソリついて行く位は良いけどさ」

「む…それは…」

「それで構わぬ、千雨殿…超の企みの件もあり話が変な方に拗れる可能性も相応にあるからな」

「りょーかい、それじゃそれで…私が出るのはネタばらしして連れていく位拗れた時だけって事で良いな?」

…その企み、バリバリ私も参画しているので色々とややこしい事になるのである、私が超と戦うと…下手するとその場で超が何口走るかわかったもんじゃないという。

 

 

 

丁度準備が終わった頃、カモが応援を呼びに来て、私は姿を隠した。そして楓と刹那がカモからのネギへの応援要請に答える形で超とネギの下に向かい、私はそれを尾行する形で同行する事とした。

 

打ち合わせ通り、刹那の持つ通信符で会話を聞きながら追跡を続けると、どうやらネギは超に一対一での話し合いを求めたらしい…まあタイムマシンの戦闘応用等の切り札が超側になければ妥当な判断ではあるのだが…うん。

そして、私達が超たちを捉える位置まで来ると、戦闘痕と座り込むネギ、それに迫る超が見えた。

「やべぇ」

「待てぇっ」

との、カモの声に応えるように刹那は静止の叫びをあげながら超に攻撃を仕掛け、楓と共に割って入った。

「ネギ先生の信頼を裏切れば私の剣が黙っていないと言ったハズだ、超鈴音」

「あ…!刹那さん!楓さん!」

「やあ、せつなサン、かえでサン」

刹那の怒りなどどこ吹く風と超が言う。

「どういうつもりだ、超鈴音。ネギ先生にヒドイことはしないんじゃなかったのか?」

「…ヒドイことではないヨ、せつなサン。これは両者合意の上での試合ネ」

「ふざけるなっ!」

…いや、事実だと思うぞ?おそらく超がなし崩し的にそう持ち込んだんだろうけれど…と、私は少し離れた場所に待機しつつ内心思った。

「だからこうなるっつったろ兄貴」

「か、カモ君が二人を…?ダ、ダメだよ一対一の話し合いだったのに…」

「バカッお人好しにもほどがあるぜ」

まあ、護衛くらい伏せておいて欲しくはあるだろうな、カモの立場としては。

「怪しげな計画を進めて、何を企むかは知らぬが、ネギ先生の友人として、貴様のクラスメイトとして、阻止させてもらうぞ!」

「刹那、あの自信、何かあるでござるよ」

楓が刹那に警告する。

「ああ」

「刹那さん、あのっ…」

「わかっています、先生。ケガなどはさせません」

「いえっその…」

この期に及んでネギは一対一といった条件を自分達から破る事を気にしているように見える。

「気にするでないヨ、ネギ坊主…さて、どうするかナ、せつなサン?」

との超の言葉に刹那は素晴らしい入りの瞬動で超の腕をキメて制圧して見せた。

「生半な腕では我等から逃れる事、叶わぬぞ。つまらぬ企みはあきらめるがいい、超鈴音」

「さすが、せつなサンネ。この時代の使い手は最新式の軍用強化服を生身で軽く凌駕する」

「何?」

「いやーホントに驚き…ネ」

と、超が掻き消えて刹那の背後に出現し、電撃を纏った一撃を刹那にお見舞いした…やっぱり実用化していたか、タイムマシンの戦闘への応用。

その後も超を捕らえ、楓も参戦しての同時攻撃まで仕掛けたが、超は同様の跳躍で逃れて見せた…と言うか、タイムマシンを持っているネギの前でそんなもん何度も見せてんじゃねぇよ、超…ネギの持っているタイムマシンも反応しているだろうに…と言う思考がやっぱり、ネギを勝たせるルートと言うのも超の計画には織り込み済みか…?という疑念へとつながり、私の中で膨れ上がってくる。

「フフフ…遊びはそろそろ終わりネ。ちょうどいい、懸念材料だた君達二人にもしばらく眠ていてもらおうカ」

と、超が宣言する。

「うむ!これは敵わぬでござるな!退くでござるよ」

「ネギ先生!」

「え、あっ」

と、ネギを含めた3人と一匹は撤退戦に入った。

「すまん、ネギ先生の方を優先し過ぎた…出番だ、千雨」

「いや?大丈夫だろ?それに、せっかくのサプライズパーティーだしな」

楓が先導する大体の逃走方向から楓の意図を察して私は通信符に答える。

「なにっ」

「その通りでござる、第三廃校舎に向かうでござるよ」

「何!?いいのか、超を捕らえてからでは…」

「捕らえられぬ故、致し方なし。大丈夫でござるよ」

 

「か…楓さん!こんなところに逃げてどうするんです!?あの超さんには僕らじゃ…」

「まあまあネギ坊主」

と、慌てるネギを楓がなだめる。

「ここが決戦の場ということでヨロシイカ?多勢に無勢では私も大変ネ、こちらも応援を呼ばせてもらおう」

…と、会談の場に伏せていた護衛…茶々丸と真名が出現する…ちなみに追跡劇の途中で互いの存在は認知している…と言うか二人にはサプライズパーティーのメール、行っている筈なので、もはや壮大な茶番と化している。少なくとも私の眼には。

「やあ、ネギ先生」

「龍宮隊長!?茶々丸さん!?な、なんで!?」

「楓、刹那…お前たちとは一度戦ッてみたかったよ」

ネギの言葉に茶々丸は沈黙を返し、真名はある種の黙殺を返した。

「ま…待ってください、ダメですッ変ですよ。クラスメイト同士で戦うなんていけませんっダメですよ!」

と、ネギが寝ぼけた事を言い始める。

「さっきの勝負は僕の負けでいいです!ぼ…僕、超さんの仲間になりますからっ…だから…だからもうこんな事はやめてください!」

「フフ…人がいいね、ネギ坊主。だが…やめることはできない」

と、超は返す。おや、受け入れて刹那と楓が受け入れるなら、くらいは言うかと思ったが、そう返すか。

「ちゃ…超さんっ」

「ネギ坊主、案ずるでない。まだこちらには奥の手があるでござる」

と、楓が紐を引き…超とのお別れパーティーの用意を隠していた衝立を倒した。

 

「「「「「ようこそ、超りんお別れ会へ!」」」」」

 

と、クラッカーが鳴らされ、超もあっという間にクラスメイト達に囲まれていく…そして私も、シレっと会場に紛れ込むのであった。

 

「ふふー超さんのお迎えお疲れ様でしたー」

と、しれっと紛れ込んでいる…いや別段おかしくはないのだが…聡美が私に声をかけてくる。

「…いいのかよ、こんな所に出てきても」

「大丈夫ですよー?私はまだ超さんの協力者と目されているだけですし―」

「…ア?」

「アレー気付いてなかったんですかー?今の所、対魔法先生達の矢面には超さんが立ってくれているのでー、私はまだ重要参考人程度の扱いですよ?」

「…あっ…そういやさっきの尋問でも聡美の事はロボ関係以外では聞かれなかったな…」

「尋問ですかー?」

少し心配そうな声色で聡美が言った。

「ああ、さっきちょっと武道大会の件で色々と…まあ学園側の連中が無茶苦茶目立つ真似してくれたおかげで私はその件は無罪放免だけどな」

「それはよかったですー」

「…で…ちょっと聞きたい事がある」

「なんですかー?」

と、聡美を連れて二人、会場から少し離れた。

 

 

 



