Roseliaと雇われサポート (ニックネームは忍者)
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序章 始まりは電話と出会いはギターの音から

Roseliaの漫画をモチーフにした物語です……序章に関してはオリジナルです。次から漫画を読んだ人には何となくわかると思います。


「…………そうですか、それは何よりです……いえ、自分は出来ることしかしてません。どうかお幸せに」

 

一つの小さいフロアのテーブル座る一人の少年。

 

固定電話を置いて、一息をつく。

 

「ふぅ……一人の学生に結婚の仲介させるのはどうかと思うよ」

 

一組のカップルがいるのだが、親が代々犬猿の仲で結ばれなかった。

 

そして駆け落ちする所まで来て、依頼が来た。まだ学生なのにそれを止めたのもこの少年であり、親の犬猿の仲を止めた。

 

「いや、勝手に仲直りだが……一件落着だからよしとするか」

 

少年は立ち上がり、窓際に立つ。

 

「困っている人を助ける……それだけで充分さ」

 

空を見ると青い空が広がっていた。

 

「さてと――」

 

 

 

 

 

 

―――♪―――♪―――♪~♪~♪~♪~♪

 

 

 

固定電話の隣に置いてある青い携帯から音が鳴る。

 

「携帯から?」

 

少年はテーブルに近付いて携帯を手に取る。そして着信相手を見る。

 

「…………」

 

 

少し、画面と見つめて、タップして携帯を耳に当てる。

 

「もしもし……久しぶり、かな」

 

 

少年――響鬼(ひびき)(あおい)は少し離れて置いてある楽器のケースを見詰めながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……ここはそんなに変わっていないな」

 

時刻は夕方、蒼は一人歩いていた。

 

「やっぱりここは――? ギターの音?」

 

何処からか、ギターの音が聴こえる。蒼は立ち止まり、音を聴く。

 

「――――――とても明確に弾いているギター……かなりの練習だな…だけど――」

 

下手ではない。上手な音……だがどうしてか気持ちのいい気分にはならない。蒼はそう感じた。

 

「(何かが欠けている。そんな音だな)……少し気になるな」

 

蒼は音の方向に歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……今日はこんな感じかしら」

 

私、氷川沙夜は誰も居ない公園で一人、ギターを弾いている。

 

本当はライブハウスか家で練習をしていますが、たまに公園で練習をしている。

 

「…………」

 

私は自分のギターを見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

私にはギターしかない……だからこれだけは――

 

 

 

 

「…………もう一度――――拍手の音?」

 

もう一度練習しようとしたら、何処からか拍手が聞こえてきた。足音も聞こえて私はその方向を見た。

 

「ずいぶん練習している音だ。それもかなりの……でもどうしてか寂しく感じました」

 

銀髪の男の人が近付いてきた。黒いズボン、上は白いシャツに青い上着を着ていた。チャライより真面目そうな格好で私よりも年上か同じ年に見えた。

 

「…………」

 

私は警戒していた。しらない男性にナンパしか見えなかった。

 

「失礼、僕は響鬼蒼、高校二年。ただの通り過がりの人だ」

 

「そうですか……私に何か用ですか」

 

私は冷たく言った。早く何処かへ行って欲しかった。

 

「とてもいい手と音だが、弾き手が一方的になってる」

 

「なっ!? 何を言って――」

 

「ギターが泣いている……ギターが可哀想だ」

 

私はその言葉に腹がたった。私はそんなふうに演奏をしていなかった。

 

「あ、あなた――」

 

「僕が弾いてやる。音はここに来るまでにだいたい頭に入っている……ギターを貸してくれるかな?」

この人は……1回聴いただけで私の音は負けない。

 

「えぇ……構わないわ」

 

私のギターを他人に貸すのは嫌だが私の音はそんな音では無いのだから。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

「…………君と同じ調整でこの音はどうだった」

 

彼女は驚いている。自信のある自分の演奏がどうやら僕の演奏に自信を無くしたと見るな。

 

「そんな…………同じ状態なのに、どうして……」

 

 

予想よりもショックだな。そんなにだったのか……

 

「練習も大事だが気持ちも大事だ。君はどうやら真面目だが力が入りすぎだ……もう少し肩の力を減らして、落ち着けば君の音はより一層良くなる筈だ」

 

「…………」

 

彼女はギターを見つめて黙っている。

 

「僕も素人だが君はもっと成長する……失礼した」

 

僕は彼女から離れる。僕の言い方はきついかも知れないが真面目彼女ならきっとすぐに立ち直ると判断した。

 

「…………?」

 

左手……いや、僕の左腕の服を彼女が掴んでいた。

 

「―――て下さい」

 

彼女の顔は俯いていた。

 

「すまない聞こえなかった」

 

最初の方が聞こえなかった。

 

「教えて下さい」

 

彼女は顔をあげて答えた。

 

緑……いや、水色の髪に瞳は黄緑の彼女が俺を見つめた。

 

「僕は素人だ。真面目な君なら自分ですれば出来る筈さ」

 

僕は彼女の腕を払おうとしたが先に彼女が動いた。

 

 

「私に……貴方のギターを教えてくださいッ!!」

 

 

 

 

 

――――――その時の彼女の気持ちがわからなかった。

 

 

 

「……わかった…連絡教えるよ。え~と――」

 

 

「紗夜……氷川紗夜です。響鬼さん」

 

彼女――氷川紗夜は安心した顔になった。

 

 

 

 

「こちらこそよろしくお願いします、氷川さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか、こうなるとは思わなかったな……

 

 

 

 

 

 

……………………これが僕、響鬼蒼と氷川紗夜の出会いだった。

 

 

 

 



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第一章 メンバー集めはライブハウス

第一章です、第二章は少しお待ちを……










 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待って待って友希那ーっ!」

「……何」

 

 

この日、同じ学校の今井リサと湊友希那は一緒に下校していた。

 

「今から新しくできたアクセショップ行くんだけど友希那も一緒に――「行かない」……え?」

 

「……アクセサリーショップには行かない。私は歌うこと、音楽以外のことに時間を使いたくないの」

 

リサは友希那を明るく誘ったが友希那はそれを冷たく断った。だがそれはいつものことだった。

 

「そっか……でもほらアクセショップがライブハウスの手前にあるんだよね♪だから途中まで行こうよ」

「……それならいいけど」

 

二人は幼馴染み、家も向かい合ってかなりの付き合いだ。

 

 

「やった! それに、今日なんでしょ?」

「…………えぇ、本当に来るのかわからないけど」

 

二人ともう一人、幼馴染みがいる。家は隣では無いがもう一人は男であった。

 

「それでも! アタシだって久しぶりに蒼に会うのは嬉しいよ!」

「来ていても先に着いている筈よ」

 

友希那とリサと蒼は幼馴染み。三人は親の関係から知り合っていた。

 

「でも……蒼がどうして? 今まであれだけ連絡も出来なかったのに……」

「さぁ……」

 

蒼はとある日に引っ越した。引っ越してからは会っていなく、連絡も出来なかった。

 

それがとある日、連絡が出来たのだった。

 

「でもホント…最近忙しそうだね毎日いろんなライブハウスに行って歌って……毎日出演してる訳じゃないんでしょ?」

「…………」

 

友希那は時々ライブハウスで歌を歌っている。その歌は誰もが引き寄せる歌でファンがいる。

 

だが、一人で歌って馴れ合いがない為、周りからつけられたのは『孤高の歌姫』であった。

 

 

そして、リサは友希那に前から聞いていたことを質問した。

 

 

 

 

「まだ…………バンドのメンバー探しているの?」

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

「(あこちゃん早く来ないかな…………人混み…苦手…)」

 

花咲川女子学園2年白金燐子は待ち合わせをしていた。彼女は控えめで人混みが苦手だった。

 

「(あれ? …少し……目眩が――)」

 

待ち合わせ時間の前から待っていたのだが時間も少し遅れていた。そのせいか燐子の視界がくらっときた。

 

「大丈夫ですか?」

「え?」

 

燐子が少しふらついてきて倒れそうになるが花咲川女子学園近くの高校生の制服を着た少年がそっと支えた。

 

「あ…えっと……」

「…………おっと、触れたのと同時に近付きすぎました。失礼した」

 

少年は響鬼蒼。蒼はライブハウスに向かっていた。

 

「い、いえ……ありがとうございます」

 

燐子は頭を下げた。蒼も頭を下げた。

 

「人混みが少し苦手のと待ち合わせ……かな」

「え?」

「それと……ピアノが弾ける指ですね」

「え!?」

 

蒼は燐子の姿と指を見ていた。

 

「ピアノを弾いている指に見えたのでつい……それも上手な音が出そうな指と見る」

「上手なんて……それよりもわかるのです、か?」

「まぁ……なんとなく、かな」

 

蒼は何処か誤魔化した言い方をした。

 

「す、凄いです」

 

燐子は本が好き。読んでいる小説に出てきそうな主人公に見えた。

 

「君の音楽も誰かと奏でるのも聴いてみたいな」

「え……」

 

蒼の言葉に燐子は驚いた。そして蒼は思い出したかのように言う。

 

「それよりも待ち合わせの人は遅れる子なんだな」

「いえ……今日はたまたまです」

 

燐子の顔は少し微笑んでいた。蒼は仲のいい友人と見た。

 

「そうか……いい友人なんだな」

「はい……少し変わっていますけど…」

「ん? (変わっている……俺も少し変わっている知り合いがいるが……そんなに変わっているのか?)」

 

蒼がそう考えていると小柄な子が近付いてきた。

 

「……遥かいにしえの時より我らと共に戦いし魔導士よ……」

 

「あ……」

「ん?」

 

蒼は後ろを振り返る。ツインテールの女の子が不思議なポーズと言葉を出していた。

 

「今宵火と闇の封印が解かれし暗黒の地にていざあいまえん…!」

 

「あこちゃん…」

「ほぅ…」

 

蒼は待ち合わせの人は彼女だとわかった。見た姿では中学生だった。

 

「(世間は狭い方だな)」

 

「……っ! キマッた!」

 

ツインテールの子は恥ずかしくないのか、またポーズを決めた。

 

「待ち合わせの人かな?」

「はい……こんにちわ、あこちゃん」

「お待たせっ! りんりん! …………? あれ? 蒼さん?」

 

ツインテールの子――――宇田川あこは蒼を知っていた。燐子は蒼を知らないがあこは蒼を知っていた。

 

「久しい振りかな、あこ。お姉さんのライブ以来だね……まさかまた会うとは思わなかったよ」

「蒼さん忙しいって言ってたから会えないかと思いましたけど、会えて嬉しいです! ……もしかしてりんりんをナンパですか?」

「あ、あこちゃん!」

 

あこは悪意がなく、聞いた。燐子顔を真っ赤にして否定していた。

 

「彼女が人混みで倒れそうになっていたところを声をかけた。それだけだよ」

「あ、そうなんですか。ごめんねりんりん待たせちゃったから……蒼さん、ありがとうございます」

 

蒼の説明にあこは頭を下げた。

 

「僕はたいしたことはしてないさ。お姉さんのライブ、時間があえばまた来たいかな」

「そうですか! お姉ちゃんに伝えます!」

「今度はあこのドラムも聴いてみたいな……それよりも二人は待ち合わせしてたみたいだが急がなくていいのか?」

 

蒼は二人の最後の用件を思い出させた。

 

「あ、そうでしたっ! じゃ行こっか!」

「あこ、ぶつかるぞ」

「え?―――」

 

どんっ!

 

 

あこは前を見ずに歩き出そうとしたが通行人のギターケースがぶつかった。

 

「…………ごめんなさい! ケースが当たってしまいました?」

「あ、全然大丈夫っ!」

「そうですか……? 響鬼さん?」

「こんにちわ氷川さん」

 

ギターケースを背負っていた通行人は氷川紗夜だった。二人はライブハウスで待ち合わせしていたがここで会う。

 

「それよりも氷川さん、時間にはまだ早いけどもう決めたかな」

「はい、決めました。私なりにけじめはします……それよりもお二人は響鬼さんの知り合いですか?」

 

紗夜は気になったのか質問をした。

 

「それは――――行きながら話すよ。それじゃあ邪魔したね、あこと……」

「あ、白金燐子…です」

「…………それじゃあ白金さん、今度は倒れないようにね。氷川さん、行こうかな」

「はい……失礼します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜は二人に頭を下げた。二人の背中を見詰めた燐子だったがあこが話し掛ける。

 

 

 

「ね、りんりん。あの女の人が持っているのギターケースだよね? バンドやっているのかなあ?」

「うん……でも、響鬼さんは――」

 

燐子はふと、蒼の事を考えた。ギターケースを持っていた人はバンドをやっている人だと考えるが蒼は何をやっている人なのだろうと……音楽に詳しい人に見えたが何者かがわからなかった。

 

「かっこいーっ! あこもバンドやりたい~っ」

「(バンド)……あこちゃんのお姉さん、バンドやっているんだもんね…」

「そうっ! そうなのっ! お姉ちゃんのドラムちょーかっこいいんだっ!」

 

あこは携帯で動画を見せた。あこのお姉さんもバンドのドラムを担当していた。

 

「見て見てっこれお姉ちゃんのライブの動画! すっごくかっこいいでしょ!」

 

あこはまるで自分の事のように喜んでいた。本当に自慢のお姉ちゃんなんだと燐子は感じた。

 

 

「うん…すごい…」

「でしょーっ自慢のお姉ちゃんなんだぁーあこもいつかお姉ちゃんみたいにかっこよくなるためにドラムの練習してるんだよ」

「そうなの? すごいね」

「えっへん!」

 

あこもドラムを叩いている。ドラムは体力を使うが小柄なあこもドラムの練習をしていた。

 

「でね、今日はりんりんにも見せたいものが――」

「(バンドかあ…わたしには想像もつかない世界)」

 

 

燐子は控えめで後ろ向きな自分がバンドをやっていることを想像をする。だがそんなことは自分には向いてないと考えた。

 

 

 

 

 

 

 

『君の音楽も誰かと奏でれるのも聴いてみたいな』

 

「…………」

 

 

蒼に言われた誰かとやる事もそれは楽しそうな気持ちになった。

 

 

 

「ねえりんりん聞いてる? 今日はどうしてもスケジュール厳守で行きたいのっ!」

「あっ……うん…」

 

 

 

ふと、蒼に言われた事を思い出した燐子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バンドのメンバーは当然探してるわ。今年のフェスに向けたコンテストのエントリーの受付はもう始まってる……条件は三人以上、今年こそはメンバーを見つける」

「でもさ、なんかそーゆーのって…」

 

大事なのは出場するだけじゃないと言いたいが友希那は言葉を続ける。

 

「私はやる……お父さんのために…リサだって知ってるでしょ」

「それは――」

 

 

 

幼い頃の友希那には笑顔があった。父親のバンド活動にとても喜んでいた。

 

大好きな父の為に歌の練習して、リサもベースを練習していた。蒼もいろんな楽器を見ていた。

 

そして友希那の父はメジャーデビューが決まった。

 

三人は喜んでいた。友希那の父のバンドはFUTURE WORLD FES.に出場して本格的に始まる……のだが、バンドは解散した……。

 

 

父の曲がアレンジされた。プロの編曲家に変えられた。もちろん反対したがプロのバンドは『趣味』ではなく『ビジネス』だと言われた。

 

『一人の大人として仕事をしろ』……その言葉に父の拳は壁にぶつけた。

 

 

数日後…

 

 

「あーあのバンド解散したんだ」

 

「最初はかっこいいーって思ったんだけどねー」

 

「去年のフェスで出した曲とかなんか超ビミョーだったよねー」

 

「途中から売れ線狙ってて冷めたわ~」

 

「アハハそれわかる」

 

 

 

 

 

 

――その時の事は今でも覚えている。

 

「(父さんのことを何も知らないくせに……!)私は必ず FUTURE WORLD FES.で父さんの…いえ、私の音楽で認めさせてみせるわ 」

 

「友希那……」

 

その時から友希那の笑顔は見ていない。

 

「(もうずっと―――)アタシも友希那のお父さんは辛かったと思うよ。でもだからこそアタシは友希那には音楽で辛い思いをしてほしくないんだよ」

 

「…………」

 

大好きな音楽を自分で壊したくない。リサも音楽に関わっていたからわかっていた。

 

「アタシも多少ベースやってたし、音楽の気持ちはわかるっていうか……友希那みたいにストイックじゃないし、高校入ってからはネイルでやめちゃったレベルだけどさー……あんまり追いつめないでほしいんだよね自分を……蒼だって――」

 

「私はただ自分のしたい事をしてるだけよ」

「でもっ!」

 

「私は真剣なのやるからには全てを賭ける。妥協のない完璧なバンドをつくるには“楽しさなんて”要らないわ」

 

友希那は求めている。全てを完璧にするためならば何かを無くしてでもやりとげることを……。

 

 

「友希那……」

「ライブハウス着いたからじゃあね」

「あ……」

 

友希那は振りかえずにライブハウスCiRCLEへと入っていった。

 

「相変わらず頑固だなぁ…ま、そう簡単にあの覚悟は変わらない事はわかってるけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……だから最後までその覚悟を見守るって決めたんだ…でも友希那、それって本当にお父さんの為になるの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……それは本当に友希那がやりたいことなの……? )」

 

 

 

リサは考えたが友希那を止める事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ……蒼、どうしらいいのかな?」

 

 

幼い頃、三人で過ごしてきた事を思い出した。あの時は笑って過ごしていた事を…。

 

 

 

 

 

 

 

『友希那の事……頼む…僕には無理だったよ』

『そんなっ! 蒼が居なかったらアタシ――』

 

『僕も少し考える時間が欲しい……だから頼む、リサ』

 

『蒼……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼……帰ってきてるなら友希那の事、お願いね」

 

リサは帰ってきた幼馴染みにお願いをした。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「蒼……何処に居るのかしら…」

 

ライブハウスのカウンター席で友希那はドリンクを飲んでいた。

 

 

「蒼の事ならバックヤードからでも聴いているかしら……でも、メールからは――」

 

『今日のバンドは楽しみだな』

 

この一言だけだった。

 

「何組みか聴いてるけど――?」

 

興味のない音たがらバンドの方は見ていない友希那だったがとあるギターの音に反応した。

 

友希那はステージの方に振り向く。

 

 

 

「(このバンド…ギターだけ上手くて、後は話にならない。バランスが悪すぎる…)」

 

とあるバンドメンバーの水色の髪の同じ年くらいのギターを弾いている女性を見ていた。

 

『最後の曲です…聴いてください』

 

「(でもあの子……あのフレーズが弾ける技術もだけど普通に練習して身につくレベルじゃない……一体毎日どれだけ練習を……それに土台になる基礎のレベルが尋常じゃない…………それに時々見せるあの指の構えと音と弾き方は…………もしかして――――)」

 

友希那は蒼の弾き方を思い出す。幼い頃から見てた彼の姿は目に焼き付けていた。

 

『……ありがとうございました』

「紗夜ーっ!!」

「最高ーっ!!」

 

 

「紗夜……間違いないわ。あの奏で方は――」

 

そう言って友希那は立ち上がって、バックヤードに向かう。時々声をかけられたが友希那は無視していた。

 

 

 

 

 

 

 

周りから何を言われても別に構わない……私はやるべき事をするだけ……だと…。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の身勝手な行動だけどそれが私とあなた達の為になるの……ごめんなさい」

 

「そう……何となくわかっていたけど、紗夜だけは違うってわかってたよ。紗夜の音は違っていたからね」

「私達も紗夜の為なら構わないよ。ありがとうね」

 

 

 

「……今でもありがとう」

 

 

紗夜は控え室から廊下に出た。

 

 

 

紗夜は今のバンドを抜けた。少し前の自分なら酷い言い方をしていたが今は少し優しい言い方をした。それはきっと蒼が教えてくれたからだと感じた。

 

 

「(今日はバックヤードから聴いてたみたいだけど……何処へ……)」

 

あの日からギターの事を時々教わっていた紗夜…連絡を取っているからライブハウスでギターを二人で弾く。蒼のお陰で自分は成長したがいまだに蒼の事はわかっていなかった。楽器もレンタルだけを使用していた。

 

 

 

わかっているのは自分と同い年で色んな音楽や楽器に詳しいこと。そして、誰かに会いに来た事だった。

 

「はぁ……」

 

自分でもどうしてかため息が出た。

 

 

ドンッ

 

 

紗夜は友希那とぶつかった。

 

「……ごめんなさい、考え事をしていました。すみません」

 

「さっきのあなた達のステージを見たわ。あなたのギターとても素晴らしかった」

 

紗夜は謝ったが友希那は気にせずに演奏の感想を言った。友希那は褒めたが紗夜はあまり嬉しい気持ちにはならなかった。

 

「(素晴らしい……)いえ、ラストの曲のアウトロで油断してコードチェンジが遅れてしまいました。拙いものを聴かせてしまって申し訳ありません……私のギターを教えてくれた人も気づいてる筈です」

 

「! (教えてくれた人……でも確かに彼女言う通り遅れたけど、一瞬の音で気にならない程度……『あれ』がミスなら相当の理想の高さ……もしかしたら…この子となら…)」

 

友希那は驚くのと同時に決めた。

 

 

「紗夜っていったわね、あなたに提案があるの」

「提案?」

 

「私とバンドを組んで欲しい」

「……え」

 

 

 

 

 

これが友希那と紗夜の出会いで、“始まり”でもあった……

 

 

 

 



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第二章 ドラマーはアレっぽい


どうでもいいけど“狩りゲー”楽しい~♪



お気に入りが出るのは嬉しいですが、評価も嬉しいですね。誤字報告ありがとうございます、助かります。

感謝します……それでは第二章です。


それよりも紗夜と関わらせる事が難しい……












 

 

 

 

 

 

 

「なんだろう…? 連れてきてもらったこのカフェ…入ってからずっと隣から音楽が漏れてくる…」

 

ライブハウスCiRCLEの隣になるカフェに燐子とあこが居た。燐子は隣から漏れる音楽を聴いていた。

 

 

 

 

 

 

「――――って、聞いてるりんりん?」

「あ、うん…聞いてるよ…あの、この音って――」

「気づいたんだねりんりんっ! じゃあなぞなぞだよ! このカフェの横にある建物は――」

 

そう言ってあこは隣の建物に指を差すが……

 

「ライブハウス……」

「え……」

 

先に言われて、あこは止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私と…あなたで?」

 

 

一方、友希那は紗夜をメンバーに加えようとしていた。

 

「……すみませんがあなたの実力もわかりませんし、今はお答えできません」

「私は湊友希那。今はソロでボーカルをしていて… FUTURE WORLD FES. に出る為にメンバーを探しているの」

 

その言葉に紗夜も理解した。

 

「そうですか……私も FUTURE WORLD FES.に以前から出たいと思っています。でもフェスに出るためのコンテストですらプロでも落選が当たり前…頂点と言われるイベントですよね 」

 

紗夜もそのイベントに出る為に努力をしている。だが簡単にはいかなかった。

 

「私もいくつものバンドを組んできましたが実力が足らず諦めていました……でも私は出たい。諦めずに私は出たい……ですからそれなりに実力と覚悟のある方とでなければ――」

「あなたと私が組めばいける。私の出番は次の次…聴いてもらえばわかるわ」

 

歌を聴いただけで組むか組まないか決めるのは簡単じゃない。紗夜はそう言おうとするが…

 

「ですが――」

「それよりもあなたのギター……いい弾き方してるわね。誰かに教わったの?」

「え――――はい……少し前、知り合った方から教えてもらってます」

 

突然、ギターの弾き方をきかれた。紗夜はその通りに答えが友希那は一瞬表情が変わった。

 

 

「そう――――――――蒼は相変わらずなのね」

 

「え……」

 

 

紗夜は友希那の表情よりも言葉……“蒼”の言葉に驚いた。

 

 

「私が音楽に対する覚悟がどの程度なのか……一曲でわかるから」

「……わかりました、一度聴いてから決めます」

 

紗夜は平常心になって答えた。

 

「いいわ…それで充分よ」

 

 

友希那は紗夜の側から離れていった。

 

 

 

 

 

「(湊友希那……蒼と言っていたけど、響鬼さんの事を? ……知り合いと言うより昔からの――――)」

 

「まさか、友希那から直接氷川さんに会いに行くとはな」

 

友希那が居なくなってから蒼が現れた。

 

「響鬼さん……知り合いの方ですか?」

「知り合いと言うか……幼馴染みだな」

「幼馴染み……ですか…」

 

その言葉に紗夜は少し妙な気持ちになる。蒼は疑問になったが今日の感想を言う。

 

「? ……それよりも今日の演奏はなかなか良かったよ」

「え……そうですか」

「少しテンポがずれていた場所はあるけど、気にしないし、前よりほんといい音だよ」

「そうですか……先ほどの話は聞いてましたよね」

「…………うん、聞いてたよ。どうするかは歌を聴いてからがいいんじゃない」

 

バンドを組む話は蒼にも聞こえた。紗夜は迷っていたが蒼はとりあえず歌を聴くことを言う。

 

 

「そうですか……響鬼さんは湊さんの歌はどう思いますか?」

「…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……友希那の歌は口では表せない……昔からね」

 

「それは――」

「僕からの感想より、直接聴いた方がいいよ。氷川さん、ギターは僕が持っているから場所を取りに行ったら? 友希那の歌は人が集まるよ」

 

「…………わかりました。ギターをお願いします」

 

紗夜のギターを蒼に預けた。紗夜も友希那の歌を聴きに向かった。

 

「友希那…………あまり、変わっていないな…僕も人の事は言えないか」

 

蒼は紗夜のギターを見つめると肩にかけて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でねっ! ついに見つけたの! あこだけの超っカッコイイ人!」

「そうなんだ…あこちゃん、カッコイイの好きだもんね」

「えへへっだからりんりんっライブハウス行こ?」

「…………え?」

 

 

あこと燐子もライブハウスに向かおうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(やっぱり友希那が気になって来ちゃった…)」

 

 

アクセサリーショップに向かったリサも幼馴染みの友希那が気になり、ライブハウスに来てきた。

 

どんっ

 

「あっごめんなさいっ」

「いえ…こちらこそ…」

 

よそ見をしていたリサは紗夜とぶつかった。

 

「(凄い熱気…こんなにファンがいるの? しかも押してるのに全然騒がない…みんなあの子の歌を待ってるみたい…あれ?)」

 

紗夜は自分がライブをしていた時より人が集まっていた。それだけ友希那のファンがいるのを理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「? あれ?」

 

リサは見覚えのある人を見つけた。その人もリサと目があった。リサはその人に近付く。

 

 

「蒼……だよね」

「もしかして……リサ?」

 

 

友希那と会う予定が先に蒼と会ったリサ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「りんりん!こっちこっち!」

「ここに居れば押されないからねっ……て、りんりん!?」

 

「人が……たくさん、うちに……かえ、りたい」

「りんりん顔がー!」

 

 

隣のカフェからあこと燐子もスタジオに来ていた。人の多さに燐子は顔を青染めていく。

 

 

 

 

 

「あの人、確か同じクラスの白金さん? 彼女もファンなの?」

 

 

紗夜と同じクラス燐子も来ていた。話したことはないが、知っていた。

 

 

 

『彼女の歌は口では表せない……昔からね』

 

 

「(あの時の響鬼さんの表情……幼馴染みと言ってましたけど……何かあったのかしら……!?)」

 

照明が着き、友希那のソロが始まった。

 

 

 

数分だけ流れる友希那の歌は誰もが引き寄せる歌……彼女の歌が場を空気を……全てを包んでいく。

 

 

「本当に彼女は――――」

 

 

紗夜は友希那の実力を知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に凄いね友希那」

「そうだな」

 

蒼とリサは久し振りの再会に話したいことがあったが友希那のライブが始まり、二人は聴いた。

 

「ねぇ蒼……帰ってきたことは―――あれ?」

 

リサは蒼に話し掛けるが蒼の姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだった? ……私の歌」

「なにも言うことはないわ……私が今まで聴いたどの音楽よりも……あなたの歌声は素晴らしかったわ―――――あなたと組ませて欲しい!」

「!!」

 

友希那のライブが終わって、控え室の方で紗夜は答えを出した。

 

 

「そして…… FUTURE WORLD FES.に出たい…あなたとなら私の理想……頂点を目指せる! 」

「……ええ!」

 

紗夜の言葉に友希那は二人目を見つけた。

 

 

 

「まさか友希那のメンバーに紗夜を迎えるとは……驚きだな」

「響鬼さん……ギターありがとうございます」

 

紗夜のギターを背負っている蒼が部屋に入ってきて、紗夜に返した蒼。そして友希那を見る。

 

「久し振りね蒼……あなたが紗夜にギターを教えていたのは驚きだわ」

 

友希那も無表情に蒼を見て答えた。

 

「―――――いい歌だったよ友希那……孤高の歌姫に相応しい名前だな」

「あれは勝手につけられただけよ」

 

友希那は呆れながら言う。

 

「そうか……それよりもそろそろ出るか。荷物をまとめてこれからの事を話した方がいいぞ」

 

蒼は二人の状況を考えて、話すことを提案した。

 

「そうね……そうするわ」

「はい……(響鬼さん、少し表情が変でしたけど…気のせいかしら)」

 

友希那がギターを教えてる時の言葉…蒼の表情は少し変化があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あなたと組めることになってよかったわ。もうスタジオに予約入れていい? 私、時間を無駄にしたくないの」

「同感ね。他に決まっているメンバーは?」

「いいえ、まだ誰も……ベースとドラムのリズム隊、それにキーボードは特に重要」

 

チームと言っても二人だけでは意味がない。まだまだ必要なことはある。

 

「あと三人も……だったら急ぎましょう。実力と向上心のあるメンバーを見つけて少しでも練習時間を確保して……」

 

「「最高のコンディションでコンテストに望まなきゃ」」

 

友希那と紗夜が二人同時にはもった。

 

「二人とも……本当に初めてか?」

 

あまりにも息が合うので蒼は笑った。

 

「初めてよ蒼……本当にあなたとはいい音楽が作れそう」

「……そうね。メロディはさっき聴いて貰ったのを私の方で詰めてみるわ」

「じゃあ私はその後のパートのベースを―――」

 

「友希那、僕がスタジオの予約を入れとくよ。後で連絡するよ(二人ともいいコンビかな……?)」

 

友希那から承諾を貰い、蒼は視線を感じて、前を見ると見覚えのある二人を見つける。

 

「(あれはあこと白金さん? あこが嬉しい顔をして、白金さんはおろおろしている……出待ちかな?)」

 

 

二人は出待ちをしている。友希那と紗夜は会話していて二人に気づいていなかった。

 

「あ、あのっ!」

 

あこは前に出てきて二人は気づく。

 

「あのっ! さっきの話は本当ですか! 友希那……さん、バンドを組むんですか?」

「……ええ、その予定よ」

 

その言葉にあこの表情が明るくなる。

 

「あ、あこっずっと友希那さんのファンでしたっ! 憧れてますっ! だ、だからお願いっ…………あこも入れてっ!」

「「!?」」

 

 

突然の言葉に二人は驚いた。

 

 

 

 

「まさかこうなるとはな……」

 

 

蒼は口ではこう言うが、内心は驚いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あこ、世界で二番目に上手いドラマーですっ! だからあこもバンドに入れてくださいっ!」

 

「(いきなりだが必要なドラマーが目の前にいるが……どう出るかな)」

 

 

突然目の前に現れて、いきなりメンバーに入れてほしいと、言われたら誰でも驚く。数秒後、先に口が動いたのは紗夜だった。

 

 

 

「ちょっとあなた、私達は本気でバンドを―――」

「遊びはよそでやって……私は二番であることを自慢するような人とは組まない」

 

紗夜の言葉に友希那が入り、断りを言いながらあことすれ違った。紗夜も後に続く。

 

 

「うぅ……」

 

落ち込むあこに蒼は近づく。

 

 

「(随分な言い方だな……友希那らしいか)友希那は疲れているから、また今度来たらいいよ。あこはこんな最初の所で諦めないだろ?」

「蒼さん……そうですね!」

 

あこの性格なら諦めない子だから蒼はこれでよしと判断した。

 

 

「(あこはこうでないとな)……僕も二人に話さない事があるからまた今度ね。白金さんもよければまたライブ来てね」

「は、はい……」

 

蒼も二人の背中を追いかけた。

 

 

 

 

「蒼さん……あこ、頑張るぞっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、あこは諦めきれずに毎日のように声をかけて、紗夜が毎日のように断っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……今日もダメ…なんで伝わらないのかなぁ……あこは本気なのに…」

 

あこはテーブルあるパソコンで燐子にメッセージを送る。

 

「あこちゃん……また断れちゃったの…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『言葉だけじゃ伝わらないのかもしれないね』

 

『? じゃあどうしよ?』

 

『あこちゃんや私が友希那さんの歌を好きになった瞬間みたいに音で伝えられたらいいのになって思った』

 

「音で……」

 

 

言葉よりも大事だがもっと違う伝えかたもあるとわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『わたしもあの歌を聴いたとき、すごいと思ったから……あの感覚は言葉だけじゃ上手く表せないと思う。バンドってそういう感覚で繋がるってことかなって』

 

「あ……なんかちょっとわかった…かも…」

 

あこはバンドをやっていないがあこのお姉ちゃんもバンドをやっている姿を見て、何となくわかるあこだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

「あ、おねーちゃんおかえり……」

「おっ今日も不発だったみたいだなあこだけのカッコイイ人とバンドやる作戦」

 

幼馴染み五人で結成したAfterglowの宇田川巴。ドラムの担当をしている。あこの姉であった。

 

「そーなのっ! とにかくギターの紗夜さんがすっごい防御力で……」

 

あこは毎回攻撃していたが紗夜によって、毎回防御されていた。

 

「紗夜さん……って……まさか湊さんと組んだって言うあの紗夜さんのことか?」

「え? おねーちゃん知り合いなの!?」

 

巴は二人のことは前から知っていた。

 

「あこが言ってたカッコイイ人って、湊さんだったのか……知り合いもなにもあの人はうちの高等部先輩でよく構内でもすれ違うよ」

「えっ! 湊さんって……?」

 

巴も羽丘学園高等部一年……友希那の一つ下の後輩である。

 

 

「友希那さんの名字。中等部とは校舎が離れているから以外と気がつかないんだな。しかもうちのダンス部のリサさんの親友だぞ湊さんは」

 

 

ダンス部の言葉にあこは驚いた。

 

「えー!! リサ姉の歌の上手い『親友』の話もあこ、よく聞いてるよ!」

「以外に身近に居るものだよな」

 

巴は笑いながら答えた。そしてあこは思い出したかのように言う。

 

 

 

 

 

 

「あ、それとおねーちゃん、蒼さんと会ったよ」

「えっ! 蒼さんに会ったのあこ?」

「うん、ライブハウスに……友希那さんとは前からの知り合いだったみたい」

「へぇ~蒼さんには前に世話になったからな。今度皆でお礼を言いたいよ」

 

少し前、Afterglowのメンバーは蒼に世話になった事がある。お礼を言う前に本人は去ってしまい、それ以降会えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三章 ベーシストは幼馴染み







題名と本編が結び付いていないと思うのは自分だけでしょうか……本編どうぞ















 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ! 友希那! 今の話ってマジッ!」

「本当よ、バンドを組んだわ。紗夜って子と……まだギターとボーカルだけだけど……コンテストに向けて新しい曲も出来上がってきてる」

 

 

この日のリサは朝から驚いた。友希那がバンドを組んだ事を耳に届いたのだった。

 

「そっか……(蒼も帰ってきたし、こんな日が来るとは思ってたけど……本当にきちゃったか)」

 

友希那の性格を考えるとすぐにメンバーが決まるとは思わなかった。蒼が帰ってきて、何か起こると思っていたがこうも事が起きたのだ。

 

「友希那がついにバンド始動かあ……蒼がいなくなってからアタシ以外つるまないで一人でいるからさ、これでも結構心配してたんだよ」

「リサ……」

 

蒼と三人で遊んで過ごしてきた三人。蒼がいなくなり、友希那はリサとしか過ごしていなかった。

 

「でも私は本気だから……私もその子も FUTURE WORLD FES.に出たい目標が一致したから組んだだけよ 。それにこれはお父さんの―――」

「わかってるよ、目的は置いといて……アタシは嬉しいよ。友希那と一緒に練習してくれる仲間ができたってことだしさ……でもさどーすんの? FUTURE WORLD FES.のコンテストって三人以上が条件じゃなかった? 」

 

 

友希那は訳があり、バンドを始めた。リサはそれを応援する。

 

「…………リサは私がバンドを組むことを止めないの?」

「…………」

 

友希那は正直、リサが止めに来ると思っていたがリサの答えは反対だった。

 

「……友希那はアタシが止めたらやめるの?」

「リサ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆ、ゆ、ゆ……友希那さんっ! お願いしますっ!」

 

二人は学校から出て会話していると、あこがやって来た。

 

「あなた、学校にまで―――同じ制服?」

 

あこの服装は羽丘女子学園の制服だった。

 

「はい! 友希那さんっ! 実は中等部にいました、宇田川あこですっ!」

 

あこは敬礼しながら言った。

 

「あれ? あこじゃん! どしたの?」

「……リサ…知り合いなの?」

 

リサが知り合いの事に友希那は反応する。

 

「うん、ダンス部の後輩で―――「お願いします! 絶対いいドラム叩きます! お願いします!」……話が見えないんだけど……」

 

リサはあこのアタックを初めてみる。だから友希那のメンバーに入りたいのは今日知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女はドラムをやっている宇田川あこ……友希那のバンドに入りたいのだがいつも断られている子だ」

「蒼!? どうしてここに!」

 

三人の所に蒼が来て、リサは驚いた。蒼の服装は学校の制服姿で学校帰りに見えた。

 

「やぁリサ、この前はごめんね。少し急ぎがあったから」

「蒼の事だからわかっていたけど……今日はどうしたの?」

 

リサも蒼が何かしら理由があるのを察したのだった。

 

「今日は友希那とここで落ち合う話だったんだよ。それよりもあこ、今日はどう言ったお願いかな」

「あ、そうでしたっ!」

 

友希那から連絡があり、待ち合わせをした蒼。近くに来たときにあこが居たので目的の事を言う。鞄から何かを取り出した。

 

「……どうしたらあこの本気が伝わるのか考えて……友希那さんの歌う曲を全部叩けるようになって来ました! いっぱい練習して、だからその…………お願いします! 一回だけ……一回だけでいいから一緒に演奏させてください!!」

 

あこは紙を前に出してお願いしてきた。言葉よりも違う伝え方を考えたのだ。

 

「……それでダメだったらもう諦めるから」

「…………何度も言ってるけど遊びじゃないの」

 

友希那から見ればあこは遊びに見えたのだ。でまあこも本気で挑んでいた。

 

「まぁまぁ友希那、いいじゃん一回くらい一緒にやってあげなよ」

「……私にはそんな時間はない」

 

リサは後輩のあこの本気は伝わっている。友希那に何とかしようとしているが友希那は相手にしない。

 

「…………」

 

蒼も何とかしたいのと、メンバー探しにはあまり時間をかけたくないのとあこの事はわかっていた。蒼は少し背中を押す。

 

「あこ、少し借りるぞ」

「は、はい…」

 

蒼はあこが取り出したスコアを見る。少し眺めて、蒼は言う。

 

「ボロボロになるくらいに練習したんだな。しかも何度も……ずいぶんな努力家と見れるよな、友希那」

「…………っ」

 

実力も大事だが努力も大事……友希那もそこはわかっていた。

 

「あこの事は同じ部活で見てきたアタシが保証する。やるときはやる子だよ! 数分だけでもチャンスをあげるくらいは良いんじゃない?」

「でも……」

 

リサも援護して、蒼はとどめを言う。

 

「あこのドラムは一度は聴いてみたいな……駄目ならドラム決めの参考にもなるぞ、友希那」

 

あこのドラムは聴いたことはない。参考の言葉に友希那は言葉を返せない状況にした。

 

「蒼…………わかったわ。でも一曲セッションするだけよ」

「!! ほ、本当ですか!? やったあっ!」

 

友希那は折れて、許可を出す。あこはとても喜んでリサに近づく。

 

「リサ姉ありがとうっ!」

「やったね! あこ」

 

二人を見て、蒼も安心した。

 

「よかったな、あこ」

「蒼さん! ありがとうございます!」

「だが受かっていないし、一回勝負だぞあこ」

「はい! あこは頑張ります!」

 

 

そんな会話をしていると、リサは友希那に話し掛ける。

 

 

「ねぇ友希那! アタシもセッション見学していい?」

「別にいいけど…………どうしたの急に? スタジオなんて随分来てないのに」

「ど、どうって別に……ライブハウス以外で歌ってる友希那もたまに見たいじゃんっ! それに紗夜って子がどんな子なのか気になるしさ」

 

リサはしばらくライブハウスに来ていないのもそうだが、リサは少しおどおどしながら話していた。

 

「そう……好きにしたら」

「やったっ(変だなアタシ……今まで遠くから見ているだけでよかったのに……なんでこんなに友希那のバンドが気になるんだろ)」

 

「……………………」

 

 

 

その姿を蒼は見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「懐かしいなぁ、このスタジオーって感じの空気! 最後に入ったのは中2の夏休みだったっけ?」

 

リサは中学のあの日から音楽から離れていた。かなりのブランクがある。

 

いつものスタジオにメンバー以外に二人増えたことに紗夜は驚いていた。

 

「あの……湊さん、この人達は?」

「あいさつが遅れちゃってごめんね! アタシは今井リサ、友希那と蒼の幼馴染みで今日は見学に来ましたっ!」

「は、はい(明るい人……響鬼さんに二人の幼馴染みがいたんですね)」

 

リサの紹介の後にあこも自己紹介をする。

 

「宇田川あこですっ! 今日はドラムのオーディションをしてもらいに来ましたっ!」

「……オーディション?」

「ごめんなさい二人が……いえ、私が彼女のテストを許したの」

 

オーディションの言葉に紗夜は頭を傾ける。友希那の許可もそうだが蒼も言う。

 

「すまない氷川さん、部外者の僕が勧めたりして」

「……響鬼さんが勧めるのなら、実力がある方なんですね」

 

困っていたが蒼が進めたのなら、紗夜は別に断るどころか能力がわかってきた。

 

 

「僕もあこのドラムは初めてだが気になってな……友希那はどう思う?」

「……努力はしているらしいわ。勝手に練習時間を使ってごめんなさい、5分で終わらせるから」

 

