戦姫絶唱、君達は絶版だ。 (SUN'S)
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ルナ・アタック編
第1話『始まりのゲーム』


あらゆる現代兵器を無効化する超常的生命体「ノイズ」の襲撃は世界各国の諜報機関の最新技術を用いようと特定することは不可能だと断定された。

 

しかし、櫻井了子の発表した「シンフォギアシステム」によって活路を開くことに成功した。だが、シンフォギアを纏うには適合する者が必要であり、適合しなければ人間の限界値を越えて人体を内部から崩壊させる恐れがあった。唯一、そのシステムを克服してみせた。女が現れるまでは……。

 

その女の名前は檀綺乃。日本随一という評判を持つ「ゲンムコーポレーション」の若き女社長だ。綺乃は自由奔放であり、世界各国を巡ってはゲームに使えそうなネタを探求している。櫻井了子と風鳴弦十郎はチベット地方へと旅立ったという檀綺乃を追い掛けてチベット最深部へと潜入していた。

 

そこには降り注ぐ豪雨の中を傘を構えて優雅に歩いて回るスーツ姿の女性と、彼女に付き従うように付いて回る青年の姿が在った。

 

「……我が社の敵だな…」

 

了子達には檀綺乃のポツリと呟いた言葉は聞こえていなかったのか。そのまま彼女へと駆け寄っていった。

 

「檀綺乃、君に頼みがある」

 

「…ふむ、なにかな?」

 

「我々と共に世界を救ってくれ…!」

 

「……それは、この腹に宿っている子供を捨ててまで行わなければイケないのかな?」

 

檀綺乃は優しい笑みを浮かべて自身の下腹部を撫でながら弦十郎へと問い掛けていた。弦十郎と了子は「子供…ッ!?」と驚き。付き従っていた青年に確認するように視線を移す。すると、彼女から預かっていたのか。スーツの内側ポケットから「檀綺乃」と書かれた母子手帳を見せてきた。

 

彼女には世界を救う──。そんなモノよりも我が子を優先しているのだ。同じ女である了子は自身の子供と世界を天秤に賭けた。…恐らく自分も子供を優先してしまうだろうと思ってしまい。諦めたような表情を浮かべていた。弦十郎は母体である檀綺乃を責めることは出来ず。適合者を探すように部隊へと指示を送った。

 

振り出しだな。等と悲観している弦十郎の目の前でチェーンソーのような突起物が特徴的な玩具を取り出し、二人に見せる。

 

「九条君、見せてあげなさい」

 

「承知しました」

 

九条と呼ばれた青年はスーツのボタンを外し、機械的な装着装置のようなベルトを腰に巻いていた。

 

『ガッチャーン!!』

 

九条はスーツの内側ポケットからライトブルー塗装の施された『TOTEM-STORY(トーテムストーリー)』というロゴラベルの貼られた装置を取り出し、装置のスイッチを押し込んだ。

 

TOTEM-STORY(トーテムストーリー)!!

 

『ガシャット!!』

 

腰に装着した玩具に装置を装填すると玩具にも付いていたボタンを押し込んだ瞬間、パネルのようなモノが目の前に現れた。

 

『ブラッド!!ブラッド!!』

 

『デッド・オブ・フォート!!』

 

『トーテムストーリー!!』

 

パネルを突き通って現れたのは、ヴァイキングのような中世甲冑を纏う九条だった。

 

「櫻井了子君、君の考案したシンフォギアシステムを改良して作り上げたモノだ。尤もシンフォギアよりも数十段ほど劣っているがね…。どうだ、コレは使えるか?」

 

弦十郎と了子は顔を見合わせ、檀綺乃に向かってニヤリと笑ってみせた。

 

「「御協力、感謝します!」」

 

 





TOTEM-STORY(トーテムストーリー)

檀綺乃の作成した横スクロール型ロールプレイングゲーム。ヴァイキングの長となり、あらゆる魔物から村や国を守るゲーム。エンディングは魔物の王を討伐した後、主人公のトーテム(銅像)を村(もしくは国)の中央に建てれば完全な終了となる。



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第2話『ノイズを払う突風』

弦十郎は、檀綺乃の提供してくれた『バグルドライバー』を見ていた。しかも了子と共に考案し合って完成させた自分だけのオリジナルを。彼の手にはクリムゾンレッド色のファイアーパターンが刻まれた『バグルドライバー』とヴァーミリオンオレンジ色のライダーガシャット『BEAT-UP-GROOVY(ビートアップ・グルーヴィー)』が握られていた。

 

コンセプトは脈動する魂鼓動に合わせて対象をぶん殴るソング系ファイターゲームだと聞いた。つまり、男の魂を込めた拳でノイズをブッ飛ばせば良いということだな。避難警報を知らせるスピーカーとノイズ発生を知らせてくる装置を聞き、現場へと向かう。インカム越しに藤尭の声が聞こえてくる。よし、次の商店街を抜けた場所だな。

 

人間を象ったノイズと逃げ惑う人々を守るため、アスファルトを踏みつけて即席の壁を作り出す。

 

「早く逃げろ!!」

 

「あ、あ、ぇえぁ!?」

 

クソッ。人が居るところで初の着装するとは思っていなかったぞ。バグルドライバーを腰のバグスターバックルに装着する、ノイズの攻撃を岩盤返しで防ぎながら右手に持ったライダーガシャットを起動させる。

 

BEAT-UP-GROOVY(ビートアップ・グルーヴィー)!!!

 

「変身…!」

 

『ガシャット!!』

 

バグルドライバーのスロットにガシャットを差し込み。上部のスイッチを押し込んでファイティングポーズを取る。

 

『バグル・アップ!!』

 

俺の目の前にライダーの肖像を持つエネルギーパネルが現れる。

 

『ワン!!ツー!!ワン!!ツー!!』

 

『エンター・ザ・ハート!!!』

 

『ビートアップ・グルーヴィー!!!』

 

エネルギーパネルを突き通ると丈の長い外套をバグスターバックルで押さえ付けた真っ赤な装甲を纏い。その髪は怒髪したように逆立っており、両の拳にはガントレットらしき装甲が着いていた。

 

「今の俺は、ノイズをブッ飛ばす突風(ゼファ)だ。死ぬ覚悟の無ぇ奴らはすっこんでろ!!」

 

後ろで銃器を構えていた軍人達へと怒鳴り付け、眼前に迫り来ていたノイズの触手を叩いて粉砕する。炭素化しない事を確認しつつ、波のように押し寄せてくるノイズを一撃で潰していく。

 

了子君や綺乃君は「無茶厳禁」と言っていたが、民間人を助けるためには無理しないとダメなんだ。説教でも抗議でも受け付けよう。この場に居合わせた人々を守ることは許可してくれ。

 

「ハアァァッ、ドリャアァァッ!!」

 

右拳を腰まで落とし、一気に天を突き破るように放つ。俺の拳圧とライダーの力で倍加されたエネルギーは飛行していたノイズの土手っ腹に大きな風穴を作り、サラサラと灰化させた。俺の後ろのマンホールを伝って現れたノイズを倒すため、綺乃君の言っていた左側のBボタンを押し込む。

 

『キメワザ!!』

 

ノイズと民間人の間に立ち塞がるように割り込み。もう一度、Bボタンを押し込む。

 

「オリャアァアァァァッ!!!」

 

『クリティカル・ストーミー!!!』

 

ヴァーミリオンオレンジ色のエネルギーを放出させている左右の拳を暴風雨のように叩き込み。トドメとして超高速でバックハンドブローを叩き付け、爆発しているノイズをバックにして民間人に振り返るように決まっていた。…他意はないぞ?

 

「了子君、藤尭、終ったぞ」

 

『此方も終わったわ…。見ていた各国のお偉い様方が情報隠蔽だとか騒いでるわ』

 

成る程、早く帰って処理しないとイケないようだな。

 

 





BEAT-UP-GROOVY(ビートアップ・グルーヴィー)

檀綺乃の作成した横スクロール型ソングゲーム。画面の下部に現れるリズム弦を震わせ、強烈な攻撃を繰り出して魔物の倒したり、未開拓の世界を冒険するゲーム。エンディングは魔物も人間も解り合えた世界で最高のショーを開くこと。



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第3話『終わり無きクロニクル』

次の作品を考えていると社長室の硝子扉の前に立っていた黎斗が扉を押して社長室へ入ってきた。その後ろには見知らぬ二人の対照的な女の子を引き連れてだ。幼くても外見だけで分かるな。「天羽奏」と「風鳴翼」の二人だと断定することが出来た。

 

「母さん、僕の友達だよ!!」

 

「こんにちは、黎斗のお友達さん」

 

「オバサン、こんちは!」

 

「こ、こんにちは…」

 

やはり、対照的な女の子だな。活発な女の子と内気な女の子、黎斗はどちらを射止めるのか。…そうだ、恋愛シミュレーションをしよう。そんなことを考えていると社長室の隣に設備された「テストプレイ用ゲームルーム」へと二人を招き入れていた。ふむ、どのようなゲームを行うのか。見に行くとしようか。

 

テストプレイ用ゲームルームの壁に取り付けられた大型テレビの画面には『TOTSUGEK-BIKE(突撃バイク)』と映し出されていた。後ろのソファに座りながら見ていると、風鳴翼の動きが段々と鋭く疾くなっていることが分かった。

 

その年で廃車製造姫になるつもりなのか?

 

風鳴翼はバイクを作るセレクト画面でスピードを速くするジェットエンジンや緊急停止用バーニア・ジェットを後部や側面に取り付けていた。そのやり方には黎斗も天羽奏を頬を引き吊らせており、ランプがオレンジからグリーンに変わった瞬間、風鳴翼の作り上げた魔改造バイクは二人を置き去りにした。

 

コンセプトとしては「突撃」を体現しているが「突貫」と例えた方がしっくりと来そうな走り方だった。結果的に言えば風鳴翼のバイクはエンストを起こし、天羽奏の原付バイクが1位通過した。黎斗のバイクは仕掛けられたトラップの数々に嵌まっており、破損寸前の状態で走っていた。

 

幾ら天才的な頭脳とクリエイター技術を持っていようとクリアする技術を持っていないと、このような事態を引き起こすのだな。

 

「…おば様、このゲームは楽しいですね……」

 

「クロト、ツバサが笑ったぞ!!」

 

「えっ、ホントだ!?」

 

三人の笑い声を聞きながら思い付いた。ゲームを制作するためにテストプレイ用ゲームルームを退出すると、弦十郎と了子が社長室に来ていた。…なにやら深刻そうな問題を抱えているような表情を浮かべた状態でだ。

 

「どうした?」

 

「あの二人は…シンフォギアの適合者なんだ」

 

知っていたとは云えどハッキリと伝えられると胸に来るものがあるな。…了子は悩んだ末の報告だと分かるほど窶れている。弦十郎も少しだけ痩せていた。

 

「私個人としての意見を言わせてもらおう。…子供を戦場に出すことは許さない」

 

ギロッと弦十郎を睨み付けると分かっていたと言わんばかりに顔を背けていた。ふん、そのような態度を取るならば来なければ良いものを。

 

「……綺乃、どうにか出来ない?」

 

……仕方無い。原作開始と同時に発売する予定だった作品を発表するとしよう。テーブルの棚に仕舞っていた『KAMENRIDER-CHRONICLE(仮面ライダークロニクル)』を取り出して二人に見せる。

 

「さあ、終わり無きゲームを始めよう」

 

 

 

 

 

 





TOTSUGEK-BIKE(突撃バイク)

檀綺乃の作成したネット対戦型バイクレースゲーム。様々なアイテムや装備を付け替えることで突撃するようなバイクを作り、世界中のプレイヤーと競って最速のレーサーになるゲーム。エンディングは音の壁を越えて世界最速のレーサーになること。


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第4話『二つの小さな羽』

『諸君、私はノイズへと対抗する手段を手に入れた。これより…その武器を世界各国で販売する。さあ、君こそ世界を救う勇者となるのだ』

 

私はオバサンの映るテレビを見ていた。…父さんや母さんの手には『KAMENRIDER-CHRONICLE』が握られており、私にも『HITCHU-BILLIARDS(必中ビリヤーズ)』って名前のガシャットを渡してくれた。万が一の防衛対策として子供には無料提供すると言っている。

 

これはクロトからのプレゼントなのかな?等と考えているとツバサから「私のところにもガシャット届いたよ」という電話を受けた。

 

クロトがツバサにもガシャットをプレゼントしていた事を聞いて胸のところがチクッとしたけど。母さんは嬉しそうに笑っていた。父さんは「クロト君は優しい子だけど、まだ認めませんよ!?」なんて叫んでいた。

 

なにを認めるんだろ?

 

ツバサとクロトには、父さん達と一緒に遺跡発掘に行くと伝えると「気を付けてね!」と心配された。平気だよ、父さん達は色んな遺跡を調査してきたんだからさ。クロト達とは電車の駅で別れたけど。ツバサのお父さんはいっつも着物を着ていて暑くないのかな?

 

「奏…。最初は、どこの遺跡を探険しようか?」

 

「えっとね、えっとね!カミサマカガミってヤツを探したい!!」

 

「ハハハッ、カミサマカガミじゃなくて『神獣鏡』だぞ~?」

 

「んーっ、でも、カミサマカガミの方が呼びやすいからこっちの方が良いよー!」

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

奏を見送っている時の黎斗君は寂しそうだった。少しだけ…奏にムッとしてしまった。先に黎斗君と友達になったのは私なのに。なんで黎斗君は奏を見ているんだ。そんなことを考えていた頭の中の変なモヤモヤを振り払うように頭を左右に振っていると黎斗君に撫でられるように止められた。

 

…フフンッ、奏は黎斗君にナデナデされた事は無いだろう。帰ってきたら自慢してやる。

 

「翼…母さんが待ってるよ」

 

「はい、父様…!ばいばい、黎斗君」

 

「ツバサ、ばいばい。次も遊ぼうね」

 

「うん!」

 

奏よりも沢山遊んで「いーなーっ!」って言わせてやるからな。……奏、早く帰ってこないかな。色んなお稽古も大事だけど。友達と遊んでる方が楽しいもん…。父様は分かってくれるけど。母様は「風鳴の娘たる者」ばっかりと怖いもん。

 

黎斗君のお母さんは怖そうだったけど。色々なゲームや人を守るようなものを作ってて凄いのに。母様は「お稽古」とか「仕来たりを」とか「なんですか!」って怒ってばっかり…。私も母様とゲームしたり遊んだりしたいよ。

 

黎斗君に貰った限定版『TOTSUGEK-BIKE(突撃バイク)』を見ていると父様から「帰ったら一緒にやるか?」と聞かれた。

 

 

 

 

 





HITCHU-BILLIARDS(必中ビリヤーズ)

檀綺乃の作成したカジノ体験型ビリヤードゲーム。ナンバーズをポストに叩き落とし、相手よりも多くの得点を獲得すれば勝利する対戦ゲーム。エンディングは語り継がれるほど有名なハスラーとなり、後世に名を残すこと。


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第5話『シュガーな恋には御注意を』

あの女───檀綺乃の技術は危険だ。私の計画に支障を来す前に排除しなくてはならない。それなのに、なぜだ?あの女を見ていると期待してしまう。

 

あの力を利用すれば、あの人に会えるんじゃないだろうか?そんなことばかり考えてしまう。

 

そんなモノでは到達することは出来ないと思っていても予想外の行動を起こす檀綺乃の行動には意味が有るのでは?等と考えてしまう。ダメだ、ダメだダメだ。あの女は危険なんだ。早く…あの女を消さなければ狂ってしまいそうだ……。

 

「了子君、大丈夫か?」

 

