TS転生したのでミステリアスキャラを気取って弟子を育てていたら大惨事になっていた件 (チーたらパイセン)
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人は死んだらTS転生するんだ!

人は死んだらどうなるのか?それは死んだ人間にしかわからぬことであり、今を生きる人間には到達できない答えの一つである。

 

逆に言えば、死んでしまったものにはその答えが分かるということだ。そして私が得た答えを教えよう!

 

——————人は死んだらTS転生するのだ!!!!

 

意味が分からないって!?安心してくれ、私もだ。そもそも何でこんなことが言えるのかというと私が前世の記憶を持っているからだ。

 

前世では平凡な高校生だった私は、気が付けば異世界に転生していた。記憶が戻ったのは、転生して10年がたったころ。始めは絶望した。それ以上に驚愕した。性別が変わるというのはそれなりの衝撃だったのだ。はっきり言って転生したことよりも、TSしたことの方が衝撃的できつかった。加えて、私が記憶を取り戻した時住んでいた孤児院は突如として現れた魔女によって焼き払われ、挙句の果てに『一定の条件を満たさなければ、年を取ることも死ぬこともできない』という意味の分からない呪いを押し付けられるという怒涛の展開。心の整理がつくまでに随分と時間を要した。

 

しかしだ。心の整理がつき受け入れてしまえば、あら不思議

 

———美少女の体は悪くなかった。端正な顔立ち、ほんのりと上気した頬、透き通るような白い肌に膝のあたりまで真っ直ぐ伸びた純度の高い銀髪。宝石のごとく美しい輝きを放ちつつも、吸い込まれてしまいそうな狂気と魔性をはらんだ緋色の瞳。

身長こそ157cmと低めだが、身長に似合わずそこそこスタイルはよく、個人的には大満足だ。前世の自分なら迷わず、惚れて告白して玉砕したのちに自殺したであろう容姿だ。

 

厄介だったのは、呪いの方だ。この呪い、一定の条件を満たせば解けるのかと思いきや。条件を満たすと一年、年を取るだけで、条件を達成したら他の条件が追加されるというクソ仕様だったのだ。

加えて、何が条件になっているのか見当がつかないのだ。よくぞ、6回も条件を達成したものだと思う…。

 

最初の条件は魔法を習得することだった。二番目は魔法を自分の限界まで極めること。三番目の条件は、私を呪った魔女の研究資料を基にさらに魔法を極めることだった。

 

最初の三つは比較的簡単な部類だった。時間こそかかったものの、無限の時間がある私にはあまり関係がなかった。もともと魔法を極めることは決定事項だった。子供が生きていくには力が必要だったからだ。だから、何故だか、誰も訪れない森の中に引きこもり鍛錬を続けた。故に意図せずに条件を三つ達成した私は外見年齢は13歳になっていた。

 

が、地獄はここからだった。研究をさらに進めようとも、条件を達成することはなくなっていた。試行錯誤を繰り返し、様々なことを試した。ペット(よく分からないけどたぶん魔獣)を飼ってみたり、魔女の館をリフォームして、いい感じの城にしてみたり、料理してみたり、街に出て男を少し誘惑して遊んだり…………挙句の果てに首を切ってみたりもした。まあ、意図して切ったわけではなく不慮の事故なわけだが‥……結果的に残念ながら死ぬこともできなかった(痛かったので痛覚遮断の魔法を開発した)。

 

数十年がさらに経過した時、私は森に迷い込んできた少年を拾い弟子にした。ある種の現実逃避でもあり、暇つぶしでもあった。後は、独りでいるのがつらくなってきたからだ。

 

素直で物覚えのいい少年だったが、時折ゾッとするほど冷たい目をして空をにらんでいる闇が深そうな少年だった。少年を弟子にしてから、5年が過ぎ少年が私の元を離れた時、驚くことにピロン!っと頭の中に音が鳴り私は一年時を刻んだ。

 

そう、条件を達成したのだ。そこで私はある可能性にたどり着いた。第一、第二、第三の条件同様、次の条件も同系統の条件なのではないか?当てがなかった私は、その仮説を信じ街に赴いて目についた少女と青年を弟子にした。

