転生者だけど、前世の記憶を喪失している上にジェダイの騎士で指揮官になっています(白目) (断空我)
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プロローグ

アズールレーン、アニメ化と二周年おめでとうございます。

ここのところ、モヤモヤと溜まってきたので発散目的で書きました。

スター・ウォーズ、大好きなんですよね、クローン・ウォーズとか、アナキン・スカイウォーカーとか。


 これは俺が転生する直前の記憶だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、待っていたよ」

 

 

 濃い霧のようなものが漂う森林で人生という皺を刻んだ爺ちゃんが笑顔でこちらをみている

 

 

「貴方、誰?」

 

「儂?神様」

 

「はぁ、神様」

 

 神様と名乗った爺ちゃんは笑みを浮かべる。

 

「疑わずに目の前の存在を神と認識するか、よいよい、見込んだとおりだ」

 

「?」

 

 首を傾げた俺に爺ちゃんは笑みを浮かべる。

 

「ここ、どこ?」

 

「儂の住んでいるところ、唐突だけど、キミ、死んだよ?」

 

「そう、なんですかね?」

 

「覚えていない?」

 

「まぁ」

 

 死んだと言われたが記憶が綺麗さっぱりないのでなんともいえない。

 

 ジリジリと胸元に小さな痛みが訴えてくる。

 

「あんな最期だったら仕方ないかなぁ?まぁいいや、キミは転生させるから」

 

「転生?」

 

「知らない?神様のミスとかそういうので別の世界で転生するって話」

 

「全然」

 

「そう~、じゃあ、仕方ないかなぁ」

 

 爺ちゃんはそういうと杖をつきながら近付いてくる。

 

 近づいてきて転生とやらについて話してくれた。

 

 曰く神様転生というジャンルがあって、神様のミスや遊戯等の理由によって命を落とした魂を別世界で人生を過ごさせるために命を与えて転生させるというもの。

 

 その際に神様は転生させる人間に強い力を与えたりするという。今回はそういうことはしないらしい。

 

「転生させる理由だけど、キミが死んだ理由がまぁ、あまりにむごいからさぁ、可愛そうに思ってね」

 

「そうなんですか」

 

「……というのはウソなんだ」

 

「はぁ」

 

 小さく謝罪しながら爺ちゃんは話す。

 

 何でも興味本位で俺より前に転生させた人物が色々とやらかしたことでその世界が滅茶苦茶になってしまっているらしい。

 

 他の転生先でも似たようなことが度々あるために色々と対策を講じようと決定した直後のことだったらしい。

 

「そういうわけでキミを転生させて世界のバランスを何とかしようという訳、選んだ理由はまぁ、死に方がねぇ」

 

 さっきから微妙に言葉を濁しているが俺は一体、どんな死に方をしたのだろうか?

 

 何度も同じことをいわれてしまうと酷く気になる。

 

 思い出そうとすると頭痛が起こっていた。

 

「キミが新たな人生を幸せに歩むのか、それともドロドロの人生を歩むのかとても興味深いよ」

 

「はぁ、え?それってどういう」

 

 

「じゃあ、」

 

 笑顔で爺ちゃんが俺の額を杖で突く。

 

「フォースと共にあらんことを……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと木造の天井が目に入る。

 

「懐かしい夢……でいいのか、わからないが」

 

 傍に置かれている時計をみれば起床時間よりも少し早い程度。

 

 どうせだし、このまま起きて準備をするとしよう。

 

 布団から這い出てそのまま外に出ようとしたところで腕を掴まれて引き寄せられてしまう。

 

「どこへいく」

 

 布団の中で青い瞳と目が合う。

 

 さらさらと揺れる銀よりの白い髪と頭部でピコピコと揺れる狐耳。

 

「あぁ、朝ごはんの準備?」

 

「そんなものは我々に任せればいい。それより、お前の子種が欲しい」

 

「いやぁ、さすがにあんなに絞られたら」

 

「チュッ」

 

 逃れる暇もないままキスをされる。

 

「ン、ジュル……ズズズ、チュッ」

 

 抗う暇もないまま口の中を蹂躙されていく。

 

 一旦、解放されるも顔の周りをベロベロと舐められた。

 

 絶世の美女と言える彼女の猛攻に抵抗できないまま、布団の上に押し倒される。

 

 そのまま両手足を白い狐の尾で拘束されてしまう。

 

「お前は我々のものだ。今は鉄血と共通の財産となっているがいずれ奪い取る。逃がしはしない。今は私が味わっているが、もうまもなく姉さまの番だ。それまではじっくりと味合わせてもらおう……何より、貴様に選択肢は存在しない」

 

 視界一杯の加賀に埋め尽くされている中で俺は抵抗できないままキスの嵐に襲われる。

 

「ン、反応したな」

 

 加賀の目線は俺の下腹部、肉棒へ向けられている。

 

「あ、ま」

 

「いただくぞ」

 

 既に全裸の彼女は上に跨って肉棒が侵入を果たす。

 

「あぁ、この瞬間がたまらない!」

 

 既に準備ができている彼女と合体したところから卑猥な音が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異世界より突如現れた異形の敵【セイレーン】。今までの兵器を一切受け付けず、猛威を振るう存在に人類は結束して世界的軍事組織【アズールレーン】を結成。

 

 【アズールレーン】

はセイレーンを退けることに成功はした。

 

 しかし、理念の違いから三つの陣営に分裂してしまい、愚かな戦争を繰り返そうとしていた。

 

 【キューブ】という人類の英知の結晶から生み出された鋼鉄の艨艟たちの力を有する少女達。

 

 歴史的に名を遺した戦士の遺伝子を基にして生み出されたクローン兵士たち。

 

 多くの犠牲を払いながらも後に【クローン大戦】と呼ばれる一つの戦いが終わった。

 

 戦いが終わった後、アズールレーンは二つに割れた。

 

【セイレーンの力を用いるか否か】【フネは人かそうでないのか?】

 

【クローンは兵士といえるのか?】【人権など必要か?】

 

 これからの考えからアズールレーンを離反した二つの国家、重桜と鉄血はレッドアクシズを結成。

 

 レッドアクシズはアズールレーンへ宣戦布告。新たな戦いが勃発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした?」

 

 考え事をしていたところで傍にいた加賀に抱き寄せられる。

 

 抵抗しようも後ろから伸びてきた尾が俺の腕を拘束してきた。

 

「加賀……近い」

 

「当然だ、まだ、貴様を食い足りないからな!」

 

「力説しない――」

 

 ちらりと周囲を確認する。

 

 窓は鉄格子がはめられ、扉は明石が作成した特注品の指紋認証が設置されていて、当然のことながら俺は認証をしようとしても拒絶される。

 

「さて、ゼロ」

 

 離れようとしたことに気付いた加賀に“首輪”を掴まれて引き寄せられる。

 

 無骨な黒い首輪。

 

「フフッ、これをみているとお前が私達のものだと認識できる」

 

 当然のことながら首輪は奴隷の証というわけではない、逃げようとすれば電撃を流して意識を刈り取るための機能がある。

 

「貴様は無欲すぎる……普通のオスならば、私に獣のように襲い掛かってもおかしくはないというのに」

 

「そういうものとは無縁な生活をしてきたので」

 

「ジェダイの騎士とやらは理解できんな、当然というべき欲を絶つ等」

 

「訂正しておくけれど、俺はジェダイの騎士とはいえない」

 

「よく言う、貴様があの光の剣で多くのドロイド、そして敵艦を壊してきた」

 

 今度はほおずりしてくる。

 

 ぺろりと舐められたことでぞくりと体が震えた。

 

「そんなお前の強さが欲しい!」

 

 妖艶でどこか狂気を秘めた加賀の目に吸い込まれそうになった時。

 

「失礼する」

 

 扉が開いてそこから一人の女性がやって来る。

 

 当然のことながら彼女もフネ。

 

 白い重桜の軍服にすらりとした伸びた足、腰には軍刀がぶら下がっている。

 

「高雄か、何の用だ?」

 

 武人としての印象が強い高雄は手の中にある懐中時計の時間を加賀へみせる。

 

 時間を見た加賀はため息を零す。

 

「時間、か」

 

「左様」

 

 高雄の言葉に加賀は名残惜しそうに手が離れる。

 

「今回の連行は拙者が行う」

 

「わかった、任せるぞ」

 

 頷いた高雄は俺の首輪に繋がっている紐を掴む。

 

「きてもらおう」

 

 抵抗することもできない俺は廊下へ連れ出される。

 

 興味津々という風に離れたところでこちらをみている少女達の姿を眺めながらある部屋の前へ通された。

 

「入れ」

 

 高雄に言われて中に入る。

 

「ウフフフ」

 

 中に入ると両手を広げて妖艶な笑みを浮かべる女性が待っていた。

 

 実質、この重桜の軍事施設の全権を握っていると言っても過言ではない相手、赤城が近づいてくる。

 

「お待ちしておりましたわぁ、だ・ん・な・さ・ま」

 

 語尾にハートマークがついていそうな嬉しい声を上げながら覆いかぶさって来る赤城。

 

 どうしてこうなった?

 

 キスの嵐で意識を失いそうになりながらゼロと呼ばれている俺は自問する。

 

 答えは当然のことながら帰ってこなかった。

 




ゼロ

(現)29歳

杖をついたヨーダ似の爺ちゃんによって世界のバランスとやらのために転生させられた男。
死んだときの影響で前世の記憶がきれいさっぱり喪失しているが前向きに生きようと(一応は)している。
この世界に存在するジェダイの騎士の一人だが、現在はレッドアクシズに監禁状態。
毎日、ドッタンバッタンやっているらしいとか?

次回の要望が多ければ、続けます。



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少年編 重桜の零

今回はエロなし


 俺の転生した世界は酷く危険な状況らしい。

 

 世界は戦火に包まれている。

 

 それはすべて、セイレーンという正体不明の外敵が現れているためである。

 

 セイレーンの猛威は止まることを知らない。

 

 今までの兵器の類は全て通用しない為に人類はどんどん敗北の数を刻んできていた。

 

 その中で天啓ともいえるキューブとクローンの存在は人類にとって救いだっただろう。

 

 ただし、幼い俺にとって、そのことはどこか遠い話の出来事のように感じていた。

 

 八歳のころ、俺は重桜で生活をしていた。

 

 両親はいない。セイレーンの攻撃によって死んだらしい。

 

 らしいというのは俺が転生とやらをした時は既に両親が死んでしまっていたからである。

 

 今の俺は重桜の聖域ともいわれているところの近くで生活をしていた。

 

 作物の具合を確認して、家へ戻る。

 

 ボロボロの家屋。

 

 戦時中で、浮浪児の俺をこんなところに住まわせてくれているだけ感謝している。

 

 尤も、重桜の軍連中に対してではなく、俺の〇のような人に対してだが。

 

「あ、ゼロ!」

 

「陸奥、来ていたのか」

 

 作物を抱えながら中に入るとそこには一人の活発な少女がいた。

 

 巫女服を纏い活発な少女は俺を見ると駆け寄って来る。

 

「陸奥様がお前に会いたがっていた」

 

「江風、アンタもいたのか」

 

「うむ」

 

 畳の上に腰かけて刀を傍に置いている少女の名前は江風、ここにいない重桜の巫女である長門と陸奥を護衛しているフネ。

 

 彼女達は人間ではない。メンタルキューブを用いて戦時中のフネの力を宿している者達、KAN-SENと呼ぶ者もいれば、フネとそのままいう者もいる。

 

 そして、江風は俺の剣の師匠でもある。

 

「お前があれから上達したかどうかもみにきた」

 

 淡々と江風が伝えると俺に軍刀を投げてくる。

 

「表に出ろ」

 

「もう!江風はせっかちなんだから!」

 

「陸奥、後でね」

 

「陸奥も縁側で見学する!」

 

 頬を膨らませる陸奥も縁側で観賞するという状況の中で俺と江風は向かい合う。

 

 表情の読めない瞳の相手は静かに黒い刀を抜く。

 

 呼吸を整えながら刀を横に水平へ向けるようにして構えた。

 

 最初に動くの当然のことながら俺。

 

 江風相手に焦らすということは通用しない。その気になれば何時間でも様子を伺うことができる。それが武人江風だ。

 

 開始して数分経たずに俺は地面に倒れている。

 

「前よりも太刀筋はよくなっている、無駄な動きもない。だが、躊躇することが多すぎる」

 

 反省会という名の説教。

 

 そこで俺は江風の話を静かに聞いていた。

 

 前に眠気がきたことをばれて額にこれでもかというほど後頭部を殴られてしまったことがある。

 

「お前は人を殺す覚悟があるか」

 

 江風の問いに俺は少し悩みながら答える。

 

「覚悟は、ない……けれど、俺を大事にしてくれる家族に何かがあるっていうのなら俺はきっとこの手を汚すことに躊躇いはない」

 

 俺は孤児だ。

 

 おまけに転生者という厄介な存在だ。

 

 あの爺ちゃんの話によれば転生者がこの世界を滅茶苦茶にしてしまったという。

 

 そんな危険な存在である俺を家族と言ってくれる人の為なら戦えると思う。

 

「いや、これは汚い言い訳だ。長門達を盾にして逃げたいだけのようなものだ。俺は殺すことはできる。でも、出来るなら」

 

――殺したくないなぁ。

 

 先の言葉は江風からの殺意で告げられない。

 

「お前の命は神子様のものである。それを忘れるな」

 

 淡々と、絶対零度の視線で言われた俺は頷く。

 

「難しい話、終わったぁ?」

 

 縁側で横になっていた陸奥がとてとてこちらへやってくる。

 

 俺と同じくらいの身長のため、正座をしていると陸奥が少しばかり高い。

 

「ゼロ!長門姉が会いたがっているからいこう!」

 

「いこうって、俺は」

 

 ただの平民で好き勝手に訪れて言い訳ではない。何より俺がくることをよしとしない連中が多すぎる。

 

「いいから!うるさい連中は知らないから!陸奥は長門姉の笑顔がみたいの!」

 

「あ、待って、マジで待って、足が痺れて、痛い、痛い、痛いからぁ!」

 

 足が痺れて満足に動けない状況で陸奥に引っ張られていく。

 

 抵抗できないまま重桜にある社につく頃にはボロボロとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故、お主はボロボロになっておる?」

 

 対面で腰かけるのは俺と同い年くらいの幼い少女。

 

 長く艶やかな黒髪、そして頭部に伸びる狐の耳。

 

 彼女の名前は戦艦長門。

 

 この重桜という神樹がある社の神子で、俺を助けてくれた恩人。そして、民を守るために奮闘しているフネ。

 

「いやぁ、陸奥に」

 

「そうか、よい、それだけでわかった」

 

「……あははは」

 

 陸奥の破天荒を知っているからこそ長門は小さくため息を零す。

 

「でも、陸奥も長門を喜ばせるためにやったことだから怒ることはしないであげてほしい」

 

「すまぬ」

 

 謝罪する長門に俺は首を振る。

 

「その、生活に不便はないか?」

 

「大丈夫だよ」

 

「申し訳ない。本当ならもっと悠々自適に生活できるようにしてやりたかったのだが……」

 

「いいよ、今は戦時中だし、俺みたいなゼロのことなんか、それに護身術とか江風に指導してもらっている。何より」

 

 少し間を置いて、周りの気配を探る。

 

 誰もいない。

 

 監視の目がないことを確認して長門へ向き直る。

 

「大好きな家族の長門や陸奥とも一緒にこんな形でもいられるのは幸せだから」

 

「そ、そうか」

 

 俺の言葉に長門は顔を赤くしながら俯いた。

 

「長門?」

 

「な、なんでもない、そうか……、よ、余も、嬉しく」

 

「失礼します」

 

 話を遮るように神主の格好をした男が現れる。

 

 男の姿を見た長門は表情を硬くした。

 

「神子様、時間です」

 

「わかった、すぐ行く。ゼロ、今日はすまなかったな」

 

「いえ、失礼します」

 

 こちらをみようとしない男と視線を合わせずに部屋を出る。

 

 少し歩いたところで俺を囲むように男達がはだかった。

 

「おい、能無し、こっちへ来い」

 

「……」

 

「おい、何か、いえよ!」

 

 話すために近づいてきたと思えば殴って来る。

 

 抵抗することもできないまま狭い部屋に押し込まれて殴る、蹴る。

 

 臓器を傷つけられないように、顔や目立つようなところへ傷をつけられないように細心の注意をはかりながら男達は俺を攻撃する。

 

 理由などない。

 

 連中はただの憂さ晴らし。

 

 重桜という国を守るために粉骨砕身している自分達と比べて長門の傍にいるだけの役立たず。

 

 俺の名前がゼロというのも能無しという意味を含まれていた。

 

 もし、長門や陸奥がいなければ?

 

 それを考えただけでどす黒い何かが生まれそうになった。

 

 振るわれる暴力から身を護るようにしながら必死に蓋をする。

 

 暴力が振るわれるのは当たり前の日常。

 

 けれど、俺にとって大事と言える長門や陸奥がいるというのなら頑張れる。

 

 必死に我慢すればいい。

 

 長門だって神子として崇められながら民の為に頑張っている。

 

 民の為に奮闘しようとする長門に対して周りの連中は良い顔をしない。

 

 お飾りの神子であることを望んでいるのだ。

 

 誰かの為に頑張ろうとしている長門のことを思えば頑張れる。

 

 振るわれる暴力から必死に我慢して終わることを待つ。

 

 時間にしてニ十分。

 

 暴力はかなり振るわれた。

 

 満足したといいながら去っていった男達。

 

 開かれた扉の向こうから誰も来ないことを確認して廊下へ出る。

 

 全身が痛い。

 

 ふらふらと社を後にしてゆっくりと小屋に向かう。

 

 小屋の扉を開けたところで限界がきて、そのまま倒れる。

 

 あぁ、傷の手当とかしていないし、明日、腫れないといいなぁ。

 

 そんなことを考えながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 江風は長門の傍に控えながら思案する。

 

 あの者はいつまでもつだろうか?

 

 長門が戦中に生き残っていたあの者を哀れに思って引き取った。

 

 そのことで神子を崇める連中は猛抗議をしたがあの時の長門は珍しいくらいに了承しなかった。

 

 そのことの苛立ちがあの者へ向けられてしまっている。

 

 江風はドアを開けて中に入った。

 

「まだ、生きているな」

 

 死んだように寝ているゼロ。

 

 服の上からはわからないだろうが、あっちこっち腫れている。

 

 骨も皹が入らないように徹底されていた。

 

「くだらない」

 

 クズの連中の行動を阻害する気は江風にない。

 

 江風にあるのは長門と陸奥を守ることのみ。

 

 その事以外に興味などありはしない。そう、今は。

 

「あぁ、お前はいつになったら堕ちるのだろうな」

 

 寝ているゼロの頬を撫でながら江風が小さな笑みを浮かべる。

 

 力を持ちながら底辺にいる存在、唯一縛り付けているものが無くなった時。

 

「神子様も喜ぶだろう、邪魔な連中がいなくなればずっと傍にいられるのだから」

 

 江風は役目のためだけに活動している。

 

 自身はフネであり、神子様の護衛なのだ。

 

 目の前で死んだように寝ている少年に魅入られ始めたのはいつからだろう?

 

 出会った時は少なくとも興味はなかったはず、剣術を教えて、殺し合いに近いことをやった時だろう。

 

 彼が周りのしがらみ全てを叩き潰して、長門と陸奥の為だけに傍にいる姿をみてみた。

 

「だからこそ、お前は死ぬことは許さない」

 

 江風は顔を近づけて。

 

 ぺろりと血のついているゼロの頬を舐めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が弟子よ」

 

「はい、マスター」

 

「お前に指示を出す、重桜を襲撃せよ」

 

「仰せの通りに」

 

 薄暗い空間の中で黒衣に身を包んで素顔を隠した者達が行動を起こす。

 

 




江風

 重桜のフネの一人であり白露型九番艦であり改白露型・海風型の三番艦。
 武人であり長門や陸奥の護衛を務めている。
 ゼロに対しては当初、興味を持っていなかったのだが、彼と殺し合い(仮)をしたことで愛情と似たような歪んだ感情を持つようになる。もし、ゼロが大人になった場合、野戦(意味深)を行う可能性が高い。


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少年編 平穏の終わり

かなり短いです。

次回の話のつなぎです。


「ゼロ君、遊びにきたよ~」

 

 掃除をしていたところで小屋へ来客がやってきた。

 

「白露か」

 

 高い位置で二つ結びにしている茶色の髪、頭部で揺れる猫耳。

 

 緑色の大きな瞳は俺を見て、嬉しそうにこちらへやってきた。

 

「あ、片付け中だった?」

 

「もう終わるから大丈夫。あれ、白露だけ?珍しい」

 

「カプ」

 

 最後まで言う前に背後から何かに首筋を噛まれた。

 

 抵抗しようとしたが後ろから抱きしめられていて、逃げられない。

 

「あわわわ、時雨ちゃん!?」

 

「うふふふ」

 

 振り返ると黒い艶の髪と猫耳。

 

 お腹を丸出しにしたショート丈のセーラー服、いたずらっ子のように目を細めている。

 

 白露の姉妹艦の時雨だ。

 

「痛い……」

 

「時雨様がアンタにかまってあげているんだから光栄に思いなさいぃ、ペロペロ、チュゥウ~」

 

「く、くすぐったいよぉ」

 

 ぺろぺろと首筋を舐められてくすぐったい。

 

 白露は慌てるだけで助けてくれそうになかった。

 

 しばらく時雨のされるまま。

 

 それが彼女達とのいつも通りだ。

 

 

「えっと、大丈夫?ゼロ君」

 

「首の周りがベタベタする」

 

 白露が申し訳ない表情で尋ねてくる。

 

 用意してくれたタオルで首元を綺麗にした。

 

 時雨は不満そうにこちらをみているが、いつものことだろう。

 

「長期任務お疲れ、こういうものしかだせないけれど」

 

 俺は彼女達へ粗茶を出す。

 

 お茶については艦船の比叡から教わっているから安い茶葉であろうとおいしく淹れられる自信はある。

 

「うん!おいしぃ!」

 

「まぁ、この程度なら飲めるわね」

 

 それから白露と時雨と他愛のない話をする。

 

 白露の話によると江風は彼女達の妹であるらしい、後、基地で昼寝をしている夕立という妹もいるという。

 

 時雨は爪に施しているネイル?というものが終わると俺へじゃれてくる。

 

 身長差があるから時雨が覆いかぶさると逃げることは出来ない。

 

 彼女のされるままになってしまうのだ。

 

 当然のことながら白露は助けてくれない。

 

「次はこっちの番だよ!」といって抱き着いてくるのだ。

 

 この後、江風が来ないことを俺は願った。

 

 二人が帰った後に江風がくるといつも不機嫌になる。

 

 そして、鍛錬がガチの殺し合いのようなことになってしまう。

 

「あ、そうだ。最近、セイレーンが重桜に近づいているから、異変を感じたらすぐに避難をしてね?」

 

 白露からの注意に俺は頷いた。

 

 その忠告がすぐに実現することは夢にも思っていなかった。

 

「女の匂いがする」

 

 夜にやって着た江風によって布団の上で寝技をかけられた俺は死ぬかと思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、くそっ!」

 

 重桜をセイレーンが攻撃した。

 

 俺は飛来する砲弾や爆撃から逃げる様にしながら必死に重桜の社へ向かっている。

 

「うわっ!」

 

 近くで爆発が起こって体が吹き飛ぶ。

 

 飛来した破片が腕に刺さりながらも必死に目的地を目指す。

 

 ふらふらとバランスを崩しそうになりながら社を目指していた時。

 

「た、たすけ!」

 

 目の前で人が綺麗に両断されるところに遭遇した。

 

 両断された人間は俺に暴力を振るっていた相手。

 

 その向こう、そこに鬼がいた。

 

「あ?何だ、お前」

 

 鬼の面をかぶった男の手には一振りの光る剣が握られている。

 

 赤い光剣に返り血の類は一切ない。

 

「何だ、お前」

 

「餓鬼か、命が惜しいならすぐに失せろ、あぁ、丁度いい、重桜の社っていうのはこの先にあるのか?」

 

 コイツの狙いは社なのか?

 

「だったら」

 

「マスターからの指示でなぁ、そこにいる長門とかいう奴を殺せっていわれたんだよなぁ、そういうわけだからさ」

 

 最後まで言わせる前に江風から渡されていた軍刀を振り下ろす。

 

「おーおー、純粋な殺意!やっぱりただの餓鬼じゃなかったか!」

 

 一撃で殺すつもりだった刃は相手に躱されて距離を取られる。

 

 てっきり光剣で防がれると思ったのだが違ったようだ。

 

「何で防がなかったのか?って顔しているなぁ」

 

「……」

 

「ダンマリか、まぁいい、この地にジェダイはいないって聞いていたからつまらん任務になると思ったんだが、少しは楽しめそうだ。餓鬼、お前の名前は何だ?」

 

「ゼロ」

 

 俺の言葉に鬼の面をした男は小さく笑う。

 

「ふーん、まぁいい、俺の名前はダース・ゴート……餓鬼、シスの糧になってもらおう」

 

 光る赤い剣を振るいながら襲い掛かって来るゴート。

 

 咄嗟に転がっていた石を蹴る。

 

 ゴートは光剣をぶつけた。

 

 光剣によって石はあっという間に溶けてしまう。

 

 刀でぶつかっても真っ二つにやられておしまいだ。

 

 脅威の剣をギリギリのところで避ける。

 

 今の俺じゃ、奴を殺せることは出来ない。

 

 できることは。

 

「今の一撃を躱すとは面白いな!」

 

「知るか」

 

 ギリギリのところで躱す隙を狙うということを行いながらジリジリと相手の体力を削ろうと考えた。

 

 しかし、小細工などは目の前の相手にあまり通用しないらしい。

 

「ちょこざい」

 

 振るわれる刃が肩を抉る。

 

 じゅうと肉が焦げた。

 

 直撃すれば死亡。

 

 その状況下というのに相手の動きが手に取るようにわかる。

 

 次に何がくるのか、まるで誰かが教えてくれているかのように。

 

「なんだ、この、強大なフォー」

 

 振るった一撃が鬼の面を砕いた。

 

「ずぅぅあぁああ!」

 

 面が砕かれたことでゴートの素顔が露わになる。

 

 醜く焼けた顔、真っ赤な瞳。

 

 頭部は巨大な弾痕があった。

 

「あぁ、いってぇなぁ、くそったれ、てめぇはここで必ず殺す!」

 

 手から紫の雷が放たれる。

 

 突然の攻撃に俺は咄嗟に刀を盾にするが、巨大な雷撃によって吹き飛び、崖から海に真っ逆さまへ落ちていく。

 

 手を伸ばすも掴むことなくそのまま海の中へ落ちていった。

 

 その後のことは知らない。

 

 わかっているのは濁流に飲み込まれて、何があったのか調査任務に出ていたユニオンの艦隊、そして、一人のジェダイに出会ったこと。

 

 後に敵となるが最高の師であったドゥークー伯爵。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十六年後、俺は任務の為に再び重桜の大地へ足を踏みしめることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「懐かしい夢を、みた」

 

 倦怠感に全身が包まれながらも体を起こそうとした。

 

 直後、首に強い力がかかって布団の上へ押し戻される。

 

「あーらぁ、どこへ行くのかしら?」

 

 横でニヤニヤとこちらをみているのは赤い瞳、黒い髪、内側は紫色、頭部に猫耳を生やしたフネ、時雨がこちらをみていた。

 

「まぁだ、朝は早いわよ?」

 

「……水を」

 

「チュ」

 

 最後まで言う前に時雨が上から覆いかぶさるようにキスをしてくる。

 

「チュ、ゴクン、ン!」

 

 口を無理やり開けさせてそこから何かを流し込んでくる。

 

 抵抗しようとしたが頭を両手で抑え込まれて抗うことができない。

 

 一分ほど、時が過ぎて口が解放された。

 

「潤ったかしら?」

 

「何を飲ませたんだ」

 

「私の唾液よ?光栄に思いなさい」

 

 何と言えばいいか、逡巡の迷いを時雨は見逃さなかった。

 

「何よ、時雨様の唾液を飲ませたのが不満だというの?」

 

「あ、いや」

 

「そんな悪い奴はお仕置きね、ガブ!」

 

 首筋に時雨がかみついた。

 

 歯が皮膚を切り裂いて血が流れる。

 

「んべろ、べろ、ちゅっ」

 

 首筋を舐められて体が続々と震えてきた。

 

 笑みを浮かべて時雨がのぞき込む。

 

「あーら、下は素直なのね。嬉しそうじゃない」

 

 にやりと笑みを浮かべながら時雨がズボンをおろしてくる。

 

 抵抗しようにも彼女が用意していた手錠によって両手の自由は奪われていた。

 

「今日は私の番なんだから、アンタは私の中にもぉっとアンタの白いものをたくさん、だしてもらわないといけないんだから!」

 

「しぐ――」

 

「さぁ」

 

 にやりと時雨が笑みを浮かべる。

 

「時雨様の虜になりなさい」

 

 




時雨
 白露型二番艦、小柄な見た目にボンキュッボンのスタイルを持っている少女。ゼロに対しては支配欲求と徹底的な管理を考えている。唾液を飲ませたことで自分のものだと思わせようと思っている。姉妹共々、ゼロを狙っている。


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部隊結成編 訪問、エリアX

前回の話より時間が進んでいます。

今回はクローンやフネが少し出てきます。

次回更新は明後日を予定。


――エリアX

 

 それはアズールレーンが結成されたと同時にジェダイの騎士の一人であるマスター・サイフォ=ディアスがジェダイ評議会に秘密裏で作り出したクローン製造施設である。

 

 クローン兵士はセイレーンを最初に撃退したと言われる賞金稼ぎジャンゴ・フェットの遺伝子を基にして製造されていた。

 

 既にかなりの数のクローンが戦場で活動している。

 

 クローン製造施設のすぐ隣では兵士としての訓練を積むべく多くの兵士見習いのクローンが戦場へ出るための訓練を受けていた。

 

 クローンたちの訓練を指導するのはアズールレーンのフネである。

 

「遅い!貴方達の動きなら後五分は短縮できます!」

 

 教鞭を片手に失跡するのは小柄なフネ。

 

 緑色の髪にメガネ、小さな姿を見れば少女と間違えるだろう。しかし、彼女はれっきとしたフネである。

 

 ユニオン最初の空母、ラングレーは鞭を振るいながら指示を出す。

 

「オラオラ、ちんたらしていると撃ち落とすぞ!」

 

 また別のところでは鉄血の駆逐艦Z1ことレーベがペイント弾を装填された艤装を片手にクローン・トルーパー候補生たちへ砲撃を行う。

 

 そんな彼らの様子を離れたところで眺めているのは重桜の戦艦であり軍師ともいわれる天城、そしてロイヤルのオールド・レディと言われるウォースパイトだった。

 

「あまり、よくありませんね」

 

「彼らのことね?」

 

「えぇ」

 

 扇子で口元を隠しながら成績の悪い小隊のことを天城とウォースパイトは話し合う。

 

 多くのクローンは小隊、中隊、大隊で行動する。ほとんどがクローンによる編成だが、状況によってはフネと行動することもあり、多種多様の状況へ対応できなければならない。

 

 今回は小隊で様々な訓練を積ませていた。

 

 その中で一番、成績の悪い小隊を天城とウォースパイトが気にしていた。

 

「くそっ、これで何敗目だ?」

 

 クローンの一人ファイブスが悪態をつきながらヘルメットを外す。

 

「さぁね、数える事すら忘れたよ」

 

 呆れたように答えるのは相棒のような関係のエコーだ。

 

 カタップやドロイドベイトも言葉を発しないが気持ちは同じようだ。

 

「くそっ、俺は諦めないぞ。必ず勝ってアークトルーパーになる!」

 

 ヘヴィの言葉に仲間は何も言わない。

 

 いつものやりとりということで何も言わないだけである。

 

「なぁ、教官たち、やけにそわそわしていないか?」

 

「そういえば、そうだな」

 

「何だ、知らないのか?今日はこの施設へジェダイが視察へ来るらしいぞ」

 

 エコーの言葉に全員の視線が集まる。

 

「……ジェダイか、俺達も兵士になればジェダイと共に戦うことになるんだよな」

 

「噂によればジェダイ一人がいるだけで戦況は大きく変わるって話だ」

 

「そんな強い人たちと共に戦えるというのは素晴らしいことだ」

 

「まずはここの卒業だけどな。今のままじゃ、俺達は清掃員になる可能性だってある」

 

 カタップの言葉に全員が沈黙した。

 

 その傍を清掃係の99号が通り過ぎる。

 

 

 

 エリアXのゲートに一隻の輸送船が到着する。

 

 周辺をトルーパーが警戒している中でタラップを降りてくるのは二人。

 

 二人とも茶色のコートを纏い、フードで素顔を隠している。

 

 長身の人物ともう一人は小柄でフードの頭部辺りに角らしきものが伸びていた。

 

「ここがエリアXなのです?」

 

「そう、クローンたちの生まれたところであり、兵士となるための訓練を積むところだ」

 

 小さな人物の問いかけにもう一人が頷く。

 

「ここへどうして?」

 

「新しい部隊のメンバー勧誘だ。歴戦の兵士もいいが、こういう新人のところで掘り出し物を見つけたいと思ってね」

 

「育成ゲームなら頑張れるです」

 

「ハハッ、さぁ、行こう」

 

 二人は正面ゲートの前に立つ。

 

 正面の守衛をしているトルーパーへ身分証明を提示する。

 

「お待ちしておりました!ゼロ将軍!」

 

「やめてくれ、将軍と呼ばれるのは好きじゃない」

 

「事実なのです。将軍なのです」

 

「はいはい」

 

 戸惑うトルーパーへ大丈夫と伝えてゼロともう一人は正面ゲートを潜り抜ける。

 

「お待ちしておりました。ゼロ将軍」

 

「天城さん、久しぶりです」

 

「さん付けなど、私と貴方の仲です。天城と呼んでいただいて構いませんよ」

 

 にこりとほほ笑みながらゼロの手を握る天城。

 

 ちらりと後ろを見ると長い尾がパタパタと揺れている。

 

「おや、そちらの方は?」

 

「あぁ、彼女は」

 

「マスタージェダイ!」

 

「うん?」

 

 説明をしようとしたところで呼ばれて振り返る。

 

 二人のトルーパー候補がやってきていた。

 

「あなた達、何を」

 

「お願いがあります!」

 

 トルーパー候補生、ファイブスとエコーの直訴にゼロは続きを促す。

 

「俺達を別のチームへ編成替えを希望します」

 

「チーム編成?」

 

「彼らは他の三人のトルーパー候補生とチームを組んでいます、ですが……成績は芳しくありません」

 

「そうか、今のチームじゃ成績があがれないから編成を希望するという事かい?」

 

「はい!」

 

「……そうか、わかった検討してもいい」

 

「本当ですか!?」

 

「ただし!」

 

 喜ぶファイブスとエコーへゼロは指を一本、みせる。

 

「ここにいる彼女と戦って勝利すれば、という条件付きだ」

 

「え?」

 

「彼女?」

 

 戸惑う二人にフードを被っていた人物が前に出る。

 

「俺のパートナー、“綾波”に勝てればな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練場。

 

 本来ならフラッグ戦と呼ばれるチーム同士の争いなどで使われる場所。

 

 そこに訓練用の装備を纏ったファイブスとエコー、フードで素顔を隠している綾波が対峙していた。

 

「ゼロは酷いのです。綾波をこき使うなど」

 

「まぁまぁ、何事も体験だから」

 

「むぅ」

 

 不機嫌な声を出しながら綾波はフードを取る。

 

 フードの中から現れたのは美少女、クリーム色の髪に朱色の瞳。

 

 頭部には白と赤の角を連想させるパーツが装着されている。

 

 髪をポニーテールにした少女は綾波。

 

 重桜のフネである。

 

 戸惑う二人の前で身の丈ほどありそうな大剣を握り締めた。

 

「綾波といいます」

 

 名乗ったことで二人は余計に戸惑ってしまった。

 

 同時に開始のブザーが鳴る。

 

「いく、です」

 

 開始と同時に信じられない速度で綾波が二人の間合いへ入り込む。

 

「はぁ!?」

 

「ウソだろ!」

 

 突然の事態に動揺しながらも兵士候補、彼らは各々の武装を構えようとした。

 

 しかし。

 

「判断が遅すぎるな」

 

 綾波の振るわれた一撃によって二人は後ろへ吹き飛ばされる。

 

 衝撃で倒れなかったのが救いだろう。

 

 二人はペイント弾が装填されているライフルを撃つ。

 

 綾波は横へ跳びながらペイント弾を回避する。

 

 標的を失ったペイント弾は地面や壁にぶつかって色をまき散らす。

 

「くそっ、何で当たらないんだ!」

 

「エコー!あっちを狙え!」

 

 焦るエコーに対してファイブスが指示を飛ばす。

 

「むむっ」

 

 エコーの射撃を綾波は所持していた大剣で防ぐ。

 

 ペイント弾で刃が汚れるがその程度であり、綾波の移動を少し遅らせてしまう。

 

「だが!」

 

 ファイブスが綾波へ狙撃する。

 

 狙いは胴体。

 

 今の状態なら避けられないだろう。

 

 そう考えた上の行動だった。

 

「甘い、です」

 

「な!?」

 

「ウソ、だろ!?」

 

 上半身を大きく後ろへ反らすことで標的を失ったペイント弾が壁に直撃する。

 

「なんて柔らかい体だよ!」

 

 直撃を確信したファイブスが悪態をついた。

 

「こちらの、番です」

 

 綾波が駆け出す。

 

 二人は迎撃を試みるが綾波はぴょんぴょんとウサギのように跳ねながら弾丸を回避する。

 

「味わうがいい!」

 

 綾波の振るった剣の一撃がそれぞれファイブスの胸部とエコーの肩部へ直撃した。

 

 二人の敗北が決定した瞬間だった。

 

「最悪だな!」

 

 勝敗が決まったタイミングでZ1が声を荒げる。

 

 小柄な彼女がどうやって出しているのかわからないくらいの大きな声に二人は直立した。

 

「戦場だったらお前達はそろいもそろって戦死だ!わかるか?死亡!何も残せずにお前達は海の藻屑になってしまうということだ!」

 

 Z1の言葉に二人は言葉を発せない。

 

 悔しいという気持ちはある、それ以上にZ1の言葉が事実で反論することができないのだ。

 

「レーベ、そこまででいいよ」

 

 やんわりとゼロがZ1を止める。

 

「二人とも、確か、エコーとファイブスだったな」

 

「はい、将軍!」

 

「どうして敗北したか、そして、キミ達に何が足りなかったのか」

 

「「え?」」

 

「俺が出す課題だ。数日はここにいるから次回の演習で答えを聞かせてくれると嬉しいな」

 

 にこりとほほ笑みながらゼロは歩き出す。

 

「待ってください」

 

 少し遅れて綾波が後を追いかけて去っていく。

 

 残された二人は佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分とスパルタですわね」

 

 ぴったりと寄り添うようにしながら天城が俺に言ってくる。

 

「そうかな?ジェダイの修行に比べればまだまだよ」

 

「おや、兵士の卵に過激なものはよくありません」

 

 天城の言葉に俺は肩をすくめる。

 

「ところで、近くない?」

 

「そのようなことはありません、これは適切な距離――」

 

「そこまでよ!天城!」

 

 ブン!と剣を振り下ろすウォースパイト。

 

 天城はひらりと刃を躱した。

 

「久しぶりね!ゼロ!会いたかったわ!せっかくだし、二人っきりでお茶でもしないかしら?」

 

「ありがとう、ウォースパイト、今は気持ちだけ受け取っておくよ。長旅で少し疲れているしね……ところで、今の一撃、気をつけないと天城に直撃が」

 

「あら、残念!でも、明日は付き合ってもらうわよ!話によればしばらくはいるんでしょう?女狐は断罪される世の常よ」

 

 物騒な発言に首を突っ込んではいけない。

 

 言えば最後、戦争が勃発する。

 

「あ、あぁ、例の部隊の編制の関係でね」

 

「噂では混成部隊ということでしたか?」

 

 天城の質問に俺は頷く。

 

「四大陣営とクローン・トルーパーの混成部隊、実現するとは思わなかったわ」

 

 信じられないという表情でウォースパイトが告げる。

 

 セイレーン撃退の為に結成された軍事連合アズールレーン。

 

 アズールレーンはユニオン、ロイヤル、重桜、鉄血の陣営のフネが集まり戦っている。

戦っているが実際のところ各陣営同士の行動が多い。

 

 合同作戦等でいくつかの陣営が集うことはある。しかし、俺が立ち上げることになった部隊はクローン・トルーパーを交えた各陣営からフネを募り作戦を行動していく。

 

 そのための部隊メンバーを探すべくここにやってきたのだが。

 

「前途多難だよ」

 

「それなら、この天城が」

 

「抜け駆けは許さないわよ!オールド・レディであるウォースパイトこそが」

 

 目の前でバチバチと火花を散らす二人。

 

 これなんだよなぁ。

 

 俺がフネと話をしようとするとこういう風に争いが勃発する。

 

 何でだろうなぁ?

 

 首をかしげているとくいくいと袖を引っ張られる。

 

「綾波、どうした?」

 

「疲れたので部屋に行くのです」

 

「ン、そうだな」

 

 綾波に手を引かれてエリアXの来客エリアへ向かうことにした。

 

 しかし、この二人を放っておいていいのだろうか?

 

「無駄な争いは放置しておく方がいいのです…………邪魔者は勝手につぶしあえばいいのです」

 

「なんだって?」

 

 後半がぶつぶつといって聞き取れない。

 

 まぁ、大したことではないだろう、よくあることだし。

 

 そう思いながら綾波と一緒に用意されている部屋へ向かう。

 

「おや」

 

 入ろうとしたところで掃除道具を持った老人と出会う。

 

「99号、久しぶりです」

 

 顔が半分ほど潰れているような形をしているがれっきとしたクローン。

 

 クローン・トルーパーになれなかった奇形クローン。

 

 今は掃除要員としてこの基地で働いている。

 

「おぉ、久しぶりだな、ゼロ!おっと、今は将軍でしたな」

 

「やめてくれ、俺に色々なことを教えてくれたアンタに敬語で言われると体がムズムズする」

 

「ハッハッハッ、こうして会えることをうれしく思うよ」

 

 二人は握手をする。

 

「そうだな」

 

「ゼロの知り合いなのです?」

 

 傍に控えていた綾波が俺に尋ねてくる。

 

「クローンの99号、ここの清掃員だ」

 

「はじめまして、お嬢ちゃん」

 

「綾波です。よろしくです」

 

 99号と握手をする綾波。

 

 にこりとほほ笑みながら掃除用具を持っていく。

 

「また、落ち着いたところで酒でも飲もう」

 

「えぇ、楽しみにしているよ!」

 

 99号の姿がみえなくなるまでゼロは手を振り続ける。

 

「嬉しそうなのです」

 

「え?」

 

「綾波と話しているいつも以上に嬉しそうなのです」

 

「まぁ、悪いけど、久しぶりに友と再会したからね」

 

 綾波に俺は答える。

 

 相棒として関係を築いている彼女だが、99号は俺の人生に影響を与えてくれた相手だ。

 

「中で話そうか」

 

 綾波と一緒に室内へ入る。

 

 そういえば、綾波と同室なのだが、問題にならないだろうか?

 

 疑問に思いながら一緒に部屋の中に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうすればいい」

 

 ヘヴィはロッカーの並ぶ部屋で自問する。

 

 今回の訓練の成績も最下位。

 

 このままクローンとして成績が悪ければ、99号のような清掃員の道しかない。

 

 思考が渦巻いてよくない方へ向かおうとしていた時。

 

「隣、よろしいかな?」

 

 横から声をかけられてヘヴィは顔を上げる。

 

 にこりとほほ笑むゼロがいた。

 

 




本当なら綾波との出会い編を書く予定でしたがすっとばして、綾波と相棒になってからの話になります。

天城
 重桜のフネ、軍師として優秀だが、体が弱いため最前線には参加できない。ゼロに対しては隙あらば一日中いちゃいちゃかつ食いたいという本能を隠している。二人っきりになれば……。

ウォースパイト
 ロイヤルのフネ、オールド・レディと言われていて、普段はロイヤルの女王と共に行動しているが今回は指導係の立場を引き受けていたため、エリアXにいる。いつかはゼロをロイヤルに引き込もうと考えている。


ラングレー
 ユニオン最初の空母、教官として優秀だがクローンたちからは恐れられている。頭を踏まれたクローンもいるとか、いないとか?今回は出番少な目だが、次回はあるかも?

Z1
 鉄血の空母、小さいけれどある(意味深)。次回、色々とやらかす予定、指揮官をイブにならないかと勧誘してくる。


クローンについては次回くらいで説明。



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部隊編成編 兵士の第一歩

次回の更新は早いうちにしたい。

エロは少なめです。


 

「隣、よろしいかな?」

 

「将軍!」

 

 隣にいたのがジェダイの騎士であることに気付いて慌てて立ち上がろうとしたがやんわりと止められてしまう。

 

「今の俺は私的な要件でここにいるからそんなかしこまらなくていい。ただのゼロとして接してほしい」

 

「は、はぁ」

 

 突然のことに戸惑いながらヘヴィは腰を下ろす。

 

「はじめまして、俺はゼロだ」

 

「自分はCT」

 

「あぁ、クローンとしての型式はいいよ、呼び合っている名前があるだろ?そっちでいい」

 

「……ヘヴィといいます」

 

「そうか、ヘヴィ、よろしく」

 

「いえ」

 

 ジェダイの騎士というのは平和を守るための集団であり堅苦しいというイメージを持っていたヘヴィはゼロの笑顔に毒気を抜かれたような表情を浮かべてしまう。

 

「それで、将軍、話というのは」

 

「実は、ここへきたのはトルーパーを勧誘するためなんだ」

 

「え?」

 

 突然の話にヘヴィは戸惑いの声を漏らす。

 

 勧誘?

 

 どういう意味だとヘヴィは考える。

 

 ここを卒業したトルーパーたちは様々な前線基地に配置されてセイレーンと戦うこととなる。実戦を経験していない兵士の勧誘など、何の意味があるのだろう。

 

「勧誘、ですか?」

 

「そう、勧誘……実は、ある特殊部隊を結成することになってね、そのための仲間を集めているところなんだ……」

 

「そうであれば、最前線で戦っている優秀な兵士がいるはずです。貴方の目の前にいるのは成績の悪いトルーパー候補生ですよ」

 

「そうかな?」

 

「え」

 

 ヘヴィの言葉を否定するような発言に目を丸くした。

 

「いや、しかし、候補生の中で優秀な連中は」

 

「確かに、キミ達は歴戦の兵士と比べるとつたないところはある。けれど、歴戦の兵士になくて、キミ達にあるものがある」

 

「俺達に、あるものですか?」

 

 戸惑うヘヴィにゼロは頷いた。

 

「キミには興味がある。次回の卒業演習、楽しみにしているよ」

 

「将軍!」

 

 声をかけようとしたヘヴィにゼロはにこりとほほ笑む。

 

「ヘヴィ、兵士に拘る前に周りに目を向けた方がいいよ」

 

 最後の言葉の意味を理解できないまま、ヘヴィを置いてゼロは去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と気にかけているようだな」

 

「レーベ」

 

 通路に出たところで腕を組んで待っていたのは鉄血の駆逐艦 Z1ことレーベ。

 

 彼女は不敵な笑みを浮かべながらこちらへやってくる。

 

「候補生で優秀な奴は沢山いるぜ?その中でどうしてアイツに声をかけた?」

 

「気になるの?」

 

「当然だ、俺のイブが気に掛ける相手だ、俺も気になる」

 

「その、会う度に聞くけれど、イブってなんなのさ?」

 

「イブはイブだ」

 

 笑顔を浮かべながらZ1が腕を掴んでくる。

 

 彼女は小さい、それを面と向かって言うと怒るが俺の腹くらいまでしかない。

 

 そんな彼女に手を引かれて誰もいない部屋に入る。

 

「なぁ、イブ、オレに隠し事をしていないか?」

 

 部屋に入ったところで無理やり膝を地面へつかされて目線を合わさせられる。

 

「隠し事?ないけれど」

 

 覚えがなくて尋ねる。

 

 すると目を細めるZ1。

 

 あ、これは嫌な予感がするぞ。

 

「イブ、悲しいぞ、オレに隠し事をしているお前をこうして尋問しなければいけないなんて」

 

「だから、俺は覚えが」

 

 最後まで言う前に口をふさがれてしまう。

 

「チュッ、チュウウ」

 

 唇に吸い付くようにZ1がキスをしてくる。

 

 離れようとしたが既に遅い、後頭部を両手で掴まれて逃げられないようにされた。

 

 抵抗しようとしたが無理やり口内に侵入してくる舌。

 

 抗う暇もないまま、蹂躙されていく。

 

「フフッ、久しぶりのキスはおいしいな」

 

「レーベ、何度も言うが、こういうことは」

 

「まだいうか」

 

 やんわりと止めようとしたところで再びキス。

 

 ジュルジュルと唾液で口の周りがベトベトにされていく。

 

 さらに彼女の手は下腹部をまさぐっていく。

 

 服越しだが、的確にじっとり、じわじわと追い詰めるような動きだ。

 

「言いたくないならオレの口から言ってやるよ。あのちっさい駆逐艦のことだ」

 

「綾波、のこと?」

 

「あぁ、お前の相棒はオレの筈だ。どうして、お前の傍にあんなチンチクリンがいる?」

 

 誤解のないように伝えておくが俺はZ1と共に行動した回数は一回しかない。

 

 それなのに、会う度に彼女は「相棒」や「イブ」という言葉を使ってくる。

 

 こうしたキスなどをしてくるフネはかなり多い。

 

 ほとんどは躱しているのだが、“こういう不意打ち”に俺は弱いらしい。

 

「そこまでですよ」

 

 部屋の扉が開かれて絶対零度の視線を向ける天城と目が合う。

 

「チッ、邪魔が入ったか」

 

「ここで砲撃を受けたくなければ今すぐ部屋を出ることをお勧めしますよ」

 

 天城の視線に不利だと悟ったZ1は耳元で「またな」と囁いて出ていく。

 

 彼女がいなくなって残されたのは俺と天城の二人だ。

 

「感心しませんね」

 

「ごめん」

 

「貴方はジェダイで指揮官適正を持つ希少な存在です。警戒はすべきと前に教えたはずです」

 

 天城の言葉に縮こまるしかない。

 

「お説教はここまでです。夜に私の部屋に来てください。大事なお話があります」

 

「あぁ」

 

 頷いて部屋を出る。

 

「ゴホッゴホッ、夜が楽しみですね」

 

 小さくせき込みながらも天城は妖艶な笑みを扇子の隙間から浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤバイなぁ」

 

 この調子だと部屋に行けば天城に食われてしまう。

 

 その未来が嫌でも理解できる。

 

 天城やウォースパイト、出会うフネの好意は嫌というほど伝わっていた。

 

 彼女達だけじゃない、出会った者達のほとんどが愛の告白まがいのことをしてきている。

 

 だが、それを俺は受け取れない。

 

 ジェダイの騎士だから、というわけではない。

 

 ジェダイ・オーダーに人を愛してはいけないという掟が存在した。しかし、それは新たな争いを呼ぶ可能性があるという事で一年前に廃止された。

 

 今はジェダイであろうと恋愛はできる。

 

「俺は、最低だな」

 

 平和を守るためのジェダイの騎士でありながら彼女達の気持ちに応えようとしない。

 

 傍から見ればこんなのクズでしかないだろう。

 

「おやおや、夜空を見上げてため息というのはまだ年が早すぎるんじゃないのか?」

 

「99号か」

 

「掃除が終わってね、時間があるなら付き合ってくれや」

 

 99号の手には配給品の栄養ドリンクが握られていた。

 

「そんなものを飲むくらいなら酒でもどうだい?」

 

「おぉ、あるのか?」

 

「俺が持ち込んだものがある……一人でいても暗いし誰かと飲みたい気分だ」

 

「だったら、もう一人、連れてきてもいいかな?」

 

「うん」

 

 自室で飲むかということになったけれど、99号が空き部屋をみつけてくれたのでそこで飲むことになった。

 

「あ、将軍……」

 

「いやぁ、さっきぶりだねぇ」

 

 何とも言えない空気が俺と連れてきたクローン、ヘヴィの間に漂う。

 

「おや、二人は面識ありだったか?」

 

 さっき意味深な話をしたばかりでございます。

 

 言葉を飲み込みながら俺、99号、ヘヴィという形で机を囲む。

 

 綾波がいなかったことから持ってきた荷物から取り出す酒瓶をみて99号が口笛を吹く。

 

「この場で嗜好品が飲めるとは思いませんでした」

 

「まぁ、ここは兵士を養成するところだからね、娯楽自体も最低限のものに抑えられている」

 

「わしも酒なんか、何年ぶりだろうか」

 

 グラスに酒を注いでいく。

 

「じゃあ、乾杯」

 

 俺の音頭で三人は酒を飲む。

 

 ぐびっと飲んだヘヴィは顔をしかめた。

 

「これが、酒、ですか!ぐ」

 

「まぁ、慣れないときついかもね」

 

「いやぁ、久しぶりですわ。酒を飲んだのはゼロと最後に語り明かした時以来だ」

 

「将軍と?」

 

 不思議そうにヘヴィがこちらをみる。

 

「俺は前にここへきたことがあったんだ、クローンのことを知るためにね」

 

「知るため?」

 

 今でも鮮明に思い出せる。

 

 まだ、俺がパダワン、ジェダイマスターの弟子だった頃にクローン技術について精査すべく立ち会っていたのだ。

 

 その時にクローン兵士になれなかった99号と知り合った。

 

 彼のおかげでクローンという存在について偏見もなく接することができるようになったといえよう。

 

「将軍にそんなことが……」

 

「短い時間だけど、99号と接した時間は俺の人生にかなり影響を与えてくれたよ」

 

「影響……クローンが将軍に」

 

「ヘヴィ」

 

 一口、飲んでから俺は話す。

 

「クローンとか人とか、ジェダイとか関係ない。キミはキミだ。ヘヴィ、君自身はどうありたい?」

 

「自分が?」

 

「クローンは兵士という道しかない。その道から外れるという事は存在意義を失うという事に等しいだろう、でも、ここにいる99号だって、兵士ではないけれど、自分のやれることを精一杯やっている」

 

「兵士だけが道ではないと?」

 

「そうじゃない、他の道を示されてもキミが兵士という道を選べるか?俺はそれをキミへ問いかけている」

 

 さっきまでと一変した真剣な表情で問いかけたことだろう、ヘヴィは目を逸らす。

 

「酒を飲み過ぎたみたいだ……これで失礼するよ、酒は99号、あげるよ」

 

「ありがたい!」

 

 嬉しそうに瓶を受け取る99号。

 

「じゃあ、また」

 

 ひらひらと手を振って後にする。

 

 申し訳ないがここは年功者である99号へ任せるとしよう。

 

 去り際にウィンクしていたからなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「驚いただろ?」

 

 ゼロがいなくなってから99号はグラスを片付けながらヘヴィへ声をかける。

 

「あぁ、まさか兵士以外の道があるなどと」

 

「多くのジェダイがこの施設へ足を運んできたことがあるがあんなことをいったのはあの人だけだった」

 

 ヘヴィの顔は険しい。

 

「本当にあると思うか?そんな道が」

 

「お前さんの目の前にいるだろう?兵士としての資格がなかったばっかりにここで掃除をしている奴が……まぁ、わしからすれば、チャンスがあるのにそれを捨てようとするのはどうかと思うがね」

 

 99号はヘヴィの両頬へ触れる。

 

「ヘヴィ、お前さんはまだ兵士になれる可能性がある。将軍は確かに別の道を示しはしたが、チャレンジしてから考えることもできる。なのに、今のお前さんは揺れている。その程度の覚悟なのか?お前の兵士になりたいという気持ちは!」

 

「そんなことはない!」

 

 手を払いのけるようにしてヘヴィは立ち上がる。

 

「俺は必ず兵士になる!そして、あの人にはっきりといってやる!これが俺の道だと!」

 

「その意気だ!」

 

 パチンと99号が手を叩く。

 

「ヘヴィ、お前さんは必ず兵士になれる!」

 

「……アンタに言われてもなぁ」

 

「何を言う、ここを卒業した沢山の兵士をみてきているんだ!目だけは誰よりも自信がある!」

 

 ヘヴィは苦笑する。

 

「俺に何が足りないのだろうか」

 

「周りを見る目だ」

 

「え?」

 

 99号の言葉はとても力がこもっていた。

 

「お前は周りを見れていない。自分のことに一杯で指揮が遅れている。だから、いつも負けているんだ」

 

 力説する彼の言葉にヘヴィは考える。

 

 そして、

 

「99号、頼みがある」

 

 この日からヘヴィは99号から様々なアドバイスを受けることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、ヘヴィたちの兵士認定のための卒業試験がはじまる。

 

 演習場を見渡せる位置にゼロや綾波、天城、ウォースパイトの姿があった。

 

 ゼロが視線を向けると天城が開始の合図を告げる。

 

 次々とトルーパーたちがクリアしていく中、最後にヘヴィ達のチームの番となった。

 

「ほぉ」

 

 チームの顔ぶれをみたゼロが小さく声を漏らす。

 

 指導をしてきたZ1も何か感じるところがあったのか興味深そうに目を細めていた。

 

「行くぞ!」

 

 開始の合図とともにヘヴィ達が動き出す。

 

 トルーパーを妨害しようと訓練用のドロイドがスタンモードの攻撃を仕掛けてくる。

 

 ヘヴィが迎撃をしていく。

 

 一定時間が経過したことで新たな敵が出現するが。

 

「エコー、ファイブス!」

 

 ヘヴィの指示で待機していた二人がすぐに撃退していく。

 

 そうしている間にフラッグのあるタワーへ到着する。

 

「おい、ないぞ!?」

 

「バカな、これじゃあ、試験は失格だ」

 

 タワーに到着したところでハプニングが起こる。

 

 装備としてあったアンカーガンがなくなっていたのだ。

 

「ハプニングがあったみたいです。これは中止にすべきでは?」

 

「そうね」

 

 ラングレーの言葉にウォースパイトも同意する。

 

「いや」

 

 二人の意見をゼロは首を振った。

 

「戦場では様々な予期せぬ事態が起きる。それをいかに解決するかというところも試験としてみるべきだ」

 

「……ゼロの仰る通り、ですね」

 

「だな、それに動き出した」

 

 ゼロに同意する天城。

 

 Z1は新たな展開にわくわくしていた。

 

「どうする!?」

 

「俺は踏み台にしてあがるんだ!」

 

 ヘヴィが壁に両手をつく。

 

 順番にあがっていき、ファイブスがヘヴィを引き上げる。

 

 器用にあがっていき、フラッグを掴んだ。

 

「タイムは!?」

 

 ヘヴィ達は一斉に表示されるタイムをみる。

 

 今回、参加したチームの中で最高記録達成の瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今宵、貴方達は兵士となります」

 

 白い装備に身を纏い、武器を握り締めているトルーパー。

 

 彼らは今日、兵士として各地へ配属されることとなる。

 

 兵士達は真っ直ぐに天城をみていた。

 

「戦場は貴方達が思う以上に過酷で時に残酷なものが待っているでしょう、ですが、共に戦う仲間がいることを決して忘れてはなりません。独りで戦っているわけではないのです」

 

 天城は一区切りして全員を見渡す。

 

「今宵、貴方達は兵士、クローン・トルーパーです。武運を祈ります」

 

 兵士達は敬礼をして行進していく。

 

