てんこもり平成怪人で行くハイスクールD×D (しゃしゃしゃ)
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先出し編―殺戮の救世主 VS 破壊の大王―
誕生! アーマードライダーセイヴァー!


 世界を変える準備はいいか
(『E-X-A(Exciting × Atitude)』)


 

まずは、色彩が。

 

あらゆる色彩が、彼を呑み込んだ。

 

そして、あらゆる感覚が、音が、においが。皮膚、内臓――否、すべて。あらゆるすべてが押し寄せてくる。

 

あらゆる、すべてがない交ぜとなって混沌としたまま、嵐のように彼を打ちのめす。

 

それは永遠に等しい時間であり――だが一瞬、刹那でもあった。

 

無限の極彩色が、やがて形を得る。最初は色彩の爆発でしかなかったそれは、無数の光景であることを彼は知る。

 

その理解とともに、感覚の洪水が意味を得る。彼はすべてを悟る。

 

いま、彼が目にしているものは――感じ取っているものは世界だ。あらゆる時間の、あらゆる空間が、彼の前に広がっているのだ。

 

寒気が、法悦が、彼を包み込む。この瞬間彼は全知に近い存在だった。肉の器を失い、精神は飛翔し、彼は生命を超越する。

 

再び爆発する色彩。荒れ狂う感覚。そして、静寂。

 

 

「世界は争いに満ちている。欲と苦しみは限りなく、人であっても人でなくとも、命あるものは永劫の地獄の中にいる」

 

 気づくと彼は、誰かと向かい合っていた。見覚えがあるような気がするがなにも思い出せない。目の前の誰かのことも、自分のことも。

 肉体はすでに崩壊し、唯一彼をつなぎとめるのは奇妙なベルトと赤い果実のような錠前だけ。それが何であるかも、彼には分らなかった。

 

「愛は失われ、憎しみは増し、復讐の連鎖は止まらず、不条理と理不尽に誰もが顔をゆがめる。しかし、君は違う」

 

 彼には目の前の誰かが重なり合った像の集合に見えていた。

 

 カラスのような羽をもつ生き物。

 昆虫を思わせる赤い複眼と二本の角を持つ戦士。

 反転した異界の者。

 灰色の亀のような怪生物。

 3つ首の不死なるもの。

 蛾のような異星生命体。

 蛇のような形なきもの。

 鯨のような吸血鬼。

 人の祈りを束ねるもの。

 命を持たない集合体。

 白と紫の作り物。

 果実に選ばれたもの。

 仮想に生きる騎士。

 赤い歯車。

 二人()一人の歪んだ怪物。

 

 

「おめでとう。君は選ばれた。肉体の檻から解き放たれ、精神は昇華し、争いも苦悩もなにもなくなる。完璧な存在の一部となれる。私は君に絶対の安心を約束しよう」

 

 とても心地が良かった。彼は、彼には、何もわからなかったが、目の前の誰かに従えば無限の法悦と絶対の安心が得られると、そう感じられた。

 自然と喜悦が表に出た。肉体を持たない彼はもはや笑うこともできなかったが、それでも彼は幸福の絶頂にいた。

 

「さあ、ひとつになろう。あなたは私、私はあなた。すべてをゆだね、ともに究極の進化を遂げよう」

 

 誰でもなくなった彼に、その誘いを断る理由などなく。

 

 誰でもない彼は、『大事だったはずのなにか』を全て放り出し、法悦に身をゆだねた。

 彼は――彼でなくなった誰かは、もう俗世にかかわることはない。未来永劫、世界が壊れるその時まで、微睡み続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

『さァ‼ 予想外も盛り上がりを見せた今回の試合も 終盤(エンドゲーム)‼ 互いの眷属は軒並み退場し、まさかまさかの王同士の決闘と相成りました‼ 私たちもレーティングゲームの実況解説を務めて長いですが、ここまで番狂わせな試合も珍しい‼

 そーですねー グァバラさん‼ 』

 

『はぁい』

 

 

「番狂わせ、か」

 

 バアル家次期当主にして、今回のゲームのプレイヤーであるサイラオーグ・バアルは対戦相手である『王』――ゼファードル・グラシャラボラスの元へ歩みを進めながらそうつぶやいた。

 

 彼のそばに眷属はいない。実況の中級悪魔イモナイが告げたように、自分も相手も眷属を全て使い切り、残るは己ら自身のみとなっていた。

 それはサイラオーグだけでなく実況者も視聴者も予想していなかったことだった。

 

 

 ゼファードル・グラシャラボラスは一般的な上級悪魔であり、彼の眷属も一般的な上級悪魔の眷属の水準の者たちでしかなかった。それは事実であり、そうであると侮られていた者たちだった。一方のサイラオーグ・バアルの眷属、彼らは全員がうぐれた決闘や能力を持ちながらもそれにおごることなく、王とともに、鍛えることに余念がない、努力に裏打ちされた真の実力と強靭な精神を兼ね備えた強者たちだった。

 

 

「そう評価されても仕方がないか」

 

 

 しかし、精強なはずのサイラオーグ眷属は、力で劣るゼファードル眷属にことごとくリタイアさせられていった。もちろんそれは正々堂々戦った結果の敗北ではなく、数の理や自爆特攻覚悟の「犠牲(サクリファイス)」によるものばかりであったのだが。

 その戦法がどう映るのかはともかくとして、結果的にゼファードル眷属たちはサイラオーグの眷属を道連れにして退場していき、今フィールドにはルール上リタイアとして扱われ、ゲームには手を出せないサイラオーグの眷属と、二人の無傷の王が残っていた。

 

 

 

『冥界の新進気鋭の6名の上級悪魔によるレーディングゲームのエキシビションマッチ‼ その第二戦となるバアル家次期当主 サイラオーグ・バル選手とグラシャラボラス家次期当主ゼファードル・グラシャラボラス選手の試合‼ 試合前はサイラオーグ選手が圧倒的有利と予想されていた今回のゲームで・し・た・がァ!? 始まってみれば予想外の連続‼

 これはですね、ゼファードル選手の眷属が、緻密な連携と戦略でバアル眷属を攻略していったことが要因であると考えられるんですねぇ‼

 彼らの動きがゼファードル選手の指示によるものであったのなら、それは非常に卓越した指揮能力と言えるでしょう‼ 今後の活躍に乞う! ご期待ですねぇ‼ グァバラさん』

 

『はぁい』

 

 

 まるで試合がすでに終わったかのような実況と解説。だがそれも仕方のないことだろう。

 実況も解説も、視聴者も、誰もがゼファードル・グラシャラボラスの敗北を予想している。

 なぜなら、あまりにも実力差がありすぎるからだ。サイラオーグは典型的な近距離パワー型の格闘者。純粋な身体能力のみで次期当主の座を取り戻したその攻撃力・防御力は魔王の域に達しており、今回のゲーム中にもその実力をいかんなく発揮している。

 一方のゼファードルは『凶児』と呼ばれるほどの素行の悪さは有名でも、実力は特にこれと言って話題になることもない、つまりはそんな程度の者であった。ゲーム中も一度も戦線に姿を現すことなく、実力を披露することはなかった。

 

 誰もが、サイラオーグ・バアルの圧勝を予想し、期待していた。

 眷属を使い捨て勝ちを狙いに行くようなゼファードル(ヒール)を、大義も理想も夢もある恵まれない悪魔たちの希望の星であるサイラオーグ(ベビーフェイス)が打倒するその瞬間を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィールド中央、物陰もない開けた場所にゼファードルは立っていた。俯き、脱力し、小さな声で何事かをつぶやいている。

 

 

「ゼファードル」

 

 サイラオーグがゼファードルに対して声をかけた。

 その呼びかけに対し、ピクリと反応したものの顔上げることもないゼファードル。

 

「はっきり言って、まさかお前がここまでやるとは思っていなかった。だが、それもここまでだ。俺の拳でお前を打ち倒させてもらう。覚悟はいいな」

 

 構え、体から目に見えぬ闘気を立ち昇らせるサイラオーグ。彼に妥協はない。

 侮りもこれまでのゲームメイクを見て消えている。

 

 

「……」

 

 ぽたり、と地面にしずくが落ちた。

 

「ゼファードル…? 」

 

 ――泣いているのか? という言葉がサイラオーグの口から出るよりも早く、今まで俯いていたゼファードルが勢いよく顔をあげた。

 

 

「は、はは、ははは、はははは」

 

 

 

 

「……⁈ 」

 

 顔をあげたゼファードル。その相貌は壮絶と形容するほかないものだった。

 目は血走り、ひきつった笑みを浮かべ、よだれをダラダラ垂らし、ひどく青ざめた顔色。

 まるで何かに憑りつかれでもしているような顔だった。

 

 

「なっ…どうした、ゼファードル」

 

 闘気を立ち昇らせていたサイラオーグもゼファードルの尋常ではない様子に、思わず戸惑い問いかける。

 

 

「どうした? どうしただって? くっ……、ひひ…っ……ひひひっ! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ‼ あー! あー! よくもまぁ、そんなことを聞けるモンだな、このクソ野郎‼ 」

 

 

 唐突な罵倒。

 彼が罵倒を行うことそれ自体は珍しいことではない。ただ、その罵倒に込められた思いが段違いだった。

 

 濃厚で確かな重みを持った殺意と敵意。

 

 しかしそれを向けられた当人であるサイラオーグは困惑するしかない。

 

(まさか、先日の顔合わせでのことを恨んで…? いや、いくらゼファードルでもそんな理由でここまでの殺気を…? )

 

 

 困惑にさらに輪をかけるかの如く、ゼファードルは続けた。

 

 

「――まさかてめぇが禍の団のメンバーだったとはなァ! 」

 

 

「……は? 」

 

 

「おかしいと思ってたんだ、魔力も持たねぇ無能が強ェなんてよォ! このインチキ野郎が! 」

 

 

「お前は何を言ってるんだ…? 」

 

 

 

「うるせぇ! 俺は知ってる! 俺は知ってるんだ! お前、お前が兄貴を、兄貴を殺したんだろ! こっちは全部お見通しなんだよッ! この腐れ外道がッ‼ 」

 

 

 

 

 

『……ゼファードル選手は何を言っているんでしょうねえ。サイラオーグ選手の強さは鍛え上げた肉体の強さ。彼の強さは彼の捧げた努力と鍛錬の賜物と言えるでしょう。そーですねーグァバラさん』

 

『はぁい』

 

 

 サイラオーグも実況も、あるいは冥界中の視聴者も「ゼファードル(この男)は何を言っているんだ? 」と思い呆れながら彼の叫ぶような罵倒を聞いていた。

 明らかに正常ではない、明らかに異常なゼファードルの言動に、しかし誰も口をはさめないのは、それだけ彼の語り口に熱がこもっていたからだ。

 

 

 

 

 

「俺はテメェを許さねぇ! 兄貴を殺したテメェを! 禍の団を! 俺はぜってぇ許さねぇ…! 禍の団の奴らは全員俺がぶっ潰す!

 親父も、眷属も、俺の領地の領民も! 俺が守る‼

 次期当主になったとき、俺はそう兄貴に誓ったんだ! 」

 

 

 

 そう言うと、ゼファードルは右手を身にまとうマトイのような服に突っ込み、何かを取り出した。

 

 

 それは、綺麗な艶の入った黒い、ベルトのバックルのような機械だった。右側には妙な刀の装飾があり、左側には中央にある窪みがもう一つついている、見た目はただのおもちゃのように見えるもの。

 

 

「ヒィヒヒヒヒッッ! ハァアアアッ! ッッァア! 」

 

 

 完全に正気を失ったように、狂気の笑みを浮かべたままゼファードルは、右手にあったバックルを腰に押し当てる。

 

 

 

〈戦極ドライバー! 〉

 

 

 

 すると腰に当てたバックルの側面部からベルトが伸び彼の腰回りを覆い装着された。

 

 

 

 そしてそのまま彼は2つの拳大の奇妙な…錠前のような装置を取り出した。

 

 

 両手に持ったそれを、見せつけるように前に突き出し、錠前を開く。

 刻印は、

 

 

『L.S.-MESSIAH』

 

『L.S.-TABOO』

 

 

 

【ザクロ! 】

 

【リンゴ! 】

 

 

 ゼファードルは2つの赤い錠前――ザクロロックシードと禁断のリンゴロックシードをドライバーに装着。

 

 

「オラァッ! 」

 

 

 

 気合とともに両拳を叩きつけ力強く錠前を閉じる。

 

 

 

 

〈LOOK!〈LOOK ON! 〉〉

 

 

 

 

 合成音声とともにジッパーの開く音が鳴る。

 見上げればそこには丸くつけられたジッパーがあり、開かれたその奥から極彩色の空間と金属製の果実のようなものがのぞいていた。

 

【~~~♪】

 

 エレキギターをかき鳴らすような大音量の音とともにそれは降下し、ゼファードルの頭上で血のように赤く輝きながら、装着の時を待つ。

 

 

 

 

 

「俺が救世主(セイヴァー)だ」

 

 

 

――変身ッ!

 

 

 一気呵成。気合とともにゼファードルはバックルのカッティングブレードを倒し、両手を広げる。

 ロックシードのキャストパッドが開かれシードインジケーターが現れ、解放されたエネルギーはライドウェアとなってその全身を覆い、ゼファードルの頭上の果実が一気に降下。

 彼を鎧の騎士――アーマードライダー――へと変身させていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

【ザクロ・アームズ! 狂い咲き・サクリファイス‼】

 

【リンゴ! リンゴアームズ! DESIRE FORBIDDEN FRUIT(デザイア・フォビドゥン・フルーツ)~♪】

 

 

 

 

 

 

 

 

 閃光とともに鎧が展開され、血の如く紅いアーマードライダーが姿を現す。

 

 見る者に不吉な宿命を示すがごときその姿は、殺戮の救世主アーマードライダーセイヴァー……‼

 

 

 

 

「ゼファードル⁈ その姿は――」

 

 驚く暇も与えない。

 ゼファードルは混乱しているサイラオーグにかまわずアップルリフレクターから片手剣ソードブリンガーを引き抜き、構え、叫ぶ。

 

 

「俺が、俺が、俺が! 俺が救うんだッ!

 サイラオーグ・バアル 絶対に許さねぇ! 」

 

 

 

 斬撃。渾身の力で振るわれたそれは、しかしサイラオーグのオーラを突破するには届かず。

 

 

「く……っ! ……おォォ‼ 」

 

 

 剣戟を耐えたサイラオーグは困惑を振り切り拳を放つ。上級悪魔のレベルを軽く凌駕し、仮にゼファードルが防御用の魔法陣を多重展開したところで防ぎきれないであろうそれは、セイヴァーが左手に装備するアップルディフェンダーによって防がれた。

 

 

 

「硬いッ⁈ 」

 

「クソ! クソクソクソッ! なんで斬れねぇ! 切り裂けねぇ! 」

 

 

「ゼファードル! その力は、その姿はなんだ! これは冥界のすべての者が見ているレーティングゲームだぞ! 」 

 

 

 斬撃を無数に放つセイヴァー。しかしそれはとてもではないが洗礼された攻撃とはいいがたく、サイラオーグはそれをやすやすと回避し冷静に相手の説得を試みる。

 

 

『ええ、サイラオーグ選手の言う通り、今回のゲームのルールでは事前に申請のない武器の使用はルール違反! 思惑がどうであれ、ゼファードル選手の反則負けになりますねぇ‼ そぉーですねーグァバラさん‼ 』

 

『はぁい』

 

 

 

「リタイアシステムが作動し、ゲームエリアからお前は退場する……だが――! 」

 

 ここでサイラオーグが前に出る。とっさに突き出されたソードブリンガーを避け、そのまま懐に潜り込み、ど真ん中に正拳一撃!

 

 

「…ッがぁ‼ 」 

 

 

「今のお前をそのまま送るわけにはいかん。最低でも気絶させ、戦闘能力を奪ってからリタイアしてもらう」

 

 

 再び構えを取り、鋭く目の前の鎧武者をにらみ、闘気を立ち昇らせる。

 

 

 それを受けたセイヴァーはゆらりと前かがみになり、まるで無防備な姿勢で言葉を放った。

 

「ざけんな。倒すのは俺だ。倒されるのはお前だ。舐めんじゃねぇぞクソがァ‼ 」

 

 

 そのまま信じられないスピードで倒れこむように地面すれすれを疾走。先ほどの一撃の意趣返しか、そのまま剣を胸部に叩き込もうと突きを繰り出す。

 

「そう来ると思っていた」

 

「は」

 

 

 ドゴォンッッッ!

 

 

 

 クリーンヒット。

 攻撃を予期し、あっさりと回避したサイラオーグがセイヴァーの無防備な右側面に強烈な一撃。

 食らったセイヴァーはそのまま吹っ飛びゲームエリアの建物に叩きつけられた。

 

 

 残心。

 

 油断なく見つめるサイラオーグの視線の先で、またもゆらりとセイヴァーは立ち上がった。

 

(今の一撃で傷がついた様子もない、か……)

 

「まだまだ……倒れるかよ…、俺が、倒れるかよ! 」

 

 右手を腰に持っていきカッティングブレードを操作する。

 

 

 

――カシィン! カシィン!