友希那は謝ったが紗夜は別に構わない顔をしていた。

 

「いえ、湊さんの選出なら構いません。ただ少し意外です。あなたはどんな形であれ、音楽に私情を持ち込まない人だと思っていたから」

「その価値観はあなたと合致しているつもりよ。実力がなければすぐに帰ってもらうわ」

 

「はいっ! わかってますっ!」

 

プレッシャーがある言葉だがあこのやる気は入っていた。

 

「リサ姉! あこ絶対合格するように頑張るからっ」

「そうだね! あこファイトっ!」

 

リサからの応援を貰い、何時でもできる状態だが友希那は紗夜に確認をとる。

 

「二人とも準備はいい?」

「できればベースもいるとリズム隊として総合的な評価ができるんだけれど……」

「そうね……でもこればかりは仕方ないわ」

 

評価もしたいがそれでも足りない事があった。

 

 

「(ベースか……なら――)」

 

蒼はリサの方を見るが、リサから行動していた。

 

「あ、あのさっ! アタシ弾いちゃ駄目かな?」

「リサ……」

「えっリサ姉ベーシストなの!?」

「昔ちょっとね…誰もいないならアタシが弾くよ! 待ってて! ベース借りてくるから!」

スタジオから出て、数分後リサはベースを借りて来た。

 

「湊さん、今井さんは本当に弾けるんですか?」

「譜面で一通り弾くことは今でも出来る……と思う」

「一通り……ね」

 

紗夜は友希那にリサが出来るのか確認した。友希那もリサの昔の音は知っている。一通りの言葉にリサを見る。

 

「ん? ………… このネイル? 大丈夫大丈夫! アタシ指弾きはしないから」

「スタジオの、備品ですから変な弾き方をして楽器を痛めないでくださいね」

「はーいっ!」

 

リサは手を上げて返事をする。蒼はリサの指を見る。

 

「それにしてもリサの指は綺麗だな」

「えっ!?」

 

いきなりの言葉にリサは驚く。

 

「どうした? ネイルしてるのもいいが……僕的にはリサはネイルを外した指の方がリサらしくていいな」

「あ、蒼……昔から知ってるけど、よく言えるよね」

 

蒼は恥ずかしくないのか真っ直ぐな言葉にリサは顔を赤くする。

 

「…………」

「? 氷川さん?」

 

紗夜は蒼を見ていた。視線を感じて紗夜の方を向く。

 

「いえ、何も……私はあくまで宇田川さんのテストなら問題ありません。皆さん、準備はよろしいですか?」

「蒼……感想聞かせてね」

「わかっているさ友希那、いつでもいいぞ」

 

蒼は椅子に座って、意識を耳に集中した。

 

 

 

 

 

「それじゃあいくわよ!」

 

そして演奏をしたが、それは初めての事だがそれは初めての事じゃないかのように流れてきた。

 

「「―――――!!?」」

 

皆も驚いて、自然に指が触れていた。

 

「(!? なに……? この感じ…)」

 

流れる音をいい歌声に変えてくれる友希那。

 

「(見えない力に引っ張られるみたいに……指が!)」

 

いつもよりも体が軽く、指が自然に動いていく紗夜。

 

「(え……!? しばらく弾いてなかったのに…)」

 

しばらく弾いていないのにまるで昨日みたいに弾いていくリサ。

 

「(凄い……練習の時より上手に叩ける!)」

 

体力を使うドラムが簡単にできているあこ。

 

「(流石に驚くな……)」

 

友希那、紗夜、リサ、あこも違う感覚になっていた。蒼も驚いていた。

 

 

「(……個性あってバラバラに見えてもそれがパズルのピースの形をしていてそれが綺麗に形が出来ていく…………気持ちが重なっていくな)」

蒼は気付かれないように鼻歌を歌っていた。

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…………」」

 

 

 

演奏が終わり、音が止むが誰も口を開けなかった。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……さっきから―――」

 

流石に困ったのかあこが先に喋るが―――

 

 

 

 

 

パチパチパチパチ……

 

 

蒼が拍手をしていた。そして蒼は言う。

 

 

 

「友希那……結果は?」

 

「そ、そうだったわね……合格よ…紗夜の意見は?」

「…そう、ですね……私も同意です」

「!! いやったぁー!」

 

蒼の言葉に友希那は我に返って結果を言う。紗夜もどうやら同じ状態だった。あこも合格の言葉に喜んだ。

 

蒼は皆を見ながら感想を聞く。

 

「……皆はどう感じたかな?」

 

「なんか……すごかった! 初めて合わせたのに勝手に身体が動いて……こんな感覚初めて……!」

「あこも思ったんだ! なんかすっごくいい感じだったよね」

「そうですね…これは……」

「……技術やコンディションだけではない……その時その瞬間にしか揃い得ない奏でられる『音』」

 

誰もが言葉では表せない状態になっていた。

 

「友希那が言うのはミュージシャンの誰もが体験できるものではない『感覚』……雑誌で書いてある言葉だけど」

「えぇ……今のは間違いなく…」

 

迷信にあるものが目の前にある……そう感じていた。

 

「なんかそれってキセキみたいっ!」

「うんっマジックって感じ?」

「そう、ね……そうとしか思えない…皆さん貴重な体験をありがとう。宇田川さん、これからよろしく」

「はーいっ!」

 

紗夜の言葉にあこはメンバーに加わった。

 

「あとはベースとキーボードのメンバーね」

「え? ベースならリサ姉がいるのに!」

 

確かにボーカル、ギター、ドラムが決まったがベースとキーボードがまだいない……そんな中、あこはリサをベースと言う。

 

「えっ!? いやアタシはその……ヘルプで弾いただけで…」

「今井さんはあくまで宇田川さんのオーディションに付き合うために弾いただけ……ですよね」

「でもバンドメンバー探してるんだよね? こんないい演奏ができたのになんでメンバーにしないの……?」

 

リサはあくまでヘルプの為。紗夜の言う通りだがあこの言う演奏は素晴らしかった。

 

「いい演奏だったよリサ、ほんとにベースは弾いていんじゃないのか?」

「え、アタシはしばらく弾いていないよ」

 

リサは本当にしばらく弾いていないようだった。蒼は友希那を見る。

 

「そうか……友希那はどうだった? メンバーとしてはどうだ?」

「……技術的にはまだメンバーとは認められないわ」

「!?」

 

友希那はまだ認めていなかった。友希那の言葉はまだ続く。

 

「ただ…………足りないところはあるけど今のセッションは素晴らしかった。紗夜もそれは認めるでしょう?」

「確かに今の曲だけに限れば…よかったですが……」

 

紗夜は考えすぎなのか頭が固かった。

 

「氷川さんは少し考えすぎだ。いい演奏だったぞ、正直驚いた」

「響鬼さん……ありがとうございます」

 

蒼は感想を言う。驚いたのは本心、ここまでになるのは予想がつかなかった。蒼の感想にあこは言った。

 

「ならバンド組もうよ! この四人で!」

「…………そうね、リサもそれでいい?」

「え? いいの? ……マジで?」

 

友希那からの言葉にリサは問いただすと友希那は頷いた。

 

「おめでとうリサ」

「蒼……ありがとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

『でね! あこもリサ姉も加入することになったの! 今日のことは一生忘れない!!』

 

『オーディション合格おめでとう! あこちゃんの努力が認められたんだね』

 

あことリサがメンバーに入った夜、あこは燐子とチャットをしていた。

 

『うん、努力はしたけど……でも努力だけじゃないかも!』

 

『どういうこと?』

 

『曲が始まったら勝手に身体が動いたの! リサ姉もマジックって言ってた! 友希那さんも言って、みんな同じに思ったんだよ! 凄くない!!』

 

『そんなことがあるんだ…バンドってすごいね』

 

『バンドはやっぱり最高! ずっと一人で練習してたから超感動しちゃった! みんなで演奏って楽しすぎる!』

 

話を聞いているだけであこはとても楽しんでいることを感じた燐子。それと同時に昔を思い出す。

 

 

「みんなで……昔から一人で弾いてるピアノは大好きだけど……誰かと一緒なんて…わたしは……考えたことない」

 

 

『みんなで集まるとキセキを感じるの!』

 

燐子のピアノは一人弾いて、周りに聴かせていた。誰かと一緒に弾いたことも無かった。

 

 

 

『バントはきっと成功するねわたしも応援する!』

 

『ありがとう! りんりんも何か音楽始めてみたらこの感じわかるはず!』

 

 

このメッセージに燐子は反応した。

 

「あ……あこちゃんに、ピアノの話したことなかったな」

 

燐子は幼い頃からピアノをしていた。今でも時々弾いている。

 

『バント名まだ決待ってないんだけど……りんりん何がいいと思う?』

 

そしてとある人に言われた事を思い出した。

 

「響鬼さん……わたしも―――」

 

『あれ? おーいりんりん? もしかしてもうゲーム インした? なら我も出陣するのでしばしば待たれよ!』

 

あこからメッセージに燐子は我に返り、返事をする。

 

『まだインしてないよ。その前にあこちゃんのバンドの話を聞いたらダメかな?』

 

『任せよ! 今宵は一晩中語り明かそうぞ!』

 

『ありがとう嬉しい』

 

 

ゲームも楽しいが今日は違う感覚が生まれた。

 

「バントの話…不思議だけど……聞いてるだけで…すごく楽しい……!」

 

 

 

 

 

 

 

近い先“披露”されるのは別の話……

 

 

 

 

 

 



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第四章 それぞれの想い……雇われは支えるだけ




もしRoseliaメンバーを童話に例えると何がいいでしょうか……それでは第四章です。









 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(今日のセッション……不思議な体験だったわ」

 

紗夜はスマホを見ながら、四人で演奏をやった時を思い出していた。あの時は不思議な体験だった……初めてとは思えない演奏だった。

 

「(いえ……あの日、響鬼さんに会ってから―――)」

 

友希那と出会う少し前……公園で一人演奏していた時に蒼と出会った紗夜。二人でギターの事を語り合い、時に一緒に弾いていた。

 

それが始まって今に至っていた。

 

「(あの頃より断然上手くなってきている。お陰でいいバンドに入っている)」

 

蒼からギターを教わり、お陰で目標には近付いていた。だがわからないこともあった。

 

「(響鬼さんはどうしてあんなに音楽には詳しいのかしら、ギターを弾いている手……わかっているのは幼馴染みの湊さんと今井さんがいることぐらい)」

 

本人に直接聞けばいいのだが、練習に集中していて、聞けずにいた。

 

「(今度、直接―――)」

 

「おかえり~……? おねーちゃん何見てるの?」

 

紗夜の部屋に入ってきたのは羽丘学園高等部二年生氷川日菜……紗夜の双子の妹。

 

そんな日菜は紗夜の側による。

 

「日菜……スマホ覗き込まないでっていつも言ってるでしょ」

「何のサイト? ……FUTURE WORLD FES.? ロックのイベント?」

「! …………これは私のことで日菜には関係ない」

 

紗夜は冷たく日菜に返した。

 

「……そっか……じゃーあさ、リビング行かない? おねーちゃんの好きなわんこの番組お父さんが見てるよ」

「録画してあるから後で見るわ。今忙しいの……だいたい日菜は別に好きじゃないでしょ」

 

紗夜は犬が好きだ。日菜は別に犬好きではない。

 

「でもおねーちゃんは犬好きじゃん? あたし達双子じゃん? 何かしても―――「いつもあなたは一緒のことばかりするじゃない」―――! おねーちゃんあたしは……」

 

「同じ日に生まれて私の方が少しだけ先に生まれたからってなんで同じことをされないといけないの?」

 

紗夜が先に始めた事は後からも日菜も始めた。そして紗夜が努力してきた事を日菜は簡単にこなしていた。

 

「……もう高校生なんだからお互いに干渉しないって約束したでしょう……自分の部屋に帰ってちょうだい……私は練習があるの」

「わかった…………あの…ごめんね?」

 

日菜は謝って、部屋から出ていった。

 

「(『フェス』のことが日菜に知れたら私の真似をして必ず自分も出ると言ってくる……そして今までしてきたように私の努力を軽々と才能で追い越していく……比べられるのはもうたくさん)」

 

紗夜は拳を握る。

 

「(響鬼さん―――必ず頂点へ……獲ってみせる!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~なんか驚きの展開だよね! 友希那とバンドか~うんっアタシ頑張んなきゃ!」

「……蒼も言っていたけど、あの時のセッションの勢いもあったけど私たちの意見に従う必要はないわ」

 

次の日、友希那とリサは昨日事を話していた。リサもメンバーに入るとは思わなかった。

 

「んでもさアタシ……友希那をほっとけないから。アタシには友希那を一人にさせないって使命があるからね、だからバンドもやる」

 

リサはバンドに私情を持ち込んでいた。

 

「バンドはそういうのとは関係―――」

「うん、バンドはバンドでいい……アタシはそんな友希那の近くにいたいの」

 

……いつか友希那が昔みたいに笑えるようになるまで……

 

 

「それだけだからさっ!」

「………………」

 

リサは笑顔で言う。友希那何も答えなかった。

 

「……ついてこられなくなったら幼馴染みでも……抜けてもらうから」

「はーいっ! 練習頑張りまーすっ!」

 

リサの言葉に友希那はこれからの事を話す。

 

「バンドメンバーが揃ったら FUTURE WORLD FES.出場のためのコンテストに出る。それはちゃんとわかっているの?」

「うん…そうだね……わかってる」

 

友希那の瞳は暗くなる。

 

「メジャーで『売れる音楽』を強要され苦しんでいたお父さんを『今の君達の音楽は要らない』と切り捨てたあのフェス……お父さんはそのせいで音楽を止めた…………ずっと憧れていたステージに拒まれて…だから絶対に失敗は許されない―――――許さないから」

 

 

 

 

 

 

 

友希那の目的は変わらない。その言葉にリサは複雑な気持ちになる。

 

 

 

 

「アタシはブランクあるし……みんなより技術もなち……でも頑張るよ(友希那がそんな顔をしているうちは離れるわけにはいかないから)」

 

「……なら、好きにして」

「うん!!」

 

リサは友希那の事を支えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ! 友希那さん! ……と、リサ姉! 今日も練習よろしくですっ!」

「やぁ友希那、リサ」

 

 

二人は校門に向かっているとあこと蒼が待っていた。

 

「やっほー蒼~あこ~。最近あこの顔を見ない日はないかも?」

「ダンス部も一緒だしねっ」

 

二人はイエイと言いながら手をはいタッチする。

 

「…………?」

 

蒼はリサの指の見る。

 

「一緒に踊って演奏して友希那さんの歌の力になるっ」

「ちょっとちょっと……アタシ達はバンドは踊らないよ。 ま、スタジオ行こっか~」

 

「私は先に行くわ」

「「ええっ!?」」

 

「……すまないな、氷川さんも待っているからな」

「蒼(さん)もっ!?」

 

二人の会話を無視して友希那と蒼は先に歩き始める。

 

「先もなにも行き先一緒じゃん!」

「待ってくださいっ!」

「…………」

 

無視する友希那に二人は左右から挟んだ。

 

「並んで歩くくらいいいでしょ?」

「そうですっ! いーでしょ?」

「……はぁ~わかったわ……なら少しは蒼みたいに静かにして」

「「やった! いえーいっ!」」

「あなた達を加入させたのは早計だったかも…」

 

二人は「そんな~!」と、言う。

 

「リサ」

「どうしたの蒼? もしかしてアタシ達の中が羨ましいのかな?」

 

リサは冗談を言いながら話す。蒼はため息を出して呟く。

 

「…………指は大丈夫か」

蒼は目を細目ながら言う。あこと友希那も指を見る。

 

 

「リサ姉その指どうしたの!? ネイル……全部はがしてボロボロだよ!」

「!!」

 

あこが驚いたのはリサの指のネイルが無くなっていたこと。全て剥いだせいで一人の女の子の指が傷ついていた。友希那も気づく。

 

「い、いや…これはその…………ほら? イメチェンイメチェン! ネイルするだけがギャルじゃないし? 爪からシフトチェンジってゆーの?」

「…リサ姉…もしかしてベースを弾くために?」

 

あこの言う通り、ベースを弾くためにしたこと……蒼も勿論気づいている。あこの顔は暗くなるがリサは話題を変える。

 

「そんなことよりさっ! あこ! 練習終わったらクレープ食べない? あの裏通りにできたとこ!」

「クレープっ!! 知ってる! いっつも混んでるとこだよねっ! 行く行く!」

 

 

リサはネイルの事を誤魔化し、あこは一人先に走り出した。リサも走り出そうとしたが友希那に止められる。

 

「……リサ、ネイルをとるは正しいわ。でもペースは守らないと指を壊し―――「わかってるってば!」…………」

 

リサは笑顔で言う。そんな友希那に言葉が出なかった。

 

「友希那も一緒に…って行かないかぁ…アタシ生クリーム増し増しでいこっと!」

 

リサはあこの背中を追いかけた。

 

「…………」

「友希那、大丈夫か」

 

立ち止まる友希那を蒼は声をかけた。

 

「別に……普通よ」

「そうか……リサは昔から友達思いだからな」

 

そう言って二人は歩き出す。友希那は気になっていたことを言う。

 

「蒼……ギターは弾いてるの?」

「どうした突然」

「紗夜にギターを教えてたから……違うの?」

「……」

 

蒼は少し返答に困った。

 

「氷川さんが僕にお願いしたからだよ。ギターは氷川さんのかレンタルしか弾いてない」

「そう…………私達の前では弾いてくれないかしら」

「…………今は別に問題ないだろ。それよりも時間が減るから少し急ぐぞ……二人が先に行ってるぞ」

「…………」

 

蒼は少し早足になって歩き出す。友希那は蒼の背中を見る。

 

 

 

 

―――紗夜と組んでからは蒼がマネージャーに近い手伝いをしてくれている。勿論今でも……特に皆からは違和感がなく、とてもありがたい存在だ。

 

 

「私やリサの前ではギターを弾かないのね……」

 

蒼は耳がいいので第三者からの感想や指導もしてくれる……それはいいのだが……

 

「…………」

 

 

友希那は複雑な気持ちなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~疲れた……」

「みなさん、少しいいですか」

 

ライブハウスで練習を続けた。しばらく続けてかなりの時間を費やした。そんな中、紗夜は言う。

 

「オリジナル曲がまとまってきたので課題曲を増やそうと思います」

「……バンドの底上げには最適なリストだと思うわ。来週までに全員練習してくること」

 

「ク…………」

「クレープ……」

 

「また今度だな」

「……?」

 

紗夜は首を傾ける。紗夜と友希那の底上げ練習にクレープは無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『って感じでまだちょっと怒られはするけど認められるようになってきた!』

 

『バンドとしては息が合ってきたんだね。あこちゃんのドラムもどんどん上手くなってるんじゃないかな』

 

『ふっ……これくらい造作もないことよ!』

 

この日の夜もあこと燐子はチャットをしている。

 

「ふふっ(最近はバンドの話に一色……本当に楽しいんだ…)」

 

それを読んでいると燐子も楽しさが伝わってきた。

 

『では特別に我が同朋、りんりんにだけ演奏中のバンドを見せてしんぜよう』

 

「え? 動画? ……あ、開いた―――!!」

 

練習風景の動画が流れた。

 

「(すごい……あこちゃんが友希那さんと……)」

 

この前のライブで友希那の生を聴いたが録音でも伝わる。

 

『ありがとう、すごいね! 全員でひとつの音楽を作り上げてる……みんなでってこういうことなんだね!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

『あこちゃん?』

 

あこからの返事が来なくなった。

 

 

 

 

 

 

 

「(あこちゃんが自分からチャット落ちるなんて初めて……何かあったのかな…………それにしてもこの動画)」

 

燐子はしばらく動画を眺めた。

 

「(なんだか身体が引き寄せられる感じがする……たとえば、もし―――――わたしのピアノをあこちゃんのドラムのように友希那さん達の演奏に重ねたら…………どうなるんだろう…)」

 

 

燐子は側に置いてあるピアノを開いた。

 

「(……動画に合わせてピアノを少しだけ……少しだけ…弾いてみたら―――)」

 

 

動画から流れてくる音を燐子が奏でるピアノと合わせた。

 

「!!? (なに…これ……わたし……ずっと前からこうやって……)」

 

 

『君の音楽も誰かと奏でる音を聴いてみたいな』

 

「(―――すごく…楽しい……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も疲れたぁ~」

「アタシも~」

 

「ちょっと……宇田川も今井さんここは通り道なんだからダラダラしないで」

 

ライブハウスCircleで練習を終えて、受付で次の予約を入れようとしていた。

 

「すみません、次回の予約いいですか」

「毎度どうも友希那ちゃん。……響鬼君もこんなに女の子引き連れて、この色男め!」

「何を言っているんですか、まりなさん…… CiRCLEより別のライブハウスに行きましょうか」

 

蒼の冗談にまりなは焦る。

 

「じょ、冗談よ……っと、そうだ! 来月のこの日の予定はどうかな? 他でライブの予定とか入れちゃってる?」

「いえ、私達はまだ……」

「最近ソロからバンドに変えたんだっけ? じゃあ大丈夫かな?」

 

まりなは何かを思い出したのか、スケジュール表を見る。

 

「(スケジュール表?)何かあったのですか、まりなさん」

 

「急遽イベントに穴が空いちゃって、他に頼めそうな人がいなくてさ~」

「「!!」」

 

イベントの穴埋めとは言え、ライブに招待された。

 

「そうですか(まさかこうなるとはな…………でも問題があるな)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CiRCLEを出て、あこのテンションは上がっていた。

 

「すごいっ……さっそくライブ出演がきまった! メジャーのスカウトも来るって噂のイベント……もしかしてあこ達も―――!!」

 

「確かにこの地区のバンドにとっては登竜門と呼ばれているイベントね。けれど私達はメジャーと言うよりもっと……もっと高みを目指しているわ」

「……メジャーは決して音楽の頂点じゃない……そう思えない人はこのバンドに要らないわ」

 

メジャーもいいことだが紗夜と友希那は違う目的がある。

 

「えっそうなんですか? でもメジャーデビューしたらあこもカッコイイ人になれるかなって…」

「…………どこがカッコイイの?」

 

あこは悪気はなく、素直な言葉が友希那は反応した。

 

「友希那余り―――」

「メジャーなんて『音楽を売るため』の場所よ……本当の音楽のことなんてなにもわかっていない…」

 

蒼が話すよりも友希那が先に話す。あこには少し難しい事を言う。

 

「? ……すべてがそうではないと私は思いますけれど―――でもそうね……私達は自分達だけの頂点を見せつけるためにここにいるはず。宇田川さん、あなたよくお姉さんの話をしているけれど……」

 

そう言って紗夜はあこを見る。

 

「あなたが音楽をやりたいのではなくお姉さんに憧れてお姉さんのようになりたいだけなら私達とではなく、お姉さんとバンドを組んだ方がいいわ」

「……! あ、あこはこのバンドがいいですっ! あこもおねーちゃんみたいにかっこよくなりたくてドラムを…」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いつもあなたは一緒のことばかりするじゃない』

『…………! おねーちゃんあたしは……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……?)」

 

蒼は紗夜に何かを感じた。言葉では表せないが紗夜はとても辛く見えた。

 

 

「宇田川さん、私は今、あなたの技術は認めています。でもあなたの『カッコイイ』はただの『真似』だわ」

「……っ! ち、違うもんっ! あこは―――」

 

「違わない……答えてみて、お姉さんではないあなた自身にとっての『カッコイイ』って何なのかしら?」

「そ、それは……」

 

あこは答えられなかった。

 

「わかったでしょう? あなたのその意識はバンドを高める為に必ず変えて貰わないと困る」

「うぅ……」

 

紗夜なりの言い方だがあこにとっては厳しすぎた。

 

 

 

「氷川さん……少し言い過ぎだ」

 

少し涙目になるあこに紗夜の言い過ぎに蒼は止めに入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……言い過ぎだと言うより、違和感があった。

 

 

 

 

「ですが―――」

「まっ、まぁまぁ! 紗夜その辺でっ! あこはこう見えてしっかりしてる所あるし……ちゃんと自分で考えられるって! ……ね? あこ?」

「あこ、今は別に考えなくていい。あこはあこなりに答えを探せばいいさ」

「う、うん……ありがとうリサ姉、蒼さん」

 

蒼が止めに入っても紗夜は止まらなかったがリサが入って、紗夜は自分の立場を理解し、冷静になる。

 

「……でしたら構いません。だけど今井さん自身も大丈夫ですか? このジャンルやシーンについての知識はあるの? それにブランクのせいで大分無理してるみたいだけれど」

「……! あーこの指なら大丈夫っ! それにこのジャンルについてはなんてゆーか…………アタシは昔から友希那と蒼から話を聞いてたし(友希那はいつ話すつもりなんだろう…)」

 

 

リサのブランクもあるが優先な事がある。

 

 

「それよりキーボードよ。ずっと探してるけど……キーボードなしでこのジャンル特有の音の厚みは出せない……」

 

ライブ招待も嬉しいがまだメンバーが集まっていない。一人だけでも足りない必要不可欠。

 

「せっかくのライブが決まったが、今は皆でメンバーを探してみるしかない……かな」

「蒼の言う通り、メンバー探しね」

 

「よしっ! 明日に備えて今日はゆっくり休もう」

 

蒼の言葉に皆が頷く。紗夜は蒼に近付く。

 

「響鬼さん、少しいいですか」

「どうかした氷川さん」

 

紗夜は何か言いづらい口なる。

 

「……先程は失礼な事を言いました。少し大人げなかったです」

 

あこに言った事もそうだが場を悪くした事を蒼に謝っていた。蒼は気にせず答える。

 

「僕は別に気にしてないよ。それよりもあこには謝った方がいいかな。あこも気にしてないと思うし、明日謝ってね」

「はい……ありがとうございます」

 

紗夜は頭を下げた。その時、蒼は言った。

 

「あの時、僕も答えられなかったから」

「え―――」

 

紗夜が答える前に蒼は歩き出した。紗夜はただ蒼の背中を見ていた。

 

「あの、紗夜?」

「……どうかしましたか今井さん」

 

リサは紗夜話し掛ける。リサは何かを言おうとしていた。

 

「蒼の事なんだけどね…」

「響鬼さんの……?」

「――――――ごめん、やっぱりなんでもない、皆先に行ったよ」

 

リサは紗夜を置いて、先に走る。

 

「(どうしたのでしょうか……響鬼さんの……何を言おうとしたのでしょうか)」

 

紗夜は胸にモヤモヤ感が残ったが少し遅れて追いかけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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第五章 人見知り少女はキーボーディスト








漫画の方を読んだ方はわかると思いますが読んでない人がこれを読んでもわかるのか考えてますね……題名で展開が何となくわかると思いますが第五章です。










 

 

 

 

「あれから一週間……たったんだな」

 

キーボード担当を探して一週間……ライブの日付は近付くがキーボーディストは見つからなかった。

 

 

「どうしよう……キーボードできる人、全然見つからないよね…」

「短期間にこの4人が集まったことの方が異常よ。私は妥協してまでメンバーを揃えたくない」

「そうね……下手なものを聴かせるよりはいっそ居ない方がマシかもしれない…」

 

「オリジナル曲はキーボードが必要な曲で作ったよな」

 

 

 

「……でもそれってさ、せっかく作った曲をベストな状態で聴かせられないってことだよね」

 

 

 

「気が引けるが一週間前進できず、かなり危機的状況だな」

 

 

「「………………」」

 

蒼の言葉に皆は状況を理解した。

 

「ちょっと待って! アタシ友達多いから音楽の経験とか関係なしに知り合いに電話してみる!」

「じゃああこも! 『自分達だけの頂点』……『あこだけの』カッコイイやりたいもん!」

 

リサとあこはいち早く携帯電話連絡を取り始めた。

 

「あこ、ちょっといいか?」

「? どうしたんですか蒼さん?」

 

 

そんな中、蒼はあこに話し掛けた。

 

「……連絡をとってほしい人がいる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(やっぱり何度弾いてもあこちゃん達の演奏と合わせると、すごく楽しい)」

 

この日も燐子は一人、ピアノを弾いていた。

 

「ふぅ…………もうこんな時間? また熱中しちゃった……?」

 

時間は夜7時……帰ってきて、ピアノのに熱中した燐子。その時、電話が鳴る。

 

「あこちゃん?」

 

着信相手はあこからであった。

 

「もしもし、あこちゃん?」

 

『りんりん助けてぇー! キーボードが見つからなくてライブが出来ないの!』

「え…………」

 

蒼が連絡をとってほしい人は燐子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キーボードが見つからない?」

 

『りんりんの知り合いにいない? キーボード弾ける人! ピアノでもいいんだっ! ……でも、上手い人じゃないとバンドに入れないんだけど…』

 

「あ……そっか…そう、だよね」

 

燐子はバンドを真剣に音楽をやって来ていた。燐子は一人、部屋で弾いていただけ……自分が入ってもそれは良い話ではなかった。

 

『りんりん? そうだよねってことは誰か知っているの?』

「えっ……わ、わたし…」

 

『この前会った蒼さん覚えてる? 蒼さんがりんりんに連絡してほしいって言うから連絡したけど』

「え……響鬼さん、から?」

 

蒼と初めて会った時、ピアノを弾ける事を理解したことを思い出す。

 

 

『とにかくね、めちゃくちゃ上手い人がいたらあこに教えて……』

 

「――ける……」

『? りんりん?』

「ひ……弾ける……わたし、弾けるの!!」

『…………ええっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、蒼達は燐子を待っていた。待ち時間より少し早く、紗夜は蒼に話し掛ける。

 

「響鬼さんは白金さんとは知り合いだったのですか」

「前にも話したけど話すのはあの日が初めてだよ」

 

前とは紗夜と友希那が組んだ日の事……Circleに向かうときに話していたが蒼に違和感があった。

 

 

 

『それは――――行きながら話すよ。それじゃあ邪魔したね、あこと……』

『あ、白金燐子…です』

『…………それじゃあ白金さん、今度は倒れないようにね。氷川さん、行こうかな』

『はい……失礼します』

 

 

 

 

 

「……あの時の響鬼さんは何処か誤魔化した所がありました。間違っていたらすみません」

「いや、確かに白金さんのことは知っていたよ。幼い頃、いくつかピアノコンクールの賞を取ってい事は……話すのはあの時が初めてだったけどね」

「そうなんですか……私も同じクラスで少しだけ賞の事は知っていましたが、響鬼さんはピアノもしていたのですか?」

「それは……白金さんが来たからまた今度ね」

 

 

蒼の言う通り、燐子が歩いてくる。あこが手を振る。

 

 

「あっりんりん、いたー!」

「あこちゃん…」

「もーっピアノ弾けたなんて超ー驚きだよっ! 何年もつきあってるのに全然知らなかったぁ!」

 

あこと燐子は何度も遊んでいたがピアノを弾いていた事は知らなかったようだ。

 

「あこちゃん……ごめんなさい…伝える機会が…」

「あっ違うの! 悲しいとかじゃなくてビックリしただけだよ?」

 

あこの事を知っている人から見ればかなりの常識がある友人と見た。リサは燐子に話し掛ける。

 

「この子が燐子ちゃん? あこの友達って言うから似たよーなタイプの子を想像していたけど…」

「りんりんはすっごいんだよっ! ネトゲでは無敵なんだからっ!」

「ゲ、ゲームの話は……あんまり……」

 

控えめな人だと知ったがゲームの事は蒼も驚く。

 

「(以外にゲームはするんだな)申し訳ない白金さん、僕の中ではキーボードは白金さんしか浮かばなかったから」

「いえ……あの響鬼、さんは―――」

「すまないが時間が惜しい……友希那、お願い」

 

燐子は蒼に何かきこうとしたが先に用件を友希那に任せた。

 

「音楽の話は聞きたいわ。燐子さん課題曲はあなたのレベルに合ってた?」

「わ、わたし……動画…と…………その…たくさん、一緒に…」

 

「動画? 演奏レベルを確認したいのだけれど……それは難しかったという意味?」

 

「白金さん、同じクラスだけどこうして話すのは初めてね。有名なピアノコンクールで受賞歴もあると聞いたことがあります」

「……コンクールは…小さい頃の……話で、わたしはただ……(この人達と演奏したいって……その気持ちだけで来てしまったけど――)」

 

「…………」

 

紗夜はあこに小声で話し掛けた。

 

「宇田川さん、本当に大丈夫なんでしょうね?」

「! りんりんはあこの戦友で大大大親友ですっ! だからあこはぜったい大丈夫って信じてますっ!」

「でも演奏しているのは見たこともないんでしょう?」

「なくても信じてますっ!」

 

あこの自信はどこから来るのかわからないが蒼が言うので友希那は気になった。

 

「……オーディションはあこの時と同じで1曲だけよ。それでダメなら帰ってもらうから」

「はいっ!頑張りますっ!」

「あこ、頑張るのはあんたじゃないでしょ?」

 

あこのボケにリサが突っ込む。蒼ほ燐子に言う。

 

「白金さん、応援してるよ」

「はい……わたし…がんばり……ます…」

 

その声は小さかった。

 

「…………期待に応えてくれることを祈ってるわ」

 

流石に誰もが不安になっていたが、あこと蒼は普通になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「白金さん……いいですか?」

「…………」

 

楽器の準備をして、紗夜は燐子に確認をするが燐子は黙っていた。

 

「白金さん?」

「……は、はいっ!」

 

持ち一度声をかけて燐子は答える。そして演奏が始まるが最初のタイミングがずれて遅れていく。

 

「(時間の無駄だわ……)皆―――」

「すまない皆! 少しストップ!」

 

友希那が止める前に蒼が先に止めた。そして燐子の方に近付いた。

 

「響鬼、さん……わたし……」

「落ち着いて白金さん、深呼吸して」

「え……」

「大丈夫だから深呼吸をゆっくりして、ゆっくりだよ」

「は、はい……」

 

蒼の言葉に燐子を落ち着かせて深呼吸をさせる。最初は少し荒れていたが次第におとなしくなっている。

 

「落ち着いたかな?」

「はい……ありがとう……ございます…」

「うん…………すまない友希那、もう一度頼む」

 

蒼は友希那にお願いをする。蒼は真剣だった。

 

「…………わかったわ、これが最後よ」

 

蒼は席に着いて紗夜を見て、頷いた。

 

「いきますよ白金さん、いいですか?」

「は、はいっ!」

 

そして再び演奏が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――! (すごい、さっきのと全然―――それに動画と合わせるよりも……この子……何なの?)」

 

最初はがっかりしたが今は別人のように友希那は驚く。

 

「(やっぱりんりんは無敵だねっ!)」

 

あこも本当は焦っていたが元気になっていく。

 

 

 

 

「(私……このキーボードに引き寄せられて……? いえ違う、この感覚!)」

 

「(この感じ……同じだ! 初めて四人で演ったときと……!)」

 

紗夜とリサもあの時と同じ感覚になる。

 

 

「(――――――いい歌だな……)」

 

 

蒼は友希那の方を見ると、友希那は楽しそうに歌っていた。燐子も弾いている時の顔が笑顔になっていた。

 

 

 

 

 

 

「(楽しい……一人よりぜんぜん……楽しい…もっと弾きたい……わたし、もっと弾きたい!)」

 

 

初めての演奏が初めてじゃない演奏になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして演奏が終わり、誰もが口を開かなかったが、あこが一番に開く。

 

 

「なんか…すごかった……四人より…」

 

「私は問題ないと思いました。湊さんの意見は?」

「……なぜ? こんなこと何度も……おかしいわ…」

 

一回だけ……たった一回だけで友希那が求めている音が揃っていたからだ。

 

「それって……こんなによかったのにダメってこと? な、なんでですかっ!?」

 

あこは叫んだ。誤解があるため蒼は言う。

 

「違うぞあこ……友希那、誤解を招く言葉に聞こえるぞ」

「そうね……演奏に問題ないわ。技術も表現力も合格よ、ぜひ加入してほしい」

「……あ……」

 

合格の言葉に燐子は言葉を失うがそれは嬉しい事である。

 

「や、やったぁー!! やっぱりりんりんはすごい! 最強だよっ! この短い期間でノーミスだったもんねっ!」

「あ、ありがとう……」

 

あこは燐子に抱きつく、燐子も笑っている。

 

「よかったよ白金さん。正直驚いているが……もしかして弾いていたとか?」

 

「あ、はい……家で……動画と一緒に…何度も弾いていたから…」

「あ! あこがあげた練習動画のこと? あれで練習してたんだ」

 

燐子は頷いた。蒼の質問に皆が納得する。

 

「(だがここまでとは……ある意味恐ろしいな)」

 

「なるほど……妙に一体感があったとは思いましたが……」

「いいわ……あこ、燐子さん……それとリサ、あなた達も含めて…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………一度この五人でライブに出る」

 

友希那の言葉通り決心はしたが燐子だけは違う…………驚いていた。

 

「ラ……ライブ…?」

「やったねー! ……燐子ちゃん…じゃなくて燐子っ! これからよろしくね!」

「…………」

 

リサは挨拶するが燐子はオロオロしていた。

 

「……ってどうしたの? 慌てて…なんか顔色悪いよ?」

 

燐子の顔色が悪く、どうしたのだろうと考えると蒼が口を開く。

 

「…………まさかと思うがあこ……白金さんに説明したか?」

「したよっ! バンドしよって! スタジオであこ達と一緒にキーボード弾きに来てって!」

「う~ん、あこ……その説明じゃあ……」

 

リサの言う通り、説明不足。蒼は手を頭に当てた。

 

「(僕のミスだな)白金さん、何となくわかると思うが……」

「わたし……そこまで、考えて…」

 

「それならもう帰って」

 

燐子もわかってきたがいきなり言われて困る。そんな常態で友希那は冷たく言う。

 

「どんなに力があってもやる気のない人に割く時間はないの……他のキーボードを探すだけよ」

「ゆ、友希那さ―――」

 

「……っ! わ、わたし……! …………きたい」

 

あこが止めるよりも燐子は声を上げながら出した。蒼達どころかあこも驚く。

 

「り、りんりんの大きな声…初めて……」

 

「わ、わたし……みなさんと…弾きたい……ですっ! が、がんばます…お願いします!!」

 

 

燐子なりに声を出した。声と熱意を受け取り、友希那は答えた。

 

「そう……燐子、その気持ちをライブに見せてもらうわ」

 

「は……はいっ!」

 

友希那の言葉に五人は微笑んだ。蒼も燐子に言った。

 

 

「白金さん、これからよろしくお願いします」

「あ、はい……こちら、こそ…」

 

燐子はオドオドしながら頭を下げた。

 

「(やっぱり距離感があるな)まぁ、こうなるよな」

「え……」

「いや……重たい物や機材や設定やら頼っていいから、失礼」

「あ……」

 

蒼は控えめな燐子だけど、あこや女子メンバーがいるから任せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 








……次回は白金燐子をメインにした“お話”にします。すぐに本編に戻りますのでお待ちを……





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第六章 燐子と蒼がデート?