 

数年後、見事に条件を達成しさらに一年時を刻むことに成功した。味を占めた私は、弟子が卒業していくたびにめぼしい子供を弟子にした。

 

六回目の条件を達成した私の外見年齢は16歳となった。

 

この時点で私はあることに気づいた。

 

「魔女が私に呪いを押し付けたように、私も誰かに押し付けられるのでは?」

 

何故気づかなかったのだろう?考えてみれば、可能であるかどうかも分からない呪いを解く方法を考えるよりも、可能であると分かっている押し付ける方法を模索したほうがいいに決まっているだろう。

 

私は魔女の研究資料を漁った。が、残念ながら方法に書かれていなかったが、それにつながりそうな研究を見つけた。それさえあれば問題ない。時間は無限にある。ゆっくりとのんびりやればいい。

 

この時点で、私の行動方針はライフワークとなった弟子の育成と呪いを他人に押し付ける研究へとシフトしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が先生に拾われたのは2年前。当時、帝国軍に村を焼かれ家族や村民が惨殺されていくのを中偶々生き残ってしまった俺は、なけなしの金で王都に出稼ぎに出ていた。だが、たかが13歳の子供ができる仕事は残っておらず結局、スリや殺しをして暮らしていた。

 

ある日目を覚ますと縄で手足を縛られて、馬車に閉じ込められていた。瞬時に、王都の裏で有名な人身売買の組織に捕まったのだと理解した。身寄りのない子供は狙われやすく、スラムの子供たちも何人もさらわれていたという話を聞いていたのですぐに確信を得た。

 

「出せ!出せよ!こっから出してくれ!!!」

 

ぶわっと焦りと共に汗が噴き出た。

 

こんなところで、終わるわけにはいかないんだ!!!何時か、力を手に入れて村を襲ったあいつらに報復をッ!!!

 

焦りと絶望と後悔が支配する中、その人は現れた。

 

地面をたたく雨の音や人さらいどもの怒号、素構った子供たちの悲鳴。それらをかき消すほどの轟音と共に馬車は吹き飛び、人さらいどもは胴体が泣き別れした状態で地面に叩きつけられていた。

 

自分以外の子供たちは気絶しており、意識があるのは自分だけだった…………

 

恐る恐る、馬車の外を覗き見るとそこには圧倒的な美が立っていた。降りしきる雨に髪を濡らしながらも、その美しさは微塵も揺らがない。あたりは血と死体で埋まっているのにもかかわらず、それが気にならないほど俺はその人に魅せられていた。

 

その人が—————パチンッっと指を鳴らした瞬間、俺とその人を避けるように雨が反れていく。

 

「そこの少年、理不尽にあらがうすべが欲しくはないか?」

 

鈴のような可憐な声、それでいて芯のある覇気のこもった声が響いた。

 

俺は気付かぬうちに馬車から出て、頷いた。

 

これが、先生と俺の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ま、まさかね

空が青い…。

 

何故俺が大の字で仰向けになって倒れているのかといえば、先生との訓練でボコボコにされたからだ。数週間前、突如として「ハルトは魔導士としての才能がない」っと衝撃発言をされた。

 

落ち込む俺に先生は「だけど」と続けた。

 

「魔法の才能がすべてではない。実力とは生き抜くすべての要素のことだ。足りないなら他のもので埋め合わせればいい」

 

そう言って先生は俺に木刀を渡してきた。

 

「今日からは強化魔法を主軸にした近接戦闘の訓練を始める。魔法はあくまで補助だと思え」

 

「………」

 

「何か言いたげだな」

 

「先生って剣とか振れるのか?」

 

「………なるほど、確かに想像しづらいか。では実演しよう」

 

「んッ!????」

 

たちまち閃光が走り、強烈な衝撃と痛みと共に火花が散り、視界が白色に染まる。

 

気が付けば、痛みに悶え俺は地面に倒れ伏していた。涙目で、先生を見ると相も変わらず無表情で俺のことを見下ろしている。

 

