リプレイ (桜樹)
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1話

楕円の部屋、床は赤い絨毯で天井には豪華なシャンデリアが部屋を明るく照らしている。奥には上へと昇る階段がある様だ。そんな部屋に寝転ぶのは4人の人間。白人の男が二人と東洋人が二人である。そのうちの一人、もっとも体が大きく、鍛えられているのが分かる男が目を覚ました。男は見覚えのない楕円の部屋を不思議そうに見回せば、自分の近くに三人の誰かが寝ているのを見つけた。

 

男は無言で三人をそれぞれ揺らす。見たところ死んでいる訳でもないので、すぐに起きるだろう。案の定目を覚ましたのは、東洋人の女だった。男ほどではないが、それなりに鍛えられている様に見える。男は職業柄、主要国の軍装備を熟知している。だから女が着ている服や装備品から、この女がJapanのself-defense forceの者であると知る事が出来た。目を覚ました女は、見覚えのない部屋に疑問の声を上げる。

 

男はそれに答え、他に二人ほど倒れている事を伝える。男と女は残りの二人を起こそうと、行動を始めた。

 

次に起きたのは白人の男。服装から見て聖職者だろう。男は不思議な事に既に起きている二人に目もくれず、まだ眠っている東洋人の男を起こしに行った。料理人風の東洋人の男が起きれば、四人は部屋の中心へと集まり話し合いを始める。話し合いで簡単な自己紹介と情報共有が行われた。

 

一番最初に起きた男の名はスミス・ウェットソン。見ても分かる様に、大柄でかなり鍛えられている。聞けばイギリス陸軍士官だそうだ。

 

次に起きた東洋人の女の名は咲白よしふる。至る所にピアスが空いた、ピアスお化けである。それを見たスミスは、日本の軍隊は規律が緩いなと思ったそうだ。

 

三番目に起きた聖職者風の男の名はトーマス・ミーサ。えらく身なりの良さそうな服を着ており、育ちの良さが分かる。聖職者風ではなく聖職者である様だ。

 

最後に起きた東洋人の男の名は醤油。醤油以外の調味料駆逐に執念を燃やす、特異な料理人である。

 

自己紹介を聞いている間、スミスと咲白は奇妙な違和感に襲われていた。スミスは生粋のイギリス人である。日本語なんてこれっぽちも理解出来ないし、喋ることも出来ない。だと言うのに、自分の次に起きた咲白と意志疎通が出来た。咲白の喋る言葉が、全て流暢なイギリス英語に聞こえたのだ。咲白も同じだ。自分を起こしたスミスがとても上手な日本語を喋っている様に聞こえた。

 

しかし、両者が喋っているのは自分の母国語である。おそらく違和感とは、聞こえてくる言葉と口の動きが合っていない事から生じたのだろう。それを自己紹介の中でも感じ取った二人は、それぞれの同郷の者に説明する。

 

こうして自己紹介と情報共有が終わった。

 

一息付いていると、唐突に人知を超えた何かに己の体を支配される四人。それは決して抗う事が出来ず、自分の意志を離れ動く体に四人は恐怖した。四人の口が全く同じタイミングに開き、全く同じ言葉を放った。その言葉は四人全員に、身に覚えのない言葉である。

 

曰く、ようこそ 試練の塔へ 生きて帰りたくば 上へ上ることだ、と。

 

それぞれがどの言語で言ったのかは分からないが、全員の耳にはこう聞こえたそうだ。身体の自由が戻ると、全員が己の身に起こった不可思議に怯えた。中でもトーマスの怯えようは酷く、正気を失っている様に見える。職業柄、精神的にタフなスミスが怯えはしたものの直に我を取り戻し、トーマスを落ち着かせる事に成功する。

 

こうして、四人の探索が始まるのであった。



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