俺のドラゴンなボールが無い転生 (DB好き)
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俺のドラゴンボールが無い無いしてる

 死んで二次元の世界に転生する――、そんな事が起きるのは小説の世界だけだと思っていたけれど本当にあるとはたまげた。

しかもドラゴンボールの世界だとはねぇ……。テンプレ通りこれまたサイヤ人と来たもんだ。神様と会っていないけれど。

 

何でドラゴンボールの世界かわかったかというと尻に違和感あるなと思って見たら、藻がくっついていててきたねぇなと思ってたら自在に動かせて感覚があるし、謎の液体越しから見えるおっさんが尻尾着けて変なコスプレって言うかフリーザ軍のプロテクターしてるし。

 

その時頭大丈夫か? とか思ったのは内緒だ……。横に居た美人なお姉さんも尻尾が付いていた。感情によってフリフリしている姿は可愛くてエロかった。ごちそうさまです。

 

どこかで見たことあるなぁと働かない頭でボーッと見ていたら、おっさんが何か変な機械を俺にかざして

 

「おお、戦闘力1500か! やはりエリートの娘だな!」

 

って言った瞬間に「え? これもしかしてドラゴンボールの世界?」って何となく分かってしまった。それにしても既にラディッツと互角とかたまげたなぁ。ん? ってか今なんて言った? 娘? ……まっ、まさか俺は股間を見る。

 

そこにはヘソの下から尻まで装着している排泄物を処理するため機械があった。

 

おい、これじゃあ確かめる事できないじゃあないか。俺の勘違いかもしれないしこのカプセルから出るまで我慢するしかない。

この年齢じゃあエロイ事考えても勃起するの無理だろうし……、んー今の状態って疑似EDって事になんのかな? 勃たせようとしても勃つ事は出来ないんだからそうなのかな? あ、なんか眠くなってきた……。

 

俺は下らない事を考えながら眠りにつくのだった。

 

 

 

 

それから何年か経って保育カプセルから出て、真っ先に確認したのは己の股間の如何様だ。そこにはなんと俺の大事な一星球と二星球が無かった。

 

ち、ちくしょーーーー!! あれほど恋人に可愛がって貰っていた俺のドラゴンボールが無いなんて! 俺はショックの余り両手に向かって思わず呟いてしまった。

 

「すまない。突然恋人と永遠の別れになってしまうなんて」

 

涙目で見る本妻と愛人はどことなく哀しみのオーラを放っていた。うんうん、お前等も哀しいよな……。ふと見上げると、出してくれた女の人がなんだこいつ? みたいな顔してたから笑顔で返しておいた。

 

低い身長から見るそのインナーってエロイなしかし。誘ってんのか、おい!?

 

まぁ、それはそれとして今原作としての時間軸はどんなもんだと何日か掛けて調べたらベジータと同い年だった。

 

それにしてもベジータって本当にクソ生意気なクソガキやな。何やねんあの超上から目線の話し方は! その内人を見下しすぎてのけぞりながら話すんちゃうか? ボコられるから口に出さへんけれどな! 

 

 

あれ? ベジータと同い年って事はサイヤ人編の時の俺の年齢は30~35位か? 俺いい歳こいて惑星爆破して厨二病夜露死苦で「オーホッホッホ綺麗な花火ですね」何て言いたくねぇぞ! ん? あっ、これフリーザ言ってるわ。

 

知らず知らずにずっと年上のフリーザをディスってもうたな、まぁええわ。ともかくもっと遅く生まれたかったわ! ……いや、それだと惑星爆破されるからあかんのか。 

 

……せや! 困った時の神龍おるやんけ! 永遠に若いままの全盛期の姿でいたいって願ったろ! ついでに戦闘力の伸びも全盛期でっておまけで言ったろ! 俺はそう思い、機嫌良く鼻歌をしながら自室に帰ろうとすると色黒のツンツン頭が俺の前に立ちふさがった。

 

「おい、男女。どこ行く気だ? 俺達は惑星リャーシーに行けって命令されただろうが」

「男女止めろや。俺にはビナスって名前があんだよターレス……ってか本気で忘れてたわ。それじゃあ付いてこいターレス」

「……忘れてた癖に付いて来いってお前おかしいだろ」

 

 眉をしかめて反論するターレスに俺はさらに挑発してやろうかなと思ってしまう。今生合わして30超えるのにこんな落ち着かないなんてやっぱりサイヤ人の肉体に精神が引っ張られてるのかな? かなり喧嘩っ早くなってるし、一日に数時間以上は体動かしてないと落ち着かないし。

 

「気にすんなよタレ僧」

「タレ僧って言うんじゃねえよ! リャーシー星人の前にぶっ殺されてぇのか!?」

「いいねぇ、リャーシー星を征服したらまた手合わせやろうじゃん」

「へっ、上等だぜ男女。今度こそ俺が勝って今までの事を土下座させて謝らせてやる!」

 

売り文句に買い文句で俺達はヅカヅカと歩きながらポッドに乗り込む。あぁ、これもサイヤ人の性かぁ。生前喧嘩や格闘技なんてやった事なく、尚且つ精神年齢30超えなのにこの態度よ。

 

子供相手に何言ってるんだよ、とちょっと自己嫌悪になりながらポッドの背もたれに体を預けて今生の親の事を思った。

 

「それにしてもサイヤ人の親ってマジでどうなってんだよ。親権放棄ってレベルじゃねーぞ」

 

映画のブロリーの中ではギネやバーダック、パラガスは子供を想っていたが他の親は違っていた。一般的なサイヤ人の親は放っておいて強くなってれば良し、死んでたらそこまでの奴だったんだろうっていう超ドライな感じだった。

 

 まぁ、俺も人の子ですから両親が恋しいので会いに行ったら「成長したなビナス」って言ってくれて嬉しかった。

 

ここまではいいんだ、ここまでは……その後は「戦闘力いくつだ? 近いなら俺かコイツと戦おうぜ」だもん。違う、そうじゃないって思ったわ。

 

その後は段々と疎遠になっていって、今じゃあバッタリ会ったら挨拶する程度ですわ。サイヤ人の本能を抑えられず一回戦った事あったけれど……。手加減しろよな、マジで。

 

両手足折られた上でボコボコにされて死の恐怖で泣いて命乞いしたの前世合わせて初めてだわ。

 

でもその時の事思い出してもうちょっと戦えれたんじゃないかなと後悔している自分がいる。そう考えると大分サイヤ人してるな。それに侵略した後にターレスと戦えると考えると笑みが深くなる。

 

俺はコールドスリープにスイッチを入れてその時を楽しみにしながら眠るのだった。

 

 



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争いは同じレベルの者同士でしか起こらない

「ハッハァーッ! いいぞお前等、もっと来やがれッ!」

 

俺はカマキリに似た星人、リャーシー星人達を相手に無双していた。何たって俺の戦闘力は現時点である5歳で3000になっているのだからそんじょそこらの星人なんてザコ同然だ。

ターレスの方を見てみるとアイツも無双をしていた。ターレスの戦闘力は1800前後だった筈なのでコイツらの戦闘力は考えると130位で、今相手にしている1番強い奴で300位だ。

 

俺は赤ん坊の頃から気のコントロールして身につけた気を読む方法と、スカウターの併用で正確な数字を割り出す練習を今の内にしているのである程度数値化できる。

 

勿論S細胞を増やすために体を動かしていない時間は瞑想や、生前ギターを弾いていたからリラックスするために音楽を聴いたり演奏したりしている。

 

「これで……終わりだーっ!!」

 

俺は戦闘力1000位に調節した気弾を放って相手を葬る。そしてターレスの方を見るとガレキの上に座ってリャーシー星人の腕を食いながら見物していた。

 

「……マジかよ、お前。よくそんなキモイの食えるな」

「ククク、敗者をどうするかは勝者が決めるもんだ。勝者である俺が何しようが俺の勝手だろ? それに意外とイケるぜこれ」

 

そう言うと俺に目線でお前もどうだ? って見てくる。え? 本当にイケるのこれ? マジで? 匂い的に止めとけって体が拒否ってるけれど大丈夫なの?

 

よしっ、何事も経験だっ。俺はターレスから受け取ると思い切って食べてみることにした。

 

臭いは生臭い魚で、口に含んで噛むと青臭さが口に広がり、肺から勝手に息を吐き出すように動いたと勘違いするような体の反応を感じ、俺は地面に盛大にゲロをぶちまける事になった。

 

「う゛ぉぉおおおぅええぇえええっ! ぅおおおえええっ! ……はぁ、はぁ、はぁ、おうううえ!」

 

ゲロが止まらん! マジでまずくて洒落にならんやんけ! こっ、呼吸をするより体が吐くことを優先してるやん! 俺は涙目でターレスを見ると大笑いしてやがるこいつ!

 

「うはははははっ! そんなにこれがマズイかよ!? やっぱエリート様は育ちが良さそうで羨ましいねぇ」

 

てめぇ煽るようにおちゃらけて言うんじゃねぇよ! こっちはお前殴るより吐く事優先してんだ! 背中をさするとか出来ねぇのかよお前は! ターレスはさらに煽るように「これじゃビナスじゃなくてゲロスだな」と語尾に(笑)が付きそうな口調で言ってくる。

 

き、貴様ぁ、後で覚えてろよぉ……。

 

 

1分位その場でゲロと口の中の唾液を吐き続けてようやく体が落ち着く事が出来た。く、くそったれぇ……、ちょっと酸欠で目の前がぼやけて頭がクラクラするやんけ。どれもこれもニヤついてるこの色黒ボウズがあかんのや。

 

…制裁。制裁を食らわせなければならない。俺は拳を固めて獣のように笑いながら余所見をしているターレスに近づく。

 

「おい、ター「なぁ、ビナス。ここを征服したしそろそろ手合わせと行こうぜ」……ほよ?」

「ほよ? じゃねぇよ。ほら約束しただろ? 行く前にリャーシー星の奴等をぶっ殺したら手合わせしようぜって」

 

そう言うとターレスは意地が悪い笑みを浮かべながら俺の目を見据えた。ん? え? えーっと、うん。確かに言った。言ったけれど制裁が先だ。俺をこんな目に合わせたこの性悪小僧を一発殴らないと気が済まない。

 

「その前に一発殴らせんかいターレス。誰のせいでゲロをこないに吐き散らかしたと思ってんねんこの野郎」

「俺は悪くねぇーだろ。食べる食べないはお前の判断だったろ? クククッ、前にお前に教えてもらった言葉にいーい言葉があったな。 常在戦場……だったっけ? そんな間抜けを晒すお前が悪ぃんだよ、ラッキーだぜ。スカウターが無くても俺にはわかる。今のお前の戦闘力は俺と同じ位に落ちているぜ?」

 

クッソ、こいつ超調子に乗ってる顔をしやがって。落ち着け、俺は大人、俺は大人。俺は30超える大人なの。こんな使ったトイレットペーパーより安い挑発は笑って流せるさ。

 

それにしても何でコイツ気を読めるようになってんねん……、俺が転生した事によるバタフライ現象か? 

 

 

 

 

――――あっ、思い出した。ずっと前に時間調整のために征服した星でダベってる時に言った事あるし、目の前でスカウター使わせて見せた事あるわ。こないな使い方するんやったら教えん方が良かったわ! この恩知らず!

 

……取りあえず今は体調が優れないから回復してからボッコボッコにしてやる。ブロリー顔負けの悪魔顔でボコボコにする。必ずだっ!!

 

 

俺は深呼吸をして怒りを落ち着かせる。

 

 

 

「あ~、悪いんやけれど「半年前に侵略した時、不意打ちを食らった俺に偉そうな口調でご大層な言葉を教えてくれた当のお前が、まさか体調が優れないので後にして下さい。な~んて言わないよなぁ?」

 

 

 デュヘヘヘヘッ、すんまへんがターレスはん、体調が優れないので後にして下さい。ついでに俺が一発殴って吹っ飛ばして気弾撃ってからそれがスタートでって事にしまへんか?

 

おっ前なぁ人が喋っている時はちゃんと最後まで聞きなさいって親に習わんかったんかい!? あ、そうだコイツクローンみたいな奴だったから親居ないわ。

 

 ち、ちくしょーーーー!! たっ、体調が万全になりさえすればっ、こ、こんな奴ごときに~~~っ!

 

俺が煮え切らない態度を続けてしびれを切らしたのかターレスが地面に唾を吐き「ちっ、ビビってんのかよ」と怒っている口調で言った。

 

俺は大人。俺は超大人なの。だがっ! だが時には子供相手に非っっ常に遺憾ながら暴力を振ってでも大人は怒らなければならない時があるのだっ! 今がその時である。

 

まさしく愛の鞭、コイツは体が痛く、俺は心が痛む。まさしく等価交換だ! 教育に良くないしな!

 

「上~~~~~等だよこのクソガキャあっ!! シバキ回したらぁ!!」

「へっ、そう来なくちゃ面白くねぇっ!!」

 

俺達はそう言うとお互い咆哮を上げながら殴り合った。



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困った時はこういうオチにすればいい

「クッヒョ、ほのふそハーレス」

「……あに言ってんのは、わはんへぇよ」

 

 横にいるボコボコにしたったクッッソタレのクソターレスのおかげで口が痛くてまともに喋る事も出来へんし、右目も痛くて途中までしか開かへん。

 

しかし、俺は勝った! 俺が上でお前が下っ! 俺が立っててお前が倒れている。んー実にシンプルで良い気分だ。俺はガクガクに震える膝を休ませるためにガレキに腰掛ける。

 

クソッ、座り心地悪すぎて尻痛ぇ。そしてついでに手近にあった割れたガラスを拾って自分自身の顔を見る。

 

……おい、大分腫れとるやんけ。マジでシャレにならん。後遺症が残らないよなこれ? 俺はそのひどい惨状に青ざめ、冷や汗がドッと出る。

 

「……ポッドに入らは、んなの治っかろ」

 

そっか、そうだった。昔両親にメタクソにボコボコにされた時、前後不覚になりながら、これもう二度と治らないんやなぁーと思いながらポッドの中でふてくされてたら見事に完治したからな。しかも何カ所か開放骨折していたのに凄すぎるわ。

 

でも、あまり時間が経つと傷跡が残るって説明があったな。……おい、ここ片道1ヶ月やんけ。アカンやん。

いや、コールドスリープで細胞が眠った状態でなんとかかんとかでポッドに入ればまた傷痕も無く完治するかもしれん。いざとなったら神龍で治してもらおう。うん、そうしよう。

 

 それにしてもターレスは何でポッドで治るなんて言い出したんだ? もしかして気を使ったのか? ……絶対あり得ん。

そもそも気を使う位なら顔なんか殴んなやボケって話やし、まぁええわ。

 

俺は座り心地が悪いガレキから地ベタへと腰を下ろすと、右耳からノイズが聞こえ始めて俺は顔をしかめる。

液晶部分は跡形も無いけれど、奇跡的に通信が無事だったスカウターからだったので、俺は通信を合わせる。

 

下らん用事やったらターレスに代わって貰おうと思って応答する。

 

「ほいほい、なーんれすか?」

「フリーザ様からサイヤ人全員に伝令だ。急いで惑星ベジータに帰還せよとの事だ」

「わはりました。ふぐ行きまふ」

 

珍しい、フリーザが直接命令を下すなんて何考えてるんやろ? 理由はギニュー特戦隊とかが出張ってる状況でいい惑星を見つけたけれど、現地民全員が結構強くて戦闘が得意な部隊じゃないと侵略出来ませんって感じやろ。

 

……まぁ、どうでもええわ。今はとにかく傷と体を治したいからさっさとポッドに乗って帰ろ。俺はターレスに事情を言いい、そして俺のポッドをリモコンで操作して呼び出してから動けないターレスをポッドにゴミのように放り込む。

 

「どうら? おへは優しひだほ?」

「……ぐぅ、てめぇ覚えへろ」

 

 幸運な男だ。この俺の優しさを1番に味わえれるとはな……、しかも感動しているのか震えていやがる。ターレスはまだ自分でポッドを操作する程回復してなさそうやけれど、あんまり甘やかして癖になったらアカンから放っといてええやろ。

 

そう考え自分のポッドに乗り込み、帰還スイッチを押す。

 

閉まっていくドアを見ながらどうやれば早くスーパーサイヤ人になれるか考える。やっぱサイヤ人の特性での瀕死から復活すれば戦闘力が上がるというドM戦法しかないんかな?

前世ドMやったけれど、それは殴られる対象が可愛い女の子だから成立する事であって、男に殴られるとか誰が嬉しいねんって話やわ。それに今はドS気質やから出来れば遠慮したいんよなー。

 

 原作のフリーザ戦までにはスーパーサイヤ人には成れるようにならんとな。ほんでフリーザと戦って、ギャグ漫画みたいな爆破オチみたいに爆殺しーよう。

 

ん? 爆破? …………あっ! サイヤ人全員集合させた後フリーザにまとめて爆殺されるのすっかり忘れてた。フリーザの前に俺が爆破オチするやんけ!!

 

俺は閉まりかけのドアに思わず手を入れてしまい、あっと思った時には既に遅かった。

 

 

「げっ、ちょっ、いだだだだだっ!?」

 

 

 ポッドは俺の指を挟んでも、ん~聞こえんなぁ? と言わんばかりに俺の指を締め続けていやがる。俺は反射的に立ち上がって指を引き抜こうとするが、生憎ここは狭いポッドの中であり頭をぶつけてしまった。

 

「ごっ!? いったっ! いってっ! ふおおッ!? ひだだだっ!」

 

くっそ、頭をぶつけた反動で尻餅ついたせいで指を引っ張ってしもうてメッチャ痛い! しかも頭を打ったところターレスに頭突きされた所やんけ。ちょ、これ安全設計どうなってんねん!? 普通何か異物を挟んだら開けるよう普通設定するやろ! ん? なんか浮遊感が――っておいコラ! 浮いて惑星から出て行く準備しとるやん!

 

俺は停止ボタンを押してポッドを止める。あっぶなー、このまま飛んで行ってたらマジで死んでたやん。

着陸し、ドアが開くと俺は戦闘力を抑えた状態でポッドに八つ当たりする。

 

何やねんこれホンマ! 欠陥設定のせいでTikTokに出てきそうな動きしてもうたわ! これは技術部にクレーム入れたら。匿名でそろそろ帰る準備しようかなっていう時間帯狙って電話したるからな! 新卒で5年間社会の波に揉まれたからそこら辺分かってるからな、覚悟しとけよぉ。

 

俺が陰湿なクレーマーになろうと決意すると、パンパンと手を叩く音が後ろから聞こえ、振り向くとそこには体を震わせているターレスが居た。

 

 

「……ククククク。ブアッハッハッハ! も、もう限界ら! 笑ひを堪えるこほが出来へぇ!」

 

 

 ――――そうだよな。うん、そりゃあこいつから見て真っ正面だから俺の体を張ったコント見られちゃうわな。そう言えば悟空が幼い頃は手を付けられない程の悪童だったけれど、頭を強く打ったせいで生まれ変わったようにいい奴になったんだったな。

よし、ターレスよ。突然だがいい子いい子したるわ、ついでにちょっとだけ記憶が無くなって人格が変わるかもしれんけれどこいつなら許してくれるやろ。確か悟空もそのおかげで強なったし感謝してる言うてたし。

 

 俺が無言で笑いながら近づいていくと、ターレスは不敵な笑みで両手を挙げる。

 

「ぷっ、くくっ。降参ら、降参。誰にも言ひゃあしへぇよ。ほれより何でポッホから降りはんら?」

「……まぁ、まふは傷をいやひてから言うわ。ほのははじゃあ喋りにふふてはなわんわ」

 

俺はまたポッドに戻り瞑想し、傷の箇所を意識するように気を集めていく。こうすると傷が治るスピードが段違いだからだ。

フリーザが死んだらダーウィン賞に載るような事になった時、悟空の気を貰って気弾を撃つ位まで回復したからな。

 

事情を話したらついでにスーパーサイヤ人の成り方教えておくか。そう思い俺は回復に専念するのだった。

 

 



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違う、本当にそうじゃない

 ターレスにも傷が早く治るやり方教えてあるからある程度治った時間を見計らって事情を話す。勿論スカウターは念のため破壊した後でだ。

 

フリーザが何でサイヤ人を全滅させようとしてる事、フリーザが変身型の宇宙人で最終形態の戦闘力が1億2千万な事。そしてそんな奴を倒すためにはスーパーサイヤ人にならないと倒せない事。最後にスーパーサイヤ人の成り方を教えた。

 

ターレスは俺を睨むように黙って最後まで聞いていた。途中このくそガキ何ガン飛ばしとねん! って思ってビンタして注意しようとしたけれど、俺は心の広い大人やから我慢したったわ。感謝せえよ。

 

 

「……聞きてぇ事がある。何でお前がそんな事知ってるんだよ?」

 

 

 そりゃそう言うよな、こいつの疑問も最もだ。さてと、どないしよっかな? こいつに話したのはええけれど、何で知ってるのか理由考えるのすっかり忘れてたわ。

 

「えーっと、ま、まぁ細かい事は気にすんなや。とにかく惑星ベジータが爆破される時間までゆっくりしようやないか、なっ!?」

「細かい事じゃねえだろ。だが、考えると何か嫌な感じがする事は確かだ。今は何も言わずに信用してやる」

 

「おっ、そうかそうか。そいつは結構な「それにお前がいつも嘘をつく時にする間抜けなニヤけ顔をしないって事が1番信用できるぶぁっ!?」

「おーっとっとっと、手が滑ってしまったやないか、今気づいたけれど不思議な事にこの星って何も無い所でも滑るんやな。それにしても間抜け顔やと? 殴んぞお前」

 

 

 

「くぅっ、もう殴ってんじゃねえか。お前本当にこらえ性が無いな。今回は色々教えてくれた事に免じて引いてやる……。それでフリーザが惑星を爆破するまでただ馬鹿みたいにボーッとするだけか?」

 

 

……一々癇にさわるヤローだー!!! 1発いったろかコイツ! だが! 今は引いてやる。 

 

 

「おうせやな、取りあえず気のコントロールの練習でもしとこか。俺達以外はフリーザを含めて今の所は気を読む事が出来ん。気を自在に抑えたり上げたり出来れば奴等に対して大きなアドバンテージになる」

「いいぜ、やってやる。だがよ、お前1番肝心な事忘れてねぇか?」

「あん? 肝心な事?」

 

ターレスは訝しげに疑問を口にする。ん? 何だ? 忘れてる事なんてあったか? ブロリーの事……じゃないな、もしかしてクウラの事か? でもコイツにそこまで教えてないしな。原作知識や映画、アニメの知識を持っている俺がコイツに指摘されている忘れてる事……、何や?

 

俺が首を傾げているとターレスは呆れたようにムカつく溜息をつきながら口を開く。

 

「お前なぁ……俺達がこのままノコノコ帰って行って、サイヤ人を惑星ごとふっ飛ばした当のご本人であるフリーザ様は寛大にも見逃してくれるのですか? って事だよ」

「――――――――――あっ、それも……そうやったな」

 

 ターレスのごく自然な当たり前な指摘に俺は全身の血の気引いた。ターレスはダメだこりゃと言わんばかりに天を仰ぐ。

 

ヤバイ、殺される。いや、落ち着け。フリーザが警戒していたのは徒党を組んだサイヤ人だ。

 

 

……あれ? 徒党って何人からなん? フリーザが殺そっかと思う人数はどん位? 逃げようとしてもポッドには追跡装置が付いているからどこ行ったか分かるし、素人が外そうとしても無理って技術部の連中と食事に行った時に聞いたしマジでどうしよ?

コイツにもその事は前に話した事あるから逃げても無駄って思ってるんかな? あっ、そや! 前にビルスを遠くから見たことあったからこの世界はZだけの時空だけじゃなくて超の時空でもあるわ! 

 

 

「でっ、でもベジータとかナッパ、ラディッツとか見逃されてたし大丈夫やと思うわ! それにフリーザは破壊神ビルスの命令の後押しで惑星を吹っ飛ばしたから行けるって!」

 

ターレスはますます眉間に皺を寄せて俺を見る。な、何やねん、睨んどんのか!? お、お前なんか怖ないぞっ!!

 

 

「破壊神ビルス? 何者だ、そいつは? フリーザに命令するって事はそいつにとっちゃフリーザは雑魚同然って事かよ?」

 

うべべべべっ!? テンパって頭で考えるより口から先に言葉が出ちゃう! 前世ではこんなん無かったのに、何でーっ!?

 

「めっ、女々しい奴やなお前はっ! 今は何も聞かんのとちゃうんかっ!?」

 

俺の逃げ口上にターレスはやれやれとリアクションをとってから深いため息を吐いた。くっそナメやがって!

 

 

「……ふぅーっ、そうだったな。今までの話がお前のイカれた妄想や嘘だといいな、と心の中で思いながら寝るとするぜ、まだ満足に動ける程じゃねえし」

「なっ!? う、嘘やないもん! ホンマやもん! ってか口に出しとるやないかっ!」

 

わかった、わかった。と子供に言い聞かせるように言って、ターレスは俺に背を向けてポッドの中で寝る態勢に入った。

ちくしょお、子供扱いしやがってぇ……。同い年やけれど精神的な年齢は上やぞ、もっと敬わんかい。

 

仕方が無いから俺も今は疲れたからポッドに戻ろうとすると、悔しそうに、それでいて怒りを含んだ声で「フリーザめ、覚えてろ」と背後から聞こえた。

 

俺は聞こえないフリをしてポッドに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と思わせてからの~。

 

 

「なーんやねん! ターレスちゃーん、やっっっっぱり俺の事信用しとるやないかーっ!! お前ツンデレか、ツンデレか!? ツンデレキャラは女やとツインテールって決まっとるけれど、お前の髪型もちょっと見方を変えたらツインテールやもんな!

かぁーっしまったー。俺とした事がお前の性格を完全に把握しとらんかったわー! お前可愛い所あるやないか、そういう所何で隠すねんこのっこのっ!」

 

やっべ、結構嬉しいぞこれ。俺はテンションマックスでターレスのポッドの周りを飛び跳ねながらペシペシと叩く。

 

「だぁーっ!! もう、お前本っっっ当にうぜぇええええっ!」

「そないなつれない事言うなや、ターレスちゃん。俺とお前の中やんけ、今の俺はご機嫌マックスやで。お前もしかしなくても今日は寂しくて1人で寝れないんやろ? 今なら添い寝でもしたるで? 子守歌もサービスで付いてくるぞー」

 

もしかして俺に聞こえるように言ったんやろコイツ。わかってる、わかってるで。シリアストークしてお涙頂戴をコイツは期待しとったんやろ、まだまだガキやなー。

こういう時は笑わないとあかんから俺は敢えて道化を演じたるわ! 任せろ俺はそういうのに詳しいんだ。

 

 

「本気でいらねぇよ、マジで!! さっさと自分のポッドで寝やがれっ!!」

「うははっ、マジと書いて本気、本気と書いてマジ。マジマジってか?」

「……このっ!」

 

ターレスの不機嫌とは対照的に俺の機嫌は最高に良かった。その後ターレスが完全に無視を決め込む10分位は俺のマシンガントークが止まらなかった。

 

 



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たったの3400だぞ!! たったのなー!