「最低でもこのくらいはできるように教育していく。安心しろ、私の見立てでは君は剣の才がある」

 

その日から、地獄の日々が始まった。朝起きてから、まず素振りを行い先生に教わった型を確認する。朝食を食べ終わった後、先生と打ち合いボコボコにされるまで戦い、ゲロを吐きながら気絶。姉弟子であるツバキの魔法の鍛錬を先生が視ている間に休憩し、先生が戻ってきたらまた戦う。

 

さらにボコボコにされた後に先生から改善点を教えられ、再度素振りをする。少しして先生が休憩し終えたら、また先生にボコボコにされ、ゲロを吐く。休憩したのち、最後に、ツバキと模擬戦をして終了。先生の回復魔法で傷を癒され、ようやく解放される。

 

これが半年ぐらい続いたころには、ゲロを吐くことはなくなっていた。

鍛錬を終えて、ヘロヘロのまま部屋に戻るとツバキに「あっれ~、ゲロト君はもうへばっちゃったのかな~」っと馬鹿にされる日々とはおさらばだ。

 

ツバキとの模擬戦でも強化魔法のみの近接戦闘においては、互角以上に戦えるようになっていた。

 

「どうした?腹黒お嬢様、ぐうの音も出ないか?」

 

「くぅぅぅぅ!うるさいです!!!」

 

そして、木刀を握ってから7か月…俺は初めてツバキに模擬戦で勝利を収めた。物覚えの悪かった俺はここまで先生の期待に添えた結果を残していなかった。魔法の才がないと言われたときは、かなり絶望もした。けど、先生は俺を決して見捨てなかった。自分を信じろとやりたいことがあるんだろう?っと励ましてくれた。だからここまでやってこれた。

 

「上出来だ、よくやったなハルト。頭でも撫でてやろうか?」

 

「いらねーよ!」

 

その時初めて俺は、自分の何かが報われる喜びを知った。俺は先生についてきてよかった!このまま強くなれば、俺はあいつらを殺せる!!!

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、ついに王都の方でも『強者喰らい(ジャイアントイーター)』の被害者が現れたらしいですよ。先生はしってました~?」

 

木製の机に置かれた、紅茶のポットにお湯を注ぎ茶葉が開くのを待っているとツバキが話を振ってきた。ツバキはまっすぐとした黒い長髪を流す美しい少女だ。この世界にも日本に似た文化がある地方があるらしく、極東のある島の由緒正しい家の出らしい。いわゆるいいとこのお嬢様だ。その名残か、素の時でさえも品の良さがうかがえる。

 

容姿も端麗で、前髪は額の位置で切り揃えられ腰まで伸びる長い黒髪も絹のように滑らかで、好んで着物を着ている彼女はまさに大和撫子を体現したかのように見える。ただ性格は中々に腹黒く、私かハルト以外には基本猫を被っており、お嬢様モードになっている。

 

「いや~、何者なんでしょうね?武勇や知略、才能にあふれたものばかりを狙う『強者喰らい』。最近だと、Sランクの冒険者が惨殺されていたらしいですよ?最高ランクの冒険者を殺められる実力……いや~、私も狙われないか心配です~」

 

「俺に負けるような奴には『強者喰らい』も興味ないだろ」

 

ツバキの言葉にハルトがメスを入れた。

 

「あは~、一回まぐれで勝ったぐらいで調子に乗らないでもらえます?」

 

「ハッ、負け惜しみが聞こえるぜ!」

 

「まあ、魔導士に剣で勝ったぐらいで喜ぶ童貞にはわかりませんか」

 

「童貞関係ないだろ!!!」

 

争いがヒートアップしていくのと反比例するように茶葉が開いていく。そろそろ頃合いだろうか?