「え?あ、えぇ…大丈夫よ」

 

はぁ…。今は櫻井了子の身体という事を忘れていた。しかし、この風鳴弦十郎という男は櫻井了子(フィーネ態)の僅かな違和感に気付いたのか。

 

どれだけ櫻井了子(この女)を見ているんだ。

 

あの女の『バグルドライバー』には未発見のウィルスが詰まっていた。だが、人間に害を与えるタイプの物とは違うのか。ドライバーを多用している風鳴弦十郎には疲労や減退は見られない。

 

むしろ強くなっているような気がする。

 

…なんで私は、あの男を気に掛けているんだ!?違うだろ、私はあの人に会うために転生を繰り返しているんだぞ。そんな、まさか、これは、あの人に感じていたモノと一緒なのか?そんなことを頭の中で自問自答を繰り返していると「了子君、本当に大丈夫なのか?」と顔を近付けられた瞬間、鼓動が早くなり顔が熱くなってしまった。

 

違う。これは、あの男に向けるべきモノじゃないんだ。これは、あの人に向けるべきモノだ。

 

「了子君、やはり体調が優れないんじゃ……」

 

「へ、平気だから顔を近付けないで…」

 

「…す、すまん……」

 

バクバクと脈動している心臓を押さえるように胸の前で手を組んでいるとニヤニヤと笑う藤尭や友里が視界の端に映った。慌てて姿勢を正しつつ、風鳴弦十郎から離れると「帰るなら送っていくぞ?」と言われてしまい。変な反応を示しそうになってしまった。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

最近、了子君の様子が可笑しい。

 

藤尭や友里に聞くと「さあ、彼氏にでもフラれたんじゃないですか?」と言っていた。まさか、本当に交際相手にフラれたのか?等と考えていると了子君が出社してきた。それとなく聞いてみたが顔を赤くして離れてしまった。

 

やはり、交際云々ではなく病気なのだろうか。

 

そのことを藤尭に聞いてみると別の生き物を見るような目で見てきた。それは失礼だろ?等と思いながらも隣で笑っている友里に尋ねると「ラブですね」と言われた。

 

ラブ?なにが愛なのだろうか。そんなことよりも了子君が心配だ。二人に了子君を送ってくることを伝えると「がんばれ!」と言われた。よく分からんが頑張るとしよう。

 

「了子君、やはり送らせてくれ」

 

「……じゃ、じゃあ、頼める?」

 

「ああ、任せろ…!」

 

地下駐輪場に繋がる通路を並んで歩いていると、了子君からチラチラと変な視線を向けられた。顔に何か付いているだろうか?それとなく顎や頬を触ってみたが、変な物は付いていなかった。

 

一体、なにを見ているんだ?

 

 

 



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第6話『ノイズを恐れぬ父の愛』

昨晩、私の会社へと侵入してきた他国の特殊部隊をバグスターウィルスに感染させてみた結果を伝えておこう。

 

やはり、風鳴弦十郎の様な超人染みた精神力を持ち合わせて居なければ消滅するようだ。九条には日本政府内部のデータベースをハッキングさせて適性診断を行わせている。

 

今までの診断で判明した該当者は「風鳴弦十郎」「櫻井了子」の二人だけだったが、世界へと輸出した『KAMENRIDER-CHRONICLE』によって増大している筈だ。送られてきたデータには「立花洸」という名前が追加記入されていた。

 

「立花洸、君の活躍を期待しているよ」

 

二つのライダーガシャットを納めたアタッシェケースを持ちながら二人の住んでいる家屋へと向かう。ああ、どのような歓喜の声を上げてくれるのだろうか。

 

アタッシェケースの中身は『MIRACLE-MAKER(ミラクルメーカー)』という最新作のライダーガシャットを入れている。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

今日、響やお母さんと一緒にテレビを見ていると玄関からチャイムの音が聞こえてきた。勧誘かな?等と思いつつ、玄関ドアを開けるとゲンムコーポレーション社長檀綺乃さんが立っていた。

 

返事を返さない。僕を不思議に思ったのか。響やお母さんも玄関へ来て固まっていた。いや、響だけは「あ、テレビのオバサンだ!」と言っていた。

 

……失礼な言葉を口にした響を叱ろうとした瞬間、檀綺乃さんが「そうだよ、テレビのオバサンだ。君のお父さんとお母さんに話があるんだけど。お話ししても良いかな?」と同じ目線になるように座り込んで響と話していた。

 

お母さん、僕達の娘って危機感とか欠けてるのかな?

 

リビングへと檀綺乃さんを通してからソファに座って貰う。お母さんは「珈琲!?麦茶!?どっちを出せば!?」と混乱していた。僕も混乱していいかな?

 

「立花洸さん、『KAMENRIDER-CHRONICLE』はご存知ですよね?」

 

「は、はい。僕達も持っています…。その、社長はなんで?僕の名前を……」

 

「実を言うと貴方の力をお借りしたい…。我が社の開発した新作ゲーム『MIRACLE-MAKER』と『バグルドライバー』で適合したのは、貴方だけなんです」

 

「み、ミラクルメーカー?バグルドライバー?なんの話をしてるんですか?」

 

檀綺乃さんの言葉には知らない単語が多すぎて困っていると、響が「このカバン…ちっちゃいねー!」と檀綺乃さんの持ってきていたカバンを見せてきた。

 

…あとで響ちゃんにはお母さんとお話をしてもらうからね!?

 

「我が社では対ノイズ用ゲームを作成しています。今現在、発売しているクロニクルを上回るガシャットを貴方に渡したい。……何より家族を守るためには今よりも強力な力が必要の筈です…」

 

「…僕が…このミラクルメーカーを使えばお母さん達をノイズから守れるのか?」

 

「えぇ、貴方は…『奇跡の作り手(ミラクルメーカー)』に選ばれたんです」

 

これが有ればお母さんや響を守れる……。

 

 

 





MIRACLE-MAKER(ミラクルメーカー)

檀綺乃の作成したマジックタイプ型ロールプレイングゲーム。あらゆる魔法・魔術を駆使して魔王軍から王国を守り、魔王を討伐する王道RPGゲーム。エンディングはお姫様と結婚すること。


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第7話『奇跡を起こす突風』

綺乃君の言葉を信じるならば新たな「仮面ライダー」が誕生したらしい。…俺よりもひ弱そうな見た目だそうだが、家族を守るために力を求めた心優しき男だと聞かされた。うむ、男気を感じさせる者だな。程無くして、俺の目の前にライトブラウンの特徴的な髪色の細身の男が現れた。その目には闘志が宿っており、覚悟を決めた男の顔立ちだった。

 

こんな男を見付けてくるとは綺乃君の情報網は凄いな。綺乃君の観察眼に感心していると轟音と共に地面や壁を通り抜けてノイズが現れた。俺は座っていた男と共に逃げ惑う人々とは逆方向──ノイズへと向かって歩いていく。

 

『『ガッチャーン!!!』』

 

バグルドライバーを取り出し、バグスターバックルに装着する。直ぐ様、スーツの内側ポケットからライダーガシャットを取り出す。

 

BEAT-UP-GROOVY(ビートアップ・グルーヴィー)!!!

 

MIRACLE-MAKER(ミラクルメーカー)!!!

 

ライダーガシャットのスイッチを押し込み、バグルドライバーのスロットに挿入する。

 

『ガシャット!!!』

 

バグルドライバー上部のスイッチを押し込んでネクタイを緩める。

 

『バグル・アップ!!』

 

すると、俺の目の前にライダーの肖像を持つエネルギーパネルが現れる。

 

『ワン!!ツー!!ワン!!ツー!!』

 

『エンター・ザ・ハート!!!』

 

『ビートアップ・グルーヴィー!!!』

 

エネルギーパネルを突き通ると丈の長い外套をバグスターバックルで押さえ付けた真っ赤な装甲を纏い。その髪は怒髪したように逆立っており、両の拳にはガントレットらしき装甲が着いていた。

 

俺の隣に立っていた男も同じようにバグルドライバー上部のスイッチを押し込んで両手首のカフスボタンを外していた。

 

『ミラクル!!マジック!!』

 

『ロード・オブ・メイガス!!!』

 

『ミラクルメーカー!!!』

 

エネルギーパネルを突き通ると竹の長い真っ白な外套をバグスターバックルで押さえ付けた金色の装甲を纏い。その頭にはドラゴンを模したようなフードを被っており、左手には鉞と柄の短い錫杖が合体したような武器を持っていた。

 

「ノイズを叩きのめす。手伝ってくれるな、魔法使い?」

 

「ああ、家族を守るためだ。手を貸すよ、突風のロッカーさん」

 

男と共に向かってくるノイズを仮面越しに睨み付け、魂のリズムを乗せた拳を叩き込み。男は鉞を巧みに操り、向かってきていたノイズに雹の弾丸を放ったりしていた。近距離・中距離をメインとしたスタイルのようだ。

 

「オラアァァッ!!」

 

前腕部を叩き付けてノイズ共の首を刈り取り、背後に迫ってきていたノイズに拳を打ち込もうとした瞬間、右足に雷のようなエネルギーが集束されていき、雷撃を纏った震脚によって生じた余波はノイズを掻き消した。

 

まさか、ここまで優れた能力を持っているとは思わなかった。了子君も綺乃君も…俺の近くには天才的な女性しか居ないのか?

 

 

 



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第8話『突風を起こす奇跡』

お母さん達を怖がらせるノイズは一匹残らずブッ潰してやる。そのためなら僕は檀綺乃さんの力だって利用してやる。隣で戦っている男の人はエンチャントした右足に驚いてたけど。

 

なにかに納得したのか、僕へと近付こうとしていたノイズを殴り飛ばして盾役を引き受けるようにノイズと僕の間に立ち塞がり、肉体強化系統の魔法をエンチャントしていき、鉞杖の刃部分と刀身の付け根部分に在るAボタンとタップする。

 

『ズ・バーン!!』

 

頭を覆うように被っていたフードを払い除けると鉞杖をノイズ共の腹や肩口に叩き付けるように放ち。もう一度、鉞杖のAボタンをタップする。

 

『ズ・ドーン!!』

 

鉞の部分は小さくなり短かった柄の部分が長くなった。杖を剣の様に振り上げ、そのままノイズを引き裂いて鉞の刃を巨大化させて大空を舞っていたノイズを切り落とし、一塊になっているノイズへと向かおうとした時、突風さんがバグルドライバーのBボタンを叩くように指示してきた。言われるがままBボタンをタップする。

 

『キメワザ!!』

 

突風さんは一瞬でノイズの眼前へと迫り、先程と同じ様にBボタンをタップして強烈なラッシュを叩き込んで裏拳を叩き付けて此方を向いていた。

 

『クリティカル・ストーミー!!!』

 

あの人と同じことは出来ない。それでも自分には自分なりのやり方がある。

 

空中へと飛び上がりながら「火」「水」「風」「土」「雷」の五属性で作ったバインドでノイズが一塊になるように拘束する。

 

『クリティカル・グレイス!!!』

 

突風さんと同じようにバグルドライバーのBボタンをタップして、エネルギーを放出させる両足をドロップキックの様にノイズ共に叩き付けてバク転しながら着地する。

 

…生身だとバク転なんて出来なかったけど。このスーツが有ると生身の時には出来なかった事が出来るようになるのか。

 

『『渾身の一撃!!』』

 

街中に鳴り響いていた警報アラームは止まっており、家屋やビルの中から逃げていた人達が出てきた。…周りには炭化した物は見当たらない。良かった…。今日は、ノイズに殺された人は居なかったんだ。

 

安堵の溜め息を吐き出しつつ、変身を解除すると突風さんも同じように変身を解除しながら歩み寄ってきた。

 

「御協力、感謝します」

 

「…僕は家族を守っただけですので……」

 

突風さんは頭を下げてお礼を言ってきたけど。本当に、僕は家族を守るためだけに戦ってるんだ。世界平和とか大それた願いは持ってない。

 

突風さんは頭を上げ、僕の左肩に手を置いてから「今後とも宜しくな!」と言って去ってしまった。

 

…烏合の衆とは言うけど。集まってきた見物人を掻き分けて遠回りで家へと向かう。身バレは困る…。会社とかお母さん達にも迷惑が掛かる可能性だってあるんだ。

 

 

 

 

 



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第9話『デンジャラスな再会』

今年、風鳴翼と天羽奏をゲーマーアイドルとして導くことになった。両家の母親は「ゲーマー!?」「まあ、アイドルですか」と対照的なリアクションを取っていたが、私の熱心な勧誘によって専属マネージャーとなってくれた。黎斗…勧誘とは、こうやるんだ。覚えておいて損は無い筈だ。

 

さあ、次のステップへと行こう。

 

風鳴翼と天羽奏、この二人には世間へとゲーム実況を行っている光景とプレイ画面をテレビで視聴してもらう。勿論、我が社はスポンサーとして様々なゲームを提供しよう。ゲームを行う行為は普通であり、ゲームを行わない行為は異常だと植え付ける。

 

順調に事が運んでいき、今はバトルゲームを行っていた時だった。風鳴翼の使用していたキャラクターは真っ白なゾンビ擬きによって叩き潰された。

 

しかもあのフォルム……。

 

実況中とは云えど干渉しないとダメなようだ。天羽奏からヘッドフォンマイクを借り、ゾンビ擬きへと通話が繋がるように調整する。

 

「黎斗、なんの真似だ?」

 

我が子の名前を口にするとスタッフも天羽奏や風鳴翼の親達も驚いていた。

 

「えっ、その白いゾンビってクロトなのか!?」

 

「黎斗君が、真っ白ゾンビ…なんで?」

 

しかし、黎斗のプレイヤースキルは幼少の頃よりも成長しているな。

 

『ブゥエァーハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!カザナリツバサァァ!!アモウカナデエェェェッ!!オマエタチノキャラハウゥゥワァァタァシィィガァァァコウリャクシタゾオォォォ!!!』

 

「……お前、テストプレイルームにいるな」

 

『………チガウヨ?……』

 

耳元に当てていたマイクを天羽奏に返そうと振り返ったら二人がソワソワしていた。あんな奇妙な生物の声を聞いて引かないとは嬉しいな。

 

「諸君、我が子へのお仕置きを行ってくる」

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

オバサンが出ていったことを確認してからマイクの音量を最大限まで上げ、みんなで聞くことになった。ちなみに発案者はアタシだぜ?

 

『反省しろ!』

 

『ギャアァァァァッ!!!アタマヲネジルナアァォ!!ウゥゥワタシィィノオォサイノウガァァァツマッテイルンダゾォォォ!!!』

 

『貴様の才能は、すでに私よりも上だろうが!?全く…そろそろゲンムを譲ろうと思っていた。私が馬鹿みたいじゃないか……』

 

『え?ゲンムくれるの?』

 

クロトはゲンムコーポレーションを譲ると言う言葉に反応していた。…クロトが社長……アタシはクロト専属のゲーマーアイドル……ふへっ…ふひひっ…。

 

あ、やばい、ちょっと変なことを考えちゃった…。

 

まあ、ツバサも同じようなことを考えてんだろうな。隣に座っているツバサをみると「社長婦人…いや、秘書の方が…」なんてブツブツと呟いてた。おい、カメラに映ってんぞ。いいのか?その姿が放送されんだぞ?