 行進するトルーパーの中にエコー、ファイブス、カタップ、ドロイドベイト、そして、ヘヴィの姿もあった。

 

「振られたのです?」

 

「いや、先に仮設基地へ向かってもらうことにしたのさ」

 

 綾波は行進していく兵士たちの姿を眺めている横でゼロは嬉しそうに目を細めていた。

 

 あの後、ヘヴィはゼロの話を聞いて了承してくれた。一つ条件として彼の仲間も連れていくという事だったが問題ない、むしろゼロにとって好都合といえる話でもある。

 

「次はフネです?」

 

「そうだな、なぁ、綾波」

 

「はいです」

 

ゼロは綾波へ視線を向けながら尋ねる。

 

「俺と地獄まで付き合ってくれる覚悟はあるか」

 

「当然なのです」

 

 迷わずに綾波は答える。

 

「ゼロと一緒なら綾波はどこへだっていくのです」

 

 



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部隊結成編 ロイヤルからの招待状

明日にはアズールレーンのアニメ放送スタート、色々な艦船の登場が楽しみで仕方ない。

ちなみに自分が好きなキャラは綾波などなど、大好きがたくさんあるんです。



エロ要素があった方がいいのだろうか?R18だし。


 

 セイレーンが出現したという報告を受けた俺は近くにいたジェダイ、アナキン・スカイウォーカーと共に撃退の為に出撃する。

 

 そこで最悪な事態に遭遇してしまう。

 

「まさかのドロイド部隊の襲撃って、タイミング悪すぎだろ」

 

 セイレーンを撃退しようとしたタイミングでドロイド部隊が襲撃を仕掛けてきたのである。

 

 ドロイド部隊はアズールレーンやセイレーンたちと異なる第三勢力、反艦船同盟という勢力が保有する戦力。

 

 反艦船同盟とは、アズールレーンが保有するKAN-SENを人の形をしていることを理由に非人道的と非難して排除を求める集団でバトル・ドロイドをはじめとしたドロイドを兵器として用いている。

 

 ドロイドのブラスターをライトセーバーで弾きながらクローン・トルーパーへ迎撃の指示を飛ばす。

 

 しかし、ドロイドの数は俺やアナキンの連れてきたトルーパー達より上であり、次第に圧され始めていた。

 

 一騎当千の力を誇るジェダイと言われても足場が不安定な海の上では全力を出せない。

 

 海上装備のドロイド相手に苦戦することは当然と言える。

 

 近くにいたドロイドを俺が切り裂いた時、頭上を影が通過した。

 

「あれは、艦載機?」

 

 飛行機雲を描きながら戦場へ複数の艦載機が乱入する。

 

 艦載機から投下された爆弾がドロイドへ直撃して連続して爆発が起こった。

 

「将軍!無線連絡です!」

 

 アナキンの率いる部隊のクローン、キャプテンレックスがやってくる。

 

『こちら、ロイヤル艦隊、これよりあなた方を援護いたします』

 

 続いて行われる砲撃。

 

 俺達の頭上を越えてドロイドたちへ降り注ぐ砲弾は的確に相手の戦力を削っていった。

 

「援軍、しかもロイヤルとは」

 

「戦況が変わる!突撃だ!」

 

 アナキンの言葉に反撃が始まった。

 

 ロイヤル艦隊という援軍によって一時間ほどで敵のドロイド部隊の殲滅に成功した。

 

 ドロイドを撃退してセイレーンの行方を捜したのだが、どさくさに紛れて遠くへ逃げてしまったらしい。

 

 俺達は補給も兼ねて近くの前線基地へ向かうことにした。

 

「それにしても、ロイヤルか」

 

「ゼロ?どうしたのです」

 

 移動の為にガンシップへ乗り込んだ俺の言葉を聞いた綾波が尋ねてくる。

 

「いや、この海域にロイヤルがいることに疑問があってな」

 

「確かに、ロイヤル陣営の管轄はここから離れた海域だ。何か理由がない限り、こんな遠方までやってくることはない」

 

 話を聞いていたアナキンも同意した。

 

「何か面倒事でないことを祈るよ、ただでさえ、部隊編成が難航しているっていうのに」

 

「トルーパーは揃ったんだろ?」

 

「KAN-SENの方だよ。そっちの編成で戸惑っている」

 

 俺が新たに作ろうとしている部隊にKAN-SENも入れようと思っているのだが、何分、立候補者が多い。

 

 かなりの数が立候補しており、トルーパー達と話し合ったりしているのだが中々に決まらない。

 

「成程、大変だな、指揮官適性を持つ者は」

 

 指揮官適性。

 

 それはアズールレーンのKAN-SENの指揮する適性を意味する。

 

 どういう理由でそういう適性があるのか、現状でわかっていない。

 

 加えて、今まで確認されなかったジェダイの中で指揮官適性があったということで今回の部隊編成が決まった。

 

 ジェダイがKAN-SENを率いられるかという実験的な意味合いもあるだろう。

 

 だが、

 

「何かあれば助けてくれよ」

 

「何か、あればな」

 

 そういって互いに拳をぶつけ合う。

 

 アナキンとは年齢が近いということと、互いの秘密を知っているという事から誰よりも強い絆をもっていると感じている。

 

 お互いに。

 

「お話は終わりましたか?」

 

「パドメ」

 

「アミダラ議員」

 

 俺達の前に現れたのはNYシティの議員の一人、パドメ・アミダラ。

 

 アナキン・スカイウォーカーの妻でもある。

 

 二人が結婚しているという事は表沙汰になっていない。

 

 ジェダイと政治家が結婚という事は世間体の問題ということと、二人が結婚した当時、ジェダイの掟で結婚は認められていなかったという事もある。

 

 あのオビ=ワンすら参加していない二人の結婚式に立ち会えたことはとても嬉しく思えた。

 

「ここではパドメで結構ですよ?ゼロ、貴方にお客様です」

 

「俺に?」

 

 首をかしげるゼロ。

 

 アミダラの後ろから薄紫色の女の子が顔を見せる。

 

 白いワンピースに身を包み、両手で小さなユニコーンのぬいぐるみを抱きしめていた。

 

 彼女を俺は知っていた。

 

「久しぶりだね」

 

 目線を合わせるためにしゃがみ込む。

 

 自然と笑顔を浮かべて挨拶した。

 

「ユニコーン」

 

「お兄ちゃん!!」

 

 破顔したユニコーンは嬉しそうに飛び込んでくる。

 

「うぉおおぉ」

 

 倒れないように必死に頑張りながらユニコーンを抱きしめ返す。

 

「また会えて嬉しい!ユニコーン、お兄ちゃんに会いたかった!」

 

 涙を流しながら嬉しそうにユニコーンが俺を抱きしめてくる。

 

「あの時と同じだな」

 

 苦笑しながらユニコーンの涙を指で拭う。

 

「違うもん!前よりもユニコーン大きくなったよ!」

 

 頬を膨らませながら抗議するユニコーンを撫でながら立ち上がる。

 

「ところで、ユニコーンはどうして」

 

「お兄ちゃんを招待するためなの!」

 

「招待?」

 

「これをあなたへ届けにきたの」

 

 パドメが俺に差し出してきたのは一通の招待状。

 

「招待状?」

 

「えぇ、貴方をロイヤルに招きたいという招待状よ」

 

 彼女の話によると少し前から俺にロイヤルから招待状は送られてきたらしい。

 

 ただ、俺が任務や部隊編成で色々とやって、参加できなかったことからロイヤル陣営のトップであるクイーン・エリザベスが業を煮やして?友人であるパドメ・アミダラを通して直接、招待させようということらしい。

 

「まさか、パドメを使ってくるなんて」

 

「私にも招待状が送られてきているわ。そこで護衛としてスカイウォーカー将軍にも同行してもらいます。ジェダイ評議会に許可は通してあります」

 

「喜んで引き受けるさ」

 

 にこりとほほ笑みながらアナキンとパドメが手を取り合う。

 

 一応、俺とユニコーンがいるのだが既に二人の世界に入っているらしい。

 

「お兄ちゃんとユニコーン、しばらく一緒!」

 

「そうだな、一緒だ」

 

「嬉しい!」

 

 にこりとほほ笑みながらユニコーンと手をつなぎあう。

 

「何を、しているのです?」

 

 微笑もうとしたところで俺の表情が固まる。

 

 ギギギとさび付いた機械のようにゆっくりと声の方を見た。

 

 良くないことが起こるとフォースが囁くことがなくても理解ができる。

 

「綾波……」

 

 こてんと首を傾げながら綾波が近づいてきた。

 

「綾波、俺の話を聞いてほしい」

 

「もう一度、きくです。何をしている、のです?」

 

「いや、だから」

 

「鬼神の力を味わうと良い!」

 

「人の話をきけぇ!」

 

 ユニコーンを抱えながら全力で刀を振り回す綾波から逃走する。

 

 アナキンとパドメが桃色空間から帰って来るまで鬼ごっこは続いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「疲れた」

 

「愛されている証拠だろ?」

 

 翌日、ロイヤル領土へ向かうためのガンシップの機内。

 

 そこでげっそりした表情をしているゼロをアナキンがからかう。

 

「そういうお前は愛しい人と一緒で羨ましいよ」

 

「何かあったのですか?仮眠室で大きな音が聞こえたと聞いていますが?」

 

 傍にやってきてヘヴィが尋ねる。

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

「大丈夫ではないのです」

 

 ずいっと不満そうに綾波が割り込んでくる。

 

「どうして、ゼロの膝の上でソイツが寝ているのです?」

 

 綾波の指さす先、ゼロの膝の上で気持ちよさそうに寝ている少女、ユニコーンの姿があった。

 

「不慣れな環境で眠れなかったらしい」

 

 本当は綾波と言い争いという慣れないことをしてかなり疲れている。

 

 すやすや寝ているユニコーンがゼロの膝の上へいることにかなり不満がある様子だ。

 

「そこは綾波の特等席です」

 

「偶に譲るぐらいのことは許してやったらどうだ?」

 

 アナキンの言葉に半眼で綾波が尋ねる。

 

「スカイウォーカー将軍の最愛の人の膝が誰かに奪われることを想像するといいです」

 

「すまない、僕が悪かった。キミに同意見だ」

 

「うぉおい!?」

 

 あっさりと手のひらを返したアナキン。

 

 ゼロはため息を零す。

 

「そういえば、聞いていなかったな。その子とどこで関わったんだ?」

 

 ヘヴィが綾波をなだめている間に近づいてきたアナキンが質問する。

 

「ロイヤル領土だよ。運悪く事件に遭遇してさ」

 

 ゼロがパダワンとしてマスターと共にロイヤル領土へやって着た時、一人で街へ出ていたユニコーンが運悪く人身売買組織に誘拐されてしまった。

 

 偶然にもゼロは脱走した彼女を保護した。

 

 保護して、ロイヤルの警備組織へ預けたのだが、諦めを知らなかった人身売買組織の襲撃によってユニコーンが再び拉致された。

 

「そんで、人身売買組織を滅してユニコーンを助けたんだ……って、アナキンもヘヴィも頭を抱えてどうした?」

 

「今の話で頭を抱えない理由を教えてくれ」

 

「将軍、フォローにも限界があります」

 

 呆れている二人の姿にゼロは首をかしげて、再び嫉妬の炎を燃やす綾波が暴れだしたことでガンシップが大きく揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やべ、酔うかと思った」

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 

 見上げて尋ねるユニコーン。

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

「えへへへ、お兄ちゃんに撫でられるの大好き!」

 

 優しくユニコーンの頭を撫でると彼女は嬉しそうにはにかんだ。

 

 後方でドサドサと何かが落ちるような音が聞こえたけれど、気のせいだろう。

 

 ユニオン領土にある前線基地。

 

 様々なロイヤル製の設備が並んでいる中、大きな建物が目に入る。

 

「あれは……」

 

「今宵のパーティー会場でございます」

 

 目の前でロイヤル式の挨拶をして出迎えるのは一人のメイド。

 

「お待ちしておりました。ゼロ将軍、スカイウォーカー将軍、アミダラ議員様、トルーパーの皆様方……私はロイヤルのメイド長を務めます、ベルファストと申します」

 

 ロイヤル式の挨拶をしながら出迎えるのは流れるような銀髪、女神のようなスタイルをメイド服で身を包んだ女性。

 

 にこりとほほ笑みながら視線は真っ直ぐに俺を見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロックオンされた気分になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、ベルファストさん」

 

「私のことはベルファストとお呼びください、ご……ゼロ将軍」

 

「おい、今、何を言いかけた?」

 

「こちらが皆様方の部屋となります」

 

 ベルファストが腕を絡める距離まで詰め寄られてしまう、やんわりと押しのけようとしたかったのだが片方の手をユニコーンと握り締めあっているので抵抗ができない。

 

 そのために、綾波の機嫌がかなり悪い。

 

「むむむ、なのです」

 

 助けを求めようにもクローンたちは離れて様子を伺っているし、アナキンに至ってはパドメとロイヤル式の建築物について話し合っていた。

 

「ところで、ゼロ将軍は傍にメイドが必要だと思ったことはありますか?」

 

「あ、いや、そこまでの贅沢は」

 

「勿体ないことです。メイドがいれば、貴方様の身の回りの世話から夜の……すべてを手伝えますのに」

 

 さっきから言葉の端々に不穏な会話が混じっているのだが、誰か止めてくれないだろうか。

 

 辟易し始めたところで、部屋がみえてきたので俺は綾波とユニコーンを連れてそのまま中へ入り込む。

 

「あら、逃げられてしまいましたか……でも、まだチャンスはあります」

 

 ぞくりと寒気を感じながら俺は部屋の鍵を閉める。

 

「お兄ちゃん、どうしたの?」

 

「いいんだ、ところで、ユニコーンは部屋に戻らなくていいのか?」

 

「お兄ちゃんと一緒がいい!」

 

 笑顔を浮かべてユニコーンは抱き着いてくる。

 

「ぐぬぬぬぬぅ」

 

 嬉しそうに抱き着いてくるユニコーン。

 

 その姿をみて後ろで綾波が不満げな声を上げていた。

 

 俺、刺されないだろうか?

 

 それだけが心配だった。

 

「さて、周辺を散歩してくるわ」

 

「外に出る、です?」

 

「あぁ、ただ、窓からな」

 

 窓を開けてそのまま飛びおりる。

 

「ゼロ!?」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「入口にはメイドが待機しているからな。捕まりたくないんだよ」

 

 そういってそのまま走る。

 

「逃げられましたか」

 

 少し遅れてドアが開き、不満そうなメイドことベルファストが姿を現す。

 

「しかし、次はそうはいきませんから」

 

 不敵な笑みを浮かべるベルファストへ綾波とユニコーンは同時に後ろへ下がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベルファストから逃げた俺はぶらぶらとロイヤル造りの屋敷の周辺を歩いていた。

 

 前線基地の近くという事で少し離れれば、トルーパーやドロイドが行き交い、様々な船が停泊している。

 

「ま、軍事基地の近くだもんな」

 

 ぶらぶらと施設内を歩く。

 

 逃げる際にローブを脱いできたので軽い服装だ。

 

 ライトセーバーは肌身離さずもたなければならないので見つからないように懐へ隠す。

 

「今のところ、艦船候補がなぁ、綾波だけだし……」

 

 綾波だけに負担をかけ続けるわけにはいかない。

 

 そろそろ他の陣営からもKAN-SENを迎えなければならないのだが。

 

「俺目当てっていう感じがしてなぁ……」

 

 俺狙いということに抵抗がある。

 

 どうしたものかと悩んでいた時だ。

 

「あぁあああああ!」

 

 大きな声が響いた。

 

 何の声だ?

 

 疑問を抱きながら音の方をみる。

 

 みるとこちらを指さしている少女がいた。

 

「ジャベリンです!お会いしたかったです!指揮官!」

 

 これが一つの転換期になるなど、俺は夢にも思わなかった。

 

「見つけました……」

 




アナキン・スカイウォーカー
 エピソード1~3における重要人物、この世界においては奴隷制度はないけれど、貧困生活の為、少し暗いところがある。
 母親はタスケンレイダーではなく、セイレーンにより殺害されているため、セイレーンに並々ならぬ憎悪を発揮することがある。パドメとは相思相愛、本来ならば恋愛禁止のジェダイだが、ゼロからの後押しもあって彼女との結婚を決意。



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部隊結成編 パーティー

いやぁ、アニメよかった。

動くクリーブランドとか、ユニコーンとか、綾波達三人とか、

続きがとても楽しみですなぁ。



「ジャベリンです!あぁ、気になる子の前でどうしたらいいかわかんないって顔している!えへへへ~」

 

 セーラーワンピースに紫色の髪の毛は手入れがしっかりと施されていて、頭上には王冠が可愛く見える絶妙な角度でのせられている。

 

 手には細く鋭い槍が握られていた。

 

 Jクラス駆逐艦、ジャベリン。

 

 ロイヤルに属する艦船であり、今回のパーティーにも参加するのだという。

 

「嬉しいです!こんなところでジェダイで指揮官の適性があるって噂のゼロ将軍に会えるなんて!今日はもう最高の日になりそうです!」

 

「あ、そう」

 

「あ、サインいただけます?みんなに会ったことを証明するんです!私がいっても信じてくれないだろうし……」

 

「まぁ、それくらいは別にいいけれど……ところで、距離近くない?」

 

「そんなことないですよぉ!私と将軍ならこれくらいがベストです!」

 

 絶対に違うと思う。

 

 心の中で思いそっと離れようとしたが。

 

「駄目ですよぉ!えへへへ、幸せ」

 

 白い手袋を脱いだ綺麗な手に握り締められる。

 

 シミ一つない綺麗な肌だ。

 

「あー、ところでジャベリンちゃん」

 

「ジャベリンでいいです!あ、私もゼロさんって呼んでいいですか?」

 

「どーぞ」

 

 この子、滅茶苦茶距離を詰めてくるんだけど。

 

「あれ?何か悩み事ですか?」

 

「まー、ね」

 

「でしたら、でしたら!このジャベリンに相談してください!」

 

「あー、いや、別に……」

 

「遠慮しないでください!」

 

 駄目だ、こういうタイプに遠慮という文字はない。

 

 諦めて俺は話すことにした。

 

 部隊編成のこと。

 

 艦船からの立候補が俺目当てで踏み切れないという事。

 

 果たして俺なんかに務まるのかという不安。

 

「大丈夫です!」

 

 俺の悩みをジャベリンはばっさりと切り裂いた。

 

「愛があれば大丈夫です!」

 

「……わけがわからん」

 

 よくわからん答えで、という前置きがつくけれども。

 

「ゼロさんは考えすぎなんです!私達も、下心がないとは言い切れません。けれど、セイレーンからこの世界を守りたいという気持ちは本物です!」

 

「そう、か」

 

「何より会って、目を見て、ちゃんと話をしなければ始まらないと思います!」

 

 ジャベリンの正論に俺は頷いた。

 

「そうだな……確かに」

 

 俺は頷く。

 

「ジャベリンとも話してみて、最初は可愛い女の子かと思っていたがお転婆でお調子者だったし」

 

「えへへへ、って、それ!褒めてないですよね!?」

 

「褒めているから、安心してくれ、一応」

 

「最後の一言が台無しです!!」

 

 頬を膨らませるジャベリン。

 

「悪かった、感謝はしているよ。ありがとう」

 

「そうですか?あ、これにサインをしてください」

 

「……なぁ、ジャベリン」

 

「はい?」

 

「それ、何?」

 

「ゼロさんのプロマイドです!手に入れるのに四時間もかかったんだから!」

 

「何でそんなのがあるの!?」

 

 写真撮影なんて受けた覚えがないんだけどなぁ!?

 

 疑問に思いながらも当たり前のように販売されているとジャベリンに言われてしまい、渋々だが、納得するしかなかった。

 

 

 後でパーティーに参加するという事をジャベリンと約束して別れる。

 

 別れ際に部隊編成の時は参加したいと力強い瞳で言われたことは頭の片隅へ入れておこう。

 

 

 

 あのくらいの元気娘がいた方がいいかもしれない。

 

 

 そんなことを考えていたからだろう。

 

 背後からの不意打ちに反応が遅れてしまった。

 

「あれ?」

 

 視界が真っ暗に染まった。

 

「うふふ、だーれだ?」

 

 背後から感じる温もりと優し気な声。

 

 フォースが相手が誰なのかを伝えてくれるが、それがなくても俺は相手がわかった。

 

「久しぶりだな、イラストリアス」

 

「正解で~す」

 

 振り返ると流れるような白よりの銀の髪を左右に結って白いドレスに身を包んでいる女性。

 

 ロイヤルの空母、イラストリアス。

 

 ユニコーンの姉のような人物だ。

 

「元気そうで、安心しました」

 

「まぁ、一応は元気だ」

 

「そんな連れないこと言わないでください~、久しぶりの再会なんですよ?」

 

「悪いな」

 

 謝罪しながらそのまま歩いていこうとしたらやんわりと腕を掴まれる。

 

「?」

 

「夕食のパーティーまで時間がありますので、お話しませんか?」

 

 イラストリアスに言われて俺は近くのベンチで話をすることにした。

 

 時間を潰すにはちょうどいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クローン・トルーパー、ヘヴィは戦うために生み出された兵士である。

 

 戦いの無いときは仲間達と訓練や娯楽を楽しむ。

 

 今回、ロイヤルという初めて着た場所ということで子供の用にヘヴィは周囲を散策していた。

 

 兵士としては何かが起こった時にすぐ対処できるようにという考えだが、ヘヴィとしてはみたことのない場所ということで少しばかり興味がある。

 

 ジェダイのゼロと共に戦場を駆け抜けた期間は短いがそこで色々なものをみてきたことで好奇心というものがいつの間にか彼の中に生まれていた。

 

「ここで何をしているのですか?」

 

 建物を眺めていたヘヴィに声をかけてきた者がいた。

 

 振り返ると黒を基調としたメイド服、灰よりの髪に黄色のような瞳。

 

 無表情ながらに警戒するような視線を感じ取った。

 

「すまない、パーティーとやらの開始に時間があったから周囲を散策していた」

 

「散策ですか?」

 

「あぁ、誤解を与えてしまったのなら申し訳ない」

 

「いいえ、シェフィールドはメイドとして仕事を遂行しようとしていただけです」

 

「そうか」

 

 会話が途切れる。

 

「ところで」

 

 ヘヴィは少し考えながら。

 

「メイドとは、なんだ?」

 

 彼の質問にロイヤルの艦船、メイド隊の一員であるシェフィールドは限界まで目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故、こうなった?」

 

「エスコートお願いしますね?」

 

 黒を基調としたパーティー用のスーツを身に纏った俺の傍で青を基調としたパーティードレスを纏ったイラストリアスが腕を絡めてくる。

 

 話をしている間に時間が過ぎてしまい、イラストリアスの誘導によって共にパーティー会場へ向かうこととなってしまう。

 

 別に誰かと向かうことは問題ないのだ。

 

 ないのだが、

 

「こうやっていると私と貴方はどういう風にみられるのかしら?」

 

「さぁな」

 

「もう、つれないですね」

 

 頬を小さく膨らませるイラストリアスだが、彼女につきあっている余裕はない。

 

 何より。

 

「すっごい、視線が突き刺さっているのだが」

 

 パーティー会場内は様々な料理、天井には豪華なシャンデリア。

 

 そして、多くのロイヤル陣営の艦船がいる。

 

 メイド服を纏っている者達から突き刺さるような視線が四方八方からきていた。

 

 既にパーティーは始まっているようで同じようにスーツ姿のクローンの姿もある。

 

「ゼロ、こっちだ」

 

 アナキンに呼ばれて向かうと彼の隣にパーティードレスを纏ったパドメの姿もある。

 

「ゼロ将軍、こちらはロイヤルの女王の」

 

「パドメ、自己紹介は私がするわ!」

 

 頭に王冠を載せて、ステッキのようなものを握り締め、王の覇気のようなものを感じさせる少女。

 

「私がクイーン・エリザベスよ!庶民」

 

「……お初になります。俺はゼロ、ジェダイ・ナイトです」

 

「噂はこのロイヤルまで届いているわ!騎士でありながら指揮官としての適性も持っているそうね!」

 

「どうやら、そうらしく」

 

「つまり、いつかは私達の指揮官になるかもしれないということね!庶民!今からロイヤルについて学ぶかしら?」

 

「気持ちはありがたく受け取っておきます。その自分はこれからある任務を行うつもりなので、それが終わってからでよければ」

 

「そう!いつでも来なさい!ロイヤルはいつでも歓迎するわ」

 

「ありがとうございます。陛下」

 

 クイーン・エリザベスは他に話しかけてきた人たちの対応へ向かう。

 

「彼女に気に入られましたね。ゼロ」

 

「そうなのか?」

 

 パドメに言われて俺は首をかしげる。

 

 はっきりいって、他の人と対応が同じように見えた。

 

「あらあら、ゼロは人気ものね」

 

「イラストリアス、いつまで俺の腕を抱きしめているんだ?」

 

「永遠に」

 

 見た者は心を奪われそうな笑顔を浮かべるイラストリアス。

 

 パドメは苦笑していた。

 

 アナキンは面白いものを見つけたという風に助ける気配がない。

 

「では、ゼロ、一曲、踊ってくださるかしら?」

 

 少し離れて手を差し出すイラストリアス。

 

 会場内はいつの間にか音楽が流れてダンスがはじまっている。

 

 踊りを知らないものも知っているものから教えられて踊りだしていた。

 

 差し出された手を掴んで俺はイラストリアスと踊り始める。

 

 ジェダイとして鍛えていたおかげというわけではないが相手に合わせて踊ることは苦ではない。問題があるとすれば、意図的なのか事故なのかわからないが胸を思いっきり体へぶつけてくることだろう。

 

 普通の女性よりも発育している彼女の胸はドレスによってか、揺れたりしている。

 

 男なら釘付けになっていただろう。

 

 彼女と一曲踊ったところで会場の端へ移動する。

 

「お上手ですわね」

 

「まぁね」

 

 置かれていたグラスのお酒をイラストリアスへ差し出す。

 

 彼女は感謝の言葉を告げて一口。

 

「ねぇ、ゼロ」

 

「なんだ?」

 

 ぐいっと距離を詰めてくるイラストリアス。

 

「このまま二人だけでどこかへいかない?」

 

「おいおい、何を言って」

 

「もう、女が誘っているのに答えないのは酷いわよ」

 

 これはよくない。

 

 嫌な予感がするぞ。

 

 にこりとほほ笑みながらイラストリアスが顔を近づけようとする。

 

 助けは意外なところからきた。

 

「お兄ちゃん!」

 

 会場内をイラストリアスと同じく青を基調としたドレスを纏ったユニコーンがユーちゃんを抱えた状態でやってくる。

 

 俺を見つけると嬉しそうにユニコーンが抱き着いてきた。

 

「見つけた!」

 

「おっとと」

 

 受け止めるとユニコーンは怒っているように頬を膨らませる。

 

「ユニコーン、置いて行かれた!」

 

「ごめん、次は無いようにするよ」

 

「約束!」

 

「あぁ、約束だ」

 

「お兄ちゃん……」

 

「うん?」

 

 もじもじと手を動かしながらちらちらとこちらをみてくるユニコーン。

 

 困惑と期待というような感情をフォースが伝えてくれる。

 

「お兄ちゃん、ユニコーンと踊ってほしいの」

 

 ユニコーンからのお誘いを俺は頷いた。

 

 彼女に引っ張られてやってきた場所は会場の真ん中。

 

 多くの視線が集まる中で俺とユニコーンは踊り始める。

 

 身長差があって最初はつたない動きだったが、俺がペースを合わせていくことで段々と無駄のない動きになっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時間後、ダンス地獄から解放された俺は外のテラスへ来ていた。

 

 アナキンが気を利かして外に繋がる入り口をふさいでくれているが時間の問題かもしれない。

 

 未だに俺を探している人達がいる。

 

 俺とダンスをしようという事だろう。あのメイドことベルファストも狙っていることは嫌でも分かった。

 

「……怒っているか?」

 

「ゼロは人気者なのです」

 

 いつものようにみえるが綾波の機嫌はかなり悪い。

 

 やってきた彼女の手にはグラスが握られていた。

 

「飲む、です?」

 

「あぁ、少し喉が渇いていたんだ」

 

 受け取って、口に含む。

 

「綾波と間接キスです」

 

 飲んだドリンクを吹き出す。

 

「おっ、ごほっ、何を言いだすんだ」

 

「ゼロは人気者なのです。こうでもしないと綾波は埋もれてしまうのです」

 

 距離を詰めてきた綾波は俺の指を小さな手で掴んでくる。

 

「綾波は……戦うことしか知らないのです。そんな綾波はゼロに忘れられることが怖いのです」

 

「俺は忘れる事なんてしないさ」

 

「……本当、です?」

 

「綾波、踊らないか?」

 

 不安そうにこちらをみてくる綾波へ俺は提案する。

 

 綾波はいつもの重桜のセーラー服ではない、黒と白のパーティードレス。

 

 ポニーテールにした髪型は変わっていないがよくみるとうっすらと化粧をしていた。

 

 手を差し出す。

 

「俺と一曲、踊ってくれませんか?レディ」

 

「……喜んで、なのです」

 

 握り締めてくれた手を掴んでゆっくりと誰もいないテラスで二人だけ踊る。

 

 後にして思えば、ドラマみたいな展開だな、と心の中で思ったのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「どうして、こうなった!?」

 

 次の任務へ赴くため、ガンシップでロイヤルの前線基地を後にすることになった俺達。

その前で優雅にロイヤル式の挨拶を取るものがいる。

 

「不束者ですが、よろしくお願いします」

 

 にこりと笑顔を浮かべながら近付いてくるのはベルファスト。

 

「一応だが、どうしてここに?」

 

「陛下から貴方の付き人としてしばらく行動するように仰せつかりました。これからは貴方のメイドとして手取り足取り……そう夜の相手も行う所存です」

 

「最後は不要だ!」

 

「メイドのシェフィールドです。これから貴方にメイドというものを徹底的に教え込む所存です」

 

「よろしく、頼む」

 

 離れたところでヘヴィがシェフィールドに詰め寄られていた。

 

 戸惑っている彼に仲間達はからかっていたがシェフィールドにみられると蜘蛛の子を散らすように離れていく。

 

 それでいいのか?クローンたち。

 

「これから毎日が楽しみですね、ご主人様」

 

 にこりとほほ笑むベルファストの言葉に俺は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。

 

 まぁ、仕方ない。

 

「一気に大所帯になったのです」

 

「そうだな、まぁ、色々と慣れないことだから手探りでやっていこう。綾波」

 

「はいです」

 

「着いてきてくれるか?」

 

「当然なのです」

 

 

 



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運命の出会い編 ユニオンの英雄

メインヒロイン?の登場です。


話の展開上、中々、エロがかけない。

次回こそは!


「戦況は最悪だな」

 

 船の上で俺は小さく呟いた。

 

 周囲を警戒しているクローン・トルーパー、ファイブスも同意する。

 

「まさか、こんなところで“インヴィジブル・ハンド”と遭遇することになるとは」

 

「ファイブス、武装は?」

 

「さっきのセイレーンとの戦闘で心もとありません。敵の動きからしてこの状況を狙っていたのでしょう」

 

「ゼロ!すぐに撃退しよう!」

 

 カウガールの姿をした空母、ホーネットが撃退の意見具申をしてくる。

 

「だが、ホーネットも疲労している。連戦は無理がある」

 

「そんなことないよ!私、まだまだやれるよ!」

 

 セイレーン出現の報告を受けて俺達は出撃した。

 

 運悪く、綾波達は別任務でいなかったので俺とファイブスを含めた少数精鋭での出撃が仇となってしまう。

 

 反艦船同盟の主力戦艦“インヴィジブル・ハンド”とぶつかってしまったのだ。

 

「見事にこちらの戦力は分散している状態で……通信は?」

 

「救命信号は発信しているようですが、すぐに妨害がされたようで、気付いてもらえたかどうか……」

 

「状況は最悪という訳か」

 

「将軍、敵艦から通信です!」

 

「降伏しろって?」

 

「いいえ!」

 

 慌てた様子のトルーパーが告げた内容に俺とファイブスは目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうみる?」

 

「罠と考えるのが普通でしょう……」

 

 輸送船の格納庫、そこでバイク型のスピーダーの調整をしていた。

 

 ファイブスが傍で待機している。ホーネットは出撃したいと騒いでいたのでついてくるなと言ってしまった。

 

 拗ねていなければいいけれど、とゼロは心の中で思う。

 

「けれど、将軍は罠と考えてはいないのでしょう?」

 

「まぁね、相手が相手だ」

 

「反艦船同盟のトップであり最強のジェダイの一角でもあったドゥークー伯爵ですか」

 

「敵だが、あの人の本質は貴族だからね……卑怯な手腕は使わないと思いたいんだけど、ジオノーシスの戦いからジェダイという存在から大きく離れているから、どういうことを考えているのやら……」

 

 ゼロの言葉にファイブスは奇妙なものを感じた。

 

 しかし、その正体がわからず口にすることができない。

 

 ファイブスの怪訝な表情に気付いたのだろう、ゼロは苦笑しながら話始める。

 

「元々、俺は彼と面識があるんだ……いや、その程度で済めばどれだけよかったかな」

 

「どういう、ことです?」

 

「俺はあの人の元弟子なんだよ」

 

「!?」

 

 驚きで目を見開くファイブス。

 

 ドゥークー伯爵が元ジェダイであることは周知の事実。

 

 抜けた理由は定かではないが、最強の一角であるという事は情報でファイブスも知っていた。

 

「ファイブス、この船のことは任せる……俺が一時間過ぎても戻ってこなかったから」

 

「将軍」

 

 ファイブスはゼロの話を遮って笑みを浮かべる。

 

「フォースと共にあらんことを……貴方が戻ってくることを我々は信じています」

 

「わかったよ、必ず戻る……キミにも、フォースが共にあらんことを」

 

 肩をすくめながらゼロは輸送船からスピーダーで指定されたポイントへ向かう。

 

 スピーダーが風を切る中でフォースがゼロに伝えてくる。

 

 良くないことが起ころうとしていると、

 

 これから起こり得ることはいくらでも考えられる。

 

 指定された場所は小さな無人島。

 

 スピーダーを止めると既に相手は来ていた。

 

「時間通りだな、若きパダワンよ」

 

「久しぶりですね、マスター」

 

 ドゥークー伯爵を前にゼロは表情を変えずに告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重桜がセイレーン襲撃を受けたあの日、幼いゼロは当時、ジェダイマスターだったドゥークー伯爵に助けられる。

 

 その際にジェダイとしての素質を見出され、彼の弟子、パダワンとして様々な任務を受けてきた。

 

 彼がジェダイ評議会を抜けて、反艦船同盟に属するまで。

 

 

「お前の噂はこちらまで届いているぞ。あの時の子供がここまで成長したことはとても喜ばしい」

 

「偉大なマスターに鍛えられたおかげです」

 

 ドゥークーは腰に下げていた武器を地面へ置く。

 

「今回は話し合いの場を設けた。戦う意思はないと伝えておこう」

 

「元マスターの言葉として信じましょう」

 

 同じくゼロもライトセーバーを地面へ置いて、ドロイドが用意したと思われるテーブルと椅子へ腰かける。

 

 机にはティーカップが置かれていた。

 

「作法は忘れていないようで安心したよ」

 

「叩き込まれましたからね」

 

 紅茶を一口、含んで一瞬だが顔をしかめる。

 

「その様子では口に合わなかったようだな」

 

 しかし、その表情をドゥークーは見逃さなかった。

 

「優秀なメイドが淹れてくれますのでね」

 

「ほぉ、そこまで偉大になったか……あの時、是が非でも連れて行けばよかったよ」

 

「心にもないことを言わないでください。抜ける際にマスター一人殺している貴方だ。オーケーしていたら俺も誰かを殺していたかもしれない」

 

「何かを成すに犠牲はつきものだ。私の場合、暗黒卿に教えを乞うための条件がマスターの殺害だったというだけだ」

 

「相変わらず、淡々と言いますね」

 

「お前は情に流され過ぎている……相変わらず場の流れというものに逆らえないようだな」

 

 お互いのことをよくわかっているからこそのやりとり。

 

 久しぶりだと感じるとともに、相手が本題を出さないことから警戒を少しばかり強める。

 

 フォースで堅牢な壁を作ろうとしても相手はそれをたやすく切り崩していた。

 

「平和というものは我々人類自らの手で作り出さなければならないと思わないか?」

 

「そのために、我々は戦っています」

 

「複製兵士と模造物と共にかね?」

 

「彼らは仲間です」

 

「確かに見た目は人の姿をしているだろう。だが、その本質は異なる。この世界の平和を守ろうというのならその世界の住人そのものが立ち上がるべきだ。あんなものに頼らずと」

 

「そういう貴方達もドロイドを使っている」

 

「あれは道具だ。道具を使うのは当然だ。ジェダイがライトセーバーを振るうこととなんら大差はない。それでいけば複製兵士はまだ妥協できるだろう。だが、模造物は違う。その気になれば叛逆して新たにこの星の支配者となりえる力がある。わかっているのだろう?」

 

「彼女達はそんなことを望んでいない。戦うために生み出されたけれども平和を望んでいます。そのために俺達と手を取り合って戦っている」

 

「ほう」

 

 興味深いという風にドゥークーは感嘆な声を漏らす。

 

「お前は彼らを人とみているわけだ」

 

「えぇ、貴方のように嫌悪すべき存在ではないと考えている」

 

「そうか、では、お前は知っているのだろうな?あの模造物、いや、艦船の中にフォースを操れる可能性を秘めていることを」

 

 ゼロは心臓が掴まれた気分になった。

 

 どうして、知っているのかと口が震えそうになる。

 

 必死にフォースの力を借りて悟られないように力を強めた。

 

 だが、相手はそんな動きを察している。

 

「フォースで壁を作ろうとしても無駄だ、我が弟子よ。お前のことなどお見通しだ」

 

「そろそろ、本題へ入ったらどうです」

 

 逃げる様にゼロは話を切り出す。

 

 今のままではドゥークー伯爵の手によって何もかも暴かれそうな気がした。

 

「我が陣営に下れ、そうすれば、あの船の連中は助けてやろう」

 

「勧誘ですか」

 

 何を今更という風にゼロは伯爵を見る。

 

「ゼロよ、お前の力が必要なのだ。お前が我が軍門に下り、闇の力を学び、私の右腕として活動すれば世界は一つになる。セイレーンは愚か、シスを倒すことも可能だ。闇を学んだ私とお前ならば負けることはない」

 

「驚いたな、貴方は俺のことなど眼中にないと思っていたのですが」

 

「当初は、だが、戦場における貴様の一騎当千ともいえる力を見れば変わる、貴様の力はいずれジェダイを超える、その気になればシスすら打倒できる!」

 

 熱を帯びたように力強い声で伝えてくるドゥークー伯爵だが、ゼロは真剣に聞いていなかった。

 

 まるで遠い国の出来事を聴いているような気分だ。

 

「さて、返事を聞こうか」

 

「ノー」

 

 あっさりとゼロは伝える。

 

「そうか、では、死んでもらう」

 

 ドゥークーが指を鳴らすと地面から複数のバトル・ドロイドが姿を現す。

 

 その手にブラスターが握られている。

 

 離れたところにあるライトセーバーは砂に埋もれていた。

 

「武器がなければジェダイといえど太刀打ちは出来ない。フォースで防ぐにしても限界はあるだろう?」

 

「一つ、約束してもらえますか」

 

「確約はできんよ」

 

「俺以外の仲間は見逃すことです」

 

「あぁ、そのことなら無理だ。私は許可をしないが、グリーヴァス将軍が攻撃の指示を出すだろう、今頃、キミの仲間は」

 

 ドゥークー伯爵は言葉を失う。

 

 目の前で座っていたゼロから放たれる膨大な殺意。

 

 今までに感じたことのない殺意と強いフォースの波動に息をのんでしまう。

 

 気付けば、引き寄せていたセーバーを抜いていた。

 

「この音は……」

 

 上空から聞こえる飛行音。

 

 ドゥークー達が見上げると艦載機が迎撃する。

 

 突然の攻撃にドロイドたちは次々と吹き飛ぶ。

 

「ゼロぉぉぉぉぉお!」

 

 海上を移動してくるのはホーネット。

 

 艦載機を飛ばしながら距離を詰めようとする。

 

「愚かな」

 

 飛来する艦載機をドゥークーはセーバーで切り落とす。

 

 近付いてくるホーネットに向けてフォース・ライトニングを放つ。

 

「きゃあああああ!」

 

 直撃を受けたホーネットはダメージを受けて砂浜の上を転がる。

 

 今の一撃で彼女の艤装のどこが壊れたらしく、煙が出ていた。しかも、フォース・ライトニングによってホーネットは気絶していた。

 

「その命、刈り取ってやろう」

 

 ドゥークー伯爵が光る刃の先を向けようとした時。

 

「結局、こうなるのか」

 

 ドロイドの残骸を伯爵の前に投げ捨てて傷ついたホーネットを守るように立つ騎士。

 

 青いライトセーバーを構えるゼロは無表情だが、瞳は怒りに染まっていた。

 

「庇うのか?」

 

「俺の仲間だ。大事な仲間だ……元マスター、いや、ドゥークー伯爵、アンタが俺の仲間を傷つけるというのなら、俺はアンタを殺す」

 

「ジェダイは執着してはならない。そういう掟だ」

 

「今は知るか」

 

 淡々と告げて、ライトセーバーを構えるゼロ。

 

 二人は同時に刃を切り結ぶ。

 

 バチバチとぶつかりあう青と赤。

 

 互いに使われるフォームは「マカーシ」というもので対ライトセーバーに適しているものだ。

 

 熟練度でいえば、ドゥークー伯爵が圧倒的に優位。

 

 そのはずだった。

 

「貴様、マカーシに何を混ぜた!?」

 

「フォームの名前はありません、強いて言うなら重桜ゼロ式っていうのはどうです?」

 

「鍛え上げられたフォームに手を加えるなど!」

 

「シスのアンタにはもう関係のないはずだ!」

 

 振るわれる一撃はスナップを利かせた刃で受け止める。

 

 包囲していたバトル・ドロイドは攻撃を試みるがゼロによって放たれたフォースの衝撃で近くの木々に体を打ち付けた。

 

「余所見している余裕があるのか?」

 

 振るわれる一撃を後ろに下がって回避した。

 

 距離が開いたところでドロイドが銃撃してくる。

 

 フォースの手助けを仮ながら刃で受け流す。

 

「では」

 

 フォース・ライトニングの狙い先はホーネット。

 

 ライトセーバーの刃で雷撃を受け止めようとした。

 

「づぅ!」

 

 襲い掛かる衝撃によって吹き飛ぶ。

 

 痛みに耐えながら辛うじてライトセーバーは手放さなかったがゼロの体からはもくもくと煙が出ていた。

 

「さらばだ、愛しい弟子よ」

 

 ドゥークー伯爵がドロイドへ攻撃指示を出そうとした時。

 

 上空から艦載機の爆撃が降り注ぐ。

 

「……」

 

 降りかかる砂をマントで防ぎながら空を見る。

 

 無数の艦載機が次々と現れた。

 

「艦船とやらの増援か……しかも」

 

 ドゥークーはぽつりと漏らす。

 

 彼はこちらへ近づいてくる空母の姿を捉える。

 

「ユニオンの英雄とやらのおでましとなれば、分が悪いな。引き上げるとしよう。運に救われたな。元パダワンよ」

 

 起き上がろうとするゼロへ柔和な笑みを浮かべながらドゥークーは去っていく。

 

 追いかけようとしたかったがフォース・ライトニングのダメージが大きく、立ち上がることがやっとだった。

 

「将軍!」

 

 数分ほどして、武装したトルーパー達がやってくる。

 

 先頭のファイブスはふらついているゼロへ駆け寄った。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あぁ、すまない、ドゥークー伯爵に逃げられた」

 

「将軍が無事で何よりです。敵は撤退しているようです」

 

「そうか……俺よりもホーネットの様態を見てほしい」

 

「了解」

 

 医療兵を呼ぶファイブスをみながらゼロは尋ねる。

 

「援軍が来たのか?」

 

「はい、ユニオンから」

 

「失礼、貴方が指揮官か?」

 

 顔を上げたゼロは言葉を失う。

 

 流れるような銀髪。軍帽と軍のロングコートを纏った女性。

 

 着ている服は袖がなく健康的な肌が露出している。

 

 しかし、キリッとしている姿は軍人そのものだ。

 

 艤装を纏っていることから彼女は艦船なのだろう。

 

「はじめまして、援軍としてやってきたユニオンの空母、エンタープライズ……です」

 

 目を見開きながらゼロをみる銀髪の女性、エンタープライズ。

 

 ふと、ゼロは自身の胸に触れる。

 

 心臓がドキンバックンとおかしい。

 

「病気……か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エンタープライズ。

 

 ユニオンの空母であり、グレイゴーストという異名を持つユニオンの英雄である。

 

 何度か艦船の紹介として特集として取り上げられていたこともあった。

 

 実際、映像で姿をゼロは何度かみたことはあったけれども、実際に遭遇するのは初めてである。

 

「貴方がジェダイであり指揮官適性を持つというゼロ将軍ですか?」

 

「あぁ、俺がゼロだ、援軍、助かったよ……このままだと全滅していた」

 

「当然の義務だ」

 

 感謝の言葉に真面目な言葉を告げるエンタープライズ。

 

 根が真面目なのだろう、フォースを通さなくても理解できた。

 

 何故だろうか、もっと知りたいという気持ちになる。

 

「それに……」

 

「うん?」

 

「貴方には感謝している」

 

「俺に?」

 

「ホーネット、妹を貴方は守ってくれた」

 

「それは、仲間として当然だろう」

 

「……どうやらホーネットは上官に恵まれているようだ」

 

「上官といわれても、俺は仲間とみているので」

 

 エンタープライズは柔和な笑みを浮かべる。

 

「敵が戻ってくることはないかもしれないが、弾薬なども限りがある。ゼロ将軍、ここから離れることを推奨する」

 

「そうだな……全員、周辺の確認が済み次第、撤収だ!」

 

「了解!」

 

 返事をするトルーパー達の姿を確認してゼロは頷く。

 

「基地へ戻るまでの護衛をお願いしてもいいかな?」

 

「任せてほしい」

 

 頷いたエンタープライズにゼロは感謝する。

 

 ちらりとゼロは自身の手をみた。

 

――まだ、自分は弱い。

 

 その中にあったライトセーバーをみてから強く握りしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助かりましたね」

 

 

「頑張ってくれたおかげだ」

 

 ユニオンの空母という力強い護衛と共に輸送船は近くの基地まで向かう。

 

 ゼロがドゥークー伯爵と話をしていた頃、やはりインビジブル・ハンドから砲撃を受けたという、ファイブスはホーネットにゼロの救援へ向かわせてトルーパーだけで反撃。

 

 次第に圧されて轟沈間際というところでユニオンから応援がやってきた。

 

 それがエンタープライズである。

 

「まさか空母一隻であそこまで追い詰めるとは思いませんでしたよ」

 

「ユニオン最強空母の名前は伊達ではないということだろう?」

 

「その割には納得していないという表情ですね?」

 

「まぁ、少し、な」

 

 含みのあるゼロの言葉にファイブスは疑問を抱く。

 

「どうしたんですか?」

 

「救援が来てくれたことは感謝している、だが、一隻だけできたことがひっかかっている。救援なら、戦艦はともかく、駆逐艦も来てくれてもよいだろうになぁと……それが彼女一隻というところが」

 

「呼び寄せる暇がなかったということでは?」

 

「その可能性もあるだろう、俺はもう一つの考えがある」

 

「もう一つ?」

 

「仲間を助けるために無謀な無茶をしたという考えだよ」

 

「それは――」

 

「疲れた、休むわ」

 

「あ、はい」

 

 敬礼するファイブスを残してゼロは艦内へ戻る。

 

「どうしたんだろうな?彼女のことを考えると、心が乱れる」

 

 首を傾げながらゼロは自室にこもる。

 

 それから数時間ほどして前線基地の一つに彼らは到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 報告をした俺は基地内を歩いていた。

 

 ジェダイ評議会へドゥークー伯爵の件を伝える。

 

 元マスターであることを知っているマスターヨーダは心配していたが、俺は大丈夫と伝えておいた。

 

 あの人と戦うことについては覚悟していたことだ。

 

 どこまで戦えるかという不安はあった、正直、後一手、足りなければ命を落としていたかもしれない。

 

「良い風だなぁ」

 

 気付けば港の傍にきていた。

 

 ローブが風で揺れる中、夜空でキラキラと輝いている海を眺めていた時だ。

 

「おや?」

 

 聞こえた声に振り返る。

 

 振り返った先にいた彼女を見た瞬間、心臓がバクンと跳ねた。

 

 まただ、彼女を前にすると妙に調子が悪くなってくる。

 

「もう動いて大丈夫なのか?」

 

「ジェダイとして色々な戦場に出ているからね、この程度なら大丈夫だ」

 

「……そうは、見えない」

 

「え?」

 

「今のあなたは泣きそうな顔をしている」

 

 エンタープライズに言われて俺は疑問を浮かべる。

 

「そうか?わからないな。俺とあの人はもう関係のない存在だ。いくら師弟関係と言われても」

 

「本当は心のどこかで悲しんでいるのではないか?」

 

 エンタープライズの指摘に俺は困惑していた。

 

「どうだろうな、俺自身もわかっていない」

 

「貴方は優しい人なんだろう」

 

「それはキミにも言える事だろう」

 

「……そう、言われたのは初めてだ」

 

 エンタープライズは笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけた!ゼロ!」

 

 エンタープライズと別れて寝室へ向かおうとした時、壁にもたれていたホーネットと出会う。

 

「ホーネット、もう動いて大丈夫なのか?」

 

「勿論!ゼロが命を懸けて守ってくれたからね」

 

「守ることは当然だ」

 

 ホーネットは帽子を指で弄りながら目線をさ迷わせる。

 

「エンプラ姉と何を話したの?」

 

「……ありきたりな話だが……そういえば、彼女もお前のことを妹といっていたな」

 

「そ!エンタープライズは私のお姉ちゃんなの!」

 

 エンタープライズとホーネットが姉妹。

 

 少し驚きだけれど、納得できるところが少しあった。

 

「ねぇ、ゼロ」

 

「なんだ?」

 

「ゼロは私がまた危ない目にあったら、助けてくれる?」

 

「当たり前だ。仲間は必ず守る……ジェダイの掟とか、そういうことは関係ない。必ず」

 

 これを他のジェダイは執着と呼ぶかもしれない。

 

 しかし、俺は誰かを守れる為にジェダイという道を選んだ。

 

 その根源を否定されたとしても、俺は変わらない。

 

「仲間、か」

 

 けれど、ホーネットは俺の言葉に表情が一瞬、曇る。

 

「決めた!」

 

「ん?なに――」

 

 最後まで言う前に唇をふさがれる。

 

 ホーネットにキスをされた。

 

 突然のことに限界まで目を見開く。

 

 一分も満たない時間でホーネットは俺から離れる。

 

「いつかは……」

 

 驚いて口に手を伸ばす俺の前でホーネットは笑みを浮かべる。

 

「いつかは私だけを守ってもらいたい!私も守ってあげるような関係になるから!これはその宣戦布告!」

 

 にこりと笑みを浮かべてホーネットは去っていく。

 

「……」

 

 呆然としていた俺はその光景を見ていた者がいたことに気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは急がないといけませんね」

 

 離れたところで様子を伺うメイドの姿がそこにあった。




次回、メイドのターン?



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運命の出会い編 強襲!ベルファスト

台風で暇している人達へ、これでも読んで時間を潰してください。

少年編を一部、修正します。

タイトル変えました。


ヨーダ似の神様「あ、そういえば、艦船が性的に襲ってきたら色々な耐性が落ちるっていうの忘れていたわ」


っていうことがあったり。


「重桜へ、ですか?」

 

『そうじゃ、重桜の艦隊が直々にお前達、アズールレーン特殊部隊と共に任務を行うことを希望している』

 

 マスターヨーダからの通信にゼロは目を見開く。

 

「重桜が、彼らは単独でセイレーンを撃退してきていたのに」

 

『何か裏があるかもはしれんが……いってもらえるかの?』

 

「大丈夫です。任せてください」

 

『お主にとってはつらいことかもしれないが、健闘を祈る、ヨーダ終わり』

 

「了解です。ゼロ終わり」

 

 通信を終えてざわつく心を落ち着かせる。

 

 重桜の帰還。

 

 いつかは行わなければならないとは考えていた。

 

 だが、ジェダイの騎士としての任務や修行といったことから遠ざけてきていたのだろう。

 

 任務で重桜か。

 

「はぁ、嫌なもんだな、こういう感情っていうのは……」

 

 心を落ち着かせながら俺は通信室を出る。

 

「ゼロ、どうしたのです?」

 

「綾波」

 

 心配そうにこちらをみてくる綾波へ告げる。

 

「これから重桜へ向かうぞ」

 

「……!」

 

 驚いたように朱色の目を見開く綾波だった。

 

「重桜ですか?綾波の故郷なのです」

 

「まぁ、俺の故郷でもあるんだけどな」

 

「……ゼロも重桜出身でしたね?おそろい、なのです」

 

「そうだな、はぁ」

 

 ゼロの態度に綾波は首をかしげる。

 

「ゼロは故郷へ戻りたくないのですか?」

 

「あー、戻りたいとは思うけれど、その」

 

 確実に波乱が起こる。

 

 フォースなどなくてもゼロは嫌でも理解していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重桜へ向かうため輸送船の格納庫。

 

 ゼロを中心として多くのトルーパーと艦船の姿がある。

 

「これから俺達は重桜へ向かう。セイレーンが重桜の海域で猛威を振るっているらしい」

 

「オーケー、暴れられるってわけだ」

 

 ハードケースというクローン・トルーパーが拳を打ち鳴らす。

 

「今回、援軍はない。あるのは現地で戦っている重桜の艦隊との共同任務だ。連携など、作戦は向こうとこちらで違いがある。不慣れなことが沢山、あるかもしれないが協力してほしい」

 

「将軍、俺達の仕事は変わりませんよ。戦うのみです」

 

「ありがとう、ヘヴィ、それじゃあ、各自、武器の点検など準備を終わらせておいてほしい!」

 

「了解!野郎ども!準備するぞ!」

 

 トルーパー達が準備を始める。

 

「ねーねー、ゼロ!」

 

 ホーネットがこちらへやってきて腕を絡ませて来る。

 

 それだけで複数の視線がこちらへ突き刺さった。

 

「重桜ってさ、どういうところ?」

 

「……和の空気が漂っている国というイメージだが、艦船は、まぁ、好戦的だろうな」

 

「そうなの?あ!私、準備終わったから部屋でお茶しない?」

 

「あー、悪い、俺はやることがあって」

 

「え~!じゃあ、終わったら!終わったらでいいから!」

 

 尚も食い下がるホーネットだが、背後から現れた綾波がずるずると引き剥がす。

 

「ご主人様」

 

「うぉう!?」

 

 真後ろからベルファストに声をかけられて驚きの声を漏らす。

 

「これからやることがあるのではありませんか?」

 

「あぁ、悪いが席を外す」

 

「お供します」

 

「いや」

 

「部屋の前で待機しております。主に付き従うのがメイドの務めですので」

 

「……あ、そう」

 

 拒否したところでついてくるだろう。

 

 ベルファストはうふふふと笑みを浮かべていた。

 

「一応、伝えておくけれど、室内に入ろうとはしないでくれよ?」

 

「察しの良いご主人様は嫌いです」

 

「うぉい、メイド!」

 

「冗談です」

 

「本気に聞こえるんだよ。お前のは」

 

 ため息を吐きながら部屋に戻る。

 

 室内へ戻ったところで、簡易ベッドの上に大きく倒れた。

 

「重桜か……あの連中と会うとなると波乱の予感しかない……なにより」

 

 

 

――長門に会った時、どんな顔をすればいいのだろうか?

