黒幕はフィーネ (雨宮417)
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なんか受信した

オッス、我シェムハに釣られシンフォギアにはまった作者はずるずると沼に堕ちていくのであった。
みくグレひびさいこー。


1

私が目を覚ました時、そこは病院の一室だった。

 

自分が置かれた状況も分からず、しばらくは天井を眺めたあとに緩慢な動きで身体を確認する。

手には点滴、身体に患者衣。至るところに包帯が巻かれ口元にはテレビでしか見たことのない

大きな呼吸器具。病室は暗くカーテンの外からも光は差し込まない。

そうして今を確認した私は、次にどうして此処にいるのかと記憶の糸を手繰り寄せる。

頭はぼんやりとして思考をまとめることは難しかったけれど

他に出来ることを思い付かなかった私はただそれだけを繰り返した。

 

親友と一緒に二人組の歌手のライブを見に行こうと約束したこと。

当日になって親友は家庭の事情で来れなくなり独りで会場に入場したこと。

特に興味もなかったライブだけれども彼女たちの歌を聞く内に体がリズムを取り

物販で購入したペンライトを周りに合わせて振ったこと。

そして会場が炭の山に変わり、私は私達を守ろうとしてくれた誰かが持っていた武器の破片に

胸を貫かれ、死ぬなと声をかけられ抱き起こされたこと。

 

ノイズ。

 

十何年か前に災害と認定され、何処からか現れ、人のみを狙い、炭素へ変貌させるもの。

遭遇確率は通り魔に出会うよりも低いと聞くけれど、私はその偶々に遇ってしまった。

昔から不運であるとは感じていたけれどあんまりではないだろうか。

呼吸器が付いていることを忘れて何時もの口癖を吐き出す。

くぐもった息は声の形には成らず音の切れ端にしかならない。

目を閉じ、軽い呼吸をする。深くは吸わない、というより吸えない。

付けなれなさが理由なのか、あるいはそういう機能なのか深呼吸は出来なかった。

 

沈んだ心で生きている、私は生きていると唱える。

誰かは分からないが私に生きてほしいと叫んでいた。泣いていた。

心の底から願いを投げつけていた。

ならば私は生きなくてはいけない。

何が起ころうとも、どんなことがあろうと、生きることを諦めてはいけない。

 

そうして私を枠に押し込め、立花響は世界に息を吹き返した。

 

 

 

2

閉じていた目を再度開いてからはどれ程の時間がたったのだろうか。

部屋は暗く、カーテンが透き通るようになるにはまだかかりそうである。

何もする事がないのならと、ライブのことを思い出す。

正直な話、深く思い出そうとするとノイズに襲われることも思い出してしまい億劫ではあるが

誰がどう見ても、私の状況は死地であったのだから其処から生還した以上どうして生き残ることが

出来たのかを知るべきだろう。

次にまたノイズに襲われて生き残れるという保証はない。

生きることを諦めないというならば、起こってしまったことに対して対策を練るべきだ。

原因の究明?ノイズは唐突に現れるというのに一学生の私に原因を究明出来るものか。

よくわからないものは学者に任せておけ。

私は私に出来たことを、どのような時にでも行えればよい。

 

まずはなんだ、最初から順序立てて思い出していこう。

 

当時の私は親友にドタキャンされて不貞腐れつつも僅かな高揚心を持ち会場にいたと思う。

それは子供の頃に一人でお使いにいったときのような、初めて町中に出たときのお上りのような感覚。

要するに初めての場所とお祭りで胸に不安とワクワクがあったわけだ。

ライブが始まってからもしばらくは周り乗れずおどおどしていたとも思う。

私がライブを楽しめるようになったのは歌のさび辺りだろうか。

その頃には慣れないながらもペンライトを振っていた。

私がそうしたいと思ったから。

歌に合わせてペンライトを振るだけでも楽しかった。

離れた席にいた人は体中をぐるんぐるんと回していたけれど

狭い席でやって警備の人に怒られていた。

会場の天井がまるで翼を拡げるかのように開き、歌声と歓声が空に響いた。

歌手の一人が何かを言っている。たぶん、次の歌を歌うとかそんな雰囲気だろう。

そんな時だ。ステージで爆発が起き、ノイズが現れた。

辺り一面には炭の山が築かれ判断が早い人は出口へ向かって駆け出した。

生憎私は周囲からほとんどの人がいなくなるまで動けなかった。

というよりも自分の立っていた足場が崩れ、足をケガした痛みでようやく我に帰ったというべきか。

ノイズが迫っていた。私は足を引きずりながら出口に進んだ。

ノイズは武器をもった人にやられていた。

 

学校の授業で取り扱ったことがある。

地震、雷、火事、ノイズ。

災害にあったときにはどのように行動すべきか。

それらはどんな現象なのか。

班毎にまとめて発表しましょうというやつだ。

 

ノイズは倒せない。そう教わってきた。

剣も槍も弓も銃も、爆弾、戦車、船、飛行機果てには反応兵器まで。

あらゆる武器を試して、試して、試して、試してそれでも人はノイズを倒せない。

どうしようもないもの。だから災害。

 

ああ、けれどもあの人は、ノイズを倒せていた。

ノイズに触れても炭にはならなかった。

命があった。

 

あれだ、と私は思う。

よく思い出してみれば防御力が有るのかも分からない鎧も身にまとっていた。

そのおかげでノイズに触れても炭にはならなかったのだろう。

薄くても十分。むしろ動きを阻害しない。

 

あれを使うことが出来るのならば。

私はノイズに出会っても生き残ることが出来る。

 

あの後あの人はどうしたのだったのだろうか。

私は飛んできた武器の破片、に貫かれ、て。

 

私はぎこちなく胸元をはだけた。

胸にはfの傷痕が残っていた。

 

 

 

3

胸に手を当てる。自分の鼓動以外は聞こえない。だが、自覚してしまったら聴こえる。

私の中に何かある。いや、何かではない。はっきりとわかる。あの人が持っていたものだ。

響く振動は歌だろうか。何かを求めるかのように、私を揺らしている。

命か、想い出か、それとも一緒に歌ってほしいのか。

ともかく考え事をしている最中だ。今は静かにしてくれ。

強めに念を込めると振動は停止した。

息を吐き、気持ちを整える。

勝手に取りついて活動するなんて、あの人が使っていたのは呪いの武器か何かか。

呪いの武器がノイズを倒せるとは聞いた覚えがないが、そもそも呪いの武器が存在するなんて

聞いたこともない。聞いたことがないのならもしかして。

そこまで考え思考を引き戻す。重要なのはそこじゃない。

私の中にはあの人の武器の欠片があるということ。

そしてもしかしたらノイズに対抗できるかも知れないということ。

思い付きで妄想の塊かもしれないが。

取り敢えずは退院してから検討しよう。

 

そもそもノイズが現れた場所にたまたまノイズを倒せる人がいる確率はどれ程のものなのだろうか。

まるで作為を感じてしまう。ニチアサのアニメのように何処かにノイズ操る黒幕がいたりして

ノイズを倒す戦士の下に派遣でもしているのだろうか。

だとしたら今の私はピンチというやつだ。武器を持っていても使えないのだから。

なんて妄想をしてみる。

 

黒幕、黒幕か。いるのならば教えてほしいな。

誰がノイズを操っているのか。どうしてノイズで殺すのか。

 

《黒幕はフィーネ》

 

は、と声が出る。

この時辺りに人がいたのならば唐突に私がドスの聞いた声を出したことに驚くだろう。

黒幕はフィーネ。フィーネとは人の名前か。よくわからないものが頭に届いた気がする。

そもそも日本語だったか。私の聞いたことのないものではなかったか。

しかし確かに私はその言葉を受信した。

黒幕はフィーネ。フィーネとは誰だ。返答はない。質問を繰り返す。返答はない。

ただの幻聴か。目が覚めたばかりでおかしくなっているのだろう。

私が胸にあると勘違いしているノイズの対抗手段も一時の妄想に過ぎない。

だいたい薄着をまとってノイズと戦うとか。

あれは一体なんだというのだ。

 

《シンフォギア》

 

今度こそ私は止まった。呼吸を忘れ、単語を反芻する。

シンフォギア、それがあの武器の名前。

 

 

 




すーぱー聖異物大戦とかみたくね。


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カウンセラー、一体何者なんだ。

Q.何時になったらシンフォギアをまとえますか。
A.まだまだまだまだ先のことじゃ。


1

私が運び込まれた病院はリディアン音楽院に隣接する総合病院だった。

私以外にもあのライブ会場にいた幾人かはこの病院に入院しているという。

もちろん全ての人ではない。

軽傷と判断された人はそもそも入院などしていないし

重症の人でも病院の負担を減らすために県外に分散して入院をさせている。

特に重症な患者には個室も用意されるほどだ。

政府の素早い、また厚い支援が出たお陰だと頭皮の薄い医者は言った。

家族と共にそんな雑談と私自身の今後のスケジュールを病室で聞かされる。

ライブ会場で瓦礫の破片が胸に刺さったとされる私は摘出手術により破片は全て取り除かれ経過は順調であるとのことだ。

とはいえ傷は完全に塞がってはいないため、しばらくは入院していなければいけない。

足をどうにかしたのか、治ってからもリハビリが必要とも言っている。

また医者は以前の私との差異を両親に確認し、カウンセリングを受けさせてはどうかと提案していた。

正直私がいるところでやらなくてもよいのではと思ったが、医者としては説明責任とやらを

果たさなくてはいけないらしい。

意識を取り戻して直ぐということもあり手短に終わった説明の後は家族といくつか会話をし着替えなどの日用品を受け取る。

一人娘が惨事に巻き込まれたからか父も母も祖母も皆やつれているようではあった。

 

病室にはまた私一人になる。

 

日用品にはノートと筆記用具もあった。

加えていうのならば問題集もだ。

学校からか、両親からか、ある程度体調が良好になったのならば勉強をさせようというのだろう。

私はノートと筆記用具を取り出す。早速勉強をしようというわけではない。

私自身そんなに熱心な性格もしていなかった。

 

私はノートに単語を書き込む。

フィーネ、そしてシンフォギア。

謎の声が発した単語。それぞれが意味するものを考えノートに書き込んでいく。

シンフォギアは分かりやすいだろうノイズに対抗することの出来る武器。

ノイズに接触しても炭素にならず、ノイズを倒すことができる。

ただし人間が扱う以上武器を振り回す体力や技術が必要になるだろう。

ただの人間にシンフォギアを与えても炭化しないだけ。

ノイズに押し潰され死ぬまでボコボコにされ続けるだけになるだろう。

 

どうやったらシンフォギアを手に入れることが出来るか。

医者は私を貫いた破片は瓦礫であり全て摘出済みだと言ったが

私が意識を傾けるとそれは確かにある。

許可を出せば歌うように震え、熱を放つ。

 

ガングニール。

私に語りかける言葉とは別の、私の胸の内から意思を発するもの。

穂先を掲げ戦場へ、全ては勝利を手にするために。進め、祓え、打ち砕け。

 

欠片にではあるがハッキリと自己主張をしているがこれは武器でも鎧でもない。

果たして欠片であってもノイズに対して効力を発揮するのであろうか。

 

フィーネ。

ライブ会場にノイズを放った黒幕。

目的も手段も分かりはしない。精々ノイズを倒せる戦士の下に派遣した等の推測しかできない。

そもそも人なのか、ノイズの生産施設なのか、ノイズのボスの名前なのかすらも分からない。

私はノートに推測を書いては消すことを繰り返す。

結局フィーネに関して私は何かを書き残す事はなかった。

 

 

 

2

私のカウンセラーは親密さを得るためであろうか、若い女性の医師だった。

まるで台湾のかき氷のような特徴的な髪型をした彼女は当初私からライブの時の話を聞き出そうとしたが口数の少なくなっていく私の様子を見てあまり良くない傾向だと判断したのか、彼女は自身の趣味を話すようになっていった。

私は興味なく適当に相づちを打つだけで医者に指定されたカウンセリングの時間を過ごそうかと思っていたが熱弁を奮い太古のロマン、失われた遺物について語る彼女について僅かではあるが興味を持つことになる。

彼女の語った内容には遠い過去に英雄が担った武具や伝承についても有ったからだ。

ノイズに対して有効な手段になるかもしれないと

私が彼女の話を聞く姿勢になったことを感じ取ったのだろうか。

彼女はカウンセリングの終了時間までしゃべり続けた。

 

私が彼女の話に興味を持ったからか、次回のカウンセリング時には病院附属の図書館で利用者カードを作りましょうと提案される。

私はカウンセリングはどうすると問いかけると彼女はおちゃらけた様子でこれもカウンセリングよとウインクして答えた。

 

何日か経って頭皮の薄い医者から車椅子ではあるが移動の許可が出る。

併せて私はカウンセラーと共に図書館にいた。

病院附属とあってか車椅子でも移動がしやすく不便ということはない。

勿論カウンセラーに椅子を押してもらっているからそう感じるのであって自分で動かそうとすると道が広くてもあちこちにぶつかりそうになる。

 

手続きを済ませ彼女につれられたエリアの棚には歴史、伝承関係で埋め尽くされていた。

「此処にある本のほとんどは私がリクエストしたのよ」

そう言いながら受付で手続きをした際に個室を借りたのか、私を連れ隣接する小部屋に入る。

どうやら今日のカウンセリングはここで行うらしい。

彼女は一度小部屋から出ると両手で抱えきれないのか、館内の台車に山ほど本を積み重ねて戻ってきた。

「簡単な触りが分かる程度の本だけれども、まずはこの中から興味があるものを読んでみて感想を聞かせて頂戴」

彼女は手早く机に本を並べていくが、煩雑というわけではなくどうも地域別、神話別に並べていっているようだ。

少なくともこの山のような本をこの様に並べるには各本の内容について熟知していなければ出来ない。

私は端の本から順番にパラパラとページをめくっていく。

その時だ。またあの声が聞こえた。

持っていた本は北欧神話について書かれた本。

聞こえた声は《ガングニール》であった。

私は舌打ちをしないように努め、持っていた本を脇に別けて置く。

そして次の本をまたペラペラとめくり始めた。

私は声による重要そうな単語を集める為に本をめくっていた。

知っている単語を改めて教えられてどうしようというのだ。

せめて特徴やら概要を教えて欲しいものだ。

そうして何冊か本を交換するとまた声が聞こえる。

《マルドゥーク》《バラル》

この本も脇に置こう。

その時だった。

今まで単語のみだった声に明確な意志が乗った。

《封印を解いてはいけない》

 

「面白い本はあったかしら」

思わず呆けてしまった私にカウンセラーは笑顔で問いかけた。

私は言葉数少なくぶっきらぼうに返答を返した。

素っ気なくされ気分でも悪くなったかなと様子を窺うがカウンセラーは変わらず笑顔のままだった。

 

 

いくつか本を借り、本日のカウンセリングを終了した私は彼女と別れ病院のリハビリルームに移動した。

まだ歩行訓練等の許可は降りていないが身体をほぐす程度は行わないとかえって元の状態に復帰しづらくなる。

受付を済ませ、マットの上で身体をほぐしていると離れた所にやけに体格のよい男性とリハビリを行っている少女がいた。

いや、あのライブのパンフレットや会場の広告に映っていたから勿論誰かは分かるのだが悲痛そうな顔立ちが嘗ての彼女とは似ても似つかなかったので面をくらってしまったのだ。

よくはないと思いつつ聞き耳を立てるとどうも叔父と姪の関係だそうだ。

あのライブでユニットを組んでいた親友を亡くしてしまいリハビリにも身が入らず叔父がどうにか励まそうと四苦八苦している。

私は聞こえてきた内容になぜか消沈する。

亡くなった方の歌手の名前はなんだっただろうか。

まるで穴が空いたかのように感じてしまう。

 

未来の声が聞きたいな。

 

リハビリを切り上げて私は院内の公衆電話に向かった。




書きたい場面までたどり着くのが遠すぎる。


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心に潤いをください

書いては消し、書いては消し。
文を書くとはかくも難しい。


1

金が掛かっている施設にある物は公衆電話であっても高級品に見えないだろうか。

待合室から廊下、受付の小物からソファーに至るまでそういう目線を向けてみればどんな安物であっても価値があるかのように見えてしまう。

勿論この病院に有るものが安物と断定しているわけではない。

見方の違いと言うものだ。

何てことを考えながら私は親友である未来へ公衆電話を使うために小銭を入れる。

自前の携帯はライブの最中に紛失し、今も見つかっていない。

会場のあの有り様では無事に帰ってくるとは思えない。

良くてひび割れ、最悪粉々か。

新しく契約を結ぶ手間を考え何時もの口癖が出る。

 

やけに光沢のある黒い受話器を持ちながら番号を打ち込む。

手垢も全くついていないぞ、この公衆電話。

もしかして本当に高級品だったりするのか。

公衆電話なのに。

 

電話を掛けてから間髪入れず繋がる。

何から話そうか。

未来がライブに来れなくてよかったよ。

だめだ、未来の性格では気に病みそうだ。

病院食では味気がなかったと言ってみるか。

怒気を発しながら不謹慎だとか言って、最後は困り顔になりそう。

ああ、くそ、気の利いた言葉がなにも出てきやしない。

電話を掛ける前に用意をしているべきだったか。

 

『お掛けになりました電話番号は現在使われておりません』

……私の記憶に有る限りではほんの1、2週間前には未来の携帯には電話が繋がったはずだ。

嫌な予感を感じながらも掛ける番号を間違えたのかもしれないと再度番号を掛けなおす。

一字一句変わらない文句が電話口から出てくる。

 

未来の自宅番号にも掛けてみる。

変わらず繋がらない。

 

私は自宅へ電話を掛けてみる。

繋がった。

電話口に出たのは母だった。

繋がった以上この公衆電話が故障しているという訳ではない。

今の私を端から見たのならば無表情かつ淡々とした口調で会話をしている私を見ることが出来るだろう。

 

私はもうこの町に親友が居ないことを知った。

 

 

 

2

カウンセリングは週に1日だがリハビリはそうもいかない。

検査で体を動かさないよう言われた日以外は大抵、連日リハビリを続ける。

足、腰、背中とほぐしたら離れた場所で手すりに掴まり歩行訓練。

今日も離れた所にはリハビリ中の歌手が彼女の叔父と共にいる。

以前よりは顔色が良い。

と言うより顔立ちが良い。

ライブの最中でもあのように凛々しい顔立ちだっただろうか。

あれではまるで亡くなった片割れのような…。

 

こちらの視線に気付いたのだろうか。

叔父の方が顔をこちらに向ける。

私は慌てず彼女らに気付かない振りをして訓練をする。

慌てるということは自分に疚しいことがあると相手に印象付けてしまう。

実際に疚しいことが無くともそれだけで難癖をつける輩はいるものだ。

おかしなことはなにもないかのように振る舞うことでトラブルを回避だ。

 

まあ、実際私は彼女らを注視していたので私に嘘発見器でも使われたら甲高い音でも出して作動してしまうのだろうけど。

 

私がリハビリを始めた当初は足がガクガクで立つことすらできなかった。

しかし今では回復は順調なので杖有りでの退院を検討していると医者に言われるほどだ。

反面精神面では以前より悪化の傾向にあり、退院後にも通院は続けるよう言われている。

カウンセラーからはテレビや新聞は観ているかと聞かれたが私は観ていないと答えた。

彼女は連日マスコミに報道されたライブの件が私の精神が悪化した理由ではないかと考えていたそうだ。

私は病室で言葉を得ることを目的に図書館から借りた本を読んでいたからむしろ今の世間については無知であった。

学校の課題をこなすために机に拡げていた化学のビジュアル本や学校の数学教科書からも言葉が得られたときは今後どのように言葉を得ていくか思わず頭を抱えた。

言葉は私に何を伝えたいのだろうか。

時折明確な意思を伴った声が聞こえる。

そういうときは決まって私に何かを訴えかけるのだ。

 

身体を鍛える、ノイズに対抗する手段を手に入れる、フィーネとは何か、言葉とは、シンフォギアとは、未来の声が聞きたい。

 

リハビリ中に考え事をしていたからだろうか。

丁度終点で手すりがない箇所で足が崩れた。

思わず前のめりで倒れる。

立ち上がろうとして私は声をかけられた。

 

「大丈夫か」

私に手を差し出した人は歌手の叔父である人だった。

私は彼の手を取らず立ち上がった。

困ったような顔をしながら彼は少し話をしないかと私に問い掛ける。

私は辺りを見回して彼の姪の姿を探してみたが、姪どころか他のリハビリをしている人や受付すら確認できなかった。

 