 

「ハルト、ツバキ。暴れるなら、外でやりたまえ」

 

そういうと、渋々といった表情でお互い引きさがる。

 

「…結局『強者喰らい』の正体って何者なんでしょうね?先生教えてくれたりしません?」

 

ここ二年間、誰も捕まることはおろかはっきり目撃すらできていない謎の人物である『強者喰らい』は、被害者がこと切れる前に残した一言から、男ということだけは分かっている。しかし、それ以外は何も分かっておらず、目的もどんな人物なのかも不明だ。ただ一つ確定しているのは奴が狙うのは、栄華を極めた権力者や武芸や知略などの才能あふれる者達だけを狙うということだ。

 

「何か勘違いしているようだが、別に私は何でも知っているわけではないぞ」

 

「…まあ、そういうことにしておきましょう」

 

ジト目でこちらを見てくるツバキの視線を受け流しながら、そういえば六番目の弟子が天才に対して病的なまでのコンプレックスを持っていたなっと思いだした。

 

『先生……俺は誓ったんです…凡人であっても天才を下せると証明すると。それだけが俺の生きる意味なんですよ』

 

弟子の中でも数少ない私が直接的に力を与えた少年の顔がちらつく。

 

ハハッ、まさかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひ…卑怯者め…グフッ………」

 

夜が最も深くなる時間。王都のはずれの路地で一人の男の命の灯が尽きようとしていた。

 

「多くの人間を巻き込み……俺を…罠に、嵌めてま…で……」

 

息苦しそうに顔をしかめる男を見下ろしながら、少年は嗤う。

 

「人を使い、場所を使い、情報を操り、罠を張り巡らせる。どれも勝つために必要なことだ」

 

「……クソ、本来の俺の実力なら…。このような汚い手を使うとは…恥を知れ」

 

「はは、自分の実力不足を棚に上げるなよ…いいか?この世界で生き残るための手段()をすべて含め、実力というんだ。お前が言っているのは力の一側面に過ぎない。まあ、魔女(先生)の受け売りだがな」

 

少年は剣を振り上げる。

 

「まあ、何が言いたいかというとだ」

 

少年は剣を振り下ろした。男の頸動脈は斬られ、吹き出した血液は空を舞い、男の全身と真っ白の石畳の床を真っ赤に染め上げた。

 

「——————天才は死ねってことだ」



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休日

たくさんの評価お気に入りありがとうございます。


相変わらず、王都はどこもかしこも人であふれ賑わっており、活気づいている。元々煌びやかで活気のある都市ではあったが、他国の都に比べるとやや元気がない街だった。

 

王都がここまで活気づいた街になったのは、一時期行方不明になっていた第一王子が王都に戻り、政治に介入するようになってからだ。

 

第一王子が戻ってからの王国の景気は一気に回復し、王都のみならず周辺の街や集落の景気も回復傾向にあった。

 

俺が何故、そこらの屋台で買い食いをし王都の観光をしているか?それは昨日の夜に時計の針を戻さなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「買い出し(ですか)?」」

 

急用ができた

 

「それで私たちに行って来いと…。別に私は構いませんよ。服とかも買いたいですし」

 

「そんなのツバキ一人でいいだろ。俺が行く必要あるのかよ?」

 

「お前たち二人の休暇でもある。暇だというのなら、武器屋にでも行ってみたらどうだ?質のいい剣がおいてあるはずだ。それに王都にはここでは味わえない刺激がある。3日はいないから楽しんできたまえ」

 

 

っというわけで王都を満喫している。汽車と馬車を乗り継ぎ、王都まで半日かかった。そのため、かなり日が傾いてきている。

 

「武器屋は明日だな」

 

ツバキがお嬢様モード全開で値切った宿屋を目指して歩く。かなり高級な宿だったが、半額以下に値切ったため、2泊できる。ツバキは外から見れば容姿だけは整っているため、人気がある。その本性を知らなければ、どこぞの貴族の令嬢にしか見えないだろう。まあ、仮面を外せばただの腹黒ドS女だが。

 

宿の部屋に戻ると、床に一枚の紙が置かれていた。ドアの下から入れたであろうそれには『黄金の帽子亭で待ってます』っと書かれていた。

 

「あいつ豪遊する気満々だな」

 

ため息をつきながらも、黄金の帽子亭に向かう。外観を見る限り、大衆の酒場っといった感じで宿のような高級感は認められない。

 