 

 カッティングブレードを二回倒す。

 

 

 

〈ハッ! 〉

 

 

 

【ザクロ・オーレ! 】

 

【リンゴ・オーレ! 】

 

 

 ソードブリンガーに深紅のエネルギーが充填される。そして、それだけではなくゼファードルの持ち味である上級悪魔ゆえの豊富な魔力も込めていく。

 あれは、とサイラオーグが思った時にはもう遅く、

 

「オラァ! 」

 

 剣をふるうのと同時にたまったエネルギーが発射され、射線上にいたサイラオーグを飲み込んで爆発した。

 

 

 

「ハッ…ハッ…ハッ…」

 

「くっ……」

 

 魔力を込めた必殺技を放ち、疲労したセイヴァー。

 無傷なれど、ロックシードのエネルギーと魔力の混合攻撃で防御に用いた腕がしびれてしまったサイラオーグ。

 

 

 戦闘続行は十分に可能であるものの、動けない二人。

 そこに実況席から声が響く。

 

 

 

 

『予想外に接戦のサイラオーグ、ゼファードル両選手の決闘‼ ですが、残念ながら試合中止のジャッジが下されてしまいました。まもなくリタイアシステムが作動し、ゲームは終了となります。試合をご覧の皆様、ご視聴ありがとうございました‼ 今回もありがとうございました、グァバラさん! 』

 

『はぁい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところが、

 

 

 

『…………………ん? あれ…? おかしいですね。

 

 え? まだ映ってる? システムは? え? 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―○●○―
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはレーティングゲームの管制室。普段は粛々とゲームシステムを運営するだけであるそこは、混乱の極致にあった。

 

 

「どういうことだ! なぜリタイアシステムが作動しない! 」

 

「ダメです! こちらからの操作、すべて弾かれます! 」

 

 

「中止! ゲームは中止だ! 活きているコマンドでなんとしてもエリア内の人員を救出するんだ! 」

 

 

「システム、こちらのコマンドすべて拒否! 」

 

 

「中継もカットできません! 実況のイモナイさん、解説のグァバラさんとも通信途絶! 映像と音声だけがそのまま放送されています! 」

 

 

 

「なんなのこれ…っ! 別の回線からのハッキングじゃない…内部から接触をはじかれているような……」

 

 

「キャアッ! 」

 

 

「どうした⁈ 」

 

 

「電子機器が火を…ッ! 」

 

 

「うろたえるな! 諦めるな! 我々は我々の仕事を全うする! なんとしてでもリタイアシステムを作動させるんだ! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 ここは冥界のネットワークの中。

 魔力と電気の複合情報世界の一区画。

 

 

 そんな電子の海の中でロイミュード109、フレア・ロイミュードとして進化し、近いうちに超進化を遂げる予定の()()は命令に従いレーティングゲームの管制システムにサイバー攻撃を行っていた。

 

 

 

 彼女に与えられた命令は「ゲームのリタイアシステムの掌握と通信システムのハッキング」。

 

 

 魔力的なネットワークに電子的なネットワークが組み込まれた今の冥界の通信システムを操ることは、とある悪魔と融合進化した機械生命体である彼女にとっては赤子の手をひねるよりも簡単なことだった。

 

 

 現に今も管制室からの必死のアクセスを片手間に内側から弾いて遮断している。

 侵入から数分でプロテクトを全解除、プログラムを改ざん。自身を介さない直接的・間接的アクセスのすべてを不可能にしてしまった。

 

 

 

 ちなみに現実の管制室で電子機器が火を噴いたのは、彼女が使命に燃えている(物理的・電子的)からであった。

 

 

「あぁ、あぁ! 我が主人、九朗さま! フレアは務めを果たします。完璧に完全に、私の全能力、全回路にかけて、必ず! んんっ! 」

 

 電子の海を泳ぐ彼女は高ぶり燃えまくっていた。

 

 

 

 

 

~~

 

 

 

 

「ひぃぃ! また火を噴いた! もうだめだぁ……! 」

 

 

 

 管制室の受難は続く。

 

 

 

 

 

 

 

 




◆戦極ドライバー&ロックシード
 製作:『藤代九朗』
 特許:ユグドラシルコーポレーション
 出所:戦極凌馬(死体)

 戦極ドライバーは“禍の団”からの軍資金を用いて製作。すでに量産のための工場も建設。
 ロックシードは肉体に埋め込んでおいたヘルヘイムの果実を“禍の団”の支援で水耕栽培し、増産した果実から使用。ザクロロックシード(マスター版)や禁断のリンゴロックシードは一部戦極凌馬の頭脳を再現して改造完成させた。
 ちなみに、今回ゼファードルが使用した二つは彼用に調整されたうえで、相乗効果によって彼を()()()()へ導く機能を持っている。
 なお、これを実用化するために数十名の悪魔が森に喰われた。



☆バアル
 元72柱1位。大王。
 伝承では悪魔達の中で「王」の位を持つ者の一人であり、東方に領土を持つ66の軍団の長たる大悪魔として記され、彼に祈るものは奸計の才を手に入れ、必要に応じて変身・透明になる能力を授けられる。また、戦闘にも長け、法律関係の知識にも精通しているとされる。
 冥界においては魔王に次ぐ権力を持った家、あるいは一族。一族の特徴として「消滅」の魔力を持つことが有名だが、次期党首であるサイラオーグ・バアルはそれを持たずに生まれた。
 サイラオーグは、魔力を持たずに生まれ、一時冷遇されながらも鍛錬によって得た実力で現状を変えて見せた。そんな彼は冥界の恵まれぬ悪魔たちの希望の星であり、彼自身もその期待に応えようと励んでいる。
 彼には大義があり、理念があり、信念があり、意義がある。しかし―――サイラオーグ・バアルは腕力に優れているだけであり、特別政治力があるわけではないという事実は認めざるを得ない。



★グラシャラボラス
 元72柱 29位。伯爵。
 伝承において、召喚されるとグリフォンのごとき翼を持った犬の姿で現れるという悪魔。人文科学の知識を与える一方で、殺戮の達人でもある。過去と未来のことをよく知り、また、人を透明にする力も持っているとされる。
 序列一位のバアル家には劣るものの、十分に名門と呼べる家。テロなどの動乱で次期党首であった長男が事故死し、本家次男で『凶児』として悪名をとどろかせるゼファードル・グラシャラボラスが新しい次期党首となった。次期党首になったとはいえゼファードルは素行を改めることもせず、若手6王のお披露目の場でアガレス家のシーグヴァイラ姫に絡み、サイラオーグによる鉄拳制裁を受け、古参の悪魔たちが集うお披露目で顔に傷を作ったまま出席することになった。一言でいえばゼファードルはサイラオーグに途轍もない恥をかかされた。(次期大王が、次期伯爵の顔をつぶした。一般的な価値観でいえばゼファードルが悪いが、貴族的にはサイラオーグのほうが問題あり―――上に立つものが言葉ではなく力で相手を黙らせるというのは強さを尊ぶ悪魔の価値観ではともかく、貴族の価値観からして野蛮でありよろしくない)
 ゼファードルは素行や格好はともかく実力は一般的な上級悪魔の範疇であり、戦闘方法も純血の上級悪魔である彼の持つ高い魔力や魔方陣による攻撃や防御が主な攻撃手段。一般的な貴族でもある彼は努力や鍛錬を特に行うこともしておらず、サイラオーグのような肉体強度や技術を備えていない。
 今回の変神のために『藤代九朗』自らの手で五体を切り刻まれ、筋を脈を肉を皮を強靭で適用するものへと作り替えられた。
 (切り刻まれたのはただの趣味。実際の改造手術はモーフィングパワーでちょちょいっのちょい)




★アーマードライダーライダー セイヴァー〔リンゴアームズ〕
 殺戮の救世主。
 精神を調律されたゼファードル・グラシャラボラスがザクロロックシードと禁断のリンゴロックシードで変身した紅のアーマードライダー。

 ドライバー、ロックシード、ゲネシスコアは全てこの世界で作られたもの。 製作者は“禍の団”「怪人派」頭目『藤代九朗』。
 アームズウェポンは林檎盾アップルリフレクターと片手剣ソードブリンガー。一応 救世弓セイヴァーアローも使用可能だが使っていない。

 変身者であるゼファードルが“悟り”を得ていないため、真の実力を発揮できないでいる(そのためアームズも本家の装着展開方法と異なっている)。



★フレア・ロイミュード
 シリアルナンバー109
 この世界で作られた初の機械生命体。蛮野天十郎が開発した増殖強化型アンドロイドのコピー品。悪の心は植え付けられてはいないものの、創造主である『藤代九朗』への従属・支配プログラムを備え付けられている。
 ある悪魔を擬態したうえで、その悪魔の死体とネオバイラルコアを使って融合。嫉妬と憎悪を学習しフレア・ロイミュードに進化した。
 現在、超進化態になるために眼魔技術応用型感情収穫システムの完成待ち。

 支配プログラムのため逆らうことはできないが、だからこそ下から主人を支配する奴隷の優越感に満足している。奴隷として主人に頭を垂れ、奉仕することで、逆に主人を支配する。そんな思惑を抱えている。
 まぁポンコツで詰めが甘いのでどうにもならないのだが。


★藤代九朗

ゼファードルへの感想:
「いやぁ、退屈な素材でしたね。平凡平凡超平凡、上級悪魔の枠を超えて優秀なわけでもなければ劣っているわけでもない。
 俺が救ってあげなきゃどうなっていたことか。
 特に優れた才もなく、これから真面目に生きたとしても目立った長所がない分、荒れた過去と死んだ兄との比較は一生ついて回る。
 きっと周囲の嘲笑を浴びて、ひたすらみじめな人生を送ったことでしょうね。いや、うん。絶対にそうだ、そうに決まっている。
 かわいそうに、かわいそうに。
 無能で愚かで情けなくって、なんてかわいそうな悪魔なんだろう。およよ…。
 だからゼファードルくんは俺に感謝しているよ。多分、絶対。
 もう彼は死ぬまで、いやさ死んでも俺の奴隷だけど、これからずっとずっと俺のために生きられるんだから。
 誰かのために生きるのは尊い。誰かのために死ぬのは尊い。
 だから俺のために生きて死ねる彼は絶対に尊く幸せだよ。
 きっと極楽浄土にだって行けるさ。
 生老病死、四苦八苦、そのすべてから解放されて羨ましいねぇ」







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復活! 生命の超克者!

自分でも最後らへん何を書いてるのかわからなくなっちゃった。



☆前回のあらすじ☆
 サイラオーグくんとゼファードルくんのゲーム!
 乱心したゼファードルくんが知らない機械で変身した!
 リンゴとザクロだって! 救世主だって!
 ゼファードルくんを操ってなんかしようとしてるやつがいるみたいだよ!



「クソッ! 」

 

 ガシャンッ!

 と大きな音を立て、それなりに高級な家具が壊れる。

 誰も入ってこないよう人払いをしてある。使用人も眷属もいない、部屋にいるのは自分一人だ。

 

 

 

「クソクソクソッ‼ あの野郎…ッ! バアルの無能がッ……クソッ! 」

 

 メキッ!

 と兄貴の大切にしていた、ヴィル……なんとかという芸術家の絵が破れる。

 無残に破壊されたそれを見てほんのわずかに冷静さを取り戻す。

 

 

 俺が「そんな絵のどこがいいんだ」と言ったら、「こういう芸術品を見極める目を持つことも貴族には大事なことだ」と教えてくれたっけか。

 後でこの絵が贋作と知って、からかいに行った時も「私はこの絵がいいと思った」と言って微笑み、数年後贋作(これ)を描いた絵描きは冥界でも有名な美術会で最優秀賞を取った。

 

 懐かしい思い出についにやりと笑みがこぼれる。

 

 

 

――これは最後通告だ。次の言動次第で俺は拳を容赦なく放つ。

 

 

 

 

 瞬間、頭が沸騰する。

 

 

「クソガアアアぁぁぁぁぁ‼ 」

 

 魔力をほとばしらせ、罵倒とともに拳が空を切る。

 既にここ――次期当主に与えられた執務室――はボロボロだ。

 だが、だが、怒りは収まらない。恨みは収まらない。憎しみは収まらない。

 ……………………悔しさは収まらない。

 

 

「~~~‼ ……、……ッハ、……ハァ……ハァ……」

 

 部屋の惨状を目にし笑う。

 どうだ、見たか。と誰ともなく心で唱える。

 

 お前とは違うのだ。俺には魔力がある。

 上級悪魔にふさわしい、膨大な魔力がある。

 純血の貴族の名家の次期当主としてふさわしい魔力がある。

 

 お前とは違うのだ。お前のような、序列一位の、偉大な魔王(ルシファー)様のお母上の生家の出でありながら、魔力を持たずに生まれてきた無能とは。

 違う、違うはずなのに。

 

 

「くそがっ……」

 

 吐き出された言葉は小さく、弱弱しかった。

 いくら自分を慰めても、奴は無能だと罵っても、ぶん殴られて気絶させられたという事実が自分が劣っている証明として立ちはだかる。

 そんなはずはないのに、自分のほうが優れているはずなのに、そうでなければならないのに。

 

 

 

 古参の悪魔たちが向けてきた目を思い出す。

 シーグヴァイラたちが向けてきた目を思い出す。

 あれは『無能』を見る目だった。

 合理主義の悪魔が、必要のないものを見るときの目だった。

 

 俺が奴に打倒されて傷ついたのは俺の肉体だけじゃない。俺のメンツも傷つけられた。傷つけられてしまった。

 

 

 ―伯爵家の次期当主が揉め事を起こして、大王家の次期当主にたったの一撃で殴り倒され気絶させられてしまった―

 

 

 

 とんでもないスキャンダルだ、醜聞だ。

 貴族社会は横の繋がりが太く、このような話題は瞬く間に広まってしまう。

 しかもあの場には貴族派も魔王派もすべての派閥の者がいた。

 

 なんて悪夢だろう。

 あの様子では俺はどうあっても軽んじられてしまう。

 

 これからグラシャラボラス家を継いで、貴族社会に出ていってもまともに対応してくれる家が果たしてどれだけあるだろうか。

 確かにうちは名家だ。分家だっているし親戚になっている家も多くある。

 だが、……だが、こんな、スタートの前段階から躓くような次期当主についてきてくれる家がどれだけあるだろうか。

 

 

「くそっ……」

 

 本気じゃなかった。本気で罵詈雑言をまき散らしたわけじゃなかった。

 俺は舐められちゃいけないと思って、兄貴の代わりに、グラシャラボラス家の次期当主になったんだから、ここは一発カマシて、連中に俺っていう存在をアピールするつもりだった。

 侮られるのも、舐められるのも多少なら覚悟していた。死んだ兄貴の代わりである以上、俺はやれるってことを見せつけなきゃいけなかった。

 

 

 奴を罵ったのだって、俺は大王家でも啖呵を切れる奴だと、そう思わせるために……。

 

 なのに、奴は躊躇なく俺を殴った。

 本当にあれが最後通告だった。

 信じられなかった。今も信じられない。

 あんな場で、あんな面子がそろった場で、暴力行為を働いた奴の頭が信じられない。

 貴族なら、まずは話し合いで解決しようとするはずだ。

 普通は話し合って、譲歩を引き出して、和解させるはずだ。

 

 なのにあいつはまず最初に最後の手段であるはずの直接攻撃を行った。

 

 

「どうかしてる……」

 

 俺はあいつの敵じゃないんだぜ? 俺はまっとうな貴族の次男坊で、これからの冥界を担うって言われるような6人の一人だ。

 俺の後ろにはグラシャラボラス家がいるし、バアル家との関係だって悪くない。俺の父である現当主だって向こうの初代様とはそれなりの付き合いをさせてもらっているという。

 なのに、なんで。

 

 

 

「なんであんな、殴れるんだよ…わけわかんねぇよッ! 」

 

 

 迫る拳を、捉えることさえできなかった。

 気づいた時にはもう遅かった。いや、気づいたのは殴られ気絶し目を覚ました時だ。

 気づいた時には、ただひたすらに顔が痛かった。

 

 

「ぐ……ッ! ううう……! 」

 

 

 奴の顔を、声を、拳の強さを思い出し、治療されたはずの傷が痛みだす。

 痛みで体が震える。

 

 

 

 痛みで、

 

 

 

 痛みで、

 

 

 

 痛みで、

 

 

 

 

(そうだ…そうだ…これは、痛みだ。痛みで、震えているんだ。そうでなければならないんだ)

 

 

 震えが止まらない。

 

 

 

 

 

 殴られたのは初めてだった。

 あんな痛みは初めてだった。

 あんな目は、初めてだった。

 

 

 

 

 ズキズキと、治ったはずの傷が痛む。心が、体が震える。

 奴を思い出して、怒りと恨みを湧き上がらせるべきなのに、俺の心は震えて、そんな感情はこれっぽっちも湧いてこない。

 

 

(違う、違う、違う! そんなことがあるはずがない。俺が、俺が奴に恐怖を! ああ、駄目だ。間違っている! 俺は上級悪魔で、次期当主で! )

 

 考えれば考えるほどに萎えていく。

 思い出せば思い出すほどに萎んでいく。

 

 認められない認めない。認めたくないはずなのに、俺の心はとっくに答えを出してしまっている。

 

 

(…………………俺はサイラオーグ・バアルに恐怖している)

 

 

 震えは、痛みからくるものでも、ましてや戦意によるものでもなかった。

 ただ俺は、奴に与えられた傷の痛みに、奴の拳に怯え、恐れ、震えていただけだった。

 

 

 

 

(こんなザマで、奴と相対することができるのか……? )

 

 自問。

 

 魔王様がおっしゃった若手悪魔同士のレーティングゲーム開催の件。俺が対するのは奴――サイラオーグ・バアルだった。

 

 近いうちに奴と奴の眷属と戦わなければならない。

 奴と戦う……。

 

 俺にとっても奴にとっても初めてのゲーム。ルールは複雑なものにはならない。おそらく大した仕掛けのないガチンコのゲームになるはずだ。

 奴の拳をまた受けることになるかもしれない。

 

 ああ、だめだ、震えてきた。

 

 

「クソッ! クソッ! クソッッッ!