目と耳の痛い評価を頂きました……拙い文字に設定と説明不足でストレスが目立ちました。申し訳ございません……それでも評価コメントありがとうございます。お気に入りの方も感謝です。

それでは第六章です。






 

「そうか……どうしようか」

「えっと……どうしましょう…か……」

 

Roseliaの練習がない土曜日……蒼と燐子は私服でいた。

 

「あこちゃんが言い出したことなのに……ごめんなさい」

「白金さんが謝ることじゃないよ。あこの予定が悪くなったのだからしょうがないさ」

 

あこが言い出した事は三人で出掛けること。待ち合わせには蒼が一番で燐子が二番。二人ともまだ30分以上も到着していた。

 

あこは突然のドタキャンを燐子に連絡し、二人だけになってしまった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………その様子を少し離れている所から見てる四人がいた……。

 

 

 

 

 

 

「ふっふっふっ……りんりんと蒼さんのお出掛け作戦は成功だね!」

「成功と言うか、困っていないかな? あの二人」

「でもこれは二人の為の事なのだから」

「確かにそうですが……上手くいくのでしょうか……」

 

物陰にあこ、リサ、友希那、紗夜が二人を眺めていた。

 

「紗夜はやっぱり反対なの?」

「いえ、そう言う訳では……」

「でもこれはメンバーの問題だからわかっているわよね」

「えぇ……わかっています」

 

Roseliaの活動は順調だが、一つだけ問題がある…………それは燐子の人見知り。

 

「女同士アタシたちはどうにかなるけど蒼がね~」

 

控えめな燐子は男性が苦手……蒼もその一人……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間前……

 

『白金さん、今日の練習の事だけど―――』

『え……と…………』

『―――友希那から何か伝えたいことがあるから確認お願いね』

『あ…………』

 

 

燐子のセッティングを終えて、練習時の事を伝えようとしたが怯える彼女に蒼は友希那に伝えて、“この日”は済ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが一週間も続けばさすがに困るよね」

「最初は蒼さんから声をかけていますけどりんりんが……」

 

蒼も燐子とは避けるようにしてる……でも何とかしたいが難しい問題だった。

 

「メンバー問題は私達の問題であるわ…………紗夜もわかっているわね」

「えぇ、わかっています」

 

この作戦は紗夜だけは反対であった。同じ学校の風紀員としての意見であった。

 

「あこの言っていた事は本当なの?」

「うん! りんりんが自分で言ってたんだから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子がメンバーに入った帰り道……

 

『よかったねりんりん! 一緒にバンドが出来て嬉しいよ!』

『私もだよあこちゃん……でも、響鬼さんのお陰です…』

『あー! もう一回のところ? 確かに蒼さんのお陰でチャンスが出来たね』

『そうだけど……それだけじゃない…』

 

燐子の表情は暗くなるが、笑顔でいた。

 

『りんりん?』

『なんでもないよ……頑張ろうね、あこちゃん!』

 

今度は明るく笑っていた。

 

「だから絶対に苦手ではないんだよ!」

「その話を聞いてから私も賛成しましたが……それでも風紀員として認めません」

「でも紗夜……ほんとの所はどうなの?」

 

リサは紗夜に何かをきく。

 

「ほんとの所とは?」

「いや、なんかこう……違う目的があるとか」

 

リサは意味深な事を言うが……

 

「私はあの二人が間違った方向に進まないよう見届けるだけです……それよりも移動したみたいですよ、私達も移動しなくては」

 

蒼と燐子は移動を始めていた。紗夜は全く気にしない口で先に動き出す。

 

「ちょ! 紗夜! ……どうする友希那」

「私達は見届ける……それだけよ」

「よし! 追いかけよー!」

 

友希那とあこも動き出す。

 

「ちょ、皆! …………でも本音は気になるかも」

 

リサもノリノリで追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以外に混んでいるな」

「うん……ごめんなさい、付き合わせてしまって…」

「気にしないで白金さん。僕も欲しかったから」

 

二人はゲーム売り場で並んでいた。あの後、蒼はどうしようかと考えていると燐子は欲しいのがあると言うので蒼はついてきたのだ。

 

「響鬼さんもゲーム……するんですね」

 

以外そうに言う燐子に蒼は首を傾ける。

 

「僕もゲームはするよ。小説や漫画読んだり、携帯小説もみるよ」

「そう……なんですか…少し以外です」

 

友希那と同じく完璧で音楽一筋の人間かと思っていたが以外に普通な一面もあるのを知った。

 

「そう? 白金さんはキーボード以外に得意なものある?」

「私は……パソコンが得意です…」

 

パソコンの言葉に蒼は思い出した。

 

「そっか……あことはチャットで会話しているんだっけ」

「はい……あこちゃんとは……よく会話しています」

「じゃあブラインドタッチが得意で――――――入り口か開いたみたいだね、僕達も行こうか」

「はい」

 

お店の扉が開き、二人は前へと進む。

 

「順調……ていうのかな」

「なんかもう普通になってない?」

 

あことリサの言う通り、蒼に苦手意識ある燐子だがさっきの会話を聞いてると普通になっている状態であった。

 

「響鬼さん……ゲームするんですね」

「確かに蒼もゲームはするわ。今でもって言うのは少し驚いている」

 

紗夜は知らない蒼を知り、友希那は今も知るのであった。

 

「これって作戦終了ですか?」

「まだよ、あこ……まだ油断は出来ない」

「どういうこと友希那」

 

目標達成かと思いきや、友希那はまだ終わらないと言う。

 

「まだ完全に燐子は克服できていないわ。完全になるまでは作戦継続よ」

 

完全にの言葉に紗夜は気づく。

 

「確かに……響鬼さんもまだ白金さんに何か壁を作っているように見えました。まだ終わってませんね」

「じゃあお店の中に入りますか?」

「それは駄目よあこ、客はかなり入って、見失うか先に外に出るのがオチ……ここは待機よ」

 

冷静な友希那の言葉に全員が頷く。

 

「でもアタシたちが会話してる時間帯でも出てこない……何かあったのかな」

「何か―――」

 

紗夜は何かに気づく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ひ、響鬼……さん?』

『白金さん……』

 

 

 

店内の人気のない所で密着する二人……

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん! 突撃準備です!!」

「紗夜?」

 

紗夜は何処から持ち出したのか『チタン合金っぽい』盾を構えていた

 

「ちょっと紗夜!? 落ち着いて! 何する気なの!?」

「突撃準備を―――」

「だからストップ! 落ち着いて!」

 

突入寸前の紗夜をリサは押さえる。

 

「今井さん! 邪魔を―――「あ! りんりんと蒼さんよ」……え…」

 

お店の扉から蒼と燐子が出てきた。片手にはビニール袋を一つずつ持っていた。二人はそのまま歩いていく。

 

「落ち着いた紗夜?」

「はい……取り乱しました、すみません」

 

紗夜は落ち着く、皆に謝っていた。

 

「もういいわ、追跡開始よ」

 

移動を開始する三人、紗夜は一人残る。

 

「全くどうして……私らしくないわ」

 

紗夜は深呼吸をして、追いかけるのだった。

 

「(それにしても……)」

 

店から出てくるとき、二人は楽しそうに見えた……少しだが作戦は順調だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は喫茶店で飲み物を飲んでいた。

 

「人は並んでいたけど以外に直ぐに買えたね」

「はい……人がたくさんいましたが進みました」

 

レジに並んで待つと思ったがスムーズに進んで会計をした。

 

「それよりも大丈夫かな? 体調が悪くなったら早めに言ってね」

「はい……もう、大丈夫です…ありがとうございます」

「そうか……僕も近づきすぎたな…すまない」

 

店内は人がかなりいて、燐子の顔はだんだんと暗くなっていく。その時、蒼が燐子の側に寄る。

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫だ……大丈夫』

 

 

 

 

 

 

周りから見れば近づきすぎる二人……だが燐子にはその言葉で落ち着きを取り戻していた。

 

「い、いえ……響鬼さんがいると安心します」

「え……そうなのか」

 

燐子は自分からの発言なのに顔を赤くし、蒼は考え顔になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………少し離れた席から二人の会話を聞こうとしていた四人がいた。

 

 

 

「会話が聞こえません……」

 

四人は少し離れて会話が全く聞こえていなく、紗夜はイラついている声を出す。

 

「この距離だからしょうがないよね~それよりも……」

「りんりんはどうして顔を赤くしてるんだろ?」

「蒼はどうして深く考えてこんでいるの?」

 

ただ表情だけを眺めていた。

 

「でもどうする? このまま出るまでこうしてるの」

「それは―――仕方ありません」

 

紗夜は人間一人分が入るダンボールを出した。

 

「紗夜……それ、どうするの…」

「被って近付くのです」

 

リサの問いに紗夜は普通に答える。紗夜は被ろうとしていた。

 

「ストップ! ストップ! 紗夜ストップ!!」

「放してください今井さん! 私は会話が気になるのです!」

「あわわ、このままじゃばれちゃいますよ! 友希那さん、どうします?」

 

紛争が始まる二人に友希那は言う。

 

「仕方ないわね」

「友希那さん何かあるんですか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テッテレテ、テ、テ、テ~ン♪

 

 

 

 

 

「盗・聴・機!」

 

友希那は何処からか盗聴機らしき機械を出した。

 

「さすが友希那さん!」

 

取り出した道具に二人の手が止まる。

 

「でも友希那……それ、どうしたの?」

「同じクラスに機材に詳しい人から借りたのよ」

 

どうやらクラスの人から借りた、友希那にしては以外な行動であった。

 

「ですが湊さん、いつの間に付けたのですか?」

「そんなことより、電源をいれるわよ」

 

全く気にせずスイッチを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの……響鬼さんって、ピアノ…弾いてましたよね』

『……どうして聞くのかな』

 

 

 

 

「(響鬼さん、ピアノ弾いていたのですか……)」

 

音楽に詳しいのは知っているがピアノを弾けて賞まで取ったのは初耳の紗夜。

 

 

 

 

 

『昔、男性のコンクールの時に入賞してましたよね』

『久し振りにその賞の話を聞いたな』

 

 

蒼は嫌がることなく普通に答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼さんってピアノ弾けてたんですか?」

「あ~そんなことも、あったかな?」

「……懐かしい話ね」

 

あこは初耳でリサと友希那は曖昧な言い方をしていた。

 

 

 

 

『最初は私も…わすれてました……賞を取っていた常連がある日…………姿を消した話を聞いた、ことがあったので…』

『へぇ……そんな話になっていたのか……逆に白金さんの事は前から知っていたよ』

『そう……ですよね…』

 

 

 

 

 

「(二人は一度会っていたのですね)」

 

話を聞いている紗夜は蒼が聞かれたくない会話と言うより、以外な言い方をしていた。

 

 

 

 

 

 

『白金さんはバンド活動大丈夫か?』

『え?』

『いや……何か悩んでたり、困っている事があれば誰かに頼ればいい……僕に出来ることがあれば、話してくれて構わない』

『はい……ありがとう、ございます』

 

 

 

燐子は笑顔で言う。蒼が燐子の様子を見ていると何処か固くなっている事がある……原因は蒼かも知れないがそれでもサポートとして、アドバイスをしていた。

 

 

 

 

 

『そうか……なら、少し早いがお昼にする?』

『はい……メニューどうぞ…』

『いや、白金さんからどうぞ』

『響鬼さんから』

 

お互い一歩も譲らず、渡していた。

 

『白金さんから……一緒に見る?』

『はい、そうですね……ふふ』

『……どうしてか笑ってしまうな』

 

 

 

 

お互い笑いあっている……その姿は一組の恋人同士に見えてくる。

 

「りんりんが笑っている」

「確かに……普通に会話しているね」

「……これでバンド活動に支障はなくなったわね」

「…………」

「紗夜……?」

 

紗夜だけ黙っていた為、友希那は声かけた。

 

「え…………せっかくなので私達もお昼にしますか」

「そうですね!あこはお腹空いちゃった」

「そうね……友希那は何する?」

「私は―――」

 

紗夜は上手く誤魔化して、メニューを見るふりをしながら二人を見る。

 

「(楽しそうですね……響鬼さんの知らない顔……)」

 

バンド活動の事しか会話をしたがなく、紗夜の気持ちは不思議な気持ちになっていた。

 

「(なんでしょうかこの気持ち―――)ポテト大盛り三個お願いします」

「「え……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後……

 

「何か……店員さん急いでますね」

「そうだな……(あの皿はフライドポテト? ……まさかな)」

 

 

友希那と再会する少し前……練習帰りに二人でファーストフードで食事したことを思い出す……

 

 

 

 

……そのまま二人は昼食を済ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は短い時間でしたけど、とても楽しかったな。

 

「さて……明日に備えて、今日はここまでにするか」

「はい……そうですね」

 

お昼ご飯を食べて、外に出てから近くのベンチに座って響鬼さんはここまでと言う。

 

「練習とゲーム……しっかり練習して遊んでね」

「はい…」

 

響鬼さん……気遣ってくれてるのかな……それとも私の人見知りのせい?

 

「それじゃあまた明日ね、白金さん」

「はい、響鬼さん」

 

響鬼さんが立ち上がって、背を向けて立ち去ろうとしてる……結局、私は―――

 

「最後に白金さん、キーボードの事なんだが……」

「はい、何でしようか?」

 

響鬼さんは振り替えって、燐子を見ながら言う。

 

「大切にな……いい楽器なんだから」

「…………はい」

 

その時の顔はとても優しく、初めて見た顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……また背を向けて歩き出した。

 

「…………」

 

響鬼さんは皆の事や私の事を気にしてくれてる……私が―――変わらないと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はここまでのようね」

「これって上手くいったのかな?」

 

少し離れている所から見る友希那達は離れる二人に終了と見る……だが結果はわからなかった。

 

「前よりは進んだ……とも言いますね」

「でもりんりん、浮かない顔してるよ」

 

紗夜の言う通り完全には至らず、燐子は浮かない顔をしていた。

 

「仕方ないわ。明日も練習あるから今日は―――」

 

『蒼さん!!』

『! ……どうかした? 白金さん?』

 

蒼は驚きながら振り返る。燐子の声が大きかったからだ。友希那達も驚く。

 

『名前で、読んでも…………いいですか?』

『名前……それだけ?』

『はい……それだけです…』

 

蒼は何事かと思ったが名前で呼んで欲しい言葉に一瞬で止まっていたがすぐに表情を戻した。

 

『構わないよ……白金さんが呼ぶやすければいいよ』

『私も……名前で、いいですか』

『そう、か……燐子……何か恥ずかしいな…』

『そうですか……蒼さんも呼びやすい名前でもいいですよ』

『呼びやすい……』

 

蒼は片手を顎に当てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………“燐”でいいかな?』

 

蒼は不安な顔になりながら言う。燐子はその姿に笑いそうになったが、答えた。

 

『はい…………よろしくお願いします、蒼さん』

『こちらこそ、燐……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の壁はなくなっていた……

 

 

 

 

 

「いや~よかったよかった~これで蒼と燐子は大丈夫だね」

「えぇそうね」

 

無線で聞いている皆も安心していく。

 

「? 待ってください、機械から変な音しませんか?」

 

紗夜は盗聴機から変な音が聴こえた。

 

「あれ? 友希那さん、機械の調子が変です」

 

あこの言う通り盗聴機からの音声が消えていた。

 

「おかしいわね……何が原因かしら」

 

四人は機械を直し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば蒼さん……ゲームって、何をしますか?」

「色々やってはいるが……NFOが一番やっているかな」

「!?」

 

その言葉を聞くと燐子の顔は変わった。

 

「燐―――「蒼さん!」―――はいっ!?」

 

そして燐子は言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで直るかな?」

「おぉ~さすがリサ姉!」

 

なんやかんやリサが調子を良くして、無線が回復していく。

 

 

ガガ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今から私の家に行きましょう!!』

『えっ!?』

 

「「えー!!」」

 

 

無線から放たれた言葉衝撃だった。

 

「りんりんが……」

「燐子って……こんな感じだっけ……」

 

修理に夢中で目を離したのと少しの時間で何かが発生した。

 

 

『えっと……せっかく買ったゲームをしたらどうかな?』

『それはいつでも出来ます。だから家に行きましょう!』

 

蒼は何とか行かないようにしているが難しい状況になっていく。

 

「聞こえない数秒に何があったのかしら……」

「…………」

 

紗夜の瞳の色が段々と暗くなっていく。

 

『急に行ったら……ご両親に迷惑かけるんじゃないかな~?』

『大丈夫です! 家には誰も居ません! 明日の夜に帰ってきます!』

 

親がいないタイミングで女の家に向かう……蒼もわかっていた。

 

 

 

 

『誰もいないの(それは不味い)実は僕、最近我慢していて朝まで寝かせない状態になるかも(これで大丈夫)』

『大丈夫です! 私も練習で“我慢”しているので朝まで平気です!』

『(まいったな)えーと……』

『早く行きましょう!』

 

燐子は蒼の右腕を掴むと引っ張り出す。蒼は引っ張られながら歩き出す。

 

『練習はどうするの燐!』

『先に私と一緒に練習して、そのあと夜しましょう!』

 

「りんりんの家で個人練習……」

「二人っきり……」

「そのあとは何をするの?」

「…………」

 

三人は一言言うが紗夜はずっと黙っていた。

 

 

「(個人練習……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うん……よかったよ燐、いい演奏だった』

『そうですか……ありがとうございます!』

『よし、今日は―――『蒼さん、これを……』―――連弾か……』

 

練習が終わって、終わりにしようとしたが燐子連弾の楽譜を出してきた。

 

『蒼さん……弾けますか?』

『なんとか弾けるかな……でも失敗したらごめん』

『いえ、大丈夫ですよ! ……隣に…どうぞ』

『そうだな……失礼します』

 

蒼は少し恥ずかしながら燐子の隣に座るが、元々二人用ではない椅子に二人は密着してしまう。

 

『すまない、弾きづらくないか? 嫌なら……』

『だ、大丈夫ですよ! それよりも……いいですか?』

 

蒼は少し恥ずかしいが連弾なので仕方なく弾く体勢にする。

 

『わかった……じゃあ―――』

 

「(二人だけの秘密の練習……そして―――)」

 

連弾を終えて、二人は夕食をご馳走になり、皿を洗い終えた二人……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『夕飯までご馳走になって、なんか申し訳無いな』

『いえ、大丈夫ですよ……それよりも蒼さん』

『どうかした燐?』

 

頬を赤くし、両手をお腹の辺りに握って、身体をもじもじとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

『あの…………今日は泊まっていきませんか?』

 

燐子の言っていることを蒼は理解した。

 

『…………』

 

断るところだが、燐子は勇気をだして言ってきた。蒼は答えた。

 

『……不束ものですがよろしくお願いします』

『はい……ふふっ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――」

 

種が割れた……

 

 

 

 

 

「あの……紗夜―――」

 

リサは声をかけたが既に紗夜の姿がなかった。

 

「あれ? 紗夜さんは?」

「紗夜なら蒼の側に……」

「「え……」」

 

紗夜は蒼と燐子の側に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「り、燐! ちょっと待って、落ち着いて!」

「待ってなどいられません! もう我慢できません!」

 

引っ張られる蒼に抵抗のすべはなかった。

 

「だから―――「響鬼さん」―――え?」

 

だが突然左腕を掴まれたのと聞き覚えのある声だった。

 

「氷川さん? どうして……」

 

掴んできたのは紗夜、だが普段の表情ではなく、何か黒いオーラが出ていた。

 

「氷川さんこれには―――「響鬼さんは黙っていてください」……はい」

 

黙らせた蒼の次に紗夜は燐子を見る。

 

「白金さん、いくら響鬼さんいえとも男性を家にあげるのはいかがかと……風紀員としてではなく、私個人として見過ごせません」

「(いや、そこは風紀員としてだが……後半が私情に聞こえたが……って、何を言っているんだ僕は…)」

 

紗夜が現れて、燐子は諦めると思ったがその考えは甘かった。燐子も諦める様子はなく、掴んでいる右腕から離さなかった。

 

「わ、私はただ……蒼さんとゲームをしたいだけです!」

 

燐子は大声で言った。

 

「そうですかゲームを―――ゲーム?」

 

ゲームの言葉に紗夜の動きは止まった……何かを考え、一瞬で理解した。

 

「そうでしたか……ゲーム…ゲームでしたか…」

「(氷川さんがおとなしくなっていく……理由はわからないがよかった)二人とも、周りから注目されている」

「「え…………」」

 

紗夜と燐子は周囲を見渡すと、通行人から見られていた。二人の女性が一人の男性を巡っている光景になっていた。

 

二人は掴んでいる腕から離れた。

 

「(なんとかなったが……)皆はいつからいたの?」

 

蒼は振り向くと友希那、リサ、あこがいた。

 

「え~と……最初から?」

「蒼さん、ごめんなさい……」

「それにしても蒼はなぜ二人から綱引き状態になっていたの?」

「…………」

 

蒼は黙って二人を見ると顔を赤くしていた。

 

「(最初からか――――――まさか、こうなるとはな)理由は歩きながら話すよ。燐も今日はNFOは中止でいいかな?」

「はい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――このあと、皆で燐子の家に向かう。歩きながら蒼は理由を話して、友希那達の理由も話した。

 

「(僕は怒っていないし、理由も理由だからね)」

 

燐子の家で皆で盛り上がるゲームをした。友希那の操作には問題があった。

 

「(これで一つの問題が解決して、一歩前進かな)」

 

蒼の問題が一つ解決して、Roseliaの為に尽くすのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「(それにしても私の勘違いで……あれ? なんで落ち着いているのかしら)」

 

紗夜はどうしてかモヤモヤしていた感情から落ち着きを取り戻していた。

 

「(それよりも白金さんの問題が解決してよかったわ。これで響鬼さんも―――)」

 

そこで紗夜の言葉が止まる。

 

 

「(考えたら名字で呼んでいるのは私だけ?)」

 

紗夜は蒼の呼び方を思い出す。二人は名字で呼び合っているが、周りは名前で呼び合っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那とリサは幼馴染み。

 

 

 

あこは以前からの知り合い。

 

 

 

 

燐子は名前で呼ぶようになる……蒼から愛称で……

 

 

 

「(何だかムカムカしてくるのは―――今は忘れましょう……)」

 

 

 

とりあえずいい……問題は……

 

 

 

 

「(私だけ……たいしたことないのにどうして……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………一つの問題が解決しても新たな問題が発生する……そんな二人の結末は―――

 

 

 

 

 

 

 

 



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第七章 青い薔薇……その名は―――






少し遅れました、すみません。次も急ぎます。










「(はぁ……明日はついにライブかぁ…)」

 

 

燐子がメンバーに加わり、壁をなくす件が終わり、練習を続けた。日が流れ、ライブ前日になった。

 

 

 

『大丈夫と言いたい所だが……実際は聴かせないと評価は出来ないぞ』

 

「(蒼……アタシは不安しか残らないよ)」

 

蒼の言う通り、ライブで伝えないと評価は出来ない。だがリサは不安がある。

 

 

 

 

「リサちーうちのおねーちゃんとバンド組んだってほんとー?」

 

リサの側に同じ学年の氷川日菜がいた。

 

 

「えっおねーちゃんって…あっ……そっか! ヒナって双子だったっけ…ってもしかして―――」

 

氷川紗夜と氷川日菜は双子。紗夜が姉で日菜が妹。違いは少しの身長と髪型くらい。

 

 

 

「そ! 氷川紗夜があたしのおねーちゃん! あたしには何も話してくれないからさーいろいろ教えてほしいーなっ」

「? いいけど……なんで紗夜はヒナに話さないの?」

 

リサに聞くのもいいが姉妹の方が自然である日菜にリサは言う。

 

「んー……まぁいいじゃんそれは……それよりバンドをしてる時のおねーちゃんってどんな感じ? ……楽しそう? 嬉しそう?」

「え? うーん……いつもと変わらないんじゃないかなぁ…?」

 

余り考えた事は無いが紗夜はいつも通り。と言うより、まだそんなに日はたってもいなかった。

 

「そうなんだ……後一ついいかな?」

「ん?」

 

日菜は不思議な……困った顔をする。

 

「お姉ちゃん弾き方変えた?」

「弾き方……ギターの?」

「うん……前は何て言うか棘があったけど今は減ったって言うのかな」

 

リサは考えた……そんなに詳しく見ていないが何となくわかった。

 

「教えてくれた人じゃないのかな」

「教えてくれた人?」

「アタシの幼馴染みなんだけどね、ギターが弾けて、紗夜に教えていたみたいだよ」

「ふ~ん……そうなんだ…」

 

日菜の表情が暗くなった。

 

「ヒナ?」

「なんでもない、ありがとねリサちー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でね、紗夜の妹がアタシのクラスメイトだったの! 世間って狭いね」

「そうね」

「あ、ところでバンド名って決まった?」

「いえ…まだ」

「そっかぁ着いたら……こういうのって初めてだから難しいよね……?」

「…………」

 

友希那は立ち止まり、花屋を見る。リサも花屋を見ると青い薔薇があった。

 

「ん? 珍しーね青いバラなんて」

 

「そうなんです、珍しくって綺麗ですよね! 涼やかに見える青いバラですけど『不可能を成し遂げる』って情熱的な花言葉があるんですよ」

 

店員が花言葉を言うと友希那は感じた。

 

「……! そのバラください」

「え、友希那?」

 

友希那の行動にリサは驚く。

 

「……何か掴めた気がする」

「お?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついにこの日が来たねっ! このボード見て元気出して!」

 

あこは手は今日のライブのポスターの方に向ける。

 

「あこ達のバンド名だよっ!」

 

『 Roselia 』

 

 

その名を見て、メンバーは明るくなる。

 

「……そっか、友希那は色々考えてたけどこれにしたんだ!」

「よーしっ! Roselia初ライブ! 行くぞー! おーっ!! 」

「……っ! ぉー……」

「…………」

 

あこの言葉は小さい声で燐子だけが答えた。リサは何やら黙っていた。

 

「……ってあれぇ? りんりんだけじゃなくて、まさかのリサ姉も緊張?」

「……!? し、してないしてないよ!」

 

リサは否定していた。たがそれはまるわかりだ。

 

「ダンスの大会でも一緒にステージ出してるじゃん? あはははは……(はぁ……とか言って参ったな、めちゃくちゃ緊張してるじゃんアタシ……)」

 

『リサは昔から緊張しているな……大丈夫だ皆がいるさ』

 

「(蒼……)」

 

パンッ!

 

「ほらほらいくよー! 時間ぎりぎり! あの二人に怒られちゃう!」

 

自信で頬を叩いて、気合いをつけたリサだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1分35秒の遅刻よ」

「そんなに固くなるな友希那、皆も緊張していたんだろ?」

 

部屋には友希那、紗夜、蒼がいた。紗夜はギターのメンテナンスをしていた。

 

「ごっごめんごめん! おーっ! って気合い入れていたからさ~二人とも一緒にやりたかったなっ」

「馴れ合いはやめて…気持ちの整理は個人で済ませてきてもらわないと困るわ」

「うんっ大丈夫だって! それくらいちゃんとできてるよっ」

 

だがリサは思う。

 

「(本当かなアタシ……ベースをやらなくなったのだって友希那と釣り合わないと思ったからで……)」

 

人見知りなりも気合いが入っていた。

 

「わたし……も、みなさんと演奏するって…決めたから……が、がんばりますっ!」

「音で証明をお願いね」

 

「(バンドで技術が足りないのはアタシだけ…)」

 

「ん? (リサ?)」

「(でもやるしかない)」

 

リサの表情は普通だが蒼にはそれが変だった。

 

「リサ、大丈夫か?」

「勿論!(結果を出して友希那の隣にいるんだ……!)」

「(昔と違うよな)皆、大丈夫?」

 

昔と違ってリサは成長してる……ふと、蒼は考えた。

 

「(僕は変わったのかな)あこも大丈夫か」

 

あこにも確認するが平気だった。

 

「Roseliaの闇のドラマー! あこもがんばりますっ!」

 

「 Roseliaって、響きがカッコイイ…」

「名前が気に入ってくれて何よりだよ燐」

 

「そういえば何でバンド名がRoseliaなんですか?」

「薔薇のRoseaと椿のCamelliaからとったわ。特に青い薔薇…………そんなイメージだったかしら」

 

紗夜は名前の意味を友希那にきいた。

 

「(青い薔薇……)」

 

燐子は花言葉を思い出す。

 

 

花言葉は『不可能を成し遂げる』だと……

 

 

「…………」

 

蒼はライブポスターを見つめていた。

 

「響鬼さん? どうかしましたか?」

「なんでもないよ……色々なグループがいると思ってね」

 

蒼ほそれだけ言うと、あこのドラムのメンテを始める。

 

「(響鬼さんの目線はRoseliaの下を見ていました……Glitter*Green……確かそのバンドは―――)」

 

「紗夜? メンテは終わったかしら」

「はい……いつでも弾ける状態です(今はライブに集中しましょう)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブは盛り上がっていた。

 

「高校生でこのレベル! Roselia……」

 

「この子達話題になりますよ! トップ狙えるかも!」

 

「今までどこのスカウトも受けなかったのに……友希那はこのバンドが組みたかったのか…?」

 

 

 

 

 

 

「ラスト聴いてください……『BLACK SHOUT』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(もっとみてみてっ! Roseliaって超カッコイイでしょっ!)」

 

「(一人の時よりずっと上手く弾ける……!)」

 

「(あんなに緊張してたのに……わたし…すごく…楽しんでる!)」

 

「(この前よりもっと『音』に引き寄せられる!)」

 

「(……行けるかもしれない……このバンドなら!)」

 

ライブは盛り上がっていた。

 

「いいライブだ……」

 

端から見てる蒼はそう感じた。ギターを弾いている紗夜を見る。

 

「(初めて会った時は正直困ったが……いい音色だな)」

 

自分のギター教えるのは苦手だが思い出すといい時間でもあった。

 

「……まさかこうなるとは思わなかったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブ後、出口……

 

「すっごかったよね~! ライブハウス出たらキャーとて! 初めてのライブでもうファンができちゃったっ!」

 

あこが喜んでいる。紗夜が注意する。

 

「あれくらいで騒がないでちょうだい……私達が目指しているのは――――――!?」

 

紗夜は入り口の壁に張ってあるポスターを見た。

 

「氷川さん? ……大丈夫か?」

「あ……響鬼さん、いえ…なんでもありません」

 

明らかに紗夜の様子は変だった……そして思いだす。

 

「(今の表情……僕がギターを弾いた後の顔だ……どうして―――)」

 

「それにしてもお腹減ったよぉ~」

「ドラムは特に全身使うからね~あっ! じゃあさー初ライブ記念にみんなでファミレス行っちゃう?」

 

リサのファミレス案にあこと燐子も喜んでいた。

 

「「…………」」

 

一方、友希那と紗夜は行かないオーラだ。

 

「バンドに必要なのは技術と目標に対する揺るがない意思だけだわ。他のものなんていら―――」

「わかったわかった! でもさっ! 今のアタシ達には技術と揺るがない意思を維持するためには活力が必要だと思うんですけど~♪」

「諦めろ友希那、こうなるとリサは止められないぞ」

「蒼……わかったわよ、紗夜もいいかしら」

「えぇ、構いませんよ」

 

蒼の言葉があったのか友希那は観念してリサは喜んでいた。

 

「……さてと、僕は失礼するよ」

「え……響鬼さん、来ないのですか?」

 

蒼が一人帰ろうとすると燐子が止めた。

 

「蒼さん! 帰るんですか!」

「あこ……こう言うのほ女の子同士の方がいいんだ。メンバー同士が―――「響鬼さんもメンバーですよ」―――氷川さん」

 

女子同士の提案をしたが紗夜が蒼をメンバーと言う。

 

「紗夜の言う通りよ。蒼は私たちを支えてくれたマネージャーよ」

「友希那買い被りすぎだ……僕はただの雇われだよ」

 

友希那も同じように言われるが蒼はただのお手伝いの人と言う。

 

「なら蒼はRoseliaの“雇われサポート”でメンバーの一人よ」

「…………」

 

友希那は当然のように言う。

 

「それに蒼のサポートに文句はないわ。あこのツインペダルの調整もやってくれたでしょ」

「そうですよ! バネの交換しなくてもネジやボルトの調整で前より踏みやすくなったんだから!」

「あれは……いい音色を出すからだよ」

 

蒼の評価に文句はなかった。

 

「蒼! こんな可愛い五人と食事が出来るのよ! ありがたく思いなさい!」

「……」

 

リサも蒼に肩をぶつかながら言う。

 

「響鬼さん、私からもお願いします」

「氷川さん……わかりました、ファミレス行きますか」

 

紗夜のお願いか蒼も行くことにした。

 

「リサ」

「ん? 何」

「……可愛くなったな」

「え!?」

 

蒼は特に意味はなく言う。リサは顔が赤くなる。

 

「何故赤くなる」

「それは……とにかくファミレスにいこう!」

 

リサは走ってファミレスへと向かった。

 

「氷川さん、僕は―――」

「…………」

 

紗夜に質問しようとしたら何故か怒っている顔になる。

 

「響鬼さん」

「はい……」

「響鬼さんが言うと誤解を招くので控えるように」

「わかりました…」

 

紗夜は歩いていく。蒼は追いかけて、メンバーも続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(どうして私はあんな態度を……)」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはははっ! お腹いたい! あこもっかい! もっ回リクエスト」

「……この…闇のドラムスティックから何かが……アレして…我がドラムを叩しき時…魔界への扉が開かれる! 出でよ!『BLACK SHOUT』!」

 

あこの発言にリサが大爆笑していた。

 

「(ファミリーレストラン…普段来ないけど…楽しい…)」

 

燐子は小さく拍手をしていた。

 

「ほらーっ友希那も紗夜も! 初ライブなんだからさ! 二人も何か話して話してー?」

 

三人は盛り上がっているが友希那と紗夜ほ黙っていた。

 

「……湊さんがこんなところに来るのは意外てした。私はこういった得ないの知れない添加物系のメニューは受け付けませんので」

「(あれ? 二人でファーストフード行った時、結構な量を―――)でもこの前、僕と燐がお昼の時に食べ―――」

「…………」ギロリ

 

紗夜の睨み付けに蒼は黙る。フライドポテトの事なのか二人で食事の事なのかは謎……

 

 

 

「私だって普段来ないわ……リサ、私がしたいのは音楽の話だけよ」

「同感ね」

 

さすがに真面目すぎるので蒼は言う。

 

「少し固いぞ、簡単に演奏の話をしたらどうだ」

 

蒼はドリンクを飲みながら言う。友希那も考え、言う。

 

「……今日の演奏はとてもよかった。今井さん、あなた上手くなったと思う」

「…………! あ、ありがとう」

「リサ姉ガチで照れた~!」

「うるさいよ!」

 

からかうかあこにリサは怒っていた。

 

「この短期間でRoseliaのレベルは確実に上がったわ。あこ、燐子あなた達もよ」

「「!!」」

 

友希那からの誉め言葉に嬉しくなる。

 

「だから本当にこの6人で本格的に活動するならあなた達にもそろそろ目標教える」

「……!( 友希那)」

 

あこと燐子はわからない顔だ。

 

「そうですね私はそのために湊さんと組みましたから、確かにここで意思を確認をするべきだわ」

「FUTURE WORLD FES.の出場権を掴むために次のコンテストで上位3位以内に入ること。その為にこのバンドには極限までレベルを上げてもらう」

「確かにな(とうとうここまで来たか)」

 

最初の頃に言っていた事が今まさに近付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「音楽以外の事をする時間はないと思って、ついてこれなくなった人にはその時点で抜けて貰うから」

「ふゅーちゃー……」

「わーるど……ふぇす……?」

 

いまいちわからない二人には後で教えることにした。

 

「あなた達……Roseliaにすべてを賭ける覚悟はある?」

 

Roseliaの目標は一つ……だが、これは“ほんの始まりに”過ぎなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第八章 双子の姉妹……双子のギタリスト





今回は少し無理矢理なところがありますが暖かい目でお願いします。






 

 

 

 

『あなた達……Roseliaにすべてを賭ける覚悟はある?』

 

 

初ライブの時に友希那に言われたことを紗夜は考えていた。

 

「……」

 

紗夜はギターを背負っている右手を固めた。

 

『こちらこそよろしくお願いします、氷川さん』

 

「(大丈夫……私は―――)」

 

今は気にせず、練習に集中する紗夜であった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ紗夜ちゃんいらっしゃい、この間のライブすごかったね!」

 

CiRCLEにてRoseliaは練習がある。紗夜は受付でまりなに会う。

 

「ほら雑誌に記事も載ってるよ! メンバーの皆、もう知ってる?」

「あぁ…そういえばカメラを持った方が何人かいらしてましたね」

「すごいよね~初ライブなのに―――」

 

まりなが話してる中、紗夜はこの前見たポスターが目に映る。

 

「……!」

 

「―――紗夜ちゃん? どうしたの?」

 

まりなは紗夜はポスターを見ていることに気付く。

 

「この写真写り、そんなに悪くないと思うけど」

「……いえ…あの……そのバンドって……」

 

紗夜は表情を崩さないように貼ってあるポスターのバンドの事を聞く。

 

「ああこれね! Pastel✽Palette っていって……なんかこの前デビューしたバンド? グループ?って言えばいいのかな? アイドルだかバンドだかわかんないけどなんか結構面白いんだよね―――ん?」

 

まりなは何かに気づいた。

 

「そういえばギターの子……紗夜ちゃんに似―――」

「――――――! わ…たし…練習がありますから……これで」

 

紗夜は早足に歩いていく。

 

「……紗夜ちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まりなさん、今日も宜しくお願いします」

 

紗夜が見えなくなった同時に蒼が来た。

 

「響鬼君、こちらこそいつもありがとうございます」

「さっき氷川さんがいましたけど、何かありました?」

「う~ん……響鬼君から見て紗夜ちゃんどう思う」

 

蒼はどうしてそんなこと? と思ったが質問に答えた。

 

「氷川さんですか……ギターでいい音色で弾いてますね」

 

特に意味はないが、まりなは頭を抱えた。

 

「あらら……紗夜ちゃん、何か一人で思い詰める子だから響鬼君、何かあったら力になってね」

 

蒼はRoseliaの雇われサポート……勿論紗夜にも負担を減らすつもりでいた。

 

「わかりました、自分なりに努力します…………Pastel✽Paletteですか」

 

蒼はPastel✽Paletteのポスターを見る。

 

「ん? 響鬼君も知ってるの?」

「……初ライブの時、バイトでいました」

「へぇ~そうなんだ~なんでもするんだね」

「そうですね(バイト以前に会っているんだが……頑張っているんだな)」

 

あの時のPastel✽Paletteの事は正直知らなかった……だけど初ライブの日の“出来事”で知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いつか蒼さんに伝えます!!』

 

 

 

「(以外に近い先、ライブは見れるかもな……ん? ギターの子……)」

 

……あの日は大変で色々あったのだ。ふと蒼はポスターにギターの人を見ていた。

 

「(そっくり? いや、似ている……もしかして―――)」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、響鬼君! ギターは……持ってこないの?」

「……今日は特に必要ありませんよ。何かあればレンタルします」

 

それだけ言うと、早足で離れた。

 

「私としては響鬼君の方が心配だけどね……最後に演奏したのはいつだったけ……」

 

まりなの呟きは誰も聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でねっその時もりんりんがあこの攻撃から守ってくれて……りんりんはカッコイイんだよっゲームでも!」

「あこの向こう見ずはリアルもゲームも変わらずなんだね」

 

「あ…あこちゃんを……守ってくれるのは、お姉さんの方が……」

「あーっ! 巴ね、確かにあれは男前だ!」

 

三人の会話は楽しい……が、いつもなら紗夜が注意しているが……

 

「…………」

「(やはり変だ)氷川さん、どうかしたか?」

「え? 私がなにか?」

 

黙っている紗夜に蒼は声をかけるが紗夜は気づいていない。

 

「蒼の言う通り変よ、こういう時、いつもなら私より先にあなたが音楽以外の話をやめさせると思って」

 

友希那も同じ事を言う。三人の会話は盛り上がる。

 

「おねーちゃんのドラムはこうどーんって! ばーん!!」

「あははっ! いっつもその説明だね! 『どーん! ばーん!!』」

 

「私は―――」

「紗夜?」

「氷川さん?」

 

この時、紗夜の表情が暗くなる。

 

「コンディションが良くないなら今日は帰……」

「い、いえ…大丈夫……ただ少しこの休憩が終わるまで頭を冷やさせて…」

 

そう言っているが誰もが心配する。

 

「つい最近まで一緒にお風呂入ってたんでしょー?」

「!? そう……なの…?」

「えっ? そうだよ? みんなはそうじゃないの?」

 

人は皆、それぞれだがあこの家庭は珍しい方。

 

「いや~どうかな? アタシは妹がいないからなぁ」

「わたしも…いないから…」

 

蒼はまりなから言われた事を思い出す。

 

「氷川さん、何か悩んでいるなら―――」

「ふんっ! 二人ともおねーちゃんがいないからわかんないんだよっ! おねーちゃんってのはねずーっと一番カッコイイ妹のあこがれなのっ!」

「……っ!」

 

「―――氷川さん?」

 

あこの言葉に紗夜が反応したことに気づく。

 

 

 

 

 

 

「ちょっとちょっと友希那カッコイイはどこ行っちゃったの?」

 

「一番カッコイイのはおねーちゃんだけど超超超カッコイイのは友希那さ―――」

「……っ! いい加減してよ!!」

 

「「!?」」

 

 

 

 

 

 

一つの部屋に紗夜の言葉が響く。

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんお姉ちゃんってなんなのよ!」

 

 

 

 

紗夜は叫んだ……

 

 

 

 

 

「憧れられる方がどれだけ負担に感じてるか…わかってないくせに!!」

 

 

 

 

それは悲鳴のように……

 

 

 

 

 

「なんでも真似して! 自分の意思はないの!?」

 

 

 

痛みを言葉にして…

 

 

 

「姉がすることがすべてなら自分なんて要らないじゃない!」

 

……泣いていた。

 

 

「……紗夜…それってもしかしてヒナのこと?」

「……? …ヒナ?」

「(ヒナ?)」

 

リサが『ヒナ』の言葉を言う。友希那も初耳で蒼も今知った。

 

「―――っ!! 私……」

 

紗夜も自分が何を言ったのか理解する。

 

 

 

 

「あ……あこ…また…………紗夜さん、ごめん……なさい…」

 

あこが謝っているが友希那の表情も暗くなる。

 

「(紗夜も私と同じ……何か後ろで暗い理由で音楽をやっているの?)紗夜……どんな事情があるか知らないけど、Roseliaに私情を持ち込まないで。それに……あなたは今日演奏にも集中できていなかった……帰ってちょうだい」

「―――!」

 

紗夜はギターを片付けた。

 

「……返す言葉もないわ、お先に失礼します。迷惑かけて…ごめんなさい」

 

紗夜は部屋から出ていく。

 

「あ……どうしよう…あこ、紗夜さんの嫌なこと言っちゃったんだよね…?」

「うちの学校にさの双子の妹がいるんだよ。氷川日菜って……聞いたことない?」

「あ……ずっとテストで1位って有名な人…!」

 

その会話を蒼は聞いていた。

 

「(確信はないが『妹』に反応した。正直、どうすればいいかわからないが氷川さんを追いかけないと)すまないが僕も失礼するよ」

 

蒼の行動は皆が理解した。

 

「わかったわ……休憩時間は終わりよ。何度も言うけどRoseliaに私情は禁止、これ以上話したいならあなた達にも帰ってもらう」

「あ……はい」

 

友希那は気にせず練習を始めようとする。蒼は少し気に入らず、友希那に言う。

 

「友希那……わかっているな」

「…………」

 

珍しく怒る蒼に友希那は答えず、蒼はあこを見る。

 

「それと、あこ……巴さんは『カッコイイ』事を決して嫌っていないからな」

「蒼さん……」

 

蒼は少し微笑んだ。

 

「あの……蒼さん…」

「どうかした燐?」

「氷川さんの事……お願い、します。氷川さん学校では真面目でしっかりして……こんなこと初めて見ました…」

 

燐子も驚いているが同じ学校でクラスメイトとして紗夜を心配していた。

 

「そうか……ありがとう燐」

 

蒼は部屋から出た。

 

「(わかってるわよ蒼…私だって人のことは言えない)行くわよ―――」

 

友希那は理解し、残りは練習、蒼は紗夜を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「氷川さん……何処に行った?」

 

CiRCLEを出た蒼は紗夜を探したがいなかった。

 

「あの場所にいるかな……急いで探さないと―――」

 

探そうとするが蒼の足が止まる。

 

「(急いでどうする……見つけてどうする……話すのは―――どうすればいい?)」

 

紗夜に何かがあった……放ってはおけず話を聞こうにもどう話すかがわからなかった。

 

「………………」

 

蒼は携帯を取り出して、操作する。

 

「――――――」

 

ためらいながらも、携帯をタップして耳に当てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

紗夜は一人、頭を下に向いて公園のベンチに座っていた。周りは小さい子供達が走ったり、騒いでいるが今の紗夜には聞こえなかった。

 

「(私はどうして……今までこんなことしなかったのに……)」

 

どんな時でもギターに集中して、努力をして、今のRoseliaにたどり着いた。

 

「(皆に酷いことを言ってしまった……)」

 

私情を出さない事をしていたのにそれを出してしまった。

 

「響鬼さん……」

 

蒼の顔は驚いていた。紗夜が叫んだのは初めてで、紗夜の突然の行動に黙ってた。

 

「(日菜がギターしていたなんて……もう私は―――)」

「氷川さん、ここにいたんだね」

 

突然の声に紗夜は驚いて顔を上げると蒼が立っていた。走ったせいか顔に汗が出ていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……初めて出会った公園で二人はいた。

 