 

 

 



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第10話『デスゲーム開幕』

黎斗に社長を任せてから4年ほど経過した頃、コンサートホールを貸し切って観客の前で実況することを発表していた。

 

…漸く原作へと到達したか、随分と長かった。だが、不思議な事に天羽奏や風鳴翼の家族に死亡者や行方不明者は存在していなかった。どうやらゲンムコーポレーションの加入によって物語に分岐点が出来てしまったようだ。

 

「うぅぅわぁぁたぁしぃぃこそくぅわぁみだあぁぁぁ!!ブゥエァーハッハッハッハッハッハッ!!」

 

黎斗は観客席の人々へ高らかに宣言しつつ、その後ろに控えていた風鳴翼と天羽奏を前へと押し出すように登場させる。…なんだ、緊張している二人を安心させているのか。ふっ、社長らしい事をするようになった。

 

「あーっ、よっす!ギャンブルゲーマー天羽奏だ!まあ、来てるってことは知ってるよな?」

 

「やっほー、レースゲーマー風鳴翼です。今日も全速全開最短距離最速で突貫して進みます」

 

二人は観客席の人々と挨拶を交わしてから専用パーカーを纏った指定席へと座り、スクリーンに映し出された『GEKKO-NINJA(ゲッコウニンジャ)』をプレイするようだ。私は観客席ではなくスポンサー席で観戦しているが、あの二人の指先は残像を残すほど速くなっていた。

 

白熱していく接戦の点数差を引き離すようにゴールポイントへと爆走する風鳴翼とコインやアイテムを獲得して合計点に賭けていた天羽奏がニヤリと笑った。

 

そう、速度で勝てないなら罠を仕掛ければ良いのだ。風鳴翼のキャラクターは飛び出してきた土壁に道を阻まれ、速度を下げないためにアイテムを獲得していなかった。そのため壊すのに時間が掛かっているようだ。

 

「アタシの勝ちだな!」

 

「私の走りは何人だろうと止められんぞ!!」

 

ドゴオオォォォォンッ!!という轟音と共に天井や壁を破壊してノイズの群れがコンサートホールに侵入してきた瞬間、観客席の人間も天羽奏や風鳴翼もガシャットを取り出していた。

 

KAMENRIDER-CHRONICLE(仮面ライダークロニクル)!!!』

 

『エンター・ザ・ゲーム!!!』

 

『ライディング・ジ・エンド!!!』

 

風鳴翼と天羽奏を除いた人々はライドプレイヤーへと変身を遂げており、舞台の上に立っていた三人は黎斗の作成した『ゲーマドライバー』を装着していた。

 

HITCHU-BILLIARDS(必中ビリヤーズ)!!!

 

TOTSUGEK-BIKE(突撃バイク)!!!

 

MIGHTY-ACTION-X(マイティアクション・エックス)!!!

 

それぞれのライダーガシャットのスイッチを押し込んで異なる構えを取る。

 

「「「変身!!」」」

 

三人はゲーマドライバーのスロットにガシャットを装填すると回転して現れたセレクトパネルをタップする。

 

 

 





MIGHTY-ACTION-X(マイティアクション・エックス)

檀黎斗の作成した横スクロール型アクションゲーム。マイティを巧みに操りながらお菓子の国を冒険していき、ラスボス「ソルティ伯爵」を倒すゲーム。


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第11話『始まってしまったゲーム』

『レッツゲーム!!』

 

『メッチャゲーム!!』

 

『ムッチャゲーム!!』

 

『ワッチャネーム!?』

 

三人は展開されたエネルギーパネルを通り抜けていき、ゲームキャラクターを模したような二頭身のゆるキャラボディへと変わっていた。

 

『アイム・ア・カメンライダー!!』

 

最後に軽快な音と共に「仮面ライダー」という名前を名乗る。それは十数年前、突如としてノイズを打ち倒した戦士に対する総称であり語り継ぐべき名前だった。

 

今年、全世界へと放送されているコンサートホールで新たな三人の仮面ライダーが生誕したのだ。

 

「ぜぇーんっぶ、倒してやるよ」

 

「最速で走り抜けるのみ…」

 

「くぅみいぃのぉぉちぃかぁらぁぁをおぉ!!うぅうけてえぇみろおぉおおぉぉっ!!!」

 

ゆるキャラはライドプレイヤー軍団を軽々と飛び越えていき、押し寄せて来ていたノイズを踏み付けて観客席の地面へと着地する。

 

天羽奏の変身した「仮面ライダーキャロム・ビリヤーズゲーマーレベル1」である。

 

ONE(ワン)!!THREE(スリー)!!FLVE(ファイブ)!!」

 

その手に持つガシャコンウェポン「ガシャコンキューブレイカー」は横持ち用グリップを搭載しており、エネルギー光弾を先端から弾き出すことが出来る。

 

その中でも天羽奏は「オルタネクトショット」を得意としている。エネルギー光弾はノイズを撃ち抜き、散々だがノイズの中に数字を刻まれたモノが現れた。

 

TWO(ツー)FOUR(フォー)SIX(シックス)をブッ潰せるぜェ!」

 

「「「奏たんの頼みとあらば!!」」」

 

ライドプレイヤーの半数は数字を刻まれたノイズを叩き潰すように消滅させようとした瞬間、風鳴翼は青い線を残してノイズを番号順に叩き潰していき、天羽奏へとサムズアップを送った。

 

風鳴翼の変身した「仮面ライダートルク・バイクゲーマーレベル1」は高速で動き回りながらノイズを殴り飛ばし、その場に止まると無く目の前に立ち塞がったノイズを突進して突き破っていた。

 

「ブゥエァーハッハッハッハッハッハッ!!!雑音如きが神の行っている式典を邪魔するからだァァァ!!貴様等は、うぅぅわぁたしをおぉ更なる高みへと登らせるための踏み台に過ぎないイイィ!!」

 

「社長、落ち着いてください!?」「俺達も戦いますから~!?」「流石、我らの神!略してサスカミ!」「ちょ、ノイズ駆逐するスピード速すぎね!?」「あーん、翼たんの通ったエネルギーロード気持ちいいよー!」「私も混ぜなさい!」

 

……名状し難き者達と最前線を突き進む漆黒の神は混沌(カオス)な世界を作り上げていた。数年前まで人類を脅かしていた驚異とは思えないほど、ずさんな扱いを受けていた。

 

「きゃああぁああぁあぁぁ!!?」

 

次の瞬間、出口付近でガシャットを持っていなかった少女へと襲い掛かろうとするノイズを発見する。しかし、それを妨害するようにノイズは壁となり、仮面ライダーとライドプレイヤーを押し止めていた。

 

PAUSE(ポーズ)

 

そんな電子音と共に緑色の見知らぬ「仮面ライダー」の攻撃を受けたのか、身体を崩壊させている真っ黒なノイズとお姫様抱っこで救い出された少女が其処には立っていた。

 

「…しぃ……姫は眠っている。なにより審判の時は厳粛でなければならない」

 

……コツン…コツン…コツン…。

 

すべてのノイズが消滅したコンサートホールには驚愕と新たな仮面ライダーの出現への喜びを隠せていなかった。

 

…しかし、それは檀黎斗を除いて…だがね…。

 

 



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第12話『未販売品と贈り物』

ガシャンッ!!という音を立ててフェンスを叩くように開けて入ってきた黎斗を睨みつつ、花壇の手入れを中断する。

 

「黎斗、ものは大切に扱えと「あの緑色のライダーは母さんだな!?なんで、あんな危険な物を使用したんだ!?」…先ずは呼吸を整えろ。…危険な物とはなんだ?」

 

檀綺乃の言葉を遮りながら黎斗は自身の言葉を叩き付けるように詰め寄る。しかし、檀綺乃は分かっていない様な素振りを黎斗へと見せる。

 

「貴女の考案した『クロノス』は、翼や奏の使っている物とはバグスターウィルスの桁が違うだろ!?頼むから…消えるような事は……やめてくれ…」

 

黎斗は檀綺乃に抱き着きながら変身することを必死に止めようとする。しかし、本当に分かっていないのか。檀綺乃は着けていた軍手を脱ぎ捨てると黎斗の頭を撫でながら「大丈夫…お前を残して…死なないよ…」と言い続けていると風鳴翼と天羽奏がフェンス越しに微笑ましい光景を見るような目を向けていた。

 

なにかを思い付いたのか。

 

檀綺乃は黎斗を優しく剥がすと風鳴翼と天羽奏に手招きしてガーデニングエリアへと招き入れ、三人を雨避けの屋根を設置したテーブルに誘導する。

 

「今から黎斗に社長を譲る前に考案していたが発売していなかった、ゲームをプレゼントしよう…」

 

風鳴翼の前に『SHINKEN-RIBRION(神剣リベリオン)』という妖魔を斬り倒す横スクロール型和風RPGが置かれていた。

 

天羽奏の前に『KAMI-YARI-SAVIOR(神槍セイヴァー)』という魔物を突き倒す横スクロール型王道RPGが置かれていた。

 

檀黎斗の前に『MAKEN-SURVIVORS(魔剣サバイバーズ)』という悪魔や天使を倒す横スクロール型ダークRPGが置かれていた。

 

「「「…これは…」」」

 

「神話系統を取り入れたモノだ。作り終えてから子供向けでないと…分かってね…」

 

檀綺乃は恥ずかしそうに頬をポリポリと掻きながら黎斗達を見ると恥ずかしがっていた檀綺乃とは違い。三人は、渡されたゲームをプレイしたくてソワソワしていた。檀綺乃は深い溜め息を吐き出しながら「地下室に在るテストプレイルームに行ってきなさい」と言い放ち、黎斗に地下室の鍵を手渡した。

 

「完全攻略してやるうぅぅぅ!!」

 

「神剣…ブレードバイク…!」

 

「キュースティックとカミヤリ、どっちが使いやすいか。確かめないとな!」

 

ドタドタと子供のように嬉しそうにテレビへと向かう三人を見送る。すると、薔薇園の奥の部屋からスーツ姿の青年が出てきた。

 

「九条、あの四人(・・・・)には渡してきたか?」

 

「はい。確かに、ゲーマドライバーとライダーガシャットを提供してきました」

 

「では、お姫様にも素敵なプレゼントを渡さなくてはな?」

 

檀綺乃は青年の持っていたライダーガシャットケースを受け取ると檀黎斗と天羽奏が所持している筈の『MIGHTY-ACTION-X(マイティアクション・エックス)』と『KAMI-YARI-SAVIOR(神槍セイヴァー)』が一体化したガシャットを取り出して青空に向かって掲げていた。

 

 

 





SHINKEN-RIBRION(神剣リベリオン)

檀綺乃の作成した横スクロール型和風ロールプレイングゲーム。日本古来の神剣を操り、向かってくる妖魔達を斬り倒してヤマタノオロチを討伐するゲーム。エンディングは十種類の神剣をコンプリートすること。

KAMI-YARI-SAVIOR(神槍セイヴァー)

檀綺乃の作成した横スクロール型王道ロールプレイングゲーム。世界を巡って回り、暴れている魔物を倒したり仲間にして悪魔王を討伐するゲーム。エンディングは最高位天使へと昇進して神の片腕になること。

MAKEN-SURVIVORS(魔剣サバイバーズ)

檀綺乃の作成した横スクロール型ダークロールプレイングゲーム。歯向かってくる悪魔や天使を斬り伏せ、真の王者へと到達するゲーム。エンディングは世界最強の剣士として神々と戦うこと。


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第13話『立花響の参戦』

私、立花響はお父さんの知り合いという人が家に訪れて来ています。なんでも自分の経営していた会社で起こった事件の被害者へと謝罪とお詫びの品を持って来ているそうです。

 

お父さんとお母さんが言うには小さな頃に会ってるらしいんだけど。見覚えは有っても会った時の記憶が無くて困ってます。

 

「響君、久し振りだね。私の事は…覚えてるかな?」

 

「あ、あはは…。すいません、その…ド忘れしてるみたいで…名前を聞けば思い出せると思うんですよ!?」

 

オバサンと話しつつ、お父さん達を見ると困ったような顔で私とオバサンを見比べていた。えっ、偉い人なのかな?もしかして、お父さんの会社の上司さんとかだったりする?

 

「響君、君には洸さんと同じように適合したモノがあるんだ」

 

お父さんと同じように適合したもの?なんだろ、献血とかの話かな?

 

「『MIGHTY-ACTION-X』『KAMI-YARI-SAVIOR』このガシャット二つが一つとなった。最新型の『GASHAT-GEAG-DUAL-γ(ガシャットギアデュアル・ガンマ)』ならば……君のお父さんを助けることが出来る…!」

 

私がお父さんを助ける…。なんなの?なんなの?オバサンの話してる言葉やお父さん達の反応だけじゃ分からないよ。

 

そんなことを考えていると、お父さんが着ていたスーツの中から私を助けてくれた「仮面ライダー」とは色違いのドライバーを取り出して見せてくれた。

 

…ホントに、訳が分かんないよ。お父さんって仮面ライダーだったの?お母さんは、この事を知ってたんだよね。

 

「微量だが。年月を重ねてノイズ出現率が上がっているのは知っているね?最近では仮面ライダーを増やすために行動を行っている。そして、君こそ探していた適合者なんだ。頼む、私の息子や君のお父さんと一緒に戦ってくれないか…」

 

……正直、戦うとか分からないけど。友達やお父さん達を守れるなら悪魔にだって魂を売る覚悟は出来てる。でも、私は、この人の子供やお父さんと一緒に戦っても良いんだよね。

 

ずっと私に隠して戦っていたお父さんを隣で助けることが出来るんだよね。それなら悪魔だろうと神様だろうと魂を売ってやる。

 

「……私は、戦います……。この手で助けられる人が居るなら誰でも助けたい。救ってあげたい。私を助けてくれた人と同じように…」

 

お母さんとお父さんの座っているソファに向かい合うように位置を調整して、自分の思っていた事を伝える。ダメって言われても反対されても、この想いだけは曲げたくない。

 

「お父さんは響の進みたい道を塞いだりしない。…だから、後悔するような行動だけはするな」

 

「お母さん…正直に言えば響には普通の女の子で居て欲しい。でもね、お母さんじゃお父さんを助けられないの…響に頼める?」

 

「…うん、大丈夫……。絶対に後悔したりしない。私が、お母さんの分までお父さんを助ける…!」

 

お父さん、お母さん、私は覚悟を決めました。誰だろうと救えるような最高のヒーローになります。

 

 

 

 





GASHAT-GEAG-DUAL-γ(ガシャットギアデュアル・ガンマ)

檀綺乃の作成した「KAMI-YARI-SAVIOR」と檀黎斗の作成した「MIGHTY-ACTION-X」を一体化させた最新型ライダーガシャット。今までのライダーガシャットを遥かに凌ぐ現段階では最高のゲーム。






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第14話『女子高生な闘士』

風鳴弦十郎。立花洸。檀黎斗。風鳴翼。天羽奏。五人の仮面ライダーが世間では知られており、なにりも今年の春から私立リディアン音楽院高等部に立花響と小日向未来が入学する。

 

立花響に『GASHAT-GEAG-DUAL-γ(ガシャットギアデュアル・ガンマ)』を提供してから2年間、ノイズ出現率は格段に減少していた。

 

つまり、未だ立花響は変身していない。

 

大舞台での変身を用意しようかと思ったが、あの性格だと変な事件に巻き込まれる可能性があったのでな、保留という形で残してある。

 

今日も立花響は人助けを行っている。これはギアデュアルを渡す前から続いている行動だな。なんでも自分を助けてくれた緑色の仮面ライダーと同じような事がしたいそうだ。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

オバサンから貰った『ガシャットギアデュアル・ガンマ』でお父さん達と一緒に戦うことは無かったけど。お守り代わりとして持ち歩いてる。ノイズ出てこいとは思わないけど。どんな変身するのか。ワクワクしてしまうのは仕方がないと思う。

 

「どーしたの、響?」

 

「え?あ、何でもないよ!?それよりさ、未来も翼さん達の『GF部活』のDVD買いに行く?」

 

「響が行きたいなら一緒に行くよ?」

 

「やった!じゃあ、一緒に買いに行こう!」

 

幼馴染みの未来と手を握りならDVDショップへと向かう。

 

いやーっ、今月は応募されたジャンルを片っ端からクリアするとか神様が言ってたけど。そんなことして、本当に…大丈夫なのかな?