 

 

 重桜がセイレーンの襲撃を受けた時から彼女とは連絡が取れていない。

 

 噂では重桜のトップとして奮闘しているという。

 

 会った時に真っ赤な血で汚れている自分が拒絶されたら。

 

「はぁ、マスターヨーダに怒られるな。執着はダークサイドに繋がるって」

 

「ご主人様」

 

 真横から聞こえた声にため息を零す。

 

「ベルファスト、部屋に入るなと言ったはずだ」

 

「何を悩んでおられるのですか?」

 

 抗議の声に耳を貸さずベルファストが尋ねてくる。

 

「別に、悩んではいないさ」

 

「メイドはご主人様の考えの先を読み行動することを求められます。貴方様が何かに悩んでいることはわかっております」

 

 目線を合わせる気分にならず手で隠す。

 

「ゼロ様」

 

 耳元でベルファストが囁く。

 

「私は頼りないですか?」

 

「そういうわけでは」

 

 ベルファストが乱暴に腕を払いのける。

 

 ギシッと簡易ベッドが音を立てた。

 

 ベルファストが俺に乗ってくる。

 

 はらりと彼女の髪の毛が俺の頬の傍へ降りてきた。

 

「私は艦船として、メイドとして、いえ、一人の女として貴方のことをお慕いしております。そんな貴方様が苦しんでいる姿をみることがとても辛いのです」

 

「何で、俺にそこまで……」

 

「貴方様のことを本気で愛しているからです」

 

「ベルファスト、それは俺が指揮官適性を持っているからじゃないのか?」

 

 ゼロは最低な発言をしていることは理解している。しかし、重桜へ向かう、己の過去と向き合わなければならないという事がいつもの冷静さを奪っている。

 

 ベルファストは笑みを浮かべたと思うとそのままゼロへキスをした。

 

 唇を柔らかく触れる程度のキス。

 

 突然のことにゼロの頭は真っ白になる。

 

「ゼロ様、私が指揮官適性だけでその人を本気で愛するような軽い女ではないということを証明いたします」

 

「な、何を」

 

 目の前でメイド服を脱ぎだすベルファストに流石のゼロも慌てて起き上がろうとする。

 

 しかし、艦船の力を全力で使っているベルファストにマウントを取られていることと、女性を乱暴に押しのけるわけにはいかないという考えによってゼロは強く抵抗できないでいる。

 

 あっという間に服を脱ぎ捨てたベルファストはそのままゼロのズボンを下す。

 

「おい、今すぐやめろ!人を」

 

 呼ぶぞといいかけてゼロは言葉を詰まらせた。

 

 騒動に気付いて誰かがやってくれば、今の光景を見てしまうこととなる。

 

 つまり、それはベルファストがロイヤルで罰せられるかもしれない。

 

「うふふ」

 

 小さく微笑みながらベルファストはゼロの額へキスを落とす。

 

「貴方様はとても優しい人、私がロイヤルで罰せられるかもしれないと心配をしているのですね……安心してください。貴方様をロイヤルへ帰属させれば陛下は満足することでしょう」

 

「俺は……」

 

 否定の言葉を続けようとしたところでキスをされた。

 

 今度は唇に触れる程度のものではない、舌がゼロの口内を侵食していく。

 

「もう、止まりません、止める気もありません、ゼロ様に私、ベルファストを捧げさせてもらいます……うふふ、ドキドキしています」

 

 微笑みながらベルファストがゼロの手を掴んで自身の胸へ触れさせる。

 

 胸に触れた途端、柔らかい感触と共に沈んでいく。

 

 温かく、触れたことのないものにゼロの鼓動が大きくなっていた。

 

「貴方様、もっと触れたくありませんか?」

 

「ベル、ファスト……」

 

「私は、もっと触れたいですよ?」

 

 耳元で囁かれた瞬間、様々な特訓で鍛えてきたはずのゼロの理性がはじけ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、あぁ、気持ち、良いです」

 

 ゼロの肉棒をベルファストの秘所は受け入れる。

 

 既に準備ができていたようであっさりと肉棒は彼女の中へ侵入した。

 

「痛く、ないか?」

 

「大丈夫です、うふふふ、本当に優しいお方」

 

 チュッとキスされたことでドクンと肉棒が反応する。

 

「あぁ、嬉しいです。私に反応してくれているのですね。素敵、です」

 

 最初はゆっくりと、徐々に運動が激しくなっていく。

 

 ベルファストの体をゼロの肉棒が抉る。

 

 徐々に激しくなっていく。

 

「ご主人様、さぁ、私の中で逝ってください」

 

「でも、それは」

 

「あぁ、あぁ、ご主人様、何も考えないでください。私の身を案じないでください。ベルファストはただ、ただ、貴方の愛しているという証をいただきたいのです!さぁ、どうか、この私へ」

 

「う、うぁわぁ」

 

 彼女の言葉がトリガーとなって、ゼロは力を籠める。

 

 ベルファストの喘ぎ声が室内に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「重桜か、セイレーンの出撃が多いとも聞くが……」

 

 輸送船の中で武装のチェックをしていたヘヴィ。

 

 そこへ綾波がやって来る。

 

「ヘヴィは重桜へ行ったことがありますか?」

 

「いいや、ないな。綾波は?確か、綾波は重桜のフネだったはずだが」

 

「実は綾波はドロップ艦なのです」

 

 綾波の言葉にヘヴィはほぉと声を漏らす。

 

「そうなのか?じゃあ、今回が初めての重桜訪問というわけだ」

 

「そうなのです」

 

 ドロップ艦、それはセイレーンと艦船との戦闘の間で起こる不思議な現象。

 

 基本的に艦船は【キューブ】とフネの記憶や様々な技術を用いて生み出される。

しかし、どういうわけかセイレーンを撃退した後、極まれに出現する【キューブ】から生み出される艦船のことをドロップ艦と呼ばれている。

 

「しかし、ドロップ艦は出現率がかなり低いと聞いていたが、まさか、綾波がそうだったとはな」

 

「けれど、そのおかげで綾波はゼロと会えたのです」

 

「そうだな、俺もあの人に会えたことはとても嬉しいと感じる」

 

「似た者同士なのです?」

 

「そうかもな」

 

 ヘヴィは頷く。

 

「ねぇ、指揮官、知らない~?」

 

 格納庫にホーネットがやってくる。

 

「いいや、みていないが?」

 

「綾波も知らないのです」

 

「もう!お茶に誘ったのにぃ!」

 

 頬を膨らませながらホーネットは格納庫を出ていく。

 

「なんというか、前の戦闘からホーネットの様子が変わったな」

 

「お邪魔虫になったのです」

 

 ゴゴゴと体から覇気を放つ綾波の姿にヘヴィは肩をすくめる。

 

「これは大変だな」

 

 近いうちに起こる争奪戦というものをヘヴィはジェダイでないながらに予想することは簡単だった。

 

 尚、部屋でメイドが既に若きジェダイを強襲していたことは誰も知らなかった。

 



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運命の出会い編 重桜の艦船は好戦的

 重桜の艦隊と合流したゼロ達の部隊。

 

 ゼロはジェダイローブを纏い、重桜の艦隊を率いてきた人物と謁見する。

 

「はじめまして、重桜の艦隊を率いる山本大佐だ」

 

「はじめまして、アズールレーンの特殊艦隊の指揮官であるゼロです」

 

「驚きましたなぁ、噂のジェダイが艦隊と行動を共にしているとは」

 

「色々ありまして」

 

 他愛のない話し合いをしながらゼロは今後について打ち合わせを行う。

 

「では、ピュリファイアー型やチェイサーなどが目撃されているわけですね……だから、これだけの艦隊を?」

 

「それもありますが今回の戦いでは重桜の力を発揮するという事で神子様も共に戦います。故に全力で挑まなければならないのです」

 

 神子という言葉にゼロはローブの中で一瞬だけ顔をしかめたがすぐに戻す。

 

「では、陣形としては」

 

「重桜を先頭としてあなた方はフォローに回ってもらいます」

 

「俺達はアンタ達のフォローをしろというのか!?」

 

 傍に控えていたヘヴィが異を唱える。

 

「ヘヴィ、落ち着いてくれ」

 

「クローンというのは戦闘のために作られたと聞いたが短気ですな。栄光ある重桜艦隊のフォローができるというのに、神子様が聞かれたら嘆かれる」

 

「なんだと!?まるで俺達が下のように!」

 

「ヘヴィ!」

 

 ゼロの言葉にヘヴィはハッとした表情で後ろに下がる。

 

「すいません、将軍」

 

 呆れている山本大佐を前にゼロは話し合いを続けた。

 

 しかし、重桜の艦隊を前面に押し出すということを彼らは頑なに主張を続けて、会議は平行線を迎えることになってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なんだ!あの態度は!?」

 

「気持ちはわかるけれど、落ち着いてくれ」

 

 目的の海域までに再度、会議をするという事で一旦、終わりにした俺はヘヴィと傍に控えている(当たり前のように)ベルファストと共に艦内を歩いていた。

 

「将軍は納得できるんですか?まるで俺達が下のように!神子とやらの力がどれほど素晴らしいのか知らないが……」

 

「ヘヴィ様、落ち着いてください。それにあまり重桜のことを悪く言うのはよくないかと」

 

 ベルファストの言葉でヘヴィはゼロが重桜出身ということを思い出す。

 

「す、すいません、将軍」

 

「気にしていないよ、あそこの雰囲気というか、重桜は海に囲まれた国だからね、色々と独特なんだよ」

 

「ご主人様は寛大ですね。ますます、惚れそうです」

 

「俺は何も聞いていない、聞いていないからな」

 

 肩をすくめながら三人は食堂へ向かう。

 

 食堂ではトルーパーや重桜の艦船たちが楽しく食事を―。

 

「もういっぺん、いってみろ!」

 

 食堂の外まで響く大きな声にゼロはため息を零す。

 

「騒動は絶えないねぇ」

 

 中へ入るとトルーパーの一人、ハードケースが怒りで顔を染めている。

 

 彼の視線の先には一人の艦船がいた。

 

 白い重桜の着物、白髪に、白い尾、そして尖った狐耳。

 

 重桜の空母、加賀だ。

 

 鋭く青い瞳は何も映さず、ため息を吐く。

 

「もう一度、伝えてやろうか……お前達のような有象無象が集まったところで無意味だ。この戦いにおいて足を引っ張るくらいなら失せろ。それが重桜の為にもなる」

 

「ふざけるな!俺達は兵士として多くの死地を潜り抜けてきたんだ!それを有象無象だと!?俺達の兵士としての誇りを侮辱するなら許さんぞ!」

 

 立ち上がると同時に加賀の手が伸びてハードケースの首を掴んで持ち上げる。

 

 突然のことに足をじたばたさせて足掻くが加賀の力は強い。

 

「兵士?私に手も足も出ないような奴が兵士だと笑止、貴様らのような存在など食べる価値もない……このまま、その首をへし折って」

 

 獰猛な笑みを浮かべる加賀。

 

 ハードケースが白目を浮かべて、口の端から涎を垂らし始めた時。

 

「やめるんだ」

 

 ゼロが加賀へやめるように告げる。

 

 ちらりと加賀は一瞥するもその手を緩めない。

 

 周りの重桜の艦船は止める気配がない。力を至上とする思考は一緒らしい。

 

 ハードケースの抵抗がなくなりはじめた直後。

 

「グッ!な!?」

 

 加賀が急にハードケースを離す。

 

 床に崩れ落ちた彼に仲間のトルーパーが駆け寄っていく。

 

 何かから逃れる様に暴れだす加賀。

 

 ゼロはフォース・グリップを解除する。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、貴様ァ!」

 

 ギロリと鋭い目で加賀が毛を逆立てながらゼロを睨む。

 

 ジェダイローブ越しに彼女を見つめるゼロの表情は読めない。

 

「俺の仲間に手を出さないでもらおうか」

 

「仲間……弱き者が吼え」

 

 一瞬でゼロが加賀の前に立つ。

 

 あまりの速さに重桜の艦船達が目を開く。

 

「俺が弱そうにみえるか?だったら、それは一航戦加賀、お前の視野が狭いという証拠だ、重桜風にいうならば、井の中の蛙だな」

 

「なんだと!?」

 

「トルーパー一人一人はお前達艦船と渡り合うことは難しいだろう。だが、彼らは兵士だ。兵士は個々の力は弱くても団結すれば、とてつもない力を発揮する。その気になればお前達重桜のフネだろうと倒せるかもな」

 

「お前は、一体、何者だ」

 

 加賀の問いかけにゼロが答えようとした時。

 

「これは何の騒ぎだ!」

 

 幼い声が響く。

 

 食堂の入口に狐耳、つやのある黒い髪、巫女装束のような姿を纏った幼女がいる。

 

「神子様!」

 

 誰かが声を上げて膝をついた。

 

 加賀も渋々という様子で膝をついている。

 

 食堂内にやってきたのは重桜で神子と崇められているBIGSEVENの一隻とされている戦艦 長門だ。

 

「これは何の騒ぎであるか!?」

 

「すいません、こちらの部隊と重桜の艦隊との間で作戦の打ち合わせをしようとしたのですが、些細なことで争いになってしまいまして」

 

 ゼロが咄嗟に思い付いた言い訳を話す。

 

 長門はゼロを見上げる。

 

「そうであるか、これから戦が始まるのだ。滾る気持ちは理解できるが……和を乱すようなことをしてはならぬ」

 

 彼女の言葉に重桜の艦船は頷いた。

 

 重苦しい空気が漂う中、ヘヴィが手を叩く。

 

「野郎ども、解散だ。これ以上騒ぎを起こすなら将軍から罰が下されるぞ」

 

「いけね、将軍の罰則はおそろしいからな」

 

「噂じゃ、サメの餌にされるらしいぞ?」

 

「こらこら、エコーにファイブス、俺はそんなことしないから」

 

 トルーパー達の間に笑いが広がる。

 

「あ、ゼロ!私の部屋でご飯食べよう!」

 

「むむ、綾波と一緒に読書なのです」

 

「ご主人様、ベルファストがお茶を淹れてさしあげましょう」

 

 ホーネットがゼロの腕を掴んだタイミングで綾波とベルファストが囲んできた。

 

「おい、引っ張るなぁ、痛い!痛いから!」

 

「はぁ、いつものことか」

 

 ヘヴィはやれやれとため息を零す。

 

 そんな彼らのやり取り、特にゼロを重桜の艦船達、特に加賀はねっとりとした視線を向けている。

 

 ちろりと口の端を舐めていたことに誰も気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、重桜の艦船って、すごい好戦的だったなぁ」

 

「綾波は戦うことは正直、好きじゃないのです」

 

「そういえば、そうだな」

 

 あれから時は流れて格納庫でホーネット、綾波、ヘヴィは話し合いで時間を潰していた。

 

 輸送船は目的の海域まで向かっており、各チェックを終えたメンバーはそれぞれの時間を過ごしている。

 

 三人はゼロがこっそりと各トルーパー達へ配っていた嗜好品を味わっていた。

 

「同じ重桜としてハードケースさんには謝罪しておくのです」

 

「やめておけ、アイツの場合、火に油を注ぎかねない」

 

「ハードケースは短気だからね。この前の戦闘でも怒ってガトリング型のブラスターキャノンを連射していたもんね」

 

「わかったのです」

 

 ぽりぽりと嗜好品を味わう三人。

 

 ふと、ホーネットがため息を吐く。

 

「はーぁ、本当はゼロも交えたかったのになぁ」

 

 ゼロも交えて四人で味わう予定だったのだが、ゼロはジェダイ評議会へ報告することがあった為に不在だった。

 

「仕方ないのです。報告があるのです」

 

「将軍は大丈夫だろうか?」

 

「どういう意味?」

 

「このところ、評議会へ報告する回数が増えていないか?」

 

「言われてみれば、そうだね?どうして?」

 

「……前の戦いだと思うのです」

 

「敵の親玉が将軍の師匠か……傍からみればスパイしていると思われても仕方ないということか」

 

「そんな!ゼロがそんなことしないよ!私の指揮官だし!」

 

「綾波の指揮官なのです!」

 

「お前達、頼むから将軍がいないところで喧嘩はやめてくれ」

 

 争いを始める二人を前に辟易したため息を零すヘヴィ。

 

 その姿を見たホーネットがヘヴィをみる。

 

「そういえば、あのメイドは?」

 

「さぁ?」

 

「むむ!」

 

 綾波の頭部のミミがピコーン!と動く。

 

「抜け駆けの気配がするのです!」

 

「なんだって!急がないと!」

 

 立ち上がると格納庫を飛び出す二人。

 

「そういうところは連携できるんだな」

 

 呆れながら片づけを始めるヘヴィだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、貴方ってあのジェダイの騎士なんだよね?」

 

 報告を終えて部屋に戻ろうとしていた俺の前に一人の艦船がいた。

 

 サイドテールにしている茶色い髪、髪留めは独特なデザインをしている。

 

 白い羽織に赤を基調としている衣服を纏い、手には刀が握られていた。

 

 瞼にうっすらと赤の化粧がされている。

 

「確か、重桜空母の瑞鶴だったか」

 

「へぇ、詳しいね!その通り!私が五航戦 瑞鶴!」

 

「そうか、じゃ」

 

「待て!」

 

 逃げようとしたら回り込まれた。

 

「何だ、食堂の騒ぎで俺はくたくたなんだが?」

 

「あれは、先輩の悪い癖がでちゃったからであって、ごめんなさい。あのクローンの人は大丈夫?」

 

「あぁ、戦場で見返してやると息巻いているよ」

 

「そっか、よかったぁ」

 

 微笑む瑞鶴。

 

 好戦的な気質の多い艦船にしては珍しい。

 

「話は済んだよな?じゃあ、これにて」

 

「待って!てば!手合わせをしてほしいの!」

 

「……はい?」

 

 瑞鶴という艦船はずぃっとこちらへ距離を詰めてくる。

 

「手合わせといったか?」

 

「そう!ジェダイの騎士ってとっても強いんでしょ!?いんたーねっと?の情報でみたの!特に貴方とアナキン・スカイウォーカーとオビ=ワン・ケノービが最強だって」

 

「あの特集か」

 

 前にNYシティにあるジェダイ聖堂へ訪れた際にアナキン達と一緒にマスコミからインタビューを受けたことを思い出す。

 

 三人の最強のジェダイという特集で、オビ=ワンがとても疲れた表情をしていたなぁ。

 

「悪いけれど、ジェダイの技はみせるためにあるわけじゃない……手合わせといっても作戦もある。体力は温存しておいたほうがいいんじゃないか?」

 

「本当はそうだけど、待っているってことができないの!その間に鍛錬とか」

 

「無理せずに頑張りなさい」

 

 瑞鶴の頭をポンポンと撫でる。

 

「ちょっと!子ども扱いしないでよ!」

 

「おっと、すまない」

 

 頬を赤くしながら怒る瑞鶴だが、その姿は頬を膨らませた子供そのものだ。

 

「悪いが、俺も疲れている、手合わせは今度に」

 

「だったら、無理やり挑むまで!」

 

 人の話を最後まで聞かずに瑞鶴は刀を構えて襲い掛かって来る。

 

 本気で斬るわけではなかったので、振るわれる一撃を躱して彼女の後ろへ回り込む。

 

「グリグリの刑じゃあああああああ!」

 

「いたぁあああい!」

 

 頭の左右を拳でぐりぐりとこする。

 

 暴れて逃れようとする瑞鶴だが、フォースの力を借りている俺に逃れることはできん!(大人気ない)

 

「反省しているかぁ!」

 

「いたぁぁい!ごめんなさい!ごめんなさい!本当に反省していますぅ!」

 

「よろしい」

 

 解放すると彼女は涙目でこちらをみあげてくる。

 

「うぅ、傷物にされたぁ」

 

「鞘に納めているとはいえ、襲い掛かってきたお前が悪い!」

 

「うぅ、ただ、手合わせしてもらいたかっただけ……なのにぃ」

 

 涙目でうじうじしている瑞鶴。指で地面にずいずいとかいている。

 

 この場面だけをみられたら俺が悪人じゃないか。

 

「わかった、少しの時間だけ、付き合ってやるよ」

 

「本当!?」

 

 泣き顔から一転して笑顔になった瑞鶴が顔を近づける。

 

「本当だ、ウソつかない」

 

「やったぁ!じゃあ、行こう!」

 

 笑顔の瑞鶴に手を引かれてやってきたのはフネの甲板。

 

 瑞鶴の艤装となるフネの上である。

 

「観客がいるんだが」

 

「えへへ、先輩達に良いところ見せるチャンス!」

 

 甲板でこちらを見つめている熱い視線が複数ある。

 

 瑞鶴は妙にやる気で満ち溢れていた。

 

「よろしくお願いします!」

 

「それはいいけれど、模擬戦って何やるんだ?」

 

「これを」

 

 横からスッと差し出されたのは木刀だった。

 

「あ、どうも」

 

 自然と受け取って横を見る。

 

 そこには白い軍服に短いスカート、長い髪をポニーテールにして、軍刀を携えている女性がいた。

 

 誰だ?

 

 彼女はそのまま後ろへ下がる。

 

 前を見ると瑞鶴も木刀を構えていた。

 

「じゃあ、はじめようか」

 

 掛け声をあげながら迫る瑞鶴。

 

 洗練された動きだが、正面からくるとわかっているのなら対処はしやすい。

 

 振るわれる木刀を受け流すようにして木刀で防ぐ。

 

 次々と振るわれる斬撃を最低限の動きで躱す。

 

 体力を消耗しないように動きをとりながら隙を伺う。

 

「このぉぉぉおおお!」

 

 焦りを浮かべながら繰り出される一撃。

 

 ここだ。

 

 突きをギリギリのところで躱して彼女の間合いへ深く入り込む。

 

「しまっ」

 

 目を見開く瑞鶴。

 

 俺はゆっくりと彼女の額へ手を伸ばす。

 

 来るかもしれない痛みへ構える様に目をつむる瑞鶴。

 

「俺の勝ち~」

 

 パチンとデコピンをした。

 

「……へ?」

 

 ぽかんとする瑞鶴へ木刀を差し出す。

 

「じゃあ、俺の勝ちだからこれで終わりな」

 

「え?あ」

 

 しばらく呆然としていたが瞬きをするとこちらへ近づいてくる。

 

「ちょっと待って!まだ、私は負けを認めてなんか!」

 

「額にデコピンされるって怯えた癖に」

 

「怯えてなんかなーい!待て!あ」

 

 カツンと後ろで音がして背後を振り返る。

 

 それがいけなかった。

 

 こちらへ突っ込んでくる瑞鶴。

 

 咄嗟に受け止めようと手を伸ばした時。

 

 ムニョンと柔らかい感触が手に伝わった。

 

「はい?」

 

 俺は手の中の感触を確かめる様にニギニギと手を動かす。

 

 動かしてしまった。

 

「!!」

 

 顔を真っ赤にして俺から離れる瑞鶴。

 

 彼女は自らの体を抱きしめる様にして下がった。

 

 それだけで、俺は何を触ったのか理解する。

 

 理解してしまったんだ。

 

「わ!わ!」

 

「あー、今のは悪い。本当に悪かった」

 

 ここは謝罪するしかない。

 

 素直に謝ると瑞鶴は顔を赤くしながら。

 

「私なんかより翔鶴姉の方が柔らかいんだからぁあああああああ!」

 

 謎の捨て台詞を残して去っていった。

 

「いや、それを聞かされてどうしろと?てか、翔鶴って、姉がいるんだな…………終わったのか?」

 

「いいえ、終わっていないのです」

 

 真後ろから聞こえた声に背筋が凍る。

 

 振り返ると鬼神がいた。

 

 いや、綾波がいる。

 

 ただし、瞳からハイライトがログアウトしていた。

 

「あ、綾波さん?」

 

「なんです?」

 

 普段なら「さん付けしないでほしいです」という彼女の言葉はなかった。

 

 首をかしげているがハイライトオフのせいで恐怖が増している。

 

「慈悲を」

 

「駄目なのです。これから綾波と夜の運動なのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後、メチャメチャ、ハッスル、した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、何だろう、私なんかより翔鶴姉の方が柔らかくて大きいはずなのに、ゼロに触れられた途端、ドキドキしたよう……こうなったらゼロを倒して!このモヤモヤを晴らそう!そうすれば…………えへへへ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以上、瑞鶴のターンでした。


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運命の出会い編 クローンの意地

今回、怪文書あり


「うじゃうじゃいますね」

 

 遂にセイレーン艦隊の出現した海域へ到達する。

 

 海域を埋め尽くすように不気味な発光をしているセイレーン艦隊。

 

 正面から向かうのは重桜の艦隊。

 

「しかし、我々は本当にサポートですか?」

 

 控えるクローン・トルーパー、ヘヴィの問いかけに俺は首を振る。

 

「まさか、表向きはサポートをするが、敵を叩けるタイミングなら攻め込む、いつもどおりさ」

 

「そういうと思っていました」

 

 バイザー越しにヘヴィが笑みを浮かべる。

 

「さて、みんなと最後の打ち合わせをしようか」

 

 数時間もすれば重桜艦隊がセイレーンへ攻撃を仕掛ける。

 

 輸送船のフライトデッキに待機しているガンシップ。外を見れば綾波、ホーネット、ベルファストのフネが続いているだろう。

 

 ガンシップの傍で武装のチェックをしているクローン達が一斉にこちらをみあげた。

 

「さて、これから戦闘を始めるわけだが」

 

 少し間を置いて全員へ問いかける。

 

「ただ、御守をするだけで満足、というわけないよなぁ?」

 

「当然ですよ!アイツらに目にものみせてやる!」

 

 一番に反応したのは重桜を見返したい気持ちで一杯のハードケースだ。

 

「重桜で力なき者は何も言えない、そんな国だ。つまるところ……強さをみせなければ、何の意味もないというわけだ。だからこそ、見せつけてやろう。俺達が今までどうやってセイレーンを倒してきたか、な!」

 

「うし!」

 

「やってやろうぜ!」

 

「あの獣っ娘へ目にもの見せてやる!」

 

 兵士たちの言葉に俺は頷いた。

 

「じゃあ、予定よりも早いが俺達の部隊は左右から挟撃する!重桜の艦隊へ一応のおぜん立てを済ますぞ!」

 

 トルーパー達はガンシップへ乗り込み、綾波、ホーネット、ベルファストが艤装を身に纏う。

 

「みんな、やる気だね!」

 

「綾波達も頑張るのです」

 

「ご主人様」

 

「……なんだ、ベルファスト」

 

 やたらと距離が近い彼女から離れようとしたが腕を掴まれて、引き寄せられる。

 

 チュッと頬にキスされた。

 

「ご主人様へ貴方のメイドが勝利を届けしますわ」

 

「頼む」

 

 周りに見られていないことを確認して短く答える。

 

 優雅にロイヤル式の挨拶をした彼女は輸送船の外へ出た。

 

 待機していたガンシップへ飛び乗る。

 

「じゃあ、暴れにいこうか」

 

 戦闘開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い空の下、輸送船のフライトデッキから出動した複数のガンシップ。

 

 当然のことながらセイレーンの艦隊からも漆黒の艦載機が飛び出してくる。

 

「出てきたぞ!」

 

「撃ち落とせ!」

 

 ガンシップからレーザーやミサイルが迫る艦載機を撃ち落とす。

 

「ちゃっちゃとやっちゃえ!」

 

 ホーネットから発艦した艦載機もガンシップを守るようにセイレーンの艦載機を撃ち落としていく。

 

 ガンシップの左右のハッチが開いてそこからトルーパー達が海上にいる艦隊へ狙撃を試みていた。

 

「雑魚ばかりで歯ごたえがねぇなぁ」

 

 トルーパーの一人がぽつりと漏らす。

 

 海上を進む艦隊はいわゆる量産型のセイレーン。

 

 重桜を見返すつもりでいる彼らにとって歯応えのない相手である。

 

 そう呟いたクローンの乗るガンシップが砲撃によって撃ち落とされた。

 

 爆炎に包まれて海上へ落下するガンシップの姿を見てゼロは砲弾が撃たれた方向をみる。

 

「あらぁ、これは驚いたわね」

 

「ピュリファイアー型、なのです!」

 

 量産型の艦隊ではなく、人の形をとり、背中に無数の砲台をのせているセイレーン。

 

 ピュリファイアー型だ。

 

「この野郎!」

 

 ハードケースがガトリング型ブラスターキャノンを連射する。

 

 不敵に笑いながらピュリファイアーは回避した。

 

「貴方も沈みなさい」

 

 砲撃の雨。

 

「回避だ!」

 

 ゼロが叫び、ガンシップは回避運動を取るが何機か直撃を受けてしまい、煙をだしながら海面へ落ちる。

 

「第四から第七のガンシップは落下した仲間の救援へ向かえ、綾波、ベルファスト、敵を沈める!ついてこい!」

 

 コムリンクを止めてガンシップ内にいるヘヴィやハードケース達を見る。

 

「ついてきてくれるか?」

 

「勿論ですよ!」

 

「兄弟の仇を取ってやる!」

 

 バイザーに隠れて素顔はみえないが全員の覚悟は決まっている。

 

 頷いたゼロはガンシップを急降下させた。

 

 海面すれすれを飛ぶガンシップから海上移動装備を装着したゼロ、クローン・トルーパー達が下りる。

 

 上昇するガンシップが撃墜されないように降りたトルーパー達が次々とブラスターで攻撃していく。

 

「うふふふ、楽しめそうね!」

 

「沈め!」

 

 ピュリファイアーの砲撃を潜り抜けた綾波が大型ブレードを振るう。

 

 傍にいたセイレーンの艦隊を盾にしながら後退するピュリファイアーをベルファストの砲撃とホーネットの艦載機が追撃した。

 

「そこだ」

 

 逃げていた先に待ち構えるのはライトセーバーを抜いたゼロ。

 

「あらあら、ジェダイが相手なのね、楽しみだわ!これでも多くのジェダイを殺してきたの」

 

「そうかい、じゃあ、てめぇは俺が沈めてやるよ」

 

 フォームを取りながらピュリファイアーの砲撃を光の刃で切り裂く。

 

 笑いながら砲撃をしてくる、無尽蔵ともいえる砲弾の雨に呆れながら光線剣の振るう手を止めない。

 

 トルーパー達が援護をしてはいるが艦隊の妨害にあっていて思う様に進めていなかった。

 

「叩き潰してあげる」

 

「冗談」

 

「綾波もいるのです!」

 

 綾波が大型ブレードを振るいながらゼロを援護しつつ魚雷を放つ。

 

「大丈夫なのです?」

 

「腕が少し疲れたよ。ったく、容赦ねぇんだから」

 

 悪態をつきながらライトセーバーを構えなおす。

 

「みつけたぁ!」

 

 そんな声と共に飛行してくる瑞鶴が刀を振り下ろす。

 

 ピュリファイアーの砲塔の一つを潰した。

 

「見つけた!ゼロ!」

 

 瑞鶴は刀を振り回しながらこちらへ近づいてくる。

 

 ゼロは逃げたいという気持ちにかられながらも話をすることにした。

 

「何だ?」

 

「何だじゃないよ!一航戦の先輩も怒っているんだよ!?作戦開始前に勝手な行動をするなって!」

 

「その分、スムーズにこっちへこれただろ?」

 

「それは、そうだけど……」

 

 納得できていないという表情で瑞鶴はゼロを半眼で睨む。

 

「ところで、瑞鶴」

 

「なにぃ!」

 

「後ろ」

 

「え?」

 

 きょとんとした表情で振り返る瑞鶴。

 

 迫る砲弾。

 

「!?」

 

 ぎょっと目を見開きながら瑞鶴は回避した。

 

「お姉ちゃんがいればぁ!」

 

「変な躱し方だなぁ」

 

「シスコンなのです」

 

「あははははははは!もっと楽しませなさいよぉ!」

 

 ピュリファイアーが笑いながら砲撃をしていた。

 

 ジェダイと艦船がどのように攻めようと自分を倒せるわけがない。

 

 そうタカをくくっているのだ。

 

「おい」

 

 だからこそ、ピュリファイアーは油断していた。

 

 彼らの存在を視界へ入れていなかったのだから。

 

「俺を怒らせたことを後悔しろぉ!怪物野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!」

 

 ガチャンとガトリング型ブラスターキャノンから放たれる無数の光弾。

 

 ガリガリガリとピュリファイアーの肉片のようなものを近距離で浴びながらハードケースは武器を握り続ける。

 

 無事な砲塔がハードケースを狙うもヘヴィや他のトルーパー達のブラスターが彼女の体を次々と破壊していく。

 

 彼らは個々の力は弱い。

 

 そもそも、生まれて十年足らずで戦場へ駆り出されてしまう。

 

 様々な死に方で彼らはその命を戦場で散らす。

 

 だが、彼らが集えばその力は戦場を左右するほどのものを持つ。

 

 ジェダイと艦船が囮になることで彼らがピュリファイアーを倒す。

 

「素晴らしいわ。まさか、私が貴方達のような作り物に負けるなんて」

 

 倒されるというのにピュリファイアーは笑顔だった。

 

「クローンを舐めるんじゃねぇよ!あと、ジェダイや艦船も」

 

 そういってハードケースはピュリファイアーの顔をブラスターキャノンで粉々に粉砕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「疲れたぁ」

 

 作戦は無事に終了した。

 

 勝手な行動をとったことで重桜の山本とやらが文句を言ってきたが敵を正面から叩き潰して重桜艦船の力を証明させたことを伝えると渋々、引き下がる。

 

「トルーパー達は今頃、食堂で打ち上げかなぁ?」

 

 今回のことで重桜の艦隊へトルーパーの力をみせた。

 

 瑞鶴や他の艦船は謝罪をしてきた。

 

 唯一、気がかりなのは。

 

「一航戦、加賀か」

 

 あの場に姿を見せていなかったが、話によると単独でかなりの数のセイレーンを屠っていたという。

 

 フォースが加賀という存在について、注意するように伝えてくる。

 

 その意味はわからない。

 

 疑問を浮かべながらも食堂へ向かおうとした時。

 

「指揮官殿」

 

 食堂へ向かおうとしたところで俺に話しかけてきたのは艦船の高雄。

 

 軍刀を腰へ携えた彼女は真剣な表情でこちらへやってくる。

 

「高雄さんか、何か用事?」

 

「さんは不要です。それより、貴方にお会いしたいという方がおりまして」

 

「俺に、ですか?」

 

「ついてきてもらえますか?」

 

 高雄に言われた俺はついていくことにした。

 

 すぐに終わるだろう。

 

 そう考えた俺は高雄の後へついていく。

 

 しばらくして、ある部屋の前に通された。

 

「こちらです、中におられますので」

 

「わかった」

 

 案内されて中に入る。

 

 ガチャリと施錠された。

 

「あれ」

 

 なぜ、施錠?

 

 疑問を浮かべながら中に入る。

 

 中に入ると長い艶やかな髪に獣耳、

 

 大きな艤装を身に纏った少女がいる。

 

 戦艦長門だ。

 

 俺は咄嗟にフードを被る。

 

 ジェダイローブは正装だ。

 

 フードで顔を隠すのは傷跡をみられないようにするという建前も使えるだろう。

 

「そなたが複製兵士の部隊を率いていた者か」

 

「……えぇ、はじめまして、レイといいます」

 

 咄嗟に偽名を名乗る。

 

 まだ、彼女と向き合う勇気がなかった。

 

「此度の戦闘、我が重桜がそちらの兵士へ無礼を働いたという……申し訳ない」

 

「気にしないでください。クローン兵士ということで嫌悪を持つ者もいます、今回の戦いで重桜の艦隊もクローン・トルーパーの力を見直したはずです」

 

「そなたの仰る通りだ……粗茶だが、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 頷いて置かれているお茶を飲む。

 

 作法を間違えないようにしながら一口、そこから続けて飲む。

 

「その作法を知っているということ、そなたは重桜出身か?」

 

「いえ、ただ、作法を知っているだけです」

 

「……を」

 

「え?」

 

「いいや、何でもない。ところで、ジェダイの騎士というのなら其方は知らぬか?ゼロいう者がジェダイにいるかどうか」

 

「……そうですね、確か」

 

 続きを言おうとしたところで視界がブレる。

 

「あ、あれ……」

 

「どうかしたか?」

 

 首をかしげる長門の前で首を振りながら大丈夫と伝える。

 

「いえ、少し戦闘の疲れがでてきたようで、すいませんが休みたいので、ここで失礼を―ー」

 

「良い、余が其方を癒してやろう」

 

「いえ、いえ、そんな、恐れ多い」

 

「何を遠慮する?余と其方は家族だぞ」

 

 立ち上がろうとしたところで床に崩れる。

 

 手足がしびれて動けない。

 

――薬か!?

 

「ふふふふ、ゼロよ。余にウソをつくとはお前は悪い子だ」

 

「な、にを」

 

 顔を上げると長門がのぞき込んでいた。

 

 笑みを浮かべているけれど、その目は光を失っている。

 

「あぁ、ようやく、ようやく、お前に触れられるのだな」

 

 俺の頭を優しく長門の両手が包み込む。

 

「なんで」

 

 動けない俺の頭を抱えるようにして長門は自身の膝へ誘う。

 

「余が成長したとして、お主を見間違えると思うか?それなのに、余がいるというのに、話しかけず、あろうことは偽名を名乗り逃げようとした!温厚の余でも限度というものがある!」

 

「それは……」

 

「故に、これは我慢をしてきた余への褒美とお前の罰だ」

 

「ば、つ?」

 

 意識があるのに、体が鉛のように重たい。

 

「お前は余を放って外へ出た。余は辛かった。陸奥がいる、江風がいる、だが、お前がいない。愛しいお前がいないのだ!そのつらさを噛みしめながら民の為と頑張ってきた。だが、お前の傍には色々な女がいる!余は我慢をしているというのに!」

 

 叫ぶ長門。

 

 それだけで長門がどれだけの不満と我慢をしてきたことがわかった。

 

 けれど、何で、俺なんだ?

 

「余はお前を愛しているというのに」

 

 その疑問をぶつけるよりも前に長門が告げる。

 

 愛している?

 

 長門が俺を?

 

 疑問をぶつけるよりも前に彼女が俺に覆いかぶさるようにして口づけをしてくる。

 

 痺れて逃げられない俺はされるがままだ。

 

「お前に余の存在を刻んでもらおう。心の奥底で、絶対に他のものへ目移りしないように」

 

 瞳をドロドロに濁らせながらヘッドホンのようなものを長門は装着させる。

 

【ゼロ、愛している】

 

 長門の愛のささやきが響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】【ゼロ、愛している】

 

 

 ステレオのように繰り返される言葉。

 

 俺の意識がブラックアウトするまで、この声は響く。

 

 そして、なぜか、脳裏に彼女、エンタープライズの姿が過ぎった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、こうなった」

 

「重桜の高雄と申す。貴方を指揮官と定め、忠義を尽くす所存である」

 

「五航戦の瑞鶴です。これから一緒だね!鍛錬とか指導とか、よろしく!」

 

 目の前でこちらへ挨拶をしてくる高雄と瑞鶴。

 

 二人が俺の部隊として参加することになった。

 

 いや、何で!?

 

「神子様の指示でございます。重桜の名誉、そして、指揮官殿に力を示せと!」

 

「……あ、そう」

 

 ここで神子の頼みを断ればどうなるか。

 

 命がないことだけはわかる。

 

 謀殺、暗殺、刺殺、毒殺、監禁となんか色々と頭をよぎった。

 

「ゼロがため息を吐いているのです」

 

「そりゃなるでしょう」

 

「あぁ、ご主人様、後でメイドが癒してみせましよう」

 

「ちょっと、何するつもりよ?」

 

「さぁ、何でしょうか」

 

「……ここのところ、メイドが余裕の表情なのです」

 

 後ろで艦隊連中が騒いでいる中、トルーパー達は新たな仲間に喜ぶ者もいれば、重桜のやったことに不満を抱いている者もいた。

 

「はぁ、何だろうなぁ」

 

 これから起こるであろう面倒な予感がひしひしと伝わってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今は、離れ離れであろう……だが、ゼロよ。最後は必ず、余のところへ、余と陸奥のところへ必ず帰って来るのだ。そうでなければ、次は、ふふふふ」

 

 

 



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運命の出会い編 二人だけの無人島

エンタープライズヒロイン、これは絶対に譲れない。

多分、メイビー。




「体の方は大丈夫か?ゼロ将軍」

 

「心配してくれてありがとう、エンタープライズ、俺は大丈夫だ、キミの方は?」

 

「この程度、艦船にとって傷にすらならない」

 

 無人島にある洞窟。

 

 焚火の前で二人並んでいる状態で俺とエンタープライズはいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四時間前。

 

 セイレーン、ドロイド部隊と戦っていたエンタープライズを助けるために俺達の部隊が援軍として駆けつける。

 

 しかし、敵からの砲撃からエンタープライズを守るために俺の搭乗していた戦闘機が炎上。

 

 意識を失ったエンタープライズを抱えながら辛うじて無人島に不時着。

 

 彼女の手当てをするために安全そうな洞窟でエンタープライズの手当てをした。

 

「ごめん、艦船の応急処置がこれであっているかわからないけれど」

 

「大丈夫だ。それにしても、貴方は戦うだけでなく手当てもできるのだな」

 

「違うさ、戦うことにおいて治療することは必須になって来る。必ず学んでおかなければならないことさ」

 

「……そうだな」

 

 小さく頷くエンタープライズに毛布をかける。

 

「ゼロ将軍!私なんかよりもあなたが」

 

「怪我人だから、無理はさせられないし体を治すことを優先としなきゃ、俺も一応、毛布ほどじゃないけれど、体を温めるものはあるから」

 

 ジェダイローブで体を覆いながらゼロは言う。

 

 エンタープライズは困った表情を浮かべながら自身にかけられた毛布を見た。

 

「ほら、休もう…」

 

 ゼロに言われて渋々という形でエンタープライズは眠りにつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

 二人は海岸沿いに不時着したジェダイの専用機(ファイター)を調べていた。

 

 敵の砲撃を受けたことで動力部の機能は失われている。

 

「あぁ、R3、救援がきたら必ず修理してやるからな?」

 

 戦闘機の側面にパートナーとして共に戦ってきたアストロメクドロイド、R3-O03は砲撃からゼロとエンタープライズを守ったものの、ダメージが大きすぎた為にシャットダウンしてしまっていた。

 

 専用機の中から必要な道具などを取り出す。

 

「やっぱり、壊れている……まぁ、信号は生きているからこれに気付いて誰かやってくるだろう」

 

「それまではこの無人島で動けず仕舞いか」

 

「幸運にも、食料はある。でも、節約も兼ねて、周囲を探索しよう」

 

「その必要があるのか?」

 

 首をかしげるエンタープライズにゼロは苦笑する。

 

「地形を理解する必要があるだろう」

 

 ゼロとエンタープライズは無人島を歩く。

 

 幸いにも無人島内は森林や湖が確認できた。

 

「将軍は何でも知っているんだな」

 

「知っていることしか俺は知らないさ、それに、こういう生活は前にやったことがある」

 

「どういう、意味だ?」

 

「ん?あぁ、俺がまだパダワン時代だった頃、任務の途中で無人島に放り出されたんだよ。その時にサバイバル技術を身に着けたってところ」

 

「……す、すごいな」

 

「そうかな?」

 

 エンタープライズからの賞賛にゼロはなんともいえない表情を浮かべる。

 

 拠点として利用することになった無人島の洞窟。

 

 そこで二人だけの生活をすることになった。

 

 二人だけということでゼロの心臓はこれでもかというほどにバクバクと反応をしているのだが、その理由がわからない。

 

 フォースもゼロに教えてはくれなかった。

 

 何より、エンタープライズと無人島の生活は色々と波乱万丈だった。

 

「俺は離れたところで見張っているから」

 

「駄目だ!貴方は人間だ。何かあっては困る!貴方の護衛を私はする必要があるから一緒だ!」

 

「水浴びで男女一緒は色々と問題がある!」

 

「たかが水浴びだ。気にすることはない」

 

「男女だってことを意識しよう!?」

 

「人と艦船だ。問題はあるまい」

 

 一緒に入ることに抵抗があるゼロに対して、エンタープライズは頑として譲らなかった。

 

「キミは女の子だ!女の子の裸を見るなんて色々と失礼だ!」

 

「おかしなことを言う人だ。私は艦船であって、元はフネだ。気にすることはない」

 

「あぁ、もう!姿が見えるところで交代しながら水浴びしよう!それでいいだろ!?」

 

「むぅ、仕方ない……」

 

 半ば折れる形で水浴びをする。

 

 湖で生まれたままの姿のエンタープライズ。

 

 後姿だけだが、光や湖の水で輝く姿は一見すれば妖精のようにみえる。

 

 彼女の姿を絶対に記憶しないように目を閉じながらゼロは必死に迷走してフォースの中に沈もうとした。

 

「む、何をしているんだ?」

 

 呼ばれてつい、目を開けてしまう。

 

 そこにあったのは絶世の美女の裸体。

 

 何も纏っていないエンタープライズの裸を見た瞬間、ゼロの体温は異常なくらい跳ね上がり。

 

「限界」

 

 鼻血を吹いて気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か?ゼロ将軍」

 

「……あぁ、エンタープライズ、エンタープライズ!?」

 

 目を見開いて起き上がろうとしたが彼女に抑え込まれる。

 

「大量に血を流したんだ。無理はしない方がいい」

 

「……ごめん、キミの裸をみてしまった」

 

「あぁ、そのことか、別に気にはしない」

 

「(それはつまり、男としてみられていないということだろうか?)」

 

「(少し驚きはしたけれど、私の体など、気にはならないだろう)」

 

 微妙にずれた考えを持ちながらゼロはしばらくして体を起こす。

 

「もう大丈夫なのか?」

 

「あぁ」

 

「将軍」

 

「エンタープライズ、その将軍っていうのやめてくれない?」

 

「なぜ?将軍は将軍だろう?」

 

「だとしても、俺達は共に戦う仲間だ、あまり階級呼びされるの、好きじゃないんだ」

 

「何と呼べばいい?」

 

「ゼロでいいよ」

 

「そうか、では、ゼロ、貴方は変わった人だ」

 

「……そうかな?」

 

 首を傾げながら体を起こす。

 

「おぉ、綺麗な夕焼け空…海も光って綺麗だ」

 

「綺麗……か」

 

 エンタープライズは夕焼けに光る海を見てぽつりと漏らす。

 

「貴方は海をみて、綺麗というんだな」

 

「いけないことか?」

 

「海は戦場だ。そこに綺麗と言われても正直、わからない」

 

 エンタープライズの言葉にゼロは苦笑する。

 

「そうだよな、キミ達は戦場としての海しか知らないんだよな」

 

 セイレーンが海域を支配して長い年月が過ぎている。元々の戦争の起きていない海を知っている人物はかなり減ってきていることだろう。

 

「……貴方は戦場以外の海を知るのか?」

 

「少しだけだ……戦場としての海の方が多いけれど……こういう戦いと関係のない場所の海を綺麗だということを俺は忘れないようにしている」

 

「なぜ?」

 

 エンタープライズの疑問の言葉は本当にわからないのだろう。

 

 その目は不思議そうに揺れていた。

 

「姉もそうだ……海を綺麗という。だが、なぜ、そう呼ぶのか私はわからない、戦場だから」

 

「だったら、見ようじゃないか」

 

「え?」

 

 エンタープライズにゼロは言う。

 

「一緒に戦いが終わった後の海をみよう。そうしたら、今までと違うものがみられるかもしれない」

 

「そうだろうか?」

 

 ゼロは戸惑うエンタープライズの手を握り締める。

 

 それから彼女の小指と自身の小指を絡ませた。

 

「約束する。戦争が終わった後、平和な海を一緒に見よう。きっと、キミの知らない景色がある……約束だ」

 

「約束……」

 

「重桜における儀式みたいなものさ。破ったらダメの約束」

 

「……私はわかるだろうか?その、戦場ではない海をみたとして」

 

「絶対にわかる!エンタープライズは純粋だ。きっと、素晴らしいと感じてくれる」

 

 エンタープライズは困った表情を浮かべながらゼロと交わした小指をみつめた。

 

 不思議と温かい気持ちになったがエンタープライズはそれを言わないことにする。

 

 言ってしまえば、その温もりが無くなってしまうのではないのかと不安になったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「救援が来ることを期待していたが」

 

 無人島の海岸。

 

 そこにぞろぞろと姿を見せるドロイド部隊。

 

 その数は軽く十を超えていた。

 

 ブラスターを構えているドロイドたちは周辺を警戒している。

 

「反応に引き寄せられてやってきたのか……ここを前線基地にするつもりなのか、どちらにしろ、見つかれば面倒だな」

 

「ゼロ、どうするつもりだ?」

 

「戦闘になった場合、こちらの武装はライトセーバーのみ、か……エンタープライズ、キミの艤装は?」

 

「海上を移動することは可能だ、だが、戦闘は難しいな」

 

 ゼロは考える。

 

 一人だけなら数少ないドロイドを撃退することは可能だろう。

 

 もし、エンタープライズが人質に取られてしまえば、ゼロは抵抗できずに二人そろって捕虜となる。

 

「ゼロ、私に考えがある」

 

「却下」

 

「まだ、何も言っていないぞ!?」

 

「言わなくても理解できるよ。自分が囮になるからその間に逃げろとかそういうことをいうつもりだろ?」

 

 エンタープライズは責任感が強い。

 

 この状況において人間を守ろうとするだろう。

 

 共に生活をしていてそれはよぉく理解できた。

 

 だからこそ、エンタープライズの提案を認めるわけにいかない。

 

「しかし、今のままでは」

 

「別にエンタープライズが囮になることが正解じゃないよ」

 

 ドロイドたちの数を見ながらゼロの頭の中である作戦があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハンノウハアッタガ、ヒトカゲハナイナ」

 

「デハ、アチラヲソウサクスルゾ」

 

「ラジャラジャー!」

 

 ドロイドたちが電子音で会話のようなやり取りをしている中、ゼロは近くの木の上から飛び降りる。

 

 ライトセーバーを起動して真下にいたドロイドの首とボディを切り落とす。

 

「ジェダイダ!」

 

「ブタイチョウガヤラレタゾ!?」

 

「ウテウテ!」

 

「アァ~」

 

 近距離でブラスター連射するドロイドだがライトセーバーを回転させることで光弾を弾き飛ばす。

 

 ドロイデカと呼ばれるような相手やスーパーバトルドロイドのような面倒の相手がいないからこういう普通の?ドロイド相手ならゼロは楽勝である。

 

 尤も数の暴力に流石のジェダイも勝てるかどうかは怪しい。

 

「エンタープライズ!」

 

 ドロイドの手の中にあったブラスターを拾って茂みへ投げる。

 

 受け取ったブラスターを構えて背後からドロイド達を撃つ。

 

「ハイゴカラ!?」

 

「クローンジャナイゾ!?」

 

「カマワン、ウテ!」

 

「オイ、ジェダイニセヲムケテ」

 

 ゼロから背を向けたところで容赦なくライトセーバーでボディを溶かす。

 

 挟撃されたドロイド達はあっという間にスクラップと化した。

 

 ライトセーバーを収めて武器を拾う。

 

「さて、敵が乗ってきた輸送船があるだろうし、それを奪って無人島から脱出することに――」

 

 エンタープライズを突き飛ばす。

 

「なっ!?」

 

 顔を赤くして目を見開くエンタープライズ。

 

 地面に尻餅をついた彼女は眉間へ皺を寄せて抗議しようとした。

 

「ゼロ!」

 

 エンタープライズの目の前で交差する青と赤のライトセーバー。

 

「おやおやぁ、こんなところで珍しい相手に出会うじゃないかぁ、兄弟子の坊やぁ」

 

「辺境の無人島に足を運ぶまでそちらはよっぽど、暇なんだぁ、ヴェントレス」

 

 斬りあっていたライトセーバーを戻しながらゼロはエンタープライズを守るように構えた。

 

「相変わらず女か、女で身を亡ぼせばいいのに」

 

 白肌のスキンヘッドの女性剣士であるヴェントレスは忌々しいものをみたという表情を浮かべながら二本のライトセーバーを構える。

 

「ゼロ、こいつは」

 

「アサージ・ヴェントレス、反艦船同盟の主力だよ。暗殺者といえば、知っているんじゃないか?」

 

「あの人が……」

 

 エンタープライズも名前だけは知っていた。

 

 敵対する相手に賞金をかけて殺そうとするなど、知略に長けているばかりか、持っているライトセーバーで多くのジェダイマスターやナイトを手にかけている。

 

「一応、付け加えておくと……同門なんだよなぁ、不本意ながら」

 

「それはこちらのセリフだよ!お前を八つ裂きにしてやる!そうすれば、マスターに認められる」

 

「やめておいた方がいいと思うけどなぁ、シスは裏切りが基本だし」

 

 肩をすくめながらライトセーバーを構える。

 

「一応、聞くがどうしてここに?」

 

「答えるつもりはないねぇ」

 

 二本のライトセーバーを構えて襲い掛かって来るヴェントレスに対してゼロはライトセーバーを巧みに操りながら戦う。

 

 森林の中を蜘蛛のように飛び交う動きを見せる中で、ゼロは冷静に刃を受け流していく。

 

「腰抜けめ!戦うつもりがないのか!?」

 

「そんなわけ、ないだろ?」

 

 開けた場所に出たところでゼロは宙を蹴る。

 

 振るわれた二つの斬撃が空を切った。

 

 ヴェントレスの背後へ回り込んだと同時に刃を振り下ろす。

 

「ちぃぃ!」

 

 舌打ちしながらヴェントレスが片方の光刃で青い光刃を防ぐ。

 

「さて、これで一対一、邪魔をする相手も止める相手もいない。アンタの望む殺し合いができるぞ?」

 

 ニヤリと獰猛な笑みを浮かべるゼロに対して、ヴェントレスは顔を歪める。

 

「偽善者!」

 

「何とでも言えよ。俺は俺の大事なものを守るためにジェダイになった。アンタは敵だ。敵は倒す、シンプルだろう?」

 

「忌々しい!」

 

 ライトセーバーを振るうヴェントレスを正面からゼロは受け止める。

 

 二刀流に対してゼロは一本のライトセーバーのみ。

 

 振るわれる二つの刃を高速でいなしながら戦う。

 

「ゼロ!」

 

 ブラスターを構えたエンタープライズが茂みから現れる。

 

 照準先はヴェントレス。

 

「よせ、エンタープライズ!」

 

 放たれたブラスター。

 

「艦船か、邪魔だよ!」

 

 ヴェントレスは赤い光刃でいなすと地面を蹴り、エンタープライズに接近する。

 

 刃がそのままエンタープライズに迫るという瞬間。

 

 先回りしたゼロのキックがヴェントレスの腹を抉るように放たれた。

 

 ヴェントレスは地面を蹴り、転がるようにしながらも刃を構えた。

 

「おい……」

 

 起き上がったヴェントレスの体を冷たい殺意が包み込む。

 

 エンタープライズを守るようにしながら立つゼロの目。

 

 おそろしいほどの闇がそこに広がっていた。

 

「何だ、お前は」

 

「俺の大事な仲間に手を出したんだ。覚悟しろよ」

 

「ちぃぃ!」

 

 ライトセーバーを地面に振るって砂塵をまき散らす。

 

 飛来する砂塵にゼロとエンタープライズは視界を奪われた。

 

 しばらくして、砂塵が消えるとそこにヴェントレスの姿はない。

 

「逃げられたか」

 

「ゼロ、大丈夫――」

 

「ヤバイ、疲れた」

 

 心配そうに声をかけるエンタープライズの方へゼロは倒れこむ。

 

 慌てて抱き留めるも踏みとどまれずにエンタープライズも一緒に地面に座り込んでしまう。

 

 すやすやと寝息を立て始めたゼロの姿にエンタープライズはため息を漏らす。

 

「本当に、不思議な人だ」

 

 ちらりとみてからエンタープライズはゼロの頭を優しく撫でる。

 

「貴方のような人が、私の――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫でしたか?将軍」

 

「あぁ、ヘヴィ、キミ達に会えてとても嬉しいよ」

 

 ドロイド襲撃から二時間も経たずにクローン・トルーパー達の救助部隊がやってきた。

 

 反応をキャッチしたものの、ドロイドの横やりが入って到着が遅れたという。

 

「そういえば、綾波達をみないが」

 

「基地で待ってもらっています……その、かなりヤバイ状態だったので」

 

「ヤバイ?」

 

「えぇ」

 

 バイザーを脱いだヘヴィは頷いた。

 

「ヤバイの?」

 

「とても」

 

「俺、帰らないという選択肢はない?」

 

「お願いします。気分を害しているトルーパーがいますから」

 

 ここで誰がと言わない辺りゼロも予想がついているのだろう。

 

「ゼロ!」

 

 輸送船へ乗ろうとしたところで後ろから声をかけられる。

 

 相手はエンタープライズだ。

 

「エンタープライズ」

 

「ここで、お別れだな」

 

 彼女の傍には工作艦のヴェスタルがいた。

 

 ヴェスタルの話ではエンタープライズの傷は浅いから戻って修理すればすぐに戦えるようになるという事らしい。

 

「あぁ、キミはこれからNYシティへ一度、戻るんだったな」

 

「そうだ」

 

「また、どこかで会えるといいな」

 

 ゼロの言葉にエンタープライズの瞳が不安そうに揺れる。

 

「会えるだろうか?」

 

 エンタープライズにゼロは微笑む。

 

「会えるさ」

 

 フォースがゼロに伝えてくれる。

 

「キミと必ずまた会える……誓っていいよ」

 

「そうか……そうだな、次に会った時に伝えたいことがあるんだ」

 

「会った時に?」

 

「そうだ」

 

「わかった」

 

 歩き出したエンタープライズにゼロは声をかける。

 

「エンタープライズ」

 

「なんだ?」

 

「フォースと共にあらんことを」

 

 驚きながらもエンタープライズは微笑む。

 

「貴方もフォースと共にあらんことを」

 

 笑顔を浮かべて互いに別れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロ……姉ちゃんともし、関係を結んでいたら……私」

 

 

 

 

 

 




約束しよう。次回はエロパートです。


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番外編 ホーネットのターン

アニメで重桜出てきましたねぇ。綾波もそうだけど、重桜の艦船が動いていることはとても感慨深いものです。


番外編としていますが、話としては前回からほんの少し進んだ程度になります。


「…………もう、離さない!駄目、絶対に!いくら姉ちゃんでも、ゼロは渡さない!他のところへいかせない、だから、私が、私のだって、刻み付けないと」

 

 深夜のベッド。

 

 寝ていた俺の上にのって妖艶な笑顔を浮かぶホーネット。

 

 逃げようにも手足は縛られて、ライトセーバーは視界の入らないところへ隠されているのだろう。見当たらない。

 

 ホーネットが両手で俺の頬を掴んで至近距離で見つめていた。

 

 何故、こうなったのだろうか?

 

 切欠を探ろうとするがまるで心当たりがない。

 

 無人島から帰ってきて、心配したと騒ぐみんなとお茶をしたり、寝込みを襲われたりしたのを回避していたというのに、最後の最後にどうしてこうなったのだろうか?

 

「ホーネット、一体、どうして」

 

「ゼロもいけないんだよ。私がアピールしているのにさぁ、姉ちゃんやメイドに目移り、終いにはシスコン空母にまで好かれて」

 

「えっと、待って、お願い、整理する時間を」

 

「大丈夫!」

 

 既に服を脱いだホーネットは笑顔を絶やさない。

 

 これが戦場で浮かべているものだったら心強いだろう。しかし、目の前のホーネットの瞳は光を失い、嫌な予感がひしひしと伝わってくる。

 

「ゼロは天井の染みを数えているだけでいいから」

 

「それ、男のセリフ!!」

 

「何より」

 

 ホーネットの笑みが深まる。

 

「メイドと既にヤっちゃったんでしょ?」

 

 耳元で囁くホーネットの言葉に俺は言葉を失う。

 

 何で。

 

「何で知っているのかって顔だよねぇ、わかるよう~、あのメイドがゼロとやった後はわかるくらい変化しているもん、何よりゼロからすっごい臭ったんだぁ、メイドさんの臭い……だからさぁ、上書きしないといけない、なにより限界なんだ」

 

 覆いかぶさってきたホーネットはそのままゼロの首筋にキスを落とす。

 

「しちゃったねぇ……私のファーストキスだよ?」

 

 そのまますりすりとほおずりしてくる。

 

「はっ、はっはっはっ!」

 

 発情した獣のように息を荒くして、ちゅちゅという音が響き始める。

 

 手を伸ばしてズボンの中に手を入れて、俺のモノを掴んできた。

 

「いひひひ、逃がさないよ~、絶対に私と一夜を共にしてもらうから」

 

 逃れようにも全体重を乗せられて彼女の温もりが伝わってくる。

 

「うっ、づぅぅぅぅ、ホー、ネット」

 

「あぁ、熱いの!」

 

 虐めぬかれたモノから限界が向かえて、大量の精子を吐き出す。

 

 嬉しそうにズボンから手を引き抜いて、精子を舐める。

 

 いつもの活発な姿と異なる妖艶な姿に体がなぜか熱くなった。

 

「えへへへ、私に反応してくれるんだ。嬉しいなぁ、じゃあ」

 

 

――本番に行こうか!