「時計を見てみるといい」

彼に促されて壁に掛かっている時計に眼を向ける。

時刻は6時、当然午後だ。

昼一番には始めていたので約5時間は訓練を続けていたことになる。

実は結構熱中していたのか。

夕食の時間も近い。

私は彼に着替えてから話を聞くと答え、更衣室に移動する。

汗でベトベトになった服を脱ぎ捨て濡れタオルで体を拭き、あらかじめ自販機で買っていた水を一気に流し込み空のペットボトルをゴミ箱へ投げ捨てる。

彼の元に戻ると彼はスポーツドリンクを手に持っており、私が彼に近づくとそれを私に差し出した。

受け取った私は封を開けることなく受付に移動し、ベルを鳴らし管理者を呼び出す。

退出を済まし廊下のベンチに彼と隣り合うように座る。

 

お互いに自己紹介し、彼は世間話から始めようとしたが私は本題に入るよう促す。

躊躇うようだったがすぐに彼は口を開いた。

 

「君はどうしてそんなにもリハビリに打ち込む」

それはほぼ初対面の人に対して聞くことだろうか。

てっきりリハビリ中こっそりと見ていたことを聞かれるかと思っていたが私は返答する。

リハビリをし、身体を元に戻す。自分の日常を取り戻す。

何もおかしなことはないと。

「確かに普通ならばおかしなことではない。ごくごく当たり前のことだ。だがそうだとしても限度がある。毎日半日は、時には閉室の時間まで、けして辛くない訳のないリハビリを君はどうして続けることが出来る」

まるで私を心配しているかのように言う。

ひょっとして私は今気遣われているのだろうか。

会話もしたことのない相手に。

「以前の職柄から、子供には気を掛けるようにしているんだ」

苦笑だろうか。

若干の笑みを浮かべながら彼は答える。

 

なら何時も彼が付き添っている彼女を気に掛けていればいいじゃないか。

どうして私に来る。

「君も子供だからだ」

そう言い切る。子供だから、大人である自分が手助けをしたいと。

たとえ見ず知らずの人であっても、そうしたいから。

「実を言うとな、個人的に君に感謝をしているからというのもある。姪の翼は入院してから塞ぎ込んでいたのだが年下の君がリハビリに励んでいる様を見て自分も頑張ろうと励むようになった」

私が彼女を見ていたように、彼女もまた私のことを見ていたようだ。

「だから言わせて欲しい。今のリハビリでは君の日常は遠のくばかりだ。」

 

私はため息をついてカウンセラーにも話さなかったライブでの出来事を話す。

彼は私がライブの生き残りだとは知らなかったのか眼に見えて動揺した。

それはそうだ。

自分の身内が出演したライブで人が亡くなる事件が起こり、その生き残りが目の前に現れたら大抵の人は動揺する。

「ノイズに襲われてもまた生き残ることが出来るように、か」

彼は沈痛な顔立ちで呟く。

 

私は彼に生き残りたいからリハビリを頑張ると答えたが、それは全てが正しいとは言えない。

 

「君の願いはよくわかった。だとしても今のリハビリではやがて身体を壊すだろう」

勿論ノイズ対策にリハビリを頑張っているというのもあるだろう。

 

「医者のプランニングする適切な進行で事を進める方が、この先を考えたときには君の力になる」

だけど実際のところ私は

 

「俺も体を動かすことについては自信があるからな。君の身体が退院出来るほど調子が戻ったのならばノイズと遭遇しても問題無いような身体作りのトレーニングを教えよう」

親友と連絡のつかない現状に苛立って、何かをしていないと押し潰されそうで

 

「だから今はゆっくりと身体を休めてくれ」

どうしようもなく心が渇いて仕方がないのだ。

 

 




脳の映像を文章化出来たら良いのに。


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その薬は本当に安全ですか

首筋に打ち込むなんて珍しい薬ですね。by響


1

まだ日が昇らない、暗い町を走る。

見慣れた住宅街、商店街を走り抜けしばらく、大橋を越えて海沿いに出る。

コンクリートで舗装された海岸は冬場ということもあり潮気を含む大気は身を切るような寒さ。

都内で雪が積もるということはごく稀にしかないため足を取られるということもなく、市販のスニーカーが地面を踏みしめる音が心地よい。

早朝ということもあって辺りに人気は少ないが、それも少し離れれば消えるだろう。

 

走り続けながら胸中の聖遺物に意識を向ける。

ペースを落とし呼吸を調えながら私を構成する精神を、自分という意識を分解し、再構築する。

 

起動、ガングニール。

 

傍目からは何も変わらない。

厳つい鎧も武器も現れない。

光ったりもしない。

家から出た時のまま、ジャージ姿。

けれども今の私は鎧を纏っている。

全身を覆ったこの力こそが、私の武装。

 

RN式回天特機装束。

シンフォギアを手に入れることが出来なかった私が得た対ノイズ兵装だ。

 

 

 

2

病院から退院した私を待っていたのは覚えの無い悪意の塊だった。

家の外壁には罵詈雑言で埋め尽くされ、玄関にはイナゴの群を思わせるマスコミ。

ポストは紙屑で埋まり本来の用途には使用できそうにない。

近所からは陰口を叩かれ、復学した学校では陰湿なイジメ。

悪化していく環境に耐えきれなかったのか、唐突に蒸発した父。

周囲の大人が助けてくれる訳でもなく、むしろ匿名という形で私に人権が無いように周囲は叩き出す。

 

思えばカウンセラーが私の精神状態について確認をよくしていたのはこのことを知っていたからか。

退院後にも定期的な通院を通して、悪化していく体調に薬剤を処方されるまでになってしまっていた。

脅迫罪や暴行罪に対応するはずの警察も、届出を出しても動かない。

家族も日に日にやつれ、弱っていく現状、私に頼れる人はいない。

 

そんなある日、薬を忘れたのか、同級生に隠されたのか。

学校内で処方薬を服用出来なかった私はついにプッツリ逝ってしまったのだ。

今まで散々やってくれた奴らに殴る、蹴る、噛みつく。

そして高まる戦意と破壊衝動はガングニールを強制的に起動させる。

私の暴力は段階を上げていく。

壁にされた机は拳に粉砕され、体勢を崩した奴を踏み潰し、反撃にと頭部に振り下ろされた椅子は頭突きで迎撃する。

本能のままに暴れる私だったがどこか理性的な部分があったのか。

その理性すらもより効率的に破壊するために使用する。

起動したガングニールに付属する戦闘能力の把握。

身体能力の向上、防御性能追加、本来ノイズの持つ炭化能力を無効化する振動操作の機能すら攻勢機能へ転用する。

振動操作をソナーの要領で発信。

背後で逃げ出そうとした奴を視認することなく後ろ足で蹴飛ばした机の残骸をぶつける。

上がる悲鳴は本人のものか。

苦痛に耐えることなくわめき散らす声を増幅。

周囲は突然の大声で耳を抑えうずくまる。

間髪いれず突撃。

さらに場を引っ掻き回すべくリーダー格の少女の声を再現し私に対してわざと突っ込ませ迎撃。

クロスカウンターの要領で放たれた拳すら、顔面にめり込んでも痛打にはならない。

むしろガングニールの起動により全身が引き裂かれそうな激痛と維持に必要なエネルギーを賄おうと吸い出される精神力、それらが私の活動時間を容赦なく削っていく。

 

散々暴れ回った後は死屍累々といった有り様だった。

私も体から何かが喪失した感覚になり、床に倒れ伏す。

指の一本すら動かせず、相手側に一人でも動ける奴ががいたのなら間違いなくそいつは恐怖にかられて私は殺されていただろう。

 

幸いと言っていいのか。

騒ぎを聞きつけた教員が駆けつけ私を含めて全員病院へと搬送された。

 

その後の事を語るなら、まあ、当然警察沙汰にはなった。

搬送された奴らは私を含めて重症の判定。

私に至っては極度の疲労と衰弱、全身がボロボロになっているのが確認された。

ガングニール起動の影響だとは思うがそんなことは他人にはわからない。

一人の少女を加害し、追い詰めたとして奴らは転校したのか。

少なくとも知る限りではこの町からいなくなったとだけ聞いている。

 

私に対しても当初は少年院がどうのという話があったのだが、こちらが家庭の状況について警察に届出を出していたのに対応をしていなかった点をマスコミが嗅ぎ付け、さらに全国的にライブ事件での生存者に対する傷害事件、失踪が発覚した結果、世間の反応が掌を返すようになり、よく聞く停学も教育を受ける権利とかで受けることもなかった。

勿論テレビに出ているコメンテイターや記者の一部には重い罰を与えるべきだと強弁する者もいたが月を跨ぐ頃にはいなくなっていった。

 

周辺環境が落ち着いたとはいえ、それで日常が帰ってくるとは限らない。

自分のクラスの大部分がいなくなり、残ったのはイジメなんて関係ない、勝手にやっていればという顔をした奴とマイペースで見るからにぽやぽやしていそうな奴位だ。

クラスは解散され、それぞれ他のクラスに編入という形になるが、噂が広まったのか誰も関わり合いを持とうとしない。

教員すらも腫れ物を触るかのような対応になる。

私は自身に害がないならいいかと独りでいることになる。

私は誰かに積極的に関わろうとはもうしていない。

 

 

 

3

再入院した病院から退院し諸々の事後処理が終わった時には中学最後の夏になっていた。

あれから最初に目が覚めた時は全身に激痛と倦怠感があったが、何より手にいれた力に対して満足感があった。

ついに手にいれたんだ、ノイズに対する対抗手段。シンフォギアを。

思わず笑みが浮かぶ中である。

水を差すように言葉が降ってくる。

それがRN式回天特機装束。

ノイズに対抗できるとされる欠陥兵装である。

 

さすがに一年近く言葉に対して付き合っていると、どの様にすれば返信が返ってくるかと言うのも分かってくる。

 

曰く、RN式回天特機装束とは使用者の精神力、意思の力で聖遺物と呼ばれるものと共振し力を引き出すもの。

起動、維持には莫大な精神エネルギーが必要となり、常人ではそもそも起動すら出来ない。

対してシンフォギア、FG式回天特機装束は使用者の意思によって聖遺物からエネルギー源、エネルギーを発生、生成し兵装を形成する。

またFG式ではRN式に比べ膨大なエネルギーの使用を前提とするため数億もの機構で構成され、使用者の性格、状態、思考その他多数の要素より武装を適宜選択し、運用される。

使用者に最適な状態で武装が構築されると言うことだ。

 

私の胸にある欠片はガングニールのシンフォギア。

しかし私自身の力不足か、起動方法が不明な為かシンフォギアとして構築出来ず、RN式としてしか力を発揮できないようであった。

しかしよい点もあった。

本来RN式には身体能力の向上やノイズへの特効能力は最低限しか付属しないが私の聖遺物はシンフォギアに使用するシステムが組み込まれていた為、RN式でもシンフォギアとしての機能を取捨選択することで十分に使用出来る状態だった。

 

これならばRN式でも十分。

そう考えた私が取った行動は決まっていた。

 

特訓である。

 

 

 

4

特訓に当たって参考にしたのは以前病院で親交を持った風鳴弦十郎だった。

その特異な身体能力と技術は人間の持つ性能を余すことなく引き出したものと考えられ、人類種の頂点に位置する能力を持っていた。

事件後には私は周囲を避けるようになりかつての親交は失われたものの、かつて彼から教わった内容に沿ってトレーニングを行うことで私は以前とは比べ物にならない程成長していた。

身体面が脆弱ならばそもそもRN式では活動どころの話ではない。

そこで彼の特徴的な特訓。

飯食って、映画見て、寝る。

彼にとってはそれが直接力となっていたが、私にとってはより状況に応じた能力を付属する手助けとなった。

他者の持つ想像力が、思いが、こうであってほしいという願いを私なりに特機装束に投影することで必要な機能を構築しやすくする。

アクション映画や戦争映画では身体機能の向上と技術を、ファンタジー映画では特異な能力の再現を、怪獣映画やサメ映画なんかは今のところ役に立ちそうはないがそれでも色々な映画を見て学習する。

また当たり前の話だが食事をきちんと取り、睡眠を取ることで得られるものもあった。

RN式において精神面の充実と言うのは活動時間の増加に寄与する。

怒りや憎しみ、鬱屈とした感情。負の感情は出力こそ大きいものの維持は大変難しい。

何かを殴り付けるとそれだけで気分はすっと昇華し、散化してしまう。

精神の安定を取ることでシンフォギア程の能力を望まず、ノイズの炭化能力に対抗する振動操作とこちらの攻撃が通用しない障壁を無効化する機能のみに絞れば数十分は活動を維持できる。

特に振動操作はノイズの炭化能力を防ぐ重要な機能であり、またその応用性は計り知れない。

一点を突破する能力ではないがそこは私次第だろう。

 

唯一の欠点は全力でガングニールを稼働すると何処からか黒服を着た人物が現れることだ。

何度かその姿を見かけたが何処かに連絡を取りながら周囲を警戒し出し、あるときには近隣一帯を封鎖してしまう。

そのときは黒服と共に警官が何十人も現れ不発弾が見つかったとかで追い出されてしまった。

おそらくライブ会場を襲撃したノイズの仲間なのだろう。

警官の服装もガワだけで中身は別に違いない。

テレビや新聞などで不発弾が処理された等のニュースが報道されず、遭遇した人が個人で呟いたSNSのメッセージも投稿するなり削除されるからだ。

もしかしたらフィーネに関係する組織のメンバーなのかも知れない。

 

彼らに見つからないようRN式の訓練は彼らに探知されないよう繊細さを要求された。




初戦闘シーンを書いて即ボツに。
パーンするのはどうかと思うよ、響さん。


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月破壊計画は延期。

響の攻撃、クリティカルヒットだ。
なお目の前にいるのがフィーネとは知らない模様。


1

教室には静かな緊張が漂っていた。

半すり鉢状の室内に並ぶ学机は様々な学生服を着た少女達で埋まっている。

机の上には裏返しにされた紙面が何枚も重なり筆記用具が並べられている。

参考書を開いて最後の追い込みをかけている者もいれば、不安を堪えきれず隣席に座る少女達がお互いに話し合う光景も見受けられる。

やがて下部にある教壇に立つ女性の声により一切の静寂が室内を満たす。

「それでは始めてください」

女性の声にしたがって周りの少女達は一斉に紙面をめくり、筆記用具を手に取る。

私はのそのそと彼女達に遅れながらも紙面に回答を書き始めた。

 

今日はリディアン音楽院高等科の入学試験日だ。

 

 

 

2

私がリディアン音楽院に入学してみないかと言われたのは暦上は秋とされる季節だった。

まだ日差し厚く暑く降り注ぎ、薄着で帽子を被り制汗剤をたっぷりと肌に馴染ませても滝のような汗が流れる中、週末のカウンセリングの為にリディアン隣の総合病院に来院した私はカウンセラーからリディアン音楽院高等科の受験を奨められた。

リディアン音楽院は小中高一貫の教育方針ではあるが、それぞれ学科が繰り上がるときに編入という形で外部から生徒を取っている。

彼女は未だ進学先の決まらぬ私に私学でありながら学費が安く抑えられ学生寮の完備されたこの学校を紹介した。

事件後、周囲から距離を置きたい私にはある程度は考慮に値する学校ではあったものの、リディアン音楽院という学校は特殊な学校で、各種の音楽科目を授業の中心に置きその上で一般科目を学ばせるカリキュラムとなっている。

その特殊な学業形態が私に受験を躊躇わせた。

普通の学校なら一般科目を学ばせた上で選択科目か何かで音楽を学ばせるのだろうが、リディアンでは逆なのだ。

これは入学試験にも反映され、ある程度の音楽知識がないと入学自体が極めて難しく、仮に一切の音楽知識の無いまま入学出来てしまったら今度はその点で躓いてしまう。

ハッキリと言い切るならば今の私では入学自体が不可能であると言ってしまっていい。

そんな私の疑問をものともせず彼女は自信ありげに答える。

 

「確かに貴女の視点からではリディアンに合格するのが不可能と言えるわ。

でも私の視点からでは貴女は確実に合格できると言い切れる。

あの学校ではね、特に歌を重視しているの。

一般科目や音楽知識、楽器演奏の優劣なんてほんのちょっとの差にしかならないわ」

私は彼女の物言いに愕然とした。

確かにこの病院はリディアンの隣にあるため、彼の学校で大きなケガ等が有ったら真っ先に運ばれてくるだろう。

楽器の弾きすぎで炎症を起こした。

歌の歌いすぎで喉をやられた。

なにかトラウマができて人前に出られなくなりカウンセリングの世話になる。

その様なことがあってもおかしくはない。

だからリディアンとの間に言葉にしづらい関係があったとしてもそんなものかと納得できるが、彼女の発言はまるで教師が生徒にカンニングを促すようなものだ。

私が不快感を隠さずにいると彼女もそれを感じ取ったのか苦笑しながら答える。

 

「貴女、もしかして私がリディアンから診療にくる子達の個人情報を利用していると考えている?

リディアンの内部情報を悪用して貴女に便宜を図っていると。

Non,non.これはスカウトに近いものよ。

リディアンからは見所のある子に試験について教えて上げてと言われているのよ。

まあ実際にスカウトと言い切れないのは必ずしも編入出来るわけでは無いから。

ほら、いかに歌を重視するからと言っても他の科目があんまりだったら、ねえ」

と彼女は自身が勧誘員の立場であることを明かす。

 

「響ちゃんは声の通りがいいから少し歌の練習をすれば大丈夫よ。

普段の勉強もしっかり出来ているようだし。

さらにちょっと音楽の勉強するだけで直ぐに合格よ。

人前で歌えるようになるだけでもバッチリ加点ましましよ。

入学してもきっとやっていけるわ」

こちらのことは分かってますよ、と言いたげに顔を近づける。

そして小声で内緒話でもするかのように言う。

 

「それとも以前と変わって何処かここに行きたいと言える学校でも見つかった?