 ブルってんじゃねぇぞゼファードル! 情けねえ! 情けねえ! ナメられていいのか! いいわけねぇだろうがクソがっっっ! 」

 

 声を出す。

 膝を叩く。

 胸を張る。

 

 上ずった声は聞こえないふり、

 震える膝は見ないふり、

 せめてめいっぱいの虚勢を張って叱咤する。

 

 

 そうして誤魔化しても、頭の中の冷静な自分が弱音を吐く。

――どうせまた殴られる。

――どうせまた笑われる。

――俺じゃ当主なんて無理だ。

――分家の連中も親父も眷属もみんなそう思っている。

 

 

 

「うるさいうるさいうるさい!

 ……畜生。なんで死んじまったんだよ、兄貴…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生まれた時から、俺には兄貴がいた。

 出生率の低い悪魔では比較的珍しい十数年の年の差しかない兄弟だった。とはいっても年が離れていることに違いはなく、俺が生まれた時には兄貴はもう次期当主としての教育を受け、グラシャラボラス家を継ぐことが決まっていた。

 

 

 子どもの頃の俺は兄貴を尊敬していた。兄貴は何でもできて、立派で……だから俺は兄貴にあこがれた。兄貴のようになりたかった。

 だから俺は、頑張って頑張って頑張って。兄貴みたいになりたいと思って

「当主になる」と言ってしまった。子供心の、憧れから出た戯言だった。

 

 

 親父は言った「お家騒動でも起こす気か」

 兄貴は言った「ゼファードルはゼファードルのままでいればいい」

 

 それから親父が教育係の類を俺からすべて取り上げた。

 

 

 

 俺はグレた。

 苛立ちのまま暴れ、怒りと本能のままに行動しグラシャラボラスの『凶児』と呼ばれたりもした。

 親父は俺を完全にいないものとして扱った。

 兄貴は何も言ってこなかった。

 

 

 上級悪魔になって眷属を持てるようになった。

 兄貴は有能な人間や神器所有者、異種族を眷属に迎えていた。

 俺は兄貴の眷属が嫌いだった。俺と兄貴を見比べ比較するような気配が嫌いだった。奴らへの嫌悪感は俺の中でそのまま悪魔以外の種族への嫌悪感へと変わり、反発から俺はただ見目のいい下級・中級の悪魔を眷属に迎えた。

 

 眷属たちを引き連れて領地を爆走したり酒を飲んだり女を呼んだり。月日は流れ、そろそろ家督を兄貴に譲るという話が出てきたころだった。

 

 兄貴が死んだのは。

 

 

 

 兄貴は「禍の団」とかいうテロリスト集団の、魔王様たちに負けて追いやられたという先代魔王の血を引くクズ共のせいで事故死したと、そう聞いた。

 

「ハァ? 」

 

 それを聞いて、俺は訳が分からなくなった。

 

 兄貴は俺が生まれた時からずっといた。兄貴は兄貴だった。

 いつまでも兄貴は兄貴で、俺の前を歩き続けるものだと思っていた。

 いなくなるなんて、死ぬなんて、そんなこと一度だって考えたことなかった。

 

 

 

 

――ゼファードル、お前が次期グラシャラボラス家当主だ。

 

 久々に会った親父はそれだけ言うと目も合わせず足早に去っていった。

 

 マナーだの教養だの今まで学ぶことも許されなかった貴族としての教育を諸々全部詰め込まれた。

 俺は必死で頑張った。

 でも、頑張れば頑張るほどに、兄貴との差に心が折れそうになった。兄貴はすごかった。そりゃあ上を見上げれば限りがないが、それでも学び始めの俺よりも、今の俺よりもよっぽど当主として仕事ができていた。

 情けなさと焦燥と妬みが積もり積もっていった。

 

 

 そして今日の失態。

 

 

 

「どうしてこうなるんだ……」

 

 

 俺が悪い。そんなことはわかってる。でも、だからってあそこまですることないじゃないか。

 あんなことをされてどうしろっていうんだ。

 

 ああ、だめだ。また思考が巻き戻ってる。どんどん思考がネガティブになっていく。

 グラシャラボラスの『凶児』なんて名ももはや何の意味もない。

 そんな奴はどこにもいない。

 

 

 

 

 

「兄貴……俺じゃ無理だ……」

 

 しゃくりあげそうになるのを必死でこらえる。

 そんな情けない姿を、家の者に…眷属どもに見せるわけにはいかない。

 

 

「俺は、ナメられるわけにはいかないんだ」

 

 どんなになっても俺はグラシャラボラス家の次期当主。

 俺が舐められたらグラシャラボラス家が舐められる。

 そうなればそれは他家の介入を許すことにつながる。

 だから、ハリボテでも権威を示さなければならない。

 

 

 胸を張れ、不敵な笑みで相手を威嚇しろ。

 恐怖を、屈辱を、後悔を、涙を、怒りの仮面で蓋をしろ。

 

 

 

 

 

 

「やぁ」

 

 

 

 

 

 そう決意を新たに、前を向いた俺の前にそいつは突然現れた。

 

「こんばんは、いい夜だね」

 

 正体不明のそいつは安っぽい蛾のマスクで顔を隠し、にやにやとした笑みで俺を見下していた。

 

「自分は『藤代九朗』今日は君にイイ話を持ってきたんだ。聞いてくれるかな? 」

 

 

 俺はむかつく笑みの蛾男に一切の躊躇なく拳を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

 

「今よ! 」

 

「――ハァッ! 」

 

 私――サイラオーグ眷属『女王』クイーシャ・アバドン――が生み出した『(ホール)』に躓き動きの止まった怪物を『騎士』のベルーガ・フルーカスのランスが貫く。

 

 

「――! 」

 

 引き裂かれたような断末魔とともに怪物は絶命し小規模の爆発とともに消滅する。

 

 

 

「これで何体目だ」

 

「少なくとも二十体は…眷属全員が倒した数を足せばいくらになるのでしょうね」

 

 ベルーガの問いにため息とともに答え、残りの怪物と今なお戦っている仲間たちの様子をうかがう。

 

 

「どうする。サイラオーグ様に万が一があるとは思えんがこの異常事態だ。すぐにでも加勢に向かいたいところだが――ッ! 」

 

「ええ、そうですね」

 

 ベルーガが弾き飛ばした怪物を『(ホール)』で飲み込み、別の『(ホール)』に貯めておいた魔力弾に合わせて爆発させる。

 

 

「強さはさほどではないがやはり数が問題だ。我らが束になっても殲滅には時間がかかる」

 

「わかっています。ですがこの数を消し飛ばし突破すれば消耗も大きなものとなるでしょう。力をなくした援軍など何の役にも立ちません」

 

 むしろ足手まといに――と考えたところで頭を振って小心を追い出す。

 

 

「サイラオーグなら問題はありません。映像でも傷一つつけられてはいなかったでしょう」

 

「それはそうだがな」

 

「運営がこのまま手をこまねいているとも思えません。リタイアシステムが復旧すればこの騒動も終わるでしょう」

 

 そう口に出しては見たものの、私もことはそう簡単に進んではいないと思い始めていた。

 

 私たちがフィールドの控室でゼファードル・グラシャラボラスの狂態を目撃し、サイラオーグの元へ向かおうとした私たちの前に突然現れた怪物たちの群れ。

 怪物とはいえこれだけの数をゼファードル一人が用意できるとは思えないし、むしろあの様子からゼファードルは洗脳され利用されているだけと考えられる。

 この事件の裏には仮にも上級悪魔であるゼファードルを操り、冥界に攻撃を仕掛ける何者かがいる。その何者かは現ベルゼブブであるアジュカ様の構築したシステムに介入し、一時でもそれを機能不全にするだけの技術を持ち合わせている。

 

 

 戦い始めて十数分、状況が好転することもなく、また敵を打倒したサイラオーグがやってくることもない。

 敵を倒したなら、我らが主はすぐにでも私たちのもとに駆け付けるはずだ。サイラオーグはそういう男だ。

 それがないということはまだ戦いは終わっていないということ。

 

 

 

 

 

「………」

 

 考えながら戦っている内に敵――白くて丸っこい怪物――の数が随分と減った。初め広大なフィールドの一区画を埋め尽くさんばかりにうじゃうじゃとひしめいていた彼らだったが今はもう数十体まで数を減らしていた。

 

 ちら、といつの間にか広範囲に散ってしまった仲間たちの戦況に思いをはせる。

 

(皆は無事かしら……いえ、今はそれよりも)

 

「…………」

 

 『兵士』として登録されている自立稼働する神滅具、少年としての姿を保ったまま拳撃や蹴りで敵を狩るレグルス。

 

 

「レグルス! 」

 

『なんだ』

 

「ここは私たちが引き受けるわ。だからあなたはサイラオーグ様のもとに行って」

 

 私の要求にレグルスは大丈夫かというような目を向けてきたのでベルーガと私は心配いらないと頷いてみせる。

 

『敵を倒し、すぐに戻る! 』

 

 そう言い残して敵の群れを吹き飛ばし彼はサイラオーグの元へ駆けていった。

 

 

「……よかったのか」

 

「なんのことかしら? 」

 

「お前のほうがサイラオーグ様の救援に――」

 

「そんなことよりも」

 

 ベルーガの言葉を遮り、『(ホール)』を新たに生み出す。

 

「敵の殲滅が先です」

 

「ああ、わかった。怪物共にサイラオーグ・バアルの眷属の力を思い知らせてやるとしよう!」

 

 

 激突。断末魔。爆発。

 怪物退治はまだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―●○●―

 

 

 

 

 

「もう止せ」

 

 ガシャンという音。

 

「う、るせ…ぇ……! 」

 

 男が二人。

 一人は鎧を着て剣を杖代わりに、なんとか立ち上がろうともがいてる。

 一人は寸鉄を帯びぬ拳士の装いで、油断なく佇みつつ、眼前の鎧武者に憐みの視線を送っている。

 

 

「うぐっ……! ガァァァッ……! 」

 

 ガシャンという音。

 片手片手剣(ソードブリンガー)が倒れ、縋りついていたアーマードライダーセイヴィアーもうつ伏せに倒れてしまったのである。

 彼は地に伏せもがき苦しんでいる。

 

「勝負はついた。早くその鎧を脱げ」

 

「……っ! ふざっ…けるな! 俺はまだ負けてねぇ! 俺はおまえを倒して……テロリストどもを全員ぶっ潰して、俺は冥界の悪魔たちの救世主になるんだ! 」

 

 

 

 二人の戦いは、最初はセファードルが変身したアーマードライダーセイヴァー有利に進んでいた。未知の力を警戒するサイラオーグは防御に徹し、その隙を突きセイヴァーが攻めに攻めていたのである。

 しかししばらくすると、セイヴァーの様子がおかしくなった。苦しみだし、動きに勢いがなくなったのだ。そうして攻守は逆転し、そして現在。

 

 

「うぁ……ああ……ぐっ……」

 

「……わかった。そのままでいい。俺が脱がしてやる」

 

 ゆっくり屈み、ベルトに触れようとするサイラオーグ。

 

「おおお俺に近づくなァッ! うぐッ! …アァア! ぐぎっガァ! 」

 

 すでに動く体力が残っていない体で、無理やり飛び起き距離をとるセイヴァー。

 ぐらぐら揺れ、片膝をついて、それでも。

 

 

「負けない、負けてない。俺はまだたっ! 戦え、るっ! 」

 

 不屈とはいいがたい、見苦しさでサイラオーグを見上げる。

 しかし、その諦めの悪さとは関係なく、タイムリミットが迫っていた。

 

「ゼファードル……」

 

「うぉおおおおおお!! 」

 

 咆哮とともにカッティングブレードを操作。

 

「…………」

 

「は? おい、くそ、おい! 」

 

 硬直し、視線を落として腰に巻かれた戦極ドライバーをガシャガシャといじくるセイヴァー。

 しかしベルトが反応しない。

 

「くそっ! どうなってんだ! 」

 

「ゼファードル、もう止めにするんだ。その武器がなんなのかはわからないが、それが壊れてしまっては……もう戦いにならない。お前もわかっているだろう」

 

「うるせぇ! ――くそっ!くそっ!くそっ! 倒さなきゃならない奴が、目の前にいるのに! 俺が倒さなきゃならねぇのに! 」

 

 諦めきれないセイヴァーが遂にはベルトを叩き始めるもののうんともすんとも反応しない。

 

 サイラオーグがもう終わりにしようと、近づき始めた瞬間、ベルトから――正確には禁断のリンゴロックシードから――稲妻が走る。

 

「ぐぁ! ――――。あぁ、あああ、ああ」

 

「ゼファードル! ……っく! 」

 

 セイヴァーから膨大な魔力の波動が放たれた。それは鍛え上げたサイラオーグの筋肉をもってしても近づくことができないほどの強さであり、その勢いはまるで消える寸前の蝋燭の炎のようだった。

 

 

「あ、あ、あ―――――サイラ、オーグ。俺を、助け 」

「ゼファードルッッ!! 」

 

――――バチィ!

 

 

 白い閃光とともにアーマードライダーセイヴァーは消滅した。

 残されたのは戦極ドライバーと、ザクロロックシード・禁断のリンゴロックシード。

 

 グラシャラボラス家次期当主ゼファードル・グラシャラボラスの肉体は消滅し、魂は昇天した。

 

 

 しかし彼に死は訪れることはない。

 一度死に、死を超越し、再び現世に舞い戻る。

 それが救世主。

 たとえそれが、操り人形であったとしても。





 原作:DX.4のサイラオーグvs曹操で「スタミナが」とか「足腰が」とか言ってるのがありましたが―――「いや、そりゃ悪魔と人間の種族差でそりゃそうでは? 」と野暮なことを考えてしまう私です。昔、11巻ラストの『最高の赤龍帝』では涙をガチで流してたんだけどなぁ……いつから細かいことはいいんだよで読めなくなったのか……(二次創作のアンチ系で納得&共感することが多くてなぁ)


 書きたいことはかけたかな。満足!