 惑星ベジータが巨大隕石の衝突で無くなったとポッドからの通信で連絡を受け取った俺とターレスは、ポッドに乗ってフリーザが居そうな№79惑星フリーザに帰る事にした。

 

追跡装置あるし、逃げても無駄なら堂々と行こうぜ! っと話し合いで決まった結果だ。ターレスと話している最中はやったるわ! いざとなったら惑星爆破して自爆するか、連絡受け取る1ヵ月間で習得した太陽拳全力でやって宇宙船を略奪して逃げたるわ! っていうテンションだったけれど、ポッドのコールドスリープから目覚めて1人で考える時間になると、サイヤ人精神はすっかりなりを潜めてしまっていた。

 

 俺はそのおかげで現代日本人の精神となった。そのせいでポッドの中に居る間は頭痛が酷く気分が悪い上に、フリーザを何回か見た事があり、下手に気を読む術を会得したおかげで、フリーザに対峙するという事に実感がわいて体の震えが収まらなかった。

 

ポッドを操作して一か八か逃げようかと思い至った時には時既に遅く、惑星が月位に見える距離になってしまっていた。ここから帰還ルートから外れて遠くに行ってしまったら、どう言い訳しようにも逃げるためか反逆の意思ありだと断定されてしまう。

 

そうなればもし、フリーザが見逃してもいいという気分になっていた場合でも、やっぱり油断がならない殺してしまおうとなってしまうかもしれない。そうでなくても惑星ベジータが爆破してから1ヵ月という時間が経っているが、クウラがこの近辺にまだいる可能性がある。

 

戦闘力2だったから、フリーザの尻拭いをしたくなかったからとか色々な理由はあったかもしれないが、そもそも主人公の孫悟空だったから見逃されたのだ。

ポッドには今誰が乗っているかリアルタイムで認証されるシステムがあるので、もし俺がこのまま逃げてクウラに補足されてしまったらほぼ100%撃ち落されてしまう。

 

 

 

 詰んだかもしれない……。しかしここで殺されたとしても、ジャネンバの時にあの世とこの世が繋がる瞬間を狙い、ドラゴンボールで生き返る事にしよう。

 

 その時になったらデンデによってドラゴンボールがパワーアップして、死んでから1年間という制約は消えている筈だ。

大丈夫、Z戦士達は生き返った悪人達の処理で忙しくてドラゴンボール探しをしている俺とターレスにはノーマークになる。

 

 

 イケる、イケるぞ。俺達は殺されたとしても生き返れる! そしたら今度は俺やターレスが殺した星人達を生き返らせてもらおう。

そうだ! そして今生の両親も生んでくれた恩があるし生き返らせてもらおう。その時になったら多分俺の方が強くなっているだろう、そうなったら普通の家族のように一緒に楽しく暮らしていけるかもしれない。

 

俺は死んでも生き返るチャンスはあると前向きに考える事にし、不安な未来を考えないようにした。

 

 

着陸し、ポッドから降りるとターレスと目が合う。

 

 

「よおターレス、寂しなかったか?」

 

俺の軽口にターレスはチッと舌打ちして睨んでくる。ホンマコイツ目つき悪いな。もっとガキはガキらしく愛想良くせいや。

 

「そういうてめーはどうなんだよ? 故郷が無くなって1人で泣いてたんじゃねぇのか?」

「はぁー? アホちゃうか、なんでそないな下らない事で泣かなあかんねん」

 

……ほーっ、逆に挑発してくるとは中々ええ度胸やないか。そもそも惑星ベジータ自体に全然帰らんかったから吹っ飛ばされても何も思わんわ。

 

「お疲れ様です! ターレスさん、ビナスさん」

 

複数の星人が敬礼をして俺達を出迎える。悪い、真っ先にターレスの方に目が行ったからマジで居るの気付かんかったわ。

 

「ああ、お疲れさん」

「……お-、リブー、コクーダ、パローお疲れー。何時も通りまずは治療カプセルに入るから手配頼むわ」

「そう言うと思いまして既にご用意させて頂いております!」

 

 気ぃ利くやん自分達ー、俺は礼を言うと小走りをして向かう。挨拶は基本中の基本、そして名前を覚えるのは基本や。勿論治療室に行く時にすれ違う人にも挨拶をする。

 

名前を知らなくても挨拶をキッチリやれば印象は段違いに良くなるしな。前世の社会人経験はこの異星人でも通用していて嬉しいわ。

 

 別に仲良くせんでも良かったけれど……瀕死で帰って来た、もしくは何か事故があった場合は助けられる優先順位が低くなってまうからな。

実際それで俺も死にかけの体で帰って来た時は優先して助けられたからな。まぁ後回しにされたもう名前も覚えていない偉そうな異星人はあの世に行ってもうたけれど。

 

 

 俺は治療室に入ると技術者に操作を頼んで、さっさと裸になってカプセルの中に入ってマスクを付ける。それにしても脱衣所無いんかい、ロリコンおったら襲われるやんけ。

 

技術者がパネルを操作して緑色の液体が浸されて行き、俺は目を瞑って治療に専念をする。そして頭の中ではターレスと戦っていた時を思い出しながら、どうやればもっとうまく戦えていたかシミュレートする。

 

 そうこうしている間に俺はいつの間にか寝てしまい、目覚める頃には体は完治していた。周りを見るとターレスは既にカプセルから出ていて椅子に座ってこっちを見ていた。

 

俺はポッドから出ると用意されていた新しい戦闘服に着替えながら、ターレスに軽口言う。

 

 

「おい、何を凝視しとんねん。俺が可愛いからって欲情して俺の事襲うなよ?」

「はぁ? お前鏡って知ってるか? 使ったことが無さそうだから言うけどよ、自分の姿を見れる便利な道具なんだぜ?」

「何やと?」

 

 

ほれ、とターレスは机にあった手鏡は渡してくる。つい受け取り見ると、切れ長の目で瞳が大きく二重、濡れているが鎖骨まで黒髪がある幼女が居た。

 

可愛ええやんけ。ってかサイヤ人の女は皆顔面偏差値高いから俺も可愛いのは約束されとるやん。それをこいつは…………キレそう。今なら超サイヤ人になれるんちゃうか。

 

俺が怒りに震えていると不敵な笑いをしながらターレスが口を開く。ホンマこいつ悪そうな顔が似合うわ。

 

 

 

「おいビナス、それはそうとフリーザ様が生き残っているサイヤ人は外に出ろってさ。直々にお話があるそうだぜ?」

「ほ-、んじゃあ行こか」

 

 ついに来たか。全滅させるのか、それとも生かして利用するのかどっちだ? 全滅させるつもりならやってやろうやんけ、戦闘力53万がどれほどのもんか少し体験してからこの惑星に向けて全力の気弾を放ったるわ。

 

恐怖は感じるけれど割合が低いな、フリーザを目の前にしてへんからか? ワクワクしている気持ちの方が勝ってるな。

 

まぁ、気分はこれでええやろ。あんまりビビってるのが態度に出るとフリーザにうざいなコイツって思われるかもしれへんからな。

 

 俺とターレスは道中無言で歩いて行き集合場所に着いた。そこにはラディッツやベジータ、ナッパに……名前は知らんけれど後5人の大人のサイヤ人がいるな。

 

ベジータと目が合ったから軽く挨拶をすると鼻でフンと返事をしやがった。お前の口は鼻に付いとんかコラ! 熱々のタコ焼き入れんぞ!!

 

 

それにしてもこの人数は……フリーザが殺そっかな思うかもしれんな。

 

 

 

 

 

 俺がどういうタイミングで逃げるか惑星を爆破するか考えていると、大きい気が複数近づいてくるのを感じてターレスの方を見ると、緊張した顔をしながら冷や汗を流していた。

 

コイツのこういう顔見るのは初めてやな、俺も緊張はしとるけれど何か楽しくなってきとるわ。もしかして恐怖でおかしなっとるんかな?

まぁええわ、取りあえず目線を落してフリーザの姿が見える前に跪く準備をしておく。目がまともに合うと睨んでしまうかもしれんからな。

 

 

 

 

そして誰かがフリーザ様……と呟くと皆一斉に跪く。横にいるのは気の大きさ的にザーボンとドドリアだな、今の時点では2人にどうあがいても勝てそうにないな。

 

 

 

 

「皆さん、お集まりご苦労様です……。この度は貴方達サイヤ人の故郷である惑星ベジータが巨大隕石によって消滅してしまい真に残念に思います」

 

フリーザが心にも無い事を言い出し、俺は少し笑いそうになった。危なっ、笑ったら注目されて何で笑ったか理由聞かれるやん。

それにしてもこの気の大きさが53万か……、覚えておこう。いいねぇ、強くなってナメック星で戦う日が楽しみで仕方ないな。

 

 

 

 ? フリーザが黙ったままやな、俺は視線を落したままだから正確な事はわからへんけれど、コツコツと固い音がするから指で自分の乗っているポッドを叩いとるな。

そう言えば聞いた事があるな、指でトントンとする何か叩くのはストレスを感じとるって。

 

それに気に少し乱れを感じるな、どうしようか少し迷っとるな。来るか? 来てもそれはそれで楽しみやな。

 

 

「……ふむ、まぁいいでしょう。生き残った貴方達はベジータ王子をリーダーとし、引き続き私のために働いてもらおうと思っています。なあに、悪いようにはしませんよ」

『ははっ!! かしこまりました!』

 

 

皆で偽りの忠誠を誓う。それはフリーザも分かっているが最強の自分ならどうにでも出来ると思っとるな。スーパーサイヤ人やゴッドはただの下らない伝説と判断した結果の油断やな。 

 

フリーザが立ち去り、皆がバラけていく。ベジータを見ると、少し笑みを浮かべながらナッパとラディッツを連れてどこかへと行ってしまった。

 

 

 

いよしっ! 生き残ったで。これで戦闘力を隠したまま強くなってナメック星で決着付けたるわ。俺はそう思い、フリーザのせいで昂ぶった気持ちを抑えるためにターレスに手合わせの誘いをした。

 

 ターレスは冷や汗を拭いながら俺を見てギョッとしていた。何やねんな……。

 

「お前さ、本当に馬鹿なのか?」

「は!? 何でいきなり貶されなあかんねん。お前喧嘩売っとんのか? ええぞ、高値で買い取ったるわ!」

「ふぅーっ……、お前が羨ましいぜ」

 

 

 ……何やねんこいつ、変な奴やな。馬鹿って言って喧嘩売ったり、羨ましいって言ったり。やっぱツンデレか? 今ツンかデレかどっちかにするか決めとけよ、感情の整理に忙しいやんけ。

 

 

俺とターレスはまた無言のまま訓練場に行き、手合わせの前の戦闘力を計る事にした。

 

 

ん? 何でこいつ戦闘力2600なっとるねん。あ、俺にボコボコにされて復活したからやわ。さすがサイヤ人の特性やな、だったらあんま自覚無いけれど俺の戦闘力も上がっとるやろうな~。

 

具体的には5000位なっちゃってるかな? うへへへへへ。

 

「んじゃあターレス! 俺の戦闘力はいくつだ!?」

「………だ」

 

ボソボソ言うたら聞こえへんやんけ!

 

「何ー!? よく聞こえんぞー!!」

 

 

 

 

 

 

 



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おい治療室! 俺はまたお前の元にすぐ戻ってくるぜ!

俺とターレスはまたボッコボッコに殴り合い、現在は治療カプセルの中に居た。コイツ、戦闘力の伸びが俺よりあるわ。やっぱ傷の度合いが俺よりあるからやろうなー、それとも悟空顔補正か? そのせいで万全状態な俺も前より攻撃食らってカプセル行きやわ。

 

 

俺もドMシステムしないと強くならんのかな? ……あ、そう言えば悟空やベジータは重力訓練室のおかげでかなり強くなってたな、ターレスには内緒で技術部の連中に話して作ってもーらお。

 

ぐへへへ。ターレス、お前がニヤケ顔を出来るのはここまでだ!!

 

 

 治療カプセルからターレスより一足早く出ると、俺は治療中のターレスに変顔をし、ちょっと笑わしてから治療室から出て行く。

休憩時間を見計らって技術部がいる塔に行き、研究員達にこういうの作れる? と聞いてみた所「金を用意してくれたら空いてる時間で作ってあげるよ」だった。

 

「それじゃあおいくら万円なの?」

「え? 万円? どこの星の金の単位だよ……ちょっと待って、見積もり出してからじゃないと具体的な事は言えないからまた今度ね。それにしても面白い事言うよねビナスは」

 

研究者達はそう言うと俺が言っていた重力装置談義に入っていた。遠心力がどうとか、重力に耐える素材は何がいいかとか俺が居るのを忘れて話に夢中になっていた。俺は専門家に丸投げをする事に決めて静かに出て行く、こういうのは素人が口を出すと碌なもん作れなくなるからなー。

 

俺が塔から出るとターレスが壁に背をもたれ掛かって立っていた。5歳やのにキザな奴やな。いや、5歳やからキザなんかな?

 

「ヒュ~、ターレスちゃんかぁっこいい~」

 

 何か知らんけれどターレスを見ると、喧嘩を売りたくなるこの困った性根はどうにかならんのかな? 自分でも抑えきれんわ。最近はナッパにもちょっかい出したくなって来とるし……、ラディッツとベジータ見ても何もならんのに何でやろ?

 

 そんな困った俺の挑発にターレスは意にも介さない顔で口を開く。相手にされなかったらされなかったでイラついちゃうこの短気さ……、神龍に頼もっかな。

 

「……お前、技術者連中に何作って貰うつもりだったんだ?」

「え? えーっとぉー、ちょっとした挨拶だから何にも頼んで無いよ」

 

ムヒヒっ、今後の事を考えると笑けてもうて思わず顔がニヤケる。言ってもうたらコイツも重力室作ってもらうか、俺のん使おうとするやんけ。

 

そうなったらコイツも強くなるから負かした時のぐぬぬ顔見られへんやん。戦闘力が4倍位離れたら貸したるわターレスちゃん。その時は貸し10位にまけといたろ。

 

「じゃあな。俺は先に部屋に戻っとくわ、んふふふ」

「…………そうかい、じゃあな」

 

 ターレスは俺の事を胡散臭そうな顔と目で見る。だが、そんな目ももう少しすれば畏敬と憧憬の目に変わろうというものだ! クククク楽しみやでー、俺をそんな目で見ていられるのも今の内だぞ!! 

 

さってと取りあえず部屋に戻ってS細胞を増やすためにギターでも弾こうかね。俺はご機嫌MAXな足取りで部屋に向かう……のだが、途中でベジータグループと鉢合わせる事になり、俺は不機嫌になりながらも一応は挨拶をする。一応ね。

 

「これはどうも王子達、お元気で何よりですな」

 

ラディッツやナッパは普通によぉと挨拶をするが、王子は俺を心底見下した目で見てくる。あ~あっ、困るわーっ、王子がコミュ障とかホンマ困るわー。そんな話すの苦手なら腹話術師でも雇ったらどうでっか?

 

 アニメで見てる時はベジータ好きやったけれど、現実で対面すると嫌いやわコイツ。でもこういう嫌な気持ちも大人になってお互い丸くなったら消えるんやろうな。

 

 

まっ、今はええわ。それより原作のサイヤ人編までこいつ等と下手に付き合って強化してもうたら地球組が全滅する可能性あるからな、今は顔を見たら挨拶する程度の仲でええやろ。俺はそう思いベジータ達の横を通る。

 

 

「こんな奴が最後の女サイヤ人だとはな……、反吐が出るぜ」

 

 

 心底嫌気がするという声にピタッと俺の足が止まりベジータの方を見る。何やねんコイツ、口を開いたらと思ったらクソムカつく事言いやがって……、これはあれか? ベジータなりの挨拶のつもりか? それとも心で思ってる事と口から出る事が全然違うっていうのんか?  

 

「それはそれは、どうもすいませんな-。俺より良い奴をお捜しならポッドで太陽の中にでも行けばすぐにでも逢えるんとちゃいますか?」

 

俺は暗に死んだら? と言う。最悪ベジータが死んでもライバルポジションはターレスになるやろうな-、アイツは別に悟空と修行するのが嫌なんて言わんやろうし、普通に合体も必要とあれば抵抗無くするやろうな。ヒュージョンはやりたがらんかも知れんけれど……、ん? 合体したら見た目全然変わらんな。絶対ブウとかにもそこら辺ツッコまれるやろうな-。

 

「フン、雑魚の癖に生意気な奴だ」

「そんな雑魚でも必死で努力をすれば王子を超える事があるかもよ?」

 

 ベジータの生意気な口振りに反応して俺は原作悟空のセリフをパクる。ベジータは一瞬何を言われたのかわからなくてキョトンとし、俺が将来超えてみせると言っていると理解して徐々に笑いが大きくなった。

 

「クッハッハッハッハッ! 面白い冗談だ! サイヤ人の中にこんな面白い奴がいるとは思わなかったぜ!」

 

そりゃあ笑うわ、今のコイツの気の強さから見るとベジータ王を超えていると感覚で分かる。確かベジータ王の強さは12000だったっけ? お? サイヤ人編始まるまで20年以上あったのに数千位しか上がらなかったって事になるのか。

意識して気付いたけれど、悟空と会うまでどんだけコイツは雑魚専しとってん。いや、逆に雑魚専しとかないと悟空は殺されとったな……。

 

「冗談のつもりで言ったわけやないんやけれどな」

「ほぉー……、そこまで言うのなら越えられない壁というものをこの俺が直々に教えてやっても構わんぞ?」

 

 あくまで引かない俺にベジータは今から戦っても構わないと言ってきやがった。その言葉を聞いて俺は口角が上がるのが止められなかった。

俺の予測じゃあベジータは片手で俺を一捻り出来ると感じているというのにワクワクしてくる。

 

 

「お、おいおい2人とも落ち着けよ。折角生き残ったのに潰し合ってどうすんだよ」

 

俺とベジータの一触即発な空気を読んでかナッパがやんわりと仲裁をする。そう言えばナッパってラディッツが死んだ時生き返らせようとしてたな。ナッパってもしかして同族には結構甘いのかな?

横のラディッツを見てみると口パクで謝れ、謝れって少し焦った顔で言っていた。そのヘタれた顔ちょっと可愛えやんけ。

 

 

 

「口出しするんじゃないナッパ、何も殺そうってわけじゃないから安心しろ。俺はただコイツに現実ってもんがいかに厳しいか教えてやるだけだ」

「いいねぇ。王子が胸を貸してくれるなんてまたとない機会や……、一手ご教授願いましょうか?」

 

 

 俺が引かないのを2人は見ると呆れた顔をしていた。うーん、俺を心配してくれる2人には悪いけれど、格上との戦い方っていうのを今の内に体験しとかないとな……。

 

「付いてこい、ここからだったら第3トレーニングルームが近かった筈だ。ククク、怖かったら逃げても構わんぞ?」

「へぇー、王子様も冗談言わはるんですね。結構面白いですわ」

 

 

俺の強気な返事にベジータは不敵に笑い「後悔するなよ?」と言った。ホンマおもろいわこの王子様、後悔するわけないやんけこんなん。

格上で自分を殺さない奴との戦闘なんてヌルゲーの上にボーナスゲームやん、こんなん誰も逃げへんやろ。

 

ついさっきまで不機嫌やったけれどまた俺の気分はご機嫌MAXやわ、サンキューベジータ。俺はベジータとどう戦うか頭の中でシミュレートしながら付いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どう考えても勝てる気せぇへんな。太陽拳からの気円斬もどきやったらあかんかな? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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つまり、今ので完全に俺を怒らせてしまった訳だ!

 俺はベジータを見据えながら柔軟体操をする。そんな俺をベジータは腕を組んでニヤニヤと笑いながら立っている。この第3トレーニングルームは直径50m、頂点の高さが15mの半円形のドーム。ベジータとの距離は10m……俺達の戦闘力であればゼロ距離に等しい。

後ろを見るとナッパとラディッツも腕を組んで壁にもたれかかって立っていた。

 

腕を組むのはサイヤ人のデフォルト立ちか?

 

 

それにしてもベジータは余裕綽々の態度やな、ええぞーそうこなくちゃ楽しくないわ。確かトレーニングルームで模擬戦をする時は気弾は禁止やったな。上等、殴り合いとか望むところやで。

 

「おいお前、戦闘力はいくつだ?」

 

そっか、ベジータは今スカウターを着けてないから分からへんのか。俺もまだ大体しかわからへんけどな、それより気になんのがお前呼びやな……、自己紹介してないから当たり前やけれど俺の名前知らんっぽいな。

あれ? でも何でファーストコンタクトと同義なあの時にこんな奴って言ったんやろ? もしかして俺の名前は知らんけれど噂は知ってるってやつかな。

 

「3400っす、王子様ーお前呼ばわりじゃなくてビナスって呼んでくれませんかね?」

「ふん! お前の名などどうでもいい。それにしても戦闘力3400だと? ウォーミングアップ程度にしかならんな」

 

……これは名前知らんかった反応やな。まっええわ、今は戦闘に集中するかね……。俺は精神を戦闘に完全に切り替え、気を全身から放出させてベジータを見据える。

小細工は後々悟空達が戦う時に響いてしまうから使わない方がええな。ならば真っ向勝負!

 

俺は地を蹴り、ベジータに正面から向かう。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「シィッ!」

 

ファーストコンタクトはビナスの渾身の打ち下ろしの右に対し、ベジータは余裕を持って右手で受ける。部屋全体へと響く程の爆音と衝撃だが少しも動じない。

 

ビナスはビクともしないベジータに舌打ちをする。約4倍の絶望的な実力差の壁を感じながらも薄く笑みが零れる。

一矢報いるならば油断している今しかない、ビナスはそう思い次の行動に移る。真上に飛び、高速で回転し武空術で速さを増してからの全体重を乗せた踵落としをする。

 

ベジータを中心にして15mの皹が地に走るが全くのダメージを受けていない、ビナスは構わず気を体全体噴射し、フィギュアスケート選手のように横回転し、高速の裏拳を放つ。

 

だが、そんな音速を軽く凌駕する程の拳はベジータの動体視力からすればスローモーションと同義であり、わざと当たらなければ食らう事はほぼ無いのだ。

ベジータはビナスの裏拳を躱して手加減をした右ジャブをビナスの顔面に放つ。すると雷鳴のような音が鳴ってビナスは1秒に4度縦回転をする速度で吹っ飛んで行く。そして数度地面をバウンドしてから15m程転がってからやっと止まった。

 

ビナスはすぐに立ち上がろうとするが、脳震盪を起こしてしまってうまく立ち上がれない。地面に頭が当たる間際に後頭部を抱えるように防御をしても尚このダメージだ。

 

そんな様子を見てベジータは舌打ちをして「もう終わりか」と呟く。

 

いつもそうだ。自分がちょっと叩いただけで皆ダメになるか、勢いは消沈する。手加減をするから組手をやろうと言っても二の足を踏む奴等ばかり……、そんな不甲斐ない同属達に怒りを感じるも、自分はエリートの中エリートであり、天才なのだから仕方がないと思う事にした。

 

ベジータは未だ立つのを梃子摺っているビナスを見るとコイツも自分の二撃目を受ける度胸は無いだろうと思い、帰るために出口の方へ向かおうとする。

 

その時ビナスは脳震盪からある程度回復し、顔を上げると口の端から血を流しながら獣のような笑顔で声を上げる。

 

「もう1本頼むわ王子!」

「ほぉ。ククク、いいだろう」

 

それから何度も何度も向かって行くビナス、そして迎え撃つベジータ。ビナスの打たれ続けた体は赤から内出血を起こした紫と変化し、主に攻撃を防御していた左腕は折れ曲がり、攻撃していた右手の指も全指折れていた。

 

それでもビナスは笑いながら気絶した。ナッパと気の衝突を感知していつの間にか来ていたターレスがビナスを治療室へと連れて行く。

ラディッツは同族にも容赦しないその残虐性に青ざめて、暫く身動きが出来なかった。

 

 

運ばれていくビナスを見ながらベジータはこいつの性根はともかくサイヤ人としては認めてやってもいいと思った。ただ、断じて人として見直したのではない。

 

 

ここまで人として認めない理由は、ベジータがビナスと初めて会った日まで遡る。

 

 

その日は破壊神ビルスがベジータ王の頭を足蹴にしていたのをベジータが目撃した日である。それを見た瞬間ベジータは頭が真っ白になる程の怒りを感じてビルスに向かって行った。

父親が足蹴にされて息子として怒ったのではない。そんな事をされても尚抵抗しない父親の姿が同等の力を持つ自分に投影されて、自身が足蹴にされている気分だったから向かって行ったのだ。

 

 

だが、向かって行ったのはいいが一睨みだけでベジータは体の自由が利かなくなって動けなくなってしまった。余りの実力差にショックで自分と父親の怒りから誰にも会いたくなくて、人気のない道へと進んでいた所「お願い止めて!!」と女の声が響いた。

 

ベジータは声がする方向へと足を進める。正義感ではない。ただ女を襲う暴漢にこの鬱憤を晴らしたいがために向かった。

 

そして曲がり角を曲がり、見た光景はベジータに破壊神ビルスの事をしばらく忘れる程の衝撃を与える。そこには大人のサイヤ人の尻尾を掴み、力が抜けている姿をイッヒッヒッヒッヒと笑う幼女……ビナスが居た。

 

女が女を性的に襲う、しかも自分と同年代の子共が……。ベジータは混乱をして建物の影に隠れてしまい、完全に出るタイミングを失ってしまった。

 

 

 

「ぐひひ、そんなタイツ1枚のエッロイ格好で、こんなエッロイ尻がくっきりするパンツ履いてエッロく尻尾を俺の前でフリフリさせやがって……誘ってんだろ? あぁ?」

「そ、そんなわけないでしょ! っていうかあんた女だし子供じゃない、それに私は普通の格好よ!! 今なら許してあげるから離しなさい!」

 

「うぇっほぉーい! それが普通とな? どんだけエロイねんサイヤ人は! これは風紀の乱れを正さねばならない! ……って事でエロイ君をまずは取り締まりまぁす!!」

 

変な屁理屈を言いながら、掴んでいる尻尾を右へ左へと引っ張るビナス。そしてそれに合わせるように揺れる女サイヤ人の尻。

 

「ぶへへ、やっぱ誘っとるやんけ! 口では嫌々言いながらも体は正直やのー! 前フリのボケかな? 尻をフリフリしてるから前フリってか!? よし、ツッコミは任せろ!」

「何訳分かんない事言ってるの!? バカじゃないの!」

 

 

女サイヤ人はビナスを少し涙目で睨みながら罵倒する。だが、そんな反抗的な態度もビナスにとっては「くっ殺か? くっ殺か?」と言って益々気分を良くしたビナスは尻尾を持ち上げる。

 

「あっ!」

 

艶やかな声を出し、女サイヤ人は尻尾を引っ張られる痛みを緩和するために自然と尻を突き上げる。その扇情的な光景にビナスは益々気分を良くしていく。

 

「やっぱ正直やんけー、しゃあないなスーパーサイヤ人ゴッドなハンド捌きを体験させたるわ」

「やっ、やだ!」

 

そしてビナスはいやらしくお尻を撫で回し始める。ここまで見ていたベジータは動揺の極みに達して物音を出してしまう。

 

その音に注意を逸らされたビナスは尻尾を掴む力が緩む。女サイヤ人はその隙を見逃さず、ビナスを振り払い走って逃げて行った。

 

「あ~あ、後もうちょいで素直にしたったのに」

 

ビナスは心底残念そうにボヤキながら歩いて行き、ベジータの脇を通る時に冷たい目をしながら「見てんじゃねーよ、空気読めやマセガキが」と言った。

 

言われたベジータは動揺していたのですぐには反応できず、呻くだけとなった。ちなみにビナスはこの時ベジータとは気付いてはいない。

 

そこからは悪い意味でビナスに注目する事になった。ある時は動物の糞を木の棒にくっつけて他の子供を追いかけるビナス。

ある時はまた女サイヤ人や異性人の女に触りまくり、そして咎められたなら「幼女やから犯罪じゃないやろ」と全く悪怯れた様子がない。

 

 

困った女性達はビナスの両親になんとかしてくれと頼み込み、説教ついでにどれだけ強くなったかを確かめた。

だが、その時ビナスは戦いに夢中だったのと、受けた過度な暴力によって「そう言えば何か言っとったな」位にしか覚えてはいなかった。

 

 

これがベジータがビナスを人として認めない理由である。その上惑星ベジータが消滅し、女サイヤ人はビナス1人だ。帝王学を学んでいたベジータはその問題に頭を悩ませる。

 

何故なら「サイヤ人を復興させるにはもしかしてこんな超絶下品な女と結婚しなければならないのか」と思っていたからだ。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 気が付けば慣れ親しんだ空間っていうのは大事やな! 治療ポッドの中がこんなにも安心するとは思わんかったわー、実家のような安心感ってやつかな。

 

それにしても王子ツエー、全く歯が立たんかったわ。界王拳出来れば覚えたいな、そうすりゃスーパーサイヤ人になるまでの格上殺しとして使えるからな。

 

覚えとれよ王子、いつかその100m位長い鼻っ柱を折ったるからなー。……ん? 別に俺が折らんでも悟空にリクームにフリーザと立て続けに折っていくな。

……まぁそこに俺1人加わっても問題無いからええやろ、ついでって事で俺も折ったろ。

 

 

 

 

 

 それから何やかんやと考えてたらもう2時間経ってもうて体も完治。俺は腹が減ったので食堂に向かう途中でベジータとラディッツ、ナッパにターレスと出会う。

ターレスが居るのは珍しいな、俺の後ろを付いてくる雛鳥かと思って可愛がってんのにもう俺離れかい。

 

「おいーっす」

「おお、ビナスか。もう体はいいのかよ?」

「おう、元気元気よ」

 

アニメで見た時、このおっさんこっわ! とか子供の時思ってたけどナッパって普通にいい奴なんやね。

 

「それは良かったぜ。お前にはまだ死なれちゃ困るからなぁ」

「何やねん、普通に元気になって良かったですねビナス様と頭を下げる位しろや」

「それは普通じゃねぇだろ」

 

はははっと俺とターレスは笑い合う。コイツほんまツンデレやな。

 

「おい、ラーディッツー。何黙っとるねん、何か言えよ」

「え? お、俺か? ま、まあ元気になって良かったんじゃないか」

 

何どもってんねん。もしかして俺にビビってるんかいな? まっええわ、俺はベジータへと目線を移すと不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

コイツもわっるい顔が似合うなー、こんな奴が将来ヒルデガーンの時に一般人守るなんて、原作知らんかったら誰も想像出来んかったやろうな。

 

「どーも王子、さっきはお世話になりましたな」

「……ククク、いいぞ。その獣のような笑み、それでこそサイヤ人だ。お前にその気があるならまた遊んでやる、何時でも来い。まぁ一生掛かっても俺に一撃を喰らわせる事は出来んだろうがな」

 

そう言ってベジータは高笑いしながら食堂の方に向かっていった。

 

 ……獣のような笑みって何やねん。肉食系男子か! あ、今女子やったわ。ってか普通の愛想笑いやったつもりやぞ俺は! 両手で頬をムニムニと頬を触るけど別に普通やん。

 

それにしても何時でも来い、か……。壁はでかいな。取り合えず今日は飯食って寝るで!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い~よいしょー!」

「ふおお!?」

 

その前に俺は油断しているベジータの背中に蹴りを入れる。蹴りたい背中やったからしょうがないわな。

 

「うはははっ! 王子の一生の基準って超短いっすね!」

 

 ラディッツとナッパがこいつマジかよ……って顔しとるけれど、何時でも来い言われて背中向けて歩いとったら今でしょ! ってなるの当たり前やないか。ターレスは「やっぱりやりやがった」とか言ってめっちゃ笑っとる。

 

 

「き、貴様~! 今自分が何をしたかわかっているんだろうな!?」

 

ベジータは顔に血管浮き上がらせ、気を噴出しながらギロリと睨んでくる。お? お? 何時でも来い言うたのに逆ギレかいな?

