ミートボールを生み出して食わせる。 (ミートボール!)
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挽肉団子

 突発的な思い付きです。
 説明不足やら描写不足やら色々あると思いますが、頭を空にして広い心でお読みください。


 夜。人気の無い路地を歩く、一つの人影。

 顔は深く被ったフードに隠れ、両手はポケットの中。

 ゆっくりと、ゆっくりと、歩いていく。

 

「ねぇ、そこの人。」

 

 後ろから声を掛けられ、振り向くその人。

 話しかけたのは、猫の仮面を着けた、若い女性だった。

 

「人気の無い夜道を独りで歩くなんて、危ないよ?」

 

 男は答えない。女の方を向いたままだ。

 

「・・・無視?ひっどいなあ。あー気分悪い。」

 

 女の纏う雰囲気が変わる。臀部の辺りから、何かが伸び出した。

 

「イライラするから、貴方食べて良いよね?」

 

 女はそういうと、男に向かって駆け出そうとして、

 

 

「・・・ミートボール、くうか?」

 

「・・・はぁ?」

 

 

 間の抜けた声を上げた。

 

 いつの間に取り出したのか、男の手には紙皿に乗ったミートボールが乗っていた。

 湯気をあげ、空腹の人であれば耐えきれない魅力を放つミートボール。

 

「何言ってんのお前。自分の立場解ってる?」

 

「ミートボール、くうか?」

 

 頑なに男は問いかける。ミートボールは湯気を上げる。

 女は、めんどくさそうになってきて、深く考えずに

 

「・・・要らないよ、そんなもの。」

 

「────」

 

 はっきりと断った。

 

 ()()()()()()()

 

「そもそも喰種だよ?人の食い物なんて───」

 

「────えよ。」

 

「・・・え?」

 

ミートボールくえよおおおおおおお!!!

 

 そう叫ぶと、異様な速度で距離を詰めた。

 呆気にとられ、虚を突かれた女だったが、とっさに腰から生えた尾で迎撃しようとする。だが、

 

「うっそでしょ!?」

 

 ガンッという硬質な音とともに尾は弾かれた。尚も突進してくる男。

 

らあああああぁ!!

 

「がぁっ!?」

 

 そのまま男は女を押し倒し、仰向けの相手に馬乗りになる。

 そして、

 

「くえっ!!」

 

 ミートボールを女の口に突っ込む。

 

「もごぉっ!?・・・う゛ええええっ・・・」

 

 不味い。おいしくない。

 女は、捩じ込まれたそれを吐き戻してしまった。

 

「はい、た?」

 

「まっずぅ・・・」

 

「・・・おかしい!おまえのみかくはバグってる!

 

きょうせい(矯正)してやる!!

 

 

        

 

 

 何なんだこいつは。何のために喰わせてくるのか。殺してやる。不味い。

 色々な感情が混ざり混ざって、思考が纏まらない。

 そんな間にも、ひたすら口にねじ込む男。

 

おろしぽんず!デミグラス!くろず!チーズイン!

 

 味が変わろうがひたすら不味い。止めてくれと懇願しようにも、その暇さえない。

 意識が遠退いていき、涙が流れる。

 

らんおう!ゆでたまご!トマトにこみ!ロールキャベツ!

 

 

 もしかして。

 こいつは、あの───

 

 

 男の正体に思い当たったがもう遅い。

 手を出したことにひたすら後悔しながら、そのまま女は意識を手放した。

 

 白目を剥き、捩じ込まれる度痙攣を起こす女。尚も止まらずミートボールをねじ込む男。

 

いわし!あじ!まぐろ!とりなんこつ!