 

未来は翼さんの『突撃バイク』とか疾走してる感じを体験できるような奴を応募したらしいけど。私としては無双ゲームをプレイして欲しくて。いっぱい、送っちゃった…!

 

そんなことを考えていると目の前に立ち塞がったような物体が現れた。……ゆっくり見上げると人間の形を象ったノイズだった。振り下ろされるノイズの腕を転がって避けると子供や他のお客さん達も驚いていた。

 

やっぱり…。みんな、戦うのは怖いんだ。だから、私が守ってみせる。

 

「へーき、へっちゃら!」

 

お父さんから教えて貰った言葉を口にして右手で『ガシャットギアデュアル・ガンマ』を持ちながら二つのゲームラベルシールが貼られたダイアルを『マイティアクション』側に捻ってからボタンを押し込む。

 

MIGHTY-ACTION-X(マイティアクション・エックス)!!!

 

制服の右腰に着けていたガシャットホルダーにガシャットギアデュアル・ガンマを装填する。

 

『デュアル・アップ!!』

 

なに、これ、体が熱い。いっつもお父さんは、これで戦ってたんだね。

 

Let's action game(レッツアクションゲーム)?』

 

Jumping and kicking(ジャンピング・アンド・キック)!!』

 

MIGHTY-ACTION-X(マイティアクション・エックス)

 

神の変身していた仮面ライダーゲンムに酷似した肖像の描かれたエネルギーパネルを通り抜ける。バクバクと脈打っている心臓を押さえ付けるようにノイズに視線を向ける。

 

「仮面ライダーピュージ……レベル50だよ」

 

みんな、変な顔で見てるけど。考えてる暇とか無いんだよね。だから、直ぐに倒してゲームを終わらせる!!

 

「よっ、てりゃあぁぁ!!」

 

ノイズの振ってきた腕を掴み取り、引き寄せながら顔面を殴り飛ばす。やっぱり、ゲームキャラの技を模倣すれば出来ないことはあんまりない。

 

「ハァッ!」

 

両手を腰に溜めて踏み込みと同時に両手掌打を叩き付ける。お、おぉ?今のはパワーに溢れた攻撃だったような気がするけど。

 

まあ、あとで考えよう!

 

ガシャットギアデュアル・ガンマをホルダーから引き抜いてダイアルを元の形に戻して『マイティアクション』側に捻り直す。

 

『キメワザ!!』

 

ガシャットギアデュアル・ガンマをホルダーに差し込んで飛び上がる。ちょっと天井に頭が当たった。…埃とか付いてないよね?

 

『デュアルガシャット!!』

 

エネルギーエフェクトを右足に集まっていき、エフェクトの発生していない左足で天井を踏み台にして超高速で落下する。

 

『マイティクリティカル・ノヴァ!!!』

 

前に転がるように体勢を変えて踵落としになるようなキックを残っていた大きなノイズに叩き付け、未来の立っていた場所の前に着地する。

 

『会心の一発!!!』

 

…転びそうになったのは黙っておこうかな。あと、未来にも説明とかしないとなぁ…。それはお母さんに任せた方が良いのかな?

 

 

 



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第15話『天才ゲーマー少女』

特機部に新たな仲間が増えると綺乃君と了子君から聞かされた。一人は洸の娘である立花響君と天才的な音楽家夫婦の娘である雪音クリス君だそうだ。クリス君に関しては了子君でも予想外だったそうだ。

 

了子君が言うにはライドプライヤーとしてノイズと戦っている時に出会い。その戦い方は凄まじいものだと聞かされたが、まだまだ二人は子供だ。あまり、無理な行動は控えて欲しいものだ。

 

そんなことを考えているとエレベーターから綺乃君と了子君、洸が二人を連れて来てくれた。立花響君と雪音クリス君以外は普通に出勤してきた感じだな。

 

「お、お父さん…!お尻打っちゃった…っ」

 

「お父さんも初めてきた時はお尻を打ったよ…」

 

「体幹鍛えてればフツーだろ?」

 

「そうね。雪音ちゃんの言う通りよ?」

 

了子君と雪音クリス君の当然と言わんばかりの言い放ち、洸と立花響君は頬をポリポリと掻きながら困ったような表情を浮かべており、雪音クリス君は綺乃君をチラチラと見ていた。

 

…ふむ、綺乃君はゲーム業界では黎斗君を凌ぐほど有名な存在だからな。気になるのも仕方がないと言えば仕方がないな。

 

「弦十郎君、そろそろ話しても良いかしら?」

 

「ん?ああ、頼めるか?」

 

「ふふん、私に任せなさい」

 

立花響君と雪音クリス君は了子君の話を聞いている最中、綺乃君はテーブルの上にガシャットケースを取り出して黎斗君の作り上げたゲーマドライバーをアタッシェケースから取り出していた。

 

次の瞬間、会議室の壁に設置されたディスプレイに翼と奏君の姿が映し出された。

 

その後ろには「反省中」と書かれた紙と縄で縛られた黎斗君の姿が見えたような気がした。綺乃君は呆れたような溜め息を吐き出しながら見知らぬライダーガシャットを見せてきた。

 

…ふむ、シューティングゲームは好みではないな。

 

「雪音クリス…ライドプライヤー用ライダーガシャットでは本領を発揮することは出来ないだろう?黎斗には悪いが、特別に先行プレイさせてあげよう」

 

綺乃君の手には『REVENGE-GUNNERS(リベンジ・ガンナーズ)』というライダーガシャットが握られてた。

 

「……ホントにアタシが良いのか?」

 

綺乃君の言葉を聞いていた雪音クリス君は迷っているのか。綺乃君の言葉を聞き返していた。目上への話し方はダメだが、一応の敬意を払っていることが伺えるな。

 

「ふふっ、君のことは耳にしているよ。天才ゲーマー少女『ユッキー』ちゃん」

 

「ユッキーじゃなくてスノウだ!?」

 

成る程、天才的な音楽家夫婦の娘は天才ゲーマー少女だった訳だな。立花響君も「えっ、ユッキー?!」と驚いている。翼も「狙撃姫ユッキー」奏君も「アタシのジェット機、ブッ潰した白兎かよ!?」とディスプレイ越しに驚いており、二人の後ろにいた黎斗君は縄を解いて逃げようとしていた。

 

黎斗君、逃げても解決しないぞ?とりあえず謝っておけば解決するはずだ。

 

 

 





REVENGE-GUNNERS(リベンジ・ガンナーズ)

檀黎斗の作成したファースト・パーソン・シューティングゲーム。復讐を誓ったガンマン達の壮絶な死闘を繰り広げる正義の保安官を操作するゲーム。エンディングはラスボスを倒して親の墓参りを行うこと。


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第16話『クロノス』

『立花響』VS『天羽奏』

 

『風鳴翼』VS『雪音クリス』

 

『風鳴弦十郎』VS『立花洸』

 

『檀黎斗』VS『檀綺乃』

 

そう書かれていたホワイトボードを薙ぎ倒しながら黎斗は檀綺乃へと歩み寄り、自身よりも小さな母親の襟を掴んで持ち上げるように顔を近付ける。

 

「母さん、私の話を聞いていなかったのか!?貴女は戦うべきではないと言っただろ!!」

 

「…黎斗……いや、マイティアクション・エックス。君には失望した。お前は、私の最高傑作だと思っていたが…ただの失敗作だったとはな」

 

最早、ゴミを見るような目を黎斗へ向けていた檀綺乃の目がオレンジとグリーンに発光した瞬間、女性の膂力では考えられないほど凄まじい力で黎斗を天羽奏達の立っていた方へと蹴り飛ばした。

 

『ガッチャーン!!』

 

倒れながら睨み付けてくる黎斗に見せ付けるように蛍光グリーン塗装のバグルドライバーをバグスターバックルに装着すると原型の『KAMENRIDER-CHRONICLE』を取り出してガシャットのスイッチを押し込む。

 

KAMENRIDER-CHRONICLE(仮面ライダークロニクル)!!!

 

重々しい電子音が聞こえた瞬間、檀綺乃の身体にバグのようなモノが起こり、ガシャットを手放してしまう。

 

「……変…身……」

 

黎斗は慌てて駆け寄ろうとしたが、ガシャットは独りでにバグルドライバーに装填され、檀綺乃はニヤリと笑ってドライバー上部のスイッチを押し込んだ。

 

『バグル・アップ!!!』

 

「1」から「12」のローマ数字が檀綺乃の正面に円を描くように出現していき、檀綺乃の頭上にはエネルギーパネルが展開される。

 

『天を掴めライダー!!』

 

『刻めクロニクル!!』

 

『今こそ時は極まれりイィ!!』

 

そこにはコンサートホールで立花響を助けた緑色の仮面ライダー。史上最強の仮面ライダークロノスが立っていた。

 

「君にはもはや商品価値はない。マイティアクション・エックスは絶版だ」

 

「…私は……僕が…貴女を倒す、変身!!」

 

MIGHTY-ACTION-X(マイティアクション・エックス)!!

 

MAKEN-SURVIVORS(魔剣サバイバーズ)!!

 

『ガシャット!!』

 

黎斗は二つのライダーガシャットのスイッチを押し込んでゲーマドライバーのスロットに装填すると、ゲーマドライバーのレバーを開いて構える。

 

『マイティジャンプ!!』

 

『マイティキック!!』

 

『マイティ!!マイティ!!』

 

『マイティアクション!!』

 

『エェェェックス!!』

 

黎斗が仮面ライダーゲンムに変身する。

 

『冒険出発!!』

 

『相手は魔王!?それとも勇者!?』

 

『ドキドキ世界のファンタジア!!』

 

『魔剣サバイバーズ!!』

 

第1段階の変身を終えた黎斗の元へと空間を切り裂いて真っ黒な剣身が特徴的なガシャコンウェポンが現れ、黒と白の混ざり合った西洋甲冑が黎斗とドッキングするように落下してきた。

 

「仮面ライダーゲンム。レベル…2-Lだ!!」

 

黎斗は「2」と「50」を混ぜ合わせたゲンムの姿に変わった事を檀綺乃へと宣言する。

 

 

 



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第17話『不器用な母の愛』

「不正なガシャットは削除する!!ブェアァ!!」

 

ガシャコンブレイカーと魔剣を振るうゲンムの攻撃を両の手のひらで捌きながらクロノスはゆっくりと前進していき、剣を振ることが出来ない間合いまで詰め寄るとゲンムの右肩を押さえ付けて突き飛ばしながら腹部へと蹴りを叩き込んだ。

 

「くっ!」

 

ゲンムは、その衝撃を利用して距離を置こうとする。だが、ゲンムはバグルドライバーの性能を思い出してしまった。

 

『ガッチャーン!!』

 

右手に装着されたバグヴァイザーをビームモードで固定すると二つの銃口から超高出力のエネルギー弾をゲンムに放ち、バグヴァイザーを一回転させてチェーンソーモードに変更する。

 

『ガッチャーン!!』

 

「マイティアクション・エックス。君の商品価値を示すのは、その程度なのか?それでは…私も攻めさせて貰おうか!」

 

ギュイィィィッ!!というチェーンソーの回転音とエネルギーの弾けるようなエフェクトを纏ったバグヴァイザーを振り上げるように放ち、ゲンムのライフゲージを半分まで減少させる。

 

ゲンムは壁にもたれ掛かりながら倒れることを拒否するが、足には力が入っておらず腕の力と背中を壁に押し付けて立っているように見せていた。

 

PAUSE(ポーズ)

 

クロノスはバグルドライバーをバックルに装着すると「Aボタン」と「Bボタン」を押さえ付け、弾くようにタップした瞬間、クロノス以外の有機物も無機物も停止している。これこそクロノスの代名詞と言える能力「時間停止」である。神を名乗るゲンムであろうと破ることは出来ない。

 

これこそ最強の能力───。

 

これこそ無敵の切札───。

 

クロノスは「エナジーアイテムケース」から回復アイテムを取り出すとゲンムに吸収させる。

 

『キメワザ!!』

 

バグルドライバーにあるBボタンをタップする。

 

「…黎斗……お前ならば分かる筈だ…」

 

『クリティカル・クルセイド!!』

 

そんな言葉を呟きながらBボタンをタップすると、二人の足元に時計盤を模したエネルギーエフェクトが現れ、クロノスは鋭く疾い廻り蹴りをゲンムに叩き込んで「Aボタン」と「Bボタン」を弾くようにタップした。

 

Re:START(リ・スタート)

 

「ぐがあぁああぁあぁあぁ!!?」

 

『終焉の一撃!!』

 

爆音と共にゲンムは吹き飛ばされ、壁に衝突して変身が解除された。痛々しいほど傷付いている黎斗に歩み寄ろうとしたが、思い止まったように踵を返して元の場所に戻る。

 

「…オバサン……どういうつもりだよ…ッ…」

 

「おば様、答えてください…!」

 

黎斗を呼び起こそうとしていた天羽奏と風鳴翼が詰め寄ってくる。その目には怒りや欺瞞が見え隠れしており、不安の感情も見えた。

 

「……黎斗…お前は分かったか?」

 

「……えぇ…貴女の考えそうな事は分かりますよ。…私は、息子ですからね…」

 

「そうか…。では、分かったことを言ってみろ」

 

「……本来…触れることすら危険なノイズとの戦いをゲームだと勘違いしていた……私達に戦闘による痛みや恐怖を教えたかったんですよね?」

 

黎斗の言葉を聞いて納得する風鳴弦十郎と立花洸は頷いていた。

 

しかし、風鳴翼。天羽奏。雪音クリス。立花響。この四人は図星を突かれたと思ったのか。顔を真っ赤に染めたり真っ青に染めたりと忙しい行動を繰り返していた。

 

 

 



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第18話『蒼き突撃戦車』

今現在、私達は完全聖遺物「デュランダル」を護送する特殊任務を請け負っている。

 

立花達は櫻井女史と共に護送車に乗車しており、私は「二輪車形態(バイクフォーム)」で背中に奏を乗せて走っている。

 

…もう少しだけ、速度を上げたい。この程度の速さでは足りない。

 

そんなことを考えていた瞬間、前方から道を塞ぐようにノイズ達が現れた。

 

ふっ、致し方ない───。

 

櫻井女史達の乗っている護送車へと接近していき、窓を開けている立花達の座していた後部座席に振り落とす。

 

「ちょ、翼ァ!?」

 

「黎斗君、キメワザだ!!」

 

「むうぅかあぁあかせえぇろおぉぉ!!」

 

助手席に座っていた黎斗君の傍らに近寄り、ガシャットをスロットに装填してもらう。

 

『キメワザ!!』

 

全身にエネルギーエフェクトを纏わせ、溜めていた鬱憤を晴らすようにノイズへと突進する。

 

『突撃クリティカル・ストライク!!』

 

護送車を死守することを優先とする。

 

「直線を穿つのみだアァァ!!」

 

感じる、感じるぞ!今、私の後ろには道が出来ている!!何人も私の走りを邪魔することは赦さん!!さあ、このままノイズを轢き殺してやる!!

 

「フハハハハハハハハ!!」

 

黎斗君のような笑い声を上げながら前へ前へと走り続ける。

 

やはり、速さとは最高のことだな!!