 

「何怒っとんねん! 自分が何時でも来い言うたから仕掛けただけやん」

「バっ、バカヤローッ! 時と場所を弁えやがれーっ!!」

 

成程TPOを考えろって事かいな。まぁ冷静に考えればやったらダメやろうなって分かるけれど、俺は今戦闘熱が冷めてないからしゃあないな。

 

「王子~、それを先に言って貰わないと困りますわ。俺はてっきり本当にいつでも仕掛けても大丈夫ですよって思うやん。まっ、次からは言い方に気を付けてな王子」

「ふざけるなよ貴様っ! 俺を足蹴にした罪は今すぐ償わせてやる!! 覚悟しろよ!!」

 

 

 ベジータはそう言ってジリジリと俺の方に向かって来る。ん~戦ってもええんやけれど腹減ってるしな。あっそや、王子から逃げれるか試したろ。格上相手に戦う事も大事やけれど逃げれるようにすんのも大事やしな。

 

どうやって逃げたろうかなー、あっそや! 

 

「んふふふ」

「何を笑っていやがる? 自分のやった行いがどれだけバカだったか今頃気付いたのか?」

 

 んな訳ないやんけ。ふへへへお前なら……ってかフリーザ軍に所属している誰もが引っかかる事やってやんよ。

 

「あっ! フリーザ様!!」

「なっ、何!?」

 

 ベジータは勿論、周り居た奴等が一斉に振り向く。ククク、この隙に逃げさしてもらいまっせー! お? 何でターレスだけ俺の方向いて呆れた顔しとんねん! まっええわ、逃ーげよっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのさ~、ベジータ。部屋まで乗り込んでくんのは反則やろ、おかげでもう一回治療ポッドのお世話になったわ。

 

 

 

 



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意志疎通と確認の大事さ

 ベジータにボコられてから3週間。まあその間も何回かちょっかい出してボコられたけれど、技術部から「重力訓練室の見積もりが出来たから来てね」と連絡が来た。

 

俺は技術部に行く前に身嗜みを整える。ん? まだ子供だからかな? 髪を光に当てたらちょっと赤っぽいわ。まっ、大人になったら黒くなるから気にせんでええやろ、俺は意気揚々と技術部の所に行くとおったまげた事が待っていた。

 

「……え? マジで? 18億?」

「うん。あ、それは最低それ位って事だからもっと高くなるかも知れないよ? でも、実際作ってみたらもしかしたらほんの少しは安くなるかも」

 

俺はその額に呆然とした。何たって18億、ちなみに俺の月給が300万で惑星を期日までに墜としたら難易度によるけれど1千万~5千万。

 

当り前の話やけれど、そんなにしょっちゅう行ける訳がなく、空白期間……ってか休息期間がある。

 

 それを踏まえた上で俺の去年の年収は1億2千万。単純計算すると15年だ。まさかそんな高いとは思わへんかったわ……。

ブルマとかブリーフ博士が簡単に作ってるから高くてもてっきり1億位かと……。友達価格としてもう少しまけとく言うても端数切り捨てる位で、億単位を減らす事なんてせえへんやろうな。こいつ等も飲み会の時に金欲しい言うてたし……。

 

「……ハハハハハッ。お金貯まったら頼むから気長に待っといて」

 

 俺はそう言って出て行こうとすると「ちょっと待ってビナス」と声を掛けられる。

 

お? もしかして美幼女が落ち込んでいるのを見てられんからタダでやったるわ! って漢気言うつもりかな? 俺は上目使いで媚び媚びの猫なで声を出す。

 

 

「え? な……なあに?」

「はい、これ」

 

 スッとUSBみたいなやつと1枚の紙を俺に渡してくる。何やろ? 俺はよくよく見ると請求書と書かれている事に気付いた。

  

「え、えーっと、これ何ですか?」

 

思わず素に戻ってもうたやん。

 

「あぁそれ? 今回の重力訓練室の図面と見積もり書を作るに掛かった人件費の請求書」

 

 せやった……。忘れとったわ、どこの世界に何日も掛かる見積もり書や図面の作成をタダでやってくれる聖人がおんねんって話やわな。

 

誰だって請求する、俺だって請求するわ。

 

 

「――――ああ、うん。 帰ってから決済するからちょい待って下さい」

 

 

大人の世界はそんな甘ないって事を改めて思い知らされたわ……。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は自室に帰る途中、ベジータと同じ位大きな気が1つこの星に来たのを感じた。まぁ、ちょっと前にもギニュー特戦隊も来たしもう誰が来てもええけどな。今は真っ直ぐ帰る事にする。

 

でもちょっとワクワクして来たやん。どんな奴なんやろ? そして自室に戻ってパソコンで見積もり書の決済を済ますと、その値段にさっきのワクワクが吹っ飛ぶほどおったまげる事となる。

 

「うっげ、150万!? マジで? ボッてんじゃねーだろうな!?」

 

こんなん高すぎやわ、いやこれが普通か……。重力を何倍にもするやつなんか作った事無い言うてたし、ゼロからの見積りやからしゃあないんか。

 

 俺は諦めて素直に払うことにし、ついでに貯金が今どれくらいあるのかを調べる。

 

「えーっと、ん? 500万? えっ、嘘、えっ? 何で?」

 

俺はハッキングでも受けたのかと思って調べるけれど、そんな怪しい履歴は無く、ログをある程度見てみると何で金を使っているか、すぐに分かった。

 

食費だ。

 

「マジで? 1回3万いってるやん! 酷いときには10万かよ……。うっそやろ!? 800万の月もあるやんけ!」

 

 そう言えば確かに食ってる覚えあるわ。1回数十品位頼んどるわ。最初は過食症かな? と思って心配になって医療室に行って言われたな。

「アナタはサイヤ人なんだから大食いなのは当り前でしょ」って……、そこから特に意識せんと食ってたけどメッチャ金使っとるやん。

 

 そりゃチチとかキレて働け言うわ……、ブルマもブチキレはせえへんかったけどベジータに働いて欲しいってアピールはしとったな。ブルマが言及するって事は、世界一のお金持ちが気にするほどの食費が掛かってたって事になるよな。

 

え~……、俺今5歳でこんだけ食うってなったら大人になった時どん位食うねん。20~30位で腹八分目やなって感じやなのに……。

 

 節約、禁欲、断食――断食絶対無理。自炊……めんどいわ! やった後の洗い物がホンマめんどい。生前でもめんどかったのに、今だったら洗い物どんだけしなあかんねんってなるわ! でも重力特訓のためにはしなあかんのかな~、とりあえず視野に入れとくか。

 

 俺は気分転換のついでに昼食を取るため食堂に行く……、その前に隣のターレスの所寄ろうっと。一応スカウターも持って行ーこう。

 

 ホンマ個室貰えて良かったわー。まぁ、個室を貰うためには戦闘要員しか知らんけれど、最低3回は惑星侵略に行ってしっかり手柄を立てて無事に戻って来ないとあかんからな。

 

四肢欠損とかしてしまったら、一生上になる事は無い後方部隊の雑用員だ。這い上がるにはそこで金を貯めて義肢を作ってもらうか、勉強をして研究員になるしかない。ちなみにサイヤ人ならよっぽど優秀じゃない限りベジータ王の命令で裏で暗殺される。いや~厳しいね、名誉の負傷ではなく恥として捉えとるんやね。

 

 

 だったらもうお前が全部行ったらええやんけってツッコミたいけれど、もうおらんからしゃあないね。

 

 

 

 ターレスの部屋に気を消してからノックもせずに入る。お、やっぱ寝とるやん。しかも寝相が悪くて大の字になって布団をベッドの下に落しとる。

 

ちょっとケガしてんのか絆創膏貼っとんな、でもサイヤ人からすればこんなんカスリ傷にも入らん。

ってことはだ、これはイタズラしてもええとターレスからの無言のメッセージやな。俺はこういう時の定番であるボディプレスをする事に決める。しかも伸身宙返りで。

 

「ん~~よっ! ターレッぐおっほぉっ!?」

 

 

こいつ当たる直前に膝を曲げやがった! おかげで吐くかと思う位腹に綺麗に決まったやんけ! 

 

 

「ったく、人が気持ちよく寝てるってのに騒がしい奴だぜ」

 

ターレスは気怠げに靴を履きながら体を起こし、スカした顔でやれやれって仕草する。 クソッタレがーッ! 

 

 

「~~~~ッ! 何すんねんっ!」

「お前が何してんだよ」 

「俺はただ一緒に飯食おうやって起こそうとしただけやぞ!」

「普通に起こせばいいだろが……って、何だその心底理解出来ないって顔は?」

「いや……普通だとお前に失礼かなーっと。まぁええわ、腹減ったから飯行こうぜ飯」

「失礼じゃねぇから普通に起こっ!? おい引っ張るな!」

 

話の途中やったけれどターレスの腕を引っ張って食堂へと向かう。途中でターレスが照れとるんか振り払われたけれど。

 

 俺は食堂に入ると壁際のファミレス席に座る。よっしゃ、ちょっと早めに来てホンマ良かった、俺達が1番やん。俺は立てかけてある液晶パッドを操作して、取りあえず腹持ちが良さそうな10皿をパパッと頼んでターレスに手渡す。ターレスは少し迷ったのか時間を掛けて頼んでいた。

 

めっずらしい、いつもならコイツもすぐに注文すんのに……。ダイエットかな? それとも金欠か? まぁ俺も金を計算しながら頼まないとアカンから人の事言えんけどな。

 

「なぁ、気付いていたか? 王子と同じ位の戦闘力がこの惑星に来たのをよ」

「勿論。それがどないしたん? どんな奴か見に行くつもりか?」

 

 ターレスは不敵に笑って「おう」と言う。ほんじゃあ俺も行こうかなー、ギニュー特戦隊来た時も遠目に見たし、今回も一応見とくか。スカウターあるから正確な数値わかるし、気を読む練習にもなるやろ。まぁ多分キュイ辺りやろうな、ベジータと長らく互角って言ってたし。

 

 

 

 そこからしばらく他愛の無い話をしていると、食堂に人が集まりだして賑やかになってくる。この時間帯は戦闘員が中心なので話し声がデカい。

研究員達はそんなデカイ声がイラつくのと、戦闘員達とのトラブル回避のために食事の時間帯ずらしている。これは規則ではなく自然とそうなったらしい。

 

うん、気持ちは凄くわかるぞ。だって戦闘員と研究員の戦闘力差5倍が普通やもんな。運悪く酔った奴に絡まれて暴力でも振われたら下手すりゃマジで死ぬからそりゃ避けるわ。

 

「お待ちどうさん」

 

 また暫くボーッと待っていると、配膳係が俺達の料理が乗っている台車と空の台車を持ってくる。ターレスが頼んでいる物を見ると、俺と同じような腹にたまるようなのばかりだった。

 

んふふふー、もうしゃあない奴やなー、コイツ俺の事好きすぎやろ。俺が微笑ましくターレスの事を見ているとよりによって「何気色悪い顔してんだよ」と宣いやがった。

 

 

……許さん。慰謝料としてコイツが頼んだ丼物を引ったくって食い始めてやる。

 

 

「ちょっ、てめぇっ! そっちがその気なら!」

 

 ターレスも負けじと俺の頼んだ料理を食い始める。ここの食堂は先払いで食ったもん勝ちやからな、負けへんぞ! 

 

お互いが自分が頼んだ物を一切手を付けず頼んだ料理を完食した丁度に、ベジータ達が食堂に入ってくる気配を感じて見ると、満席でどないしよってキョドッてる風に見えたので手招きをする。

俺達に気付いたベジータは少し身構えた後、眉をひそめながらも俺達の席にナッパとラディッツを連れて来る。

 

 何を身構えてんねん。1週間前に何時でも来い言うたのもう無しやぞってお前が言うてから仕掛けてないやんけ。

 

でも、ドドリアに戦果報告しとる時に殴り飛ばしたのは痛快やったな。その後仲裁に入ったドドリアに事情を話したら真面目な顔をされて「何時でも来いって言ったのはそういう意味じゃないと俺は思う」って言われたな。

 

ベジータもこれ幸いとめっちゃ俺の事ボロクソ言いまくってたけど、その時のベジータの必死の顔がおもろくてつい笑ってもたわ。

 

それでキレたベジータが俺の事殴り掛かろうとしたけど「気持ちはわかるけれど落ち着け!」ってドドリアに止められてたのも笑けたわ。

 

その後仲良うなったんかちょくちょく談笑してるの見かけた時は意外やったわ。

 

「よう王子達、一緒に飯食おうで」

「……チッ。いいだろう、今は我慢してやる」

 

 いっつも思うんやけれどコイツって喋る時舌打ちから入るよな。こいつにとっては舌打ちが枕詞かいな? 

 

ベジータは俺とターレスを見比べるとターレスの方に座り、ナッパは「おう、ワリィなお前達」と気のよさそうな笑顔を浮かべて俺の横に座る。ラディッツは少し戸惑いながらナッパの横に座った。

 

 体型的にナッパは2人分使ってるからベジータの横の方が広いけれど、王子の横は気まずかったみたいやな。そこん所めっちゃ弄りたいけれど、やったら王子のラディッツに対する心象が悪なりそうやからやめとこ。

 

 俺達が食べた空の皿をラディッツが台車に置いていく間にベジータとナッパは注文を済ませる。俺はそれを見るとまた腹が減るのを感じた。ターレスを見ると頬杖をつきながら窓の外を見ていた。コイツも腹減ってる筈やのに何で我慢しとるんやろ? ラディッツも注文を済ませ暫く待っていると頼んだ料理が来た。

 

あかん、また腹減ってきた。10皿とか全然足りんやん。ターレスも来た料理に目線を移しとる……。俺と目が合うとイライラした様子でまた窓の外に視線を戻した。

 

「何だお前等、食わねぇのか?」

 

 ナッパはそう言うと肉汁が滴る上手そうな骨付き肉を大きな口を開けてかぶり付く。それを見て俺はある決心する。

 

……元々15年丁度で重力訓練室を作ってもらうなんて無理な話やってん。原作開始まで25年あるって事は10年、修行期間差し引いたら8年位は余分だって事になる。

 

つまり少なくとも9億6千万余る……いや、成長すれば仕事も楽に終わらせて行けるから、出世してもっと稼げるようになるって事やろ。

 

と言うことはだ、余裕って事やん!

 

よっしゃ、俺は追加で10皿頼む事にした。そして俺は来た料理をガツガツと食べていると、ターレスが生唾を飲み込むのが見えたので2皿程渡してやり「お前も食え、食え」と言ってやる。周りが食ってるのに1人だけ腹減ってるのに食わへんとか可哀想やからな。

 

 ターレスは宇宙人を見るかのような目をした後、警戒して恐る恐る皿を受け取った。

お前は警戒した猫かい、前世の友達の猫そっくりやわ。ターレスは小さく「ありがとよ」言った後食い始める。

 

 

可愛い奴やのーツンデレにも程があるやろ。でも貸し5やで!

 

 

 

 

 皆が食い終わり、俺はターレスにその傷は誰にやられたんだと聞くとベジータがニヤリと笑い「俺がやった」と言った。

 

何やターレスもベジータにボコられたんかい、王子に挑むのがサイヤブームになっとんのか? ラディッツとナッパは王子に挑んでないのかと聞くと「冗談じゃねぇよ」と苦笑いしていた。

 

「ククク、こいつはお前をやった後にいつも俺に挑んでくるんだ。友情のつもりか? 下らん」

「笑わせんじゃねえよ。お前等の動きを見てから行けそうだと思ったからやってるだけだ」

 

ほえ~、ターレスは多分俺が言うてたサイヤ人のドM特性のためにやっとるんやろうな。ついでに俺とベジータの戦いを観察してあわよくば俺達より上に行こうってか?  中々こすい事やるやんけ。

 

よし、どん位強なったか久しぶりにターレスと手合わせしよう「まぁ、お前等が何人束に掛かろうと俺の敵ではないがな」

 

 

…………あ゙?

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「まぁ、お前等が何人束に掛かろうと俺の敵ではないがな」

 

 ナッパはベジータの物言いが癇に障り、一瞬目つきが細くなるがそこは年長者の余裕としてスルーし、ラディッツは軽く笑った。ターレスは睨みながらも現時点ではベジータの言う通りだろうと冷静な判断をし、近い内に絶対に超えてやると闘志を燃やしていた。

 

肝心のビナスはベジータの挑発を流せるわけがなく、目が充血し、顔中に血管を浮き上がらせながら獰猛な笑みを浮かべていた。そして一口水を飲み、付けていたスカウターをいじりながら口を開く。

 

「あっはっは。爆笑もんのギャグを言うやないか王子様。じゃあ俺達全員を相手にしてもまだおもろい事言えるか試したろか?」

 

 それを聞いたターレスは少し訝しげにビナスを見てから立ち上がり「おもしれえ、相手してくれるんだろ? 王子様」と言った。ベジータは「何時で……いや、いいだろう」と不敵に笑い了承した。

 

つい『何時でも来い』とベジータは言おうとしたが、本当に何時でも来る頭のイカれた奴がこの場にいる事を思い出し、言葉を選んだ。

 

戦意を高揚させている2人に当てられたのかナッパも「じゃあベジータ、俺も参加させてもらうぜ」と好戦的な笑みをする。

 

 ラディッツは何を馬鹿を事を言ってるんだ! と声を大にして言いたかった。ベジータは現在1万3千の戦闘力、対してこっちの合計戦闘力は1万2千。

 

ただ単純な計算でも勝てないと言うのに、1人ずつ潰されたらあっという間に負けてしまう。勝つ可能性があるのならばともかく、確実に負ける戦いをするなど、ただの理性の無い獣と同じじゃないかとラディッツは3人を少し蔑んだ。

 

 

 

 

「じゃあ1時間後に外でやろうや」

 

 

 

外で戦おうと言うビナスにラディッツとナッパはサッと顔を青ざめ、ターレスは驚愕の表情をする。

 

 

 

 戦闘員達の用語で『外』と『中』の言葉があるのだが『中』という意味はトレーニングルームに行こうという事。つまり飛び道具無しの殴り合いだけの訓練という意味だ。

 

そして『外』という意味は加減の難しい気弾ありの勝負なので、殴り合いの時よりも死亡率が格段に上がるのだ。

 

「ばっ、馬鹿かお前はっ! タダでさえ勝負にならないと言うのにエネルギー波をありにするなんて何考えてるんだ!」

「……クククク、ハーッハッハッハ! こいつはお笑い草だぜ! 何度も自分を負かした相手の実力がわからない馬鹿が存在するなんてな!」

 

 ラディッツはビナスを非難し、ベジータは侮蔑をする。ナッパは「さすがにそれは止めておいた方がいいぜ」と窘める。ターレスはこれも超サイヤ人になるために必要な事なのかと考え、ビナスの動向を注視する。

 

 

「ビビッとるなら来んでもええよ。俺が王子の負けっぷりを特等席で見とくだけやからな」

「……ほう、その発言はもう取り消しが付かんぞ? いいだろう、外でやってやる」

 

ビナスの発言がベジータの怒り触れ、ベジータは事故としてビナスを殺す事を決意した。ベジータとしてはビナスの事が人として嫌いな部類であり、そんなやつとの結婚など御免被りたかった。

 

しかし、ビナスが死ねばサイヤ人を復興させなくともいいし、変な気を回さなくてもいい。そうベジータは考えた。

 

ビナスは立ち上がると、他の3人も席を立ち食堂から出ていく。別れ際にラディッツとナッパは今回は辞退をするとベジータに言い、別れ際に謝るなら今の内だとビナスに言うがビナスはこれを拒否し、両名を呆れさせた。

 

「じゃあ、1時間後な。王子もう一回確認するで、全員で構わへんねんな?」 

「くどいぞ、全員で構わん。最も……既に2人が脱落したがな。おいターレス、お前はどうするんだ? 逃げ出すなら今が最後のチャンスだぞ?」

 

 ターレスはベジータの問いに返答する前にビナスの方を向き「勝つ自信はあるのか?」と尋ねる。

 

「ある。お前も辞めたいなら別にええぞ」

 

ビナスは自信を持って答えた。それを見たターレスは最悪、惑星ベジータが爆破される前に練習していた太陽拳と気円斬を使ってベジータを殺そうと決意した。

 

 

 

「いや、俺は参加させてもらうぜ」

 

今ビナスを殺させるわけにはいかない、自分にとってベジータよりビナスの方が利用価値が遥かに上だからだ。

 

それに、ビナスの念を押すような確認を確めたいのと、馬鹿なこいつと馬鹿やってる時は退屈しないしなとターレスは思った。

 

「ククク、自殺願望がある奴がもう1人いるとは恐れいったぜ。じゃあ1時間後……楽しみに待っておくぜ」

 

そしてベジータが去って行き、ビナスはターレスに「俺はこれからやる事があるから」と自室に帰っていった。ターレスは1時間後に向けてウォーミングアップを訓練室でやる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、1時間半後の外の訓練所……。ベジータはボロボロの体で戦っていた。

 

「くそったれがぁーっ!! ビナス!! 貴様だけは、貴様だけは絶対に……絶対に許さんぞぉーっ!!!」

「おいおい、どこへ行く気だクソガキ?」

 

べジータは怒りに任せてビナスに殴り掛かろうとするが、そうはさせまいと立ち塞がる星人……、キュイがいてビナスだけを見ていて隙だらけのベジータを蹴り飛ばし、地を滑らせる。

 

「ぐ……くっそぉー!」

 

 地を掴み悔しがるベジータだが、嫌な殺気を感じてすぐに空へと避難する。するとベジータが居た場所に無数の気弾が着弾した。

 

「ようベジータちゃん! 今度は俺と遊んでくれよ、安心しな、殺しゃしねえからよ」

 

空に逃れたベジータを今度はリクームが迎え撃つ。ベジータは何故こうなった!? と思いつつも元凶であるギニュー特戦隊の横で笑って見ているビナスを睨み、吠える。

 

「あ、あのクソヤローがぁーっ!!!」

 

 

 

 

 

 何故こうなったかと言うと、それはビナスがターレスと別れて自室へと帰った時間まで遡る。

 

ビナスはまずバソコンを起動し、スカウターで録音していたデータを取り込み、生前に自分が音楽をネットでアップする前にしていた編集のスキルを悪用した。

 

その内容は1度目と2度目にベジータに言った「俺達全員を相手に」の部分を「俺達フリーザ軍全員を相手に」とし、スカウターで全員に向けて放送した。

 

その後時間通りにベジータと戦い、ある程度ビナスがやられ、ターレスがベジータを殺すために太陽拳をしようとした時にぞろぞろと腕の覚えがある者や、ベジータに腹が立っている者が集まりだす。

 

それを見たベジータとターレスは、ギャラリーがこれだけ居る中で殺すのは不味いと思い、殺すのを諦めた。そしてそこから数分後に場の空気が一辺する。

 

フリーザが現れたのだ。

 

 ベジータはフリーザが現れた事に動揺し、ターレスは悪党の笑顔をしているビナスを見て察した。ベジータはターレスの反応を見てビナスが仕組んだ事だと推測し「どういう事だ!?」と怒鳴る。

 

「え? 何言ってんねん。お前全員で構へんぞ、掛かってこいって言ったやん」

 

 私は何も悪くございません。貴方が100%悪いんですよと言ってるような態度のビナスに、ベジータは眩暈がして倒れそうになった。

 

「ほっほっほ、ベジータさん。少し私と遊びましょうか、勿論殺しはしませんからご安心を」

 

フリーザはビナスが公開したベジータの発言を聞いて、最初は行く気など毛頭無かった……が、将来ベジータ王と同じく増長して帝王である自分の実力を甘く見てしまい、また反乱を起こされては気分が悪い。

 

ならば今の内に思い知らせてやるのも一興か、それにベジータ王子は既に親を超える戦闘力を保持し、それを子供扱いすれば、部下である他のサイヤ人も自分に逆らうような馬鹿な事はしないだろうと考えた。

 

そしてベジータを指1本で弄び、デコピンで吹っ飛ばした後フリーザは引き、用は済んだとばかりに悠々と帰っていった。

 

その後2時間後……ベジータはフリーザ軍の強者達と戦い力尽きて気絶する事となった。

 

 

ベジータは薄れ行く意識の中で、ビナスが倒れた自分に侮辱的な発言と今回の借りをきっちり返してやると思いつつ、ビナスの事をまだ甘く見ていた事を理解した。あいつは本当に頭がイカれていて、常識というものが全く無いと再度思った。

 

言葉通りの意味をまさかまたそのまま実行するとはベジータはビナスの事を知らなさすぎた。

1番付き合いが長いターレスでさえ、その可能性は考えたが、まさかそんな馬鹿な事はしないだろうと思っていた。

 

 勿論ビナスの日本人としての考えはそうじゃないと分かってはいたが、発言の内容をそのまま行った方がおもしろいだろうとサイヤ人として行動し「俺達全員を相手に」の意味が席に座っていた4人の事ではなく、惑星フリーザNo.79に居るベジータ以外…、つまりフリーザ含めた全員で相手にしていいんだなとビナスは行動した。

 

ビナスが外でやろうと言ったのも、室内では人の制限があるが、外ではそれがない。大勢でベジータをリンチするための布石であったのだ。

 

 

その後傷を癒したベジータは、ビナスに10回きっちり丁寧にお礼参りをしてからこう言った。

 

 

「もうお前とは戦わん」と。

 

 

そしてベジータはこの時の出来事がナメック星に行くまで悪夢となって悩まされる事となり、外の訓練所で気弾の連射をしてストレス解消をする事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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さぁ、願いを言うがいい!