 

 

 ズボンを脱がせて、未だに反応している俺のモノの上に覆いかぶさっていくホーネット。

 

 既に秘所は我慢できずに濡れていて、あっさりと中に入る。

 

「あぁ、つぅぅぅぅ、初めては痛いっていうけれどぉ…………ゼロとヤっているからなのかなぁ、とても気持ちいい~」

 

 興奮しながらホーネットは上着を脱がせる。

 

 ぺろぺろと興奮しながら胸板を舐めながら顔に近づいてきた。

 

「ちゅう~」

 

 キスをしてくる。

 

 口内に侵入したホーネットの舌が歯や舌を絡めあう。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、幸せ、幸せだなぁ、ゼロは姉ちゃんじゃない!今は私を見てくれている!メイドでもない!ましてや、綾波でもない!あはははは、もっと!もっと、楽しもうよ!」

 

 活発で体力のあるホーネットの行為は止まらない。

 

 限界が近づいてきて、ホーネットから逃げようとするもがしりと掴まれて逃れられない。

 

「駄目!ちゃんと出してもらうから!あはははは!二番目だけどさぁ、愛の深さでは負けてないから!」

 

 ぶるぶると体を震わせて、ホーネットは俺の上に覆いかぶさる。

 

 興奮した彼女の心臓の音、息吹が伝わってきた。

 

「はぁ、あぁ、気持ち、よかったぁ……幸せぇ」

 

 汗を流しながらも満足したような深い笑みを浮かべる彼女の姿を見た時、何といえばいいのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ムラムラしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わっ!」

 

 驚いた表情を浮かべるホーネットの顔にキスをする。

 

 慌てて離れようとする彼女を追いかけるように顔を動かす。

 

 両手は縛られているので途中で止まってしまう。

 

 それが歯がゆくて全身で暴れていた。

 

 ホーネットは笑みを浮かべた。

 

「私で興奮したんだ。ふっふーん、素敵、いや最高!」

 

 微笑みながらホーネットは俺の手の拘束を解く。

 

 手が自由になった俺はそのままホーネットを抱きしめる。

 

「嬉しいなぁ、あぁ、嬉しいなぁ!私を求めてくれるなんて、艦船、ううん、女冥利に尽きるよ!」

 

 抱きしめ返してきたホーネットとキスをする。

 

 互いの口をむさぼるようなキスを行う。

 

 段々と俺のモノが興奮していく。

 

「えへへへ、興奮してくれている。興奮してくれている!嬉しいよぉ」

 

 繋がったままなのでホーネットも理解していた。

 

 俺が興奮していると。

 

 野獣のように貪り食う俺に対して、ホーネットも負けじと対抗してくる。

 

 いつの間にか互いにヒートアップして、何度も彼女の中に欲望を吐き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やってんだよ、俺」

 

 何回、やりあったのかわからないくらいホーネットと重なり合った。

 

 気付けば日を跨いでいる。

 

 隣へ視線を向けると満足そうに寝ている全裸のホーネット。

 

 ツインテールにしている髪、綺麗な肌、こんな美少女と肌を重ねたという事実が未だに信じられない。

 

 メイドのベルファストと重ねたこと自体、信じられないしなぁ。

 

「シャワーでも浴びよう」

 

 うだうだ悩んだところで終わった以上、事実は消えない。

 

 寝ている彼女を起こさないようにしてシャワールームへ入る。

 

 降り注ぐシャワーの熱い湯が体の汗を流していく。

 

「はぁ」

 

「強襲します~」

 

「うぉっ!?」

 

 背後から抱き着いてくるホーネット。

 

「起きていたのか?」

 

「ううん、ゼロが動いたから目を覚ましたの。ね、ゼロ」

 

「なんだ?」

 

「後悔している?私と寝たこと」

 

「……後悔はしていない。途中から俺の意思でやっていたし」

 

 これは本当のことだ。

 

 後悔はない。

 

 色々と俺は後悔を重ねてきた。

 

「ホーネットはどうして、俺を?」

 

「ゼロだから、私、ゼロのこと大好きなんだよ」

 

「……そう、だったのか、でも、ごめん、俺は――」

 

「ジェダイだから無理っていうのはなしだよ?」

 

 ホーネットが俺の頬へキスをしてくる。

 

「ジェダイだからって知らない。私はゼロが好き、大好き、愛している、言葉にするだけじゃ足りない。なんなら、もう一度、ベッドに入ってもいいくらい!それなのに、気付いていないんだ、はぁ、悔しいなぁ……でも、これからもっとアプローチするから、いつかはゼロの方からもぉっと求めてもらうし………………………姉ちゃんに負けるつもりはないから」

 

 肩に顎を乗せながらホーネットがぽつり呟きながら背後から強く抱きしめてくる。

 

 抱きしめてくる彼女の腕を俺はゆっくりと掴んだ。

 

 ここまで他人に求められるなんて。

 

「(俺に、そんな資格ないのになぁ)」

 




次回は休みのお話、


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ささやかな休暇編 唐突の休み

ほんの小休止、少しほどやったら、鉄血の話か、重桜の話をやる予定です。


 ゼロ達、ジェダイの騎士やクローン・トルーパー、そして艦船に休日と言えるようなものは存在しない。

 

 一度、戦いが始まれば、その地域へ向かい、セイレーン出現の連絡があれば、その地域へ向かう。

 

 一日の休日と言えるようなものはゼロ達、アズールレーンの部隊に存在しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

「休暇ですか?」

 

『左様』

 

 立体映像のマスターヨーダからの言葉にゼロは呆然と繰り返す。

 

『議員から連絡があっての……戦時中とはいえ、ジェダイを365日休ませずに働かせるのは問題ではないかと言われてのう、流石に全員を一気に休ませるわけにいかん、そこで徐々に休みをという事にしたのじゃ、そして』

 

「俺の番がきたというわけですね?」

 

『そうじゃ、今から48時間、緊急の任務が入らない限り、お前さん達アズールレーン部隊は休暇じゃ。ゆっくりと満喫するように。ヨーダ終わり』

 

「了解しました。ゼロ終わり」

 

 話を終えてゼロはため息を零す。

 

「休み、ねぇ?」

 

「素晴らしいことでございます」

 

「背後にいきなり現れないでくれる?心臓に悪いんだが」

 

 振り返るとロイヤル式の挨拶をするベルファスト。

 

 ぺろりと舌なめずりしたことで後ろへ下がる。

 

 じりじりと近づいてくるメイドから逃げるために警報装置を押すか本気で悩む。

 

「今はいいでしょう、二日間の休みです、その合間に、ふふふふ」

 

「怖いっての」

 

 シェフィールドの話によるとパーフェクトメイド、ただしご主人様にやたらと甘いということらしいが、ご主人様を性的に食べるメイドといったら無表情の彼女はどんな反応をするのだろう?

 

 そんな疑問を抱きつつもゼロとベルファストは格納庫へ向かった。

 

 格納庫には武装のチェックをしているトルーパーや艦船の姿がある。

 

 ゼロの姿をみて、全員が動きを止めた。

 

「では、ご主人様」

 

「わかった」

 

 ベルファストに促されてゼロは全員へ休暇のことを伝えた。

 

 直後。

 

「「「「「いやっほうぅぅぅぅぅうううううううう!」」」」」

 

 空にメットや様々なものが舞った。

 

 どうやらみんな、休暇を望んでいた様子。

 

 騒ぐ彼らの姿にゼロは苦笑する。

 

 休暇についての措置をヘヴィと打ち合わせするために休憩室で話し合っていた。

 

「ヘヴィは休暇をどうするつもりだ?」

 

「シェフィールドと買い物を終えたら兄弟たちと酒を飲むつもりです」

 

「いつのまにかシェフィールドと仲良しになっているな」

 

「驚きです。クローンの自分がいつの間にか他人と親しくなっているとは」

 

「そういうものを変化というのさ」

 

 互いに笑みを浮かべる。

 

「将軍はどうするつもりですか?」

 

「そうだな、読書や睡眠ができればいいな」

 

「もしかしたら艦船が部屋に突撃してくるかもしれないですよ」

 

「勘弁してくれ。実際に起こりそうだから」

 

「すいません、冗談では済まないですね」

 

 申し訳なさそうな表情を浮かべるヘヴィにゼロは首を振る。

 

 実際に艦船がやって来ることは明白。

 

「俺に休日ってあるのだろうか?」

 

 漏らした言葉に返事はこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロ、見つけたのです」

 

 ヘヴィと打ち合わせを終えて自室に戻ろうとしたところで綾波と出会う。

 

 綾波は俺に近づくと腕へしがみついてきた。

 

「どうしたんだ?」

 

「きゅうか、というものが何をすればいいのかわからないのです」

 

「そうか」

 

「後、ゼロと一緒に寝たいのです」

 

 彼女の腕の中には枕があった。

 

 追い返すつもりのないので頷きながら綾波と一緒に自室へ入る。

 

 寝間着に着替えて一緒のベッドへ。

 

 勿論、それだけである。

 

 小さなベッドなので二人が入るとぴったりと体を寄せ合うことになるのだが。

 

「ゼロの温もりなのです」

 

 綾波は嬉しそうに目を細める。

 

「そんな喜ぶことか?」

 

「久しぶりに二人っきりなのです」

 

「……そういえば、そう、だな」

 

 指摘されて、周りにメイドやホーネット、クローン達がいたことを思い出す。

 

「ゼロと一緒に居られて綾波は幸せなのです」

 

「そんなこといっていると、明日からの休日は幸せいっぱいになるんじゃないか?」

 

「……休日は何をすればいいのです?」

 

「体を休めるなり、好きなことをすればいい」

 

「好きな事?ゼロの好きな事ってなんです?」

 

「静かなところで休むことだよ」

 

「綾波も好きなのです」

 

 笑顔を浮かべながら頬をすりすりしてくる。

 

「おい、どうしたんだ?」

 

「ゼロは沢山の女の子に好意を寄せられているのです」

 

「そうなのかな?」

 

 好意を寄せられる。

 

 そのことはわからない。

 

 重桜にいた時も、パダワンからジェダイになっても。

 

 恋や愛がわからない。

 

 アナキンとパドメの関係をみていても、わからないことが多いのだ。

 

 そんな俺に好意を寄せられているというのが。

 

「ゼロは綾波と似ているのです」

 

 顔を近づけてくる綾波、

 

 気付けば、ぴったりと抱き合う様に体を寄せ合っている。

 

「だから、綾波とゼロはきっとお似合いなのです」

 

「疲れた、寝るぞ」

 

 会話を打ち切るようにして意識を闇の中に沈める。

 

 きっと、これは逃げだ。

 

 いつか向き合えばいいと考えて。

 

 

「おやすみなさいです。ゼロ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝日の差し込む基地内をベルファストは歩いていく。

 

 目的の部屋の前についたところで一度、身だしなみをチェック。

 

 おかしなところもない。完璧だとベルファストは納得しながら部屋の中に入る。

 

 ノック?愛しい人の部屋へ入ることに遠慮など必要はない。

 

「おはようございます。ご主人様――」

 

 にこりと笑みを浮かべながら室内に入ったベルファスト。

 

 しかし、その表情は一瞬で無に変わる。

 

 ベッドの上で静かに寝ている彼は紛れもなくベルファストが敬愛するご主人様であるゼロだ。

 

 そのゼロの上、気持ちよさそうに寝ている綾波の姿がいた。

 

 互いに寝間着なのだが、その程度で動揺するほどメイドは愚かではない。

 

 なぜ、無表情なのか、それは愛しい人の傍に異性がいることだ。

 

 ベルファストは本来、多分、そこまで独占欲はない。

 

 しかし、肌を重ねて、自らの気持ちを吐き出したベルファストにとってゼロはなくてはならない人であり、最愛の人。

 

 そんな彼の傍に仲間とはいえ、異性がいる。

 

 本来なら迷わず砲撃していた。

 

 堪えたのはゼロが目を覚ましてベルファストを見ているからだろう。

 

 愛しい人にみられていると気付いた瞬間、ベルファストは笑顔を浮かべた。

 

「おはようございます。ご主人様」

 

「あまり言いたくないけどさ、何で部屋にいるの?」

 

「ご主人様のおはようからおやすみ、果てはご奉仕までがメイドの仕事でございます」

 

「メイドを雇った覚えがないんだがな」

 

「ツれないことを仰らないでください。私とご主人様の仲ではございませんか」

 

「まぁいいや、ベルファストは休日、どうするんだ?」

 

「そのことですが、ご主人様に提案があります」

 

「提案?」

 

「はい、艦船の皆様が争うことのない、素敵な提案でございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、全員で出かけることになるとは」

 

「良いじゃない!滅多にない機会だもん」

 

 俺の横で嬉しそうに答えるのはホーネットだ。

 

「綾波も楽しみです」

 

「こういう休日も素敵だと思いませんか?」

 

 ベルファストの言葉に俺は頷いた。

 

「こいつらもその気分でいてくれたらな」

 

「ゼロ!勝負だぁ!」

 

「ほう、瑞鶴殿が挑むというのなら、その後は拙者の相手も」

 

「お前ら!今日は休日だということぉ自覚しろ!」

 

 後ろで模擬戦、模擬戦と何かの音頭のような動きを取る艦船に俺は呆れるしかなかった。

 

 折角、ベルファストが休日の一日、親睦を深めるため、全員で出かけることを提案したというのに。

 

「お前達は親睦という言葉を知らないのか?」

 

「勿論、知っているとも、だが、指揮官殿のような強さに少しでも近づけるのなら、近づきたいと思うのは当然のことであろう」

 

「休日くらいは別のことを考えなさい」

 

「だってぇ!いつもいつもゼロに負けているんだもん!一度くらい勝利してから」

 

「お前もだよ!このバカ!」

 

「酷い!なんで私のことだけバカっていうの!?ゼロのバカぁ!」

 

「ご主人様、視線を集めております」

 

 ベルファストの言葉にため息を零す。

 

 おそらくだが、視線を集めているのは別の理由もあると思う。

 

 ちらりと周りを見る。

 

いつもの服装と異なる綾波達だが、全員が美少女。

 

 その中に男が一人という事で色々と視線を集めてしまっているらしい。

 

「移動しよう」

 

 俺の言葉で全員が移動を始める。

 

 基地から少し離れたところにあるレジャー施設。

 

 プールもあれば、遊園地もあるという。

 

 かなり大きなレジャー施設だ。

 

 私服姿の俺達はまずはということでプールへ向かうことになる。

 

「おい、メイド」

 

「何でございましょうか?」

 

「どうして男子更衣室へ入ろうとしている」

 

「ご主人様へ付き従うのはメイドとして当然かと」

 

「ベルファスト、今日は休日だ。メイドは休みだから」

 

「そうですね、では、愛するものとして」

 

「はいはーい、大人しく女子更衣室へ行こうね~」

 

「行くぞ」

 

 尚もついて来ようとするベルファストはホーネットと高雄によって連行されていく。

残された俺はため息を吐いた。

 

「休日も前途多難だと思うのは、俺だけだろうか……」

 

 男子更衣室で水着とパーカーとタオルを片手に俺は更衣室を出たところで、待ち合わせをせずに一足先にプールへ向かう。

 

 設置されているテーブルの上にタオルや服を置いて、準備体操を終えると息を止めて、水の中へ飛び込む。

 

 海水の中へ飛び込むのとまた違った感覚が俺を包み込む。

 

 人に当たらないように注意しながら水の中を進んでいく。

 

 体が水に包まれている感覚は少し、フォースと似ていた。

 

 しばらく水の中を突き進むように泳いだところで回転しながら元の場所へ戻る。

 

 水面から顔を出して空気を吸う。

 

「ずるいです」

 

「うぉっ!?」

 

 顔を出し、呼吸をしていたタイミングで綾波が膝をついて目の前をみていた。

 

 むむと不機嫌な表情でこちらをみている綾波。

 

「似合っているな水着」

 

「ありがとうなのです」

 

 白を基調としているワンピースタイプの水着は綾波にとても似合っている。

 

「普通はまっているものだと思うのです」

 

「悪いな、気付いたら泳ぎだしていた」

 

 謝罪していると体操を終えた綾波も水の中に入る。

 

 ことはなかった。

 

「綾波?」

 

「よくよく考えたら綾波は泳ぐことを知らないのです」

 

「……教えてやろうか?」

 

「よろしくなのです」

 

 綾波はゆっくりと水の中に入るとこちらへ両手を伸ばす。

 

 差し出された両手を掴みながらゆっくりと泳ぎの指導を始める。

 

 元々、海で戦っていた綾波の反射神経などからすぐに泳ぎ方をマスターした。

 

 彼女の指導をしていると残りのメンバーがやって来る。

 

「あ、綾波ばっかりずるい!ゼロ!私と一緒に遊んでよ~」

 

 金髪をポニーテールにして、黒いビキニ姿のホーネットは体操を終えると水の中を泳ぎながらこちらへ近づいてくる。

 

「うぅ、この水着というのはあまり好きではないな」

 

「似合っているよ?高雄!」

 

 白いワンピースタイプの水着、赤いビキニの水着姿の高雄と瑞鶴、ベルファストはすいすいと泳ぎながら背後にぴったりと寄り添ってくる。

 

「うふふ」

 

 背後から不敵な笑顔を浮かべるベルファスト。

 

 逃げようとしたら背中から伸びてきた腕に抱きしめられてしまって、ぴったりと彼女の温もりを感じさせられてしまう。

 

「逃がしませんよ」

 

「わぷっ」

 

 後ろからざばざばと水面の中に沈められてしまう。

 

 一瞬で空気を奪われてしまったところで持ち上げられる。

 

「うふふ」

 

 見下ろしているベルファストが笑顔でこちらへキスをしようとしたタイミングで。

 

「ちょっと待ったぁ~チュッ」

 

 横から奪う形でホーネットがキスしてきた。

 

 逃げる暇はない。

 

「むむ」

 

「残念!ゼロは私と遊ぶの!」

 

「ホーネット様、いくら仲間であろうとご主人様は私の」

 

「ゼロを回収するのです」

 

 隙を突いて綾波に引っ張られて距離を取る。

 

 バチバチと火花を散らしているホーネットとベルファストはそのまま対決を始めた。

 

「いつも思うのだが、ゼロ殿はこの状況でよく無事だな?拙者が思うにいつか刺されるのではないか?」

 

「高雄、怖いことを言わないでくれ」

 

「安心するがいい、何かあれば拙者が貴方を守ろう」

 

「俺の問題だ。何とかするさ」

 

 心配する高雄に大丈夫と伝えた。

 

「ゼロ!ゼロ!勝負しょう!勝ったら私に何か奢ってよ!」

 

 赤いビキニ姿の瑞鶴からの挑発。

 

「お前が負けたら?」

 

「私を好きにしていいよ!」

 

「パス」

 

「何でよう!?」

 

「自分の体を大事にしなさい!綾波、何か飲みに行くか?」

 

「行くのです」

 

「あ、待って!私も行くからぁ!」

 

「やれやれ、拙者も行くとするか」

 

 綾波、瑞鶴、高雄を連れてプールの近くに設置されている売店でドリンクを購入する。

 

 炭酸飲料とお茶、フルーツジュース。

 

「どうでもいいんだが、高雄?」

 

「む?」

 

「お前、何でお茶なの?」

 

「拙者、しゅわしゅわは好まないのだ。それに、甘い飲み物というのも、どうも……」

 

「飲んでみるといいです」

 

 綾波がフルーツジュースを差し出す。

 

 少し戸惑っていた高雄だが、流石に断るわけにもいかないと思ったのか、ちびちびと飲む。

 

 パァッと目を輝かせる高雄。

 

「気に入ったみたい!」

 

「ふぅん」

 

「あ、ゼロも飲む?おいしいよ!」

 

「それ、お前、飲んでいるじゃん」

 

「それが?」

 

 きょとんとしながら炭酸飲料を差し出す瑞鶴。

 

 断る空気にもなれず、仕方なくいただくことに。

 

「うん、おいしいな」

 

「でしょう!私も飲もうっと!」

 

「あ、おい!」

 

 止める暇もなく飲みだす瑞鶴。

 

 しかも、俺が飲んだところからそのまま飲んだぞ。

 

「「あー!」」という声が聞こえる。

 

「ガチ間接キスじゃない!」

 

「瑞鶴様、まさか、そのようなことをなさるとは……」

 

「え、なに?なに!?」

 

 瞳から光を失ったベルファストとホーネット。

 

 がしりと手が伸びて瑞鶴の左右を拘束する。

 

「え、ちょ!?何か怖い!怖いんだけど!?」

 

「「さぁ、行きましょうか」」

 

「ゼロ、助けてぇ!」

 

「……グッドラック」

 

「薄情者ぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!」

 

 瑞鶴の叫びがプールに木霊した。

 

「合掌」

 

 ゼロの言葉に高雄と綾波は静かに両手を合わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官殿はどうして、強いんだ?」

 

 プールを後にした俺達は遊園地へ来ていた。

 

 ベンチでソフトクリームを食べていた俺に隣の高雄が尋ねてくる。

 

「俺は強くなんかないさ、ただ、失うのが嫌だから我武者羅にライトセーバーを振るっているだけに過ぎない、臆病者だよ」

 

 ウソではない。

 

 戦うのだって怖いし、人を斬ることも震えてしまいそうになる。

 

「拙者はそうは見えないぞ」

 

「え?」

 

「重桜の艦隊と共に戦った時に貴方の姿を見た。誰かを守るために奮闘していた貴方の姿はとても凛々しく、そして明らかに武人であり強き者であった」

 

「買いかぶりすぎじゃないか?」

 

「そのようなことはない」

 

 首を振りながら高雄はこちらをみる。

 

「拙者は貴方の戦い方に惚れた。そして、本当に思ったのだ。貴方に忠義を尽くすと……貴方のように守るものが何かはっきりと見極めた者の下であれば、全力を出せると!」

 

 目をキラキラさせながらこちらをみる高雄。

 

 隠している筈の尻尾がブンブン揺れている気がした。

 

「高雄、近い」

 

「も、申し訳ない……その、だから、ゼロ殿、自分を臆病者と卑下しないでほしい。私は何があろうと貴方の刀として戦おう」

 

「ありがとう、高雄」

 

 しばらくして、高雄へ尋ねる。

 

「ところで、高雄は何かの乗り物にいかないのか?」

 

「うぅ、拙者はその、あまり、こういうのは」

 

「ガンシップに乗っていて、大丈夫だろう?」

 

「ゼロ殿、できれば、このまま」

 

「よし、まずはメリーゴーランドからいきますか」

 

「なっ!?」

 

 捨てられた子犬のような表情をする高雄に苦笑しながら彼女の手を握り締める。

 

「大丈夫だ。俺がちゃんと傍で支えてやるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、こうなった?」

 

 夜、割り振られた部屋でゆっくり休もうと考えていた時。

 

「ふふふ、さぁ、夜はこれからですよ?旦那様」

 

 笑顔でこちらをみている下着姿のベルファストの姿がそこにあった。

 

 休日の夜はまだ終わらないらしい。

 

 

 

 

 



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ささやかな休暇編 その頃のヘヴィとシェフィールド

唐突に思いついたカップルコンビ


 ゼロがベルファストに追い詰められていたその頃。

 

「落ち着け、落ち着くんだ!シェフィールド!頼む!」

 

「いいえ、待ちません……もう、我慢の限界なのです」

 

 いつも通りの無表情というわけではなく、頬を赤く染めながらこちらをみてくる黄色い瞳は野獣のようにらんらんと輝いている。

 

 ベッドの上に押し倒されていたヘヴィは抵抗できない。

 

 メイド服のシャツのボタンを外して、普段は隠れてみえない素肌がうっすらと見えている。

 

「ヘヴィ、私は貴方のことが好きです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は朝まで遡る。

 

 ゼロと別れたヘヴィは兄弟であるクローン達と一緒に酒場で飲み明かすことを決めていた。

 

 先に酒場で兄弟たちがはじめているだろうと思いながら通路を歩いていた時だ。

 

「ヘヴィ、ここにいましたか」

 

「ん、シェフィールドじゃないか、買い物の時間はまだ先の筈だよな?」

 

「そのことですが、貴方の兄弟から伝言を預かりました」

 

 シェフィールドの手の中には通信端末。

 

 映像が表示されて兄弟である仲間達の姿。

 

「お、映ったな」

 

「ヘヴィ、聞こえているか?」

 

「俺達はこれから朝まで飲み明かす。だが、お前はこれからシェフィールドと一緒に休暇を満喫するように!」

 

「彼女がいるんだ、幸せの時間を味わうことだな、この!」

 

「結果を聴くのを楽しみにしているぞ」

 

 笑顔で手を振りながら映像はそこで終わった。

 

「あいつら……何を勘違いして」

 

 呆れて額へ手を置くヘヴィ。

 

 自分と彼女は何もない。そもそも自分はクローン、戦うための存在だ。目の前の彼女とそんな関係になっているわけではない。そりゃ、一緒にいることは多いものの。

 

 そこでシェフィールドに見られていることに気付く。

 

「あぁ、すまない、皆、休みで浮かれているだけなんだ。変な勘違いをしているようで不快になっているようなら申し訳――」

 

「大丈夫です」

 

 淡々と答えるとシェフィールドは端末をスカートの中に入れる。

 

「では、行きましょうか」

 

「え?」

 

「買い物です、忘れたのですか?」

 

 黄色い瞳に見つめられてヘヴィは慌てて、彼女を追いかける。

 

「あぁ、すまない、すぐに行く」

 

 慌てて彼女の後に続く。

 

 ヘヴィとシェフィールドが出会って一年以上が過ぎていた。

 

 過ぎているのだが、未だにシェフィールドのことをヘヴィはわからない。

 

 そもそも出会いから理解ができないことばかりだ。

 

「どうしました?」

 

「いや、何でもない」

 

 淡々とこちらをみつめてくるシェフィールドに首を振る。

 

 荷物を抱えながらヘヴィは今までのことを思い返す。

 

 

 

 

 その1、メイドを教えるという事で朝から業務に付き合わされる(話をしている間、手を握り締められている)。

 

 その2、汚れているアーマーの手入れを徹底的にしごかれてしまう(掃除している間、ぴっとりと後ろから寄り添われる)。

 

 その3、料理を徹底的に教え込まれる(シェフィールドお手製の料理を食べさせられる)。

 

 その4、二丁拳銃の使い方を教え込まれる(徹底的な指導の為、ぴったりとくっつかれてしまう)。

 

 少しまとめただけでこれだけのことをシェフィールドと共にしているのだが、未だに彼女のことがわからない。

 

 戦場においてもジェダイと共に駆け抜けているヘヴィだが、その自分のフォローのため寄り添ってくれているシェフィールド。

 

 ジェダイ・ナイト ゼロとの距離感とも異なる。

 

 同じクローン仲間へ問いかけても答えはない。

 

「そういえば、シェフィールド」

 

「何ですか?」

 

「ゼロ将軍たちは休暇でレジャー施設に出ているが、キミはいかないのか?」

 

「必要ありません」

 

「しかし、キミと同じメイドであるベルファストも休みを取っているはずだ」

 

「ベルファストはベルファスト。私は私です。それともヘヴィは私と離れたいのですか?」

 

「え?いや、すまない。質問の意図がよく」

 

「はぁ」

 

 ヘヴィの前でため息を吐くシェフィールド。

 

 理由がわからず困惑する彼の姿を見て、充電中のR3がため息を吐くような電子音を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ベルファスト」

 

「何ですか?」

 

「質問なんだけどさ」

 

「はい」

 

 プールで寛いでいたゼロの上へ覆いかぶさるようにしているベルファスト。

 

 にこりと笑みを絶やさない彼女へ前から気になっていた疑問をぶつけることにした。

 

「シェフィールドって、どんな子なんだ?」

 

「私の前で他のメイドの話ですか?と普段なら怒るところですが、構いませんよ、シェフィはあぁみえて、一途ですよ」

 

「一途?」

 

「はい、笑顔一つ浮かべませんが、彼女も乙女です」

 

「何か、質問しようとしたことと違う様に思えるが、まぁ……そこは追及しない方がいいのだろう」

 

「ところで、シェフィに興味を示すのはよろしいですが、貴方様の前にいるメイドについて、興味はないのですか?」

 

「さぁて、泳ぐか」

 

「ふふふ、休みは長いのです。覚悟してくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、買い出しはこれで完了か?」

 

「そうですね」

 

 買い出しを終えて基地へ戻ってきた二人をR3が出迎える。

 

 充電を終えたR3の軽快な電子音にヘヴィは笑みを浮かべた。

 

「さて、夕食はどうしますか?」

 

「……そうだな、久しぶりに外で食べるというのはどうだろう?」

 

「ディナーのお誘いですか」

 

「え、あぁ、まぁ、それでも構わないが?」

 

「では、生きましょう」

 

 気のせいかシェフィールドの足取りがいつもより軽く見えた。

 

「気のせい、か?」

 

「どうしました?時間は有限ですよ」

 

「すぐに行く」

 

 先を歩くシェフィールドの後を追いかけるヘヴィ。

 

 追いついたところでシェフィールドがそっと彼の手を握り締める。

 

「どうした?」

 

「これから向かうところは人ごみです。迷わないようにという手段です」

 

「そうか、わかった」

 

「………………鈍感、ですね」

 

「何か言ったか?」

 

「いいえ」

 

 首を傾げながらヘヴィは彼女と一緒にディナーへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、現在。

 

 ディナーを終えて就寝というタイミングで何故か、ヘヴィはシェフィールドに押し倒されている。

 

「ど、どういう展開だ!?」

 

「これからが本番です」

 

「いや、すまない、理解ができない!?」

 

 ベッドの上に押し倒されたヘヴィは必死に抗おうとしていた。

 

 しかし、メイドであるシェフィールドによって体の動きを封じ込められている。

 

 戦闘のプロがメイドに抑え込まれるというのは笑えない冗談か。

 

 事実、彼女に動きを封じ込められているので満足に動けない。

 

 兵士として涙が出てきてしまう。

 

「どうしてこんなことを!」

 

「どうやら本当に理解していないようですね」

 

 戸惑うヘヴィにのしかかりながらシェフィールドは顔を近づける。

 

「落ち着け、落ち着くんだ!シェフィールド!頼む!」

 

「いいえ、待ちません……もう、我慢の限界なのです」

 

 いつも通りの無表情というわけではなく、頬を赤く染めながらこちらをみてくる黄色い瞳は野獣のようにらんらんと輝いている。

 

 ベッドの上に押し倒されていたヘヴィは抵抗できない。

 

 メイド服のシャツのボタンを外して、普段は隠されている彼女の肌がちらちらと見えている。

 

「ヘヴィ、私は貴方のことが好きです」

 

 突然の愛の告白。

 

 戦うことしか知らないクローンにとって愛というのはもっとも無縁なものである。

 

 それ故にシェフィールドからの告白にヘヴィの思考は一瞬停止した。それが命取りになることになった。

 

 シェフィールドによってズボンが脱がされる。

 

「おい、何を!?」

 

「一年です」

 

 動きを止めたシェフィールドはヘヴィを見下ろす。

 

「貴方と出会って一年、色々と教え込む必要がありましたが、今や立派な兵士、しかし、兵士は戦場でいつ命を落とすかわからない。そんな貴方に気持ちを隠し通すことは限界なのです」

 

「シェフィールド……」

 

 離れたシェフィールドにヘヴィはどうすればいいのかわからない。

 

「ここは抱き寄せるところです」

 

 シェフィールドに言われておずおずと彼女を抱き寄せる。

 

「私はメイド、本来であれば、奉仕するだけでよかった。ですが、過酷な戦場、次々と死んでいく兵士たちを見て、私の中に不安が生まれました」

 

 淡々と話しているシェフィールドだが、その表情は不安で一杯。

 

 共に行動しているからこそヘヴィは気づけた。

 

「俺は兵士だ」

 

 少し言葉を選びながらヘヴィは言う。

 

「戦うために生み出された兵士だ。戦争を終わらせるために戦っている」

 

「……」

 

「だが」

 

 地面へ視線を向けながらヘヴィは己の考えを吐き出す。

 

「戦いが終わった後はどうするのか、そういうことを考えるようになっている。その時に、その時に、その、もし、良ければ、だが」

 

 ヘヴィはそこから先の言葉を言うのに自らの心臓がドキドキ鳴っていることに気付く。

 

 今までに死にかけた時に心臓が激しくなりだした時はあった。

 

 だが、それとはまた違うものだった。

 

「シェフィールドと一緒にいたいと思っている」

 

 沈黙が続く。

 

 まるでそれが長い時間のように思えた。

 

「ヘヴィ」

 

「なんだ?」

 

「それは結婚の申し出ですか?」

 

「………………はい?」

 

 彼女の言葉にヘヴィは理解が遅れる。

 

 

――シェフィールドは何と言った?

 

「本当の意味で理解はしていないようですけれど、嬉しいですね。これを用意した甲斐があるというものです」

 

 ポケットからシェフィールドが取り出したのはペアリングと呼ばれる指輪だ。

 

 取り出した指輪をヘヴィへ付ける。

 

「次は私へつけてください」

 

「あ、あぁ」

 

 受け取った指輪をシェフィールドの右へ。

 

「左へつけてください」

 

「そうなのか?」

 

「はい、左の薬指でお願いします」

 

「わかった」

 

 ヘヴィは頷いてシェフィールドの薬指へリングをつける。

 

 その意味を理解していないというのもあるが、誘導したシェフィールドも中々にやるものであった。

 

 一部始終を撮影していたR3。

 

 ちらりと撮影がされていることを確認したシェフィールドは笑みを浮かべた。

 

「では、これから本番です」

 

「え?」

 

「夜は長いですよ」

 

 小さな笑みを浮かべたシェフィールドはヘヴィへキスを落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「ところで、シェフィールド」

 

「シェフィと呼んでください」

 

「……シェフィ」

 

「なんですか?」

 

「なぜ、履いていないんだ?」

 

「さぁ、夜は長いですよ。旦那様」

 

 

 



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ささやかな休暇編 綾波は相棒である

皆さん、アズレンのイベントはどうですか?

僕はポラリス全員、きてくれました!


「し、死ぬかと思った」

 

 性的にくわれそうになったが辛うじて脱出したゼロは息を吐きながらホテルの外をぶらぶらと歩いていた。

 

 既に夜という事で人の姿はない。

 

「あれ、綾波?」

 

「ゼロです?」

 

 正面からのんびりと歩いてきたのは綾波だ。

 

 こちらに気付くと目を見開いて、近づいてくる。

 

「眠れないのか?」

 

「はい、なので散歩です……ゼロは?」

 

「実は部屋に戻ることに抵抗が…」

 

「え?」

 

「ゴホン、俺も散歩だ」

 

 ここは誤魔化しておこう。

 

 部屋にメイドがいて襲われそうになったと伝えたらどんな事態が起こるのか考えたくない。

 

 

「そうですか、やはり似た者同士なのです」

 

 嬉しそうに目を細める綾波は腰に抱き着いてきた。

 

「ゼロ、あそこでお話しましょう」

 

「……そうだな」

 

 今、部屋に戻ったとしてもメイドが控えている可能性が高い。

 

 時間を潰すという計画で行こう。

 

 瞬時に結論を出したゼロは綾波と一緒にベンチへ座る。

 

「今日は沢山、ゼロと二人っきりになれたのです」

 

「そこに拘るな」

 

「当然なのです」

 

 綾波はゼロを見上げる。

 

「何もない綾波にとってゼロが全てなのです」

 

「……何でもないは言い過ぎだろ?出会った時は何もなかったかもしれないが、今はホーネットやヘヴィ、瑞鶴や高雄、みんなと仲良くしている」

 

「そうです、でも、一番欲しいものが手に入っていないのです」

 

「欲しいもの?」

 

 首をかしげるゼロに綾波は首を振る。

 

「ゼロ、ゼロはどうしてジェダイになったのです?」

 

「……話した事、なかったか?」

 

「はい、ジェダイに出会ったということは聞いていたのです」

 

「そこまでは話していたんだったな……俺は元々、ジェダイになるつもりはなかったんだよ」

 

「驚きなのです」

 

「まぁ、ジェダイに助けられた後はそのまま重桜に送還されるって流れだったんだがな」

 

「何があったのです?」

 

 ゼロはゆっくりと話始める。

 

「送還当日に艦船と出会って、俺の運命は変わったんだ」

 

「艦船とですか?」

 

「あぁ、三笠という艦船だが」

 

 偶然、港で三笠と出会ったゼロは色々と話をしていた。

 

 そこをセイレーンが襲撃してくる。

 

 戦える艦船は三笠一人だったということで彼女は一人戦場へ向かった。

 

「その時に、気付けば、戦場へ飛び出していたんだ」

 

 基地に置かれていた戦闘機。

 

 使い方は不思議と理解できて、戦闘機で三笠を援護しながらセイレーンの撃退に成功した。

 

 後になってフォースの加護があったのだとマスターに教えてもらった。

 

「不思議と彼女に沈んでほしくなかった。そういう理由で俺は戦場に出たんだぜ?」

 

 懐かしむようにゼロは苦笑する。

 

「なんとなくゼロらしいのです」

 

「その後、三笠さんにゲンコツを落とされたけどな」

 

 

――子供が戦場に出るな!

 

 

 あの時の怒っている顔は忘れられない。

 

 その後、泣きそうな顔をしながら自分を抱きしめてくれた三笠さんの顔。

 

「あの戦闘が切欠で思ったんだよ。強くなりたい、守れる人になりたい……俺はそういう大人になりたい。その後はジェダイ聖堂で訓練を受けて、パダワンになり、ジェダイトライアルをクリアしてジェダイになった」

 

「ゼロは三笠さんが好きなのです?」

 

「そういうものじゃないよ。何より、あの時から三笠さんには一回もあっていない。まぁ、いつかは重桜にいくというのもありかな」

 

「綾波も一緒に行くのです」

 

「あははは」

 

「む、なぜ笑うのです?」

 

「いや、何でもないさ」

 

 ゼロは夜空を見上げる。

 

「なぁ、綾波は戦争が終わったらどうする?」

 

「どういう意味です」

 

「俺は戦争が終わった後もジェダイとして各地を飛び回ることになると思う……綾波は」

 

「ゼロと一緒です」

 

「……お前さ、少し考えるという事も」

 

「綾波はゼロの相棒なのです。ゼロのいくところ、綾波ありです」

 

 ふんす!と力拳を作りながら綾波は力強く宣言する。

 

「そうだな、あの時に綾波と約束したもんな」

 

 海面で心細そうに震えていた綾波。

 

 彼女に手を差し伸べた時から、綾波はすべてを決めていたのかもしれない。

 

「指切りです」

 

 唐突に突き出てくる小指。

 

 ゼロは苦笑しながら自らの小指と綾波の小指を重ねる。

 

「約束だ」

 

「ずっと、一緒です」

 

 にこりとほほ笑みながら綾波と約束を交わす。

 

 

 

 その約束は決して果たされるものではないと彼らは後に知ることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部屋に戻らないのです?」

 

「あー、そうだな、もう少しブラブラと」

 

 綾波と一緒にホテルへ戻ったもののメイドの気配がまだ部屋から感じて、戻ることにすごく抵抗があった。

 

「何か部屋にあるのですか?」

 

「いや、そんなことは」

 

「……」

 

「あの、綾波さん、どちらへ?」

 

「ゼロの部屋です」

 

 振り向いた綾波の目は戦場でみるような鋭いものに変わっていた。

 

「ちなみに」

 

「え?」

 

「何かあれば綾波は鬼神になる覚悟があるのです」

 

 ヤるつもりらしい。

 

「いや、大丈夫だ!明日も遊ぶんだし、綾波もそろそろ寝ろよ」

 

「……大丈夫なのです?」

 

「あぁ、だから部屋に戻ってくれ」

 

「わかったのです」

 

 渋々という形だが綾波は部屋へ戻っていく。

 

「おやすみなのです。ゼロ」

 

「あぁ、おやすみ」

 

 言葉を交わして綾波と別れる。

 

 そのまま寝室へ向かうが足取りは重たい。

 

 ふらふらと向かおうとした時、すぐそばのドアが音を立てて開く。

 

「へ?」

 

 横から伸びてきた腕がゼロを部屋の中へ連れ込む。

 

 抵抗する暇もないままベッドの上へ押し倒されてしまう。

 

「お、おい、瑞鶴さん?」

 

 目の前にいるのは寝間着姿の瑞鶴。

 

 ぼーっとした目でこちらをみていた瑞鶴がだらしのない笑みを浮かべた。

 

「お姉ちゃん~~」

 

 にこりと笑みを浮かべながら瑞鶴が抱き着いてきた。

 

 サイドテールにしていた髪を下ろしている彼女はにまにまと笑みを浮かべながら頬をすりすりしてくる。

 

「瑞鶴さん!?」

 

「もぉ、お姉ちゃん~、瑞鶴はお姉ちゃんが大好きなんだよう~」

 

「コイツ、寝ぼけて、俺を瑞鶴の姉と勘違いしているな!?」

 

 大きな声で叫んでも瑞鶴は目を覚ます様子がない。

 

 それどころか「えへへへ」と声を漏らしてさらに抱き着いてくる。

 

「く、苦しい……というか、何か柔らかいものが」

 

 何がとは言わない。

 

 胸部を圧迫している柔らかいものの感触がダイレクトに伝わってくる。

 

 このままだと色々とマズイことになってしまうぞ。

 

「瑞鶴、瑞鶴、頼むから起きてくれ、お願いだから」

 

「えへへへ、もう食べられないよぉ」

 

「ベタなこと言いやがって!仕方ない、このまま」

 

「お楽しみみたいですね?」

 

 聞こえてきた声に心臓が止まるかと思った。

 

 おそるおそる、ゼロは声の方を見る。

 

「ベルファスト」

 

「はい、貴方のメイド、ベルファストでございます」

 

 にこりと笑顔を浮かべて入る。しかし、目は笑っていない。

 

 ぞっとするほどの真っ黒な瞳がこちらを見ている。

 

「説明を」

 

「メイドはご主人様の考えの先を読むものでございます」

 

「そうか、わかって」

 

「どうやらメイドにもっと溺れてもらう必要があるようですね。私以外に目移りしてしまわないように」

 

「勘違いしてんじゃねぇか!」

 

 堪らずにゼロは叫んだ。

 

 ベルファストは一瞬で瑞鶴を引き剥がすと手錠をスカートの中から取り出してゼロの腕に装着する。

 

「ベルファストさん、この手錠は……」

 

「えぇ、ご主人様が逃げられないようにするための措置でございます」

 

「慈悲を!明日も休みなんだよ!?」

 

「大人しく部屋に戻っていればよかったのです。そこをちびちびと言い訳して逃げたご主人様が悪いのです、あぁ、安心してください。私の胸の中で安らかに眠ってください」

 

「処刑宣告だよね!?それ!」

 

 これだけ騒いでいるというのに瑞鶴は起きる気配がない。

 

「では、逝きましょうか?ご主人様」

 

「あぁ、休みたい、ゆっくりと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、ご主人様、もっと、もっと溺れてください」

 

 ベッドの上でベルファストの体が揺れる。

 

 彼女の手はゼロの手が絡み合い、決して離さない。

 

 笑顔を浮かべながら抵抗できないゼロの口を蹂躙する。

 

 抵抗できないゼロは彼女にされるがままだ。

 

「出来れば、ご主人様から攻めてもらいたいものです。あのカウガール様は事あるごとに自慢してきます。私を求めてくれたと……ですから、ご主人様、どうか溺れて、溺れて、溺れて溺れて溺れて溺れて、私に溺れてください、あぁ、そうです。大事なことを聞き忘れていましたね。ご主人様、子供は何人欲しいですか?私は何人でも構いません、できるならサッカーができるくらい沢山のほうが良いかもしれないですね。勿論、一人は確実に欲しいところです。どうして沢山、求めるかですか?子供は愛の結晶というではないですか。愛の結晶が沢山あるという事はそれだけ私とご主人様の愛があふれているということです。そう、私は愛しています。ご主人様を愛しています。今が戦火ということで自重していますが……戦争が終われば、私はご主人様と添い遂げる所存でございます。えぇ、何があろうと必ず、障害は沢山ありますが、負けるつもりはございます。えぇ、最大の障害である綾波様がおりますが、今のところ性に目覚めたというわけではありません。その前に手を打ちさせすればまだ勝機はあります。ホーネット様ですか?えぇ、立ちはだかる壁でしょう、ですが、それよりも巨大な壁がおります。ご主人様は胸の内に思いを寄せている方がおりますね?えぇ、メイドはお見通しです、ですが、相手が誰なのかわからないのが歯がゆい思いでございます。ですが、その気持ちを上塗りすることができれば、私の勝ちです。さぁ、ご主人様、私に溺れてください。もっと、もっと、もっと!」

 

 

 押し寄せてくるベルファストの感情に呑まれていつの間にかゼロは気絶していた。

 

 

 

「愛しておりますよ。ゼロ様」

 

 

 チュッと気絶したゼロへベルファストはキスを落とした。



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ささやかな休暇編 ゼロは結局、逃げられない

今回で休暇編は終わりです。

最後に爆弾を投下しながら、次の話へ向かいます。


「おかしい、休日の筈なのに全然、休んだ気がしないんだが……」

 

 げっそりした表情で起き上がるゼロ。

 

 傍にいるメイドはキラキラと輝く笑顔を浮かべている。

 

 昨夜の乱れたあの姿は夢だったのではないだろうかと本気で思えてしまう。

 

「失礼、朝からご主人様の姿を見ていると濡れてきました」

 

 訂正、現実だわ。

 

 呆れながらゼロはベルファストを追い出す。

 

「メイドは今日も休みだろ?部屋で休んどけ」

 

 用意してきた服に着替えながらゼロはドアを開ける。

 

 そこにメイドはいない。

 

「おっはよう!ゼロ!」

 

 代わりにホーネットがいた。

 

 ジーンズに袖のないシャツをきた彼女が笑顔で立っていた。

 

「ホーネットか」

 

「うん!いやぁ、昨日は休めた……すんすん」

 

「顔が近いんだが」

 

「メイドの匂いがする」

 

 いつからこの子に犬属性が追加されたのだろうか?

 

「まぁ、昨日、姿を見なかったからもしかしたらと思ったらぁ」

 

 ため息を零すホーネット。

 

「まぁ、俺も油断していたのが」

 

「隙あり!」

 

 ドンを突き飛ばされるように抱きしめられながらそのまま部屋の中に連れこまれる。

 

 連れ込まれた際、ドアに鍵がかけられた。

 

「ゼロは本当に甘いよねぇ、まぁ、そういうところも可愛くて好きなんだけどさぁ」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべているのに全くと言っていいほど、目が笑っていないホーネット。

 

 瞳から光が消えている気がする。

 

 滅茶苦茶、嫌な予感がするのですが。

 

「あの、朝なんだけど」

 

 ダメ元でいってみる。

 

「そうだけど?朝から運動もいいんじゃない?」

 

 結論、ホーネットは止まる気配がないようである。

 

「やめ」

 

「さぁ、スタート♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロ殿、何やらげっそりしているようだが、大丈夫か?」

 

「あぁ、問題ない、その心配させて悪いな」

 

「いや、大丈夫ならそれでよいのだが」

 

 ゲームはホーネットの勝利で終わることだけは阻止した。

 

 途中でなんとか脱出したものの、少し遅ければ何から何まで絞り取られていたことだろう。

 

 心配してくる高雄に大丈夫と答えながら置かれている紅茶を飲む。

 

「あぁ、良く寝たぁ!」

 

 紅茶を飲んでいたところでキラキラした表情の瑞鶴がやって来る。

 

「瑞鶴殿、朝から元気だな」

 

「うん!お姉ちゃんの夢を見たからかも!」

 

「本当に、お前は姉が好きなんだな」

 

「当然だよ!お姉ちゃんさえいれば何も怖くないから!」

 

 大袈裟すぎるだろうに。

 

 まぁ、寝ぼけながら俺を姉と間違えて抱きしめようとしてきたくらいだし、良い姉であることは理解できる。

 

「そういえば、高雄は瑞鶴と仲が良かったな」

 

「あぁ、共に鍛錬をしてきた仲だ」

 

「ふーん、じゃあ、翔鶴っていうのも知っているのか?」

 

「ゼロは翔鶴姉に興味があるの!?」

 

 ぐいっと身を乗り出してくる瑞鶴。

 

 その目は限界まで開かれていて、何か怖い。

 

「いや、お前がそこまで姉、姉、姉っていうからさ、どんな人物なのだろうか気になっただけだよ」

 

「そ、そう…………よかった、ゼロが翔鶴姉に興味持ったわけじゃなくて」

 

 離れたと思うと笑顔になる瑞鶴。

 

「コイツ、本当にころころ表情が変わる奴だな」

 

「うむ」

 

 戻ってきた瑞鶴を含めた三人で朝食をとる。

 

「そういえば、外が何か騒がしかったよ?」

 

 もぐもぐと朝食を食べていた瑞鶴の言葉に俺と高雄は首をかしげる。

 

「騒がしい?」

 

「はて、今日は何もイベントなどなかったかと」

 

 首をかしげながら朝食を終えた俺は外に出ることにした。

 

「確保です」

 

「あ?」

 

 背後から聞こえた声に反応する暇もないままズタ袋に視界を隠されてしまう。

 

 ズタ袋から解放されると円卓に俺は腰かけていた。

 

「え、なにこれ?」

 

「ふん!遅かったじゃないゼロ!」

 

「あれ……クイーン・エリザベス、陛下」

 

 呼び捨てにしようとしたら滅茶苦茶睨まれたので付け足すようにして陛下をつける。

 

 円卓にはクイーン・エリザベスの他にウォースパイト、そして。

 

「ご機嫌麗しゅうございます。私はロイヤルネイビーの栄光、フッド。貴方がかのゼロ将軍でございますね?お会いできて光栄です」

 

「あ、はぁ」

 

 挨拶してきたフッドの柔和な笑顔に少し面食らいながら頷く。

 

「ところで、これは」

 

「茶会でございます」

 

「うぉう!?」

 

 真後ろから囁くように言われて振り返るとベルファストがいた。

 

 私服姿からメイド服になっている。

 

「……いつの間に」

 

「陛下がお忍びで来られるという事でメイドとして準備をしておりました」

 

「腕は衰えていないようね!ベル!」

 

「恐縮です。陛下」

 

「……それで、茶会なのはわかったが、どうして俺が?作法なんて」

 

「ご安心をメイドの私が手取り足取り教えますので」

 

「結構だ」

 

「つれないご主人様です」

 

 悲しそうに息を吐くベルファスト。

 

「全く、毎日、招待状を送っているのに無視するのがいけないのよ!」

 

「……招待状?」

 

 クイーン・エリザベスの言葉に俺は首をかしげる。

 

 招待状など届いていただろうか。

 

「すまない、基地に手紙の類は届いていなかったと思うが……」

 

「はぁ!?私はちゃんとジェダイ評議会を通して送っていたわよ!ベル!」

 

「申し訳ございません、陛下、私の記憶する限り……ご主人様の手紙はチェックしておりましたがロイヤルから届いたものはありません」

 

「どういうことかしら?」

 

 首をかしげるウォースパイト。

 

「まぁ、手紙のことは置いておいて、陛下もウォースパイトも久しぶり、元気だったか?」

 

「当然よ!それよりゼロの噂はロイヤルまで届いているわ!大活躍しているそうじゃない!」

 

「あ、ありがとうございます。活躍なんてそんな……ただ、戦っているだけですよ」

 

「そうだとしても、ゼロが戦って救った命がある。そのことをしっかりと理解しておきなさい!」

 

 ウォースパイトの言葉は素直に受け入れておこう。

 

「ゼロ様、こちらのクッキーはおいしいですよ」

 

 いつの間にか隣まで近づいていたフッドからクッキーを勧められる。

 

 手に取って食べようとしたらフッドから差し出された。

 

「さぁ、どうぞ」

 

「……どうも」

 

 突き刺さる三か所の視線。

 

 素直に終わらせた方が早い。

 

 何度も経験して学習したことである。

 

 大人しくクッキーを食べた。

 

「うん、美味い」

 

「お口にあってよかったです」

 

「ありがとう、フッドさん」

 

「さんは要らないですよ。あの有名なゼロ様とお話ができるなんて光栄です」

 

 前から思うのだが艦船達の間で俺はどういう風に伝わっているのだろうか。

 

 そんな疑問があった。

 

 楽しい茶会を終えた後、クイーン・エリザベスから買い物など付き合う様に言われそうになったが即座に離脱。

 

 ベルファストはしばらく彼女の付き添いになるだろう。

 

 去り際にフッドから写真にサインを求められるという事態がありながらも離脱に成功する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「休日か、久しぶり過ぎて何をすればいいか悩むっていうのも重症だな」

 

 ぶらぶらと施設内を歩いていく。

 

 綾波はホーネットや瑞鶴達と買い物に出ているらしい。

 

 久しぶりの一人。

 

「大抵、誰かがいたからな……一人になるというのはこんな感じだったんだなぁ」

 

 寂しいという感情に苦笑が漏れた。

 

 前までは独りが当たり前だったというのに、いつの間に周りに誰かがいることが当たり前になってしまっているらしい。

 

「はぁ」

 

「あぁ、見つけました」

 

 聞こえた声に体が固まる。

 

「あら?聞こえなかったかしら……」

 

 おそるおそる振り返る。

 

 儚げな笑顔を浮かべながらこちらをみている白よりの長い髪、瞳はこちらを捉えて離さない。

 

「何で、ここに」

 

「久しぶりね、ゼロ、会いたかったわ」

 

 ユニオンの空母、ヨークタウン。

 

 車椅子に乗っている彼女がさらに深い笑顔を浮かべた。

 

 光のない瞳は真っ直ぐにこちらへ向けられたまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、ここに?」

 

「貴方に会いに来たの……」

 

「っ!」

 

 彼女の言葉に自然と顔が険しくなる。

 

「冗談よ……療養でここへきていたの。そうしたら偶然だけど、貴方と出会えたわ」

 

 車椅子を押しながら施設の周辺を歩く。

 

「ゼロはどうしてここへ?」

 

「休暇だよ。休むように言われてね……」

 

「そう」

 

 小さく頷いた彼女の手が車椅子を押している俺の手に触れる。

 

 ユニオンの空母、ヨークタウン。

 

 儚い印象の彼女だが、少し前まで空母として最前線で多くのセイレーンを倒してきた。

 

 今は戦いの最中で負った傷が原因で戦線から離れて後方で傷を癒している。

 

「貴方の戦いは噂で聞いているわ……大丈夫?」

 

「ジェダイは平和の使者だ。戦いを終わらせるためならどこへだって戦うさ」

 

「そういうことじゃないの」

 

 こちらを見上げてくるヨークタウンは笑顔を浮かべている。

 

「貴方が戦争で死なないか、私は心配……なの」

 

 しかし、目の奥は笑っていない、まるで何かを探るような感情が含まれていた。

 

「大丈夫だ。俺は死なない、キミと約束したからな」

 

 あの時、ヨークタウンが重傷を負う切欠となった戦いの場で俺は約束した。

 

 絶対に死なないと。

 

 そして、

 

「あの時、ゼロと一緒に過ごした時間は夢のよう……でも、貴方の傍でいられないのはとてもつらい……それに」

 

 すんすんと匂いをかがれる。

 

「私以外の、女の匂いがします」

 

「……それは」

 

「仕方ないよね、貴方はジェダイで指揮官適性を持つ者……多くの艦船がいても仕方ない……でも、一番は、私だよね?」

 

 見上げる彼女の手が俺の頬へ触れる。

 

 大事なものを扱う様に優しく、けれど、絶対に逃がさないという風に。

 

「ゼロ、キス、しましょう?」

 

「ヨークタウン、それは」

 

「なぜ?」

 

 首をかしげるヨークタウン。

 

「私達は互いに重ねて気持ちを理解しあったのよ?それなのに、これくらいのことは許してもらえないの?」

 

 一気に悲しそうな表情になるヨークタウン。

 

 涙を流す彼女の姿があの時と重なってしまう。

 

「今回、限りだ……もうしない、約束できるか?」

 

「えぇ、勿論」

 

 にこりとほほ笑みながら見上げながら目を閉じるヨークタウン。

 

 ゆっくりと顔を近づけていく中でどういうわけかエンタープライズの姿が過ぎる。

 

 まるで酷い罪をこれから重ねるような気分。

 

 俺はゆっくりと彼女の唇と自らの唇を重ねた。

 

「ゼロ?」

 

 聞こえた声に動きが止まる。

 

 慌てた様子で振り返ると驚いた表情でこちらをみている綾波の姿があった。

 

 浮気の現場を見られたような気分になる。

 

「あら、ゼロと戦っている艦船達ね?」

 

「ウソ、ヨークタウン姉!」

 

 驚いた表情になるホーネット。

 

「久しぶりね、ホーネット、元気そうで安心したわ」

 

「う、うん、その、姉ちゃんはどうして」

 

「療養中だったんだけど、まさか、ここでゼロと会うなんて思わなかったの」

 

「……ゼロと知り合い?」

 

「えぇ、彼は私を救うために【ジェダイを殺して】くれた“命の恩人”だもの」

 

 最悪の爆弾を投下してくれた。

 

 

 

 




ヨークタウン
ユニオンの空母でエンタープライズとホーネットの姉。
儚い雰囲気がとても強く、一部のユーザーからヤンデレ評価がされている彼女。
アニメと同じで戦線で重傷を負い、療養中。

ゼロといつか結婚できると本気で思っており、途中でふらふらしていても最後に自分のところへ戻ってきてくれれば良しと思っている。今回は手を出そうとしている艦船達へ牽制のつもりでやってきた。


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寒冷の戦場編 目的へ一直線に 

次の話です。

今回は鉄血メインです。

やってきている鉄血が少ないですが、頑張ります!


「何かあったのか?」

 

「何です?」

 

 ジェダイ聖堂。

 

 定期報告の為に集まったジェダイマスターやナイト達が集う中でオビ=ワンがゼロへ問いかける。

 

「いや、いつもより冷静さを欠いているように思えて」

 

「そうですか?いや、そうなんでしょうね」

 

 肩をすくめるゼロ。

 

 彼に何かあったと察したオビ=ワンは移動を始める。

 

「これから定例会では?」

 

「時間はある。今は友としてキミの身を案じているんだよ」

 

「……マスターケノービ」

 

「今はオビ=ワンで良い……何があった?」

 

 真剣に心配するオビ=ワンの言葉にゼロは小さく頷いた。

 

 ここで誤魔化すことは出来ないだろう。

 

「今、艦船と俺の間で不協和音が起こっています。例のジェダイ殺しの件で」

 

「それは!キミが悪いわけじゃないだろう?あれは」

 

「だとしても、その事実を俺が隠していたことで彼女達は揺らいでいます。中には俺を信じようとしてくれる艦船もいますが……ほとんどが」

 

「ふむ……真実を伝えるという事は?」

 

「何を伝えるというんですか?俺がパダワンの時にジェダイを殺した。消えない事実ですよ」

 

「確かに事実だけを伝えればそうなるだろう、だが、そうなった理由がある」

 

「理由を伝えて、彼女達が納得するかどうか……」

 

「それは彼女達の心次第だ……だが、今のままでは確実に良くないことが起こる。それはキミも」

 

「マスターケノービ!」

 

 会話に乱入する形で若いジェダイが声をかけてくる。

 

「おや、ローメイル」

 

「はい!お会いできて光栄です!」

 

 ちらりとゼロを一瞥しながらも彼はオビ=ワンへ話しかける。

 

 少し前にジェダイトライアルを突破して見事、ジェダイとなって鉄血の領土の寒冷地で戦線指揮をとっているらしい。

 

 オビ=ワンに熱心に話しかけていることから終わることはないだろう。

 

 話はここまでという風にゼロは頭を下げて離れていく。

 

「はぁ」

 

 ため息を零しながらゼロは定例会のための部屋に足を踏み入れる。

 

 これからの会議で何か起こるかもしれない。

 

 そんな予感があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺って、直感スキルみたいなものでもあるのだろうか?」

 

 戦闘機の中でゼロはため息を吐いた。

 

 

――何かあったのか?

