博麗霊夢の問答 (絶望先生と東方と涼宮が好きな人)
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博麗霊夢の問答

暗い話です。


 目の前には先のとがった黒い()()

 

「よっ!」

「ねぇ魔理沙ってもしかして暇なの?」

「暇ではないぜ? ただ霊夢のとこに遊びに行く時間が必要枠なだけだ」

「ふーん」

「興味なさそうに思えて実は嬉しかったり?」

「なわけないでしょ。で? 今回は何しに来たの? ま、どうせ特に理由はないとか言うんでしょうけど」

「勝手に()()()()しないで欲しいぜ。広い意味で」

「広い意味……?」

「今回はな、いくつか質問したいことがあって来た!」

「質問?」

「嘘つかず正直に答えてくれるとありがたいぜ」

「私は嘘なんてつかないわよ……多分」

「じゃあ聞くぜ? 私とアリスならどっちが大事だ?」

「はっ?」

「聞こえなかったか? ならもう一度言うが」

「違うわよ。聞こえたけど意味が分からなかったの」

「じゃあ質問を少し変えてみるか……えっと、霊夢が人間の中で一番仲が良いと思うやつって誰だと思う?」

「私と一番仲が良い人間?」

「そうだぜ」

「うーん……そもそもよく喋る人間なんて魔理沙や咲夜、あと早苗くらいだし……。でもまあ、その中ならやっぱり魔理沙かなぁ」

「そうか? 照れるぜ!」

「はっ? なに、こんな質問なんかして自己満にでも浸りたいわけ!? そんなので私の時間を奪う気なら殴るけど」

「違う、違う。まあ落ち着けって。質問はまだ続くんだから」

「え〜」

「嫌がるなよ、霊夢のためを思って言ってるんだから……いやまあ正確には、()()()()()()()ことをしてるんだから」

「はっ?」

「じゃあ次の質問。霊夢が今度は妖怪の中で一番仲が良いと思うやつって誰だと思う?」

「妖怪の中で?」

「そうそう」

「うーん……妖怪となると今度は候補が多すぎて大変ね」

「まあここが妖怪神社と言われる所以だな」

「失礼ね! 合ってるけど」

「まあそれはともかく。ほらほら早く答えてくれよ!」

「えぇ……。うーん、紫? いや萃香? それとも……えっと、やっぱりアリスかなぁ。魔理沙と同じ、昔からの仲だし」

「幼なじみってやつだな!」

「ええ、そうね」

「じゃあ改めて聞くぞ?」

「えっ?」

「私とアリスならどっちが大事だ?」

「聞き間違いではないようね……なぜそんなことを聞くの?」

「質問を質問で返すなよ」

「むっ」

「もう一度聞くぜ? 私とアリスならどっちが大事だ?」

「そんなの決められるわけないでしょ。そもそも博麗の巫女は平等に接するもの、どっちも何もないわよ」

「そりゃあ無理があるぜ、霊夢」

「どこがよ」

「霊夢は早苗と咲夜と私の中から一番仲が良い人間として私を選んだわけだし、数多い妖怪の中からアリスを選んだわけだ。まあ正確にはアリスは魔法使いなんだけどな、そこは考えずに。でな? そんな風に特に仲が良い相手を抜粋してる時点で、霊夢に平等とかを言う資格はないと思うわけだ。分かるだろ?」

「あんたそんな性格悪かったっけ?」

「逆に霊夢の中の私は()()()イメージなのか?」

「はっ?」

「ん?」

「なんか今日の魔理沙、いまいちやりにくいわね。変なものでも食った?」

「キノコは三食ちゃんと食べてるぜ?」

「ちゃんとって言うのかしら」

「でまあ、話を続けるぞ? 結局霊夢はさぁ、アリスと私どっちの方が大切なんだよ。そんな言い訳なんかしないでちゃんと答えてくれよ! 嘘はつかないんだろ巫女さん!」

「ちょちょっと……そんな強く言わなくても……」

「ところで霊夢は幻想郷の調停人なんだろ?」

「えっ急にどうしたのよ」

「閻魔様とはまた違うのか?」

「ちょさっきの続きはどうしたのよ」

「おい質問してるのはこっちだぞ」

「はぁ!?」

「幻想郷の調停人って、閻魔様とは何が違うんだ?」

「そ、そりゃあ……閻魔様は死後の裁き、私は生前の裁きをするのよ。()()()()も必ず死後裁かれる、それも白黒しっかりつけられて間違いなく、ね。でもとはいえ、大罪人を生きてる間ずっと野放しにしてるわけにもいかないでしょ? そこで私の出番ってわけ」

