リアス、好きよ (悪魔の魂)
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リアス、好きよ

 とある部屋のベッドで寝息を立てて眠る少女。

 男性だけでなく女性でさえも見惚れる程の美しい容姿と、紅髪のロングヘア。

 彼女の名はリアス・グレモリー。人間ではなく、悪魔という人外である。

 実家は冥界…いわゆる地獄にあるのだが、今は訳あって人間界で暮らして学校に通っている。

 

「んん……朝?」

 

 窓から差し込む陽の光で意識が浮上し、ゆっくりと目を開けて起き上がろうとするリアスだが、視界に入ったそれを見て身体が硬直し、驚きで目を見開いたまま固まる。

 

 目の前にはとある少女の顔があった。

 黒髪でリアスに負けず劣らずの美貌。

 彼女の名はソーナ・シトリー。リアスと同じ悪魔という人外であり、リアスの幼馴染にして親友である。

 

 ソーナはリアスが起きたのを確認すると、ニコッと笑う。

 

「おはよう、リアス。気持ちのいい朝ね★」

 

 機嫌よく言うソーナだが、リアスは驚きのあまり言葉を失っていた。

 相手が親友で幼馴染とはいえ、朝起きて目の前に顔があったら悪魔でも流石に驚く。

 もし夜中だったら悲鳴をあげていたかもしれない。

 リアスから返事がないことに、ソーナは頭に?を浮かべる。

 

「リアス?」

 

「え?……えぇ、おはよう、ソーナ。……で、何をやっているのかしら?」

 

 呆然としていたリアスはハッと我に返ると、朝の挨拶を返して何をしているのか問い掛ける。

 

「何って……起こそうとしただけよ?」

 

「はい?」

 

 馬乗りになり、ここまで顔を近づけてどうやって起こそうとしたのか非常に気になるところだが、聞いたら聞いたで後悔しそうだと思ったリアスは何も聞かないことにした。

 ソーナはリアスから離れて床に立つと、手に持っていた眼鏡をかけて言う。

 

「さ、早く着替えて朝食にしましょう。それとも私が着替えさせてあげましょうか?」

 

「いや着替えぐらい一人でできるわよ」

 

 頬を紅く染めながら言うソーナだが、子供扱いされたように感じたリアスは少しムッとしながら拒否する。

 

「残念です」

 

「何が?」

 

 少し落ち込んだように見えるソーナはリアスの問いに答えることはなく、そのまま台所の方へ歩いて行ってしまった。朝食の準備をするつもりなのだろう。

 

(最近のソーナは何処かおかしいわ。……いや、よくよく思い出してみれば昔から兆候はあったけど)

 

 学校の制服に着替えながら、リアスはお互いに幼かった頃のことを思い出す。

 リアスの兄とソーナの姉が四大魔王の一人ということと、グレモリー家とシトリー家は昔ながらに付き合いがあったため、生まれてから対面するまでそう時間もかからず、出会ってから今までずっと一緒にいたソーナ。

 勉強する時も、遊ぶ時も、悪魔特有の力を鍛える時も、ソーナは必ずといっていいほど傍に…隣にいた。

 その時は、何というか…距離が近く、やたらと身体に触れてきたり、抱きついてきたり、一緒にお風呂に入るなんてことも日常茶飯事だった。

 それは幼い子供としては何処もおかしくはなく、あの時は気にも留めていなかった。

 

 だが、それが高校生になった今でも続いているとしたらどうだろうか。

 高校生といっても、何千、何万の時を生きる悪魔からすればまだまだ赤子に等しい年齢ではあるが、精神的には人間と等しく成長しており、今もなお続いているソーナからのスキンシップに思うところがないわけでもないのだ。

 抱きしめられた時も、一緒にお風呂に入る時も、無邪気だった昔と違って今は気恥ずかしく感じる。

 それだけならまだマシだったが、寝床は別々のはずなのに気づけば一緒に寝ていたり、突然唇を奪われたり、先ほどは何をするつもりだったのかは分からないが、最近は少し度が過ぎているような気がする。

 しかし、だからといってリアスはソーナのことが嫌いなわけでもなく、今のソーナを否定する気もない。

 確かに思うところはあるが、それでも大切な存在であることに変わりはない。

 

 着替え終わったリアスはソーナの元へ向かう。

 テーブルの上には既に朝食が並べられていた。どうやら自分を起こす前に作り終えていたようだ。だが一人分しかない。

 

「あら? ソーナの分は?」

 

「私はもう食べちゃったわ」

 

「そう」

 

 いつもは一緒に食べようと言ってくるのに珍しいと思いながら、リアスは椅子に座る。

 ソーナがリアスの前の椅子に座り、手を合わせていただきますと行ってから食べ始める。

 

「どう? おいしい?」

 

「えぇ、おいしいわ。……ん?」

 

 そう、よかったと呟くソーナだが、突然リアスが違和感に引っかかったような顔をして表情を変える。

 