 時間が経つのは早いもんやな、もう17歳になって成長期が終りすっかり女の体になったなー。もう膝と胸がイテテテテってなって気になる必要も無いし、ワッシワッシと胸をつい揉んじゃう事も無く、シャワー浴びてる時も乳首に当たったらイテテってなるのも終った。

 

そして女になってるんだなーと自覚しました初めての生理。

 

なった時は俺は12歳。嘘やん漏らしてもうた? この歳で? と思って触ったら血やったから俺の分身が切り取られたと寝起きやから寝惚けて勘違いしてもうたせいで、パニクって枕持ちながら部屋の中で10分位分身探し回したわ。早よ見つけて氷に入れて冷やして医者の所に持って行かないと腐ってもうてくっつかへんわ! って思って。

 

 ふと鏡を見た時に、俺今女やんかと気付いて冷静になって良かったわー。危うくターレスに前世で泣き別れた一生見つかれへん俺の分身を一緒に探して貰う所やったわ。

 

ホンマ女ってちょっと大変やな、生理用品付けるの忘れたらパンツ捨てなあかんやん。ってかこの惑星戦闘員中心で女おらへんから相談できへんのがちょっとなー。

 

 

 くっそぉー、同世代の可愛い子がおったら、相談から仲良うなってユリユリしとったのになぁー。それにしても俺ホンマ涎出るくらいええ体しとるな、すれ違う時男星人が見とるのメッチャわかるもん。

 

 

まぁ、俺は元男やし気持ちが分かるからしょうがないにゃあで許したるわ。これは女が自撮りしてネットにアップすんのも分かるな、男も鍛えた体見てもらいたくてネットに上げるのと一緒やろうな。

 

そう考えるとだ、女のグラビアポーズとボディビルは審査するか大衆に喜ばれるかの違いなだけで同じやね。胸を寄せて上げるのはモスト・マスキュラーみたいな。

 

 どうしよっかなー、俺も自撮りをネットにアップして金稼ごうかな? でも俺がやったら速攻バレるやろうな、サイヤ人の尻尾生えてて薄い赤髪なんて俺しか居らへんもん。

 

ってか俺の髪の毛が黒やないってどゆことやろ? 俺の今世の両親は黒やし、もしかして転生特典で特別な力がーとか? いくら気を放出しても溜めても全然そんな感じせぇへんし、それともゴッド? いや、気を感知しとる時点で違うから関係無いんか。

 

んじゃあアルビノみたいなもんかな? 別に紫外線に弱いって事も無いし、むしろ強いからなー。珍しい事もあるんやねーで済ませとかけばええか。アニメでベジータも最初に出てきた時は赤髪やったし気にせんでええやろ。

 

 ボーッと考えているとビーッと部屋の呼び鈴が鳴らされて扉を開けるとターレスだった。

 

「おい次行く所が決まったぜ、ナッツ星だ」

「ほーん、あっこって確か宇宙警察機構の収容所があったよな? ウザいから潰そうってか?」

 

ターレスはニヤリと笑いながら「その通りだ」と答えた。

 

「あぁ、それと捕まってる奴らの中に、見所がある奴がいればスカウトしろってお達しだ」

「へー、人材発掘に余念が無いんやね」

 

 その後個人ポッドに乗って宇宙を見ながらふと思い出したけれど、確かターレスには合い鍵をちっちゃい頃に渡してたな。何で呼び鈴鳴らすようになったんやろ? あ、せや14の時に風呂上がりの裸見た後からやったな。

 

見られた時はお約束って感じでちょっと笑ったわ。着替え終わってから部屋から出るとターレスが視線を外しながら「すまねぇな」と謝ってきた。

 

その時俺が先に成長期入ってたから、身長差で子供が謝ってるようにしか思えんくてまた笑ってもうたわ。「俺の裸思い出してシコんなよ!!」ってニヤニヤしながら言ったら通り掛かったサイヤ人全員に見られてもうた。

 

 ベジータの反応はお約束の舌打ちから入りーの「相変わらず下品な奴だぜ」ラディッツはチラチラ見とるだけ、ナッパと後の5人は笑ってたな、その日の昼休憩の時にフリーザに呼び出されて注意を受けたのはビビったわー。

 

「ビナスさん。貴女は他のサイヤ人と違って現地の映像に加え、土地の状態等を資料として提出してくれているその気遣いに私は大変嬉しく思います。そして出来ればもう少しご自身の発言の内容にも気遣いをして下さい」

 

 …………くっそぉー誰やねんチクった奴は! おかげでフリーザにまで真面目な顔されて説教受けたやんけ ! あっ、ベジータ達がスカウター着けてたから全員に聞こえてもうたんか、チクった奴おらんわ。フリーザの部屋の前におったザーボンとドドリアにも慎みを持て言われたもんな。

 

帰り道の途中でフリーザに挨拶しに来たギニュー特戦隊やキュイにも下品なのは良くない言われたし……、あれ? 俺フリーザ軍の主要メンバー全員に注意受けてね? ――ま……まぁ、こういう事もあるやろ。

 

 

それにしてもフリーザと全然絡みが無いのによく名前覚えとるな。そこら辺指摘して凄いですねーって言ったら笑顔になって

 

「おっほっほっほっほ。部下の名前と顔を覚えるのは、上に立つ者として当たり前ですからね」

 

 

 正直すげぇなと思ったわ。前世の同じ部署の部長なんか俺の名前なんか覚えて無いし、挨拶しても無視やったからな。下手すりゃ顔も覚えてないんとちゃうかな?

 

そのくせ女に挨拶されたら笑いながら上機嫌に返しよる。こんな奴には絶対付いていきたくないなーって思ってたけど、フリーザは付いていきたいなと思わせる態度とオーラがあるわ。

 

 説教受けた後は少し世間話したな、いつも椅子に座ってるからストレッチでもしたらどうですかー? とかどこそこの店の料理上手いですよーとか、最近自炊始めましたとか……。

 

後はベジータをリンチした日、担架に運ばれるベジータに向かって「汚いから片付けておけよ、そのボロクズを」ってスカウター越しから聞いて、フリーザが生まれて初めて相手を可愛そうだと思ったとか言ったのはウケた。

 

自分と同じ種族の王子をボロクズ扱いしたから「貴女一応サイヤ人なんですよね?」って確認されてちょっと動揺してもうた。

 

 帰る時に「貴女には期待してますよ」と笑顔で言われて仕事頑張ろうって気になったわ。上手いねーそういうの。

と言っても俺とターレスの今の戦闘力、普通に150万超えとるから頑張ったら逆に星がヤバイんやけれどね。

 

まぁ原作知識ありのサイヤ人で、協力者がおって時間があれば普通にそれ位行くわな。悟空なんか1ヵ月位で8万から1億5千万やからね。

 

おっと、コールドスリープの薬剤が効いてきて眠くなってきたな。片道2週間、良く眠りますかー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナッツ星に着いた俺は下半身に違和感を覚え、ターレスにちょっとタンマと言って茂みに隠れる。そしてインナーを捲るとそこには穿いていたパンツが無かった。

 

「うっそやろ!? パンツ消えて もうた!!」

 

 

 



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音楽に世界は関係無い

 あれれぇー? おかしいぞぉー。なんでパンツ無いんやろ? 俺確かに穿いて来たよな? 無いもんはしゃあないから茂みから帰ってきたらターレスに「いくらお前でも下着くらいは穿けよ、痴女か」って言われたわ。

 

いくらお前でもってどういう意味やねん!

 

「ちゃうわ! 穿いてたのに消えてもうたんやって! ってか何で知ってんねん。覗いてたんやろ! お前変態か!」

「お前がデケェ声出すから聞こえただけだ。それと下着が勝手に消えるわけねぇだろ……、ここ大丈夫か?」

 

 額を2本の指でトントンと叩くターレスを見て腹立たしい思いとは別に、どこか俺はデジャブを感じた。どこで見たっけかなー? あっ、思い出した。ドラゴンボールのコラ画像で悟空がオメェのここおかしいんじゃねぇか? って言ってるのや! 

 

悟空なら言わへんけれどコイツなら普通に言うわ。

 

「おうおう、ターレスさんよぉ。ナッツ星侵略の前に俺と喧嘩してぇってか?」

 

俺はやる気満々で睨みつけるが、ターレスはどこ吹く風の表情でスカウターを外し、ポッドに入れて閉める。そして岩に腰を下ろして座り込み、今度はスカウターを着けていた方の耳をトントンと叩いた。

 

 

 また頭大丈夫かってジェスチャーかと一瞬思ったがそうではなく、聞かれたらマズイから外せという合図をターレスはした。まぁ、侵略の度に気分が高揚してマズイ事を言う可能性があるから、まずスカウターを外す事から始めるのが俺とターレスの通例やけれど、すぐに話しがしたい場合は今の合図になる。

 

 

「待てよ。お前の下着がどうこうは今は置いといてだ……少し話しがしてぇ。警備兵かどうかは知らねぇが奴等との距離は近くて1万キロ位はある。奴等がここに来る頃に話し終えるには十分な時間だ」

 

 

 何やねん真面目な顔をしおってからに……。ターレスの言う通り確かに戦闘力300~500の奴が13人居て、430の奴が気の形からして大声を上げながら身振り手振りで指示を出しとるな。それと、バイクに乗るような動きをしとるから乗り物で来るつもりやな。時速は……1300キロ位か、しゃあないなー今は聞いたるわ。

 

俺はスカウターを同じくポッドの中に入れた上で閉め、ポッドに飛び乗り胡座をかいてターレスを見据える。

 

 

まぁこの雰囲気、今の戦闘力、年齢、ターレスの性格で考えれば言いたい事は1つしかないやろうなぁ。

 

 

 

「なぁビナス。そろそろ戦闘力を抑える生活を止めて俺達2人でフリーザをぶっ殺さねぇか? そして俺達で宇宙を支配しようぜ」

 

 

やっぱりそう来たか。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「なぁビナス。そろそろ戦闘力を抑える生活を止めて俺達2人でフリーザをぶっ殺さねぇか? そして俺達で宇宙を支配しようぜ」

 

 ターレスはニヤリと笑いながらビナスに共謀を持ちかけた。ビナスは暫く沈黙し、口を開いた。

 

「無理やな。お前は変身前のフリーザを殺るつもりなんやろうけれど、あいつは多分一瞬で最終形態になれるぞ」

「だったら、お前が考えた技の太陽拳からの気円斬で殺しちまえばいいだろ」

「…………へ?」

 

 ターレスはビナスがキョトンとした様子で聞き返した事が、よく聞こえていなかったのかと思って繰り返し「お前が考えた技の太陽拳と気円斬で殺せばいいだろ」と少し声を大きくした。

 

「……いや、あれはえーっと、俺が考えた技やないんやけれど」

 

 ビナスは気まずそうにアハハと笑いながら体と尻尾を揺らして答え、ターレスは技を教えてもらう時の事を思い出す。こいつは確かに自分が考えた技とは言ってないが「どや、この新必殺技! これならフリーザにも通用すんぞ!」と胸を張って尻尾を犬のようにブンブンと振りながら言っていたので、あたかも自身が編み出した技ですとターレスからはアピールしているように見えた。

 

「じゃあ誰の技なんだよ?」

 

 ターレスは小手先の技だが、自分より格上を想定としたよく考えられた組み合わせ技だと思った。そして、そんな技を考えられる奴ならば他にも便利な物を覚えている筈だと推測し、この侵略が済んで可能ならば接触して他の技を教えてもらおうと思った。

 

 

「え? あー……、まぁいいか。クリリンと天津飯の技」

 

 

 ――――誰だよとターレスは呟いた。そんな奴等フリーザ軍に居たかと記憶の限り思い返すが覚えが無い。珍しい名前だし、そんな多彩な技を使う奴等なら絶対覚えている筈なのだが、もしかしてチェック漏れか? とターレスは自身の迂闊さを呪いながらもビナスにどんな奴等だと尋ねる。

 

 

「あの、んー。地球人と確か三つ目星人だったと思う。そんで頭がハゲやな」

 

 

ビナスの口から余計に覚えておかないとおかしいワードが出てくる。もしや……とターレスは思い始め、ジト目でビナスを見ながら口を開く。

 

 

「俺が知ってる奴等か?」

「いやー、知らんなぁ。今地球に居る筈やから会う事は絶対に無いわ」

「じゃあ何でお前が知ってるんだよ?」

「あー……、あれやあれ。前言うてたやん? 俺には未来の事がちょっとわかるみたいな? そんな感じのやつで知ったんやで」

 

 んふふっと笑うビナスにターレスは深いため息をつく。ターレスはビナスのこの未来の事がわかる能力というものを嘘だと確信している。だが何故惑星ベジータが爆破される事や、超サイヤ人の成り方。それとサイヤ人の瀕死から回復すると急激にパワーが上がる事を知っているのかわからない。

 

ビナスのこれまでの言動や行動、共に居た時間や友好関係から推測するならば、未来を知る能力はただの野生の勘であり、先のクリリンと天津飯という人物はビナスの脳内で作り上げた者達か、夢の中で出てきたのではないだろうか? そう考えればしっくり来る。

 

ターレスは微笑みを浮かべてビナスの事を優しい目で見る。ビナスは少したじろいで「な、何やの?」と尋ねる。

 

「帰ったら精密検査を受けてもらって暫く入院しとけよ」

「はい? ちょっ、意味がわからへんねんけれど。今俺どこも怪我してないし、病気でもないで?」

 

 

 ここだよ、こことターレスはまた自分の頭をトントンと叩く。それを見たビナスは能面のような無表情となって立ち上がり、口元を上品に手を当ててアハハハハと女性らしく笑ってからポッドから飛び降りる。

 

そしてビナスは気を最大限に噴出しながら吼えた。

 

 

「俺は怒ったぞーーー!!! ターレスーーーーッ!! そこらの道端のクソみたいにクソッカスのボロボロにしたるわ!!」

 

 

 かぁっ!! とビナスは気合一閃、ターレスに殴り掛かるが、寸での所で上空に逃れたターレスはフッと不敵に笑いながら警備兵達の所へ移動を開始する。これは逃げるためではない、ビナスとの戦闘の余波で警備兵の連中を始末するためである。

 

「へっ、いいぞこのプレッシャー……。あいつとの戦いは楽しくてしょうがねぇぜ」

 

 気の感知でビナスが追ってくるのを感じ、ターレスは独り言を呟きながら今回は勝てるだろうか? と思案する。ここまでの戦績は一々ビナスは覚えていないだろうし、隠れて記録しているのがバレたらからかわれるだろうから言わないが2710戦100勝2610敗だ。

 

初めて勝った時は自分の部屋に戻り、飛び跳ねながら喜んだものだ……、今思い返すと少し恥ずかしい気持ちにターレスはなった。

 

 警備兵達の気が数㎞先まで近づくと頃合いだとターレスは地に降り、それを見たビナスも地に降りる。

そして数時間2人は戦い、その余波で近づいて来ていた警備兵達全員を葬ると、最後は2年ほど前からしている恒例の砂漠地帯か岩盤地帯に行ってお互いが大猿になって殴り合った。

 

 これはまだターレスには理由を言っていないが、ビナスが超サイヤ人ブルーになれなかった、もしくは合わなかった時のために、超サイヤ人4になるための保険であるのと、ついでにターレスに理性を出来るだけ無くさないための訓練だ。

そしてまた数時間が経ち、お互いが大猿から戻るとビナスは気絶しているターレスを抱えて収容所へと向かった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 あ~あっ! 何で侵略の前に無駄な体力を使わないとあかんねん。これも全部ターレスのアホが悪いんや。結構なダメージ貰ってるし、俺も超しんどいんやぞ!? それをこいつは暢気におねん寝しやがって……。

 

 

んへへへへ、罰として気絶しとる間ケツドラムでもして遊んどいたろ。

 

 

俺は心の中で文句を言いながら、収容所の中をターレスを俵運びの要領で抱え、演奏をしながら進んでいく。すると曲がり角から光線銃を持った警備兵が飛び出し、銃を構えた。

 

「動くなっ! 少しでも動いてみろ、即座に撃つぞ!」

 

 まぁ、居るのは気付いてたけれどねー。それにしても何で逃げなかったんやろうな? 結構派手に暴れてて見られてる筈やなのに……、見えへん位置やったんかな? それでも俺達がここに居るって事は出て行った連中が全滅って事やのにな。もし俺が警備兵の立場やったら普通に逃げてるやろうな。

 

「ん? お、おい! こいつ等サイヤ人じゃないのか?」

「その通り。サイヤ人やぞ」

 

 俺がケツドラムをしながらサイヤ人だと答えると警備兵達は目に見えるように動揺し、銃を構えたまま後ずさっていく。おーおー、良い具合に怖がっとるなぁ。さっすが悪名高いフリーザ軍の先兵として名を馳せてるだけはあるわ。

 

「いよぉ~っ」と掛け声をし、ターレスのケツを能に使う小鼓のように叩きながら後ずさっていく警備兵を摺り足で追い掛ける。摺り足で移動こそ日本の歴史、文学であり心やで! 

 

 

「こっ、こんなふざけた奴等にこれ以上逃げてたまるかっ! やってやる!」

 

 

 おやおや? 俺が奏でる日本の心が通じたのか警備兵達は立ち止まって振り返る。クールジャパンは世界を越えた瞬間かなと思ったら銃を構えて乱射してくる。俺はそのまま受け止めるのではなく、手全体を気でコーティングして傾斜を利用して光線を弾く。こんなん気を感知出来るから目を瞑ってても出来るわ。

 

俺があっさり銃のエネルギーが尽きるまで弾き終ると警備兵達は呆然としていた。

 

「そんな」パパパンッ「攻撃が」パパパンッ「通じると」パパパンッ「思うとるんか?」パパパンッ

 

 俺は両手でい~い音がするドラムを叩く。そして「いよぉ~っ」と最後に良い音を出そうとしたら後頭部からもの凄い衝撃を受けた。

 

「へぎぃあ!!?」

 

変な悲鳴が出たなと他人事のように思いながら俺は気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何か冷たい物が顔にかかったなと目を開けると、蟹が見えた。ん? 蟹やないわ、逆光で顔がハッキリ見えんくてシルエットしかわからんかったわ。

 

体を起こすと顔と上半身が濡れているのがわかったので、ターレスを睨んで「もっとマシな起こし方無かったんかい」と抗議をするとターレスは口元だけハハハッと笑ってから息を吸い込み……

 

「てっっっっめぇにだけはっ!! 言われたくねぇなぁ!!!」

「うるさっ!? そんな大声出すなや!」

 

 ターレスはヤンキー座りをして俺を睨みながら「お前マジでふざけんじゃねぇぞ?」と喧嘩越しに言ってくる。ん? 俺何かしたっけ?

 

「何を怒ってる理由がわかりませんってとぼけた顔してやがんだ、あぁ? 散々俺のケツを気がつくまで好き勝手叩いたのを覚えてねぇのか?」

 

 ………………あっ、思い出した。丁度良いドラムがあったから叩いとったんやったわ。俺は立ち上がり、周りを見ると囚人達が宴会をしていたので、俺が気絶している間にターレスは制圧した事がわかりすぐ帰るのか? と尋ねる。

 

「お前、そこはまず俺に謝ることが先……いや、謝罪の言葉を期待した俺が馬鹿だったぜ」とターレスはガリガリと頭を掻いて溜息をつく。

 

 失礼な! 俺が謝る事の出来ないコミュ障だとこいつは思っとるんか? 俺だって悪い事をしたなと感じたらちゃんと謝るぞ!!

 

「ちっ、もういい。ビナスこれを知ってるか?」

 

ターレスは小さな箱を取り出し中を開ける。するとそこには小さな植物の種があった。何やろ? 稲かな? もしかして農耕民族目指すってか?

ニヤリとターレスはあくどい顔をして笑い「これは警備兵達が厳重に保管してやがった物でな……植えたら惑星を枯らす神精樹の種ってやつらしい」

 

 

 俺は真剣な顔をして「ちょっと来い」と言ってターレスを囚人達から離れた所まで連れて行く。そして何だと訝しむターレスに神精樹の実について説明をすると、ターレスは獣のような笑みになり「つまり、もし超サイヤ人になれなくてもフリーザをやれるって事か?」と俺に尋ね、こくりと頷く。

 

 

 

「あ、でもフリーザには兄貴と親父が居て、兄貴のクウラは5億位で親父はフリーザの最終形態よりちょっと弱いくらいやったな」

 

 ターレスはそれを聞くと笑みを止め「お前はちょっと待ってろ。種を安全な場所に置くから」とどこかへ行く。何で待たなあかんねんなと文句を暫くブツブツ言っているとターレスが帰ってくる。

 

何をしとんねんとターレスに聞くが、俺の問いに反応せずにズカズカと俺に近づいて「そう言う事は早く言え!」と俺の頭に拳骨をする。

 

 

 

そこからはまた泥沼の喧嘩が始まり、お互いボロボロの体で帰還した。もー毎回こんなんやわ。

 

 

 

 

 



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いつ通りな日々、いつも通りな関係。後は探し物が1つ

 俺とターレスは帰ってくるといつも通り担架に運ばれて治療ポッドに入れられる。ポッドが降下中に既に担架用意されてるのを見てちょっと笑ってもうたわ。「今回もボロボロですね」って隊員に半笑いで言われて、やっぱりいつもボロボロやからわかりますか? って聞いたら「ある意味有名ですよ」とちょい声のトーンが落ちた。

 

その感じからしてある意味って悪い意味っぽいなぁーって思って、言いたくなさそうやったから隊員に突っ込まずに「ふーん」と流してたら通りがかったキュイが答え言うてくれたわ。

 

 

「フン。いつもボロボロに帰って来やがって……、今度はどんな星に行ったんだ?」

「ナッツ星です。それがどうしたんですか?」

 

キュイはそれを聞くと腕組みをして俺達を蔑んだ目で

 

「あんな戦闘力の低い星でそのザマかよ……ザコ共が」

 

ヒュ~、キザだねぇ。ターレスの方を見ると完全無視して眼中ありませんって感じやわ。

 

「それはどうもすいません。早くキュイ先輩のように強うなって無傷で帰って来れるよう精進しますわ」

 

 しゃーないから俺がターレスの分も代わりに下手に出て答えると鼻で笑って「出来損ないの猿が俺みたいに強くなれるかよ」って言って笑いながらどっか行った。ベジータと互角の力があるからか? こういう高慢な態度そっくりでおかげでちょっと笑ってもうたわ。

 

ターレスにもその事を言ったら

 

「クックッ……、笑わせんじゃねぇよ全く」

 

やっぱお前も思ってるんやないか。隊員にもその事を言ったら「ノーコメントです」と半笑いで答えた。これはちょい思っとるな。

その後、談笑ついでにベジータ達の事を聞いたら、何でもベジータが気弾を撃つのが早いってラディッツが褒めたら急にベジータが不機嫌になったとか……。何でや、不機嫌になる必要ないやろうに。グミ撃ちはお前の代名詞やろ。

 

 

 治療室に入ると運んでくれた隊員が「気にしない方がいいですよ」って俺とターレスを気遣いながらポッドに入れてくれた。さっきのキュイの物言いの事やろうな、俺は全く気にしてへんけれどな。ターレスも完全無視しとったから気にしてへんやろうな。

 

 他の連中は知らんから俺とターレスは目的があって毎回喧嘩してボロボロになってるとは思わんもんな。まさかボロボロになって復活したら、パワーアップをある程度まで繰り返す何て想像出来ひんわな普通。知ってても抑えとるせいで他人の目から見たら8000で成長が止まったってなってるやろうね。

 

 ザーボンに仕事の報告する時も「サイヤ人は瀕死から回復すればパワーアップすると聞いていたが……、思ったより伸びないのだな」って言われたしな。まあ、今の所俺達の思惑通りに進んどるな。

 

 

 ボーッと考え事をしている間に隊員達が俺達の着替えとタオルを用意して部屋から出て行き、そこから20分後、俺の傷が完治したと知らせるブザーが鳴って薬品が排出され扉が開く。

 

お、気が利くやん。俺の着替えとかはターレスに見えないようにポッドの中から取れるようにしとる。着替え終わり、ターレスの方を見るとまだ治療中やった。

 

 意識してなかったけど、回復力は俺の方があるんやな。俺は部屋から出て行くフリをし、いつも通りターレスのポッドにいたずらするために超スピードで近づき強化ガラスを叩く。

 

俺がニシシって笑うと、呆れた様子でターレスは軽く殴る素振りをして早く行けと手を振る。じゃあお言葉に甘えて先帰らせてもらいますわ。

 

 俺はいつもやっている、通り過ぎる奴達が自分より強いという前提で頭の中で戦うシミュレーションしながら自分の部屋に戻った。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ビナスが部屋から出て行ってから10分後、ターレスのポッドが治療を完了して扉が開く。そしてターレスは手早く体を拭いて着替え、目を瞑って深呼吸をしながら以前の自分との変化を調べる。

 

「……よし」

 

――ナッツ星に行く前より強くなっている。

 

 それを実感したターレスは含み笑いをして喜びを噛みしめる。ビナスから聞いてはいたが毎回瀕死からはほど遠いとは言え、サイヤ人の大怪我からの復活によるパワーアップがこれほどとは正直思わなかった。超サイヤ人の変身に耐えうる300万付近か、伸び代がある限り戦闘力は上がっていくと言っていたが、このまま無限に続くのでは? と勘違いしてしまう位だ。

 

「はっ、それは流石に甘い考えか」

 

