血で雪ぐ (夜ノ 朱)
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第一話

狭く、暗い部屋にベットが一つ、部屋にいるのは二人。

 

一人はベットに横たわり、一人は隣に佇んでいた。

 

横たわる人物の顔には白い布が被されており、佇む人物は横たわる人物の右手がある位置に自分の右手を重ねる。

 

「行ってくるよ、ばあちゃん。」

 

 

人物は部屋の扉の前に立ち

静かに微笑み、狭い室内に火を放った。

 

 

放たれた火は室内に仕掛けていた爆薬に引火し、一気に爆破し燃え上がる。

 

火をつけた人物は振り返ることなく歩き出した。

 

 

__________________________

 

なあ、お客さん…」

 

ふいに声を掛けられ視線を運転手へと移す。

 

「今って、1月4日の22時27分であってっか?」

 

運転手はカーステレオに表記されている時間に目を向け、その後ルームミラーで視線をこっちに向けて訊ねる。

 

「あってるよ。この時計がズレてなければね」

 

手元にある携帯電話に視線を戻し答える

 

「だったらいいだ

この時計、よくおかしくなるもんだからよ」

 

運転手は笑いながら視線を前方に戻す

 

「おかしかしくなるなら、さっさと新しいのを買いなおした方がいいのに」

 

小言で零すが、狭い車内ではそれくらいで十分だった様で笑いながら運転手は続けていく。

 

「買いなおせるくらいに儲けてるんだったらいいだけどよ、そんな簡単にいかねぇだよ

それに、おめぇさんの様な辛気くせぇ相手にも会話の種になるからよ」

 

辛気臭いは余計だと無言を返答にした。

 

「この雨も随分となげぇことふってるだな」

 

確かにこの時期に降る雨にしてはだいぶ長いこと降っていた。

それでも雨が嫌いというわけでは無いので、ここでも無言を貫くことにした。

 

「まあ、人それぞれだけれどよ…

……そういや おめぇさん、名前はなんてーんだ?」

 

「キナコ・ヘルマト」

 

「ふぅん、キナコか

キナコって名前、気に入ってるだか?」

 

「たった一人の家族だった祖母がくれた名だ。気に入ってるかどうかのレベルではないよ」

 

「まあ、そんなふけぇ理由があるってんなら、何も言うこたぁねぇな

オンナらしい名前だな!」

 

「見た目だけで判断するのは愚か者がすることだよ」

 

再び零した言葉は雨音にかき消されていった

それからしばらくは、運転手の言葉を聞き流していくだけだった

 

 

「ところでここまで走ってきちまってなんだけど、これから行くのって

…どこだったっけ??」

 

…この運転手は相当年齢を重ねているのか、それとも?

 

「…ドーレ港だ。私はドーレ港に行きたいんだ。」

 

「へへっ、ジョークだべ、ジョーク!

あまりにも辛気くせぇ面してるもんだから揶揄っちまったんだ!

 

それはそうと、キナコよ

ドーレ港には何しに行くだ?」

 

「関係ないだろう?

別に私が何をしようと、一介の運転手に話す義理はないよ」

 

そこまで言い終えると運転手の雰囲気が変わる感じがした

 

「あぁ、それが一介の運転手なら ばな。

おめぇさん、大方ハンター試験かそこらだろ?」

 

出来る限り気を乱さず、動揺を気付かれないように平然を装いつつ警戒を強める

 

「その反応を見ればハンター試験の受験者らしいな、どうしてハンターになりてぇだか?」

 

最初こそ変貌した雰囲気と発言に驚きこそしたが、その後は今まで通りの口調に戻ったことにより、警戒を緩めた。

 

「もっともらしいことをついて、その質問を回避することは容易いよ。しかし、偽証は恥ずべき行為だと祖母に教えられていてね。

だから、その質問に答えることは出来ない。しいて言うなら答えたくない。」

 

そこまで答えると、運転手はウインカーランプを焚き、路肩に車止める。

今度は視線だけでなく身体ごと後方を向き、私と向かい合った

 

「…ほぉ、そーかい。なら今すぐ車から降りな

おめぇさんは失格ってことを審査委員会に報告しておいてやるべ」

 

「どういうことなんだ?」

 

「わかんねぇのか?ハンター試験はとっくに始まってんだよ」

 

「…。」

 

運転手の言葉に小さく驚く。

そんな私をよそに、小さくため息を吐いて、運転手は説明を始めた。

 

「ハンターの資格を取りたい奴らはこの世界を走るタクシーの数より多くいる。

そいつら全員を審査できるだけの試験場も審査員の余裕も時間もねぇ。

そこで、オラ達みてぇな一般人も雇われちまって受験者をふるいにかけていくのさ。既に午前中にも脱落者として報告してる奴等もいる。別のタクシーを使ったとしても、もう門前払いされるほかねぇ」

 

ところどころでタクシーネタを入れてくる説明だったが、重要な部分は聞き取れた。

だからこそ、眉間にしわを寄せて唸ることしかできなかった。

 