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49 麻帆良祭編 第9話 作戦会議と甘い毒…そして

お別れ会の終盤、皆が寝落ちし始めそうだと布団が用意され始めた頃合いで、私達は中座しマスターの別荘に来ていた…私もさすがに眠い。

「…千雨さんおやすみなさい」

「ああ、お休み」

と、せっかくなので少し狭いが私の部屋でまた添い寝をする事となった。

 

 

 

「あれー千雨ちゃん、ハカセちゃんも来てたん?」

「はいー少し外ではしゃぎすぎちゃいまして休憩にー」

「…ところで、アスナはどうしたんだ?コレ」

と、鬱状態でうだっているように見えるアスナを指さす。そして聞いた事情によれば、学祭二日目に高畑先生と学祭デートをしたは良いが、最後に告白をして振られてしまい、ここに逃げ込み、多少落ち付いてこの状態だという…で、別荘内生活2日目らしい。

「まー大変だったな…エヴァが許す限りのんびりしてるといいさ」

「うん…そうする…はぁ…」

「じゃあ、アスナ、ウチらは遊んでいるからよかったらおいでな?」

とこのかを交えて3人で少し水遊びをしたが、結局アスナは精神的に参っているのか、参加する事はなかった。

 

昼食後、外に出ればまだ日の出前という事で、昼寝をする事にした私達は再び私の部屋にいた。

「では…おやすみなさい、千雨さん」

「ああ、お休み、聡美」

と、聡美に腕枕をするように抱き寄せて私達は眠りに落ちた…。

 

 

 

「送っていただき、ありがとうございましたー」

「いや、私から誘ったんだしな、これ位は大丈夫」

と、私は一度別荘の外に出て、聡美を指定された場所まで運んだ。

「おや、千雨サン…中座して何処に言っていたのかと思えば二人で抜け出していたのか…」

と、超がやってきた。

「ん、お前がここにいるって事はパーティーは終わりか?」

「ああ、少し前に皆寝落ちして自然とお開きネ…ネギ坊主とせつなサン、かえでサンが皆を室内に移している頃だと思うヨ」

「なるほど…じゃあ私も手伝いに行ってくる…じゃあな、場所がバレた頃合いにでも見届けにはいくよ」

「ウム…と言うか、もしかして最終詠唱地点、伝えたのか?ハカセ」

「いいえ?さすがにそれは秘密にしていますよ?」

「資金の流れを追えば見当はつくさ…な?」

私はそう言って、空を見上げた。

 

 

 

「おう、やっているな」

パーティー会場跡地にやってきた私は、大まかな片付けと3-Aの室内への移送をしているネギ達に出会った。

「あ、千雨さん…おかえりなさい?」

「ああ、ただいま…もう、八割方終わっているようだな?」

「ええ、何とか…夕映さん達は片付けが終わったら起こしてマスターの別荘に行こうかと」

「ん、わかった…じゃあ…ってハルナ、起きてるじゃねぇか…どうする?」

暗に魔法で眠らせろとネギにそう聞く。

「あ…その…ハルナさんにもバレちゃいまして…魔法…すいません」

「オイオイ…まあ、魔法の秘匿自体には同意したんだな?ハルナも」

「あ、はい…それは大丈夫です…仮契約もしちゃいましたけど…夕映さんとも」

「うわぁ…」

私は思わず、そんな声を上げるのだった。

 

 

 

片付けを終えた私達は、マスターの家にやってきた。マスターも別荘に潜っているらしく、その姿はなかった。しかし。私は勝手知ったるわが師の家…と皆を先導して別荘の部屋までやってきた。

「ってか、千雨ちゃん、隠れオタクの科学者キャラでしょ、魔法使いってどういう事よ!?」

「まあ、そういう事としか言いようがないなぁ…魔法学者でもあるがね…さあ、行くぞ」

そして、転移を起動させ、別荘に潜るとフリーズしている初めての面子…楓とハルナに向かってこう述べた。

「ようこそ、わが師の別荘へ」

「ななななな…なんじゃこりゃああ〜〜〜!?スゴイッ広いッこれどこの魔空空間よ!?不思議時空!?」

「スゴイでござるなー」

「暑いッ、夏じゃんか、ここ」

まあ、主に驚いているのはハルナであるが。

「下は海ですし、屋上にはプール、塔内にはスパもあるですよ」

「ええーっ!?プールにスパもあんのっ!?いたれり尽くせりじゃんっ、そりゃもー泳ぐしかっ」

と、夕映から設備を聞いてさらにハルナはテンションを上げていた。

 

「そういえばアスナさんも別荘に来ているんでしたっけ…大丈夫かな」

「んーさっき…こっちで1日前位に出た時はまだ沈んでいたけれど…大分元気にはなっているんじゃないかな?」

「あれ、千雨さん、ハカセさんと中座して別荘に来ていたんですか?」

「ああ、聡美、ああ見て徹夜とか苦手だからな…少し休ませに連れてきた」

「へぇ…意外です…」

まあ、テンションがおかしくなり、理知的ではあるが理性的ではなくなるという方向での苦手なので、実は意外ではなかったりするが…黙っておこう。

「何やってんの、千雨ちゃん、千雨ちゃんも水着に着替えて着替えてーッ」

と、強引に誘いに来たハルナに乗せられた事でもあるし。

 

「「いぇーいッ」アル」

と、ハルナは私と夕映を、クーはのどかを無理やりプールに飛び込ませやがった。いや、抵抗はしてないけどさ。

「離せ、腐れ女子が、溺れるわッ」

「いやーアハハ、学園祭中にこんなリゾート気分が味わえるなんて思わなかったねー」

「元気ですね、ハルナ。ほとんど寝ていないですのに」

「…半分は寝ていないからこその暴走だろ、コレ」

「ナハハハ」

 

と、騒いでいるとアスナが駆け寄ってくる

「ちょっと、ちょっとー」

「アスナさん!」

「なんでパルまでここに来てんのよ!?」

「じ、実は魔法の件、バレちゃいまして…」

と、ネギが申し訳なさそうにいう。

「なっ…ヤバいじゃんかッ!あんた、オコジョの話はどーなったのよッ!?もうオコジョよ、あんた!もうほとんど70%位オコジョよー!」

「ひいいースイマセンーッ」

「スイマセンじゃなくて、あんたの問題でしょーッ」

まあ、私の問題でもあったのだが、ここまで来たら開き直りが肝心である…と言うかもう知らん。

「ま、まあパルはいつかバレるとは思っていたけれど…ちゃんと口止めはできているんでしょうね!?」

「ハ、ハイ、それはもちろん…」

と、言う話をしている所にハルナが茶々を入れる。

「やほーアスナ、フラれたんだってー?」

「放っといて、パルッ」

「あ…アスナさんの方は…その、大丈夫ですか?」

「アスナさん…」

と、ネギも刹那も心配そうに聞く…まあ大丈夫ではなかったようであるが、さっきは。

「え、いやーうん…まあね」

「ハ、この女、ヒトの別荘でリゾートを堪能しつつ四日間も食っちゃ寝、惰眠を貪っていたんだぞ?これでも足りんと言うなら私が永遠の眠りにつかせてやろう」

と、エヴァとこのかが登場する。

「悪かったわよ!もう立ち直りましたー」

「あ、マスター、このかさん」

「それで、あんた達は何しにここに来たのよ?寝に来たの?」

「え…ハ、ハイ。それは、あの…超さんのことで一度作戦会議をと思って…」

ん?それだと、私居ちゃまずくないか?とは思ったが、別荘の談話コーナーの一つに移動して私も話を聞く事となった。

 