もしくはなりたい職業とか。

その顔を見る限りではそれも無さそうだけれども」

 

彼女はニヤニヤしながら此方を見ている。

学校も、なりたい職業も特にない。

そもそもおとがめなしとはいえ事件を起こして普通に進学出来るものなのか。

就職も中卒では厳しいだろう。

選り好みではあるのだろうか、少なくとも安い給料でこき使われるというのは勘弁願いたい。

 

生きる。

言葉にすると簡単だが難しい。

そしてそれも含めて人生だ。

あのライブ以降私は自身を取りまく不幸、運命に逆らうと決めた。

運命が私を殺しにかかるのならば、私自身が運命を殺す為に拳を振るのだと。

私の命はそういう風に使ってやると決めている。

生きることを諦めないとはそういうことだと私は考えている。

 

しかし私自身やってみたいことが無いわけではない。

もし叶うのならば。

私は、月に行ってみたい。

 

「それは宇宙飛行士になりたいというのではなく?」

宇宙飛行士になりたいわけではないと思う。

ただ月に行って問い掛けたいのだ。

月に誰か親しい人でもいるのと彼女は言う。

親しい訳ではない。

ただ一方的に知っているだけ。

声によると月には神様がいるらしい。

その神様に会ってみたい。

正直に言ってしまうと頭のおかしい奴と思われかねないので図書館の古い本に載っていたということにする。

彼女は神様ねぇ、と反芻する。

表面上はこちらに関心を持っているように振る舞ってはいるが、内心ではどうだろう。

胡散臭げにでも思っているかもしれない。

「その月に住んでいるという神様はどんな神様なの」

カウンセリングの用紙になにかを書き込みながら彼女は私の話を促す。

 

私は声に教わった通り、かつて人類から一つの言葉を奪った神様だと答える。

まだ古い時代、人類は一つの言語のみを使用しており、その言葉が無くなったからこそ人の間で争いが起きるようになったと。

私はその神様に問い掛けたい。

言葉を奪うことで人に争いが起きるのならば、私が苦しい理由も神様のせいなのか。

そこまで話して異変が起こる。

バキリと破砕音がなる。

音の発生源、彼女の手元に目線を動かすと彼女が持っていたペンが握り潰されている。

 

「どうした、続けろ」

今までの彼女とはかなり違っていた。

言葉使いは荒く、今までのような軽い感じの表情ではない。

特に眼力が凄まじい。

表情こそ変わらないものの眼鏡の奥から射抜くような視線を向けてくる。

私が思わず言葉に詰まると再度語気を強め促す。

私がなにも言えずにいると彼女から質問を投げ掛けられる。

 

「月に住んでいるとは何処に住んでいる」

具体的に何処とはわからない。

ただマルドゥークと呼ばれているらしい。

 

「どうやって言葉を奪った」

バラルと呼ばれる装置を使用した。

仕組みはわからない。

 

「言葉を奪った目的は」

言葉に潜む善くないものを封印するため。

「そいつはなんだ」

わからない。

「具体的な事は分からず仕舞いではないか」

その通り。

だから知りたいのだ。

どうして私達はこんなにも苦しいのか。

「もしもそのバラルとやらがなくなったらどうなる」

推測ではあるが、その善くないものとやらが復活するのではないだろうか。

そしてその善くないものが封印されたままの状態と人類の言葉が奪われている状態。

はたしてどちらが望ましいか。

 

「取り敢えず最後の質問だ。

月にいる神様の名前は」

期待をしていないのだろう。

どうせ分からないと答えられるのだろうと投げやりに問いかけられる。

私はハッキリと答えた。

神様の名前は『エンキ』。

 

彼女は持っていた問診票を手と共に机に投げ出し天井を見上げた。

しばらくしてただ一言、退室してよいとだけ私に告げる。

私は彼女を一瞥したのち無言で退室した。




おかしい。
この話で小包が届くはずだったのに。
(飽くなき闘争へのフラグ)


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君に会いに行こう

前半はカウンセラー。
後半は響。


1

リディアン音楽院高等科入学試験最終科目。

歌唱表現。

課題曲、私立リディアン音楽院校歌。

入学試験の申請用紙を提出する際、歌唱試験として課題曲が与えられ、自由曲を提示しなければならない。

課題曲で求められるのは正確性、発声力、統一性。

複数人で校歌を歌わせられる光景はグループ面接に近い印象を受ける。

声が小さければそもそも評価に値しないが、かといって一人だけ声を張り上げているというのも歌の完成度を下げてしまう。

例えばそれがあまりにも上手すぎて並外れた歌唱力を持っており、周囲が萎縮してしまったなどであれば話は別だが。

そうでないのならば然るべき評価が下されるだろう。

 

自由曲。

個人面接を思わせるが背後には順番待ちをしている受験生がいる。

他人の歌、試験内容は否応なしに自分と比較させられ焦ることになる。

その結果、本来の実力を発揮できない受験生も少なくない。

いや、この結果こそが本来の実力なのだ。

見ず知らずの誰かの前で、臆せず向き合えることが必要なのだ。

自信家は胸を張って本来のポテンシャル、或いはそれ以上で試験に挑むことが出来るが、僅かでも自身の技量に疑問を抱き周囲の視線に押し潰されてしまえば容赦のない減点が待っている。

求められるのは胆力、そして表現力。

先程の課題曲とは異なり自身の色を審査する。

現在リディアンに在学している片翼の彼女のように煌めく輝きが加点に繋がる。

 

そして私、特異災害対策機動部二課に所属するものが知っている秘匿事項として聖遺物との適合率、歌により発生するエネルギー、フォニックゲインの生成量が重要な加点項目となっている。

ともすればこの二つの内どちらかが高ければほぼ確実に入学出来ると言っても言い。

特異災害ノイズに対抗するためのシンフォギア奏者候補を確保するため設立されたこの学校は今のところ十分にその役目を果たしていた。

 

私は地下にある指令室から歌唱試験に挑む受験生と発生した数値を画面上で確認しながら、あの特異な融合症例体、立花響について考えを巡らせる。

私が彼女について知ったのは起動したネフシュタンの鎧を奪取すべくノイズの召喚をしたライブの生存者であり、総合病院に担ぎ込まれた彼女の担当医の不正に気がついた点からだった。

彼女の担当医であった、名前はなんだったか、まあ俗物だ。

心臓付近に破片が残っているにも限らず手術後のレントゲンを捏造し、あたかももう心配は要らないと大袈裟に表現する奴の残したカルテにより私は天羽奏のシンフォギア、ガングニールが彼女と融合していることを知った。

あのお方の頂きに私も登るべく、聖遺物との融合について検証するために彼女を手中に納めんと多数の工作を行い、元々の担当医すら自主退職の形で追い出し、自身の手駒を新しく彼女の担当医に当て、私自身も彼女を観察すべくカウンセラーの形で彼女に関わることとなる。

初めは警戒していた彼女も段々と心を開き、私に色々な事を打ち明けるようになってからは彼女を利用した研究も随分と捗ることになる。

一時期は精神的に危ういこともあったが周辺環境の改善のために工作を行ったことにより安定感が現れる。

 

そしていずれ私の手駒とするべく、より近くで彼女を取り込むことに決めた。

彼女にリディアンを薦めたのである。

リディアン音楽院は特異災害対策機動部二課の真上にある為、他の職員に彼女が融合症例だと感付かれる可能性もあった。

そして私はそれを狙っていた。

いずれ来るバラルの呪詛の、月破壊の為の内部工作者。

私が彼女に期待したのはその役割だった。

 

だが私の計画は延期せざる他なかった。

彼女がかつて読んだとされる先史時代について語られた書籍。

裏付けをとる必要はあるが何よりその内容は衝撃的だった。

あのお方が言葉をバラバラにしたのは人を守るため。

今も月で見守っている。

戯言と片付けることは出来ない。

もしもという毒が私を蝕み計画への躊躇いがでる。

月を破壊してしまったら、私は自らの手で愛すべきお方を殺すことになるのだと。

 

あの日以来私はあの時代について再検証するようになった。

私も月へ行けばあのお方に会えるだろうか。

 

画面の中では彼女が自由曲を歌っている。

あの曲はそう、シンフォギア奏者であったツヴァイウイング、彼女たちの飛翔の歌。

逆光のフリューゲル。

 

 

 

2

リディアン音楽院の試験が終わり家に帰った私を待っていたのは小包だった。

表面に貼り付けられた送り状には小日向の文字。

祖母への挨拶もそこそこ、私は自室へ入り小包を開ける。

中に入っていたのは消印のない切手の貼られた沢山の封筒。

そして白色の薄いマフラーだった。

 

一番上の封筒を開けると中身は未来の母親からの手紙だった。

 

拝啓

寒中お見舞い申し上げます。

響ちゃんは健やかに過ごせていますでしょうか。

音信もなく引っ越しを敢行したこと誠に申し訳なく思っています。

あのライブの後、当日ライブに行っていなかった我が家にも心ないバッシングが襲いかかりました。

あの日娘がライブに行かなかったことを把握していた人は当日待ち合わせをしていた貴女だけと伺っております。

娘は周囲から貴女と共にライブに行ったと思われていたそうです。

娘の親友である貴女が自分の誘ったライブで入院をし、娘は無傷であったことも学内でのいじめを激しいものとしました。

夫と相談した私達はこの町を離れることにし、今までの一切の連絡先を破棄するようにしました。

電話番号すらも変え、静かに北の町で暮らしていました。

ですがほんの数日前、なんの前触れもなく娘が失踪しました。

今回私から手紙を差し上げた理由となります。

娘の行方をご存じないでしょうか。

もしくは、娘がそちらにお邪魔してはおりませんでしょうか。

ご連絡のほどをお願い致します。

 

また娘が書いた手紙を同送致します。

娘は貴女に手紙を送ろうとしていましたが、私の方で差し止めていました。

娘がライブに誘ったことを恨んでいると思ったからです。

どうか恨むならば娘ではなく私を恨んでください。

何卒よろしくお願い致します。

かしこ

 

ぐしゃりと便箋を握り締める。

思わず感情がこぼれでるが深呼吸をし調える。

 

箱の中から未来の手紙を取り出す。

結構な量がある。

片っ端から開いていく。

急な引っ越しについて連絡が出来なかったことの謝り。

新しい電話番号。

新しい生活。

しかし時期外れの転校のせいか親しい友人は出来ず、寂しいとこぼしている。

夏は北であっても暑く、秋の山は都心に比べ艶やか、冬に積もる雪は腰にまでくる一面の銀化粧。

以前みたいに私と共に流れ星を見に行きたいので連絡をくださいと書いてある手紙もある。

私は手紙を開ける度に涙がこぼれるのを止められなかった。

大好きな親友の言葉が、まるで未来が私と手を繋いでいるかのように感じ私の心をあったかくする。

そうして最後の手紙を開ける。

時候の挨拶、近況の報告。

そしてやたら薄着をしたがる私に手編みのマフラーを贈りますと書いてある。

風邪をひかないように。

またいつか逢えたらうれしい。

 

覚悟が必要だというのならば、私はこの時に既に決まっていた。

手紙を読み終えた私は直ちに準備を整える。

祖母にはしばらく友人の家で勉強合宿をすると伝える。

学校にはまあ連絡は要らないだろう。

この時期は自主通学が認められており、特段学校に行かなくともなにも言われない。

それは普段のことでもあるのだけれど。

公に認められていると言うのは行動に迷いがなくなる。

 

出発する前に未来の新しい電話番号に携帯から掛ける。

繋がらない。

しばらくして留守番のメッセージを入れるように言われる。

 

これから会いに行くよ、親友。

 




TRPGにおける導入、オープニングフェイズです。


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探索技能は取っておかないと最後の最後で助からない

感想返しにしか書いていなかったけど一応書いておきます。
この作品、まっとうなシンフォギアではないですよ。
本作を構成する要素はXD、新西暦サーガ、エスコン他多数です。
もしもなんかちがうなと思ったら、これは平行世界と三回唱えてください。
そして全部ギャラルホルンのせいにしてください。
グレ響のマフラー見た時からあの人に似てるなーと思っていたんですよ。
切れたらやけっぱちになる点もgoodな要素ですよね。


1

北国の冬景色とはこのようなものか。

電車の中から薄々感じてはいたが都心の標準的な冬服から刺す隙間風は寒いを通り越して痛々しい。

深夜の駅前道路は除雪車が通った後なのか薄い雪の膜が張り付いている。

深々と降る雪は街灯の明かりで反射するものの周囲の明かりは乏しく、私はどこか物寂しい、いや恐ろしいものを感じ取る。

まるで駅から出た瞬間を誰かに見られているようだった。

 

恐る恐る一歩踏み出すと軽く積もった雪の上をすんなり通り過ぎ、そのまま体勢を崩す。

雪の膜はどうやら除雪車に取り残されただけでなく押しつぶされて氷のようになっているらしかった。

心を落ち着かせ特機装束を展開する。

足に踏ん張りが効くようにし、ついでとばかりに周囲からの温度の調節もする。

人気があるならばこの薄着も目を引き、悪目立ちするだろうが。

深夜の駅前にそんなものはない。

 

この時間ではどこの店も開いていないだろう。

翌日は服装から整えるかと予定を立て、近隣のホテルに足を運んだ。

 

 

事前に電車内で予約をした私はカウンターで客室のカギを受けとる。

家出か何かかと思われないよう学校の受験に行ってきたが夜も遅くなりそうなので部屋を借りたいと言っておいたので特に何事もなく通される。

ちなみのその受験は都内で本日、いや日付も変わって昨日には終了済みである。

嘘は言っていない。

 

客室に入りまずは間取りを確認する。

狭い部屋にベッド、机、テレビ、ランプ。

隣接した部屋は狭い浴槽と洗面台、トイレが一体となった浴室。

 

暖房を付け、ベッドの上に服を脱ぎ捨てた私は狭い浴室でシャワーを浴び、汗を流す。

充分に体を洗ったら浴槽に栓をし、湯がたまるようにする。

たまるまでの間は浴槽内で体育座り。

空気に触れている部分は寒いものの、撥ねるお湯の温かさが心地よい。

 

いや、やっぱり寒いので特機装束を再度展開し温度を適切にする。

やがて浴槽内のお湯がたまると膝の上に頭を乗せる。

長旅の疲れは落ちるようには感じないが体が温まって筋肉が弛緩する感じはある。

一度体勢を変え腕をクロスするように伸ばす。

今度は背伸び。

充分に温まったら浴槽から上がり体を拭く。

寝室に戻ると暖気が迎え入れてくれる。

そのままベッドへ寝ころび再度明日の予定を立てておく。

とりあえずは防寒着が必要だろう。

朝食は朝早い時間にホテルが出してくれる。

小日向家はこの駅から何駅か離れているので移動に電車を使い、徒歩で向かうだろう。

家に着いたら未来のお母さんに挨拶して、未来の話を聞こう。

そのあとは適宜足取りを追っていく。

そうしているうちにうつらうつらとなっていき、長旅の疲れがあったせいかそのまま意識を落としていった。

 

 

 

2

小日向家を訪れた私を未来のお母さんが出迎えてくれた。

彼女は一人娘の失踪のせいなのか目に隈が出来ており明らかに憔悴していることが見て取れる。

私が訪ねたことに驚いた様子の彼女は私が未来の作ったマフラーを付けている様子を見るとどこかほっとした様子を見せるが、私が未来について何の情報も持っていないことを知ると落胆の表情を露わにした。

一応今朝方、実家に連絡を入れて未来とすれ違いになっていないかを確認していたが、やはりそんなことはない。

 

私は未来の部屋まで上げてもらい、失礼かと思うが部屋を探索させてもらう。

きれいに整った部屋はなんだかいい匂いがしてだらけてしまいそうになるが心をしっかりと持ち家探しする。

きちんと畳まれた服、下着類。

学校の教科書。

趣味の本。

ピアノに関する本が多いのは将来は楽器に関係する仕事に就きたいのだろうか。

それとも演奏家になりたいのか。

かつての未来は陸上部だったが今も続けているのだろうか。

手紙にはそのあたりは書いていなかった。

 

本棚に目星をつけ、俯瞰して見ていると大きめのノートが棚の上に置いてある。

椅子の上に立ち、その場でノートを広げるとどうやらスクラップ帳のようであった。

どうやらテーマに沿ったもののようだ。

内容はあのライブについて、そしてその後。

丁寧に切り貼りされた新聞はしわもなく伸ばされ読みやすくはあった。

しかしところどころ未来の字で日付が書き込みがされている。

どうしてこんなものを。

私はそう思った。

明らかに未来の趣味ではなさそうだ。

未来はこのスクラップ帳をどんな気持ちで作っていたのだろうか。

少し脇道に逸れたと思うのでスクラップ帳は元の位置に戻す。

 

次に引き出しの中を探し始めた私はきれいにファイリングされた学校のプリントが仕舞っているのを確認する。

これもまた丁寧に種別ごとにまとめてある。

学級連絡、委員会案内、クラス新聞。

パラパラとめくっているとクラス新聞に気になる記載を見つけた。

日付は去年の夏、どうもある学校の失踪していた生徒が北海道の千歳で発見されたらしい。

近年の日本では老若男女問わず失踪事件が増えており、学校の仲間が見つかるのは大変喜ばしいと書かれている。

日付を進め、似たような件がないかと確認するといくつか同じような内容があった。

但し、失踪した学生が見つかった場所は先ほどとは異なり、長崎の対馬、長野の松代にて発見されている。

筆者の名前を確認し、ファイルを鞄にしまう。

そして私は未来の制服を貸してもらえないか頼んでみた。

 

 

 

3

夕暮れ時、変わらず深々と雪の降る中、私は未来の通っている学校にいた。

背丈が似通っているからか、胸元がきついものの丈があっている未来の制服と学校指定のコートを身にまとい件の新聞記事を書いた学生と歓談する。

私がクラスメイトが失踪したので行方を追っているのでこの記事を書いたときのことを教えてほしいと言うと彼女は快く答えてくれた。

どうも彼女は県の新聞からネタを見つけてきているようだ。

場合によっては記者本人に突撃し新聞には載っていない情報も聞き出している。

 

「これは外には出回っていないことなのですが」

彼女がそう前置きして私の耳元で囁く。

 

「どうもこの見つかった生徒は全員何らかの薬物を使用されていたそうなのです。既存の医療薬や違法薬物には該当しないらしく、未知の薬物なのではないかと言われています。生徒についても失踪当時の記憶はなく、人によっては現在も心身喪失、身体機能の不全で病院に入院しているとか。首筋に複数の注射痕があることから吸血鬼の仕業ではないかという噂もありました」

恐ろしいことです。

そう言って彼女は体をぶるりと震わせる。

 

「私は校内の失踪者しか調べていませんが、私が取材した記者は全国の失踪者についても調べていました。駅近くにある県立図書館ならば全国紙もありますので、調べてみる価値はあるのかもしれません」

部室の外から彼女を呼ぶ声がする。

二人で顔を向けるとどうやら同じ新聞部の部員のようだ。

彼女が遅いので様子を見に来たのだろう。

手招きをして誘っている。

 

お友達、見つかるといいですね。

そう言って彼女は席を立った。

 

 

 

4

翌日、私は小日向家に泊めてもらい早朝から図書館を訪れていた。

使わせてもらった未来のベッドはやはりいい匂いがして何となしにゴロゴロと転げまわる。

食事の用意ができたとノックをされたときは思わず体が跳ねたが何食わぬ顔で遠慮をした表情をし、ご相伴に預かったことを思い出す。

金銭面に不安がある以上何日も外食、ホテル暮らしはできない。

帰郷の為の旅費もいることだし、節約できるところはしないと。

そう考え、未来の制服を借りたみたいに防寒着も借りればよかったじゃないかと思い至る。

思わず頭を抱えそうになるも、気を取り直して受付から指定した年月日の新聞のバックナンバーを閲覧させてもらう。

事前に連絡をしていたからか取り置きされた新聞がすぐに差し出される。

電子新聞の記事は会員登録し少なくない金銭の支払いが必要となるため、未来の作ったスクラップ帳のように必要な個所のみコピーをお願いした方が安上がりになる。

もちろん物である以上場所は取るが。

 

私手製のスクラップ帳。

未来を参考に事件についてまとめる。

警察の公表されている失踪者リストとコピーしてもらった全国紙の発見例を並べ、メモ書きの内容を清書する。

発見例は文面に心身喪失、重症、身体機能に不全、そして薬剤と彼女から教わった単語が含まれている記事をピックアップしている。

そうして作り上げてみるとやはり千歳、対馬、松代になんとなく多いようにも感じられる。

もちろん絶対数が少ないため誤差の範囲だと思うが。

統計を取るにはそれこそ本腰をいれて何日も作業をしなければいけないだろう。

 

今後はどうしようかと思い悩む。

これらに向かうのか。

北から南へ。

一か所、一か所を現地で調べながら。

そう考えていたところでふと共通点が見つけられた。

失踪した場所と近い土地で見つかっている。

あたりまえのこと。

しかし未来の通っていた学校での失踪者が三か所で見つかったことが目を曇らせていた。

学校がこの近辺にあっても、失踪した時にいた場所は発見された場所に近かったのだ。

警察の失踪リストに書かれた時期を考えるに夏休み、お盆や旅行中だろう。

 

そう考えれば未来はこの近辺でいなくなったのでまず行くべきは千歳。

その周辺で情報を集めるべきなのか。

 

当たりを付けたその時だ。

私の前には誰もいなかったはずなのに金髪の女性が座っていた。

すらりとした顔立ちは美しく、ゆったりとうなじにかかるウェーブのかかった髪は男性ならば感じ入るものがあるのだろう。

そんなことを思うのだがなんだかやぼったい眼鏡をかけており、それがむしろ親しみやすさを出している。

正直私もクラっとする位きれいな人だ。

彼女は私の方に顔を近づけニコニコしながら誰かを探しているのでしょうかと問いかけてくる。

私は自身の警戒がほどけていく感覚になっていき、彼女に親友がいなくなったので探していると答えると、彼女は写真はありますでしょうかと答えた。

私が未来の写真を見せると千歳の方で見ましたよ、と何気なしに答えられる。

私が思わずあなたはどちら様でしょうかと素性を聞くと彼女は微笑みながら自己紹介をする。

「私はディン。今はドイツで車や飛行機の開発をしているの」

私も自分の名前を答え、すぐに未来について質問する。

彼女はこの辺りで見かけたわ、と携帯の写真を見せてくる。

写真には大きなロッジと看板に雪の動物広場と写っている。

携帯で地図を確認すると駅からやや離れた山奥にある牧場内の施設らしい。

冬季には積もった雪で動物の雪像を作り園内に展示しているようだ。

いろいろ写真を見せてもらうと何枚か牧場に似つかわしくない写真があった。

内部が分からないよう隠された大きなガラス瓶。

コンクリートで固められ、窓のない広場。

かなり大きい石油化学工場にでもありそうな発電施設。

彼女は写真を見せるだけで何も言わない。

私の方からこの写真の場所はどこかと質問する。

彼女は地図を出しこの付近よと指し示す。

携帯に写し出された地図上には小さな小屋と一面の雪しかない。

こんなに大きな施設を隠せるような面積はない。

 

はっと気づく。

表に出ないのならば。

 

私が気付いたのを感じ取ったのか彼女は席を立とうとする。

思わず手を掴むと困ったような表情となる。

私がいくつかの質問を投げかけようとするとまるで私の考えたことが分かったかのように私の口に指を当てる。

一つだけよ。

そういって指を離した彼女に私は質問する。

 

貴方の目的はなんだと。

「あの施設には欲しいものがあるんです」

 

ほしいものとはいったい何だろうか。

私が再度質問をしようとした時だ。

私の手はいつの間にか彼女を掴んではおらず、拳を握るだけであった。

するりと立ち去る彼女を追いかける。

しかしその姿は曲がり角で見失った瞬間に消失していた。

床には粉々になったガラス片と湿ったフローリングのみが残されていた。

 




一期が始まる前からいろいろな組織が暗躍しているため世界中のあちこちで火種が燻っています。
聖遺物は本来あるべき場所にないかもしれません。
欠片も沢山見つかっています。
神秘の研究という点では原作より活発になっている事でしょう。
ほら、おじいさんがすごいいい笑顔をしていそうではありませんか。


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人の数だけ物語がある

響ではなく別の人です。
モブにするルートと名持ちのルートどちらにしよう。
(気分で決まる模様)


1

広く、無機質な部屋。

大型の機器、そしてケーブルが床を占めているものの移動の動線には影響は無い。

天井の数ヶ所にある光源から放たれる光は部屋全体を影ができない様に照らしている。

そして中心の手術台に拘束されている裸の俺自身。

周囲には丁寧に準備をしている男たち。

壁にはぐるりと色の違う部分があるが、お決まりの事を考えるのならば白衣を着た科学者がいやらしい笑みを浮かべているに違いはない。

なんとか拘束を解こうともがくが周囲の男達に抑えられ首筋に弛緩剤を打たれる。

身体から力が失われ、股間からは無色の液体が流れる。

彼らは何の感情も見せず、もくもくと台と俺を清掃する。

「数か月。

実に生きのいい検体だ。

手配してくれた彼には感謝の念が尽きえない。

君はあとどれくらい私たちに貢献してくれるのか。

実に、実ぅに楽しみだ。」

壁と天井に備えつけられたスピーカーから男の声が室内に響く。

この声はここに運び込まれたとき所長と呼ばれていた男の声だ。

性根の腐った野郎だ!!。

下水の汚物を体中に浴びて喜んで、腐臭をまき散らすドブネズミ!!