 

 

 

 

「隣に座ってもいいかな?」

「……はい」

 

蒼は紗夜の隣に腰を下ろす。紗夜は逃げようとも思ったが、バンドの事よりも自分を探しに来てくれた蒼に対して申し訳なくなったのだ。

 

「(少しは冷静になっている……どうするか)氷川さん、僕と話は出来るかな?」

「……」

 

紗夜は答えないが、蒼は話を続ける。

 

「勿論嫌なら言ってくれて構わない。話さなくてもいいし、帰ってくれてもいい…………でも、僕としては今の氷川さんを放ってはおけない」

「……ありがとうございます、響鬼さん……」

 

紗夜は蒼の顔を見るがすぐに目線をそらして、下を向く。

 

「…………」

 

蒼は紗夜の顔を見て、暗い表情になっていることに悩んだ。

 

「……響鬼さん」

「どうかした?」

 

悩んでいると紗夜の方から話し掛けてきた。

 

「私の演奏……どうですか?」

「氷川さんの演奏……最初の頃と比べるとかなり良くなっている。皆と演奏してる時はとても響いていた」

「…………」

「僕と出会う前からでも上手かった……かなりの努力をして、ギターを弾いていたんだね」

「努力……ですか」

「……?」

 

努力の言葉を聞いてから紗夜は暗くなる。蒼はどうしてかわからなくなる。

 

「響鬼さん……私の話を聞いてくれますか?」

「僕で良ければ話せる範囲で話していいよ」

 

それから蒼は紗夜から話す言葉を聴いた……その話を黙って聴いた。

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

「(まさか……いや、話を聞いてわかってきたよ)」

 

話を聞いた蒼もわかってきた。

 

「(紗夜がどうしてギターを始めた理由……それまでの努力……そして何よりも“天才の妹”――――――日菜か……)」

 

紗夜は双子の姉妹で妹がいたのは初耳……驚いたところもあった。

 

「(妹がPastel✽Palettesのギターを……あの時はあまりメンバーを見ていなかったな)」

 

Pastel✽Palettesの初ライブは忘れもしないバイトだが正直メンバーに紗夜の妹がいたのは知らなかった。

 

「(一人はバーガーのバイト、一人は機材関係の事、一人は日本に憧れてる少女、最後は女優で―――今は忘れよ……)」

「響鬼さん? 大丈夫ですか?」

 

蒼は少し悪い思い出を思い出す……。

 

「だ、大丈夫だ……(あれは笑顔の恐怖だ)」

 

暗くなる蒼に紗夜は言う。

 

「……私の会話のせいですか」

「ち、違う! 全然! ……僕も驚いていた……」

「そうですか……」

 

蒼は必死に否定をする。それから二人は黙ってしまう。蒼は考えて言う。

 

「話してくれてありがとう……」

「はい……」

 

「僕も気づかなくてごめん」

「いえ……」

 

「辛かったよな」

「―――うん」

 

気がつくと遊んでいた子供達の姿がなく、二人だけになっていた。

 

「僕から見れば氷川さんは頑張っているよ」

「…………」

「妹がどんな人なのかは僕はわからないけど、幼い頃からずっと頑張っていた氷川さんは知ったよ」

「…………」

 

蒼しっかりと紗夜を見つめながら言う。

 

「だから氷川さん……自分を責めないで……皆も責めていないし、僕も責めていない」

「うん……うん……ッ!」

「これは僕の勝手な個人の意見だけど…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……氷川さんの演奏してる姿と音は――――――僕は好きだな……」

 

「――――――!!」

 

紗夜は泣いた……小さな声で泣いた。

 

「…………」

 

蒼の肩に紗夜の頭が当たり、腕には紗夜の両手がしがみついていた。

 

 

 

 

 

「(知らない氷川さんを知ったな……)」

 

 

…………蒼は空を見ながら呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……すみません、私のせいで」

「気にしないで氷川さん……それと謝るのはなしだよ」

「……はい」

 

公園から離れて、紗夜を送っていく蒼……

 

 

 

 

 

 

 

……公園で泣いた紗夜とただ側にいた蒼……紗夜は落ち着いてくるとハッとして蒼から離れてハンカチで顔を拭いた。

 

「ご、ごめんなさい! 私って何をして……」

「気にしないで、それよりも落ち着いたかな?」

「……はい」

 

落ち着いているが顔と瞳は真っ赤だった。

 

「今日はもう帰ろう。調子が良くなればまた来ればいいから」

「はい……そうですね」

 

紗夜は立ち上がって、歩きだす。蒼も隣に立った。

 

「近くまで送るよ」

「い、いえ! 大丈夫です! 響鬼さんがそこまでしなくても……」

「そうでもしないと、皆に何か言われるよ。僕も心配なんだ」

「……お願いします」

 

 

 

 

 

 

……そんな形で蒼は紗夜を送っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(今日はメンバーと響鬼さんに迷惑をかけてしまったわ……でも―――)」

 

紗夜は蒼の横顔を見る。いつもと変わらない表情でいた。

 

「(響鬼さんのおかげ……あの時と同じ公園で……)」

「氷川さん」

「は、はい……」

 

蒼に声をかけられ紗夜はいつも通りに戻す。

 

「日菜さ―――妹さんの事は僕には難しいと思う……だから何かあったら誰かに話せばいいと思う。僕も話は聞けるし考えられる……駄目かな?」

「い、いえ……私も一人で抱え込み過ぎました。響鬼さんは私が思っているよりも凄い人ですね」

「僕はそんな凄い人じゃないよ……僕にも悩みはあるからね」

 

人間誰もが悩みはあると蒼は言う。蒼個人にも悩みはある。

 

「そうなんですか……もうここで大丈夫です響鬼さん」

「わかった、大丈夫だと思うけど気をつけてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます、蒼さん」

「じゃあまた―――?」

 

 

 

そこで蒼は止まった。紗夜も気づいた。

 

 

 

 

「ご、ごめんなさい! 私は何を言って……」

「…………」

 

蒼は何かを考えて言う。

 

「そう言えば名字で呼ばれるのは氷川さんだけになったね…………この際、名前で呼ぶ?」

「え……」

「同じ学年でメンバー同士になったからこの際名前で呼ぶのも活動にいい傾向だと思うんだけど……嫌なら「いえ……この際ですから名前で呼びましょう」……氷川さん?」

 

蒼も嫌ならとめておこうか言おうとしたが紗夜はとめた。

 

「確かに私達は同じ学年です。活動の為にも遠慮を無くすいい傾向かも知れません……えっと、蒼さん…」

 

名前の所だけ恥ずかしそうに紗夜は言った。

 

「じゃあ僕も紗夜さんでいいかな?」

「…………」

「紗夜さん?」

 

恥ずかしい顔から嫌な顔に変わった。

 

「せ、せっかくですので“さん”はいりません……さんをつけるのは私だけになってしまいますから」

「そう言えばそうだ……うん、これでいいかな“紗夜”」

「…………」

「紗夜?」

 

紗夜はボーとしていた……顔を真っ赤にしながら。

 

「ハッ! ……い、いえ、こちらこそよろしくお願いします“蒼さん”」

「? 僕には“さん”をつけるんだね」

 

さんをやめてほしい紗夜だが紗夜自身はさん呼びを言う。

 

「皆さんにはさんをつけているので(男性に呼び捨ては……まだ無理です)」

 

「(どうして顔を真っ赤にしておるんだろう)じゃあ紗夜、気をつけて帰ってね。それとあこの事は気にしないでね、明日になればいつも通りだから」

「はい、蒼さんも気をつけて下さい」

 

蒼は振り替えって、来た道に引き返した。

 

「…………」

 

紗夜は蒼の姿が見えなくなるまで見ていた。

 

「(帰ったら自習練しないと)」

 

紗夜は振り返って歩きだす。

 

「(日菜の事よりも今は―――)」

 

紗夜はどうしてか名前呼びになったことを喜んでいた。

「(いつから不思議な気持ちになる……でも今はギターに集中しないと)」

 

紗夜は早足に家へと向かった……

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

ダー♪ダー♪ダー♪ダッダダー♪ダッダダー♪

 

 

 

 

 

一人歩いている蒼の携帯から電話が鳴る。

 

「もしもし……うん……うん……えっ……その話はまた今度で!」

 

蒼は電話を切る。画面を真っ暗にして、画面を見つめた。

 

 

「相談に乗ってくれてありがとう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……姉さん」

 

蒼は携帯を閉まって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 






お姉さんの登場……出番はいつだそうか……Pastel✽Palettesは日菜ちゃんだけかな…








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第九章 突然の誘い







読んでいる方々ありがとうございます。

少し筆記速度が落ちていますが頑張ります。






 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ただいま…」

「! どうしたあこ?」

 

帰ってきた暗いあこに巴は心配する。

 

「……あこっておねーちゃんの負担なの?」

「…何があった? ほらおいで」

 

心配な姉は妹を優しく抱き締める。

 

「おねーちゃんは…あこはおねーちゃんの真似したり、おねーちゃんのことカッコイイって思うのは嫌……?」

「――――――バカだなあこ……アタシはあこのことを一度もそんな風に思ったことないさ」

 

巴はあこの頭を優しく撫でて、あこを慰める。

 

「ほんとだ……」

「え?」

 

「本当におねーちゃんの言葉、蒼さんの言う通り……」

「え!? ほんとあこ? ……なんか凄いな」

 

蒼の言う通りの事に巴は驚く。

 

「お姉ちゃん、蒼さんとは何処で知り合ったの? ライブでのバイト?」

「ん? あこには言ってなかったけ? ライブの手伝いもそうだけどあたしは太鼓の事で知り合ったな」

「太鼓……地元の祭りの?」

 

少し前、商店街のイベントで巴は太鼓の披露があったのだ。

 

「そう! あの時蒼さんと会って、知り合ったな! 他の皆もライブ前に会っていてな!」

「そうなんだ……」

 

響鬼蒼の事を知ったあこだった。

 

「そしてなにより…………バンドの事で少しな……」

「? お姉ちゃん?」

 

巴は少し前の記憶を思い出した。その顔は苦顔していた。

 

「なんでもないよ! アタシ達が高めになれるのは蒼さんのおかげってこと!」

「なんかよくわからないけど……蒼さんは凄いんだね!」

 

巴は笑顔を出してあこを安心させた。あこも元気へとなっていった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーまた100点か……つまんないのー」

 

次の日、氷川日菜はテストで満点を取っていた。

 

「もう、日菜ってばみんな100点の方が楽しいんだからね?」

 

同じクラスからは羨ましがられる。

 

「(ヒナ…紗夜と何かあったのかな…)」

「ねえねえリサ! これ見たよーっ! 『新星ガールズバンドRoselia』!!」

 

リサは日菜の事を考えているとクラスの人がとある雑誌のページをリサに見せた。

 

「えっ何この記事!?」

 

この前のライブ写真が綺麗に載っていた。

 

「本人が知らないってどーゆーこと? 他のクラスでも超騒がれてるよ」

「湊さんってこんな有名人だったんだね」

 

友希那は学校では一人でいることが多い。幼い頃は三人で遊んで、今は女子校だからリサしかいない。

 

「まー友希那はね~……ん? ってゆーかアタシも載ってるの!?」

 

リサは雑誌を見る。

 

「うわーこの写真全然盛れてないしっ……下がるなぁ…」

 

リサはへこんでいた。

 

「いやいや写り以前にリサはもっと気にした方がいいことあると思うんだけど……」

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「友希那さんも紗夜さんも連絡したのに来ないなぁ! 祝! Roselia雑誌掲載記念お茶会! なのになー!」

「蒼さんも……来ませんでしたね…」

 

 

放課後、ファミレスでお茶会をしていた。

 

「あこってメンタル強いよね~」

「え?」

「そこが…あこちゃんの……いいとこ……」

 

昨日の事が嘘みたいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「? だってRoseliaの記念だよ?」

「ふ……二人とも…『そんな暇ない』って……」

「蒼さんも『女子同士のほうが話せるよ』って、断っちゃったし」

「ま、友希那も紗夜も練習第一だからね~蒼も気をつかわせたんだよ~……あ! そういえばさ二人とも雑誌を見て……どー思った…?」

 

リサは雑誌の事を聞いた。

 

「あ、えっと……えーっと―――あ! 友希那さんのこと『孤高の歌姫』って超カッコイイって思った!」

「あ、あれは……カッコよかったね…」

 

あこと燐子はぎこちなく答えた。気遣ってるつもりだがリサは笑顔を作る。

 

「ちょ…………ねぇもう、なんかそうやって誤魔化されると余計凹むからさぁ? ……はっきりいっていいよっ二人とも!」

「「うっ」」

 

二人は見つめ、頷いた。

 

「じゃあ……言うけど……リサ姉だけギャルっぽくて浮いてる!!」

「ううっ!」

 

まるで逆転する裁判のようなシチュエーションになった。

 

「やっぱり……友達が言ってた通りかぁ…」

 

メンバーからはっきり言われると凹むリサ。

 

「で、でもでもっ! ほらっ! 紗夜さんも演奏はあんなガチなのに服はちょっと地味だしっ! 何て言うかリサ姉だけじゃなくて……」

「……統一…感……?」

「「それだ!」」

 

統一の言葉に二人は言う。

 

「さっすが燐子~それだよっ! Roseliaに足りないのわ~……でも考えてみると燐子と友希那って結構服の趣味似てない?」

「あっそれならあこも一緒だよ!」

「あ、あこのはちょっとほら……」

 

あこの服は珍しい服装で少し違った。

 

「だってあこの服、りんりんに作って貰ったんだもんっ。りんりん自分で服も作れるんだよ?」

 

普通に言うがそれはかなり凄い事である。

 

「えっ! それって結構……ていうか超すごくない!? これ全然手作りってわかんないじゃん!」

「わたし……いつも家にいて、時間があったこら…」

「あっ! あこひらめいちゃったかも!」

 

あこはピカッと閃いた。

 

 

「Roseliaでバンド衣装作るってどうかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Cスタジオ空きました」

「お疲れ友希那ちゃん最近特に頑張ってるねRoseliaどう?」

 

友希那は一人で練習をしていた。時間が迫り、友希那は受付でまりなと会話していた。

 

「まだまだ理想のレベルには程遠いです」

「またまたぁ~友希那ちゃんは理想が高いからな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…あのっ!」

 

会話をしているとを女性が友希那に話し掛けた。

 

「すみませんちょっとよろしいでしょうか……友希那さん、少しお時間をいただきたいんですが…」

「失礼ですが…どなたでしょうか?」

「私はこういう者です」

 

とあるレコード会社の名刺。友希那はわかった。

 

「率直に伝えますが友希那さん……うちの事務所に所属しませんか?」

「……いえ事務所には興味がありません。私は自分の音楽で認められたいだけですから」

 

何度か同じ言葉を言われたが友希那は同じ言葉を言う……

 

「待ってください! あなたは本物だ! 私……いえ、私達ならあなたの夢をかなえられる!」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう……

 

 

 

 

 

 

 

「一緒にFUTURE WORLD FES.に出ましょう!」

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………この日までは…

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「覚えてないかも知れませんが、あなたの2回目のライブの時に断られてるんです」

「……」

「バンドにこだわっていることもしっています。だからあなたの為のメンバーも用意しました」

 

友希那は立ち去ろうとするがFUTURE WORLD FES.の言葉に話を聞いていた。

 

「友希那ちゃん……これってつまりメジャーデビュー…」

 

確かにそれはデビュー……それを聞いているまりなも驚いていた。

 

「コンテストなんて出る必要ない本番のフェスに出場できるんです! ステージだってメインステージです!」

「……私(お父さんの夢だったフェスにバンドで出られる…なのに、なんで……わたし…)」

 

事務所に入れば確実にフェスに出られる……だが友希那はすぐに返事が出ない。

 

「……友希那さん? すみません、何か気に障るようなことを言いましたか?」

「いえ…そうではなくて……」

 

はっとして、友希那は言う。

 

「少し……待って欲しい(私…何を言っているの? フェスに出られるこれ以上ないチャンスを…!)」

「わかりました。友希那さんの中で答えが出る時までいくらでも待ちましょう」

 

「……わかったわ(なぜ引き受けなかったの…? 待たせてどうするの…)」

 

前の自分なら即受ける話だったが今は断っていた。女性も友希那の言葉を尊重したのか今日は下がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 友希那じゃんっ!」

「リサ…」

 

帰り道、自宅の前でばったり会う二人。

 

「おかえりっ今日のお茶会楽しかったよ!」

「あこも燐子も行ったそうね。あなたたち今日の練習しないつもりなの?」

「みんな家でやってるってさ! アタシもこれから! それより友希那っアタシ達から一個提案があるの!」

「なに……?」

「Roseliaの衣装作っていい?」

 

二人は話し合う為、近くの公園のブランコで話す。

 

「でね、燐子が衣装作れるって話になってRoseliaの世界観っていうか演奏を伝えるためにもいいと思うんだよね。蒼からも許可を貰うからね!」

「そう……好きにしたらいいわ」

「ありがとー! 早速みんなにメールしよーっと! ……ん?」

 

リサは友希那の様子がおかしい事に気づく。

 

「友希那…顔色悪くない?」

「……え? ……別にいつもと変わらないわよ」

「……そっか。一瞬…なんな迷っている風に見えたっていうか…いや、気のせいかごめんごめん!」

「たとえ何があろうと私は今まで通り自分の音楽を信じて進むだけよ(私にとっての音楽……それはRoseliaだけじゃない。Roseliaはフェス出場の手段だったはずよ)」

 

友希那の目的は変わらない。

 

「迷うことなんて何もないわ。何をしてでもFUTURE WORLD FES. に出る……それしか考えてないなら」

「?……ん、わかった! でも友希那……本当にヤバい時はちゃんとアタシや蒼に話してね?」

「……っ」

 

無慈悲な笑顔は今の友希那には眩しく感じた。リサは話を続ける。

 

 

「アタシ……最近の友希那を見てるとよく思い出すんだよね。小さい頃のと……蒼と友希那のお父さんと一緒にさ、色んな曲を演ったよね。友希那はあの頃から歌が上手くて、アタシは弾けるようになるまでめちゃくちゃ時間がかかって…でもいつも楽しかったな……」

 

「……昔の話はやめて。もう行くわ…やることがあるから」

「友希那……」

 

昔話の事になったら友希那はブランコから立ち上がり、リサから離れていく。リサは止めることをしないが友希那は立ち止まる。

 

「ねぇリサ……」

「何?」

「………………蒼が帰ってきてから楽器を弾いてる所、見たことある?」

 

振り替えるその顔は暗い顔だった。

 

「アタシは見てないな……紗夜には見せたんじゃない、あの弾き方は…」

「そう……」

 

友希那は前を向いて歩いていく。公園にはリサだけが残された。

 

「……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………今でも引きずっているのかな、蒼…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

紗夜もは自室で練習をしていた。

 

「……ッ!」

 

何度やっているが簡単な所でミスをしていた。

 

 

「(…どうしてかしら? ずっとやってるのにこのフレーズ…少しも精度が上がらない……それに……)」

 

紗夜はあの日の事を思い出す。

 

 

 

 

「(日菜のこと、蒼さん……)とにかく集中して……まだ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………?」

 

日菜は廊下を歩いていると何かが倒れる音がした。その方向は紗夜の部屋だった。

 

「……おねーちゃん!?」

「ドア閉めて……」

 

日菜は側に寄って紗夜を起こす。

 

「勝手に入ってこないでって言ってるでしょ…」

「でも、おねーちゃん顔色悪いよ…少し休んだほうが―――「私にはギターしかないの……っ放っておいて!」―――っ」

 

日菜は部屋から出ていった。

 

「(コンテストまでに必ず…最高のレベルに……)?」

 

紗夜の携帯から連絡の音が鳴っていた。

 

「……今井さんからメール? なに?」

 

内容は『高貴なる闇の騎士団』の名に衣装の画像だった。

 

「(宇田川さんの発案ね? 確かに衣装は必要だけど…余計なイメージをつけないでって返信しないと―――まったく、時間を無駄にしてしまったじゃない)」

 

紗夜は深呼吸する。

 

「(そうよ、Roseliaを必ず最高のバンドにしないと……蒼さんに教えてもらった……絶対に―――ギターだけは日菜に負けない!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ただいま」

 

友希那は家に入る。フロアには父と母がいた。

 

「友希那……あまり遅くまで出歩くのは危ないから気をつけなさい」

「友希那、夕御飯は……」

「要らない」

 

それだけ言うと友希那は部屋へと向かう。

 

「…………」

 

母は父を見るが何も言わない。父の瞳は以前の輝きがなかった。

 

 

 

 

 

「(私が毎晩なんで遅いか知っているのに絶対に『理由』には触れてこない……)」

 

友希那は棚に置いてあるお父さんが載ってある雑誌を手に取る。

 

「(私は絶対この頃のお父さんを越えてみせる。そして……お父さんに、また笑って欲しい……だから迷っている場合じゃない)」

 

友希那は雑誌を置く。

 

「私は間違っていない……そうだよね、蒼――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

『友希那! おんがくって、楽しいね!』

 

「…………」

 

帰ってきた幼馴染み……だけどあの頃のように笑ってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

ピロリンッ!

 

 

 

 

 

「(あ……あこちゃん…)」

 

燐子のパソコンからメッセージが届く。

 

『紗夜さんからメッセージが来て、もっとスタイリッシュな方がRoseliaに合うって!』

 

「(スタイリッシュ……確かにちょっとあこちゃんの趣味に寄せすぎたかも…)」

『わかった、もう少しデザイン考えてみるね』

 

 

あこに返信し、ふと気づく。

 

 

「(あこちゃん以外の人からこんな風に頼まれごとをするのって初めて………変えてくれた蒼さんの為にしっかり頑張らないと)」

 

自分を変えてくれた友達の為に燐子は気合いを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Roseliaの皆でで衣装着たらもうすっごーくカッコよくなるの間違いなしだよっ! りんりんよろしくねっ!』

 

あこがパソコンに集中していると巴が後ろから覗き込む。

 

「なんだあこ、Roseliaって衣装作るのか?」

「まぁね! みんなで自分たちの音楽を表現するんだよっ」

「バンドってそういうところがいいんだよな! 一つになっていく感じっていうか!」

「うんっそうなの! あこ、初めはおねーちゃんみたいになりたいから入ったけど今はRoseliaが自分の居場所って感じなんだ!」

 

あこはとても笑顔だった。

 

「……そっか! よかったな~」

 

巴は頭を撫でた。

 

「あ、でも肝心の友希那さんからまだ返事が来てないやぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おーい友希那ぁー!」

 

 

 

………………

 

 

リサの家と友希那の家は向かい合っている。二人はベランダから会話が出来るのだ。

 

 

「って反応するわけないかぁ…」

 

 

幼い頃から中学までは二人はベランダ越しに会話をしていた…………

 

 

「…………」

 

……あの頃の友希那はとても笑顔だった。

 

「(ねぇ友希那……カーテンの向こうで本当は何か悩んでるんじゃないの……?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プルル……

 

「…………はい、もしもし……えぇ…そうですが」

 

 

 

友希那の方にも事態は進んでいた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

蒼はフロアの椅子に座って、携帯から録画した音を聴いていた。曲が終わり、停止する。

 

「いい感じだな……フェスに向けてこのままだな」

 

Roseliaの雇われサポートをやっている蒼は友希那達の目標の為、このまま進めるよう考えていた。

 

「あこのドラムはやんちゃだが少し抑えればいい……燐は少し後ろに出ていたが最近は前に出ていて問題なし……リサは過去の経験から感覚が戻ってきているかよし……友希那はいつも通りだが最近休めているのかが不安だな……紗夜は―――」

 

紗夜の事を考えると言葉が止まる。

 

「先にやっている事を妹が真似しての先を越される姉……」

 

蒼はこの前紗夜から話したことを思い出していた。

 

「周りからも妹の方に人が集まり、姉は孤立……紗夜も目立ちたかったからじゃないんだけど……」

 

劣等感になる紗夜……その怒りをずっと溜めていた。

 

「でも紗夜はきっと妹の事を嫌っていない。いつからかわからないけど、昔はきっと姉妹仲良く過ごしていた時間があるから――――――」

 

ふと、壁際にかけてある楽器ケースを見る。

 

「同じギターを始めた妹……」

 

蒼は近付いて、楽器ケースを横にする。

 

「もし僕が紗夜と同じ状態になったらどうなるか……」

 

そしてロックを外して後は開くだけだが……

 

「同じことをするのかそれとも―――」

 

―――♪

 

蒼の携帯から連絡が来た。内容を確認する。

 

「……意見がまとまって出来ました……か」

 

燐子からで衣装の事だった。

 

「僕としてはそこは専門外なんだけどな」

 

蒼は服装に関しては正直苦手。連絡が来る前にも皆に確認したから蒼は返事を出す。

 

「皆に確認したなら問題ないよ。衣装作りも無理しないでね……と」

 

返事を送り、携帯をしまう。

 

「…………」

 

もう一度ケースを見つめて、ロックをしてケースを起こして壁際に置く。

 

「……そろそろ寝るか」

 

電気を消して、寝室へと向かった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせりんりんっ! 人多いよねぇ今度から待ち合わせは他の場所にしようかなぁ」

「あ……っだ、大丈夫だよ……(苦手だった人混み)」

 

『大丈夫だ……大丈夫』

 

 

 

「(蒼さん……キーボードを抱き締めてると……あまり気にならないって気づいた)」

 

『大切にな……いい楽器なんだから』

 

「蒼さん……」

「?」

「あ―――そ、それより……衣装あこちゃんのだけ先に作ってみたから……」

「えっほんとっ?やったー!! じゃあ早くスタジオ行かなきゃっメンバーのみんなにも見せてもらおうっ!」

 

独り言はあこには聞こえず、燐子は違う話題にするとあこはくいついた。

 

「うん、気に入ってもらえると……いいかな……」

「りんりんのデザインなら間違いなしだよ!! よーしっついにバンド衣装! 燃えちゃうなあーっ! …………ん?」

 

このままスタジオに向かおうとしたが、あこは 見慣れた人を見つける。

 

「あれって……あ、あこちゃん?」

「りんりんしーっ! 友希那さんに気づかれちゃうよっ」

 

見慣れた人は友希那だった……一人の女性と一緒に歩いていた。二人は尾行をする。

 

「あこちゃんやめようよ……勝手にあとをつけるなんて……」

「だってもうすぐ練習始まる時間だよ?」

 

もうすぐ練習の時間だが、あこは言う。

 

「あの友希那さんが練習に遅れてまで会うあの女の人……何か脅されてるとしか思えないっ友希那さんをしつこくつけ回すストーカーかもっ!」

「待ってあこちゃん!」

 

あこの尾行能力が高く、燐子は急いで追いかける。

 

 

 

…………

 

 

 

 

それから友希那と女性は豪華なホテルに入っていく。

 

「わっ! 豪華なホテルに入った! あこ達も行ってみよう!」

「わたし達……入れないん…じゃ…」

 

―――だが以外にも簡単に入り、友希那の側にも近付いた。

 

「ここからじゃ聞こえないからちょっと近づいて…」

「あこちゃん…こういうのよくないよ(それにスーツの人の雰囲気……とてもストーカーって感じじゃあ……)」

 

 

二人は近付き、声が聞こえる距離になる。

 

 

 

「以前伺った弊社のものがあなたの熱烈なファンで軽々しく『いくらでも待つ』などと言っていたようで……しかしこちらとしてはビジネスですので」

 

「……え?」

 

ビジネスの言葉にあこは反応する。

 

 

「他社からも話が来ているんでしょうか? 我々より他社が用意した条件の方が魅力的だと言うのなら潔く諦めますが」

「……他からはまだ……話は来てないわ」

 

友希那の表情は暗かった。

 

「でしたらRoseliaとして生真面目にコンテストに出場するのか、我々と一緒に本番のメインステージに立つのか…………考えるまでもないはず」

「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇりんりん…これ、どういうこと?」

「……わか、らない……」

 

わからないと言うが二人はわかっていた。

 

 

 

 

 

「…………意外ですね。孤高のボーカリストとして名高いあなたが…バンドが友達になってしまったんですか?」

「……っ! 違うわ! 私はフェスに出るためなら何でもする……ただ、今日は練習が…」

 

女性は考えられない、結論を言う。

 

「ではあと、一週間だけ待ちましょう。あなたが一人のアーティストとして、正しい選択をしてくださることを祈っています」

「……わかったわ」

「……じゃあこれで」

 

 

 

 

 

 

 

「「…………」」

 

 

友希那と女性の会話が終わり、去っていくが、二人は残っていた。

 

 

 

 

「ねぇりんりん、今のって…」

「と、とりあえず……今日はスタジオで……練習だから…わたし達も行かないと…」

「そ、そうだ…! とにかくみんなと合流して……それから考えよっか!」

 

ピロリンッ!♪

 

 

話したい事はあるが、とにかく練習に向かう。と同時にあこの携帯から音がなる。

 

 

「あ……リサ姉からメッセージだ。紗夜さんと蒼さんしかいないけどみんなどうしたの……って…」

「…………」

 

このメッセージを見ると、この事を知っているのは三人だけになった。

 

 

「今……見たこと言わないほうがいいよ、ね……?」

「友希那さんが…スタジオに来るのなら…本人の口から…聞ける…かも…」

「そ、そうだよね……っ!なんかきっと変な風に聞こえただけだよねっ……じゃあスタジオに急ごっ!」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……30分の遅刻よ、やる気あるの?」

「そういう友希那も15分遅れたけどね?」

「「ごめんなさいっ!」」

 

二人が謝り、リサは笑っていた。

 

「いや~珍しいこともあるもんだねっ」

「いいから早く準備してください。ロスした分を取り戻さなくては」

 

「(友希那さん……)」

「(この感じだと……皆にはさっきのこと……話してない?)」

 

「ん? (二人とも何かあったのか)」

 

友希那を見ると話していないと見た。蒼も様子が違うと見る。

 

「(りんりん……これって―――)」

 

蒼は側による。

 

「何かあったのか二人とも?」

「なーに辛気くさい顔していんのっ? 紗夜せんせいが怒るなんていつものことじゃーん!」

「もうっ! 今井さん!」

 

珍しく紗夜が真っ赤に怒る。

 

「きっと早く練習がしたいんだよ(二人とも言いづらいことでもあるのか)」

「蒼さんまで……まじめにやってコンテストは刻一刻と近づいてるよ」

「はあ~い」

 

いつもより気合いがある光景だが……

 

「…………りんりん…」

「……あこちゃん…」

 

 

 

「…………」

 

 

「「どうしよう……」」

 

 

 

 



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第十章 散る花……幼馴染みの役目





お気に入りありがとうございます。




さてさて……バンドリはどの方向に進むのか……









 

 

 

 

 

 

 

「「…………」」

 

三人はいつでも弾ける状態だが燐子とあこは構えていなかった。

 

「どうしたの二人とも? ……?」

 

友希那は注意するがリサは何かがおかしいと気づく。

 

「(友希那も遅れてきたな……皆の様子がおかしい)皆大丈夫?」

「やる気がないなら帰―――」

「あ、あのっ! あこ……見ちゃったの!」

「……何をですか?」

「あ、あこちゃん……」

 

紗夜は興味なしに言う。燐子は止めようとするが言う。

 

「友希那さんが……スーツの女の人とホテルで…話してて…」

「!?」

 

言葉を言うと友希那は驚いた。

 

「(友希那が驚いている……ホテルで女性と……いつものスカウトだがどうして?)」

「……それがどうしたって言うの? 湊さんにだってプライベートはあるでしょう」

 

友希那がスカウトされるのは珍しくない。紗夜の言う通りプライベートもあるが……友希那が驚くことが何よりの疑問だった。

 

「でも……」

「あこちゃん…今は練習を……」

「そ…そうだけど…でも……気になるんだもん!」

「落ち着いて二人とも……あこ、どうしたんだ?」

 

蒼は二人を落ち着かせて、話を聞く。

 

「蒼さん……あこにとってRoselia6人だけの…『自分だけのカッコイイ』のために頑張ってきました……だから……コンテストに、出られないなんてぜったいイヤなんだもん!」

「……どういうこと?」

 

紗夜も耳を傾ける。

 

「今日……りんりんと待ち合わせしてて……そしたら…友希那さんを見かけて――――――友希那さん、フェスのメインステージに出ないかって言われてて…」

「あこ……それは―――」

 

蒼が言う前にあこが言った。

 

「Roseliaで生真面目にコンテストに、出る必要なんて無いって…!」

「…………」

 

友希那は何も言わない。

 

「……宇田川さんの言い分はわかったわ。湊さん、認識に相違はないんですか?」

 

紗夜は拳を握り、友希那に詰め寄る。。

 

「私達とコンテストになんか出場せずに自分一人……本番のステージに立てればいい…………そういうことですか?」

「……っ!」

 

友希那は黙っていた。蒼も確かめる。

 

「友希那……何か言わないのか?」

「…………」

 

何も答えずにいると紗夜は言う。

 

「……否定しないんですね…だったら―――」

「ちょ…ちょっと待って! そう言った訳じゃないじゃん!」

 

リサは止めて友希那に聞く。

 

「友希那の言い分だってちゃんと聞こうよ! ねっ友希那!」

「…………」

 

ずっと黙っている友希那……それはまるで答えのように見えた。

 

「……友希那…っ! ねぇ何か―――」

「『私達なら音楽の頂点を目指せる』なんて言って……『自分達の音楽を』なんてメンバーをたきつけて…………」

 

紗夜の言葉は続く。

 

「フェスに出られればなんでも……誰でもよかった………そういうことじゃないですか」

 

冷たい言葉はあこの胸に突き刺さる。

 

「……あこ達、そのためだけに集められたってこと?」

「あこちゃん……っ! なにもそうとは……」

「あこ達の技術を認めてくれてたのも……Roseliaに全部賭けるってはなしも……みんな…フェスに出るための……?」

 

あこは泣いていた。

 

「友希那さんひどいよ…っ!!」

「あこちゃん待って!」

 

「ちょっ二人とも!」

 

リサは止めるが二人は部屋から出た。

 

「……湊さん、私は本当にあなたの信念を尊敬していました……だからこそ私も――――――とても失望したわ」

 

紗夜はギターケースを背負って出ようとする。

 

「紗夜お願い! 少しは友希那の話を……」

 

紗夜は扉の前で止まる。

 

「答えないことが最大の答えだわ」

「……じゃあこれから先アタシ達、どうするつもり…?」

「あなたと湊さんは『幼なじみ』勿論蒼さんも……何も変わらないでしょうね」

「そういうことじゃなくて……!」

 

紗夜は扉に手をかける。

 

「私はまた時間を無駄にしたことで少し苛立っているの……申し訳ないけど失礼するわ」

「紗夜…っ」

 

紗夜は部屋から出ていく。残されのは幼馴染みの三人になった。

 

「(まさかこうなるとはな)友希那、今なら言いたいことは言えるぞ」

「…………」

 

少しでも話せるようにしたがそれでも友希那は喋らない……まるで全部が本当のように見えた。

 

「友希那! ねぇ、蒼の言う通り全部本当なの!?」

「……本当だったらなに?」

「友希那はそれでいいの? 本当はメンバーに何か言いたいことがあるんじゃ…」

 

すると友希那は顔を上げた。

 

「っ! ―――知らないっ! 私はお父さんの為にフェスに出るの! 昔からそれだけって言ってきたでしょ!」

「友希那……」

「そうか……」

 

友希那は変わらない……昔も今も、これからも……

 

「どうするつもりだ友希那……またメンバー集めをするのか」

「ちょっと蒼! 今はそんなんじゃ―――」

「……帰るわ」

 

一人蒼は表情変えずに言う。リサはそれどころじゃないと言うが、友希那の行動は帰ることだった。

 

「か、帰ってどうするつもり…?」

「フェスに向けた準備をするだけよ」

「友希那!!」

 

友希那も部屋から出ていった。

 

「リサはどうする? 皆は戻ってこないと思うが……」

「蒼……蒼はなんでそんなに普通なの……止めに入らないの?」

 

蒼は普通でいた。動揺も焦りもなく、普通でいた。リサの表情は怒っている顔だ

 

「普通か……これでも驚いているんだが……前にも言ったがリサ…僕は雇われサポート。バンドのサポートをするだけ……友希那と紗夜が組んだ時からそうだよ」

「雇われサポートでも友希那が困っているよ! だから―――「それは私情だよリサ」―――蒼……」

「本当に困っているなら話してくれないと僕は何も出来ない……僕も今日は失礼するよ」

 

まるで用件がないように蒼も部屋から出ようとする。

 

「蒼……アタシはどうすればいいの?」

「どうすればいい……か」

 

蒼はリサを見る。リサは本当に悩んでいた。

 

「リサ……君は友希那のなんだ?」

「何って……それは……」

 

リサの言葉が止まる……答えようにも言葉が出なかった。

 

「答えられないか……僕も人の事は言えないが」

 

蒼は扉に手をかける。

 

「待って蒼! どうしてギターを持たないの?」

「…………」

 

蒼の動きが止まる。

 

「なんでアタシ達の前では弾かないの?」

「……」

 

「紗夜だけには……弾いたの?」

「……」

 

「蒼はもう充分だよ……お姉さんだって―――」

「リサ…」

 

蒼は振り向いた。

 

「……ギターを教えてと……言われたからだよ」

「……」

 

蒼は部屋から出ていく。最後に残ったのはリサだけになった。

 

「蒼……」

 

振り向いたその顔は悲しみが流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人残ったリサは一人でベースの練習…………時間が迫り、それからバイトに向かった。

 

「―――っしゃーした!」

「モカ……アンタいつも増して挨拶テキトー過ぎ」

 

バイト仲間の青葉モカ……Afterglowのギターで口調と行動はマイペースだが興味があることはとことんやる。

 

「? ……どこまで言葉を崩せるのかチャレンジ中なんですよーこのあいだは『サンシャイン』って言ってもバレなかったですよー」

「何それ!?」

 

それでもメンバーの信頼は厚い。

 

「(……色々考えなきゃいけないんだけどモカのこういうとこなごんで助かるんだよなぁ)っと、友希那からメールだ」

 

リサは携帯を見ると驚く。

 

内容は『来週の練習予定、取り消す。他のメンバーにも伝えたから』だった。

 

「(そんな……来週以降はスタジオ予約は蒼ですらしていないのに…)」

「湊さんってリサさんの幼なじみでしたっけ?」

「えっ、あ……うんっ! 家が隣同士でさ(ずっと一緒なのに……なんでアタシはもっと上手くできないんだろ…)」

 

いつも明るいリサだが今日の事で暗い表情は出てしまう。

 

「リサさん?」

「そっそういえばモカと蘭も幼なじみなんだっけ?」

「まあ一応……そう、なんですけど」

「……? どうかしたの?」

 

モカもいつもと違う言い方にリサも気づく。

 

「あの……幼なじみが悩んでいる時、リサさんならどうしますか?」

「…ど、どうって?」

「んーと……」

 

モカは考えて、リサに言う。

 

「蘭の家って華道の家元なんですけど…お父さんが蘭を後継者にしたいらしくて…」

「ふんふん」

 

「……でも蘭は華道に興味がなくてバンドがやりたいのにお父さんに反対されて……お父さんにあたし達のバンドはただのバンドごっこだって言われたってショックうけてて」

「…それは…確かにキツイね…」

 

「それで……落ち込んでた蘭を心配したら『みんなには関係ない』って言われちゃって…」

「…………」

 

家庭の事情を自分の問題だと決めて、友達には迷惑をかけないつもりでやって来たと見る。

 

「で、ちょっとトモちんと蘭が衝突しちゃいまして…」

「……なるほどね」

 

それでも友達は何か出来ることはないかと考えるが、それが『巻き込みたくない』ことを『迷惑』に変えてしまった……

 

「……で、蘭の悩みはわかったけど、モカはそれに対して何かリアクションしたの?」

「リアクション……?」

「だって蘭はそうやってモカに悩みをぶつけてきたんでしょ? それをモカはどう受け止めたのな……って話」

「あたしは……蘭がつらいことがあったら聞いてあげて…それで……できるだけ蘭がつらくならないようにしてあげようって思ってて……」

 

受け止める……受け止めるがそれだけでは伝わらない……

 

「んーと…じゃあモカはさ……蘭にどうしてほしいの?」

「…あたしは…『蘭にバンドやめてほしくない』……です」

 

モカは言う。

 

「蘭とずっと一緒にいたいし…だからそのために家のこととも向き合ってほしいし……けど、それはあたしの考えだから―――」

「それでいいんじゃない? アタシは今モカが言ったこと全部蘭に伝えればいいんじゃないかなって思う」

「ぜんぶ……」

 

受け止めて……その思いを答え、伝えることをリサは言う。

 

「モカは優しいんだよ。自分の考えが蘭を邪魔しちゃうんじゃないかって……そう思ってるんじゃない?」

「そう……なのかも…」

 

モカの悩みもいい方向に進んでいくのと同時にリサは自分も同じだと気づく。

 

「(Roseliaと似てる……いや、アタシとモカが似てるんだ……ずっとずっと『見守るだけ』)」

 

リサもモカのおかげで気づかされた。リサもやるべきことが見つかる。

 

「……本当に大切なら隣にいるだけじゃダメ。間違った方向にいかないように導くのも友達……ううん、『親友』の役目なんだよ……アタシも友希那が望む事ならって、ずっと見守ってきた。もしかしたら間違ってるかもしれないって思いながらずっと……でもそれはやっぱり間違いだったんだよね(モカならきっと大丈夫……アタシは今から取り戻さなくちゃいけない!)」

 

リサも決心がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……て、言うことが少し前あったんですよ~」

「え……少し前?」

 

リサはポカンとしていた。

 

「はい……もう解決してくれました」

「そ、そうなんだ(アタシのアドバイス意味あったのかな)」

 

悩み相談だが既に解決済みの相談をされて、変な気持ちになった。

 

「でもーリサさんと同じことを言われましたね」

「え、同じこと……誰に?」

 

一応気になったのか聞いてみた。

 

「う~ん……変態さん」

「へ、変態?」

「間違えました、探偵です」

「どんな間違いなのモカ…」

 

探偵がなんで変態になったのか不思議でしょうがない。

 

「あの時はモカが買おうとしてたパンを取ったんですよ~」

「パンって山吹ベーカリーの?」

「そうー会計したパンを貰っちゃいました~」

「軽く窃盗じゃないのそれ……」

 