「ええッ!?し…子孫!?かか、火星人!?え~と?この子は?からかってるのかしら~?」

と、アスナがネギのほっぺをムニムニする。ネギの子孫と言うのは初めて聞いたな…ソレ。

というか、盛大にネタバレしてる様だが突拍子もなさ過ぎて信じられていないようだ。

「からはってまふぇんゆ~(からかってませんよ~)」

「馬鹿げて聞こえますが、全て先程、本人が言った事です」

と、ネギが反論し、刹那がフォローする。

「ちょ、ちょっと待つヨ。お話多くてわからなくなったネ、整理してもらえるアルカ?」

「んーそうねよくわかんないわね」

と、いったん整理に入る。

「えと…超さんは百年以上先の未来から来た火星人で…」

「しかも何とネギ君の子孫!?」

「目的はタイムマシンによる歴史の改変。そのために魔法をバラそうとしてて」

「学園祭3日目にそれを行動に移す…でござるか」

「え~と?この子は?からかってるのかしら~?」

「からはってまふぇんてぶぁ~(からかってませんてば~)」

と、アスナがネギのほっぺをムニムニする…そのやり取り、さっきもやったな。

「ま、普通は信じがたい世迷い事に聞こえるわな、事実か否かにかかわらず」

と、私も一般論を述べておく、私は事実として既に受け入れてはいるが。

「確かに酔っ払いの戯言以下という感じですが…」

「やはり、全て嘘と考えた方が良いでしょうか」

「そーねーパルのいつもの謎の怪情報とどっこいどっこいよね」

「何々ー!?私のこと呼んだかな!?」

と、ハルナが登場する。

「聞いたよ聞いたよネギ君!いいねー火星人!未来人に歴史改変!リアルにこんなトンデモ話が聞けるとは!お姉さん創作意欲湧いちゃうなー」

と、ハイテンションで語った後、ハルナはさらに続けた。

「麻帆良の最強頭脳、学園No.1の超天才…しかしてその正体は!我々の歴史を改竄せんとする未来からの謎の侵略者! つまり、時間犯罪者、タイムパトロールはどこ!?ああっ、私達のクラスメイトがそんな悪の黒幕だったなんてなんとゆー悲劇…こりゃもー倒すしかないね!」

「倒すアルカ!?」

「クラスメートやのに!?」

「そこが燃えるじゃん!」

「まー燃えるかはともかく、魔法バレを阻止したければ倒すっきゃねーわな…ふぁぁ」

と、私は欠伸をする。

「そう!超りんの野望を止められるのはもう私達しか…もがっ」

と、ついに語り続けるハルナの口はアスナに塞がれてしまった。

「はいはい、あんたが喋るとややこしくなるからストップ」

「…でも、さっきの超さんはまるっきりの嘘を言っている様には…僕には見えなかったんです。それに全部嘘だったとしても…この…超さんからお借りしたタイムマシンは本物です」

「そうだな…と言うかさ、そこ、たいして重要じゃねーだろ」

「へ?どういう事、千雨ちゃん」

「いや、超が何者であれ、大事なのはあいつが魔法バレを目的として何かやらかすつもりと自供していて、実際にそう行動しているように見えるって点で、未来人だろうが火星人だろうが、ネギの子孫だろーが、取るべき行動になんか関係あるのか?」

「うっわー千雨ちゃんドライやなぁ…」

と、このかに突っ込みを貰う。

「とにかくー慎重に考えた方がよさそうですね…ネギ先生のおっしゃる通りタイムマシンは本物で…超さんは魔法バレに向けて着々と行動をとっています」

「あ…じゃー私、飲み物用意してきます」

「あ、うちも手伝うえ、のどか」

「このか、私にはワインを頼む」

「エヴァちゃん、昼からお酒アカーン」

と、少し飲み物を飲みながらあ~でもないこ~でもないとネギ達が話し合うのを私は眺めていた。

 

そして、話が一巡りした頃、夕映とハルナのアーティファクト披露という事になった。

「じゃあいくよ、ゆえ!」

「ハ、ハイ」

「「アデアット」」

「おおっスゴイ、カワイイじゃん」

「おほほ、いーね、いーねー」

と、カモはエロ親父の様にいう…まあ水着に衣装であるからなぁ…。

「ってあんた達、いつ仮契約したのよーっ!?」

「さっきおいしく頂いちゃいました」

と、サムズアップを決めるハルナ。

「スイマセン、スイマセンッ」

そしてペコペコと謝る夕映…別に浮気がバレたとかの類いじゃねーんだから謝る必要はないと思うんだが。

「ま、二人のアーティファクトの能力については後で確認するとして、戦力が増えるのはありがてぇぜ」

「もーバッチシ任しといて」

「し、しかし…先ほどの話が全て本当だとして、それでも疑問点が2つあります。一つは、魔法をバラす事がなぜ歴史の改変という話につながるのか…もう一つは、そもそも、なぜ超さんはわざわざ百年も先の未来から来てまでそんな事をしようとしているのか」

いや…後者はともかく、前者はそんだけデカイ爆弾ぶち込んで歴史が壊れないわけねぇだろう、としか言いようがないんだが…どう改変されるかは別にして。

「え、ええそうです…それに…僕…超さんがやろうとしている事が本当に悪い事なのかどうか…」

ほう…?思ったよりも揺れているかな?これは。…となると後で毒でも流し込むか…?

「何言ってんのよ、超さんは高畑先生を拉致監禁してたのよ?悪い事してるって言うのはもう確定済みでしょ!」

「そ、それはそうなんですが」

ま、ネギが言いたいのは方法論じゃなくて目的論の話だろうな…ふむ…ならば…。

「ああ、それに話が嘘だろうが本当だろうが、超の奴が3日目に何かやらかすつもりなのは間違いねぇんだぜ」

「とにかく!超さんの目的が何だろうと、これ以上高畑先生やネギに何かするんなら私がこの剣で止めてやるわ!」

と、アスナがハリセンを構える。

「へー、ネギに、ねー」

「な、何!?何かオカシイ!?」

「剣って姐さん、いつものハリセンじゃねーか…自在に出せるようになった訳じゃあ」

「あ、あれ?調子いいと出るのにな…」

「まあ、いくら考えても答えは出ねぇ。とにかく超がどう出てきても対応できるように準備をしておこうって話だろ?ありがたい事にみんなも協力してくれるっつーことだしよ」

「で、でも、やっぱりみんなを危険な目には…」

「大丈夫やて、ネギ君」

と、このかが怪我は即死でなければ自分が治すと宣言し、刹那はこのかを守ると宣言する。

さらに、カモの指摘するロボ軍団と真名という戦力に対しては、楓が助太刀を宣言し、クーも超が悪事を働いているなら友として止めると参戦を宣言した。そしてカモは前衛が厚くなった分後衛の薄さを指摘する…それに対応するために夕映とハルナにアーティファクトの仕様確認を頼んだ。