「ふむふむ」

「悪いことをする人間はね、生前も、死後も、裁かれるのよ。死後は閻魔様に任せきりだけど、生前は私が裁くの。責任を持ってね」

「なるほど、よく分かった!」

「それにしてもやっぱり少しおかしいわよ、今日の魔理沙。大丈夫? 風邪でも引いた?」

「いつも通りだから安心してくれだぜ! おかしく感じたとしたら、それは霊夢の問題だ!」

「はぁ?」

「それとだ、霊夢! まだ質問タイムは終わってないんだぜ! 閻魔様のことなんだが、ふと思ったんだが、相手が嘘をついてたりしたらどうするんだ? 正しく裁けるのか?」

「それは安心しなさい。閻魔様にはね、()()()()()という道具があって、その鏡の前ではその人間の過去が洗いざらい映し出されてしまうのよ。嘘を吐くどころか、弁明すら許されないわね。必要ないのだから」

「ほぉ〜そんな便利な鏡があるんだなあ、そりゃあ隠したくても隠せないよなぁ」

「あら、隠したいことでもあるの? 盗みとかはもうバレバレだからね?」

「そうじゃなくてだな」

「ふふ、魔理沙のかくしごと、気になるわね」

「そういえばさ」

「ってまた話変える気?」

「最近の私って、お前から見てどんな感じだった?」

「最近の魔理沙……?」

「そうそう」

「えっと、うーん……特に変わりない様子だったような……」

「本当にそうだったか?」

「えっ」

「思い出してみろよ、本当にそうだったか?」

「えっ、えっ?」

「博麗霊夢。私はよく知ってるぞ、お前のことを。そして、お前が為したこと、為してしまったこと。あらゆることを知っている」

「ちょどうしたのよ魔理沙? 本当に大丈夫? とりあえず永遠亭にでも……」

「お前自覚してるのか? お前が霧雨魔理沙を追い込んでたことを」

「えっ……!?」

「自覚してるよな? でも逃げてるんだ」

「ちょやめてよ、魔理沙! なんでそんなこと言うのよ! あなたおかしいわ、早く永琳のところに……」

「確かに最近の霧雨魔理沙はおかしかった。家にこもりっぱなしで独り言も多かった。久しぶりに霊夢に会いに来たと思ったら、新しい魔法を紹介するとか言って失敗して爆発してたよな?」

「そ、そうだったかしらね……」

「で。そのとき霊夢はなんて言ったか覚えてるか?」

「えっ、そ、その」

「覚えてないよなぁ? だって無関心だもんなぁ、お前」

「なっ!? お、お願いだから落ち着いてよ、魔理沙! 意味わからないことばっか言わないで!」

「まあ聞け、そして思い出せ。お前こう言ったんだよ。『今回はたまたま失敗したのよ。次から頑張ればいいじゃない』」

「!?」

「アリスの証言は聞いたよな? アリスはこう言ってたよ。『魔理沙は最近、的はずれな研究ばかりしていた』って。焦って、焦って、どんどん人間を超えてゆく霊夢に追いつこうとして、狂っちゃったんだろうなぁ」