 

 

 彼のため息に気付いたR3が電子音で問いかけてくる。

 

「気にしなくていいよ。R3。ただ、俺は不運だなぁと思っただけさ」

 

 定例会の後、マスターヨーダからの指示でゼロ達の部隊は鉄血艦隊の支援へ向かうことになった。

 

 鉄血艦隊は雪国で暴れるセイレーンと戦っていた。

 

 最近、テロリストが猛威を振るっているために徐々に防衛網が下がりつつある。

 

 応援要員としてゼロ達の部隊が行くようにとマスターヨーダから指示を受けた。

 

 問題があるとすれば。

 

「あれは……」

 

 ゼロはセイレーンの艦隊と戦う何かの姿を発見する。

 

「こちらゼロ、セイレーン艦隊を発見。迎撃に入る」

 

『援護は必要ですか?』

 

「いいや、みたところ駆逐艦のみだ。こちらで迎撃するから輸送機は先に目的地へ向かってくれ、ゼロ通信終わり」

 

『了解です、ヘヴィ通信終わり』

 

 通信を終えたところで戦闘機の向きを変えて急降下する。

 

 セイレーン駆逐艦の片方がこちらに気付いて主砲を撃ってきた。

 

 フォースで感じ取っていたゼロは戦闘機を回転させるようにしながら砲弾を回避。

 

 脅威ディスプレイが警告音を鳴らす中で戦闘機のレーザービームを放つ。

 

 上空から降り注いだレーザービームが駆逐艦に直撃する。

 

 急所を貫いたのだろう、駆逐艦の一隻が沈む。

 

 R3が文句を書き込んでくるのを苦笑しながらゼロはもう片方の駆逐艦が沈んでいく姿を眺めた。

 

「あれは、艦船か」

 

 ゼロは下部のバーニアを吹かしながら戦闘機を浮遊した状態でハッチを開ける。

 

「大丈夫か?」

 

「……貴方が助けてくれたの?」

 

 目に入ったのは巨大で真っ赤な腕。

 

 人の腕にしては異形のものだと思ったがよくみると、それは艤装だ。

 

 ショートカットの銀髪で一部に赤いメッシュを入れている。

 

 無垢のような瞳は真っ直ぐにゼロをみていた。

 

 口元はマフラーで隠されているが特に感情の色がみえない。

 

「俺はアズールレーンの部隊を率いているジェダイ、ゼロだ。キミは艦船だよな?ここで何を?」

 

「セイレーンを倒していたの、そうしないといけないから」

 

「戦うことはわかる、だが、一人で戦うのは危険だ」

 

「でも」

 

 急にバランスを崩し始めた少女をゼロは慌てて抱き留める。

 

 フォースの力を借りてなんとか支えているがとても細い。

 

 腕についている無骨で巨大な腕に驚きながらも彼女が倒れないように支えた。

 

「こんな細い見た目の少女でも、艦船なんだよな」

 

 気絶している少女を抱えながら戦闘機へ戻る。

 

「重量オーバーだって?ギリギリの低空飛行で行くしかないだろう。目的地へ着くか、俺達が海の藻屑になるかはわからないけどな」

 

 苦情を表示するR3にゼロはぺちんと彼の頭を叩きながら言う。

 

 

――不幸なのは自分かもしれない。

 

 

 表示された文字にゼロは大きな声で笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前!シュペーに何をしたぁ!」

 

 鉄血の艦船が集う前線基地。

 

 そこへ気絶した少女を抱えて俺が戻ると軍帽に拳銃のような艤装を構えて、黒い髪に赤いメッシュを入れた少女が鋭い目で睨みながら銃口を向けてくる。

 

「落ち着け、ドイッチュラント!」

 

 今にも発砲しそうな少女を抑えつけたのは小柄な少女。

 

「レーベ」

 

「よぉ、俺のイブ」

 

 にやりと笑いながら彼女は銃を掴んだ手を下ろさせる。

 

「落ち着け、こいつは奴と違う……イブ、どうして、アドミラル・グラーフ・シュペーと一緒にいるんだ?」

 

「偶然、セイレーンの駆逐艦と戦っているところを助けた、かなり酷使しているみたいだが、ここの戦線はそんなに悪いのか?」

 

「まぁ、くればわかるさ」

 

 言葉を濁したZ1に首を傾げながらシュペーと呼ばれた彼女を抱えて基地内へ入る。

 

 通路を通って彼女が案内してくれた部屋にシュペーを寝かせた。

 

「なぁ、レーベ」

 

「気付いたか?」

 

 視線を落とすZ1の姿にゼロは無言で頷く。

 

「この基地内、人や艦船の姿がほとんどみない」

 

「全てはここの指揮を執っているジェダイのせいだ」

 

 指揮を執っているジェダイと聞いてゼロはすぐに誰か理解した。

 

「ローメイルか」

 

「あの小僧は確かに優秀だろうよ。だが、オレ達を物としかみていない。こちらがどれだけ疲労しようが、上からで指揮をとるだけ、自ら前で戦うことはしない……」

 

「指揮官タイプか……さて、司令室へいくとするか、来たという報告をしないといけないし」

 

「イブ、お前はどうするつもりだ?」

 

「まずは話をしてからだな、ただまぁ……」

 

「?」

 

「俺、嫌われているんだよな、どうも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタが援軍か」

 

 ジェダイ・ナイト ローメイルは鋭い目で俺を見てくる。

 

「そうだ、マスターヨーダからの指示でここの戦線のフォローに来た」

 

「余計なことを……」

 

 小さく漏らしているがこちらに対して嫌悪を浮かべている。

 

 フォースがなくてもそれくらいはわかった。

 

 俺が重桜にいた時、向けられていた感情と似ている。

 

 どうも、この若いジェダイは俺のことが嫌いらしい。

 

「戦線の状況を教えてもらえるだろうか?」

 

「……セイレーンの艦隊よりも地元のテロ組織が邪魔をしている」

 

「テロ組織……」

 

「シャドーピープル、闇夜に紛れてこちらの基地を攻めようとする反艦船同盟の傘下の敵対組織だ」

 

「それで、基地内の周囲を艦船で巡回させているのか」

 

「連中はクローンよりも疲弊が少ない。三日、四日、続けたところで問題はない」

 

「それは違うだろう、彼女達だって、意思はある。現に俺が保護した艦船は疲労で倒れている」

 

「エネルギーが切れたのなら補充すればいい、それだけの話だろう」

 

「本気で言っているのか?」

 

「アンタはここの戦場を知らない!上から目線で意見をしないでもらおうか」

 

「わかった」

 

 これ以上話をしても平行線であることは理解した。

 

 ならば、俺ができるのは一つ。

 

「じゃあ、俺達が今日から一週間、戦線に立とう。そうして、シャドーピープルを撃退する。それからなら話は聞いてもらえるな?」

 

「っ!」

 

 歯ぎしりしてローメイルはこちらを睨む。

 

 俺の言う事全てに苛立ちを覚えるらしい。

 

「勝手にしろ!全滅したとしても後悔はするなよ!」

 

「大丈夫だ」

 

 不敵な笑みを浮かべて俺は答える。

 

「俺の仲間はそこまでヤワじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っていう啖呵を将軍はきってやったらしい!」

 

「おぉおぉおおお!」

 

 基地の食堂。

 

 エコーがふざけながら演説する姿を見て、周りのトルーパーや艦船達が騒ぎ始める。

 

 その中には鉄血所属の艦船達の姿もあった。

 

 少し離れたところで話を聞いていたエコーが全員へ触れまわっているのである。

 

 騒いでいるトルーパーとは別に表情の暗い艦船がいた。

 

 ホーネットや瑞鶴だ。

 

「ゼロは優しいなぁ……だけど」

 

「……どっちが正しいんだろう」

 

 二人の艦船の様子をベルファストや高雄が心配そうに見ている。

 

「そういや、将軍は?」

 

「あぁ、ファイブスと一緒にこの基地所属の艦船のところだぞ」

 

 ハードケースの疑問に答えたのは食事をとっていたヘヴィだ。

 

「ほぉ、副官殿は一緒にいなくていいのか?」

 

 揶揄ってくる仲間の問いかけにヘヴィは苦笑する。

 

「副官は副官で部隊のケアをしておくのさ」

 

 ヘヴィの目線は元気のない瑞鶴やホーネットに向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで連れてきたぜ!」

 

 Z1に案内を頼んで俺とファイブスは鉄血の艦船が休んでいる区画へ来ていた。

 

 簡易的なベッドと最低限の食事や生活用品が置かれている場所は部屋というよりただの休憩部屋というイメージである。

 

「私は1936A型駆逐艦のZ23と申します」

 

「別にそんな堅くならなくていい、俺達は話を聞きに来ただけだから」

 

「命令を下しに来たのではないのですか?」

 

「違う」

 

 俺の言葉にZ23は戸惑った表情を浮かべる。

 

「この基地の艦船はどれだけいるんだ?」

 

「数だけでいえば、ニ十隻以上はいます。ですが、ほとんどがジェダイの指示で周辺の偵察などに割かれており、この基地内は回収されたシュペーを含めた四隻です」

 

「オレも含まれているぜ!」

 

 Z1からの言葉に俺は笑みを浮かべる。

 

「それと、シャドーピープルとかいう集団についてわかっていることを教えてくれるか?」

 

「はい」

 

 数十分ほど、情報を聞いた俺とファイブスはこの場を離れることにした。

 

「貴重な時間をありがとう、ゆっくり休んでくれ」

 

「命令ですか?」

 

「お願いだよ。戦闘で疲れているのに、俺達に付き合ってくれたんだ。何より、見た限り、疲労が大分、蓄積されているようにみえる。休んだ方がいい」

 

「……貴方は変わった人です」

 

「キミはとても優秀だ」

 

 戸惑いの声を漏らしたZ23へ俺は短く告げて、部屋を出る。

 

「……将軍」

 

「言いたいことはわかるよ……」

 

 ファイブスと共に通路を歩きながら俺はため息を吐く。

 

「これだけ疲弊しているのに、よく戦線を維持しているといいたいけれど、ギリギリだな」

 

「いつかは決壊します。それが今日なのか、明日なのかはわかりませんが」

 

「全く、マスターヨーダの采配は神がかっているとしか言えないな……どんな経験を積めばもてるのやら」

 

 援軍としてやってきたのが他のメンバーだったらどうなっていたのかはわからないが、俺や仲間達はこういう状況を無視するなんてことはできない。

 

「ファイブス」

 

「はい」

 

「一週間だ」

 

「了解です」

 

 俺の言葉の意味を理解したファイブスは頷いた。

 

「一週間でシャドーピープルとかいう集団を叩き潰す。みんなにはかなり無理をさせることになるが……」

 

「俺達は戦うことが仕事ですよ。何より、過酷な戦場だったらクローンより先頭へ飛び出していくジェダイに負けられません」

 

「ハハッ、ありがとう」

 

「おい、イブ!」

 

 後ろから追いついたZ1に呼ばれて振り返る。

 

「オレも戦うぜ!」

 

「Z1、でも、キミだって偵察を終えたばかりだろう?」

 

「このZ1様を舐めるなよ!連戦など問題ない!何より」

 

 不敵な笑みを浮かべながらZ1が俺の手を握り締めてくる。

 

 とても小さな手だが、彼女は多くの戦場を潜り抜けてきている。そんな彼女がクローンの育成を務めていたのは当然だろう。

 

「俺のイブが戦うんだ。休んでなどいられるかよ!」

 

「Z1教官……」

 

「ファイブス、お前の成長した姿を見せてもらうぞ!」

 

「はい!」

 

「……戦力が増えることは嬉しいが、無理だけはしないでほしいな」

 

「フッ、任せろ!」

 

 笑みを浮かべる彼女の姿に頼もしさを感じる。

 

「そして、全てが終わったらオレとベッドインだ!」

 

「……最後の一言で台無しだよ」

 

 胸を張るZ1の横でファイブスが爆笑していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ヘヴィ」

 

「話って、なに?」

 

 基地のリフレッシュルーム。

 

 そこでヘヴィは瑞鶴とホーネットの二人と話をするために来ていた。

 

「聞いたぞ、ゼロ将軍の過去のこと知ったんだな」

 

「それは……うん」

 

「ねぇ、ヘヴィは知っているの?ゼロがヨークタウン姉さんを守るためにジェダイを殺したっていうの……」

 

 震える体を抱きしめるようにしながらホーネットは尋ねる。

 

 自分の好きな相手が姉を守るために同じジェダイを殺していた。

 

 その事実にホーネットは激しく動揺している。

 

「事実だ」

 

「……そう」

 

「だが、その話だけが正しいというわけじゃない」

 

「どういうこと?」

 

 疑問の表情を浮かべた二人へヘヴィは伝える。

 

「将軍は狂ったジェダイから艦船を守ろうとしたんだ」

 

 

 

 

 



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寒冷の戦場編 対決 シャドーピープル!

更新が遅くなり申し訳ありません、ターミネーターをみていたり、ストックを書いていたり、ITをみてきたり、色々やっていました。




 マスターヨーダが告げたクローン大戦。

 

 長い年月、続いている戦争は多くのジェダイが戦場で散った。

 

 年配のマスターから若いなり立てのジェダイまでその数は膨大だ。

 

 しかし、戦場に長くいたことで狂ってしまうジェダイも少なくなかった。

 

 しがらみを捨てて、平和の為に己の身を捧げているジェダイが、戦場で多くの敵を殺し、戦っているうちに突然とプッツンしてしまうことがあった。

 

 多くのジェダイが戦場で狂い、暴れて、仲間のジェダイに殺されるという事実もある。

 

「話には聞いていたけど……」

 

「もしかして」

 

 瑞鶴がハッとした表情でヘヴィをみる。

 

「将軍から聞いた話によれば、その時はセイレーンが出現したという事からパダワンの彼とジェダイ・ナイトが一人、艦船と共に戦場へ赴いたらしい。そして」

 

――狂って、艦船や周りの者達を殺そうとしたジェダイをパダワンの彼が殺した。

 

「細かい経緯は俺も知らない、だが、将軍はこの話をした後、一言だけ告げたんだ」

 

「何を?」

 

 震える声でホーネットは問いかける。

 

「何を、ゼロは告げたの?」

 

 ヘヴィは少し間を置いてから伝えた。

 

 

――きっと、僕は最期に地獄へ落ちるだろう。

 

 

「そんなの、辛すぎるよ」

 

 顔を上げると瑞鶴は涙をこぼしていた。

 

 それは隣のホーネットも同じである。

 

 悲しすぎると二人は言葉を漏らして泣き続けた。

 

「俺達、いや、俺は、この戦争が終わってからどうなるかわからないが、あの人だけは幸せになるべきだと思っている」

 

「私も、同じ意見だよ」

 

 ホーネットが目元を拭って目を見開く。

 

「ゼロのことは大好きだけど、ちゃんと、ゼロを幸せにするから!」

 

 緑色の瞳は強い決意で満ち溢れている。

 

「お姉ちゃんがいれば、もっと安心だけど、私だってゼロを幸せにできるって証明してみせる!」

 

 隣にいる瑞鶴も同じように握り拳を作っていた。

 

「どうやら、余計な起爆剤を点火したかもしれない」

 

 やる気に満ち溢れている二人の姿を見て、ヘヴィはぽつりと言葉を漏らす。

 

 燃え盛る炎を背後に瑞鶴とホーネットはやる気に満ち溢れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルッ」

 

 体を震わせて俺はローブを強く体に纏わせる。

 

「風邪なのです?」

 

 傍で防寒着を着ている綾波が尋ねてきた。

 

 鉄血に近いこの場所は昼夜問わずひんやりとした風が吹いている。夜になれば、氷点下に達しているのではないかというくらいに冷たい。

 

 見張り台から遠くを見渡せるが風が吹いて、寒かった。

 

 トルーパー達も寒冷地装備で、周囲を警戒している。

 

「これから戦う相手はどんな存在なのです?」

 

「基地の情報によれば、敵はテロリスト集団、シャドーピープル、夜襲のみで突然、姿を見せることからこういう呼び名がついたらしい」

 

「夜に攻め込むというのは奇襲を狙ったものということなのでしょうが、優雅さに欠けますね」

 

 ベルファストが冷えますよと言いながら紅茶を差し出してくる。

 

「いや、紅茶って」

 

「どのような状況であろうと優雅さを持つべきですよ?それに、体が冷えていてはいざという時に動けません、万全の状態であるべきです」

 

「いただくのです」

 

 横から綾波が手に取って紅茶を一口。

 

「何も入っていないのです。暖かいですよ?」

 

「これから戦うって時に変なものは入れません」

 

「戦わなかったら?」

 

「紅茶に不純物をメイドはいれません」

 

 怪しい。

 

 疑うような視線を向けるがベルファストはにこりと笑みを浮かべて顔を近づけようとしてくる。

 

「ゼロ殿」

 

「高雄、寒くないのか?」

 

「拙者たちはフネだ。多少、寒さを感じはするが、問題はない」

 

「そうか……無理だけはしないでくれ、ほら、毛布」

 

「かたじけない」

 

 毛布を受け取った高雄は周囲の警戒に意識を向ける。

 

 敵は主に奇襲を仕掛けてくる。場所がわからない以上はこちらから攻めるより待つ方がいい。

 

 他のトルーパー達も周囲を警戒することと、定期連絡を行うことを徹底していた。

 

「でも、本当に来るのです?」

 

「来る」

 

「ご主人様は何か根拠があるようですが?それは」

 

「この基地所属の艦船とトルーパー達から今までの戦闘を教えてもらった」

 

「いつの間に」

 

 驚く高雄の横でゼロがあるデータを表示する。

 

 襲撃された基地のデータを調べたところ、シャドーピープルというテロ組織は周期的な動きがみられた。

 

 もしかしたら不発の可能性もあるが、規則的な動きに大きな変動は今のところみられない。何より、フォースが伝えてくれる。

 

 これから何かが起こると。

 

「貴方はこれから戦闘が起こると思っているのですか?」

 

「キミは……確か、ニーミだったな」

 

「はい、駆逐艦Z23と申します……先ほどの話に戻りますが、貴方はテロ組織が攻めてくると考えているのですか?」

 

「データを見る限り……何より、何かが起こると感じるんだ」

 

「感じる?直感でものをいっているのですか!」

 

 眉間へ皺を寄せてZ23が叫ぶ。

 

 さて?俺は何か失礼なことを言っただろうか?

 

「ゼロはジェダイだから当たり前のように言いますけど、他の人達からすれば、不思議ちゃんなのです」

 

「綾波様の言葉が正しいですね」

 

「お前達……」

 

「ゼロ殿、すまない、拙者も否定できない」

 

 どうやら俺に味方はいないらしい。

 

「ニーミ」

 

「貴方は綾波ですね」

 

「はいなのです。ゼロはジェダイなのです」

 

「それは知っています。それが何か?」

 

「ジェダイはフォースを操る術を熟知している者達。ゼロ様はこれから何かが起こることをフォースの流れを通して察知しているのです」

 

 綾波とベルファストの言葉にZ23は驚いた表情を浮かべている。

 

「ここのジェダイはそういうことを言わない?」

 

「えぇ、そもそも、私達に通信で指示を出してくるのみで直接、顔を見たことはありません」

 

「え、そうなの?」

 

「はい、私達は指示通りに戦うだけです」

 

 頷いたZ23の表情からウソではないのだろう。

 

「指揮官が上から指示を出すことはありえるが……まさか、直接、顔を合わせていないとは……忍ではあるまいし、何を考えているのだ?」

 

「さぁ、こればかりは何も……」

 

 ここの指揮官、ローンメイルのことについて話をしていると見張り台のところへヘヴィがやってくる。

 

「遅くなりました」

 

「別に大丈夫。まだ、何の動きもない」

 

「そうですか、おや、キミは」

 

「駆逐艦Z23と申します」

 

「礼儀正しい挨拶をありがとう、俺はクローン・トルーパーのヘヴィだ」

 

 互いに挨拶を終えたところでヘヴィがこちらをみる。

 

「その、ゼロ将軍……申し訳ない」

 

「へ?」

 

「あ(察し)」

 

「そういうことですか(察し)」

 

「ゼロ殿、骨だけは頑張って拾おう(察し)」

 

「え、なに!?何のこと!?」

 

「わけがわかりません」

 

 ヘヴィの謝罪に綾波達は哀れみの視線を向けて俺と話が読めないZ23が戸惑いの表情を浮かべた。

 

 直後、聞こえた爆音に俺は顔を上げる。

 

「将軍!ファイブスから連絡です」

 

「先に行くぞ」

 

 ヘヴィの報告を聞くと同時に見張り台から飛び降りて、そのまま爆発が起こった場所まで走る。

 

「え、ちょっと!?人間が何をして」

 

「ゼロはジェダイなのです。綾波も行くのです」

 

「メイドもご主人様の為に」

 

「戦いの時だ!」

 

 次々と見張り台から飛び降りる艦船達。

 

 あっという間に見張り台はZ23とヘヴィだけになる。

 

「な、なんなんですかぁ!?あの人たちはぁ」

 

「これが俺達の部隊のいつもの光景だ。ようこそ、アズールレーンへ」

 

「理解ができません」

 

 頭を抑える彼女の姿を見てヘヴィは苦笑しながらバイザーを被る。

 

 戦闘開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲撃を受けた場所は海岸沿いの場所だった。

 

 トルーパー達はブラスターを構えて襲撃してくる相手と戦っていた。

 

 少し遅れて到着したゼロは飛来するブラスターをライトセーバーで弾き飛ばす。

 

「大丈夫か?」

 

「将軍!」

 

「敵の姿は?」

 

「目視できません、いきなりブラスターの攻撃がはじまりました」

 

「そうか……ファイブス!先陣を切る、着いてきてくれるか?」

 

「どこへだってついていきますよ!」

 

 ブラスターを構えながら答えるファイブスにゼロは笑みを浮かべながら他へ指示を飛ばす。

 

「俺とファイブス、他数名が敵の姿を確認するために先陣をきる!他は敵の姿を確認次第、迎撃をしてくれ!夜だからガンシップによる援護はない!最悪、固定砲台による狙撃を依頼することになる。不用意に前にでないように!」

 

「了解!」

 

「行こう」

 

「はい!」

 

 ファイブスと他のクローン数名と共に闇夜の中へ踏み込む。

 

「レーダーに反応もありません」

 

「いや、確実にこの闇の中に紛れている。レーダーをジャミングする機能があるのかもしれない……っ!」

 

 暗闇の中で何かが輝くとともにブラスターの光弾が迫った。

 

 ライトセーバーを起動して光弾を弾き飛ばす。

 

「来るぞ!」

 

 構えるトルーパー達の前にぞろぞろとシャドーピープルが現れる。

 

 潜水服のようなものを纏った彼らはブラスターを手にぞろぞろと姿を見せてきた。

 

 あっという間にゼロ達の前に三十人程の敵が現れる。

 

「おいおい、こんなに現れるのかよ」

 

「可能な限り数を減らして後退するぞ」

 

「ここらで叩き潰してやりましょうよ!?」

 

「いや、無駄撃ちはなしだ」

 

「どうしてです!?」

 

 戸惑うトルーパーにゼロは短く「後で話す」と伝えながら近づいてきたシャドーピープルのブラスターと体を切り裂く。

 

 悲鳴を上げて地面へ倒れるシャドーピープルと入れ替わる形で別の敵が現れる。

 

「こいつら、どんだけいるんだ……っ」

 

 ファイブスが悪態をつきながらブラスターで敵を狙撃していた時、地面が揺れだす。

 

「なんだ!?」

 

「全員!後退準備だ!」

 

 揺れを察知したゼロの指示でファイブス達は基地まで後退していく。

 

「おいおい、こんなものまであるのかよ!?」

 

「ミミズの化け物だ!」

 

 トルーパーの一人が悪態をついた。

 

 地面の中から現れたのは細長いミミズを連想させるような機動兵器。

 

 先端に機関銃がついており、そこから弾丸が撃たれる。

 

「がぁ!?」

 

「ドロップが負傷した!」

 

「俺のことはかまうな!」

 

「バカ野郎!兄弟を見捨てるかよ!」

 

 負傷したトルーパーの腕をゼロが掴んでずるずると引っ張っていく。

 

「このままじゃ、ハチの巣だぞ!?」

 

 トルーパー達の横を白い影が通過する。

 

「悪」

 

 走る彼女は腰の刀を構えた。

 

「即」

 

 ブンと暗闇の中で刀が煌めく。

 

「斬!」

 

 一刀によってミミズのような機動兵器は両断される。

 

 切断箇所から爆発を起こして倒れる機動兵器。

 

 その傍で高雄は刀を一振り。

 

「また、つまらぬものを斬ってしまった」

 

 ため息を零す高雄。

 

「やべ、俺、惚れそう」

 

 トルーパーの一人がぽつりと漏らす。

 

「高雄」

 

「ゼロ殿の読みが当たったわけでござるな」

 

「悲しいことにな」

 

「他の部隊は?」

 

「念のため、周囲の警戒をしてもらっている。ここにいるトルーパーと、まぁ、俺達で撃退することになるな」

 

「そうか……この程度なら、拙者たちだけで十分であろう?」

 

 次々と現れるシャドーピープルと機動兵器の数を確認しながら不敵な笑みを浮かべる高雄。

 

 ゼロは静かに頷く。

 

「むしろ、過剰戦力だと思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何なんですか!?あの人たちは!」

 

 Z23は今までの淡々とした態度から一転して目を見開いて叫んでいる。

 

 艤装を展開して攻撃できるようにしてはいるが、それすら無駄に終わりそうだった。

 

 連携を取っているトルーパー達、ブラスターが通用しないとわかると実弾入りの武器で戦っている。

 

 クローン・トルーパーヘヴィは二丁拳銃型の武器を使用して、シェフィールドと絶妙な連携でシャドーピープルを倒していく。

 

 艦船の高雄は軍刀を片手に走りながら次々と機動兵器を両断していた。その動きは洗練された一振りの刀をイメージさせられる。

 

 何よりZ23が驚いたのは誰よりも先陣をきり、青く輝く剣を片手にシャドーピープルや機動兵器を誰よりも多く、一番速く倒している男。

 

 彼らの指揮官であり、ジェダイの騎士。

 

 ゼロと呼ばれていた男によってあっという間にシャドーピープルの数が減少している。

 

 今までの自分達の戦いが何だったのかと言いたくなるような状況だ。

 

「綾波も」

 

「え!?」

 

 大型のブレードを構えながら駆け出そうとしている綾波の姿を見て戸惑いながらも彼女は後を追いかけていく。

 

 不思議と悪い気分はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘開始から三時間ほどでシャドーピープルのすべてを撃退したゼロ達。

 

 残骸などは調査の為、基地に配備されているヒヨコ型の謎生物、饅頭たちが回収してくれる。

 

「へっくし!」

 

「大丈夫か?ゼロ殿」

 

「いやぁ、夜だと冷えるなぁ」

 

 ライトセーバーを腰に戻しながら周囲へ確認を取る。

 

 負傷した兵士はいるものの死傷者は0というのは最高の結果だろう。

 

「ご主人様、夜は冷えます。温めないと、ここはひと肌が一番、良いと言われます」

 

 背後から寄り添ってくるベルファストをやんわりと回避しながらトルーパー達へ指示を出す。

 

「敵の姿がないか、念のため周囲の警戒は続けてくれ。一時間して何もない場合は三時間後に交代で監視を行う。すまないが、もうしばらく付き合ってくれ」

 

「了解!」

 

 答えるトルーパー達の姿にゼロは頷いた。

 

「おい、俺のイブ!」

 

 周囲を警戒していたところで、こちらへやってくるZ1の姿に気付いた。

 

「Z1、どうしたの?」

 

「シュペーが目を覚ました。お前に会いたがっている。一緒に来てくれ」

 

「あぁ、わかった、ファイブス!ここを頼んでいいかい?」

 

「お任せください!」

 

 ファイブスが拳を握り締めて答えたのを確認してゼロは彼女と共にその場を離れる。

 

 

 



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番外編 ゼロが記憶喪失になったら

番外編を書いてみました。
微エロかな?

アンケートはじめました。

もう少し、暴走したかったけれど、抑えました。


 突然だが、任務中に事故でゼロが記憶喪失になった。

 

「明石、指揮官殿の様子はどうだ?」

 

「命に別状はないにゃ、ただ、頭に衝撃を受けたことが原因で一時的な記憶喪失になっているみたいにゃ」

 

「それは、すぐに戻るのかしら?」

 

 心配そうに尋ねる愛宕の言葉に明石はなんともいえない表情を浮かべる。

 

「正直いって、怪しいにゃ、明日に戻るかもしれないし、一生戻らないかもしれないにゃ」

 

「つまるところ、様子を見るしかないという事か……」

 

 高雄の言葉に執務室は沈黙が広がる。

 

 ふと、ヘヴィが周囲をみた。

 

「おい、赤城の姿がないぞ?」

 

 場に沈黙が走る。

 

 数秒後。

 

「あの駄狐!やりやがったわね!」

 

 御淑やかなお姉さんはどこにいったのか激昂しながら外に飛び出す愛宕。

 

「将軍のいる部屋に向かおう」

 

「それしかあるまい」

 

 ため息を吐きながら高雄とヘヴィも後に続いた。

 

 そして、目的の部屋にたどり着いた時、そこには爆撃された痕跡と地面に倒れている翔鶴の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロは私が守るから!」

 

「えっと、ありがとう……その」

 

 瑞鶴に手を引かれて外に出ているゼロ。

 

 記憶を失っているので目の前の相手が誰なのかわからない。

 

「私は五航戦の瑞鶴!ゼロを守るために頑張るから!」

 

「えっと、ゼロっていうのは俺の名前?」

 

「うん!」

 

 戸惑いながら尋ねるゼロに瑞鶴は迷うことなく答える。

 

「えっと、さっきの髪の長い人は?」

 

「翔鶴姉は……その、疲れているから、気にしないで(言えるわけないよ!翔鶴姉がゼロにウソの記憶を植え込もうとしていたから背後から爆撃しちゃったけど、生きているよね?大丈夫、多分、メイビー)」

 

「瑞鶴さん?」

 

 考え込んでいた瑞鶴にゼロが声をかける。

 

「あ、ごめん、なに?」

 

「えっと、俺のことを教えてくれます?後は……その、瑞鶴さんと俺の関係とか」

 

「瑞鶴でいいよ、えっと、私とゼロは」

 

 その時、瑞鶴の頭にある天啓が流れこむ。

 

 内容は。

 

――ここでゼロにあることないこと、吹き込んでおけばその関係が実現するのでは(悪魔のささやき)

 

 瑞鶴はゼロに好意を持っている。しかし、その好意は家族に対して持つようなものどまり?で今のところある為、翔鶴のように「私達は結婚を約束した関係なんです。フフフ、これで先輩の悔しがる顔がみられます」なんて企みをしていた姉ほどではない。決して。

しかし、一瞬、浮かんだ天啓をすぐに振り払えるほど、瑞鶴は清らかな少女ではない。

 

「瑞鶴さん?」

 

「私とゼロは……」

 

 しばらく葛藤したのち。

 

「私とゼロは兄妹のような関係だよ!」

 

 自分の願望を少し満たすことにした。

 

「兄妹?」

 

「血の繋がりとかはないよ。でも、それより強い絆で結ばれているんだ!」

 

「へぇ、血が繋がっていないとはいえ、キミみたいな可愛い子が妹なら、嬉しいだろうな」

 

 

――可愛い子が妹なら嬉しい。

 

 

――可愛い子が妹なら嬉しい。

 

 

――可愛い子が妹なら嬉しい。

 

 

――可愛い子が妹なら嬉しい。

 

 

――可愛い子が妹なら嬉しい。

 

 

――可愛い子が妹なら嬉しい。

 

 

――可愛い子が妹なら嬉しい。

 

 

 瑞鶴の脳内で繰り返される言葉。

 

 その時間、僅か五秒。

 

「あれ?」

 

「ねぇ、今の、もう一回」

 

 目を見開きながらゆっくりと瑞鶴が手を伸ばした時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたわよ、五航戦」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 底冷えする低い声にゼロと瑞鶴は空を見る。

 

「全く、油断も隙もないわねぇ、私のゼロ様を拉致するなんてぇ」

 

 笑みを浮かべながらも瞳は全く笑っていない赤城。

 

「あの人、宙に浮いているんですけど」

 

「赤城先輩ならあれくらいできて当然だよ!」

 

「えっと、知り合い?」

 

「あぁ、悲しい、赤城のことを忘れてしまっているというのは本当らしいですね、でも、大丈夫ですわぁ、この赤城が手取り足取り、記憶が戻らなくても赤城がゼロ様を支えますわ」

 

「えっと、瑞鶴さん、あの人と俺って」

 

「少なくとも赤城先輩の、今の赤城先輩の言葉は真に受けちゃ駄目!」

 

「あらぁ、酷いことを言うわね、そもそも、貴方も信用できるのかしらぁ?」

 

「私はゼロを守る!例え、相手が一航戦の先輩であろうと」

 

 そこで瑞鶴は気づいた。

 

 目の前にいるのは赤城一人。

 

 赤城の傍には常に加賀がいた。

 

 その姿の見えない彼女は今どこに?

 

 疑問を浮かべた直後、彼女の耳は艦載機のプロペラ音を捉える。

 

「まさか!」

 

「ほぉ、気付いたか、だが、手遅れだ!」

 

「でかい狐!?」

 

 衝撃と共に現れるのは白く巨大な狐。

 

 瑞鶴が覚えているのは振り下ろされる巨大な前足だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロ様、目を覚まされたようですね」

 

 むくりと体を起こそうとするゼロを赤城はやんわりと抑える。

 

「えっと、貴方は?」

 

「あぁ、そんな他人行儀な態度を取らないでくださいな。私は赤城、貴方の妻ですわ」

 

「つ、妻?」

 

 突然の発言に目を点にするゼロ。

 

 尖った耳をピコピコ揺らしながら赤城は頷く。

 

「えぇ、将来と誓い合っている仲です。まだ、ちゃんとした契りを交わせてはおりませんけれど」

 

 悲しむように着物の袖でよよよと泣くようなそぶりを見せる赤城にゼロはあたふたする。

 

「えっと、その、ごめん、急に記憶を失って」

 

「あぁ、お気になさらず、ゼロ様が悪いわけではございません。悪いのはゼロ様へ砲撃を行ったセイレーンですわ。ふふふ、その場にいなかったことがとても悔やまれます。えぇ、血祭りにあげられなかったことが」

 

 ふふふ、うふふふと不気味に笑う赤城。

 

 幸運なことにゼロは考えていて気付かなかった。

 

「えっと、赤城さん」

 

「赤城で構いませんわ。もしくはおまえと呼んでも」

 

「じゃあ、赤城、その聞きたいことがあって」

 

「何でしょうか?何でもおっしゃってください」

 

「えっと、俺とキミのなれそめって?」

 

 落ち着いたことでゼロは気になっていた。

 

「俺みたいな奴とキミみたいな美女がどうやって知り合えたのかなって」

 

 

――美女がどうやって知り合えたのかなって。

 

 

 ゼロから紡がれた言葉は弾丸となって赤城の心臓をぶち抜いた。

 

 頭の中でゼロの言葉でエコーする美女。

 

 頬を赤く染めて嬉しそうな表情を浮かべる赤城。

 

 後ろの尾がぶんぶんと揺れていた。

 

「あのぉ、赤城?」

 

「はぁい!何でしょうか?」

 

「いや、あの……ここって、どこ?」

 

「私と貴方の愛の巣ですわ」

 

「いや、木造建築で小屋みたいだけど……それに瑞鶴はどこに」

 

「ゼ・ロ・様」

 

 顔を近づけてくる赤城、その目に光はない。

 

「私と貴方しかいないのに他のムシの話などしませんように」

 

「えっと、はい?」

 

 赤城の言葉に渋々という形だがゼロは頷くしかなかった。

 

「さぁ、まずは体を清めませんと、服を脱いでください」

 

 笑顔で告げられた言葉にゼロはえ?と首を傾けるしかなかった。

 

 首をかしげていたゼロへ覆いかぶさるように飛び掛かって来る赤城。

 

 反応する暇もないまま、服を脱がされてしまう。

 

 あっという間にお互いが全裸になっていた。

 

「いや、あの、いきなりすぎて、何が何やらで」

 

「すべては赤城に任せてくださいな。ゼロ様は赤城の目をみて愛を囁いてもらえれば良いのですよ」

 

「いや、でも、俺は記憶喪失でいきなりこういうことは」

 

「それとも」

 

 赤城は瞳を潤ませながらこちらをみつめてくる。

 

「赤城のことは、お嫌いですか?」

 

「いや、待ってほしい」

 

 ゼロはやんわりと赤城を抑える。

 

「俺は記憶を失っているんだ。その、キミとそういうことをするにしても、ちゃんと思い出してからの方が」

 

「ふぅ、仕方ありませんわね」

 

「ふぇ?」

 

 言葉を発しようとしたところで舌が上手く回らなくなる。

 

 体が痺れたことを理解した時。

 

「記憶を失っているからこそ、重要なのですよ」

 

 笑顔を浮かべながらゼロの腹部の上へ跨る赤城。

 

 赤城の尾がゼロの両手足を拘束した。

 

「今ならより、強く、深く、他の娘達よりも深くつながることができる……この時を逃すつもりはありませんわぁ。さぁ、ゼロ様、今こそ、私と」

 

 微笑みながら赤城はゼロに口づけを落とす。

 

「深くつながりあいましょうね」

 

「させないです」

 

 壁を壊して赤城へ振り下ろされる刃。

 

 赤城は着物を瞬時に纏うとゼロを確保しようとする。

 

 しかし、乱入者が一足早く、ゼロを抱きかかえた。

 

「えっと、キミは?」

 

 突然のことにゼロは乱入者へ尋ねる。

 

「大丈夫、です」

 

 聞こえた声にゼロは不思議と落ち着いた。

 

「綾波がゼロのことを守るのです!」

 

 大型ブレードを片手に、もう片方にゼロを守るようにしながら駆逐艦の綾波が宣言する。

 

「赤城、貴方にゼロは渡さないのです」

 

「小賢しい……そもそも、貴方、自分の欲望の通りに行動しないのかしら?」

 

「その必要はないのです。綾波はゼロの相棒なのです。相棒を守ることが綾波のやることなのです」

 

「フフ、忠犬として立派かもしれませんが女としては駄目駄目ですね」

 

「何とでもいうのです。ゼロを困らせることは許さないのです」

 

「困らせるとは心外な。赤城は指揮官様の幸せを第一に考えております。つまること、赤城と一緒にいれば不幸なことはなないのですよ」

 

「だとしても、今のゼロが記憶喪失なのを良いことに好き勝手していいわけではないのです」

 

 にらみ合う綾波と赤城。

 

「えっと、二人とも」

 

 

「「潰す!」」

 

 ゼロが止める暇もないまま、二人は戦いを始める。

 

 戦闘の余波にゼロは巻き込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「申し訳ないのです。ゼロ」

 

「ゼロ様ぁ、赤城が看病しますわぁ」

 

 しゅんとうなだれる綾波と赤城に板挟みされる形でゼロは看病を受けていた。

 

 記憶が戻ったゼロだが、怪我は大きく、入院する必要がある。

 

「そういえば、加賀の姿が……なかったような?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。

 

 寝静まっている時間。

 

「チュ、ジュル、チュゥゥゥゥゥ」

 

 赤城と綾波のいない病室、そこでゼロは加賀の襲撃を受けていた。

 

 意識のないゼロの上へ覆いかぶさってキスをしている加賀。

 

 怪我の為に本番はできないものの、赤城の為に奮闘したがご褒美がなかったことでこうして夜這いに近いことをしている。

 

「ふぅ、もっとだ、もっとだ」

 

 寝ているゼロはその日、全裸の加賀に貪り食われる夢をみたそうな。

 



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寒冷の戦場編 温かい手

アンケート協力ありがとうございます。

もうしばらく続けますが、ベルファストの投票率が凄い。

みんな、メイドが大好きなんだろうなぁ、じゃあ、鉄血好きが反撃してくることを願って。





 保護した子が目を覚ましたという事でゼロは部屋の扉をノックする。

 

「入っていいよ」

 

 相手からの了承を得たことを確認してゼロは中へ入る。

 

「貴方……」

 

「目を覚ましたみたいだね」

 

「ジェダイの人」

 

 アドミラル・グラーフ・シュペーの言葉にゼロは苦笑した。

 

「そうだね、改めて名乗らせてくれ。俺はゼロ、ジェダイの騎士だ」

 

「名前は聞いたことがある。強い人、だよね?」

 

「どうだろうな、世間でジェダイは強いといわれるが、所詮は人だ……弱いところもある」

 

「驚いた」

 

 彼女は目を丸くしてゼロをみる。

 

「私の知っているジェダイはそんなこと言わない……話したこともないけれど」

 

 笑みを浮かべながらゼロは彼女の腕を見る。

 

「その艤装、着けたままなんだな」

 

「戦うために存在しているから、着けていることは当然でしょう?」

 

 真顔で答える彼女の言葉にゼロは一瞬、悲しそうな表情を浮かべる。

 

 シュペーが目を瞬いている間に悲しみの表情が消えた。

 

「そうだね、ここは戦場だ。でも、今のキミは療養中だろう?だったら、その腕は取らないと」

 

「あ」

 

 シュペーが抵抗する暇もないまま、ゼロによって真っ赤な爪のようなパーツが外される。

 

 その中から現れるのは細い手、腕はとても白く肌はツヤツヤだ。

 

「これは戦うための艤装だろうけれど、何だ、綺麗な手をしているじゃないか」

 

「そんなことない、この手は戦うためのものだもの」

 

 視線を逸らしたシュペーだが、ゼロが手を伸ばして彼女の手を握り締める。

 

「あ」

 

 手を握り締めるゼロ。

 

 姉とは違う手の感覚にシュペーは戸惑いの表情を浮かべた。

 

「(ゴツゴツしているけれど、何だろう?温かくて……安心できる?)」

 

 ゼロの手の温もりを感じていたシュペー。

 

 少ししてゼロが手を離す。

 

「あ」

 

 名残惜しいのか、悲しそうな表情を浮かべるシュペー。

 

「どうした?」

 

「何でもない……」

 

 今の感情に戸惑う彼女だが、ゼロは気づかない。

 

「シュペー、目を覚ましたって!なんでアンタがいるのよ!」

 

 室内に姉であるドイッチュラントが入ってくる。

 

 彼女はゼロの姿に気付くと睨んできた。

 

「彼女が目を覚ましたと聞いてね、異常がないか見に来たんだ」

 

「余計なお世話よ!」

 

「お姉ちゃん……そんなこといわないで、ゼロは私を助けてくれたんだから」

 

「うっ、わ、わかったわ」

 

 妹に言われてしまえば邪険にすることもできない。

 

 ドイッチュラントは妹に甘かった。

 

「良いこと!余計なことをすれば容赦なく鞭を振り下ろすわよ!」

 

 怖いことを言いながら後ろへ下がるドイッチュラント。

 

「ゼロはジェダイなんだよね?」

 

「あぁ、こうみえて、ジェダイ歴は普通だ」

 

「自慢することじゃないでしょ」

 

 呆れたようにため息を吐くドイッチュラント。

 

 シュペーは不思議そうに尋ねる。

 

「ジェダイの騎士って何をするの?」

 

「何を、か……世界の平和を守るために活動する集団かな」

 

「平和を守るの?」

 

「まぁね」

 

「その割には反乱を起こしかねないことをしているじゃない」

 

 目を合わせないようにしながら呟いたドイッチュラントの言葉はきつい。

 

 同じジェダイとして申し訳ない気持ちになる。

 

「申し訳ない、同じジェダイとして謝罪……をしたところで、意味がないか」

 

「フン!わかっているじゃない!」

 

「このことは評議会、いや、マスターヨーダに伝えておく。まずはそれでよいだろうか?」

 

「それで、この基地が崩壊しても私は知らないわ」

 

「お姉ちゃん……」

 

「うぅ、わかったわ、静かにしている」

 

 お口チャックするような行動をとるドイッチュラント。

 

 本当に妹の前だと大人しくなるらしい。

 

「ごめんね、ゼロ。お姉ちゃんが」

 

「大丈夫、気にしていないよ……そもそも、ここのジェダイがちゃんとしていれば、問題のなかったこと……だったのかな」

 

「どうだろうね。鉄血の艦隊の皆、個性的だから」

 

 そういうシュペーも個性的だけど、という言葉は飲み込む。

 

 こちらを探るようにじぃっと見つめてくるシュペーと目が合う。

 

「ごめん」

 

「ゼロは優しいね」

 

「え?」

 

 シュペーが立ち上がるとそのまま抱き着いてくる。

 

「なっ!」

 

 目を見開いて立ち上がろうとするドイッチュラントだが、シュペーに注意されるかもしれないと自制心を働かせて堪えた。

 

「それに、何だろう、温かい……」

 

「あははは」

 

 目を細めて頬をすりよせてくるシュペーにゼロはなんともいえない表情を浮かべている。

 

 ドイッチュラントが何かをすれば殺すと目で訴えていた。

 

 いや、銃らしきものをこちらへ向けている。

 

 何かをすれば確実に撃つ。

 

 フォースなどなくても理解できた。

 

「あぁあああ!何をしているんだ!お前ぇえええ!」

 

 開いていたドアからZ1が雄叫びを上げて入って来る。

 

 ズンズンと靴音を鳴らしながら彼女はゼロとシュペーを引き剥がす。

 

「あ、まだ、満足していなかったのに」

 

「ふざけんな!オレのイブに手を出すなよ!ほら、行くぞ!」

 

 腕を掴まれてゼロは彼女と一緒に出ていく。

 

「お姉ちゃん」

 

「どうしたの?」

 

「私、ゼロが欲しくなった」

 

「…………は!?」

 

 一瞬、理解が遅れたドイッチュラント。

 

 理解をした瞬間、限界まで彼女は目を見開いて殺意を滾らせる。

 

「あの野郎、許さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのぉ、Z1さん?」

 

 ゼロは個室のベッドに押し倒されていた。

 

 理解が追いついていないゼロにZ1は不敵な笑顔を浮かべている。

 

「悲しいぞ、オレのイブぅ、まさか目の前で浮気をされるとはなぁ……悲しくて、悲しくて、お前を食べなければ気が済まない!」

 

「落ち着こう!お願いだから!今、戦時中だから!」

 

 冷や汗を流しながら抵抗を試みるゼロ。

 

 Z1は不敵な笑みを浮かべながら顔を近づけてくる。

 

「戦時中、戦時中だぁ、関係ねぇよ。お前はもうオレのイブなんだよ。こんなところで横から他の奴にかっさらわれてたまるかよ」

 

 舌なめずりしながらZ1が頬にキスを落とす。

 

 続けて、キスをしながらゆっくりとゼロの唇を舌で舐めていく。

 

「チュル……ふふ、ゼロ、お前の唇はおいしいなぁ」

 

 妖艶な笑みを浮かべる美少女。

 

 見た目は小柄なだが、その体つきのわりにスタイルの良い彼女の猛攻が続く。

 

「れ、レーベ、これ以上は……」

 

「あぁ、そうだな」

 

 彼女のキスで意識が朦朧とし始めているゼロをみて、ズボンのベルトを外して、そのままずりおろす。

 

「なにを……」

 

「オレが気付いていないと思ったかぁ?お前は複数の女と体を重ねているだろう」

 

「それは……」

 

「こんなことで、Z1様が遅れるなどあってたまるかよ!だから、これから短い時間だが肌を重ねよう。それに、ここは暖房の調子が悪いみたいだからなぁ」

 

 服を脱いで全裸となるレーベ。

 

 抵抗しようとするゼロだが、いつの間にか彼女によって頭の上で両手を拘束されていた。

 

「あれ、いつの間に……」

 

「イブ、いや、ゼロはさぁ、艦船相手だと本当に不用心だよなぁ、ま、そんなところが可愛いんだけどよぉ」

 

「くっ」

 

 起き上がろうとしたところでZ1に口をふさがれてしまう。

 

 抵抗する暇もないまま、口内を蹂躙され、彼女の片手がそのままゼロの体をぺたぺたと触れていく。

 

 そして、下腹部のそれに触れる。

 

「ハハッ、この程度だが、オレに反応してくれるのは素敵だぜ」

 

 耳元で囁いてくる彼女にゼロの意識が段々と落ちていく。

 

 

 

――また、これだ。

 

 

 

 ゼロは艦船に襲われるとどういうわけか意識が朦朧としてしまう。

 

 理由はわからないけれど、艦船相手になると自分の防御が極端に落ちてしまうのだ。

 

 まるで呪い。

 

 至った考えを払いのける様に頭を振る。

 

「へぇ、まだ、抗うのか?」

 

 今の行動がZ1に抵抗しようとしている風にみえたのだろう。

 

 ゼロの耳元へ顔を近づけながら舌でぺろぺろと舐めていく。

 

「うぅ、レーベ、お願いだ、やめてほしい」

 

 一旦、動きが止まってZ1と目が合う。

 

 にぃと笑みを浮かべる。

 

「嫌だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひ、酷い目にあった」

 

 あの後、二回戦、三回戦と続けていき、永遠に続くと思われた行為も時間になったことで引き下がってくれたZ1によって解放される。

 

 また今度、休みの時にでも、と耳元で囁かれた言葉が脳裏から離れない。

 

「しかし、これは修業が足りないのだろうか?」

 

 艦船を前にすると抵抗力というか、そういうものがなくなってしまう。

 

 ジェダイとしてもっと修行しなければならないという事なのか、それとも指揮官適性とやらの問題なのかわからない。

 

「部屋で休む」

 

「いた!ゼロ!」

 

「うん?」

 

 部屋に戻ろうとしたところで瑞鶴に呼び止められた。

 

 あっちこっち走ってきたのだろうか、額に少し汗が浮かんでいる。

 

「どうしたんだ?」

 

「えっと、その、これからご飯食べよう!」

 

「……ご飯か」

 

 そういえば、まだ食べていなかったな。

 

「いいぞ」

 

「うん!(やったぁ)」

 

 キラキラと目に見えるくらい笑顔を浮かべる彼女の姿に俺は笑みを浮かべてしまう。

 

 ここのところ、元気がなかったようだが、吹っ切れたのかな?

 

 瑞鶴と一緒に食堂へ入る。

 

 そこで、問題が。

 

「あれ、終わっている!?」

 

「どうやら、誰もいないな」

 

「えぇ!?折角、ゼロとご飯を食べられると思ったのにぃい!」

 

 余程、楽しみにしていたのだろう。

 

 目に見えるくらい落ち込んでいる瑞鶴を見ていると哀れに感じてしまった。

 

「瑞鶴、少し待っていろ」

 

 俺は食堂の中へ入る。

 

 具材はある。

 

 後でどの具材を使ったか報告すればいいだろう。

 

「そこで待っていてくれるか」

 

「え?」

 

「誰もいないし、俺が料理するよ。お腹空いているんだろう?」

 

「……ゼロの手料理?嬉しい!!」

 

「まぁ、男料理だが」

 

「楽しみ!」

 

 どこにあったのか両手にナイフとフォークを手にして笑顔を浮かべる瑞鶴。

 

 楽しみにしてくれるのならやる気を出してみるか。

 

 適当な具材を用意して十五分程度。

 

「ほい、男料理のペペロンチーノだ」

 

「おぉ!おいしそう!」

 

 嬉しそうに瑞鶴はペペノンチーノを食べる。

 

 もぐもぐと食べたところでさらにキラキラと目を輝かせた。

 

「おいしい!」

 

「そ、そうか……」

 

「ゼロって、重桜出身だけど、他の国の料理が作れるんだね」

 

「ん?まぁ、ジェダイで各地を転々としていたからな。自炊しないといけないから、酷いことは三日間、サバイバル生活もあったしなぁ」

 

「ジェダイって過酷なんだ」

 

「まぁな、少し前はもっと厳しい規則が一杯だったしな」

 

「規則?」

 

「あぁ、恋愛すら禁止だったからな」

 

「えぇ!?」

 

「誰かを愛すれば、それを失う事に恐れ、執着してしまう。そういう感情はフォースの暗黒面へつながる危険があるからと禁止されていた」

 

「そうなんだ……ねぇ」

 

「うん?」

 

「ゼロは、その、誰かを本気で愛した事とか、ある?」

 

「……どうだろうな?ジェダイの訓練や戦争のことばっかりで考えたこともないよ。質問を返すようで悪いけれど、瑞鶴は?」

 

「ある」

 

「へぇ」

 

 意外だ。

 

 鍛錬大好きな瑞鶴にそういう相手がいたことに。

 

「気付いていないんだ」

 

「え?」

 

 身近の誰かにいるのか?

 

 本気で困惑していることに気付いたのか、瑞鶴がため息を零しながら立ち上がって、こちらへやってくる。

 

「えっと、その」

 

「どうした?」

 

「ゼロ!」

 

「うん」

 

 意を決したような表情で瑞鶴がこちらをみてくる。

 

「私」

 

「良い香り」

 

「「うぉう!?」」

 

 横から聞こえた第三者の声に俺と瑞鶴は離れる。

 

 席から立ち上がった俺達を不思議そうに見ているのは。

 

「しゅ、シュペー?」

 

「うん、そうだよ。ゼロ」

 

 ニコリとこちらへ笑顔を浮かべているアドミラル・グラーフ・シュペー。

 

「安静にしていないといけないんじゃ?」

 

「もう大丈夫、医療ドロイドからオーケーはもらった。艤装を纏うことは許されていないけれど」

 

 その割には両手に赤くて大きな艤装はついているんですね、と口に出さない。

 

「それより、これは?」

 

「あぁ、俺が作った料理だけど」

 

「……食べていい?」

 

「食べ残りだぞ?」

 

「お腹空いたの、いただくね」

 

 シュペーはそういうと置いてある俺の皿のペペロンチーノへ手を伸ばす。

 

 目を開いて嬉しそうに食べた。

 

「おいしい」

 

「あり合わせで作ったんだが、そういってもらえると嬉しいな」

 

「毎日、私の為に作って」

 

「なっ!?」

 

 驚きの声を上げる瑞鶴の横でぐいっと近づいてくるシュペー。

 

「近くないか?」

 

「そんなことない、もっと近づきたい」

 

「汗かいているから勘弁してくれ」

 

「ちぇっ」

 

 本当に残念そうな表情を浮かべる彼女は空になった皿をみて、俺をみる。

 

「また、ご飯、食べさせてくれる?」

 

「言ってくれれば」

 

「嬉しい、楽しみにしているね」

 

 ひらひらと赤い艤装の手を振って食堂から出ていくシュペー。

 

 さっきから思うんだが、異様に懐かれているな。

 

「ゼロ!」

 

 振り返ると頬を膨らませている瑞鶴がいる。

 

 小動物みたいで可愛いなんて、思っていない。

 

「さっきの、こ、告白じゃない」

 

「はぁ?」

 

 首をかしげる俺の前でぶんぶんと腕を振り回す瑞鶴。

 

「いや、何が?ただ、ご飯を食べさせてくれっていっただけだろう?」

 

「私の為にって言っていたでしょ!?あれ、重桜じゃ、告白も同然なんだから」

 

「そうだったか?」

 

 小さい頃から重桜で艦船に囲まれていたから世俗に疎いのかもしれない。

 

 まぁ、でも。

 

「向こうは重桜出身じゃないし、そう思っていないだろう?ただ、お腹がすいたら食べさせてくれってことさ」

 

「絶対、違うと思うんだけどなぁ」

 

「はぁ、食べたら眠たくなってきたな。俺は部屋に戻るぞ」

 

「え、あ、うん、おやすみ」

 

「おやすみ」

 

 瑞鶴へそういって俺は部屋へ戻る。

 

「駄目だ、このままじゃ、ゼロがとられちゃう。もっと、もっと頑張らないと!」

 

 




おや?瑞鶴の様子が?


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番外編 ベルファストと結婚式?