「そうだ、超はネット関係でも何かやらかしてるらしいんだよな、そっちの方は…そうだ!正面戦力が大きく削れちまうが千雨姉さん、頼めねぇか?何なら仮契約も…」

「いやしねぇし…って言うかまだ気づいてないのか?」

「ん?」

「…茶々丸が出てきた時点で気付いていると思っていたんだが…私は今回は不参加だ」

との私の言葉に場が凍る。

「ど、どういうことだい、千雨姉さん?」

とのカモの問いに説明をしてやる。

「はぁ…超が茶々丸を戦力としてあてにする為には三人、説得しなきゃなんねぇ人間がいる。…一人はエヴァ…まあ言うまでもなく主人だからな。もう一人は聡美…ハカセだな、あいつが製作者としての命令権最上位だ。…そしてその製作者命令権…超は3位なんだよ。言っている意味、分かるな?」

「ま、まさか…千雨さん…」

と、ネギが言う。

「そうさ、私だよ…私を少なくとも中立に立たせん事には茶々丸に対しての命令権を奪われる恐れがある…まあ、エヴァや聡美から命令権移譲させるって言う手もあるが…」

「エヴァンジェリンは面白がって傍観を決め込むだろうし…」

「…超りんと千雨ちゃんが敵対するなら…ハカセは千雨ちゃんにつくか…」

と、カモとハルナが言う。

「ああ、つまり、私は中立…それもさっき言ったロボ軍団の開発だとか超包子の運営だとか諸々の研究とかをそうと知って手伝う程度には好意的中立だよ…まあ超の三日目の行動にはノータッチだがな」

「ち、千雨ちゃん…どうして」

と、アスナが怒り交じりに問うてくる。

「ん?ダチに数多の【小さな悲劇】を減らしたいと協力を頼まれた…歴史を改変してでも…な。最初の理由はそれだけさ…そしてそのダチの計画から離れた理由も簡単…私は魔法を研究する為に魔法使いになりたかった…そのために魔法の秘匿を誓って…そのうえで魔法バレに直接協力する事を私の矜持が許さなかった…そんな卑怯者だよ、私はな」

私は、そう自嘲して笑みを浮かべる。

「だから私は今回、中立さ…邪魔もしねーしスパイもしねーよ…見届けにはいくつもりだがな…通報したけりゃ通報しろ、拷問にかけてでも情報を抜きたければかかって来い、逃げも隠れも抵抗もするが恨みはしねーよ」

私はそう言って背を向けてその場を離れた…一応警戒はしていたのだが、誰も私に襲い掛かって来る事はなかった。

 

 

 

流石にその後、一緒に過ごす事も憚られ部屋でのんびりと咸卦法の修練をしていると来客があった。

「…いらっしゃい、ネギ、楓、アスナ、夕映…それにカモもか」

「お話を…したいのですが」

と、ネギが言う。

「…内容次第だ…まあ近くの談話室へ移動しようか…暴れるにしても自室を壊したくねーしな」

と、私は近くの談話コーナーに移動を促し、ネギたちもそれに従ってくれた。

「で、何だ、話って言うのは」

「あなたが…千雨さんが超さんに協力する理由を聞きたくて…」

「ア?言っただろう?ダチの…超の頼みだって」

「いえ、そうではなくて…協力を続ける理由です…そんな理由で悪い事をする方ではないはずです、あなたは」

「…悪い事、とは?」

「千雨ちゃん!」

と、激昂するアスナをネギが静止し、言った。

「ちうさんが魔法バレに協力する事…その手段が強硬的な手段だと知ってなお止めない理由、です」

「んー二つか…まあ前者…魔法バレに協力する理由は簡単さね、私にとって、それは歴史改変なんかの手段ではなく、それ自体が目的だから、だな」

「!?」

ネギたち一行が目を見開く。

「聡美や超が公言しているように、私達は科学に魂を売り渡したマッドサイエンティストさね…魔法の暴露は科学の発展の為になり、この科学文明社会は大きく変わる…まさにパラダイムシフトさ…夕映は魔法バレの意味を割と軽視してたようだがな。だから科学の信奉者である私達…少なくとも私と聡美にとっては魔法バレ自体は悪でも何でもねーんだよ、大前提として。私は魔法使いでもあるし、魔法をバラさないと約束した身だから、それを破るのは矜持が許さないんで直接参加はしないってだけで…」

そして、自分達で用意した紅茶を一口すすり、続ける…毒を注ぎ込む。

「それぞれ別々に発展している学問が出会い相補的に躍進していく様、見たくないか?例えば、夕映、お前は魔法世界の哲学に触れたくないか?触れた後にその融合を夢想しないと確信できるか?ネギ、世界中の科学者達に魔法…いや魔力の存在を知らしめる事で科学と魔法、それぞれにどれだけの躍進が望めると思う?間違いなくパラダイムシフトが起きる。それでどれだけの人が救われるだろうな…そして魔法側の病、異常状態の治療技術だってあるいは…」

「千雨姉さん!」

カモがそれ以上聞かせては不味いと叫んだがもう遅い、ネギと夕映の心に種は撒かれた。

「あはは…まあ、今のは小娘の描く夢物語さね…さてもう一つ…それを強行的な手段…それこそ武力によってでも実現させたい理由…だな?」

との問いにネギがこくりと頷く。

「その理由は単純…私が救い難い悪党だからだよ、ネギ…他人に迷惑を振りまいてでもそうしたい、だからそうする…そこにそれ以上の理由はねぇよ…まあネギ、お前を踏みにじるのは少し心が痛むが…な」

「ネギに何をする気!」

と、アスナがハリセン…いや剣を私に向ける

「あーいや、直接はなんもしねぇよ…でも、ネギは麻帆良の魔法先生だろ?麻帆良で世界に向けて魔法バレなんて事をされるとネギだって責任を取らされる可能性は十二分にある…それは仮に無罪放免となったとしても、ネギのマギステル・マギになるという夢にも、親父さん探しにもマイナスになる事自体は間違いない…し、ネギは一度、超への処罰免除を嘆願している…違うか?」

「…はい、恐らくはそうなります」

ネギが神妙な顔で肯定した。

「聞きたい事はそれだけか?他にねぇなら私なんかの相手をするより超対策でも考えていろ…あいつがお別れ会前に見せたアレのネタ、ネギはわかっているんだろう?」

「…はい、本当なら千雨さんにも手伝ってもらうつもりだったんですが…」

と、ネギがしょんぼりした顔で言ったのに対して、

「まーその発想は悪くない。私もアレ系統の魔法は色々と研究しているからなー」

と、私はけらけらと笑う。

「アレ?」

剣を引いたアスナは首をかしげてそう聞いた。

「あーその辺りは後でお話します、アスナさん…夕映さんは…」

「あ、はい…二点、お聞きしたい事があるです」

私の吐いた甘い毒に侵され、それでもなお夕映は私に何か問いたい事があるらしい。

「ん?なんだ、夕映」

「まず一点目…超さんの出自が事実として、目的は地球ないし人類の滅亡を回避する為か否か、という事です」

「それは大切な問いだな、夕映…が、すまない、その詳細な答えを私は持たない。だが、おそらくは否だ…単に、アイツの生きる時代に溢れる数多の悲劇…そのきっかけとなったある歴史上の事件で発生した『小さな不幸』を打ち消したい…超はそう言っていた。よって人類滅亡って程ではないだろうさ、まあ冷戦みたいに世界は明日滅びても不思議ではない、って状態でない事は保証できんが」