友達が軽い犯罪な行いに驚く。

 

「まぁーその人のおかげで解決してくれたんですよ」

「因みにどんな人?」

「それは―――おーバイト終了お時間ですぞ」

「あ、ほんとだ……じゃあまた今度教えてよ」

 

リサも友希那に話をするため、早くバイトから上がった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(事務所からメッセージ…はやく開封しなきゃいけないのに…)」

 

ピロロン♪

 

友希那は部屋で事務所からのメールを見ようとするがリサから連絡が来る。

 

『ゆっきな~窓開けて!』

「(リサ…? 何…急に…)」

 

『忙しいから無理』

 

適当に返事をして、事務所からのを確認しようとするが、またリサから連絡がきた。

 

 

ピロロン♪

 

『寝っ転がって何に忙しいのかな? カーテン空いてるぞ』

 

「……!」

 

窓を見ると、リサがピースをしていた。友希那も観念してベランダに出た。

 

「やっほーベランダ越しってひっさしぶりだね?」

「……なにか用?」

 

ライブハウスでの事があってからか友希那はいつもより冷たかった。

 

「ん~あのさ……まずはごめんね。今回のこと……アタシなんにも気づけなかった……」

「……!」

 

リサから謝れた友希那……

 

「家の前でたまたまあった夜さ……あの時から友希那はずっとひとりで悩んでたんでしょ?」

「…………」

 

家の前で会って公園で話したあの日……友希那は悩んでいたことをリサは気づいた。

 

「アタシが気づけてたら何か出来たんじゃないかって…アタシ…友希那が幸せならとか言って今まで…なんっにもしてこなかったなぁ…って!」

「…………」

 

幼い頃からずっと一緒だったがリサはいつも側にいて、ついてきただけだった。

 

「言うだけならいくらでも出来るっての……お父さんのこともRoseliaのこともフェスのことも……ずっと友希那ひとりに背負わせてごめん!! これからはアタシも一緒に―――「なんで……」……?」

 

ずっと黙っていた友希那は喋ったが腕は震えていた。

 

「リサはなんでいつもそうなの!! なんで優しくするの!? 全部……っ! 悪いのは私なのに!!私の自分勝手でこうなったことくらいわかってる!! なのに……バンドもフェスも……お父さんのことも! リサは私が何をしても笑って…………いつもそばにいて、くれて……」

「うん…ごめん……」

 

「だから…っ それはやめてってば…! 私は…リサがいると……ちゃんと音楽に向き合えない!!」

 

リサが謝るが友希那にとって罪悪感が出る……いや、それは大切な幼馴染みでもあったから……

 

「わかった……アタシ…友希那のこと大切だから甘やかしちゃってたんだね……そうするとアタシに出来ることってやっぱりないのかもしんないや」

「リサ…」

 

「でもさ……フェスに出たいって友希那の覚悟は知ってるよ。 蒼が帰ってきて、5人で演奏してた時は昔の……友希那のお父さんと一緒にセッションしてた頃の友希那が戻ってきたみたいで――――――すごく嬉しかった」

「…………っ」

 

リサは友希那に言いたいことを伝えた。

 

「少なくともアタシには友希那が幸せそうに見えてたよ。だから……もし迷っているなら今はRoseliaを捨てないで欲しい。アタシの……ただの気持ちだけどねっ」

「……気持ちだけじゃ音楽は出来ないわ」

「ん……そうだね」

 

リサは両手を上に上げた。

 

「……つきあってくれてありがと! 全部言ったらスッキリした! アタシ、夕飯食べてくる! じゃっ」

 

リサは片手を振って部屋に戻る。友希那は額を手すりに当てる。

 

 

 

 

 

 

「(お父さんの代わりにフェスに出る……その『気持ちだけ』で私はやってきた……その私が……『気持ちだけでは』……なんて……)」

 

友希那は涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ(今アタシにできることはたぶんやれたはず。他にできることはまた考えていこう……こうやってぶつかってもちゃんと友希那と向き合い続けたいから)」

 

 

リサはベランダの扉を閉めて部屋に入った。

 

「ちゃんと伝えたよ……ありがとね、蒼」

「…………」

 

部屋の壁に背をぶつけている蒼がいた。

 

「僕はなにもしていない。だがリサ……状況は変わっていないぞ」

「うん、わかってる」

 

リサが蒼に連絡し、立ち会って貰った。幼馴染みとして来たのかお願いできたのかはわからない。

 

「明日また会って話をするから」

「それでも変わらなかったらどうする?」

「それでもアタシは友希那と向き合うから」

「そうか……話も終わったし、失礼するよ」

 

用件も済んだので蒼は帰ろうと立ち上がり、部屋から出ようとする。

 

「ねぇ蒼」

「どうした?」

「……もう気にしなくていいんじゃないかな」

「僕も友希那みたいに過去に囚われなくてもいいと言うのか」

「うん……蒼はもう充分だよ」

「…………」

 

リサの前には蒼が背を向けていて表情がわからない。

 

「僕は変われない。あのギターも……弾くのが怖いんだ」

「蒼……」

「リサ……君ならまだ友希那と話せる……だから―――頑張れよ」

「あ……」

 

蒼は部屋から出ていった。

 

「…………」

 

リサは部屋のベットに腰を掛けた。

 

「(アタシはまだ諦めないよ……だけど今は友希那を―――先ずは夕飯かな)」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

リサの家から出た蒼は帰り道を歩いていた。

 

「(正直、皆がバラバラになるとは思わなかったな)」

 

蒼は今日の出来事を考えていた。

 

「(皆を思っていることはわかる……でも友希那の行動に驚いたな)」

 

少し前の友希那なら確実にスカウトを受けていた筈……でもそれを友希那は答えを出さずにいたことに蒼は驚いていた。

 

「(友希那……君にはリサがいる。だから“知ってほしい”……皆はどうしようか…)」

 

三人の事を考えた。

 

「(リサ一人に任せるわけにはいかないよな……)」

 

二人はどうにかできるが紗夜だけは難しくなる。

 

「…………」

 

蒼は携帯を操作する……誰かにメールを送る。

 

「まさか……こうなるとはな…」

 

雇われサポートは“穴埋めの為”、行動に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(それにしてもリサのお母さんはそっくりだな……リサの十年後でも違和感がないな)」

 

リサの家を訪れたので挨拶をした。

 

「(皆元気そうだな……弟さんも―――?)」

 

蒼の足と思考が止まった。

 

「あれ?……リサとは幼い頃から会っているが“弟さん”いたっけ?」

 

蒼は口を開き、脳は通常の三倍になった。

 

「姉妹関係の時は『妹がいないから』と、言っていたから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………そっとしておこう…」

 

蒼は考えることをやめて、歩き出した。

 

 

 

 

 



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第十一章 再び狂い咲け


11月……公式は何を発表するのやら……





お気に入りと感想ありがとうございます……どうぞ。








 

 

 

 

 

 

 

 

「湊さんならもう帰ったすよ」

「あ、そっか……ありがと麻弥~」

 

次の日の放課後、リサは友希那に会いに行ったが既に帰っていた。

 

「いえいえ蒼さんによろしくです」

「わかったよ~(蒼って顔が広いわね……)」

 

『違う、たまたま知り合うんだよ……』

 

世界一不運な男の映画みたいな顔をしていた蒼……けどリサの顔は真剣になる。

 

「それよりも――――――ちゃんと向き合うって決めたけど…なかなか上手くいかないな」

 

事前は気合い充分だがいざ始まると怖じ気つくリサであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? リサ! 放課後残ってるの久しぶりじゃない? バンドは?」

 

帰ろうとしたらリサの友達が二人きた。

 

「あーうん。なんていうか……」

 

「てか今日楽器持ってないじゃん? もしかしてバンド辞めちゃったとか?」

「ありえる! 急に学校に楽器持って来てさ~なんかリサらしくないって思ってたんだよね」

「だよね~」

 

「あははは……そっか…アタシらしくないか」

 

時に何気ない言葉でも人の心を傷つける時があるので気をつけたい。

 

「そっだよっリサはおしゃれなんだし!」

「ねっバンドがないならネイルいこーよ!」

「え……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「りんりんからオフ会議くれたの初めてだね?」

「うん……家にいても落ち着かなくて…」

 

二人はファミレスでお茶をしていた。昨日からライブハウスには行っていない。

 

「あこもなんかどうしたらいいかわからない………だからりんりんに会えてほっとしているんだ」

 

あこは笑顔で言うが暗くなる。

 

「……ねぇりんりん……あこ、みんなに余計なこと言っちゃったのかな……あこがあんなこと―――「それは違うよ」……りんりん」

 

震えている拳を燐子が支える。

 

「…友希那さんが……本当にRoseliaを辞めるなら……いつかわかってたことだと思う……」

「じゃあ……このままRoseliaなくなっちゃうの…?」

「それは……」

「……りんりんこれを見て」

 

あこは携帯から動画を見せた。それはRoselia5人の練習動画……5人はとても楽しく笑っていた。

 

「この動画……もしかして―――」

 

燐子は気づき、あこは頷く。

 

 

「うん……蒼さんが撮ってたんだ……」

 

動画には蒼が映っていない……だから撮影者は蒼だった。

 

「あの日の夜、蒼さんが送ってきたの……あこ、あの日はカッとなって飛び出しちゃったけど……また、こうやって集まりたい……でもこうやって集まったら前みたいにバラバラになっちゃうかもって……なんかわかんないけど……こわい…」

 

動画のお陰でもう一度集まりたいけど、またバラバラになるのも嫌でどうすればいいのかがわからなかった。

 

「そうなるかもしれない……でもわたしは……わたしを変えてくれたこの人達ともっと……もっと――――――もっと音楽がしたい!」

「!」

 

音楽がしたい言葉に二人はどうするか考える。

 

「だからわたし達でもできることを……一緒に考えてほしい」

「……うん…………うん! 言葉だけじゃ伝わらないかもしれないって、前にりんりんが言ってくれたよね。だから例えば……」

 

少し前のメッセージを思い出す。

 

「「『音で伝える』!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!」

 

紗夜は自宅で一人練習していた。

 

「(ダメ……こんなレベルじゃ……弾いても弾いても苦しいだけ……でも私にはこれしかない……たとえRoseliaがなくなっても…)」

 

一瞬、蒼の顔が頭に出てきた。

 

「(蒼さん……私は――――――)」

 

あれから連絡もなく、会っていない……考えていると廊下から足音がする。

 

「あれ? 止めちゃうの?」

 

「……日菜、勝手に入って来ないでって言ってるでしょ」

 

部屋の入り口から妹の日菜が顔だけ出してきた。

 

「入ってないよ。ほら、ドア空いてたから……なんかおねーちゃんのギターの音……おねーちゃんっぽくなった気がする」

「? あなたの説明はいつもわかりにくいの」

 

姉妹だけど違う二人……会話も上手く伝わらなかった。

 

「あ! 教科書! 前は『教科書』だった!」

「教科書?」

「だけど今は『おねーちゃん!』って聴こえる!」

「なによそれ……」

「それにね! …………おねーちゃんの弾き方すっごく、るんってしてる!」

「え……」

 

日菜は笑顔で言う。

 

「(弾き方……蒼さんの……)」

 

自分の手を見て、紗夜はすこし笑った。

 

「はやく出て行って、忙しいんの今はから」

「ん? ……うん」

 

日菜は部屋から出ていく。

 

「(なんかおねーちゃん……ちょっと優しい? でもおねーちゃんに教えた人はどんな人なんだろう)」

 

 

日菜が出ていった同時に紗夜の携帯が鳴る。

 

「(?……宇田川さんから動画メール?)―――!?」

 

前に撮った練習中の動画を再生して、紗夜は驚く。

 

「(私……いつからこんな風に笑って演奏を……)」

 

皆もそうだがなりより自分も笑っていた。

 

「(……Roseliaがなくなったら……私は―――)?」

 

動画を見ていると気づく。

 

「蒼さんがいない……」

 

動画には蒼が映っていない……この動画を撮影したのは蒼で送ったのも蒼だとわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リサー? なにぼーっとしてんの?」

「ネ・イ・ル! いこーよ!」

アタシは……?」

 

この日もリサの友達からネイルの誘いが来る。

 

 

誘いをどう断ろうか考えていると、リサの携帯から音が鳴る。

 

「(あこから動画?)」

 

メールの内容は動画だけで再生した。

 

「…………!」

 

蒼が録った動画を見て、リサは気づく。

 

「リサー?」

「……ごめんっ! やっぱりアタシネイル出来ないや!」

「リサ……」

 

リサは自分が何に真剣なのかがわかった。

 

「こんなでもさ! バンドに真剣なんだっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

友希那も動画を見ていた。

 

「…………」

 

動画が終わった後はメール画面を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……!」

「友希那さんから……メッセージ」

 

メンバー伝えたい気持ちがあると、CiRCLEに来るようにと伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「揃ったかしら」

 

「「…………」」

 

メンバーは揃ったがぎこちない空気で紗夜は横を向き、腕を組んで、目を合わせていなかった。

 

「……(皆不安がっているな、紗夜だけは別だが…………さて、どうする友希那)」

 

蒼も入り口の側に立っていた。勿論友希那からメールが届いた。最初の話では外で待っていることにしたが、友希那から一緒にと言われた。

 

口答えすると『雇われサポートなら言う事を聞いて』……何も言い返せなくなった。

 

「まず……この前は悪かったわ。1バンドメンバーとして不適切な態度だった」

「それは……どういう意味の謝罪ですか?」

 

やっと目を合わせた紗夜だが疑いの目だった。

 

「自分の気持ちを自分で理解できていなかった。あなた達との関係性を認識しきれていなかった……そのことに対しての謝罪よ」

 

「えっと……つまり?」

「スカウトは断ったわ」

「「!!?」」

 

紗夜だけは驚いていない。

 

「……そうだとしても私達『バンドメンバー』ではなく『コンテスト要員』として集めた真実は変わりないのよね?」

「紗夜! なにもそんな言い方!」

「やめてリサ」

 

冷たい言い方だが立場的にはそうなっていた。

 

「確かにそうだったんだから責められても当然だと思ってる」

「だ、だったらアタシにも責任あるよ!アタシはずっとそんな友希那をただ見てるだけで……それなのに今回のスカウトのことに関して何もできなくて……」

 

「…………」

 

会話を聞いている蒼も複雑な気持ちになるが蒼は別に口出しはしない……それよりも聞きたいことがあった。

 

「……湊さんの意思がわからないわ」

「紗夜の言うとおり私はFUTURE WORLD FES.に出場するため、すべてはそれだけの為に音楽をやってきたわ…」

 

FUTURE WORLD FES.……この言葉が二人が組むきっかけになった事だった。

 

「FUTURE WORLD FES.は確かに頂点……私もそれを目指していた……でも湊さん…………すべてが『フェス出場』の為だと言うのなら失礼だけどあなたには―――」

 

「―――『フェスに出て』それからどうするかその先のビジョンが何もない、ということになる」

 

「……じゃああこ達は―――」

「そう、私達は使い捨て……そういうことよ」

「紗夜それは―――」

 

「皆ストップ!」

 

ずっと黙っている蒼はとうとう喋る……部屋の中を静かにして、真ん中に立つ。

 

「口出しはしない話だが、さすがに黙っているのも限界だ」

 

注目される中、蒼は友希那を見る。

 

「友希那の気持ちが知りたい」

「…………」

 

真剣に見つめるが目線をそらす友希那。蒼は珍しくため息を出す。

 

「…………動画を観ただろ?」

「…………」

 

頷く友希那。

 

「だったら……話せるよな」

「えぇ……そうよね」

 

友希那は蒼を見る。目で蒼は理解し、壁際に戻る。そして友希那は話す。

 

「メンバーを探していたときは……そうだった……でも……紗夜を見つけて……みんなが集まって……蒼も手伝ってくれて…………」

 

剃らしていた紗夜も友希那を見る。

 

「(友希那……)」

「いつのまにか私……お父さんのことより……」

「「……『お父さん』?」」

 

お父さんの言葉に三人は声を出す。

 

「友希那……」

「(話すんだな)」

 

リサは驚き、蒼は目を閉じた。

 

「……本当の私はただ…私情のために音楽を利用してきた人間よ」

「…『私情』……」

 

私情の言葉に紗夜も反応する。

 

「少し……長い話になるわ。昔…一人のバンドマンがいたの―――」

 

 

それから友希那は話した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話を聞いて、紗夜は口を開いた。

 

「私もそのバンド……雑誌で見たことあるわ。インディーズ時代のものは特に名盤だって……湊さんのお父さんがそうだったの……」

 

驚きの気持ちと悲しい気持ちが混じってた。

 

「私はRoseliaを立ち上げ私情を隠し、自分のためだけにあなた達だました……この前は上手く言葉にできなかったけど…私にも責任がある」

 

「まった友希那」

「わかっているわ蒼……でも言わせて」

「…………わかった」

 

とりあえず話を聞く蒼。

 

「私はRoseliaから抜けるべきだと思う」

 

「友希那…っ」

「でもっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……この5人で音楽がしたい……! この5人じゃなきゃだめなの!」

「「…………!!」」

 

友希那は大声で私情を言う。それは友希那の紛れもない本当の気持ちだった。

 

「私はRoseliaを続けたい…っ! でもみんなの意見はわからない…………こんなことをしておいて都合が良すぎるのもわかってる…………」

「あなたが私に言ったのよ……私情は持ち込まないって」

「…………」

 

紗夜の言う通り私情は持ち込まない……だけど―――

 

「でも……あなたの気持ちもわかるわ」

 

―――紗夜は優しい顔をしていた。

 

「音楽を続ける動機はともかく……始める動機なんてみんな……私的なものなんじゃないかしら」

「そ、そーだよっ! あこだっておねーちゃんみたいになりたかったからだもん!」

「わたしも……どこかで……こんな自分を変えたいって…」

「アタシは友希那と……って言うまでもないか♪」

 

「雇われサポートは継続中……かな?」

 

どんな理由があろうと、メンバーの気持ちは一つに……

 

「本当にいいメンバーだな友希那」

「…………」

 

蒼は友希那に言うが黙る。

 

「抱えているものはそれぞれにあっていい……どうしても手放せないから抱えているんでしょう?」

 

……紗夜は手を前に差し出す。

 

「だったらそのまま進むしかない……そうじゃない?」

「……紗夜…」

「それに……私も『また』この6人で音楽したい」

 

これでまた皆でやれる……あこは口を開く。

 

「ん? これはもしや……Roselia再結成フラグ!?」

「「解散してない」」

 

あこの再結成の言葉に友希那と紗夜は否定する。

 

「「……!」」

 

二人は口を左手で押さえた。

 

 

「意外なところはハモるな」

「こほんっ……RoseliaとしてFUTURE WORLD FES.のコンテストにエントリーする……みんなそれでいいかしら」

 

「「もちろん!!」」

 

蒼は友希那の隣に立つ。

 

「友希那もそれでいいか」

「蒼……みんな…」

 

友希那は微笑んだ。

 

「さて、エントリーの方は僕が何とかする。皆は調整急いで」

「でも蒼、練習予約が―――」

「大丈夫だ友希那、まりなさんには話を通してある。今からでも可能にした……」

 

“穴埋めは確実に”……全ては計画通りに、練習時間を確保してある。

 

「蒼さん……凄いです」

「これでも遅れているんだ……こっちも調整が色々とある」

「凄いです蒼さん! まるで黒いノートで書くあの人みたい!」

「あこ、それって悪い人じゃない?」

 

あこは蒼の事を新世界を目指した誰かの事を言うが誉め言葉にはならなかった。

 

「まさかこうなるとはな……」

「ですが蒼さん……私も手伝いますよ」

「紗夜……なるべくお願いしないようにするが、よろしくお願いします」

 

こうしてRoseliaはまた大きく、羽ばたこうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

そして日が流れ、コンテスト前日まで来た。

 

 

 

「ふ……ふおお……すっごいカッコイイ!」

 

ライブハウスCiRCLEにてあこは燐子お手製のRoseliaの衣装を身に付けていた。

 

「まさに黒の騎士団…闇の破壊者! 明日のコンテストもこれならいける!」

 

気合いが入るあこともう一人、紗夜も衣装を眺めていた。

 

「ねっ紗夜さ……」

「そう……これが白金さんの作った衣装…………余った衣装の材料を見たときは凄いと思っていたけど……」

 

紗夜は衣装を手に取る。

 

「一人一人にサブコンセプトがあって、デザインを少しずつ変えているのね……アートワークの才能がありそうだわ」

「(これって……りんりんのこと褒めてるんだよね……?)」

 

紗夜は着替え初めて、あこは少しそわそわしている。

 

「(早く他のみんな来ないかなぁ……二人っきりだともしかしてまた……)」

 

二度もトラブルを起こしてしまい、あこも不安になっていた。

 

「どうしたの? いつも騒がしいあなたが黙っているなんて……私の感想でも不満でも?」

「うぇっ!? ち、ちがいますっ」

 

お見通しなのか紗夜も棘のある言葉を出してきた。

 

「ならどうしたの? バンド内の意思疏通は大切なことよ。意見があるなら言ってもらわないと困るわ」

「うっ……」

 

確かにそうだがこれ以上トラブルも起こしたくはなかったが、あこは考えて喋り出す。

 

「あ……あこはただ……また変なこと言っちゃって……紗夜さんを、

怒らせちゃうんじゃないかって…………」

「…………」

 

紗夜もあの時は自分にも負があったのを思いだし、反省はしていた。

 

「あのね……私はこれでも喜んでいるつもりなんだけれど」

「そ、そうなのかなって思ったけど……わかりにくいんですよっ! …………はっ」

「……どういう意味?」

 

あこははっとするが出遅れ……でも紗夜の表情はいつも笑わない無表情が多すぎた。

 

「だって……ふつう嬉しかったらニコニコするかなって……」

「嬉しいし今後のライブに期待しているわ。白金さんに対してもありがたいと思ってる…………それが顔に出るかどうかは個人差でしょう? 無理に笑わなければ私の感謝は通じないの?」

「そんなつもりじゃ……」

「私なりに感情をだしているわ……蒼さんのお陰で……宇田川さんもそうでしょ?」

「……はい」

 

蒼のお陰でメンバーに入り、問題を解決してくれた。だからあこも素直に言う。

 

「あこはただ……みんなで同じ衣装着て……こういうのって仲間みたいだなって…嬉しくて…」

「…………」

「馴れ合いはなしって、友希那さんや紗夜さんはよく言うけど……!」

「……宇田川さん、あなた勉強にはあまり接極的じゃないそうね」

「うっ! い……いきなりなぜその話をっ!?」

 

勉学の話をするとあこは焦りだした。図星なのかはあこにしか知らない……。

 

「あなたはBANDという言葉の語源は知っているの? 確か……世界で二番目に上手いドラマーなのよね?」

「うぐっ! し、知らないです…」

 

知らないあこに紗夜は説明する。

 

「BANDという言葉の本来の意味は『束』や『集団』……音楽という意味は入っていないの」

「そうなんですか……」

「私は仲間という言葉は嫌いよ。同じものごとをする集団……それだけで仲間という意味になる」

「…………」

「ただ音楽をやって楽しんで満足しては意味がない……それはわかるわよね」

 

紗夜はチラリとあこを見る。

 

「は、はい!」

「私達はもっと上を目指している……」

「上……ですか?」

 

イヤリングをつけ終えた紗夜は髪飾りを手にする。

 

「常にお互いを高め合い、妥協を許さず戒め合い、目的を達成するためのチームでありたいの……それはつまり相手の才能を認め合い、信頼し、お互いの全てを賭けられる程の価値があるもの同士ということよ」

 

髪飾りもつけ、紗夜は着替え終わる。

 

「そんな重要なものをあなたは『仲間』なんて単純な言葉でくくるの?」

「紗夜さん……」

 

あまりの言葉にあこは嬉し涙が出る。

 

「曲がりなりにもあなたは私と湊さん……そして蒼さんも認めたRoseliaのドラマーよ。だから私達Roseliaの間には何もないような言い方されるのは心外だわ」

「!! わっ、わかりました!! あこはこれからもせいいっぱいドラムします! ダチョウせずイミシミあいます!」

 

……紗夜は右手を頭に当てた。

 

「……勉強の方も忘れずにがんばるのよ?」

「ラジャですよっ」

 

 

 

 

 

 

 

「やっほーおまたっせ~って……衣装すごっ!」

「あっリサ姉~!」

 

無難な挨拶から即効に驚くリサ。

 

「すごいすごい超良い感じじゃん! 紗夜もあこも超似合ってるよっ!」

 

二人は黙っているが照れていた。

 

「燐子マジで何者なの!?」

「でしょーっ! りんりんはほんっとにすごいんだよっ!」

 

 

「そ、そんなこと……ないよ」

 

扉から燐子がひょっこりと顔を出してきた。

 

「あなた達も早く着替えたら?」

「ん! そだねっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わあっ! リサ姉もりんりんもすっごーく似合ってるっ!」

 

二人も着替え終えてあこは声を上げていた。

 

「いやあ…アタシがまさかこういう…ヒラヒラっていうかリリカルな服をねっ」

「き……気に入らなかったでしょう……か? やっぱり…今井さんの好みじゃ…」

「あっいやいや! 違う違う!」

 

リサはあまり着ないため照れているのだが燐子はショックを受けて、リサは慌てて否定をする。

 

「こういうのは友希那の方が合うって……無意識に避けてたんだよね。Roseliaの音楽そのものでしょ? こういう服って……だからっでアタシなんかが真正面から向き合っちゃいけないんだ……友希那の方が全身真剣なんだからって……」

「今井さん……」

「でもこうやって燐子が勇気出してピアノが弾けるってRoseliaに入ってくれて、一人で作った服をみんなにも作ってくれて……アタシも避けてばっかりじゃダメだなって思った」

 

暗いことを話すリサに燐子も自分の事を言う。

 

「そんな……今井さんはいつも……わたしと違って積極的で…………臆病で―――」

「臆病なのはアタシも一緒!」

 

リサは言った。

 

「だから燐子に衣装貰って勇気出たんだっ! これからは自分の好きなものに……大切にしたい人にもっと素直に向き合おうって」

「…………」

 

臆病な燐子でも誰かの為に力になって支えていた。

 

ガチャ

 

「衣装できたのね」

「友希那さん!」

 

友希那も来て、あこから衣装を貰う。

 

「はいこれっ友希那さんの分ですよっ」

「ありがとう、私も今から着替えるわ」

 

 

 

「今井さん……」

「ん?」

「…大切な人と…もっと……仲良くなれるといいですね」

 

燐子の笑顔の言葉にリサは顔を赤くする。

 

「うん!!」

 

それでも笑顔で返した。

 

「……何の話?」

「なんでもないっ明日のコンテスト頑張ろーってこと!」

「……えぇ、そうね」

 

……ほんの少しだけ友希那の顔は笑顔だった。

 

「あれ? 蒼さんは?」

「蒼ならカウンターの方いるわ。私達に気を使わせているわね」

 

女の子達が着替えているためカウンターで待っていた。

 

「そう言えば友希那、蒼は大丈夫だった?」

「別に……いつも通りよ」

「何かあったのですか?」

 

リサと友希那の会話に紗夜は気になった。

 

「氷川さんは見ていないんですね」

「ねぇりんりん、蒼さんがどうしたの?」

「え…と……女性と話をして…困っていました」

「…………どうしてそうなったのかしら」

 

紗夜は黒いオーラを出しながら言う。

 

「蒼が一人カウンターで飲んでいると声をかけられることがあるのよね~」

「勧誘や色々とあるみたいよ」

 

幼馴染み二人はよくあることのように言う。

 

「皆さん、少し見てきます。着替え終わったら通路で待っていてください」

「別に紗夜が行くまでも―――」

「勧誘なら連れてこないといけません。Roseliaの雇われサポートですから」

 

紗夜は部屋から出ていく。

 

「「………………」」

 

「どうしようか」

「……私は着替えるわ」

 

とりあえず着替え始める友希那であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、友人が待っていますので」

「近くの喫茶でも構いませんので」

 

蒼は綺麗な女性から声をかけられていた。蒼は打ち合わせがあるから断っているが女性は引かなかった。

 

「大丈夫です、話ならすぐに―――「すみません」……ちょっと今は―――!?」

 

女性は振り向くと、無表情に見つめる紗夜が立っていた。

 

「…………」

 

女性は黙っていた。

 

「蒼さん、皆さんが待っていますので向かいますか」

「うん、わかった(紗夜が恐ろしく感じるのは気のせいだろうか)」

 

蒼は立ち上がり、紗夜と一緒に部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない紗夜、お陰で助かったよ」

「……いえ、別に」

「?」

 

廊下を歩いていると蒼は紗夜にお礼を言う。紗夜は少し冷たく答えていた。

 

「そう言えば紗夜」

「なんですか、明日は大事な日なので急ぎましょう」

「そうなんだが……」

「どうしたのですか、言わないと伝わりませんよ」

 

あまりに冷たく感じてきて、蒼は言いづらくなるが言うことにした。

 

「綺麗だよ―――」

「なっ!?」

 

突然爆弾発言されて真っ赤になる。

 

「い、いきなり何を言うのですか!」

「髪飾りとイヤリングに衣装がとても綺麗に見えたから」

「…………そうですか」

 

今度は一気に鎮火された。

 

「紗夜?」

「なんでもありません、急ぎましょう」

「そうか……でも紗夜、皆なら角から見ているよ」

「え?」

 

振り返ると、角に四人の顔が見えた。そして四人は出てきた。

 

「……紗夜の声が廊下から聞こえたから」

「い、いや~声をかけるタイミングがね~……」

「あ、あの……ごめんなさい」

「ところでどうしたんですか、紗夜さん蒼さん」

 

色々と言いたいがため息を出す紗夜。

 

「皆の衣装凄いね、早く部屋に戻って最終調整に入ろうか」

 

蒼がそう言うと皆、部屋へと向かった。

 

「…………」

 

紗夜は一人残された。

 

 

『綺麗だよ―――』

 

 

紗夜の顔が赤くなった。

 

「紗夜?」

「あ、蒼さん! どうして―――」

「紗夜がいないから始められないから……行こうか」

「……はい」

 

二人は少し早足で歩いていった。

 

 

 

 

 



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第十二章 これからも―――




誤字報告ありがとうございます……この前は一日かなりの通知でした……本当にありがとうございます。

それではどうぞ……





 

 

 

 

―――コンテスト公開イベント、控え室……

 

 

 

 

 

 

 

 

「(蒼からの話では書類と音楽審査はあっさりクリア。本人は何やら最終確認があるって離れている……何か知り合いの人がいたみたいだけど……アタシたちは準備を―――)……やばっ! メンテ用スプレー忘れた!」

「まったく、忘れ物には注意って連絡したじゃない」

「うぅ…」

 

紗夜から注意されるが何かを渡してきた。

 

「……はい、これ使って」

「あ…ありがとう」

 

紗夜はスプレーを渡してきた。リサは受け取り、何も言わずに離れるが優しい顔をしていた。

 

「(紗夜……前に比べて少しトゲがなくなった? ……やっぱ蒼のお陰かな)」

 

少し前の紗夜を追いかけた一件からトゲが減った紗夜。

 

「(? …………そう言えばお互い名前で呼んでいたけど――――――まぁ~いっか☆)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「りんりん大丈夫? ステージすっごい大きいよっ。いつかみたいに真っ青にならない?」

 

少し前なら真っ青になっていた燐子だが今は普通どころかワクワク感がでていた。

 

「わたし最近…気づいたの……キーボードといると守られている気がして……」

「それわかる! あこもドラム叩いている時はちょー無敵だもんっ!」

 

あこは気合いが入り、はしゃぐ。

 

「よーしっ! 練習の成果見せてやろうねっ」

「あこ、他の応募者もいるんだからあまり騒がないで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Roseliaってもっとクールなバンドだって聞いてたけど……なーんか以外と普通」

「そう? あたしはバンドって仲がいいと思うけど…………ねぇそれよりテレビ見てよ」

「あっPastel✽Palettesじゃん」

 

 

 

「……」

「……!」

 

何気ない一言が紗夜に聞こえ、リサも驚く。

 

「まだ正式デビュー前なのにプッシュされまくりだよねーギターとドラムの子は上手そうだけどさー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今井さん、スプレー終わった? 私も使うから」

「あっうん……ありがと!」

 

リサは紗夜を見ると、日菜のことを動じなくスプレーをして、燐子を見ると人混みが苦手なのにあこと楽しそうに話している。

 

「(コンテスト前なのにみんなすごい)」

 

リサだけは不安でいた。

 

「(友希那は―――)あれ? 友希那?」

 

友希那がいないことにリサは探す。探していると蒼が来た。

 

「友希那なら飲み物を買いに行ったよ。多分外の自動販売機かな」

「わかった、ありがとうね蒼!」

 

リサは足早く探しに行った。蒼は紗夜に話し掛ける。

 

「紗夜も大丈夫なんだな」

「勿論大丈夫よ」

「(流れている映像で心配になったが……)」

 

妹の事は解決はしていない……それでも紗夜は変わってきている。

 

「(……僕も変われるのかな)」

「蒼さん」

「どうかした?」

「今井さんの事が心配なのでは? 湊さんもそうですが、幼馴染みだから気になるでしょう」

「そうだな。少し離れるよ……ここは女性が多いから僕が居るのは問題だな」

 

部屋に男性がいないから居づらくなる。蒼は部屋から出る。

 

「少し離れるよ」

「えぇ」

 

蒼が出ていく姿を紗夜は見つめた。

 

「…………」

「紗夜さん」

「白金さん?」

 

蒼がいなくなると燐子が紗夜によってきた。

 

「渡さなくて……よかったの、ですか?」

「…………」

 

紗夜は蒼に渡すものがあったのだが、渡せずにいた。

 

「ちゃんと渡します……ありがとうございます、白金さん」

「いえ……頑張ってください」

 

燐子は笑顔で言ってきた。

 

「……えぇ」

 

紗夜も笑顔で返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

友希那は自動販売機で飲み物を買っていた。

 

「友希那いたあ!」

 

リサは走って友希那の元に駆け寄る。

 

「超必死で探しちゃったよ!」

「いくら準備してもなるようになるだけよ」

「ええ? Roseliaのリーダーがなげやり発言っ!」

 

友希那にしては珍しい発言。でも腹をくくればそれと同じである。

 

「練習は裏切らない。どんな結果が出ても……それがすべてよ」

「友希那……(FUTURE WORLD FES.に一番思い入れがあるのは友希那のはずなのに…ステージ慣れしてるから?)」

「……なに? まじまじと見て」

 

友希那は何か別の事を考えているように見えて、リサはその顔を見ていた。

 

「いやあ……なんかさ…スッキリした顔してるなーって!」

「―――そうね」

「え……」

 

友希那の目を閉じて、口元が笑っていた。

 

「なにも隠さないでいいってこんな気持ちになのね」

「……友希那」

 

目をあけて、リサを見る。

 

「リサ…………ありがとう」

「――――――」

 

友希那の突然“笑顔”にリサはポカンとしていた。

 

「……て、えっ!?」

「時間ね、戻るわよ」

「ちょっと待って友希那!」

 

一足歩く友希那の背中を追いかけたリサだった。

 

「…………」

 

友希那は建物の角を見るが、すぐに前を見る。

 

 

 

 

 

 

「(蒼……――――――)」

 

友希那とリサはステージへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

角の裏には蒼が立っていた。

 

「…………今夜は綺麗な星空が見えそうだな」

 

蒼は空を見ながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「5分前よ」

「問題ないわ。いつでも行ける」

「…………」

 

リサだけは先程の言葉で暑くなっていた。

 

「……リサ?」

「へぁぇっ!? だだだ大丈夫だよ!? ははは!」

 

そんな言葉で言われても説得力はなかった。

 

「リサ……」

「リサ姉……前から思っていたけど緊張し……「しっしてないよ! してませーんっ!!」……」

「「…………」」

 

 

 

 

 

 

「(皆の顔が『し・ん・ぱ・い』と、出ているな)……リサは今日まで練習してきたから大丈夫。皆も不安な顔をしないで」

「蒼……」

 

五人の前に蒼が立つ。

 

「緊張が出るのは前からだし、今さらどうすることもできないだろ?」

「それはもそうね」

「なんか失礼な事言われてないかなアタシ……」

 

リサを軽くディスると和んできた。リサの緊張もなくなってきた。

 

「そろそろ出番かな……皆頑張ってね」

「勿論よ」

「うん!」

「まっかせて!」

「はい……」

「…………」

 

皆一言言うが紗夜だけは黙っていた。

 

「紗夜?」

「蒼さん……これを……」

 

黙っている紗夜を心配なっていたが紗夜は蒼に何かを渡してきた。

 

「髪飾り……僕の?」

「はい、そうです」

 

Roseliaの頭に着けてる髪飾り……それを蒼は受け取る。

 

「女性用だから少し困っていたけど……これならつけられるかな」

 

皆と同じ花柄が少し小さいがその代わりに角が着いていた。

 

「綺麗な薔薇には棘どころか角になってるんだね」

「本当は棘にしようとしたんですけど、角に変わりました……」

 

紗夜は落ち込んでいるが、蒼は別に気にしない。角の方がいいと感じた。

 

「氷川さんの……手作りですよ」

「ちょっと白金さん!」

「余った衣装の材料を紗夜さんが集めてつくりはじめたんですよ!」

「宇田川さん!」

 

余った物を集めて作った蒼専用の髪飾り……紗夜のお手製であった。

 

「本当は衣装もと思ったんだけど、時間がね~」

「……私達だけ衣装着ても意味はない。蒼も大切なメンバーなんだから」

 

気持ちは同じ………蒼は感謝する。

 

「ありがとう皆……紗夜も練習時間も削ってまで……ありがとう」

「い、いえ……私も捨てるにはもったいないからと思っただけです!」

「そうか……ありがとう」

 

素直じゃない答えをそのまま受け止めた蒼に紗夜はかなり顔を赤らめた。

 

「Roseliaさんお願いします」

「ほら皆……出番だよ」

 

スタッフの声がかかり、皆はステージへと向かう。

 

……けどリサはまだ気にしていた。

 

「(蒼は言ってるけどアタシは……経験も練習も圧倒的に足りない。もアタシが足手まといになったら…………みんなの努力が……)」

「今井さん、うつむいてたら他の人に楽器があたって迷惑よ」

「紗夜……」

 

紗夜にはお見通しでいた。そんなリサに紗夜は言う。

 

「……ちゃんと前を向いて」

「!? (そうだ……ちゃんとステージに向き合わないと!)紗夜……ありがとう」

「当然です、私も同じことを言われましたから」

「え……」

「いきますよ」

 

五人はステージへと上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Roseliaが歌い出したら会場は盛り上がっている。

 

「…………」

 

蒼は角があるRoseliaの髪飾りを少し気にしながらも裏からライブを見ていた。

 

「(緊張が嘘みたいに演奏をして、魔法でもかかったかのようにカッコよく叩いて……恥ずかしさを気にせず、勇気を貰って……何も考えずに楽しそうに歌って……)」

 

ギターを弾いている紗夜を見る。

 

「…………!」

 

「(いい笑顔だな)」

 

紗夜はとても穏やかな気持ちで演奏していた。

 

「(それに――――――)」

 

その先の言葉は口に出来なかった……。

 

「(? ……何故言葉が止まったんだ?)」

 

考えていると演奏が終わり、歓声が響いていた……。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…………」」

 

フェスが終わり、ファミレスで黙々と飲み物を飲む友希那と紗夜。

 

「二人とも相変わらずクールだなあ…」

「冷めてたらこんなところ来ません」

「そうよ」

 

二人の様子にリサは言うが、それでも来てくれただけでもいいこと。

 

「そうですよねっ!」

 

するとあこはテーブルを叩いて、言う。

 

「紗夜さんも友希那さんもっWハンバーグ&エビフライ&チキンソテーのプレート、ご飯大盛りデザート付きでいいですか?」

「「……えぇ」」

 

「よしっ! じゃあ6人ともそれでっ! 燐子よろしくっ!」

「は、はいっ! …………スーパーやけ食いセット6人前……ですね」

 

五人の女子と一人の男子が打ち上げのメニューを頼んだ。

 

「(カロリーは1382なのは野暮だな)ポテトはいいのか紗夜?」

「な、何を言うのですか!? 私はそんなもの入りません!」

 

今日は気にせず食べることにし、蒼はポテト紗夜に聞いたら少し慌てながら否定する。

 

「そうか……ポテトと小盛りを―――」

「…………」(悲しい顔)

「―――特盛を一つ……いや、二つでいいかな紗夜?」

「なっ!? だから私は―――しっ仕方ありません、いいですよ」(嬉しい顔)

「わかった、ポスト特盛二つお願いします」

 

注文をすると、リサは呟く。

 

「ま……結果としてはこうなっちゃったけど―――「そこまでだリサ」―――蒼……」

 

蒼が止めに入り、蒼は言う。

 

「落選はしたが認めてもらった……新しい一歩と目標が生まれた……これで良しとしよう」

「「…………」」

 

とても皆満足な顔をしていた。

 

「(細かいところは原作を……と言うのも野暮だな)っと! 品が来たぞ」

 

注文した品がテーブルに置かれると皆は食べ始める。

 

「……でも私は、認めないわ…」

「そうよ、このジャンルを育てていきたいって言うのなら……私達を優勝させてもっと大きな活動を…」

 

「紗夜、友希那……そんなに急いで食べるな。しっかり噛んで食べた方がいいぞ」

 

二人はガツガツと食べているのを止めるが皆同じなので今日ぐらいは目を瞑った。

 

「でも……確かにすっごい悔しいけど…………それがどうでもよくなるくらい、あこは楽しかった!!」

「「…………」」

 

「(まぁ……そうなるよな)」

 

あこはポカンとして、どうして皆黙っているのか不思議でいた。それはまるで図星に見えた。

 

「あー……ちょっとわかっちゃう……」

「わたしも……今まででいちばん…」

 

リサと燐子は素直に言う。

 

「あなた達…っ、何の為に練習してきたと思ってるのよ…」

「そうよ、Roseliaは自分達の音楽を極めるために……」

 

紗夜と友希那は否定していた。

 

「その割には楽しそうに笑っていたぞ」

「「なっ!? 笑っていません!」」

 

「(楽しそうは否定しないんだ)」

 

蒼が見る限り、ライブ中は皆が楽しそうにしていた。蒼も自然と笑顔が出ていた。すると友希那は言う。

 