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

アタシの親友は「スピードドラッカー」と呼ばれる加速中毒者だったようだ。とりあえず振り落とされたイライラから原因のクロトの首を後ろから締め付けていると「フハハハハハハハハ!!」という翼の笑い声が聞こえてきた。

 

もう、完全にクロトと一緒じゃねぇか!?

 

「くぅーろぉーとぉー!!」

 

「ぐっ、ぐぉお!?」

 

「お前か、お前のせいか!?」

 

「わ、私ではない!?あれは母さんの作ったゲームなんだぞ!改良版や最新作を作った事は有っても初代よりはマシだ!?」

 

…言われてみればそうだった。クロトの首から手を離して隣で苦笑いを浮かべている響とクリスを見る。なんだよ、そこまで酷いことはしてないと思うぞ?

 

そんなことを考えているとオジサンから翼一人では対応すら出来ない程のノイズが待ち構えていると知らされた。

 

チッ、仕方ねぇな……。

 

ゲーマドライバーを装着しようとしたが、クロトに止められた。なんだよ、打開策でも思い付いたのか?次の瞬間、クロトのヤツが護送車のアクセルを踏み抜きやがった。

 

「ブゥエァーハッハッハッハッハッハッ!!私の最新作を翼で試してやるうぅぅ!!櫻井了子オォ!!君もドライバーならば速さを惜しむナァァ!!」

 

「「安全運転ですよ!?安全運転!?」」

 

「…どっちでも良いから早く帰らせてくれ……」

 

アタシと響は運転している了子さんに懇願するように近寄ろうとするがシートベルトによって阻まれる。その後ろで面倒臭そうに携帯用ゲーム機をポチポチと音を立てながら遊ぶクリスだった。

 

 

 



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第19話『ゾンビなゲンム』

ガゴンッ!という音と共に護送車が弾き飛ばされ、シートベルトを着けているとはいえガンガンと天井やシートに叩き付けられる。

 

「…背中、打った…ぁ…っ」

 

「アタシの…ゲーム機…が…」

 

「雑音がァ…神の凱旋を妨げるなアァァッ!!」

 

私は腰を押さえながら護送車を這い出る。クリスちゃんは液晶の砕けたゲーム機を見下ろしており、黎斗さんはノイズへと怒鳴り散らしていた。

 

「クロト…アタシ達は了子さんを安全なところに連れていく。ここは頼めるか?」

 

了子さんを抱えた奏さんは悔しそうに唇を噛みながら黎斗さんに頼んでいる。あ、あのぉ……私も着いていっても良いですか?

 

「…グレード2-X…!」

 

MIGHTY-ACTION-X(マイティアクション・エックス)!!

 

DANGEROUS-ZOMBIE(デンジャラスゾンビ)!!

 

「クリス、アタシ達を守ってくれよな!」

 

「うるせぇ!今から憂さ晴らしするんだよ!テメーらは勝手に助かってろ!!」

 

私と黎斗さんを残して奏さん達は商店街の横道へと入って言ってしまった。…私、無視されたのかな?それとも任せられると思ってくれたのかな?う~ん、考えても分かんない!とりあえず黎斗さんと一緒に倒すことを優先しよう!

 

ガシャットギアデュアル・ガンマのダイアルをマイティアクション側に捻り、スイッチを押し込んでからギアホルダーに差し込む体勢になる。

 

MIGHTY-ACTION-X(マイティアクション・エックス)!!!

 

「大変身!」

 

未来と一緒に考えた掛け声を叫びながらギアホルダーにガシャットギアデュアル・ガンマを装填する。

 

『デュアル・アップ!!』

 

あの時は必死で見てなかったけど。私の右側にピンク色のエネルギーパネルが出ていた。ギュッと拳を握り締めた瞬間、エネルギーパネルが私を通り抜けて左側に突き抜けた。

 

Let's action game(レッツアクションゲーム)?』

 

Jumping and kicking(ジャンピング・アンド・キック)!!』

 

MIGHTY-ACTION-X(マイティアクション・エックス)

 

久々に変身した気がする。久々って言ってもそんなに時間は過ぎてないけどね。

 

「よし!…くろ……と……さん?」

 

変身を終えてから身体に変な違和感が無いことを確認する。問題ないと分かってから黎斗さんに準備が出来ましたと伝えようとした瞬間、黎斗さん(?)と思わしき真っ白なゾンビキャラクターと地面から這い出てくる人影を象ったエフェクトに驚きのあまり、本人なのか確認するように話しかけてしまった。

 

「ブゥエァーハッハッハッハッハッハッ!!ブェハァ!!ブェアァ!!どおぉしいぃたぁぁ!!!世界をおぉ脅かすうぅ!!ノイズでも不死身のおぉゾンビにはアァ!!勝てないかあァ!!!」

 

これ、私が残る必要ってありました?

 

「ブウゥゥンッ!!」

 

 





DANGEROUS-ZOMBIE(デンジャラスゾンビ)

檀黎斗の作成したゾンビホラーゲーム。不死身のゾンビとなった主人公がゾンビを殲滅して世界を巡ってまわり、ゾンビを一匹残らず殲滅するまで終わる事の無い無双ゲーム。エンディングは人類が最後の一人になるまで戦い抜くこと。


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第20話『神槍の初陣』

迫り来るノイズを殴り飛ばし、奏さん達を追わせないように戦ってるけど。

 

十匹どころか百匹は居るんじゃないかな!?等と考えていると「立花響イィッ!!君が持つギアデュアルは二つのゲームを一体化させたモノォ!!!ダイアルをマイティアクションから神槍セイヴァーに変更しろ!!」という声が聞こえてきた。

 

そうだ、言われてみればゲームを変えれば良かったんだ!

 

「大変身!」

 

ギアホルダーからガシャットギアデュアル・ガンマを引き抜いて真ん中のゲームラベルで止める。

 

KAMI-YARI-SAVIOR(神槍セイヴァー)!!

 

ダイアルを神槍セイヴァー側に捻りながらノイズの攻撃を避け、ギアホルダーにガシャットギアデュアル・ガンマを装填する。

 

Have a cow(ハヴァ・カウ)!!Odin(オーディン)!!』

 

Hang in there(ハング・イン・ゼァ)!! Gangneal(ガングニール)!!』

 

KAMI-YARI-SAVIOR(神槍セイヴァー)!!』

 

今度は左側から右側にエネルギーパネルが突き抜けていき、マイティアクションの上にスパルタクスみたいな甲冑を纏った形態に変化した。…何でだろ?ちょっとマイティアクションより動きやすいような気がする。

 

感触を確かめるように両手を強く握り締め、大股で近付くようにノイズへと突進していき、大きく振りかぶっていた右拳を強引に叩き付けて直線上に並んでいたノイズのお腹を殴り付けた空気が穿ち抜いた。

 

…やっぱり、マイティアクションより使いやすい。もしかして、こっちの方が私に合ってるのかな?

 

「ブェアァッ!!キメワザを叩き込んでやれえぇぇ!!」

 

「はい!!」

 

『キメワザ!!』

 

ガシャットギアデュアル・ガンマをギアホルダーから引き抜いてダイアルを真ん中に戻して神槍セイヴァー側に捻る。

 

すると、右腕にエネルギーエフェクトが集まってくる。今度はキックじゃなくてパンチで倒してみせる!

 

『神槍クリティカル・スマイト!!』

 

正拳突きのように右拳を放ち、黎斗さんの作り出したゾンビエフェクトのおかげで密集していたノイズを殴り飛ばすことが出来た。

 

…黎斗さん、変なことばっかり叫んでるけど。こっそりと手助けしてくれたり、私の後ろに来ていたノイズを倒してくれたり、戦い方も動き方も半人前な私に助言を言ってくれたり、思っていたよりも優しい人なんですね!

 

「立花響イィッ!君の戦い方は打撃技が主体!!ならばあぁ…攻めて攻めて攻め続けるんだアァ!!正しくうぅ!!オーディンの振るっていたグングニルの様にいぃぃ!!」

 

「なに言ってるか。全然、分かんないですけど。やってみます!」

 

 

 



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第21話『搬送完了』

黎斗達は完全聖遺物「デュランダル」輸送を終えた事を報告しに特機部へと戻ってきた。

 

…壁に設置された時計を見ると午前0時41分を表示しており、この時間では交通機関も動いていない場所や悪漢に襲われる可能性がある。

 

此処から近いのは私の家だな───。

 

風鳴翼や天羽奏は泊まりに来たことはあったが、今では泊まることは無くなっている。

 

立花響は立花洸と共に帰っていったが、雪音クリスの家は少しばかり遠い場所に在る。彼女も泊まることを勧めたら「お願いします!」と嬉々として受け入れてくれた。

 

ふむ、雪音クリスは黎斗の作ったゲームを見たかったのか?それともゲーム情報を予めに入手しようとしているのか?まあ、そんなことは後で考えるとしよう。

 

迎えに来ていた九条の車に乗り、風鳴翼達を引き連れて自宅へと向かう。

 

今、思い出したが。先々週、風鳴翼と天羽奏は来ていたな。あの時は夜通しでゲームをプレイしていた。アイドルとしての自覚や女性としての自覚を持つべきではないか?

 

「お風呂、行こうぜ!」

 

「…そうだな。今日は汗を流したからな」

 

「クリスも一緒に入ろうぜぇ~ッ!」

 

「ちょ、アタシはゲームをおぉぉ!?」

 

三人は浴室へと入っていき、黎斗は使っていたライダーガシャットに感じた、不調や不具合を直すために自室に籠ると言っていた。

 

…社長としての考え方や経営力は教えたが、人との付き合い方は教えていなかったな。

 

「九条…向こうでは進んでいるか?」

 

「はい、順調です。あの四人はチームプレイを重視しているようです」

 

「ふむ、彼女達は君のゲーム病(・・・・・・・・・・)を患っていると気が付いているか?」

 

「気付いてはいませんが…不自然な動きを行っている者は見付けました」

 

…やはり、アメリカでも不穏な動きがあるようだな。今現在、仮面ライダーとして活動している黎斗達だけでは心許ないな。風鳴翼の影にも表立って行動してもらう必要がありそうだな。

 

「九条、緒川慎次の導入時期は君に任せる」

 

「承知しました」

 

檀綺乃は九条へとライダーガシャットとバグルドライバーを手渡した。十数年前、風鳴弦十郎と櫻井了子の前で変身して以来のガシャットとドライバーである。

 

アメリカでは『KAMENRIDER-CHRONICLE』をプレイしている人間は少ない。そのため日本よりも死亡者数は倍の数だと聞いている。昔、黎斗を出産する前に立ち寄ったことはあるが…あの時よりも平穏な国になっていることを願うばかりだな。

 

「ブウゥゥンッ!!」

 

「ぶ、ぶぅぅん?」

 

「ブェアァハァッ!!」

 

「ぶぇあはぁ?」

 

「ブゥエァーハッハッハッハッハッハッ!!」

 

「ぶぅえぁははははは?」

 

濡れた髪をドライヤーで乾かす風鳴翼と天羽奏から離れた所では黎斗の真似を行う雪音クリスを見てしまった。

 

やはり、黎斗のファンだったんだな。

 

 

 



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第22話『響と未来』

今、私は未来と向かい合うように座っている。お母さんに説明してもらった事や私のやっている仮面ライダーとしての活動を聞いてきたと未来に言われた。他にも「なんで教えてくれなかったの?」と泣きながら言われた。

 

私は未来を泣かせたくなくて黙ってたけど。私が黙ってたから泣かせちゃったんだよね。

 

ごめん、ごめんね。私、そういうの上手く話せないから…。お母さんに任せちゃったんだけど。そうだよね、自分で話さないと意味無いよね。

 

「未来、綺乃さんに会いに行こう!」

 

「綺乃さん…?」

 

「もしかしたら未来も一緒に…!」

 

違う。綺乃さんだって戦いをゲームと誤認するなって言ってたんだ。もっと違うことを考えないと!!

 

「その、綺乃さんって人に会えば響と一緒に居られるんだよね?」

 

「…うん……そうなんだけど…」

 

「じゃあ、私に綺乃さんって人と会わせて…」

 

「……分かった…」

 

未来と一緒に綺乃さんの家に向かう、今日は学校だったけど。急用が出来たからお休みします!

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

今朝、立花響と見知らぬ少女が訪ねてきた。用件を聞くために家に招き入れる最中、天羽奏達の存在を思い出した。二階の客室で寝ているとはいえ話し声が聞こえれば起きてくる。

 

「響みたいなガシャットを譲って下さい…!」

 

いきなり、初対面の相手に向かってライダーガシャットを譲って欲しいと懇願されたのは生まれて初めての経験だな。等と考えていると黎斗が自室の扉から顔だけを突き出して話を聞いていた。

 

…なぜだ、とてつもなく嫌な予感がする。

 

「君、名前は?」

 

「えっ、うそ、檀黎斗!?」

 

「君の名前は?」

 

「あ、小日向未来です!」

 

黎斗の登場に驚きつつも問い掛けには答えて名前を黎斗に教える。見知らぬ少女───小日向未来は黎斗に尊敬の眼差しを向けていた。黎斗は若者世代では美形の若社長として有名だからな。

 

「未来君、君に…このガシャットとゲーマドライバーを貸してあげよう。友達のために使いなさい」

 

「は、はい!ありがとうございます!」

 

…やはり、何時とも違うような話し方では違和感を感じるな。だが、立花響と小日向未来は嬉しそうに話している。黎斗なりに二人の事を案じたのか?等と考えているとニタアァァという笑みを浮かべている黎斗を見てしまった。

 

また、ろくでもない事を考えているな。

 

厄介事を引き起こした時はガシャットとゲーマドライバーを一時的に没収させてもらうからな?

 

「未来君、そのガシャットに想いを詰め込むように念じてみてくれないか?」

 

「想い……響…!」

 

次の瞬間、小日向未来の目がオレンジとグリーンに発光した。よく見ると手に持っていたブランク状態だったライダーガシャットが薄紫と桜色に変色していた。

 

「未来君、君には期待しているよ」

 

何とも言えない白々しいし台詞だな。

 

 

 



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第23話『フィーネの計画』

深夜、風鳴弦十郎からリディアンがノイズに襲撃されていると聞かされた。なんだ、想定していた時期より随分と早めたようだな。

 

改良型バグルドライバー(ドライ)を試すためには打って付けのタイミングではあるが、使用者を決めていなかったな。

 

風鳴弦十郎や立花洸以外の者達はゲーマドライバーを使っている。私はバグルドライバー(ツヴァイ)を使用している。

 

今現在、使える人間は存在しない。

 

リディアンへと続いている商店街を抜け、校門から数km前で乗ってきていた車を止める。

 

この位置ならば向こう側の様子を見ることが出来そうだな。ゲーマドライバーのステージセレクト機能を利用して半数以上のノイズをゲームエリアに転移させる。

 

「息子達の晴れ舞台を無粋な雑音で汚すな…!」

 

『今こそ時は極まれりイィ!!』

 

仮面ライダークロノスへと変身を遂げ、向かってくるノイズを払うように消滅させる。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

リディアンを襲撃していたノイズが消えた。…まさか、あの人は私の忠告を無視して仮面ライダークロノスに変身しているのか!?

 

「フン、死に損ないの分際で…良くやることだ」

 

私は感情を抑えきれずフィーネと名乗った櫻井了子を睨み付ける。私の母親に向かって死に損ないだと?貴様は輪廻転生というシステムを利用した生き恥晒しではないか!?

 

「フイィィィネエェエェエ!!貴様は世界には存在してはイケない!不正な存在だアァァ!!くぅああみである!!このぉぉうぅわたしがぁぁ処分してくれるわあァ!!」

 

私の製作した始まりのマイティアクションXガシャットとデンジャラスゾンビガシャットをスーツの内側から取り出し、その行動で戸惑っていた翼や奏達も覚悟を決めたようにガシャットとゲーマドライバーを取り出した。

 

「変身ッ!!!」

 

MIGHTY-ACTION-X(マイティアクション・エックス)!!