有らん限りの罵声を発しようとするが声は出ない。

「では今日の実験を開始しよう。

なに、我々にとってほんのすぐの事だ。

君にとってどうかは知らんがね。」

天井の光が光度を上げる。

ああ、糞が、クソが、くそが。

また、あんな―――。

 

 

 

2

記者をしていた俺はあのライブで妻と娘を失った。

妻は俺に釣り合っているのだろうかと思うほどいい奴だった。

気立てよく、快活で、あいつの笑顔が好きだった。

娘は妻に性格は似なかったが、笑った顔は若いころのあいつにそっくりだった。

家族を愛していた。

 

あの日俺は娘が通っている学校の小娘から取材を受けていた。

空調の効いた喫茶店でアイスコーヒーのグラスをストローでかき混ぜながら彼女を見据える。

記者が記者に取材するとかどうなんだとか色々言った気がするが、どうも彼女は俺が一時期追っていた全国の失踪事件に関しての情報が欲しいようだった。

同じ学校に通っている彼氏が千歳で発見され心身喪失の状態らしい。

失踪事件は彼のおまけに過ぎない。

失踪事件から彼の事を追いたい。

言い切る彼女に中学生の癖に彼氏かよと揶揄したが、そういえば妻との付き合いも中学からかと思いだす。

真剣な表情の彼女に折れた俺は当時の資料を一部渡した。

さすがに全部は渡せねえよ。

そう言った俺に十分ですとお礼を言い喫茶店から出ていった彼女はこのまま学校の部室に直行するのだろう。

「若さってなんなんだろうな。」

コーヒーのグラスに口づけ一気に呷る。

ストローが鼻に入りそうになった所は見られていない。

店員を呼び会計を済ませようとすると、お会計はすでに頂いておりますと言われる。

「可愛くねえガキだこと」

俺のかき集めた情報はアイスコーヒー1杯か。

安い情報料だこった。

だが何んとなしに心地よさも感じる。

誰かの為のジャーナリスト。

昔はそんなのも目指していたかもな。

 

北の春はまだ寒い。

平地に雪こそ無いものの山から下りる風は寒気を詰め込み吹いてくる。

辟易、ため息をつき、この後の予定を考えながら駅へ向かう。

 

俺に電話が掛かってきたのは夕刻、もう日も沈みかけで薄暗くなった時だった。

 

 

 

3

某病院で聞かされた妻と娘の死因は他の避難者の踏み荒らされたことによる頸椎の損傷。

他、身体に打撲痕や潰された痕跡もあったそうだ。

霊安室で見た家族は補修がされており見た目はおかしな感じはしなかった。

だが手を握れば体温は冷たく、指はぶよぶよとしている。

それがどうしようもないほど死んでいるのだと俺に理解させる。

うなだれ、立ち尽くす俺に遺体が残っているのは奇跡だと医者は言う。

家族が死んでいるのに奇跡だと。

思わず激高し殴りかかる。

拳は頬を突き、医者は派手な音を立てて転倒。

そのまま馬乗りになり何発が殴ったところで待機していた警察に取り押さえられ別室へ連れていかれる。

落ち着いたところで、、いや、落ち着いてはいないのだが、ましにはなった俺に対して先ほどの医者とは別の医者、それに警察の人間が説明をする。

ライブの死傷者はノイズによる炭化の他に生存者同士の脱出路の奪い合いにより殺傷された人が多かったそうだ。

妻と娘はそれに含まれる。

家族を殺したのはノイズじゃない。

ライブに来ていた人間だ。

再び激高するも警察の手で押さえられる。

葬儀屋の手配や政府の見舞金やら色々な話があったと思うがよく覚えてはいない。

 

俺は次の日から行動を開始した。

貰った情報を元にライブ当時の情報を集め始めた。

生存者は全国の病院に入れられていたが口の軽い奴らに金を握らせてリストの作成をした。

そして軽症ですでに退院している奴に話を聞きにいく。

あの惨事を生き残ったあなたの話を是非聞かせてください。

もちろん謝礼は致します。

そうして奴らの貰った手当からしては少額だが何人もの人から情報を聞き出す。

自分がどのようにして生き残ったか。

生き残り、罪悪感を覚えてる奴は途中で口を噤む。

そうでないやつはペラペラと喋ってくれた。

自分が押しのけた子どもがノイズによって炭になる様。

押し出し、踏みつけた人の感触、悲鳴。

つまりこういう奴はその後に後ろを振り返っているんだ。

振り返って、さらに犠牲を増やし生き残っている。

さも得意げに生き残った様子を語り、死んだ奴を間の悪い奴、運の悪い奴と、自分の事を普段の行いがいいから奇跡が起きたんだと平気な顔をして言うあいつらに対して、俺は怒りを顔には出さなかった。

お前たちには地獄をくれてやる。

ただ決意のみを滾らせる。

 

記事を書いたのはインタビューがある程度溜まった後でだった。

すぐさま馴染みの出版社に送る。

ツヴァイウイング・ライブの真実。

メールで送ったタイトルにはそう記載した。

着信。

興奮した様子の編集長の様子からこの記事が通る事を確信した。

 

 

 

4

世間は考えた以上に燃え上がった。

俺がインタビューした奴らはお似合いの末路を辿った。

失踪ならまだいい方だ。

朝の朝刊で身元不明の遺体が見つかっていたら自宅のリビングでくつくつと笑っていた。

普段から周囲に声を上げていたから、どっかの誰かに闇討ちでもされたんだろう。

だけどこんなもんじゃ足りなかった。

知り合いのコメンテイターに金を握らせてもっと拡散させる。

ネットでも生存者のリストやインタビュー内容を警察に追われないように慎重に掲載する。

一度火が付けば後は燃え広がるのみ。

俺の憎悪はこんなもんじゃない。

 

しかし期待に反して事態は呆気なく鎮火した。

きっかけはある学校の生徒が暴力事件を起こしたことだった。

その生徒はライブの生存者であり事件後、社会から、学校から、父親から否定され、自棄になり最終的に盛大に爆発した。

それを皮切りに生存者の現状が全国に発信される。

自殺者、失踪者多数。

急遽行われた国の調査でも異常な結果と判定された。

社会は手のひらを返し生存者を擁護し始める。

違う、そうじゃないだろう。

腐っているのは奴らで、助けてくださいと、哀れでか弱いふりをしているだけだろう。

どうしてそれが分からない。

俺は何とか流れを戻そうとリストからまだ所在のわかる生存者を選別する。

奴らの現状を再度記事にして社会から抹殺する。

 

こいつはどうだ。

ダメだ。

さもしおらしい様子でいる。

自分は蚊も殺しませんよとでも言いたげだ。

過去を漁っても周囲の追求には何も答えていない。

曖昧な表情でその場を濁すだけだ。

こいつはどうだ。

ダメだ。

何も考えていなさそうで記事にしてもインパクトが無い。

と言うより周囲なんて気にもしていないぞ。

あの生徒はどうだ。

学校で暴れまわった生徒。

警察の預かりになっている。

何とか調べるが強い記事は書けそうにない。

いや、今旬なのは彼女だ。

何とかこの記事で押そう。

かつての編集長に記事を送る。

返信が来るものの返事は芳しくない。

以前の記事はうまく捌けましたでしょう。

今回も自信を持って言えますよ。

そう言って何とか記事を掲載してもらう。

だがダメ。

世間は生存者を甘やかすがごとくどんどん態度を軟化させていく。

コメンテイターは度重なる失言からか番組を下ろされ自主休業。

どうする、どうする、どうする。

このままでは俺の、俺の―――。

頭を掻きむしる。

そんな俺に一本の着信。

編集長からだ。

「君の記事に合いそうな人がいるんだけどインタビューしてきてくれないか」

北海道に住むある家族。

小学生と高校生の姉妹

俺のリストにはない奴らだった。

すぐに飛ぶ。

目的の人物はすぐに見つかった。

住所から生活範囲まで編集長が手配してくれたからだ。

家も、学校も、交友関係、家族仲、過去も、今もすべて暴き立てる。

何日も掛けその姿を追い続ける。

警察に職質されかけるもうまく躱す。

そうして何日たっただろうか。

秋になりイチョウの葉が地面を敷き詰める中、妹の方が誘拐された。

 

俺も一緒に誘拐された。

 

誘拐方法はよくわからない。

いつものように姉妹を追っていたらいつの間にか真っ白い部屋にいた。

本当にいつの間にかだ。

前兆、予兆は全くなかった。

唖然とする俺達をよそに屈強な男たちが俺達を拘束する。

妹の方はすぐに我に返り暴れるものの、大人と子供、何より人数の差、力の差は歴然であり呆気なく縛られ運ばれる。

彼女が運ばれている間、俺は何もできなかった。

脳が現状を理解する事を拒んでいた。

なんだこれは。

一体ここはどこだ。

お前たちはなんだ。

そんな疑問も口からは出て来やしない。

完全にマヒしていた。

 

そこで俺は気付いてしまった。

俺は編集長に売られたのだと。

彼女を誘拐するために俺をここに来させたのだと。




二章中ボス戦を構想中なんだけど味方サイドの完全体キャロルが強すぎる。
出力70億とか軽く突破して神星かよこいつって感じ。
助けてイザークパパ。(パパ焼き)


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何もなかったら絶対務所に入れられている

XDのストーリーAP半減期間に間に合ったので投稿です。


1

記憶の中の写真を頼りに某動物園を訪れた私は索敵振(ソナー)を園内の建物、そして地下へ、届く範囲で放射する。

距離が足りなくなったら移動、同じことを何度となく繰り返し園内を隈なく廻る。

私は返ってきた反射音を頼りに用意したスケッチブックに概要を書く。

もちろん園内にある監視カメラには映らないように。

建物にはもちろん外の街灯にも結構な数のカメラが設置されている。

一見して監視カメラだとわかる私たちが良く見る四角や半球、そして外観目的のイルミネーションのように偽装され注意しなければわからないものもある。

スケッチブックには監視カメラの位置についても記録している。

単純に考えるならカメラの多い箇所は重要なものがあると思えばいい。

 

そしてやはりというべきか。

彼女、ディンと名乗った女性の見せてくれた写真。

雪像が展示されている広場周辺の監視カメラの数、警戒装置の種類は異常であった。

もともとが屋外の広場。

ぽつんと建ったロッジ。

ロッジを囲むように監視カメラがあり、その広場に展示された雪像のアクセサリーの一つ一つが何かしらの監視装置だった。

何食わぬ顔で建物の外見、構造を確認する。

ごくごく普通の建物だった、なんて落ちはもちろんない。

返ってくる振動は私に間取りから隠し通路まで余すことなく暴き立てる。

私はゆっくりと雪像を見るふりをしながら来た道を戻る。

 

園内を一通り廻った結果宿舎、物販店、飲食コーナー、他園内のほぼ全域に地下がある事を確認した。

この内地下への道が確認されたのはロッジと物販店のみ。

何れも厳重な監視がある。

 

はてさて、一体どうするか。

どうやらこの動物園、やましいことがあるのは確かなようだ。

はっきりとはわからないが地下の規模はそれなり。

防犯体制も異常。

 

こうも設備に金を掛けられるようだと内部に侵入しても危ういのではないだろうか。

カメラがあるということは監視所はもちろんあるだろうし、詰めている職員も何かしらの武器、例えば拳銃など持っているかもしれない。

侵入した瞬間に警報が鳴り響きあっと言う間に取り押さえられそう。

場合によってはハチの巣か。

なんて考えたところで、特機装束を起動すれば銃など効かないかと思いなおす。

だが起動してからの制限時間がある以上、想定を上回って活動しなければいけない場合も考えれば危険である。

必要なのは未来を奪還する事。

会っておしまいというわけではない。

逃げ回っている最中に撃たれて未来は死亡、自分は助かりましたとか笑えない。

制圧、のちに奪還。

これで行こう。

 

そう考えてふと不安がよぎる。

本当に未来はここにいるのだろうか。

ディンを信用しすぎていないか。

彼女には彼女の目的があり、あえていない人物をいると言っている可能性はないだろうか。

電車の中で何度も考えたこと。

首を振って疑念を飛ばす。

どちらにせよ手詰まりなんだ。

行動しなければ結果は出ない。

 

時計を見ると午後のいい時間だ。

深夜を待って侵入を敢行する。

 

 

 

2

一度園外へと出てから再度入園する。

入口からはもちろん入っていないし、料金も払っていない。

防寒着は脱ぎ去り、薄いタンクトップと灰色のパーカーそしてマフラー。

車用品店で買っておいた黒のフルフェイスヘルメット。

若干緩かったのでタオルを詰めて調整。

そしていつも使っているスニーカー。

雪国ではおおよそ見られないこの格好。

つま先で地面を軽く叩き調子を整える。

 

ロッジは遠く確認できない。

監視装置もここの周辺にはない。

地上からはどう考えても侵入は不可。

私は特機装束を起動しその機能を身体能力の強化と振動操作に全振りする。

イメージするのは風鳴弦十郎(人類種の頂点)

ノイズがいない以上バリアコーティング機能などは必要ない。

必要な機能のみを作動させる。

体中を駆け巡る力の前にはスポーツ選手や格闘家すらこの身に及ばない。

 

一呼吸。

 

二呼吸。

 

疾走。

 

地面の氷雪は一歩を進むごとに砕けて散る。

宙に舞う破片は熱量からすぐに蒸気へと変わった。

本来爆音を響かせるこの走法。

しかし特機装束の機能により全くの無音。

傍から見ればいきなり大地の雪が消失しているように見えるだろう。

 

目視にてロッジを確認。

一、二の、三。

心の中で数えて、跳躍。

 

数百メートルを一気に跳ね上がる。

寒気を身で切り着地位置を修正。

背後に星々を背負って屋上に着地。

角度から少し転がるが問題なし。

そのまま屋根を破壊して屋内へ侵入。

残骸は屋根の上に置いておこう。

 

カメラの位置を確認し、一気に侵入。

事前に確認した隠し通路へと身を滑り込ませ、地下への階段を駆け下りる。

厚い鉄扉。

本来は許可証の認証が必要になるのだろう。

扉の脇に見えるでっぱりがそのための機構。

監視カメラもある。

許可がなければ通さない。

強い意志を感じる。

 

だけど。

いまの私をそんなもので止められるものか。

拳を突き出す。

破砕。

ひしゃげた扉は奥の通路へと吹き飛ばされる。

アラートが鳴り響く。

監視カメラにも確認されただろう。

 

意に介さず近くの部屋に飛び込む。

映画では入口に近い場所は監視所だ。

内部を確認。

思った通り。

内部は複数のモニター、ロッカー。

休憩用なのか奥にソファーと鋼板の低いテーブル。

何人かの職員は立ち上がって複数のモニターの凝視、一人はすぐにこっちを振り向いた。

何かさせる間もなく制圧を開始する。

まずは振り向いた一人の鳩尾を蹴り上げる。

そのまま地面に押さえつけ部屋全体に振動操作。

脳を、三半規管を直接揺らし意識を混濁させる。

その際一人だけは残す。

残った職員を屈ませ左手と頭を掴む。

アラートを止めるように命令。

その際、おかしな操作をしようとしたので腕の方を握り潰す。

骨の折れる音。

二度は無い。

そう言い捨ててアラームを停止させる。

ついでにアラーム設定を変更させる。

何が起ころうと今後各部屋でアラームが鳴ることはない。

 

職員を気絶させ部屋のコード、備品のテープで縛り転がす。

壁に備え付けの電話から呼び鈴が鳴ってる。

あ、あ、と発声。

所々雑音の混じった年取った男性の声を再現。

受話器を取る。

アラームについての説明を求めている。

 

動物がロッジ内に入り人影と間違えました。

すでにロッジからは追い出しましたのでご安心ください。

電話口からはロッジの管理をしている表の職員に対して悪態を突きながら了解と返答される。

 

ふう、と息を吐く。

床に並べた職員が身に着けているものを確認する。

財布、カードキー、キーケース。

胸元には拳銃を隠し持っている人も2人いた。

手首にナイフを付けている人もいる。

索敵振(ソナー)を使用して十分に確認する。

武装解除完了。

 

ロッカーを開ける。

カギは掛かっていない。

目に入るのは黒く頑丈そうな四角。

自動小銃。

思わず呻く。

出た声も無音になるが。

こういうとっさの時、特機装束の機能は役に立つ。

手に取って映画を参考に壁向かって撃ってみる。

レーザー照射。

引き金を引く。

軽い振動。

強化された身体能力だからではない。

素の身体能力でも軽いと感じるだろう。

コンクリートの壁に弾痕が刻まれた。

本物である。

他のロッカー内も同じ。

弾薬の入ったカバンも置いてある。

 

少し考え1つは持っていくことにする。

持っていくもの以外はバラバラにして踏み砕く。

最初は銃身を折ろうとして一目で使えないようにしようとしたのだが、触ってみた感じプラスチックだった為、砕く方向に変更した。

弾薬は抜いてである。

これ一つでいくらするんだろう。

そんなことを考えながらナイフと拳銃も回収。

テープ類も持っていく。

ダブったものは同じように砕く。

壁には各フロアの地図がアクリルプレートに印刷されて貼られている。

階段やエレベータを抜くと以下の様相だ。

BF1、監視室、武器研究室、武器貯蔵庫、他休憩室等の小部屋。

BF2、研究室、資材貯蔵庫、休憩室他。

BF3、特殊研究室のみ。

各部屋がそれぞれかなり広い。

園内も結構広かったが。予想通りとは言えげんなりする。

特にBF3。

この研究室、いくつか区画分けこそされているものの単一の研究室のようである。

主研究室とそれを補助する副研究室、資材置き場。

すべてを含めて特殊研究室。

そして直観的にこのBF3は危険だと感じる。

絶対に行ってはいけない。

巨大な力が一点に集まり今にも爆発しそうだ。

そして力に反応するかのように頭に響く声にならない叫び。

≪破壊せよ。破壊せよ。破壊せよ。≫

こめかみを押さえ声を抑え込む。

どうやら声にも良くないものがありそうだ。

 