「つまり、おめぇさんが本試験を受けれるかどうかはオラの気分次第ってことだ。

よーく考えて、オラの質問に答えるんだな。で、答えるか降りるかだな」

 

「私は流星街の出身だ。」

 

運転手は僅かに目を見開くが、何も言わずに次を催促した。

 

「10年前だ。元プロハンターだった祖母のライセンスが、私のせいで盗賊団に奪われた。その盗賊団を見つけ出し、贖罪させること。

そして、ライセンスを取り戻し穢された祖母の汚名をそそぐためだ。」

 

運転手は何も言わずに、前方を向きなおしウインカーを焚き直し発進した。

 

「盗賊団について何か知ってるだか?」

 

「何も知らない。私はすぐに気絶して、気付いたときはライセンスがなくなっていた。」

 

「ライセンスは既に売られているんじゃないのか?

運よくその盗賊団を見つけ出したとしても、ライセンスはもう…」

 

「必ず見つけ出す。

その為の10年だった。これまでもこれからも…だ」

 

「…となれば、賞金首ハンター志望か。

ランク次第じゃ熟練ハンターでも迂闊には手を出せねぇと聞く。無駄死にすることに「私には関係ない!熟練がどうとか相手がどうとか、そういうことに左右される私ではない!必ず見つけ出す!」…。」

 

運転手は言葉を失い、無言でルームミラーを使い此方に視線を向けていた

 

「すまない、ムキになってしまった。」

 

「いや、こっちにも比があった。」

 

再び車内を静寂が支配し、外の雨音とエンジンの鼓動だけが響いていた。

 

静寂を切り裂いたのは、キナコの方だった。

 

 

「私はまだ、話していないことが…」

 

「そろそろ、ドーレ港に着くだよ。

おっ いつの間にか雨も上がり始めたみたいだべ」

 

話を被せるように運転手は声を張り上げ、口調を最初の時のように戻し、車を路肩に止めた

 

ドアが独りでに開き、運転手も外に出た。

運転手に続き、私も荷物を片手にタクシーから降りる。

 

「さあて、ようやく着いただよ。

ここがドーレ港だべ、詳しいことは全部自分で探してくんろ。なあにそれも試験の一環だよ」

 

「ということは、私は…まだ」

 

「あぁ、合格だ。オラは質問に答えろ。あとはオラの気分次第だと言っただよ。

それじゃあ、気合入れていけよ

キナコ!」

 

その後、運転手は私に一言残し、客がオラを呼んでいる。と叫びその場から離れていた。

 

 

 



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第二話

主人公の描写を入れ忘れていたのでこの場を借りましてご紹介をば

キナコ・ヘルマト
18歳 O型
深い青い髪を腰まで伸ばし、肩の辺りで紐を使い纏めている。青緑色の瞳。
紺色のスーツ姿で、黒色のジャケットを羽織っており、一本の小太刀を腰に差している。
中世的な顔立ちをしているが性別は女。本人は男に見られたら女だといい、女に見られたら男だと言い張る天の邪鬼な性格をしている。
AカップよりのBカップな為、下着の類は身に着けずサラシを巻いている。


小さくなっていくタクシーを見送りながら、運転手の言葉を思い出す。

 

『ザバン市を目指しな。そこに数百人規模で人が集う美味しい定食屋がある、今度会ったらそこで飯でも食わせてやっからよ』

 

ザバン市か。

確かここから直通のバスが出ていた筈だがバス停の方に視線を向けてみれば、人。人。人。

バスが来たとしても全員が乗れそうではない。それに、

 

「なあ、聞いたか?ザバン市行のバスはどれも、ザバン市まで着いてないらしいぞ」

 

「まじか!なら、どうすればいいんだよ」

 

…バス停の行列に並ぶ青年らの話を盗み聞きした限りでは、バスでの移動は難しいらしい。

 

 

腹ごしらえを兼ねてどこかパソコン喫茶に入る。席に座る前に、サンドイッチを注文。

運ばれてきたサンドイッチを食べながらパソコンに電源をいれた。

 

(まずはザバン市の位置から…ん。この距離なら2,3日走り続ければ間に合いそうだな。今日が4日、急ぐか。)

 

店主にお代を払い、店を出る。

定食屋のことを調べ忘れてきたが問題ないだろう。

 

バスが信用できないことが分かったので走ることが最適解だろう、時間もないし少しでも早めについて会場を探すほかないな。

食料品を買い足し、地図を見る限り森を抜けることが早いと判断し森に入ると、駆け出して徐々にスピードを上げていく。こまめに休むことをせず、木々を避け、岩を飛び越え谷を越えて最短ルートで走り続けた。

日が昇り、日が沈み。再び昇る。太陽がちょうど真上に来た辺りで、ザバン市にたどり着いた。

門をくぐり、ザバン市に足を踏み入れたとき、

 

「よお、キナコまってたぜ」

 

不意に声を掛けられた。

最近聞いた声であったが以前のような訛りはないが、癖がある話口調だ。

 

「運転手…さん。どういった御用で?」

 

「なあに、飯を奢る約束をしてたろ?