「……私、今まであんなにお父さんの為になって思っていたのに……歌っている間は何も考えられなかった。だけど私はどんなに認められても父の立てなかったステージで歌うその日までは自分で自分を認められない」

「友希那……」

 

「(私も……ただ夢中で日菜に負けないという一心でやっていた筈なのに)」

 

紗夜は蒼を見る。

 

「(今は―――)」

 

「あっ、あのっ! すみません!」

 

気がつくと二人の女性が紗夜に話し掛けていた。

 

「? 私に用ですか?」

「もしかしてPastel✽Palettesの日菜ちゃんのお姉さんですか? すごい似てるなーと思って!」

 

「!」

 

会話を聞いていたリサは驚く。

 

「……そうです」

 

紗夜は普通に答えていた。

 

「きゃー! やっぱお姉ちゃんいるってほんとだったんだ!」

「ありがとうございましたっ!」

 

二人の女性は満足して帰っていった。

 

「紗夜……」

「……私も湊さんと同じ…………妹の存在から逃げることはできない……だけど…」

 

「だけど?」

「だけど今はそれでいい……私はあなた達と共にバンドをやっていきたいと思ってる。蒼さんともっとギターを教わりたいです」

「そうか……皆も―――」

 

「氷川さん…」

「さよさんーっ」

「紗夜……!」

 

燐子、あこ、リサは目を輝かせて紗夜を見ていた。

 

「(かなり嬉しい言葉だったんだな……最初の頃と比べると変わったな)」

 

「わ、わたしもやっぱりみんなで……FUTURE WORLD FES.に出たいです……っ、それを目指してきた今までが……とても楽しかったから」

「りんりんは次の衣装も考えてくれてるんだよね」

「あこちゃんっ……それはナイショって……あっ!」

 

秘密にしていたことを自分でバラした燐子。

 

「あははっ……アタシも……」

「? リサ?」

 

リサも笑っているがリサも何かを言う。

 

「アタシも……もっとこのバンドでやりたい!」

「だって……すっごーく楽しかったから……それに―――」

 

……友希那がお父さんのこと……笑って話せるようになるまでアタシは……

 

 

「―――友希那に……それに紗夜にも…もっともっと楽しいって思ってもらいたいから……!」

「リサ……」

 

「だから……これからもみんなと一緒に頑張りたいんだっ」

「はいはーいっあこも!」

 

あこは手を上げながら言う。

 

「あこもねっ! なんか今日紗夜さんに前に言われた『あこだけのカッコイイ』のを……ちょっとだけ掴めた気がして……だけどもっと……もっとガッチリ掴めたらっ……そしたら優勝できるんじゃないかって…………そう思えたんですっ!」

 

あこにも目標が出来た。

 

「あこ……色々あったから…成長したんだな。友希那もそう思うだろ?」

「……ええ、そうね」

 

友希那は笑っていた。

 

「ゆっ……」

 

あこはガクガクと震えていた。

 

「友希那さんがわらったぁー! ☆4レア級ーっ!」

「笑ってないし! 何そのガチャのレア設定は!」

 

友希那にしては珍しいツッコミ。

 

「ああーっ! ねえりんりんっ今の写真撮ってない?」

「と、撮ってないよあこちゃん!」

 

燐子も撮りたかったのかどうかは本人が知る。

 

「全くもう……」

「あははっ」

 

「……いいメンバーだな紗夜」

「当然ですよ」

 

飲み物を飲みながら無表情に言うが、口元は笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ありがとうございました!」」

 

食事を終えて、ファミレスから出た。

 

「思うところは皆様々だけど……次もコンテスト出て、そして―――」

 

「「必ず優勝する!」」

 

「―――その気持ちは皆同じようね」

 

全員がまた新しいことに踏み出そうとしていた。するとリサは言う。

 

「じゃあこれからもみんなでRoselia頑張ろうねっ! なんかあったらこうやってファミレスに来たりさっ!」

「「しないわよ……!」」

 

二人は同時に喋り、片手を口に当てる。

 

「二度とこんな所に来て、やけ食いなんてしないように! もっともっとこれから練習するのよ」

「無駄に出来る時間はないわ、そろそろ帰りましょう」

「えーっもう一軒行かないの?」

「行きしょうよーっ!」

 

リサとあこはもう一軒と言うが友希那は言う。

 

「いいえ、Roseliaに馴れ合いは要らない……友達ごっこがしたい人は今すぐ抜けてもらうわよ」

 

友希那は一番前を歩き、皆はついていく。蒼は友希那の隣に立つ。

 

「本音はどうなんだ友希那」

「本音も何もRoseliaは頂点に立つだけよ」

「そうか……でもたまには悪くないだろ友希那」

 

蒼は友希那の顔を見る。

 

「―――そうね」

 

このときの顔を見たのは蒼だけ……

 

「…………」

「どうかした? そんな顔して……」

「――――――なんでもない……星空が綺麗だなと思ってな」

 

蒼は空を見ながら言う。皆も空を見る。

 

「ほんとだー! 綺麗だよりんりん!」

「うん、そうだね……綺麗」

 

あこは燐子の側を周りながら見る。燐子も空を眺めた。

 

「ほんとだ~雲がひとつもないね」

「確かに星がよく見えるわ」

 

リサ指を差しながら友希那に何やら星座の話をしている。

 

「…………」

 

紗夜は星を黙って見ていた。

 

「紗夜?」

「あ、いえ……本当に綺麗と思いまして…」

「妹の事を考えていたかな」

「…………」

 

何かを思って星を見ていたことはわかった。日菜の事は何となくであった。

 

「大丈夫だよ紗夜、いつか二人で星空を見る日が来るさ」

「来ますでしょうか……」

 

紗夜は本当にそんな日が来るのか不安でいた。

 

「もし見る日が来たら僕の簡易式望遠鏡を持ってきますよ」

「蒼さん…………そうですね、その時はお願いします」

 

不安な表情は無くなってきた。

 

「おーい二人ともー! 置いてくよ~」

 

二人は前を見るとリサが呼んでいて、先に歩いていた。

 

「蒼さん、帰りますか」

「うん、そうだね……」

 

蒼の声は小さかった。

 

「蒼さん?」

「……なんでもないよ、行こうか」

 

蒼は先に歩き出して、紗夜は遅れて追いかけた。

 

「そう言えば紗夜」

「どうかしましたか?」

「…………今日は化粧しているんだな」

「えっ……そ、それがどうかしましたか?」

「(何故動揺しない仕草をしているんだ?)化粧をしている紗夜も綺麗なんだなと思ったんだよ」

「…………」

 

その言葉を言われ、紗夜は思考が止まる。目線が下を向き、顔が赤くなる。

 

「紗夜?」

 

紗夜は頬を赤くしながらも蒼を見る。

 

「……これからも雇われサポートもそうですが私のギターの指導もお願いします」

「うん……勿論だよ」

「はい……」

 

紗夜は少し早足になる。蒼も紗夜の速度に合わせた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……蒼は気付いていないが紗夜が化粧を気にしていたのはRoseliaのガールズだけの事である。

 

 

 

 

 

 

 






漫画だとここで終わりましたね……他のバンドのも漫画出ないのかと今でも思います。


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第十三章 ぺりかんダーツ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぺりかんダーツ』……建物の一階の8割はお店。残りの二割は蒼が貰っているガレージ……特に使っていないスペース。

 

 

二階の半分は事務所的なスペースで残りは宿泊部屋みたいな形……

 

 

…………第一話で蒼が居た建物です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はすまない、僕の都合で手伝わせてしまって……」

「気にしないで下さい私も手伝いたかったのですから」

 

この日は蒼のフロアのちょっとした整理を紗夜の二人でしていた。

 

「今井さんもバイトで練習もない日ですから問題ありませんよ」

「でも、自宅練習とかしなくて大丈夫? 以前の紗夜なら練習してからさ」

 

リサはバイト、燐子とあこはゲーム、友希那は『カフェに行く』と言っていた。

 

「……今日は日菜が家に居るので…」

「そうか……ごめん」

「気にしないで下さい」

 

日菜とは“まだ”な模様……蒼もそこには干渉はしないと決めていた。

 

「蒼さんはここで何をしているのですか? 家ではないですよね」

「家はここじゃないよ。ここは借家かな……ただここで寝泊まりしてるんだ」

「そうでしたか……」

 

家はここではない……訳ありでここに暮らしていた。

 

蒼は少し離れた楽器ケースを持ち運ぼうとしていた。

 

「(気になっていたけどあれってギターケース?) 蒼さん、それは―――ッ!」

「紗夜ッ!?」

 

蒼が振り向くと紗夜は何かに引っ掛かって前に倒れる姿にはなった。蒼はケースを床に落とし、紗夜の手を掴む。

 

「ッ!」

「え―――」

 

だが蒼の方に何かが引っ掛かり、蒼は紗夜を押し倒すように倒れてしまう。

 

「―――!」

 

蒼は反射神経を活かし、床にぶつける背中を自分に変えた。

 

「痛たた……」

「あ、蒼さん……大丈夫、ですか?」

「だ、大丈夫……だよ…紗夜…」

 

二人は時折言葉がつまる……何故なら二人の顔はかなり密着していた。

 

「蒼さん……」

 

紗夜の顔が赤くなる……蒼もだんだんと赤くなってきた。

 

「紗夜(紗夜の顔が近い。でもなんだろう……この気持ちは……確かフェスの時も―――)」

 

蒼が不思議な気持ちになっていくと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ……

 

 

 

 

 

「で、どんな子だったのよ」

「顔は見ていないよお母さん……電話だと髪の色が水色で長く、目の色が黄緑色で――――――」

 

フロアに入ってくる二人の女性……そして目の前の光景を見て、足が止まる。

 

「あ……ぁ……」

 

紗夜はフリーズ状態……

 

「そうよ……この子よお母さん」

 

紗夜を興味津々に見つめる金髪で長い髪を首元にあるリボンで縛って下に足らした外国人女性。

 

「まぁ……話を聞くと真面目でおとなしい風紀を守る子に思えたけど―――見かけによらず大胆な子ね!」

 

片手を口に当てて、嬉しそうに言う、セミロングの桜色をした“お母さんと”と呼ばれる女性……

 

「姉さんと母さん……」

 

そう呟いたのは蒼……

 

「(金髪のお姉さんと桜色のお母さん……)は、初めまして、氷川紗夜……です…」

「紗夜……せめて起き上がって自己紹介しないと……」

 

状況を冷静に受け止める蒼。

 

「今日は帰ろうかお母さん」

「そうね……ゆっくりしてね!」

 

帰ろうとする二人……

 

「ま、待ってください!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……こんな形であったが紗夜は蒼のお母さんとお姉さん(?)初対面であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれこれあって数分後……

 

「―――初めまして、蒼の母です」

「それと蒼の姉です。よろしくね~紗夜ちゃん!」

 

色々あって、フロアのソファーに座って、向かい合う三人。

 

「蒼さんのお母さんと……お姉さんでしたか……(こんな形で会ってしまうなんて……)」

 

思い出すと顔を赤くする紗夜。

 

「えっ! お義母さん!?」

「エッ! お義姉さんッ!?」

「ち、違―――すみません、なんて失礼な……」

 

親姉はお互い口に当てて見つめあい、紗夜は困ってしまう。

 

「何があったのかわからないけど二人して紗夜を困らせないでくれ……」

 

蒼は二人を二人を睨み付ける。両手にはカップが4つあり、器用に置いていく。

 

「やあね~お母さんは嬉しいあまりにwelcome状態なだけよ~」

「どんな状態ですかそれは……」

 

「姉として私は嬉しいわ~友希那ちゃんやリサちゃんもいるのにこ~んな綺麗な子がいたなんて……お姉ちゃん弟に嫉妬しちゃうわ~」

「はぁ……それよりも二人はどんな用件で?」

 

「…………」

 

紗夜から見れば初めてな光景だが、蒼の家族会話こんな感じなのかと感じてしまう。

 

「用件って……大事な一人息子が帰ってこないから心配で……」

「昨日電話していますが……」

 

帰っていないのは本当だが、ちょくちょく電話はしている蒼。

 

「お姉ちゃんは大切な弟が心配で……」

「……少し前の電話で紗夜が気になって来たんじゃあありませんか?」

 

少し前の相談相手を求めたのは姉であった……

 

 

「「…………テヘッ!」」

 

その光景は親子……母親が若く見えるからか、お友だち関係に見えた。

 

「それにしても夏はあついわ~それよりもコップ洗うわね、蒼~洗い場教えて~」

「場所はわかるでしょう……紗夜も空っぽなら下げるね」

「(さっきの熱で一気に飲んでしまったわ)は、はい……」

 

四人分のカップをお盆に乗せ、蒼と母はフロアから離れていく……

 

「紗夜ちゃん……」

「は、はい……」

 

残されたのは蒼の姉と紗夜だけになる……それと一枚の紙を渡される。

 

「ワタシの連絡先ね! 気軽にお義姉さんって呼んでね!」

「え……そ、それは……」

「ごめんごめん~お姉さんでいいから」

「は、はい……」

 

紙を受け取り、紗夜は頷く。目の前には外国人のお姉さん……でも一つの疑問が生まれる。

 

「ワタシね……見るとわかると思うけど蒼とは血が繋がっていないの」

「そう……なんですか…」

 

蒼は日本人……ハーフと言えば騙せなくもないが、日本人……蒼の母も……ならば何故目の前の女性はどう言った経緯で蒼の家族になったのか……

 

「ワタシの親は事故で亡くなったの……」

「――――――」

 

紗夜は言葉を失う。何て言えばいいのかわからなかった。

 

「別に今は幸せだから気にしないで! 悲しい話だけど聞いて欲しいのよ」

「は、はい……」

 

お姉さんは深呼吸して、語りだす。

 

「母国に帰る手もあったけど……蒼のお母さんがワタシと暮らさない? って言われてね……」

「……」

「元々蒼のお母さんとワタシの親は昔からの付き合いで親友って言うのかな……日本も好きで、ワタシも知っている人でもあって、暮らすことにしたんだけど……」

「蒼さん……ですか?」

 

お姉さんは頷く。

 

「最初は緊張もあったけど弟が出来る嬉しさがあったの……だけど蒼は普通とは違う子でね」

「それは……わかります」

 

初めて会った時もそうだが、蒼は何処か違う。もしかしたら日菜と同じ存在だと紗夜は感じていた。

 

「それで時間はかかったけど、今みたいに仲良くなって、ワタシの事も家族として迎えられて幸せになったの」

「そうだったんですか……」

 

悲しい話だけど今が幸せだと言うことがわかった。

 

「それと紗夜ちゃん……ギター弾けるんだよね」

「はい……弾けますけど…」

 

お姉さんは何やら言いづらい顔になる。

 

「蒼がギター弾いてるとこ見たことある?」

「……私のギターで弾いたことはありますけど…」

「エッ!? ギター弾いたの!」

「は、はい!」

 

紗夜は大きな声で返事をしてしまう。その前にお姉さんがあまりにも驚いた。

 

「紗夜ちゃんの前では弾いたんだ……」

「あの……あそこにあるケース……蒼さんってギターが入っているんですか?」

「…………そうね……たぶん入ってるんじゃないかな」

 

少し離れた所に置いてあるギターケースを見ながらお姉さんは悲しい顔になる。

 

「あの―――「紗夜ちゃん」……はい」

 

ギターの事を聞こうしたが姉に止められる。

 

「蒼はね…………あることに悩んでいるの……今でもずっとね……だけど紗夜ちゃんなら蒼をその悩みから解決できると思うの」

「その……悩みとは?」

「それは……ワタシの口からは言えない……ただあの時は何もできなかった……人前では泣かなかったあの子が一人になった時…………泣いていた」

「…………」

 

初めて会った時とは違い、本当に悲しそうにしてる姉の姿に紗夜は答えることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない待たせた―――何かあった?」

 

蒼が戻ってくると、空気を感じたのか不思議な感覚になる。

 

「いえ……なにも…」

「なんでもないわよ蒼。紗夜ちゃんはいい子だなと思っただけよ」

 

「さてと……今日はもう帰りましょう。私達がここにいては邪魔なだけよ」

 

蒼の次に来たお母さんは帰ろうと荷物を取る。

 

「まだいても―――」

「今日は父さんが帰ってくるから夕飯の買い出ししないといけないから帰るわよ」

 

父さんの言葉に蒼は頭をかいた。

 

「父さん元気?」

「元気よ……あなたみたいにね」

「ワタシもパパに会えるのは楽しみなの! じゃあまたね蒼! 紗夜ちゃんも今度はゆっくり買い物しましょうね!」

「はい……気をつけて」

「またね、母さん、姉さん」

 

突然現れた二人は突然のように帰っていった……。

 

「なんかごめんね……あんな二人で…」

「いえ……仲がいい親子でした」

 

姉に言われた最後の言葉が一番の印象だった。

 

「紗夜……何があったのか? 姉さんと何か話してたみたいだけど……」

「あ、いえ……お姉さんが家族話をして……」

 

咄嗟に昔話の事話した。蒼もその言葉で納得をする。

 

「――――――そうか……暗い空気にしてごめんね」

「いえ! …………今が幸せだと言っていましたよ」

 

紗夜言った言葉に蒼は安心する。

 

「そうか……片付けも済んだし、ありがとう紗夜。送っていくよ」

「ありがとうございます蒼さん……ですがもう少し……合宿の打ち合わせしませんか?」

 

手伝いは済んだが夏休みの合宿の事を蒼に言う。話では蒼がスケジュールをたてる話になったが……

 

「スケジュールなら僕が―――わかった、一緒に考えようか」

「はい」

 

ほんの少しだけ、お互いを支え合うパートナ……蒼の手伝いに、突然現れた母と姉に紗夜は苦戦どころか歓迎された(?)……色々な事が起きたが今日も楽しく感じた二人であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に着いて、ギターでも弾こうとすると紗夜は思い出す。

 

「(あ……お姉さんに連絡先送らないと……)」

 

送って、数秒後には返事が来た。

 

「…………」

 

内容は『今度、海のある所で合宿するんでしょう? だったら一緒に水着選びに行こうね!』

 

「…………幸せそうですね」

 

紗夜は困りながらも少し嬉しそうに返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……少し前…蒼から電話が“女の子の相談”には驚いたわね…でも―――」

 

必死な気持ちに姉として何だか胸がワクワクしていた自分がいた。

 

「紗夜ちゃんなら蒼を…助けられる……ワタシでは出来なかったから……」

 

蒼がギターを弾かない理由…………それは合宿の時に明かされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……親と姉の名前は思いつかないからです、ごめんなさい……合宿の時に明かされるはそんなに暗くなく、あっさりと終わりますのでお待ちを……。

 

 

 

 



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第十四章 夏の思いでの雇われサポート

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある、二階建てのコテージにて……。

 

「フッフッ……我は超大魔であるあこなるぞ……わらわのドラム! ―――じゃなくて闇の……えっと……」

 

Roseliaは今は合宿している……そこで今は寝泊まりしている。

 

「あこがんば~」

「闇の……闇の~……りんりん~!!」

 

あこは何か決め技を言いたいようだが、いつものように言えなかった。

 

「? どうしたのあこちゃん?」

 

あこの声に気づき、ヘッドホンを外す燐子。

 

「あこのドラムで皆をバーンッ! って言ったらいいのかわからなくて!」

「えっと……」

「バーンでいいじゃん?」

「もっとカッコよくしたいの! ねぇりんりん助けて~!」

「う~ん……」

 

そんな会話していると一人だけ真剣な顔をしている紗夜がいる。

 

「宇田川さん、今井さん、白金さん……お喋りするなら―――」

「「うぅ……」」

「紗夜、ただのMCの練習だよ」

「それも必要ですが手を動かしてください……練習の量はそのまま音ででます」

「「はい……」」

「は~い」

 

これもいつものRoseliaであった。

 

「皆さんで合わせますか?」

「友希那さんは?」

 

そう言って、友希那が座っているソファーに集中する。

 

「…………」

 

ソファーに座って、ヘッドホンを着けた友希那……テーブルには携帯と歌詞と御菓子、飲み物ご置いてある。

 

黙々とパソコンとにらめっこしているが……

 

「はぁ……悪いけど、まだかかりそう……」

 

今日の友希那はいつもとは違い、考え込んでいた…。

 

「オッケ~紅茶淹れ直すそうか?」

「御菓子足りなくなったらあこ買ってきます!」

「何か出来ることあれば言ってください」

 

ほんの少しかも知れないが友希那も皆を頼るようになった。

 

「……ありがとう」

 

「曲の土台が出来たら私もギターパートを考えますので、新曲楽しみにしてます」

 

紗夜も新曲ほ楽しみにしていた。

 

「えぇ……」

 

「じゃあ紅茶を淹れ直すよ(さて……どんな味にしようか)」

 

雇われサポートの蒼もキッチンに立っていた……五人の女の子と一つ屋根の下に…………最初は庭のテントで寝ようとしたが皆に止められた……そして時間を決めて洗濯、入浴をしていた……風呂上がりのガールズは魅力に見えたのはここだけの話……。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

数分後……

 

ソファーの上で横たわる友希那と散らばっている御菓子の袋たち……友希那は曲を考えていた。

 

「友希那さん……」

「何か手伝えないでしょうか……」

「作曲はな~」

 

「蒼さんも何か考えていますか?」

「今日は友希那一人で考えたい気分みたいだ……だから今は友希那に任せた方がいいんだ」

「そうですか」

 

事前に言われていた。今回は友希那は一人作曲は任せていた。

 

「さて、コップを洗うか」

 

蒼がテーブルのコップをキッチンにもっていき、リサが友希那の側による。

 

「友希那~ちょっと聴いていい?」

「……えぇ」

 

ヘッドホンを着けて曲を聴くリサ。

 

「う~んアタシ的にはいい感じだけど思うけど」

「個人的には駄目よ……Roseliaは最高の音楽を作らなくては……」

 

上半身を起こしながら言う友希那にリサは発案する。

 

「わかった……海行こうー!!」

「え……」

 

「あこたちも行かない?」

「いいの!」

「いけません! 私達に遊んでいる時間など―――「気分転換だって~かき氷とか~フライドポテトとか食べようよ」―――フライドポテト!? ゴホンッ! ……そんなジャンクフードには興味ありませんが食事でしたら付き合います」

 

 

「(明らかにフライドポテトに反応した)……せっかく来たんだしいいんじゃないか。ここを貸してくれた人も海の事も勧めてくれたんだから行かないと申し訳ないと思うよ」

 

洗いながら言う賛成の言葉にあこは喜ぶ。

 

「やったー!」

「あの……私は留守番を…」

「え~行こうよりんりん~泳ごうよ~」

「ひっ……泳ぐ…」

 

燐子は人が多いところなのか泳ぐところなのか顔が青くなる。

 

「別に海なんか……」

「いい案浮かぶかも知れないし、友希那このままじゃあ~衣装のサイズ合わなくなっちゃうかも~」

「ッ!?」

 

友希那は自分の周囲を見渡すと食べた量を把握する。

 

「そんなヘマはしな―――」

 

リサは友希那の頬を両手で横に引っ張る。

 

「ほれ、プニプニ~これじゃあウエストも~」

「え、え!? ちょっと!」

「ほれほれほれほれ~」

 

その光景は女の子同士の仲がイイッ!シーンだった。

 

「やめてリサ~!」

「―――じゃあ~行こうか?」

「……横暴だわ…」

 

友希那は困り顔になっていた。

 

「まぁいいんじゃない」

「蒼さん……」

 

蒼は御菓子の袋を広いながら二人の光景を見てた……その事に対して紗夜は怒っていた。

 

「何か嬉しそうな顔をしていますね」

「いや、目が勝手に…………まさかこうなるとはな…」

 

不可抗力とは言え、蒼は紗夜に謝っていた……最近どうしてか怒られる事を増えながら。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

「あれ? ポピパじちゃん! 嘘~偶然~スゴくない?」

「…………」

 

それから海の家に向かい、リサと紗夜の所に有紗とたえが出会っていた。

 

「凄い……です」

「どうも……Roseliaって遊びに来たりするんだ…」

 

「遊びじゃないわ、合宿よ」

「近くのコテージ借りてるんだ~」

「今井さん、行くわよ」

 

せっかく会ったのに紗夜は離れようとする。

 

「ここで食べて行こうよ~」

「……仕方ないですね」

 

紗夜も断る理由がなく、食べることにする。

 

「二人は何にする?」

「「え?」」

「お姉さんが奢ってあげよう~」

 

リサは指を指しながら言う…………蒼に向けて…

 

「最後の下りがおかしいだろ……まぁ構わないよ」

 

「ゲッ! 蒼さん……」

「あ……」

 

蒼はポピパメンバーとも会っていた。

 

「やぁ、久し振り、学園祭では時間がなくてな……皆もSPACEで会ったんだっけ?」

 

SPACEのオーナーと蒼は個人的な昔ながらの知り合い……少し前、香澄の“キラキラ星”の件で蒼は関わっていた……何でも、レンタルでギターを弾いたとか……。

 

「まあ……ね……」

 

リサにとってSPACEは少し苦い思い出がある。

 

「あの日は蒼さんは来れませんでしたね」

「僕も学校でも色々とね」

 

リサが泣いたあの日は蒼は来れなかった。

 

「有咲が毎日学校に行くのは最初は驚いたよ」

「はい……そう、です」

 

学園の繋がりで市ヶ谷有咲と知り合っていた。

 

「ゴジガギヅシゼグ」

「久し振りだね、たえ」

 

たえの突然の言葉に蒼は普通に答える。

 

「蒼……言葉がわかるの?」

「たえも……何て言ったの?」

 

リサと有咲は困惑する。二人は友人関係ってことがわかった。

 

「蒼さん……何故グロンギ語を?」

「クウガは思い出が深い……個人的にはティガだけどね」

 

紗夜は蒼も男の子である事を知った。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

少し離れた所で友希那は日傘を指しながら海を見つめていた。

 

「友希那~かき氷食べる?」

「いらないわ?」

 

食べないかき氷をリサが食べ始める。

 

「たまにはいいでしょう? 皆でこういうところに来るのも?」

「よくないわ……早く、完璧なフレーズを考えないと」

「えい」

 

そんな友希那にリサはかき氷のカップを頬に当てた。

 

「リサ……」

「水分取らないと倒れるよ」

 

かき氷を一口食べる。

 

「どう?」

「甘い……」

 

「友希那先輩! リサ先輩!」

 

二人を呼ぶ香澄と沙綾が走ってきた。

 

「あなた―――」

「戸山香澄です! 焼きそばご馳走さまです!」

「すみません私の分まで……」

 

そう言う二人にリサはほんとの事を言う。

 

「ほんとは蒼なんだけどね~」

「えぇ!? そうだったんですか?」

「蒼先輩でしたか……」

「どうかした?」

 

香澄は驚き、沙綾は気まずくなる。そして蒼が来た。

 

「久し振りだね香澄に沙綾」

 

「あ、蒼さん! あの時はありがとうございました!」

「気にしないで。あの時の星の歌がよかったからだよ」

 

あの時の歌は胸が高まってきた蒼……こんなに高まったのは紗夜と出会ってからのことだった。

 

「いいメンバーだな沙綾」

「はい……」

 

―――とあるイベントのバイトにてちょっとしたトラブルが発生し、蒼がドラムを叩いた……その事で沙綾は申し訳なく感じ、蒼も沙綾を気にしていた。

 

……でも文化祭の姿を見てお互いの溝は前よりも小さくなっていた。

 

「それより二人はどうしたの? 何か用があったんじゃない?」

 

その言葉に香澄は思い出す。

 

「あ! そうでした……もしよかったら……」

「皆でビーチバレーしませんか?」

 

スランプな友希那に蒼はこれはいいと考える。

 

「(ビーチバレーか)……折角だからやってみたら友希那」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

「美味しかったな~」

「美味しかった……です」

 

昼食をしていた皆は食べ終わっていた。

 

「お待たせ~」

「友希那先輩だよ~」

 

二人の前に友希那が現れる。

 

「友希那さん素敵です!」

 

黒のビキニを身につけた友希那が立っていた。

 

「ビーチバレーは水着でするものらしいから……」

「似合うでしょう!」

 

水着の格好に紗夜は驚く。

 

「湊さんするんですか!?」

「蒼が楽しいって言うから……」

 

……因みに蒼はビーチバレーの場所にいた。

 

「知らないの? ビーチバレーは砂浜のスポーツ……体力をつけるのにピッタリなんだよ」

「体力……」

 

体力の言葉に紗夜は考えた。

 

「楽器弾くのにいるよね……体力」

「…………」

「それとも紗夜だけじっとしてる?」

「ムッ……」

 

数分後……勝負配置につく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(詳しくは原作を……それよりも…)」

 

「紗夜、暑くないの?」

「暑くないです」

 

口では言うが実際はどうなのだろう……

 

「(何故早口……水着……見れなかったな)」

紗夜だけは水着を着ずに動きやすく腕捲りをしていた。

 

蒼も紗夜の水着が気になっていた……

 

「え~それではRoselia対Poppin'Party……」

「は、始めてください!」

 

そんなこんなで試合が始まるが……

 

ルールがあまり知らず、あこは燐子に技名を聞き出して、サーブするが綺麗にミスり、口の中に砂が入るしまつ。

 

 

 

「くっ! なんて過酷なスポーツなの……」

「えぇ……油断は禁物よ」

「おーい二人とも~」

 

「…………皆、ルールは―――!?」

 

あこに代わって気合いが入る燐子が交代に出る……羽織っている上着を脱ぐと水着が現れる。

 

「(ビキニタイプではないワンピースタイプ……露出を減らし、隠しているが“逆に魅力アップ”……何故僕が説明を?)」

「もう……なにがなんだか……」

 

 

それから始まるが……

 

「紗夜さん!!」

「あっ!」

 

紗夜のミスでRoseliaにかなりの失点……そしてサーブがミスり、顔を砂にぶつける姿……皆が紗夜を心配に寄る。

 

「…………」

 

立ち上がる紗夜

 

「……着替えてきます」

「えっ!?」

 

「…………」

 

この時の顔と声は生涯一度だったかもしれない……と、蒼は言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、これで完璧です。皆さん反撃です!」

 

Roseliaガールズは士気が高まる。

 

「…………」

 

雇われサポートはあまりの水着に言葉を失う。

 

「(紗夜の髪色と同じ水色のビキニタイプ水着……普段下ろしてる髪も今はポニーテールの髪型……そして何より……)」

 

鋼鉄神の紗夜にしては大胆な水着……蒼は見とれた……綺麗なくびれと太ももと……

 

「(腰に巻いてある水色のパレオ……外すと僕の瞳が――――――何を言っているんださっきから……)」

 

そんな蒼でも気になるお年頃……

 

「普段気にしないのか違和感がなかったのか…………」

 

紗夜の胸を見てしまう蒼……

 

「(綺麗で以外に―――観戦に集中しよ)」

 

試合に集中していると三人のパスに友希那はサーブする局面になっていた。

 

「えぇ……行くわよ!」

 

「勝てるぞ友希那!(さっきから何か胸騒ぎするが何故だ? 別に友希那がボールで――――――思い出した)」

 

「はぁー!!」

 

友希那はボールに触れる。

 

 

「(過去に野球、サッカー、卓球、テニス、ゲートボール……全てが僕の顔に―――)」

 

バシッ!

 

「「あ…………」」

 

吹き飛ぶ蒼……

 

「(まさか―――)」

 

バッシャーン! ……

 

そして海に沈む蒼……

 

「「―――!!」」

 

皆が一斉に蒼の元へと駆け出した。

 

「(何か騒がしい音が聴こえるけど……意識が―――)」

 

蒼の耳からは赤ちゃんの泣き声と生命の故郷は海だと……蒼は感じた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

時刻は夕方……ビーチバレーを終えて、皆で砂浜に座って横一列に並んで眺めていた。

 

「どっちが勝ったの?」

「途中まで数えてたんですけど……」

 

真剣な試合が途中からは楽しく遊びに変わっていた。

 

「綺麗な夕焼けだな」

 

蒼も夕日を眺めていた。

 

「蒼さん、大丈夫ですか?」

「このくらいまだまだ軽微だよ…………花瓶は本当に注意がいるよ」

 

何回かボールが当たり、額のところに包帯を一巻きと右目に眼帯。頬には絆創膏を貼っていた。

 

「……そうですか」

 

これが軽傷なら重傷はどうなっているのだろう……

 

「どんな状態になっても明日には元通りなのよね~」

「本当に不思議よね」

 

幼い頃から知っている友希那とリサも同じく言う。

 

「確かにそうだが……友希那が言うのが不思議と感じるのは気のせいか?」

「…………気のせい……よ…」

 

友希那は疑問と自信のない答えで返した。

 

「でも今日は本当に楽しかったね~」

 

砂浜に横になる香澄。

 

「……貴女達のテンポに巻き込まれて、何だかセッションしたみたい」

 

友希那も同じく横になる。

 

「! はいっ! 楽しかったです! また皆で遊びませんか?」

「え?」

 

「私達Roseliaよ……完璧な演奏するために遊んでいる時間は―――「じゃあ皆でバンド!」―――はぁ!?」

「十人で……ですか?」

「そう言うバンドもあるけど……」

「知らないで言ってたの?」

「ロゼリアパーティー……略してロゼパ?」

「はぁ?」

「ロゼパいいねえ!」

「あこもあこも!」

 

そんなこんなで盛り上がり、友希那は何か浮かんだ……

 

「(少し痛い思い出が出来たが……良かったな友希那)」

 

 

 

 

……それからポピパは海の家でライブをした。

 

 

 

 

その歌は八月にとてもいい曲であった。

 

「(ポピパのライブは学園祭以降だったな……それよりもだな)」

 

沙綾の顔がとても楽しそうに歌っていた。

 

「(中学のが嘘みたいだな)」

 

拍手が鳴り響いていた。

 

「……行くわよ」

「え? 友希那?」

「合宿の続きよ……いいフレーズが出来そうなの」

 

友希那の顔を見た皆は安心する。

 

「私も弾きたくなったところです」

「あこも! バンバン叩きまくりたい!」

「私もいっぱい弾きたいです!」

 

ポピパを見て、感謝をするRoseliaであった。

 

「夕飯は何がいい? 僕が作れる範囲なら何でもいいよ」

 

「え! ほんとですか!」

「……別に朝もそうだったでしょう」

「でもなんか蒼に言われるとなんかいいよね」

「でも蒼さん……毎日疲れませんか?」

 

合宿中はほとんど蒼が作っている。燐子は蒼を心配する。

 

「大丈夫だよ燐、僕は出来ることしかしてないよ。紗夜はフライドポテトかな?」

「別に何でも…………あんなの好きじゃあありません」

 

お昼あれだけ食べているのに何故好みじゃないと言うのか不思議でしょうがない。

 

「そうか……どっちにしろ買い物だな、皆もいいかな?」

 

…………このあと、買い物をして蒼は夕飯作るのに集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから練習をして、コテージの帰り……

 

持ってきた楽器は軽トラックに積まれた。

 

何でも蒼のお姉さん関係の人のお願いで運んでもらっている。

 

「やっぱり皆可愛い! もうお義姉さんって呼んで!」

「姉さん……それよりも安全運転でね」

 

皆は姉さんが送ってくれる……行きは電車であったが……

 

「ところで姉さん……その車どうやっても皆乗れないよね」

「え? ノープログレムよ!」

 

普通車に乗れるのは五人……一人余る。

 

「紗夜ちゃんは蒼が送ればいいでしょう?」

 

蒼はバイクの免許……普通二輪型免許を持っていた。

 

「いやいや姉さん、メットは―――」

「へ~いパス!」

 

お姉さんは蒼に水色のヘルメットを投げた。

 

「後はよろくね~」

 

姉さんは車に乗る。皆は

すでに乗っていた。

 

「ちょ―――」

「紗夜ちゃ~ん! 感想聞かせてね~!」

 

車を発進させだんだんと遠くなっていった……蒼はため息をつぐ。

 

「姉さん……すまない、紗夜―――」

「(凄い……ハードボイルダーみたい)」

 

紗夜はずっと蒼のバイクを眺めていた。

 

「紗夜?」

「あ……は、早く乗りましょう。暗くなってしまいます」

 

紗夜は蒼が持っているヘルメットを被り、待っていた。

 

「(―――仕方ない)しっかり捕まっていろ紗夜」

「はい」

 

蒼はバイクに乗っかり、紗夜も後ろに乗る。そして蒼の背中に密着し、腕は蒼の腹に回した。

 

ブウゥゥゥッン!

 

蒼は二人乗りの為、徐々にスピードをあげていく。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

それからしばらく走って、蒼は後ろを気にする。

 

「…………」

 

蒼の背中には紗夜がいた……

 

「(今思えば、紗夜と出会っていたからこうして過ごしているんだよな)」

 

蒼は思い出す、公園で一人ギターを弾いている紗夜。

 

「(友希那とコンビを組み、目標へと目指した……それでも色々とあったな)」

 

メンバー集め、初ライブと“衝突”……FUTURE WORLD FES.……

 

「(短い期間で色々あったな……少し前の出来事だけど……)」

 

今思うとガールズメンバーとは一度会った蒼…………

 

「(紗夜は“妹”と向き合った……僕も――――――向き合う)」

 

蒼はバイクを止めた……

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「(蒼さん……バイクに乗れたんですね……行くときの話で初めて知りました)」

 

蒼さんがバイクに乗れることを知ったのは合宿の行く手段の話でした。

 

「(それでも私……蒼さんに何かできたのかしら)」

 

あの日は公園で一人ギターを弾いていました……そして蒼さんと出会いました。

 

「(最初は正直、なんなのこの人はと思いましたが……ギターを聴いて変わりました)」

 

ギターを弾いた時、この人は凄い……“天才”と言ってもおかしくはない弾き方をしていた。

 

「(あの日から蒼さんのギターを教わって、湊さんと出会い、皆さんと出会いました……蒼さんと出会わなかったら、きっと一人でいたのかもしれません……今でも“仲間”と過ごせています)」

 

…………ですが今だからわかります……

 

 

 

 

 

 

 

 

……蒼さんは“ギターから逃げている”のだと……

 

 

 

「(上手い……でも何かから逃げている音だったと今だからわかります)」

 

ギターだけ違和感を出しながら弾いていた……他の楽器は違和感がなく、ギターだけは違和感が出ていた。

 

「(湊さんと今井さん……何かを知っている…………でも私は知らない)」

 

私が聞けばいいのですが……正直聞けません……私では役に立てないのかも知れませんが――――――蒼さん……私は……?