☆『藤代九朗』
 本作品の裏主人公(?)
 その正体は人工不死生物(アンデット)ケルベロスとトリニティフュージョンした元ミラーモンスターの“鏡の中の藤代九朗”。
 現在は融合を解き“禍の団”で一派閥の頭目をしている。身を寄せている理由は武装製作用の資金と資材確保のため。
 兵藤一誠に擬態している“現実世界の藤代九朗”とは違い、いい人を演じる理由がないため、思う存分本性を発散している。
 偶に入れ替わっているが同一人物であり融合により記憶の継承は行っているため誰からも気づかれてはいない。(連れ去ったのは“鏡の”。改造したのは“現実の”)
 力をふるうのは楽しい。
 他人を怯えさせ、嬲るのは楽しい。
 さっきまで笑っていた奴が絶望に顔を歪ませるのは楽しい。
 愛情とか友情とか努力とか決意とか、そういうものを踏みにじってめちゃくちゃにするのは楽しい。
 楽しいことだけやって生きたい。我慢をしたくない。衝動と欲望に忠実な怪物でいたい。
 そんなとても迷惑な存在なのだ。


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第一巻
プロローグ


 ぐにょり先生の『オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版)』読んでたら思いついた。
 何番煎じか分かりませんが、楽しんでいただけたなら幸いです。
 



 奇妙な二人だった。

 時刻は夕暮れ、建物はあっても人の目の少ない住宅地の道を、その少年たちは歩いていた。

 

 正確には歩いているのは一人だけで、もう一人は背負われ運ばれている様子だったが、奇妙というのはそのことではない。

 

 背負われている少年、背負って歩いている少年。

 二人は全く同じ顔、同じ姿をしていたのだ。

 

 双子? いいや違う。双子にしても瓜二つすぎる異様な二人。服の皺も汚れも全く同じ、ドッペルゲンガー以上にそっくりな二人が歩いている奇妙奇天烈摩訶不思議。

 

 

「ごめんな」

 

 

 サラサラと、歩みを進める少年の足元に砂が舞う。

 

 否、砂ではない―――それは灰。

 

 

 背負われていた少年が少しずつ灰になっていく。

 塵は塵に、灰は灰に。背負われていた少年は吸血鬼だったのか。

 否。彼は人間だった。身の内に秘められたものなど関係なく、優しい両親の元で育ち、明日に希望を抱く元気な少年だった。

 灰になっていく。少年はすでに死んでいた。死んで、潰れて、消えていく。彼の抱いていた夢も希望も…愛も全て。全てが灰色に侵されていく。

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 さらさらさらさら崩れてく。サラサラサラサラ散っていく。

 少年―――兵藤一誠だった欠片が形を失い還っていく。

 

 

 失われていく重みを感じ、少年―――擬態兵藤は万感の思いを込めて彼の残骸に言葉を贈った

 

 

「俺のために、ありがとう。命を、居場所を、記憶を、心を…ありがとう。今日から俺が、兵藤一誠だ」

 

 

 

 

 兵藤一誠が崩れ去った後、擬態兵藤はなにかを感じ振り返った。

 

 そこには“何か”があった。“何か”は本物の兵藤一誠があった場所に漂い、少しずつ消えようとしていた。

 擬態兵藤は自身の持つ陰陽術の欠片を用いてそれが何かを見極める。

 はたしてそれは、魂のようなものであった。

 灰になった兵藤一誠の魂か? 否、この魂は人間の物ではない。人間の魂というにはあまりにも力強く、激しく、猛る人越の魂魄であった。

 

 

「これは…兵藤一誠の魂…? いや、それにしては強すぎる」

 

 触れることも危うく感じるほどの強い気配。猛々しさに隠されているが、強い怨念のようなものも感じ取れる。障られる、と直感した擬態兵藤は手を引っ込めると、懐から丸い球のようなものを取り出した。

 力が不安定になった、どこかに還ろうとしている。

 

 擬態兵藤が取り出した球を構え、印を結ぶ。

 

 

 シュオオオオオ…、と球体にその荒々しくも激しい強大な力を持った魂が吸い込まれていく。

 球――眼魂が反応し赤く染まった。捕獲成功。魂ごと何か余計なものまで吸い込んだ気がするものの、ともあれ異世界に飛ばされて初めての特異存在捕獲に思わず笑みをこぼす兵藤一誠。

 

 

『これは、なんだ、なにが起きたんだ! 』

 

 かたかたと揺れながら、赤く染まったその球体は声を発した。

 

「………」

 

 擬態兵藤はできあがった“ドライグ眼魂”を無言で握りしめる。

 

『ウグアァアア……ッ! 』

 

「大人しくしていろ」

 

 

 

 

 沈黙した眼魂を胸ポケットに入れ、彼は一人家路につく。

 ここがどこかも帰り道も頭の中にある。軽い足取りで記憶の中の兵藤一誠の家に向けて歩き出す。

 

 

 

 本物の兵藤一誠が身につけていた服や持ち物は能力によって分解され、後には兵藤一誠だった灰の山が残された。

 

 そしてその山も風とともに崩れ、散らばり、兵藤一誠がここで死んだ痕跡はなにもなくなった。

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

 

 彼の物語はこうして始まる。

 偽りの顔、偽りの記憶。

 

 怪物は人の皮をかぶり、人のふりをして世界に紛れる。

 怪物が求むるは興奮と娯楽。“おもしろいこと”を求める彼は、この世界で何を成すのだろうか。

 それはまだ、誰も知らない。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

『擬態兵藤』まとめ

 

素性:はぐれイマジン(スネークイマジン)

肉体:ヒトとファンガイアのハーフ

  (・オルフェノク)

融合:魔石ゲブロン

   鏡面世界の自分

   ケルベロス

   水棲系コアメダル

   カーバンクル

   コア・ドライビア

   バグスターウイルス

魂魄:コアメダル(鏡)

   眼魂(現)

改造:ネイティブ化

   オーバーロード化

   ネビュラガス注入

道具:『カードリーダー』“Change Kerberos”

   ガイアメモリ・ガイアドライバー

   セルメダル

   ホロスコープス・ゾディアーツスイッチ

   ヘルヘイムの果実

   バイラルコア

   眼魂

   仮面ライダークロニクルガシャット

   カイザーシステム

   アナザーWウォッチ

 

 

 

能力:モーフィングパワー

   “超能力”()

   鏡面世界移動

   使徒再生・灰化能力

   不死身

   気の掌握

   擬態・クロックアップ

   吸命牙(ライフエナジー吸収)

   水棲系ヤミー生成

   魔宝石生成

   インベス使役・ヘルヘイムの植物操作

   ・クラック生成

   重加速

   

 

 

 

変身:カラス種怪人(ゴ相当)

   “アギト”

   タートルオルフェノク(オリジナル)

   ケルベロスⅢ

   モスワーム

   スネークイマジン

   ホエールファンガイア

     『膿んだ仮面、静寂に響く哄笑』

   クレイドールドーパント

   水棲系グリード(メズール

   ジェミニ/ヴァルゴ/スコーピオン

       /アクエリアス

   ワイズマン(カーバンクル)

   オーバーロードインベス(名無し)

   ライドプレイヤー

   バイカイザー(ヘルブロス)

   アナザーW

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『来歴』

 イマジンの未来で生まれ、カイ消滅後「はぐれイマジン」として2008年に人知れずやってきた。

 契約を完了させ1999年に移動。契約者の時間と肉体を奪った。

 2000年にグロンギに襲われ、ファンガイアとして覚醒。吸命牙でライフエナジーを吸収し、砕け散ったグロンギ、破損したゲドルードを直感で確保。

 2001年、アンノウン強襲。アギトとして覚醒しかけるも死亡。『鏡面世界の自分』出現。死体に魔石を埋め込み放置。

 2002年、オルフェノクとして覚醒。数日後、“アギト”としても覚醒。霊石の神経侵食が始まる。

 

 2003・4年、残った漠然とした直感と未来視で洋館の男女のもとに行き、陰陽術を始めとした自然界の不浄の気を操る術を学んだ。

 

 2004年、天王路を襲撃しカードリーダーとケルベロスを奪い、「鏡像の自分(消えちゃうよ)」と「現実の自分(オルフェノク)」と「ケルベロス(人造合成アンデット)」でトリニティフュージョン。

 

 2007年、ネイティブ化。

 

 2009年、科学研究()()のエージェントとなる。アナザーWに。

 

 2010~2016年、

 財団のエージェント(白服)として“とある物理学者”が放棄した研究所の調査をしたり、“とある宗教組織”が栽培していた植物を回収したり、“とある機械生命体たち”に支援の約束を約束したり、“とある元考古学者”から異星技術を流してもらったり、職務に励んだ。

 

 2017年、仮面ライダークロニクルのプレイヤーに。素でバグスターを倒しながら抗体を作っていき、パンデミックを経てバグスターウイルス克服(魔石くん「楽勝でした」)。最上魁星 の部下兼実験助手となり、カイザーシステムやネビュラバグスターについて学び、人体実験を受けた後、エニグマ起動。彼の最期を見届けた。

 最上魁星の目的が財団に明らかとなり、彼の部下だった者たちの粛清が始まったので、メモリ・メダル・スイッチその他 財団で保管場所を知っている特異物品を強奪し、財団から脱走。

 

 2017~19年、グリード化。オーバーロード化。ファントム内蔵。コア・ドライビア生体融合手術。魂魄移植。

(魔石くん「え、ちょ、ま! メダルふざけんなよ! 植物この野郎! この肉体を渡すかボケェ! うおおおおおお! 」

 主人公「なかなか馴染まないな…」)

 

 

 

並行世界 時空破壊/時空創造

 

 

 

 『ハイスクールD×Dの世界』に流れ着く。

 

 

 第一異世界人(兵藤一誠)遭遇、殺害。擬態。

 冒頭へ………。

 

 




★擬態主人公
 元イマジンの現てんこもり怪人。
 なぜこんなごちゃ混ぜになったのか、初めは寿命が動機だったけど、だんだん混ざるのが楽しくなってきた寂しがりや。イマジンだからね、過去ないもんね。しょうがないね。

 楽しいこと大好き! ゲゲル? 人間狩りのゲーム?
 人殺しはいけないことだよね!
 でも楽しいならやってみようかな!

 そんな感じ。積極的に人を襲うようなことはないけど、必要だったら躊躇しないし、誘われたらとりあえずやってみようかなぁ、みたいなかんじの化物。
 人殺しの経験はない。人の子心をなくしたやつは人じゃないって魔法使いのお兄ちゃんも言ってたし。
 え? 乗っ取った体の持ち主? 体は生きてるから…体は殺してないから…。ともかく人殺しの経験はない。ないったらない。

 ちなみに、擬態先が擬態先なので性への興味がちょっぴり芽生えました。(性欲ゲージ:0→1)
 なおリュウタ的に体と心が釣り合っていないので恋とか愛とかよくわからない。外面取り繕ってるけど中身子どもで天然気質。好きなものは好きなので好意を寄せる相手にはその感情をストレートに告げる。―――男でも女でも。




 感想質問どんとこい。喜びだからむしろちょうだいちょうだい。
 高評価うれしい、低評価かなしい。
 感想などの皆さんの反応は作者の栄養です。おいしいご飯たくさん欲しいなって。

 書きたい気持ちがある限り書き続けます。心が萎んだら休憩するかも。
 ではまた次回。
 見切り発車なので話がどう展開するのか作者にもわからない。


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1 龍、初めてのデートは

進撃の巨人一気読みしてたら遅くなりました。自分雑すぎる正体暴露を本誌で「は?」ってなった勢だけど、面白いわやっぱ。一気読みすると「あー、あー! 」ってなるわ。すごいわ。

 あ、主人公の経歴にアナザーライダー追加しました。バイカイザーさんありがとうございました。
 それではどうぞ。


“赤龍帝”、

 “セイクリッド・ギア”、

“ジャガーノートドライブ”、

  “二天龍”、

 “ロンギヌス”、

“白龍皇”、

    “化け物”、

“悪魔”、

  “天使”、

  “堕天使”、

“神”…………

 

 

 

 

 

 

………………。

 

「はぁ…」

 

 駄目だ。断片的な情報しか出てこない。

 

 昨日、兵藤一誠から現れた力の塊を封じて作った眼魂。その中に渦巻く怨念を利用しこの世界の情報収集をしようと思ったんだけど、成果はいまひとつ。

 

 あぁ、この世界が異世界であるというのは、ネットで前の世界の有名企業や著名人を検索し、該当する者が存在しなかったことで確信した。

 この世界にはスマートブレインも鴻上ファウンデーションもユグドラシルコーポケーションも幻夢コーポレーションも存在せず、またその痕跡すらなかった。

 財団傘下のフロント企業もなく、エージェントとして活動していた頃の知り合いも誰もいなかった。宇宙飛行士であり、名も功績も民間に知れ渡っていた我望光明ですら何も出てこなかった。

 

 それを確信した俺は「これで財団の追手が来ることはなくなった」と安堵と寂しさをおぼえた。

 

 しかし、少しして「じゃあ、この眼魂に封じたものは何なんだ? 」という疑問を抱いた。

 この世界が何の異常もない、平凡な世界というのなら、いったいこれは何なんだ…?

 

 そう思った俺は眼魂に話しかけてみたが、うんともすんとも言わない。完全にこっちを無視しやがった。

 壊すと脅しても何も話さなかったので仕方なく方法変更。陰陽術による降霊・神憑りでのサイコメトリーを実行した。

 まぁ、有益な情報はまるで手に入れられなかったわけだが。

 

 

 

 

 

「分かってはいたけど、損傷が激しい。怨霊というより残留思念なのか…? 何かを恨んだりする感情が強く焼き付いた思念…魂の欠片でさえないからそもそも蓄積され読み取れるものが存在しない」

 

 読み取れたわずかな情報でさえ、彼ら彼女らのものではないのだろう。あれは、思念と共鳴する龍の記憶だ。

 赤龍帝、

 ドライグ。

 

 セイクリッド・ギアというものに宿る真っ赤なドラゴン。対となる白龍皇アルビオンと並び二天龍と称される者。

 

 

 断片的な記憶を垣間見ただけでもすさまじい力だった。白龍皇の宿主と戦い、ジャガーノートドライブを発動させ、島ひとつを軽く吹っ飛ばす。

 そして、力を出し尽くして命を終える。

 あれだけの…命の全てを力に変えるような戦いをすれば、そりゃあ勝っても負けても強い思いがセイクリッド・ギアに蓄積されるだろう。

 

 戦いの残像となった彼らを解放してやりたいと、思わなくはないけれど(このままだと俺がこの力を利用するときに邪魔になりそうだし)、いかんせん時間がかかる。

 

「そもそも、俺は陰の気を増やしたり集めたりする術しか習ってないからなー…。清める方、鬼の方々から習えればよかったんだけど…」

 

 

 

 

『おい』

 

 ん…?

 

「―――やあ、やっと応えてくれたのか」

 

『聞きたいことがある。貴様と話すことはそれだけだ』

 

「いいよいいよ、質問でも何でもいくらでも。まずは話し合いから始めようじゃないか」

 

 

 

『………お前は何者だ。なぜあのクソガキを殺し、俺を奪った』

『お前は何が目的なんだ』

『お前は、いったい…なんだ』

 

 ふむ。

 

「………まず、一つ目の質問の回答だけど、一息には話せないな…。だから、単純に答えられる方から答えよう。

 “なぜ殺したか”。それは俺がここで生きるためだ」

 

『生きる…だと…? 』

 

「ああ、生きるため。正確には生活するため、かな? お前が見ている俺の姿で察しがつかないか? 俺は他人をコピーできる。そうして化けの皮を被り成り代わって生きることのできる能力を持っている」

 

 殺す必要はない。殺す必要はなかった。

 でも、ね。

 

『つまりお前が奴を殺したのは』

 

「そう。オリジナルに生きててもらったら、コピーが代われないだろう? 俺には仮宿程度でも、ここで生活する立場と家が必要だった」

 

 擬態したワームが殺しをするのと一緒。

 生きててもらっちゃ都合が悪かったんだ。俺にとって、俺のこの先の人生にとって。

 

『それはお前が、別の世界の生き物だったからか? 』

 

「…へぇ、よくわかったね」

 

『ふん…お前の行動を見ていればだいたいの察しはつく。これでも俺は―――』

 

 黙った。

 喋りすぎた、とでも思っているんだろう。なんだ、案外お喋りじゃないか。

 

『………』

 

「あぁ、うん。そうだね…これは言うか言わないか迷っていたんだけど、俺は 彼を 殺すつもりは なかった」

 

『なに…? 』

 

「いや、生かす気はなかったけど、殺す気はなかったんだ」

 

『待て、お前は何を言っている』

 

 

「―――俺が彼に会って、擬態をして、殺そうと思った。でもその時、殺すのは可哀想だなと思ったんだ」

「矛盾してるよな。殺す必要があるのに殺したくないなんて。でもなぜかそう思ったんだ」

「なんでだろうな。………殺戮の経験がなかったからかな。俺が殺した人間はどうしようもない怪物か、怪物のような人間ばかりだったから………」

 

 

 

「だから、殺したくないと思って、彼に使徒再生の処置をした」

 

―――使徒再生は殺人じゃない。

 適合すればオルフェノクとして生まれ変わることができる。つまりは使徒再生は同族を増やす行為であり、言うなれば生殖行動である、と“先輩”は教えてくれた。

 

―――死んだ奴は運がなかったのさ、お前が、俺が、殺したんじゃない。殺したのはカミサマとか運命とかそういった俺らの上にいるやつさ。だから俺たちは悪くない。

 とも言っていた。

 

 

 

 

「彼は、運が良ければオルフェノクとして再誕できた。そうなっていたら俺は彼を適当な場所に歩織り出して見逃すつもりだった」

 

 灰色の化け物になってしまえば、家族や知り合いの前に現れることはできないだろうし、その立場にはもう俺がいる。

 万が一会いに来ても、無理やりオルフェノクとして覚醒させて遠ざけるつもりだった。

 

 

 隣にいる兵藤一誠と、怪物になった兵藤一誠。

 普通なら、怪物が兵藤一誠に化けて近づいてきたと考える。本当は逆なのに。

 そうして化け物と呼ばれることになれば、兵藤一誠は故郷を離れるしかなくなる。

 俺はオリジナルを殺さず生かさず、罪悪感を感じずにいられたというわけだ。

 

 

 

『お前は………』

 

 

「? 一つ目の質問の答えはこんな感じで良かったかな。じゃあ二つ目『なぜ奪った』のか。

 それは、“欲しい”と思ったから」

 

「キラキラして、強そうで、コレを手にしたら俺はもっと強くなるって思ったら、つい…」

 

『…まぁ、先ほどのよりは分かりやすい。力を求められるのは慣れている』

 

「いやっ! 違う! 」

 

『………? 』

 

 

「力が欲しかったのは本当だ、でも今はそれだけじゃない。お前が欲しい、赤龍帝ドライグ」

 

『な』

 

「無理矢理じゃなくて、心を合わせたいんだ。お前と、一つになりたいんだ」

 

『待て待て待て、お前は本当に何を言っているんだ、喜色悪いぞ! 』

 

「あ、ごめん」

 

 しまった、融合してその力を十全に発揮できるようになりたいという願望が、つい口をついて出てしまった。

 勘違いしてくれたようだけど、気をつけないと。

 

 

 

 

 

「それで えーっと、『俺の目的』だったっけ」

 

『ああ、お前は何をするつもりだ。俺をこの目玉に封じたのは戦いに利用するつもりだったんじゃないか?