まあ、夕映が欲しかった答えではないものを与えておく…まあ事実ではあるがな。

「っ…では…もう一つ…千雨さん…あなたはなぜ歴史の改変を是とするです?」

「それは、こう答えるしかねーな。なぜ否とせねばならん、だ」

「それはっ!」

「他の誰も持っていない不思議な力で自分の変えたい方に世界を変える…魔法使いたちがやっている事じゃねーか。それを、時間の逆行ではやっちゃいかんとする理由がどこにある?超のアレだって、科学と魔法の産物だ…科学技術と魔法で世界に溢れる不幸を一つでも多く潰したいと願う事と何の違いがあるんだ?と言った所で納得はしねーだろうな」

「…はい、できません、今の時間は今を生きる人々の物です」

「超だって、この時代にやってきてこの時代を生きている一人の人間だ。よその国、よその大陸、よその世界からノコノコやって行っておせっかい焼くのと何が違う」

そして、夕映が何か返す前に続けて言う。

「まー超はそーいう反発を招いて邪魔される覚悟はしているよ…そして私とお前もきっと平行線だ…お前と哲学・倫理の討論をするのも楽しそうだが…やりたいか?」

「…非常に興味深くはあり、自身の見識を深める役には立つと思うですが…今はそれをする時間が惜しいです…あなたの注いだ毒も、今の提案も…私個人のわがままを刺激はしますが…無意味です」

「ふっ…人間、そういうもんの積み重ねで歴史を作ってきたんだぜ?夕映」

「しかし、理性的、合理的に判断する事を選ばねばなりません」

「そうだな、しかしそれで目指すものを選ぶ為には感情は不可欠だろう?」

「ですが」

「ゆえっち、千雨姉さんに乗せられているぜ」

と、夕映で遊んでいるとカモに止められてしまった。

「はっ…しまったです…千雨さん、ご回答ありがとうございます」

「おう…で、楓とアスナはいいのか?」

「あー私は難しい事はわかんないし、ネギの保護者としてきただけ」

「拙者も、護衛役として同行しただけでござるからな」

「ん、そうかい…そうそう、カモは何かあるか?」

「…超の計画について…は聞けねぇだろう?」

「そうだな、それは憶測含めてノーコメントを貫くぞ、それこそ私を無力化して拷問するなり、いどのえにっきを使うなりしろ」

「なら、オレっちからはねぇ」

「ん…それじゃあ私は部屋に戻る…またなんかあれば訪ねてくるといい」

そう言って、私は席を立った。

 

 

 

結局、その夜も翌日も、ネギたちは私を訪ねてくることはなく、一日分の利用でネギたちは別荘を出て行った。

「フフ…よかったのか?共に行かなくても」

奉仕人形にネギたちが出立したら教えてくれと頼んであったのであるが、その人形と共にマスターが来た。

「行けるわけないでしょう?あんな啖呵切っておいて」

「そこさ…獅子身中の虫をやる事だってできただろうに、このお人よしめが」

マスターがクツクツと笑う。

「…それができるなら、私は今、聡美と超と共にいますよ、マスター」

「そうだな、難儀な物だ…平気でああいう真似はできる癖に裏切りだけはしたくないというワガママ娘め…まあそう言った所も嫌いではないがな…悪にも悪の矜持というモノがあるべきさ」

「はい、マスター」

「まあ、ぼーやも貴様も今宵が運命の日…だな?」

「ええ、まあ…ネギの奴は超の罠にかかって酷い目にあっているか、不戦敗が確定した頃だと思いますが」

「ハッハッハ…まあそう言うのも戦いの一部さ…それを乗り切ってこそだよ…貴様は超にオールインしたんだったな」

「…まあ、そのつもりです。直接動くつもりは今のところはありませんよ」

「それはそれ…後悔はせんようにな」

マスターはそう言って去って行った…。

 

 

そして、私は一日を別荘で過ごし、外へと出た…運命の日を迎える為に。

 

別荘から出た私がまずした事は、ネギの携帯に電話をする事だった…そして結果は電源が入っていないか、電波の届かない場所にいる…確定ではないが、ネギが超の罠にかけられた可能性が高いとみなしてよいだろう。

「さて…とりあえずはクラスの当番に行くか」

今日は、朝から昼までクラスの当番で、その後はパトロールの予定なのである。

 

 

 

 



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第一計画編
50 第1計画編 第1話 運命の夜


ネギ達を見かけない、ネギについて行った面子が当番やパトロールに来ない、という話に心当たりを聞かれる度に知らないと誤魔化しつつ、時刻は夕刻となり、私は寮の部屋に戻ってきていた。部屋を見回すと当座の生活に必要な荷物を纏めてあったスーツケースがなくなっている。

「さて…聡美はもう発ったか…」

と、私も魔法を駆使して荷造りの仕上げ…主にPC周りの梱包…を済ませ、食卓でサブのノートPCを開いて物思いにふける…ネギ達はいつ頃に飛ばされたのか、超の計画は問題なく進行しているだろうか、マスターも中立とは言っていたがどのように過ごす気だろうか、いくつか考えている咸卦の呪法の発展方向をどれに主軸を置いて研究すべきか、どういった隠れ家だろうか…等々と。

 

日も沈みはじめた頃、私の様な外様扱いを含めた魔法関係者に一斉送信されるメーリスで麻帆良湖湖岸からロボ軍団が出現したというメールが入る…始まったか。私も荷物を持つと窓から外に飛び出し、寮の屋上から戦況を観察し始めた。

 

暫くすると、私の携帯に明石教授からの電話がかかった…状況からしてこの状況を解決する為の召喚だろうと無視をして寮の屋上を離れ、混迷極まるエリアへと突入した。

 

 

 

映画の撮影か何かだと認識しているらしい群集に紛れて私はロボたちにある程度近づき、その上空を舞う一機に糸術で接触し…電子精霊を流し込んでジャックし、その個体を物陰に降ろした。

「手はず通りに」

「はい、ちう様」

その個体…をジャックした電子精霊にそう命じると、指揮系統を遡って移動用に飛行型を数機借りる旨を超たちというか恐らくは茶々丸に一方的に通告させて、他にも数機をジャックさせて私のもとに降ろした。私は飛行用の箒を一応取り出して抱きかかえると茶々丸型の空戦機体に抱えられ、また田中飛行型の一機に生活用品を詰めたトランクを持たせて空に舞った。

 

 

 

「やあ、エヴァ」

空中からチャチャゼロと地上を眺め、一人酒に興じていたエヴァを見つけて声をかけた。

「千雨か、どうしたそんな恰好で」

と、茶々丸型に抱っこされた状態を指して言われた。

「この状況なら、途中まではこっちの方が目立たないかなと思ってね…よっ」

と、箒での飛行に切り替えてふわりとエヴァの隣に浮く。

「ん、お前ら、茶々丸型と荷物持ちを残して解放していいぞ」

と、電子精霊たちに護衛を兼ねて随伴させていた田中飛行型の解放を命じた。

すると、田中飛行型は元々いた魔力溜まりに戻って行った。

「お前も文字通り高みの見物か」

「ああ、地上にいると学園側に見つかってメンドクサイ事になりそうだし…ここまで上がっておけば起きるかもしれないクライマックスを見届けるのも楽だしな」

と、肩掛けカバンからペットボトルを取り出して一口飲む。

「なるほど…奴らは上か」

そう言ってエヴァは上空の飛行船をちらりと見る。

「ああ、さすがに途中でばれるだろうし…高畑先生と学園長が上がればロボ軍団で構成できる程度の迎撃網は突破されるだろうからな」

「ふむ…まあジジイは上がってこんだろう、来るとすればタカミチさ」

「高畑先生なぁ…タイムマシンのほかにもう一枚切り札がいるが…超はどうするかね」

「おや、アレの事は聞いていなかったのか」

と、エヴァは地上を指さす。望遠の術式を用いてその先を見ると弾丸を断ち切って、それに込められていた強制転移魔法らしきものに飲み込まれる葛葉先生の姿があった。

「アレは…強制転移魔法…?でもあんなもので…あ…時間跳躍か…あいつ、死傷者ゼロで作戦完遂させる気か」

と、超のした事に思い至る。確かに、儀式完了まで無力化すればよいのであれば、全てが終わった後まで時間跳躍させればいいのである。

「おそらくは、な」

と、エヴァはちびりと酒を飲んだ。

 