オラも暇じゃねぇ…が少し匂うぞ、オンナに言うことじゃないが汗臭いな。ちょっと風呂でも入って着替えて来いよ。

まだ今日は6日。試験にはまだ余裕があるからな、宿でも取ってゆっくりしてくるがいいべ。そうだな、メシを奢るのは昼前でいいだろう

明日の11時にここで集まろうぜ」

 

運転手は言うだけ言って満足したのか、私の答えを聞かずに人ごみの中に消えていった。

 

(確かに、彼の言うように汗臭いかもしれないな。少し早いが、休みなしだったんだここは宿をとって…金も尽きそうだから食事は明日運転手の奢りで食べればいいだろう。

そうと決まれば、まずは宿探しだな)

 

ヘタクソな鼻歌を歌いながら、キナコもまた人ごみに消えていった。

 

 

翌朝10時30分

キナコは昨日運転手に言われていた門の前に来ていた。

 

街は既に活気づき、至る所に人がわんさか集まり作業しており、その中から運転手が現れる。あった時と変わらぬ制服姿での登場。

 

「よう、オラも早く来たつもりだったが随分と速かったじゃねぇか。

よっぽど愉しみにしてくれてたってことか?」

 

笑いながら軽口を叩く男を尻目に、こちらも軽口で返す

 

「昨日から何も食べてお腹がすいてるんですよ。

それに、食後に試験会場を探さなければダメですしね」

 

「なあに、そんな心配する必要ねぇべ。飯も会場探しもオラに任せな、大船に乗ったつもりでついてくるがいいべ」

 

(泥船じゃないことを祈っておきますよ)

 

心の中で愚痴をこぼし、運転手の後について歩、一軒の店舗に案内された。運転手は何も言うことをせず、扉に手を視線だけをキナコに寄越す。

キナコの目にはこの街には似つかない廃れた定食屋にしか見えなかったが、運転手の視線に急かされる様に運転手に続く。

 

「ここは本当に有名な定食屋なのか?私にはどうもそうは見えないのだけれども…」

 

「あぁ、もちろんここだ。それにおめぇさんが探している場所でもある。」

 

「と、いうことは」

 

運転手はキナコの返しを聞き終えるより先に扉を開け、中に入った。

言いかけた口をそのままに、キナコも中に入る。中も普通に定食屋で、何の変哲もない。昼前だというのに店内には既に数名の客もいた。

 

「いらっしゃい! ご注文はお決まりで?」

 

中に入れば若い店員が水を片手に注文を問う

 

「ステーキ定食1つ」

 

「……焼き方は?」

 

間髪入れずに答える運転手に対し、厨房で料理をしていた店の主人らしき人物が少し間を置き訊ねる。

 

「弱火でじっくり」

 

「あいよ! レイモンド奥に案内しな」

 

「へい、こっちに…」

 

レイモンドと呼ばれた若い店員が案内し、奥の小部屋へと進む。

 

どうやら、先ほどのは合言葉だったようで、運転手はニヤリと笑いながら振り向く。

 

「奥の部屋で座って食ってりゃ会場に着くだろうさ。

これでおめぇさんの探し物も見つかったようだな、もし落ちてそれで生き残ってたなら、オラを探すんだな。

まあ、審査員やナビゲーターをやってるとは限らねぇけどな」

 

「口調がブレブレで統一感がない運転手で探せば見つかるかな?」

 

「それじゃあ、難しいんじゃないか?」

 

運転手はキナコの脇を抜け片手を上げながら去っていった。

 

(さーて、後は鬼が出るか蛇が出るか、かな)

 

運転手を見送り、奥の小部屋に入る。

 

レイモンドの姿は既になく、鉄板が設置されたテーブルが置かれおり、肉が焼かれていた。

席に着くと扉が閉まり、下に降りていく感覚がした。

 

「よっぽど金を持っているんだな、…悪趣味な。」

 

大分手の込んだ仕掛けに愚痴を零しながら、肉を食べ始めた。

昨日から食事を摂っていなかったキナコからすれば、少し物足りない感じがしたが食べ終えたキナコはちびちびとお冷を飲みながら到着を待った。

3杯ほど飲んだところでポーン!と地下100階に到着したことを示す案内音が鳴った。

 

扉が開き、足を進める。

地下空間はかなり広く、それを埋め尽くさんばかりの人で溢れかえっていた。

 

(おぉ、これはこれはかなりの数がいるんもんだ。運転手の言ってた通りなら個々の人間のほとんどがステーキ定食を食べてきたってことか?)

 

一斉に近くにいた者たちがキナコに見定めるような視線を向けるが、それを全て無視しキナコも周りを見渡す。

 

自分の身長以上の槍を担いだ者。

連れてきたサルと戯れる者。

持参したであろう食料を食べる者。

 

(彼は食べてきたのに、まだ食べているのか?)