 お前はこの世界で、なにをするつもりなんだ』

 

 

 

「………さて、難しい質問だな。

 俺は何をしたいのか、何を目的として生きるのか。

 前の世界ではただ生きることに夢中で、それがいつの間にか力を求めて動くようになった。原因ははっきりしている。

 ()()()()()()()を見たからだ」

 

 あの夢を思い出す。

 

「10年くらい前、突然世界が滅びる夢を見た。怪物が溢れ出し、人々は殺され、建物は崩壊した。そして、世界は滅んだ。………誰かがいた気がするんだ。

 誰か、世界を滅ぼした誰かが、世界を滅ぼすような力を持った誰かが………」

 

 夢だったはずだ。だって、目が覚めた後、世界は何ともなかったんだから。

 夢だ、あれは夢だ。もうほとんど覚えていない。ほとんど忘れてしまった。

 だけどこびりついて取れない悔しさと憧れと恐怖がある。

 

 

「俺は何もできなかった。俺も、力を持っていたはずなのに、滅びに流されるだけだった。その時、力が欲しいと思ったんだ」

 

『………』

 

 夢の話なんかをして、怒っているのだろうか。

 

「だからそうだな、やっぱり俺の目的は前の世界と変わらず、力を集めるということになるのかな。あとは個人的に、綺麗なものが見たいな。それと面白いことがしたい」

 

『まるで子どものようだな』

 

「よく言われるよ。財団のエージェントだった頃の同僚にも、もう少し大人になりなさいと言われたもんさ」

 

 

 

 

 

 

 

「で、最後に俺が何者かということだけど、一言でいうと“化け物”“怪物”だよ」

 

『まぁ、だろうな』

 

「うん。正確には、

 グロンギ兼アギト兼ミラーモンスター兼オリジナルオルフェノク兼人工アンデット兼ネイティブ兼イマジン兼ファンガイア兼アナザーライダー兼ドーパント兼グリード兼ワイズマン兼オーバーロードインベス兼眼魔兼バグスターウイルス感染者兼カイザー

 かな」

 

『………』

 

「あれ? おーい」

 

 返事がない。ただのしかばねのようだ。

 しかばねだった。

 

 

 ………気づかれたかな。俺が取り込もうとしているということに。

 ………そりゃあ、まぁ、気づく、よな。

 久々に他人と話せて、楽しくてつい口が滑ってしまったかな。

 まぁいい。同意があれば尚よかったけれど、メガウルオウダーを完成させるまでおとなしくしていてもらえればそれでいい。

 

 

 

 

 さて、夜が明けるまではまだ時間がある。

 

 ふむ。兵藤一誠のエロコレクションとやらでも、見て時間を潰すとしましょうか。

 

 

 

 

 

 

―○★○―

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー! 朝ご飯できたから、早く起きてきなさい! 」

 

 “母さん”の声が届く。

 

「分かったー! 今行くー! 」

 

 読んでいたエロ本を元の位置に戻し、洗面台で顔を洗いに行く。

 

 

 沈黙を続けるドライグの眼魂を肉体の一部を変形させて収納。

 

 顔を洗い歯を磨き、擬態が綻びていないことを確認する。

 

 兵藤一誠(おれ)は朝ご飯の待つ兵藤家の食卓に急ぐ。

 

 

「あら、イッセー今日は寝起きがいいわね。ご飯できてるからさっさと食べちゃって」

 

「イッセー、おはよう」

 

「おはよう、父さん母さん」

 

 父親、母親。

 『兵藤一誠の記憶』によれば平凡な家庭、優しく仲睦まじい父母。言葉にはしなかったけれど、俺は二人のことを尊敬していたし憧れていた。大好きだった。

 

 

「…父さん、母さん」

 

「ん、どうしたイッセー? 」

 

「ありがとう。俺を産んでくれて、育ててくれて、愛してくれて、本当にありがとう」

 

 

「………どうした? イッセー、どこか具合でも悪いのか? 」

 

「イッセー…、あなた頭でも打ったの…? 」

 

 

 

 ハッとする。

 やられた。

 

 感情の浸食。自我の混濁。

 擬態して時間が経っていないから境界が曖昧なんだ。

 綻びがないということは、逆に擬態が完成しているということ。記憶もなにもかも。

 ついうっかり、擬態元である兵藤一誠に引きずられてしまった。

 

 

「あ、いや…その、昨日学校で、さ。親孝行とかそういう感じの内容の授業があって、それで…その」

 

 言い訳もだめだ。前の自分ならもっとうまくできていたはずなのに、口がうまく回らない。

 

 

「なんだそういうことか」

 

「いきなりで驚いたわよ。さ、いつまでも突っ立ってないで食べた食べた! 」

 

 切り抜けられた。そうだ、うろたえることはない。少しくらいおかしなところがあっても、俺は今兵藤一誠そのものの外見なんだ。別人かとか、疑うはずがない。

 

 

「はいはい、っと。

 いただきます」

 

 

 兵藤家の朝食。うまく言葉にできないがちゃんとした朝食だ。主食に主菜に副菜…だったか? それに汁物。総評として普通においしそう。

 

 ふむふむ。

 

「おいしい」

 

 いい食感だ。軟らかすぎず、固すぎず、水気もちょうどいい。

 俺は食欲がないし、実際栄養摂取の必要もないけれど娯楽としての食事は楽しいからな。うん、とても楽しい。

 

 

 ひょいひょい、と口に朝食を放り込み、食べ物の感触を楽しんで咀嚼し飲み込む。

 体内に入った食べ物は即座に分解され、魔力やライフエナジーに変換・吸収される。

 

 

 ふう。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

 

「おいイッセー、そんなゆっくりしていて準備はいいのか? 」

 

 はて?

 

「準備? なんのこと? 」

 

「おいおい、なにを呆けたこと言ってるんだ。お前今日は出来たっていう彼女とのデートだって言ってたじゃないか! 」

 

 彼女…? デート………?

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

 

 

 

「あ、じゃないぞイッセー! 母さん! やっぱり今日はイッセーがおかしいぞ! この性に全力な息子が記念すべき初デートを忘れるなんて! 」

 

「そうねあなた! イッセー、なにがあったの? もしかしてあなたフラれたの…? やっぱり、イッセーに彼女ができるなんて夢だったのね…」

 

 抱き合っておーいおいおいと泣き出してしまった…。

 勝手に盛り上がり慌てたり悲しんだり、忙しい両親だ。

 

 

「違う違う、これはその…、そう! 昨日の夜楽しみでそればっかり考えてたから逆に頭から抜け落ちちゃってたっていうか、ともかくちゃんと付き合ってるから! 今日もちゃんとデートだから! 」

 

 そう弁解すると、二人はほっとした様子で「頑張れ! 」とエールを送ってくれた。

 

 胸がほわほわした。

 

 これが親子というものか…。新鮮だ。

 

 

 

 イマジンであった自分には両親なんて記憶ごと存在しなかったし、過去に飛んで契約で肉体を奪った時もすでに母は死んでいたし、父は粛清されていた。

 なんか、いいな。うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

―○☆○―

 

 

 

 

 

 ここはデートの待ち合わせ場所。

 ちなみに着いてから3時間が経過している。

 父さんと母さんがやかましいからだいぶ早めに家を出た。本当にやかましくってうっとうしくて、でもなぜか胸があたたかかった。

 まったくもう。まったくもう、まったくもうだよまったくもう。

 

(そろそろか…)

 

 もうすぐ待ち合わせ時間。

 服や髪形を整えつつ、記憶の復習を行う。

 

 

 

 天野夕麻。

 それが兵藤一誠の彼女。黒髪ロングの清純そうな美少女。「絶対いいおっぱいをしている」とは兵藤一誠(オリジナル)談。

 

 突然「付き合ってください」と告白され、彼氏彼女になったらしい。そしてこれが初デート。

 兵藤一誠はこのデートに向けて色々準備をして、デートコースを考えたりもしていたらしい。真面目か、いや割とまじめだったわ。

 記憶では、しっかり彼氏として夕麻ちゃんのことを楽しませようと張り切っていた。エロ方面の期待もしていなかったわけではないけれど、まずは楽しんでもらおうと計画していた。

 やっぱり普通に良い奴だったんだなと、改めて思う。

 

 

 ただ、内心がどうであれ、傍から見た俺―兵藤一誠―は女子から好かれるような評判の人間じゃない。

 記憶を読む限りでは、天野……夕麻ちゃん、うん夕麻ちゃん呼びで。

 夕麻ちゃんが俺を好きになる理由が思い当たらないのだが、何故なのだろう。兵藤一誠の悪名は学外まで轟いているし、他校の生徒がなぜ?

 

 ………一目惚れ、とか? ―――いや、ないだろ。

 わからん。

 

 

 

 

 

「イッセーくん! 」

 

 57人目の眼鏡美少女を視界にとらえた辺りで、こちらに向かって小走りに駆けてくる人影。

 

「ごめん! 待たせちゃった? 」

 

 

「いや、それほど待ってないよ」

 

「そう? よかった…」

 

 

 うん、わかった。

 

 天野夕麻は化け物だ。

 こうして近づけばわかる。人間じゃない、俺と同じ怪物だ。

 “気”が人間のものではない。濁っている感じ…? 清らかだった湖に泥を投げ込み、汚したような…そんな気の流れを感じる。

 何が目的で兵藤一誠に接触したのかはわからないが、恋人になったということは友好的な存在なのだろうか。よくわからないな。仕方ない、いまはとりあえずデートを楽しむとしよう。

 

 

「じゃあ、行こうか」

 

「うん! 」

 

 

 

 

 

 

 それから俺たちはデートの計画に沿って街をぶらついて、洋服店や小物屋に入って色々見て回った。プレゼントもしてみたが…まぁ綺麗な作り笑顔で「ありがとう、イッセーくんからのプレゼント、大切にするね! 」と言われました。

 まぁ、こんなもんです。

 

 種族特性なのか偽りを見抜くことに関しては結構自信があるのだよね。

 

 ちょっと気分が悪くなったような顔をして、コチラが気遣うと「ありがとう、ごめんね」とか言うのだ。

 まったく、ほんとうにまったく…。

 

 

 休憩がてらファミレスに入って昼食。

 俺はオムライスを頼んで夕麻ちゃんはチョコパフェを注文した。

 俺がオムライスを食べようとすると、夕麻ちゃんはケチャップをとってハートマークを書いた。

 

「えへへ、せっかくだから」じゃないんだよ。可愛いじゃん。照れたような表情の裏でこっちを嘲笑ってるのが分かっているのに、綺麗だと思っちゃう。可愛いと思っちゃうじゃん。

 

 美人はずるい。

 笑顔や愛情は作り物でも、そこに味があるように見えてくる。

 

 ずるい。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ファミレスを出てデートを再開し、気づけば夕暮れ。

 夕麻ちゃんに連れられて俺は公園に来ていた。

 

「ねぇ、イッセーくん」

 

「ん」

 

 噴水をバックに微笑む彼女。夕暮れの日が後光のようで美しい。

 

「私達の記念すべき初デートってことで、一つ私のお願いを聞いてくれる? 」

 

「なに? 俺にできることだったら」

 

 お願いが何なのか、予想はつくけれど一応聞く。

 

「死んでくれないかな」

 

 バサッと黒い翼を背中から生やし、夕麻ちゃんは笑顔で言い放った。

 本当の笑顔。本物の、さっきまでは欠片も見せなかった笑顔。美しいとしか言いようのないその表情に少し見蕩れた。

 

「楽しかったわ。あなたと過ごしたわずかな日々。初々しい子供のままごとに付き合えた感じだったわ」

 

 ブゥン。

 見惚れている間に彼女は冷たい口調と眼差しでこちらを見据え、その手に光の槍を生み出し、

 

 ヒュッ。

 と俺に向かって槍を投げつけた。

 

 

 

 やはりこうなったか。

 残念だ。本当に残念だ。好きになりかけていたのに。

 

 

 槍が俺の腹を貫くまでの刹那の間に、今日の思い出が俺の脳内を駆け巡る。

 ああ、泣きたくなってきた。

 

 

 

 

 構えはいらない。

 ただ願うだけでいい。「変われ」と。

 

(―――変身)

 

 

 瞬間、俺の意思に応じて分子レベルで拡散配置されていたオルタリングが腰部に固形物質化して出現。

 賢者の石によって増幅されたオルタフォースが胸のワイズマンモノリスによって制御・供給され俺の姿をアギトへと変えていく。

 

 

「――フッ! 」

 

 気合とともに、槍を手刀で砕き残心。

 

「え…? 」

 

 夕麻ちゃん、いや堕天使は変身した俺と槍を砕いた俺の力に驚き動けない様子。

 槍の感触から、このまま、この“金”の形態で戦っても勝てるとは思うが、一応念のため。

 

 

 両手を前に突き出し、意識を集中。

 

「ハァァァァァ…。―――変身」

 

 左右のスイッチを押し、更なる進化を遂げる。

 

 ベルトにドラゴンズネイルが新たに出現し、ベルト中央部が()()()()()。 

 

 

「な、なんなのよ! お前は! それ、それは! 神器じゃ、ない…! アナタは一体何なのよッ! 」

 

 

 

「俺か? 俺は…アギトだ」

 

 彼女は槍を新たに作り出しいつでも投げられる体勢をとっているが、無意味だ。

 黒く染まった瞳。

 黒く染まった装甲。

 ワイズマンモノリスやクロスホーンなど、所々赤や金で縁取られているのを除けば、全身がほぼ真っ黒の攻撃的で禍々しい姿。

 この姿になった俺に、さっきの槍は全く意味をなさない。

 

 

「そして、この形態を俺は『デモニーアギト』と名付けて呼んでいる」

 

 

 腰を落とし、敵を見据え、装甲を中から突き破る。

 

 バキィ!――――バサッ!

 

 

 

 

 羽が舞う。黒く黒く、誘う様な黒い翼。

 

 悪魔(デモニー)とはいうものの、翼を生やしたこの闇色の姿は、まるで堕天使(キミ)の様だろう?

 

 

 




★キメキメ†堕天使†、限りなく進化する力(方向は怪物の模様)

『進化ってスゴイ! ね、そう思うでしょ、スティンガーくん!』
『う、うん! それに進化って、すっごく気持ちいいよね、コーウェンくん!』

『『進化! 進化! 』』


 魔石くん「あへぇ~、進化って気持ちいい~^」 


 進化した結果まっくろくろすけになった。火のエルはどうしたって? 先祖返りです。先祖の先祖、つまり神テオスの方に寄っただけです。力は当然創造神に敵う訳もないけどね。それでもくそ強い。
 真っ黒アギト。名付けてデモニーアギト。大丈夫? 聖なる泉枯れ果ててない? ←大丈夫。無限の光輝と逆方向に進化しただけだから。←大丈夫。むしろグランドパパンとおそろいだから(色が)。
 姿は漫画仮面ライダークウガの片桐アギトのような刺々しくて、禍々しいアギトを暗闇に染めた感じ。イメージできた?
 できなかったらアルティメットクウガをアギトっぽくして。もうそれでいいや。尖っているのは同じだしね。

 グランドを披露したように、ドラゴンズアイちゃんとあるからストームにもフレイムにもなれるよ! なる機会はあんまりないんだけどね!
 オルタフォースでマシントルネイダーもできるよ! 走った方が早いし、兵藤一誠は免許を持っていないので使えないけどね! 世知辛いね! 無免許で運転すると氷川さんがうるさいからね…。
 ちなみにラストの翼はグロンギとしての翼だよ! ハッタリと演出、それに手間は惜しまないんだぜッ!