店に入ると、張り付けたお嬢様の仮面で酒を頼んでいるツバキが目に入った。ちなみにこの国では親権者の許可があれば何歳からでも酒はOKだ。

 

「よう、なんかいい買い物できたか?」

 

「ん~、そうですね~。まあ、先生からもらった予算の半分以上が消えたとだけ」

 

「は!?」

 

「だ、大丈夫ですって、買い出しの分は抜いてますから」

 

「そういう問題じゃないだろ!?」

 

冗談だろ?先生から渡されたのは13万エリー。交通費代と宿泊代で3万エリー。買い出しの分を抜いて7万エリー。その半分は3.5万エリーだ。どんなだけ、無駄遣いしたんだ……。

 

「どんだけ残ってるんだ?」

 

「い、1万エリー………です」

 

「は、はぁ!?」

 

残り1万。行きの交通費代は二人分で1万4000。もはや赤字だ。しかも、恐ろしいことに食事代を考えれば、1万エリーなんて軽く吹き飛ぶ。

 

「い、いろいろ買うものがあるんですよ。服とかアクセサリーとか化粧品とか」

 

「マジかよ…そんなのどれも同じだろ………」

 

「ハァ~、これだからハルトさんは…。そんなこと言ってるから童貞なんですよ」

 

「童貞関係ねえだろ!お前だって処女だろ!?」

 

「と・に・か・く。食事代は私が持ちますし、帰りの汽車代も私が何とかするのでこの話は終わりです!」

 

「………お前なぁ」

 

「良いじゃないですか、ハルトさんは先生に武器代の3万エリー別にもらってるんですから」

 

焼き魚を口に放り込み、不満そうに俺に文句をつけてくる。なおもこの不毛な言い争いが続くかと思われたが、酒場中に響く声で叫ばれた言葉によってそれは防がれた。

 

「本当なんだ!あの現場から走るように逃げて行った人影……あれは間違いなく副団長のものじゃなかった!あの人は嵌められたんだ!」

 

何事かというように周りの視線が、顔を赤くして叫び散らす男に注がれる。

 

酒に酔っているのもあるが、かなり興奮しているらしい。彼の正面に座っている男が、顔をしかめて男を諫めた。

 

「まあ、落ち着けよ。でも他の目撃者は副団長を見たって言ってるんだ。お前の見間違いじゃないのか?」

 

「すいません、あの殿方たちは何のお話をされているのでしょう?」

 

気が付けばツバキは、テーブルから離れカウンターに座り作業をしていた店主に話を聞きに行っていた。

 

「嬢ちゃん、どこの貴族のご令嬢かは知らないがこの事件を知らないってことは、少なくとも王都の貴族じゃないんだろ?だったら、悪いことは言わねえ、関わらないほうがいい」

 

顎ひげを蓄え、鋭い眼光でツバキに忠告をする店主は正直…荒くれものにしか見えない。

 

(わたくし)は確かに今日王都に来たばかりですが、しばらくは滞在するつもりです。ですから、王都の内情……少なくとも一般の方が知っている話は知っておきたいのです」

 

胸の前に手を組み上目づかいでお願いするツバキに負けたのか、渋々といった感じで店主が説明しだした。

 

「……数日前に王都で殺人があったんだ」

 

「殺人ですか」

 

「…嬢ちゃん、王都についてはどれくらい知っている?」

 

「人並程度には」

 

「…王都は大きく分けると5つの地区に分かれてる。宿や飯屋が乱立するここ東区、貴族の屋敷や高級料亭などが並ぶ西区。住宅街になっている北区。ちょっと治安が悪い南区。そして、王城と侯爵以上の屋敷がある中心区。…例の殺人は西区で起きた」

 

「ああ、なるほどそういうことですか」

 

要するに、何らかの形で貴族が介入している事件というわけか

 

「しかも例の西区の殺人、殺されたのはエリオット・バーボンドらしいぜ!しかも、大して争った跡もなく鮮やかな手並みだったらしいぞ!」

 

ツバキの色気につられたのか、酔っ払いの客が話に横入りしてきた。

 

が、店主の眼力に負け仲間の元へ戻っていった…何しに来たんだ?