「や、やめて……!」

「そこに霊夢の次がある発言だ。次なんかなかったのさ、普通の魔法使いに。そんな魔理沙にとって、その言葉はトドメを刺すには十分だった」

「お願い、やめて……。ねえ……魔理沙。や、やめて……」

「ところで霊夢。お前って何なんだ?」

「えっ?」

「博麗の巫女って、結局何なんだろうなぁって思ってさ」

「えっいつもの魔理沙に戻ったの……?」

「おい霊夢〜質問してるんだから答えてくれよ〜」

「博麗の……? ああ、博麗の巫女ね。そりゃあこの博麗神社の巫女のことよ」

「でもお前って本当にただの巫女なのか? ただの人間なのか?」

「なに、化け物とか言う気?」

「いや化け物というよりは神に近い」

「褒めても何も出ないわよ? ……あれ。そもそも神に近いって誉め言葉なのかしら?」

「褒めてるんじゃなくて、普通にそう思ったんだよ。霊夢って()()なんじゃないのかって」

「ふーん。どうして?」

「あっ次の質問をするぜ!」

「えっ、さっきのは答えてくれないの?」

「質問してるのはこっちだぜ!」

「はいはい。で、何よ?」

「生きてるやつと死んでるやつ。どっちを優先する? 霊夢なら」

「質問の意図が分からないんだけど」

「だからさ、もし、生きてるやつと死んでるやつが困ってて、どっちかしか助けられないとしたら、どっちを優先するんだって話なんだよ」

「えぇ……いやそもそも死んでるやつは助けられないでしょ」

「西行寺幽々子とかを見てもそう言えるのか? 魂がふわふわ飛ぶ世界なんだぜ! ここは!」

「ぐぬぬ」

「それに。死んでると言ってもそいつの名誉とか記憶は残り続けるんだ。その名誉や記憶を守ることは、その人間を助けるってことにはならないのか?」

「な、なるほど……」

「じゃあここで改めて質問するぜ。生きてるやつと死んでるやつ、どっちを助ける?」

()()()()()()

「こりゃまた即答だな」

「だってそうじゃない。死んでるやつより生きてるやつの方が脆いし、死んでるやつより生きてるやつの方が未来があるからね。優先順位なんて自明よ」

「ふむふむ。流石霊夢だ、()()()()だな!」

「はっ?」

「じゃあそろそろ最後の質問にするぜ!」

「ようやくね。もう色々と疲れたわ、早くして」

「アリスは今何してると思う?」

「えっアリス? うーん……人形でも作ってるんじゃない? それとも人里で人形劇とか」

「残念!」

「えっじゃあ何してるんだろう……パチュリーのところに行ってるとか?」

「それも違うぜ!」

「えぇ……じゃあ分からないわよアリスのことなんて!」

「さっきアリスの家に()()()のに?」

「えっ?」

「なあ霊夢、正解を教えて欲しいか?」

「ちょ」

「教えて欲しいか?」

「そ、そりゃあ教えて欲しいわよ」

「本当に?」

「本当よ」

「本当の本当に?」

「本当よ! もう焦らさないでよ! 早く正解を教えて!」

「なら教えよう」

「魔理沙と喋るといつも時間が勿体無いわ、早く教えて」

「正解はな……『霧雨魔理沙と楽しそうに喋ってる』だ!」

「へぇ……ふーん……ん? えっ? 霧雨魔理沙と?」

「そうそう」

「えっ魔理沙と?」

「そうだぜ、違いないぜ。まあ()()()()()()()()()()ではないがな」

「じゃあ私の前にいる霧雨魔理沙は? あなたは誰なの!?」

「それも霧雨魔理沙だぜ。といってもアリスと同じタイプのだが」

「アリスと同じタイプの魔理沙……? それってどんな魔理沙なの?」

「教えて欲しいか?」

「そ、そりゃあ……」

「なら今までの質問を振り返ってみようぜ?」

「えっ?」

「まず私が、()()()()()()()、博麗霊夢は神に近いと思った理由について話そう!」

「それは気になってたけど……えっなにか関係があるの?」

「関係大有りだぜ! というか、関係ない話は何一つしてない。これは誰でもない()()()()、お前の葛藤だからな!」

「どういうことなの……意味が分からないわ」

「お前がお前自身を、神に近いとおもった理由。それはな! その傲慢さにある!」

「傲慢さ……?」

「そう傲慢さだ。神さえも恐れぬ所業、と言えばいいかな。魂を成仏させることができる博麗の巫女……しかし、魂自体を消滅させるなんてもはや神の特権だろ? なあ霊夢?」

「魂自体を消滅? 何を言ってるの魔理沙!?」

「お前はお前自身に皮肉を言っていたんだよ。そんな傲慢なんて神じゃないと到底許されないものだ、ってね」

「それってどういう……」

「次に! 浄玻璃の鏡について話そう! 確か霊夢はさっきこう言ったな? 『()()()()()という道具があって、その鏡の前ではその人間の過去が洗いざらい映し出されてしまうのよ。嘘を吐くどころか、弁明すら許されないわね』と。それと、こんなことも言ってたっけなぁ……『()()()()も必ず死後裁かれる、それも白黒しっかりつけられて間違いなく、ね』的な。ふむふむ……どんな魂もねぇ……」

「何が言いたいのよ?」

「どんな魂も閻魔様に裁かれる、そして浄玻璃の鏡の前では全て洗いざらい発覚してしまう。それは間違いないな?」

「ええ、そうよ。それがどうしたのよ」

「なら真実を隠したいときお前ならどうする」

「真実を隠したい……? いやいや。どんな魂でも裁かれるのよ? 隠しごとなんて無理だわ、絶対に」

「どんな魂もねぇ……」

「なによ、その顔……。いやだからね? さっきから言ってるように浄玻璃の鏡の前ではどんな魂だって……えっ、ま、ま、まさか!?」

「その通りだぜ、霊夢。どんな魂も嘘なんてつけず、浄玻璃の鏡の前で真実を吐露するしかないんだ。なら、真実を隠すためにできることは一つ。そもそも魂を閻魔様のところに持って行かれないようにする、魂自体を消し去ることなんだよ霊夢……!」