☆どすけべ堕天使
 兵藤一誠、本物(意外とナイーブ)じゃないからトラウマにはならない。
 むしろ好かれてるよ! やったね!(ぐるぐる)
 美少女とデートさせてもらって、その最中に笑顔を見せられて惚れないやつがいるだろうか、いやいない(反語)!
 この後どうなるかは次回をお楽しみにだけど、
 ねぇねぇレイナーレさま。
『神器入手して昇進! 』って、「それどこでどうやって手に入れたの? 」って聞かれたら終わりじゃない? 上を騙してとか言ってたけど、じゃあやっぱり神器勝手に抜き取ったりするの駄目なんじゃん?
「すごいよすごいよ! 」って本人を売り込んだ方が出世に繋がるんじゃないかな……。




 次回に続く!
 蔦屋の30日レンタルで返却日間違えて延滞料約4000円やっちまった。とてもかなしい。皆さんもお気をつけて。


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2 ―悪夢―

11月3日、悪夢部分完全書き直し。


 ●月♪日

 今日は大変な一日だった。素敵な彼女とデートと思ったらその彼女は堕天使で、俺―もとい兵藤一誠を殺すつもりだった。

 異種族なのは出会った瞬間に分かってはいたことだけど、まさか殺しにかかるとはなぁ。神器がどうとか言っていたから、きっと危険視されてとかなんだろう。

 赤龍帝ドライグ様サマサマ の宿っていた神器だ。そりゃあ、なぁ。

 思うんだが、

 つまり、本物の兵藤一誠は俺が殺そうが殺すまいが、どっちみち今日堕天使に殺されていたんではなかろうか。それなら彼は寿命が一日縮んだだけに過ぎないよな。そう考えると気持ちが楽になる。

 

 デモニーアギトの姿を見て夕麻ちゃん、混乱して震えた様子だったので逃がしてあげた。俺って優しい。好きになった相手を殺したくはないしね。

 

 父さんと母さんに彼女にはフラれたと言ったら慰めてくれた。心がポカポカした。

 

 

 

 


 

 

「■■、人間を極めるってのは面白いぞ」

 

「いきなりどうしたんですか? 」

 

「人でなしのお前に、俺が教えてやれる最後のことだ。ちゃんと聞け。

 人間ってのは、自分等が思ってるよりも単純で、残忍で、愚かで、人をだますし裏切るし殺すし、そのくせよく間違える。

 うぬぼれるほどの理性もないし、生き物としての形も不完全で物質的にも大したもんじゃない。

 悲しくて情けなくて頼りない。

 

 でもな、人間はよくやるわけだよ。骨に肉をつけて脳を入れただけのありふれたものが、時たま超然としたものに近づき昇る。きっかけは大したものじゃないかもしれない。そもそもきっかけなんかないかもしれない。ただ、人間は神様の気まぐれなんか関係なく、途方もない高みへ達することがある。

 

 そうなったやつはすげぇぞ。俺やお前なんかまったく相手にならねぇ」

 

「あんた、それ言います? 化け物の俺に一度も勝たせてくれないあんたが」

 

「俺なんて大したことないのさ。ただのちょっとケンカが強い男でしかない。

 

 昔から同じ夢を見ていた。雑多な人の群れをかき分けて、一人になっても歩みを止めず、いつか空までたどり着く夢を。

 

 青空が好きだった。強さを求め続ければ、仙人にでもなれると思ったが、変わらない自分がいた。ショーもないまま死んでいくのが俺という人間だった。いつまでも未熟で達観できずに燃え続ける」

 

「爺さん、どうしたんだよ。…まるで―――」

 

「―――。俺が教えたいのは、人間はお前の想像を超えるってことだ。人とともに、人を見つめて、人を学んで生きろ。それはきっと、お前にとっても楽しいことのはずだ。あばよ、ファンキー坊主」

 

「爺さん⁉ 」

 

 

 

 

 

「ここは、どこだ…」

 

「起きたかクソガキ」

 

「ッ! だれだ!」

 

「誰だはねぇだろうが。俺を襲ったのはお前だろう? 」

 

「俺が…襲った…? 」

 

「記憶にねぇってのか。…まぁ、あんだけ派手に頭を打っちゃあ、そういうこともあるのか? 」

 

「頭………お前が? 俺を? 」

 

「そうだぜファンキーボーイ。おっと、言っておくが俺はただの人間だ。お仲間(カイブツ)じゃあねぇから、変な同族意識はよしてくれよ? 」

 

 

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

「………」

 

「………」

 

 

「………」

「………」

 

 

「………」

「…なぁ、いい加減じゃまだ。帰れ」

 

「帰らない。俺に戦い方を教えてくれ、頼む」

 

 

 

「………帰れ」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………お前 ハラ、減らないのか」

 

「減らない。俺は不死身だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~~~~~~~~~~~あぁ…っ!

 わかったよ! 教えてやる! 」

 

「ありがとう爺さん」

 

「―――待て、だれが爺だ、誰が」

 

「爺さんは爺さんだろう? 」

「俺はまだ40代だ! 世間一般じゃおっさんカテゴリーだ! 」

「40代は爺さんじゃないのか? 」

「あぁ! 」

「………わかった、爺さん」

「わかってねぇ! ファンキーすぎるぜこのクソガキ! 」

「痛い、痛い」

「痛がっても無駄だぞガキ! てめぇの痛覚が機能してねぇのはお見通しだ! まずはそっからだ! 」

 

 

 

 

 

 

「いいか、■■。俺が教えられるのはあくまで人としての戦い方だ。怪物としての全力を出す動きじゃない。人間の戦い方と人間の闘魂をお前に教える」

「おう」

「返事は『はい』だ。まずは自分の内に潜れ。暖かく燃える闘魂を見つけたら、それをもっと燃え広げろ。全身の神経の網に闘魂を巡らせ、手のひらで感じるまで高め、高めた闘魂を爆発させろ」

「何言ってんだ爺さん」

「やれ。できないなら帰れ」

 

 

 

 

 

「先生、なぜ俺は弱いんでしょう」

 

「■■、お前は女を好きになったことがあるか」

 

「………ありません」

 

「それが理由だ。お前はオスとしての力が弱い。だから弱いんだ」

 

「言ってる意味全然分かりません」

 

「オスにとって、メスを手に入れるのはほとんど存在意義と言ってもいい。男にとって良い女を手に入れることはこの世のどんなことよりも大切で、だからこそ女を手に入れる力を持っているかどうかは力の強い齢に直結する。

 お前にはそれがない。だから肝心なところで必ず力が不足する。

 俺のような奴に勝つためには手に入れたいと思ういい女を見つけることだ。オスの力を高めろ。本能の力を引き出して戦えるようになれ。そうすればお前は強くなれる」

 

 

 

 

 

「先生、さっきの白い服の人たちは」

「■■、お前には関係ねぇ。だが、まぁそうだな…俺を雇おうって言ってる連中だ。バットファンキーな連中だぜ。俺を化け物にしようとしてやがる」

「………受けないんですか? 」

「あん? 」

「先生は強くなりたくないんですか」

「強さ? 人を捨てて強くなってそれでどうする。人のままでいるのが俺の美学だ。覚えておけよ■■、てめぇで決めた美学を守れないような男は強くあることなんてできない 自分に嘘をついたクソ野郎だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩先輩、私たちって何するんすか? 」

 

「お前それ知らないで配属されたのか? 」

 

「いやー、自分縁故採用なんで詳しいことも何にも知らずに入れてもらったんすよねー」

 

「はー…。俺の―――俺たちの仕事は新規投資先の開拓、言ってしまえば営業、足で稼ぐってやつだ」

 

「へー……んー? ってことはまさか? 」

 

「ノルマもあるぞ、ガンバレ」

 

「いやー!! やだやだやだー! 私もっと楽な仕事がいいー! ご飯食べて寝てるだけの仕事がいいー! 」

 

「甘えるな、そんな仕事―――あったかな」

 

「え!? あるんすか‼ 」

 

「ああ、うちの姉妹部署の人体実験の被験者ならそういう職務内容だったはずだ。推薦状書いておこうか? 」

 

「それは嫌っす。先輩、ねぇ、ちょっと待ってください。いい笑顔でスラスラ書き始めないでください。ねぇ! ちょっと! 先輩! 」

 

 

 

 

 

『先輩! 助けてください! 』

 

「何があった」

 

『研究所の実験体が…ッ! きゃあッ! 』

 

「わかったすぐに行く」

 

 

「………」

 

「………まぁ、驚くのも無理はないか。別に隠してたわけじゃないが俺は」

 

「か」

 

「か? 」

 

「カッケェー! 」

 

「な」

 

「うわ!すっげ! すごいっす先輩、その羽どうなってるんすか、ふわもこ! ふわもこっすよ先輩! どっちの羽も綺麗でかっけえし、このカラス? 蝶? ちょっと触ってみてもいいすか先輩、いいですよね先輩、やったぜひゃっほい! 」

 

「ちょ、待、お前、このっ! 落ち着けバカ! 」

 

「落ち着けませんよ先輩、あれ? それ触角っすか? うっはー! 触角まである! カワイイ! これはカワイイですよ先輩! 」

 

 

 

 

 

「ひゃー!! すっげーっす!!」

 

「口を閉じてろ! 舌噛むぞ! 」

 

「先輩! 先輩! もっと! もっともっと高く!」(てしてし )

 

「暴れ―――ッ と」

 

「ひゃんっ! 」

 

「ひゃん? 」

 

「いやっ…! ちょ…、先輩っ。どこ触ってんすか! そこはダメっす! どさくさ紛れにセクハラとか見損ないましたよ! 早くどけて! 」

 

「ん? …………………ああ、胸か。すまん気づかなかった」

 

「は?

 かっちーん。先輩、それ私にケンカ売ってるんすか? 売ってるんすね? ハッ! 小さすぎてわからなかったとでもいうつもりですかコノヤロー‼ 小さくて悪かったですね! 先輩のバカー‼ 」

 

「こら、空の上で暴れるな。仕方ないだろ」

 

「仕方ない? 私の胸が小さいのが仕方のないことだっていうっすか⁈ いやそれよりもまずは謝って! ごめんなさいって謝って! 気の迷いでセクシープリティな後輩ちゃんについ出来心でセクハラしましたごめんなさいって謝って! 今ならまだ土下座ともふもふで許してあげますさぁほら早く謝って! 」

 

 

 

 

 

「ほへー、ここが先輩の部屋っすか………殺風景なとこっすねー。………なんもねぇ」

 

「帰っても寝るだけだからな」

 

「うーん、私の夢だった『男子の部屋のエロ本探し』もこれじゃあ張り合いが無さそうっすねぇ…隠し場所も限られちゃうし」

 

「持ってないが」

 

「またまた~、そういう人に限ってむっつりさんだったりするんすよ―――というわけでバーン! 」

 

「そこには何もないぞ」

 

「………先輩、なんで何もないんすか…? 」

 

「だからエロ本なんて持ってないって」

 

「そうじゃなくて! なんで、鍋もフライパンも………まさか! 」

 

「そりゃまぁ必要ないしな」

 

「必要ないって……あぁ、もう! 食品どころか調味料もないし! 冷蔵庫はそもそも電源入ってすらねー!」

 

「食わなくても死なないし、なら食わなくても」

 

「おかしいっすよ先輩! こんなの人間の生活じゃないっす! 」

 

「俺は人間じゃない、化け物だ」

 

「~~~~~~~~もうっ! ちょっと買い物行ってくるから待っててください! 」

 

 

 

 

「しぇんぱ~~い。えへへ えへへ」

 

「まさか酒の一杯で酔うとは……」

 

「あっひゃっひゃ☆ 先輩揺れてる~ おっかしーい♪ 」

 

「揺れてるのはお前だ」

 

「うむー! …すんすん…せんぱいいい匂いしますねー」

 

「そうか? 」

 

「なんかー、やさしいにおいがしますー。好きなにおいー…ぎゅーっ」

 

「引っ付くな。暑苦しい」

 

「ふふ」

 

「おい」

 

「………何もしないんすか」

 

「………してほしいのかよ」

 

「ばか、言わせないでください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩先輩、聞きましたかあれ」

 

「あれか」

 

「そうっす、あれっす。この前投資先検討した先輩の、潰されたって」

 

「まぁ、あれは結構ぎりぎりだったからな」

 

「なんで駄目だったんですか? 確か…えっと」

 

「『水から作る全く新しいクリーンエネルギー開発』」

 

「そうっす。どうして…」

 

「財団的に、完成させるわけにはいかないものだったてことだろうさ」

 

「どういうことっすか? 」

 

「お前は………はぁ。質問、財団はどういう組織? 」

 

「はい! 財団は戦争ビジネスを主とした多目的投資組織っす! 」

 

「まぁそんなところだ。だから、だ」

 

「? 」

 

「あれが完成すれば、世界中で起きているエネルギー関連の戦争がなくなる。そう上は判断したんだろうさ。………そう簡単に今のインフラから切り替わるとは思えなかったんだけどな」

 

「えー? そんなことで投資却下っすか? おじさんの話だと結構ヤバめの所にも投資してたって話じゃないっすか。ミュージアムとか天高とか」

 

「あっちとこっちはセクションが違うんだ。あっちの“上”はある程度は人や国が滅んでもかまわないって考える方々で、こっちの“上”は慎重派の方たちだってこと」

 

 

 

 

 

 

「おかえりっす先輩~…って、ちょ⁉ どうしたんすか先輩! その恰好、ボロボロじゃないっすか! すっげー! 」

 

「相変わらずテンションの上りどころが独特だな、お前は。

 傷は治ってるから問題ない、その救急箱を元に戻せ」

 

「それは何よりっすけど、どうしたんすか? 黒塗りの高級車にでも激突しちゃったんすか? 」

 

「八股がバレて全員に刺された」

 

「え…くっそ! 見たかった! 呼んでくれればよかったのに! 」

 

「呼んでたまるか(呼んだらお前が刺される)」

 

「むー、そんな面白そうな現場に居合わせることができなかったなんてー、くーやーしーいー! 」

 

「じたばたするな。スカートがめくれるぞ」

 

「へっへーん、すけべぇな先輩は気になっちゃって仕方ないっすかー? もー、しょうがないしょうがない。ぱーふぇくとぼでぃの私は罪な女っすよねー。えっへっへ」

 

「………」

 

「あっ! ちょっ、待っ! スカートを引っ張らないで! ただのパンツです! ただのパンツですから! 見ても全然楽しくないですから! それに 」

 

「………」

 

「それに、見てもらうならもっとかわいい下着で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むにゃむにゃ」

 

「起きろぐーたら後輩」

 

「ふにゅ? へ? なんで先輩が⁉ 」

 

「なんでってここ俺の家だからな? お前居座って暮らしてるだけだからな? …まぁいい仕事だ仕事」

 

「はい? 仕事? あはは、何言ってるんですか先輩。外はおかしな植物と怪物がうじゃうじゃで危ないんすよ? テレビでも言ってたじゃないっすか」

 

「仕事だ。これから俺たちは沢芽市に向かう」

 

「あはは、なーに言ってんすか先輩。そこ一番やばいとこっすよ? 緑の変なのがいて核ミサイルも通じなかったんでしょ? 」

 

「“上”からの命令だ。行くぞ」

 

「イヤー! 」

 

「安心しろ、俺がいる。お前には傷一つつけさせやしない」

 

「先輩…」(トゥンク)

 

 

 

「それで? なにしに行くんすか? あの緑の変なのと交渉とか? 狙いは連中のテクノロジーっすか」

 

「いや違う。それは別の班が試みて失敗した。連中は俺たちと交渉するつもりはない。今回の俺らの任務は要人救出ということになる」

 

「要人? 」

 

「ユグドラシルコーポレーションが画策していた箱舟計画、その要になる戦極ドライバーの生みの親、プロフェッサー・リョーマこと戦極凌馬を救出し財団に勧誘する。それが俺たちがなすべきことだ」

 

「うえー、そもそもその人生きてるんすか? 沢芽市って奴らもうじゃうじゃいるんすよね。死んでたらどうするんすか? 」

 

「その時は―――だ。そのための俺でもある」

 

「………あぁ~」

 

 

 

 

「う、うーん? この人? っすかねー」

 

「多分な。損壊が激しいが特徴は合致している。こいつが戦極凌馬だろう」

 

「………死んでるっすね」

 

「死んでるな。まぁ問題はない。なんにせよ―――擬態してみればわかる」

 

「おおー………うさんくさいマッドっぽい顔っすね」

 

「それは心外だな。顔で人格を判断されては」

 

「先輩⁈ 」

 

「問題ない。擬態元のキャラクターが濃いとこういうことがままあるんだ。大丈夫すぐに慣れる。さて、戦極ドライバーもヘルヘイムの果実も私の持ち得るすべての知識を手に入れた。これは後で報告書にまとめるとして、帰るよ。これからこの町は戦場になる」

 

「せ、戦場? 」

 

「ああ、駆紋戒斗と葛葉紘汰…光実君は彼を倒したと言っていたが、葛葉紘汰が欠片とはいえ黄金の果実の力を備えているのなら復活程度はやってのけるはずだ。このあとの展開は簡単に想像がつく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「おかえりっす~。今日の夕飯はロールキャベツにオムライスっすよー」

 

「それは美味そうだ。先にシャワー浴びてくる」

 

「どうぞー。今日は朝からどっか行ってましたけど何があったんすか? 」

 

「んー…ほら、この前あれがあったろ」

 

「あれ? 」

 

「沢芽市でまた事件があったろ」

 

「あー、はいはい。ありましたね」

 

「その事件で、今巷を騒がせてるロイミュードの複製が複数手に入ったからって、そのリバースエンジニアリングに付き合わされてた」

 

「はへー、お疲れ様っす」

 

「ああ、疲れた。や、あれ作った奴は本当に天才だよ。ボディも動力源もどっちの開発者も」

 

「ん? 同じ人が作ったんじゃないんすか? 」

 

「別人だな。設計思想っていうか、作り手のこだわりが違う。こだわりというより情熱かな? なんにせよあれだけの機能と将来性を持ったアンドロイドを特別な材料やエネルギーなしの純粋な科学だけで作ったってのは本当にすごいと思うね、俺は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、何してんすか」

 

「………」

 

「答えてくださいよ先輩。そんな大荷物を持って、どこに行く気なんですか」

 

「………」

 

「どこに行くのかは知らないっすけど、一人で行くなんてずるいっすよ」

 

「だめだ」

 

「先輩」

 

「だめだ。お前はここにいろ」

 