 ターレスは自嘲気味に笑って考え改める。そしてターレスは自室に帰るまでの道すがらナッツ星でビナスとの戦いを振り返る。昔は戦闘力の差のせいで勝てなかった、15歳までは先にビナスが成長期に入り、身長差故に勝てなかった。身長差が逆転してある程度は勝てていたが、ここ最近ではまた急にビナスに勝てなくなった。

 

その理由は戦い方がガラリと変わったからだ……、とターレスは感じた。前までは足を止めてからの大振りの攻撃だったのに、今ではフットワークを駆使し、ここぞと言う時にしか強い打撃をして来なくなった。

 

中でもあの一撃は脳の芯まで響きやがった、おかげで数秒動けず勝負の決め手になった。と、ターレスは右脇腹を軽く撫でる。自室に戻り、空想の相手を頭の中で作り出してビナスの動きを再現していく。

 

 ターレスは想像の相手が打ち下ろすような右ストレートを掻い潜り、体を捻って左の掌底を下から脇腹に向かって打つ。これは相手が自分より上空に居る時か、背が高い奴に効果的な技だなと思い、次は防いでやると思った。

 

ナッツ星での2回目の喧嘩が終った後に、気になったターレスはどこで覚えた技なんだと問い詰めれば、ビナスは「テレビとネットで見ただけやねんけれどな、それだけで出来るなんて流石サイヤ人やな」とまるで自分がサイヤ人ではないような発言をした。

 

 ビナスは時々自分がサイヤ人ではないようなおかしな事言う。ターレスはまた始まったと思って気にしないようにした。更にビナスが言うには、今回決め手となった技は本来脆い1番下の肋骨を折って肺に刺す狙いがあるのだが、試合に使う場合は折らないように気を使っていると……。

 

ギリッとターレスは歯ぎしりして悔しさを滲ませる。気を使っているという事は手加減をしている他ならない。だが、単純な力比べならば勝っている。だからこそアイツは技を使い出したのだ。自分が技を覚えればすぐに追いつき追い越せるとニヤリと笑う。

 

 そして一通り受けた技を反復練習して軽く汗を流した後は、コンピューターを操作して貯金を調べる。8億の数字が見えて、ターレスは後もう少しの辛抱だと思いながら技術部から渡されたデータを見る。そこには地面に5m程埋め込んで操作すれば、縦30m横15mのドーム型に広がる重力装置の説明があった。

 

「へっ、あの時は高い買い物だったぜ」

 

と思わず独り言を呟く。当時の貯金は300万だったのにデータは150万もしたのだ、あの時は痩せる覚悟をしたものだがビナスが奢ってくれたり、1番最初はリャーシー星人よりマズイ料理を食わされたものだ……。

 

それを指摘したら「うっそやろ!? マジで? 味見してへんけれど匂いはそんな感じせぇへんけれどなぁ」とふざけた事を言い出した。

味見しろよこのクソアマと思って、一口食べさせたら星人の腕を食べた時より盛大に吐きやがって後が大変だったし、処理した後はまたポッドに入る位大喧嘩したなと今では懐かしい思い出だ。

 

「まっ、最近のアイツの料理は食堂と同じ位うめぇから今夜の食事が楽しみだぜ」

 

ターレスはシャワーを浴び、ビナスが部屋の中に入るまで穏やかな気持ちで一休みした。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「まだ4億しかないやんけ……」

 

 俺は思わず現実を認めたなくて、机に突っ伏す。給料そない変わってないのに18億まで貯めるなんて無理やんけ。18号やないぞ、18億やぞホンマまじで。戦闘力8000の枠内で仕事をしとるからあんま金貯まらんわ。

 

もう戦闘力隠さずに仕事したろっかなー、と一瞬思たけれどそれしたら今までの苦労は何やってんってなるからせぇへんけれど……。

 

 あ、せや。今思い出せば悟空って重力装置で訓練したのってナメック星に行くまでの1週間ほどやったな。って事は……無理にしなくても強うなるって事かいな。なーんや! 今すぐ必要って訳でも無いし、地球に行ってブルマかブリーフに頼めばええやんけ! そうと決まれば今夜はパーティーや! あっでも、ここまで必死に貯めたんやからあんま使わんとこ。

 

 俺は食材売り場に行き、今夜は肉料理中心と予め決めていたので手早く買い物を済ませる。そして1時間で料理を完成させる。俺の料理は本当に“手”料理やからな。気の扱いが自分でも上手いと思う位出来るから包丁なんていらんもんな。焼くのだって気でやっとるし……、でも煮込むのだけは一定時間付きっきりになるから火を使っとるけれどな。

 

最近は盛り付けも拘りたなってもうたわ、ターレスを呼ぶ前に綺麗にしてっと……。しゃあ完成や! 俺はターレスを呼ぶため部屋に入る。お? また寝てるんかいな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはイタズラしてもええっていう無言のメッセージやな! よっしゃ、その気持ちに俺も応えたるわ! 前は防がれたけど今ならどうや? 俺は伸身宙返りをしてボディプレスをターレスにする。

 

「起っきろ~、ターレッぐぅえふぅ!?」

 

こっ、こいつまた昔と同じように膝を曲げやがった! や、やるやんけ……。

 

「お前、だから毎回普通に起こせって言ってんだろ」

「か……、考えといたるわ」

 

 

 考えるだけかよ……と呆れた様子のターレスはほらよと手を俺に差しのばし、俺はその手を取って起き上がる。そして俺はターレスを部屋に案内し、今日の料理は自信あるで! っと言ったら「そうかよ」と軽く笑ってから俺のイスを引いて座れよと目で合図する。

 

ほえ~、おいちゃんビックリ~。ターレスが紳士的でビックリ~。俺は行動に甘えて先にイスに座る。ちょっとだけ座る瞬間にイスを引いてこかそうと企んでるんちゃうか? と思ったのは内緒や。

 

それから談笑しながら料理を完食し、俺がやらんでええよと言っているのにターレスは皿と鍋を軽く洗って洗濯機くらいの大きさの40万もした自動食器洗い機にセットして帰って行った。

 

俺は食器洗い機が洗っている間に風呂に入る。そして下着を確認するとやっぱり1着無かった。裸のまま部屋の隅々まで探したけれどやっぱ無かった。

 

「やっぱ無いやんけ、もうええわ」

 

諦めも肝心やね!

 

 



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体もってくれよ! 30倍だーー!!

 ナッツ星の侵略から8年が経って25歳。この年齢になるとアレやね、アレアレ。持て余すのよ、アレが。性欲がよぉ、時々爆発しそうになるんよぉ~。ネットで売春サイト見てもちょっとちゃうやろってのばっかりやねん。

 

 地球人感覚でアプールとか、キュイみたいな女星人はちょっとなぁ~。誰か居らんのかな? こういう時は原作でも思い返してみるか……。チチは悟空の嫁、ブルマは王子の嫁。18号はクリリンの嫁、ランチ……、ランチは天津飯の嫁。あれ? ランチって天津飯と結婚してたっけ? まぁ、ええわ。天津飯の事好きって言ってたからスルーやな。

 

 天津飯言うたら太陽拳、黒歴史の排球拳、鳩尾にいいのを食らったら関西弁になる、分裂する四身の拳……。お? 自分が4人って事は? イケるやん!! 自分で言うのも何やけれど、俺って目の前に居ったら土下座してお願いするレベルのマジ美女。最近は風呂上がりの自分の姿を鏡で見て襲いてぇって思う位やからな。

 

 気の強そうな切れ長の目、薄い赤髪、165cmの背、程良く鍛えられた体で6パックの腹筋。胸は詳しく調べたおかげで知ったFカップ。そんな奴が3人も目の前に居たら……? 狼になるやろうがぃい、アオーーーーーーン!!! 

 

 

 

 

 

 

 あ、冷静に考えたら中身俺やねんな。あかんわ、意識すると前世の俺の姿がダブって、獰猛で狼な気分が可愛いチワワになって性欲がプルップル震えとるわ。

うん、普通に無理やわ……………………………………って、うわっ!? 自分で自分を振ってめっちゃショック受けててビックリした!! 

 

 

 

 あかんあかん、気分を変えて続きや続き! 後はえーっと、ビーデルは悟飯の嫁。パンは……あかんし、ブラもあかんな。俺ロリコンやないし。他は誰居たっけ?

 

 ――あ! ザンギャ居るやんけ!

 

 ええなザンギャ、登場時は敵やから何してもええって事やろ? 戦う所も無人の建物が舞台やから連れ込んでOKって事かっ! エロイなーザンギャは、無自覚に俺を誘っとるやろこれ……絶対襲ったんねん。

 

 確かザンギャって東西南北の界王が力を合わせて封印したんやったな。ほんで1人でも死んでしもうたら、封印が解けるって代物やった筈……。あ~、はよ死なんかな界王。事が済んだらドラゴンボールで生き返らせるから俺がやったろうかな?

 

 あっ、でもアカンわ! ザンギャ今の俺より遙かに強いわ! 時系列で考えたらセルが自爆で北の界王が死んだから封印が解けたんやったな。ほんじゃあ、俺今よりむっちゃ強ならんとアカンな。後は誰居ったっけなー……、ファイターズの21号や! ドチャエロの21号が居ったな!

 

 しもたー、あのエロの権化を忘れとったわー。あいつランチみたいに2重人格やから、あーしてこーしたら2度おいしいって事やな。ええぞー、悪に攻められるのもよし。善で無知っクスやれるのもよし! 最高やんけ! でもザンギャより強いから今はまだ手が出せんけれど、善ならチョロそうやし言いくるめたらワンチャンあるか?

 

 

 それと21号は精神年齢10歳やったっけ? 

 

 

 …………ふぅー、しゃーーーないなぁホンマ。俺が教えてあげるしかないんやろうな。勉強部屋で2人きりで手取り足取り……その体がどんだけけしからんか大人の俺が指導するしかないやんけ。世話が焼けるわホンマ! やべっ、想像したら涎出てきた。

 

 

「おい、ビナス。お前も仕事しろよ」

 

 

 まっ、今はとにかく2人、もしくは3人を抑えつけるために強くなるのが先決やな。ここは多分超時空と劇場版時空が一緒になってるから、ゲームも「おい! 聞いてるのか!?」……何やねんな人が壮大で崇高で偉大な考え事しとる時に、もー。俺性欲が溜まると妄想の女相手に色々と考え事するから気づかへんかったわ。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「何やターレス。何か用?」

 

 岩場に体育座りをしているビナスが優しく微笑む。

 

「何か用? じゃねぇよ。最近の侵略を俺にばっかりさせやがって……、お前もやれよ」

 

 ジト目でビナスを睨み、気弾を撃ちながビナスに抗議するが、ターレスの苛立ちの矛先はビナスではない。それはビナスも分かっているので落ち着いた反応を示す。

 

「いやいやいや、相手弱すぎやから手伝うまでもないやん」

「弱すぎて歯ごたえが無いから代われって事だよ」

 

 そう、2人は未だ超サイヤ人にはなれないとは言え、戦闘力は神精樹の実を食べているおかげで400万を超えている。そして侵略する星々の1番の使い手は戦闘力3000がいい所で、2人にとっては赤子同然で退屈するのも無理はない。

その上気を読む力の範囲が惑星1つ覆う位あるので、わざわざ敵が居る所まで行かずにその場で気弾で狙い撃つだけで事足りるのだ。

 

 

 ビナスは大きく欠伸をし、くるりと体を半回転してから軽く両手を上げて仰向けに寝る。岩場が少し丸く、体が反ってしまう形なのでビナスの胸は強調される。そして顔を横に向けて流し目で見ながら優しく囁くように言葉を紡ぐ。

 

「頼むわ、ターレス。今回も1人で頑張ってやっといて。帰ったらまた美味いもん作ったるから……な?」

 

 ビナスのその扇情的な姿と言葉の質にターレスはゴクリと生唾を飲みながら「チッ、わぁーったよ」とわざとぶっきらぼうに答え、引き続き気弾を撃つ事に集中する。

 

 

 時折、ビナスの事が気になってしまって力加減を間違えながら――。

 

 

 

 

 

 侵略が終わり、2人はいつも通り緑や資源が極力少ない所で戦闘訓練と、ターレスが大猿になっても出来るだけ長く理性が保てるようにする訓練をする。そして戦闘力8000であったなら掛かったであろう時間調節した後に侵略が完了したという報告と、映像をポッドの装置で本拠地に送信し、同時に休暇届けを出す。その後の帰りは生物や植物がほぼ無い状態の星に立ち寄って神精樹の実を植える。

 

 ただし、ただ植えて待つだけでは無い。ビナスは苗床となる惑星に一工夫と、ターレスは濃縮還元をする為の石の鍋と火の用意、味を良くするための調味料を用意し、更に強大な戦闘力だからこそ出来る人力遠心分離機を作成しながら樹が育つのを待つのだ。

 

 

 手に入れた当初は何も手を加えずに熟れた実を食べるだけだった。しかし、それだと200~800前後位にしかならなかったし味も良くなかった。そして何度か神精樹を植えたある日、雀の涙程しか上がらぬ戦闘力に、ターレスは焦れてビナスに侵略した惑星の方の土壌が良いから植えようと相談を持ちかけた。

 

だが、ビナスは否定する。

 

「確かにカスみたいな惑星に植えるよりかはええやろうな。でもな、そうすると俺達は仕事が出来へんとフリーザに思われてしもうて、派遣される回数減ってまうやんけ」

 

 と、至極全うで納得が出来る返答をしたので、ターレスはビナスに悪い物でも拾い食いしたのか? それもとも熱でもあるのか? と尋ねた。それを聞いたビナスは悪役のような三段笑いをした後、ターレスに殴り掛かっていつも通りの喧嘩へと発展した。

 

 その後、お互いボロボロになって気分が落ち着いた頃にビナスから「分ける事も出来るなら、与える事も出来るから安心せぇよ」と含みのある事言って神精樹の実を植えた後、ビナスは地に手を当てて気を送り込む。

 

 

 別の次元で悟空は神精樹の元気……気を利用して元気玉を作ってターレスを撃ち倒した。ならば逆も出来るのも通りである。ただし、これには緻密な気のコントロールが必要であり、加減を間違えてしまえば惑星自体が崩壊してしまう。赤子の頃から訓練をしていたビナスだからこそ可能な技術だ。

 

 そして実が成って食べると5000以上の力が上昇して2人は破顔する……が、すぐにその表情は険しいものになる。何故なら目の前に広がる実の数は軽く40を超えているからだ。いくら大食いのサイヤ人と言っても味が良くないものをこれだけ食べたくは無い……というのが本音だ。

 

 その日は実を数個ほど袋に入れ、後は事務的に食べて惑星を去った。そして本拠地に帰った2人は目で合図をした後にそれぞれ行動に移る。ビナスは実の調理法を模索し、ターレスは実に合う調味料を買い漁った。

 

 月日が経つにつれておいしくなっていく神精樹の実に嬉しく思う反面、この数はどうにかならないのかと新たな工夫を施した。それが数をどうにかする濃縮還元と、量をどうにかする戦闘力が増える成分とその他を分けるための人力遠心分離機だ。

      

 2年掛けたこの方法により水分が少なく、味が薄く渋いリンゴのような実を40個以上食べなければならなかったのを、味を改善させた上で200㎖飲むだけまでに減らし、更に気を送り込む技術も上達したので、神精樹が耐えられる限界まで出来るようになり、1つの惑星につき10万~20万の戦闘力が上昇した。

 

そして今回も…………。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 俺はブンブンと神精樹のジュース、略して神ジュースが入った岩をジャイアントスイングで振り回す、空中に居るターレスをボーッとデカい根っこに座って見る。傍から見るとアホみたいやな、俺もさっきやったから言わんけれど……。

 

 しばらくするとセットしてあったタイマーが鳴り、ターレスが降りて来てしっかり塞いであった蓋を取る。そこには上が比重が軽い水分の下に、戦闘力を上げる成分に分離している神ジュースが見えた。

 

 俺は水分を捨てて神ジュースをコップに入れてターレスに渡し、ぺたん座り……俗に言う女の子座りをし、顔を上げて口を開く。この体勢が1番人から飲ませて貰うの楽やわ。

 

 

 神精樹の実を食べた時って、筋肉に電気を流した時みたいに収縮すんねんな。そのせいで顔のすぐ近くで実を握り潰してもうた上に汁が目に入って「目がぁーっ!! 目がぁーっ!!」って涙止まらなくて10分位呻いたわ。玉ねぎの30倍位しみたわ! 界王拳じゃないんやぞ!

 

 

 ターレスめぇ……、俺が食うまで黙って見ときやがってぇ。こういうんはお前の役目やろうが!

 

「ほらほら、ターレス。早よ飲ませてーな」

「…………ああ、ほらよ」

 

 零さんように気を使いながら少しずつ口に含み、すぐに飲みたい欲求を我慢しながらコップから口を離して飲み込む。

 

 

 

 キターーーーーーーーっ! これこれ、達成感や他人に勝った高揚感を合わして数倍にしたこの感覚! 病み付きになるでこんなん! 気ん持ちひぃぃぃいい! 俺は今、究極のパワーを手に入れたのだーっ!! 毎回思っとるけどな!

 

「ふぅーーー、最高の気分やわホンマ。んじゃあ今度はお前の番な」

 

 俺は膝を叩いて寝転がるようターレスに催促をする……が、ターレスは「自分で飲む」って言って空のコップに残りの神ジュースを入れて勢いよく口に入れた後、乱暴にコップを捨ててから飲みおった。

 

 何やねん、人がせーっかく親切心で鼻に入らんよう飲ましてやろうと思ったのに。まっ、ええわ。

 

「じゃあ、帰るぞビナス」

「おうよ」

 

 そして俺達は残りの神ジュースをビンに入れ、ポッドを呼び出して惑星から去る準備をした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 の前に、ちょっとムカツクからこいつの尻尾握ったろ!

 

「……あ? 何だよ?」

「お? 尻尾の弱点無くしてるやん」

 

 ターレスは盛大に溜息をついて「いつまでも弱点残しておくバカがいるかよ」とぶっきらぼうに答えた。おい、ラディッツをディスんなよ。まぁ、俺も5歳までには克服したけどな。あのたまにある、体が寝てるけれど脳が起きてる時の力が入らない感覚に似とんねん。それが面白くて寝る時ずっと握ってたからな。

 

「そういうお前はどうなんだ……よっ」

「うひぃ!? 止めろや、くすぐったいねんアホー」

 

 でも、他人に触られるとこしょばいねん。くっそ、面白がって触りやがってぇ。脇腹くすぐったるわ!

 

「ちょっ、お前も人の事言えねぇだろ!」

 

 俺とターレスはポッドが来るまでの間、悪ふざけをしながら時間を潰した。そして帰った後はお楽しみの給料がどれ位入っているかの確認作業。見ると俺の今の貯金は15億で、もうちょっとで重力装置を買える財力になっていた。

 

 でもな~、18億貯まってすぐに買うってのはあかんな。その後の生活どうすんの? ってなるし……せや、地球に行ったらフリーザと敵対するし借金したろ! でも、誰に借りよっかな-? 生活考えて4億貸してくれる奴なんて普通居らんぞ。 

 

 俺達前線の奴等は死ぬ可能性があるから金借りようと思ったら、目に見える価値がある担保が必要やからな。俺が借りれる相手って言うたら正直居らんな……、隊員達に知られる程に俺達はある意味有名って言ってたから余計貸さへんやろうなー。

 

 うーーん、あっ。居るやん1人だけ俺に喜んで貸してくれる奴がよぉ……。

 

 俺は部屋から出ると丁度ターレスも部屋から出て来て購買に向かっとる。ナイスタイミングやで! あれ? でもちょっと不機嫌な顔しとんな。

 

「チッ、あんな注意書きがあったなんて今更気付くとは……クソッ。そんな程度じゃ意味ねぇっての」

 

 ? 何独り言ぶつくさ言っとんのやろ? まっ、どうせ新発売の家電製品を買ってみたはええけど、トラブル続発って感じやろうな。分かってないなぁターレスちゃんは、家電製品の第1世代はまだまだ未成熟やから買ったらアカンねんぞ。

 

 

 そこら辺はまた今度教えといてあげようかねぇ、一応俺は精神年齢的に大人やからな。まっ、今はお金借りよ。

 

「おーいターレスどこ行くん?」

 

 ターレスは振り向き「購買で腹の足しになりそうな物を買おうと思ってな」と不機嫌な口調で話した。う~ん、これは金貸してって言う雰囲気やないけれど一応言ってみるか。

 

「あのさ、ターレスに頼み事あるんやけれどええかな?」

「頼み事? 今度は何だよ?」

「お金を4億位何も言わんと貸してくれへん?」

 

 ターレスは目を見開き「は? 4億!? 冗談じゃねぇ」と断る。ですよね~、でも俺は諦めへんぞ! ここは伝家の宝刀を抜く時が来たな、食らえ必殺の

 

「一生のお願いや! 頼む!」

「おいおい、お前の一生は50回以上あるのか? 大体4億の大金を何に…………あ~~成程な、いいぜ貸してやるよ」

 

 おぉ? よっしゃあ必殺の一生のお願いがまた効いたようやな。ターレスの雰囲気が柔らかくなったぞ! でも何で悪役みたいな笑顔しとんねん……。まっ、貸してくれるならなんでもええわ。 

 

 俺はターレスからお金を借りると早速技術部に乗り込み、超ドヤ顔でお金を渡して重力装置を作ってもらう。「2週間掛かるから気長に待ってて」と言われて俺はその日を楽しみに待った。

 

 

 

 

 そして来たでー、装置が出来上がったって言う連絡が!

 

 

 ターレスに察知されんよう夜に抜け出し、外で待機している技術部の連中と落ち合って10m位あるコンテナの荷台の上に飛び乗る。

 

 重力に他人が巻き込まれないよう安全のために、普段は誰も行かない辺鄙な所まで車に揺られる事40分。コンテナが開き、待望の装置が姿を現す。デッカ! 横2m、縦5m。下にドリルがついてて白色で統一されとる。ええやん、ええやん。オラ、ワァックワァックして来たぞ!

 

 地中に埋め込み終わり、技術部の連中が俺にサインペン位のコントローラを渡し、操作の説明をした後「じゃあ夜も遅いから帰るね」と言って帰って行った。

 

 へぇ、機械の保護のために自動で穴を埋めていくんやね。こっちで埋めないとアカンのかな? めんどくさって思ってたけど助かったわ。

 

 よし、早速起動や! 俺はつまみを回してとりあえず20倍の重さにする。

 

 

 …………あー成程なー、こういう感覚か。下に引っ張られるような感じと全身に水圧が掛かっとるようやな。面白いやんこれ、テンション上がるやん!!

 

 俺はクルクルとつまみを回していく……、ん? 回しとるけれど途中で負荷が掛かっとらんような錯覚がすんなー。何やろ? コントローラーの表示を見ると30の文字があり、もう1度つまみを回してもそれ以上の数値が上がらなかった。

 

 は? ちょい待てや。逆に回したら少なくなっていってるって事は、30以上は上がらんって事かい……。意味無いやんけこんな重力じゃあよー! 俺はすぐに帰って技術部に言いに行ったが「100倍とか300倍とかになると値段も100倍、300倍以上になるよ? それとちゃんとデータに30倍までって書いてあったでしょ」と言われ、自室に帰って確認するとちゃんと最後に書いてあった。

 

 

 クソッタレー!!! 最初に書いとくか予め言うとけや!!  



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交渉は俺に任せろー!

 衝撃の重力30倍と生理でふて寝しとると、次の出撃の命令の連絡が来た。今度はどこだといつものようにルート確認すると、ナメック星まで2日ほどの距離だった。

 

 うっしゃ! 遂に来たで、この時が! 今回は訓練を軽めにしよってターレスにも言うとこ。まぁ、今の訓練は先々の相手を想定しとるのが中心やし、神精樹の実を食べへんと、もうボロボロになって回復しても力が上がらへんからそこまで追い込んでやってないけれどな。

 

 そんじゃあ早速ターレス誘って行こうかな、俺は部屋から出てターレスの部屋に入る。お、寝とるやん。

 

 OK、これはイタズラしてもええって事やな。今回は何しよっかなー? ボディプレスは昨日やったから今日は歌おっか。じゃあ早速ギターを持ってきて……っと。

 

 ターレスは寝ぼけ眼で「今度は何すんだよ?」と笑いながら言うが関係なし! 俺の気分は今歌うべきだと言っているので準備をする。生前カラオケやライブで鍛え、つべで動画アップして今のフリーザといい勝負出来る100万再生の歌声を聞きやがれ! この曲好きやってコイツ言うてたしな!

 

「この世界に敬意とぉ! 俺の魂を込めてぇ! 俺はぁ! 歌います! 行くぜSuper Survivor!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 歌い終わってセンキュー、センキューと言ってとっくに出発の準備を終えているパチパチと拍手をしとるターレスと握手をする。

 

 

「やっぱり歌上手いな。それに何回聞いても良い曲だぜ」

「だっろ~?」

 

 俺はニシシと笑ってドヤ顔をすると「調子乗るんじゃねぇよ」と頭をワシワシと撫でてくる。この曲はドラゴンボールのゲームの中で1番良い曲やと思っとるからな、何というかドラゴンボール以外に似合わんって感じが好きやねん。

 

 

 それにしてもデカなったなコイツ、185位あるやんけ。これは俺の料理のおかげやな! 料理にハマり始めてから栄養バランス計算して作っとって、今じゃノート35冊あるわ。後もうちょっとでDBが完結した42巻に届くな! それにしてもその身長ちょい羨ましいわ、ポルンガに5cm位上げて貰おっかな?

 

 

 俺はギターを自室に直し、そして技術部に借りたとある装置を持ってターレスと談笑しながらいつもの道を通ってポッドに乗り、惑星から飛び立つ。帰ってくる時は願いを叶えた後やろうな、俺とターレスがどうなってんのか楽しみやわ。

 

 今回も食事を作る約束をしてターレスに侵略を丸投げし、俺は終わるまでナメック星でどういう行動をとるか考えておく。

 

 ナメック星人はこれからの事を考えて、敵対せぇへん方がええからな。まずは話し合いしてから、長老達が出す試練をこなしていくのがベストやな。

 

 そんであいつらは何か特殊能力か知らんけれど、邪悪な気を感じるから渡さへんってベジータに言うてたな。と言うことはだ、悪なターレスなら渡さへんってなるかも……。

 

 そん時は俺だけが使うって適当吹いといて、俺が代わりにターレスの願いを叶えればええか。っつーか、邪悪な気ってどんなんや? そんな感じはこれまで無かったけれどなー。フリーザでも強い気を感じるなぁ位しかわからへんし、むしろ近寄って「オッス! 元気か!?」って友達みたいに肩叩いて挨拶したい位やもん。悪党達に囲まれてるから邪悪な気を感じる能力がマヒしてるかもしれんな。

 

 

 あれこれ考えている内にポッドから薬剤が噴き出し、コールドスリープの準備が整い始めて俺は目を閉じて眠気に身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 惑星に到着してからパパっと侵略が終わり、ナメック星のドラゴンボールについて軽く説明をターレスにしてやると「何で今になって言いやがる?」何か企んでんのか? って疑いの目で見て来やがる。

 

 

 企んどるに決まっとるから今言うんやんけ。まだ誰にも注目されてないこの時期だからこそ俺とお前で願いを独占できるやん。

 

 

「あのなぁ、この事はギリギリになってから言うから意味があるんやんけ。もしかしたらお前に言った弛みで俺とか、お前が酔って誰かにポロッて言うかもしれへんやん。ドラゴンボールの事はなるべく余計な奴等に知られたないからな」

「ほー……じゃあよ。お前がこれまで歌った歌詞の中にドラゴンボールが入ってたのは何なんだよ?」

「ん? うーん……んへへへへへ」

 

 俺は頭を掻きながら笑って誤魔化すと、ターレスは「またそれかよ、いい加減お前はどこでそんな事を知ったか話せよ」とジト目で見ながら言って来る。

 

 オーウッ! やってもうた!! いや、まぁどうせコイツの前でしかドラゴンボールの歌は歌って無いし、言うつもりやったからええやろ。出し物の時は別の歌でサイヤ人の身体能力ゴリ押しのアカペラやったから問題無いしな!