 

DANGEROUS-ZOMBIE(デンジャラスゾンビ)!!

 

『ガッチャーン!!』

 

二つのガシャットをゲーマドライバーのスロットに差し込んでレバーを引っ張るように開ける。

 

『レベル・アップ!!』

 

『マイティジャンプ!!』

 

『マイティキック!!』

 

『マイティアクション!!』

 

『エェェェックス!!』

 

仮面ライダーゲンムへと変身を遂げ、そのままレバーを閉じて開ける。

 

『アガッチャ!!』

 

『デンジャー!!デンジャー!!』

 

『デス・ザ・クライシス!!』

 

『デンジャラスゾンビ!!』 

 

ゲンムのボディに真っ白な拘束具のような装甲、左胸には砕けたライダーゲージが付いている。私の持ち合わせているガシャットの中では『魔剣サバイバーズ』よりも強い!!

 

「仮面ライダーゲンム・ゾンビアクションゲーマーレベル0-X…!フイィィィネエェ!!コンテニューしてでもクリアしてやるうぅぅ!!」

 

「貴様程度では止められんさ!!」

 

フィーネがそう言い放った瞬間、地面を抉るように気分を害するほど彩られた巨大な塔が建造されていた。

 

なんだ、なんだ、これは!?

 

 

 



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第24話『ときよみ巫女』

黎斗は風鳴翼達を残して先陣を切るようにフィーネへと駆け出していき、チェーンソーモードのバグヴァイザーでフィーネの振り回す結晶の鞭を切り裂いて、前へ前へと歩みを止めることなく突き進んでいく。

 

「フイィィィネエェエェエ!!!」

 

「死に損ないの化け物が!!」

 

フィーネは黎斗の振り下ろしたバグヴァイザーを掴んで止め、突き刺すように結晶の鞭を黎斗の腹部と胸部に叩き付けながら瓦礫に向かって放り投げた。

 

「ハァ…ハァ……!貴様らは私の計画には邪魔なんだ!!あの方へと近付くためにッ!」

 

瓦礫を突き破って向かってくる黎斗を前にして自問自答を繰り返すフィーネの後ろには真っ赤なワイシャツを纏った男が立っていた。

 

「待ちな、了子…」

 

「まだ、その名で呼ぶか…ッ」

 

「ああ、何度でも呼んでやる」

 

忌々しいと口にするフィーネを無視するようにフィーネの眼前へと歩み寄り、見下ろす形で立ち塞がる。

 

「了子、櫻井了子…俺が惚れた女の名前だッ!!今からテメーを了子から引き剥がしてやる!!」

 

「くうぅぅっ…それだ!その分かったような顔が…私の邪魔をするんだ!!消えろ、消えてしまえ!お前など私の前から消え失せろおおぉぉ!!」

 

フィーネは錯乱したように結晶の鞭を振り落ろし、弦十郎の肩や脇腹を削り取る。だが、弦十郎はフィーネの攻撃を受け続けながらもライダーガシャットのスイッチを押し込んだ。

 

BEAT-UP-GROOVY(ビートアップ・グルーヴィー)!!!

 

「変身…!」

 

『ガシャット!!』

 

バグルドライバーのスロットにガシャットを差し込み。上部のスイッチを押し込んでファイティングポーズを取る。

 

『バグル・アップ!!』

 

俺の目の前にライダーの肖像を持つエネルギーパネルが現れる。

 

『ワン!!ツー!!ワン!!ツー!!』

 

『エンター・ザ・ハート!!!』

 

『ビートアップ・グルーヴィー!!!』

 

エネルギーパネルを突き通ると丈の長い外套をバグスターバックルで押さえ付けた真っ赤な装甲を纏う。その髪は怒髪したように逆立っており、両の拳にはガントレットらしき装甲が着いていた。

 

「俺の燃える魂で了子を助ける!!」

 

フィーネの振るう結晶の鞭を殴り潰しながらフィーネに向かって走り出す。

 

「死ね!死ね!!死ねえぇぇぇ!!!」

 

最早、形振りなど構わずに弦十郎を殺そうと十数本まで増やした結晶の鞭を弦十郎に叩き付ける。しかし、受け流しも回避もせずに殴り潰して進んでくる。自身の攻撃は効いていない、これほど恐怖することはない。幾ら強い攻撃を放とうと怯むことなく近付いてくるのだ。

 

バキャンッ!!という音と共に弦十郎の纏っていた頭部装甲の一部が砕け、仮面の奥では血の滴り落ちる中身が見えた。

 

「…了子……」

 

弦十郎はフィーネの眼前へと迫っていた。最早、打つ手なし。そんなことを考えながらフィーネは諦めたような表情を浮かべていたが、弦十郎は左腰のホルダーから取り出したゲームラベルや装飾の施されていないブランク状態のライダーガシャットをフィーネの左胸に突き刺した。

 

次の瞬間、フィーネの金色に染まっていた筈の髪が普段と変わらない茶色へと変わり、纏っていた装甲は機能停止したように色を失っていた。

 

「叔父様…一体なにを?」

 

「…綺乃君に聞かされた一種の大博打だ。黎斗君の行っていたガシャット製作からアイデアを得たそうだが…」

 

変身を解除した弦十郎の手には見知らぬ桃色のライダーガシャットが握られていた。

 

弦十郎はバグルドライバーにガシャットを差し込んでバグのような霧を噴出させた。黎斗は驚きながらも弦十郎の言っていた博打の意味を理解した。

 

TOKI-YOMI-MIKO-FINE(ときよみ巫女フィーネ)!!!

 

「な、なんだ…。なんだ、これは!?」

 

先程まで戦っていたフィーネは純白のスカプラリオを纏っており、その手には名称の無い真っ白な本を握っていた。

 

 

 





TOKI-YOMI-MIKO-FINE(ときよみ巫女フィーネ)

檀綺乃の助言を聞いて風鳴弦十郎の覚悟と共に作り出されたミステリーアクションホラーゲーム。数多くの時間を飛び越えて世界の危機を救っていき、世界を平和へと導くゲーム。エンディグはクリアされていないため不明である。


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第25話『平和な世界へと』

檀綺乃はリディアン音楽院の破損した校門を潜り抜け、そのまま校庭へと歩を進めていると櫻井了子に酷似した女と一糸纏わぬ姿の櫻井了子を抱き締める風鳴弦十郎が見えてきた。黎斗達は校庭の瓦礫や崩壊寸前の校舎の外へと生徒や教員を誘導していた。

 

十数分ほど到着に遅れていただけのはずなんだが、終わってしまうと呆気ないモノだな。そんなことを考えていると櫻井了子に酷似した女が詰め寄ってきた。

 

「貴様の、貴様のせいでえぇぇッ!!」

 

左腰に携えていた剣を引き抜いて斬り掛かろうとしてきた櫻井了子に酷似した女をバグルドライバーⅢで吸い取り、未だに目を覚まさない櫻井了子の顔を覗き込みながら心臓が停止していないかを確かめる。

 

…内側にも外側にも損傷は見当たらない。至って健康な肉体だが、眠るように気を失っているのは不自然だな。

 

「弦十郎、目覚めぬ姫を起こす方法を知っているか?」

 

そう言えばリディアン音楽院は女子校だったな。

 

私の問い掛けた、その言葉を聞いて興味深そうに風鳴弦十郎と櫻井了子に数百人の視線が集束されていき、束のようなモノへと変わっている。

 

「叔父様、チューです。櫻井女史とチューです」

 

「オジサン、チャンスだぜ!」

 

「が、頑張って下さい!」

 

「……アタシはさっさと帰りてぇんだよ……」

 

風鳴弦十郎を後押ししようとする四人と今後の恋愛シミュレーション系統の参考になると思ったのか。黎斗は風鳴弦十郎と櫻井了子の光景や動きをメモしようとしている。

 

ちょっとした優しさだ───。

 

風鳴弦十郎と櫻井了子のキスシーンを見ようとしていた生徒や教員、仮面ライダー達に目視出来ないように風鳴弦十郎に向かって「暗黒」のエナジーアイテムを放り投げる。暗がりの中で存分に愛しき女性の唇を堪能すると良い。

 

「「「「ええぇえええぇ!!!?」」」」

 

残念なことに見ることが出来なかった者達は驚きや悔しさを現すように大きな声で叫んでいた。音楽院の生徒とは言えど声を張り上げて叫べば喉を痛める可能性だってあるだろう…。

 

そこまで見たいものだったのか?

 

そんなことを考えていると九条から「GF部活」の世界配信を行う日に四人と緒川慎次を導入するという報告を受けた。

 

ふむ、数ヵ月ほど先になるな。

 

その前に黎斗達にも後押しを加えておくとしよう。

 

「黎斗、お前も覚悟を決めてはどうだ?」

 

「貴女は、私が覚悟を決めていないと?」

 

「ああ、何時まで好意を寄せている女性から視線を反らすつもりだ?」

 

「なんのことですか?」

 

本当にポーカーフェイスを極めようとしているな。だが、お前の後ろで射殺さんばかりに視線を向けている少女達には気を付けた方が良いぞ。下手を打てば刺されるかもしれないからな。

 

 

 



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ライダーバトル編
第26話『キョウリョクプレイ』


「GF部活」は全世界初配信を飾ることになった。日本屈指のゲーマー達とアメリカ最強のゲーマー姉妹「マリア・カデンツァヴナ・イヴ」と「セレナ・カデンツァヴナ・イヴ」と行われるゲームバトルの火蓋が切って落とされた。

 

「姉さん、そろそろ準備を…」

 

「いきなり過ぎるのよ…。私だってゲーム以外にも出来ることはあるのよ…」

 

お揃いのパーカーを着ているが、マリア・カデンツァヴナ・イヴはブツブツと呪詛のような言葉を呟いていた。しかし、セレナ・カデンツァヴナ・イヴは気にすることなく彼女の手を引っ張りながら風鳴翼達の待っている舞台へと登っていき、向かい合うように立っていた。

 

「ギャンブルゲーマー」

 

「レース―ゲーマー」

 

「アクションゲーマー」

 

「ファイターゲーマー」

 

スクリーンには投射された顔写真と共に得意としているゲームジャンルが映し出された。次の瞬間、半月以上も出現していなかった筈のノイズが観客席と舞台前の最前席に突如として現れた。

 

「はぁ…。セレナ、行くわよ?」

 

「うん、タイミングは姉さんに任せるね!」

 

セレナはホログラムのような粒子体へと変わり、マリアの身体へと吸い込まれた。その光景を見ていた風鳴翼や天羽奏、観客席や全世界の視聴者達は唖然としていた。

 

KNOCKOUT-FIGHTER-2(ノックアウトファイター・ツー)!!!』

 

ピンクとオレンジのライダーガシャットのスイッチを押し込んで腰に装着していたゲーマドライバーのスロットに差し込んだ。

 

『ガシャット!!』

 

レバーを引っ張るように開ける。

 

『ガッチャーン!!』

 

「変身!」

 

風鳴翼達の使う掛け声と同じだった。奏は「真似された!?」等と騒いでいるが、変身を邪魔しようとはしていなかった。

 

THE STRONGEST-FIST(ザ・ストロンゲスト・フィスト)!!』

 

"ROUND2″(ラウンドツー)!!ROCK&FIRE(ロックアンドファイア)!!』

 

マリアは身体の中心線から二つに分裂していき、ピンクとオレンジのホログラム体から仮面ライダーへと変身していた。

 

『姉と妹の拳!!家族の証!!』

 

『超キョウリョクプレイ!!』

 

『ノックアウトファイターツウゥゥゥ!!!』

 

ボクシンググローブのようなナックルを装着した檀黎斗や立花響とは色違いのピンク色のマイティアクションXと格闘家のような赤髪とシルバーボディの仮面ライダーが並ぶように立っていた。

 

「仮面ライダーエグゼイド・ノックアウトアクションゲーマーレベル39」

 

「仮面ライダーパラドクス・ノックアウトアクションゲーマーレベル39」

 

二人は左手と右手のナックルを叩き合わせ、会場中に散らばっていたノイズへと「挑発」を行いながら仮面越しにニヤリと笑っていた。

 

「超キョウリョクプレイで!」

 

「クリアしてあげるわ!」

 

 





KNOCKOUT-FIGHTER-2(ノックアウトファイター・ツー)

マリアとセレナの体内で結合したダブルガシャットの一種。ノックアウトファイターとマイティアクションXの二つの特性を継承している。



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第27話『日米ライダー対戦』

「挑発」の効果によって現れたノイズは豪雨のようにマリアとセレナへと注がれていき、その振るう剛拳にて一撃粉砕されていた。

 

風鳴翼と天羽奏は日本では仮面ライダーとして活動しているが、世界には知られていないのだ。

 

二人はギリッと歯を噛み合わせ、マリア達の凄まじい乱打殴打の攻撃を見ていることしか出来なかった。マリアとセレナはノイズをキメワザを使うことなく消し去り、舞台に立っていた風鳴翼と天羽奏へと拳を突き付けるように構えた。

 

「「日本の仮面ライダー、お前達にバトルを申し込む!我々の所有しているライダーガシャットとお前達の持っているライダーガシャットを賭けて真剣勝負だ!!」」

 

二人は宣戦布告とばかりに格好良く決めていたが、一人の男の逆鱗に触れてしまった。

 

『ライダーガシャットはゲームマスターである!!この私のみに所有権を許されたモノだあぁぁ!!お前達のような者達では私の天羽奏や風鳴翼には手も足も出ずに終わるだろぉ!!君達はライダーガシャットを置いて家にでも帰りたまえ!!ブゥエァーハッハッハッハッハッハッハッ!!!』

 

スクリーンに映し出されたのは檀黎斗であった。やはり、この男は場を乱す行為が多くなりつつある。

 

「とりあえず、その提案は受けてやるよ」

 

「ならば私も賛同しよう」

 

天羽奏の肯定の言葉に続き、風鳴翼も賛同すると答えた。つまり、日本の仮面ライダーVSアメリカの仮面ライダーによるバトルが行われるのだ。どちらが勝つのか、誰が最強の仮面ライダーなのか。

 

見てみたいと世界中の視聴者達の心は一つとなり、大喝采となってホール内に響き渡った。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

檀綺乃の部屋には白衣を纏ったフィーネが居座っており、その手には自身を主人公としたライダーガシャットを持っていた。

 

なにより調べていた未知のウィルスの正体は電子状のバグだと教えられ、自身も電子状のバグとなった事を告げられれば困惑もするだろう。

 

「…フィーネ・バグスターか……」

 

フィーネは自身の手を見ながら呟いていた。未だにゲームに登場するキャラクターと変貌したことに馴れていないのだ。しかし、世間では「フィーネさんグッズ」として老若男女から支持されている事には喩え様の無い高揚感を感じていた。

 

「檀綺乃、私の次作はまだなのか?」

 

「今現在、黎斗は風鳴翼達のゲーム配信に同行している。新たなゲームとしての企画が欲しければ黎斗に交渉すると良い」

 

「分かった。そうさせてもらう」

 

今のフィーネには「あの人」や「バラルの呪詛」を考えている余裕など在りはしない。何故ならば「バグスター」としての本能で「人間」達とゲームで遊びたくて仕方無いのだ。

 

 

 



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第28話『ライダー対戦まで』

アメリカ政府は日本へとライダーガシャット作成方法と日本の所持しているライダーガシャットとゲーマドライバー全ての譲渡を言ってきたと弦十郎と了子から聞かされた。二人は久々の休日をデートで楽しんでいたそうだが、報告書と仕事量に嘆いているそうだ。

 

しかし、元・我が社のゲーム技術を欲するとはアメリカ政府もノイズ対策の怠りを実感したのか。

 

そんなことを考えていると黎斗の直属秘書の清澄秋穂から新作ゲームのプロットと内容の書き記された書類がファックスで送られてきた。内容は『魔皇バットと従者達のお菓子争奪戦』というモノだった。

 

内容的にはソルティ伯爵をマイティの位置へと置き換えたような作品だな。ふむ、ゲーム内容としては及第点だな。だが、黎斗は他者のゲームプランを受け入れるとは思えない。

 

ノックしてから黎斗の部屋の扉を開ける。ぐったりとした天羽奏と風鳴翼の二人がゲーム画面を開いたまま気を失っていた。2日間も出てこないなとは思っていたが、夜通しでゲームをプレイしていたのか?