アンケートの結果、ベルファストが一位になりました。


いや、メイドの力おそるべし。

感想欲しい。


 エディンバラ級二番艦ベルファスト、ロイヤルに所属するメイドでありメイド長を務めている。

 

 何事も完ぺきにこなすパーフェクトメイドであり、多くのメイドから慕われ、頼りにされている女性。

 

 そんな彼女は今、艦船とクローンが共に戦うアズールレーンの部隊に所属している。

 

 クイーン・エリザベスに仕えていたが今はジェダイ・ナイト ゼロの専属メイドとして活動。彼を支え、彼と共に生きたいと望んでいる。

 

 そんな彼女、ベルファストの朝は早い。

 

 ドロイドを除く誰よりも早く起きるとシャワーを浴びて、愛用している仕事着であるメイド服を身に纏う。

 

 鏡で身だしなみをチェックして問題ないことを確認して、外に繋がるドアへ向かう。

 

 室内には自分の姉であるエディンバラが眠っているので起こさないように静かに出ていく。

 

 朝日の差し込まない時間なので基地内はとても静かで、ドロイドはおろか、トルーパーの姿もない。

 

 ベルファストが目的の部屋にたどり着くと扉の前に一体のドロイドが待機していた。

 

「ごきげんよう、R3さん」

 

 彼女の存在気付いて起動するR3は電子音を小さく鳴らして挨拶する。

 

 彼は護衛だ。

 

 この部屋の主がゆっくりと休める様にかつ正面から邪魔虫が来ないように追い払う役目を請け負っている。加えてベルファストの恋敵になりそうな人物をピックアップするという取引をしていた。

 

 

「ご主人様に近づいた者は?」

 

 ベルファストの問いかけにR3は映像を投影する。

 

 やはりというべきか、いつもの面々であることを確認してベルファストは笑顔を浮かべる。

 

 彼女達であれば、ご主人様である彼が奪われる心配は低い、何より、一人は恋というものすら理解していないのだ。慌てて行動に移す必要はないと今のところ安心した。

 

 自身の不注意で繋がってしまった艦船もいる。可能な限り、御主人を守らなければならないとベルファストは考えていた。

 

 何より、これ以上、リードされることは彼女にとって赦すことのできない事態である。

 

「ありがとうございます。これが報酬です」

 

 R3へ最新式のバッテリーを差し出すベルファスト。

 

 満足したようにバッテリーを収納する彼の姿を確認して、室内の扉をノックする。

 

 早朝なので当然のことながら相手からの応答はない。

 

 入室前にもう一度、身だしなみを確認してベルファストは中に入る。

 

 室内は必要最低限の家具しか置かれていない。

 

 引き出し付きのタンスの上に置かれているのは彼の命ともいうべきライトセーバー。

 

 質素なベッドの上に寝ているのは彼女が心の底から愛している人。

 

「ベルファストか」

 

 彼女の視線に気づいていつものように彼が目を開ける。

 

 愛しい人と目があってベルファストは嬉しそうに目を細めた。

 

 今のところ、この寝起きの彼の姿を見れる人物は限られている。その特権を持っていることが嬉しく思う。

 

「おはようございます。ゼロ様」

 

「……おはよう、ベルファスト、おかしいな」

 

「どうされました?」

 

「俺の記憶が確かなら外に護衛としてR3がいた筈だが」

 

「いえ、誰もおりませんでしたわ」

 

「また、襲われたか、逃げたかのどっちか」

 

 ため息を吐きながらゼロは体を起こす。

 

 すかさずベルファストが着替えの準備を始めようとする。

 

「いいよ、自分で出来る」

 

「ご主人様」

 

 呆れたようにベルファストが視線を向ける。

 

「ご主人様の起きるところから就寝までがベルファストの務め、何より全てを手伝うことの為にメイドはおります」

 

「何度も言うが俺はメイドを雇った覚えはないんだけど」

 

「つれないことを言わないでください。私は貴方に身も心も捧げる所存でございます」

 

「……はぁ」

 

 何度もやり取りを重ねている言葉である。

 

 ベルファストは既に処女をゼロへ捧げている。

 

 受け取ってしまったゼロは言葉で否定はしているが強く拒絶はできない。

 

 彼は誰にでも優しい。

 

 そのことを知っているからこそ、ベルファストはアタックを続けている。

 

 ゼロがいつか諦めて全てを自分へ差し出してくれる日を待っていた。

 

 その時は絶頂による絶頂で幸せな毎日を過ごす予定である。

 

「わかった、今日はおとなしく任せるから」

 

「普段から大人しくしてくれることを願いますわ」

 

「無理だね」

 

 肩をすくめるゼロへベルファストは手を伸ばす。

 

「念のため、言っておくけれど、変なところは触らないでね」

 

 警告にベルファストは笑顔で答える。

 

 実のところ、隙あらば触れるつもりでいたのだが、釘を刺されてしまう。

 

 ジェダイは鋭い。

 

 ベルファストは内心、舌を巻いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベルファストは本来ロイヤルのトップ、クイーン・エリザベスのメイド隊の一員である。

 

 そのため、本来ならばロイヤルのために行動をしなければならない。

 

 だが、クイーン・エリザベスの指示で彼女はジェダイであるゼロのメイドとして活動している。

 

「では、このように」

 

 ベルファストはクイーン・エリザベスの手紙を書き終えるとR3へ差し出す。

 

 引き受けたR3が去っていくのを見送ってベルファストはゼロが勤務の為に使用している司令室へ向かう。

 

 司令室へ向かうとゼロが立体映像のジェダイマスターと話をしていた。

 

 真剣な様子から何かあったのだろうと察したベルファストは傍で待機する。

 

「では、その件は俺が対処します。これは俺がやるべきことでしょうから」

 

『その方が良いかもしれんの。では、ゼロよ、援軍は必要かな?』

 

「いえ、俺と」

 

 ちらりとゼロがベルファストをみる。

 

 目があったベルファストは柔和な笑顔を浮かべる。

 

 肩をすくめながらゼロはヨーダと向き合う。

 

「彼女がいれば、なんとかなるでしょう」

 

『そうか、では、今回の事態を任せるとしよう』

 

「わかりました」

 

『フォースと共にあらんことを、ヨーダ通信終わり』

 

「フォースと共にあらんことを、ゼロ通信終わり」

 

 通信が終えてジェダイマスターの姿が消える。

 

 全貌はわからないが彼はベルファストを必要としていた。

 

 その事実が理解できて彼女は内心笑顔を浮かべる。

 

 彼の役に立てる。

 

「ご主人様、何でもメイドのベルファストへ仰ってください」

 

 ロイヤル式の挨拶をしてゼロへベルファストは告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、ご主人様」

 

 覚悟はある、決意も揺らぎもない。

 

「何だ?ベルファスト」

 

「流石にこれは、恥ずかしいのですが」

 

 表情はいつもより戸惑いを浮かべて、心臓はバクバクと爆発寸前くらいの音をたてている。

 

「実のところ、俺も恥ずかしい、だが、こうでもしないと、犯人たちをおびき出せない」

 

「ですが……私のも心の準備というものが」

 

 動揺を隠せていないベルファストは珍しい。

 

 だが、ゼロも自身を落ち着かせるために少しばかり余裕がなかった。

 

 二人は白い純白の衣装をまとっている。

 

 ウェディングドレス姿のベルファストと白いタキシード姿のゼロ。

 

 街中を人身売買の組織が暗躍しているという報告を受けた。

 

 本来であれば都市防衛を目的とした組織の仕事なのだが、クローン戦争の影響でそこまで手が回らないらしい。

 

「それだけなら、ご主人様が動く必要はないのでは?」

 

「理由があるんだよ。それより、落ち着いたか?」

 

「はい、ですが、なぜ、この格好を?」

 

 まさかのウェディングドレスを自分が着て、愛しい人と一緒に歩くことになるという事態に戸惑っていたベルファスト、メイド長であることを意識してなんとか落ち着かせた。

 

「人身売買のほとんどが新婚の女性らしい……盗む奴の趣味を疑うね」

 

 ゼロは呆れながら白いスーツの裾を触る。

 

「しかし、まさか、私がこのような格好をするとは」

 

「似合っているけど?」

 

「嬉しいですが、そういうことは本番で言ってほしいものです、えぇ、本番で」

 

「本番はないね、あくまで囮だから」

 

 ゼロの言葉にベルファストは頬を膨らませる。

 

「一応、確認ですが、私が断れば誰かに話をするつもりでしたか?」

 

「うん?いや、考えていなかったかな」

 

「そうなのですか?」

 

「だってさ」

 

 続けてゼロが告げた言葉にベルファストは自らの心臓が大きく震えたような気がした。

 

「ベルファストは協力してくれるって信じているからさ」

 

「メイドには勿体ない言葉です」

 

 笑みを浮かべるベルファストと共に結婚式場内を歩き始める。

 

 直後、室内の明りが消えた。

 

「もう少し味合わせてくれてもよかったものを」

 

「こういうところの空気は読んでくれないんだろうね」

 

 直後に灯る明り。

 

 こちらへ銃を向ける武装集団の姿があった。

 

「そこまでだ、ジェダイ!」

 

「どうやらゼロ様のことがバレていたようですね」

 

「まぁ、予想はしていたよ」

 

「殺せ!女は生け捕りだ」

 

 ため息を零しながらゼロはタキシードの中に仕込んでいた自身のライトセーバーを起動。

 

 飛来する光弾を叩き落す。

 

 ベルファストは白いウェディング姿ながら近付いて敵へキックを振るう。

 

「何だよ、この女!?」

 

「護身術はメイドのたしなみでございます」

 

 笑顔を浮かべるベルファスト。

 

 ゼロはライトセーバーを構えながら武装集団を無力化させていく。

 

「本当、頼りになるメイドだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっさりと事件が解決したことに俺は驚きだよ」

 

 翌日、ゼロが休憩室で先日の事件についてアナキンと話をしていた。

 

『それだけ早期解決が求められていたという事だろう?』

 

 通信機越しのアナキンは笑顔を浮かべる。

 

「そうだけど、さぁ」

 

『話に聞いたが、ウェディングドレスをメイドが着たそうじゃないか、感想を教えてくれよ』

 

「浮気か?」

 

『まさか、お前が彼女にどんな感想を抱いたのか知りたいだけだ』

 

「どんな感想だって?」

 

 ゼロは置かれているドリンクを手に取る。

 

「悪いけれど、美しい以外に思いつかなかったよ」

 

「それは嬉しいことを聞きました」

 

 後ろから聞こえた声にゼロは振り返る。

 

 ベルファストが笑顔を浮かべていた。

 

「では、これからもっと、私の美しさを理解してもらいましょう」

 

「あぁ、アニー?」

 

『本当の結婚式をやるときはぜひとも呼んでくれ』

 

「ありがとうございます、その時はぜひともアナキン様もパドメ様もいらっしゃって下さい」

 

 笑顔を浮かべるベルファスト。

 

 冷や汗を流しながら逃げようとするゼロだが、やんわりと肩を掴まれて逃げられない。

 

「では、その前に愛を確かめにいきましょう、ゼロ様」

 

「じゃ、通信はこれで」

 

 ぶつりとベルファストの手によって通信がきられて、ゼロは部屋に連行される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キミ、服を脱がすの早くなっていない?」

 

「ゼロ様は抵抗を諦めてくれると嬉しいです」

 

「嫌だなぁ」

 

 笑顔を浮かべるベルファストにゼロは抵抗する暇もないまま貪られるようなキスをされていく。

 

「本当に結婚というものに憧れますわ」

 

「体験はしたじゃない」

 

「体験です。ですが、本当にというわけではありません、何より、我々は艦船、人の形はしていますが」

 

 続きを言う前にゼロが体を起こして彼女の唇をふさぐ。

 

「頼む、そういうことは言わないでくれ」

 

「これは失礼しました。ですが、嬉しい誤算です」

 

「え?」

 

「貴方からキスをしてもらいました」

 

「それは」

 

「なので、このまま本番にいっても構いませんよね?」

 

「ちょ」

 

 抵抗する暇もないまま、ベルファストの体がゼロへ覆いかぶさっていく。

 

「チュッ、チュッ、フフッ、今日は素直ですね」

 

「抵抗しても無駄だというのなら早急な終了を求めた方がいいのかなと」

 

「フフッ、そのまますべてをゆだねてくれたらよいのです」

 

「そうしたら?」

 

「二人だけの素敵な夫婦生活などがありますが?」

 

「今は遠慮しておこうかな。戦争中だし」

 

「フフッ」

 

 ベルファストが笑顔を浮かべながらゼロにキスを落とす。

 

「今はその言葉で逃げることを許しておきます。でも、いつかは本当の気持ちを吐き出してもらいますよ」

 

「そんなことは」

 

 逃げようとしたところでゼロのモノが深くベルファストと交わっている。

 

 互いにピークになっていく。

 

「ゼ、ゼロ様」

 

 頬を赤く染めながらゼロへ顔を近づいていく。

 

 ベルファストの熱のこもった視線とゼロの目が合う。

 

「お慕い、しております。私は、貴方のことを心の底から」

 

 ロイヤルや、陛下の為ではない。

 

 自分の気持ちをベルファストはぶつけていく。

 

 その気持ちはとても強く、深く、入ったら抜け出せない深い愛。

 

 握り締めている手が強く、強く絡まっていく。

 

「心の底から愛しております」

 

 果てる瞬間、ベルファストは思いを吐き出してゼロへキスをした。

 

 

 

 



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番外編 とあるマスターの教え

さらりとゲームのキャラが登場。

はぁ、やりたいなぁ。


 

 

 

「なんだ?」

 

 いつもの報告を終えてゼロが基地の通路を歩いていると大量のドロイド達が逃げる様に去っていく姿へ遭遇する。

 

「あぁ、R3、それにR2もどうしたんだ?」

 

 慌てて逃げている中にゼロとアナキンのパートナーのアストロメクドロイドの姿があった。

 

 キャタピラで逃げる様に慌てている姿にゼロは首をかしげる。

 

 体を左右に揺らして説明しようとしていたが何かに気付いて、R3は去っていく。

 

「ん?」

 

 角からふらふらと現れるのは一人のKAN-SEN。

 

 金髪をツインテールにして天辺で跳ねるアホ毛。

 

 とろんとした表情でふらふらと歩いていたがこちらの姿を見つけると信じられない速度で近づいてくる。

 

「ゼロ、抱っこ」

 

「エルドリッジ、元気そうだな」

 

 やってきたのはユニオンのKAN-SEN エルドリッジだ。

 

 KAN-SENにしては電気を発する力を有しており、抱き着かれるとビリビリしてしまう。

 

「抱っこして」

 

「いいけど」

 

 ビリビリと全身に電気が走りながらもゼロはエルドリッジを抱き上げる。

 

 目を細めて嬉しそうにしながら小さな手がぺたぺたとゼロの頬を触った。

 

「?」

 

 嬉しそうにほほ笑むエルドリッジを抱えながら彼女の部屋へ連れていくことにした。

 

「ゼロ、一緒に寝よう?」

 

「いや、俺はまだやることがあるんだ。悪いけれど」

 

「いやだ」

 

 短くエルドリッジは拒絶するとゼロの体に抱き着いてしっかり離れない。

 

 見た目は幼いが彼女もKAN-SEN。

 

 その力はジェダイすらも逃れられない。

 

「頼むから我儘をいわないでくれないか?」

 

「ゼロ、休んでいない」

 

「そんなことはないよ。ジェダイだから鍛えているし」

 

「心が疲弊している」

 

 エルドリッジのアホ毛がぴょこぴょこ揺れながらこちらを見つめる。

 

 普段はのんびりした様子の少女だが、今は真剣な表情をしていた。

 

「わかった、俺の負けだ……今日の仕事はやめて休むよ」

 

「そうして欲しい、ゼロ、エルドリッジと一緒に休む」

 

「勘弁してほしいんだが」

 

「駄目」

 

 ぴしゃりと否定されてゼロはエルドリッジと横になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「何か、体の疲れが取れた気分だ」

 

 体の各所を動かしながらゼロは通路を歩いていた。

 

 そんな彼の前にR3が姿を見せる。

 

「お前、何も言わずに逃げるってどうなんだ?」

 

 ゼロの言葉に体を左右に揺らして猛抗議してくるR3。

 

「逃げたのには理由があるっていいたいのか?」

 

 体を縦に揺らすR3。

 

「まぁいいや、俺は訓練室にいるから何かあれば知らせてくれるか?」

 

 了承した電子音を鳴らすR3を確認してゼロは訓練室へ入る。

 

 室内は誰もおらず、訓練に集中できそうだ。

 

 システムを起動して訓練のためにライトセーバーを構える。

 

「おや、先客がいたか」

 

「マスタータパル、久しぶりです」

 

 ジャロ・タパル。

 

 守護者と呼ばれているジェダイであり、ダブルブレード・ライトセーバーの使い手である。

 

 遠方の土地でパダワンとクローン・トルーパーを率いて戦っていた。

 

 戦況が落ち着いてきた為、報告も兼ねて評議会へ戻ってきたのだろう。

 

「どうだ、久しぶりに手合わせしないか?」

 

「それは嬉しい提案ですね!是非」

 

「ジェダイの守護者と呼ばれる私と剣聖と言われるお前の実力、みせてもらおうか」

 

「剣聖なんて恐れ多い、ただのナイトにそんな称号はいりませんよ」

 

 構える青のライトセーバー。

 

「ふふ、謙遜はいらぬぞ。さぁ、はじめよう」

 

 ライトセーバーを構えてゼロは走り出す。

 

 振るわれる刃をタパルは冷静に受け流す。

 

 距離を取ろうとしたところでタパルのライトセーバーが煌めく。

 

 ギリギリのところでゼロは躱しつつ、反撃の為に一撃を振るう。

 

 バチンと火花が散りながらタパルとゼロのライトセーバーがぶつかりあった。

 

「最前線で戦うジェダイだけであるな。中々の腕だ」

 

「そういいながら冷静にすべてを受け流している貴方は流石だ、守護者と言われるのも納得ですよ」

 

「フォースを信じるのだ。若きジェダイよ。フォースが全てを教えてくれる」

 

「仰る通りです」

 

 二人は同時にライトセーバーを仕舞って懐へ戻す。

 

 しばらくして、扉が開いてエルドリッジが入って来る。

 

「ゼロ、見つけた」

 

 エルドリッジはゆっくりと二人の傍へ駆け寄って来る。

 

「エルドリッジ、ここは危ない。次からは外にいるR3に」

 

「誰も、いなかったよ」

 

「え?」

 

 ぽかんとするゼロにエルドリッジはこてんと頭を横へ傾ける。

 

 エルドリッジの瞳からウソをついているようにみえなかった。

 

「どういうことだ?」

 

「おそらく、その娘から放たれる電気エネルギーが原因ではないか?」

 

「電気エネルギー?」

 

 ゼロの言葉にタパルが推測を述べる。

 

「その娘、常時、電気を放っているのだろう?ドロイドは優秀とはいえ、精密機器だ。強い電流を浴びればシステムに影響を及ぼす。そのことからドロイドはこの娘から遠ざかっているのではないだろうか?」

 

「つまり、エルドリッジはドロイドの天敵?」

 

「おそらくな」

 

「エルドリッジ、恐ろしい?」

 

「それは違う」

 

 ゼロは微笑みながらエルドリッジの頭を撫でる。

 

 バチバチと掌に静電気のようなものが走るも、笑顔を浮かべた。

 

「エルドリッジの力は守るものだ。それがたまたま、ドロイド達に悪影響を及ぼしてしまうだけだ」

 

「エルドリッジは悪い子、じゃない?」

 

「当然だ。素直で優しいエルドリッジが悪い子なら世界中の子はみんな悪い子だよ」

 

「エルドリッジ、ゼロのお嫁さんになれる?」

 

「えっと、まぁ、もう少し成長したら、かな?」

 

 幼女の見た目をしているエルドリッジ。

 

 仮に結婚ということになっても、今の姿では色々と問題があると指摘を受けるだろう。

 

 勿論、ゼロは結婚ということは考えていない。

 

 子供のお約束という程度の認識なのだ。

 

「エルドリッジ、頑張る」

 

「不用意な発言はせぬ方がいいぞ?」

 

「え?」

 

 タパルの言葉にゼロは戸惑いの声を漏らす。

 

「頑張る」

 

 力拳を作ってアホ毛がぴょんぴょんと跳ねる彼女の姿にタパルの言葉の意味を理解する。

 

「幼い子ほど純粋だ。不用意な発言をすれば、どこかで痛い目をみるぞ?」

 

「今、身に染みたところです」

 

「精進が必要だな、若きジェダイ」

 

「そうしますよ、マスター」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスタータパル、これからは?」

 

「オーダーが入っている。移動にかなりの時間が掛かるので道中はパダワンの修行に集中しようと思う」

 

「マスタータパルに指導されるんだから、優秀なジェダイになりますね」

 

「若いが素質はある。機会があれば、会ってほしい」

 

「え、俺、ですか?」

 

 タパルの言葉に驚くゼロ。

 

 ゼロはジェダイ評議会で変わり者といわれている。加えて、過去のことから若いジェダイに誤解されている。

 

 少し前の鉄血領土の近くで起きた事件も誤解を加速させている原因の一つだ。

 

「その、マスタータパルも知っていると思いますが……俺は」

 

「過去に縛られることは良くないぞ、ゼロ」

 

 諭すように話すマスタータパルの目はゼロのことを案じていた。

 

「お前は強い、フォースも、ライトセーバーの技量も、だが、心が時々、不安定になる。それはおそらく、あの時の出来事がお前に深い傷を残しているのだろう、忘れろとはいわない。乗り越えろということも厳しいのだろう、だが、そのことに囚われ続けることは暗黒面の誘いになる。強くなるのだ。ゼロ」

 

「……ありがとうございます。マスタータパル」

 

「そうだ、お前もいつか弟子を取るといい」

 

「勘弁してください。俺に弟子を育てるのは無理ですよ」

 

「どうかな?案外、素質があるかもしれんぞ?」

 

「まさか」

 

 肩をすくめながら分かれ道にぶつかる。

 

「では、俺はこっちですので」

 

「あぁ……ゼロよ」

 

「はい」

 

 呼ばれて振り返るゼロ。

 

「フォースと共にあらんことを」

 

 マスタータパルからの言葉にゼロは頷いた。

 

「マスター、貴方もフォースと共にあらんことを」

 

 

 

 



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寒冷の戦場編 憤慨する兵士

連続投稿です。

次回で寒冷の戦場編は終わる予定です。


「シャドーピープルとの戦争が開始して三日が過ぎたわけだが」

 

「敵は行動を変えるという考えがないのか?」

 

 トルーパー達は夜闇に紛れて現れてくるシャドーピープル達へブラスターを撃つ。

 

 初日、二日は警戒を強めていたのだが、三日目になると行動が単調すぎて、逆に呆れてしまう。

 

 同じような行動ばかりとってくるのである。警戒しろというのがアホらしく思えてしまう。

 

「油断はするな。将軍は敵が現れた常に警戒せよと指示を出していただろう!」

 

 ヘヴィが雑談をしているトルーパーへ渇を入れながらブラスターピストルを撃つ。

 

「空気が緩んできていますね」

 

「三日も同じことを繰り返す相手と戦っていれば……こうなることは仕方ない。この基地の兵士は経験も少ないようだ」

 

 バイザー越しでヘヴィは置かれているバズーカを構えて撃つ。

 

 砲弾がミミズ型の機動兵器に直撃して爆発を起こした。

 

「良き腕です」

 

「ありがとう……しかし」

 

 ヘヴィは後ろを見る。

 

 少し離れた基地。

 

 そこからこちらを監視するように見ている一人のジェダイ。

 

 腕を組みながらこちらへ参加する様子も指示をすることもない。

 

「ジェダイ一人で、こうも違うものなのでしょうか?」

 

 シェフィールドの言葉にヘヴィはなんともいえない表情をバイザーの中で浮かべた。

 

 彼が知っているジェダイ達は戦線へ誰よりも飛び出して、仲間達と共に戦っていく。

 

 今までとかけ離れたジェダイのタイプにヘヴィは内心、戸惑っている。

 

「どうだろうな、ゼロ将軍、スカイウォーカー将軍、ケノービ将軍は我々のことを考えてくれている。ローメイル将軍は三人とも違う。よくわからないというのが本音だな」

 

「撤退していきますね」

 

 シェフィールドの瞳は去っていくシャドーピープルの姿をみながら呟いた。

 

「ゼロ将軍の予想していた通りだな……」

 

 ため息を零しながらブラスターピストルをホルダーへ仕舞う。

 

「しばらく周囲の警戒だ。シェフィ、休んでくれて構わないぞ?」

 

「私はメイドです。主と決めた人の傍に付き従います」

 

「そうか……俺の休憩は三時間後なのだが?」

 

「構いません」

 

 ロイヤル式の挨拶をする彼女の姿にヘヴィは両手を挙げて降参する。

 

 彼女に敵いそうにない。

 

 仲間のトルーパーへ指示を出しながらヘヴィはシャドーピープルが去っていった方向をみる。

 

「将軍、無茶はしないでください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、敵は逃げたわけで」

 

「行くのです?」

 

 暗視スコープで逃げていくシャドーピープルの姿を確認しているゼロへ綾波が問いかける。

 

「そうだな、行こう」

 

 二人はジェダイ用の戦闘機へ乗り込む。

 

 ゼロが腰かけるとその上へ載って来る綾波。

 

 からかいの電子文を送って来るR3。

 

「どうしたのです?」

 

「気にするな……あの、綾波さん、どうして同行を」

 

「綾波は相棒です。必ずついていくのです」

 

 フンス!と拳を作る綾波。

 

 これ以上は言っても無駄であると学習しているゼロは戦闘機を起動させる。

 

「一応、レーダーにひっかからない様に対策はされているが……慎重にいきますか」

 

 操縦桿を握り締めて戦闘機が低空飛行で逃げているシャドーピープルを尾行する。

 

 事前に整備の担当者へお願いして、調整をしてもらっているので見つからない筈。

 

 ゼロがどうして彼らを追いかけているのか、それはシャドーピープルを完全に叩き潰すためである。

 

 ジェダイ騎士、ローンメイルは動こうとしないのでゼロと彼の仲間達は徹底抗戦の構えを取ることにしていた。

 

「あそこが敵の拠点なのです?」

 

「そうみたいだ」

 

 シャドーピープル達は廃墟になっている施設の中へ入っていく。

 

 あそこが彼らの拠点なのだろう。

 

「戻るのです?」

 

「そうだな、あ?」

 

「む?」

 

 旋回したところで急に戦闘機のシステムがシャットダウンした。

 

「R3!どうした!?」

 

 悲鳴を上げながらR3が叫ぶが戦闘機の画面はブラックアウトしたままである。

 

「待て待て待て、この停止は困る」

 

 即座にゼロは側面の基盤をこじ開ける。

 

 配線の一つを切り替えて、別の部分を弄る。

 

 バチバチと配線同士の火花を散らして反応を伺うが、戦闘機が再起動する様子はない。

 

「あぁ、まずい、まずいぞ」

 

「えい」

 

 慌てるゼロの横で綾波が正面のパネルを拳で叩く。

 

 バチン!と大きな音を立てながら戦闘機が再起動。

 

 後部のイオンエンジンが変な音を立てながら噴き出す。

 

「くっ!」

 

 操縦桿を掴んで戦闘機を上昇させようとするが少し遅かった。

 

 地面をガリガリガリと削りながら戦闘機の両翼が音を立てて千切れていく。

 

「不時着なのです?」

 

「まぁ、そんな感じかな」

 

 コックピットを無理やり開けながら尋ねてくる綾波にゼロは肩をすくめるしかなかった。

 

 一足先に脱出して雪まみれになったR3がため息の電子音を吐く。

 

「でも、どうして急に機能停止したのです?」

 

「まぁ、調べてみないことにはわからんが仕込まれたのかも」

 

「誰がそんなことをするのです?」

 

 雪の景色を見ながら。

 

「少なくとも、仲間のクローンや艦船達ではないと思う……考えられるのは」

 

 そこから先の言葉をゼロは飲み込む。

 

「ゼロ?」

 

「いや、確証のないことを話しても仕方ない……とにかく、基地へ戻ろう……この調子じゃ夜になる」

 

「へっくち!」

 

 綾波がくしゃみをしたのをみてゼロはジェダイローブで覆う。

 

 R3が電子音を鳴らしながら雪道を進みだす。

 

「こういう形でゼロと二人っきりというのは違いますけれど、嬉しいです」

 

「喜ばないでくれ」

 

 ローブの中で嬉しそうにほほ笑む綾波の姿に実はほっこり癒されながらもゼロは雪の道を歩いていく。

 

 R3はちらりと二人のやり取りを眺めながらレーダーで周囲を索敵しながら進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「将軍との連絡がとれなくなってもう二時間が過ぎている。捜索隊を出すべきだ!」

 

 ファイブスが格納庫にいるヘヴィ達へ訴える。

 

 彼の傍にはハードケースやZ1の姿があった。

 

 戦闘機でゼロと綾波が出ていって既に二時間。

 

 連絡が取れず、暗い空が基地の上空を覆い始めていた。

 

「今日の夜は吹雪だという予報が出ている。この基地の正面ゲート等全ての封鎖が決まった」

 

「決まったって、そんなの!」

 

 最後まで言うことをファイブスは躊躇う。

 

「あそこのスピーダーが使えるんじゃないのか?」

 

 ハードケースがシートで隠されているスノースピーダーを指さす。

 

「残念ながら低温措置が間に合っていません」

 

 Z23の指摘にハードケースは言葉を詰まらせる。

 

 夜になればガンシップの飛行は不可能。

 

「何もできないのかよ!なぁ!」

 

 悔し気にZ1は拳を壁に叩きつけた。

 

 めり込む壁の音が室内に響く。

 

 ハードケースが尚も言いつのろうとしたところでファイブスが止めた。

 

「何で止めた!?」

 

 格納庫を後にした基地内の通路でハードケースがファイブスへ詰め寄る。

 

「このままじゃ、ゼロ将軍は凍死しちまう!あんな素晴らしい人を失うなんて俺は耐えられない!」

 

「わかっている、ヘヴィもそれは同じだ」

 

 ため息を零しながらファイブスは思い出す。

 

 報告を告げていたヘヴィの手は血がでそうになるほど握り締めていたことをファイブスは見抜いていた。

 

 付き合いが長い戦友であり、ゼロのことをクローンの中で一番、信頼している彼が辛いことを理解している。

 

 だが、このままではゼロの生死にかかわってしまう。

 

「イッチ!ニー!サン!シ!」

 

 通路の外で体操をしているZ1の姿が目に入る。

 

「おい、何をしているんだ?」

 

「あ?イブを探しに行く」

 

「はぁ!?」

 

「おい、この基地は」

 

「もうまもなくゲートが封鎖されるだろうな。だが、この程度の寒さで鉄血の艦隊は止まらんぞ!何より」

 

 拳を握り締めるZ1。

 

「オレの大事なイブを見捨てるなんてこと、できるかよ!」

 

 覚悟を秘めた彼女の目にファイブスやハードケースは言葉を失う。

 

 それほどまでに彼女の血に圧倒された。

 

「探そう」

 

 ファイブスがぽつりと呟く。

 

「将軍と綾波を探そう」

 

「しかし、部隊は」

 

「俺達だけで探す。寒冷地仕様になっていないがスピーダーバイクがある。エンジンが凍り付くのが先か、俺達が将軍を見つけ出すか……時間との勝負だ」

 

「チップはオレ達の命!」

 

「そういうことか、いいねぇ、やる気でるぜ!」

 

 ハードケースが拳を打ち鳴らす。

 

「行こう、将軍の為に」

 

 ファイブスが拳を前に出す。

 

「将軍の為に」

 

 ハードケースが拳をぶつける。

 

「イブの為に」

 

 Z1が拳をぶつけた。

 

 三人が拳をぶつけ合い頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吹雪いて来たな」

 

 綾波をローブの中で隠しながらゼロは進む。

 

 R3が困惑の電子音を鳴らす中で綾波が顔を上げた。

 

「ゼロ、大丈夫、です?」

 

「そろそろ、どこかでビバークすることを考えないといけないだろうな」

 

「基地はみえないのです?」

 

「駄目だな、少し先が真っ白だ」

 

「……綾波達、どうなるのです?」

 

「まぁ、悪いことは考えないようにしよう、そういうことは考えれば考えるほど、事態はその通りに行くからな」

 

「まるで、そうなったことがあるみたいな言い方です」

 

「経験者は語るという奴だ。昔、ジェダイマスターと一緒に雪国へいった時に、まぁ、それはひどい目にあったんだよ。雪男みたいな怪物に襲われるし、雪崩は起きるわ、とにかく散々な目にあっていた」

 

「酷い話です」

 

 ゼロのローブの中で綾波が苦笑する。

 

「寒くないか?」

 

「大丈夫です、ゼロが温かいです」

 

「おいおい、俺はカイロじゃねぇぞ」

 

「くす」

 

 小さく微笑む綾波。

 

 ゼロは笑みを浮かべながら意識を集中させる。

 

 フォースの力を借りながらみえない道を進む。

 

 今のままでは確実に二人とも凍死してしまう。

 

 綾波はフネだが、体は人間と同じものだ。

 

 徐々に弱っている以上、放っておけない。

 

 何より。

 

「(死なせない)」

 

 ゼロはより意識を集中させる。

 

「(目の前で救える命を見捨てるなんてことはしない。絶対に)」

 

 あの日に誓ったことを自らに言い聞かせる。

 

 足に絡みついてくる雪にもたつきそうになりながらゼロは歩みを止めない。

 

 その時、ゼロの通信端末に連絡が入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、吹雪いて来たぞ!」

 

「このままじゃ、俺達も二次遭難って奴じゃねぇのか!?」

 

「知るか!このまま突き進め!」

 

「俺の頭を叩くな、チビ!」

 

「誰がチビだ!」

 

 ハードケースと騒ぐZ1のやり取りを聞きながらファイブスはレーダーの生体反応へ注意しながら通信機に呼びかける。

 

「ゼロ将軍、綾波、聞こえますか?」

 

 通信機に応答はない。

 

「ゼロ将軍、綾波、聞こえますか?こちらファイブス、この通信が聞こえたらすぐに応答をしてください」

 

 このままでは自分達の命も危なくなる。

 

 スピーダーの速度を上げようとした時。

 

『通信、聞こえているよ!こんなところで会うなんて奇遇だね』

 

 聞こえた声にファイブスはヘルメットの中で笑みを浮かべる。

 

 ファイブスがハンドサインでハードケース達に発見したことを伝える。

 

「すぐに向かいます」

 

『頼む、足が冷たくて感覚がなくなってきたよ』

 

 

 

「将軍が無事でよかったですよ」

 

 数分後、ファイブス達のスピーダーバイクに乗っているゼロ、綾波、R3の姿があった。

 

「キミ達がこなければ、俺と綾波は雪道の上で氷漬けになっていたよ」

 

「綾波はゼロと一緒でよかったのです」

 

「ケッ!イブはオレのだからな!」

 

「俺の後ろは騒がしいぜ」

 

 ハードケースが悪態をついた。

 

 ファイブスは苦笑している横でゼロが小声で話しかける。

 

「ファイブス、俺の乗っていた戦闘機は細工されていた」

 

「え!?」

 

「小さな声で」

 

 ゼロに言われてファイブスは頷く。

 

「色々と気になるところはあるけれど、今回の任務、色々と裏があるかもしれない」

 

「ただのテロリスト撃退ではないってことですか?」

 

「その可能性はあるかもね……はぁ、マスターヨーダの采配を今度から警戒しないといけないかなぁ」

 

 ため息を吐くゼロの言葉を聞きながらファイブスはスピーダーバイクの速度を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様ら、どういうつもりだ!」

 

 ゼロ達が基地の格納庫へ到着すると武装したクローンと怒り心頭のローンメイルが待っていた。

 

「彼らを責めないでくれるかな?俺を助けるために無茶をしたんだ」

 

「フン」

 

 怒鳴るローンメイルはゼロを睨む。

 

「貴様がクローンで私の部下だったら迷わずに処刑していたところだ」

 

「物騒な指揮官だな」

 

「お前みたいな自由人に言われたくないな」

 

「何だと!」

 

 我慢できないという風にハードケースが叫ぶ。

 

「ゼロ将軍が来なければ、シャドーピープルに苦戦していた癖に!」

 

「苦戦?この基地はあくまで防衛線の維持だ。撃退は指示にない」

 

「指示にないことはしないというのですか!?」

 

 驚きを隠せないファイブスにローンメイルは答えない。

 

「お前達が私の部下であれば罰則だったのだが、これ以上、よそ者が好き勝手するなら評議会に連絡して出て行ってもらうからな!」

 

 警告を飛ばしながらローンメイルは去っていった。

 

「ま、怒られたけれど、キミ達には感謝しているよ」

 

「イブ!」

 

 我慢できないという風にZ1が抱き着いてくる。

 

 不意打ちにバランスを崩したゼロの上に覆いかぶさるとそのままキスをしてきた。

 

 抵抗する暇もないまま、唇をむさぼろうとした。

 

「ムム!ゼロから離れるのです!」

 

 気付いた綾波が顔を真っ赤にしながら引き剥がした。

 

「けっ、次は二人っきりだぜ」

 

 耳元で囁きながらZ1が離れる。

 

「あぁ、後、悪いんだけど、ヘヴィに」

 

 最後まで言う前にゼロはそのまま地面へ倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここにいたのですね」

 

 武器庫。

 

 ヘヴィはそこで武器の手入れをしていた。

 

 そんな彼に声をかけるのはシェフィールド。

 

 彼女の姿をちらりと一瞥した後、ヘヴィは武器の手入れを再開する。

 

「自らの武器の手入れをすることは素晴らしいですが、扱いが少し乱暴ですね」

 

「……」

 

「ゼロ将軍へお会いにならないのですか?」

 

「俺は」

 

 言葉を詰まらせるヘヴィをみてシェフィールドはため息を零す。

 

「あの時の判断は間違っていません。将軍がいない場合、部隊の責任者は貴方になる。あの時、全体を守ることは大事でした」

 

「だとしても……俺は将軍を見捨てることを決めたんだ。それが」

 

 ヘヴィは苦悩に顔を歪めていた。

 

 兵士として引き上げてくれたゼロに恩がある。勿論、それだけではない。

 

 共に戦場を駆け抜けて上司と部下というだけの関係ではない固い絆がある。

 

 アナキン・スカイウォーカーとキャプテン レックスのようなもの。

 

 だが、今回の件はその絆を踏みつぶしてしまうようなものにヘヴィは感じていた。

 

「呆れました」

 

 シェフィールドのため息にヘヴィは顔を上げる。

 

「長い期間、共に戦っていながら、あの人のことをわかっていないのですか?」

 

「それは……」

 

「私からみて――」

 

「ヘヴィ!」

 

 部屋に慌てた様子のエコーがやって来る。

 

「ゼロ将軍が倒れた!」

 

 気付けばヘヴィは外に飛び出していた。

 

「ツンデレ、ですか?全く」

 

 呆れながらシェフィールドは後を追いかける。

 

 残されたエコーも後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今は麻酔が効いていて眠っています」

 

 ヘヴィ達が部屋に入ろうとすると熱湯の容器を持ったベルファストと遭遇する。

 

「それで、将軍の様態は……」

 

「軽い凍傷です。今は体を温めて休んでもらっています」

 

「そう、か」

 

「中へ入りますか?」

 

「いや、今はいい」

 

 首を振りながらヘヴィは断る。

 

「おや?シェフィ、どうされたのですか?」

 

「変にこじらせているのです。将軍は気にしていないといっているのですが」

 

「あぁ、そういうことですか」

 

 シェフィールドの言葉にベルファストは理解する。

 

 ヘヴィは視線を悟られないようにバイザーを装着していた。

 

「嫉妬するわけではありませんが、もう少しヘヴィ様は余裕を持つべきだと思いますよ」

 

「余裕?」

 

「周りを見る目ですよ」

 

 首をかしげるヘヴィへベルファストは話す。

 

「ご主人様は一度、見捨てられたくらいで許す、許さないなんて考えませんよ。それよりも、出撃前に万全な状態だったはずの戦闘機がなぜ不時着することになったのか、その理由を探るべきだと思いますよ」

 

「それは」

 

「ここにいたのか」

 

「ローンメイル将軍」

 

 入口で話し込んでいた彼らの前に現れるのはこの基地の責任者。

 

 ローンメイルはヘヴィ達をみる。

 

「CT-782 お前達に任務だ」

 

「我々にですか?」

 

「そうだ、二回も言わせるな。シャドーピープルがトルーパーの武装を奪い、この基地へ襲撃を仕掛けようとしているらしい。お前達とこの基地のトルーパーはすぐに迎撃へ迎え」

 

「了解です」

 

 ローンメイルの指示にヘヴィは敬礼する。

 

 それに対してベルファストとシェフィールドの二人は警戒するようにローンメイルをみていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの将軍の命令というのはどうも納得がいかないな」

 

「ぼやくな、ハードケース。任務だから必要なことだ」

 

 悪態をついたハードケースをファイブスが嗜める。

 

「しかし、気持ちはわかる。俺達はゼロ将軍の部隊だ。あの若造の部下じゃないのに相変わらず偉そうにしていたらしいぞ?」

 

 頭に血が上りやすいハードケースに同意する形でエコーが頷く。

 

 彼らは武器を構えて隊列を組む。

 

 ヘヴィはバイザーを被りなおして指示を出す。

 

「出撃だ!」

 

 合図とともに進軍していくトルーパー達。

 

 ローンメイルの報告によれば、彼らの向かう先にトルーパーの装備に偽装したシャドーピープルがいるという。

 

 武器を構えて警戒しながら彼らは目的地へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い寒空の下。

 

 トルーパー達は隊列を崩さずに進んでいく。

 

 寒冷地ということでいつもの武装に加えて防寒対策を施しているものの、慣れない場所でいつも以上に彼らの疲労は蓄積される。

 

 それでも彼らは進む。

 

 命令を遂行するためにトルーパー達は目的地を目指す。

 

「いたぞ!」

 

 先に進んでいたトルーパー達が敵を発見する。

 

「構え、撃て!」

 

 合図とともに一斉にブラスターが火を噴く。

 

 それは相手も同じようで青色のブラスターの光線が反撃してくる。

 

「くそっ、同じ武装を使っているのかよ!」

 

「なんて奴らだ」

 

 悪態をつきながら攻撃の手を緩めない。

 

 攻撃はヘヴィ達側のトルーパーが優位に進んでいた。

 

 ヘヴィはブラスターピストルを構えながらゆっくりと敵を追い込もうとしていた。

 

 ふと、傍に倒れている敵トルーパーの姿が目に入る。

 

 何か、違和感があった。

 

 その理由はわからない、だが、今までゼロと共に戦場を駆け抜けてきた影響だろうか、倒れている敵兵士の何かが気になっている。

 

 ゆっくりとヘヴィは敵トルーパーのヘルメットを外す。

 

「これは!」

 

 信じられないものをみたヘヴィは動揺を隠せない。

 

 ふと、大きな爆音が耳に届く。

 

 ヘルメットを投げ捨ててヘヴィは戦闘の中心に立つ。

 

「やめろ!戦闘をやめるんだ!」

 

 両手を広げて戦闘をやめる様に叫ぶヘヴィ。

 

「ヘルメットを脱いで顔を見せるんだ!ここに敵はいない!敵はいないんだ!」

 

 訴えるヘヴィの言葉にトルーパー達は一人、また一人とヘルメットを外していく。

 

 素顔が明らかになると敵側も驚いたのかヘルメットを脱ぐ。

 

 敵側の素顔はクローンと同じもの。

 

「どういう……どうなっているんだ!?」

 

 信じられないという風にブラスターを投げ捨ててハードケースが叫ぶ。

 

 敵側も信じられない表情でブラスターを投げ捨てる。

 

「そっちの部隊の所属は!隊長は誰だ!」

 

「わ、我々は、た、隊長はワックサーです!」

 

「どこだ!」

 

 案内されてたどり着くとブラスターを腹部に受けて苦悶の声を上げているワックサーの姿があった。

 

「ワックサー!」

 

「キミはアズールレーンの、そうか、我々は兄弟と戦っていたなんて」

 

 信じられないという言葉を残しながらワックサーは息を引き取った。

 

 ヘヴィはワックサーの頬へ手を伸ばす。

 

「一体、何が起きているんだ!?」

 

 信じられないという声をトルーパーの一人が上げる。

 

「この作戦はローンメイル将軍が立案したものだ!武装を奪ったと報告してきたのもローンメイルだ!」

 

「ヘヴィ、どうするつもりだ?」

 

「どうする?」

 

 戸惑いの言葉を漏らすヘヴィ。

 

「そうだ、ローンメイル将軍の作戦で部隊に損害が出ている。彼の指揮下にいたら、部隊全滅もありうる」

 

「それは」

 

 ファイブスがヘヴィへ詰め寄る。

 

「俺達の知っているゼロ将軍は誰よりも仲間を失うことを嫌っていた。ローンメイルはそれをやらかしたんだ。何より、味方同士をぶつけるような作戦を立てている指揮官だ。拘束をしないと俺達以外にも被害が出るかもしれない。決めるのはお前だ」

 

「……ローンメイル将軍を更迭する」

 

 頷いたファイブス。

 

「ただし、これは俺の独断であり、部隊全員は関与していないものとする。よって何か罰が発生するとなれば、それは俺だけの責任であり、部下は関係ないものとする」

 

「いつの間にか堅苦しいこという様になりやがって、行こうぜ。兄弟」

 

「あぁ」

 

 ファイブスに肩を叩かれてヘヴィ達は基地へ向かう。

 

 

 



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寒冷の戦場編 雪の死闘

金曜日に最後のジェダイ、そして、スカイウォーカーの夜明が公開!いやぁ、不安ありますが楽しみで仕方ない。


今回でこの話は終了です。

そして、Z23ファンはごめんなさい、先に謝っておきます。


次回は番外編を挟んで、いよいよ重桜編です。


「綾波殿、大丈夫か?」

 

「問題ない、です」

 

 格納庫でトルーパー達の帰還を待つ綾波達。

 

 震えている彼女に気付いて高雄が声をかける。

 

「寒いのか?」

 

「違うのです」

 

 ふるふると首を振る綾波。

 

「何か、言葉にできないのですが、嫌な予感がするのです」

 

「嫌な予感?」

 

「はい、その、理由がわからないのですが」

 

 綾波の不安そうな表情に高雄は周囲を警戒する。

 

「怪しい類のものは感じられないのだが」

 

「……そう、ですが」

 

 言葉にできない何かが綾波の中を駆け巡っていた。

 

 おそらく不安という言葉で片づけられるものなのかもしれない。しかし、無視してはいけないという言葉が綾波の中で囁かれていた。

 

「綾波?本当に大丈夫?」

 

「……ゼロの様子を見てくるのです」

 

「え?でも、ホーネットが」

 

 瑞鶴も行きたい衝動にかられながらも綾波の後姿をみつめる。

 

「どうしたんだろ?」

 

「不安なのだろう、ゼロ殿はまだ意識を取り戻していないからな」

 

「そう、なのかな?」

 

 何か、いつもより綾波の元気がない。

 

 そんな風に瑞鶴はみえた。

 

 通路を歩く綾波。

 

 ゼロの寝ている部屋が近づくほどに彼女の不安が大きくなっていく。

 

 理由はわからない、誰かが急げと綾波の耳元で告げている。

 

 歩いていた足が段々と急ぎ足から駆け足になっていく。

 

 ゼロの扉の前に到着したところで綾波は異変に気付いた。

 

 ホーネットの姿がない。

 

「ホーネット?」

 

 綾波がきょろきょろと周囲を調べる。

 

 すぐ近くのドアが気になって綾波はゆっくりと中に入った。

 

「ホーネット!」

 

 一つの部屋の中に入ると気絶しているホーネットの姿があった。

 

 体を揺らして、呼吸を確認して安堵の息を吐く。

 

「気絶しているのです……でも」

 

 ホーネットがここで気絶しているのは何故か?

 

 その理由を考えたところで綾波はわき目も降らずにゼロが寝ている部屋の扉を開ける。

 

 そこではライトセーバーをゼロへ振り下ろそうとしているローンメイルの姿があった。

 

「っ!」

 

 振り下ろされるという瞬間、綾波は地上であるというのに海上と同じくらいの瞬発力を発揮して、大型ブレードで割り込む。

 

 火花を散らしてぶつかりあう大型ブレードと黄色のライトセーバー。

 

「何を、しているのです!!」

 

 叫びながらライトセーバーを弾き飛ばす。

 

 ローンメイルに大型ブレードの先を向ける綾波。

 

「もう一度、聞くのです。貴方は何をしようとしていたのですか?」

 

 ニヤッと笑いながらローンメイルが迫る。

 

 驚きつつも綾波は振るわれるライトセーバーを受け止める寸前で後ろへ下がる。

 

 綾波の死角から迫るもう一本のライトセーバーが空を切った。

 

「ほぉ、気付いたのか」

 

「二刀流、なのです」

 

 驚きながらブレードを構える綾波。

 

 ちらりとベッドの上で休んでいるゼロをみた。

 

「(ここで暴れれば……ゼロが)」

 

 ちらりと彼へ視線を向けながら綾波は駆け出す。

 

 ローンメイルは驚きつつも二本のライトセーバーで受け止めようとした。

 

「なっ!?」

 

 瞬間的な加速とタックルによってローンメイルは外へ放り出される。

 

 雪が降り注ぐ中、外へ転がり出たローンメイルを綾波は追いかけようとした。

 

「綾波!」

 

「何の騒ぎだ!」

 

 騒ぎに気付いた瑞鶴と高雄がやってくる。

 

「フン、ぞろぞろ集まって来たか」

 

 ローンメイルは近づいてくる二人へライトセーバーを向けた。

 

「瑞鶴殿!」

 

 高雄が瑞鶴を突き飛ばす。

 

 フォースの力で接近したローンメイルの刃を高雄は軍刀で防ぐ。

 

「ぐっ、重たい……!」

 

 高雄が顔をしかめながら軍刀を横薙ぎへ振るう。

 

 敵を斬った感触がない。

 

 ひらりと宙を舞う様に跳びながらローンメイルは雪道の上へ降り立つ。

 

「いたぞ!」

 

 ぞろぞろと四人のところへクローン・トルーパーがやってくる。

 

 彼らは一斉にブラスターを構えた。

 

 銃口がローンメイルへ向けられる。

 

「何のつもりだ、クローン!」

 

「ローンメイル将軍、貴方を逮捕する!」

 

「逮捕、フッ、逮捕というか、クローン!一応、聞いてやるが何の罪か教えてもらおうか?」

 

「敵に内通して情報を流している罪だとも、おい!」

 

 ファイブスの指示で後ろからトルーパーの二人がシャドーピープルの一人を連れてきた。

 

 あの後、彼らは先行していたベルファストと共にシャドーピープルのアジトを襲撃、一人を確保して、尋問をした。

 

「その結果、驚くべき事実が見つかりました」

 

「こいつが洗いざらい吐いたぞ!アンタが敵と内通していること、計画の情報を流していることもなぁ!」

 

 ベルファストとファイブスの追及ににローンメイルは拍手をする。

 

 突然のことに誰もが言葉を失う。

 

「成程、戦うだけの生き物かと思っていたが、意外と頭の方も回るようだな」

 

「バカにするのか!?」

 

「お前達は所詮、戦うだけの駒だ。ならば、こちらの好き勝手に利用するだけだ」

 

「ふざけるな!俺達は兵士だ!お前の駒じゃない!」

 

 我慢できないという風に叫ぶファイブス。

 

「ローンメイル将軍、貴方を逮捕する」

 

「CT-782……貴様が一番、利用しやすい駒だ。命令に忠実、逆らうこともしないとなぁ」

 

「勘違いしないでください」

 

 喋らないヘヴィの前にシェフィールドが出る。

 

 普段は無表情の彼女が鋭い目でローンメイルを睨んでいた。

 

「ヘヴィは誰よりも純粋な兵士です。命令に忠実というところはあるかもしれません、ですが、ただ従うだけの者ではありません。自分で考えて行動しています。そして、自分が付いていくべき人を選べます。そして、彼が付いていくべき人は貴方で――」

 

 最後まで言う前にヘヴィがシェフィールドを止める。

 

「俺に命令できる人は最高のジェダイの騎士、ゼロ将軍一人だ。ローンメイル将軍、貴方を逮捕する」

 

 ブラスターピストルを構えるヘヴィ。

 

 同時に他のクローン達もブラスターを向けた。

 

 ローンメイルはため息を零す。

 

「はぁ、どいつもこいつも奴のことばかり、心底、腹が立つ」

 

 バチンとローンメイルのライトセーバーが地面を切り裂く。

 

「ただの人殺しのことをどいつもこいつも、イライラする!どうせ、全てはあの方の描いたシナリオ通りだというのに!」

 

「何を言っているのです!」

 

「逮捕する!動くな!」

 

 トルーパー達がじりじりと近づいていく中、ローンメイルがライトセーバーを振るう。

 

「危ない!」

 

「撃て!」

 

 瑞鶴が叫ぶ中、ヘヴィの合図で一斉にブラスターが斉射される。

 

 飛来するブラスターの光弾を二つのライトセーバーで弾いていく。

 

 多勢に無勢であるはずなのにローンメイルは冷静に光線を裁いていた。

 

 高雄が軍刀を抜いて駆け出す。

 

 ブラスターの雨が止んだところで高雄が軍刀を握り締める。

 

「悪即斬!」

 

 振るわれる一撃必殺の刃。

 

 ローンメイルは二つのライトセーバーで防ごうとする。

 

 しかし、衝撃を殺しきれずローンメイルは雪の壁にぶつかって吹き飛んだ。

 

「クソッ、化け物め」

 

 悪態をつきながらローンメイルは雪を払いのけながらライトセーバーを構えた。

 

「ここは分が悪いな」

 

 地面を蹴り、ローンメイルは基地の外、雪の中へ消えていく。

 

「逃がすな!」

 

「行くのです!」

 

 トルーパー達が基地の外に出る。

 

 彼らは警戒しながら雪道を進む。

 

 先を進む高雄が手で制す。

 

 暗闇からいきなりライトセーバーの刃が振るわれる。

 

「っ!」

 

 高雄が軍刀で受け止めたところで綾波が闇の中へ踏み込んだ。

 

 振るわれる一撃は空を切る。

 

 一瞬で後ろに下がったローンメイルが暗闇の中から飛び出してクローン達のど真ん中に現れる。

 

「撃て!」

 

 ヘヴィが叫んでトルーパー達がブラスターを一斉に掃射する。

 

 ローンメイルの持っているライトセーバーの反対側の部分からも刃が飛び出す。

 

 ダブルブレードライトセーバーを回転させながら光弾を弾き飛ばして、クローンを一体、また、一体と光線の刃で貫く。

 

「撃ち続けろ!手を止めるな!」

 

 ファイブスが懐から爆弾を取り出して投げる。

 

 投げた爆弾はローンメイルが見た途端、空中で動きを止めた。

 

「いかん!離れろ!」

 

 高雄が叫ぶ中、前に飛び出す瑞鶴。

 

 瑞鶴は腰の航空甲板に刀の刃をぶつける。

 

 刃に次々と艦載機が連結するように集まり刃が炎を纏う。

 

「だぁああああああ!」

 

 爆弾へ振り下ろされる刃。

 

 直後、爆発が起こる。

 

「瑞鶴殿!」

 

 高雄が叫ぶ中、爆炎の中から煤まみれの瑞鶴が姿を現す。

 

「瑞鶴殿!」

 

「大丈夫!それよりも、後ろ!!」

 

 振り返ると同時に軍刀を振るう。

 

 火花を散らして軍刀とダブルブレードライトセーバーがぶつかる。

 

「化け物にしては勘が良いじゃないか、だが、焦っているな?」

 

 心のうちを読むようなローンメイルの言葉に高雄は後ろへ下がった。

 

「どうした?攻めてこないのか?」

 

「逃がさないのです!」

 

「待て!深追いはやめるんだ!」

 

 逃げるローンメイルを追いかけて一人、飛び出す綾波。

 

 暗闇の中で綾波は大型ブレードを静かに構えた。

 

「怯えているな?」

 

 暗闇の中からローンメイルの声が聞こえてくる。

 

「綾波は怯えないのです」

 

「お前は別のことを恐れている」

 

 囁くような言葉が木霊する。

 

「そうか、お前はあの男と離れることを恐れているな?」

 

 ぴくりと綾波が反応する。

 

「お前はあの男のことを大事に思っている。だが、奴がそう思っていないかもしれないと恐怖している」

 

「そんなこと、ないのです!」

 

「図星か」

 

 暗闇の声の方へ綾波は刃を振るう。

 

 しかし、刃は空を切った。

 

「自分の気持ちに素直になるべきだな。お前は奴に執着している。奴を手放したくない、欲しいと!」

 

「違う、違うのです!」

 

「認めろ、そうすれば、お前は楽になる」

 

 じわじわとローンメイルの言葉は綾波の心の中へ沈みこんでいく。

 

 不安、動揺、恐怖、そして、小さな執着。

 

「ゼロ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『恐れるな、フォースはキミと共にある』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

 出会った戦場の海でゼロが叫んだ言葉が急にリフレインする。

 

 綾波は頭を左右へ振りながら目の前の暗闇を見据えた。

 

「(意識を集中するのです。言葉に惑わされては駄目……綾波はゼロの相棒、何があってもゼロのところへ帰ると約束したのです)」

 

 目の前のものに惑わされてはいけない。

 

 綾波は瞳を閉じる。

 

 暗闇の向こう、僅かだが感じるものがあった。

 

 その方向へ大型ブレードを振り下ろす。

 

 綾波が目を開けるとダブルブレードライトセーバーで防いでいるローンメイルの姿があった。

 

「くそっ、何だ、お前、いや、なんだ、この強大なフォースの流れは!?」

 

 動揺を隠せていないのか冷や汗を流しながらローンメイルは叫ぶ。

 

「これで――」

 

 綾波は後ろへ下がる。

 

 首元へ手を伸ばしながらじたばたと足掻き始めた。

 

 ローンメイルのフォース・グリップが綾波の首を絞めているのだ。

 

 にやりと笑みを浮かべながらローンメイルはさらに力を籠める。

 

「ぐがっ、うぐっ!」

 

 必死に拘束から逃れようと暴れる綾波だが、フォース・グリップは弱まる様子をみせない。

 

 手から大型ブレードが雪の上へ落ちる。

 

「そのまま、死ね!」

 

「(ゼロ……)」

 

 ローンメイルがさらに力を籠めようとした時。

 

 彼の体が見えない力に突き飛ばされたように吹き飛ぶ。

 

 雪の上へ無様に転がっていくローンメイル。

 

「げほっ!ごほっ!けほっ、けほっ!」

 

 フォース・グリップが解除されたことで綾波は地面へ座り込みながら激しくせき込む。

 

「大丈夫か?」

 

 頭上から聞こえた優しい声に綾波は顔を上げる。

 

「よく頑張ったな」

 

 綾波の頭へ乗せられる温かい手。

 

 その手を小さく握りしめながら綾波は頷く。

 

「綾波はゼロの相棒なのです。これくらい当然なのです」

 

「そっか、頼りになる相棒だな。後は任せてくれ」

 

 ゼロは纏っているジェダイローブを上から綾波へかぶせる。

 

「すぐに終わらせる」

 

 そういって歩いていくゼロの姿を綾波はみる。

 

 不安はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綾波!」

 

「ニーミ?」

 

 後ろからやってきたのは鉄血の駆逐艦Z23だ。

 

「大丈夫ですか、これ……」

 

「ゼロが奥に……綾波も!」

 

「貴方はここにいてください!わ、私が行きます!