壁から地図を剥がす。

ナイフを振動させ、鞄に入る程度に切り取る。

切った部位はテープで軽く止める。

折りたたんで鞄に詰め込むものの長すぎたのかはみ出ている。

自動小銃も雑に入れる。

鞄を背負いホルダーにしまった拳銃とナイフを取り付ける。

カードキーを忘れていた。

ポケットにねじ込む。

軽く飛び跳ね運動性を確認する。

問題なし。

 

これよりフロアの制圧を開始する。




この一日にボス戦が集中する模様。


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錬金術師出張中

響の街中探索パートをテンポが悪いという理由でカット。
その結果話の流れ自体がおかしくなる。
悩む、悩む、悩んで六日目。
ふと予定されている登場人物を確認。

まったく予定していなかったカリおっさんの出番が生えました。


1

「どーしてこーなった」

「狩野さんッ、口を動かしている暇があったら足を動かして!!」

銃弾飛び交う通路を男性と女性が駆ける。

女性は少女を抱き、青年は手にした拳銃時折背後に放ちながら叫ぶ。

目の前には階段。

下に向かって飛び下りる。

軽やかに着地。

 

階段の先には厳重な扉。

多数の電子ロックが掛けられ、戦車砲すら自前の装甲で防ぐ錬金術の英知で構成された鋼板。

実際に戦車砲を撃たれたとしてもおそらく傷一つもつかないだろう。

試作物を回収したのはカエルの人形を持った同僚であったが試験には局長を含め4人で立ち会った。

その際最終的には局長のバカ火力で件の鋼板は消滅したのだが。

それまでの実験で十分にその堅牢性を証明した鋼板は結社の飛行戦艦や空母に利用されることが決定している。

つまり女性にとってその鋼板は既知の物であり、弱点についても良く知っていたということ。

「せーのッ!!」

一気に扉まで距離を詰めた女性は少女を抱えながら左膝を曲げその一本で体のバランスを取る。

充分に捻りを加えられた右足は勢いよく地面を離れ扉に横蹴りを食らわせる。

爆音。

ロックも扉も関係ないと言わんばかりに躊躇なく放たれた。

結果、後に残るは扉と共に壁を構成していたコンクリートがその根元から根こそぎ引きちぎられている光景。

跳んでいった扉には確かに傷一つもついてはいない。

しかし他の部材は別だ。

いかに鋼板が堅牢であっても継ぎ目のない構造物などありえない。

後ろから追いついた男性は表情こそ唖然としているものの、その歩みは止まらない。

素早く室内を確認すると今度は自身が先導するように前を行く。

「ほんと、どーしてこーなった」

思わず口から愚痴が飛び出て、顔を歪ませながらも男性の後を追っていった。

 

 

カリオストロはパヴァリア光明結社に所属する錬金術師である。

同僚の二人と共にいけ好かない局長の命に従いながら世界に革命をもたらすべく活動中。

一応は幹部として名を連ねているが舞い込む仕事はほとんど外回り。

これでもそこそこの錬金術を修めてはいるものの、やはり他の研究狂いや執念で錬金術をやっている奴らと比べたらどうしても見劣りしてしまう。

別に今の仕事が嫌いなわけでもなく。

出来る奴が出来る事をするだけ。

結構体を使うのは好きなので。

実力はあっても動きたがらない、他が忙しすぎて手が回らない同僚達の手助けになれたならと思っている。

 

小さな同僚(プレラーティ)は研究室で開発三昧。

最近は結社が資金提供をしていたスポンサーから新型ノイズについて成果が上がったので精査中。

男装な同僚(サンジェルマン)は研究統括に資金繰り、そして組織運営。

別に一人でやっているわけもなく、それぞれプロジェクトチームによって運営されている。

それでも管理職の常か。

最近は部屋に帰っても寝るだけの生活になっていると聞く。

そうして今日も今日とて指令が舞い込む。

だが珍しい事に、今日の局長室にはその忙しいはずの同僚達の姿があった。

 

「調査をしてもらいたい。何を措いても、最優先に」

アダム・ヴァイスハウプト。

パヴァリア光明結社のトップ。

統制局長の地位にあり、正直こいつの下で仕事をするのはどうかと思っている。

普段は表情に胡散臭さを隠しきれていないのだが今回は目つきが鋭く表情も硬い。

局長室に集まった面々も普段見ない局長の表情にイヤそうな顔をしている。

「どう考えても厄介事というワケダ」

隣に立つ同僚が小声で愚痴る。

(あーし)もそう思う。

もう一人もそう思っているだろう。

聞こえているであろう愚痴には反応せず局長は話を進める。

「兵器開発が行われている。錬金術を用いられて。

系統は大陸系、欧州ドイツ系列の融合。

聖遺物の利用も確認されたとのことだ。

現地の工作員からの情報ではね。

聖遺物の兵器利用、ファウストローブの生成。

研究している。その程度ならどこであっても」

「つまりそれ以外であったということですか」

「その通り。調べてほしい。君たちを急遽招集してでもね。」

目の下に隈を付けた同僚が発言する。

それに併せて資料が渡される。

 

「聖遺物の名前はオリハルコン。分類は完全聖遺物。

銅光沢を持ち形状は1mmの真球で、複数個存在だとッ!!」

「そう、複数。まったく同一の性能、外見を持った完全聖遺物。

本来聖遺物は完全な状態で見つかることはほとんどない。

そして完全聖遺物として存在したのなら他にその名前を持つものはない。

伝説に記される有名な剣が二本ともない様に。

だが資料にある通りオリハルコンは複数存在する。

完全聖遺物だ。そのすべてが」

完全聖遺物は起動状態にあればその特異機能を誰であっても発揮できる。

装備をするのに条件があったり使うのに資格が必要なんて話はない。

だから各国、そして私たちのような秘密組織は求めるのだ。

「しかし局長。資料によればこの聖遺物は起動しても扱えていないと記載されています」

慌てて資料に目を通す。

確かに。

資料には聖遺物を使用した人員の経歴、能力が記載されているがその誰もが体を破裂させて死亡している。

目を走らせていくとこの聖遺物の能力についての考察がされている。

曰く高次元の無色、純粋なエネルギーを生成するのがこの聖遺物の機能なのではないか。

そして起動には必ず人間、意志を強く持った生命体の存在が必須であり、起動できたとしてもエネルギーに身体が耐えられないではないか。

犬、猫、猿等の動物では起動状態であっても使用できず、人間であっても死亡した人以外の実験体は操作すらできていない為、完全聖遺物であっても適性が必要ではないかとレポートの一部が抜粋されている。

「神の力――」

私の言葉にハッとする同僚達。

「気付いたようだね。君たちも」

局長の表情に笑みが浮き出ている。

同僚たちは目をぎらつかせ他人には見せられない表情になっている。

月遺跡の管理権限の取得。

そのための神の力。

しかし現在その力を得るための研究は遅々として進んでおらず。

中間点である賢者の石の生成にも手間取っている始末。

そこに来てこの情報だ。

「では局長、私たちの任務はこの聖遺物の奪取と言うことでよろしいでしょうか」

「いや、神の力を付与した兵器の開発。

場合によっては出てくるだろう。

試作型とはいえディバインウェポンが。

その場合は撤退を許可する。

安心すると良い。今回は僕も支援を惜しまない」

そのままブリーフィングへと移る。

聖遺物の特徴もあってその保管場所、研究所は日本でも複数個所、そのため各エリアごとに調査区画を分担する。

プレラーティは九州、サンジェルマンは本州、そして私は北海道に。

最後に現地への移動経路。

テレポートジェムは座標に注意が必要なので普段使いはできない。

そういう時は公共の交通機関を使う。

この任務の移動時間ぐらいは彼女たちに睡眠が取れることを願う。

 

「ああ、テレポートジェムを用意しておいた。現地のセーフティハウスに対応するね。

支援は惜しまないと言っただろう。存分に使ってくれ」

 

 

 

2

探索振(ソナー)を利用し部屋の一つ一つを丁寧に潰していく。

なるべく他者には見つからないように物影になる位置に職員を並べる。

制圧は順調なのだが疑問が湧く。

やけに人が少ない。

これまでにいくつもの部屋を周ってきたが広さの割にほとんど出会わなかった。

次の部屋に移動しよう扉を開け廊下に戻ろうとしたときだった。

分厚い壁の向こう側から音を探知した。

 

「――了解。C1、C2、C3班はBF2にて逃走した被検体の確保を行います」

位置からしてすぐ隣の部屋。

とはいえ地図には載っていない。

隠し部屋だろう。

ドアノブに掛けた手を放し臨戦態勢を取る。

「聞いた通りだ。

本日新たに搬入した被検体が地下2階の職員を振り切り逃走中。

我々C班は下の奴らのお手伝いだ。

人数は3。別の待機所にいるD班は地下1階と地下2階を繋ぐ昇降口につく。

手間取る様なら射殺しても良いとのことだ。

各員行動開始」

慌ただしい音を聞きながら考えを巡らせる。

なるほど、職員は最低限を残して下か。

警戒態勢もこの階とは比較にならないだろう。

逆に考えて下さえどうにかすれば、後にはどうにでもなる。

未来を奪還後は適当に写真を撮って警察に送ればいい。

無音。

どうやら離れたようだ。

廊下に出る。

彼らの声がした位置には扉が無い。

少し見渡してカードキーが入りそうな差込口が見つかったので入れてみる。

滑らかな動作で壁が下がる。

室内を覗いてみるとここも休憩室のようだ。

但し壁には監視室で見た自動小銃、ロッカー内には特殊部隊が着ていそうな防弾衣。

部屋端の段ボールにはカップ麺と通信機の予備が入っている。

机の上に散らかったトランプと食べかけの冷凍ピザがつい先ほどまで彼らがこの部屋にいたことを物語っている。

監視カメラの映像を映していそうなモニターは無い。

 

躊躇は一瞬。

すぐに服を脱ぎ予備の防弾衣に着替える。

ヘルメット、靴も備え付けのものに新調する。

奥にシャワー室があったので鏡で確認。

マフラーは、見えないように首に巻く。

ダブついているがそれっぽいなりにはなった。

銃を取り出し着替えをリュックに入れる。

――しまった。

切り取った地図がはみ出している。

取り出し、広げ、写真を撮る。

最初からこうすればよかった。

走っている最中も風の影響を受けていたようだし。

残った地図と被っていたヘルメットを砕いて段ボールに投げ込む。

どこからどう見ても特殊部隊員。

地下で事が起こっている以上、明らかな侵入者姿よりは見咎められることはないだろう。

 

 

 

3

戦車、戦闘機、装甲車。

カードルには砲弾やミサイルが積まれ、木箱には複数種類の携行火器。

貯蔵庫には大型、小型を問わずに武器兵器が鎮座していた。

デスクに乗ったパソコンによるとすぐにでも使えるようになっていることが分かる。

しかし中には明らかに使えなさそうな物もちらほら見受けられる。

例えば明らかに人間には持ち上げられそうにないサイズで作られた試作火砲。

強化した身体能力でも持ち上げるのには苦労しどう考えても設計ミスではないかと思う。

かつての大戦中、戦艦や巡洋艦に載せていた砲身に取っ手と砲弾の取入口を付けただけのこれは普通に考えて人に持たせようとはしない。

何歩か譲っても戦車、あるいは車輪を付けて運用するべきだろう。

 

隣接する研究室の方を覗いてみると今度は時代錯誤な刀剣類、そして鎧。

刀に直刀。

弓に槍。

和、洋を問わず様々な種類の原始的な武器が長方形のガラス容器に藁屑と共に入れられて保存されている。

中には破損状態が激しい物もあり破片のみのものもある。

こちらは単なる資料のようだ。

村正、国光、光包。

名前のいくつかはネットで検索すればすぐに画像がヒットするもの。

重要な文化財にも指定されている宝物。

容器を見て回る。

貼り付けられた名札には番号のみで記されたものもあれば、開発コードなのか、名称と併記して記載されているものもある。

特に目を引くものはこれだ。

護国挺身刀・群蜘蛛―複製7式。

なんと読むのだろうか。

ルビ等は一切降っていないのでわからない。

基本は日本刀のようだがなんだか色々な種類があるぞ。

群蜘蛛―改造2式。

群蜘蛛―特殊9式。

群蜘蛛―復元1式。

短刀から槍まで、この名前がついているものが棚どころか一区画を占めている。

察するにこれが近接戦闘用の基本武装なのか。

番号が後半になるにつれ刀身の様相も鉄の鈍い色から赤、黄色などカラフルになっていく。

適当な一つ、全長40cm程度の短刀型の群蜘蛛を取り出してみる。

楕円柱の握り、わずかに抜いた刀身は直刀、全体の配色は黒。

刀身に触ってみるとほんのりと冷たい。

かなり頑丈なのか全力で握ってみても少し軋む程度。

刀身は曲がりもしない。

これは使えるのではと思い名札を確認。

護国挺身刀・群蜘蛛―緋型試作。

――やはり固有名称の部分がわからない。

 

分からないことは置いておいて鞘から抜いてみる。

深い黒色。

星月の無い夜空のようで吸い込まれそう。

軽く振ってみるとかなり使いやすい。

この大きさならベルトの隙間に挟んでいても気取られないかと思った時、短刀が淡く赤色に発光。

全身に衝撃が加わる。

巨大な手のひらに上下左右を挟まれ、握り潰される。

筋肉の筋が1本1本全力で引っ張られ、千切れ、そして細かく刻まれる。

頭蓋をノミで叩き割られ、そのまま、脳をかき混ぜられるような激痛。

併せて全身に駆け巡るエネルギー。

思わず膝から崩れ落ちる。

肘が地面に着き、手はヘルメットで届かない頭を掻きむしろうと爪を立てる。

 

覚えがある。

初めてグングニールを全力で起動したときに似ている。

しかし私から体力も精神力も奪わない。

ただただ与えられる激痛と膨大なエネルギー。

いや膨大なエネルギーに身体が耐えられていない。

その結果が激痛。

すでに起動済みである特機装束の身体機能の向上に、とっさに与えられるエネルギーを流用し最大限発揮、まず間違いなく過去最高の発現率で機能が展開されてなお耐え切れない。

この痛みに覚えがなければすぐにでも発狂していただろう。

 

短刀は発光を続けている。

手は固く握りしめられ私の出す手を開くという命令を受け付けない。

握っていない手で強引に開こうとしても無意味。

 

ならば。

私は短刀からもたらされるエネルギーを通じて制御を試みる。

口内に血の味が広がる。

短刀を握っていない手は爪が立てられ雫が零れ落ちる。

激痛に耐えながら呼吸を整える。

深く深呼吸し何度も何度も失敗しながら短刀を制御下に置く。

光はある点でふと消え去った。

同時に私を苛む激痛も消え去った。

私の粗い呼吸音がヘルメット内に響く。

手に持つ短刀からはわずかにエネルギーを感じる。

 

なんだこれは。

ここの奴らはいったい何を作っている。

私が手にしたのはただの短刀、金属の塊のはず。

なのにどうして聖遺物が励起した時のような反応をする。

どうして特機装束が起動した時のような反応がする。

どうして――。

混乱する私は棚にあるガラスケースを片っ端から叩き割る。

中に納められたそれら一つ一つを確かめるように手に取る。

1つ、反応無し。

2つ、反応無し。

3つ、反応無し――。

いくつもいくつも手に取る。

そうして何十個目を手に取った時。

反応有。

激痛、そして力の奔流。

覚悟していた私はすぐに力を抑え込む。

いやブレーカーを落とすイメージ。

力の流れ、進行方向をずらし、結果として私自身には一切の影響がなくなるようにイメージする。

新たに手にした刀剣もやはり輝いていたが基底状態に移ったのか光を失う。

一か百か。

エネルギーはまさにその言葉が当てはまった。

加減や調節は一切聞かず、例を挙げればダムの水門が閉じているか全開しているか。

当然水門が全開になればダムに溜められた水は鉄砲水となり下流を蹂躙する。

 

何か資料はないか。

パソコンにはロックが掛かっている。

しかし不用心にもキャビネットの引き出しからメモ書きが見つかる。

そのパスワードさえも初期設定のまま。

起動してみるとオフライン状態。

そして一切の外部通信はできないようになっている。

だから油断したのか。

外部から遮断されたパソコン。

隔離された研究所。

 

研究内容は人造聖遺物の開発。




誰か筆者の脳内にある他の二次創作を書いて。
グレ響の浸食が速くて未来さんを突っぱねるすれ違い小説やグレンラガンの世界に光響が転移して螺旋力に覚醒する小説を書いて。


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お前をぶん殴る。泣いて謝ったって許してやらない

小説投稿して11話まで括弧付きでしゃべらなかった主人公がいるらしいですよ。
うちの子です。


1

BF2にある資材貯蔵庫と札が掲げられた室内は他と比べかなり室温が低かった。

ここに来るまでの道中、逃走中の被検体が暴れたのか、かなりの職員が床に伏していた。

連絡を取り合う職員の話している内容を聞き取るにBF3へ逃げ込んだようだ。

その職員たちもすべて制圧し床に転がしている。

背後から忍び寄る私に気付かなかった彼らは悲鳴を上げる間もなく上にいた職員と同じ目にあう。

貯蔵庫の様子はBF1での武器研究室と同じ様相であった。

つまり工事現場や工場で見るような資材やパレットが積み重なっているような一般的な資材置場では無く壁一面、長方形のガラスケースが並べられていた。

木造の棺桶を縦に並べたと言えば理解しやすいだろう。

そしてその中身は人間だった。

目は閉じられ体中にコードを貼り付けられている。

中は緑透明な液体に満たされており頭部から漂う髪はゆらゆらとなびいている。

口元には何もつけられていない。

SF映画でよくみる呼吸のできる液体なのだろう。

ガラスケースに付いているモニターからは納められている人間の生命には問題がないことを示している。

病院で見る心電図、心拍、他何かを示している数字が多数。

開閉はこのガラスケースからは出来そうに無い。

壁を見るとケースを操作するためのタッチパネル式の端末が掛けられている。

所謂パッド。

ケース前まで持っていけるように取り外しができる。

壁に掛けられていた場所には充電機構を確認できた。

本当に一般的に使われるパッドに近い。

しばらく端末を操作する。

この端末でも開閉はできない。

指定した場所に輸送できるようだ。

研究室、準備室、廃棄室、搬入口。

それぞれの部屋で受け取りその部屋から開閉を操作できるようになっている。

無駄に凝っている。

文字通りの資材貯蔵庫。

仮にこの部屋へ外部の人間が侵入し捕えられた人間を解放しようとしてもそれぞれの部屋に送るしかない。

職員は送られた部屋で待ち構えて配送された人間を人質にもできるだろうし、侵入してきた人間を袋のネズミにもできるわけだ。

舌打ちをしながら端末を操作する。

画面をスクロールしていくと資材一覧表という項目が確認できた。

タップする。

結構な数のフォルダ。

だが親切設計、右上に検索欄がある。

小日向未来と入力する。

少し経ってヒット。

 

いた。未来は確かにここにいたんだ。

逸る気持ち、指先は震えている。

顔写真に全裸の写真、管理番号、年齢、身長、体重、経歴、そして能力。

素の状態での聖遺物及び人工聖遺物に対する適合率、出力基準値、発動値、特性値。

対応するエネルギーの種類。

備考には簡易検査にて干渉性に関して極めて高い能力を持つため本部にて精密調査と書かれている。

再度項目を一番上まで戻してみると今日の午後に本部受取済とある。

タップ。

詳細情報に画面が切り替わる。

大手配送業者の名前。

そして配送先住所。

配送時の事前連絡、搬入方法手順まできっちり載っている。

まるでお役所仕事。

記入漏れなど許さないとばかりに隅から隅まで書かれている。

写真を撮る。

必要な情報は手に入れた。

しかし画面を戻し最初にあったフォルダを確認する。

資材一覧、移送済、使用中、使用済、調査前、調査中、解体済、処分済。

いくつか不穏な文面が見受けられる。

よせばいいのに、見なければいいのに。

そのまま未来を追いかければよかったのに。

私の指はタップする。

何千人もの名前がずらり。

 