「どうしたの?」

 

「いや、何かザラザラするような感触が」

 

「…また無意識のうちに変なものでも入れちゃったのかしら」

 

「そう気を落とさないで?大丈夫だから、ね?」

 

「……うん///」 

 

 しゅんとするソーナにリアスは笑みを向け、前と比べれば大分マシになった方だと内心で思う。

 前のソーナは家事全般が苦手であり、その中でも料理は絶望的だった。

 どれくらい酷かったかというと、リアスの兄であり超越者と呼ばれているサーゼクスと父であるジオティクスは泡を吹いてぶっ倒れ、リアスの母でありバアル家最強であるヴェネラナと最強の女王であるグレイフィアは食べた瞬間に機能停止した機械のように固まったまま一切動かなくなり、リアスに至っては気絶して目を覚ましたら一時的に記憶喪失になっていたくらいである。

 ソーナの姉であり自他共に認めるシスコンであるセラフォルーもあれだけはお世辞にもおいしいとは言えず、ソーナは泣くほどショックを受けていた。

 何度も挑戦して今は大分マシになっているが、その度に『これもソーナちゃんのため!』と自ら試食係になったセラフォルーにリアスは尊敬?の念を覚えた。

 ようやく普通の料理を作れるようになった時、ソーナの料理の被害者たちは思わず感動していたものだ。

 

 そんな過去を思い出しながら黙々と箸を進めるリアス。

 そんなリアスを頬を紅く染めながら無言かつ笑顔でじーっと見つめるソーナ。

 

「……」

 

「……」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……………あの、ソーナ?」 

 

 気まずい沈黙が流れて目を泳がすリアスだったが、この空気を改善しようとリアスはソーナに声を掛ける。

 

「なぁに?」

 

「いや、私が食事するとこなんて見てもつまらないでしょ。まだ学校までは時間があるし、テレビでもみたら?」

 

「……別につまらなくなんてないわよ?」

 

「そ、そう」

 

 何言ってるの?みたいな顔で言われてリアスは何も言えなくなってしまい、再びリアスにとっては気まずい空気に戻る。

 そこで何を言ってもダメならさっさと終わらせようと、少し行儀を悪くしながらもなるべく早く朝食を食べ終える。

 

「ごちそうさま」

 

「はい。お粗末様でした。食器は私が片付けておくわ」

 

「えぇ、ありがとう」

 

 マシになったとは言っても家事が苦手であることに変わりはない為、リアスは『お皿、割らないようにね』と付け足してから学校に行く準備を整える。

 残った時間をやたらとくっついてくるソーナと一緒に過ごし、二人で駒王学園に登校した。

 その時のソーナは、るんるん★とスキップしそうなほど機嫌が良かった。

 

 

 学校の授業が終わり、眷属達と共に悪魔の仕事を済ませ、生徒会の仕事を終わらせたソーナと一緒に帰宅し、夕食もお風呂も済ませたリアスは、現在部屋に置いてあるソファーに座ってボーっと虚空を見つめていた。

 その顔は紅く染まっており、ハァハァと息は荒く、全身から力を抜いて重力に逆らわず身を任せている。

 お風呂上がりでまだ乾いていない髪と紅く染まった肌がスタイルの良さや美貌も相まって大変色っぽく見えるが、風でも引いて苦しんでいるようにも見えるリアスに、リアスと同じくお風呂上がりで首にタオルをかけているソーナがリアスの隣に座って声を掛ける。

 

「リアス、大丈夫?」

 

「………誰のせいだと……はぁ……」

 

 心配するように言うソーナだが、リアスは目を細めてキッとソーナを睨みつける。

 だがそれだけで一気に疲れが押し寄せて来るように感じ、すぐに目の力を抜いて大きくため息を吐いた。

 

 そもそもリアスがこうなった原因はソーナである。

 後はお風呂に入って寝るだけになり、リアスはいつも通りソーナと一緒にお風呂に入った。

 本音としてはお風呂ぐらい一人でゆっくり入りたいのだが、それを伝えた時のソーナがかなりショックを受けた顔をして以降強く言えなくなり、結局毎日のように一緒に入っている。

 その時に背中の流しっこをしており、リアスに体を洗ってもらっている時のソーナはふんふん★と鼻歌を歌いなながらも大人しいのだが、リアスの体を洗う時のソーナはただ洗うだけでなく、どさくさに紛れて体のあちこちを……それも感度のいいところを的確に触ってくるのだ。

 お陰でリアスはお風呂に入った事と体を触られた事で二重の意味で体が熱くなり、長時間サウナに居続けてのぼせたような状態になっているのである。

 

「リアス」

 

「……?」

 

 ソーナの声に閉じていた目を開けると、目の前には水の入ったコップがあった。

 どうやら気付かない内にソーナが持ってきてくれたようだった。

 

「お水、飲むといいわ」

 