「ん…高畑先生、上がってきたな」

エヴァと思い出話をしながら戦況…とはいっても、あとから現れた機械で制御された鬼神らしき大型個体がロボ達の露払いした魔力溜まりを占拠しただけだが…を見守っていると、地上から高速で飛び上がってきた人影が聡美たちが乗っているであろう上空の飛行船に向かっていく。

「行くのだな」

「ああ…世話になった…いつ戻れるか…そもそも戻れるかもわからんけど…今までありがとう、マスター」

「ふん…どーせすぐに戻ってこられるとは思うが…一応言っておこう…達者でな、わが弟子よ」

「ケケ…カエッテコイヨ、オマエトボウズガソロッテイナクナルト御主人ガヒマニナルカラナ」

「はい…行ってきます」

と、私は箒をしまい、自身の浮遊術と虚空瞬動で空に舞い、高畑先生を追った。

 

 

 

「長谷川君…君もかい?」

と、一通り超と口上の述べ合いを終えたらしい高畑先生が、飛行船上、超と聡美の間、高畑先生に相対する様に着地した私に問うた。

「…ある意味はい、ある意味いいえです、高畑先生。私は見届け…と流れ弾が聡美に行かないように来ました。そういう意味ではお邪魔はしますが…聡美に手荒な真似をしなければ手出しはしません」

「あはは…できれば生徒にそんな事をしたくないけれど…超君と戦いながら隙を見て、という事をしようとすると邪魔はされるんだね」

「はい、そう言った状況で可能な手荒な手段で止めるとおっしゃるならば」

「そうか…ならばまずは君だね、超君…その後に、できるだけ紳士的に葉加瀬君を止めろ、と」

「そうなるネ、高畑先生…まあ私が負けて、その後にハカセの下にたどり着ければ降伏する手筈になっているから頑張って欲しいネ」

と、私の前に立つ超は、恐らくにやりと笑った。

 

 

 

「やっぱすげーな…高畑先生」

背中で聡美の詠唱を聞きながら超と高畑先生から聡美への射線を遮るように、燃費のいい障壁を展開しつつ小刻みに移動を続けながら私はそう呟いた。

超の切り札…時間跳躍弾とタイムマシン…カシオペアの戦闘への応用をもってしても、超は若干劣勢気味の拮抗状態を維持するので精一杯の様子である…これが圧倒的戦闘経験という奴だろう。

 

そしてその拮抗の終幕は突然だった。高畑先生の一撃が超の戦闘服の背中に取り付けられたカシオペアを破壊…切り札を破壊された超は拮抗状態を維持できなくなり、あっという間に追い詰められてしまった。

「さすが高畑先生ネ…これが戦闘経験の違い…いや踏んできた場数の違いカ」

「ああ…そうだね、超君…残念だがここまでだ」

「そのようネ…だが最後に聞いておこう…この世界の不正と歪みと不均衡を正すには私のようなやり方しかなく…コレが一番マシな方法だと貴方のような仕事をしている人間にはわかるハズネ…それでも…私を止めるカ?私の手を取る気は…一欠片も無いカ?高畑先生」

「っ!!」

超の言葉によって生じた高畑先生のほんの一瞬の、並の方法では突く事はかなわぬ隙…それを縫うように飛来した弾丸が高畑先生を捕らえ、黒球が先生を飲み込んだ…真名か。

「…真名がやってくれたカ…負けたかと思ったヨ」

「おめでとう…と言うには少し早いかね、超」

「うむ…だが…まもなくヨ…千雨サン」

 

そして数分後、強制認識魔法は発動し、上空へと打ち上げられた…

 

「これで…第一計画の山場は完了ですねー」

詠唱を終えた聡美がその場に座り込んでいった。

「お疲れさま、聡美…頑張ったな」

と、私は聡美の後ろに座り、包み込むように抱きしめる。

「はい…高畑先生にカシオペアを破壊された時はもう駄目かと思いましたけど…千雨さんがいてくれて…最後まで諦めずに頑張れました」

「高畑先生相手にあれだけ持たせられたのも千雨さんがハカセを護ってくれていたからネ…あと少し、高畑先生の精神を削れていなければ…結果は違っていたかもしれないネ…さあ、時間ヨ…我が悲願が遂に叶うネ」

 

と、超が世界樹の魔力を吸い上げて同期していた世界12か所の聖地と共鳴を始めるのを見て言った。

 

「はい…でも、本番はここからですよー」

「フフ…そうネ…この計画を始めた責任はとらねばならんネ…二人とも、これからもよろしく頼むヨ」

「ああ…私でよければ存分に使ってくれ」

そう言って、私は聡美の肩越しに超に微笑んだ。

 



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51 第1計画編 第2話 遅れて来た英雄の卵

「ん…千雨さん…」

麻帆良祭最終日から早一週間…隠れ家のベッドで私の名を呼び微睡む、最早添い寝が日常と化した聡美の頭を撫でながら、私はここ一週間の事を思い出していた。

 あの運命の夜、魔法先生たちの主力が帰還して私達の追跡を始める前に麻帆良内の隠れ家に潜伏し、そこで計画の全容を聞いた。曰く、あの大魔法は世界規模の強制認識魔法で、魔法をはじめとした超常に対する受容性を高める効果があり…ネットにばらまいてある魔法に関する知識に触れた際にそれを信じやすくする効果がある。これらの組み合わせによって、情報を拡散していき…そう言った情報を信じた人からの二次的な拡散によって次第にネットを使わない層へも魔法の拡散を行う…と言う計画らしい。それにより、やっと憶測が正解としてつながった。

翌23日の夕方には速報性重視のブログにおいて魔法が取り上げ始められ、24日には主要なブログサイトで魔法やまほら武道大会での動画が取り上げられ始めた。そして…25日朝、朝倉が23日から麻帆良武道大会、学祭最終日と連載していた記事で情報暴露を始め、さらに魔法・情報の震源地である麻帆良においては一般マスコミが魔法に飛びつくレベルに到達した。この段階に達すると超と私達を追っていた魔法先生達もそれ所ではなくなり、追跡の手も大幅に緩み始め、私達もシレっと高畑先生と明石教授宛に混乱を助長しないために暫く身を隠します宣言のメールをしておいた。そこからは楽なもので、各国への情報浸透を確認しつつ、体が鈍らない様にだけ気を付けてのんびりと過ごす日々だった…呪血紋等に関する聡美からの詰問とか色々とあるにはあったが。そして、6月30日…今日は超から教えられているネギの帰還日予定日である。

 

ピピピピッピピピピッ

 