 

「ブゥエァーハッハッハッハッハッハッハッ!!!貴様等では私の作り上げたゲームを十全にして万全の常態で扱うことは出来んぞおぉぉぉ!!」

 

「クロト…うるせぇ……」

 

「黎斗君、声の音量を下げてぇ……」

 

「……ふぅ……私に構わずゲームを続行したまえ!刻一刻とライダー対戦まで時間は迫ってきてるんだぞ!」

 

そう言えば今週の日曜日午後9時ジャスト。日本とアメリカの中間地点に位置する海上にて大型客船を舞台として開始だったな。

 

対戦相手の降参や続行不可能を確認すれば勝利、ライダーゲージを消失してしまえばゲームオーバとなり。この世界から本当の意味で消えてしまう。

 

黎斗の見詰めているパソコン画面には『ガンバライド』と表示されていた。まさか、過去に語って聞かせた前世(むかし)の話の内容から予測と想像のみで造形しようとしているのか!?

 

黎斗の行動に驚きながらフォルムやゲーム内容の誤差を修正させつつ、限り無く本物に近いレジェンドライダーガシャットの第1作品『冒険野郎クウガ』を完成させた。

 

「天羽奏、これは君が使え…神からの恵みだ」

 

「うぇっ!?アタシが使って良いのかよ!?」

 

「むぅ…っ、奏だけなの?」

 

「案ずることはないいぃぃ!!神は区別などしない!!風鳴翼あァァ!!君にも最高のゲームを提供しよおぉぉぉぉ!!ブゥエァハァァ!!」

 

ふむ、黎斗は気紛れな性格だと思っていたが…。案外、ツンデレなのかもしれないな。その後も色々と修正やアイデアを交わしながら第2作品『太陽のアギト』『ミラーラビリンス龍騎』等を作っていき、立花響や雪音クリスにも提供すると小声で言っていた。

 

 

 



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第29話『GMと騎士』

超大型豪華客船「マキナビジョン」。その名前はアメリカ最大規模の、檀綺乃や檀黎斗の経営しているゲンムコーポレーションと双璧を成す世界屈指のゲーム会社の名前である。

 

操舵室では檀綺乃とアリーヤ・マキシマが肩を並べて「日本」と「アメリカ」より輩出された五名のライダー達を見下ろしていた。

 

「アリーヤ・マキシマ、君の考えている事は理解することは出来ない」

 

「私としては君のような人物こそ右腕となって欲しいんだがね…」

 

そんなことを話していると老年の女性が両開きの扉を押し開けて入室してきた。

 

席を譲るために椅子から立ち上がろうとした瞬間、目の前にソルティ・バグスターが現れた。まさか、ゲーマドライバーから摘出した情報とバグスターウィルスのみで構築させたのか。

 

「初めまして、私はソルティ・バグスター。マイティアクションXのラスボスです」

 

「ああ、知っている…。ソルティ・バグスター、君は檀黎斗の作ったゲームのキャラクターだからな」

 

「アリーヤ、貴女の考えでは…これも想定の内なのですね?」

 

「はい、その通りです。これは、このライダーバトルはノイズを根絶するために必要な行動なのです」

 

黎斗、私は動けそうにない。

 

すまない、手助けすることは出来なさそうだ。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

『第1回戦』

 

『両国の選手は』

 

『ステージへ上がって下さい』

 

黎斗はスポットライトに照らされたヘリポートへと上がり、反対方向から上がってくる白衣白髪眼鏡の男を睨み付けていた。理由は、その手に持っているライダーガシャットが自身の製作した物だからである。

 

「檀黎斗社長、僕の名前は『ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス』……気軽にウェル博士と呼んでくれて構いませんよ」

 

「そうか。一つ、訂正して貰おう。今の私は新ッ!!檀黎斗だあァァァ!!!」

 

二人は自分なりの挨拶を交わしながらライダーガシャットを取り出し、ライダーガシャットのスイッチを押し込んだ。

 

MIGHTY-ACTION-X(マイティアクション・エックス)!!!

 

TADDLE-QUEST(タドルクエスト)!!!

 

「グレード0」

 

「術式レベル2」

 

「「変身!」」

 

『ガシャット!!』

 

ライダーガシャットをゲーマドライバーのスロットへと差し込みながらレバーを引っ張るように開けた。

 

『ガッチャーン!!』

 

軽快な音声と共に自身の変身するライダーパネルを弾き、二人は目の前に現れたエネルギーパネルを通り抜けた。

 

『レベルアップ!!』

 

『マイティジャンプ!!!』

 

『マイティキック!!!』

 

『マイティアクション!!!』

 

『エェェェックス!!!』

 

檀黎斗は仮面ライダーゲンム・アクションゲーマーレベル0へと変身を遂げた。

 

『タドルメグル!!』

 

『タドルメグル!!』

 

『タドルクエスト!!』

 

ウェル博士は仮面ライダーブレイブ・クエストゲーマーレベル2へと変身を遂げた。

 

 

 

 





TADDLE-QUEST(タドルクエスト)

檀黎斗の作成した剣と魔法のステージとしたロールプレイングゲーム。あらゆる魔物を炎と氷の聖剣で斬り伏せるファンタジーゲーム。エンディングは魔王を討伐してお姫様と世界平和の旅に出ること。


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第30話『不死身の遺物』

ゲンムの振るうガシャコンブレイカーとブレイブの振るうガシャコンソードは刃を交える毎に火花を散らしており、その衝撃によって二人のライダーゲージは僅かながら削れていた。

 

「ヌウゥオオォアアァアァアァ!!!!」

 

「ハアァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

ゲンムとブレイブは鏡合わせのように左肩と右肩に刃を叩き付け、強引に刃を通すために身体を押し付け合いながら睨み合っていた。

 

「ブゥエァハァァ!!」

 

「づぁか!!?」

 

ゲンムは身体を仰け反らせ、そのまま体勢を戻す反動を利用してブレイブの顔面へと頭突きを叩き込んだ。

 

ブレイブは顔を押さえつつも後ずさることはせず、負けるものかとゲンムにショルダータックルを打ち込んで倒れた所を狙うようにガシャコンソードをヘリポートの地面へと突き刺した瞬間、ガシャコンソードから放たれた炎は地面を走ったが、ゲンムはガシャコンブレイカーの刃で僅かにガシャコンソードを脇の間に反らしていた。

 

ゲンムはブレイブの股内を潜り抜けていき、左足をガシャコンブレイカー・ハンマーモードで殴り付けて転ばせた。

 

「流石ですね…。やはり、レベル2では貴方に勝つことは出来そうにない」

 

「まさか、複数のガシャットを所持しているのか!?」

 

「まあ、そういうことになりますね」

 

ブレイブは左腰の見知らぬ白色のライダーガシャットをゲンムに見せ付けるように取り出した。

 

「術式レベル50」

 

TADDLE-LEGACY(タドルレガシー)!!!

 

ライダーガシャットをゲーマドライバーのスロットへと差し込み。レバーを戻して先程と同じようにレバーを引っ張るように開けた。

 

『アガッチャ!!』

 

『辿り着いた世界!!!』

 

『神々のレガシー!!!』

 

浮遊してきた純白の甲冑を装着するとフランベルジュのような長剣とガシャコンソードを交差するように構えていた。

 

「仮面ライダーブレイブ・クエストレガシーゲーマーレベル50!!」

 

「ブェアハァァ!!ブゥエァハァァ!!ブゥエァーハッハッハッハッハッハッハッ!!!それならばうぅぅわぁたしぃぃもぉぉ!!レベルアップしてやろおぉぉ!!」

 

DANGEROUS-ZOMBIE(デンジャラスゾンビ)!!!

 

ゲンムはブレイブの取り出したガシャットと同色のライダーガシャットを取り出した。しかし、そのガシャットのゲーム内容は真逆だった。

 

ライダーガシャットをゲーマドライバーのスロットへと差し込んでレバーを引っ張るように開けて構えた。

 

『アガッチャ!!』

 

『デンジャー!!デンジャー!!』

 

『デス・ザ・クライシス!!』

 

『デンジャラスゾンビ!!』 

 

エネルギーパネルを突き破り、現れたのは魑魅魍魎を体現したような悪しき魔物のような造形だった。正しく騎士と不死身の化け物の戦いである。

 

 

 





TADDLE-LEGACY(タドルレガシー)

ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスが独自で作成した純白の甲冑を纏った英雄の世界の遺物を辿って巡り、神々の世界へと到達して邪神を葬るロールプレイングゲーム。エンディングは未発売品のため不明である。


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第31話『四拳双姫』

ゲンムはブレイブの振るう双剣をガシャコンブレイカーで受け止め、バグヴァイザー・ビームガンモードをブレイブの纏う甲冑に押し付けながら放った。

 

ブレイブの身体から断続的に火花が飛び散り、フランベルセイバーで切り裂かれたゲンムの身体からも火花が飛び散った。

 

「ぐっ、がぁ!?」

 

「グボァ?!」

 

ゲンムとブレイブはゴロゴロとヘリポートを転がりながら立ち上がろうとした瞬間、ブザーアラートが超大型豪華客船に鳴り響いていた。

 

両者共に「場外負け」という判定だった───。

 

なんとも言えない「引き分け」という判定になってしまった。ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスは満足そうに笑っており、檀黎斗は不本意と言わんばかりだが。

 

二人はゲーマドライバーからライダーガシャットを引き抜いて変身を解除していた。ヘリポートから降りてきた両国の選手は自身の陣営へと帰っていき、それなりの謝罪と次の選手への激励を送っていた。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

『第2回戦』

 

『両国の選手は』

 

『ステージへ上がって下さい』

 

スピーカー越しに聞こえてきた電子音声に従って立花響とセレナ・カデンツァヴナ・イヴはヘリポートに上がっていき、相手の間合いには踏み込まない程度の距離で立ち止まった。

 

「知ってると思いますけど。セレナ・カデンツァヴナ・イヴ、仮面ライダーパラドクスです」

 

「はい、セレナさんの事は知ってます!私は立花響、仮面ライダーピュージです!」

 

二人はガシャットギアデュアルを取り出すと左右反対にダイアルを捻り、突き付けるようにガシャットギアデュアルのスイッチを押し込んだ。

 

KNOCK-OUT-FIGHTER(ノックアウト・ファイター)!!!

 

THE-STRONGEST-FIST(ザ・ストロンゲスト・フィスト)!!』

 

″ROUND1″(ラウンド・ワン)ROCK&FIRE(ロックアンドファイア)!!』

 

セレナ・カデンツァヴナ・イヴは響き渡る待機音声と共にガシャットギアデュアルをギアホルダーへと装填した。

 

「大変身」

 

EXPLOSION-HIT(エクスプロージョン・ヒット)!!』

 

KNOCK-OUT-FIGHTER(ノックアウト・ファイター)!!』

 

右側から現れたボクサーのようなライダーの肖像が映し出されたエネルギーパネルを通り抜け、仮面ライダーパラドクス・ファイターゲーマーレベル50へと変身を遂げた。

 

KAMI-YARI-SAVIOR(神槍セイヴァー)!!!

 

「大変身!」

 

Have a cow(ハヴァ・カウ)!!Odin(オーディン)!!』

 

Hang in there(ハング・イン・ゼァ)!! Gangneal(ガングニール)!!』

 

KAMI-YARI-SAVIOR(神槍セイヴァー)!!』

 

立花響は左側から右側にエネルギーパネルが突き抜けていき、マイティアクションの上にスパルタクスみたいな甲冑を纏った形態に変化した。二人はガシャコンガントレットとガシャコンナックルを装着しており、ゴリ押しを極めたようなスタイルだった。

 

 

 





KNOCK-OUT-FIGHTER(ノックアウト・ファイター)

檀黎斗の作成した格闘対戦型アクションゲーム。相手をブッ潰すまで終わらないゲームであり、武器と呼べる物はグローブだけで武器使用は反則行為となる。エンディングは最強の格闘家になること。


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第32話『覚悟の魂』

セレナは特定のリズムを刻むようにステップを繰り返しており、立花響は口元を隠すように構えた体勢から身体を左右に揺すっていた。

 

「シィッ!!」

 

沈黙を掻き消すようにセレナの放った左ジャブは立花響の右の顳顬を掠めたが、立花響は引き戻されるセレナの左手と同時にセレナの懐へと潜り込み。

 

「ハァッ!!」

 

折り畳まれた右腕を押し潰すように肝臓打ち(リバーブロー)を放ち、足首を深く捻り込んで左拳を弧を描くように放った。…だが、セレナのステップバックの方が速かったのか。立花響の放った左フックは虚空を切り裂いており、先程と同じように間合いが広がっていた。

 

立花響とセレナの二人はジリジリと相手への距離を詰めていき、鏡合わせのようにジャブを放ちながらサークルを作るように左右のフックを叩き込んだ。

 

「「オオォォォォォォォォォォッ!!!」」

 

二人は上げていた踵をヘリポートにピッタリと押し付け、左右の拳を相手よりも速く叩き込むようにラッシュを打ち込んだ。腹部を打たれれば則頭部を殴り、顔面を殴られれば腹部を殴り潰し、二人はヘリポート中央で殴り合っていた。乱打殴打を重ねる毎、二人から闘志が噴き出していた。

 

ラッシュの始まりの時と同じようにサークルを作るようにフックを叩き込んだ瞬間、パワーもスピードも同じだった筈なのに立花響の両足がガクガクと鑪を踏むように震えて───否、立花響だけではなかった。

 

セレナの両足も立花響と同様にガクガクと痙攣したように震えていたのだ。

 

ガクンッと立花響の身体が前のめりに倒れそうになった瞬間、最後の踏ん張りと言わんばかりにセレナは右拳を見上げようとしていた立花響の左頬に打ち下ろした。

 

立花響はヘリポートを弾けるように転がり、キーーンという耳鳴りとぐにゃぐにゃと歪んでいる視界の端に叫んでいる天羽奏達が見えた。立花響は朦朧とする意識を気合いで留めつつ、ブルブルと震える拳をヘリポートに叩き付けながら立ち上がる。

 

フゥーーッ、フゥーーッ

 

立花響は、両の腕を持ち上げると口元を隠すように構えた。セレナは立花響に対して喩え様の無い恐怖を感じていた。

 

……いや、彼女は知っている。

 

古来より日本伝統と呼ばれてきたモノノフ達の魂を支えてきたもの。それは不確定な存在だが、実在していると言えるようなシロモノ。

 

───『大和魂』───

 

セレナは理解した。理解してしまった。これはゲーム越しの戦い(あそび)ではない。命を賭して自軍へと勝利を捧げようとしているのだ。

 

立花響はガシャットギアデュアル・ガンマを引き抜いてダイアルを正位置に戻し、神槍セイヴァーへと戻した。セレナも同様にガシャットギアデュアルを引き抜いてダイアルを正位置に戻し、ノックアウトファイターへと戻した。

 

『キメワザ!!!』

 

二人は震える手を押さえ付け、ガシャットギアデュアルをギアホルダーへと差し込んだ。

 

『神槍!!』

 

『ノックアウト!!』

 

立花響は右拳にエネルギーを集束させ、セレナは左拳にエネルギーを集束させた。

 

『『クリティカル!!!』』

 

「「ハアァァァァァァァァッ!!!」」

 

二人は踏み込みと同時に突き刺すように左右の拳を相手へと叩き付けた。二人の拳はエネルギーエフェクトを迸らせながら衝突した。

 

ヘリポートにはぶつかり合う衝撃で生まれた亀裂が刻まれていく最中、僅かに超大型豪華客船が波で揺れた。

 

『スマイト!!!』

 

ガゴォンッ!!という音と共にセレナは甲板の転落防止用の鉄柵に叩き付けられた。

 

『渾身の一撃!!!』

 

キメワザの決まった時の音と共にブザーアラートが超大型豪華客船に鳴り響いていた。

 

 



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第33話『速撃ち対決』

立花響は変身を解除すると黎斗達の待っている観戦席へと戻っていき、黎斗の羽織っていた黒色の外套とガーゼや包帯を巻かれて天羽奏と風鳴翼に強引に寝かされた。

 

「お前、無茶し過ぎだろ?」

 

「あ、あはは……ごめんね?」

 

「まあ、お前は寝転びながら銃使いの試合でも見てろよ」

 

雪音クリスはライダーガシャットをクルクルと回転させながらヘリポートへと上がり、反対側から上がってきたピンク色のパーカーを着込んだ少女と対峙していた。

 

「雪音クリス」

 

「暁切歌デス」

 

二人は自分の名前だけを教えるとライダーガシャットを相手の顔に突き付けながらスイッチを押し込んだ。

 

REVENGE-GUNNERS(リベンジ・ガンナーズ)!!!