 

 

「めっ、女々しい奴やのお前は! まだ教えたらへんわ!! まぁ、そんな事よりもだ! ナメック星人とは今後のお付き合いというものがあるからな! 絶対に無理矢理奪ったり、敵対行動は控えろよ? 絶対だぞ!?」

 

 俺は絶対だからな! と念を押し、釘を刺すの2コンボでターレスに注意をするが「どうどうどう。はいはい、わかった、わかった」と俺をじゃじゃ馬扱いしやがる。この野郎……噛みついてやろうか。

 

 喉を鳴らしながら睨んでいると、何を思ったのかターレスは猫じゃらしに似た植物を取って俺の目の前で「ほれほれ、取れるか?」と猫じゃらし擬きを揺らして挑発してきよった。

 

 

 

 …………………………はぁ~あ、25にもなってそないな小学生みたいな事をするかいな。俺は前世ある分なぁ、後もうちょっとで五十路やぞ! だけど目の前でやられるとウザいからさっさと取って大人の余裕をもって注意し、大人とはこうあるべきだという規範を見せたろうやんけ。

 

 

 俺はちょっとだけ気を高めて取ろうとすると、ヒョイッと避けられて空ぶる。……もうちょい気を高めよか。またしても空ぶる、空ぶる空ぶる空ぶる―――――。

 

 

 

 

 …………ターレスと目が合うと、イタズラ小僧のような笑みを浮かべたので、俺も笑い返してやると「うおっ!? 怖い怖い」とビックリした表情をした後に、肩をすくめながらほざきやがった。

 

 ほーう、普通に笑っただけやのにそないな事を言うんかお前は……。ククク、いいだろう見せてやる! こいつがお望みのフルパワーだっ!!!! 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 ビナスは一瞬で10m程後退し、体を前傾にしてダラリと両手を下げると、表情が獰猛な笑みになり瞬時に彼女は自身が持つ最高の戦闘力となった。

 

 

 ターレスはそれを瞬時に悟り、彼もまた獰猛な笑みになりながら猫じゃらし擬きを口に咥えて戦闘力を限界まで上げ、気弾や組技を警戒して手を少し開いたムエタイの構えをする。

 

 

 これだ――、この緊張感を待っていたんだ。とターレスは歓喜に震え、ビナスにはまだもう1段階先があると油断無く構える。

 

 

 ターレスはビナスの攻撃を捌きながら思い返す。最近はビナスとは本気で戦っておらず、やる事と言えばスタミナが無限で気弾を吸収する相手、大柄で攻撃が思うように効かない相手。風船のように殴っても元通りになるような相手、ワープをして剣を使う相手。大猿程巨大でしかもワープするような相手。切り傷を負ったらアウトな相手。少し前までは飛ぶのを禁止し、どんどんと崩れていく足場を想定とした立ち回りを何度もやった。

 

 

 ビナスは理由は詳しく話さなかったが、これは必要な事だと頑として譲らなかった。ターレスにとっては最初は新鮮で面白く、穏やかな気分になっていたが、それでも面白さと緊張感はビナスとの戦いには数段劣ると感じていた。

 

 

 それもその筈、彼女との戦闘は1年ほど前からは正に命懸けだったからだ。

 

 

 

 ゴッ! お互いの攻撃が当たり、衝撃波で地が割れる。両者は示し会わせたように1度距離を取置き、ターレスは口の端から血を流しているビナスを警戒しながら呼吸を整え、防御した自身の腕の具合を見る。

 

 そこには筋肉部位の隙間へと正確に打ち込まれた1cm程の紫色に変色した打撲傷があった。

 

 

「――流石だぜ、ビナス」

 

 

 お前はおぼっちゃまを戦闘の天才だと言っていたな……確かに俺もそう思う。だが、プライドが高すぎるせいで戦い方が正直な分、予測が出来てやりやすかった覚えがある。俺はお前こそが戦闘(何でもあり)の天才だと思うぜ。気弾の類も何とかケイシとかお前が言う方法で逸らしやがるしな。まぁ、それでも……負けてやるつもりはねぇけどなっ!!

 

 

 

 ターレスは自身に活を入れ、改めてビナスを見ると四足獣のように手足を地に付けて凄まじい殺気を放っていた。

 

 

 来やがった!! 

 

 

 ターレスはビナスがもう一段階先になったと瞬時に理解し、彼もまたこの時のビナスのために考案した構えを取る。左手を前にした半身、そして右拳を腰だめにする。それは一見空手の正拳突きを放つような様相だが、1つ違うのは右膝を地に付ける寸前まで落している事だ。

 

 

 ターレスは緊張をほぐすため、知識があったわけではなく、そうした方が良いという本能に従って空手の呼吸法をする。そしてビナスもまた自分にあった呼吸法をして余計な力が入らないようにした。

 

 

 

 恐るべきはサイヤ人の遺伝子だ。ビナスが『彼』だった時は喧嘩等した事が無く、格闘技の経験も義務教育で柔道を少し囓った程度のお粗末なもので、知識は動画でプロや達人達がやっているのを見ていただけだった。

 

 本来ならば戦闘力が互角になった時点で筋力や、体重と身長差によりターレスに殆ど勝てなくなっていただろう。だが、『彼女』は見ただけで技を見切り、真似が出来るベジータや悟空と同じ民族だ。故に、生まれたその日から達人だったのだ。

 

 

 そしてターレスもまたビナスを通して現代武術を吸収して達人の域に達している。

 

 

 

 

 

 かぁっ!!

 

 

 

 

 ビナスが周辺の地を声だけで吹き飛ばす程の気合いを入れると、髪が逆立ち始めてユラユラと揺れる。ターレスはビナスを自分の呼吸音以外は聞こえない程集中し、ゆっくりと獲物を狙う獣のように時計周りに移動するビナスの出方を伺う。

 

 ターレスの額から既に汗が流れ始める。このまま汗を拭かなければ左目に入るだろう。しかし、拭けば自分の腕によって視界が一瞬遮られて致命的な隙を作り出してしまう。彼はそのまま汗が入ることを受け入れた。

 

 

 ビナスはこれを狙ってやがるな、なら逆に利用してやる

 

 

 

 ターレスは汗が目に入るの時をじっと油断なく待つ……、そして汗が目に入り左瞼を閉じた。

 

 

 瞬間ビナスがかき消え、爆発音が鳴り響く。ターレスは左に回り込むビナスを右目の端に捉えながらビナスの動きを予測し続ける。そしてすぐ近くで地を蹴り上空から向かって来る濃密な殺気の塊を感じて空に向かって渾身の右拳を放つ。

 

 

 

 

 だがそこにはビナスの姿は無く、ターレスの拳圧によって引き裂かれた雲があるだけだった。 

 

 

 

 何だと!?

 

 

 

 ターレスは視線を下に落し驚愕した。確かにビナスは地を蹴って空中に居た……気配を消し僅か数㎝の所に。ターレスが拳を放った相手は残像拳の応用で作り出したダミーだ。

彼は瞬時に切り替え、空ぶった時の保険に拳を放った勢いのまま右足で蹴りを放つが、ビナスは器用に体を回転させて避ける。

 

 

 そしてビナスは口を大きく開けてターレスに向かった。

 

 

 噛みつく気だ――。理解したターレスは「うおぉぉお!?」っとつい情けない声が漏れ、猫じゃらし擬きを口から零している事に気が回らない程焦って回避行動に移る。

 

 ガンッ!! 鉄を叩きつけたような音が顔があった場所から鳴り、ターレスはぞっとしながらも自分の反応速度に感謝しつつ、ビナスから距離を取って仕切り直す。だが、すぐに向かって来る筈のビナスからは反応が無く、彼女から殺気が消えている事に気付いた。

 

 

 

 訝しながも警戒を怠らずにいると、ビナスはくるりとターレスに向き直って上機嫌で口を開く。  

 

 

 

「イエーイ! どやターレス! 俺がほんのちょっとだけ、ちょーーーっとだけ本気出せばそんなん軽ぅく取れんやぞ!!」

 

 と、両の人差し指で口に咥えた猫じゃらし擬きをターレスにアピールする。ターレスはビナスの子供のようなその仕草に毒気を抜かれ、完全に戦いの意識を霧散させて体を楽にする。

 

「いやいや、完全に本気だったじゃねぇか」

「ウヒヒヒヒヒ。本気じゃないもんねー! その証拠を見せたるから今度はお前がこれを取ってみぃや!!」

 

 ほれほれとビナスは猫じゃらし擬きをターレスの目の前で振るが、彼は「はいはい」と軽く流しながら名も知らぬこの惑星を去るためにポッドのリモコンを操作する。それを見たビナスは「おい! お前の番やぞ!」と猫じゃらし擬きを鞭のようにターレスの太ももをピシピシと叩く。

 

 

 いてえ、いてえと棒読みのターレスにもうやる気が完全に無い事が分かったビナスは「ふんっ!!」と思い切り猫じゃらし擬きをターレスに投げつけてブツブツと小声で文句を言いながらポッドが来るのを待った。

 

 

 

 

「ナメック星人達の交渉は俺に任せろ! くれぐれも! くーれぐーれもっ! 暴力行為は慎めよ!? いいな!!」

 

 

 ポッドが彼等の元に到着し、乗り込む際にビナスは不機嫌な口調で再度ターレスに向かって言いい、ターレスは手をヒラヒラと振って返事をした。

 

 

 どうしても叶えたい願いはターレスにはあるが、ビナスが心配しなくとも彼はナメック星人達が攻撃を仕掛けない限りどうこうするつもりは無かった。今の彼の頭の中にはドラゴンボールが眉唾だった時や貸して貰えない場合はどう言いくるめようかという考えだけだった。

 

 

 そして考えを終えて、薬剤に眠る寸前まで今日の戦いの反省をしながらほんの少しの違和感にターレスは気付いた。

 

 

「ん? あいつの髪の色……前より赤くなったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして2人がナメック星に降り立った1時間後…………。

 

 

 

 

 

 

「………おいおい、マジかよ」

 

 

 そこには若干引き気味のターレスと――地に唾を吐き、呻きながら倒れているナメック星人を足蹴にして汚い暴言を吐いているビナスの姿があった。

 



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反面教師って凄ーい!

「ウハハハハハハハッ! おい、ターレス! こいつ等ドラゴンボールを長老の家っぽい所に御大層に飾ってあったぞ。探す手間が省けたわマジで!」

 

 ビナスは両手でドラゴンボールを掲げながらターレスにアピールする。ターレスは難しい顔をしながら腕組みをし「こいつ等どうするんだよ?」と倒れているナメック星人達を一瞥する。

 

 ビナスは訝しげな顔をし、ナメック星人達がいないかのように踏みつけながら最短距離でターレスの下へ行き「え? 何? 良く聞こえんかった。もっかい言って」と言った。

 

 

 ターレスは軽く空笑いをした後「おいおい、お前マジかよ」と引き気味の声色で言った後で改めてナメック星人達をどうするのか問うた。

 

「え? …………あぁ、こいつ等? ほっときゃええやん。普通なら丸1日寝とる位の力でやったけれど、再生力高いから半日で起き上がってくるやろうな、その前にさっさと二手に分かれて行こうぜ」

 

 ビナスは何でもないように言い、それを聞いたターレスは片手で頭を抱えて溜息を吐いた。

 

「えーっと、確かお前は平和的でスマートな交渉を見せてくれるんだったよな? 俺の目には暴力的で馬鹿な交渉のように見えたが……それは俺の勘違いか?」

 

「うるっせぇ! こっからは電撃戦や、さっさと集めんぞっ! 俺は西ぃ! お前は東や! 一目でめっちゃ調子乗っとるって分かる家は最長老の家やからそこは最後やぞ!? 行くぞオラァ!!」

 

 ビナスはそう言うと気を最大限に上げ、倒れている少年を無造作に掴んで西に高速で飛んで行く。ターレスはそれを見ながら「あいつマジかよ……。後、調子乗ってる家ってどんなのだよ」と呟く。

 

 そして倒れているナメック星人達を一瞥して「武人や女としてなら文句無いんだがなぁ」と頭を掻いた後、半分の力で東へ向かって飛んで行きながらやはりビナスは何でもありなら最強だと改めて思った。

 

 

 

 

 

 

 

 ナメック星人たちが倒れている理由は一時間前まで遡る――――――。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 プシューっと空気が抜けるような音がしながらポッドの扉が開き、俺はよっこらセックスと身を乗り出してナメック星の第一歩を踏み出す。空を見上げると、まだ降下中のターレスのポッドと、テニスボール位の大きさに見える衛星があった。

 

 おっとっとぉ、あんまり見ると大猿になってまうから目線外しとこ。1回侵略した後にボーッと半分寝ながら空見上げとって気がついたら大猿になってたからな。一瞬横におったターレスがちっちゃなってもうたと勘違いしてビックリして声上げたわ。

 

 目が覚めたアイツもビックリして大声上げてから全力の気弾放って来よったからな。あんま痛くなかったけれどムカツイて叩いたら30km位地中に埋めてもうたわ。発掘して介抱したったけれど……、女々しい奴やで帰った後もメッチャ不機嫌でグチグチ言いやがってからに。

 

 それにしても外で寝るときターレスがいつも横向いて寝とったのはこういうの防ぐためやねんな、後で聞いて感心したわ。

 

 

 

 

 それにしても周りに何にも無いなぁ。あるのは草とまち針みたいな木と水、澄んだ空気くらいか……。んー、これは若い女限定のヌーディストビーチ位しか活用無さそうやな。

 

 そうなると、オーナーは勿論のこと俺やろ? 凶器隠してあるかもしれんから、安全のためベッドと風呂がある部屋でじっくり取り調べんとあかんな。

そんで遅効性で依存性のある媚薬入りの食い物と飲み物、そんでローションと日焼け止め用意せんとな。クククッ、えーやんけ……「おい、何ボーッとしてんだよ」何やねん! 目の前で指をパチパチ鳴らすなや!

 

 

「取り合えずすぐ近くの集落から行こうぜ」

「ん? おー、せやな。お前はすぐ手ぇ出すから俺が平和的、非暴力でしかもスマートな交渉であっさりとボール貰たるわ」

「………………ここまで成功しねぇって気分になったのは生まれて初めてだぜ」

 

 

 心配性やのーこいつは。言うつもりは無いけれど、俺は先進国でも治安がトップクラスの国で生まれた元日本人やぞ! 今じゃ考えられへんけれど楽しい喧嘩も命のやり取りもせぇへんかったからな。そんな俺を見たらナメック星人は『おお、何と純粋で清い心をお持ちなのでしょうか! 目を見れば一目で理解致しました。どうぞどうぞこのドラゴンボールは貴女様にあげましょう』ってなるやろうな~。

 

 

 ちょれぇわマジで。

 

 

「大丈夫や! チョロっと話して長老が言う試練受けたら貰えるわ。楽勝やで!」

 

 ターレスは胡散臭せーと言いたそうな顔をしながら「本当かよ、それ……」と言いながらも俺についてくる。まぁ、こいつの心配もナメック星人が俺にボールを素直に渡す所を見れば無くなるやろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「異星人よ、一目で分かってしまう程のこの世のものとは思えぬ邪悪を感じる。故にドラゴンボールを貸すわけにはゆかん。お引き取り願おうか」

 

 

 

  ……………………ほえ?

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 ターレスはやっぱりなと思って溜息をし、ビナスは信じられないという顔となった後、ターレスを見て成程なと納得したような頷きをし、この集落の長老であるムーリに媚びた笑顔で向き直り口を開く。

 

「あ~すいませんねぇ。この子ターレスって言う子で見た目通りのワル何ですけれどもね、根は真面目でいい奴なんですよ」

 

 と、ビナスは不良を誉める時のテンプレで心がこもっていない適当な言葉を吐く。ターレスは鼻で笑って「テメェもワルだろ」と呟き、ナメック星人達はビナスの言葉に「え?」と戸惑った。

 

 

 その反応にビナスは眉をしかめ、ターレスはお前も入っていて当たり前だろと溜息をついた。

 

 

「あ、いえいえ私が言っているのはそちらのターレスという方ではなく、赤い髪をしたアナタです」

 

 

 戸惑いのままムーリはビナスの方に指差しをして言った。ビナスは俺? というジェスチャーをして合っているかどうか伺い、それを見たナメック星人達は一様に頷いた。

 

 ビナスはそんな馬鹿な、真後ろにいるターレスと勘違いしているんじゃないか? と思い横に一歩大きく移動する……が、ビナスの動きに合わせてムーリの指も動く。

 

 それでも信じられないビナスは後ろを見て誰かいないか確認をするのだが……当たり前だが誰もいない。そしてビナスはムーリの方を向き、再びターレスの前に立つ。

 

 

 勿論ムーリの指先も動いた。

 

 

 ビナスは子供のような小細工をするため、ニコリとムーリに笑いかけ、ナメック星人達の目には捉えられない程のスピードで上空へと高速移動をして気配を殺す。

 

 これによってムーリの指先はビナスではなく、ターレスへと差すのだが、根本的な解決にはならない。ビナスのやった事がわかったターレスは「いつまで経ってもガキだな」と軽く笑う。

 

 

「き、消えた!」

「邪悪な者がどこかへと消えたぞ!!」

「皆気をつけろ! 何をされるかわからんぞ!」

 

 

 ナメック星人達は消えたビナスを警戒し始める。ターレスは笑いを堪えながら上空へと顎をしゃくってビナスの居る所をナメック星人に知らせる。

 

 

「いっ、居たぞ! 邪悪な者だ!」

「いつの間にあんな所に……」

 

 

 彼等はビナスに対して警戒レベルを上げる。そんな事は知った事かとビナスは大声で「邪悪な者、邪悪な者ってうるっさいんじゃボケぇ!!」と怒鳴りながら地が陥没するほどのスピードで降り立った。

 

「おいお前らぁ! 俺が邪悪な者だったらよぉ、後ろで立ってるあのターレスはどん位邪悪やねん!? 言うてみろや!!」

 

 ビナスは少なくともターレスよりは邪悪じゃないだろうと思い矛先をターレスに向ける。ターレスは苦笑いをしてムーリの評価を待つ。

 

「う……、うむ。確かにあちらの方も邪悪なものを感じます。しかし、今はまだ小さいですが光が育まれているのもわかります。アナタでしたら素直に試練を従事し、合格すればドラゴンボールを貸し出す事も異存はありませぬ」

 

 

 ビナスはあんぐりと口を開きターレスを見る。ターレスは大笑いして「だとよ」と肩を竦めてビナスを見る。

 

 

「おいおいおいおいぃぃぃいっ!! ターレスちゃんよぉー! お前いつから良い子ちゃんなっとんねん、オオン!?」

 

 

 ビナスはターレスに詰め寄り、ターレスは笑いながら「絡むな、絡むな反面教師ってやつじゃね?」と両手でビナスを征す。ギリギリと歯ぎしりをし、今度は「お前の判断がおかしいんちゃうんか、コラぁ!!」とムーリに矛先を変える。

 

 

「絶対お前の感覚おかしいわ! アイツ見た目通り内も外もワルやぞ! 元祖ゴクウブラックやぞ!! まぁ、俺が寝とる時に布団掛けといてくれたり、怪我したらしっかり手当してくれたり――――あれ?」   

 

 

 

 うんうんと唸るビナスをよそに、ターレスはまた知らない奴の名前が出やがった……と呆れながらもその名前を心に留める。唸るのを止め、思い出したように自分がターレスより邪悪と納得出来ないビナスはムーリに詰め寄って行く。それを見た腕の覚えのある若者が長老に暴力を振るうのではないかと思い、ムーリを庇うために前に出て「それ以上近づくんじゃない!」とビナスの肩を絶妙な力加減で押した。

 

 

「あああああっ! いったぁーーーー!! これめっちゃ痛い!」

 

 

 だが、ビナスは肩を押された瞬間にチャンスだと思ってどこぞの小物の悪党のように痛がるフリをして跪き、ニヤける顔を隠すために俯く。

 

 

「すまない! 力加減を間違えてしまったようだ」

 

 

 相手を貶めよう……なんて考えない普通のナメック星人達は悲しいかなそんな事には気づかない。皆は純粋ににビナスを心配し、介抱をしようとする。

 

「いたたたたた……、謝罪の気持ちがあんならドラゴンボールを渡せるやんねー。まさか、まっさっか!? 渡せへんとかないよね?」

 

 ビナスは痛そうに肩を押さえながら演技をし、若者を非難する「そっ、それは……」と若者は口篭る。そこへ幼いナメック星人の子供が意を決したようにビナスへと近づき、両手をビナスに向けながら治癒の力を使う。

 

「あっ、あのっ。これで怪我は治ったと思うんですけれどどうですか?」

 

 元々怪我など無いビナスは「あ? なんやねんこのガキ?」とデンデに顔を近づけながら威圧的な態度をとり、デンデはやっぱり出て行かなければ良かったと思う事となった。

 

「デンデ下がっていなさい!」

 

 ムーリはデンデを心配して急いでビナスから引き離す。ビナスは顎に手を当てて「デンデ? デンデ、デンデ……あーー、そっか。でもまぁええわ」と妙な開き直りをした。

 

「怪我をさせてしまった事は深くお詫び致します」とムーリは頭を下げ、それを見た肩を押した若者も慌ててムーリより深く頭を下げる。

 

「さっきの子は優秀な治癒の使い手です。さっきので怪我が完治した筈……これでどうかこの場は収めて立ち去ってはくれないでしょうか?」

 

 ムーリは頭を下げたまま静かに言った。ここで良心があれば心が痛んで1度引いて出直すか、2度とこの村には訪れないようにしようと思うがビナスは違った。

 

 

「あー、そんなんええから。いいからさっさとドラゴーンボール黙って出せや」

 

 ドラゴンボールを渡す事を渋るナメック星人達に段々とイラついて来たビナスは不遜な態度をとり「何だその態度は!」とまた若い者達がビナスに食ってかかり、引くことをしないビナスはそれに勿論反発をする事となった。

 

 

 

 ギャンギャンと揉めているビナス達を見ながらターレスは、暫く放っておいていいだろう、どうせ俺に何とかしろと言ってくるに決まっていると思い近くの岩場に腰をかける。しばらくビナスとナメック星人の言い合いをボーッと見ていると、1匹の緑色のカエルがターレスに近寄ってケロン、ケロンと鳴いた。それに気付いたターレスは可愛げがあるじゃないかとビナスを待っている間カエルを愛でる事にした。

 

 

 

 だが、彼は少し誤算をした。暴力行為が出来ない以上、途中で説得が面倒くさくなって何とかしろと言ってくるものだと思っていた。そう、彼はまだまだビナスを甘く見ていたのである。

 

 

 

「もうここまでだっ!! ジワジワと嬲り殺しにしてくれるわーーーっ!!」

「なっ!? 邪悪な者よ、やはり本性を現したな!!」

 

 

 

 ビナスが逆上して実力行使に出たのだ。あれほど実力行使に出るなと言っていた当の本人がするのだ、これにはターレスも一瞬思考が止まった。そして急いであのバカを止めようと行動に移そうとした時、ビナスは空中に上がってある構えをした。

 

 ターレスは舌打ちをして目を閉じ、手で目を覆った瞬間に……「くらえや! 太陽拳!!」目映い光が当たりを照らした。その光は完璧に対処したターレスでも数秒の間目が眩んだ。まともにその光を見てしまったナメック星人達は悲鳴を上げて目を手で覆って蹲る。

 

「シィッ!」

 

 ビナスはナメック星人達の立ち位置を一瞬で記憶し、目を閉じた状態でナメック星人達に近づいて側面から米神、顎の付け根、頸椎の自律神経を通っている部分を正確に中指を少し立てた握り拳……中高一本拳でそれぞれの戦闘力に合わせた力加減で打ち抜いて昏倒させた。

 

 

 デンデ以外を。

 

 

 事を終えたビナスはデンデの前にヤンキー座りをして、デンデの目が正常に戻るのを待つ。そしてデンデは涙目で恐る恐る目を開ける。

 

 

「あ……あっ」

 

 

 周りを見るとやはり仲間達が倒れていた。目を閉じている間、聞こえていた打撃音と仲間のうめき声はやはり勘違いではなかったのだ。

 

 今度は自分の番だ……そう思った瞬間、ビナスが顎先に裏拳をしてデンデの脳を揺らして気絶させた。その後ビナスは長老を足蹴にして「バカが! 素直に渡せばこんな目に合わずに済んだのによ!」や「お前等はドラゴンボールとピッコロの強化素材くらいしか価値ねーんだよ!」と地に唾を吐いた。

 

 その後ビナスは長老の家に行き、飾ってあったドラゴンボールを持ってきたのである。これが1時間前の些末である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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頑固な人へのお願いの仕方

 ビナスは別の村に到着すると、岩陰にデンデを物を捨てるかのように置いてから村人に話しかける。

 

 

「どうも皆さん初めまして! 私ビナスって言いまーす。訳あってドラゴンボールで願い事をしたいんですけれど、良かったら貸して下さい!」

 

「…………一目で分かる程の邪悪なものを感じる。お前にドラゴンボールを貸すわけにはゆかぬ。早々に立ち去るがよい」

 

 自分が悪だと納得出来ないビナスはテンションが高くないのが良くなかったのかと思い、笑顔で明るく元気良く言ってみたが意味がなかった。そして悟空達が言う邪悪で嫌な気というものがわからず、抑える事が出来ないためナメック星人達に容易く悪だと見破られる。

 

「………ほぉ、ええ度胸やクソカスの雑魚共が」

 

 笑顔のままそう言った後、血管を浮き上がらせたビナスは村人に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 また一方、ターレスはと言うと……。

 

 

「同胞達を生き返らせるその願いは素晴らしいと思います。しかし、あなた達サイヤ人は多くの命を奪って来ました。生き返ったらまた他の惑星へと侵略を繰り返すでしょう。その時あなたはどうするのですか?」

 

 

 用意された椅子に座っているターレスは長老の問いに目を瞑り、しばし思案する。既にターレスは他の惑星を侵略したいと欠片も思うことは無く、更に宇宙をフリーザに代わって支配したいと思う事は無くなっていた。ターレスが同胞達を生き返らせてフリーザを倒した後、やる事はただ一つだ。

 

 想う事は超サイヤ人になりたいと……、そしてビナスも同じく超サイヤ人になると簡単に予測できるが故に更にその先へと行きたい――、強くなりたいという願いだけだ。それに強くなれば勝手に向こうから頭を下げてくる。

 

 よくよく考えてみれば自ら行くなどまるで媚ているようではないか。それに支配すれば面倒を見なければならなくなる――そんなのは御免だとターレスは思った。

 

 何故なら過去にターレスはビナスに、もしターレスがフリーザに代わって帝王になったらというごっこ遊びをした事がある。最初は正直悪い気分では無かった。

ビナスが跪いて「ターレス様」と頭を下げるその様相は大勢の人間を跪かせている幻覚を見た程だ。だが、彼はこの時ビナスの表情を無理にでも見るべきだった。

 

 

 

 全ての赤子が一瞬で泣き出してしまうようなそのゲス顔を――――。

 

 