 

 

見当違いな考えをしていたキナコに対し、小柄な男番号の書かれたプレートを差し出される。

 

「ようこそ、ハンター試験へ。

これがあなたの番号になります。試験期間中はなくさないように」

 

「ありがとう」

 

番号は『377』と書かれていることから、つまりは377人目ってことだ。

 

「運転手が言ってた割には多いか少ないか、中途半端な数だな」

 

「よぉ、新顔だね」

 

プレートを胸元につけていると。茶髪で鼻の大きさがチャームポイントであろう小柄の中年男が声を掛けてきた。

 

「俺はトンパ。よろしく」

 

「こちらこそ」

 

「俺、ハンター試験のベテランなんだ。よかったら、いろいろ教えてやるよ」

 

「それは助かります、トンパさんが言われたように初めてでして、右も左もわからず困ってたんです。

早速なんですが一つ聞きたいんですけどよろしいですが?」

 

「もちろんだ、何でも聞いてくれよ。

これ、お近づきのしるしだ、飲みなよ。」

 

トンパは人受けのよさそうな笑みを浮かべ、缶ジュースを差し出してきた。

キナコは笑顔で受けとると、トンパも満足したように懐から缶ジュースを取り出して飲み始める。

それを確認して、キナコは切り出した。

 

「こういう試験では、新人潰しという輩がいると聞きましたが心当たりありませんか?

ベテラン と自称されるトンパさんなら何か知りませんか?」

 

ここまで言うと、トンパは口に含んでいたジュースを吹き出しせき込みだしたが気にせず続けた。

 

「新顔の私に声を掛けてくださる行為は、とても嬉しいのですが周囲の反応を見ている限りではどうも裏がありそうなんですよね」

 

もう一度、ここで話を切りトンパに視線を戻し顔色を確認する。

せきが止まり、どこか顔色が悪くなっているようにも見える。

 

「どうでしょう、正直に言って貰えるならば私は結構なんですが。

それでもまだ、三文芝居を続けられるのであれば私の小太刀を振るわなければならなくなりますが…?」

 

トンパは一瞬目を見開いて、汗を流しながらも笑みを浮かべる。

 

「な、なにを言ってるんだよ。俺でも聞いたことが無いぞ、新人潰しの話なんてさ!

それに缶を怪しんでるなら、さっき目の前で飲んだじゃないか?」

 

「それもそうでしたね、失礼。少々緊張が過ぎたようです」

 

トンパが自信満々な笑みに戻ったのを確認し、トンパから少し距離を置き缶をトンパの顔に向けて投げる。

それを見たトンパが驚きの表情をしながら缶に手を伸ばす。

 

斬っ!

 

トンパが缶に触れる前に、小太刀を振るい缶ごと中身のジュースを切り裂く。

 

「それでも、これは飲むわけにいかない。

この試験中に、他の参加者から出されたものは飲み食いしないと決めてるんだ。そして、提供してきた人間を敵と見なすとも。

まだ許せる。視界から…キエロ」

 

トンパは動くことが出来ずにいたが、キナコが言い終わり小太刀を納刀したのを見計らい、立ち止まることなく走り去った。

 

 

トンパはキナコが見えないところまで来ると足を止め、肩で息をしながら愚痴を零した

 

「……くそ!また失敗かよ。今年の新顔はどうなってんだ?」

 

トンパの異名は『新人潰し』。

キナコが訊ねた人物であるその人だった。

新人の受験者をあの手この手あらゆる手段を使い邪魔することが楽しみになり、目的が変わってしまった今年で35回目の自称ベテラン(笑)の男である。

自分も命がけのスリルにいる中でで、新人が絶望の表情に染まりながら死んでいくのを見ることが生きがいになった。

最初は金で人を雇い、自分は見るだけで満足していたのだが、何度も何度も繰り返している内に自らも仕掛けるようになった。

 

「ちぃ!まあ、いいさ。

試験が始まったら、嫌でも巻き込んでやるさ。」

 

トンパは再び笑みを浮かべて、次の標的を探すために扉に視線を移す。

扉は再び、到着の案内音を鳴らしているところだった。

 

 

キナコは小太刀を腰に差し直し、トンパに興味が失せたように壁際に移動し背を壁に預ける。

 

(ん~、ちょっと殺気を出しすぎたか?