 

BANG-BANG-SHOOTING(バンバンシューティング)!!!

 

二人の持つライダーガシャットは同系統『シューティング』ゲームである。

 

「「変身」」

 

『ガシャット!!』

 

ライダーガシャットをゲーマドライバーのスロットに差し込んでレバーを引っ張るように開ける。

 

『レベル・アップ!!』

 

一瞬にしてゆるキャラボディが弾け飛んだ。

 

『ガガンガン!!ガンガガン!!』

 

『ババンバン!!バンババン!!』

 

『リベンジ・ガンナーズ!!』

 

『バンバンシューティング!!』

 

二人の身体はしっかりとした人間の体型の仮面ライダーへと変身を遂げた。雪音クリスの手にはガシャコンハンドガンが握られており、暁切歌の手にはガシャコンマグナムが握られていた。

 

銃使い(ガンマン)は撃ち合わない」

 

二人は背中を合わせた。

 

銃使い(ガンマン)は誰よりも速い」

 

二人は一歩ずつ離れるように歩き出した。

 

銃使い(ガンマン)は誰よりも熱い」

 

二人は離れるように五歩目を踏み出した。

 

銃使い(ガンマン)は孤高な存在だ」

 

二人は離れるように七歩目を踏み出した。

 

銃使い(ガンマン)は孤独な存在だ」

 

二人は離れるように九歩目を踏み出した。

 

「「銃使い(ガンマン)は大胆不敵に」」

 

二人は離れるように十歩目を踏み出した。

 

二人は振り返るなり構えていたガシャコンハンドガンとガシャコンマグナムの銃爪を引いた。二人の持つガシャコンウェポンから響き渡る炸裂音と共にエネルギー弾が放たれた。

 

雪音クリスの側頭部に白煙が出ていたが僅かに暁切歌の放ったエネルギー弾が反れており、暁切歌の右肩にも白煙が出ていた。二人の左胸に刻まれたライダーゲージは同じ量だけ減っている。

 

「「審判、(アタシ)の敗北を認める」」

 

二人はライダーガシャットをスロットから引き抜きながら宣言した。二人の銃使い以外は困惑していた。完全には被弾していないのに敗けを認める理由はなんだ?等と考えているのだろう。

 

「最高の銃使いはな」

 

「二発目を撃たない」

 

「「撃つのは一発だけ」」

 

 

 



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第34話『最強のゲーム』

なんとも言えない決着だったが、雪音クリスと交代してヘリポートと上がったのは風鳴翼だ。アメリカ陣営からはピンク色のパーカーを纏ったツインテイルが特徴的な女の子だった。

 

「私こそ最速の走り屋です」

 

「私より速い走り屋などいない」

 

二人はライダーガシャットを取り出すとガシャットを一回転させながらスイッチを押し込んだ。

 

TOTSUGEK-BIKE(突撃バイク)!!!

 

BAKUSOU-BIKE(爆走バイク)!!!

 

『ガシャット!!』

 

ライダーガシャットをゲーマドライバーへと装填するとレバーを引っ張るように開け、夕焼けの空へと飛び上がった。

 

『レベル・アップ!!』

 

二人のゆるキャラボディは弾け飛び、

 

『突撃!!急撃!!速撃!!進撃!!』

 

『突撃バイク!!』

 

『爆走!!独走!!激走!!暴走!!』

 

『爆走バイク!!』

 

自動二輪車へと変身した瞬間、ブザーアラートが超大型豪華客船に鳴り響いていた。

 

「「え?」」

 

『当船での乗物持ち込み』

 

『反則行為に該当します』

 

『風鳴翼と月読調は反則負けです』

 

流石の両国の選手も引き吊った笑みを浮かべるしか出来なかった。

 

あんなに格好良くセリフを決めていたのに反則負けで終わるとは思わなかったのだろう。両国の選手が集まっている甲板はどんよりとした空気に満ちていた。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

風鳴翼と月読調は肩を並べて甲板の隅っこで体育座りで縮こまっていた。それほどまでに反則負けという理由が堪えたのだろう。

 

「あぁ~ッ、天羽奏だ」

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴよ…」

 

「まあ、その、なんだ?」

 

「なによ、ハッキリと言いなさいよ」

 

「まあ、とりあえず死ぬなよ?」

 

天羽奏は言い難そうにポリポリと頬を人差し指で掻いており、マリアはムスッとした表情を浮かべながらゲーマドライバーとライダーガシャットを持っている。天羽奏は見知らぬライダーガシャットを取り出してマリアへと見せた。

 

GANBARIZING(ガンバライジング)!!!

 

天羽奏はライダーガシャットのスイッチを押し込んでゲーマドライバーのスロットに差し込んだ。

 

『レッツライド!!メッチャライド!!』

 

『ムッチャライド!!ワッチャライド!?』

 

『アイム・ア・レジェンドライダー!!』

 

軽快な電子音声は流れたが、天羽奏は変身していなかった。

 

MIGHTY-ACTION-X(マイティアクション・エックス)!!!

 

マリアは怪訝そうな表情を浮かべながらライダーガシャットのスイッチを押し込んでゲーマドライバーへと差し込んだ。

 

 

 



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第35話『最強のゲーマー』

『ガッチャーン!!』

 

ガシャットをゲーマドライバーのスロットに差し込んでレバーを引っ張るように開ける。

 

『レベル・アップ!!』

 

マリアの纏っていたゆるキャラボディは弾け飛ぶとピンク色の、マイティが夜空を飛んでいた。

 

『マイティジャンプ!!』

 

『マイティキック!!』

 

『マイティアクション!!』

 

『エェェェックス!!』

 

マリアはヘリポートに着地するとライダーへと変身していない天羽奏への攻撃を躊躇っていた。非武装と言うよりも武器を構えていないのだ。攻撃していいのか、攻撃してはいけないのか。分からないのである。

 

『キメワザ!!』

 

天羽奏はライダーガシャットをドライバーから引き抜くとキメワザスロットへと差し込んだ。マリアは生身で必殺技を使うつもり!?等と止めようとしたが、天羽奏はキメワザスロットのスイッチを連続で押し込んだ。

 

『冒険野郎!!』

『太陽の!!』

『ミラーラビリンス!!』

『モシモシ!!』

『キング・オブ・ポーカー!!』

『太鼓マスター!!』

『昆虫大戦争!!』

『時空特急!!』

『ドキドキ魔界城!!』

『バーコードウォリアー!!』

『名探偵!!』

『ジャングル!!』

『スペースギャラクシー!!』

『マジック・ザ!!』

『刀剣伝!!』

『フルスロットル!!』

『カイガン!!』

 

天羽奏の背後から黄金の波紋が広がっていき、檀黎斗を除いた超大型豪華客船に乗ったいた客員は嫌な予感を思い浮かべてしまった。

 

『クリティカル!!』

 

「えっ、ちょ、ま、えぇえぇええぇ!?!」

 

『フィニッシュ!!』

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴの情けない悲鳴と共に黄金の波紋を突き破って十七名の仮面ライダーによる必殺技がマリア・カデンツァヴナ・イヴへと降り注いでいき、途中から悲鳴すら上げていなかった。

 

『レッツゴー!!ライダー!!』

 

天羽奏は申し訳なさそうな表情を浮かべており、辛うじてライダーゲージの残っていたマリアは真っ白なハンカチを持ち上げて「降参します」と示していた。

 

「ブゥエァーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!うぅわたしのおぉぉ!!考えたぁぁ!!ゲェェェェムこそおぉぉ!!至高にして最高のゲェェェェムだあぁぁぉぁぁぁ!!!」

 

黎斗は勝者宣言を受けている天羽奏を抱き上げ、グルグルとその場で回転し始めた。なんとも言えない勝利だが、ゲンムコーポレーションの意地を見せたという事なのだろう。

 

黎斗に抱き上げられている天羽奏は勝ったことよりも黎斗に抱き上げられている事に喜んでいた。

 

風鳴翼は、それを羨ましそうに見ていた。雪音クリスは呆れたような表情を浮かべており、立花響も苦笑いを浮かべていた。

 

 



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第36話『ゲムデウス』

檀綺乃は天羽奏の放ったキメワザを知っていたため驚いていなかったが、アリーヤ・マキシマと老年の女性は顎が外れんばかりに口を開いて驚愕していた。当然と言えば当然の反応だ。

 

檀綺乃は驚愕している二人の目を盗んでバグルドライバーⅡをソルティ・バグスターへと向けてドライバーの中へとソルティを吸収して二人から飛び退くように離れた。

 

「アリーヤ・マキシマ。君の野望は潰えた」

 

「ぐうぅぅっ」

 

「さあ、君達の持っているライダーガシャットを渡して貰おうか?」

 

「致し方無いッ!!」

 

アリーヤ・マキシマはバグルドライバーに酷似したドライバーを自身の胸に押し付け、ドライバー内に充満していたバグスターウィルスを浴びせるように流し込んだ。

 

「マキシマ、そんなことをすれば!?」

 

「フフッ、フフフッ、どうかね?最強のバグスターと対峙した感想は?」

 

アリーヤ・マキシマの姿は仮面ライダークロニクルのラスボスとして考案されていた『ゲムデウス』と瓜二つだった。違うとすれば色が赤いというところだろうか。檀綺乃は老年の女性を抱き上げてゲムデウスから離れるために両開きの扉を蹴破った。

 

「彼女は…アリーヤは…どうなるんですか?」

 

「彼女は…仮面ライダー達の手で攻略されなければ助かる見込みは無いに等しい」

 

「…そんな…」

 

青ざめる老年の女性を抱えながら甲板に飛び降りて黎斗達の元へと向かう途中、バグスター化した船員達と擦れ違いながらも攻撃へと行動を移すことは出来なかった。

 

檀綺乃の持つバグルドライバーⅡにはバグスターウィルス切除機能は搭載されていないのだ。切除機能を持つのは黎斗達の使用しているゲーマドライバーだけである。

 

この騒動に気付いていたのか。黎斗達は防御力の高いレベル1フォームで一塊になっていた。

 

「黎斗、彼等を!」

 

「ブウゥゥゥン!!!」

 

黎斗は奇声と共にバグスター化した船員を殴り飛ばしていき、彼等の体内に充満していたバグスターウィルスを沈静化及び除去した。

 

「おば様、お怪我は!?」

 

「私は平気だ。それよりも彼女を頼む」

 

「「マム!?」」

 

暁切歌と月読調は老年の女性へと駆け寄っていき、必死に呼び掛けている。彼女は死んでいる訳ではない。ちょっとしたショックで気を失っているだけだ。彼女達を見回すと負傷している者が居る。

 

立花響、セレナ・カデンツァヴナ・イヴ、マリア・カデンツァヴナ・イヴの三人だ。激しい戦闘を繰り広げていたからな。

 

「アタシは戦略的撤退を提案する」

 

「私も撤退には賛成します」

 

雪音クリスと月読調は撤退することを提案してきた。しかし、この状況では撤退することすら不可能に近いぞ?なにか、窮地を脱する手はないか?

 

 

 



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第37話『束の間の』

ライダーバトルから二日ほど経過した頃。マキナビジョンではアリーヤ・マキシマの引き起こした未知のウィルス事件について暴動のような騒ぎが起こっていた。

 

日本でもアメリカと同様の事件が起こっている。

 

この事件は世間では「ゼロデイ」と呼ばれており、テレビやラジオでは凡そ二千人以上の人間が消滅したと発表されている。

 

ゲムデウスを倒すためには人材を要するな。日米合同では足りない、レベルも上げなければダメだな。

 

「ブゥエァーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!完成したぞぉぉぉ!!タドルレガシーレベル100だあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「さ、流石に二徹はキツいですね…」

 

「ウェルウゥゥゥゥ!!君のぉぉおぉ!!ライダーガシャットとのおぉぉ相性は抜群だぁぁぁ!!!」

 

「分かりました、分かりましたから!寝かせてくださいよ!?」

 

黎斗の隣では皺だらけの白衣と真っ黒な隈の出来たウェル博士が眠ることを黎斗へと懇願していた。

 

ボロボロのセレナ・カデンツァヴナ・イヴとマリア・カデンツァヴナ・イヴは客室で絶対安静の状態を維持するために眠っており、暁切歌と月読調はテレビゲームに集中している。

 

老年の女性───ナスターシャ教授はフィーネと話し合っている。時折、二人の方から笑い声が聞こえてくる。だが、アリーヤ・マキシマの事を話している時は重苦しい空気に満ちてしまう。

 

あの女は、私や黎斗のゲームを利用したんだ。それ相応の罰を与えるつもりだ。

 

私も仮面ライダー達にライダーガシャットを贈呈するとしよう。しかし、彼女達の性能を継承することが可能なゲームなど片手で数えるほどしか存在しない。

 

公式設定では「ゲムデウス」を倒せるのは「クロノス」だけだ。

 

今現在、クロノスに変身することが可能なのは私だけだ。黎斗や弦十郎達が変身出来たとして十数秒が限界だと言えるな。

 

「母さん、このガシャットを」

 

黎斗の渡してきたガシャットのゲームロゴラベルを確認する。

 

「ドクターマイティ?」

 

たしか、仮面ライダーエグゼイド原作では「九条貴利矢と檀黎斗」が作成したゲムデウス専用ワクチンだったか?感染していない筈なのに、作成することに成功しているんだ?

 

「これはアリーヤ・マキシマの放っていたバグスターウィルスを採集して作ったモノです。そして、このガシャットには抑制と沈静が付与されており、使用すればゲムデウス対抗薬として…!!」

 

黎斗の長々としたライダーガシャットの説明を聞きつつ、対策として九条と緒川にバグスター化した一般人の拘束とバグスター切除手術を許可する。出来ることならば無事に終わらせてくれることを願おう。

 

 

 

 



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