「!?」

「でだ。ところで霊夢」

「また話を変えるつもり……?」

「そこまで話を変えるつもりはない。ただ、蛇足的な質問をもう一回だけする。悪いな……さっきで最後にするつもりだったんだが、まあ許してくれ。質問するぜ? お前が人間じみてないところとして挙げられる特徴、何だと思う?」

「私が人間じみてない特徴?」

「そうだ」

「それってさっきの傲慢さってやつ……?」

「まあそれもある。普通の人間じゃ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だが今聞いてるのは別の特徴だな」

「えっと強さとか……?」

「まあそれもある。霧雨魔理沙を狂わせるほどの強さ、実に憎たらしい。誰でもない()()()()()そう思っている。だが今聞いてるのはまた別の特徴だな」

「わ、分からないわよ……焦らさないで教えて……」

「ああ教えてやる。それはな、恐ろしいほどの()()()()だよ」

「まあそれは私も自覚してるわよ。で? それが今までの質問とどんな関係があると言うの?」

「言うほど関係ない」

「はっ?」

「今までの質問に比べちゃ、どうでもいい質問だよ。言ったろ? 蛇足的な質問だって」

「じゃあなんで質問したのよ」

「それはお前が気にしてるからだよ、霊夢」

「えっ」

「『私の勘がもう少し悪ければ……こんな真実に直面しなくても済んだのかなぁ』そんな後悔がお前を蝕んでいるのさ。だからそんな質問を()()問いかけてしまうんだろうなぁ……」

「どういう意味なの?」

「まあ最後まで聞け。この長い問答もそろそろ終わる」

「わ、分かったわよ」

「霊夢は確か、生きてるやつと死んでるやつだったら、生きてるやつを選ぶんだったな?」

「ええ、そう言ったわ」

「じゃあ聞くが、ある存在Aが、ある存在Bを思いがけぬ災難により殺してしまったとしよう」

「いきなり物騒な話ね」

「霊夢はその場に居合わせてしまったとする。そして、霊夢にとってその二人、AとBは大事な親友だった。このままではAが罪により捕まってしまう。さてどうする?」

「どうするも何も……自首させるしかないんじゃないの?」

「まあ普通はそんな発想に至るよなぁ。でも、他人事じゃなくリアルで考えてみろ。お前ならどうする? ()()()()()()()()()()()()()()()()、そんなお前ならどうする?」

「ちょそれってどういう」

「そして話は戻って最初の質問だ。なあ霊夢? お前は……私とアリスならどっちが大事だ? 分かるだろ霊夢?」

「魔理沙……それって……!?」

「ああその推測であってるぜ、霊夢」

「そ、そんな……」

「まあ念のために状況整理をしておこう。いいな霊夢?」

「ええ構わないわ……()

「なら話そう。霧雨魔理沙は狂っていた……最近は的外れな研究や、命知らずな危険な研究も多くしていた。もうどんなものでもいいから霊夢に追いつける方法を探していたんだろうなぁ……。それほどに霊夢が強すぎたのもある」

「ええ、そうね……」

「だが霊夢の無関心な軽はずみな慰めが、彼女の心を確実に完全に壊した。その夜のこと、霧雨魔理沙は黒魔術と言われる禁忌中の禁忌に手を染めようと決心する……」

「そうだったわね、確か……」

「最近の魔理沙の様子を見ていたアリスは、その夜もふと心配になり魔理沙の家へ向かった。そして見つけてしまった、黒魔術を取得しようとしている魔理沙の姿を……!」

「そう聞いているわ……」

「闇の魔力が流れ込んだ魔理沙は理性を失い、暴れ始めた。このままでは魔法の森だけじゃない……人里やあらゆる場所に被害が及ぶかもしれない……そう思ったアリスは少し強引に魔法を使い魔理沙の動きを止めた」

「ええ、そうよ、その通りよ」

「だが。魔法が使えるとはいえ、体は脆い人間である霧雨魔理沙……彼女は呆気なく死んでしまった。アリスの魔法によって」

「これは仕方ないことだわ……誰も悪くない、誰も悪くないの」

「強いて言うなら博麗霊夢。お前の罪かもしれないな」

「そ、そんなことを言わないで……!」

「持ち前の勘の良さで魔理沙の元へ向かった霊夢、何か嫌な予感がした。そしてその予感は的中する。霧雨魔理沙は死んでいた……泣きながら彼女の死体を抱きしめるアリスも霊夢の目に映った」