あの時から何人かから視られている気配が消えないな…)

 

これ以上、悪目立ちしては堪らないと目を閉じ集中する。

すると、背筋に悪寒が走った。

 

「!」

 

目を開き、目線だけを向ける。

髪を後ろに流して、右目の下に星、左目の下に涙のマークを描いている奇術師風の男がキナコを見て、トンパとは違う笑みを浮かべていた。

そして、ゆっくりと近づき歩み寄ってくるをの確認し相手に気取られぬように警戒のレベルをあげた。

 

(だから、目立ちたくなかったんだ!この感じは視ていた奴と同一人物だな)

 

「ちょっといいかい?」

 

「なんでしょうか?」

 

「君…名前は?」

 

「キナコ」

 

「くくく★正直者だね♥ 僕はヒソカ♧見てたよ♦ 大分強いみたいだ♥ 君と一度戦ってみたいね★」

 

(何を考えているのか分からないな。もしくは、ただ戦いたいだけで何も考えてないのかもしれないな)

 

「遠慮しておきます。ヒソカさんとやっても勝ち目は無さそうだ、私は死にに来たわけじゃない。

そんなことより、聞きたいんですが顔のマークは彫っているんですか?」

 

キナコの言葉に、ヒソカは驚いたような表情をするがすぐに元に戻り、笑顔で「秘密★」とだけ返し、言葉をつづけた。

 

「残念♧ 君との戦いは面白いと思うんだけど♦」

 

(こいつ、ただのバトルジャンキーだな。関りを持つのは危険だな)

 

キナコはヒソカの性格に対し、小さく顔をしかめる。

 

「そうだ♥ これ★ 僕のホームコード♧」

 

「あとで送ります。地下じゃ電波を拾えないから。落ち着いたら…」

 

「これも残念♦ 仲良くなれると思ったのに♥」

 

小さく折りたたまれた紙切れを差し出すヒソカを軽く一瞥し、紙切れを受け取る。

 

(ちっ、思春期真っ最中の女子高生みたいな渡し方しやがって…)

 

ヒソカは残念そうに去っていく。

キナコはそれを確認して再び目を閉じる

 

(また、目立ってしまった…)

 

ヒソカと話してしまったことで、また注目を集めてしまったことに仕方がないことだったと思うことした。

 

それからは目立たぬよう壁の染みになりきる努力をしていたが、ヒソカ以外からの視られている気配が消えずにいたその時

 

「ぎゃあああああああ!俺の腕があああああ!」

 

悲鳴が響きわたった。

目を開き視線を向けると、そこには両肘から先がない男と楽し気に笑うヒソカの姿があった。

 

(やっぱり関わったのは失敗だったな)

 

少し後悔していると、

 

 

ジリリリリリリリリ!!

 

扉の音とは違う目覚まし時計のような音が響きわたる。

すると、エレベーターとは反対側の壁が左右に開き始め、壁の向こう側にスーツを着たカイゼル髭がチャームポイントであろう老紳士が立っていた。

老紳士は音の発生源であろう気持ち悪いモノを止める。

 

「只今をもって、受付時間を終了致します。

それではこれより、ハンター試験を始めます。」

 

響き渡る老紳士の声

 

ハンター試験一次試験が始まった。

 

 

 

 





運転手のモデルは作者世代で言うならば船頭さんですかね
あの話口調のせいで予測変換機能が火を噴いています

ヒソカの記号も打ちにくかったり?

ゴンたちとのくだりはどうしようか悩んでいますが、近いうちに主人公とも関わってもらいたいと思っています。

投稿は不定期更新になっていくと思いますが明日までは毎日投稿します。


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第三話

 

「さて、一応確認いたしますが、ハンター試験は大変厳しいものであり、運が悪かったり、実力が乏しかったりすると怪我します。

最悪の場合は死んだりするでしょう。

さらには既に行われたかもしれませんが、受験生同士の争いで再起不能になることも多々あります。それでもかまわない。

…という方のみ付いて来てください」

 

老紳士は注意事項を伝え、今ならば棄権も可能と伝える。

が、もちろん誰も引き返す者はいない。ヒソカにやられた者は文字通り殺られていたようで、死人に口なしとはこのことだと思うキナコだった。

 

(殺しは犯罪だとも思うんだが、そこは誰も突っ込まないのか。

まあ死にたくないんだし、それもそうだな。私としては、そのまま使ってくれたら一番楽だったのに。)

 

「承知しました。

第一次試験400名、生存者全員参加ですね。それでは参りましょう。」

 

(最後に降りてきたのは、サングラスが良く似合うおっさんと金髪の気の強そうな少年に、黒髪を立たせた見るからに純情そうな少年の三人組だったはず。

番号は403,404,405だったことを考えるなら…考えるのはやめよう。受験者数を数えやすくなってラッキーだなー)

 

老紳士はくるりと身を翻し、手足を大きく振り上げて歩き出す。

それに受験者たちも続き歩き出す。

 

 

「申し遅れました。私一次試験担当官のサトツと申します。

これより皆様を二次試験会場にご案内します」

 

「? 二次試験会場に…? ってことなら一次試験はまさか」

 

 

「えぇ、もう始まっているのでございます。

二次試験会場まで私についてくること。これが一次試験にございます。」

 

「「「「!!」」」」

 

(付いていくだけね…持久力試験ってことなら納得できるな。

事実、ハンターは獲物を狙って、時には何時間も走り続け、追い続けることもあったらしい。それに、自分の身を守るために足を止めることが出来ない状況も考えられるらしいからな。)

 

 

「目的地や到着予定時間はお伝え出来ません。

ただ、ひたすら私に付いて来ていただきます」

 