 

 ふらふらと立ち上がった綾波を止めてZ23が艤装を構えてゆっくりと奥へ向かった。

 

 暗いうえに雪道ということで相手の姿を捉えることが難しい。

 

 慎重に進んでいたZ23は音の方へ歩む。

 

 その先に広がる光景に彼女は言葉を失う。

 

 雪の上など気にしないという風にジェダイの二人は切りあっていた。

 

 ダブルブレードライトセーバーを二本も操って優位である筈のローンメイル。

 

 対峙しているゼロは一本のライトセーバーを常人が捉えきれないほどの速度で操りながらローンメイルのダブルブレードライトセーバーをいなしている。

 

 あまりの速さにZ23は追いかけるので精いっぱいだった。

 

「これが、ジェダイですか?」

 

 Z23が言葉を失っているとローンメイルが笑い出す。

 

「ハハッ!」

 

 自身が劣勢であるはずなのに笑い出したことでZ23は戸惑ってしまう。

 

「貴様、まだ、完治していないな?」

 

 振るわれるライトセーバーの一撃をゼロは受け止めようとした。

 

「ちっ」

 

 不自然な動きを取って仰け反るゼロ。

 

 何が起こったのかわからないZ23だったが、ゼロの手をみて気付く。

 

 ゼロの手は霜焼けで真っ赤。

 

 

 彼は吹雪の中、綾波を守るようにして進んでいた。そのために手が凍傷になりかけていたのだ。

 

 フォースの力を借りて戦えているとはいえ、万全ではない。

 

 ローンメイルはそれを見抜いて彼を追い込む様な戦い方をする。

 

「フン、その程度か!」

 

「お前、何をそんなに憎んでいるんだ?」

 

「憎んでいるだと?」

 

「あぁ、お前からは憎しみを感じる」

 

「当然だ!」

 

 激昂したローンメイルがダブルブレードライトセーバーを繰り出す。

 

 二つの刃をゼロは防ぎきれずに雪の上に転がり込む。

 

 すぐに起き上がってライトセーバーの剣先を向けるがぶるぶると小さく震えていた。

 

「貴様は、貴様が俺のマスターを殺した!忘れたとは言わせないぞ!俺のマスター、ポング・クレルを貴様は殺したのだ!」

 

「……そうか、お前はクレルのパダワン」

 

「そうだ!貴様が殺したマスターの弟子だ!だからこそ、俺がこの技術で貴様を殺す!」

 

 叫びと共に振るわれようとした一撃。

 

 瞬間、砲弾がローンメイルの前に直撃する。

 

 雪がローンメイルに降り注いで視界が一時的に塞がれた。

 

 彼の憎悪に染まった目がZ23へ向けられる。

 

 血走った瞳を向けられた彼女は小さな悲鳴を漏らしながら主砲を構えた。

 

 主砲を撃つも躱されてダブルブレードライトセーバーがZ23の主砲を斬る。

 

 バチンと先端が斬られて後ろへ座り込むように倒れたZ23が見上げると、狂気に染まった笑みを浮かべながらダブルブレードライトセーバーを振り下ろそうとしているローンメイルの姿。

 

「っ!」

 

 来る痛みへ目を閉じてしまうZ23。

 

 しかし、いつまで経っても痛みがこないことでZ23が目を開ける。

 

 離れたところにいた筈のゼロがフォースの力を使ってローンメイルの刃を受け止めていた。

 

「この!死にぞこないが!」

 

 怒りに顔を染めながら刃を押し込もうとする。

 

 しかし、ここでローンメイルの表情が変わった。

 

 無理矢理前へ押しても刃がぴくりとも動かない。

 

 二つのダブルブレードライトセーバーが全く動かなかった。

 

「おい」

 

 ゼロの声にローンメイルは後ろへ下がる。

 

 ふらりと立ち上がったゼロの目は怒りに染まっていた。

 

 ただし、ローンメイルのような狂気に染まったものではない、静かな怒り。

 

 感情を殺して、目の前の相手に対してただ怒りを放っていた。

 

 彼の感情に呼応するように周囲のフォースが反応を起こす。

 

「くそっ、何だ、何なんだ、お前は!」

 

 沸き上がる感情は恐怖。

 

 目の前の……先ほどまで取るに足らなかったはずの相手が急に強大な相手と思えてしまって、ローンメイルは戸惑う。

 

「お前、俺を恨んでいたのだろう?ならば、俺だけを狙えばよかった。だが、後ろにいるニーミへ手を出そうとした」

 

 静かに告げながらゼロはライトセーバーを構える。

 

「お前が俺を許さないように、俺もお前を、許さない」

 

「黙れ!」

 

 激昂しながら振るわれるダブルブレードライトセーバー。

 

 二つのダブルブレードライトセーバーを回転させながら迫ろうとするローンメイル。

 

 ゼロはライトセーバーを振るう。

 

 一撃で、片側のダブルブレードライトセーバーが真っ二つに切り裂かれた。

 

「なっ!」

 

 驚きながらも片方のダブルブレードライトセーバーでゼロのライトセーバーと戦う。

 

 ダブルブレードライトセーバーを回転させながらゼロを近づけさせないようにしようとするが、片側の射出部分が切り裂かれた。

 

「だったら」

 

 ローンメイルは地面を蹴りながらゼロへ一撃を振るうとみせかけて背後にいたZ23へ狙いを定める。

 

 Z23が悲鳴を上げるがそれよりも大きな悲鳴が響いた。

 

「う、腕が、俺の腕がぁあああああああああ!」

 

 ゼロによってローンメイルのダブルブレードライトセーバーを持っていた腕が切り落とされる。

 

 地面へ落ちた腕をみて、後ろへ下がるZ23。

 

 苦悶の声を漏らすローンメイルは雪の上を転がる。

 

 無理矢理ローンメイルの体をフォースで起こしてゼロはライトセーバーを突き付けた。

 

「お前を逮捕する」

 

「逮捕?何を抜かす、マスターを殺しておきながら俺を逮捕というのか!愚かな」

 

「ジェダイは平和を守る者達だ。だが、お前のやっていることは不要な争いを招いているんだ」

 

「愚かな!」

 

 ローンメイルは笑う。

 

「お前は、お前達は何もわかっていない!この戦争も、全て、何の意味もない!お前達がやっていることも所詮はシスの掌の上だということを理解していない!いずれは!」

 

 ローンメイルはフォースを用いて、千切れた腕からダブルブレードライトセーバーを引き寄せて、ゼロを狙う。

 

 しかし、動きを読んでいたゼロはライトセーバーで迷わずにローンメイルの心臓を貫いた。

 

「がっ、この、ジェダイ、殺しめ」

 

 笑みを浮かべながらローンメイルは雪の上に倒れる。

 

 ゼロはライトセーバーを握り締めて、夜空を見上げた。

 

「また、か」

 

 悲し気な表情を浮かべるゼロの姿をZ23は何も言わずに見ていた。

 

「将軍!」

 

 その時、ぞろぞろと雪の道をトルーパー達がやってくる。

 

 先頭にいるのはヘヴィだ。

 

 後ろには瑞鶴、高雄、そして、綾波の姿があった。

 

「これは……」

 

「ローンメイルは叛逆を起こした罪で俺が処罰した」

 

「そう、ですか」

 

「ヘヴィ、報告を頼む」

 

「了解です」

 

 敬礼をとるヘヴィ。

 

 こうして、この基地での戦いは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「この基地は新たなジェダイが着任することになった。俺達は次のオーダーが発令したために基地を離れる。それまでは各自、準備をするように」

 

 ゼロはトルーパー達へ告げると一人、基地内の通路を歩く。

 

「将軍!」

 

 そんなゼロへヘヴィが声をかける。

 

「その、お話があります」

 

「何だい?」

 

「えっと、その、申し訳ありませんでした!」

 

「……すまない、謝罪されることをした覚えがないんだけど」

 

 突然の謝罪にゼロは困ったように頬を指でかく。

 

「自分は将軍を吹雪の中、見捨てるような選択を取りました。貴方に兵士として見込まれていたというのに」

 

「そのことか」

 

 ゼロは笑みを浮かべる。

 

「俺は気にしていないよ。キミの選択は部隊を守るものとしては正しいものであるからね」

 

「そうですが……」

 

 次の言葉が出てこないヘヴィの手をゼロは握り締める。

 

「キミは立派に兵士として成長している。だから判断が間違っているなどと考えてはいけないよ、それと」

 

 ゼロは笑みを浮かべる。

 

「おめでとう、キミは本日付けをもって、軍曹へ昇格となった」

 

「え」

 

 驚きを隠せないヘヴィの肩を叩いてゼロは笑みを浮かべる。

 

「そういうわけだから、これからも頑張ってくれ」

 

「あ、え、あの、将軍」

 

「部隊の帰還準備を進めておいてくれ、俺は基地を見て回るから」

 

 ヘヴィが止める暇もないまま、ゼロは通路の奥へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「将軍!」

 

 通路を歩いていたところでゼロは一人の艦船と出会う。

 

「キミはニーミだったかな?」

 

「はい、先日はありがとうございました」

 

 淡々と話すがその表情は暗い。

 

「別に、俺はなにもしてないよ。それより」

 

 小さな笑みを浮かべて。

 

「漏らしたことは黙っておくよ」

 

「え、なぁああああああ!?」

 

 顔を真っ赤にして大きな声を上げるZ23。

 

 ローンメイルとの戦いのとき、Z23は殺されるという瞬間、少しだけ漏らしていた。

 

 周りに気付かれることなく自室に到着した時に気付いてあたふたしたことは秘密である。

 

 その秘密がこのジェダイにばれていたことに彼女は大慌て。

 

「な、なんで、そのことを!というか!セクハラですよ!」

 

「本当は良くないことだよ、でも、ほら、キミの表情が明るくなった」

 

「え?」

 

 ゼロの指摘に彼女は驚いた表情を浮かべる。

 

「不器用な人ですね!」

 

「申し訳ない」

 

「あぁ、もう、次に会う時はそういうところを徹底的に指導させてもらいます!」

 

「そうだね、また、会おう」

 

「はい!あ、それと」

 

 Z23はきょろきょと周囲に誰もいないことを確認すると。

 

「助けてくださってありがとうございます!お礼をいいたかったので、それでは」

 

 去っていくZ23の後姿をみて、ゼロはぽつりと呟く。

 

「真面目ちゃんだなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みつけた」

 

 通路を歩いていたゼロへ声をかける者がいた。

 

「シュペー?」

 

「探したよ、ゼロ」

 

 小さな笑顔を浮かべてやってくるのはアドミラル・グラーフ・シュペー。

 

「ねぇ、抱きしめて」

 

「え?」

 

「抱きしめてほしいの、だって、お別れなんでしょう?」

 

 シュペーの言葉にゼロは小さく肯定する。

 

「そうだな、俺達は次の戦場へ向かうことになる」

 

「わかっている。だから、忘れないようにゼロの温もりが欲しいの」

 

「その言い方は周りを誤解させるからやめた方がいい」

 

「誤解?しないよ」

 

 無垢な瞳がこちらをみつめる。

 

「私、ゼロが欲しいの、だから、抱きしめて」

 

 両手を広げて近づいてくるシュペー。

 

 ゼロは戸惑い、考える。

 

「あまり、そういうことは」

 

「駄目?」

 

「えっと」

 

「してくれないなら、お姉ちゃんに告げる。そうしたら撃たれるかもね?」

 

「わかりました」

 

 さらりと脅された事実にゼロは渋々という形ながら従うことにした。

 

 両手を伸ばしてシュペーを抱きしめる。

 

 女の子の香りやシュペーの柔らかい体が伝わってきた。

 

「いいなぁ、ゼロと一緒にいられる子は」

 

「どうだろうな、ジェダイと一緒にいるということは戦場へ出続けるということだし」

 

「益々、羨ましい。私は戦うために生み出されたし」

 

「そうかもしれない、けれど、シュペー」

 

「ん、もっと、もっと強く抱きしめて」

 

 シュペーからの懇願にゼロはさらに強く抱きしめる。

 

「嬉しい、ゼロの温もりが感じられる。ゼロに包まれている。幸せ」

 

「そろそろ、いいか?いかないといけないところがあるんだ」

 

「仕方ないかな」

 

 渋々という形で離れるシュペーだが、その表情は笑顔だ。

 

「ゼロが補充できた」

 

 笑顔を浮かべる彼女の言葉にゼロはなんといえばいいのかわからない。

 

「じゃあ、また会おうね?約束だよ」

 

「約束」

 

 言葉を交わしてゼロはシュペーと別れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、ようやく二人っきりになれたぜ」

 

 彼女と別れてすぐにゼロはZ1に捕まった。

 

 個室に連れ込まれてベッドの上に押し倒される。

 

「あの、レーベ?」

 

「お前、大丈夫か?」

 

 こちらを覗き込んでくるZ1は心配そうな表情を浮かべている。

 

「大丈夫って?」

 

「いや、大丈夫ならいい」

 

 あっさりと解放されたことにゼロは驚きながらベッドから離れようとする。

 

 瞬間、彼女がゼロの唇を奪う。

 

 逃げる暇もないまま、舌で口内を蹂躙されていく。

 

「何、を」

 

「忘れるなよ?」

 

 真剣な表情で彼女はゼロをみる。

 

「お前にはこのレーベ様がいるってことをな!」

 

 胸を張って笑みを浮かべる彼女の姿はとても強く、輝かしくみえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪が降ることなく快晴の中でゼロは格納庫へ向かう。

 

 そこではトルーパー達が次の戦地へ移動する準備をしている。

 

 ガンシップへ弾薬や機材などを運んでいくトルーパー達の間を抜けていき、ガンシップの傍で座り込んでいる綾波の姿を見つけた。

 

「綾波?」

 

「……ゼロ?」

 

「大丈夫か?」

 

「よくわからないのです。なんか、奇妙な感覚なのです」

 

「フォースに目覚めたからね」

 

「……ゼロと同じです?」

 

「そうだな、俺と同じになりつつある」

 

「綾波はどうなるです?」

 

 いつも通りの表情に見えるが綾波は不安に包まれていた。

 

 ゼロは視線を合わせる様に片膝をつく。

 

「大丈夫、その力を使いこなせるように俺が教えるから」

 

「綾波はジェダイになるのです?」

 

「それはわからない。だが、フォースの使い方を誤れば、暗黒面へ繋がる危険がある。俺が教える。正しいフォースの使い方、いや、寄り添い方かな?」

 

「本当です?」

 

「約束する。綾波」

 

「信じる、です」

 

 綾波は艦船だ。

 

 しかし、今回の事件でフォースの力を使いこなせるようにしなければならないだろう。

このことをジェダイ評議会がどう言ってくるかはわからない。

 

 色々と覚悟を決めなければならないだろう。

 

 嬉しそうにほほ笑む綾波のすがたをみながらゼロはそんなことを考えていた。

 

 



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番外編 赤城と加賀に拉致監禁され永久就職する話

スカイウォーカーの夜明けが公開されて、見に行きたいけれど、色々と予定があって来週になりそう。
速く見に行きたいぞい。

アンケートの結果、赤城と加賀になりました。

洗脳もありえるぞ?

やたらと妄想爆発?しています。

アニメが来年なので、楽しみで仕方ない。

来年までにはクローン戦争編は終わらせたいなぁ。


「約束よ、お前は私のものなのだから」

 

「逃げるな、独りにしないで」

 

 桜が舞う中、狐のお面をつけた二人が手を伸ばしてくる。

 

 そんなところで目を覚ます。

 

「夢、か」

 

 小さなため息を零して周りを見る。

 

 両手は札で縛られてぴくりとも動かせない。

 

 窓は鉄格子がはめられ、外へ繋がる道も閉ざされている。

 

 まさに牢獄の中に彼はいた。

 

 ここに閉じ込められて、既に三日が経過しているだろう。

 

「どうして、こうなったのか」

 

 彼、ゼロは転生者だ。

 

 神様に転生してといわれて、この世界に放り込まれた。

 

 生れた時に両親はセイレーンに殺されて、親戚もなし。

 

 引き取ってくれるような心優しい人もおらず生きるために軍へ入って死に物狂いで生き抜いた。

 

 長い戦争が終わり、故郷へ戻ってきたのだが―。

 

「起きているのか」

 

 そんな牢獄に入ってきた者がいる。

 

 白髪の髪に透き通ったような青い瞳。

 

 九つの白い尾と天辺へ伸びる耳。

 

 重桜の一航戦と呼ばれる空母、加賀だ。

 

「お前か」

 

「飯だ、食べろ」

 

「要らない」

 

 目の前に置かれる握り飯をゼロは拒絶する。

 

 彼女達から提供される食事を一度も受け取っていない。

 

 何か含まれているのではないかと警戒している。

 

 実際、受け取ったもので意識を失いここへ閉じ込められたのだから仕方のないことだろう。

 

「いつまで意地をはっているつもりだ?」

 

「そっちこそ、いつまでこんなことを続けるつもりだ。こんなことをしても無――」

 

 最後まで言う前に加賀が腹の上にのしかかってくる。

 

 両手を伸ばしてゼロの首を掴んだ。

 

 ギシギシと体から嫌な音が鳴る。

 

「ぐ、がぁああ」

 

「今、何を言おうとした?」

 

 青い瞳は光を失い、眉間へ皺が寄っていた。

 

「私と姉さまがどれほど、貴様のことを思ってきたか!それを否定するようなことをいうことは許さない!」

 

 首を絞められて、段々と意識が遠のいていく。

 

 どうしてこうなったのだろうか?

 

 そんなことを考えながらゼロの意識は闇の中へ消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、起きたのね?」

 

 再び目を刺すとこちらをみている赤い瞳と目が合う。

 

 黒い九つの尾に獣耳、赤い瞳はこちらをみつめて、柔和な笑みを浮かべている。

 

 しかし、怪しい動きをすれば、即座に行動を起こせる状態に彼女はいた。

 

 重桜一航戦、赤城。

 

 それが彼女の名前だ。

 

「加賀が怒っていたわ。貴方に拒絶されたと」

 

「こんなことをされれば、誰だって拒絶する」

 

「冷たいわねぇ、昔はどんなことをされても許していたじゃない?」

 

「限度がある。監禁なんてされれば、誰だって冷たくする」

 

「オサナナジミでも?」

 

「……」

 

 赤城の言葉に沈黙で肯定する。

 

 何が可笑しいのか小さく笑う赤城。

 

「子供みたいで、可愛い」

 

 笑みを浮かべながら伸ばした手がゼロの頬を撫でる。

 

 ぷいっと顔を背けて横を向いた。

 

「あらあら」

 

 小さく笑っている赤城と目を合わせないようにしてゼロは思う。

 

 どうして、こうなったのだろう?

 

 家族を失ったゼロだが、別に天涯孤独というわけではなかった。

 

 軍に入ったゼロの傍を常に二人の少女がいた。

 

 赤城と加賀である。

 

 彼女達はメンタルキューブと呼ばれる存在から生まれた艦船という存在だが、幼いゼロにとって、生まれとかそういうものは興味がなかった。

 

 ただ、自分にとって大事な人たちという程度の意識で、赤城と加賀の二人といつも一緒にいた。

 

 同世代が他にいなかったというのも原因だろう。

 

 いつも三人は一緒で育ての親であり教官だった天城ですら呆れてしまうほど。

 

 小さい頃の赤城は天城が大好きでゼロのことをいつも子分と呼んでいた。

 

 子分だからこれをやれ、天城姉さまの為にこれをしなさい。

 

 上から目線なところが多々あったが、こんな自分に話しかけてくれる貴重な相手だったので対して気にしなかった。

 

 対して、加賀は静かな性格をしていた。

 

 ゼロ、ゼロ、といっていつも後ろをついてきていた。大人しく、自分に懐いていたことから妹のような感覚で接していた。

 

 しかし、ゼロは知らなかった。

 

 加賀は戦いのことになると性格が豹変したように荒くなり、獣のように暴れる。

 

 戦い以外のことに関心がなかったから知らない一面だった。

 

 そんな彼女達と長い時間を過ごしてきたが終わりはやってくる。

 

 ゼロが兵士として重桜の外へ派遣されることが決まったのだ。

 

「嫌よ!私の子分なのよ!子分が離れるなんて絶対に許さない!そうだわ、私に何でも言いなさい?全部、やってあげるから」

 

「離れるなんて、嫌だ。ずっと一緒にいろ」

 

 戦地へ向かうことを告げた時、今までみたことがないほど赤城と加賀は泣きじゃくった。

 

 困ったゼロだが、最後に必ず帰るという約束をして何とか落ち着いてもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件はその日の夜に起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人で一緒にと言われて横になったゼロ。

 

 気持ちよさそうに寝ている彼の隣でもそもそと動き出したものがいた。

 

 赤城である。

 

 彼女は妖艶な笑顔を浮かべると隣に加賀がいることを気にせずにゼロの唇へ覆いかぶさった。

 

 眠りが深い彼は起きることなく、赤城の手によって蹂躙される。

 

「ふふ、これでもう赤城のもの、子分、お前はぜぇぇぇったいに赤城のところへ帰って来るのよ?」

 

 満足したように眠る赤城。

 

 少しして、隣で動きがあった。

 

 加賀である。

 

「お前が欲しい……」

 

 ピコピコと獣耳を揺らしながら直接、キスをすることは恥ずかしいのか首筋や頬へ次々とキスをしていく。

 

「絶対に帰ってこい、お前は私のもので、私はお前のものなのだから」

 

 こんなやりとりが起こったことを知らない当人は翌日、笑顔で二人と別れた。

 

 尚、互いにゼロへナニをしていたのか知っていた二人はしばらく険悪な関係になるも、協定を結んで姉妹のような関係になる。

 

 それから八年後。

 

 戦線が落ち着いてきたということで、ゼロは重桜へ戻って来る。

 

 戻るという事を連絡していたから、港で赤城と加賀の二人が待っていたことにとても驚く。

 

 二人とも信じられないくらいの美女になっていた。

 

 昔も可愛かったがそれぞれが対称的な可愛さでゼロは戸惑うしかない。

 

 それに比べて自分はどうだろうか?

 

 そんなことを思いながら再会を喜び合っていたのだが、一瞬、そう一瞬だけ彼女達から表情が消えたことを思い出す。

 

 囚われた牢獄の中でゼロは首から下げているペンダントをみる。

 

「エンタープライズ……」

 

 戦場で出会い、友人以上の関係になっていたと思う。

 

 気持ちを伝える前に二人とも別々の戦場へ配置になることが決まり、彼女へペアルックとして渡したペンダントの話をした。

 

 その後、差し出されたお茶を飲んで意識を失い、現在に至る。

 

「この札、どうやったら千切れるんだ?」

 

 両手を拘束している札をなんとかしてみようと試みるが破れもしない。

 

「よっ、と、抜け出そうにも両手が自由にならないとどうしようもないなぁ」

 

 なんとか腰のポケットに収めているナイフを取り出して札を破こうとこころみるがびくともしない。

 

「さて、奴らが戻ってくる前に、あ」

 

 体を動かそうとしている時に置かれていた湯飲みが零れてしまう。

 

 湯が飛び散って札にかかる。

 

「あ、あれ?」

 

 ぺらりと効力を失ったみたいに地面へ落ちる札。

 

「あっさりと」

 

 解放されたことに驚きながらもゼロはゆっくりと錠前のピッキングを開始する。

 

 普通なら困難なのだが、同じ部隊にいた元泥棒から教えてもらったおかげで数分経たずに開錠に成功した。

 

「よし、後は脱走するのみ」

 

 牢獄から抜け出して外に出ようとしたところで背後から衝撃を受ける。

 

 突然のことに受け身を取る暇もないまま、壁に体を打ち付けて、地面へ落ちた。

 

「グッ」

 

「どこへいくつもりだ?」

 

 ゆらりと背後から現れるのは加賀。

 

 光のない瞳でこちらを見下ろしている。

 

「加賀……」

 

「よもや逃げるなどと考えてはいないだろうな?もし、そうだというのなら」

 

――少しだけ痛い目をみてもらうことになる。

 

 彼女の本気を感じ取ったゼロは振り返ることなく外へ出ようと走る。

 

「逃がすかぁ!」

 

 叫びと共に振るわれる青い飛行機を模した札が次々と飛来してくる。

 

 壁に突き刺さる札。

 

 直撃すれば、肉などあっさりチョンパされてしまいそうだ。

 

「殺す気かぁ!」

 

「安心しろ、貴様を殺しはしない、だが、足の筋などは切るかもなぁ」

 

「物騒すぎる」

 

 飛来する札を躱しながらゼロは出口を模索する。

 

 自分と加賀では体力などすべてが劣っていた。

 

 今のままでは自分の体力が尽きて終わりである。

 

 故に。

 

「今だ!」

 

 出口を見つけると同時にフェイントを使いながら外へ飛び出す。

 

「待てぇえええ!」

 

 口の端から青い炎を吹き出しながら追いかけてくる加賀。

 

 見た目が獣であるからこそ、余計に恐ろしく感じた。

 

「可愛い顔が台無しだぞ!?」

 

「逃がさん!」

 

 飛来する札が艦載機へ姿を変える。

 

 ゼロは艦載機の放つ機銃を回避して森の中へ逃げ込む。

 

「この森なら艦載機が飛来することはないだろう、しばらく休んで朝になったらとにかく逃げるか」

 

 かつて知っている重桜とはいえ、月日が過ぎていれば変わっているものがある。何より疲労が蓄積されている以上、少し休んで回復を狙うべきだろう。

 

「フフフ、ツ・カ・マ・エ・タ」

 

 それが命とりだった。

 

 木の一つにもたれたところで暗闇の中から現れる黒い尾。

 

 その二つがゼロの両手を拘束する。

 

「なっ!?」

 

「うふふふ、一つを切り抜けて安心する癖は抜けていないようねぇ」

 

「赤城!?くそっ」

「ふふふ、ム、ダ。貴方と私達、艦船じゃあ、力が違うもの」

 

 にこりと笑みを浮かべながらもその目は笑っていない。

 

 静かだが、怒っている。

 

 その事実をゼロは察してしまう。

 

「逃げてしまうのは予想できたけれど、こうもあっさりと捕まえることができたのは一安心だわ、さ、て」

 

 顔を近づけてくる赤城。

 

 視線を逸らそうとしたが伸びてきた両手に頬を掴まれて前を向かされる。

 

「私達から逃げられないように楔を打ち込むことにしましょうか?」

 

「楔?一体、なんムグゥ!」

 

 最後まで言う前に赤城に唇をふさがれる。

 

「ジュル、チュウ、ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」

 

 唇の表面、歯茎を優しく舐めるようなものから唇を飲み込もうとするように赤城に貪られてしまう。

 

 抵抗しようにも両脚は赤城に乗られ、両手は尾で拘束されている。

 

 ぴったりと密着されていることで発達している胸や彼女の香りに思考が段々とマヒしてきていた。

 

 そして。

 

「あらあら、これは鎮めないといけないわねぇ?」

 

 ぴったりと密着していることで赤城はゼロのモノをみて妖艶にほほ笑む。

 

 貪るようなキスから解放されたゼロは赤城のやろうとしていることに気付いて抵抗を試みた。

 

「やめろ、やめるんだ、赤城、こんなこと」

 

「嫌よ?貴方が私達から逃げるのが悪いのよ。さぁ」

 

 耳元へ赤城は近づく。

 

「愛を育みましょう」

 

 抵抗する暇もないまま、ゼロはズボンを脱がされる。

 

「やめてくれ、赤城」

 

「い、や」

 

 にこりとほほ笑みながら赤城はゼロへキスをする。

 

 ついばむ様なキスから徐々に舌で口の中をベロベロと舐めていく。

 

 赤城は手を伸ばしてスカートの中の下着を脱いだ。

 

「ほら、貴方のことを考えるだけで止まらないの」

 

 スカートの中からとめどなく流れるのは赤城の愛液。

 

 妖艶な笑顔を浮かべながらゆっくりとゼロへ覆いかぶさる。

 

 抵抗しようにも手足は赤城の尾によって封じ込まれていた。

 

 パンツを脱がされて、中のモノを赤城は触る。

 

「ふふふ、ちゃんと反応してくれていて、嬉しいわぁ、じゃあ」

 

「やめ――」

 

 止める暇もないまま、ゼロのモノが赤城の割れ目の中へ入っていく。

 

「うふふふ、ふふふふふ!」

 

 嬉しそうに笑う赤城に対して、ゼロの息は荒い。

 

「ようやく、ようやくよ!この日をずぅぅぅぅぅぅぅっと、夢見ていたんだから」

 

 そのまま一気に挿入を果たす。

 

 赤城は笑みを浮かべながら両手でゼロを抱きしめるとそのまま胸元へ引き寄せる。

 

「むぐ」

 

 豊かな赤城の胸にキスをさせられる。

 

 必死に反応しないように試みるが赤城はそれを許さない。

 

「だぁめですよぉ、ほら、おっぱいですよぉ」

 

「むぐ、ぐぐぐぐ」

 

 胸をさらに押し当てながらゼロの耳元で囁く。

 

「私に溺れなさい、私にもっと、もっともっともっとぉ、溺れて、溺れて、そして」

 

 囁きながらゼロの耳元へ札をつける赤城。

 

 ゼロの思考が一瞬、鈍くなる。

 

 その間に赤城は攻める、ひたすらに攻める。

 

 快楽がゼロの脳を支配していく。

 

「あう、うぅ、うぅぅ、じゅる!じゅるるるるる、じゅるぅ」

 

 気付けば赤ん坊のように赤城の胸をしゃぶる。

 

 一瞬だけ、理性をそぎ落とすことはしたものの、ここまで反応してくれたことに赤城の笑みが深まる。

 

「はぁ、はぁ、いっぱい、いっぱいついて、もっと、私を求めてえぇ」

 

「っ!」

 

 気付けば両手が自由になっていて、赤城を抱きしめる。

 

 赤城を強く求めていた。

 

 腰を振って赤城の中へ自分のモノを押し込んでいく。

 

「あぁ、あん、あぁっ、すごい」

 

 瞳を潤ませて、赤城はゼロをみる。

 

 互いに見つめあう事、数秒、ゼロから赤城へキスをした。

 

 ゼロから赤城を求める様に強く、深くキスをする。

 

 いつの間にか、射精をしていて、赤城は頬を赤らめた。

 

「ふぅ、ふぅ!」

 

「あぁ、あぁ、っぐぁああああ」

 

 射精後の解放感にそのまま意識が落ちそうになるも、赤城が腰を振る。

 

「ダメよ、もっと、もっとよ、私をもっと求めなさい」

 

「ぐぅ、こ、これ以上は」

 

「だぁめ、さぁ、もっと堕ちなさい」

 

 腰を振る赤城に合わせるようにしてゼロも獣のように赤城をむさぼる。

 

 すぐに二回目の射精を迎えた。

 

 ぐでぇっとなっているゼロを赤城は笑みを浮かべて頬へ口づけをする。

 

「さぁ、戻りましょうか?加賀も荒れていることですし」

 

「な、なんで」

 

 快楽で朦朧としているゼロは赤城へ尋ねる。

 

 なぜ、はじめてなのに普通に立てるのかと、はじめての感覚に戸惑っているゼロに対して、赤城は興奮しているものの、普通に歩けていた。

 

「これも愛の力ですわぁ」

 

 こうして、ゼロの逃走劇はあっさりと幕を閉じた。

 

 鉄格子のある部屋にもどされるゼロ。脱走する前と異なり、その部屋には敷布団が置かれている。

 

 部屋に戻される前に赤城の手によって綺麗な体にされた。

 

 その際に三回戦、四回戦とあったものの、綺麗な衣服を着せられたゼロはぐったりと敷布団の上にそのまま倒れこむ。

 

 先ほどまでの快楽の感覚を思い出しそうになり、首を振って脱出のことを考えようとする。

 

「(さて、そろそろ現実と向き合うことにするべきかな?)」

 

 疲労で鈍っている体をなんとか動かして正面を見る。

 

 もう一つの敷布団。

 

 その上に正座している加賀と目が合う。

 

「何をしているの?」

 

「貴様を食らう」

 

「っ!」

 

 疲労で動けない体を鞭打ちながら壁へ逃れようとする。

 

「無駄だ」

 

 逃げる暇もないまま、加賀に腕を掴まれて彼女の布団の中に放り込まれる。

 

 暴れて逃れようとするが加賀によって衣服をあっさりと脱がされてしまう。

 

「赤城姉さまの匂いがする」

 

「そ、それは」

 

「まぁいい、計画通りということだ」

 

「え?」

 

「フフッ」

 

 舌なめずりしながら加賀が顔を近づける。

 

「今から、お前は私のことだけを考えるのだ。さぁ、楽しい一夜にしようじゃないか」

 

 ガチャリと首に音が聞こえた。

 

「か、加賀」

 

「なんだ?」

 

「首のこれって」

 

 加賀の手の中には黒いリードのようなものが握られている。

 

 引っ張られると付けられた首輪によって加賀の方へ引き寄せられてしまう。

 

 胸の中に飛び込む形で引き寄せられるとそのまま加賀によって抱きしめられる。

 

「フフッ、これでお前は逃げられない」

 

 ゼロを見下ろす加賀は青い瞳を細めて、みつめてくる。

 

 首輪を外そうとするががちゃがちゃと鳴るだけで外せそうになかった。

 

「安心しろ、別にお前を畜生として扱うわけではない。ただ」

 

「むぐっ!」

 

 乱暴に加賀がゼロとキスをする。

 

 キスをするというよりはゼロを唇から飲み込もうとするような勢いだ。

 

 口や鼻先まで加賀の唾液でべとべとになる。

 

「貴様が逃げられないように必要な措置だ。わかるか?お前が私や姉さまから逃げられないように、縛り付けて、さらに溺れてもらうぞ」

 

「や、やめ」

 

 逃げようとしてもリードを引っ張られて抵抗すら許されない。

 

 あっさりとマウントを取られてゼロのモノが加賀の下腹部の中に沈んでいく。

 

「ふっ、ふふふふふ、あはははははは!」

 

 痛みを感じないのか、狂ったような笑みを浮かべる加賀。

 

 ゼロは再び襲ってくる快楽の波に抗おうとする。

 

 しかし、加賀はそれを許さない。

 

「駄目だ、お前も!お前も私と同じところまで堕ちろ」

 

 顎を掴んでディープキスをする。

 

「ぬぐ、むぐぅ!か、ぐぁ、やめ」

 

「フフッ、じゅる、じゅる、あむ、はぐ」

 

 理性を奪おうとディープキスを続ける加賀、腰を振る動きも止まらない。

 

 先ほどの赤城の時と同じように理性が削られていき、目の前の発情した獣のような加賀に溺れていく。

 

 ぐったりとしたゼロの胸元にあるペンダントに加賀は気づいた。

 

「これはなんだ?」

 

 伸びてきた手を払いのけてゼロは守るように体を丸める。

 

 その姿が余計に加賀を苛立たせた。

 

「……の、ものだ」

 

 低い声で加賀の目が怪しく光る。

 

 無理矢理、ゼロの手を払いのけて両手の自由を奪う。

 

 加賀は胸元のペンダントを乱暴に引きちぎる。

 

「やめろ、返せ!」

 

 さっきまでの弱かった雰囲気がウソのように暴れるゼロ。

 

 余計に加賀を苛立たせた。

 

「ふざ、けるなぁああああ!」

 

 鋭い歯がゼロの首筋に噛みついた。

 

 痛みに顔を歪めるゼロを押し戻しながら加賀はペンダントを遠くに放り投げる。

 

「あぁ」

 

「こっちをみろ!」

 

 怒りで顔を歪めながら加賀は両手でゼロの顔を掴む。

 

「赦さない、私を見捨てて、他の女に現を抜かすなど、そんなことは絶対に、ぜったいに」

 

 ぽろぽろと涙を零しながら加賀はゼロにキスをする。

 

 決して逃がさないという風に強く抱きしめていく。

 

「溺れろ、溺れて、溺れて、溺れて、溺れて、私だけを、見て」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「計画は順調です。天城姉さま」

 

「そうですか、今は加賀が彼と交わっているということですね?」

 

 別室、少し離れたところで赤城は天城と話をしていた。

 

「赤城」

 

「はい」

 

「神子様が異変に気付かないように徐々に、徐々に彼を私達へ溺れる様に仕向けますよ」

 

「わかっております」

 

 フフッと笑う赤城。

 

 天城は部屋の外からみえる月を眺める。

 

「次は私の番、フフッ、年甲斐もなく興奮してしまうわ」

 

 別室で干からびるまで加賀に襲われているゼロの姿を思いながら天城の瞳から光が消える。

 

「貴方は誰にも渡さないわ。何度、逃げたとしても、捕まえてあげます」

 

 フフッと微笑む天城に同意するように赤城も笑みを浮かべた。

 

 




黒幕天城の指揮のもと、赤城と加賀の包囲網により逃げられないとさぁ。


クリーブランド兄貴のヤンデレって需要あるのかな?



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故郷に舞う桜編 友との語らい

あけまして、おめでとうございます。

重桜編がスタートします。
といいますが、重桜の話は次回から本格的にスタートしていきます。


スカイウォーカーの夜明けみてきました。

アズールレーンが再放送スタートしたのと今回の話の流れも大体、まとまったので、投稿します。

重桜ヤンデレ爆発したいなぁ。


皆さんもフォースと共にあらんことを。


 NYシティの中心の近くにあるジェダイ聖堂。

 

 パダワンや多くのジェダイ達が帰るべき家というべき場所。

 

 俺にとって二つ目の家に戻ってきていた。

 

「マスターヨーダ」

 

「戻ってきたようじゃな、ゼロよ」

 

 ポッド・チェアーに腰かけているヨーダはお茶を用意していた。

 

「そろそろ戻って来ると思っていたぞ。飲むと良い」

 

「ありがとうございます」

 

 差し出された茶を飲む。

 

 顔をしかめながら味わう。

 

「ありがとうございます」

 

「今のところ、お前さんだけじゃな、付き合ってくれるのは」

 

「そうですか?オビ=ワンは?」

 

「一杯飲んで終わりじゃ」

 

「そうですか」

 

 茶のお代わりを貰いながらしばらく無言の時間が続く。

 

「マスターヨーダ、俺はジェダイを殺しました」

 

「……」

 

 ヨーダの手が止まる。

 

 お茶の道具を置いて、ヨーダはゼロをみた。

 

「そうか」

 

 たった一言、ヨーダは言う。

 

「……それだけ、ですか?」

 

「他に何を言う必要がある?もしや、罰を期待していたのか?」

 

「……否定はしません、俺は若き命を奪った罪から逃げたかったのかもしれません」

 

「それは許されぬことじゃ、お主はジェダイを殺したという事実と向き合わなければならぬ。逃げるという事はその者の命をなかったことにするものと同じ、お主が逃げれば、本当の意味でその者達は死ぬだろう。そして、お前は暗黒面へ堕ちてしまうだろう」

 

「……わかっています。すいません、少し弱気になっていました」

 

「仕方あるまい、お前の場合は事情がある」

 

 ヨーダの言葉にゼロは沈黙する。

 

 戦場で強大な力を振るうことができるジェダイだが、クローン戦争によって多くのジェダイが命を落としている。

 

 シスと戦って散った者、ドロイドの攻撃で命を落とした者、戦争でイッてしまい、その場で斬られた者、既に多くのジェダイがいなくなっていた。

 

「じゃが、時期にこの戦争も終わる」

 

「はい」

 

「ドゥークー伯爵、グリーヴァス将軍、そして、黒幕を捕まえれば、長い戦争も終わるのじゃ」

 

「はい、必ず、黒幕をあぶりだします」

 

「そのためには手がかりを探す必要がある。ゼロよ」

 

「はい」

 

「お主には重桜へ向かってもらいたい」

 

「はい、え?」

 

 ヨーダの告げた言葉にゼロは間抜けな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

 ジェダイ聖堂に戻ってきていたアソーカ・タノはそこで珍しい人物と遭遇する。

 

 小さなジェダイ・イニシエイトの子供たちと一緒にヘルメットで顔を隠してライトセーバーを構えて訓練を受けている少女。

 

 重桜のセーラー服と呼ばれる服を纏い、ヘルメットに隠れているがクリーム色の髪。

 

 アソーカと同じくらいの身長の少女を見たことがあった。

 

「綾波?」

 

「む?アソーカです?」

 

 声に気付いて訓練を中断した綾波はかぶっていたヘルメットを脱いだ。

 

「やっぱり、綾波じゃない、どうしてここに?」

 

「ゼロに特訓を受ける様に言われたのです」

 

「特訓?え?どういうこと?」

 

 綾波の告げた言葉に目を点にするアソーカ。

 

 突然のことに理解できないのだろう。

 

「アソーカじゃないか」

 

「あ、マスターゼロ」

 

 戸惑っているところにゼロがやってきた。

 

「えっと、綾波がジェダイの訓練を受けていたみたいなんですけれど、何かあったんですか?」

 

「あぁ、そのことか、マスターヨーダから許可はもらっている、綾波がフォースに覚醒したんだよ」

 

「え、そうなの!?」

 

 驚いた表情でアソーカが綾波を見る。

 

 綾波は少し戸惑った表情になった。

 

「実感は湧かないのです。それに、周りから何か、じろじろみられている気がするのです」

 

「それは綾波が可愛いからよ!」

 

 楽しそうにアソーカが綾波へ言う。

 

「よく、わからないのです」

 

「もう~」

 

「アソーカ、アナキンは?」

 

「マスターなら評議会へ報告。一人でいいからって私は周囲を散策しているの」

 

「そうか……ありがとう」

 

 そこでゼロは少し考えて。

 

「アソーカ、良い機会だから綾波の修行を手伝ってあげてくれないかな?」

 

「え?私が?」

 

「頼むよ、イニシエイトと一緒でやってもらうにしても、少し目立ってしまうから」

 

 イニシエイト達は幼い、その中に見た目が年上の綾波がいることは多くの者達からの視線を集めてしまっている。

 

「そうですね、良いですよ!」

 

「ありがとう、綾波、俺はアナキンと少し話すことがあるからもう少し頑張ってくれ」

 

「わかったのです」

 

 ゼロは小さく微笑むと聖堂の中へ入っていく。

 

 綾波はそんな彼の背中をじっと見つめている。

 

「綾波?どうしたの」

 

「アソーカ、相談、いいです?」

 

「いいわよ!友達だもの」

 

 アソーカの言葉に綾波は笑顔を浮かべた。

 

「ありがとう、なのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アナキン」

 

「ゼロか」

 

 報告を終えて歩いていたアナキンをゼロは呼び止める。

 

「久しぶりだな、前に会ったのは」

 

「ロイヤルのパーティーの時以来だよ」

 

「あの時か、聞いているぞ、そっちの部隊の噂」

 

「どういう噂かは聞かないでおこうかな?」

 

「その方がいい、それよりも大丈夫なのか?」

 

「一応は、かな?その様子だと」

 

「あぁ、聖堂内で噂になっている。お前が、ジェダイを殺した事」

 

「そっか」

 

 遅かれ早かれ噂として、広まることはわかっていた。

 

 しかし、少しばかり早いなぁとゼロは心の中で思う。

 

「すまない、だが、僕は」

 

「大丈夫、殺してしまったのは事実だ。後は俺がどう受け止めるかだけだから」

 

「そうか、もし、何か悩みがあればいつでも相談にのるよ」

 

「ありがとう」

 

「当然だ、僕達は親友だからな」

 

 アナキンの言葉にゼロは感謝する。

 

「早速だが、相談がある」

 

「いきなりだな、まぁいいが」

 

「相談っていうのは綾波のことだ」

 

「さっき評議会が話題にしていたな。艦船でフォースに覚醒したんだって?」

 

「そうだ、しかも、その力は並のジェダイなら歯が立たないほどの力を持っている」

 

「何だって?それは、本当なのか?」

 

「あぁ、なり立てとはいえ、ジェダイとしてそれなりの研鑽を積んでいたローンメイルが動揺して動きを止めるくらいだ」

 

「それは、なんというか心配だな」

 

「そこなんだ、綾波のフォースはとても強い。マスターヨーダに無理を言って俺が綾波の指導をする許可はもらっている。ただ、今まで弟子をとったことがなくて、色々と手探りしているところなんだ」

 

「読めたぞ、それで僕に相談か」

 

「まぁね、マスターとパダワンという関係においてはアナキンが先輩だしね」

 

 ジェダイ・ナイトとしての歴はゼロが長い。

 

 しかし、弟子の育成という点においてはアナキンが上なのである。

 

 ベテランのマスターヨーダへ伺うのも手ではあるけれど、こういう場合は親友のアナキンの方が聞きやすかった。

 

「俺が食事をおごるから、話をどうだ?」

 

「いいな、お前の奢りは久しぶりだ」

 

「まぁな」

 

 親友との語らいはとても充実していた。

 

 そして、心が癒される時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロと綾波の関係が変わるのではないかと心配なのです」

 

「関係?」

 

 二人はベンチで話をしていた。

 

「綾波はゼロの相棒なのです。でも、綾波がふぉーすに目覚めたことでジェダイの特訓を受けるという事で、綾波とゼロの関係が変わるのではないかと不安なのです」

 

「そっかぁ」

 

 アソーカは綾波をみる。

 

「綾波はゼロのことが大好きなんだね?」

 

「好き?好きですか、それもよくわからないものなのです。他の艦船、ベルファストやホーネット達はゼロのことを好きと沢山、言うのです。でも、綾波はその好きということがよくわからなくて戸惑うのです」

 

「それは私も、だね」

 

「アソーカも?」

 

「ジェダイは少し前まで恋愛禁止だったからねぇ、今更、愛とか恋と言われてもすぐにピンとこないから」

 

「どうすればよいのです?」

 

「時間が解決してくれるんじゃないかな」

 

「時間、です?」

 

「うん、だって、今すぐに解決できるというわけじゃないもの、それだったらもっと修行して、色々なことを知れば、そのうちわかるんじゃないかな」

 

「綾波も、わかるでしょうか?」

 

「きっと、わかるよ」

 

 アソーカはベンチから立ち上がる。

 

「さて、相談も済んだことだし、特訓をはじめようか!」

 

「はい、なのです!」

 

「びしばしいくからね!」

 

「頑張るのです!」

 

 二人は笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、もう一つの相談はなんだ?」

 

「バレていたか」

 

「当たり前だ」

 

 食事を終えたタイミングでアナキンは本題を促す。

 

 バレていたことにゼロは息を吐いた。

 

「マスターヨーダから次のオーダーの指示がでた」

 

「忙しいな、まぁ、戦時中といえば、仕方ないか?」

 

「次の行先は重桜だ」

 

「重桜、そうか、お前の故郷だったな」

 

「もう何年も帰っていないけれど……」

 

 ふと、アナキンは気づいた。

 

 ゼロの故郷が重桜であることは聞いているが、彼に家族はいるのだろうか?

 

「ゼロ、お前に家族は?」

 

「いない。俺が物心ついた時にセイレーンの攻撃で死んだ」

 

「そうか」

 

「悪い、重たい話を」

 

「いいや、聞いたのは僕だ。相談の内容は故郷のことだな?」

 

「あぁ、いや、故郷に帰ることに戸惑いがあるんだ」

 

「戸惑い?」

 

「もう十年以上、故郷へ帰っていないんだ。色々と変わっているんじゃないかと、それと……」

 

 長門、陸奥、江風。

 

 他に接してきた彼女達は自分のことをどう思っているのか。

 

 前に長門と再会した時を思い出そうとして顔をしかめる。

 

 彼女達にどう思われているのか、ただ、そのことが怖かった。

 

「怖いという感情を抱くのはジェダイにとってあるまじきことだろう、けれど、故郷へ向かうというオーダーを告げられた時、俺は嬉しさよりも恐怖が勝った」

 

「ゼロ……」

 

「ごめん、こんなことを話せるのはアニーだけだ。俺はこの任務、故郷へ戻ることにどうしょうもないくらいの恐怖を抱いている」

 

「本当なら、僕もキミを手助けしたい」

 

 アナキンもかつて故郷へ戻ったことがある。

 

 それはパドメと再会した時からみるようになった夢、母のシミ・スカイウォーカーが命を落とすというもの。

 

 悪夢ともいえることを唯一、話せたのはゼロだけ。

 

 その後、パドメの許可もあったことから三人でアナキンの故郷へ向かう。

 

 母は盗賊に誘拐されて拷問を受けて、瀕死だった。

 

 ゼロがいなければ、シミは死んでしまい、アナキンは怒りのあまり盗賊たちを皆殺しにしていただろう。

 

 それほどまでの怒りにあの時のアナキンは支配されていた。

 

 母を救出した後、短い時間ながら親子としての時間を過ごせたことはとても大事な思い出だ。

 

 だからこそ、ゼロを助けたいと思う。

 

 しかし、評議会から新たなオーダーを下されているアナキンは彼と共に向かうことができない。

 

「ありがとう、その気持ちだけでも十分だ。話せてよかったよ」

 

 ゼロの言葉にアナキンはあることを考えた。

 

「(申し訳ないがアソーカに協力してもらうことにしよう)」

 

 

 

 




賛否両論はあるかもしれないですが、スター・ウォーズを好きな人はスカイウォーカーの夜明けをみることを勧めます。

もし、最後のジェダイの監督や脚本が違う人なら、また違う展開もあったのかなぁと思います。


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故郷に舞う桜編 再び重桜

久方ぶりの投稿です。

話の展開とか、色々と考えてたら遅くなりました。

エロ回は当分、ないかもしれない。




「青い海、澄み切った白い空……とても綺麗だな。こういう時はのんびりと」

 

「ゼロぉ!勝負!」

 

「待て、瑞鶴殿!その前に拙者がゼロ殿と手合わせを約束しているのだ!」

 

「だ、だったら乱戦にしよう!そうすれば、鍛錬になるだろうし!」

 

「名案でござる!」

 

 ゼロの後ろで軍刀を構えている二人さえいなければ、のんびりできただろう。

 

 ため息を吐きながら振り返る。

 

「キミ達ねぇ」

 

「勝負!」

 

「覚悟!」

 

「てい」

 

 横から綾波が二人へ砲撃と雷撃する。

 

 攻撃によって甲板の上に倒れこむ二人の姿があった。

 

「成敗なのです」

 

「ありがとうよ」

 

 ピースサインをみせる綾波にゼロは感謝をする。

 

「故郷へ戻れるからって興奮しすぎなのです。故郷というものが綾波はよくわかりませんが……」」

 

「仕方ないわよ、故郷へ戻れるってそういう感情なんだから」

 

 呆れた表情を浮かべる綾波へアソーカ・タノが苦笑しながらやってくる。

 

「綾波にはわからないのです」

 

「……さて、綾波が潰した二人は放っておいて、俺達は修業を始めようか」

 

 ゼロの言葉に二人は頷いた。

 

 今回の任務、本来ならアソーカは同行する必要はない。

 

 綾波の指導することの条件としてジェダイのパダワンをもう一人面倒を見る様にということをマスターヨーダから伝えられ、アナキンが「ならば、アソーカを」と言ってきたのである。

 

 綾波は仲の良いアソーカが一緒という事で安心している様子だった。

 

「まずは瞑想をはじめるとしよう」

 

「瞑想、です?」

 

「ジェダイはフォースを使いこなせる者、それ故にフォースを感じる様に自らの心を隠している鎧を外してフォースに体を預ける必要があるの」

 

 首をかしげる綾波へアソーカが説明する。

 

「フォースを学ぶ者はフォースというものを知らなければならない。今日は綾波がフォースに慣れるまでやるけどね」

 

「え?」

 

「わかりました」

 

「あ、あの」

 

「じゃあ」

 

 笑顔を浮かべるゼロ。

 

 本来なら安心するはずなのに綾波は不思議と安心することができなかった。

 

 嫌な予感というものが綾波の中を通過する。

 

「はじめようか」

 

 この日、綾波はぐっすりと眠りにつくこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスタージェダイ、少し良いかな?」

 

「これはヴァローラム議員、どうされました?」

 

「今回、私に同行してくれて感謝するよ」

 

「オーダーが下されたから偶然ですよ」

 

 ゼロの言葉にフィニーズ・ヴァローラムは笑みを浮かべた。

 

「偶然とはいえ、私にとってキミは幸運の女神だ」

 

「勘弁してください。偶然です」

 

 ゼロがまだパダワンだったころ、移動用のバスへ乗ろうとしていた人が落としたハンカチを拾って呼び止めた。

 

 直後、爆破テロによってそのバスが吹き飛んだ。

 

 乗っていれば命を落としていたであろう彼はゼロを命の恩人と呼んで友人という関係を築いた。

 

 そう、フィニーズ・ヴァローラムの命を偶然にもゼロは救ったのである。

 

「偶然は必然とも呼ばれる。こんなしがない政治家だが、受けた恩は返すつもりだとも」

 

「恩なんて、俺はそこまで思っていませんよ。それに、故郷へ手を差し伸べてくれて、ありがとうございます」

 

 今回、ヴァローラムは物資支援ということで重桜へ訪問しようとしていた。

 

 クローン戦争が続いて、多くの国が資材や様々なものを消耗している。戦争が続けば小さな国等の物資消耗が続けば、疲弊や貧困に繋がっていく。

 

 資産家であるヴァローラムは協力国へ今回のように物資などを提供していた。

 

「あぁ、そういえば、重桜はキミの故郷だったか」

 

「はい、もう何年も帰っていませんけれど……議員、その、重桜は」

 

「二回ほど訪問させてもらっているが、独特な国だと思うよ」

 

「独特ですか」

 

「お目にかかったことはないがミズホの神秘だったかな?それに、国を治めているのがとても小さな少女だが、鋭く、先見の目を持っていると思う」

 

 長門のことだ、

 

 ゼロは口に出さずに彼の話に耳を傾ける。

 

「だが、あの国は少し怖いと感じる」

 

「怖い?」

 

「行けばわかるとも」

 

 遠くを見るヴァローラムの言葉が酷くゼロの中で説明のできない焦燥感を生む。

 

 その理由はわからなかった。

 

 ただ、直感的に何かが重桜で起こっている。

 

 ゼロはそう感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、輸送船は重桜の港へ到着した。

 

 輸送船を護衛するのは瑞鶴、高雄、綾波のフネだ。

 

 港の入口に複数の人影があった。

 

 一人は高雄と似たような軍服、流れるようなストレートの黒髪、天辺に伸びる獣耳。

 

 流れるような銀髪、瑞鶴と似た着物を纏った女性。

 

「高雄ちゃん~」

 

「瑞鶴ぅ!」

 

 嬉しそうに高雄と瑞鶴の姿を見つけると二人は近づいてくる。

 

「愛宕か」

 

「翔鶴姉ぇ!」

 

 微笑む高雄の横を飛び出していく瑞鶴。

 

 瑞鶴は姉妹艦である翔鶴へ抱き着いた。

 

「ひっさしぶり!翔鶴姉!」

 

「瑞鶴、元気だった?」

 

「勿論!」

 

 嬉しそうに話し合う二人の横で高雄と愛宕は再会を喜ぶ。

 

「高雄ちゃん、久しぶりね」

 

「あぁ、そちらもな」

 

 にこりと笑みを浮かべながら愛宕は顔を近づける。

 

「と、こ、ろ、で、噂の剣士様はどこにいるのかしらぁ?」

 

「む?ゼロ殿なら」

 

 高雄はヴァローラムと一緒にいるゼロを指さす。

 

 ジェダイローブを纏い、フードで素顔を隠している。

 

「ふーん」

 

 愛宕の視線を感じたのかフード越しにゼロと目が合う。

 

「あらぁ」

 

 ニコッと笑みを浮かべる愛宕をみて、高雄は首を傾げた。

 

「愛宕?」

 

「タイプかも」

 

「は?」

 

「見た目は年上にみえそうだけれど、一瞬だけ浮かべる笑顔っていうの?それが年下にみえて可愛いわぁ」

 

「……」

 

 頬を赤らめてぺらぺらと話す愛宕の言葉に絶句する高雄。

 

「ねぇ!高雄ちゃん!あの人を紹介」

 

「ほら、行くぞ」

 

「あぁん、いけずぅ」

 

 ため息を吐きながら高雄は愛宕を引きずっていく。

 

 彼らの様子をフード越しにゼロはみていたことに気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待ちしておりました。ヴァローラム議員様」

 

 ヴァローラムとゼロは港を出てすぐに一人の艦船が立っていた。

 

「私は江風、あなたを神子様のいる社まで案内を務めます」

 

「おぉ、これはよろしくお願いします」

 

 ぺこりと頭を下げるヴァローラム。

 

 江風はちらりと隣にいるゼロをみた。

 

「そちらは?」

 

「彼はジェダイです。今回は私の護衛としてきてもらっています」

 

 挨拶をしたいところだが、一目でわからないかもしれない。

 

 ゼロはぺこりと会釈した。

 

「そうですか、では、こちらへ」

 

 続こうとする綾波とアソーカへゼロが振り返る。

 

「二人は重桜の街並みをみてくるといい」

 

「え、でも、議員の護衛は?」

 

「俺だけで今は大丈夫。それよりも二人には街へ繰り出して、雰囲気などをみてきてくれるか?」

 

「わかりました。綾波、行きましょう」

 

「はいなのです。では、ゼロ、後で」

 

「あぁ」

 

 頷いてアソーカと綾波は街の方へ。

 

 ゼロはヴァローラム議員と江風の後を追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「国の名前に桜がついているからだろうけれど、桜の木が多いわね」

 

 アソーカと綾波は重桜の街並みを見ていた。

 

 多くの艦船達が行き交い、賑わいを見せる街中を進む二人。

 

 同じような造りの建物が並ぶ場所を綾波は興味深そうに見ていた。

 

「綾波?どうしたの?」

 

「ここが重桜、ゼロの故郷なのですか」

 

「綾波の故郷でもあるでしょう?」

 

 不思議そうに景色を眺めている綾波の姿をみて、アソーカは微笑む。

 

「そうなのです。でも、あまり実感が湧かなくて困っています」

 

「これから故郷だって思っていけばいいのよ」

 

 にこりとほほ笑みながらアソーカは綾波の手を引いて歩き出す。

 

「アソーカ、楽しんでいます?」

 

「任務ということもあるけれど、前から重桜はマスターから話を聞いていて興味があったの」

 

「重桜、とても興味深いのです」

 

 綾波は小さな笑顔を浮かべる。

 

 アソーカに手を引かれて彼女は町中を歩いていく。

 

 数分後、厄介ごとに綾波達は遭遇する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてこうなったのだろうか?」

 

 フードを深くかぶりながらゼロはため息を零す。

 

 正面には巨大な棍棒を持った二回りほど大きな男。

 

 一応、重桜で肉屋をやっているらしいが見た目がどうみてもオー〇である。

 

 手の中にある木刀をみて、相手の持つ棍棒をみた。

 

「こちらの武器が木の棒にしかみえないなぁ」

 

 ため息を吐きながら近くの舞台をみる。

 

 集まっている重桜の重役たち、彼らに囲まれる形で長門が心配そうにこちらをみていた。

 

 彼女が不安に揺れている姿を見て、もう一度、相手を見る。

 

「覚悟を決めるか」

 

 ため息を吐きながら正面の相手をみる。

 

 審判役の人間が叫ぶ。

 

「これより!神子様の婿を決める試合をはじめる!第ニ試合!流浪の民、零。もう一人、肉屋とんてきの大橙丸!」

 

 鼻息を荒くしながら棍棒を構える男。

 

「ちょっと、吐息がこっちまで当たって来るんだけど」

 

「はじめ!」

 

 合図とともに振るわれる棍棒をギリギリのところで躱す。

 

 ただただ躱していると相手が笑い出す。

 

「逃げるだけか?腰抜け!」

 

「ツバを飛ばすなよ、汚いなぁ」

 

「死ねぇええええ!」

 

 叫びと共に振るわれる棍棒が地面を砕く。

 

 棍棒が地面へめり込んだことを確認すると同時に駆け出す。

 

 地面にめり込んでいる棍棒を踏み台にしながら宙を舞い、男の額へ拳を一撃。

 

 相手は白目をむいて地面へ崩れ落ちる。

 

「審判、気絶しているけど?」

 

「え、な、あ!流浪の民、零の勝ち!」

 

 審判が旗を上げたことで試合が終わる。

 

 観客たちの歓声が上がる中でゼロは片手をあげて挨拶をしながらそくささと姿を消す。

 

 戦いのやり取りを見ていた長門へ傍にいた陸奥が静かに声をかける。

 

「やったね、長門姉」

 

「む、そう、だな。しかし、なぜ」

 

 曖昧な笑みを浮かべる長門へ傍に控えている男が話しかける。

 

「長門様」

 

「っ、な、なんだ?」

 

「流浪の民ということでしたが、どうやら余興としては楽しめそうですな」

 

 男の言葉に長門は応えない。

 

 陸奥は男を見て不機嫌な顔になる。護衛として控えている江風は表情を変えないがいつでも刀は抜ける様に待機していた。

 

 二人の表情の変化に気付かないまま、男は元居た場所へ戻っていく。

 

 長門は小さなため息を零しながらゼロが去っていった方を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やりましたね!殿!」

 

「あぁ、まぁ、そうだね。龍驤」

 

 控室へ戻るための通路のところでこちらへ駆け寄って来るのは重桜の空母、龍驤。

 

 頭部に龍のような角を生やした彼女は先ほどの戦いを見て、キラキラした眼差しをゼロへ向けてくる。

 

「ところで、龍驤、殿って、なに?」

 

「龍驤は武士です!貴方の戦いを見て、主と定めました!この命を殿へ捧げます!」

 

「いや、ごめん、それはちょっと」

 

「遠慮しないでください!殿のような素晴らしい方へお仕えすることができて幸せです!」

 

 こちらの話を聞かずにぐんぐんと距離を詰めてくる龍驤。

 

 どうして、こうなったのか、ゼロは記憶を遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願い!ゼロ!長門姉を助けて!」

 

 ヴァローラム議員と長門との面会するため、待合室にいたゼロ。

 

 江風から話を聞いたのだろう慌てた様子で入ってきた陸奥は涙目でゼロへ抱き着いてきた。

 

 フードで素顔を隠しているとはいえ、陸奥は迷うことなくゼロへ訴える。

 

「このままじゃ、長門姉がしたくもない結婚をすることになっちゃう!」

 

「……どういう、意味だ?」

 

 陸奥の言葉の意味が理解できず、ゼロは首をかしげる。

 

「マスターゼロ、そのことで伝えなければならないことがあるのだよ」

 

 泣きじゃくる陸奥の傍でヴァローラム議員が話を切り出す。

 

 ヴァローラム議員の話によると長門を神子と祭り上げている連中がより、自分達の権力を確固たるものとするために、彼女の旦那を決める催しを本日、行うのだという。

 

「長門は、いや、神子様はそのことに対しては」

 

「反論できないよ!だって、長門姉様は……だって」

 

 ゼロは考える。

 

 今回の話ははっきりいってジェダイが関わるべきものではない。

 

 ジェダイは平和と安寧の使者、長門の婿を決める話というのは重桜内における権力争いだ。

 

 そんなものにジェダイが関わるべきか?というところで、多くのジェダイは悩むだろう。

 

 だが、ゼロは目の前で泣いている陸奥をみる。

 

 ため息を零しながらゼロはフードを取った。

 

「ジェダイとして、権力争いに参加することはできない」

 

「そんな!?」

 

「だが、家族が泣いているんだ」

 

 絶望に染まっていた陸奥の頭を撫でる。

 

「ただのゼロとして、協力するよ。陸奥」

 

 そうして、現在。

 

 ゼロは長門の婿候補の一人として、この争奪戦に参加していた。

 

 フォースの力を借りずに自らの鍛えた力だけで既に二戦目を終えている。

 

 手の中の木刀を握りなおす。

 

 初戦で何故か参加していた龍驤を倒して、先ほどのオー〇もどきを倒して一息をついた。

 

 龍驤から距離を取りながらゼロは懐から通信機を取り出す。

 

「アソーカ、こちらゼロ」

 

 少しばかり雑音が走りながらもアソーカの応答が入る。

 

『マスターゼロ!えっと、どうされました?』

 

「いや、ちょっと、こちらがややこしいことに巻き込まれていて、そっちは」

 

 ふと、ゼロは通信機へ耳を澄ます。

 

 何やら通信の向こうで水の音と爆発、続けて怒鳴り声のようなものが聞こえていた。

 

「もしかして、アソーカ」

 

『マスターゼロの推測の通りです。えっと、厄介ごとに巻き込まれています』

 

「そうか、じゃあ、しばらく合流はできそうにないな……」

 

『ごめんなさい』

 

「謝ることはないさ、合流は難しそうだな。とりあえず、落ち着き次第、また連絡という事で、ゼロ通信終わり」

 

『了解です。アソーカ通信終わり』

 

 通信機を懐に仕舞って次の試合へ備えようとした時、伝令係の人間が伝えてくる。

 

 

――試合は明日になったと。

 

 

「さて、帰るか」

 

「殿!お供を」

 

「要らない、帰るんだ」

 

 フォース・マインドを使って龍驤へ帰宅するように促す。

 

 艦船は普通の人間よりもマインドに対する抵抗が強いのだが、どうやら龍驤はゼロに対してかなり心を開いているらしい。

 

「わかりました!帰ります!」

 

 あっさりとマインドに嵌った龍驤はダッ!と勢いよく去っていった。

 

「さて、ヴァローラム議員のところへ戻るとしよう」

 

 通路を出たところで人ごみに紛れようとしたゼロ。

 

 その時、泣き声が聞こえてくる。

 

 野次馬達が離れたところで輪を作っていた。

 

 ゼロは何事かと思いながら輪の向こうをみる。

 

 そこでは見覚えのある女性があたふたしながら泣いている少女をどうすればいいか悩んでいた。

 

 周りの人たちは彼女を恐れているのか、近づこうとしない。

 

 ゼロはため息を吐きながら人込みを抜けていく。

 

「大丈夫かい」

 

「っ、貴様は」

 

 驚く加賀の言葉に反応せずにゼロは泣いている少女の頭を優しく撫でる。

 

 泣いていた少女はゼロをみて、驚いたように目を見開く。

 

「怪我はしていないようだね」

 

 懐からハンカチを取り出しながら少女の顔の汚れと涙を拭う。

 

「急ぐ気持ちはわかるけれど、ゆっくり歩いていくんだよ?」

 

 ゼロは懐で購入していたどら焼きを少女へ差し出す。

 

 笑顔を浮かべて少女は両手で受け取ると走り出して、去っていく。

 

「走らない方がいいのに」

 

 苦笑しながらゼロは土ぼこりを祓いながら目の前の彼女へ挨拶をする。

 

「久しぶりだね、加賀」

 

「貴様、あの時のジェ――」

 

「シッ」

 

 最後まで言い切る前に加賀の口を止める。

 

「悪いけれど、今は放浪の民の零ということになっているから」

 

「どういうことだ?」

 

「えっと、歩きながら話すで良い?何か、視線を集めちゃっているから」

 

 加賀が周りを見るとひそひそと話している人達の視線がある。

 

 舌打ちをしながら歩き出した加賀の後に続くゼロ。

 

 手短にゼロは長門の婿になるための争いに参加していることなどを伝える。

 

「お人好しめ」

 

「否定はできないよ」

 

 呆れた加賀の言葉にゼロは苦笑する。

 

 加賀はそんなゼロの姿を横でみながら尋ねた。

 

「そういえば、貴様、なぜ、助けた?」

 

「泣いている子を放っておくことはできないだろう?それに、泣いている子をどうすればいいかわからずあたふたしている子を」

 

「忘れろ」

 

 言い切る前に加賀がゼロの前に立ち、胸倉を掴む。

 

「いいな?忘れろ。忘れないなら貴様の首をひねりつぶす」

 

「物騒だな。まぁ、いうつもりはないから手を離してもらえるかな?あと」

 

「?」

 

「その、当たっている」

 

 胸倉をつかむために距離を詰めてしまった為にゼロの体と加賀の体がぴったりと触れ合っていた。

 

「何のことだ?」

 

 首を傾げる加賀。

 

 どうやらこういうことに関する羞恥心はない様子。

 

「えっと、とりあえず、広めるつもりもないから離してくれないかな?」

 

「いいだろう」

 

 加賀が離れたことを確認してゼロは感謝を告げる。

 

「貴様は……変わっているな」

 

「そうかな?まぁ、よく言われるかもね」

 

 鼻音を鳴らしながら加賀は先を歩く。

 

「そういえば、貴様はこれからどこへいくつもりだ?」

 

「あぁ、議員の護衛できているからね、今からそこへ戻るつもり」

 

 方向を指すと加賀は「そうか」と短く頷くと歩き出す。

 

「どうした、来ないのか?」

 

 少し進んだところで振り返る加賀。

 

 首をかしげるゼロの姿を見てため息を零す。

 

「議員のところまで案内してやる。ついてこい」

 

「……ありがとう」

 

 感謝の言葉を述べてついてくるゼロの姿を見て、加賀は小さく呟く。

 

「調子が狂う」

 

「何か言った?」

 

「……さっさと、行くぞ」

 

 加賀を先頭にしてゼロはついていく。

 

 探し人はすぐにみつかる。

 

 ヴァローラム議員は長門と一緒に重桜で有名な茶屋で談笑をしていた。

 

 ユニオンの人間と重桜の人間が一緒にいることで政治的なやりとりがあると想像されるだろう。

 

 実際は違う。

 

「ふむふむ、やはり、ゼロは変らぬか」

 

「そうか、重桜で生活していたことは知っていたが、そういう話でしたか」

 

「……何をしているんですか?」

 

 談笑している二人の姿に呆れた表情を浮かべながらゼロは尋ねる。

 

「世間話ですよ。マスタージェダイ」

 

「内容が俺のことのように聞こえますけれど?」

 

「む、ゼロは余と会いたくなかったのか?」

 

「いや、そういうわけじゃなくて」

 

「さて、マスタージェダイが来てしまったから楽しいお話はここまでですな。では、長門様、また、明日」

 

「うむ、貴重な話を聞かせてもらって大変感謝しておるぞ。ヴァローラム殿」

 

「気軽におじいちゃんと呼んでもらっても構いませんよ」

 

「か、からかわないでください!」

 

 顔を赤くしながら叫ぶ長門の姿が可愛いと思いながらもゼロは護衛としてヴァローラムに続く。

 

 店の外では加賀が待っていた。

 

「無事に合流できたようだな」

 

「加賀のおかげだよ。ありがとう」

 

「おや、マスタージェダイも隅に置けませんなぁ、こんな美女と一緒に行動していたのですか?」

 

「揶揄わないでください。議員。彼女は案内をしてくれただけですよ」

 

 そういってゼロは加賀へ感謝する。

 

「案内をしてくれてありがとう」

 

「……貴様に、言いたいことがある」

 

「何かな?」

 

「…………前は悪かった」

 

「?」

 

 加賀の言葉の意味がわからずゼロは首をかしげる。

 

 顔を赤くしながら加賀は言葉を発した。

 

「この前の戦い、兵士のことをバカにして悪かった」

 

「それは俺に言う事じゃないよ」

 

 優しく言うゼロ。

 

「俺じゃなくてトルーパー達へ謝罪してほしい」

 

「それは……」

 

「戦いはまだ続いている。重桜と戦うこともまたあるだろうし、その時に謝罪をしてほしいな」

 

「……やっぱり、貴様は変っている」

 

「そうかもね?でも、それでいいと俺は思っているから」

 

「フン、私は行く」

 

 そういって加賀は去っていく。

 

 振り返るとヴァローラム議員がほほ笑んでいた。

 

「なんですか?」

 

「いえいえ、若いというのは素晴らしいですね」

 

「?」

 

 言葉の意味がわからず首をかしげる。

 

 同時刻、長門の機嫌が悪くなり周囲の温度が下がったとか、そうでないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重桜のどこか。

 

 

 光の差し込まない闇の中。

 

 水の流れる音だけが響くその場所に彼はいた。

 

「彼がきたわよ?」

 

 迷走するように岩の上へ腰かけている彼へ囁く者がいる。

 

 宙に浮きながら男の耳元へ囁く者は人ではない。

 

 ましてや、艦船ですらない。

 

 その正体はセイレーンの上位個体、オブザーバー。

 

 少女のような体つきをしているが、無数の蛸のような触手と頭部にある触覚のようなもの、何より怪しい輝きを放ち黄色い瞳が尋常ならぬものを感じさせた。

 

「そうか」

 

「嬉しいかしら?再び、相まみえることができるのだから」

 

「俺よりも奴が喜ぶだろうよ」

 

 男は暗闇の中でその者の名前を呼ぶ。

 

「余計な連中もきているようだな」

 

「あら、貴方と同郷の連中でしょう?」

 

「同郷?ふん、偽りの連中だ。どちらにしろ、いつかは潰すべき存在に過ぎない」

 

「あらあら、物騒なこと」

 

 笑いながらオブザーバーは男の周囲を漂う。

 

「とても楽しいことになりそうだわぁ」

 

「ゲテモノの趣味だな」

 

 呆れながら男は瞑想を続ける。

 

 いずれ、戦う未来がやってくる。

 

 男の脳裏に交差する赤と青のライトセーバーのイメージが浮かぶ。

 

「その未来はすぐにやってくる。まぁ、短い時間くらい待てるとも」

 

 にやりと男は笑う。

 

 

 

 

 

 

「(そう、全ては計画通りに進んでいる。私達の望んでいる通りにねぇ、あぁ、早く会いたいわぁ、呪われた子に)」

 

 

 

 

 そして、オブザーバーも妖艶な笑顔を浮かべた。



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故郷に舞う桜編 シスの足音

本当は別の小説を投稿するつもりだったのですが、モチベーションがガクンと落ちたという情けない理由でこちらをだします。

アズールレーンも終わりが近づいているなぁ。

北方連合のイベント、皆さんはどうですか?