 その後は彼にとって凄まじく大変な毎日だった。ビナスは生前にネットや経験で得た、上司が部下にやられたくない笑って済まされない仕事の失敗をわざとし続け、ターレスに全責任を被せたのだ。

 

 これにはターレスも激怒し、ビナスを殴ろうとした所で心底可笑しいという表情でこう言われた。

 

 

「宇宙を支配したらこういう奴は腐る程いるんやで? そんな奴も面倒見なきゃあかんのやぞ? 俺1人で参っとってどうすんねんな。いやー、それにしても責任が軽い身分は体が軽くてええ気分やわー。あ、思い出した。お前の名前で報告出すのすっかり忘れとったわ、3日遅れてるけれど大丈夫やろ。後は任せたわターレス様」

 

 

 下品な笑いをしながら去っていくビナスを見て、この時睡眠不足で目元が隈になり、少し痩せたターレスの宇宙を支配したいという少年時代から育まれた強い欲求の大樹は、ビナスによって根元から一切の抵抗も無く引き抜かれて一瞬で枯れた。ごっこ遊びを始めて僅か1ヵ月も経たない内に……。

 

 それからターレスはフリーザに対して憎き仇相手……とは別に、上司として少し尊敬の念を抱くようになった。

 

 

「…………へっ、その時はそんな後先考えない事は止めろと力づくで止めてやるさ」

 

 

 ターレスは疲れた笑いをして返答する。そして譲られたドラゴンボールを片手で抱えながら次の村へと飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、ビナスは――――

 

 

「この問題が解けたら考えてもよい」

 

 絶対に解けない問題を出されていた。

 

 長老はビナスを見た瞬間に邪悪な者と看破し、2つのドラゴンボールもまともな方法で手に入れたものではないと判断した。

 

 そしてこの問題を解ければドラゴンボールを素直に渡すという餌を用意し、解けずに帰ってくれるなら良し、問題に悩んでいる間に近隣の腕の立つ戦士達に連絡するつもりなので、暴力に訴える頃には到着させるために時間稼ぎをしようとした。

 

 

 だが、甘かった――――。

 

 

 

 ビナスは顔の横に掌を上げて、小指から親指に向かって順にとじていき拳を作った。そして笑顔で「これが答えや」と言って何の事かわからず、戸惑っているナメック星人達に襲い掛かり、急所をまた正確に打ち抜いて気絶させた。

 

 

「お、やっぱ全ての問題をズバッと解決してくれる万能な答え……暴力が正解やな」

 

 

 そう言って気絶をしている長老の頭を掴み「素晴らしい! ではドラゴンボールを持って行って下さい」と腹話術をした後、悠々とドラゴンボールを手にして次の村へと向かった。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてターレスは――――。

 

 

「勝負あり……だな」

 

 倒れているナメック星人の若者の顔に拳を寸止めして勝利宣言をしていた。若者は数瞬悔しそうな顔をした後で軽く息を吐いて「参りました」とターレスに告げた。

 

「お見事です。見させていただいた力は素晴らしいものでした。私の勘違いかもしれませんがアナタはワザと力を抑えて戦っていませんでしたか?」

 

 ターレスはそれを聞いて「まあな」と軽く返事をする。本来の戦闘力なら片手で十分圧倒出来る相手だったが、ターレスはワザと相手の戦闘力まで力を抑えて技の鍛錬をしていたのだった。

 

 若者はそれを聞いて苦虫を噛み潰したような表情をした後に「次は負けぬ」と拳を突き付ける。

 

「おう、いつで……あー……機会があったらな」

 

 ターレスは拳を突き合わせて再戦の誓いを受ける。彼はつい何時でも来いと言いそうになった時、ビナスの顔がちらついた。お人好しのナメック星人達はしないだろうが億が一の時を考えて無難な答えに言いかえる。

 

 

 本当に何時でも来られたら大迷惑だからだ。そう、彼もまたビナスに何時でも来いと言ってしまった被害者であった。

 

 

 

 ターレスは長老からドラゴンボールを受け取り、次の目的地へと向かいながら、ビナスに何時でも来いと言ったまだ気が読めなかった幼少の頃を思い返して自嘲気味に笑う。

 

 

「寝ている時はまだわかるが、クソをしている時を狙って仕掛けてくるとは当時は思いもしなかったぜ」

 

 

 その後、仕返しするために虎視眈々と機会を窺い、ビナスがトイレに入った時を狙い襲い掛かったが、ターレスの気を感知していて予め『全て』の準備を整えていたビナスには通用しなかった。

 

 ターレスはビナスの気によって留められていた汚水を地中から浴びせられ、辛味成分のある粉末で目潰しされた上で一方的に叩きのめされた。

 

 そして騒ぎを聞きつけた大人達が見たものは倒れ伏しているターレスただ1人と、汚水まみれで破壊されたトイレ。ビナスはとうに姿を消し、アリバイ作りをしていたためターレスただ1人の責任となり、大人達にいくら訴えても聞く耳を持ってくれず、罰として掃除と修繕をする羽目になった。

 

 その時ターレスは初めて悔しさで泣き、こんな嫌な奴には絶対にならないと「ねぇ、今どんな気持ちなん?」と煽って来るビナスを睨みながら心に誓った。

 

   

 

 

 

 

 ターレスが苦笑いをしながら嫌な思い出に浸っている頃、ビナスはと言うと――

 

 

 

「はい、注もーーーーく!」

 

 

 と、地面から10m程離れた空中で、片手で気絶しているデンデをブンブンと旗のように振っていた。

 

 

「ん? あ、あれはデンデじゃないか!?」

「本当だ! デンデだ!!」

「何て酷いことを!」

 

 その様子を見て村人達はざわつき始め、家の中に居るナメック星人達も何事かと外に出て確かめに来る。そしてビナスは全員が注目したのを気の動揺で確認した後「太陽拳!!」とまた目を眩ませた後、また急所にそれぞれ適切な力加減をして打ち込む。

 

 

 気絶した村人達を見てビナスは「最初っからこうすりゃ楽やったわ」と薄く笑って言った。その後、ドラゴンボールを持ち出して最後の場所へと向かって行く。

 

 

 そしてビナスが最長老の家か数キロ離れた小島に到着してから数十分……、ターレスが到着して6つのドラゴンボールが揃い、残るのはただ1つとなった。

 

 

 

 

 

 



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抜き足差し足忍び足で……

 あいつおっそいわ、何をしてんねん。ん? 気の感じからして半分くらいの力で流してるやんけ、電撃戦やって言うたやろホンマ…… まぁええわ。ドラゴンボールさえきっちり持って来とったら何も言わへんわ。

 

 ただ座って待っとるのも暇やし、予め願いを絞っとるけれどもう一度真っ白な状態で考えよ。ただ単純に強くなりたいって願いは却下やな、今より確実に強くなりよるやろうけどもフリーザ以上はハッキリ言って無理やろうな。

 

 ドラゴンボールは作り手の力を大きく超える願いは叶える事が出来ない。これを軸によく考えないとあかんわな-、そうなると……強くなりたいとかの直接的で一度限りで効力があるのではなくて、補助的で永続的な願いが最もドラゴンボールの力を発揮出来ると考えられるなぁ。

 

 じゃあサイヤ人にとって効果があって補助的、永続的に最大限に利がある願いは何じゃいって事やけど……、不老不死はあかんなー死なねぇなんておもんなさすぎやろ。死ぬかもしれんっつースリルが最高で落ち着くってのに。

 

 昔は死にたくねぇーと考えてたけど、最近は死んだら死んだでまぁええかと思うようになってきたなぁ。年のせいかな?

 

 それにしても死んだらドラゴンボールで生き返られるからええやろってんのもおもんないなぁ……、いっそのこと割っちまうのもありか? まぁ、それも考えとこか。って事で不老不死は却下やね。でも不老はありやな、そんでただの不老やったら味気ないから全盛期の肉体のまま不老で力が衰えないってのがええかもな。

 

 悟飯を衰えさせたないのと、弱いままやったら悟空もガッカリするやろうしな。

 

 

 次はサイヤ人全体じゃなく、俺個人としての願いを考えるか。俺は一応エリートサイヤ人で生まれてっから大猿になっても理性は保てとる。そんじゃあサイヤ人4目指すのもありっちゃありやからサイヤパワーを常にマックスにしてくれって願いかな。

 

 つーかサイヤパワーってよく分からんわ……、まぁええけけど。

 

 で、その反対のブルー目指すにはどうすんの? って事やけれどもこれは簡単やな、5人のハーフを含めたサイヤ人用意してゴッドになったらもう成れたも同然やから願わなくてもええな。

 

 保険のためにナッパとラディッツも入れとくか、特にラディッツは入れといても損は無いやろなぁ。なんたって血統だけはピカイチやもんな。

 

 ナッパはベジータにぶっ殺される前に助ける、ラディッツは生き返らせたら言う事聞くようになるやろ。そうなったらパシリ1号2号として使お。

 

 ラディッツを生き返らせる時期は自然とフリーザやクウラ倒した後になりよるからなぁ……、俺等が超サイヤ人かその一歩手前まで強くなっとるのに1人だけクソ雑魚なんてめっちゃ焦るやろうなぁ。この時点であいつ……誰やったっけ? えーーっと白いヤツ。思い出されへん、まぁええわ。そいつより弱いからなー。

 

 

 もしもいじけて強くなろうとせぇへんかったら食っちまおうか――――――おぉ? 自分のラディッツを食っちまう結論にちょっとビックリ。地球に行ったらそんなん食わなくても美味いもんで溢れてるってのにな。

 

 

 

 そう言えば前世で地球人は鶏肉の味に似てるって言ってる奴おったな。ええやん地球に行ったらいくらでもおるから――お、来た来た。ちゃんとドラゴンボール持っとるな。

 

 

「お前おっそいねん! 何しとってん!!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「お前おっそいねん! 何しとってん!!」

 

 

 ビナスの怒声にターレスは悪びれる様子もなく「待たせたな」と軽口を言い、ビナスも本気で怒っているわけではないので「おう」と彼の持っているドラゴンボールを見てから嬉しそうに言った。そしてターレスは地面に倒れているデンデを見て「そのガキはどうするんだ?」と尋ねる。

 

「ん? あー、コレ? ドラゴンボールで願いを言う時にちょっと使う時があるから置いてんねん」

「…………そうかい、それにしてもお前何か――いや、やっぱり何でもねぇ」

「? 何でも無いならえぇけど」

 

 ターレスはコレ扱いされたデンデに同情しつつ、ビナスの気の質がナメック星人達が言う邪悪な感じと髪の色がほんの少し赤く変わった気がした。

 

 ターレスはその事にあまり気にせず、一本の柱のように立っている山の頂上にある家を見ながらビナスに「あれが最後の場所か?」と言い、この星で1番強い戦闘力の気配を感じて念のため少し警戒する。

 

「おう、あそこやで。ちなみにあそこに居る最長老は他人の潜在能力を開放させれる特殊能力持っとるねん。横の6000の奴は無視してええぞ、頑張っても4万程度しか上がらへんから警戒するだけ無駄や」

 

 

 ビナスは軽く溜息をし「どっこいせー」と親父臭く言いながら立ち上がり「じゃあ行こか」とニヤリと笑う。ターレスは「おう」と短く了承し、2人はドラゴンボールとデンデをその場で放置して最長老に向かう。

 

 ターレスは横目でビナスを見ながら未来予知について考察する……。

 

 

 どういうわけかこいつの未来予知は偏ってやがる……。時々惑星を攻める前にどんな星だろうな? と軽く探りを入れても知らねぇとか、現地に着きぁ分かるやろと言うばかり。その癖神精樹の実は知っていてもその保管場所だったナッツ星の事は知らなかった。知っていれば慎重に期して行動してもこいつの性格や行動から言って戦闘力が1万を超えた時点で絶対に行く筈……。

未来予知について軽く調べたが1番ポピュラーなのは自分がこれからする行動を見る予知、次点で他人目線で見る予知だ……、こいつの場合は確実に後者の類だが、それにしても『誰の目線』での予知だ?

 

 

 

 

 

 2人は丘の真上に到着し、ビナスはターレスに「俺は裏に行くわ」と言って戦闘力を限界まで下げて最長老の家の裏に降り立った。

 

 ターレスはビナスがナメック星人に邪悪と呼ばれている事を気にしていて、自分に交渉を任せたのだと思い正面の入り口に立つ。すると見計らったかのように扉が開き、中から1人の若いナメック星人……ネイルが現れた。

 

 

「む? 最長老様は2人が来ると言っていたが……お前1人か?」

 

 その質問にターレスは静かに「あぁ」と返事をしてネイルを品定めをし、気の質から決死の覚悟をしている戦士だと理解した。

 

 

 

 悪くねぇ佇まいと気迫だ。だが、それが通用するのは同格までだぜ……まぁ、格上だと分かった上で挑むその姿勢は嫌いじゃねぇけどな。

 

 

 

 ターレスはそう思い、ネイルと戦う気は始めから無いがいざとなれば死ぬ気のネイルに好感を覚えた。

 

「おいおい、やる気満々の所悪いんだけれどよ……まずは話し合わねぇか? こっちはドラゴンボールさえ貸してくれれば文句は無いし、争うつもりなんてねぇよ。平和的に行こうぜ、な?」

 

 格上の者が暴力ではなく、話し合いという譲歩をすれば相手は大抵の要求は呑んでくれる。これは経験とフリーザがこれまでやって来た記録を見て得た術だ。

 

 

「…………わかった。だが、お前は将来どうなるか分からぬが現時点では悪と言える者だ。おかしな真似をすれば我が身命を懸けてでもお前を止める」

 

 ネイルは甘く見られないために強気で言うが、ターレスが戦う気が無い事に内心ホッとし、まずはどうやってドラゴンボールを手に入れたのかを聞く事にした。

 

 

 ターレスはこれまでの事でナメック星人達が嘘や悪意に敏感なのが分かっているため正直に話し始める。ただし、ビナスが最初に手に入れた1個目を話せばややこしくなるので、自身が手に入れた1個目のドラゴンボールの事を話し始める。

 

 だが途中で彼は眉を顰める事になる。家の影からビナスが首だけを出して、こちらの様子を伺うのが見えたからだ。

 

 ターレスの僅かな異変にネイルは気付き、後ろを振り向くがビナスが隠れた後なので彼は気付かない。そして2個目のドラゴンボールの話をしている最中にビナスは忍足でネイルに近付いて行く。

 

 ターレスはネイルも気絶させようとしているのかと思ったが、ビナスの視線は家の扉に向いていた。ターレスはまさかとは思いつつも話を続ける……が、ネイルの真剣な表情と、後ろでビナスのコソ泥のような動きが滑稽で吹き出してしまう。

 

 ネイルは突然笑い出したターレスを訝しみ、後ろを振り向くと何者かの足が最長老の家に入って行くのを見て「コ、コラッ! 勝手に入るんじゃない!!」と怒鳴るがビナスは勿論止まらない。謀られたと思い憤りを感じて未だに笑うターレスを一睨みしてからビナスを追いかける。

 

「くははっ! やっぱりアイツと居ると退屈しねぇなぁ」

 

 ターレスは笑いながら最長老の家に入った。

 

 

 



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何故人は争うのか?

 後ろから素材1に声掛けられたけど無視してお二階に上がると、そこに居たのはデブくて老けたナメック星人の素材2。オッス! オラビナスと挨拶すると「……何か用ですか異星人の方」と不機嫌丸出しで言ってきたから、いっちょやってみっか! と超スピードでドラゴンボールを取る。

 

 

「おう、用はあるで~。このドラゴンボールと俺ともう1人の奴の潜在能力を開放してくれや」

 

 

 面倒やから周りくどいのはなしで直球に言うと眉をしかめて「ムゥ……」って唸る。

 

 

 何やねん悩む必要が無いやろーが、パパッとやりゃあ済むやん「そこまでだ!」ん? 素材1が中央の穴から湧いて来よった。

 

 

「邪悪な者よ、これ以上の狼藉は許さんぞ! 命が惜しければドラゴンボールを置いて即刻立ち去るがいい!」

 

 

 

 歯を剥き出しにして顔に血管浮き上がらせとる……変顔で笑わせようとしとんのかな? それにしても強気やなー、俺が戦闘力8000に抑えとるからかめっちゃ調子乗ってるやん。

 

 っつーかまた邪悪な者って言われたわ。お前ら兄弟か! って位一緒の事しか言わんな……いや兄弟みたいなもんやった。記憶を継承して繁殖しとるから卵を吐いてる奴がもう1人増えると同じやもんね。まるでマトリョーシカやな。

 

 

「貴様聞いているのか!」

 

 

 マトリョーシカについて考えとったらボーッとしてもうたわ。

 

 

「あぁ? 俺は別にお前なんかに用はねぇぞ。用があるんはそこにいる爺の能力とドラゴンボールだけや」

「き……貴様、何故最長老様の能力を知っている!?」

 

 こいつと無駄話すんのは時間の無駄やからサクッと気絶させるか? それにしても名前何やったっけ? おっかしいなぁ~、数年前ならアニオリやGT、映画合わせてオリキャラの名前とか大体パッと頭に思いだしとったんやけどな。こいつがピッコロと合成して、ピッコロのレベルを上限開放した位しか思い出されへんわ。

 

 

「……さっさと答えろ!」

 

 

 うるっせぇなぁ……。あー、確かナメック星人って頭さえ無事なら再生出来るってピッコロが言っとったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 首飛ばして黙らせるか

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「……さっさと答えろ!」

 

 

 ネイルは自分を見ているようで見ていないビナスに怒声を浴びせるが返事は無い。しびれを切らしたネイルは、ここで暴れられて最長老に被害が出る事を懸念し、ビナスを摘まみ出そうと行動に移そうとした……その時、ビナスの鎖骨から右頬にかけて1本の血管がビシリと音を立てて浮かび上がり、何の感情も無い表情と目がネイルを捉えた。

 

 ネイルはぶるりと震え、嫌な予感がしながらも油断なく構える。すると、ターレスが真ん中の穴から飛び出して「お前何してんだよ」と呆れの感情を含んだ言葉をビナスに投げかけた。するとビナスから嫌な予感がしなくなり、感情が戻った表情になってターレスに抗議する。

 

 

「しゃあないやんけターレス! 潜在能力を引き出せや言うても聞かへんもん」

 

 

 じゃあ、これしかないやろとドランゴンボールを持っていない右手で握り拳を作り、ビナスは暴力で解決する事をアピールする。ターレスはハァ……と溜息を吐いてビナスの隣へと降り立ち、ネイルと向き直って少しバツが悪そうな顔で「済まねぇな、こういう奴だからよ」と少しおどけた調子で言った。

 

 

 最長老はビナスの雰囲気が軽くなったのと、ターレスの暴力で解決する展開は不本意だと感じるその様子を見て、ターレスの内なる気を探る。

 

 

 すると邪悪そのもののビナスより、邪悪だが奥底に光りの心が育ちつつある事がわかった。最長老はターレスの方がこの場を上手く穏便に事を進める事が出来るかもしれないと思い、ターレスが中心になるようにまずは「あなたは?」とコミュニュケーションの初歩である相手の名前を聞きだそうとする。

 

 

 ターレスはビナスの分も含めて軽く自己紹介する。その後間髪入れずに最長老は何故この惑星に来たのか? 何故ドラゴンボールを知っているのか? どんな願いがあるのかという質問をし、ターレスは素直に質問に答える。

 

 

 ターレスは途中から最長老の思惑に気付きニヤリと笑う。確かにビナスに場を任せれば揉めることは火を見るより明らか……。これから先、ビナスの未来予知を全て信じている訳ではないが、またドラゴンボールに頼る事になる可能性は十分にある。

 

 最悪ビナスは惑星の出禁をされても、自分だけは試練等で使える権利を有したままの状態でいたいと思い、最長老の思惑に乗る事にした。

 

 

 そして最長老の問いである願いの内容を言えば会話が止まってしまうと予測し、今度はターレスから話題を振る。この惑星には自分達以外の異星人は来るのか? 惑星の規模に対して人数が少ないが何故だ? 等最長老に問いかける。

 

 完全に場がターレスを中心となり、ビナスが蚊帳の外にいる状態となった。ビナスは途中までターレスを見ながら話を聞いていたが、飽きてドラゴンボールを色々な角度で眺めたり、ターレスの後ろでバレーのトスをして遊び始める。

 

 このまま何事もなく、ドラゴンボールをターレスだけに使わせてビナスと共に惑星を去ってもらおうと最長老は考え、そろそろ2人だけで話がしたいと切り出そうとした。

 

 

 だが、ビナスの態度を見て我慢の限界をならない者が居た……。

 

 

「貴様っ! 先程からなんだその無礼な態度は!! そんなに退屈ならばさっさととこの惑星から去るがいい! 嫌だと言うのならば力づくで叩き出してやろう!」

 

 

 ネイルである。無理もない……彼の視点から言えば、勝手に自らが命を賭してでも守らなければならない最長老の家に入り、あまつさえその最長老から了解も得ずに勇士と認められた者しか手にする事がないドラゴンボールを奪い取り、更にはもう満足に動く事が出来ない最長老に向かって、潜在能力を解放しろと脅す不逞の輩だ。

 

 

 怒らないわけがなかった。

 

 

 ビナスがあからさまに暇だという態度をとり始めた頃から彼はビナスを睨み付け、ドラゴンボールで遊び始めてからは殺気を放っていた。それでもビナスはネイルの事に興味が無いので、彼女は欠伸という形で返す。

 

 そこでネイルは我慢の限界が来る事になった。

 

 ターレスはネイルに「おい、ほっとけよ。そうすりゃコイツは大人しいままだからよ」と宥めるが、ヒートアップしたネイルは止まらない。そんな彼を見てビナスはクシュンとくしゃみをし、どこまでもマイペースだった。

 

 

「く……、どこまでもわたし達を愚弄しおって……表に出ろ!」

 

 

 ネイルはそう言うとビナスを一瞥して先に下へ降りて外に出る。ターレスはやっぱりこうなるかと最長老を見て肩を竦め、最長老も結局は荒事になってしまったと無念に思った。

 

 肝心のビナスは欠伸をした後にドラゴンボールを抱え、壁際に移動するとドラゴンボールを下ろして座ると、膝を抱えて頭を沈めた……つまり、寝ようとした。

 

 

 これには最長老と昔から知っているターレスでさえ「……え?」と戸惑いを見せた。そして暫くするといつまで経っても来ないビナスにしびれを切らしてネイルが来る。

 

 

「きっ、貴様ぁっ!! 何を寝ている!? 来いと言っただろう!!」

 

 

 ネイルはこの時、人生で3番目の怒りの感情に支配された。

 

 だが、その感情の大本の原因であるビナスは寝ぼけ眼でネイルを一瞥して「さっきから何か大声で言っとったけど、もしかして俺に言っとったんか?」と彼が向ける大声の向かい先を今初めて知ったと言わんばかりの表情で答え………………静かな空間の中でネイルの頭からプチッと音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 ネイルはこの時、人生で2番の怒りの感情に支配された。そこからは揉めに揉めた。罵詈雑言をビナスに浴びせるが、ビナスは「で?」と繰り返すばかり。

埒があかぬとネイルはビナスを蹴り飛ばそうと行動しようとするが、後ろからターレスに羽交い締めにされ「落ち着け! お前ここが最長老の家の中だって事忘れてるだろ」と叱責されて今居る場所が理解出来る程には落ち着く事が出来た。

 

 

 そして今度はターレスがビナスに外に出ようと提案をする。ビナスは今回ではなく、悟空達と一緒にナメック星に来た時に潜在能力を上げればいいと考え、あっさりと承諾してターレスと共に外に出る……勿論ビナスを終始睨みつけているネイルも一緒だ。

 

 

「……こっちだ」

「おう」

 

 

 ネイルを先頭にターレスが続き、戦いの影響が無いように最長老の家から離れるため東へと進む。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西に進みながらビナスはターレスに何か用でもあるやな~と他人事のように思い、返事もせずに気絶したデンデとドラゴンボールがある地上に降り、神龍を周りに人が居ない場所で呼び出すために準備をしようとした……すると後ろから轟音が響き、土煙が舞う。

 

 

 土煙が晴れるとそこに居たのは勿論ネイルだ。

 

 

 ネイルは顔中の血管を浮かび上がらせ、獣のような笑みを浮かべてくつくつと笑う。ネイルはこの時、人生で1番怒りの感情に支配された。後から来たターレスに声を掛けられても聞こえぬ程だった。

 

 

 

 そしてビナスが煩わしそうに振り返ると、ネイルは問答無用でビナスの鼻に向けて思いっきり殴り掛かった。だが、ビナスは既に右半身が前になる半身だったので、体を仰け反りながら左膝を脱力して避けると同時に、ネイルを前方に投げ飛ばすようにして背負い投げをした。

 

 ネイルは体を半回転して難なく着地をするが、右肘の内側から指先と肩口へ走る感覚が麻痺する程の痛み……そして喉に鋭利な異物が入りこんだかのような激痛が走る。肘を見るとそこには第1関節が入る位のへこみ、そして喉を撫でると同様のへこみがあった。

 

 

 蹲りたくなる程の痛みのおかげで冷静になったネイルは、吹き出る脂汗を掻きながら自分をひどく叱責する。

 

 

 

 ……わたしは何て愚かなのだ! 怒りに身を任せ、フェイントも何もない馬鹿正直で見切るのが容易い攻撃を仕掛けるとは……!! おかげでこの様だ!