サトツの言葉に試験の意味を理解した者、そうでない者と受験者の反応は様々だった。

そんな中でキナコは考える。

 

(前を行き過ぎても目立つし、かと言って後ろの方からだと間に合わないかも知れない。中盤はむさ苦しくて空気が汚そう。)

 

 

「キナコは★ 前を行くかい?」

 

「ヒソカさんのいない所に行きます。」

 

ヒソカから声を掛けられるが、振り向くことをせず返事だけ返すキナコに対し、薄く朱に頬を染めつつヒソカは言葉を返す。

 

「残念♥ 本格的に嫌われたようだ♧ 僕は後ろの方で大人しくしておくから気が向いたらいつでもおいで♦」

 

キナコが一番前で走ることを決めた瞬間だった。

 

そうと決めたキナコの行動ははやく、壁を走り、天井にナイフを投げ楔代わりにし自前のワイヤーで距離を稼いで人を抜いていく。

 

10分もしないうちにトップ集団にぶつかる。

そのままスピードを緩めずサトツの右斜め後ろに付き、サトツのペースに合わせる。

 

 

 

そのまま走り続け、数時間が経った。

あれから何度かサトツのスピードが上がったが、それでもキナコはサトツの右斜め後ろの位置をキープしていた。

 

(既に開始から4時間とちょっと経ってるけど、周りの景色は何も変わらず未だ地下通路の中)

 

キナコは携帯で時間を確認する。そのまま計算機能で、大体の距離を確認する。

風景は何も変わらず、ただひたすらに地下通路が続いたままだった。

 

「絶対にハンターになったるんじゃ!くそったれー!!!」

 

そんな時、後方から腹の底からひねり出したような雄叫びが聞こえてきた。

 

(あの声は、サングラスがお似合いのおっさんの声だな。

ということは、まだまだ諦めずに走っているということか。一見何のセンスもなさそうだったのに根性と気合は十二分にあったというわけか…私も負けれないな)

 

気合を入れなおすキナコだが、彼女は一切汗をかいておらず余裕の表情だった。

 

一次試験開始から約8時間が過ぎようとしていた。

走行距離はキナコの計算で約80kmになった

 

先頭を走るキナコは後続の顔触れが変わらないのを確認し、脱落者はまだいないと判断していた。実際には、トンパらの行いによって初の脱落者が居たのだが知る由はないだろう。

 

「か、階段!?」

 

周りの受験者の声でキナコも顔を上げて確認する。

目の前に現れた、先の見えない階段。かなり勾配がきつく、段差も決して低いとは言えないほどだった。

それが文字通り果てしなく続いていた。

 

「さて、ちょっとペースを上げますよ」

 

サトツは歩くような感じのまま2段飛ばしで登っていく。

それを受験者達は愕然としながらも、必死についていく。

 

キナコはといえば

「走ったと思えば、次は登り。その次は泳ぎますとか言わないよな…」

愚痴を零しながら、サトツの右斜め後ろをキープして登っていた。

 

「いつの間にか一番前に来ちゃったね」

 

「うん。だってペースが遅いんだもん。こんなんじゃ逆に疲れちゃうよな~」

 

「……」

 

いつの間にか銀髪の猫目がチャームポイントであろう少年と、黒い髪を逆立たせた少年がキナコと並走していた。

 

よく見てみれば、猫目の少年は汗をかくどころか息すら乱れていない。

 

(黒髪の子はともかく、猫目の子は何かやってたタイプの子だな。足音が限りなく小さい。完全に聞こえないわけじゃあないが、暗殺者の類か?

それにしては【纏】を使っているようには見えないこと。それから考えるに、暗殺一家の者で教育途中って感じか。…離れておこう。)

 

「ねえ、おじさんもそう思うよね?」

 

不意に猫目の少年から声を掛けられたが、おじさんと呼ばれてまさか自分のことだと思わっていなかったキナコは反応が遅れてしまう。

 

「…! 私に言っているのか?」

 

「そーに決まってんじゃん、逆におじさん以外誰がいるっていうのさ!」

 

「あっ、キルア!この人は女性だよ!

ごめんなさい、キルアも悪気があったわけじゃないと思うんです!」

 

(いや、純度100%の悪意しか感じない。もしくは、目上の者に対する礼節を教えてもらってないのかもしれないな。…関わりたくないな。)

 

「黒髪の少年の言う通りだ。私はおじさんと呼ばれる年齢でないし、まずは男ですらない。目上の人間に対する礼節は教えてもらってないのか、お坊ちゃん?」

 

ブチっ!