「んーもう時間ですかぁ…」

目覚まし時計の電子音が鳴り、聡美が起きたのを確認して目覚まし時計を止める。

「おはよう」

「おはようございますー」

と、あいさつを交わし、強く抱き合った後にシャワーを浴びて、朝食となった。

「それでー千雨さんは結局、ネギ先生たちに会いに行くんですかー?」

聡美がトーストを齧りながら私に問う。

「ああ…それ位は…な」

「わかりましたーとても危険ではありますが…お気をつけて…ちゃんと帰って来てくださいね?」

「ああ、大丈夫…なんとしても帰って来るよ…どんな無茶…いや、無理をしてでも、な」

「…そーいった状況に陥る前に撤退して頂けると私としては安心なんですがー」

「善処はする、気づいたらそういう事になっていたら…うん、ごめん」

「もぉ…最悪、外のセーフハウスにでも逃げて下さいね?そこから召喚して頂ければ」

「…イヤ、外のセーフハウスに二人とも行かれるとネット上で不測の事態が発生した時の対応に手が足らんからハカセを召喚せずにホトボリ冷まして帰って来て欲しいネ?というか、あの夜の翌日、実は仮契約していたとか聞いて私、卒倒しそうだったからネ?」

と、超が口を挟んでくる。

「えーダメですかぁー?」

「この一週間、散々イチャコラしていたんだから、万一の時は秘匿通信で数日位は我慢するネ、ハカセ、千雨サン…というか、そもそも無茶するでないネ」

「あ…ハイ」

と、私は二重の意味で答えたのだった。

 

「じゃあ、行ってきます」

「ああ、気を付けてナ…頼んだヨ」

「行ってらっしゃい、千雨さん」

と、私は聡美と抱擁を交わし、隠れ家を出た。

 

 

 

ネギに渡されたタイムマシン…カシオペア一号機から発せられる信号を頼りにネギを探していると、カシオペアを引き摺るカモがいた。

「…何やってんだ、カモ…ネギは?」

ひょいっとカシオペアごとカモを確保する。

「げ、千雨姉さん…なにしに来やがった!」

「いや…超の罠に嵌って今日帰ってくるはずのネギを探しに出ていたんだが…もしかして、もう学園側に確保されたのか?ネギの奴」

「うっ…その通りだぜ畜生め…なんとかみんなと合流しようとしたがこんな所で千雨姉さんに捕まるとは…」

カモが悔しそうに言う。

「んーエヴァの家で良いのか?合流場所。連れて行ってやるよ」

「へっ?」

と、カモをカシオペアごとポケットに捩じ込み、私はエヴァの家へと向かった。

 

 

 

「よぉ…そのメッセージ、見たようだな」

と、エヴァの家の地下、別荘の安置室に着くと、ダイオラマ球にエヴァの許可を取って貼ったメッセージ…エヴァにもう帰って来たのかと大笑いされて無茶苦茶恥ずかしかった…の再生を終えたらしい一向がいた。

「ち、千雨ちゃん!?こ、これってどういう事!?なんか難しい単語ばっかでよくわかんなかったわよ!?」

とのアスナの言葉に私は状況にもかかわらずズッコケた。

「ええいっ、要するにお前らは超の計略に嵌って決戦の日を迎えられず、超の作戦は大成功したんだよ!半年もすれば、地球上の全ての人間が魔法の存在を自明…当然の事として受け入れている事だろうよ!」

「何それ!無茶苦茶ヤバいじゃん!?」

と、アスナとバカみたいないやり取りをしているとカモが目を覚ました。

「うーん…あっ、姐さん!大変だ、兄貴が!」

と、カモはアスナを見て叫んだ。

 

「ネ…ネギがオコジョにされる…!?」

時間が惜しいからと私も含めて行われた事情説明を要約するとそういう事らしい。

「ああ、今回の責任を取ってな、今は地下に閉じ込められている」

「な、なんでよ!?今回の事、ネギが悪いわけじゃないでしょ!?」

「いや、先週…お前らにとっては昨日…説明しただろ、魔法先生として、一度は超を庇った身として、超の計画が成功するとネギは責任とらされるって」

「あ…」

「まあ、そういうこった…これだけの事件だしな。兄貴はまだ10歳だしな…オコジョの刑は数カ月で済むかもしれねぇが…本国に強制送還されるのは間違いねぇだろう…下手するともう…二度と会えねぇかも」

と、カモがみんなを脅す。

「に、二度と…そんな…ネギ先生」

「助けに行くアルヨ、わが弟子ヨ!」

「ま、まってくださいクーさん。魔法先生と対立する気ですか!?」

「は、話し合いはできないのですか?」

「どうかな…頭の硬い連中だしな。それに、あいつらはあいつらで責任を負う事になる筈なんだ…追い詰められてるんだよ…」

「そんなの知らないわよ!うだうだゆーなら私がブッ飛ばしてやるわ」

うむ、危惧していた私らをとっ捕まえて減刑嘆願という方向にはいかなそうであるが…学園側と衝突されて時間を浪費されても困るのである。

「お前、それはさすがに無理ゲーだぞ…オイ、カモ、お前が態々証拠物件持って来たって事は使うつもりなんだろ?ソレ」

と、カモの持つ物を思い出させてやる。

「…そのつもりだったんだが…使えねぇんだろ?コレ…」

「ああ、地上では、な…ホレ」

と、世界樹をこよなく愛する会のホームページのとあるページを印刷したものを取り出して見せる。

「超がお前らを今日に飛ばしたのは、それがギリギリだったからさ。跳躍先にもある程度の世界樹の魔力かそれに類するモノが必要なんだよ、それ」

と、ネタバレをしてやる。

「つまり世界樹の近く…ないし地下の根っこの辺りならまだ使えるだろうな、急げばな」

「何っ…って千雨姉さん、どうしてそれを…」

「んー?聞きたいか?聞かねぇ方が良いと思うがね…というか、夕映は気づいているだろう?」

「…はい…つまりその試みは失敗するか…あるいは…」

夕映が言い淀むのに対して、私はそれを肯定する。

「まあ、そういうこった…ま、それと私らをとっ捕まえての減刑嘆願…なんて方向に走られても困るんでな」

いや、割とマジで。すでに超の切り札は機能していないので、現在は私が最大戦力である、物量を別にすれば。

「よくわかんないけど、とにかくネギを助けに行って、世界樹の根っこにたどり着けばいいのね!?」

「…はい、それが最善の手段と考えるです…千雨さんと行動を共にしても問題はない…かと」

夕映がギリっと唇を噛み締めて言った。

「おう、千雨姉さんが協力してくれる理由がよくわかんねぇが、それなら急いで行動に移そうか」

「…少し遅かったようでござるよ…魔法先生のお出ましの様でござる」

と、楓が言った。

「な…なぜです?」

「うむ…ここはエヴァ殿の邸宅でござる。超殿の仲間と疑われたか、ネギ坊主の仲間だからか…あるいは千雨がつけられたか…」

「はは…まあ私が姿を見せて逃亡すれば追ってくる可能性は高いな、囮くらいはやってやるさ」

「…どちらにせよ、ネギ坊主を救出するならば戦いは避けられぬでござるな」

一同の間に緊張が走る

 

「神楽坂明日菜以下8名…そこにいるのはわかっています。おとなしく出てきて私達に同行してください!危害を加えるつもりも、あなた方の不利益になるような事をするつもりもありません。ただ、今回の事件の重要な参考人として事情を聞かせて欲しいだけです…5分だけ待ちます」