 

「(バイクを止めた?)蒼さん? どうかしましたか?」

「…………」

 

エンジンを切って、ヘルメットを外して私を見る。

 

「少し星空を見ないか?」

「……はい」

 

ヘルメットを外して、私は蒼さんと星を見ることにする。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

バイクを端に止める。すぐ側の歩道から二人は立っていた。

 

「綺麗な三日月です」

「そうだな」

 

蒼と紗夜は星空を見て、三日月を見ていた。

 

オリオン座がよく見えて、紗夜が「赤い星が見える」と言うと、蒼は「確かに赤いな……いつか死滅する星かな」と言う……暗い話になるが「それでも星のひとつ……命があることだと、僕は感じるよ」と、蒼は言った。

 

「(あの時の蒼さん……自分に言い聞かせていました。やっぱり蒼さんも何かある……私も日菜の事で悩みました)」

「紗夜……妹とは上手くなったのかな

「え……日菜ですか? 七夕の日から少しずつではありますが、昔みたいに戻っています」

「そうか……よかったな」

 

七夕の日から二人は仲良くなっている……蒼も上手くいった事に安心する。

 

「いえ……蒼さんのお陰でもあるのですよ」

「僕は何もしてない。ただ話を―――「蒼さんは本当にいい人です」……紗夜?」

「どんな時も話を聞いて、一緒に悩んで考えてくれます。最近も私達にも頼ってくれて、嬉しいです」

「……ありがとう紗夜」

 

夏が過ぎてからか、蒼は皆を頼っている。一人でやって来たことだがそれでも皆は蒼の負担を減らしたかった。

 

「蒼さん、あの―――「僕の話を聞いてくれるか」―――はい」

 

蒼は紗夜を見て返事をもらい、視線を海の方に向けた。

 

「この前手伝いの時に見た楽器ケース……覚えているかな」

「あの楽器ケースには蒼さんのギターが入っているのですか」

「……姉さんから聞いたのかな」

 

蒼は驚くが表情を戻す。少し前の時に姉と会ったのだから。

 

「全部ではありません……今だからわかりますが蒼さん…………どうしてギターから逃げているのですか」

「…………」

 

蒼は目線をそらした……そらして海の方を見つめる。

 

「逃げている……確かにそうだな。紗夜、昔話をしていいかな?」

「……はい」

 

海を見つめて、何かを決意して空を見ながら言った。

 

「実は…………僕には妹がいたんだ」

「…………」

 

妹いたんだ……過去形……それだけでわかった。

 

「高校に上がる前に事故で亡くなったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中学三年の頃、蒼のギターの弦は正直無理をしていた。

 

「兄さん、ちゃんとギターは修理に出しましたか?」

 

桜色の髪をした妹―――響鬼さくらは怒りながら腕を組んでいた。

 

「大丈夫だよさくら。修理は出したしすぐに直るよ」

「友達からも前から言われていたはずです。修理しないと音も変ですし、妹的にはギターが可哀想です」

 

怒っている顔から悲しい顔になる。

 

「僕が悪かったよ。友達とギターに失礼なことをした……だからそんな悲しい顔はしないでくれさくら」

「別に悲しい顔なんてしていません……」

 

今度はツーンとした顔になった。

 

「(いつもの妹に戻ったな)……それよりもさくら、またラブレター貰ったんだって? 凄いけど どうして断っているんだ?」

 

さくらは驚いたがすぐに表情を戻す。

 

「別に……学生は勉強が第一です。妹的には兄さんも同じじゃないですか? 妹は心配です」

「僕は別に……今はいいかな?」

 

さくらはため息を出す。

 

「妹的には兄さんは男好きではないか心配です」

「えっ!? ないない、僕は普通だよ!」

 

さくらの一言に蒼は当然驚く。

 

「友希那ちゃんやリサちゃんがいるのに兄さんが全く反応しないので妹的にはおかしいと思います」

「反応って……さくらの将来が心配だよ」

「……シスコン兄さん」

「シスコンって……僕は別に―――」

「…………」

 

蒼の前では言わないけど、さくらは“ブラコン”だった。

 

さくらは複雑になる。いつか蒼に素敵な人がいつ現れるのかと…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そして修理が終わる“この日”だった。

 

 

 

 

 

「ギターは僕が取りに行くよ。だから―――」

「兄さんだって今日は忙しいでしょう? ギターぐらい取りに行けます!」

 

この日はギターが取りに行く日であるが蒼はこの日は忙しかった。

 

「でも……」

「兄さんのギターは妹には預けられない事ですか……妹的には悲しいです」

「う……」

 

さくらの悲しい呟きは蒼には効果抜群である。

 

「わかった……でもさくら、ギターも重たいしナンパには気を付けてね」

「わかりました。ギターと一緒に恋人も連れてきましょうか?」

「こ、恋人……いるの?」

 

蒼はオロオロしていた。

 

「兄さんの友達。妹的には素敵な人」

「えっ!?」

 

蒼は驚く、蒼の良き友人は少ない方だから予想がつく。

 

「……嘘です。そろそろ行かないと遅れますよ」

「そうだった! 帰ってきたらいい演奏をきかせるよ!」

 

蒼は鞄を持って、走っていく。

 

「……楽しみにしてます、兄さん」

 

さくらは呟いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………この会話が二人の最後の会話だった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ギターを受け取ったさくらは家に向かう途中、事故にあったんだ」

「!?」

 

紗夜は驚いたが黙っていた……話を聞いていた。

 

「さくらを取りに行かせたのが僕の後悔だった…………でも……」

「……でも?」

 

「現場にいた人からは“ギターは大丈夫ですか”と言っていたらしい」

「ギターは大丈夫だった……と言うことですか?」

 

蒼は頷く。

 

「ギターだけは無傷だった……ケースには傷がついたがギターだけは――――――ギターなんか壊れてもいいのに僕は……さくらが無事でいてほしかった」

「蒼さん……」

 

蒼がギターを弾かなくなった理由は大切な妹が失ってしまったこと……自分せいだと言い聞かせて……

 

葬儀でも人前では泣かず、一人になった時に泣いていた蒼……お姉さんが言っていたのはこの事だった。

 

「さくらさんの事はわかりました。私も悲しいです……ですが蒼さんはどうして私のギターで弾こうと思ったのですか?」

「…………さくらの音に聴こえたんだ」

「え……」

 

さくらの音……それは公園で二人が出会ったあの日であった。

 

「僕はギターが好きでギターを弾いた。さくらもギターを始めた……ツインギターもいいど、当時の僕はベースに変えて、ギターとベースのを始めようとしたんだ」

「そうだったのですか……」

 

最初の楽器がギター……蒼はギターから音楽を弾き始めた。

 

「全部ではないけどさくらの音が紗夜の音が時々聴こえて気になったんだ……今さらの話だけどね」

 

蒼は笑っていた。笑っていたけど悲しい顔でいた。

 

「蒼さん、ギターを私に聴かせてくれませんか?」

「僕は―――「蒼さんがギターを弾かないとさくらさんはずっと悲しいままです! きっとさくらさんも蒼さんがギターを弾いてくれるのをずっと待っています!」……紗夜…」

 

紗夜は叫んだ。蒼を叱っているように見えるが慰めていた。

 

「さくらさんは蒼さんがギターを弾くのをずっと待っています。そうしないと……ギターとさくらさんはずっと怒ったままですよ」

「…………紗夜」

「なんですか?」

 

蒼は紗夜を見る。

 

「…………どうして紗夜が泣いているんだ? どうして……」

 

紗夜は涙を流しながらもため息を出して、蒼に微笑みをかける。

 

「―――――蒼さんが泣いているからですよ」

「え……」

 

蒼は気がつかずに泣いていた……自分の手を目の下に触れると涙が手についた。

 

「(そうか……ずっと弾かずにいたからか……それはさくらもギターも怒るよな……なら―――)紗夜、僕のギターを聴いてくれるかな?」

「勿論ですよ……楽しみにしてます」

「ブランクがあるから下手だよ」

「その時は私が注意します……だから出来上がったら、家族の方にも聴かせてください」

「わかった……そろそろ乗ろうか。あんまり遅れると皆が心配する」

「はい……行きましょう」

 

二人はヘルメットを被り、座席に着く。

 

「紗夜……黙っていたんでが僕の免許では二人乗りはまだ違反なんだ」

「…………そうでしたか」

 

紗夜は驚いたが蒼の背中にしがみつくように腕を回す。

 

「安全運転でお願いします」

「……ありがとう紗夜」

 

蒼はバイクを発進させた…………夏の思い出に二人は違反を起こした……。

 

 

 

 

「(良い子は二人乗りのルールは守るようにね)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後……

 

 

 

夏休みが終わる頃……響鬼蒼は自分の高校を訪れていた。

 

「(部活に入っていないから学校に来ることはないと思っていたな)」

 

蒼は部活に入っていない……体験はしたが入部はしなかった。

 

「(バイトもしたかったしな―――この部屋は正直、夏休み中は入らないと思ったが……)」

 

蒼は扉の前に立ち止まり、ノックをする。

 

「どうぞ」

 

学校にある部屋、生徒会室―――蒼は生徒会長に呼ばれていた。

 

「(まさか会長閣下の直々の連絡とは……)失礼します」

 

扉を開けて部屋に入ると窓際で黒眼鏡を手入れしてる生徒会長が立っていた。

 

「急な呼び出しですまないね雇われ君。まずは席へ」

「わかりました会長閣下」

 

背が高く、清潔間のある黒髪と身だしなみ……この学園の生徒会長。眼鏡をかけてソファで腰かける。

 

「(絶対ここは生徒会室じゃないよな)会長閣下、本日のご用件は?」

 

会長閣下……これを呼ぶのは響鬼蒼だけ。

 

「そう固くしないでくれ雇われ君。実は私でも少々困り事が発生したんだよ」

 

雇われ君と呼ぶのも生徒会長だけ。

 

「困り事……学園関係の事ですか?」

 

閣下からの困り事はだいたい学園関係の事……それは蒼も難解でもある。

 

「だが今回のは特別でな……一番簡単な問題でもある」

「……と言いますと?」

「…………」

 

会長閣下の目が真剣になる。

 

「…………」

 

蒼も真剣になる。

 

「…………君を花咲川女子学園に編入してもらう」

「・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

……はい?」

 

 

あまりの真剣にとんでもない言葉を言われた蒼は反応が遅れた。

 

「簡単な話だが夏休み後からは君は花咲川女子学園に通ってもらう」

「あの……」

 

「勉学は君の事だから問題ないだろう」

「いや……」

 

「制服は男性用のをあちらから支給されるものを使ってほしいとのことだ……無償でな」

「だから……」

 

「男子は君一人……体育は頑張ってくれ」

「ちょっと……」

 

「ちなみに保健体育のは授業は―――「待ってください会長閣下!」……何か質問かな雇われ君?」

 

話が進みすぎて困惑してきた蒼……会長閣下は落ち着いていた。

 

「……女子高ですよね」

「勿論……よく本にある共学に向けてのテスト候補生と思ってくれればいいと言っていたな」

 

そんな夢物語があるのかと蒼は思った。

 

「色々と話が進んでいますけど……」

「この件は極少数の話でしか進められていなかったからね……嬉しくないかね雇われ君?」

「いや……花咲川側の女子達は納得していないのでは……」

 

閣下は特に問題はない顔をしていた。

 

「 七―――鰐部会長は承諾済みだ。役員は勿論、生徒の方もほとんどが解決へと向かっている」

「(解決?)…… 鰐部さんもなんて…… 」

 

蒼は打つ手がなくなっていた。

 

「そんな顔をしないでくれ……考えみたら牛込ゆりにも会えるのではないか? そう考えれば―――「 鰐部さんに言いつけますよ 」……さすがにこれは彼女達には失礼だな」

「…………」

 

蒼にはもう花咲川に通うしかなかった。

 

「花咲川、羽丘、我が校も共に立ち上げた結ばれた学校……絆が深いと思わんかね」

「絆……ですか」

 

なんでも立ち上げた理事長同士は“お友達”関係らしい。

 

「因みに理事長同士は面白そうとも言っていた」

「…………」

 

色々と考えるのが阿呆らしくなってきた蒼。

 

「嫌なら羽丘へ編入も―――「わかりました、会長閣下。夏休み後は花咲川女子学園に通います」……話が早くて助かるよ雇われ君……さすが以前に私の跡継ぎをお願いした生徒でもある」

「…………」

 

会長閣下は三年生……来年にはいない可能性がある。蒼も生徒会長の道があったが辞退した。

 

「君にも事情がある……次期会長も何とかなるだろう……期待してるよ雇われ君」

「わかりました会長閣下(花咲川か……紗夜は知っているのかな)」

 

この時の蒼の顔に会長閣下は首を傾けた。

 

「おや? 雇われ君には珍しい表情だな……」

 

閣下は不思議な顔をしてる……蒼は答えた。

 

「えっと……知り合いが花咲川にいるので……」

「ふむ……」

 

片手を顎に当てて、何かを言う。

 

「そう言えば羽丘もそうだが花咲もなかなかの―――」

「閣下そんなこと言っていると―――」

 

♪―――♪―――♪―――♪

 

「「…………」」

 

部屋に携帯音が鳴る……閣下の胸ポケットからだった。

 

「では編入の手続きは連絡でお願いします。失礼しました」

「……よろしく頼むよ雇われ君」

 

蒼は早足に部屋を出た。着信音で相手がわかったから……

 

「(会長閣下も大変だな)」

 

蒼は窓から見える外の光景を眺めた。

 

「まさか、こうなるとはな……」

 

玄関へと歩き出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――彼は承諾してくれた、問題はない…………わかった………………私が悪かったよ七菜」

 

電話を切り、胸ポケットにしまった。

 

「ふむ……」

 

会長閣下は立ち上がって、窓際に立つ。外を見ると蒼が校門を出る姿が見えた。

 

「雇われ君と風紀員は知り合い……彼にギターを持たせたことに感謝したいな」

 

会長閣下は笑っていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……このあと、鰐部七菜に怒られたのは言うまでもない……。

 

 

 

 







この時期にあわない話だなと感じました…………あっさりと終わらせた方がいいかなと思いました。

この状態で終わらせたのは自分の中でコラボな話が出来ましたのでそれに合わせた設定なので少しお待ちを……







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記念作品IF『ヴェノム』

題名でわかると思いますが……映画『Venom』の物語をRoseliaと絡ませた話になります。

注意! 映画『Venom』を観てない方は観ることを勧めます。後、原作の設定とは違いはあります。

バンドリとヴェノムは合わない方は『戻る』で……………………










読まれる方に一言…………所々省略と一つにまとめたので短いです……それだけです。








 

 

 

――――――火を消した……まさか、こうなるとはな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとつのロケットが宇宙へと旅立つ……長い時間を終えて地球に降りる時に爆発が起きた。

 

大気圏に入るときに、爆発が起き、破片の一つが別の方へと落ちていく。

 

「今日の星は綺麗だな」

 

響鬼蒼、本日のRoselia雇われサポートを終えて今は簡易式望遠鏡で星空を眺めていた。

 

「? ……何だ?」

 

一つの光が見えたが段々近付いてきた。

 

「―――隕石?」

 

そんなことを呟いていると近付いて来て、蒼を通り過ごして、落下していった。

 

「…………」

 

蒼は気になって走り出した。

 

「これは……」

 

落下してきた物は燃えていた。蒼は上着を脱いで、火を消していた。

 

「(わからないけど火を消さないと!)」

 

全く火が消えず、焦って蹴ると風に乗って、火が消えて、物は転がった。

 

走って、正体を見る。

 

「四角い箱……何かが入っていた?」

 

物は四角い黒い箱で火が消えている。

 

「さっきの蹴りで穴が空いてる」

 

蹴りの衝撃で小さな穴が空いている。中身を見ると空だった。

 

「生き物がいたとか……ありえないな」

 

蒼は箱をそのままにして、望遠鏡の側に戻る。

 

「明日も早いし、帰るか。夜ふかししてると紗夜に怒られるからな」

 

蒼は簡易式望遠鏡をケースに閉まって歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………』

 

そこに黒いアメーバのような生き物が望遠鏡の鞄の中に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流れ星? でも落ちてきて……気のせいよね」

 

氷川紗夜も蒼が見た物を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

蒼は家に帰って眠った。そして目が覚めた。

 

「寒いな……あれ? 僕窓開けたっけ」

 

部屋の窓が空いている。ベットから起き上がり、窓を閉める。

 

「おっと、紗夜から借りたCD返さないと」

 

部屋にあるCDラジオからディスクを取り出して、ケースに戻す。そして鞄に入れて、チャックを閉じる。そのままベットに向かう。

 

「……?」

 

何か音が聞こえ、その方向を向くと望遠鏡のケースが少し開いていた。

 

蒼はケースを閉じる。どうしてかため息が出る。

 

「…………寝る―――『よぉ

』―――え?」

 

窓の方から声がして蒼は窓見る、窓が少し開いて……

 

 

……そこに黒い顔があった。

 

「…………」

 

黒い細胞で出来た顔、口元は鋭い無数の牙……そして目は白く異形の目であった。

 

 

 

『―――相棒』

 

口元を微笑むが恐ろしい顔……正に最悪な“悪”が現れた。

 

「――――――」

 

蒼が答える前に悪は蒼の顔を目掛けて牙を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!」

 

蒼は目が覚めた。そして上半身を起こして周りを見る。

 

「夢……夢、だよな」

 

黒い悪に襲われた……冷静に考えれば非現実的、あり得ないことだと知る。

 

「疲れが溜まったのかな」

 

ここ最近は悩んだりすることが多い、頼ればいいがメンバーには音楽の事に集中してほしいかったから。

 

「……?」

 

蒼は時計を見る。

 

「ヤバイ……急げ…」

 

蒼は制服と鞄を持って、急ぐ。

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼は気付いていない……窓が少し開いていた、事を……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「遅いですね……」

 

氷川紗夜は響鬼蒼を待っていた。いつも待ち合わせ場所は蒼が何故か一番で今日は紗夜が先に着いた。

 

「何かあったのでしょうか……でも―――」

 

ふと、昨日は星空を見に行ったのを思い出す。何かあったのかただの寝坊なのかと考えてしまう。

 

「すまない紗夜! 遅れた!」

 

蒼は走ってきた。紗夜は少し驚いている。走って遅れる蒼が珍しかったのだ。

 

「おはようございます蒼さん」

「おはよう紗夜、少し寝坊してさ」

 

走ったせいか顔から汗が出ていた。

 

「寝坊でも連絡してもらえばいいですのに……」

 

そう言いながら紗夜はハンカチを取り出して、顔の汗を拭き始める。

 

「さ、紗夜?」

「動かないでください……連絡もしなかった罰です」

 

罰と言うより、ご褒美だと思ったが口にはしなかった。紗夜の顔は少し赤く、蒼も赤くなっていた。

 

「……もういいですよ」

「あ、あぁ……ありがとう紗夜……」

「…………」

「…………」

 

どうしてか黙る二人……すれ違っているのか通じあっているのか……。

 

「早く行きましょう、遅れてしまいます」

「うん、行こうか」

 

その時、一台のスポーツカーがもうスピードで走ってくる。それは二人の側に近付いてきた。

 

「!!」

「え―――」

 

蒼が紗夜の手を握って、蒼の胸板に頭を当てて、ホールド……抱き締められる形になる。

 

「…………」

 

蒼はスポーツカーを睨んでいた。

 

「……蒼、さん?」

「……あ、すまない…」

 

蒼も我に返り、今の状況を理解した。

 

「とにかく学校に行こう……」

「そ、そうですね……」

 

蒼は焦りながら離れた、そのまま学校に向かう。

 

「(蒼さん……何かいつもと違う……気のせい?)」

 

紗夜は違和感を感じた。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「何……見つからないだと? 」

 

「はい、ただいま探し―――「さっさと探せ!!」はいっ!!」

 

とある会社の駐車場で学生服を身に付けて部下に叱りつける男……

 

「全く………」

 

車に乗り、運転手に合図を送り、車を出す。そして鞄からヘッドフォンを着ける。

 

「あぁ……素晴らしい歌だRoselia…………特に氷川紗夜さん」

 

とある企業の息子はロケットの事で怒っていたが音楽でストレスを減らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼さん……何かありましたか?」

「え……僕がどうかしたかな?」

 

CiRCLEに向かっている二人、学校での出来事を話す。

 

「いえ……戸山さんと一緒に歌い出して、丸山さんと発音練習したり、 弦巻さんと一緒にダンスバトルしたり、Afterglowの方々と商店街活性化計画など ……正直変ですよ 」

「あはは……なんか急におかしくなるんだよね」

 

 

紗夜の言う通り、蒼はいつも違う行動をしていた。蒼も「僕、どうなっているんだ」と、呟いていた。

 

 

 

 

 

 

「…………私とじゃ…駄目ですか…」

「え……もう一度いいかな?」

「なんでもありません」

 

蒼は聞き取れなかった。そのままライブハウスへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない、今日は失礼するよ……お疲れ様…」

 

ライブハウスで練習している中、蒼は一時間たっていないのに帰る。

 

「紗夜、蒼はどうかしたの?」

「……正直わかりません」

「う~ん……人格変わってなかった?」

「あ~いきなり『凄い! ここはいい!』とか『悪くない……惜しい場所だ』とか言ってました」

「でも……大丈夫でしょうか…途中から倒れそうでしたよ」

 

帰る時もふらつきながら歩いていく蒼。

 

「「…………」」

 

蒼が居なくなるとメンバーは何かがなくなった感じになる。

 

「アタシ達って蒼に頼ってばっかりじゃない?」

「こうして集まったのも…蒼さんのお陰です」

「何だか蒼さんって、自分の事を後回して……あこ、気づかなかった」

 

「…………」

 

学校でも生徒会……放課後はRoseliaの雇われサポート……蒼がこれまで自分の事をしていたのを見たことない。

 

「(私、蒼さんに何かしたのかしら)」

 

蒼がギターを再び弾かせることを感謝されていたがRoseliaの活動は蒼を頼ってばかりでいた。

 

「確かに私達は蒼に頼りきっているわ……私達も蒼の為に何かしてあげないと…」

 

友希那の言葉に頷く。メンバーもそうだが紗夜は心配になっていく。

 

「紗夜、蒼を送っていったら」

「!? 今井さん何を言っているのですか」

「紗夜……あなたも音が時々変よ。帰って休んでちょうだい……蒼一人で帰らせるのも心配だわ」

 

メンバーに後押しされ、蒼を追い掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼は朝から変だと気付き考えていた。

 

「(さっきから変だ……頭から何か囁いてくるような…まるで―――)」

 

『悪魔でも取りつかれたか?』

 

「誰だ!」

「きゃ――――――すみません」

 

後ろを振り向くと紗夜が立っており、蒼の声に驚く、そして謝っていた。

 

「紗夜!? すまない、驚かせたな」

「い、いえ……大丈夫ですか?」

「あぁ……大丈夫だ。それじゃあ……」

 

正直大丈夫じゃないが紗夜に負担をかけたくない蒼。

 

「待ってください! 蒼さん!」

 

紗夜は蒼の手を掴む。

 

「紗夜……僕は大丈夫だ」

「私は、あなたが心配です……何かあったのなら私が―――「大丈夫だと言っている!」―――ッ!?」

 

蒼の声と目付きが紗夜を襲った。

 

「紗夜は……ギターの事やRoseliaの事を大事にすればいいんだ」

「あ…………」

 

蒼も自分が何をしたのか理解した。

 

「…………」

 

紗夜の目が段々と赤くなっていく。

 

「さ―――」

 

名前を呼ぶ前に紗夜は走り出した。

 

「――――――」

 

蒼は追いかける事も出来たがそうしなかった。

 

紗夜は悪くない。紗夜自信やRoseliaの事を大事にしてる同時に蒼の事も大事に心配していた。その事を蒼はわかっていた。

 

「…………」

 

自分は最低な男だなと感じた。そして今は“酷い人”なのだから……

 

振り返り、家へと向かう。

 

―――!

 

「いってぇな……おい兄ちゃん、何処を歩いているんだ?」

「…………」

 

がらの悪い男と肩とぶつかった。男は四人いた。

 

「悪いことは言わねぇ……出すもんだしな」

 

笑いながら蒼に近付く。

 

「(今なら……いいよな)おい」

「あ? なんだ?」

 

蒼は顔を下に向く。

 

「喰らうぞッ!」

 

蒼の目は白い異形の目、口元は鋭い無数の牙を見せながら言った。

 

「「ひっ!?」」

 

男達は恐ろしい物を見て「まじかよ!」、「化け物だ!」とか言いながら逃げたした。

 

「何だ今の……僕は何なんだよ…」

 

『俺は俺だよ』

「え……」

 

周りを見るが誰もいなかった。

 

「……もう、寝よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、蒼と紗夜は話をしなかった……できなかった。

 

「(僕から話せば、よかったのにな)」

 

蒼から話せば済むことなのにそれが出来なかった。

 

「おい、兄ちゃん……ちょっと来いよ」

「……」

 

放課後の帰り道、昨日のチンピラが数を引き連れてやって来た。誰もいない廃工場に連れてこられた。

 

「昨日の手品の仕返しだ、悪く思うなよ」

「…………」

 

蒼は売られた喧嘩を買った。数はあるが一人ずつ倒していく、倒していくが背中から鉄パイプで叩かれた。

 

「―――!!」

 

それからは袋叩きされた。パイプでも殴られ、手足、肩が折れていた。

 

「(凄く痛いのに感覚がなくなってきたな)」

 

意識が段々となくなっていく。

 

「(死ぬのかな―――謝れなかったな)」

 

蒼は目を閉じる。

 

『かっこ悪い…かっこ悪いぞ』

「(誰……)」

 

声が聞こえる、蒼は意識で答える。

 

『お前、かっこ悪いぞ』

「(……別にいい……僕は酷い人だから…)」

『―――なら、俺がやる』

「(え……)」

 

自分ではわからないが蒼の身体は黒いアメーバに細胞に染まっていく。

 

 

「おいなんだよ!」

「どうなっているんだ!」

 

蒼の身体は傷だらけだが染まっていくにつれて、治っていく。

 

全身が黒くなり、立ち上がる。背も伸びた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて……』

 

白い異形の目がチンピラ達を睨み、鋭い無数の牙が横に広がる。

 

『……そろそろ喰らう時間だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ……僕は一体……」

 

蒼は歩いている。意識が戻ると怪我が治っており、チンピラが誰もいなく、覚えているのは喰らっていたこと……。

 

「僕……何をしたんだ」

 

そして人気が無い壁際で腰を下ろすと声が聞こえた。

 

『俺じゃない、俺達だ』

 

蒼の左手から黒いアメーバが出てくる。形を変えて、顔が現れる。

 

「―――何者、だ」

『俺はヴェノムだ』

「ヴェノム……僕は人を喰ったのか」

『いや……俺だ、燃料補給だから仕方ない。これから俺とお前は一緒の存在』

「目的は?」

『この星の侵略だな』

「そうか……その為に僕の身体も乗っとるのか」

 

蒼は現実を受け入れていた。もう何が出ても驚かなかった。

 

『そうだな―――とりあえずこのままでいる』

「…………」

 

以外な答えで黙ってしまう。

 

「そうか……君はまた、人を喰らうのか」

『あぁ多分な……だが、お前の行動によっては生かしてやる』

「そうか……取引か」

『そう取引だ……宜しく相棒』

 

ヴェノムは無数の牙を剥き出して、笑っている。蒼は苦笑いで返す。

 

「まさか、こうなるとはな(すまない紗夜、皆……僕はもう悪魔と契約をしたようだ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――反応がありました……いかがいたします?」

「捕獲しろ……傭兵でも呼んで捕まえさせろ、金なら出す」

「わかりました」

 

 

企業の方でも動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、屋上……

 

「学校では大人しくしてくれるんだな」

『暴れた方がいい?』

「いや……」

 

朝から食欲がなく、昼はパンひとつ食べ、蒼はヴェノムと話していた。

 

『相棒、何か悩んでいるのか』

「……何だよ急に」

『俺はお前を知ったからだよ』

「だったら別に聞かなくてもいいだろ」

『俺なら話は聞けるぜ』

「…………」

 

そして蒼に近付く紗夜。

 

「あの、蒼さん」

「紗夜……」

 

話さい日は短いが二人にとっては長かった。

 

「蒼さん、私―――」

「…………」

 

蒼は黙っているが紗夜は驚いている。理由は蒼が泣いていた。瞳から一滴の涙が落ちていた。

 

「―――!?」

「蒼さんっ!」

 

蒼は逃げ出した……とにかく人目のつかない場所に行く。

 

『……大丈夫か相棒』

「今だけは黙っていてくれ……頼む」

『……わかった』

 

ヴェノムは黙った……放課後まで静かにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

……放課後、紗夜は蒼に声をかけようとしたが担任によって止められる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よかったのか相棒』

「何がだヴェノム」

 

放課後、一人で帰る蒼。

 

『嬢ちゃんの事だ……よかったのか』

「僕は酷い人だ……だから会わない」

『……相棒、俺が思うに―――』

 

「すまない、君を捕獲しに来たんだ」

 

周りには外国人の男囲んでいた。

 

「…………」

 

蒼は逃げる。捕まえようとした男はカウンター返しで突破する。

 

そして、あの廃工場へと逃げる。

 

「さぁ、逃げ場はないぞ」

 

蒼は振り返らない。

 

「ヴェノム……」

『何だ』

「喰らうぞ!!」

 

蒼が叫ぶと変身して男達を殴り倒す。ほんの数秒で床に倒れ、腕を広げ、顔を上にあげた。

 

『―――!!』

 

雄叫びをあげた。

 

『…………』

 

そして、一人の男の首を掴んで食べようとするが……

 

「蒼……さん?」

「……紗夜…」

 

変身を解いた蒼……紗夜は恐ろしい物を見た顔になっていた。

 

「紗夜…これは―――」

「ッ!?」

 

蒼が一歩近付くと紗夜は下がった。

 

「(―――そうだよな、こんなの見たら恐ろしいよな……なら)」

 

蒼はこのまま逃げ出すしかない、このばをさろうとするが……

 

「ま、待ってください!」

 

紗夜は蒼を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時、湊さんに言われて、私は蒼さんを追い掛けた。帰り道もそうだがずっと蒼さんに頼りきっていた。 だから後ろから声をかけようとした。

 

「誰だ!」

「きゃ――――――すみません」

 

私は驚いた。蒼さんが凄い敵意のある声でこっちを振り向いた。

 

「紗夜!? すまない、驚かせたな」

「い、いえ……大丈夫ですか?」

「あぁ……大丈夫だ。それじゃあ……」

 

私だと知って、蒼さんは敵意を無くす。安心したかと思ったら直ぐに離れようとした。私は咄嗟に手を掴んだ。

 

「待ってください! 蒼さん!」

 

このまま手を離したら蒼さんは何処かに消えてしまうと思ったから……

 

「紗夜……僕は大丈夫だ」

「私は、あなたが心配です……何かあったのなら私が―――「大丈夫だと言っている!」―――ッ!?」

 

私は蒼さんの負担を減らせればよかった。

 

「紗夜は……ギターの事やRoseliaの事を大事にすればいいんだ」

「あ…………」

 

ギターとRoseliaも大事だが今は心配をしていた……負担を減らせればよかったのに…

 

「…………」

 

私は涙を出ていた。

 

「さ―――」

 

私は走り出した……私はその場に居られなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

気がついたら家の部屋に居た。

 

「…………」

 

私はベットに倒れて、泣いていた。

 

「おねーちゃん、大丈夫?」

「日菜……」

 

日菜が部屋に入っていた。いつもなら怒っていたが今はそんなことしなかった。

 

「お姉ちゃん……」

 

日菜は紗夜の頭を撫でた。

 

「大丈夫……おねーちゃんなら大丈夫だよ」

「日菜……うぅ…」

 

日菜の胸に頭を当てて、私は泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、私は蒼さんと話せなかった。昨日の事があったから距離を置いてしまった。 Roseliaの練習帰り、白金さんが私に話し掛けた。

 

「氷川さん、大丈夫ですか……」

「白金さん」

 

放課後まで蒼さんと話さなかったからか練習でも違和感があったのか白金さんにはわかっていた。

 

「明日は休んでください…皆には私が伝えます」

「ありがとうございます、白金さん」

 

白金さんと別れて、私は夜空を見る。

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

月が雲によって消えてゆく光景が、月が喰われていくように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、私は蒼さんに会う為、屋上に来ていた。蒼さんは一人、屋上からの景色を眺めていた。近づくが声が聞こえてきた。

 

 

「……何だよ急に」

 

「だったら別に聞かなくてもいいだろ」

 

「…………」

 

 

まだ、遠くて声は聴こえないけど、独り言には見えなかった。

 

「あの、蒼さん」

「紗夜……」

 

せっかく声をかけたのに私は黙ってしまった。けど私は黙ってはいけなかった。

 

「蒼さん、私―――」

「…………」

 

私は話すと決めていたのに言葉を失う……何故なら蒼さんの目からは一滴の涙が見えたから……

 

「―――!?」

「蒼さんっ!」

 

私は声をあげたが蒼さんは逃げ出した……探したが結局見つからなかった……午後の授業ではいつもの姿だが私にはそれが心配だった。

 

「蒼―――」

「氷川さん、少しよろしいですか」

「…………」

 

……放課後、私は蒼さんに声をかけようとしたが担任によって止められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあと、私は急いで用件を済まして蒼さんを追い掛けた。正直、間に合わないと思いましたが後ろ姿を見つけたが……

 

「知り合いの……方?」

 

蒼さんが走っていた。複数の外国人に追いかけられながら……

 

「追いかけないと」

 

少し遅れて私は追い掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見失ってしまったが私なりに追いかけた。

 

「……?」

 

何かの雄叫びが聴こえた。

 

「動物? 犬の鳴き声には聴こえませんが―――」

 

『…………』

 

私は見た。全身黒い人型の何かが、男性の首をつかんで食べようとする光景を……そして、私はどうしてか言った。

 

「蒼……さん?」

「……紗夜…」

 

黒い何かが少し縮んで姿を見せてきた。その正体は蒼……私は恐ろしくなってしまった。

 

「紗夜…これは―――」

「ッ!?」

 

蒼さんが近付いてきたが私は後ろに下がった。

 

「(蒼さんがどうして……)」

 

私は考えた。まだわからないけど蒼さんに何かが起きた。そのせいでこの姿になり、一人にしてしまった。

 

 

「(私がもっとしっかりしていれば蒼さんは怖い思いをしなくてすんだのに……)」

 

辛い思いをさせて後悔していると、蒼さんは逃げようとしていた。

 

「ま、待ってください!」

 

今、去ってしまったら蒼さんには二度と会えないと思い、私は声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼さん……早くこの場所から離れましょう」

「…………」

「大丈夫です、私は怖くありません」

「…………」

 

紗夜は蒼に近付く。蒼は紗夜を置いて、去ろうとするが……

 

『相棒、もう暗くなる。こんな場所に嬢ちゃんを一人にするのか? 相棒が去ったら嬢ちゃん探すぞ……今は家まで送るのが、男の役目だぞ』

「…………家に、帰ろうか……紗夜」

「……はい」

 

蒼が歩き出して、紗夜も付いていく。

 

『俺を見ても恐れないとは……いい嬢ちゃんだな相棒』

「黙っていろ」

「え……」

 

蒼の突然の言葉に紗夜は暗くした。

 

「ち、ちがう! 紗夜には言ってない……独り言なんだ!」

「そ、そうですか…」

 

紗夜は安心した。

 

『(あれから相棒を心配していたんだな嬢ちゃんは……)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『相棒』

「……」

 

『ドラマの面白いよな』

「…………」

 

『♪~♪~♪~♪♪』

「(その鼻歌でTVで流れる音はやめてくれ……以外に上手いがこの場に合わない)」

 

『相棒が嬢ちゃんと喋らないからだろ? 』

「…………」

『それに悲しいぞ相棒。俺にはわかる』

「(何が言いたいんだ)」

 

蒼と紗夜は帰り道を歩いているがずっと黙っている。二人は近くで歩いてるのに遠くに思えてきた。

 

『俺ならアドバイスは出来るぞ』

「(……紗夜は心配していた)」

『そうだな』

 

「(皆や紗夜は僕の事を思っていたのに僕がそれを話さないでいた)」

『確かにな』

 

「(僕が素直にならないのが原因だった)」

『お前が悪いな』

「…………」

蒼はヴェノムは毒舌だと感じた。

 

『だがな相棒……俺が思うのに“酷い人”じゃねぇよ』

「(僕は―――)」

 

『今なら謝れるぞ』

「…………」

 

毒舌だか素直だった。

 

『ここなら邪魔が入らないし、もう二度と謝れないかも知れないぞ、相棒』

「……」

 

『お前の素直になれば嬢ちゃんも素直になるかもな』

「(…………そうだな)紗夜」

 

蒼は立ち止まり、紗夜を見る。紗夜も蒼を見つめた。

 

「すまない、紗夜」

 

蒼は頭を下げた。

 

「え……」

「僕は周りからは凄いとか誉められているが実際は臆病で弱虫だ」

「…………」

「Roseliaがどうすれば良くなるのか考えていた……だから紗夜や皆には僕の弱いところを見せなかった……ごめん」

 

紗夜は怒っているどころか安心していた。

 

「私の方こそごめんなさい」

 

逆に紗夜が謝ってきた。

 

「紗夜……君がどうして謝るんだ」

「私はずっと蒼さんを頼っていました。皆さんも頼っていました」

「……」

「ずっと頼っていたせいか頼りきっていました……そして蒼さんが悩んだりしていたことに気づきませんでした」

「僕は……」

 

「蒼さんは“酷い人”じゃありません……これからも私達は蒼さんを頼ります。だから蒼さんもRoseliaを頼ってください」

「……」

 

 

蒼は紗夜の気持ちを受け取った。

 

「こちらこそよろしく……紗夜」

 

『(感謝する嬢ちゃん)』

「(ありがとうヴェノム……お陰で仲直りできた)」

『気にするな、相棒』

 

 

仲直りが出来た二人。紗夜は鞄を開ける。

 

「…………」

 

けど、待た閉めた。

 

「……?」

『相棒、甘い匂いがする。嬢ちゃんは何かを渡そうとしたな』

「(甘い匂い)紗夜、もしかしてクッキー作ったのか」

「え……どうして」

「あ、甘い匂いがした……かな」

 

正直解らなかったが誤魔化した。

 

「あの……これを」

 

紗夜鞄からクッキーを出す。出したがひびで割れていた。

 

「こんなの駄目ですよね……また今度―――」

 

蒼はクッキーが入った袋を奪い取り、袋を開けて一枚口の中に入れる。

 

「……久し振りにまともな食事を食べたな」

「蒼さん、今まで何を食べいたんですか」

『脂肪酸が多い味を喰っていたからこれは美味いな』

「……食べ物を食べていました」

「?」

 

世の中には知らない方が良いこともある。

 

『上手いな! これ』

「きゃっ!?」

「おいヴェノム!」

 

蒼の左肩からヴェノムの顔が出てきた。

 

『嬢ちゃん、これは何だ』

「え…と、クッキーです」

「突然出てくるな、驚くだろ」

『この嬢ちゃんは大丈夫だと判断した』

 

驚いていたが紗夜は落ち着いてくる。

 

「蒼さんが……変になったのはヴェノムさんが来たからですか」

「まぁ……色々あったから」

『俺と適合するのに副作用があったからな』

 

色々あったが紗夜はヴェノムの存在を知った。

 

「明日、皆に話すよ」

「え、大丈夫ですか……」

「皆には嘘をつきたくないから……それに拒絶したらそれで構わないから」

『大丈夫だ相棒、俺達は俺達だ』

 

「ヴェノムが言っても説得力ないぞ」

『だがな、相棒には嬢ちゃんが居るのを忘れるなよ』

 

「わかっているさ……いいか紗夜」

「……皆さんはわかってくれますから」

「ありがとう紗夜」

 

明日は皆に話すことを決意した蒼だった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「心配かけてすみませんでした」

 

ライブハウスで蒼は謝った。以外に皆は何も言わないどころか謝っていた。

 

「それと皆に話さないといけないことがある…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェノムの事を話したが皆は信じなかった。

 

「蒼さんが言っていることは本当です」

 

紗夜も言うが後人押しだった。

 

「……証拠を見せてくれるなら信じるわ」

「わかった」

 

友希那の言う証拠で蒼はヴェノムを見せる。ヴェノムは蒼から離れて、アメーバ状態で床に着地して顔を出す。

 

『やぁ、俺はヴェノムだよ』

 

白い異形の目と無数の鋭いキバ、舌を出しながら微笑むヴェノム。

 

燐子は怯えて、あこは目をかがやかせて、リサは顔色が悪くなって、友希那は―――

 

「ネズミには見えない……猫耳をつければ……」

 

―――無反応だった。

 

それから色々あり、皆と仲良くなっていった。

 

 

 

『俺もRoseliaのファンになったぜ』

「……ヴェノムは苦手なのはあるのか?」

『俺は火は苦手だ……相棒のお陰で音楽の楽しみが出来た』

「だがヴェノム……その姿で喜んでも恐怖しかでないよ」

 

アメーバの状態でくねくねしてる姿は不気味に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「いい……いいよ……Roseliaは素晴らしい 」

 

学生服の男は豪華な椅子に座りながら音楽を聴いていた。

 

「あぁ……氷川紗夜さん……君は―――「失礼します」……なにかな?」

 

男は気分が悪くなる。

 

「傭兵チームがやられました」

「なんだと……」

「雇った傭兵も恐れをなして逃げ出しました」

「…………」

「私も辞表を出します」

「なに……」

「最後に見つけた報告書です……失礼します」

 

部下は部屋から出ていった。

 

「……」

 

男は報告書の封筒を開けた。

 

「……」

 

男は紙を見つめるとクシャクシャにした。

 

……詳細の写真に蒼と紗夜の親しげな写真であった。

 

 

「くそが! くそが! くそがー!!」

 

男は拳を机にぶつける。

 

「何だよ! ロケットが成功するかと思ったら失敗して、奴を発見できたと思ったら何故Roseliaの氷川紗夜さんと……!!」

 

椅子を蹴る。

 

「せっかく、最後のロケットもあるのに―――『おい』―――え」

 

入り口を見ると、グレーののアメーバが近付いてきて、顔が出てきた。

 

『ロケットはあるんだな』

「あ、あぁ……」

 

男は恐れながらもアメーバと会話していた。

 

『なら、俺と手を組め……そうすればあの男も殺せて、その女も手に出来るぞ』

「! …………いいだろう。だがまだ調整がかかる……構わないか?」

「……いいだろう」

 

男はアメーバに触れて、適合した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(Roseliaも順調、蒼さんも元通り……てっ言うと変ですが、ヴェノムさんが来てから蒼さん、素直になりました)」

 

最初は難しいところがあったがヴェノムはRoseliaにとけ込んでいた。友希那には苦手らしい。

 

「(私も素直に―――)」

「Roseliaの氷川紗夜さんですね」

 

一人の男が紗夜に話し掛けた。同い年か年上に見えた。

 

「はい、そうですが……」

「実はRoseliaのファンです。特にあなた……氷川紗夜さんのファンです!」

「そうですか、ありがとうございます」

 

いきなりで困っているが紗夜は冷静だった。

 

「突然ですがあなたの事が好きです! お友達からでもいいです!!」

「え、と……」

 

熱意が伝わったがそれでも紗夜は返答に困る。

 

「もしかして響鬼蒼と言う男ですか」

「え―――」

「あの男がいいのですか」

「私は……」

 

男はため息を出す。

 

「あなたを拐います」

「―――!?」

 

目の前の男が突然、グレーの細胞を出す。そして姿が変わる。

 

「ヴェノム……さん?」

『ほぅヴェノムを知っているか……当然だな』

「あな、たは……」

『悪いが来てもらうぞ』

 

紗夜の鞄とギターケースが地面に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り、蒼は一人歩いていた。

 

『今日もよかったぞRoselia』

「そうだな……ヴェノム、本日の曲は?」

『Rだな』

「かしこまりました……好きだね」

『お前も好きだろ相棒』

 

家に帰って、Roseliaの曲を聴いているヴェノムは『R』がお気に入りになった。

 

「僕は―――」

 

蒼の言葉が止まる。何故なら上から何か落ちてくるのが見えた。

 

「ヴェノム!」

『あいよ!』

 

蒼は腕を伸ばして鞄とギターケースをつかんで引き寄せた。

 

「間違いない……紗夜のだ……何故?」

「氷川紗夜さんは拐ったよ」

 

蒼の前に学生服の男が現れた。

 

「お前―――」

「まあ待ちたまえ、決着なら違う場所でな……また会おうヴェノム」

 

男は走りだし、近くに止めてあったバイクで走り出した。

 

「ヴェノム」

『……なんだ?』

「行くぞ」

『まずは落ち着け相棒……奴の事や話さいといけないことがある』

 

蒼は冷静に考えた。

 

「……そうだな、奴に勝てない」

『そうだ相棒……ギターと鞄を家に置いて行きながら話すか』

「居場所はわかるのか」

『匂いでわかるさ……奴の名はライオットだ』

 

紗夜の鞄とギターを家に置いて、変身して走り出す。そして話を聞いた。

 

「(君はいいのか、仲間を裏切ることになるぞ)」

『ここが俺の居場所だ。それに嬢ちゃんを拐うとは倍返しにしてやるよ』

「(なら行こうヴェノム!)」

 

ヴェノムは走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか……海を越えていたんだな」

『ライオットと俺ならこのくらいへっちゃらだ』

 

気がついたら海を越えて孤島に着いた。島には施設があり、ロケット打ち上げ状態になっていた。

 

施設を見下ろせる山に蒼は立つ。

 

「ヴェノム、ずっと気になっていたことがあるんだ」

『何だ?』

「侵略に来た君の何が変えたんだ?」

 

ヴェノムは答えずに蒼の姿を変える。

 

『お前達が俺を変えたんだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ありがとうヴェノム……お陰で仲直りできた)」

 

「貴方のお陰よヴェノム……猫達もお礼を言っているわ」

 

「ヴェノムさん……ありがとうございます」

 

「アタシ、ヴェノムは怖いけど、嫌いじゃないよ!」

 

「すごいすごいっ! 超かっこいいー!まるで漆黒の―――」

 