何かが切れるような音が聞こえた気がしたが気にせず階段を上り続けた。

少年らは立ち止まっているようだったが、もしかして辞退してくれるのかもしれないな、と考えていたキナコだったがその考えが間違いだったとすぐ思い知らされた。

 

「殺すぞ、てめぇ…」

 

嫌に冷えた声色と共に向けられた殺気に、薄く笑みを浮かべたキナコはハッキリ告げる。

 

「その年齢では大したものだが、45点。追試が必要な点数だな」

 

黒髪の少年が猫目の少年を宥めているようだったが、聞く耳を持たない様子で、手を異常に変形させ迫りくる少年に対しキナコがとった行動はいたってシンプルだった。

そのまま背を向け階段を駆け登る。サトツをも抜かんばかりの勢いで、自分らを追い越していた他の受験者らを追い越していく。

 

「まてぇ!!逃げてんじゃねぇぞ!」

 

キナコは後方から聞こえてくる猫目の少年の静止を無視して、止まることなく駆け登っていく。

 

(なんだなんだ、あの殺気は!純度100%で私に向けられた殺気だったぞ!それも、今まで視られていた気配と同一人物で間違いない筈だ。猫目の少年の関係者か?だから、関わりたくなかったんだよ。本当に!)

 

全力で猫目の少年と関わってしまったことを後悔しながら。

 





ここでようやく原作主人公たちとの対面です。
長かったー!

私個人では、巷でヒソカスと呼ばれているヒソカが一番好きだったりします


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第四話


誤字報告をしてくださりありがとうございます。
気を付けてはいるつもりなのですが……
これからも、誤字脱字等があるかもしれませんが、よろしくお願いします。



HUNTER×HUNTERの登場キャラは皆大好きです……よ?


走って登って追い越して、再びサトツの斜め後ろのポジションに来る。

それに気づいたサトツは、キナコに一瞬視線を送るがすぐに前を向きなおした

 

(ふむ。今年の新人は中々面白いですね。まあ、彼女は別枠扱いになりそうですが…)

 

サトツはキナコの纏を見抜いていた、キナコの使う【纏】からキナコが普通の人生を歩んできている訳でなく、かなりの経験を積んできていることを察していた。

 

(あの44番とも親し気に話していたところも大変興味がありますが、なにより下手したら私でも勝てないかもしれませんねぇ。)

 

いい意味でも悪い意味でも要注意人物。

それがサトツが抱いたキナコへの印象であり、それに対してキナコは

 

(なぜだ、なぜサトツも私を見てくるんだ。さっきまでは、一切眼中にないって感じだったじゃないか。やっぱりあの猫目と関わるのは失敗だったわけだ!)

 

サトツの視線に気づきながらも、まだ後悔していた。

 

その後もまだまだ走り続けていた。

 

(まだ到着どころか、階段すら終わらないとは…これは少し飽きてきたぞ。)

 

携帯で時間を確認しながらキナコは、ウンザリした表情を浮かべていた。

既に半日、地下道を走り続けていたことには予想外だった。

 

その時、

 

「あ、おい!明かりだぞ!

ふぅ、ようやくうす暗い地下からおさらばだぜ」

 

キナコの後ろを走るハゲ頭の男が指を差す。

その声に反応するようにキナコも顔を上げて、太陽の明かりを目に入れる。

受験者達も、最初に声を上げた男のようにホッとした表情を浮かべていた

 

サトツが一番に外に出て、キナコが続きその後も受験者達が外に出る。

 

「うわぁ」

 

キナコが呆れるような声を出し、その後に続くように外に出てきた者たちも、その景色をみて声にならない声を上げていく。

 

目の前に広がるのは、広大すぎる森と湿原だった。

 

「お~!」

 

「うわ~!」

 

他の受験者たちとは違い、景色に対し素直に簡単するような声を上げる猫目の少年たち。その少年たちの存在を確認したキナコは少し距離をとった。

 

「ここは【ヌメーレ湿原】。通称『詐欺師のねぐら』。二次試験場へはここを通っていかねばなりません」

 

(…泳ぎじゃなくて良かったが、こりゃあ泳ぎよりもハードになりそうだね。)

 

キナコは話をサトツの話を聞きながら、地平線を見渡すが、建物は一切見えなかった。

 

「この湿原にしかいない珍奇な動物たち。

その多くが人間をも欺いて食料にしようとする狡猾で貪欲な生き物です。十分に注意して付いて来てください。騙されると死にますよ」

 

サトツが言葉を言い終わると同時に、背後の出口が閉じていった。

 

「ああ…ま、待ってくれ…」

 

出口を目前に倒れたのか、倒れていた男が手を伸ばすが誰も助けない。もちろんシャッターも止まらない。

シャッターは完全に閉じた。

 

「それでは参ります。騙されることの無いよう、しっかりと付いて来てください。」

 

「はん!騙されるのがわかってて騙されるわけねぇだろ」

 

(チャームグラサン(チャームポイントがグラサンのオッサンの略)!雄叫びが聞こえてたが、ちゃんと間に合ったんだな)

 

受験者の一人が強気に言い返し、それが誰なのかキナコが気付いたときだった

 

「嘘だ!そいつは嘘をついている!」

 

「「「「!?」」」」

 

出口の陰から突如、ボロボロの男が何かを引きずりながら現れる。

そして、男はサトツを指差し言葉をつづける。

 

「そいつは偽物だ!!試験官は俺だ!俺が本物の試験官だったんだ!!」

 