 

 ミートボールというよりはつみれに近くなってきたバリエーションも相まって、その場は混沌に満ちていた。

 

 

 

        

 

 

 ぼづん。

 

 どのくらい経っただろうか。突如、奇妙な音が響いた。何かがはぜたというか裂けたというか、よくわからない音。

 男は捩じ込むのを止め、音の出所を見つめる。

 

 音は、女の腹部から出たようだ。

 ぱっくりと裂け、内側から血と調理済みのひき肉があふれでる。

 

「ああ、しんじゃった。」

 

 残念そうに男が呟く。そしてゆっくりと立ち上がり、その場から去った。

 その惨状を放置して。

 

 

        

 

 

「また、この死に方か。」

 

「今月で18件目、通算で124回目ですね。」

 

  無精髭の捜査官が呆れたように呟くと、眼鏡の捜査官が淡々と述べた。

 

 無精髭が死体を見下ろす。惨い死に様に、喰種といえど同情しているようだった。

 

「Aレート、"猫又"がこの様か。・・・一体何が起きてやがる?」

 

「ヒーローとして崇めている者も多いとか。」

 

「これがヒーローのやることか?というかこんなことが出来るあいつって何なんだ?」

 

「本人に聞くしかないかと。まあ───」

 

「──聞いたところで会話が成り立つかはわかんねぇ、だろ?」

 

「・・・おっしゃる通りで。」

 

 二人は深くため息をついた。

 

 

 

 ホームレスや喰種の恐怖に怯える人間からは崇められる。

 喰種からは忌み嫌われる。

 捜査官からは不気味に扱われる。

 ミートボールを拒否せず、食後に満腹と伝えれば満足げに去る。

 拒否すれば腹が裂けるまで捩じ込み続けられる。

 正体は不明、遺伝子鑑定を行っても不明。動機は「腹一杯ミートボールを食べてほしい」。

 

 今日も何処かで、ミートボールを食べさせるのだろう。

 

 それは、「ミートボーラー」と呼ばれた。

 

 

 

 

「ミートボール、くうか?」

 

 

 

 

 




《登場人物》

・ミートボーラー
 ミートボールを食わせることに心血を注ぐ男。
 一応はreまで読破した、転生した人間。だがデメリットのせいでそれが生かされることはない。
 戸籍が存在せず、また喰種でもない。
 生まれつき「ミートボールを生み出す」ことと「食べさせる」ことが出来る。
 ミートボールの定義は丸まった肉。魚肉だろうが何だろうがミートボール。栄養価が非常に高く、これだけでも生きていける程。
 食べさせる間は、いかなる障害もはね除けることが出来る。
 デメリットとして、ミートボールを食べさせることに思考が固定される。

・猫又
 Aレートの喰種。ミートボーラーのことは知っていたが、まさか自分が被害に遭うとは思っていなかった、哀れな犠牲者。
 赫子は尾赫であり、先端に火の灯った尾のような物を二本生やす。

・無精髭
 上等捜査官。最近はずっとミートボーラーの件を追わされ続けている。
 ミートボーラーと対話したことがある。けど腹一杯ミートボールを食べさせられただけだった。

・眼鏡
 一等捜査官。無精髭の部下。
 食わされ続けたのが若干トラウマになり、ひき肉が苦手になった。
 でも遭遇したときは死にたくないので頑張って食べる。


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ある一日


 450UA行ったので初投稿です。

 やはり、頭を空にして広い心でお読みください。


 

 ミートボーラーの朝は早い。

 というか、不眠不休なので早いとかの話ではない。

 

「おっ、肉団子の兄ちゃんか。」

 

 寂れて、人気の無い公園のベンチに腰を掛けていると、声を掛けられる。身なりのぼろぼろな、浮浪者といった見た目の老翁だ。

 

「いつものおじちゃん、ミートボール、くうか?」

 

「おうよ、今日も腹一杯食わせてくれ。」

 

「わかった!」

 

 器に入ったミートボールを、老翁は旨そうに食べる。

 器の中身が無くなると器は消えて、新しい器が渡される。

 

 「はいどんどん。」または「はいじゃんじゃん。」という掛け声を掛けながら、渡し続けるミートボーラー。

 わんこミートボールである。

 

 数分後。もう食えねぇよ、と若干苦しそうに言った老翁を見送って、満足そうに頷く。

 すると、

 

「次は俺だぁ!」

 

「何を言う、わしが先に居ったんじゃ!」

 

 という言い争いの声。視線の先では、十数人の浮浪者がもめていた。

 