と、葛葉先生が口上を述べた。

「さて、楓の気配を拾えてないか何かで人数誤認してる様だが…どうするんだ?さっき言ったように囮くらいはしてやるぜ?足止めは断るが」

「…そうだな…素直に従ったとして、どれだけの間拘束されるかわかったもんじゃねぇ…千雨姉さんの持ってきた道も閉じちまうぜ…千雨姉さん、エヴァは今どこに?」

「ん?ふつーに学校だぜ?登校地獄の呪いもあるし」

「あ…それがあったな…よし…それじゃあこういう作戦で行くぜ」

と、カモが作戦…私を囮として放った後に葛葉先生ともう一人が引っ掛からない様ならば刹那と楓が二人を足止め、刹那の人型とハルナの簡易ゴーレムをここに置いて他の面子は逃走…を説明した。

「よっしゃ、任せて、カモ君!」

と、ハルナがすさまじい勢いで簡易ゴーレムを作成し始めた…。

 

「じゃあ、私がまず正面玄関から小川方向に逃走、すぐに刹那と楓が顔を出す…で良いな?」

「ああ、頼んだ、千雨姉さん」

「了解…まあ、合流できそうならばまた顔出すさ…それじゃあ、達者でな」

と、カモやアスナ達に一応、別れを告げる。

「では…行くでござるよ、刹那、千雨」

と、楓と刹那と共に、一階に降り、私は手筈通りに正面玄関から飛び出した。

 

「長谷川千雨!?」

葛葉先生が私を見て叫んだ。

「ええ、その通りです、葛葉先生、それでは失礼」

と、手はず通りの方向に跳躍する。

「あ、待ちなさい!」

「葛葉、今は捨て置け!」

と、葛葉先生のペアの魔法先生が葛葉先生を止めたのが聞こえたが、構わず瞬動を重ねて使用し、その場を離れた。

 

 

 

 

その後、欺瞞を含めて逃走を続けた後に地下に潜った私は、遺跡側から魔法使いたちの施設地下へ侵入していた。

「さて…そろそろいい頃合いだな」

私はカシオペアからの信号が強くなっているのを確認し、そう呟いて、中から扉を叩く音が聞こえ続ける収容室の扉を少し開き、地下遺跡への出口でネギを待つ。

 

「よお、ネギ」

「ち、千雨さん!」

「積もる話をしている暇はねぇ…用件だけ言うぞ。もし、私を信じるのであれば、これを【向こうの私】に渡せ、そうすればお前の力になってくれる…筈だ」

と、私は簡単に暗号化された手紙の入った封筒をネギに渡す。

「これは…?」

「手紙さ、私から私に宛てた…な。ほら、お仲間たちが迎えに来ている…行け」

と、トンネルの出口を指す。

「ええ、行きましょう、千雨さんも!」

「えっ、おい、ちょっと」

と、私の手を取り駆け出すネギに引っ張られて私も共に駆けて行くはめになった。

 

 

 

感動の再会の後、カモがネギに事情を説明してなぜか私も共に世界樹深部を目指していた…こっそり追跡して見届けるはずだったんだが、どうしてこうなった。

「見てください!世界樹の根がぼんやりと!」

「おおっ」

「よし、世界樹の魔力だ!兄貴!カシオペアを!」

「うん!」

と、ネギがカシオペアを取り出し、動作を確認する。

「動いている!使えるよ!」

「よっしゃああ、これで最終日に戻れるぜ!」

「やったぁ」

「何とか大ピンチ脱出ね!」

「後はあの二人を待つだけだぜ、兄貴、刹那姉さんに連絡を!」

「うん!」

「…?カモ君、オカシイよ、時計が動いてない!」

「ち、ちょっと見て!世界樹の光が…消えてく…」

「ここの魔力も消え始めているんだ…最深部に向かえ!」

と、そんな時、デカい足音が聞こえ…西洋竜の姿が見えた。

「っ…こんな時に…私が足止めする!早く行け!」

「でも、千雨さんが戻れなく!」

「バカ野郎!向こうの私は向こうにいるんだって!とっとと行け!」

と、ネギを叱り飛ばして竜が横道にいる間に足を止めると私は竜にむかっていった。

 

とはいえ、竜を如何にかする事は条件が合えばともかく、今の条件だといろいろ厳しいのでネギ達が跳躍するまで足止めして離脱が勝利条件であろうと判定する。

「とりあえず…ノイマン・バベッジ・チューリング 来たれ虚空の雷薙ぎ払え 雷の斧」

と、まずは開幕ぷっぱ、と雷の斧を竜の顔面にかます。

「グルォ!」

流石に怒った様で、口からボフボフと煙を吐いてブレスの構えをとる。

まあ、まともに付き合う必要はないのでT字路を脇にどいてまずは直撃を避ける

「ノイマン・バベッジ・チューリング 吹け一陣の風… 風花 風塵乱舞」

と、詠唱のタイミングを揃え、タイミングを合わせて詠唱を完成させ、余波を完全に防いだ。

後ろを見るとネギ達は無事に召喚できたらしい刹那と共に出口らしい光に飛び込んでいた。

「ん、もう一撃くらいで良いか」

後ろに飛んで、T字路から距離を取る。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 影の地 統ぶる者スカサハの 我が手に授けん 三十の棘もつ愛しき槍を」

「グルァァ」

と、狙い通り竜が顔を出して吠え掛かってくる。

「雷の投擲」

で、雷の投擲を開いた口にぶちかまして私は逃げた、全力で。

 

光に飛び込むと、そこには何かの遺跡があり、中央に集められた世界樹の魔力の下、ネギ達は円陣を組んでいた。

「千雨さん!無事でしたか!」

「何発かぶちかましたがすぐに来るぞ!早く跳べ!」

と、叫んでネギと言葉を交わす。

「まだ楓さんが!」

「ぐっ…ならもう少し足止めが必要か…」

「いや!今、着いたでござる!」

と、楓がちょうど到着し、円陣に加わった。

「よし、私も離脱する、竜が追い付いてくる前に、早く!」

「…ハイ!千雨さん、またあちらで!」

と、ネギは答えた後に円陣内で少し会話を交わした後に、カシオペアを起動させた。

 

魔力が渦巻き、ネギは消えた…この世界線から。

 

「…じゃあな、ネギ…」

私はそう呟き、世界樹の魔力に触れた。

 

 

 

「…行くか」

そして、かねてからの疑問を解く事も出来た私は、その場を去り、超と聡美の待つ隠れ家へと帰還したのであった。

 



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52 第1計画編 エンディング 少女の描いた夢とその結末

「なあ、聡美…超の計画ってネギを勝たせるルートだったりはしないよな?」

それは、超のお別れ会の夜に私が聡美に問うた言葉だった。

「あーその疑念に行きついちゃいましたか…千雨さん」

と、聡美は答えた。

「そりゃあなぁ…タイムマシンをネギに渡した件と言い色々と…タイムマシンの戦闘への応用を見ると尚更な」

「ええっと、実は半分当たりですー第一計画は千雨さんの察しているだろう内容だと聞いていますがー懸念材料のネギ先生たちをその世界線から排除する為に…第二計画が存在しますーその計画の世界線では…恐らくガチバトルになるだろうと…」

と、私の問いに聡美がネタバレをかます。

「あーなるほど…二つの世界線に分岐させて…タイムマシンに仕掛けた罠にかかればすべてが終わった時間に飛ばされて…そこから世界樹深部を目指して成功すれば…って事か」

と、タイムマシンが恐らく持つ特性を前提に組み上げた推理の一つを提示してみた。

「はいー第二計画の世界線に