「そ、そうよ、私はアリスと魔理沙を見つけたの」

「状況を把握した霊夢は何を思ったか、霧雨魔理沙の魂ごと肉体を消し去ってしまった。肉体を消すことで完全犯罪、魂を消すことで死後も完全犯罪が成立だ。もう、アリスを裁けるものはいない」

「だって……! 人間を殺したなんて知られたら、アリスはもう生きていけないわ……人里の外での死は裁く対象ではないとしても! それでも! 勘当された身言えど霧雨家のお嬢様である魔理沙の死は人里中に知られるし! アリスは人形劇を人里でするのがとても好きだったし! ただでさえ魔理沙を失ったショックがあるというのに……これじゃあまりにも可哀想よ……!」

「だから神の所業とも言えるような、魂の消去をお前は実行したのか!? それも親友である霧雨魔理沙に!!」

「うつっぐ……!」

「魂が消されてしまえばあの世でも暮らせないし、輪廻転生の対象にもならない。もうどこにも存在しなくなるんだ。それは実に悲しいことだよなぁ……なあ? 霊夢!」

「って、でも、でも、そうするしか……!」

「そして、魔理沙を殺したアリスも狂った。アリスは今最高の笑顔でお茶会をしてるぜ。そこにいるはずのない魔理沙と」

「ええそうよ……私が泣いて喚いてるアリスから無理やり情報を引き出してしばらく経った頃……アリスは急に独り言をぶつぶつと喋り始めたわ。丁寧に紅茶まで用意して、魔理沙と話し始めた」

「まあ要するに。霊夢やアリスが喋っていた同じタイプの霧雨魔理沙っていうのは、()()()()()()()()()ってことだ。正真正銘の霧雨魔理沙はお前が魂ごと消しちゃったもんな……!」

「っ、っでも、ぅぐ……」

「もう泣いて声も出ないか。それでもお前の中の霧雨魔理沙は博麗霊夢を責め続ける。そうだ、お前の中の霧雨魔理沙は()()()()()()()だ! ()()()だ! 狂ったアリスを見たとき、正直羨ましかったんだろ? 霊夢! だってあんな嫌なことを、魔理沙がもうどこにもいないことを、アリスは忘れることができたんだもんな!」

「っうぐ、えっ、ぇも……」

「だからお前も忘れることにした。なかったことにしようとした。そして、神社に帰ってきた後お前はまるで何もなかったように平然と過ごしたんだ……魔理沙を魂ごと消したくせにな」

「や、ぁつ、っうぐ、め……」

「でも結局はお前の中の常識が、良心が、そして霧雨魔理沙への想いが、それを拒んだ。なかったことにさせてくれなかった。アリスのように狂うことさえできなかったわけだ」

「ぅ……っ!」

「改めて聞こう。なあ霊夢? 私とアリスならどっちが大事だ? 分かるだろ霊夢?」

「うっ……ぐすっ……もう分かんないわよ、何も、何も……!」

「お前はもう行動で答えを示してるんだけどなぁ、どうにも認めたくないらしい。でもまあ……お前の行動のおかげでアリスは罪に問われないし、状況が状況だから霊夢の行動も仕方ないと思えるし、決して後悔する必要はないと思うぜ? アリスに関して言えば、狂ったは狂ったが、隣に魔理沙は居続けるんだろうから、今後も生きてゆけるだろうしな……」

「っうぐ、ぐすっ、っでも……!」

「まあそれでも。霊夢は一生、魔理沙への罪悪感に苛まれるだろうな。酒も不味くなりそうだ」

「ごめんなさい魔理沙……ごめんなさい魔理沙……!!」

「おいおい私に謝るなよ。魔理沙はもうどこにもいないんだからさ」

「ごめんなさい魔理沙……ごめんなさい魔理沙……!!」

「帽子がくしゃくしゃになるぞ霊夢?」

 

 目の前には先のとがった黒い()()

 ただ、目の前には先のとがった黒い()()()()があった。霊夢が作り出した魔理沙の幻も消え、長い長い自()()は終わる。

 霊夢はその帽子を握りしめながら、一人涙を流していた……。




霧雨魔理沙と霊夢の結末は、二次創作だとバットエンドが多いイメージですね。
今度はハッピーな終わり方で書いてみたいものです。


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