 

 

 

 ネイルはビナスの事を邪悪そのもので、人柄も今までに見聞きと受け継がれた知識に無い程最低だったが、今の一連の動きで強者なのだとわかった。もしや今まで自分を怒らせる発言と態度だったのでは? とネイルは推測し、今度は油断はしないと慎重になる。

 

 が、勿論ビナスにそんなつもりはない。一方でターレスは一連のビナスの動きにヒュウと口笛を吹いて感心し、少し離れて腕を組んで観戦する。

 

 今度は彼に止める気は無い。最長老の家で放っておけと忠告し、手を出さないよう体を張って止め、十分にネイルに義理立てした……。その上でまだ怒りが収まらずに仕掛けるなら、死んだとしても本望だろうし自己責任だと考えた。

 

 

 

 まぁ、それは建前で本音はアイツの技をじっくり見てぇってだけだがな。

 

 

 

 とターレスは薄く笑う。そんな彼を見てビナスは浅い溜息を吐き、そしてネイルに向き直って両手を軽く開いて正眼の構えをする。

 

 

 合気だ。

 

 

 これはまだターレスに見せてはいない。カウンター特化の合気は、力で攻めて攻め潰すスタイルのサイヤ人にとってあまり相性が良くない。だが、ある程度修羅場を潜り、戦闘において冷静になって待てるようになっているならば別だ。

 

 ビナスは猫じゃらしを取り合う遊びを経て、ターレスは十分に合気を使えると……そして体験させるのではなく、見せた方がいいと思った。ターレスがビナスの目線になって戦うと、ネイルは仮想クウラ相手として丁度いい身長差だからだ。

 

 

 自身が見知らぬ仮想相手になっているとは知らずネイルはビナスに猛攻を仕掛ける。だが、ビナスはネイルの半分の戦闘力を上限としながらも攻撃をいなし、隙があれば小手返し、中国武術の歩法でネイルの攻撃を単発で終らせ、八卦掌の円の動き等で引き倒しては追撃を寸止めする。

更には気弾も避弾経始の要領で弾き、時には歯が付いた気のバリアによって、気弾の側面を回転して滑って回避をし、技が決まる度にターレスをチラリと見た。

 

 

 ターレスはビナスが合気の構えを見せた時、未だ知らぬ技があったのかと彼女の引き出しの多さに苛立ちもした……だが、コチラに注視しながら技を披露する事数度……、彼女の意図に気付くとターレスの心臓がドクリと一際大きく鼓動し、口角が知らず知らず上がる。

 

 

 

 

 

 

 俺に技を見せて物にしろって言うのか? 上等だぜ、お前の技を全て俺の物にしてお前を超えてやる。本当にお前はいい女だぜビナス。サイヤ人の特性を知って限界まで強くなれた。神精樹の実を知って限界を超えられた。格上相手の技術を知れた。広い宇宙ではフリーザでさえ弱いのだと知った。

 

 全部お前のおかげだビナス……。ありがとよベジータ王子様、こんな極上の女が目に入らない節穴でよ。

こいつは絶対に俺の物にしてやる。

 

 

 

 

 

 ターレスはビナスと一緒ならばどこまでも強くなれると確信をした。

 

 



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願いはプラスばかりじゃない

 ネイルがビナスに殴り掛かってから数十分後……、ネイルは息も絶え絶えにビナスを睨みつけていた。しかし、これまで1発も当てられなかったため、ビナスに向かって行こうという気概はもう無くなっていた。

 

 

 代わりに自分自身の無力に対して、どうしようもない怒りをネイルは感じていた。

 

 

 正直ビナスの事を嘗めていたのだ……、油断せず冷静に対処すれば難なく打倒出来ると思っていた。それもその筈、ネイルは戦闘力4万という数字を持っていて、世間を知らなければ宇宙最強だと自惚れていても仕方がない程だ。

 

 それにこのナメック星にこれまで降り立った異星人達は、殆どが学者かただの観光客達であり、偶に来るならず者達は戦闘力1000にも満たない。それもネイルが生まれてから両の手で数えれる位だけ……、そしてネイルがビナスに1発も当てられない理由がある。

 

 

 それは……共に鍛錬する相手がいない事、外敵が居なくてこれ以上強くなる理由が無い事だ。

 

 

 一方でビナスは共に強くなるターレスがいて、フリーザは勿論のこと、原作を知っているためその先まで見据えている。そして自己鍛錬でもビナスは勿論、ターレスも拷問に近い程に過酷であり、しかも気の探知のおかげでお互いに何をしているか分かるので、負けず嫌いの2人は張り合って3~5日不眠不休で気絶するまでやるのはいつもの事だ。

 

 強くなるという気持ちで既にネイルは負けている……、もしもこの時点でビナスの方が本当に戦闘力が2万であっても、積み重ねた技と気のコントロールによって勝っていただろう。

 

 

 

 

 

「勝負ありだな」

 

 

 

 ターレスが呟きビナス達に近づいていく。

 

 ネイルまで20m程離れていて普通ならば聞こえないが、ナメック星人である彼にハッキリと聞こえ、心で敗北を認める。だが、ビナスに対して「参りました」とは素直には言いたくなかった。

 

 ネイルは悔しさで無自覚に歯ぎしりをしてビナスの動向を窺う。ビナスはネイルを始めから見ておらず、ターレスがこちらに近づいてくるのと、『練習台の人型』が向かって来なくなった事で終わりを理解して構えを解いた。

 

 彼女にとってネイルとの戦いはターレスに技を見せるためだけであり、しかも相手はネイルだと気付いていない。彼女にとって素材1はターレスと共に東へ行ったきりだと思っていて、既に顔を朧気にしか覚えていない。

 

 

「十分だろネイル、アンタの負けだ。これ以上やるって言うのなら確実に死ぬぜ」

 

 

 そう……、ビナスはターレスに技を見せるのはここまででいいと思っていたので、ネイルが次に仕掛けていたならば、道具が突然勝手に動く故障をしたと思い、破棄するように殺していただろう……何の感情も無く、ただ淡々と。

 

 

 だが、ターレスがネイルと名を言った事でようやくビナスは彼を認識して「何や……お前やったんかい」と言って続いて口を開く。

 

 

「お前なぁ、何で弱いか言ったるわ。戦闘力が云々の前にお前技が身についてないねん。知ってますってだけで胡座かいてるようじゃ何時まで経ってもアカンわ」

 

 

 ビナスの歯に布着せぬ言葉にネイルは唸り、これから惨めな敗者に侮辱の言葉を浴びせるのだろうと思った。

 

 

「目線や技の起こりが丸わかり、大してフェイントも無いんじゃあ俺は勿論、ターレスにも通用せぇへんわ。そんなんお前の足下見とるだけでどんな攻撃するかすぐに分かるわ」

 

 

 ここでターレスは訝しみ、ネイルも違和感を覚える。そんな2人を余所にビナスは続いて気弾の放ち方も分かりやすいや、折角長い手足や、伸びる手があるのだからそれを生かした攻撃はこうした方が良いと言う。

 

 ネイルとターレスはキョトンとした表情で呆ける。ビナスが相手に向かってアドバイスをするなど思ってもみなかったからだ。勿論ビナスは『ネイル』に言っているのではない……、融合した時のピッコロに向かって言っているのだ。

 

 彼女はピッコロを強くしたいと思い、次々と技を見せながら説明をする。そして一通り説明した後に「お前潜在能力を開放してもらってないやろ」と責めるような口調で言い「……あぁ」とネイルはビナスに反抗するように言った。

 

 それに彼女は「やっぱりな」と溜息を吐く。彼女は彼を捕捉した時にうっすらと感じ、彼を認識した時に気を探り確信した。

 

 

「ハッキリ言って意味分からへんわ。手っ取り早く更に強くなれる手段あんのにせぇへんって」

 

「最長老様に潜在能力を開放してもらうには勇士と認められ無ければならぬ。お前のように楽をして強くなろうとすればその後、怠惰になるだろう」

 

「は? 何言ってんねん。サボるのはそいつの性根次第やろ。そんな奴はほっときゃええねん。つーか強くなろうとせぇへんかったから俺にアッサリ負けとんちゃうんか?」

 

「ぐ……」

 

 ネイルは言葉に詰まる。確かに今まで積極的に強くなろうとはしなかった。あまりに強くなれば身を滅ぼしたり、力に溺れると思って自らを律するために力は求めなかった。だが、今は違う。これほど強くなりたいと……力を求めた事は無かった。

 

「まぁええわ。話は終りや、願いを言う時にチョロチョロされたら邪魔やから気絶しとけや」

 

 ビナスはそう言うとネイルに無造作に近づいていく。ネイルは警戒して構え……間合いにビナスが入った所で渾身の前蹴りを放つが、躱されて足払いをされてバランスを崩された上で頭を掴まれて地面に叩きつけられる。ネイルの感覚が上下不確かになり、隙だらけになりビナスは追い打ちでネイルの頭を踏みつけて意識を飛ばした。

 

「容赦ねぇなぁ」

 

 ターレスは笑みを浮かべてビナスを労うように肩を叩き「じゃあ行くか」と言い、ビナスも先程の刺々しい態度はどこかへ行き「おう」とターレスを見上げて笑顔で答えた。

 

 

 そして2人は周囲に100Kmは誰も居ない場所にドラゴンボールとデンデ……そしてビナスが持ってきた荷物を運ぶ。

 

 

「なぁ、いい加減に教えろよ。その包みの中はなんだ?」

「んー? にっへっへっへ。ほらよ」

 

 ターレスの問いにビナスは持ってきた荷物を取り出し、それを見たターレスは「あぁ……成程な」と納得する。

 

「ナメック星のドラゴンボールにはナメック語が必要やねん。でもそのためだけにナメック語覚えるとかメッチャ怠いやん? それやったら丁度ええやつを洗脳して代わりに言ってもろたらええやん」

 

 って事で持って来ましたーっとはしゃぎながらビナスはゴーグルを掲げながら言うと、デンデに装着して付属の端末を操作する。

 

 するとデンデはフラフラと、立ち上がった。そしてビナスはニヤリと笑いマイクでポルンガを呼び出せと命令し、デンデは呪文を唱えた。

 

 

 7つの球が光り、夜が訪れると光の蛇が勢いよく風を巻き起こしながら天に昇る。ビナスとターレスは「おー」感嘆の声を上げて眺める。数秒後、光が収まるとそこには上半身がマーマン、下半身が大蛇のようなナメック星独特の龍……ポルンガが現れた。

 

 

 

「ドラゴンボールを揃えし者よ……さぁ願いを言うが良い。どんな願いも可能な限り3つだけ叶えてやろう」

 

 

 

 ポルンガは腹の底から響く重低音で2人に言い、ビナスとターレスはお互いの顔を見合わせる。ターレスが「お前から言えよ」とビナスに催促する。

 

 

「当り前やターレス。誰のおかげで願いが叶えられると思ってんねん、ちゃんとお礼言えよ」

 

 

 ビナスは胸を張ってニシシッと笑い、ターレスは「この球を作ったナメック星人達よ、ありがとう。おかげで願いが叶うぜ」と、ちゃんと誰のおかげで願いが叶うかを考えて、ここには居ないナメック星人達を思い浮かべてお礼を言った。

 

 ビナスはその答えに満足しなかったようで「おい! 俺や、俺俺!」と両手の親指で自身を指してアピールする。ターレスはワザとらしくポンと手を叩き「おぉ、そうだったそうだった。サンキュー」と軽く言った。

 

 

「かっる!? 軽いなお前っ! 土下寝して奴隷にして下さい位言えや!」

 

 

 ビナスは極端な事を言い出すが、ターレスは「バ~~ッカじゃねぇの?」と答え、ビナスはそれに「あぁん? 何やと!?」と食って掛かり言い争いになる。そしてポルンガに「あの……願いを言ってくれぬか?」と恐る恐る言われる。

 

 ビナスとターレスはポルンガを一瞥するとお互いの顔を見て、クッと口元を緩める。

 

 

「おいターレス、やっぱお前から願えや。お前の願いが何なのか気になるしな。まぁ、残りの2回は勿論俺が貰うけどな」

 

「おう、いいぜ」

 

 

 そしてターレスは考察する。

 

 

 

 ビナスが言うには作り手の力を大きく上回る願いは叶わない。人1人ずつしか生き返らせる事が出来ない。そして戦闘力が相手と10倍以上離れている奴に殺されれば蘇る事は出来ない……か。最後は半笑いで言っていたからこれは嘘臭ぇが確証が無い。

 

 

 なら、今回は試すか――。

 

 

「なぁビナス。バーダックっていう下級戦士ながら戦闘力が1万の奴が居たのを知っているか?」

 

 

 ビナスはキョトンとして「おう、知っとるぞ……ってお前、そいつ生き返らせるんか? 雑魚やのに?」とターレスを訝しみながら言った。

 

 

「あぁ。今サイヤ人の数は戦う事から逃げたパラガス親子と腑抜けのターブル王子は数に入れずに考えると……11人だ」

「ん? 11人? 10人やろ?」

 

 ブロリーはただの飛ばし子だったが、パラガスは戦う事が怖くて宇宙船を盗んだあげく、飛ばし子のブロリーを連れて逃げたと伝わっている。

 

「飛ばし子のカカロットだ。お前が言うには今地球にいるんだろ?」

「あー、地球に居るカカロット入れて11か」

 

「そうだ。神精樹のジュースをある程度作り置きしているとは言えど飲ます奴は厳選してぇ。コルド一族と最後まで戦えるガッツがあって、尚且つ裏切らない奴がいい」

 

 ターレスは神精樹の実を手に入れた頃、最初ベジータ達にも分けようとしていたが、ベジータ王の野心を受け継ぎ、尚且つ同族に対する態度から、力を手に入れればあっさりと裏切られると推測し、こちらに味方するしか道がない状況の時に渡そうと思って今まで取ってあった。

 

 だがその状況はコルド一族と戦う時であり、今はまだその時ではないし、いざ敵対したときに悠長にパワーアップをしていられるかと言うと疑問が残る。故にターレスは何度も死にかけた状況にも臆せず戦いに行く折れない精神、チームメンバーを一人も欠けさせる事がなかった仲間意識、1人で仲間の仇を討とうとフリーザに戦いを挑んだという恨み、最後に……死んだサイヤ人というフリーザが思いもよらない人物がよかったのでバーダックを選んだ。

 

 最悪、戦闘力が伸びなくてもバーダックに戦闘には参加せず、フリーザに敗れてしまったらドラゴンボールで自分達を生き返らせるという保険も考えた。

 

 

 ビナスからマイクを受け取ったターレスはバーダックを生き返らせてくれと願いを言うがポルンガに「まだ生きている人間を生き返らせる事は出来ない」断られる。ターレスは訝し気な表情になり、少しの間思案してから別の願いを言う。

 

 

「じゃあ連れてくる事はできるか?」

 

 と尋ねるがポルンガは「不可能だ。時の狭間にいる人間を歴史改変が起きていないこの時間に呼ぶことは出来ない」と答え、ターレスはますます訝し気な表情となった。対してビナスは「あっ、そっち? そっちもあるんかぁ」と呑気な声を出す。

 

「おいビナス……時の狭間って何だ?」

「ん? んへへへへっ、知らんなぁ~」

 

 

 

 こんのクソ女、絶対知ってやがるぜ……!

 

 

 ターレスはビナスの嘘を言うニヤニヤと笑う顔に内心腹が立ちながらも、これ以上聞く事は止めた。経験上こうなったビナスは絶対に言わないからだ。ならば……もう1つの願いを叶えるか。ターレスは溜息をつき、今回はフリーザ戦のために備える願いを言う。

 

「俺達サイヤ人という種族が、宇宙空間でも平気なようにしてくれ」

「それならばいいだろう」

 

 ポルンガはそう答えると目を光らせて「願いは叶えてやったぞ」と答える。ターレスはビナスの方を向いて「何か変わった感じがしたか?」と尋ねるがビナスは「何となく変わった感じがした」と曖昧な返事をする。ターレスもビナスと同じく何かが変わったと感じるが、それが宇宙空間でも平気になったという変化かと問われれば自信が無い。

 

「おい神龍! 本当に宇宙空間でも平気にしたのか!?」

「勿論だ」

 

 ターレスはポルンガに確認を取る。ここで押し問答をしても水掛け論になるため、ターレスは念のためにナメック星から出る時に宇宙空間に出て確認をする事にした。

 

「うっしゃ! 俺の番やな」

 

 不敵な笑みでビナスはターレスが持っていた翻訳機のマイクを受け取ると「まず手始めにこれは外されへんよなぁ」と呟き願いを言う。

 

 

「俺にこの宇宙中の全ての星人や神の超能力や魔法、魔術の類を使えるようにしろ」

 

 

 ターレスはその願いに「ほぅ……」と感心し、宇宙中の全てのという事はこのデンデというナメック星人の能力……治癒を使えるようになる。何だかんだでフリーザ達に向けてビナスなりに準備をしているのだと思った。

 

 

「――――――不可能だ。特殊能力の中に私より大きな力が必要な物がある。それ等を除いた物ならば叶える事が可能だがどうする?」

「じゃあそれで」

 

 

 ポルンガの返答にビナスはあっさりと了承するのを見て、ターレスは不可能だという事を折込済みだったなと推測する。それは正解であり、ビナスは破壊の力等、ポルンガの能力を超える願いを特殊能力の付与という条件下だったならば、自身が出来る範囲に落とし込んだ破壊か、それともビルスを基準とした破壊の能力を得るのか試したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてビナスは最後の3つ目の願いを言う。

 

 

「俺のサイヤパワーを常に肉体が耐えれる位まで全快にしろ」

 

 ビナスは原作知識からスーパーサイヤ人4になった時、サイヤパワーが無ければ十分な力を発揮出来ないという事や、もしかして今の状態でもパワーが上がるかもしれないという事を考えて言った。

 

 この時ビナスはこの願いが己の運命を決定づけるとは、後にも先にも思いもよらなかっただろう。

 

 孫悟空達と完全に敵対し、殺し合う運命になると……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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異世界転生しちゃった 前編

「願いは叶えた……ではさらばだ」

 

 ポルンガは3つの願いを叶えると消え去り、夜だった空が明るくなる。そしてその場にあったドラゴンボールは徐々に石化して輝きを失い、完全な石となった。また1年後に本来の姿を取り戻すだろう。

 

 

「で……、サイヤパワーとやらを手に入れた感想は?」

 

 

 ビナスはポルンガの姿があった中空を見据えたままの視線をチラリとターレスに向けると、静かに目を閉じて自身の変化を探る。

 

「んー、超能力は使えるって確かな感覚はあるんやけれど……サイヤパワーを感じるか? って言ったら良くわからへんわ」

 

 

 ちょっと試そか――。ターレスに向き直り気を限界まで上げ、それをターレスは冷静な目で見る。

 

 

 

 洗練された気で圧は感じるし、すげぇとも思う。だが、気の大きさは俺とそう変わらない所を見るとサイヤパワーってやつは直接的に強くなる要素じゃないって事か。コイツもそう感じてるのか納得できない顔をしているな。

 

 

 

 

 ビナスは気を静めると眉間にしわを作り「願いを1回無駄にしてもうたか? まっ、ええわ」 と呟く。そして胸元からポッドのリモコンを取り出して操作し、デンデに装着していた催眠装置を乱暴に取ると手をユラユラと揺らす。デンデは催眠装置を外した後、前のめりに倒れる。

 

 ターレスはデンデがただの気絶をしているのを確認をすると、ビナスの奇妙な行動を疑問に思い口にする。

 

「変な踊りをして何やってんだ?」

「おいコラ、変なってのはいらんぞ。俺に超能力や魔術を使えるようにしてくれ言うたやろ? だからちょっと実験しとんねん」

 

 ビナスはそう言うと引き続き手を揺らし、何かコツを掴んだのか「お? あーこんな感覚か」と言い、そしてターレスに「おい、ほらほらこれ見ろよターレス! すげぇやろ?」と嬉しそうに呼びかける。

 

 

ビナスは胸の前でターレスに見せるように手で丸を作る。ターレスはどんな超能力かと興味津々で見ると、そこにはビナスが着ている黒い戦闘服ではなく、どこか見覚えのある景色……ビナスの部屋があった。これにはターレスも目を見開き「ほぉー、確かにこいつは凄い」と感心する。

 

 

「そやろ? そやろ? 俺すげぇやろ? もうちょい慣れりゃあ人が通れる位のん作れる感じがするわ」

「へぇーそいつはすげぇな、その能力を持ってるオリジナルの奴はよ。是非とも会ってどんな奴か見てみてぇぜ」

 

 ターレスの答えにビナスはこれ見よがしに不機嫌な顔をして「はぁ~あ」とわざとらしい深いため息をつく。

 

「お前一々女々しいやっつやのー! こういう時は素直に土下寝してビナス様凄いですって言えやっていつも言うとるやろ!」

「絶対そんな事しねぇし、言わねぇっていつも言ってんだろうが」

 

 

 いつもならばこのまま悪ふざけの言い合いをポッドが来るまでする二人だが、この日は違った。

 

 

 ふぅっとターレスが軽く息を吐いた後、真面目な顔になり「……何時フリーザ達に仕掛けるんだ?」と尋ねる。そう、ターレスは焦れていた。

 

 

 これ以上ビナスがダラダラとして行動を起こさないのならば単独で事を起こすつもりだ。最悪コルド一族との闘いで超サイヤ人にならなくても初見殺しの太陽拳と気円斬のコンボで何とかなると思っていた。

 

 ターレスの心情を知ってか知らずか「んー? そやなぁ」と間延びした返事をしたと同時にポッドが到着する。ビナスはポッドにもたれかかりながら口を開く。

 

 

「なぁ、ターレス。フリーザを倒すってのは歴史を変える事と同じや。んで、歴史を変える大事を起こそうってなったらそこにまで至る出来事の流れっちゅーものが必要やねん」

「で? その至る出来事の流れは具体的に何時なんだ?」

 

 

 腕を組んで問うターレスにビナスは少しの間思案して「まっ……ええか。悟空と合流して半年以内やな」と答えた。

 

 

「ゴクウだぁ? ……もしかしてお前が言っていたゴクウブラックとか言う奴か?」

「ん? いやいや、ブラックは付かん。ただの悟空や、解りやすく言うとカカロットやな」 

 

 

 ターレスは訝し気に「カカロットだと? そんなに強いのか」と尋ね、ビナスは「いや、今やと戦闘力1000も無いんちゃうか」と答えた。

 

 

「……おい、ビナス。もしかしてカカロットを瀕死からの復活で強くさせようってのか?」

「おう、それもあるな。ほんで俺の未来予知の知識でネタバレすると、あいつは超サイヤ人になってフリーザを倒すぞ」

 

 ビナスはくつくつと笑い、ポッドを操作して中に入る。ターレスは数瞬呆然とし「おいっ! まだ話は終わってねぇぞ!」と怒鳴りつけるような声で言うが、ビナスはターレスに構わずにポッドの扉を閉め「まぁ、もしかしたらお前かもしれんけどな」とターレスには聞こえない程度の声で呟く。

 

 

 ターレスはビナスの乗ったポッドを睨み付けながら見送り、そして怒りの感情のまま思う。

 

 

 

 現時点で戦闘力1000に満たないカカロットが戦闘力が億を超えるフリーザを倒すだと? …………ふざけるんじゃねぇぞっ!! こちとら今まで厳しい修行は勿論、肉食獣みたいな女と命の危機を感じる闘いに、神精樹の実を食べてきたって言うのに、それを僅か半年で覆そうって言うのか!? 

 

 

 

 ターレスはギリギリと拳を握る。そんな彼の激情に呼応するように気が膨れ上がり、その影響で地が裂け海が荒れ、大気が震える。

 

 

 

「カカロットォォオ……! 確かめてやるぜ、この目でなぁ」

 

 

 彼は誓う。もしもカカロットがビナスの言う通り超サイヤ人に至れる才能があれば素直に認めると……だが、その才が無ければこの手で殺すと。

 

 ターレスは気を静め、ポッドに乗り込みナメック星を飛び出す。そして宇宙空間でちゃんとポルンガが宇宙空間でも平気にする願いを叶えたかどうか確認をし、ちゃんと願いが叶えられたと満足して再度ポッドに入り出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一足先に帰還したビナスはポッドから降り立つ。補助要員達は出発する前と今のビナスの変化を見て動揺する。ビナスは担架を用意していた補助要員達の労いの言葉が聞こえていないようで、返事をせずにターレスが帰ってくるであろう方角をボーっと見ながら「腹減ったなぁ」と小さく呟く。

 

 

 

 補助要員達は挨拶が聞こえていなかったのだろうと思い、そのまま声を掛ける事もなく見守る。その行動は正解だ。

 

 

 

 

 

 

 何故なら挨拶が聞こえ、補助要員達が居る事を認識されていたら今のビナスに文字通り食われていたからだ。そして数分経った頃にターレスは帰投し、ポッドから身を乗り出す。

 

 

 

「お疲れ様です。ターレスさん」

「おう」

 

 

 ターレスは補助要員達の労いに返事をし、ふとビナスを見ると明らかに変化した姿に驚く。

 

 

「おい、お前の髪の色……前より赤くなってるぞ」

 

 

 ビナスは「んー?」と寝ぼけているようなやる気のない声を出し、自分の髪を確かめながらターレスと共に自室に帰るために歩き出す。

 

 

「おっ? おぉーう! ホンマや、真っ赤っ赤になっとんやん! ……まぁ、ええけど」

「相変わらず軽いなお前……、もしかしてアレの影響じゃねぇのか?」

 

 スカウターを着けている補助要員達からフリーザ達にドラゴンボールの事が漏れないようにターレスはわざと遠回しに言う。

 

 

「うん? あー……、アレねアレアレ。別に不調ってわけでもないから気にせんでええやろ。それより腹減ったわ、今日は何がいい?」

 

 ターレスもビナスの体調に何ら変化が無いのであれば気にする事は無く、サイヤパワーについて考察するのはこれ以上変化があった時でいいと思い、丁度今は昼時なので先ずは食事を優先する。

 

 

「そうだなぁ、やっぱガッツリ肉が食いてぇな」

 

 

 ターレスは食堂に行く戦闘員達の会話から同じく肉を選択した。

 

 

「おっ、良いねぇ。じゃあ――――どの肉がいい?」

 

 

 彼の返答にビナスは辺りを見渡しながら尋ねる。彼女の少しおかしいこの行動にターレスは疑問に思いながらどの肉がいいか考えを巡らせ……「おいおい、お前らが治療室に行かないなんて珍しい事もあるもんだなぁ」答えを出す前に不快な声が聞こえた。

 

 

 ターレスが見るとニヤニヤと他人を馬鹿にしたような笑みを浮かべているキュイがいた。ターレスはこういう面倒臭い相手はいつものようにビナスに譲ろうとするが、ビナスはキュイの事など見えていないようで、目が合うと小首をかしげて「どの肉がええか決まったんか?」と食事しか考えていないようだった。

 

 

 仕方がない、今回は俺が相手をしてやるか……。はぁ……とターレスは溜息を吐いて口を開く。

 

 

「これはこれはキュイ先輩じゃねぇか。今日もご健在で何よりで」

「チッ、見え透いたご機嫌取りをしやがって……猿が」

 

 

 ターレスはキュイの暴言に鼻で笑って返す。ターレスの精神はビナスのおかげで超合金の如く強靭になり、超サイヤ人になっても冷静になれる程になっていた。なのでこの程度の言葉は微笑ましかった。キュイはその反応が癇に障って眉を顰めるがこれ以上話す事は無いと踵を返そうとした。

 

「ん? ターレスよぉ、お前肉の好みが変わったんか? めっちゃ変な色やんけ。まぁ、ええけど」

 

 場違いな呑気なビナスの声にターレスとキュイはビナスの方を見る。ビナスはキュイの方へ買い物に行くような足取りで歩き出す。ターレスはその行動と言動に嫌な予感を感じ「おい、ちょっと待てビナス」少し強めの力で彼女の左肩に手を掛けた。

 

 その瞬間風切り音聞こえたと思うと、ビナスの左足元に時計回りの渦巻き状の皹が地面に現れる。そしてキュイの頭上5㎝の所に気で作った刃が通り過ぎ、壁に大きな傷が出来る。それを見たキュイは焦りを含みながらビナスに警告する。

 

 

「なっ!? てっ、てめぇ何しやがる! これは立派な反逆罪だぞっ!!」

「おいっ! 何してんだよっ!!」 

 

 ターレスもビナスの行動を非難し、周囲の者達も騒めく……。だが当のビナスはキョトンとした表情で振り向き、何故ターレスが怒っているのか理解出来ないでいた。

 

 

「何しとんって……、血抜きせんと不味いやん」

 

 

 ビナスは当たり前だろと言わんばかりの態度と言動で答える。彼女からすれば、スーパーで並んでいる肉を手に取ろうとしたら非難されたような事だった。

 

 

「ふざけるんじゃねぇぞ! 俺に牙を向いた事を後悔させてやる!」

 

 

 キュイはビナスに攻撃しようと殴り掛かろうとした……、その瞬間ビナスは振り向きキュイを右目で捉える。

 

 

 その姿は異様としか言えなかった。格下だと思い、攻撃を仕掛けようとしたキュイを止める程に……。右顔面の血管が浮かび上がり心臓のようにドクドクと脈打ち、それに合わせて右目だけがグルグル回っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビナスの前世である彼は気付くべきであり、真剣に自分の身に起こった事を考えるべきだったのだ。

 

 

 前の体が滅び、新しく肉体を得て転生したという事を……。

 

 

 そうすれば超サイヤ人には至らないが日本人の彼の精神のままで悟空達の真の仲間でいられた。

 

 

 だが、もう遅い。

 

 

 彼女はもう悪の道へと進む。その道が悪だと理解出来ないまま……。

 

 

 

 

 



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