オトコの言葉に受験者達がサトツと男を交互に見て、困惑の表情を浮かべていた。

 

「偽物!?どういうことなんだ!」

 

「じゃあ、こいつは一体…!?」

 

グラサンとハゲは完全に困惑している。

キナコは薄く笑みを浮かべていた。

 

「これをみろ!」

 

男は引きずっていたモノを受験者に見えるように前に出す。

それはサトツにそっくりな顔をした細身のサルだった。サルの顔を見た受験者達は衝撃を受け、サトツの方に視線を向ける。

視線のあつまるサトツは、涼しい顔をして立っているだけだ。

 

「こいつはヌメーレ湿原にいる人面猿!こいつは新鮮な人肉を好む。しかし、手足が細く非常に力が弱い。そこで自ら人に扮し、言葉巧みに人間を湿原に連れ込み、他の生き物と連携して獲物を生け捕りにするんだ!」

 

「ふっ、阿呆らしいな」

 

キナコは男の話を聞きながら笑っていた。

 

「やっと見つけたぞ、オジサン。」

 

「あ、さっきのお姉さん!

キルアがごめんね、俺はゴンって言うんだ。お姉さんの名前は何て言うの?」

 

いつの間にか後ろに立っていた少年たち。

猫目の少年はキルアと呼ばれ、黒髪を逆立てた少年はゴンと名乗った。

 

「はあ、私はキナコ。」

 

キナコは観念したように、小さくため息をつき名前を名乗った。

 

「何ため息ついてんだよ。よくも逃げやがって、あの後人が多すぎてここまで来るの大変だったんだからな!」

 

「まあまあ、落ち着いてよ、キルア。

キナコさんは悪くなかったんだし、キナコさんに当たるのは間違ってるよ。」

 

キルアが不機嫌そうに言い寄ってくるのをゴンが諫めているが、キナコにはキルアの気持ちがよく分かるため、何とも言えない表情を浮かべる。

 

「それは気持ちがよく分かるが、ゴンの言う通り私に非はなかっただろう?

それに、ゴン。私のことはキナコでいいよ」

 

「ありがとう!それでキナコはさっきから、あの男の人が話すことに笑ってたけどどっちが本物か分かったの?」

 

「分かったっていうよりも前提条件がおかしいね。試験官というのは協会から委託されたプロハンターが無償で請け負うモノ。

私たちの目標となる存在が、サル如きに遅れを取るとも思えない。なにより、サルが生きている。自分を襲ってきた相手をわざわざ生かす必要がないからな。」

 

「え、あのサル生きてるの?」

 

(あ~そこからだったのか…)

 

「キルアはもちろん分かってたよね?」

 

期待するようにキルアの方を見るキナコだったが、当のキルアはキナコと目を合わせることはしなかった。

 

「まあ、男が自分で言っていたように手足が細いから、キルアでも集団で襲ってきても普通に殺せるんじゃないか?」

 

キルアはまた不愉快な表情になったその時、トランプが空を切り、男の顔にサクッと数枚突き刺さる。

そのままは男は目を見開き、仰向けに倒れた。

 

「「「「!!」」」」

 

キナコはトランプを確認した瞬間、縮こまりヒソカから見えない位置に移動した。

ゴンとキルアは、トランプが投げられたもう一方に目を向ける。

サトツの両手指にはトランプが数枚収まっており、死んだ男同様ヒソカに攻撃されたことが分かる。

 

「くっく♥ なるほどなるほど♦」

 

ヒソカはトランプを弄りながら、楽しそうに笑う。

 

「試験官とは「それはさっき私が説明しました。」♧」

 

ヒソカの説明に横やりを入れつつ、キナコは両腕を左右に引っ張る。

 

「ギュエッ!?」

 

死んだふりをしていた人面猿が起き上がろうとしていたのを見逃す筈もなく、頭と胴体がお別れし、遅れて血飛沫を上げて男の死体の隣で息絶える。

 

「ん~♥ いいねぇ♦」

 

「照れます。」

 

「これからどう「お断りします。」ん~♧ けど、これで決定♠ そっちが本物だね♥」

 

「ああいうのが、この先も出まくるわけか」

 

「その通りです。

これから通る場所には更に巧妙な罠を仕掛ける動物もいます。故に私から離れないように、といったのです。」

 

「……なるほど」

 

チャームグラサンがゴクリと唾をのんで、他の受験者達もこの先の危険性を理解した。

 

「そしてもう一つ。次からは如何なる理由があれど、私への攻撃は試験官への反逆と見なし、即失格とします。

よろしいですね?」

 

「はいはい♥」

 

ヒソカは肩を諫め、キナコは残念そうに顔を歪める。

サトツは小さく頷いて、クルリと反転する。

 

「それでは参りましょうか。二次試験会場へ」

 

その言葉で受験者達の顔が再び引き締まる。

サトツが歩くように走り始め、受験者達もそれに続く。

 

第一次試験開始から12時間

残り331人

 



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