「……ありがと」 

 

 そもそもの原因はソーナなのだが、リアスでさえ可愛いと思う笑みを向けられると文句を言う気も失せ、素直に感謝を述べて水の入ったコップを受け取る。

 ごくごくと冷たい水を飲み干し、ふぅ…と一息つく。

 いつもはティーカップに入れた紅茶を好むリアスだが、こういう時に飲む水は美味しいだけでなく有難さも感じる。

 

(味なんてないのに、不思議ね)

 

 少しだけ開けた窓から入ってくる涼しい夜風も相まってリアスは落ち着きを取り戻していき、呼吸も安定して来た。

 

「ありがとうね。ソーナ」 

 

「え? あ……うん///」

 

 少しだけ心地良い気分になったリアスは、もう一度ソーナに感謝を述べる。

 ソーナは一瞬驚いたような顔をすると、頬を紅く染めてサッとリアスから顔を逸らす。

 

(こういうところは本当に可愛いわ)

 

 そう思いながら、リアスは窓から見える月に目を向ける。

 陽が出ている時に見ても特に何とも思わないが、夜に見る月はとても美しく見える。

 お風呂上がりで体が火照っているのも理由かもしれない。

 

「綺麗」

「綺麗」

 

 ソーナと声が被り、リアスは驚いた顔でソーナを見る。

 ソーナは先程と同じように頬を紅く染めてサッと顔を逸らしてしまった。

 

(同じことを考えていたみたいね)

 

 それが何だか嬉しくて、リアスは驚きの顔を微笑みへと変える。

 

「んぅ…」 

 

 突然目蓋が重くなり、意識が朦朧としてくる。

 気分は良くなったが、体の疲れがとれたわけではなかったのだろう。

 今のリアスは、全身から力が抜け、立ち上がる気力もなくなるほどの強烈な眠気に襲われていた。

 

「眠く…なってきたわ」

 

 その眠気に逆らうことはできず、ベッドではなくソファーの上で横になる。

 服の上からでも感じるひんやりとした感触が心地良く、更なる眠気を誘う。

 もう我慢なんてせずにこの心地良さに溺れたくなってしまい、リアスは目を閉じた。

 

「おやすみ。リアス」

 

 意識が途切れる前に聞いたのは、ソーナの優しい声だった。

 

 

 ソファーに横になり、静かに寝息を立てて眠るリアスを見て、ソーナは笑みを浮かべる。

 シトリー家特有の魔力に細工をして作った水をリアスに飲ませたのだが、どうやら上手くいったようだった。

 少なくとも、明日の朝までは何をやっても起きないだろう。

 ソーナはリアスの体を仰向けにし、朝と同じように馬乗りになると、リアスの顔をジッと見つめる。

 

 幼い時から一緒だった。

 初めて会ってから暫くは、ただの幼馴染で友達という認識だった。

 けど、何時からだろう。リアスのことを意識し始めたのは。傍にいてくれなきゃ寂しさや不安を感じるようになったのは。

 学校での授業中や生徒会の仕事中はリアスと一緒にいられず、心がそわそわして落ち着かない。

 リアスがお風呂は一人で入りたいと言った時は、リアスに距離を置かれたように感じて辛かった。

 ソーナは自分でも理解している。

 自分の心はリアスでしか満たされない。

 どうしてそうなったのかは分からない。

 でもそんなことはどうでもよかった。

 

 朝に作った料理を美味しいと言いながら食べてくれた時、とても胸が暖かくなった。その料理に混ぜた血がリアスとの繋がりを深くしてくれているだろう。リアスが魔力で作った水を飲んで眠っているのがいい証拠だ。

 お風呂でリアスの体を…感度がいいところを触ったときに色っぽい声を出した時なんてもう堪らなかった。もっとその声を聞きたいと思ってやりすぎてリアスに怒られてしまったが、リアスに怒られるならそれはそれで良かった。

 お風呂上がりのリアスには思わず見惚れてしまった。夜風に当てられて揺れるまだ乾いていない深紅の髪。服の隙間から見える少し紅く染まった肌。そして、ありがとうと言いながら見せてくれる笑み。綺麗だと思った。今までとはまた違う美しさがあった。その美しさを持って月を見るリアスは一枚の絵になりそうだった。

 

 もう十分すぎるほどソーナの心は満たされた……わけではなかった。

 

「まだ……まだ足りないの」

 

 ソーナはリアスの頬に手を添え、顔をグイっと近づける。

 

「もっと……もっとリアスが欲しい」

 

 自分の唇をリアスの唇と重ねる。

 その途中でソーナの目から涙が溢れ、頬を伝う。

 嬉しいからなのか、別の理由なのか、それは本人にしか分からない。いや、本人にも分からないかもしれない。

 唇をリアスから離し、リアスの服に手を掛ける。

 

「好きよ、リアス」

 

 ソーナはリアスの服をゆっくりと脱がしていった。

 

 



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