スクロール。

何人も見知った名前を見かける。

ライブ後に失踪した。

同じ学校でいじめられていた人。

一年生だった頃は同じクラス。

二、三年は別のクラスだった。

写真に目を通す。

顔写真、裸体、そして脳。

剥き出しの筋線維、腹を裂かれタグを縫い付けられた臓器、ガラス瓶に入れられた眼球、爪、毛髪、歯、舌、乳房。

そして緑の液体に揺蕩う白い骨、全身骨格。

余すことなくバラバラにされ、それぞれに詳しい調査結果が記載されている。

脳はやはり統計よりエネルギー調整機能が他の臓器に比べ高い。

眼球の強化は硝子体を直接機能強化するよりも人工物に入れ替えた方が向上が見込める。

脳以外の神経も人工物に置き換えた方が反応性が向上する。

臓器は不要いっそ脳以外すべて人工物で良いのでは。

次回の調整会議で提案予定。

解体済。

私のかつてのクラスメイトを何人も見つける。

学校の事件で転向していった何人か。

タップ。

同様の写真。

但し脳には電極が刺さりその電極から延びるコードはまた別の脳が繋がっている。

廃棄処分。

かつてテレビに出ていたが今は見ないタレント、汚職の発覚した政治家、起業家、無差別殺人で死刑になった犯罪者、病院で不祥事を起こして刑務所にいるはずの医者――。

私でも知っている名前がいくつもいくつも出てくる。

 

そしてわたしのなまえ。

他の人と同じように顔写真に全裸の写真、管理番号、年齢、身長、体重、経歴。

空欄もあるが備考欄に記載がある。

現在唯一確認されている聖遺物との融合症例第一号。

―月―日より行方不明。

家族からの聞き取りでは友人の家に泊っているとの話だが家族も友人宅を把握しておらず行方を捜索中。

確保次第本部へ移送する事。

 

 

 

2

この研究所に入り、そして下る度に私の頭に響く声は大きくはっきりと聞こえる。

聖遺物との適合率は過去最高潮。

本来ならばすでに倒れ伏している時間にも関わらず歩みに乱れはなく、さらに地下へと下る。

BF3。

眼前には本来は巨大な扉があったのだろう。

奥にそれらしきものが転がっている。

扉事態に傷はなく支えていた鉄筋がコンクリート付きで千切れている。

扉があった位置はぽっかりと空洞になっているから通る分には支障はない。

扉を拾う。

見た目通りの重量を発揮するはずなのだが今の私には手折られた花ほどにも感じられない。

そのまま引きずる。

直進し続け階段。半階分の下がり具合。

そして扉はない。破壊されている。

持ってきた扉が引っかかる。

少し考えて二つに折り曲げる。

反対にもう一度。

もう一度。

何度か繰り返し。

やがて耐え切れなくなった扉は二つに割れた。

それでも通るにはぎりぎり。

両手で鋼板を引きずり扉をくぐる。

開けた眼前。

真っ白。

すり鉢状の広場。

いや、天井と併せて見ると球状と言うべきか。

先ほどの階段を下らなければ斜め上に見えるガラス壁の視聴場に着くのだろう。

反対側まで目を凝らすと床下にはガラスケースが納められ、脳が液体に浸りコードによってつながっている。

身長分の段差を下りて振り返る。

目線の先には、やはり脳。

踏んでいた箇所こそ滑らかな白色タイルだがその下にはガラスケースが納められている。

何百だろう。

直視すると頭がおかしくなりそうだ。

目を閉じ、開く。

声は静かになっていた。

もう聞こえない。

ただただ破壊衝動が沸き上がる。

すり鉢状の一番下。

知らない3人組と対面する白衣を着た頭皮の薄い男性、銃を構え包囲する武装職員、そして時代錯誤な鎧を着て刀剣を手に持つ兵士。

研究者の後ろには円筒があり足元の脳から延びているコードは筒の中に繋がっている。

男性は勝ち誇ったかのように大声で笑っている。

小物臭いセリフを吐きながら自分の研究について語っている。

 

フィーネに勝つ為、そして私自身の功績によって人類は進化する。

錬金術によって人をッ、神にッ。

誰にも成しえなかったことだ、お前たちもその礎にとなるのだッ!!

広場には轟笑が響き渡る。

 

フィーネ。

その名前をあなたから聞くことになるとは思わなかったよ、先生。

手に持つ扉を装甲兵士に投げつける。

爆音。

音速を超えて飛来した金属板により腹から真っ二つになる。

噴出する鮮血、人工血液、そして床に刺さる扉。

落下する上半身と崩れ落ちた下半身から内臓など零れ落ちない。

赤色の金属構造、火花の散るケーブル。

機械人形。

人間だった頃の証は強化ガラスに置き換わった頭蓋の中にある電極の刺さった脳しかない。

脳こそが聖遺物に最も適応するのならそれ以外はすべて機械、人工聖遺物で構成された躯体に置き換えてしまえばいい。

そんな狂気の発想を大真面目に研究して実用化してしまった。

護国強兵計画、そして神器計画。

第二次大戦中から風鳴機関、風鳴訃堂によって影より進められた国防計画。

同盟国(ドイツ)、そして植民地(満州国)より手に入れた聖遺物と技術により国を脅かす特異災害への対抗策としてここに完成を見ていた。

突然の攻撃に怯え、後退るかつての主治医へ顔を隠していたヘルメットを投げつける。

お前の待ち望んだものだ。

絶叫。恐怖。歓喜。

ごちゃ混ぜになった表情で叫ぶ。

「融合ォ症例ィ第一ごーーーーうッッ!!」

「イライラする。だからお前は、お前だけは必ずぶっとばす」

 




研究室の探索パートをカット。
ながなが書いても面白くないから仕方ないね。

この研究員一応オリジナルだけど作中にはすでにでているのよ。
設定的にはフィーネに対して自身が錬金術師というのを隠し通してリディアンの研究データを奪ったり、響の研究データを最後の一押しとして人工聖遺物を完成させた有能枠。

それはそれとして外道なので末路は決まってるね。


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響ちゃんピンチ。良かれと思ってノイズを派遣したフィーネさん(戦犯)

この時期の防人はまだかわいらしい言葉遣いのはずなのに防人語しか出てこない。(頭を抱える)


1

混乱する戦場から真っ先に立ち直ったのはカリオストロだった。

片手で少女を抱きながら男性の後ろ襟を掴み跳躍する。

両者から苦悶の声が漏れる。

そのまま包囲を飛び越え突き刺さった鋼板の後ろに着地。

それを追って銃口が向けられるが放たれた銃弾は障害物に阻まれ弾かれる。

左右から機械人形が迫る。

着地の硬直で再度回避することは敵わない。

正しく言うならば両手で持っている荷物を見捨てればそれも可能だろう。

しかしカリオストロはそれをするつもりはなかった。

情が湧いたという訳ではない。

する必要がなかった。

爆音と共に片方が吹っ飛ぶ。

飛んでいった機体は包囲を狭めようとしていた何人かを巻き込みながら壁に激突。

響の放った右裏拳。

胸部に直撃したそれはただ力任せに振られた一撃だった。

技術など微塵も感じられない。

そしてもう片方の手は鋼板を振り上げている。

一歩、もう一機の機械人形に踏み込んで振り下ろされた。

身近で鳴り響く爆音に少女は身を竦ませる。

後に残ったのは全身を地面と金属に押し潰されたスクラップ。

左右の手足こそ満足しているが脳を収納している中枢たる頭部、そして胴体は完全に一体化して最早役目を果たすことはない。

隙間から流れる赤色の人工血液と緑透明の保護液は互いが混じりあって床を汚し、甘い匂いを周囲に拡散した。

人の血液ならば鉄臭さにえずくだろうが、そうした特徴的な匂いはしない。

そのまま戦線を前に移そうとする響にカリオストロは声を掛ける。

「ちょい待ち、背中の武器置いて行ってくんない。こっちは玉切れなの」

手をひらひら振る。

響は視線だけを向け背負ったリュックを投げ渡す。

「サンキュー、というわけではい」

そのまま男性に受け渡す。

「はいよ」

返答後には溜息。

しかし動作確認に淀みなし。

カリオストロは肩に手を置き応援する。

「お父さんなんでしょ、娘にかっこいいところ見せてあげなさいよ」

「本職は航空機なんだけどなぁ」

手慣れた手つきで影から射撃。

生身の相手であるならば的確に打ち抜き無力化していくがやはり全身を機械化した相手には痛手とならない。

だが飛び出した響が迎え撃つ。

鎧袖一触。

跳び蹴り、振り下ろし、蹴り上げ、跳ね上げ。

流れるように全身を使い武闘を叩き込む。

目標は一直線。

かつての主治医に最短で突き進む。

「非常識な」

円筒の根元でタブレット端末を操作する医師は口から唾を飛ばし吐き捨てる。

機械人形に搭載されている魔力生成器。

そして生命バッテリー。

魔力と感応状態の人工聖遺物の強度は第二次世界大戦で使用された反応兵器を食らっても刃先が僅かに欠ける程度で済むだろうという試算。

それを生身の拳で突き破ってくるとは。

「素晴らしい。研究のし甲斐があるじゃないか。融合症例、立花響」

脂ぎった頭部を光らせ嫌らしく顔を歪ませる。

「ばらして、並べて、晒して、揃えて、洗いざらい調べつくしてあげようじゃないかぁ。

ああ、君が入院していた時のようなままごとじゃない。本部に移送してそのすべてを――徹底的に、徹底的にッ」

響の耳に高笑いが届く。

響にとってあの担当医はこうして会うまでは櫻井了子や風鳴弦十郎同様に数少ない信頼のおける大人の一人であった。

自分の事を親身になって心配してくれ、頼りにならない警察や教師に比べれば、これが正しい大人なのかと思っていた。

いつの間にか担当が変わっていても感謝は変わらず。

だが、だが。

表で笑顔を見せてその腹では自身の知識欲と功名心で塗りつぶされている。

それを響は残念に思うが。

「―――」

言葉は無し。最短距離を突き進む。

遮る障害は悉く粉砕。

飛び交う弾丸、剣線、紙一重で避けつつ的確に相手を行動不可能にしていく。

しかし当然最短で突き進むということは打ち漏らしもあるということ。

後方の三人に機械人形が迫る。

ゆえにカリオストロは影より躍り出た。

姿勢を低く肩を大きく揺らしながら距離を詰める。

「せーのッ」

気合を入れ、タイミングよく腰を捻り拳の連撃を叩き込む。

一発、二発、三発四発五発六発七発。

錬金術により強化された肉体であっても響のように機械人形を一撃で破壊に追い込むことはできない。

しかし大きく体勢を崩すことはできる。

「チャーンス」

軽い口調で大きく跳躍、顎を下から打ち上げる。

そして蹴撃。

胴体に直撃した一撃は機械人形を空中から広場の中心、端末を操作していた主治医の眼前に墜落させる。

そして間髪入れずその躯体は縦に両断。

分かれた機体から響の姿が現れる。

「止めろ」

投降勧告。

外道であっても響には積極的に殺すつもりはなかった。

だが当然怪しい動きをすれば手足の三、四本は引っこ抜いても問題ないと考えている。

主治医もそんな響の心情を察したのか、停止命令を出す。

そして主治医はそのまま床に端末を置き、円筒の根元で頭を抱え這いつくばる。

動くものは無い。静寂が広場に戻る。

機械人形も、武装職員も動かない。

弛緩した空気、長時間の疲労が全員を襲う。

「とでも思ったかッ!!」

円筒に備えつけられたスイッチに向かって手を振り下ろす、はずだった。

鮮血が飛散する。

びたりと手首が地に落ちる。

「あ、あ、ああああ手、手、わたしのてぇ――」

「往生際の悪い」

白衣を掴み、円筒から引き剥がすべく後ろに放り投げる。

察するにこれが彼の切り札。

中身は窺えないが響の脳に破壊せよと声が響く。

しかし今はこれ以上余計なことをされない様に取り押さえておく方が先。

「おかしなことをするな」

そう言って振り向いた響の目に映ったのはカラフルな杭により地面に縫い留められた主治医の姿だった。

言葉にならない空気の塊を口から吐きながら全身を炭化していく光景は見知ったもの。

次の瞬間、間隙無く天井から降り注ぐ多数の杭。

「ヤバッ」

とっさに反応できたのはやはりカリオストロ。

これまで幾多の指令により闘争に身を置いてきた武闘派錬金術師は頭上に障壁を展開し二人を押し倒す。

彼らから離れた位置にいる響はその光景を目に収め状況を察した。

「このタイミングでッ」

特異災害、ノイズ出現。

とっさにノイズが落ちてきた天井を見るがすでに眼前には鋭い穂先。

回避も迎撃も間に合わない。

ならばと咆哮。

増幅された振動波はノイズの体構成を破壊し黒粉へと変えていく。

む、と唸る。

響の顔面に黒粉が降りかかる。

とっさに手で振り払うがその先にはまたノイズ。

迎撃しようと身構えるが背後から衝撃、吹き飛ばされる。

思わず体を確認する。

――大丈夫、炭化していない。

咄嗟に機能をリビルドしたがバリアコーティング機能はしっかり起動している。

これがなければノイズに接触したとたんにお陀仏。

しかしその心配がないのならば。

突進してきたナメクジ型を空中で蹴り飛ばしその反動で体を回転させる。

手に持った鋼板も同じように流れに沿って回転。

空中から此方を狙うノイズを裁断していく。

途中飛びかかってきたノイズを足場にカリオストロ等に合流する。

着地した響は後ろを振り返る。

ノイズは機械人形には見向きしない。

彼等の基準ではもうあれらは人間ではないのか。

武装職員は抵抗も逃げる素振りもなくノイズと同化し炭化していく。

彼等も知らずの内に、彼等自身の脳に差し込まれた電脳チップが上位者の最後に下した命令が効いているためだろう。

痛みはあるのだろうか。悲鳴も上げず崩れていく彼らにライブの光景を重ねる。

しかし今は。

「生きることを諦めない」

拳を固く握りしめノイズに突貫する。

 

 

 

2

リディアン音楽院地下にある特異災害対策機動部には警報が鳴り響いていた。

施設に併設する一課、二課では共に職員が慌ただしく行き来している。

「ノイズ出現位置特定しました。出現位置、北海道千歳郊外にある動物園。すでに現地の一課、および自衛隊が市民の避難を進めております。」

「現地の映像を映し出せないか」

低く張りのある声が指令室に響く。

直立して腕を組む特異災害対策機動部二課司令。

すでに指令室では特異災害の発生警報から十数分も経たずに万全の体制が整えられていた。

深夜にも関わらず職員が集まれたのは地下施設にしっかりとした居住区画があるためだった。

特異災害対策機動部の中枢が女学院の地下である以上安易な出入りはできない。

まして深夜に職員が、特に男性が、都内各地から集まるなど万が一、一般人に知られてしまえばリディアンが築き上げてきた名声に傷がつく。

ひいてはスポンサーからの支援も少なくなるだろう。

そうならない為にも職員には各個人に施設内に居室が割り当てられていた。

とはいえ日の当たらない地下。

精神に不調をきたす恐れもあるので地下敷地外にも寮を完備している。

各職員は数日間は地下に籠り勤務を行い、休日には外にある寮で暮らす生活をしているものも多い。

また一部の職員には地下勤務とか全然平気と言うものがおり、地下勤務のみで一切地上に上がらない者もいた。

そうした職員は福祉上問題になるので強制的に外泊させるのだが。

今回は地下に残っている職員が多かったため迅速な体制が整えられた。

内心ではこんな深夜に叩き起こしやがってと思っているかもしれないが、その分手当を付けるので我慢してくれと言う他ない。

「現地カメラの映像を出します」

オペレーターの一人が対応する。

中央にあるモニターにいくつもの映像が映し出される。

しかしどの映像にもノイズは写っていない。

「――、他のカメラはどうだ」

「出します」

しかし新たに映し出された映像にもノイズは写っていない。

「これで全部か」

「これで全てとなります」

特異災害警報が鳴っているにも限らずノイズの出現が確認できない。

櫻井了子の異端技術により日本全土に張り巡らされた探査機能は絶対と言っていいほどの精度を誇る。

にもかかわらず屋内も屋外も、やけに多い監視カメラの一つにもノイズの痕跡を確認できないとは。

何かがおかしい、そう思った時。

「おじ様」

指令室に少女が駆け込んでくる。

警報を聞いて寮から駆け出してきたのだろう。

「ノイズが出たのですね、すぐに急行します」

だがしかし。

「――、待て翼。間に合わん」

直線距離約800㎞。

仮に政府専用機で急行したとしても空港までの移動時間を含め一、二時間は掛かるだろう。

それだけの時間が経ってしまえば現地へ着く頃にはノイズは自壊作用により消滅。

ノイズが居ないのに貴重な最後のシンフォギア装者を無暗に派遣するわけにはいかない。

口を噤み足を止める翼。

「民間人の避難は現地の自衛隊に任せろ、緒川」

傍に立つスーツを着た男性が頷く。

彼もこの件が何かおかしいと感づいていた。

ゆえに現地に赴くのは特異災害対策機動部二課に置いて十分以上の戦闘、生存能力を持つ忍ぶ者。

「まかせた」

言葉少なく激励する。

場合によっては死地になるだろう場所へ実績からくる信頼を持って送り出す。

 

緒川慎次、出撃。

 




OTONAは致命の一撃を食らっても動き出すので実質、隻狼のKYOSYAなのでは。
ほらGENITIROはすごい死にづらいしISSINも衝撃波飛ばしてくるし。

なおシンフォギアでは爺が火遁で戦う模様。
これは怨嗟インストールしてますね。(確信)


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少女の拳には言葉がある

FGOイベント進めてねぇ(頭を抱える)
間に合うか


1

火の粉が宙を舞う。

辺りには炭の山となったノイズ。

天井の照明のいくつかは破損しており電線から火花が出ている。

時折その火花が炭に燃え移り小火や爆発が起きる。

 

ノイズの襲撃からどれほど経ったか。

男性は腕時計を確認するが秒針は動いていなかった。

結構頑丈なんだけどな。

そうつぶやき愛娘を抱きしめる。

彼の周囲で生きているものはほとんどいない。

愛しい娘と娘を探す手助けをしてくれた女性、そして先ほどまでノイズ相手に狂戦士のごとく奮戦していた少女。

生きているのはそれだけだ。

娘を誘拐してくれたこと、そして国防を担う者として背後関係を探る為、研究者には生きていてほしかったが。

さて、他の階はどうなっているだろうか。

自分たちが下へ逃げ込んだことはすでに知らせが廻っているはず。

にもかかわらず一向に職員が来る気配は無い。

 

「全滅か」

おそらくではあるがノイズと接敵してしまったのだろう。

あるいは何人かは施設から脱出して逃げてしまっているかもしれない。

どちらにせよ今の自分に彼らの行方を知る由は無い。

そもそもの話、自分がどこにいるかもわからないのだから。

近隣に広まる失踪事件。

あまりにも被害件数が多い為、陸自でも警察と協力して街を巡回すると言う話が持ち上がった。

住民に不安を持たせない為、戦闘服、銃器の装着は許可されなかったと聞いているが。

それでも訓練を積んだ隊員ならば、徒手であっても何かあれば通信役が本部に一報送る時間を稼ぐことはできる。

そう考えられた。

実際には巡回した班が連絡を送る間もなく失踪。

被害は規模を増し、次の班、小隊、警察合わせれば50人は消えただろう。

基地司令が首を切ればいいという話ではない。

明らかな異常事態。

初期段階でもすぐに国に連絡が行っていたがこの段階でもう一度連絡。

場合によっては全国から応援を集めて徹底的に解決させるかと思いきや。

国から来た指示は現状維持。

納得できない何人かはボランティアとして町の有志と捜索に出たが戻らず。

自分もその一人。

数か月前ではあるが二人の娘が失踪。

失踪事件の初期段階での被害だった。

娘達の行方を捜す為、街に出る。

そうして有志の女性と協力して事件を追っていたのだが。

誘拐方法は瞬間移動でしたというオカルト。

ガラス瓶が割られた次の瞬間、二人してコンクリートに覆われた広場に立っていた。

おまけに周囲を囲まれている。

包囲を抜け出し、一人とは言え娘を取り戻せたのは奇跡としか言いようがない。

しかし、徐々に追い立てられ、そして今は何とか五体がある状態で助かっている。

 