「ここって、財団にですか? 先輩のいない財団なんてつまんないっすよ」

 

「お前は、危険人物にリストアップされていない。お前はまだここでやっていけるんだ」

 

「いやっす」

 

「聞け。俺は駄目だ。俺は先生の研究も何もかもすべて覚えてる。先生の実験を繰り返す恐れがある。だけどお前はそうじゃない」

 

「そんなの知らないっす」

 

「俺についていくなんて馬鹿なことは考えるな。財団は必ず俺を追ってくる。俺についてくればお前も追われることになるんだぞ」

 

「私は! 」

 

「私は! 先輩と離れたくない! 一緒に生きていきたいんです! 」

 

「私は! 先輩が好き! 好きだから、一緒にいたい! 」

 

 

 

「………俺は化け物だぞ」

 

「それが何か? 」

 

「金もないぞ」

 

「私が先輩を養ってやるっす」

 

「顔は他人の物だ」

 

「中身は先輩でしょ? 」

 

「追手がくるぞ」

 

「守ってくれるって言ったっすよね」

 

 

「………俺は、お前を愛せるか、分からない」

 

「いいですよ。惚れた弱みってやつっす」

 

 

 

 

「俺と来てくれるか」

 

「はい。喜んで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、ぁ! うぐぅ…! う、うぅ………ッ! 」

 

「くそ! どうなってるんだ! なんでこんなことに! どうしてどうしてどうして! 」

 

「せん、ぱい…」

 

「大丈夫だ心配するな、原因はわかってる。それを取り除けば問題は解決する、大丈夫だ、俺を信じろ! 」

 

「ううん、私は大丈夫だから…この子を、私たちの赤ちゃんをお願い…」

 

「馬鹿! お前の不調も何もかも原因はその赤ん坊だ―――俺の子が、お前を殺しかけている………ッ! 」

 

「あはは、大したこと、ないっすよ。母は強し、ですよ? 」

 

「強がるな! ちょっと切るだけだ。それで子どもを取り出せばお前は死なずに済む! 」

 

「平気っすよ。この子はおびえてるだけなんです。怖い怖いって言ってるだけなんです。だから、私が守ってあげないと」

 

「俺は! 赤ん坊よりも、お前が大切だ! 大切なんだ! 頼むよ…生きてくれよ…」

 

「うれしいなぁ…うれしいなぁ…先輩が、デレてくれたー…」

 

「なにをバカみたいなこと―――待て、待て、待て! 」

 

「ごめんなさい先輩。…先輩、大好きです。愛してます」

 

「ライフエナジーを…っ! こうなったら腹を引き裂いてでも」

 

「この子を、恨まないで。私と先輩の子、愛してあげて」

 

「………ッ! 」

 

「愛してる、愛してる、九朗さん大好きでした」

 

 

 

 

 

「ぱぱ? 」

 

「愛しい人の、愛しい我が子、俺の…愛した女を殺した子ども」

 

「ぱぱ」

 

殺してやる(あいしてやる)よ」

 

「ぱぱ、ぱぱ」

 

「来いよ、お父さんが遊んでやる」

 

「ぱぱ! 」

 

「シャアァ! 」

 

 

 

 

「墓を作ろう…俺たちの墓を…俺たち家族の墓を」

 

「眠ろう、ここで。ずっと一緒だ」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 なんだ、夢か。

 

 夢だった。

 悪夢だった。

 でも少しだけ懐かしい夢だった。

 

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

 考察タイーム。

 体内からドライグを取り出してシェイク。

 

『うおおおお! やめろぉぉぉお! 』

「ばっ! 声が大きい! 」

 小さく怒鳴り、シェイクを止めるとドライグもおとなしくなった。

 

『ハァ、ハァ…いきなり振りまわされれば、大声も出る…それで、何の用だ』

 

 ごめんなさい。

 

「話が早くて助かる。単刀直入に聞く、あれが堕天使でいいのか? 」

 

『…ああ、そうだ。とはいっても、あれの実力は大したものではなかったがな』

 

 ふむ。

 

「つまりあれが最下級というわけではないが、最上級でもないわけか」

『そうだな。あれはよくて中級の堕天使だ。上級や幹部の堕天使とは比べるのも馬鹿らしい』

「幹部? 種族単位で組織があるのか」

 

『ああ、神の子を見張る者(グリゴリ)といって、神器所有者や人間の異能者を集めたりしている組織だ』

「………ずいぶん素直だな。昨日までのつっけんどんなドライグさんはどこにいったんだ? 」

 

 チカチカと点滅するドライグ眼魂。

 

『………いつまでもこだわるのは馬鹿らしいと思っただけだ。お前が日記に書いていたように、お前が殺さなくても堕天使に殺されていただろう。そうしたら俺はシステムに従って次の宿主に移っていた。お前に縛られるのも宿主に縛られるのも同じことだと思ってな』

 

 なるほど。

 

『だからまぁ、せいぜい俺をうまく使え、相棒』

 

 相棒…。

 相棒かぁ…。

 テンション上がるな。

 

「ああ、よろしくドライグ。俺の生き様見せてやるから、特等席で観戦してな」

 

 

 こうして俺たちは和解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *おまけ* 

 

『ところで、あの“デモニーアギト”ってのはなんなんだ? 』

「あれは、神の力の一端…らしい」

『らしいってなんだらしいって』

 

「詳しくは知らないんだよ。ただ、世界を創造した神に仕える天使が人間を哀れに思って力の一部を分け与えたのが力の源らしいの」

『神…お前の世界の神話か』

 

「うん。神テオスが大天使エルロードと天使マラークを作り、マラークとエルロードに似せて動物を作り、自身に似せて人間を作ったって話」

『創造神話か』

「それで、よくある話だけど、人間が驕り高ぶって動物を家畜にしたから天使たち激怒で天使VS人間の戦争が始まったわけ。

 で、人間は40年持ちこたえるんだけど勝ち目は端から存在せず、もはやこれまでというところで、それを哀れに思った大天使、火のエルが降臨。人と交わり人間に神の力を伝えた」

『やってることはグリゴリの幹部どもと同じだが動機がまるで違うな…』

「動機? 」

『ああ、奴らは色で堕ち、人間に天界の技術や知識を教え、その罪で堕天した』

「なるほど。こっちの神話でも火のエルは、神の似姿に不純物を混ぜたとして致命傷を負わされ堕天している」

 

「それで、長い長い時を経て、人類にばらまかれた火のエルの因子が励起した者が“アギト”というわけ」

『なるほどな。それで神の力の一端か』

 

「ちなみに俺はこの力に目覚めかけたことで、一度殺された」

『は? 』

「神さまともども現代に現れた天使にね。いやー、あれは痛かったな」

 

「これとはまた別の力で蘇ったんだけど、その話はまた今度にしよう」

『いや、ちょっと待て! 』

 

 

 

 

 

 




★この後話を打ち切って兵藤一誠のエロコレクションを見たレムレム怪人
 悲しく懐かしい夢を見た。
 二人の遺体の残骸とともに棺に入って埋葬されるつもりだったけど、どっかの通りすがりに起こされた。その時の話はするかもしれないししないかもしれない。後輩ちゃんのこと引きずってないかって? うーん、どうかなぁ…。

 だいたい魔石くんのおかげ。グリードはアンドロイドの夢を見るか。見ないんじゃないかな。見るかも、そうかも。主人公は魔石くんがグリード化を食い止めているので見れる。魔石くん、えらい!
 性欲は薄いが皆無ではないので勃起はする。でも子どもだからよくわからない。
 エロコレクションは全部売って軍資金にしようと思っている。色々するために金が必要なのだ。
 ネット通販でもいいけど、早めに金が欲しいので記憶にある松田・元浜に売りつけようかなとか考えている。
 和解したのでドライグさんを壊して力だけ取り出そうとかはしない。しないといいな。しないかな、どうかな。
 でも神器の中の怨念を魔化魍づくりに利用しようとかそういう悪だくみはある。あるある。



☆まるで駄目なドラゴン
 駄目ではない。
 駄目ではない(二度目)。
 主人公がただの怪物ではなく、誇りを持った強者と認めて歩み寄ってくれた。
 Q.どうしてそんなことがわかったの?
 A.構えを見れば分かる。
 鍛えてますから( シュッ

 デレが意外と早かった赤龍帝。ドライグ君はツンデレ。原作既読の人はみんな知ってるよね。
 ドラゴンだから強い奴は普通に好き。相棒とか呼んじゃう。作者イメージでは孫に頼られた偏屈爺さん。


★ファンキー爺さん
 オーケン。
 ビルド世界のが実験するまでは財団とか関係ないただのファンキー爺さんだったんじゃないかなぁという妄想。
 ライダーの世界には稀によくいる逸般人。達人で素手でビル倒壊とかお茶の子さいさいでやってのけるファンキーパワーの持ち主。鍛えているけど別に鬼でもない謎の人。
 この時のつながり、師弟関係から主人公は成功失敗両方の危険を知りながらエニグマ実験に協力した。


★後輩ちゃん
 ぺちゃぱい。
 ロリではない。身長も低くはない、むしろ高め。どことなくゆるふわのカワイイ子。
 特に改造手術などは受けていないため戦闘力はほぼ皆無。財団に入ったのは親戚のおじさんに紹介されてだが、財団の事業や目的を知っても辞めなかったタフな精神の持ち主。
 なんとなく一緒にいるうちになんとなく好きになってなんとなく最後まで一緒にいた。
 好きな人の腕の中で死ねた彼女は最後まで幸せだった。


★ぱぱ
 ぱぱ。子ども。
 ゴムしろ(手遅れ)

 名無し。生まれついての複合怪人で、母体を無自覚に攻撃していた。
母親のライフエナジーを吸いつくし、腹を引き裂いて生まれた子。母親を擬態して産まれたので元の性別は不明。生まれてすぐに父親に殴りかかってきた。
 父親が変身すると、それを真似て変身。父親が黒いアギトになると、白いアギトになって向かってきた。
 最期は父親の手刀に心臓を貫かれ、果てた。



 

 今回、魔化魍作ったり、ヤミー作ったり、色々する予定だったんだけど、悪夢を挟もうとしたら妙にふくらんじゃって、「ここでやめにしよう…」になった。
 不完全燃焼。
 おのれ低気圧。おのれ台風。
 あと完全に別件だけど、ガラスを割って怪我をしたのでテンションが上がらない。
 おのれガラス。ガムテープを貼ると修理屋さんが困りそうだからそのまんま。
 ぐおおおおお…!(羽虫うぜぇ…ッ! )


 次回、ミルたん魔法少女になる。
 ご期待ください。
 


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魔法少女ミルキー☆ミルたん「それは不思議な出会いなにょ?」

※前話、夢部分、別物に書き直しました(書き直し前より6000字ぐらい増えた)。



「ミルキ~…! マジカルッ!トラーッンス‼ 」

 フワァッ…ギチィ! ふわっ。

 ビクン!ビクン! しゅるるっ きゅぴん☆

 キラッ☆ばちんっ! ぽんっ ぽんっ☆

 ☆しゃらららら~ん☆


「魔法少女ミルたん! まばゆい魔法で、凶悪魔獣をたくさん消滅させちゃうんだにょ☆ 」

 



「魔法使いさんッッ! 」

 

――― それは 乙女というにはあまりにも大きすぎた

 

「………はい」

 

「ミルたんに…ミルたんに…! 」

―― 大きく

―― 分厚く

―― 深く

―― そして野太すぎた。

 

「………」

 

「ミルたんにファンタジーパワーをッ! ミルたんを魔法少女にしてくださいにょッッ!! 」

 

―― それはまさに 漢女だった

 

 

「………はい」

 

 セルメダルを手に、かろうじて返事をする。

 目の前の不思議生物から目をそらそうとするのを必死にこらえて、目の前の大きな欲望(ユメ)の持ち主にメダルを投入するゲートを開く。

 

「その欲望(ユメ)、解放して」

 

 チャリン、と抵抗なくすんなりセルメダルが吸い込まれ、卵が産まれる。

 

「にょ………? 」

 

 かくん と気を失ったミルたん。正直次の瞬間にも目覚めかねないので、全力脱出。

 

――キィーン・・・キィーン・・・

 

 戸棚のガラスからミラーワールドに入り、近くのカーブミラーから現実世界に。

 

「ふぅ……」

 一息つく。いやぁ、生きた心地がしなかった。

 あんな迫力の人間がいるなんて…。存在のオーラが半端じゃなかった。住む次元が違う生命体だよあれは。

 

『なんだったんだ、やつは…』

 困惑したドライグの声。

 思えば、この道中は結構饒舌だったのに、ミルたんに遭遇してから一言も話さなかったな。

 

「あぁ、なんだったんだろうな、あの魔法少女(カッコ)(カッコトジ)は…」

 俺は頭を抱えてのっそりと天を仰いだ。インパクトの強い容姿も、溢れんばかりの強大な欲望もそうだが、なによりあの肉体だ。

 

 巨木のごとき太さの上腕、衣装を引き裂かんばかりの見事に分厚い胸板、驚異的なまでに発達し女性の腰回りよりも太いであろう足、ゴツく太い指、目を疑う質量の筋肉。

 財団Ⅹのエージェントとして、様々な特異技術実験素体となる選ばれた人間を見てきた俺からしても、信じられないほどの逸材だ。財団が収集した過去の秘密組織の改造実験体元のデータを見ても彼以上の肉体を持つものはちょっと思いだせない。

 なんとなく適合しそうだったし、バグスターウイルスに感染させたり、ヘルヘイムの果実を食わせたり、使徒再生をしたりしてもよかったかもしれない。

 

『そうじゃない。いや、それも何なんだだが…俺の言っているのはあれだ、あの水色の』

 

「あ、そっち? 」

 

 なーんだ。

 俺は取り出しかけたヘルヘイムの果実をまた体の中に埋め、また適当に街をぶらつき始める。

 

「あれはヤミー。さっき説明したっしょ? セルメダルを増やすためにグリードが生み出す人造生命体」

『あれが…? 聞いていた話ではもっと生物的なイメージだったんだが』

 ドライグさんはどうやらあれがそのままヤミーだと思っているらしい。

「いやいや、あれはただの卵。俺の宿したコアメダルは水棲系で、宿主の家に巣を作って欲望の増幅に伴って成体になるんだ」

 

 財団Xから抜けるときにちょろまかせてもらった特異物品の一つ。コアメダル。単体でもオリジナルのグリードであるメズールを生み出し使役することのできる財団製のそれを俺は自分に取り込み、グリードとなった。

 記載されていた感覚の失調は、理由はわからないが味覚の喪失だけで済んでいる。もともと人がグリードになるために作られたものではなかったから起きた好都合の不具合かもしれない。

 なんにせよ俺は水棲系コアメダルを9枚取り込み、グリードとなった。そしてグリードとなった以上俺はヤミーを生み出せる。ヤミーで稼いだセルメダルを取り込むことで力を強くすることだってできる。

 

 

「―――っと、今産まれた。成長スピードが速いなこれは」

 

 産み主としての感覚で察知する。

 というか、生まれたということはもう意識回復したのか、早すぎだろ。まだ一分もたってないぞ。

 てくてくからすたすたに歩行速度をアップ。

 

『生まれた、というのはその、ヤミーか? 』

「あぁ、イルカヤミー、だな これは」

 意識を集中し、生まれたヤミーの特徴を探る。

 

 ミルたんのヤミーを生んだ欲望は「魔法少女になりたい」というもの。当然ヤミーはその欲望(ユメ)を増大させる力を持って生まれてくる。欲望を満たしつつ、“もっと、もっと! ”と煽るように。

 ヤミーはざっくり分けて宿主に代わって欲望を満たすものと、宿主が欲望を満たす手伝いをするものがいる。

 

 …どうやらこのイルカヤミーは後者のようだ。

 

 

 

 

―○●○―

 

 

「………にょ? 」

 

 むくり、と短時間ながら意識を失っていたミルたんが目覚め、きょろきょろして首を傾げた。

 

「ううん…何か大事なことを忘れているような………」

 

 しばらくうんうん唸っていた彼だったが、

 

「まぁ、いいにょ。今日も魔法少女になるために魔法力を高める特訓だにょ! 」

 

 そう言って、立ち上がりテレビをつけた。

 『魔法少女ミルキー Blu-rayBOX完全版』からディスクを一枚取り出しデッキに差し込む。

 ミルたんがいつものように、魔法力を高めるためのミルキー視聴マラソンを始めようとしていたその時だった。

 

「?! な、なんだにょー! 」

 

 突然部屋の中が未知の光で照らされる。

 とても不思議な光だった。

 不自然なほど不思議な、神秘的な光だった。

 

 初め強く輝いていた光は徐々に穏やかで優しい光へと変わり、ミルたんのもとへ引き寄せられるように下りて行った。

 その不思議な光景にミルたんも、瞑っていた目を見開いて光源を見下ろす。

 

 

 ぱんっ!