こちらは資金を枯らしながら全員、来てもらいました。

ヤバイ、この小説に出せそうな個性ばかりですわぁ。


「さて、何があったんだ?」

 

 ゼロの問いかけに困った表情を浮かべる綾波。

 

 アソーカもどう説明していいのかわからずに首をかしげていた。

 

「綾波も説明に困るのです」

 

「マスターゼロ、その、私から説明を」

 

「アソーカ、これは綾波がします」

 

「おい!」

 

 綾波が説明しようとしたところで後ろからゼロを睨む者が複数いた。

 

「綾波をいじめんな!」

 

「そうだ!そうだ!何かするなら雪風様が容赦しないのだ!」

 

 重桜の制服を纏い、獣耳を生やした艦船。

 

 困っている綾波を見て助けようと思ったのだろう。彼女達が本気で綾波を心配していることがフォースを通して伝わってくる。

 

「いじめているわけじゃないよ。キミ達は?」

 

「夕立だ!」

 

「雪風様だぞ!そういうお前は誰なのだ?」

 

「あぁ~、俺はゼロだ」

 

「「え!?」」

 

 ゼロが名乗ると夕立と雪風は驚いた表情を浮かべてひそひそと話し合う。

 

「な、なぁ、ゼロってさぁ、もしかして、あのゼロか?」

 

「ゆ、雪風様はわからないのだ。時雨やみんなが話しているゼロならマズイのだぁ」

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロ、その……ちゃんと説明するのです」

 

「わかった」

 

 綾波の話によると出店の食べ物を購入した夕立とぶつかってしまい、買ったお菓子が台無しになってしまい、夕立が激怒。

 

 謝り弁償しようとしたところで綾波が艦船であることを知り、夕立が決闘を申し込んだ。

 

 最初は拒んでいた綾波だったのだが、傍にいたアソーカやゼロをバカにされたことでやる気になり、艤装を身に纏い決闘開始。

 

 本気を出した綾波の手によって夕立は敗北。

 

 負けた夕立だが、綾波の強さを気に入って仲良くなってしまったらしい。

 

「それで、こんなにじゃれつかれているわけか」

 

「はい、なのです」

 

「まぁ、決闘を応じてしまったことは問題だけれど」

 

 ゼロはしゅんとしている綾波の頭を撫でる。

 

「友達ができたのはよかったんじゃないか?」

 

「怒らないのです?」

 

 不安そうに見上げてくる綾波。

 

「うーん、まぁ、人生経験をつめたから次からはないように気を付けてくれ」

 

「わかりました」

 

「よろしい!さて」

 

 ゼロはアソーカをみる。

 

「俺達も帰るとしよう」

 

「はい、なのです」

 

「わかりました」

 

「えぇ、綾波、帰るのか?」

 

「もっと、話したいのだぁ!時雨や他の子達を紹介したいのだぁ」

 

「う、むぅ」

 

 左右から抱き着かれて困った表情を浮かべる綾波。

 

 ここまで好かれているのかとゼロは苦笑しながら二人へ提案する。

 

「しばらく俺達は重桜にいるから、また明日、綾波へ会いに来てくれないか?」

 

「本当なのか!」

 

「あぁ、綾波もそれでいいな?」

 

「ゼロがいうのなら、大丈夫なのです」

 

 綾波が了承したのをみて、夕立と雪風もはにかんだ笑顔を浮かべた。

 

 二人と別れて道を歩くゼロ達。

 

「あの、マスターゼロ」

 

「なんだ?」

 

「どうして、その、こんなに食材を?私達は来賓用の宿泊施設に行くんじゃ?」

 

「本来ならば」

 

「え?」

 

「実はなぁ、来賓用のホテルの一室が老朽化していて使用できないんだ。そこで重桜の許可をもらって、俺が使用していた小屋でしばらく生活することになった。まぁ、自炊する必要があるから食材購入しているんだけどな」

 

「えぇ~!?」

 

 驚くアソーカの言葉にゼロは苦笑いを浮かべる。

 

「議員の護衛があるから、一人は宿泊施設を利用できるように交渉してある。アソーカは施設を利用してもらう」

 

「え、あ、じゃあ、二人は?」

 

「その小屋を使う、幸いにも施設から遠いというわけじゃないし」

 

「わかりました。でも、私がこんなに食材を持つ理由って」

 

「手伝いだよ」

 

 ゼロの言葉にアソーカは頬を膨らませた。

 

 綾波は桜が咲き乱れる道を眺めている。

 

 しばらくして、道から外れたゼロ達はある小屋へ到着した。

 

「マスターゼロ、その、この小屋を利用するんですか?」

 

「まぁ、昔より劣化はしているけれど……生活することは問題ない」

 

「えぇ」

 

 戸惑うアソーカの前でゼロは小屋の引き戸をあける。

 

「江風の話では陸奥が定期的に掃除をしてくれているという事だったけど、本当だったみたいだな」

 

 室内の状態を確認しながらゼロは食材を並べる。

 

 アソーカは先ほどから沈黙している綾波をみた。

 

「綾波は平気なの?その、小さな小屋で」

 

「問題ないのです。ゼロと二人っきりは久しぶりなのです。嬉しいのです」

 

「駄目だ、聞いていない」

 

 頭を抱えそうになるアソーカだった。

 

「二人とも、中に入らないのか?」

 

「わかりました」

 

「入るのです」

 

 ゼロに促されて綾波とアソーカも小屋の中に入る。

 

 小屋の中では既にゼロが食材を切って、鍋など調理を始めていた。

 

「早いですね」

 

「まぁ、少しばかりフォースの力を借りたけれど」

 

 内緒だよ?と口元に指をあてながら言うゼロにアソーカは苦笑するしかない。

 

 三十分ほどして、卓袱台の上に重桜の料理である肉じゃが、魚の塩焼き、みそ汁、ご飯が並んでいる。

 

「これ、マスターゼロが作ったんですか?」

 

「まぁ、こういう料理しか作れないけれど」

 

 そういって三人は食事を始める。

 

 箸に不慣れだったアソーカだが、綾波とゼロの指導によってすぐに使いこなせるようになった。

 

「マスターゼロの料理、とてもおいしかったです」

 

「ありがとう、そういってもらえると嬉しいよ」

 

「ゼロの料理、はじめて、食べました」

 

 嬉しそうにしている綾波達へお茶の入った湯飲みを渡すゼロ。

 

「そっか、重桜がマスターゼロの故郷なんだよね?」

 

「この小屋を利用していた期間は俺がジェダイとして活動している時期よりとても短い。けれど、不思議と懐かしいという気持ちになるんだ」

 

「それはここがマスターの故郷だからじゃないですか?」

 

「そう、なのかもな」

 

 アソーカの言葉でゼロは小さな笑みを浮かべて、綾波は湯飲みへ視線を向けていた。

 

 夕食後、アソーカは議員護衛の為に宿泊施設へ向かい、小屋の中はゼロと綾波の二人だけとなる。

 

「さっき、何を気にしていたんだ?」

 

 卓袱台の前でゼロは綾波へ問いかける。

 

「ゼロは重桜が故郷です。綾波はそのことをきいて、もやもやしました。綾波は故郷がないのです」

 

「……でも、綾波は重桜が」

 

 そこから先の言葉をゼロは飲み込む。

 

 確かに駆逐艦 綾波は重桜のフネであるが、目の前にいる少女は重桜で生まれたというわけではない。

 

「じゃあ、今日からここが綾波の故郷っていうのはどうだ?」

 

「え?」

 

 ゼロの提案に綾波は驚いた表情を浮かべる。

 

「え、でも」

 

「故郷がないっていうのなら作ればいい。ジェダイにとって聖堂が家というように、ここを、俺の住んでいた故郷を綾波の故郷ということにすればいいんじゃないかなと俺は思うんだよ」

 

 どうだろう?というゼロの問いかけに綾波は何度か瞬きをした後。笑顔を浮かべる。

 

「嬉しいのです」

 

 心の底から喜んでいる笑顔を見ているとゼロも嬉しく思えた。

 

「ところで、ゼロ」

 

「うん?」

 

「ご飯を食べたのは良いですけれど、お風呂はどうするのです?ここ、お風呂はないようにみえるのですが」

 

「あぁ、そのことなんだけど」

 

 ゼロは視線を少しさ迷わせながらあることを告げる。

 

「温泉、行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、瑞鶴、頑張ったのね!」

 

「えへへへ、まぁね!」

 

 ゼロ達が楽しい食事をしている頃、瑞鶴や高雄もまた姉妹艦たちと夕食を楽しんでいた。

 

 翔鶴に撫でられて嬉しそうにほほ笑む瑞鶴。

 

 彼女達のやり取りを高雄、愛宕が微笑ましく見ていた。

 

「ところで」

 

 そして、この場には彼女達の他に三人ほど、参加者がいる。

 

 川内型の一隻、神通が静かに問いかけた。

 

「瑞鶴さんと高雄さんを率いている方はジェダイだと聞いていますが、どういう人なのでしょう?」

 

「ゼロ将軍のことか?」

 

「とっても強くて!頼りになる人だよ!」

 

「そうなの、瑞鶴はとても信頼しているのね(これはちょっとオハナシを考えた方がいいのかしら?)」

 

 嬉しそうに話す瑞鶴の横で黒い笑みをうっすらと浮かべる翔鶴に誰も気づかない。

 

「瑞鶴殿の言うとおり、ゼロ将軍は指揮官として、とても頼りになる方だ。ジェダイでなければ、生涯をささげる主として我が刀を預けられただろう」

 

「あら、高雄ちゃんがそれほど入れ込むなんて。益々、興味が出てきわぁ」

 

 笑みを浮かべながら酒を飲む愛宕。

 

「貴方ほどの武人がそこまでの評価をしているなんて、興味深いですね」

 

「そういえば、ゼロって、重桜の出身なんだよねぇ」

 

 扇子で口元を隠しながら思案する神通。

 

 瑞鶴は思い出したように話す。

 

「へぇ、ジェダイで、重桜出身、どれだけの猛者か、興味があるな」

 

 “力の川内”と言われるほどの猛者である彼女はゼロに興味を示す。

 

 その興味は文字通り、ゼロの力という意味である。

 

 川内と神通の話を聞いていた川内型の一人、那珂も興味深そうに耳をピコピコと動かしていた。

 

「(これは少し不味いかもしれない)」

 

 魚の切り身を食べながら高雄は不安を感じた。

 

 川内、神通は重桜の艦隊において切り込み役であり、主戦力の一角を担っていると言っても過言ではない。

 

 そんな彼女がゼロに興味を示し始めている。

 

 ジェダイで指揮官適性をもっているからということもあるのだろうが。

 

「(川内殿と神通殿の瞳がなんといえばいいのだろう、ベルファスト殿やホーネット殿のような危険性をはらんでいるような?)」

 

 ちらりと、楽しそうに食事を楽しんでいる彼女達に警戒すべきかと悩んでいた高雄の横でパチンと愛宕が手を叩く。

 

「そうだわ、どうせだから、噂のゼロさんとやらを明日、見に行くというのはどうかしら?」

 

 何気ない一言だが、室内の気温がぐぐんと下がったような気がする。

 

 果たして、それに気づいたのは高雄と那珂くらいだろうか。

 

「名案ですね!瑞鶴の慕う殿方をみてみたいです!(もし、瑞鶴を傷物にしていたら、その時は……フフフ)」

 

「明日が楽しみですね(ジェダイで重桜、殿方として魅力があるかは置いておくとして……もし、役立つ人材であるならば、重桜で確保しておきたいですね)」

 

「そうだな(ここのところ退屈だったからなぁ、良い男だったら、同衾を考えるか)」

 

「楽しみです!(指揮官かぁ、色々とご教授してもらえるかもしれない!そうしたら川内姉さんや神通姉さんみたいに強くなれるかも!)」

 

 

 様々な思惑を抱えながら彼女達は明日を楽しみにする。

 

 その頃、ゼロがどうなっているのか知らないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「温泉はとても良かったのです」

 

「あぁ、野生の狐が入っていたことに驚いたけれど」

 

「ゼロと一緒に入りたかったのです」

 

「流石に勘弁してくれ」

 

「どうしてです?相棒なら一緒でも問題ないはずなのです」

 

「いや、そういうわけにもいかないからな?」

 

「良く、わからないのです」

 

 首をかしげる綾波にゼロは苦笑してしまう。

 

 ふと、ゼロは歩みを止めた。

 

「ゼロ、温泉に入ったはずなのに、なぜか、寒いのです」

 

 隣にいた綾波が自らの体を抱きしめるようにして震えている。

 

「綾波、それは――」

 

「ほう、ダークサイドの力を感じ取れる者がいるのか」

 

 暗闇の中、木々のざわめきが聞こえる中から現れる者がいた。

 

 圧倒的に感じられる暗黒面の力。

 

「お前、シスか」

 

「そういう貴様はジェダイか、よもやこんな辺境の地でジェダイと遭遇することになるとは、数奇な運命よ」

 

 黒いローブで素顔を隠しているが暗闇の中でランランと輝く黄色い瞳がゼロを捉えて離さない。

 

「そうだな、まさか、故郷にシスがいるとは思っていなかった」

 

 綾波を庇うようにしながらゼロが前に出る。

 

 暗闇の中だというのに相手が笑っていることが不思議と理解できた。

 

 シス独特の空気に綾波は飲まれ始めている。

 

「シスはどこにでもいる。貴様らが滅ぼしたと思うのは錯覚だ」

 

「そのようだね」

 

 黒いローブの男が懐からライトセーバーを取り出す。

 

 暗闇の中で赤く輝く刃を前にゼロは袖口に隠していたライトセーバーを起動する。

 

 交差する赤と青の光刃。

 

 暗闇の中で連続して交差していく刃。

 

「貴様、手加減をしているな?」

 

「どうだろうね」

 

――気付かれている。

 

 ゼロは相手に対してニマーンというフォームを使っていた。

 

 ジェダイが考案していたいくつかのフォームを組み合わせ、バランスよく発展させたフォームだが、クローン大戦開始時に実戦では力不足が露呈したフォームでもあり、器用貧乏なところがある。

 

 相手の実力を見るために試しと使ってみたがあっさりと見破られたことから相手は相当の実力者であることがわかった。

 

「でも、こっちのセリフでもあるんだけど?そっちだって手加減しているのが丸わかりだ」

 

 にやりと相手が笑う。

 

「今日は小手調べだ、ジェダイ……気をつけろ?闇はすぐそばにあるぞ」

 

 赤いライトセーバーを振り回しながら襲撃者は闇の中へ消えていく。

 

 敵の姿が見えなくなり、場を苦しめていた威圧感がなくなったことからライトセーバーの刃を収納して懐へ仕舞う。

 

「綾波、大丈夫か!」

 

 ゼロは後ろで荒い息を吐いている綾波へ声をかける。

 

「うぅ、ふぅ」

 

「無理するな。ゆっくりと、ゆっくりと呼吸するんだ」

 

 綾波の背中を撫でるようにしながら彼女へフォースを流す。

 

 場の空気に呑まれていた綾波だが、徐々に落ち着いてきたのか顔色がよくなった。

 

「もう、大丈夫なのです」

 

 立ち上がろうとした綾波はバランスを崩しそうになってゼロが咄嗟に抱きかかえる。

 

「ごめんなさい、です」

 

「シスに遭遇したんだ。仕方ない……抱えるぞ」

 

 ゼロは綾波を両手で抱きかかえる。

 

 所謂、お姫様抱っこだ。

 

 驚く綾波の意見を聞かずにゼロは夜道を歩いていく。

 

 とても彼女が軽くて少しだけ心配した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロ、一緒に寝てほしいのです」

 

 小屋へ戻って就寝の準備というところで綾波がゼロの布団へ入り込む。

 

「了承する前に入って来るなよ」

 

 ため息を零しながらも綾波が先ほどの戦いのことで震えていることを見抜いていた為にそれ以上は言わずに綾波の分のスペースを作る。

 

「綾波」

 

 彼女の頭を優しく撫でながらゼロは真剣な声で問いかける。

 

「さっき、暗黒面の力を感じた時、どう思った?」

 

「とても、怖いと感じました。体が急に冷えて、震えが止まらず、綾波が綾波でなくなるような気分でした」

 

「ジェダイとシス、二つは異なる存在だが、根幹は共にフォースが関わっている」

 

「ゼロ?」

 

「ジェダイはフォースを通じて力を受けるがシスはフォースそのものを支配して力に変える。どちらもフォースがなければならないもの」

 

 突然のことに戸惑う綾波。

 

 ゼロは真剣な目で綾波を見る。

 

「暗黒面は冷たく、恐ろしい。故にジェダイは敵視する。危険だと、だが、俺はそれと向き合うべきだと思っている」

 

「どうして、です?」

 

「自分が感じたことに目を背けることは、自分を偽るという事だ。今は大丈夫でも、それはいずれ、自分自身という存在を薄くさせて、いずれ、当たり前のことを感じられなくなるだろう。だから、綾波、恐怖と向き合え、自分が感じたものから逃げないでほしい」

 

「難しくて、よくわからないのです。でも」

 

 困惑しながら綾波はゼロの手を握り締める。

 

 とても暖かくて、彼女にとって大事な存在。

 

 彼の気持ちをフォースが綾波へ教えてくれる。

 

 にこりと綾波は微笑む。

 

「綾波は自分を偽らないのです」

 

 ゼロは満足したように綾波の手を握り返した。

 

 綾波は嬉しそうに握り締めて眠りにつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殿の為に役立てないというのならハラキリしかありません」

 

 朝早くから面倒なことになった。

 

 小屋の外に出て顔を洗おうとしたゼロの前にいるのはフォース・マインドで無理やり帰宅させた龍驤だ。

 

 彼女の瞳は光を灯さず、片手に小刀を握り締めて、腹をむき出しにしている。

 

 セップクという重桜において存在した風習があった。

 

 龍驤はそれを実行しようとしている。

 

「やめろ、龍驤」

 

「止めないでください。殿に仕えると言っておきながら、呑気に家へ帰った某など、ハラキリをして詫びるが!」

 

 どうやらフォース・マインドで帰らせたのは悪手だったらしい。

 

 失意のどん底に沈んでいる龍驤をこのままにしておくと本当にハラキリしかねない。

 

「殿としての命令だ。やめろ」

 

 小刀を握り締めている龍驤の手を上から掴む。

 

 驚いたようにこちらをみる彼女の瞳と目が合う。

 

「と、殿?」

 

「俺に仕えるというのならこれだけは守れ。命を粗末にするな。戦うというのなら必ず生き残れ、これは俺の仲間達に約束していることだ」

 

「……」

 

 龍驤から小刀を取って懐へ仕舞う。

 

「約束できるか?」

 

「はい!殿の為に!」

 

 先ほどまで沈んでいた姿とは思えないほどキラキラした表情でこちらを見上げてくる龍驤。

 

 とりあえず、今の状況からは脱出できた。

 

 次は。

 

「じーーーーなのです」

 

 小屋のドアから冷めた瞳でこちらをみてくる綾波をどう説得するかである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殿の手作りご飯!おいしいです!」

 

「おいしいのです」

 

「まぁ、ただ米を炊いて、準備しただけなんだが、そういってもらえると、嬉しいかなぁ?」

 

 小屋の中で朝食を作ることで綾波には許してもらった。

 

 尤も、龍驤が別に綾波と張り合うどころか、先輩として敬っていたことからあっさりと解決してしまう。

 

 おいしそうにご飯を食べる龍驤。

 

 怒っていた綾波だが、今は嬉しそうに味わっている。

 

 とにかく、問題はひとまず解決。

 

「ゼロは、今日どうするのですか?」

 

「殿は今日も戦うのですか!」

 

「二人同時に話しかけないでくれないか?聞き取れないから」

 

「ごめんなさい」

 

「申し訳ありません」

 

「今日は予定がないから、街を見て回るつもりだ」

 

「そうなのです?」

 

「あぁ、昨日で俺の試合は終了したからな、他の連中の勝敗で明日の試合数が決まる」

 

 それまでに重桜を見て回りたい。

 

 もう一つ。

 

「(シスの暗黒卿、師匠なのか弟子なのかわからないが、奴がどこに潜んでいるのか辺りをつけておきたいということもある)」

 

「では、殿の案内はこの龍驤が務めましょう!」

 

 龍驤先導の下、重桜散策が決定した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、ゼロ」

 

「うん?」

 

 ローブで素顔を隠しているゼロへ綾波が問いかける。

 

「どうして、素顔を隠しているのです?」

 

「絡まれることを防ぐためかな」

 

 肩をすくめながらゼロと共に歩く綾波。

 

 龍驤が色々と話をしてくれている横で自分が出ている大会で、自分のことをよく思っていない連中に闇討ちをされたことを話す。

 

 話を聞いた綾波は酷く憤慨している。

 

「酷いのです、綾波がいればボコボコにしてやったのに」

 

「ま、あの程度なら問題はないよ。問題があるとすれば……シスの暗躍だ」

 

「何か感じるのです?」

 

 綾波に問われてゼロは首を振る。

 

「クローン戦争による勃発からフォースで未来を読み取ることが難しくなっている。未来は、だけど、この重桜を暗く、冷たい何かが覆い始めている。綾波、油断はしない方がいい」

 

「そうだな、こうして背後から奇襲を受ける可能性もありえる」

 

「ゼロ!」

 

「殿!?」

 

 二人の悲鳴が響く中、振るわれる一撃を見ずに受け止める。

 

 腕に走る重たい感覚。

 

 一瞬だけゼロは顔を歪めながらも振り返った。

 

「流石はジェダイということか……」

 

「いきなり背後から襲い掛かるっていうのは勘弁してほしいなぁ」

 

「加賀先輩!?」

 

 龍驤が驚きの声を上げる。

 

 加賀は表情を変えずに龍驤をみた。

 

「龍驤、貴様、今日は空母の演習があったはずだ」

 

「!!」

 

「その時間が近づいているぞ」

 

「あぁ、それは」

 

「行ってきていいよ」

 

 龍驤へゼロは優しく告げる。

 

「龍驤は重桜の艦船だ。重桜に属するものとしての責務を果たしておいで」

 

 優しく龍驤の肩へ触れながら気持ちを落ち着かせるためにフォースを送り込む。

 

 焦燥していた龍驤は落ち着いたのか、敬礼する。

 

「龍驤、行きます!殿、成果を楽しみにしていてください!」

 

「行ってらっしゃい」

 

 去っていく龍驤。

 

 入れ替わるように二人の艦船がやって来る。

 

 夕立と雪風だ。

 

「見つけたぞ!綾波!」

 

「美味しい饅頭屋を見つけたのだ!」

 

 二人は綾波の左右を掴むと歩き出す。

 

「え、綾波は……」

 

「いいよ」

 

 ゼロが頷いたことで二人の艦船は笑顔で綾波を連れていく。

 

 そうして、残されたのはゼロと加賀の二人だけ。

 

「騒がしい連中だ」

 

「元気な証拠だよ」

 

 ちらり、と加賀はフードに隠れているゼロの顔を見る。

 

 風に揺れてみえるゼロは笑顔だ。

 

「ありがとう、龍驤を呼びに来てくれて」

 

「遅刻すれば、それだけ姉さまの機嫌が悪くなる」

 

「姉?」

 

「何でもない」

 

 ぷいっと視線を背ける加賀。

 

 ゼロはそれ以上を聞かない。

 

 歩き出したところで隣に気配を感じて振り返った。

 

「あれ、こっちに用事?」

 

「違う、私は貴様に用事があるんだ」

 

「俺に?」

 

「そうだ。この後、貴様は何か用事があるのか」

 

「街の散策の途中かな?」

 

 龍驤が率先して案内をしてくれていたが、彼女は演習の為にこの場にいない。

 

 綾波もいなくなったが、一人で重桜を見て回ろうかと考えていた。

 

「そうか、では付き合おう」

 

「え、加賀さん、予定は?」

 

「ない、演習の指揮は姉……赤城がとることになっている」

 

「そっか」

 

「…………気になるか?」

 

「え?」

 

 加賀は半眼でこちらをみている。

 

 その顔は気に入らないという表情をしていた。

 

「赤城が気になるのか?」

 

「えっと、そういうことはないけど……もしかして、加賀さんと赤城っていう人は険悪な関係?」

 

「そんなことはない。ただ、お前が赤城を気にするのか知りたかっただけだ」

 

「あ、そう……そういうわけじゃないよ」

 

「ならいい」

 

 加賀は沈黙する。

 

 話題を探そうとした時に懐の通信機が鳴り出す。

 

「こちらゼロ」

 

『こちら、アソーカ、あぁ、マスターゼロ、少し問題が』

 

「問題?」

 

 アソーカの言葉にゼロは首を傾げた。

 

 

 




思った以上に重桜編の筆が進まない。

うーむ、大事な展開だからだろうかぁ、とにかく、頑張ろう!

あ、メダロット始めました。


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番外編、チョコに溺れる話(前編)

アズールレーン、終わるなぁ。

この話を進められなくて悔しい。

番外編はあくまで可能性の話、頭を空っぽにして見てもらえると嬉しいです。
今更になって、この話というのは私の精神的な問題です。





アズールレーン学園

 

 四ヶ国が集まって人工島に作られた学園。

 

 そこに平々凡々代表の僕、零が入学できたのは奇跡に近い。

 

 奇跡で通ったのだから、頑張って無事に卒業して幸せな生活を送ろう。

 

 そう考えていたんだけれど、天国の父さん、母さん、それは叶いそうにないかもしれません。

 

「あらぁ、起きちゃった?」

 

「……あのぉ、オイゲンさん、何をしているんですか」

 

 朝、目を覚ますとこちらを見下ろして妖艶な笑みを浮かべている女性がいる。

 

 流れるような銀髪を左右に結って、赤い瞳が妖艶な笑みを浮かべていた。

 

 これだけなら別に問題ないだろう。

 

 彼女が下着姿で僕の腹の上に跨っていなければ。

 

 女性らしい体をこれでもかと強調している下着をみただけで、僕の顔は真っ赤になっているはずだ。

 

 確か彼女は鉄血クラスのプリンツ・オイゲンさんだったはずだ。

 

「今日は何の日か知っているかしら?」

 

「え、今日?」

 

 僕の質問へ答えずにオイゲンさんが体を揺らして尋ねてくる。

 

 朝から体を揺らされると少し気分が悪いんだが、答えないと退いてくれそうにない。

 

「二月十四日……でしたか?」

 

「そうよ、正解~だから」

 

 箱から何かを指で掬い取って口の周りへ塗る。

 

 口周りがチョコ色に変わった。

 

「だから、御褒美にチョコをあげるわぁ」

 

「あ、ちょっと、待って」

 

「いーや」

 

 笑顔を浮かべながら両手を頭上で抑え込まれてしまう。

 

 暴れようにも逃走手段がない。

 

 このまま唇を奪われてしまうのだろうか。

 

「何をなさっているのですか?プリンツ・オイゲン様」

 

 救いの手……じゃない。

 

「あら、メイドじゃない」

 

「何をなさっているのかと尋ねたのですが?」

 

「今日はバレンタインデーよ?私のチョコをあげるの。同時にハジメテをもらうつもりで」

 

「させませんよ?」

 

 ニコリと笑みを浮かべながら乱入者、ベルファストさんがモップを構える。

 

 いつの間にか僕のことをご主人様と言いだして、毎日のように家へやってきて家事全般をしようとしてくる。

 

 何度、断わっても引いてくれることがない。

 

 最早、諦めているのだが、こういうところで助けてくれるのは嬉しい。

 

 モップでオイゲンさんを追い出すつもりなのだろうか?

 

「あのぉ、バトルをするようでしたら、部屋の外で」

 

 僕の話を聞かずに二人の戦闘が始まった。

 

 部屋はぐちゃぐちゃになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、帰ったら憂鬱だなぁ」

 

 隙を見て用意しておいた制服に着替えて逃げる様に部屋を飛び出した。

 

 正直、戻ってきた時のことを考えると憂鬱になるけれど、仕方ない。

 

「どうして、こうなったかなぁ」

 

 平々凡々代表の僕がアズールレーン学園で美女、美少女に囲まれているのか、本当に謎だ。

 

「おっはよう!零!」

 

 独りになる時間が欲しい。

 

 そう思っていたところで、後ろから肩を叩かれる。

 

「あ、クリーブランドさん」

 

 ニコニコと金髪をサイドテールにして、太陽のように輝く笑顔を向けてくる美少女。

 

 彼女の名前はクリーブランドさん、クラスメイトで人気者。

 

 バスケ部で誰とでも仲良くなれる人、ただし、男勝りなところがあるから女子たちから「兄貴」と慕われている。

 

 後、アイドルでバンドもしているらしい。

 

 僕が彼女と会話をすること自体、信じられないくらい、高嶺の花だと思う。

 

「あ、おはよう」

 

「元気ないなぁ、どうしたの?」

 

「いや、その、大丈夫だよ、うん」

 

「駄目だぞ!朝は大事なはじまりなんだから元気だしていかないと!」

 

「クリーブランドさんは元気だね」

 

「当然だよ!それで、朝から元気がないなんてどうしたの?」

 

「いや、そのぉ」

 

「話せばすっきりするよ!それに」

 

 もじもじと手を動かしながら彼女は僕を見上げてくる。

 

「こ、恋人なんだしさぁ」

 

「……えっとぉ、」

 

 小さくて聞き取れなかったけど、答えたらまずい気がする。

 

 一瞬の動きを止めた隙にイヤホンを耳にはめ込んで歩きだそうとした。

 

「おい、姉貴を無視しようとするな」

 

 去ろうとしたところで回り込むようにクリーブランドの妹であるモントピリアさんが回り込む。

 

 僕は彼女が苦手だ。

 

 モントピリアさんは姉であるクリーブランドさんが大好きなんだけど、僕のことを酷く敵視していて、前にボコボコにされたことがあった。

 

 苦手意識が強い。

 

「聞こえていないのか」

 

「す、すいません」

 

「ん?」

 

 モントピリアさんに気付いたのかクリーブランドさんがこっちへやってくる。

 

「そういえば、零!今日が何の日か」

 

「失礼します!」

 

 嫌な予感がして振り返ることなく学園へ逃げることにした。

 

「姉貴から逃げた……後でお仕置きだな」

 

「勝負は放課後!待っていろよ!零!」

 

 ぞっとするほどの冷たい瞳のモントピリアさんとクリーブランドさんが握り拳を作っていたことに僕は気づかなかった。

 

 校門を潜り抜けてアズールレーン学園へ入る。

 

 早朝ということで人の姿は少ない。

 

 せいぜい、グラウンドで一人歌っているサンディエゴさんがいるくらいだ。

 

 下駄箱の中を見ると。

 

「ウソぉ」

 

 収まりきらないくらいに詰まっているチョコの山がある。

 

 バレンタインデーということはわかるけれど、早朝からこんなにたくさん、あるってどうなんだろう。

 

「まぁ、このままじゃ、ダメだよなぁ」

 

 ため息を吐きながら靴箱から一つずつ、ラッピングされている箱を取り出す。

 

「エコバッグ持ってきておいてよかった」

 

 鞄の中から取り出して、一つ、二つとチョコを入れていく。

 

 それにしても、バレンタインデーだからって、こんなにもらえるようなものなのだろうか?

 

 中学生時代はもらえなかったんだけどなぁ。

 

 エコバッグに入れ終えてそのまま教室へ向かおうとした時。

 

「おや、こんなところにいましたか」

 

「神通先輩?」

 

 扇子で口元を隠しながら狐耳を揺らしながらやってくるのは一つ上の学年の重桜出身の神通先輩だ。

 

「チョコですか」

 

「あぁ、今日はバレンタインデーのようでして」

 

「人気者ですね」

 

「多分、ほとんどがお礼とか、そんなものです。もしくはホワイトデーか、悪戯か何かですよ」

 

 扇子で口元を隠したまま、神通さんがこちらへ顔を近づけてくる。

 

「神通さん?」

 

「人気者ですが、そのチョコはロイヤルやユニオン、鉄血ばかり、重桜が少ないことに疑問を抱きませんか?」

 

「え、あ、そういえば……そうですね。えっと、何で?」

 

「何故かと思います?」

 

 笑みを浮かべる神通さんに嫌な予感を感じながら後ろへ下がろうとする。

 

 けれど、回り込むように神通さんが後ろから抱きしめてきた。

 

「より、貴方にチョコを刻み込むためにですよ」

 

「え?」

 

「楽しみにしていてください。重桜のチョコは他のクラスより重たく、気持ちがこもっていますよ?」

 

 ニコリと微笑みながら神通さんが口の中に何かを放り込む。

 

「これは、クッキー?」

 

「ハッピーバレンタインというものです」

 

 にこりとほほ笑みながら神通さんが僕の頬に触れる。

 

「では、私はこれで」

 

 にこりとほほ笑みながら神通さんが去っていった。

 

 残された僕は口の中に広がるクッキーの味をしばらく噛みしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室に入ると生徒の姿はない。

 

 この時間帯なら自分の趣味に没頭できると思う。

 

 タブレットを取り出してイヤホンを耳へはめ込む。

 

 選択して表示されるのは大好きな『スター・ウォーズ』の映画。

 

 その中でもなぜか、思い入れのあるアナキン・スカイウォーカーのストーリーをみていく。

 

 初めて見た時から何故か思い入れのあるスター・ウォーズの映画。

 

 短い時間だけれど、みているだけで不思議と心がわくわくするのだ。

 

「何をしているんですか?」

 

「うわっ!?」

 

 イヤホンを外されて思いっきり大きな声で尋ねられて椅子から体が少しだけ浮き上がる。

 

「じゃ、ジャベリンさんか」

 

「おはようございます!零君!」

 

 クラスメイトのジャベリンさん。

 

 誰に対しても笑顔で接して、料理もできる人気者の女の子。

 

 クラスの男子達も密かに狙っているらしい。

 

 まぁ、僕に無縁の話でとにかく会話をすぐに終わらせよう。

 

「おはようございます。何か、用事?」

 

「えへへ!お昼休み、時間あります?」

 

「えっと、ごめん、食事の約束が」

 

 ウソである。

 

 昼休みは決まってジャベリンさんはクラスメイトのニーミさん、ラフィーさん、綾波さん達と仲よく食事をしていた。

 

 昼休みということでおそらく彼女だけじゃない、他の三人もいる可能性がある。

 

「えへへ、ウソは駄目ですよ!」

 

「う、ウソ?」

 

 笑顔を浮かべながらもなぜか瞳は光を灯っていない。

 

 後ろへ下がろうとしたが椅子を掴まれていて、物凄い近くに彼女の顔がある。

 

「そんなことは、ほら、僕だって」

 

「いませんよね?」

 

 表情を変えずにジャベリンは遮る。

 

「知っていますよ?零君は普段、一人で寂しく食べていること、あ、あ、別に悪口じゃないですよ?ただ、ジャベリンは心配なんです。いつも一人で、寂しいじゃないですか、偶には、はい、こういう素敵な日には可愛い女の子たちと一緒に食事をするのはアリじゃないですかぁ?」

 

「そんなこと」

 

「えへへ、ウソは駄目ですよぉ、ジャベリンはお見通しです」

 

「ひぃっ!」

 

 ぺろりと舌で耳元を舐められる。

 

 小さな笑みを浮かべながらジャベリンさんが離れた。

 

「お願いです。今日はお昼、一緒に食べましょう?」

 

「……わ、わかった」

 

 これ以上、拒絶すれば何が起こるかわからない。

 

 最悪、前みたいに……。

 

 ブルリと体が震えだしたからブンブンと無言で頷く。

 

「ありがとうございます!じゃあ、お昼に!」

 

 ジャベリンさんはそういうと離れていく。

 

 残された僕は呼吸を整えながら映画へ意識を向けようとした。

 

 暗黒面へ堕ちたアナキン・スカイウォーカーがジェダイ聖堂を襲撃するという場面になっている。

 

 おぉう、何か不吉な暗示か?

 

 何とも言えない表情を浮かべつつ、俺は映像へ意識を向けることにした。

 

 その時、ジャベリンさんが笑顔で携帯端末を操作していることに気付いていれば、あんな未来は阻止できたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 HRや授業を終えて、問題の昼休み。

 

 生徒達はバレンタインデーの件でとてもそわそわしている。

 

 その中、僕は捕まる前に教室の外へ退避しようとした。

 

「確保」

 

 外に出ようとしたところで腕を掴まれる。

 

 横へ視線を向けると着崩した制服で眠たそうな表情でこちらをみている少女がいた。

 

「ら、ラフィーさん」

 

「逃がさない。ラフィー達と一緒」

 

「えっと……僕は」

 

「あぁ!ラフィーちゃん!見つけた!」

 

「ここにいたんですか、おや、零を捕まえていたのですね」

 

「では、お昼に行くのです」

 

 あれよこれという間に綾波さん、ジャベリンさん、ニーミさんに包囲されてしまう。

 

「いこ」

 

 にこりと小さな笑みを浮かべるラフィーさんに手を引かれて僕は中庭へ連行される。

 

 中庭はどういうわけか人の気配がない。

 

 逃げられないようラフィーさんに腕を掴まれている間に、三人でシートが敷かれて弁当箱が用意されている。

 

「これは没収です!」

 

「え、あ!」

 

 隙を突かれて昼として用意していたゼリー飲料と菓子パンをニーミさんから没収されてしまう。

 

「ここへ座る」

 

 いつの間にか僕を中心として包囲網のようなものが構成されてしまう。

 

 逃げる暇もないまま、お昼がスタートした。

 

「あの、僕の昼は」

 

「じゃじゃーん!用意しましたよ!」

 

 可愛い動物がプリントされた弁当箱を開いておいしそうなご飯とおかず。

 

 見ているだけでお腹が鳴る。

 

「体は正直ですね。はい、食べましょう」

 

「えっと、箸は」

 

「あーんです」

 

 綾波さんが箸を片手におかずを差し出してくる。

 

「あの、自分で」

 

「あーん、です!」

 

 赤い瞳を細めてこちらをみてくる。

 

 それだけで体が震えそうになった。

 

 大人しく食べる。

 

「はい、次はこちらですよ」

 

 ニーミさんが差し出してくる。

 

 これで拒否すれば、僕の命はない。

 

 足もとにナイフが置かれているのを目撃した僕は大人しく食べることにした。

 

「はい、あーん!」

 

「次はラフィー、あーんして」

 

 不思議とご飯などの味を全く感じないまま、弁当箱は空になる。

 

「じゃあ、僕はこれにて」

 

「え?何を言っているんですか」

 

 立ち上がろうとした僕の腕をジャベリンさんが掴む。

 

 え、まだ、何かあるの?

 

 包囲していた四人は一列に並ぶと手の中にある小さな箱をそれぞれ差し出してくる。

 

「ハッピーバレンタインです!」

 

「バレンタインですよ」

 

「ラフィー、頑張った」

 

「食べてください」

 

 四人から差し出されるバレンタインのチョコレート。

 

 ここで拒否するほど、僕は愚かものではない。

 

「えっと、いただきます」

 

「ここで」

 

 箱を手に入れてそのまま帰ろうとしたところでラフィーさんに腕を掴まれる。

 

「え?」

 

「ここで、食べて」

 

「え、でも、お腹いっぱいで」

 

「じゃあ、綾波が食べさせてあげます」

 

「へ?」

 

 事態を理解する暇もないまま、綾波さんにシートの上に押し倒されてしまう。

 

「あの、何を」

 

「綾波が食べさせてあげます」

 

「綾波ちゃん!名案だよ!」

 

「えっと、恥ずかしいですが、食べてもらうためです」

 

「ラフィー、やる気十分」

 

 逃げる暇もないまま、箱からチョコを取り出して綾波さんは口の中に放り込むとそのままキスをしてくる。

 

 手足をじたばたして抵抗を試みるもジャベリンさんやニーミさん達に抑え込まれてしまう。

 

「じゅる、ちゅっ、ちゅっ、じゅ」

 

 口内を綾波さんの舌が蹂躙していく。

 

 甘いチョコの味が広がっていくけれど、同時に奇妙な感覚に体が包まれていく。

 

「次、ラフィー」

 

 綾波さんが離れると入れ替わるようにしてラフィーさんがチョコを口に含んでキスをしてくる。

 

 けれど。

 

「む!」

 

 これ、ウィスキーボンボンではないだろうか?

 

 口の中に広がる苦みに顔をしかめてしまう。

 

「ラフィー、むらむらする」

 

 これは、ヤバイ!

 

 ラフィーさんが離れた隙をついて蛇みたいにするすると脱走する。

 

「あ、逃げた!」

 

「待ってください!まだ、私とニーミちゃんの分がありますよ!」

 

 後ろから聞こえる声に振り返ってはいけない。

 

 振り返ったら最後、後戻りはできない!

 

 そんな気持ちで逃走する。

 

 逃走という選択によって休み時間ギリギリまで逃走することで助かった。

 

 教室で涙目のニーミさんとジャベリンさんに後ろから重圧的な視線を感じたことで授業は全く集中できなかったけれど。

 

 

 

 それにしても、少しフラフラして、気分が悪いなぁ。



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番外編:チョコに溺れる話(後編)

さ、本編を頑張ろう!

アニメのアズールレーンをみたせいか、加賀さんにヒロイン属性ありだなぁと思うようになるこの頃、まぁ、本編の重桜編もヒロイン、加賀になりつつあるし(ボソッ)


放課後。

 

 鞄を手に速攻で教室を出る。

 

「どこへいくのですか!」

 

「逃がしませんよ!」

 

 廊下に繋がる出口をニーミさんとジャベリンさんが封鎖していた。

 

 甘い。

 

 僕は窓から外へ飛び出す。

 

「あ!」

 

「何という事でしょう!?」

 

 ここは一階だったのでそのままグラウンドを抜ければいい。

 

 後ろで叫ぶニーミさんとジャベリンさん。

 

 慌てて、窓から追いかけてようとしたけれど、教師に止められて、渋々、廊下から追いかけてくる。

 

 捕まったらどうなるのかわからないけれど、恐ろしいことになるのは容易に想像できる。

 

「零!こっちこっち!」

 

 必死に校門を目指していた僕にクリーブランドさんが手を振る。

 

「急いで早く!」

 

 このまま逃げていてもいつかは体力切れで僕の方がダウンしてしまう。

 

 凶と出るか吉と出るかわからないけれど、ここは飛び込むことにした。

 

 クリーブランドさんの方へダッシュで中に入り込む。

 

 少ししてドアを閉じる。

 

「逃がさない、必ず捕まえますよ!」

 

「チョコを食べさせて、食べさせて、そして、そして」

 

 扉の向こうからいつもと比べ物にならないくらい低い声を放つ二人。

 

「もう、大丈夫だよ」

 

 声が聞こえなくなってクリーブランドさんが言う。

 

 僕は安心したように座り込んでしまった。

 

「大丈夫かい?」

 

「まぁ、その、全力疾走したから」

 

「そうみたいだね、汗がたくさん、出てる」

 

 クリーブランドさんは笑いながら僕の頬へ触れた。

 

「あ、汚いから」

 

「そんなことないよ。零の体で汚いところなんて一つもない、あぁ、本当に」

 

 ぴったりと体を寄せてくるクリーブランドさん。

 

 そのまま離れようとするけれど、どんどん寄せられて、気付けば壁際だった。

 

「ちゅ」

 

 優しく啄むようなソフトなキス。

 

 すぐに離れるとはにかんだ笑みをクリーブランドさんが浮かべていた。

 

「しちゃったね」

 

「え、あぁ」

 

 驚いている間に再びキスされそうになって両手で抑える。

 

「なんで?」

 

「え?」

 

 僕の両手を掴んでクリーブランドさんが見上げてきた。

 

 その瞳は何も映していない。むしろ、ドロドロに濁っているように思えて体が動けない。

 

「私達、恋人同士なんだから、キスくらい当たりまえじゃないか、それをどうして、止めるの?」

 

「え!、こ、恋人!?」

 

 彼女の言った言葉が間違いじゃなければ、恋人だといった。

 

 けれど、僕は彼女に告白したことも、その覚えもない。

 

「えっと、それは、何かの間違いじゃ」

 

「そんなことないよ、キミは私の告白を受け入れた。だからさぁ」

 

 ゆらりと立ち上がった彼女がトンと横へ突き飛ばす。

 

 突然のことに呆然としていた僕は堪える暇もないまま、敷かれていたマットの上に倒れてしまう。

 

「え、何を」

 

「ねぇ、シよ」

 

「へ!?」

 

 言葉の意味を理解したところで既に手遅れだった。

 

 両手を頭上で拘束されてしまう。

 

 周りを見ると彼女が事前に用意しておいた手錠やら錠剤?らしきものなどが置かれている。

 

 あの錠剤が何なのかはわからないが危ないものなんだろうなぁと思う。

 

「クリーブランドさん、これはよくないよ、すぐに」

 

「よくないなんてことないよ!私と零は付き合っているんだ。次のステップに進むだけ、大丈夫!私も、は、はじめてだけれど、ちゃんとリードし、してみせるから!」

 

 頬を赤くしながら彼女は着ているシャツのボタンを一枚一枚、脱いでいく。

 

 オイゲンさんやベルファストさんほどの巨乳というわけじゃないけれど、バスケットボールなどで鍛えて無駄な肉がない姿は別の意味で可憐だった。

 

 勿論、その子と今からスルという事態に僕の頭もすこしばかりおかしくなっているらしい。

 

「えへへ、私に反応してくれているね」

 

 ズボンを脱がされてみえた僕のモノをみて、妖艶な笑みを浮かべるクリーブランドさん。

 

 いつもの活発さを含んでいた笑みに僕は心臓が高鳴るのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま彼女へ手を伸ばそうとした時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「斬る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 音を立てて分厚いドアが斬られた。

 

「え、な、何が」

 

「チッ」

 

 クリーブランドさんが舌打ちして瞬時に艤装を構える。

 

 さり気なく僕を守るように前へ立っているから異性の人気も高いんだなぁと思う。

 

 舞い上がる土煙の中、キラリと抜いた軍刀を鞘へ戻す人物。

 

 白よりの銀髪で黒い重桜のセーラー服、頭部でピコピコ揺れる獣耳、無表情の筈なのになぜか怒っているようにみえる表情。

 

「ま、摩耶さん」

 

「探したぞ、零」

 

「何か用事?」

 

「お前に用事はないさ。そこにいる男に用事がある」

 

 無表情の摩耶さんが一歩、踏み出すと音を立てて主砲をクリーブランドさんが構えた。

 

「これ以上近づくなら撃つよ!」

 

「やってみるといい。痛い目を見てもらうことになるぞ」

 

「警告は、したよ!」

 

 音を立てて撃たれる砲弾。

 

 直撃したら普通の人は語るまでもない。

 

 しかし、摩耶さんはあっさりと手にしていた長い刀で斬る。

 

 両断された砲弾は地面に音を立てて落ちた。

 

「無駄だよ、今ので見切ったから」

 

「がっ」

 

 あっという間に回り込んだ摩耶さんの手によってクリーブランドさんの意識が落とされる。

 

「どこに行くの?」

 

「えっと、帰ろうかと……」

 

「丁度いいね、こっちも用事があるんだ」

 

 笑みを浮かべているはずなのに余計なことをすればどうなるかわかっているな?と言われているようにみえた。

 

「全く、今日が何の日かわかっているのか?」

 

「えっとぉ」

 

「まぁいい、連れていく」

 

「あ、ちょっと」

 

 抱きかかえられる。

 

 抵抗する暇もないまま信じられない速度で倉庫から連れ出された。

 

 そのまま重桜の寮へ連れていかれた。

 

「って、寮だよね!?何これぇ!?」

 

 摩耶さんに連れていかれた場所は薄暗く、複数の照明があるだけだ。

 

 そして、僕は縛られて宙に浮かされている。

 

 足もとでぐつぐつと煮えたぎっている何かがあった。

 

「え、何これ」

 

「ちょこれーとですわぁ」

 

 足もとにゆっくりと現れるのは天城さん。

 

 手の中の傘を回しながらにこりと笑みを浮かべている。

 

「あ、天城寮長さん、これは一体」

 

「今日はばれんたいんでーということをお聞きしまして、どうせなら身も心も私達のちょこれーとを味わってもらうと思いまして」

 

「まして?」

 

「今からちょこれーとのなかで沈んでもらいます。あぁ、安心してください?この後はしっかりと天城がケアをしますから」

 

「おかしい!これはおかしいよ!流石の僕でも間違っているとはっきりと言える!!」

 

「さ、はじめましょう」

 

「ちょ、まっ!?」

 

 最後まで言い切る前にチョコレートの中へ落とされた。

 

 その後、なぜか、天城さんにおいしくいただかれたことはいうまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事に生きて帰れた……」

 

 あの後、隙をみて脱走することに成功したけれど、全身がベタベタする。

 

 風呂に入って体を綺麗にしよう。

 

 そう考えて玄関のドアを開ける。

 

「待っていたわぁ」

 

「部屋を間違えました」

 

「あっているわ」

 

 閉めようとしたら彼女の獣のような口の艤装が僕の両手を捕まえる。

 

 じたばたと足を動かすも離してくれる気配がない。

 

「ちょっと、オイゲンさん、何を!?」

 

「ナニをするのよ?」

 

 笑みを浮かべながらぺろりと僕の頬をオイゲンさんが舐める。

 

「まずは重桜の匂いを落としましょうか……体中から匂っているから少し不愉快だわ」

 

 機嫌の悪そうな彼女と一緒にお風呂へ入る。

 

 拒否権?

 

 そんなものあるわけがない。

 

 僕は大人しくして早く終わることを望むだけだ。

 

「さぁ、夜は長いわよ?」

 

 笑みを浮かべるオイゲンさんは途中から上機嫌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

「ご主人様」

 

 任務を終えて一息ついていた俺のところへベルファストがやってくる。

 

「なんだ?」

 

「今日は何の日か知っておりますか?」

 

「バレンタインデーだろ?」

 

「その通りです。そこで陛下からチョコレートが届いております」

 

「後で確認するよ」

 

「それと、私もチョコレートを用意しましたわ」

 

「……あ、報告書の作成を」

 

「逃がしませんよ?」

 

 逃走しようとしたところでベルファストが後ろから抱き着いてきた。

 

 背中の柔らかい感触、首元にかかる吐息。

 

「さぁ、部屋へまいりましょう。チョコにあう紅茶も用意しております」

 

 ずるずると引きずられていく。

 

 周りにいたクローン達は助けるどころか「楽しんでいますね?」と揶揄ってくるばかりだ。

 

 この部隊を率いてからそれなりの月日が過ぎている。

 

 彼らも大分、人間らしいところが出てきたな。

 

「現実逃避したところで、解決するわけではありませんよ?ご主人様、さぁ、メイドのベルファストの愛情がこもったチョコレートを味わってください」

 

 これが夢だったらなぁと心の中で思う。

 

 まぁ、ベルファストが笑顔だし、いいかな?

 

 

 



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