協力者の女性はうつ伏せに倒れた少女を抱き起し介抱している。

最初に意識の確認、呼吸の確認をしていたのは生きているかどうか確認するためだろう。

うつろな目で口を開閉し空気を求める少女の様は疲労、あるいは衰弱しているように見える。

立花響と呼ばれていたか。

聞き覚えのある名前だ。

まだライブの誹謗、中傷が大きかった時期。

彼女の名前が新聞に載った。

以降は徐々に生存者へのバッシングは収束していき、やがて消えていった。

彼女がそうか。

うなされているのか、うわ言を呟いている。

古電話の音。

彼女たちの傍に場違いな黒電話がある。

電線も繋がっていないそれはけたたましく鳴り響き存在を主張している。

女性は僅かに躊躇した後に、受話器を手に取った。

「はい、カリ――――です。いえ今は人目があるので口調は作っていますけど。

それは局長も同じではないですか。えッ、素。

――それよりも、いつもより雑音が強くないですか。

ほとんどノイズばかりで聞き取れないのですが。

えーと、何を破壊しろですか。もう落ち着いて後は回収するだけなのですが。」

何を言っているのか、内容はわからないが協力者であった彼女はどこかのエージェントだったのか。

いくつか納得できる節があった。

「局長。よく聞き取れません、もっとハッキリ――」

 

その瞬間、今まで介抱されていた少女が跳ね上がった。

その勢いのまま手のひらは押し出され女性は突き飛ばされる。

女性は受話器を持ったまま吹き飛ばされこちらまで転がってくる。

受話器から発せられる音はもう雑音しかない。

 

暗転。

天井の、壁の、照明のすべてが消失する。

周囲の小火によりかろうじて光源がある程度。

飛ばされた女性、胸に抱く娘、こちらを向いている少女。

自分以外その光景を見ていない。

広場の中心、炎で赤く染め上げられた円筒を細い腕が突き破り中から出ようとしているそれを。

 

 

 

2

ノイズ相手に暴れまわった私は明らかに夢だと思う空間にいた。

真っ暗で、足元すら定かではない。

黄色い燐光が宙を漂い、昇っていく。

ふわふわと、立っているのか、泳いでいるのか。

曖昧な私。

しかしなぜか自分の姿ははっきりとわかる。

そして自分と相対する女性も。

白色の髪、少し前の砲撃をかましていそうな魔法少女のような装甲服。

優しそうな顔立ち、そして手足にかかる映像ノイズ。

まるで二次元を無理やり三次元に投影して端がおかしなことになっているかのよう。

お互いに無言が続く。

自分に比べどっしりと立っている彼女から口を開いた。

「――自己紹介をしましょう」

そんな言葉。

どこか焼き直し。

思わず笑ってしまう。

今までずっと張りつめていた緊張が解けていく。

「初めまして、私は立花響」

「初めまして、響。私はシャマシュ。

かつて地上に降り立ったカストディアンと呼ばれたアヌンナキの一柱。その残骸です」

 

「端的に言って、これ夢だと思うから聞き流していい」

「いきなりですね」

女性、シャマシュは苦笑する。

「夢ではあります、しかしあなたは起きてもこの出来事を覚えているでしょうし、私が話した内容も現実に実現することとなるでしょう。」

脳裏に写る自分の見たことのない光景(思い出)

改造執刀医の突然の裏切り。

何柱もの神が秘密裏に実験台にされていく。

保安部隊が気付いた頃にはすべての処理は終わっており、人間は改造され、シェムハは不滅となっていた。

何人もの超常の力を持った戦士たちが挑み、戦い、破れ、朽ちて、無限に再出現する裏切者、最後に残った戦士がが相打ちで彼女を倒し、月に向かう。

「もう何年も昔の事でしょうか。かつての私たちは人に知性を与え共に歩むに足るものと認め活動していました。ですがあなたの見た通り。一柱の裏切りにより私たちは瓦解しました」

シェムハ。

それが誰だかわかる。

アヌンナキの裏切者にして、人間に潜むもの。

シャマシュを通じて流れ込む知識、記録。

だからこそ、おかしな点がある。

「最後の瞬間、それ以前に、あなたは死んでいるはず」

そう、最後の戦士、保安・防衛の要職に就き、もう戦う人がこの人のみになった時、生き残ったアヌンナキは地上を飛び立ち別の星に旅立っていた。

逆に言えば他のアヌンナキはその時点で死亡している。

彼女自身から流れ込む記録は彼女が後者であることを示していた。

「ええ、その通り。当時司法局にいた私はシェムハの暗躍に気が付かず、死にました。

ですが死の間際、私は、いいえ当時シェムハに対抗した何人かはその存在をシェムハのように自身を変質させ最後の抵抗をしました。ある柱は土となり、ある柱は水となり、火となり、風となり、いつか来る反撃の機会を待ち続け――」

そうして相打ちに持ち込んだ一柱(エンキ)が月へ行きバラルを起動するまでの時間を稼いだ。

「今の私はかつてのシャマシュと呼ばれていた柱の欠片。今こうして誰かに語り掛ける力はありませんでした」

頭に響く誰かの声。

「私に今まで声を掛けてくれたのは、あなたでは無く?」

しかしシャマシュは首を横に振り返答する。

「いいえ、私が声を掛けたこともありますがほとんどは違います。気が付きませんか。耳を澄ませば聞こえるはずです」

そういって彼女は首を上げる。

私も倣うように上を向いた。

(そら)には光が舞っている。

≪響ちゃんは大丈夫かしら、心配だわ≫

≪おやすみ、お母さん≫

≪やっぱりアニソンはいいなぁ≫

≪はやくおそとにいきたいな≫

≪こんな時に役に立てないなんて、剣とは、防人とは。奏――どうしたらいいのかな。≫

誰かの声が聞こえる。

良く知っている声もあれば、一度すれ違っただけの人の声も聞こえる。

「脳波ネットワーク。シェムハが人類に施した改造。本来人と人とが繋がればそれはシェムハの復活に繋がります。それを防ぐために私たちアヌンナキはバラルを持って人を分断しました。しかしそのバラルも神の力。同質の神の力でもなく、発現した埒外物理でもなく、聖遺物でもなく。あなたと融合した哲学兵装:ガングニール(積み重ねられた言葉の力)がバラルを無効化しシェムハに与えられた人間の機能を発現させました。

聞こえるはずです。あなたと繋がった人々の言葉が」

誰かの声が聞こえる。

誰かの声が聞こえる。

それは温かく、身近で、ほっとするような言葉。

日常を暮らす(今を生きる)誰かの声が聞こえる

「誰かと繋がれば、当然シェムハの断片は活動を開始します。しかしあなたにはそれがない。ガングニールに積み重ねられたのは神殺し。たとえお互いに繋がりあい、シェムハが増殖しようとも、即座に神殺しによって断片は消失します」

目を瞑り声に耳を傾ける私にシャマシュはこちらを見るように言った。

「そしてあなた以外にも繋がりを持った存在がいます」

いくつかの光が嘆き、叫ぶ。

どうか破壊してくれ。

あのように成り果てたくはないのだ。

彼らに身体はもうない。

残っているのは脳だけだ。

やがて来るシェムハへの変貌に恐れ、泣いている。

 

私にはガングニールがあった。

しかし彼女の言う他の人には。

彼女は笑顔を深刻な表情に変える。

「もう時間は無いでしょう、間もなくシェムハは復活します。幸いにもバラルは十全に機能しています。今ならばまだ何とか対処できます。どうか未来(みらい)をお願いします。」

 

彼女の言葉に私は。

「私は友達を助けに来た。彼女はまだ――」

不安じみた私の声。

「耳を澄ませてください。深い繋がりが、お互いに思いあう気持ちこそがあなたを導きます。この北の大地にあなたを導いたように」

声を張り上げ叫ぶ。

「未来ッ!!」

燐光が地面から一つ。

≪響――≫

「未来、待ってて、必ず行くからッ、助けに行くからッ!!」

≪待ってる――≫

言葉(ひかり)は融けて消える。

「彼女もまた、あなたと深くつながる一人。脳波ネットワークにより拡散した神殺しがバラルの影響を受け難くした為狙われたのでしょう」

口を噛む。それが本当ならば未来がさらわれた原因は――。

「いいえ、いずれにしても遅いか早いかだけ。シェムハが復活すればそのすべてが」

周囲に光が満ちる。

大きな光の塊が地平線から顔を覗かせた。

意味もなく確信する。

目覚めの時。

「どうか未来を」

最後に見た光景はシャマシュが軽くお辞儀をするところだった。

 

 

 

3

誰かに介抱されている。

覚醒した私は、しかし介抱していた人を確認しないまま突き飛ばした。

かなりの距離を飛んでいく。

大丈夫だろうかと頭によぎるが、それよりも今は。

背後から放たれるプレッシャー、莫大なエネルギー、金属の破砕する音。

暗闇の中、私の目に映る光るケーブル。

背後にある円筒と部屋中に安置された脳を物理的に繋いでいる。

いくつもの、いくつもの脳が並列に繋がり生体端末演算群として機能。

オリハルコンが必要なエネルギーを生成し、躯体左腕に備え付けられたヤントラ・サルヴァスパが機械と人を調律。

繋がる脳はオリハルコンの負荷を分散するために使用される。

素体となった人間に薬物を投与、自発的にヤントラ・サルヴァスパを使用させ、脳内の電子チップを制御。

本来ディバインウェポンとしての出力、そして巨大な電波塔、通信衛星と組み合わせることにより、世界各国にヤントラ・サルヴァスパの機械干渉を与え、戦争になった際、敵対国は機械支援を受けられず、それどころか自国兵器の自立行動により国を壊滅させることを目的とした神器(兵器)

 

それは増殖したシェムハにより乗っ取られる。

脳波ネットワークによらない物理接続。

 

ここにシェムハの断章は復活を遂げた。

 

 




グレ響(力)を限凸したら謎の声さんの設定が生えてきた。
というより降って来た。
グレ響を拝むおじゃ。


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おとかなで、うたはいまだひびかず

もしあなたがこれから初めて小説を書こうと思った時に、なにから始めるでしょうか。
小説の一部分をはっきり書きますか。
プロットを作成するのでしょうか。
いいえ、設定から書き出してみるかも。
あるいはちょっとしたメモ書きかもしれませんね。

そんなあなたにこの言葉を送ります。
「なんかすごいバトル」と書いておくのはやめましょう。


1

敢えてその光景を表現するのならばSF映画だろうか。

卵に寄生され宿主の腹からエイリアンが生まれ、食い破る。

あるいは身体そのものが作り替えられ生存者を襲う死体怪物。

ブリッジした四足歩行でカサカサと這いまわる昆虫人間。

ジャンルはスプラッター、コズミックホラーか。

至るところから金属がこすれ、肉が落下する音がする。

機械人形の別たれた上半身、その切断面からずるりと上半身が生え脇腹から腕を生やしムカデの様に進行する。生えた腕の指先は一歩進むごとに爪が割れ、血が噴き出し、千切れ飛んだ足からは腕、肋骨、目を次々に生やし続け、マリモのような塊となり飛び跳ねる。

棒立ちの、五体を満足した人形は背中から複数の昆虫の足を生やし重さに耐え切れず倒れこむ。生えたばかりの足は柔らかく自重を支え切れていない。ぶるぶると震え、足を潰し、体液を撒き散らしながら新しい足を生やす。

右腕だけが肥大し体から繋がる金属と肉の棍棒が大部分を占めた個体もいる。

あの有様では移動することもできない。

下半身は人間のまま上半身は粘液で覆われた触手の塊。

奇声を上げ、かつて頭部だった箇所から肉と臓物を吐き出している。

炭の山にぽつんと置かれたヘルメット、その割れたシールド部分から覗く眼球。

やがてもぞもぞと震え、頭部から直接手足が生える。

 

シェムハの特性は自己増殖、自己進化。

たとえわずかな断片であろうとも、本来シェムハが活動を開始したのならば瞬く間に宿主はシェムハに成り代わるだろう。

それは宿主の意識を塗りつぶし、肉体は変質し、最後にはシェムハという現象、シェムハを生み出す装置になるということ。

しかし地上にはいまだ呪いが満ちている。

神器(ディバインウェポン)も完全にはシェムハに成り代わってはおらず、影響を受けているものもシェムハとはならない。しかしこのありさまを見れば果たしてどちらの方が彼らにとってマシだったのだろうか。

 

誰もが呆然としている中、最も本体、神器に近い私は必滅の意思を込め拳を突き出す。

腰を入れ水月めがけて真っすぐに。

神殺しの拳。当たればシェムハといえど、否、神であるシェムハだからこそ一撃必殺。

肉を打つ感触。飛び散る体液。骨を砕き貫いたのは神器ではなく肉塊。

拳を突き出す直前、割って入るかつて職員だったもの。

同時に肉塊は発光し膨張を始める。

明らかな危険信号。

腕を引き戻そうとするも肉塊は血圧計の様に締め付けビクともしない。

これが関節のある人の手で押さえられているのならば腕を固めて外すこともできた。

完全に固まったコンクリートであっても振動破壊で粉々にする。

しかし破壊しても、新しく盛り上がった肉が腕を捕えて離さないのならば。

「――ぁ」

口から声が漏れる。

意識は空白。

このタイミングでそれは致命的だった。

熱が肌を嬲る。光が眼球を蹂躙する。

音は意識を置き去りにして背中を突き抜ける。

衝撃が体を押し出す寸前に、足を踏み込んだ。

負けない様に気合を入れ、噛み合わせた歯はギチギチと音を鳴らす。

強化して(全機能再構築)強化して(耐衝撃)強化して(対物理)強化して(対焼却機能展開)強化して―(哲学補正加算・全力防御)

一瞬の間が私の運命を変える。

全身が痛む。

爆発の中心、突っ込んでしまっていた腕は特に痛い。

視界が真っ赤で考えるのも億劫。

体中から力が抜けていく。

今まで気力を燃料に特機装束を動かしてきたが限界を超えた限界へ至る。

膝から崩れ落ちそうになりそのまま――。

 

≪どうした、ここであきらめるのか、後輩≫

やさしいこえがきこえる。

この声はどこで聞いたんだっけ。

夕焼けの中で槍を持った赤髪の少女を幻視する。

≪胸の歌を信じて歌ってみな。そうすりゃなんとかなるもんさ≫

 

胸から歌は響かない。

けれども音を奏でることはできる。

爆発が過ぎ去った後、正面の躯体と晴眼する。

涙でぼやけた視界を気力で正常に戻し、私は聖詠を口遊む。

アとンで音を、曲を奏でる。(Balwisyall Nescell gungnir tron)

突き出した拳とは逆の手で短刀を引き抜き振り下ろす。

充足するエネルギー。

再起動した能力を持って高速で振動する刀身は、回避を試みた神器に対し本来の目標からずれて命中する。

切断箇所は左肩。

まるで人間だった頃を思い出すかのように断ち切られた箇所を手で押さえてのたうち廻る。

クルクルと体を回転させる躯体を、私はしっかりと見据えて、手首を回し刃先を向ける。

私の体勢も崩れているが、そのまま前に倒れこむ様に体を動かす。

何度か刃を振るうが首が半ばから千切れようと、もう片方の腕が胴から離れようと動きは止まらない。

むしろ切断面を利用した鋭い反撃が返ってくる。

ならばと意識を集中、狙うは動力機関。

感じ取る神の力は胴体の中心、上の部分。

最初に狙った水月に短刀を突き出す。

オリハルコンを内蔵した動力炉は、力を伝達する機構を文字通りに絶たれ停止した。

 

 

 

2

何もかもが一瞬だった。

突き飛ばされた私が振り向いた瞬間にはさっきまでいた場所には発光する肉塊。

どう見ても爆発寸前。

少女には悪いが、距離が遠く秒読みすらない状況では助けようがない。

あるいは少女も二人で死ぬよりはと思い突き飛ばしたのかもしれない。

錬金術により防壁を生成するが一瞬で割れる。

パヴァリア光明結社の戦闘錬金術師として戦闘の経験、敵からの攻撃を防ぐことはよくある、その中でも会心の出来だったのだが。

そんな渾身の防壁も木っ端のごとく消し飛んでいった。

防壁にひびが入った段階で危機を感じた私は、咄嗟に床を割り近くにいた協力者をスペースに突っ込む。

脳漿と液体で体中がぐちゃぐちゃになるだろうが、爆発で自分がミンチになるよりましだろう。

私も窪みに滑り込もうとするのだが、間に合わず吹き飛ばされる。

体中あちこちぶつけながら転がるが、サンジェルマンに錬成してもらったこの身体は基本構造から頑強であり、魔力で補強すればなおの事。

頭部を手で保護し膝を腹に付け対ショック姿勢を取っており。

勢いよく飛んでくる金属片も骨片も、多少刺さりはしても貫通したり食い込むこともない。

今の爆発で火も消し飛んだのか、明かりを探す。

粉っぽい空気で視界も悪い。

こんな状況でも換気はしっかりとされており、すぐに視界も晴れていった。

カランカランと軽い金属音。

這い出た男がうつ伏せになったまま懐中電灯を床に転がした。

片方の手で娘を地面に抑え、もう片方の手で油断なく銃を爆心地に向けている。

呼吸が粗く、精神的にかなり疲弊しているようにも見える。

それでも意識をしっかりと保っているのは父親としての義務か、家族への愛ゆえか。

転がっていった懐中電灯はやがてちょうどいい感じに窪みにはまり天井に向かって明かりを放ち照明となる。

まず視界に入ったのは壁一面が赤色にグラデーションされている光景。

ぎっちりと血と肉が噴霧されており、狂気的な光景となっている。

壁に張り付いた肉片は毛虫サイズ。

蠢き這いまわり、他の肉片と合体。

徐々に体積を増やし塊になろうとしている。

天井から垂れ下がる筋線維は強固な、そして弾力ある柱となり拡大と収縮を繰り返す。

そのたびに天井からコンクリートがガラガラと落下している。

錬金術でも人体について錬成することもある。

かつてサンジェルマンが私たちに行った人体錬成は神秘的だったが、これは権利も法則も異なる冒涜的な人体錬成。

無事な指を繋ぎ、内臓を入れ替え、腹を縫い、足を改造し、頭部を開く。

そうして新しい―――を―――で生みなおす。

直観的ではある。そしてあの研究者が研究していたのはそういうものだった。

私たちとは異なる人体錬成(神の作成)

私は少女の安否を確認するためにふらつく足で中心部へ向かう。

少女は生きていた。

手に持った短刀で円筒から這い出たと思われる躯体を膝立ちで突き刺し、身体を預けている。

体重が掛かっているはずの躯体はうしろに倒れこまず顎を彼女に乗せている。

彼女が戦っている最中、やけに頑丈だと思っていたが、あの爆発で生き残っているのは最早化物に近い。

私の中で彼女の危険度は最高クラスに引き上げられていた。

攻撃範囲こそ狭いものの高い火力と頑強性。

危険視するには十分。

それでも若干の好意はある。

何度か庇ってもらったり、お互いにフォローしあった。

さっき助けてもらったように。

少なくとも人間的な感情だったり、配慮は持っている。

胡散臭い、働きもしない局長とは違う。

ゆっくりとだが彼女に近づく。

あの爆発だ。

ケガをしているようなら治療しなくては。

そして局長の最後の通話。

おそらく破壊の対象はあの躯体だろう。

今は止まっているが、動き出すようならば、いやそうでなくても破壊する。

そうして彼女に近づく。

「―――」

息を呑む。

彼女の着ていた服はボロボロになり、肩から羽織る程度しか残っていない。

回り込めば分かるが正面の布地は吹き飛び、裂けた肌が直に見える。

首に巻いていたマフラーは千切れていないが端は裂け糸が垂れている。

頭部からは出血により顎からポタポタと雫が落ちるが、それもやがて止まる。

しかし何よりも目を引くのは、短刀を握っていない方の腕。

左の肘から先には何もない。

今も大量の血で床を汚し続けている。

私はその光景に呻くが、彼女は暗い目をして悲鳴も絶叫も上げはしない。

そしてディバインウェポン。

高エネルギーを纏っているが各動力伝達が逝かれているのか、大本が逝かれてしまったのか、身体をビクンビクンと反応させるも本格的に動く様子は無い。

私はそれ目掛けてとどめを刺すように光弾を放つ。

頭部が飛んだ、胴体は勢いよく短刀から引き抜かれて後退する。

無事な足は平らにならし、腹に大穴を開ける。

そうして神器をバラバラにし、安全が確保できたと確認してから彼女の治療を開始する。

まずはそう、出血を止めなくては。

そう思い手ごろな布、彼女の着ていた服の残骸から比較的大きい物を選び取り左腕に、痛いかもしれないが傷口そのものに突っ込む様に当て、巻き付ける。

一番重症な箇所はこれだけだろう。

他は少し切ったり刺さったりした程度。

あの爆発を至近距離で受け止めたのなら、全身が粉々に吹き飛んだとしてもおかしくはないが。

そんな風に考え事をしながら治療の邪魔になると思い右手で握った短刀を取ろうとするが力が強い。

両手で時間をかけてようやく引きはがす。

彼女のベルトから鞘を取り出し自分の懐に収める。

他には邪魔になりそうなものはない。

もう一度目視で確認をし、治療を再開する。

顔についた血液をふき取り布を当てる。

刺さった破片を丁寧に取り除く。

体中を触診し錬金術も使用して治療しようとするが、その前にもう出血が止まりかけている。

まともな娘ではない。

見た感じでは少なくともパヴァリア光明結社(うち)で実験している兵器に近い感じがする。

そういえばと思い彼女の握っていた刀身の様子を思い返す。

あれ、揺れていなかったか。

似たようなもの思い出し、途端に顔を青くする。

ハーモニックスカルペル。

本来は医療器具として一般に流通しているものだが、結社には同一名称の兵器が存在する。

その能力は高周波高振動で武装を作動させ、接触した箇所から分子間の結合を切削する振動兵器。

彼女が手に持った物を疑似的な振動兵器として扱うことができるのならば先の機械人形を両断した時にも使用されたのではないだろうか。だとすればあの呆気ない破壊にも納得できる。