「私……ヴェノムさん、が…………優しいのを知ってますから…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『(喰らう側が喰らわらる側になっちまったな)行くぞ相棒!』

「あぁ! (絶対に紗夜を助け出す!)」

ヴェノムは山を下り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜は手錠で捕まっていた。

 

「どうしてこんなことを……」

「君のファンで愛してるからだよ」

 

ロケットの広いフロアで会話をしていた。

 

「君達の曲は素晴らしい、惚れ惚れする音楽に君のギターは完璧すぎる」

「…………」

「だから君に恋をした……だけどふられた。彼によってね」

 

親しげな写真を見せる。

 

「蒼さん……」

「……彼もそろそろ来たようだな」

 

モニターをつけるとヴェノムが走っていた。

 

「さて―――」

 

男はライオットに変身する。

 

『―――最期通告だぞヴェノム』

 

フロアからから出ていく。

 

「蒼さん、ヴェノムさん……私は信じてます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェノム、勝ち目はあるのか」

『正直ない、アイツは刃物だ』

 

走りながら二人は会話をしていた。

 

『だが奴の計画は阻止してやるさ』

「そうか……でも負けるつもりはないよなヴェノム」

『当たり前だ!』

 

ヴェノムは大きくジャンプをして施設に入った。ロケットの方へと走っていくが目の前にライオットが降りてきた。

 

『ヴェノム、ロケットに乗れ! 今なら許してやる』

『断る、この星を喰わさせはしない!』

『ではここでくたばるがいい!!』

 

黒いヴェノムとグレーのライオットは肉弾戦を繰り広げた。ライオットは強いがヴェノムは負けずにいた。

 

『なるほど、強力な宿主だな』

『当たり前だ、相棒は強い』

『希少な存在だ……だが、経験不足だ!』

 

ライオットの右手が鎌に変わり、左手が鉄球に変わる

 

「マジかよ」

『言ったろ、刃物だってな!』

 

ヴェノムの左手から盾を出す。守りながら戦うが不利だった。

 

「(何かないのか……!) ヴェノム! あれだ!」

『……なるほどな、ケジメをつけろよ』

「わかっている!」

 

ヴェノムは逃げる、ライオットは追い掛ける。そしてヴェノムは赤いドラムを持ち上げて投げた。ライオットはドラムを切ったが爆発が起きた。ライオットが炎

に包まれたがヴェノムにも爆風が来た。

 

「ヴェノム、離れろ!」

『すまない』

 

ヴェノムは離れ、蒼は地面にぶつかる。軽い火傷と痛みがあるが立ち上がる。前にはふらつきながらも歩いている男がいた。

 

「(考えていることは同じか)本当の勝負はここからだよな!」

「……当たり前だ!」

 

男同士の喧嘩が始まる。殴り蹴られ、蒼は追い詰められた。

 

「拳はこちらが上だったね……」

「そう、だな……」

 

蒼はまだ諦めていなかった。

 

「拳ならな!!」

「う―――」

 

蒼は頭衝きをする。男はふらついていた。蒼はそのまま押し出し、顔面パンチする。男はゆっくりと後ろに下がる……その先は下へと道がない。

 

「悪く思うなよ」

「あ―――」

 

男は落ちていった。

 

「ヴェノム……いや、先ずは紗夜を―――ッ!!」

 

ロケットの方に向かおうとしたら背中から突き刺された。蒼の胸には刃物が突き出ていた。

 

「ぁ―――」

 

刃物を刺されたまま横に倒れる。

 

『ふん……』

 

落ちた男はライオットになっていた。ライオットは蒼の頭を掴む。

 

『お前はクズだな』

 

そう吐いて、ライオットはロケットへと向かっていく。

 

「(クズか……当然だな)」

 

口元から血が流れてきた。するとアメーバのヴェノムが来た。

 

『…………』

 

ヴェノムは蒼に触れる。傷を治すつもりが出来なかった。

 

『すまない相棒……俺の能力では―――』

「気に、しないで……僕はもう…助からない……」

『…………』

 

ヴェノムの再生能力を使っても蒼は助からなかった。

 

「だけど、ひとつだけ……紗夜を、助けてほしい…彼女だけでも…」

『……わかった』

 

ヴェノムは蒼を包み、変身する。

 

「(僕のことは気にしないで、紗夜を頼む……最後にあり、が―――)」

『…………』

 

ヴェノムは下を向く。

 

『……お礼ぐらい自分で言えよ、相棒』

 

ヴェノムは牙を噛み締めて、上を上げて、ロケットを睨む。

 

『本当のクズを教えてやるよライオットッ!!』

 

胸に刺さった刃物を抜き取り、ヴェノムは走った。

 

 

一人の少女が涙を流す。

 

「蒼さん……そんな…」

 

映像では蒼が倒れた所で消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて氷川紗夜さん、ロケットを打ち上げて仲間を連れてきましょう!」

 

男はロケットに乗り、手を上に上げながら話していた。

 

「…………」

「さぁ氷川紗夜さん、共に―――」

 

『悪いが嬢ちゃんは渡さない。』

 

ドアが開き、ヴェノムが入ってきた。

 

「ヴェノムさん!」

「死に損ないが……」

『喰われるのはお前だ!』

 

ヴェノムはジャンプし手に持ってる刃物を男に降り下ろす。

 

『お前もクズだ!』

 

ライオットとヴェノムは再び戦う……だがヴェノムは蒼を失い、力が半分になっていた。

 

『相棒は死んだ貴様はただの負け犬だ!』

『ぐっ!』

 

ライオットの鉄球が当たり、鎌で切られる。

 

『安心しろ……貴様を殺して、女は俺が幸せにしてやるよ』

『―――!!』

 

もう一度攻撃しようとしたらヴェノムはライオットの腕を掴む、そして動けなくした。

 

『バカナ……貴様に力があるはずが―――』

『お前は俺と相棒を怒らせた……だから負けた』

『奴は、もう―――』

 

蒼は死んだ……確かにライオットが殺したが……

 

『怒らせたのはお前だが、叩き起こしたのは嬢ちゃんだな』

 

ヴェノムは紗夜を見る。紗夜の瞳は涙に染まっていた。

 

『乙女の涙は万能薬って所だな』

『なんだと…』

『「さぁ、けりをつけるぞ」』

 

二人はライオットを追い詰める。ライオットを動けなくした。

 

『う、裏切り者!』

『いい人生と旅をなッ!! 相棒、一言いってやれ』

 

ヴェノムの顔がめくられ、蒼の顔が現れた。

 

「酷い面だな……ヴェノムの方がイケメンだな」

 

それだけ言って、ヴェノムに戻す。

 

『俺もクズだからな……お前は負けた』

 

紗夜に近付き、鎖を壊す。後は蒼に任せる。

 

「蒼さん!」

「紗夜! とにかく逃げるぞ!」

 

 

気がつくとロケットは上がっている。

 

『相棒! 奴の武器を持って窓に飛べ!』

「あぁ!」

 

左手で紗夜を抱きしめ、右手だけヴェノムになり、刃物を掴む。窓に向かって突き破る。そのまま下へと落ちるが刃物をロケットのエンジンに向けて投げた。

 

突き刺さり、数秒後には爆発が起きた。

 

「不味いな……」

 

紗夜を抱き締めて、ロケットから脱出するが上から爆発した炎が迫ってきた。

 

「ヴェノムッ!」

『あいよっ!』

 

蒼の右腕を上に上げて盾を作り、盾から守る。

 

「くっ! (炎が身体に染み渡る……熱い!)」

 

炎には弱い……徐々に細胞が減っていく。

 

『流石に不味いな』

「わかっている(このままでは…)」

 

蒼は考えた。このままでは確実に焼かれる…………だが、助かる方法がある。

 

「ッ!?」

 

蒼を信じて側に居てくれる紗夜だけでも救える……だから―――

 

「ヴェノム!!」

 

蒼は左手で紗夜を抱えて下へと向ける。

 

「蒼さん!?」

「紗夜だけでも助ける! だから―――」

 

左手を離す、紗夜は落ちていくが手を伸ばし、腕に掴まる。

 

「紗夜! 手を離せ!」

「嫌です! 絶対……絶対にこの手は離しません!!」

 

紗夜は涙を流していた。この手を離したら蒼とは二度と会えないのだと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……炎で盾が無くなりつつあった。

 

「ヴェノム! 紗夜だけでも助けて離させるんだ!」

『……わかった』

 

左手から別の小さい腕があらわれ、紗夜を捕まえ、いつでも離せる状態にした。

 

「蒼さんッ! 私は―――」

「ヴェノム……頼む…」

『……あいよ』

 

蒼の言葉に手を離そうとするが……

 

「ヴェノム?」

『……すまない、相棒』

 

蒼の体は紗夜の方に寄せて、くっつけさせた。

 

「ヴェノム! 何をしてる!」

「ヴェノム、さん?」

 

ヴェノムの顔が出てきて二人に向けて首を伸ばす。

 

『相棒……掴んでいる嬢ちゃんの手、離すなよ』

「何を…」

「ヴェノムさん…」

 

ヴェノムは何をしようとしているのかがわかっていた。

 

『いいか、じゃないとお前を喰らうからな! それと嬢ちゃん……こんな相棒だが宜しく頼む』

 

ヴェノムは盾をまた一度大きくして、下に降ろした。

 

『Roseliaの皆に宜しくな……ありがとう、紗夜……蒼』

 

「ヴェノムさん!」

「やめろ、ヴェノム!!」

 

二人はそのまま海へと落ちていくがヴェノムの作った盾はパラシュートのような役割をしてくれて無事に着水していく。

 

『…………』

 

ヴェノムは口を少し開けて舌を出しながら炎の中へと包まれ、消えていった……。

 

落ちた蒼と紗夜は何とか陸へと上がる。

 

「ヴェノムさん…」

「初めて名前で呼んでくれたな……相棒」

 

…………最後に見たヴェノムの顔はいつものように笑っていたが、何処か悲しい顔をしていた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

孤島には避難用ボートがあり、オート操縦で帰った蒼と紗夜……

 

「(あれから数日流れた……色々あったが皆にはヴェノムの事を話した)」

 

「そう……私達の歌、もっと聴かせたかったわね」

「アタシ怖かった……でもヴェノムはとても優しかった」

「あこ、もっとお話したかった」

「私も……お礼言えませんでした」

 

Roseliaの皆からもヴェノムとは友達所か蒼と同じメンバーの一人に近い存在だった。

 

「…………」

 

蒼はライブハウスに一人早く着いて、簡単なセッティングを済ませてイスに座っている。

 

「―――さん! ―――蒼さん!」

「? 紗夜か……?」

 

気がつかずにいたら紗夜が来ていた。

 

「大丈夫ですか? 入ってきてから黙って……声をかけても黙っていました」

「そうか……すまない、考えていた」

「……ヴェノムさんの事ですか?」

「…………うん、そうだね」

 

紗夜は蒼の隣のイスに腰を下ろす。蒼の心にはすっかり穴が空いたままだった。

 

「ヴェノムさんの事は気の毒です。私もそうです……でも私は前を向いています」

「紗夜?」

「ヴェノムさんが聴きたかった音をもっと届けさせます皆もそう思っているかです」

「……」

 

蒼は前に進めずにいたが紗夜は前へと進んでいる。蒼もヴェノムが残してくれたRoseliaの為に出来ることをする。

 

「そうだな、僕もヴェノムに恥ずかしい姿は見せられないな……支えてくれてありがとう紗夜」

「いえ……お礼を言いたいのは私です」

「紗夜?」

 

紗夜は何かを言いかけたが蒼には聞こえなかった……

 

……だから気付かなかった、後ろの天井から何かが落ちてきて二人に触れたことを……

 

『おいおい何辛気くせえ話してんだお二人さん』

「え……」

「ヴェノム……」

 

後ろにはアメーバの形をしたヴェノムがいた。

 

「生きていたのかヴェノム!」

「……色変わっていませんか?」

 

ヴェノムは顔を出すが全体的に前は黒かったが少し青くなっていた。

 

『俺にも色々あったんだよ……あれから数日経っているのにまだ進んでいねぇのかよ』

「?  進んでいる?」

「ちょ、何を―――」

 

するとヴェノムは蒼から離れて紗夜に話し掛ける。

 

「―――!?」

 

何を言われたのか紗夜の顔は真っ赤になっていく。

 

「どうした紗夜?」

 

蒼が声をかけるがさらに赤くなる。

 

「えっ!?」

 

紗夜が驚いたのと同時にヴェノムは蒼の身体へと入っていく。

 

「ヴェノム、紗夜に何を言ったんだ?」

『ん? それは―――』

 

「ヴェノムさんっ!」

 

紗夜は叫んだ。蒼は当然驚く。

 

『……腰抜けが』

「??」

「…………」

 

黙るヴェノムと状況を理解していない蒼と真っ赤に染まった紗夜になったこの部屋。そして扉が開く。

 

 

 

 

「お! 二人は早いね~関心関心」

「あこ参上!」

「……どうもです」

「今日も始めるわよ……」

 

メンバー全員部屋に入って、準備をしていく。

 

「おかえり……相棒」

『ただいま……蒼』

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

『ほぅ……堅物女でモテているのに告白もされず、以外に嬢ちゃん未経験で“まだ”なんだな』

「―――!?」

 

ヴェノムは触れただけで相手の情報が入ってくる。

 

「どうした紗夜?」

 

 

『言っておくが相棒はモテているのに告白もされては断っている……お前と同じ“まだ”だな』

「えっ!?」

『こんな相棒だが頑張れよ―――応援してるぜ』

 

離れ際にヴェノムは言った。

 

「 ヴェノム、紗夜に何を言ったんだ?」

『ん? それは―――』

「ヴェノムさんっ!」

 

『(怖いがいい女だな相棒)』

 

紗夜は叫んだ。蒼は当然驚く。

 

『……腰抜けが(ふ~やれやれ)』

「??」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『(あの時俺は箱の中で燃え尽きる運命だった……だが火を消してくれたよな――――――しばらく宜しくな……相棒)』

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

今日の練習は少し早めに終わる。リサがバイトがあるからだ。蒼は今後の予定と打ち合わせに少し作業をしていた。

 

「(僕の中にくっついているのはいいが、そうするなら大原則は守ってもらうぞ)」

『どんなのだ』

 

用件が済み、道を歩いていた。

 

「(喰いたい時は手当たり次第喰いまくるのは禁止)」

『ダメなのか?』

「(そうだ……一応食べなくてもいい人はいる)」

『相棒の女友達みたいな人か』

「(妙な言い方だが合っている……逆もいるだろ?)」

 

変な言い方だがヴェノム流にはわかりやすい解釈になる。

 

 

『税金泥棒だろ?』

「(変な言い方はよくない……悪い人は悪人だ)」

『同じ人もいるだろ?』

 

ヴェノム流は簡単に進まなかった。

 

「(…………とにかくルールはこれから教えていく、いいな)」

『わかった……だが違いはどう見分けるんだ?』

「(見分けるには直感や察知、ただ感じる……じゃなくて! 態度や行動でわかってくる)」

『そんなもんかね』

「(そういうものだ)」

 

 

歩いていると、犬を連れてるおじさんとすれ違う、犬が蒼になつく。

 

「可愛い犬ですね」

「ありがとうな」

 

蒼は犬の頭を撫でた。

 

『待て、犬は美味そうだ』

「(そんなことしてみろ……犬耳と猫耳の刑だぞ)」

『…………』

 

ヴェノムは黙り出す。何かを思い出して怯えていた。

 

「では失礼します」

「そうか……あんたにもピッタリな相棒がいるんだな」

「……ありがとうおじいさん」

 

二人は笑顔で手を振った。

 

「(二人に何をされたヴェノム)」

『……そんなことよりも、すぐに何か喰わないと“相棒の肝臓”がすっごくジューシーで美味そうに……見えてくる』

 

ヴェノムはグルメレポーターのように言う。

 

「(――――――そうか……リサがバイトしてるコンビニに何か買って帰ろうか)」

 

蒼はリサがバイトしてるコンビニが目に入り、早歩きをする。

 

 

 

 

 

 

 

♪~♪~♪

 

「やぁリサ」

 

リサはコンビニの制服でレジに立っていた。

 

「いらっしゃい蒼! 調子はどう?」

「特に変わったことはないよ」

「そう……なの?」

 

宇宙人に取り付かれているのに変わらないことに違和感がある。蒼はスイーツコーナーに立つ。

 

「さて、今夜はどうようなお食事をご所望ですか?」

『ポテトとプリンだ』

「はい、かしこまりました(ヴェノムもポテトが好きなんだな)」

 

 

 

 

 

 

♪~♪~♪

 

かごに必要な食材を入れているともう一人の客が入ってきた。

 

 

 

「いらっしゃい―――「金払いな」―――え……」

 

客はナイフを出して、リサの方に向ける。

 

「え……と…」

「早くしろ!」

 

入ってきた客は強盗だった。

 

『相棒、わかってきたぜ』

「そうだな」

 

蒼は物陰に隠れて、様子を見る。

 

「…………」

 

リサは目の前にナイフを向けられてオドオドしていた。

 

「遅せぇぞ!」

「は、はいっ!」

「さっさと―――」

 

強盗の握っているナイフの手が謎の黒い触手のような物に掴まり、ナイフを地面に落とさせた。

 

「な、なん―――」

 

触手の先を見ると黒い人型が歩いてきた。

 

 

『おい! 今度この店とここにいる女の子に来て泣かせてみろ、俺が八つ裂きにしてやるぜ』

「ば、バケモノ!?」

 

ヴェノムは右手で強盗の首を掴む。

 

『いや、この町のどこでも罪ない人から食い物にしたら必ず見つけ出してやるぞ!』

「ひっ!」

『そして両腕を喰って、両足を喰って、そのツラすっかり喰いちぎってやる! わかったか?』

「や、やめてくれ……」

 

強盗は怯えていた。

 

『あぁそうだった。それでお前は腕も足も顔もない肉の塊になって、お空に投げてやるよ……“キラキラドキドキなお星様”みたいな……わかったか?』

「な、なんなんだよお前は!」

 

ヴェノムの顔が皮一枚剥がれる形になり、蒼の顔が現れた。

 

「僕はただの雇われサポートだ……“僕はね”」

 

顔をヴェノムに戻した。

 

『やっぱり腹へった……』

「やめろ」

 

ヴェノムは大きく口を開ける。

 

「ひっ!」

『頂き―――』

「(ヴェノム、ストップだ)」

『何でだよ? 食べても―――』

「(リサを見てみろ)」

 

ヴェノムはリサを見る。

 

「…………」

 

強盗よりも怖いものを見た顔になっていた。

 

『一期のエンディングのサビの部分を歌っていろ……いいな?』

「…………」

 

頷くリサ……ヴェノムは触手を出して、リサの前に壁を作り、耳を塞いであげた。

 

『―――まーす!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラキラだとか♪ 夢だとか♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………触手が無くなると、ヴェノムは蒼に戻っていた……強盗の姿は無かったようになっていた。

 

「ねぇ蒼……やっぱり寄生虫だよね」

「寄生虫でも僕の相棒なんだ」

「そう……なんだ」

「それじゃあまたねリサ」

「またのご来店をお待ち……してます…」

 

リサは手を降り、蒼は何も買わずにコンビニから出た。

 

『寄生虫だと! 謝れ!』

「(嫌なのか……何があった)」

『謝れ!』

「(そんなにか……そうだな、相棒に失礼だな)」

『……分かればいい』

「(妙に素直だな……どうした)」

『別に……お前らと出会えてよかったよ』

「(そうか……)」

 

蒼は胸の中で笑った。

 

「(でもこれからどうする? ヴェノムから見たら退屈な日になるかもしれないぞ)」

『何言ってるんだ、俺に言わせれば俺と相棒がいれば何でも出来て退屈にはならないさ』

 

ヴェノムは嬉そうに喋っていた。

 

「(そうか……先ずはコンビニのカメラをどうにかするか)」

 

蒼も心の奥底ではヴェノムと同じことを考えていたのかは本人のみ知る……。

 

 

 

 

 

 

 






…………読んでくださった方々ありがとうございます。私個人のヴェノムになってしまいましたが、あの映画を観ていたら書きたい初動になりました。途中他のメンバーバージョンもいけると思いましたが全員は無理ですね…………個性が強いキャラが多いです……あのヴェノムはカッコいいです、他のヒーローともコラボさせたい気持ちが強くなりました。


バンドリ×ヴェノム……他にいたら驚きです……私個人の設定を読んでいただきありがとうございます。





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合宿費用はバイトに限る

時間軸では夏休み合宿前の出来事です。昔書いたけど没にしたんですよね……最後の方はちょっとしたオマケなので読んでください。






「これはどうですか?」

「う~ん……友希那は?」

「私が出来るものならなんでもいいわ」

 

Roseliaのメンバーはファミレスにいた。

 

「ごめんねあこちゃん……手伝わせて…」

「気にしないでりんりん! Roseliaの問題はあこの問題でもあるんだから!」

 

ファミレスでドリンクを口にしながらバイトの雑誌を見ていた。

 

バイト探しを始めたのは数日前……

 

 

 

「――――――と、言うことで合宿先は無事に決まったよ」

 

蒼がそう言うと皆は喜んだ。

 

「これで合宿先は決まりね」

「そうだね~なんか楽しみだな~バンドの合宿ってさ~」

 

Roseliaの合宿を考え、皆で話し合い宿泊先が決まった。

 

「皆で合宿だよりんりん!」

「うん、そうだね」

「ですが……問題があります」

「「問題?」」

 

決まったが合宿に一つだけ問題があった。

 

「場所と日程はいいけど一つだけ……それは費用だ」

 

合宿先はコテージ……だから費用がかかる。

 

「僕の繋がりでお礼もあっていらないと言うけど、やっぱり申し訳ないから最低限は支払いと思う……皆は反対かな?」

「「…………」」

 

費用がかからないのはいいけどやっぱり泊まるなら気持ちに程度に支払いたくなる。

 

「じゃあバイトを探しますか」

 

……合宿費用の為にバイトをすることになったのだ……

 

 

 

 

 

……因みにあこは中学生だからそこのところは免除にした。

 

「う~ん、三人で同じところは厳しいかな?」

「確かにそうですが……バラバラだとライブに影響が……」

 

皆が別のバイトをするとバンド時間に影響……燐子は性格のと友希那は―――色々と……

 

「アタシはコンビニで人も足りてるし……う~ん」

 

リサは自分のバイトでクリアしていた。

 

「あれ? あこの知ってる人のバイトがある」

 

あこがなにやら知ってる人のバイト募集のを見つけた。

 

「知ってる人の? どんなバイト?」

 

リサは興味津々でバイトを見る。

 

「一日だけのバイトで―――えっ!?」

 

リサは何やら驚いた。

 

「今井さん静かに―――「紗夜も見てよこれ!」―――バイトで……!?」

 

紗夜も内容を見せられると驚いた。友希那と燐子も見る。

 

「このバイト……一日だけでかなりの金額ね」

 

一日だけでも満足のいくバイト……それは誰もが喜ぶが……

 

「ですがこれ…………メイドですよね」

 

それは一つの喫茶店だが一日だけ店員がメイド服で過ごすバイトだったのだ。

 

「メイド服なんて……こんなの反対です」

 

紗夜は真っ向から反対。

 

「でも紗夜、これすれば合宿費用は貰えて、練習に集中できるよ。アタシもこの日はバイトは大丈夫だし、興味があるな」

「あこの知ってる人だし、悪い店じゃないから大丈夫ですよ!」

 

リサは賛成で、あこのフォローした。

 

「そうですか……仕方ありませんが妥協します……湊さんは?」

「別にメイド服でバイトぐらい簡単だわ」

「「…………」」

 

友希那の発言で周りから視線が集まった。

 

「……何よ」

「そ、そう言えば燐子はどうかな? メイド服!」

 

友希那は目付きが鋭くなり、リサは燐子に話をふった。

 

「私……メイド服なんて……似合いませんよ…」

「「…………」」

 

今度は燐子に視線が集まった。

 

「でもりんりん! あこの知ってる人だからあこもお手伝いしてバイトするよ!」

「そう? 私も、やってみようかな?」

「ほんと! じゃああこが連絡する!」

 

燐子の同意を得て、五人でそこに応募する…………

 

 

 

数分後、あこの電話が切ると、OKのサインが出た。

 

「あ! 蒼さんにも知らないと……」

「!? (知らせると言うことは……私がメイド服でバイトを知ること!)」

 

あこが蒼に教えようとが紗夜が止める。

 

「宇田川さん、蒼さんに私達のバイトがメイドだと知るときっと反対します。だから喫茶店だと言いましょう」

「でもあこが知ってる―――「いいですか?」―――はい……」

 

あこは紗夜の覇気に恐れ、蒼には喫茶店だと伝えた……

 

 

 

そして当日……

 

「皆さん着替えましたか?」

 

紗夜の言葉に皆は着替え終わった。

 

「これがメイド服ね……動きづらいわ」

「おぉ~友希那似合ってるじゃん!」

 

友希那は動きづらそうに歩き、リサは以外にノリノリに着こなしていた。

 

「りんりんスッゴく似合ってるよ!」

「そう? ……これがメイド服かぁ……」

 

あこは皆とは違い、あこ専用のメイド服で可愛い服。燐子も二人と同じメイド服で見た目通りで似合っていた。

 

「…………」

 

紗夜もメイド服を着ているのだが……そこに店長が来た。

 

「皆着替えたね? あこちゃんの言ってた通り皆可愛いわ!」

「……あの、店長」

「ん? どうかした? ……えっと~氷川さん?」

 

紗夜は怪訝そうに店長に質問する。

 

「……なぜ私だけミニスカートなのですか?」

 

紗夜のメイド服だけはスカートが短くミニスカート……素足にはオーバーニーソックスを履いていた。

 

「そのメイド服のロングが三つしかなくて……は氷川さんにはピッタリだからよ!」

「ですが……「特別手当でバイトをプラスよ! お願い!」……仕方ありません、バイトをお願いしたので全うします」

「よし! 一日頑張ろう!」

 

店長と店員達が準備をしてるフロアの手伝いに向かった。

 

「はぁ……」

 

紗夜はため息を出した。

 

「紗夜、大丈夫?」

「湊さん……合宿の為なので励みます」

「でもアタシも似合ってると思うよ!」

 

リサもそうだが周りから褒められるが嬉しくならなかった。

 

「そう言えば蒼さんは?」

「う~ん、特に予定がないから家で休んでるじゃない?」

「……蒼さんがいなくてよかったです」

 

蒼が場所をきいてこなかった事に落ち着く紗夜。

 

「氷川さん……それは危ないフラグですよ」

「え……フラグ?」

「おぉ……りんりんがそれを言うと当たるんでよ」

「いやまさか……ほんとですか?」

 

紗夜が確認しようとするが……

 

「皆! そろそろ時間だから来てね~」

 

店長の呼び出しに話が止まった。

 

「バイトも全力で行くわよ」

「ちょ、友希那!? なんか違うせっていだよ!」

 

友希那が歩きだし、リサはついていく。

 

「紗夜さん! りんりん! 頑張りましょう!」

「あ、あこちゃん! ……氷川さん、も頑張りましょう!」

「……はい、合宿の為に」

 

五人はバンド活動の為、バイトが始まった……。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「(今日は皆でバイトか)」

 

 

 

蒼は一人、色々な店が並ぶ通りを歩いていた。

 

 

 

「(確か喫茶店って言っていたけど……場所だけは教えてくれなかったな)」

 

 

 

教えてくれないところが不思議であったが、皆同じところとあこの知人だから任せることにした。

 

 

 

「(さて……どうしようか)」

 

 

 

家にいてもよかったが、いつもバンド活動の事ばかりで、外に出ることにした。

 

 

 

そして、前の信号が赤になったので歩道に止まる。そしてチラシ配りをしてる人からチラシを渡される。

 

 

 

「よかったらお店に来てください!」

 

「ありがとうございます(なんのチラシかな……メイド喫茶?)」

 

 

 

チラシの内容は『本日限定“頂点のメイド”現る』と書いてあった。

 

 

 

「(メイド……メイドか…)」

 

 

 

同じ学校のクラスの友人からは『メイド服ってのは男のロマン! つまりだ……メイド喫茶最高!』と、言っていた。

 

 

 

「(僕にはよくわからない言葉だったな。割引券つき……行く宛もないし、行ってみるか)」

 

 

 

蒼はチラシに書いてある地図を見ながら歩き出した。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

「う~ん……氷川さんは少し固いかな?」

 

「固い……ですか…」

 

 

 

バイトが始まり、それぞれが働いていた。

 

 

 

リサはレジで会計をして、あこが客を席まで案内して、燐子が食器を運んでいる。友希那は皿洗いをして、紗夜は注文を受けたわっていたが……紗夜の仕事は文句がなく完璧だが笑顔がなく、固かった。

 

 

 

「少しの笑顔……スマイルを出せばお客様も喜ばれるから!」

 

「わかりました……やってみます」

 

 

 

それから笑顔を出しているつもりが固くなっていたのだ。

 

 

 

「氷川さん大丈夫ですか?」

 

「白金さん……私はどうして固くなってしまうでしょうか」

 

「……私は最初は皿洗いをしてました」

 

 

 

燐子は最初皿洗いをしてた。友希那が食器を運んでいたが色々あって燐子と変わった。

 

 

 

「私も人前に出るのは苦手です……でも私は皆さんと合宿に行きたい……もっとバンドをしたい……氷川さんも同じ気持ちだと思います」

 

 

 

燐子は苦手な事を頑張っている。バンドの気持ちも同じ……紗夜は気づかされた。

 

 

 

「私も白金さんと同じ気持ちです。少し力が入りすぎていました……ありがとうございます」

 

「いえ……蒼さんが来れば落ち着きますか?」

 

「えっ!? 何故……蒼さんの名前が―――接客に戻ります」

 

 

 

突然蒼の名前を出されて紗夜は焦ったが入り口の方に向かった。

 

 

 

「氷川さん、大丈夫でしょうか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ふぅ……まずは落ち着いて……)」

 

 

 

紗夜は深呼吸して落ち着かせた。

 

 

 

「(次のお客様が来たら笑顔に笑顔に……? 笑顔…どうすれば笑顔に?)」

 

 

 

紗夜はどうすれば笑顔になるのか考え始めた。

 

 

 

「(私にとっての笑顔……)」

 

 

 

どうすれば笑顔なのか考えていると燐子に言われた事を思い出した。

 

 

 

「(……私にとっての笑顔は―――)」

 

 

 

ガチャ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数秒前……

 

 

 

 

 

 

 

「ここか……」

 

 

 

蒼はチラシの地図を見ながら目的地に着いた。ビルの二階で階段を昇る。そして扉の前に立つ。

 

 

 

「(メイド喫茶も初めて入るんだな)」

 

 

 

蒼は扉に手をかける。

 

 

 

「(でもメイド服って僕はわから―――)」

 

 

 

ガチャ

 

 

 

「お帰りなさいませご主人様♡!!」

 

 

 

頭にカチューシャ、服装はメイド服(ミニスカートでオーバーニーソックスを履いている)の素敵な笑顔で前に立っていた。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

この日、僕はメイドを知りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お客様は―――蒼……さん?」

 

 

 

紗夜は来店しに来た客が蒼だと知る。

 

 

 

「はい……えっと……紗夜、さん?」

 

 

 

蒼はどうしてか確認した。

 

 

 

「あれ? 蒼じゃん! どうしてここに?」

 

「蒼さん!? りんりん! 友希那さーん! 蒼さんが来ましたよー!」

 

 

 

リサとあこが蒼に気づいた。

 

 

 

「(二人どころか皆がいる。それに今日は―――)……バイトの日でしたね……紗夜、さん」

 

「はい……あの、話を聞いてくれますか?」

 

 

 

お互い、とりあえず話し合う……。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど……まさか、こうなるとはな…」

 

「すみません蒼さん……喫茶店だと嘘をついてしまい……」

 

 

 

二人は喫茶店の休憩室で話をしていた。

 

 

 

「別に僕は怒っていないよ……でも驚いたな」

 

「驚いた……とは?」

 

「皆がメイド喫茶でバイトもそうだが、紗夜がメイド服を着るのに驚いた」

 

「……に、似合わないですか」

 

 

 

紗夜の表情は暗くなる。

 

 

 

「い、いや全然! むしろ似合ってる所か似合ってます!」

 

「こ、言葉が変ですよ蒼さん」

 

 

 

蒼のおかしな言葉なのか嬉しいのか表情が明るくなった。

 

 

 

「でも、……皆が楽しくバイト見られて僕は良かったよ」

 

「それは……そうですね」

 

 

 

紗夜も大変な時間でもあったが思い出すと楽しんでいる自分もいたと気づいた。

 

 

 

「それでは私は仕事に戻ります」

 

「うん……僕も―――「今は少し混んでいるので少し待っていて下さい……呼びに戻りますから」……わかったよ紗夜」

 

 

 

紗夜は休憩室から出た……その数秒後店長が来た。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「(はぁ……蒼さんが来るとは思いませんでした…)」

 

 

 

今までとは違う気持ちで笑顔を出した相手が蒼であり、メイド服姿で見られてしまった。

 

 

 

「(変な笑顔だったでしょうか……服装や髪も―――って! 考えている所が違います!)……?」

 

 

 

気持ちを切り替えていると、店内に違和感があった。

 

 

 

「あの……こ、困ります」

 

「え~バイトが終わってからでいいからさ~」

 

「それにしても君可愛いね~」

 

 

 

店内にある一つの席で燐子が対応していたが二人の男性にナンパされていた。

 

 

 

「(やはり男性は白金さんのような人がいいのでしょうか……今は白金さんを助けないと!)」

 

 

 

本当ならここの店員か店長に話した方がいいが店員は厨房に集中していたので紗夜は白金さんの前に立つ。

 

 

 

「お客様、他のお客様が困りますのでご遠慮ください」

 

 

 

紗夜は燐子の前に立つ。

 

 

 

「ちょっとせっかく―――君も可愛いね!」

 

「ほんとっすね~君が変わりにデートしてくれるの?」

 

 

 

紗夜は冷たく二人の男に言ったが、紗夜の服装のせいか今度は紗夜に集中した。

 

 

 

「申し訳ございませんが当店ではナンパはご遠慮ください」

 

「そんなこと言ってほんとは俺達を誘ってるんだろ~」

 

 

 

男二人はニヤニヤしていた。そして一人の男が紗夜の手首を掴んだ。

 

 

 

「ちょ、離し―――」

 

「そんな短いスカートもう俺のハートは―――イテテッ!」

 

「…………」

 

 

 

紗夜の手首を掴んでいた手を別の誰かが掴んで強く握っていた。

 

 

 

「あ、蒼……さん?」

 

「…………」

 

 

 

蒼が横に入ってきて男の手首を掴んできた。物凄く不愉快な顔をしていた。

 

 

 

「あ、兄貴! テメェ! バラバラに―――」

 

「バラバラに……しましょうか?」

 

 

 

もう一人の男が蒼にかかろうとしが蒼の目付きで男は怖じ気づいた。

 

 

 

「イテテ……イテテッ!」

 

「蒼さん! 私と白金さんは大丈夫です! 他のお店の方にも―――」

 

「…………」

 

 

 

蒼は状況を把握して、掴んでいた手を離した。

 

 

 

「兄貴! 大丈夫ですか!」

 

「おまえ! 今度遇ったら―――」

 

「表に出ますか? ―――バラバラに……」

 

 

 

「「失礼しました!!」」

 

 

 

男二人は逃げ出し、蒼は黙っていた。

 

 

 

「二人は大丈夫?」

 

「は、はい大丈夫です」

 

「私も大丈夫です……ありがとうございます」

 

 

 

二人も大丈夫だと確認した。

 

 

 

「二人とも大丈夫!? ごめんなさい、怖い思いをさせて……」

 

 

 

店長も遅れて来た。蒼は店長に話し掛けた。

 

 

 

「店長、先程の話を受けます」

 

「え!? ほんと! じゃあ準備するわね!」

 

 

 

店長は走って裏へ行った。

 

 

 

「あんな店長でも人を引き寄せる人望があるんだよな」

 

「蒼さん、店長が言っていた話とは?」

 

 

 

紗夜は気になって蒼に聞いた。

 

 

 

「あ~……それは―――「蒼く~ん準備できたよ~」―――すぐに戻るから待ってて」

 

 

 

蒼も裏へと向かった。

 

 

 

「あの、氷川さん私のせいでごめんなさい」

 

 

 

燐子はさっきのことに謝っていた。紗夜は気にせず燐子に言う。

 

 

 

「私は気にしてませんよ白金さん。私も人の事は言えません」

 

「そうですか……蒼さんが来たとき、氷川さん凄く安心してましたよ」

 

「え……私、そんな顔してました?」

 

「はい」

 

 

 

蒼が男の手首を掴んでいるとき、燐子は紗夜の顔を見ていた。その時の紗夜の顔は安心していた。

 

 

 

「………」

 

「でも蒼さんどうして店長と行ったのでしょうか?」

 

 

 

燐子は蒼はどうして店長と裏に行ったのかが気になった。店長がどうして喜んでいるのかが不思議であった。

 

 

 

「確かにどうして……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼!? どうしたのその格好!」

 

「凄いです! カッコいいですよ蒼さん!!」

 

 

 

リサとあこが何かに驚く声が響いた。その方向からも客が盛り上がっていた。

 

 

 

「何かあったのでしょうか?」

 

「行ってみますか」

 

 

 

二人も声の方へと向かった。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

「なかなか似合ってるじゃない蒼」

 

「そうか……着る前から思ったが動きにくいな」

 

 

 

蒼は執事服を着ていた。その姿を見た友希那は蒼を褒めていた。

 

 

 

「蒼までバイトするなんて思わなかったわ」

 

「バイトと言うか、なんと言うか……」

 

 

 

「雇われ執事よ!」

 

「「…………」」

 

 

 

店長の言葉に皆が納得した。

 

 

 

「とりあえずだ……僕もバイトもするなら、よろしくお願いいたします」

 

 

 

結局蒼もバイトをすることになり、その後も無事にバイトをした……

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしましたお客様……本日のデザートでございます」

 

「…………」

 

 

 

時々お客は蒼の姿に見とれていた。

 

 

 

「? どうかなさいましたか?」

 

「あの……モデルさんですか?」

 

「モデル? ……自分はただのバイトですよ」

 

「そ、そうなのですか……あの、頂きます」

 

「はい、ゆっくり召し上がってください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄い……凄いわ~頂点のメイド達と雇われ執事のお陰で今日の売り上げはとんでもないわ~」

 

 

 

店長は大喜び……

 

 

 

……

 

 

 

「……………………」

 

 

 

そんな光景を見てる紗夜は不機嫌になっていた。

 

 

 

「さ、紗夜? 大丈夫?」

 

「今井さん……」

 

 

 

不機嫌な顔を見られたせいかリサの顔は困っていた。

 

 

 

「蒼の事は今になって始まった事じゃ無いから……ね?」

 

「別に私は――――――バイトに集中します」

 

 

 

そう言って、笑顔で接客をする紗夜。

 

 

 

「(でもなんだろう……蒼が来てからか紗夜の固い表情が無くなってきたような……アタシもバイトに集中しよう!)」

 

 

 

 

 

……そんなこんなで、バイトは終了する。

 

 

 

「ん~コンビニのバイトよりも疲れるね~さすがメイド喫茶!」

 

「友希那さん! バイトはどうでした?」

 

「別に……普通よ」

 

 

 

バイトが終わり、帰り道を歩いている六人。

 

 

 

「店長さん、だいぶ喜んでいたね」

 

「えぇ、そうですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆ありがとね~今日は本当に感謝するわ!」

 

 

 

売り上げがかなり上がったのか喜んでいた。バイト料も夜定額よりもかなりオーバーしていた。

 

 

 

「これで合宿に行けるわ。明日から練習に戻るわよ」

 

「ラジャーです!」

 

「OK……それじゃあアタシ達はこっちだから、また明日ね~」

 

 

 

「はい、また明日」

 

「皆も明日に備えてゆっくり休んでね」

 

 

 

四人はここで別れ、紗夜と蒼は二人並んで歩く。

 

 

 

「蒼さんはバイトをしたことがあるのですか?」

 

「バイトをするのは初めてじゃないな……執事服のバイトは初めてだったけとね」

 

「そうですか……以前にも何か?」

 

 

 

蒼のバイト姿は手際がよく、紗夜は気になっていた。

 

 

 

「そうだな……ファースフードのバイトと一日スタントマンと喫茶店のバイトもあったな……今はどれもやっていないけどね」

 

「色々やっていたのですね」

 

「ファーストフード店でも接客じゃなくて、裏方だけどね。喫茶店はお店の子のお父さんが不調で臨時でね」

 

 

 

何だか懐かしいと、蒼は言う。

 

 

 

「それよりも紗夜……皆が持っていたその袋は―――」

 

「え……こ、これは……その…」

 

 

 

お店から出ていくとき、店長から紙袋を渡された。中身は勿論皆が着ていたメイド服……記念にと貰っていた。

 

 

 

「記念にいいんじゃない? 写真もそうだけど、いい思い出だ」

 

「はい……そうですね」

 

 

 

メイド服もそうだが皆で撮った記念写真は大切な一枚…………数日後、Roseliaメンバー夏休みが始まり、合宿へと向かった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

『これがその写真か……初めて見たな』

 

「――――――」

 

 

 

『ん? 俺が来たのは夏休みが終わった後だから知らないんだよ』

 

「――――――」

 

 

 

『話を聞いても二人はそんなに語らないんだよ……お陰で写真探しも俺一人では見つからなかったわけだ』

 

「――――――」

 

 

 

『嬉しい顔だって? それはそうだろう……と言うか写真見てもそうだが、二人は今とそんなにかわらないだろ?』

 

「――――――」

 

 

 

『そういうことだ……俺もそろそろ帰るわ。いい写真だったしな』

 

「――――――」

 

 

 

 

 

『おう、父さんと母さんに宜しくな』

 

「――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さてと…………怒られる前に逃げねぇと………それにしても相棒もそうだが、いい笑顔じゃねぇか……嬢ちゃん』

 

 

 

 

 

 

 

―――急いで逃げたした……後で怒られて、お仕置きを受けたのは言うまでもない。

 

 

 

 





映画の予告観ましたか? 予告を観て、この話の最後に繋げました。早く観たいのですが、延期が怖いです……ほんとに……



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