異世界転生したから踏み台を目指してみた結果 (⚫︎物干竿⚫︎)
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異世界転生したから踏み台を目指してみた結果

さて、一つ話をしようか。

色々な物語が存在し、それぞれにさまざまなキャラクター達がいる。

 

物語の中心となる存在である主人公やヒロイン。それにいわゆるエキストラ、物語の引き立て役であるいわゆる脇役達だ。その脇役の中でも主人公を引き立てるためだけに用意される存在。悪い呼び方をするなら踏み台、それが彼ら彼女らだ。

 

そして、コレはそんな踏み台にされてしまった者の話だ。

そう。つまり私だ!

 

クリスティナ・ミラ・ソラール。

栄えあるセシルフォス王国、四大貴族の家のひとつであるソラール家の長女で、誰にも言えないが異世界からこの世界にTS転生した典型的ななろう転生者である。

 

ソラール家の特徴である温かな金の長髪に誰もが認める美貌。それに加えて溢れんばかりの才能の数々、転生前の私よ。流石に欲張りすぎだろう。と何度自分に対してツッコミを入れたことか。

 

さて、なぜ私が自分が踏み台であると自覚したのかと言うと、

生まれた家が有力貴族で、ファンタジーネット小説にありがちな魔力が無い=例のアレだったり、弟が居たが、魔力が使えず不当な扱いを受けた末に家から放逐されて存在を無かった事にされているからだ。

 

しかし、実は放逐された弟には自身を殺しかねないほどの魔力があってそれが覚醒して、復讐だったり成り上がりだったりを始めるなろう異世界ファンタジー小説読んでるなら誰だって分かる黄金テンプレパターンだ。

 

私?別に弟は嫌いではない。むしろ、口を開けば傲慢な事ばかり言う両親より余程、愛しているとすら言える。

 

ならば、その愛する弟のために私ができる事は何か?

魔力に目覚めた弟を暖かく迎え入れること?違う。放逐されていた事を知らなかったとは言え、彼が居なくなる事を見過ごしておいて何を今更。憎まれていて当たり前だ。

 

弟を見捨てたクズである私が彼にしてあげられること、それは彼の踏み台として彼の物語の引き立て役になることだ。これ幸い、踏み台になる要素はコレでもかと揃っている。

 

 

●●●●●●●●●

 

 

私が自分が踏み台であると理解してから3年ほどが過ぎた。神童だとか色々と周りから持て囃されて、私が舞台から引き摺り下ろされて、弟が代わりに舞台に立つのに丁度いいくらいに仕上がって来た。

 

そして、満を持して彼は現れた。

溢れんばかりの魔力とそれに照らされる彼のなんと美しいことか。ただ輝きを与えられただけのメッキの私なんかとは違う。彼こそが主人公だ。

 

………それはそうと、やたらと弟にべったりな女はなんだ。彼から離れろ。

 

 

「やっとだ。やっと貴女の前に立つことが出来た」

 

「これはこれは初対面の殿方から熱い猛アタックを受けてしまいましたね」

 

ほら、私の家に彼は居ないことになってるから。本当あの両親縄で吊るして、私も首を縄で吊ってしまいたくなる。

 

弟が一瞬だけ悲しそうな顔をする。あっ死にそう。

 

「僕は………俺は必ず貴女を手に入れる。誰にも渡さない。貴女の全てを手に入れてみせる」

 

「ふふ、あなたに出来るとでも?」

 

「出来る出来ないじゃない。絶対にするんだ」

 

あっあっ、ヤバいなんかコレヤバい。なんか弟にべったりな女に睨まれてるような気がするけど、どうでもいい。そんなことよりも彼に求められた事が嬉しい。

 

彼が私を踏み台にして高く舞い上がる姿を思うとそれだけで体が熱くなる。

 

「いいでしょう。ですが、私を墜とすことは容易くはありませんよ?」

 

陥落済みだって?それが何か問題でも?

そう、私と言う存在は全て彼のために。

 

 

●●●●●●●●●

 

 

彼が魔法を放つ。ひとつひとつが、熟練の魔法士が放つ奥義にも匹敵するようなそれを、

 

「そんな小細工が私に通用するとでも?そう思っているなら、期待はずれですよ?」

 

160センチ弱の私の身の丈ほどかそれを上回る長大な剣を振るい、その全てを斬りふせる。

 

「これは参った。やっぱり姉上は強いや。これでも俺が使える最強の魔法を放ったんだけど、な!」

 

不意打ちで放たれた光の魔法の槍も斬りふせる。無駄にハイスペックなこの体だけれど、彼なら乗り越えられる筈だ。だって私の弟で彼は主人公なんだから。

 

 

「あまり使いたくないんだけど仕方ない。セイン」

 

弟がそう言うと、彼の手の中に一本の美しい蒼銀色の長剣が現れた。そして、その剣からはあの女と同じ魔力を感じる不快だ。これは私と彼の大一番だと言うのに不快な間女だ。

 

「精霊剣ですか。なるほど、あなたほどの方なら従えていてもおかしくはありませんね。しかし、いささか女性との逢瀬に他の女性を連れ出すのは感心しませんね」

 

「本当は俺だけでやりたかったんだけどね。けど、それだけじゃ貴女に届かない。なら使えるものを使って更に手を伸ばそう」

 

「良い目です。ならば私も呼びましょうか………来なさいアルベル」

 

手にしていた長剣を地面に突き立てて、それの代わりに手元に剣を呼び出す。あまねく全てを暖かく照らし出す光であると同時に前に立ちふさがる全てを焼き尽くす炎でもあるそれは、この国に伝わる秘伝の宝剣たる精霊剣。

 

ああ、いよいよ私が全てを出す時が来た。

だけど、彼はきっと私を倒すだろう。倒してみせるだろう。その時こそ彼は………!私は………!

 

 

「と言う事が昔あったんですよ」

 

「へー。パパとママって姉弟だったんだー。じゃあ、私もお兄ちゃんが好きでもおかしくないんだね!」

 

「娘よ!そこはもっと外に目を向けような!俺達がちょっと変なだけだから!」

 

「マスター………」

 

 

なんか思ってた踏み台と違うけど、まあいいや。

 



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