 光の中からぬいぐるみのようなかわいらしいピンクのイルカが現れた。

 ぷかぷかと宙に浮くイルカは、どこかふらふらとした印象で、弱っているようにも見えた。

 

 

「イルカさん、大丈夫ですかにょ?! 」

 

「うぅ…、はっ! キュッ! ここは? ここは一体どこキュ? ボクは一体…? 」

 

 イルカはくりんくりんの愛らしい目をしぱしぱさせたと思ったら急に飛び起き、愛らしい少年の声で流暢に話し始めた。

 

 

「イルカさんが喋ったにょ⁉ 」

 

 驚いたミルたんが出した大声に、ビクゥ! と大げさなまでに飛び上がった桃色イルカは ギギギ…と後ろを振り返り、

 

「キューーーーー! 」

 

 と叫び声をあげた。

 

 

 

 

「ごめんなさいキュ。びっくりして大きな声を出してしまったキュ…」

 

 しょんぼり空中に正座(?)する桃イルカ。

 それに対し落ち着きはらった大人の対応をするミルたん。

 

「大丈夫だにょ。ミルたんもミルキーを見てるとよく叫ぶけど苦情が来たことはないくらいここはおおらかな人しかいないから問題ないにょ」

 

 実際のところは、ご近所さんは魔法少女コスの漢女にビビっているだけである。

 

「よかったキュ…。あ、ボクの名前はヤミィ。魔法の国セントガーデンの王子をやっていたキュ」

 

「ミルたんはミルたんにょ。よろしくだにょ」

 

 大人ミルたん。心の中では魔法の国というワードに超興味をひかれているというのに、それを一切表に出さず耐えて見せる。

 ヤミィと名乗った桃イルカの声が幼かったためだろう。ミルたんは見た目と違って? 見た目通り? 優しく純粋で地合いの心を持っているのだ。

 

「ミルたん………あの、突然だけど、お願いがあるキュ」

 

「なんだにょ? 」

 

 (キタにょーーーー!! )というような内心を全く表に出さず満面の笑みで受け答えをするミルたん。

 

「魔法少女になって、ボクらの国をめちゃくちゃにしたナイトメアドリームと戦ってほしいキュ………!

 迷惑だとはわかってるキュ…、でも、でもボクだけじゃナイトメアドリームの悪い奴らを止めることができないんだキュ…ッ! 」

 

 くやし涙をダラダラ流し、桃イルカは頭を下げた。

 それに対しミルたんは顔をあげ、

 

「わかったにょ。ミルたんは、ヤミィさんをお助けするにょ。

 魔法少女としてッッ!! 」

 

 部屋を揺らすほどの大声と迫力で「応ッ!」と言わんばかりに返答した。

 

「――!! ありがとう…! ありがとうキュ! ミルたん! 」

 

「これからよろしくにょ。………ところでミルたんはどうやったら魔法少女になれるにょ? 」

 

 一人と()()は手をつないで喜び合った。

 

 魔法少女ミルたんとヤミィの波乱万丈大冒険。

 出会いと別れの物語。

 二つの世界の存亡、闇と光の最終戦争(ラグナロク)

 

 リリカルマジカル、始まります。

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

 始まります、じゃねーよ。

 

 

『どうした、相棒』

 

「いや…思ってた以上に生まれたヤミーが賢くて、ちょっと驚いて………」

 

 なんだあのイルカ…。設定も演技も全部ゼロから考えて、ミルたん(おや)の欲望を刺激しまくってる………あのイルカ自身もちょっと強すぎるんだが? セル一枚を数十分の一して産まれたヤミーに過ぎないはずなのに、もう普通にあの堕天使よりも強いぞ。しかもまだ成長途中というね。

 なんだろうなー………、グリードになって最高傑作ができちゃった感じだな。これからあのイルカは、敵キャラと味方キャラとをそれぞれヤミーで作って、変身願望から発生したメタモルフォーゼでミルたんを魔法少女にして戦ったり、話し合いさせたり葛藤させたりするつもりだ。

 よくある魔法少女ものを、現実で、『劇団イルカヤミー』でやるつもりだ。

 

 やばいな。

 

「めっちゃ優秀だ」

 

『何がだ』

 

「ヤミーを生むとして、俺が正直気にしていたのはヤミーが目撃されて騒がれることだったんだ。そもそもヤミーは欲望を食らって成長するからな、人目に付きやすいし、前の世界ならともかく、化け物が不通にいるこの世界じゃ、セルメダルを回収される恐れもあったし」

 

『見つからないように命令はできないのか? 』

 

「無理―――普通は」

 

 ヤミーは宿主の欲望を煽って増幅させて解放する。

 そうして膨れ上がった欲望はたいてい制御ができなくなって暴走する。そうなったヤミーはこっちの命令より欲望を優先させることがままある。オリジナルなら制御できるかもしれないけど、俺は所詮複製コアメダルのグリードだからなー。

 ただ、

 

「ただ稀に、暴走しないヤミーもいる。理由は、確かなことは言えないけど、日ごろから発散しているからだと俺は思っている」

 

 日ごろから欲望を解放して、要は欲望のガス抜きをしているから暴走しない。力の抜きどころをわかってる社畜みたいな感じ? 働いても潰れない、というか。

 かといって、そういう宿主は欲望が育ちにくい、欲望が膨らまないという欠点もある。欲望が膨らんだら解放するのが習慣づいていて、膨らみきる前に自分で片を付けてしまう。

 しかし、

 

「ミルたんは、違ったみたいだな。欲望を開放し慣れていて、制御ができているのに、鬱屈している。欲望(ユメ)を信じているが、心のどこかに虚無と諦観がある。そのため、ミルたんの欲望は制御されたまま膨らみ続ける」

 

 そして、その膨張は止まらない。

 なぜなら彼は純粋だから。

 魔法少女という幻想(ユメ)を信じて、愛と魔法と恋のパワーはどこまでも無限大と童女のように憧れている。

 だからミルたんの欲望(ユメ)は終わらない。

 

「第2シーズン、第3シーズン、劇場版でもなんでもどこまでも行って、セルメダルを大量に降らせてくれるだろうさ―――人知れず、ひっそりと、ね」

 

『よく分からんな』

 

「なにが? 」

 

『今の話を聞くと、お前は目立ちたくないように思える』

 

「うん、そうだけど? 」

 

『ならばなぜあの堕天使を逃がした。あれが話せばお前のことは筒抜けになるぞ』

 

 ……そこきたかー。

 

「いや、それは、まぁ…ね? 」

 

『………』

 

「あー………、………まぁ、彼女、綺麗だったから、さ」

 

『は…? つまりお前は、堕天使に惚れたから見逃したと…? 』

 

 ばっ! ちっげーし!

 

「違う! えーっと、その! ほら、あれだ! 俺はきれいなものが好きなんだよ! 漢でも女でも、化け物でも人でも! で、彼女は俺の目にかなったから生かしただけ! 美人が死ぬのは世界の損失だってだれか偉い人が言ってたし! 」

 

 

『………あれぐらいなら、人外ではそれなりにいるぞ』

 

「え、まじで? 」

 

 人外ではって、え。

 あれぐらいが堕天使の美の平均? 種族が違うとこうも違うの?

 美人のデフレーションじゃん。 

 

『俺はドラゴンだから正直なところはわからないがな。しかし今までの所有者の周りに集まる美男美女と呼ばれる者たちの特徴は何となくつかんでいる。人間の美の価値観もわかっているつもりだぞ』

 

 ドライグは、昨日話した悪魔・堕天使・天使は人間から見て美しいと呼べるものが多いことを教えてくれた。

 

「まじか………」

 

 まじか。

 あまりの衝撃に、擬態が解けそうになる。俺にとってそれはそれほどの衝撃だった。

 

 思わず3種族征服して家畜にしてしまおうかなとか思うくらいに。

 

 ………冗談だよ。ホントダヨ…?

 

 

「………そういえばなんだが、ドライグさん? 俺の強さって、この世界じゃどの程度のもんだと思う? 」

 

 別に深い意味はない。思ったより弱いならカチコミかけようかなとか、そういう意図はない。ないったらない。

 

『なんだその気持ち悪い呼び方は。………そうだな、お前の上限がわからないことには確かなことは言えん。お前の「最強」はなんだ』

 

 ふむ、「最強」か。

 

『あいまいな言い方をしてしまったが、要はお前の戦闘力を大まかでもいいから知らないことにはどの程度などとは言えないということだ。夕暮れのアレが本気ではないのだろう? 』

 

 それはまぁ、確かに。

 ………別に教えてもいいか?

 

「そうだな、確かにあれが全力というわけじゃない。アギトの力単体でもあれが最強じゃないし。“殺す”だけならそれ用の技をいくつか持ち合わせているし」

 

『“殺す”技? 面白いな、言ってみろ』

 

「えーっと、

 ①ミラーワールドに引きずり込んで消滅。

 ②オルフェノクの記号埋め込んで灰化消滅。

 ③吸命牙でライフエナジー搾り取ってカスに。

 ④グリード体でメダル転換。

 ⑤ヘルヘイムの果実を食わせてインベス化。

 ⑥バグスターウイルス大量投与で消滅。

 

 直接的なのはこれくらいで、あとはクロックアップだったり重加速でってのとか。まぁ、格上には通じないと思うけどね。①と②はそもそも触れられないぐらいの力量の差があったら無理だし、⑤はもしも克服されたら俺のアドバンテージが一つ減っちゃうわけだし」

 

 それに、俺の力は基本的に化け物由来の力で怪人体にならないと真の力を発揮できないから困る。

 ………正体がばれて、騒がれたら、この姿も捨てなきゃならない。

 たった一日だけど、結構気に入ってるんだ、この姿の立場。何より両親が善人で優しくてあったかい。学生というのも楽しそうだし。

 

 

『なるほど、怪物らしく、雑多な人間は殺せても、一握りの英雄は殺すことのできない技というわけか』

 

 上手いこと言うな…。

 

「そうなんだよ。だからまぁ、戦うのは怪人に見えなくもない、アギトかカイザーかアナザーWか、になると思うんだけど」

 

 かくかくしかじか。

 基本スペックや能力をドライグに教える。

 

『なるほど。そうだな、まぁ、上には上がいる、といったところか』

 

「はっきりしないな」

 

 

『ハッ、そうはいっても今の話が確かならお前はお前だけでも十分に強い。上か下かで言ったら上だ。お前にとっての強者より、弱者のほうがこの世界では多いだろう。だがそれだけだ。お前は最強というほどではない』

 

 

 ………わかってる。わかってる。わかってる。

 最強じゃないなんて当たり前のことだ。

 ちょっと圧勝して、ちょっと強い手駒が手に入ったから調子に乗りかけていただけだ。

 俺は最強じゃない。前の世界でも同じことだった。人間からしたらとんでもない化け物で、化け物の中でもそれなり以上に最強で、だけど本当に最強の化け物には勝てないし、ヒーローには――仮面ライダーには勝てない。

 戦ったことはない。ただ、勝てないと思った。彼らがあまりにまぶしくて、きれいに思えて、俺が勝てる道理はないと思った。

 上には上がいる? 知ってるよ、上等じゃんか。

 

 

「お前だけでも、ってのは? こっちも話したんだ。ドライグ、赤龍帝、お前は何ができるんだ? 」

 

『神器としての俺の力は「倍加」と「譲渡」だ。10秒ごとに宿主の力を倍にし、増えた力を別のものに譲渡して強化することができる』

 

 は?

 

「は? 」

 

『それだけだ。単純だろう? 』

 

 いやいやいやいや。

 十秒で倍? じゃあ一分で元の力の64倍…?

 二分で、えーっと…4096倍……?

 

 いや、いやいやいや。

 

「嘘だろ? 」

 

『事実だ。神滅具と呼ばれるわけが分かったか? ただの人にも、人を超え、神を超えるかもしれない力を授ける。それが神滅具だ。まぁ肉体が負荷に耐えきれず、事実上の倍加の上限は存在しているが』

 

 

 ………俺、アンデットなんだが。

 負荷、あるのかな…。なかったら、あれ? やばくないか?

 

 

『と、調子づかせるようなことを言ったが悪いな相棒。俺は今その力を使えない』

 

「なぜ」

 

『相棒のせいだ。こんなわけのわからないものに俺の魂を封じて。

 神器としての機能が外側に出ていかないんだ。どうなってる』

 

 あー………。眼魂という檻に力ごと封じられた感じか。

 

「すまん。読み取り用のデバイスを作る予定だからそれまで待ってくれ」

 

『俺は別に構わないが…お前が力を求めるのなら早くしろよ? 』

 

「ああ」

 

 プロトメガウルオーダーでいいから開発は急務だな。技術知識はあるが資材が足りない。金と仕入れのルート確保を早くしなければ。

 そのためにもまずは自由に動かせる手駒だ。

 イルカヤミーは何が起こるかわからないから下手に動かせない。

 もっと単純な欲望から作るささやかな力だけのヤミーが欲しい。

 情報収集の網を張りたいのだよな。前の世界なら知り合いから仕入れた機材でガジェットでも作るところだが、それも不可能であるし、ヤミーしかない―――のだが、

 

「………結構歩いているのに、いい感じの欲望が見当たらないぞ。どうなってる」

 

 これだけ住宅街を歩けば、人畜無害なぎりぎりヤミー生産ラインの欲望を持った人間が見つかるはずなのに、見つからない。

 

『それはそうだろう。この町は悪魔の領地だ。悪魔は対価と引き換えに人間の欲を叶える。欲望が見つからないというなら原因はそれだろう』

 

「………初耳なんだが」

 

『ん? 相棒は兵藤一誠の記憶を読んだんじゃないのか? 』

 

 記憶? どういうことだ?

 

「全部を読んだわけじゃない。だいたいだ。知り合いとか家族とか、趣味嗜好とか。夕麻ちゃんのことだって記憶を探るまでは気づかなかったし」

 

『そうか…なら相棒の通う学校の記憶を読め。3年生のリアス・グレモリーだ』

 

「リアス…グレモリー………」

 

 

 検索検索。

 …………検索するまでもねぇ。

 

「グレモリーってさ」

 

『ああ、悪魔だな』

 

「グレモリー先輩、めっちゃきれいなんだが」

 

『ああ、悪魔だからな』

 

「同じ部活だっていう連中もキレイどころばかりなんだが…」

 

『おそらく悪魔だろうな』

 

「生徒会長の支取先輩って…」

 

『うむ…』

 

 うむジャねーよ。

 

 まーじーでー。

 

 俺、悪魔の学校に通うの? ばれない? 死なない?

 死なない。俺、不死生物(アンデット)だから!

 

 

 

 

 

「………とりあえず帰るか」

 

 いやになったので帰る。

 魔化魍も作っておきたかったし、ヤミーも作っておきたかったけど、もう萎えた。気力が限界。

 無理。

 帰ります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




★人生初の学園生活にルンルンだったのにくずおれた即死攻撃持ち雑魚散らし系エネミー
 味覚消滅系主人公。
 大体こういうので消えるのって味覚だよね。一番ダメージが薄い気がするからかな。でも一生うまいもんをうまいと感じられないって辛くない?
 おにぎりも姉ちゃんの手料理も魚もアイスも全部「なんか…味の抜けたガムみたい」だよ?
 辛くない?
 まぁCV.ゆかなで声出せるようになるならお釣りがくるんじゃない? そうかな、そうかも。
 そんなかんじ。

 前の世界では体重管理のためにセルメダルは貸倉庫に貯めておいたので貯金がパーになった。銀行には一億円があるけど通帳なくして下せなくなったので全財産は財布に入っていた一万円みたいな感じ。
 ミルたんは主人公にとって油田ゲットしたようなもん。金がじゃぶじゃぶ入ってきてうっはうは みたいな? 多分気分は石油王。
 強化の目途がついて、自分がこの世界でゲットしたドライグが想像以上に想像以上でテンション爆上げってたら、学園でテンション急落した。どっちもすぐには力にはならないからね………。
 とりあえずメガウルオーダー早く作りたい。
擬態一誠「材料がねぇ!」



★魔法少女ミルたん
 リリカルマジカル。悪い子はお仕置き(魔法)にょ♡(野太い声)
 物理魔法ではない本当の魔法(欲望)を手に入れた漢の娘。
 出会いは偶然。適当に歩いていたところ強い欲望をキャッチした主人公に話しかけられヤミーの親になった。
 よくわからないが魔法使いになれたのでハッピー。
 魔法少女ミルたんは、世界の平和と友達の未来のため、闇の勢力ナイトメアドリームと戦うのだ!



★イルカヤミー
 お前を消す方法。→ミルたんを殺すor主人公を殺す
 正面から見ても愛らしいマスコットキャラクター()。
 ヤミィを筆頭とした劇団イヌカr……もとい劇団イルカヤミー。ミルたんが気持ちよーく魔法少女をするために日夜勉強中。
 実は単体でも超強い。800年前の王から生まれたクジラヤミーの20%くらいの強さ。
 集団になると…。ちなみに増殖中。



★魔石くん
 うおおおおおおおおおおおおおおお!(コアメダルの肉体浸食・失調を必死に食い止め)
 うおおおおおおおおおおおおおおお!(モーフィングパワー全力で肉体維持)
 うおおおおおおおおおおおおおおお!(とにかく必死)

 ファイト♡





 やっと話が動いた今回。
 次回は学園に通いつつ、魔化魍作って育てます。
 生育場所を決めたら、エサの確保ですねー(暗黒微笑)。
 


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