彼女の握る短刀の刀身に、触れてしまっていたら私の手はミンチになるか、すっぱり切れていた。

私が少女を見る目は剣呑なものとなる。

少女も顔を上げる。

しかしいつまで経っても治療を施した私には目を向けない。

ポタリポタリと音が響く。

少女の出血は止まっている。

なら、この音はどこから響いて――。

少女の見つめる先に私も顔を向ける。

 

地面から突き出す複数の肉の柱。

発生源は床に埋まった脳。

バラバラとなった神器の断片をそれぞれの肉柱が貫く。

天井からは壁を染めていた肉と血が柱に垂れ天井と道を繋ぐ。

頭部が突き刺さった肉柱。

その頭蓋がグルんと廻って嗤う。

クリスタルケースからこぼれた脳が肉に埋もれる。

ぐちゃりと音を発て、肉が膨張を繰り返す。

足元で振動。

私は咄嗟に少女を抱え後退。

その一瞬、少女は右手でディバインウェポンの左腕を掴む。

直後、肉柱が床を突き抜けそそり立つ。

「局長、命令はきちんと伝達してよね――」

破壊しろと言ったのはディバインウェポンではなく、足元に埋まる脳。

ディバインウェポンとしての本体があの躯体であっても、脅威の元は身体すらない幾多の脳。

理解が遅かった。

今や物理的に脳のすべてが肉で繋がる。

それがなにを成すかはわからない。

とりあえず今は。

「撤退ーーーッ」

全力でここから脱出する。

 

 

 

3

廊下を駆ける四人の後ろを膨張した肉が轟音と圧力を持って追いかける。

父親は娘を抱え、錬金術師は腕の欠けた少女を抱え走る。

ほんの数時間前に追いかけられ必死に走った道。

階段を上がり、最初に送り込まれた広場までたどり着く。

ここが始まり、次はどこに逃げればいい。

「あっちだ」

響が残った右手、手に持った神器の左腕で進路を指示する。

成すがままの体ではあるが、声に意志が宿る。

張りは無いが受け答えに問題はない。

カリオストロは動かない切り札をしっかり抱えなおす。

「はーい、ありがとう。でもそれ捨ててくれない。

正直ガシャガシャうるさいし痛いし重たいし。後ろのあれに追いつかれそう」

「これを取り込まれたらあれの増殖は加速するけど」

「まじかよ」

カリオストロは思わず素の声で答える。

突然の低い声に隣を走る男性がぎょっとするが、そんな彼を気にした様子もなく響は淡々と話を続ける。

「それにこんな風に使える」

そういって響は手に持った左腕を振るう。

途端、一部の通路の照明が消える。

同時に背後で轟音。

全員で振り返ると通路に隔壁が降りている。

「へぇ、これなら――」あれも追ってこれないと続けようとして扉に衝突する肉音に身体をビクリと震わせる。

見ると隔壁には穴が開いている。

そこから肉が広がり穴をさらに大きくする。

「明かりのある道を走って」

足となっている二人は騒ぎながら駆け出す。

「そもそもなんなのあれッ、明らかに実験体の暴走とかでは済まされない風体なんだけどッ」

「バラルに封印されていた神代の怪物(かみ)

「バラル、バラルの呪詛ッ、!!え、何あれバラルの呪詛ってあんなものを封印していたのッ」

「おいマテ、二人で納得していないで俺にもわかるように説明してくれ」

「そんな余裕無いに決まっているでしょッ」

「正直この状況で正しく伝わる様に言語化できる気がしない」

これも全部バラルの呪詛てやつ所為か。

騒ぎながら地上に向かう。

そんな彼らの前に小銃で武装した六人組(自衛隊)が現れる。

おかしなことに一人だけ服装がスーツだ。

お互い出会いがしらの状況。

しかしよく訓練されているのかすぐに銃を向けてくる。

「止まれッ、手を後ろに組んで膝を突けッ」

「いいから逃げる、後ろから追ってきてるのよッ」

「何を言って」

そして彼らも目にする。

勢いよく通路を埋め尽くす、濁流となった肉の洪水。

結果、彼らも慌てて並走し、逃げ出す。

「一体何なんだあれは、知っているなら説明しろッ」

「うっさい、とにかく逃げるのよッ」

「本部、本部、応答願います。こちら――班、正体不明の敵性体と接触。対象に火器が通用しない為現在地上に向かって後退中。また民間人四名を保護、どうぞ」

「≪本部了解、――班は民間人を地上まで護送せよ。また他の部隊も敵性体と遭遇した模様。情報収集の為貴官が接触した敵性体について報告せよ≫」

「――了解、接触した敵性体は――」

「んんんんーんーんーんーん~」

「鼻歌歌って余裕あるじゃない、自分で走る?」

「いや、歌が力になると聞いたから」

「それ誰から聞いたのよ」

「見守ってくれる誰か、かな」

「皆さん余裕ありますね」

スーツを着た人が苦笑する。

やがて通路を走り切り、出口に着く。

響が侵入した入口とはまた別の、ショップハウスの搬入口。

机や椅子を蹴り飛ばしながら屋外へ、硝子の扉を突き破った直後、ショップハウスの屋根が吹き飛んだ。

建屋を肉が埋め尽くす。

螺旋を描いて空へ空へと延び続け、直立する肉柱はピンク色から黒く変色し、変質から残った赤い血管が怪しくひかり、脈動する。

車のタイヤ音、そして自衛隊員。

脱出した響たちを車に詰め込み離脱する。

その直後、轟音と共に火球が生まれる。

自走砲、戦車、攻撃ヘリ、そして自衛隊員の放つ火器から弾幕となって降り注ぐ。

しかし、柱に損壊はあれどすぐに修復。

内側から肉が染み出て欠損は無くなってしまった。

いいや、傷口から最初に見た怪物が生み落とされていく。

人間大の、それ以上大きさの怪物が、地上を埋め、山となる。

雪上に落ちた怪物は、体温で雪を蒸気に変えながら進行を開始。

自衛隊も応戦するが、数の前には戦線を後退せざるを得ない。

「攻撃が通じる分まだましだけど、圧倒的に火力が足りてないわね」

荷台の小窓から背後を覗くカリオストロは懐から結晶体を取り出す。

「何か手がおありでしょうか」

 

「もち、(あーし)の魅力は戦艦級よ」

パヴァリア光明結社の空中戦艦を見るがいい。




ポケモンたのちぃ


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それいけフローティングキャリア

ポケモン前に投稿します。
ポケモンするので休みます。

他にはうたわれやって、FGOやって、シンフォギアやって、AC7やって――。



1

その男はバルデルベで生まれた。

南米にある小国。

後進国ではあったが第二次大戦で敗北した某国の遺産を受け継ぎ軍部が政治を、国家を担う。

インフラや生活では苦しいところもある。

しかし軍事力に関しては大国にも勝ると宣伝していた。

実際密林のいたるところに防衛ラインが築かれており、研究所、工場へのスパイを幾人も退ける。

遺産と共に人材、錬金術が伝わり国を発展させる礎となった。

ブリル協会なる錬金術集団のもと、冷戦の構図を利用し外貨を得る。

陰で蠢く秘密結社に協力し経済崩壊に協力、莫大な報酬がバルデルベに流れ込む。

国は見違えるように豊かになった。

幼い頃の男は軍に入れば腹いっぱいに飯が食べられると考え、そこに飛び込んだ。

当時はまだ食事にも欠く有様。

自分が減る分家族兄弟の食費が減り、楽になるとも考えたからだ。

上官に見込まれ、軍学校に推薦を受け、入学する。

優秀な成績で卒業し、配属先でも功績を上げた。

部下からは尊敬され、妻や子にも恵まれた。

変わったのはいつからだろうか。

唐突に拡大政策を掲げる自国。

周辺国家を次々と併呑していく。

そんなことをすれば北にある大国を刺激し、国連の介入も受ける。

男は上官に陳情した、このままでは破滅してしまうと。

上官は自分にまかせろと言い、男に帰宅を進める。

その夜、家族と夕食を取る男の元に憲兵が訪れ、家族も含め男を拘束する。

喚く男に憲兵は、上官の名を出し、殺害されたことを告げる。

第一容疑者は男だった。

鉄格子の中で絶望する男。

そんな時彼女が現れた。

月明かりの元、こちらに手を差し伸べ、座り込みボロボロとなった男に声を掛ける。

「私たちと共に来ないか」

輝く銀を今でも覚えている。

「共に革命を成そう」

そうして今、男は――。

 

「やったぜ狂い咲きィ―――ッ!!」

空中に浮かぶ戦艦下部に備え付けられた砲塔より地上に向かって砲弾が降り注ぐ。

砲弾が着弾すると同時に粉塵立ち上げ、熱線が拡散し、地下研究部まで貫通する。

いまだ実験中の空中戦艦、フローティングキャリア。

武装の選択もままならず、あるものすべてを取り付けたハリネズミ(全方位対応)

砲弾の投射方法だけでも火薬式、電磁式、推進式、ばね式etc。

砲弾の種類もetc。

質量弾だけではない。

パヴァリア光明結社より開発された錬金術由来の高出力レーザーも放射される。

高度10000mから放たれる砲弾はその位置エネルギーを十分に受け、圧倒的な威力で地上を薙ぎ払う。

飛び跳ねる怪物に対して小型の対地ミサイルが殺到。

地上からも、充分に距離を取り、塔を包囲する機甲部隊からも規則的に集中砲火される。

だがこれほどの砲撃を受けてなお。

「艦長、目標いまだ健在。吹っ飛ばしても吹っ飛ばしても再生します」

「艦長、観測員より報告。徐々に効力が減少しています」

「対再生、対不死哲学干渉よーうい。併せて対物理減衰干渉搭載の推進式複合タングステン弾に武装換装。奴の防壁を丸裸にしてやれ‼」

より分厚く、より頑丈に。

高さを更新し続けすでに最長部は5000mを超える。

途中何度か同じ高度まで成長したときは真ん中からへし折ってやったが。

折れた二本、三本目も基礎に利用、太さを増している。

今度はそう簡単に折れない。

「末端に幾ら攻撃を加えても問題にはならないってことね」

「これだけの攻撃を加えてなお健在とは」

スーツを着た男、緒川が顔をしかめる。

日本国内で、不明な武装勢力がこれほどの兵器を秘密裏に国内に持ち込んだことはもちろん。

その運用についても急遽招集された首脳陣の会議は今だ答えは出ない。

しかし現場では刻一刻と状況が悪化。

暫定的ではあるが国家規模の特異災害に認定され、特異災害対策機動部二課に対応を任される。

この時点で二課司令官、風鳴弦十郎はシンフォギア装者を送らなかったことを失策と考えたが、同様の研究施設が日本国内に後二か所ある事を把握。

現場判断ではあるが錬金術師と共に共闘し、事態に対処を行うことを決定する。

研究所の内一つはすでに襲撃、カリオストロからの情報提供によりパヴァリア光明結社の錬金術師、プレラーティにより制圧されていた。

プレラーティの通信より、最重要破壊対象であった脳の破壊には成功するも。

局長の通信が間に入りディバインウェポンは逃してしまうことを聞く。

フローティングキャリア内にて通信を受け取ったカリオストロはプレラーティの局長への怒鳴り声を聞き流しながら考えを巡らせる。

この施設には自衛隊より部隊が派遣され調査、接収が行われる予定。

残る施設には特機部二からシンフォギア装者を派遣する事を聞くも、それは今現場にいる人員でこの怪物に対処しなければいけないということ。

統制局長と特機部二司令との電話会談では。

「大丈夫だろう。北海道なら任せても」

「そうか、ではその通りに」

と短いやりとりで終わってしまった。

弦十郎はアダムの言葉を、部下への能力と厚い信頼と考えたようだが、カリオストロにはそれがいつも通りの丸投げであるとはっきり分かった。

さらに悪い知らせとして、残った施設に侵入しているはずのサンジェルマンと連絡を取ることができない。

カリオストロが局長の通信を受け取った時にはノイズがあれど通信自体はできた。

サンジェルマンには局長の能力でも連絡が取れないそうだ。

事件の首謀者とされる風鳴訃堂には連絡がつかず、逮捕の為の情報集めをしている最中。

証拠がまとまり次第、逮捕状が出されるだろう。

「あなたが抱えていた少女はどうしましたか」

思考をまとめていたカリオストロに緒川が問いかける。

意識を切り替え返答。

「彼女なら医療用ポットに突っ込んだわよ」

「そうですか」

体中を負傷し、左腕を欠損した少女。

施設で相対した錬金術師が発していた融合症例。

何のことかと思えば、あの少女、聖遺物と融合している。

簡易医療施設で発覚した彼女の状態は緒川を通じ特機部二司令にも伝えられている。

融合している聖遺物がグングニールと知ると、こちらでもはっきりとわかる動揺が伝わった。

そしてそのグングニールこそが、この状況での切り札である。

哲学兵装ガングニールの持つ神殺しの力。

神殺しの槍であれば、神の力で動くあの怪物にとどめを刺せるから。

彼女の治療を終わらせ戦線に復帰させる。

私たちの役目は、それまでに怪物を押しとどめて、塔を砕き、中枢までの道を整える事。

民間人の少女を戦場に出すことには反対するものが多数であったが、無理やり押し通した。

最終手段は少女を砲弾に錬成して、戦艦から砲撃するしかないと言い。

それ以外は少女を抱えて中枢まで突っ込み錬金術で自爆させるしかない。

そう言ったら反対する者は口を閉口してしまった。

とられた作戦は少女を護送して中枢を破壊してもらう。

これしかなくなった。

仮に何らかな手段で他の神殺しを持つ聖遺物が輸送されたとしても、担い手が居なければ十分に効力は発揮しない。

今揃っているのはガングニールのみ。

代替品が見つかりしかも輸送時間が掛からない近場で発見、など希望的観測はできない。

「僕は彼女に付くことにします。彼女はただの少女ですから。司令部との通信は艦の機能で問題ないようですので、そちらからお願いします」

「ただの少女ねぇ」

訓練された武装職員を簡単に伸せて、物理でディバインウェポンを破壊するような少女がただの少女であってたまるか。あれはもっとこう、なにか頭のおかしいものと表現するべきだ。

「まあいいわ、いってら~」

私はいつもの軽い口調に戻した。

安全な場所で身内に囲まれたからか。

初めて見る私の態度にまじめな頃しか知らない人は船員から渡された飲み物を噴き出していた。

 

 

 

2

日が昇るまではまだ何時間もある。

そんな中、CICにアラートが響く。

「塔地下中枢より高エネルギー反応ッ。」

素早く反応する艦長。

声を張り上げて対応する。

「障壁展開ッ。同時に船首を下げ下降回避ッ。被弾予測面積を減らせッ」

すぐさま回避行動をとる戦艦。

塔に向かって一直線となる

塔全体が発光する。

下部から頭頂部に向けて赤く染まっていき。

「総員対ショック姿勢ーッ」

レーザーの照射。

無造作に放たれるレーザーにより戦艦の障壁がはじけ飛ぶ。

船内のコップやペンが転がっていく。

報告書には要固定器具か船室を回転できるようにと要望を書いておくか。

しかし、回避は間に合った。

船尾に焦げ跡を残して光は離れ、地球から出ることなく霞んで消える。

「第二射来ますッ」

「なにィッ」

一射目は回避、しかしその代償として連続の回避はできない。

何よりこの姿勢。

船首から船尾まで一直線になっている。

障壁は剥がされ再展開に間に合わない。

このままでは船体を貫通して爆散する。

モジュールを分解して回避する手段もある。

しかし切り札の治療は終わっておらず、この戦艦が戦線離脱してしまえば拡大する災害への対処すらままならなくなる。艦長の脳裏に家族の思い出が浮かぶ。

そして脳に声が聞こえた。(脳波ネットワークによる通信を受信しました)

「くッ、くくく。いいだろう」

笑い声をあげる艦長に指示を求める船員。

「主砲、用ー意ッ‼」

「了解ッ――」

戦艦の上部が左右に開く。

せり上がる巨大砲塔。

「ついでだッ、残りの弾もミサイルも全弾打ち込んでやれいッ」

閃光が迫る。

三、二、一。

「発射ーーーッ」

戦艦の主砲から発射される高出力レーザー。

苦しんで腹の物を吐き出すように。

閃光と一時均衡し、主砲が打ち勝った。

レーザーが塔の中心をくりぬくように突き進む。

そして戦艦は飛翔能力を失い墜落していく。

もともと実験艦。

動力部も完全には完成はしておらず代替品、主砲一発を打てば墜落は必須の代物。

あと何年たてば乗れるだろうか。

くつくつと笑う艦長は艦内放送をオンのする。

「総員退艦、脱出せよ。繰り返す、総員退艦、脱出せよ。見てろよ怪物め、非常識には非常識だ」

そうして塔の中を進む戦艦は全方位に砲撃を開始する。

各砲塔には非常電源が備え付けられている。

たとえ動力が止まったとしても継戦能力を損なわない為だ。

オート照準、オート装填、オート射出、自動化された砲塔から塔を内部から破壊すべく攻撃が開始される。

すべてを確認した後に、艦長は拳でボタンを叩き割る。

保護カバーは飛び散り、画面に映し出された外の光景は加速していく。

 

そうして退室する私の前に奴がいる。

互いに拳を突き合わせ意志を交す。

なんだ、まるで映画のようじゃないか。

 

 

 

3

墜落する戦艦が最後の力を振り絞る。

物理的な推進力を持って中枢に向かって加速。

各噴出穴より天に向けて炎が上がる。

機器の不調か燃焼が完全ではない為か。

外壁に時折船体をぶつけながらも潜航。

中枢は目前、巨大な肉塊が宙に浮いている。

その外壁には多数の人が張り付いており、心臓のような鼓動で振動している。

肉塊を浮かす支持には塔より肉柱が刺さっている。

エネルギーが収束。

レーザーの第三射目が放たれる。

防御手段はもうない。

船首から船尾まで閃光が貫く。

私たちは爆発する船内から飛び出した。

 

失った左腕を振りかぶり爆発の推進力を加えて墜落する。

歌が響く。

カリオストロの歌声と試作型の賢者の石が、エネルギーとなって響と重なる。

全身を(ファウストローブ)で覆い、術者(カリオストロ)すら考慮していない事態が発生する。

左腕から、身体中から金色の金属がせり上がり肉へと変化し左腕を再構築する。

欠片となったガングニールの完全励起。

聖遺物との融合。

不完全な賢者の石。

何が起きているかわからないが今は――。

 

「私は歌でぶん殴るッ」

 




狂い咲き艦長「勝ったな、ガハハ」
赤髪「なんか違うような」
NINZYA「ちょ、まだケガが治って――」
響「未来がやべー(受信)」

歌が足りないなら歌ってもらえばいいじゃないッ。
(一期校歌参考)


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