 

「えーと、騎士団の方ですよね?」

 

さらっと、男のことなどいなかったかのように話をつけようとするツバキ。やっぱり、腹黒だ。

 

「ああ、『最優の槍兵』と呼ばれた男だ。侯爵家の次男なんだが、貴族のコネだけじゃなく実力も兼ね備えていて、一時期は次期副団長とまで呼ばれていた」

 

「え?でも、今の騎士団の副団長って女性の方ですよね?」

 

「ああ、アイラ・シュゲール。元はただの町娘だったはずなんだが、どうやら騎士団で成り上がれるほどの才能の持ち主だったらしくてな。今では副団長まで上り詰めた」

 

アイラ・シュゲールの名は有名だ。歴代初の女性の副団長として数年前その名が広まり、一躍時の人となった。

 

「なるほど、彼とは確執があったんですね」

 

「ああ、その上現場から走り去るアイラ・シュゲールを見たって人間がかなり多くてな。シュゲールは拘束され、取り調べを受けてるって話だ……」

 

「すまねえ、マスター。騒がしくしちまって、少し多めに払おうか?」

 

「いや構わねえよ、ここは酒場だ。多少の騒ぎは日常茶飯事だ」

 

先ほどの彼の相方が店主のもとに会計をするため、席を離れたのを見計らってつぶれている男の方に近づき話を聞きに行く。

 

「なあ、ちょっといいか?」

 

「ああん?」

 

だいぶ酔っているらしい。焦点が合ってない。

 

「さっき言ってた嵌められたってどういうことなんだ?」

 

「だから何度も言っただろ!!!あまりにも騎士団と貴族のやつらの動きが不自然なんだよ!統一感のない目撃証言と動機だけじゃあッ!身柄の拘束、もしくは監視までしかできないはずなんだ!なのに、アイラ副団長は独房に入れられたうえ、拷問まがいの尋問を受けてる!!!」

 

確かに不自然だ。解析系の魔道具や被害者の身辺調査を詳しく行わないうちに、そこまでやるのは不自然だ。

 

「アイラ副団長は元平民だから、騎士団で成り上がり切れなかった貴族どもにはかなり逆恨みされてるんだ………あの貴族どもが何かしたに決まってる」

 

「………なるほどな。いろいろありがとうな」

 

そう言って、席を離れ男の相方と入れ違いで会計を済ませる。

 

「帰るぞ、ツバキ」

 

「……では、失礼します」

 

店主にお礼を言って、二人で店を出る。

 

「お前、まさかとは思うがこの事件に首を突っ込んで一儲けするつもりか?」

 

「そ、そんなわけないじゃないですか~」

 

「おい」

 

眼を思いっきり泳がせ、顔を背けるツバキは墓穴を掘るように自分に追い打ちをかける。

 

「………何を根拠にそんなことを」

 

「必要以上に話に食いついてたからな。もし、アイラ・シュゲールが冤罪ならばそれを証明して、何かしらの形で金をとるつもりだったろ?」

 

「うぅぅ……女の子の本音を暴くなんてなってないですよ」

 

微妙に涙を浮かべ、上目遣いでにらみつけてくるツバキ。だが、俺はもう知っている。これが演技だということを!

 

「うるせえ、どうせそんなこったろうと思ったよ」

 

「ハァ~、別にいいじゃないですか。手伝ってくれって言ってるわけじゃないんですし」

 

開き直りやがった。

 

「ハルトさんも気になりません?事の真相が」

 

まあ、確かに気になる。あの男が言っていた説だと一つだけわからないことがあるのだ。

 

「騎士団の副団長候補になるような実力の持ち主を殺せる人物は限られてきますよね?」

 

「………そうだな」

 

そう、まさにそれだ。騎士団は国の支配下にある軍隊だ。貴族の私兵とは違う。生半可な実力じゃあ上には立てない。

 

「まあ、少し調べてみてもいいなとは思うけど」

 

「では決まりですね!私たちの帰りの帰りのお金を稼ぐために、頑張りましょう!」

 

「…俺は先生からもらった武器代を節約すれば帰れるんだけど」

 