「おーい」

 

「なっ!?・・・なんじゃ?」

 

「あたらしいひと、みんないっきに、どぞ。」

 

 その言葉に沸き立つ浮浪者達。

 

「おお!ええんか!」

 

「でも大丈夫なんか?」

 

「本人がどうぞと言ってるんだから大丈夫だろ?」

 

 なんて言いながら、彼らは車座になり、器を受け取った。

 

 

        

 

 

「も、もう食えん・・・」

 

「食った、食った・・・!」

 

 息も絶え絶え、といった雰囲気の彼らを一瞥し、満足そうに頷くミートボーラー。

 

「アホだな、新入り共。」

 

「兄ちゃんの配膳能力舐めたらいかんて。」

 

 呆れたように呟く、浮浪者十数名。

 

「・・・まるで、分身してるみたいだったな・・・」

 

 誰かがそう呟いた。

 

「いつものおじちゃんたち、ミートボール、くうか?」

 

「勿論!ほら、退いた退いた!」

 

 後から来た者達は、満腹になりすぎた彼らを追い立てて退かすと、やはり車座になって器を受け取った。

 

 

 

 そこから人が居なくなるまで、延々と配膳は続いた。

 

 

 

        

 

 

 昼下がり、路地裏。

 腹を空かせた人間を探し、ふらふらと歩く。

 

 道の少し先に、倒れている人が一人。足早に近づき、いつもの文言。

 

「ミートボール、くうか?」

 

「・・・ゴホッ・・・ゴボッ」

 

 かすれた声で咳をして、血を吐いた相手に、もう一度問う。

 

「ミートボール、くうか?」

 

「・・・逃げろ・・・!」

 

「わんもああすくゆー。ミートボール、くうか?」

 

「早く逃げろっ!・・・ガハッ、俺は───」

 

 

 

「俺は、罠だ!」

 

 

 

 そう男が言った瞬間、ミートボーラーの背めがけて光弾のようなものが飛来する。

 そのまま光弾は進んでいき、ミートボーラーの背で跳ね返った。

 

 ミートボーラーが振り向く。男は静かになる。そこにいたのは、犬の面を着けた小柄な少年だった。

 

「・・・何で赫子を弾けるんだよ・・・」

 

 呻くように呟く少年に、ミートボーラーは問いかける。

 

「おまえは、ミートボール、くうか?」

 

 この一言で、少年は全てを察した。

 

 食わなければ、死ぬ。

 

「・・・・・・・・・いただきます。」

 

 そう言うしかなかった。

 

「はい、どうぞ。」

 

 口に運び、なるべく味わわず飲み込む。不味いが、それを顔に出せば何をされるか分からない。

 

「はいどんどん。」

 

 次が来る。同じように飲み込む。

 

「はいじゃんじゃん。」

 

 飲み込む。

 

「はいどんどん。」

 

「はいじゃんじゃん。」

 

 吐き気を必死に堪える。

 

「はいどんどん。」

 

「はいじゃんじゃん。」

 

「・・・もう、大丈夫だ・・・です。」

 

 これ以上は限界だ。そう思い伝える少年。それを聞いたミートボーラーは、少年の腹部に手を当て、擦る。まさぐる。

 そして、首をかしげて、

 

「・・・まだはいりそう。えんりょせずに。はいどんどん。」

 

 少年の地獄は、まだ続く。

 

        

 

 男が死んだあと。顔が土気色になって限界を訴えた少年をその場に放置してから数時間。

 日もとっぷり暮れて、人気はより一層無くなった。

 

 それでもミートボーラーはさまよい続ける。

 

 

 まだ見ぬ、腹を空かせた人に。貧困にあえぐ人に。腹一杯ミートボールを食べさせる為に。





 前話後書きのとおり、ミートボーラーは「食べさせる」間は、いかなる障害もはね除けることが出来ます。
 そして、「食べさせる」為に人を探して歩きます。
 その結果、常時発動するという非常事態が発生しています。

 また、人気の無い所をさまようのは、無意識に()()を減らすように行動しているためです。


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