「あは~、何を言ってるのかわからないです~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィルスタリア王国とアンセリス王国そして、大陸でもっとも力のあるディストピア帝国。3国を隔てるように中心に位置する大森林とグレート山脈。

 

私は疑似・瞬間転移(ワープ・ゲート)で大森林の中にそびえたつグレート山脈の山ユルトファラウの麓に来ていた。

 

私に呪いをかけた魔女は己の研究資料を大陸中のあらゆる場所に隠した。弟子を作るまでの190年程は様々な場所に行き、研究資料を探していたがここ数十年間は探索を中断していた。正直、あらかたの研究資料は集め終わっていたし、自分に必要ないと思っていた研究資料は探しにすらいかなかった。

 

だがここにきて、呪いについての研究それも解呪ではなく、どちらかといえば呪いをかける側の知識が必要になってきた。それも、一般的な知識ではなくもっと深い知識だ。それに加えて呪いについての研究資料は意図的に破られていたページがあり、その行方不明のページを探す必要も出てきた。

 

そのために、ここに来たわけだが………。

 

——————なんか結界が張ってある。百年前にはなかったはずの結界だ。最近何者かによって張られたものだろう。

 

「フン!」

 

結界に手を当て、構造を解析し真反対の魔力を無理やり流し込み結界を壊す。

 

パリィィィィィンっとけたたましい音と共に結界が割れる。

 

「フム、それにしても出来のいい結界だったな」

 

「結界を叩き割った後に言われたのでは嫌味にしか聞こえませんがね」

 

不意に声が響き後ろを振り返ると、黒い翼を生やし中折れ帽をかぶった白髪の男が立っていた。

 

「お前、悪魔だな?誰の眷属だ?」

 

「ヒヒヒッ、この私を悪魔だと瞬時に断言できるのは貴方ぐらいでしょう。魔女よ」

 

「質問に答えろ」

 

「ヒヒッ、美しい顔をそう歪めるものではありませんよ。あなたの笑顔が好きだと、我が主も申しておりました」

 

こいつの主は私を知っているのか?

 

「『風神瀑布(エアロストーム)』」

 

手のひらに風を収束させ球体を作り、悪魔のいるほうに放り投げる。

 

瞬間、球体は弾け岩や砂塵が風に流され激しい大爆発が引き起こされる。風の爆発の衝撃で大地が削れ、地震の如く地が揺れる。

 

粉塵に視界が覆われる中、追い打ちをかけるように百を超える炎の球体が悪魔がいるであろう位置に殺到する。風に熱が乗り、爆音が大森林に響く。やがて煙が晴れていき、周辺の変わり果て地形が視界に入る。

 

あちこちに小規模なクレータができ、地面からは煙が噴き出ている。加えて、私が立っている場所を除いて辺り一帯は半径30mほどのクレーターとかしている。

 

「いやはや、驚かされますよ………魔女殿。流石はあの方の———」

 

上空からの声に上を見上げると、所々に火傷を負いつつも五体満足でホバリングしている。

 

「………その翼ごと焼き尽くすべきだったな」

 

「ヒヒヒ、大人げないってもんですよ?魔女殿」

 

「質問に答える気にはなったか?」

 

「ヒヒッ、主の正体についてはお教えできませんが、一つだけいいことを教えて差し上げましょう」

 

「…………」

 

「根が純粋であればあるほど悪魔に憑かれやすいもの。根が純粋かつ思想が闇に傾いているのであればなおさらです。傷を癒し、歩むための(実力)を与えその心に寄り添うことはしても、道を示してこなかった、導いてこなかったあなたの弟子はどうなってしまうのでしょうね?」

 

「………何が言いたい?」

 

「王都に向かったほうがよろしいかと、彼が戻ってこれる最後のチャンスかもしれないですから」

 

「………………」

 

「私の名はバルモン!ではまたお会いしましょう!魔女殿!!!ヒヒヒッヒーヒツヒー」

 

そう言い残し、バルモンははるか上空に去っていった。

 

 




物語の構成上、主人公が出せない……。


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